【IF系統合】もし種・種死の○○が××だったら 12
乙
もしシンが最終回で
「(やっぱり)お前はあいつの肩を持つのかァァァァ!!」で
ルナマリアを殺していたら?
別のスレでやってたけど
もしミネルバMS隊が
シン、コートニー、リーカ、マーレ、レイ、ルナマリア、ショーン、デイルで発足して
ハイネが隊長として配属されてきたら…ってのを見てみたいな。
>>3 それが出来るシンなら慰霊碑の前でキラを殺すだろう
握手なんぞするものか
>3
それ、保管庫にSSがあった気がする。
凸が割り込みに成功したか否か、しか本編と違わなくね?
あれ凸が割って入らなかったら勢いでそのまま殺してただろうし
>>1 乙
>>3 単発ネタであったような気もするが、新しいアプローチも見てみたいわ
漆黒の宇宙を、真紅のザクが駆け抜ける。
右手に抱えるのは無骨な長銃。傍らには緑のザクが3機。
その前に、敵の群れが姿を現した。
散開する両軍。ダガーの数は10機。数の不利は言うまでも無い。
だがザクは動きを止めることなく、オルトロスを連射した。
3つ、4つ、5つ。紅い閃光が奔る度に、宇宙に花火が上がる。
「狙いは―――――」
戦場を支配する真紅のザク。そのまま次の獲物に向けて銃口を向けた。
だがその隙を突いて、背後からダガーがビームサーベルを抜きながら迫る。
ザクのパイロットに気付いた様子は―――
「――――完璧よ!!」
振り向きざまオルトロスを放つ。再び紅い閃光が奔り、背後を突こうとしていたダガーを貫いた。
いやダガーだけではない。ダガーを貫いた光は衰えることなく、他に3機ほど一緒に撃墜した。
偶然か。いや、狙っていたのだろう。でないとこの状況を説明できない。
合計4機が並んだ一瞬を見逃さず撃ち抜く。それもただの一撃で。
生半可な技量ではないことだけはよく分かった。
「もういい、ルナマリア。……もう、十分だ」
シュミレータの後ろから、アスランは疲れた顔で呟く。
言葉に嘘は無い。確かにもう十分。
流石にあれだけの技術を見せつけられては何も言えない。やってる意味はわからんが。
隣に視線を向けると、傍にいたディアッカも困った顔をして頭を掻いていた。
「2人とも私の腕を見た? ブランクはあっても、まだまだ全然戦えるんだから!!」
「お前が強いのは十分承知しているさ」
確かに彼女は強い。
前大戦ではシンのお下がりとはいえ高性能機であるインパルスを託された程のパイロットではあるし、
今見せた技術もその辺の紅服など足元にも及ばないほどだ。
無論シンの本音を聞いているアスランとしては戦わせたくないという想いもある。
だが彼女らも同行すると決まった今となってはそうも言ってられない。
キラという強大な相手もそうだが、敵軍にはディーヴァの大きさから言って相当数のMSがあるはず。
彼らと戦うためにも少しでも精鋭を揃えたい軍人の自分としては、彼女の力は喉から手が出るほど欲しいものだった。
欲しいもの、なのだが。
「だけど…だけどな? 1つだけ確認しておきたいことがあるんだが……」
「何よ。復帰に反対っていうのなら認めないけど」
「あ〜、俺も質問。お前が出撃するのってさ。……ガナーで?」
自分の言葉にディアッカが口を挟む。己が出した言葉を否定して欲しいような、そんな声。
だが現実は非情だった。
「もちろんガナーで。私の射撃の腕、落ちてないし」
「「………………あ」」
「あ?」
「「アホかァァァァ!!!!!」」
「な、何よいきなり!!」
何よ? 何よと来たかこの女。自分のやったことの判断もできんのか。
それなら言ってやろうじゃないか。
「誰がお前をガナーなんぞに乗せるかァァァ!! 誤射しまくりやがってこの誤射マリア!!!
お前がガナーに乗せたら勝てる戦いも勝てんようになるわ!!!」
「つかなんでザクやグフまで落とすんだよ!? さっきの一撃だってダガー1機にザク3機だぞ!?
お前ザフトに恨みでもあんのかよ!?」
「―――フッ、私の後ろに立つからよ」
「「帰れ!!」」
「……相変わらずだな、あいつ」
その光景を遠くから眺めながら、ヨウランはくたびれた声で呟く。
流石はルナマリア。誤射マリア・必中30・先に愛覚えた等の異名は伊達では無い。
むしろアカデミー時代にシンの愚痴を聞き続けた自分としては、これぐらい想定の範囲内だ。
というか何故ミネルバ時代、彼女はガナーに乗っていたのだろう?
「ケント主任、ホークさんのウィザードは何を選択することになるんでしょうか?」
「え? え〜っと……」
いつのまにか側に来ていた部下の質問の声に考えを巡らせる。
ガナーは絶対駄目だ。一撃の威力が大きすぎて誤射1発で命取りになる。
シンやアスラン、ディアッカはともかく他のパイロットでは避けれまい。視界の外から来るからなぁアレ。
残ったのはミサイルを有するブレイズか、格闘戦に特化したスラッシュのどちらかだが―――
「スラッシュで」
「はい」
まあ、妥当な判断だった。
第15話 『違うでしょそこは笑うトコロ』
整備主任を名乗る男から、デスティニーのチェックの準備ができたとの連絡が入った。
ちょうど昼寝でもしようかというタイミングだったのだが、こればかりは怠るわけにもいかない。
シンは急いで制服を着込み、MSデッキへと向かうことにした。
ボルテールの中は結構広い。居住区からデッキまではそこそこ時間がかかる。
となると当然、道中いろんな人を見るわけで。現に今も視界の端に人の集まりが映っている。
休憩時間なのだろう。制服の上着を脱いでバレーに興じる少女達や、キャッチボールをしている少年兵士の姿があった。
軍艦の中は密閉されているうえに娯楽が少ない。
部屋で疲れを取るのも良いが、身体を動かさないとやってられない時がある。昔の自分もそうだった。
同室のレイを誘うと大抵訓練に連れて行かれるので、ヨウランやヴィーノとスポーツとかしていたっけ。
まあそんな回想よりも今はしなきゃならん事があるし、それを早く終わらせて寝よう。
「あ、アスカさ〜ん!!」
通り過ぎようとした瞬間、バレーをしていた少女のうちの1人がこちらに手を振ってくる。
誰だったか。そう、確かこの間握手したオペレーターの娘だ。
無視するのも可哀想なので軽く手を上げると、少女はバレーボールを抱えたままこちらに走って来た。
残った子たちに渡してから来ればいいのに。
「お疲れ様です。どちらに行かれるんですか?」
「ああ、デスティニーのチェックの準備ができたらしいから、ちょっと格納庫にね」
「へえ……あ、あの、私も御一緒していいですか?」
MSを見たいとは物好きな。まあブリッジ勤務じゃMSデッキなんかそうは行く機会が無いんだろうけど。
「君も? 別に良いけど、面白いものは何も無いと思うぞ?」
「アスカさんさえ良ければぜひ。オペレーターとして機体のことを知っておきたいっていうのもありますし」
「まあ俺は構わないよ。それよりボールは……」
抱えたボールに視線を落とす。同時に胸元も視界に入った。
おや、これは?
「ボール……?」
凄い。ステラやルナ以上だ、これ。
白いTシャツのせいで、バレーボールが3つあるように見える。
「着やせするタイプだったのか……」
「え?」
「ああいや、なんでもない。それより皆待ってるみたいだから、ボールは返した方が」
「あ、そうですね。私ったらつい」
謝りながら友人の許に駆けていく少女。ボールを渡し、投げ捨てていた緑の上着を拾う。
緑服に覆われていく2つのバレーボールに若干の未練を残しながら、シンは部屋の入り口に振り返る………いた。
先刻から感じていた視線は3つ。自分が相手を認識したと分かる今でも止める気配が無い。
それはクライン議長の下で働いていたときによく受けていたのと同じ、あまりよろしくない類のもの。
ザフトレッドの少年が3人、鋭い目で自分を見つめていた。
「やれやれ、ここでもか」
嫉妬に嫌悪、腫れ物に触れるような扱い。
軍にいたころはいつもそうだった。今更気にしても始まらない。
「お待たせしました、アスカさん! それじゃ行きましょう」
「ああ」
嬉しそうに自分に寄って来る少女。2人肩を並べて部屋から出る。
だが赤服3人の脇を通り過ぎた後、背後から聞こえよがしな陰口が聞こえてきた。
「かつてのスーパーエース様か。まったく、女はべらせて良いご身分だよな」
「馬鹿やめろよ、聞こえてんぞ」
「スーパーエースつってもな……俺映像で見たことあるけど、敵が雑魚すぎただけだろありゃ。
アスラン=ザラにもやられてるし、周りが言うほどの腕じゃねえよ絶対」
立ち位置や言葉遣いに雰囲気から察するに、最後の台詞を吐いた金髪の少年がリーダーなのだろう。
シン……ではなくその隣の少女を少し気にしながら、言葉を吐き捨てる。
「所詮は英雄もどき、成り損ないだろ。そんなのがプラっと戻ってきてどうにかなるほど、MS戦は甘くないさ」
まったくもって同感だ。初陣も済ませてなさそうな奴に言われたくは無いが。
てかさっきから視線がチラチラと自分の隣に動いているんだけど。わかりやすいわぁ、この子。
流石にこんな子供にいい気になられてムカつかないわけではないが、隣にいる少女の怒りのボルテージの方が気になってそれどころではない。
現に今立ち止まっちゃったし。
「ちょっと、さっきから黙って聞いてれば言いたいことばっかり言っちゃって……!! 大体偉そうにしてるけど貴方誰よ!?」
オペレーターがそれ言っちゃまずいと思うんだ。
彼女の声に一瞬傷付いた表情を浮かべた少年だったが、すぐにそれを消して少女に突っかかる。
「な、なんだと!? 俺たちは赤でMS部隊の……」
「何が赤よ、どうせ私と同期の新米でしょ!? 大物ぶりたいなら初陣くらい済ませてから」
「―――はいそこまで、少し落ち着いて。……聞こえなかった事にしてやるから、お前らもあっちに行きな」
「………チッ」
少女の肩に手を置いて口喧嘩を止める。僅かに頬を染めて自分を見上げる彼女。
それを見た少年たちは舌打ちと共に去っていった。
「何よあれ!! アスカさんは私たちを助けに来てくれたのに……あんな事言う!?
特にあの真ん中の金髪、かっこつけて前髪少しだけ垂らしちゃって!! オールバックかそうでないかはっきりすれば良いのに……!!」
怒りすぎ。あと外見を否定するのは言いすぎ。
いじめ、かっこ悪い。
「はいはいストップ、やめよう。君が気にすることじゃないから。……それより、行こうか?」
「で、でも」
「いいから。来ないなら置いてくからな」
「あっ、ちょっと待ってくださいよぅ!!」
言葉が終わらないうちに歩き出すと少女は小走りで付いて来た。
遠くから悪意のこもった視線が自分の背中に突き刺さる。やれやれ、悪いの俺じゃないだろが。
背後を振り向かないまま隣の少女に呟いてみた。
「随分と俺は嫌われてるようだな。まあ、理由はなんとなくわかるけど」
「すみませんアスカさん。きっと嫉妬してるんですよあの人たち。
実績とか、デスティニーの事とか。本当にプライドだけは高いんだから!!」
「………どうやら、それだけってわけじゃなさそうだけど」
「へ?」
不思議そうに見上げてくる少女。幼い表情に思わず頭を撫でてしまいたくなる。
可愛い童顔。それにに不釣合いの大人顔負けの身体。おまけにブリッジの花形であるオペレーター。
どう考えても原因は彼女だ。
若いオスたちが怒る理由など、時代が変わってもそうそう変わるもんじゃない。
ミネルバ時代のヨウランなんか、アスランへの嫉妬で本当にセイバーの部品ぶっこ抜いていたらしいし。
違う理由でアスランに突っかかってた俺がおかしいだけだ。
「まあ別に気にしてないし、昔の俺もあんなもんだった。彼らの気持ちはわかるよ。
だからもう、この事で君が謝るのは禁止な。」
「はい」
素直でいいな。これが若さか。
いやまあ、自分もまだ二十歳いってないんだけれども。
ようやく目的の場所であるMSデッキへ辿り着いた。だがそこで整備士の1人と遭遇。
伝言を伝えに来た彼の話によると、設定に不備が見つかったのでもう少し待っててくれとの事。
まあ仕方の無いことではあるし、頭を下げる彼に当たってもしょうがない。邪魔にならない程度にデッキ内の見物でもしよう。
そう結論を出してデッキ内をぶらつこうとした2人に近づく影が一つ。
「ということは、今アスカさんはお暇ってことなんですね?」
後ろから声を掛けられ振り返る。さっきの3人組のうちの1人、リーダーの金髪だ。取り巻きは今はいないらしい。
隣の少女に冷たい視線を向けられた際に少し苦い顔をしたが、彼は構わず言葉を続ける。
「デスティニーのチェックをする前に、自分に少し付き合って頂きませんか?
アスカさんはMSに乗るのは久し振りと聞いています。
ならいきなりデスティニーに乗るよりも、カンを取り戻すためにこっちでシュミレータをやってみるというのはどうでしょう?
自分も貴方の操縦テクニックが見たいですし」
先刻とは打って変わって丁寧な言葉。だが言葉には棘がある。
要するにどれほどのもんだか腕を見せてみろと言う事らしい。
断る理由は特に無い。自分もそこまで大人じゃないし、いい加減ムカついてきたのも事実だ。
「そうだな。んじゃ、お言葉に甘えようか」
目を再び吊り上らせた少女を押さえ、シュミレータの座席に座り込む。
端末を弄ると画面に機体のデータが映った。
ゲイツ、ザク、グフ……懐かしい名前ばかりだ。
「ザフトの機体は全部データ入ってるんだな。
ま、さすがにデスティニーやセカンドシリーズは入っていないか」
「貴方がザフトを去ってから新型は開発されていませんから、その中で知らない機体はないでしょう?
お好きな機体でどうぞ。なんなら、俺のグフのデータ使いますか?
条件は五分の方が実力差がはっきりするでしょうし」
「ちょっと貴方、本当に……」
「あ〜、俺は気にしてないから喧嘩しないでくれ。さて、何にするかな……」
実は軍人になってから特別な機体ばかりに乗っていたので、あまり汎用機に乗ったことがない。
そして今回のデスティニーも特別な機体だ。
おそらくこの中のどの機体も、デスティニーに乗るシュミレートとしては役に立たないだろう。
ならグフやスラッシュ、ガナーザクウォーリアの様な近接や砲撃のどちらかに偏りがある機体を使うよりも
オールマイティな機体で基本をチェックするくらいでいいか。
どれにしよう。できたら昔乗ったことがあって、軍で習ったことを思い出せる機体がいいのだが。
あ、一個みっけ。
「これにするか」
その中から一つの機体を選ぶ。自分にとってはかつてよく乗っていた懐かしい機体。
だが、2人の見物人は思わず顔を見合わせる。
「アスカさん、その機体って…」
「ちょ、アンタ馬鹿にしてんのか!?なんだってそんな機体を選ぶんだよ!?
スコアで負けた時の言い訳にでもするつもりか!?」
「別に言い訳も馬鹿にするつもりもないし、そもそもお前なんかと勝負するつもりもない。
ただ本当にしばらくぶりだから、操縦の基本をチェックしときたいだけだよ俺は。
それに軍人目指してから今までで、1番長く乗ったMSはこれだしな」
「だからって……」
「これはいくらなんでも……」
「静かに。これよりシュミレーションを開始する」
画面に映像が映る。敵として出てきたのは連合軍のダガーやウインダム。ザフトの機械だから当たり前か。
敵のライフルをステップで苦も無く避けながら、傍らの少年に声を掛けた。
「ちなみにスコアはどこに出るんだっけ?」
「……右上に表示してますけど。なんですか、スコア気にして。やっぱ機体変えたほうがいいんじゃないですか?」
「いや、なんとなく聞いてみただけだ……やべ、この機体シールド無かったの忘れてた。
まあいいや、当たらなければどうということはないし」
「ほんとに大丈夫なのかなぁ……」
心配そうな顔でモニターをみつめるオペレータの少女。だが、
「嘘……すご」
「シュミレーションなら剣も折れたりしないし、まあ1対1なら時間は掛かるけどデストロイ相手でもなんとかなるさ。
デストロイのフェイズシフト装甲は無視されてるデータだから、間違いなく実戦ではこうもいかないだろうけど」
「……………」
その顔が驚きのそれに変わるまで、大した時間はかからなかった。
「すみません、こちらでお呼びしておいて待たせるなんて。どうかもう少しだけ……」
「ああ、別に構いませんよ。お気になさらずゆっくりどうぞ」
シュミレーションが終わっても、まだ作業の方は終わっていなかった。
仕方が無いので未だに付いて来ているオペレーターの少女と共に、現在機体を見ながら雑談中である。
目の前にいるのはかつての相棒。人相の悪いのは相変わらずか。
だが隣の少女の感想は違うようで。
「やっぱり格好いいですよね、デスティニー。こう、ダークヒーローって感じで」
この子は将来悪い男に引っ掛かりそうな気がする。なんとなく。
言っとくけど、捨て猫に餌やる実は優しい不良なんて現実にはそうはいないんだからな?
「重要なのは外見じゃないけどな。どれ、中身の方は……
一部武装に変化があるものの、操縦方法は特に変更なし。性能は大幅アップ…ってマジか。
あの性能からさらに大幅にアップって、ありえないよな……」
単機で艦隊でも壊滅させるつもりなのだろうか。なんとなく出来そうな気はするけど。
「大丈夫ですか? アスカさんが凄いのは十分わかりましたけど、これ今じゃ凄い機体らしいですよ?
文字通り暴れ馬みたいで、テストじゃ誰もまともに扱えなかったって話を耳にしましたし」
「何だよそれ。俺が乗らなけりゃどうするつもりだったんだ」
「さあ?」
機体を見上げる。確かに何かやばそうな気配をデスティニーから感じた。
強い機体特有のオーラと言えば良いのだろうか。
「まあ、それくらいじゃないとストライクフリーダムには勝てないんだろうけど……」
その言葉と同時に、デスティニーのツインアイが輝いた。シンを見つめるかの様にしばらく光った後、静かに消える。
おそらくは作業中に起こったただの偶然。だがシンにはデスティニーが 『お前は俺を操れるのか』 と言った気がした。
どうやら自分の力を疑っているらしい。
この野郎、しばらく会わないうちに態度がでかくなりやがって。
「―――上等だよ」
こちらを見ながら両手で○のサインを作る整備主任。
それを見てシンは機体に向かって歩き出した。
傍らで自分を見上げる少女の存在にも気付かずに、シンはデスティニーを睨みつける。
誰が自分の主だったかを思い出させてやる。今すぐ。
2人がいなくなったシュミレーター機。そこには今、赤服の少年が1人で呆然と座っている。
心配して近付いてきた友人にも気付かず、焦点の定まらない目でうな垂れていた。
タイトルを付けるなら、 『燃え尽きた灰』 というところだろうか。
「何でお前魂抜けたようなツラしてんだよ」
「……何でだ…」
少年は友人の声に答えない。仕方がないので、シュミレータの画面を覗き込む。
2位のスコアは彼の名前。そして1位は―――
「S・Aか…危なかったなお前。もうちょっとでダブルスコアやられるトコじゃねーか」
「………嘘だ…」
「まあ、相手は英雄だ。ダブルスコアやられなかっただけでも良しとしろや。
確かお前アカデミーじゃ操縦トップだったろ? たぶん才能には差は無いんだ。
これから実戦の経験を積めば、そのうち追いつけるよ、きっと」
「………」
やはり少年は何も答えない。
焦れた友人は、すぐ傍にいた整備士に声を掛ける。
「なあ、何でコイツこんななんだ?」
「さてね。そういやオペレーターの娘もいたから、その娘の前で完敗したんじゃね?
ほら、あっち見てみ。今も嬉しそうにアスカさんの横をキープしてるじゃん。確かそいつ、あの娘狙ってなかったっけ」
「オペレーター……? ああ、あの胸のでかい娘ね。
可哀想に、技量も恋も完敗とあってはそりゃ呆然とするわな」
同情した目で視線を横に向ける。
やっぱり動かない少年の肩に手を回し、ふざけ半分慰め半分で話掛けた。
「いいか、ふられたって気にするな。
女なんて星の数だ。いつかお前にもいい女と巡り合う日が来る。ああ、きっと来るともさ!!」
「……」
「まあ今は悪い夢見たと思って、元気出せや」
「……」
「じゃ、俺は行くぜ」
言いたい事を言って去っていく友人。少年はそれを気にする事もなくうな垂れたまま。
だが時間が経って精神が回復してきたのか、目の焦点が合ってきた。
吐き出すように呟く。
「ふざけんなよ……ここまでの、差が…」
そして嫌そうに画面に目を向け、再びぼそりと呟いた。
「プロトジンって………」
今日はここまでです。連ザやってたんでこんなネタになりました
>>1 乙です
某ゲームだと最強なのはメビウスだったっけかな
上手い人がやるとそういう機体の方が強いから困る
乙
狙いは完璧よ→誤射マリアはあのゲームやれば経験有りますよねw
シミュレータじゃなくてシュミレータなのはもしかして意図通り?
そして機体はやはりそれか
>>5 >>7 むしろそれを見てみたい
>>9 私の頭では
「ルナ殺した後、高山版ルート→逆襲の力を溜めるために潜伏生活へor
ルナがいないので、ステラの魂にそのままついていって死亡」
しか思い付かなかった
乙
ゲイツRとかパック無しのザクヲリャーとかならまだしも
プロトジンでそこまでやられちゃなぁ……
金髪の名も無い赤服の少年よ……
……イ`……
>>23 なぜ
>>3>>5>>7のような展開をやろうとすらしなかったのかと言うのが
未だに疑問なのですよ。全く福田監督はそれでも男なのかと言いたいね。
「軍隊こそ男の天国ですよ。
木の間を洩れる朝日の真鍮いろの光りは、そのまま起床を告げる喇叭のかがやきだ。
男たちの顔が美しくなるのは軍隊だけです。
日朝点呼に居並ぶ若者たちの金髪は朝日に映え、その刃のような青い瞳の光りには、一夜を貯えた破壊力が充満している。
若い野獣の矜りと神聖さが、朝風に張った厚い胸板に溢れている。
磨かれたピストルも長靴も、目ざめた鉄と革の新しい渇きを訴えている。
若者たちは一人のこらず、あの英雄的な死の誓いのみが、美と贅沢と、恣な破壊と快楽とを、要求しうることを知っているのです」
序でにエクステンデッドの設定が今一つ馴染めんね。普通だったら
進んで強化・改造されたがるのが当たり前のはずなんだが……
それこそ004や009くらいに景気よく遣って貰いたいと。
「これが…俺の力!? 超ラッキー! こんな力があれば天下無敵だ! 退屈な人生ともオサラバだぜ!」
記憶操作(日常会話でのうっかりNGワードで発狂)だの薬中(精神崩壊フラグ)とか
そんなのだぞ?
俺は…嫌だね…
とりあえず
>>25が石ノ森萬画を1ナノ_も理解できない
負債並みかそれ以下のカスだという事だけはわかった。
>>28 石ノ森萬画の話がしたければ、該当スレに退去願いますw
NGワードで思い出したが、「母さん」とか「死ぬ」とかそんな簡単すぎる
NGワードってどうなんだろうか
町中歩いてるシーンあったけど、あれで一般人の子供が「母さん」とか
「回転しながら歩くとか危ないだろう死にたいのか」とか言われたら
どうなってたんだろうか
ガンダム強奪どころじゃなくね
>>30 あんな単語一個なんて、数文字でできた強度ゼロも同然のパスワードと同じで絶対にやっちゃいけないこと。
単語じゃなくてフレーズとか長文にしないと。
ただ、ブロックワードがポエムみたいなのになりそうw
32 :
25:2010/02/26(金) 08:51:56 ID:???
>>27 だからそういう設定が余計だと言っているんだよ。
そんな事しなくても別に構わんのに……自発的な忠誠心を殺ぐような真似をしてどうするんだと言いたい。
33 :
32 追加:2010/02/26(金) 09:10:14 ID:???
「よくもこんなスバラシイ身体に改造してくれたのう! 最高じゃあ!! こいつがあれば、わしは天下無敵じゃ!!」
「俺が生体CPU? 俺が改造人間? やったぜ! これで退屈な日々ともおさらばだ! ようこそ、胸ときめかせる日々よ!!」
つまり
>>25が『もしエクステンデットが極道兵器だったら』みたいなのを書いてくれるわけだな
無印種のリメイクで、キラが本当に天才かつ常時「やめてよね」な性格だったら、というIFを
考えたことがあった。それに合わせるために他のキャラもちょっとずつ変えていったら、IF要素が
多くなり過ぎてボツにした。
cross point 前スレから一気に読みましたが
めっちゃ面白いです
続きが待ち遠しいです
>>25 荒木飛呂彦の前向き思考に通じるな
彼も「ガンダムの主人公とか何を悩んでるのかサッパリ理解できない。だってロボットとか乗れたら楽しいじゃん」って考えだからなあ
>>37 まあ現実に戦争に参加する人間なんて、立場・役割を問わないで大部分が
そういうものだと思いますよ。
「俺も戦争大歓迎だ。昼が夜より上なように、戦争は平和より上だからな。
元気いっぱい歩き回り、声を張り上げ、いっときもじっとしていない。
ところが、平和ときたら中風病みの病人だ、目はかすみ、耳は聞えず、生ける屍だ。
戦争が殺す人間より、平和が生み落とす私生児のほうが数はずっと多い……」
もしシンが民間人からのスタートだったら
アーモリーワンにて難民コーディのシンはミネルバ進宙式の日にザフト新型MSを盗んで金にしようと企む
そこで新三馬鹿とぶつかる
シン「ん?おたくらもまさか同じ?俺もお宝探し中なんだけど」
オクレ「まあそんなもんだ」
シン「よかったら俺と組まない?一人じゃどうも不安でさ」
アウル「(どうするよ、僕らの事、下手に嗅ぎ回られたらまずいんじゃない?)」
オクレ「(まぁ待て、どうせ何も考えてないガキだ、何とでもなる。盗ませたらすぐに機体だけ頂きだ)」
ステラ「シン、仲間。遊びに入れてあげる。」
シン「やったぜ、これで妹に腹一杯食わせてやれる!」
そしてシンを囮に使って警備網を潜り抜け、オクレ達、カオスらの強奪に成功
やがてシンもインパルス強奪に成功
オクレ「シン、いけるか?」
シン「ちょっと待って。親父がオーブの技術者で助かったぜ、ここをちょちょいのちょい、と。お、動いた」
アウル「へぇ〜、あいつもやるじゃん」
そこに迫る警備隊とMS、機銃じゃビクともしないガンダム
シン「すげえ、なんて性能だ。よし、皆、こんな奴らに構ってないでさっさとズラか」
ビシュー ドーン
シン「へ?」
そのまま大暴れしてアーモリーワンを火の海にするカオス、アビス、ガイア
工場のスタッフおよびザフト兵士の断末魔が響いてシンが怒る
シン「やめろー、手前なんて事しやがる!」
オクレ「ああ?黙れ、でなけりゃお前もあんな風になるぞ!」
アウル「ごめんねー、そういう訳だから」
その時、インパルスがカオスにタックル
シン「人殺しなんてしていいもんかぁ!!」
そのまま馴れない操縦でカオス達の猛攻に逃げながら抵抗するインパルス
しかしそこに凸ザク乱入、初心者のシンにアドバイス
凸と二人でどうにかカオスらを追い払うが腹の虫が治まらず追撃しようとするインパルス
40 :
39:2010/02/28(日) 18:42:27 ID:???
続き
シン「畜生、待ちやがれ!!(ピピー)グッ、電池切れだって!?」
そのまま動かなくなったインパルスは凸ザクに運ばれてミネルバへ
そしてレイとルナに独房にブチ込まれるシン
シン「畜生・・・どうにでもしやがれってんだ・・・」
そんな時議長とタリアに呼び出されて銃殺刑か何かかと思ったら
臨時赤服としてインパのパイロットにスカウトされる
こうしてシンには断る術も無く戦争の渦に巻き込まれる。
アニメじゃねーじゃねーか!
42 :
通常の名無しさんの3倍:2010/03/01(月) 02:47:02 ID:03Vlr0OM
立ち位置的にラクス=ハマーン様?
「ねえねえ、どうなのよ最近。愛しの王子様との関係は」
作戦開始を明後日に控えたボルテール。
現在ザフトの宇宙ドックにて補給中だが仕事が無いわけではなく、当然ブリッジは勤務時間だった。
画面を見過ぎて疲れた目に目薬をさしていたオペレーターの少女に同僚が声をかける。
声をかけられた少女は目薬をさし終わるのを待ってから相手に視線を向けた。
どうでも良いが、何故目薬をさす時って口が開いてしまうのだろう。
「王子様……ってアスカさんの事?」
「他に誰がいんのよ。傍から見ててあんだけ分かりやすいのもそうはないわよ、ホント」
「そうそう。作戦の開始までもうそんなに時間は無いし、このままじゃ時間切れじゃない。いいのそれで?」
そうなのである。
現在討伐の準備はほぼ整っており、後はキラの情報を待つのみといった状況だ。
そして彼が勝つにせよ負けるにせよ、戦いが終わればもう会うこともないだろう。
「だって、私は別に……それにどうしようも……」
その様子に周囲にいた女性クルーたちが集まってくる。自分が関与しない恋話が女の子の大好物なのは今も昔も変わらない。
そんな周囲の声に芳しくない現状を再確認したのか、少女の声が段々と小さくなっていく。
しかし彼女に対して吐かれる同僚たちの言葉は、とても優しいと言えるものではなかった。
「この反応、解説者としてはどう見ますか?」
「日和見とは論外ですなぁ。周りを飛び交うだけで深い所まで攻めず、相手の行動を待つのみ!
このままでは悲しい思い出、恋愛の敗者になるだけですよ!!」
「傷つくのを恐れて、かあ……ありがちなパターンだよねぇ。哀しい、まったくもって哀しい」
「みんな人事だからって強気な発言ばっか。
アンタも怒っちゃって良いと思うよ? ま、確かにこのままじゃ負けは見えてるけどね」
「あう………」
周囲に味方はいない。四面楚歌。言われ放題のフルボッコである。
だが待って欲しい。彼と自分が出会ってからそんなに日は経っていない。
とりあえず毎日顔を見にデッキまで行ったりして頑張ってはいるものの、お互いの内面を知るには流石に短過ぎる。
缶コーヒー飲みながら談笑することもたまにあるし、自分としてはそれだけでもよくやってる方だと思うのだが。
「大体みんな、話が極端過ぎるよ。私はこのままでも別に」
「何言ってんのよ。このままボケーっとしてて、あの人がわざわざあなたを抱き締めに来てくれるとでも思ってんの!?」
「う……でも」
「まず無いわね。相手は今本国じゃ救世主扱いされてる 『運命の魔剣』 よ? 女なんてよりどりみどりだろうし」
「そういえばウチの看護婦さんがミネルバ時代に傷物にされたとか言ってたような。責任とって貰うんだって」
傷物って何されたのかしら。ほらパイロットってストレス溜まるからアブノーマルな趣味に奔るんじゃない?
いやいやDVとかもありうるわよと下世話な話を始める友人たち。
だが自分にはあの優しい彼が、そんな事をするとは思えない。
おそらく噂話が変な方向に広がったのだろう。きっとそうだ。
「そ、そんな筈ないよ、すっごい優しい人だもん。……でも、やっぱりモテるんだね、アスカさん」
「んで恋に敗れたあんたは結局妥協して、身体目当てのどうしようもない男と付き合って後悔しちゃうのよ。
あのエース気取りの金髪みたいな」
「それはやだなぁ……」
「言うほど悪いとは思わないけどな、彼。天狗の鼻を折って10年もじっくりと寝かせれば、きっと良い男に」
「なんて大人な……あんた絶対、年齢誤魔化してるでしょ」
そのままボルテールの男性クルーについて話し込む友人たち。このまま有耶無耶にしてしまおう。
そんな淡い期待を抱いた少女だったが敵はそんなに甘くは無かった。画面に視線を戻そうとした少女にあっさりと気付き、再び問い詰める。
いい加減逃げたいところだが、今は仕事中なので席を立つことができない。
「正直女としては最低な手段だけどさ。夜に部屋に行ったら? 胸押し付けて目でも潤ませれば、既成事実のひとつやふたつ」
「うーんこの際それも有りかなぁ。実際、手段選んでる余裕は無いもんねー。
アンタの武器なんかその年齢に見合わない脂肪のカタマリくらいだし。遺伝子の相性良いか調べてみたら?」
自分にあの伝説の 『あててんのよ』 をやれというのか。
確かにリターンは大きそうだが……ってちょっと待て。
他のクルーもいるこんな場所で、しかもそんな内容の話を大きな声で話してしまっては自分の立場がない。
「な、なんでそんな方向に話が進むの!? 大体私はまだ15なのに」
「甘い、昨日の夕食のパフェよりも甘い!!」
「そうよ、ゴール狙わずにパスだけ廻して満足したって仕方ないでしょ? 死ぬ気で攻めなさい!!」
「そんな!?」
「青春じゃのー」
「君たち、今は仕事中なのだが」
追い込まれた少女を助ける為か、それとも仕事の手が止まっている女性陣に辟易したのか。
それまで黙っていた艦長が背後から彼女らに声をかける。しかし
「艦長は黙っててください!! 女の子の一世一代の大勝負なんですよ!?」
「そう、これはこの子の人生の岐路なんです!! 仕事に引けはとらないくらい大事な事だと思います!!」
「そうそう。それにもしかしたら艦長も他人事じゃなくなるかもしれないんだし。最後にする挨拶とか」
「………私が悪かった」
あっさりと一蹴される。
強面の艦長も、恋話中の女の子には勝てなかった。
第16話 『綺麗なお兄さんは、好きですか?』
「あ〜、疲れたなぁ……」
腰をさすりながら通路を歩くオペレーターの少女。
無理もない。今日は仕事が多かったため、1日中座りっぱなしでキーボードを叩いていたのだ。
少ない休み時間はずっと、同僚との雑談ばっかりだったし。
この仕事を選んだのは自分の意思だが、こんな時後悔してしまうのは仕方のないことだろう。
早く部屋に帰ってシャワーを浴びて寝よう。食欲はないから夕食は抜きでいいや。
どうせ夕食の献立はガーリックステーキ。食べた後の口臭といい脂肪分といい乙女の大敵なのだから。
そう思いながら居住区に向かって歩いていく少女。
だが自販機の立ち並ぶ休憩室の区画に差しかかった時、彼女の目に1人の男性の姿が映った。
着崩した紅服と少し長めの黒髪。自分の記憶の中では該当する人物は1人しかいない。
「なにしてるんだろ?」
疲れてはいたが、好奇心の方が勝ったので近付いてみる。
座り込んでコップを握ったまま動かない男性。傍に近付いても反応はない。そっと顔を覗き込んで―――
寝てる。この人寝てるよこんなとこで。しかもコップの中コーヒー残ってるし。
僅かに彼が動くたび、コップの中のコーヒーが回っている。ぎりぎり縁で治まってはいるが、次はどうなるかわからない。
見た感じホットのようだし、こぼれたら彼が火傷してしまうかも 「んっ…」 って言ってるそばからあぶなー。
別に秋名の下りを攻めているわけではないのだから、これはもう起こした方が良いだろう。
というか今まで誰も起こしてくれなかったんだろうか。
そう思いつつ周囲を見回すが、休憩室には彼の他に人の姿はない。ぶっちゃけ2人っきりだ。
……もしかしてこれは恋愛ゲームのCGイベント的なものだろうか。 『NO.17 伝説のエースの寝顔』 とか。
ならばなんとしてもここでフラグの1本でも建てて―――って何考えてるんだ私は。ああもう仕事中に友人たちがあんな事言うから。
そんな思考に流されそうになりつつも彼の肩を揺らし、
「アスカさん、コーヒーこぼれちゃいますよ」
「ん? ……あぶね」
現在、自分の気になる人ランキング第1位 (ぶっちぎり) 。
シン=アスカに声をかけた。
眠気より色気という訳ではないが、彼を目の前にしたらなんとなく目が冴えてしまった。
温かい紅茶の缶を買ってシンの対面の席に座る。
彼も今までシュミレーションをしていたらしい。その瞼はまだ重そうだ。
「今まで頑張ってたのか。大変だな、ほんと」
「これも仕事ですから。一応私、軍人ですし。
アスカさんこそ今は民間人なのに、こんなことに巻き込まれちゃって」
缶から口を離して答える。大変なのはむしろ彼の方だ。
ザフトのエリートから民間人になる際に、いろいろな葛藤があったことだろう。切り捨てたものもあるかもしれない。
それなのに彼はこの戦場に戻ってきた。正確にはキラ=ヤマトのせいで戻らざるを得なかった。
それはとても辛いことなのではないだろうか。
「自分で選んだ道だから仕方がないさ。それに、これも仕事だからな」
自分の口調を真似る彼の様子に思わず顔が綻ぶ。
気を使おうとしている自分に対し、逆に気を使ってくれているのか。自分を見つめる視線は優しかった。
……あれ、これもしかして手応えあるんじゃないだろうか。今が攻めるタイミングなんだろうか。誰か教えて欲しい。
ええい、何故今この時に限って友人たちはいないのだ。
「なあ。1つ聞きたいことがあるんだけど、良いかな」
「え? ししし質問ですか?ど、どうぞ」
向こうから来た!!
いきなりチャンス到来? 質問って何だろう? 趣味? 好きな食べ物? 好みのタイプ? スリーサイズならちょっと自信はあるんだけれども。
もしかして本当に 「今夜部屋に来ないか」 とか? それはその…イヤじゃないんだけど。
そのへんは節度もってというか、安い女と思われたくないというか。
「なんで君は軍人になったんだ?」
「お友達からっていうのは飛ばしてもいいですけど、最初はデートの後、ムードを高めてっていうか……」
「は?」
「え!? って違う違う違うんです。……えーと、軍人になった理由ですか?」
「差し支えなければでいいんだけど」
彼が聞いてきたのは真面目な質問だった。そりゃそうだ、話の流れからいって自分の思考の方がおかしい。
舞い上がった自分が段々と恥ずかしくなってきた。いや、そんなことよりも今は彼との会話だ。
軍人になった理由か。そりゃあ自分にもそれなりの理由があるけれども。
でもどうしよう。そんな良い話でもないし、できたらもっと楽しい話がしたいんだけど。
まあいいか。
「私の両親が軍人だったんですけど。……母が亡くなったんです。前大戦の終わりに」
「………レクイエム、か?」
「はい。後方勤務だったのが災いして……。
でも別に私は、連合やブルーコスモスを滅ぼしたいって訳じゃないんです。父さんは一時期そう思ってたみたいですけど。
お母さんは喧嘩とか出来ない人でしたし、誰かを憎むような人でもなかったですから。
だからお母さんの代わりに、お父さんとプラントを守ろうって。もう私みたいな子供を増やしたくないですから」
「……すごいな、君は」
その言葉は嬉しいが、そんなに感心されることでもない。
母さんが死んでしまった背景を想像するよりは、笑顔と楽しい思い出を思い出したほうがよっぽど建設的だし、
母さんを殺した誰かを憎むより、落としてしまったバトンを拾って走ったほうが母さんも喜んでくれるだろう。
そう思っただけのこと。
誰かを長い間憎み続けるのは疲れるし、辛い。
「それになってみてから分かったんですけど、軍も思ってたほど悪くないです。
思ったより女性の方はいますし、使う暇ないですけど給料は良いし。……それに、アスカさんにも会えましたから!!」
彼はそう言った自分を眩しそうに見ながら目を細める。そして頭を掻きながら苦笑しつつ、小さな声で呟いた。
なんだかなぁ。なんで俺の周りの人間、こうも俺より強いんだろう。
「あの、独り言を言うなら人がいないときの方が良いと思いますよ?」
「え? はは、以後気をつけるよ。……なんだろう、君のこと見てるとなんだか妹のことを思い出すな」
「妹さん、ですか……」
「なんとなく似てる。俺を会話でリードするとことか」
それは何か。妹としてしか見られてないってことか。女としては見れないってことか。
いや待て逆に考えるんだ 『妹としてしか見られてない』 ではなく 『妹を思い出すくらい距離が近くなった』 と考えるんだ。
そう思考をポジティブに持って行こうとする自分をよそに、妹トークは続く。
「女の子の癖にわんぱくっていうか元気なやつでさ。よく追いかけっことかしてたよ」
「追いかけっこですか? へえ……」
「さすがに思春期近くになってくると恥ずかしかったんだけどな。まあ、喜んでくれたから」
シン=アスカが妹と追いかけっこ。正直今の彼からは想像できない。
妹相手にキャッキャウフフは無いだろうから、純粋に遊び相手になってあげていたのだろうけど。
「妹さんの為に付き合ってあげてたんですか。良いお兄さんだったんですね」
「どうだろうな」
追従ではなく本音で言ったのだが、あっさりと否定された。
彼の表情は僅かに暗い。何かあったのか――――まて。
確かシン=アスカには現在家族はいなかった筈だ。と言う事は。
「あの子が川に落ちて溺れた時、俺は怖くて飛び込めなかった。
だから強くなろうと思った。強くなって皆を守ろうと思った。
でも連合のオーブ侵攻で戦火から逃げた時、俺は少しだけ妹から離れちまった。……結果、目の前で両親とマユは死んだ」
マユとは妹さんの名前なのだろう。遠くを見つめながら寂しそうに話す。
そこには英雄や戦士としての顔はみつけられない。大事なものをただ奪い取られた被害者のそれ。そうか、
「結局、守るどころか俺1人生き残っちまったし、軍に入って平和を目指しても沢山の命を無駄に奪っただけだった。
あの時決意した 『大切なものを守る』 っていう誓いも今は捨てちまった。
今の俺はあの子と何も繋がっていない。その隙間がぽっかり空いたまま――――何言ってんだ俺は。すまん、忘れてくれ」
「いえ……」
この人も自分と同じなんだ。
なら、私が言ってあげる事ができる言葉は。
「いっぱい戦って傷ついて、それでもまだ妹さんの事を忘れずに考え続けているんですよね。
……ならその想いはきっと、妹さんに届いていますよ」
「あ? ……いやそう言ってくれるのは嬉しいけどさ。死んじまった人間の思いなんて他人にわかるわけ」
「絶対そうです。断言しても良いです。
以前父さんが 『母さんはお前のそんな顔は見たくないだろう』 って言ってくれたんですけど、
今のアスカさんにもそれはあてはまると思います。
大好きなお兄ちゃんの悲しい顔なんて、いつまでも見ていて嬉しいものじゃないと思いますし。
アスカさんだって立場が逆で妹さんがずっと引き摺ってたら、あの世で笑うなんてできないでしょ?」
少なくとも私は無理だし。
「……そんなもんなのか?」
「そんなもんです。だからアスカさんも、あんまり引き摺らない方が良いと思います。
だって本人から責められているわけでもないのに自分だけ後ろ向きでいるのって、疲れるじゃないですか」
悲しんで、悔やんで、憎んで。首謀者が死んだら死んだで今度は自分への怒りを収める事ができずにもがく。
あんなのは昔のお父さんだけで十分だ。
「結構ハッキリと言ってくれるんだな。まあ、それで生き方変えられたら苦労はしないけど。でも」
溜息の後、少しだけ彼は頬を緩めた。いつもの大人びた表情から年齢相応の (と言っても自分より年上だが) それが僅かに零れる。
それを見てなんとなく思った。彼は誰かに言って欲しかったんじゃないだろうか。
今の貴方も、きっと妹さんは大好きですよと。
「ありがとな」
優しい笑顔。これがゲームのキャラなら思わず顔を赤く染めてドキドキするところだろう。
だが甘い。あまりにもタイミングが露骨過ぎる。
確かにクるものはあるが、私はニコッでポッと落ちるような頭の悪い女じゃない。
私を落としたければ不意打ちで頭を撫でるくらいってそれナデポじゃないか迂闊私 「眠たくなってきたな俺」 ってわー馬鹿ぁー。
トリップしてアスカさんを無視しちゃったじゃないか。まずいこんなとこ見られて何て思われただろう。
恐る恐る彼の様子を窺うが、彼はめっちゃ眠そうでこっち見てなかった。
ちょい待てなんだそれ。いや今確かに眠たくなってきたとか言ってたけれども。
ここ普通は私の変化する表情とか焦る様を見て、可愛いとか思うもんじゃないのだろうか。
私の演説に少しだけ異性として意識するとかするもんじゃないのだろうか。
なにこのフラグブレイカー。
「ん? ………悪い、ちょっと聞いてなかった」
見ればわかる。
なんだかなぁ。真面目な話はちゃんと続くのに、少しでも欲を出すと邪魔が入ったり空振ったりするのはなんでだろう。
正直ここまで空振りが続くと、近付こうとする気が少し萎えて
「ゴメンな」
わざとやってるのか畜生。
優しい目で見るなぁー。真っ直ぐみつめるなぁー。惚れてまうやろー。
ごめん、ちょっとネタが古すぎた。
「……すみません。休んでたんですよね。
私のことはお気になさらず、寝てていいですよ。できれば部屋に戻った方がいいとは思いますけど。
私も残ってるの飲み干したら、部屋に戻りますから」
「………ごめん」
手に持った缶を振って見せながら優しく微笑んでみると、彼からは申し訳なさそうな声が返ってきた。
そのまま彼は腕を組んで背もたれに体重を預ける。そのすぐ後にがくりと落ちる頭。
意識が落ちたのが傍目からでも分かった。
お休み3秒か。本当に疲れていたのだろう、もう寝息までたてている。
前髪越しに穏やかな寝顔が見えた。
なんていうかその、年上の癖に可愛い……と言っても良いのだろうか。母性本能とやらにビシビシくるのだが。
「無防備だなぁ……」
缶を机の上に置きながら彼女はそっと呟いた。実は中身は既に無くなっている。
自分とて年頃のおんなのこ。ちょっとくらいこの胸に宿る微妙な感情を楽しんでもいいだろう。
周囲に誰もいないのを再確認して、彼の方へ寄った。肩や太腿がそっと触れ合うが、彼が起きる様子はない。
シンに顔を向ける。目に映ったのは彼の唇。思わずごくりと唾を飲み込んだ。
いやいや今のは無し。確かにどきりとしたけれども今のはキャンセルで。大体唇見て興奮だなんてどこのオッサンだ。
これはマズい、いつもの自分に戻らねば。
素数を数えてこの間見た父親の怖い顔や今日したミスを思い出して―――よし復活。
今の自分なら再び彼の顔を見たところで
「うわぁ………」
無理でした。
ああもう認めよう。彼の存在がどんどん自分の心の中に侵食していくことを。
だけどここまで。本当にここまで。既に手遅れのような気がかなりするが絶対にここまで。
確かに体が触れているのは嬉しいし彼の髪を手で梳いてみたいしほっぺた突付きたいしキスくらいなら全然OKかなって思うけれども。
今は作戦中だしそれが終わればお別れだし彼は英雄で遠い存在だし。
何よりファンだったとは言え出会って数日で落とされるというのは乙女のプライドが……。
だからこれ以上近づかない方が良い、と固く決心した。
したのだが。
「もうちょっとだけ……もうちょっとだけ、こうしててもいいよね……」
つんつん。すりすり。くんくん……むう、大人のニオイ。クラクラしてきた。
自分の身体は、しばらく言うことを聞きませんでした。
――――――綺麗なお兄さんは、好きですか?
子供産みてぇ。
今日はここまでです
乙
最後の一言でニヤニヤしながら牛乳飲んでたのに危うくモニター買い換える羽目になるところだった
おいwwwwwwwww
萌え尽きたぜ…
もうルナとコニールはいらんなwww
そーいや一片の疑いもなく看護婦さんを傷物にしてたっけかw
>>彼はそう言った自分を眩しそうに見ながら目を細める
え、アレ? 男? ♂? 雄?
>>57 彼(シン)はそう言った自分(少女)を眩しそうに見ながら目を細める
おかしくはないだろ
しかしアストレイの面々は絡まないのか……彼等だったら上層部の意向とは関係無しに闘い挑んで来そうだと思ったんだが。
>>56 口から出任せの嘘かと思ったが、そういや確かに本編で昏倒させてたんだよなw
CROSS POINTは結局こんな終わり方になりそうな悪寒が……
「やってみろ! 天草四郎!!」
「ベリ」「ピカ」
「なに!」
何かこのシン、弟属性入ってる気がしてきた。
それはそれとして、
無意識にフラグ乱立させては片っ端からなぎ倒してるよなぁ。
そのうち、年下のお嬢さんから超絶年上のお嬢さんにまで捕食…
もとい、好かれそうだ。
>>60 ステラ連れ出す時に当身喰らわせてるからなw
CROSS POINT読んで思ったけど、彼の作品の登場人物の年齢設定って
もうチョット上でも良いと思うんだよね。どうも主要な人達は二十代(半ばから後半)っぽいんで……
まあ、そんな風に感じたのは俺だけだったらごめんなさい、と。
種死時点で若すぎたからなぁ。
あんまり時間空けすぎても状況成立に不自然なところが出るとかあったんじゃないか?
偶には整備士の目線から見たSSってのもお願いしますよ皆さん……
つ「言いだしっぺの法則」
68 :
66:2010/03/05(金) 18:50:10 ID:???
シンのピンチに歴代ガンダムが駆け付けたら
>>69 太陽の重力に引き寄せられたインパルスを助けて新武装を渡すのは
刹那&00でしょうかね。
ドモンが特訓として滝を素手で切れと命じたり、ジープで追い掛け回したりするとか。
>>66 整備士泣かせなインパルスにみんな愚痴こぼしてる中ひとりだけ
ヤキンで達磨になって未帰還の戦友がこれに乗ってたら帰還できたのにとか思ってたり。
それがルナマリアみたいな女性搭乗員だったら尚いいね
>>71 それなんて鬼隊長?
まあ、鬼隊長ダンは正に鬼だが、ゲンの成長を喜ぶ場面もあったから良かったが…
ドモンにそんな一面が見られるだろうか?
>>74 テレビ版終了後だったらイケるんじゃ無いのか?
中断して久しいけど(泣)倉庫の「種死の世界にドモンが来たら」だと
なかなかの熱血師弟ぶりが見られる。
更にそのまた次代を示唆するSSもあるでよ。
>>76 中断が久しいんなら皆様方の手で完結させないと……
その案はこないだフルボッコで却下されたはず。
懲りずに同じ奴か?
話を変えて済まないが、なんか今朝閃いた。
アズラエルが新城直衛っぽい小心者で有能で醒めた性格。
キラさんが優しい主人公からラスボスへ変貌。
クルーゼが暴走する軍部を止めようと奔走する苦労人。
シンがあの日見た、天使みたいなガンダムを信じオーブ軍人へ。
――みたいな、主要な男キャラがみんな格好良いSSとかどうだろ?
問題はシンが主人公なのに、オーブ軍だとワンオフ機がアカツキ以外ないことだが
デスティニーに乗せたいです、安西先生・・・
オーブで開発した事にすればいいじゃないか
どうせ改変しまくりなんだし
前にもしもガンダムSEEDでストライクがジンキみたいに二人乗りだったらな
お話を考えたことある。
ワンオフ機ではなく、量産機で活躍する主人公の方が新機軸だろう?
>>79 クルーゼには、ナチュを隠して活躍して、コーディの世界に内側からヒビを入れるという役目が果たせるよな。
コーディが否定されるべき思想になって、キラがその象徴となる……これじゃブルコスかw
>>82 ボトムズでとっくの昔にやってる
マクロスもそうかな
>>82 それだと個人の描写が薄くなるからな……
そんなの見せられたってツマランだろうと。
だいたい量産機で一チームってのをどんな風に描きゃ好いんだ?
サッカーやアメフトやラグビーの試合みたく描けば好いの?
普通の戦争映画みたいに描写すればいいんじゃないか?
それで個人の描写が薄くなるとも思えないのだが
パーソナルカラーという便利なものがあるじゃないか
上で挙げられていたボトムズだって肩を赤く塗装することによって、同じ量産機でありながら主役と脇役を区別してる
最初からミネルバでインパルスが複数運用されていたとか
ストフリ・インジャが量産機体だとか
本来はワンオフの機体を大量に出すという考え方はどうだろう
>>87 けど戦争映画は信用できるのかいね?
それこそ現役の自衛隊員(現場担当)や
海外での戦闘員経験者の方に意見を伺わないと……
私はこの種の特殊すぎる物語―絶対的に受身の抵抗のうちに、
戦死しても野良犬より惨めに殺されたという実感を自ら抱いて、
死んで逝ったという様な―に疑いの目を向ける。
兵隊であって文学者でもあった人の書いた物に重要性が無いとは言わないが、
それだけでは未だ不十分であろう。
私の読みたいのは、動物学者の書いた狼の物語ではなく、狼自身の書いた狼の物語なのである。
狼がどんなに間違いだらけの嘘を並べても、それが狼自身の目に映った姿であり嘘であれば、私はまだ納得できるのだ。
>>90 フィクションの戦争ドラマをモチーフにという話に、現実の戦争がどうとか言ってもしょうがないだろうに
現実の戦争はっていうと、「勇んで戦場行ったら行軍だけで戦争が終わった」とか
「戦闘始まったら、敵なんて見ないで、とりあえず伏せて銃撃ってた」とか
「最初の戦闘で捕虜になって、あとは収容所でずっと野球してた」とか
まあ狼とやらとはかけ離れてるからがっかりするぞ
いっそのことUCAT病にしてしまうか? とりあえずキャラは濃くなる。
そう、色々と。
量産機で主役張るのはガンダムでもVや08でやってるんだけどなぁ・・・
量産機だからといってわらわらと大勢出す必要は無いんだが
94 :
90:2010/03/07(日) 14:14:32 ID:???
>>79 >主要な男キャラがみんな格好良い
言っちゃ何ですがそんなのはガンダムらしくないですよ。
まあ俺もそういう話のほうが好いと思うんですが……
99 :
97:2010/03/07(日) 17:03:25 ID:???
>>79 その通りってわけじゃないけど、主要キャラを(自分なりに)格好良くさせた話なら思い付いた事がある。
ただ、IFが多過ぎてオリジナル化しそうなんだよな。そういうのもアリなんだろうか?
CROSS POINT、更新が止まっちゃったな
103 :
ネタ振り:2010/03/09(火) 00:47:15 ID:???
ヨウランに銀さんがカーボンコピーされたようです
>>102 セイガクでもカタギでも今は何かと忙しい時期だ。のんびり待とう。
あるいは前回の結果ルナとコニールに拘束制裁されてる可能性も…
105 :
79:2010/03/09(火) 19:21:43 ID:???
ストライクが二人乗りというアイデアを聞いて我慢できずに書いてみた。
種関係のIFは初めてだが投下しておk?
※二人乗りと聞いて士魂号複座を思い出しやってみた。
107 :
79:2010/03/09(火) 19:38:04 ID:???
まあとりあえず晒してみる。
“もしストライクが女の子と二人乗りだったら” 嘘ダイジェスト(?)
もとい正式名称「キラ君がツンデレで怖いおねーさんに導かれていたら」
――CE71年、中立コロニーヘリオポリス。
地球連合軍とプラント軍ザフトの戦争が始まって数ヶ月、ついに永世中立を謳ったオーブ首長国のコロニーは戦渦に巻き込まれた。
燃え落ちる――ゴゥン、ゴゥン、と崩れるのは平和の鐘の音で、日常の終焉を意味する音だった。
燃え盛る戦場と化したコロニー・ヘリオポリス内部は、逃げ惑う住人たちと銃撃戦を繰り広げる両軍兵士によて惨状を成していた。
連合軍の新型強襲揚陸艦に運び込まれる予定だった地球側のMS――五機存在した<G兵器>――は、
ザフトの歳若い精鋭部隊によってそのうち四機が奪われ、残るはただ一機のみという有様。
描くべき物語は、ザフトの襲撃から生き残った連合軍パイロットとコーディネイターの少年の出会いから始まる。
パイロット――ヘルメットを被っているため顔は見えない――甲高いがシャープな声。
「おい、そこの少年。“こいつ”を見たな?」
「え、あ――はい! あの、この人が撃たれてて」
「っ! えいくそ、その人をこのMSまで運べ」
言われるがまま、キラ・ヤマト少年は撃たれた女性を背負い鋼鉄の巨人の腹へ移動。
一刻も早くアスランを問い詰めたい気持ち、早く避難用のシェルターに逃げたい気持ちを抑えてコクピットハッチまで歩んだ。
GAT−X105ストライク。X102デュエルと並んで、主力量産機のベース機として選ばれた機体だ。
高い汎用性とバランスの良さが特徴の機体だが、その最大の特徴とは――
「複座? どうして、MSなのに!」
「そういう乗り物なんだよ、少年」
ヘリオポリスの民間人、キラ・ヤマトは絶句する。
複座で動かす兵器に、パイロットが一人きり……どういう状況か理解したのだ。
どういうわけか遅れて到着した連合兵に指示されるまま、銃でアスランに撃たれた女性を抱えてコクピットに導かれていたが……!
気づけば負傷した女性と一緒に、後部のシートに押し込まれていた。
「ちょ、なんで僕が!」
「つべこべやかましいぞ……大尉殿が危険だ。
機体のドライバーは私がする、君はガンナーシートで大人しくしてろ!」
108 :
79:2010/03/09(火) 19:40:07 ID:???
主電源の起動――戦闘用の装備をバックパックで換装するストライクは、他のGに比べパワーセルに余裕を持たせてある。
ストライカーパックのパワーセルと併せれば稼働時間自体はかなり伸びるのだが――今は装着する余裕がない。
上手く切り抜けられるといいが……と内心で冷や汗を流しつつ、連合のパイロットは鋭い目つきで計器を弄った。
OSの起動画面がモニターに映り、次々と機体の構成要素がグリーンであることが確認されていく。
―――――――
G eneral
U nilateral
N euro - link
D ispersive
A utonomic
M aneuver
___Synthesis System
―――――――
「GUNDAM……ガンダム?」
やむなくG兵器に乗せた民間人がOSの頭文字を見て呟いたが、パイロットの耳には届かなかった。
面倒な承認手続きをショートカットすると同時に、機体の駆動部が唸りを上げ、太い二脚が大地を踏みしめた。
刹那、爆発炎上する工場――業火の洗礼を浴びながら、GAT−Xシリーズ最後の一機『ストライク』は立ち上がった。
◇
「君はコーディネイターなのか?」
――戦闘中に行われた非常識なOSの書き換え――
――操縦者(ドライバー)と武装管制(ガンナー)の連携――
――ただの素人とは思えないヤマト少年の働き――
その後、コロニー内部に侵入したザフトのMS『ジン』を辛くも撃破したストライクだったが、
意識を取り戻したラミアス大尉の指示でキラは拘束されることとなった。
戦闘の一部始終を目撃したうえ<G兵器>たるストライクに近づいた、彼の友人たちも同様の措置だ。
その最中である。連合のパイロットはキラに向け、そのような質問をした。
キラ・ヤマトは普段感じることのない負い目を感じ、そのパイロットから目を逸らした。
人形じみた端正な顔や工業カレッジに不似合いなまでに高い身体能力、そして圧倒的な演算能力……ほぼ、間違いあるまい。
そう思いながら連合のパイロットは遮蔽ヘルメット越しに少年を見つめた。
視線――キラの友人たちが声をあげる前に、彼自身が答えた。
109 :
79:2010/03/09(火) 19:43:34 ID:???
「はい。でも、僕は、ザフトのやり方も嫌です……エイプリフールクライシスで、人が大勢死んだ」
「……すまん、職業軍人の悪癖だな」
エイプリフール・クライス……農業コロニーへの核攻撃に端を発した、プラント在住コーディネイターの核兵器への恐怖から、
地球圏の全土に核分裂抑制装置『ニュートロンジャマー』を撃ち込み、向こう三十年は核分裂反応を行えなくした蛮行。
エネルギーを核に頼っていた地球全体での死者数は億を軽く越えており、人口全体の5パーセント以上とも言われる。
溜息をついた後、ストライクのパイロットはヘルメットを脱いだ。
「え……?」
そこにいたのは――美しいと言って差し支えない女性だった。
漆黒の髪をショートヘアで切り揃え、鋭い目つきの瞳にアーモンド色を忍ばせた“女性兵士”。
キラたち工業カレッジの学生たちよりも年長ではあるが、それでも二十歳を超えたどうかといったところだろう。
“彼女”――パイロットスーツのせいか体の起伏が見られず、今の今まで男性と勘違いされていた――が己が名を告げる。
「地球連合軍G兵器パイロット、セレン・ハーミット少尉だ。先の助力に感謝する、ええと……」
「あ、キラ・ヤマトって言います……その、僕らは……」
「ヤマト少年。君たちが不用意にコレに近づいたのは、我々軍人としては見過ごせないことだ」
叱るような声音に、キラを含めたカレッジの学生が萎縮する。
それに構わずセレンは話を続けた。
「……が、ヤマト少年の協力もあって勝てた相手でもある。だから――」
――君たちは巻き込むまい。
彼女のそういう決意が叶えられることを、残酷な現実は拒絶する。
ストライクのレーダーが捉えた敵機――白銀に塗装されたMS『シグー』は、ヘリオポリス内部に侵攻した。
◇
爆音。高推力偏向スラスターの生み出す圧倒的機動性――ずっしりとした装甲の分厚いジンに比べ、幾分スマートな機影。
MSシグーのバックパック、翼かマントのような推進器の詰まったエンジンノズルより、爆発的に炎が吐かれ加速した。
速い。ジンの発展型とは聞いていたが、ここまで速いとは。まだ互いに砲戦距離でないのが救いか。
敵の姿を確認したストライクの機内――ラミアス大尉の命令により、図らずもキラ・ヤマトと再び協働することとなったセレンは、
ガンナーシートに座る少年に詫びた。
「すまない……」
「今は、今だけは! ヘリオポリスを守りたいんです、だから!」
110 :
79:2010/03/09(火) 19:47:34 ID:???
キラの言葉に沈黙すると、彼女は現在のストライクに装備されている武装に関する注意事項を思い出した。
なんとしてもコロニー内で使ってはならない武装だ。それほどの破壊力がアレにはある。
「現在の装備はランチャー、砲戦型だ。機動性では無重力区画を飛ぶ向こうが上、火力と防御はこちらが上。
だがこいつのメインアーム《アグニ》は、間違ってもコロニーで撃つな、いいな?」
「は、はい……!」
320ミリ超高インパルス砲《アグニ》……インドの火神の名を持つ超長距離狙撃砲。
動力をパワーセルに頼り推進剤も有限なMSにとっての弱点たる、MS母艦の砲狙撃を目的とした大火力の大型エネルギー砲だ。
砲身長20メートルを超すストライク最強の武装であり、その直撃はコロニー外壁すら穿ちかねない。
「頼んだぞ」
PS――フェイズシフト――装甲起動。
絶対実弾防御を誇る装甲がトリコンロールに色づき、アクティブモードに移行。
バーニアからの炎で廃墟と化したビルを盾に機動すると、上空のシグーが放った76ミリ機銃の砲火が、ビルを瞬時に砕いた。
砕け散ったビル街の合間を縫い、這い寄る炎。76ミリという常識外れの大口径機銃が次々に市街地をぶち抜いていく。
直撃はない。ただでさえ電力を食うPS装甲のことを考えると、直撃を避けるべきなのは明らかだったからこれでいい。
「調子に乗るなよ、ザフトの人形」
底冷えがするような声で呻くセレン。敵の一方的猛攻が気に食わないらしい。
ドライバーたる彼女の回避は妥当といえたものの、反撃しなければジリ貧なのは誰の目にも明らかだった。
「あたれ!」
ガンナーであるキラは肩に装着されたガンランチャーをロックオン、そこから対MS誘導弾を発射させる。
無線誘導であり電波妨害効果もあるニュートロンジャマーのため、射程が短くなっているのが難点だが、
高速で飛来するミサイルは有効打になり得る。無視するわけにもいかず、シグーが銃撃でそれを叩き落した瞬間。
もう片方の肩部ハードポイントに装着された120ミリ対艦バルカン砲が、恐るべき猛火を放った。
なにせジンやシグーのメインアームであるMS用突撃銃でさえ76ミリなのだ。
それを上回る120ミリ砲の威力はMSであろうとボロ雑巾のように砕きうる。
あるいはこの<G兵器>の力を侮ったか、慌てて回避に移ったシグーの右足を、120ミリ砲弾が毟り取った。
ガクン、と衝撃。被弾メッセージにシグーのパイロットである“ラウ・ル・クルーゼ”は舌打ちした。
「……どうしてなかなか、連合のパイロットもやるな。覚えておこう、青いMS」
コロニーに開いた穴よりオレンジ色のMAメビウス・ゼロが侵入してくるのを確認すると、
被弾のダメージから立ち直ったシグーは撤退を開始した。彼のMSがメビウスと擦れ違い撤退した刹那、
新型強襲揚陸艦アークエンジェルが岩盤を吹き飛ばして現れたことを考えるに、その引き際は見事なものだった。
アークエンジェルは対MS戦を意識した重武装の船である。その防御、機動、火力は従来艦の比ではない。
もしクルーゼが戦闘を続けていたならば、その武装の前に撃墜されていただろう。
111 :
79:2010/03/09(火) 19:50:54 ID:???
◇
その後、ザフト軍の苛烈な攻撃にヘリオポリスを巻き込むことを良しとしなかった連合軍は、
連合宇宙軍第八艦隊の待つポイントまで真っ直ぐに撤退を開始する。
幸いにもコロニーが崩壊しなかったため大量の避難民を乗せる必要もなく、
物資は事足りていたから胡散臭いユーラシア連邦の無敵要塞に近寄ることもなかった。
アークエンジェルはキラ・ヤマトとその仲間たちをなし崩し的に戦争に巻き込みながら、だが。
少数精鋭――奪われた<G兵器>すら投入――の敵軍が仕掛けてくる追撃をかわしながら、
連合に残された<G兵器>ストライクのセレン・ハーミットとキラ・ヤマトは激戦を潜り抜けた。
一人はナチュラルの大人、一人はコーディネイターの少年……かの歌姫との出会いもなく、少年は戦士として覚醒する。
地球衛星軌道での戦い。
「アスラン! 戦争をやめさせたいなら、君は銃を取るべきではなかった!」
《ならどうしろというんだ、母の死を引き起こした奴らを放っておけばよかったか!」
コクピットで青春してる会話を繰り広げる少年たち。
「そのくらい自分で考えろ――男だろ貴様ら!」
複座のガンダムのコクピットで、敵と会話する少年らにキレる女パイロット。
運命が違えば父の死を発端とし戦争に翻弄された少女、フレイ・アルスターの悲劇が防がれたのが救いか。
その後、コーディネイターを<G兵器>に乗せた咎で激戦区に送られながらも彼らは奇跡的に生還し続け、
いつしか連合の不沈戦艦と呼ばれることになった。
常に改良を続けられたストライクは戦場にあり続け、そして――。
再び宇宙に上がったアークエンジェルを待ち構えていたのは、ザフト最新鋭MS部隊。
核動力MS『プロヴィデンス』、GAT−Xシリーズの技術を応用した決戦機と、ビーム兵器を積んだ量産型機ゲイツ。
さらにストライク――今では改良されストライクG3と呼称される――に撃墜されたGAT−Xの残存機。
パイロットの技量も高いこの大戦でのザフト軍精鋭の群れだった。
当初は連合の雑兵と生き残りの<G兵器>程度、と息巻いていたザフト側は、しかし圧倒的な怪物を前に壊滅する。
《な、なんだよこれ!》
《嘘だろ……っぎぎゃあああああああああああ》
ストライカーパックを強襲パッケージと位置づけ、MSの戦闘能力向上を目指したシステム――アサルトストライカー。
小型MAほどのサイズまで肥大化したバックパックは高性能推進器にパワーセルとミサイルユニットが装着され、
大型のビームキャノンモジュールが戦艦さえ真っ二つに引き裂いた。逃げ惑うMSはあっという間に撃墜され星の屑だ。
すなわち、スーパーコーディネイターとしての素質を戦闘方面で覚醒させたキラの対複数同時砲撃と、
敵の攻撃を先読みでかわすセレンの息のあったコンビネーション。
複座型MS最大の利点たる、ドライバーとガンナーの役割分担による効率的戦闘行動。
それは高機動で戦場を飛び回り、マルチロックオンによる死の雨を降らせる怪物を戦場に生み出した。
されど、対抗できる機体も存在した。すなわち無線端末兵器と重ビーム砲を備えたプロヴィデンスである。
圧倒的悪意――全方位から飛び交うビームのシャワー――量子通信によって操られる砲台の群れ。
112 :
79:2010/03/09(火) 19:52:22 ID:???
《スーパーコーディネイター……知れば誰もが君を妬む――そういう存在なのだよ、君は!》
「たとえそうであっても、人はそれを乗り越えられる!」
《根拠のない妄言を! 君の存在こそ、犠牲を省みない人類の業そのものだ!》
小型攻撃端末ドラグーンの数十門のビーム砲、アサルトストライクの弾幕が飛び交い、互いの攻撃が相殺されていく。
ビームはミサイルと砲弾の嵐に遮られ、恐ろしいGの掛かる戦闘機動によって両者の距離が詰まった。
先程からセレンは一言も喋っていない。それが彼女なりのキラへの気遣いだ。
だから、少年は声を発した。
「それでも、人は人を愛することができる! やり直すことができるんだ!
クルーゼ、貴方の限界に他人を巻き込むなぁぁぁ!!」
《キラ・ヤマトォォォォ!!》
もはや距離が二〇〇メートルを切った。攻撃が当たらないのが奇跡に思えるほど。
否、被弾。機体本体はともかく、空のミサイルコンテナに次々と着弾していく。
モジュール化の進んだ攻撃ユニットを切り離し、加速・加速・加速――!
クルーゼのプロヴィデンスの砲撃によってストライカーパックが砕け散り、右肩をビームサーベルが抉る。
それでもなお、巨大な慣性質量の塊がプロヴィデンスに突撃した。
衝撃――閃光。ゼロ距離から発生した極短のビームランスは、見事にプロヴィデンスのコクピットだけを融かし潰していた。
ほとんど神業である。核動力の炉心を避け、コクピットのみを潰して機能停止に追い込むなど。
「……終わった。ありがとうございます、その――僕に付き合ってもらって」
「パートナーとの信頼を守っただけさ。工業カレッジの学生がここまでなるんだ、世の中わからないものだ」
敵軍は切り札を潰され慌てて撤退して行く。
時間が止まったようなストライクのコクピットで、少年は静かに呟いた。
「……あれ、ここってラブシーンじゃ」
そういうわけで、キラ・ヤマト少年に年上好き属性が付いたのは偶然に違いあるまい。
113 :
79:2010/03/09(火) 19:54:35 ID:???
終わり。
複座といえば怖い美人のツンデレおねーさんという脅迫観念があった。
今は反省している。
GJ!
おい、途中の過程が激しく読みたくなったぞ!
どうしてくれるんだ!
その後もな!
>>114 >その後
つガンダムSEED SAGA-性-
117 :
115:2010/03/09(火) 21:55:14 ID:???
>>116 それが悪いか……セレン×キラを期待しちゃ悪いってのかよ!! おお〜っ!
キラ、アスランが最初からオーブ軍という設定がいい
そしたら、最初のヘリオポリスで2人はカガリに従軍してるはず
それで3人とも軍服だったら萌える
……わがまま姫の軍人ごっこと、お守り役の従卒二人、か?
胴体が太ましいストライクを幻想した
3機のプロトアストレイが主役ガンダムか
ドリーム臭がするな
>>119 カガリ…准将
キラ…三佐
アスラン…一尉
種1話なら、こんな階級かな?
軍人ごっこするくらいなら、イギリス王室みたいにちゃんと士官学校行って尉官から始めて欲しいな。
カガリは年齢的にちょっと若いが士官候補生でキラとアスランは兵卒か同じ候補生とか。
三人でダイオージャ風諸国漫遊…とも浮かびかけたが、
あれは単純明快ロボット水戸黄門と思わせといて最終回で
ミト王子はただ暴れ旅してきただけでなく社会構造の歪みや
それで苦しむ人々の姿も見据えて、将来の身分制度の改革をも暗示するという
案外深い締めだったからなあ。カガリ達じゃ行き着かない発想だな。
勧善懲悪ものって突き詰めて描いていくと、この世には絶対の正義も悪も無いという
答えに辿り着いてしまうと、昔何かの本で読んだ記憶がある。
自分の主張に反対する者を問答無用で叩き伏せる従卒を連れた、強力無比な平和主義者、か。
「他国の争いに介入しない」という枷が存在する以上、オーブ国内のみ有効。
まれに身分を隠して戦争中のゲリラに加勢。
……なんだかなー
オーブの理念をもっとも破ってるのがバカガリじゃねーかw
どの口で理念、理念とほざくんだか
カガリは他国の争いに介入してるよ
オーブの理念に反してるけど、誰もアスハ家には逆らえない
もしオーブが民主主義だったら、カガリが首長になるのは無理だと思う?
オーブ民主主義人民共和国ですねわかります
>>133 なんだか北朝鮮みたいだな
でもオーブのモデルは日本だったような…
>133-134
そんなスレ無かったか?
>>135 どこにあるの?
でもオーブは軍の最高位が将軍というところが北朝鮮と共通してるかな
種死のシンとレイって明と了に似てるよな
不動明…シン
飛鳥了…レイ
ミーコ…ラクス
アギラ…ミネルバ
これしか思いつかなかった
キラ、アスランがオーブ軍だったら
ヘリオポリスでAA組は全滅でストライクもザフトに奪取されていたと思う
>135
落ちてたw
かつて、「地上の楽園オーブ人民共和国」
つー、スレが新シャアにあったんだよねw
>>137 そんなら キラ&アスラン=明 フレイ&ラクス=了 位にしてくれりゃ
まだ良かったんだって言いたいね。
キラ(アスラン)
「これが! これが!
俺が身を捨て親友を棄ててまで守ろうとした奴らの正体か!
地獄へおちろ外道ども!
俺は……もう……何も無い……
生きる希望も……幸福も……生きる意味さえも!
守るべきなにものも無い!
だが! フレイ(ラクス)! 俺は貴様と戦わずにはいられない!
ナチュラル(コーディネーター)を守るための戦いじゃないぞ!
最後に生き残る者が俺か、貴様か! 勝負だ! フレイ(ラクス)!」
フレイ(ラクス)
「私は赦せなかった。
遺伝子が違う分際で当たり前に生きている上に
私達の同属を殺しやがったコーディネーター(ナチュラル)どもを!
私はあいつらを滅ぼす事にした……
だが、それはあいつらが私達を滅ぼそうとした事と同じ行為だった……
ゆるしてくれ、キラ(アスラン)……私は愚かだった……
眠ったんだね、キラ(アスラン)。安らかな永遠の眠りに…」
そして地球に降り立つ羽鯨の大群で終わり。
142 :
137:2010/03/13(土) 18:22:24 ID:???
143 :
141:2010/03/13(土) 19:05:18 ID:???
>>142 まあデビルマンとのこじ付けを見て思うところがありましたので……
取敢えずミーコは如何考えてもラクスじゃ無い上に
フレイ&ラクス=飛鳥了(サタン) は色んな意味でガチではないか、と。
いや サイ&キラ&アスラン の方がよかったかな?
サイ&キラ&アスラン → サイ&キラ&アスラン=不動明
>>133-134 そんなオーブだったら早々に後継者争いから脱落したキラが第三国でオーブ国民と一緒に酒飲んでそうだw
>>138 地味にAAが一番価値有りそうだけど、MS重視のザフトだし、
ヘリオポリスと共にジャンクになるか、
それともプラントの片隅で放置されるぐらいがオチなんだろうなぁ
>>146 ミネルバはAAと似通ってる艦だしザフト的にも有用と判断されたんじゃね?
AAのコピー艦が大量に建造されてドミニオンVS大量のAA級と言う燃え展開も出来そうだ
>>146 キラがストライクに乗ってザフトの攻撃を防ぎ、AAが無事に地球に帰還する可能性は?
>>141 アスランの一人称は「俺」だけど、キラの一人称は「俺」じゃなくて「僕」だよ
>>145 なぜキラが脱落してカガリが後継者になるの?
>>149 >一人称
つコピペ元ネタ(尤もそっちだって一人称が時々一定してなかったりするので)
>>148 ヘリオポリスで「撃ちたくない、撃たせないで」と襲撃してきたパイロットに向かって撃てず、
そのまま撃ち殺されるか、MS強奪されるのがオチだと思うが……?
カガリが立ちション上手だったらキラ、アスランの前で立ちション披露するかもね
短編小説としてなら萌える作品になりそう
>>152 そこんところは↓見たいにすりゃいいと思うよ。
カガリ
「な、なんて事するのよ! 人でなし、気違い!」
キラ
「ギャーギャー騒ぐと手前も撃っちまうぞ!
いいか、この戦いは反吐の出る蔑視感情だの政治屋どもの無用な自己保身だので遣ってるんじゃ無え!
このオーブの理念『異なる種族の共栄』『正義に基づく真の平和』を世界中に浸透させて
現実を正しくする為の戦いなんだ。気を抜いたらやられるだけなんだぜ」
カガリ
「キラ……」
俺たちはやる……どれほどの犠牲を払おうとも俺たちは闘う!
命ある限りオーブの理念を人類全てに叩き込んでやる!
>>154 キラに「俺」という一人称は似合わないと思う
あのへたれニートに一人称「俺」は似合わんわな。
逆に似合いそうというか違和感なさそうなのはBASARAの幸村とかスクライドのカズマとかだな。
アレは違和感無かった。
157 :
154:2010/03/14(日) 16:49:19 ID:???
キラの「俺」よりカガリの「なんて事するのよ!」の方が違和感
女らしい言葉遣いのカガリとかたとえIFでもねえよ
>>157 たとえIFでもキラだけは「俺」という一人称を使ってほしくないよ
>>158 カガリなら「なんて事するのだ!」という台詞になると思う
カガリは男っぽい言葉遣いが似合うからね
一人称も「俺」か「僕」のほうが似合いそう(一人称が「私」でも違和感があるわけじゃないけど…)
キャラ的にはともかく、キラの中の人は「俺」を使う役ばっかなので、案外違和感ないかもな
>>161 でもキラの一人称は「僕」がいいね
二人称は「お前」「君」「貴方」のどれでもいいよ
キラのテンションに俺の一人称が似合わない。
>>154 オーブの理念:他国を侵略せず、他国と争わず、他国に干渉せず
>どれほどの犠牲を払おうとも俺たちは闘う!
>命ある限りオーブの理念を人類全てに叩き込んでやる
既に矛盾してます。
165 :
154:2010/03/14(日) 21:45:30 ID:???
まあ口調についてはすいませんでした。
>>164 そんなのは如何考えても理念じゃないので変更させて頂いたので……
アスラン「プラントと地球の国々の醜い有様を見ろ!
やつらは清潔なブタ小屋が必要なくせに、自分で小屋の掃除もできんブタだっ!
そんなブタどもに汚された世界に、我々オーブで正しい秩序をうちたてるのだっ!」
キラ「暴力一般を否定するのは偽善だ。
悪が力を恃んで正義を踏みにじり、社会を腐敗させ我々を堕落と破滅においやろうとしているのに、
そんな悪を倒す暴力まで否定するのは、人間に対する裏切りだ!
正義と理性のために必要なものはただ一つ! 暴力だ!」
なんという石川ガンダム
>>165 そんなオーブは間違いなく、コペルニクスで国連関係者を殺したり、プラント側代表シャトルの足止めしたり、
2月14日には連合軍敗退のどさくさまぎれに核を打ち込んだり、
4月1日に間に合うようにニュートロンジャマーのライセンス生産をやっているような気がする
そういや、豚は飼育するのに清潔さが必要なんだよな
用意された自室の壁にもたれながら、シンは閉じていた目を開ける。
また今日も、夢を見ていた。
深深と降り積もる雪。薄暗い雲と、その合間に見える月。手に残るのは 『彼女』 の感触。
そして、湖の底へ沈んで行く亡骸。
「また、この夢か」
別にこの夢を見ることを嫌っているわけじゃない。忘れてはいけないことであり、今の自分の原点の一つでもある。
それでなくても今は、キラのせいで寄り道をしているのだ。
現在に流されすぎないように過去を思い出すのは悪いことではない。
だけど今朝ばかりはいつもと違っていた。
まるで全身に砂鉄でも擦り付けたかのように身体が重く、しかもそれが消えるのには時間がかかりそうなのだ。
おかしいな。ここしばらくはこんな事にはなっていなかった筈なんだけど。
そんな言葉を呟きながら今までを思い出す。
確かにこの夢を見た後に起きると、倦怠感で身体が重いことは少なくなかった。
寝癖のついた頭を掻いて、身体を引き摺るように洗面台へ向かう自分の姿は簡単に思い出せる。
だが紅い髪とポニーテールが勝手に自分の部屋の鍵を開けて朝食の準備を始める頃にはもう――――
「なんてこった」
今更ながらに気付く。俺はあの2人に救われてただけじゃない。守られていたというのか。
そんな状態でキラと戦うとか強がってたくせに、2人の手を自分から放した途端このザマか。
それは男として、いや1人の人間としてどうなんだろう。
「ここまで弱かったのかよ、俺は」
言葉にするとその想いが強くなる。認識してしまうと自分に嘘がつけなくなる。
ルナマリアとコニール。
自分は手放したものの大切さを分かっていたつもりで、全然分かっていなかった。
選んだのは自分自身だ。その決断を否定する気は毛頭無い。
多分何度時を繰り返したとしても、あの時点でのシン=アスカはこの選択を選ぶだろう。
だけど。
「なんて、無様だ」
つくづくそう思う。自己陶酔じみた自嘲なんて趣味ではないが、今回ばかりは仕方が無い。
客観的に見ても、今の自分は無様としか言いようが無いのだから。
頭を過ぎるのは過去の思い出。
料理から漂う湯気の向こう。美味しいでしょと自慢気に笑うルナマリアの笑顔。
医学書片手に勉強する自分に、休みの日くらいどっかに連れてけと拗ねるコニールの顔。
両手に抱えた買い物袋。その半分を自分から奪い、お互いの余った腕を組み合った時のルナマリアのぬくもり。
膝枕をしながら自分の頭を撫でる、コニールの優しい手。
もう手遅れなのは分かっている。
だけど俺は、2人に会いたかった。
第17話 『かなしみよりそのぬくもりを』
鏡の前で赤服を身に纏い、少年は首元を止めながら己の姿を確認する。
今日は少年にとって初めての任務の日である。
物事は最初が肝心とは良く使われる言葉だし、外見だけでもバッチリ決めていった方が良いのは間違いない。
そんな事を思いながら母譲りの自慢の金髪を湿らせ、手に多めのムースを乗せ髪に馴染ませた。
手を幾度か後ろに流してきっちりしたオールバックにしたあと、中指で前髪を僅かに下ろす。
鏡でいろんな方向からの見た目をチェックしてセット完了。
「こんなもんかな」
少し早いがもう配置場所に行こうか。そう思いながら洗面台を後にした少年のパソコンに通信が入った。
通信室から転送、送信先は実家。おそらく、いや間違いなく父親だろう。
反抗期は過ぎているがまだ親とは距離を保ちたい年頃なので居留守にしようかとも思わないでもないが、もうすぐ作戦開始だ。
時間はまだあるし次に連絡を取れるのは何時になるかわからない。なのでとりあえず取ってみる。
画面に映ったのはいかつい顔。
元軍人で鍛え上げていたとはいえ、自分には全然似ていない父親の姿だった。
『おはよう、元気にしているか?』
「おはようさん、なんだよこんな時間に。つかもうすぐ出航なのによくここに繋げて貰ったな」
『なんだとはなんだ。そちらのスケジュールは把握しているし、
ちゃんと規約を守って連絡してるんだから文句など言われる筈も無いだろう。
それより初陣前くらい母さんに連絡を取ってやれ。軍人にするのは反対だっただの、
なんであなたはあの時折れたのだのと愚痴られてたまらん。
あいつときたら自分から電話もかけないくせに機嫌ばっかり悪くなって』
げんなりとした表情で愚痴る父親。無理も無い。
世界がどれだけ進歩したと言っても、女の説教や愚痴以上の音波兵器はまだ開発されていないのだ。
「母さんまだ怒ってるのかよ」
『軍人なんかになって心配しない親なんていないさ。父さんが一線を退いたのは戦場での古傷が原因だしな。
……それにお前の叔父さんだって軍に入って力を得なければ、あんな事をしなかっただろう。
お前にはああいう道を歩んで欲しくないと思うのは母さんじゃなくても思うだろうさ』
「そういう言い方、やめろよ」
眉間に皺を寄せて父親の言葉を切り捨てる。
あんな事。前大戦の発端であるブレイク・ザ・ワールド。
父の弟、つまり自分の叔父さんはその事件の主犯格だったのだ。
妻と娘を失い、偽善の果てに手を取り合った世界に絶望し、世界を文字通り破壊しようとした。
今では暗躍して戦争を広げたとされるラウ=ル=クルーゼと同様、世間ではその存在は侮蔑の対象となっている。
だけど。
「いつも言ってるだろ。皆は叔父さんを犯罪者だ人殺しだと蔑んだりしてるけど、俺はそうは思ってない。
死んだ人には悪いけど、むしろ未だに尊敬してるくらいさ。
奇麗事でそれまで失ったものを無かったことにしようっていう世界に、キツいのぶちかましてやったんだから」
『……お前がそう思うのは自由だ。だが、決して家族以外の者の前で口に出すな』
「言われなくてもわかってるよ、そんなこと」
だからと言って親族である自分までもが否定する理由にはならない。
叔母さんと姪っ子の死は、当時ガキだった自分ですら連合に怒りを覚えずにはいられなかったのだから。
父もそれについては思うことがあるのだろう、その叱責は弱めだった。
「……ところで父さん、父さんも前大戦まで軍人だったんだからシン=アスカの名は知ってるよね?」
『勿論だ、有名だからな。レクイエム攻防戦の映像を見たことがあるし、実際に会ったこともある。
……確かザフトに復帰して、お前の艦に乗ったんだったか」
2人して湿っぽい空気を作っても仕方が無い。無理矢理話題を変えてみる。
内容があの男だというのは気に入らないが、他に咄嗟に浮かばなかったから仕方が無い。
父は何かに気付いたのか、自分をからかうような目をしながら言った。
『なんだ、つっかかって痛い目でも見たのか?』
鋭いなこのおっさん。軍で鍛えられたその眼力だけは健在か。
「うるさいよ」
『図星か。やれやれ、短気なのは誰に似たんだか』
「間違いなくあんたですよ。……ねえ、父さんはそいつをどう評価してたの?」
司令部に所属しメサイアでデュランダル議長の近くにいた過去を持つ父なら、何か知ってるのかもしれない。
そんな軽い考えで投げかけた言葉だったが、自分が思っていた以上に真剣に受け取ったらしい。
少しの間考える素振りを見せ、そして口を開いた。
『……では一つ聞くが、CEで最強の戦士は誰だと思う?』
「なんだよいきなり」
なんか予想も付かない質問をされてしまったが、父の真面目な目に思わず考えを巡らせる。
答えはすぐに出てきた。こんな問題、脊髄反射でも正解することができる。
「それは……キラ=ヤマトだよ」
『なんだ、お前が大好きな叔父さんじゃないのか? 過去の人間でも良かったんだぞ?』
からかう様な、いや少しばかし拗ねてんのかなこの目は。
もしかして嘘でも良いから現役時代の父さんだと言ったほうが良かったのだろうか。
いや〜でも幼少時の自分の前で実の弟にナイフでも射撃でも全敗する様を見せ付けられれば、そんなヨイショは浮かばんわなぁ。
まあ叔父さんも後で 「お前の父さんは人を使いこなす才のある人だ」 とか下手なフォロー入れるくらいなら
一度くらい空気読んでジョバーやってやれって今では思うけれども。
まあいい、今はそんな話をするのではなく。
「……何でもありなら叔父さんだよ、そりゃ。だけど」
『MS戦だとキラには勝てない、か』
何も言わずに頷く。
ナイフに銃撃、人には戦い方はたくさんあるが、現在一個人が最も力を得ることができる手段はMSである。
ならば最強の戦士はキラ=ヤマトで間違いない。
確かに父の言う通り、叔父さんもMSの扱いはかなりのレベルだった。
軍に入ってから、あの人の模擬戦のデータやユニウスセブンを落としたときに撮られた戦闘の映像も見させて貰った。
憧れの存在だったとはいえ、最新鋭機を旧式のジンで容易く切り倒していくその強さに魅入られたのは1度や2度では無かった。
しかし、それでもキラにはまだ遠い。
会話を続けてその言葉の真意を知ろうと口を開いた瞬間、船内にアナウンスが流れた。
出航30分前。各員は所定の配置につけ。
どうやらここまでか。無駄な話で時間を潰してしまったな。
「ごめん父さん。今から宇宙に出るから、しばらく連絡は取れないと思う」
『そうか……気をつけろよ。無事に帰ってきて、母さんに顔見せてやれ』
「考えとく」
自分たちの任務内容は知っているだろうに、自分を追い込むまいといつもの様に送ろうとする父。
その気持ちに少しだけ感謝する。口には出さないが。
軍人らしく敬礼してから通信を切ろうとして
『そうだ、質問に答えてなかったな。シン=アスカってのは』
「ん?」
思い出したように続けた父の声にそれを止める。
『そのキラ=ヤマトをMS戦で倒せる男だ』
「え………」
だからお前の命も守ってくれるだろう。
そう言葉を続けた画面の中の父親は、自分に敬礼を返して通信を切った。
がくんと落ちる自分の肩。あのクソ親父、最後の最後であんな事言わんでもいいだろうに。
何だか出航前なのに疲れてしまった。
「キラをMS戦で倒せる、ねぇ……」
シン=アスカ。
ザフト軍人の憧れであるFAITHの座。それを捨てて一般人やってた筈なのに、
しれっと軍に戻って最新鋭機を手に入れた挙句、戦艦の中で女をはべらせて調子に乗っているようなやつだ。
シュミレーションで自分が完敗したのは事実だから、ヤツのMSパイロットとしての実力は認めても良い。
あれほどの腕なら、キラに対する次の挑戦者としての資格もあるのだろう。
だけど、本当にそこまで期待できるのか?
民衆やボルテールの女性クルーだけでなく、父や艦長、ジュール議長まで期待するほどの男なのだろうか。
キラ=ヤマトの強さは本物だ。
ザフトに属していたころは英雄と呼ばれ、敵に回れば悪魔だと恐れられているが、決してそれは言い過ぎではない。
しかし自分が接したシン=アスカには、キラのような人外じみたものが感じられないのだ。
英雄もどき。かつて自分がそう嘯いたのは決してひがみだけではない。あの男は、人間だ。
英雄と渡り合えるのは別の英雄か、もしくは化け物。修羅の前に立てるのは鬼。
物語の相場的にそう決まっている。それ以外の者では勝てはしまい。
「あれ以上の爪か牙でも隠してるってのか……? あんな男が」
ドアを開き部屋から出る。目の前を焦った表情で友人が走り抜けていった。
自分に気が付き、足を止めて振り返る。
「こんな所にいたのか。何してるんだよ、とっとと配置場所に行こうぜサトー」
「わかってるよ」
記念すべき初陣。出てくるのは鬼か蛇か。
一つだけわかるのは、この作戦の勝敗は自分の嫌いな男次第だということだけだった。
また、夢を見ていた。
風を浴びて目を細めるのは意識だけ過去に戻った自分。その視線の先にいるのは壇上に立った最愛の女性。
幼い少女が関係者らしき女性から花束を受け取り、妻に向かって嬉しそうに走っていく。
それはこれまで何百回と見てきた光景。そして自分を苦しめてきた記憶。
絶望の光景を拒絶しようとする意思とは裏腹に、自分の身体は動かない。
過去を変える術は無い。そんな事はこの繰り返し見た経験でわかっている。
だがそうやって達観している場合じゃない。目の前にいるのはまだ生きているラクスなのだから。
『わたしもラクスっていいます!!』
時間が無い。爆発まであと僅か。ちくしょう、何をぼんやりしているんだキラ=ヤマト。
彼女を助けられるのは自分だけなんだ。のんきに目を細めている場合じゃないだろうが。
動け、動けよこの身体。動いてあの女を取り押さえないと。ラクスから花束を奪わないと。
失ってからじゃもう遅いんだ。
冷たくなった身体にすがっても、もう。
花束の中の異物に気付き、ようやく動き出す己の身体。今度こそ間に合うようにと彼女へ向かって必死に駆け出す。
けれど、間に合う未来を手に入れたことは今までに1度も無く。
炎に焼かれて彼女は倒れた。
服が汚れるのも構わず、急いで彼女を抱き起こす。
その身体には既に力はなく、自分が手を放せば彼女の命の灯火は消え去ってしまうように感じた。
しかし自分たちの許に医者は来ない。周りには誰もいない。彼女を救えるようなものは何も無い。
このまま、今回も彼女が死ぬのを待っているだけなのか。
誰か。誰か助けてくれ。彼女を助けてくれ。
キラは泣き声のような絶叫を上げた。
『平和を……自由を………争いの無い世界を……』
血に塗れた妻の顔が目に焼きつき、焼ける肉の匂いが鼻を衝き、彼女の喉から漏れる空気が耳を蝕む。
目の前で力尽きようとしている彼女の全てが、自分を責める。
何故、守れなかった?
抱き締めていた彼女の肉が腐って落ち、そして骨へと変わった。
異臭を放つ醜悪な姿は美しかった生前からは想像もできない。
しかし彼女はそんな姿になってもまだ、自分へ何かを語り続けていた。髑髏が顎を動かし言葉を発する。
自分を何処かに縛り付けるように。
平和は、まだですか?
吐き気がした。体中を虫が蠢く様な悪寒がした。これは夢だという思考も意味を為さなかった。
もうやめてくれ。なんでいつもこんな夢を見せるんだ。
気を抜いて彼女を守れなかったのは確かに自分だ。未だに平和を掴めないのも自分だ。
だけど、こんな彼女の姿を見せ続ける必要はないじゃないか。
―――わかった。わかったよ。争いの無い世界は僕が作る。約束する。だから
あの時と、そしていつも見ている夢と同じように彼女の亡骸に誓う。
すると彼女の身体が光に変わり、空へと飛び立った。
同時にキラの周囲が闇に包まれる。ただ寒いだけの漆黒の空間。
今のキラ自身の様に、何も無い場所へと姿を変える。
これまで自分のものだと思っていたものは、全て彼女のものだった。彼女こそが自分の全てだった。
だからこの状況に疑問はなかった。彼女が消えれば自分に何も残らないのは道理だ。だけど―――
ここは、怖い。
誰もいない。返事はない。身体の震えが止まらなくなった。
ここから出たい。誰かに会いたい。自暴自棄になって暗い世界の中を走り、否、もがく。
自分に残されたものはただ一つ。ラクスが去っていった遥か遠く、かすかに見える光のみ。
この暗闇の中、縋れるのは彼女が残したそれしかない。キラはそれに向かって必死で手を伸ばす。
けれど幾度も繰り返した夢の中で、キラはとっくに気付いていた。
いくら必死に手を伸ばそうと、その光には絶対に届くことはないということを。
気付きながら叫んだ。助けは来ないことを知りつつも、それでも叫ばずにはいられなかった。
最初は妻の名を。返事が無ければ友人の名を。それでも駄目なら、名も知らぬ誰かを。
ラクス……ラクス。ラクス!!
アスラン、カガリ、シン、イザーク、バルトフェルドさん、ムウさんマリューさんルナマリアディアッカミリィ―――誰か。
そう、もう誰でもいい。もう嫌なんだこの夢を見るのは。
僕を照らしてくれ。僕を責めないでくれ。
この苦しみから解き放ってくれ。
どうか僕を―――――
たすけて
絶望の嘆きと共に自分の意識が覚醒していく。今夜の夢もこれで終わりか。
この後起きた自分は最悪な気分で1日を始め、世界に怒りをぶつけるのだろう。
自分を照らしてくれていた筈の光に灼かれながら。
「ラクス………」
しかしこの日は少し違った。
もう一度彼女の名を呼んだ瞬間、伸ばしていた手に何かが宿った。
「え……?」
驚きと共にその手をみつめる。こんなの、今までの夢にはなかったことだ。
微かに輝く小さな光。そこから感じるのは僅かなぬくもり。
まるで、壊れた己の心を暖めるかのような。
眠りから覚め閉じていた目蓋を開ける。目の前にはラクスと同じピンク色の髪。
寝巻きを身に着けた少女が隣に寝転びながら、自分の顔をみつめていた。
未だに震える自分の手を、その小さな両手で優しく包み込んだまま。
「うぅ」
「………なんで、君が」
ここにいるのという続きの言葉は真っ直ぐな少女の視線に遮られた。
自分が寝ているのは自室のベッドで間違いない。そして彼女と一緒にベッドで寝た記憶は無かった。
そもそもオートロックはどうしたんだってああそういえばこの間この子は無条件で入れるようにしたっけ自分で。
まあそれはそれで良いとして、この子は自分に何か用でもあったのだろうか。
1人じゃ寝れないとか? まさか、この子が此処で暮らすようになってから随分時間は経ってる。それは無いだろう。
「……もしかして、1人じゃ寝れない、とか?」
でも他に思い浮かばなかったのでとりあえず聞いてみた。自分の予想に反してこくりと首を縦に振る少女。
どうやら正解だったらしい。当たった所で景品も何も無いけど。
この間から自分に心を許すようになったとは感じていたが、この子がこんな事をする様になるとは思わなかった。
しかし、 「一緒に寝て欲しい」 か。
悪い気はしないというのは事実だったし、一緒に寝てやるくらい大したことは無いと思うが。
「一緒に寝るのは……構わないんだけど。この部屋には深夜でも通信とか平気で入ってくるんだ。
こんなところじゃ、きっとゆっくり寝られないと思う。
君が寝付くまで一緒にいてあげるから、君の部屋に行こう」
この子にこんなに話しかけるのは初めてだなと思いつつ、少女の願いを断る。
口から出た言葉に嘘は無い。役職上自分の部屋には通信がよく入るのは事実だった。
それは育ち盛りの子供には酷だろう。そう判断して身体を起こす。
空調が効き過ぎてるのか少し肌寒かったので寝巻きの上から上着を羽織ると、少女は浮かない顔で歩き出した。
ガラにもなく手を繋ぎ、少し離れた少女の部屋へ向かう。何故か眠気も寝起きの際に必ず起こる倦怠感も無かった。
悪いことではないので気にしなかったが。
「ここか」
「………」
ドアの前で立ち止まる。部屋の主は相変わらず晴れない顔のままだ。
そういえばこの子を拾って数ヶ月経つが、部屋に入るのも初めてだったな。
そんな事を思い出しながらドアを開き、そして立ち止まった。
「これは……」
明かりを消しているのか真っ暗な部屋。ようやく闇に慣れた目に写ったのは大きめのベッドと机。
それでお終いだった。
キラは思わず手を放し、少女に向かって問いかける。
「ここが、君の部屋で良いんだよね?」
質問は頷きで返された。分かりきった問いだったが、思わず少女に聞いた自分を誰も責められまい。
なんだここは。子供らしいものはおろか、人が住んでいると感じさせるものがほとんどないじゃないか。
ミリィは何を―――いや彼女も自分の仕事で忙しいし、何より便宜上とはいえこの子の保護者は自分だ。
ラクスを思い出すため距離を取っていたのは事実なので、責められるべき人間は自分自身しかいなかった。
「………」
頭を掻いて溜息を吐く。項垂れた少女の握る手が、少しだけ強さを増した。
自分を此処に置いていって欲しくない、言葉を話せるならそう言いたいのかもしれない。
再び部屋に視線を向ける。子供1人には十分すぎるほどの、いや広すぎるからこそ見ていて悲しくなってきた。
親の愛情とやらに飢える、甘え盛りの年頃だ。こんな寂しい場所では寝るのも辛いだろう。
こんな、誰の帰りも待たない部屋では。
「わかったよ」
「……?」
言葉はすんなりと出てきた。この子も1人か。
なら、まあ。
仕方が無いか。
「今日から僕の部屋で寝よう。一緒に」
ただし通信とかで起こされても知らないよと続ける自分の言葉にこくこくと頷く少女。
そして自分の腰に抱きついてきた。
苦笑と共にその頭を撫でてやったあと、キラは少女と共に自分の部屋へと戻った。
ベッドに倒れこんだ少女に布団を被せ、その隣に寝転がる。
自分の方に身体を向けた少女は嬉しそうな表情を隠そうともせずに此方を見ていた。
早く寝たほうが良いと思うんだけど。
「今度、あの部屋に飾るものをミリィと一緒に買いに行くと良い……」
「うう」
服の裾をぎゅっと掴まれる。何だか言葉が無くてもこの子の言いたいことがわかってきた。
これもスーパーコーディネーターとやらの力なのだろうか。
「……僕も行くの? まあそれくらいの時間なら作れるだろうし」
別に良いよ。そう言おうとしたキラだったが、脳裏に1人の男の姿が過ぎる。
紅い瞳の青年。今の自分には彼との先約があった。
下手をすれば――上手くいけば――ここには帰ってこれない可能性がある。
「でも、約束はできないな……」
気落ちした様子の少女の頭を撫で、キラはその目を閉じた。軽く裾を引っ張られたままの感触がなんだか心地良い。
もしかしたら。本当にもしかしたらだが、今夜はもう悪夢を見ないで済むかもしれない。
子供好きなラクスなら、うなされる自分によって子供が起こされるなんてことは望まないだろうし。
そんな馬鹿らしい事を考えながら意識を手放す。
そして数分後、静かな部屋に2人分の穏やかな寝息が聞こえるようになった。
その夜に起こった出来事は、言葉にすればそんなに大したことではない。
似た者同士の傷の舐め合い―――いや、そんな言葉にも満たないだろう。
悪夢にうなされる青年が、被保護者と共に寝るようになった。
家族を失った少女が、新しい保護者と一緒に寝るようになった。
その夜に起こった出来事は、結局それだけの話なのだから。
そう。
ただ、それだけ。
今日はここまでです
キラは現段階ではまだ完全にデレたわけではありませんが、展開が早いと思う方もいると思います
実際自分もかなり悩んだので
ただこれ以上ここで更新を停滞するのも自分のテンションに影響するので、こういう形でいきました
まだ物語りは中盤ですが、もう少しお付き合いください
このキラには同情できる……
ところで、その子の子守なんだが代わりに一緒にn
>>165 ラクスだって悪を倒す暴力までは否定していない、むしろ推奨しているよ
全ての暴力を否定しているのはOOのマリナだと思う
乙した。これがキラへの救いなのか、やはり死こそが救いなのか。ホント救われない話だ。サイコー
>>181 あそこまで一方的に言っておいて、そこでさらに戦ってもいいのです。は酷かったよなあ。ほんと
>>181 ラクスは自分達に靡かない連中は間違ってるとしか考えていない
攻撃対象としか見ないから、その為の暴力を肯定する
>>183 ラクスにすればOOのマリナさえも敵と見なして攻撃対象にするの?
>>184 流石にマリナ個人を攻撃対象にはしないだろう
が、マリナはカタロンに匿われてるからカタロンごと攻撃されるだろうな
多分フリーダムの誤射から子供たちを庇おうとして死ぬ
>>184 いやだなぁ、まさか聖女ラクス様が、MSを持ち出してマリナをセイランのごとく挽きつぶしに行くわけ無いじゃないですか
偽者殺したときのようにヒットマン送り込むに決まってるじゃないですかぁ
>>186 ラクシズにとっては靡かない勢力は総て敵
CBはその時々で介入するだけ
>>187 ラクスが謀略でマリナを暗殺するのだね?
184=186=189だろ?
んで、何が言いたい、というかどーいう結論を望んでるんだ、アンタは。
>>190 ラクスがマリナを暗殺したら偽善者だと思うんだよ
何このキモい流れwww
フレイとキラが口論になって、フレイがキラに母乳をぶっ掛けるために胸元を開いて乳房を出したら
そのあとどんなシーンが想像できますか?
誰の子が宿ってるかによるな
>>194 フレイが妊娠するとしたら、キラの子しか考えられないよ
何?このキモい流れ…
…クルーゼ
上級者め!
フレイが乳房を出したあとは、どんな台詞が考えられる?
世界に悲観して滅ぼそうとしている男の子供(未来)を宿しながら
その男を打倒しようとしている男にそうするのって…
色々逆説的で面白そうじゃない?
>>200 「どう?あなた達コーディネーターは
子供を作れないんでしょ!?
ごめんなさいね。
私キラの子供は産めないわ!」
色々な時系列ぶっちぎってるけど
もしかして、第2のカテ公?
春だなぁ
この流れ何とかならんか
>>178 GJでした。あのいけ好かないパツキン小僧がサトーの甥っ子とは。
しかし、BTWの主犯格として名高いというのにその後も親類が議長側近や
赤服をやってられるとは…。
仮にたとえ建前だけでも、「共同正犯でもない限りは親族に累は及ばない」とか
徹底されてる、もしくはそうでもしなけりゃならないほど人材が無駄にできない
ということでしょうか。
あと、サトーが叔父さんならユニウスセブンで亡くなったのは叔母さんと…
従妹(従姉)では?
シンの場合、「ルナとコニールにまた会いたいでももう会えないだろうな」
と落ち込んでるが実際は二人の方が追っかけてきている訳でまだ笑いの余地があるが、
キラの場合は戦いの果ての死こそ救いという考えにはまりかけていて、
しかしいざそうなるとちびラクが完全再起不能な絶望に追い込まれてしまう。
ガチ勝負は避けられないとしても何か落しどころはないんだろか。
>>188 やはり00は良いな
種(笑)とは出来が違うw
や
種
>>207 そういうのは他でやれ、やってる事は種厨と変わらんぞ?
ルナとコニールが合流したときシンに対して、
「あんたがっ!! 泣くまでっ!! 殴るのをっ!! やめないっ!!」
とかやるんだろうか。
シンの罪状としては
・置いてった
・知らない女といちゃついてた(二人視点)
とかあるが。
むしろ
>>207が種厨の成り済ましなんじゃね?
各作品のファン同士で諍いを起こそうという
まるでどこぞの糞森みたいな奴だな…
>>212 当たり前じゃないですか
むしろ本人の可能性もw
種厨しかいないな。このスレ・・
スレタイ見てから出直して来い
種厨と種ファン以外がこのスレに来るわけ無いだろ
コーディなら男性、女性の他に中性があってもいいと思う
XXなら女性でXYなら男性だけど、それなら新たにW染色体を作ってXWなら中性にすればいいかもね
中性器の外見は女性器と同じ形だけど(ただし膣口がない)月経がない
代わりに尿道口から射精が可能
女性と中性の間に子を作ることが可能(中性と男性の間に子を作ることは不可能)
中性キャラの容姿は女性キャラと似ている(ただし凛々しい美形が多い)
女性(XX)と中性(XW)の間に生まれる子は、女性か中性であって男性はありえない(Y染色体がないから)
女性(XX)と男性(XY)の間に生まれる子は、女性か男性であって中性はありえない(W染色体がないから)
WY染色体の何かが誕生しないか?
>>221 YOが致死なのと同じでWOやWYも致死だよ(Xが1つ以上ないと生存できない)
>>221 中性と男性の間に子は生まれないからWYはありえない
>>223 Y染色体に男性決定遺伝子があるように
W染色体に中性決定遺伝子があると考えたらいいよ
226 :
通常の名無しさんの3倍:2010/03/20(土) 18:26:25 ID:CNl6LZCs
オリンピックのSEXチェックってのはこうした遺伝子上の性別を調べるものだよな
男の染色体持ってると女でも男の身体能力が出たりするんだ
>>227 トイレも男性用、女性用に加えて中性用を作る必要があると思う?
――もし種シリーズが小池一夫制作だったら――
>>229 ラクス「どうしてエレクチオンしないの〜!」
キラ「フレイじゃァないからさ」
232 :
229:2010/03/20(土) 22:17:52 ID:???
>>230-231 機密事項の連絡を取り合う方法は二枚穿きの紅白ブリーフによる手旗信号ですね。
序でに兵士などへの尋問に『座禅ころがし』が含まれてるのは規定事項かと……
もし種シリーズが細井雄二制作だったら
第18話 『目を覚ませ 私の獣』
「ねぇねぇ、この前言ってたことって本気なの? あんな男の何処が良いかわかんないんだけど」
「あの時は深い意味で言ったわけじゃないってことを忘れないでよね。
でもまぁ、う〜ん……最近一皮剥けそうな匂いがしないこともないけど、収穫はまだまだかな。
1回派手にすっ転んで挫折して、それでも一生懸命に立ち上がれたら真剣に考えてみてもいいかも」
「やっぱ大人だぁ……んで、本当は何歳なの?」
「まだ言うか」
重力の無いボルテールの通路。移動する手摺を掴んだ数人の少女たちが、宙を舞う様に進んでいく。
その真ん中にはオペレーターをしている茶髪の少女があった。
空いた左腕で飲み物の入ったバッグを大事そうに抱えてたまま、周りの少女たちと談笑している。
真っ暗な宇宙空間ではあまり認識しにくいが、現在の時刻は夜8時を回ったところ。
当直以外の者にとってはそろそろ大人の時間なので内容がそっち方面に行くのは無理の無いことだろう。
ほら、修学旅行の夜みたいなノリで。
「大体今は私のことなんかよりも、あんたの……? あ、艦長だ」
向かい側から移動してくるのはサングラスをかけた中年の男性。思わず移動を止めて敬礼する少女たち。
敬礼を返して通り過ぎようとした艦長だが、少女たちの中にいるオペレーターの少女に気付くと
手摺を止めて彼女の名を呼んだ。
先に言ってるわねと再び動き出す友人たちに頷いた後、少女は傍に寄る。
艦長は少しだけ傾いたサングラスを中指で戻しつつ、ゴホンと咳払いをした。
「今からMSデッキに行くのか?」
「はい。もうすぐ間食の時間なんで配給を手伝っているところです。
他の人がサンドイッチを持って行ってるんで、私は飲み物を」
「なるほど。お目当てはそこにいるであろうシン=アスカ、か」
はい、と頬を染めて頷く。
周囲に知られているのは恥ずかしいが、外堀を埋めているのだと考えればそこまで悪い気はしない。
むしろ任務中に何を浮ついているのかと怒られるかと心配したのだが、艦長は特に怒ったりはしてこなかった。
ただ困ったような表情を浮かべているだけだ。あの、何か?
「……作戦中は恋愛禁止などということを言おうとは思わん。しかし君の人選に少し問題があってな。
確かに彼は悪い人物ではない。外見も整っているし、女性クルーに人気があるのもわかる。しかし」
「しかし?」
「あまりべらべらと他人のプライベートを話したくはないのだが。……彼には既に、ベルリンに恋人らしき女性がいるぞ?」
「えぇ!? そ、それは本当ですか!?」
何、だと……!?
落雷に感電したような衝撃が奔る。しまった、その可能性は考慮してなかった。
1人で戦場なんかに復帰してるから、そんな女性いないって思い込んでたよちくしょう。
そりゃあんな優良物件を周囲のハイエナどもがほっとくわけがないよなぁー。
「ああ、しかも2人だ。
片方はミネルバ時代の同僚で、一時期FAITHの役職にも就いていたルナマリア=ホークという女性。
それからもう1人、確かポニーテールの……お前と同年代くらいの少女が一緒にいたな」
「あ、ならオッケーです」
「いいのか!?」
今度は艦長が驚愕する番だった。
ずり落ちたサングラスを外して少女に詰め寄る。いつもの威厳なんてありはしない。無理も無いけどね。
だが勘違いしてもらっては困るのである。別に自分はハーレムの仲間入りなんて望んでいるつもりはない。
この戦いの勝者は唯一人、己のみ。それ以外の解答はいらない。
そして自分は、彼と一緒にいた今までの1週間でその性格をある程度掴むことはできていたのだった。
見たところ彼は女性関係にガツガツするタイプじゃない。しかも未だに心に傷を抱えている。
恋人が1人だけと言うのなら純愛ルート一直線っぽいが、2人ならばどっちにも深入りせず微妙な関係を保つタイプとみた。
それ以外にも片方だけが恋人の場合敗れた方は身を引くだろうという予想もあるし、
先ほど述べた戦場へ戻ってきた云々を考慮しても彼がどちらかと付き合っているという可能性は低そうだ。
そんな考察を含めた 「つまり彼の隣の席はまだ空いているんだよ!!」 「な、なんだってー!!」 な会話を艦長とした後、少女は思考を再開する。
考察も良いが、このままでは時間が無いのは確かだ。
友人たちの命題に応えて一昨日は5回、昨日は6回会話の途中で軽くボディタッチしてきたが、
これ以上遠回りしている時間的余裕は無い。もう既にキラ=ヤマト討伐の任務は始まっているのだから。
次からは全弾強振で行けとも言われているし、自分ももうそれしか手はないと感じている。
すなわち肉体接触、あててんのよとかこっちのみ〜ずはあ〜まいぞとかそっち方面だ。
無論自分もそんな作戦を取りたくは無い。恋物語において色気を前面に押し出す者は敗れると相場が決まっている。
あまりしつこく好き好き光線出し続けても 「このマンセーキャラうぜー」 となりかねないし。
サスペンスなんかじゃそういうキャラは真っ先に殺されてお風呂場で浮いている。某金曜日の怪物に至っては言わずもがな。
この前見た恋愛アニメに出てた北なんとかというキャラもなんやかんやで結局は失恋してた。
……そういえばあのアニメの主人公、アスカさんに声が似てたなぁ。かっこ良さは月とスッポンだけど。
まあそれは置いといて、そういうわけで自分もこの作戦には乗り気でない。
しかし最終的な勝者になるためにこの際文句は言ってられないのだ。持ち味をイカせッッ!!
「努力したものが全て報われるとは限らない。しかし、成功した者は皆すべからく努力している。
友人たちから送られた言葉です……では、行 っ て 来 ま す !!!」
「おかしいとこばっかり母さんに似てきたなぁ……」
育て方間違えたーと嘆く艦長を尻目に、少女は再びMSデッキに向かう。
羽のように丘を下り、優しい彼の許へ。乙女ではあるが亜麻色ではなく茶髪なのはこの際気にしない方向で。
MSデッキに辿り着くと既に友人たちが集まった人たちに食事を配っていた。
大勢集まっているが、その中にシン=アスカの姿は無い。どこだろ。
「アスカさんは?」
「まだ整備班長と一緒に調整中だって。
こっちは私たちがやっとくから、デスティニーのコックピットまで持って行ってきなさいな。
……うまくやんなさいよ?」
「ありがとう! ごめんね、最後まで手伝えなくて」
「何言ってんの。ここまで運ぶの手伝ってくれただけでも十分よ」
ウインクする友人に笑顔を返し、少女はデスティニーのコックピット目掛けて床を蹴る。
そして飲料ボトルを3本抜き出し、バッグを友人に向かって放った。
投げ返されてきたのは3つの小箱。中身は今日の間食であるサンドイッチだ。
「アスカさ〜ん!!」
デスティニーに向かって声をかけるとコックピットから整備班長が姿を現した。
そして中に向かって何か喋っている。
どうやら彼らは今が休憩時間だということに気付いていなかったようだ。
「失礼しまぁす。飲み物、アスカさんがコーヒーのブラックで班長はレモンティーで良かったですよね?」
「ありがとう。アスカさん、ここで一息つきましょう」
「すいません、もうちょっと」
真剣な表情でコックピット内の画面を見つめているその視線。思わずぞくりと来て唇を舐める。
やっぱりこの勝負に勝ちたい。彼の1番になりたい。彼の心を射止めたい。
そんな感情に任せて中に飛び込んだ。
身体なら。
身体ならいくらでもくれてやる。そのかわり――――
貴方の将来を私にくれっっっ!!!
「それ、心を射止めるんじゃなくて心臓を止める台詞だと思うんだが」
そうだっけ?
「コクピットにまで入って良いとは言ってないんだけどな……まあいいか」
はしゃいだ声を上げる少女に構わず、中にいた青年シン=アスカは目の前のキーボードを叩き続けた。
宇宙に出て2日目の今日はデスティニーの最終調整の日である。
画面の横、視界の隅に入ったのはまだ真新しい緑の制服。最近良く話しかけてくるオペレーターの女の子。
お互いの身の上を話したあの日以来なんだか懐かれてしまった。
入り口でコークスクリューパンチについて熱く語りだした班長の脇を抜け、作業中の画面を覗き込んでくる。
「そこ空けてくれないか。ちょっと狭いから」
「あ〜!! アスカさんそれ失礼です!! 私太ってなんかないですよ!?」
「いやそういう意味じゃなくて、流石に3人入るのはどうかと思うんだ。無重力なんだからコックピットの中にこだわらなくても」
頬を膨らませる少女にそう弁解しながらキーボードを叩く。
休憩に入るにしても切りの良いところまでやっておかないと……これで良し。
後は実際に宇宙に出てからの調整になるだろう。今の状態でも十分以上に戦えるが。
小箱とボトルを受け取り、そのまま彼女に座席を譲る。適当な窪みに腰掛けてサンドイッチの包みを解いた。
入っていたのは3種類。卵とハムに、ポテトサラダのサンドイッチ。
かぶりついて咀嚼したあと、コーヒーで流し込む。結構旨い。
「……なに?」
「いや、美味しそうに食べてるなぁって」
茶色の髪が視界をよぎる。顔を上げると目の前にはなんだか嬉しそうな少女。
にこにこと笑うその顔はとても幸せそうだ。
軍人なんてとっとと辞めて穏やかな場所で暮らして欲しいと思わず考えるくらい。
「ああ、まあ、そりゃ。……もしかして、君がつくったとか?」
「まさか。それ皆と同じやつですよ。
でもアスカさんが食べたいって言うなら頑張って作っちゃいますけど」
そう言いつつ少女はシンの顔を覗き込む。
姿勢的に自分の豊かなミサイルをシンにアピールしているように見えなくもない。つかそう見える。
今の光景をコニールが見たら撲殺すること間違いなし。シンを。
この同世代のわんぱくボディに噛み付くのは自ら敗北を語るのと同義だし。
ルナはほら、あいつコンプリートファイターだから。余裕を装って 「やるじゃない」 くらいは言いそうだけど。
敗北感に包まれるのは多分コニールだけだろね。
「あ。マヨネーズ、頬に付いちゃってますよ。取ってあげましょうか?」
「いやいいから。からかってるのか?」
「ふふっ……」
それにしてもほんとに懐かれてしまったな。
まあこの年頃は恋に恋する世代だからよくあることか。昔のホーク姉妹みたいなものである。
尤もメイリンは後にアスランの為に命張ってたから、同じに扱っては良くないかもしれないが。
「エルボー・ブロックで拳さえ壊さなければ……って聞いてないのか。
あ〜、良ければ私、このハッチ閉めて30分ほど席を外しましょうか? 他の整備士にも近くに寄るなと伝言を」
「いや30分って何のつもりですか」
「なんと、15分で足りますか。しかし男性側はそれで良くても女性には余韻などの時間が必要だと思うのですが……」
「勤務時間だって言いたいんだよこっちは」
変に気を利かすなやおっさん。しかも気を利かすとこ間違えてるし。
あと哀れみのこもった目でこっち見るな。俺は別に早くねぇ。
「ところで、もうデスティニーの調整は済んだんですか?」
「ああ、もうあらかたね。後はアスカさんに実際に宇宙に出てもらって、最終チェックするくらいかな」
「へえ……」
「とりあえずは明日テストする予定だから、君にも――――」
「大変だ!!!」
彼らの会話を遮るかのように室内に響く大声。3人はサンドイッチを咥えたままコックピットから顔を出す。
ちょうど金髪を後ろに流したいつぞやの赤服の青年がデッキの中に飛び込んできたところだった。大声出したのはお前か。
青年はシンの隣にいる少女を見つけると一瞬眉をしかめたが、そんな場合ではないと言わんばかりに周囲を見渡す。
一体何があった――――いや愚問か。この部隊に配属されている者がこれほど動じる事など一つしかない。
「今ブリッジに連絡があって、ついにあいつらが姿を現したって!!」
その言葉が意味する事はただ一つ。MSデッキ内の空気が変わる。
ついに決戦の時が来た。
「来たか……随分タイミングのよろしいことで。交戦予想時間は?」
「さ、3時間後!!」
「どう考えても今日ぶつかるな」
他人事のようなその言葉に少女と整備班長が、いや他のパイロットや整備士などその場にいる全ての人間がシンに視線を向けた。
そんな周囲を気にした様子もなく、シンは指に付いたマヨネーズを舌先で舐め取る。
「……最終チェックはできそうもありませんね」
「調整は今済ませたし問題ない。整備班の仕事は完璧だ……あとは俺たちの仕事だな」
「アスカさん……こ、心の準備とかは?」
「こういうのは今に始まった事じゃないから。心配無用だ」
不安な表情を見せる少女のおでこを軽く裏拳で小突き、シンはデッキにいる人間たちを見下ろす。
どうやら自分が何か言うのを待っているようだ。
今のザフトにはベテランが少ない。彼らの多くは初陣のようだし、それなら少しでも負担を軽くしてやるというのが先立者の勤めか。
こういうポジションは慣れてないが、謙遜抜きでこの作戦のキモは自分だし。
「それじゃ、俺たちはこれから作戦に掛かるわけだけど」
「「「…………!!」」」
息を呑む音が聞こえる。これ以上精神を張り詰めさせるのも酷というものだろう。
熱い演説なんてするようなガラじゃないので、シンプルな言葉にしておいた。
「今夜は、残業無しにしようか」
「「「「――――――はい!!!」」」」
言葉一つにも気を使わなければならない。昔のアスランもこんなだったのだろうか。
上の者ってのも大変なもんだな。
うん。やっぱ、ガラじゃない。
遂に、シンと戦う日が来た。
「随分待ったな。この日を」
口からこぼれたのは力の抜けた声。鏡に写るのは軍服を纏い、長髪を髪留めで纏めた自分の姿。
キラはそんな自分を無感情に見つめた後、エターナルへ向かうために自室を後にした。
部屋の外には出陣する自分を見送りに来てくれた友人と被保護者。最近自分の傍にいることが多い年の差コンビである。
「今から、行くんだ?」
「ああ。この子の事は頼んだよ。
ラクス。君はミリィと、このディーヴァでおとなしく待ってるんだよ?」
「………」
こくりと頷く少女。今の状況を客観的に見たキラは思わず笑みがこぼれた。
心はとうに凍ったと思っていたが、自分も随分優しい声が出るようになったものだ。
シンの復帰に心が騒いでいるのかもしれない。
尤も殺されるかもしれない男の復帰を喜ぶなど、自分が相当歪んでいる証拠以外の何物でもないが。
まあいいや。どうせ今までもこの世は地獄だった。自分がいかなる存在に堕ちようと、笑っていられるならその方が良い。
それが自分に対する蔑みの笑いでも。
「じゃあ、キラ。気をつけてね」
「ああ」
ミリアリアの言葉に頷き、キラは戦いへの覚悟を決める。
そして2人に背を向けて歩き出そうとして
「ん……」
少女に服の袖を掴まれた。なんか最近多いなこういうの。
無視するのも可哀想なので視線を向けると、目に写ったのは何かを必死で訴えかけようとしている少女の表情。
ただ事ではない雰囲気に、思わず片膝をついて視線を合わせる。
「ううっ……」
「どうしたんだい?」
この子のこんな表情は初めて見る。何か言いたいのだろうか。
だが心の傷というものはそう簡単に治るものでもなく、彼女の口から言葉が漏れることはない。
「うう〜っ……」
声の出ない自分に怒っているのか、それとも悲しんでいるのか。人の心がわからない自分には判断できなかった。
それでもいつもの自分ならいくらでも待ってやる事ができたのだろうが、流石に出陣前の今では聞いてやる時間的余裕が無い。
彼女には申し訳ないが、もう行かないと。
「ごめん、帰ったら聞くよ。それじゃ行って来る」
「あ………」
頭を軽く撫でて今度こそ少女に背を向ける。
そしてエレベーターを降りMSデッキへと続く道を目にした時にはもう、彼女たちのことは頭から消え去っていた。
頭を占めるのは今からの戦いについて。そして 『彼』 について。
「ああ……」
肌が粟立つ。掌が湿る。胸が締め付けられ動悸が激しくなる。
シンには悪いが、やはり彼の本質は戦士以外の何者でもなかったとキラは笑う。
だってそうだろう。まだ彼と同じ宙域にいるに過ぎないのに、自分は彼の存在を感じているのだ。
手加減や妥協といったものが必要ない、自分と同じ存在がそこに在るという事実を。
ようやく眠りに就けるのか。この戦いの後には。
ようやく終わるのか。この自分だけでは終われない戦いが。
彼がいなければ終わらないこの戦いが。
そう、自分はようやく再会した。
自分の友人だったシン=アスカではなく、かつて自分の驕りを圧し折った天敵シン=アスカと。
「やっと、会えたね。 『シン』」
さあ、始めようかシン。
僕が心待ちにしていた戦いを。
「………」
デスティニーのコクピットの中で、シンは自分の両肩を抱いていた。
他人が見れば、恐怖で震えて怯えているようにも、歓喜の喜びを押さえつけているようにも見えただろう。
何故震えているのかはシン自身にも分からなかった。
恐怖でも歓喜でもないことは、分かっているのだが。
目を閉じる。感じるのは背筋が凍るような重圧。
まだキラと同じ宙域にいるだけだ。相対したわけでもなく、発進すらしていない。
だが、分かる。頭や身体ではなく本能が理解している。
これより前に進めば、ただではすまないという予感。
「なるほどな」
小さく呟く。他のパイロット達が呑まれるのも良く分かる。キラを神格化していたザフト軍など尚更だ。
この重圧に耐えられる人間はそうはいないだろう。
不意に、これからの自分がしようとしていることがひどく愚かなことに思えてくる。
だがこれがキラと戦うということ。
昔の様な下手な小細工はもう通用しないし、向こうもつまらない策など仕掛けてこないだろう。
キラを倒す方法は一つだけ。
アイツよりも強い力で、真っ向から叩き潰すこと。ただそれだけだ。
『エターナルよりフリーダムの出撃を確認しました。
本艦は他の部隊と共に敵母艦を叩きますので、アスカさんにはフリーダムの相手をお願いします。
エターナルが沈めばキラも動揺し隙が出来るだろう、というのが艦長の考えです』
オペレーターの少女に声を掛けられた。彼女も怖いのだろう、顔が強張っている。
安心させるように笑いかけた。
「危険だから止めといたほうがいい。ディーヴァがやばくなったらキラがそっちに行きかねないし。
遠くから見てて、俺がやられたら退けばいい」
『そういうわけにもいきません、任務ですので。ですがお気遣いは感謝します』
少しは落ち着いたのか、僅かに笑顔を返す少女。
それでいい。付き合いは短かかったが、彼女には不安な顔は似合わない。
そして艦内に彼女の声が響いた。
『コンディションレッド発令。各員、総力戦用意。敵母艦より出撃する機影を確認。フリーダム1、ストライク8。
デスティニーならびに本艦所属MSは作戦行動の開始を願います。
シン=アスカ、デスティニー発進スタンバイ。全システムの起動を確認しました。発進シークエンスを開始します』
滑らかに指示を出すオペレーター。なるほど、ボルテールに乗るだけの事はある。
彼女は艦長と会話をした後、こちらに視線を戻す。
『準備は、よろしいですか?』
「いつでも」
『ご武運を。上が何を言っているのかは知りませんが、無理はしないで下さいね』
「ありがとう。そう言えばずっと言いそびれてたんだけど、君の名前を聞いてなかったな。話をする機会も結構多かったのに」
『え、ああ!? ……そう言えば、そうでした………しまったなぁ。
それじゃ遅くなりましたけど、私の名前は―――』
「いや、ここまできたら敢えて聞かないでおくよ。お互い無事に戦いを終えたらその時教えてくれ」
『………そう、ですね。了解です。絶対に聞きに来てくださいね!!』
「ああ」
お互い笑い合いながら通信を切った。もしかしてこういうのも死亡フラグになるんだろうか。
コックピットの中に再び彼女の声が響く。
『ハッチ開放。射出システムのエンゲージを確認しました。
カタパルトオンライン。射出推力正常。針路クリアー。
―――デスティニー、発進どうぞ!』
「シン=アスカ。デスティニー、行きます!!」
深紅の翼を広げてデスティニーが舞う。他の艦から先に出撃していたMSたちをあっさりと追い越して先陣を切る。
目指すは眼前にいる青き翼を持ったMS。
最高速で疾走しつつ、右肩のウェポンラックからアロンダイトを抜いた。
こちらから話すことは無い。挨拶代わりに一撃をくれてやる。
フリーダムは攻撃を仕掛けてこなかった。
不意を突かれたのか、余裕なのか。まだ何か話でもあったのかもしれない。こちらには関係ない話だが。
その一瞬でシンは間合いをゼロに変える。
フリーダムが両手にビームサーベルを抜くのが見えた。だが遅い、先手はこちらだ。
アロンダイトに紅い光が奔る。
長剣が空間を裂いて旋回した。
攻防は一瞬。
アロンダイトの一撃をフリーダムはビームサーベルを交差させて受け止めた。
機体を横回転させながら長剣を横に流しつつ、デスティニーの横をすり抜ける。
そして無防備な背中に向けて、右手のビームサーベルを横に薙いだ。
すれ違いざまに迫ってくるサーベルの刃。
シンは後退してそれを避けつつ、左手でパルマフィオキーナを放つ。
ビームシールドで受け止めるフリーダム。と、腹部のカリドゥスが火を噴く。
舌打ちと共にシールドで受ける。光が収まったその瞬間、目の前にはフリーダムがサーベルを振りかぶっていた。
もう一度後ろに跳んで、その一撃を避ける。
避けた、はずだった。
だが目に映るのは火花を散らした自分の機体。掠り傷で戦闘自体には問題は無いが、精神的なダメージは大きい。
――――ガチだよ。本気で殺しに来て良い
思い出すのはあの時のキラの言葉。
やはり強い。前大戦で戦ったときの比ではない。
これが今のキラ=ヤマト。
だがそれでも今はやるしかない。頭部のバルカンで牽制しながら距離をとった。
「……上等だ……」
アロンダイトを片手で持ったまま、左肩のウェポンラックからスコールを取り出し構える。
左右に細かく動いて撹乱しながらそれを連射。雨の様にフリーダムに降り注ぐものの、全て回避された。
今のままでは勝てない。それは間違いない。
ならば今は全てを忘れて、あの日に帰ろう。
ヤツを倒したあの日に。復讐を遂げたあの日に。
確かにキラを超えたあの一瞬に。
そして、昔の自分の様に呟いた。
「フリーダムは、俺が倒す……」
今日はここまでです
>>205 確かにその通りです、いとこですね
しかしシンとキラの対決が妙に早いですね。
てっきりアスラン達と合流したりして次の日まで持ち越すモノだと思ってたんですが。
序でに以前触れてた「キラ側への追加パイロット」って結局誰なんだろう、と。
誰かのカーボンヒューマンなのか誰かの脳髄ユニットなのか……どうなんでしょうかね。
>>245 あんまり展開予測とかしたくないけど、これ前哨戦じゃないの?
まだ中盤らしいし
つか追加パイロットの想像がえげつないような
>>228 中性トイレってあったら男女どちらのトイレに似てるんだろう…
キラは自由、アスランは正義という言葉が似合うよね?
前に「自分だけの」と付く気がしないでもないがw
オペ子よ、北なんとかの二の舞を避けたいのは分かるが、一歩間違うと東なんとかの二の舞だぞw
251 :
245:2010/03/21(日) 12:35:55 ID:???
>>246 まあ、13話での記述読むとどうもそういう方向をね……
投下GJ待ってたよー
予想以上にオペ子がしたたかで吹いた。って、え、母さん?え!?
後半の決戦への盛り上がりぶりも見事。空気の切り替えについていき損ねたのは内緒。
シンもキラも業が深いな……そんな二人だから他と別格の頂点争いなのか。
パインサラダを見た気がするが、さて予想に応えるか裏切るか、次も楽しみにしとりゃーす。
すいません、北とか東とか、元ネタ教えてくれませんか。
>>253 シンの中の人が主人公をやってるラブコメ作品を適当に調べれば、すぐに分かると思う
了解、早速調べてみます。
あ、お礼言うの忘れてた、ヒントありがとう。
内容は問題なくGJですが、一点だけ。
地の文が、その話の主観(シンだったり、オペ子だったり)の一人称と、場を客観視する
三人称、さらに作者さんの感想らしき砕けた文言の三つが入り混じってて非常に読みづらい
です。大部分が一人称で進んでいるので、その視点で統一した方が読み易いと思います。
内容が良いだけに、文章が少し雑になってきている点が残念だと感じたので、失礼ながら。
別に読みづらくなかったぞ
ようするにお前の読解力が低すぎるだけの話
小学生からやり直したらどうだ?
後、「俺様がもっと作品を面白くしてやろう」な上から目線がうぜえ
ちょっと意見言っただけでこの反応だからな
レベルの低さが伺えるよね
SS作者にとっては向上につながるそういう指摘こそありがたいってモンなんだが
この程度のレスに読解力(笑)とか言いだしちゃう奴には解らないんだろうな。
俺も、地の文の視点を変更するときは明確に区切った方がいいと思うよ。
ギャグパートの文に関しては混ざってても気にしないけど。
現状、プロットの面白さで引っ張っていけてるんで
まあ名無しの意見を聞くかどうかは作者が決めてくれ。
言外に「聞かないのは度量が小さい」と言いたげな最後の一行が余計。
>>262 そう見えたか? なら今の内に補足入れとこう。
作者の書きたいものによっては、名無しの意見を聞かない方がいい場合もある。
本当に、究極的には作者の自由なんだ。
「俺様がもっと作品を面白くしてやろう」なんて意図はないし
参考にならないと思ったらスルーしてもらって全然構わないよ。
それを以て叩いたり荒らしたりするつもりは毛頭ない。
向上につながらない指摘だから無視して良いで結論
それを判断するのはお前じゃないだろ
こういうのを同人SS痛というのか?
>SS作者にとっては向上につながるそういう指摘こそありがたい
これ結構傲慢だよな
自分の指摘は尊いと思っている人ってうざいです
俺も読みづらいと思わないよ
>>267 百歩譲って実際に何かSS書いててその経験から言ってるってならともかく
>>261の態度からするとむしろ提案や意見を受け入れなさそうに見える気が
もし種死本編でコンクルーダーズが結成されていたら
もし種プラ主体でプラモウォーズやガンダム野郎やったら
「ストフリの弱点は腰が回らない事と背中が重くてバランスが悪い事だ!」
「ぎゃーーーーーっ!」
「おりゃあ!必殺キックって・・・ああああ股間が−!」
「狙い通りだな!MG隠者の弱点はキックを繰り返すと股関節が割れるんだよ!」
菊地秀行作品or夢枕獏作品or平井和正作品or山田正紀作品だったら……
夢枕獏だったらこれだろ
キラ「ゆこう」
アスラン「ゆこう」
そういうことになった。
>>276 其れ以外にもまだ在るはずだろう、よ――
もし種・種死の脚本、世界観設定が川上稔だったら
もしCEがドラッグオンドラグーンの世界だったら
>>279 キャラ全員が基地外になったり、死にまくったりする
どこに投下していいか分からず、ここが一番近いと思ったので投下させてもらいます。
スレタイに準じるなら「もし種の制作者が自分だったら」。
長い作品になるから他作品の邪魔になるならスレを立てるか諦める。
注意。
・種放映前に出た初期設定を一番重要視している。
・しかし必要に応じて俺リファイン。(ex、女性陣のダサすぎる私服等)
・種1クールのノリが最後まで続く。といいな。
・主人公はオリジナル。
・基本、書いたものが全て。
キリがないうえ説明は苦手なので心情としてはただ一つ。
「細けぇことはいいんだよ。俺の話を読めぇええ!」
□ ※タイトル絶好調再考中。 □
――月が出ていた。
ふと見上げれば、神々しい光に吸い込まれそうなほどに見事な満月が在る。
生ぬるい風はただ髪を靡かせ、頬をゆるく撫でていく。風に乗って鼻を掠めたのは土のニオイか、それとも錆び付いた血のニオイか。
右手に携えていた刀を握りしめて振り返れば、月光に照らし出されていたのは御旗の残骸、動かぬ躯。
闇に消えゆく落ち武者たちの足音だけが遠くに響き、やがて辺りは深海のごとき静寂に包まれ孤独をただ煽る。まるで、絶対と永遠の闇を象徴しているかのように。
そしてまた、月を見上げる――。
「――!」
そこで一旦切れた意識は、次にアカネの瞳に見知った天井を映しださせた。
――夢か……、と彼女が理解するのにそう時間はかからなかった。もう気の遠くなるほどに同じ夢を見ていたためだ。そう、まるで何かを暗示するように毎夜毎夜。
「6時前、5分か……」
アカネはベッドに寝そべったまま目覚まし時計を手繰り寄せ、6時にセットしていたアラームを解除した。
「テレビオン」
そして寝起きの掠れた声で呟くと、一寸先のテレビが指示通りに自動で光を灯した。同時にけたたましい機械音が部屋に響き出す。
「えー……ただ今入った情報によりますと、カオシュンが占拠されるのはほぼ確実と見ており、海上自衛軍も周辺海域の攻防に協力との閣議決定が……」
テレビのニュースから流れ出た音声だ。
気怠げに身を起こしながらモニターを見つめていたアカネは小さく息を吐くと、寝乱れた髪に手をやった。
「あーあ、東アジア共和国なんかに組みするから……」
ま、一つ国土防衛の悩みの種が減った、とニュースの音を耳に入れながらふと戸棚の方へ目線を送る。
そこに並べられていたのは数え切れないほどの賞状、賞牌。
ピンと背筋が伸びるような心持ちでそれらを一望してキュッと唇を結ぶと、アカネはシャワーを浴びるために部屋を出た。
いつ頃からあの夢を見るようになったのだろう――と、アカネはシャワーの噴出口から吹き出る湯を見つめながら不意に考えた。
この近代化された時代に、なぜ太古の時代を思わせるかのような野戦場に佇む夢を繰り返し見るのだろう?
そんな事を思いながら、自身の固い掌を見やる。
あの夢の影響で剣を取るようになったのか、剣を取ってからあの夢を見るようになったのか、もはや覚えていない。だが、いずれにしろいつの間にかあの夢の映像が自分の中で"戦場"というもののイメージとなってしまった。
それは今も、変わらない。
「……これも持っていくかな、一応」
濡れた髪にタオルをあてながら、アカネはIDカードを手にすると一瞬の迷いの後にそれを荷物ケースに収めた。
「これも……」
そしてもう一つ、誇らしげに小さなケースを見つめて、それも荷物に収める。
そうして用意を済ませ玄関のドアを開けたアカネの瞳に早朝の光りが入り込み、その清々しさに頬を緩めた。凛と吹き抜ける肌寒い風を感じながら、どこか懐かしむように胸いっぱいに酸素を取り込む。
「さて、行くか」
この国のこの空気がやはり一番だ――、とそんな事を思いながら、ここから程近い宇宙港へ向け彼女は足を踏み出した。
PHASE - 001 「ヘリオポリスへ……?」
C.E.――コズミック・イラ。
人類がその生活空間や資源を宇宙へと求めるようになった頃、西暦は終わりを告げ、紀元はそう改められた。
かつての国々のほとんどは民族紛争、宗教紛争の末に統合され、北米を中心とする強国"大西洋連邦"、EU諸国・ロシアによる"ユーラシア連邦"、中国大陸を中心とする"東アジア共和国"など国土を拡大した連邦国家となった。
一方で人類の禁忌を犯した者より作り出された遺伝子操作を施された人間「コーディネイター」と従来の人間「ナチュラル」に大きく二分される者同士の争いが耐えない時代でもあった。
そして自らを新人類と称したコーディネイターは従来のスペースコロニーに対し、独自の開発を行った「プラント」と呼ばれる巨大衛星都市に移り住むようになる。
C.E.70、2/14。
プラントの独立を認めない地球連合と、それに反発し独立の象徴として農業プラントの開発に着手したプラントの亀裂はついに決定的となった。
「血のバレンタイン」と呼ばれる連合による農業プラント――ユニウス・セブンへの核攻撃である。
これを皮切りに本格的武力衝突へと発展した地球連合軍とプラントの"ザフト"軍だったが、数で勝る連合軍の圧倒的勝利との開戦当時の予測は大きく裏切られ、戦局は膠着状態のまま既に11ヶ月が過ぎていた。
***
「何故……何故あんなところにキラがいたんだ!?」
一人の少年が苦悶の呟きを喉から絞り出していた。
赤い軍服に身を包み、鍛えられた身体とは裏腹に憔悴しきったような青い顔色を両手で押さえ震えている。
血のバレンタイン――、農学者としてユニウス・セブンに従事していた母を失ってから少年の人生は大きく変貌を遂げた。
母を奪ったナチュラルを憎み、ただ復讐のために軍へと志願した。
コーディネイターの中でも一際秀でた能力を有していた彼はザフト軍養成アカデミーを主席で卒業し、トップガンにのみ着ることの許される赤服に袖を通し戦場へと駆り出た。
ナチュラルに報復する。ただそれだけを考えていたはずだった。
だが、少年の凍り付いた心はまたもクレバスのごとき深い裂け目が生じることとなる。
――中立国オーブが資源コロニー・ヘリオポリスで秘密裏に連合の新型機動兵器を開発している。
その情報を察知したプラント最高評議会は少年の所属する隊にその兵器の奪取を命じた。
ザフトにとってもこの作戦の重要度は高かった。何故なら新型機動兵器・"モビルスーツ"と呼ばれるそれはザフト独自の独占軍事兵器だったからだ。
数で劣るザフト軍が地球連合軍となぜ拮抗していられるか? その答えもモビルスーツの力による所が大きい。
それを連合軍が開発してしまったらどうなるか――、そんな悪夢の連想は少年にもすぐに出来た。
しかしながら、ヘリオポリスへの潜入は存外簡単にいった。
中立国への軍事攻撃は国際条約違反となる。それを犯してまでザフトがヘリオポリスへ攻撃を仕掛けるはずがないと踏んでいた連合軍の甘さがあったからだ。
所詮ナチュラルの考えなどそんなものだと侮蔑した少年であったが、その油断があるいは誤算に繋がったのかもしれない。
せめて一機だけでも、と腹をくくったように死守する連合軍士官の猛攻を受け同じ赤服の同期を一人失うこととなったのだ。
「ラスティ!」
銃弾に倒れた姿にカッとして銃を乱射し、ナイフを抜いて仲間の仇討ちに出た少年は硝煙の中で思いがけない人影を見つけてしまう。
自らの放った銃弾を受けて肩を押さえるように項垂れた連合の士官を庇うように立っていた、自分とそう変わらぬ背格好の少年の姿。
「キ……ラ?」
ナイフで士官に留めを刺そうとした少年の手が強張った。
キラ――、それは幼年学校で共に学んだ昔なじみの名だった。
数年会ってはいないが、昔の面影そのままの友人の姿が少年の開かれた瞳孔に映り、金縛りのように動きが止まる。
「アス……ラン?」
アスラン、と自分の名を呼んでくれた友人の声を確認する事なく、少年はその場から飛び退かなければならなかった。蹲っていた連合の女性士官が持っていた拳銃で反撃に出たからだ。
少年――アスランはそのまま当初の目的通り新型機動兵器の奪取を敢行するしかなかった。
銃弾に倒れたラスティが奪おうとしていた機体とは別の機体へ飛び乗り、急いで起動させる。
モニターにキラが女性士官と共に側の機体のコクピットに滑り込む姿が映ったが、機体を奪取し無傷で母艦に持ち帰るという任務の方を今は優先させねばならない。
強く歯噛みして、アスランはそのままその場を離脱したのだった――。
無事重要任務を果たしたアスランは、母艦の自室で幾度も自問自答を繰り返していた。
あれは確かにキラだった。
いや、あんな所にキラがいるはずがない。人違いだ。
いやしかし……と答えの出ない問いを繰り返す。
ふと目線をあげれば、もはや帰ることのない主人を待つベッドが佇んでいる。
ラスティ、と先程目の前で戦死した同室の同僚を偲ぶも、アスランの中ではキラとあの場で再開した動揺の方が勝っていた。
それに内心、焦ってもいた。
ラスティが討たれ、こちらは連合の開発した新型機動兵器を一機取り逃がしているのだ。取り逃がした一機には逃げ場を求めたキラが飛び乗ったのをこの目で確認している。既に後発部隊があれを捕らえに出ており、もしもキラに何かあったら――と考えると気が気ではない。
「コンディションイエロー発令。コンディションイエロー発令。各ジンパイロットは至急ブリッジへ」
不意に艦内放送が響き、アスランは反射的に飛び起きた。
急ぎブリッジへ上がると各隊員忙しく仕事をこなしており、アスランは状況を把握しようと自らの上官に声をかける。
「クルーゼ隊長、これは……」
「ああアスラン、先程はご苦労だったね」
ブリッジ中央のブリーフィングデスクの前に立っていた仮面の男――クルーゼはアスランの顔を見るなりそう労い、集まったパイロット達を一望した。
「さて、先程の取り逃がした新型機動兵器のデータ、詳細は不明だが……ミゲルのジンを撃破、私のシグーをも中破させたことは事実だ」
途端、周りの隊員達がざわつく。
「まさかミゲルが……ナチュラルなんかに」
「隊長機が破損なんて……」
アスランも少なからず動揺を見せる。
自身の帰投と入れ違いでクルーゼが出撃したのは知っていたが、まさか機体を損傷したなどとは夢にも思わなかった。
というのも、クルーゼはプラント最高評議会からネビュラ勲章を授与されるほどのザフトのエース。押しも押されもせぬトップガンだからだ。
しかし、あの機体に乗っているのがキラ――コーディネイターならばそれも可能かもしれない、と頭の隅で考える。
「同時に確認された新型戦艦もろとも放っておくわけにはいかない。これを捕獲、出来ぬならば破壊する!」
「聞いての通りだ、総員コンディションレッド! D装備のジンで奇襲をかける!」
クルーゼに連なるように黒い軍服に身を包んだこの艦の艦長が言葉を強めた。ハッ、と敬礼をし、指示された通りパイロット達はブリッジを出ていく。
ミゲルの仇討ちだと志気を高めブリッジから去っていった同僚らを横に、アスランの額には汗が滲んでいた。クルーゼの「破壊」という言葉がそうさせたのだ。
もし、あれにキラが乗っていたら。キラの命の補償はないだろう。
「……アデス艦長! 私も出撃させてください!」
考えるより先にアスランはそう具申していた。しかし、具申は艦長――アデスの眉間に一つ皺を増やしただけに終わった。
「君は新型の奪取という任務を既に果たしている。予備のジンもない、ここはオロール達に手柄を譲れ」
「……はい」
こう言われては大人しくブリッジを出らざるを得ない。
しかし、アスランは一旦は自室へと向けようとした足をピタリと止めた。
どうしても気になって、ハンガーを見渡せるロッカールームへとその足を進める。
「D装備の許可が出ている、6番コンテナへ急げ!」
窓から見下ろせるハンガーでは整備兵達が出撃の準備に追われており、要塞攻略戦にでも繰り出すような重装備にアスランの喉がゴクリとなった。
『アス……ラン?』
硝煙の中で再会した友人の姿が脳裏を過ぎる。
キラ――、と強く目を瞑ったアスランは次の瞬間、自分のロッカーへと駆け寄っていた。
「よし、ハッチ閉じろ! ……なんだ、コイツも出るのか!?」
整備兵の戦慄く声がハンガーに響いた。
あのままパイロットスーツに着替えたアスランが、その勢いで先程奪取したばかりの調整もままならない機体に飛び乗ったからだ。
命令違反の出撃とは分かっていても、だまって見過ごせなかったのだ。
「艦長! アスラン・ザラが奪った機体で出撃していきました……!」
オペレーターの上擦った声が艦長――アデスの背中に響き、面食らったアデスはすぐさま呼び戻すよう指示を出した。
だが、隊長であるクルーゼがそのアデスの指示を取り消してしまう。
データの吸い出しは済んでいるため行かせても構わないと言うのだ。
「奪い損ねた連合の新型機動兵器とアスランの機体……戦闘となれば面白そうだとは思わんか?」
「……はぁ」
曖昧な相づちを打つアデスを横に、仮面に隠された素顔から唯一見えるクルーゼの口元は不適にその端をつり上げた。
――ザフトのヘリオポリス強襲より少し前。
アカネはL3宙域を行くシャトルの中にいた。
ふわふわと慣れない無重力空間に溜め息を吐くものの、裏腹に周囲からは楽しそうな声が聞こえてくる。
「わたし宇宙にあがるの初めてでさぁ」
「すげー……見ろよあれ! "地球は青かった"、って一度言ってみたかったんだよな」
大気圏を離脱してから数日経っているというのに未だにこの調子で、シャトルの雰囲気はすこぶる明るい。
「あー、ここL3は地球を挟んで月の反対……つまり月・地球・君たちは今一つの線上に存在していることになる」
「そんなん分かってますって。わざわざそれ言うために遠回りしてこの宙域に来たんでしょー?」
「何を言うか! 百聞は一見に如かず、宇宙の神秘をその目にしっかり焼き付けておけよ!」
こんな調子で講義のようなものも続いており、アカネはほんの少し場違いな気もして、そっと荷物を持ってその場から離れた。
「ねえ……あの人、あの青葉あかねでしょ? 何でここにいるの?」
「ちょうど休暇中だから是非に、って頼み込んだらしいぜ」
「ふーん……実物初めて見たけど、なんか怖そ」
そんな周りの声をうっすらと感じながらアカネは乗客室を抜けた。
物理的な力を一度進行方向に向かって加えてやれば、そのまま身体は自然に前へと運ばれていく。
髪さえも全体がふわりと空中に浮き、この感覚は地球では味わうことのないものだ。
しかし楽しいと言うよりは慣れないといった思いのほうが強く、アカネは気持ちまでふわふわと浮きそうになるのをどうにか抑えようとした。
やはり、重力がないと落ち着かない。
このシャトルには重力発生装置は付いておらずどこへ行こうとも疑似重力区画はないため、アカネはシャトルの最後尾の区画で一人になると窓から外を見た。
目線の先には漆黒の宇宙が広がっている。
こうやって宇宙を見るのは一度や二度の事ではない。
しかし、宇宙に上がれば上がるほど地球への愛情は増すばかり。
おそらく宇宙へ出なければこれほど懐かしく感じなかっただろう地球の重力さえアカネにとってはかけがえのないものに思えた。
そうしながら荷物からハンドグリッパーを取りだし、黙々と一人トレーニングを開始する。
ただでさえ鈍りやすい宇宙空間。トレーニングを欠かすことは出来ないのだ。
グッとグリッパーを握りしめながら、宇宙は静かだ、とアカネは思った。
出発時、シャトルが戦闘に巻き込まれるのを懸念する声があった。
逆に軍用基地のある月基地とは反対の宙域を行くのだから安心だと楽観視する声もあった。
それらを思い出しながら、このまま静かにこの旅が終わってくれればいい――とひたすらトレーニングを続けた。
「機長、第三制御システムにトラブル発生! 第三制御システムにトラブル発生!」
そんなアカネの思いとは裏腹にシャトルのコクピットは俄に騒然としていた。
「メインコンピュータに支障はないかと思われますが……念のためシステムチェックを行うべきでは? まだ目的地までは数日の宙行を有しますし」
「うむ……しかし、この宙域には我が国のコロニーは存在しない」
「オーブのヘリオポリスがあります。あそこへ入港できれば……」
乗務員達が各々その言葉に顔を見合わせる。
「しかしあの国は……」
「中立国です。このシャトルは民間機、協力要請を願い出るべきです。乗客の安全が第一かと」
機長は渋ったものの、その部下の一言に苦悶の末軽く首を縦に振った。
「よし、進路変更、シャトルは軌道修正後ヘリオポリスへ向かう!」
そして通信士に指示を出し、艦内へとその事を伝えさせる。
「このシャトルは機体メンテナンスのため進路を変更してヘリオポリスへ向かいます。繰り返しお伝えします、このシャトルは……」
機内放送がシャトルに響き、無重力にその身を委ねながら談笑していた乗客達は各自首を捻っていた。
「メンテナンスぅ? まさか、抜き打ち研修テストじゃねーよな?」
「ヘリオポリスってオーブのだろ……?」
17、8歳くらいの青年達がおどけたように肩を竦めてみせる。
「ひょっとしてモルゲンレーテ支社の内部でも見せてくれる気に……なるわけないよね」
「まさか! ニホン自衛軍養成アカデミー武器科の学生なんかつまみ出されるのがオチだって!」
突然の状況にそんな冗談口を叩きながらも、青年達は不安そうに窓から漆黒の宇宙を誰とはなしに見つめた。
「ヘリオポリスへ……?」
突然の機内放送にアカネもまたトレーニングの手を休め、首を捻っていた。
ヘリオポリスといえば、中立国オーブの資源開発衛生コロニーだ。
そして、オーブの公営でありながら連合との癒着が囁かれるモルゲンレーテ社の支部がある。
そこまで考えてアカネの瞳は若干鋭さを増した。
「……ま、中立を保つ国だから、ね」
ふ、と息を吐いてアカネは荷物の中からタオルを取りだし、額の汗を拭った。
そしてIDカードを取り出す。
暫くの間それを見つめた後、アカネは着ていた服に隠すようにしてそれを身につけた。
妙な胸騒ぎがする。
こういうときに働くカンというものが、これを手放すなと言っていた。
それはオーブという国にきな臭さを感じているのか、別の理由かは分からなかったが、そのまま必要な荷物をまとめるとアカネはそれらを肩に背負った。
そして再び窓を見やりながら呟く。
「オーブ……ナチュラルとコーディネイターの共存する国……」
オーブは他国を侵略せず、他国の侵略を許さずの信念の元、絶対中立を謳う国であった。
本国は南大西洋ソロモン諸島に点在する島々から成る連邦首長国である。
かつての宗主国はニホンであったが、それは昔のこと。
今は独自の軍事技術とコーディネイターの受け入れを表明することでこの戦争には表向きなんの関わりも持っていない。
争いのない理想郷と評するものも多いが果たして――と、考え込んだアカネは小さく首を振るう。
見上げた宇宙はどこまでもただ黒かった。
待ち受ける運命など知る由もなく、アカネを乗せたシャトルは静かにヘリオポリスへと突き進んでいった。
PHASE - 002 「生きるために乗るんです!」
少年達はこの穏やかなコロニーで何不自由なく、穏やかな生活を当たり前のものとして享受していた。
毎日カレッジに通い、学び、遊び、ごくありふれた日常がこれからも続いていくのだと信じて疑わなかった。
通っていた工業カレッジのゼミの教授が何故モルゲンレーテ支社にラボを持っていたのか――何の研究をしていたのかなど疑問すら抱かなかった。
そして"その日"もいつものようにラボへと研修に赴いていただけだったのだ。
ごくありふれた日常の、ごく習慣的な事だった。
それが何故、こんな事になってしまったのか――過ぎ去った時に思いを馳せても何の解決にもならないと知りながら、それぞれが今の状況を受け止めきれずにいた。
いや、受け止めろという方が無理だろう。
ただ、いつものようにラボでロボット工作やデータの解析をしていただけなのだ。
それなのに、そのラボが、いやモルゲンレーテ支社全体が急に嵐のごとく轟いた。
聞こえてきたのはブラウン管越しにしか聞いたことのない銃声。悲鳴。破裂音。
驚いてラボを飛び出せば、目に飛び込んできたのはニュースでしか見たことのないザフト軍の"ジン"と呼ばれるモビルスーツ群だった。
響く爆音、崩れる工場。
映画の立体映像でも見ているのかと錯覚さえ覚えるほどの光景が目の前に広がっていた。
工場への攻撃で、少年――キラ・ヤマトは共にいた友人達と完全に分断されてしまい、避難場所を求めて一人逃げ惑っていた。
避難シェルターを探して闇雲に走っていると、やがて入ることを許されていなかったブロックに辿り着き、そこで信じられないものを目にした。
モビルスーツだ。そのブロックにはモビルスーツが格納されていたのだ。
だがキラの知る限り、ザフトのものとは違うモビルスーツだった。
しかしながらそれの分析を冷静に行える余裕も時間もキラに在るはずもなく、モビルスーツの付近ではザフト兵と思われる兵士達と武装した工場員達が激しい銃撃戦を繰り広げていた。
後にその工場員達は連合軍の兵士が変装していたのだと知ったキラだったが、一学生である彼が突然に撃ち合いを目にしてもただ足が震えて立ち竦むしかない。
そんな時だった。
呻き声と共に一人の女性が肩を押さえ、キラの近くに崩れ落ちた。
「だ、大丈夫ですか!?」
反射的に駆け寄ると同時に、ザフト兵がこちらへナイフを構えて走ってくるのがキラの瞳に映った。
殺す気だろうか――、パイロットスーツのバイザー越しに見える整ったグリーンアイと目が合う。
「アス……ラン?」
あまりに良く知っている人物に似ていて、キラは反射的にその名を口にしていた。
確かめる間もなくザフト兵は反撃に出た女性によって去ってしまい、逃げ場のないキラはその女性と共にモビルスーツに乗ってその場を離脱するしかなかった――。
「これから私たち……どうなるの?」
少女は物慣れない戦艦の中で不安そうにボソリと呟いて肩を落とした。
ほんの数時間ほど前――攻撃に揺れたラボから出て共にいた友人達とモルゲンレーテの外へ何とか駆け出た。
しかし既に逃げ道すら分からないほど通路や建物は崩壊しており、あわやザフトのジンの砲撃で崩れた建物の下敷きかという刹那に見慣れないモビルスーツに助けられ、九死に一生を得た。
そのモビルスーツに乗っていたのはモルゲンレーテ内ではぐれてしまったキラだった。
何故キラがそれに乗っていたかは分からない。
逃げる場所がなかったから、とは後にキラに聞いた話であったが、助かった事に安堵する間もなく少女達はキラと共にモビルスーツに乗っていた女性にキラ共々拘束されてしまった。
女性の名はマリュー・ラミアス。
地球連合軍大西洋連邦所属の大尉であった。
キラが乗っていたモビルスーツ――それはモルゲンレーテ内部で密かに開発されていた地球連合用のモビルスーツ。
その機密を見てしまったため逃がすわけにはいかないというのだ。
理不尽な、と誰もが思ったがもはやシェルターに避難することもできない。
無論ザフトはこちらの事情など察してくれるはずもなく、キラの乗ったモビルスーツを奪おうと容赦なく攻撃を繰り返してくる。
結果キラは一時凌ぎではあるがザフトのモビルスーツを追い払うために戦い、みんなして唯一無事であった連合の新造戦艦へと乗り込むほか生きる道がなかったのだ――。
「ミリアリア……」
呟いた少女の肩を、隣にいた天然パーマの少年が励ますように撫でた。
デニムのミニスカートとジャケットという服装から、元来の少女は明るくも女の子らしい性格なのだと窺える。が、今の彼女は少年の励ましに力無く笑うのみで今にも泣き出しそうな程の不安を顔に広げていた。
もう一人、背の低く少しばかりふくよかな少年が戦艦の壁にもたれ掛かって顔を歪めている。
「まだ外にザフト艦いるんだろ? また戦闘になるのかなぁ」
先程の突然の攻撃で何とか生き延びたというのに、こんな戦艦へ逃げ込んだのでは生きた心地がしない。出来ることと言えば緊張で乾いた唇をなんとか舐めて気を紛らわす程度だ。
「カズイもさ、元気だせって! なるようになるさ」
「こんな状況で元気だせって言ったって……!」
天然パーマの少年が明るく言ってみせると、カズイと呼ばれた少年は何を根拠にとでも言いたげに不満の声を絞り出した。
「トールはさ、良いよな……前向きで」
「俺だって……そりゃ。でも今更そんなこと言ったって仕方ないじゃん! こんな戦艦の中に入れてラッキーとでも思わないとさ! ……思えないか」
カズイにため息混じりに言われて、トールという少年は持ち前のウェーブ髪を揺らしながら明るく言い放った後、ほんの少し顔を歪めた。
しかしすぐさま思い直ったのかブンブンと頭を振るう。
「でもキラがいなかったら俺たち今頃ガレキの下敷きになってたんだぜ? ほら、九死に一生を得た人間は強いってよく言うだろ?」
だから大丈夫、と何とか仲間を元気付けようと表情を明るくしたトールにミリアリアがあ、と思い出したように口を開いた。
「キラ、あのモビルスーツのOS……書き換えたって言ってたよね? あんな物の操縦しちゃうなんて……ねぇ」
「まあ俺たちもゼミで作業用モビルスーツのプログラムテストとかやってたじゃん? キラはいつもカトー教授に頼まれて解析とかやってたし、慣れてんだよ」
工業科に通う学生なんだから何とかなったんだろう、と答えたトールにミリアリアは訝しげに懸念を孕ませて呟いた。
「あのモビルスーツ、モルゲンレーテで作られたんだよね? ひょっとして、教授の手伝いって……」
いくら工業科の学生でも急にモビルスーツに乗って戦闘など出来るはずないからだ。
だからこそ、キラがやれたのはそれなりの理由があるはずなのだ。
つまりは何らかの形であのモビルスーツ開発に関わっているのではないか、とミリアリアは感じた。
教授に言われるままにOSの解析等をやってきたキラは自分が何をさせられていたかなどもちろん知らないだろうが、ひょっとしたら――と、悪い考えが過ぎって頭を抑える。
そこでカズイがハァ、とため息をついた。
「やっぱりキラってコーディネイターなんだよな。成績だっていつもトップだったし……」
「カズイ! コーディネイターでもキラは俺たちの大事な友達だろ!」
「そりゃそうさ! 俺が言いたいのは……ザフトは、キラみたいな能力を持ったヤツらの集団だってことだよ」
眉を顰めたカズイにトールとミリアリアも顔を見合わせる。
オーブ国民は基本的にナチュラルで構成されているとはいえ、コーディネイターも数多く住んでいた。
ミリアリア達も日常ではあまりその能力を意識した事はなく、オーブにいる限りはナチュラルであろうとコーディネイターであろうとそれは些細な問題だった。
が、今現在自分たちがいるのは連合艦。
ナチュラルから見れば特殊能力を持っているコーディネイターばかりのザフト軍。そんなザフトと戦うための戦艦にいるのだと思うと戦慄を覚えるなというほうが無理な相談だ。
「母さん達……無事かな」
迫り来る恐怖を何とかかき消そうとしながら、少年達はそれぞれに安否の確認すらままならない家族のことを思った。
支援
その頃のキラは、一人艦長室へと呼び出されていた。
この艦の本来の艦長は急なザフト軍の強襲で乗組員共々戦死してしまったため、何とか生き延びた少数の兵士の唯一大尉であったマリュー・ラミアスが臨時の艦長へと納まっていた。
キラの目の前にはマリューの他に、臨時の副長へと就任したナタル・バジルール少尉、モビルスーツ輸送の護衛任務で来たものの乗ってきた艦を落とされ、この艦に急遽乗員したムウ・ラ・フラガ大尉の姿があった。
フラガはマリューよりも先任の大尉であったものの、本業はパイロット。更にこの極秘製造の戦艦及びモビルスーツの詳細を知らなかったため必然的にブリッジクルーのマリューがその任に就いたのだ。
「冗談じゃないですよ!」
艦長室にキラの声が威勢よくこだました。一切の甘さもない否定の声。それはマリュー達の要望を却下する叫びだった。
要望の内容は、もう一度あのモビルスーツに乗って戦ってくれ、というもの。ヘリオポリスを離脱する際には必ず外にいるザフト艦が襲撃してくると予測されるため離脱を援護しろというのだ。
「僕は中立国の民間人なんです、もうこれ以上こんな事に巻き込まないでください!」
「ええ、分かっているわ……でも、あのストライクに搭乗するはずだったパイロットはさっきの攻撃で戦死して、もうあれに乗れるのは君しかいないのよ」
「こんな状態じゃお前等を降ろしてもやれんし、敵はそんな事情お構いなしに攻撃してくるんだぜ?」
神妙な面もちのマリューに対して、フラガはヤレヤレと言った具合に両手の掌を上に向けて首を竦めた。
「と、とにかく……何と言われても僕は乗りませんから」
目の前で困っているマリュー達を気の毒には思う。だが、キラとしてはそんな同情だけで戦火に身を投じるのはまっぴらごめんだった。
ハッキリと突っぱねたキラはとマリューに背を向け、もう話すことはないとばかりに艦長室を出る。
「キラ……!」
艦長室の扉を開けるとキラに目には真っ先にミリアリア、トール、カズイの姿が映った。
なかなか戻ってこない自分を心配してここまで来てくれたのか、直ぐに走り寄ってきて「大丈夫だった?」等の言葉をかけてくれた。緊張に強ばっていたキラの表情がほのかに緩んだ。
一方キラが出て行った艦長室では頭を抱えるマリューにナタルが次の案を、とヘリオポリス離脱のための指示をやんわりと促していた。
「ラミアス大尉、どうされるおつもりですか……? 彼が乗らないと言っている以上こちらにそれを強要する権利はありません」
ナタルとしては、自軍の最高機密を他国の民間人――それもコーディネイターに扱わせるのには消極的であったのだ。
「俺のゼロは修理中だしねぇ……こりゃ大人しく投降するかい?」
「大尉!」
フラガが軽口を叩いてみせるとすかさずナタルが意志の強そうな瞳で睨みを効かせる。
ハハッ、とフラガが頬を引きつらせるとマリューはフ、と一度瞳を閉じた。
「私たちはこの残されたアークエンジェルとストライクを持って本部へ行かなければなりません。投降は……できないわ」
ナタルとは打って変わって柔らかい口調ながらもその言葉には確かな決意が感じられ、ナタルも同意するように軽く頷いた。
「ラミアス大尉! ラミアス大尉! 至急ブリッジへ戻ってください!」
そこへ急に艦内警報が鳴り響き、どうしたのかと士官三人が艦長室のモニターを凝視する。焦り顔のオペレーターは急くように告げた。
「スクランブルです! ヘリオポリス全体に強力な電波干渉!」
間髪入れず艦長室に響いたのはフラガの強い舌打ちだ。
「やっぱこっちが出てくまで待つわきゃねーか!」
ともかくブリッジへ急ごうと艦長室を出た3人に、まだ艦長室の傍にいたキラ達が不安そうに声をかけてきた。
「あの……この警報は?」
「この艦は間もなく戦闘になります。あなた達は居住区で大人しくしていて」
そう告げて走り去るマリューにカズイが声にならない悲鳴を上げる。
「そんなぁ……じゃあ俺たちどうなるんだよ」
青ざめる少年達を見てナタルは一瞬眉を顰めたが、直ぐに切り替えてフラガの方へ向き直った。
「大尉はCICに入られるので?」
「いや、俺はストライクで出る」
「え……!? しかし、あれは」
「まあ動かせるとも思えんが、このまま黙って艦を沈められるよりはマシだろ?」
驚いたナタルにフラガがサラリと言い返せば少年達は、ヒ、と慄いた。
「沈む……!?」
艦が沈む――それは死ぬという事に等しいくらい少年達にも容易に想像できたのだ。
カズイは頭を抱え、トールは目尻に涙を溜めるミリアリアの手をギュッと握った。
そんな友人達を見てキラは唇を震わせながらグッと拳を握りしめた。
「……僕が……」
戦争には巻き込まれたくない。
「僕が……乗ります!」
だが、この大切な友人達の乗った艦を沈められるわけにはいかない。
「坊主……!」
「だけどこれは連合のためじゃない、僕たちが生きるために乗るんです!」
友人達を守らなくては――その一心でキラはハンガーへと走った。
途中、一人の不安そうな面もちをしたニットワンピースの少女と擦れ違ったものの声をかけている暇など無い。
全力で走ってハンガーへ入ると、そこは物資の搬入作業を急ピッチで進めていた整備兵達でごった返っていた。
「エールストライカー装備だ! 換装急げ!!」
整備兵をまとめる年輩軍曹の指示がハンガーに飛び、皆が忙しなく動いている。
「なぁ……あれ、コーディネイターなんだろ? 良いのかよ、乗せちまって」
「ツベコベ言ってんじゃねぇ! とっととやれ!!」
整備兵の一人がそう呟けば軍曹は怒声を飛ばして作業へ戻させ、コクピットへ入ったキラにモニター越しに声をかけてくる。
「どうだ坊主、分かるか?」
「はい……えっと、エールストライカーは中距離戦闘用……、なんとか、いけます」
キラは同じモニターに映し出された武装の詳細を確認して頷いた。
キラの乗るモビルスーツはストライクという名称が付いていた。
エールストライカーとはストライクに装備するバックパックの一種で、4基の高出力スラスターを背に持っており、武装はビームサーベル2本とビームライフル。
他にソードストライカーとランチャーストライカーという2種のバックパックもあり必要に応じて換装可能というデータも出ているが、今はエールの確認にのみ集中する。
「それならいい、俺は勇敢なヤツが好きだ。コーディネイターだろうがナチュラルだろうがな」
軍曹の声にキラは目を丸めた。
連合の性質上コーディネイターに向ける目は厳しい。それは中立国オーブの人間――つまりキラに対してといえどそう変わらなかったために「好きだ」などと言われて驚いたのだ。
「頼んだぞ!」
「……はい!」
驚きと嬉しさが混じり、キラは改めて力を込めて返事をした。
その頃、敵影捕捉に努めていたブリッジでは騒ぎが起こっていた。
「爆破されたコロニー壁面からモビルスーツ接近! 数4! これは……」
アークエンジェルの通信席に座るチャンドラ伍長はモニターを見て一瞬言葉に詰まるものの、驚きを抑えて何とか報告をあげる。
「1機はX-303……イージスです!」
チャンドラの声に少なからず皆が動揺した。
「そんな……もう実戦に投入するなんて……」
艦長席に座るマリューなどは愕然としていた。
イージスとは奪われたモビルスーツのうちの1機だったからだ。つまり、慣れ親しんだ我が子に等しい。
「今は敵だ! 切り替えろ!!」
フラガの声がブリッジクルーの頭に響き、艦長席の一段下に儲けてあるCIC・兵器管制席のナタルはハッとしてハンガーに通信を入れた。
「ストライク、出撃だ。……ストライク? ストライクはどうした!? キラ・ヤマト!」
「は、はい……! キラ・ヤマト、ストライク行きます!」
ナタルに促され、発進準備の整っていたストライクはリニアカタパルトからアークエンジェルの外へと飛び出す。モニターは確かに敵であるザフトのジン部隊を拾っていた。
支援
「マシューの隊はあの艦の足を止めろ! アスラン……無理矢理付いてきた根性、見せて貰うぞ!」
「……ああ」
へリオポリス内に侵入したのはクルーゼの部下達。出撃要望を却下されたにも関わらず無断で出撃したアスランもいた。
「さあ落ちろォ!!」
マシューの率いた3機のジンがアークエンジェルへと突進する。
アークエンジェルは弾幕を張って艦を守り、主砲の照準をジンへと向けてきた。が、ジンはへリオポリスの建物を盾に易々と避けてしまう。
「ハッ、そんな散漫な攻撃など!」
主砲の直撃を受けた建造物は音を立てて崩れ、その影からマシューは再びアークエンジェルを襲おうと狙う。しかし――トリガーを引くよりも先に確かにモニターは背後からの熱源を察知した。
「なにっ……!?」
不幸にもマシューの反応はコンマ単位で遅れた。その熱源が何かを確認する間もなくマシューの身は爆炎に包まれる。
「マシュー!?」
アスランと共にいたジンが爆発したマシューのジンのほうへ頭部を動かした。ジンの特徴でもあるモノアイが鋭く光り、トリコロールの機体を捉えてパイロットに示す。
「何だあれは……取り逃がしたモビルスーツか!?」
見慣れないモビルスーツにパイロットの瞳は揺れた。それこそがまさに自分たちが捕獲すべき目標。そして今マシューを討ったモビルスーツなのだと確信し、彼は眉を吊り上げた。
「コイツ、よくもマシューを! ――アスラン、手を出すなよ!!」
言うや否や、ジンはそのままストライクに猛進した。
ストライクはというと、持ち前の機動力を活かして一方的に攻撃をただ避けるのみに留めていた。
ヘリオポリスを傷つけまいとしたのだろう。
だが、避ければ避けた分だけジンのライフルはコロニーの至る所に傷を付けていく。そして、パイロットの苛立ちも募っていく。
「何なんだよあの機動力はッ、ナチュラルごときがァ!」
苛立ったような動きでジンは対戦艦、対要塞用のミサイルをストライクに向けて放ってきた。
「うわッ――!」
ストライク――、キラはとっさにストライクのシールドを翳した。心臓が跳ねる。ミサイル爆破と共に壊れたシールドを手放した。
汗が全身から噴き出るのがリアルに伝う。
シールドを捨てたのだ、もう攻撃は防げない。
逃げてばかりもいられない。防げないなら攻めなくては――とキラは無我夢中で背中のビームサーベルを抜いた。
敵はいまだ、硝煙の中。パイロットはいまの派手な爆発を見て気を抜いているかもしれない。
「やったか!?」
事実、ジンのパイロットは一瞬だけ気を緩めていた。しかし煙の中から猛進してくる何かを確認して目を剥いたなどキラは知るよしもない。
「なんだとッ、あの攻撃を……!?」
「うおおおおおおお!!」
キラはそのままフットペダルを強く踏み込み、暴走とも言える動きで敵機目掛けて一心不乱にビームサーベルを突き立てた。
コクピットを一突きされたジンは操縦者の蒸発で動きを止め、そのまま落下していく。
「オロール!!」
手を出すなと言われたアスランはそれを助ける事もできず、ただ目の前の戦闘を眺めているしかできなかった。
「シャフトに当たるわ! もっと攻撃に注意して!」
「それではこちらが落とされます! 向こうはコロニーへの損害など気にもかけていません!」
アークエンジェルブリッジではマリューとナタルのそんな声が飛んでいた。
攻撃を強めればこの中立コロニーへの破壊に繋がる。しかし敵機は重装備で容赦なく攻撃を繰り出してくる。
ジレンマを抱えながらの戦闘にクルーの疲労はピークに達していた。
「照準! マニュアルでこっちよこせ!!」
CICにフラガの声が飛び、敵機をロックして副砲を撃ったフラガのそれは見事ジンに命中した。
しかしCICが沸き、フラガがガッツポーズをしたのも束の間。なんと撃たれたジンはパイロットの制御不能で暴走し、ジンに装備されていたミサイルがシャフトへと一直線に向かったのだ。
為す術もなくそのミサイルは外壁に当たり、激しい爆発を起こした。
あまりに大きすぎる打撃を受けてしまったコロニー。マリューは言葉を無くし、呆然とした。
アスランはというと、目の前で同僚がジンもろとも爆散した事よりもトリコロールの機体の方へと気を取られていた。
「……キラ?」
違うかもしれない。間違いかも知れない。
そんな思いを抱きつつも、目の前のモビルスーツへ通信を入れてみる。
「キラ、……キラ・ヤマト」
それを受けて、キラは大きな瞳を零れんばかりに開いた。
聞き覚えのある声だ。
モルゲンレーテの工場区で再会した時は人違いかと思った。いや、人違いだと思おうとした。
しかし、その声は間違いなく自分の良く知る人物のものだ。
「アスラン? ……アスラン・ザラ!?」
「やはりキラ……! キラなのか!?」
キラの返事にアスランもまた大きく瞳を開いた。
「アスラン、どこだアスラン!? アスラ――ッうわあああ!!」
アークエンジェルの相手をしていたジンからの必死の救援要請も今のアスランの耳には全く届いていなかった。
それはそうだろう。
親友であるキラが、敵である連合軍機に乗っていたのだ。援護要請よりもその事実の方が何倍も重くアスランにのしかかっていた。
「お前……何故そんなものに……」
「君こそどうして……どうしてザフトなんかに」
互いに狐につままれたとも言った様子で互いのモニターを睨み、言葉を探した。
だが、崩壊の始まったコロニーがそれ以上の会話を二人に許さない。
急なコロニー内の気圧の乱れで二人の機体は姿勢制御不可能な状態に追いやられ、疾風のような勢いで外へと吸い出されてしまった。
「キラァァーー!!」
遠ざかるキラのモビルスーツに必死で声をかけるが、アスランの方もこの流れに逆らうことは出来なかった。
「コロニーが崩壊します、ストライク、イージス共にロスト!」
「エンジン出力最大! 艦の姿勢保て!」
アークエンジェルもこの衝撃に耐えようと、各クルーが対応に追われていた。
支援
PHASE - 003 「これも任務だから」
「ヘリオポリス、応答ありません……!」
「入港許可は取ったはずだぞ……!?」
「機長、左舷40の方角距離3000に熱源確認。……これはザフト艦……ローラシア級、ナスカ級各一隻と思われます」
「何故ザフトがこんな所に……? ともかく、乗客にノーマルスーツを!」
ザフトがヘリオポリスへ再襲撃をかけた頃――、進路をヘリオポリスへと変更したアカネの乗るシャトルの操縦室は俄に騒がしくなっていた。
機長の指示でノーマルスーツを着用しながら、学生達は突然の進路変更に続いてまたも腑に落ちないと頭を捻っていた。
アカネにもまた目の前のコロニーの中で何が起こっているかは分かるはずもなく、ノーマルスーツを着用せよとの艦内放送に近場に設置してあった船外活動用の宇宙服を急いで着こんだ。
ヘリオポリス内はD装備のジンが連合軍の新造戦艦アークエンジェルと取り逃がした新型機動兵器ストライクの奪取及び撃破を狙って再攻撃をかけ交戦状態となっていたが、アカネ達がその事を知る術はない。
「入港準備、相対速度合わせ……!?」
「何だこれは……コロニー内に熱源? 様子がおかしいぞ」
異変を察知し、機長達は互いの顔を見合わせる。
その時だった。
不意に、ドン、と船体が絶壁にでも打ち付けられたかのように揺れた。
突然の揺れにシートベルトを締めていなかった乗客の身体は投げ出され、乗客室が悲鳴で染まる。
「ぐ……!!」
アカネも急な事態に何とか付いていこうと思考を巡らせた。
今の自分の状況。
――シャトルの外に飛ばされようとしている。
――反射的に船体の枠を掴んで耐えている。
そんな活字が浮かんだ。
「何……なの……!?」
数秒前、コロニーの方角から強い衝撃を感じた。
気付いた時には何かの破片が窓に刺さり、気圧の乱れた船内はさながら掃除機の吸いだし口状態になっていた。
宇宙用のシャトルだ。ちょっとやそっとのデブリ接触ではそうそう壊れたりはしない。
だが、今陥っている状況はその有り得ないはずの出来事だった。
最後尾の休憩室と乗客室は別区画に別れていたため学生達を巻き込まずに済んだのは幸いだったが、ぼんやりもしていられない。
いつ乗客室に被害が及ぶとも限らないからだ。
「……長、機長、乗客ブロックとの気密隔壁閉鎖を……ッ!」
着ていたノーマルスーツに附属している直通にセットしてあった通信機でアカネはコクピットにそう呼びかけた。
「何が起こっているんだ!?」
「船体の一部が破損……早く! 私は大丈夫ですから!」
両手で何とか身体を支えながらアカネは鋭く呼びかけた。
ありったけの力を込めているがそう長くは持ちそうにない。
幸い、すぐ傍にはヘリオポリスがある。
ノーマルスーツにはスラスターも付いている。
何もない宇宙空間に放り出されたのであれば死は免れないが、この場所ではそう焦ることもない。
そう、大丈夫だ。
そう確信して、アカネは震える腕からふ、と力を抜いた。
轟風のような勢いで身体が宇宙空間へと投げ出され、素早くスラスターを噴かせたまさにその瞬間だった。ヘリオポリスへと方向を定めたアカネの背が抗えない程の力で揺さぶられたのは。
「うわああああ!!」
悲鳴がノーマルスーツの中でこだました。
自分の声ではなかった。
洗濯機の中に投げ入れられたように身体をあちらこちらに回転させながらアカネは必死でスラスターを噴かせた。
「く……こんなものッ!」
破片という破片が容赦なく漂っていたが、なるべく身体に当てないように器用に避けていく。
剣先だと思えば、カンや本能というものが意識より先に勝手に避けてくれた。
そうしてアカネはハッと思い立つ。
「!? シャトルは……!?」
あの悲鳴は通信機を通して聞こえのだ。シャトルのコクピットからのものだ。
揺られながらシャトルを探すアカネの瞳に、戦艦クラスの大きな白い艦が映った。それもシャトルの直ぐ傍にだ。
この状況で、今更驚くことなどないと思っていたアカネの瞳孔が反射的に開いた。
「機長……!!」
接触する――!と額に汗が滲む。
事実、さっきの悲鳴は何らかの緊急事態が発生したに違いない。
「操舵……不……」
機長の声が微かに聞こえたと同時にアカネの身体は再び強い力により宙を舞った。
懸命にスラスターを用いて速度を落としたアカネの身体は人の倍ほどある残骸にぶつかり、一瞬クラッとしていたアカネの頭は何とかすぐに意識を取り戻した。
「シャトル……」
身体を安定させたアカネは周囲を見渡す。
だが、アカネの視界にスーツ越しに映ったのは無惨にも跡形もなく爆散したシャトルの残骸だった。
「なんて事を……!」
顔をしかめる間もなく周辺のデブリにぶつかりそうになり、ショックを抑えてアカネは器用にスラスターを噴かせてそれらを避けていく。
周囲を見渡せば、先程まで確かに存在していたはずのヘリオポリスさえも跡形なく消え去っており、アカネは漂うデブリの正体を悟ると背筋が凍る思いで首を振るった。
「機長……! 応答願います、機長!」
そうしながらアカネは、もはや意味はないとは悟りつつもコクピットに向かって声をかけた。
だが、当然返事が戻るわけもなく、ス、と眉をよせる。
「……接触したのか……学生達は……?」
そもそも何が起こっているのか。
目の前のヘリオポリスは突然四散。自分もこんな宇宙空間へ投げ出されてしまった。
このままでは残骸と共にデブリの仲間入りになってしまう。
通信回線を弄りながらアカネが呆然としていると、暫くしてジ、ジ……とどこかの雑音を拾った。
「…ラ……マト、キラ・ヤマト……無事なのか?」
「……キ……ラ?」
それは聞き取れない程乱れた音声だったが、アカネの耳にはそう聞こえた。
ぐるりと辺りを見渡すと、右斜め下――5時ほどの方角に前方へと移動するモビルスーツの姿。トリコロールの外観に頭部のツインアイが映り、一瞬言葉を失う。
「……何? ザフトのジンじゃない……」
モビルスーツは、今現在はザフトの主力兵器であり連合はそれを持ち得ない。
しかし、目に映るそれは見知ったザフトのモビルスーツのどれとも違っていた。
それ故アカネは一瞬、国際救難チャンネルを開いて救難信号を送るのを躊躇った。
どこの所属ともしれないモビルスーツに拾われるわけにはいかない。
一瞬そんなことを考えてふと気づく。
救助要請を出さねばならない事態なのだ、と。
シャトルやヘリオポリスの残骸がふよふよと視界に漂っている。あてもなく宇宙空間に投げ出されてしまっているのだと改めてハッキリと強く自覚した。
このまま空気が底を付けばどうなるか、そもそも無限の闇を漂っていつまで正気を保ち続けられるのか。
ス、と顔から血の気が引く。
刹那の恐怖。
だが孤独とはこういうものか、とどこか冷めた感情も交差する。
このままだとデブリの仲間入り――、再びそんなことを思って遠くを眺めながらアカネはゆっくりと瞼を閉じた。
広がる無音と無限の闇。
だがアカネの瞼の裏に真っ先に浮かんだのは青く煌めく地球だった。
そして、その地球上の自国から見上げる眩い月夜の情景が過ぎる。
脳裏に浮かんだ映像さえ美しい、とアカネは思った。
同時にこんな場所を未来永劫彷徨う訳にはいかないという強い意識がその奥にハッキリと芽生える。
「宇宙では……死ねない」
そう呟くと同時にアカネは救難信号を出した。
おそらくは戦闘があった後なのだ。きっと近くに誰かいる。
そういう確信はあった。
「おーい、ショーン。こっちに面白いモンがあるぜ!」
「何だよ、予備の装備の類があれば全部クルーゼ隊長にお持ちしろ。……ん?」
D装備のジンとは別に、モルゲンレーテの探索に出ていた二機のうちの一機、ショーンのジンはとある信号を拾った。
「これは……救難信号か?」
とっさにその信号の方へ向かう。
「艦長、ショーン機より通信です」
オペレーターの声がブリッジによく通り、アデスとクルーゼはそれに耳を傾けた。
「なに、ノーマルスーツのまま投げ出された人間を拾った? オーブ人か!?」
「いえ……それが……」
ショーンからの報告を受け、アデスは思わずクルーゼの顔を見た。
最終的な判断は、自分より隊長が下すべきだと判断したからだ。
フッ、とその仮面の下の口元で笑ってからクルーゼはショーンにこう告げた。
「放っておくわけにもいくまい。連れてきたまえ」
それに、ハッ、と返事をしてショーンからの通信は途切れる。
「隊長……」
アデスは驚きの色を顔に広げた。
てっきり捨てておけ、とでも言うと予測していたからだ。
そんなアデスの瞳にクルーゼは気づかぬふりをして、ただ口の端を上げていた。
作者さん
自分のサイトで2ちゃんにアップしていることを明記したほうが
よいと思うよ
今のままでは本当に作者本人かわからない
アカネの着ていた作業用のノーマルスーツではジンのコクピットに入れるのは困難で、ショーンは仕方なくジンの両手で包み込むようにして母艦へと向かった。
「……ナスカ級、ザフトの高速艦か」
アカネの瞳に段々と近づいていく空色で包まれた戦艦が映り、状況を理解しようと眉を寄せる。
「何故こんな所にザフトの艦が……」
先程シャトルを沈ませた所属不明艦を思い出し、不意に瞳が曇った。
そうこうしているしているうちに、ジンはブリッジ下部のハッチからハンガーへと帰還した。機体を安定させるとショーンはジンの腰を折ってその両手を床へと近づけ、その手を開いた。
解放されたアカネの身体がノーマルスーツごと無重力の空間に浮く。
が、救助に胸を撫で下ろす暇などアカネには与えられなかった。
解放と同時に待機していたザフト兵が一斉にアカネに銃口を向けたからだ。
流石にアカネは面食らって瞼を極限まで持ち上げた。
整備兵と思われる青年、緑の軍服に身を包んだ青年らが一様にこちらを睨み付けてくる。
仕方なしにアカネは両手を上げた。
「……救助感謝致します。でも、銃は降ろしてもらえません? 仮にも同盟国の人間相手に」
随分なご挨拶だ、との言葉は飲み込んだアカネとは裏腹に周りのザフト兵達がざわつく。
「女……!?」
「何……じゃあニホン人か!?」
「でもナチュラルだろ、コイツ」
それに今度はアカネが動揺した。
救助してくれたジンのパイロットにちゃんとニホン人だと告げたはずなのに何故情報が行っていないのか。腕を上げたまま顔をしかめる。
「おい、銃を降ろせ」
アカネと兵士達が睨み合っているとジンのコクピットからショーンが出てきた。
パイロットスーツのヘルメットを脱げば、栗色の髪が露わになってふわりと宙に浮く。
「ショーン! でもナチュラルだろ!? ニホン人ってのも怪しいもんだぜ」
「クルーゼ隊長が連れてこいとご命令だ」
ナチュラルナチュラルと連呼していたザフト兵がその一言に押し黙った。隊長命令とあらば、退くしかなかったのだろう。
アカネの目に、ゆっくりとコクピットから降下してきた自分を助けてくれたパイロットの姿が映った。
22、3歳ほどの精悍な眼差しをした整った風采の青年だった。
「救助、感謝致します」
「これも任務だから」
今度は心からそう言ったアカネにショーンは肩を竦めてみせた。
ノーマルスーツを脱いだアカネを連れて、ショーンは隊長室の前に立った。
「ショーン・ブラウン、出頭致しました」
「入りたまえ」
部屋の奥から独特の抑制のない低い声が聞こえた。
アカネは少々気を張りつめさせていた。
先程ザフト兵に銃口を向けられたのは仕方ないとしても、何故救助した人間を戦艦の隊長室に呼び出す必要があるのだろう?
見られても差し障りのない場所で保護して本国へ帰すべきではないのか?
そんな風に思ったものの、一方では好都合だとも考えていた。
どちらにしろコーディネイターだらけのこの場所で、弱さや隙を見せるわけにはいかない。
自動で隊長室のドアが開き、ショーンに促されて中へと進んだアカネの目の前に執務椅子に深々と腰をかけた白い軍服の仮面の男が姿を現した。
その容貌に初対面の者が驚くのは無理からぬ事だろう。
例に漏れず小さく眉を寄せたアカネを飛び越え、仮面の男の視線はまず部下へと向けられた。
「ショーン、ご苦労だったね。君はもう下がりたまえ」
「え、ですが……」
隊長のいきなりの申し出に目を瞬かせたショーンだったが、2、3度目線だけでアカネと仮面の姿を往復させると、指示通り敬礼して隊長室を後にした。
取り残されたアカネは仮面越しにも分かる不貞不貞しそうなこの男をただジッと見ているしかなかった。
座ってはいるが長身だろうということが見て取れる。波状の金髪は肩につくギリギリの長さで、仮面に覆われていない顔半分は美しく均整が取れており、さぞや素顔も整っているのだろうと見る者の想像を掻き立てる。
が、胡散臭いことにはかわりなく、隊長室には重苦しい静寂が流れた。
先にフ、と笑みを漏らし沈黙を破ったのは仮面の男の方。
「災難だったね。私はこの艦を指揮しているラウ・ル・クルーゼ。巻き込んで済まないと思っているよ」
「ラウ……!?」
それにアカネの眉がピクリと反応した。
「何かな?」
「……グリマルディ戦線でのご活躍、ニホンにも届いています」
「ほう……君のような人が私の名をね」
クルーゼはほんの少し仮面の下で驚いたような様子を窺わせ、息を漏らした。
アカネもまた、フ、と息を漏らすと身に付けていたIDカードを取り出した。
それをクルーゼの前に差し出す。
「私はニホン自衛軍、内閣総理大臣直属特別情報工作機関所属、アカネ・アオバ特尉。グリマルディの戦いの折りには私も月基地にいましたから、あなたの名はよく覚えています」
ほう、と喉を鳴らしてクルーゼはアカネのIDカードを手に取った。
「特尉……?」
「階級は二尉と一尉の間に位置し、機関の略称は"特関"もしくは自衛軍に属しているので陸海空に倣い"特自"とも」
事務的に説明を終えて、アカネは予想外の反応に眉を寄せた。
少なからず驚かれるだろうと予測したものの、当のクルーゼはそんなそぶりを見せる事なく舐めるようにIDカードに見入っている。
「何故こんな所にニホン国の特務兵いるのかな?」
IDカードから仮面越しの目線をこちらへ向けたクルーゼに、アカネは先程より強く眉を寄せてみせた。
「それはこちらが訊きたい。何故オーブのコロニーが崩壊して、その側にザフトの艦がいたのか……!」
しかしながら質問に質問で返すのは卑怯だと思い、その一言を絞り出すとこれに至った経緯を語り始める。
「私の乗ったシャトルはL3宙域見学を経てプラントへ向かう予定だった。防衛省所属アカデミーの武器科の学生の研修をプラントで行うためにね。
その途中で機体にトラブルがあったらしくて、最寄りのヘリオポリスでメンテナンスを行おうと一時進路を変えて、ヘリオポリスの崩壊と同時に出てきた戦艦と接触して沈んだわ」
「……助かったのは君だけということか」
「いくら軍属扱いだからって、まだ学生で……民間機だったのに」
爆散したシャトルを思い出して、アカネは僅かに瞳を落としたが、クルーゼは気にせず先を促すようなそぶりを見せた。
アカネが肝心の質問には答えていなかったからだろう。察してアカネはそれに応えた。
「私は休暇中で、プラントを見られる機会は滅多にないから要請を出して同行の許可を得た。IDカードは必要な事態になることを懸念して持参したまで」
そして説明を終えるとアカネは目線をクルーゼに戻した。
先程の質問の返答を今度はアカネが求めたのだ。
軍事機密、と逃げられるのを避けるための布石としてこちらの状況と身分を先に明かしたのだ。答えてもらわなくては困る。
そんなアカネを見抜いたのか、クルーゼはフフ、と笑みを漏らした。
「君はオーブをどう思う?」
またも問われて、アカネは口をへの時に曲げた。
オーブは表向きニホンとは外交上特に問題のない国だ。しかしその内情は常に諜報員が注意を払ってもいる。
が、そんなことをわざわざここで告げる必要はない。
一個人としてあの国をきな臭く思っているのは全くの私情であり、この場で話す価値もない。
その沈黙を回答と理解したのか、クルーゼはようやく話を始めた。
「ザフトの主力兵器であるモビルスーツの開発を地球連合軍が行い、それにオーブが関わっているとの情報を我々クルーゼ隊は手にした。その連合の新型モビルスーツが運び出される前に奪取するというのが我々の今回の任務だったのだ」
「……モルゲンレーテ社が連合に開発協力を?」
「そういう事だな。驚かない所をみると、そちらでも何かしらの情報をつかんでいたのかな?」
白い手袋を付けたままの指が仮面の下の口元へと添えられる。
アカネはクルーゼのその答えで、ほぼ全ての状況を理解した。
連合の軍事開発協力を極秘に行っていたヘリオポリスと、それを掴んだザフトとの戦闘が肥大してコロニーが四散したこと。
それに巻き込まれて、シャトルが沈んだこと。
惨劇の最大要因はオーブの裏切りか、と眉を顰める。
「シャトルを落としたあの白い所属不明艦は連合の新造戦艦……?」
「足つきを見たのか」
「もう一つ、トリコロールのモビルスーツを見たわ。さっきハンガーでも似たような機体を見かけだけど、あれは?」
「……恥ずかしい話だが、1機奪取に失敗したのだよ。変わりに拾ったのは君だったがね」
ククッ、と冗談なのか本気なのか分からない笑みをクルーゼが漏らすと、アカネはふっと神妙な顔つきをしてみせた。
そして淡いローズのルージュを引いていた唇をゆっくりと動かす。
「"軍事同盟条約第21条・不測の事態において、ニホン自衛軍所属軍人及びザフト軍所属軍人は互いの戦局に応じてこれに協力すべし"」
するとその言葉をまるで予測していたかのように受け止めて、クルーゼは無言で口の端を上げた。
PHASE - 004 「ザフトレッド」
アカネはどうにも解せないという面もちで、拾われたザフト戦艦ナスカ級の廊下をふよふよと漂っていた。
こちらの要望は同盟軍の士官らしい扱いをしてくれという一点のみであったというのにどうも手応えが違う。
ニホン・プラント間の軍事同盟――それはもちろん双方の利害関係により成り立っているものだ。
古来、独立を保っているというのが東洋の島国、ニホンの最も誇るべき一つの奇跡であった。
無論それは語り継がれる奇跡などではなく、決して列強に屈せず本土だけは防衛するというニホン人の気概により太古から今に至っている。
そしてもう一つ、ニホンは技術大国として栄えてきた流れを今に正当に受け継いでいた。
それ故、かつての国々が次々と連邦国家となる中、一つの国家として今も世界にその名を連ねているものの中国大陸からなる東アジア共和国を始めニホンを取り込もうとする大国のもくろみは常々付きまとう。
それは開戦の兆しが強くなるに比例して激しさを増していった。
地理的に東アジア共和国の更に東、南下すれば大洋州連合という対立する勢力を抱えたニホンは選択を迫られていたのだ。
プラントの技術力――、それは技術大国ニホンにとって魅力的なものだった。
プラントにとってもまた、ニホンの独占技術は一目置く存在であった。
故に両国は国営企業の相互技術譲歩及び自衛軍の軍事派遣等の同盟を結ぶことでプラントとの関係を強め、大洋州連合が親プラント表明をしたこともあり南半球との海・空の強化を計ろうとした。
しかし、ナチュラルの援軍など必要ないとの声がザフトで小さくなかったのもまた事実。
そこで現ニホン国内閣総理大臣が発案したのが直属の情報工作機関の特務兵であった。
能力が劣るから、と言われるなら高い能力値を示せば良いのだとある特定の分野に特に秀でた人間のみを集めたのだ。
それのサンプルデータをプラントに示すことで、一応の軍事同盟締結問題は決着した。
とはいえ、開戦してからもザフトは表だって自衛軍の派遣要請をしてくることはなかった。
ニホンとしても本土や月基地の防衛に手一杯でそれを懸念する事はなかったが、アカネは常々不満を感じていた。
アカネ自身、コーディネイターと全く接したことがないわけではない。
だが、プラントという国がどういうものかほとんど知らなかったのである。
任務が降りればザフトと共に戦うことに抵抗はなかったが、コーディネイターという存在に思うところは一つ二つではない。
だからこそ今回のプラント研修はまたとない機会だったというのに、プラントを知るどころか未来を担う若者を大勢失ってしまった。
おそらく本土では今この瞬間もシャトルロストで騒動になっているだろうことは想像に難しくない。
何より自分自身も死亡ないしは行方不明扱いだろう。
同盟軍の艦にいるのだから取りあえずは安心――とはいえザフト軍を心から信頼することなど今の段階では無理な相談である。
しかしながらこの艦が、あの仮面の男が自分の命を握っているというのは変えようのない事実だ。
だからこそ士官らしい処遇を、と望んだのにこの扱いは何なのだろう?
好きなようにしていろ、と軍艦だというのに軟禁されるでなく放り出されてしまった。
「……どうなってるの、ザフトって」
窓の外には相変わらずの闇が無限に広がっていて、アカネはその縁にそっと手をやった。
そもそもザフト軍という存在自体がアカネには解せない。
義勇兵からなるプラントの軍だというのは周知の事実であったが、ザフトには階級というものが存在しないのだ。
更に地上でいうところの陸海空に部隊が別れているという事もなく、全ての兵士が全ての分野をカバーする。
能力の高いコーディネイターだから出来ること、などとザフトは吹聴しているようだが一兵士としてアカネはニホン兵がザフト兵に劣っているとは思わない。
階級がないというのも指揮系統に乱れが出るというのが容易に想像でき、どうにもメリットが見いだせない。
なによりこの制度の所為でアカネ自身、対応に困っていた。
仮にも一戦艦を率いるのなら最高指揮権は一佐に準ずるであろう艦長にあるはずだが、どうもこの艦のトップはあのラウ・ル・クルーゼらしいのだ。
一佐の更に上となれば将であるが、しかしクルーゼは将官というにはあまりに若い。
仮面で素顔は隠れているとはいえ、見たところ二十代半ばといった所だ――などとこちらの概念で考えた所で、基本は皆同格なのだ。
故にクルーゼに対し上官対応で接しようとするも、同格が前提にあるため調子が狂ってしまう。
かといって妙に下手に出て、更にニホン人を舐められてはこちらの威信にも関わる。
どちらにせよ早々に本国と連絡をつけて欲しいところであったが、あの仮面の心次第という状況はどうあっても変わらず――アカネは納得のいかないままにクルーゼの意向に添う事にした。
そもそも私用での航宙だったため未だに私服を着ているのが戦艦にはどうにも不似合いで滑稽だ。
ため息混じりでそんな事を思いながら、アカネは壁を一押しして身体を前方へと進ませた。
どうにも身体がふわふわ浮くというのは好きになれないというのに、もうずっとこの無重力空間に浮いたままだったのだ。
この身に少しでも重力を感じたかった。
聞けば突き当たりのエレベーターを降りれば重力区画だと言う。
身体の重さを感じて少し冷静になるべきだと判断し、アカネはそこへ向かうべくエレベーターに乗った。
下の階に着いて扉が開くと、前方に重力区画の注意を促すマークが見えた。
本物と比べればやはり軽い。
が、重力区画に足を踏み入れて床に足を付け、アカネはホッと息を吐いた。
と、同時に急に胸が騒ぐ。
感じた重力の分だけ今まで覚えていなかった"不安"という言葉がこみ上げてきたのだ。
それはたった一人でコーディネイターの艦にいるという現実からか、シャトル爆発のショックなのか明確な理由は分からない。
ク、と軽く唇を噛んで右手で胸元をギュッと掴み軽くかぶりを振ってから、一歩一歩と踏みしめるように歩く。
すぐ傍に見える休憩室の一角とおぼしき場所まで歩き、何気なく中を覗いたアカネはつい今感じた不安を吹き飛ばす程の懐かしさと驚きに思わず声をあげた。
「囲碁……!?」
その突然の声に、休憩室で盤を挟んでいた少年二人と、それを見守っていた少年が一斉にアカネの方を向いた。
少年の一人がアカネの姿を見てヒュウ、と口笛を鳴らした。
「なんだ貴様……!?」
すぐさま碁石らしきものを持っていた銀髪の少年が金切り声を上げたが、さして気にする様子もなくアカネは誰とはなしに声をかけてみた。
「へぇ、プラントにも囲碁ってあるのね」
囲碁とはニホンで盛んに行われている盤上ゲームである。
同盟国のゲームとしてここにあっても別段不思議ではないのだが、いわゆるナチュラルのオモチャでもあるため少々意外だったのだ。
それに、なによりアカネには懐かしかった。
「なーに、私服なんか着ちゃって職務放棄?」
アカネをこの艦の軍人と勘違いでもしたのか口笛を鳴らしたノリそのままに軽い口調で、銀髪の少年と碁を打っていた金髪に浅黒い肌をした少年がアカネに視線を流してきた。
「あ……いや、私は――」
問われて説明しようとしたアカネはギョっとする。
見るからに三人とも十代中盤といった少年然としていたからだ。
「……なんでこんな所に子供がいるの……?」
「な、何だと貴様! この俺を愚弄するか!!」
「ッおい、イザーク!」
驚いた面もちでそんな事を漏らしたアカネに掴みかかろうとした少年を金髪の少年が肩を掴んで止めた。
その間に、先程イザークという少年達が碁を打つ様を見ていた一番年少と思われる少年が立ち上がって冷静にこう言い下した。
「あの、失礼ですけどここはパイロット用の休憩室なんですよ」
その少年の自然では有り得ないような新緑を思わせる髪の色にアカネの瞳が僅かに開く。
コーディネイターなのだ、と一目で分かるほど特徴的であった。
「……あ、ごめんなさい。ラウ・ル・クルーゼ隊長が好きにしてろって……え、パイロット!?」
君たちが?と更に瞳孔を開いたアカネに、目の前の少年はごく自然に頷く。
「……こんな子供をモビルスーツに乗せるなんて……」
即答されて、アカネは反射的にボソリと少年から目線を外して呟いた。
「ザフト、相当ヤバいんじゃないの」
そういえばこの少年達ほどではないにしろ先程ハンガーで銃を向けてきた兵士達も総じて若かったような気がする、などと思案していると先程のイザークという少年がアカネの腕を強く掴んできた。
「貴様何者だ!? ザフト兵じゃないなら何故ここにいる!」
頭に血が昇りやすい性格なのだろう。
だがアカネにしてもいきなり腕を掴まれて気分を害さない訳もなく、イザークの腕を振り払いながら自分はニホン人だということを口調を強めて伝えた。
イザークの瞳は分かりやすいほどに開き、若草色の髪の少年はあ、と声を漏らした。
「先程ショーンが救助したという方ですか?」
「……ええ」
イザークとは違って、落ち着いた様子の少年にアカネは幾分ホッとしたように首を縦に振るう。
しかし、まだ納まらないと言った具合にイザークはまくし立ててきた。
「何がニホン人だ、ナチュラルが俺たちと同じ艦に乗ってるだけで虫酸が走るんだよ!」
叫びながら力任せに台を殴り、先程まで打っていた棋譜はバラバラに崩れてしまった。
「ナチュラルでも、ニホンはプラントと同盟を――」
「ナチュラルの役立たずなどザフトには必要ない!」
言い返せばそんな風に一蹴されて、アカネはこの艦に降りた時に銃口を向けてきた兵士達の視線を思い出した。
侮蔑と憎悪の眼差し。
同盟国の人間を同盟国人だとも思っていないような風潮はやはりここにはあるのだ。
そう感じつつも、自分を睨み付けてくる少年の姿を見ながらアカネはやはりこの子もコーディネイターなのだと今更なことを考えた。
プラチナブロンドの髪。綺麗に切り揃えられたオカッパともとれる髪型は奇抜だったものの、透けるような肌に切れ長の目。縁取る長い睫の奥の瞳は吸い込まれそうな深い蒼を宿した、恐ろしいほどに整った顔をしていたからだ。
「あーもー、隊長がいいって言ってんなら仕方ねーじゃん。ホラ、行こうぜ」
イザークを見かねたように、金髪の少年が間の抜けた声を出してイザークの背中を叩いた。
そしてそのまま休憩室の外へと向かう。
イザークは最後まで目線でアカネを睨み付けると、プイと顔を逸らして後を追うようにその場を去っていった。
アカネはというと、嵐が去ったというような面もちでイザークの出ていった休憩室の入り口を気が抜けたように見つめていた。
そしてヤレヤレと頭に手をやると、クルリと後ろを向いてバラバラになってしまった碁石を手に取る。
「あーあ、折角の棋譜が……」
そのアカネの呟きに、同じくイザークの言動にあっけにとられていたらしき緑の髪をした少年がハッとしてそれの片づけを手伝い始めた。
「済みません、不快な思いをさせてしまって……」
イザークの非礼を詫びて神妙な顔つきをする少年にアカネが「君が謝ることではない」と苦笑いを漏らす。
「でも……同盟国の人間なのに、随分嫌われちゃってるのね」
「そ、そんなことはありません! 僕は……とても頼もしい同盟国だと思っています」
苦笑いに混じってほんの少し落胆したようにアカネが呟くと、少年は急いでそう取り繕ってみせた。
アカネがキョトンと少年の瞳を見返すと、少年はほんの少し頬を染めて目線を下に流す。
「……僕たち、プラントで育ちましたからナチュラルと接したことなくて、それできっとイザークもあんな態度を」
「え、それじゃ……ナチュラルに会ったことは……」
「ええ、初めてです」
アカネは少年の言葉に軽い衝撃を覚えた。
地球にいれば双方接する機会は少なくないが、プラント生まれの若い世代はナチュラルに接する機会などなくて当然なのだ。
コーディネイターだけの環境でナチュラルに接する機会もなく育てば、ああも一方的にナチュラルに対して好意的とはいえない感情を抱いても致し方ないのかもしれない。
イザークに接して改めてその事を実感したアカネだったが、少なくともこの目の前の少年はそういう感情を含んでいないように思えた。
アカネはそれから少年と話をした。
プラントへ向かう途中、シャトルが連合の新造戦艦との接触で沈んでしまったこと。
D装備のジンと連合軍との戦闘でヘリオポリスが崩壊してしまった事に心を痛めていた少年はシャトル沈没に驚き、何度も頭を下げてアカネを困惑させたりもした。
ともあれ、やっと張りつめていた肩の力をほんの少し抜くことが出来るほど、このコーディネイターの少年が心根の優しい人間だということはアカネには良く分かった。
あ、とアカネは思い出したように口を開いた。
「君、名前は? 私は青……いや、 アカネ・アオバ。ごめんね、言うの忘れちゃってて」
アカネが頬を緩めると少年もあ、とそれに続く。
「ニコル・アマルフィです。こちらこそ失礼しました」
「……アマルフィ……?」
それに若干表情を緩めていたアカネの顔が俄に引きつった。
そのファミリーネームには確かに覚えがあったのだ。
「まさか、プラント最高評議会議員の……」
表情の凍ったアカネとは裏腹にニコルはハイ、とごく自然にその後を繋いだ。
「ユーリ・アマルフィは父です」
「え……ええっ!?」
ガタン、と衝撃を抑えきれずにアカネは腰を下ろしていた平面のソファから勢いよく立ち上がった。
プラント最高評議会。
それはプラントの最高意思決定機関であり、ニホンでいうところの内閣である。
プラント12の市からそれぞれ選ばれ、いずれも何らかの分野の権威であることが多い。
事実ユーリ・アマルフィはロボット工学の権威であり、最高評議会議員兼国防委員でもあり、モビルスーツ開発の最高責任者だった。
評議会内では冷静な中立派と知られており、なるほどこの少年のナチュラルへの偏見のなさは父親による所が大きいのか、などと頭の隅で考えもしたアカネだったが、しばらくは立ち上がったまま虚空を眺めていた。
想像しがたい事だ。
よりにもよってわざわざ議員の子息の、まだこんな少年をこんな前線へ出すなどと。
暫くしてニコルと別れた後も、アカネは頭を抱えていた。
ニコル達に触れてほんの少しザフトがどういうものか分かったような気がしたが、実際は疑念が深まっただけであった。
そもそもあんな年少の、しかも議員の息子まで投入しなければならないほど戦況が厳しいのなら何故自衛軍に援護を要請しないのか。
まさか上層部までがイザークのようにナチュラルの力など要らぬと考えているのか?
そんなことを思いながらアカネが隊長室へ戻ると、相も変わらずクルーゼは中央の隊長席に深々と腰を下ろしていた。
「少しは気が晴れたかね?」
「……訊きたいことがあるんだけど」
意味深なクルーゼの物言いは今は深く考えない事にして、アカネは先程の疑問を率直にクルーゼに訊いてみた。
「赤い軍服を着てた……あのニコルって子、アマルフィ議員のご子息なんですってね」
「……ああ、ニコル達は今ヴェサリウスにいるのだったな」
ヴェサリウスとはこのナスカ級の名前であった。
本来はヴェサリウスの僚艦であるローラシア級・ガモフの方に乗艦しているとは先程ニコルに聞いていたためクルーゼの言葉をサラリと流してアカネは更に詰め寄った。
「おまけにモビルスーツのパイロットだなんて。広告塔? にしてもこんな前線に出すなんてどういう事なの? 戦局は拮抗していると聞いていたのに……」
「君が会ったのはニコルだけか?」
「……いや、銀髪の……イザークって子と、金髪の背の高い子にも会ったわ。三人とも見たこともない赤い軍服着てたけど、ザフトに階級はないはずよね、少年用?」
そこまでアカネが言えば、クルーゼは隊長席から腰を浮かせて立ち上がるとアカネに背を向けた。
「イザークもディアッカもニコルと同じく評議会議員のご子息だよ。エザリア・ジュール議員とタッド・エルスマン議員といえば分かるかな?」
フ、と不適な笑みが背中越しに伝わり、アカネはニコルからそれを聞いたときと同じように眼を極限まで丸めた。
「……そういえば、そっくりね、あのイザークって子とジュール議員」
浮かんだ二人の議員と先程の少年達を重ね、虚をつかれたようなアカネの口から絞り出されたのはそんな一言だった。
もっとも、容姿が似ている、という意味でそう言ったアカネだったが、エザリアは反ナチュラルのタカ派最右翼として知られていた。
先程のイザークの態度を見るに母親の影響を多分に受けている事は想像に難しくない。
タッドもタカ派寄りの議員のため、あのディアッカという少年もおそらくそうなのだろうと何とはなしに思う。
「じゃあ、あの赤軍服はVIP専用なのね……」
ハハ、と乾いた笑みと共に軽く目眩のする頭を押さえていると、クルーゼは何やら緑色のザフト軍標準軍服を取りだし、アカネの前のデスクの上にそれを置いた。
「ザフトレッド……あれはアカデミーの成績トップ10のエースにのみ着用を許された軍服なのだよ」
「え……?」
「もっとも、その制度が出来たのは開戦後でニコル達がその一期生だがね」
そんな話をしながら目の前には普通の緑の軍服を置かれ、アカネはふいに眉を寄せた。
階級はないと定めておきながら、実質そんなもので色分けしているとは釈然としないものがあったからである。
「……お坊ちゃまを広告塔に据えるだけじゃなくそんなご褒美まで用意するなんて、よほどプラントの状況は芳しくないようね」
「有能な者に相応のものを与えているだけだよ。地位と権力のある者の子が結果的に優秀になる……簡単な図式だと私は思うがね」
含みを込めた物言いに、アカネはクッと喉を鳴らした。
彼らはコーディネイターなのだ。
確かに相応の権力や富があれば、より高度なコーディネイトを子供に施すことが可能であろう。
暗にそれへの賛辞とも憎悪とも取れるようなクルーゼの言い回しをアカネは敏感に察知したが、それに今は気付かないふりをした。
話を逸らそうと目の前に置かれた軍服を手に取る。タイトスカートの軍服。女性用だ。
「……この軍服は?」
「今のその格好では目立つだろう? 赤でなくて悪いが、君に合うような予備はなくてね」
言われるまでもなく戦艦でジーンズにカットソーではアカネ自身も不味いとは思っていた。
今後それを着ろと言われたようなもので、アカネは手に取った軍服をキュッと強く握りしめる。
「別に……色なんてどうでも――」
「そうはいかんよ。君は特務部隊に所属する同盟軍のエリート士官なのだからね」
クルーゼの分かりやすい皮肉の籠もった声にアカネの眉が微かに撓った。
「特務兵ってのはただの雑用係よ。我が国のエリートというのはアカデミー卒業後海上自衛軍士官に――」
明らかにそれを知って言ったクルーゼの物言い。分かってはいてもムキになって答えてしまったアカネだったが、それすら予測していたらしきクルーゼがククッと喉を鳴らし、決まり悪さにそこで言葉を切った。
クルーゼの方はお構いなしに話を続ける。
「確かにニコル達がプラント市民の戦意昂揚の一翼を担っている部分があるのは否めんよ。だが……広告塔という意味では、君はどうなのかね、アオバ特尉?」
ピクリ、とアカネの指が反応する。
軍服を握りしめてクルーゼを見上げると、クルーゼは面白そうに口の端をあげていた。
「先程君を見つけた時、ショーン達はもう一つ面白いものを拾ってきてね……」
「面白いもの?」
「これを見たまえ」
言ってクルーゼはデスクの上のモニターにある図面を映し出させた。
「これは……モビルスーツのデータ?」
そこにはザフトの主力モビルスーツ・ジンとは明らかに開発系統が異なるモビルスーツが描き出されていて、アカネは興味深そうにそれに見入った。
「ヘリオポリスの残骸から発見された物だよ。奪取した連合のモビルスーツに似てはいるが違う点が多々ある。……大きな特徴の一つは、より操作面にアナログな技術を取り入れた事だ」
「……それで?」
「シャトル沈没……君とてあの新造戦艦が憎いだろう?」
頭上から相変わらずの含みを込めた物言いが耳に届く。
だがアカネは今度はモニターからすぐさま目線を外してクルーゼを凝視した。
微かに、仮面の下の隠された瞳が鋭く光ったように思えた。
――――to be continued...
投下乙。
ここまでは楽しく読めたよ。
次も楽しみにしてる。
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189 :通常の名無しさんの3倍 [sage] :2010/03/25(木) 16:58:43 ID:???
不可能を可能に〜といって死亡させるのはさすがに考えてたんじゃないか?
言いたいことは沢山あるが、折角死に華を咲かせたんだからそのまま殺しておけば良かったのに
無茶な状態から復活させるからアレ?って思うわけで…
そして更に言うとネオというキャラがムゥ以上に斜め下すぎるキャラだったのが余計にややこしくさせる
195 :通常の名無しさんの3倍 [age] :2010/03/25(木) 18:35:12 ID:???
そうは言うけど、じゃあネオのポジションとして相応しいキャラクターって
他に居たのか? ってのがさ……別に前作のキャラクターをネオ役にしろとは言わないけど。
198 :通常の名無しさんの3倍 [sage] :2010/03/25(木) 18:54:45 ID:???
ネオという新しいキャラでいいだろ、普通に
202 :通常の名無しさんの3倍 [sage] :2010/03/25(木) 19:34:46 ID:???
>新しいキャラ
その場合は素性と役職をどうするんだ? って問題がね……
パイロットで無きゃ余り話にも絡めないだろうに、と。
まあエウレカセブンのドミニクみたいなヤツにすれば未だいいと思うんだが。
203 :通常の名無しさんの3倍 [sage] :2010/03/25(木) 19:41:17 ID:???
強化人間三人を率いる特殊部隊の隊長兼エースパイロット
で、新キャラとしては十分な肩書きじゃないか
シンがステラを返すってイベントがあるからシンとも絡めるし
若いパイロットに情が移っても、任務に使わなきゃいけない葛藤とか描けば
最後死ぬとしても良いキャラになれるんじゃ、どうかね
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この辺りの題材で誰かSSやって戴けませんか? 「もしネオ≠ムウだったら……」
自分で書け
>>279 ステラ「もう良いの? シン……」
シン「ああ。行こう、共に―――」
必要あるか分からんが一応トリップ付けておく。
>>315の続き。
PHASE - 005 「ガンダム……?」
クルーゼへの疑念はアカネの中で益々深まっていた。
人手が足りないからモビルスーツに乗ってくれと正式な要請があれば、それに応じることは別に構わない。
が、まずは本国と連絡を取り評議会からも承認を得ることが先だ。
『シャトル沈没……君とてあの新造戦艦が憎いだろう?』
そういったクルーゼの意図はアカネにはすぐ読めた。
最初から知っていたのか調べたのか、先程の物言いからクルーゼが自分の個人データを把握していることもすぐに分かった。
――君は現時点では死んでいるのだよ。
本国及び評議会に話を通してくれ、と言えばはぐらかされた末にそう突きつけられたアカネはいよいよ頭を抱えた。
あの男はあの仮面の下で一体何を考えているのか。
プラントからはネビュラ勲章を授与されるほどのエースパイロットだ、とその噂は聞き及んでいたがどうにも胡散臭い。そもそもあの仮面が更にそれに華を添えている。
そうは思うものの、このままシャトル沈没の真相を本国に伝えられずに死んだ事にされるわけにもいかない。
だが自分を死亡扱いするメリットなどプラントにあるのだろうか?
いや、普通ならばないだろう。プラントとしても、シャトル沈没は重要事件のはずだ。なぜなら今回の騒動についてオーブに対し連合への兵器開発協力を責めた所で、中立の民間コロニーを破壊してしまった点の責任を逆に攻められるのがオチだからだ。
どう取り繕ってもコロニー破壊をチャラに出来るほどの言い訳をプラントは持ってはいまい。
その際に活きてくるの今回の同盟国の民間シャトル沈没だ。
事故とはいえ、このカードをみすみす逃す手はないことはプラントも良く分かっているだろう。
故に、例え自分が死んだ事にされたとしてもニホンにシャトル沈没の事実が知らされない訳がない――という確信はある。
大勢の青年達の死をも外交カードに使われる。何ともいやな話だ。
だが全てを無かったことにされるよりはずっといい――などと考えたところで、現時点ではあの仮面男の心次第なのは揺るがぬ事実。
「……これが、ニホンのためになるのなら」
そんな事を思いながらアカネは胸に手をあて、懐かしいニホン国旗を脳裏に浮かべるとハンガーへと向かった。
時折擦れ違うザフト兵に眉を顰められるのがたまらない。
ナチュラルへの侮蔑ではなく、ひょっとしたら見慣れぬ顔だと思っているだけなのかもしれない。が、気分のいいものではない。加えていくら同盟軍とはいえ他国の軍服に袖を通しているのも抵抗がある。
ハンガーに顔を出すとやはり整備兵達が忙しなく作業にあたっており、こういう風景はどこの軍でも変わらないものだと少々安堵してアカネはふわりと無重力空間に身を投げ出すと収めてあるモビルスーツ群を一望した。
奪取してきたと思しき機体が4機。そして今、整備兵が作業にあたっているフレームが白と紫で彩られた機体が目に映った。
「あれか……」
一旦身体を沈めて勢いよく床を蹴り、そのモビルスーツの元へと向かう。
クルーゼ曰く、ショーン達が見つけてきた機体は連合用のものとは少し開発経路が違うらしい。
技術の盗用が確認されたためおそらく連合に譲与する物とは別にオーが自国用に開発中だった機体だろうという推測だった。
何より違うのはハード・ソフト共に複雑かつデフォルト状態では使い物にならなかったらしい連合用の機体とは違い、より扱いやすいよう特化されているという点だ。
思えばモビルスーツの操縦シミュレーションはいつも平均値ギリギリだった、と顔を引きつらせて思い返しながらアカネが機体の傍に行くと、コクピット付近で整備にあたっていた一人の整備兵がアカネの方を向いてきた。
目があったアカネは声をかけてみる。
「その機体、見せてもらえる?」
「お前……ショーンの連れてきたナチュラルか!?」
見覚えがあると言った具合に整備兵は表情を歪め、ここにアカネが来た時さながらに強い視線を投げつけてきた。
「そうだけど……」
そのあまりの態度に、仮にも士官に向かってメカニックが、とピクリと眉を動かしたアカネだったがここは階級の概念のないザフトなのだと直ぐに切り替える。しかし、相手は収まらない。
「何故ナチュラルがその軍服を着ている!」
顔を合わせるザフト兵全部がこんな調子じゃ会話をするのも一苦労だ。構わず押し切ることにした。
「コクピットを見たいんだけど、良いかな?」
「ちょ……っ待て!」
そして返事を待たずにコクピットを開けてみる。
「おい、降りろ!」
が、しつこく怒鳴り続けられるのもうんざりなため、アカネはこう言ってみた。
「クルーゼ隊長に許可は得てるんだけど。軍服もクルーゼ隊長の指示で着てるだけよ」
クルーゼ、という一言が効いたのか整備兵はグッと喉を詰まらせる。
今すぐクルーゼ本人が艦内放送で自分が同盟国軍人として乗艦していることを伝えれば状況はマシになるのではないか? 押し黙った整備兵を見ながらそんな思いにかられつつ、アカネはOSを起動させる。
ちょいと画面を動かしてみてアカネが率直に思ったことは、マズイ、ということだった。
こちらにガンをとばしている整備兵に目線を投げてみる。
「これ……動かせるの?」
「まだ調整中だ! ナチュラルのバカどもが作ったOSなんざ使えるわけがねーだろ」
冷や汗を浮かべて整備兵に訊いてみればそんな返事が来て、アカネは落胆の溜め息を吐くともう一度重ねて訊いてみた。
「ひょっとして他の機体のOSもこんな感じ?」
「あれらは全てパイロット自らOSの書き換えをして調整が済んでいる。ま、ナチュラルにゃ理解できないだろうがな」
フン、と腕を組んた整備兵は明らかにこちらを軽視した目線を送っており、アカネは肩を落とした。
理解以前に、OSの書き換えなど出来るはずもない。
ナチュラルだから出来ないのではなく、自分の専門ではないからだ。
しかし反論した所で暖簾に腕押しだろう。眼前の彼と口論を繰り広げるよりは調整されたOSとやらの方に興味がある。見てみようと思い立って、アカネはコクピットを出る。
「あっちに置いてある機体、見てもいい?」
「あ……おい!」
言うが早いか機体の壁を蹴り、すぐ傍のモビルスーツへと向った。
慌てて整備兵が後を追ってきたがいちいち気にしてはいられない。
コクピットに乗り込み、OSを起動させると先程の機体と全く同じ画面が現れた。
そこに浮かんだ文字をアカネは小さく口にした。
「ガンダム……?」
縦に並んでいた「GUNDAM」の文字。
ニホンの縦書きに慣れていたアカネはつい習慣で縦に読んでしまったのだ。
「そういえばさっきの機体にも確か"GUNDAM"って縦に並んでたような……OSの名前?」
さしずめこのOS搭載機のコードネームは"ガンダム"とでもするか、と思いつつアカネは画面を操作した。
すると機体の型式番号と名称が表示され、小さく読み上げる。
「GAT-X207・BLITZ……ブリッツね」
更にはスペックが表示され、アカネは一つ一つ確認するように声に出して読んだ。
「武装は50mm高エネルギーレーザーライフル、ビームサーベル……装甲はフェイズシフト……」
機体内容の確認もそこそこに、ピ、ピ、とマニュアル通りコントロールしていったアカネだったが、数分とたたない内に軽く青ざめてコクピットから顔を出した。
あんなものの操作が出来るわけがない、と悟ったのだ。
複雑な操作機構に加え、およそ常人の考えの及ばないほどの情報処理能力を必要とする事は理解できた。
これを操作しろというのは、戦場で的になれと言われているに等しかった。
ザフトに奪取されず無事連合にこの"ガンダム"が渡っていても、おそらく誰も使えなかったのではないかと思う。
果たしてOS調節したためにコーディネイターしか使えないようなOSになってしまったのか。
元からそういう構造なのか。
それは定かではなかったが、先程自分が確認した白と紫のガンダムは明らかにOSの調整不足であり弄らないことには動かせない。
かといってこのブリッツのように複雑にされては自分が乗ることはできない。
予備のパイロットを早く連れてくれば良いのに――と尻目でチカチカ光るモニターを睨みながら思う。
が、ニコル達のような少年を借り出さねばならないザフトの状況を思うとそうも言ってられないのか、と額を押さえて一つため息を吐くと、付いてきていた先程の整備兵に声をかけた。
「……あなた、OSの調整できる?」
訊くまでもなくそれがメカニックの仕事だろう。などと思わないでもないアカネだったが、この整備兵が自分の搭乗予定機の担当ならばなるべく仲良くしておきたいため余計な事は口にしない。
「それがどうした?」
「あれに、私が乗れるよう調節を頼みたいんだけど」
「ハァ……!? 誰が乗るって?」
「だから、私」
一瞬素っ頓狂な声を出した後、整備兵は有り得ないとでも言いたげにケラケラと笑い始めた。
「何でナチュラルなんぞをモビルスーツに……!」
明らかに目の前でバカにされている事実はともかくも、アカネ自身も自分が何故モビルスーツ乗らなければならないのだ、と思うところは皮肉にも同じだ。
しかし他にパイロットがいないのなら致し方ない。
何よりこの艦の責任者の指示なのだからどうしようもない。
少しの間笑い声とともに目の前の青年の油で汚れた作業着が揺れるのを眺めていたアカネだったが、全く取り合おうとしない整備兵に痺れを切らせてついに軍服のポケットから持参していたIDカードを取り出した。
「私はニホン自衛軍のアカネ・アオバ特尉」
そういってIDカードを突きつければ、流石の整備兵も笑い声を収める。
「クルーゼ隊長からあの機体を乗れるよう調整しておくようにと指示を受けたから頼みたいの。あなた、あれの担当なんでしょ?」
そして、アカネの声を耳に聞き入れながら整備兵は徐々にその顔に驚きと怒りとも取れる色を浮かべた。
「じょ、冗談じゃねえ! 何で俺がナチュラルのためにそんなことを――」
「ナチュラルでも私は同盟軍の士官なんだけどね」
やれやれ、とアカネは息を吐いた。
コーディネイターとはまともに会話も出来ない人種なのか。
二言目にはナチュラルナチュラル。
目の前で息巻く整備兵に半ばうんざりしかけていたアカネを助けたのは不意に二人に割って入った声だった。
「何やってるんですか!?」
聞き覚えのある声だ。
アカネが振り返ると、赤服に鮮やかな緑色の髪をふわふわ浮かせた少年がこちらに向かって浮いてくるのが見えた。
「……ニコル君」
そしてアカネ達が言い合いをしていた傍の機体――ブリッツに手をついて身体を止めると彼は怪訝そうに眉を歪める。
当然ザフト軍服を着ていたアカネを訝しがったため、アカネはニコルにクルーゼからの指示を一通り説明した。
「じゃあ、僕があの機体の調整をしますよ」
そうして整備兵と揉めていることを知ると、ニコルは代わりに自分がそれを手伝うとアカネに提案した。
「でも……」
「なっ、コイツはナチュラルですよ!?」
すぐさま反発した整備兵だったが、一瞬キッとニコルが睨み返すとグッと声を詰まらせたように彼は押し黙ってしまった。
微かに目を見張ったアカネは息を呑んだ。意外と気の強い子なのだな、と感じたからだ。
やはり階級がないとは言え赤服の方が格上の扱いを受けているのか、それとも議員の子息だから逆らえないのかと色々な邪推をするも、ここでニコルの好意を受けてしまうのは気が引けた。
ニコルはニコルで自分の機体をチェックしに来たのだろうし、何よりこんな事でニコルと整備兵を仲違いさせるわけにもいかないからだ。
「ありがとうニコル君。でも……私はあなたにお願いしたいの」
そう言って整備兵の方を向いたアカネに、「え……?」とニコルと整備兵の声が重なる。
「な、何だよ、やるっつってんだからニコルにやってもらえば良いだろ。ヘッ、良かったじゃねーか、俺よりずっと優秀だぜ?」
フン、と先程と同じように腕を組んでそっぽを向いた整備兵だが、動揺を見せつつもニコルへの劣等感とも思われる感情を吐き捨てた。
アカネは彼の様子にコーディネイター特有の差異の感情らしきものを感じ取ったが、素知らぬ振りをしてふわりと体重移動をさせるとそっぽを向いた整備兵を正面から見つめ直した。
「何だよ!」
「あなたがいい。だって、パイロットは自分の命を機体に預けてるけど、同時にメカニックにも預けてるもの」
その言葉に整備兵も、傍にいたニコルもハッと顔をあげる。
「あなたの腕と、あなたの整備した機体に自信を持ってこの艦を護りたい。だからヴェサリウスのためにも……お願い」
パイロットと整備兵の信頼関係。そんなものは万国共通だと思っているアカネがこの整備兵との関係をちゃんとしておきたいと思うのはごく自然の感情であった。
だが、ある種万能型であるコーディネイターにとってはパイロット自ら整備を完璧にこなせる能力を有している場合がほとんどなのだ。アカネの言葉は酷く新鮮に響いたのだろう。
「俺に命を預ける……?」
瞳をパチクリさせる整備兵にアカネがコクリと頷く。
「……おかしな女だ」
「デューイ!」
ボソッと毒づいた整備兵をニコルが制する。
それに対してデューイと呼ばれた整備兵はかったるそうにガシガシと頭を掻いた。
整備兵に命を預ける。
そう言われたのも確かに新鮮だったのだろう。ニコルは赤服を纏うザフトのエースだ。その彼が整備してやると言っているのにわざわざ自分の方が良いと言われた。こそばゆい感情が入り交じっていたのかもしれない。――そんな自分に驚いたようにデューイはチッと舌打ちをする。
「……俺はナチュラルなんて認めない。ヴェサリウスのためだ」
そうして言い終わる前にブリッツの太もも辺りを蹴ると、先程の調整不足の機体の方へと向かった。
デューイのそんな行動にアカネとニコルはどちらともなく互いの顔を見合わせる。ふふ、微笑み合ってからアカネはデューイの背を追った。
OS調整も終わったかという頃、アスラン・ザラは呼び出しを受けていた隊長室から出て晴れない面もちでヴェサリウスの廊下を自室に向かって進んでいた。
ヘリオポリスへ再出撃した際、ストライクのパイロットが幼年学校時代からの親友であるキラ・ヤマトだと判明したものの、クルーゼにその事を報告すべきかアスランは迷っていた。
が、行動に迷いがあるのを鋭く見抜いたクルーゼに出頭を命じられ、結局はそれを告げる事となり、いま報告を済ませたばかりなのだ。
確認してもなお信じられない心持ちだったというのに、クルーゼに報告したことでキラが敵軍のモビルスーツに乗っていることを再認識させられたアスランは酷く胸が痛んでいた。
キラが敵軍のモビルスーツ――ストライクに乗っているということは、もし、また戦闘となってストライクが出撃してくれば必然的にキラと戦わなければならないことになるからだ。
「キラ……」
廊下の小さな物見窓の所で足を止めて、アスランは無意識にキラの名前を呟いていた。
「キラ?」
するとそれを鸚鵡返しする声が背後から聞こえて、ハッと後ろを振り返る。
振り返ったアスランの瞳には、確かにザフトの軍服を着てはいたが見慣れぬ顔立ちをした黒髪の女性が顔を顰めている姿が映った。
「……あの?」
「あ……いや、あの乱れた回線から……キラ・ヤマトって……」
「キラ・ヤマト!?」
自分へというよりは、何か思い返すようにして額に手を当てて呟いたその女性に向かってアスランは思わず声を上げた。
「キラを知っているのか!?」
掴みかかりそうなほどの勢いに女性が少々慄く。
そして、あ、と唇が無言で動いたかと思うと、女性の髪の色と同じ漆黒の瞳は、まさか、というような色を覗かせた。
「……その名前、オーブ人?」
ニホン人と似たような名前だから何となく耳に残っていたけど、と呟きながら女性がきつく眉を寄せる。
「あの時、私が見たのはトリコロールのモビルスーツだった。あれは連合の物よね? 何故オーブ人があれに乗ってるか知らないけど、何故ザフトの軍人がそれを知っている!?」
逆にそう詰め寄られて今度はアスランが慄いた。
冷静に状況を見ればこの女性がザフト軍人でないことは明らかであったが、意識がキラに支配されていてそこまで考えが及ばない。
チッ、と舌打ちをして女性の肩を振り払ったと同時に廊下の壁を蹴り、勢いよくその場を離脱する。
「あ、ちょっと……!」
残された女性――アカネはあっけに取られて10秒ほどその場に立ちつくした。
パクパクと開いた口が塞がらない。
「……なに、あの子」
見たところ赤服を着ていたためニコル達と同じアカデミー好成績のルーキーなのだろうが、ともかく今の出来事を放ってはおけない。そう判断したアカネは今ちょうど向かう所だった隊長室へ急いだ。
「おや、機体の調整は終わったのかね?」
隊長室のドアが開き、アカネの姿が見えるなりクルーゼはそう声をかけてきた。
「あの青い髪した赤服の子、この艦の軍人?」
アカネはというと、開口一番にクルーゼにさっきの少年の事を詰め寄った。
赤服の青い髪、ということでクルーゼが直ぐにああと頷く。
「アスランのことか、彼が何か?」
「……いや」
よもやスパイか、と思ったアカネだったが流石にそれをハッキリ口に出すのは憚れる。
少年のあの態度から何か事情があるのだろうとは察したが、それはそれとして伝えておく義務はあるだろうとスッと息を吸い込む。
「私、ショーンのジンに救助される前に回線を開こうとしてたらある雑音を拾ったの……"キラ・ヤマト無事なのか?"って女の人の声。聞き取り難かったけどそう聞こえた。多分私が見たトリコロールのモビルスーツのパイロットの事だと思う。でもあのアスランて子が……!」
そこまでアカネの話を聞いて、クルーゼは音を立てて隊長席から立ち上がった。
「その事ならばたった今アスランから報告を受けた所だ」
「……え?」
「あのモビルスーツ、ストライクに乗っているのはアスランの旧友と言うことだ。しかし何故?」
「いや……あの子がさっき廊下で"キラ"って呟いてたから、気になって」
そうしてアカネはアスランと言い合いになった事を話し、クルーゼからはキラ・ヤマトがオーブの人間なのかそれとも連合に所属しているのか当のアスランにも分からないという話も聞いた。
「可哀想な事だな、仲の良い友人だったというのだから」
「そんな……! それじゃこのままあの子を放っておくつもり!?」
まるで他人事のようにそう言い放ったクルーゼにアカネは食ってかかった。
「あの子、パイロットなんでしょう!? また戦闘になったら……」
軽く焦りの色を見せているアカネの顔をクルーゼが冷ややかに見下ろす。
「では訊くが、君はもし敵陣に友人がいたら戦うのを止めるかね?」
「……いや、それが命令なら」
やるけど、と瞳をそらしてアカネは先程のアスランの悲痛そうな呟きを思い出した。
あの様子ではとても気持ちの切り替えが上手くいっているとは思えない。それは仕方のない事ではあるが危険なことでもある、と強く首を振るう。
「ならせめて他のパイロットにそれを伝えないと……! ストライクに乗ってるのはアスランの友人だって」
「そんなことをすればパイロットは混乱するだけだよ、アスランへの疑念さえ出てくるかもしれない」
浅はかな、と言い捨てたクルーゼにアカネがグッと口を噤む。
クルーゼの言うことも一理あるが、戦場で迷いのある兵士ほど厄介なものはないのだ。
「君は私の部下ではないが、今のことは他言しないようお願いするよ」
更にそう続けられて、アカネはピクリと眉を動かした。
「そう心配することはない、アスランは私に闘えると言ってくれた。それを信じてやりたまえ」
「……了解」
瞳を閉じて、グッと拳を握る。
「で、あの機体の具合はどうだ?」
本題に入ろうとするクルーゼの声を聞きながら、アカネはモビルスーツに乗る理由が一つ出来た、と感じていた。
アスランとキラ――、そしてアカネのこれから続く長い戦いへの序曲は既に鳴り終わろうとしていた。
――――to be continued...
「キラが動いたというのは、本当ですか!?」
大きな声を上げながら、焦った表情でアスランはミネルバのブリッジに飛び込む。
急いで来たので自分の着ている軍服が若干乱れていたが、この際それはどうでもいい。
艦長席に視線を向けると、席に座っていたアーサーが軽く頷いた。
「ああ、つい先ほど情報が入った。彼らの次の狙いは討伐軍……いや」
「シン=アスカ」
「だよね、やっぱり。ボルテールが狙われそうな理由って他に無いし」
「それよりもこのタイミングで動いた事を気にするべきでしょう。
討伐軍が出航してからミネルバと合流するまでの、この短い時間に狙われた。それはつまり」
「情報戦でも後手に回っている、か。向こうにはマルキオ導師がいるからね。
ったく、まためんどくさいのが敵に回っちゃったな」
「正直キラが彼を受け入れるとは思いませんでした。いや必要不可欠な人物であるのは間違いないのですが……」
「ひどく嫌ってたとか?」
「はい」
まるで打ち合わせでもしていたかのように話を進める2人。そして同じタイミングで溜息を吐いた。
考察なんてしたところで大した意味は無い。
現状を一言で表すなら 「キラ達に振り回されている」 の一言で済むのだから。
「アスラン=ザラではなくシン=アスカを狙った、か……情けない話です。
格付けが済んだとでも思われたのか、もう向こうにとって俺など眼中に無いようですね」
「それは此方も同じ事さ。最新鋭機積んでるのに見向きもされず、民間人の方に行かれてるんだから」
そして、その選択はあながち間違いではないと言う事実も自分たちの溜息を深くした。
今のアスラン=ザラとシン=アスカでは敵の注目度が違う。
つい最近敗れたばかりのアスランに比べて、シンは最近のデータが何一つ無いため現在の実力は謎に包まれているのだ。
謎を恐れるのは人の性。ブランクがある筈だから大丈夫と情報の無さを気にしないのは簡単だが
そうなると 「かつてキラに勝利した」 という事実だけがクローズアップされてしまうことになる。
キラの強さだけが支えの向こうが、そんなシンに注目するのも無理は無い。
「「はあ……」」
年齢を重ねて立ち位置が変わっても、無力感を乗り越える方法とはそう見つかるものではない。
こんな感情を引き摺っても仕方が無いので、2人は目の前のモニターに視線を向ける。
丁度画面の中では赤い矢印と青い矢印がお互いに近付き合っているところ。そして地球からも黄色の矢印が伸びた。
言うまでも無いが、青がザフトで赤がキラ、黄色が自分たちの進行ルートである。
「僕たちは予定を変えずにこのまま討伐軍との合流を目指す。
ただ到着と同時に戦闘に入る可能性も高い。MS隊はその事も考慮しておいてくれ」
「わかりました。ですが」
宇宙に上がってすぐに戦闘と言うのは、地上勤務が長い者が多い自軍にとっては好ましい事ではない。
だがそれ以上に気になるのはザフトとキラ、両者の交戦予想ポイントまで少し遠いということだ。
チャートを見たところ、この位置からだと時間が掛かりそうだが。
「間に合うのか? ここからで………」
「ポイントまで最大船足で向かうが、最悪の場合、合流が救出作業に変わる可能性もあるね。
シンの力は良く知ってるつもりだけど、流石に今回ばかりは楽観的になれそうもないよ」
「そうですね……」
アーサーの言葉に眉を顰めるアスラン。
ボルテールにどれだけのパイロットがいるのか、神ではない自分には分からない。
だがキラ相手に有象無象が増えたところで何も変わらないだろう。戦闘は実質、シンとキラの1対1だ。
そして艦隊の行軍というものは1番遅い船に合わせるため、此方はこれ以上進行スピードが上がらなかったりする。
だから今回、できれば彼らには一旦退いて貰って、自分たちとの合流を優先して欲しかった。
しかし討伐軍がその対象を確認したのに大した理由も無く逃げる、ということは普通考えられない。
両者の交戦はまず避けられないだろう。
願うとすれば自分たちが間に合う程度に、戦闘の開始が遅れてくれれば良いということぐらいか。
「頼むぞ、シン……。俺たちが行くまでやられたりするなよ……」
思わずシンの無事を祈るアスラン。
しかしそんな彼の願いもむなしく。
数時間後、ボルテールがエターナルと戦闘を開始したという連絡が届いた。
第19話 『強く儚い者たち』
「………すごい」
息をすることも忘れ、少女は食い入るように画面の中の光景を見つめる。
蒼と紅の光が周囲に爆発を起こしながら、絡みあう2匹の蛇のように螺旋を描く。
「これが、アスカさんの本当の力なの?」
まるで野生の獣のようにフリーダムに襲い掛かるデスティニーを見ながら、オペレーターの少女は呟いた。
強い。あの人は本当に強い。
自分も今までたくさんのMS戦の映像を見てきたが、この戦いはそのどれともレベルが違った。
先日アスラン=ザラが逆転負けした例もあるし、今のキラ=ヤマトが実力を隠しているという可能性も否定できない。
けれど思う。彼のこの力を超える者がいるなどと、どうして考えることができるだろう?
やはり彼はあの金髪の赤服が吐き捨てていたような英雄の成り損ないなどではない。彼は本物の―――
「そういえば」
先程まで他の艦に命令を出していた艦長が、ポツリと呟く。彼も2人の戦いを見ていたようだ。
ザフト兵士は連合に比べてMS間の連携がそこまで上手くない。ナチュラルと比べてエリート意識が高く、
また物量の問題から1機で複数の敵を相手することが多かったからだ。
そのため命令を此方から小出しにするよりは、細部を各艦長やMS小隊長に任せた方が良い場合も多い。
そして2機の戦いはこの戦闘の行く末を決める重要事項でもある。
指揮官である彼が見ているのは当然とも言えた。
「地球に古くから伝えられている神話で、確かこういうのがあったな。
全知全能の神を巨大な狼が飲み込む、という話が」
自分もその話は知っていた。と言っても家にその本があったので、子供の頃読んだ事があるというだけだが。
北欧神話の世界における、神々と巨人族の最終戦争。ラグナロクと呼ばれる終末の日。
全知全能の神、最高神オーディンはオオカミの姿をした怪物フェンリルによって飲み込まれたという。
そんな内容を思い出しながら、少女は再び目の前の戦いに視線を戻した。
画面の中で戦っているのは、人類の可能性の極致と呼ばれたスーパーコーディネーター、キラ=ヤマト。
それに挑むのは世界を牛耳ったクライン派すらその力を恐れたシン=アスカ。
獣の様に荒々しく襲い掛かるデスティニーと、技術の結晶とも呼べる華麗な動きでそれを捌くフリーダム。
確かに似ている部分もあるかもしれない。
そして彼らの戦いは、神話のそれに当てはめても違和感を感じないほど、美しく激しいものだった。
ありえないほどのスピード。確実に急所に迫る鋭い一撃。
その攻撃の一つ一つが、全て必殺。
人としてのレベルは既に超越している。
「アスカさん……」
だが自分には、そんな事はどうでもよかった。
艦長の声を聞きながら少女は思う。戦いの映像を目に焼き付けながら少女は祈る。
何だっていい。いっそこれが艦長の呟いた通り、神話の焼き増しでも構わない。
その話の内容と同じく、彼がキラ=ヤマトを倒して無事に帰ってきてくれるのならば。
「だが」
画面の中のフリーダムは両手のライフルを連結し、高出力のビームを放つ。
その一撃はデスティニーから連射される光弾を飲み込んでいき―――
「やはり、神話の中だけの話のようだ」
デスティニーのマシンガンを吹き飛ばした。
「強いね、シン―――――」
青や赤に点滅するランプ。カタカタと素早い音を立てるキーボード。
ここはストライクフリーダムのコックピットの中。
嵐の様に吹き荒れるアロンダイトの剣戟を捌きながら、キラは呟く。
吐き出された言葉は嘘や過言ではない。確かに今の彼は強かった。
アスランと違って自分を殺すことに躊躇は無い。
自分の攻撃に対する反応も良い。
機体の性能も此方と互角かそれ以上。
ジャスティスに乗っていたアスランと力は互角、いや今戦えばまず彼が勝つだろう。
現役を離れていた筈なのに、そう断言できるほどの強さだった。
けれどキラの目に光は無い。……はっきり言おう。
この程度の力では、自分に届くことは到底無いからだ。
「こんなもの、なのか?」
困惑、そして失望。キラの声色が優しい声から冷たい声へと変わる。
今の彼には以前と比べて何かが足りなかった。
まるでピースが1つ欠けているような。今は万全ではないような。
そもそも今乗っているのは本当に彼なのだろうか。実は戦意高揚の為に彼の名を騙った別の人間なのではないか。
そんな馬鹿みたいな事すら考えてしまうほどに。
いやそんな筈は無い。目の前にいるのは確かに彼だ。そしてシン=アスカがこの程度な訳が無い。
あのギルバート=デュランダルが見出した戦いの天才が、これしきの力などと。
そう現実を否定しながらフリーダムのライフルを連結させる。放たれた一撃はいとも容易くデスティニーのマシンガンを吹き飛ばした。
「………」
失望はやがて苛立ちへと変わっていった。
どうしたんだ、シン。こんなのも避けられないなんて。
君は僕を倒してくれるんじゃなかったの?
僕と、同じ存在じゃなかったの?
人では自分を倒せないと言うのならば。同じ狂戦士である彼なら自分の全力を受けてくれると思っていたのに。
疲れた自分を眠らせてくれる、最後の味方だと思っていたのに。
あの暗闇を照らしてくれるのは、君の炎だと思っていたのに。
自分が抱いていた歪な希望。しかし、その全ては否定される。
心を満たすのはアスランと戦ったときと同じ感情。失望という今自分が最も欲しくなかったもの。
期待して喜んで待ちわびてようやく会えた彼が与えてくれたのは、こんなものかという落胆だった。
「はは……そっか。そうなのか」
疲れた。渇いた。心が枯れた。
何故自分は彼にここまで期待していたのだろう。何故彼に終わりを感じていたのだろう。
今ではそれすらわからない。
戦いの前にコックピットで感じた悪寒はまあいい。
自分の期待する心が暴走して、感じるはずの無いものを勝手に想像してたとか理由はいくらでも思いつく。
しかし、ベルリンで出会った時も自分はしっかり感じたのだ。
彼ならば可能性はある、と。自分が全身全霊を込めて戦っても、受け止めてくれると。
それなのに――――
「もう、いいや……」
これ以上考えても傷が深くなるだけだ。もう終わらせよう。
キラは戦いながらデスティニーと通信を繋ぎ、そしてゆっくりと口を開く。
今から吐くのは現在の彼を否定する言葉だ。だが別に彼を追い詰めて窮鼠とすることなど考えてはいない。
ただ、期待を裏切られたから。
彼が最も傷付くような言葉を、八つ当たりの言葉を吐き出すだけ。
『――――ねえ、シン』
君に、今敢えて問う。
「くっそぉ……」
左手から離れたマシンガン。それの爆発する様を見ながら、シンは吐き捨てた。
やはり強い。実力差ははっきりしている。
だがこの戦いに判定は無い。そして自分もまだ、戦闘不可能な損傷は受けていない。
勢いがあるうちに自分がキラを速攻で落とせるか、それとも力及ばず倒されるか。
許される終わり方はそのどちらかだけだ。誰に許しを乞うのかはわからないけれど。
高速で移動しながら放つフリーダムのクスィフィアスを避けつつ、再びアロンダイトを抜くデスティニー。
レールガンの類は当たってもダメージは無いが、致命的な隙ができる事は間違いない。
必然的に全ての攻撃を回避しなければならなかった。
『――――ねえ、シン』
「まだまだぁ!!!」
キラの声を聞き流し、長剣を右手に握ったまま飛び込む。
スコールが無くなったため中距離で戦うのは厳しかった。だからこのデカブツに頼るしかない。
というかそもそもキラ相手に何発も攻撃が当たるとは思えない。狙うは運良く防御を掻い潜った攻撃による1発KO。
とはいえ雑な大技を繰り返していても半永久的にキラを捉える事は無く。なんだこの八方ふさがりは。
割に合わない。何でこの依頼受けたんだろう俺。
そう思いながら目の前のキラに叩きつける。
『君に一つ、聞きたいことがあるんだけど』
「何だよ!!」
サーベルを交差させてアロンダイトを受け止めるフリーダム。
圧力をかけるものの押し切れない。アロンダイトには劣るだろうが、ヤツのサーベルもかなりの出力だ。
そのまま睨み合う2機のMS。
光の翼が輝き、デスティニーの圧力が上がる。
『僕を憎んでいないと君は言ったね。被害者ぶって誰かを憎む資格は俺にはないって。
―――それは本当に君の気持ちなのか?』
「何が言いたいんだよ、アンタは!?」
『君はただ、大切な人の事を過去のものにしてしまっただけなんじゃないのか!?』
「何だと……!!」
敵のレールガンがデスティニーに狙いを定めた瞬間、シンは後ろに、そして左に跳ぶ。虚空に消えていく黄色い閃光。
引き離されまいと再び飛び込んだアロンダイトの斬撃は宙返りのような動きで避けられた。
フリーダムから放たれるドラグーン。機体を左右に振って攻撃を回避するが、その隙に大きく距離を取られる。
デスティニーに再び豪雨の如きビームが降り注いだ。
『かつての君はデストロイを撃った僕を倒した!!
僕に大切な人を殺されて、怒りながら僕を討ち敵を取った!!』
ドラグーンを収納、そして再びライフルを連射するフリーダム。
放たれた閃光はデスティニーから放たれたパルマとぶつかり合い、霧散した。
威力は五分。力負けしなかっただけマシか。
『でも今の君に僕への憎しみは無い!!
君から何もかもを奪い、叩き潰したこの僕に!! 昔の君なら復讐した筈なのに!!』
キラの言葉は聞き流せ。こちらに話す余裕は無い。
喋る余裕があったらもっと集中して、感覚を研ぎ澄ま―――
『――――何故か!? 答えは簡単だ、忘れてしまっただけだ君は!!』
おい。
お前、それは。
「―――――ッッ!! 違う!!」
『違わないさ!!』
流石に今の言葉だけは聞き流すことができなかった。
否定する声と同時にデスティニーの両掌が光を放ち、1つ、2つとドラグーンを破壊する。
だがキラに動揺は見られない。
あっさりとシンの言葉を切り捨てて、怨嗟の声をぶつけた。
『なんで憎まない。なんで憎んでくれない。なんで君は僕と同じ道を歩かずにいられるんだ!!
――――決まってる。大切な人たちの事を忘れて!! 憎しみを忘れて!!
他人の為に怒る事に、疲れ果てただけなんだよ君はぁぁッッ!!』
叫びと共に、今度はフリーダムがデスティニーの懐に飛び込んだ。両手にはいつの間にかサーベルが握られている。
速い。そして鋭い。
「黙れ………」
『そう、僕は君とは違う……君なんかとは違う!!!
絶対に忘れない。忘れるわけがない! 忘れることができないッッ!!!』
「黙れと言っている!!」
2本のサーベルを振り回しながら攻めるフリーダム。
デスティニーは長刀を軽々と振るいながらそれを防ぐものの、少しずつ押されていく。
そもそも長刀はリーチを生かし相手の間合いの外から攻撃する為の武器であり、懐に入られての防御には全然向いていないのだ。
しかも相手は二刀を完璧に使いこなしていた。
このままでは回転の速さに対応できなくなる。一旦距離を取るか、どこか早い時期に攻勢に転じなければならない。
それは理解しているのだが
『でやぁぁぁっっ!!!』
「くっそ、がぁぁぁぁッッッ!!!!」
押し切られる―――――
今日はここまでです
GJ
うわーここで次回へ続くとは・・・
キラは失望したままなのか続きが気になる
PHASE - 006 「守りたい人達がいるんだ!」
「MBF-P05・ASTRAY-purple_frame……」
クルーゼに機体状況を報告しながら、アカネはハンガーでのやりとりを思い返していた――。
「アストレイ? 武装は……頭部バルカン……だけ!?」
自身の搭乗予定機のあまりにシンプルな作りにアカネが目を丸めると、一緒に機体チェックをしていたデューイは作業を続けながら呟いた。
「アンチビームシールドもあるぞ、後はアサルトナイフか……ま、デュエル辺りの予備パーツ回せば何とかなるだろ」
「そ、そう……」
「あ、でも装甲はフェイズシフトじゃねーから弾当たったら即あの世行きだなお前」
サラリとそんなことを言ってデューイがアカネの顔を引きつらせる。
「……当たらなきゃ良いんでしょ。この機体ブリッツより大分軽いし要するに避ければ良いのよ、避ければ」
そんなやりとりを繰り返しながらもアカネはなんとかデューイともコミュニケーションを取り、後は微調整のみという段階まで終えた。
そして、アカネはもう一度アストレイと名付けられた機体の前に立つ。
他の奪取した機体はフェイズシフトを展開している時のみ発色するという装甲になっていたため、元からホワイトとパープルで彩られたアストレイはハンガーに華を添えていた。
白と紫――それはニホンでは古代から気高い色として重用されてきた色でもある。
そのためアカネはこの機体を一目見た時から気に入っていた。
身軽で動きやすいというコンセプトも自分に向いていて、図らずもこの機体に巡り逢ったのが運命とさえ思えてくる。
「宜しく、アストレイ」
そう機体に声をかけると、アカネはクルーゼの待つ隊長室へと向かったのだった――。
「以上よ」
「うむ、ご苦労だったね、後は休んでいたまえ」
報告を終えて、アカネはクルーゼにあのシャトル沈没の際に目にした白い戦艦の事を訊いてみた。
「その前に敵が知りたい。特にあの新造戦艦のこと……」
あの戦艦があんな所にいなければシャトルが落ちることはなかったのだ、と軽く唇を噛んだアカネにクルーゼが困ったように手袋に包まれた指を顎に当てる。
「生憎、あの艦の詳細はまだ不明だ。唯一分かったのはイージスのライブラリ照合で"アークエンジェル"と名付けられてるという事のみでね。もっとも、我々はあれを"足つき"と呼んでいるが」
「……そう。あの戦艦、向こうは月本部に運んでいくつもりなんでしょ? 護衛は?」
「護衛艦らしきものは我々が沈めたよ。今のところ足つきの護衛はストライクと……モビルアーマーが1機確認されたのみだ」
クルーゼの説明にアカネは、そう、と相づちをうつ。
モビルアーマーとは連合が主力としている歩行機能を持さない戦闘用航宙機の事である。機動力に優れてはいるものの、1機のスペックとしてはジンに及ばず、そのことが数で勝る連合が苦戦を強いられている一因でもある。
「だがそのモビルアーマーが少し厄介でね」
「え……?」
厄介、と言った割には口元に笑みを湛えてクルーゼはアカネへと視線を流した。
「どうもエンデュミオンの鷹が護衛についているらしい」
え、とアカネが瞳を開いたのと同時にデスクのモニターからクルーゼを呼ぶアデスの声が響いた。
「どうしたアデス?」
「足つきと思しき艦影、後方距離5000の位置まで来ました!」
それを皮切りにヴェサリウス艦内は慌ただしくなる。
「コンディションレッド発令! コンディションレッド発令! 各パイロットは搭乗機にて待機せよ! コンディションレッド発令――」
オペレーターの艦内放送を受け、それぞれ休息を取ったり機体チェックをしたりと自由に過ごしていたパイロット達は揃って慌ただしくロッカールームへ急いだ。
「模擬戦も行わずに実戦……大丈夫でしょうか?」
赤のパイロットスーツに腕を通しながらニコルがそう呟けば、同じく着替えていたイザークはわざとらしく見下したように腰に手を立てる。
「模擬戦だぁ? そんなもの、俺たち赤には必要ない」
「そうそ、ま、臆病な誰かさんなら心配しちゃう気持ちは分かるけど?」
続けてディアッカもハハハッと肩を震わせる。
言われたニコルは一瞬顔をしかめたものの、反論せずに受け流した。しかし模擬戦どころか機体データの解析もまだ完全に終わっていないのは気がかりだ。
「アスランはどう思います? 何か作戦を……」
「……ん?」
そして右隣にいたアスランに声をかけてみるが、目線を送った先に居たのは心ここにあらずと言った具合でぼんやりしているアスランの姿。
「アスラン?」
「あ、ああ……うん、何とかなるだろ」
訝しんで顔を覗き込めば、あまり話したくないという具合にそっぽを向かれてしまった。
どうも様子がおかしい。
そう感じたニコルだったが、今は芽生えた違和感を追求している暇などあるはずもなく着替え終わると同時にハンガーへ駆け込む。
同じ頃、アークエンジェル艦橋ではひたすら進路モニターを睨む艦長マリューの姿があった。艦内はいまだ警戒態勢が敷かれている。
幸いにもヘリオポリス崩壊のゴタゴタでザフト艦がこちらをロストしてくれたとはいえ、あのような形でヘリオポリスを離脱してしまい補給もままなっていない。
故に直接大西洋連邦月本部への進路を取るのは不可能に近く、アークエンジェルはこのL3に存在する同盟軍のユーラシア連邦軍事要塞・アルテミスへと入港することを決めたのだ。
「これで上手く行ってくれるといいけど……」
月本部への進路へデコイを撃ち出し、慣性移行でザフト艦の眼を眩ませる作戦を取ってはいるが、向こうがそれに気づいていない補償はない。
「またアレに乗れって言うんですか!?」
マリューが艦長席で神経を削らせている頃、居住区ではフラガの来訪にキラが声を張り上げていた。
「いやぁ……そう言ってもねぇ、この艦は俺とお前で守るしかないんだよな」
パイロットスーツを着てコクピットで待機しろ、との艦長命令を伝えに来たフラガに激昂したのがキラが大声をあげた理由だ。
「クルーゼのヤツぁ、あんなデコイに引っかかってくれるほどヌルイ男じゃないぜぇ? アイツのしつこさは俺が補償する!」
「……知りませんよ、そんなこと」
キラがそっぽを向き、茶化してみせたフラガはハハハと苦笑いを漏らす。
「でもよ坊主、こうなった以上は逃げててもなんも始まらないんだ。やれる力があるならやるべきだと俺は思うがね」
「僕は……こんな事がいやで中立のオーブにいたんだ」
「んで、そう言い続けてここで死ぬか?」
瞳を伏せたキラの真上からフラガが声を強め、二人を直ぐ傍で見守っていたトール達もビクッと肩を震わせる。
「わ……私……!」
少しの沈黙をやぶり、細い声でフラガに声をかけたのはミリアリアだ。
「私、これでも工業科の学生なんです。戦艦は扱ったことないけど機械の操作は慣れてます。私にも何か出来ることはありませんか?」
「ミリィ……」
隣にいたトールが唖然として目をパチクリさせるも、彼女は穏やかでいて申し訳なさそうな視線を彼に送った。
「だって、いつも私たちキラに守って貰ってばかりで……」
同調を促すような目にトールも軽く頷く。
「そうだな……課題でも実習でもいっつもキラに助けてもらってばっかだった」
ハハッ、と今はもう取り戻すことの出来ないヘリオポリスでの思い出を一瞬頭に蘇らせたのだろう。苦笑いののち、切り替えたようにトールも勢いよく手を挙げた。
「ハイハーイ! 俺、俺もやります! やらせてください!」
「トール、ミリアリア……」
突然の二人の提案にキラもまた驚きに瞳を開いた。
「お、俺も……やるよ……!」
トールとミリアリアの発言にオドオドしていたカズイも拳を震わせながら声を絞り出せば、フラガが3人に駆け寄って勢いよく肩を叩き、誉めるようにして頭を撫でる。
「よーし、よく言った坊主達!」
そうして艦長に話をつけにフラガが3人をつれてブリッジへ向かうのをキラは黙り込んだまま見送った。
ふいにヘリオポリスでの戦闘を思い出して、キラは強くかぶりを振る。
ジンのコクピットにビームサーベルを突き立てた事。
あの時は無我夢中だったが、アークエンジェルへ帰還したと同時に身の毛がよだった。――その戦慄は今なお続いている。
「いや、あれはただの機械なんだ……! モビルスーツなんだ!」
出撃したくて出撃したわけではない。
友達を守るためなのだ。仕方なかった。
仕方なかったのだ、と自らの行為に対する理由をひたすら求める。
『キラ……やはりキラなのか!?』
けれども、どれほど理由を探しても否が応でも旧友の声が耳に甦って消えてはくれない。
「あれはモビルスーツ……なのに、なんでアスランがいるんだよぉ」
呻くように唇を噛みしめて、キラは居住区の壁の力無くもたれ掛かった。
アスラン。
アスラン・ザラ。
月面都市コペルニクスの幼年学校で共に学んだ幼なじみが何故ザフトなどにいるのか。
卒業前にアスランがプラントへと戻って数年、あれから一度も会うことはなかったというのに何故あんな場所で再会してしまったのか。
アスランは、また戦闘になれば来るのだろうか?
このアークエンジェルを沈めに――と、瞼をきつく閉じてそんな事を思う。
「ね、ねぇ……みんなは?」
ふと、壁にもたれ掛かっていたキラの耳に微かに怯えたような声が届いた。
顔を上げると、赤みがかったセミロングの髪。青を含んだ薄いグレーの瞳が印象的な美しい少女の姿が映る。
「フレイ……アルスター」
フレイは同じ工業カレッジの学生であったが、キラ達の一級下だった。
ヘリオポリス最初の戦闘でガレキに足を取られ、気絶していた所をストライクが救助してそのままアークエンジェルに乗り込んだのだ。
持ち前の美貌も手伝い学園のアイドルだったフレイの事をキラは良く知っていたが、面識はゼロに近い。
「あ、みんなは……艦の仕事を手伝うってブリッジに行ったよ」
「えっ!? じゃあ、みんな戦うの?」
「うん、やれることをやる、って……」
フレイが驚いたように口元に手を当てるのを見ながら、キラは先程の出来る力があるならやるべきだと言ったフラガに応えた友人達を浮かべて自嘲気味に俯いた。やれることをやる。ならば自分はどうするべきなのか、と。
「ヴェサリウス180度回頭。――前方に足つき、距離5000です」
「よし、モビルスーツ隊を発進させろ!」
一方のヴェサリウスでは、オペレーターの声と同時に艦長のアデスがそう指示を出していた。
クルーゼの方は、既に戦闘態勢に入っているというのにそう感じさせないほど落ち着いた様子で艦長席の背もたれに手をかけながらアカネの方を振り返った。
「足つきの後方からはガモフが追ってきている。……ここであれが落ちれば君の出番はないな」
流石に現段階で出撃できるはずもなくブリッジに入ったアカネだったが、アカネとしてはここであの戦艦が落ちてくれてお役御免になるのが一番良い。
気がかりがあるとすれば、それはアスラン――そしてストライクを駆るキラ・ヤマトの事だ。
そんなことを思いつつクルーゼへの返答を渋っていると、ブリッジのモニターに大きくアスランの姿が映し出された。
クルーゼはアカネからモニターに視線を移すと、画面越しにアスランへ声をかける。
「アスラン……先刻の言葉、信じるぞ」
「……ハッ」
発進スタンバイに入ったアスランはどこか歯切れの悪い返事と共に出撃していく。
アカネもそれを見送って、ふと呟いた。
「……ガンダムだけで大丈夫かしら」
「心配はいらんさ、4人とも赤を与えられたエースなのだからな」
クルーゼは相も変わらず含みのある物言いで答えた。
「艦長! 前方にナスカ級1、モビルスーツ発進を確認。……距離5000です!」
「後方にも……ええと、ローラシア級!」
アークエンジェルのブリッジでもザフト艦の動きを捉えて通信席に座るチャンドラ伍長の声が響くと、続いて慣れない手つきで伍長とは背中合わせの通信席に納まったカズイが声を震わせた。
マリューは歯軋りしながら肘置きに乗せていた手を強く握りしめる。
「読まれていたってわけね……! デコイに引っかかったふりしてレーダー圏外から先回りなんて……流石ラウ・ル・クルーゼ!」
しかし憤っている間もなく、更なるチャンドラの声がブリッジを震撼させる。
「機種特定、モビルスーツはXナンバー……デュエル、イージス、バスター、ブリッツです!」
「あの4機!? チッ、奪った機体全てを投入してきたということか!」
CICの中心でナタルが強く眉を寄せた。
「第一戦闘配備! 第一戦闘配備! パイロットは至急搭乗機へ!」
警報と共に艦内放送が流れ、ぐずっていたキラはその音に呼応するように勢いよく顔を上げた。
――トール、ミリアリア、カズイ!
あれこれ考えるよりも、いざ戦闘になると思ったら真っ先に友人達の笑顔が浮かんだのだ。
「僕、行かなきゃ……!」
傍にいたフレイに告げると、キラは一目散にハンガーへと駆けだした。
「おお、やっとやる気になったか」
キラが一般兵用の白と橙のパイロットスーツに着替えてハンガーへと出ると、自分専用の紫と黒のパイロットスーツに身を包んだフラガが声をかけてきた。
一瞬、眉をひそめたキラはパイロットスーツの首元を閉めつつ呟く。
「この艦には大事な人達が乗ってますから」
「まあ理由はなんでもいいさ。ハッキリ言って今の俺たちは戦力的にかなり不利な状況にいるわけよ、そこで、だ」
「え……?」
ガシッ、とキラの肩を豪快に抱いてフラガは今回の策を耳打ちした。
「メビウス・ゼロ式フラガ機、カタパルトへ。発進スタンバイ――」
そうして発進していくフラガに次いでキラもコクピットで待機する。
「キラ!」
敵モビルスーツを引きつけておけ、とのフラガの指示を頭で復唱しているとモニターに良く見知った姿と声が届いた。
「ミリアリア!?」
「以後私がモビルスーツ及びモビルアーマーの戦闘管制担当となります。ヨロシクね」
ミリアリアはオペレーター席に収まったのだろう。聞き慣れた明るい声に、緊張していたキラの顔がほころぶ。
ストライクは先のヘリオポリスでの戦闘と同様、エールストライカーを装備するとミリアリアの誘導に従いリニアカタパルトから発進した。
一方のヴェサリウスから真っ先に飛び出て先頭に立ったモビルスーツはイザークのデュエルだ。すでにアークエンジェルは目前だ。
「一気に足つきに取り付いて落とすぞ、遅れるなよ!」
「敵艦の性能が分かっていません、接近は危険です!」
「相変わらずだねぇニコルちゃん、そんなに怖いならそこで黙って見てな」
イザークに慎重論を唱えたニコルをディアッカが一蹴して彼もまたアークエンジェルへと突っ込んでいく。
「ディアッカ! あなたの機体は前に出るタイプでは――」
「ごちゃごちゃと煩いんだよ腰抜け!」
「くっ……!」
更にイザークにも言葉を遮られ、ニコルは眉を寄せながらも二人の後方についた。
敵艦の性能どころか自分の機体さえこうしてキチンと動かしてみるのは初めてなのだ。
あまり無茶はニコルとしては望むところではなかった。
「アンチビーム爆雷! 同時に主砲用意、撃てーッ!!」
アークエンジェルのCICでは指示を出すナタルの声が忙しなく飛んでいた。
左右両方の舷に格納されていた主砲が展開され、現れた経口が呻るように火を噴く。
イザークは自分目掛けて発射された主砲を避けて後方に下がり、その間を縫うようにしてバスターは94mmの高エネルギー収束火線ライフルを放つ。――が、周辺にばらまかれた粒子によりビームは緩和され、なんとアークエンジェルに届く前に掻き消されてしまった。
バスターを駆っていたディアッカは予想外のことに驚いて額に汗を浮かべる。
「アンチビーム粒子かよ……大した武装じゃないか」
「ブリッジ付近は弾幕で近づけそうもありませんね……艦底部から行きます、援護を!」
「あっ、オイ、命令すんな!」
鉄壁の守りを見せたアークエンジェルを見てニコルはそう判断し、ブリッツをアークエンジェル底部へと沈ませた。
ブリッツのレーザーライフルは50mm。
つい今しがたのバスターの攻撃が効かないのであれば、より付近から撃ち込まないと厳しいだろう。
考えながらアークエンジェルの下へとブリッツを潜り込ませたニコルの目に映ったのは、迫り来るバルカンの渦だ。
「艦底部に対空バルカン!?」
慌てて右腕のシールドを翳し、凌ぐ。
本来裸同然のはずの艦底部にこんな武装が付いているとは――などと分析する間もなく眼前の戦艦は眼にも止まらぬ速さでロールし始め、舷上部の砲台を回旋させてこちらに照準を向けてきた。
「――なんて艦だ!」
とても戦艦とは思えぬ驚異の機動力にブリッツは逃げるようにして射線上から離れる。
「ディアッカ!」
「わーってるって。あんまり騒ぐと手元が狂って味方に当てちゃうかもよ?」
援護しろと言ったのに、と言いたげなニコルの声におどけて返事をしたディアッカは再び高エネルギーライフルのトリガーをアークエンジェル目指して引いた。見る者を圧倒するような熱の渦だ。手応えを確信してディアッカは声をあげた。
「よっしゃ、ヒット――ッ!?」
しかし、確かに掠ったというのにアークエンジェルの装甲はその熱をモノともせずに傷一つつかない。ディアッカの叫びは驚愕で喉が収縮し途中で途切れてしまった。
こりゃとんでもない艦だ、と彼ですら思う程に今まで見てきた戦艦とは比べものにならない性能だった。
「ラミネート装甲、廃熱は!?」
「まだいけます!」
アークエンジェルブリッジでは、バスターの砲撃に艦体が揺れはしたものの今のところは何とか4機相手に対応できていた。
「ストライクは?」
「イージス、デュエルと交戦中です!」
ブリッジモニターの光学映像に戦闘中のストライクが映し出される。2機相手に手一杯の様子だ。
前方からはナスカ級、後方からはローラシア級が迫っていてそう時間もない。
出来ることなら早々にこの宙域を離脱したいアークエンジェルだったが、今はストライクとフラガのメビウス・ゼロの活躍に期待するしかない。
キラはというと、真っ先にこちらに向かってきたイージスを迎え撃つつもりでビームサーベルを抜いていた。
あのイージスに乗っているのはアスランなのだ。――知りつつも覚悟を決めたキラだった、が、アスランは意外にもストライクをスルーして自分に戦闘の意志が無いことをアピールしてきた。
「キラ……!」
そしてイージスからストライクに通信が入ってくる。
「アスラン?」
「キラ、どうしてお前がそんなものに乗っている!? 何故お前がナチュラルなんかの味方をする……!」
「ち、違う、僕は連合軍じゃない……!」
「なに!?」
「僕はヘリオポリスにいたんだ。でもザフトが攻撃してきて……君こそなんであんな所に! 何でザフトなんかにいるんだよ!?」
「状況も分からぬナチュラル共がこんなもの作るから……」
映像回線に映るアスランの瞳が歪んだように見え、キラは首を振って声を強めた。
「ヘリオポリスは中立だ! それにあの艦には友達が乗ってるんだ……!」
そう言った所で、ピピ、と警戒音がなった。
アークエンジェルの主砲を避けたデュエルがこちらへ転進してきていたのだ。
「X-103……デュエル!? じゃあ、これも奪われた機体か!」
ライブラリ照合でそれを確認して、自分へと斬りかかってきたデュエルのビームサーベルをシールドで受け止める。
エネルギーが弾け、拡散する。
振動が伝わり互いに何とか踏ん張ったが、デュエルは間髪入れず頭部のバルカンをストライクに向かって撃ち付けてきた。
フェイズシフトで守られていても、被弾の衝撃はゼロではない。うめき声をあげながらキラはレバーを握りしめた。なんとか姿勢を保つ。逃げても、デュエルはさらに追ってくる。
「キラ……!」
そんなデュエルとストライクの攻防をアスランは歯痒い思いで見ていた。
「出てこないみたいね、エンデュミオンの鷹」
ヴェサリウスではアークエンジェルとの間合いを縮めつつ4機の動きを追っていた。
「あれはまだ修理中という事ですかね?」
「ふむ……」
アデスの声にクルーゼも顎に手をやる。
ヘリオポリス最初の戦闘でクルーゼはアークエンジェルの護衛艦を沈めた際にフラガのゼロを小破させていた。故にアデスもモビルアーマー発進の兆しがないのを修理中だと判断したのだ。
アカネもそれに考えを巡らせていた。
エンデュミオンの鷹――連合の英雄的エースパイロット。主力モビルアーマーであるメビウスにガンバレルという有線式の小型兵器を数基装着させた機体、メビウス・ゼロに唯一乗ることの出来る男である。
名をムウ・ラ・フラガといった。
かつてはメビウス・ゼロ搭乗者のみで組んでいた隊もあったが、グリマルディ戦線でフラガを残して全員が戦死したことはアカネも聞き知っていた。
「オールレンジ攻撃は、いくらモビルスーツでも対応は難しいでしょうね」
ただでさえ全方位の宇宙で、ガンバレルも付いているという事はほぼ砲撃をかわす手だてがないということだ。
暗に手強い相手だと言ったアカネにクルーゼが視線を流す。
「君は勝つ自信がないと?」
「実際、あれに痛い目合わされてるでしょザフトは……そんな機体、本当に出さないかしら?」
アカネは片眉を寄せてコメカミに指を当てる。
ゼロの破損の程度はアカネには分からなかったが、この状況でエースが出ないのは自殺行為に近い。破損具合と相談しつつ、出撃するのではないか?
「艦長、足つき射程圏内に入ります!」
「よし、主砲準備だ」
オペレーターの声にクルーゼが突如指示を出した。
「ちょ……!?」
思考を巡らせていたアカネは唖然としてクルーゼに抗議の目を向け、アデスも頬を引きつらせた。
「……味方のモビルスーツが展開中ですが」
「自軍の艦砲に当たるマヌケなら赤は着ていないさ」
が、クルーゼは冷たく言い放って再度指示を出す。
そして照準を合わせている様子を見て、アカネはハッとして身を乗り出した。
こちらが相手を射程内に入れると言うことは、相手もこちらを射程内に入れるということ。
「おかしい、向こうも捉えてるはずなのに撃ってこようとすらしてない!」
「アデス! 機関最大、艦首下げ! ピッチ角60!」
アカネが声をあげたのとクルーゼが指示を出したのはほぼ同時だった。
「ハッ――!?」
何の指示か分からないアデスがクルーゼの方を振り返った瞬間、オペレーターが金切り声を上げた。
「本艦下方に熱源! これは……モビルアーマーです!」
「なにッ!? ――操舵士!」
「ハッ!」
「総員、衝撃にそなえー!!」
慌てて操舵士が先程のクルーゼの指示通りに艦を動かす。
「うおりゃああああーーー!!」
だが時既に遅し。
慣性航行でヴェサリウスへ向け隠密潜行していたフラガのメビウス・ゼロは4基のガンバレルを操り、多方面に集中砲火を浴びせた。
急な事態に何の用意も出来ていなかった艦体は揺れ、クルーゼはアデスの艦長席の背を掴んで飛ばされるのを防ぎ、アカネはしゃがみ込んでブリーフィングデスクの角を掴んで何とかそれを凌いだ。
「はっはー! いよっしゃああああ!!」
フラガは作戦成功の歓喜に震え、ヴェサリウスへハーケンを撃ち込んだ反動を利用してその場を急速離脱した。
「撃ち落とせええ!!」
アデスが艦長席から怒鳴ったが、相手は高機動のモビルアーマー。もはや追撃は不可能だ。
アークエンジェルの方はフラガからの作戦成功との入電に沸いていた。
「これを逃さず、ローエングリンを撃ちます!」
フラガが隠密潜行していたために陽電子砲を使うのを躊躇っていたマリューだが、早速フラガに射線から離れるよう打電して用意にかかる。
「第2及び第3エンジン被弾、艦の推力低下!」
「……ええい、ムウめ」
被害状況を聞きながらクルーゼは歯ぎしり混じりに人には聞こえない程度の声で唸った。
「アデス、ガモフに打電! 離脱する!」
そしてこの状態で撃ってこられたら一溜まりもない事を確信して射程圏内から離れるよう指示を出し、アークエンジェルの進路上からの離脱を計る。
「ガンダムは……!?」
何とか起きあがったアカネがモニターを凝視すると、依然交戦中との熱源を示すデータが表示されていた。
「ヴェサリウスが被弾……!?」
アークエンジェル攻略に努めていたニコルは、ヴェサリウスからの突然の入電に攻撃の手を止めた。
隊長は無事だろうか、艦長達は、アカネは……とそんなことを思って額にイヤな汗が滲む。
と、同時にアークエンジェルの後方から接近していたガモフが帰還命令を打電してきた。
それに動揺したのはイザークだ。
「帰還命令だと……!?」
攻撃を仕掛けようとするもストライクはその機動性を活かしての回避に勤しんでおり、なかなか落とせない。
「このまま手ぶらで帰れるかよっ!」
苛立つイザークとは裏腹にアスランの方は帰還命令に安堵していたが、命令無視して再びストライクへ向かおうとしているイザークを見て焦って止めに入る。
「イザーク、撤退だぞ!」
「うるさいっ!」
しかし軽くあしらわれ、低く唸った。
ニコルはというと、イザークの援護に向かっていた。
イザークが手柄を立てようという焦りから命令無視しているのだと悟ったニコルだったが、放置というわけにもいかないからだ。
イザークと意見を同じくするディアッカもそれに次ぐ。
「3機も……!?」
今までデュエル相手に逃げ回っていたキラはこちらへ向かってくるブリッツとバスターに驚き、どう対処して良いか分からずビームライフルを手当たり次第に連射して威嚇した。
シールドを持たないバスターは若干下がったが、デュエルとブリッツはまるでそんな下手な攻撃など効かないとばかりに器用に避けつつシールドで受け止め追いつめてくる。
「キラッ……!」
ストライクを狙う同僚を見つめながら、アスランはたまらずキラの名を呼んだ。
とても静観していられる状態ではない。
「艦長、ストライクのパワー残量が気になります、帰還命令を!」
「分かってるわ、ストライクを援護して! あの4機を引き離すのよ!」
光学映像にキラの追いつめられる様がまざまざと映り、ナタルはストライクの周りに群がるモビルスーツを引き離そうと多数の砲撃を鋭く連射した。
が、敵もザフトの精鋭部隊。
そう簡単に意図通りにはいかず、キラは身を粉にして自身を守るしか術がない。
「動きを封じろ、ディアッカ、ニコル!」
イザークの指示通り、ディアッカとニコルはストライクの退路を完全に塞いでいる。
キラはというと、もはや多方面から繰り出される攻撃を凌ぎきるのに精一杯で全身にぐっしょりと汗をかいていた。
呼吸が段々と荒くなり、連なるように心臓がバクバクと暴走を初めて焦りが生まれる。
切り抜けようにもどこへ動こうとバスターとブリッツがそれを許してくれない。
「動きに、付いていけない……!」
これが正規の軍人とただの民間人の差なのか。
なす術の無いまま、キラはこれ以上ないほどに荒れ狂う自分の呼吸を聞いていた。
「マードック軍曹を呼びだして! ストライカーパックを射出するわ!」
何よりストライクのパワー残量を心配していたマリューは突然そんな命令を出した。
「敵に撃ち落とされます!」
「やるしかないの! あの4機相手にフェイズシフトが落ちればひとたまりもないわ……! タイミングはあなたに任せます、バジルール少尉」
「……ハッ」
言われてナタルも用意にかかる。
「……死ぬ……のか、僕は」
激しく乱れた息に伴い、額から汗が幾筋も伝うのをキラはレバーを握りしめながら感じていた。
そんなパイロットの心情など知るはずもなく、イザークはストライクへの攻撃の手は休めずに黙りを決め込んだまま援護に来ないアスランに怒声を飛ばす。
「アスラン、何をしている!?」
デュエルが接近してくる。
死――?
ここで死ぬのか?
いや、まだだ!と半ば自棄でデュエルへ向けライフルを構えたキラだったが、撃とうとした瞬間に機体から突如にして鮮やかだった色が落ちた。
「――え!?」
引き金を引いても、ライフルからビームが出ない。
パワー残量が底をついたのだ。
「もらったーー!!」
その機を逃さず、イザークは素早くデュエルの背からビームサーベルを抜いてストライクに一閃浴びせようと襲いかかった。
キラの瞳にはメインカメラ越しに斬撃のモーションを繰り出すデュエルの姿が鮮明に映り、反射的に強く目を閉じた。もうダメだ、と心の底で観念した。
しかし、数秒経っても身体に異変がない。
なんだ? 恐る恐る目を開けてみると、あろう事かストライクのボディはモビルアーマーに変形したイージスのクローに組み付かれていた。
「何をするアスラン!」
イザークは突然の同僚の邪魔立てに頭に血を昇らせて叫んでいた。
「この機体、捕獲する」
「何だとっ!? 命令は撃破だぞ!!」
「捕獲できるなら捕獲した方が良い。撤退する」
「アスラァァン!!」
イザークの激昂を無視して、アスランはストライクに組み付いたままキラごとガモフへ連れ去ろうとしていた。
驚いたのは、キラの方だ。
「離せアスラン!」
「お前をこのままガモフへ連行する」
「じょ、冗談じゃない、僕はザフトなんか行かない!!」
「キラ!!」
素早くデュエルからストライクへ通信を切り替え、アスランは手短に伝えてキラの言葉を制止した。
「一緒に来るんだ……でないと俺はお前を撃たなきゃならなくなるんだぞ……!」
「アス……ラン」
キラの耳に届いたアスランの声は確かに震えており、少なからずキラは動揺する。出来るならばキラ自身もアスランとの戦闘など望んではいない。
「……血のバレンタインで母も死んだ」
「えっ!? レノア……おばさんが?」
苦しみを吐露するようなその声に、何とか抗おうとバーを動かしていたキラの手が止まる。
レノア・ザラ。アスランの母。
コペルニクスにいた頃、レノアは仕事で忙しくしていたものの偶にアスランの家で会えば優しく迎えてくれ、綺麗な母親を持つアスランを羨んだ事も一度や二度ではない。急に知らされた事実に愕然としてキラは呟いた。
「そんな……」
「だから俺は……お前まで失いたくないんだ」
「でも……でも僕は」
「お前はコーディネイターなんだ、俺たちの仲間だ! ナチュラルの艦にいる理由はない!」
「アスラン……」
コーディネイターだ、との言葉がキラの身に鋭く突き刺さる。
確かに、いくら中立国の人間とはいえ連合艦であるアークエンジェルのクルー全てが自分を肯定しているわけではないことはキラも肌で感じていた。
何も連合のためにこんなモビルスーツに乗って戦う事はない。
だが、ずっとナチュラルに混じって生活してきたキラにとってコーディネイターだから仲間だと言われてもどこかピンとこないのもまた事実だ。
『キラ……』
ふと、キラ、と自分を呼ぶトール達の声が耳に届いた気がしてキラはハッとした。
ヘリオポリスに移り住んで、ずっと共に学び、語り合ってきた大切な友人達。
互いにコーディネイターだ、ナチュラルだとの垣根を越え純粋に友情を育んできた。
「ごめん、アスラン」
きっとアークエンジェルでは必死になって心配してくれてるに違いない、とキラは霧が晴れるような面もちで通信モニターのアスランを見た。
「あの艦には……守りたい人達がいるんだ!」
「キラ……!?」
説得に応じようとしないキラにアスランが軽く苛立ちを覚えたと同時に、イージスのモニターは警戒音を鳴らした。確認する間もなく、イージスは背中から無数の弾丸を浴びる。
「ぐ……っ、モビルアーマー!?」
フェイズシフトで実体弾は防げるとは言え、衝撃までは吸収してくれない。
たまらずアスランは後ろ髪引かれる思いでストライクから離れた。
「無事か坊主!」
「フラガ大尉……!」
イージスをストライクから引き離したモビルアーマーの正体はメビウス・ゼロ。ヴェサリウス奇襲から帰還したフラガが援護に入ったのだ。
「今のうちに戻れ、こいつ等は俺が引きつける」
「はい!」
フラガの指示通りその場を離脱したキラにミリアリアから通信が入ってきた。
ソードストライカーを射出する、換装せよ。
そんな内容だった。
すぐさまキラは既にバッテリー切れで使えないエールをストライクから外す。
「ソード……きた!」
そしてカタパルトの方角からこちらに向かってくるソードへと急いだ。
「換装などさせるかよーッ!」
「イザーク、よせっ!」
フラガのゼロを振り切り、アスランの制止を無視してデュエルがストライクに突っ込む。
アークエンジェルのクルーはただ固唾を呑んで光学映像を見守るしかなく、ミリアリアは両手を握りしめてキラの無事を祈った。
緊張が走る。間に合うか否か。デュエルがビームサーベルを振り上げ、ストライクはその身体にバックパックを取り付ける。
「落ちろォーーー!!」
「うおおおおおお!!」
バッテリーの回復したストライクは無我夢中で最大の武器であるレーザー対艦刀を振り下ろした。
狙いなど定める余裕はなかったが、確かに何かに当たった感触。
「なに……ッ!?」
その切っ先はデュエルの右肩辺りを掠めており、溶けた腕が辺りに散った。
「こいつ……っ!」
想定外に右肩をやられイザークは怒りに震えた。憤りのままになおもストライクに向かおうとしたが直ぐにアスランが止めに入ってくる。
「イザーク、撤退だ!」
そんな言葉など聞けるかと無視を決め込もうとしたイザークだが、それを止めたのはニコルの一言だった。
「もうこれ以上はこちらのパワーが持ちません。先程のストライクの二の舞ですよ!?」
反論しようのない一言。
「……くそっ!」
イザークは苛立ちをぶつけるようにモニターを殴り、唇を噛みしめながら機体を反転させた。
そうして撤退していく4機を見送って、対艦刀を闇雲に振り回し続けながら息を荒げていたキラはようやく深呼吸をついた。
ガモフへと戻ったイザークは、ロッカールームに入るなりアスランに掴みかかった。
「貴様ッ! どういうつもりだ!?」
邪魔立てされたうえ、危うく死にかけたのだ。
短気なイザークにこの状況で怒るなという方が無理な相談だった。
「とんだ失態だよね、アンタの命令無視の所為でさ」
アスランに殴りかかろうとするイザークに混ざりはしないものの、ディアッカもロッカールームの隅でアスランに嫌味を飛ばした。
「何とか言えよ!!」
胸ぐらを掴んでもなお顔を背けたまま口を開こうとしないアスランの背をイザークがロッカールームの壁に打ち付けていると、3人に遅れてハンガーから戻ったニコルがロッカールームに入ってきた。
「な、何やってるんですか!」
一触即発な同僚の姿を目にしたニコルはギョッとして止めに入る。
「やめてください、こんな所で!」
「4機でかかったんだぞ!? こんな屈辱があるか!」
「でもここでアスランを責めても仕方ないでしょう? それに最初に撤退命令を無視したのはあなたですよ、イザーク」
引き離そうとしてきたニコルに不満を漏らしたイザークだったが、そう反論のしようもない言葉と共に逆に睨まれてクッと喉を詰まらせる。
「あーあ、だけど俺たちこれで本国じゃ良い笑いモノだよね。仕方ないで済まされちゃたまんないっつーの」
同じく反論は無駄だと感じたディアッカだったが、黙ったままでは引き下がれなかったのだろう。アスランに向けて捨て台詞を吐いてからロッカールームを出た。
「くそっ!」
イザークもパイロットスーツのヘルメットを八つ当たり気味にロッカーの壁に向けて力一杯投げ捨てて場を離れた。
ニコルはホッと息を吐くと改めてアスランの方を向いた。
イザークほど感情的になりはしないが、ニコルにも思うところはある。
「今日のあなたは様子が変です、アスラン」
アスランはなおも俯いたまま、黙って目を伏せていた。
「出撃前からぼんやりして、何か――」
「もう放っておいてくれないか、ニコル」
しかし言葉を続けようとしたニコルを遮り、アスランは俯いたままロッカーの壁を蹴ってそのままニコルの横をすり抜けていった。
そして廊下へ出て一人になると、ドン、と力任せに右手で壁を叩く。
反動で身体がふわりと左側へと移動した。
「……キラ……」
キラをあの艦から引き離す事が出来なかった。
任務の失敗よりもその事が頭を支配して、その憤りのやり場のなさをただ拳にぶつけるしかなかった。
――――to be continued...
おい感想はさむ隙を与えてくれよと嬉しい悲鳴
前の人が投下したばかりだから、もうちょっと間を置いても良かった
被せてるように見えなくもない
ザクレロが好きだ
>>350続き。
PHASE - 007 「生きていてくれ」
プラント最高評議会からの出頭命令をクルーゼが受け、ヴェサリウスは帰還を迫られていた。
「議会はヘリオポリス崩壊で今頃てんやわんやと言ったところだろうからな」
「では、艦の応急処置が済み次第本国に帰還ということで……」
ブリッジでクルーゼとアデスの会話を聞きながらアカネもホッと胸を撫で下ろす。これでプラントに行けば、ニホンとの連絡の取りようもあるはずだ。
「足つきは引き続きガモフに追わせる。アスランを呼び戻せ。それと……特尉を向こうへ」
「……え?」
ようやく帰れる。――そう思って安堵していたアカネはクルーゼの一言に心情を一転させた。
――こちらにも都合というものがあるのだよ。
「そんなこと言ったって……」
納得行かないまま、アカネは数少ない自分の荷物を持ってアストレイに乗り込み機体ごとガモフの方へ移動した。
アストレイはまだ戦闘には出せない。故に追撃戦に参加するのは無理があることをクルーゼも分かっているだろうに、何故ガモフに行かねばならないのか。
疑問は尽きなかったが、こうして移動させるだけならアストレイの操作はさほど難しくないな、などと思いつつアカネはガモフのハンガーへ機体を収める。
コクピットから降りれば、早速整備兵達が先の戦闘で傷ついたデュエルの修理やらに追われていて忙しなく働いている光景が目に飛び込んできた。
そう、デュエルは右腕を溶断されたのだ。データで見た戦闘の詳細が脳裏に浮かび、アカネの瞳を曇らせる。
生々しく傷ついた機体に乗って戦っていたのはまだ年端もいかぬ少年達。そう思えば気分が良いはずもない。本来なら彼らは守られるべき立場だというのに。
「一応、引き続き機体の調整しとかなきゃな」
何せヴェサリウスが本国に戻ってまたガモフと合流するまでには最低一週間はかかるだろうと予測される分、絶対に出撃の機会がないとも言い切れない。
自分は同盟国の人間。ならば同盟国の人間としてこの艦を守る義務が本来ならばあるのだから、と後方に格納したアストレイを振り返って気を引き締める。
しかしながら、もしガモフから出撃となれば再度ここの整備兵達とコミュニケーションを図らねばならないのかと思うと戦闘に出るよりそちらを重荷に感じてドッと疲れてくる。
デューイも連れてくるべきだったかな、と忙しそうな整備兵達を横目で見つつ、荷物を持ってそっとハンガーを抜けた突き当たりで青い髪が視界に入った。
こちらに向かってくる赤服の少年にアカネの眉がピクリと反応する。
「……アスラン」
そのまま交差して通り過ぎる前に、アカネは少年に声をかけて前へ進む身体を止めた。
呼び止められれば身体は反応するものなのか、アスランも壁に手を当てて立ち止まる。
「先の……戦闘データを見たわ」
微妙にトゲを含んだアカネの声に、冴えない顔をしていたアスランの顔が益々曇った。
「クルーゼ隊長から話は聞いたから、君の気持ちも分かるけど……」
「だったら黙ってて下さいよ」
アカネの言わんとしている事を悟ってか、アスランが言葉を遮る。
そのやさぐれた態度にアカネは更に眉間に深い皺を寄せた。
「君は隊長に誓ったんでしょう? "討てる、闘える"って。隊長もだから君を信じたのに……。デュエルが落とされてたら君はどう責任を取るつもりだったの?」
「そ、それは……だけどあの時はああするしかなかったんだ」
「戦えないならそう隊長に申し出ないと、そのしわ寄せは味方に来る事になるのよ? もし、他のパイロットに何かあったら――」
「うるさいッ!!」
声を抑えて話していたアカネをアスランは畳みかけるような大声でかき消した。
「ナチュラルなんかに……俺の気持ちが分かってたまるか」
そして呪いの呪文でも唱えるような声色で呻いてアカネを睨むと、床を強く蹴ってハンガーへと急ぐ。
反論の隙も与えられず、アカネはハンガーへと消えた背を眉を寄せたまま見送った。
今更ナチュラルというだけで罵倒されるのに驚きはしない。
アスランに自分がナチュラルだと名乗った覚えはなかったが、誰かに聞いたのであろうからその事も指して疑問に思わなかった。
ただ、ナチュラル、と蔑んだ語意とアスランの瞳が他のザフト兵とは違って感じた。
深い憎しみと哀しみを秘めたような、そんな眼だった。
何だか本当にドッと疲れが襲って深いため息をつく。
クルーゼから解放されたのはありがたかったが、皆を律する人間がいないというのもまた困った事なのだ。
同盟軍の艦内でまさか何もないとは思うが、気の休まる暇がない、と手に持った荷物を背負い直して艦の奥へと向かう。
まずは艦長に挨拶をしなければならない。
ブリッジへあがってドアを開き中へ入ると、ヴェサリウスのブリッジと同じような作りのブリーフィングデスクを囲む見知った少年達いた。そしてアデスと同じ黒い軍服に身を包んだ豊かな顎髭が印象的な中年男性の姿も見える。
おそらくは艦長だ、と判断してそちらへ向かう。
「貴様……!?」
「アカネさん?」
驚いた様子のニコルに軽く目線を送り、何か言いたげだったイザークを無視して艦長の前に進み出て姿勢を正し、アカネは慣れたように敬礼をした。
「ニホン自衛軍、アカネ・アオバ特尉であります。クルーゼ隊長よりこちらへ乗艦との命を受け、参りました」
「うむ。話は聞いているよ、艦長のゼルマンだ」
正確には偶然救助されたらい回しにされているだけだが、と内心苦笑いを漏らしたアカネだが色々と面倒の起こらぬよう今はこの艦長を上官だと思うことにした。
「ニホン自衛軍……!?」
「特尉だと!?」
イザークとディアッカはヴェサリウスの休憩室に突然現れた妙な女がザフトの軍服を着て現れた事に面食らっており、更にはその二人のやりとりを驚きのまま声をあげた。
ああ、とニコルが説明する。
「二人には話していませんでしたね。クルーゼ隊長は彼女にショーンが見つけてきた機体を任せるおつもりのようですよ」
「何だと……!?」
ディアッカはヒュウと口笛を鳴らし、イザークは瞳をひんむいて食ってかかる。
「何の冗談だ、ニコル!」
「……パイロット、足りてないんでしょ?」
君たちみたいな少年が乗ってるくらいだから、とはアカネは続けなかった。
が、イザークは彼女の含んだような声音に休憩室でのやりとりでも思い出したのだろう。一気に頭に血を昇らせたのか声を荒げた。
「言ったはずだ、ザフトにはナチュラルの役立たずなど――」
「イザーク、止めなさい」
「うるさい! 貴様の指図など受けん!!」
止めに入ろうとしたゼルマンをも激情のままに一蹴してみせたイザークに今度はアカネの頬がヒクついた。
どう見ても三尉程度の一パイロットが佐官クラスにこの態度。
世界広しと言えどここでしかお目にかかれない光景だろう、などと人ごとのように瞳に映し出される特異な状況を観賞する。
「イザーク、隊長命令ですよ!」
が、ニコルがクルーゼの名を出せばビクッと肩を震わせて癇癪を収めたイザークを見て、あの仮面男の存在だけは特別なのだとアカネは改めて思った。
「その通りだイザーク」
ゼルマンにもダメ押しされ、ディアッカはヤレヤレと掌を上に向けイザークは相も変わらずアカネを睨みながらも引き下がった。
アカネはそれに付き合うわけにもいかず、適当に視線をそらすと目の前のデスクに映し出されていた宙域図を見て口元に手を当てた。
「アークエンジェルはロストしたままですか?」
その声にああとゼルマンが相づちを打つ。
「だが、向かう先は十中八九アルテミスだ」
「私もそう思います。……ちょっと厄介ですね、この艦の足では先回りというのも難しいでしょうし」
アカネが唸り、ゼルマンも顎髭を一撫ですると不機嫌さを全く隠さないといった目をしていたイザークの方を向いた。
「そういうことだ。君たちは今のうちに食事を取り身体を休めていたまえ」
「……フン、行くぞディアッカ」
イザークが渋々組んでいた腕を解いて指示に従うと、ディアッカもイザークの後を追う。
そんな同僚二人の背を困ったように見つめていたニコルにもゼルマンは声をかけた。
「ニコル、休息の前に君は特尉をパイロット用の空き部屋へ案内するように」
「……ハッ」
振り返って反射的に返事をしたニコルがアカネに向き直り、戸惑ったアカネはゼルマンへ視線を流した。が、促すように二度ほど軽く頷かれる。
「済まないが部屋は彼らと同等の待遇をさせて貰うよ」
「い、いえ……それは構いません」
ゼルマンの言葉を受けて、アカネは取りあえず敬礼をした。
「では……失礼致します」
こちらへ、と誘導するニコルに従って荷物を持ち直しブリッジを出る。
ふわふわと揺れるニコルのカールがかった髪を目の端で追いながら、アカネは一つため息をついた。
「お疲れですか?」
「え? あ……いや、何でも」
それが聞こえたのだろう。ニコルが目線を後方に流してきてアカネは決まり悪さに目線を泳がせた。
「さっきは……君たちが無事で良かったわ」
「ああ……任務は、失敗しちゃいましたけどね」
ふわりと笑みを浮かべた後、ニコルは自嘲気味に瞳を伏せた。
アスランの様子はおかしく、アークエンジェルとストライクを逃した上ヴェサリウスは被弾という結果に終わったのだ。
ニコルとしても軍に入ってからこれほどの失態は無かった分、態度には出さずとも悔しい気持ちはイザークに引けを取ってはいないのだろう。
「ニコル君……」
アカネとしては話題を切り替えたつもりが、責任を感じているらしきニコルを見て内心悔やんだ。が、それをも見抜かれたらしくニコルはもう一度ニコリと笑みを向けてくれた。
随分と鋭い子だ、とアカネは内心苦笑いを漏らした。
アカネからすればアスランの事が気がかりでパイロット達に何かあったらどうしようかとそればかりを懸念していたが、ニコルはそんな事など知らないのだ。
結果としての任務失敗があるだけで、悔しさも一入だろう。
それを見せないよう努めているのは彼なりのプライドなのか、性格なのか。
どちらにせよプライドの高そうなイザークは当分この件でイライラしているだろうな、とアカネはなるべくイザークとは顔を合わせないよう努めようと密かに誓った。
「さ、ここです」
立ち止まって突き当たりの部屋のドアを開けると、ニコルは中へとアカネを促した。
足を入れ進めると、左右の角に使われていないベッドが二つ。
「パイロットは皆二人部屋なんです。一人部屋でなくて申し訳ないのですが……そういう指示なので」
「ううん十分よ、ありがとう」
「ヴェサリウスではどの部屋をお使いに……?」
荷物をベッドに降ろして、ニコルの問いにアカネが瞳を寄せる。
「……そうね、ずっと隊長室にいたかな」
よくよく考えるとあのままヴェサリウスにいたら隊長室に軟禁状態だったかもしれないと思うと背筋に寒いモノが走った。
「本当に……何を考えてるのかしらね、君たちの隊長は」
ふと、そんな呟きが唇から漏れる。
クルーゼが何を考えているのかイマイチ掴めない。
それに戦闘中は気づかなかったが、レーダーより先にフラガのゼロの接近を察知したあの奇妙な出来事。
戦闘のカンというものは自分にも分からないでもないが、あれは確実にアテていた。普通ならば不可能な事だ。なぜなのだろう。何かカラクリでもあるのか?
「きっと、隊長なりに何かお考えがあってのことだと思いますよ」
つい考え込んでしまい、ニコルの声にハッと意識を戻したアカネは取り繕うように頷いてみせた。
「え、ええ……。それにしても、随分と信望厚いのねクルーゼ隊長は。イザークも隊長の命令なら素直に従ってたもの」
「それはもう、ザフトでは任務成功率トップを誇る指揮官ですし、僕もクルーゼ隊に配属された事をとても誇りに思ってます」
ニコルは瞳を輝かせて誇らしげな表情を浮かべてみせる。
それを見て、何故あんな仮面をここまで――と疑念を抱くことすら許されないほどこの隊でのクルーゼの存在の大きさをアカネは痛感させられた。
口元だけで軽く笑みを返して、先行き不安に感じつつベッドへと腰を下ろす。
「では僕はこれで」
スッと敬礼をしたニコルに礼を言うと、出ていこうとしたニコルはあ、と何か思い立ったように再びアカネに目線を向けた。
「僕、これから食事に行くんですけど一緒にどうですか?」
まだでしょう?と誘われてアカネは2、3度瞬きをした。
最後に食事をしたのはいつだっただろう、確かシャトルの中か、と思い返すと同時にシャトル沈没の光景も過ぎって目を伏せる。
それに、この目の前の少年のようにここの兵士達が皆好意的に接してくれるわけではないのだ。
「……いいわ、あまり人の多い所へ行くとまた面倒なことになるかもしれないし」
「そ、それは……」
ニコルはアカネの懸念を察したのか直ぐに反論しようとした。
自分が付いていれば諫められる、と。
何よりザフトへ来てからアカネには同僚が不快な思いばかりをさせていて、ザフトそのものを誤解される事に一兵士としても責任を感じていたのかもしれない。
「疲れたから、少し休むわ」
「そう……ですか」
ごめんね、と含んだようなアカネの笑みを見て彼はどこか残念そうに呟いた。
「では……僕の部屋、すぐ右隣ですから何かあったら遠慮せずに言ってください」
が、これ以上長居するのも野暮だろう。切り替えたように明るく告げるとニコルは部屋の外へと向かった。
ドアが閉まるのを見送って、アカネは浮かべていた笑みを消す。
ニコルの事は良い子だ、と思うも本当にドッと疲れが襲ってきた。
軍服の襟元を崩して上着を脱ぎ、ベッドへ倒れ込む。
シャトルが大破してからこっち、一瞬も気の休まる時などなかったのだ。
「ニホン……今頃どうなってるの……かな」
遠い母国を浮かべつつ瞼が下りてくる。
精神的にも肉体的にも限界がきていたのか、アカネはそのまま意識を飛ばした。
――ニホン国、首相官邸。
「L3宙域でロストしたシャトルの詳細はまだ掴めないのか?」
ニホンの現総理大臣の椅子に納まる麻野一郎――イチロー・アサノは官邸でひたすら連絡を待っていた。
トウキョウ宇宙港の管制室からシャトルをロストしたとの連絡を受けて既に一日は経っている。
詳細が分かるまでこの事態は国民には伏せ、プラント評議会の方へも説明追求と協力要請を出したがまだ回答は得ていない。
「あのシャトルには我が防衛省附属アカデミーの学生と教官の他……青葉特尉も乗っていたという事ですし」
通信モニターの先から報告してくる防衛大臣へ向けてアサノは重苦しい息を吐いた。
「……事の成り行き次第では国の志気に影響が出るやもしれん」
「シャトルをロストした位置というのも気になります。オーブ資源衛星ヘリオポリスの崩壊と何か関連している可能性も高いでしょう」
「ともかく引き続きプラントへの協力要請とこちらでの情報収集を続けさせる。無事を祈るしかあるまい」
言って通信を終え、アサノは座っていた椅子にもう一度深々と座り直した。
あらゆる可能性があるとはいえ、最悪戦闘に巻き込まれて乗客全員宇宙の塵となっている事も考えられる。
彼らはみな自国の大切な国民なのだ。そうであればあまりに無惨。
特にアカネは自らの発案した特別情報工作機関に所属する人間であり、その能力はプラントに軍事同盟を承諾させる際に多大な貢献をしてくれた。
こんな所で失うのはあまりに痛い。
更にはヘリオポリス崩壊にオーブ公営企業のモルゲンレーテ社と連合の癒着の影が囁かれる分、プラントを巻き込んで厄介な外交問題にもなりかねない。
オーブが動けばこの戦争の戦局に少なからず影響を与えてしまう可能性もあるため、それは避けたい所である。できれば、オーブに関してはオーブを黙らせる有効カードが欲しい。
「特尉……生きていてくれ」
アカネがもし生きていれば、もしシャトルの件にヘリオポリスが関わっているのであれば何らかの有力情報を掴んでいるかもしれない。
すれば牽制するカードになるかもしれない――と、アサノは早計だとも思いつつ先の外交交渉について頭を巡らせながら皆の無事を祈った。
一方、アークエンジェルはあのまま最大船足で友軍・ユーラシア連邦の軍事要塞アルテミスへと向かっていた。
コンタクトを計ると、アルテミス側は要請を受諾。
臨検艦を送るということで、アークエンジェルのクルー一同はようやくホッと一息ついた所だった。
しかし、そんなクルーとは裏腹にフラガにはある懸念があった。
アークエンジェルはロールアウトしたばかりの新造戦艦なのだ。艦の認識コードすら持っていない。
やっと安心したクルー達に水を差したくない気持ちもあったが、友軍とはいえユーラシア連邦と大西洋連邦はそう仲が良いわけでもない。
そこで休憩しているキラを連れ出してハンガーへと誘った。
「な、何ですか?」
「いやぁ、すっかりストライクはお前の愛機って感じだよなぁうん」
そんな事を言ってみせバンバンと肩を叩く。
ハァ?と言いたげなキラへフッと表情を引き締めてフラガはこう一言耳打ちをした。
「だから……誰にも触れられないようにしておけ」
そしてハッとするキラに、じゃーな、と言って手を振るう。
暫くして振り返れば、キラは意図を察したらしく大人しくストライクへと向かっていた。
それを見てフラガはふう、と安堵の息を吐いた。
先の戦闘から時間が経って、キラが大分落ち着きを取り戻したらしきことを感じ取れたからだ。
ホッとしつつ、あの時の事を思い返す。
『どうした坊主? おーい、キラ? キラ・ヤマト!!』
何とかクルーゼ隊を振り切ってアークエンジェルに戻れば、キラはなかなかコクピットから出てこようとしなかった。
不審に思いコクピットをこじ開けると、瞳孔の開いたキラが荒い息を吐き、レバーを握ったまま顔から色を無くして硬直しているのが映ったのだ。
フラガは直ぐにそれを新兵によく見られる症状だと悟った。もう何度も戦場で同じようなルーキーを見てきたからだ。
そして何人もの若い部下を失った――、そんな苦い気持ちも思い返しながらゆっくりとキラの手をレバーから離してやれば、キラは色のない瞳でフラガを見つめ返してきた。
突然戦場に出されて何の訓練も受けていない子供が死ぬような思いをしたのだ。我を失っていて当然だ。だが何とかピンチを切り抜け、こうして皆無事だったのは何よりキラのおかげだ。
今生きている。それでいいじゃないか。
そう労ってやる事しか出来なかった自分がフラガは何とも情けなかった。
「これでお終いにしてやれりゃ良いんだがな……」
そんな事を思いながら、フラガも自身の愛機メビウス・ゼロの整備へと向かった。
「本艦の要請受領を感謝いたします」
ブリッジでは艦長のマリューと副艦長のナタルがキッチリと軍帽を被り、臨検艦と共にやってきたユーラシア連邦の士官に挨拶をしていた。
が、いざアルテミスに入港すれば艦の外ではモビルアーマー・メビウスが待機しており、ブリッジにも次々と入ってくる武装兵が内部を占拠してCICにいたミリアリアが悲鳴を上げた。
「何事です、少佐殿!?」
「ビダルフ少佐! これはどういう事か説明して頂きたい――」
連れだって声を震わせたマリューとナタルにビダルフと呼ばれた少佐は平然と言い放った。
「保安措置として、艦のコントロールと火器管制を封鎖させていただくだけですよ」
フラガの懸念通り、戦績登録も識別コードもないこの艦をアルテミス側は友軍だと認めなかったのだ。
文句を言いたくともアルテミスの言い分も尤もであるゆえ逆らえず、ハンガーでも同じように武装兵に拘束されていたフラガと共にアークエンジェル士官一同はビダルフに同行を求められるままそれに従った。
「大西洋連邦極秘の軍事計画、か……」
「オーブのモルゲンレーテ社が関わっているという噂は本当だったのですね」
アルテミス司令部では、この軍事施設を総括するジェラード・ガルシア少将が突然の来訪者に沸く気持ちを抑えきれぬまま口元に笑みを浮かべていた。
「何とも幸運な事だ。特にあれに格納されているモビルスーツ……、解析が出来れば我々のアレの完成は約束されたようなもの。連中には是非ゆっくりとご滞在願おうではないか」
「ハッ、技術者の方には早速解析にかかるよう言いつけてあります」
副官相手にガルシアは上機嫌で"傘"に守られたアルテミスの空を見上げた。
暫くするとノックが鳴り、アークエンジェルの士官3名を連れて来たというビダルフの声を受け中へ招き入れさせる。
「ようこそ、アルテミスへ」
ガルシアは上機嫌のままマリュー達を迎えた。
一方、武装兵に拘束されたアークエンジェルのクルー一同は食堂へと集められていた。
「ちょっと……何なのよこれ」
一人暇を持て余して居住区にいたフレイも突然の武装兵の襲来に涙目になりながら食堂へと誘導されて来た。
既に食堂の席に固まっていたミリアリア達を見つけ安堵の表情を浮かべるも、声をかけるのを躊躇う。
同級生でゼミも一緒だった気心の知れた仲間同士の彼らと違い、一級下のフレイにとってはミリアリア達は顔見知り程度でしかないのだ。気楽に話せる間柄ではない。
学園のアイドルと称されまんざらでもなく学園生活を謳歌していたフレイにとって、この状況は精神的に辛かった。友人一人いないのだ。
ヘリオポリスではいつも友人達に囲まれていたフレイだ。
たった一人の肉親である父親と離れてヘリオポリスで生活していた彼女にとって友人達の存在は寂しさを忘れさせてくれていたかけがえのないものだったというのに。あのザフトの襲撃で一緒にいた友人らとははぐれてしまい安否さえ分からない。
自分一人こんな艦に乗り、独りぼっちになってしまった。
「おーい、何やってんだよ!」
そんな事を思って俯いていると、食堂のテーブルに着いていたトールが手を振って声をかけてきた。周りのミリアリア、カズイ、キラもこちらに視線を送って暗に来いと言ってくれている。
フレイは一瞬戸惑ったものの、怖ず怖ずとそちらに近づいていった。
「ねぇ、ちょっとこれどういうこと……?」
訊いてみるとミリアリアが目を伏せて眉を寄せた。
「分かんないの……急に武装した兵隊がブリッジに入ってきて私たちもここに集まるよう指示されて来ただけだから」
トールも首を捻って唇を尖らせる。
「大西洋とユーラシアって仲悪いみたいだしなァ。ですよね?」
そして彼は近くに立っていた青年――操舵士の曹長・ノイマンに話を振った。
さあな、とノイマンが肩を竦めると隣にいたチャンドラがメガネを持ち上げながら目を寄せる。
「それより何より識別コードがないのがマズかった」
聞いてフーッと溜め息を吐いたトールはフレイの方を見やり、視線を上下させて首を捻る。
「お前のカッコ、ここじゃ目立つよな」
「な、何よお前って……!」
お前呼ばわりされたことにカチンと来てフレイは怒鳴り返した。
しかしながら確かに私服の少女が一人この場に混じっているのはかなり場違いだという自覚はフレイにもある。
傍目にもフレイの着ているタイトなデザインのニットワンピースとブーツは戦艦どころか街中を歩く少女そのものであり、浮いている。
「そっちこそ何よ、軍服なんか着ちゃって」
「ブリッジに入るんだったら軍服着ろって言われたんだよ、仕方ねぇじゃん」
フレイはジロリとトール達を見渡し、トールはヘヘンと言い返しつつどこか楽しそうに笑った。
今まで黙って話を聞いていたカズイが苦笑いを漏らしながら口を挟んでくる。
「トールはミリタリーオタクだからなぁ、軍服着られて嬉しいんだろ?」
「何だよオタクって! まあでもこの少年兵士用じゃ階級章なくて間抜けだよなー。軍服だってザフトのがカッコイイし」
まんざらでもないと言った具合にトールが腕を広げながら言えば、チャンドラ達から茶々が入った。
「生意気言うな」
「俺たちの軍服の方が良いに決まってるだろ」
更には小突かれて、トールは「ごめんなさーい」と謝りながら笑っていた。
明るいトールはもうすっかりブリッジクルーとも打ち解けたのだろう。
フレイもそんな目の前のトール達を見ながら、ほんの少しだけ笑みを浮かべた。
「マリュー・ラミアス大尉、ムウ・ラ・フラガ大尉、ナタル・バジルール少尉か……。なるほど、君達のIDは確かに大西洋連邦の物のようだな」
「お手間を取らせて、申し訳ありません」
士官3人のパーソナルデータを確認したガルシアにフラガは軽く頭を下げた。
「いやなに、輝かしき君の名は私も耳にしているよ……エンデュミオンの鷹殿。グリマルディ戦線には私も参加していた」
「おや、ではビラード提督の部隊に?」
うむ、とガルシアが頷く。
「あれは手痛い敗北だった……我がユーラシアの部隊は全滅だ。だが、単機でジンを何機も落とし生還した君の活躍には随分と励まされたものだ。まだまだ我々ナチュラルはコーディネイターには負けん、とな」
昔語りを始めたガルシアの瞳が一瞬曇ったように見えた。が、直ぐに何事もなかったように独特の尊大な口調に戻ったためフラガは素直に賛辞への礼を述べた。
「しかし、その君があんな艦と共になぁ……」
「特務でありますので、残念ながら仔細を申し上げることはできませんが」
そんな二人の会話に痺れを切らせたようにマリューが割って入る。
「我々は一刻も早く、月の本部に向かわなければならないのです。まだ、ザフトにも追われておりますので……」
補給を早く、と逸る気持ちがそうさせたのだ。
ザフト?とガルシアは呟いて口元に笑みを浮かべながら司令室のモニターをオンにした。
そこにはアークエンジェルを追ってきたのだろうザフト艦ローラシア級の姿が鮮明に映し出されており、マリューは驚いて口元を覆う。
「連中なら先程からウロウロしておる。これでは外へは出られまい?」
「ヤツらが追っているのは我々です! このままではアルテミスにも被害が――」
フラガが口調を強め、ガルシアはバカにしたように声を立てて笑い出す。
「被害? このアルテミスがかね? ヤツらは何もできんよ。ただ去るのみだ」
「しかし司令! 彼らは……ラウ・ル・クルーゼの率いる部隊ですよ!」
唸るフラガの声。高らかに笑っていたガルシアの顔色が急変した。
「クルーゼだと……!?」
そのあまりの形相にフラガ達が息を呑む。
一寸間を置いて、ガルシアは再び落ち着きを取り戻すと3人に向き直った。
「ともかく君達は少し休みたまえ、部屋は用意させる。ヤツらが去れば月本部との連絡の取りようもあるだろう……補給の方も指示を出しておく」
そうして後の発言は聞き入れないという態度を取ると、ガルシアは兵を呼びつけて3人を連れて行かせた。
――――to be continued...
もしもフレイがヘリオポリス襲撃前まで逆行したら
◆vVIrExpeHunvさん投下乙。
ニコルとアカネの距離感がいいね。
今まで読んだ再構成系の話の中で一番「ニコル死ぬなー!」と思っている。
しかし大筋原作通りということは(´・ω・`)
>>361続き。
PHASE - 008 「やらせてください、艦長!」
「あ……私――!?」
ふいに意識を戻したアカネは勢いよく上半身を起こそうとした。
が、弱い重力が災いして身体の方もその勢いで浮いてしまい、酷く違和感を覚える。
「……眠ってたのか」
髪に手をやりながらぐるりと辺りを見渡すと殺風景な部屋と使われていないベッドが一つ。ああガモフのパイロット用の部屋だっけ、と軽く頭を振って脳を覚醒を促す。
自分はどれくらい眠っていたのだろう?
アークエンジェルの策敵状況はどうなっているのか?
臨戦態勢ならばとっくに警報が鳴っているだろうからまだ休んでいていいのだろうか?
そんな事を考えながら脱いでいた軍服を着込む。少し眠ったおかげか、随分と身体は軽くなっていた。と、同時に水分と食料の補給を身体が要求していた。
寝てスッキリした今なら例えイザークに出くわしても何とか冷静にかわせるだろうと思いつつ部屋の外へ出てみる。
が、廊下に出た途端アカネはしまったと片目を瞑った。
ガモフはヴェサリウスとは作りが違うのだ。どこに何があるのか分からない。
「ブリッジに行って訊くかなぁ……」
仕事中の艦長やオペレーター相手にそんな事はしたくないな、と髪を耳にかけながらふと隣の部屋のドアを見る。
隣は、確かニコルの部屋だ。
何でも言ってください、と去り際に言ってくれた。
またニコルに助けてもらうのは、と一瞬迷うもこのまま戦艦をフラフラし続けるよりはマシだと思いアカネは隣の部屋のドアの前に立った。
ニコルが部屋にいるのかどうかも分からなければ相部屋の相手がイザークかもしれないという懸念もあったが、取りあえずノックしてみる。
「どうぞ」
すると、ニコルとは違う声が中から聞こえ、ドアが開いた。
「やあ……君か」
誰だ? と一瞬身構えて中へ足を踏み入れたアカネの瞳が微かに丸まる。
「あ、ショーン……さん」
目に映ったのは宇宙へ放り出された自分を救ってくれた青年の姿だった。
「何故ここに? てっきりヴェサリウスに乗艦かと……」
「元々こっちなんだ。君を隊長室に送った後、戻って仮眠取って起きたら……色々大変な事になってたみたいだ」
ハハッ、とショーンは雑誌を見ながら飲んでいたドリンクに口を付ける。そうして目線を前に向け、アカネもそれを追うと隣のベッドではニコルが寝息を立てていた。
「ニコルに用事?」
「え、ええ……」
「さっき横になったばかりなんだよ。ずっと機体の整備だってハンガーに籠もってたらしいからさ」
サクッ、と非常食らしきものを口にしながら話すショーンの声にアカネは目を見張った。
では食事の後ずっとブリッツを見ていたというのだろうか――?
「本当に真面目な子なのね」
赤の軍服の襟元を乱し、自らの右腕に頭を預けた彼のあどけない寝顔に口元を緩めながらアカネは少し不憫に思った。
「……どうしてこんな子が前線へなんか」
「食うかい?」
呟いて眉を下げたアカネの方へ、ショーンは自分が食べていたものと同じ非常食をふわりと投げてきた。
反射的に受け取って、急なことにキョトンとするも少し間を置いてアカネはそれを貰い受ける。
「ありがとう。凄くおなか空いてたの」
「そりゃ良かった」
笑いながらドリンクも手渡してくれたショーンにアカネもくすりと笑みを漏らし、アカネが非常食に手をつけたことを確認するとショーンはこんな事を言った。
「仮眠取った後、部屋を出たらちょうどイザークと行き違いになったんだ」
それにアカネの手がピクリと反応する。
「それで私が軍服着てここに居ても驚かなかったのね」
先程ショーンは自分の姿を見ても驚かず、ごく自然に話しかけてきた。少し怪訝に感じていたものの、今の一言を紐解くにイザークから事情を聞いたのだろう。
疑問が晴れたと同時にアカネにはイザークがショーンに何を言ったか恐ろしいほど明確に想像出来た。
何故あの女を連れてきた!? などといきなりショーンに掴みかかっている様がありありと浮かぶ。
しかし思い返せば、救難信号を拾ったのがショーンでなければ今頃どうなっていたか分からないのだ。
例えばイザークだったのなら、確実にそのまま捨て去られていた事だろう。
「……あなたが拾ってくれて本当に良かった」
アカネが苦笑いを漏らすと、ドリンクから口を離してショーンが肩を竦める。
「いや、だから俺は任務をこなしただけなんだって」
それほど感謝されるような事ではないという意味なのだろう。
だが、今までのザフト兵を見れば普通の態度すらとれない兵士の方が圧倒的に多いのも事実なのだ。
「まあ、この隊の若い連中はほとんど地上に降りた事がないから良く知らないんだよな。地上に配属されりゃイヤでもナチュラルと接する機会は増える」
「じゃあ、あなたはクルーゼ隊に入る前は地上に?」
「アフリカ戦線の初期にちょっとだけね。俺は開戦のだいぶ前から軍属だから慣れてるけど……開戦後に入ってきたヤツは、ナチュラル全て憎しってのも多いんだ」
ショーンの話を聞きながらアカネは複雑な感情を胸に飛来させた。
ナチュラル全てを憎んでも、コーディネイターだけの世界が訪れるわけでもないというのに。
そもそもこれほど戦況が複雑化した要因はコーディネイターが――と頭の隅で思ったのも束の間、アカネはそれ以上その事を考えるのを止めた。
「ザフトは義勇兵だと聞いてるけど、あなたは開戦前から軍に……?」
「そ、結構給料良くてさ。俺は国防意識からってより金のためだね」
ハハッと軽く笑ってみせたショーンにアカネがズルッと肩を落とす。
むろんごくありふれた志望動機ではあるが、今話していた会話の流れからそのような答えが聞けるとは思ってもみなかったからだ。
「そ、そうなんだ。そうよね……普通そうだよね」
意外だったのと拍子抜けしたのとでアカネは一寸間を置いてふふ、と笑いドリンクを一気に喉へと通した。
こういう人とは付き合いやすい、と思う。
特に他国の人間だと下手な思想を持たず職業だと割り切っている人間の方がよほど信頼できるものだ。
すると、ふ、とニコルの寝顔に目をやってからショーンは「さっきの話だけど……」とアカネへ目線を送ってきた。
「俺もどんどん若い後輩が増えてきてるのは気がかりの一つだよ。でも、見たところ君も随分若いようだけど」
ピク、と片眉を寄せてアカネが口からドリンクを離す。
「私は……特自では最年少だったから。だから余計に驚いたの。年下の、こんな子達がモビルスーツのパイロットだなんて……だから」
「あの白と紫のモビルスーツに乗ろうと思ったんだ?」
クルクルっとカラになったドリンクを宙で回してみせるショーンにアカネが軽く目を瞑って頷く。
「心情的にはね。まあ、クルーゼ隊長の指示だから否が応でも乗らなきゃ……なんだけど」
それから、シャトルの仇。アスラン・ザラとキラ・ヤマト。
少なくとも個人的感情ではここに留まる理由はいくらでもある。
だから今はこのガモフを守ることを最優先に考えなくては、とアカネはドリンクのボトルをギュッと握りしめた。
「……ん……あ!」
と、突然隣のベッドから弾けるような声があがった。
何事かと二人がニコルの寝ていたベッドの方へ視線を投げれば、既に起きあがっていたニコルがバタバタと併設してある棚から何かを取り出していた。
「……もう起きるのか、おい」
「ん、今いいメロディが浮かんで……忘れないうちに!」
そんな事を呟いてペンを走らせ突如譜面らしきものを書き始めたニコルにショーンがハハハっと笑い声をあげる。
「お前はまた夢の中でピアノか!」
右手でペンを、左手では鍵盤を叩くような仕草をしているニコルとショーンの笑声にアカネはただ瞳をパチクリさせるしかない。
「……なに?」
「演奏・作曲全般ニコルの趣味でね。ま、こんな事は日常茶飯事だよ」
口元を緩めるショーンにアカネはへぇ、と感嘆の声を漏らす。
流石はプラント最高評議会議員のご子息、いかにもお坊ちゃまらしい。
そんな感想を朧気に抱いた。
「んー……どうもイメージと違うなぁ」
ペン先でクルリと巻いた猫っ毛をチョイと弄り、ふと顔を上げたニコルはギョッとしたように大きな瞳を開いて腰を引いた。
「アカネさっ――!?」
ショーンの横でこちらを見つめるアカネに気づいたのだ。
「……い、いらしてたんですか」
そして決まり悪そうに頬を染めて目線を下に泳がせる。
アカネはおろかニコルの瞳にはショーンも入っていなかったのだろう。みっともない所を見せてしまったとばかりにペンを机に置いた。
アカネはクスリと笑いながらニコルに声をかける。
「少しショーンと話をしてたの。まさか君と同室だったなんて」
「ええ……先程はそれを話し忘れてしまって」
「それよりニコル、もう少し休んでおいたほうが良いんじゃないのか?」
「え? ええ……でも、目も覚めましたしアークエンジェルの動向も気になりますし」
軍服の襟元を詰めながらニコルはショーンの気遣いに緩く首を振りながら溜め息を漏らした。まだ先の戦闘での失態を気に病んでいるのだろう。
「アークエンジェル動向か……、まず間違いなく今頃はアルテミスだと思うけど……。いいわ、私がブリッジへ行くから君は休んでて」
「あ、僕も行きます。艦長に報告しておきたいこともありますし」
そろそろ対アークエンジェルの策でも考えなければと思っていた所だしちょうどいい、と部屋を出ようとしたアカネの後をニコルも追った。
休めと言ったのに、とアカネは心の中で思いつつも二人はブリッジへと向かった。
「おお、ちょうど良い所へ来てくれた」
二人がブリッジへ入ればゼルマンは艦長席から立ってブリーフィングデスクの方へ降りてきた。
つい今パイロットに召集をかけようとしていた所だったらしく、全員揃ってからブリーフィング開始だとの旨を伝えられる。
アカネはまたイザークと顔を合わせるのか、と毒づきたい心持ちだったがそうも言っていられない。
結局、他3人のパイロットの到着を待ってゼルマンはそれぞれに現状の説明を始めた。
ブリッジのモニターにはユーラシア連邦の軍事要塞・アルテミスの光学映像が映し出されている。
中核は小惑星であり、その全方位を特殊なシールドで包み込んでいるような外観をした風変わりな要塞だった。
厄介なところへ逃げ込まれた、と前置きしてゼルマンはデスクのモニターにアルテミスのデータを出した。
「光波防御帯……通称"アルテミスの傘"で守られたあの小惑星は実体弾もビーム兵器も効かん。あれを突破する手だても今のところはない」
「仮に突破出来ても、無数設置してあるアルテミス砲が火を噴く……って二段構え。ですね」
追随したアカネにゼルマンが軽く頷く。
それにディアッカはおどけたような声を出した。
「じゃあどうすんの? 出てくるまでここで待つ?」
ピクリ、とゼルマンの眉が動いた。
艦長に向かってなんという態度だ、とアカネにはゼルマンが不快に感じたのだとすぐに悟れた。
が、当のディアッカは気にするそぶりもなくフフフと笑みを漏らし続ける。
「ふざけるなよディアッカ!」
意外にもそれを諫めたのはイザークであった。
「お前は戻られた隊長に何も出来ませんでしたと報告したいのか!? それこそいい恥さらしだ」
一瞬イザークを見直しかけたアカネだったが、ああ自らの手柄を焦っているのかと軽く肩を落とす。
「傘は……常に開いているわけではないんですよね?」
ふと、無言で腰に手を当てモニターを睨んでいたニコルがそんなことを呟いた。
ああ、とゼルマンが気を取り直してニコルへ向き直る。
「周辺に敵のいない時まで展開させてはおらん。だが閉じているところを近づいても、こちらが要塞を射程に入れる前に察知され、展開されてしまう」
その答えにディアッカがまたおどけたようなジェスチャーをしてみせたが、ニコルは構うことなくキュッと瞳を閉じて自らの声を一段下げる。
「僕の機体……あのブリッツなら上手くやれるかもしれません」
え、と皆の視線を集めたニコルはまるで愛機を自慢するかのようにニ、と口の端を上げた。
「あれにはフェイズシフトの他にもう一つ、ちょっと面白い機能があるんです」
説明を始めたニコルに全員が息を呑む。
ニコルの話を聞き終え、その作戦に苦言を呈したのはアカネだった。
「さっきの話聞いてなかったの? 仮に突破してもアルテミス砲が――」
「それは外敵対策でしょう? 乗り込めれば上手くやれますよ」
皆まで言わせず反論され、アカネは眉間に深い皺を刻んで「違う」と一蹴した。
「私が言いたいのは……援護は出来ないって事よ」
ピン、とその場の空気が張りつめる。
ゼルマンも顎髭に手をあて、不安要素がありすぎると危惧するかのように唸った。
「やらせてください、艦長!」
だがニコルは空を切るように凛とした声で言い放ち、アカネはただただ瞠目した。
瞳の奥に強さを秘めた、紛れもない兵士の眼をしていたからだ。
何もニコルを見くびっていたわけではない。
気の強さはデューイを一睨みした時に垣間見てはいた。
が、このあどけなさの残る少年がこれほどの覚悟で戦争に臨んでいたという事実を知らされたと同時に微かな哀しさがこみ上げてきたのだ。
結局他に上手い代案もなく、今回の作戦立案・実行はほぼ全てニコルの手に委ねられる事となった。
「しかし連合軍も卑怯なモノを作る」
ブリッジを出るニコルを見送り、イザークは腕を組んだまま上から見下ろすような声を出した。
「ニコルにはちょうどいいさ。臆病者にはね……」
「臆病者ねぇ」
フフ、と同じようにディアッカが笑い、アカネは呆れたような声を漏らす。
「単機で要塞攻略戦やろうなんて余程腕に自信があるか、自殺願望のあるバカよ。……あの子はどっちかしらね」
「何だと!?」
そんなことも分からないの? と含んだような声にディアッカより先にカッとなったのはイザークだ。
「それに臆病者って戦場じゃ誉め言葉だぜ?」
しかし頭の後ろで手を組んで同僚の様子を見ていたショーンが一言口を挟み、イザークは怒りの矛先を変える。
「貴様、ナチュラルの味方をするのか!?」
流石にイザークの対応に慣れているのかショーンは少しも動じていなかった。
「俺は事実を言っただけさ」
「く……!」
言葉に詰まったイザークの耳にアカネの呟きが届く。
「ま、これで成功すれば勲章モノね、ニコル君」
それがトドメの一言となった。
イザークはブリーフィングデスクを力任せに叩くと思い切りデスクの足を蹴ってブリッジの外へ向かう。
おいイザーク! と声をかけつつディアッカもその後を追った。
やれやれ、とアカネとショーンは揃って肩で息を吐く。
そして二人してもう一度モニターへと目を移した。
「アルテミスはそう重要な拠点じゃない。だからザフトもこれまで手出ししないで来たんだが……」
「でも、あの絶対防御に異様な装備。全く中で何をやっているのか……ユーラシアで最も胡散臭い拠点の一つでもあることも確かよ」
唸って、アカネは口元に手をあてた。
ここへ単機で乗り込もうとするなどやはり無謀な作戦ではないのか――とニコルの身を案ずる。
「ミラージュコロイド、電磁圧チェック。システムオールグリーン 」
当のニコルはブリッツのコクピットの中で一人黙々と確認を進め、出撃を待っていた。
「テストもなしの一発勝負か。大丈夫かな……」
やれると宣言したものの、先の戦闘といい実戦がテストを兼ねるというのはどうも落ち着かない。漏れるのはため息だ。
しかし、単機での出撃というのはニコルにとっては好都合だった。
どうにも周りに味方がいると、自分の事よりもそちらに気を取られてしまう。
特にあまり作戦や連携などというものを重視しないイザークやディアッカという同僚を得て、出撃の際は常に心配事が絶えない。
故に周りに誰もいないという状況の方が能力を発揮しやすいのだ。ニコルはそういうタイプだった。
アルテミスの管制室では、離脱し始めたガモフ――ザフト艦ローラシア級に注意を払っていたが、完全にレーダー圏外へと消えて暫くすると一人のオペレーターが室長に報告をあげた。
「定時哨戒、近接防空圏内に敵影、艦なし」
「よし、もういいだろう。全周囲光波防御帯収容。第2警戒態勢に移行」
室長の指示でアルテミスはその傘を閉じていく。
周囲に敵がいなければ、傘を展開してエネルギーを消費するのは無駄でしかないからだ。
それを待っていたとばかりにガモフではゼルマンがニコルに発進指示を出していた。
「ニコル・アマルフィ、ブリッツ出ます!」
指示を受けて、ブリッツがリニアカタパルトから勢いよく飛び出す。
同時にニコルは自身が口にした、"もう一つの機能"であるミラージュコロイドを展開させた。
するとどうだろう? ニコルから確認することは出来なかったが、まるでブリッツはその場に存在しないかのようにぷっつりと姿を消した。
ただでさえ、フェイズシフトを展開しても黒いブリッツは宇宙では見えにくいという利点がある。だが、今のブリッツは視界だけではなくレーダーからも文字通りフッと消え去ったのだ。
ニコルはコクピットで機体の状態を確認しながら小さく呟いた。
「ミラージュコロイド生成良好。散布減損率0.3%。――使えるのは80分が限界か」
ミラージュコロイド。
それは光や電波等を屈折・吸収する特性の微粒子ガスをその身に纏い、視覚的にも電波的にも全く不可視の状態にするステルスシステムだった。
ニコルがこのシステムに気づいたのは先の戦闘後、ブリッツの機体チェックをしている時だったためもう少し早く気づいていれば戦闘で役立てたかもしれないと悔やみもした。が、今それを言っても始まらない。
そして展開中は常にガスが拡散し続けるため、使用時間が限られてくる。
今初めてこの機能を使ってみたニコルはまだまだ改善の余地がありそうだと思いつつ、熱紋照合されるのを避けるためにスラスターは噴かさずそのまま慣性移行でアルテミスを目指した。
「この傘のシステムを全ての兵器に搭載すれば、前線での兵士の死亡率も格段に変わるはずだ」
アルテミス司令室で、ガルシアは副官相手にとあるデータを見ながら噛みしめるように言った。
「ハッ……ですが、実験段階のプロトタイプですら傘を展開後は持って数分。コストの面も依然問題は山積み。しかも未完成のあれを動かせるのがコード03のみという現状が――」
「だからあのモビルスーツの解析を急げと言っておるのだ!」
ガルシアが苛立ちをぶつけるようにデスクを叩く。
「コーディネイターなど我々ナチュラルのために働いていれば良いのだ! ヤツらのせいでユーラシアがどれほどの被害にあったと思っている!? 北部での凍死者の数は異常な数字を叩きだし、医療機関はまともに機能せず……!」
「司令……」
拳を震わせたガルシアはハッとしてその場を取り繕う。
「ともかく、ようやく運が向いてきたのだよ。ザフトにそっぽを向かれたアクタイオン社もこれで喜ぶだろう。後は政府さえ首を縦に振ればこの計画は軌道に乗る」
そこまで言うとガルシアは副官を下がらせた。
そしてそっとモニターを切り替え、一枚の映像を映し出す。
そこには透けるような肌に色素の薄い髪を持つ、儚げな少女の姿があった。
小さく、ガルシアは聞き取れないほどの声で少女の名を呟いた。――それはガルシアがまだ若い頃、シベリア地方に勤務した際に出会った女性との間に出来た一人娘であった。
元々病弱だった母を受け継ぎ、娘の身体も決して丈夫とは言えず入退院を繰り返す日々。
それでももうじき二十歳になろうというころには花のように美しく、可憐な女性へと成長を遂げていた。
今よりもっと医療技術が進めばきっと娘は元気になる。――そう信じて疑わなかった。
だが、祈りとは裏腹に開戦の兆しが濃くなり――いよいよ開戦となって間もない日に悲劇は起こった。血のバレンタインの報復にとプラントが投下したニュートロンジャマーの影響でライフラインは乱れ、生活に多大な影響を及ぼしたのだ。
それは医療にも暗い影を落とし、娘は電力の供給を待つ病院のベッドの上で帰らぬ人となった。
固い職業軍人であったガルシアはそれを機に宇宙に浮かぶコーディネイターを強く嫌悪するようになった。
そして迎えたグリマルディ戦線――娘の弔い合戦と臨んだその戦いは酷い有り様だった。
部隊は壊滅状態、連合は基地の破棄を決定。だというのに、ガルシアは幸か不幸か一人生き残ってしまった。
部下も上官も同僚も全てを失い敗退したガルシアにはもはや前線を退けさせられるのを止める術もなく。少将に昇進はしたものの閑職とも言えるこのアルテミスの司令を命じられ、こんな辺境の地に閉じこもらねばならなくなった。
それでもガルシアは諦めなかった。
ユーラシア連邦の誇る独占技術であるこのアルテミスの傘を何とか実戦に投入できないかと考えたのだ。
そしてちょうど業績悪化に悩み、ザフト次期主力機のコンペでMMI社に競り負けたアクタイオン・インダストリー社に声をかけた。
むろん、ユーラシア用のモビルスーツ開発のためだ。
何もモビルスーツを開発しようと考えるのは大西洋連邦だけではないのだ。
これが成功すればザフトとの交戦は元より、大西洋連邦に対してもユーラシアは優位に立てるようになる。
ガルシアはそう考え、上層部も取りあえずはガルシアの提案を受け入れて好きにやらせてくれた。
だが、計画は思った以上に難航を極めた。
それほどにモビルスーツを試作・量産というのは難しく、いかにコーディネイターの持つ技術が優れているかを逆に思い知らされる結果となったのだ。
「今度こそ……今度こそ思い知らせてやるぞ、宇宙の化け物どもめ」
娘の映像を悲しげに一撫でしたあと、肩を震わせたガルシアの愁嘆の唸りが司令室に小さくこだました。
――――to be continued...
投下乙。
このガルシアはなんか許せる。掘り下げられてますなー。
というか、確かにアルテミスって怪しかったよね。
重要なものを隠してなきゃあんな便利シールド持ってる意味がないのに
本編じゃブリッツの唯一の見せ場(しかも地味)のために終了だし。
これ語るスレでも言われてたけど、自分で再構成スレ立てた方がいいんじゃないかな
オリ主だし、完結の目途がたってるみたいだし
まあどこに投下するかなんて作者の勝手だし、追い出すとかそういう気はないから言うだけにしとくけども
君が余計な事を言わなければ誰も気にしなかった
出来たら新スレ立てて欲しいなと思っている
絶対にここでないといけない理由あるなら仕方が無いけどね
もしキラ、アスランが2人とも男装の女性だったら?
まず互いにその趣味を知っているのか、それが問題だ
>>373 >>375 今まで読んできた限り、あと統合スレの成り立ちから考えると
改めて別スレ立てる必要はあまり感じないんだが…
CROSS POINTはこんなオチに為るんですかね。
シン
「今までのコズミックイラの全てがお前の掌の上……!?
何だよそれ・・・どういうことだよ・・・どういうコトだって訊いてんだよ!!!」
マルキオ
「そう声を荒げるな、シン・アスカ。そんなに驚くことはないだろう?
私とターミナルは単に、人間の心こそが世界に於ける最高のスパイスになる――
そう確信して世界を手助けしてきた、そう言っているだけだ。
おかしいと思わなかったのか?
それまでの宇宙研究で異星の生命体を確認した事さえなかったのに、
木星に都合よく生物の化石が見つかった事を。
ジョージ・グレンが自分の素姓をわざわざ世界中に明らかにした事を。
オーブという明らかに時代錯誤な国家が許容されている事。
モビルスーツという、あらゆる観点から見てもありえな代物が当たり前のように
今迄活躍してきた事を……一度もおかしいとは思わなかったのか?
出会いは運命だとでも思っていたのか? 襲撃は偶然だとでも思っていたのか?
戦いの勝利は自分の努力の成果だとでも思っていたのか?」
だいいち君は事実の全てを知っているのか?
ジョージ・グレンの出生の秘密を話させたのは誰か。
生体CPUやエクステンデッドやソキウスのアイディアを許可したのは誰か。
プラントへの核攻撃を提案したのは誰か。
もし他の天体に本当に知的生命体が存在するのなら、何故今迄その在り処を突き止められなかったのか……」
>>377 2人とも自分が女性であることを隠してはいないよ
382 :
379:2010/03/31(水) 23:30:46 ID:???
>>380 ただ真面目な話、本当にこうなっても余り驚かんのが何とも(少なくとも俺は)。
あともっと種世界の事を入れたかったけどいろんな都合で無理でした。
良かったら他の人も挑戦して下さい。
クロスポイント潰しかよw
定期的に投下してくれるSS追い出してどうしたいわけ?
さらに30年愛を潰せば快適になるとか?
384 :
382:2010/03/31(水) 23:53:25 ID:???
>>383 SS潰す気なんか無いって、全然。
ただ種世界の説明として妙になじんでると感じたから、つい……
おまえら、そろそろ三■目認定されたいかい?
雰囲気悪くなったな
三■目め・・・!
>>389 その人の名前見るたびひっかかるんだけど
なんて読むの?
三■目は三■目
名を呼ぶことすら憚れてる
>>370続き。
PHASE - 009 「黒いモビルスーツ」
アルテミスのビダルフ少佐は部下を数人引き連れてアークエンジェルの食堂へと向かっていた。
アークエンジェルのモビルスーツ――ストライクを技師達に調べさせようとしたものの、OSに解除不能なロックがかかっていて作業が滞ったからだ。
「あのモビルスーツのパイロットは誰だ?」
ビダルフは食堂に入るなり言い放ち、突然のことに食堂がざわつく。
思わず立ち上がりそうになったキラだが、マードックが慌てて肩を押さえつけて何とか事なきを得た。
「マードック軍曹……」
「いいからジッとしてろ」
マードックは小声で告げると、入り口付近に仁王立ちしているビダルフを見やってさも当然だとばかりにこう答えた。
「フラガ大尉ですよ。訊きたいことがあるのなら大尉にどうぞ」
それを受けてビダルフは小馬鹿にしたように鼻で笑う。
「ハンガーには戦闘直後と思しきメビウス・ゼロがあったのにか? あれを操れるのがこの世でムウ・ラ・フラガのみというのは連合軍関係者ならば誰もが知っている」
チッ、とマードックは舌打ちをした。どう誤魔化せばいいのだろう? 上手く言いくるめる術が浮かばない。
キラが不安そうにマードックとビダルフを交互に見ていると、ビダルフはキラ達の方へ部下を引き連れてツカツカと歩いてきた。
そうして何を思ったかいきなりミリアリアの腕を捻り上げた。
「痛ッ――!」
「女性パイロットというのは無いとは思うが、この艦は艦長も女性ということだしな」
明らかな脅し。
アークエンジェルの正規クルー達はそんな安い脅しに引っかかるはずもなかったが、キラ達はそうはいかない。
トールはビダルフの腕を振りほどいてミリアリアを抱き寄せ、キラはマードックを振り切って立ち上がると前へと進み出た。
「止めてください、卑怯な! ――あれに乗ってるのは僕ですよ!」
その宣言にマードックは顔を手で押さえ、ノイマンとチャンドラは頬を引きつらせる。
ビダルフは目を丸めた後、疑惑の視線をキラに向けた。
「彼女を庇おうという心意気は買うがな少年。大人をからかうのは止しなさい」
「からかってなんかいません」
「では何か、こちらの技術者でも解除不可能なほどのロックを君があの機体に施したとでも言うのか?」
「――はい」
真っ直ぐなキラの返事にビダルフは言葉に詰まる。そして数秒の間を置き、まさか、と眉を歪めた。
「コーディネイターか?」
訊かれてキラがゆっくり頷くと、ビダルフは驚きを見せてはいたもののどこか納得したように顎を撫でた。
「そうか、大西洋にコーディネイターか……。まあいい、君の力を是非借りたい」
そしてキラに手を差し伸べる。
キラは唇を結んで微かに首を横に振るった。
するとビダルフは軽く手を挙げる。途端、部下達が一斉にキラへ向けて銃を構えた。
食堂が静まりかえり、緊張が走る。
――拒否権はないのだ。キラの頬に、ツ、と汗が伝った。
「悪く思わんでくれ。こちらもこれが仕事でね……」
言われるままにキラはビダルフ達に付いていくしかなかった。
キラの去った食堂で、フレイは口元に手をあてたまま眉を寄せていた。
「ね、ねぇ……あのキラって子……コーディネイター、なの?」
それにトール達は互いの顔を見合わせる。
トール達にとってはもう当たり前で自然なことだったが、学年の違うフレイがその事実を知らなくても不思議はない。
しかしフレイから発せられているあまり好意的ではない感情を読みとって、ミリアリアは神妙に言った。
「そうよ。でもね、キラは私たちの大事な友達……。大切な仲間よ」
トールやカズイもきつく頷く。
フレイは、そう、と目を伏せて呟いた。
「おお、いたいた」
ハンガーを見渡せるロッカールーム兼パイロット待機室へ足を踏み入れ、ショーンは中央の長椅子に大股開きで腰を降ろしていたディアッカを見つけ声をかけた。
「お前はバスターで待機だとよ」
「んだとー!?」
ディアッカは気怠げな声を漏らすも、横に座っていたイザークがその話に飛びついてきた。
「おい、どういう事だ?」
「ニコルが傘を突破すれば、バスターの砲撃でアルテミスを撃つ。ま、敵がニコルに集中するのを少しでも避けるための苦肉の策って所だな」
二人は立ち上がり、ショーンの答えに二人とも不満げな顔を露わにする。
「俺はどうする!?」
「何だよソレ、遠くからチマチマ撃ってろって事?」
一度に二度の質問。しかも予想通りの問いを受けてショーンはハハ、と肩を引きつらせた。
「イザークは今回は我慢しろ。ディアッカ……イヤなら俺が――」
「そもそもそれは誰の指示だ! まさかあの女の差し金か!?」
ディアッカへの返事を言い終わる前にイザークの突進により襟元を捕まれ、ショーンは押された勢いのまま壁際まで身体を移動させられた。
ぶつかって身体を止めてから、イザークの手を振り払う。
「艦長の指示だ」
「フン、どちらにせよ俺は一人デュエルを遊ばせておくのは御免だ。ジッとしている位なら出撃する!」
「お前な、隊長が本国に帰還されてる今、艦の最高指揮権は艦長にあるんだぞ?」
「うるさい! 俺たちはナチュラルとは違う、軍人それぞれが平等だというのがザフトだろうが!」
そんな押し問答の末、ショーンは不意に真面目な顔をして腕を組んでみせた。
「そう言うけどなイザーク、俺たちより艦長の方が格段に給料上だぜ?」
「なっ……!?」
イザークが一瞬言葉に詰まり、後ろで聞いていたディアッカは声を立てて笑い始めた。
直後、イザークは力の限りショーンにがなりつけた。
「こ、この金の亡者が……! 貴様にはザフト軍人の誇りはないのか!?」
「俺にとっては大事な事だ。お前は出撃して功名だけを得られれば良いんだろうが、それは元々金に困ってないからだろ」
眉を寄せたショーンがイザークを睨み返す。
「とにかく話はそれだけだ。ディアッカ……不満なら俺がバスターで出るが、どうする?」
そしてまだ笑っていたディアッカへ視線を投げるとディアッカは笑いを収め、ガシガシと頭を掻いた。
アカネは艦長席に座るゼルマンについてアルテミスの様子をひたすら窺っていた。
「ガモフはこのままここで待機……ですか」
「君の言うとおり、例え傘が落ちても近づけばアルテミス砲の集中砲火が待っているだけだからな」
「出来れば無傷で占拠が望ましいのですが……アークエンジェルの事は抜きにしても色々と気になる要塞でもありますし」
「ニコルには第一目標を足つきに定めるよう指示しているが、内部での戦闘はまず避けられんだろう。無傷は……厳しかろうな」
アカネは難しい顔をした。
ミラージュコロイド――とニコルが説明を始めた時、部屋で言っていた"艦長に報告したいこと"とは直ぐにこの事だったのだと分かった。
本来ならばブリッツはその名が示すとおり一撃離脱の電撃作戦用の機体、もしくは偵察用なのだろう。姿を消したまま乗り込んで敵の機密を探るか、あるいは姿を消したまま機体を置いて内部に潜入するか。そっちの方がよほど使い道がある。
だがニコルがやろうとしていることは隠密行動というよりは正面切っての全面戦争に近い。しかも個対要塞だ。明らかに分が悪い。
もはや作戦が成功しようが失敗しようがあの要塞が火の海になるだろう事は想像に難しくない。
アカネは本来の仕事である特別情報工作機関の人間として、アルテミスの機密を探る前にあそこが消えてしまうのは少々惜しい気もした。
が、それ以上に気がかりがある。
こちらの作戦をアークエンジェル側に読まれていないか、ということだ。
ブリッツは元々アークエンジェルを母艦とするはずの機体。向こうはブリッツの機能や特徴など既に熟知しているだろう。
もし裏をかかれ網を張られていれば、ブリッツは捕獲――最悪ニコルは殺されるか、その身分から外交取引に使われるのが関の山だ。
「ニコル君……」
額に汗を滲ませて、アカネはジッとモニターを睨んだ。
ニコルの乗ったブリッツは順調にアルテミスへと近づいていた。
ブリッツを目視できるだろう程に近づいても傘は依然開かず、アルテミスは無防備なままの姿を晒している。こちらに気づいていないという何よりの証拠だ。
基地上空まで侵入を果たしたニコルはキュッと一度唇を結んだ。
そしてブリッツ右腕のトリケロスと名付けられた攻盾システムに搭載されているレーザーライフルをおもむろに基地表面に向かって乱射する。
「な、なんだ!?」
表面を傷つけられたアルテミスは至る所で誘爆が起こっていた。
振動が内部に伝わるも、あまりに突然のことで対処に困りただ混乱するしかない。
「管制室、この振動はなんだ!?」
「不明です! 周辺に機影なし!」
「だがこれは爆発だぞ!」
司令室からガルシアのけたたましい声が通信機越しに飛び、管制室ではこの事態の解明をいち早く迫られていた。
が、原因らしき原因が見あたらない。モニターには何も映っていないのだ。
「超長距離からの攻撃かもしれん! 傘を開け、今すぐにだ!」
管制室長が焦りのままに指示を出した。そして閉じられていた光波防御帯発生装置が動き出す。
ニコルの狙いはまさにそれだった。
基地表面に絨毯攻撃を仕掛ければ、アルテミス側はそれを防御するために傘を開くだろうと踏んでいたのだ。
「あれか!」
思惑通り誘いに乗って動き出した装置の位置を確認すると、ニコルは素早くミラージュコロイドを解いてフェイズシフトを展開させ、トリケロスからビームサーベルを出した。
右腕を高々と振り上げ、勢いよく装置に近づいて真っ二つに切り裂く。刹那、ブリッツの離脱と同時に装置は閃光と共に四散した。
もはやこれで傘は開けない。退路は、確保した。
「アイツは……港か!?」
ニコルは当初の目的であるアークエンジェルを捜しに港口探索へと向かった。
「防御エリア内にモビルスーツ!? リフレクター沈黙!」
アルテミス管制室としては、突如としてモニターに現れた黒い機影にただただ驚くしかない。
まさかこのアルテミスに敵が侵入するなど、と焦りを抑えきれないオペレーターの声。それは通信機を介して司令部にも伝わっており、ガルシアは素早く指示を出した。
「総員第一戦闘配備! アルテミス砲全門充填!!」
更にすぐさま出来うる限りのメビウスを発進させ、敵の迎撃に向かわせる。
ピピ、とブリッツのモニターが警戒音を鳴らした。
無数のミサイル追尾を確認してニコルは素早くライフルで落としていく。
落とせなかったミサイルをシールドで防ぎ、避けたミサイルは壁に当たって二次被害を促している。
いちいち追尾されたら鬱陶しいとばかりにニコルは見える範囲の砲台をライフルで潰し、再び港を目指した。
皆が突如現れた黒い機影の対応で追われる中、アルテミスはまたも要塞全体を揺さぶられるほどの強い衝撃を受けた。
また未確認モビルスーツだろうか? 司令室でガルシアは管制室に怒鳴りつける。
「今度は何だ!?」
「わ、分かりません……。レーダー圏外から熱源を確認、3時の方向、60度と推測!」
「射程外からの砲撃だと!? ええい砲台用意、推測位置に一斉砲撃、弾幕を張れ!!」
事態を解明する間もなく、ガルシアは対応に追われていた。
「おーおー、イヤな装備だねぇ」
二度目の砲撃を相殺され、ディアッカがヒュウと口笛を鳴らす。
傘を落とした、とのニコルからの入電で出撃したディアッカは射程外からアルテミスへ長射程狙撃ライフルを放っていたのだ。
どうせならば今すぐ自分もアルテミスへ乗り込みたいディアッカだったが、これ以上近づけばあのアルテミス砲に捕まるため迂闊に近づけもしない。
ともかくブリッツから少しでも注意を逸らせろ、という指示だったがディアッカからすれば地味で面白くもない仕事だ。
しかし嫌だと言えばこの役目はショーンに取って代わられ、バスターのシートにショーンを座らせる羽目になる。それは癪だ。
とはいえやはり面白くなく、ディアッカは半ばやる気を放棄して適当に撃ち続けた。
キラはというと、ビダルフに連行されるようにしてハンガー行き技師達とOS解析に勤しんでいたものの、突然の揺れを攻撃だと確信してコクピットから彼らを追い出そうとしていた。
「どいてください!」
「待て、まだ――」
「死にたいんですか!?」
技師達は食い下がったが、キラは有無を言わさずコクピットを閉じてストライクを起動させる。
アークエンジェルの内部が今どうなっているのか分からない。しかし悠長にストライカーパックの装備を待ってもいられない。
「このまま行くしかないか……!」
ともかく状況の確認だけでも、とキラは素体のままのストライクを走らせた。
一方、港内部に侵入したブリッツは次々と襲いかかってくるメビウスの相手をさせられていた。
が、アークエンジェルとストライク以外に構っている暇はないニコルは機動性を活かして上手くそれらをすり抜けていく。
筒状の入り口を抜けると、補給艦らしき艦の後ろに見えたのは見覚えのある白い戦艦。
「――いた!」
コクピットのモニターにはアークエンジェルと、ちょうど今飛び出してきたストライクが映った。
もはや失敗は許されない――、とニコルの眼が鋭く光る。
「アイツ、今日こそ!」
ストライクの性能の良さは先の戦闘で見知っている、が、怯んでなどいられない。
「僕のブリッツでなら……やれる!」
この機体も負けてはいない。すぐさまビームサーベルを出し、接近戦に持ち込む。
シールドも持たずに出てきたストライクはただただそれを避けるしかない。
「くそっ、こんな所まで追いかけてくるなんて……!」
装備を付けていない分身軽なストライクは何とか間合いに入ろうとするブリッツを凌いでいく。
しかし、戦い方などまるで分からない。
どう対処すれば良いんだ――、とキラが思考を巡らせた刹那。突如として視界からブリッツが消えた。
「え?」
キラが間の抜けた声をあげたと同時に拾ったのは後方からの熱源。
「これで終わりだ!」
ニコルがブリッツのコクピットで叫びながらビームサーベルで突きを繰り出してきたなどと知る由もないキラは捉えた熱源へ無我夢中でストライクの頭部を捻り、バルカンを打ち込んだ。
まさにコクピットにサーベルを突き立てる寸前だったのだろう。
ストライク眼前に突如としてブリッツはその姿を現し、バルカンから身を守った直後に再び姿を消した。
「な……何だ、今の、消えた?」
訳の分からないキラの呼吸は焦りから徐々に乱れていく。機体が消えるなど、想像もしなかったことだ。
アルテミス内部では突然の戦闘警報にバタバタと慌ただしく人々が行き来していた。
とある一角の奥の部屋でその様子に聞き耳を立てていた少年がボソリと呟く。
「……騒がしいな」
壁に寄れば監視員達の話し声が聞こえてきた。
「オイ、アレを積んで退避しろと指示が出ているぞ! もうここも長くは持たないかもしれん」
「コード03はどうする? ここに放棄か?」
「いや、連れて行けとの命令だ。アイツしかアレは動かせないんだからな」
ピクリ、と少年の耳が動いた。
窓のない殺風景な部屋にドアは一つしかなく、その頑丈に鍵がかけられたドアの横にピタリと張り付く。
「持たないだと……? 沈むのか、ここは」
零して無精に伸びた長い髪を一纏めにし、少年はニヤリと口の端を上げた。
そして臨戦態勢を整える。
もうじき扉が開く。すると武装兵が数人入ってくるだろう。まずは銃を奪って外に出る。
と、近い未来の状況を正確にシミュレートした。
一方、この事態に客間に軟禁状態だったマリュー達には解放指示が出された。
もはやここにアークエンジェルを留めておく理由はないからだ。
急いでアークエンジェルのブリッジへ走り込んだマリュー達にガルシアから映像回線が入ってくる。
「貴艦はこれより反対側の港口からアルテミスを離脱せよ。補給はまだ済んでいないが事態は一刻を争う」
「司令!?」
フラガは驚きの声をあげた。
ブリッジの窓からは直ぐ傍で交戦中のストライクとブリッツの姿が映っている。
マリューもまた驚き、考えた。
ブリッツの目的は恐らく自分たちだろう。
だが、このまま自分たちが離脱してもブリッツがアルテミスから手を引いてくれるとは限らない。
そして後悔もした。
ミラージュコロイドという不安要素を知りながら軍事機密だと自分に言い聞かせ、結果としてアルテミスを危険に晒したことを、だ。
「私たちも応戦します! このままではアルテミスが――」
「ここはユーラシアの要塞、手出し無用だ!」
マリューの申し出をガルシアが一喝した。
「なに、案ずることはない。私はかえって感謝している。君たちはチャンスをくれたのだからな、この死に損ないに。その礼はキッチリさせてくれ」
「司令……!」
フラガには、フラガにだけはすぐさまガルシアの言葉の意味を悟ることができた。
その胸にやるせなくも熱い思いが胸にこみ上げてきて、フラガは強い視線で力強く敬礼をする。
「ご武運を……司令!」
「貴様もな、エンデュミオンの鷹」
フラガに続きクルー一同もガルシアに向かって敬礼をすると、ガルシアも軽く敬礼を返しプツリと回線は切られた。
そしてクルー達はアークエンジェルを起動させる。
キラの方はひたすら全神経をモニターに集中させていた。
姿を消したブリッツがどこから攻撃してくるか分からないからだ。
シールドのない今、ともかくビームの熱源を察知して避けること。的にならないよう常に動くこと。それくらいしかできなかった。
だが、もし消えているブリッツと接触でもすればどうだ? その場でビームサーベルを一突きされてストライクは落ちるだろう。
そういう恐怖が常にキラに付きまとう。
どこから攻撃されるか分からない恐怖――それを敵に与えられることもミラージュコロイドの利点の一つだろう。
ニコルはというと、機体を上手く隠しながらストライクの死角を狙っていた。
スラスターを少しでも噴かせれば位置がバレてしまう分、そう迂闊には動き回れない。
加えて高速移動すれば微粒子ガスが剥げてしまうというデメリットもあるため物理的にも動き回れず、ガモフに帰還したらその辺の調整をし直そうなどと頭の隅で考えながら次なる策を練っていた。
ふと、港の至る所にある作業用の取っ手に目がとまる。
ブリッツの左腕にはグレイプニールと名の付いた有線式ロケットクローが装備されている。
よし――! とニコルは心の中で呟いてグレイプニールを射出し、取っ手を掴ませると有線を使って勢いよくブリッツをストライクの後ろに回り込ませた。
「――うあ!?」
「遅い!」
ストライクがブリッツ出現に気づいたと同時に反動を利用したブリッツの蹴りがストライク脇腹に決まる。
そのまま吹き飛ばされ、港のシャフトに激突したストライクに向かってニコルは素早くビームライフルを構えた。
またとないチャンスに狙いを完璧に定め、ニコルは力強くトリガーを引いた。――恐らくそれで勝負は決まっていたはずだ。
が、あろうことか真横から割って入った砲撃によりニコル渾身の一閃は儚く掻き消されてしまう。
「モビルアーマーか!?」
既に爆炎に包まれつつあった周囲に待機していたらしきメビウスが戦闘に割って入ってきたのだ。
チッと舌打ちしてニコルは矛先をメビウスに変える。
アークエンジェルとストライク以外はいま落とす必要はないというのに――、と眉を寄せつつメビウスをライフルで撃ち抜き、ビームサーベルを出して再びストライクへ向かった。
キラの方はシャフトに激突した衝撃で一瞬気を失いかけたものの、メビウスがブリッツを足止めしていた刹那に体勢を立て直して唯一の武器であるアサルトナイフを取り出していた。
斬りかかってくるブリッツを寸前まで引きつけて下腹部に入り込み、肩辺りを狙う。
ブリッツはそれを紙一重でかわすと頭部の横をすり抜けたストライクの腕を素早く掴み、思い切り腹を蹴り上げる。間髪入れず再びグレイプニールを射出したが、とっさに両腕を合わせて防御姿勢を取ったストライクにそれは弾き返されてしまった。
フェイズシフト同士がかち合い、幾重にも火花が飛び散る。
「く……!」
そんな間にも起こる誘爆でもはやミラージュコロイドを展開させる余裕はなく、ニコルはレバーをグッと握りしめると低く唸った。
「キラ……! 戻って! アークエンジェル発進します!」
アサルトナイフも効かず、もはや持ち駒尽きたと息を乱していたキラにミリアリアからの助けるような通信が入った。
「りょ、了解!」
それを受け、爆炎の中から迫る黒いブリッツを尻目に勢いよくスラスターを噴かせて反転する。アルテミスを離脱するなら、これ以上戦闘を続ける意味はないからだ。
そんなストライクの姿に驚いたのはニコルである。
「なっ――」
仕切直しを、と思っていた所に突然背を向けられたのだ。無理もない。
「ッ――、逃げるのかッ!?」
今コクピットには自分一人しかいないとはいえ、珍しく感情のままに聞いてもいない敵に向かってニコルは怒声に近い声で叫んだ。
「司令……っ!」
司令室にて残存メビウスでの応戦を指揮していたガルシアの所に、突然一人の兵士が転がり込んできた。
「コード03が……銃を奪って逃走、手近の兵を射殺してプロトタイプに乗り込み脱走を……!」
「何だと!?」
撃たれたのだろうか。流血した肩口を押さえて倒れ込んだ兵にガルシアが愕然とする。
「い、今すぐ追え!」
「し、しかし混乱に紛れあの機体で暴走されてはこちらが……!」
「く……あの出来損ないめ!」
歯ぎしりをしたガルシアに副官が不安げに声をかけた。
「司令……」
こんな間にも刻一刻と状況は悪化の一途を辿っている。
ガルシアは少しの間怒りに震えていた。が、それも直ぐに収まる。
そしてどこか諦めたように、フ、と一瞬ガルシアの瞳から色が消えた。
「まあ、今更それもどうでも良いこと」
もはや火の海と化すアルテミスを見やり、ガルシアは副官に残存兵をまとめて脱出するよう指示を出すと、モニターに映る爆炎の中の黒いモビルスーツを睨んで拳を強く握りしめた。
「グリマルディ戦線ではたった一つのザフト部隊に我がユーラシアの部隊は壊滅させられたのだ。今度こそあのたった一つのモビルスーツにこのアルテミスを沈められるわけにはいかん」
ガルシアの強い瞳に彼の意志を感じ取ったのだろう。呼応するように副官以下も声を揃えた。
「司令……! 我々の責務もこのアルテミスを守る事にあります。それが前線から追いやられた我々の唯一最後の誇りです」
ガルシアは一瞬瞠目したものの、直ぐに首を振るう。
「司令!?」
「諸君等は恥に耐えてくれ。研究データを持って本国へ向かえ」
それはいつもの尊大な口調ではなく、柔らかな言葉だった。その場にいた全員が言葉を失う。
そうしてガルシアは一人決意を秘めた瞳で司令室を後にし、副官以下はもう何も言わず無言の敬礼で上官を送った。
「ストライク、着艦」
「アークエンジェル発進、最大艦速!!」
アークエンジェルの方ではナタルがストライク帰還に声をあげ、マリューの指示で一気にエンジンを噴かせていた。
そのまま入港してきた港口とは反対側の港口を目指す。
ブリッツはすぐさま追ったが爆発に阻まれて真っ直ぐに追うことが出来ない。
広がる煙をかいくぐって視界が晴れた時には、既にアークエンジェルは再び闇の宇宙へと飛び立った後だった。
「く……!!」
ブリッツの足では今さら追いつけるわけもなく、ニコルは力任せにレバーを握って悔しげに歯噛みをする。
もう少しで落とせたというのに、と。
しかし悔やむ間もなくアルテミスは崩壊の一途を辿っており、ハッとしたニコルは直ぐに戻らなければと思考を切り替える。
が、そこで初めてニコルは攻め入るより帰還する方が難しいことに気づいた。
今ここを飛び出せばあのアルテミス砲の射程に自ら飛び込むようなものだからだ。
流石に背後から一斉砲撃されれば一溜まりもない。
そしてもう一つ、ブリッツのエネルギー残量は既に底が見え始めていた。
「ミラージュコロイドを展開したまま戻れるか?」
呟いた直後、モニターから警戒音。
「メビウス? まだ来るのか!?」
モニターの示すままにブリッツはシールドをかざした。港側から突進してきたメビウスの対装甲リニアガンが火を噴いたからだ。
「なぜ出てくるんだ……!」
舌打ちと共にニコルは顔を歪める。
アークエンジェル・ストライクという目標をロストした今、もはやニコルには戦う理由はない。
この状況でやりあってもお互い何のメリットもないだろう。
だというのに、メビウスは執拗に攻撃を繰り返してきた。
「この悪魔め……!」
そのメビウスに乗っていたパイロット――ガルシアはブリッツをそう呼んだ。
火炎に浮かぶ黒いモビルスーツが、ガルシアの目には悪魔さながらに映ったのだ。
そうしてコクピットで一人叫ぶ。
「あの敗戦の借り……今こそ返すぞクルーゼ!!」
クルーゼ隊が追尾しているとフラガに聞いた時、ガルシアの頭には「報復」という二文字が浮かんだ。
グリマルディ戦線――、娘の仇討ちと臨んだその戦いで自軍はクルーゼ隊の前に壊滅。一人虚しく生き長らえ、前線から追いやられたたガルシアにとって、これはまさに巡ってきたチャンスだった。
――コーディネイターが憎い。
アルテミスでの職務よりも先に、ガルシアの心に強く深く眠っていたものが沸き出したのだ。
娘と、死んだ部下達や同僚の仇を討つ。その想いだけを胸に、眼前の悪魔が連射してくるビームを何とか避けていく。
しかしやはり悪魔なのか――相手にはこちらのリニアガンもバルカンも一向に効く気配がない。
ニコルはというと、メビウスに構っているよりも早々にこの場を離脱しミラージュコロイドで少しでも遠くへ離れたい思いのみで弾丸を避けていた。
残りのエネルギーをこれ以上無駄には出来ない。
多少の被弾ならフェイズシフトは耐えられる。
ならば強行突破するしかない――、とニコルは方向転換し、フットペダルを踏み込んだ。
自分に背を向けたブリッツにガルシアは慄き、愕然とする。
「貴様……ッ、また私を生かすつもりか!!」
聞こえるはずもない相手に向かって叫んだ脳裏にふと娘の笑顔が過ぎった。そして爆炎に消えていった同僚達の声――あのグリマルディでの手痛い敗戦。
「傲るなよコーディネイター!」
今度こそ。今度こそこの手で仇を取るのだ。もう何も出来ず虚しく生き残るなどまっぴらだ。
「我らナチュラルの力、その身で思い知れぇ――ッ!!」
カッと瞳を開いたガルシアは一気にメビウスのバーニアを噴かせて加速し、機動力を最大限に活かしてブリッツに突っ込む。
「な――!?」
ニコルが振り返ったと同時にメビウスはブリッツ右腕に接触した。
が、とっさの判断でニコルは右腕のトリケロスの先からビームサーベルを出しており、突進と共にメビウスの胴体にはその楔が突き立てられた。
接触の負荷で機体が流される。メビウスの動きは止まったが、数秒と経たずに誘爆を起こすだろう。
離脱しなければ。離脱――、なのにまるでブリッツを道連れにするまで離さないというパイロットの意思が宿ったようにサーベルとメビウスが一体化して納まらない。
ニコルが冷や汗を流した刹那、四散したメビウスの爆風と共にブリッツはゼロ距離での衝撃を全体で受けた。
直後にエネルギーオーバーを知らせる警報が鳴り、装甲が解ける。
何とかレバーを引いて機体を安定させ、肩で息をしながらニコルは軽く歯噛みをした。
装甲が落ちたのだ。
フェイズシフトがなければ、そこかしこで爆発が起こっているアルテミスを抜けるのすら難しい。
「後はランサーダート……これだけかッ」
手持ちの武器はトリケロスに附属する3連装超高速運動体貫徹弾のみだ。
それで出来る限りの砲台を潰して上手く離脱するしかない。
シールドも兼ねたトリケロスで機体を守りながら、ブリッツは爆炎の中を駆けた。
そうして離脱していくブリッツの一連の動きを、アルテミスの影からとある機影が眺めていた。
「黒いモビルスーツ……か」
火の海に染まるアルテミスを見て、フフ……と堪えきれない笑い声がコクピットから漏れる。
「ハッハーーー!! これで俺は自由だーー!!」
グン、とフットペダルを深く踏み、沈み行くアルテミスを一蹴しながら操縦者は乱雑な長髪を振り乱した。
「サンキュー、黒の貴公子! 返す機会がありゃ礼はするぜ!」
そう呼んで、ブリッツとは逆方向の宇宙へ高笑いを決め込んだままその機影は再び闇に紛れていった。
――――to be continued...
……すまん、なんだコレ
久しぶりに新作キタ!と興奮して読んだらドリーム小説でガッカリした
投下乙。
さも意味ありげに配置されたアルテミスが
ちゃんと後に続く要素を残してるのがいいね。
黒の貴公子で聖剣3思いだしてちょっとワロタ。
ブリッツのこういう戦闘シーンは本編でやるべきだったと
再構成SSでの大活躍を見るたびに思う。
カガリが男だったという設定を考えるんだけど、結末が浮かぶだけで中間の話が浮かばない。
アスランを掘るのか>結末
キラと見た目同じじゃないのか?
てゆうか、キラがカガリポジションになるだけの話な気が
ウホッ
アスハ家の家督をそもそも女の子に継がせるのがおかしいと考えてたら、男の方が自然な気がして>カガリ
戦闘機やMS乗った時も男の方が絵になるし、兄妹より、兄弟の方が燃えると個人的に思って
>410
最近北斗無双やってるせいか、兄弟、燃えると聞くと自然と殴り合いになりそうなイメージが浮かぶ。
キラとカガリの立場を反対にすればいいだけだと思う
2人の立場を反対にすれば、それぞれキラ・ユラ・アスハとカガリ・ヤマトになるよ
キラがオーブの首長になって、カガリがAAに同行したらいいかも…
カガリ「兄より優れた弟などいねえッ――!」
キラ「ブチのめす……信念は肉親の情に勝るッ!」
そしてMSそっちのけで肉弾戦へ
>>401 本編や元の性格のままで登場する二次創作だと、ムネヲ以上のしぶとさが
よくネタにされる訳だが、ほぼ本邦初と言ってもいい心情の理解できるこの閣下だと
逆に生還の目は絶望的ときた、つくづく物事ままならないもんだなあorz
C.E.70/XX/XX
今日は驚いた一日だった。
デザイナーの筈の自分が、新型MAの開発スタッフとして招かれたのだ。
与えられた仕事は、兵器の総合的なデザイン。敵を畏怖させるような恐ろしいデザインをと、開発責任者が主張したらしい。そこで、私に声がかかったという事だ。
兵器のデザインは初めてだが、これは戦局を一気に逆転させうる兵器を作る重大なプロジェクトだと聞く。そこで自分の腕を振るえるなんて、こんなチャンスは他にない。必ず成功を掴んでみせる。
私は、その依頼を引き受けた。
C.E.70/XX/XX
提出したデザインを開発者は気に入らないらしい。全てダメだった。
もっとしっかりと仕事にかかろう。
C.E.70/XX/XX
……ダメだ。提案した全ての案を拒否された。
各地の伝承や神話、心理学や宗教学まで参考に取り入れ、現代芸術なんて物まで調べたのに、全て開発者のお気に召さなかったらしい。
恐怖感が足りないとそれだけを言われた……
だが、そんな事はないはずだ。見れば誰だって足を止めるほどの恐ろしさはある筈だ。
あのデザインをハリウッドに売り払えば、三本は映画を作ってくれるだろう。逆に言えば、その程度という事か。
恐怖のデザイン……
何が……何が足りない?
C.E.70/XX/XX
今日も全て没だ。
C.E.70/XX/XX
今日もデザインは思いつかない。
催促のメールを確認する気力もない。
このまま、仕事の期間が切れて、私はお払い箱か。
C.E.70/XX/XX
ダメだ。
……ダメだ。
C.E.70/XX/XX
昨日、先月死んだ叔父の家の整理を手伝いに彼の住んだ田舎町へと向かった。
久しぶりの田舎の空気で、仕事に煮詰まった脳をリフレッシュさせたかったのだ。それに、あの仕事の事はもう半ば投げ出してしまっていた。
しかし、私はそこで田舎の空気などよりも素晴らしい物と出会ったのだ。
叔父は変わり者で知られており、それと同じくらい稀覯本の収集家としても知られていた。
私が行った家の整理とは、彼の家の中に乱雑に詰むに任されていた書物を、棚なり何なりに収めておくというもの。叔父が死んで以来、誰も触れていない本を拾い集め、それなりに整理して片づけていく。
朝から作業を始め、夜になってもそれは終わらなかった。くたびれた体を、やっとスペースを空けたソファの上に投げ出し、そして……それと出会った。
ソファ脇のテーブルに詰まれた朽ちかけた古本の中の一冊。
それを手に取ったのが何故かはわからない。他の本でも良かったはずだ。だが、私は迷わずにその一冊を引き抜いた。
ああ、そこに答があったのだ。
その本の中身は、私のインスピレーションを激しく刺激した。まさしく……恐怖で。
生物が抱く恐怖そのものがそこにあった。私は一夜かけて本を読み、朝になるやその本一冊を抱えてオフィスへと帰ってきた。
叔父の本の整理など糞食らえだ。書き表したい物が、私の体を食い破って出てきそうであった。
そして、たった今、一枚のデザインを仕上げた。本に記されていた恐怖を、自分なりに再現出来たと考えている。
これで、開発者達も満足する事だろう。彼等に見せる時が楽しみだ。
……寝ようと思ったが、外で獣の吼える声がして眠れない。気が高ぶって、些細な音も気になるのか? 酒でも飲んで寝よう。
C.E.70/XX/XX
やった。
開発者達は、私のデザインを気に入った様だ。テストタイプの外装を、このデザインで制作するという。無論、正式採用機のデザインも、引き続き依頼された。
この兵器が活躍してくれれば、私の名は大いに高まる事だろう。
次はもっと濃密な恐怖を機体に込めたいと思う。叔父の家へ行こう。本はまだあるかもしれない。
C.E.70/XX/XX
叔父の家に行ったが、空振りで終わった。あまりに蔵書が多すぎて、これを弄っていては戦争が終わってしまう。
それに最近、夜に獣がうるさくて眠れない。窓の外から唸り声が聞こえ、常に何かの視線を感じる。気のせいとはわかっているのだが、精神的に厳しい。
早く仕事を終えて楽になりたい。
C.E.70/XX/XX
デザインはまだ出来ていない。
叔父の本を読んでいて、一つ思いついた。ここに書かれている儀式を試してみよう。
必要な道具を集めるのは面倒だが、叔父の家で幾つかを見かけた事がある。
所詮は戯れだが、何か新しい発想に繋がってくれる事を祈って。
窓の外に影を見た。獣の声とあいまってどうしても気にしてしまう。
C.E.70/XX/XX
儀式の道具はそろった。本にあったやり方も覚えた。
ちょっと時期がずれてるようだが、構わないだろう。
さあ、ショーの始まりだ。
C.E.70/XX/XX
私は見た。
私は見た。
C.E.70/XX/XX
白い宇宙。金の魔獣。
ああ、獣が! 獣が! 窓の外に!
C.E.70/XX/XX
私は恐ろしい。どうして、あんな事をしてしまったのか。
私はあの日、違う宇宙へと旅立った。そして、そこで見たのだ。
あれは……違う。違うのだ。この世界にあってはならない。仕事は断ろう。あれの影であっても、外に出してはならない。
ああ、しかし、私はあれを形にしたくてたまらないのだ。
お許し下さい。お救い下さい。
私は恐ろしい。私は恐ろしい。
ドアの向こうに獣がいる。
奴は待っている。全ての冒涜の限りを詰め込んだ場所へと繋がる顎を広げて。
ドアを開ければ、私は楽になれるのか……
C.E.70/XX/XX
魔獣が呼んでいる。
C.E.70/XX/XX
今日は満月だ。術は完全な力を発揮する。
私はもう一度、術を行おう。そして、もう一度、見るのだ。
あの、光り輝く宇宙と、金色の魔獣を……
――ザクレロの機体デザインの最終案は、郵送にて開発局へと送られてきた。
その後、デザイナーの姿を見た者は居ない。
彼の部屋は、まるでそこで何かの獣が暴れたかのように荒らされていた。しかし、隣室の住人はその音を聞いてはいないという。
部屋で発見された彼の日記帳は、最後の書き込みの次のページが破り取られていた。まるで、そこから先に書かれた事を隠すかのように。そして、彼のインスピレーションの元となった書物も、彼の部屋から姿を消している。
なお、ザクレロのデザインが投函されたと推測される日は、彼が日記帳に最後のメッセージを書き込んだ次の日であった――
機動戦士ザクレロSEED‥‥以上。
ザクレロ開発暗黒秘話
ヒイイイーーーーーーーーー一体何の本を見たんだああああ
そしてお帰りなさいGJ!!!!!
窓に!窓に!
ちょっとザクレロ復習してくる!
MIA版ザクレロを今更探し出し、連合のエンブレムを貼って
再開を心待ちにしていた甲斐があったと思いきや、
デザイナーがMIAになったの巻だったでござる。
バイオハザードの日記や、ブレイブルー1作目のアラクネEDを思い出したww
GJ!帰ってきてくれてすごく嬉しいです!!
このデザイナーの話はさらに発展して都市伝説化するんですねw
「ザクレロを見たらすぐに親指を隠して10秒数えないと
親の死に目にあえない」とか
「戦闘中ザクレロの目を見ると狂う」みたいな
ガリガリ削れるSAN値、やはりザクレロはこうでなくては!
・・・何か違う気もするが・・・
ああ、窓に!窓に!
ザクレロ読むとテンション上がる
>黒の貴公子
そういやラモスがこんなこと言ってたなw
ギャー!
デザイナーまでw
ザクレロの顔を笑い飛ばしたムゥ最強
もしミーアのポジションがメイリンだったら・・・・・・
ザクレロさんありがとう御座います!
デザイナー、見てはいけないものを・・・
続編が楽しみだ。
この投稿で、後一年は満たされる。
窓に!窓に!
「アスカさん……しっかり……」
「無理だ」
各方面への連絡の合間に両手を合わせて祈るオペレーターの少女。
しかしデスティニーとフリーダム、画面の中の2機の戦いは素人目でも分かるくらいに一方的だった。
彼女の祈りを断つように、艦長は声を絞り出す。
「よもや、これほどまでの力の差があるとはな。これは既に 『人の手で倒す』 というレベルではない……」
シンの実力は期待以上だったと言って良いだろう。
ブランクなども考えられたがそのようなものは微塵も感じられず、先日映像で見た現在のアスラン=ザラに勝るとも劣らない。
だが相手がこれでは少々の実力など関係が無かった。
今のキラ=ヤマトの動きは、神の領域にまで近付いていると言っても過言ではなかったから。
「エターナル攻略はどうなっている」
「敵守備隊は未だ健在。エターナルに損傷、ありません」
「………」
彼が落ちれば全てが終わりだ。何か策は無いのか、何か。
他のパイロットに援護させても無駄な被害が出るだけ。いや、シンの足を引っ張るのが関の山だ。
当初の目論見通りエターナルを落とせばいくらか動揺を誘えるかもしれないが、敵の守備の堅さにミサイル1発打ち込めていない。
現在ミネルバに乗っている、彼らの戦いに唯一介入できそうなアスラン=ザラはこの宙域に来るまでまだ時間が掛かるだろう。
「私の責任だな、これは」
打つ手が無い。これは指揮官たる自分のミスだ。
こんな事なら兵の士気など考えずに一旦退いて、ミネルバと合流の後に決戦を挑めば良かった。
いやそれ以前に基地から出撃しなければ良かったのだ。あの時点ではキラの情報など無かったのだから。
自分では最良な手を選んでいたつもりだったが、神を相手に最良を選んだところで勝てるわけが無い。
……今になって言い出しても仕方の無い事か。
「でもアスカさん、まだ頑張ってます。必死に喰らいついてますよ!!」
「どうにかしのいでいるだけだ。―――多分、次で終わる」
距離を取ってフルバーストを放つフリーダム。
それに対し両掌のビームを連射して反撃するシンだったが、既にその動きには精彩が欠けている。
しばらく火線が交錯していたものの、ついに接近戦の際にデスティニーが右足を撃ち抜かれた。
爆炎に包まれる運命。オペレーターの少女が悲鳴を上げる。あの爆発の規模なら機体に誘爆する事はないだろうが、勝負あった。
もしあの機体に戦う力が残っていたとしても、この流れは変わるまい。
サングラスを外す艦長。
必死にシンに呼びかけている少女に一瞬だけ申し訳なさそうな視線を向けた後、彼は小さく言葉を吐き出した。
「どうやら、ここまでか」
第20話 『いつもそこに君がいた』
高速で円を描くように回り続ける2機のMS。
先に攻撃を仕掛けたのはデスティニー。武器を手にしていない左掌から閃光が放たれ、シンの視界を白く染める。
フリーダムは数十センチ単位の見切りでそれをかわすが、シンは構わず前に出た。
一瞬、いやおそらくその半分にも満たないだろうが、キラの注意はそちらに行ったはずだ。
勢い良くアロンダイトを振り下ろす。
渾身の一撃は視認すら難しいほどの速度でフリーダムに迫り、そして空を切った。
「逃がすかぁ!!」
これくらいは想定の範囲内だ。だが次は逃がすわけにはいかない。
続けざまに振り下ろしたばかりの長剣を跳ね上げる。オーブでは燕返しとも呼ばれる返しの太刀。
タイミングは今度こそ完璧かと思われたが、フリーダムは急スピードで後ろに跳ぶことでその一撃を避ける。
そして次の瞬間、右手に握られたライフルの銃口がデスティニーに狙いを定めていた。
近い、避けれるか―――?
「くそ、こいつ……ぐあああっっ!?」
咄嗟に左に跳ぶデスティニー。だが右足をライフルで撃ち抜かれた。
コックピット内を衝撃が奔り、同時に苦悶の声が響く。一瞬死んだかとも思ったが、胴体への誘爆は免れたようだ。
確認したところ機体は不自由なく動くし、両腕も武装も残ってる。
ならばまだ終わってはいない。劣勢なのは事実だが、俺はまだ戦える。
例え地べたに何度も這い蹲ろうと、武器を取って、立ち上がって――――立ち上がって、どうする?
決まってる、身体が動く限り抗うだけだ。
絶望的な戦いは初めてではない。そして自分はその戦いを生き残ってきた。
ここに来て戦意喪失するくらいなら、俺は最初から戦場になんか戻ってきたりはしない。
しかし―――
「ハア、ハア………チッ……」
挽回できない劣勢。重さを増す身体。自分の荒い呼吸の音が煩わしい。
だがそれ以上に、自分自身が信じられなかった。
否定したい先刻のキラの言葉。だがその言葉は間違いなく自分の心に潜り込んでくる。
忘れてしまっただけだ君は。
俺の憎しみに誰かを巻き込んで、また悲しみを増やすようなこともしたくない。
憎しみの連鎖。それを嫌って、俺はレイや議長たちの復讐を諦めた。キラやラクスたちに屈服した。
そして軍を辞めてからこの数年、全てを捨てて 『彼女』 のために生きてきたつもりだった。
だがもしかしたら、キラの言う通り本当は違うのかもしれない。
俺は憎しみの連鎖や 『彼女』 の事を言い訳にして戦うことから逃げただけで。
親友を、仲間を、認めてくれた主を失った事を忘れようと逃避してしまっただけなのかもしれない。
他人の為に怒る事に、疲れ果てただけなんだよ君は。
そうなのかもしれない。
いくら力を振るっても何も守れなかった現実に、戦争後の自分は戦う気が沸かなくなっていたのは事実だった。
そんな中、ラクスに連れて行かれた復興の進まないベルリンを目の前にして痛感したのは
約束を守れなかった過去と自分が 『彼女』 に罪を背負わせたという負い目。そして当時と変わらず無力な自分。
そんな現実から目を逸らすために自分は贖罪の道を選んだのではないだろうか。
ルナマリアとは別れた。彼女のことは愛していたが、純粋に彼女の事を想えない自分には傍にいる資格が無いと思った。
FAITHの地位も捨てた。ザフト軍人の憧れとも言える地位だったが、自分には過ぎた力だと思った。
無論苦しくないと言えば嘘になる。だが自分は失うことに慣れていた。
だから、大切なものを手放すのは仕方の無いことなのだと気持ちに蓋をするだけで耐える事ができた。
しかし、それは本当に罪と向き合っていると言えるのか。ただ大切なものを捨ててまで償う自分に酔ってるだけじゃないのか。
そしてその償いという逃避で、自分が一体何を救えたというのか。
己の心すら救えていないのが自分の現実だと言うのに。
『これで決める……当たれぇぇぇぇ!!!』
ドラグーンが宇宙を舞う。幾重もの緑の閃光がデスティニーに向かって迫る。
瞬時に自分の頭が回避ルートを割り出すが、身体が鉛の様に重かった。
お前はここで敗れておけ。まるでそう言うかのように。
「駄目か……」
力が抜ける。
認めたくは無いけれど。認めるしか、ないのかもしれない。
キラの言う事は間違っていないと。
憎しみの連鎖を終わらせる。
ベルリンを復興させる。
医者になる。
彼女の代わりに償いをする。
それは全て、戦いから逃げるために自分に吐き続けた嘘だったのかもしれない。
そして自分は、その嘘に気付かない振りをしていたんじゃないのか。
でもだとしたら、俺は。
俺は―――――
―――相変わらずだな、お前は。
「え? ……うわっ!!」
不意に懐かしい声が頭の中で響く。もう、二度と聞くことのできない筈の声。
思わず動きを止めてしまったが、フリーダムの攻撃はかろうじて避けることができた。
頭の中で言葉が続けられる。
―――自分への評価が低くて、人に責められるとすぐそれを鵜呑みにする。それは今のお前の悪い癖だ
言いにくいことをあっさりと口にする声。いやそりゃ確かに流されやすいとこあるけどさ。
今回のキラの言葉はもしかしたら図星かもしれないんだ。
よく考えてみろ、俺みたいな奴が
―――俺も議長も平和を目指していた。それなのに俺たちの復讐のためと言って戦争など起こされても困る。
だからお前の考えは正しい。ベルリンの復興にしてもそうだ。
お前は守りたかっただけだろう? 彼女とした 『守る』 という約束と、彼女自身を。
確かに自分はあの時誓った。
彼女が死んでいようが関係ない。「君を守る」 という約束を守り通すのだと。
シン=アスカはステラ=ルーシェを守るのだと、そう誓った。
だが、しかし
―――いい加減にしろシン、何度でも言ってやる。
お前のやっている事は正しい。いや、
ばっさりと反論が切り捨てられる。そして続くのは肯定の言葉。
本当に? 本当に俺は間違っていないのだろうか。自分を信じても良いのか?
自分に対する疑念が消えたわけではない。だが手には確かに力が戻る。
あれだけ自分で沈んでたくせに、親友に肯定された、ただそれだけで気を取り直したのか俺は。
何とも安直な自分に笑えてきた。
まあいいや理由は何でも。
だが、それにしても。
なんでこいつはいつも、自分のピンチを救ってくれるんだろう。
―――お前は、何も間違ってはいない
レイ。お前はなんで。
声が止んだ。
意識が跳んだまま戦っていたのか、フリーダムとの距離が先程までと違う。
キラは先程までと変わらず、自分に向かって叫んでいた。
声が掠れるのも構わずに怒りの声を吐き続けるその姿、数分前の自分なら戦う意思を無くしていたかもしれない。
だが、
『君にはあるのか!!
大切な人との思い出を忘れていって、過去のものにしている君に!!
僕のこの想い、怒りを否定する権利が――――』
「五月蠅い」
今の自分には煩わしい。
誰かに背中を押された感触と共に、シンのSEEDが覚醒した。同時に身体中に力が滾り、全神経がクリアになる。
中距離から放たれたライフルの光弾をアロンダイトで文字通り叩き落しながらシンは吐き捨てた。
『なんだって……?』
「五月蠅いって言ったんだよ、キラ」
考える時間が終わったらなんか腹立ってきた。さっきから黙って聞いてりゃ言いたい放題言いやがって。
少し黙れよお前。今は口喧嘩なんかの時間じゃないだろうが。
何が心の傷だ。何が逃避だ。
思春期真っ只中のアカデミー生じゃあるまいし、過去を責められたところでそれが何だって言うんだこの野郎。
ああ認めよう。確かに自分の皆への想いは、お前のラクスへの想いほど強くはないのだろう。
それどころか未だに出すべき答えを出していないのだ。こんなんじゃ彼女が言ってくれた 『明日』 へなんて程遠い。
そんな俺が他人の進む道をとやかく言う資格は無いと、自分でも思う。
けれど、今は。
「知ってるか、ガキ」
ただ、今は。
「他人の弱さを許せないのはなぁ」
誰だって生き続ける限り、傷つきながら誰かを傷つけている。
そんな事も気付かずに、自分の傷を免罪符にして他人を傷付けるのを止めようとしない
「――――――自分も弱い人間だけなんだぞ」
こいつが気に入らないからぶっ飛ばす―――――
2刀に切り替えてドラグーンを再び連射する相手に対し、デスティニーは最小限の動きで避けながら距離を詰める。
そして振りかぶったアロンダイトを、そのままキラに向かって放り投げた。
不意を突いたその投剣を咄嗟に左手のサーベルで弾くフリーダム。
シンはその光景を確認もせずに、迷わず機体を前に飛び込ませた。
両掌を輝かせながら飛ぶデスティニーにタイミングを合わせ、右手に握られたサーベルが振り下ろされる。
『シン、何かが変わった……? ちぃっ!!』
「おおおおおッッッ!!!」
その一撃をシンは、絶叫と共に左手のパルマフィオキーナで受け止めた。
おそらく1秒も保たない。だがそれで十分。
肉を切らせて、骨を断つ―――――
『まずい!!』
左腕が縦に切り裂かれるのと同時に輝きを増すデスティニーの右手。
死中に活を求めたシンの動きに虚を突かれたキラだったが、それに対する反応は迅速だった。
背後に飛びつつ掌の方向から命中場所を予測、咄嗟にサーベルを捨てた右腕をコックピット前にかざす。
ビームシールドを最大まで広げるには間に合わないが、ビームの攻撃とは線ではなく点だ。
命中する一点さえ防げればそれで良いと思ったのだろう。その判断は間違いではない。だが
『……ぐっ!! 光が、散った……!?』
広範囲に散った光の粒がフリーダムを襲う。爆発と同時に顔や腕など、美しい機体の右半分が歪に形を変える。
こちらもその動きは読んでいた。キラならばそれくらいのことはやってのけるだろうと。
だからここで切り札を投入した。これまで一度も使っていなかった散弾。
キラの意識から外れたこの一撃しか、起死回生は成しえなかった。
おそらく2度目は通用しないだろうが、今はそんなことどうでもいい。あとは止めを刺すだけだ。
左腕は完璧に死んだ。アロンダイトは放り投げたまま。もう次の手は無い。
ここしかない。
「届けぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
伸ばされた右掌がもう一度輝く。貫通力に難のある散弾ではなく仕留める為の通常弾。
照準がフリーダムを捉え、トリガーを引き絞ろうとしたその瞬間
「がっ……!?」
左肩が爆発を起こした。その衝撃で掌から放たれた光弾は外れてしまう。
続けて態勢を立て直したフリーダムのレールガンの直撃によって、千載一遇の好機は事実上消えた。
馬鹿な、誰が横槍を―――ドラグーンか
『……クッ、結構やられた……これ以上戦いを続けるのは自殺行為か。
自殺……それは駄目だ。なら今日の所は一旦退くしかない』
「おい、何勝手言ってやがる」
『シン、君の今の力は……いやいい。それじゃ、また』
「待てよ、キラァァァ!!!」
言葉と共に戦闘を止め、フリーダムはデスティニーから後退していく。
追いかけようとするシンだったが、時間稼ぎのように立ちはだかるドラグーンのせいで追撃までは移れない。
ヤツを討つならここしかないのに。
『フリーダムが退却していきます!! アスカさん、凄い!!』
『あいつ、マジでやりやがった……』
『自由落し、健在だったんだな。流石だぜ』
歓声で満たされる自軍の通信。
だが喜ぶのはまだ早い。ここで逃がしては意味が無い。
次に戦った時もこう上手くいくとは思えなかった。となると、仕留めるチャンスは此処しかない。
『馬鹿な、キラ様が退がるだと!? ええい、なんとしてもお守りしろ!!』
「喜んでる場合じゃない、攻撃しろ!!―――艦長!!」
『全艦、エターナルとフリーダムを追うように伝えろ!! キラ=ヤマトだけは絶対に逃がすな!!』
シンの通信に即座に反応した艦長が、傍らの少女に向かって声を張り上げる。
そしてボルテールより全軍へ追撃の命が下り、フリーダムを庇う様に前に出たストライクたちに襲い掛かった。
『ここまでお膳立てして貰ったんだ、美味しいところはありがたく頂くぜ!!』
『キラ様が…こんな事が、うわぁぁっっ――――――』
形勢逆転。
精神的支柱を失い余裕を無くした敵と、怖い敵がいなくなったうえ元々多勢だったザフト軍。勢いの差は語るまでも無い。
フリーダムのドラグーンによる援護射撃のせいで完全に戦線を押し切れない面はあるものの、
先ほどまでの苦戦が嘘のように敵機を撃墜していった。
エターナルにも幾つかの爆発が見られるようになり、あとは動きの鈍ったフリーダムに一撃でも入れば決着が着く。
ザフト軍の中に流れるそんな勝利の予感。
MSパイロットたちも、ボルテールのクルーも、その艦長も、シンですらそれを受け入れかけていた。
しかしその空気は、
『我々の大将に、結構な真似をしてくれたね。この借りは高くつくよ?』
エターナルの後方に出現した一隻の宇宙空母によってあっさりと吹き飛ばされた。
「まさかキラが手傷を負うとはねぇ……」
自分の傍らで薄く微笑んだままの盲目の男を無視しながら、バルトフェルドは誰にも聞こえないように呟く。
驚くべきはシン=アスカの強さだろう。嫌な予感は当たった。
キラだけで行かせるのは不安だったのでエターナルと精鋭を連れて行くよう進言はしたが、このディーヴァも動かしておいて正解だった。
もし自分たちがこのタイミングで来なければ、最悪キラはここで終わっていたかもしれない。
だが思考に沈んでいる暇は無い。司令官としての自分がそんな己を制す。余計な事はこの局面を切り抜けてから考えるべきだろう。
外から見てエターナルの損傷は放ってはおけないほどのレベルになっていた。
これはキラの回収はこちらが行って、エターナルは戦域から離脱させた方が良さそうだ。
「キラの回収を最優先しろ。その為にも突出した敵戦艦を速やかに破壊して、敵の追撃の意思を削ぐんだ。
それからエターナルのダコスタ君に通信を繋いで、直ちに撤退させろ。合流は指定のポイントだ」
バルトフェルドの声と共にディーヴァからおびただしい数のミサイルが発射され、それと同時にMSが出撃していく。
カタパルトから発進したのは抹殺者として名高いドムトルーパーの他に、ストライクタイプが5つ。
兵器に詳しくない者が見れば、追撃を迎え撃つには随分数が少ないと思うだろう。
実際ストライクカスタムは強い部類の機体ではあるが、並みのMSと性能にそこまで大きな差があるわけではない。
出撃していった機体たちも特に変わった装備を着けている訳でもなく、しいて言うならば肩に特徴的な模様が見えるだけ。
『ストライクの肩の紋章ってどっかで……。ッッ!!―――まさか!?』
『間違いない、白騎士どもだ!! チクショウあいつら裏切りやがった!!』
だがそれを見たザフト軍は動揺を隠せない。
白騎士。
ラクス子飼いの白服であり、キラの部下としてかつては軍部で幅を利かせていた面々だ。
上(キラやラクスなど)を崇め下には高圧的と人格的に問題があるものが多く、そのうち幾人かは身内人事で白を纏ってはいたものの、
ザフトの中枢、精鋭といっても過言ではない。
そんな存在が自分たちの敵に回るのだ。ザフト兵士たちの動揺は当然と言えた。
「別に彼らは裏切ったわけではないのですがね」
通信から聞こえた声を聞き、彼らを寝返らせた張本人であるマルキオは僅かに息を吐く。
その声に言い訳や罪悪感は感じ取れない。謂れの無い非難を浴びた際のそれである。
「彼らはラクスが存命の際、彼女を真似て己の存在が世界の為に在る事を公言していた。
ならば今のプラントは世界を統べるに足る存在か……否。導き手は既に、他にいる」
その名はキラ=ヤマト。彼こそが世界の導き手。
だから彼らの行いは裏切りではない。
白き騎士が仕えるに値する王は、間違ってもプラント評議会などではないのだから。
「そう、SEEDを持つ者が世界を導く。ラクス亡き今、世界を統べる者は彼しかいない。
……シン=アスカ。
君とてSEEDを持つ者、その存在は非常に惜しい。しかし」
口の端を僅かに持ち上げ、マルキオは微笑する。
視線の先 (と言っても目は閉じているが) にはディーヴァから出撃した数機の白いストライクカスタム。
同じくディーヴァからいくつか射出された大型のMAの様な機体と接続し、1つになった。
それは連合やオーブなどいずれの例外も無く、戦場に在る者ならば誰もが知っている機体。
そしてザフト軍兵士にとっては救世主であり死神であった、彼らの前に現れたその機体は―――――
「不安要素は排除させてもらいましょう。今、それが小さいものであるうちに」
ミーティア、と呼ばれていた。
今日はここまでです
投下乙!
さぁ盛り上がって来ました!
乙、勝負は持ち越しか
それにしてもマルキオが黒いというか怖いw
面白いよ
何と感想つければいいかわからんかったけど
次の相手はミーティアとドムトリオか
ダメージ有りの今じゃちょっとキツいかな
OOのマリナみたいに本当に純粋な平和主義者が種の世界にいたら
ラクスと対立すると思う?
ラクスがマリナとコンタクトを取ろうとして呼び出す
↓
マリナが過激派に殺害されてラクスが勝手にキレる
こんなミーアと似たような流れしか思い浮かばないんだが・・・
>>452 ラクスとマリナじゃ対立するだろ?
マリナは如何なる武力の行使にも反対なんだぞ!
>>453 ×→マリナが過激派に殺害されてラクスが勝手にキレる
○→マリナが過激派のフリをしたクライン派にに殺害されてラクスがほくそえむ
本物の姫だから
またこんなアホな流れか
飽きねえのかこいつら
偽物だろ、成上がり者の養子だぞ
もしもヘリオにあったMSが……
GAT-X(ストライク以下五機のガンダム)シリーズじゃなくって
RX(ガンダム、ガンキャノン、ガンタンク)シリーズだったら
コーディに中性があったら萌えた?
XXなら女性でXYなら男性だけど、新たにW染色体を作ってXWなら中性になる
中性器の外見は女性器と同じ形だけど(ただし膣口がない)月経はない
代わりに尿道口から射精が可能
女性と中性の間に子を作ることが可能(中性と男性の間に子を作ることは不可能)
中性キャラの容姿は女性キャラと似ている(ただし凛々しい美形が多い)
>>461 ラクス発狂の真相は自分の母親が猫だとシーゲルに言われたからと言うネタなら聞いた
フタナリスキー!!なだけだろ
気色悪い
フタナリじゃなくて見た目はまんこだよ
例の立ちション粘着だろ
スルー推奨
ミネルバ隊(アスラン除く)と議長が種死最終回後に記憶を持ったまま
種死第一話直前の時間に戻ったらどうなるかな
ほとんど無傷のラクシズに勝てるだろうか
まずは青森湾でのG強奪を阻止しようとするだろうな
同時にユニウス7へ部隊を派遣して落下阻止
それから運命・伝説の開発を最優先
ラクシズのファクトリーを押さえて開発中の和田と隠者を接収して関係者は全員逮捕
凸は最初ッから無視
そもそもユニウス7落下を未然に防げたら戦争も起こらないか
シンはステラをどうするのか・・・
連合との戦争はすぐには起きないが、なんとかロゴスを叩く口実は欲しいだろうな
青森湾でガーティー・ルーを押さえる事が出来れば、そこからいぶり出す事も可能かもしれない
ラクシズを放っておくと、そのうち向こうから攻めて来るような気がする・・・
ユニウス落としはむしろ黙認して破砕作業で
破片をわざとオーブに多く落とすとか
後は開戦後デストロイ大虐殺に匹敵するような事件を起こさせてロゴス暴露とか
ラクシズはオーブのとある屋敷にはテロリストが潜伏していて
地下に戦艦とMSが隠されている基地があるからって情報流して
タンホイザーで島ごと焼き払うとか
>>471 残念ながらミネルバ隊の連中はそんな悪どい真似はしないし、許さない
議長もそこまで悪どい真似をしようとするだろうか?
>>468 こういうのを考えてみた。
凸は本編と同じ流れでミネルバに合流。
ただし議長側の目的は凸をラクシズから引き離すため。
(本編で凸をザフトに引き込み、ミネルバに合流させた議長の意図がイマイチ分からん)
で、本編ラストの記憶を持ったミネルバクルーに凸はいじめを受け、額の面積が広がる羽目にw
アスラン以外のミネルバクルーだから
最後ラクシズについたメイリンが再びミネルバに戻るんだよな
離反した理由はアスラン絡みだけど
もしかしたら内部から情報流し続けたりするかもね
メイリンも除外されてるんじゃないか?
で、ある日突然周りのクルーの態度が微妙になるんだ
歴史をやり直したいと思うのは敗者だけであって、勝者は含まれないと思う(主に艦隊シリーズ)
そもそも議長はG強奪やユニウス落下を止めるのか?その辺一枚噛んでる印象だったんだが
いろいろ阻止したいクルー達と、ある程度は起こしたい議長の間で摩擦が起きそう
それはそうと、最初種死一話に戻るってとこを種一話と読み違えてた
マユは生存するけど世界のどこかにいるステラを助ける為にやっぱりシンはザフト入隊かな
種時点で無理矢理シンがAAに乗り込むのも面白そうとか思った
あと議長が議長になる前にタリアは話付けにいきそう
>>476 どんな話をしにいくのか全く想像つかん
火に油を注ぐ結果になりそう
もうあの二人は別れる前に戻って別れずにやり直せよ
議長だけでなくついでにクルーゼまで改心して種世界が平和になるかもしれんw
後世世界に転生するのはミネルバクルーだけではない
ロゴスを含む敗者総てだ・・・
そして完全に取り残されるラクシズ
>>477 いやこうなるな
議長、クルーゼの目の前で不必要にのろけまくる
↓
クルーゼ、何故自分には彼女が出来ないのか悩む
↓
暗黒期突入
↓
リア充は全員死ね
ついでに人類死ね
特に女二人も侍らせてるキラは許さない
巨乳とちちくりあってるムウも許さない
もしキラ、アスラン、イザーク、シンが女性だったら?
議長やクルーが逆行したらは面白そうだ
それと同じようなジブが逆行したらも考えたら面白そうだけど
目標達成は難しそう
イザークとディアッカの処分も気になるが
そもそも決戦で裏切っているのを知っている人物がいるかどうかだよね
ユニウス破砕やレクイエムの中継基地の破壊とかでも役立つが
どちらも事前に察知して対応すれば防げる事だし
いっそミネルバに預けて最前線巡りとかさせてみるか?
なんか裏切りそうだけど
何をするにしてもラクスは確実に殺さないと
アレは人間の理解を越えた洗脳術と見た目からは到底感じ取れない野心を持っているから
>>483 全体を俯瞰している読者視点だから、ラクスの裏の顔までわかるけど
当事者として動いていれば何周かしないと、裏でラクスが暗躍していることに気が付かないんじゃないか?
そもそも、ラクシズの諜報能力を担っていた「一族の残党」なんて
外道みないと存在そのものがわからないしな。
キラのプラントワープ+洗脳なんて
本編視点:爆発に巻き込まれたと思ったらプラントで目を覚ましたよ!ビックリ!
外道視点:海中で死にかけているMSパイロットを助けて、近くの島に住んでいる知り合いに渡したよ。
という説明しかされていないし。
ラクスとロゴスが連携すれば、連合もザフトも太刀打ちできないだろうな
486 :
通常の名無しさんの3倍:2010/04/11(日) 16:34:06 ID:19VX3+h2
>>484 つまり↓って事なんですね、結局は。実に嫌な時代だ……
【メディア分割】
テレビアニメ内で扱われるべき重要な場面や設定を、
コミック・ドラマCDなどに分割して発表すること。
其の分各媒体の売り上げ向上が見込めるが、
テレビアニメだけしか見ない、または観られない人には
話の流れが理解できなくなる、富める者に優しく富めぬ者に惨い
ある点に於いては非常に理想的なビジネスモデル。
本編のサイドストーリーを展開するようなメディアミックスとは
根本的に異なるので注意。
>>486 メディア分割ってより、先走りすぎて収集つかなくなった本編の矛盾を、
外伝で穴埋めしているって状況じゃね?
まあ、外伝は外伝でトンデモだから、そっちの方も収集つかなくなってるけど。
いきなり完璧な複製人間なんて出てきて、クルーゼの存在意義がなくなったりしてな。
>>487 >完璧な複製人間
外伝のほう良く解らんけど、其の技術はフラガクローン製作前には存在してたのか?
フラガクローン製作時の失敗を活かして完成した……ってんならまだ納得できるんだけど。
>>477 476だが、正直話し合いに行っても平行線で
キレたタリアが議長をくびり殺すぐらいしか思いつかなかったw
そういうルートでも和解しても、デュランダルは議長にならず
またタリアもミネルバ艦長にはなってなさそうだなあと
ぶっちゃけラクス達が出張っても戦争は2年で再開されたわけで
しかもまだ同じように武力介入して強奪してテロっただけなので
議長に任せた方がいいと思うな
>>490 >ラクス達が出張っても戦争は2年で再開されたわけで
それがガンダムの業!! ガンダムの性!!
そうしないと話が作れないしプラモデルも売れない!!
だからバンダイとサンライズは何時までも過ちを繰り返す!
全く厄介な存在だよ、ガンダムは!
てかさ
種の時、何であれで停戦したのかわかんね
連合のほぼ勝ちじゃん
>>401続き。
PHASE - 010 「だから必ず勝つ」
一方のガモフでは依然アルテミス方角に戦闘らしき多数の熱源を感知するのみでニコルの消息が分からず、アカネは瞳を揺らしたままモニターを見つめていた。
「艦長……!」
「今は待つしかない」
同じく心許ないだろうゼルマンはそれを顔には出さず、アカネも何とかキュッと唇を結んで平静を保つ。
議員の子息を死なせたとなればゼルマンの前途も危ういはず。一般の艦長よりも更に重い責務を背負っているだろうに焦りを微塵も表に出さないゼルマンは優れた指揮官なのだろう。ニコルを案ずる心情と平行して冷静にアカネが考えていると、通信席のオペレーターが声を上げた。
「ブリッツより入電! これより帰投するとの事です」
アカネのみならずブリッジ全体が安堵の息を漏らす。が、ゼルマンは冷静にこう訊いた。
「足つきは?」
「それが……足つき・ストライク共にロスト」
オペレーターが言い辛そうに告げると、ゼルマンからは軽い溜め息が漏れた。つまりは実質作戦失敗ということだからだ。
第一目標はあくまでアークエンジェル。故にロストしたとあらば失敗に他ならない。しかしながら副次的な戦果とはいえアルテミスに大きな打撃を与えられたのはほぼ間違いなく、讃えられるべきことだ。
「凄いですね、彼は」
「ん?」
「あれは難攻不落の要塞だったんですから」
結果オーライだとフォローするようなアカネの声にゼルマンは複雑そうな笑みを浮かべた。
ニコルはというと、何とか手持ちの武器全てを投入してアルテミスの武装を破壊し、ガモフに帰還して晴れない気持ちのままハンガーにブリッツを収めていた。
任務失敗という事実を抱えてコクピットから出る瞬間ほどイヤなものはない。
それでも閉じこもっている訳にもいかず、ヘルメットを外してふわりと外へ出る。
「ニコル君……!」
そんなニコルを真っ先に出迎えたのはアカネだった。しかし出迎えの笑みが逆にいたたまれなかったニコルは軽く瞳を伏せてしまう。
「申し訳ありません。やれると言っておきながら……僕は」
開口一番に謝られたアカネは驚いたのだろう。少しだけ瞳を開いた後、首を振るう。
「君は、一人で難攻不落の要塞を落としたんでしょう? 凄いことだわ、そう、ネビュラ勲章級にね」
特に励ましたつもりもなく、アカネにとっては素直な感想だったに違いない。が、とても勲章級の働きだったなどと思ってもいないニコルがキョトンとすると、アカネは怪訝そうに首を捻った。
「え、だって、落ちたんでしょう? アルテミス」
「え、ええ……たぶん。乱戦状態で気が付いたら周りは火の海と化してましたから」
「じゃあやっぱりお手柄だわ」
アカネはほんの少し眉尻を下げてから、傍目には分からないほど小さく微笑む。
「君の実力を疑ってたわけじゃないけど……私、もう君が戻らないことも覚悟してたの。だから嬉しい」
「アカネさん……」
ニコルはその言葉で、ようやくアカネが出迎えてくれた時笑顔だった意味を悟った。
余程心配してくれていたのだろう、と。
ああ、そうだ。
思えば重防御、重武装の要塞へ単機で乗り込んだのだ。目的はアークエンジェル捕獲でも、やったことは要塞攻略戦に他ならない。
もし、誰かが一人で要塞に飛び込むなどと言い出したらニコル自身気が気でないはずだ。心配されて当然だ。
「ま、あそこからアークエンジェルを引っ張り出しただけでもお手柄よ。どの道、籠もられたままじゃ手を打たなきゃならなかったんだから」
「そう、ですね。沈められればベストだったんですけど」
「で、どうだった? アルテミス」
「え?」
「あの中よ、潜入したんでしょう? 何やってた?」
急に訊かれてニコルは困ったように腰に手を当てる。
「どうと言われましても……潜入した途端ミサイルが追尾してきて戦闘になりましたから、内部を探っている余裕なんてとてもありませんでしたし」
「じゃあ……文字通り機密ごと沈んだのね。内部の映像データも残ってないの?」
「え……と、戦闘データならブリッツに残ってると思いますが、内部の映像は……ちょっと」
カクッとアカネが肩を落とす。
もったいない。アルテミスの傘という技術だけでも目を見張るものがあったのに――とアカネの溜め息混じりの声を聞きつつ二人がロッカールームへ入ると、真っ先にショーンがニコルを労ってきた。
「お疲れ、大変だったな」
裏腹にニコルより先にガモフへ戻り、既にパイロットスーツから軍服に着替えていたディアッカは水分補給をしながら軽く嫌味を言う。
「たく、こっちは誰かさんの援護でくだらねー出撃させられるし散々だぜ」
「ディアッカ?」
ディアッカの出撃を知らなかったニコルが首を捻ると、アカネが軽く説明を添えた。
「バスターでアルテミス砲の攪乱をしてたのよ」
聞いてニコルは、ああ、とディアッカの方へ進み出る。
「それは……ありがとうございます。助かりましたよ」
「ケッ」
礼を言われても顔色一つ変えず、ディアッカはそのままニコルの横をすり抜けて出て行ってしまった。
「ホントに役に立ってたか?」
呆れたように息を吐くショーンにニコルは軽く頷く。
「ええ、砲台が全部僕に向いていたら装甲がもっと早く落ちていたでしょうし。フェイズシフトがなければいくらブリッツでも――」
そこまで言って、ニコルは考え込んだ。
あの無謀とも言える突撃を繰り出してきたメビウスのこと。
あの時、あと一瞬でも早くエネルギーが底を突いていたら――突っ込んできたメビウスの爆発でブリッツは持たなかったかもしれない。否、確実に持たなかっただろう。
つまりはモビルスーツの性能の良さで助かったようなものだ。ブリッツでなければ、死んでいた。
「なら良かったが……ニコル?」
「い、いえ」
ショーンの声にハッとしてニコルは思考を切り替える。もう終わった事なのだ、と。
「まァ、何にせよ無事で良かったな。久々にアカデミー3席の実力、見せて貰ったよ」
ショーンは自前のサラリとした短髪を浮かせて腕を頭の後ろで組み、ニ、と笑った。ニコルは慌てて牽制の声をあげたものの、へぇ、とアカネは驚いたような声を漏らす。
「赤はトップ10とは聞いてたけど、3位だったんだ」
ショーンが頷き、更にこう続けた。
「爆薬処理は首位だっけ?」
その台詞にアカネは一層驚いたように口元を手で覆った。
「爆薬処理1位!? パ、パイロットなのに……?」
「ええ、僕はパイロット志望だったんですけど……皮肉なことに。薬品の調合等を間違えた事もありませんし……と言ってもあくまでアカデミーの成績ですけど」
赤を着ていることを誇りに思ってはいるニコルだが、誉められるにせよ茶化されるにせよ成績の話を出されるのはどうにも照れくさい。
そっか、とアカネはゆるく誉めるように笑った。
「私の所属先の特自にも爆薬処理系が得意な人いるんだけど……、確かパイロット適正はあんまりだったな。凄いわね、色々できて」
「そうか、特尉の所属先ってアレだ、一芸必殺みたいな特殊機関だったな」
「では、アカネさんも一芸をお持ちなんですか?」
「うーん……一芸というか、私は切り込み隊長みたいなものだから。そうね、君みたいに爆薬処理の得意な人と組んだりね」
どこか曖昧に答えながらアカネはふと自分の掌を見つめる。その瞳から一瞬色が消えたように見えたのは気のせいだろうか?
キュッと掌を握りしめた次にはアカネは口の端を緩くあげて微笑を湛えていた。
「でも調合間違えないなんて凄いわね。ウチに欲しいくらい。ニホンに来る?」
「あ、給料良いんなら俺は考えてもいいな」
「……ショーン」
ふふ、と冗談めかしたアカネにショーンが乗っかり、ニコルが苦笑いを漏らす。
一頻り笑い終えてからショーンは後頭部で組んでいた手を解いて、ポン、とニコルの肩を叩いた。
「さ、着替えたらメシにしようぜ」
戦いはもう終わったのだ、と言外に匂わせているような声色だった。そんな彼の手の温かさがパイロットスーツ越しに伝わるようで、ニコルもふわりと持ち前の柔和な笑みを唇に乗せた。
アルテミスを離脱したアークエンジェル一行は、逃がしてくれたガルシア達に感謝しつつ月基地への進路を取っていた。
フラガは一人、パイロット用のロッカールームに佇んだまま自身のパイロットスーツを眺めていた。
手に取ったヘルメットに施されたマーキングは羽を模したエンブレム。
それは"メビウス・ゼロ隊"の証だった。
コーディネイターすら持ち得ないレベルの空間認識能力を有し、有線式ガンバレルを自在に操れる者のみに搭乗を許されたメビウス・ゼロ。
集った15人による部隊はフラガの何よりの誇りだった。
ザフトのジンなど、ゼロの前では敵ではない。皆の心内にあったのはその強い思いと確かな絆だった。
そしてC.E..70――開戦から数ヶ月と経った頃には月のグリマルディクレーターを境に表の連合、裏のザフトによる壮絶なせめぎ合いが始まる。
グリマルディ戦線――と、後に呼ばれる戦いだ。
連合宇宙軍第3艦隊に所属していたゼロ隊は最前線、エンデュミオンクレーターに出た。
――どれほど攻められようがジンは一機もゼロの後ろへは通さない。
フラガも皆と同じ思いを胸にひたすらガンバレルを操った。
ゼロは空間を自由に渡れる翼なのだ。いま、戦場を支配しているのは他の誰でもない、ゼロ隊だ。だから負けるわけがない。
そんな強い思いと無数の閃光煌めく乱戦の最中、フラガの脳裏を突如として稲妻のような一閃が襲った。
雷に打たれたかのような。言葉では言い表せない、まさに感覚という名の感覚。
もしや戦闘で気でも触れたのか? そう恐れさえしたフラガの眼前にいたのは一機の白いモビルスーツだった。
モニターの示したデータは"ZGMF-515、シグー"。ザフトの指揮官機だ。
――強い。
そう感じたと同時に、なぜか相手も同じように感じている事を直感で悟った。
のちにそのシグーに乗っていたのがラウ・ル・クルーゼというパイロットだと知ったフラガだったが、今この時は名も姿も知らないはずの人物をどこか懐かしく感じた。
遠い昔から知っていたような――だが暖かい懐かしさではなく、もっと鋭利な刃のような記憶。
動揺と迷いに一瞬、ゼロを操作していた手が鈍った。
しまった――、と睨むモニター先にいたのはまるで嘲笑っているかのように光るシグーのモノアイ。息を詰める間もなく、次の瞬間には機首のリニアガンがシグーの重斬刀により真っ二つにされていた。
にわかにバランスが崩れる。よほどまずい状況だったのだろう。
『引け、ムウーーー!!』
同僚が必死に自分の名を呼びながら援護に駆け付けてくれ、彼自身のガンバレル有線をシグーに絡みつかせて動きを封じてくれた。
しかし、あろうことか同僚のゼロが有していたガンバレルは一基のみ。既に敵機に落とされていたのだろう。
一基では十分な拘束など出来るはずもなく、それでなくても近接挌闘など出来るはずもないゼロだ。
フラガのゼロは斬られた機首の爆発で操作もままならず、同僚がシグーにいたぶられ無惨に落とされていく様をただモニターで見ているしかなかった。
死の間際、同僚は確かに「離脱しろ」と言った。
援護さえままならない身だ。同僚の最期の言葉を無にするわけにもいかず、身を切られる思いでフラガはその場を離れる。
既に地球連合は壊滅状態だった。
上層部はこの場の破棄を決定。
エンデュミオン・クレーターのレアメタル採掘場に設置されていたマイクロウェーブ発生施設・サイクロプスを暴走させ、味方もろともザフトを壊滅させるという強攻策に出た。
あの時の怒りと驚きと虚無の入り交じった震えを忘れることなど、おそらく一生できないだろう。
先に離脱していたフラガは遠くで同僚達が、残って戦っていた全てのゼロが一瞬にして砕け散っていったのをただ見ているしかなかったからだ。
そして、一人取り残されてしまった。
仕方のないことだ。そう、仕方がなかったのだ。必死で自分に言い聞かせた。
だけど――、でも。
エースの誇りを胸に地球連合を背負っていると自負していたゼロ隊が上層部に見捨てられた。
フラガの心に連合へ対する怨嗟の声が響いた。
だがそれ以上に、惨めに生き残った自分自身を許せなかった。
この無様な敗戦での士気低下を恐れた連合軍はたった一人残った自分を"エンデュミオンの鷹"と呼び、まるで英雄のように祭り上げた。
それからどこへ行ってもヒーロー扱い。
表面上はそれらしく取り繕うも、この二つ名で呼ばれる度にフラガの心にはグリマルディの悪夢が蘇る。
『君たちはチャンスをくれたのだよ、この死に損ないにな……』
ふと、フラガはアルテミスでのガルシアの言葉を思い出した。
ガルシアもまた、自分と同じような気持ちを抱えて生きてきたのだろう。
クルーゼ隊――自分の身代わりに死んでいった仲間の仇。
悪運の強さはクルーゼも同じらしく、あの戦線から生還していたクルーゼとは度々戦場で顔を合わせる事となった。
直感で、なぜかクルーゼが居ると直ぐに分かる。
まるで互いを呼び合っているような。
その感覚を奇妙に思いながらも、フラガにとっては好都合でもあった。
――仇は必ず取ってみせる。
ゼロ隊を謳うエンブレムにそう誓ったからだ。
「ラッセル……チャールズ、キーン」
ヘルメットのエンブレムを見つめたまま、フラガは共にゼロで戦い散っていった戦友の名を呼んだ。
たった一人のゼロ隊となっても、自分は命尽きるまでこのエンブレムと共にある。
フ、とフラガはその羽を撫で、ゆっくりとロッカーに収めるとそっと扉を閉じた。
「艦長! 機関部にトラブル発生……!」
その頃、ブリッジでは操舵士であるノイマンの声を受けて騒ぎが起きていた。
「メ、メインエンジンの出力低下……!」
副操舵席に納まっていたトールも急な事態に頬を引きつらせている。
「さっきのアルテミスでの爆発でか!?」
「分かりません、しかし……このままだとデブリベルトへ引き込まれてしまいます!」
CICから飛んだナタルの声にノイマンが答えると、クルー一同額に汗を浮かべて互いの顔を見合わせた。
一方のガモフでは、アカネはショーン、ニコルと共に食堂へ来ていた。
やはり階級がないためか、士官食堂というものはないらしい。
せめてパイロットと指揮官、その他に分けた方が良いのではと余所の軍隊ながら思ってしまうほどアカネはザフトそのものにはまだまだ慣れてはいない。
食堂の内装は一般的な士官食堂のように雰囲気あるカーテン、テーブルクロス付きというわけではなく、しかしながら下士官用よりはキッチリとしたテーブルと椅子が辺りに規則的に並んでおり、合理的、という言葉がまずアカネの頭に浮かんだ。
まばらにザフト兵がいて、やはりと言うかアカネが足を踏み入れると少なからず視線を集めてしまう。
ただでさえパイロット、それも一人は赤服と一緒なのだから目立つのだ。
視線を集めるのに慣れていないわけではないが、基本的にここの兵士が向けてくる視線というのは侮蔑を孕んだもので気分が良いわけもなく、アカネは無意識に眉を寄せていた。
「ほら、特尉」
そんなアカネを察してか、ショーンが軽くアカネの背を叩いて奥へと促す。
気を取り直してアカネは空いている席に腰を降ろした。
そして最低限の栄養補給は出来そうなものの、自国ではお目にかかれないようなメニューを目の当たりにして軽くカルチャーショックのようなものを受ける。
合理的な栄養補給というものがコーディネイターの理想なのか。
それとも――と、ある懸念が浮かんでアカネは向かいのニコルとショーンの方を見た。
「プラントの食糧事情は……やっぱり良くないの?」
意図を察してか、ニコルが微かに瞳を曇らせる。アカネはなおも訊いた。
「お米は、足りてない?」
「ニホンの米は高いからね」
美味いんだけど、とショーンが肩を竦ませてみせた。
食糧問題はプラントの抱える大きな難問の一つだった。
地球連合――かつてのプラント理事国。その理事国とプラントが蜜月関係にあった頃、理事国はプラントの自給自足を全面的に禁止していた。
それは今回の戦争の引き金でもある。
開戦後、理事国との関係が絶たれた今のプラントは食料を親プラントである大洋州連合や同盟国ニホンに依存する形となっている。
「誰のせいでこうなったと思ってる? お前達ナチュラルのせいだろうが」
ボソリと近くの席からそんな声があがった。
ダイレクトにそれはアカネの耳に届き、連鎖反応のように軽く瞳孔が開く。
「一緒にしないでもらいたいわね」
「何だと!?」
ガタッ、とアカネの反論に一人のザフト兵が立ち上がった。
「24万人以上の同胞が死んだんだぞ! ナチュラルの核攻撃でッ!」
「そもそもなぜニホンは我らにすり寄る? 何が狙いだ!?」
更に別の兵士からも怒声が飛び、アカネは野次を掻き消すように強くテーブルを叩いた。
自分への侮辱は耐えられても、国への侮辱は我慢ならない。
「あなた方は、その報復に一体何をしたの? 連合の攻撃の報復に地球全土60億人へ喧嘩を売って関係ない国や人々を巻き込み……支援している親プラントでも
エネルギー問題は深刻な打撃を受けてるのよ!? ニホンだって、エネルギー確保に成功してなきゃ今頃私はここにいないわ」
グッと唇を噛みしめる。
こうも強く言い返されるとは思ってもいなかったのだろう。立ち上がった兵士は顔を真っ赤にさせて叫んだ。
「親プラントには資源提供をしている! 勝手な事を言うなナチュラル!」
「いや、それは特尉の言うとおりだ。地球に行けば分かるさ……都市部から外れると酷いもんだぞ」
コトン、と飲んでいたコップを置きながらショーンが言えば辺りは騒然となる。
「ショーン! お前なぜナチュラルの味方をする!?」
「事実を言っただけだ。それに現在俺たちはニホンと同盟を結んでいるのもまた事実だ」
「要らねぇよナチュラルとの同盟なんか。そもそもニホンって国はコーディネイターが一人も居ない、ニホン出身のコーディネイターなどプラントには一人もいない徹底的反コーディネイター国家じゃねーか!」
「23万……ッ!」
矛先をショーンに向けたザフト兵達だが、その間にも震えていたアカネの唇から絞り出すような声が唸ると、辺りは一斉にシンとしてその声に集中した。
「一瞬にしてそれだけの命が消えたわ……その後も地上に残った放射線、二次災害で死者の数は増え続け30万人以上が犠牲になった。まだ西暦の頃、本土に撃ち込まれた2発の核爆弾でね」
悲痛を湛えたその表情と言葉に、その場にいた全員が息を呑む。
「その後始まった占領統治は、古来独立を守り抜いた我が国の屈辱の時だった。世界で唯一核を落とされた国として、長い時が経ってもニホン人はあの時の事を決して忘れない。だから……政府の思惑はどうあれ、世論はプラントに同情的なのよ」
怒りに揺れていた瞳が、フ、と落ち着きを取り戻し、アカネは最初に怒声を飛ばした兵士の方へその瞳を向けた。
「どういう狙いがあろうと、世論が後押ししなきゃこの同盟は成立してないわ」
「く……!」
「それにね、一度同盟を結んだ国を我が国は決して裏切らない。どんな事があろうと、例え負けそうでもね。でも……もう二度と敗戦なんて願い下げ。だから必ず勝つ、ザフトと共に」
こう言われてしまっては、感情のままにまくし立てた兵士は口を噤むしかなかった。
「もう良いでしょう? 僕たちの敵は連合軍なんです、ナチュラル全てではない」
冷静にニコルが一言口を挟み、その場が納まる。
そして立ち上がった兵士達はまた渋々と席につき、次第に食堂は元の雰囲気を取り戻した。
食事の後、ニコルは今度こそ休もうとシャワーを浴びると自室へと戻り、そっと軍服を脱いだ。
ブリッツの調整もしなくては、と寝る前から起きた後の計画が支配する脳裏に、ふと食堂でのアカネの言葉が蘇った。
同盟国だというのにニホンの歴史など、ほとんど知らない。
自分を含め、あの場にいた大半の人間が知らなかったに違いない。
算術、情報処理、武術――等々に長け、近代的な科学技術などは幼い頃から叩き込まれるコーディネイターであるが、ナチュラルの事、地球の事はプラントではあまり教わらないからだ。
ニコル自身は地球に関心を持ち、ある種の憧れも抱いてはいたが、それでも一度も降りたことのない地球の事など何一つと言って良いほど知らない。
『地球全土60億人へ喧嘩を売って関係ない国や人々を巻き込み……』
『地球に行けば分かるさ……都市部から外れると酷いもんだぞ』
あの時のアカネとショーンを浮かべて眉を寄せる。
そういえば、と父ユーリがこの開戦に懐疑的であったこと、血のバレンタインの報復にニュートロンジャマーを投下するのを躊躇っていたことを思い出した。
地球がどれほどの打撃を受けるかなど自分たちには知らせてはもらえないし、想像は出来ても実感は沸かない。
地球出身の父にはその様子がまざまざと浮かんでいたのだろう。
プラントを守らなくては。
父の手前、自分だけ平和な場所で呑気に過ごしているわけにはいかない。
そんな思いで軍へ志願したニコルだったが、特にナチュラルを憎く思った事も見下した事もない。
ユーリはよく、技術者としてニホンの技術を誉めていた。
漠然とニホンとは凄い国なのだという思いから、ニホンとの同盟を頼もしいとアカネに言った台詞も嘘ではない。
『だから必ず勝つ、ザフトと共に』
アカネがそう言ってくれた時も心から嬉しかった。
まだ、アカネに訊きたいことも話したいことも山ほどある。
そうだ、近い内にじっくりアカネと話をしてみよう――と、そんな事を考えながら、ニコルはベッドに横になったままゆっくりと瞳を閉じた。
「仕方ない、このまま引かれていっちゃえば良いんじゃない?」
アークエンジェル機関部にトラブル発生でブリッジに上がりクルーから状況を聞いたフラガはへラッとそんなことを言って総員から侮蔑の眼差しを一身に受けていた。
艦長席から睨まれ、CICから睨まれ、右手でガシガシと頭を掻きつつ頬を引きつらせる。
「ハハハ……いや、だからつまりだな」
フラガの提案はこうだった。
補給不十分なままアルテミスを離脱したアークエンジェルはこのままでは月基地を目指すのすら危うい。
クルーゼ隊のしつこさはお墨付きで、また追撃してくる可能性も高い。
デブリベルトには廃棄された戦艦等も漂っているのだからそこで補給と修理をすればいい。更にはデブリベルト付近にいれば策敵はまず不可能。まさに一石二鳥だという事だった。
つまりはゴミ漁りに近い行為を行うということで難色を示したマリュー達だったが、他に補給する手だてもなくアークエンジェルはそのままデブリベルトを目指すこととなった。
――――to be continued...
終了時、連合が勝ってたのに停戦したのが不思議っていう意見
たまに見るんだけど、本当に連合勝ってた?
ジェネシスでやられて結構やばかったと思うんだけど
それにアズラエル死んでるし
>>500 月基地がぶっ飛んでた覚えがあるしなあ
後は
>>501の通り。被害大きいし、地上からの援軍を待つよりは…って感じだったのかも
>◆vVIrExpeHunv氏
投下乙
こりゃデブリベルトに突っ込みたくもなるな…
そんなことより感想かけよ
そういわずお前が書けよ
つっかかるキャラを下に見たり、不幸をひけらかして論破
無駄に偉そうで大したことしてないのに周りが主人公を肯定して慕われる
これは自己投影に見られて嫌われやすい項目だと思うんだ
オリキャラ主人公でやっちゃいけないことをやってる、って印象しかない
続きが読みたいか? って聞かれても返答に困る内容だし…
arcadia向きだね
東原亜希がラクスを絶賛したら
ニホンネタが出てくると途端にな
これはひどい
原爆の辺りはひいた…
「種の製作者が自分だったら」なんて話じゃないよなコレ
「もし自分が負債だったら」って話だよな
周りを低くして贔屓キャラを高く見せるとか、俺のSSを読めぇって強気なとことか
黒の貴公子(笑)も笑ったわ。悪い意味で
対戦国はもちろん、非対戦国の老若男女関係なく大量虐殺をした
ザフト、というかプラントにシンパシーを感じるニホンってどこ?
今プラントでは核による放射能汚染で苦しんでいる最中?
面白くなる予感のないSS、っていうか地雷臭が漂ってる
フラガいいなぁ
竹田が「理想の日本」だとか抜かしてたのがあのオーブだったよね
それとは別にちゃんとあるニホンっていうのは
どういう対比を見せてくれるのかな?と興味深い
515 :
通常の名無しさんの3倍:2010/04/12(月) 18:58:48 ID:s+A2zlNv
取敢えず日本は核被害を矢鱈と過大評価しないほうが良いと思うんですがね。
序でに言うなら大量破壊兵器に怯えて大規模な総力戦を何時までもやらないままだと
いろんな所に負荷と老廃物が溜まっちゃって却って危ないそうなんですが……
周囲の国に辺りかまわず侵略と虐殺を繰り返してる中国に
シンパシー(笑)感じちゃう日本人みたいなモンだろ。
まあ面白ければ良いんだよ設定なんてのは
問題はこの作品が面白いと感じないことだが
もしもスーパーコーディネーターが変な能力を特化していたら
買い物する時、会計が手持ち金ピッタリになるように買い物する
満員電車でも自然に座れる
モザイクが外れて見える
自動改札のICカード読み取りに失敗しない
変な時間に寝ても夜絶対寝れる
新発売で売り切れそうなゲームもラストの一本を手に入れられる
なんか色々違うか
運をいじれるようになってしまったら
コーディネーター最強だと思うんだが
もしくは傍目から見ると『バカヅキ』か『イカサマ』にしか見えないような『嗅覚』か。
同じ感知でもニュータイプのそれとは違い、完全に無自覚とか。
>>499 なんぞこれドリーム?
IFとやIFだよなオリキャラ・オリ設定という。
ところでSEEDておかしな世界だよ。
数百年は未来のハズが、電子機器も自動車も銃器も、およそ現実でみられるものは現代の技術水準もしくはそれ以下。
かと言えば、PS装甲だとかNJとかSF兵器関連だけ超技術に特化しているという。
監督の嫁の同人アニメだから仕方がないが…
それで何が言いたいかというとオリ設定てんこ盛りの夢小説は巣でやるものだよ。腐女子さん。
安全装置どころか使用者が怪我する制式拳銃や単射しかできないアサルトライフル
脱出装置の無い生存率50%以下の兵器
補給線を考えない前線展開、上下機関の連携を全く考えない軍隊運営
ザフト関連だけでもこれだからなあ
その点同じ数百年未来を描いた00は上手かったな
プロと素人の差か…
なんかこのSS、微妙に作者の反米思想が窺えるのは俺だけだろうか…
第21話 『折れた翼を羽ばたかせ』
「ディーヴァから出撃する機体を確認。ドムトルーパーが3、ストライクが5機」
「出撃した増援がたった8機だと…? 搭乗しているのは元白服だとはいえ、随分と我々も舐められたものだな」
「更なる機体の出撃を確認、数は5機。合計は13です。機体は……なんだろコレ」
「相手によって戦術を変えるのは戦場の常だ、報告は正確にするように」
「はい、申し訳ありません艦長」
レーダーに現れた反応を見て、オペレーターの少女は思わず普段通りの言葉遣いに戻る。
戦場に現れた舞姫の名を持つ大型宇宙空母。そこから敵のMSが出撃していくが、思っていたよりも数が少ない。
いや、それはそれで事実として報告すれば良いだけなのだが、新しい反応がMSにしては大きいのだ。
敵は連合のMAでも鹵獲していたのか。そんな事を考えながらレーダーからカメラに切り替え最大望遠で確認する。
そして、見てしまった。
「MS…違う……そんな、これは!!」
「……ん、どうした」
「早く報告しないか!」
艦長は正確な報告を求めようとしたが、自分の表情を見て言葉を止める。
その代わりに自分を急かしたのは副長だった。
確かに混乱して止まっている場合じゃない。混乱するならするで構わないから、事実だけを述べなければ。
事の判断をするのは彼らだ、自分ではないのだから。
「で、ディーヴァから出撃してきたのはミーティアです!! 数は5機、自軍の前衛に急速接近中!!」
「何だと!?」
ディーヴァから発進したMSと接続される機体。従来のものより少し小振りだが、間違いなくそれはミーティアだった。
ストライクがただのMSから単機で戦況を一変させる戦略兵器へと変貌し、追撃のために突出した2隻の戦艦に襲い掛かった。
雨の様に降り注ぐミサイルと紅い矢を放つ主砲によってMS隊が瞬く間に一掃され、そして戦艦に向かってビームソードが大きく伸びる。
2隻が炎に包まれるのに、大した時間はかからなかった。
「ヘルダーリン、ルソー共に交信が途絶えました!!」
「………なるほど、5機で足りるわけだ」
自分の報告を受けて納得した様に呟く艦長。だがそうやってのんきにしている場合ではない。
他の艦も即座に火線を集中させて迎撃に移るものの、ミーティアの攻撃はそれすら打ち破りそうだった。
せっかく手繰り寄せた勝利が瞬く間に遠ざかっていく。そんな現実に顔を青ざめながら、少女は画面を見つめ続ける。
この状況、一体どうすれば良いのか。
『退くしかないだろうな。このままだと全滅しかねない』
「アスカさん?」
ブリッジに声が響く。発信源はデスティニーから。
シン=アスカが淡々とした声で撤退を提言していた。
「全滅……? 何を弱気なことを。敵の数は少ないし、此方のMSの数もまだ十分だ。
キラ=ヤマトが戦闘不能な今となっては、戦いの流れはまだ我々にある筈。
ミーティアどもを突破してフリーダムを落とすのも無理な話では」
「いや副長、あれが向こうの全軍だと言うのならば君の言う通りなのだろうが……。
おそらくデーヴァの中にはまだかなりの戦力がある。そして此方は数こそいるが、練度が想像以上に低かった。
動揺している今の状況で総力戦に持ち込まれたら負けは見えている。フリーダムももう届くまい」
『だから今は退くしかない。戦いは1度きりって決まったわけじゃないんだ。
次の戦いのために。傷が浅いうちに』
「……むぅ」
横にいた黒服の副長が彼の発言を否定するが、続く2人の言葉に押し黙った。
この場にいる誰もが、つい先ほどまで敗色濃厚だったのを忘れていたわけではない。
もう認めるべきなのだ。今の自分たちでは彼らに勝てないということを。
「……で、でも」
最大戦力であるデスティニーも手負いだし、こちらに予備戦力は無い。
命あっての物種だ。2人がそう言うのならそれが事実なのだろう。だから自分も撤退自体に不満は無い。
しかしここで思うのは一つの不安事項。
退くと簡単に言ってはいるが、古来より撤退戦ほど難しい戦いは無いという。
果たしてそう簡単に逃げ切れるものなのだろうか?
「退くって言っても相手はミーティアですよ? 戦艦の足では逃げ切れないんじゃ……」
『俺が足止めする。アンタたちは早く撤退しろ。どうせヤツらの狙いは俺だ』
「ってええ!? そんな、無茶です!! 相手は普通の機体どころかミーティアなんですよ!?
しかもデスティニーはもうまともに戦える状態じゃないじゃないですか!! 死ぬつもりですか!?」
思わず制止の言葉を叫んでしまった。そこは簡単に言うところじゃない。
それでなくても先程まであのキラと戦っていたのだ。機体の損傷も、彼自身の疲労も相当なものだろう。
この状況、いかに英雄シン=アスカといえども無茶だ。
なのに。
『いいから。任せろ』
「な、ちょ……」
何なのだろう、彼のこの言い切り様は。
死を覚悟したと言うわけでもなく、勝算がある様にも見えない。
ただ、自分がそうするのが当たり前の事のような表情。
「わかりました。お任せします。
……申し訳ありません、貴方は任務をほぼ果たしたというのに……。我が部隊の層が薄かったようです」
『こっちが勝手にやってることです。気にしないでください』
「艦長!?」
「時間が無いのだ。この状況での決断の遅れは、部隊の瓦解に繋がりかねん」
『そういうこと』
話はついたと言わんばかりに頷きあうシンと艦長。だが2人とも理解しているのだろうか。
それはこの場に彼1人を置いて逃げるということなのに。
「そんな、待って下さい、かんちょ…」
「我々は後退します。殿軍を頼みます」
『了解。……それと、ありがとな』
「アスカさんっっ!!」
最後に自分に向かってそう笑いかけると、彼は通信を切った。必死に呼びかけるが応答は無い。
それを気にした様子も無く、艦長は指示を出した。
「信号弾を挙げ、全軍に撤退を通達しろ。他の艦が十分な距離を取り次第、本艦も宙域を離脱する」
「待って下さい艦長……お父さん!!」
「……軍の中ではそう呼ぶなと教えた筈だが?」
「でも!!」
艦長に、いや自分の父に対して懇願する。
しかしいつもはなんだかんだで娘である自分に甘い人なのに、こんなときに限って彼は取り合ってくれなかった。
「彼1人の命と部隊の全滅、秤に掛けるわけにはいかんのだ」
「そんな…いやぁ……アスカさん………!!」
「彼の無事を祈るくらいはしてもいいだろう。
だが今お前がすべきことは、そうやって両手を組んで神に祈る事ではない。その手を動かして一刻も早くここから離れる事の筈だ。
今は私たちの行動一つに部隊の者たちの命が懸かっていることを忘れるな。
そして我々がもたつけば、それだけ彼自身の撤退が遅れるという事実もだ。お前は彼の足を引っ張りたいのか?」
「くっ…………わかってますよ、そんな事はっ!!!」
気付けばブリッジ内の全ての視線が自分たちに集まっていた。皆シン=アスカの提案を受け入れざるを得ないという顔をしている。
そして本当は、自分でもこの方法しかないということはわかっていた。でも納得はできない。
勿論この状況で自分が彼を守ったり救ったりできるなど思ってはいない。
だが自分達は軍人で、彼は民間人なのだ。
それなのに自分達がやったことと言えば、危険な相手は彼に任せて敵の弱い方と戦い、そしてそれすら落とす事ができず。
終いには彼を見捨てて逃げ出す始末だ。
緊張していた自分に気を使ってくれた、あの優しい笑顔を向けてくれた、彼を見捨てて。
信号弾が挙がる。数は3つ、退却の意味。
「ううっ…」
強く目を閉じ、吹っ切るように見開いた。今の自分がすべきことを。
彼の覚悟を無駄にしないために。
未だに戦いを続けている艦に通信を開く。
「こちらボルテール。デスティニーが殿軍を務めます。各艦後退しつつ敵と距離をとって下さい」
旗艦からのその通信を待っていたのか、急速に後進を始める戦艦たち。それと入れ違いに1機のMSが真紅の翼を羽ばたかせながら前に出た。
デスティニー。その後姿を見た瞬間、彼女の目から涙がこぼれる。
広い漆黒の宇宙の中、彼らが放つ紅い光はひどく小さい。今にも闇に飲み込まれてしまいそうなほどに。
「まだ、私の名前教えてないんだから……伝えたい言葉もあるし、したかったことだっていっぱいあるんだから……!!」
滲む視界を気にせず、少女はもの凄い勢いでキーボードを叩く。まるで怒りや悲しみ、自分の感情全てをその速度の対価にするように。
そう、彼女は怒っていたのだ。
彼を置いて逃げることが、自分が彼にできる唯一のこと。そんな自分が悔しかったから。
―――どうか。どうか、無事で
心の中で祈ることしかできない自分が、悔しかったから。
艦隊が敵から十分距離を取った後、ボルテールも後退を始めた。そしてMS達も追いかけるように逃げていく。
視線の先では丁度逃げ遅れた艦が沈み、所属のMSが爆発するところだった。
流石に最前線の隊までは逃げ切れなかったか。こっちも飛ばしてはいたものの、もう救助は間に合うまい。
その光景を視界の端で見ながらシンは意識を切り替え、愛機デスティニーの状態をチェックした。
正直あまり芳しくない。
フリーダムによって付けられた傷で、左腕とビームシールドは反応なし。
スコールは既に破壊され、右足も消失している。おまけに先ほどまでの戦闘で出力も若干落ちていた。
アロンダイトを回収できたのがせめてもの救いだが、絶望的な状況は変わらない。
「やれやれ、勢いづいちゃってまあ」
遠くに見える5つの流星。
なんとなく解る。あの動き、機体の性能だけではなくパイロットの腕も相当だ。
機体がまともならいざ知らず、今の状況でこのまま戦えば勝算はかなり低くなるだろう。
だけど不思議と心は落ち着いていた。
無様な敗走で敵は強敵、おまけに援軍の当ては無いというのに。
「さて、そろそろ行くか」
シンの想いに呼応するように、デスティニーは紅い翼を広げた。残された右手が輝き始める。
受身は性に合わない。いや、受けに回るとすぐにやられてしまうだろう。そんなことでは殿軍の意味が無い。
奴らの喉笛に喰らい付く。それくらいやって初めて敵はその足を止める。
だから前に出る。結局の所、自分のする事はいつもと何も変わりゃしない。
遥か遠くから5機が同時にミサイルを発射した。蟻の這い出る隙間も無いほどのミサイルの群れ。
自分ごと退却する部隊を焼き尽くすつもりのようだ。
させるか。
デスティニーは残像を発生させながら高速移動。右手から散弾を乱射した。
ミサイル同士の位置が近かった為か、苦もなく全弾誘爆を始める。左から右へ、ウェーブの様に爆発の光が起きた。
その隙にデスティニーの方向を変えて、視界の端に映った光の方へ機体を向けるシン。
視線の先には黒いグフがエターナル隊の残りと見られるストライク2機に襲われていた。
おそらく逃げ遅れたのだろう。見捨てるのも酷なので、一応救援に行く。
敵のストライクたちも退く機会を窺っていたのか、パルマを何発か撃つとすぐに退いていった。
見た限りグフに大きなダメージはない様だ。パイロットと通信を開く。
「おい、大丈夫か?」
『すまない、助かった…ってあんた、シン=アスカかよ!?』
「お前か…何をしている、信号が見えなかったのか? 早く撤退しろ」
『撤退信号!? わ、分かった!! でもあんたはどうするんだよ!!』
誰かと思えば以前自分に突っかかってきた金髪の少年だ。グフに乗ってたのか。しかも色持ち。
敵も精鋭とはいえ、色つきのグフが2機を相手に死にかけるようではまずくはなかろうか。
ハイネが生きてれば怒ってるところかもしれない。
まあ、今気にすることじゃないけれども。
「俺が殿軍だ。誰も行かせやしないから、早く艦に戻れ」
『俺が、って1人で!?
何馬鹿言ってんだよあんたは! 危険すぎるだろ!!』
「うるさいから怒鳴るな。……俺は、英雄もどきなんだろ?
もどきでもなんでも、英雄の名の付く奴はこういうこともしないといけないんだよ。困ったことに」
『こんの、かっこつけやがって……』
私怨
それは違う、格好をつけたわけじゃない。事実を言っただけだ。
だが否定する時間も惜しかった。
「悔しかったら強くなれ。俺が死んだ後で代わってやる」
『あんた…』
自分だけで敵軍を壊滅させたこともあった。データだけで光の一切無い坑道を飛んだこともあった。
単機でデストロイの群れに襲い掛かったこともあった。
皆が言うようにかつての自分が英雄だとするならば、結局それらの事は必然だったのだろう。
「話してる時間が惜しいんだ。早く行け」
『ちょ……あ〜もうくそったれ。わかった、戻るよ。
でもあんたも絶対生きて帰れよ!! あんた死んだら泣くやつがいるんだからな!!』
「ああ、分かってる」
少年の捨て台詞を聞きながら、離れていくグフを見送った。俺も昔はあんな感じだったんだろうか。
多分そうだったんだろうな。生意気こそが自分の代名詞だと友人たちにも言われてたし。
上に楯突いてレイに叱られルナにフォローされ。ミネルバ時代の思い出が頭をよぎる。
もう戻れない過ぎ去りし日々。
そんな穏やかな記憶を一瞬で切り捨てながら、シンは前方のミーティア共を睨んだ。
そして自分に意識が向かうように、敵軍に向かって通信を開く。
獲物はこっちだぞ。
「おーい、クライン派ども。久し振りだな。アンタらの大嫌いなシン=アスカだ」
特に反応はない。当たり前だ。
この機体に乗ってるのが自分であることは、この場の誰もが知っている。
だから、これはただの決意表明。
「使い古された言葉で悪いんだが。―――――ここから先は通さない」
今日はここまでです
前は1日で1話書けてたんですが、今じゃこのザマです
そして最近多忙と体調の悪化の為、さらにペースが落ちる恐れがあります
一応完結までは書き切れると思いますので、それまでお付き合いいただければ幸いです
GJ!!体には気をつけてください。
投下乙!
緊迫感があるところで切ってるなぁ……
金髪のグフ乗り…… デレ期に移行するか?
もしもミネルバ組(シン、レイ、ルナ+メイリン)もAAクルーだったら……
途中離脱型か最初から参加かで大分変わると思う
ミネルバ(ザフト)のやり方についていけず離反な途中か
そもそもヘリオポリス組に四人いるほうか
ミネルバ毎ラクシズに移るか
もうちょっと条件決めた方がいいんでねーの?
>条件決め
もしもミネルバ組がAAクルー・ヘリオ住人だったら
・シン カレッジの学生 ザフトの襲撃で家族を亡くす
・ホーク姉妹 民間人
・レイ ムウとかぶるところがあってややこしいの
なのでいっそムウの位置にレイを配してみる(ただ年齢は18〜20で)
クルーゼと同じクローンってところは変えず
今回は繋ぎの話だったな
CE版紺碧の艦隊を妄想しているが、結構キツイのな……o....rz
現状じゃ、「後世世界日本がCE世界に転移しますた」にしかならない罠
つーか、味方にはほっといても天才完璧超人な人材が自動的に集まり、
補給や資源の裏付け完全無視でオーパーツな超兵器がいくらでもわいて出て、
敵側はきょうび子ども番組でももう少し気を使うよと言いたくなるほど
果てしなく無能もしくは陳腐な極悪人扱いと、
ある意味種自体こそがガンダムに紺碧の方法論を持ち込んだ代物じゃないんかね。
種の小説読み返して思ったこと
第一世代コーディネイター作った親って、それなりに資産持ってるよな?
態々普通に子供産んでも問題ないのに、金掛けて子供に才能付与してるんだし。
それに「コーディネイターが才能を開花させて社会的に成功した」っていうのはきっちり書いてある。
そこら辺が原因でコーディネイター排斥運動が盛んになったんだし
つまり、公式設定上CEにおいてコーディネイターは「資産家のボンボンで社会的勝ち組」な訳だ。
どうして、そんな連中がプラントで工場の従業員なんてやってるんだ?
その上、「我々は工場のオーナーから不当な搾取を受けている!」とか言い出したり。
そんな職場辞めて自分達で起業しても、資金繰りにせよ頭脳にせよ問題ないはずなのになあ。
プラント独立運動が大学闘争の延長線にイメージがあるなら別だけど、その理由があまりにも不自然じゃねえ?
ジオンみたいに棄民されているわけでもないのに、なにが不満なのか。不満を晴らす方法は闘争以外にないのかと
第二次コーディネイトブームだかの時は値段がかなり下がってて乱造されたんじゃなかったっけ?
人間は醜いもんで、同じ条件でも微妙な差異に敏感だ
ましてやそれが遺伝子弄った上での差異ともなりゃエゴを剥き出しにするでしょ
コブラ部隊inコズミック・イラ
ヒューッ
見ろよあの筋肉
まるでハガネみてえだ
もしキラの不殺が普通に撃墜するより効率的に敵戦力を削ぐために計算して行われていたら
撃ちたく無い撃たせないでとかの嫌戦言葉が消えるだけで大筋は変わらんな
もし種シリーズの製作総指揮が小池一夫だったら。
取敢えずキラ・ヤマトの養父母は妙な拳法の後継者です。
せンせいの種はマヂで見てみたい罠w
コーディも性染色体は女性がXXで男性がXYなのだろうか?
それともY染色体は不要なんだろうか?
>>542 プラントって旧ソ連とかナチスを想起させる政治体制、社会思想を持ってるから、
それを考えると納得のいく筋書きが作れると思うよ。
>>552 取敢えず死人がHEMで蘇ってくるのは確実……
まさか、千葉センセイはBROTHERSからそういった人間再生のアイディアを流用したんだろうか?
再生ミゲル
「俺はただ 女を抱けるという
即ちエレクチオンさせられるということを証明しただけだ
あンたが それが人間である事の証明だと言ったンでね」
>>552 「シリアス・ギャグ・復讐・電波・説教・全裸・ヤマト拳法・引き延ばし・打ち切り・ン
これら全てを兼ね備えたオークション・ハウスこそ小池一夫ファンの踏み絵として最適だと思うンだッ!
おまけに殺し屋、ヒトラー、0号も揃い踏みよ〜〜ッ!」
「ムダな知識を怒涛のごとく説明する登場人物!
なンの伏線も無く登場する『ヤマト拳法』!
老若男女問わず意味も無く脱ぎまくる人々!
『だからこそこわせる その価値と名を知るからこわせるンだ』等の超論理展開!
主人公に群がる美女達!
エレクチオン!
ヒトラー!
打ち切り、というよりせンせいが飽きたとしか思えない唐突なラスト!
まさにオークション・ハウスこそ小池内面宇宙の代表だなッ!」
アレ? なんか種シリーズと余り変わらない様な気が……
もしも種の開始時にシンもいたら。
キラに対し何の含みも持ってないだろうし無鉄砲なとこは元からだと思うので、
サブパイロットに収まって結果キラの負担は半減するのでは?
下手すると後のことをシンに押しつけてキラはラクスと一緒に降るかもだが。
マユ付きだったらマイルドに
マユ無しだったら中途半端なカミーユに
なんかおじゃるな麻呂シンが思い浮かんでw
ラクスが地球連合+ザフトを統括して宇宙連邦を作ったら
カガリ率いるオーブも追従するだろうか?
>>561 というか追従せざるを得ないだろうな。
他勢力が実質一つしか存在しない状態で中立唱えても意味がない。
>>562 「追従せず敵対せず」という方針で中立も可能だろ
中立だと思ってるのはカガリだけ
ラクスに言いくるめられて実質追従っつーか被支配状態だろ
ラクスは武力支配型だから、ラクスの統治下に民主主義は根付かないよね?
俺は支配さえしないんじゃないかと思ってる。自分達が気に入らないものがあると
出て行って滅茶苦茶にして、責任が来ると思ったら雲隠れ。で、また気に入らない
ものがあるとまた(ry
ラクシズとCBが同じ世界だったら敵同士だったと思う?
連中何とだったら友好関係結ぶんだ?
>>568 ラクシズやCBはどことも友好関係結ばないと思う
どこまでも独立独歩のテロ集団
その点では清清しいw
2期でCBがカタロンと手を組んでたのは覚えてないの
CBはなんだかんだ言って本当に世界がピンチなときは共闘ぐらいは出来そう
ラクシズは状況もわきまえずに意味不明な理由で空気読まずに喧嘩打ってきそう
そこが00と種の違いだよ
良作と黒歴史のな
カス種ごときと00を較べるな種厨。
という、『痛い00厨』アピールであった
で、実際はなんだ? 種厨か?
なりすましって馬鹿には絶対無理なのに馬鹿ほどやりたがるもんなのよ。
00厨って存在しないしな
もしも、フリーダムの武装がドリルとかとっつき(パイルバンカー)等の浪漫系武器だったら
00厨ってなんでこんな必死なの?
心底どうでもいいんでよそでやってください
00厨は種厨の頭の中にだけ存在します。
そもそもここは、00は関係無いよ
仕方ないよ、種厨なにかいえるのは2chの中だけなんだから。
あちこち出しゃばって、自分たちの存在を誇示しなきゃ不安で押しつぶされそうなんだろう。
そういうの別にいらないんで巣に帰っててください
なんで00厨がここに来るかなorz
そういうの別にいらないんで巣に帰っててください
00に厨はいませんw
種厨はたくさんいます
そういうの別にいらないんで巣に帰っててください
もしも種がスーパーロボット作品だったら
>>591 なにを言ってる?
主人公とその仲間が小勢力ながら厨機で無双とかスーパーロボットもの以外の何物でもないだろ?
第22話 『膝を抱えるための昨日までの両手』
アロンダイトを抜き放ち、シンは切っ先を目の前のミーティア、そしてディーヴァへと向けた。
ここから先は行かせない。先程の言葉を現実のものにするために。
「どうした? 来いよ。俺を落とせって虎あたりから言われたんじゃないのか?」
返事代わりにミーティアのアームから収束火線砲が火を噴く。
戦艦の主砲にも匹敵するその威力、直撃すればどんな機体でも例外無く終わってしまうほどだ。
その一撃を避けると、今度は別のミーティアがビームソードを振りかぶり飛び込んできた。
速い。そして鋭い。流石にミーティアに乗るだけのことはある。
しかし負けてやるわけにはいかない。前に出ろシン=アスカ。
「でやぁぁぁっ!!!」
まるで幽霊のように斬撃をすり抜けるデスティニー。その瞬間、ミーティアの右のアームが本体から切り落とされた。
そのまま爆発するよりも早く背後に回りこむ。止めの一撃をミーティアごとストライクに叩き込もうとして、
「ちぃっ!!!」
舌打ちと共に横からの砲撃を避ける。その隙を逃さずに、傷ついたミーティアは距離を取った。
今ので仕留められなかったのは痛い。ダメージを与えたのは右のアームだけで、まだ左も胴体のミサイルも残っている。
艦隊に少しでも意識が向いているうちに数を減らす、その予定が狂ってしまった。
どうやら全機追撃を中断して本格的にシンに狙いを定めたようだ。デスティニーの周囲を周り始める5つの流星。
その姿はまるで、海中で獲物を見つけ追い詰める鮫のよう。
そしてタイミングを合わせて攻撃を仕掛けてくる。
アロンダイトの間合いには入ろうとしない。
油断も慢心も容赦も無し。
おまけにこいつら連携の取り方も上手い。
ミサイルの雨を潜り抜け、火線砲をぎりぎりで見切る。外から見る者がいればデスティニーのその動きに感嘆することだろう。
だがいつまでもそれが続くとは限らない。仕切りなおすために距離をとった。
「ちっ……」
分かってはいたつもりだったがやはりきつい。片腕しか使えないというのがこんなにハンデになるとは思わなかった。
構造上パルマかアロンダイトか、どちらかしか使えないのだ。
しかも残された武装は、それだけで複数のミーティアと戦うには無理があるものばかりだった。
通常のパルマフィオキーナでは若干力不足。散弾は距離が離れるほど威力が落ちる。バルカンなど論外だ。
というわけで残された選択肢はアロンダイトしかなかった。
しかしこの長剣も攻撃力なら引けをとらないが、ミーティアのビームソードの方がリーチが長い。
なのでスピードで掻き回しつつ懐に潜り込む戦い方しかなさそうだが、攻撃の瞬間に側面を突かれてしまう。
長引けば長引くほど、こちらが不利になるだろう。
「一気に行くしかない、か」
結論は単純なもの。最高の力と速力をもっての各個撃破。
ひねりが無い作戦だが、他に手があるなら教えて欲しい。できれば今すぐ。
コンソールを叩く。敵を威嚇する様にデスティニーの翼が大きく開かれた。
シンの瞳孔が再び開き、同時に世界の全てがクリアになる。
別に大したことをするわけじゃない。ただ、キラと同じ事をするだけ。
一瞬のミスが死に繋がるこの世界の、さらに限界を超えた領域。それを自分のものにするだけだ。
こんなふうに。
「ついてこれるか……!?」
時の進むのが遅く感じる。
残像を残しながら閃光を回避し、1機目のミーティアを長剣で両断した。
自機性能の低下をもどかしく感じる。
だがそれでも2機目も難なく撃破。振り下ろされるソードをアームごと切り落とし、返す刃で胴を切り裂く。
恐慌からか途端に相手の動きが鈍くなる。
ミサイルの雨を軽く潜り抜け、当然のように3機目のコックピットを貫いた。
まだだ。先程キラにパルマを撃ち込んだ時の力はこんなもんじゃなかった。
もっと早く。誰も反応できぬ程に。
もっと鋭く。誰も耐えられぬ程に。
もっと―――
4機目のミーティアにアロンダイトを突き刺す。手応えあり。残りはあと1つ。
動きの止まったミーティアから剣を引き抜き、後ろに飛んだ。今まで居た位置を紅い閃光が通り抜ける。
この一撃で持っていかれたのか気付けばアロンダイトの実剣部分が中程から無くなっていた。
しかし気にするほどでもない。剣を失ったのは痛いが、残りは1機だ。この勢いのまま一気に屠る。
大きく旋回するミーティアの懐にデスティニーが飛び込んでいく。パイロットもそれを読んでいたのだろう、至近距離でミサイルの全砲門が開いた。
だがシンは動揺することなく、半分以下になったアロンダイトの残骸を投げつける。
そしてそれは発射したばかりのミサイルとぶつかり激しい爆発を起こした。
発射口から飛び出る瞬間のミサイルにも誘爆し、ミーティアが火花を上げる。
あわててパージするストライク。デスティニーはその隙を逃さず、更に間合いを詰め―――
ストライクを、パルマフィオキーナの一撃が貫いた。
「ぷはぁっっっ!! ……ハア、ハア、ハア…………」
無意識に呼吸を止めていたらしい。シートに体重を預けて獣の様に息を荒げる。
ヘルメットを外して座席の後部に放り投げた。
体力精神力共に限界。SEEDも閉じた。でももう十分だろう。
ミーティアは全機倒したし、自軍は離脱した。後は自分が追加されるであろう追跡部隊から逃げるだけ。
―――ピッ
レーダーに反応。思わずその方向に振り向くシン。その目が驚愕で開かれる。
口が僅かに開くが、掠れた様な声しか出ない。
「………いや、多すぎだろ」
近付いてくる幾つもの光。ディーヴァから再びミーティアの群れが出撃していた。
MS1機と戦うにしては、多すぎるほどの。
「4、5、6……」
遠くに見えるのはいくつもの輝く光。
とても綺麗だが、その一つ一つが自分を殺しに来る凶星だということを忘れてはならない。
それにしても多すぎる。数を数えてはいるが両の手では足りないほどだ。
さっきの奴らをなんとかして半壊にしたほうが、救助するぶん数が減って良かったかもしれない。
まあ、そんな余裕は全然無かったのだが。
「…9、10………ハッ、数えるだけ無駄か」
数えるのを止め、再び現在の装備を確認。残っているのは右手のパルマと頭部のバルカンのみ。
ここまで無茶をしすぎたのかコックピット内には異常を示すランプが数多く点灯している。
万事休す。これは流石に撤退するしかない。敵に背を向け飛び立つデスティニー。
翼を広げるが、本来のスピードには程遠かった。
このままでは追いつかれ……いやもう遅い。ついに敵が攻撃を開始し始めた。
「ちょっとこれは、かっこつけすぎたかな……?」
ミサイルを全弾回避するのは諦めよう。装甲に頼りながら致命傷だけを防ぐしかない。
そう判断してそのビームの雨を紙一重でかわしていくシン。しかしこれも果たしていつまで避けられるか。
いや、そもそも何処へ逃げればいい?
「泣き言を言う暇も無しかよ、ぐぁっ!?」
右肩にミサイルが直撃した。
激しい衝撃を何とか耐えるシンだったが、左には回り込んできたミーティアの姿。
サーベルを大きく伸ばし振り下ろす。横に回転しながらそれを避けるシン。
しかし、その背後にいた別のミーティアの銃口がこちらを捉えていた。咄嗟に右掌を構えるデスティニー。
放たれたパルマフィオキーナはストライクの顔を撃ち抜くことに成功するが、
ミーティアから発射された2つの閃光はデスティニーの左の翼と右腕を貫き、機体を大きく吹き飛ばす。
そして3機目のミーティアが体勢を崩したデスティニーに、火線砲の照準を合わせた。
意外とあっけないな。
思考よりも先に感覚が理解した。これはもう避けきれまい。
近距離で機体は無防備、しかもロックオンまでされている。
脳裏に浮かぶのは2人の女性。自分に向かって笑顔で手を上げている。
今わの際に思うのが彼女たちへの未練か。当たり前と言えば当たり前だが。
何だかんだ言いつつも、自分の心はその奥底でしっかりと彼女たちに捕らわれていたらしい。
まいったなぁ。今更言うことじゃないけれど。
もう一度あいつらに逢いたかった。やっぱりあの時抱いてりゃ良かった。
せめて一言、お礼を言いたかった。
「……散り際すら格好つけれないのか、俺は」
まぁこればっかりは仕方が無い。
いつだって自分は、大切なものに気付いたときにはもう遅いのだから。
そう自嘲するシンの目の前で、収束火線砲が光を宿したその瞬間―――
『させるかよ』
―――ミーティアのアームを、紅い閃光が貫いた。
「え………」
視線の先、遥か遠く。MS隊を引き連れた黒いザクファントムが長大な銃を構えている。
そしてその周囲のMS隊から銃撃の雨が降り注ぎ、デスティニーを囲んでいたミーティアたちが散開した。
予期せぬ形で死地から脱出したデスティニーのコックピットに、聞き覚えのある声が響く。だがこの声は
『グゥレイト!! 俺もまだまだ捨てたもんじゃないぜ!!』
「ディ、ディアッカぁ!? それにあの武器はまさか……」
ネオジェネシススーパーフリー負債仕様ジェネシス砲ではないか。完成度高けーなオイ。
羽クジラ襲来に対抗する為に開発され倉庫でスタンバッていたはいいが設定がお蔵入りされたため結局倉庫に眠ったままという悲劇の不発弾。
持ち主に似て相変わらずしょーもないネオジェネシスではあるが、それが何故こんな所に……。
『いろんな意味で違ーう! これは前にデスティニーが使ってたビーム砲だ!! つか注目するところはそこじゃねえだろ!!
まあそれだけボケれれば大丈夫……そうじゃないな。お前もう下がってろよ』
「何で、アンタが」
『俺だけじゃないぜ』
話の最中の隙を突いて、別のミーティアがデスティニーに襲いかかる。両側部の副砲が光を放った。
避けようとした瞬間、2機の間にMSが割って入る。ビームシールドを展開、光弾を受け止めた。
『待たせたなシン。後は俺たちに任せておけ』
「セイバー……。この声、アスランか?」
返事は無い。セイバーは紅いザクファントムと共にミーティアに襲い掛かる。……あれ、紅いザクって、おい?
考えようとする暇もなく今度はレーダーに反応、友軍。
見覚えのあるこのコードは、まさか懐かしいあの艦か。
そしてコックピットの中に聞き覚えのある声が響いた。
『こちらミネルバ。シン、生きてるか!? 無事だったら返事しろ!!』
「やっぱりミネルバか……ってちょっと待てやオイ。コニール、お前何しに……」
画面に写ったのはザフトの緑服を身に纏ったポニーテールの少女。
シンが今1番逢いたくて、そして1番逢いたくなかった2人組みの片割れだった。
『シン……良かった、無事だったんだな!! 待ってろ、今行くから!!』
「聞けや」
なんで彼女がこんな所にいるのか聞きたかったシンではあるが、疑問の声は作業を始めた彼女にスルーされてしまった。
そしてデスティニーに誘導ルートのデータが届く。黙って戻れということか。
自分の背後では、アスランの指揮の下で援軍とミーティアが交戦に入った所だった。
ザクはほとんどガナーとブレイズで構成されており、惜しげもなくビームやミサイルを乱射している。
『ガナー隊、ブレイズ隊は火線を集中させろ!! 俺への誤射は気にしなくて良い、ミーティアとは必ず距離を取れ。
ルナマリア、ディアッカ、俺が切り込むから2人はガナー隊の護衛を頼む。やられるなよ!!』
『了解!!』
『こんなとこまで来てやられるかよ!!』
MAに変形しビームを乱射しながら突撃するセイバー。それを避けるかのように散開したミーティアのブースター部分に、紅い閃光が突き刺さる。
ディアッカとアスランのコンビプレイだ。
見た限り、彼らならやられる事はあるまい。いやむしろ自分を守る為に負担が掛かるかもしれない。
「わかったよアスラン、後は任せる。……すまないコニール、誘導頼む」
『任せろ』
送られてきたデータを基に機体を操り、デスティニーをミネルバへと向けるシン。
護衛のMSをよこすほど余裕は無いようだが、MSたちは道を開けてくれたのでそれに沿ってようやくカタパルトへと辿り着く。
これで、最低限の自分の役目は果たした。
「終わったな……」
振り返る。遥か遠く、白く輝く舞姫に向かってフリーダムが飛んでいくのが見える。
傷付いた機体に3機のドムが合流し、守るようにその周囲を固めた。
どうやらミーティアも後退を始めたようだし、あそこまで離れてはもう捕らえきれまい。
追撃を諦めたセイバーやザクもそれぞれの艦に戻り始めた。
今回の戦いはここまでのようだ。
「……いや、これから始まるのか」
ゆっくりとデスティニーの歩を進めながらシンは呟く。
今回はお互いに痛み分け。問題が先送りになっただけだ。
俺もキラも、傷が癒えればまた戦場で出会うだろう。
「ずるいよ、シン」
ミネルバへと向かうデスティニーをぼんやりと眺めながら、キラはぼそりと呟いた。
頭の冷えた今なら分かる。彼が見せた最後の一撃。
あれは自分と同じ力ではない。『今』 に縛られ 『今』 に生きることで高みに上る自分の力とは違う。
彼の力は未来へと踏み出す者特有のものだ。それも自分に匹敵するほどの。
そう、先ほどのシンの力は戦前に自分が期待していた 『自分を殺せる力』 だった。
だから喜ぶべきことの筈だった。戦闘中の失望は否定され、眠りにつける可能性が出てきたのだから。
なのに何故今の自分はこんなにやりきれないのか。彼を妬ましいと思っているのか。
答えは簡単だった。
「……君だけは、僕と同じだと思ってたのにさ」
半身を奪われた自分が次に縋ったのは、自分と同族である (と思っていた) シンの存在だったということだ。
この闇の中には彼もいる。同じ存在がこの世にいると思うことで、少しでも安心しようとした。
だがそれは否定された。断言しても良い、今の彼の中に狂戦士はいない。
つまり、自分はこの世界に1人きりだということで。
赤いスラッシュザクと黒いガナーザク、そしてセイバー。
乗っているのはおそらくアスランにルナマリア、ディアッカ。動きを見た限り彼らで間違いないだろう。
シンの元に集うかつての仲間たちを、キラは目を細めて見つめる。
眩しいなぁ。
なんで自分は、ああじゃないんだろうか。
かつて、自分は周りの人達のように誰かを照らす存在なのだと、そう思っていた。
だがそれはとんだ思い違いだった。彼女を失って初めて気付く。
おそらく自分はラクスやカガリが放つ光を浴びているうちに、自分も光を放っていると勘違いしただけなのだろう。
全ての色を混ぜ合わせると光は白くなるが、絵具なら黒くなってしまうということを聞いたことがある。
だから、ほら。彼女たちがいない今の自分の周囲は、漆黒の闇に包まれてこんなにも暗い。
自分の中には光なんて無かったという何よりの証拠だ。
もう、自分を嘲笑うことすら上手く出来なかった。
道が見えない。目印もない。温もりも感じず冷たい夜の中を1人歩く。
闇を照らそうと周囲にビームを撒き散らしてみたものの、その光が照らすのは返り血で黒ずんだ自分の姿だけ。
こんなはずではと狼狽し、嘆く。
認めたくはない。けれど認めざるを得ない。
これが今の自分の現実なのだと。
光の眩しさに心を焼かれながら、キラは思った。
ディーヴァへ着艦してバルトフェルドに退却を命じると、キラは猛烈に休息が欲しくなった。
MSハッチに迎えの少女の姿は無い。先刻まではエターナルに戻る予定だったので、それが当たり前といえば当たり前だが。
失望と悲観、戦闘の疲れと重なって、これまでに無いほどの重さを感じる。
早く熱いシャワーを浴びてベッドに入って、暖かい毛布に包まれたかった。
身体を引き摺り自室まで辿り着き、ドアを開ける。無駄に広いだけで生活感の無い部屋。
あまり他人の事は言えないなと思いつつ中に入ると
いつものように、ベッドの上にはピンク色の髪の少女がいた。
「ただいま、ラクス」
こちらもいつものように帰りの言葉を告げる。
しかし何だか様子がおかしい。近くに寄って来たのは普段通りだが、
いつもなら自分の服なり手なりを掴んでくる筈の少女が今は苦しそうに俯いたままだ。
「う……ううっ………」
顔を上げ口を開く。だがその口からこぼれるのは雑音。どうやら何か言葉を喋りたいようだ。
そう言えば出撃前にも何か頑張ってたっけ。多忙で聞きそびれてしまったけど。
「うあ…う……お………」
「?」
この子は何を言おうとしているのだろう。
そんなに苦しそうにしてまで、こんな自分なんかに伝える言葉があるというのか。
なんだか見ているこちらも辛くなってきた。辛いなら無理しなくてもいいから。そう言おうとして
「お…かえり……な…さい……」
「え……?」
息を呑む。
「ず…と……まって…た…」
「待ってたって……僕を?」
こくりと頷く少女。そして再び苦しそうに、しかし必死に言葉を続ける。
「ずっと……言い、た…かった……」
ずっと待っていた。おかえりなさいとずっと言いたかった。
そんな事を伝えるためだけに、彼女はこんなに頑張ったというのか。
しかも待っていてくれた。こんな自分を、大したこともしていないこんな保護者を。
おかえりなさい。帰りを待っていた人が、帰ってきた人に告げる言葉。
友人や部下から言われたことはあるが、こんなに心のこもった迎えの言葉をキラはここ数ヶ月聞いたことがない。
最後に聞いたのは彼女と暮らしていた頃。
あの頃は帰る場所があった。言葉を返す人がいた。
もう二度と、誰からも聞ける筈はないと思っていた。
めまいがした。胸の奥を風が吹き抜けた。身体中の血が循環を再開したような気がした。
居場所はあった。ずっとここにあったんだ。
最強のスーパーコーディネーターでもなく、ラクス=クラインの伴侶でもなく。
自分自身を。ただのキラ=ヤマトを必要としてくれている。
普通の人にとってはありふれた事。
だけど、今のじぶんにとってそれは。なんと言う幸せだろう。
「ああ」
返事を、しなければならない。彼女に応えなければならない。
「ただいま、ラクス」
瞼の裏が熱い。上手く呼吸ができなくて、喋り方すら一瞬忘れてしまった。
思い通りにならない身体をなんとか動かし、どうにかその言葉だけ吐き出す事ができた。
だが足りない。こんな言葉では足りない。どうすればこの想いを伝えられる。
そう考える間もなく、少女を強く抱き締める。
やってみれば簡単だった。
おずおずと少女の両手が背中に回る。キラは密着の度合いを強くしたあと口を開いた。
この感謝の気持ちが届くように。涙が、見えてしまわぬように。
そして自分もずっと言えなかった、おそらくずっと前から言いたかった言葉を彼女に告げた。
「待っていてくれて、ありがとう」
「うん……!!」
少女の抱き締め返す力が強くなる。
自分の中の闇に、光が差した。
そう、キラは感じた。
疲れ果てた青年と傷付いた少女。
凍えるのを防ぐようにお互いのぬくもりを分け合うその姿からは、英雄や反逆者といった言葉はまず浮かんでこないだろう。
今の彼はそれほどまでに弱々しかった。
いつものキラならここまで乱れる事はなかった筈だ。しかし今の彼はシンの周囲にある光を見たばかりだった。
だから自分の現状に失望した。シンの存在に希望を抱けなくなった。
そして死ぬほど渇望していたから、満たされた瞬間に舞い上がってしまった。
だから少女を抱き締めた。自分に向けられる好意を、その小さなぬくもりを貪った。
自分の中の何かが、壊れる音も聞こえないままに。
今日はここまでです
支援
それとも終わった?
リロードし忘れでこっ恥ずかしいことに。改めて投下乙です。
初戦終結。役者も出揃って前座を消化、決戦の時来るといったところか。
キラの変化は果たして救いか崩壊の兆しか。
カガリより年下の少女がウズミの養子になって
カガリに義妹がいたら萌える?
アホの子がもう一人増えてもなぁ・・・
>>607 いや、こういうのは姉を反面教師にしてすごくしっかり者になるもんじゃね?
父も姉も反面教師にしないとダメだな
そしてそんな家族は嫌だな
>>608 ・年齢は15歳で、カガリより1つ年下
・ナチュラルで、見た目は可憐な少女
・性格は理知的で、カガリより大人っぽい
・服装はオーブの軍服で、カガリと同じ男性用
・言葉遣いは上品だが、キラのことは呼び捨て
これだったら萌える?
乙でした。続きが気になるね
つか見てて思ったんだけど、なんか最近cross pointの後の話題が似てきてんだよな
ラクスだマリナだ、とか
もしカガリが、とか
染色体とか気持ち悪い流れだったり
もしかして狙ってやってんのか? あのオリ主の作者とかが
この手の話題振り自体はあの人が投下始める前からあったからそれは冤罪だろう
>>610 軍服は要らないんじゃないかな。
むしろ体裁としてお姫様をこなしてる一方で兵法に詳しいとかのギャップ萌え?とか。
むしろ特定の作者にやたら粘着してる奴は何なんだ?
個人的な恨みでもあんのか?
>>614 追加で運動音痴とかどうよ?
何も無いところでこけて、涙目で立ち上がるとか。
なぜだろう、さっきからしきりに
「オーベルシュタイン」とか「ターちゃんクローン」とかいった単語が
脳裏を走って仕方がないんだ、これってニュータイプへの覚醒の兆し?
すみませんが、まとめ倉庫のどこに行けば、ここの作品が読めますか?
if系統合だとザクレロとか出てくるのですが。
>>619 そのif系総合だろ。ザクレロの下にも作品並んでるぞ?
CROSS POINTの事を言っているのなら、
下の方にあるんだけれど、目次の所には作者の名前で載っているよ。
>>619
もしもラクスが戦争なんてくだらねえ俺の歌を聴けーな人だったら。
どうもすみません。作品がこんなにあったんですね。
ありがとうございます。
これから読まさせていただきます。
だから種シリーズは小池一夫せンせいが製作してたら良かったんだよ。
其の場合キラは普段はカズイ並みに冴えないんだけど
戦闘時(女性との性的なモノも含む)に「俺は超人類だ!」と為るのは確実で……あなたは人間ですか!?
序でにガンダムにも造詣の深い今野敏先生が、もしくは天地明察がいま評判の冲方丁先生、
さらには菊地秀行センセイか夢枕獏センセイか山田正紀センセイかが種シリーズの製作中心責任者だったら――
と云う場合についても語りましょうか?
それでスレ立ててみ
盛り上がったら見に行ってやるよ
語りましょうか?って……
はは
>>624 菊池先生だったら、二話に一話くらい女キャラがレ○プされるだろうし、
うぶやんだったら、女キャラがすんごくフェティッシュに描写されそうな気がする。
>>624 ははは・・・ま、それでも嫁やオルフェが書くよりはマトモな物が出来そうなのが困るなw
>>624 その話題、このスレだけで4回も出してるな
もうスレ立てて来いよ
>>
>>629 けど今野先生だったらMSパイロットが軒並み不自然な迄に
格闘術(特に沖縄武術)の達人になりそうなんですよ……
「モビルスーツを最大に活用するには『ナイファンチ』と『夫婦手』の習得が必要だ」
最終決戦は二人のパイロットが格闘戦になるのは間違いないと。
>>628 冲方作品って未読なんだけど、そんなに女性キャラがフェティッシュなんですか?
ついでに菊地秀行先生だったら必ず人妻が淫らに為るのも忘れないで下さい。
未だ他にあるか?
逆シンでハブられたからって、わざわざここで話されてもなぁ
ぶっちゃけそいつら知らねえし
冲方というとファフナーのノベライズぐらいしか知らんな
冲方はともかくガンダムに菊池や今野もってくるとか
匂いすぎだろ
635 :
ネタ振り。:2010/04/30(金) 01:32:18 ID:???
アクトオブZってなんだ?
初耳だな
638 :
635:2010/04/30(金) 02:55:52 ID:???
すまん間違えた『ADVANCE OF Ζ ティターンズの旗のもとに』だった。
>>640 ありがとうございます
まとめて貼りたいので新スレの方へ貼り始めますね
普通に連騰規制に引っかかるとは
流石に今日は、書き込む人が少ないか
CROSSPOINT面白いよ
特に戦闘描写が好きなんてすけども
しっかり完結させて欲しいです
半月も誰もレス無しとは
新スレ立ってるし……
ただ埋めるのもどうかと思って
規制も多いしね
規制頻発とリアルの忙しさで梅する余裕がなかったよ
職人さんもそうなら読んでるほうもそんなもん
埋め
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CROSS POINT投下ktkr梅
うめええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
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