主な登場人物
*プリベンターと、その関係者*
(日々、世界平和の為に戦ったり、戦わなかったりする)
パトリック・コーラサワー
主人公。コードネームはプリベンター・バカ。
プリベンターが誇る変態一号。
何か行動を起こすたびに問題が発生するスペシャルバカ。
元AEUの少尉らしいが退役した理由は不明。
何が起きても生還率100%。
今日もわが道を突き進む。
グラハム・エーカー
コードネームはプリベンター・アホ。
プリベンターの変態二号。
独特の美意識を持ち、発せられる言葉はグラハム語と称される。
ガンダムラブでプリベンターにきたらしいが詳細は不明。
五飛の師匠(ガンプラの)
アラスカ野ジョシュア
コードネームはプリベンター・マヌケ。
プリベンターの変態三号。
グラハムによってむりやり加入させられたかわいそうな人。
あげくコーラさんによって呼称が「アラスカ野」になってしまった。
すげえヘタレ。
3馬鹿の中では意外とまとも。
ヒイロ・ユイ
コードネームはプリベンター・ウイング。
Wの主人公だがここでは影が薄い。
MS(ミカンスーツ)の操縦から家事全般まで何でもこなす。
リリーナの漫才がトラウマとなる。
デュオ・マックスウェル
コードネームはプリベンター・デス。
お調子者。
立場上自然とつっこみ役になる(というか唯一の突っ込みキャラ)。
喋る回数はコーラさんに次いで多い。
トロワ・バートン
コードネームはプリベンター・ウエポン。
口数は少ないがやるときはやる男。
『しまっちゃうおじさん』を恐れる、妄想少年。
カトル・ラバーバ・ウイナー
コードネームはプリベンター・サンド。
プリベンターの良心。
の筈だが意外と黒い。一度キレると誰も止められない。
張五飛
コードネームはプリベンター・ドラゴン。
得意技はコーラサワーいじり。
強引すぎる手段で事件を解決しようとする。
グラハムの策略によってガンプラ作りにはまる。
サリィ・ポォ
コードネームはプリベンター・ウォーター。
プリベンターの現場部隊のまとめ役。
コーラさんの暴走に頭を痛める毎日。
ヒルデ・シュバイカー
コードネームはまだない。
キレたら怖い。
得意技はフライパン投げ。
レディ・アン
コードネームはプリベンター・ゴールド。
プリベンターのリーダー。
本編にはあまり登場しないが、コーラさんやグラハムの加入を認めるある意味心のデッカイ人。
シーリン・バフティヤール
コードネームはまだない。
皮肉屋メガネ。
レディ・アンの秘書みたいなことをしているらしい。
ビリー・カタギリ
みかんエンジンを発明した天才科学者。
喋りだすととまらない。
プリベンターに自身の開発した発明品を提供してくれる。
グラハムの一応友人。
マリナ・イスマイール
プリベンターのスポンサーその1。
この世界ではプチセレブ。
重度のショタコン。
20歳以上の男には容赦無くスタンガン攻撃を食らわせる。
ドロシー・カタロニア
プリベンターのスポンサーその2。
自身の屋敷の庭にはイカしたセンスの像が沢山立ち並んでいる。
本編と同じく、気分屋と見せかけて意外と色々考えているお嬢様。
リリーナ・ドーリアン
外務次官。
ドロシーとお笑いコンビ『リドリロ』を結成。
夢はM●1グランプリ優勝。
ヒイロの恋人。
*マイスター運送*
(『24時間何処でも何でも運びます』がモットーの民間企業)
刹那・F・セイエイ
マイスター運送の配送係。
無愛想。
ハローキ●ィちゃんマニア。
アレルヤ・ハプティズム
マイスター運送の配送係。
客に愛想の悪い刹那をたしなめた。
ロックオン・ストラトス
マイスター運送の配達係。
事実上マイスター運送のまとめ役。
問題児が多く気苦労が絶えない。
ティエリア・アーデ
マイスター運送の配送係。
愛銃(水鉄砲)『ヴァーチェ』を携帯している。
絶望するのが日課。
リヒテンダール・ツエーリ
マイスター運送の配送係。
陽気な性格。
同僚のクリスティナ・シエラに片思い中。
デュオと仲が良い。
スメラギ・李・ノリエガ
ビリーの同窓(ビリーには九条君と呼ばれている)。
一升瓶を持った酔っ払い。
*人類革新重工*
(『揺り籠から墓場まで』が社訓。ここ数年、日の出の勢いで伸長を遂げている気鋭の企業)
セルゲイ・スミルノフ
人類革新重工の商品開発部部長。
心の俳句を詠む。
俳句を詠む前は必ずブツブツと呟く。
ソーマ・ピーリス
セルゲイの秘書。
現在「バケラッタ」という言葉にこだわっている。
コーラサワーと奇妙な友情が芽生える。
ミン
人類革新重工の商品開発部係長。
中間管理職。
このスレでは数少ない普通の人。
*その他、頻繁に登場する人々*
カティ・マネキン
元AEU大佐。
現在は歌手デビューし、世界の歌姫として各地を飛び回っている。
なんだかんだでコーラサワーの事が好き(?)
アリー・アル・サーシェス
別名ゲイリー・ビアッジ、またはひろし。
PMCのちょっかいかけ担当。
世界が平和になって仕事がなくなったのでプリベンターを逆恨みしているが、 いつもやられている。
武器はソッコ君もびっくりの異臭靴下と健康にいいアグリッサ。
トリニティズ
トリニティ運送に勤める三人兄妹。
ヨハンは腹黒、ミハエルは客にけんかをうる問題児、ネーナは天然。
コーラサワーの女たち
何人いるかわからないコーラさんの愛人。
コーラさんいわく、プリベンターに入ってからはそっち方面は自重しているらしい。
看護婦
新人ながらコーラ番にされてしまったかわいそうなナース。
コーラさんが入院するたびにさんざんな目にあっている。
ラッセ・アイオン
マイスター運送の配送係。
このスレにおいては完全なるノンケ。
ホモネタを振られると本気で泣く。
マリーメイア・クシュリナーダ(バートン)
レディ・アンと共に暮らす幼女。
年齢の割りに大人びておりクールな性格。
コーラサワーに懐いている。
ミレイナ・ヴァスティ
プリベンターを離れたシーリンの後任としてやってきた。
重度のラノベマニアで、コーラサワーの天敵2号。
アンドレイ・スミルノフ
セルゲイの部下にして実子。
優秀な父親が重荷らしい。
元OZだが、崩壊前に上手く離脱出来た様子。
コーラサワーに「ドレイ」とあだ名をつけられる。
リボンズ・アルマーク
世界的なアイドルグループ「イノベイター」のリーダー。
なんかアリーを使っていらんことを考えているらしい。
相当裏の世界に通じている様子。
ちなみにマネージャーはあのアレハン様らしい。
テンプレは以上です
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保守ワー
保守ウー
>>1 新スレたてありがとうございます。
おそらく一週間以内には投下出来ると思います。
保守ワー
保守ウー
同僚の疾病で夜勤交代したので投下がやや遅れます。
13日深夜か14日中には確実に投下致します。
申し訳ありません。
どうにもならない時は動くな。
下手に動くと自滅するぞ。
―――20世紀のとある軍人の言葉
◆ ◆ ◆
パトリック・コーラサワーは暇だった。
「何故だよお」
特にすることが無いからである。
「何でなんだよおお」
ぶっちゃけて言うと。
「どういうことなんだよおお!」
作戦から外されてしまったのだ。
「なんでじゃあああこりゃああああ!」
時を遡ること一時間程前。
マイスター運送の社長、スメラギ・李・ノリエガがプリベンターの面々を呼びだしたことから始まる。
現在、プリベンターとマイスター運送はイオリア・シュヘンベルグの遺産を巡る事件で共同戦線を張っている。
マイスター運送の創業者でもあるイオリアはおよそ300年前の人物だが、遥か未来を見越して何かしらの発明(正確には発想、か)を残していた。
人類が地球という巣から飛び立ち、外宇宙の別の生命体と接触した時の為に。
「作戦が決まったわ」
スメラギ・李・ノリエガは皆を前にして、口を開いた。
普段はアルコール依存症一歩手前のナイスバディな姉ちゃんだが、
これでいて実はコーラサワーの嫁さんのカティ・マネキン、
そして在野の天才ビリー・カタギリと同窓で、その二人からも明晰さと大胆さを称賛される程に優秀な人物なのだ。
「ティエリアの網に、囮が引っかかったの」
「もう少し時間がかかるかと思ったが、案外早かった」
スメラギの横で、ティエリア・アーデが眼鏡の淵を触りながら言葉を続ける。
「リジェネ・レジェッタ。堪え性が無かったというより、全員を泥の中に引きずり込もうと考えたようだ」
プリベンター、マイスター運送、
また人類革新重工の二人やジャーナリストの絹江・クロスロード、そしてビリー・カタギリと、
誰も口を挟もうとはしなかった。
と言うか、まだ挟める段階ではなかった。
色々と疑問や質問は各自の頭にあれど、まだ詳しいことをスメラギのティエリアも語ってはいない。
こういう時に空気を読まず(読めず)、「まどろっこしいんだよオラー」と叫んじゃったりするのがコーラサワーなのだが、
呼びつけられてからこっち、ずっとアクビばっかりしていて、そもそも話を真面目に聞いていない。
こういう所がパイロットとして腕前が一流であるにも関わらず、
軍で昇進が遅かった理由の一つでもあるのだろう。
「まずは作戦説明の前に、皆に改めて伝えなければならないことがあるの」
「この僕……私、ティエリア・アーデは『人間』ではない。『イノベイド』という、人類とはまた別の存在だ」
ティエリアのこの言葉が、見えざる驚愕として、場にゆっくりと、そして確実に広がっていく。
ある者は口を大きく開け、またある者は目を何度もしばたかせる。
信じられない、といった風だが、それはそうであろう。
オイラ人間ちゃうねん、姿かたちは人間やけどちゃうったらちゃうねん、とか真顔で言われても、
普通なら「お前何言ってるの? プックプクプー」で半笑いでスルーするのが普通である。
「あまり悠長に説明はしてはいられないけど……」
「ここに至って、もう隠し続ける意味も無いと判断した。イオリアの遺産に絡む話でもある」
「黙っていたのは悪かったわ。でも……」
「そうするだけの意味があった。それだけはわかってもらいたい」
「詳しいことは、事が終わった後に。もちろん、プリベンターの皆さんにも話します」
額に落ちかかる前髪をスメラギをかきあげた―――
で、まあ。
そこからスメラギ&ティエリアによる作戦披露となったわけだが、これがスムーズにいかなかった。
つうか、いくわけなかった。
後で説明すっから、と言われて納得出来るはずがないのだ。
皆して質問の嵐で、何も語らなかったのは、
部屋の隅で一人、腕組みしたまま動かなかった刹那・F・セイエイ、
そして同じく反対側の隅で壁に背を預けて居眠りこいてたコーラサワーの二人ぐらい。
最終的には、全員がある程度納得はした。
マイスター運送の面々はもとより仲間であるからともかく、
それ以外の面々は、納得と言っても度合いが100あるうちのせいぜい65、といった塩梅ではあるが。
おっと失礼、コーラサワーさんは納得していませんでした。
まあ寝ていて聞いてなかったからですけど。
「俺はどうしたらいいんだよお」
ぐうすけがあすけと居眠りかまして、起きてみたら部屋の中には誰もおらずにぼっちで取り残され。
何か以前もこんなことがあった気もするが、流石にこれはコーラサワーが悪い。
起こさなかった周りの連中も悪いっちゃ悪いが、気持ちはわからんでもない。
「待機ってなんだよ、待機って!」
目覚めてみれば、机の上に一枚の書き置き。
デュオ・マックスウェルの筆跡で『お前残留、待機』の一言。
「あいつらどこへ行ったんだ? 何が始まるんだ?」
当然部屋から出ようとしたわけだが、扉にロックがかかっていて開かない。
慌ててフロアを呼び出してみれば、
「申し訳ありません、『後で何人か帰すから、今はおとなしくしておいて』とミス・ポォから伝言を預かっているのみでございます」と返される。
窓を破って飛び出してみても、ここは地上から遥か高い位置にある部屋。
ホテルパニック映画のお約束、換気扇突破を試みるも、
流石は一流ホテルと言うべきか、既にそれは時代遅れの発想と言うべきか、
そもそも部屋についてる換気扇は人が通れる程の大きさではない。
「後って何時だよ? 俺はどうなるんだよ!?」
もうこれ完全に軟禁です、ありがとうございますなパトリック・コーラサワーさん。
「ふざけんなあ! 模擬戦で! 2000回で! スペシャルで! エースなこの俺がああ!」
吠えるコーラサワー。
その叫びも、虚しく壁に反射するのみである。
「置いてけぼりにされて、黙って指咥えてるとでも思ってんのかああ!」
さて諸兄。
思い出していただきたい。
途中でどう転ぼうが躓こうが、結局シメをどうにかしちゃうのがコーラサワーさんであることを。
アニメ本編だってそうだった。
この新機動炭酸だって今までがそうだった。
そしてこのラストが近い局面で、果たして彼の豪運が炸裂しないままなんてことがあるだろうか?
一人だけ蚊帳の外、なんてことがあるだろうか?
いや、ない。
彼の前には小細工など通用しない。
投げられた賽の目は変わる。
ルビコン川だって干上がる。
説得力が皆無でも、どうにかしちゃうし何とかなっちゃうのがパトリック・コーラサワーという男なのだ。
◆ ◆ ◆
どうにもならない時は、適当でいいからどんなボタンでも押しまくれ。
ヒットすりゃ儲けもんだ。
失敗したっていい、どっちにしても能動的に運命を決められるだろう?
―――20世紀のとある刑事の言葉
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――
お疲れ様です。
gdgdにならんように頑張ります。
乙であります土曜氏さん!待ってました!!
いよいよ炭酸さん、機動の刻が来るのかwktkです
>>19 乙であります!!
コーラさんだし、ただでは転ばない気がしますねw
>>19 土曜日さん乙です。
次回以降の、コーラさんの逆襲に期待してます!!
>>19 土曜日氏乙です!!
いよいよコーラさんが動き出すのか
続きに期待して待ってます!!
土曜日さん乙〜
次回のコーラさんの動きに注目ですねw
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
ちょっと仕事の関係で手が空きませんでして、あと一週間後くらいには次回投下できると思います。
保守ウー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
パトリック・コーラサワーは天災である。
間違えた、天才である。
彼より『才能』がある人間は地球にゴマンといるが、
「自分を全く疑っていない」という一点において、彼以上の『天才』はこの世にいない。
究極のポジティブシンキング野郎とでも言うべきか。
ある意味、次世代に進化した新人類なのだ。
うむ、言い過ぎ感タップリ。
まあそれはさておき、現在の物語の状況を改めて確認しておこう。
プリベンター側は、プリベンター、ビリー・カタギリ、人類革新重工、絹江・クロスロード、マイスター運送。
イノベイター側は、イノベイター、アリー・アル・サーシェス、トリニティ運送、アロウズ、ラグナ・ハーヴェイ。
第三陣営側は、リジェネ・レジェッタ。
その他は、パトリック・コーラサワー(あれ?)。
◆ ◆ ◆
まずプリベンター。
世界の平和を裏から守る隠密同心的な彼らは今、大きなヤマに真っ向から取り組んでいる。
およそ300年前に存在した科学者、イオリア・シュヘンベルグの『遺産』を巡る事件である。
やがて人類が直面するであろう、太陽系外生命体との遭遇。
その時までに人類は「進化」していなければならない、というのがイオリアの隠れた持論であった。
彼は密かに人類進化に向けて独自の理論を確立したが、それを学会に提唱することはなかった。
代わりに彼が行ったのは、身を退いて小さな運送会社を設立することだった。
それが『マイスター運送』であり、この会社はイオリアの『遺産』を長きに渡って守り続けることになる。
プリベンターはそのマイスター運送と組んで、『遺産』を狙う者達を追っているところである。
武装を基本的に放棄した現在の世界において、プリベンターは数少ない『実戦部隊』だが、
立場上、政府のバックアップは見かけ最小限に留まらざるを得ない。
その為、民間からの協力に頼るところ大で、その筆頭がビリー・カタギリである。
高名なレイフ・エイフマン教授の直弟子であり、
物理学その他諸々を収めた超秀才だが、かなりのお人好しでお喋り好きなのが玉にキズ。
ミカンの皮を燃料として動くミカンエンジンを開発し、プリベンターのMS(ミカンスーツ)も組み上げた。
彼がいなければ、プリベンターは今までの事件の多くで苦戦していたに違いない。
次に人類革新重工。
ここ最近急激に成長を遂げている総合企業であり、
企画開発部のセルゲイ・スミルノフ部長がカタギリのミカンエンジンに興味を持ったことから、プリベンターと関わるようになった。
ソーマ・ピーリス(マリー・パーファシー)、アンドレイ・スミルノフの両名が今回、
セルゲイの僚友であるパング・ハーキュリーの指示の下、協力者として同行している。
ただ、ミカンエンジンのみが目的ではない。
業界のライバルであり、黒い噂の絶えない『アロウズ』への牽制でもある。
そしてJNNTVのアナウンサー、絹江・クロスロード。
父と同じジャーナリストの道を歩んだ彼女は、その真っ直ぐな性格から上司から煙たがられ、閑職に回されようとしていた。
だが逆に忙しい仕事が回ってこないという立場を利用し、プリベンターに密着個人取材を行うことで、
アロウズが関わっていると思われる不正問題の追及を図った。
ちなみに弟が一人いる。
最後に、先述したマイスター運送。
現社長のスメラギ・李・ノリエガの指揮の下、『遺産』を狙う者の出現を受けて、
今までの『遺産』の消極的隠蔽から積極的隠蔽に方針を転換、
プリベンターを巻き込むことで、『敵』の排除を企図した。
『遺産』の秘密をより知っているということで、事件解決の主導権を現在握っており、いささかプリベンターとの間がしっくりといっていない。
ただスメラギもプリベンターを単純に利用するだけとは考えておらず、サリィとの『すり合わせ』を図ってはいるようである。
では、プリベンターの敵側である陣営はどうか。
その中心は、イオリアの遺産を狙うアイドルグループ、『イノベイター』である。
中性的な容姿で世界中で人気者の彼らだが、実はマイスター運送とは別の立場でイオリアの『遺産』を見守る、
と言うより、人類が『遺産』を手にすることが出来るだけの進化を遂げたかどうかを判断する立場にある。
その現在のリーダー、リボンズ・アルマークが『監視役』に留まることをよしとせず、
世界の混乱がまだ完全に治まりきらないこの時期を見計らって『遺産』奪取を図ったのが、
この事件の真相だったりする(もちろんプリベンターは知らない)。
イノベイターの、と言うよりリボンズ・アルマークの最大の手駒が、歩く爆発物ことアリー・アル・サーシェス。
過去に多くの紛争や事件に関わっており、裏の社会では雷鳴を轟かせている彼がリボンズに協力したのは、
まず金、そして次に享楽、最後にプリベンターへの復讐の為である。
根っからの戦闘狂で争いが大好きな彼にとって、統一された世界なんぞ退屈で仕方が無いシロモノ。
色々と揉め事を起こしてみたは良いものの、その都度プリベンターに邪魔されてきており、
リボンズに協力すれば金は貰える、戦うことが出来る(しかも特性のMSまで貰っちゃったり)、
プリベンターをいてこませる、しかも上手いことやればリボンズを出し抜いて『遺産』まで狙えてしまうという、
サーシェスにとっては美味しいことこの上ない状況で、現在絶賛牙砥ぎ真っ最中である。
トリニティ運送はトリニティ三兄弟妹が運営する小さな運送会社で、マイスター運送のライバル会社的立場にある。
だがライバルなのは表向きの営業だけではなく、裏でも『遺産』を巡って対立する関係である。
トリニティ三兄弟妹はそれぞれ一筋縄ではいかない性格で、何となれば買い主のリボンズにも噛みつきかねないが、
現在は長兄のヨハンが反逆行為に旨味を感じてないので、当面はリボンズに忠実な実行部隊として活動していく「はず」である。
アロウズは世界経済の成立に大きく食い込んでいる巨大総合企業である。
規模的には人類革新重工を大きく凌ぎ、前紛争でもOZの隠れた資金源になっていたとさえ言われる。
全社ぐるみでイノベイターに協力しているわけではなく、会社の各部署で実験を持っている限られたメンバーのみが参加している状態だが、狙いは結局『遺産』に他ならない。
ただ、指導部と実践部でいささか思いに齟齬が生じているようである。
ラグナ・ハーヴェイはリニアトレイン社の総裁で、イノベイター陣営では影が薄いが、
実は移動手段を用意したり隠れ家を準備したりとバックアップとしてはかなり重要な役割を果たしている。
それでも強い発言権を持てていないのは、結局は周りの面子が濃すぎて強すぎるからである。
sien
リジェネ・レジェッタはもともとイノベイターのメンバーだった。
リーダーのリボンズの計画の進め方に疑問を持っており、いずれはリボンズを追い落として主導権を掴むつもりだったが、
結局具体的に叛旗を翻す前にプリベンター側に捕まってしまい、
さらにマイスター運送のスメラギとティエリアによって『放流』されるという転落劇を演じてしまった。
今の彼の立場はプリベンター側にとってもイノベイター側にとっても、仕掛けた罠の中の餌に過ぎない。
同位体のティエリア、上位体のリボンズのどちらからも意思を覗かれてしまう立場で、
そして動いた結果が結局どちらか側に利することにしからならないという、踏んだり蹴ったりな位置にある。
さらに下手をすれば物事が彼の頭上を飛び越えて推移し、結果何の価値もない存在に成り下がる可能性すらある。
両陣営を共食いさせるしか生き残る術がなく、かなり厳しい状況に追い込まれている。
リジェネ本人は不屈の闘志でやるつもりのようだが、ティエリアからしてもリボンズからしても、
リジェネがもがくことを承知の上で罠にしているのだから、かなり辛辣である(リジェネ自身もそれをわかって動かねばならない)。
さて、我らがパトリック・コーラサワーさんだが、ホテルの一室に軟禁状態という、実質戦力外通告を受けてしまっている。
いや、戦力外というのはあまりに極端な表現だが、「いなきゃいないでいい」という扱いであるからして、
おかしい主人公のはずなのにどうしてこうなった、という感じである。
状況が複雑化する中、時と場合によっては相手に対する決定打になるものの、
トリックスター過ぎて事態をシェイクさせかねない彼を外す決断をしたのは、誰あろう現場リーダーのサリィ・ポォである。
マイスター運送との主導権争い、そして『遺産』そのものの扱いをどうするか、
敵側にいるであろうアリー・アル・サーシェスへの対策と、サリィからしてみればやることが多く、
コーラサワーの言動で頭を痛める余裕が無いのは確かに事実ではある。
また同僚のデュオ・マックスウェルたちからしてみても、別にいてもいいんだがいないと話がスムーズに進むだろうなあ、という認識なので、
「可哀想ですよ連れて行きましょうよ」と誰も言い出さなかった。
むしろアラスカ野ことジョシュア・エドワーズなんぞは手を打ってサリィの提案に賛成した程である。
確かに性格に問題はある。
言動にも問題はある。
だがそれが理由で最終バトルから外されようとしている主人公なぞ、過去に果たしてあったか。
リジェネとは違った意味で窮まってしまっているのが現在のコーラサワーさんである。
どうするコーラサワー、どうなるコーラサワー。
コーラサワーの心の旅は続く―――
コンバンハ。
キャラクターが出そろったところで人物紹介の詳しいヤツをやろうと思ってたんですが、結局やってなかったり。
その結果がこの簡易すぎる説明回だよ! 所謂お約束的な「最終局面手前の振り返り」ってヤツだよ!
あと誰かガンバを助けて下さい。
フロントのどあほうめー! 西野切ってこのザマかー!
>>45 土曜日さん乙です!!
>だがそれが理由で最終バトルから外されようとしている主人公なぞ、過去に果たしてあったか。
>リジェネとは違った意味で窮まってしまっているのが現在のコーラサワーさんである。
>どうするコーラサワー、どうなるコーラサワー。
でも、悪運が強くてどうにかなってしまうんですよね?w
次回も期待しています!!
>>45 土曜日氏、乙であります!!
何だかんだでどうこうなってしまうところがコーラさんの凄い所
コーラさんの逆襲に期待!!
>>45 土曜日氏乙です。
コーラさんの華麗なる逆転劇に期待!!
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
地味に息が長いスレになったな
住人も職人も投げ出さないのはコーラさんの人徳によるものか?
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
すんませんもう少し遅れます。
新しいノーパソ買ったらキーボードがめさくさ打ちづらくて涙目
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
72 :
通常の名無しさんの3倍:2012/08/29(水) 23:28:40.50 ID:uMBchovu
コカコーラ配送「日東フルライン」で新入社員が過労自殺 猛暑、パワハラ、無理なノルマ…
http://www.mynewsjapan.com/reports/1536 どこにでもあるコカコーラの自動販売機だが、そのコーラ専門の配送会社「日東フルライン」で08年夏、
若手社員が過労自殺し労災認定を受けていた事実は、ほとんど知られていない。自殺したのは、
入社わずか4カ月目の配送員Fさん(当時27歳)。亡くなる前の月にあたる7月、大阪市はひどい猛暑で、
自販機は売切れが続出していた。Fさんの父によれば、同僚全員が疲労困憊していくなかで新人への支援はなく、
長時間の肉体労働、月100時間の残業、神経を使うトラックの運転、パワハラとも言える暴言、
達成不可能なノルマ、突然のエリア変更、雇用形態への強い疑念など、
Fさんを自殺に追い込んだ現場の様子が次々と明らかになった。
【Digest】
◇時系列
◇猛暑 コカコーラ自販機は売切れ続出
◇3箱担ぎ階段も 7月だけで5万6000本入れる
◇達成できるわけがないノルマ
◇長時間の肉体労働にトラック運転 でも残業100時間
◇突然のエリア変更で研修がパーに
◇「倒れそうです」に「もっと早く来い」
◇正社員じゃなかった!?
保守ワー
保守ウー
仕事&体調不良で滞りまくってすいません
9月半ば以降に復帰できます
ごめんなさい
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
あと数日で復帰できそうです。
延びまくって申し訳ありません。
数年がかりだろうが何だろうが、始めた以上は絶対に物語を終わらせるところまで頑張ります!
保守ウー
夜勤明けとなる日曜の夜か翌日の月曜に投下出来ると思います。
パトリック・コーラサワーは只今絶賛戦力外通告中である。
いや、戦力外は戦力外だが、解雇されたわけでない。
言ってみれば、「地方遠征の際に置いてけぼりにされた。一言もなしに」な感じである。
余談だが、昔本当に社会人野球チームでそういうことがあったそうな。
もうそれはイジメ以外のナニモノでもない気がするが。
◆ ◆ ◆
「くそう……これじゃ牢獄と同じじゃねえか」
コーラサワーはいささか疲れていた。
無理もあるまい。
ずっとこの閉鎖されたホテルの部屋から脱出しようと足掻いていたのだから。
「しかしなんて頑丈な部屋なんだよ、壁とか窓とか何で出来てんだ全く」
壁を叩いてもダメ、扉を蹴り飛ばしてもダメ、窓ガラスに椅子を投げつけてもダメ、とにかくダメ、ダメ、ダメの繰り返し。
某サッカーマンガのゲームでゲル○ィス君相手にレベル1のきすぎ君がロングレンジからシュートを打ち続けるようなもんで、
当然入るわけもなく、あっという間に「くっ! ガッツがたりない」てなもんである。
……どんな例えだ。
「いったいどれくらい時間が経ったんだ?」
努力が報われない時間が続くと、感じる疲労は何倍にも増す。
それはいくらコーラサワーとてそうである。
オマケに経過した時間がどれ程のものかわからないとなれば、尚更である。
愚痴や文句を言う相手もいない、手段も思いつかなければ具体的な目途も立たない。
まさにこれ、「詰んだ」と言う他ない。
「ふぃー」
コーラサワーは先程投げつけて床に転がっていたソファを直すと、それに腰かけた。
絶望的な雰囲気にも関わらず、この男には先天的に陽性の部分があり(しかも多量に)、あまり悲壮感を表に出さない。
アホなだけだ、とデュオ・マックスウェルがこの場にいたら言っただろうが。
「うぇい!?」
ソファに腰を下した瞬間、コーラサワーは文字通り跳ね上がった。
別にソファに何か尖ったものがあったわけではない。
部屋のドアの横にある受話器が急にけたたましい音を鳴らしたからである。
「……電話、かよ?」
心臓の上の辺りを手で撫でつつ、コーラサワーは受話器に近づいた。
これを使うことはコーラサワーも当然思いついており、フロアを呼び出したのだが、
「サリィ・ポォから連絡を止められています」と素気無くぶち切られてそれっきりになっていた。
「もしもし……誰だ?」
受話器を取ると、コーラサワーは問いかけた。
『……』
「……?」
『……』
「……??」
『……』
「……???」
相手の声が小さいのではない。
行数を稼いでいるわけでもない。
本当に相手が何も喋っていないのだ。
まさに無言電話。
「おい、誰だよ! イタズラ電話ならキレるぞ!」
『……俺だ』
「オレって誰だよ! そんな名前のヤツは知らねえぞ!」
『……パトリック・コーラサワーか?』
「俺だよ!」
『……俺、という名前の人間はオレも知らない』
「お前、喧嘩売ってんのか」
『……何も売ってはいない』
「絶対売ってるだろ!」
何この漫才。
デュオとはまた別の次元でコーラサワーと漫才出来る者がいるとは。
『……刹那・F・セイエイだ』
「せつな……?」
『……そうだ』
「知らないな、そんなヤツ」
『……マイスター運送』
「へ?」
『……マイスター運送の刹那・F・セイエイだ』
「マイスター運送のせつな……」
ピピピ、とコーラサワーは脳内の人名録をめくった。
マイスター運送で該当する人名は、スメラギ・李・ノリエガ、クリスティナ・シエラ、フェルト・グレイス、その他男ども。
「女たちなら名前覚えてるけどな。礼儀として」
『……さすがだな』
「褒めるなよ」
『……褒めていない』
やっぱり漫才だよこの人たち。
『……黒い髪の、アジア系の男だ』
「あー、あー、思い出した。ウチのちんちくりんに雰囲気似てるヤツな」
『……よくわからなが、思い出してくれたら何よりだ』
「で、そのちんちくりん二号が何だよ、何の用だよ」
『……』
しばらくの間が空く。
何とも言えない静寂が部屋を包む。
『……パトリック・コーラサワー』
「あん?」
『……そこから、出たいか?』
「へっ!?」
コーラサワーは一瞬目を点にして絶句した。
何を言っているか俄かには理解出来なかったからだ。
『……そこから、出たいか?」
「で、出たいに決まってるだろ!」
『……そうか』
「つうか何なんだよ! お前らもウチの連中と結託して俺を除け者にしたんだろ!? 今更何だよ!」
『……これは、この電話は、オレの意思だ』
「はあ?」
『……スメラギ・李・ノリエガでも、プリベンターのサリィ・ポォの意思でもない』
「はあ」
『……オレの、独自の判断だ』
再びコーラサワーは目を点にした。
刹那は何を言っているのか。
ぶっちゃけてしまえば、スメラギやサリィの許可を得ずして勝手にコーラサワーを解放しようとしている。
そういうことになる、なってしまう。
「お前が、俺を?」
『……そうだ』
「何考えてやがんだ?」
『……』
「いや、お前が何を考えてんのかどうでもいい。どうやって俺をここから出せるってんだ!?」
『……伝手がある』
「ツテ?」
『……そうだ』
「ツテって何だよ! ウチの人間か? それともマイスター運送の人間か?」
『……いや、どちらでもないな』
コーラサワーは受話器を一端耳から離すと、マジマジとそれを見つめた。
錯覚に間違いないのだろうが、何故か刹那の「微笑み」を受話器越しに感じた気がしたからだ。
『……あと10分程待っていろ。扉が開く』
「ホントだろうな! おい!」
『……嘘ではない』
そして今度は、明らかに言葉の最後に小さく、薄く笑う声が続くのをコーラサワーは聞いた。
嫌味はものではない、侮蔑でもない、嘲りでもない。
だが、明らかに明確な意思が乗った微笑のそれを。
『もう一度確認する、パトリック・コーラサワー』
「……あん?」
『そこから……出たいか?』
パトリック・コーラサワーとプリベンターの心の旅は続く―――
コンバンハ。
間が開いてしまい申し訳ありませんでした。
さて、せっさんの言う伝手とは何なのか、誰なのか。
そう、あの人です。
ではまた。
>>92 お久しぶり、そして乙です!!
コーラさんとせっさんの絡みとはw(アニメ本編では無かったし)
あ、でも、せっさんはアジア系というよりはアラブ系だと思います(突っ込んですみません)
「あの人」とは誰なのか、続きを楽しみに待ってます!!
>>92 土曜氏さん乙です!隊長・・・いや体調はいかがですか。
誰がドアをガガガガと00二期3話並みにぶちこわしてくれるのか(いや壊さないか)楽しみにしています!
キャラが若干被ってるあの人か出身地が近いあの人か……
それとも意表をついて熱血忍者か…
「ふはははは!私はここだぁ!」
「うっせーよ!」
>>92 土曜日さん乙〜
「あの人」とは誰なんだろう、次回の展開にも期待!
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
今月中に投下します。
今年12月終了の目標だったのにこりゃまた年越し……
意外。
考えていた状態とは違っているさま、を意味する。
思いのほか、案外、という類語もある。
さてこの『意外』という言葉、かなり安売りされてはいないだろうか。
例えば、
「ねーねー、あのコ、○○君と付き合ってるらしいよー」
「えーっ意外ー!」
「だよねー」
「もしかしたらって思ってたけど、本当にそーなんだー」
という会話があったとする。
もしも、とチラリとでも思っていたら、それは意外では決してない。
意外とは予想外であり、頭の片隅にもな浮かんでこない可能性を指すのだ。
日本代表で香川真司がゴールを決めたとする。
意外ではない。
同じく本田圭祐がゴールを決めたとする。
これもまた意外ではない。
長友佑都がゴールを決めたとする。
驚きはするが、意外という程ではない。
川島永嗣がゴールを決めたとする。
これは意外に近いとは言えるだろう。
ゴールキーパーが得点する機会なぞそうそう無いからだ。
だが、これも近いだけで、意外そのものでは決してない。
レネ・イギータやホルヘ・カンポス、ホセ・ルイス・チラベルトと言った「点を決めたことがある攻撃的GK」が存在していたからだ。
ザッケローニがゴールを決めたとする。
そう、これは意外と言えるだろう。
何しろ選手ではなくて監督だ、点を決めることなんて出来るはずがないのだから。
……まあ○クシーと呼ばれる某監督はフィールド外に飛んできたボールを革靴でダイレクトで蹴り返してゴールに放り込んでいたりするが。
これは確かに意外であり奇跡だが、「スゲエなあ、でもピ○シーだかんな」「ああピク○ーだし。だからスゲエんだよな」で説明出来ちゃう辺り、
本当の意味での「意外」ではないのかもしれない(天才というものは論理を意図的に放棄しても存在を許される生き物であることがこのエピソードでわかる)。
つまり何が言いたいのかと言うと、「意外」とはまさに「意」の「外」、
考えや思いの外にある出来事を指して言うのだ。
◆ ◆ ◆
パトリック・コーラサワーはポカンとしていた。
どれくらいの間だったか、本人は知覚していないだろうが、ゆうに一分は超えていただろう。
彼の目の前には、一人の人物がいる。
その背後には、開放された扉がある。
「……そんな顔をされても困るのですが」
その人物は口を開いた。
彼を解放したその人物は、まさに彼の予想外の人物だった。
「……ショタコン姫さん、じゃねーか」
「私はそんな名前ではありません。マリナ・イスマイールという立派な名前があります」
現アザディスタン特殊自治区代表にして統一政府の外務官、
旧アザディスタン王国の第一皇女、その人だったのだ。
「えーと、いや、なんで?」
「何故と言われても、刹那に頼まれたからです」
「あのちんちくりん二号に?」
「刹那のことをそんな渾名で呼ぶことは許しません」
プイ、とそっぽを向くマリナ・イスマイール。
「いや、いやいやいや、だからなんで、その、あの、姫さんが?」
言葉を口にしてはいるものの、コーラサワーの表情は扉が開いてマリナが姿を見せたその時から変わっていない。
ポカーンとしたままである。
実にマヌケな面という他ない。
素でイケメンなのに、こういう表情も「アリっちゃアリ」なところがこの男の真骨頂だろうか。
何か違う気もするが。
「ですから刹那に頼まれたのです。貴方を解放するように、と」
「はあ……」
マリナ・イスマイールと刹那・F・セイエイには奇妙な縁がある。
アザディスタンの皇女と、かつてアザディスタンとの間で紛争があったクルジス共和国の少年。
一言で関係を語るのはとても出来ないが、無理矢理に説明すれば、「今は心の根っこの部分で志を共にする同志」とでも言えばよいだろうか。
マリナはちょっと別の意味で刹那にこだわりがあるようではあるが。
「刹那の頼みなら断れません」
「はあ……」
「私は別に貴方に関心も興味もありませんが」
「はあ……」
ハッキリ言う人である、マリナ・イスマイール。
アニメ本編でもこれだけハッキリキッパリしてたら展開も違っただろう。
まああっちはあっちでああいう存在だったからこそ、物語のシメとしての存在が際立ったわけだが。
(映画を含めて通しで00を見てみると、物語のラストにマリナというキャラクターが絶対に欠かせないことがわかるはずである)
「ちんちくりん二号の言ってた『伝手』ってのは姫さんだったのか」
「刹那には何か考えがあるようです」
「ここのオエライサンだから、ホテルの部屋の一つや二つはどうにかなるってか」
「とにかくここを出ましょう」
「あんの野郎、女の一人も口説けないような陰気臭い面してる癖に、女を使うとはなかなかやるな」
「あの、話を聞いて下さい」
残念ですが姫さん、この男は人の話は聞きません。
聞くのは嫁さんの言葉だけです。
「よし、細かいことはどうでもいいってもんだぜ。とにかく感謝するぜ姫さん」
「はあ」
「こうとなれば早速行くぜ! すまんがどいてくれ姫さんよ!」
「あ、ちょ、ちょっと待って下さい。ここを出ましょうと言っておいて何ですが、会わせなければならない人達がいます」
「へあ?」
マリナ・イスマイールは片足を半歩、退いた。
彼女の体で塞がれていた、扉への視界が開く。
「お久しぶりね」
「お初にお目にかかる」
「あ、アンタは眼鏡のキッツイねーちゃん! ……と、誰だ?」
「……シーリン・バフティヤールよ。そしてこちらはクラウス・グラード。反省府組織カタロンの代表になるわ」
「よろしく、パトリック・コーラサワー少尉。いや元少尉と呼ぶべきだろうか。お名前はかねがね」
コーラサワー、再度のポカン。
マリナだけではなく、シーリンまで出てくるとは。
かつてシーリンはレディ・アンの秘書的な存在として、短期間だがプリベンターに籍を置いていた。
彼女と面識こそはあるものの、まさかこんなところでこうして会うとは、コーラサワーにとって意外中の意外。
反省府組織カタロンが誕生した際、そちらに参加することになり、シーリンはプリベンターから抜けたわけだが、それ以来となる再開だった。
ちなみに反省府組織とは、『過去に人類が犯した過ちを見つめ直し、課題を取りあげ、反省することで未来に生かそうという組織』で、
どいう位置づけなのかさっぱりわからんが、れっきとした統一政府内の立派な組織の一つだったりする。
ぶっちゃけ反省府組織カタロンを出したのが2008年10月と4年も前のことなので、そん時どういう考えで出したかなんて覚えちゃいねーわけで。
「どーいうこった? ちんちくりん二号で姫さんでキッツイ眼鏡のねーちゃんで……何がどうなってるんだ?」
「レディ・アンからの特命、とでも言えばよいかしらね」
「レディ・アンの?」
「刹那・F・セイエイの思いつきにレディが乗った、と言えばより正確かもしれないわ」
「いや、まったくわからん」
「まあ……貴方には『以外の駒』になってほしいわけよ」
「以外の駒?」
シーリンに促され、クラウス・グラードはスッとコーラサワーに手を差し伸べた。
握手ではなく、半ば呆然として座っているコーラサワーを立たせようとしたわけだが、コーラサワーはこれを無視した。
無視というか、その手の意味を理解してなというか、
本能が如何なる理由であれ男と手を握るのを拒否したというか。
「そう、イオリアシュヘンベルグの遺産を追って現在行動しているプリベンターのメンバーから外れた、単独で動ける駒としてね」
「単独で?」
「中心メンバー以外の駒として、味方を、そして」
「そして?」
「敵の思惑を超えた『意外』の駒として動いてもらいたいのよ」
三度、コーラサワーはポカンとした―――。
パトリック・コーラサワーとプリベンターの心の旅は続く―――
コンバンハ。
00の最終兵器、姫さん登場。
当初の案(と言ってもこの展開をぼんやりと考えてたのはもう一年以上前ですが)ではここは沙慈とルイスだったんですが、姫さんとシーリンとクラウスにチェンジ。
なんでこうなったし。
ではまた。
>>115 土曜日さん乙です!!
そういや、このSSにおけるマリナは、ちょっとあくの強いキャラだってことを忘れてましたw
でもこれはこれで良いかもw
コーラさんは独自行動を依頼されたんですか、どうなる事やらw
>>115 土曜氏さん乙です!
姫様とのからみが面白かった!
>>115 土曜日氏乙〜
コーラさんとマリナ皇女の会話がw
コーラさんが単独行動をするのか、次回が楽しみです!
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
なんと継続力の高いスレだ
保守ウー
保守ワー
保守ウー
次回は12月の9日までには何とか
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
あと数日遅れます。
年末進行なんて人生の敵だ。
>>136 無理せずにマイペースで良いと思いますよ
保守ウー
雑多の事情によりもうしばらく遅れます。
次回は来週中、そして年内に何とかもう一本を目指しております。
……しかし当初の完結予定から何年オーバーしてんだか。
>>140 年末だと色々と忙しいですしね、仕方ないですよ
>>140 先生も忙しさに走ると言う師走でもありますし
職人さんもどうぞご自愛下さい!
保守ワー
保守ウー
保守ワー
『策』なんてものは、成功して初めて評価されるもので、
失敗してしまったらそれはもう『策』でも何でもなくなってしまう。
自分が仕掛けた策のさらに上の策を敵にやられてしまった、てのならまだ『ハイレベルな攻防』と言うことも出来るが、
「敵が自分の思った通りに動かねー! 敵の大将はアホンダラだ!」なんてことをほざく軍師も世界にはいたわけで(実話)、
何つーかアレだね、戦争って不毛だねってことである。
……何か違う気もするが。
まあ、『策』をうつならきちんと手順を踏んでやりなさい、ということで。
◆ ◆ ◆
で、我らがヒーロー、パトリック・コーラサワーさんである。
おそらくこのまま最終決戦に繋がるであろう、という大事な局面で、
味方から『居たら戦力になるかもしれないけど、居ない方が計算立て易い』という理由でホッタラカシにされちゃってるのだが、
こんな主人公、果たしていていいのだろうか。
いや、良くは無い。
何時の間にか主役の座を奪われてしまった主人公は確かに過去にいた。
最終決戦で死んじゃう主人公もいた。
だが、ラストバトルに参加しない主人公なぞいなかった(はずである)。
ハブられたらのならどうすればいいか。
答は簡単、強引に絡みに行きゃいいのである。
流れに沿ってない?
展開にそぐわない?
いやいや、パトリック・コーラサワーとはそういうキャラクターだったではないか、最初から。
00本編でとことんマイペースを貫き、異彩を放ったからこそ、
これほどまでに愛されるキャラになったのだ。
相手が離れていくのなら、無理矢理にでも追いかけて、追い越してしまえば良い。
それがパトリック・コーラサワーがコーラサワーである所以であるのだ。
「……と、言うわけでだ。俺は何をしたらいいんだ?」
味方のこさえた監獄から解放されたコーラサワーは、意気軒昂としていた。
解き放たれた当初は、それをしてくれた相手があまりに意外だってこともあってやや呆然としていた彼だが、
「考えは後からついてくる」がモットー、というか素の生き方であるからして、
すぽぽぽーんと悩みや戸惑いを放り出し、かぱぱぱぱーんと元気になった次第である。
「さあ?」
「どうしたものか」
「ですわねえ」
が、彼の耳に返ってきたのはハッキリとした答ではなかった。
「……オイコラ、さっき『イガイガの駒がウンタラ』とか言ってたのに、何だよその曖昧な言葉は」
「そう言われてもねえ」
シーリン・バフティヤールはゆっくりとかぶりを振った。
「私たちはレディ・アンの特命でやっただけであって、具体的なこれからの行動指針は持ってないのよ」
「何だよそれ!」
「貴方には『意外の駒』として期待しているのだけれど、じゃあ何をどうしてもらえればいいのか……レディ・アンからはそこまで聞いてなくて」
「無責任だな、おい」
「貴方に言われたくないけど……。まあでも、そう言われても仕方ないっちゃ仕方ないけれどね」
苦笑するシーリン。
その横では「ううむいかん、これは反省点だ」とクラウス・グラードが眉根を寄せている。
姫さんことマリナ・イスマイールに至っては、まったく関心が無いといった態である。
「おい姫さん! 何とか言えよ! 何とかしろよ!」
「私は刹那の頼みだからこうしたのです。それ以外のナニモノでもありません」
「だったらあのちんちくりん二号に連絡とれよ、アイツ、電話よこした時もほとんど説明ゼロだったぞ」
「貴方と刹那は心で繋がっていないのです。だから伝わらなかったのです」
「じゃあ姫さんはアイツと繋がってるってのか? 心が」
「……私は刹那のことをよく知っています。刹那も私のことをよく知っています」
「だったら次、何したらいいかわかるだろ、教えてくれよ」
「……今日の夕食は何にしようかしら?」
「ごまかすんじゃねーよ!」
アカン、この姫さんアカン。
ネジが飛んでるというか最初からネジがしまってない。
と言うかコーラサワーに言い負けてどうする。
話がズレまくって意味不明にコーラサワーが優勢になることはあるが、
真正面からガチで一本取られて、それで政治家が務まるのか本当に。
「マリナ、私が言えた立場ではないけど、彼の方が正論よ。今すぐ刹那・F・セイエイに連絡を取ってみたら?」
シーリンとしても、レディ・アンから全てを聞かされてるわけではない。
それは先程彼女が洩らした通り。
だからここはシーリンがレディ・アンに改めてここで連絡を取ってもいいわけだが(流れ的にも、刹那がコンタクトを最初に取ったのはレディ・アンであるのは間違いないわけで)、
敢えてそうしなかったのは、マリナに直接刹那を繋げる方が話が進むのが早いと踏んだ為である。
伊達に大学時代の同窓ではない。
マリナの性格はよくわかっている。
「そう……なのかしら」
「それが一番よ」
マリナ様、頼まれると弱い。
相手がコーラサワーのような男ならともかく、シーリンは友人である。
友人の頼みを断る程、彼女は非情ではない。
つーかあまりに非情じゃなさすぎるから、本編で色んな問題抱えすぎてえらい目に遭いまくったわけだが。
まあそれが「00」での彼女の役割だったんだから仕方ないが。
「彼の携帯の番号、知っているんでしょう?」
「え、ええ。それはもう」
「じゃあ今すぐ連絡してくれないかしら」
「……でも、刹那に迷惑がかからないかしら」
「それは後から考えること、今は動く時よ」
ややあって、コクリと頷く姫様。
彼女としても、「パトリック・コーラサワーを解放してやってくれ」というところで止まっているわけで、
刹那が何を考えているのか、知りたい気持ちはおおいにある。
「とにかく、どうすればいいのか。俺はそれを知りたいんだよ!」
コーラサワーが唾を飛ばす。
彼の嫁さんか、もしくはデュオ・マックスウェルが傍に居たら、
間違いなく『もう少し自分で考える癖をつけろ』とツッコンでたに違いない。
「じゃ、じゃあ……。刹那にかけてってきゃあああ!?」
携帯を取り出したところで、悲鳴をあげながらビクッと体をマリナは震わせた。
まさに携帯を手に取ったその瞬間、携帯がバイブレーションしたからだ。
「え、これ……?」
「どうしたの、誰からなの?」
「何だ姫さん、まさかオトコからとかじゃないよな?」
「何というタイミング、これは反省するべき点には流石にならんな」
シーリン、コーラサワー、クラウスはマリナの手元―――彼女の携帯の画面を覗き込んだ。
そして皆、顔を見合わせた。
マリナ・イスマイールの携帯のパネル。
そこには、着信の表示があった。
『刹那・F・セイエイ』と。
パトリック・コーラサワーとプリベンターの心の旅は続く―――
コンニチハ。
遅くなりましてすいませんでした。
昨日の夜に投下するはずだったんですが、急遽勤務が入れ替わって夜勤に入ったもので。
いやー、有馬記念も前日買いして心が緩み切ってたんもんでしんどかったです。
で、夜勤が終わって帰宅して、改めて文章整理して今投下したわけです。
えーと、有馬の本命はエイシンフラッシュ、そこからゴールドシップ、ルーラーシップ、ビートブラック、トレイルブレイザーに流しました。
いつ走っていつ走らないかわからない馬ですが、秋天を獲らせたデムーロなんでやってくれるでしょう、エイシンフラッシュ。
ゴールドシップはなんだかんだでクラシック二冠ですし、ルーラーシップはここを勝たねば恰好がつかない。
ビートブラックは春に儲けさせてもらったし、トレイルブレイザーは単純に武豊の応援で。
と、ここでオッズがどう動いたか改めてチェックしようと出馬表を見てみたら。
1枠1番 ローズキングダム 牡5歳 負担重量57.0 騎手:岩田康誠
1枠2番 エイシンフラッシュ 牡5歳 負担重量57.0 騎手:三浦皇成
2枠3番 スカイディグニティ 牡3歳 負担重量55.0 騎手:スミヨン
2枠4番 アーネストリー 牡7歳 負担重量57.0 騎手:福永祐一
3枠5番 ネヴァブション………………
( ゚д゚) ・・・
1枠2番 エイシンフラッシュ 牡5歳 負担重量57.0 騎手:三浦皇成
(つд⊂)ゴシゴシ
騎手:三浦皇成
(;゚д゚) ・・・
(つд⊂)ゴシゴシゴシ
騎手:三浦皇成
_, ._
(;゚ Д゚) …!?
お い デ ム ー ロ ど こ い っ た ! ?
っ て 尿 管 結 石 で 乗 り 代 わ り っ て な ん ぞ ー ! ?
し か も な ん で 三 浦 に ! ?
あ ば ば ば ば ば ば ば b b
>>150 土曜日さん乙です、待ってましたー!
マリナ姫は相変わらずどこか抜けてますね、コーラさんの方がしっかりものに見えるw
次回も楽しみです!!
>>150 土曜日氏、乙であります!!
そういえば、このSSの姫さんは色々と残念な人でしたね、だがそれが良い!
>競馬
御愁傷様です…
>>150 乙です〜!!
コーラさんと姫さんが会話すると、コーラさんの方がまともに見えてくる不思議w
保守ウー
保守ワー
目と目で通じ合う、と歌ったのは工藤静香である。
そして今、刹那・F・セイエイとマリナ・イスマイールは視線を交わしている。
ただし、間近にではない。
携帯電話の立体画面を通じて、である。
「刹那……!」
『……』
「……」
『……』
「……」
『……』
「……」
『……』
何ぞこれ。
刹那はいつもの仏頂面で無言。
マリナも最初の一言を除き、後はうっとり顔で同じく無言。
傍目から見たら婚期を逃した女性が年下の男に一目惚れしたが、
男の方はあまり乗り気ではないといった感じのお見合いみたいである。
「……」
『……』
「……」
『……』
「……」
『……』
再び何ぞこれ。
最早時数稼ぎ以外のナニモンでもないではないか。
「……なあ、どうなってんだ」
「私に聞いて欲しくないわね」
「伝えたいことがあるのに伝えられない。これは反省材料になるな」
ひそひそ声で様子を伺うコーラサワー達三人。
つうか、このまんまでは本当に話が進まないわけで、どちらかに口火を切って欲しいもんである。
「……言えないのよ」
お、マリナが口を開いた。
「言いたいことならどれくらいあるか……。わからなく溢れてる」
彼女の心はどうやらおしゃべりのようである。
「言いたいことなら貴方には……後からあとから溢れてる」
なのにいざとなると内気になる。
遠い場所からこうして話しかけているのに。
目と目で通じ合う、かすかに、ん……。
「無言、イラっとするな」
コーラサワーさん、ごもっとも。
こうまで進展しないと、そりゃイライラもしてくる。
「おい姫さん、電話貸してくれ」
「あ、ちょっと!」
マリナの手から携帯電話を取るコーラサワー。
だが流石と言おうか、相手が女であるからして、もぎ取りはしなかった。
片手をマリナの腕に添えて、引っこ抜くように、あくまで乱暴さを感じさせない動きだった。
こーいう辺りはレディ・キラーである。
「おいちんちくりん二号!」
『……パトリック・コーラサワーか』
「俺はこれからどうしたらいいんだ!?」
『……』
「何か言えよ、おい」
『……いや、まず礼を言ってもらえるものかと思っていたのだが』
「はあ?」
『……マリナに頼んで部屋を開放させたのは俺だ。それについて何か礼は無いのか』
「あー……?」
『礼だ』
「何だお前、ダブルオーだけにレイとでも言ってのか」
三度何ぞこれ。
やっぱり漫才としか思えない。
と言うか、コーラサワーの背後でハンカチの端を噛みながらマリナがめっちゃ怖い顔をしている。
刹那と普通(?)に会話しているコーラサワーがどうやら憎たらしいらしい。
さらにその横でシーリンが肩を竦めているが、何も言わないのはマリナとの付き合いが長い為であろう。
『……まあ、いい』
「いいのかよ!」
小さく笑う、画面の中の刹那。
彼にしては珍しい表情である。
ああ、マリナがギギギとはだしのゲン並の擬音を出して歯ぎしりしている。
嫉妬してどうする、姫。
『……あまり長く話せない。暇がない』
「だったら礼なんぞ求めるなよ」
『……もっともだ』
「お前、ふざけてるのかあ!?」
しかし、コーラサワーとデュオ・マックスウェルならデュオがツッコミになる。
しかしコーラサワーと刹那ならコーラサワーがツッコミになる。
この違い方はなかなかおもしろい。
『……俺がお前とコンタクトを取っているのが他の皆に知れると、あまり良くない』
「何故だよ」
『……お前には、あくまで俺達とは別行動をとって欲しい』
「それも何故だよ」
『……このままだと、俺達は負ける』
「負けるって誰にだよ」
『……研究所跡に、来い』
「研究所跡って、俺達プリベンターがこの前調べたところか?」
『……俺の力では、足りない』
「何が足りないんだよ」
『……待っている、パトリック・コーラサワー』
「あ、おいコラ、切るつもりだろお前!」
『……機会があれば、また連絡する。マリナの携帯に』
「もう少し詳しくだな、説明をだな!」
『……最後にひとつ。敵の敵は味方になる』
「敵の敵が何だって!?」
『では』
切れる携帯。
そしてキレるコーラサワー。
「なんじゃあこりゃあああ!」
「刹那!? 刹那! せつなー!」
コーラサワーから携帯を奪い取るマリナ。
慌てて着信履歴からダイヤルするが、繋がらない。
「ああ、話したいことがまだあったのにー!」
涙するマリナ。
一応この人、今は有能な行政官です。
信じられないでしょうがそうなんです。
「さて、じゃあとにかく行きましょうか」
「そうだな、彼が来いと言っている以上、行くしかない」
やれやれ、といった感じのシーリンとクラウス。
反省府組織カタロンのこの二人は、特に悩む必要がない。
レディ・アンからの要請で動いている以上、流れに沿って行動するだけである。
刹那・F・セイエイが来いと言っているのなら、行ってやるしかない。
「お前ら……サバサバしやがって」
「何も考えずに動くのは貴方の特権じゃないの? パトリック・コーラサワー」
「そりゃそうだけどよ、ここまでワケわからんと流石に嫌だろ」
「ふむ、見る前に飛べ、か。反省材料にはならんな」
「あああ、刹那、刹那……」
たった今ここに、新パーティ結成。
プリベンターのパトリック・コーラサワー。
反省府組織カタロンのシーリン・バフティヤールとクラウス・グラード。
そして特区アザディスタンの行政官、マリナ・イスマイール。
いやあ、凄い面子である。
何だろう、戦士のコーラサワー、魔法使いのシーリン、僧侶のクラウス、遊び人もとい姫のマリナ、そんな感じ。
こうして見るとバランス良いのか悪いのか。
回避力はそれ程無いがHPと運が異様に高い戦士。
現実主義で冷静な魔法使い。
理想を求めがちでやや斜め上だが行動力はある僧侶。
とにかく戦闘には役に立たない遊び人もとい姫。
何だか経験値稼ぎが下手そうなパーティである。
しかしまあ、物語も終盤に来て、主人公と同行するのが今までほとんど絡んできてなかった三人って、
どれだけ構成に不手際がゲフンゲフン、ひたすら行き当たりばったりゴホンゴホン。
「彼が言っていた、『敵の敵は味方になる』とはどういう意味だと思う? シーリン」
「さあねクラウス。どのみち考えてもわからないわ。その場その場で対応するしかないでしょうね」
「あーくそ、わかった、わかったよ。俺はスペシャルで2000回スクランブルで模擬戦不敗のコーラサワーだ。やってやるよ!」
「ああ刹那……」
いざ、鎌倉。
いざ最終決戦の地へ。
パトリック・コーラサワー、ようやく出陣せり。
◆ ◆ ◆
『……今、説明した通りだ。お前の協力が必要だ』
「信用できない」
『……だが、もうそちらに打つ手は無いはずだ』
細かい砂塵が吹きすさぶ荒野の中、その人物は宙を見上げた。
薄く天に張った雲が、一秒ごとに姿を変えていく。
「まだあきらめていない」
『……無理だ』
「何を根拠に?」
『……お前は奴にとって態の良い囮程度の役割しかない』
「!?」
『……十分理解しているはずだ』
「違う、僕は一人でも」
『再度言う。無理だ』
佇む人物―――彼は視線を空から地に再度移した。
どこからか転がってきたのか、小さな板が風に吹かれて舞い上がり、地に打ち付けられ、二つに割れる。
『……無理だ』
「無理じゃない……」
『……ひとりでは、無理だ』
「くっ」
『……生き残る手はある。遺産を守る者として』
「僕は、イオリア・シュヘンベルグの残したモノを」
『……もう奪えない。ならば守れ、奴から』
「……!」
『……時間が無い。最後にひとつ』
「何だ?」
『かつての味方、その敵は味方だ』
「どういう意味……」
『では』
声は途絶えた。
脳に届く声は。
彼は瞬きをすると、足を踏み出そうとし、止めた。
金色に輝く瞳が、先程目前を転がっていた板を捕える。
割れた板の小さい方が、また風に吹かれて転がっていく。
「……」
ゆっくりと、彼は踵を返した。
街に一端戻らねばならない。
移動手段をどうにかして確保する必要がある。
数歩歩いたところで、彼は背後の板の残された部分を確認したい衝動にかられた。
しばし逡巡したが、結局彼は振り返らなかった。
代わりに天を、もう一度仰ぎ見た。
紅の瞳に映るのは、さっき見た時とは、もうすでに違う空になっていた。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――
あけましておめでとうございます。
大晦日は仕事、そして元旦も仕事。
しかもわけのわからんトラブルが山積み状態。
しかし刹那の台詞は他者との区別の為「……」を多用しているのですが、
書いた後にざっと通しで見直すと、どうにも冗長ですな。
ではまた次回。
ことしのもくひょう:ねんないかんけつ
>>161 明けましておめでとうございます!そして乙です!
やはり、マリナ姫よりコーラさんがまともな人に見えるw
ギギギってw
最後に出てきた人物はリジェネかな?次回も待ってます!
>>161 土曜日さんあけおめ〜
今回のメンバーだと、コーラさんが一番常識人に見えなくもないですねw
刹那は本編と比べるとあまり変化は無いんですが、やはりマリナ姫がw
正月も仕事とは大変ですね、無理しないでご自愛下さい…
>>161 あけおめです!
最後に出てきた人物(リジェネかな?)の動向が気になりますねえ
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
次回は1月中になんとか。
保守ウー
保守ワー
その時歴史が動いた。
……そういうテレビ番組があったが、確かに「あの出来事によって時代が動いた、もしくは変わった」という瞬間は実際にある。
というか、学生さんはお手持ちの、そして社会人さんは押入れを漁って、歴史の教科書をパラリとめくっていただきたい。
ぶっちゃけ、そこに載せられているのは、ほぼ全てが「その時歴史が動いた」というものばかりである。
まあ当たり前のことではあるが。
さて、我らがパトリック・コーラサワーさんである。
この御仁、ハッキリ言って構成の歴史の教科書に載るような人物ではない。
「奇人伝」とか「変人伝」とか、「おもしろ軍人伝」とか、そーいう類の本になら載るかもしれない。
こーいう人物伝では、マジメな人間は損をする。
物凄く善人で非の打ちどころがない王様よりも、
能力はスゲーがやってることが無茶苦茶でハチャメチャな将軍の方が正味の話、おもしろいわけで。
例えば三国志で有名な曹操なんかは、歴史書でも小説でも、揚句マンガでも、とにかくおもろい人物に書かれている。
政治家として優秀、軍人としても有能、文才もあり女好き。
動乱の時代にその身を興し、時の皇帝を擁して一大勢力を築くも、自らはあくまで頂点の立場には立たない。
小説では悪役なんだが、憎たらしいわけではなく、「ワルモノ」に収まらない空気を醸し出す。
他にもマケドニア王のアレクサンドロス大王。
若くして父の跡を継ぎ、いきなり東方に遠征する。
ドンタコスったらドンタコスってな調子でペルシアやらインドやらを攻め、
まだ東に行きたかったけど部下が渋ったのでシブシブ諦めて、そいで本国に帰る途中で病死。
無謀というか無茶というかそんなことやってたらヘレニズム文化が生まれたり、
死後はもう「敵の命を狙ってシューッ! チョーエキサイティン!」な修羅場になったり(「ディアドコイ戦争」で調べるよろし。まさに血みどろ)、
破天荒すぎて笑っていいのか研究対象として真剣に考えていいのかわからんレベルのおもしろさである。
まあさすがにこれらの偉人と比べるのはコーラサワーが可哀想ではあるが、
AEU時代、プリベンター時代を通じて、個人としての戦績は十分にエースに足りえるものである。
が、なにより性格がトンデモない。
そしてそのぶっとんだ所業と、今これから起こる事件によって、彼の名前は後の世に残される。
ただし教科書には載らない。
教科書に載るのはプリベンターの長であるレディ・アンと、現場リーダーのサリィ・ポォまでである。
「奇人伝」や「変人伝」、それらが何ページも割いておもしろおかしく語る。
そーいう残り方になる。
昔のはっちゃけまくりだったころの光栄(KOEIでもコーエーテクモでもない)の攻略本の人物紹介みたいなもんである。
ある意味、幸せな男である。
彼はただ、「はい、ないです!」の精神で自分本位で動いていただけなのだから。
ただ、だからこそ、おもしろいのだ。
◆ ◆ ◆
ASS。
アロウズ・セキュリティ・システム。
巨大複合産業会社のアロウズを守るためだけに存在している組織である。
表向きは一般向けの警備会社であるアロウズ・セキュリティ・サービスの一部門であるが、
ぶっちゃけアロウズの権益を守る為の私兵集団に他ならない。
古いアニメ・漫画ファンは「機動警察パトレイ○ー」のSSSを思い出していただければ幸い。
アレとほぼ同じである。
今、そのASSの現場のトップである男は悩んでいた。
名前はバラック・ジニン。
逞しい身体と鋼の意思を持つ、優秀な人物である。
今まで彼は、アロウズを守る為、上からの命令に従って黙々と働いてきた。
時には汚れ仕事にも手を染めたが、それもまた会社の為であると決して不満や不平を余所には洩らさなかった。
だが、そんな彼が今、おおいに苦しんでいる。
任務の困難さからではない。
その任務そのものに、疑問を持ち始めているのである。
今までにそんなことはなかった。
いや、あったのかもしれないが、決して表には出さなかった。
しかし彼の心の堤防は、ゆるやかではあるが徐々に崩れかかっている。
危うい方向にではない。
本当に、本気で任務に悩んでいるのだ。
「隊長……どうします?」
彼の目の前には、多く部下が揃って立っている。
全員が、彼の良き部下として、今までを戦ってきた猛者である。
そして、その全てが、バラック・ジニンという男を心から信頼している。
「命令は絶対だ」
ジニンは目を瞑りながら、重々しく呟いた。
だがその言葉の中に、僅かながらだが溜息に似た成分が含まれている。
「絶対、だが」
彼の悩みの原因は、「情報の少なさ」にある。
確かに今までは、命じられるままに動いてきた。
駒としての扱いで、戦うための情報は貰えても、それ以上はなかった。
「……我々は隊長の指示に従います。全員、同じ気持ちです」
「お前達……」
ジニンは目を開くと、部下達と視線を交わした。
そこに淀んだ光は欠片もない。
どれも澄んだものばかりだった。
「そうか」
頷くと、ジニンはまた瞼を閉じた。
それなりに修羅場を潜ってきた彼は、肌で感じていた。
この任務は今までのとは違う、と。
ここまではそれでもその心に沸いた疑問を押し殺して任務にあたってきた。
しかしそろそろ、自分でもざわめきを封じきれなくなっている。
何故こんな任務をしているのか。
マイスター運送の抱える秘密とは何なのか。
イオリア・シュヘンベルグの遺したモノは何なのか。
アロウズはそれを手に入れてどうするつもりなのか。
そしてイノベイターは何を企んでいるのか。
どれもが、最低限の情報しかない。
「……あの『歌手』どもめ」
小さく、ジニンは言葉を紡いだ。
彼はイノベイターのことを正直、良く思っていない。
職務を放棄するつもりはない。
それはプロとして最低の行為だ。
だが、しかし。
「……アロウズを守る、それが俺達の仕事だ」
「では……」
「只今この時をもって、プリベンターとマイスター運送の監視から我々は外れる」
大きくはなかったが、だがはっきりと、ジニンは部下達に言葉を発した。
「『上』には任務継続中、以降の指示あれば伺いたし、とそれだけを伝えろ」
「了解!」
「……お前達の疑問は、俺の疑問だ。そして俺の思いは、お前達の思いだ」
ジニンの目にも、曇りは無い。
アロウズを守る、その意思に変わりはない。
「俺達は勝つ」
そう、職務を放棄はしない。
「アロウズを守る」
プロとして、動く。
「では……今から、『対象』と直接接触を図る」
「はっ!」
彼の命令―――いや、同意を求める言葉に、部下達全員は敬礼を持って応えた。
「アホな俺が自分が判断するよりも、相応の人間が判断した事に従えばいい」
かつてパトリック・コーラサワーはこう言った。
「自分は駒だ。上の指示に従うだけだ」
バラック・ジニンはそう思っていた。
期せずして同じく、自らの意思で「状況」に関わることとなったこの二人が、
後世の教科書に名前が載ることのない二人が、もう少しで顔を合わせる。
その時―――歴史が動く。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――
コンバンハ。
ちょっと短くてごめんなさい。
仕事が忙しすぎんのが悪いんだ、社会が悪いんだ、イノベイターの陰謀だ。
ジニンさんが初めて登場した時からはや2年半近く。
当時、こんなことを言ってました。
237:名無しさん土曜日 ◆gLNd2xXs6c [sage] 2010/07/26(月) 23:11:32
アロウズ。
今をときめく巨大総合企業。
実はOZと強い繋がりがあったのだが、OZ崩壊に伴って新政府側へと乗り換えた。
裏では色々と動きがあったようだが、一般市民がそれを知ることはない(で、それを絹江が調べていた)。
イノベイターに協力しているのは、会長のホーマー・カタギリ、
欧州地区マネージャーのアーサー・グッドマン、
アロウズ・エレクトロニクス副社長のリー・ジェジャン、
アロウズ・セキュリティ・サービスの警務部長アーバ・リント、
リントの部下であるバラック・ジニンといった面々。
形的にはイノベイターの部下的な立場だが、実のところは、「利用する間は利用する」という関係。
特に会長のホーマーは、何か思惑を秘めているようだが……。
また、グッドマン達も決して一枚岩ではない。
特にジニンは色々と思う所がある様子。
ホーマーは在野の天才ビリー・カタギリの叔父で、
ビリーの才能を惜しみ、アロウズに引き込もうとしているが、ビリー本人は今のところ首を縦には振っていない。
ちなみに、アリーの『ソンナコト・アルケー』を組み上げたのは実はアロウズである。
ミカンエンジンのデータを盗んできたのは別の誰かさんだが。
で、ミカンエンジンをビリーが開発中という情報を誰かさんに渡したのは実はホーマー。
正直、ジニン以外はコーラサワーと直接絡まない……かも。
プリベンターにとっては、背面の敵となる予定。
……ジニンがコーラサワーに絡むまでどんだけかかってんだ。
話進めるの遅過ぎて我ながら涙が出てくるわ。
ちなみにその直後↓
238:名無しさん土曜日 ◆gLNd2xXs6c [sage] 2010/07/26(月) 23:12:46 ID:??(1)
遅れまくって申し訳ありませんコンバンハ。
次回から本編に戻ります。
ぶっちゃけ、話そのものは、細かい部分を除いて頭の中でラストまで出来てます。
でもこのペースだと映画公開までには絶対間に合わないな( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \ / \
ハァ
……えーっと、00の映画公開っていつでしたっけ( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \ / \
>>182 乙です!!
もしかして、コーラさんとジニンが邂逅する?
次回が楽しみです!!
>>182 土曜日さん乙であります。
コーラとジニンの御対面フラグ?どうなるんだろうw
続きを待ってます!!
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
あと一週間程で仕事がいったん落ち着くのでその際に投下します
保守ワー
保守ウー
次回は来週の月曜か火曜にて。
199 :
土曜日:2013/02/26(火) 22:05:02.96 ID:???
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
交渉の成功は、まず相手に第一印象で良いイメージを与えること。
そして次に喋りが上手なこと。
この二点に尽きる。
第一印象は事前の準備でまだなんとか出来る。
コネを適切に使えば、先入観で「刷り込み」が可能だからである。
しかし、面と向かっての喋りはそうはいかない。
こればっかりは個人の能力次第である。
考えていることを相手に100%伝えることは、これはまず無理と言っていい。
「会話が上手い」のは、つまりは「どれだけ相手に意思を伝えることが出来るか」ということに他ならない。
無論、受け手側にも会話の能力は要求される。
これは「聞き上手」とはまた別で、「どれだけ噛み合った答えが返せるか」ということであり、
芸人がネタ合わせもなく一発でコントや漫才を成立させたり出来るのは、これに長けているからである。
経験も大切だが、持ち前のセンスと、「察する力」が重要なポイントになる。
ここに関西人で阪神タイガースファンがいるとする。
その人物と野球の話をして、「助っ人外国人」の話題になったら、
まず間違いなくランディ・バースの名前が出てくるだろう。
この場合、バックスクリーン三連発や三冠王をキーワードとすれば、まず会話は破綻しない。
が、ジャイアンツの四球攻めやルパート・ジョーンズを俎上に載せてはイケナイ。
相手が「バース様」と様付けしだしたら尚更である。
余談だがマイク・ラインバックと探偵ナイトスクープの話を始めたらガチで泣き出すファンがいるので気をつけよう。
ここに年季の入ったPCゲーマーがいるとする。
その人物とMSXのをして、シューティングゲームの話題になったら、
まず間違いなくグラディウス2の名前が出てくるだろう。
この場合、コナミのMSX愛やヴェノム博士をキーワードとすれば、まず会話は破裂しない。
が、迂闊に「グラツー」と略したりスクロールのガクガクさに触れたりしてはイケナイ。
相手がファイヤーブラスターの使い辛さを愚痴りだしたら尚更である。
余談だが年配ゲーマーの前でファルコムとコナミを腐すとガチで怒り出す人がいるので気をつけよう。
……ええと、本題は何だったっけ。
◆ ◆ ◆
「そちらに協力したい。だからそちらも我々に協力して欲しい」
「いいぜ」
バラック・ジニンとパトリック・コーラサワーの交渉、終了。
二人はまだ長い坂道を上り始めたばかりだからよ。
次回のガンダム最新シリーズにご期待下さい。
……ではない、違う違う。
こんなに簡単に投げっ放しで片付くハナシではない。
イノベイターのやり方に疑問を抱いたジニンがプリベンターと接近しようというのが前回のヒキだったではないか。
こんな、諸葛孔明が説得の為に呉に乗り込んだら次の回では赤壁の戦いがもう終わっていたみたいな端折り方は許されない。
もう一回やり直そう。
「そちらに協力したい。だからそちらも我々に協力して欲しい」
「いいぜ」
バラック・ジニンとパトリック・コーラサワーの交渉、終了。
あれー。
驚きやわー、ボス倒して三竜も倒してナンボのもんじゃいと冥竜に突撃したら速攻でhageたレベルで驚きやわー。
有り得ないわー、やり直しやわー。
「そちらに協力したい。だからそちらも我々に協力して欲しい」
「いいぜ」
バラック・ジニンとパトリック・コーラサワーの交渉、終了。
こりゃダメだ、時間を巻き戻しても結果が毛程も変わらないならそれは最早運命。
これで話を続けるしかない。
これも偉大なるワカン・タンカ神のお導き。
「ちょっと、何を勝手に決めてるの!?」
「これは反省しなければならない」
「刹那への相談も無しに何をやっているんですか貴方は」
シーリン・バフティヤール、クラウス・グラード、マリナ・イスマイールから総ツッコミを受けるパトリック・コーラサワー。
そりゃそうである。
@いざ出発しようとしたら明らかにアロウズの一味臭い連中に囲まれたでござる。
A街の隅に強制連行されたでござる。
B一味の隊長っぽいイカツい男が「手を組もう」と前触れ無しに宣言してきたでござる。
Cござるでござるでござるでござるはちょんまげマーチ。
こんな感じで流れて、それでいきなり「オッケー」と言えるのは余程の大人物か相当の大馬鹿のどちらかである。
だが残念、パトリック・コーラサワーさんはそのどちらにも当てはまるお人ゆえ。
「……即答とはな」
ジニンさんも呆れ気味。
悠長にしていられない事情故、強引に進めたのだが、まさかあっさり応諾されるとは彼にしても思っていなかった。
部下達も顔をそれぞれ見合わせて、面喰っている様子。
無理もなし。
「だって味方してくれるってことだろ」
「それにしても、碌に話も聞かないで」
「反省するべきだ」
「カトル様への相談も無しに何をやっているんですか貴方は」
脊椎反射か、と思える速さの答えに味方一同はジニン達以上に困惑。
この「一切合財迷わない」行動っぷりがまさにコーラサワーの本領ではある。
物凄く周囲には迷惑だが。
「レディ・アンの了承も無しに……」
「現場の判断ってやつだ」
どこの俺に銃を撃たせろの人だ。
「反省だ、すぐに反省だ」
「振り向くなよ、後ろには夢がねーぞ」
今度は下町の錬金術師か。
「刹那とカトル様とガンダムパイロットボーイズへの相談無しに何をやっているんですか貴方は」
「何であいつらに相談する必要があるんだ」
これは姫様自重しろ。
しかしともかく、コーラサワーが交渉の場についてさらに回答権を持つ等、あってはならないことではある。
嫁さんが側にいるならともかく、彼一人に判断を任せるのは、
時代劇で悪代官と悪徳商人の手下が「外が騒がしいようで、ちょっと見てきます」と言い出すレベルで危ない。
つまり次の場面でバッサリ、アウト。
「考える前に動けって言うだろ」
「貴方の場合は考えずに動いているだけでしょうに」
シーリンさん、ごもっとも。
が、悲しいことに、この場に『正規のプリベンター隊員』はコーラサワー唯一人。
あってはならないことが今、ここにある。
そう、決定権を持つのは彼だけなのだ。
アカン、ちょっと見てきますから誰だお前はぐわーのコンボが繋がってまう。
「せめてサリィに連絡を……って、あ!」
「な、だから動かなきゃなんないんだよ」
悔しそうな顔をするシーリン。
そう、パトリック・コーラサワーは現在プリベンター本隊から『隔離』されている状態なのだ。
つまり、こちら側から連絡を取ることが出来ない。
「じゃあレディ・アンに……」
「悠長なことやってる時間がねーからアンタらが派遣されてきたんじゃねーのか」
「むむむ」
「何がむむむだ」
何とコーラサワー、シーリンを言い負かすの巻。
と言うかシーリンがちょっと慌て過ぎなだけかもしれないが。
00本編をずっと見ていた人ならわかると思うが、シーリン、外見の態度程には余裕が無い人である。
「おいオッサン」
「……バラック・ジニンだ。それに多分、そちらとそれ程歳はかわらんはずだが」
かわらんどころか貴方の方が年下です、ジニンさん。
「理由、そして情報、出来る限りの速さと俺に理解出来るような内容で先に喋ってもらうぜ」
「ほう?」
ジニンは感心したように少しだけ目を見開いた。
即諾する代わりに手の内を先に見せろ、というのは現場の交渉では基本である。
通常なら交渉を仕掛けた側がイニシアチブを取るのだが、こういった速度が必要とされる場では、
所謂「手綱の握り合い」の為に、交渉を受ける側が最も取るべき手段がこの「手の内明かしの要求」なのだ。
「もとよりそのつもりだった」
見かけは軽そうだが、案外馬鹿ではないな、とジニンは思った。
うーん、過大評価ですジニンさん。
「こういう場ではこうしろって俺の嫁さんが言ってたんでな」
「嫁……?」
「ああ、世界最高の嫁さん」
一瞬、キョトンとするジニン。
そして次いで、豪快に笑いだす。
「ははははは!」
「何かおかしいこと言ったか?」
実家に残してきた妻のことを、ジニンは思い出した。
もうすぐ『母』になる彼女のことを
「……そうだ、会社を守るのはプロの務めだが」
家庭を守るのは夫の、父の務め。迷うことも戸惑うことも、あるわけがない。
家庭を守れない男が、会社を、そして世界を守れるか?
守れるかもしれないが、それは「大のために小を犠牲に」した場合だろう。
そんなことは望まない、無理を承知の守り方は今まで散々やってきた。
ならばこそ、これからはそれと違う道を歩もう。
「取りあえず、こちらが用意した車がある。それに乗って移動しながら話そう」
「行先は?」
「あんた達が望むところさ」
「ならオッケーだ」
「これまた早い答えだな。そのまま拉致されるとは考えないのか?」
「これも嫁さんが言ってた。こっちの目的を優先させてくれる限りは話に乗れと」
「……いい奥さんだな。賢妻だ」
「だから言ってるだろ、世界で最高だって」
ジニンは部下達に車を持ってこさせるように指示を出した後、ゆっくりとコーラサワーに手を差し出した。
印象も話術も、あまり関係ない交渉だったが、どうやら上手くいきそうな気配を彼は感じている。
「何だ?」
「握手さ」
「残念だがそれは断るぜ」
「ほう?」
「男と馴れ合うのは嫌でね。それに、握手は事が成ってからするものだって……」
「嫁さんが言ってた、か」
「先に言うな!」
再度、ジニンは声を出して笑った。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――
コンバンハ。
規制に巻き込まれたとは言え、遅れて申し訳ありませんでした。
三国志の話題を文中で出したのですが、これを書いてから規制を喰らってる間に、真・三國無双の司馬懿の声優さんが事故で亡くなられたことを知りました。
まだPSで対戦格闘だった頃から無双を遊び、新作の7までほぼ毎回ナンバリングタイトルを発売日に購入していた身として、いささか場違いかもしれませんが、ここでお悔みを申し上げます。
次回は何とか早い内に頑張ります。
>>213 土曜日さん乙です!!
シーリンの返しは普通なんですけど、マリナとクラウスの返しがおかしいw
あと、コーラとジニン、何だかんだでうまくいきそうですねw
次回以降が楽しみです!!
>>213 土曜日氏乙〜
コーラとジニン、異色のタッグかw
二人の掛け合いがどうなるか楽しみです
あと、地の文でMSXのグラ2の話が出るとはw
SCCの音色は綺麗でしたね
次回も期待してます!!
>>213 乙であります!!
コーラとジニンがタッグか、どうなるんだろう…
保守ウー
長かったなあ、スパロボでコーラさんが使える日が来るのも…
>>218 キャラ性能的にはどう?使いやすいかな?
ぶっちゃけて言うとラスト数話、原作終了ラッシュの最中で仲間入りとか、完全に趣味の領域ですしおすしw
まあスキルパーツつぎ込めば無双も難しくないだろうけど
今度PSPで、ダウンロード専売でスパロボの新作が出る様だが、
コーラさんが使用できると良いな
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
仕事が忙しいですが、近いうちに次回投下します。
保守ワー
保守ウー
ちょっと予想外の仕事が割り込んできたんで遅れます。
多分18日か19日にはいったん区切りがつくと思うのでその辺りに投下します。
保守ワー
「一対一の真剣勝負」というものに人は弱い。
弱い、と言うのは、つまりそこに美的な何かを見出し、尊いものとして捉えてしまうということである。
スポーツはもちろんのこと、河原でガキンチョが夕陽をバックに喧嘩するのもまた同じ。
不良漫画でも徒党を組んでる癖に何故かトップ同士でタイマン張るのがお約束だったりする。
で、その美しい一対一の勝負に横やりを入れるのは、これは醜いこととされがちである。
最初から一対一対一で戦うのならともかく、ボクシングで言ってみれば、
チャンピオンと挑戦者がガツンガツンに殴り合って両者消耗しきっているその時に、
観客席から別の元気いっぱいのボクサーが乱入してきたら、これはもうとんでもないことである。
逆にプロレスはショーなので、乱入なんかは逆に「おもしろいもの」とされたりする。
集団戦である戦争においても、一対一(一つの陣営対一つの陣営)の真剣勝負の美は適用される。
戦争は勝ったら官軍なのでおかしいと言えばおかしいのだが、
それもまた感情と理性の狭間で生きている人間の一種度し難い「美的感覚」なのだろう。
川中島で上杉謙信お武田信玄が戦っている最中に、別の戦国大名が乱入してきたら、
それはもう「川中島の合戦」ではなくなるのだ。(まあそういうゲームがあるけど)
さて、この物語も佳境に迫ってきているが、
主人公側たる「プリベンターとその仲間」対「イノベイターとその一味」の真剣勝負が始まろうとしている。
コーラサワーさんの愉快な生活を書いてたはずなのに、どうしてこうなったと思わざるを得ない。
ノープランで無駄に筆の進むままに風呂敷広げるとエライことになる、といういい見本である。
まあ愚痴ってもしゃーないわけだが。
そいで我らがコーラサワーさんはプリベンターから絶賛戦力外通告中で、現在フリー状態。
今から怒涛の巻き返しでプリベンターとイノベイターの争いに介入していかなければならない。
幸いコーラサワーさんはプリベンターのメンバーなので、プリベンターとは戦わなくても良い。
ある意味プリベンターの遊撃部隊だから、「一対一」の片方に入るわけで、
醜い第三者の乱入には当たらない。
当たらないのだが、コーラサワーさんなので、「プリベンターに有利になる」と断言出来ないのが奇妙なところではある。
そんな存在だからサリィから置いてけぼりにされたわけだが、
気が付いてみれば最後に戦場で立っていたのはコーラサワーさんだけ、なんてオチにもなりかねないのが怖い。
太平洋戦争時の駆逐艦雪風よろしく、不死身の看板は裏返せば死神と書いてあるわけで。
◆ ◆ ◆
「簡単には物事は進まないもんだな」
アリー・アル・サーシェスは、冷め始めてるコーヒーを飲みつつボヤいた。
一瞬顔を歪めたのは、「物事が進まない現状」に怒っているからではなく、
冷めかけたコーヒーの味が予想以上に不味かったからである。
「何ですか、ボス?」
油で顔を汚した彼の部下が、視線を上げないままに問いかける。
部下はアリーが今いるところから数メートル下にいる。
「いやいや、人生は決して楽なことばかりじゃないってことさ」
「はあ」
アリーと彼の部下は今、最終決戦に向けた最後の整備をしている最中。
もちろん、整備しているのはアリーの愛機である、『ソンナコト・アルケー』である。
かつて奇人、じゃなく鬼神の如き戦い方でプリベンターを追い詰めたこともあり、
MS(モビルスーツ)が地上から姿を消しつつある今、地球上でおそらく最強レベルのMS(ミカンスーツ)だろう。
「まあ俺はおもしろい戦いが出来れば言うこと無いんだけどよ」
「あと金、金っスよね」
「そーだな」
アリーはコクピットに、部下はアルケーの足元にそれぞれいるので、
会話をするには少し声を張らなければならない。
「プリベンターをボコったら、どれくらいボーナスが出ますかねえ?」
「そりゃ結構なモンになるだろうさ。大将はケチじゃねーし」
「ホント、金払いの良い雇い主ってのはサイコーですね」
「だな」
アリーはコーヒーを飲み干すと、紙コップを握り潰した。
本当にサイコーなのは金は出すが口は出さない雇い主だ、等とは口にしない。
雇い主のリボンズ・アルマークは非常に耳が良い。
皮肉や陰口は叩き所、叩き時をわきまえて行うべきで、
さらに言えば言うべき対象の人柄をよく理解しておく必要がある。
余計なひと言を呟いたが為に身を滅ぼした、なんてことは歴史上にいくらでも例が転がっている。
「大将についてけば、まあ今回は勝てるさ」
「やっとプリベンターをコテンパンに出来ますね」
「アイツラには今まで色々と邪魔されまくってきたからな、百倍返しでも足りないくらいだけどよ」
敵を馬鹿にすることはあっても、決して甘くは見ない。
それは鉄則だとアリーは思っている。(まあそれでも失敗は重ねてきているアリーではあるが)
「……あとは運だな」
「はい? 何スかボス?」
「いや、今のは独り言さ」
握り潰した紙コップを、アリーはさらにくしゃくしゃに丸めた。
そしてそれをポイ、とコクピットから外に放り投げる。
「大将の運はさて、どれくらいあるのかねえ」
雇われている側は、雇っている側からいつ切り捨てられても文句を言えない。
傭兵の世界には組合も労働協定もないのだから。
逆に言えば、雇い主が負けそうになった時は、見切りをつけてトンズラすることもアリである。
雇い主の不運に脚を引っ張られるのだけは勘弁してもらわなければならない。
「いざ、ってことにならないようにしてほしいもんさ」
リボンズを裏切るつもりは、アリーにはない。
今のところは満足している。
「ボス、このゴミ、捨てときますよ?」
「おう、頼むわ」
願わくば、勝利を掴むその時まで満足させたままでいてほしいものだ……。
◆ ◆ ◆
「簡単に物事は進まないものね」
スメラギ・李・ノリエガは、熱いレモンティーを飲みながら呟いた。
一瞬チロリと舌を出したのは、「物事が進まない状況」に不満を抱いているからではなく、
レモンティーの温度が予想以上に熱かったからである。
「何がですかぁ? スメラギさん」
電子光で顔を照らされているミレイナ・ヴァスティが、モニターから顔を上げて問いかける。
彼女はスメラギが今いるところから、1メートルも離れていない位置にいる。
「いえ、人生は決して楽しいことばかりじゃないってこと」
「私は今、楽しいですぅ」
スメラギとミレイナは今、最終決戦の地とおそらくなるであろう場所に向けて移動している最中。
スメラギはマイスター運送の社長で、ミレイナはプリベンターのメンバーなのだが、旧知の仲である。
ミレイナの父のイアンがマイスター運送の重役で、小さい頃からそのイアンに連れられて会社に出入りしていたので、
結果として「周りが知り合いばっかり」という状態になり、ミレイナからしてみれば楽しくてしょうがない。
「まあ私としても楽しい結末を迎えることが出来れば言うこと無いんだけれど」
「みんな仲良し、問題ナシ、ですぅ」
「そうね」
机を一つ挟んだだけなので、会話をするのに声を張らなければならないということはないのだが、
ミレイナの声はいつも以上に大きくて弾んでいる。
余程マイスター運送の皆が近くにいるのが嬉しいのだろう。
「イオリアの遺産を守ることが出来たら、マイスター運送のみんなで祝杯を挙げないとね」
「スメラギさん、お酒の量は減らさないとダメですぅ」
「うーん、祝杯くらいは許して?」
スメラギはレモンティーを飲み干すと、カップをテーブルに置いた。
マイスター運送のみんなで、とはもちろんミレイナも含まれている。
プリベンターも一緒に、と言わなかったのは、あくまでイオリアの遺産を守るために手を組んでいるのであって、
同体の存在になったわけではないからだ。
必要な情報は提供するが、必要でないことは伝えない。
あくまでマイスター運送は「イオリアの遺産」を守るための組織であり、広義で見ればそれはプリベンターの目的である「世界を守る」ことと違いはない。
だが、仮に「イオリアの遺産」が地球圏を、今の人類に害を及ぼしかねないとプリベンターが判断したら……。
些細なすれ違いで盟が破れた、なんてことは歴史上いくらでも例が転がっている。
「プリベンターの力が必要なのよ」
「サリィさんもヒルデさんも、他の人もいい人ばかりですぅ。おかしな人もいるですけど」
「出来ればこれからも良い関係でいたいものね」
味方を頼りにしても、頼り切ってはならない。
それは鉄則だとスメラギは思っている。
「……あとは運ね」
「はい? 何ですぅスメラギさん?」
「いいえ、独り言」
つつつ、と右手の人差し指でカップの縁をスメラギはなぞった。
あまり行儀の良い行為ではないので、すぐにそれを止める。
「私たちにはどれだけ幸運の女神に好かれているかしら?」
完璧な作戦などない。
100%なんてものは数字の世界だけでしか存在しないのだから。
逆に言えば、予想外の出来事にも慌てずに対応していくだけの余力が必要である。
運は決して馬鹿に出来ないが、運だけを頼りにも出来ない。
「まさか、ってことにならないようにしないとね」
7〜8割は有利な状況に持っていける、とスメラギは踏んでいる。
今のところは、だが。
「スメラギさん、このカップ、片づけますですぅ」
「ありがと」
願わくば、大きな犠牲なくカタをつけたいものだ……。
◆ ◆ ◆
「簡単に物事は進まねーモンだな」
パトリック・コーラサワーはヘラヘラと笑った。
微塵も苦悩を感じさせないのは、「物事が進まない現状」に対しての素直な感想だからだ。
不満や怒りがあっても、結局は深く考えないのが彼である。
「何がだい、コーラサワー氏」
やや砂によって顔が汚れた一人の人物が、眼鏡についた煤を拭き取りながら問いかける。
「いやー、よくわからんけど、何かややこしくなってきてんのかなーってな」
「悪いね、こちらにも都合があったもので」
周囲が渋い表情をする中、コーラサワーと、対面しているその人物だけが雰囲気が軽い。
「ところで名前はなんてんだ?」
「ああ失礼。……リジェネ・レジェッタ。イノベイター、いや、元イノベイターさ」
「へえ」
「願わくば―――同行させて欲しい。協力者として」
なあどうする? というコーラサワーの言葉が、渋い顔のジニンやシーリンの頭上を舞っていく。
砂と一緒に、ふわりと。
パトリック・コーラサワーと同行者たちの心の旅は続く―――
コンバンハ。
遅れてすいませんでした。
>>242 乙であります、正に嵐の前の静けさ、と言ったところですかね
リジェネもコーラさんチームに正式に加入なんですね
次回が楽しみです!
>>242 土曜日氏乙です!!
コーラとジニンとリジェネ、それぞれ立場の違う者同士が共闘するんですか、良い展開ですね
あと、今回触れられなかった、プリベンターとイノベイターの動向が気になります
そろそろクライマックスが近いって事でしょうが、シリアス一辺倒にはならないんでしょうねw
次回以降も期待してます!!
保守ワー
保守ウー
大規模規制があるとかで、巻き込まれるとマズイですが何か対策ないでしょうか…。
土曜氏さんこんばんは、いつも楽しく拝読しております
花園規制のことでしょうか?
大規模規制は範囲が変更になったそうで
今回新シャアは免れたようです
一端規制になりましたが自分は現時点では解除されているんで
職人さんが規制中で自分のPCから投下できる時は代理投下など請け負います
このスレに避難所とかあったかな?
無ければ用意する必要がありますが…
まとめサイトにアップローダーがある
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
てす
規制に巻き込まれておりました。
あと一週間程で仕事がまた落ち着きますので投下します。
規制にまた巻き込まれてなければ……。
>>263 お待ちしております!!
本当、規制ほど厄介なものは無いですよね…
>>263 了解、待ってます。
規制はいきなり来ますからねえ…
保守ウー
hosyu
すいません、本日深夜に投下する予定でしたが、
同僚の急病による夜勤交代で無理になりました。
次回は6月1日か2日に必ず投下させていただきます、間が空いて申し訳ありません。
269 :
通常の名無しさんの3倍:2013/06/01(土) 12:34:54.08 ID:Dur3fo+D
保守ワー
今日か明日か・・・
後世、プリベンターに対する評価は高い。
OZ動乱の余波今だ冷めぬ世界にて、裏舞台ながらも世界の平和を守りぬいたのだ。
中には英雄とさえ評する歴史家もいる。
だが彼らは、プリベンターの面々は、決して誇りはしないだろう。
彼らからしてみれば、動乱に深く関わった、関わってしまった分だけ、
「俺達がやらねば誰がやる」という思いが強かっただけに過ぎない。
はいそこ、張五飛にだまされて集められただけやんけ、何て言わないの。
だが初期メンバーの中でも、不評と好評に真っ二つに分かれる人物がいる。
しかも二人。
ひとりは、皆さん御存じ、パトリック・コーラサワー。
そしてもうひとりは、これまた皆さんお馴染み、グラハム・“ブシドー”・エーカー。
やりたいようにやり、生きたいように生きた戦士。
大きな子ども。
進撃の奇人。
リアルラックと踊った男達。
傍若武人。
天衣無謀。
バカは死ななきゃ治らないが死ななかったから治らなかった。
努力と才能を超えた強運の持ち主達。
金魚の糞だと思ったら糞の方が本体だった。
女神の口づけと武神の抱擁を独占した卑怯者。
教科書には載せたくないし、やっぱり載せない連中。
色々、様々。
高い評価を下している者も、決して手放しではない。
悪い評価を与えている者も、決してクソミソではない。
ひねくれ者のとある歴史家は、そんな二人の評価について、こう呟いたものだ。
「当時、彼らを間近で見ていた者達もわからなかったのだ。俺達に理解出来るものかよ」と。
なお、この歴史学を根底から否定するような言葉を口にした彼は、
これが為に学会から追放され、在野で反骨の史学家として生きることになる。
果たして、これもコーラサワーとグラハムのせいなのだろうか……。
◆ ◆ ◆
グラハム・エーカーは腕組みをして立っていた。
顔には武者面をモチーフにしたマスク、
濃い緑紺の陣羽織を身に着け、
足には水を通さない分厚いブーツ、つまりは完全ブシドーモード。
はっきり言って変態そのものだが、本人は全く気にしていない。
砂塵が顔に吹き付けているが、瞬きをほとんどしないのは、「砂如きに負けぬ。武士道である」というキテレツな矜持ゆえだろうか。
アホである。
「落ちますよ、そこに立ってると」
彼の遥か下方から、一人の男が声をかける。
アラスカ野こと、ジョシュア・エドワーズである。
下方というのは、グラハムブシドーさんが彼の愛機であるMS(ミカンスーツ)、『カラタチ』の頭部の上に立っているから。
何かもう、カメラをぐるりと回りこませて、たいらいさおか水木一郎の歌でも流してみたい。
戦国ロボ・ブシドージャとかそんなの。
♪悪に染まりし 者どもよ(オーオーオー)
♪今こそ その目でしかと見よ(ヘイヘイヘイ)
♪こちらにおわすお方こそ
♪恐れ多くも ミスター・ブシドー
♪さがれさがれ さがりおろう(グラハムスペシャル)
♪カモンカモンカモン ブシドージャ(センチメンタル乙女座)
♪戦国ロボ(せんごくせんごくせんごく)
♪戦国ロボ(せんごくせんごくせんごく)
♪戦国 ブシドージャ
グレートブジンガーでも可。
♪フラッグ! フラッグ!(突貫カカン)
♪サキガケ! マスラオ!(突貫カカン)
♪スサノオ! ブレイヴ!(突貫カカン)
♪阿修羅ンブル 凌駕
♪私は 涙を流さない(ブシッドーッ)
♪戦士だから 武人だから(ブシッドーッ)
♪だけどわかるさ まさしく愛
♪平和を守り 悪を討つ
♪必殺パワー グラハムスペシャル
♪悪い奴らをぶちのめす グラハムリバース 運命呼ぶぜ
♪私はブシドー グレートブジンガー
もうやめておく。
つまりはアホ、愛すべきアホ。
「甘いな、ジョシュア!」
「何がっすか」
「我、武士道と共にあり! 多少の砂、風など意に介さず! 例え台風であろうとも我を動かすこと能わず!」
「またそんな、精神が物理学を超えちゃってるような戯言を」
「心頭滅却、火もまた涼し! 未来への水先案内人たるこのブシドーを、舐めるなッ!」
「舐めてません、マズそうだし」
グラハムが無駄に熱い男なら、ジョシュアは無意味に冷めている男である。
卑屈と言ってもいい。
MS(ミカンスーツ)の操縦の腕前だけなら、グラハムにも決して劣らないものを持っているのだが、
お前何のコンプレックス持ってるのん、と聞きたくなる位にヒネくれている。
「そんなんだから仲間外れにされたんですよ」
肩をすくめるジョシュア。
そう、グラハムとジョシュアは、イオリア・シュヘンベルグの元研究所の捜索には加わっていない。
あまりにもウルサいので、サリィ・ポォとスメラギ・李・ノリエガによって別行動を取れと言われたのだ。
入口の警備をしてろ、という名目で。
中に入ってから追い出されるのではなく、入る前から邪魔者扱いされる。
ホッタラカシにされなかった分だけコーラサワーよりマシ、というレベルでしかない。
「放り出された? 否、これは出陣である!」
「あー、そーですかそーですか。ま、俺は楽でいいですけど」
グラハム一人だと何をするかわからん、というのでお目付け役として共に表に残されたのがジョシュアというわけである。
つーか、お目付け役になってないけど。
コイツにグラハムへの抑止力があるとはとても思えない。
コーラサワーに対するデュオ・マックスウェルとは、また別なのだ。
「……ジョシュアよ、お前は思い違いをしているようだな」
「何がっすか」
上と下、それなりに距離が離れているので、二人とも声を張らなければ会話が成立しない。
ジョシュアにもMS(ミカンスーツ)の上に登れ、というのは酷であろう。
だって危ないもん。
「ここの探索は二度目だな?」
「何を今更」
「そしてあのマイスター運送の彼……眼鏡の彼は敵の意図を読んでいると言っていた。如何なる理屈かはわからんが」
「ちゃんと名前を覚えてあげて下さいよ、ティエリア・アーデでしょ。それに理屈は説明してたじゃないすか、ちゃんと聞いてました?」
「フッ、何しろ私は少年だけを凝視していたものでな」
「アブない表現しないで下さい。それに少年だけだと該当者多すぎでしょうが」
「刹那・F・セイエイ……彼には運命的なものを感じる!」
「あの、さっきから会話の内容が宇宙開発しまくってんだが」
「屁理屈で道理を覆す男だ、私は!」
「意味不明だよ!」
ああん漫才、これまた漫才。
コーラサワー&デュオ組とはまた違った意味で漫才である。
まあ実際、刹那が意味ありげな視線をグラハムに送ってはいた(注・アブない意味ではありません、せっさんは喋るのが苦手なだけです)。
グラハムがそれをどう受け取ったかは別としてだが(注:アブない意味ではありません。ブシさんは思い込みが斜め上に激しいだけです)。
「まあいい、話を戻そう」
「なら最初から脱線すんなし」
「眼鏡の彼が言うには、脳量子派で考えを読むことが出来るとのことだったな?」
「ちゃんと聞いてたんじゃないっすか、やっぱり脱線すんなし」
マイスター運送とプリベンターが合流し、再度イオリア・シュヘンベルグの遺跡(と表現しても違和感無かろうて)に来るまで、
スメラギ・李・ノリエガとティエリア・アーデから、一通りの説明があった。
イノベイターが何なのか、イオリアの遺産がどういうものか、マイスター運送の真の仕事とは、等々。
本来ならそれだけで何話か割かなければならないのだろうが、ぶっちゃけるとコーラサワーさんがいないのでおもしろくなりません。
だから省きました。
決して手抜きではありません。
決して手抜きではありません。
大事なことなので二度言いました。
「イノベイターが眼鏡の彼と同じ力を持つなら、こちらの動きもまたイノベイターに読まれていると考えるべきだろう」
「その危険性は、あの女社長さんも一応配慮はしてあると言ってたでしょ」
グラハムにツッコンでおいて何だが、細かい理屈はジョシュアもわかってはいない。
つーかいくらスメラギとティエリアが説明を上手くしたところで、全部が全部理解出来るわけがない。
「さてジョシュアよ、古の武人曰く、『戦にて遊軍を作るな』とのこと。知っているか?」
「戦力を無駄に放置すんな、ってことでしょ」
「その通り。軍を分けるなら、明確な意図がないといけないのだ」
「基本でしょうが」
「だから我々はここにいる、そういうことだ」
キョトンとするジョシュア。
グラハムの言うことに頭がついていかない。
「もし仮に、こちらの動きが敵に筒抜けになっていたらどうなる? ジョシュア」
「は? えーと、そりゃ不利になりますね」
「そのような危険がありながら、我々は一直線にここに来た。つまり?」
「は、はあ。じゃあ敵には筒抜けになっていなかった?」
「無条件に良い方向に考えるとそうなるな。だがそうではないと私は踏んでいる」
再びジョシュア、キョトン。
どーにもこの元上司の言うことはスットンキョーすぎて(別の表現を使うと「グラハム語すぎて」)わかりづらい。
「敵がこちらを壊滅させようと思えば、普通は移動中を狙うだろう」
「……まあ、そうっすね」
「だが、考えてみろ。私は何の上に立っている?」
「MS(ミカンスーツ)ですが」
「その通り。敵がいくら不意を突こうとて、ほぼ砂漠の真ん中だ。見通しが聞く。地中から出てこない限りは、パイロット全員で対応出来る」
「……」
「さて、今だ。すぐにMS(ミカンスーツ)を動かせるのは何人だ?」
ガンダムパイロットの少年達は全て研究所に入っていった。
パトリック・コーラサワーは置いてけぼりでここにいない。
「俺と隊長、二人だけ……」
「そうだ。続けてもう少し、頭を働かせてみろ、ジョシュア」
直感のみで生きているような人間に頭を使えと言われるのも結構な屈辱ではあるが、ジョシュアはしばし黙考した。
グラハムが言いたいこととは、いったい何なのか。
そして一分弱、ジョシュアはハッとして口を開いた。
「イノベイターの意図を読んで、再びここに来た。イノベイターの狙いがここにあるなら……」
「そうだ。こちらをここに誘き寄せたかったとも取れるな。まあ眼鏡の彼も女社長も、虎穴に入らずんばということで承知の上だろうが」
「移動中なら『一気に殲滅が狙えた』。だけどそれをしなかったのは……」
「『殲滅を狙えるだけの戦力が敵には無い』か、『罠まで引き込んでから討つ』のどちらかだ。もしかすると敵の首魁は劇場型かもしらんな」
「劇場型?」
「ケレン味がありすぎると言おうか……。自分で舞台を作り、自分でシナリオを作り、自分で主演する。そういうタイプかもしれん」
「は、はぁ……」
恐るべし、グラハム・ブシドー・エーカー。
直感だけで生きていると先述したが、リボンズの為人をほぼ言い当てている。
ニュータイプか、それともコイツもまた新人類か。
「私達は舞台に招待されなかった、そう見るべきかな? ジョシュア」
「はあ、どうっすかね」
「敵の首魁からすれば、そうなのかもしれん。だが私は違う」
「はあ?」
ジョシュア、もう「はあ」しか言えない。
ついてけないもの。
「私は私の為に、ここに敢えて残ったのだ! 私の舞台の為にな!」
「……」
ジョシュア、三度キョトン。
もうどうにも止まらない、止められない。
言ってることが無茶苦茶の支離滅裂、繋がりもクソ無い。
完全なるグラハム世界の展開だ。
「イオリアの遺産だけが目当てならば、わざわざ我々プリベンターとやりあうことはあるまい」
「……それは、まあ」
「敵の首魁が劇場を作るなら、私の激情でそれに横槍を入れてやるのだ」
グラハムはカラタチの頭から軽やかにその肩に飛び降りた。
メッチャクチャ危ない行為だが、本人は毛程にも気にしていない様子で笑顔である。
「ジョシュア、私は期待しているのだよ」
「……何をです?」
敵の首魁が自ら、プリベンターとマイスター運送を潰そうとしているなら、その部下には別の命令を下すはずである。
自らが輝く舞台を汚させない為に、舞台周りの掃除をさせるに違いない。
「リベンジだ」
「リベンジ?」
カラタチの肩から腕を伝い、掌に乗るグラハム。
すぐ横には、カラタチのコクピットへの入り口がある。
「ジョシュア、お前のMS(ミカンスーツ)……『紅鮭』に乗れ」
「はあっ?」
「ふふふ、ははは、わははははは!」
歓喜に満ち溢れた笑い声を響かせるグラハム・エーカー。
砂風がバサリと彼の陣羽織をはためかせる。
「今週の乙女座の運勢に感謝せねばな! 我の願い、通じたり!」
「ええ、その、どういうことですタイチョー!?」
「見ろ、ジョシュア! あの丘の上をッ!」
「へ!?」
ジョシュアはグラハムに指さされた方向に振り向いた。
同時に、軽い振動が足元から伝わってくるのを感じた。
さらに、重いようでいて軽い、独自のエンジン音が耳に届いてくる。
「へ、へ?」
彼はこの音を知っている。
本来なら、自分たちプリベンターにのみに許されているはずの、この音を。
「さあ乗れジョシュア!」
「は、はひっ!」
ジョシュアは昇降ケーブルに飛びついた。
グラハムはすでに、カラタチのコクピットに移動している。
純正のミカンエンジンはすでに起動済み、暖める必要はない。
こうなることを見越して、いや、期待して、到着した直後にキーは回してある。
「あの時は遅れを取った。だが、今度はそうはいかん!」
グラハムの瞳に、闘志の炎が一段と燃え上がる。
その視線の先に―――
「久しぶり、と言うべきかな。また逢えて嬉しいぞ、『赤鬼』ッ!」
禍々しい真紅のMS(ミカンスーツ)。
ソンナコト・アルケーが、ゆっくりと姿を現そうとしていた。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く。
コンバンハ。
遅れて申し訳ありませんでした。
もう6月、一年の半分が終わったなんて早すぎる。
筆足は駆け足で、しかし内容は駆け足にならないように頑張ります。
ではまた。
>>276 土曜日さん、乙です!!
今回の話はギャグが多めで良いですね、グラハムとジョシュアの掛け合いに笑わせて頂きましたw
やはり、このSSのグラハムは、本編のグラハムが可愛く見えるほどぶっ飛んでるような気がしますね、だがそこが良いw
次回からアリーとの戦闘に入るんですかね、楽しみに待ってます!!
>>276 土曜日氏乙であります!!
グラハムとジョシュアの漫才(?)が最高ですね、コーラとデュオの掛け合いにも勝るとも劣らないw
次回はマジ戦闘なのかな、期待してます!!
>>276 土曜日様お疲れ様です。
進撃の奇人が2人を具現化しているようでツボに入りましたwww
これからも期待しております。
>>276 乙です、次回は対アリー戦ですね、楽しみです!!
保守ウー
保守ワー
アリー・アル・サーシェスは幸せな男である。
こう書くと語弊があるかもしれないが、事実なのだ。
色々と部下に愚痴ったりしているが、彼が心底「不幸だ」と思ったことは、
飲みたい時に酒が側に無かったこと、そしてお気に入りのドラマを観れなかったこと位である。
では、何故幸せなのか?
それは『傭兵』という職業が、彼の天職だからである。
戦闘に快楽を見出し、その渦中に喜びを覚える。
生身であろうが、ロボットに乗っていようが、関係は無い(カツオノエボシ号とか覚えている方はおられますでしょうか)。
戦いこそが彼の人生そのものなのだから。
稼いだ金で贅沢するのは、あくまでオマケのようなものに過ぎない。
のび太が昼寝が大好きみたいなモンである。
何か違う気もするがまあいいや。
「ヒュウ、こいつは何ともご機嫌だな、オイ」
MS(ミカンスーツ)、『ソンナコト・アルケー』のコクピットで、アリーは口笛を吹いた。
彼のボスであるリボンズ・アルマークから受けた命令は。『屋外に残っているプリベンターと戦え』の唯一つ。
『駆逐しろ』でも、『殺せ』でもない。
『戦え』である。
ぶっちゃけて言えば、『外は任せた、好きにしろ』ということに他ならない。
束縛を好まないアリーからすれば、願ってもない命令だろう。
「二匹か。少ないねえ……。ちょっと物足りねえなあ」
ガション、とアリーはソンナコト・アルケーを一歩前進させた。
背後では、ギギギとやや錆びついた音を立てながら、昇降ハンガーが地中に潜っていく。
「まあこれも大将の読み通りってやつなのかねえ?」
もちろんその下には格納庫―――かつては研究所の倉庫だった―――があるのだが、
一回目のプリベンターの捜査では見つけることの出来なかった場所である。
サリィの手元には研究所の図面があるのだが、そこにこの倉庫の記載は一切無かったのだ。
イオリア・シュヘンベルグがわざと一般用に残さなかった、というのもあるが、
実際はリボンズが巧妙にデータを改竄していたわけで。
「よう! 聞こえているか、プリベンターのパイロット!」
アリーは共用通信で呼びかけた。
挑発の成分が声に多く混ざっている。
もちろん、わかってやっているのだ、この男は。
「聞こえているとも、悪人め」
応答はすぐに帰ってきた。
どことなく東洋の鎧武者を彷彿とさせる、黒と緑と橙のMS(ミカンスーツ)から。
恰好だけは物々しいな、とアリーは思ったが、正直ソンナコト・アルケーもあまり人のことは言えない風貌だったりする。
だってコーラサワーとグラハム曰く、『赤鬼』だもの。
「ほう? 俺が悪人だって?」
一歩、ソンナコト・アルケーが歩を進める。
「貴様が悪人でなければ、誰が悪人だと言うのだ?」
鎧武者風のMS(ミカンスーツ)、プリベンターのグラハム・エーカーが駆る『カラタチ』も、ひとつ間合いを詰める。
「俺からすればお前の方が悪人だね」
「私が? おもしろいことを言う、理由を教えてもらおうか」
「俺のやりたいことを邪魔する奴は、皆悪人ってことだよ。俺からしたらな」
「ほう……。納得しかねるな」
「善人様はご理解いただけないかねえ」
「理解したくもないな。だが、やはり今の言葉で貴様が悪人であると改めて確信した」
「ほう、ほうほう。理由を聞いていいか?」
「私の前に立つ敵は、すなわち皆悪人である! 私からすればな!」
「なんだそりゃ、納得出来るか、アホウ!」
どんどん、どんどんと二人―――ソンナコト・アルケーとカラタチの間の距離は狭まっていく。
射撃武器であれば、命中圏内どころか必中圏内である。
だが、どちらも相手を「撃とう」とはしない。
ソンナコト・アルケーにも、カラタチにも、実は射撃武器は搭載されていないのだ。
ソンナコト・アルケーの方には球体浮遊武器の『ハッサク』があるっちゃあるのだが。
「前に戦ったMS(ミカンスーツ)よりかは強そうに見えるぜ。少しだけな」
「少しだけ、と思ったのなら間違いだな、その時点で貴様は敗北している」
「つーか、あん時はどれもこれも似たようなMS(ミカンスーツ)ばっかしだったしなあ」
「目も心も曇っているようだな。武の心が無いせいだ」
お前らちゃんと会話しろ。
まあ成立してない責任のほとんどはカラタチのパイロット、グラハム・“ブシドー”・エーカーさんにあるんだけど。
「貴様の手は知っているぞ、赤鬼」
「ん? ああ、ハッサクのことか。心配すんな、情けをかけてやるよ。最初は使わないでおいてやる」
「慢心は恥と知れ、悪人」
「慢心じゃねえよ、自信だよ。……使わなくても勝てるってな」
「その口、すぐに閉じてやろう。首から上を飛ばせば、喋りたくても喋れまい」
何だか下手な時代劇を見せられている気分である。
いや、双方ともに一応真剣ではあるんだけど。
何だろう、この違和感。
ギャグマンガのシリアスパートで無理矢理ギャグを入れたような……。
うん、上手く説明できんから無視する。
「くっちゃべんのもここまでだ、プリベンターの正義ヅラさんよ」
「もう口で語るな、悪人。これからは剣で語れ」
ヴゥン、という低い振動音と共に、ソンナコト・アルケーとカラタチが電磁警棒を起動させる。
電磁警棒と書くと何だかパ○レイバーっぽいが、正直アレと近くはなくとも遠くもない。
ただし形状はアレとは大きく異なり、
ソンナコト・アルケーのそれはジャマダハルに似ており、
カラタチのそれはまんま大太刀である。
そういや00世界では圧縮GN粒子で実体を持たせるというワザでビームサーベルを使っていたが、
マスラオのビームサーベルは確か日本刀っぽく反りがあった気がする。
グラハムのこだわりにちゃんと付き合って作ったカタギリさんパネェ。
つーか実戦で意味あんのか、あれ。
まあSEED世界では設定上鍔迫り合い不可能だったのにバンバン斬り結んでたこともあるし、
アニメ的にはどーでもいいことなんだろうけど。
宇宙世紀ではミノフスキー粒子万能説のおかげでヒート武器ともやりあってたっけ。
ミノフスキーさんもパネェ。
まあ昔のアニメ的にはどーでもいいことなんだろうけど。
まあそれはさておき。
「いくぜ」
「いくぞ」
ゆっくりと構えに入るソンナコト・アルケーとカラタチ。
周囲の空気の緊張の度合いが高まっていく。
まるで、砂も風も二つの機体を避けていくようだ。
「おらあ! くたばりなっ!」
「はあっ! チェストーッ!」
カウントを交わしたわけではない。
だが、まったくの同時に両者は踏み出し、互いに斬りかかった。
アリー・アル・サーシェスとグラハム・エーカー。
ソンナコト・アルケーとカラタチ。
最後の戦いが―――始まった。
◆ ◆ ◆
で、戦場にもう一人いるということを、賢明なる諸兄は忘れてはおられまい。
そう、『紅鮭』に乗る、アラスカ野ことジョシュア・エドワーズさんである。
コイツが何をしているのかと言うと。
「……トレーラーを守らないとな。他のMS(ミカンスーツ)もあるし。壊されるわけにはイカンし」
両者から間を取ってトレーラーの前で突っ立っていた。
というか、ぶっちゃけ一歩も動いてません。
あっ、ヘタレだと罵らないであげて下さい。
彼には彼の仕事があるんです、後できっとこの行為が役に立つはずです。
彼だってやれば出来るんです、やれないだけなんです。
功を焦ってグラハムスペシャル真似たら敵の直撃喰らってしまったっていうくらいのドジッ子なんです。
許してあげて下さい。
清き一票、清き一票を彼に投じてあげて下さい。
お願いします、お願いします。
ほらあれです、「帰る場所は俺が守る、だからお前は心置きなく戦え」って表現すると何かカッコイイじゃないですか。
それにグラハムが先鋒だとすると次鋒ですよ、レ○パルドンですよ。
グオゴゴゴ→ノーズ・フェンシングーっ!→ギャアーッ、ですよ。
ジョシュア・エドワーズは幸せな男なんです。
こう書くと語弊があるかもしれないが、事実なんです。
元隊長に愚痴ったりしてますけど、彼が心底「不幸だった」のは、
思わせぶりな登場しておきながら、実のところ出番もネタ度もコーラサワーの足元にも及ばないレベルのキャラクターでしかなかったってことなんです。
もう軍人じゃなくて『ヘタレ』という職業が、彼の天職だったりするかもしれません。
だからこっちの世界では活躍させてあげようと、ホラ色々とね、グラハムの無茶な特訓につきあわされたり、
コーラサワーからボロッカスに言われまくったり、仲間内から全く腕前を信用されてなかったりって、ね、アレですよアレ。
いやね、彼は良いパイロットなんですよ?
下手なパイロットがね、グラハムスペシャルを真似出来るかってんです。
選抜隊に選ばれるかってんです。
「アラスカのジョシュア」ですよ、基地のエース扱いなんですし。
もしあそこで初代ロックオンにやられてなければ、きっと後でジンクスも与えられて、頑張れたはずなんです。
アロウズにも入れて、もしかしたら映画でも活躍したかもしれない。
仮定は無意味だなんて言ってあげないで下さい、彼には可能性があったんです。
黒田さんと水島さんがちょいとボタンを掛け違えていたら、コーラサワーの役割はもしかしたら彼になってたかもしれんのです。
∞です、ジョシュアの可能性は無限大なんです。
ああもう擁護してんだか罵倒してんだかわからなくなってしまった。
とにかくそんな感じなんです、生暖かく見守ってあげて下さい。
お願いします、お願いします(震え声)。
コーラサワーさんはひとっつも出てないけどプリベンターの心の旅は続く―――
コンバンハ。
アリーとプリベンターが最後に直接戦ったのを書いたのってどれくらい前のことだったっけ(※模擬戦4戦目、2009年2月でした。前過ぎるだろ自分)、
と見直してたら色んなところに伏線らしきものを色々放置しまっくてるってか忘れてるのに今更ながらに気が付いた。
超適当と言うか、行き当たりばったりと言うか、エエカゲンと言うか。
まあいいか(小並感)。
ではまた。
>>287 土曜日さん乙です!!
うん、地の文で述べられてる通り、二人の会話がシリアスっぽくない、むしろ漫才っぽいw
いよいよバトル開始ですか、てかジョシュアの存在がww
次回も楽しみにしてます!!
>>287 土曜日氏、乙であります!!
二人の会話、緊迫した場面のはずなのに、何故かゆるく感じられる不思議w
で、ハブられ気味なジョシュア、まあ下手すればグラハムの足を引っ張りかねないから、仕方ないですね
続きも期待して待ってます!!
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
規制なければあと一週間くらいで次回投下します。
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
計画は今のところ、大きなマイナスもなく進んでいる。
リボンズ・アルマークは現状に満足していた。
撒いた種や餌が全て実を結んでいるとは言えないが、それでも最終目的は達成出来そうな見込みである。
「そろそろ出迎えの準備をしないとね」
手にしたティーカップをゆっくりとテーブルに戻し、微笑むリボンズ。
そんな彼を見て、周囲の『イノベイター』の面々は頷く。
言葉に出さずとも、リボンズが一つ念じれば、他のイノベイターに彼の考えが届く。
リヴァイブ・リバイバル、ヒリング・ケア、ブリング・スタビティ、デヴァイン・ノヴァ。
それぞれの目が、薄暗い部屋の中で不気味さを湛えながら金色に輝く。
「僕達の勝利は目前だよ」
リボンズはゆっくりと立ち上がった。
その背後でアレハンドロ・コーナーが陶然とした表情でリボンズを見つめる。
この金ピカ趣味のマネジャー、これから何が起こるかサッパリわかってないだろうが、
とにかくリボンズは彼にとってのマイエンジェルであるからして、そこら辺りはどーでもイイのであろう。
まぁ本編以上に哀れな退場の仕方をしないようにしてほしいものである。
そーなっても多分ギャグにしかならんだろうが。
「あちらは何か策を考えているらしいが」
口の端を釣り上げるリボンズ。
先程までの微笑みではない、邪悪さを感じさせる笑い方である。
「残念ながら、手の内は全て見えているんだよ」
他のイノベイターにはまだ、伝えていない事実が彼にはある。
裏切ったから、という理由で切り離したリジェネ・レジェッタを餌にして、
敵−−−マイスター運送の『イノベイター』であるティエリア・アーデ、そしてスメラギ・李・ノリエガの意図を読み取る。
ティエリアもリジェネを通じてこちらの見透かしているつもりなのだろうが、どっこいそうはいかない。
上位種とそうでないモノの差を、ティエリアは理解していない。
さらにはアニュー・リターナーという保険もかけてある、使うことはおそらくないだろうが……。
「僕らの計画は99%、大丈夫さ」
「100%の間違いだろう、リボンズ?」
アレハンドロが何の気無しに突っ込む。
懸念ではない、単純にこの男が99%という単語よりも100%という単語の方に美を感じるだけである。
「ゴールするまでは何事も100%ではないのさ」
振り向きもせずにリボンズは答える。
が、内心はそうではない。
100%どころか120%の自信がある。
ここまで来て、覆されるものではない。
そう、イノベイターを越える存在が急に現れたりしない限りは。
そしてそれこそ100%有り得ない。
イノベイターを、このリボンズ・アルマークを越える者などいないのだ……。
◆ ◆ ◆
「どうかしたかい、刹那?」
アレルヤ・ハプティズムは列の最後尾を歩いていた刹那・F・セイエイに声をかけた。
不意に彼が立ち止まったからだ。
だが、返答は返ってはこなかった。
普段から無口な男だが、かけられた声を全く無視するということは少ない。
最低限でも、何かしらの仕草を返してくるのが常なのだが。
「刹那?」
再度、アレルヤは声をかけた。
今度はやや間があって、「いや、別に」という言葉が返ってきた。
気分でも悪いのか、と続けて問いかけを重ねようとして、アレルヤはやめた。
「いや、別に」と同じ答えをすることがわかったからだ。
今、マイスター運送&プリベンター&その他諸々、の『連合軍』はイオリア・シュヘンベルグの『地下研究所』の中を進んでいる。
すでに以前プリベンターが捜索した箇所を越え、未知のエリアへと侵入している。
未知、というのは、まだ彼らのうち誰もが足を踏み入れた場所ではないからだ。
情報としてティエリアとスメラギは知ってはいたが。
「まさか、ここまで巧妙に偽装されているとはね」
プリベンターの現場リーダー、サリィ・ポォがぼやく。
「三重の隠し扉、岩盤に偽装した壁、ミニワーカーですら入れそうにない通路。こんなの大掛かりな探査装置でも無いと見つかりっこないぜ」
「逆に言うと、それだけ隠したがっているわけだ」
デュオ・マックスウェルとトロワ・バートンが言葉を交わす。
前回の捜索で見つからなかったので、仕方ないとわかっていてもいささかおもしろくない気分の二人である。
二人の背後にいる張五飛とヒイロ・ユイ等はもっと過激で、
「爆破してやれば良かったんだ」「こういう時の為にMS(ミカンスーツ)があるんだがな」と口にしている。
さらに後ろにいるカトル・ラバーバ・ウィナーが何も言わないのは、
ツッコミを入れても無駄だと悟っているからであろう。
もしかしたら、彼本人も現状が不満なのかもしれない。
プリベンターとマイスター運送の面々以外の同行者は、いずれも黙して足だけを動かしている。
ソーマ・ピーリスとアンドレイ・スミルノフは社命を受けていることもあり緊張気味で、
絹江・クロスロードはカメラを手にしているものの、一度もシャッターを切っていない。
ビリー・カタギリだけが偉大なる先人の遺産を目前にし、ややウキウキしているが、これはスメラギが側にいるからかもしれない。
「もう少しだ」
先頭を行くティエリアが後ろに続く面々に声をかけた。
彼自身も今進んでいるところは見知らぬ場所だが、『データ』として明確に頭に刻み込まれている。
これから先に何があるのか、そして何が待っているのかを。
「……待って、ティエリア」
不意に、スメラギがティエリアに声をかけ、歩みを止めさせた。
不審の微粒子が、彼女の表情に多分に存在している。
「何だい、スメラギさん」
「何かおかしなことでも?」
ロックオン兄弟が兄、弟の順番でスメラギに問う。
こんなところでも長男次男の序列を守る、妙に律儀な兄弟である。
「スムーズ過ぎる」
「……そうね」
サリィがスメラギの横に進み、同意する。
彼女も薄々思っていたらしい、ここまで『敵』の妨害が無いおかしさを。
「データによると最後の扉があと少しなんだけど、すんなりとここまで来れるなんて」
「さすがに変ね」
『敵』も自分達と同様にイオリアの遺産を狙っている。
自分達が敵に先んじている、と考えれば問題はないのだが……。
「問題は無いはずだ」
ティエリアは胸を張る。
「向こうを『覗いた』限りでは、奴らはここまでは進んでいないはずだ。……近くにいるのは間違いないようだが」
「だからこそよ」
スメラギの想定では、最終段階に辿りつくまでに、『敵』と接触する可能性が高いと踏んでいた。
ティエリアの情報を信じてはいたが、否、信じているからこその『予報』だった。
「いくら何でも、ここまで気配が無いのはおかしいわ」
「……罠の可能性は?」
「可能性は高い。と言うより、もう確実に待ち伏せなりなんなりがあるでしょうね」
一同に緊張が走る。
「でも、引き返すわけにはいかない」
「その通りね。まあ……まだまるっきりの想定外というわけではないし」
自分の心臓の辺りをトントン、と人差し指で叩いてみせるスメラギ。
その素振りや表情から、焦りは窺えない。
内心はどうあれ、アタフタすれば周りの不安がさらに増す。
社長として、そして何より戦術に長ける者として、ここはどっしりと構えていなければならない。
カタギリが目を輝かせて見ているが、スメラギの顔だけでなく胸の方にも視線が行っていたのは、まあしゃあなし。
「100%、パーフェクトな作戦なんて無いわ。どれだけ準備をしてもね」
スメラギはティエリアを促し、再び歩き始める。
自分に出来るのは、皆を助けて勝利の「近づける」こと。
絶対の勝利なぞ、それこそ神の化身でもなければ不可能だ……。
「……」
刹那は皆が歩き出す中、一人だけ立ち止まっていた。
そして背後の薄暗い、今まで通ってきた通路に一瞬、目をやった。
その瞳が金色に薄らと輝いたが、それに気付く者は誰もいなかった。
◆ ◆ ◆
「以上がイノベイターの正体、そして目的さ」
リジェネ・レジェッタは唇に渇きを覚えて、親指で少し拭った。
一気に喋り続けたせいだが、果たしてここまで長い間、舌を動かしたのはいつ以来だっただろうか。
そう思って不意におかしくなる。
イノベイターだからこそ、音声による意思と情報伝達をそこまで必要としなかったのだ。
言葉をいくら尽くしても、考えは100%伝わらない。
なんと人間とは不便な生き物だろうか……。
「まさかね、一種の超人とでも言うべきかしら」
「しかしアイドルを装って、裏で不埒なことを企むとは。反省させるべきだな」
「……ふ、ははは」
呆れたように首を振るシーリン・バフティヤール。
顎に手を当てて眉根を寄せるクラウス・グラード。
低い声で笑うバラック・ジニン。
「疑いはしないんだな」
「疑う理由が無いものね。簡単に信じられもしないけど」
リジェネからしてみれば、ここで「嘘だろう」と断じられてしまえば、その瞬間詰み。
わかりやすく、理路整然と、それでいて簡易に説明したつもりだったが、何とかその努力は報われたと言える。
無論、シーリン達もお人好しではないから、リジェネに信を置いたわけでもない。
レディ・アンの筋からカタロンに届けられた情報、ASSが探りを入れていた部分。
それらがリジェネが語った内容と合致、もしくは補填されたからこそである。
「僕が協力出来るのはここまでだ。これからは……あまり力になれない」
「話の中で出ていたな。えーと、考えや行動が全て筒抜けになるからかい」
顎から手を放し、リジェネにクラウスは問いかける。
それに対し、リジェネは頷き、肯定の意を示す。
「ここでこうやっていることも、間違いなくリボンズは『わかって』いるだろうね」
「直接読み取られている、と?」
「……そうだね、直接。彼は『上位種』みたいだからね」
「不便だな、イノベイターってのは」
蔑み、憐み。
そういったものを言葉に滲ませるジニン。
「不便?」
「だってそうだろう。話の通りじゃ、イノベイターには完全な自由なんてない。イオリアの遺産に縛られ続ける、首輪つきの番犬だ」
「……」
「しかも番犬のボスには脳みその中が全て丸晒しとは、窮屈この上ないな」
「普通の人間からは、そう見えるのかもね」
リジェネは眼鏡を外すと、前髪をかきあげた。
さっきから時折、一房だけ妙に収まりが悪かったのだ。
砂混じりの風が良くなかったのかもしれない。
「……イノベイターは人類を超えた存在だ」
「超えた、ねえ」
「だけど……。窮屈か。成る程な、そうかもしれないね」
どれだけおとなしい飼い犬だって、飼い主にヘソを曲げる権利くらいはある。
だけど、それすらも結局は許されないイノベイターとは何なのか。
「なあ、質問があるんだが」
と、ここでパトリック・コーラサワーが口を開いた。
リジェネの告白中なずっとだんまりだったが、少なくとも居眠りもせずに聞いていたことだけはエライと言えよう。
「何だい?」
「で、結局イノベイターってなんなんだ?」
でまあ、こういうことを言っちゃう奴なんだってのはお約束の通り。
「……何を聞いていたのよ」
「反省が必要だ」
「いやだってよ、俺は確か頭は良くねえよ。でも思ってることが筒抜けなんてことはねぇだろ? わけわかんないんだよ!」
「まあ頭の中を見ないでも、顔だけでわかるかもしれないな。嫁さんからそう説教されたことはないか?」
シーリン達から総ツッコミを受けるコーラサワー。
そんな彼を見て、リジェネは思わずズッコケそうになったのを必死に堪えた。
この男は特別なのかもしれないが、それにしても、やっぱり人間の方が不便だ。
「取りあえず、僕が語れるのはここまでさ。後は頼む」
眼鏡をかけなおすリジェネ。
実は、一つだけコーラサワー達に語っていないことがある。
それは、自分が勝つ為の最後の綱。
リボンズを倒してイオリアの遺産を奪い取ることではない。
それはプリベンターに組した時点で既に潰えた。
リジェネにとっての今の時点での勝利とは、プリベンターとマイスター運送がリボンズ・アルマークの野望を阻止することである。
リボンズには全て筒抜け。
だからもう、リジェネが出来ることはほとんど無い。
そう、ほとんど。
リボンズは自分との『回線』を遮断した。
こちらからは彼の思いは読めない。
だが、向こうからはこちらが読める。
そこに、大逆転の可能性が微小にだが、ある。
「おい、笑わずに教えてくれよ」
「……事が無事に終わったら、改めてその機会を設けるよ」
リジェネは笑っていた。
人間らしく―――特に、理由もなく。
パトリック・コーラサワーの最終決戦までの旅は続く―――
コンバンハ。
遅れてすいませんでした。
仕事とテラリアが悪いんです(コラ)。
>>313 土曜日さん乙です、リアルタイムで読んでました!
リボンズがアニューに保険を掛けてるようですが、このSSでは勿論、本編の様な悲劇は免れますよね?w
あとせっさんも本編同様、イノベイターに覚醒ですか?何が切欠で覚醒したのかが気になりますね…
リボンズが何やら勝ち誇ってるようですが、コーラさんというジョーカーが存在するから、ここら辺はどうにかなっちゃいそうですねw
次回も期待してます!!
>>313 土曜日氏、乙であります!!
リボンズがアニューになんかやらかすつもりの様ですが、何とかなりそうな予感がw
刹那も覚醒する様ですし、ここら辺は本編準拠ですか、まあ色々と違ってくるとは思いますがw
こっちのリジェネは本編より良い奴みたいですね
続きを待ってます!!
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
次回は規制が無ければ一週間以内に
保守ワー
夜勤が急に入った為、投下は土日どちらかの夜になります。
すいません。
グラハム・エーカーとアリー・アル・サーシェス。
この二人はなんつーか、戦闘民族というか武闘派というか、まぁ一言で片づけるなら「戦バカ」である。
だがまるっと同じタイプではない。
『求道的』なのがグラハムなら、『悦楽的』なのがアリー。
『正面突破』がグラハムなら、『何でもアリ』なのがアリー。
『武士』なのがグラハムなら、『戦士』なのがアリー。
結局は「戦い大好き」なのに変わりはないのだが……。
◆ ◆ ◆
「ちぇいさぁあああ!」
「ほいさあああああ!」
グラハムのMS(ミカンスーツ)、『カラタチ』が宙を舞う。
長い電磁警棒を流れるように扱い、連撃を繰り出していく。
アリーのMS(ミカンスーツ)、『ソンナコト・アルケー』も負けてはいない。
激しいカラタチの打ち込みを紙一重でかわし、受け流し、弾き返す。
戦闘なんてものは基本、一撃が決まれば勝負がつく。
HPが1になるまで元気に動ける、なんてのは所詮ゲームの中の話である。
巨大なロボットだろうが、生身だろうが関係なく、一発ドカンとぶちこめばそれで終了となるのだ。
肌を斬り、肉を削り、徐々に力を殺いでいく戦い方ももちろんあるが、
勝敗が生死に直結する『戦争』には、スポーツ競技のような『採点』はないわけで。
「やるな、赤鬼!」
「お前もなぁ、似非武者!」
互いの実力を認めつつ戦う両者。
だがそこには友情も尊敬もない。
敢えて言うなら憎しみすらない。
ただ単純に、「敵を倒す」というシンプルな感情があるのみである。
「……近寄れねえ」
そして両者の戦いを、離れたところで見守る男が一人。
アラスカ野ことジョシュア・エドワーズは、「トレーラーを守る」という崇高な義務を律儀に遂行している真っ最中。
「しかし、おっかねえ二人だなホント」
『紅鮭』のコクピットで、呆れたように呟くジョシュア。
彼だって十分に優秀なパイロットなのだが、グラハムとアリーという、
本編でも超級だった操縦者を前にすると、やっぱりどーしたって霞んでしまう。
本来なら、ジョシュアもグラハムに加勢してアリーに当たるべきなのだろう。
が、それをしないのは、ジョシュアがまずヘタレであることもあるが、「割り込む余地がない」のもまた事実ではある。
黄金聖戦士同士でやりあってるところに青銅聖戦士が介入しても、味方する側にとっても邪魔なのだ。
あれ、何か例えが違う気もする。
まあいいや。
勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし。
勝因の無い勝利はあるが、敗因の無い敗北は無い。
戦いの勝敗を分けるもの、それは簡単にはわからないが、
「ミスをしたほうが負けに近づく」のはまず間違いない。
(余談ではあるが、前述の「勝ちに不思議の〜」は某ID野球監督の言葉と思われがちだが、
実際は剣術の名手であった江戸時代の大名・松浦清の書籍が出典である)
「どうした、攻めてこないのか? 赤鬼!」
「焦るなよ正義ヅラ、折角のバトルなんだ、もう少し楽しもうじゃねえか!」
電磁警棒が打ち合うごとに、バチンバチンと空中に文字通り火花が散る。
緩急こそあれど、どちらも止まることがない。
没頭、集中、そして歓喜。
戦バカの逃れがたい性。
ガンダムWのエンドレスワルツで張五飛も言っていたが、
「戦うことで満たされる」「戦場でしか己の存在意義を見出せない」、そんな二人。
何と悲しく愚かで、そして美しいことか。
戦い色気に取り込まれた、とでも表現すれば良いだろうか。
理解出来ない者からは、何があっても理解されない境地に二人はいる。
まぁぶっちゃけ、そんな御大層な言葉を並べる必要も特にはないわけで、
戦バカなんだよ、の一言で済んじゃうわけだが。
「どうした、飛び道具は使わんのかっ?」
「お楽しみは後ってやつさ。お前だって何か隠してんだろ? 感じるんだよバカがぁ!」
「バカにバカと言われる筋合いは無いな!」
「バカにバカって言って何が間違ってんだよ、バカが!」
「バカバカしいな、赤鬼!」
「バカにつける薬はねぇってんだよ!」
何回バカバカ言ってんだか、この二人。
何気にこいつらも漫才っぽくはある。
殺伐芸と言うか、そんな感じ。
「だが、まあ体もあったまってきた頃だしよ!」
「!」
ソンナコト・アルケーが一端間合いを取る。
太陽をバックにしながら隙なく後退する辺り、さすがと言うべきか。
「そろそろ出してくかぁ! ハッサクゥ!」
「来るか、球体兵器!」
ソンナコト・アルケーの背から、銀色に輝く丸い金属球が一つ、カラタチに向かって飛んでいく。
「当たるものではないっ!」
直線的に飛んでくるその球体を、グラハムは軽く避ける。
だが、球体は勢いをまるで殺すことなく、筆で書かれた曲線のような滑らかさでUターンし、カラタチの背後を狙う。
「舐めるな! その動きはわかっているっ!」
電磁警棒を一閃し、球体―――『ハッサク』を弾くグラハム。
以前戦った時に、すでにその動きは経験済みである。
「出し惜しみしてどうなるものか、赤鬼!」
「だからゆっくりやろうってことだよ、いきなり全部なんて博打下手のやることだぜ!」
「こちらとしては別に構わないのだがな? 使い切る前に倒してしまってもな!」
「こっちとしても別に構わないぜ? 使い切る前に倒してもよぉ!」
戦いは続く。
ただし、終わりは必ず来る。
終わりがいつ来るのかはわからない。
一秒後か、一分後か、それとも―――。
コーラサワーさんはひとっつも出てないけどプリベンターの心の旅は続く―――
短くてすいません。
次回もなるべく早くします。
>>335 土曜日さん乙です!!
今回は結構シリアスなバトル話ですね、二人は軽口を叩いたりもしてますがw
で、ジョシュアさんマジ空気w
次回辺りで決着がつくのかな?楽しみに待ってます!!
>>335 土曜日氏、乙です
二人の戦闘に入っていけないジョシュア、ヘタレはヘタレなりに加勢とかしたらいいのにw
あ、でもグラハムから「手出し無用!!」と言われるかもしれないですねw
次回の展開も期待してます!!
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
すんません、仕事を休まざるを得ないレベルの腰痛でずっと身動きとれませんでした。
随分ラクになってきたので、あと一週間くらいでまた投下再開します。
なかなか暑いな、仕事だけども
ドライブの中には
のど渇いたら何飲みたい?
このスレ的には
コーラ一択!
保守ワー
すんません、急な勤務変更で予定が詰まってしまい投下が遅れています。
なるべく早く次回を投下出来るよう調整します。
359 :
通常の名無しさんの3倍:2013/09/26(木) 15:26:41.78 ID:vPgZGLW2
お前らワークおはよう
ビール(キリッ)
関東ドライブ
わー
>>357 勤務変更は大変ですものね…
無理をなさらずに
保守ウー
お疲れ様です。
緊急異動(という名のリストラ)に同僚が巻き込まれ、引き継ぎに時間がかかっておりました(勤務変更はこれが理由でした)。
目途がつきましたので、少なくとも今週中には必ず投下します、規制巻き込まれが無ければですが。
>>362 待ってます!!
しかし、リストラとは…
勝利とは、それを渇望した者のみに与えられるものではない。
無論、より強く望み、かつそれに向けて努力した者が、そうでない者に対して、獲られ易いのは事実である。
だが、理由のない勝利というものも存在する。
いくら失敗しても、相手が自分以上に失敗すれば、相対的に見て「勝利」は転がりこんで来る。
もっとも、「どっちもどっち」という表現を使われること間違いないであろうが。
そして、勝因と敗因のどちらをも凌駕する、勝敗を決める因子が時として存在する。
それは、奇跡……もしくは、「運」と言う。
事前に準備をし、かつ手を惜しまねば、運など現場レベルでの些細な出来事に過ぎない。
奇跡は大局的に観れば、偶然が色を濃くしたものでしかない。
そう言う軍人や歴史家は多くいる。
だが、「こいつは強運の女神の寵愛を独占しているのではないか?」「勝因も敗因も全てぶち壊してんじゃねーぞコラ」と疑いたくなるような人物は、極々希にだが、存在する。
スター、ヒーロー、そう呼ばれる者は、「運を呼び込む力」にも長けていると言う。
周囲によって担ぎ上げられた、能力が評価に追い付いていない者ならともかく、
本当に優秀で有能な者は、確かに良いところで不思議なくらいに出番が回ってくるものだ。
第二回WBCの決勝戦のイチローなんかは良い例であろう。
では、パトリック・コーラサワーは……?
◆ ◆ ◆
イノベイターの目指す勝利、すなわちリボンズ・アルマークの目指す勝利は、イオリア・シュヘンベルグの「遺産」を手に入れることである。
より正確に言うと、「遺産」を手にし、それを活用して全人類の頂点に立ち、今後の世界を導く者になることである。
イノベイターという存在は、明らかに現種の人類より全ての能力が上回っている。
だがそれだけでは、世界を手に入れることは出来ない。
少数のエリートだけで征服出来る程、地球という星は狭くはないのだ。
ならば、少数のエリートのみで運営出来るシステム、もしくはそれに類するモノを活用しなければならない。
それが、イオリア・シュヘンベルグの「遺産」ということになる。
リボンズ・アルマークはその「遺産」の全容を理解している。
理解しているつもりになっている。
本人は自信を持っているが、その自信は完璧という形容とイコールではない。
だからこそ、本人は他のイノベイターだけではなく、トリニティやアロウズ、アリー・アル・サーシェスといった面々をも部下として引き込んだ。
トリニティやアロウズ、サーシェスにも思惑は勿論ある。
あるが、彼らには「遺産」を活用することは出来ない。
そちらは、自信ではなく、リボンズにとっては確信となっている。
イノベイターにあらざる者が、「遺産」を正しく使えるはずがない、と。
現在、「遺産」をほぼリボンズは手中にしている。
何しろ「遺産」が隠されているとする、イオリアの旧研究所を押さえているのだ。
あとは小煩い蠅、すなわちプリベンターと、それに組するマイスター運送を排除するだけである。
「遺産」を守護する者としてのマイスター運送が、それを狙う者の動向を見過ごすはずもなく、いずれは決着をつけるなければならないとリボンズは当初から踏んでいた。
それについては計画の内であるので、さして問題にはしていない。
容易に打ち倒すことは出来ない相手ではるが、それでも優良種たるイノベイターの敵では決してない、とリボンズは思っている。
プリベンターに関しては、結局これもまた、所詮メンバーが全て人間である以上、極端に手古摺るものでもない。
ガンダムパイロットを中心に、旧陣営でエースと呼ばれた軍人が集まっているのだから、侮ることは出来ないとしても、最終的に勝利を得ることに大きな障壁となりはしないはずである。
リボンズ自身、部下に対して「プリベンターを侮るな」とは言ってきたが、それは部下に対してであって、決して自分に向けての言葉ではない。
油断は大敵であるが、埋めることのない実力差がある以上、自信は決して過信にはならない。
だからこそ、リボンズはわざわざ舞台を作る。
マイスター運送とプリベンター、その面々の眼前で、彼らに決定的な敗北をつきつけてやる。
イノベイターこそが、リボンズ・アルマークこそがイオリアの「遺産」を引き継ぐに値し、
それを使って力に劣る人類を来たるべき時代に向けて導いてやる存在であると、目の前で証明してみせる。
もうすぐリボンズの前に、彼らがやってくる。
敗北しに、やってくる―――
◆ ◆ ◆
プリベンターの目指す勝利、それはイオリア・シュヘンベルグの「遺産」をイノベイターに渡さないことである。
より正確に言えば、マイスター運送と協力し、「遺産」を守り、それが人類にとって有益となるまで秘匿することである。
イオリアの「遺産」とは、人類の革新を促すもの。
いずれ来たるべき「外来種」―――すなわち「地球外生命体」、もっと端的に言うと「宇宙人」との接触が、
スムーズに行えるようになる程に人類が「進化」する為に、「遺産」は必要であるとマイスター運送は言う。
具体的にそれが何なのか、プリベンターの面々はまるっと理解はしていない。
マイスター運送そのものも、果たしてどこまでその全容に迫っているかも疑問である。
イオリア自らが「遺産」の守護者として設立したマイスター運送だが、
あくまで立場は「遺産」を守る者であり、とどのつまりは「門番」に過ぎない。
守護者が理解者である必要はどこにも無い。
むしろその価値がわかっていれば、守護者としての責務を放棄されかねない。
宝物庫の中身を最もくすね易いのは、常に側にいる門番なのだから。
だからこそ、プリベンターの現場リーダーであるサリィ・ポォはマイスター運送に心からの信用を置かない。
と言うより、置けない。
マイスター運送の連中は悪人ではなく、親しみ易い良い者ばかりだが、だからと言って無条件に抱擁を交わせる程ではない。
イノベイターが現政府に、そして人類に対して決して益とならない存在だからこそ、協力するのだ。
何より、プリベンターにとって宿敵と言えるアリー・アル・サーシェスがイノベイター陣営にいる。
それだけでも、イノベイターはプリベンターにとって討つべき敵だと言えるだろう。
サーシェスがいるからイノベイターを討つ、イオリアの「遺産」を守ることはそのついで。
乱暴に言ってしまえば、そういうことになるのかもしれない。
およそ三名を除いて、プリベンターのメンバーはその辺りのことを一定理解している。
ゴールが一緒ならば、動機や方法が異なっても、協力するのにやぶさかではない。
イオリアの「遺産」が人類の革新を促すものであってもなくても、現体制を守る盾として、プリベンターは動く。
「遺産」が真実ならば、マイスター運送と一緒に、今後長くその守護者を務めることが任務に加わるだろう。
「遺産」が中身の無いものでも、イノベイターとそれに組する者を捕まえることで、現在の平和は守られる。
どちらに転んでも、プリベンターに損は無い。
損は無いはずである。
だからこそ、プリベンターはイノベイターを追う。
後手を踏んでいる、という思いはあっても、そこはそれ、プリベンターの面子は歴戦の勇士である。
不利を覆すことの出来る実力者揃いなのだ。
確かに、個々の力のみに頼るのは、戦術としては間違ってはいるのかもしれない。
だが敢えて罠に踏み込むことで、相手を一網打尽に出来ることもある。
もうすぐ、イノベイターが前に現れる。
捕まるために、現れる―――
◆ ◆ ◆
パトリック・コーラサワーの目指す勝利、それは敵を倒し、自尊心を満たし、そして嫁に褒められることである。
より正確に言わんでも、彼の行動理由のほぼ十割がそれで構成されている。
嫁と初めて会うまでは、女にモテようという動機があったが、今ではそれはサッパリと無い。
漁色家は一人の異性に心縛られないからこそ漁色家と呼ばれるのだが、
結局コーラサワーも純情、つうか単純な人間であったということだろう、もの凄く今更だが。
理解の範疇外にあるものは、「よくわからん」で全て対応し、判断は信頼出来る者(つまり嫁だ)に任せる。
現場においては自らの実力のみを信じ、思うままに振る舞う。
味方は、自分の脚を引っ張らない(あくまで主観である)のならば別にいても良い。
本当にヤバいことになったら、それはその時に腹をくくるだけ。
人類を守ることより、嫁を守ることが何より優先。
イオリアの「遺産」なんて別にどうでもいい。
サーシェスはムカツク野郎だからぶっ倒したいが、別にこだわる程でもない。
イノベイターがプリベンターにとって敵ならば、敵として戦うだけ。
コーラサワーにとっては、そんなモンである。
コーラサワーは考えるのが面倒臭いのではない。
彼なりに考えての結論がコレなのである。
彼がグラハム・エーカーとどうしてもソリが合わないのは、結局のところ、同族嫌悪に近いのだろう。
二人の間に違うところがあるとすれば、
コーラサワーは単純が過ぎて、グラハムは色々とこじらせて、それぞれの今があるということだろうか。
もうすぐ、コーラサワーは決着の場に辿り着く。
コーラサワー大活躍! 希望の未来へレディゴー! する為に辿り着く―――
◆ ◆ ◆
終幕は近い(今年に入って何度似たような表現使っただろうか)。
決戦ぶ舞台たるイオリアの旧研究所には、リボンズとイノベイター(とアレハンドロ)、プリベンター、マイスター運送が集まった。
研究所の前ではグラハムとサーシェスが一騎打ち中、ジョシュアはおまけ。
野心を見透かされて捨てられたリジェネ・レジェッタは方向性を変え、コーラサワーに合流。
ASSも隊長のジニンの判断でイノベイター陣営から離れ、事態収拾の為にリジェネと同じくコーラサワーと手を結んだ。
アロウズ本体とラグナ・ハーヴェイは、リボンズを出し抜く算段を具体的に立てる前に事が進み過ぎて、傍観者となりつつある。
トリニティは出遅れ、長兄ヨハンが今後を検討中。
まとめると以下のようになる。
連投規制されました
中途半端ですみません、ここでまた次回に続きます。
すいません。
>>371 乙です、規制とかで大変だとは思いますが、頑張って下さい!!
土曜日氏お疲れ様です。
続編楽しみにしております。
レイジ君がなぜかコーラさんとかぶってみえた
人は何の為に戦うのか。
金の為か、好きな異性の為か、名誉の為か、権力の為か。
色々理由はあろうが、最も単純に現すとすれば、次の言葉になるだろう。
「自分為に」
◆ ◆ ◆
グラハム・“ブシドー”・エーカーの駆る『カラタチ』。
アリー・アル・サーシェスの操る『ソンナコト・アルケー』。
共にミカンエンジンを心臓に持つ二機は、空中で、地上で、火花を散らしあい続けている。
双方、何度相手の攻撃をかわし、弾き、受け止めただろうか。
グラハムもアリーも、そんなことは数えてもいまいし考えてもいまい。
二人の頭にあるのは、ただ「相手に必中の一撃を叩き込む」ことだけだ。
「赤鬼ィィィィィィ!」
「侍カブレェェェェ!」
余程、当たり所が悪くない限り、トドメの一撃はパイロットの命を奪うことはないはずである。
何しろビーム兵器もミサイルも、どちらも無いのだから。
電磁式の剣は相手の動きを止めるのには十分な威力を持つが、砕ききる程には破壊力はない。
何しろパワーの素が「人にやさしいミカンエンジン」である上に、装甲そのものは従来のMS(モビルスーツ)とほぼ同等である。
金属鎧の上をどれだけ竹刀で叩いても、出来るのはせいぜい傷くらいのものであろう。
「やるな、赤鬼!」
「てめぇこそ、しぶてぇんだよ!」
かたや元軍人、かたや傭兵。
どちらも戦うことがお仕事である。
そしてそのどちらの職業にも共通する、救いがたい性というものがある。
それは、「戦いに充足感を覚える」ことで、戦いそのものに幸福を覚えてしまうというものである。
いや、或いはそれは、人間そのものの本性の一つなのかもしれない。
「ある意味、神に感謝せねばなッ!」
「戦いの最中に神を持ち出すのはなァ、負け犬の台詞なんだよぉ!」
「はっ、何と言われようとも、私は神に感謝するッ!」
「どこの神だよ、どこの宗教のだよ? そんなもなぁ、存在しねぇんだよ!」
カラタチの冗談、もとい上段からの電磁警棒の攻撃を、ソンナコト・アルケーが同じく電磁警棒で跳ね返す。
バチッ、という音とともに火花が飛び散り、砂混じりの風に溶け込んでいく。
「いいや、私は確信しているッ! 戦いの神というものをな!」
「戦い、の神だァ?」
「今日、この場、この時に、貴様という敵と戦えたことをッ!」
「何をバァカなこと、言ってやがる!」
「そして、貴様を倒せることを―――戦いの神に感謝する、させてもらう!」
「ほざけ! アホンダラ!」
「貴様な楽しくないのか! 赤鬼?」
「ああ、楽しいのは楽しいね!」
カラタチの連続攻撃を後退することでかわし、ソンナコト・アルケーは距離を取った。
「ならば貴様も感謝しろ! 戦いの神に!」
「誰がするかよ! この戦闘狂が!」
「私が戦闘狂なら、貴様は戦闘馬鹿だな!」
「馬鹿はお前だろうが、バカンダラぁ!」
「そんな言葉は、ないっ!」
なんだこれ。
どつきあい漫才に近いのだろうか。
互いに言いたいことだけを言う、カタチ的にはツッコミを共に入れているように見えるが、実のところはどっちもボケという。
「うぜェんだよ! ハッサクゥ!」
ソンナコト・アルケーの背から、ハッサクと呼ばれる金属球が複数飛び出し、カラタチに向かって突っ込んでいく。
「何度も言わせるな! その動きはわかっていると!」
飛んできた全てのハッサクを叩き落とすカラタチ。
ハッサクのいくつは破損して大地に落ち、またいくつかは再度ソンナコト・アルケーの背のポッドに戻っていく。
「その攻撃は無意味だ! それに、数も無限ではあるまい?」
「……ああ、そうだな」
さらに距離を取るソンナコト・アルケー。
遠距離武器を持たないカラタチは、それに追随して間を詰める。
「逃げるつもりか? 赤鬼」
「逃げる? これだからパイロットだけやってた軍人さんてのは、視界が狭くて困る」
アリー・アル・サーシェスは久々にワロタ、じゃない、にやりと笑った。
「何だと?」
「おやぁ? 随分と離れてしまったなぁ、トレーラーから」
「むっ?」
グラハムは一度地上に降りると、自身の背後を確認した。
アリーに言われた通り、かなりプリベンターのトレーラーから距離が空いてしまっている。
「てめぇの勝ちは、俺を倒すことだけか? ええ、元エリートの軍人さんよ」
「何……!?」
「俺の勝ちはてめぇを倒すことじゃねえ。『プリベンター』をぶっ潰すことだァ!」
ヒュウッ、と甲高い音とともに、ソンナコト・アルケーの頭部から信号弾が空高く上がっていく。
「赤鬼、貴様……!」
「目の前の戦いにしか意識が向かねえからこうなるんだよ! アホウが!」
「おのれ!」
「俺の部下達がトレーラーを潰すぜ、よぉく見てるんだな、その節穴の目で!」
アリーの高笑いが、グラハムの耳に届く。
それには、勝利の確信の響きがあった。
「……」
「なんだ、言葉もねぇか? まぁもう少しで本当に喋れなくしてやるから心配すんな」
「……一つ聞くぞ、赤鬼」
「んァ? 何だ?」
「お前の部下は、有能か?」
「はぁ?」
アリーは顔をしかめた。
聞こえてくる言葉に、動揺や後悔の色が無い。
「どういう意味だ」
「私にも部下が―――いや、元部下と言うべきか。とにかく一人、いる」
「何のこった」
「有能で、優秀な奴がな!」
急激なダッシュで、さらに間合いを詰めるカラタチ。
袈裟がけの攻撃を、アリーはソンナコト・アルケーの身を斜めにすることでかわす。
「てめぇ、トレーラーが気にならねぇのかよ!」
「ならんッ!」
「なにぃ!?」
「私の仕事は、貴様を倒すこと、それだけだ!」
ガシン、ガシンと息をつく間もないカラタチの猛攻。
さらにトレーラーからの距離は空いていくが、グラハムにはそれを気にした様子も無い。
「トレーラーは守られる! そして貴様は倒される! それが!」
「この侍カブレがぁぁぁ!」
「戦いの神の定めし結末だ!」
一際高く、大きな音が『戦場』に響いた。
「関節部分なら、装甲は関係あるまいっ!」
「ッ、てめぇー!」
ソンナコト・アルケーの左腕の、ジョイント部分が破壊された音だった。
◆ ◆ ◆
「な、な、なんぞこれー!?」
『紅鮭』のコクピットで、アラスカ野ことジョシュア・エドワーズは本気で泣いていた。
元上司と敵が自分から離れていってホッとしたら束の間、甲高い音が鳴り、その次の瞬間には四方八方から岩石が飛んで来たのである。
爆弾やミサイルでないだけマシだが、それでもMS(ミカンスーツ)のおよそ三分の一くらいの大きさで、
当たればそれなりにダメージを受けてしまうことは間違いない。
「なんだよ! なんだよ? どーなってんだよ何で俺が狙われんだよ!?」
実はジョシュアではなく、紅鮭の背後にあるトレーラーを狙っているのだが、混乱しているジョシュアにそれがわかろうはずもない。
わかっていたらヘタレである彼のこと、とっととトレーラーから離れていただろう。
「いやー! やめて! 来ないで!」
暴行されそうになる婦女子のような悲鳴をあげるジョシュア。
この岩石攻撃は無論、アリーが狼煙を上げるまでそこいらに隠れていた、彼の部下達が放っているものである。
工事用の建機を改造した、一種の投石器のようなものから撃ち出している。
爆弾やミサイルを使わなかったのは、そんな危険な物使うと、下手すりゃ地面の下(にいるリボンズ達)も安全では済まないからである。
まあぶっちゃけ、アリー一党が貧乏性だということもある。
岩石ならそこら辺にあるものを使えば、すなわちタダなのだから。
「ひぎゃあああああああああ」
ジュシュアは泣き叫びつつ、飛んでくる岩石を片っ端から撃ち落としていく。
タイミングも速度も異なる岩石の数々を、左手の電磁警棒、右手のミカン粘着ガン、両腕のシールドと、フルに使ってとにもかくにも紅鮭とトレーラーへの直撃を回避し続ける。
ある意味、神業レベルの動きである。
これはあまりにパニックになり過ぎて、逆に一種の無の境地に辿り着いているが故であろうか。
かつてコーラサワーも放棄されたOZの基地にて未処理のミサイルに追い掛け回されて逃げ切ったことがあったが、それに匹敵するやもしれない。
「な、なんだあのMS(ミカンスーツ)、尋常じゃねえぞ?」
「アニメかよ、あの動き!?」
投石器を操るアリー達の部下も驚愕である。
そりゃそうであろう、『的は不動なのに絶対に命中しない』なんて、100%入らないペナルティキックみたいなもんである。
「とにかく撃て! 撃ちまくれ!」
「おい、あの、その、もう残弾がねーぞっ!?」
「はあ? んなアホな、50はあったはずだぞ!?」
プリベンターのトレーラーそのものは、多少民間用の物より固い程度である。
MS(ミカンスーツ)の三分の一程の大きさの岩石なら、50どころか10もあれば十分に「運用不能」に出来ただろう。
一応念のために多めにアリーも用意はしていたのだが、まさか、まさかこのような事態になろうとは彼も思っていなかっただろう。
「おい、こっちはもう尽きた!」
「こっちもだ……!」
「お、俺のはこれが最後……」
そして、その時が来た。
岩石がとうとうゼロになってしまったのだ。
攻撃を始めてから数分もかかっちゃいないが、逆に言えばその紅鮭とジョシュアの『盾』が無ければ、
トレーラーなんぞ数分どころか30秒程度でボッコボコになっていたはずなのに。
「ど、どうすんだよ……」
「ボ、ボスに失敗したって……あ、赤じゃねえぞ! 青の信号弾あげろ!」
「そ、それで逃げようぜ! すぐに!」
ポシュン、と頼りなげな音と共に、青色の信号弾がフラフラと上がっていく。
まるで敗北の白旗の如きだが、彼らにとっての真の敗北は、まだこれからであった。
「よし、逃げ―――」
全員が一目散に、隠しハッチ(ソンナコト・アルケーが出てきたところである)に向かって投石器を走らせようとしたその瞬間、
宙から複数の白いネットが飛んできて、彼らに覆いかぶさった。
「な、なんじゃこりゃ!」
「動けねえ!?」
「ひーっ、助けて、ボスー!」
さらにネットには粘着性のミカン液が塗られており、もがけばもがく程に動くことが出来なくなっていく。
「 お ま え ら か 」
アリーの部下達の頭上から、若干ノイズの混じった声―――怒声に近い―――が降りかかる。
「ヒッ!?」
一斉に身を竦めるアリーの部下達。
そして彼らの目の前に、真紅に彩られた、ついさっき自分たちの岩石アタックを全て封じ込めてしまった一体の鬼神が迫ってくる。
「 お ま え ら か ? 」
生ではない、機械を通すことで、のそ言葉の響きが、より一層不気味で不穏なものになる。
「 お ま え ら か ! 」
その若干涙交じりの、鬼神の―――ジョシュア・エドワーズの声に、アリーの部下達は恐怖を感じて叫んだ。
声にならない声で。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――
コンバンハ。
前回のラストの「まとめると以下のようになる」という一文は無視して下さい(実はあの後に『ほぼ全てのキャラクターの現時点での現在地』を入れるつもりでした)。
やったねアラスカ野、活躍できたよ!
ではまた。
>>380 後編乙です!!
グラハム対アリー、そろそろ決着が付きそうですな
そしてついに、ジョシュアが覚醒か?w
次回はジョシュア無双が見られるのかな、楽しみに待ってます!!
>>380 土曜日さん乙です
対アリー戦、次回で決まるかな?
あと、ジョシュア頑張れ!!
次も期待してます!!
>>380 乙であります!!
次回はジョシュアが大活躍するんですか?
今まであまり目立たなかっただけに、期待できそうですねw
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
389 :
通常の名無しさんの3倍:2013/10/25(金) 18:35:38.21 ID:vUcmvt4g
嵐大
洪水
雨大
欧米
化
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
次回は10日前後になると思います
中宮
渋谷
田中
中田
国中
保守ワー
「……こりゃまた、ボロボロだな」
バラック・ジニンは大きく息を吐きながら、肩をすくめた。
彼の目の前には、一体のMS(ミカンスーツ)が横たわっている。
そのMS(ミカンスーツ)は、全身至る所が傷だらけであり、
半壊状態と表現しても差し支えない程になっている。
「激闘の傷跡というところか」
ジニンの横で、クラウス・グラードが無言で頷いた。
彼ら二人は共にMS(モビルスーツ)の操縦経験がある。
モビルスーツとミカンスーツという違いはあれど、
どのように扱えば自らが操る鋼鉄の機体がダメージを負わないか、その戦い方を知っている。
その彼らをして嘆息せしめる程にボロボロのMS(ミカンスーツ)。
その名前は『カラタチ』という。
「ようナルハム野郎、負けたみてーだな?」
「負けた? 何を見てそう思う?」
「あれだけお前のMS(ミカンスーツ)がボロボロになってんだ、馬鹿でもわかる」
「そうか、ならばお前は大馬鹿ということになるな」
「……はあ?」
「馬鹿でもわかることがわからないのだ、それはすなわち大馬鹿ということだ」
グラハム・エーカーは目の前の男―――パトリック・コーラサワーに憐れみの視線を投げつけると、
スポーツドリンクのボトルに口をつけた。
いささか叫び過ぎたせいだろうか、喉が少しひりつく。
なおこのスポーツドリンクはグラハム仕様の特製であり、緑茶とミカンエキスが混ぜられている。
グラハムの注文でビリー・カタギリがこさえた物だが、
カタギリ博士、この武士道を勘違いしている男をあまり甘やかさないで欲しいものである。
たまには「うんそれ無理」って言え。
「だってお前のMS(ミカンスーツ)、もう動けねーだろ! 動けねーってことは負けたってことだろ!」
「浅いな」
「何が」
「考えがだ。骨を切らせて肉を絶つ。サムライの戦い方を知らぬとはパイロットの風上にも置けん」
「骨が切れてるんならとっくに肉も絶たれてるだろ、普通」
「物の例えすらわからんとは」
「ややこしい言い方する奴は大嫌いなんだよ、俺は」
まーた漫才である。
ホントこの二人の会話はドッジボール。
見当違いの方向にボールを投げるドッジボールだ。
「とにかく私は勝った。それが事実だ」
「嘘だな」
「嘘ではない。何なら、ジョシュアに聞いてみるといい」
「アイツ、さっきからシンシンソーシツ状態で何聞いてもわけわからんことしか言わん」
「なら後でレコーダーの記録を確認することだな」
だが今回は、少しばかりグラハムの方に『余裕』が感じられる。
事を成し遂げた、という満足感が彼の心を満たしており、
ぶっちゃけて言えば、今の彼はコーラサワーのことなどどうでも良かったりするからである。
「そもそも、あそこに赤鬼が転がっているだろう。あれこそが私が勝負に勝った証に他ならない」
「……ほとんど無傷だぜ、あれ」
「だが、最早アレは動かん。動けない」
「お前の機体だってそうだろうが」
コーラサワーの言葉に、グラハムはフン、と鼻を鳴らして答えた。
どう言葉を尽くそうとも、この男は難癖をつけてくるだろう。
まあそれも良い。
別に彼が理解せずとも、自分自身が「勝利した」という事実を十分にわかっている。
他人の賞賛など、何の価値があろうか……。
「どう、彼は?」
「駄目ね。余程怖いものでも見たのかしら……。興奮状態で」
「そう……。まあとにかく」
「とにかく?」
「彼とあのサムライ・マンは自分の仕事は果たしたみたいね」
「自分の仕事?」
シーリン・バフティヤールは、小首を傾げるマリナ・イスマイールから視線を外した。
彼女の目の先には、プリベンターのトレーラーが停まっている。
その車体には、傷ひとつもない。
「……『敵』の思惑をひとつ、潰したみたいだから」
そのトレーラーの横に、十数人程の男達が座り込んでいる。
彼らは全て、手を後ろに回されて繋がれており、どこにも逃げることは出来ない状態になっている。
「どう、話は聞けそう?」
「無理そうだね、ASSが尋問しようとしたけど……。怯えていて、舌が上手く回らないらしい」
シーリンの問いに、リジェネ・レジェッタは首を振りながら答えた。
「貴方、人の頭の中を覗けるんでしょう? どうにかならないの」
「残念ながら、彼らは『人間』だからね」
「……ああ、そう」
眉をしかめるシーリン。
僅かに笑うリジェネ。
そしてきょとんとした表情のマリナ。
「結局、あのサムライ・マンに話を聞く他はないのね」
通訳が必要かもね、と最後に小さく呟き、シーリンは溜め息をついた。
ジョシュア・エドワーズはさっきマリナが言った通り、アドレナリン過多でまともに話が出来そうにない。
ならばグラハム・エーカーに語ってもらうしかない、何が起こったのかを。
「やれやれ」
シーリンは眼鏡を一度外し、ポケットからハンカチを取り出すとレンズを拭いた。
砂漠の細かい砂がいくつか付着していたのだ。
「もうちょっと早く到着していればねえ……」
プリベンター&カタロン&ASS&リジェネの連合チームが、
イオリアの研究所跡に到着したのは、ついニ十分程前のことである。
何かがあった、というのはパッと見ただけでわかった。
横たわる二体のMS(ミカンスーツ)、ネットの中でもがく男達、その男達の前で馬事雑言をわめくジョシュア、
そしてボロボロの『カラタチ』のヘッドの上に、誇らしげに腕を組んで立つサムライ・マンことグラハム。
ああ、何かアホらしいことが起こって、ついさっきそれが終わったんだろうな、と。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――
コンバンハ。
あかん、もう11月やんけ!
遅れたのはサカつくのせいでもグラセフのせいでもありません、仕事が忙しかったんです本当です。
次回、ミスター・ブシドーが語る「来た見た勝った! 〜私が赤鬼に勝利するまで〜」をお届けします。
それではまた。
>>404 待ってました、乙です!!
グラハムはダメージを負いながらも、ピンポイントでアリーを倒したのかな?
次回でそれが語られるんですね、期待してます!
>>404 土曜日さん乙〜
とりあえず戦いに勝利したようですが、その模様は次回のお楽しみということですね
グラハムがどんな奇策を持ってアリーを打倒したのかが気になりますw
>>404 乙であります!!
グラハムもだが、ジョシュアも頑張ったんですねw
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
次回は20日前後になります。
規制回避祈願。
保守ワー
保守ウー
「答えは簡単だ。肉を切らせて骨を断った。それだけだ」
神コップの熱い緑茶をすすりつつ、グラハム・“ブシドー”・エーカーは、勝因についてそう語った。
その表情はまさに『ドヤ顔』そのもので、何と言うか、非常に鬱陶しい。
ちなみにドヤ顔にも種類があって、ここでのグラハムのそれは、一般的に言う『ドヤァ』のものではない。
自慢げと言うより、陶酔感と達成感が入り混じった、「他人に見せる為にはやってないドヤ顔」である。
映画のラストシーンでイケメン主人公がそのような表情をすれば絵になるのだろうが、
ぶっちゃけこの場だとただ周囲の苛立ちを誘発させるだけのものでしかない。
「何ワケのわからんこと言ってるんだこのバ仮面は」
「敵をどうやって倒したか。その具体的な内容を私達は聞いているわけなんだけど」
「そんな説明しか出来ない己をまず反省しろ」
パトリック・コーラサワー、シーリン・バフティヤール、クラウス・グラードの三人によるジェットストリームツッコミが炸裂。
コーラサワーがツッコミに回るなんて、まず見られないシーンである。
なおマリナ・イスマイールは研究所への突入準備をしているASSの面子にお茶を振る舞っている真っ最中。
美人で物腰が丁寧な彼女に「はい、どうぞ」とお茶を手渡されて、猛者揃いのASSの面々も思わず表情を崩しているのが何とも微笑ましい。
まぁ彼女の中身がどんなものであるかを知ったら、無条件で笑顔にはなれなかったであろうが。
もののついでか捕虜となっているアリーの部下にまでお茶を配っているのは、まぁご愛嬌ということにしておこう。
と言うか手足を縛られて自力では飲めないので、ある意味逆にご無体な行為になっているが、それはそれであろう。
「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、勝利の武神は勇者に力を授ける、そいうことだ」
「だからわかんねーって言ってんだろ!」
どのみちグラハム語しか喋ることが出来ないブシドーさんである。
具体的な説明を彼に求めることそのものが間違っていると言わざるを得ないのかもしれない。
まあコーラサワーだって同じわけだが。
「考えるな、感じろ。というわけだ」
胸を張るグラハム。
もうこうなっちゃうと他人の言葉は彼の耳には届かない。
意識と言葉の立体交差点、交わることは無い。
「……もういいわ。『カラタチ』の映像データを直接見ましょう」
「そうだな、コクピットは生きているわけだから」
満足感でいっぱいのグラハムと、それに大声で噛みつくコーラサワーを横目に、
シーリンとクラウスは『カラタチ』のコクピットに潜りこむと、パネルを操作して直近のデータを呼び出した。
MS(モビルスーツ)の頃からそうなのだが、基本的に戦闘データは全てコクピットの補助記憶装置に保存されることになっている。
映像だけではなく、MS(モビルスーツ)のいかなるデータも保存される。
MS(モビルスーツ)が破壊されず、無事に基地に帰還すれば、そのデータは次の戦いの為、
そしてMS(モビルスーツ)の更なる改良の為に活かされることになるのだ。
「これで……良し、と」
クラウスは手慣れた手付きで映像データのみを、コクピットのメインモニターに再生させた。
元パイロットの経験がある彼にしてみれば、さして面倒な手順では無い。
ブン、という機械音と共に、『カラタチ』のメインモニターが光を帯びる。
「……」
「……」
無言で、グラハムとアリーの戦闘(無論グラハム視点である)を見つめる二人。
ああ言えばこう言う、としか表現の出来ないグラハムとアリーの掛け合いが妙な疲労感を誘うが、
まぁおおむねはアリーの部下が自白した通りの展開になっている。
「ここで……投石作戦が始まったのね」
「そして、彼がそれを阻む、と」
彼とは、アラスカ野ことジョシュア・エドワーズのこと。
アリーと彼の部下によるトレーラー急襲作戦を見事阻止して見せた、ある意味グラハム以上の功労者である。
今はようやく興奮から解放され、愛機の『紅鮭』の足元で横になって体を休めている。
@とっ捕まえたアリーの部下の前で半狂乱でわめき散らす。
A見かねたマリナに落ち着くようにとお茶を手渡される。
B恐怖が蘇ったか、それともマリナの行為に心を解されたのか、泣きながらマリナに抱きつこうとする。
Cすっ飛んできたシーリンのケンカキックが側頭部にめり込む。
D砂上をトリプルアクセルですっ飛ぶ。
E落ちたところをASSの面々がふんじばる。
F『紅鮭』の足元に転がされる。
こんな経緯ではあるが、まあアラスカ野なので別にいいだろう。
「休んでいる」ことに変わりはない。
「投石作戦が失敗し、さて、ここからね」
「ああ、これで正真正銘の一対一だ」
モニターの中ではアリーの乗機である赤いMS(ミカンスーツ)が飛び回っている。
そしてそれは常にモニターのほぼ正面にあり、それはつまりはグラハムが敵の動きについていっている証明でもある。
「どちらも見事な腕前だ」
「そうなの?」
「ああ、君にはわからないかもしれないが……」
アリー・アル・サーシェス、そしてグラハム・エーカー。
その二人の操縦テクニックを素直に賞賛するクラウス。
ここら辺りはさすが反省府組織のリーダーであると言えようか。
「……データの終了時間が近い」
「と言うことは、もうすぐ決着ね」
「そういうことだ」
モニターの中は激戦が続いている。飛び散る破片、激しく響く討ち合いの音、そして重なり合う両者の怒号。
まさに一進一退という言葉が相応しい状況である。
「お、敵が……」
「何か、丸いものをたくさん飛ばした……?」
モニター中を乱舞する、謎の球体。
様々な軌道で襲い掛かってくる複数のそれを、時にはかわし、時には打ち払う『カラタチ』。
徐々にその数が減っていく。
そして、ついに決着が二人の前に訪れる―――。
◆ ◆ ◆
ぎゃあぎゃあと叫び続けるコーラサワー。
それを全く意に介さないグラハム。
その両者を遠目にしつつ、リジェネ・レジェッタはトレーラーの中に入った。
トレーラーのハンガーには、6体のMS(ミカンスーツ)が並んでいる。
二つ、ハンガーが空になっているのは、言うまでもなく『紅鮭』と『カラタチ』のものであろう。
「多分、これだね」
リジェネは一番端にポツンと繋留されているMS(ミカンスーツ)に近づいた。
薄緑……正確にはコーラルブルーと表現するべき色に塗装されたそれは、
まさにパトリック・コーラサワーの乗機である『シークヮサー』である。
「よっ……と」
そのコクピットのハッチの横に上るリジェネ。
しばらくハッチの周囲をペタペタと触っていたが、やがてコクリと一つ頷く。
「……やっぱり、ね」
続いて案の定、という感じに肩をすくめる。
「これが、切り札になる……」
リジェネは踵を返した。
そろそろシーリンとクラウスが「決着」の真相を知る頃だろうし、ASSも突入の準備を整えているはずである
別にリジェネは、アリーとグラハムの一騎打ちがどうなったかには興味が無い。
アリーが勝っていれば、ここでリジェネの「逆襲」も手詰まりになっていただろうが、
グラハムが現実として勝利している以上、残す問題は少ない。
「さて、最後の賭け、か」
シークヮサーが起動すれば、ここからの逆転の可能性が出てくる。
そう、起動すれば。
パトリック・コーラサワーとプリベンターの心の旅は続く―――
コンバンハ。
ミスター・ブシドーが語る「来た見た勝った! 〜私が赤鬼に勝利するまで〜」は内容を一部変更してお届けしておりあばばばば。
ではまた次回までサヨウナラ。
>>430 土曜日様、お疲れ様でした。
ケンカキックやジェットストリームツッコミ、意識と言葉の立体交差点等
土曜日様らしいフレーズの連続に爆笑しました。
これからもよろしくお願いします。
>>430 乙であります!!
コーラとグラハムが一緒にいると、コーラが少しまともに見えてくる不思議w
で、ジョシュアは半ば発狂状態だったんですねw
そして、コーラの機体に勝利への鍵が
次回も楽しみです!!
>>430 土曜日さん乙です
コーラとグラハムによる、言葉のドッジボールですな
二人の性格は違えど、本質的には煮たものを感じますねw
続きも期待してます!!
保守ワー
保守ウー
保守ワー
あけましておめでとうございます。
2013年中に終わると言ったな、あれは嘘だ。
ちゃうねん、コーラさんの誕生日である元日に最終回にしようと思っててん。
全部仕事が悪いねん、クリスマスも大晦日も三が日も全部仕事やねん。
2014年中には確実に終わります(←どの舌)
>>437 あまり無理せずに、マイペースでも構いませんよ
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
すんません、体調不良でダウンしておりました。
二月の上旬には次回を投下します。
>>452 お体には気を付けて
続きも期待しております!!
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
体調不良の間に溜まっていた仕事を片付けるのに手間取ってました。
13日か14日に投下します。
一面、青白い光沢を放つ壁。
他には何もない。
それが、最初にその『部屋』に入った時の、カトル・ラバーバ・ウィナーの感想だった。
有数の豪商の家としての裕福な暮らし、
ガンダムパイロットとしての流浪の暮らし、そのどちらも経験している彼だが、
その『部屋』を明確に表現する言葉が、その経験の中のどこにも存在しなかった。
それはどうやら他のガンダムパイロット達も同様だったようで、皆、眉根を寄せて、困ったかのような表情をしている。
共通項があるとすれば、それはカトルにも該当するのだが、「腹立たしさ」の成分がどの顔にもある、ということだろう。
何もない。
そして、気に食わない。
この『部屋』が。
ガンダムパイロット達がそう思ったのは、彼らが凄惨で容赦の無い『戦場の空気』を知っており、それに似たものをこの『部屋』に感じたからである。
マイスター運送の面子をはじめ、他の面々は、彼ら程にはそちら方面の体験が無い。
サリィ・ポォにしても元は軍医であり、戦場の悲惨さは知っていても、それは結局のところ『後方』のものであり、『前線』のものではない。
プリベンターの現場リーダーとして事件を解決してきたが、『平和に脚を突っ込んだ時代の事件』でしかないのも事実なのだ。
「ヒイロ、どう思います?」
「何についての質問だ?」
「……そう返すということは、僕の質問の意味をすでに理解しているんじゃないかな」
「そうだな……」
ヒイロは敢えて自分では答えず、隣に立っていたデュオ・マックスウェルに視線を送った。
「面倒臭がるなよ、自分で答えろよ」
「お前も俺と同じ考えだと思う」
「それって一番サイテーな逃げ口上の一つだぜ、おい」
ポリポリ、と額をかくデュオ。
「色々と不愉快だな」
「腹が立つな」
デュオの代わりに、トロワ・バートンと張五飛が口を開く。
トロワは淡々と、五飛は吐き捨てるようにと、口調は違うが、言葉に乗せられた思いは同じである。
「……君達は、この『部屋』がどうやら気に食わないようだな」
ガンダムパイロットの後ろから、彼らに声をかけたのは、マイスター運送のティエリア・アーデ。
「一応、ここが最終地点だ。つまり……」
周囲の青白い壁を、ティエリアは指さしていく。
どこも同じで、どこにも変わりはないように見える。
「一応、ここが最終地点だ。つまり……」
周囲の青白い壁を、ティエリアは指さしていく。
どこも同じで、どこにも変わりはないように見える。
「イオリア・シュヘンベルグの金庫の奥の奥、ってこったろ?」
「そう、彼の遺した遺産で、カタチあるものの中でも最大のもの。それがここだ」
列から一人、ティエリアは離れていく。
壁をそっと掌でなぞっていくその姿は、どこか故郷を久々に訪ねた旅人の雰囲気を醸し出している。
刹那・F・セイエイもまた一人、ティエリアとは逆側の壁を人差し指でコツンコツンと叩いているが、
直後に首を傾げたところを見ると、壁の強度や素材が彼の知識外のものだったからであろう。
「スメラギ社長」
「何かしら、サリィ・ポォ」
「もういいんじゃないかしら? 本当のこと―――いいえ違うわね。まだ私達に教えていないこと、それを話してくれても」
「……」
スメラギ・李・ノリエガは、しばらく目を閉じた。
そしてひとつ、大きく息を吐き、口を開く。
「謝罪からしたほうがいいかしら?」
「それは後でいいわ。それに必要かどうかは、内容次第よ」
「……そう」
ありがとう、と小さく呟き、スメラギはサリィに頭をそっと下げた。
彼女としても、実際後ろめたいものを抱えていたのだ。
「詳しい話はティエリアにしてもらおうと思うけど、この場所は―――」
と、その瞬間だった。
「イオリアが―――って、何っ?」
壁の青白い光が、毒々しい赤色に変わったのは。
◆ ◆ ◆
「で、どうなのよ」
「ふむ、残念ながらデータには無いな……」
プリベンターのトレーラーの指揮設備、そのモニターに流れていく図面に目を通しながら、
シーリン・バフティヤールとクラウス・グラードは溜め息をついた。
「公式のデータには無い。何とも胡散臭い話だな」
ASSのバラック・ジニンはひとつ、肩をすくめた。
グラハム・“ブシドー”・エーカーとアリー・アル・サーシェスの戦いの『決着』を鑑賞(それ以外に表現のしようがない)した後、
イオリア・シュヘンベルグの地下施設への別の侵入口を探そうと、公式記録のデータを呼び出してみた三人だが、期待空しく徒労に終わってしまった。
「イオリア・シュヘンベルグ。とかく謎の多い男だったみたいだが……さて、何を考えて、何を残していったのやら」
彼らが入口以外の侵入口に目を向けたのは、先のグラハムVSアリー戦で、アリーの部下が投石作戦を行う際に、岩盤に模した昇降EVを使ったからである。
ただの研究所であれば、そんなものは普通必要ない。
そんなものがあるということは、ただの研究所ではない。
ならば、他にも似たような昇降設備があるのではないか。
そう踏んだのだ。
「通常の非常口しかヒットしないわね」
「ジニン隊長、サーシェスの部下達は?」
「ああ、彼らも詳しい情報は持っていないみたいだな。自分たちが使った、使っていたところ以外はあまり知らないようだ」
「ふうん、となると……」
シーリンはモニターから目を離すと、後方で壁にもたれて立っている人物に会話の対象を替えた。
「あなたから詳しく話を聞くしかないわね」
リジェネ・レジェッタである。
「昇降設備についてならある程度説明出来るけどね。多分無意味だよ」
「何故そう言い切れるの?」
「リボンズ・アルマークはそこまで愚かではないということさ」
「味方には使わせても、それ以外の者には使わせない。と?」
「ご明察」
リボンズのことでだ、おそらく時代錯誤な罠を張っていることだろう。
生体チェックで合致しなければ電流が流れるとか、通風孔からガスが入ってくるとか。
もしかしたら水が流れ込んでくるかもしれない。
リジェネとしては苦笑いするしかない。
何時の時代のアドベンチャー活劇のトラップだろう。
「今のままでは、突入する方法が無い、と?」
「正門をぶち破って突入するという古典的方法を取らない限りはね」
「くそ、アリーを捕まえることが出来ていれば……」
アリー・アル・サーシェスはこの場にいない。
グラハムとの勝負に敗れ、部下を置いて、何処かへ逃亡してしまった。
グラハムが勝利の余韻に浸りすぎなければ、彼の手で確保出来たのだが……。
明らかにグラハムの落ち度なのだが、今それを責めても仕方がない。
つうかあのグラハムが責められてどうにかなるわけがない。
「だが、ここで手をこまねいていては、手遅れになるやもしれんぞ」
正門をから正規ルートを通ったとしても、下に降りるには時間がかかる。
そもそも、目的地がまず図面に載っているはずがない。
「その通りよ。何とかしないと」
シーリンにも焦りの色が見える。
先に突入したプリベンター&マイスター運送&その他組とは未だ連絡がつかない。
あちらが敢えてしないのか、それとも他に理由があるのか。
とにもかくにも、このままのんびりしているわけにもいかないのだ。
「最後のチャンスというのは、最後の場面だから来るものじゃあないかな」
「? 何が言いたいの」
「あのMS(ミカンスーツ)が動かせれば、何とかなる」
「あの……って、彼の『シークヮサー』?」
シーリン、クラウス、ジニンはサブモニターに目を移した。
そこには、トレーラーのハンガーの画像が映し出されている。
ポツンと一体残ったMS(ミカンスーツ)、そしてそのコクピット周りで大騒ぎしている一人の青年。
声こそ聞こえないが、何を怒鳴っているかは容易に想像出来てしまう。
「起動ロックをかけられた―――あれをね」
◆ ◆ ◆
「スメラギ女史、そこからは僕が話そう」
赤い光、それに溶かしたかのように、『部屋』に声が響く。
アイドルグループ「イノベイター」のボーカルとして、世間に広く知られた声だ。
「プリベンター、マイスター運送、その他の諸君……」
みょん、と最奥の壁が少し開き、薄緑の髪の少年が、ガンダムパイロット達の目の前に現れる。
「イオリア・シュヘンベルグの遺産、その一つ。―――『ヴェーダ』にようこそ」
赤い光が、ゆっくりと明度を薄めていく。
「僕が、リボンズ・アルマークだ」
その中で、ただ彼の瞳だけが色を替えず、金色に輝いていた。
パトリック・コーラサワーとプリベンターの心の旅は続く―――
間空きすぎてサーセンした。
@体調不良でぶったおれる
A溜まった仕事を片付ける
Bインフルエンザにかかる←イマココ
1、2、3月は地獄だぜフゥーハァー
ではまた、近いうちに
>>465 乙です!!
グラハム、やっぱりアリーを逮捕できず、逃げられてしまったんですね、駄目すぎるw
で、気になる所で後は次回なんですね、リボンズの企みとは何なのか?
あと、体調を崩してしまったのなら、無理せずに休養を…
次回も期待しています!!
>>465 土曜日氏、乙です〜
グラハムはミカンスーツ対決を制したは良いが、肝心のアリーには逃げられてしまったのかw
ちょっと間抜けすぎるww
そして、コーラさんのミカンスーツに切り札が…
最後に黒幕のリボンズが登場しましたが、彼の目的とは?
色々と気になる所がありますが、続きを期待して待ってます
>>465 土曜日さん乙!!
アリーを取り逃がしたグラハム、駄目すぎるw
後、最後のリボンズが気になる所ですが
続きを待ってます!!
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
次回は一週間以内に投下します。
保守ウー
保守ワー
ラスボスはラストで戦うからラスボス。
何を当たり前のことを、と思われるなかれ。
「ラスボスが本当に魔王だと思った? ざーんねん! 大魔王ちゃんがいました!」なんてことはザラにあったりする。
●ラスボス倒したぜ!→「まだダンジョン続くんだなこれが。さぁ真ボスにて盛大に h a g e よ う か」
●ラスボス倒したぜ!→「クックック……ついにここまで昇ってきたか。 ア イ ム パ ー フ ェ ク ト ソ ル ジ ャ ー 」
●ラスボス倒したぜ!→「制限時間内に脱出セヨ! あ、コンティニューは ラ ス 面 の 最 初 か ら な ! 」
●ラスボス倒したぜ!→「はっはっは、強制バッドエンドだ存分に鬱れ! トゥルーエンド? 次回作? そ ん な も の は な い ! 」
●ラスボス倒したぜ!→「エラー」→「画面真っ黒」→「画面真っ青」→「 顔 面 真 っ 青 」
どれかは誰もが体験した道であろう。
表面上のラスボスと裏のラスボスは異なる。
それは時として物語に重みを持たせるが、あまりに人口に膾炙しすぎて、
最近じゃもう裏ラスボスありきの展開がお約束になってしまっている感はある。
ついでに言うと中ボスが途中で味方になる展開もお約束。
00本編だと主人公は刹那だったが、最初のうちはラスボスが誰だかわからなかった。
コーラサワーやグラハム、セルゲイらは言わば刹那たちガンダムマイスターから見たら中ボスに過ぎなかった。
逆にコーラサワー達から見れば、刹那たちは最初からラスボスだった。
ここら辺りの「立場の違いの作り方」は00は非常に上手だった感じがする。
まぁその分、前期ラスボスである金ぴかさんがヒジョーに笑える人になっちゃったわけだが、それはまぁおもしろいからよし。
で、アリー・アル・サーシェスというキャラクターは本来、ガンダムマイスターたちからすれば『非常に強い中ボス』に過ぎない。
ただ、刹那視点で見ると、『自分を歪ませ、さらに世界の歪みの中でのうのうと我欲を曝け出している、中ボスを超えたラスボスに近い存在』なのである。
物語的には結局、更なる大きなボスであるリボンズの方に刹那が向かってしまったせいで、
『兄の仇を弟が討つ』というものごっついわかりやすくて極めて単純な展開の駒とアリーはなってしまった(まぁディランディ家の事件とか他にもあるけど)。
そして刹那は結局、『人類の真の超越者』となって映画のラストへと雪崩れ込んでいくわけだが、
穿った見方をすれば、『刹那がアリーを完全に打ち倒す』という要素は、『刹那が真のイノベイターになる過程には不要』と、敢えて制作側が外したのではないだろうか。
何故かと言うと、刹那とアリーは決して相互に理解は出来ないからである。
「互いに理解をしあうことの大切さ」をテーマのひとつとした00だったが、「しかし絶対にわかりあえない」という究極のジョーカーこそがアリーだった。
刹那が変革を迎えなければ、刹那が絶対に倒すべき相手となっただろう。
だが、刹那が真のイノベイターとして変わっていく以上、アリーはそのステージには立てなくなったのだ。
ある意味、切り捨てられたとも言えるかもしれない。
だが、ひとつだけ言えることがある。
アリー・アル・サーシェスは刹那に倒されなくとも、最後まで完全で純粋な『刹那の敵』だった。
間違いなく。
……で、なんでここではグラハムのラスボス扱いになったのか、なってしまったのか。
答は単純、刹那さんはここでは脇役だからです。
主人公はあくまでコーラサワーさん一択です。
コーラサワーさんがラスボスを倒す以上、コーラサワーさんと同格に近い個性を持っているグラハムにも異なるラスボスが必要だったのです。
仕方ないね。
◆ ◆ ◆
アリー・アル・サーシェスは額を掌で撫でた。
どこでどうぶつけたのか、少しばかり擦り傷が出来ている。
タンコブではないだけ、まだマシだろうか。
「クソったれめ、あのサムライカブレが」
額に置いていた手を振り上げ、アリーは近場の岩を殴りつけようとした。
が、止めた。
生身でそんなことしても痛いだけだし、意味が無い。
それに何より、撃墜されてからまだそれ程遠くへ逃げたわけではない。
何が原因で敵に見つかるかわからないのだ、下手なことをして位置がバレたらそれこそクソったれである。
「……暗くなるまで隠れていた方がいいか、それともとっととトンズラするか」
アリーはこっそりと、身を隠している岩場から外を伺った。
砂混じりの風が頬を薙いでいく。
少なくとも、視界に大地と空以外の異物は無い。
「やれやれ」
アリーは嘆息した。
生の身では目と耳と鼻に頼るしかない。
超能力者でもなし、レーダーもなし。
ここからオサラバするには、いささか難儀と言える。
逆に言えば、己の身ひとつなのだから、やり方次第ではいくらでもドロンは可能である。
選択肢は三つ、ある。
まず、とっとと逃げる。
安全さを取るなら、まずこれである。
次に、しばらく留まる。
周囲の無事を確認してから動けば、より生存率は高まるだろう。
無論、裏目に出ることもあるだろうし、何より無事を確認する手段が乏しい。
最後に、イオリアの研究所に引き返す。
部下たちやリボンズの状況を知る為ならこれが最も正しいと思える選択だが、
間違いなくプリベンターの面々も一緒にいる。
危険度は一番高い。
「さてさて、と」
敵に敗北した、という事実はアリーを苛立たせてはいるが、ヘコませてはいない。
凄腕の傭兵であるが、ここまで百戦百勝してきたわけではない。
傭兵にとっての真の負けは、自分の死である。
死んでなけりゃ、負けではない。
次の機会に勝てば良い。
傭兵のプライドは、別に戦国時代の武士のプライドと全く同じではないのだ。
「……よし、逃げるか」
あっさりとアリーは決めた。
色々と思うことはある。
が、やはりここは己の身の安全こそが第一であると、彼は判断した。
リボンズがプリベンターに勝ったのなら、いくらでも復帰の道はある。
勝敗が逆ならこれからが苦しいが、苦しいというだけで、不可能なわけではない。
スッ、と身を屈めると、アリーは岩場から離れた。
慌てず、急がず、ただし出来る限り迅速に。
単調にならずに、しかし最短距離で。
それこそが、逃亡の鉄則である。
「次は勝つぜ、プリベンター」
MS(ミカンスーツ)戦の敗北の場面が、アリーの脳内に蘇る。
彼はほとんど勝ちかけていた。
ソンナコト・アルケーは確かにいくらかダメージを負ったが、
それ以上のダメージを敵のMS(ミカンスーツ)に与えていた。
球体兵器ハッサクへの対策をいくら相手がしてきたとて、ハッサクはひとつではない。
複数で同時攻撃を行えば、相手のサムライカブレがどれほどの手練れだとしても、全てをかわし、打ち払うことは出来ない。
あと一押し、それでアリーの勝利となるはずだった。
だが、そうはならなかった。
「カミカゼって奴ぁ、馬鹿には出来ねぇって教訓か。しかし……」
ハッサクの残り数が少なくなったところで、アリーはトドメをさしに自ら仕掛けた。
無論、相手が近距離攻撃が得意(つーか、それしかない)なのは承知の上で。
アリーが向かってきたのを見て、当然グラハムも向かってくる。
そこをいなして、背後に回り込ませたハッサクを叩きつける。
つまりは、以前に戦ってグラハムを退けた時とほぼ似たような作戦である。
そしてハッサクは確かに、グラハムの駆る『カラタチ』の背に命中した。
確実に戦闘力を奪うはずだった、そして後は回避し得ない一撃を叩き込むだけだった。
だが、そうはならなかった。
何と相手は、背後からの直撃を謂わば推進力にして、そのまま突進してきたのだ。
避ける暇もなく、アリーは激突された。
ただぶつかっただけなら、双方ダメージは一緒だっただろう。
そう、ただぶつかっただけなら。
アリーのソンナコト・アルケーはトドメをさすために電磁警棒を振り上げたままだった。
グラハムのカラタチは、電磁警棒を前に突きだしていた。
衝突した瞬間、ソンナコト・アルケーの電磁警棒は天を向いていたが、
カラタチの電磁警棒は―――ソンナコト・アルケーのミカンエンジンを貫いていた。
「狙ってやったのか、それとも咄嗟だったのか」
アリーは、ほとんど勝ちかけていた。
だが、負けた。
「まぁ……どっちだったとしても馬鹿ってことだな」
走りながら、アリーはまた溜め息をついた。
いずれ、プリベンターには相応の仕返しをさせてもらう。
やられっぱなしでは、気が済まない。
それもまた、傭兵のプライドだ。
「大将とプリベンター、まぁどっちも頑張んな」
身を隠し、武器を手に入れる。
おそらくは捕まっているか、もしくは研究所に逃げ込んだ部下達を糾合する。
これからやることは多くある。
「いずれ―――どっちかに挨拶に行くから、よ」
固い足場を選びつつ、アリーは風とともに駆けていく。
まだ、街までは遠い。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――
コンバンハ。
アリーさんに関しては何書いてるのかわからなくなってきた。
多分年度末進行の陰謀だ。
報告書が全部悪いんだ。
ではまた近いうちに。
……と言っても4月は年度初めなもんでアレですが。
とにかく頑張ります。
>>490 乙であります
今回はややシリアスな話ですね、アリーは只では転ばない、て言うかなんか企んでる様なw
次回も楽しみです!
>>490 土曜日さん乙です。
>●ラスボス倒したぜ!→「はっはっは、強制バッドエンドだ存分に鬱れ! トゥルーエンド? 次回作? そ ん な も の は な い ! 」
そういやPS2のRPGで、両方のEDとも鬱エンド、てのがありましたね…
アリーはめげないで、リベンジの機会を虎視眈々と狙ってる様ですね。
なんか、プリベンターだけで無く、リボンズ一派までリベンジの対象に入ってる?
次回も頑張って下さい!!
>>490 乙かれ様です
流石アリー、往生際が悪いw
そこから彼がどんな手を打ってくるかが見ものですな
続き待ってます!
保守ウー
保守ワー
保守age
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
今日発売のスパロボで、本当にハムとコーラがプリベンター入りしてるらしいのですがwww
なんと!?
ハムは「火消しのライトニング」名乗るというノリノリっぷりが明らかになっている
コーラはその場に一緒にいるらしいということ以外はわからない
自分でプレイしてみないとな…Amazonめ…
マジか!?
まさかとは思うが、このスレを見ている人がスタッフに居たりしてw
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
すいません、年度初めなもので仕事がエライこっちゃになってなかなか暇が作れません。
4月中には必ず投下します!
AGE
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
充分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。
SF作家であるアーサー・C・クラークが生み出した有名な言葉である。
科学技術とはあらゆる物理学で説明が全てつくものである。
物理学的に間違っていれば、技術としては使い物にならない。
ぶっちゃけて言えば、「動かない」し「働かない」。
今日、当たり前のように皆が使っている車も、コンピューターも、全て整えられた物理学の上に成り立っている。
魔法は、謂わば超能力である。
魔力だ妖力だ呪いだと「言葉で説明」は出来ても、実際にはそのようなものは存在しない。
常在の力を超えるからこそ、超常の技と呼ばれるのであって、
つまりは物理学を超えた、物理学の範疇に無いものが魔法なのだ。
発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。
この言葉を少し言い換えてみよう。
発達した科学技術は、まるで魔法のように見える。
どうだろう、感じ方が違ってきたように思えないだろうか。
車、コンピューター、テレビ、その他諸々の文明の利器。
私達は、それらが「動く」ことを知っているし、「使える」こともわかっている。
だが、「どうやって動いているのか」を、果たしてイチから説明出来るだろうか?
車に乗る、エンジンを起動させる、アクセルを踏む、ハンドルを操作する……。
そういった一つひとつの動作は簡潔である。
自らの行為に明確に反応が返ってくるから、短い言葉で表現出来る。
だが、「どうやってエンジンが起動したのか」「アクセルを踏むと何故スピードが出るのか」「ハンドルをきると何故曲がるのか」……。
専門的な知識無しには、これらを上手に解説出来る人が、どれだけ一般人にいることか。
本を読めば技術的なことはわかる。
それは当然である。
しかし、車を使うのに、誰がわざわざ細部まで張り巡らされた技術についてことごとく理解しようと思うものか。
ここに、科学技術と魔法の接点がある。
つまり、「理解できない(していない)方法で力が動いている」。
魔法とはこの世にあらざるもので、科学技術は存在するものという絶対の違いはあるが、
感覚で捉える限りはそこに大きな差は無いということになる。
我々の生活は、そうした「得体の知れない魔法のような科学技術」に常に支えられている。
その「得体の知れない力」を先に伸ばすことに対し、常に人類は力を注いできた。
そして同時に、いくらでも伸び続けるその力に、恐怖も覚えてきた。
その力の使い方を誤るのではないか、その力が不意に人類に反旗を翻すのではないか、と。
この恐怖は、時として哲学にも余波し、さらに様々な文学のテーマにもなった。
専門家、技術者が理解していれば、問題の無い科学技術。
最低でも仲介する「販売者」や「流通者」がおおまかに説明出来る程度にわかっていれば充分な化学技術。
その広がりは、科学技術を深く知らずに使う人を増やし続けてきたとも言える。
テレビはスイッチを押せばつくじゃないか、使えるじゃないか、それ以外に何を知る必要がある?
大事なのは使い方で、細部知識では無い。
そう、「普通」に生活を送る分には何も知るべきものは無い。
だが、「普通」という「疑問を敢えて抱かない状態」こそが、科学技術を魔法を並列にしてしまう根源であるのだ。
近い将来か、それとも遠い将来かはわからないが、
いずれ人類は、「思っていることを委細洩らさずに伝達することが出来る技術」を開発するだろう。
学問のあり方を間違いなく変えるだろう。
究極の情報・技術の共有化。
「魔法」の存在しない世界。
そこでは、得体の知れない力に対しての不安など無い。
しかし果たして―――それは幸せな世界なのだろうか?
科学技術に恐怖を抱かなくなった時。
それは人類の進化の頂点である。
それ以上に、決して上ることのない、否、上ることが出来ない進化の最終点―――。
◆ ◆ ◆
「イオリア・シュヘンベルグの遺産、その一つ。―――『ヴェーダ』にようこそ。僕がリボンズ・アルマークだ」
薄暗い空間で、金色に輝いく瞳が二つ。
リボンズ・アルマークは眼前の「敵対者」達を見下ろしていた。
「ここにある壁―――いや、空間そのものが『ヴェーダ』という世界であり、人類を導く鍵になるんだよ」
芝居がかったリボンズの言葉がプリベンターやマイスター運送の面々に届くが、
別に感銘を受けたりは彼らはしなかった。
リボンズという存在を尊敬なぞしていないし、何よりナニを言っているのかさっぱりわからないからだ。
リボンズが遠回しにナニを言っているか理解出来るのは、この場には三名しかいない。
ゲーッ、上司からの呼び出しーッ
すんません、一端撤収します
深夜中に再投下出来るなら戻ってきます
無理なら2日か3日の夜になります、1日はちょっと終日動かないとアカンもんで
ごめんなさい
なんてこった!
ですがお待ちしています土曜氏さん
気をつけて
>>519 呼び出しとは大変ですね…
あまり無理をなさらずに
「イオリア・シュヘンベルグの遺産、その一つ。―――『ヴェーダ』にようこそ。僕がリボンズ・アルマークだ」
薄暗い空間で、金色に輝いく瞳が二つ。
リボンズ・アルマークは眼前の「敵対者」達を見下ろしていた。
「ここにある壁―――いや、空間そのものが『ヴェーダ』という世界であり、人類を導く鍵になるんだよ」
芝居がかったリボンズの言葉がプリベンターやマイスター運送の面々に届くが、
別に感銘を受けたりは彼らはしなかった。
リボンズという存在を尊敬なぞしていないし、何よりナニを言っているのかさっぱりわからないからだ。
リボンズが遠回しにナニを言っているか理解出来るのは、この場には三名しかいない。
「そう、まさにパンドラの箱とでも言うべきものだ」
パンドラとはギリシア神話に登場する人物であり、人類初の女性であるとされる。
「君達にとっては災いであり、僕にとっては無限の希望を与えてくれるものでもある」
神々から与えられた箱(本来は箱ではなく甕だそうである)を好奇心のままに開けてしまい、
パンドラは世界にあらゆる災厄を解き放ってしまう。
「いや、君達にとっても希望かな。もっとも偽りの希望だけどね」
箱に最後に残ったものが希望である、というのが一般的な説になっている。
が、解釈を異にするものもあり、希望ではなく偽りの希望、すなわち絶望することすら許されないという説、
希望に縋るが故に永遠に報われないとする説もある。
その神話に準え、「パンドラの箱」とは「決して開けてはいけない、触れてはいけない禁忌のもの」という意味で慣用句として現代では使われる。
日本で言えば、浦島太郎の玉手箱とほぼ同じようなものであろうか。
「これの価値を正しく理解出来るのは、イオリアの他は僕だけなのさ」
リボンズの独演会は続く。
つーかこのアンちゃん、懐古趣味だけじゃなくて厨二病のケがある気がする。
言葉の端々からそのニオイがプンプンする(だいたい原作の00でもそんな感じだったような)。
「自分は他者とは違う」という思春期特有の思い込みが病原であるこの厨二病、
誰でも一度は罹るもんであるが(逆に罹らないとおそらくマズい)、
変にナルシスティック成分が加味されると、何と言うかマイナスとマイナスがかけあわさって最強(最凶、最狂)に見える、というヤツで、
もっとぶっちゃけて言うと痛い困ったちゃん以外のナニモンでもない。
ちなみに言うと、彼がリーダーとして活動していたアイドルグループ『イノベイター』の歌の歌詞は彼が作っている。
その内容はまあ、推して知るべし。
まぁそれでも全世界的に売れちゃってたわけだから、
OZの動乱後の世界はよっぽど甘い幻想と昔は良かった感に飢えてたんだな、と。
つーか「自分は他者とは違う」なんて当たり前なわけで、どれだけ似た双子でも全く同じ人間では決してない。
「誰もが違ってそれでいい」と気付くまでが厨二病であり、
それを納得するか、納得出来ないかでその後の人生は変わってくる。
納得出来ないうちの才能を持ったごく少数が、アーティストとして世界に自己を発信出来るようになる。
で、大多数が社会に馴染めない『浮いた奴』になっちゃうわけだ。
正味、遅くとも40歳になる頃までには『現実に負けて』(と思い込んで)、社会に合わせる人間になっていく。
「リボンズ・アルマーク。我々は君の下らない演説を聞きにきたわけではないんだ」
ティエリア・アーデが毅然として言い放つ。
そう、プリベンターもマイスター運送も、ここにリボンズに対して融和を求めに来たわけではない。
イオリアの遺産を我欲のままに好き勝手に使われるのを止めに来たのだ。
「余裕が無いのは後が無い証拠でもあると思うよ、ティエリア・アーデ」
「何とでも言うがいい。君の野望はここで潰える」
「君とスメラギ・李・ノリエガ……いや、リーサ・クジョウと呼んだ方がいいかな? とにかく策は僕に筒抜けだったんだよ」
本名を呼ばれて、スメラギの顔が一瞬曇る。
「スメラギで結構よ、リボンズ・アルマーク」
そうですか、という感じに肩を竦めてみせるリボンズ。
「ヒイロ、ヒイロ」
「何だ、デュオ」
「俺、あいつ気にくわねぇ」
「同意しかねるな」
「え?」
「俺は『物凄く』気にくわない」
小さな声で言葉を交わすデュオ・マックスウェルとヒイロ・ユイ。
その思いはどうやら他の面々も同じようで、温厚なカトル・ラバーバ・ウィナーですら眉根を寄せて不愉快そうな顔をしている。
ただ一人違うのは、無表情を貫いている刹那・F・セイエイだけである。
まぁこの兄ちゃんはもともと表情が乏しい方ではあるが(彼に比べるとヒイロはよっぽど感情表現豊かである)。
「問答なぞ無用だな。殴っていいか?」
張五飛が拳法の構えをとる。
「フライパン投げていい?」
ヒルデ・シュバイカーがどこから出したのか、フライパンを振りかぶる。
「あいつの口にこれを挟んでやるですぅ」
ミレイナ・ヴァスティが栞を持って必殺仕事人ばりにポーズをとる。
やだこの武闘派ども。
ちょっと怖い。
「待ってくれ」
ティエリアが一歩、前に進み出る。
「ここにこのティエリア・アーデが来た時点で、リボンズ・アルマークの敗北は決まっている」
眼鏡をそっと取ると、ティエリアは床へと放り投げた。
乾いた音とともに、眼鏡は転がっていく。
「マイスター運送あるヴェーダの端末から……すでにこの『本体』への干渉は終えている!」
まるで色素が置き換わるように、ティエリアの瞳のが変化をしていく。
金色へと。
「この『本体』に直接アクセスをしたその時、ヴェーダは僕の緊急管轄下に入る」
瞳の色と同調するように、周囲の壁も銀色の輝きを放ち始める。
「トライアルシステム、『イノベイド』の限られた者にのみ許された力! ヴェーダと一時的に完全リンクし、全ての『イノベイド』に対しての強制同調を可能とする!」
「……」
「リボンズ、ここに至っては君にもそれを止められない!」
「それが君とスメラギ・李・ノリエガの策か。やっぱりと言うべきか否か、まぁわかってたことだけどね」
ふぅ、とひとつ息を、リボンズは吐いた。
慌てても、焦ってもいないように見えるその姿に、スメラギとサリィ・ポォは懸念を覚えた。
スメラギはヴェーダを知るが故の理屈、そしてサリィは態度に対する感情をそれぞれベースにして。
「トライアルシステムは、確かにイオリアによって『マイスター』の名の側にいることを許可された『イノベイド』だけが使えるものだ」
「これまでだ、リボンズ・アルマーク」
「僕はトライアルシステムを使えない。だから、それに関しては君に対抗出来ない。だけどね」
「……何っ?」
パチン、とわざとらしくリボンズは指を鳴らした。
小さくゆらりと、リボンズの金の瞳が揺れる。
すると。
「馬鹿な!?」
壁の銀の光はその明るさを弱め、代わりに薄い赤色の光が再度、周囲を支配していく。
「僕はねぇ、『最も古いイノベイド』なんだよ。その意味を君は考えたことがなかったのかい? ティエリア・アーデ」
「……まさか!?」
「ヴェーダの一番深い部分に関わりを持つことが出来る。だからこうして―――」
銀の光は完全に失せ、赤のみとなる。
まるで血のように、その色はプリベンターとマイスター運送の面々を包む。
「トライアルシステムがいかにも『効いていた』かのように偽装することだって出来るんだよ」
「……くっ!」
「だから言ったじゃあないか、筒抜けだったって。君はスタートラインに立ったその時点で既に、僕の掌の中だったのさ」
「むぅ……!」
顔を歪めるティエリア。
スメラギも唇を噛んで俯く。
何かしらの対抗策を打たれることは予想していたし、それに対するさらなる策もいくつかは考えてあった。
だがまさか、砂の山を砂場ごとひっくりかえすようなことをしてくるとは思わなかった。
「クジョウ……!」
ビリー・カタギリは小さく揺れたスメラギを支えようと手を差し伸べたが、途中で止めた。
彼の頭脳もまた、スメラギに劣るものではない。
ヴェーダやイノベイター……イノベイドがどのようなものであるか、過去に受けた説明と、
そして今目の前で起こっている光景から、推測を立てる。
イオリア・シュヘンベルグの遺産、計画。そしてリボンズの目的とは……。
「リボンズ・アルマーク」
「ん? 何だいビリー・カタギリ博士」
「君は……一言で言うと、『新人類』になりたいんだね?」
くいっ、とリボンズは口の端を釣り上げた。
「惜しいね」
「……違うのかい」
「なりたいんじゃあないんだよ。もうすでに、なっているからね」
◆ ◆ ◆
「で? 俺は動かないコイツに乗って、何をすりゃあいいんだよ?」
『シークヮサー』のコクピットで、パトリック・コーラサワーは首を傾げた。
さっきまでぎゃあぎゃあと騒いでいた彼だが、
シーリン・バフティヤール、クラウス・グラード、バラック・ジニンらに不意に担がれると、、
強引にパイロットスーツに着替えさせられ、『シークヮサー』の操縦席にあっと言う間に放り込まれてしまった。
「待っていればいいと思うよ」
リジェネ・レジェッタは、ポソリとコーラサワーの質問に答えた。
コーラサワーに搭乗の準備をさせるように仕向けたのは、もちろんリジェネである。
「待つって、いつまで」
「さあね」
「待つって、誰を」
「さてね」
「待つって、何を」
「……はぁ、子供じゃあるまいし」
リジェネは苦笑した。
リボンズ・アルマークから完全にリンクを断たれた彼だが、
遺伝子情報が一緒なこともあって、ティエリア・アーデを経由して、僅かだが現状を知ることが出来る。
最も、理屈だったものではなく、「ああ、こんな感じになっているみたいだな」という、本当に漠然としたものだが。
それすらも、こうしてヴェーダの『本体』に近づいたからこそ出来ることで、
ここに到着するまでは、二人に『繋ぐ』ことは全くの不可能だった。
「確認するけど、指紋をはじめとする生体認証はクリアしたんだよね」
「だからクリアしてるっての。コクピットはこうして起動するんだからよー」
ミカンエンジンの最終起動だけが出来ない。
それが『シークヮサー』の今の状況である。
「そしてロックを外すのか、何かしらの解除パスワードだ、と」
「まあ音声、もしくは打ち込みでな。いや、普通それ以上ややこしい機能なんてつけないだろ」
「そう言い切れるのかい」
「……俺、この機体の操縦者なんだけどな」
「いや、信じていないわけじゃあない。信じきれないと言うか、信じていいものかどうか判断に迷うと言うか」
「何かすげぇバカにされてる気がするんだが、オイ」
「さっきちょっと触らせてもらって、そんな感じだと思ってはいるけどね」
「じゃあ聞くんじゃねーよ!」
支援
コーラサワーさんの漫才力は健在。
とうとうリジェネともやりはじめた。
「まぁ、とにかく待ってほしい」
「……得意じゃねぇんだよ、待つのは」
「わかる気もするけどね。今はそれしか出来ないし、それが……」
「それが?」
リジェネは一端、言葉を止めた。
確証はあるようで無い、無いようである。
寧ろ願望に近いのかもしれない。
奇妙なものだ。
イノベイターとして……『イノベイド』として活動している時は、
こんな気持ちになったことはなかった。
何も断定出来ない、漠然とした感覚は、『人間』という『劣った種』特有のものだと思っていたのに。
「……いや、まぁこの機体が動いたら、とにもかくにもパトリック・コーラサワー、勝利は君のものになるよ」
「信じていいんだな? 俺ぁ信じるぞ? あ、言っとくけど俺は普段は大佐の、嫁さんの言葉しか信じないんだからな」
「……そう。まあ、その、パンドラの箱の底に残った最後の希望なわけさ、この機体と、君は」
「もっと分かりやすく言えよ、わかんねーだろ」
「いや、十分わかりやすい表現だったと思うんだけど」
「わかんねぇよ。パンドラなんて名前の女と付き合ったこと、無いし」
「えー、あー、うん。もういい」
二人の漫才、もとい会話をすぐ側で聞きながら、シーリンは思った。
コーラサワーに関してはパンドラの箱は『パンジャンドラムの箱』の略だったりしないだろうか、と。
どっちに転がっていくかわからないという意味で。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――
すんません遅れました。
しかし、最終局面にプリベンター・マイスター運送・カタギリにピーリス達も放り込んだ割には、
キャラごとの台詞配分がやたら偏ってしまい痛恨の極みですわ。
もっとこう、それぞれに喋らせたいんですけどね。
で、ここまで数年間ダラダラ続けてきてやっとわかったことが一つあります。
この話、やっぱりギャグをベースにしてコーラサワーととにかく絡ませないと、コーラサワー以外がホント喋らない(喋らせにくい)。
コーラサワーの他で勝手にキャラが喋ってってくれるのって、グラハム、デュオ、五飛、アリーくらい……。
では、また。
>>530 土曜日さん乙です、リアルタイムで読ませていただきました!
やはりこのリボンズもムカつきますね、プリベンダーの面々に同意w
刹那は只一人無表情だったわけですが、彼も内心では腹が立ってるのか、それとも他に思う所が有るのか?
で、コーラサイドですが、やはりコーラがリボンズに対するジョーカーとなるのかな?
それが直接的なものか間接的なものか…
次回以降が楽しみです!!
>>530 乙です
リボンズは原作と同じで何か腹立ちますねw
一同の気持ちが分かる気がするw
でも、コーラさんならきっと何とかしてくれる!!
次回も楽しみにしてます!!
>>530 土曜日氏、乙であります!!
リボンズは今の所余裕ぶっこいてる様ですが、
只の人間であるコーラさんが、リボンズに対しての切り札になりそうな予感がw
まあ、リボンズだけでなく、所在不明のアリーも不気味ですが…
続きお待ちしています
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
6月頭に次回投下します
仕事が忙しいもんで、ホントすいません
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
自己顕示欲。
それは人間の持つ欲求の中でも、所謂三大欲求に次ぐ、あるいは並ぶ程の欲求である。
社会という集団を形成し、その中で生活を営む人間にとっては、
最も『コントロールすべき欲』であると言える。
逆にタガを外してしまうと、ただの『オレオレ主義の嫌な奴』としてハブられてしまう。
で、この物語の主役、我らがパトリック・コーラサワーさんである。
この御仁、とにかく自己顕示欲の塊であった。
さぞかし多くの同僚や上司から嫌われまくったであろうが、
『何だかんだでMS(モビルスーツ)の操縦はエース級の腕前』
『それなりにイケメンでレディキラー』
『良い意味でブレがなく、危険思想に染まりそうもない』
という美点(と、いうことにしておこう)があった。
それに何より、彼を完全に近いレベルで制御出来る、カティ・マネキンという存在がいた。
そして監督の演出と脚本家の手腕だろうが、
『不死身』『ウザいけど愛嬌がある』『本筋に絡ませずあくまで添え物』と、上手い具合に扱うことで、
視聴者に強烈な不快感を抱かせなかった。
グラハム・エーカーやアリー・アル・サーシェス、アンドレイ・スミルノフ、
そしてリボンズ・アルマークらが、感情の負の面を表に結構見せていた分、
意図して対照的に描いてんじゃねえかレベルの、良い意味での『キャラの薄さ』だった。
「尺の関係で出番が削られた」ことが、ここまで良い方面に働いたキャラクターも珍しいのではないだろうか。
作中でコーラサワーの他に、自己顕示欲が強かったキャラクターと言えば、
まず主人公の刹那・F・セイエイ。
最後は純粋進化イノベイターとして悟りの境地に達しちゃった部分があるが、
「俺がガンダムだ」なんてのは、ある意味自己顕示の極地である。
絶望の淵からガンダムに救われ、ガンダムを兵器を超越する物と信じ、憧れ、果ては同化すら願った。
極地と先述したが、正確に言えば、少年期に変質した(させられてしまった)自己顕示欲の果てが「俺ガン」であると言える。
想像でしかないが、もし平和で穏やかな世に生まれていたら、
寡黙ではあるがそれなりに親しみやすい人間になっていたかもしれない。
ヒイロ・ユイと共通点が多いように思えるが、何よりの相違点は、
ユーモアセンスがあるかないか、であろう。
刹那の好敵手、ブシドーさんことグラハム・エーカーも強烈な人だった。
もっとも彼は他者に認めて欲しいと言うより、
自分が自分をどうにかして認めたい、極みに近づきたいという思いが強く、
それをあんまし喧伝しない、つーかグラハム語で表現するもんだから、
自己顕示的に見えちゃっただけかもしれない。
まぁそれでも研鑽の結果ブシドースタイルになっちゃったりする辺り、
元から持ってる乙女座ロマンティック&ナルシスティックな部分と兼ねあって、
異種的な自己顕示欲のキャラクターだったとは言えるだろう。
異種的と言えばアリー・アル・サーシェスもだが、
彼が持っているのは、彼自身が作中で語った通り、
衝動に忠実で、より原始的で直接的な欲求であり、
自己顕示欲とは少し違うモノである。
刹那とグラハム、そしてコーラサワーを超える自己顕示欲を持つキャラクターの極めつけは、
説明すら不要であろうが、当然リボンズ・アルマークである。
イオリア・シュヘンベルグの計画を自らの手で成し遂げようとし、
自己流に歪めていき、イオリア計画の中では単なる「使い捨て」レベルでしかない自分を、
人類の頂点に立たせようとした。
人工生命体であり、人間の基準に合わせて彼の欲求を語ることはあるいは出来ないかもしれないが、
それでも作中で見せた彼の一連の行動は、
「ザケんなよ、俺はスゲーんだよ、だから俺が一番エライんだよ」という中学二年生な感情の発露に、
多少の婉曲性をスパイスしただけのものにしか見えない(無論、意図的な部分はあろうが)。
ダブルオーライザーにビクり、茶化してきた王留美に八つ当たりする場面なぞ、
どう見ても『超越者』には見えないだろう。
ただ、二期は小物臭がして株が下がったという意見があるが、
これは監督と脚本家が「リボンズのキャラクターとしての地を見せていった」だけのことであろう。
監督がどこかのインタビューで語った通り、リボンズは物語の上での『悪』としての象徴的な存在でしかなく、
決して『世界の歪み』でも『諸悪の根源』でも『悪の大王』でもない。
『変革者としての刹那』に対する、
『物語上のラスボス』にしか過ぎないのだ(本当のラスボスはイオリアその人であろう)。
◆ ◆ ◆
自分で作った舞台に、「主役だ」と胸を張って上がっている演出家。
それが、リボンズ・アルマークに対する、ヒイロ・ユイの印象だった。
変に芝居じみているのは、おそらく絶対的か、それに近いレベルの自信があるのか、もしくは勘違いしているか。
そのどちらかだな、とも思った。
芝居がかっている人物として、ヒイロの記憶には、故トレーズ・クシュリナーダがいる。
が、彼は確固たる独自の信念と美意識があった。
それ故に多くの人々からカリスマとして崇められた。
リボンズとトレーズがどうしてもイコールで繋がらないのは、
リボンズから奇妙な「俗っぽさ」が漂ってくるからであろうか。
「僕は、『新人類』そのものなのさ」
リボンズの演説は続く。
「それも選ばれてなったんじゃあない、自ら進化してなったんだ」
その言葉を聞いて、陶酔の極みか、と思ったのは張五飛である。
五飛もまた、リボンズに似た人物としてトレーズを思い浮かべたが、
同時に決定的な違いがあることを感じていた。
トレーズは組織の上に立つべき人間として、揺るぎの無い自己の『道』を持っていた。
それは他者とすれ違うことはあっても、決して相いれないものではなかった。
何故なら、トレーズは他者を理解しようと努めていたからだ。
道が違えていたとしても、一方的に拒絶し通すことを、彼はしなかった。
だが、リボンズはそうではない。
彼の思うところが正しく、それ以外は正しくない。
全身からその匂いを発している。
「これから僕が行うことは、人類にとって利益となるものさ」
ふわり、とリボンズが手を一振りする。
それに応じ、周囲の壁が薄い赤一色から、ゆったりと多色へと変じていく。
無機的でありながら有機的、
無秩序でありながら統一されたもの、
そんな印象を与える変化だった。
「全て等しく平等で、全て等しく自由。地球という殻を破り、大宇宙に飛び出すことが出来る資格を得る」
「意味がわからんぜ」
「同感だ」
「まともな言葉で喋ってほしいね」
ニール・ディランディとライル・ディランディのロックオン兄弟、そしてアレルヤ・ハプティズムが小さく言葉を交わし合う。
何となくだが、リボンズが言わんとしていることはわかる。
だが、それが意味することがわからない。
だからと言って積極的に理解したいという思いにもならない。
「マイスター運送はイオリアの計画の守り手だと自負しているかもしれないが……」
「……そこまでエラそうなものではないわ」
低く、スメラギ・李・ノリエガが呟く。
策を破られた以上、明るくは振る舞えない。
が、膝を屈することも出来ない。
それこそ、イオリアの計画を守る者として。
「ここまでご苦労様、と言わせてもらおうかな」
「どこまでも上から目線だな。そこまで偉いのか、お前は?」
ティエリア・アーデが言葉を返す。
イオリアの計画の目指すところは、確かに全ての人類が等しく変革を迎えることにあった。
だがそれは誰かに強引に導かれてのものではなく、
緩やかに、しかし確実に進められるものであったはずだ。
「新人類なんてものじゃあない、神だな。いや、神きどりだ」
ビリー・カタギリは一つ、首を振った。
その横で、ソーマ・ピーリス、アンドレイ・スミルノフ、絹江・クロスロードが頷く。
神を自称した人間は、歴史上多くいる。
だが、当然ながら神そのものになった人間は一人としていない。
宗教の創設者がその宗教の中で神扱いされる。
せいぜいそれくらいの程度だ。
その意味で言えば、彼はイオリア教の神になりたいのだろうか。
イオリア・シュヘンベルグという主神を追い落として。
そう考えて、またビリーは一つ、首を左右に振った。
あまりにも馬鹿馬鹿しい話である。
神などはいない。
居たとしても、それは人の目に見えるものではない。
「……多分、あいつが作りたい世界には、『公的福祉』とか『社会保障』なんてもんは無いんだろうな」
「『平等という名前の不自由』『自由という名前の不平等』はあるかもしれんな」
「フライパンでぶん殴ってやろうかしら。相当ムカつくわ」
「反骨とか反逆とか無いのはつまらんですぅ。灰色の社会ですぅ。ラノベが存在しない世の中なんてクソですぅ」
デュオ・マックスウェルとトロワ・バートン、ヒルデ・シュバイカー、ミレイナ・ヴァスティは揃って肩を竦めた。
社会という枠組みを改革するのではなく、人類という種そのものを改革することで世界を変える。
不可能ではないだろう。
が、簡単な話ではない。
だいたい、同意がどこまで得られる話なのか。
お前達を進化させてやるからありがたく思え、ただし進化は俺の思うカタチでだ、と言われて、
心の底から感謝する人間がどれだけいるのか。
「イオリアの計画を、自分のものとする。それがあの人の狙いですね」
「簡単に言ってしまうと、そういうことなんでしょうね」
結局は支配者になりたい、そういうことか。
カトル・ラバーバ・ウィナーとサリィ・ポォはそう思った。
シンプルに考えると、答もシンプルになる。
リボンズ・アルマークは、そして彼に属する者は、
今の人類社会を乱すものであり、プリベンターの敵である。
向こうもこちらを取り込むつもりなど毛頭ないだろうが、
こちらもまた同様である。
人類の進化、まことに結構。
だが、リボンズ・アルマークの主導で行われるなど、認めるわけにはいかない。
「君達の怒りと悔しさ、その熱が空気を通じて伝わってくるよ」
「どうせならそのまま焼け死んでくれたらありがたいんだがな」
リボンズとティエリアが言葉の剣を撃ち合わせる。
「ご期待に副えなくて残念だね」
「別に構わない。自ら倒れるのと、我々に倒されるのと、大きな違いがあるわけじゃあない」
「ふん、下等種が……」
にわかにリボンズが、口調を変えた。
金色の瞳が、さらに強く輝く。
そしてそれに呼応するように、リボンズの背後に多くの金の点が浮かび上がる。
機械ではなく、生命体が発するその光は、
リボンズのものと同様、瞳のもの。
「君達はすでに詰んでいる。出来るのは、僕が旗を振り上げる姿を黙って見ている、それだけだよ」
リヴァイヴ・リバイバル、ヒリング・ケア、ブリング・スタビティ、デヴァイン・ノヴァ。
そして彼らと塩基配列パターンを同じくする遺伝子を持つイノベイター……いや、多くのイノベイド。
まるでアンコールで舞台に並ぶ役者のごとく、隙間もなく整列する彼ら。
一番端っこでアレハンドロ・コーナーが一人だけ体をクネクネさせながらウットリしているが、
まあこれはどうでもいいであろう。
「僕がヴェーダに指示を出したその瞬間、世界は変わる」
「具体的なことを言ってもらわないと、信じられないな」
「簡単なことさ。ヴェーダから世界中の全てのコンピュータに強制アクセスをして、その機能を止めるだけだよ」
「何だと……!?」
ティエリア・アーデ、そしてプリベンターとマイスター運送。
全てが息を飲んだ。
そんなことをすれば、どうなるか明白である。
「馬鹿な! 大混乱なんてものじゃない。全ての人類の生活がストップする!」
「積み木と同じさ。新しいモノを作る為には、一度壊さなければならない」
「ふざけるな!」
「想像の為の破壊、それはイオリア・シュヘンベルグも望んでいることだよ」
「詭弁だ! イオリアとお前では、望んでいるものが違うだろう!」
「同じだよ。いや、同じになるのさ!」
パチン、とリボンズが一つ、指を鳴らす。
等しく同じ歩幅、歩調で前に一歩踏み出すイノベイド達。
「世界中にイノベイドはいる。社会に溶け込んでいる。混乱した世界で、彼らが僕の意思を届けるポストマンとなる」
「ヴェーダの意思がそれを認めない!」
ティエリアの毅然とした声は、だがリボンズを揺るがせない。
「ヴェーダの意思は、僕の意思だよ」
ここで不意に、一人の女性が頭を抱えてうずくまる。
「アニュー!?」
ライル・ディランディが叫び、その女性、アニュー・リターナーを抱える。
「おいどうした、アニュー、アニュー!」
「ライ……ル、あた、まが……!」
ライルの腕の中で細かく震えるアニュー。
その彼女の瞳が、うっすらと金色の光を帯びていく。
「リボンズ! お前、まさか!」
「まさかも何も無いよ。彼女も僕達の仲間だったということさ」
「嘘だッ!」
アニューを抱きながら、叫ぶライル。
アニューは彼の恋人であり、兄を除けば最も近しい存在である。
そんな彼女がリボンズの仲間であったなど、信じられないし、信じたくもない。
「まあ、彼女は何も知らないけどね。それでもスパイとしては十分だったよ」
「てめぇ……!」
ライルの言葉と眼光に灼熱が宿る。
「あー、もう決定的だな。俺、あいつボコるわ」
「待てデュオ、それは俺にやらせろ」
「中国拳法の神髄を叩き込んでやる」
デュオ、ヒイロ、五飛の三人が一歩、前に進み出る。
マシンの扱いだけではない。
生身の格闘もそれなりに通じている彼らである。
いくら相手が普通の人間より筋力や反応が高い超越種―――イノベイドとやらであろうとも、ここは退けない。
それに何より、そろそろムカつき加減が限界ラインを突破しつつある。
だが。
「……待て」
その三人よりさらに前に、進み出た者がいる。
「何だよ、邪魔を……ッ!?」
抗議しようとして、デュオは言葉を止めた。
前に立ったその人物もまた、リボンズ達と同じく、金の瞳をしていたからだ。
「お前、まさかあいつらの」
「リボンズ」
デュオの疑問に答えず、その人物―――刹那・F・セイエイはリボンズの方へと体を向けた。
「その瞳は……? だが、君はイノベイドでは……」
「ヴェーダの本体はここではない。……月の裏側だ」
「なん、だと……?」
それは、リボンズがこの場で見せた初めての動揺だった。
僅かに体を揺らすと、眉根を寄せる。
「イオリアの全てを知っていると思っているようだが、それは違う」
「刹那!? 君は何を言っている?」
刹那の瞳の色、そして語る言葉の内容に、味方のティエリアもまた、平静ではいられない。
一体、突然何だというのか、何が刹那に起こったのか。
「……」
刹那はしゃがむと、右手の人差し指をそっと床に押し当てた。
「!?」
その瞬間、激しい轟音と共に、床が、いや部屋そのものが揺れ始めた。
「何をした! 刹那・F・セイエイ!」
叫ぶリボンズに、だが刹那は言葉を返さない。
返したのは、口から発する音ではなく―――。
『ここは、ヴェーダの地上における分室みたいなもの』
脳内に響く刹那の『声』に、ティエリアやアニューを含む全てのイノベイドが反応する。
皆一様に顔を刹那に向ける。
刹那を中心に交錯する、無数の金色の視線。
「これは……上昇している?」
巧みにバランスを取りつつ、トロワ・バートンはそう判断した。
周りのメンバーは振動でまともに立つことが出来ず、ほとんどが床に膝をついている。
トロワと同じようになんとか立位を保てているのは、
張五飛、アレルヤ・ハプティズム、
そして件の刹那・F・セイエイくらいである。
デュオなどはふらついたヒルデを抱えた反動で転倒し、
さらにその上からミレイナと絹江が倒れてきて、三人分の重さで潰されている。
状況が状況だけに、異性三人に圧し掛かられても、デュオも嬉しくも何ともないであろう。
「バカな! こんな仕掛けに、僕が気付かないはずがない!」
『自分を過信した結果だ』
「何だと?」
『ヴェーダを取り込んだ。そう思い込んでいただけだ』
「……!」
『普通の人間なら……よく調べたら気付いただろう、何しろ何年も前の仕掛けだ』
「刹那・F・セイエイィイッ!」
お前は人間よりも下だ。
そう刹那に言外に言われた気がして、リボンズは激昂した。
『おそらく、ヴェーダの地上の管制室としてこの部屋はある』
『この規模で、本体ではないと君は言うのか?』
冷静さを幾分取り戻したティエリアは、言葉ではなく、脳で直接『会話』をした。
刹那はイノベイドではない。
ないが、それに近い存在になっている。
元からなのか、それともそうなったのかはともかく……。
『ヴェーダの本体を、直に見たことがあるのか? ティエリア』
『……』
『ヴェーダは……いや、今はこの話は後にした方がいい』
『刹那?』
『あと数分で、この部屋は地上に出る』
刹那はリボンズからも、ティエリアからも視線を外した。
全く別の方向、振動する天井の一角を見つめる。
いや天井ではなく、彼が見ているのはその先の―――
◆ ◆ ◆
「来た!」
「わっ、急に叫ぶなよ!」
リジェネ・レジェッタの不意の大声に、パトリック・コーラサワーはいささかオーバーに身を躍らせた。
シェー、という言葉が似合うだろうその格好に、リジェネはしかし突っ込まない。
そんなことより、もっと大事で、最も望んだことが今、起きつつある。
「本当に……来た!」
来た、という表現は、もしかすると間違っているかもしれない。
だがリジェネは、他の言葉は思いつかなかった。
「トレーラーッ!」
リジェネは続けて、彼の後方にあるプリベンターのトレーラーに向けて叫ぶ。
「なに、何なの?」
「……全員、整列待機ッ!」
きょとんとするシーリン・バフティヤールに対し、バラック・ジニンは流石にASSの部隊長、即座に部下に指示を飛ばす。
リジェネが何を言わんとしているか細かくはわからないものの、意図はおおまかにわかる。
何かが起こるのだ、そして、それに備えなければいけないのだ、と。
「ハンガーのハッチをオープンしろ!」
「わ、わかったわ!」
リジェネに言われるまま、理解しきれないまま、シーリンはトレーラーからハンガーのハッチ開閉操作を行う。
緩やかな振動と共に、『シークヮサー』の頭上に空が広がっていく。
「パトリック・コーラサワー!」
「だから叫ぶなって! これだけ近いんだから聞こえるっての!」
「コクピットから出るな! 動くな!」
「んなこたさっき言われてわかってるっての! で、何なんだよ!」
くしゃり、とリジェネは自分の前髪を掴んだ。
逆転への奇跡、それがまさに、やって来つつある。
そしてそれに、自分が介在することが出来る。
何と言う高揚、スリル、喜び。
「刹那・F・セイエイ……そうか、君がそうなんだな!」
「は? え? 何言ってるんだお前?」
「まさかこんなことが……いや、これすらもイオリアの計画の内なのか……?」
「おい、お前大丈夫か? 陽気にヤラれたか?」
コーラサワーの言葉を余所に、リジェネは眼鏡を取ると、宙に投げ捨てた。
緩やかな弧を描いて、それはハンガーの床へと落ちていく。
「イノベイドを超える……本当の新人類、イノベイター! それが!」
コーラさん、ポカン状態。
まぁコーラさんでなくとも、そうなったであろう。
リジェネは誰と話をしているのか。
リジェネは誰の声を聴いているのか。
「刹那・F・セイエイ!」
コーラサワーの横で、リジェネはさらに叫んだ。
開閉ハッチの隙間から、その面積を増していく空に向かって。
「聞こえているだろう、いや、聞いてくれ!」
「!? お前、目が!」
コーラサワーは大きく口を開けた。
何をリジェネは言っているのかわからない。
おまけに、瞳の色が何時の間にか金色に変わっている!
こいつ何だ、変人か?
ああもう、どうなってんだ。
何だか揺れが強くなってきた気もするし、
おいおい、ハッチが壊れてんじゃねーだろうな。
「音声でなくとも君には聞こえるだろう。だが、一人の『人間』として、君に声を大にして伝える!」
リジェネの声、そのトーンがひとつ上がる。
「そこにいるプリベンターのリーダーでも誰でもいいから聞き出してくれ、そしてこちらに教えてくれ!」
天から一転、今度は地に視線を向けるリジェネ。
その先には、何も無い。ただハンガーの床があるだけである。
だが、まるでそこに、いやその床の向こうに何かを見るかのように、リジェネは視線を動かさない。
「このMS! 『シークヮサー』の起動ロック解除のパスワードを! 刹那・F・セイエイ!」
リジェネの叫びとほぼ同時に、
ハンガーのハッチは完全に開き終わった―――。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――
遅れてすいませんでした。
さて、ぼちぼち本当に最終局面です。
では、また。
>>561 乙〜
リボンズ調子に乗ってたのに、逆転されて涙目ですねw
>>561 土曜日さん乙です
このSSの刹那も、本編と同様にイノベイターに覚醒ですか
しかし、リボンズでさえ知らなかった事を何故刹那が知ってるんだw
何にせよ、リボンズは美味しい所を持っていかれた、という感じですねw
次回以降も期待しています!
>>561 乙であります!!
刹那は本編準拠で覚醒、リボンズはとたんに小物っぽくなってしまいましたねw
次回はいよいよコーラさん活躍の時が来るのか?
続きを待ってます!
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
ここ二週間程体調不良で休んでおります
もうしばらくで回復しますので、その際に投下します
保守ウー
保守ワー
今月末に次回を投下します。
腰痛が悪化して、その回復に時間がかかっておりました。
座ってても横になってても、同じ体位で長時間過ごすことが出来ず、PCの前にいることすらしんどかったものでして。
間が空きすぎて本当に申し訳ございません。
>>584 もしかしてぎっくり腰ですか?
あまり無理しない方がよろしいかと…
保守ウー
保守ワー
相手が勝ち誇った時、そいつはすでに敗北している。
そう言ったのはニューヨークの某不動産王だが、
敵を目の前にして過剰に余裕を見せる(つまり慢心している)のは、間違いなく、『敗北フラグ』である。
恋愛、死亡と並ぶ三大フラグのひとつである敗北フラグは(他には生存フラグ、再開フラグなどがある)、
他の二つに比べると、格段にわかり易いという特徴がある。
いや、わかり易いというのは語弊があるかもしれない。
他の二つに比べて種類がやたらと多い、と言い換えた方が良いだろう。
○アイテムで変身してパワーアップ→修行や鍛錬によらない強化は無意味。 ※ただし主人公には適用されない。
○トドメの技として強烈な全体攻撃を使う→だいたい誰かが生き残る。そして反撃される。
○過去の悪歴を楽しげに語る→「二度と口がきけないようにしてやる」と言われて実際そうなる。
○仮面を自ら外す、変装を自ら解く→逆に相手によって仮面を割られたりするのは生存フラグとなる。
○「今日の俺は絶好調だぜ!」→だが負ける。
○「俺は天才だ! 誰にも負けんのだ!」→「馬鹿な、この俺が、貴様なんぞに〜!」 ※ただし愛嬌が不遜を上回るキャラには適用されない。
○戦法を急に変える→「小細工をしなければ勝っていただろうに」
○「動くなよ! こちらには人質がいるんだ!」→むしろ人質キャラの生存フラグである。
○「土下座をして命乞いをしろ!」→最終的に地を舐めるのは言った本人である。
○「ここがお前達の墓場になる!」→自分の墓場になる。
○「冥途の土産に教えてやる!」→自分の冥途の土産となる。
○「やったか!?」→やってない。
○「外が騒がしいですな、ちょっと見てきます」→もう戻ってこない。
○巨大化→特に相手より先に巨大化するとアウト。
○「貴様など俺一人で十分だ!」→不十分だ。
○負けを認めた後に背後から襲いかかる→そのまま認めときゃいいのに。
○「いくら貴様でも、この数相手に太刀打ちできるかな?」→主人公の無双が始まるよー。
等々。
また、恐ろしいのは、敗北フラグ=死亡フラグ、敗北フラグ=恋愛フラグにはまずならないが、
その逆は充分にある、という点である。
負けても死ななきゃ死亡フラグは成立していないし、
負けたら恋愛フラグが立つなんてのは敵キャラのイケメン指揮官とその美女副官程度なもんである。
どっこい、死亡フラグはほぼ八割方が敗北と関連している。
勝利するが同時に力尽きる、なんてのは主人公だと最終回しか使えないし、
脇役ならば舞台からの退場を意味するのでやっぱり物語的には敗北である。
後付けでポンポン設定を放り込んだおかげで何回死んでもその都度復活する、
なんて80〜90年代の週刊少年ジャ○プなノリは、最早現在では通用しない。
(ただし、それを通じさせることが出来る剛腕の持ち主がいるのもまた事実である)
恋愛フラグは、立てるだけなら別に敗北でも何でもない。
せいぜいがヤンデレキャラにブチ殺されるくらいである。
だが成就してしまうと、他のルートが一切閉ざされるという点では、
これもまた成立というグッドエンドの裏に隠された敗北であるとも言えよう。
全部回収しきって本当の意味でハーレム状態になった主人公なぞ、数える程度にしかいない。
(ただしギャク物は例外とする。いな○っぺ大将とか)
さて、リボンズ・アルマークさんである。
この物語ではまさに「典型的な、余裕ぶっかまして引っくり返されるボスキャラ」なわけだが、
00の本編でもその気配がぷんぷん漂っていたのは、やはり最終戦まで自らが前線に出てこなかったことに理由があろう。
部下は刹那たちとドンパチするが、自分は何やら「全てわかってる」風な態度でソファに座ったっきり。
ぶっちゃけカッコツケの度合いが強すぎたとでも言おうか。
某赤い彗星の人が「後から考えると結構情けない人」であっても、
あれだけ人気があるのは、自分が先頭に立って戦ってきたからに他ならない。
アムロと戦うことなく、ずっと黒幕的な位置にいたなら、
ここまで人気キャラにはなっていなかっただろう。
この物語ではリボンズさんは中盤以降に登場し、
その時点でボスキャラになったわけだが、
まあこれは何も考えずに書き続けてきたことが原因であるからしてげふんげふん。
◆ ◆ ◆
振動を続ける『ヴェーダの分室』の中、
今や、主導権は完全に刹那・F・セイエイに移り、リボンズの手を離れた。
リボンズの表情に、つい先程までの余裕はない。
「プリベンター」
揺れに姿勢を崩すことなく、刹那は振り返り、サリィ達に問いかける。
「起動ロック解除のパスワードを教えてくれ」
数瞬の空白。
刹那の問いかけが不意に過ぎて、理解がなかなか及ばないプリベンターのメンバー達。
その中でいち早く、質問の意味を把握したのは、デュオ・マックスウェルだった。
「BAKA、だ」
デュオの言葉に、刹那は少し首を傾げた。
今度は、刹那が理解出来なかったのだ。
「ビー、エー、ケー、エー、だ。つまり バ カ だ!」
「……それがパスワード、か?」
あまりに簡単で、あまりに短いパスワード。
普通なら、暗号的な文章を用いたり、簡単に入力できない単語を使うだろう。
が、まさか『バカ』とは。
「あいつにゃ相応しいパスワードだよ! それで、『シークヮサー』は起動する!」
「……本当だろうな」
純粋なイノベイターになった刹那ですら疑うそのパスワード。
まぁ無理もない。
「嘘をつくか、こんなんで!」
「……ヒドイな、お前達」
「で? それでどうなるんだよ?」
苦笑する刹那。
その顔を遠目で捉え、フェルト・グレイスは思わず息を飲んだ。
刹那のそのような表情を、今まで見たことがなかったからだ。
「……それを、伝える」
刹那の瞳、金の輝きがさらに増す。
「刹那・F・セイエイッ!」
怒号と共に飛んで来た何等かの金属片を、
刹那は見もせずにかわした。
そして、投げた本人に、ゆっくりと振り返る。
「地上に出るぞ、リボンズ・アルマーク」
「まだだっ! まだ終わったちゃいない! 勝つのはこのリボンズ・アルマークだ!」
「出来るのか?」
「何だと!?」
「地上には―――待っているぞ、MS(ミカンスーツ)が」
「ぐっ……!」
振動に耐えきれず、たたらを踏むリボンズ。
その背後では、同じく揺れに負けて、他のイノベイド達が床に膝をついている。
「バカの、MS(ミカンスーツ)が、な」
刹那は笑った。
苦笑ではなく、普通に。
◆ ◆ ◆
【パスワード認識、B、A、K、A、繰り返す、パスワード認識……】
【ロック解除、起動確認。オールグリーン】
【操縦者チェック、パトリック・コーラサワー本人と確認。異常無し】
『シークヮサー』のコクピットに、電子音声が響く。
このMS(ミカンスーツ)は鎖から解き放たれ、
自由に羽ばたくことが出来る権利をようやっと、本当にようやっと手にいれた。
「誰が バ カ だ! 誰が B A K A だコンチクショー!」
が、そのパイロットたるパトリック・コーラサワーさんはいたくご立腹。
そりゃまあ仕方がない。
なんせパスワードがパスワードである。
リジェネ・レジェッタは笑いをかみ殺すように俯き、
シーリン・バフティヤールとクラウス・グラードは笑うまいと必死に頬をひきつらせている。
バラック・ジニンとその部下達に至っては、何ら隠すことなく、腹を抱えて大笑いしている。
あ、グラハムさんはまだ自己陶酔の世界で、アラスカ野さんもぐったりしたまんまです。
「……とにかく、来るぞ。パトリック・コーラサワー」
「ああもう、何が来るか知らんが、ぶっとばす! まとめてぶっとばーす!」
繋留帯を半ば引きちぎる勢いで、『シークヮサー』はハンガーを離れた。
「おらぁ、とにかくぶっとばすーっ!」
シークヮサー、大地に立つ。
コーラサワーの怒りを乗せて。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――
短めですいません。
腰痛の上に上顎洞炎まで患ってエライ目にあってます。
次回はまた出来るだけ早くに。
>>593 乙です、リボンズ涙目ですなw
それにしても酷いパスワードだw
あと、まずは養生して下さい…
>>593 土曜日さん乙です!!
テンパるボンズリが無様すぎるw
しかし、パスワードを考えた奴は誰だ?w
次回も期待してますが、今は身体の方を休めて下さい…
>>593 土曜日さん乙です
リボンズくやしいのうww
おかしなパスワードには草不可避w
続きが楽しみです
でも、身体には気を付けて
保守ウー
598 :
通常の名無しさんの3倍:2014/08/07(木) 23:31:56.76 ID:VFiTbdB+
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守
ほ
保守ワー
保守ウー
保守ワー
今月中に続き投下します
609 :
通常の名無しさんの3倍:2014/08/24(日) 20:07:29.78 ID:Jskz+VZD
待ってる保守
保守ウー
保守ワー
ほ
人は理想についていくのではない。
理想を体現する人についていくのだ。
―――使い古された表現ではあるが、これはまさにその通りである。
本来理想とは、万人に共通するものではない。
謂わば個々に異なるものだが、これを絶対的で、共通的で、かつ巨大的なものとすることで、『人を動かす理想』の器は形作られる。
宗教に似ている部分もあるが、宗教が禁欲を伴うことが多いことを考えれば、同一では決してない。
物凄く乱暴に言ってしまえば、理想のほとんどは詐欺そのものである。
だが、信じ続けさせて、疑いを持たせなければ、それは詐欺ではなくなる。
そして理想とは、「信じたい」と思うものなのである。
誰も「見たくない、聞きたくない」と思うものを理想とはしまい。
マスメディアが発達し、マスコミニケーションが一定の「操作」を可能とした時から、「理想」は社会に溢れるようになった。
真実を覆い隠すことが出来る。
嘘を本当だと言い張ることが出来る。
カタチの無いものをあると言い切ることが出来る。
まさに「理想」の氾濫である。
そこに意図を持った方向性、集団性を付加すれば、まさに現代社会そのものとなる。
集団性を忌避し、他者とは違うという態度を取っても、
それは受動的ニヒリズムの亜流に過ぎず、
「そういう自分である」という「理想」を自己満足で表現しているに過ぎない。
無論、理想を語り、理想を信じ込ませるには、空手形では難しい。
今がゼロではなく、道の過程であり、いずれゴールに達するものであると思わせなければならない。
つまり「目に見えるもの」として「見せなければならない」のだ。
より多くの人に「理想」を見せ、その先頭に立ち、皆を導く者。
それは神ではない。
開祖、もしくは教祖と呼ばれるべき存在である。
そう、リボンズ・アルマークは、まさにそれになりたいと思っていた。
イオリア・シュヘンベルグが示した道を、誰よりも先に進み、後進を導く者になりたいと。
神ではない。
神はカタチを持たない。
神ではないのだ、リボンズ・アルマークは開祖であり、先導者であり、救世主なのだ……。
◆ ◆ ◆
揺れ動く床の上で、リボンズ・アルマークは必至に体を支えていた。
今や彼の足元は、文字通り崩れ去ろうとしている。
それも、不意に現れた、刹那・F・セイエイという一人の男によって。
彼が真のイノベイター、真に人類の先に「進化」した者だとしたら、自分はいったい何なのか。
道化。
しかも、自分が道化であると気づいていない、まさに愚者。
それは、リボンズが最も嫌うものだった。
「違う、違う違う、違う……」
振動を続ける床は、いずれおさまるだろう。
それは、彼の野望の終焉を意味する。
認められるものではない。
それは絶対に出来ない。
「まだだ。まだ終わりじゃない!」
「いや、終わりだ。リボンズ・アルマーク」
激昂するリボンズに対し、
表情をほとんど変えることなく、刹那・F・セイエイは言い放つ。
その泰然ぶりが、リボンズにはたまらなく癇に触る。
常に優位にある、
それは、自分であるべきだ。
今さっきまではまさにそうだったのだ。
自分のポジションはそこなのだ。
自分はイノベイドの中のイノベイド、
いや違う、進化して成り得たイノベイターではないか。
ならば、取るべき方法は唯一つ。
「終わっていない! リボンズ・アルマークは終わっていない!」
「終わっている。お前は。いや……始まってさえもいなかった、と言うべきか」
「終わっていないと言っている! 最後に、立っていればいいんだ! それがリボンズ・アルマークなんだ!」
轟音の中、かすかに聞こえる二人の会話を聞きながら、デュオ・マックスウェルは思った。
ああ、これが敗北フラグってやつなのか、と。
「最後に立っていれば勝者になれる」と叫んだ奴は、たいてい主人公に負けちまうんだ。
あれ、じゃあ主人公って誰だ?
「このリボンズ・アルマークには、力があるっ!」
振動が緩やかになる中、リボンズは身を翻すと、後方に向けてヨロヨロと走り出した。
その途中でアレハンドロ・コーナーがすがりついてきたが、容赦なく突き飛ばされる。
情けない悲鳴をあげながら床を転げまわるアレハンドロを見て、カトル・ラバーバ・ウィナーは少しだけ「あ、可哀想だな」と思った。
本当に少しだけだが。
ヒイロ・ユイが、刹那に問いかける。
この振動の中、ふらつきつつも何とかバランスを保って立っているのは、さすがと言うべきか。
「あいつは終わっている、と言った」
「……何も出来ない、ということか」
「正確に言おう。お前達の仲間が終わらせる」
「仲間……?」
ヒイロを始め、プリベンターの頭上に見えないハテナマークが一瞬飛び交う。
仲間とは、誰のことだ。
どこのドイツのことだ?
「地上にいるだろう」
ゴクリ、とデュオは唾を飲み込んだ。
おいおい、まさかそれって。
「プリベンターのメンバーの」
あの、どうしようもない、実に自分勝手で、マイペースの。
「そう、『バカ』が」
◆ ◆ ◆
「来るよ、用意はいいかい、バカ」
『バカって言うな! バカって言う方がバカなんだよ、このメガネ!』
「貴方達、もう少し真面目に出来ないの!?」
緊張感漲る地下とは対極に、地上組はどこかのほほん、いや違うな、
まったり、これも違う、えーと、上手い表現が見つからないが、とにかく緊張感はそれ程なかった。
何故か。
『誰でも何でもいいんだよ! 俺に暴れさせろ! このスペシャル様にー!』
コイツがいるから。
我らがパトリック・コーラサワー様が。
『鬼でも! 悪魔でも! 神様でも! 誰が出てきても叩き潰してやるぜ!』
熱血系主人公の如き台詞ではあるが、残念、彼はバカ系主人公です。
しかも原作では脇役です。
「ちょっと、リジェネ・レジェッタ!」
「何だい、シーリン・バフティヤール」
「来るって貴方は言うけれど、何が来るのよ?」
「『イノベイター』のリーダーさ」
リジェネ・レジェッタは胸の奥から湧き出てくる高揚感を、抑えることが出来なかった。
自然と、顔が緩み、口の端が上がってくる。
いっそ大笑いしたい気分だった。
とうとう、リボンズ・アルマークから一本取ることが出来た。
かつての思いとはまた異なるが、もうここまで来たら、
プリベンターに完全に組するしかない。
リボンズにとって代わるという野望は果たせそうにないが、それでもいいではないか。
リボンズが『救世主』にならなければ、それでいい。
それこそが、リジェネ・レジェッタの勝利となる。
「頼んだよ、バカ」
『だからバカって言うなー!』
「ははは、すまないね、パトリック・コーラバカ」
『ムキーッ!』
漫才を繰り広げるリジェネとコーラサワー。
そんな二人のやりとりを聞きながら、シーリンは肩を竦めた。
「……あれ、人が変わってない?」
「実際、変わったんだろう」
クラウス・グラードが言葉を返す。
「新人類か何か知らないが、人間臭いじゃないか。結構なことさ」
バラック・ジニンが体を揺する。
目尻に少し涙が溜まっているのは、別に感動したわけではない。
さっきの『パスワードがBAKA』で大笑いした為である。
「俺の部下はいつでも動ける。どうやら最終局面らしいし、やるなら派手にやらせてもらうが、構わないな?」
「……ええ、頼りにさせてもらうわ」
「すまない。『カタロン』のメンバーをもっと連れてくるべきだった。反省させてもらう」
やっぱりどこか緊張感無い。
コーラサワーがそこにいるいないでここまで違う。
恐ろしい限りである。
「パトリック・コーラサワー」
『バカって言うなっつってんだろ!」
「言ってない。まあいいけど、ホラ、『敵』がようやくお出ましだよ」
『ああん? どこに!』
「目の、前に」
リジェネがすっと、砂に突き出た小さな岩場を指さした。
直後、銀色のドーム状のモノが、その岩を押しのけてせりあがってくる。
『あれが敵?』
「違う」
太陽の光を反射する、銀のドーム。
それはまさしく、ヴェーダの『分室』。
「その、後ろだ」
ヴェーダの分室が輝きを失う。
太陽を、何かが遮ったからだ。
「『グレープリボーン』……。リボンズ・アルマークのMS(ミカンスーツ)だよ」
不気味な起動音が、大地の震動音を割るように響いた。
真紅の粒子が、砂塵をさらに覆い尽くしていく。
「頼むよ、パトリック・コーラサワー」
『頼むも頼まれたもねー。とにかく、アイツが敵なんだろ、そうなんだろ?」
「そうだって言ってる」
『ぶっ倒していいんだろ? ギッタンギッタンにしていいんだろ? ガアッチョンムッチョンヘッチョンポリンにしていんだろ?」
「よくわからないが、それでいい」
コーラサワーは笑った。
果たしていつぶりだろうか、彼がこのような表情を見せるのは。
そう、好戦的な、獲物を狙う『エース』としての笑みを。
『いくぜ! 俺は! スペシャルで! 2000回で! とにかくエースのパトリック・コーラサワーなんだよ!』
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――
遅くなってすいませんでした。
とにもかくにも最終戦です。
ではまた。
>>619 土曜氏さん乙です!
いよいよ!いよいよ最終戦(?)ですね!敵はグレープのミカンとはw
待ってました!!
>>619 乙です、今回の話もシリアスとコミカルが良い塩梅に融合していて良かったですw
次回は最終決戦ですか、楽しみに待ってます!!
>>619 土曜日さん、乙であります!!
前回に引き続き、リボンズが無様すぎw
あと何気にリジェネが良い感じに和んでるw
次回は最終決戦とのことですが、期待して待ってますね
保守ウー
保守
保守ウー
保守ウー
保守
保守ワー
保守ウー
保守ワー
ほ
保守ワー
保守ウー
次回は今月末か来月頭になります。
遅くて申し訳ありません。
保守ワー
最終決戦。
読んで字の如く、白か黒か決着がつくラストバトルのことである。
だいたいのアニメやマンガは、最終決戦が終わる時が、最終回になる。
もしくは、最終回の一歩手前か。
何を当たり前のことを、と思うなかれ。
この『最終決戦=最終回間近』という単純な図式が成立しなかった(出来なかった)作品の何と多いことか。
そう、所謂「打ち切り」という最強レベルの中ボスの存在があるからである。
ようやくのぼりはじめたばっかりだったり、ロケットでつきぬけちゃったり、打ち切りという中ボスの力は半端ではない。
だがまあ、宇宙戦艦ヤ○トやそれこそ1stガンダムのように、TV放送では打ち切り扱いでも、
その後不死鳥のように復活を遂げてロングシリーズになったものもある。
またこの中ボス、ネタ切れや苦情等、いつ何時襲い掛かってくるかわかったものではないのが怖いところでもある。
で、結局何が言いたいか。
えーと、やっとこの物語も、途中で投げ出すことなく、最終決戦を迎えることが出来ました。
もう少し、もう少しで終えることが出来ます。
今しばらくのお付き合いをよろしくお願い致します。
◆ ◆ ◆
『グレープ・リボーン』は宙に浮いている。
まるで、他の者全てを見下ろすかのように。
両腕部から、禍々しい赤色の粒子が、空の蒼を犯すかの如くに広がっていく。
「あれが、MS(ミカンスーツ)……?」
髪の毛についた砂埃を掃いつつ、ビリー・カタギリは眉を寄せた。
姿形は、彼が知っている過去のどの機体とも似ていなかった。
ヴェーダの『分室』の天井モニター越しであり、肉眼での確認ではないが、
かつてのガンダムシリーズ、OZのモビルスーツ、それ以外、どれにも『グレープ・リボーン』は重ならない。
つまりは、設計思想が根本から違う、全く新しいタイプの機体ということになる。
「……何だ、あれは?」
ビリーはメカについてはこの地球上でもトップクラスの知識を持ち、
高名なレイフ・エイフマンの直弟子でもある。
MS(モビルスーツ)でも、遠距離から砲撃で支援するのか、
近距離で格闘するのか、重装甲なのか、軽装備なのか、飛行出来るのか、水中に潜れるのか……色々とタイプが分かれる。
が、メインとなる任務に合わせて基本的に設計・製造されるので、外見は多々あっても、中身そのものは大きく違ったりはしない。
ビリー程の技術者でなくても、おおよそは外装の奥にある「何の為に作られたのか」という意図は読むことが出来る。
ビリーやエイフマンのクラスになると、それがさらに深いレベルで可能になる。
「手足が二本、頭がひとつ、同体がひとつ。普通だ。普通なんだが……」
『グレープ・リボーン』は一見、ノーマルな機体に見える。
が、ビリーは違和感を覚えて仕方がなかった。
何かがおかしい。
何だ、あれは?
「スリムなようで厳ついな」
「見たことがあるようで見たことがない、そんな機体だ」
ソーマ・ピーリス、アンドレイ・スミルノフも、『グレープ・リボーン』についてどうやらビリーに近い印象を持ったようである。
両名はそれぞれ、ヴェーダの『分室』が浮上する時に転倒し、
アンドレイは右のコメカミを壁にぶつけて出血、
ソーマはスーツのスカートの裾が破けて太股が露わになってしまっている。
ひっくり返りはしたものの無傷だったビリーを含め、この三人はまだ幸運だったと言える。
デュオ・マックスウェルなどはヒルデ・シュバイカー、ミレイナ・ヴァスティ、絹江・クロスロードの三人に、
それぞれ思いっきり圧し掛かられてスルメ状態になっている。
これはラッキースケベではなく、マジでしんどいレベル。
正味の話、いくら軽かろうが、複数の人間に上に乗られたらかなり苦しい。
他では軽業スキル持ちのトロワ・バートン、体術に覚えのある張五飛とアレルヤ・ハプティズム、
そして刹那・F・セイエイの四名が、何とか立位のまま耐えきったようである。
それ以外の面子は、尻もちをついたり、片膝をついたり、背を打ち付けたりと、
体のどこかを床や壁にぶつけてしまっている。
まあ、プリベンター&マイスター運送側はまだマシであったろう。
イノベイター側のアレハンドロ・コーナーなぞ、
振動だけではなく、リボンズ・アルマークに突き飛ばされたこともあって、
瓦礫の中に上半身を突っ込み、まるで犬神家の一族の某シーンの如くになっている。
リボンズ以外のイノベイターの面々は、やはり強化人間的な部分がある為か、
それなりに踏ん張ってはいた様子である。
「プリベンター」
刹那が不意に口を開く。
サリィ・ポォがハッとしてそちらの方に視線を移すと、刹那がイノベイターのメンバーを一名、後ろ手に組み伏せているのが見えた。
「ブリング・スタビティ。確保だ」
「くそ、離せ!」
もがくブリングだったが、刹那の戒めから逃れることが出来ない。
どうやらブリングの方から刹那を襲撃したが、あっさりと返り討ちにあったようだった。
「他のイノベイター、それ以外のリボンズの部下がまだいる。ここから先はお前達に任せる」
「捕まえろ、ってこと?」
サリィが改めて周囲を見回すと、ブリング以外のイノベイターの姿は、この一瞬のうちに全て消えていた。
どこかに頭をぶつけたのか、気を失って倒れている数名の男達(これは研究所内に残っていたアリーの部下であろう)、
そして上半身を瓦礫に突き立てたアレハンドロだけが確認出来る。
「捕まえることさえ出来れば……」
刹那はブリングの首の裏に、人差し指をそっと押し当てた。
次の瞬間、一切の動きを止め、ブリングは静かになった。
目から光が消え、表情も無くなる。
「俺がこうする」
「……何をしたの?」
「スイッチを切ったようなものだ。……これ以上の説明は、今は時間の無駄だ」
「確かに」
ここで説明を求めても仕方がない。
刹那の言う通り時間の無駄だし、何より簡単に理解出来るとも思えない。
刹那・F・セイエイという青年が何かよくわからん力でどうにかしている、ヴェーダがうんちゃらかんちゃらで、何やかや。
それでいい、今は。
「ヒイロ、五飛、カトル、トロワ、デュオ、全員いるわね?」
「ああ」
「大丈夫だ」
「怪我はありませんよ、何とか」
「問題はない」
「頼む、そろそろどいてくれ三人とも」
デュオ以外はとりあえず、すぐに動くことが出来る。
ここはさっさと他のイノベイターを取っ捕まえるしかない。
下手に時間をかけると、何を持ち出して反撃してくるか知れたものではない。
『グレープ・リボーン』のようなメカがわんさか出てきたら、それこそ対処が難しくなる。
「スメラギ社長!」
「ええ、わかっているわ。……私達はここで待機ね」
「察しが良くて助かります」
「どうも。……あら、やだ」
スメラギ・李・ノリエガは胸を抱えるように腕を組んだ。
浮上の震動の際、胸元のボタンが一つ飛んでしまい、服が緩んでしまったのだ。
ここで颯爽とビリーが上着をかけてあげたら、いいアピールになるのだが、
残念、カタギリ博士はそんなことを出来る人でも気づく人でもありません。
マイスター運送の面々は、それぞれ特別な過去、特殊な技術を持っている。
が、ガンダムパイロットの少年達に比べれば、まだ「普通の人寄り」ではある。
何かわからんが進化してしまったと思われる刹那を除けば、
アレルヤが少年達と同等かやや勝るくらいであろうか。
ティエアリ・アーデもイノベイター(に類する者)であるのなら、
身体能力は人間以上なのだが、体術の技量という面では劣る。
ロックオン兄弟ことニール・ディランディとライル・ディランディは射撃や運転はかなりの腕前だが、
この場ではあまり生かすことは出来ないだろう。
アニュー・リターナーはリボンズのせいで先程から体調不良の為、動くことが出来ない。
フェルト・グレイス、クリスティナ・シエラ、リヒテンダール・ツェーリ、ラッセ・アイオンらについては、
一般人とそれ程変わらないので、どの道荒事には向いていない(まぁ肉弾戦ならラッセはそれなりに活躍するだろうが)。
「私達はティエリアと共にここを確保しつつ、ヴェーダを調べるとするわ」
「よろしくお願いします」
「調べると言っても……彼に聞いた方が早いかもしれないけど」
スメラギは刹那を指さした。
が、刹那はゆっくりと首を横に振った。
「あまり期待されても困る。わかることはわかる。わからないことはわからない」
「……つまり、全てを理解しているわけではない、と」
「そうだ。それより急げ」
「そうね」
サリィは再度、額の汗を拭った。
指先に煤けが少し、付着している。
おそらく顔は汚れていることだろう。
が、そんなことを気にしている暇は無い。
「カトルとデュオはヴェーダから出て、トレーラーへ走って。近くなのよね?」
「そうだ。お前達の仲間がすでにリボンズと交戦中だ」
ヴェーダ分室の天井モニターは、すでに外界を映していなかった。
研究所の見取り図が映し出され、さらに見易いように、
サリィ達の目線と同じ高さに空間映写されている。
間違いなく刹那が行っているのだが、いちいちそれを確認している時間は、繰り返しになるが、無い。
「トレーラーに着いたらすぐに貴方達のMS(ミカンスーツ)を起動して」
「わかりました!」
「いてて……。はいよ、了解」
デュオはフラフラ状態のヒルデを床にそっと座らせ、
自分の帽子をハタキ代わりにして、着衣の埃を掃ってやる。
こーいう心遣いが出来るかどうかでモテるかモテないか変わってくるんですね、ハイ。
聞いてますかカタギリ博士?
「非常口はそこだ。開ければすぐに外だ」
「あそこですね? 行きましょう、デュオ」
「よっしゃ!」
刹那が指さした先の壁が、薄く緑色に光る。
カトルとデュオが走りだした直後に、音もなくその場所がドア大の大きさに開いていく。
「便利過ぎる……」
思わず呟くアンドレイ。
「そういうわけでもない。仕組み自体は旧式のものだ」
「そういう意味で言ったわけではないんだが……」
それ以上の説明を、アンドレイは待たなかった。
刹那がヴェーダの分室に何らかの働きかけをして、この『研究所』を把握している。
それだけわかれば、とりあえずは十分である。
「他の者はここに急いでくれ。残りのイノベイターが向かっている。おそらく、MS(ミカンスーツ)を出すつもりだろう」
「間に合うのか?」
「このルートを使えば先回り出来る」
空間映写された見取り図に、行先と道筋が示される。
「リボンズはともかく、他の奴らはこの研究所を全部網羅しているようではないみたいだ」
「それだけわかれば問題ない。行くぞ、五飛、トロワ」
「僕も行くよ!」
走り出すヒイロ、五飛、トロワ、そしてアレルヤ。
潜入、格闘に長けており、イノベイターとも互角にやりあえる面々である。
「よしんば奴らが先に着いても、入口をロックする。大丈夫だ」
「本当に便利過ぎる」
再度呟くアンドレイ。
ここまで来ると、もうホントにチートレベルとしか言い様がない。
「それ以外の連中は、外の仲間が抑えるだろう」
「外の仲間って、他にも誰かいるんですかぁ?」
「多くの援軍を連れてきたみたいだ、プリベンターの『BAKA』とやらは」
ミレイナの問いに、刹那は答えた。
「へー、スペシャルさん、やりますですぅ」
「本当かしら……」
コーラサワーが役に立っている。
そのことが俄かには、サリィには信じられなかった。
厄が立つことは今まであったが。
「決着はすぐにつく」
刹那は、驚きで半ば呆然と座り込んでいたフェルト・グレイスに近寄り、
手を貸して立ち上がらせた。
「BAKAは勝つ」
断言する刹那の顔には、疑いの成分は微塵も無かった。
◆ ◆ ◆
激しく撃ち、打ち、離れ、接近し、また撃ち、打つ。
リボンズの『グレープ・リボーン』とパトリック・コーラサワーの『シークヮサー』は、互角の戦いを繰り広げていた。
「やるじゃねえか、イヤッホーッ!」
コクピットの中で嬉々として吠えるコーラサワー。
グラハム・エーカーやアリー・アル・サーシェスとはまた異なるが、
何だかんだでこの男も、「戦いが好きな人間」なのだ。
戦闘に充足感を覚えるのは、エンドレスワルツで五飛も言っていたが、
モビルスーツ乗りの救いがたい性の一つなのかもしれない。
「ゴテゴテしてんだかスレンダーなんだかよくわからんが、とにかくぶっ倒してやるぜ! 鬼の親分!」
しかし、彼にかかっては『グレープ・リボーン』も鬼の親玉扱いである。
アリーの『ソンナコト・アルケー』に彼がつけた渾名が『ヒョロヒョロ赤鬼』であり、
単純にそれ繋がりなのだろうが、ぶっちゃけセンスがあるとは言い難い。
まぁコーラサワーにとってはどうでもいいことなのだろうが。
「何だ、なんなんだ、コイツは!?」
一方、リボンズ・アルマークは心穏やかではなかった。
いや、刹那に色々とカマされた時点で穏やかではなかったが、さらに余裕が無くなっていた。
「この僕が! リボンズ・アルマークが! 敵を簡単に倒すことが出来ないなんて!」
『グレープ・リボーン』を出せば力技でどうにかなる。
それは最後の手段であり、ぶっちゃけ使うとは毛頭考えていなかった。
で、実際に使ってみれば、まさかの苦戦である。
リボンズ自身は決して認めないし、口にも出さないであろうが、
間違いなく、事実として苦戦をしていた。
「この『グレープ・リボーン』は最強だ! 僕も最強だ! 負けるはずがないんだ!」
両手・両足に搭載された電磁棒で激しく『シークヮサー』を攻め立てる『グレープ・リボーン』。
だが、かわされ、弾かれ、叩き返されて、ダメージを与えることが出来ない。
これがビーム系、ヒート系の近接武器であれば、『シークヮサー』に損傷を強いることが出来たであろう。
だが、ミカンエンジンの出力では、それらの武器を継続して使うことが出来ない。
ビリー・カタギリの研究所からデータを盗み出し、改造を施したとはいえ、
結局は『ミカンの皮が燃料の無公害エンジン』である以上、かつてのMS(モビルスーツ)のように派手にはいかないのだ。
ミカンスーツではなくモビルスーツを作っていれば良かったわけだが、それは今更の話。
リボンズのこだわりと言うか、プライドの部分である。
まぁ、仮にビーム系、ヒート系の武器が使えていたとしても、
コーラサワーは察知して、それ対応の戦い方をしていたであろうが。
いやホント、今までに何度言ったかわからないけど、
コーラサワーはんはトップクラスのパイロットやさかいね。
冗談抜きで、ホンマでっせ。
嘘ちゃいまっせ。
「おらぁ! 隙ありぃ!」
「くうっ!」
蹴りをかます素振りを見せながら、不意に空中バック転しつつミカン液の粘着弾を放つ『シークヮサー』。
至近であり、リボンズはギリギリのところでそれをかわす。
「まさか、お前も覚醒イノベイター? いや、そんなはずはないっ!」
「おらおらあ、ぼーっとしてんじゃねーよっ!」
徐々にだが、戦局はコーラサワーに傾きつつある。
普通の人間であるコーラサワーが、イノベイターであるリボンズを圧しつつある。
「おのれ、喰らえっ!」
「うおっアブね! でも当たらねえぜ!」
リボンズの突きを、コーラサワーもこれまたギリギリでかわす。
「こいつ……! これがエースというやつか!」
リボンズの頬に、冷や汗が一滴、流れ落ちる。
『シークヮサー』の動きは、踊るようで、それでいてフェイントに至るまで無駄が無い。
そして直線的でもあり、曲線的でもある。
そんじょそこらのパイロットでは、とても真似の出来ないレベルの動きである。
基本的に、MS(モビルスーツでもありミカンスーツ)は、姿勢に無理が生じないように、あらかじめ動きを制御するシステムが組み込まれている。
特に可変機能なんかは、「人間の体の動き」からはかけ離れている為、尚更このシステムが大事になってくる。
グラハムスペシャルは、そこら辺りは無理で道理を押し通して何とかしているわけだが、まぁアレは特別。
で、ベテランやエースになる程、その姿勢制御のシステムを上手に使って機体を操り、戦果に繋げるわけだ。
腕の肘や脚の膝を逆に曲げて、何てのは設計上出来ないわけではないし、不意打ちとしては使えるかもしれないが、
そうなると姿勢制御システムそのものを見直さなければならないし、
ぶっちゃけ、機体が人型である意味が薄くなる。
「『シークヮサー』、パトリック・コーラサワー……! AEUのエースパイロット!」
プリベンターのメンバーと、MS(ミカンスーツ)のデータはリボンズの頭に入っている。
どういう人間で、どういうパイロットで、どういう戦い方をしてくるのか。
それもわかっている。
「何故、どうして! 捕まえることが出来ない!」
イノベイターは人類を超越した種であり、
リボンズ・アルマークはその頂点に立つ者である。
そして『グレープ・リボーン』は最高のMS(ミカンスーツ)である。
相手がエースパイロットの称号を持っていたとしても、所詮は人間。
勝てないはずがないし、勝たなければいけない。
負けるはずがないし、負けてはいけない。
「及び腰になってっぞ、鬼の親分さんよ!」
コーラサワーには、そんなリボンズの事情など関係ない。
ただ追い詰め、倒すだけである。
実際のところ、敵の機体と操縦者の腕前が凄いことは、コーラサワーも戦いの中で感じ取っている。
だが、恐れる程のものではないこともわかっている。
技量と性能が『高い』だけであり、戦い方に『色』が無い。
アリーのようなねちっこさ、グラハムのような真正面っぷり、ジョシュアのようなアホっぷり、そんなものが無い。
コーラサワーにしてみれば、寧ろそういう色を出される方が嫌である。
相手の色を消し、自分の色で塗りつくすのが、エース同士の戦いなのだ。
機体の性能が良かろうが悪かろうが、よっぽどの差が無い限り、「自分の戦い」をしてこない相手に怖さは無い。
機体の性能の違いが戦力の決定的な差ではない、と赤い人も言っていた。
「鬼の親分さんよ、この勝負、貰ったぜ!」
コーラサワーは勝利を確信した。
こいつには負けない、と。
「パトリック・コーラサワー、この戦い、僕の勝ちだ!」
リボンズの頭に敗北の二文字は無かった。
まだ本当の最後の手がある、と。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――
遅くなってすいませんでした。
間違いなく、今度こそ間違いなく、年内に終わります。
誤字脱字がありましたら申し訳ありません。
ではまた。
>>646 乙であります!!
リボンズさんはここにきてすごい駄目っぷりを発揮していますが、まあただで終わらないでしょうねw
往生際が悪そうですもんw
次回も楽しみです!!
>>646 土曜日さん乙です!
ズンボリがすごく小物過ぎて吹く、まあ原作でも大体こんな感じでしたよねw
原作での相手は覚醒した刹那でしたが、このSSでは普通の(?)人間であるコーラさんが相手なのがポイントですね
でも、ズンボリには奥の手があるようだし、どうなる事やら
続きも期待しています!!
乙
保守ウー
保守ウー
必ず賛成して欲しい
絶対に賛成して欲しい
確実に賛成して欲しい
100%賛成して欲しい
十割賛成して欲しい
保守ワー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ワー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
ちょっと別口の仕事が入って、そちらに注力せねばならず、次回が遅れております。
来週末までには投下出来ると思います。
すいません。
保守ウー
保守ワー
保守ウー
リボンズ・アルマークにとって、人類は下等の種だった。
相互を理解する為に言葉を必要としながら、
その言葉すら国や地域によって異なり、さらに意思が必ずしも十割通じるわけではない。
我儘で、勝手で、どうしようもない。
そう思っていた。
今、目の前の敵であるパトリック・コーラサワーにしても、所詮は人間だ。
自分の足元にも及ばない、憐れでちっぽけな存在だ。
存在のはず、だ。
だが、そんな相手に、リボンズは苦戦している。
機体も、操縦者としての反応速度も、上なのに。
何故だ。
どうしてだ。
理由がわからない。
ふつふつと、怒りが湧きあがってくる。
「消えろ! 消えてしまえ、パトリック・コーラサワー!」
『グレープ・リボーン』を駆り、電磁警棒を激しく打ち下ろす。
だが、そんな一撃も、すんでのところでコーラサワーの『シークヮサー』に避けられる。
手を抜いているわけではない、一撃必殺で攻撃しているはずなのに、
どれだけ攻めたてても、機体の表面に小さい傷が入るか入らないかのダメージ程度しか与えられない。
「動きが荒いぜ、当たるかよ!」
そして、容赦の無い反撃。
『グレープ・リボーン』を斜めに捻らせ、それを回避する。
並のパイロット、そして並の機体であれば、今ので決着がついていたであろう。
「おのれ!」
「おっと!」
回避しつつ、その際の円運動の勢いのまま、蹴りを放つ。
だがこれも避けられる。
がらあきになった背後に、『シークヮサー』の電磁警棒の突きが繰り出される。
「なんとおっ!」
機体を今度は強引に反らせ、致命傷となりかねないその一撃をぎりぎりでかわす。
「ぬうっ!」
加速し、距離を取る。
が、コーラサワーも深追いはせず、余裕綽々といった態で、MS(ミカンスーツ)を砂の大地にゆっくりと降ろす。
「……こいつ!」
『シークヮサー』には簡易の飛行ユニットが装着されている。
以前、アリー・アル・サーシェスの偽装潜水艦カツオノエボシ号とやりあった際に仕様していた物の、
さらに小型化、軽量化されたやつである。
その為、滞空時間は減ったものの、動きそのものは旧型より遥かにアップしている。
一方の『グレープ・リボーン』は飛行ユニット無しでも、空中での活動が可能である。
ミカンエンジンを複数、搭載しているから出来ることであるのだが、
ここら辺りは、さすがにイノベイターとしての面目躍如であろう。
ビリー・カタギリも「人間としては天才」であって、能力的にはイノベイターには及ばない。
彼が『グレープリボーン』を見て強い違和感を覚えたのは、
彼が持つ想像と常識の限界を超えていたからに他ならない(まぁまだ他にも秘密はあるが)。
カタギリもミカンエンジンの複数搭載を考えていないわけではなかったが、
そもそもが『シークヮサー』をはじめとするプリベンターのMS(ミカンスーツ)は、
『ネーブルバレンシア』の発展型であり、今後のMS(ミカンスーツ)の基礎となるべき『試作品』でもある。
冒険は出来るが、敢えてカタギリはしなかった。
まぁ操縦者の面々からすれば、これでも十分冒険しまくっている機体ではあるのだが。
どの道、カタギリが本気中の本気になれば、『グレープ・リボーン』は超えられずとも、斜め上的にトンデモな物が出来てしまうわけで。
そうなったら、喜ぶのはせいぜいブシドーさんことグラハム・エーカー氏くらいのもん。
強けりゃなんでもいい、と思っているコーラサワーも躊躇するようなシロモンになるはずである。
「好みじゃねえが、このまま持久戦をしたっていいんだぜ?」
「舐めた口を……!」
リボンズの胸の奥で、苛立ちの炎が更に強く燃え上がる。
ダラダラとこのまま長く戦い続けるのは、リボンズにとって得策ではない。
片づけなければならない相手は、本当なら刹那・F・セイエイであって、
コーラサワーは障壁の一つに過ぎないのだ。
「わかった。僕が間違っていたようだ」
リボンズ・アルマークはここにきて本当に意を固めた。
人類は見下すべき相手だ。
だからこそ、奥の手やら何やら、隠し立てしていても仕方がない。
絡まった糸は、いちいち解かず、一刀両断にすれば良い。
上位に立つ者は、全てを見せつけて、足下に敵を屈しさせなければならないのだ。
「あ? 悔い改めて降伏でもすっか?」
「いや、こうする!」
リボンズは『グレープ・リボーン』を急進させた。
一直線に、『シークヮサー』に向かって突撃していく。
「玉砕ってやつかよ! 芸が無いぜ!」
苦も無く、コーラサワーはそれをかわす。
そして、かわしざまに後ろ蹴りを叩き込む。
が。
「んわーっ!?」
激しく吹っ飛んだのは、『シークヮサー』の方。
タイミング的には、間違いなく、蹴りが決まったはずであるのに。
「ほわっ、とっ!? おりょりょ!」
宙で体勢を整えつつ、追撃として襲ってきた『グレープ・リボーン』の『ハッサク』を叩き落とす。
まさにエースの技量で、咄嗟にこのようなことを行うのは、一般のパイロットには不可能である。
「うおおおお!?」
が、さらに複数の『ハッサク』が追いすがってくる。
アリーの『ソンナコト・アルケー』の物と同型であるようだが、それよりも、より速い。
「なんだよ、それはあ!?」
『ハッサク』の襲撃をかわし、掃いながら、コーラサワーは目を見開いた。
『グレープ・リボーン』がいない。
代わりに、別の機体が攻撃をしてきている。
「もう一機いたってのか? って、違う!?」
ロックオンシステムは、問題なく作動しており、エラーも、別敵表示もしていない。
次から次に『ハッサク』を繰り出す、ずんぐりとした頭部を持つその謎の機体が、
『グレープ・リボーン』であると、システムは認識している。
「まさかのまさかだがよ、変身でもしたっての……うわっち!」
後方から飛んで来た『ハッサク』のひとつに脚を払われ、危うく転倒しそうになる『シークヮサー』
コーラサワーは敢えてその衝撃に逆らわず、機体を勢いにまかせつつも絶妙に操り、別の『ハッサク』の攻撃を皮一枚で避ける。
下手に踏ん張っていれば、避けることが出来ず、二撃、三撃と喰らっていたに違いない。
「驚いたかい、パトリック・コーラサワー」
リボンズの声が不気味に響く。
「いや、驚いてない!」
「強がりは止めた方がいいよ。君は驚いている。そうだろう?」
「だからびっくりもしゃっくりもしてねーっての!」
『謎の機体』は攻撃の手を緩めない。
『ハッサク』による遠距離攻撃の一辺倒で来られると、さすがにコーラサワーも対処に困る。
かつてアリーを撃退した時のように、それこそハッサクが全て傷つき、無くなるまで待てば良いのだが、
それだけではない何かを、『謎の機体』からコーラサワーは感じている。
「あーもう、驚いた! 驚いたって!」
「だろう?」
「だけどよ、種は割れたぜ!」
「ほう?」
横合いから飛んで来た『ハッサク』を、コーラサワーはよけざまに電磁警棒で叩き落とした。
そして、その『ハッサク』を、逆側の手に取りだした別の電磁警棒で思い切り弾き飛ばす。
空中で別の『ハッサク』にぶつかり、勢いを殺された二つの『ハッサク』は共に砂の大地に落ちていく。
「お前……単に裏返っただけだろ!」
「そんな簡単な言葉で済ませては欲しくないんだけどね」
リボンズは『ハッサク』の攻撃を一端、止めた。
ゆっくりと岩の高台に『謎の機体』を着地させる。
「よく見ておきたまえ、これぞ僕が開発した、可変式MS(ミカンスーツ)!」
ガション、とわずか1〜2秒程の間に、『謎の機体』は『グレープ・リボーン』に戻っていた。
「死角の無い、ひとつで全ての戦闘をこなすことが出来る!」
ビリー・カタギリが覚えた違和感、その真の理由は、まさにこれだった。
可変してタンクタイプになったりフライトタイプになったりするのはわかるが、
裏表がひっくりかえるなんて、普通は考えつかないし、考えても実行しない。
それこそ、機体の『バランス』の根幹に関わるからだ。
『近距離、中距離の『グレープ・リボーン』!」
再度、ガシャコンと『グレープ・リボーン』は姿を変える。
「そして遠距離の『リボーンズ・グレープ』! オールレンジに対応した、最強で完璧な機体なんだ!」
「……」
「驚いただろう?」
「あー、いや、その」
コーラサワーはひとつ、首筋を掻いた。
何だか毒気を抜かれた態である。
「うん、凄い凄い」
「……何だかおざなりだな」
「いやー、凄いって。マジで。グレープリボンがひっくり返ってリボングレープ? すげーすげー」
コーラサワーは思った。
あー、こいつ、すげーバカなんだろうな、と。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――
遅れて申し訳ありません。
ではまた次回。
>>677 土曜日さん、更新乙です!!
ズンボリさんがもはや小物にしか見えない、まあ原作でもこれに近かったがw
最後の方でドヤ顔かましてるけど、コーラさんに良いようにあしらわれる未来しか見えないw
次回も楽しみにしてます!!
>>677 土曜日氏乙です
大物ぶっていて小物なリボンズさんに草不可避w
余裕の無いリボンズさんに対して、十分余裕のある我らがコーラさんw
続きも期待しています!!
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
保守ウー
保守ワー
今週末か来週頭に投下します
パトリック・コーラサワーは呆れていた。
裏表―――と言うか、前と後ろがひっくり返るMS(ミカンスーツ)なぞ、見たことがなかったからだ。
可変するMS(モビルスーツ)はあった。
それに乗ったこともある。
人型ではない、特殊なタイプのMS(モビルスーツ)にも乗ったことがある。
が、くるりんぱと反転するMS(ミカンスーツ)とは、最早おかしさを通り越して苦笑いするしかない。
コーラサワーでさえこうなのだから、他のパイロットだったらもっと呆れていただろう。
いや、グラハムさんは逆に感心するかもしれない。
「どちら側でもセップク出来るな!」とかトンチンカンな方向に。
「『リボーンズ・グレープ』の力! 思い知るがいい!」
リボンズ・アルマークはハッサクを周囲に展開させた。
今までの戦闘でいくらか数が減っているとはいえ、まだ手持ちは残っている。
「出し惜しみはしないよ、ここからは!」
「お、おわー!?」
四方八方から襲い掛かってくる銀色の球体を、どうにかかわすコーラサワー。
普通の銃弾と違ってそれなりにカタチが大きい為、よける動作も大きくならざるを得ない。
「ハッサクばかりに気を取られていると、こうなる!」
『シークヮサー』が回避している間に、リボンズは接近戦を挑みかかる。
無論、『リボーンズ・グレープ』から『グレープ・リボーン』に反転済みである(ああまどろっこしい)。
「ていっ!」
「ぬおっ!」
ガシン、という音と共に、『シークヮサー』の左足の爪先部分が一部、弾け飛ぶ。
が、『グレープ・リボーン』も無傷ではない。
胸甲(あるいは背甲か?)に亀裂が入っている。
攻撃を喰らう瞬間、かわしながらコーラサワーが一撃を叩き込んだのだ。
「どうなるって?」
余裕、と言うわけではないが、この程度であれば、コーラサワーの勝利の確信は揺るがない。
いくら裏返ろうが、飛び跳ねられようが、パチンコ玉の親玉を放たれようが、
それらを跳ね除けて勝つ自信が、コーラサワーにはある。
性能的には相手が上でも、「怖さ」を感じなければ、負けることはない。
コーラサワーは常々、そう思っている。
この辺りは、グラハム・エーカーにも共通する部分であろう。
双方はおそらく否定しあうであろうが。
「出し惜しみはしない、と言っただろ? パトリック・コーラサワー!」
「へっ?」
突如、ハッサクが変形を始めた。
外殻が数か所開くと、ニョキニョキと手足のようなものが飛び出していく。
「ハッサクはただの球体兵器じゃあない。僕の力があれば、こういうことも出来る!」
「うわあ……」
コーラサワーは軽くひいた。
銀色の球体から四本、手足のようなものがぐにゃりと伸びている。
何と言うか、見ていて気持ちの良いものではない。
(賢明なる読者諸兄は、ジージェネのサイコハロをもっとグロっぽくしたものを想像していただければ幸い)
「これがどういうことか、君にはわかるかい?」
「……えーと」
いくらコーラサワーがオバカでも、さすがにわかる。
んなもん、伸びた触手(?)は攻撃手段以外のナニモンでもない。
四本ということは、どれかが腕でどれかが脚なんだろうが、それはまあどうでもいい。
つまりは、ハッサクが飛び回るだけではなく、人型っぽい攻撃をしてくる。
とまあ、そういうことになる。
ただぶつかられるだけではなく、まとわりつかれると、動きを封殺されることになる。
そうなると、あとはもう一方的に攻められるだけである。
「おお……ヤバイな、これは」
そう呟くコーラサワー。
だが、どこか緊張感に欠けているのは、
今までが今まで過ぎたからであろうか。
すいません、ちょっと職場から応援要請の電話があったために緊急出社します。
続きは明日か明後日の深夜に投下します(書き溜めたものを投下直前にちょこちょこ訂正している為、一気の投下ってやつが出来んのです)。
申し訳ありません!
急な仕事とは大変ですね、無理をなさらないように…
空中をふよふよと飛び回る銀色の球体。
それからうねうねと伸びる四本の手足(触手?)。
見方によっちゃかなりのグロ場面である。
「ひい、ふう、みい……おおよそ10個、ってところか」
コーラサワーは指を折ってハッサクの数をチェックした。
戦いの最中に操縦桿を離すな、とツッコミを入れたいが、
むしろたかだか10個程度のところを正確に数えない辺り、なんつーか、彼の為人が表れている気もする。
まぁ、このいい加減さは今に始まったことではない。
しかしこの人、どーいう少年期を送ってきたのか、気になる。
幼少の頃からこんな調子でマイペースだったとしたら、さぞかし多くの人を怒らせてきたことであろう(で、本人は気にしない)。
これでレディキラーだってんだから、やっぱりイケメン最強ということか。
「チェックメイトだよ、パトリック・コーラサワー」
「どこがだよ。銀色蜜柑に紐が生えただけじゃねーか」
「だがさっき、君は『ヤバイ』と思っただろう?」
「まーな」
「言わば、今のハッサクは小さいMS(ミカンスーツ)みたいなものだ。ただぶつかるだけじゃあない」
「つっても、武器を持てるわけじゃねーだろ」
ハッサクの手足の先端は、尖り気味になっている。
銃や剣を持てる構造ではない。
「手足そのものが武器さ」
「電磁警棒と同じようになってる、とでも?」
「ご名答。ま、君がバカでもそれくらいはわかるだろう?」
見れば、手足が薄く発光している。
電磁警棒と比べて威力はさすがに劣っているだろうが、同種のものであることは間違いない。
関節部分にでも巻きつかれたら、やっかいなことになるであろう。
「エネルギー切れを狙っても無駄だよ。収納すれば充電出来るのさ、コイツは」
「でも、時間がかかるだろ」
「まぁね。だけど、その前に君は倒されるよ」
「んなわけないだろ。全部潰せばそれで終わりだ」
「出来るかな?」
「決まってんだろ」
おお、何となく会話が噛み合っている。
……ように見える。
言いたいことしか言わない連中ばっかりな中、トークが成立しているのは嬉しい限り(低いハードルである)。
「ゆっくりしていられないんでね、それじゃあ、やらせてもらうとするよ!」
ハッサクを再起動させるリボンズ。
それならくっちゃべらずにとっととやれ、とツッコミを入れたいところだが、
こーいう部分もリボンズがリボンズたるところ。
外連味、とはちょっと違うが、役者的なのだ。
遊び心と表現すれば、人間ぽいとも言える。
本人は「超越者としての余裕」と言い張るだろうが、
どー考えてもそうは思えない。
なんつーか、子供っぽい。
次は明日か明後日の深夜にて。
細切れで申し訳ありません!
>>694 土曜氏さん乙です!
半端に人間臭い超越者のリボンズとマイペースなコーラさんの
かみ合ってるようなかみ合ってないようなやりとりに笑いました
お仕事大変そうですがどうぞ体調など崩されませんように
「ハッサク! 行け!」
リボンズの号令一下、銀色の球体(触手付き)が勢いよく『シークヮサー』に襲い掛かる。
しかも直線的にではない。
まるでそれぞれに意思があるかの如く、速度を変化させ、うねるように飛んでいく。
「!? うひょー!」
今までとは明らかに違う動きに、さしものコーラサワーも戸惑う。
が、いくつかダメージを負いつつも、直撃を避けているのは、流石というところであろう。
対多数の戦闘の経験も彼はそれなりに積んでいる。
スクランブル2000回で模擬戦全勝は伊達ではないのだ。
「やるね。だけど、その機体じゃあね!」
「ほわっ!?」
とうとう、ハッサクのひとつが、『シークヮサー』の右足に絡みついた。
うねうねと触手を関節部分に伝わせていく。
「だからなんだよ! 叩き潰す手間が省けただけだぜ!」
右足に向けて電磁警棒を振り下ろすコーラサワー。
だがそれより僅かに先に、絡みついたハッサクは白く発光し、その内側より弾け飛ぶ。
「のわーっ!」
「はははは! どうだい、これがハッサク・改の本当の使い方さ!」
高笑いするリボンズ。
右足を失った『シークヮサー』は大きくバランスを崩す。
そしてそこに、さらなるハッサクの追撃がかかる。
「ちょわー!」
片足となりながらも、前のめりに犬かきをしながらそれをコーラサワーはかわす。
その俊敏さも、さすがはコーラサワー。
(イメージとしては、『前に弾いたボールを慌てて四つんばいでおいかけるガンバ大阪GK東口順昭を思い浮かべ……って、Jリーグ好きでねぇとわかんねえ例えだな、これ)
「やるねえ、でもいつまで逃げられるかな?」
「自爆兵器かよ! そこまでやるか、おい!」
本編のガガの時や映画のELSもそうだったが、何か特攻系にとことん縁のあるコーラサワーさん。
しょうがないね、ハンサムで嫁さん持ちだもんね、爆発しろってことだね。
「ちょわ、はわ、ほへーっ!」
時に片手を脚の代わりにしてふんばり、残った左足で砂の大地を蹴って飛び、空中でさらに回転する。
そしてその間に、襲い来るハッサクをいくつか叩き落とす。
これぞ一軍のエースパイロットの技量なり。
まあ、コーラサワーも本編の最初の方じゃ実戦がダメなブルペンエースっぽい描写をされていたけど、
実のところちゃんと作戦の駒としてはそれなりに動くし、乱戦にも強いってところを後々見せたしね。
パイロットとしてはグラハムに、指揮官としてはアライグマ、じゃねえな荒熊さんに譲るとしても、
『生還者』っぷりを加算して考えれば、多分トータルポイントでは上回ってるわけで。
「……いや、サーシェスもアレだと思ったけど、君もたいがいアレだね」
リボンズは思わず賞賛の言葉を呟いた。
人外が感心するんだから(しかも曖昧な表現付き)、それこそたいがいである。
細切れにて失礼。
次は明日の深夜か明々後日にて。
>>697 乙です、もしかしたらここのコーラさんは、本編のコーラさんより技能が上かも?w
>>697 乙、今はズンボリさんのターンのようですが、ふとした切っ掛けでまた逆転しそうですねw
片足を失った程度ではMS(ミカンスーツ)は戦闘力を失わない。
失わないが、減りはする。
その辺りは、やはり「人型」だからである。
攻守に完璧なロボを作ろうと思ったら、完全に球体にするしかない。
ただそれだと、部隊として編制出来ない。
全ての面に対して防御と攻撃が可能ということは、ものごっつい統制が難しいということでもある。
球体メカは○ス・スターの如く単体で扱うべし。
それに何より、丸っこいメカが何百機とビームを吐きながら交戦していても、絵的にロマンがない。
ラストシューティングの初代ガンダムが非常に美しいのは、
あのボロボロ具合が、主人公機の最期として、わかり易くてかつドラマチックだからだ。
ZZでジュドーとハマーンのラストシーンだって、
ダブルゼータとキュベレイが相打ち状態でズタボロだったからこそ、
あの二人の会話がさらにせつなくなるのである。
あれがキュベレイが真っ白な球体(半壊)、ダブルゼータがトリコロールカラーの球体(半壊)だったとしたら、
ドラマも何もあったものではない。
ただのギャクである。
球体が許されるのは、ガンダム世界のマスコットキャラ、ハロだけなのだ。
ボールだってほとんど球体だろ、とおっしゃる方がおられるかもしれないが、
きちんと手と砲が付いている。
あの一見無駄にも思える手と砲が、ボールというメカにロマンと愛しさを付与している。
それに異存があるガンダムファンは少ないはずである(多分)。
さて、ハッサクも球体である。
人が乗って動かすのにはいささか画面映えがしないが、その武器として扱う分については全くの別。
かのジャイ○・ツェ○リだって鉄球を戦闘に使って、非常にカッコ良かった。
「もう降参したらどうだい?」
「寝言は寝てから言えよ」
余裕を込めて、コーラサワーに降伏を勧めるリボンズ。
『シークヮサー』の片足を奪ったことで、表面上は確かにリボンズは勝利に近づいた。
「まあ、そうだろうね」
「わかってんなら聞くなよ!」
「いや、君は何しろ『バカ』らしいからさ」
「お前程じゃねーよ!」
パトリック・コーラサワーが、戦闘で自ら白旗を上げることなぞ、無い。
彼が戦場で両手を上げるとしたら、それは嫁の命令があった時、もしくはその嫁が人質に取られた時だけである。
「行け、ハッサク」
「来いよ、蜜柑ダマ!」
残りのハッサクは、実は多くない。
リボンズとしても、無駄撃ち(無駄落とされ)は避けたい。
「んがっ!」
複数のハッサクを、『シークヮサー』の右腕に集中攻撃させる。
ひとつふたつならまだしも、5、6、7……と数を増やされては、さすがにコーラサワーもかわしきれない。
バキッ、と妙に生々しい音と共に、『シークヮサー』の右腕が、肩口からへし折れる。
ぶつ切り失礼。
次回は明日の深夜か明々後日の深夜にて。
なんかABone2の調子がおかしくて書き込めない。
>>701 乙〜
コーラさんがピンチに陥ったようですが、次回でピンチを撥ね退けそうな気が…
>>701 乙です、コーラさんがピンチになっても、あまり深刻な状況にならない気がしますねw
「なんとぉーっ!?」
右足、右腕を失いつつも、次なるハッサクの攻撃を回避するコーラサワー。
何気にトミノ語な台詞も口に出しているが、あんまりしっくりこないのは、やっぱりトミノ作品のキャラではないからだろうか。
「は?」とか「へ?」とか「またかよー!?」とか叫んでいる方が、彼らしいっちゃ彼らしい。
原作アニメでついに断末魔の台詞が無かったのは、幸せなことであった。
「まだまだ!」
「のひゃー!?」
片足でジャンプした『シークヮサー』の、前、後ろ、下の三方向からハッサクが襲う。
回転しつつ前と後ろのハッサクを叩き落とすが、下のハッサクはかわせず、
今度は左足の膝から先を自爆によって持っていかれる。
「ちょまああああ」
完全にバランスを失い、真っ逆さまに落ちる『シークヮサー』。
コンクリートやアスファルトであれば、間違いなく落下衝突のダメージを追加で負っていただろうが、
ここは砂漠、砂がクッション代わりになり、さらなる破損は何とか免れることが出来た。
「喰らえ!」
そこにさらにハッサクの突撃。
しかし、これもコーラサワーに阻止される。
コーラサワーが必死に片腕一本で『シークヮサー』を跳ね上げさせ、
その片腕に内蔵されたトリモチ(粘つくミカン液で製造されたもの)を放ち、それが当たったのだ。
微妙に勢いを殺されたハッサクは、ギリギリで『シークヮサー』に命中せず、砂の大地にぶつかって爆ぜる。
「やるね。だけど、もう何も出来ないだろう?」
「……ふん。おめーだってミカン球はもうカラッケツだろ」
「何故そう言い切れる?」
「浮いてねーからな、お前の側に」
コーラサワーの言葉通り、『リボーンズ・グレープ』の周囲には、ひとつのハッサクも無い。
「まだある、と言ったらおどろ」
「かないね。絶対ねーから」
「……」
「残ってたら、くっちゃべってる間に間違いなく出してる」
コーラサワーは、パイロットスーツのヘルメットをコクピットのシートの後ろに放り投げた。
安全面では許されることではないが、ここまでダメージを受けた以上、安全もクソも無い。
「自信がある、と?」
「ほれ、残ってるなら喋ってる間に出せよ、ミカン球」
「……まさかね。そこまで見切っているとは、流石は元エースと言うべきかな?」
「元ってつけるな、俺は今でもスペシャルなエースだっての」
残された左腕を器用に使い、コーラサワーは『シークヮサー』を『リボーンズ・グレープ』に正対させた。
位置的に見降ろされる形なので、気に食わないとコーラサワーは思ったが、どうにかなるものでもない。
すぐ側には、先程のハッサクの自爆で千切り取られた、『シークヮサー』の右腕が転がっている。
バチバチと火花に似た音が鳴っているが、際断面からではなく、右腕が握っている電磁警棒からである。
破損部の誘爆が無いようにと、この辺りはビリー・カタギリが綿密にMS(ミカンスーツ)を設計し、組みあげている。
細切れ失礼。
続きは明日か明後日の深夜にて。
乙、コーラさん、ピンチの割には割と冷静なような気が…
もしかしたら切り札的なものがあるのかも?
続きも期待してます!
「そう、もうハッサクは無い」
「弾切れってやつだな」
「そうだね。だけど、君の方だってそうだろう? 反撃の手段は―――種切れだ」
「……」
ゆっくりと、空中で『リボーンズ・グレープ』は変化を開始する。
『グレープ・リボーン』へと。
「これで、本当に最後だ」
『グレープ・リボーン』は、ゆっくりと電磁警棒を大上段に構えた。
まるで、大昔の剣豪のように。
やたらと芝居掛かっている辺りが、リボンズ・アルマークという『生き物』の本性を現している。
どこまでも、とことん、劇場型なのだ。
「君を倒し、刹那・F・セイエイを倒せば」
『グレープ・リボーン』のミカンエンジンが唸りをあげる。
禍々しい色の紅い粒子が、その量を増やす。
「僕の、決定的な!」
そして、『シークヮサー』に向かって、突撃をする。
いや、突撃と言うより、落下に近い。
「勝利なんだっ!」
リボンズ・アルマークの瞳が、金色に輝く。
栄光への革新を込めて。
パトリック・コーラサワーは、『シークヮサー』をその場から動かそうとはしなかった。
動けないわけではない。
両足と片腕がもがれても、まだ彼の技量なら、どうにか『グレープ・リボーン』の突撃をかわすことが出来る。
だが、それだと、敗北が少し延びるだけのこと。
「失敗したな、ミカン球の親分」
コーラサワーが行ったのは、かわすことではなかった。
側に転がっている、『シークヮサー』の右腕。
電磁警棒を握ったままの、右腕。
それを、『シークヮサー』に残された左腕で掴み、取り上げた。
「腕を一本……」
そして、それを。
「残してるぜ?」
前に向かって。
「いや、やっぱり」
突撃してくる『グレープ・リボーン』に向かって。
「二本、残ってるか」
突き出した―――。
誤字あり
栄光への革新→栄光への確信
次回、決着。
そして最終回間近。
ではまた。
>>708 土曜日さん乙です!!
しかし、このコーラさん、カッコ良過ぎる…!
>>708 土曜日氏乙!
この所のリボンズとの対決では、コーラがコーラとは思えない程カッコイイですねw
そして最終回間近ですか、このSSも長期連載だったんですねえ…
次回以降も期待しています!
風の強さは、幾分その勢いが収まってきた。
舞い上がる砂塵の量も、先程に比べると、減っている。
「ふう」
パトリック・コーラサワーは、額を手の甲で拭った。
汗はそれ程かいてはいないが、埃っぽさが気にかかったからだ。
早くシャワーを浴びて、酒でも飲みたい。
コーラサワーは、そう思った。
「よう」
コーラサワーは、額から手を下した。
何時の間にか、すぐ側に少年が立っている。
側と言っても、コーラサワーと少年との間には、数メートルの距離がある。
水平にではなく、斜め方向に。
「よぉ」
砂の上に横たわるMS(ミカンスーツ)、その腹の上に、コーラサワーは座っている。
一つ体を寄せれば、すぐにコクピットなのだが、今更そこに戻る気はコーラサワーにはない。
「ま、つーわけでスペシャル様な俺の勝利ってことだ」
戦いはすでに、終わっているのだから。
◆ ◆ ◆
「しかしまあ、無茶をしたものね」
サリィ・ポォは肩を竦めて、息をひとつついた。
呆れているのだが、その一方で僅かながら、感心もしている。
両足を片足をもがれながらも、そこから大逆転をした味方。
その性格が性格だけに、真正面から褒めたくはないが、それでも成果は成果である。
「カウンター、というやつだな」
「マジックハンド的な……ズームパンチ的な……何て言えばいいんでしょうね」
ヒイロ・ユイとカトル・ラバーバ・ウィナーは、言葉を交わしつつ苦笑した。
破損した片腕を、謂わば槍代わりにして、突撃してくる敵に突き込んだ。
相手にしてみれば、文字通り『手が伸びた』というわけだ。
「あのバカが凄かったわけではない。リボンズ・アルマークがさらにバカだっただけだ」
「九割は賛同する」
「せめて八割にしてあげたら?」
「二割も褒めたくないですぅ」
張五飛、トロワ・バートン、ヒルデ・シュバイカー、ミレイナ・ヴァスティがそれぞれの思いを口にする。
その少し後ろで、ソーマ・ピーリスとアンドレイ・スミルノフが無言で顔を見合わせる。
何も言わなかったのは、全くフォローするつもりがなかったからである。
パトリック・コーラサワーは勝った。
機体に大ダメージを負いながらも、敵の突進を逆手に取って、誰も想像し得ないやり方で、致命的な一撃を見事に叩き込んだ。
賞賛されるべきであり、労われるべきなのだが、味方の誰もが素直にそれをしない。
ここら辺りが、パトリック・コーラサワーという男をよく表している。
プリベンターの懐は深い、と彼を受け入れている組織の方を褒めておくべきだろう。
ぶつ切りで失礼。
次回はまたすぐに。
>>712 乙です、功績を立てたというのに、皆の反応が冷たすぎるw
「見事だった、パトリック・コーラサワー」
「何だよナルハム野郎、お前が褒めるなんて、砂漠に雨が降るな」
皆が正面きってコーラサワーを褒めない中、ブシドーさんことグラハム・エーカーは素直に賞賛の言葉を口にした。
ある意味、空気が読めない人である。
いや、この場合はまぁいい事なんだが。
「で、あれは何だ?」
「あれ、とは?」
「だからあれだよ」
コーラサワーは寝っ転がる『シークヮサー』の胴の上から、よっという感じに飛び降りた。
下が砂地であり、クッションにはなったが、逆に着地の際に脚を取られて、尻餅をついてしまう。
かっこつけのコーラサワーとしては失態だが、文句の一つも言わずに立ち上がったのは、
勝利の満足感がまだ体の中に残っているからであろうか。
「ああ、あれか」
額にかかる前髪を、グラハムはゆっくりとかきあげた。
彼の視線の先には、人間が何体か、マットの上に横たえられている。
「わからん」
「わかんねーのかよ!」
「わからないものをわかる、と言うのは恥知らずの見栄っ張りでしかない」
「あっそ」
無茶で道理を覆すのがグラハムの生き様だが、この辺りは次元が別の話なのであろう。
「どういうことか、アイツが教えてくれるさ」
二人の横合いから、デュオ・マックスウェルが話しかけた。
「アイツ?」
「ああ、アイツさ」
デュオが指さした先には、一人の少年が立っていた。
青年、と呼ぶにはまだ早すぎる気もする。
その顔には、幼さの成分がまだ残っている。
デュオ達と同じか、少し年上くらいであろう。
「刹那・F・セイエイ。アイツがいなけりゃ、俺達は負けていたかもな」
「あー、あれがそうか。あのちんちくりん二号だな」
「覚えてないのか?」
「女の顔と名前は覚えるが、男は覚えるつもりはない」
「……お前、俺達をアダナで呼ぶのはまさか」
「普段から顔を合わせてる奴等は別だっつーの」
アカン、やっぱりこの二人だとどんどん漫才風になる。
「アイツ、俺にイタズラ電話してきやがって、それでこーなったんだよ」
「イタズラ電話?」
「意味不明なことばかり言いやがって。そこから出たいかスルメイカとか、伝手があるからツッテケテーとかよ」
「お前の頭と舌が既にイタズラもんだよ」
いやほんと、漫才だねこの二人。
ぶつ切り失礼。
続きは多分29日〜30日の深夜辺り。
>>715 乙です!
ちょっと前の話ではカッコ良かったコーラさんですが、いつものコーラさんに戻ったようでw
だが、それが良い!
あと、00キャラはもしかして1期目の基準なんでしょうか?
まだ幼い段階でイノベイターに覚醒してしまうせっちゃんが何気にすごい(精神的には2期目に近いようですし)w
◆ ◆ ◆
物言わぬ、人のカタチをしたもの。
リボンズ・アルマーク「だった」ものは、無表情で体を横たえている。
他のイノベイター達も同様に、身動きひとつしない。
砂の上に敷かれたマットの上に、並んで寝ている。
「これは……どういうことなの?」
スメラギ・李・ノリエガが、刹那・F・セイエイに問う。
サリィ・ポォ、ビリー・カタギリも、説明を求めるべく、側にいる。
「簡単に言えば、『心』だけが逃げた」
「心だけが……?」
スメラギは首を傾げた。
簡単に、と刹那は言ったが、どうにもいまいち理解し辛い。
「リボンズ・アルマークやその他のイノベイター達……。今ここにあるものは、『入れ物』にしか過ぎない」
「入れ物?」
「リボンズの、本当の『最後の手段』とは、これのことだ」
スメラギ、サリィ、ビリーは顔を見合わせた。
わかりそうで、わからない。
いや、わかる気がするが、信じることが出来ない。
「つまり……リボンズ・アルマークの人格は、もうここにいないということ?」
「そうだ。ヴェーダを経由して、この地球のどこかにある別の体に逃げた」
「そんなこと、どうやって」
サリィは言いかけて、やめた。
理解は出来なくても、納得するしかない。
イノベイターとは、そういうものである。
ヴェーダとは、そういうものである、と。
「世界には、自覚の無いイノベイターの『仲間』が多くいる」
「仲間が……」
「そのうちのどれかに、リボンズ達は潜り込んだ」
「……なるほど、ね」
カタギリは頷いた。
構造の問題はともかく、リボンズの行為がどういうことか、合点がいったからだ。
「イオリア・シュヘンベルグの遺産というわけかい、これも」
「遺産の悪用……と表現して良いかわからない。だが、ヴェーダの使い方の一つでもある」
「防げなかったの?」
「防げた」
スメラギの問いに、あっさりと刹那は答えた。
「なら、どうして?」
「防げたが、そうなるとヴェーダの『内部』にリボンズ達が残ることになってしまう」
「……」
「ヴェーダの『内部』は広大だ。リボンズ達を全て駆除するのは、無理だ」
「……君の力でも、かい」
カタギリの言葉に、これまたあっさりと刹那は頷いた。
「リボンズ達が力を取り戻すまでには、時間がかかるはずだ。当面は、『普通の人間』としてしか活動出来ない」
「確かなの?」
「ここに並んでいる『殻』は、リボンズ達の力を発揮出来るだけのポテンシャルがある。だが……」
「世界中にある『殻』は、そうではないということ?」
「そうだ」
「わかるのね、そういうことが」
「……わかってしまう」
「ふうん」
スメラギは腕を組んだ。
刹那の急ともいえる変貌。
以前の刹那とは、明らかに違う。
覚醒した、という表現が最も適切であるようにも思える。
「ねえ刹那、まさか貴方は……」
スメラギが最後まで言葉を言う前に、刹那は小さく微笑みながら、首を横に振った。
「違う。スメラギ・李・ノリエガ。俺は刹那・F・セイエイ。マイスター運送の社員だ」
「刹那……」
「人間だ。ただの」
再び、スメラギ達三人は顔を見合わせた。
「そういうことにしておきましょうか」
「レディ・アンが納得するかどうか自信が無いわ」
「イオリア・シュヘンベルグ……。百年以上の前の人間なのに、とんでもない天才だな」
刹那から詳しく話を聞くとしても、今ここですることではない。
とりあえず、後始末を一通りして、帰還してからの方が良い。
「マリナ・イスマイールにどうにかして連絡を取りましょう。彼女の力を借りる必要があるわ」
サリィ・ポォはリボンズ・アルマーク「だったもの」の能面のような顔を一瞥し、刹那達から離れた。
振り返った彼女の視線の先には、ぎゃあぎゃあと喧しい、プリベンターの面々がいる。
その中心にいるのは、癖のある髪の毛をした、一人の青年だ。
まぁ年齢的にはもう中年に近いのだが……。
「結局、今回もあの男がケリを着けたことになるのね」
溜め息をひとつ、サリィはついた。
そして、空を見上げた。
青い空が、徐々にその明度を下げつつある。
「いや、まだ終わってない……のかしら?」
答は、当然返ってこなかった。
ぶつ切り失礼。
次回は30〜31日の深夜にでも。
今年中に最終回を、と常々言っていましたが、ここまできたらコーラサワーさんの誕生日に最終回というのもいいかもしれません(2chが落ちてる可能性もありますが)。
後は刹那による説明と、そしてコーラサワー劇場で締め……のはず。多分。
ここまできたら後は完走を目指すだけです。
>>716さん
00のキャラ達は、今は二期基準くらいです。
確か00の第一回目の放送直後くらいから続けているので、途中で強引に二期基準になってます(相当前に投下した分に、その辺りのことを書いた記憶がある)。
ぶっちゃけ、そこら辺りは曖昧です。何しろギャグですんで。
720 :
716:2014/12/30(火) 22:26:17.44 ID:40r2KYQ+0
>>719 乙です!!
やはりというか、00本編と一緒で、別の身体を用意していたんですね>リボンズ一派
暫くは本来の力が出せないとのことですが、放っておくわけにもいきませんからね
>00のキャラ達は、今は二期基準くらいです。
そうだったんですか、1期目のままだと思ってましたw
年齢はともかく2期目の基準なんですね、了解しましたw
統一政府の首都、ブリュッセル。
空には数片の雲しかなく、町並み降り注ぐ陽光は、暖かく、そして優しい。
運輸業者である『マイスター運送』は、首都の一角にある。
街の中心からやや外れているが、周囲にはそれなりに工場や住宅があり、寂れた場所というわけではない。
【24時間、何処でも何でも運びます】がモットーの会社だが、今はしばしの休業中である。
「業務の再開は、再来週くらいには何とかなりそうね」
そのマイスター運送の社長室に、スメラギ・李・ノリエガはいた。
彼女が座っている椅子の前のデスクには、先程までウイスキーが入っていた小さなグラスが乗っている。
今は真昼間なので、こんな時間から酒を飲むなんぞ、社長という立場からすれば言語道断なのだが、彼女は一向に気にしない。
いや、これでも色々と注意を受けて、量を控えてはいるのだが。
「政府の方への『ごまかし』は結局、プリベンターに押し付けた形になるな」
ティエリア・アーデが、これまたグラスを傾けながら、口を開いた。
ただし彼の手にあるグラスの中身は、烏龍茶である。
「そうは言っても、『ヴェーダ』に関しては刹那が・F・セイエイが担当したじゃないか。あちらだけが面倒だtったわけではないさ」
窓際に佇みながら、ティエリアに言葉を返したのは、リジェネ・レジェッタである。
もとはマイスター運送の敵側、『イノベイター』のメンバーだったのだが、
紆余曲折を経て、今はこうしてこの会社の一員となっている。
外見はティエリアに極めて似ており、対外的には、『ティエリア・アーデの従兄弟である』ということで通している。
本当は、塩基配列が全く同じな『人造人間』であるのだが、それを知る者はごく少数に限られている。
マイスター運送には今、ティエリア、リジェネ、そしてアニュー・リターナーの三人が、イオリア計画の人造人間『イノベイド』として存在している。
なおアニューも自覚のないイノベイターだったようだが、事件後に刹那がヴェーダを介して手を打っており、リボンズの支配下からは外れている。
リジェネ自身はリボンズの方から『切られて』いる為、今は全く影響は無い。
「例の報告書、読ませてもらったけど」
白衣で長身の男性、ビリー・カタギリが、書類を団扇替わりに仰いだ。
室内は空調が効いており、汗ばむ程ではないのだが、
彼の目の前にいるスメラギが胸元の開いた服を着ていることが、彼を幾らか穏やかではない心持ちにしている。
「一般に向けては、まぁおそらく問題は無いと思う。だけど、専門的な知識を持った人間に対しては、どうかな。イオリア関連の研究者は多くいる」
「貴方みたいな人が、興味を持ってほじくりかえす、と?」
「その可能性はあるけれど、彼が、刹那・F・セイエイがどうにかするという話なんでしょう?」
さらに、五人目が声を発した。
絹江・クロスロードである。
「CNNに関しては、ハワードさんやイケダが何とかしてくれるわ」
「流石はハワード翁、と言ったところかしら」
「まさか、そこまで権力を持っているとは思わなかったけれど」
「あら、裏では結構有名なのよ、あの御老人」
「……イオリア・シュヘンベルグについても結構調べていたみたいなのよね。とんでもない人と繋がりを持っちゃったもんだわ」
絹江は肩を竦めた。
それなりにJNNTV内では力を持っていると思ってはいたが、まさかマスコミのほとんどの上層部に対して、かなりの『抑制力』を持っているとは。
「でも、おかげで私個人に対する追及も減ったわけだし、本当に頭が上がらないわ」
絹江は、社の方針に逆らって勝手に取材活動を行ったということで、解雇された―――ことになっている。
実際は、『イノベイター事件』の情報を多く持っている人間として、JNN内で人柱に立たされかけたのだが、そこをハワードが手を回し、『首を切ってくれた』のだ。
今は、クラウス・グラードやシーリン・バフティヤールの口利きで、『反省府組織』であるカタロンに身を置いている。
「大変の度合いなら、ビリーの方がもっとそうじゃない?」
「え、ぼ、僕かい?」
スメラギからの突然の指名に、ビリーは思わず口籠った。
スメラギの胸元を見ており、会話に集中出来ていなかったのが原因だが、スメラギ本人は気付いていない。
「まぁ……叔父さんが絡んでいたのには、かなり驚いたけどね」
叔父とは、総合企業アロウズの会長、ホーマー・カタギリのことである。
「叔父さんは物凄く真面目な人なんだ。だからなのかな……こうなってしまったのも」
彼が『イノベイター事件』に関与していたことは、すでに公けになっている。
アーサー・グッドマン、リー・ジェジャン、アーバ・リントといった彼の部下達も、全て身柄を収監されている。
他にも、リニアトレイン社総裁のラグナ・ハーヴェイ、イノベイターのマネージャーのアレハンドロ・コ−ナーらも、連座したとして同じように拘束された。
ASSのバラック・ジニンについては、レディ・アンとサリィ・ポォが弁護をしたおかげで、部下ともども追及は軽くて済んだ。
「アロウズは、政府主導で運営が大幅に変わりそうね」
「その余波を喰らった形だよ、僕は。在野の科学者でいたかったんだけどね。でも、叔父さんの為にも頑張らないといけないんだろうな」
「諦めなさいよ、ビリー。でもアロウズに入ったおかげで、可愛らしい女性と知り合えたんでしょ?」
「や、やめて欲しいな」
カタギリは、何やかんやで、アロウズの研究施設の長になってしまった。
ホーマーの甥という立場をすっ飛ばし、そうなってしまったのは、明らかにプリベンターの意向による。
少なくとも、これでアロウズの研究部門は政府の敵にはならなくなるし、リボンズ達が復活した際にも利用は出来なくなる。
リボンズ達が『入っていた』殻も、今は研究所で管理されている。
「ミーナ・カーマインといったかしら。良さそうな人じゃない」
「いや、その、あのね……」
スメラギも知っててやっているならかなりの悪女であるが、実際はそうではない。
まぁその分、タチが悪いのかもしれないが。
「ミーナ・カーマイン……彼女は」
「ああ、おそらく先祖が、イオリアかそれとも過去のリボンズに遺伝子を提供したんだろうね」
ティエリアとリジェネは、小さく言葉を交わした。
イノベイター事件の後、事件解決の祝賀会(と言う名前の、今後の打ち合わせ)で、ミーナと二人は面識を持ったのだが、
その容姿がマイスター運送のライバル会社にして、リボンズの部下であった『トリニティ運送』の末妹にそっくりだったのだ。
彼女が『殻』でないことは、すぐさま刹那が『確認』し、一瞬ざわついたマイスター運送の面々も落ち着くことが出来た。
世間は広いようで狭い、ということを身を持って知ったわけである。
「しかし、どこへ逃げたのやら」
「リボンズ・アルマーク達のことかい、クロスロード女史」
「いえ、アリー・アル・サーシェスと、そしてトリニティ運送のことよ」
「さて、ね」
リボンズ・アルマークの部下として、主だった面子で捕まっていないのは、
アリー・アル・サーシェスとヨハン・トリニティ、ミハエル・トリニティ、ネーナ・トリニティの四人である。
アリーはブシドーさんことグラハム・エーカーにMS(ミカンスーツ)戦で敗北した後逃走し、行方不明。
トリニティズに至っては、最終決戦の場であるヴェーダの端末に姿すら無かったことから、その前に脱したと思われるが、全くわからないまま。
「彼らは『下位種』としてリボンズに扱われていた。いずれ離反するか、それとも処理されるかのどちらかだったと思うよ」
「彼らにしてみれば、幸運だったのかもしれないな」
皮肉なものだ、とリジェネは思った。
リボンズから離れることで、自分も、アリーやトリニティズも、ギリギリではあるが『負け組』にならなかった。
リボンズに取って代わったとしても、刹那が覚醒した以上、結局はイオリアの遺産も、人類の未来も、手に入れることは出来なかっただろう。
「人類革新重工の方も、協力はしてくれるみたいね。何しろ今後、運送用・社内用、機械類の整備の一切を面倒見てくれるらしいわ」
「アロウズでどうにかしたいんだけどね。体面上、仕方ない」
イノベイター事件にて得た情報の大方を、アンドレイ・スミルノフとソーマ・ピーリスは、上司であるセルゲイ・スミルノフに報告した。
セルゲイは同僚のパング・ハーキュリーと相談した結果、イオリアの遺産やヴェーダに対して、直接的に関わらないことを決めた。
セルゲイは最初、マイスター運送やプリベンターと同じく、『遺産の守護者』側に人類革新重工を持っていきたかったようだが、流石に規模が大き過ぎる為、やむなく諦めた。
ハーキュリーは祝賀会で「GNドライブの製造が将来的に可能になった場合、うちが最優先の芽が出来た。それだけでも儲けものさ」と冗談を言ったが、
その冗談を差し引いても、人類革新重工にとっては、今回の事件はかなりのプラスになっている。
何しろライバル会社であるアロウズが派手にコケてくれた上に、プリベンターという政府の組織にも繋がりが作れたのだ。
「政府の方がヴェーダを悪用しないか、それが一番の懸念だけど」
「大丈夫よ。少なくとも、リリーナ・ドーリアンがいる限りは」
リリーナ・ドーリアンは当初、イオリア・シュヘンベルグの『遺産』とイノベイター事件の全貌を公開したいと考えていた。
しかし最終的に、レディ・アンやスメラギの説得により、一部だけを公けにし、大部分を秘匿することに同意した。
政府が隠し事をする、という点が彼女の倫理観にそぐわなかったが、
ドロシー・カタロニアや王留美も全公開に難色を示した上に、ヒイロ・ユイの「今の人類にはまだ早すぎる。そういうことだ」という言葉が決定打となった。
「今の大統領は少なくとも悪人ではないし、次か次の次辺り、彼女が大統領に選ばれるでしょう」
「その気が彼女にあるでしょうか」
「なくても、なるわよ」
くすり、とスメラギは笑った。
それを見て、絹江も笑った。
ただし苦笑だが。
「何だか、『地球を裏から操る謎の組織』の幹部みたいになってません、私達?」
「まさか、そこまで大それたものではないわよ。少なくとも、リボンズ・アルマークがやろうとしていたことに比べれば、千倍も健全ね」
「……我々は、イオリアの遺産を守りつつ、同時に人類の革新の過程も見守る。リボンズがやろうとしていたのは、『支配』だからな」
ティエリアは横合いからそう言いつつ、烏龍茶をボトルからグラスへと注ぎ足した。
溶けきっていない氷が、グラスの中でカランと音をたてる。
「ドロシー・カタロニア、王留美、マリナ・イスマイール、そしてマリーメイア・クシュリナーダ……その辺りがリリーナ・ドーリアンの補佐に回れば」
「後数十年は政府は安泰、ね」
「大いなる女性の時代、と後世から語られるだろうな」
カタギリはティエリアから新しいグラスと烏龍茶を貰い、一口飲んだ。
なんとまあ、とんでもない時代に生きていることか。
「マリーメイアと言えば、この前の祝賀会でえらくあの男を追い回していたけど」
「パトリック・コーラサワーのことですか?」
絹江は額を人差し指で小突いた。
祝賀会の様子を記憶の中から掘り出し、頭の中に描く。
「ええと、『気に入りました。クシュリナーダ家の入婿になりなさい』とか言われてましたね」
「そうそう」
「……あの男、結婚してるんじゃなかったでしたっけ」
「カティ・マネキンとね。彼女、私とビリーは旧知なんだけど……おもしろくなりそうな気がするわ」
「親と子くらい年齢が離れているんですけど」
「だからおもしろいのよ」
笑いながら、スメラギはウイスキーの瓶を手を伸ばした。
が、途中で止め、烏龍茶のボトルへと方向を変える。
「春が、来そうじゃない?」
「春、ねえ」
カタギリはしばし、これからコーラサワーの周囲で起きる騒動を予想し、グラスを小さく掲げた。
同じ男として同情するわけではないが、カティ・マネキンはそれなりに烈女である。
果たしてどういうことになるやら。
「春が来る、か」
ティエリアとリジェネは視線を交わした。
スメラギが口にした春という単語が、コーラサワーの周辺だけを言っているのではないことを、二人は理解している。
これからも色々と問題が持ち上がるであろう。
だが、力を合わせれば、春の時間は長く続くはずである。
「……」
二人は窓から、外を見た。
駐車場の真ん中で、マイスター運送の面々が歓談し、笑い合っている。
皆が食事を持ちより、マットを敷いてランチを楽しんでいるのだ。
そしてのその輪の中心に、刹那・F・セイエイがいる。
窓で隔たれているので声は聞こえないが、左右からニール・ディランディ、ライル・ディランディのロックオン兄弟にダブルヘッドロックをされている辺り、何かでからかわれているのだろう。
ヘッドロックによって身動きがとれなくなっているその姿は、『真のイノベイター』として覚醒した新人類であるとは、とても思えない。
ロックオン兄弟の腕に挟まれているその顔は、間違いなく仏頂面であろう。
アレルヤ・ハプティズムがロックオン兄弟を止めようとしているが、顔が笑っているのであくまでフリだけであることがわかる。
姉にくっついて出入りしている間に、すっかり面々と仲良くなった沙慈・クロスロード、ルイス・ハレヴィの姿も見える。
体を寄せ合ってサンドイッチを食べている姿が、微笑ましい。
ラッセ・アイオンが上半身剥き出しでポージングをしているのは、何かの余興のつもりだろうか。
リヒテンダール・ツェーリ、クリスティナ・シエラから紙コップを投げつけられているが、本人は意に解していない様子である。
フェルト・グレイスとアニュー・リターナーは何やら顔を寄せて話し合っている。
何を相談しているのか、だいたいの想像はつくが、口にするのは野暮というもの。
モレノとイアン・ヴァスティ、リンダ・ヴァスティはかなり酒が進んでいるらしい。
三人の前に、何本も酒瓶が転がっている。
何故か紅龍が執事姿で色々と動き回っているが、おそらく王留美から参加しろと言いつけられたに違いない。
「プリベンターとは、これからも何かとつるまなければいけないな」
「その度に苦労することになりそうだね」
「どちらが?」
「それは、もちろん……」
ティエリアとリジェネは、そこで口を閉じた。
全く同じタイミングで眼鏡を外し、拭く。
「決まっているな」
「決まっているさ」
これまた同時に、二人は言葉を発した。
「―――さて、私達も参加しましょう。ランチに」
スメラギはそう言うと、席を立った。
皆もそれに従い、表に出る。
降り注ぐ陽光は暖かく、そして優しい。
「両方が苦労することになるさ」
ティエリアは空を仰ぎ見つつ、呟いた。
春に嵐はつきもの。
だが少なくとも、辛いだけの嵐にはならないであろう。
その分、騒々しさは増すはずである。
プリベンターに、あの男がいる限り。
次回、多分最終回。
それでは。
>>726 土曜日さん乙です!!
一通り事件が解決して、総括といったところですね(逃亡中の奴が何人かいますが)。
あと、最後の方での、00本編では死亡したり不幸になったりしたキャラが、皆で仲良くランチを楽しんでいる場面が印象的でした。
次回で最終回とのことですが、コーラさんは良くも悪くも変わらないんだろうなと。
続きを期待しています!!
平和な時の軍人は暇である、と言われることがある。
が、実際はそうではない。
戦争が無いというだけで、こなす日課は山のようにある。
しかも、時間を守ることへのの厳しさは通常の社会人のそれより遥かに上ときている。
さて、プリベンターである。
プリベンターは軍隊ではないが、所属しているメンバーには元軍人がいる。
いる、のだが。
「あー、ダルいダルい」
「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見……」
「おーいオデコ娘二号、お茶持ってきてくれ」
ひたすらダルいを連発する男。
般若心経を唱える男。
ソファに脚を投げ出しながらお茶を要求する男。
仮にもこれ、かつてはエースパイロットと呼ばれた面々。
誰が誰かをいちいち言う必要も無いかもしれないが、
上からアラスカ野ことジョシュア・エドワーズ、ブシドーことグラハム・エーカー、自称スペシャルことパトリック・コーラサワーである。
「あんたたちねえ……」
コメカミに怒筋を浮かべながら、プリベンターの現場リーダー、サリィ・ポォが三人に近づく。
「だらしなさすぎるでしょう、しっかりしなさい」
まるで学校の先生である。
で、生徒達(?)の反応はと言えば。
「いや、だって二日酔いで」
「不生不滅不垢不浄不増不減是故空中無色……」
「じゃあオデコ姉ちゃん一号、お茶持ってきてくれ」
これである。
ええのんかこれで。
もちろん良くない。
サリィの額に、もうひとつ怒筋が増える。
爆発するまでもう僅か、というところだろうか。
つーかすでにヒルデ・シュバイカーがフライパン片手に待機している。
サリィが一つ手を振れば、ダッシュで飛んで行って三人の頭をパチコーンと叩くだろう。
「楽しそうだな、あいつら」
そんな騒ぎを横目で見つつ、デュオ・マックスウェルは麦茶を一口飲んだ。
「なら混ざればいい」
「ヤだ」
ヒイロ・ユイのツッコミを、デュオは一言で退けた。
無論、ヒイロもデュオの言う「楽しそう」がそのままの意味ではないことを知ってて言っている。
「何時ものことだ。いちいち気にしていられるか」
「何時ものことだと、尚更困るんですけどね」
「慣れてきている自分に少し苛立ちを感じるな」
張五飛、カトル・ラバーバ・ウィナー、トロワ・バートンの三人も、コーラサワー達に止めには行かない。
絡んだところで全く得が無い。
ただただ疲れるだけである。
「そういえばミレイナの姿が見えないが、どうしたんだ」
「マイスター運送がランチパーティをしている。そちらに行ってるらしい」
「……休憩時間中に行って、そして帰ってこれますかね」
「距離的にどう考えても無理だな」
「時間有給休暇扱いにすればいい」
なお、彼ら五人も丁度昼食を終えたばかり。
グラハム・エーカーの元部下であるダリル・ダッジのラーメン店『えむすわっ堂』からの出前である。
ハワード・メイスンも経営に加わり、近々二号店を出す勢いらしい。
「ま、俺達ものんびりさせてもらってていいわけでもないんだけどな」
「アリー・アル・サーシェス、奴の足取りはわからないままだ」
「奴のことだ。潜伏はお手の物だろう」
「だけど、彼の部下は捕まったままです。いくら彼でも、一人では何も出来ないでしょう」
「だといいがな」
イノベイター事件の際に、アリーの部下は一網打尽にされた。
他に部下はいないはず、である。
「リボンズ・アルマークとまた手を組む可能性もあるだろう」
「刹那・F・セイエイの話では、リボンズ・アルマークが力を取り戻すまでには時間がかかるということだ」
「本当なんでしょうか」
「信じるしかないだろう、刹那・F・セイエイを」
「だとしても、調査を続けるべきだろう。その為のプリベンターだ」
トロワの言葉に、頷く四人。
思えば、張五飛に強引に集められた割りには、デュオ達は『プリベンター』をしっかりと『自分の居場所』にしている。
何だかんだで、彼らは一つのチームなのだ。
「だが、イオリアの遺産を守るとなれば、さすがに人手不足じゃないか?」
「ゼクス・マーキスとルクレツィア・ノインの復帰は?」
「まだテラフォーミング事業の途中です。もうしばらく時間がかかると思いますよ」
「まあ、あの二人がいればいたで、あのバカ三人と色々揉めるだけだ」
「疑いようがないな」
あの二人がいれば、と思ったことは今までにも何度かある。
戦士として、パイロットとして、十分な戦力になるだけの実力を持っている。
が、トロワが言ったように、間違いなくコーラサワーやグラハムと色々ぶつかっていたであろう。
いずれ二人が戻ってきた時の騒動を考えると、なかなかに頭が痛いガンダムパイロット達である。
「あいつの嫁さんは?」
「カティ・マネキンのことか」
「戦術予報士として素晴らしい人なんですよね。加わってもらえれば、助かると思います」
「あのバカの抑え役も頼めるだろうしな」
「だが嫁が側にいると、アイツが喜ぶだけだ」
五人は顔を見合わせ、頷きあった。
嫁はともかく、コーラサワーが今以上に奔放になったら、それこそサリィの怒筋が十個以上出来てしまう。
「……当面は、この面子でいくしかないのかね」
「そうだな。サーシェスの件については、速めに解決しておきたい」
アリー・アル・サーシェスはプリベンターの宿敵ともいえる。
因縁が長々と続くことを、望んだりはしない。
さっさとカタをつけておきたい問題である。
首都ブリュッセルに注ぐ陽光は、暖かく、そして優しい。
プリベンター本部の窓から見える空も、青く澄み渡っている。
今、外で散歩をしたらさぞかし気持ち良いことであろう。
「平和、ってことかね……」
麦茶をすすりつつ、デュオは呟いた。
『イノベイター事件』が一応の決着を見てから、しばらく経つ。
人気アイドルグループが主犯だったということで、かなりの騒ぎとなった。
ほぼ連日、テレビでも新聞でも週刊誌でもネットでも、取り上げられ続けた。
一般人をはじめ、犯罪学者であるとか心理学者であるとか、様々な人間が、好き勝手な憶測を並べたてた。
解決した当事者であるプリベンターも、当初はマスコミの突撃を喰らった。
パトリック・コーラサワーも英雄として讃えられる―――ことはなかった。
レディ・アンとJNNTVのハワードが色々と手を尽くし、真相の大部分を秘匿したからだ。
表だって公表されたのは、おおまかに言えば、
「リボンズ・アルマークがサイバーテロを企んだ」
「目的はイオリア・シュヘンベルグの過去の研究、『電脳空間の新構築』の悪用」
「プリベンターが事前に察知し、プリベンター全員で、事に及ぶ前に止めた」
「リボンズを始め『イノベイター』の面々は逃亡中」
「サイバーテロには、リニアトレイン社やアロウズの一部も加担していた」
の五点のみ。
つまりは、『ヴェーダ』も『イオリアの遺産』も、ほとんどが隠されたままになっている。
イオリア・シュヘンベルグの言うところの人類の革新とそれに繋がる技術については、巧妙に軸をずらして、故意の情報を流して誤魔化した。
「バレなきゃ、いいけどな」
世界は広い。
不審を抱く人間も少なくないだろう。
リボンズもいずれ復活する。
それに、『自覚のないイノベイド』達の中に、第二のリボンズたらんと『目覚める』者がいるかもしれない。
「まだやってるのか、あのアホ三人は」
扉の向こう側から、コーラサワー達が騒ぐ声が聞こえる。
キレたサリィがヒルデにフライパンアタックを指示してから、十数分は経っているだろう。
デュオはぎゃあぎゃあと五月蠅い声から、目と耳を逸らし、再び窓の外を見た
大統領府の正面の大通りでは、何やらパレードをやっている。
「ああ、そう言えば……新しい太陽光発電システムが一基、スタートするんだっけか」
本来なら、その式典にプリベンターも参加しなければならない立場にある。
だがまだイノベイター事件が世間では沈静化していないので、公の場に堂々と姿を出すと、下手にマスコミに付きまとわれかねない。
それを避けるというレディ・アンの判断により、今回は見合わせる形となっている。
「ん?」
デュオは、窓から顔を離した。
コーラサワー達とは別に、何やら大きな声がしたからだ。
それは、コーラサワー達がいる部屋とは別の方から聞こえてくる。
そしてそれは、段々と大きくなってくる。
「なんだ?」
デュオが立ち上がった瞬間、プリベンター本部の表扉が、けたたましい音と共に開いた。
「た、た、大変ですぅ!」
叫びながら入ってきたのは、ミレイナ・ヴァスティだった。
「ミレイナ? お前、マイスター運送に行ってたんじゃあ」
「とにかく大変なんですぅ!」
「何が大変なんですか、落ち着いて下さい」
カトルが麦茶の入ったコップを差し出す。
それをミレイナは受け取ると、いっきに飲み干す。
「はー、はー、ですぅ」
「で、何があったんです?」
「テ、テ、テ」
「て?
「テレビをつけて下さい、ですぅ」
ミレイナの言葉を受けて、トロワが本部の中央にある大きなモニターのスイッチを入れる。
ブゥン、と電子音を立ると、そこには太陽光発電システムオープンの式典の様子が映し出される。
「これが、どうかしたのか」
「ニ、ニュースチャンネルに変えて下さいですぅ」
再度、トロワがモニターのパネルをタッチする。
ニュース専門番組に、瞬時に映像が変わる。
「こ、これですぅ」
モニターに映し出されたのは、若い女性のニュースキャスターと、そしてカコミ枠で炎上する大きな建物。
「これは……?」
「け、刑務所ですぅ」
「刑務所?」
「こ、郊外にある……」
モニターの中で、ニュースキャスターは表情を一切変えず、ニュース原稿を読み上げる。
『今から一時間程前、ブリュッセル西刑務所が何者かに襲われ、一部の被収容者が脱走しました』
「……おいおい、どういうことだこりゃあ」
「あの、そのですね、一部の被収容者というのがですね」
「ミレイナ、そこから先は私が話すわ」
何時の間にか、皆の背後にはサリィ・ポォが立っていた。
手を腰に当て、顔を幾分顰めている。
「ブリュッセル西刑務所に収容されているのが、どのような連中か、皆は知っているわね」
「まさか」
「そう、アリー・アル・サーシェスの部下達よ」
「……!」
デュオは小さく仰け反った。
「あの炎上具合、中から脱獄を企てたってわけじゃあないよな」
「ええ、外から無理矢理、建物の壁を破壊されたそうよ」
逃げ出したのがアリーの部下ならば、それを手引きしたのは当然―――。
「アリー・アル・サーシェス本人がやったのか!?」
サリィはデュオのその問いには答えず、歩を進め、モニターに近づいた。
パネルを操作し、また別の映像を呼び出す。
「レディ・アンからさっき届いた映像よ。西刑務所の監視カメラのひとつなんだけれど」
狭い刑務所の廊下を、口を大きく開いて笑いながら走る一人の男が、そこにある。
間違いなく、アリー・アル・サーシェスその人である。
「……ばっちし映ってやがる。あの野郎」
「それだけじゃないわ」
「まだ何かあるのか?」
「サーシェスの後ろに続く、三人の姿がわかるかしら」
「三人?」
デュオ達はモニターを凝視した。
アリーに続いて、刑務所の壁を爆薬で壊していく者達がいる。
「あれは……」
「トリニティの三人!?」
そう、ヨハン・トリニティ、ミハエル・トリニティ、ネーナ・トリニティの三人。
どういう趣向なのかわからないが、
ヨハンは『ランボー』のジョン・ランボー、ミハエルは『コマンドー』のジョン・メイトリックス、
ネーナに至っては『あの胸にもういちど』のレベッカ(つまりはル○ン三世の峰不二子のライダースーツの元ネタ)の格好をしている。
「何だこりゃあ!?」
異様な光景に、度胆を抜かれるプリベンター一同。
無理も無い話である。
「ちょっと待って下さい、襲撃されたのが一時間前とニュースキャスターは言ってましたよね」
「……アリーも、その部下達も、既に逃亡したってことよ」
警察は何をしていた、とはカトルは言わない。
警察が何とかしていたら、こんなニュースは流れていない。
「レディ・アンからすぐさま追うように、と命令が出ています。出動するわよ」
「了解した」
ヒイロ・ユイが立ち上がる。
政府の首都の側で事件を起こしたのであれば、追うのに手間はかからない。
かからないはずである、のだが。
「レディ・アンから追加で情報が出ています。部下はパレードに紛れ込んでいる可能性が高い、と」
「そりゃヤバイ。すぐに……」
行こう、と言葉を続けようとして、デョオは舌を止めた。
そして窓に飛びつき、外を見る。
パレードには多くの一般人が参加している。
この中から探すのは、相当に骨が折れる。
「しかも、ただ紛れ込んでいるわけじゃないの」
「まだ何かあるのか!?」
「どうやら連中、『着ぐるみ』で変装しているらしいのよ」
「着ぐるみ……?」
デュオは額を小突いた。
そして思い出した。
イノベイター事件の前に、各地の遊園地から着ぐるみが盗まれたという事件があったはずだ。
再々度、デュオは窓の外を見た。
パレードの人の列の中に、動いている着ぐるみが多く見える。
風船を子供に配っているパンダ、玉乗りの曲芸をしているネコ、タップダンスを踊っているピエロ……。
数えきれない。
どれがアリーの部下で、どれが普通の着ぐるみなのか。
「警察と連動して動きます。皆、すぐに準備を―――」
「お い お 前 ら 、 話 は 聞 い た な !」
サリィの言葉をかき消すくらいに大きく、別の声が室内に響く。
「あのバカ野郎、とんでもないことをしでかしたらしいな、おい!?」
誰、と訝しむ必要はない。
この嬉々とした声、パトリック・コーラサワー以外の誰のモノでもない。
「準備はいいな? 出来てるな? チンタラしてると置いていくぞ!?」
グラハム・エーカーの姿は、既に無い。
おそらく一報が入った時点で、ジョシュアを無理矢理引っ張って飛び出していったのであろう。
どこまでもワンマンアーミーである。
「さぁ行くぜ!」
コーラサワーが、プリベンターのジャケットを勢いよく羽織る。
サリィ・ポォが呆れた顔をしているが、全く気に掛ける様子も無い。
「ついてこいよ!」
一連の流れを見て、デュオは思う。
ああ、これからもこうやって、コイツに色々とひっかきまわされるんだろうな、と。
「この、模擬戦無敗―――」
プリベンターに身を置く限り、続くんだろうな、と。
「スクランブル2000回―――」
アリーを倒しても、リボンズを捕まえても続くんだろうな、と。
「不死身で幸せの―――」
もしかすると、人類が本当に革新するまでずっと、と。
「プリベンターのスペシャルエース―――」
コーラサワーは駆け出していく。
前だけを見て、振り向きもせず。
ただひたすら、マイペースに。
どこまでも、自分中心に。
駆け抜けていく、コーラサワーは。
「パトリック・コーラサワーによ!!」
―――新機動炭酸コーラサワーW・完―――
コーラーサワー主人公でW作り直そうぜ
1 :通常の名無しさんの3倍:2007/10/09(火) 18:48:40 ID:???
お前をスペシャる!
ここから全ては始まりました。
新機動炭酸コーラサワーの第一回目を投下したのは、この直後。
2007年10月9日、23時50分のことでした。
ここまで投下し続けることが出来たのは、パトリック・コーラサワーという素晴らしいキャラクターと、そしてスレの皆様のおかげです。
無事、完結致しました。
本当にありがとうございました。
これからの皆様に御多幸あらんことを。
そしてパトリック・コーラサワー、あけましておめでとう&ハッピーバースデイ!
>>735 土曜日さん、あけおめ、そして完結おめ!!
このスレが始まって、もう7年以上になるんですか、月日が経つのが早いですね…
こういう何らかの余韻を残したエンディングも中々良いですね!!
最後に、土曜日さん、お疲れ様でした!!
>>735 土曜氏さんお疲れ様です!
俺たちの戦いはまだまだ続くぜENDに
まだまだはしゃぎ続けるコーラさん達が見えました
コーラさんの誕生日に完結を見ることができ感慨無量です
>>735 土曜日さん、完結おめでとうございます。
物語は終了するが、コーラさんの活躍はまだ終わらない!!
時にコミカルに、時にシリアスにと、色々と楽しく読ませて頂きました。
最後に、7年間お疲れ様でした!!
このスレも7年目かあ、すごいなw
保守ワー
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