スパロボキャラが種・種死・00世界に来たらJ

このエントリーをはてなブックマークに追加
1通常の名無しさんの3倍
【前スレ】
スパロボキャラが種・種死・00世界に来たらD
http://hideyoshi.2ch.net/test/read.cgi/shar/1258097826/

【避難所】
スパロボキャラが種・種死の世界に来たら避難所
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/10260/

【SS保管庫】
ガンダムクロスオーバーSS倉庫 Wiki
ttp://arte.wikiwiki.jp/
2通常の名無しさんの3倍:2010/02/15(月) 21:56:14 ID:???
【過去スレ】
スパロボキャラが種・種死の世界に来たら
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/shar/1171646976/
スパロボキャラが種・種死の世界に来たら2
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/shar/1185894804/
スパロボキャラが種・種死の世界に来たら3
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/shar/1188148276/
スパロボキャラが種・種死の世界に来たら4
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/shar/1191681748/
スパロボキャラが種・種死の世界に来たら4の続き2
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/shar/1193820272/
スパロボキャラが種・種死の世界に来たら
ttp://mamono.2ch.net/test/read.cgi/shar/1199800477/
スパロボキャラが種・種死の世界に来たらα
ttp://mamono.2ch.net/test/read.cgi/shar/1208274940/
第二次スパロボキャラが種・00世界に来たら
ttp://mamono.2ch.net/test/read.cgi/shar/1211341851/
第3次スパロボキャラが種・種死・00世界に来たら
ttp://mamono.2ch.net/test/read.cgi/shar/1215555164/
第4次スパロボキャラが種・種死・00世界に来たら
ttp://mamono.2ch.net/test/read.cgi/shar/1223710735/
スパロボキャラが種・種死・00世界に来たらF
ttp://hideyoshi.2ch.net/test/read.cgi/shar/1227543145/
スパロボキャラが種・種死・00世界に来たらF 完結編
ttp://hideyoshi.2ch.net/test/read.cgi/shar/1237461611/
スパロボキャラが種・種死・00世界に来たらA
ttp://hideyoshi.2ch.net/test/read.cgi/shar/1243171517/
スパロボキャラが種・種死・00世界に来たらR
ttp://hideyoshi.2ch.net/test/read.cgi/shar/1248514184/
3通常の名無しさんの3倍:2010/02/15(月) 22:02:50 ID:???
さて、ニルファ・サルファとIMPACTとMXとスクコマ系はどういう順番でタイトルにすればいいものか
4通常の名無しさんの3倍:2010/02/15(月) 22:46:20 ID:???
>>1がガンダムだ!

発売順とかどないだす?
5通常の名無しさんの3倍:2010/02/15(月) 23:57:22 ID:???
今のところGBAですから、次はDSのWとKでは?
6通常の名無しさんの3倍:2010/02/16(火) 19:26:53 ID:???
出したら順番がややこしくなる第二次GとαforDCはなしの方向で?
7通常の名無しさんの3倍:2010/02/18(木) 14:40:03 ID:???
妖魔帝国ってクトゥルフ関連の組織だったのか?
つーことはライディーンって人の造りし鬼械神?
8通常の名無しさんの3倍:2010/02/19(金) 15:54:22 ID:???
単に似てたらからSSの中でそうなっただけかと
9通常の名無しさんの3倍:2010/02/19(金) 18:30:36 ID:???
南太平洋に眠る邪神と言うとまあクトゥルーが思い浮かぶな
10通常の名無しさんの3倍:2010/02/19(金) 22:10:42 ID:???
種死初参戦のSC2だと環境の変化に対応して変貌した元人類の成れの果て
ということになってたな
妖魔帝国

つーか、俺の知らぬ間に新スレに!!

>>1
11ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/19(金) 23:51:45 ID:???
>>7
8さんと9さんの言うとおりオリ設定でロバートブロックの「アーカム計画」のシチュエーションを引用
つか
>人の造りし鬼械神?
なにそれ?
12通常の名無しさんの3倍:2010/02/20(土) 00:32:35 ID:???
>>11
デモンベインのことっすよ
詳しくはググって下さい
13ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/20(土) 04:41:10 ID:???

   クォヴレー・ゴードンとαナンバーズの「再会」より半年後。
 
 「第十三次全権代表イルムガルド・カザハラ様ですね」
 プラント最高会議・議長官房府つきザフト武官、アイザック・マウは緊張した面持ちでその男に
声をかけた。
 「議長がお待ちです、こちらへ」
 「全権代表か、まあ確かに全権を委任されてはいるんだけどね」
 自らに付与された呼称に面映ゆいものを感じつつ、イルムはかけていたソファから腰を上げる。
 「これが『フォリナー』なのか」
 日頃の勤務への励行ぶりと、自信過剰な人物の多い若きザフト・エリートらしからぬその物堅い
性格を買われ、下手をするとデュランダル政権が転覆しかねない重大な秘密をごく一端ながらも
明かされたアイザックは、存在自体がその秘密そのものである人物をつい凝視してしまった。

 ここはプラントの首府アプリリウスの郊外ブロックに位置するザフト・アカデミー。
 通常の軍における士官学校にあたる機関である。
 外来の訪問者の待合室となるロビーに、アイザックは議長が招待した人物を迎えに来たのだ。
 
 イルムらが何者なのかまではアイザックは知らない。
 わかっているのは「フォリナー(異邦人)」と言うコードネームを与えられている集団だと言う事と。
 どうやら全員がナチュラルで構成されているらしいこと。
 彼らとプラントが、正確には当時のプラント最高会議学術委員長で、現最高会議議長ギルバート
デュランダルが接触したのはほんの半年足らず前のことでしかないが。
 秘密裏に彼らから供与された技術が短期間で多大なる恩恵をプラント、そして地球上の友好国
にもたらしたという。
 ナチュラルによってコーディネイターに科学技術がもたらされるなど信じがたかったが、多少秘密
に関与する立場となったアイザックはそれが事実だと認めざるを得なかった。
 「フォリナー」は月に二・三度、試験運用艦専門の機密宇宙港に宇宙軍艦で入港してくる。
 それが今回で第十三回目にあたった。
 今次の代表であるイルムという男は、代表団に加わること四度、アプリリウスを訪れるのも三度目
と言うことで、迎えも待たずアカデミーを訪れた。
 (そういえば今日は…)
 自らもアカデミーの出身であるアイザックは、今日が卒業を間近に控えるパイロット候補生たちの
戦技披露会であることを思い立った。
 (それに何か関係が…)
 しかし彼にはそれ以上の詮索は権限外であった。
 
 アカデミーのMS訓練場に臨時にしつらえられた貴賓席。
 そこでプラント最高会議議長ギルバート・デュランダルはイルムを待っていた。
 「よく来ていただきました、中尉」
 何度も会っているイルムに対し、デュランダルは「フォリナー」内部でのイルムの階級で呼びかける
ことで親しみを示す。
 「お久しぶりです、議長」
 差し出された手を握るイルム。
 しかしその外面とは裏腹に、イルムは目の前の人物に対する隠しきれない疑念を抱えていた。
14ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/20(土) 04:44:42 ID:???
 それはこのCEと呼ばれる世界に原因不明の転移をしてしまった「銀河殴りこみ艦隊」
が、とりあえずアステロイドベルトに仮の泊地を建設しつつ、この世界の地球圏の動向を
探るべくラー・カイラム及び大空魔竜を差し向けてから二週間が過ぎていた頃だった。
 その日から数日前、行方不明だったクォヴレー・ゴードンの合流が旗艦エルトリウムに
設けられた本部へと報告され、艦隊の士気は大いに高まっていた。
 現在の艦隊は最終決戦(の予定であった)神壱号作戦に参加した戦闘艦艇のうち、作戦
終了後にケイサル・エフェスによって銀河の果てに転移させられたエルトリウム、バトル7、
ソロシップ、マザーヴァンガード、ピースミリオン、リーンホースJrと、ケイサル・エフェスとの
決戦時に合流した応援隊とも言うべきシティ7、フーレ級戦艦、ガタマン・ザン級戦艦、そして
GGG支援艦隊によって構成されている。
 それぞれの艦からそれぞれの勢力の代表が本部の合議に参加しているが、その代表の中
でも特にアルマナ・ティクバーの歓喜は尋常ではなかった。
 この世界に転移したフーレ級戦艦一隻分のバルマー人(本星を脱出した民間人とは別行動
で、乗っていたのはすべて援軍としてかけつけた元帝国監察軍軍人)を代表して合議に参加
しているアルマナは真っ先にこのことを知らされて涙ぐんだ。
 母星を失った寄る辺なきバルマー人。
 その中でも異世界にまで飛ばされてしまった人々を指導する立場として、そのまだ幼さすら
残る顔立ちにも関わらず私情を廃し、バルマー側の要望を艦隊首脳陣に飲んでもらうことに
尽力していたアルマナは今の今までクォヴレーの名前すら口にしていなかった。
 だがそれは、本来ならズフィルードの巫女として我と我が身を捧げるべく育てられた彼女の
並外れた克己心によるもので、内心では彼の無事を沈痛なまでに願っていたのだ。
 隣席にいた在地球圏異星人代表のエリカに涙を拭ってもらい、報告を中断させたことを詫び
つつ、輝くような笑顔を浮かべたアルマナは調査隊の帰還を待ち望んだ。
 ところが。
 火星軌道に敷いた監視ラインに引っかかったのは、そのクォヴレーを乗せて帰還する二戦艦
ではなく所属不明の宇宙船だった。

 プラントのベア−ブリン宇宙開発局が建造したその宇宙船の本来の目的は人類初、正確には
「その世界の」人類初の木星軌道恒久基地のためのマザーユニットとなることだった。
 主に地球圏外への進出計画を遂行しているD.S.S.Dに代わり、より現実的なアプローチとして
木星開発計画を立てているのがベア−ブリン宇宙開発局であり、建造された宇宙船そのものが
サテライトベースのコアブロックで、後に運ばれる予定の各ブロックやモジュールが接続されて
基地が完成する予定だった。
 だが、プラントと地球連合の戦争が予定を狂わせた。
 とりあえずの終戦を迎えたものの計画は遅れに遅れ、また地球連合との緊張関係から木星圏
に恒久基地を建造することは無用の刺激を与えるのではという常識論が今さらのように出された
こともあり基地敷計画設は凍結されたが、それでも技術レベルの維持のために木星圏への航宙
だけが当初の予定通り行われることになった。
15通常の名無しさんの3倍:2010/02/20(土) 04:45:45 ID:???
支援
16ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/20(土) 04:49:25 ID:???
 元々恒久基地のコアブロックになる予定だったため、宇宙船の居住環境は宇宙軍艦程度には
良好で、そのため専門のスタッフ以外の乗艦が認められた。
 だがプラント最高会議の学術委員長であるギルバート・デュランダルの乗艦は波紋を呼んだ。
 デュランダルはプラント政界の穏健派といわれるクライン派の若手ホープであり、近い将来の
辞任を公表しているカナーバ暫定政権の後継候補であった。
 それが一月以上かかる航宙に参加するとは。
 しかしデュランダルはこれはプラントの学術部門を代表するものの責務であるとして強引に参加
を決めたのだ。
 宇宙船の設計者であるベア−ブリン宇宙開発局の前局長ウモン博士が、専門遺伝子工学以外
の幅広い分野で研鑽を積んでいた彼の数多い師の一人であることもその理由と考えられた。
 ともあれ予定通り宇宙船は進発し、十日間の航行の末に火星軌道まで到達したのだ。

 銀河殴りこみ艦隊改め、SDF(SDが「スーパー・ディメンション」から「セルフ・ディフェンス」へと
変わっていた)首脳部はこの事態に苦慮した。
 火星軌道より外に人工建造物がないことから、アステロイドベルトに滞在すればこの世界の人間
に発見されまいとした判断が甘かったことを認識せざるを得なかった。
 元の新西暦世界に例えるならば、旧西暦1969年7月に月には人類は未踏だとして基地を作って
しまったところにちょうどアポロ11号が飛んできてしまったような間の悪さだった。
 調査隊と合流後、直ちにさらなる外惑星、あるいは太陽系外へと退避することも検討された。
 だがその間に、件の宇宙船よりコンタクトがはかられた。
 最短距離を航行していたラー・カイラムが運悪く発見されてしまったのだった。

 この世界の人間との初めてのコンタクト。
 その時の光景をイルムはよく覚えている。
 居住性が高く、逆に軍事機密という点ではもっとも重要度が低いシティ7にプラントの宇宙船は
収容された。
 そこから降り立った第一陣に、こともあろうに木星調査団のVIPであるデュランダルが含まれて
いたのだ。
 しかもその他の面子の緊張を通り越して恐慌寸前の表情に比べて、デュランダルは柔和な表情
で、周囲を取り巻くのが少なくともヒューマノイド(人類型生命体)であることを確認するや笑みすら
浮かべた。
 後に聞いたデュランダルの弁によれば、この世界では既にエヴィデンス01という地球外生命体の
化石に始まり、幾つかの地球外文明の痕跡すら発見されているから、当初は宇宙人と思っていた
イルム達を見てもさほど驚かなかったし、攻撃せずに宇宙船を収容してくれたことで危害を加える
つもりはないと判断していたのだと。
 なるほど筋は通っている。
 しかし前者はデュランダル以外の人間も同じ条件、後者はあまりにも楽観的でとても信用出来る
ものではない。
 イルムがデュランダルに持っている違和感は、これが源泉だった。
17ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/20(土) 04:50:57 ID:???
 多少の発音や言い回しの違いこそあれ、言葉が通じる事を確認した後、自分達が宇宙人
ではなく異世界人であることを告げられても、彼は多少驚きこそすれ取れ乱すことなくそれ
を受け入れた。
 そしてこの件については緘口令を引くことを約束し、またプラントに帰還後何らかの手段で
連絡を取りたい旨を告げた。
 大規模な関連施設を必要とする超空間を使用するフォールド通信は無理だが、光速であり
ながら通常の光通信と異なり通信区間に遮蔽物があっても中継点無しで通信可能なソリトン
通信機を貸与されたデュランダルは、帰還後から頻繁にCEの地球圏の情勢を知らせてくれた
後、自分がプラントの最高会議議長に選ばれたため議長権限で機密を保持することが可能に
なったと告げてきた。
 そして「フォリナー」というコードネームでの交流を打診してきたのだ。

 現時点では他にこの世界の人類に対する窓口もない上に、特に過大な要求もされていない
ことから
SDF首脳部はこの交流を受け入れた。
 もっともイルムを始め何人かは疑念を抱いていた。
 デュランダル議長はあまりにも物分りがよすぎたから。
 彼が非常に頭の柔らかい人物であることは確かだが、異世界から来たと称する強大な武装
集団を限定的とはいえ自らの国に招きいれるのはあまりにも無警戒と言えた。
 無論その無警戒さはイルムの所属するαナンバーズ、ひいては現時点でのその上部組織
SDFにも共通する事象なのだが、それは圧倒的な武力を持つが故の余裕である。
 一国の元首とはいえ、その一国の持つ軍事力以上のものを有する集団に、決して愚かでも
能天気でもない人間がこうまで無防備なのは明らかにおかしい。
 SDF首脳部もデュランダルが自分たちの技術を欲しがっているのだということは熟知し、この
世界のバランスを崩さない程度に厳選された技術を供与し始めている。
 だがイルムからすれば「技術が欲しい」というのはデュランダルの本音ではなく、それが本音
だと思わせる誘導なのではないかと言う疑念がどうしても拭えないのだった。
 イルムは思い出す。
 自分たちが異星人ではなく(実際には異星人のメンバーも一割近くいるのだが)異世界人だと
知った時に彼が何事か呟いたのを。
 その瞬間、彼の柔和な顔が一瞬だけ苦渋や後悔の色を見せた。
 まさにほんの一瞬のことだったので、イルム以外に気づいた人間は少ないだろう。
 あの時彼が何を思い、何を呟いたのか。
 それがわかるまでは本当の意味でデュランダルを信用できないイルムであった。

 もっとも。
 たとえイルムがその目敏さに比例して動物並みの聴力を持っていたとしても。
 デュランダルの言った言葉の意味はわからなかったであろう。
 彼は信じられない事実を知った時、こう呟いたのだ。
 「ラウ……」と。
18ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/20(土) 04:52:13 ID:???
 「ご用件は、伝えられたものでいいんですね」
 とりあえず疑念を頭の引き出しにしまったイルムが堅苦しい挨拶はすっ飛ばして
確認を取る
 「あなた達の中でも、一番ハイブリットの開発に関与していただいたのは中尉です
からね」
 「まあ、開発パイロットは向こうにいた時の本職ですから」
 そう言ってイルムは議長の横に腰を下ろす。
 そして、近くの席にもう一つ見知った顔を見て目礼する。
 ベア−ブリン宇宙開発局前局長、現宇宙科学研究所所長のゲンゾー・ウモン博士
 デュランダルの科学アカデミー時代の恩師の一人だ。
 専攻は遺伝工学であるデュランダルだが、学生時代に教養科目として学んでいた
宇宙工学でも大きな才能を見せ、ウモン博士から何度も転科と博士のゼミナール入り
を懇願されたほどだった。
 そのウモン博士は最近開発局を辞し、失ったユニウス7に代わる新たな農業コロニー
として新造された「フューチュラル0」に研究所を設立した。
 宇宙工学の総本山である首都を離れ、畑違いの農学コロニーに隠遁した理由は様々
に噂されているがどれも推測の域を出ていない。
 はっきりしているのは独身の彼が最近養子を迎え入れたことが転機であったこと。

 「候補生はこの三人です」
 デュランダルが手ずからコンソールを操作し、モニターに三人の少年少女の顔写真を
映し出す。
 金髪の美少年、赤毛の美少女、そして特徴的な紅い瞳の黒髪の少年。
 「?」
 驚愕するイルム。
 その三人の顔すべてに見覚えがあったのだ。
 そのうち、二人までは不思議はない。
 金髪の少年、レイ・ザ・バレルは保護者であるデュランダルを通じて面識がある。
 赤毛の少女、ルナマリア・ホークの名は初めて耳にする。
 しかしその容姿は見知っていた。
 アブリリウスを散策した時に、休暇で外出していた彼女とその連れについ「向こうにいた
時の癖」で声をかけてしまったことがあったのだ。
 奇しき縁だが、さして不思議でもない。
 たとえそこが「異世界」だろうと守備範囲内の女性には可能な限りのアプローチをはかる
のは彼にとっては日常茶飯事なのだから。
 だが黒髪の少年は別だ。
 この紅い瞳の少年の顔には見覚えがある。
 いや、それどころではない。
 イルム自身の主観時間で一年前、遥かなる世界で共に戦った戦友だ。
 他人の空似でもない。
 何故なら顔写真に添えられた名前も同じだったのだから。
 少年の名はシン・アスカと言った。
 
 
    虚空、果てなく 〜SEED OF DOOM〜

  第三序章 とあるパイロットの激動の日々
19ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/20(土) 04:53:48 ID:???
この章は長いので、二回もしくは三回に分けて投下させてもらいます
とりあえず今夜はここまで。
20通常の名無しさんの3倍:2010/02/20(土) 07:49:53 ID:???
乙!
久しぶりのATX氏の投下に期待と興奮が膨らまざるを得ない!

つーか、さらりと登場した宇門博士・・・こっちの人間なんですね
> そのウモン博士は最近開発局を辞し、失ったユニウス7に代わる新たな農業コロニー
として新造された「フューチュラル0」に研究所を設立した。
明らかにあのご近所さんもいらっしゃいますね!?
確かにある意味ナチュラルとは思えん顔立ちと能力と別家庭を隠し持つあの人が!!
21通常の名無しさんの3倍:2010/02/20(土) 18:47:18 ID:???
834 名前:ATX ◆ATxnCGuvrM[sage] 投稿日:2010/02/20(土) 17:54:38 ID:OprFc5XY
またアク禁だよorz

本スレ>>20さん

>ナチュラルとは思えん顔立ちと能力と別家庭を隠し持つあの人が!!

  ネタバレ禁止よ! でもよく気づいたわね
  ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄     ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄
  ,.'´  ̄ ´ミ          〃  ヾヽ 
  i" ノ_,リ._ハ \\   //〈(((ハ ))ミii
  ノルパ -゚ノ、  | |ガガ| |   リ´ヮ`リく!!
  とio[i[|i)   | |  ッ| |  (《卯《イつ)
    Ei/k    人   人  んヽ|Lヽ((
    / )   <  >_<   >  ( |ヽ.)
  _/レ' // V`Д´V\\ し |_
 (_フ彡   ⊂>>20⊃   ミく_ )

             え……?
             ̄ ̄V ̄ ̄        
     〃  ヾヽ    ,.'´  ̄ ´ミ
   〈(((ハ ))ミii    i" ノ_,リ._ハ
 ♪〜リ´ヮ`リく!!   ノルパ -゚ノ、
   ⊂《卯《イつ)    Uo|]!]U
    ん⊥Lヽ((      EiEk
     しヽ.)       .し'ノ

835 名前:ATX ◆ATxnCGuvrM[sage] 投稿日:2010/02/20(土) 18:17:03 ID:OprFc5XY
明日になってもアク禁が解かれなかったらこちらに続きを張るので
どなたか本スレにその旨告知とついでに上のレスのコピペをよろしく




だそうです
22通常の名無しさんの3倍:2010/02/22(月) 00:34:44 ID:???
避難所に総帥がなんか投下したぞー(^o^)/
23通常の名無しさんの3倍:2010/02/22(月) 01:45:51 ID:???
随分懐かしいネタで来たな………主役の声以外は大好きなゲームだったぜ
24ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/22(月) 01:57:21 ID:???
 新西暦188年3月。
 地球圏を襲う衝撃波を防ぐ「イージス計画」は成功した。
 しかし、その立役者であり、前年末には地球圏の実権簒奪寸前だったティターンズを排斥した
「プリベンター」に対する連邦政府および連邦軍上層部の処置はあまりにも情も敬も礼もすべて
欠いたものだった。
 プリベンターは基幹要員のみを残して解散、ロンドベル隊のような実戦部隊を失って単なる情報
組織のような形となり。
 のみならず、メンバーの何人かがバルマー戦役時の不審な行動などを理由に拘禁される始末。
 その拘禁予定者の一人に、イルムガルト・カザハラ中尉もいた。
 試験機であるグルンガスト改とヒュッケバインEXの盗難という、既に一時は不問に処された事を
一事不再理の原則を無視して追求されたのだ。
 もっともその拘禁命令が出た頃、当のイルムは既に姿を晦ませていたが。
 現在グルンガスト改が保管されていて、彼の父ジョナサン・カザハラが所長を務めるテスラ・ライヒ
研究所。
 同じくヒュッケバインEXが返品されていて、イルムがかつて出向していた、そして現社長と個人的
に特別な関係にあるとされるマオ・インダストリー。 
 そのどちらにもイルムは姿を見せなかった。
 ただマオ・インダストリーの重役の娘であり、バルマー戦役時にイルムと行動を共にしていたリオ・
メイロンが失踪したため、イルムに拉致あるいは同行した可能性があるとされた。
 なにしろ失踪したのはリオのみにあらず。
 プリベンダーのメンバーで解体後に軍を退いたリョウト・ヒカワ。
 GGGとして新編立ち上げ中だった宇宙開発公団のスタッフ、ユウキ・ジェグナン。
 破乱財閥の嘱託エージェント、タスク・シングウジ。
 SDFのバルキリーパイロット、レオナ・ガーシュタイン。
 この四人も同時期に消息を絶ったのだから。
 彼らはいずれも、イングラム・ブリスケンの計画により戦争に巻き込まれ旧ロンドベル隊に所属して
いたパイロットだった。
 念のため、彼ら同様の立場でバルマー戦役直後に元の民間人になった二名の少女と一人の少年
についても追跡調査された。
 そのうちクスハ・ミズハとブルックリン・ラックフィールドの二名はバルマー戦役後すぐティターンズに
よって不当に拘束され、ティターンズの崩壊後もその後の混乱で数ヶ月拘束されたままになっていた
事がわかった。
 調査時には何者かによって解放され、テスラ・ライヒ研究所に匿われていた。
 残る一名、リルカーラ・ボーグナインは完全に消息を絶ち、こちらはイルムらと合流したという見方が
強まっていた。
 そしてさらに、連邦軍極東基地に保管されていたはずのグルンガスト零式、グルンガスト壱式(一号機・
二号機)の三機が忽然と姿を消している事が判明した。
 グルンガスト壱式一号機はかつてイルムがPTXチーム在籍時に使用していた機体であり、一連の失踪
事件との関わりが取り沙汰された。
25ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/22(月) 02:03:38 ID:???
 もっとも、この時期連邦軍装備の謎の消失は相次いでいた。
 後にそれらの機体の大半は再蜂起したネオ・ジオンに略取されていたり、ゾンダリアンに
よってゾンダーメタルを植えつけられてゾンダー戦力化されたものとわかり、グルンガスト
シリーズ三機もその線であろうと結論付けられた。
 そう、そのゾンダーの跳梁に象徴される「封印戦争(と、後に命名された戦い)」の勃発で
イルムらの捜索どころでなくなったのだ。
 人員不足の折、拘禁されていたヴィレッタ・バディム大尉らが解きはなたれ、イルムへの
訴追もうやむやになり。
 そして「封印戦争」も終わったある日のこと。

 フォン・ブラウンの衛星都市群の一つであるセレヴィス・シティ。
 この月面都市はいわばマオ・インダスリーの「企業城下町」であり、市の中央部にあるホテル
はマオ社新製品の発表会などでご用達のホテルでもある。
 そのホテルのスイートルームで、マオ・インダトリー代表取締役社長リン・マオは実に微妙な
表情を浮かべていた。
 その日は彼女の29回目のバースデーであった。
 大企業の社長でありながら華美なことを好まない彼女は例年とおり大々的なパーティーなど
はしなかった。
 特に女性として20代最後のバースデー等有難くもない。
 ただ内輪で彼女の誕生会が企画され、その席に顔を出していた。
 早くて数ヶ月、長ければ数年ぶりに会う仲間たち。
 レナンジェス・スターロード。
 パトリシア・ハックマン。
 グレース・ウリジン。 
 ヘクトール・マディソン。
 ミーナ・ライクリング。
 アーウィン・ドースティン。
 いずれもリンとは士官学校とパイロット訓練校、その両方で同期だった間柄。
 一人二人とならともかく、全員と同時に顔を会わせるのはおそらく訓練校卒業以来だろう。
 誕生日はどうでもいいが、彼らが駆けつけてくれたことは嬉しかった。
 その反面、ここにいてしかるべき、そして一番いて欲しかった人間の不在がリンの喜びに水を
差していた。
 リンとは士官学校・訓練校のみならず配属された部隊までも父の後を継ぐため退役するまで
一緒だったイルムガルト・カザハラの不在が。
 かつての仲間たちがわざわざ都合をつけて全員そろってリンの元を訪れたのも、イルムの失踪
からそろそろ一年が経とうとしていたため、リンを元気付けようと気遣っての事だった。
26ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/22(月) 02:12:45 ID:???
 「リン、本当にいいの?」
 「いいんだ、勝手にいなくなったやつなんて」 
 ミーナの問いかけに決まりきった答えを返すリン。
 退役し、小さな興信所を開いているミーナは仕事が一段落するたびにイルムの消息を
調べようかとリンに持ちかけて、リンがそれを固辞する。
 ここ一年近く、何度も交わされた会話。
 強がりでも遠慮でもなく、友人としては信頼しているミーナの探偵としての能力は疑問視
しているからでもあるが。
 「困った人ですね〜イルムは〜」
 グレースが元軍人とは思えない間延びのした口調で言う。
 「リンがオバさんになるまで待たせるつもりでしょうか〜」
 「お前も同じ年だろうっ!まったく、お前たちはどうしてあいつの話ばかりするんだ」
 彼らはリンの前で平気でイルムの話をする。
 一つにはリンがそれを嫌がってるのはポーズだと長い付き合いから見抜いている事もある。
 そしてもう一つ、彼がもうこの世にいないではという漠然とした不安を拭い去るために、殊更
に彼のことを話題にしている面もあった。
 彼が自分の意思で失踪したのではなく、何者かによって「消された」可能性は限りなく高い。
 バルマー戦役時に独自の思惑で過激な行動をしていた彼は、公式に訴追を受けていたのみ
ならず、少なからぬ勢力から敵視されていたのだから。

 夜も更けて、リンは一人スイートルームのベランダで、眼下に広がるホテルの中庭の庭園が
ライトで照らされる光景を眺めていた。
 パーティーがお開きになり、六人はそれぞれのカップル毎に自室へと戻っていた。
 それはパイロット訓練校時代には既に出来上がっていた組み合わせ。
 したがって八人のグループで行動すると、自然とその頃はまだ恋人関係ではなかったイルム
と二人になる機会が増えた。
 つまり、本来ならこんな時には自分の隣にはイルムがいるはずだったのだ。
 冷たい「夜風」が肌に凍みる。
 本来ドーム都市のセレヴィス・シティにはそんなものが吹いている筈はないが、確かにそれは
夜風だ、
 月生まれのリンだが軍人時代は地球にいたためその感覚をよく覚えている。
 それを再現した絶妙の空調が、リンの寂寥感を煽り立てる。
 いなくなってわかる大切さ、それを今のリンは感じていた。
 イルムとはいつも一緒だったわけではなく、彼の「浮気」が原因で一年近く絶交状態だったことも
あったが、そんな時でもイルムがどこにいるかは知っていた。
 しかし、今イルムがどこにいるのか、いや生死すらリンは知らない。
 もう彼に会えないのではないかと言う恐怖心がリンを怯えさせる。
27ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/22(月) 02:18:46 ID:???
 「わたしは弱くなった…」
 生まれてからの29年間、リンは自分が女であることをハンデと考え、男に負けまいと生きてきた。
 パイロットとしても、父の後をついでの会社経営者としても、常にトップを目指してきた。
 その甲斐あってパイロットとしてはPTXチームの一員に選ばれ。
 マオ・インダストリーも月を代表する企業としてアナハイム・エレクトロニクスに迫る勢いを見せている。
 そんな充実しつつも張り詰めた日々の中、リンにとってのイルムは、いつのまにか心の安定剤になって
いた。
 初めは好意どころか嫌悪しか感じなかった。
 美女ながら見るからに気の強そうなためか、男性からアプローチをされることのなかったリンが生まれて
初めて口説かれた相手であったが、彼は見目麗しい女性なら老若問わず声をかけるような相手であったの
だから。
 しかし、イルムはリンにいくらつれなくされてもめげなかった。
 いつの間にか一緒にいるようになり。
 軍で同じ部隊に配属されたことで完全にパートナーシップを築き、いつしか男と女の関係になった。
 その関係は一事の断絶期間を挟んでもう七年も続いている。
 それなのに、イルムは彼女の前から消えただけでなく、完全に消息を絶ったのだ。
 「誕生日のプレゼントなんていらない、イルム、お前が戻ってきてくれれば他にはなんにもいらない…」
 齢30寸前、崖っぷちになってもまだ素直になれないリンが、誰も見ていないとはいえ本音を口にしたことを、
この世界を統べる神が哀れと思し召したか。
 あるいは単なる偶然か。
 彼女のささやかながら叶えられ難い願いはあっさりと叶えられることとなる。
 「むっ」
 俯いていたリンだが、長年培ったパイロットとしての注意力が異変を察知した。
 光度の大幅な上昇を。
 必要充分な照明で照らされ、幻想的な雰囲気を醸し出していたホテルの中庭が、まばゆい光に包まれて
いたのだ。
 その光の原因は上空にあった。
 ドーム都市であるため天が低く、当然飛行物体の使用は禁止されているセレヴィスシティの空に裂け目の
ような物が現れた。
 そしてその裂け目から、なにやら巨大な物体が姿を現した。
 見たことのない物体だ。
 しかし、その意匠はかつて目にした物と酷似していた。
 二年前のバルマー戦役の時に見た、異世界バイストンウェルのオーラシップ。
 それとよく似た形状の巨大な空中軍艦、いや、もはや空飛ぶ要塞と言ってもいい代物だ。
 密閉されたドームの中にそのような物が突然出現したのだ。
28ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/22(月) 02:19:58 ID:???
 ホテルの周囲は大騒ぎとなり、リン同様に異変を察知したのか仲間たちもリンの部屋へと駆けつけて
来た。
 「なんなのあれ?」
 大きな目をさらに見開いて、ベランダから空を見上げるパット。
 「ん?ありゃ姐さんの会社で作ったのか?」
 とぼけたコメントを述べて。
 「違うし、その呼び方はやめろと何百回言わせるヘクター」
 しっかりとリンに突っ込まれる旧世紀日本の古典落語の愛好家であるヘクトール。
 「資料で見たオーラシップに似ているな」
 リンと違って直接目撃していないにもかかわらず、類似点を発見するアーウィン。
 「おい、なんか出てくるぞ?」 
 ジェスが目敏く気づく。 
 空中要塞の腹部が開口し、そこから降下してきたのは一回り小さなやはりオーラシップらしい外観の
航空艦で、 それはホテルの中庭へと着陸した。
 「あ、あれは?」
 目を疑うリン。
 その空中艦から姿を現したのは、外観は見覚えのある機体ではある。
 ヒュッケバイン008。
 マオ社の連邦軍とのビジネスにおける主力商品であるヒュッケバインMkUタイプM(マスプロダクツ)
の原型であるが、マオ社の開発センターに安置されていて、つい三日ほど前にも目にしたダークブルー
の008とはカラーリングが違う。
 だがそのライトブルーのカラーリングは見覚えのあるカラーリングでもある。
 ヒュッケバイン008は当初008Lと008Rの二機が二機存在した。
 しかし008Rの方は連邦軍テクネチウム基地での起動実験の際にブラックホール・エンジンの暴走で
基地施設の大半を巻き込んで「消滅」し、ヒュッケバインがその名のとおりの不幸を呼ぶ凶鳥、あるいは
「バニシング・トルーパー」という不名誉な名で呼ばれる原因を作った。
 その失われた機体とそっくりのカラーリングのヒュッケバインが、オーラシップと思しき艦から姿を現した
のに続いてモビルスーツやパーソナルトルーパー、さらにはヴァリアブル・ファイター。
 そしてグルンガストタイプの特機までが、次々と現れる。
 通常ならテロか、あるいは本格的な戦争かと思わせる光景ながら、何の前触れもなく出現した空中艦
はそのファンタジックな外観もあって現実感を感じさせなかった。
 無論、実際には機体群はただ姿を現したのみで何のアクションも見せない。
 「なにがはじまるんでしょうね〜」
 「うーん、名探偵ミーナの推理によると…あれ?みんなはグレース?」
 「あれ〜、いませんね〜」
 ベランダにはテンポの遅い女性とテンポのズレた女性のみが残され、他に人間はリンを先頭に中庭へ
と駆け出していた。
29ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/22(月) 02:21:54 ID:???
 リンは一目散にヒュッケバイン008Rへと駆け寄った。
 何かの予感に急き立てられて。 そしてその予感は正しかった。
 ヒュッケバインのハッチが開き、そこから一人の男が姿を現した。
 「ああっ」
 リンの目から涙が零れる。
 「おや、まさか戻ってくるなりお前と会えるとはな」
 そう言って笑顔を見せる男。
 ここ数年ずっと後髪だけを伸ばしたマレットにしていた髪を若い頃の様に無造作に伸ばし
ヒゲすらもたくわえていたが、見間違いようはない。
 彼女の求めた「誕生日プレゼント」が、目の前にいたのだ。
 ワイヤーを伝って大地に足を下ろしたイルムに、リンは飛びついた。
 「おいおい、リン」
 「馬鹿、馬鹿、どこへ行ってたんだお前はっ」
 「まあ話せば長いことになるぞ」
 「後でいい…」
 そう言ってイルムの胸に顔を埋めるリン。
 その肩を優しく抱くイルム。
 感動の再会シーン。
 しかしそのような美しいシーンは長くは続かなかった。
 ヒュッケバインのコックピットから、イルム以外の人間が降りてきたのだ。
 揃ってリンの前に降り立ったのは、流れるような長い黒髪の楚々とした美女と、紫の髪の
まだ幼さを残した美少女だった。
 「隊長、ゲート閉鎖の時間です」
 美女が事務的に告げる。
 「これ」
 美少女が、リモコンのような物をイルムに差し出した。
 「ああすまんな」
 イルムがそのリモコンのようなものを操作すると、再び上空に空間の裂け目が生まれ異形
の空中要塞がその裂け目へ入っていく。
 ものの数十秒で、巨艦の姿は消え、空間の裂け目も消え去った。
 「世話になったな、ヨルムンガンド」
 イルムが万感のこもった声をもらす。
 その片腕はリンの肩を抱いたまま、のはずだったが、いつの間にか宙空に浮いていた。
 「ん?」
 気づくとリンは、自分と少し離れた位置に腕を組んで立っている。
 視線を美女に、続いてまだ幼さすら残る美少女に向ける。
 イルムがこの二人と、せまいコックピットで密着していた。
 その事実を認識すると同時に。
 「この誘拐犯がっ!」
 イルムの側頭部めがけて、強烈なハイキックを叩き込んだ。
 「ふげっ」
 モロにくらって昏倒するイルム。
30ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/22(月) 02:24:33 ID:???
 「お前がリオたちを誘拐したなどという話、信じたくはなかったが、こんな年端もいかない娘まで誘拐
していたとは?」
 「なに?その無茶苦茶な誤解?」
 何やら懐かしさすら感じる鈍痛のする即頭部をさすりながらリアクションするイルム。
 「そもそもアレはなんだ?」
 激昂覚めやらぬリンが巨艦が消え去った方角へと指を指すと。
 「オーラバトルシップ『ヨルムンガンド』です」
 側頭部を抑えているイルムに代わり、美女が答える。
 「こっちがオーラシップ『グリムリー』」
 着地している、時空の裂け目に消え去った艦と比較すれば小型の艦を指差して、愛らしい容姿の割
にぶっきらぼうな口調で美少女が言う。
 「やはりオーラシップか…なぜそんなものに乗って現れ…まさか?」
 ここでリンはようやく激昂を抑え、持ち前の明晰な頭脳を回転させた。
 「イルム、お前今までバイストン・ウェルに?」
 「惜しいな、ニアピン賞だ…」
 「あっ、リン社長!」
 三機のグルンガスト・タイプの一機、赤いカラーの二号機から降り立った少女がリンに声をかける。
 「リオ、無事だったか、やはりイルムと一緒だったのだな、常務が心配してたぞ」
 その少女リオ・メイロンの父、ユアンは先代以来の社の重鎮であった。
 「心配かけてごめんなさい」
 「リン社長?」
 そしてもう一人、見知った顔がいた。
 その少年は見慣れぬ機体から降りてきた。
 かつてのマオ社の新入社員で、数奇な運命によって同僚のリオと引き離され、ロンドベル隊の一員
として試作型ヒュッケバインMK-U一号機、そしてヒュッケバインMK−VタイプLのパイロットを務めた
リョウト・ヒカワだった。
 ロンドベルを離れた彼をリンはマオ社に戻って来ないかと誘うつもりであったが、その矢先にイルム、
リオらと同時期に失踪したのだった。
 「君も一緒だったか、リョウト」 「はい」
 各機体から降りてくる面々を見ると、いくつか見知った顔があった。
 いずれもかつてロンドベルにいて、イルムと同時期に失踪してた少年少女。
 彼らが全員揃っていた。
 「これはどういうことだイルム?」
 あまりに出来すぎた顔ぶれに、リンは個人的憤怒を抑え込んで問いただす。
 「これだけの面子を連れて、お前はどこで何をしていた?バイストンウェルではないのだな?」
 「さっきみたいに可愛く聞いたら教えてあげ…いや、なんでもない」
 イルムの軽口は、罵声も暴力も用いない、ただの威圧のみで封じられた。
 「実はなリン、俺たちが今までいたのは『ラ・ギアス』だ」
31ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/22(月) 02:25:42 ID:???
 離れ離れの恋人たちが劇的な再会を果たした晩から遡ること一年弱。
 イルムはもう一つの大きな再会を果たしていた。
 「まさか……」   
 イルムの目の前にあったのは懐かしい機体だった。
 かつて月の連邦軍基地で大爆発を起こし、この世から消えたはずの機体。
 あの機体のテストパイロットは自分とライディース・F・ブランシュタインが交互に勤めていた。
 一歩間違えたら無くなっていたは自分の腕、いや命だったかもしれない。
 その機体を目の前に、イルムは彼にしては珍しく凝固していた。
  
 「その日」が来るまでの数日間。
 イルムガルト・カザハラとその「共犯者」たちは反地球連邦組織ヌーヴェル・エゥーゴのアジトに潜伏
していた。
 メンバーはリイルムとョウト・ヒカワ、タスク・シングウジ、ユウキ・ジェグナン、レオナ・ガーシュタイン、
リオ・メイロン、リルカーラ・ボーグナイン。
  かつてバルマー戦役で共に戦い、あるいは鎬を削った少年少女たち。
 目的のためには手段を選ばぬ非情な一面をも有するイルムだが。
 彼らを再び戦いに巻き込むのはイルムの本意ではなかった。
 何しろイルムの目的は、かつて彼がイングラム・プリスケンの陰謀を暴くために利用したブルックリン・
ラックフィールドと、そのために心痛を強いたクスハ・ミズハの救出だったのだから。
 
 バルマー戦役において、かつての上官イングラム・プリスケンの陰謀を察知したイルムは、SRXチーム
とは別口でウラヌスシステム完成のための人材、いや生贄として彼が選出した八人の念導能力者リストを
密かに手に入れ、そのうちの二人を保護することに成功した。
 皮肉にもその二人、ブルックリン・ラックフィールドとリオ・メイロンは既に記憶を操作され、ロンドベル隊に
身を置いていた互いの思い人クスハ・ミズハとリョウト・ヒカワのことを一時的に忘れていた。
 これは単なる偶然と、当時イルムは考えていた。
 今となってはイルムもイングラムは故意に自らの陰謀を自分に知らせたのではという気もしている。
 バルマー戦役の終局において、彼がユーゼス・ゴッツォに操られ、しかもその操り糸に抗おうとしていたこと
を知った今は。
 だからといってイングラムの行動をすべて許せるわけではない。
 そしてまた同様に、自分がやったことをイングラムの掌の上で踊っていただけだと責任逃れする気もない。
 クスハやリョウトのことを忘れているブリットとリオに真実を教えることなくそのまま手駒として使い続けたの
は紛れもなくイルム自身の判断なのだから。
 どの程度イングラムの陰謀に関与しているかわからないロンドベル隊の人間とは将来的に生死をかけた戦い
を行う可能性があり、記憶などない方が幸せかもしれないとの非情な判断だった。
32ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/22(月) 02:26:47 ID:???
 実際にはロンドベル隊にイングラムの意図を知っている人間は一人もおらず、彼が様々の
策を講じて同隊に所属するように仕向けていった六人の少年少女すら誰一人彼の真意など
知らなかったのだが。
 それをイルムが知る由はなく、イングラムがロンドベル隊に浸透して自らの手駒を増やして
いると推測していたがゆえ、彼はロンドベルと敵対し、互いを想い合っていた二組の少年少女
を戦わせたのだ。
 そしてまた、彼らの苦衷を分け合うこととなったユウキ、タスク、レオナ、カーラの四人に対しても
イルムは負い目を持つ。
 クスハとブリットの救出はイルムにとっては過去の償いであり、そのために再び少年少女を利用
するのでは本末転倒もいいところだ。 
 しかし彼らは共にバルマー戦役を戦い抜き、同世代で似たような境遇としてお互いに励ましあった
クスハとブリットの救出に自ら協力を願い出たのだ。
 無論友情もあるが、何しろ二人が拉致され、いずこかに監禁されているのは他人事ではないのだ。
 ロンド・ベルやSDF、そしてそれにつながる破嵐財閥や絶対治外法権を持つ宇宙開発公団に身を
置いていたリョウトやレオナ、タスクやユウは無事だったが、バルマー戦役後は医師を志して市井に
戻っていたクスハと、一時はDCに加入したがそのDCが総裁代行シュウ・シラカワの反乱により解散
に追い込まれ、やはり下野していたブリットはティターンズによって拘禁された。
 同様に一市民になっていたカーラは辛うじてイルムが保護に成功した。
 そしてリオもまた、連邦軍の一部には強いパイプを持つがその反面一部には評判の悪いマオ社の
重役令嬢ということで狙われる立ち場にあったのだ。
 ティターンズ壊滅後、彼らの不都合だったがため拘禁されていた多くの人間が解放されたがその中
にクスハとブリットの姿はなく依然いずこかに監禁されたままだということがわかった。
 元々二人を拘束したティターンズ無き後も、念動力者を必要とした者達による監禁へと移行したのだ。
 ティターンズの殲滅だけでは連邦軍の膿出しは完了していないとイルムは改めて絶望し、自らもまた
過去の行状を理由に拘束されそうになった時、彼は動いた。
 そして潜伏先として選んだのがヌーヴェル・エゥーゴであった。

  かつて宇宙におけるエゥーゴと共に地上でティターンズに対する抵抗運動を繰り広げていたカラバは
エゥーゴの戦力が連邦軍に取り込まれたのとは違い、今もなおも活動を続けていた。
 バルマー戦役前後こそ同調していたものの、元々アナハイムというスポンサーの意向が大きなエゥーゴ
と、独立独歩の組織であるカラバの違いが浮き彫りになった形だ。
 そしてエゥーゴからも、本来の目的を見失った組織に絶望してカラバに身を寄せる者が続出。
 さらにやはりバルマー戦役時には協力体制にあったリガ・ミリティアの残党も合流して新組織が結成され、
本来の目的を果たすことなく消滅したエゥーゴの目的を今度こそ達成せんという強い願望をこめて新組織
はヌーヴェル・エゥーゴと命名された。
33ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/22(月) 02:30:24 ID:???
 そのヌーヴェル・エゥーゴには、イルムの知己がかなり参加していたのでコネを頼って身を寄せる
事はさして難しくはなかった。
 もっともイルムにはヌーヴェル・エゥーゴに入る気はない。
 かつてロンド・ベルに参加していたパイロットという事実を餌に、ヌーヴェル・エゥーゴから機体を奪う
計画だった。
 独自の情報網から、ヌーヴェル・エゥーゴがとある場所に納入されるはずだった量産型グルンガスト
弐式とヒュッケバインMK−UタイプXMを複数横流しされたという情報を掴んでいた。
 クスハ達の救出に特機やパーソナル・トルーパーが必要かどうかはわからないが、あるに越したこと
はないと。
 機体を軍から奪わなかったのは共にいる少年少女たちを罪に連座させたくなかったからだった。
 イルムへの捕縛命令、そして少年少女を拉致せんとする動きは現在の連邦軍上層部が一掃されさ
えすれば消えることで、そう遠くはないとイルムは見ている。
 だが軍から機体を奪ってしまえばその罪状は政治情勢が変わっても消えることはない。
 機体を奪われても訴えることの出来ないところから奪おうというのがイルムの企みだった。
 しかし、いざヌーヴェル・エゥーゴのメンバーから「若いが歴戦の勇士」と歓待されると機体を奪うこと
が後ろめたく感じ始めた。
 非情な一面のあるイルムからしてそうなのだから、清廉な少年少女たちには機体の強奪など心情的
に無理な話だった。
 非情になれる面と、非情になりきれない面とを同居させるイルムが悩んでいるうちに「その日」が来て
しまった。
 
 その時、当初の思惑通りイルムら七人はヌーヴェル・エゥーゴに横流しされた機体に搭乗していた。
 イルム・タスク・リオ・カーラが量産型グルンガスト弐式に。
 リョウト・ユウ・レオナがヒュッケバインMK−UタイプXM。
 そして無人のヒュッケバイン予備機はPTキャリアに仰臥している。
 量産型グルンガスト弐式は、飛行形態Gホークへの変形機能や単分子構造であまりにコストの高い
計都瞬獄剣をオミットし、実体剣のシシオウ・ブレードを装備していた。
 その他の固定武装は出力や推力をやや減退させたものの健在であるが、結局のところ量産型として
は高コストとして連邦軍への配備は見送られることとなった。
 一方のヒュッケバインMK−UタイプXM。
 これはかつてリョウトが愛機とした試作型ヒュッケバインMK−U(タイプX)からGインパクト・キャノン
とGウォール・ユニットをオミットした先行生産型だった。
 必殺兵器と特殊防御装備を無くしたものの、それでも量産機としてはオーバースペックであるとして、
やはり連邦軍からは不採用となった。
 ヒュッケバインが不採用となると社の存亡に関わるマオ社はタイプXMをさらに改造してタイプXM2を
完成させた。
34ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/22(月) 02:31:30 ID:???
 脱出ユニットを兼ねたヘッドユニットを通常型に換装してコックピットも胸部へ移設。
 バックパック変更で運動性能の低下の代償としてテスラ・ドライヴによる飛行能力を有することになった
この再改造型が正式な「タイプM」として生産され連邦軍に納入されることに決まっていた。
 高価なテスラドライヴの搭載で最終的な原価はタイプXMと大差なかったが、PT形態での飛行能力を
有しているという点は大きなセールスポイントとなったのだ。
 このタイプMは運動性の低下により汎用PTから射撃型PTへの転換も余儀なくされており、近接戦闘用
のチャクラム・シューターが廃止されることとなったが、イルム達に託されたタイプXMの段階では汎用PT
のままなのでまだ装備していた。
 オミットされたGインパクト・キャノンの代替長距離射撃兵器レクタングル・ランチャーも用意されている。
 四機の特機と四機のPT。
 これらは本来「ムーンクレイドル」や「アースクレイドル」に納入され、ヒュッケバインUはもしも歴史の改変
がなければマシンセルによって変貌するはずだった機体であったことをイルムは知ることはなかった。
 リョウトに至ってははるか未来、いや別の未来で自らが撃墜したベルゲルミルの一機、その原型になる筈
だった機体に乗っていた。
 
 ヌーヴェル・エゥーゴよりイルムらに依頼されたのはこれら機動兵器の完熟運用だった。
 わざわざ奪取せずとも、このまま逐電してしまうだけで目的は果たせる。
 イルムにはもはや機体を奪おうという気はなくなりかけていたが、このままでは惰性でヌーヴェル・エゥーゴ
による連邦軍へのテロに参加させられるのではと思えた。
 そんな未来が脳裏を過ぎり、やはりここは心を鬼にして機体を奪うべきと考え直した。
 一度は予定された演習場についたが、無人のPTキャリアに乗せた一機のみを申し訳程度に残してそのまま
姿を消そうとした。
 だがその逃避行は妨害された。
 イルムの乗る量産型グルンガスト弐式の足元に不意の着弾があったのだ。
 「どうした?演習を開始しないのか」
 同時に通信が入る。
 この周辺にはミノフスキー粒子がほとんど散布されていない。
 散布すればゲリラが潜伏してますと教えるようなものだからだ。
 かつて地球上の全ての都市の路地裏さえリアルタイムで観察できた衛星監視システムが崩壊した今は密林だけ
で充分な隠蔽効果があった
 従って、その通信はクリアで声の主は特定できた。
 「あんたか、脅かさないでくれよ」
  イルムが平静を装って声をかけるが、内心は彼にしては珍しく焦っている。
 よりによって一番厄介な奴が来てしまったと。

 
35ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/23(火) 19:47:33 ID:???
 通信相手の乗る機体の姿はゆっくりと見えてきた。
 ヌーヴェル・エゥーゴの所有するステルスVTOL輸送機「ファントム」だった。
 旧カラバが使用していたガルダ級の大型輸送機、いやもはや空中軍艦と言ってもいい
代物を所有するヌーヴェル・エゥーゴではあるが、それはあまりにも巨大で目立つ。
 地球圏全体が戦火に見まわれ大混乱していたバルマー戦役当時ならいざ知らず、終戦
(実際には戦間期に過ぎなかったが)後に秘密組織が使うには適していない。
 そこでより小型で隠密性が高くVTOL機能もありあらゆる局面で使用しやすいファントム
が破壊工作に使われていた。
 火力もペイロードもガルダには程遠いが、一応三機のMS・PTを搭載できる。
 そのファントムが、搭載する対地用の無音電磁投射砲を撃ったのだ。
 「実弾演習だなんて聞いてないぜ、タウリン?」
 軽口を叩くイルムだがその手は操縦桿のトリガーにしっかりかけられている。
 通信相手「タウリン」への警戒心からだ。

 イルム一行を歓迎したヌーヴェル・エゥーゴ幹部陣の中で、ただ一人彼らに冷ややかな
視線を浴びせる男がいた。
 それが「タウリン(金の鷹の眼)」という渾名で呼ばれる本名・前歴共に不明の破壊工作
隊長。
 機動兵器を用いても、生身でも、どちらも高い能力を有するがゆえに組織でも高い地位
にはあったがその狷介な性格のためか人望はゼロに近い。
 それでもいざ荒事が必要となると、その超人的能力から彼を頼りにせざるを得ないのと
いうがヌーヴェル・エゥーゴの現状だった。
 「残念だがこれは演習ではない、脱走者の始末だ、いや違うな、コソ泥退治だ」
 イルムの軽口に皮肉な口調でタウリンが答えると同時に、ファントムの両翼から二機
のMSが発進する。
 ネオ・ジオン製MSザクV、バルマー戦役時に投降したネオ・ジオン軍から接収された
機体が、エゥーゴ経由でそのまま後身のヌーヴェル・エゥーゴの所有となったものだ。
 高性能と汎用性を両立する機体だが、それゆえに量産機としてはオーバースペックと
看做され、本格的に量産されることはなかった機体。
 その意味ではまさに量産型グルンガスト弐式やヒュッケバインMK−UタイプXMと同類
のようなものだった。
 「コソ泥とは酷いな」
 「違うか?貴様らは初めから同志ではない、機体を盗みに来た泥棒だろうに」
 その言葉と同時に通信が切れ、ファントムの胴体から三機目の機動兵器が姿を現す。
36ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/23(火) 19:48:57 ID:???
 それはイルムにとっても懐かしいものだった。
 彼がイングラム、リンと共にテストしていたゲシュペンストMK−U、 それも
量産型ではなく、彼が乗っていた機体と同じロットである初期生産型だ。
 採算性を度外視しているため性能は量産型を上回っている。
 タウリンが好んで使うその機体はさらにかなりの改造も施されていた。
 ヌーヴェル・エゥーゴ内ではその機体を、搭乗者タウリンの狷介な人となりか
ら「ヴォルテール(頑固親父)」と呼んでいた。
 「亡霊(ファントム)から亡霊(ゲシュペンスト)が降りてきたか」
 相変わらず軽口を叩きつつもやはり見抜かれていたかと臍を噛むイルム。
 だが幸い、タウリンが独断で追撃をしてきたせいか追手は三機。
 こちらは七機と数で有利な上に、自分達と同レベルなのはタウリンのみだ。
 ましてやこちらは逃げるのが目的で彼らを撃破する必要もない。
 追手がタウリン以下三機だけなら。
 「イルムガルト・カザハラ!」
 唯一の不安材料が見事に的中したことを通信機が知らせる。
 イルムが機体を奪って逃走する事に確信を持っていたタウリンが、指揮権は
ないが個人的な要請として別部隊の指揮官に話を通していたのだ。
 それも現在のヌーヴェル・エゥーゴ最強の部隊に。
 迫り来る八機の空中機動型MS、LM312X06ヴィクトリー・ヘキサ。
 元リガ・ミリティアの旗機である。
 アナハイムとの絶縁で新機体や部品の供給の絶たれた今では稼動機を限定
して共食い整備で維持している虎の子の機体。
 そしてそれをあやつるのも最強の戦乙女たち、そう、全員が女性のパイロット。
 「やっと追いかけてきてくれたのかい、ジュンコさん」
 通信を入れてきたシュラク隊隊長、ジュンコ・ジェンコに軽口を返すイルム。
 だがそれに対してジュンコは答えない、その代わり別の機体へ通信を送る。
 「リョウト、投降しな」
 リョウト・ヒカワはロンドベル隊在籍時にシュラク隊と共闘した。
 部隊分割のためにユウキとカーラ、タスクとレオナとは面識がないが。  
 そのため彼女たちは基地内で言い寄ってくるイルムをあしらいながら、何くれ
となくリョウトを構いつけていた。
 8人の大柄な女性にもみくちゃにされるリョウトを見て、リオ・メイロンはいたく
不機嫌であったが。
 「今ならあんただけでなく、お仲間の命も保障するよ」
37ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/23(火) 19:49:55 ID:???
 「俺は例外なんだろ?」
 「当然だね」
 イルムの言葉を即答で肯定するジュンコ。
 もっともイルムとて、このような真似をして失敗したらただで済むなどと
甘いことは考えてはいなかった。
 タウリンがシュラク隊を引き入れて追撃してくるという、予想しうる最悪の
ケースが見事に現実になってしまったのだ。
 こうなればイルムに出来ることはただ一つ、自分一人が囮になって他の
面子を逃がすことだけ。 
 それとて超人的努力と天文学的確率の幸運とを要するが。
 (すまんなリン……色々迷惑かける事になりそうだし)
 リン・マオの顔を思い浮かべるイルム。
 既に少年少女のリーダー格であるユウキには、奪取が失敗した場合に
はとりあえず落ち延び、何とかマオ・インダストリーに匿ってもらえと言い
含めてある。
 (もう会えないかもしれないぜ)
 その脳裏に浮かんだリンの顔は、怒っているようにも泣いているようにも
見えた。
 長年のパートナーにイルムが高い確率の別れを告げた瞬間。
 「それ」は起こった。
 数秒間の視界の暗転と、音の遮断。
 そして暗転した世界が光と音を取り戻した時。
 イルムら一党が乗った機体とキャリアーに詰まれたままの機体、各四機、
総計八体のヒュッケMK−Uとグルンガスト弐式は見知らぬ場所にいた。
 追撃に出ていたタウリンとその部下、そしてシュラク隊の機体は影も形も
見えなかった。
38ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/23(火) 19:51:34 ID:???
 「全員いるか」
 「はいっ」
 イルムの呼びかけに、六人の少年少女が返信する。
 微小なミノフスキー粒子干渉はあれど、電波状況は良好のようだ。 
 中米・カリブ海沿岸のジャングルに隠れたカラバの秘密の演習場にあったはずのイルムら
の駆る七体の機体と、未使用機体を搭載したキャリアーは、中米とは明らかに植生の異なる
森の中にいた。
 木々が不自然に倒壊して、巨人群の屯する場所が形作られてはいるが、元々樹木の高さが
それほどないので周囲からはその姿ははっきりと見えるだろう。
 メインカメラで捉えた遠景を拡大すると、何やら集落のような物も見える。
 イルムが指示するまでもなく、人型の利を生かして機体を屈ませるリョウトら。
 これでよほど近くに寄るか、上空を飛ばない限りは姿を見られない。
 (それにしても…)
 人間として何かが欠落しているのではないかと自分でも思うほど冷静なイルム自身はともかく、
若者達も思いの外冷静なのに意外な感を覚える。
 しかし、すぐに思い当たる。
 イルムと行動を共にしていたリオを除けば、彼らはバルマー戦役時にマクロスの緊急フォールド
で冥王星に飛ばされるという経験をしている。
 タスクとレオナに至っては異世界バイストンウェルに飛ばされているし。
 リョウトなどは、つい先日遥かな未来世界へと転移するという通常の人生ならばまずすることの
ない経験まで積んでいるのだ。
 突然見知らぬ場所に飛ばされるという類の奇現象にはある種の免疫が出来ているのだろう。
 少なくともイルムよりは「経験」が豊富なのだ。
 「中尉、ここはどこなんでしょう」
 不安げな通信を入れて来たのが、唯一の例外のリオだったのがそれを端的に表していた。
 強気なリオには珍しく、その不安が表情に出ている。
 (リンのやつもあのくらい可愛げがありゃいいんだがな)
 またもや一言も告げずに離れてしまった恋人のことを思い出しつつ、必要以上に感傷的にならぬ
よう自ら茶化す。
 「タスク、レオナ、例のバイストン・ウェルとは違うのか?」
 「空が違うかな」
 「ええ、でもこの空も少し妙です」
 二人がかつて仰ぎ見たバイストン・ウェルの空と、今いる場所の空の違いを述べる。
 しかし、イルムらの不安は長くは続かなかった。
 そこがどこであるのかを知らしめてくる存在が現れたのだった。
39ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/23(火) 19:53:02 ID:???
 イルムの視界に映ったのは、見覚えのある機体が同じく見覚えのある機体を牽吊して
運んでくる光景だった。
 「嘘だろ?」
 常に余裕と軽口を忘れないイルムが大口を開けて呆然とする。
 どちらもこの世に存在するはずのない機体だったのだから。
 吊られているのはヒュッケバイン008R。
 かつて彼がテストパイロットして駆っていた機体。
 そしてエンジン暴走で消滅したはずの機体。
 そのヒュッケバイン008Rを吊り下げて飛んでくるのは、かの「重力の魔神」グランゾン。
 数ヶ月前に月面で戦った敵である。
 より正確に言えば戦った相手はグランゾンが変化したネオ・グランゾンだが。
 あまりの異常事態に少年少女に指示を出すことも忘れていたイルム。
 もしもグランゾンに害意があったらと思い自責の念に駆られる。
 幸いな事に、グランゾンはただヒュッケバインをその場に下ろしただけだった。
 「シラカワ博士なんですか?」
 思わずイルムの指示を待たずに通信を入れるリョウト。
 「博士、なぜ?」
 それに続くのはユウキ。
 無理もない。
 二人にとってシュウは師匠とも言うべき存在だ。
 ロンドベル在籍時、工学に興味の深い二人はたまに隊に合流するシュウに短くも有益な教え
を請うていた。
 自らの知識を惜しげもなく授けたシュウだったが、後にロンドベル隊にただ一人残ったリョウト
とダカール、そして月面で戦う事になった。
 直接その死を目にしていた分、リョウトの驚愕はユウキよりも大きい。
 「その声はリョウトとユウキですね、久しぶりです」
 帰って来た返信は、紛れもなくシュウ・シラカワの涼やかな声だった。
 そう、涼やかな声。
 かつてのシュウはその端麗な容姿や美麗な声にも関わらず、どこか表情や声音に陰りのような
物があったのだが、今はそれがない。
 そのかわりどこか稚気めいたものが含まれている。
 美青年の皮を被った悪戯小僧。
 それが今のシュウなのだが、久々に聞く声だけでそこまでわかるはずもなかった。
40ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/23(火) 19:54:30 ID:???
 「あなたたちまで呼ばれるとは、どうなっているんでしょうね」
 「その言い草じゃ、あんたの仕業じゃないって事か?」
 ようやく話に加わるイルム。
 「イルム中尉ですか、察するところあなたがこのボーイスカウトの引率者ですか?」
 「まあそんなところだ、あんたがいるって事は、ここはラ・ギアスってとこかい?」
 「その通りです」
 「なるほどな、だがどうしても解せんこともある、なあシュウ・シラカワ、あんた死んだはず
じゃなかったのか?」
 「ええ、分身は死にました」
 「ぶんしん?」
 あまりにも意外な言葉に、イルムのイントネーションが棒読みになる。
 「破壊神に心身を蝕まれたシュウ・シラカワは確かにあなた達に葬られました、ここにいる今の私は
いわば綺麗なシュウ・シラカワです」
 「自分で言うか……」
 何とか突っ込みを入れるイルムだが、シュウの言葉をどう捉えればいいのか頭を悩ませていた。
 何かの比喩なのか、それとも自分達が戦ったのが文字通り本当に分身とやらだったのか。
 「正しくは偏在という現象なのですが、説明しましょうか?」
 「今はいい、それより俺たちがなぜラ・ギアスなんかにいるのか、そっちの方の説明が欲しいな、あんた
の仕業じゃなくても見当くらいはつくだろう」
 「私にわかることといえば、ここ数ヶ月このラ・ギアスへと有人無人問わず様々な機動兵器が転移して
きていること、それだけです、つまりあなた達がここに来たのも珍しいことではありません」
 「そういうことか……」
 イルム達が軍の追及から姿をくらます以前にも、少なからぬ兵器や将兵が行方不明になっていた事を
思い出す。
 「するとその008Rも」
 一を聞いて百を知るイルムらしい推論だった。
 「ええ、無人で転移してきた物です、爆発事故を起こしてから何年も経ってますし、何故か無傷のままで
したので色々と謎はありますがね」
 シュウにすら完全には理解できていない現象の起きている異世界。
 そこに放り出された自分達。
 イルムの脳細胞が高速回転し、今後取るべき方策を模索する。
 「みんな、顔を出せ」
 意を決したイルムが、メンバーに機体を降りるように指示する。
 シュウが本当にかつてとは違う存在になっているかどうかは判断する材料が足りないが、今この情況では
いずれにせよ旧知の彼を頼るしかないのだ。
41ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/23(火) 19:55:41 ID:???
 「おや、皆さん知った顔でしたか」
 降りてくる少年少女を見て、シュウは全員が旧ロンドベルのメンバーだったことに意外な
顔をする。
 「では私も顔を見せたほうがよいでしょうね」
 そう言ってグランゾンから降りてくるシュウ。
 イルムらの視線がシュウに注がれる。
 かつてと変わりのない美貌だが、かつてのどこか不穏な雰囲気が霧散し、皮肉な笑みでは
なく悪戯っぽい笑みを浮かべている、本人いわく「綺麗なシュウ・シラカワ」に。
 「突然呼ばれて行く当てもないのなら、とりあえず私の艦に来ませんか?」
 期待していた申し出をシュウの方から出されてとりあえず安堵するイルム。
 もちろん油断はしていないが。
 「幸いあなた達のお知り合いも乗り合わせていますし」
 「知り合い?どんな?」
 「色々ですよ」
 そう、現在のところシュウの母艦「エレオノール」にはかつてのロンドベル隊に縁の深い面子が
揃っている。
 「ただ、その代わりといってはなんですが、イルム中尉にお願いがあります」
 「なんだい?」
 条件は先に言ってもらった方がありがたいと身を乗り出すイルム。
 「彼と模擬戦をしてやってくれませんか?」
 シュウはグランゾンがの隣に控えていたヒュッケバイン008Rを指差す。
 今まで気づかなかったが、開いたコックピットハッチの隙間から腕が飛び出していた。
 するすると這い出してきたその人物をオート機能で掌の上に乗せ、地面に置く008R。
 それはまだ幼さすら残る少年だった。
 黒い髪、白い肌、そして特徴的な紅い瞳。
 それがイルムに強烈なファースト・インプレッションを与えたのだ。
42ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/23(火) 19:56:55 ID:???
 長い長い回想から、イルムは目の前の現実に戻った。 
 あの日異世界に飛ばされてさすがに動揺していた自分の前にシュウと共に現れた少年。
 そして短くも激しい「ヴォルクルス戦争」を共に戦い抜いた戦友。
 それが今、目の前にいる。
 同姓同名で顔も似ている、等と言う偶然はありえない。
 (そうか、ここがシンが元いた世界だったのか……)
 戦友と、おそらくはその妹が元の世界に戻れていた事に安堵する一方で、不可解の念も沸く。
 自分を始めとする様々な「師匠」たちの無茶な訓練と重ねた実戦によって、既にマスタークラスの
機動兵器操縦の腕を持っているシンがなぜわざわざザフトアカデミーなどに入校しているのか。
 無論元の世界で生活していくため、いわば手に職をつけるためとも解釈できるが。
 (十中八九、奴の差し金だな……)
 シュウ・シラカワの悪戯っぽい微笑を思い浮かべるイルム。
 女性の顔ならともかく、男の顔など思い起こしたくはないが仕方がない。
 この世界にシュウが暗躍しているとすれば今までのSDFの方針を根本から考え直す必要がある。
 あの異世界での共闘でイルムは確信している。
 シュウはもはやかつてのシュウではなく、敵ではない。
 だがしかし味方でもない。
 徹頭徹尾己の目的のためだけに行動する彼を掣肘することは不可能だ。
 そんなシュウに元の世界に戻ってまでコキ使われているらしいシンに同情の念を禁じえない。
 自分と妹の命をよりにもよってとんでもないメフィストフェレスに救われてしまったシンに、イルムは
心の中で合掌した。

  第3序章 了
43ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/02/23(火) 20:04:48 ID:???
次はインターミッションを挟んでいよいよ本編(クォヴレー編)第一話になります
投下時期は未定
44通常の名無しさんの3倍:2010/02/25(木) 10:25:44 ID:???
ATX氏乙!
ヴォルクルス戦争生き抜いたってシンいきなりレベル100状態か
まあ周りの連中がレベル500とか1000越えが大半だけどw
45通常の名無しさんの3倍:2010/02/25(木) 10:48:50 ID:???
>>44
インターミッションでは某英才教育された天才少年と比較されて
まだまだとだねと理不尽な事言われてましたw
46通常の名無しさんの3倍:2010/02/25(木) 13:14:26 ID:???
シュラク隊の面子は相変わらずショ(ry
47通常の名無しさんの3倍:2010/02/25(木) 15:03:35 ID:???
今のところ、このスレのシンはどの作品のもアニメからの派生って感じか?
ZやKのシンを別のスパロボにぶち込んだらどうなるんだろうな?
48通常の名無しさんの3倍:2010/02/25(木) 17:32:33 ID:???
SC2のシンの場合
原作以外なら何処でもほとんどは楽園に限りなく近い世界じゃないだろうか

アスランやキラが居なければなおのこと
49通常の名無しさんの3倍:2010/02/25(木) 18:01:25 ID:???
SC2ってスパロボ史上最強設定のラスボスが出るやつか
真聖ラーゼフォンより強いとかどんだけ
50通常の名無しさんの3倍:2010/02/25(木) 18:01:52 ID:???
折角α世界と関わりあるんだからATX氏のシンには総帥の剣神なシンと対照的に
史上最強の格闘技KARATEで拳神(蹴神)を目指して欲しかったりw
51通常の名無しさんの3倍:2010/02/25(木) 18:23:12 ID:???
>>49
本体との接触不能、殲滅(事実上)不可能の完璧親父と戦えば
物質としての限界がある分劣るが
親父がこちら側からの負の力の集積を必要とするのに対して
アゾエーブは短時間チャージとボタン一つ(仮)で全時空間構造体を根本から破壊する最悪の機能があるからな
時空間レベルで物質を破壊するから彼我戦力差を本来モノとしない
可能性からすれば完璧親父もゲッター皇帝も滅ぼせるのかもしれない
そんな力を手に入れたから後は真聖ラーゼフォン以外眼中に無し、なんてトンデモさん
まぁ胸に中枢が露出してると言う弱点があるおポンチぷりですが
正直インフレし過ぎだろ、とか、ゼロシステムで勝利予測不能とか
綾人以外眼中に無しとか持ち上げ過ぎにも程があるだろ
これだからオリ厨が調子に乗るんだよ、とか
批判の的にすらなりそうなレベルだ
永久厨房の俺は大好きですが、パイロット込みで

なんだかんだでちゃんとシンにもラスボス会話があっただけ良かったよ
A(GBA)のコウとかKのスウェンとかラスボス会話無かったし
52通常の名無しさんの3倍:2010/02/25(木) 18:45:31 ID:???
綺麗なシュウ・シラカワワロス

>>50
色々と師匠をつけてもらえるようだが
基本的にはシュウの弟子だろうからな
偏在で三人に増えちゃうシンw
53通常の名無しさんの3倍:2010/02/26(金) 01:00:05 ID:???
規制が解けたのかレスが増えたが
総帥はまだ規制中か
54通常の名無しさんの3倍:2010/02/27(土) 11:08:08 ID:???
>>52
シュウって魔術師だから生身でも結構ヤバイんだっけ?
55通常の名無しさんの3倍:2010/02/27(土) 11:53:29 ID:???
>>54
魔術使わんでも催眠術で十分ヤバとですw
56通常の名無しさんの3倍:2010/02/27(土) 14:02:24 ID:???
>>54
隠行や催眠術といった間接的な手段で敵を無力化したことはあるが、少なくとも障壁で銃弾やミサイルを防ぐとか攻撃魔法で吹っ飛ばすとか超音速で飛行するとかはやったことないはず
57通常の名無しさんの3倍:2010/02/27(土) 14:36:43 ID:???
>障壁で銃弾やミサイルを防ぐとか攻撃魔法で吹っ飛ばすとか超音速で飛行するとか
別にシュウならおかしくもないなあと素で思ってしまった・・・
58通常の名無しさんの3倍:2010/02/27(土) 20:40:54 ID:???
NEOオリジ組ってどうなんだろう。
結構好きなんだがあまり話題に出ないな。
ラ・ギアス組と合いそうなんだけど

あのペンギンがラムネとリューナイト、どっちのキャラだったか思い出せない
59通常の名無しさんの3倍:2010/02/27(土) 21:07:01 ID:???
ペンギンはオリジナル。
60通常の名無しさんの3倍:2010/02/27(土) 21:27:04 ID:???
Wでオーガンがテッカマンブレードのキャラだと錯覚してしまうのはよくあること。
61通常の名無しさんの3倍:2010/02/27(土) 21:57:45 ID:???
Dでシュバルツバルトがオリ敵キャラだと錯覚してしまうのもよくあること。
62通常の名無しさんの3倍:2010/02/27(土) 23:06:36 ID:???
コルベットが種キャラだと錯覚してしまうのもよくあること。
63通常の名無しさんの3倍:2010/02/27(土) 23:25:20 ID:???
>>58
やってる人少なさそうだからなあ…
俺もWiiは持ってるけど同時期発売の村正→年末発売の怒りの日→EXCEEDのコンボで全くやる暇ないし
64通常の名無しさんの3倍:2010/02/28(日) 20:13:38 ID:???
真面目な話
コンパクト3でメカンダーもアクロバンチも全く知識無かった俺は
どっちの敵がどっちの作品だか途中でごちゃごちゃになって分からなくなってしまいました
本気で

闇脳「わかってるねんで?コンギスターがメカンダーの敵で
   ゴブリン一族がアクロバンチの敵で
   アルコがエスカフローネの敵で・・・」
デブ「アルコはバンプレオリの修羅です」
闇脳「わかってるねんで!?」
65通常の名無しさんの3倍:2010/02/28(日) 23:35:23 ID:???
最強の武道空手の華麗なる伝説

・ただの警官が技術職とはいえ大の大人数人を動かずに瞬殺
 プロの戦闘職も圧倒し素手でバンを破壊する(ひぐらし・赤坂)
・小型の肉食恐竜や銃あってもやられかねない鬼を素手で撲殺(ゲッター・cv石川の竜馬)
・全身麻痺を乗り越え明鏡止水の境地を会得し、恐竜や鬼より強いガンダムファイターと互角に戦う
 (闘将ダイモス・一矢)
・特別な能力もなにもないただのフリーター青年が戦闘のプロの特訓や強敵との出会いをへて
 最終的に1000分の一秒の世界を見極め天文学的数の悪霊の集合体を蹴り飛ばす(サルファ・トウマ)
66通常の名無しさんの3倍:2010/03/01(月) 05:32:52 ID:???
マス・オオヤマのこれも追加で
・走行している進駐軍のジープの運転手に飛び蹴りを浴びせる。
・素手で牛を殺せる

カラテ怖ぇ……
67通常の名無しさんの3倍:2010/03/01(月) 12:02:34 ID:???
トウマ・カノウはOG系だし、もし総帥世界に登場するなら最終的にはシンとガチで遣り合えそうで怖いな。
あとシステムLIOHはブルーコスモスの強硬派(狂信者)なら自分から使いそうでもある。
68通常の名無しさんの3倍:2010/03/01(月) 12:33:08 ID:???
カミーユも一応空手やってたよな。
ウォンさんにかなわなかったけど。
69通常の名無しさんの3倍:2010/03/01(月) 15:18:18 ID:???
只今EXCEEDプレイ中。
ふと思ったが総帥世界のシンなら修羅との仕合も余裕そうだ
70通常の名無しさんの3倍:2010/03/02(火) 21:32:07 ID:???
アクセルさんが普通に戦ってる時点で今更だろう
71通常の名無しさんの3倍:2010/03/02(火) 22:39:57 ID:???
俺もアクセルが普通に戦えるから
実はハーケンも案外普通と言うか大したことないのかも・・・とか錯覚しかけたが
アクセルはちょっとアインスト混じってるのよね
っていうか
普通の人間は杭打ち機喰らったら死ぬからね
ハーケンは遺伝子操作で下地が出来てて、幼少から爆弾投げられて生きてきたからああなったんだ
エンドレスフロンティアのヒューマンは素で大体そんな感じなんだ
72通常の名無しさんの3倍:2010/03/02(火) 23:03:04 ID:???
元々アクセルは記憶なくしてアホセル状態でもガンダムファイターと、ガンダムファイターと互角にやれる空手家の
拳喰らってピンピンしてる人外さんですから
73通常の名無しさんの3倍:2010/03/03(水) 01:23:39 ID:???
ガンダムファイター=空手家=アクセル=Wシリーズ=モッコス
なんという超人達
74通常の名無しさんの3倍:2010/03/03(水) 21:57:56 ID:???
でもゲシュとかが本来の20メートルサイズだったら何も出来ずに踏みつぶされて終わるらしいよ、悶乳曰く
75通常の名無しさんの3倍:2010/03/03(水) 22:20:09 ID:???
モッコスさんもすっかりむげフロに馴染んでるな。
76通常の名無しさんの3倍:2010/03/03(水) 22:29:35 ID:???
まぁ時期的にこれが最後であろう
これから先のタイミングでエロスと一緒に呼び出したらミルチアの決戦真っ最中
次に出るときは良くてマリア、悪けりゃ残骸ッス
うまくすれば兄さんと混沌もついてくる
77通常の名無しさんの3倍:2010/03/03(水) 23:48:21 ID:???
なに細かいことは気にすんなw
78通常の名無しさんの3倍:2010/03/04(木) 01:43:04 ID:???
>>67
その場合、トウマの師匠は誰なのよ?

1.虎殺しの武神
2.何もかもが太い男
3.火星に住むカラテマスター
79通常の名無しさんの3倍:2010/03/04(木) 02:00:19 ID:???
4.ケン・マスターズ通信空手
80通常の名無しさんの3倍:2010/03/04(木) 02:08:56 ID:???
5.覇王翔吼拳を使わざるを得ない
81通常の名無しさんの3倍:2010/03/04(木) 02:21:55 ID:???
6.オーガ
82通常の名無しさんの3倍:2010/03/04(木) 16:19:23 ID:???
7.先代修羅王アルカイド様
83通常の名無しさんの3倍:2010/03/04(木) 19:03:32 ID:???
天狗の面被った謎の空手家ミスター・カラテ
84通常の名無しさんの3倍:2010/03/04(木) 19:14:54 ID:???
9.まだわからんのか・・・心じゃよ!
85通常の名無しさんの3倍:2010/03/04(木) 21:27:23 ID:???
10.500年前に分裂した自分の前世の残留思念と融合した生き別れの父親
86通常の名無しさんの3倍:2010/03/04(木) 22:01:12 ID:???
11.実戦空手道とブーメランを融合させた全く新しい格闘技。
87通常の名無しさんの3倍:2010/03/04(木) 22:11:52 ID:???
12.戦闘のプロ
88通常の名無しさんの3倍:2010/03/04(木) 23:25:29 ID:???
>>78
そげぶ

トウマだし
89通常の名無しさんの3倍:2010/03/04(木) 23:26:49 ID:???
13.そげぶ トウマつながりで
90通常の名無しさんの3倍:2010/03/04(木) 23:54:25 ID:???
14..森部のじーさんの奥義が! 森部のじーさんの奥義が! 森部のじーさ(ry

15.無難にCEの人外バリー・ホー
91通常の名無しさんの3倍:2010/03/05(金) 01:40:55 ID:???
>>78
無難……か…?
92通常の名無しさんの3倍:2010/03/05(金) 01:42:54 ID:???
91です。アンカミスりました。
正しくは
>>90です
93通常の名無しさんの3倍:2010/03/05(金) 16:49:12 ID:???
まさかこの期に及んでこいつが来るとは…

ttp://brunhild.sakura.ne.jp/up/src/up433625.jpg
94通常の名無しさんの3倍:2010/03/05(金) 18:14:20 ID:???
なんてこったぁ!?
買うかどうするか迷い続けてたDSを買わざるを得ない状況にしてしまう奴がついに出てしまうとは……
95通常の名無しさんの3倍:2010/03/05(金) 18:17:13 ID:???
これでこれからのOGシリーズには魔装機神出せるな
96通常の名無しさんの3倍:2010/03/05(金) 19:38:14 ID:???
これがモノホンならねぇ・・・
いや実際のとこモノホンなら嬉しいことこの上ないし
いい加減白黒ハッキリさせて人気キャラや機体を宙ぶらりんで放置するのはやめるべきだと思うのだ

まぁ、なんだ、つまりはね
そろそろリカルドのファミリアとやらがどんなだったのかくらい教えて!!
って話じゃい
個人的には
1.手塚孫悟空
2.DB孫悟空
3.悟空道
ってなキャラだt(ry

そういや綺麗なシュウの元に身を寄せたシンやマユがファミリアとか得る機会があったらば
どんなん出てくるのでしょうか
・・・黒き獄鳥?
97通常の名無しさんの3倍:2010/03/05(金) 23:04:03 ID:???
○サキム「んっ!」
98通常の名無しさんの3倍:2010/03/06(土) 01:35:17 ID:???
企画番号がネトラレでコーヒー吹きかけた
99通常の名無しさんの3倍:2010/03/06(土) 11:26:19 ID:???
>>97
そういや奴のビジュアルって耳尖ってるの除けば成長したシンといっても通用するな
100通常の名無しさんの3倍:2010/03/06(土) 16:32:01 ID:???
育ての親が魔族だと髪と肌と耳の長さくらい変わるしな
101通常の名無しさんの3倍:2010/03/06(土) 19:53:27 ID:???
何処の世界の育ての親だ、それは
102通常の名無しさんの3倍:2010/03/06(土) 20:19:40 ID:???
>99
彼とシンが兄弟ってのが浮かんだ。
セッちゃんを挟んだら面白そうだなって。
103通常の名無しさんの3倍:2010/03/06(土) 21:54:13 ID:???
しかし魔装機神か・・・
こういう時に限ってメタルマックス3の発売も判明するし今年の夏は
買うソフトに迷わずに済みそうだわ
104660 ◆nZAjIeoIZw :2010/03/06(土) 22:24:05 ID:???
規制解除確認がてら投下します。
ディバイン SEED DESTINY 第三十六話 ミノフスキー・ショック


 ごぼり、という鈍い音と共に陽光が届かず暗黒に沈む深海の中に、いくつもの気泡がふわふわと頼りなく昇ってゆく。
 ごぼり、ごぼり、と目にはっきりとは映りにくい海流を掻きわけて、どこか禍々しい紫色に染まった巨大な水晶が、どこへ行くとも知れず、本来の住人である深海魚達を驚かせながら進んでいる。
 悪夢が水晶という形を選んでこの世にあらわれた様な、どこかこの世のものとは思えぬ不可思議な、その六百メートルを超す巨大な物体は、ディバイン・クルセイダーズが作り出した巨大な水晶船セプタ級の一隻である。
 巨大な紫水晶の塊の上と中に各種施設や艦橋、格納庫を設けた原始的な外見の船だが、今は海中を航行する為に全方向を、ズフィルード・クリスタル製の装甲材によって覆い尽くし、甲羅に閉じこもった亀の様だ。
 セプタは、ズフィルード・クリスタルが有する自己修復機能、自己進化機能によって高い自己修復と既存兵器に対する高い耐性を持ち、防御場なしでも極めて高い耐久性を持った船である。
 上位艦種であるセプタンを本国に戻し、地球連合が差し向けた三輪艦隊への攻撃の為に、四隻のセプタ級が、キラーホエールU級原子力攻撃潜水母艦、ザフトのボズゴロフ級潜水艦を戦へ続く道行の共として、静寂に沈む海の腕の中へと船体を預けている。
 キラーホエールU級は、前大戦時、新西暦世界で使用したキラーホエールの名前だけ拝借していたDC製の潜水艦を、前大戦後半部より海洋戦力の充実が求められていた事もあって、本格的に再設計されたものである。
 実際に海の中を泳ぐ鯨を連想する流線型の船体に、ヒレを思わせるウィングと確かに名前の通りの外見をした潜水艦で、最大で六機の標準的なサイズの20m級機動兵器を搭載可能で、船速もボズゴロフ級を上回る。
 キラーホエールU級、ボズゴロフ級以外にもセプタ四隻それぞれの甲板の上に、ザフトのミネルバ、DCのストーク級空中戦艦三隻が固定され、ズフィルード・クリスタルの天蓋によって膨大な水と水圧から守られている。
 ズフィルード・クリスタルの一般的な軍事・技術常識を打ち破る特性によって、艦が艦を乗せて水中で運ぶという非常識な運用が可能となったわけだ。
 トダカ艦隊からキラーホエールUとストーク級を預かったクライ・ウルブズと、カーペンタリア基地から派遣された部隊の中では、最も技量・戦力的に優れたザフトインパルスとミネルバを保有するグラディス隊が同行している。
 大洋州連合からの出向組であったマリナ・カーソンとタック・ケプフォードと量産型ガンアーク部隊は、水上艦隊と共にトダカ艦隊と合流しており、ネオ・ロアノーク大佐含む三輪艦隊の先行部隊と交戦を始めていた。
 クライ・ウルブズ艦隊の司令を務めるエペソ・ジュデッカ・ゴッツォ大佐は、セプタ級の内の一隻の、艦橋に設けられたオブザーバーシートに腰かけて、時折挙げられる報告に耳を傾けているきりであった。
 腰まで伸びるエメラルドを思わせる美しい髪と、端正と例えても何ら問題の無い整えられた顔、指先に至るまで人の手が入り調整された肢体は、武人として、軍人として過不足なく鍛えられている。
 その心根にバルマー人としての誇りとゼ・バルマリィ帝国への忠節を抱くエペソの態度は、常に地球人達に対して他人事のように振舞っている、という印象を与える。
 指揮官としての有能さは隊員たち全員に認められてはいるものの、昨日今日知り合ったばかりのセプタ級の本来のブリッジクルーや艦長達は、なんら緊張の様子も、不安げな色も浮かべないエペソを、不審げに見ている。
 ハザル総司令やシヴァー・ゴッツォ宰相などの帝国上層部の人間を除けば、他人の思惑など欠片も思慮の内に入れないエペソは、手元のコンソールを操作して預けられた戦力の再確認に余念がない。
 ステラやアウルらをはじめとした隊員用の補充機体に対し、十分な慣熟訓練を行う余裕が持てず、シミュレーターでの短時間の訓練が精一杯だ。
 睡眠学習システムの導入によって、無意識下に各種機動兵器の操作法と適正をほとんどのDC軍人が有しているが、それでも実機に触れる時間は最大限確保しておきたかった。
 これはアルベロやデンゼル、ジニンら機動兵器部隊の隊長陣も同じ事を考えており、フォーメーションや小隊単位の再編成に時間を割いている。
 いままでどんな苦境も乗り越えてきた屈強な部下達ではあるが、つねに結果を残せるとは限らないのが現実だ。叶う限りの手を打っておくことが必要だろう。
105660 ◆nZAjIeoIZw :2010/03/06(土) 22:26:00 ID:???
 特に考慮しなければならないのは、タスクのジガンスクードの修理が間に合わなかった事である。
 スペースノア級並の出力を誇る防御場展開機能を有し、特機級でも最硬の装甲を持つジガンスクードが戦列に並んでいないために、防御に関して極めて強力な手札が欠けている状況だ。
 ジガンスクードは防御以外にも高出力の砲撃武装であるギガ・ワイドブラスターをはじめ、超重量を活かした格闘戦もこなす高い戦闘能力を持つ機体だ。グルンガスト飛鳥大破以降、クライ・ウルブズ唯一の特機でもある。
 頼もしき盾であるジガンスクードの不在は、ウルブズ全員の胸に大なり小なり不安の種を植え付けているだろう。
 DCの新兵器モビルモンスター(MM)シリーズのメカゴジラ三機がこちらの手元にあるとはいえ、連合艦隊の中枢に殴り込みをかけるわけだから、腹の括り方にも気合を入れなければなるまい。
 飛鳥シルエットを装備したインパルスの最大最強斬撃“星薙ぎの太刀”をうまく使えば、一撃で相当数の被害を与える事が出来るだろうが、あれは事前にクリアしなければならない使用条件が厳しいものだ。
 機体をスーパーモードに移行させ、エネルギー化したマシンセル刀身の展開を待ち、超長刀身を振るうまでに数分の時間を要するし、また事前に膨大なエネルギーが発生する為、容易に察知される。
 ユニウスセブンの時の様などさくさと喧騒と混乱に紛れるような状況か、こちらが待ち受ける側の時でもないと、そうそう使用できない武装だ。
 となればクロスボーンシルエットの様な全距離に対応できる万能兵装か、射撃兵装満載のヘビーアームズシルエットや、ランチャーシルエットなどを使わせるべきか。
 また飛鳥インパルスは、星薙ぎの太刀を別にしてももっともシン・アスカの戦闘能力が最大に発揮される形態だ。斬艦刀なら連合のMAを相手にしても、陽電子リフレクターごと真っ二つに出来るのは間違いない。
 エペソの判断がどのように下されるのか。判断に迷う時間は、もうほとんど残されてはいなかった。



 三輪艦隊先行部隊とトダカ艦隊との戦闘は激化の様相を呈していた。エルアインス、アヘッドからなる高性能MS部隊を相手に、ネオ・ロアノーク、カオス、ガイア、アビスを含む三輪艦隊の機動部隊との戦力差は互角に近い。
 ゲルズゲーやザムザザーといったMA部隊が艦隊本隊に残る三輪艦隊の機動部隊は、ザフト・DC・大洋州連合の混成部隊を相手に数の上では互角、質ではわずかに劣りつつも奮戦している。
 旧式のディンさえも投入し、航空戦力を整えたザフトはもともと義勇軍であり階級の存在しない軍隊とあって、明確な階級社会であるDC、大洋州とは連携が取りにくく両軍からは別の指揮系統を置かれている。
 無理に指揮系統を統合したところで百害あって一利なしと判断されたためである。
 ナチュラルよりも高い知性と判断力を有すると一般的に言われるコーディネイター達は、個々の能力を重視し、連携を疎かにしがちである、というのが前大戦で露呈した弱点だ。
 しかし現実の戦いに置いてMS同士の連携戦術を構築し、実行した地球連合を相手に敗北を重ね、苦戦を強いられた経緯から、現在のアカデミーやベテラン達は個々の判断にゆだねる従来の戦い方を払拭している。
 とはいえ組織の末端や個々の意識にまでそれが徹底しているというわけではなく、そのような状況で他国の軍勢と足並みをそろえられる訳もなく、ザフトはザフトで好きにやりなさい、と言われてしまうのも無理は無かった。
 前大戦時の戦闘で、ザフトと足並みを揃える事に苦労するよりも好きにやらせて放置する方が、こちらが動きやすいとDC上層部が判断したためだ。
 二機でペアを組み、一機を囮にした僚機が敵機を撃墜する方法をとる地球連合のジェットウィンダムとザクウォーリアや、ガーリオン、量産型ガンアークの戦いは、四勢力入り乱れる混戦となって青い空を爆炎混じりのまだら模様に変えている。
 すでに第二波を投入し、損耗した第一波の穴を埋めるべく、双方の艦隊から数多の機動兵器が出撃していた。正面からの殴り合いによる戦力の削り合いは、多大な出血を伴いながら、いまだに終わる様子を見せずにいた。

「やはりそう簡単にやられてはくれんか」
「敵機にセカンドステージ三機を確認しています。ザフトから奪われた機体が我らを苦しめるとは」
「それを言い出したら始まらんよ。我々のM1とて連合のストライクをはじめとしたGAT−Xシリーズのデータを盗む形で開発したMSだ。もっとも、いまではM1の影はどこにもないがな」
106660 ◆nZAjIeoIZw :2010/03/06(土) 22:27:29 ID:???
 戦況が投影されたディスプレイに目をやりながら、言葉を交わしあうのは艦隊司令トダカ大佐とアマギ大尉の両名だ。
 旗艦である空母タケミカズチ艦橋で、飛び立っていった第二波のエルアインス部隊が戦域に到達し砲火を交え始めたという報告を受けた所である。
 戦況はアマギが口にしたようにオルガたちブーステッドマンが乗るセカンドステージの三機が大きな活躍を見せ、こちらの機体を寄せ付けない戦闘能力を発揮している。
 大洋州連合の先行型ガンアーク(マリナとタックの機体だ)が率いるガンアーク部隊をぶつけつつ、海面下ではDCのフォビドゥンホデリと連合のフォビドゥンヴォーテクス、ザフトのゾノ・アッシュ部隊の交戦も激下の一途をたどっている。
 連合側にアビスという水中戦のエース機体がいるのに対し、こちら側にアビスに対抗できる技量をもったパイロットが不在である事が、海面下の死闘に出血を強いていた。

「クライ・ウルブズの方はどうだ?」
「すでに連合艦隊まで距離20000まで詰めています。作戦予定ではフェイズ3に移行する頃合いかと」
「そうか。ではこちらも動かさなければなるまい。各部隊にミノフスキー粒子散布下での戦闘パターンへの移行を通達。300秒後にミノフスキー粒子は第二戦闘濃度で最大散布。
 ミノフスキー粒子で敵部隊を撹乱した隙を突いて、VF部隊とクライ・ウルブズが同時に敵艦隊に仕掛ける。その混乱を突いて我々も一気に打って出るぞ」
「了解、大洋州連合、ザフト全艦、全機に通達。ミノフスキー粒子の散布を300秒後に行う。戦闘パターンのMRSに変更」

 ニュートロンジャマーの起こす電波妨害を塗り潰す大規模な電波障害を引き起こすミノフスキー粒子散布下でのはじめての戦闘が、いま行われようとしていた。
 宇宙世紀の世界の戦争を一変させ、MSをはじめとした地球圏にとって重要な要素となったミノフスキー粒子は、ミノフスキー文明とでも言うべきものを築き上げた。
 そのミノフスキー粒子が高濃度で散布され、事前に対ミノフスキー粒子散布下戦闘に切り替えたトダカ艦隊でも、レーダーをはじめとした各種観測機器に一瞬、砂嵐の様なノイズが走り、すぐ元に戻る。
 すでに出撃した機動部隊もミノフスキー散布状態での戦闘を考慮した対策を施してある。とはいえ極めて重要な、コズミック・イラの世界では未知の軍事転用可能な技術であるから、ザフト・大洋州にも供与していない代物である。
 現在散布している準戦闘濃度下でならば若干各電子機器の精度は落ちるが、もともとNJの影響で第二次世界大戦レベルの視認戦闘にまで戦争が退化しているから、多少は耐性というか、慣れの様なものがある。
 初めてミノフスキー粒子散布下で戦闘を迎えた地球連邦軍のパイロット達よりはずいぶんとマシな条件である筈だ。
 尽かず湧き続ける泉のように新兵器を繰り出す自国の軍部に驚嘆の意を抱きながら、戦況に動きが無いか、タケミカズチの艦橋には緊張が満ちる。
 ミノフスキー粒子の特性によって立て直し不可能な混乱をきたし、一挙に攻勢に出て敵戦列を壊滅させる機会が生まれる筈だ。
 しかし――三国混成艦隊が圧倒的優位に立つ筈の切り札の一つは、その期待を大きく裏切る事となる。
 タケミカズチ艦橋のみならず、ミノフスキー粒子の存在を知らされていた各艦隊のクルー達が戦況を映し出すディスプレイと望遠映像を、固唾を飲んで見守る中、トダカが訝しげに呟いた。

「どういうわけだ? 敵の動きに変化が無いが……」

若干、交戦する各陣営の動きに動揺に似た不規則性が見えたが、ミノフスキー粒子による電波状況の変化に対応する為の一瞬の隙の様なものだ。
だが、その変化がこちらの部隊のみならず連合でも同程度とあっては、これはいかなる事態か。こちらがミノフスキー粒子の散布状態での戦闘を考慮していたのと同じように、連合の部隊も同程度に動いて見せているのは、いったい?

「これは、ミノフスキー粒子の散布が上手く行かなかったのでしょうか?」

 わずかに動揺を露わにするアマギの声に続いて、オペレーターの一人から報告の声が上がる。栗色の髪をしたまだ年若い少女と見える女性士官だ。DCの女性オペレーターはやたらとレベルが高い事で有名だった。

「トダカ司令、ミノフスキー粒子散布濃度が、第一戦闘濃度です!? おそらくは連合艦隊もミノフスキー粒子を……」
「なんだと? いや、だがこの状況を説明するには、それしかないか。くっ、連合にもミノフスキー粒子関連の技術が流れていたか」
107660 ◆nZAjIeoIZw :2010/03/06(土) 22:28:23 ID:???
 奇しくも、地球連邦軍製クラップ級巡洋艦の艦橋で、地球連合軍少将となった三輪防人もまた同じ言葉を吐いていた。
 DCは異邦人達の有する各種データと、バルゴラに搭載されていたイヨネスコ型核融合炉から。
 地球連合はパプテマス・シロッコの才覚と三輪がいま乗っているクラップ級や、ともにジェネシスで消滅させられたアレキサンドリア級の艦隊という実物から。
 対DC戦、対地球連合戦にそなえ、双方が用意した切り札がまったく同じものであったとは、これはいかなる運命の女神の導きによるものであったろう。



 三輪艦隊本隊への奇襲を狙うクライ・ウルブズは――ほかに芸がないといわれるほど奇襲を得意としている――母艦タマハガネぬきでもISA戦術の実行を目前に控えていた。
 ミノフスキー粒子散布による電波障害の混乱下にある連合艦隊を、海面下からクライ・ウルブズ、空からVF−19F、A型を中心とした空戦部隊による挟撃で迅速に敵艦隊をせん滅する。
 それが今回の戦闘の重要なターニングポイントだ。
 双方ともにミノフスキー粒子を用い、互いに事前対策を施していたとは知らず、セプタ艦橋でミノフスキー粒子による電波障害の発生を確認したエペソは、格納庫で待機しているガンダムエクシアへと通信を繋げる。
 すでに各艦各機が出撃の号令があれば即座に飛びだせる状態にある。ボズゴロフ級からはアッシュ、キラーホエールUからはフォビドゥンホデリが出撃して連合の水中用MSとの交戦に備えていた。
 ミノフスキー粒子散布の影響下であっても、そろそろこちらの存在を探知される距離だろうし、メカゴジラを頼みとした奇襲とでも思わせておきたいところだ。
 すでに鋼の怪獣王三匹はその心臓に力強い鼓動を撃たせ、破壊神の異名に相応しい暴虐の力を解き放つ時を待ち、全身をしならせるようにして海中を泳ぎはじめている。

「刹那・F・セイエイ、フェイズ3に移行する。貴公に先陣を任せる。フェイズ4に移行後、セプタ級全艦が浮上し、各艦および艦載機を発艦させて敵艦隊を包囲し、これをせん滅する」
「了解。刹那・F・セイエイ、ガンダムエクシア、ミッションを遂行する」

 刹那の乗るエクシアが搭載されていたセプタ級の格納庫は、すでに注水が終わりゆっくりと、エクシアを送り出そうと紫水晶に覆われたハッチが開いて深い海の世界をその前方に広げる。
 非透過性の紫水晶の表面に亀裂が走り、その奥から覗く深淵からゆっくりとエクシアが青い母の腕の中へと進みでた。
 強い水圧に四方から押し込まれても、エクシアの機体が軋む音の一つを上げる事もない。深い青から暗い藍色へと色彩を沈んだモノにした海の中で、空の青と雪の白を纏うエクシアの姿はひときわ美しく輝いている。
 限りなく人体に近い動きが出来るよう、設計されたエクシアのフォルムは、必然的に人のそれと酷似する。
 もし数百年前も昔の船乗りたちが、海下に揺らめくエクシアの影を見たら、伝説の人魚か、海を統べる大神と見間違えたかもしれない。
 地上・空中・宇宙・水中と万能の汎用性を有するガンダムエクシアだが、水の精霊との契約を結んだとはいえ、さほど動きに俊敏さは見られなかった。
 水の精霊との契約はあくまで武装に限られたもので、エクシアの機体そのものにはなんら加護が無い状態であり、水中で水棲生物のように動く事までは出来ないのだ。
 これが機体そのものと契約を結んだ機体の場合、たとえばザムジードであったら自在に地中を潜行し移動する事も出来るし、サイバスターであるならば空気抵抗などは全く皆無となる。
 水の精霊の加護が機体に好ましき影響を及ぼさないとはいえ、それでもGN粒子の特性は完璧には損なわれず、通常の汎用機よりもよほど速く動く事が出来る。
 水中でもなお美しく煌めくGN粒子を背中から散布しながら、母なる海へと射出されたエクシアは、右腕に固定されたGNソードをソードモードに切り替えた。
 時折、刹那と海流に乗った地球そのもののプラーナに反応してか、刀身を構成する金属粒子に施された魔術文字が反応し、GNソードの刀身が幽明境に迷う人魂のように淡く明滅する。
 ほの暗い海の中で緑色の輝きが明滅する度に、GNソード刀身に触れた海水がわずかずつ熱を奪われて、氷混じりの冷水と変わっている。
 エクシアが描いた軌跡には砕いた鏡の破片のように美しい氷片が、別れを惜しむ様に海の中をたゆたっては消えていった。
108660 ◆nZAjIeoIZw :2010/03/06(土) 22:29:40 ID:???
 先行するホデリやアッシュをエスコート役にして、エクシアがゆっくりと速度を上げて進行方向へと機体を進め始める。
 即席とはいえプラーナのコントロール法を学んだ刹那は、呼吸とそれによって生じる血流の変化を強く意識する。
 臍の下――丹田と呼ばれる個所に意識を集中し、意識がより深く集中してゆく度に、緩やかに熱を帯びて行く感覚が確かに感じられる。
 マサキやテューディ、フェイルあたりが師匠としては適任の人材であったろうが、あいにくとサイレント・ウルブズに出向している組であったため、刹那にプラーナのコントロール法を教授したのはシンである。
 戴天流剣法と十六夜念法をはじめ、精神修養を主とした武術を貪欲に学んだシンは、自己の精神と肉体の深淵を覗く類の技術に関しては、まず世界レベルで見ても第一級のエキスパートといっていい。
 人間の生体エネルギーであるプラーナのコントロールは、上記した武術やヨガにも精通したシンにとっては非常に親しみやすいものだ。
 シンの場合、生死の境をちょくちょく彷徨う激烈な修練によって築いた抜群の相性と適正もあるが、それなりに経験を積んでいた事もあって、刹那とロックオンのインスタント師匠役に任じられる事となった。
 ヤキン・ドゥーエ戦役後、シンが車椅子生活のリハビリを終えた時期、まだ本土に居たテューディに、マサキやリカルド共々新型魔装機のテストパイロットとしてさんざんこき使われた経験が役に立ったといえる。
 エクシアのTC−OS内の精霊兵装起動プログラムはすでにスタンバイ状態にあり、刹那が必要な文言を唱えれば自動的に必要量のプラーナが吸い上げられて、GNソードの刀身に封じられた水属性の大規模精霊魔術が発動する。
 無愛想で周囲に無関心に見える刹那であるが、内面はかなりの激情家と言ってよく、情動の激しいものほど高いプラーナを有する傾向にあるから、ラングラン系の技術との相性は良い。
 殺傷能力というよりは地形影響能力に特化したエクシアの精霊兵装であるが、その効果範囲規模は、魔装機神の有するMAP(Mass Amplitude Preemptive−strike Weapon)兵器に相当する。
 ゆえにその強力さに比例して消費プラーナ量も多いから、保有するプラーナの量が多い刹那は、魔装機操者としての適性も高いものを持っていた。
 逸る血気を抑えつつ、刹那は決戦の火ぶたが落とされる時を虎視眈々と待っていた。その中に、エクシアという力を手に入れた事に対する陶酔が、まったく無かったと言えば、これは嘘だったろう。

「始まったか」

 前方の海域で、真白い爆発が起き、海水を伝って衝撃波がエクシアを揺らす。連合のヴォーテクスと、こちらのホデリとザフトのゾノ、アッシュが戦いを始めたのだ。
 煌びやかな光はホデリの有する水中でも使用可能なビーム兵器の光芒だ。水中でも超音速で走るスーパーキャビテーティング魚雷が次々と放たれ、ランスやアイアンネイルを振るって格闘戦に移行する機体も出始めた。
 自分の露払い役を務めている彼らの戦いを一瞬も見逃さぬように、目を凝らす刹那に声が掛けられた。エクシアの肩に、アビスインパルスが手を置いてお肌の触れ合い通信を繋いだのである。
 セプタ内のミネルバから出撃したニコル・アマルフィの顔がエクシアのモニターに映し出され、少女と見間違える者もいる繊細な顔立ちのニコルが、友好的な微笑を浮かべていた。
 刹那は笑みで応える事は無かったが、さりとて嫌悪の情は欠片もない無感情な声音で無愛想に応じた。抑用が抑えられ淡々とした口調は機械的な印象を聞く者に与える。

「グラディス隊のニコル・アマルフィか」
『自己紹介の必要はないみたいですね。刹那、君の機体と君自身が初撃の鍵をしっかり握っていますから、決して無理はしないでください』
「分かっている」
『僕達が道を切り開きますから、君は君の役割に集中して』
「ああ、アンタ達もアンタ達の役割を果たせ」
『少しは緊張しているのかと思ったのだけれど、余計な心配だったかな。じゃあ、作戦が終わったらまた話をしましょう』
「……考えておく」

 イザークが無愛想でもっと不器用だったらこんな感じになるかもしれないな、とニコルは小さな笑みを形作り、戦場を映すアビスインパルスのモニターへと視線を戻した時には、その笑みは消え去って歴戦の戦士の顔がすでにそこにあった。
109通常の名無しさんの3倍:2010/03/06(土) 22:30:23 ID:???
支援です
110660 ◆nZAjIeoIZw :2010/03/06(土) 22:31:29 ID:???
 明滅する刀身の表面温度が既に摂氏マイナス二百℃に達したGNソードを、支える様に左手を添えた姿勢のエクシアを後方に置き、アビスインパルスが一気に加速し、その後に六機のアッシュが続く。
 索敵網に引っ掛かったこちらの反応に気づき、三輪艦隊が展開させたヴォーテクス部隊は優に七十機は越え、さらに数を増し、海上からは駆逐艦から次々と爆雷やミサイルが投下されつづける。
 ボズゴロフ級とキラーホエールU級から出撃したこちら側の水中用MSの数は、五十四機ほど。
 最低でも十六機にも及ぶ数の差は大きな戦力差であるが、こちらには水中でもビーム兵器が使用可能なホデリがある。
 ゾノあたりはヴォーテクスに比べれば明らかに見劣りする機体だが、アッシュなら互角に戦えるだろうし、なにより水中でも戦闘可能なメカゴジラ三機がいるのだから、暗い話題ばかりではない。
 アビスインパルスを見送ってほどなく、刹那がヘルメットのバイザー越しに見つめる先の海は、数多の爆発に濁り、その青さを失い始めていった。
 海の下の戦いが激しさを増したその時である。徐々に徐々に高ぶり、爆発の時を待つプラーナを抑え込んで歯を軋らせる刹那を絶句させる物体五つが、エクシアを追い抜いていったのは。

「………………おれは、何も見ていない」

 心なしか、力無く刹那は呟き、そっと目を逸らした。刹那が外した視線の先には、極端に丸い頭部を持った二頭身の、人型というには明らかにバランスを逸した二足歩行のカエル型準特機五機の姿があった。
 頭部に星のマークが入った緑色の機体を筆頭に、それらは三十メートル級の巨躯をくねらせて、戦場へ意気揚々と向かっているように刹那には見えてしまった。
 開発者たちがつけた開発コード“ケロン”。その外見によって知的生命体に心理的抑圧を与えるというURシリーズの派生機として設計され、ついにはロールアウトしてしまった彼らが、ついに本物の戦場へと投入されたのである。
 GNソードに流れていたプラーナの流入量が、がくんと減ったのは、刹那がケロンシリーズを目撃するのとまったく同じタイミングであった。たしかに外見の与えるインパクトはあるらしい。
 誤算があるとすれば、敵ばかりか味方にまで悪影響を与える心理的効果を有していた事だろう。事実、彼らの姿を見た地球連合の諸兵のみならずDC・ザフトの兵士達も、大なり小なり衝撃に襲われて、確かに思考と動きを止めてしまったのだから。



 DC・ザフト混成の潜水艦隊が三輪艦隊の海中部隊と交戦を開始した頃、三輪艦隊は高高度から超高速で迫りくる機影を探知し、対空火器の弾幕展開と、ジェットウィンダム、フラッグからなる機動兵器部隊を急遽出撃させていた。
 前回の戦闘でDCが繰り出してきた可変戦闘機と長距離航行推力増加ブースターを装備したリオン、ガーリオンが主力を成す空戦部隊に対し、飛行機形態のフラッグが先行して打撃を加えてジェットウィンダムがそれに続いた。
111660 ◆nZAjIeoIZw :2010/03/06(土) 22:33:46 ID:???
 速度ではフラッグをも上回るエクスカリバーは、従来の航空機やMSをはるかに上回る搭載量のハイ・マニューバー・マイクロ・ミサイル(HMMM)を一斉に発射し、敵対者のプラーナを探知するミサイル群れは第一波で、多くの敵機を撃墜して見せる。
 フラッグが機体に搭載できるミサイル数は二基に対し、エクスカリバーを筆頭にリオンから射出されたミサイルの総数は優に三百を超え、ビームライフルや20mm機銃で迎撃を行うフラッグの群れに次々と命中してゆく。
 ミノフスキー粒子散布下ながら、その影響を受けないプラーナ探知式ミサイルの猛威が振るわれた形だ。迎撃に上がってきた三輪艦隊第一波を突破したDC空戦部隊は、その勢いのままに三輪艦隊へと飢えた猛禽の獰猛さで襲いかかる。
 三形態の全てで飛行能力を有し、かつアクロバティックなマニューバーを可能とするVFシリーズは、テスラ・ドライヴによる新機軸の機動にようやく慣れ始めた地球連合側のパイロットには、予測もつかない動きを可能とする。
 オクスタンガン・ポッドからばら撒かれる超高初速徹甲弾の雨を叩き込まれたジェットウィンダムは、掲げた盾ごと瞬く間にボロクズに変えられて落下し、猟犬の群れと化したミサイルを振りきれなかった機体は、炎の花へと変わる。
 そんな光景が、三輪艦隊の上空で数多く見られ始めた。
 エクスカリバーが猛威を振るう中に、異なる毛並みのフラッグが姿を見せたのは、自軍の被害の多さに、三輪の眉間に深い皺が刻まれた時だった。
 民間軍事会社ネルガルより地球連合軍へと出向しているイノベイターのヒリング・ケアとリヴァイヴ・リヴァイヴァルの両名が搭乗する、大口径ビームキャノン装備のフラッグカスタムである。
 ザフト、DCに潜り込んだティエリアやブリングからの脳量子波通信によって、DC部隊の奇襲を予め知っていた二人は、上空からの攻撃に困惑する事もなく、冷徹な笑みを浮かべて戦いを楽しもうとしていた。

「来た来た。ミワは今頃泡吹いているんじゃないの?」
「ふ、仕方ないさ。僕達の様に事前に知る事が出来る筈もない。ただの人間なのだからね」
「ま、どっちでもいいじゃないさ。あたし達はあたし達で楽しませてもらうからさ!」

 フラッグの片腕ほどもある漆黒のビームキャノンを振り上げて、ヒリングは小悪魔的な笑みを浮かべながら、センターマークに捉えたガーリオンめがけてトリガーを引き絞る。
 智の記録者の技術によって改良を施されたイノベイターのフラッグは、大西洋連邦軍で運用されている従来のオーバーフラッグの総合性能を30パーセント以上上回る高性能仕様だ。
 保持している大口径のビームキャノンの威力は、アークエンジェル級のゴッドフリートを凌駕する威力で、直撃させれば艦艇といえども一撃で戦闘不能にまで追いやられる。
 ヒリングとリヴァイヴのフラッグカスタムが放ったビームは、ジェットウィンダムを追いかけ回していたリオンF型とエクスカリバーをそれぞれ貫き、VFシリーズ初の被撃墜機を産んだ。
 ヴァルホークのビームランチャーと同等以上の威力を持つフラッグカスタムのビームキャノンは、周囲の大気を瞬く間に灼熱させ、AMとVFが纏う堅牢な装甲をまるで問題視しない。
 自分達が空中に咲かせた爆炎花を見て、ヒリングとリヴァイヴは揃って口角を吊り上げて好戦的な笑みを浮かび上げた。ともに驚くほど整った造作の顔立ちだけに、張り付けたその笑みは残虐とさえ言えた。

「フラストレーション溜まっているからさ、容赦しないよ!」

 胸の内で貯めに貯めた鬱憤を晴らすように、ヒリングは弾んだ声で新たな敵を狙ってフラッグカスタムを操り、リヴァイヴもまたヒリング同様にVFとリオン系列で構成されるDC空戦部隊へと視線を巡らす。
 ヒリングらイノベイターは、かつてザ・データベースが収集した戦闘用コーディネイターなどのノウハウを元に生み出したディセイバーを、更に高度に強化した存在である。
 このコズミック・イラ世界の人々によって生み出されたブーステッドマンやエクステンデッド、戦闘用コーディネイターを凌駕する身体能力を持っているといえよう。
 そのイノベイターである二人は、デュミナスのバックアップの下、思う存分、優越種と自負する己らの戦闘能力を存分に発揮し始める。
 二機のフラッグカスタムが別格である事を認識したガーリオンのパイロットが、増加ブースターをパージして機体を身軽にし、オクスタンライフルの銃火を散らす。
 連射性を重視したEモードで放たれた緑色のビームは、水槽の中の水をぶちまけたように広範囲に降り注いだが、脳量子波による超人的反射能力を持つヒリングとリヴァイヴは、軽やかにかわして見せた。
112通常の名無しさんの3倍:2010/03/06(土) 22:35:03 ID:???
わ、リアルタイムで遭遇
及ばずながら支援します
113660 ◆nZAjIeoIZw :2010/03/06(土) 22:35:09 ID:???
 あらかじめ声を掛けられていたような余裕の伺える動きに、ガーリオンのパイロットは驚きを隠せなかったが、ならばとディバイン・アームを抜き放ち、牽制のビームと機体胸部のマシンキャノンを乱射しながら接近戦を試みる。
 不規則な回避機動を交えたガーリオンの動きは、そのパイロットがそれなりの場数を踏んだベテランである事を示唆していたが、ヒリングにとってはまだまだ楽しめるレベルの敵でしかない。
 はは、と遊園地のアトラクションを楽しむ子供の様な声を出して、ヒリングは長大な砲身のキャノンを抱えたままというハンデを負ったまま、ビームサーベルを抜き放つやガーリオンの動きに合わせてフラッグカスタムを向かわせた。
 ガーリオンの連射するビームを、フラッグカスタムの装甲に一射たりとも掠めることさえなく、両機の間隔は見る見るうちに詰められて、ガーリオンが左手のディバイン・アームを振り上げるのに合わせて、光刃がきらめいた。
 高出力のビームサーベルは、ガーリオンの胴部を横一文字に薙ぎ払い、赤熱し融解した装甲の奥から青白い雷が溢れだすや、また新たな命の散る花と変わる。

「これで二機目、あははは、もっともっと落としちゃうよ」
「ヒリング、油断してあまりみっともない事にはなるなよ」
「冗談、万が一つにもそんなことあるわけないじゃない」

 釘を刺すリヴァイヴに嘲笑混じりの答えを返して、ヒリングは大口径ビームキャノンから次々と光条を放つ。リヴァイヴもまた、ヒリングの答えに呆れながらも同様にビームキャノンを連射して、戦果を上げはじめた。
 虚空を穿つ光条の数に比例してDCが誇る空戦部隊の数は次々と数を減らしていった。



 空中での戦いが激しさを増す中、海面下での戦いはひとつの区切りを迎えていた。数で劣るDC・ザフト潜水艦隊は、ケロンシリーズ五体に加えてメカゴジラを惜しみなく戦闘に投入して、一方的な蹂躙戦を展開。
 メカゴジラの、向かう所敵無しと言っていい一方的かつ圧倒的な戦闘能力と、見た目のコミカルさに反して水中では凄まじい戦闘能力を発揮するケロンシリーズによって、ヴォーテクスはほとんど一掃されていた。
 ケロンシリーズ目撃の衝撃から既に立ち直っていた刹那は、一気にエクシア後背部のGNドライヴから圧縮したGN粒子を一挙に放出して、三輪艦隊直下へと機体を潜り込ませる。
 腹腔を満たす熱を孕んだ気魄を全身から迸らせて、刹那はエクシアのGNソードに意識を集中させた。急速にGNソードから放たれる冷気が低温化し、周囲の分子運動を停止に近づけて行く。

「動きを止めさせてもらうぞ、エクシア!」

 GNソードの放つ冷気と輝きが一層強さを増して、周囲の水温を限りなく絶対零度にまで近付け、海水が次々と氷に変わってその範囲を広げて行く。ロアノーク艦隊との交戦で猛威をふるった凍結現象の再現だ。

「アイスグラウンド!!」

 下方に向けていた切っ先を振り上げて、一挙にエクシアのいる深度から海面に向けて海が次々と凍り出し始める。そのまま飛行能力を持たない艦艇はすべて氷の中へ閉じ込められるかと見えた瞬間。

「なに!?」

 海中のエクシア目掛けて極めて正確な狙いの着いたビームが次々と降り注ぎ、膨大な海水によってその威力を減衰させながらも、エクシアの機体を大きく揺らし、アイスグラウンドの発動が不完全な状態でキャンセルさせてしまう。
 海上からの通常では考えられない高精度の狙撃に、刹那は動揺を隠しきれなかったが、ビームは変わらず降り注ぎ、その回避に神経を割かなければならなかった。
 エクシアに対する狙撃を行っていたのは、ヒリングの乗るフラッグカスタムだ。狙撃中をリヴァイヴに護衛させながら、自分が乗る筈だった機体に向けて、躊躇なくトリガーを引き続けている。

「その機体は、リボンズがあたしにくれる筈だったんだから、さっさと返しなよ!」

 威力が減衰したビームでなかったら、さしものエクシアも大きな損傷を負っていた所だが、幸いに損傷は軽微なもので、刹那は狙撃を避けるために、潜行して深度を深い数字にする。

「く、凍結状態は、七割ほどか。もう一度……」

 再びGNソードを構え直して意識の再集中を行おうとした刹那を、エペソからの通信が制止した。
114通常の名無しさんの3倍:2010/03/06(土) 22:38:19 ID:???
支援
115660 ◆nZAjIeoIZw :2010/03/06(土) 22:40:33 ID:???
『刹那・F・セイエイ、フェイズ4へと移行する。貴君はプラーナ回復後、戦線に突入せよ。我らは連合艦隊に対し突撃を仕掛ける』
「……了解、このまま待機する」
『全艦浮上、浮上と同時にクリスタル・マスメルを発射。上空の空戦部隊に援護をさせよ』

 GNソードへのプラーナ供給を停止し、刹那はつぎつぎと周囲で急速浮上を始めるセプタ級へと視線を移した。
 キラーホエールU級とボズゴロフ級が、セプタ級援護のために対空ミサイルランチャーや艦首魚雷を発射する。
 高度な重力制御技術によって、重力の鎖を振り払ったセプタ級は、海面下に巨大な影を揺らしながら、三輪艦隊が明確な手を打つ暇も与えずに、海面をぐうっと持ち上げてから、一挙に破裂させて空中に飛翔する。
 甲羅に閉じ籠った亀の様な、とその姿を形容したが、いまのセプタ級はさながら亀の大怪獣を思わせた。船体から膨大な量の海水を零し、そこかしこに虹の橋を掛けてメルヘンな光景をつくりながら、セプタ級四隻の船体から水晶が突き出し始める。
 船体を構成するズフィルード・クリスタルを、杭のように尖らせた状態で周囲に射出するセプタギンの武装クリスタル・マスメルだ。セプタギンを源流とするセプタン、セプタの対空火器の様なものだ。
 紫色の水晶片が、外輪陣形をとる三輪艦隊を囲むセプタ級四隻から一斉に放たれて、毎秒百を超える水晶片がきっかり二十秒間、三輪艦隊へと一斉発射されてCIWSや空対空ミサイルでそのいくつかが撃ち落とされる。
 しかし、あまりにも多すぎる量の水晶片のほとんどは撃ち落とされる事もなく、イージス艦をはじめとした水上艦艇の船体に次々と突き刺さる。
 既に出撃していた三輪艦隊のジェットウィンダムやフラッグらは、DC空戦部隊によってセプタ級の迎撃にフラッグやウィンダムが動きを拘束されて、自分達の母艦の危機に動けずにいた。

「外殻装甲を展開、全艦を出撃させよ。機動兵器部隊、出撃用意は?」
「全機出撃態勢を取っています、ゴッツォ司令」
「よろしい。エペソ・ジェデッカ・ゴッツォの名において命ずる。全機出撃後、地球連合艦隊の撃滅に全霊を傾けよ!」

 好戦的極まるエペソの号礼一下、セプタの上方部分を覆い尽くしていた紫水晶の天蓋がひび割れるような轟音と共に、左右に開かれてその内に抱いていた月の女神を解放する。
 ヴィーナスの誕生にも似た光景は、ストーク級三隻とミネルバが発進すると同時に連射した各砲座とミサイル発射管が轟かせた発射音と光芒によってかき乱される。
 セプタの甲板上に着艦していた四隻の艦が発進し、合計八隻の艦隊となって三輪艦隊を包囲する中、エペソの乗るセプタ級の船体中央のハッチが開かれて艦載機の発進シークエンスを開始する。
 電磁加速式カタパルトに乗っているのは、シン・アスカのインパルスであった。
 これまでのクロスボーンシルエットや飛鳥シルエット、フォーミュラーシルエットと異なる新たなシルエットを装備している。
 アカツキとスペリオルドラゴンに使われているヤタノカガミ装甲を含むリアクティブアーマーが、両肩や前部腰アーマーに装着されている。また、両肩のアーマー内部にはEフィールド発生器を内蔵している。
 背中にはテスラ・ドライヴ内臓のウィングとスプレービームポッド、ロングレンジキャノンを装備し、一基あたり18発のミサイルを格納するマイクロミサイルポッドが各所に六基。
 腰アーマーの左右には小型改良したヴェスバーが二門、右手にはメガビームライフルを、左手には三基のバリアビットを持つメガビームシールドを携えている。
 背のウィングは本来ミノフスキー・ドライヴを主機とするはずであったが、開発が間に合わなかったためビルトシュバインのバックパックを参考としたものが代用品とされている。
 クロスボーンシルエットが格闘性能に重きを置いたシルエットであるのに対し、射撃性能に重きを置いたアサルトバスターシルエットである。現在ロールアウトしているDC製シルエットの中でも最強の一つとされるシルエットだ。

「シン・アスカ、アサルトバスターインパルス、行きます!」

つづく
今回ここまで。ご支援ありがとうございました。ムゲフロの話題かと思ったらLOEと話題が絶えないですね。
ムゲフロは今回も楽しかった。菊地線感染者としては鍔広の旅人帽を手に入れるたびに中の人がギリアムと同じ吸血鬼ハンターを連想してしまいます。燻し銀をそれくらいの戦闘能力保持者にしてしまおうか、とも時々思う。
しかし、今年は早々に出費が続きますね。薄給の身としてはつらいものです。
ではご感想ご指摘ご助言いただければ幸いです。お邪魔しました。
116660 ◆nZAjIeoIZw :2010/03/06(土) 22:50:55 ID:???
おまけ 

『ディバイン SEED DESTINY DCの脅威』

 ギレンの野望風各勢力図

 初期選択勢力

・ディバイン・クルセイダーズ 難易度VERY EASY
 資金70000 資源50000
 基礎技術LV22 敵性技術LV20
 MS技術LV21 特機技術LV21
 MA技術LV20 EOT LV23

 主要キャラ

 ビアン・ゾルダーク 階級:大将 ランクB
指揮16 魅力17 射撃12 格闘11 耐久14 反応9 
 ロンド・ミナ・サハク 階級:大将 ランクC
指揮14 魅力14 射撃10 格闘10 耐久6 反応12 
 ロンド・ギナ・サハク 階級:大将 ランクB
指揮13 魅力11 射撃11 格闘12 耐久9 反応13
 マイヤー・V・ブランシュタイン 階級:大将 ランクA
指揮18 魅力13 射撃11 格闘6 耐久14 反応6
 フェイルロード・グラン・ビルセイア 階級:少将 ランクC
指揮16 魅力17 射撃11 格闘10 耐久4 反応10
 エペソ・ジュデッカ・ゴッツォ 階級:大佐 ランクB
指揮14 魅力10 射撃12 格闘11 耐久13 反応8
 シン・アスカ 階級:少尉 ランクC
指揮4 魅力8 射撃11 格闘18 耐久10 反応13
 ステラ・ルーシェ 階級:少尉 ランクD
指揮1 魅力10 射撃9 格闘11 耐久6 反応10
 セツコ・オハラ 階級:少尉 ランクE
指揮2 魅力9 射撃5 格闘5 耐久4 反応7
 刹那・F・セイエイ 階級:民間 ランクD
指揮3 魅力7 射撃7 格闘13 耐久8 反応9
 マサキ・アンドー 階級:民間 ランクC
指揮5 魅力9 射撃10 格闘11 耐久7 反応13
 アクセル・アルマー 階級:少尉 ランクB
指揮12 魅力10 射撃10 格闘15 耐久14 反応11
 レントン・サーストン 階級:伍長 ランクE
指揮2 魅力3 射撃4 格闘5 耐久5 反応5
 エウレカ 階級:軍曹 ランクD
指揮3 魅力8 射撃8 格闘10 耐久3 反応10
117660 ◆nZAjIeoIZw :2010/03/06(土) 23:05:54 ID:???
 資金・資源・人材・技術LV・初期保有兵器のすべてがバランスよく高いレベルでまとめられた初期勢力で初心者にお勧め。
クライ・ウルブズ、サイレント・ウルブズ関連のイベントを行うと、多くの人材が強制的にイベントに参加するが、イベントを進めれば多くの敵勢力のキャラが負傷中・死亡状態になるため、長期的に見ればリターンの方が大きい。
ウルブズのイベントを進める事で刹那・F・セイエイやロックオン・ストラトス、ティエリア・アーデ、デスピニス・デュミナスをはじめとした有能なキャラクターが数多く加入する点も大きい。
またウルブズ関連のイベントを発生させても、指揮能力の高い将官クラスのキャラクターが多く、6人のソキウスやトロイエ隊のユーリアなどパイロットとして優れた能力を持つ者が残っているため、彼らをうまく活用すれば問題なく戦える。
逆にウルブズイベントを行わないか、途中で切り上げる事で成長幅の大きい将来有望なキャラクター達と強力な兵器を多数確保する事が出来る。
特に初期状態からDCインパルスに搭乗したシン・アスカやアヘッドサキガケに搭乗した刹那・F・セイエイ、サイバスターに搭乗したマサキ・アンドー、ソウルゲインのアクセル・アルマーなどは全勢力を通じて最強クラスのパイロットである。
注意点としてウルブズ関連のイベントを進めていると、選択肢の選択と諜報レベルの高さ次第で、多くの離反者が発生し、新型機体を奪取されるイベントや負傷イベントが発生する為、この点ばかりは慎重な選択が必要となる。
序盤から開発できるヴァルシオン改やオリジナルヴァルシオン、中盤にかけてまで最強の汎用戦艦スペースノア級、また早い段階で開発可能となるグルンガスト弐式やエルアインス、バルキリーの生産が軌道に乗れば戦闘面ではまず危険は無い。
 非常に多くの開発プランが提案される勢力である為、無節操にプランを選択しているとすぐさま資金が欠乏してしまう為、そういった点では選択肢の難しい勢力でもある。
 基本的にエルアインスとバルキリーの生産を進め、エース用にDCインパルスやスペリオルドラゴンを開発しておけば大きな問題は発生しない。
ヒュッケバインシリーズ開発計画やグルンガストシリーズ開発計画、バルゴラ正式採用提案など主力量産機の選択肢が非常に多く、プレイヤーの個性が反映されやすい勢力であり、一周目には最適。
VF開発計画は、VF−1、VF−11、VF−17と開発した後、プロジェクト・スーパーノヴァが発案されるが、この後にすぐ無人機ゴーストX9開発計画が提案され、二者択一の選択を強いられることになる。
基本性能においてはゴーストX9がYF−19、YF−21を上回るが、無人機である為にパイロットによる補正が受けられない為、人材の多いDCではYFシリーズ開発に踏み切る方が得られるものは多い。
また開発を進めていくとヴァルシオンと同じURシリーズの系列機としてケロンシリーズの開発が提案される。
低コストで強力な五機種の準特機が開発できるようになるが、これを実行するとロンド・ミナ・サハクが3ターンの間使用できなくなるので注意が必要。
上級者向けのプレイとして、ボスボロットのみでクリアを目指すボスボロット縛り、ボン太くん縛りなどが存在する。両機種とも開発を進めていけば無数の開発プランが提案されるため、最終的にはかなりの戦力となる。

つづく?
改行が多すぎるという事で上の投稿がはねられたので、読みづらくなってしまって申し訳ないです。
ギレンの野望を知らない方に捕捉しますと、ランクはEが一番低く、DCBASと上がってゆきます。
クワトロやシロッコなどのトップクラスはランクBで大体の能力は13か15を超えています。
118通常の名無しさんの3倍:2010/03/06(土) 23:15:36 ID:???
乙です!
まさかミノフスキー粒子が双方の切り札だったとは……
そしてアサルトバスターシルエットは御禿様の呪いにより一話持たず廃棄される予感がする。
119通常の名無しさんの3倍:2010/03/06(土) 23:43:57 ID:???
GJ!!V2が最も好きなガンダムのひとつである自分としては、是非とも大活躍
して欲しい所なのですが。
120通常の名無しさんの3倍:2010/03/06(土) 23:55:00 ID:???
ロボ魂化記念シルエットキター
乙で乙〜
121通常の名無しさんの3倍:2010/03/07(日) 00:49:29 ID:???
アサルトパーツはシロッコあたりに即破壊されそうだw
122通常の名無しさんの3倍:2010/03/07(日) 01:25:45 ID:???
乙。
三輪が不憫すぎるw
123通常の名無しさんの3倍:2010/03/07(日) 10:53:36 ID:???
まさか三輪さんに同情するSSに会えるとは思わなかったwwwwwwwww

けど、こんなに三輪さんリスペクトされてるSS見た事無いぜ
124通常の名無しさんの3倍:2010/03/07(日) 14:04:40 ID:???
おまけだがこれ、どう考えてもザフトプレイが一番マゾいよなwwwwwwwww

インパルス開発に着手するとアクアさんの疲労度上昇が倍増とかになりそう
125通常の名無しさんの3倍:2010/03/07(日) 14:42:22 ID:???
乗ってるとターン毎に気力が下がり続けるとかなw
126通常の名無しさんの3倍:2010/03/08(月) 00:34:43 ID:???
既にGN粒子が出てる以上ミノ粉の優位性は低い気もするがな〜
V2並の高純度だと内部メカが死ぬんだっけ?
127通常の名無しさんの3倍:2010/03/08(月) 14:26:35 ID:???
GN粒子よりは量産きくんじゃなかろうか。
ただ、他にもテスラドライブやらヴァルキリーシリーズが採用されている世界で、ジャマー以外でトップ張れるかというと疑問符がつくが……
やはりミノフスキーの一番の利点は「多様な用途がある」って点じゃないのかな。
128通常の名無しさんの3倍:2010/03/08(月) 21:34:23 ID:???
>>118
>>121
逆に考えるんだ
インパルスのさらなる追加パーツ…皇帝機兵アジバルドの前振りだと考えるんだ
129通常の名無しさんの3倍:2010/03/09(火) 00:45:36 ID:???
>>128
幻魔皇帝アサルトバスターか。 ミーティアを基とした外装、嵐暴機神ストームサンもあるんだな?
ってか……悪役じゃねーか!  幻魔機兵バイザードなら最近追加された設定上いつでも出せそうだが。
それならGGGの風龍、雷龍のデータを元に雷龍剣(サンダーソード)嵐虎剣(ストームガンダム)やDC製新型G、ゼロガンダムを……

130通常の名無しさんの3倍:2010/03/09(火) 15:14:11 ID:???
ビアンSEEDを見ていても、此処までゲッター線と光子力などが出てこないところを見ると、やはりあれらは総帥でも扱えないような危険物なのだろうか。
131通常の名無しさんの3倍:2010/03/09(火) 16:27:59 ID:???
光子力は別に危険じゃないけど、生成にはジャパニウムが必要で、それは富士山の地層からじゃないと手に入らないからな
ゲッター線はそもそも、この世界に降り注いでるのかどうか不明だし
132通常の名無しさんの3倍:2010/03/09(火) 16:30:10 ID:???
光子力はジャパニウム鉱石から取り出すからCEでは鉱石がないんじゃないか?
ゲッター線は『ロボ造っても乗れる奴がいないからお蔵入り』あたりが無難だと思う。





……あくまでいじってるのが兜十蔵と早乙女じゃなくて総帥だったら、な。
133通常の名無しさんの3倍:2010/03/09(火) 16:34:34 ID:???
ついでに言うとゲッターは一体を運用するのに、超人的パイロットが三人も必要という問題がある
基本的に寡兵のDCで、一体の特機を運用するのに三人ものエース級パイロットが必要になるのはかなり痛い
これが連合みたいに豊富な人員を擁する組織なら限りではないが
134通常の名無しさんの3倍:2010/03/09(火) 20:56:31 ID:???
分離合体オミットでならいいかもしれない。
135通常の名無しさんの3倍:2010/03/10(水) 01:26:15 ID:???
つブラックゲッター

グルンガストにゲッター線ぶち込んだら凄い事になりそうな気もするが…
136通常の名無しさんの3倍:2010/03/10(水) 01:38:07 ID:???
ゲッターはゲッターでもゲッター線を使っていないゲッターなら問題ない。
ゲッター號(漫画版)とかゲッター號(アニメ版)とかネオゲッターとか……紛い物とか言うな。
137通常の名無しさんの3倍:2010/03/10(水) 10:17:00 ID:???
この話のスケールでさらにゲッターまで出ると虚無りそうで怖い
138通常の名無しさんの3倍:2010/03/10(水) 19:39:20 ID:???
この壮大な話もまた
クォヴレー曰くところの大いなる終焉に至る過程に過ぎないわけだから
何処かで虚無ったり、永劫回帰したり、おっとこの流れは(ryされたりする可能性も
チラホラしていそうなものだ

もうゲッターだろうが金色モノリスだろうがミネルバさんだろうが何が出てきたって驚くもんか
139通常の名無しさんの3倍:2010/03/10(水) 22:24:06 ID:???
では総帥が創ったデモンベインが出てきたらどうだろうか。
140通常の名無しさんの3倍:2010/03/10(水) 22:33:57 ID:???
>>139
前言撤回、驚きました

いやしかし、デモンベインとは悪を絶つ不屈不朽の刃の総称
すなわち総帥世界のシンたちを誰だと思ってる
シン「オレが、オレたちが、デモンベインだ!!」であり
赤目の少年とハーレムギャルズと友達と師匠たちがマトリョーシカアタックで邪悪を粉砕し
発想が天元突破しておりこれも過ちまくっており済まぬ
141通常の名無しさんの3倍:2010/03/10(水) 22:45:58 ID:???
総帥が創ったデモンペインが出てきたら本気で驚く自信がある

>>140
語り部さん仕事して下さい
142通常の名無しさんの3倍:2010/03/11(木) 10:02:25 ID:???
いや、待て。
既にボスボロットが作業用として一般普及している総帥世界だ、むしろ破壊ロボシリーズが登場した方がしっくり行く。
143通常の名無しさんの3倍:2010/03/11(木) 12:22:07 ID:???
ならば西博士が素でいるということか……ッ!?
144通常の名無しさんの3倍:2010/03/11(木) 15:24:48 ID:???
総帥と西博士夢のコラボかぁ…
世界の法則が乱れそう
145通常の名無しさんの3倍:2010/03/11(木) 18:51:51 ID:???
究極ロボヴァルシオンとスーパーウェスト無敵ロボのコラボ!?
初代ヴァルシオンの全高と重量のネタ的にメガ・グラビトンウェーブからドリル特攻の合体技かますとか?
146通常の名無しさんの3倍:2010/03/13(土) 23:52:41 ID:???
避難所に総帥の転載依頼が来てる
608 名前:660 ◆nZAjIeoIZw[age] 投稿日:2010/03/13(土) 19:40:08 ID:6C1ksPAI
今日も今日とて規制。というわけでこちらに投下します。どなか投下できる方がいらっしゃいましたら代理投下をお願いできますでしょうか。お願い致します。

ディバイン SEED DESTINY 第三十七話 群れなす魔王

 外輪陣形というのは第二次世界大戦時、米国が取った艦隊の陣形の一つだ。空母を中心に置いて、その周囲を戦艦や巡洋艦をはじめとした各種艦艇が輪を作る様に守る。
 戦艦による砲撃から艦載機による攻撃へと対艦攻撃の主要な手段が変わった時代に考案された陣形だ。
 短距離誘導兵器はともかく、旧世紀以来戦争の中核をなした長距離誘導兵器の類が一切通用しなくなった昨今の戦闘では、類似した有視界戦闘が行われていた第二次世界大戦前後の戦闘を模倣し、実用されているケースが多い。
 三輪艦隊が外輪陣形を取って航行していたのも、かような事情による所が大きい。
 艦隊司令を務める三輪防人の乗艦であるクラップ級巡洋艦と機動空母を中心として護衛艦艇群で構築される大西洋連邦の艦隊を、セプタ級四隻とそこから発艦したミネルバ、ストーク級三隻がちょうど四方から囲い込んでいた。
 輪を描く三輪艦隊を、DC・ザフト艦隊が四角形を構成して外側から囲い込む形だ。
 八隻の空中戦艦と海面下の潜水母艦艦隊、さらに高高度から襲いかかった空戦部隊の連携攻撃は、三輪艦隊の意表をついて動きを止めることには成功していた。ただし、それは、作戦を立案したDC軍部の予想をやや下回る形であったが。
 空戦部隊の第一撃はリヴァイヴとヒリングの妨害こそあったもののまずまずの成果を上げたが、海面下の戦闘ではエクシアによる第二撃が予定数値の七割ほどしか成果を挙げられなかった。
 本来、三輪艦隊の水上艦をすべて氷原のなかに閉じ込めて動きを完封し、数の少ない飛行能力を有した艦艇を集中砲火で順次撃墜してゆく予定だったが、凍結範囲が海面上までは及ばずに水上艦が行動可能な状態だ。
 三輪艦隊の艦艇からは次々とMS、そして大型MAが出撃し、同じように機動兵器の発進を急がせているDC・ザフトの部隊と砲火をかわしている。
 艦方の連射の合間を縫い、出撃の機会を狙っていた両陣営の機体が徐々にその数を増す中で、クライ・ウルブズ艦となったセプタ級シグロードから真っ先に飛びだしたアサルトバスターインパルスは、近づく敵機に対し弾幕を展開して守りについていた。 
 MSとして最高級の火力と運動性、防御能力を併せ持ち、超人的な技量と肉体を有するパイロットの組み合わせゆえに、攻勢に出れば瞬く間に敵の数を減らすのは明らかであったが、まだ出撃していない味方が多く、そちらの守りを優先している。
 射撃兵装の充実ぶりでは最高のシルエットであるABインパルスを駆るシン・アスカは、背中のスプレービームポッドから数十の細い光線を放って、散開させた敵機をまとめてロングレンジキャノンとメガビームライフルで撃墜してみせる。
 一般的なビームライフルは一撃でMSを撃墜する威力を有するに至ったが、ABシルエットが装備する各ビーム兵器は、一機のみならずまとめて二機、三どころか狙い次第では十機前後を撃墜する高出力高威力を誇る。
 オノゴロ島で組み立てを終えたばかりの為、まだ不安定な個所を残していたものの、コズミック・イラの純軍事技術の数十年は先を行く性能から、セプタ級に各種弾薬や予備のパーツと一緒に送られていたのである。
 火器管制に若干の未調整部分があるが、カルケリア・パルス・ティルゲムが増幅した念による照準補正を持って補い、シンの第六感による敵機の捕捉を主とした射撃システムを場当たり的に構築して対処している。
 機械による補正が受けられない分、パイロットであるシンにかかる負担は大きいが、もともと肉体・精神面共に常人の領域を超えた少年である。
 アドレナリンをはじめ脳内麻薬の分泌位はお手の物だし、自律神経の調整によって数分の睡眠で、数時間分の休息を得る術も学んで久しい。
 一般的な人間どころか鍛えぬいた軍人の規格でさえ、身の安全を考慮する必要がないからこそ、エペソはパイロットにかかる負荷の大きいABシルエット投入の決定を下したのだろう。
 そしてその決定は、今のところ正しい判断といえた。シンの操るABインパルスは、立ちはだかる敵に対し、生と死の境に立つ番人の如く絶対の存在と化していたからだ。
 すなわち、ABインパルスに挑む者は、ことごとく死出の旅路への切符を賜る事となっていた。
 ABインパルスの背中のロングレンジキャノンと右手のメガビームライフルから放たれる通常のビームライフルに数倍する太さのビームは、直撃した機体のみに留まらず、その周囲を飛んでいた機体をもまとめて爆発させた。
 コアスプレンダーに内蔵されたプラズマ・リアクターと、ABシルエット内のミノフスキー粒子技術による熱核反応炉が生み出す莫大なエネルギーは、単純なエネルギー量でいえば本家V2ガンダムの数値を上回る。
 周囲の空間に伝播した膨大なエネルギーは、直撃を受けていない機体の機体中枢にまでダメージを及ぼし、水飴のように融けた装甲の内側から盛大な炎を噴出させ、二つの光条を数珠繋がりに爆発の光が飾ってゆく。
 二条のビームの周囲にいた機体でさえ、余波でこれほどの被害を発生させたのだ。直撃を受けた機体は、まさしく悲惨以外の何物でもなかった。
 それぞれのビームの直撃を受けた機体の表面が真っ赤に赤熱したと見えた次の瞬間には、巨大な穴があいて機体を千切り、つづく爆発がさらに数百数千の破片へと爆散させる。パイロットの生存の可能性など、億に一つもあり得ない一方的な一撃であった。
 グルンガスト飛鳥をはじめ飛鳥インパルスと、極めて強力な機体を愛機とし、超常的な破壊力をたびたび眼の当たりにしてきたシンだが、あくまでMSとして開発されている筈の機体が、ここまでの力を見せるとは、と驚きを隠せない。
 それがシンの偽らざる本音であった。MSやPTがサイズをそのままに特機級の打撃力・攻撃力を持つ時代の到来は、そう遠くはないのかもしれない。

「なんて威力だ。ティエリアのヴァーチェよりも火力が上なんじゃないのか」

 シミュレーターで分かってはいたものの、下手な戦艦の主砲が可愛らしく思えるABシルエットの圧倒的な火力に、おもわずシンは息を呑んで驚いた。
 前大戦のフリーダムも砲戦機として目覚ましい戦果を残した機体であるが、ABインパルスならばそれ以上の戦果を残せると、シンはこの時はっきりと確信した。
 シンのABインパルスが近づく敵機をことごとく排除し、隔絶した戦闘能力を発揮する背後で、つぎつぎとセプタ級プリエスタ、ハイラングール、トラテペスから友軍機が飛び立ち、クライ・ウルブズの面々の雁首もそろい始めた。
 ステラが乗り換えたグルンガスト弐式をはじめ、アウルのレッドファイター91、スティングのスペリオルドラゴンに、バルゴラ一、二、三号機からなるグローリー・スターの面々が既に戦闘を開始している。
 ジェットウィンダムが浴びせ掛けてくるビームを、スペリオルドラゴンは金色の騎士鎧で防ぎ、魔法の掛けられた鏡であるかのように、命中したビームをそっくりそのまま反射して、黄金の騎士に対する無礼の報いとした。

「スペリオルにビームは禁物だぜ。シン、待たせたな!」
「スティング、遅いじゃないか。結構待ったぞ」
「言ってな。おれ達が楽をさせてやるからよ、お前は格納庫に戻ってミルクでも飲んでろ」
「スティングこそ、機体に頼り過ぎてヘマするなよ」
「お前の機体の性能をよく考えてから言うんだな、そういう台詞はよ!」

 スペリオルドラゴンがABインパルスの傍らを通り過ぎ、両手にダブルソードを構えて三輪艦隊の機動兵器部隊へと斬り込んで行く。
 天まで焦がす炎が変じたような赤の翼は風を鋭く切り裂き、鋼の光沢を帯びる騎士剣は陽光を映して刀身を白く染めている。見る者の目を奪うあまりにも美しい黄金機の飛翔。
 瞳と記憶に鮮烈に焼き付くその勇姿を前に、己の命を賭けた闘いの場である事を一瞬とはいえ忘れて、凝視した者は決して少なくはなかった。
 ビーム兵器に対してほぼ無敵の防御性能を誇る機体ならではの、無鉄砲に近い戦いぶりは見ている方の肝を冷やすことこの上ないが、スティングとても前大戦を戦い抜いた生え抜きのMSパイロットである。
 自分の機体の限界と自身の技量を把握している上での戦い方だ。それを分かっているから周囲の面子もそれをサポートする戦い方というものを心得ていて、孤立させる様な事はしない。
 アウルのRF91は格闘戦重視の機体で、スペリオルドラゴンが引きつけた機体の横から後ろから上から、と方向を問わず驚くほど大胆に接近して斬り掛かっている。
RF91の両腰アーマーからビームサーベルが抜き放たれて、ビーム刃発生基部から鈍い音と共にピンク色の光輝があふれ出て刃を形作る。アウルの瞳にはRF91によって切り裂かれた敵の姿が、すでに見えていた事であろう。
ガンダムF91のカスタマイズ機であるRF91の基本性能は、現在の軍事技術で考えれば極めて高いものと言える。その性能を十分に引き出せば、DCを含めて各国の主力量産機は敵ではない。
 RF91の接近に気づき、ビームの通じないスペリオルドラゴンの対処に苦慮していた周囲の敵機が、攻撃の矛先を急速に変じ、ビームライフルやジェットストライカーのミサイルが白煙の尾を引いてRF91へと殺到した。
 機体色、装甲特性から極めて目立つスペリオルドラゴンに引き付けられていた視線を引き剥がした分、反応が遅れた攻撃の中へと、アウルは怯む様子もなく機体を突撃させた。
 もともとアウルは敵の攻撃が激しければ激しいほど戦意を滾らせるタイプだ。紙一重の回避行動と、かわしきれない攻撃をビームシールドで防ぐ事を繰り返し、アウルは一気に肉薄したジェットウィンダムの胴へとビームサーベルをはしらせる。
 ビームライフルを掲げた右腕をかいくぐる様にしてRF91が体当たりに近い勢いで切迫し、振り抜いた左手のビームサーベルが一秒とかからずに胴体の装甲と内部のフレーム、コード類を含めて焼き切り、水を斬る様にして背中から抜けた。
 プラズマ・ジェネレーターから供給されるエネルギーを刃状に形成したビームサーベルは、たとえ対ビームコーティングを施したシールドであろうと、ものの数秒で焼き斬る熱量を持つ。
 ミラージュコロイドで刃を成型したコズミック・イラ製のビームサーベルでは、根本的な出力の点から見て受ける事さえ叶わない。そもそもC.E.技術系のビームサーベルは鍔競りあいのできない代物ではあったが。
 味方の死に激昂したか、周囲の三輪艦隊機が放つ四方からのビームがRF91を幾重もの光の格子の中へと囲い込むが、同士討ちを避けるためにその密度はさほどのものではない。
 全天周囲モニターに映し出される後方、下方映像に瞬時に目を走らせアラート音が告げる迫る危険に素早く優先順位をつけて、行うべき行動の選択を始め、そしてほぼ時を置かずして終了させる

「ぬるいんだよ、バァカ!」

 RF91の両手に握らせたビームサーベルを縦横無尽に振るっていくつかの光線を弾き、射撃の間隙を狙ってアウルは操縦桿に設けられたスイッチの一つを押し込む。
 鳥の頭部を模したRF91の胸部装甲の嘴がパカリと開かれて、内蔵されていたアンカーが勢いよく放たれる。アンカーの先端はブーメランの形をしており、そのまま敵機の切断や相手を絡め取るような使い方が出来た。
 パイロットの機転次第で攻撃・回避・防御と様々な用途に使用できる武装だ。射出されたアンカーは薄い紫色のフラッグの胴へと巻き付き、ウィンチが勢いよくワイヤーを巻き込むのに合わせてRF91へと引き寄せられる。
 海魔の触手に囚われた哀れな船乗りのように、無抵抗のままアンカーに囚われたフラッグは、その胸から上と下をRF91の背中に伸びる赤い翼によって切り裂かれる。
 重量の三割ほどを喪失したフラッグは、アンカーに巻き取られたまま勢いよく砲丸投げの要領で回転させられ、たっぷりと遠心力を乗せた状態で、眼下の水上艦艦橋へと叩放り投げられる。
 四十トン弱の重量を残していたフラッグと水上艦がけたたましい音を立てて激突するその寸前でアンカーを巻き戻し、アウルは次の獲物を狙い定めて唇を一舐めしてうるおいを与えた。
 アウルが視線を外した時には、RF91の足元で艦橋をフラッグによって叩き潰された水上艦が、内蔵していた砲弾、ミサイルを誘爆させてひときわ巨大な炎を吹き上げていた。
 噴き上げる黒煙と赤い炎がRF91のもとより赤い装甲に、鮮血をぶちまけた様に毒々しい赤色を重ねる。卵の殻と共に母の腹を嘴で突き破り、他の生き物の肉を貪り、血を浴びて育った魔鳥の如きなんと恐ろしい姿である事か。
 RF91は原形となったガンダムF91がヴェスバーをはじめとした射撃兵装を所持していたのに反して、とことん格闘兵装ばかりを装備した機体である。
 胸部に隠したアンカーをはじめ、F91最強の火力を誇っていたヴェスバーを排して、特機の装甲を切り裂く切断力を付与されたウイングカッターを装備するほど徹底されている。
 一応胸部にイーグルバルカン二門を備え、今回はオクスタン・ライフルを携えてはいるが、普通のパイロットだったら首を捻りそうな偏重ぶりだ。ただ、相手を斃す手ごたえを好むアウルにとっては実に好もしい機体であった。
 エムリオンリターンズ・カスタムのように単独で数機分の弾幕を展開する戦い方を行う事は不可能だが、一対一での戦闘では無類の戦闘能力を発揮するのも事実。
 いい機体であった事は認めるが――エムリオンタイプ以外の機体、しかもガンダムタイプの新型という事もあり、アウルの気迫は並みならぬものであった。


 エペソが乗艦しているセプタ級シグロードの格納式超電磁カタパルトでは最後の出撃機となったニルヴァーシュが、所定位置について発艦許可を待っていた。
 MSの一般規格より一回りほど小さい躯体は、頼りなく華奢に見えるが、一度戦場の波に乗れば言葉通り縦横無尽の軽快で、行動の予測が経たない不規則な動きで敵を討つ勇猛な戦士となる。
 今、その背に設けられた横並びの複座式コックピットの中で、レントン・サーストンは操縦桿を握りしめ、じっと顔を俯かせていた。
 出撃を直前に控えた今でさえ戦いへの恐怖は消えず、足手まといになる事への恐怖は消えず、好きな人の横で無様な真似をする事への恐怖は消えず、それらはすべて不安と共にあった。
 思春期真っただ中、いやさ思春期ドまっただ中の健全な青少年たるレントンの精神には相当な負担と言えるだろう。
 すでに戦士として、兵士としての覚悟を確たるものにしたシンや、破壊する事しか知らない人間にされてしまった刹那とは決定的に違う、ごくありふれた少年であるレントンだからこそ、その恐怖と不安は計り知れないほどに大きく重く厳しい。
 しかし、それゆえに、それでも前に進めた時、屈した膝を再び伸ばした時、折れた心を繋ぎ直した時、少年は強く逞しく成長する。
 軽減されているとはいえLFOの超機動によってかかる負荷からパイロットを守り、バイタルデータなどを記録する特製のパイロットスーツに身を包んでいたレントンは、ひとつ息を大きく吸う。なにか、覚悟を決めた男の顔をしていた。

「エウレカ、聞こえてる?」
「なに、レントン」

 レントンにちらりとよく磨かれた硝子玉に似た瞳を向けて、エウレカが応える。出撃を直前に控えて、メインパイロットであるエウレカは神経を鋭敏化させていたが、それでもレントンにだけはきちんと受け答えをするようだ。
 それだけエウレカにとってレントンが特別視される存在であるという事だが、いまのレントンにはその事に気付く余裕はない。

「おれ、おれ、とにかくやれるだけやるよ。君の隣に座っているくせに碌にできる事なんてないけど、それでもやる。がむしゃらにやるから!」
「うん、分かった。でもシートは汚さないでね」
「う……うん。がんばるよ」

 素っ気ないエウレカの答えはレントンの意気を幾分挫いたが、その声音がいつもよりも柔らかなものであったと気付けていたら、もう少し発奮もしただろうになんとも間の悪い少年だ。
 レントンが軍に入隊した時以上の覚悟で話しかけている間に、オペレーターから発艦の合図が出て、エウレカは即座に思考を戦闘へと切り替えた。すこし凹んだ様子を見せていたレントンも新たに気力を補充して、目に光が宿る。

「行くよ、レントン、ニルヴァーシュ」

 レントンは思い切り息を吸い込み、加速のGが全身にかかるのを感じながら思い切り叫んだ。体の隅々に行き渡って、心を再び折ろうとする恐怖を吹き飛ばす為に。

「アーイキャーーーーン…………フラ〜〜〜〜〜〜イ!!!!」



 最後にニルヴァーシュが出撃したのを確認したABインパルスが攻勢に回ったことで、先に出撃していたクライ・ウルブズの機体の圧力が一段上がり、三輪艦隊の動きに鈍重さが生じて、恐怖が垣間見える様になる。
 特機であるグルンガスト弐式の存在もあるが、火力重視に編成された今回のクライ・ウルブズ各機の怒涛の猛攻が、対峙する連合諸兵の心境に色濃い死の影を落としている。
 これまで機動力重視の装備が多かったレオナのガーリオン・カスタムは、ヴァルシオンの腕部を流用したギガンティック・アームド・ユニット形態となっている。
 ガーリオン・カスタムの腕部に被せる様にして巨大なヴァルシオンの腕が肩上部に接続され、胸部にはミサイルポッド付きの増加装甲、超重量の機体を支える為に脚部にもフレーレム補強の為にスラスター内臓の追加装甲が施されている。
 本来ヴァルシオンの左腕部に装備されるクロスマッシャーの発射機構を右腕部にも内蔵し、なおかつディバイン・アームを二刀流に構えるなど、運動性を犠牲にしつつも大型MA、特機を小細工なしに破壊できる破格の攻撃力を誇る。
 ギガンティック・アームド・ユニットの特性を考えて、ティエリアのヴァーチェと同様に母艦からはあまり離れず、機動砲台としてギガンティック・アームド・ユニットの絶大な火力を遠方広域に展開する形で戦っていた。
 レオナの正確無比という他ないオクスタン・ライフルEモードの光の弾幕に加えて、陽電子リフレクターもぶち抜く破壊力のクロスマッシャーが連射され、ABインパルスに勝るとも劣らぬ獅子奮迅の活躍ぶりだ。
 防御に関してももともとガーリオン・カスタムにEフィールド発生器が組み込まれていたが、これに改良型カルケリア・パルス・ティルゲムによって増幅されたレオナの念が、念動フィールドとして機能し二重の防御場を持つ。
 攻撃・防御の両面において、レオナの乗るガーリオン・カスタム・ギガンティック・アームド・ユニットはある種の完成系に到達した機体と言えるだろう。ただしコストが高いやら操縦が困難やら整備が面倒といった諸問題のある機体だが。
 ガーリオン・カスタム本来の腕に比べて何倍も太いヴァルシオンの腕から放たれるクロスマッシャーは、威力こそ本家と遜色はなかったが、速射性も本家とさして変わっていないため、連射の利く武装ではない。
 そこを両腕にクロスマッシャーを装備して次射にいたるまでの空白の時間を埋め、さらにガーリオン・カスタムの武装でカバーする形となっている。
 ただクロスマッシャーの圧倒的な破壊力を前に萎縮しないパイロットはごく稀であり、クロスマッシャーを掻い潜ってまで接近し、死中に活を見出す者はさらに少なく、迎撃のためにオクスタン・ライフルが火を噴く事は少なかった。
 念動力の扱いに関して一通り受けたゼ・バルマリィ帝国系のレクチャーの内容を思い出しながら、レオナは秀麗な美貌をぴくりとも震わさず、冷徹な瞳で画面の向こうの敵を狙い続ける。
 狙う――と記したがレオナが行っていたのは、より感覚に委ねた行動だった。敵に狙いをつけるのではなく、敵をこちらに引き寄せる感覚、額にある第三の瞳で見る感覚、見えざる手を伸ばして敵を包み込み捕える感覚。
 カルケリア・パルス・ティルゲムによって増幅された念を戦闘の主軸に置く戦い方だ。以前なら一笑に伏していたはずのオカルティックな感覚に慣れ親しんだのは、いつの頃からだったか、レオナは正確には覚えていなかった。
 クロスマッシャー二門に加えてオクスタン・ライフルBモードの、威力を重視した実弾の狙いをコンマ0秒以下の速さで定め、見えない手の中に包み込んだ敵へむけてレオナのたおやかな指が引き金を引く。
 ガーリオン・カスタムGAUの巨腕部から放たれた破滅の赤と鏖殺の青と消滅の白によって構成される光の螺旋は、機動空母から出撃したばかりのゲルズゲーとザムザザーを容赦なく飲み込み、膨大なエネルギーは重厚な大型MAの機体を徹底的に破壊し尽す。
 両手保持したオクスタン・ライフルから放たれた低初速高威力の実弾は、半身を隠していたシールドからわずかに覗いたジェットウィンダムの頭部を、狙い過たず貫通し粉砕する。
 ボッ、という粉砕音と共に実弾がジャットウィンダムの後頭部から抜けて、脳漿や頭蓋骨、血液の代わりに繊細な内部機器や、カメラ・アイのレンズが微塵に砕けて噴出する。
 センサー類の集中する頭部を失って挙動に大きな隙を生んだジェットウィンダムに、非情な第二弾が襲いかかり、敵意の炎を噴出していたコックピットに射入口を穿ち、バックパックのジェットストライカーも貫いた。
 頭部を失って一秒とかからずにパイロットの命を奪われ、戦闘能力を完全に奪われて、ジェットウィンダムは即座に爆発を起こし、炎の牙に群がられた四肢が爆炎の中から千切れ飛んでゆく。
 一度に三機の撃墜。GAUの性能もさるものながら、その性能を引き出すレオナの技量あればこその戦果である
 見る者がいたならばその大部分は陽電子リフレクターをものともしないクロスマッシャーの破壊力と派手さに目を奪われようが、わずかな隙を逃さずにジェットウィンダムの頭部を狙撃したレオナの技量もまた称賛に値する。

「この前の部隊より錬度が低いのは助かるわね」

 色艶のよいレオナの唇からは、かすかに安堵の成分を含んだ吐息が零れた。
 敵機動艦隊の主戦力をわずかに八隻の空中母艦で包囲しての戦闘は、先だってのロアノーク艦隊との戦いの時同様に数の不利を抱えてはいたが、質という点では三輪艦隊の方が劣っており、少なからずクライ・ウルブズの面々には救いであった。
 オクスタン・ライフルのカートリッジ交換が終わる数秒間、Eフィールドの展開に機体出力を割いて、周囲の敵機の動きに澄んだ湖の青色をした瞳を巡らすレオナの横に、いつものようにタスクが機体を横付ける。
 タスクは今回の戦闘で外装の全面交換をはじめ堅牢なシールドとそれを支える腕部関節をはじめ、機体中枢にまで手を入れて修理する必要の出たジガンスクードから、別の機体に乗り換えていた。
 ジガンスクードの修理が終わるまでの繋ぎの機体としてタスクにあてがわれたのは、セプタンに積まれて持ち込まれたヒュッケバインMk−Uのカスタム機である。
 かつてはクライ・ウルブズに在籍していたジャン・キャリーが、パーソナルカラーの白に染めて乗機とし、ヤキン・ドゥーエ戦役を戦い抜いて戦果を上げた非常に優秀なパーソナルトルーパーだ。
 ジャンが工学博士としての技術と知識を活かす道を選んだために、パイロット不在となってヒュッケバインMk−Uの量産型や後継機の開発に、オノゴロ島の軍事工廠に預けられていたものである。
 トダカ艦隊およびクライ・ウルブズへの補給物資の一つとして運び込まれたものだが、最新の機動兵器技術を盛り込み、カルケリア・パルス・ティルゲムをはじめ念動力系のシステムを組み込み、性能は前大戦時を大きく上回る。
 後継機であるヒュッケバインMk−Vの試作装備や改良型テスラ・ドライヴなどが試験的に搭載されており、機体の外部装甲などもMk−UからMk−Vよりのモノに変えられていて、わずかながら外見が変化している。
 背にはマルチトレースミサイルを内蔵したコンテナを装備し、ビームソードはより高出力のロシュセイバーに、チャクラムシューターはファングスラッシャーに換装されている。
 カルケリア・パルス・ティルゲムの搭載によって、ガーリオン・カスタムGAU同様に念動フィールドが展開可能で、またグラビコン・システムによってGテリトリーの同時展開も可能だ。
 ヒュッケバインMk−UからヒュッケバインMk−Vへの過渡期にある機体であり、その事からヒュッケバイン・ハーフMk−V、省略してハーフMk−Vと開発者達からは呼ばれている。
 ジガンスクードに乗り続けたタスクにとって特機からPTへの急な機種転換は難儀な話に思えたが、カルケリア・パルス・ティルゲムによって脳にダイレクトに操縦システムがダウンロードされ、短時間で操縦が可能となった。
 新西暦世界でクスハ・ミズハが初めてグルンガスト弐式に搭乗した際に、民間人であったにも関わらず、あしゅら男爵の機械獣と戦えたが、ハーフMk−Vに搭載されているシステムも弐式に搭載されていたものと同じ代物だ。
 パイロットが念動者である事を前提とした機能である為、パイロットを選んでしまう事が大きな欠点ではあるが、機動兵器のパイロットを二十四時間にも満たない時間で調達できるので画期的ではある。
 ハーフMk−Vはシグロードを狙うフラッグに向けて、オクスタン・ライフルで牽制し、シグロードの後付け対空火器である76mmレーザー対空砲座の雨の中へと誘導し、瞬く間に紫のフラッグは青いレーザー雨に穿孔だらけにされる。
 運動神経は悲しいが視野の広さや追い込まれた状況での頭の回転の速さには定評のあるタスクは、周囲の状況を吟味してマルチトレースミサイルを、放射状に射出されるプラグラムを選択して発射した。
 ハーフMk−Vとガーリオン・カスタムGAUの周囲に円形に広がったマルチトレースミサイルは、水上艦からの砲撃やクラップ級巡洋艦から発射されたミサイルへと向かい、ことごとく撃ち落として見せる。
 動体視力その他はそこそことはいえ、念動力者としては地球全体の規模で見ても類稀な素養を持つタスクは、カルケリア・パルス・ティルゲムの助けもあり、繊細かつ大胆な操縦を可能としていた。
 紺碧と濃い青を基調としたカラーリングのハーフMk−Vの颯爽とした登場に、レオナはわずかに目を見張ったが、すぐにんん、と子猫の様に喉を鳴らして意識を切り替えた。

「新しい機体の調子は悪くないようね、タスク」
「へへ、ジガンとあんまり違うもんでどうしようかとおれも参ったけど、さっすがにヒュッケバインタイプの新型、動きが違うぜ。ジガンの整備にこき使われた疲れも吹っ飛ぶってもんだよ」

 そう笑って答えるタスクの眼の下や頬はかすかに窪み、長時間に渡ってジガンスクードの修理に駆り出された疲労のわずかな残滓がある。
 それでも出撃が決まった時から整備のローテーションから外されて、高カロリーの栄養剤を腹に入れ、睡眠を取っているからコンディションは充分戦闘に耐えられる状態に持ち直してはいる。

153通常の名無しさんの3倍:2010/03/14(日) 00:23:06 ID:???
支援
 ブラックホールエンジンを搭載した初代ヒュッケバインはステラの操縦のもと、ヤキン・ドゥーエ戦役を戦い、最後には失われたもののBHエンジンがもたらす膨大なエネルギーに支えられた性能を遺憾なく発揮した。
 出力機関こそプラズマ・ジェネレーターに換装されているが、その他の装備や機体のパーツのグレードが一段階向上したハーフMk−Vの性能が存分に発揮されたならば、その戦果は敵陣営に恐怖をもたらすものとなるだろう。

「私はこのままシグロードとミネルバを守る位置に着くけれど、あなたはアルベロ少佐のサポートではなくって?」
「その少佐からの命令だよん。MAと艦艇の迎撃にレオナちゃんを専念させて、MSはおれが叩けってさ。いやあ〜おれ達の仲を応援してくれているのかねえ」
「馬鹿な事を言っていないで戦闘に集中しなさい。ただでさえあなたはそそっかしいんだから」
「そんな危なっかしいおれは放っておけない? なんちゃって〜」

 コックピットの中のタスクが首を傾げるのに合わせてハーフMk−Vも小首を傾げた。無駄な所で細かな技術を披露するタスクに、レオナは呆れて、勝手に言っていなさいと言い返す事しかできなかった。
 この二人の付き合いももうそれなりの長さになるのだが、決定打になる出来事には欠けているのか、レオナがタスクを相手に正直な態度と気持ちを表す事は、相変わらず少ないままだった。

「二人とも甘酸っぱい恋のやり取りはそこまでにして置いてくれよ」

 無粋かな、と思いつつ、タスクと一緒にレオナのサポートに回されたロックオンが、苦笑を浮かべて二人に声を掛ける。
 フルシールドを装備したガンダムデュナメスは、ハーフMk−Vとガーリオン・カスタムGAUより六百メートルほど後方に位置し、すでに額に隠されているセンサーを露出して狙撃態勢を取っている。
 二人がデュナメスに目を向けた瞬間、金属を引き裂くような音が響き渡り、GNスナイパーライフルから高圧縮されたGN粒子が一条の光線を描いて、遥か遠方の空を舞っていたフラッグのドライフレームを貫き爆散させた。
 突貫工事でコックピット内に増設されたスペースに収納されたハロが耳をパタパタと開閉させながら、命中、命中と囃し立てる。
 ようやく見慣れた風景になったデュナメスのコックピットの中で、ロックオンは小さく笑ってハロにウィンクを返した。

「ろ、ロックオン・ストラトス!? こ、恋のやり取りだなんて、何を」
「傍から聞いているとそんな風にしか聞こえないって事さ」
「お、オープンチャンネルだったの?」
「安心しなよ、敵さんにゃ聞こえていないさ」

 おれらにはまる聞こえだったけどな、とは言わないでおく。戦闘に支障が出るほど動揺しそうだったからだ。タスクはレオナの狼狽ににこにこと笑みを浮かべ、レオナはお人形さんみたいに整った頬をうっすら紅色に染めているに違いない。
 そう言いあう間も数で勝る三輪艦隊の水上艦艇が主砲や対空ミサイルを絶え間なく発射し、それに狙われるレオナやロックオン達はEセンサーや念動力によって感知した攻撃に対し、防御ないしは回避行動を取っていた。
 ロックオンの場合はいわずもがな、ハロにフルシールドの展開角度と機体の制御を預け、自身は狙撃に専念する為に、ライフル型スコープの先に映る敵機に対して電子義眼となった右目の眼差しを注ぐ。
 スコープ越しに敵機を操るパイロットの呼吸を感じ取る様に、集中力を針の先よりも細く研ぎ澄まし、研ぎ澄ました集中力が呼吸と共に指先に行き渡り、それがスコープに設置された引き金を通して機体に伝播してゆく。
 息を吸い、肺が膨らむ。膨らんだ肺から息を細く鋭く吐く。相手のパイロットの呼吸が、感情が、焦りが、高揚が、ロックオンの思考に鮮明に反映される。

――捕まえたぜ。

 口の中でそう呟いた時には、すでにロックオンの指はトリガーを引ききっている。光の速さで射出されたGN粒子は、一瞬の煌めきと共にジェットウィンダムの左胴体から入り、右の肩の付け根へと抜ける。
 コックピットを巻き込みつつ機体内部を高熱と高エネルギーで融解させ、破壊し、爆砕させ、噴水の様に噴出する血液の代わりに紅蓮の炎が噴き出した。
 ジェットストライカーを装備し、大気の影響を受けてパイロットが意図しない不規則な動きを交えた回避機動を敵機がとる中、正確無比な狙撃で着実にロックオンは戦果を積み重ねる。
 ふと、デュナメスとトリオを組んで戦闘を再開させたタスクが、デュナメスの狙撃の先に、必ずと言っていいほど、緑の光跡を描いて空を舞うニルヴァーシュの姿がある事に気付く。
 エウレカが操縦桿を握り、レントンがサポートするDC初のLFOは、テスラ・ドライヴ搭載機を凌駕する三次元機動をもって多くの敵を撹乱し、時にブーメラン型ナイフで切り裂き、時にミサイルと銃弾の弾幕を形成している。
 そのニルヴァーシュを囲い、狩りたてようとする動きを見せるジェットウィンダムに向けて絶妙なタイミングでデュナメスの狙撃が放たれ、ニルヴァーシュは思うさま波に乗るサーファーの様に動き続ける。

「焚きつけた責任は取らないとな」
「ロックオン、ナニカイッタ?」
「いや、何でもないさ」

 そう、何でもない。自分の言った事に責任をとるなんてのは、大人なら当たり前のことなのだから。



「メガビームライフル!」

 シンが武装の名前を叫ぶのは、音声認識による武器選択システムを搭載していたグルンガスト飛鳥に乗っていた時についた癖だ。ABインパルスには音声認証のシステムはないが、時折口走ってしまう。
 ABインパルスの右腕に携えられたメガビームライフルから放たれる眩いという言葉では足りぬ圧倒的な光量の一撃は、イージスシステムが無力化され木偶の坊に等しくなってしまった水上艦のど真ん中に直撃する。
 船底まで容易く貫き、超高熱量で膨大な量の海水が蒸発して、一瞬、イージス艦を真白い霧が包み込む。瞬間的に海面が沸騰し、水蒸気爆発を起こす寸前で艦艇の機関や弾薬が一気に爆発を起こして、直径百メートルを超す大爆炎へと変わる。
 今の一撃で百単位の人間が死んだ、とシンの心の片隅で囁く声がし、磨き抜かれ鋭敏化された感性は死者の断末魔の声を、最後に思い浮かべた父母の、恋人の、子供の、友人の顔を朧気ながらに感じ取る。
 まばたき一回にも満たない時間、シンの脳裏を占めた死者たちの優しい記憶と死への恐怖に、胸に痛みを覚える。
 わずかな痛みでしかないことが、シンには悲しかった。
 もう人を殺す事に、すっかり慣れてしまった。自分が手にかけた人間が死にたくないと叫ぶ声に動揺する事も、今ではほとんどない。
 どれだけ自分の手は血で濡れたのか、シンは戦闘中には決して自分が自分の手を見ようとしない事に、ずいぶんと前から気付いていた。

「……っ!」

 感傷に浸る暇があるのか? 耳の内側から聞こえてきた囁きに、シンは反射的に機体を操る。アサルトパーツ両肩内部のEフィールド発生器が作動し、ABインパルス目掛けて放たれた「点」ではなく「面」を構成するミサイルの雨を遮断する。
 薄く加工したエメラルド片を組み合わせたように美しいEフィールドが、不遜なミサイルをことごとく防ぎ切り、ブルーを主体とするABインパルスの装甲に傷一つ刻まれる事はなかった。
 本来Iフィールドを発生させるアサルトパーツであるが、エネルギー兵器と実弾兵器に対する防御性と、プラズマ・リアクターの生む高出力を利用した標準のEフィールドを上回る強固さから、Eフィールドが採択されている。

「艦とMSが連携してきたかよ」

 そう吐き捨てるシンの脳裏を突き刺す殺意の針。思考速度よりもはやく肉体が反応した時、ABインパルスへと脚部の超振動クローを振り下ろさんと巨体を動かしていたザムザザーの頭部に、ロングレンジキャノンの砲口が向けられていた。
 彼我の距離二百メートル、ザムザザーの落とす影がABインパルスにかかっていたのは、わずかに数秒の事であった。
 長砲身の奥で凶暴に輝く重金属粒子は、コズミック・イラの技術が生み出した異形の魔獣をあざ笑いながら解き放たれる。
 ぎゅおぉぉおううう、と荒れ狂う獣の喉から放たれるのが相応しい咆哮は、太いピンク色の光とともにザムザザーを貫いた。
 直径にして五メートルを超す大穴は、メガ粒子砲の莫大なエネルギー・熱量によって、溶鉱炉の中の鉄と同様にどろりとザムザザーの機体全体を融解させてから後、爆発飛散する。
 ザムザザーを貫いたロングレンジキャノンの一撃は、幾分か減衰しながらもさらに天高くへと走り、大いなる神が放った雷のようにそのまま複数の敵機を火球へと変える。
 シンは一秒前までザムザザーの形をしていた融けた鉄塊を避け、機体に天空を向けさせたまま上昇させて、全知覚器官を導入して三百六十度の気配を探知。
 背後、左斜め前上方、直上から複数の殺意。放たれる前が五つ、放たれた後が三つ。それらを脳内で言語化する前にシンの肉体は生存に必要な行動に動いていた。
 背後からの攻撃――七発のビームライフルを、機体を捻らせて躱すと同時に右腕だけ背後に向け、相手を視認する事無くメガビームライフルを二射する。
 七つのビームのうち、三発がABインパルスの装甲をわずかにかすめ、振動を与えるのとほぼ時を同じくして、メガビームライフルの銃口から比較にならないほど強力なエネルギーが解き放たれる。
 視覚ではなく第六感と気配探知によって捉えた敵影への射撃は、本来当たる筈もない無造作かつ乱雑な動作だというのに、ABインパルスの背後を取った五機のジェットウィンダムをメガ粒子の濁流の中へと飲み込む。
 真上を取ったフラッグが放った六基のミサイルは、機体を三メートルほど右方向にスライドしてから砲身を上方向にはね上げたロングレンジキャノンを発射し、その余波で爆散させ、ミサイルを放ったフラッグの下半身が本命のビームに消し飛ばされる。
 直撃させる必要もなく敵機を撃破できるABシルエットの圧倒的な攻撃力に、シンは畏怖の念を強くし、自らの力の絶対性に酔いしれそうになる自身の感覚を是正しなければならなかった。
 この戦果は自分の力ではない。アサルトバスターシルエットの性能に頼ったものだと、そう思わなければ自分の心は慢心の鎖に囚われるだろう。
 新たな敵機の接近を告げるアラートと、心臓をちくちくと刺す殺気の針の刺激によって、シンの意識はすぐさま戦場に引き戻される。ABインパルスの左右から挟撃を仕掛けるフラッグ六機に、シンは素早く反応した。
 人体の神経伝達の限界をはるかに超えた反応速度は、これまでシンが耐え抜いてきた激烈な時間を暗示していたが、トリガーに掛けられたシンの指が引き絞られる事はなかった。
 左右のフラッグの後方に、ちょうど友軍機の姿があり、威力のあり過ぎるABインパルスのビーム兵器ではフレンドリーファイアを招きかねないと、即座に判断したためだ。

「だったら、こいつで! マイクロ・ミサイル!」

 ABインパルス機体各所に設置された六基のミサイルポッドから小型のミサイルが、一息に十八発、推進剤を底部から噴出させながら発射される。
 流石にビームほど破壊力は見込めず、また迎撃も容易ではあろうが、これなら後方の味方に流れ弾が行く可能性も少ない。
 案の定、放ったミサイルの半数はフラッグの携帯火器によって撃ち落とされ、残りも回避されるかディフェンスロッドによって直撃を防がれる。
 ミサイルの爆発によって生じた煙が、それぞれのフラッグの装甲に纏わりついて離れるよりも早く、シンは次の行動に移っていた。
 背のウィングバーニアから盛大にテスラ・ドライヴの粒子を放出し、機体を加速させつつ上昇してフラッグを眼下に見下ろす位置取りを行う。これなら外れたビームも、海面に直撃するだけで済む。
 シンの左手の指がわずかな抵抗を感じながらトリガーを引き絞り、スプレービームポッドから二十近いビームが、眼下に捉えたフラッグ達へと一直線に輝跡を描く。
 滝の様に降り注いだ拡散ビームは、メガビームライフルやロングレンジキャノンに比べれば一発一発の威力は低かったが、一機に対して五射六射と命中し、フラッグが糸の切れた傀儡人形の様に壊れて行く。
 ABインパルスの左側に回り込んできたフラッグをスプレービームポッドで一掃したシンは、右側に来たフラッグへと腰両側のヴェスバーの銃口を向ける。視覚的には真下を向いているシンの右目の上端の辺りにフラッグの機影が映る。
 友軍機の撃墜と同時に三方向に散開し、高度をこちらに合わせてきたフラッグらの一機を照準内に素早くとらえるが、シンはまたしてもトリガーに指を添えるに留めた。
 フラッグ達は、ザフトのザクやDCのエルアインスを背後に置いてABインパルスへとビームを射かけてきていた。
 ヴェスバーの銃口を向けたまま、シンはフラッグのパイロット達が飛ばしてくる殺意を感知し、攻撃されるよりも早く悠々と回避行動をとって、乱射されるビームの全てを回避している。

「こいつら、狙ってやっているのか?」

 強力すぎるABインパルスの武装をある程度封じるために、背後を突かれる危険を冒してまでDCやザフトの機体を背後に背負うなり近接させた状態を維持している。
 それをやってのける度胸と技量は称賛に値するが、よくもそんな危険な真似を実行したものだ。ABインパルスの攻撃にある程度枷をかける事が出来るにせよ、他の敵機への警戒と集中が途切れやすくなろうものだというのに。

「なら接近戦で片付ければ何も問題はないさ」

 メガビームシールドを左腕の外側に固定し、代わりにビームサーベルを握らせたその瞬間に顔面を、灼熱の殺気がおもいきり叩いてきた。強靭な意志に支えられた殺意は、焼き鏝を当てられた様な苦痛をシンにもたらす。
 眉を顰めながらも、シンは脊髄反射でメガビームシールドのビットを展開し、UC150年代の戦艦のビームシールドに匹敵する堅牢な光の盾が出現する。
 ABインパルスの全身をカバーしてもなお余りある巨大なビームシールドは、クラップ級巡洋艦の主砲の直撃にも耐えて見せ、ABインパルスのモニターを埋め尽くす光の砲撃は徐々に細いものへと変わってゆく。
 絞られたとはいえ目を焼く光の強さに目を細め、シンは苛立たしく歯を食い縛る。

「……戦艦のメガ粒子砲か。主砲の前に誘い込まれたかよっ!」

 ABインパルスの武装使用を牽制しつつ、クラップ級巡洋艦の主砲が狙いやすい位置に誘い込み、動きを束縛する。最後のABインパルスの動きを束縛する事は叶わなかったが、向こうのに手に乗ってしまった形だ。
 まだ数の少ないクラップ級を使ってまで撃墜しようとしてくるとは、なかなかこちらの事を高く評価してくれているようだ。

「なら、その評価に返礼してやるさ。最悪の形でな!」

 ふ、と浅くシンは息を吸う。万分の一秒ほどの集中で、シンは己の内面へ意識を深く深く潜り込ませ、ソレを見つける。
 星明かり一つない暗黒の空間に、波紋を浮かべながら弾ける真っ赤な種子。弾けた種子の内側からは色とりどりの粉雪の様に儚い光が、わずかな時間だけひかり輝いて暗黒の世界を照らし出す。
 同時にシンの体内の全細胞、全神経に波紋が起こした不可視の波が広がり、降り積もっていた疲労や加えられていた負荷が一時払拭され、肌を剥がされたように痛いほど鋭敏化する。
 放たれた殺意を感知し、攻撃される前から回避する事を可能とする領域にまで高められたシンの知覚能力が、さらに肉体的に一段階昇華され、シンは機体の装甲を撫でる風の流れさえ明敏に察知していた。
 前大戦時、ステラが撃墜されたと勘違いした事をきっかけに目覚めたシンの力。DCの戦士たちの中でも、現在、シンだけが有するSEEDの力。
 この力との付き合いも長く、自力で発動できるようになったのもかなり前の話だ。赤から昏く沈んだ真紅の色へと、シンの瞳が変色し、少年の幼さを残した顔から表情がぬぐい去られて、能面のような印象を強くする。
 その戦闘能力を全開放し、三輪艦隊を壊滅させんと、シンの冷徹な闘志と業火のごとき闘気がエネルギー・マルチプライヤーを通してABインパルスの機体を陽炎のように包み込んだ。

「すぐに終わらせてやるさ、こんな戦い」

 静かなシンの言葉であったが、その実、響きの一つ一つに煮えたぎる烈々とした感情が込められていた。

158通常の名無しさんの3倍:2010/03/14(日) 00:41:13 ID:???
支援
159ラストだけ貼られてないのでお手伝い:2010/03/14(日) 01:10:40 ID:???
 睨んだ通りに攻撃の手を緩めたABインパルスに、メガ粒子砲が直撃するもビームシールドが展開されて防がれた光景を、三輪は忌々しげに見つめていた。鬼の形相を連想するほど険しい顔は、その視線だけで人を殺してしまえそうだ。

「強力な兵器は称賛されてしかるべきだ。しかし、強力すぎる兵器と強力な兵器は違うものなのだ。馬鹿者め」

 それは味方を巻き込みかねないほど強力な武装で固められたABインパルスを開発したDCに向けられたようにも、あるいはオブザーバーシートに座す狂気科学者に向けられているようでもあった。
 ミノフスキー粒子によるジャマー効果が見込めなかった動揺はすでに三輪にはなく、艦隊各員に対し激を飛ばし、クライ・ウルブズの猛攻にしり込みする諸兵の士気をよく支えていた。

「コッホ博士、いい加減貴様のおもちゃも出してもらうぞ」

 この状況でさえ断るようならば、銃殺も止む無しと、三輪はこの時、腰のホルスターに収めていた拳銃に右手を掛けていた。
 三輪の殺意に気付いているのかいないのか、元DC副総帥アードラー・コッホは、けひけひと耳障りな笑い声をあげながら、鷹揚に頷く。

「よかろう。わしの作り上げた完璧な無人機動兵器の力、ビアンめに教えてやるには、ちょうど良い手合いよ」

 自分の作品達の絶対勝利を疑わぬアードラーの笑みは、ただただ深まるばかりで、狂気と欲望とがどろりと絡まり合った瞳には、世界を統べる存在となった自分の栄光の未来ばかりが映し出されていた。
 そして、アードラーが完成させたゲイム・システムを搭載したヴァルシオン改(さらにそのデチューン機なのでヴァルシオン改・改とでも言うべきか)部隊の出撃を承認し、深い青を纏う魔王の軍団が戦場に姿を現し始める。
 戦闘空域に急速に接近する大型熱源を一番に察知したのはセプタ級シグロードのレーダー観測員だった。

「艦長、司令、戦闘空域に急速接近する機影あり、数は二十、機種は……ヴァルシオン改です。所属は地球連合軍と思われます!!」
「な、ヴァルシオン、だと! しかも、二十機!?」

 動揺を隠せないシグロード艦長をはじめとしたブリッジクルー達の中で、ただ一人エペソだけはやや目を細めただけだ。
 ジェネシスをめぐる攻防で地球連合軍が運用するヴァルシオン改と戦った経験から、このような事態もあり得ると以前から踏んでいたのだろう。
 ヤキン・ドゥーエやボアズで交戦したヴァルシオン改にはさまざまな装備が施され、ニュータイプ能力に目覚めたグレース・ウリジンの操縦技術とあいまって、サイレント・ウルブズらの各精鋭達が複数がかりでようやく互角だった。
 二十機すべてのヴァルシオン改が、あの時のヴァルシオン改ほどの性能を持っているとは考えにくいが、DCのフラッグシップたる機体を量産しこちらにぶつけて来た生産力は脅威だ。
 その圧倒的性能の恩恵に少なからずあずかってきたDCの諸兵にとって、量産されたヴヴァルシオン改の部隊は、大きな衝撃を与えるには十分すぎる。
 それに量産型とは言えヴァルシオン改の性能は決して侮って良いものではない。となれば対特機との戦闘経験を持ち、突出した戦闘能力を誇るクライ・ウルブズが対処するのが最善手だろう。
 クライ・ウルブズの各機が抜ける事で戦闘のバランスが崩れてこちらに不利な形に天秤が傾く可能性もあったが、通常部隊では到底太刀打ちできない相手に違いない以上、他に策もなし。

「クライ・ウルブズ全機に通達。地球連合のヴァルシオン改はクライ・ウルブズの戦力を持って撃滅する。シン・アスカ、アクセル・アルマー、レオナ・ガーシュタイン、ステラ・ルーシェ、貴公らの機体なら正面からでも当たり負けはせぬ。
 汝らを主軸に連携を持ってヴァルシオン改部隊と事に当たれ。メカゴジラとケロン部隊は継続して敵艦隊の攻撃に努めよ。ただしヴァルシオン改がこちらに抜けてきた場合は即座に迎撃にあたらせよ」

 エペソの指示がせわしく飛ぶ頃、全長687メートル、全幅1400メートル、自重9650トンの原子力空中空母二隻から出撃した二十機ものヴァルシオン改部隊は、四つのカメラ・アイに鈍い光を宿し、戦闘空域へと突入を開始する。
 すべては創造主たるアードラー・コッホの命令を果たす為に。魔王と称されるヴァルシオンシリーズの圧倒的戦闘能力が、今、DCとザフトに牙を剥かんと吼え猛っていた。
160ラストだけ貼られてないのでお手伝い:2010/03/14(日) 01:11:53 ID:???
つづく。

今回ここまでです。一ヶ月の大半が規制中ってどういうことなのかしらん。
今回のハーフMk−Vですが、もとはハーフΖガンダムからヒントを得た機体です。ハーフΖはネモ以下の性能でしたが、こちらはΖ未満Mk−U以上、って所でしょうか。
あと最後に出てきた空中空母もとある小説から引用した数値です。名称は悲しみの精霊ですね。
なんか無料で手っ取り早くつくれるホームページとかないでしょうかねえ。
ではでは、ご感想ご指摘ご助言おまちしております。お読み頂きありがとうございました。
161通常の名無しさんの3倍:2010/03/14(日) 01:14:54 ID:???
あーありがとです
さるったんよー(;´Д`)
162通常の名無しさんの3倍:2010/03/14(日) 01:20:01 ID:???
さるさんは毎正時にリセットされるので、1:00超えたら大丈夫だったんだぜ
163通常の名無しさんの3倍:2010/03/14(日) 13:09:18 ID:???
総帥氏、代理氏、乙です。
おおぉ……これはwktkせずには居られないヒキだ。ラスボス量産型と言えば資金・経験値の狩り対象ですが、これは実際の戦いだからどうなるのか……
164通常の名無しさんの3倍:2010/03/14(日) 15:35:19 ID:???
OG外伝のヴァルシオン軍団なんて
直前に戦った神の戦士のコピーと人造邪神に比べれば
クッパとクリボーくらいの差があったな
闇脳が第二形態に変形した時とか鼻水噴出して泣きそうになった

アードラーのヴァルシオンはどんなもんなのか・・・
二十機は流石に多いなぁ
165通常の名無しさんの3倍:2010/03/14(日) 17:18:29 ID:???
ヴァルシオンって量産されると弱体化されるんだよね。
そこら辺は基本に忠実で好きだけどさ

暗脳とシュウは明らかに順番間違えてるだろ……強さ的に
166通常の名無しさんの3倍:2010/03/16(火) 11:07:32 ID:???
次のOGのラスボスは完璧親父かガンエデンかな?
167通常の名無しさんの3倍:2010/03/16(火) 12:13:18 ID:???
外伝でフラグが立ったのでイエッツトとガンエデンとファートゥムを取り込んだAI1です
168通常の名無しさんの3倍:2010/03/16(火) 17:36:04 ID:???
OGだとトロニウムまだ余ってたかな?
ラ・ムーの星の代理って何になるやら、綾人くんの代わりには因子が足りないあいつがスポット参戦だろうか

ゼーレの代わりにバラルがMX開発支援してるとか秘密結社つながりで考えたが
バラルがそんなんやる動機もメリットも何も無いよな
ソーディアン確保して全世界のエネルギー停止させてバラルの塔探すとかのほうがまだ分かる
169通常の名無しさんの3倍:2010/03/16(火) 19:29:27 ID:???
OGでラ・ムーの星級の強力な不思議エネルギーってあんまないな。
候補としてはインフィニティーシリンダー・ディーンレヴ・ディスレヴ
ガウ=ラ・フューリアの動力炉・「ファブラ・フォレース(機械式ヨグソトースの門? ある意味獅子の心臓?)」
クリスタルハート・クリシュナハート
この辺かな、案外あったかも
170通常の名無しさんの3倍:2010/03/16(火) 21:21:55 ID:???
クリシュナハートは破滅の軍勢にとってこの上ない良素材だよなぁ
クリスタルハートと反比例して稼動効率は高いし
まぁ同じくらい暴走率も高いのだろうが
ただエルデさんが使ったとしてもラ・ムーの星に匹敵する力が出るかどうか・・・
自分以外の全てを憎んでるとのことらしいαユーゼスだったら結構使える?
171通常の名無しさんの3倍:2010/03/16(火) 21:34:04 ID:???
南極遺跡の技術を応用した二基接続すると『理論上』無限のパワーを持っているレース・アルカーナもあるな。
超神ゼストが出て欲しいんだが……CPSは問題ないし、DG細胞はラズニウムで代用できるけどカラータイマーがエネルギー源だからなぁ。
172通常の名無しさんの3倍:2010/03/16(火) 22:12:12 ID:???
ディス・レブならカラータイマーの代用もできるはず
つまりまさかの超神ゼストセブン爆誕をだな(ry
173通常の名無しさんの3倍:2010/03/18(木) 16:33:07 ID:???
Wのカズマはエクセレンによるいじられキャラ4号になりそうな予感がする。
174通常の名無しさんの3倍:2010/03/18(木) 20:56:29 ID:???
カイトの時のことを弄くるんですね! 分かります!
しかしカズマは「していた」代役の助手(しかも「あんたまで鷹の目、鷹の目かよ〜」でカイト時ギュネ役も可能)、白い魔人代役のキョウスケ
暑苦しいガイ代役のリュウセイに病弱サイボーグ代役のヒューゴ、鬼曹長代役のカチーナ、綺麗なフレイ担当の鬱ビス。
友人になれる同年代も大勢いるし、ある意味隙の無い構成でいつでもOG参戦出来るね。
175通常の名無しさんの3倍:2010/03/21(日) 22:44:50 ID:???
>>172
闇の力で動くウルトラマンか…
ダークザギやティガダークみたいだな
176通常の名無しさんの3倍:2010/03/22(月) 00:58:11 ID:???
カズマはぜひアサキムと絡んでほしいと思っている俺がいる。理由は言わずもがなw
しかしこうしてみるとカズマはホント版権キャラとの絡み多いなぁ……
なのに間違いなくOGキャラと恋愛フラグが立たないと確信できるのは何故なんだ。

>>病弱サイボーグ
凱にーちゃんのことかー!
病弱じゃないよ、ちょっと目を離すと棺桶に頭以外ぜんぶ入ってるだけだよ!
177通常の名無しさんの3倍:2010/03/22(月) 08:46:37 ID:???
カズマとOGキャラで相性がよさそうなのは……二部開始直後のカズマと、墜落事故で鬱状態のアイビスのコンビとか。
微妙すぎるな。
178通常の名無しさんの3倍:2010/03/23(火) 00:43:55 ID:???
避難所に総帥
179660 ◆nZAjIeoIZw :2010/03/28(日) 20:30:27 ID:???
愛用のPCが故障しますた。長期間投下間隔が空くと思います。かなり心折れましたが、なんとか投下は続けてゆくつもりです。
では、修理するか新品を買うか財布と相談します。お邪魔しました。
180ATX ◆HSp8BEENFi8z :2010/03/28(日) 21:00:29 ID:???
乙です
総帥殿の不在の間に投下して及ばずながらスレ保守に勤しみたいと思います












場合によっては総帥殿の復帰の方が早いかもw
181通常の名無しさんの3倍:2010/03/31(水) 09:31:05 ID:???
富士原屋のスーパーロボット大戦響の上下を買ってきた
α外伝のプリベンターとZのZEUTHが、ジ・エーデルの奸計で戦わされるという内容
ブライトやアムロ、万丈など同キャラとの対戦もあれば、それぞれの部隊にいないキャラとの戦いもあるとなかなか豪華
戦いの動機もZみたいにアレなものではなく、どちらかが倒されないと元の次元に帰還できないというやむを得ない理由からのもので、そのうえで本気で戦いつつ打開策を巡らす双方の自軍が熱い

マサキvsアサキムの光と影対決、外伝ゼンガーvsアクエリオン、シンvsウッソ等語りだすとキリがないが、とりあえず

「俺も忘れてもらっちゃ困るぜ!」ハイメガキャノン
→キンゲのフォトンマットであっさり防がれるジョドーさんの出落ちっぷりがマジパねェ
182通常の名無しさんの3倍:2010/03/31(水) 12:20:54 ID:???
名前間違っているぞ。
183通常の名無しさんの3倍:2010/03/31(水) 19:27:08 ID:???
最近のジュードさんの扱いはヒョーゴさんと似たようなものですから
184通常の名無しさんの3倍:2010/03/31(水) 19:29:52 ID:???
新約Zの所為か
いつの間にか落ち目というかネタ化したというか
不憫だねぇショーゴ
185通常の名無しさんの3倍:2010/03/31(水) 20:25:44 ID:???
でもユニコーンが参戦したあかつきには再びクローズアップされる!……はず、多分
186通常の名無しさんの3倍:2010/03/31(水) 20:57:42 ID:???
ユニコーンの映像作品は続きが出るまで時間がかかりそうですけど、小説はもう完結してますからね。遠からずスパロボで出そうな気もしますよ。
総帥なら思考操作系が豊富な世界だし、NT−Dを簡単に作り上げそうな気がするな。
187通常の名無しさんの3倍:2010/03/31(水) 21:51:27 ID:???
敵さんがSEED−Dとか作りそうだけどな
188通常の名無しさんの3倍:2010/04/02(金) 13:00:57 ID:???
むしろ総帥世界的に敵は、KC(KikuChi)−Dを開発すべきだろう
189通常の名無しさんの3倍:2010/04/04(日) 13:33:10 ID:W2HMFcWD
>>188
やめてーーーーー!!それ禁じ手よーーーーーー!!
人型兵器で戦うよりも生身で戦った方が安くツク世界になりかねんwwww。
190通常の名無しさんの3倍:2010/04/05(月) 04:05:14 ID:???
>>188-189
すまん、学の無い俺にkwsk教えてくれると助かる
191通常の名無しさんの3倍:2010/04/07(水) 09:51:24 ID:???
吸血鬼ハンターD
192通常の名無しさんの3倍:2010/04/08(木) 00:40:18 ID:???
>190じゃないけどなるほど。
読み間違えててキチク-Dって何だとずっと考えてた。
193通常の名無しさんの3倍:2010/04/08(木) 18:08:56 ID:???
携帯規制解除されたみたいだが住人戻るかな?
194通常の名無しさんの3倍:2010/04/08(木) 18:26:24 ID:???
195通常の名無しさんの3倍:2010/04/08(木) 18:31:58 ID:???
ギアスとフルメタ参戦は嬉しい
贅沢言えば00も欲しい
196通常の名無しさんの3倍:2010/04/08(木) 21:15:30 ID:???
個人的には反逆のルルーシュ無印と欲を言えばナナナも欲しかった
あとTSR
まぁガウルン無双が出来るだけでよしとしておこう

何はともあれ、主役待遇での参戦でよかったね・・・シン・・・
197通常の名無しさんの3倍:2010/04/09(金) 00:08:12 ID:???
>>194
見れん……。
何が悪いんだ?
198通常の名無しさんの3倍:2010/04/09(金) 22:45:05 ID:ApSnolsc
某ガンダムSSを読んでふと思ったのが
しかし、モビルスーツって滅茶苦茶、金を食いそうですね……。
ザクでもF22より高い生産費用が掛かりそうです……。
ボールは相当に安いでしょうけど。
199通常の名無しさんの3倍:2010/04/10(土) 05:37:07 ID:???
Gセイバーでそんな事言っていたな。
200通常の名無しさんの3倍:2010/04/10(土) 05:38:03 ID:???
映画版の方でね。
201通常の名無しさんの3倍:2010/04/10(土) 09:07:06 ID:???
ゲームだがギレンの野望をやればザクのありがたみと貴重さがよく解る。
202通常の名無しさんの3倍:2010/04/10(土) 09:53:24 ID:8yXk7R28
>>201
ザクまで良かったのになんでジオンはそれ以後はそれほどパッとしなかったのか?
某SSでは「人」のコストを大事にしていたからそこだろうか?
203通常の名無しさんの3倍:2010/04/10(土) 10:12:44 ID:???
某SSがなんなのか知らないけど
ギレンの野望じゃザクは確かに貴重なんだけど
人材が少ないはずのジオンでも機動兵器の大量運用が出来るのは凄い違和感あったなぁ
204660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/11(日) 01:01:47 ID:???
こんばんわ、避難所にこちらでは投下できないと判断した内容のリハビリ品を投下しましたのでご報告に上がりました。
いやあ、しかし、>>194、あれか、ロスカラのライを登場させてもいいような気が増してしまいますね。いやはや。出さないつもりだったけどどうしましょう。
グラハムに拾われてフラッグファイターの一員になるか、セルゲイに拾われて超兵ズと仲良くなるか、クライ・ウルブズに拾われてなし崩し的に仲間になるか、その他の勢力に拾われるか。
皆さんはどんな展開が面白くなると思われますか?
205通常の名無しさんの3倍:2010/04/11(日) 01:55:55 ID:???
グラハムに拾われてガンダムファイターの一員になるかに見えた
206通常の名無しさんの3倍:2010/04/11(日) 02:11:51 ID:???
うん、見事なキ●●イだったw
少々どこぞの地人と銀魂が入ってる気がするのは俺の気のせーだ、きっとそーだw


つか、銀魂にアレがいても違和感感じないと思うのは俺だけ?
207通常の名無しさんの3倍:2010/04/11(日) 02:34:08 ID:???
元々生身で大気圏突破するようなギャグ畑のキャラなので違和感無いのは当然であ〜る
208通常の名無しさんの3倍:2010/04/11(日) 22:25:10 ID:???
西博士がケロロたちをどう評価するかスゲー気になる。
209通常の名無しさんの3倍:2010/04/12(月) 13:34:17 ID:???
素晴らしい●●●●でしたww
あれ、この西博士なら逆十字程度なら、楽勝なんじゃね?
いやむしろグランドマスターにも魔を断つ剣にも勝てそうな気が…ww
210通常の名無しさんの3倍:2010/04/12(月) 14:32:51 ID:???
味方→有用だけど正直関わりたくない。
敵→屈辱だけど二度と関わりたくない。

SUN値が尽きるのはどっちが先だろうなぁ……。
211通常の名無しさんの3倍:2010/04/12(月) 18:56:42 ID:???
>>209
いかん、グランドマスターと表記されるの久々だから
大導師と表記されればピンとくるのに
グランドマスターと書いたら四天王全部乗せガンダムかと思ったじゃないの

あれなら余裕だわな
212通常の名無しさんの3倍:2010/04/13(火) 12:34:05 ID:???
総帥んとこのシンはシャイニングで全部乗せを真向唐竹割りしそうで困る
213通常の名無しさんの3倍:2010/04/13(火) 20:30:04 ID:???
総帥の所のシンはオリジナルでの不遇が嘘に見えるくらいの主人公ぶりだなぁ。
214通常の名無しさんの3倍:2010/04/13(火) 21:00:05 ID:???
オリジナル?某漫画こそ種死の本編でしょ?TVの方は、何かの手違いで放映された
同人アニメ。
215通常の名無しさんの3倍:2010/04/13(火) 21:39:34 ID:???
ところで総帥世界にラーダさんがいたらエラいことになってそうな件
原作だと何の変哲もない砲撃PTで「クンダリーニ!」とか叫んじゃってる只の変なヨガマニアだが、こっちの世界だと別な意味で変態になってそう
具体的に言うと、ダルシムとかラーマ・ヨガとか
216通常の名無しさんの3倍:2010/04/16(金) 00:16:44 ID:???
>>215
それはマズイ。ある戦場で奮闘するシン→その隙に本国に敵が迫る→ヨガ(実際にはウル○ラ)テレポート→シン無双とか出来てしまうじゃないか!
217通常の名無しさんの3倍:2010/04/16(金) 00:42:24 ID:???
テレポートは体力を消耗するって光の巨人が言ってたから、(多分)大丈夫だよ。
精々パワーアップイベントか増援フラグが立つだけさ(棒)
218通常の名無しさんの3倍:2010/04/16(金) 03:30:59 ID:???
え? でも本人がつぶったーでぶっちゃけてなかった?
219通常の名無しさんの3倍:2010/04/16(金) 10:39:10 ID:???
ヨガ、ダルシム……オーブ本島にはパンタジア(焼きたてジャぱん)があるのか……
220通常の名無しさんの3倍:2010/04/16(金) 12:35:11 ID:???
テレポートなんて出来たら不味すぎるだろ。

敵のコックピットにテレポート→折り曲げる を繰り返すだけで勝てるじゃないか………
221通常の名無しさんの3倍:2010/04/16(金) 13:04:18 ID:???
??「ジャッジメントですの!」
222通常の名無しさんの3倍:2010/04/16(金) 14:04:16 ID:???
>>220
いや、相手だって動いてんだから下手すりゃ壁の中にいるだぞ。
223通常の名無しさんの3倍:2010/04/16(金) 22:47:55 ID:???
>>215
クライウルブズの面々がアサナやらされて悲鳴あげてるなか、平然とこなしてるシン・刹那・アクセルとかの光景が浮かぶw
逆にロックオンとかは何か体固そうなイメージがある
224660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/18(日) 22:32:37 ID:???
こんばんわ。長々と決着が延びていますが本編を投下いたします。

ディバイン SEED DESTINY 第三十九話 Gを殺すもの


「きゃあああ!!」

 耳にした者がまだうら若く美しい乙女を脳裏に思い描くような悲鳴が、無色の尾と残響を発しながら、ぎゃりいぃいん、とどこまでも透き通る様に高い済んだ音とともに彼方へと勢いよく弾き飛ばされてゆく。
 栄光の星を意味するグローリースターの一角を担う、美貌にまだあどけなさを残した女性セツコ・オハラがパイロットを務めるバルゴラ三号機が、襲い来たヴァルシオン改の一撃を受けて、あえなく打ち据えられたのだ。
 長方形の箱型武装ガナリー・カーバーの片端から、近接戦用のジャック・カーバーを展開してディバイン・アームの一撃を受けるも馬力の違いが如実に出て、ヴァルシオン改の半分にも満たないバルゴラ三号機は、風に散らされた一片の花びらの如く虚空を飛ぶ。
 機体越しに全身を襲う衝撃に、セツコが思わず柳眉をよせて耐える間に、ヴァルシオン改は追撃の一手を選択している。
 背中に負った大型のユニットに内蔵されたテスラ・ドライヴが魔物の咆哮を思わせる駆動音を上げながら、巨体からは想像もできぬ速度でバルゴラ三号機の正面へと動いていた。
 死に体になった三号機のコックピットの中では、脳を揺さぶられたセツコが苦悶の表情を浮かべ、一瞬のミスで生死を分かつ戦場で目を瞑り意識をそらすという致命的な失態を犯していた。
 当然、一部の容赦も無いヴァルシオン改は必死をきして隙だらけの三号機へと再びディバイン・アームを振り上げる。陽光を受けた刀身は銀色に鈍く輝き、命を刈り取る喜びに震えているかのよう。
 冬の時期の花の蕾のように閉ざしていた瞼を開き、目の前に青い魔王の満月の如く輝く無機質な四つの目を認めた瞬間、セツコは全身を貫く死の電流に体を震わせた。
 指先が触れたならそのまま消えてしまいそうな儚さを纏うセツコの美貌に、恐怖が色濃く浮かび上がり、かすかに開かれた淡い色の唇が凍りつく。
 野に咲く花の可憐さを愛でるよりも、踏みにじる衝動に駆られるのと似たどす黒いものを呼び起こす嗜虐の艶がそこにあった。
 女としての幸福を幾らでも望めそうな美貌であるが、セツコには不幸をこそ招き寄せるような背徳的な危うさが常に不可視の霧となって纏わりついている。
 恐怖に震える様こそ最も美しいかもしれぬ星色の瞳に写る銀刃が、コンマ一秒とかからずに大きさと圧迫感を増しながら狙い過つ事無くバルゴラ三号機へ、ひいてはコックピットの中のセツコへと振り下ろされる。
 肉片も髪の毛一本も残さずにこの世から消える自分を、この時セツコは鮮明に思い描いた。
 標準的なMSとさして変らぬバルゴラの装甲では、量産型とはいえ特機であるヴァルシオン改の振るうディバイン・アームの一撃は耐えられない。十分にオーバーキル足りえる一撃だ。
 回避行動も防御も間に合わない。三号機の右腕はガナリー・カーバーを手離してはいなかったが、それを操ってディバインアームを捌く事を可能とする技量と身体能力はいまだセツコに備わってはいなかった。

「させるかぁ!」

 ゆえに、セツコの窮地を救ったのは彼女以外の人間であった。ディバイン・アームの立てる風切る音を吹き飛ばす怒号にわずかに遅れ、ヴァルシオン改目掛けて虚空を切り裂きながら光の刃が襲い掛かる。
 高エネルギーを圧縮成型したエネルギー刃の脅威を即座に選定したゲイム・システムは、危険度の低いバルゴラ三号機よりも優先して回避すべきと判断を下し、振り上げたディバイン・アームを引き止め、機体を後退させる。
 高性能のテスラ・ドライヴの特性により、従来の推進機関では考えられない挙動の速さで、ヴァルシオン改は余裕を持って死角から襲い来た光の大鎌を回避してみせた。
 後退したヴァルシオン改とセツコの三号機の間に、救い主であるトビー・ワトソンのバルゴラ二号機が割り込み、三号機をその背中に庇う。
 ガナリー・カーバーの片端からは、湾曲した光の鎌――バーレイ・サイズが大気を焦がしながら輝いて、青き魔王の首を刈り取る時をいまかいまかと待ち望み、低い唸り声を上げている。
225660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/18(日) 22:33:50 ID:???
「中尉!」
「しっかりしろ、セツコ。気を抜いたら直ぐに落とされると思っておけ!」
「あ、は、はい。すみません」
「ミスはデブリーフィングでいやってほど指摘してやるから、集中しなおせ」

 本来ならここでセツコにフォローの言葉の一つもいってやりたかったが、トビーにはその余裕が無かった。
 もともとトビーは生前の世界でドクター・ヘルの機械獣軍団やジオン残党を相手に戦果を挙げて、エースと称された腕利きである。搭乗しているバルゴラもパイロットの実力を十二分に引き出すポテンシャルを持つ高性能のMSだ。
 バルゴラは宇宙世紀87年の技術を持って製造され、性能に癖は無く突出した部分もないが、経験地を積んだベテランやエースの実力をダイレクトに反映させ、高いパフォーマンスを発揮する事が出来る。
 またこの混沌としたコズミック・イラ世界に来てからは、異世界の技術が導入されてさらに高性能化している。地球圏各国の主力となっているMSよりも頭一つ抜けた性能を持っているといってよい。
 しかし、そのバルゴラとトビーの戦闘能力をもってしても目の前の完全無人機動兵器はあらゆる余裕を剥ぎ取られ、焦燥と緊張を強いられる難敵にして強敵であった。
 トビーの二号機が運用を担当する近・中距離戦闘用の格闘武器バーレイ・サイズを展開したガナリー・カーバーを構えなおし、トビーは庇った三号機が体勢を整えなおす間、親の仇を見るような目でヴァルシオン改の一挙手一動を見つめる。
 下手な戦闘用の人工知能の数倍も強力に感じられる敵の戦闘技能に加え、外見の威圧感も去ることながら自軍のフラッグシップ機の性能を知り、いままた身をもって味合わされて、トビーの神経は恒常的に磨耗している。
 本来、クライ・ウルブズ所属のメンバーたちの中で技量において下位に位置するセツコに、ヴァルシオン改を相手に無茶な近接戦を行わせるつもりは、トビーにもグローリースターのチーフであるデンゼルにも無かった。
 以前、シンはジャン・キャリーとの会話で接近戦に持ち込んでがちゃがちゃやれば、あまり技術に関係なく戦えるような旨の言葉を発していたが、刀剣を振るえる距離での戦いとなれば、むしろ技術の差が明白に出ると言えるだろう。
 水準以上の腕前はすでにセツコには備わってはいたが、さすがに装甲もパワーも段違いな特機と接近戦を演じるのはいくらなんでも無理というものだ。
 トビーとていざ特機を前にすれば、近距離での斬り合い・肉弾戦など丁重にお断りしたいというのが正直な気持ちだ。
 戦闘開始当初、セツコにはストレイ・ターレットとレイ・ピストルで、後方でレイ・ストレイターレットを使っての大火力砲撃と指揮を取っているデンゼルのバルゴラ一号機とともに援護に徹させていた。
 しかし、他の機体にくらべて動きの鈍いセツコ機の挙動に気付いたゲイム・システムが狙いを定め、バーレイ・サイズを展開してヒット&アウェイを繰り返していたトビーの隙を突き、冒頭のセツコの悲鳴へと繋がったのである。
 再び射撃による援護を再開したセツコの放つストレイ・ターレットの弾丸とともに、トビーはバーレイ・サイズを振り上げて眼前のヴァルシオン改へと二号機のメインスラスターを噴かす。
 その直上から膨大な破壊エネルギーを孕んだ赤と青、そして白に彩られた破壊光線が二条、バルゴラ二号機へと降り注ぎ、反射の領域で半身を翻した二号機の左肩をかすめてアーマーを融解させた。
 グローリースターそしてバラック・ジニンが戦っていた二機目のヴァルシオン改の一撃だ。そちらはジニンの操るアヘッドがかろうじて押さえに回っていたはずだが、まさか落されたか?
 最悪の結末が一瞬トビーの脳裏を掠めたが、すぐさまアヘッドの存在を示す識別と、パイロットであるジニンからの通信が届いてきた。

「すまん、ワトソン中尉!」

 GNキャノンを連射して二機目の動きを牽制しながらジニンが怒鳴る様にしてトビーに詫びた。

「なんとか抑えてください。こっちはこっちでなんとかします!」

 ジニンと同じ様に怒鳴り返し、トビーは再び目の前のヴァルシオン改へと意識を向けなおした。すでにトビーが外した視線の先では、アヘッドが一撃でこちらを消滅させる威力を持ったクロスマッシャーを紙一重でかわしながら、果敢に反撃を試みている。
現在ジニンのアヘッドが使っているGNキャノンは一駅の破壊力に重きを置いた武装で、一撃一撃の破壊力は高いが連射性ではGNビームライフルやオクスタンライフルのBモードにも劣る。
 そのために効率的に活用する為には使用者には高い技量と正確な狙いが必要とされ、また速射性に優れない点をカバーする為に、キャノンの砲身の左右それぞれにGNバルカンを備え付けている。
226660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/18(日) 22:34:50 ID:???
 GNバルカンで牽制しつつ、見越し射撃をGNキャノンで行いヴァルシオン改との間に猛烈な射撃戦を演じていたジニンが、ヴァルシオン改を抑えきれずにトビー達に横槍を入れさせてしまったわけだが、あまりジニンを強く責めることはトビーには出来なかった。
 刃を一杯に敷き詰められた床の上で、いまにも千切れそうな綱渡りをさせられているような緊張感が目に濃霧となって漂うような戦場に、歴戦の経験を持つジニンも集中力が途切れ途切れになっていると、よく理解していたからだ。
 再び正確な狙いを取り戻したGNキャノンとGNバルカンの連射に、二機目のヴァルシオン改の注意は再びジニンのアヘッドへと戻ったようで、背部ユニットからクロスマッシャーを返礼として、断続的に放ち続けている。

「デカブツなみの火力にハネツキなみの機動力、ミツメなみの精密射撃ケンシなみの近接戦闘能力! GNフィールドがないだけましだが、とんだバケモノの相手をさせられたものだ!!」

 ソレスタルビーイングの四機のガンダムを一度に全て相手にしているような錯覚に陥りながら、ジニンはそれでもアヘッドを繊細且つ大胆な操縦で操り、ヴァルシオン改に必死の反撃を行っていた。
 クロスマッシャーの強光にカメラを焼かれながら、双眸は照準内にヴァルシオン改を捕捉し、トリガーに添えた指は油断して弛緩することなくトリガーを引くタイミングに敏感に反応して動く。
 アヘッドが構えたGNキャノンから野太い圧縮粒子が、左右のGNバルカンからは細かなGN粒子の弾丸がヴァルシオン改へと殺到し、わずかずつ、山を匙で崩すような徒労感と共に着弾の数を重ねる。
 ジニンが決死に近い心情でヴァルシオン改との戦闘を再開するのと同時に、セツコとトビーもまたヴァルシオン改との戦いを仕切りなおしていた。
 バルゴラの装甲を掠めるたびに寿命を削り取られる気持ちで、トビーはつかず離れず、近づかれれば等しく離れ、距離を取られれば同じだけ接近して距離を保ってバーレイ・サイズを振るい続ける。
 二太刀、三太刀と数を重ねるもディバイン・アームで受け止められ、あるいは躱され、バルゴラの二倍以上の巨躯を誇るヴァルシオン改に対して、確かな一撃があたる事が無い。

「セツコ、とにかく撃ちまくれ! おれに当たっても構わないくらいの気概でだ!」
「そ、そんな無茶な」

 もちろん、誤射を推奨しているわけではなくそれくらい大胆かつ意表を突く位の行動を取らなければ、目の前の強敵を倒す事はできないと理解した上でのトビーの言葉である。
 檄を飛ばしたとしても、臆病なまでに慎重且つ丁寧なセツコならトビーの二号機に紙一重のような至近弾を浴びせることは避けるだろう、と分かってはいたけれども。
 無茶な命令に悲鳴交じりのセツコの返事が鼓膜を揺らすのに僅かに遅れて、トビーは正面から横一文字に迫り来る白いエネルギー刃を視認し、咄嗟に操縦桿を傾け、同時にバーレイ・サイズのエネルギーをそっくりそのまま送り返す。
 ディバイン・アームから生じた飛翔するエネルギー刃の下をバーレイ・サイズの鎌の刃上のエネルギーが通過し、交差した一瞬、両刃のエネルギー間でスパークが生じたが、それ以上の干渉は無くそれぞれの射手の下へと迫る。

「きわどい狙いをつけてくれやがって!」

 戦闘が始まってから何度目になるかわからぬ冷や汗に背筋を濡らしながら、トビーはかろうじてディバイン・アームの一撃をかわし、またヴァルシオン改もまたバーレイ・サイズの一撃を回避したのを視認する。
 ヴァルシオン改が次のアクションを起こすよりも早く、トビーは二号機の腰裏にマウントさせたレイ・ピストルは二号機の左腕に握らせ、勢いよくトリガーを引き絞った。
 やや大振りの拳銃からは、たちまちの内に初代ガンダムのビームライフルよりやや劣る程度の出力で放たれた小さなビーム弾が、ヴァルシオン改へと光の軌跡を無数に描く。
 トビーの援護を再開したセツコも、三号機の右手にガナリー・カーバー、左手にレイ・ピストルを持たせ、正確な狙いよりも数を優先した援護射撃の弾幕を広げる。
 ヴァルシオン改は反撃よりも回避を優先したようで、大きく下方に弧を描く動きから航空ショーさながらのアクロバティックな動きへとつなげ、一発の被弾も許さない。
 有人機に存在する人体の限界点を一切考慮せずに済む無人機に、高度な戦闘用人工知能が搭載された場合の、理想的な回避機動と言っていいだろう。
227660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/18(日) 22:36:12 ID:???
 一般的にエースと呼ばれる力量の持ち主でも被弾無しは困難を極める連携射撃を浴びせかけても、錯覚ではあるだろうが余裕さえ感じられる機動で回避するヴァルシオン改に、セツコは知らず咽喉を鳴らして驚愕を飲み込んだ。
 心中の動揺や感情が如実に表情や行動に表れてしまうあたり、クライ・ウルブズに配備されて数々の激戦に放り込まれたとはいえ、少なくとも精神面においてセツコは新兵の域を出てはいなかった。
 連射に連射を重ねる二号機と三号機だが、当然そのような射撃を続けていればあっという間にマガジンやEパックは空となり、交換作業を強要される。
 二号機と三号機が同時に弾切れを起こし、火線が完全に途絶えるような事のないように、それぞれの交換のタイミングがずれるように注意を払ってはいるが、マガジン交換に要する数秒の間、確実にヴァルシオン改を拘束する火砲の鎖は弛む。
 トビーの援護のためにレイ・ピストル、ストレイ・ターレットともどもに撃ち続けてきたセツコの三号機の方が先にマガジンとEパックの残量注意の警告を発し、交換作業に入る。
 射撃中は勿論交換作業中も足を止めずに動き回っていた三号機だが、火線が単純に半減した好機を、ヴァルシオン改を制御するゲイム・システムが見逃すはずも無い。
 トビーの二号機に牽制のクロスマッシャーを見舞いつつ、青い魔王の四眼はセツコの乗る三号機を確かに瞳の中に捉えていた。
 二連射されたクロスマッシャーの回避に否応にも気を取られたトビーは、数瞬間トリガーを引く指の動きを絶やしたが、その中々端整な顔には悲観の色は浮かんではいなかった。

「くたばりやがれ、クソ野郎!!」

 時と場合によってはセツコが狼狽するような言葉と共に、三号機よりもさらに後方からクロスマッシャーに匹敵、あるいはそれ以上の莫大なエネルギーを持つ光の柱がヴァルシオン改へと襲い掛かった。
 三号機を目指してヴァルシオン改が動くその瞬間を狙い済ましたデンゼルのバルゴラ一号機が撃ったレイ・ストレイターレットの一撃だ。
 三機存在するバルゴラがそれぞれ担当するガナリー・カーバーの武装の中で、もっとも高い攻撃力を有する武装である。チャージに時間こそ掛かるが、威力は正しく折り紙つきだ。
 万物を飲み込む輝きを放つレイ・ストレイターレットのエネルギー反応に、ヴァルシオン改は即座に反応を見せた。訓練の見本にしたいほど素早い対応である。
 機体下部に推力を集中させて急上昇を行い、レイ・ストレイターレットの光が飲み込んだのはヴァルシオン改の左膝から下の部位のみ。
 重厚な上半身を支えるにはいささか心許無い脚部を失い、ヴァルシオン改はわずかに機体の重心バランスを崩して機動にかすかな乱れを生む。
 多量のエネルギーを消費してまで放った渾身の一撃の成果が満足ゆくものではなかったことに、デンゼルはヘルメットの奥の眉間に浅くはない皺を刻みこむ。
 レイ・ストレイターレットでヴァルシオン改を撃破し、ジニンが命がけで抑え込んでいる別のヴァルシオン改に動きたかったが、こちらの想像を上回ったゲイム・システムの回避能力によってご破算にされてしまった。

「アムロ・レイ大尉やシャア・アズナブルと戦った連中も似たような気分だったのかもしれんな。この場合はさしずめ青い巨星といったところか……と、これは別人の仇名だったな」
 
 レイ・ストレイターレットの砲身を収納して、ストレイ・ターレットの照準を再度定めなおしながら、デンゼルは余裕のない心中をごまかすように愚痴をこぼす。
 一年戦争のころからモビルスーツのパイロットとして最前線で戦い続けたデンゼルは、宇宙世紀の地球連邦軍軍人としては、最古参の部類に入るMSパイロットだ。
 熟練の技量と豊富な実戦経験を持つオールドタイプのパイロットは、下手なニュータイプのパイロットよりも脅威といえる。デンゼルの技量を考えればニュータイプクラスとも十分に戦える人物と判断できる。
 そのデンゼルにこうまで言わせるのだから、アードラー・コッホの完成させたゲイム・システムの脅威がいかほどのものか改めて理解できるというもの。
 自分たちはまだ三人がかりで戦っているからいいようなものの、一人で抑えに回っているジニンがいつまでもつのか。この状況で誰かが欠けようものなら、あっという間に戦線は崩壊し、敗北につながる階段を大きく登ることになるだろう。
 こちらの状況が好転する要素が何一つない現状を把握しつつ、デンゼルはセツコとトビーに檄を飛ばしながら、再びレイ・ストレイターレットのエネルギーチャージが終わるのを待つ。
228660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/18(日) 22:38:57 ID:???
 そしてそんなデンゼルの焦燥に呼応してか、ガナリー・カーバーの中央部に設置された緑色の水晶球の様なパーツが淡く鬼火のように明滅していた。
 全並行世界に十二種存在し、スフィアと呼ばれるそれが、自分が求めるものはコレではない、この感情ではないと訴えているのだと、このとき分かるものは誰もいなかった。



 クライ・ウルブズが現在戦闘に投入している特機は、アクセル・アルマーのソウルゲインとステラ・ルーシェのグルンガスト弐式の二機のみ。
 本来ならタスク・シングウジのジガンスクードも名を連ねるところだが、目下大々的な修理のために後方へと下げられており、不在だ。
 タスクとジガンスクードは、別世界でゲイム・システムによって復讐心を過剰に煽り立てられたテンペスト・ホーカーの乗ったヴァルシオン改を撃破した実績がある。
 こちらの世界のタスクも別世界の自分と負けず劣らずの大激戦を戦い抜いた精鋭であることを考えれば、単独でも十分に勝利の可能性は高かっただろう。
 とはいえ、現在はタスクはヒュッケバインハーフMk−Vを駆り、ギガンティック・アームド・ユニット装備のガーリオン・カスタムを操るレオナとペアを組んで戦っている。
 ジガンスクードではないとはいえ、レオナとタスクのペアの戦闘能力と息の合ったコンビネーションは有用で、彼らは三機のヴァルシオン改を相手取り互角の戦いを演じて見せている。
 そのほかのヴァルシオン改の中には、クライ・ウルブズの手が回りきらず各セプタ級やミネルバをはじめとした艦艇に襲いかかり、猛烈な対空砲火と撃ち合いを演じている機体も見られた。
 そんな戦況のただなかで、まだあどけなさをその愛らしさの中に残すステラ・ルーシェの駆るグルンガスト弐式は、十分にその力を発揮して同じ量産型特機のヴァルシオン改と激しさを増す戦いを繰り広げていた。

「ブーストナックル、うぇえーーーい!」

 音声入力による武装選択システムが、即座にグルンガスト弐式の右腕部をヴァルシオン改へと向けさせ、自動追尾システムが照準を固定する。
 右肘にあるアタッチメントの外れる音に遅れて、外れた個所から盛大な炎と白煙を噴き出して、五指を広げた弐式の右腕部が時速数百キロの高速で飛ぶ。
 見る見るうちに視界の中で大きくなって迫りくる大質量の物体と、常識では考えられないマニュピレーターを射出するという攻撃方法に、有人であったなら驚愕に反応が遅れることもあるだろう。
 しかし一切感情による揺らぎの存在しないゲイム・システムはただただ効率的な選択をちゅうちょなく、間違いなく行使するだけだ。
 がぎん、と思わず耳を塞ぐ硬質の音が轟き、ヴァルシオン改に叩き落とされた弐式の腕部があらぬ方向へと飛んでゆく。
 さしものディバイン・アームとはいえVG合金製の弐式の腕部を切り裂くことはできず、接触面に白銀の金属粉と火花が繚乱と散り、瞬く間もなく消えてゆく。
 振りぬいたディバイン・アームの切っ先が、まだブーストナックルを叩き落とした余韻に震えている間に、ステラは次のアクションを起こしていた。
 弐式の数少ない射撃武装のアイソリッド・レーザーを撃ちかけながら、弐式の左腕には計都瞬獄剣の柄が握られ、液状金属が零れだして単分子の厚みしか持たぬこの世で最も鋭利な刃を形作る。
 純粋な刀剣としての切れ味は確実にディバイン・アームさえ上回る剣は、凶星の名を与えられるに相応しい脅威となってヴァルシオン改へと襲いかかる。
 アイソリッド・レーザーに加え、脚部ミサイルからも牽制程度のつもりでミサイルをランダム軌道で発射し、ステラはスミレ色の瞳に燃える闘志の炎の中にヴァルシオン改を飲み込まんと迫る。
 シンとの長い接触とディス・ヴァルシオンに搭乗したことで萌芽したステラの微弱な念動力者としての才覚が、頭蓋骨と頭皮の間に弱い電流の様なものを感知させるや、ステラは操縦桿をわずかに傾かせ、弐式の体勢を崩す。
 計都瞬獄剣の切っ先を左後方に流した構えで突っ込んでいた弐式が、右方向に機体を傾かせた直後に、一瞬前までいた空間をクロスマッシャーが薙ぎ払い、弐式の険しい顔を煌々と照らしあげる。
 シンと違い苛烈な精神修養を行っていないステラは、念動力者としての力は弱いもので、せいぜい野生の勘に少しばかり色を付けた程度の危機察知能力を有するにとどまる。
 それでもステラの念動力の萌芽を身体検査で確認していたDC技術陣が、弐式に突貫工事でカルケリア・パルス・ティルゲムを組み込んだことで念動力が強化され、身体能力以上の戦闘能力を発することが可能となっていた。
229660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/18(日) 22:40:24 ID:???
 クロスマッシャーの第二射が放たれるよりも早く、ステラは弐式の体勢を立て直し、地を蹴って跳躍したような動きでヴァルシオン改の頭上へと躍り出て、片手一刀の計都瞬獄剣を振り下ろす。
 銀に輝く切っ先が天を指したと見えたのもつかぬ間のこと。
 シンとゼオルート・ザン・ゼノサキス、ゼンガー・ゾンボルトなどの剣戟モーションをベースにしたOSが弐式に振るわせた一太刀は、片手で放ったにもかかわらず切先の剣速が実に時速五〇〇kmの高速に達していた。
 居合の達人の太刀が時速二五〇kmに届くといわれることを考えれば、機動兵器でありながらその倍の速度を誇る弐式の剣は常識を逸した一撃といえよう。
 もっとも、音速を超えた剣戟を自在に繰り出すレベルに到達しているシンやゼオルートからすれば欠伸が出るほどに鈍い一撃にすぎないだろうが。
 さしものゲイム・システムも刀の届く至近距離で振るわれた超高速の刃への対処は、防御と回避が間に合う範疇を超えていたために、単分子の刃に右腕をその肩口の付け根から斬りおとされてしまう。
 ヴァルシオンタイプの胸部と肩は一つなぎの装甲形状をとっているが、その分、厚い作りになっているのだが、計都瞬獄剣はものとものしない切れ味を発揮し、断たれた右腕の断面には視認できないほど微細な凹凸があるきりだ。
 斬り飛ばされたヴァルシオン改の右腕がディバイン・アームごと海に落下するのを待たず、ステラは振り下ろした計都瞬獄剣の切っ先をくるりと返し、飛燕を思わせる動きを見せる。

「お前なんか!!」

 左手一刀で振るう刃は万全な一太刀とは言い難かったが、その刃の鋭さに変わりはない。機体ごと後方にスライドするような動きを見せたヴァルシオン改は、かろうじてその切っ先の毒牙から逃れた。
 切り返した計都瞬獄剣の刃はヴァルシオン改の胸部に小さな傷跡を一つ刻んだきりであった。後方へのけぞるようにして回避するのと同時にヴァルシオン改の背部ユニットには、凶悪な光が輝きを灯す。
 命中すれば弐式の頭くらいは軽く吹き飛ばすだろう一撃を前にして、ステラは体に入れられたメスと薬物処置もあるが、培った戦闘経験によって心中にわずかに擡げた恐怖を踏み潰す。
 左手を振り上げた体勢から、そのまま流れる動作で弐式の鉄肘がヴァルシオン改の額をしたたかに打つ。首が捥げるほどの勢いでヴァルシオン改の機体そのものが傾ぎ、クロスマッシャーの発射プロセスが中断される。
 肘打ちの反動によって計都瞬獄剣を握る弐式の腕は、ちょうど右肩を跨ぐ体勢にあった。振り下ろせばヴァルシオン改の左首から刃が潜り込み、右の腰あたりから抜ける太刀になる。
 肘打ちを行えるほどの至近距離では刀剣を振るうに適した距離とはいいかねるが(至近距離用の技を習得していればともかく)、その肘打ちでヴァルシオン改との距離が空き、振り下ろすだけの距離が稼げた。
 三の太刀で決める、怒涛の連続斬撃は余計な横槍さえなければヴァルシオン改を真っ二つにしてのけたことだろう。
 しかし、計都瞬獄剣を振り下ろすよりもわずかに早くヴァルシオン改の右足が振り上げられ、猛禽類の爪のように鋭い爪先が斬りかかる姿勢にあった弐式の左横腹を思い切り叩く。

「ぐっ、こいつ!!」

 ある程度慣性制御がなされ、パイロットスーツとシートの保護があるとはいえ、特機の渾身の前蹴りをくらっては、さすがに衝撃を殺しきれず、口を開いていたら舌を噛み切ってしまうような振動がステラを揺さぶった。
 思わず前のめりになりながらステラの瞳はヴァルシオン改を下から睨みつけ、烈々と燃える闘志の炎がわずかも衰えていないことを証明している。
 腰だめに構えなおした計都瞬獄剣でヴァルシオン改の腹部を刺し貫く――と考えた瞬間、ステラの下腹部を冷たい氷の針が貫いた。無論錯覚であるが、ステラの生存本能が察知した危険が、肉体に伝達された証拠だ。
 ヴァルシオン改へ突撃を仕掛ける寸前だった操作をキャンセルし、回避行動へと行動のベクトルを急速にむけなおして、ステラは弐式を直上方向へと急上昇させる。
 やや斜め下方から放たれたクロスマッシャーは、弐式の右足の爪先をわずかにかすめて、空の彼方へと消えていった。
230660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/18(日) 22:42:15 ID:???
 ステラにとっては二機目のヴァルシオン改だ。完全な不意打ちの回避に成功したのは、ステラの野生の直感と微弱な念動力の組み合わせによる危機察知能力が、その役目を確かに果たしたため、というほかない。
 クロスマッシャーを発射したヴァルシオン改は、すぐさま弐式同様に機体を上昇させ、中破相当のダメージを負った一機目と弐式を挟み込む位置に移動する。
 左右をヴァルシオン改に挟まれた弐式の右腕に、ようやくブーストナックルが帰還して再接続を果たす。油断なく構えていたステラは、再びアタッチメントと連結した右腕を一機目のヴァルシオン改へ、計都瞬獄剣の切っ先は二機目に突き付ける。
 カルケリア・パルス・ティルゲムの恩恵か、機体の隅から隅まで自分の意志が行き渡る感覚に身を浸らせながら、ステラはあくまで油断なく左右の敵に視線を向ける。あるいは向けざるを得なかったというべきか。
 野生の直感、生存の本能がすっかり牙を抜かれた生物となった人間にも残されているとしたならば、いま、ステラの脳の奥深くで警鐘を鳴らしているモノこそが、その直感と本能だろう。
 単独で二機のヴァルシオン改を抑える活躍はアクセルに並ぶものではあったが、いかんせんパイロットとしての技量と乗機の戦闘能力ではアクセルに一歩譲る。その譲った分だけステラの状況は厳しいものに他ならない。
 だがそれはこの場にいる誰にでも言えることだ。自分以外の誰かに助けを求められる状況ではない。状況は常に最悪なものと考え、楽観的な視野を入れないのは当たり前だ。
 ステラはあくまで独力での状況打破に向け、浅く呼吸を整えながら神経をぎりぎりまで研ぎ澄ましてゆく。鋭く研ぎ澄ました鉛筆の芯がほんの些細な力で折れてしまうのに似た作業であった。



 ゲイム・システムによって制御されたヴァルシオン改部隊との激戦を繰り広げていたのは、むろんクライ・ウルブズの面々だけではない。四隻のセプタ級やストーク級、ミネルバとその搭載MS部隊も力の限りを尽くしているのは確かだ。
 敵味方に分かれているイノベイター達はともかくとして、ではあるが、またクライ・ウルブズ以外のDC部隊――三機のメカ・ゴジラタイプと後世さまざまな意味で歴史に名を残すケロンタイプ部隊も、その見た目にそぐわぬ高性能ぶりを披露していた。
 五機に及ぶ生物類似型の準特機であるケロンタイプらには、AI1をベースにした高度に発達した戦闘用人工知能が搭載され、起動からさほど時間がたっていないにもかかわらず各個体に人格のようなものが形成されつつあった。
 戦闘に対する姿勢というものも五機それぞれで違いはあるものの、目下は一致団結して初陣にしては不幸というほかない強敵を相手に見事な戦いぶりを見せていた。
 ニュートロン・ジャマー、GN粒子、ミノフスキー粒子という三種の高性能ジャマーの複合効果によって、ほとんど有視界距離と変わらないレンジでしかレーダー関係が動かず、電子探査、熱紋探査も瀕死状態にある。
 その中でケロンタイプの内、黄色い体躯に渦巻き模様の古めかしい意匠のメガネ(おそらくは情報解析型の補助ツールであろう)をかけたクルルと呼ばれる機体は、先ほどからセプタ級の甲板の上に立ったまま微動だにしていなかった。
 一見すると何もしていないように見えるが、頭部の両脇から延びるピンポン玉のようなパーツから、この電波の混沌状態でもなお有効な妨害電波と情報解析支援、さらに超音波による不可視攻撃と目立たぬが極めて重要な援護を行っていた。
 クルルの妨害によって他の機体群と戦闘をしている同型機よりも、幾分敵機の認識に遅れが生じたヴァルシオン改へと、緑色の体躯に赤い星のマークが入った耳垂帽子をかぶったケロロという機体が勇ましく襲いかかった。
 その手にはケロンタイプサイズに調整された大型のビームサーベルが握られており、ヴァルシオン改の背後から斬りかかるその姿は、陳腐な任侠映画に出てくるチンピラに見える。
 一応ケロンタイプの指揮官機として高度な判断能力を有しているはずなのだが、どうにもそうは見えない小物臭がグリーンの機体全体からぷんぷんと放たれている。
 完璧なタイミングに近いケロロの不意打ちであったが、振り返りもしないヴァルシオン改の左手による裏拳が深々とケロロの顔面にめり込み、30m級のケロロを軽々と吹き飛ばす。
 メシャ、と肉袋に鈍器がめり込むのに似た音とともに吹き飛んだケロロのことは歯牙にもかけず、ヴァルシオン改は右側面に躍り出た別のケロンタイプに危険優先度を設定していた。
231660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/18(日) 22:44:02 ID:???
 赤い機体色、釣り上った左目にはなぜか斜めに横断する縫い傷があり、耳垂れ帽子には髑髏のデフォルメマークが施されたギロロタイプだ。
 基本的に全距離で安定した戦闘能力を発揮するが特に重火器による射撃戦を好み、圧倒的な火力に殲滅を得意とする。五種のケロンタイプの中では機動歩兵のポジションに位置している。
 旧来の技術で製造された1100mm無反動バズーカと準特機用の大型ビームライフルを構えたギロロは、背のバックパックから薄い刃に似たエナジーウィング四枚を展開し、ケロロに裏拳を叩きこんだヴァルシオン改に引き金を引き絞る。
 バズーカの砲口からMSの使用するものの倍のサイズの砲弾が、ビームライフルからも倍近い直径のビームが限界の連射速度で放たれて、青い血に濡れた魔王めがけて餓えた狼の群れのごとく襲いかかる。
 躱す余裕のある空間があるとは思えないギロロの弾幕の中を、ヴァルシオン改は、正確にはそれを操るゲイム・システムは経験を積んだ所で、果たしてどれだけの人間が到達できるのかという見事な動きを見せる。
 ギロロをはじめとしたケロンタイプには、異世界製のものも含めてC.E.の技術水準を大きく超えるレベルの人工知能が搭載されている。経験の蓄積とアップデートを繰り返せばGGGの有する勇者ロボにも匹敵する存在になる可能性も秘めている。
 とはいえ直に戦闘を経験するのは今回が初めてとあって、こちらの攻撃がまるで効果をなさなかった現実に、ギロロはあからさまに驚きを見せてしまい、射撃の手を緩めてしまった。
 ちい、と舌打ちをする素振りを見せたギロロは弾を切らしたバズーカを放り捨てて、腰にマウントしていた速射性の高いビームマシンガンを構えなおし照準を、目の前のヴァルシオン改に定め直す。
 ヴァルシオン改がディバイン・アームを振るう動作と、クロスマッシャーを放つ事前動作を見せる。ビームライフルとビームマシンガンの光の弾幕がどこまでヴァルシオン改の足を止められるか。
 彼我の火力、装甲、機体の耐久力の差を比較してギロロはあくまで冷静に自分の不利を明確に認識していた。
 その両機の間に青い物体が割り込みディバイン・アームに比べればちっぽけにも見える短刀が、はるかに巨大なディバイン・アームの刀身を完全に抑え込み、ヴァルシオン改の動きを止めて見せる。
 さらにはヴァルシオン改の突撃の力のベクトルを受け流して機体の進行方向をあらぬ方へと変える。その隙を逃さずギロロはビームライフルとビームマシンガンの狙いを再度直してビームの雨を降らす。
 青いカラーリングと灰色のマスクをしたドロロと呼ばれる近接戦・隠密戦闘用の機体の動きにすぐさま呼吸を合わせたギロロの射撃は、次々とヴァルシオン改の装甲に吸い込まれるようにして命中弾を重ねてゆく。
 ヴァルシオン改の巨体を揺らす連続の命中の効果は如実に表れて、表面装甲に罅が刻まれてゆく。
 命中弾に機体を揺らされながらも、ヴァルシオン改は反撃の機会を窺うことを忘れてはおらず、有効弾に心中で喝采を挙げたギロロめがけてクロスマッシャーが放たれる。
 戦闘に関してはもっとも厳格に設定されたギロロは、油断した己に一発ぶち込みたい衝動に駆られながらもかろうじて回避に成功し、かすめたクロスマッシャーの余波による負荷で左手のビームライフルが爆発する。
 爆発の直前で放り投げたビームライフルの爆風に煽られながらも、ギロロはビームサブマシンガンによる応射は怠らず、ヴァルシオン改にダメージを積み重ねることを忘れない。
 バックパックから延びるエナジーウィングを羽ばたかせ、ギロロは二頭身という特徴的極まりない機体で高速の空戦機動を披露し、絶え間なく射線を送り続ける。
 正確な狙いながら続く命中弾はなくヴァルシオン改はギロロ顔負けの動きの折々に、ディバイン・アームとクロスマッシャーの反撃を織り交ぜてくる。
 ヴァルシオン改の注意が完全にギロロに向いていると判断したある機体は、これを好機と見てとったようだ。
 ギロロが新たにとりだしたビームスナイパーライフルの長い銃身を片手で支え、ビームサブマシンガンの弾幕で牽制しながら必中を狙う中、ヴァルシオン改が海面すれすれにまで降下し、その真下から緑色の物体が飛び出した。
 青い海面を割り、勢いよくヴァルシオン改へと再び大型ビームサーベルで斬りかかったケロロである。先ほどの裏拳が決まった影響か、顔面の中央辺りがややくぼんでいた。
 蛙を模したとはいえその蛙でさえ挙げるとは思えぬ奇妙奇天烈きわまる奇声を喉の奥から絞り出し、今度はヴァルシオン改の股間めがけてビームサーベルの光刃をケロロは突き込む。
232660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/18(日) 22:46:36 ID:???
 傍目にも明らかに殺意と怒りがたっぷりと乗った一刺しだ。人工知能でありながらこれだけの殺意を放つの大したものといえた。感情を持ったと見えるケロロの動きは、ある種驚嘆に値した。
 ただしその顔面に今度はヴァルシオン改の爪先が突き刺さる。先ほどの裏拳よりもさらに深く鋭い一撃である。爪先がよくぞケロロの後頭部に抜けなかったものだ。
 飛び出してきた時の倍近い速度で再び海面に叩きつけられるケロロに、おい! とギロロは怒鳴ったが、ケロロを拾う余裕は無論ヴァルシオン改が与えない。
 ギロロの連続射撃で相当にダメージを積み重ねたと見えたが、まるでそのようなそぶりを見せないヴァルシオン改のタフネスはそのまま脅威につながり、敵対する側に心理的な重圧をかけてくる。
 ギロロとともにヴァルシオン改を攻め立てていたドロロであるが、彼もまた一機のヴァルシオン改にこだわっていられる状況ではなかった。
 ケロンタイプが相手取っているのは一機のヴァルシオン改だけではない。彼らは都合三機のヴァルシオン改を相手に戦っていたのである。
 ギロロのほかに藍色の体躯としっぽ、それに若葉マーク付きのタママという機体が三機のヴァルシオン改を相手にし、ドロロが状況に応じて両者のサポートに入り戦況を維持している。
 タママはヴァルシオーネタイプに使われている人工筋肉の発展型をふんだんに使用し、特定の電気信号を流すことで膨張・硬化させた機体――もはや肉体と呼ぶにふさわしい――を用いて肉弾戦を挑んでいた。
 トビーやデンゼルらでも忌避する特機相手の格闘戦を、タママはまるで恐怖する様子もなく、うったるぞぬしゃあああ!! とどこかの国の方言らしい叫び声をあげてタママは拳を振り上げる。
 筋骨隆々としたその肉体は圧倒的な肉の質感を備え、ディバイン・アームの刃圏をくぐりぬけて超接近戦を挑んでいる。さすがにヴァルシオン改の重装甲は拳の一つ二つあてたところで窪むこともないが、タママが優勢と見える。
 ギロロ、タママが一機ずつヴァルシオン改を抑える間、ドロロもまたステルスシェード、ミラージュコロイドをはじめとした各種ステルス機能と光学迷彩を用いて三機目のヴァルシオン改を翻弄していた。
 クルルは電子戦をはじめとした各種サポートを行い、ギロロ、タママ、ドロロといった高い戦闘能力を有する機体がヴァルシオン改を相手にし、ケロンタイプの五機は、エペソやアルベロたちが渋々認めた戦闘能力を発揮していた。
 隊長機である緑色のは別として。



 クライ・ウルブズ各隊員の奮闘は状況をかろうじて膠着状態に持ち込ませて、数機のヴァルシオン改を撃墜することにも成功していた。
 しかし抑えきれぬヴァルシオン改とクライ・ウルブズという最大の枷がない状況で戦える三輪艦隊の機動部隊がDC・ザフトの母艦群へと猛攻を仕掛け、水際での戦いだったはずのものが、いまや膝にまで水が浸かった戦いへと変わりつつあった。
 そしてその戦場へとようやく宇宙から舞い降りようとする者たちの影が届かんとしていた。マッハの壁に迫る速度で戦闘空域へと向かう400mクラスの大型艦艇から20m前後のMSらしい影が飛び出す。
 シンプルといえばシンプルな、しかしどこか奇妙なデザインの機体である。額や両側頭部からは湾曲した牛の角のようなパーツが伸び、両肩の先には菱形を長く伸ばした刃が装着されている。
 G――ガンダムタイプに似た顔面の造形ではあったが微妙に、そう、まるで漫画かアニメに出てくる主人公ロボットの偽物みたいに歪められた顔をしている。
 その機体のコックピットでは、肥満体形の根性がひん曲がっているのが顔にもろに表れている男、テンザン・ナカジマが鼻歌交じりに機体を加速させていた。

「待ってろや、シン、ステラ、スティング、アウルゥ〜。おれが助けてやっから恩に着ろってのよ、このガンキラーでな。がはははははは!!」

 助けられる側が見てもどうにも味方とは思えない形相とセリフを吐きながら、テンザンはSDスピリット指数1000の怪物とともにようやく戦場へ到着しようとしていた。

つづく
おふざけが過ぎたか? ガンキラーについては超戦士ガンダム野郎をご参照ください。ちなみにレッドファイター91のSDスピリット指数は140。
ドラゴンボールの戦闘力みたいなものと思っていただければ問題ないでしょう。ではではここまでお付き合いくださいましてありがとうございます。ご指摘ご助言ご感想おまちしております、おやすみなさい。
233通常の名無しさんの3倍:2010/04/18(日) 23:16:52 ID:???
総帥乙!
ケロロがケロロだなあwうん
そして最後のガンキラーは・・・うん、やっぱボンボンは低学年向けじゃねえや
234通常の名無しさんの3倍:2010/04/19(月) 01:44:08 ID:???
ステラの(0w0)とかそういうのがケロロのアレっぷりで一気に吹っ飛んだwwwwwww
235通常の名無しさんの3倍:2010/04/19(月) 03:08:27 ID:???
軍曹達の声が聞こえたwww乙www
236通常の名無しさんの3倍:2010/04/19(月) 03:31:11 ID:???
ふと中国での戦いでは三国志の武将ガンダム出るのかなぁなんて思った
メッサーラと熊さんとパラスアテネが合体したジオはカッコイイ
237通常の名無しさんの3倍:2010/04/19(月) 07:15:13 ID:???
ガンキラーとか懐かしすぎるってのwwwwwwwww
238通常の名無しさんの3倍:2010/04/19(月) 10:52:23 ID:???
ちょwwwガンキラーって、手足は伸びるわ相手の戦闘能力吸収するわ頭だけでも戦えるわ、バージョンアップしてガンマスターになれるわのチート級の化け物でしょwww
239通常の名無しさんの3倍:2010/04/20(火) 03:13:58 ID:???
大丈夫!
それ以上のチートが居るから問題なし!!!
240通常の名無しさんの3倍:2010/04/22(木) 18:53:58 ID:???
ケロロたちが濃すぎるwwww。
早くゴッドケロンに合体するんだ!!

241通常の名無しさんの3倍:2010/04/22(木) 20:18:22 ID:???
ケロロ達、最早オーバーマンだろこいつらw
242通常の名無しさんの3倍:2010/04/24(土) 15:45:09 ID:???
今更ながらOGSがらみで、外伝でアーマリオンが弱体化されたことに絶望したwwww。
別にあのままでもいいのに……。
24311 ◆Qq8FjfPj1w :2010/04/24(土) 17:54:55 ID:jf31UylG
テスラ研を奪還すべく奇襲をかけたものの、インスペクター四天王リーダーであるヴィガジが駆るガルガウの猛攻によって傷付き、絶体絶命となったグルンガスト参式とゼンガーの前に現れたのは
己と同じような口調と太刀筋、そして斬艦刀を操るウォーダン・ユミルとその愛機スレードゲルミルであった。
この男の突然の出現は、スレードゲルミルによるドリルブーストナックルを喰らったヴィガジだけではなく、ウォーダンの標的であると考えられていたゼンガー、
そして、何度かウォーダンと直に刃をかわしたこともあるシンにとっても衝撃的なものであった。

「ウォーダン・ユミル…!まさかゼンガー少佐を…!?」

スレードゲルミルより一足早く戦場に乱入してきたメキボスのグレイターキンに斬撃を見舞いながらシンが呟く。だが、ウォーダンがそれに応えることはない。ただ彼の口から出たのはゼンガーへの言葉のみであった。
ウォーダンは、自身の目的―ゼンガーを倒すのは自分以外であってはならず、そしてつけるべき決着はこのような形であってはならないのだということ、そして己自身の確立するのだということ―を告げると
当面の標的、つまりグルンガスト参式を大破させた金色の大怪獣ガルガウに狙いを定める。そして、スレードゲルミルは肩から分離した柄を掴むと、斬艦刀を展開してガルガウと向かい合った。

ガルガウとスレードゲルミルが互いに攻撃態勢を取りながら向かい合って対峙する。互いに相手の出方を伺いながらいかにして己が先制攻撃をせいこうさせるか。
2人と2機の間を沈黙が支配している中で、当事者の1人であるヴィガジはこれまで収集されて己の記憶の中にインプットしておいた情報を高速で整理していた。
ノイエDCという地球の軍隊勢力が保有する「特機」という分類に属する大型の機体であり、グルンガストと呼ばれる機体シリーズの特徴を備えるとともに、
今目の前で手にされている「斬艦刀」と呼ばれる巨大な刀剣がその最大の特徴かつ戦力の源泉である。
これらの情報を踏まえてヴィガジが出した結論は、相手の間合いに入ってはならない、ということであった。
これまでの情報が正確ならば相手の斬艦刀による攻撃を喰らった場合には、己のガルガウすらただではすまないおそれがある。
地球人など野蛮で未熟なサル同然だと感情では思っているが、一人の戦士としてのヴィガジは冷静に相手の実力を値踏みしていた。
ならばメガスマッシャーで斬艦刀の届く範囲の外から、またはその内側から―そう考え、ヴィガジがトリガーに手をかけたのとスレードゲルミルが沈黙を破って動き出したのはほぼ同時であった。

「一意専心…推して参るっ!!」

ウォーダンの咆哮とともに斬艦刀を構えたスレードゲルミルの背部ブースターから猛火が噴き出す。その勢いにより地面の岩と砂を左右に撒き散らしながら、スレードゲルミルはガルガウへと迫っていく。
その巨体の纏う気迫と勢いに、胸部に展開したメガスマッシャーのトリガーに手をかけていたヴィガジの脳裏に一抹の不安がよぎった。
もし回避された場合、隙だらけとなったガルガウは斬艦刀の餌食となって真っ二つにすらされかねない。それは避けなければならない。
そしてヴィガジは1つの結論に辿り着く。
そもそも、野蛮な地球人との正面から立ち向かってやる必要などない。正面きって戦うだけが脳ではないのだということを知らしめてやるいい機会である。
ヴィガジの意を受けてガルガウの胸部の巨大な砲門に、急速に光が集まっていく。そしてスレードゲルミルの巨体すら飲み込むほどのものとなって、砲門から解き放たれた。

他方、それを見たウォーダンは放たれようとしている破壊の光ごと金色の大怪獣を斬り捨てようと考えていた。
だが、斬艦刀の切っ先がガルガウに届くよりも前に、スレードゲルミルのすぐ目前の地面にガルガウから放たれたメガスマッシャーが着弾する。
地面にぶつかった巨大なエネルギーの塊は、大きな爆発とともに大量かつ濃厚な土埃を巻き上げるとともに、スレードゲルミルの足を止めてその勢いを殺すことに成功した。
ヴィガジはそこに一瞬の勝機を見出すと、足元のブーストペダルを一気に踏み込んだ。ガルガウの背部及び両腕のロケットブースターから猛火が噴き出し、スレードゲルミルとガルガウの距離はあっという間に詰める。
そして両腕の大型クローがスレードゲルミルの両肩をがっしりと掴んで押さえ込み、ガルガウは斬艦刀の間合いの内側に潜り込んで組み付くことに成功する。
24411 ◆Qq8FjfPj1w :2010/04/24(土) 17:55:58 ID:???
「ぬぅっ!?」
「どうだ、この零距離ならば自慢の大剣も使い物になるまいっ!」

続けてガルガウは斬艦刀を手にしていないスレードゲルミルの左腕を掴んでいた右腕の大型クローで、相手の顔面を渾身の力を込めて殴りつける。
細かな破片がスレードゲルミルの頭部からこぼれ落ちるとともに大きな衝撃がそのコックピットの内を揺らす。
それに怯むことなくウォーダンは、斬艦刀を持つ愛機の右腕を解放するべく力任せに右肩を振り回すのだが、ガルガウのアイアンクローはそれを許さない。
さらに追い撃ちをかけるべく、ガルガウはスレードゲルミルの首元にその牙を突き立てた。噛み付かれたスレードゲルミルの首元の装甲に少しずつ小さな亀裂が入り始めると、
いくらマシンセルによる再生機能があるとはいえ到底よろしくはない状況にウォーダンは表情を曇らせた。
そしてフリーになっている左腕で今度はスレードゲルミルがガルガウの顔面を殴り付けた。
1発、2発、3発と特機の強大な力で殴りつけられたためにさすがのガルガウの顎の力にも緩みが生じ、スレードゲルミルの首元は解放されるのだが、
それとほぼ同時に殴り飛ばされながらもガルガウの尻尾が、仕返しとばかりにスレードゲルミルの横っ面に叩きつけられた。

「ぐっ!ならば…ドリルッインフェルノォォォッ!」

今度はスレードゲルミルの側がガルガウに負けじと、急速に回転を始めた頭部先端の巨大な真紅の回転衝角をガルガウの首元に突き立てた。
高速で回転するドリルの先端は、ガルガウの首元の装甲の破片を撒き散らしながら、少しずつではあるものの奥へ、奥へと進んでいく。

「ちょこざいなあぁぁっ!!」

だがこれにより俯く形となったスレードゲルミルの顔面に対してガルガウが、今度は思いっきり膝蹴りを見舞う。
さらにガルガウは左側のアイアンクローを振り下ろしてスレードゲルミルの後頭部を叩きつけると、再び下を向いた顔面に膝を打ち付けた。
このようにスレードゲルミルとガルガウとの戦闘が激しさをましつつあったその頃、ヴァイサーガとグレイターキンの戦闘も徐々にヒートアップし始めていた。
五大剣を携えたヴァイサーガが、グレイターキンから放たれるビームを掻い潜りながら一気に間合いを詰めていく。
そして右腰の脇に構えた剣を振り抜くが、グレイターキンもそれを高周波ソードで受け止める。これに続けてヴァイサーガは持ち前の機動力を活かし、左右から連続して斬撃を見舞うが、
グレイターキンも剣と盾を上手く利用して攻撃を受け止めるため、さほど機体にはダメージが加わることはない。
軽い口調とは裏腹に確実な戦い方を繰り広げるメキボスにシンの焦りと苛立ちはさらに大きなものとなり始めていた。
そんな内心を反映してか、五大剣がまたも高周波ソードで受け止められたヴァイサーガは、グレイターキンのシールド表面を思いっきり蹴り付けた。
その衝撃でグレイターキンはややバランスを崩す一方、蹴撃の反動でわずかに距離を取ったヴァイサーガは素早く剣を鞘に収めて次の攻撃の準備を終えていた。

「地斬疾空刀ッ!」

シンの掛け声とともにヴァイサーガが鞘から剣を引き抜くと、鞘の内部でチャージされたエネルギーの斬撃が至近距離からグレイターキンを襲う。
しかし、メキボスもインスペクター四天王の一角であり、シンの思い通りにものごとは進まない。グレイターキンはバランスを崩しつつもビーム砲のチャージを終えており、
自らに襲いかかろうとするエネルギーの斬撃とその先にいるヴァイサーガに向けて、蓄え終えたエネルギーを一気に解き放つ。

「喰らえ、フォトンビーム!」
「!?」

放たれた白い閃光はあっという間にヴァイサーガから放たれた斬撃を呑み込み、さらにヴァイサーガへ迫っていく。突き刺さるような殺気と強大なエネルギーを、シンは動物的な勘によって感じて、その全身に寒気が走る。
とはいえ、このおかげで、ダイレクト・リンク・システムは既にシンの意思をある程度反映して回避行動を開始していた。そのため機体の回避行動はなんとか功を奏し、シンは機体をとっさに上方へ逃すことで絶命を免れることができたのであった。
24511 ◆Qq8FjfPj1w :2010/04/24(土) 17:56:46 ID:???
「ほう、今の攻撃をかわすとはな。なかなかやるじゃないか…ん?」
「?何だ、この反応…地下から何か来るのか!?」

ヴァイサーガ、グレイターキンとも地下からの何物かの接近を捉えており、それぞれのコックピットにこれを告げる音が鳴り響く。
そしてテスラ研から少し離れたところにある地面が左右に割れると、その中から1機の特機サイズの機体がせり出してきた。
青みを帯びた黒を基調とした装甲に加え、両肩・両脛・両腕を真っ赤な増加装甲で覆い、その頭部からは日本に伝わる兜を思わせる突起が2本延びている。
全身を遠くから見たシンの脳裏には、映像資料でみたことがある、甲冑を纏った武士が浮かんでいた。
ただ、その資料では甲冑を纏っていたのは人間であったが、目の前で甲冑を纏っているのは全長50メートルを超える特機であり、その見た目だけで相当の威圧感がある。
一方で、テスラ研を制圧しながら目の前に現れた新型の特機を発見することができなかったヴィガジの面目は完全に丸潰れであった。

「…ダイナミック・ゼネラル・ガーディアン…いや、あえてその名は呼ぶまい。総帥がこの俺に遺した機体……俺のために作られた剣…そう、名付けるなら…ダイ・ゼン・ガー…!」
(…でっかいゼンガー少佐ってことか?確かにあの人は武士っぽいし…)

ある意味、想像の遙か上を行く独創的なネーミングにジョナサン、フィリオだけでなく、シンも呆気に取られてしまうが、このネーミングはヴィガジの怒りの火に油を注ぐ結果となってしまっていた。
そして、シン達にとってはネーミングはともかくとして、ゼンガーの新しい機体の強大な戦力に大きな期待を寄せていたのであるが、その機体がすぐに期待どおりのものとはならなかった。
機体のシステムトラブルによってダイゼンガーは内蔵武器の全てが使用不可能な上、機体自体も上半身が辛うじて動く程度にすぎなかったのである。
ジョナサン、フィリオが機体を動かせるようにするべく、すぐにOSの書換を始めるのであるが、丸腰ではいずれ限界が来るはずであるとリシュウにも焦りが生まれていた。

「ク、ククク…とんだ木偶人形だったな。白い奴もろとも葬ってくれる!」

ガルガウのアイアンクローがスレードゲルミルのボディを殴りつけ、そのコックピットが揺れる。さらに続けざまにもう一撃が繰り出されるが、それはスレードゲルミルの腕に阻まれる。
そして両機が今度は手と手を合わせて巨大なロボットどうしの力比べが始まった。そんな中、ウォーダンには丸腰となってしまったゼンガーを助けるための妙案を閃いていた。
白の咆哮巨神と金色の大怪獣が正面から両手を合わせて力比べをしている中で、ウォーダンはコックピットのモニターであるものの所在を探していた。
すると、スレードゲルミルはがら空きになったガルガウのボディに蹴りを入れて相手を突き飛ばすと、探し物の在りかへと体を向けた。

「ゼンガー! お前にはまだ戦う術がある!!」
「術だと!?」
「そうだ、貴様の斬艦刀…参式斬艦刀だっ!今それを…」
「調子に乗るなぁぁぁぁっ!地求人どもっ!!!」

参式斬艦刀を取りに向かうべく背を向けたスレードゲルミルのわずかな隙をヴィガジは見逃さなかった。ガルガウの尻尾が斬艦刀を握るスレードゲルミルの右腕の手首に巻きついてその動きを止めると、
アイアンクローによる鉄拳がスレードゲルミルの顔面を何度も強く打ちつけた。マシンセルによる再生能力があるとしても、即座に回復がされるわけではない。
顔面に加わったダメージはスレードゲルミルのメインモニターの機能を低下させ、これによってウォーダンの判断にも若干の遅れが生じたことは避けられなかった。
続けて、ガルガウは両腕でスレードゲルミルの右腕を押さえつけると、斬艦刀を握る右手首に噛み付くのと同時に灼熱の炎を吐き出した。
さすがのスレードゲルミルの装甲であっても高熱による融解が徐々にではあるが始まり、装甲の硬度が低下していく。さらに噛み付きによって加わった力によって右手首にひびが生じ、火花が散るのとともに握力を失ったスレードゲルミルの右手からは斬艦刀がこぼれ落ちてしまう。
24611 ◆Qq8FjfPj1w :2010/04/24(土) 17:58:10 ID:???
「ざ、斬艦刀が…!?」

斬艦刀の喪失に強い危機感を覚えたウォーダンは残った左腕で何度もガルガウの顔面を殴りつけて強引にガルガウの口から右手を引き抜いて、なんとか間合いを取る。
顔面に続き、今度は右腕のマシンセルによる修復が始まるのだが、最大最強の獲物である斬艦刀をスレードゲルミルは失っている。
ガルガウと対峙しながらも、さきほどまでとはあまりに異なる状況はウォーダンにも強い危機感を覚えさせていた。そして、さらに悪いことは続く。

「ふっふっふっふ…はあぁっはっはっはぁぁ!」
「ぬぅっ…!」
「地球人よ、覚悟はいいかあぁぁっ!!」

戦場にヴィガジの笑い声が響き渡った。その理由は単純である。ガルガウの右腕には、さきほどスレードゲルミルが失った斬艦刀が握られていたからである。
これまでガルガウに対して大きな牽制力を持っていたのはスレードゲルミルの手にしていた斬艦刀に他ならない。
その斬艦刀がその手を離れ、自らの手にあることは、ガルガウがその強大な力を憂いなくスレードゲルミルに対して振るうことができるということを意味していた。
ガルガウが振り上げた斬艦刀をスレードゲルミルに振り下ろす。スレードゲルミルはそれを両腕をクロスさせてなんとかガードするのだが、腕に生じる損傷は大きい。
続けて左腕のアイアンクローでスレードゲルミルの顔面を殴りつけるとともに、バランスの崩れた機体を今度は巨大な金色の尻尾でさらに叩きつける。
その衝撃でスレードゲルミルは大きく吹き飛ばされ、後方にあった巨大な岩に叩きつけられる。機体の一部は岩にのめり込み、見た目にもスレードゲルミルに蓄積されたダメージが大きいことは明白であった。

「トドメだあぁぁっ!」
「これを使え、ウォーダン!」

斬艦刀を構えたガルガウがスレードゲルミルに向かって走り出すのとほぼ同時に、ウォーダンとヴィガジの間にシン・アスカの声が響いた。
そして、今の今までグレイターキンと交戦していたヴァイサーガの手にしていた五大剣がスレードゲルミルの目の前の大地に突き刺さる。
とっさにスレードゲルミルは五大剣を地面から抜いて斬艦刀を受け止めると、力任せにガルガウを弾き飛ばして、いったん態勢を整えなおすべく再び距離を取った。

「少なくとも今のアンタは敵じゃない、それだけだ!」
「シン・アスカ!…ならば礼は言わんぞ!」
「好きにしろ」

シンにとっては、強大な敵を目の前にしている今、敵の敵は敵ではない、ということが正直なところであった。また、結果としてゼンガーを助けてもらった、という恩があることも否定はできない。
さらに言えば、自らもメキボスのグレイターキンを相手にしている以上、理屈で考えるよりも直感に従って行動しただけと言い換えることも可能である。
現に対峙しているグレイターキンは高周波ソードを構えてシンとヴァイサーガの隙を狙って斬りかかって来た。これに対応するためヴァイサーガは後退しながら両腕の鉤爪、水流爪牙を展開する。
そして振り下ろされた高周波ソードを持つ腕を鉤爪で弾き飛ばすとともに、もう片方の鉤爪でグレイターキンを斬り付けるが、これはシールドに阻まれてしまう。
24711 ◆Qq8FjfPj1w :2010/04/24(土) 18:00:10 ID:???
「剣がなくてもなかなかやるじゃねーか、地球人。だがこれ以上余計な真似したら研究所はドカンだぜ」
「ヴァイサーガの武器は剣だけじゃない!」
「ならもっと俺を楽しませてくれよ、地球人!」
「俺の名前はシン・アスカだ、覚えとけインスペクターッ!」
「俺はメキボスだって言っただろうがっ!」
「ヴァイサーガ、フル・ドライブッ!!」

シールドでヴァイサーガを弾き飛ばすと、グレイターキンは距離を取りながらビーム弾をばら撒いていく。ヴァイサーガはこれをかわしながら鉤爪を再び構えてグレイターキンとの距離を詰めていく。
近付いてきたヴァイサーガに向けてグレイターキンは高周波ソードを振り下ろすが、その刃は空を切った。一瞬メキボスはヴァイサーガの姿を見失うがすぐに機体がその居場所を告げて対応を促す。
グレイターキンのシールドがない右側面に現れたヴァイサーガは鉤爪を伸ばすのだが、その攻撃は高周波ソードで受け止められてしまう。
しかし、ヴァイサーガの連続攻撃はまだ終わってはいない。再び姿を消したヴァイサーガは次の瞬間にはグレイターキンのすぐ正面に現れると、既に構え終えていた右腕の鉤爪がグレイターキンに向かって伸びていく。
その爪は惜しくもコックピットを貫くことはなく、これを阻んだシールドを貫いただけで終わってしまったのだが、少なくともメキボスの肝を冷やすことには成功した。
とはいえ、最悪の状況は脱したのかもしれないが一切好転はしていない。むしろスレードゲルミルもヴァイサーガも最強の得物を失っており、状況は悪化しただけともいえる。
シンもメキボスのグレイターキン相手で斬艦刀を取りにいくことができないし、五大剣がない以上相手に深手を負わせることも期待できない。
ダブルG2号機のことを知る由もないシンにとっては、八方ふさがりの状況であった。

「ほらほら、今度はこっちからいくぜ、シン・アスカ!」

再びグレイターキンが高周波ソードを構えてヴァイサーガに向かってくる。だが、剣の間合いの内側にヴァイサーガ
が入る前に、グレイターキンのセンサーが新たな機体の接近を告げ、
続けてその進行方向の地面に数発のレールガンの弾丸が打ち込まれた。これをグレイターキンはシールドで受け止めるのだが、さらに今度は十数発のミサイルが襲いかかってくる。
それをメキボスは機体を後退させながらビーム砲でなぎ払うと、今の攻撃の主がいる上空へと目を向けた。ほぼ同時にシンも上空へ目を向けるとそこにいたのは見覚えのある緋色のAMであった。

「スレイさんっ!」

シンの問いに答えることなく、スレイ・プレスティのパーソナルカラーである緋色に塗られたカリオンはミサイルをばら撒きながらグレイターキンへとGドライバーを撃ち込み続けていた。
シンには先ほどのカリオンとの戦闘の時間を考えれば、十分な整備ができているとは思えなかったが、
そもそもプロジェクトTDの機体データはスポンサーであるイスルギ重工経由でノイエDCにももたらされており、迅速な修理・補給が可能であり、このおかげでテスラ研での戦闘に介入することができたのであった。

「だがこれしきのことで隙なんぞ作らんぞ、地求人ども」
「フッ、ならば俺達が相手をしてやろう」
「何だと!?」

どこからとはわからない通信が入るのと時を同じくして、グレイターキン後方から、カリオン以外の機体から発射された大量のミサイルがグレイターキンに襲いかかった。

「こんなのが当たるかよっ!」

上空から迫るミサイルをメキボスはメガ・ビームバスターでなぎ払い、20を超えるミサイルの爆発が空を覆いつくした。
濃厚な爆煙が立ちこめる中、シン、メキボスともにミサイルが飛んできた方向に視線を向けて今の攻撃を行った主を探す。ミサイルの爆発によって熱源での探知ができず、目視による捜索のみが可能であった。
爆煙が徐々に薄れ始めるとシンの目にはある生物の奇妙なシルエットが映った。なぜ奇妙なのかを一言で言えば、いるはずがないからである。
シンの目に映っていたシルエット、それは一匹の蝶であった。だが、蝶が戦場にいるはずがない。それに自分との距離をふまえて見える大きさからして、このような大きさの蝶がいるはずもない。
そして、さらに爆煙が薄れていくと、蝶の色は黒であることがわかってきた。
24811 ◆Qq8FjfPj1w :2010/04/24(土) 18:01:30 ID:???
「黒い…蝶…?」

だが答えは正解ではなかった。段々とその蝶と思しきシルエットが、シンも見たことのある機体にそっくりであることが段々と分かってきた。
その機体の名はラーズアングリフ。よく見てみると付近にはそのラーズアングリフの後に続く4機のランドグリーズもいる。だがシンが知っているこれらの機体とは決定的に異なることが1つあった。
これまでは地上を移動することしかかなわなかったのだが、背部飛行ユニットという翼を得て大空を縦横無尽に駆け巡っていたのである。

ビアンの影響を受けたバン・バ・チュンの思いつきと、ヴァイサーガのラクシズへの譲渡を遅延させようとしたレモン・ブロウニングがした覇王への嫌がらせ。この両者の化学反応の結果として編成された、
ラーズアングリフ・レイヴンとランドグリーズ・レイヴンを中核とした、ノイエDCの切り札ともいうべき対インスペクター四天王特殊部隊オーバー・レイブンズ。
それが、スレイ・プレスティが連れてきた増援の正体であった。

「惜しいな、だが貴様にしては上出来な答えだ、シン・アスカ」
「そ、その声…その機体…まさかっ…」
「テスラ・ライヒ研究所は地球の軍事技術上、極めて重要な施設。インスペクターどもから奪還するのは当然だ」
「やっぱりユウキ・ジェグナンか!」
「フッ…わかったならさっさと貴様は自分の仕事をすることだ。俺達は俺達の仕事をするだけだ」
「いきなり出てきて何を…!」
「この場は俺達が引き受けてやると言ってるんだ、貴様は早く行け。すべきことがあるのだろう!?」
「…そんなことはわかってる!」
「なんだ、地求人ってのは遅刻常習者の集まりか!?」

メキボスがシンとユウキの会話を遮り、オーバー・レイブンズに向けてフォトン・ビームを撃ち込んだ。

「各機散開!相手は幹部機だ、油断するなよ。一気に火力で押し潰すぞ!」

ユウキの黒いラーズアングリフ・レイブンと4機のランドグリーズ・レイブンが散開して、スレイのカリオンとともにグレイターキンに向けて再びミサイルをばら撒き始めた。
メキボスは、機体を後退させて回避しつつ反撃の態勢を取ろうとするのであるが、その前にブレイク・フィールドを纏った緋色のカリオンがグレイターキンを襲う。
メキボスは機体を横にずらしてなんとかソニックカッターを回避するとともに、参式斬艦刀のもとへ行こうとするヴァイサーガの姿をその目に捉えると、フォトンビームの照準を合わせようとした。
だが、カリオンに続けて黒いラーズアングリフ・レイブンがヘビィ・リニアライフルの照準をグレイターキンに合わせて突っ込んでくる。
連続して撃ち込まれる威力の強化された弾丸をグレイターキンはシールドで防ぎつつ、なんとか反撃の糸口を探そうとする。
しかしその前にユウキをフォローするべく4機のランドグリーズ・レイブンからまたもミサイルがばら撒かれてメキボスに襲いかかってきた。
遠距離からの攻撃と接近しての攻撃の波状攻撃は、カリオンの機動性とも合わさることによってグレイターキンに反撃を許さない濃密な攻撃となっていた。

そして、このチャンスをものにするべくヴァイサーガが最大戦速で戦場を駆け抜けていく。その行く先にあるものは当然ながら今のシン達の希望の星ともいうべきゼンガーの武器、参式斬艦刀である。
大地に深々と突き刺さったゼンガー・ゾンボルトの魂ともいうべき参式斬艦刀をヴァイサーガは引き抜くと、ちょうどOSの暫定的改良を終えたダイゼンガーのもとへと投げ付けた。

「ゼンガー少佐っ!」
「応っ!」

参式斬艦刀は、刀身で太陽光を反射して白銀に輝きながらちょうどダイゼンガーの目の前に突き刺さる。
そしてダイゼンガーは、ゆっくりと、しかしながら確実に大地を踏みしめて斬艦刀の下へ辿り着き、柄に手をかけると算式斬艦刀を一気に振り抜いた。
液体金属によって構成された万物を断つ白銀の刃が太陽光を反射して輝き、切っ先が破壊の猛威を振るう金色の大怪獣ガルガウへと向けられる。
24911 ◆Qq8FjfPj1w :2010/04/24(土) 18:04:02 ID:???
「フン、今さらそんな物を手にした所で!」

ヴィガジが、もう時既に遅しとばかりに嘲りの笑みを浮かべる。だが、当然ながらゼンガーにはヴィガジの言葉など全く意味のあるものではない。
そして、斬艦刀を引き抜いたときには閉じられていたゼンガーの瞳と口が力強く開いた。

「黙れッ! 斬艦刀は我が魂の剣! これさえあれば、俺は戦える!!我が魂を受け継げ、ダイゼンガー!否!」


「武神装攻ダイゼンガー」

「ぶ……武神装攻だと!? 今度は何の略だ!?」
「もはや問答無用!受けよ、我が魂の太刀をッ!!立ち塞がる者は何人であろうとも、倒す!我は悪を断つ剣なり!吠えろ!ダイゼンガー!」

ゼンガーの叫びに呼応するかのように、ダイゼンガーの口と思しき部分も開く。そして参式斬艦刀を振り上げたダイゼンガーが背部のブースターから業火を噴かせながら一気にガルガウとの距離を詰めていく。

「ぬうううん!!チェストォォォオ!!」

神速とも評し得る速度で一気に振り下ろされた参式斬艦刀を、辛うじてガルガウはスレードゲルミルの斬艦刀の刀身を盾にしてこれを防ごうとする。
だが剣を単なる武器として用いる者と、剣の道を行き剣に武器以上の意味を見出す者とでは、同じ剣を使ったのだとしても生み出される力は天と地ほどの違いがある。
それ故に、ゼンガーの参式斬艦刀の一閃を受け止めようとしたのが同じ斬艦刀であったとしても、容易に優劣は決しうる。

「我が斬艦刀に断てぬものなし!」
「ぐおおおっ!」

ダイゼンガーの一太刀を受けてガルガウは遙か後方へと吹き飛ばされてしまう。そしてガルガウの右腕に握られた斬艦刀の刃は音もなく崩れ落ちて姿を消し、柄と鍔のみがその手元に残された。
もしガルガウが斬艦刀ではなくアイアンクローでゼンガーの太刀を受け止めようとしたのであれば、おそらくコックピットの中のヴィガジごと真っ二つになっていたであろう。
この意味で、斬艦刀で防御をした結果として命拾いをしたヴィガジは幸運であった。

「ぐ、ううっ……!!」
「…礼を言うぞ、ウォーダン・ユミル」
「ゼンガー……雲燿の太刀、しかと見届けた。それでこそ……我が宿敵だ」
「おのれ、貴様ら……!貴様ら、もう許さんぞッ!!」

立ち上がったガルガウがテスラ研を向く。攻撃の矛先をダイゼンガーではなく、ゼンガーらが奪還しようとするテスラ研に向けていることは誰の目にも明らかである。
しかし、ダイゼンガーの一太刀の威力が強すぎたあまりに、ガルガウとダイゼンガーの距離は開きすぎてしまっていた。そのため、今から攻撃を仕掛けたとしても間に合うとは言い難い。

「しまった、このままではテスラ研がッ…!だがここからでは…」
「…ならばお前の足となる役目は私に任せてもらおう」
「何っ!?」

ゼンガーとシンに外での戦闘を任せてテスラ研内部に突入したレーツェル・ファインシュメッカーの声が戦場の各機体のコックピットに響いた。
そして研究所付近の地面が左右に開くと、テスラ研地下の隠し通路を経て地上へ飛び出してきた黒塗りの特機がダイゼンガーの側に現れたのである。
黒を基調にしつつ、各部に赤と黄色のカラーリングが施されるとともに、両肩に装着された大型の盾にも見える円盤状の物体の側面には金色でとある家の家紋が描かれている。
そして黒のマントと頭部の髪の毛のようなものをなびかせながら、その黒い特機は懐から2丁の小銃ランツェ・カノーネをヴィガジのガルガウに向けて引鉄を引いた。
放たれた二筋のビームは、テスラ研の方を向いて攻撃の態勢を整えていたガルガウの顔面の横っ面を叩くように突き刺さり小さな爆発が起こった。
25011 ◆Qq8FjfPj1w :2010/04/24(土) 18:05:41 ID:???
「!!あれもダイゼンガーとやらか!?」
「そう、ダイナミック・ゼネラル・ガーディアンの2号機…名付けて、アウセンザイター……!」
「『穴馬』だと? また翻訳機が壊れたのか!?」
「…なるほど。言い得て妙だね」
「ゼンガー! モードを『プフェールト』に切り換えろ!」
「!?」

レーツェルに言われるがままにダイゼンガーのモードを切り換えると、ダイゼンガーとアウセンザイターが一直線に並ぶ。
そして、人型の特機であるアウセンザイターの変形が始まり、その姿は大地を駆ける漆黒の黒馬、
まるでレーツェルの愛馬であったトロンベを思わせるような姿へと変貌を遂げ、飛び上がったダイゼンガーがそこに跨った。

「行くぞ、友よ!!今が駆け抜ける時!」
「応!!刃・馬・一・体!参る!!」

ゼンガーとレーツェル、2人の声に応えるかのようにダイゼンガーを乗せたアウセンザイターの速度が加速度的に増していく。
その勢いと気迫とスピードに虚を突かれたヴィガジはダイゼンガーのガルガウへの接近を許してしまう。そして、振り上げられた参式斬艦刀によってガルガウは上空へと弾き上げられる。

「ぬうううん!吠えろ、ダイゼンガー!!武神の如く!!!」
「駆けろ、トロンベ!その名の如く!!」
「奥義!!斬艦刀ォォォオ…!!逸騎刀閃!!一刀両断ッ!!」

そして、身動きが取れなくなっていたガルガウに向けて、ダイゼンガーの両手に握られた参式斬艦刀が振り下ろされた。神速で振り下ろされる剣の軌道は確実にガルガウのコックピットを通過するコースを辿っている。
インスペクターの幹部として豊富な戦闘経験を持つヴィガジは、野蛮人と蔑む地球人への怒りが心を支配していくのとともに、この一撃が不可避なものであることを本能的に感じ取っていた。
だが、この斬撃がガルガウへと到達する寸前に、ヴィガジとガルガウをまったく別の方向から放たれたビームが襲った。
これによって起こった爆発の衝撃はガルガウの機体をわずかに横に弾き出し、その直後に振り下ろされた参式斬艦刀がガルガウの左腕を、根元からアイアンクローもろともに斬り裂いた。

「き、貴様らぁぁっ!!」

落下していくガルガウの中でヴィガジが怒号混じりの声を上げる。その怒り狂ったヴィガジの気持ちなど関係なくグレイターキンが落下中のガルガウを確保した。

「メキボス、貴様!?」
「引き際くらいわかるだろ。それにどうせ奴らはラングレー基地にやってくる。借りはその時にまとめて返そうぜ?」
「…ふん、そんなことわかっておるわ」
「やれやれ。ったく手のかかるリーダーだぜ」

ガルガウを抱えたグレイターキンはビーム砲をばら撒きながら戦場からの離脱を始めていた。
相手を撃退した、という意味においてはシン達の勝ちであると言い得るが、ダイゼンガー、アウセンザイターはきちんとした調整がされることなく実戦に投入されたものであるし、
スレードゲルミルはガルガウとの戦闘で損傷した部分の修復をまだ終えてはいない。ヴァイサーガも大きなダメージこそ残ってはいないものの、後顧の憂いなく追撃ができるほどのエネルギー残量はない。
スレイの目的は兄の奪還であるからインスペクターの追跡にはさほど興味がない。
また、オーバー・レイブンズとしても全機が揃っている訳ではない上に、今回が初の実戦であるため機体の調整が十分にされているとは言い難い。
結局、それぞれがそれぞれの事情によってこれ以上の追撃をすることはできなかったのである。そんな中、インスペクターに次いで戦場からの離脱を開始しようとしたのはスレードゲルミルであった。

「シン・アスカ」

ウォーダンはシンの名前だけを呼んで、借り受けていた五大剣をヴァイサーガに手渡す。
25111 ◆Qq8FjfPj1w :2010/04/24(土) 18:07:02 ID:???
「今回は助けられたが、次は敵同士だ」
「ああ、わかってる」
「さらばだゼンガー・ゾンボルト、そしてシン・アスカ」

そう言うとスレードゲルミルはガルガウの腕からこぼれ落ちた自らの斬艦刀を回収して、何処かへと遠ざかっていった。その直後であった。
ラーズアングリフ・レイブンのレーダーがテスラ研に接近する部隊の反応を捉える。

「奴らの本隊が来たか…オーバー・レイヴンズ、撤退するぞ」
「まさかまたアンタが手を貸してくれるとは思わなかったよ、一応礼は言っとく」
「そうか…だが、インスペクターどもとの決戦はこれからだ。せいぜい気を付けることだな」

かくして戦場への乱入者が続々と離脱していく中、モニターに映っている緋色のカリオンがシンの目に止まった。
そのすぐそばには、テスラ研からやや離れた崖の上に機体を置き、研究所を静かに言葉なく眺めているスレイ・プレスティの姿がある。
助けてもらったことに対する礼をまだしていないことを思い出したシンは、ヴァイサーガをその近くに降ろすと、ヘルメットを取ってスレイの元へと駆け寄っていった。

「さっきはありがとうございました。スレイさん達が来てくれなかったら俺達どうなってたか…」
「か、勘違いするな。別にお前を助けに来たわけではない!お前達だけに兄様を任せられないから来ただけだ!…私ももう行く!」

夕焼けの光りのせいであろうか、わずかに顔を赤らめたように見えたスレイがシンに背を向けてスタスタと歩き出す。

「えっ!?お兄さんに会わなくていいのかよ!?」
「もう間もなく貴様達の本隊が来るのだろう。私はあの負け犬達の顔を見るつもりはない」

足を止めてスレイが答えた。だがその声は、先ほどまでのように心なしか狼狽したような声というよりは、アイビス達と話すときの、やや冷たい印象を与える低めのものである。
とはいえシンとしては―せっかくスレイが兄と会える機会というよりも―同じ妹を持つ兄として、フィリオ・プレスティという兄が妹とせっかく会える機会だというのに、
それを実現させないままスレイを帰すわけにはいかない。そのため、スレイを止めるべく走って追いかけていく。
アメリカ大陸突入作戦後のヴァイサーガとの戦闘でシンから発せられた言葉の意味を誤信してしまった結果として実はシンの顔をしっかり見れない状態になっているスレイは、
これ以上狼狽した言動を見せまいとして逃げるようにその足を速めていく。そしてシンもこれを止めるべく小走りでスレイを追いかけ始めた。
25211 ◆Qq8FjfPj1w :2010/04/24(土) 18:09:57 ID:???
「おい、ちょっと待てよ!うわっ!」
「ん?………………………………………………!?!?!?!?」

結論から言えば、起こった出来事はなんてことないものである。銀河の存亡も、地球圏の安全も、今起こった出来事によっては何ら影響を受けてはいない。
念のために状況を客観的に説明すると以下の通りである。
スレイを追いかけようとしたシンの足元には大きな石があった。
シン・アスカは戦闘が終わったのと激しい激戦の疲労から気が緩んでしまっていた。そのため、スレイを追いかけようとしたときにその石に蹴躓いてしまった。
「うわっ!」という声にスレイはシンに何かあったのかと思わず振り向いた。慌てたような声を聞き少し心配になったのである。
そして、振り向いたスレイの胸部に実った2個の白桃の谷間に向けて、石に蹴躓いたシンは顔面からダイヴしてしまった。
躓きながらもなんとかバランスを取ろうとシンは両手をバタつかせたのであるが、その両手はそれぞれスレイの左右の果実を鷲掴みにしてしまった。
そして2人分の体重を支えきれないスレイは仰向けに倒れ込み、外観上は野外でシンがスレイを押し倒したような形になってしまった。
その上両手と左右の頬の柔らかい感触を確かめるために無意識のうちに指を動かし、これまで誰にも揉みしだかれたことのない、
強い張りを持ちながらも、触れるのがパイロットスーツ越しであっても触れば一定の弾力とともに優しく形を変える2個の白桃の感触を存分に堪能する結果となってしまった。
一言で言うのであれば、何かの神が宿っていると噂されるシン・アスカの指が未開の白桃園の触感を余すところなく堪能したのである。
さらに言えば、そのときシンの嗅覚はスレイ愛用のシャンプーとほんの僅かだけ汗ばんだ彼女のちょっぴり甘い香りを嗅ぎ付けてしまった。

そんな取るに足らない、他愛もないToLOVEるが起こってしまったに過ぎない。

そして確かに、これくらいのことで銀河宇宙が揺らぐようなことは全くない。だが、当の本人、特にスレイ・プレスティにとっては銀河が崩壊する以上のトンでもない事態であることも確かであった。

「こ、この…変態!色魔!鬼畜っ!」

顔をレイのペルゼイン・リヒカイト以上に真っ赤にしながら叫び声を上げたスレイの右足はシンの体の左右の中心部分を蹴り上げるとともに、これによって宙に浮いたシンの顎を右腕が極めて精確に打ち抜いた。
そして、頬と両手に温もりとと柔らかい感触を、鼻に甘いいい香りを、下半身の中心に表現のしようのない呼吸を不可能にさせる痛みを残しながらシン・アスカの体は宙を舞ったのであった。
なお附言すると、急ぎ足でその場を離れて行ったスレイの顔はしばらく真っ赤で、この粗相の責任をいかに取らせてやろうかという思考がしばらく彼女の脳裏から離れなかった。
シンにとって幸いであったのはこの出来事がスレイの兄フィリオ・プレスティやテスラ研スタッフ、ハガネ・ヒリュウ改の面々の知るところにはならなかったことである。

銀魂劇場版新約紅桜篇公開記念(非公式)&超電王トリロジー公開記念(非公式)記念第42話
「武神装攻ダイゼンガー」  おわり

お久しぶりです。春は出会いと別れの季節?異動と引き継ぎとこれらに伴う残業の季節の間違いだろ、jk
253通常の名無しさんの3倍:2010/04/24(土) 19:17:53 ID:???
総帥投下早いな…と思って覗いたら、まさかの11氏だったでござる
考えてみりゃ、このSS始まったとき、まだキバ始まったばかりだったようなw

ともあれ、とりあえずシンもげろ
254通常の名無しさんの3倍:2010/04/24(土) 21:04:22 ID:???
もっげっろ!もっげっろ!
255通常の名無しさんの3倍:2010/04/24(土) 21:33:27 ID:???
うーん……
シンもげろのあたり以外は前回までのあらすじだっけ?
読み返してくるか
256通常の名無しさんの3倍:2010/04/25(日) 01:37:05 ID:???
あまりにも久しぶりでどうなったか忘れた

だがとりあえずシンはもげるべき
257660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/25(日) 22:07:04 ID:???
11さん、お疲れ様です。
原作でも大いに盛り上がったダイゼンガー登場の回でしたね。
この後のプランタジネット以降キツイ展開も待っていますが、種組の存在がどう展開に変化をもたらすかが楽しみです。
気になるのはアインストにとって異世界の人間である種関係のキャラになにかアクションを起こすのか起こさないのか。シャドウミラーは無視され、ギリアムも直接最終面で対峙するまでこれといって何があるわけでもありませんでしたが。
最後のシンも別に非があるわけではないのだけれど、とにかく一言。もげろ。
GJでした。
258通常の名無しさんの3倍:2010/04/25(日) 23:38:18 ID:???
みんな、もげろ以外にも本当は言いたいことがあると思うんだ。

そのパルマよこせ
259通常の名無しさんの3倍:2010/04/26(月) 00:53:32 ID:???
11氏乙です。
しかし皆、シンは金的と顎に一発喰らってるんだから勘弁してやれよww
260660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/27(火) 20:34:13 ID:???
こんばんわ。おそまきながら私も11さんに続いて投下いたします。

ディバイン SEED DESTINY 第四十話 黒衣の総統

 通常の地球連合の戦力ではまるで相手にもならないクライ・ウルブズを翻弄し、巨大な水晶の怪物としか見えない異様な敵戦艦に砲火を浴びせる深青の魔王たちの姿は、地球連合の諸兵達にとってまさしく希望そのものであった。
 とはいえさすがにDC最精鋭にして現在地球圏最強の遊撃部隊と内外で高い評価を受けるクライ・ウルブズは、敵対者の背筋に冷たいものを流させるほどの底力を発揮して、数機のヴァルシオン改を撃破している。
 しかし、その戦果をもってしても戦いの天秤は大きく三輪艦隊に傾きつつあった。
 クライ・ウルブズ以外にもミネルバの機動兵器部隊が勇ましい活躍を見せてはいるが、MS至上主義のザフトらしくほとんどMSだけで構成されているために、特機であるヴァルシオン改の猛攻を前にして火力が足りず、徐々に押し込まれつつある。
 ミネルバMS隊の中で異彩を放つ四本の腕と天使の翼をもった青い鎧の騎士然とした外見のヒュポクリシスは、単独でヴァルシオン改と互角以上に渡り合うポテンシャルを有していたが、三輪艦隊のテュガテールに食らいつかれ動きを封じられている。
 テュガテールはヒュポクリシスがザフトの中で浮いているように、地球連合が運用している機体の中でもひときわ異様な風体の外見をしている。
 手持ちの武装は銃火器はもちろん刀槍といった類の武器を持っていない。人面の少女らしいシルエットだが、頭部から四枚の翼が生えた奇妙極まる意匠だ。
 仔細に観察すればザフトのヒュポクリシス、DCのエレオスと共通したディテールを見出すこともできるだろう。
 ピンク髪を綺麗に切りそろえた活発な印象の強い少女ティスは、愛機テュガテールと親子ロボと自称しているパテールを呼び出して、ヒュポクリシスに対してめったやたらと殴りかかっている。
 戦闘というよりは癇癪を起した子供の喧嘩のような戦い方だ。テュガテールの三倍かそれ以上のサイズのパテールが振り回す拳を、あわてた様子のヒュポクリシスが回避し、それを見越したテュガテールがドロップキックを放つ。
 ヒュポクリシスのコックピットに座るラリアーは、普段の落ち着いた利発そうな雰囲気はかけらも残さず、うわ、と慌てた声をあげてヒュポクリシスを操らねばならなかった。
 ヒュポクリシスの下二本の腕が握る両刃剣を交差させてテュガテールのドロップキックを受け止めるが、小柄なテュガテールのどこに秘められていたのか、ヒュポクリシスはそのまま後方に吹き飛ばされる。
 崩れた機体の体勢を立て直しながら、ラリアーは自分たちデュナミスに生み出された者たちの間でのみ通じる秘匿回線を開き、手加減の手の字も知らぬ様子で攻撃してくるティスに困惑の強い文句を飛ばす。
 
「ちょ、ちょっとティス、いくら見られていて手加減できないからって、やりすぎだよ」

「気にしない、気にしない。ほらほら、あんたも反撃しないと怪しまれるよ! パテール!」

「え、う、うわ!?」

 ティスの掛け声とともにヒュポクリシスに降りかかった巨大な影に気付き、ラリアーは慌ててヒュポクリシスを右方向に飛び退かせる。青い残像をパテールが組み合わせた巨大な拳がぶち抜く。
 あれが当たってたらタダじゃすまないよ、とラリアーは口まで出かかった文句を飲み込んだ。デュナミスからはお互いを傷付け合うほど真剣に戦わなくていいと言われていたのだが、ティスはどう考えても本気に近い闘志を見せている。
 前にティスが楽しみに冷蔵庫にとっておいたプリンを黙って食べてしまったことを、まだ根に持っていたのだろうか。甘さが絶妙で新鮮な卵をふんだんに使った一品で実においしかった。
 いや、それともお風呂に入っているのに気付かず、着替え途中だったティスのいかにも子供子供している裸身を見たときのことか。見てもうれしくも何ともなかったのだが、それを言うと余計に怒り出してひどく殴られた。
 いくらなんでもそれはないだろうと思うのだが、ティスの場合本当に有り得そうで、むしろ怖い。
 二人というか、ティスばかりが本気を出す戦いに気が咎めて、アルベロのビルトシュバインとペアを組んでヴァルシオン改と戦っていたデスピニスが、見かねた様子でティスを諌める。
261660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/27(火) 20:36:35 ID:???
「ティス、あんまりラリアーを困らせないで」

「ここで変に手加減したらあとでデュミナスさまに迷惑をかけちゃうかもしれないでしょーが。同じ迷惑かけるのなら、デュミナスさまよりもラリアーに決まってる!」

「ええーー!? そりゃデュミナスさまのほうが僕より大切なのはわかるけれど、もう少し僕にも迷惑がかからないようになにか方法を考えてよ!」

「お黙り! 男ならうだうだ文句を言わないの! あんた、ちゃんとついてんの!!」

「は、はしたないよ、ティス」

「デスピニスも、さっさと戦いに集中しなさいって。それじゃね」

「あ、もう……。ティスったら」

 実の姉妹も同然のティスに対しても、デスピニスはいかにも病弱な深窓の令嬢を思わせる気弱な態度は変わらない。
 笑顔を浮かべればどんなに偏屈で子供嫌いの大人でも、つられて微笑を浮かべてしまいそうなくらいに愛らしく整った顔立ちなのだが、普段からどこか世界中に責められているかのように翳を帯びた表情をしている。
 誰も異論を挟まぬくらいの美少女であるというのに、纏う雰囲気のせいで、周囲の人間は将来何か良くないことがこの少女の華奢な体に降りかかる予感に襲われていらぬ心配を覚える。
 デスピニスに対して姉を自称するティスにとっては、デスピニスのそんな態度も作りだされた時から慣れっこなので、まるで気にとめた様子もなく変わらずヒュポクリシスに怒涛の連撃を仕掛ける。
 デスピニスは、はあ、ともう数えることを諦めた溜息を吐きだした。

「ラリアー、がんばって」

「デスピニス!?」

 ぶつん、と無機質な音を立てて消えたモニターに向けて、ラリアーはそんな無情な、と叫ぶものの、前後をパテールとテュガテールに挟まれて、そちらに意識を振り戻さなければならなかった。
 デスピニスが楽しみに取っておいたアイスクリームを黙って食べてしまったことを、まだ根に持っていたのだろうか。
 いや、あるいは階段を上っているときに間違って足を滑らせて、先に階段を上っていたデスピニスのスカートの中に頭を突っ込ませたことを怒っているのだろうか?
 ラリアーはデスピニスに恨みを買うような記憶を自分の記憶の地層から、掘り返してみるが、思い当たることが多すぎて明確な答えは出なかった。
 エレオスを操ってビルトシュバインと共にヴァルシオン改と切り結びながら、デスピニスは、半ベソをかいているラリアーの声を聞こえない、聞こえない、と何度もつぶやいて聞かなかったことにする。
 ヴァルシオン改を相手に戦わなければならず、仕方ない、ラリアーを見捨てたわけではなくて私のしなければならないことをするんだ、と自分に言い聞かせていた。



 三輪艦隊旗艦クラップ級戦闘用艦橋で、アードラーは各モニターに映し出された自分の作品たちの勇壮な活躍に、瞳を光がこぼれんばかりに輝かせ、罅だらけの唇を三日月のように吊り上げていた。
 純粋な歓喜に浮かされて浮かべた笑みだが、目撃した者に問うたら一万人が一万人全員、二度と見たくないと眉間をしかめて答えることは間違いない、気色悪く邪悪さをにじませた笑みであった。
 それはアードラーの隣で艦隊の指揮を執る三輪も同様なようで、一度アードラーの笑みを見たときに、ろくでもないものを見たとあからさまに顔を顰めてからは、極力アードラーを振り返らぬように努めている。

「かぁかぁかぁ、きぃきぃきぃ、くぅくぅくぅ、けぇけぇけぇ、こぉこぉこぉ、どうじゃ、わしのゲイム・システムの威力は! ビアンが集めたおもちゃどもなんぞ、わしの頭脳にかかれば木偶よ!!」
262660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/27(火) 20:37:56 ID:???
 わけのわからない笑い声をあげるアードラーを、オペレーターをはじめ管制官などブリッジスタッフがぎょっと振り返るも、醜さをいやますアードラーの醜悪な笑みに、顔色を青くして視線を引きはがす。
 耳を引きちぎりたい衝動をこらえながら三輪は指揮を執り続ける。あまりの忌々しさに腰の拳銃に延びた手を止めるのには、たいへんな労力が必要だった。
 作戦が成功に終わったら、二度とこのアードラーと顔を突き合わせることにならないようありとあらゆる手を尽くすことを、三輪はこれまでの人生で覚えがないほど堅く誓う。
 そこじゃ、叩きつぶせ、ええい容赦なんぞせずにぶっ壊してしまえ、とオブザーバーシートから立ち上がったアードラーは口角から黄色みがかった唾を飛ばしながら、ヴァルシオン改部隊に檄を飛ばす。
 熱狂的なスポーツファンに似た様子ではあったが、アードラーの視線の先で繰り広げられているのは技術と技術を競い合う健全な運動などではなく、国家の安全と未来をかけて行われる命がけの戦争である。
 少なくとも軍人としての気骨と矜持ばかりは持ち合わせている三輪にとって、自分の隣に立つ老人は、汚物以外の何物でもなかった。
 三輪が傾倒しているブルーコスモス盟主ロード・ジブリールに、この男の意を最大限汲むようにと言明されていなければ、航海の途中で営倉に放り込んでいる。
 三輪艦隊は八隻のDC・ザフト艦隊に四方を囲まれた状態であったが、ヴァルシオン改部隊の投入と、それによる敵機動兵器部隊の大きな後退によって包囲網を突破すべく動いていた。
 海面下では直曵に残していたフォビドゥン・ヴォーテクス部隊が激闘を演じ続け、空でもウィンダムを中核とした部隊が勢いを取り戻しつつある。
 残っている艦艇とMS部隊を一本の矢のごとく戦力を集中させて、艦隊前方に布陣していたセプタ級とストーク級に砲火を集中して、二隻の敵艦の船体から盛大な黒煙を噴出させることに成功している。

「主砲、一番、二番、撃てい! 対空砲座、一機も艦に近づけるな!! 対空砲火では艦は落ちん。密集して対空砲火の密度を上げろ」

 ストーク級はエネルギー・フィールドの出力を強化して三輪艦隊の砲火を耐え忍び、セプタ級は自己修復機能とEフィールドを頼りに、船体に誂られたミサイル発射管、対空レーザー、対空機銃の火勢を強めている。
 さすがにいくら自己修復機能があるとはいえ、船体を構成する素材を直接射出するクリスタル・マスメルの頻繁な使用は控えているようだ。
 水上艦艇を含む艦隊の猛火を小うるさいセプタ級に浴びせ、三輪艦隊はじりじりと足元に火がついたような焦燥に煽られながらも、根気強く包囲網突破と砲火の返礼に専念しつづけていた。
 ストーク級が撃墜の危機をしのぐことに手を塞がれ、セプタ級は搭載機と残っていた航空部隊のリオン、VF−19Aエクスカリバーと連携してなんとか三輪艦隊の頭数を減らさんとこちらも執念を燃やす。
 だがすでにセプタ級に取り付いていたヴァルシオン改のクロスマッシャーの嵐を受け、容赦なくEフィールドを突破した破壊エネルギーに船体を抉られれば、執念の炎も勢いを弱めざるを得ない。
 船体を構成する赤紫の水晶片を無数にこぼしながら、さすがに勢いを殺がれたセプタ級が徐々に三輪艦隊の力押しの戦い方に押され、ついには三輪艦隊に包囲網の突破を許してしまう。
 包囲網の突破を確認し、背中への砲火を受ける時間を極力減らすべく、三輪はすぐさま艦隊の艦首をめぐらすべく新たな指示を飛ばさねばならなかった。
 先行して出撃したネオ・ロアノーク大佐率いる機動兵器部隊第一陣は、現在もDC・ザフト・大洋州連合の部隊と互角の戦いを繰り広げており、三輪艦隊へ帰還するまではまだ時間があるだろう。
 願わくば敵機動兵器部隊を突破し、後方の機動空母タケミカズチ、タケミナカタを中核とする三国連合の母艦に、なんとしても打撃を与えてもらわねば困る。
 数で勝り、ヴァルシオン改の投入で士気の向上が計られた三輪艦隊の威勢は、確実にDC・ザフト艦隊にその牙を深く食い込ませつつある。
263660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/27(火) 20:40:36 ID:???
 なんとかなるか、ではなく、なんとかなる、と三輪のみならず艦のクルー一同の心中が好ましい方向に変化しつつあることに、全く気付いていないのか、アードラーは大きく目を見開いて三輪を振り返る。
 限界まで見開かれ血走った瞳、悪魔的につりあがり口の端に泡を浮かべた狂笑、正気の名残を一片たりとも窺えぬアードラーの相貌は、幼子ならば見た瞬間に引付を起こすに間違いないものに歪んでいる。

「いぃっひひひひひ!! わしの才能、わしの采配、わしの技術があればこの結果も当たり前よ。ゲイム・システムが大量量産の暁には、宇宙の砂時計もビアンの居座るちっぽけな島も、すべて蹂躙しつくしてくれる。
 わしが、このアードラー・コッホこそが真にこの地球に必要な才能なのじゃ! くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

 背骨が折れんばかりに胸をそらし、鼓膜が腐り果てる狂い笑いを艦橋に木霊させるアードラーへの抑えがたい殺意に、三輪の手が動きかけその瞬間、豊かな茶髪を結いあげたモンゴロイド系の若い女性オペレーターが大声をあげた。

「ゲイム07反応消失! 撃墜された模様。ゲイム15の反応も消失しました!?」

「ひゃひゃひゃ…………なんじゃと? わしのヴァルシオン改が? 落とされた? 撃墜された? 貴様、なにかの間違いではないのか!!!!」

 その白い喉を噛み破るぞとばかりに黄色い歯と薄汚れた歯茎をむき出しにするアードラーの怒気とおぞましさに、うなじに鳥肌を浮かばせながら女性オペレーターは懸命に自らの仕事を果たそうと努力する。
 三輪はアードラーほどの狂態は見せなかったものの、現在の戦況を支えるもっとも大きなな要因であるヴァルシオン改の撃墜は、到底歓迎できず厳しい表情を浮かべて詰問する。

「コッホ博士、少しは口を閉ざさんか! 必要な情報が手に入らん。オペレーター、状況を正確に伝えろ」

 身内に対しても高圧的で傲慢極まりない三輪であったが、この時ばかりは彼以上に不興を買うアードラーを黙らせたとあって、艦橋のスタッフから若干高評価を得た。
 もっとも本人は周りから普段はうとまれていることや、コッホへの叱責で若干株をあげたことなど露とも知らぬが。

「DCのインパルスです。ライブラリに照合しない武装を用いて、ゲイム07、15を撃墜した模様。すでにゲイム11と戦闘を行っています」

「ちい、DCのガンダムかっ。強奪したセカンドステージなんぞよりよほど厄介だな。アムロ・レイが乗っているわけでもあるまいが!」

 あまたの機動兵器とスーパーロボットが混在する新西暦世界でもなお生きた伝説のエースとして知られる白い悪魔、白い流星の異名を持つニュータイプの名前を挙げて、三輪は忌々しいとばかりに口元を怒りに歪める。

「司令、10時方向より接近する熱源を確認しました。大型戦艦と思しき反応1、機動兵器2、時速700km以上で戦闘空域に急速接近。
 ライブラリに照合ありません。ミノフスキー粒子、GN粒子、ニュートロン・ジャマーの妨害作用で探知が遅れました!」

 別の東南アジア系の健康的な褐色の肌をもった黒髪の美人オペレーターが、簡潔かつ要点のみを三輪に告げる。

「ここまできてか!? スペースノア級ではないのだな?」

「はい」

 地球連合のライブラリには、三輪が乗ってきたクラップ級に登録されていたラー・カイラムをはじめ、エクセリオン級、マクロス級、また各異星人や地下勢力の用いていた艦艇のデータもある。
 それらにも該当しないということは三輪が――少なくとも所属していた新西暦世界の地球連邦軍が接触したことのない勢力の艦か、この異物の混ざりに混ざった混沌たるC.E.世界独自の新型艦艇ということか。
 いずれにせよ頭を悩ます種が向こうから飛び込んできた形となる。三輪が眉間にナイフで刻まれたのかと見間違うほど深い皺を作る横で、アードラーは茶髪のオペレーターに詰め寄って、DCインパルスとヴァルシオン改との戦闘を中継するよう要求していた。
264660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/27(火) 20:42:05 ID:???
「はやくゲイム11の姿を映さんか! わしのゲイム・システムを搭載したヴァルシオン改が、たかがMSなんぞに、ビアンの手の者なんぞに負けるはずがないじゃろうがあ、ああん!?」

「ひ、え、映像を回します」

 モニターに噛みつかんばかりに身を乗り出したアードラーの目に、アサルトバスターシルエットを装備し、ヴァルシオン改と無数の光芒を煌めかせるDCインパルスの雄姿が飛び込んでくる。



 シン・アスカの駆るアサルトバスターインパルスガンダムは、DCの保有するEOTとビアンの持てる技術と技術者魂の粋を凝らされたMSということを踏まえてもなお、その戦闘能力は言語を絶するものがあった。
 アードラーが完成と判断するにまで至ったゲイム・システムの戦闘能力は、これまでクライ・ウルブズの精鋭たちを苦しめてきたことでも十分にわかる。
 いかに宇宙世紀最高峰の装備を搭載したアサルトバスターシルエットといえど、その根本的な性能を支えるミノフスキードライブは備えてはおらず、インパルスの基本性能が高次元でまとめられてはいても、MSの域を超えてはいない。
 基本的にパーソナルトルーパーやモビルスーツでは対抗するのが難しい強敵・状況と打破するのが特機すなわちスーパーロボットの存在意義である。
 搭乗者の技量、状況によってはまれにPT・MSなどが特機を撃破することもあるだろう。しかし、二機立て続けに撃墜し、さらに三機目の特機撃破に猛進するABインパルスの姿は決して偶然やまぐれで片づけられるものではない。
 先だってのハレルヤ・アレルヤの超兵二人とセルゲイ・スミルノフというベテランパイロットとの死闘が、シンの潜在能力のさらなる開花につながり、パイロットとしての力を更なる高次の領域へと押し上げたのだろう。
 戦闘用人工知能として最高峰にランクされるにふさわしい能力を備えたゲイム・システムを相手に、そしてMSで特機を相手に圧倒に近い勢いで戦って見せているのだから。
 ヴァルシオン改の深い青に比べて、晴れ渡った空の色に近い青と美しい金色の装甲をもったABインパルスが、牙を剥いて絡み合う二匹の毒蛇の様な軌跡を残して激突を重ねていた。
 数十度目になる交差点で一瞬の光芒のさなか、ABインパルスのメガビームライフルを握る腕が、垂れた状態から神速の速さで動き、その長砲身の砲口が対峙していたヴァルシオン改の頭部へと向けられる。
 彼我の距離は対峙した状態からわずかに十メートル。
 射撃武装で固められているというのに、シンが最も得意とする接近戦の間合いに無理やり詰めるABインパルスから逃れようとヴァルシオン改が逃げ惑っていたのを、遂に追いつめたのだ。
 ゲイム・システムの認識外の速度で動いたABインパルスの挙動に、ヴァルシオン改を制御するゲイム・システムは、人間で言うところの動揺に近い反応を見せたが、それも即座に消去。
 メガビームライフルの砲口の奥に高エネルギーの魔物が牙をむき出しにする寸前、ヴァルシオン改の右手が動いた。
 左腰を斜め下から切り上げてくるディバイン・アームを一瞥するまでもなく、チリ、と体の一部が熱を持ったと感じた瞬間に、シンの肉体は反射的に動く。
 ディバイン・アームの刀身をABインパルスの左足が蹴り飛ばし、その反動でぶれるメガビームライフルの照準補正を電光石火の速さで行いながら、シンの指がトリガーを一気に引き絞る。
 シンの暗く濁った紅の瞳に、左頭部を膨大なビームの奔流に飲み込まれるヴァルシオン改の姿が映る。
 左の複眼よりやや外側に命中したメガビームライフルは、繊細な電子機器を満載した頭部への一撃とあって、ヴァルシオン改の左側頭部から伸びる湾曲した角を吹き飛ばしていた。
 モニターの向こうにクロスマッシャーの光の明滅が始まるのを、目ではなく直感で把握したシンは、すぐさまヴァルシオン改背部ユニットのクロスマッシャー発射口へとロングレンジキャノンとビームスプレーポッドを発射する。
 いかに重厚な特機の装甲といえど光学兵器を発射するための射出口にまで分厚い装甲の保護を施せるものではない。
 ゲイム・システムが機体に回避行動をとらせるよりも0.01秒早く、インパルスとABシルエットに内蔵されたプラズマ・リアクターのエネルギーが、破壊的な志向性を持たされて、ABインパルスの背中から光の竜となって荒れ狂う。
 ロングレンジキャノンの桜色のビームは、青い空を切り裂く一文字の軌跡を残してヴァルシオン改の背部ユニットを貫き、BSポッドから雨のごとく放たれた光の糸は背部ユニットをはじめ次々とヴァルシオン改の装甲を撃つ。
265660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/27(火) 20:43:34 ID:???
 一射一射の威力はけして高くはないが、数多のビームが命中しヴァルシオン改の青い装甲も、わずかずつではあるが劣化してゆく。
 蓄えていたクロスマッシャーのエネルギーが放たれる先を求めて荒れ狂い、ヴァルシオン改の背中で直径百メートルに届こうかという巨大な爆発が生じる。
 ロングレンジキャノンとBSポッドの発射を認識するのと同時に、ヴァルシオン改から距離をとっていたシンは、糸の切れた操り人形のように海面に落下してゆくヴァルシオン改を放置し、すぐに次の敵へと狙いを定める。
 通常の指揮系統とは別の所属のようで、先ほどまで相手にしていたMS部隊との連携を見せないヴァルシオン改のおかげで、シンは強力すぎるABシルエットの武装の使用を躊躇することは格段に少なくなっていた。
 射線軸上に友軍機がいる状態を維持されることは少なくなったし、またそうなったとしてもビームサーベルを片手にヴァルシオン改と至近距離で斬り結ぶだけの技量がシンにはある。
 三輪艦隊のMS部隊には、ヴァルシオン改の戦いの中に割り込む度胸と技量がないようで、ヴァルシオン改が交戦しているクライ・ウルブズの機体に対しては傍観に徹し、艦を落としにかかるか、遠巻きに撃ちかけてくる程度だ。

「味方が落とされるよりも早くヴァルシオン改を片づけないとか」

 とはいえ、DCのフラッグシップ機の量産型を地球連合に使われているという衝撃と、気を抜けばこちらの首をあっという間に掻き切られるほどの力を見せるヴァルシオン改を、手強いと思うシンの気持ちに偽りはない。
 忌々しさを交えて吐き出した言葉には激情の熱こそなかったが、腰まで血の海に浸かる修羅の戦場を生き抜いた戦人の冷徹があった。
 三機のヴァルシオン改を連続して撃墜した戦果の手応えをわずかに心の片隅に感じながら、シンは思考と切り離した直感が左手を動かすのを視界の端で認めていた。
 メガビームシールドの表面上に収納されていたバリアビットが展開され光で構成された三角形の盾を構築し、四機目のヴァルシオン改が放ったクロスマッシャーを受け止める。
 シンの指先から頭の先、全細胞にまで行き渡った超人そのものの超感覚が動かし、認識外にあった攻撃にさえ肉体が思考よりも早く反応している。
 あくまで対人戦闘を想定してプログラミングを行い、ゲイム・システムを完成させたアードラーの見込みが甘かったというべきか。
 それともスクールでの人体実験やテンザン・ナカジマ、リョウト・ヒカワといったアドバンストチルドレンのデータを見越したうえで作り上げられたというのに、そのデータを超越するシン・アスカが異常な存在なのか。
 バリアビットが展開した光の盾とクロスマッシャーの衝突点で激しいスパークが生じるのを見守りながら、シンは一度だけ深く肺に酸素を取り込み、体の下から上へと太陽が昇るのを脳裏にイメージする。
 一瞬でシンの体内のリズムが整えられ、脳の表面を羽毛でなでられるような奇妙な感覚が、機体と自分をつなぐのを確認する。
 リミッターつきではあるがカルケリア・パルス・ティルゲムとのリンク係数を、意図的に増したときに発生する一種の副作用だ。

「カルケリア・パルス・ティルゲム、フル・リンク。ズフィルード・クリスタル・ブレードモードに組成変換。レンジ内ターゲット捕捉……12……15……22。フェザー展開!!」

 本来の完成形態アサルトバスターV2インパルスならば、ミノフスキードライヴが搭載されるウィング・バーニアから、増幅されたシンの念に導かれて、充填されていた流体フィルード・クリスタルが刃の形をとりいくつも射出される。
 四方から撃ちかけられるクロスマッシャーとジェットウィンダム部隊のビームの檻の中を飛翔し、余剰エネルギーによって構築された光の翼から、次々と赤紫の水晶が舞い散り、ABインパルスに追従してゆく。
 ヴァルシオン改一機を含む全二十二機の敵機をすべて超自然的な知覚の網に絡み取ったシンは、脳裏に鮮明に結像した敵へと自分につき従う水晶たちに襲撃を命じた。
 赤紫の水晶の刃が太陽の光を乱反射しながら描いた光の軌跡は、慣性の法則を無視しているように直角の動きを見せて、ドラグーンシステム以上に柔軟な動きに対応しきれぬ三輪艦隊のMS部隊がなすすべもなく貫かれてゆく。
 使用前後で若干機体機動が鈍るものの、広範囲の敵機に対して同時多数多角攻撃が可能なこの装備は、ヴァイクルの持つカナフ・スレイヴやアストラナガンの使用したT−LINKフェザーを応用した結果である。
 コックピットや胸部、腹部を貫かれ、致命的なダメージに次々と落下、爆発してゆく通常のMSを無視して、シンはABインパルスを爆煙のひとつへと飛翔させる。
266660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/27(火) 20:45:04 ID:???
 二十機以上の敵を同時撃墜したことへの感慨はかけらもない。ウォーダンやムラタの様な剣の道を行く強敵以外との戦いで心を躍らせることはなくなっていた。
 すでに撃墜スコアが三桁を超え、DCのみならず地球圏内でも屈指のウルトラエースとなって久しい少年は、ヘルメットの奥で頬に張り付く黒髪の感触を煩わしく思いながら、脳裏に描く水晶刃の操作に意識の多くを割く。
 モニターの向こうで黒々と広がる煙から、放たれた念動フィールドでコーティングされたズフィルード・クリスタルの刃を、ディバイン・アームの一振りによって粉砕したヴァルシオン改が57メートルの巨体をあらわす。
 撃墜された同型機や戦闘中の機体とのデータリンクで、眼前のABインパルスを最大の危険要素と判断したゲイム・システムは、真っ向から挑みかかってくるABインパルスをこちらもまた威風堂々と迎え撃つ。
 ABインパルスのサイドアーマーに接続されているヴェスバーから、弾速を重視した調整を受けたビームが放たれる。簡単に折れてしまいそうな薄い板きれとしか見えないヴェスバーからのビームを、ヴァルシオン改はひらりと超の様な優雅な動きでかわした。
 単純な一つ一つの動作が正確で無駄がなく俊敏であるため、機動兵器操縦の教本に乗せたいほど洗練された動作に見える。
 ある程度無駄の省かれた動作というものは、同等前後の経験を持つ相手からすれば先の動きの予測が立てやすくなり、そのために相手の目を騙す技術が磨かれるものだ。
 ヴァルシオン改の動きはベテラン以上の熟練度と、アドバンスドチルドレンなどの先天的な機動兵器操縦への適性を兼ね備えた稀有なパイロットのそれだ。
 そのヴァルシオン改の動きを完全に捕捉したシンは、ヴェスバーのビームをかわしたその先にあらかじめ設置されていたようにロングレンジキャノン、メガビームライフルの二条の光を放つ。
 どちらもシルエットと機体に搭載された二基のプラズマ・リアクターの大出力に支えられ、グルンガストシリーズのブラスタークラスに匹敵するかあるいは凌駕する威力の化け物砲である。
 おそらくはオリジナルである宇宙世紀の武装よりも単純な出力ならば上回っているだろう。アークエンジェル級のラミネート装甲も一撃でぐずぐずの屑鉄に変える威力の二撃は、いかにヴァルシオン改でも許容の範囲を超えている。
 オリジナルのヴァルシオンにあった空間歪曲フィールドを搭載していればともかく、デチューン機であるヴァルシオン改には高望であろう。
 青い鎧が桜色の光に艶やかに照らされた距離でヴァルシオン改は、またひらり、と風に流された花弁の軽やかさでかわすや、ディバイン・アームからエネルギー刃を飛ばす。
 通常のビーム兵器に比べれば格段に遅いとはいえ、音速の数倍で飛来するエネルギーの斬孤は、ヴァルシオン改にむかうABインパルスの左肩をわずかにかすめに終わる。
 ズフィルード・クリスタル・フェザー使用後の機体機動の鈍化が終わり、本来の敏捷さを取り戻したABインパルスは、ヴァルシオン改が二撃目を送る間もなく懐へと潜り込み、左手から光華を煌めかせていた。
 いつ左手を動かしたのか。この戦場の誰に問うても明確な答えを得られぬ速さで、ABインパルスの左手は光の半月を描いてヴァルシオン改の右頸部にビームサーベルを叩き込んでいた。
 右側頭部の角を両断し、深々と食い込んだビームサーベルはヴァルシオン改の内部をその莫大な熱量で焼き尽くす。
 行動不能に陥る前に左手を握り込むヴァルシオン改よりもはやく、シンは出力リミッターを解除したビームサーベルを手放し、ゴッ、と小さな音を立ててメガビームライフルの砲口がヴァルシオン改の左肘関節部に押し当てていた。
 ビームサーベル発生基部が内側から膨大なエネルギーによって炸裂するのと、ヴァルシオン改の左肘の関節部が、メガビームライフルによって吹き飛ばされるのは同時だった。
 駄目押しに二門のヴェスバーがヴァルシオン改の胸部に叩きこまれ、ABインパルスとヴァルシオン改に距離が空くや、ダメージから機体を立て直すのに手間取るヴァルシオン改に向けて、ABインパルスの全火砲が火を噴いた。
 大部分がビームによって占められるABインパルスの武装の一斉射撃を浴びたヴァルシオン改は、大熱量によって即座に装甲表面を融解させ、守る殻を失った機体深部に更なる攻撃が叩きこまれて機能を完全に消失させた。
267660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/27(火) 20:48:24 ID:???
 一時間以内に何度となくみた特機が撃墜される瞬間に、シンは雨粒ほどの興味を示さず、更なる獲物の所在を求めて、ABインパルスのセンサーと増幅されている自身の知覚能力を頼みにする。
 と、三種のジャマーの影響で本来の性能がまったく発揮できていないレーダーが、急接近する熱源三つと、シン自身の感覚がどこかで見知っているような気配が近づいてくるのに気付く。

「……このヌメヌメ、ギラギラ、ヌラヌラしていてなんとなくチョコ菓子みたいな甘ったるい気配は、テンザン大尉か?」

 モニターの向こうでまだ芥子粒ほどの大きさでしかない黒い影から放たれる気配に、敵意は感じられないが、こう、なんというかむわっとくる不快な気配に懐かしいものを覚え、シンは思わずテンザンの名前を口にする。
 アーモリーワンへの訪問以前に、ヴァイクルとともにアメノミハシラの防衛任務に回されたかつての上官が、なぜこの場に姿を見せるのか。またなぜ搭乗している機体がヴァイクルでないのか。
 気になることはあったが、テンザンの人を食った自己中心的な人柄はともかくとして、その確かな技量はこの場では頼りになることは間違いない。
 アメノミハシラにいるロンド・ギナ・サハク副総帥が気を回しては……くれないだろうからマイヤー宇宙軍総司令あたりが、手を回してくれたのだろう。
 芥子粒から小指の爪の先くらいに大きさを増したテンザンの搭乗機――ライブラリに照合したデータからガンキラーという機体であることが分かる――からなにか小さな円盤の様なものが射出される。
 二つの円盤の正体が、三枚の刃がついた輪であり、それが高速で回転していることを、シンの異常なまでの精度を誇る動体視力が看破した。

「ヒュッケバインMk−Uのチャクラムシューター系の装備か?」

 シンがテンザンの機体にわずかに注意を惹かれる一方で、シンの注目など知らぬ当のテンザンは、地獄の黙示録を鼻歌で歌いながら、ガンキラーに気付いたゲルズゲーを最初の獲物と狙い定める。

「はっはあ! そのデザインは嫌いじゃねえがよ、おれとガンキラーのデビュー戦の贐になってもらうぜえ。ギロチン・バグだぁ!!」

 ガンキラーの周囲で高速回転を続けていた刃付きの輪“ギロチン・バグ”が、テンザンの操作に従って、二丁のビームライフルを連射するゲルズゲーへと風を切り裂きながら襲いかかった。
 鼓膜を劈く甲高い音とともに瞬く間に距離を詰めてくるギロチン・バグをかわせぬと悟ったゲルズゲーは、機体前面に陽電子リフレクターを展開した。
 ジグザグと稲妻で襲いかかったギロチン・バグはわずかに陽電子リフレクターの光に刃を食いこませが、切り裂くまでには至らない。
 ゲルズゲーのパイロットがかすかに安どした瞬間、ギロチン・バグは陽電子リフレクターから刃を抜き、回転を止めたためにそのまま落下するかと思われたが、再び回転を始めて飛翔力を取り戻す。

「前にしか展開できねえバリアじゃ、役に立たねえなあ!」

 ゲルズゲーが回避機動をとる間もなく、ゲルズゲーの無防備な背中へと回り込んだギロチン・バグが、蜘蛛の下半身と人型の上半身を横一文字に分断し、斬り飛ばされた上半身をさらに縦一文字に切り裂く。
 ゲルズゲーを瞬殺したギロチン・バグを再び両肩の先端に回収したガンキラーの後方から、グリーンカラーのヒュッケバインが放ったレクタングルランチャーの砲弾が、三輪艦隊の水上艦艇に命中してゆく。

「ほっ、この距離でよく当てるじゃねえの。金髪牛乳」

 本人としては褒めているつもりなのかもしれないが、褒められた相手はとてもそうは受け取らなかったようで、ガンキラーのコックピットにはしかめ面をした金髪の青年の顔が映し出される。
 動力をプラズマ・ジェネレーターに交換したグリーンヒュッケバインのパイロット、ミルヒー・ホルスタインである。二十歳前後のいかにも欧州的な目鼻の堀が深く端正な顔立ちの青年だ。
268660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/27(火) 20:50:45 ID:???
「誰が金髪牛乳だ、テンザン」

「おめえだっての、ミ・ル・ヒー?」

「ぐっ」

 考える時間がなかったとはいえ、牛乳と乳牛というなんぼなんでも、と思わずにはいられない偽名に、生真面目なミルヒーは反論の言葉を失ってしまう。
 けけけ、と耳障りなテンザンの笑い声に募らせた苛立ちを、ミルヒーは三輪艦隊にぶつけることにしたようで、ゲルズゲーを撃破した場所で滞空していたガンキラーをヒュッケバインが抜き去り、積極的な砲火を展開し始める。
 右肩に担ぐようにしてレクタングルランチャーを持ち、左手にはフォトンライフル。実弾と紫がかった光子の弾丸が、突然の強襲に対応の遅れる三輪艦隊へと無慈悲に降り注ぐ。

「八当たりはよくねえぜぇ、ミルヒー?」

「好きと勝手に呼べ。ただし自分の役目は果たせよ、テンザン」

 言われるまでもねえやな、とテンザンは吐き捨て、ガンキラーに組ませていた腕をほどき、おもむろにジェットウィンダムの一段へと襲いかかる。
 一見すると遠距離対応の武装が見当たらないガンキラーに向け、ジェットウィンダムから ビームライフルとトーデスシュレッケンをはじめとする火線が集中する。
 装甲性能がいかほどのものか明確なところは不明だが、機動性や運動性はまずまずのものがあるようで、ガンキラーはテンザンの技量も相まって一発の被弾も許さない。
 まるでガンキラーの周囲でだけ時間の流れる速度が遅くなっているのかと、馬鹿な考えにとらわれてしまいそうなほど軽快な動きであった。ここが戦いの場でなかったら、見惚れる者もいたことだろう。

「もっと目ん玉見開いて狙いをつけやがれっての。こんな風になあ!」

 太陽の光を逆に食いつくすほど強烈な光がガンキラーの瞳に宿るや、その光はふた筋の高熱量のビームと変わり、正面きって撃ちかけてきたジェットウィンダムの上半身を溶けた飴細工に変える。
 内側からの爆発によってジェットウィンダムが四散するよりもはやく、五指を開いたガンキラーの両掌に空いた穴か針とも、先端の尖った鞭とも見れる形状の物体が伸びるとそれは生きた蛇のようにしなりくねりながら他の機体へと襲いかかる。
 しゅるしゅると音を立ててライフルを握る腕に巻きついた針は、そのままウィンダムの装甲を貫いて、内臓を好む蛇のようにウィンダムの内部を貫き切り裂き破壊し始める。

「らああああ!!」

 ガンキラーの両掌の先に捉えられたジェットウィンダムはそのままハンマー投げの要領で勢いよく振り回され、遠心力がたっぷりと乗った瞬間に解放されて友軍機めがけて放り投げられる。
 一機は友軍機に激突してそのまま爆発をし、もう一機は受け止める味方もなく完成の働くままに彼方へと飛んでゆき、じきに海面へと落下して数十ものパーツに砕けながら爆発する。
 ガンキラーは機体の内部にいくつものギミックを内蔵し、トリッキーな戦い方を得意とする機体のようで、変則的な戦い方にすぐさま対応できるだけの気力と技量をもったパイロットは少ない。
 掌の針を警戒し距離を取ろうとした動きを見せたウィンダムに、ガンキラーの腕が伸び、足が伸び、頭部を叩きつぶすはつかんだ腕を振り回すは、爪先についたブレードで胴を切り裂き首を切り飛ばすの八面六臂の活躍ぶりである。
 そのすべてにテンザンの相手を見下しきった不愉快な笑い声がついてきており、これを聞いた者は深く冷たい海の底に突き落とされたような気分に陥ることだろう。
269通常の名無しさんの3倍:2010/04/27(火) 20:53:29 ID:???
試演
270660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/27(火) 21:04:06 ID:???
 事前になんの通知もなく戦闘空域に姿を現して三輪艦隊に攻撃を仕掛け始めた二機の機動兵器と、一隻の戦艦のどちらもがライブラリに該当するものであったことから、エペソはすぐに連絡を取らせた。
 戦闘参加は知らされていなかったが、ガンキラー、ヒュッケバイン、そしてフューラーザタリオン・トロンベが誰の手に渡ったかは知らされていたため、エペソの胸に動揺はなかった。
 前大戦ではザフトに所属して敵対したこともあった人間たちであったが、信用を置くに値する人格と武力の主であることは、口には出さないがエペソも認めるところである。

「レーツェル・ファインシュメッカーだな?」

「いかにも。遅くなってしまったが、我らもこの戦いに微力を尽くそう」

「そのような機体を与えられているのだ。相応に働いて見せればかまわぬ。こちらに張り付いている青蠅は無視してかまわん。連合艦隊を早急に駆逐せよ」

「貴方の目の前で無様な姿は見せられんな。了承した。遅れた分の失態は取り戻して見せよう」

 まるで気負った様子もなく、小さな笑みと共に応えてからレーツェルは通信を切り、デストロイドアグレッサー形態のフューラーザタリオンを一気に上昇させ、はるか眼下に戦闘の光芒を置いてゆく。
 アークエンジェル級にも匹敵する巨体ながら、どこか有機的な印象も与える奇妙な戦艦の高速の機動に、追従する瞳こそあるものの、ビームやミサイルの砲火を浴びせられるものは少なく、瞬く間に姿を変えてゆく光景をただ見守る者がほとんどであった。
 船首を青空に向けたデストロイドアグレッサーの各部分が動き始め、折りたたまれていた肩アーマーが開き、収納されていた銛や万力状のパーツがつけられた腕部が伸びて三本爪が開く。
 ザフト系列のMSの特徴であるモノアイに光がともり、二頭身の巨大MSがそこに姿を現す。マイヤー・V・ブランシュタインの乗艦となったジェネラルガンダムと同格の巨大MSの名を、外部スピーカーを通じて高らかにレーツェルが叫ぶ。

「フューラーザタリオン・トロンベェ!!」

 戦艦からMSへの変形機能を持った全高400メートルを超す機体の存在に、その場にいた各諸勢力の人間たちがさまざまな感情を喚起する中、ゲスト三将軍の一人セティを驚愕させた機体が姿を現す。
 黒を主に、金と赤の二色をアクセントにしたカラーリングに変わったフューラーザタリオン・トロンベが満を持して降臨した瞬間であった。
 それにしてもサングラスをかけたこの謎の食通、ノリノリである。

つづく
こんばんは。三輪艦隊戦も長く続いておりますが次回で終了し、やや寄り道をする予定となっております。
お楽しみいただけたのなら幸いですが、ここをこうすればいいなどのご意見をいただければ歓びの限りです。
ではではご感想ご指摘ご助言ご忠告もろもろお待ちしております。しつれいしました。
271通常の名無しさんの3倍:2010/04/27(火) 22:32:27 ID:???
エルザム兄さん何乗ってるンスかwwww

しかもSDのまんまかよww
八頭身補正無しかよwwww
272通常の名無しさんの3倍:2010/04/28(水) 00:29:28 ID:???
総帥が来たぞーおつおつお
しかしSD、ケロン人の次は何が来るんだw
273通常の名無しさんの3倍:2010/04/28(水) 08:56:39 ID:???
総帥お疲れ様でした!

全高400m強のSD体型……横の広がりも奥行きも半端無さそうですな
そして恐らくTrombe!をバックミュージックに変形させた
サングラスの食通は間違いなくノリノリです、本当に(ry
274通常の名無しさんの3倍:2010/04/28(水) 09:07:41 ID:???
前回までの展開で脅威を見せ付けたヴァルシオン改をさらに圧倒するシン無双。
それすら霞んで見える増援部隊が出てくるところが相変わらず凄いwww
275660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/29(木) 21:05:54 ID:???
投下いきま〜す。

ディバイン SEED DESTINY 第四十一話 潰える野望

 三輪艦隊とDC・ザフト連合艦隊との決戦は、ヴァルシオン改の投入とそれらと激闘を繰り広げるクライ・ウルブズ、グラディス隊の奮闘によって一時膠着し、いままた戦闘空域に突如乱入した異物によって大きく動かされようとしていた。
 海面下で繰り広げられる静寂の戦い、白波を立てて走る艦隊間で紡がれる砲火の糸、青い空を背景に命を燃やす炎が絨毯のように広がっている。
 それぞれが自国と己自身の命運をかけて戦う戦場は、絶え間なく殺意と闘志と、そして兵器が動きまわりなにがしかの動きがある。
 だが、それが姿を見せたとき、それの名前が遠雷のごとくはるか彼方にまで響き渡ったとき、乱気流のように流動していた戦場の空気がたしかに停滞し、静寂の翼が静かに舞い降りた。
 幾万幾億もの星々をすべて取り払った夜空を思わせる深く果てしない奈落の漆黒。
 神を祭る邪教の祭壇に捧げられた生贄から、えぐり出したばかりの心臓からあふれる新鮮な血液の様な赤。
 他の色がすべて色あせて見えるほど眩い黄金。
 三種の色を纏う頭頂高418メートル、全備重量17800トンの、超ド級可変型戦艦MSフューラーザタリオン。DCが作り上げた常識外規格外想定外の奇天烈兵器である。
 しかしてそのような一見するとふざけているとしか思えない類の兵器が、空恐ろしくなるほどとてつもない戦闘能力を有していることを、DC以外の諸勢力はこれまでの戦闘から骨身にしみてよく理解していた。
 その内包する戦闘能力のすさまじさがまるで計りしれないことと、二頭身の人型(?)機動兵器というインパクトのありすぎる外見は、目撃者たちの視覚から侵入して意識をつかさどる脳部位を盛大に揺らしていた。
 搭乗者の趣味と意向によって本来のカラーリングを変更されたトロンベ仕様の降臨が、場を支配する静寂の根源的な原因であった。
 とはいえなにも二頭身の機動兵器が戦場に搭乗するのはフューラーザタリオン・トロンベが最初の例というわけではない。
 地球連合がプラントに核攻撃を仕掛けた折に、アメノミハシラに差し向けられた艦隊が、マイヤー・V・ブランシュタインの搭乗したフューラーザタリオン・トロンベと同様の二頭身MSに変形する戦艦に、壊滅的な打撃を与えられている。
 ゆえに、フューラーザタリオン・トロンベの登場に受けた衝撃は大きかったが、そういう兵器がDCにはある、という情報が与えられていた三輪艦隊とそこに所属する地球連合兵士の復活は早かった。
 また自国の開発した兵器であることは、ライブラリに照合すれば分かるDCも、エペソが即座に檄を飛ばしたことで自失していた意識を取り戻し、戦闘を再開している。
 この場にある三勢力の中ではザフトに所属しているグラディス隊が、呆気にとられた意識を取り戻すのに時間がかかったが、それも致命的というほどではない。
 また海面下にもザフト籍の潜水艦艦隊とアッシュやゾノといったMS群がいるが、あちらはあちらで海上に意識を振り向けるほどの余裕がない。
 それぞれの陣営の人間たちが、フューラーザタリオン・トロンベの出現に対しある程度割りきるのを待っていたわけではないだろうが、フューラーザタリオン・トロンベが動き出したのは、ちょうど自分以外の全員が正気にかえってからだった。
 波打つ見事なゴールドの髪に、ゴーグルで目元を隠した青年レーツェル・ファインシュメッカーは、この場に同道していたテンザンとミルヒーに通信をつなげ、フューラーザタリオン・トロンベの戦闘に巻き込まれないように釘をさす。
 レーツェルやミルヒー達は友軍への誤射や、射線軸上に入ってしまうような初歩的なミスとは最も縁遠い人種ではあったが、万に一つの可能性を考慮すれば注意を喚起することを怠るわけにもゆかない。

「テンザン、ミルヒー、私は水上の艦隊を片づける。トロンベからの警告には常に気を配ってくれたまえ。ある程度武装の使用には制限がかかっているが、それでも有効レンジがかなり広いからな」

「分かっているさ、兄さん」

「おれらがそんな間抜けに見えるかっての」

「余計な心配とは分かってはいる。では各機散開して敵を叩く。行くぞ、トロンベ!」
276660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/29(木) 21:07:18 ID:???
 レーツェルが搭乗する機体は、それがAMであれ戦艦であれDGGであれトロンベと愛称を与えられる運命には変わりなく、フューラーザタリオンもまたトロンベと呼ばれてパイロットの指示に従ってその猛威をふるい始める。
 とはいえレーツェルが明言したように、フューラーザタリオン・トロンベは保有する兵装のうちいくつかに使用制限がかかっている。
 簡単に例をあげると、有人惑星の大気圏内では、光子ミサイルの弾頭を通常のものに換装している。
 光子ミサイルというのは、エクセリオン級やガンバスターのバスターミサイルと同種のもので、これは着弾地点にマイクロブラックホールを発生させて、超重力で対象と空間を圧縮・崩壊させて破壊する代物だ。
 ようするにヒュッケバインのブラックホールキャノンと同じ兵器といってよい。これを機関銃さながらに連発すれば、惑星地表上に重力異常を引き起こし甚大な環境破壊につながる恐れがある。
 いまだ宇宙開発が進まずテラ・フォーミング技術も未成熟な現在の地球圏で、そのような事態になれば、目も当てられない惨状が出来上がるのは目に見えている。
 そのためにフューラーザタリオン・トロンベに搭載されている光子ミサイルは、現在通常仕様の火薬式に変更されているのだ。
 これが大気圏外の場合だと――たとえば有人惑星が至近にあっても、宇宙空間であったならミサイルに積む弾頭は熱核兵器や反応弾までなら許容範囲となる。
 実際に光子ミサイルや空間に作用する類の弾頭を使用できるのは、周囲に惑星の存在しない宇宙空間での戦闘に限定される。
 多少話がずれるが、EOTを用いて作られたブラックホールキャノンと同等以上の兵器を、MSのバルカン並みに景気よくばらまくガンバスターは、純粋に地球人類の技術で製造されている。
 宇宙人の遺産やら、超古代の謎の技術やらで作られたスーパーロボットが多い昨今、純地球産の特機で、それらをおしのけてトップクラスの性能を誇るガンバスターは、地球人類の底力と努力と根性の結晶といえるだろう。
 しかしまあ、自分たちが汗水流して作ったブラックホールキャノンと同等の兵器が、対空砲火くらいの扱いで盛大に使われていると知ったら、OG世界のテスラ・ライヒ研究所の面々は乾いた笑いを洩らすか、それとも悔し涙を流すだろうか。
 さて、横道にずれた話はここまでに戻し、多少武装に使用制限がかかっているとはいえ、フューラーザタリオン・トロンベはやはりその見た目に相応しい超規格外のバケモノであることは事実だ。
 フューラーザタリオン・トロンベは、そのサイズと比較すれば約18000トンという重量は軽量といえるかもしれないが、縦横奥行と、二頭身であるためにたっぷりと幅をとった外見の重量感と威圧感はとほうもないものがある。
 山が丸ごと崩落して自分に襲いかかってきているようなものだ。そんな巨体がテスラ・ドライヴがグラビコン・システムによってか、時速数百キロの単位で自在に三次元的な機動をとれば、これはもう恐怖以外の何物でもない。
 MS形態に変形したフューラーザタリオン・トロンベは、巨体はいい的だと考えた地球連合兵士を嘲笑うかのように、急角度の旋回、上昇、降下、加速、停止といった殺人的機動で飛び交うビームを次々と回避して見せる。
ジェネラルガンダムが連合艦隊を壊滅に追い込んだギャラクシー・ギガクロスの直撃を受けてもものともしないフューラーザタリオン・トロンベの装甲ならば、たかだかMSの火器など一千発撃ち込まれてもどうということはない。
にもかかわらず態々回避行動をとっているのは、かわせるものをかわさないのは非効率的だ、というレーツェルの考えと400メートル超の機体が見せる非常識な機動によって三輪艦隊の面々が受ける心理的な衝撃を考慮してのものだろう。
ある意味で、ジェネラルガンダムやフューラーザタリオン・トロンベも、特機構想の一つである、知的生命体への心理的効果を十分に果たしていた。

「いただく!」

 短いレーツェルの言葉に遅れて一瞬、フューラーザタリオン・トロンベの背中から伸びる二連の砲門から、凶悪な赤光のビームが放たれ、砲身側面斜上の部分にずらりと並ぶレンズ状の砲門からも連続して破壊の光が放たれる。
 高出力のレーザーがプラズマか、粒子ビームか。その光の正体はその場では判別しかねるが、地球連合のMSパイロットたちや艦艇で指揮を執る人間たちにとっては、いずれにしても美しく輝く恐ろしい死神であることには変わりなかった。
277660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/29(木) 21:08:59 ID:???
 一瞬の光芒が世界を照らすのと同時に、フューラーザタリオン・トロンベの多方向への射撃の的にされたジェットウィンダムとイージス艦や駆逐艦などが次々と爆発を起こしてゆく。
 特に直撃をもらったMSは悲惨としか言いようがなかった。偶然にも対ビームコーティングを施したシールドを掲げることに成功した機体もあったが、そんなものは燃え盛る炎に薄紙をかざすようなもので何ら意味がなかった。
 ABCシールドを、瞬きをするよりも早く蒸発させたビームは、そのまま機体を貫き、機体を構成する装甲材や電子機器、パイロットを含めて融解・蒸発させてこの世から消し飛ばす。
 直撃をもらった艦艇も、MSとさしたる違いはなかった、ざっと150〜200メートルほどのサイズを誇る各水上艦艇は、ビームの着弾地点を中心にその船首から船尾にいたるまで、溶けたガラス細工のように溶け崩れて内側から爆砕する。
 圧倒的な熱量に周囲の膨大な量の海水が瞬時に蒸発して局所的な濃霧があちらこちらにできあがり、ひと時、数千名が戦死した海を白い靄が覆う。
 それはまるで自分が死んだ瞬間を理解できなかった亡者たちが、この世に残した未練のために海を彷徨っているかのような、背筋を震わせる光景であった。
 機体出力通常時1500000kw、最大時3750000kw(通常時でもファーストガンダムの1000倍強)を誇るフューラーザタリオン・トロンベの火器は、アサルトバスターインパルスの猛威さえ霞む破壊を生みだしていた。
 その惨状を前にして、レーツェルはゴーグルの奥の眉間にかすか皺を刻み、コンソールを叩いていくつかの作業を行っていた。

「出力に制限をかけたほうがよさそうだな。あまり火器を使うと嫌がおうにも味方を巻き込みかねん」

 以前に宇宙でアイビス・ダグラスらを助けたときは、味方がミルヒーのヒュッケバインだけだったこともあり、機体が不完全な状態だったとはいえ周囲を気にせずに戦えたが、今回はそうも言えない状況にある。
 レーツェルは使用する武装をフューラーザタリオン・トロンベの三本爪の形状をした電磁クローと、両腕の外側に装備されているグラビティブレーカーとマーダーブレーカーを主軸にすることに決める。
 だからといって火器の封印を行ったことが三輪艦隊にとって幸運の方向に作用したかというと、そうでもなかった。確かに撃墜される味方のペースは遅延したものの、その撃墜のされ方がより一層陰惨なものにすり替わってしまったからだ。
 フューラーザタリオン・トロンベの左右の電磁クローが左舷と右舷の側面装甲を絶やすく貫き、一隻のイージス艦がそのままおもちゃの船を持ち上げるような調子で、フューラーザタリオン・トロンベに抱えあげられる。
 フューラーザタリオン・トロンベはそのイージス艦を放り投げて別の艦艇にぶち当てて、二隻の艦艇を呆気なく破壊してしまう。
 水上を行く船ではどうあがいてもフューラーザタリオン・トロンベの魔手から逃れられるはずもなく、単装砲や迎撃のミサイルを撃つもそれらは虚しくも空を切るか、トロンベの腕の一振りで払い落されてしまう。
 装甲性能の次元が違いすぎること、そして開発者の頭のねじのはずれ具合もまた比べ物にならないために、既存の兵器とフューラーザタリオン・トロンベとでは彼我の戦力差には途方もない溝が空いていた。
 ある艦はフューラーザタリオン・トロンベの左腕にある万力状のパーツに船体を挟まれて、ミシミシとたっぷり船体の軋む音を立ててから真っ二つに分断され、またある艦は艦橋から船底まで一撃叩きつぶされて海の藻屑に変わる。
 メカゴジラたちさながらの大怪獣の大暴れぶりを前に、地球連合所属のMSや艦隊はほとんどなすすべがなかった。
 旧来の火器ではまるで歯が立たないフューラーザタリオン・トロンベの装甲に対し、有効性が望まれたクラップ級のメガ粒子砲も、そうそう命中することはなく、また命中したとしてもさしたるダメージを与えられたようには見えなかったのである。
 テンザンのガンキラーやミルヒーのヒュッケバインも獅子奮迅の活躍を見せてはいるのだが、いかんせんフューラーザタリオン・トロンベの巨体が生み出す一方的で無慈悲かつ容赦のない破壊の光景がすさまじすぎた。
 三輪艦隊の人員のみならずセプタ級やストーク級の乗員たち、またミネルバのブリッジで指揮を執るタリア・グラディスやその副官であるアーサー・トラインらも、DCが味方であることに大きな安堵と同時に敵に回した時の恐怖を、嫌というほど噛み締めていた。
278660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/29(木) 21:11:36 ID:???
 DCは前大戦時に比べて国力・人員が大幅に増大し、戦線に投入する機動兵器の質・バリエーションも格段に向上している。
 むろんDC内部にも表出していないだけで問題はあるのだが、圧倒的な破壊をまき散らす数々の兵器を目のあたりにすれば、うすら寒い感覚に襲われるのも無理のないことであったろう。
 自分たちは、彼らに勝てるのだろうか? と。



 たった三機、しかし恐るべき三機の参戦によって一挙に戦況が崩れたことは、もはや改めて語るまでもないかもしれない。
 各艦に群がっていた三輪艦隊のMS部隊は母艦が次々と沈められる光景を前にして、指揮に混乱が見られ、それを見逃さなかったエペソの号令一下、残るDC機動兵器部隊が苛烈な猛反撃を始めている。
 脅威をふるっていたヴァルシオン改はアクセルがソウルゲインを中破させながらも着実に数を減らし、シンがさらに数機を片づけ、海面すれすれに降下した何機かを海中から襲いかかったメカゴジラが食らいつき食い散らすように破壊している。
 追い込まれていた分、形勢が逆転の様相を見せ始めたことに奮起したDC・ザフト部隊の士気は高く、体の奥にまで浸透した疲労を一時忘れ、ふんだんに分泌される脳内麻薬の勢いを駆って砲火の激しさは増すばかり。
 グローリー・スターとジニンが抑え込んでいたヴァルシオン改二機も、駆けつけたシンがABインパルスの性能を120パーセント以上引き出し、四人との連携もあってわずか数分で鉄屑に変えて見せた。
 それらの味方が息を吹き返す光景を目の当たりにして、ある二機の機動兵器もまた味方の戦意が伝播したか、新たな動きを見せようとしていた。
 イノベイターであるヒリング・ケアとリヴァイヴ・リバイバルの駆るフラッグカスタムと、緊迫した戦いを繰り広げていたガンダムエクシアとガンデムデュナメスのパイロット達である。
 互角に近い戦いを延々と繰り広げていた双方であるが、味方の窮地に気付き焦燥するロックオンと刹那の方が心理的な消耗は大きく、徐々に戦闘の形成を不利なものにしていた。
 しかし戦闘中の二人とイノベイター達も唖然とさせたフューラーザタリオン・トロンベの登場が、戦況のみならず刹那とロックオンの精神に失いかけていた余裕を取り戻させる。
 GNビームピストルを抜き放ち、二丁拳銃の弾幕をもってリヴァイヴと戦っていたロックオン、そしてGNソードとGNショートブレイドの二刀流でヒリングと切り結んでいた刹那が、同時に動く。
 オリジナルGNドライヴを二人のガンダムに組み込む際、ビアンから伝えられたイオリア・シュヘンベルグのメッセージと、オリジナルGNドライヴに秘匿されていた機能が二人の脳裏に蘇る。
 ジョージ・グレンの船が襲撃された際、他の皆を逃がすために船に残ったイオリアが最後に収録し、ジョージ・グレンにGNドライヴの設計図と共に託したという最後のメッセージ。
 それは、かつてロックオン・ストラトスが二十四世紀の世界で目にし、耳にしたものと変わらぬ、紛争根絶を願い、ガンダムと共にある者たちへ託した最後の希望の言葉だった。
 そしてオリジナルGNドライヴに秘匿されていた機能もまた。

「使わせてもらうぜ、イオリア・シュヘンベルグ。あっちの世界でもこっちの世界でも、あんたが残した希望をな」

 二十四世紀の世界ではロックオン自身が使う機会こそなかったが、与えられた機能。貯蓄されているGN粒子を一挙に解放し、機体性能を三倍化させる特殊システム。

「こんなところで敗れるわけにはゆかない。おれは、まだ、ガンダムになってはいない!!」

 片腕となったフラッグカスタムが搭乗者の嗜虐性をあらわに仕掛けてくる連撃をさばきながら、刹那は自分自身が生き残った意味を、存在する理由をまたこの手に掴んではいないと、崇拝する存在になってはいないと血を吐くように口にする。

「ああそうさ、一度死んだってのに、おれは変わっちゃいなかった。結局復讐に囚われたまんまの大馬鹿野郎さ。けどな、そんなおれでも前に進もうっていう意思はあるんだ。そのためには、お前ら何ぞに負けちゃいられねえんだよ!」

「行くぞ、エクシア。おれとおまえにGNドライヴと共に託されたイオリア・シュヘンベルグの遺志に、おれたちが紛争を根絶する存在となるために、本当のガンダムになるために!」

 ロックオンと刹那の二人が奇しくも、全く同時に、それを唱和した。

「TRANS−AM!」
279660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/29(木) 21:13:20 ID:???
 エクシアとデュナメスのディスプレイが一瞬反転し、ロックオンにとっては見慣れた、刹那にとっては見慣れぬソレスタルビーイングを象徴する紋章と共に、TRANS−AMの文字が浮かび上がる。
 貯蓄したGN粒子が尽きる百八十秒間の間だけ、機体性能が三倍化されるオリジナルGNドライヴの秘匿された切り札。
 かつてイオリア・シュヘンベルグが自身のたてた計画を歪めるものが出現した場合に備えて残した、最後の希望。
 エクシアとデュナメスが神々しい赤い光に包まれる瞬間を目撃したヒリングとリヴァイヴは、その現象に、一瞬意識を奪われていた。
 二人の瞳には馬鹿な、という驚愕。有り得ない、という否定。そして、現実だと認めざるを得ない苦渋に満ちていた。
 なぜならその機能は、彼らイノベイター、ひいてはザ・データベースのみが有しているはずのトランザムシステムと呼ばれる機体性能を向上させる特殊機能だったからだ。
 DCに潜り込んだティエリアを通じて、DCで運用されている疑似GNドライヴにトランザムシステムが搭載されていないことは事前に知ってはいた。
 エクシアとデュナメスに未知のGNドライヴが搭載されたことも知ってはいたが、それは基本的な性能を向上させた程度の違いだろうと、二人は無意識のうちに思い込んでいたのだ。
 よもや自分たちの切り札でもあるトランザムシステムを人間ごときが実用化に持ち込んでいるなどと、優越種であるという認識に驕っていた彼らには認められぬことであった。
 そしてその感情を抱いたのはヒリングとリヴァイヴだけではない。セイバーとプロトセイバーを駆るブリング・スタビティとデバイン・ノヴァ、そしてガンダムヴァーチェのティエリア・アーデもまた同胞たちと同じ驚愕に胸をかき乱されていたのである。
 ただ、イノベイター達の中で唯一、DCに長く身を置いたティエリアだけは、どこか不思議と納得している自分に気づいていた。
 これまでの戦いの中で人間の底力とでも言うべきものを折々に見せてきたクライ・ウルブズの面々と、DCという組織の計り知れなさが、トランザムシステムの実用化という現実を前にしても、彼らならば、と受け入れることができたのである。
 ティエリアやヒリング達が自分たちの思考を乱すノイズを除去するよりも早く、ロックオンと刹那は赤い光の衣をまとった愛機を操る。
 この世界では史上初めてとなるトランザムシステムの発動だ。敵機体の一瞬の戸惑いは、未知の現象を見せる自分たちの機体に驚いたため、とこのとき刹那とロックオンは判断していた。

「狙い撃つ必要はねえ。圧倒させてもらう!」

「しまっ!?」

 それまでのデュナメスの機動からは信じられない速さで動いたデュナメスにリヴァイヴが気付いた時、フラッグカスタムの周囲を赤い光が幾重にも取り巻き、放たれるGNビームピストルの連射に次ぐ連射が機体を前後左右から打ちのめす。
 一瞬の気の緩みが招いた事態を立て直そうとリヴァイヴがあがくが、優秀な頭脳と技量をもつからこそ、逆にこの事態を打破することができないという結論を、早々に導きだしてしまう。

「私としたことが……」

 人間を相手に一敗地にまみれる恥辱に、リヴァイヴが唇を歪めた瞬間、遂にフラッグカスタムは四肢をビーム弾によって撃ち抜かれ、機体の各所から黒煙を噴きながら海面へと落下していった。
 コックピットに致命的な一撃をもらわぬよう最小限の回避機動を取らせていたのは、さすがにイノベイターというべきではあった。ロックオンは、戦闘能力を完全に失ったフラッグカスタムに追い打ちをかけるようなことはしなかった。
 このまま海面に叩きつけられれば穴だらけになった機体は耐え切れずに粉砕されるだろうし、パイロットも無事では済まないと判断したためである。
 それよりもトランザムによって機体性能が向上している間に、少しで多くの敵を減らすことが優先だ、と結論を下していた。
 機体性能の三倍化、という一見すれば反則だと嘆きたくなるトランザムではあったが、GN粒子の多量消費によって、トランザム終了後は極端に機体性能が劣化するという欠点を抱えている。
 トランザムシステムは、機体性能をGN粒子に大きく依存しているGNドライヴ搭載機ならではの長所であり、同時に欠点を抱えた特殊機能なのだ。
 リヴァイヴがまったく何もできずにトランザムデュナメスによって撃墜された一方で、相方であるヒリングもまた、彼と同じようにほとんど案山子のように突っ立ていることしかできなかった。
280660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/29(木) 21:15:41 ID:???
 エクシアがトランザム化する前の戦闘でフラッグカスタムの左手を機能不全に追いやられてはいたが、その程度は闘志の萎えることのないヒリングは、ややヒステリックにエクシアに挑んでいた。

「ガンダムだけじゃなくてトランザムまでわたしらから奪うつもり!? 盗人猛々しいって言葉、知ってんの!!」

 フラッグカスタムの右手が握る大口径ビームキャノンを、槍のように扱い砲口をエクシアの胸部めがけて突き出したその瞬間に、砲身が真中から斬り飛ばされていた。
 直前までの動きとは全く別次元の速さに、ヒリングの目をもってしても、それがエクシアの振るったGNショートブレイドによって為されたことだと認識できなかった。
 嘘でも幻でも見間違いでも何でもない、こいつらは本当にトランザムシステムを実用化したのだ、とヒリングが苦虫を一万匹も口の中で噛み潰す思いで認めたとき、独楽のようにくるりと機体を旋回させたエクシアが、横を駆け抜けていた。
 ざぎん、と切断された衝撃がエクシアの赤い残像にわずかに遅れてヒリングの体を揺さぶった。両足の脛、ドラムフレームの真下と、首の三か所が横なぎに両断され、特別にカスタマイズされたフラッグが、大まかに分けて五つに切断される――いや、されていた。

「私が、何もできずにっ」

 唇を噛み破り、色ばかりは人間と変わらぬ赤い血液を滴らせて、海面へと落下するコックピットの中でヒリングは、最後にモニターが映し出したエクシアの後姿へ濃密な憎悪の視線を送り続けた。
 新たな衝撃がコックピットを揺らしたのは、それからほんの数秒後のことであった。



 レントン・サーストンがサブパイロットを務め、エウレカがメインパイロットを務めるLFOニルヴァーシュは、その機体サイズや保有する火力の問題から、極力ヴァルシオン改との戦闘を避け、自軍艦隊の守りについていた。
 当初は海中からの奇襲に合わせて浮足立つ三輪艦隊機動兵器部隊を相手に乱戦に持ち込み、リフが可能とする新たな基軸の三次元高速機動で敵編隊を散々に乱して、十分にその役目を果たしていた。
 乱戦には慣れっこどころかむしろそのほうがやりやすい連中がほとんどを占めるクライ・ウルブズにとっては願ったりかなったりの状況で、味方の活躍に多少はニルヴァーシュの動きにも慣れて、余裕のできたレントンは心中で喝采をあげたものである。
 しかし、それも二十機に及ぶヴァルシオン改の投入によって戦闘の状況が怪しくなれば、レントンの顔色はたちまち不安に染まり、ニルヴァーシュの操縦桿を握るエウレカの顔にも、わずかに険しさが混じり始める。
 状況の変化に、レントンらに下がるようエペソに命じられ、艦の守りについた二人であったが、直にクライ・ウルブズやグラディス隊の三機のインパルス、メガ・ゴジラの構築する防衛線を突破したヴァルシオン改と銃火を交えなければならなくなった。
 ヴァルシオン改の武装は一つの例外なく、装甲の薄いニルヴァーシュにとっては一撃で大破ないしは撃破に追い込まれる代物で、メインパイロットを務めるエウレカが強いられる緊張は生半端なものではない。
 フューラーザタリオン・トロンベを筆頭とした三機が戦闘空域に乱入し、形勢が逆転し始めたとき、ニルヴァーシュは一機のヴァルシオン改に背後を取られ、なんとか振り切ろうと目にも止まらぬ速さのドッグファイトを繰り広げていた。
 フットペダルを踏み込む足、操縦桿を手繰る腕、情報を認識する瞳、状況を判断し肉体に指示を下す脳。
 エウレカは自分自身を構成する肉体のすべてを駆使して、背後を取られたヴァルシオン改を振り切ろうと技を凝らすが、変わらず深青の魔王は影のようにニルヴァーシュの背から離れない。
 これが有人操作のヴァルシオン改であったなら中のパイロットが耐えられないような機動を幾度も取り、逆にこちらが背後をとっていたことだろう。
 しかし無人機であるヴァルシオン改が考慮するのは、機体自体の耐久性であって、脆弱なたんぱく質の塊である人間のことなど気にも留めない動きが可能だ。
 エウレカの技量と、この世界初のLFOであるニルヴァーシュの空中を駆け抜けるサーファーの機動は、軍関係者が目を見開くほど新しい可能性に満ちた動きであったが、それでもなお背後のヴァルシオン改は執拗に白い機影を追っていた。

「レントン、こらえて!」
281660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/29(木) 21:17:09 ID:???
 背後を映すモニターの向こうで、ヴァルシオン改の背部ユニットに暴虐の光がともるのを認めたエウレカは、叱咤に近い強い語彙でレントンに指示を飛ばした。
 これは嘔吐をこらえて、ではなく、回避のために激しい動きをする、という警告のためである。耐G装備である特注のパイロットスーツに身を包んでいても、かなりの負荷が二人の小さな体には襲いかかっている。
 エウレカの言葉に、レントンがせめてうなずき返そうと首を動かすのと、ニルヴァーシュがほとんど真っ逆さまに機体を降下させるのは同時だった。
 ニルヴァーシュがいた空間を貫いたクロスマッシャーの光が、コックピットの中のエウレカとレントンの顔を煌々と照らし、放射されたままのクロスマッシャーがギロチン台の刃よろしく、ニルヴァーシュめがけて振り下ろされる。

「このぉ!」

 額に脂汗を一粒浮かび上がらせながら、エウレカはさらに精密かつ俊敏に新たな動作入力を追加する。秒間二桁を超すコマンド入力の速さと正確さは、平均的なパイロットのはるか上を行くレベルだ。
 より膝を折り曲げてリフボードにしゃがみこむ姿勢を取ったニルヴァーシュが、ボードを軸にくるりと機体を回転させ、上方から振り下ろされるクロスマッシャーを回避する。
 さらに回避した先へと撃ちこまれるクロスマッシャーのエネルギーを、ニルヴァーシュのセンサーが感知しエウレカに伝え、エウレカがそれに答えてニルヴァーシュを操る。
 斜め正面上から撃ちおろすように放たれたクロスマッシャーが、ニルヴァーシュの右をぎりぎり一メートルの至近距離で外れ、ニルヴァーシュの純白の装甲が一瞬、赤と青に明滅するかのように輝いた。
 一撃、二撃と終わらずクロスマッシャーが次々と放たれて、ニルヴァーシュの機体をわずかずつかすめてゆく。
 回避するごとに精度を上げてゆくヴァルシオン改のクロスマッシャーに、ニルヴァーシュが貫かれて跡形もなく爆散するのも時間の問題かと思われた。
 空中に黄緑や緑に煌めくテスラ・ドライヴの軌跡を示す光の粒子が、オーロラのように広がる一方で、力を込めれば簡単に折れてしまえそうなほど華奢なエウレカの体を襲う疲労の澱はその厚みを増していた。
 逃げるばかりでは、と焦りを募らせたエウレカが、背後のヴァルシオン改に向けてニルヴァーシュに180度急旋回をさせ、腰だめに構えたオクスタンサブマシンガンの猛打を叩き込んだ。
 実弾とビームが織り混ざるマズルフラッシュの向こうに、ヴァルシオン改の姿はない。ニルヴァーシュが反転する動きを見せるのと同時、機体を大きく右方向に迂回させ、射線軸上から回避していたのだろう。
 トリガーを二秒ほど引き絞り続けたところで、エウレカが目的としたヴァルシオン改の姿がないことに気付き、周囲を映すモニターに特異な色合いの瞳を巡らした。
 居た。射撃のために動きが硬直化した単調になったニルヴァーシュの左手側、200メートルの位置で、ニルヴァーシュを破壊すべくクロスマッシャーの発射用意を整えたヴァルシオン改が。
 花弁を重ねて形作ったように薄いエウレカの唇が、しまった、と動くよりも早く、事態に気付いたレントンが、死の恐怖に包まれるよりも、クロスマッシャーが発射される方が早い。
 そして、ヴァルシオン改の左腹部から右頸部を貫くGN粒子の方がさらに速かった。
 一筋の閃光がヴァルシオン改を貫いた瞬間を目撃し、目の前でヴァルシオン改が爆発を起こしてからようやく、レントンは自分が助かったのだ、ということを理解した。
 トランザムによって強化されたGNスナイパーライフルの一射で、ニルヴァーシュを救ったデュナメスの姿が、正面モニターに映し出された。

「ろ、ロックオンさ〜〜ん〜〜〜」

 助かったという安堵がどっと押し寄せてきて、思わずレントンは顔面の筋肉を大崩壊させながら情けない声を上げる。
 すると、それが聞こえたらしく、デュナメスからロックオンが返事をしてきた。手のかかる弟分の、ぐしゃぐしゃになった顔を見て苦笑を一つこぼす。
282660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/29(木) 21:19:11 ID:???
「できるだけサポートはしてやるっていったろ? ずいぶん危ないタイミングになっちまったけどな。それより、レントン、まだ戦闘は終わっちゃいねえんだ。気を抜くなよ。エウレカにいいところ見せたいんだろ?」

 いたずらっぽくウィンクをして、エウレカ云々からは小声で言ってくるロックオンに、レントンはエウレカに聞かれていやしないかと慌てて隣のエウレカに視線を映す。
 ちょうどエウレカもレントンとロックオンが何を話しているのか気になったようで、レントンの方を振り向いたところだった。
 思わず視線が交差したことに、レントンはわけのわからない羞恥を覚えて頬を赤く染めてそっぽを向いた。

「どうしたの、レントン。ロックオンに何か言われた?」

「な、なんでもないよ、エウレカ。ほら、前を向かないと危ないから! ロックオンさん、ありがとうございました!」

 レントンは照れを誤魔化すために声を張り上げて、モニターの向こうのロックオンに思い切り頭を下げる。
 そんなレントンを、エウレカは変なレントン、と呆れるばかり。もっとも出会ってから、エウレカのレントンに対する感想で最も多いのが、変なレントン、であるあたり、レントンも報われない青少年だ。
 隣り合って座る二人の様子に、ロックオンは肩から力の抜ける思いで、やれやれとばかりに肩をすくめて通信を切った。これ以上二人のやり取りを見ていたら、せっかく高ぶった戦意が萎えてしまう。

「さて、と。刹那、トランザムが切れたらおれたちは足手まといだ。なるべく艦の近くで戦うぞ。エクシアじゃやり辛いだろうが、あまり前に出すぎるなよ」

「分かっているつもりだ」

 トランザムの限界時間までに戦闘の決着がつくのが理想的ではあるが、そうそううまくゆくものかどうか。まあ、メカゴジラやらケロンタイプやらアサルトバスターやらフューラーザタリオン・トロンベやらを見ていると、速攻でケリが着きそうだけれども。
 刹那も刹那なりにロックオンの忠告を受け入れて、味方の艦からそうはなれていない距離で、トランザムによって向上した加速性を生かし、敵機に接近して切り刻む、という戦い方に切り替えていた。
 トランザムの限界時間か、終了後の機体性能の低下がなければそのまま艦から離れて敵陣に斬り込んでいるところだろう。

「トランザムの欠陥も、そのうちビアン総帥辺りが解消してくれないもんかね」

 銃型ガンカメラの向こうにジェットウィンダムをとらえながらぼやいたロックオンであったが、まさかそう遠くないうちに言葉の通りになるとは思いもしなかっただろう。



 エレオスの振り上げた錫杖を受け止めたすきに、宙を舞う仮面に乱打され、姿勢を崩したところをサークルザンバーによって斬られるヴァルシオン改。
 カオスインパルス、ガイアインパルスの連携によって誘導され、ミネルバのトリスタン、イゾルデといった主砲副砲のコンビネーションの的にされるヴァルシオン改。
 ここが正念場と判断したエペソによって、これまでの鬱憤を晴らすために盛大に撃ちだされるクリスタル・マスメルを避けた先に雨あられと降りかかるエクスカリバーのマイクロミサイル。
 さらに爆発の炎からダメージを負いながらも脱出したヴァルシオン改に、連続して叩き込まれるピンポイントバリアパンチ! ピンポイントバリアパンチ!! ピンポイントバリアパンチ!!! の嵐に遂に爆散するヴァルシオン改。
 装甲そのものからの射撃によってゲイム・システムの不意を突いてダブルソードを一閃させたスペリオルドラゴンに続く、レッドファイター91のアンカークローにウィングカッター、イーグルバルカンによって崩折れるヴァルシオン改。
 両方の腕を失いながら、リオンやガーリオンの援護を受けて、口に計都瞬獄剣を咥えたグルンガスト弐式によって破壊されるヴァルシオン改。
 機体各所に負ったダメージを自己修復機能で緩やかに回復させつつ、リミットを解除し、ソウルゲインの全機能を解放したアクセルの手腕によって、縦一文字に両断されるヴァルシオン改。
 三機のバルゴラとアヘッドのサポートを受けつつ、無数のズフィルード・クリスタル・フェザーを展開し、さながらファンネルを搭載したV2アサルトバスターガンダムになったようなABインパルスに次々と落とされるヴァルシオン改。
 三機のメカゴジラに四肢に噛みつかれて装甲に穴が空き、牙がひらめき爪が唸るたびに破片をまき散らし、あたかも鳥葬の刑に処されているかのようなヴァルシオン改。
283660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/29(木) 21:22:48 ID:???
 たびたび叩きのめされた果てに、遂には搭載されていたリミッター解除形態『あのころの軍曹』に戻ったケロロの怒涛の攻撃によって、タワーブリッジからパロ・スペシャルの連続技で五体を砕かれるヴァルシオン改。
 三輪艦隊旗艦クラップ級巡洋艦ヒノモトに映し出されるのは、救世主であったはずのヴァルシオン改達が、次々と敗北の泥濘に塗れて破壊されてゆく姿の連続であった。
 ヴァルシオン改部隊は三輪艦隊にとってこの戦いに勝利を呼び込むためには、何が何でも必要となる、代替の利かぬ存在。
 それらが年月に朽ちる石像のように、敗北の運命に追い落とされてゆく姿は、悪夢以外の何物でもなかった。
 掴みかけた勝利の可能性が掌から次々と零れてゆく現実を前にして、茫然自失とする艦隊各員の中で、唯一三輪だけは思考を停滞させてはいなかった。
 αナンバーズ不在のおりに、ジェガン部隊だけで地下勢力や異星人の大勢力を相手にした経験は伊達ではない。圧倒的戦力を相手に戦うのは、新西暦世界の地球連邦軍人ならば少なからず経験していることなのだから。

「ええい、残ったヴァルシオン改部隊に殿を務めさせろ。ハワイ基地に撤退する! 足の鈍った艦は捨てていけ、無事な艦を生き残らせるのが最優先だ。ロアノーク大佐にも撤退を伝えろ!!!」

「は、はい」

「海の藻屑になりたくなければ一秒も無駄にするな! コッホ博士、ヴァルシオン改にさっさと指示を……博士?」

 おうおうと言葉にならない声をあげて自分の傑作が次々と破壊される光景を見ていたはずのアードラーの姿がないことに、ようやく三輪は気づいた。
 思わずシートから体を起してアードラーの姿を探せば、窓の外にヒノモトから飛び立ってゆくヴァルシオン改の姿が映る。
 さらには、残っていたヴァルシオン改が、そのヴァルシオン改を守るようにして集合し始めたではないか。この光景を前にして、三輪がようやく悟った。
 アードラーが、自分の保身のためにヴァルシオン改に搭乗し、他のヴァルシオン改に自分を守らせながら、逃げ出したことを。

「あ、あの……くそじじいいいいいがあああああああ!!!!」

 アードラーの逃亡と、撤退するにしても必要となるヴァルシオン改を独占された事実を突き付けられた三輪艦隊全員の心境を、三輪の絶叫が代弁していた。

「ひ、ひひはひひひ。これは、何かの間違いじゃ。そうに決まっている。間違いでないのなら、わしのヴァルシオン改が負けるはずがない。わしの、わしのゲイム・システムが、ひひ、ビ、ビアンの手駒、なんぞに」

 非道の限りを尽くしてきた外道の老人の精神は、すでに正気を失い始め崩壊の一途をたどっていた。前大戦でも手塩にかけたアズライガーとアズラエルが撃ち果たされ、命からがらジェネシスの照射から逃げたときも、屈辱に身を焼いて精神の平静を欠いている。
 一年半近い歳月は、傾き出したアードラーの精神を立て直すことはなく、逆に自尊心の肥大と復讐心の増大へと働いていた。
 そして際限なく肥大化し歪みを増していたアードラーの精神は、目の前に突き付けられた揺るがざる現実を前に、生命の保存と精神を守るために逃避へとその方向を限定し、この場からの離脱へと動いていた。
 アードラーの乗るヴァルシオン改の背後を守っているのは、残りわずか三機にまで減らされたゲイム・システムが制御しているヴァルシオン改である。
 ヴァルシオン改の離脱に気を取られながらも、三輪艦隊の残るMS部隊はアードラーの独断による脱走を割り切った三輪の指示が飛び、残る艦艇の守りに就いていた。
 アードラーにしてみれば残っていたわずかな理性をもって、三輪艦隊を囮にする為に行動したが、実はこの行為は逆に作用していた。
 ヴァルシオン改にさんざんに痛い目を見せられたエペソをはじめタリアといったDC・ザフト艦隊の艦長や司令クラスは、なにがなんでもこの場でヴァルシオン改を全滅させることに執念を燃やしていたのである。
 あれを一機たりとも帰してはならない、と。
 とはいえ通常戦力であるリオンタイプ、エルアインス、バビやザクといった機体は無傷な機体の方がはるかに少なく、これ以上戦わせれば着艦事故などでさらにその数を減らし、貴重なパイロットを失う可能性が大きかった。
 である以上、追撃に差し向けられるのは戦力の大半を維持し、個々の戦闘能力が図抜けているクライ・ウルブズ以外に他ならない。
284660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/29(木) 21:23:58 ID:???
 そしてまた、クライ・ウルブズの機体でも追撃に赴ける余裕のある機体は少なく、機体が無事でも肉体的な余裕のあるものはさらに少ない。
 である以上、追撃を任せられるものは必然的に絞られ――真っ先にシンが動いた。エネルギー消費型の武装が多く、これまでの戦いで無数に発射していたから、エネルギーの残量に心許無いところはあったが、パイロットの気力はかけらも減じていなかった。

「おれが潰します。修理と補給の必要な機体はすぐに艦に戻ってください!」

 そう告げるや、先ほどまで一緒に戦っていたグローリー・スターを置き去りにして、ABインパルスがウィングバーニアに推進の光を宿らせる。
 一人で行こうとするシンに対して、思わずセツコがその背中に声をかけた。三機のバルゴラは外傷こそなかったが、特機を相手に無理な戦いを繰り広げた影響で、柔軟な関節や内装の機器に損傷を負っている。
 ABインパルスについてゆくのはまず無理で、ヴァルシオン改との戦いに耐えられるような状態でもない。

「駄目だよ、シン君。いくらなんでも一人じゃ!」

「大丈夫です、おれ、無茶とか無理をするのは慣れてますから」

「シン君が強いのは分かったけど、だからって」

「心配してもらえるだけで十分です。それに、テンザン大尉とかも動いてくれていますから、大丈夫ですよ。ありがとうございます」

 確かにセツコの目の前で見せられたシンの戦闘能力は、機体性能を考慮しても言語を絶するものがあった。グローリー・スターが総がかりで戦っても、十分保つかどうかといったところだろう。
 シンは、本当に心配してくれるセツコの言葉と態度に、胸の内から暖かい気持ちに口元を笑みの形にして礼を述べて、通信を切る。それだけで、新しい力が体の中に湧いてくる気分だった。
 推進の余剰エネルギーを粉雪のように舞い散らせて、ABインパルスはバルゴラ三機を背後において、ヴァルシオン改の追撃へと光の翼を羽ばたかせた。
 見る間に小さくなるABインパルスの姿に、セツコは小さく、あ、というつぶやきと共に思わず手を伸ばしていたが、その指先は、モニターの彼方のABインパルスに触れることもなかった。

「ひ、ひひひひひひ、ひひひ……ひひいぃ?」

 有人操作に切り替えたヴァルシオン改が警告をモニター上に表示し、先ほどから笑いの声を絶やさずにいたアードラーが後方を映すモニターを食い入るように見つめる。

「ひゃ、あはははははは、ひゃひゃ、ははは、つつつ、潰せえ、壊せえ、ゲイム・システムゥウ!! お、お前ならどんな敵だろうとたお、倒せるはずじゃあ!!!」

 アードラーの護衛に着いていた三機のヴァルシオン改が、マスターコードを有するアードラーの音声指示に従い、くるりと踵を返して背後から猛追してくるABインパルスへとディバイン・アームの切っ先を向けて飛翔する。
 せめて一機は護衛に残しておくべきだろうが、小指の先ほども理性を残していないアードラーには、そのような判断を下すことはできなかった。ただ、自分の邪魔をするものを叩きつぶし、意識から排除することしか考え付かないのであろう。
 間もなく接触した三機のヴァルシオン改とABインパルスが、一瞬で数十の光の花の帯を空に描く中、アードラーのヴァルシオン改は、搭乗者が耐えられる最大速度で戦闘空域から離脱を続ける。
 目指すはヴァルシオン改を格納していたバンシー級空中空母だ。そこまで逃げ込めばこの性質の悪い悪夢から逃れられると、アードラーは根拠なく信じ、その希望を目のまで粉砕される。
 アードラーのヴァルシオン改の向かう方向とは反対方向から放たれた強大なビームが、バンシー級の船体を斜めに貫き、全幅一キロを超す空中空母を一瞬で破壊してしまい、巨大な爆炎華へと変えてしまったのである。
 水上艦艇をあらかた破壊しつくしたフューラーザタリオン・トロンベが放った一撃である。
285660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/29(木) 22:01:05 ID:???
「あ、あああああ、あああああああああ!!!????」

 度重なる悪夢、到底受け入れがたい敗北の連続、目の前で砕かれた希望に、アードラーあ老いてしわがれた声を枯らさんばかりに叫び声をあげる。その声音の中に正気の音色を聴くことはほとんど不可能であった。
 絶望に荒れ狂うアードラーに対し、運命はなお苛酷であった。戦闘空域からいの一番に離脱しようとするヴァルシオン改の動きに気付いていたテンザンのガンキラーが、その脱出口を阻んだのである。

「おれの子分どもをさんざんに苦しめてくれた見てぇだな、ああ? てめえだけ逃げ出そうなんざ、ちゃんちゃら甘い考えだっての。ここでおっ死になあ!」

「その、声、声は……テンザンか!? 貴様、わしに見いだされた分際、で、わ、わ、わしのじゃじゃじゃ、邪魔をするの、かぁああああ!!!」

「ああ? なにトチ狂ってやがる? おれはてめえなんざ知らねえっつんだよ! おおらあ!!」

 正気と狂気のはざまを超えて狂気の領域に精神を踏み込ませたアードラーは、記憶が混濁し、すでになにが現実でなにが都合のよい虚構であるかの判別さえつかず、ゲイム・システムに目の前の障害物の排除を命じるのみ。

「こわ、壊せ、壊せ、壊せ、ゲイム・システム。わしのわしの世界を創るのじゃ! わしが世界のすべてを掌握せねば、ここ、この世界を守れぬと、なぜ、それ、それが分からぬ!!」

「寝言は寝てから言いやがれや! てかそもそも何がいいてえのか分からねえんだっての!!」

 ゲイム・システムがその性能を最大限に発揮できたなら、ガンキラーといえども苦戦を免れぬが、アードラーという枷が生じた以上、ゲイム・システムがその能力の限界を発揮することはできない。
 皮肉にも創造主であるアードラーが搭乗したとこで、ゲイム・システムはアードラーの身の安全を守りながら、という条件により発揮できる可能性に限りを設けられてしまったのである。
 ガンキラーの両掌から伸びた針をかろうじてディバイン・アームが打ち払うも、鎌首をもたげるように針がまがって、ディバイン・アームを握るヴァルシオン改の右腕に絡みついて動きを止める。
 掌の針と同時に伸ばしていた右足がヴァルシオン改の左側頭部に叩きこまれ、大きく右方向にのけぞるヴァルシオン改に、ガンキラーの目から破壊光線が浴びせかけられて、機体表面に小爆発を巻き起こす。

「ぎ、ぐぐぐがががが、なぜじゃあ、なぜわしの思う通りにならん!?」

「図体だけか? こいつだけやけに弱っちいな。潰すぜ!」

 体勢を崩すヴァルシオン改から針を巻き戻し、ガンキラーが一挙にその懐にまで潜り込み、伸縮する手足の特性を生かして不規則なラッシュを叩き込み、ヴァルシオン改はピンボールのように吹き飛ばされてゆく。
 さらに破壊光線が連続して照射されて、後方に吹き飛ばされながら、ぱらぱらと機体各所から耐久限界を超えた装甲が剥離し、瞬く間にヴァルシオン改は無残な姿へと変わってゆく。
 味方を手古摺らせていた無人仕様のヴァルシオン改に比べてあまりにあっけないヴァルシオン改に訝しさを覚えつつ、テンザンはとある並行世界では深い因縁のあった狂気科学者とは知らずに引導を渡した。
286660 ◆nZAjIeoIZw :2010/04/29(木) 22:03:06 ID:???
「あばよ、少しだけ覚えておいてやるぜ。いきな、ギロチン・バグ!!」

 ガンキラーの両肩の先端でギロチン・バグが回転を始め、風を切り裂く凶暴な唸り声をあげて、纏った鎧を崩壊させたヴァルシオン改を容赦なく切り裂き続ける。
 銀色の軌跡が幾重にもヴァルシオン改に折り重なり、そのたびにヴァルシオン改に斬痕が刻まれて、ついに止めと言わんばかりにギロチン・バグがヴァルシオン改の首元に深々と突き刺さった。
 オリジナルのヴァルシオンのコックピットが存在する位置を、テンザンが狙ったのであろう。
 パイロットの確実な殺害を狙った一撃は、狙いを過たずコックピットシートに身を預けていたアードラーの下腹部から頭頂にかけてまでを、ギロチン・バグの刃が貫き、血に濡れていた。
 開ける限度まで目を見開き、口を開いた姿勢で真っ二つにされたアードラーが即死できたのは、せめてもの救いではあったろう。
 アードラーの乗るヴァルシオン改と、シンを足止めすべく動いていた三機のヴァルシオン改が、ABインパルスと生き残ったエクスカリバーから抽出された部隊によって全機撃墜されたのは同時であった。
 アードラー自身が図らずも囮の役目を果たしたすきに、三輪艦隊は多くの落伍艦、落伍機を出しつつも戦闘空域の脱出に成功していた。
 これをおう余力はDC・ザフト艦隊にはまったく残されておらず、ヴァルシオン改の介入によってもたらされた被害が甚大極まりなかったこともあり、ひとまず戦闘の終結が、エペソの口から各員へと通達される。
 あまりにも長く、そして濃密であった戦いが、ようやく閉幕を迎えることとなった。

つづく
あまりにも長く、とはいうものの、一日もたっちゃいないんですよねえ。だらだらと続けてしまって反省。
申し訳ありません。ではではご感想ご指摘ご助言ご忠告首を長くしてお待ちしております。おやすみなさ〜い。
287通常の名無しさんの3倍:2010/04/29(木) 22:36:12 ID:???
総帥さん乙です〜。
と言うよりも投下がHAEEEEE!!
288通常の名無しさんの3倍:2010/04/29(木) 23:21:16 ID:???
乙、乙
投下の早さにビビった

今回の戦いの意義は、
・ヴァルシオン改vsDCの面白兵器博覧会
・食通やテンザン達の本格参戦
・アードラーの死
ってとこかな

確かにストーリー的にはあまり進んでないけど、新展開に期待
個人的にそろそろ魔装機や超機人関連が動かないかなと思ってる
289通常の名無しさんの3倍:2010/04/30(金) 00:06:06 ID:???
濃厚濃厚!
おつおつお〜
290通常の名無しさんの3倍:2010/04/30(金) 23:00:50 ID:???
更新はえええwwww
とりあえずトロンべ次長wwwww
そういえば最近総帥のも11氏のもまとめサイトが更新されない…
291通常の名無しさんの3倍:2010/05/01(土) 00:48:01 ID:???
つかフューラー・ザタリオンって大気圏内で使用して良いレベルなのか?w
292通常の名無しさんの3倍:2010/05/01(土) 22:09:54 ID:???
Gアームズじゃ普通に地上でジェネラルガンダムと砲撃合戦してたじゃないかw
293通常の名無しさんの3倍:2010/05/02(日) 16:51:10 ID:???
なんという大迷惑。
なんという環境破壊。
294通常の名無しさんの3倍:2010/05/02(日) 18:23:26 ID:???
超巨大R-GUNパワードとかマイトガンナーとか出てきてトロンベ用武器とかにならないよな?
295通常の名無しさんの3倍:2010/05/02(日) 19:23:33 ID:???
総帥的には味皇砲とか出して来るんじゃないかと、自由の女神砲な感じの
296総帥代行:2010/05/03(月) 20:03:48 ID:???
ディバイン SEED DESTINY 
第四十二話 月の騎士 地球の守護神 破滅の尖兵(前篇)


 後方の母艦群からの通達に、黒い金属の仮面に顔を覆った三十路前後の男が、忌々しげに舌打ちを一つこぼした。
 黒に染めた地球連合の改造軍服に身を包んだネオ・ロアノーク大佐は、自分専用のマゼンタカラーのジェットウィンダムを駆り、DC、ザフト、大洋州連合の混合同盟との激闘に身を浸していたところだ。
 性能的にはこちらのウィンダムを上回るものをもったDCのエルアインスやアヘッド、大洋州の量産型ガンアークを相手に、友軍の旗色は悪い。
 ネオに預けられたガイアガンダム、カオスガンダム、アビスガンダムは、搭乗者であるブーステッドマン三人の力量もあって、この戦場では頭一つ抜けた力をもっていたが、紅白のガンアークに手間取り、手が塞がれてフォローに回る余裕がなかった。
 紅白のガンアークを駆るのは、大洋州連合軍所属の、マリナ・カーソン少尉とタック・ケプフォード中尉である。
 オーストラリア大陸に建造されていた謎の勢力ルイーナの地下基地攻略の際には、クライ・ウルブズの猛者連中と轡を並べて、ルイーナ幹部のメリオルエッセと戦った経験をもつ。
 常識外れの敵と戦った経験もあって、タックとマリナはもともとの高い技量と連携技術を発揮して、数で勝るネオ達と互角の戦いをしていた。
 流石にザフトの最新鋭MSセカンドステージの機体とブーステッドマンの組み合わせとあって、タックとマリナそれぞれのガンアークは無傷とゆかず、滑らかな曲線を描く装甲のあちこちに損傷の跡がうかがえる。
 激戦の証拠に合計百発は撃ったであろうアークライフルの銃身は、冷却しきれずに熱をはらんでいるままだ。
 無論、連合が強奪しそのまま運用している三機の新型ガンダムも無傷では済まず、ネオの専用ウィンダムも、直撃弾はないがかすめたビームや至近でのミサイルの爆発によって、表出していないだけでダメージが重なっている。
 ヘルメットに内蔵されている吸引器が頬に珠となって浮かぶ汗を吸いこむ音に鼓膜を揺さぶられながら、タックとマリナは信号弾を撃ちあげて、撤退のための弾幕を張るネオのジェットウィンダムを見ていた。

「撤退する、てことはシンたちがやってくれたみたいだな!」

「そうなるわね。タック、だからって油断しちゃだめよ。叩けるときに叩いておくのがセオリーなんだから」

「わ、わかってるよ……」

 語尾を尻つぼみにするタックだったが、率先してガンアークを突出させるマリナにあわてて追従してゆく。おおむね軍と軍との衝突で最も大きな被害が出るのは撤退戦とそれに続く追撃戦だ。
 マリナの言うとおり、叩けるときに叩かず取り零しが大きくなればなるほど、後で自分たちに手痛く返ってくることになる。
 無論それは逃げる者も負う者もそれは理解している。二人のガンアークのみならず量産タイプのガンアーク、エルアインス、バビ、ザクウォーリアと国境を選ばぬ機体達が退く連合機に銃火を浴びせ始める。
 オルガやクロト、シャニらは彼ららしく決着のつかない中途半端な状況での撤退に、文句の一つどころか五つも六つも口にしたが、なんとかネオがそれを宥めすかして撤退の指示を守らせてはいる。
 それでも果敢に撃たれた数の倍は撃ち返して、返り討ちにしているのが三人らしい。
 三輪艦隊本隊とエペソ率いるセプタ級を中核とする艦隊との戦いが、追撃戦を行わなかったのに対し、三国艦隊とロアノーク先行機動兵器部隊との戦いでは熾烈な戦闘が、長時間に渡って続くこととなった。
297総帥代行:2010/05/03(月) 20:04:51 ID:???


 ソロモン諸島にほどちかい南洋での今後の地球圏の戦局を占う規模の戦いが終幕をようやくに迎えるころ、同時刻、これまで地球圏の騒乱を静観していた一部の勢力が闇夜に紛れるようにして暗闘を繰り広げていた。
 そこはただただ月光を思わせる青白い光に満ちていた。一年前も十年前も百年前も、千年前も一万年前も億年前も。その空間ばかりは時間が流れることをやめたのかもしれない。
 空間を構成する構造材の中にそっと佇む六枚の翼をもった巨大な天使像と、その足元で指を組み、なにかの間違いでこの世界に降りてきてしまった美の女神かと見まごうほどに美しい女を見守るために。
 星の命運が尽きるまで変わらず優しく降り注ぐ月光のような光は、さえぎるものもなく空間の中を満たしている。闇がこの空間のどこかにあれば、闇の粒子の重さが計れるかもしれない。
 どんな色の服を纏っていても、光の中に溶けてしまいそうな空間は、地球が燃え滾る岩の世界だったころから今日にいたるまでわずかな変化もなくありつづけたのだろう。
 この世界に光以外の色は存在することを禁じられていたのかもしれない。唯一この青白い光に満ちる世界で息吹く命を除いては。
 床に投影される影は、豊かに零れる髪が凹凸を生み、妙齢の女性であることを証明している。
 毛先に行くにつれ虹色の輝きを帯びる金色の髪は踝に届くまで長く、完璧といっても何の問題もないプロポーションを誇る肉体は、惜しげもなく裸身でさらされている。
 両の手では足りず掌から零れ落ちるほど豊かな乳房は、女性としての性的な魅力にとどまらず、どんな人間にも分けへだてなく慈愛の情を注ぐ絶対的な母性もまた持ち合わせている。
 片手で簡単に抱き寄せられ、抱え込めるほど細い腰は、胸元で揺れる乳房としっとりと女性の脂と肉が適度に乗り健康美そのものの尻をつないでいるのがすこし信じられないほど華奢で、硝子細工の様な繊細さだ。
 なにも隠すものがない太ももから、うっすらとピンク色の綺麗に整えられた爪が美しい足の指先に至るまでの、脚の描くラインもやはり美しい。
 髪も顔も胸も腰も尻も脚も、すべてが神々しいまでに美しい。人とは思えぬほどに神々しいから美しいのか、人とは思えぬほどに美しいから神々しいのか。
 まだ二十歳になったかどうかという若さのなかに、あどけなさを見出せるほど幼く、同時に人の崇高さも愚かさも、美しさも醜さもすべてその目で見てきたような達観さも同時に存在していた。
 矛盾した雰囲気をその美しさの中に秘めているのは、アインスト・アルフィミィとこの星の守護者となるべき剣の選定について話し言葉をかわしたバラルの園の主、イルイ・ガンエデンだ。
 背後に聳えるナシム・ガンエデンに仕える人造神の巫女であり、同時に世界最強の念動力者でもある。
 イルイ自身の意識とナシムとしての意識を併せ持ったこの少女は、世界の運命にさえ干渉を可能とする神の領域の力で、何を見、何を聞いていたのだろう。
 銀河規模で見ても片手の指に届かぬほどの人間しか到達できていないサイコドライバーであるイルイならば、視界に移らぬはるか遠方の地も、風が運べぬほど遠い人々のささやきも、すべてを把握できてもおかしくはない。
 指を組んだまま、イルイがうっすらと閉じていた瞼を開いた。その動きで揺らいだ大気が、わずかに静寂を乱したようであった。分子一つ一つの動きでさえ、この世界の静寂を乱すには十分にすぎる。
 夜の暗闇を払拭しようと太陽が地平線を黄金に染め上げるのに似て開かれたイルイの瞳の先に、恐ろしく巨大な獣の影が映された。
 その瞳の折の中に閉じ込められてもかまわない、そう思う人間が何人いてもおかしくはない。それほど美しい瞳であった。地球が生み出すどんな宝石を加工したとしても、イルイの瞳ほど美しい輝きを宿すことはできまい。
 ぐるるる……、と密林では決して出会いたくない猛獣の唸りを何十倍にも巨大化し、はるかに豊かな知性をもっているとわかる不可思議な唸り声が、イルイに向けられる。
 問い、であろう。
 イルイは愛しい我が子に向ける愛慕と絶対の信頼を置く友に送る友愛の眼差しを獣の影に向け、ゆっくりとその細い頤を縦に動かす。さらさらと揺れる髪から光の粒が虹色に煌めきながら虚空に広がる。
298総帥代行:2010/05/03(月) 20:06:08 ID:???
「ザナヴ、いまはまだ私が動くことはできません。ですから代わりにお願いできますか?」

 琴の弦を爪弾くことしか知らぬ指が、水晶の弦を張った琴で短く儚い楽曲を爪弾いた――そんな声。
 答えは、轟くような大きさだが、どこか子猫のように甘える声。

 ぐる、ぐるる。

「ありがとう。いずれ私も剣たちのところへ赴かねばなりませんが、まだ動くことができず、貴方達にばかり苦労をかけてしまってごめんなさい」

 また、ぐる、と一声。気にしないで、だろうか、それとも大丈夫だよ、か。
 少なくともイルイとこのザナヴとの間には単なる主従などといった関係以上の絆が、確かに存在しているのは間違いない。
 標準的ないMSどころか、特機よりもさらに巨大と見えたザナヴの影は、音もなく猫科の猛獣のようなしなやかな足取りでその場を後にしていった。
 背後のナシム・ガンエデンと自分以外の気配が絶えた世界で、イルイは開いたままの瞳で虚空を見つめる。その瞳には何が映る? 破滅の理に飲み込まれて崩壊する宇宙の様か。それを防ぎ命を明日へと紡いでゆく黄金の明日か。

「……」

 人が造りし神の巫女はなにも語らず、新たに唇を動かすこともなく再び瞼を閉じ、静かに瞑目しはじめた。この宇宙に生きるすべての命のために、ただ、祈る。



 インド洋沖上空。アフリカ、東アジア、オーストラリアどの勢力の監視網にも触れず、彼らはそこで争っていた。たった二機の機動兵器を十倍の戦力で追い込み、獲物を逃がさぬ絶対の包囲網を築きあげている。
 追い込まれているのは濃い群青の色を纏う機体と、いくつもの氷が集まって人の形をなしたような機体。ストゥディウム、そしてファービュラリス。
 ルイーナより離反した反逆のメリオルエッセ達が操る人外の手からなる機体である。世界の滅びを目的に行動するルイーナと袂を分かち、処断すべく放たれた追手との戦いをたびたび繰り広げていたが、今回ばかりは決着をつけるべくルイーナの側が息を巻いたようだ。
 これまでの戦いの中で機体もパイロットも消耗していたためでもあるが、ファービュラリスとストゥディウムは完全に包囲され、絶え間なく放たれる砲火を浴びて機体に刻まれた傷をより深いものに変えている。
 互いの背中を合わて死角を庇いながら戦っていたそれぞれの機体のパイロット達、グラキエースとウェントスの涼やかな美貌にも、焦燥のもたらす黒い影がうっすらと濃さを増し始めている。

「流石にこれは厳しくなってきたね、グラキエース」

「ああ。修理も補給も、ほとんどろくにできなかったからな」

 声音の柔らかさは変わらぬウェントスであったが、呼吸は荒く休む間もなく戦いを強いられて消耗した体力がまるで回復していない様子だ。
 答えるグラキエースは美女の氷像を思わせる冷たいまでの涼やかな声の調子は変わらないのだが、ウェントスへの返事の後に鳴り響いたくぅ〜、という可愛らしい音が、彼女の本音を語っていた。

「食事もちゃんとしたものはほとんど取れなかったな……」

 こころなし、覇気に乏しいグラキエースの呟きに、ウェントスは小さく苦笑したようだった。まだ笑みを浮かべるだけの余裕はあるというべきか、それとも諦めに屈してしまったのか。

「そうだね、ぼくもリムの淹れてくれたココアが飲みたいな」

「あれは、私には甘すぎる。ジョシュアも進んでは飲みたがらなかった」

 歯が解けそうになるくらい甘いココアの味を思い出して、グラキエースが流麗なラインを描く青白い眉を寄せる。一瞬舌に想起されたリムのココアの味は、その甘すぎるほどの味に反して苦い思い出となっているようだ。
299総帥代行:2010/05/03(月) 20:07:29 ID:???
筆をふるう職にある人間が嫉妬の念にかられそうなくらいに美しいラインを描く眉は、もとの形に戻る寸前で、その形を固定された。
 それまで周囲を取り囲んで遠巻きに射撃に専念していたルイーナの機体が、近接戦闘に切り替えて、ストゥディウムとファービュラリスへと一挙に殺到してきたからだ。
 反応が鈍り、運動性が落ち、耐久性が危険領域にまで落ち込んだ機体、休むことも新たな活力を取り込むこともできず、万全とは言い難い体調のパイロットで、どこまで戦えるか。

「グラキエース、ウェントス、お前たちはここで破棄する。王の命だ。粛々と受け入れろ」

 ポールハンマーを構えたベルグランデやビームソードを煌めかすアルゲンスをかろうじて捌きながら、グラキエースとウェントスの視線は、声を発したメリオルエッセ――アクイラへと向けられる。
 赤銅の肌に右半顔を覆う黒い眼帯が特徴の男は、事実を通達するだけの淡々とした口調で元同輩へ告げ、冷徹な態度を崩さない。
 振り下ろされたポールハンマーの柄を斬り飛ばし、返す刃で首をはねたベルグランデを蹴り飛ばしながら、ウェントスが問う。流石にいつも口元に浮かべている柔和な笑みは消している。

「いつもならグラキエースを追いかけてくるイグニスはどうしたんだい?」

「あいつはお前たちと戦う際に本調子を発揮することが出来ん。これ以上失態を続ければ、あいつも欠陥品として破棄せねばならなくなるのでな」

 確かにイグニスは同時に誕生したグラキエースに対して、メリオルエッセとしては例外として執着し、自覚はないだろうが感情をむき出しにしてしまう。
 そのような様子は確かにメリオルエッセとしては異常なもので、欠陥品の烙印を押されて破棄されても仕方あるまい。
 もっともアクイラとしてはイグニスの身を案じて、というよりもまだ戦力の整わぬルイーナの希少な指揮官クラスの人材を失うことによるデメリットを嫌って、というのが本音であろう。

「そうか」

 短く答えるグラキエースは、どこか安堵したようにも見える。イグニスがメリオルエッセの中でグラキエースを特別視するのと同じように、グラキエースもまたイグニスのことを特別な存在として見ているのだ。
 戦わずに済む安堵、自分たちと同じように欠陥品として処分されてはいないということを確認できた安堵。敵対しながらも、その身を案ずるという矛盾を、グラキエースは不思議には思わなかった。
 グラキエースはジョシュアと共に過ごした三年間で、人間というものが矛盾と二律背反によってできた生き物であることを十分に学び、自分が少しだけ人間の心に近づいた、と思っていたからだ。
 アクイラの言葉に耳を傾けながら、グラキエースはファービュラリスのシールドから伸びるウィリテグラディウスと右手のサギッタルーメンを発射する槍状パーツをふるい、全周囲を埋め尽くす敵機を切り裂く。
 本調子ではない機体に組みつかれたが最後、振り払う間もなく次々と攻撃を浴びせかけられて、軋むフレームやひび割れた装甲をあっという間に粉砕されて、自分たちの二度目の命も潰えることとなるだろう。
 ワイバーン形態に変形したウェントスのストゥディウムは、その高機動性を生かした一撃離脱戦法で組みつかれるのを阻止してはいるが、視界を埋める砲撃の雨に時折つかまっては羽ばたきを弱弱しいものに変えている。
 反撃に放つファービュラリスのサギッタルーメンの出力も徐々に低下しており、エネルギー切れも間近といったところ。
 以前のようにシン・アスカを筆頭とするクライ・ウルブズといった援軍が来てくれればともかく、二機だけの状況では厳しいというほかない状況になっている。
 シールドで受けたポールハンマーに吹き飛ばされた勢いを利用して距離を取りながら、グラキエースは、ファービュラリスの背に伸びる五枚の氷水晶の翼を広げる。
 周囲の大気を急速的に冷却し、翼から無数の氷の破片が伸びて、ファービュラリスに肉薄するベルグランデ、アルゲンスを串刺しにすべく氷の雨となって降り注ぐ。
 氷を司るファービュラリスの最大攻撃コンゲラティオーであるが、万全の状態から繰り出された時と比べれば、放たれる氷の数は半分ほどにすぎず、襲いかかる氷の速さもはるかに遅い。
 必殺といえる大技も威力を十全に発揮できぬ状態では、さしたる戦果をあげることはできない。三機ほど氷の矢に串刺しにされて機能不全に陥らせることに成功するも、そのほかの機体は被弾するものも少ない。
 迫ってくる機体の後ろあこちらの死角側からチェイサーミサイルやビームがファービュラリスへ襲いかかり、かわしきれぬ攻撃の数発がファービュラリスの華奢な機体を大きく揺らして、グラキエースに振動を伝える。
300総帥代行:2010/05/03(月) 20:08:28 ID:???
「グラキエース!」

 黒煙に包まれてゆくファービュラリスの苦境を見てとったウェントスが、慌ててストゥディウムの機首を巡らし、ファービュラリスを囲むルイーナの機体に砲火を叩き込み、巨大な爪で切り裂いて散らす。
 しかしグラキエースの窮地を救うストゥディウムも、大きく広げられた翼の所々が欠け零れ、表面装甲に蜘蛛の巣状の罅が大きく伸びて積み重なったダメージが表出している。
 神話の中で語られるワイバーンを思わせる空の支配者たる威厳や雄々しさ、風を撃ちすえる力強い羽ばたきも失われていて、たちまち背後を取られてファービュラリス同様に数多のビームを撃ちかけられる。
 アクイラが状況の傍観に徹しているからこそここまで戦えていたが、大火力を誇るフォティス・アーラが本格的に攻勢を加えてくれば、グラキエースとウェントスは瞬く間に塵と灰に変わるだろう。
 敗北に身をゆだねて破滅の王へと還るつもりはないが、グラキエースとウェントスの意識に反して、状況は二人に破滅への道しるべばかりを示している。

「このままミーレスたちだけでもお前達を磨り潰すのは大した問題ではない。が、人間にはせめてもの情け、という言葉があるらしいな。せめてもの情けだ。同じメリオルエッセであるこの俺の手で王のもとへ還してやろう」

「やはり動くか、アクイラ!」

「そのまま見物しているだけでよかったんだけどな」

 物々しい音を立てて胸部や肩の装甲を展開し、数えるのがばからしい数のミサイルの弾頭をのぞかせるフォルティス・アーラの姿に、グラキエースとウェントスの米神に冷たい汗の珠が一つ新たに浮かぶ。
 周囲のミーレス達が操る機体が一斉にファービュラリスとストゥディウムに組み付こうと、小隊単位で数をそろえて二機の周囲を取り囲み始める。
 ストゥディウムとファービュラリスにとりついたミーレス達の機体ごと、フォルティス・アーラの火器でまとめて吹き飛ばすつもりなのは明白だ。
 アクイラの意図が明白であるだけに、グラキエースとウェントスはアクイラを注視せねばならず機体の挙動にある程度制約と傾向がうまれてしまう。
 集中を欠いたパイロットと万全でない機体では時間の経過はそのまま敗色を濃厚なものに変えてゆく。

「終わりだ。ウェントス、グラキエース。いずれ世界のすべては王の名のもとに滅びゆく定め。所詮は遅いか早いかの違いにすぎん。諦めろ」

 フォルティス・アーラの上半身各所から同時に放たれる無数のミサイル――カリドゥム・サギッタの向かう先は、ミーレス達の操る機体に四方を囲まれ逃げる先を失ったストゥディウムとファービュラリス。
 センサーとモニターの向こうで大きさを増し着弾まで間もないということを告げるミサイルの群れを前に、ウェントスとグラキエースは最後の一瞬まで回避可能な空間、それが無理ならば損害を最小限に抑えられる方法を模索し続けていた。
 もう少しウェントスとグラキエースに余裕があったならば、アクイラの諦めろ、という言葉に諦めない、と言い返していただろう。

「抗うだけ無駄というもの……むっ?」

 アクイラが義務感にも似た気持ちで、ミサイルの着弾が生む爆煙の向こうで同輩の消滅するのを見つめていた瞬間、青く晴れ渡っている天空から降り注いだ稲妻が、カリドゥム・サギッタのミサイルすべてを撃ち落としていた。

「晴れた空から雷だと? グレートマジンガーか?」

「いや、なにか巨大な転移反応があるよ。それが起こしたものじゃないかな」

 稲妻は変わらず降り注ぎ、カリドゥム・サギッタのミサイル群だけでなくストゥディウムとファービュラリス周囲のミーレス達の機体にも直撃し、瞬く間にその数を減らしていった。
 天空には渦巻く黒雲などなく、澄み切った青い空ばかりが広がっているにも関わらず、稲妻は空間そのものから放たれている。
 いつ終わるとも知れず続く雷の雨が何の前兆もなく止まるや、一か所に雷が集中し始めた。巨木の枝葉が重なるようにして渦を巻いた雷は、巨大な獣の形となりグラキエース達の目の前で集束する。

 ぐるおおおおおおお!!!
301総帥代行:2010/05/03(月) 20:09:26 ID:???
いかなる原理によってか水面の上に立つ四足の獣は、猫科の猛獣の姿に酷似していた。豹と思しい巨躯は全身が白い装甲で覆われ、尻から伸びる鞭の様な尻尾が何本も生え、頭には赤い宝石を中心部にはめ込んだ王冠に似た装飾が施されていることだろう。
 ガンエデンの三体の僕の一体、豹を模した半生体兵器ザナヴである。
 古代より人造神に仕える機械仕掛けの獣がこの場に顕現したのは、主であるイルイの命令によるものであろう。
 グラキエースとウェントスを助けるようにして現れた白い鋼の獣を、アクイラばかりでなく助けられた形となったグラキエース達もどう判断すべきか困惑の眼差しを向けている。
 グラキエース達とアクイラ、敵味方に分かれたどちらのメリオルエッセ達にとっても未知の存在であるザナヴを、敵と判断すべきか味方と判断すべきか、ほんのわずかの間戦場の空気が動くことをやめた。
 首を巡らして周囲の状況を把握したザナヴは、ちょうどストゥディウムとファービュラリスを背後に庇った位置にあり、背後を振り返り上空の二機の無事を確認したザナヴは、ぐる、と喉奥で一声吠えてから一挙に跳躍。

「ぬっ!」

 胸部と肩部の装甲を展開し、ミサイル発射の体勢を維持していたアクイラのフォルティス・アーラの喉笛を噛みちぎるべく、白い稲妻となって襲いかかる。
 息を潜めて獲物の近くまで近づいた肉食獣の一撃。特機の装甲にも穴を穿つ鋭い牙がずらりと並ぶ口を開き、前脚からは三日月のごとき爪がすらりと伸びている。
 なまじフォルティス・アーラが人型に近い形状をしているだけに、生身の人間が本物の猛獣に襲いかかられているかのような生の迫力があった。
 むき出しの牙で襲いかかるザナヴに、アクイラは反射的な回避動作で機体を後退させて、至近距離で胸部に内蔵されたミサイルを炸裂させた。
 自身の機体の堅牢さを信じての一撃であったが、ザナヴの吐息が届く距離まで詰められていた両者の距離をいったん離すことには成功する。少なくない数のミサイルの爆発は、それぞれの機体の各所から黒い煙を噴き出しながら吹き飛んだ。
 再び海面へと着地し大きな波紋を作り、ザナヴは四肢をやや広げていつでも跳躍できる体勢をとる。その喉の奥からは敵対する者へ敵意に満ちた猛々しい唸り声がこぼれ出る。

「この獣……」

 ザナヴの獣の姿にたがわぬ敏捷さと意外な装甲の厚みに、アクイラは警戒の度合いを深くし、フォルティス・アーラの両腕部を展開してサギッタルーメンの光を連射し、光の紗幕のごとくザナヴへと降り注がせる。
 それをザナヴは右へ左へと軽妙極まりない調子で跳躍してかわし、フォルティス・アーラとの距離を詰めてゆく。
 降り注ぐサギッタルーメンに応じてザナヴも海面を蹴る四肢から稲妻――サンダー・ラアムを海から天空へと迸らせ、フォルティス・アーラにただ追いつめられるだけでは終わらせない。
 ザナヴの放つサンダー・ラアムはフォルティス・アーラをかすめつつ、その周囲に展開しているアンゲルスやベルグランデ、またそれぞれのSタイプの何機かを飲み込んで消し飛ばしてゆく。
 サギッタルーメンを撃つだけでは終わらぬと悟ったか、アクイラが再びフォルティス・アーラの胸部、肩部の装甲を展開してカリドゥム・サギッタの発射態勢を整え始める。
 ザナヴが跳躍した直後、空中で進行方向を変えるすべのない状態になった一瞬を狙い澄まし、アクイラは稲妻と共に現れた白い獣へを破滅へ導くトリガーを引き絞る。

「滅びよ、我らルイーナの糧となるために」

 ぐるおおああああ!!

 人造ながらも獣の勘を宿していたのか、ザナヴはアクイラの破壊の意思を敏感に察知し、こちらもまた戦闘意欲を高めて、全身からサンダー・ラアムを上回る世界を約規模の大量の稲妻を発し始める。
 アクイラのカリドゥム・サギッタとザナヴのシャイニング・ツァアク。
 破滅の王の尖兵と地球の守護神の僕と、はたしてどちらの力が勝るか。

「グラキエース、あの猫はどうやら僕たちの味方をしてくれているみたいだね」

「だが我々に与するものがこの星にいるとは考えにくいな。そもそもルイーナの存在を知っているものは、前に一緒に戦ったシンたちくらいのものだろう」

「それもそうだけれど、正直なところ助かったというのが本音だしね」

 ザナヴとアクイラが戦闘を再開し始めた傍らで、残ったミーレス達の相手をしながら、ウェントスとグラキエースは、ザナヴの正体について意見をかわす程度の余裕は持ち直していた。
302総帥代行:2010/05/03(月) 20:10:15 ID:???
「たしかにな。……ウェントス、12時方向から接近する熱源が四つ。さらに後方に大型の陸戦艇らしい熱源一つだ」

「地球の勢力かな? 光学映像捉えたよ」

 ストゥディウムのモニターに映し出されたのは、先頭を濃い青色の人型が行き、その後方にガンダムタイプに酷似した青い機体と、薄い紫色の武装を何も持っていない人型、それに白を基調とした特機と思しい機体の四機の姿であった。
 ストゥディウムとグラキエースのライブラリに該当するものはなく、また二人の記憶に該当する機体でもない。ということはゲッター線やインベーダー、プロトデビルンの脅威に襲われていたあの地球とも異なる大系に属する兵器ということだ。
 一方で交戦しているザナヴやルイーナ指揮官アクイラの様子を、新たに姿を見せた機動兵器のパイロット達も察知し対応を急きょ協議していた。
 青いガンダムモドキの機体ベルゼルートに乗る黒髪をショートに切りそろえたカティア・グリニャールが、先頭の濃い青の人型ヴォルレントのトーヤ・セルダ・シューンに通信をつなぐ。
 あっちこっちにはねた赤茶色の髪をもった少年トーヤは、ヴォルレントのコックピットモニターに映し出された従順な従者である少女に、ちら、と視線を一つ向けた。

「トーヤさん、あれが破滅の王の軍勢ですよね。どうやら仲間割れを起こしたのか、あの二機の指揮官機を落とそうとしているみたいですけれど、どうなっているんでしょう?」

「総代からお預かりした過去のデータでは、破滅の王の軍勢で離反が発生するなど有り得ないということだったから、カティアの言うとおり内部での抗争だというのならおかしな話だが……」

「ねえ、トーヤ。破滅の王の部下同士の戦いも変だけど、あの白い猫はなんなの? あんなの聞いてないよ。DCとかザフトとか地球連合でもあんなの開発しているって話も少なくとも私は聞いてない」

 カティアとトーヤに割り込んだのは、赤い髪に八重歯にくりくりと動く瞳が活発な印象を与えるフェステニア・ミューズだ。搭乗しているのは徒手空拳と見えるMSサイズのクストウェル。
 年頃はカティアやトーヤよりもやや下といったところだろうか。モニターに映し出されるバストアップ映像から見てとれる体の発育具合も、外見年齢相応でトーヤの頑張り次第でこれから大きくなることだろう。

「あちらは該当するデータがある。どうやら前大戦でフューリア聖騎士団が共闘した地球人の生体兵器みたいだ。名称はザナヴ。第一接触目標であるナシム・ガンエデンの下僕らしい」

「へえ。あとワシとサメがいたら太陽に向かって走っていきそうだねえ。でもよかったね、地球に降りてから散々探し回った相手にようやく会えそうだよ」

 テニアの言ったことが何を指すのか、あいにくとトーヤには分からなかったが、地球連合の監視網などかいくぐって地上を駆けずり回る苦労に終わりが見えそうになったことは歓迎すべきだ。
 ここでこれまで黙っていた四人目、メルア・メルナ・メイアが口を開いた。綺麗な金色の髪をボブカットにした、少し内気そうでおっとりとした印象を受ける可愛らしい女の子だ。
 ただその印象を裏切るように、唯一の30m級特機グランティードのパイロットを務めており、その戦闘能力を軽んじれば大きなやけどを負わされることになるだろう。

「じゃあ、あのザナヴっていう猫ちゃんを援護して、ほかの破滅の王の軍勢は全部落としちゃうんですか?」

「……あの二機の指揮官機の動きは気になるが確証が持てない以上、敵と見た方がいいだろう」

 ヴォルレントの右手に握らせたビームライフルを意識しながら、トーヤは拡大したファービュラリスとストゥディウムの映像に向けて、厳しい眼差しを向ける。
 敵とみなした相手へ向ける戦士の眼差しである。まだ十七、八と見える少年ながら、その精神は戦士として鍛えられていることがその目を見ればわかる。
 トーヤが息をのむ音を耳にし、険しく変わる表情を見て、カティア、テニア、メルアたち三人娘も操縦桿を握る指に我知らず力を込める。
 これまで散発的な戦闘に巻き込まれたことはあったが、これほど本格的な戦闘のさなかに乱入するのは初めてのことだ。
 シミュレーターならば嫌というほど訓練を重ねたが、所詮はシミュレーター。命まで奪われるわけでもない。トーヤを含め、四人が緊張の電流が全身に流れたとき、不意に頭の中に美しい金の鈴を鳴らしたような声が聞こえた。

『待ってください。誇り高き月の騎士たちよ』
303通常の名無しさんの3倍:2010/05/03(月) 20:33:41 ID:???
さるさんか
304総帥代行:2010/05/03(月) 21:41:24 ID:???
「!? 直接、頭の中に声が?」
「え、オルゴンを媒介にサイトロンに干渉している? 違う、これは……」
「わわわ、トーヤ、どうしよう、まさかテレパシーに目覚めちゃったの、私たち!?」
「女の人の声ですね」

 順にトーヤ、カティア、テニア、メルアであるが、妙にメルアだけ冷静だが、たぶん、おっとりとした地の性格による反応だろう。
 そんな様子が声を伝えてきた向こう側にも伝播したのか、次に四人の脳裏に聞こえてきたのは小さな品の良い笑い声だった。蝶よ花よ、と掌中の珠のごとく愛でられながら育った少女の笑みに相応しい。

『私はイルイ。地球の守護者ナシム・ガンエデンに仕える巫女です』
「貴方が。おれ……私はフューリア聖騎士団準騎士トーヤ・セルダ・シューンです。騎士総代グ=ランドン・ゴーツ様の命によりバラルの園の協力するため、この星に参りました」

 姿の見えぬ声の主が探していた古代の協力者ガンエデンの巫女であることに、慌ててトーヤは居佇まいを直して名前を告げ、カティア達もそれに続く。

「準騎士トーヤ・セルダ・シューンの従士筆頭カティア・グリニャールです」
「同じくフェステニア・ミューズだよ……じゃなくて、です!」

 カティアに睨まれてテニアが慌てて言い直す横で、メルアが行儀よくお辞儀しながら自分の名前を口にする。

「私は、メルア・メルナ・マイアです」

 同盟国の国主に接するのと同じように、聖騎士団の誇りと威厳、そして品格を貶めぬ態度で臨むように、と散々上役であるアル=ヴァンやフー・ムールーから言い聞かされていたこともあって、四人の緊張はかなりものになっていた。
 その緊張が届いているだろうに、イルイは、ひいてはナシムはさして気にとめた様子もなく人類すべてを愛する慈母を思わせる暖かく柔らかな声をかけた。

『あの白と青の機体は敵ではありません。彼らは確かに破滅の王に生み出されたメリオルエッセですが、その心はとても人間に近く、破滅の王を倒そうとしているのです』
「以前の戦いではそのようなことはなかったと、伺っておりますが?」
『はい、かつて門が開かれた時に破滅の王が生み出したメリオルエッセ達にはなかったことです。ですが、あの二人は例外なのです。詳しい話をする暇はありませんが、ここは私の言うことを信じ、ザナヴと共にあの二人を助けてはいただけませんか?』

 トーヤに、どうするの、と問いかけている三人娘の視線を感じながら、トーヤはサイトロンの流れに身を任せるのも一興かと、腹をくくる。要するにその場の流れに身を任せるということなのだが。このトーヤという少年、若干優柔不断であるらしい。

「分かりました。我らはこれより二機の指揮官機を守るため、ガンエデンの僕であるザナヴと共に破滅の王の軍勢と刃を交えましょう」
『信じてくださってありがとうございます、若き騎士よ』
「行くぞ、カティア、テニア、メルア! フー・ムールー様に散々叩き込まれたことを実戦の場で生かす機会だ。遅れをとるなよ!」
「はい、トーヤさん」
「うう、嫌なこと思い出しちゃった」
「厳しかったから、フー様の訓練……」

 息を巻くトーヤであったが、どうにもテニアとメルアにとってトラウマに当たる思い出を呼び起こしてしまったらしく、二人の気力はあまり高揚してはいなかった。
305総帥代行:2010/05/03(月) 21:42:17 ID:???
こけかけるのをこらえて、トーヤはヴォルレントのスラスターを全開にし、二機の指揮官機――ファービュラリスとストゥディウムを追いまわすミーレス達へと勢い激しく挑みかかる。
 トーヤ達に思念で話しかけていた一方で、イルイは同時にグラキエースとウェントス達にも話しかけていた。トーヤ達と要らぬ諍いを起こさせないために、最低限の事情は話しておく必要があったためである。

『聞こえますか? 私はイルイ。破滅の王に仇なすものです』

「ほう、これがテレパシーというやつか。シュンパティアとはまた違った感覚だな」

「シュンパティアは意識の共有って感覚だからね。言葉が直接頭に響くのとは違うよ。イルイだっけ? ぼくはウェントス」

「ふむ。私はグラキエース・ラドクリフだ」

 どこかとぼけているというか、焦点のずれている二人に、イルイは小さく笑んだようだった。なんとも味のある連中と出会う一日である。

『貴方達が破滅の王のもとから袂を分かったことは知っています。私はかつて破滅の王と戦い封じた人間達の末裔。そしてあなた方のもとへと向かっているのは、太古の戦いで私たちに協力してくれた異星の騎士たちです』

「過去にこの世界で門が開かれたことがあるということか。よく世界が滅びなかったものだな」

『世界の滅びは免れましたが、多くの尊い命と文明が滅びてしまいました。かつての悲劇をもう一度繰り返すわけには参りません。
そのためには別の世界のこととはいえ、破滅の王の出現を封じた貴方達の協力が必要なのです。どうか私たちバラルの園、そしてフューリア聖騎士団にご助力願えませんでしょうか?』

 どうやら、このイルイは自分たちが別世界の記憶と人格をもってこちら側の世界に転生したことを知っているらしい、とグラキエースとウェントスは互いの視線を交差させて確認する。
 このままルイーナの追手に追いかけまわされて消耗しつくした果てに王のもとへ還元されるよりは、ここで罠かもしれないがイルイの元に身を寄せる方が得策だろう、と二人は結論付けた。それ以外に選択肢がなかったせいでもあるが。

「分かった。私達で出来ることがあるのならば協力しよう。きっと、ジョシュアもそうするだろうか」

「だね」

『ありがとうございます。ある程度戦ったら王の軍勢から距離をとってください。私の力で皆さんを転移させましょう』

「ちょうど一休みしたかったからな。そうしてもらえると助かる」

「じゃあもうひと踏ん張りがんばろうか、グラキエース」

 依るすがをもたぬグラキエースとウェントスにとっては、魅力的である一方信用するには不安要素の大きいイルイの提案であったが、二人はそれを快諾するほかない。
猛然とミーレス達の操る機体に襲いかかるトーヤ達に合わせるべく、鉛の様な疲労が溜まった体に叱咤を入れ、グラキエースとウェントスは気力を振り絞って愛機を操った。
ベルグランデの首を横一文字にはねたトーヤは、サイトロンの副作用か高揚する戦意に突き動かされて、ビームソードの切っ先はザナヴと一進一退の攻防を繰り広げるアクイラへと向けて口上をあげた。

「フューリア聖騎士団準騎士トーヤ・セルダ・シューン! 推して参る!!」

 切っ先と共に叩きつけられた気迫を堂々と受け止めて、アクイラもまた相手には届かぬと知りつつも、答えるように言葉を紡ぐ。

「また抗う意思をもつものが現れたか……。抗うことはすべて無為としれ、人間」

 その口元には強き者との戦いを楽しむように、ほんの小さな笑みが刻まれていた。

つづく
というわけで数十話にわたって出番の無かったJの男主人公再び、の回です。まあ最初からフューリー側という捏造設定ですけれども。
ではでは、ご感想やご忠告、ご指摘がありましたらどしどし下さいませ。
306通常の名無しさんの3倍:2010/05/03(月) 22:44:31 ID:???
J勢が遂に来たか。姐さんとアル・ヴァンは大丈夫だろうか………
色んな意味でそっちのが心配だぜ
307通常の名無しさんの3倍:2010/05/05(水) 18:14:51 ID:???
これだけの登場人物を制御している総帥さんの技量はいつ呼んでも半端じゃねぇーな。
本当にGJです!!
しかし、これからのスパロボはPSPかPS3かなやっぱり、αのようなシリーズは難しいだろうな……。
Zがどこまで化けられるかが鍵だけど。
308通常の名無しさんの3倍:2010/05/05(水) 21:16:11 ID:???
GJです。
ただ、フー・ルー=ムールーかフールー=ムールーじゃありませんでしたっけ?
309通常の名無しさんの3倍:2010/05/05(水) 22:39:11 ID:???
たしかフー・ルー=ムールー
しかし、ようやく登場か、IF統夜
環境の所為でほぼ別キャラなのかと心配になるが
OFFならいつも通りだったりすんのかな

っていうかロ・・・もといアキレ・・・でもなくザナヴ登場か
失礼ながら長期に渡って多数のキャラが出てくるこの作品
ついつい忘れてしまいましたが・・・ククルまだこの世界にいましたっけ・・・
どーなるんでしょ、彼女が奴らと対面したら
310通常の名無しさんの3倍:2010/05/06(木) 00:56:38 ID:???
統夜は、原作でも終盤になっていきなり、「ヴォーダの闇に還れ」とか鳶の方のカイト君も裸足で逃げ出すような台詞の数々を披露してくれるからな

あと本文でも指摘されてる通り、ザナヴ達の元ネタはサン○ルカンだから
ちなみに魔装機神で有名な「魔法剣エーテルちゃぶ台返し」も、同作品の必殺技「太陽剣オーロラプラズマ返し」のパロディ

ククル・・・そういや原作ではサメに喰われて死んだんだっけか
311通常の名無しさんの3倍:2010/05/07(金) 13:58:49 ID:???
α外伝ゼンガーの斬艦刀・稲妻重力落としも科学戦隊ダイナマンのダイナロボの必殺技、科学剣・稲妻重力落としのまんまだね。
寺田の趣味かね?
312通常の名無しさんの3倍:2010/05/07(金) 14:08:51 ID:???
テ・ラーダは元々特撮が主食
ロボアニメはおかずだったりする
313通常の名無しさんの3倍:2010/05/07(金) 23:30:41 ID:???
ニルファでもクストース(鷲・鮫・豹)の姿見て
獅子王博士「なんだか太陽に向かって走っていきそうな連中じゃのう」
とか、アイビスルートでギャレオン初登場のときに
比瑪「もう鷹型とかイルカ型のロボットが出てきても驚かないんだから!」
とかやってたなぁ
314通常の名無しさんの3倍:2010/05/08(土) 15:51:04 ID:???
>>306
姐さんは、やはり一度はツンな態度をみせてほしいからな。
出てくるとしたら正統オーブの教官役あたりだろうか。
コ・パイがいないと戦えるか怪しいが。
315通常の名無しさんの3倍:2010/05/09(日) 17:23:06 ID:???
>>314
月の方々綺麗そうだし、姐さんがダウナーになるような事件は起きてないんじゃない?
316通常の名無しさんの3倍:2010/05/09(日) 18:56:06 ID:???
アシュアリー・クロイツェル社に技術を持ち込んで
準騎士や従士の育成がてら開発を行ったんだったか
ガウ・ラは移民船だろうから大規模な開発を行うスペースも資源も無かったんだろうな

原作じゃカルビさんの同僚が露骨な死亡フラグを乱立してたけど
この世界だと乱立=フラグ破壊の結果になったのだろうな
317通常の名無しさんの3倍:2010/05/09(日) 21:33:14 ID:???
Jは4周したのにカルビでプレイした事が一度も無いから、どんなキャラなのか全然知らない
聞く所によるとヤンデレっぽいらしいとのことだけど
318通常の名無しさんの3倍:2010/05/10(月) 13:46:24 ID:???
元カレと殺し愛してたがな・・・
ちなみに統夜ルートと違いアル・バンが必ず生き残る。
319通常の名無しさんの3倍:2010/05/10(月) 19:55:57 ID:???
ナデシコクルーに勧誘される逸材………どういう意味かは判るな?

少々怒りっぽくてやる気無い空気だが、仕事は真面目に取り組む割かし妙な人。指揮技能持ちで頼りになる。
が、元カレ登場後に色々大爆発。主人公としては最恐クラスの気力150イベントを見せてくれる。

元カレとの専用戦闘台詞は非常に怖い。
320通常の名無しさんの3倍:2010/05/10(月) 20:39:32 ID:???
企業のテストパイロットやってそこで恋人もできてと割りと順風満帆だった所で
事故で所属してた企業壊滅&恋人とかあらかた行方不明&そのせいで本人にも機動兵器乗りたくないでござるなトラウマが。
それなのに後々恋人が敵として現れて事故が恋人が所属してた組織が故意に起こしたものだと知り……だったと思うんだが。
こう書くとすげぇキレてるがしょうがない気がしてきた。
321通常の名無しさんの3倍:2010/05/10(月) 21:20:57 ID:???
カルビは中盤まではキレ系でエラくキャラが立ってたんだが、終盤でアル・ヴァンと元鞘に収まるまでが唐突すぎ超展開すぎ
まあ統夜も>>310みたいな事になるし、これはJ自体が途中で脚本変わった事の弊害みたいなものだろう
322通常の名無しさんの3倍:2010/05/10(月) 22:24:32 ID:???
統夜って一応父親の記憶移されてるんだっけ?
シャナ=ミアとも幼馴染だってこと最後のほうに思い出したみたいだし、統夜の台詞に関しては言ってもおかしくは無いと思ってるけど。
323通常の名無しさんの3倍:2010/05/10(月) 23:12:21 ID:???
そりゃ後からいろいろ考察した後ならそうかもしれんが、初プレイ時にやられると唐突過ぎる。
324通常の名無しさんの3倍:2010/05/11(火) 00:53:41 ID:???
その辺はオリジェネに登場した際にでも修正してくれると信じたい
まあ3が出るかがわからんけど。できればGBA版OG2後だといいんだけどな〜
あっちだとヴァイスリッターが元に戻るから3ではライン化とは別に強化する予定だったらしいし
325通常の名無しさんの3倍:2010/05/11(火) 21:47:24 ID:???
だからこそのアーベントなのかもしれん。
326通常の名無しさんの3倍:2010/05/12(水) 11:57:55 ID:???
ヴァイスはアインストの力で進化、アルトはキューブを装備してテスタロッサ化するのかな、今後も参戦し続けるとしたら
327通常の名無しさんの3倍:2010/05/12(水) 18:03:43 ID:???
>アルトはキューブを装備して
ゼノンかもしれん
328通常の名無しさんの3倍:2010/05/18(火) 20:44:47 ID:???
保守
329通常の名無しさんの3倍:2010/05/18(火) 23:26:07 ID:???
>>321
カルビは戦うために無理やりキレてたんだっつーの
330通常の名無しさんの3倍:2010/05/21(金) 20:19:31 ID:???
優しさ忘れて心を閉ざし
痛みと憎しみ降り注ぐ日々
OOH KEEP ON RUNNING
OOH RUNNING LONELY

背負った十字架と茨の道何処までも
果てない戦いもいつか終わるその日まで
走り続ける

CMソングもだけどカルビさんにはこっちも少し似合うかも
まぁスパロボじゃ使われたことない曲だがな
331通常の名無しさんの3倍:2010/05/22(土) 21:25:48 ID:???
ちょっと聞きたいんですけど総帥
こっちも理想郷へ進出したりする予定あるんですか?

それ以前に聞きづらいんですが……あちらはご本人ですか?
332通常の名無しさんの3倍:2010/05/22(土) 22:38:11 ID:???
勇者スレんとこで御本人自ら理想郷のは自分ですって言ってた。
333通常の名無しさんの3倍:2010/05/23(日) 12:03:05 ID:???
ザクを黄金に輝かせるGジェネAのククルス・ドアンなら総帥世界でもやっていけそう。
334660 ◆nZAjIeoIZw :2010/05/23(日) 19:56:50 ID:???
ご説明ありがとうございます。
勇者スレでも説明いたしましたが、理想郷に出没しているのは私660本人でございます。
またスパロボスレのこれはあちらへの進出予定はいまのところございません、量も量もですし。
またDSDの43話目は月末頃投下予定です。遅れてしまい申し訳ありませんです。
335通常の名無しさんの3倍:2010/05/25(火) 16:19:17 ID:???
これから出るであろうスパロボの予想として

フルメタの宗介とOOの刹那が中東時代顔見知りだった、

とかどうだろうか。
336通常の名無しさんの3倍:2010/05/25(火) 18:39:18 ID:???
そういやロックオンとクルツが同じ声優さんだな。
337通常の名無しさんの3倍:2010/05/25(火) 23:00:04 ID:???
サーシェス「おいおいセーギノミカタごっこたぁ、ずいぶん日和ったじゃねぇか!! ああ!? 神隼人さんよぉ!?」
隼人(新ゲ)「戦争狂の貴様とは興味の対象が違うんでな!!」

テロリスト同士でこんな戦闘前会話。

……正直、どっちがヤバイんでしょうね?
338通常の名無しさんの3倍:2010/05/25(火) 23:15:20 ID:???
そういや、とあるクロスでガウルンとアリーが組んでテロ行為に勤しんでたら、
某オーガがアラストル(フルメタの殺戮機械。00で言うオートマトン)を素手でボコボコに蹴散らして現れて、二人が冷や汗かいてビビりあがるってのがあったな
339通常の名無しさんの3倍:2010/05/25(火) 23:54:49 ID:???
アラストルは自律型の等身大ASだぞ
ようは全自動化したボン太くんだ
340通常の名無しさんの3倍:2010/05/26(水) 00:39:46 ID:???
>>337
サーシェスはテロリストではあるが基本傭兵だしな。
逆に新ゲの隼人は生粋のテロリストだべ。

>>338
kwsk つか某オーガって何?
341通常の名無しさんの3倍:2010/05/26(水) 01:22:44 ID:???
「刃牙」の範馬勇次郎だろう
実際、戦車も踏みつぶすようなゴジラ級のデカさの化物像を素手で楽々と殺してのける奴だから、アラストル殲滅なんて楽勝だろうな
342通常の名無しさんの3倍:2010/05/26(水) 01:25:05 ID:???
>>340
多分やる夫のロボ戦記だと思う
343通常の名無しさんの3倍:2010/05/26(水) 22:09:49 ID:???
ああ、某47代目大統領に色々持ってかれたアレかw
344通常の名無しさんの3倍:2010/05/28(金) 23:07:13 ID:???
人いないな……。
みんなプレイ中か?



スーパーマリオギャラクシー2を
345通常の名無しさんの3倍:2010/05/29(土) 00:30:42 ID:???
いや、8年ぶりの新作メダロットDSだろう
346通常の名無しさんの3倍:2010/05/29(土) 00:32:11 ID:???
単にスパロボ関係のネタがないんでしょう。それに話題にするようなロボアニメもないし
劇場版ダブルオーとユニコーン、あとよくわからんけどマジンカイザースカルとかいうの
くらいじゃない? 今年のロボ物って
347通常の名無しさんの3倍:2010/05/29(土) 14:21:26 ID:???
SFCの攻略本がそのまま使えたからサクっと1週終わったぜ
SFCの方をしっかり覚えてないからなんだが、続編匂わせてる部分があるっぽいな
OGEXやるのかそれとも…

魔装、スクコマ2、D、JがOGに出てくれれば俺はそれでいいけどね!
348通常の名無しさんの3倍:2010/05/29(土) 14:27:44 ID:???
イやその前にZ2をだな
349通常の名無しさんの3倍:2010/05/29(土) 16:49:12 ID:???
Z2というよりはZZはorz
350通常の名無しさんの3倍:2010/05/30(日) 08:15:19 ID:???
DS魔装のネタだと、アハマドさんが500万もポンとくれるアカツキばりの超リッチマンだということと、ミオの使い魔がなぜか西遊記になったぐらいか
351通常の名無しさんの3倍:2010/05/30(日) 12:43:27 ID:???
未だ一週目で第一部完と共に今からOGsを再プレイするつもりだが
右腕のアレコレは未だ謎のまま?
だとするとやっぱり魔装機神LOEの続編やるんかな
もしくは二部以降でOGに・・・?
メモリアル・デイは見たんだが、マサキの寄り道ってACERだろうか・・・だったらいいなぁ
あるいはヒーロー戦記かもしれんが
352通常の名無しさんの3倍:2010/05/30(日) 15:03:24 ID:???
>350
いや、アカツキはせいぜい10万だ。
本人加入よりありがたいけどな。
353660 ◆nZAjIeoIZw :2010/05/30(日) 19:57:00 ID:???
こんばんは。投下行きます。

ディバイン SEED DESTINY 
第四十三話 月の騎士 地球の守護神 破滅の尖兵(後篇)


 彼方まで広がる青い海に燃えるような夕陽がゆっくりと沈みはじめる世界の中で、空中に白い竜が絡み合っているかのような稲妻の塊が、黒い爆煙と共に弾けるや世界を一瞬黒白に染め上げる。
 稲妻と煙がまだ薄い靄のように漂う中から二つの巨大な質量をもった物体が飛び出し、それぞれ空と海面上に着地し、夕暮れの光を浴びて血塗れ色に変わる。
 天に立つはカリドゥム・サギッタとシャイニング・ツァアクの激突による爆発の余波を浴び、装甲表面に劣化の跡が見えるフォルティス・アーラ。
 広げた四肢で波の上に立つのは、白い体躯の各所に焦げた跡をいくつも作った人造の魔豹、ザナヴ。
 破滅の王の軍勢を率いる数少ないメリオルエッセであるアクイラと、地球の守護神たるガンエデンの下僕であるザナヴとの一度目の激突は、双方にそれなりの手傷を負わせた結果に終わったようであった。
 だが、その結果をいちいち確認するような余裕と暇は、両者ともに持ち合わせてはいない。隙あらば喉笛に食らいつき脛骨ごと噛み砕かんばかりの気勢のザナヴと、敵対者への容赦など元より持ち合わせていないアクイラだ。
 眼前の敵の粉砕。これが現在両者の思考において最優先事項となっている。
 フォルティス・アーラの涙滴かアーモンドにも見える特徴的な両腕部が動くのに合わせ、ザナヴは海面に大きな波紋を起こしてその場から大きく跳躍してはなれた。
 密林の中で出くわしたら背を向ける暇もなく喉笛を噛み千切られるに違いない敏捷さだ。
 ザナヴの跳躍にわずかに遅れて降り注ぐサギッタ・ルーメンの光線が、海面に命中して白い煙をいくつも噴き上げてはザナヴの後を追う。
 海という地球で最も広大な世界を自在に疾駆するザナヴを正確に狙い続けるのは、メリオルエッセであるアクイラにとっても容易い作業ではないようで、十射を数えても命中弾はなかった。
 ザナヴもただただ逃げ続けるだけでは終わらず、サギッタ・ルーメンを回避しながらアクイラの射撃の間隙を狙い、四肢から膨大な稲妻の奔流サンダー・ラアムを発生させフォルティス・アーラめがけて地上から天空へと逆に走る稲妻が襲いかかる。
 どちらもその場に一秒も留まらぬ戦闘機動を取りながらの破滅の光と神罰のごとき稲妻の応酬。中途半端な人の知恵が生み出した機動兵器程度では割って入ったところで、無残な鋼鉄の屍に変わるだけだろう。
 ルイーナとその離反者であるグラキエース、ウェントス、そしてガンエデンの下僕が一堂に介した戦場に参入した月の騎士達は、眼前で繰り広げられる戦いに臆することなく鬨の声をあげながら踊り込んだ。
 先陣を切る騎士型機動兵器ヴォルレントを、カティア・グリニャールは乗機であるベルゼルートが携行している長大なオルゴンライフルのセレクターを実弾を発射するNモードに合わせ、援護のために三連射した。
 トーヤ・セルダ・シューンのヴォルレントを追い越したオルゴンライフルの実弾は二発が外れ、唸りを上げた一発がアルゲンスの胸部に命中し、確たる質量をもった実弾が貫通力の高さを発揮して大きな穴を開ける。
 外れた二発もヴォルレントを迎え撃とうとしていたアルゲンスの至近距離をかすめて、回避動作に入ったアルゲンスの体勢を崩し、トーヤに先制の機会を作り出す。

「トーヤさん、今です!」

「分かった!」

 阿吽の呼吸、と言えばこれだろう、そんな呼吸でトーヤはカティアの作った機会を逃さず、ヴォルレントの右手に握らせたビームライフルのトリガーを四度引き、センターマーク内に捉えたアルゲンス二機へ二発ずつ光の矢が吸い込まれてゆく。
 異星人フューリーが技術を用いられたヴォルレントの武装の威力は総じて地球製の一般的な代物より高出力で、そのことを証明するようにアルゲンスに命中したビームは見事二射きっかりでアルゲンスを破壊して見せる。
 かなり濃密な訓練を長い時間積んだと見え、先制の一撃が見事な戦果をあげたのを皮切りに、カティアの援護を受けたトーヤは大胆なまでの動きで戦場の空を飛びまわり、ビームライフルとエネルギーソードで縦横無尽の働きを見せる。
 ぴったりと息の合った二人の動きに、余裕をもちなおしたグラキエースとウェントスも、ほう、とそれぞれ偽りのない感嘆の念を覚えていた。
 彼らの知己の中にはトーヤやカティアを上回るコンビネーションを持つペアやチームもあったが、イルイに知らされた新たな援軍達は十分な練度と信頼を併せ持ったペアであることが見ているだけでも分かったからだ。
354660 ◆nZAjIeoIZw :2010/05/30(日) 19:59:58 ID:???
 グラキエースとウェントスが好転し始めた状況に、安堵の二歩手前ほどの感情を抱く一方で、そんなカティアとトーヤを見て面白くないものもいた。
 敵対者であるアクイラはザナヴの猛攻を凌ぎながらではあるが、油断できぬ敵の出現を認めていたし、またトーヤ達ともに現れた二人の少女もアクイラとは違った意味で面白くないと感じていたのである。
 もっともその理由は、戦場には到底似つかわしくない嫉妬というには薄い感情であったが。

「トーヤとカティアばっかりにやらせないよ!」

「いっきまーす!!」

 八重歯と赤い髪の毛という外見的特徴に、周囲にいる人間を元気づけるような闊達な雰囲気のテニアは、サイトロンとの連結を強化するフューリー謹製のパイロットスーツに包まれた小ぶりな胸を揺らしながらクストウェルを走らせる。
 さながら古代の闘技場で闘技奴隷や百獣と命がけの戦いを強制された拳闘士のようなクストウェルの両拳に、眩いまでのオルゴンエネルギーが集中し、光のグローブを作り上げた。
 拳型のエネルギーを放つオルゴンショットを時折交えながら、迎撃に放たれるチェイサーミサイルをの弾幕をかいくぐり、テニアは肉薄したアルゲンスSの胸部に打撃を叩き込む。
 右胸部、左脇腹、下腹部、頭部――と瞬く間もない四連打の後、虚空を跳躍してから爪先のブレードに新たにエネルギーを集中させて、動くこともままならないアルゲンスの左警部から右脇腹までを一足刀にて切裂く。
 機体中枢部にまで達したクストウェル爪先のブレードの一撃によって、装甲・内部機器をまとめて断たれたアルゲンスは、秒瞬後には黒と橙色の入り混じる爆炎花へと変わる。
 機体サイズはMSやルイーナの量産機とそう変わらぬものではあったが、熟達の格闘巧者の動きを見せるクストウェルの連撃は、一度飲み込まれれば連続打撃の終わるまで逃れられぬ拳と足の嵐だ。
 おそらくクストウェルの駆動系にはDCで特機などに使用されている人工筋肉と類似したものが用いられているのだろう。動作の剛柔の幅が広く、人間が装甲を纏って戦っていると言われれば思わず信じてしまいそうだ。
 テニアは本格的な実戦の渦中にあっても、生来の活発さを損なわず積極的な攻撃姿勢を見せる。そしてトーヤとカティアのコンビネーション戦闘に触発されて発奮しているのはテニアだけではない。
 約三十メートルとケロンシリーズと同サイズの準特機にカテゴライズされるグランティードを操るメルアもまた、フューリーの技術を祖とする機体の性能を十分に引き出して破滅の王の軍勢を蹴散らしている。
 特機としては小型のグランティードではあったが、保有する火力の最大値は高くクストウェルが複数回の打撃を持ってようやく敵機を撃破するのに対し、繰り出す一撃で敵機が落ちてゆくのはいっそ爽快とさえいえた。

「これで、落ちてくださーい!」

 メルアのどこか人の良さそうな不二機の頼み込むような叫びと共に放ったフィンガークラッシャーは、ぺルグランデのポールハンマーの柄をへし折りながらその頭部を貫通し、破砕する。
 ようするにグランティードの大質量と堅固な装甲、馬力を活かしたシンプル極まりない貫手の事である。
 しかしてその威力は馬鹿に出来たものではない。その証拠に頭部を粉砕された二機のぺルグランでは、すでに撃墜された機体の破片と推進剤などで薄汚れた海面へと落下していっている。

「やるじゃん、メルア!」

「トーヤさん達に負けてられません!」

 クストウェルとグランティードの周囲を囲んでいたルイーナの兵力は、徐々にではあるが確かにその数を減らし始めていた。
 四人それぞれの保有する戦闘経験値はけして高いとはいえぬものであったが、グラキエース達との追撃戦でルイーナ側の機体が消耗していたことがトーヤ達にうまく働いているようだ。
 トーヤ達四人の歯車がかみ合い、互いの戦闘能力を向上させて実力以上のものを発揮する中、再びそよいだ風に鳴らされた金鈴の響きを思わせる声がウェントス達を含めた六人の頭の中に響く。
355660 ◆nZAjIeoIZw :2010/05/30(日) 20:00:44 ID:???
『ザナヴが隙を作ります。みなさん、後方の艦艇まで退いてください』

 距離で言えば数千キロ以上離れた遠隔地にいながら、イルイは鮮明にトーヤとグラキエース達の戦いを知覚しているらしい。流石は現在地球圏唯一のサイコドライバーと賞賛すべきだろう。
 イルイの言う後方の艦艇とはトーヤ達が共に月から地球へと降下してきた地球人の協力者が搭乗し、彼らの生活の場としての役割をひととき果たしている。
 イルイの声にすかさずグラキエースとウェントスが反応し、トーヤ達は二、三拍ほど遅れる。自分達がうまく戦えていることに気分を高揚させていたトーヤ達は、転移でこの場を退くことよりもこのまま敵を殲滅することを考えてしまったからだ。
 いずれ戦う敵ならばいまこの場で倒してしまった方がいい。そうだろう? それに、自分たちなら倒せる。だったら!
 立場的には三人の主であるトーヤも、三人の中では比較的冷静な性格でほかの二人を諌める立場にあるカティアでさえ、だ。上出来と言える戦闘の成果を前にして、思考が熱に浮かされた状態にある。
 そして、ヴォルレント、ベルゼルート、クストウェル、グランティードの四機の挙動がわずかに硬直した瞬間を見逃すアクイラではなかった。
 ザナヴがイルイの指示に従っていまだに周囲を囲む三十余機の軍勢に、雷を走らせるべく構えていたために、わずかにアクイラへの攻撃的な拘束が解かれていたのだ。

「未熟」

 アクイラの呟きがトーヤ達への正当な評価であろう。

「くそ、動きを鈍らせたか!?」

「みんな、回避して!」

 己を罵るトーヤ。全員へ回避を指示するカティア。二人は自分の口を動かす間もサイトロンコントロールで簡略化された機体操縦を手早く行い、フォルティス・アーラの機体各所から放たれたミサイルの雨を回避すべく動き出している。

「や、ヤバ! クストウェルじゃあっという間に壊れちゃうよ」

「カルディナさんに怒られちゃいますね……」

 機体の収納容量をはるかに超えているに違いないミサイルは、文字通り雨のごとき密度でもって降り注ぎ、外れたミサイルが海面に着弾と同時に爆発を起こし、汚濁の海に爆発の水しぶきを上げさせている。
 そんな中をかろうじて、といった有り様ではあるがいまだ機体の原形を保ったまま回避しているテニアやメルアの技量は新兵のレベルではない。
 絶望的な殲滅の光景を前にして恐怖を露わにしているが、操縦桿を操る腕の動きやディスプレイに表示される各種データを視認する瞳の動きも、認識したデータの取捨選択にも悪影響は及んでいない。
 実戦経験の有無はともかくとして月から舞い降りてきた騎士達四人は、壮絶と評すべきレベルの訓練を積み重ねてきたのだろう。二十本の指先から瞳孔、髪の毛の先に至るまで自分の意思が通っている。
 四人それぞれの経験値を考えれば驚嘆的な回避機動の連続ではあったが、射撃兵装による迎撃の手も間に合わず、一発二発と着弾が生まれる。
 グランティードはともかく、他の三機、特にベルゼルートは装甲が心許なくメルアがグランティードの背に庇うように前に出る。

「ベルゼルートはグランティードの後ろに。当たったら、ベルゼルートじゃひとたまりもないから!」

「ごめんなさい、メルア」
356660 ◆nZAjIeoIZw :2010/05/30(日) 20:01:42 ID:???
 フューリーの苦戦にすぐさまザナヴとグラキエース達が動く。
 ストゥディウムとファービュラリスを囲むアルゲンスとペルグランデを、サギッタルーメンの連射で散らして突破。
 威力ではなく速射性を優先して調整し放った猛烈な勢いの吹雪と風がフォルティス・アーラの放つカリドゥム・サギッタのミサイル群れを横殴りに直撃し、数珠つながりに爆発が起き、駄目押しにザナヴの放った雷の奔流が飲み込んでさらに脅威を半減させる。

「兵では抑えきれんか、腐ってもメリオルエッセだな。グラキエース、ウェントス」

 感心しているようにも聞こえるアクイラの呟きであったが、グラキエース達にとっては無価値な言葉であったろう。二人が選んだのはメリオエッセとして生きる道ではないのだから。
 止まぬかと見えたカリドゥム・サギッタではあったが、これまでの戦闘による消耗もあって、ミサイルの雨が途切れるのは常よりもやや早かった。
 展開されていたフォルティス・アーラの首回りの装甲などが再び閉じるのにあわせ、ザナヴは虚空を踏みしめながら跳躍を繰り返し、フォルティス・アーラの真正面と踊りあがる。
 白い弾丸とでも評すべき速さでフォルティス・アーラに迫ったザナヴは、全身からシャイニング・ツァクの稲妻を迸らせて半分をフォルティス・アーラへ、残りを周囲の敵機へと散らす。
 攻撃という役割ではなく牽制し距離を取るための広範囲への雷撃だ。散らされたとはいえ半分近い稲妻を叩き込まれたフォルティス・アーラは、全身から微細に砕けた装甲の破片を散らしながら大きく後方へと吹き飛ばされる。

「この獣、油断できんな!」

 その隙に後方に待機させている艦へと向かい、ファービュラリスらが踵を返して現在出しうる最高速度で戦闘空域から離脱する。
 追えるか否か。アクイラが隻眼に逡巡の迷いを浮かべたとき、きら、と彼方の距離まで離れたヴォルレントの手元で大きな光が瞬き、とっさの反応で傾かせたフォルティス・アーラを強い衝撃が襲う。
 置き土産とばかりにトーヤがヴォルレントに撃たせたロングレンジビームが、装甲に大打撃を受けたフォルティス・アーラの左腕部を根元から吹き飛ばしていた。
 度重なる戦闘によって負っていたダメージに加えて、四肢の一つを失うという損傷にアクイラは追撃を諦める判断を下した。確認すれば連れてきていた兵の残数は二十機前後にまで減っている。
 手負いのグラキエースとウェントスを片づけるには十分すぎるほどの戦力であったが、ガンエデンの下僕と月の聖騎士団の介入があっては、目的を果たすには不十分だったようだ。
 まだまだルイーナの戦力は整っているとは言い難く、これだけの損失を被ったのはけして軽視できない事態だ。
 近頃は根拠地のある南極に人間達の勢力がまだ小規模ではあるが調査隊を送り込んできており、ルイーナは根拠地の防衛と遠征の二勢力に部隊を分けていて、それぞれの指揮官が保有する部隊の総数は少ない。
 アクイラに預けられた兵士達は、グラキエース達やクライ・ウルブズと関わったことで半数を切っておりしばらくは積極的な攻勢に出るのは慎むべきかもしれない。
 フォルティス・アーラの左腕を吹き飛ばしたのを確認し、トーヤは撃墜はできなかったかと、悔しさを臍を噛むことで抑え込み、地球での活動拠点となっていた艦を視認する。
 グランティードやベルゼルート、クストウェルのほかにファービュラリス、ストゥディウム、ザナヴも同じように艦を目指して後退しているのを確認してから、ようやくトーヤは安堵の溜息を吐いた。
 あとはイルイが自分達を彼女の本拠地であるバラルの園まで空間転移を行ってくれるのを待てばいい。
 トーヤ達が使用している船は、アシュアリー・クロイツェル社のロゴが入ったレセップス級陸船戦艇である。
 フューリーが隠れ蓑として月に設けた軍事企業であるアシュアリー・クロイツェル社が、ザフトが地上戦力を引き上げる際に廃艦とする予定だったレセップス級の一隻を買い取り、回収を施した船である。
新型試験機の重力下での試験運用のための母艦として、地球連合をはじめとした地球上勢力には通達しており、準特機級の巨体を誇るグランティードの整備・格納の為に船体中央が大幅に回収が施されている。
DCから流出したEOTやオーバーテクノロジーも流用されており、Eフィールドの発生装置に加えて低速ではあるが飛行の可能、また徹底的に航行機能の自動機構化が進んでおり、極めて少数の人員だけで運用も可能となっている。
357660 ◆nZAjIeoIZw :2010/05/30(日) 20:02:29 ID:???
 艦橋に映る人影からトーヤに向けて通信がつなげられた。ヴォルレントの正面モニターの左側に投影されたのは、トーヤ達よりいくらか年上の十分に美女と呼べる女性であった。
 腰に届くまで延ばされた銀に近い白髪に、意思の強さがありありと浮かんでいる青の瞳。目鼻の造作はくっきりと凹凸を刻んでおり、戦艦の艦橋にいるよりも舞台の上かレンズの向こう側で写真のモデルとして活動している方がよほど似合うと見える。
 地球でトーヤ達の教官と水先案内人を兼ねているカルヴィナ・クーランジュだ。表向きの肩書は、アシュアリー・クロイツェル社預かりの新型兵器運用係兼教官である。
 元は地球連合の少尉で、先のヤキン・ドゥーエ戦役でストライクガンダムを駆り、ザフト・DC相手に戦果をあげたエース級の腕前を持つ優秀なパイロットであり、養成学校では教官相手に全勝記録を打ち立て、ホワイト・リンクスの異名をとった女傑だ。
 しかし邪神と一体化し支配下に置いたルオゾールが猛威をふるった最終決戦において戦傷を負って一線を退き、いまはアシュアリー・クロイツェル社の契約社員となっている。
 月に本拠地を置くフューリア聖騎士団の活動と、地球人類との関係を知っている数少ない純粋な地球人でもある。

『統夜、どういうわけで艦に戻っているのか、手短に』

「あ、ああ。じつは……」

 悲しいかな、統夜はフーと並び鬼軍曹さながらに扱かれた為に、詰問に近い口調でカルヴィナに問いただされると反射的に体がびくりと震えてしまう。
 フューリーの誇りある歴史を担う時代の騎士として、凛々しく戦いに臨んだ際の気迫ははるか遠方にほうり捨ててしまったような顔だ。
 厳しい規律と伝統を重んじる騎士団とはまた違い、合理性を求めた軍隊式の生活に親しんだカルヴィナの統夜達に対する厳しさというものに、統夜をはじめ三人娘達はいまだに慣れてはいなかった。
 かいつまんだ説明を行い、これからメリオルエッセを伴う形でイルイ・ガンエデンの元まで空間転移する、という旨を告げるとカルヴィナは半信半疑といった顔を拵えた。
 前大戦時にジェネシスを取り込んだ狂女や神を気取った異形の生物など、既存の常識を覆す存在との邂逅には多少なりとも慣れてはいたが、空間転移という半現実的な単語はいまいち信じられないらしい。
 なまじ一般的な常識の世界の範囲に含まれる言葉だから、地球圏では現状確立されていない技術を、超能力で実行するという事がカルヴィナの脳裏では噛み合わないのだろう。

『まあ、いいわ。とりあえずは戦闘は中止ということでいいのね?』

「そうなる。着艦の用意を頼むよ」

『OK。ああ、それとデブリーフィングでいろいろと詰めるところもあるから、ひと段落したら覚悟しておきなさい。カティア、テニア、メルアもよ。いいわね?』

 きっかり統夜以外の三人にも釘を刺したカルヴィナに、三人がそれぞれうぇ〜、そんなぁ、などと分かりやすい不満の声を上げたが、それだけ元気があるという事だから、戦闘の直後だというのになかなか体力があるとここは褒めておくとしよう。
 ほどなくしてレセップス級の甲板にヴォルレントをはじめとした六機の機動兵器と、ザナヴが降り立つ。従来MSの運用を前提とした艦であるから、回収を施してあるとはいえ、大型特機クラスのサイズであるザナヴが降り立つとどうにも窮屈である。
 それにファービュラリスとストゥディウムのどちらとも平均的な特機に匹敵する巨体だ。ほとんどレセップス級の甲板上はすし詰め状態に近い。

「流石に狭いな」

「おっと、ごめんよ」

 相変わらず淡々としたグラキエースが素直な感想を述べ、間違ってザナヴの尻尾を踏んでしまったウェントスが、ストゥディウムの頭を下げながら誤る場面も見られた。
 ルイーナの軍勢の追手がかかっていないことを改めてセンサー類で確認し、一息をつけるな、とトーヤが思った時、イルイの声が再び心を震わせた。

『お待たせいたしました。これから皆さんをバラルの園へと転移させます。肩から力を抜いて、リラックスしていてください。すぐに終わります』

 ようやく騎士総代と姫から賜った役目を遂行できる、とトーヤが意気込むのと目の前に光が溢れて体が不可思議な浮遊感に襲われるのはほとんど同時だった。


358660 ◆nZAjIeoIZw :2010/05/30(日) 20:03:16 ID:???
 残っていたミーレス達に四方を探索させた結果が空振りに終わり、アクイラはようやく完全にグラキエース達をロストした、と判断した。
 機体の中心部近くにまで及んだダメージによって、フォルティス・アーラの調子が今一つ振るわず、これ以上この空域に留まっては人間の軍勢に捕捉される危険性もあるから、アクイラは仕方なしに南極への帰還を決めた。
 現在のルイーナの状況は、二人の指揮官クラスのメリオルエッセが離脱しその追撃に戦力を割いた影響もあって、活発に活動しているとは言い難い。
 ユニウス・セブン落下の際に地球を完全に覆い尽くした次元断層を発生させた時に、本来であるならば地球に生息している人類を大量に殺戮し、破滅の王と軍勢の糧となる負のエネルギーを大量に入手する予定が狂ってしまった事も大きな要因だ。
 以前まみえた人間達の部隊の事を思い出し、アクイラは自軍の戦力強化の必要性と、胸の内に湧きおこる高揚に身をゆだねる。
 後者はメリオルエッセにはあり得ぬ“心の動き”であったかもしれぬが、アクイラはそれを肯定も否定もしなかった。
 どうするにせよ、いずれは王のもとへと還る身。自身の情動への感慨など、この隻眼の男には欠片もなかったのかもしれない。
 グラキエースやウェントス達がシェンパティアの共鳴によって心を得てしまったことに、大きく動揺を見せたのに反し、極めて落ち着いた反応と言えるがそれもアクイラのパーソナリティによるものだろう。
 しかし、グラキエース達の消去には失敗し引き連れた戦力は大幅に削られるとは。せめて新たな敵勢力の出現を確認できたことが収穫と言えるが、これではまるで採算が取れていないのが現実だ。
 いまは地球の人類同士での戦闘が繰り広げられているから、ルイーナが自ら手を下さずとも負のエネルギーの回収が行えるのは僥倖であるが、王は迅速な目的遂行を望んでいる以上、ただ戦力増強を待つわけにもゆくまい。
 南極にいるコンターギオやウンブラらとなにか策を一つ講じた方がよいかもしれぬ、とアクイラが厳めしい顔の内で思慮に耽っていると、海中から出現する巨大な熱量を複数、フォルティス・アーラのセンサーが捉える。

「何だ?」

 突然の事態にも動じた様子を見せないアクイラとその配下であるミーレス達が操る機体の周囲を、海中に潜伏していた三十弱の機影が取り囲む。
 待ち伏せか? と訝しむアクイラの瞳が映したのは、手に入れた地球圏の一般的な兵器とは規格が明らかに異なるものばかりである。
 まずもっとも多いのが、旧世代の兵器であるメビウスに似たダークグリーンのMAもどきと、人間の除隊に似た柔らかなラインと獣のかんばせを持った二機種。おそらくこれが主力の量産機なのだろう。それぞれ十二機ずついる。
 さらにフォルティス・アーラの正面に、これらの指揮官機らしき特異な風貌の機体が三機種。モニター五指にもはっきりと感じ取れる威圧感を放ちながら立ちはだかっていた。

(なんだ。こいつらは? 我らメリオルエッセに、いや、王の放つ波動に近い何かを持っているだと?)

 アクイラが感じ取った既視感に似た感覚は、けして間違いなどではなかった。アクイラの目の前に現れたのは、ルイーナに似た特性を持ったイディクスと呼ばれる特殊な存在の徒党である。
 惑星一つ分の生命の悪意がそれぞれ科学者や獣、女性など別々に結集して人格を宿した幹部を中心に、このコズミック・イラに出現した彼らの一時的な目的が、ルイーナ同様に負のエネルギーの収集である事は、さすがにアクイラの預かり知らぬ事であるが。
 フォルティス・アーラにも負けぬ巨躯を誇る三幹部の内、中央に位置し腰から下を海の中に沈めている妙に継ぎ接ぎの機体がずい、と一歩前に出る。
 建築現場などで見かける重機をいくつもむりやり接合して人型にしたような、機能美ともデザイン性ともかけ離れた外見である。パイロットであるイスペイルみずから千年をかけて作り上げた機体でエンダークという。
 イディクスが長い歴史の中で滅ぼしてきた無数の惑星の技術を取り込んでいるのだが、すべての技術を盛り込むという発想自体に無理があるために、完全には各種の技術を活かせていないという微妙に悲しい機体だ。
359660 ◆nZAjIeoIZw :2010/05/30(日) 20:05:08 ID:???
 エンダークのコックピットの中で、黒光りする一本角を額のあたりからカブトムシよろしく生やしている金属的な光沢をもった顔のイスペイルが息も荒く、外部スピーカーをオンにしてフォルティス・アーラに食ってかかる。

「見つけたぞ! 貴様らの後を追いはじめてから今日にいたるまで貴様らに奪われたマイナスエネルギーの補充と、人間どもに見つからぬように海底をひっそりと行かねばならぬ暗く冷たく淋しい潜伏生活の苦労!!
 ようやく軌道に乗り始めた魔法少女と特撮の撮影を放り捨ててこつこつと貯めておいた資金を費やし、あ、これはこれでありかもと思っていた生活を捨てざるを得なかった我らの苦渋、すべて貴様らのせいだああああ!!!!」

「……」

 おそらくは涙なしには語れぬ鬱憤を貯め込んでいたのだろうイスペイルは、最初から建前も何もない私情を全開にした文句を叩きつけるが、何を言っているのだこいつは? 程度にしかアクイラは反応を返さない。
 それはそうだろう。アクイラにとってはイスペイル達は初見の相手である。これまでに何度か遭遇した人間の軍隊を殲滅した事はあったが、目の前のこいつらは明らかに地球圏の技術とは異なる存在だ。
 だが聞き逃せぬ単語に、アクイラはかすかに目を細める。

(奪われたマイナスエネルギー、か。どうやらこいつらも我々と似たような存在であるらしいな。であれば見逃すことはできんが……)

 アクイラが率いるミーレスのほとんどは損傷を負った機体で、フォルティス・アーラも片腕を失った状態であり、他にも大小さまざまなダメージが言えぬままだ。状況が状況だけに容易く兵を引く事も出来まい。

「ここで会ったが、百年目。貴様はどうやら指揮官クラスらしいな。四肢を捥いで動きを封じてからいろいろと話を聞かせてもらおうか? 収集装置を使った地道な収集活動では必要量を確保できぬのでな!」

 さらにずい、と一歩を踏み出すエンダークに呼応するようにしてその両サイドに立っていた他の二機も動き出す。
 人狼型の量産機と酷似した機体は約二十メートル前後で名称をビクトーラ。長い金の髪を風になびかせ、より女性的で豊かなラインの目立つ機体である。
 エンダークとは逆に滅ぼした惑星に生息していた生物の生体構造を活かし、さらに徹底的に無駄を省いて再構成した機体であるため獣の俊敏性と生命力を活かした性能となっている。
 同じように滅ぼした惑星に由来する生物や技術を糧としているにも拘らず、エンダークとは逆に機体性能に反映できているのだが、これは果たしていかなる理由によるものかは本人達にも不明である。
 本来イスペイルは科学者たちの悪意が集合して誕生たした存在であるし、一千年も存在していたのだから、少なくとも短所のない機体くらいには仕上げられそうなものなのに、とは禁句かもしれない。
 ビクトーラのパイロットで、褐色の肌に結いあげたピンクの髪から零れる獣耳が特徴の美女ヴェリニーが口を開く。

「イスペイル、ちょっとやかましいわよ。まあ今回は異存がないし、久しぶりに暴れたいからね。たっくさん切り刻んであげるわよ」

 おそらくは舌舐めずりしたのだろう。濡れた音が一つし、狼面のビクトーラの口元が歪んで、ずらりと並んでいる牙が数本むき出しになる。
 数千万ないしは数億単位の女性と獣の悪意の集合体であるヴェリニーの所作としては、これ以上似合うものもそうはあるまい。かちりかちり、とビクトーラの手から伸びる爪が音を立て、獲物の肉を抉る時を今か今かと待ち望んでいる。
360660 ◆nZAjIeoIZw :2010/05/30(日) 20:08:29 ID:???
 エンダークを挟んでビクトーラの反対側に立っているのは、ビクトーラの三倍少々に及ぶ標準の特機を超えた大きさを誇るゼナディーエ。
 機体の半分を実態を持った精神的物質で構成する特殊な機体で、パイロットは幼い少女の外見だが、イスペイルやヴェリニーを一段上回る悪意の集合体であるガズムが務めている。
 ゼナディーエの死者の肌のそれに近い白色のボディは、悪魔か死神を思わせる禍々しさに満ちた外見をしている。前大戦の最終決戦に参戦したものがいたなら、真ナグツァートを連想して顔色を悪くしたかもしれない。
 人類に最後の審判を下す役割りを天使から奪った悪魔のごとく出現したかの邪神は、いまもその姿を目撃した多くの者たちにとって深刻な精神的外傷となって残っている事がほとんどだ。

「左団扇の生活も悪くなかったが、ル=コボル様の御許へ一刻も早く馳せ参じねばならぬのでな。貴様らの正体、マイナスエネルギーを集める理由、それだけの戦力をどのように用意しているのか、我らイディクスの為に諸々聞かせてもらおうか?」

 幼い少女の声と分かるガズムの声だが、精神的には男性人格であるため、ガズムの口調と声の調子は成人男性のそれだ。かなりのギャップを感じさせるガズムのセリフに対して、アクイラは反応する様子はない。
 むしろ三人の中でもっとも強大な威圧感を放つガズムとゼナディーエをもっとも警戒し、一挙手一挙動を見逃さないように注意を払っているほどだ。
 先ほどまで戦っていたトーヤ達との戦闘を継続するよりも、気力充溢し機体の状態も万全のイディクスらと交戦するほうが、アクイラにとってははるかに分の悪い選択肢に違いない。
 南極まではまだはるかに遠くこの包囲網を突破して逃げ伸びる目は、まずゼロに近い。かといって今手元にある戦力で、イディクスを名乗る敵の殲滅などより一層無理というもの。
 手詰まりか、とアクイラは淡々と状況を正確に把握した。負のエネルギーを糧とするメリオルエッセという身の上のため、アクイラはイディクスの指揮官クラスの保有する膨大なエネルギーを敏感に感じ取っていた。
 一人ひとりがメリオルエッセにも劣らぬ強大さで、またよく似た性質のように感じられることと彼らの言からすれば負のエネルギーを、イディクスもまた糧としているのだろう。
 厳密にいえばイディクスの兵員達の直接的な糧となるのは『欠片』と呼ばれる、去る惑星の生物の悪意が凝縮したものであり、マイナスエネルギーは空間の壁に穴を穿つ転移システムの稼働に必要なものとして収集している。
 いずれにせよ両者が憎悪や怒り、恨み、妬み、侮蔑など負の思念を必要としているのは確か、その力の独占をはかっている以上衝突は避けられなかっただろうし、ルイーナとイディクスの双方がまかり間違っても協力し合う選択を選ぶ勢力ではない。

「この身が朽ちようと朽るまいといずれは王へと還るが我が運命。心行くまで、貴様らを悲嘆と苦痛に苛んでくれよう」

つづく。
これって後編じゃなくて中編だなといまさら思った660です。
というわけでいままで陰に日向に隠れていたあの方が登場。次回イスペイルタイムでございます(笑)
いろいろと浮気をしていたために投下が遅くなりまして申し訳ありません。なんとか最終回までこぎつけられるよう努力いたします。
ではではご感想、ご指摘、ご助言、ご批難もろもろお待ちしております。お邪魔しました。
361通常の名無しさんの3倍:2010/05/30(日) 20:43:46 ID:???
新作キタ━(・∀・)━!!!!
次回も楽しみです。
362通常の名無しさんの3倍:2010/05/30(日) 20:55:47 ID:???
頑張ってた統夜たちや早速登場したカルビには悪いが、最後のイスペイル様に全て持っていかれてしまった
363通常の名無しさんの3倍:2010/05/30(日) 21:52:57 ID:???
ふと思ったんだが、こちらのケロロはヒマな時にはMS組み立ててるんだろうか。
364通常の名無しさんの3倍:2010/05/31(月) 00:48:52 ID:???
プラモじゃ無く本物を作っているなら良いけどな。
365通常の名無しさんの3倍:2010/05/31(月) 23:29:59 ID:???
使ったら怒るんじゃ意味無いだろw
366通常の名無しさんの3倍:2010/06/01(火) 02:25:12 ID:???
1/1ガンダム組立ててるんじゃね?
367通常の名無しさんの3倍:2010/06/02(水) 18:27:02 ID:???
ふとメダロットをやっていて本来のインパルスの様に
戦闘中にパーツを交換するMSとか出たら面白そうだなーって思った

MSはVの時にゾロアットだかがコックピットブロックだけ交換して戦闘を続けていたけど
スパロボでそういう事が出来そうな機体っているかな
368通常の名無しさんの3倍:2010/06/02(水) 18:33:19 ID:???
それアーマードコア(ry
369通常の名無しさんの3倍:2010/06/02(水) 18:36:05 ID:???
元祖はゲッターかねえ。交換ではなく順列組み換えだけどw
370通常の名無しさんの3倍:2010/06/02(水) 18:37:28 ID:???
そういやナデシコで戦闘中にフレーム交換したっけ
371通常の名無しさんの3倍:2010/06/02(水) 20:14:49 ID:???
チェンゲでは確かイーグルだけになった竜馬がムサシのジャガー、ベアー相手に
合体して難を逃れてたな。
372通常の名無しさんの3倍:2010/06/03(木) 08:40:32 ID:???
鋼鉄ジーグなんぞも戦闘中にパーツ交換しとるよ
373通常の名無しさんの3倍:2010/06/03(木) 08:42:54 ID:???
R-9Wはパイロットが消耗品で
補給自にコクピットブロックごと交換だったっけ
374通常の名無しさんの3倍:2010/06/03(木) 20:14:17 ID:???
>>370
エステの換装はナデシコ内専用ハンガーでのアサルトピット交換が基本
序盤に海上へ陸戦で出てしまい飛蝗になってたアキトの為に
山田次郎(魂の名前ダイゴウジガイ)が空戦で出て空中でアサルトピットを入れ替える
ガンガークロスオペレーションを実行してる
まあ結果アサルトピットの無くなった陸戦と放り出された山田は水没したけどな


ちなみにエステカスタムはアサルトピット方式だが換装は想定されてなかったりする
375通常の名無しさんの3倍:2010/06/04(金) 19:37:36 ID:???
先週から放映が始まったブレイクブレイド
このスレの住人的にはどうだったんだろ?
デルフィング的には二章の多重装攻形態からが本番だけど
エルテーミスとファブニルの少数生産の軽量機対量産汎用機の対決とか有ったしさ


個人的に冒頭の魔力操作シーンで劇場版マクロスF思い出した
376通常の名無しさんの3倍:2010/06/05(土) 01:54:49 ID:???
ブレイクブレイドは「作者、本当に先の展開ちゃんと考えてるのか?」ってぐらいキャラを次々に使い捨てにしてるのが気になる
それを「死ぬときはあっさり死ぬのが良い」と絶賛する意見もあるが、この作者は過去の実績が今イチで、物語構築能力が未知数だから不安だ
377通常の名無しさんの3倍:2010/06/06(日) 03:10:40 ID:???
総帥の世界ならGガンダムに乗るイザークとか
電童に乗るカガリとか可笑しくないよね
378通常の名無しさんの3倍:2010/06/06(日) 11:10:45 ID:???
イザークはMF、AS、エステバリス、そしてゲッターといろんな選択肢があるな。
379通常の名無しさんの3倍:2010/06/06(日) 14:51:06 ID:???
イザークがARXシステムを扱うようになったら
AIはやっぱママンかディアッカのどっちかみたいな人格になるのだろうな
380通常の名無しさんの3倍:2010/06/08(火) 00:19:21 ID:???
そういえば総帥のところだとシーゲルまだ生きてたよな……。
381通常の名無しさんの3倍:2010/06/08(火) 18:48:19 ID:???
生きてっけど中身がもう別者になってんじゃない?
ニャルの化身ぽいどこぞのなんちゃって導師によって
382通常の名無しさんの3倍:2010/06/08(火) 22:42:54 ID:???
今さら中古でゲットしたスパロボNEOをプレイしたけど
御三家のはずのゲッターがオリジナルより浮いてて吹いた
383通常の名無しさんの3倍:2010/06/09(水) 19:37:10 ID:???
>>381
ニャーつーか
盲目白雉の王の一部つーか
あ、それでアイツなのか

最期は青空の廃墟でマルキオとクォヴレーが対峙して果てない戦いの幕開けだな
384380:2010/06/09(水) 22:58:29 ID:???
いやいやイザークがMFに乗るなら、って話ですよ?
385通常の名無しさんの3倍:2010/06/10(木) 00:14:57 ID:???
>>382
極端な例えだがARIAみたいな平和な世界に北斗の拳のモヒカンが現れたみたいなもんだしなw
新ゲの連中を違和感なく出そうと思ったらエルドラン系や超電磁系の小学生メインの作品は出しちゃいかん。
386通常の名無しさんの3倍:2010/06/10(木) 09:27:57 ID:???
しかしいい加減ジブの支持率レッドゾーンだと思うんだけどな
まず主導したプラント攻略戦失敗
頑張って対クライウルブス戦用にで世界各国から集結させたエース部隊壊滅(しかもウルブスに被撃墜機なし)
そして本体部隊も壊滅、切り札の無人ヴァルシオン全滅、無理やり付けたオブサーバー切り札と一緒に敵前逃亡
上層部押さえていてもさすがに限界っぽい気が…まあそのためのデータベースとかがいるのかもしれないけど
387通常の名無しさんの3倍:2010/06/10(木) 09:41:19 ID:???
ジブは生身でDC一個師団に匹敵する戦闘能力を持っていて
力で連合を支配しているとかどうだろうか
生身で強いってのは何度か語られている中の人繋がりの別キャラ達からな
388通常の名無しさんの3倍:2010/06/10(木) 14:58:31 ID:???
修行が足りんぞ、イザーク! とか言うのかw
389通常の名無しさんの3倍:2010/06/10(木) 18:59:31 ID:???
>ジブ

実は魔界天使
390通常の名無しさんの3倍:2010/06/11(金) 09:59:48 ID:???
ただし性別は男
391通常の名無しさんの3倍:2010/06/11(金) 10:23:39 ID:???
ただしコスチュームは魔界天使
392通常の名無しさんの3倍:2010/06/11(金) 19:36:16 ID:???
>>385
確かに浮いてたけど、浮いてるなりにいいポジションだったと思うな。
原作初代やGとか見てると何だかんだで子供に優しいしね。
393通常の名無しさんの3倍:2010/06/11(金) 21:47:30 ID:???
まあ、NEOはオリジナルが馴染みすぎてるというのもあるしな……
ペンギンどこのキャラか考え込んだやつ挙手
394通常の名無しさんの3倍:2010/06/12(土) 11:17:07 ID:???
ジブの中の人繋がりをWikiで調べていたら・・・
ジョージ・グレンも一緒だったのか
なんか没になった裏設定でもあるのかな?
395通常の名無しさんの3倍:2010/06/12(土) 13:35:59 ID:???
死んだと思ったら地底世界に飛ばされていたアズラエル。
持ち前の核弾頭をシュテドニアスのラセツ大佐に売り込もうとしたら「ここでは使えない」と却下される。
仕方が無いので魔装機や轟魔弾の勉強をして自分なりの超魔装機を開発する。
ラングラン、バゴニアと滅ぼす中、アズラエルは軍産複合体トリニティの総帥に成り上がる。

戦勝の連続で支持率うなぎのぼりのゾラウシャルドと結託し、軍産否定派のラセツ大佐、
反ゾラウシャルド派のジェスハ准将を暗殺。
軍・政・財。アズラエルは戦後のシュテドニアスを完全に掌握した。
「いやったぁぁぁぁぁ!!これで宇宙のバケモノを抹殺できるぞぉぉぉぉ!!」と
意気込んで地上に戻るアズラエル。

その時世界は既にラクシズの支配下に置かれていた。
そしてラクシズ側には、地底でシュテドニアスに敗れた人々が魔装機の技術提供をしていたのだ。

アズラエルの超魔装機軍団と、錬金術で超強化されたラクシズ軍の戦いが始まる。
両陣営の戦いは天を裂き地を割った。

―決着はいかに!!
396通常の名無しさんの3倍:2010/06/12(土) 22:03:07 ID:???
アズラエルは勇気で動く超魔装機を作ってよ
397通常の名無しさんの3倍:2010/06/12(土) 22:58:47 ID:RLlzhbB/
NEOはゲームシステムとかは改革していたと思うが、参戦作品がミスマッチ過ぎたのが祟ったと思う。
どう考えても新ゲはZとかαのような作品面子に参戦した方が間違いなくなじんだ。
398通常の名無しさんの3倍:2010/06/12(土) 23:08:14 ID:???
NEOはあの作品集にワタルやグランゾード出すみたいだったしなぁ
ライガーや新ゲ浮いてたなぁ
でもFDSPはかなりカッコイイアニメだったよ
399通常の名無しさんの3倍:2010/06/13(日) 08:16:58 ID:???
むしろ新ゲッターをメインに据えた参戦作品選びをすべきだったんじゃないだろうか。
マジンガーなら衝撃Z編、ガンダムならクロスボーンから鋼鉄の七人。人間爆弾で有名なザンボット、とか。
400通常の名無しさんの3倍:2010/06/13(日) 09:47:17 ID:???
いや一作品に合わせて他を決めるのは無いんでねーの?
NEOの方向性は異世界系と非戦争系の作品見たいだし
どちらにせよ今回は新よりもいつもの優等生ゲッターチームや年代的に考えて
テレビ版ゴウ(変換できない)とかだせば良かったと思う
401通常の名無しさんの3倍:2010/06/13(日) 10:31:11 ID:???
スーパーロボット大戦Z外伝

THE・ビッグオー
キングゲイナー
逆襲のシャア、種死
無敵超人ザンボット3
★ゲッターロボ號
★真マジンガー -衝撃!Z編-
★UFOロボグレンダイザー(桜多吾作版)
冥王計画ゼオライマー
★ザ・ムーン
劇場版エヴァンゲリオン Air/まごころを君に
他多数

〜それは破滅へ至る物語〜

機神胎動・軍神強襲とかRIGHT OF LEFTとか最期が分かってる内容でも
後に続く何かを残す最期が好き
Z本編では何もかも失いましたが
402通常の名無しさんの3倍:2010/06/13(日) 14:30:05 ID:???
NEOの作品選びって、若い連中に聞いて決めたらしい。
でもまさかアイアンリーガー出るとは思わなかったw
Zが重すぎたからNEOはあれぐらい明るい方がいい。
連中も十分馴染んでると思うけどな。
それに、保護者とかお兄さんしてる新ゲやドモンが新鮮で面白かたし。

ワタルやグランゾートは出て欲しいけど、
親が目の黒い内は出さないって言ったらしいからな……
403通常の名無しさんの3倍:2010/06/15(火) 09:53:19 ID:???
>>401
スーパー鬱病大戦ですかw
404総帥の依頼に従い避難所より転載:2010/06/17(木) 00:29:05 ID:???
規制のバガヤロヴ・・・・・・

ディバイン SEED DESTINY 
第四十四話 破滅の会合と別れ 

 共に破滅の名を冠する存在であるルイーナとイディクス。究極的な目的が全宇宙規模での全生命のみならずあらゆる存在の破滅であり、そのために地球人類を贄とすべく行動している点もほぼ共通といえる。
 破滅に至るまでの過程も、ル=コボルの完全な復活による破壊と、ペルフェクティオが本来存在する別次元の扉を開く事によってペルフェクティオ本体を招聘し、世界に破滅の幕を下ろす、と自分達の勢力の指導者を頼みにするなど酷似している。
 目的のために手段を選ばぬのであれば共に手を携えて目的を果たそうとしてもおかしくはない。
 本来は、である。
 しかし首領であるペルフェクティオが健在であり、行動指針に迷いのないルイーナの軍勢に比べて、指導者であるル=コボルを欠いている上にこの世界に順応した生活を送って存在意義を半ば忘れていたイディクスとでは、相容れることは難しいようであった。
 その事を証明するように元いた次元へ帰還するために収集していたマイナスエネルギーを、ルイーナによって半分近くを奪われた怒りにイディクス幹部イスペイルは突き動かされて、イディクスの全戦力を投じている。
 離反したメリオルエッセ、フューリア聖騎士団、ガンエデンの下僕との戦いで消耗したルイーナの幹部アクイラと彼がひきつれる損傷だらけのルイーナ機を、好機を狙って待ち伏せしていた事に成功したイディクス軍団総数二十七機が取り囲む。
 上位クラスの特機とも真正面から戦えるほどの戦闘能力を誇るイディクス指揮官機三機が相手では、戦闘に特化したメリオルエッセ・アクイラと愛機フォルティス・アーラが健在であったとしても、互角以上に戦うことは不可能であったろう。
 イディクスの幹部三名はどこか人間臭い所のある愛嬌のある性格をしているが、実力の方もちゃんと備えているし、千年単位の存在時間の間にいくつもの文明を滅ぼしてきた実績は、かろうじて伊達ではなかった。
 ガズム、ヴェリニーは久々に破壊衝動に身をゆだねる快楽に口元を暗い影の這う笑みを浮かべ、前者二人に比べて汗水垂れ流して収集していたマイナスエネルギーを奪われた恨みの分、頭に血が上っているイスペイルはいまにも飛びかからんばかりの勢いだ。
 イスペイルの乗機エンダークが持つミナール・ハンマーが唸りを上げながら、肩に担がれて最大出力で振り下ろすための予備動作を終える。
 絶体絶命の窮地以外の何物でもない状況の渦中にありながら、アクイラの心中に焦燥の火種も存在していなかった。もとよりペルフェクティオの生みだした人造生命メリオルエッセには思考能力こそあれ、感情などという余分なものは持たされてはいない。
 ただ冷徹なまでの判断力で状況を精密に把握して、自身の終焉を認識していただけだ。目の前に立ちふさがるイディクスの軍勢の戦闘能力は不明だが、センサーで感知できるエネルギー量は大したものといえた。
 酷似した存在であるためか、こうして対峙しているだけでもイスペイル達の戦闘能力をおおよそではあるが、アクイラは感覚的に把握することができた。万全の状態で戦っても大きな代償を払わねば勝利を望めぬ強敵であると。
 アクイラにとってプラスとなる要素が一欠けらもないこの状況では、どうあがいた所で勝利をおさめるないしは、生き延びる手立てはない。そうアクイラは結論していた。
 存在が消滅するその時まで戦って戦って戦い抜く。アクイラの選択肢はただそれ一つだけであった。

「かかれええええいいいいい!!」

 イスペイルが旅のご老公に悪事を暴かれた悪代官のような叫び声をあげるのに合わせ、周囲のイスペイル兵のメトラとヴェリニー兵のデスエラ合わせて二十四機が、損傷機だらけのルイーナの軍勢に襲いかかる。
 ダークグリーンの戦闘ポッド型機動兵器メトラは、腹部のビーム砲と頭部のガトリング砲、ミサイルランチャーを景気よく発射し、ヴェリニーのビクトーラの簡易量産機といえるデスエラは狼面の口を開いて高出力のビームを放ちはじめる。
 三勢力との連続戦闘によって推進剤や弾薬を消耗し、機体にも損傷を負っているアンゲルスやペルグランデは満足な回避運動を取れず、釣瓶打ちのように次々と撃墜されてゆく。

405総帥の命に依り避難所より転載いたす:2010/06/17(木) 00:30:07 ID:???
 総戦力二十七機という悲しい超零細勢力であるイディクスの戦力を目減りしないように、状況の把握に血道をあげたイスペイルが、戦闘に踏み切るほどいまのルイーナの戦闘能力は削り尽くされた状態だ。
 片腕を落とされ機体全面の装甲に損傷の跡をむざむざと刻むフォルティス・アーラだけは萎えぬアクイラの闘争の意思に支えられて、負のエネルギーを転換して生成するミサイルとサギッタ・ルーメンで反撃を試みる。
 しかし雑魚をまとめて落とさんと放つ雲霞のごときミサイルの雨は動きに精彩を欠き、弾速も音速の半分も出てはいまい。
さらに思考を怒りで沸騰させてはいるものの、部下達を倒されることを嫌ったイスペイルが、エンダークの左腕部を中心に機体各所のミサイルを放つミナール・スパイカーで迎撃して見せる。

「悪意の欠片が存在しない以上、存在の密度を上げる事も兵を増やすこともできんのでね! こやつらをむざむざとやらせはせんよ」

 まさに悪のサイボーグという風体ではあるものの、科学者の悪意の集合体というだけあり、合理的な思考形態を持つイスペイルは思考の一部をあくまでニュートラルな状態にしてある。
 そのイスペイルの黒光りするメタルヘッドの中の平静な思考の一部が、あくまでもエンダークの操縦を無駄を削ぎ落とした冷徹なものに固定し、戦術的に最大効果を発揮する選択肢を優先的に取らせている。
 ミサイル発射に伴う白煙を歪な巨躯に纏いながら、ミナール・ハンマーを振り上げて、イスペイルはエンダークをフォルティス・アーラへと突貫させる。

「このような力任せの技は私の性には合わないのだがね、威力は折り紙つきだ!!」

 数多の異文明の技術を完全に活かしきれていないとはいえ、イスペイルの持つ技術力の高さは紛れもない本物である。その精髄を凝らしたエンダークの戦闘能力は、対峙するものがどの勢力であろうとも侮ってよいものではない。
 建築現場の重機の様なマニュピレーターで両手保持したミナール・ハンマーを大上段に振り上げ、MSやPT程度などアルミ缶のように押し潰してしまう大質量を乗せた一撃が、フォルティス・アーラの頭頂部へ!
 鈍重なエンダークに懐にまで接近されてしまったのは、やはりフォルティス・アーラの中破状態と、超人種といえるメリオルエッセとはいえ流石に疲労の山を体内に築いたアクイラの不調による。
 イスペイルの無策に等しい突撃は、むろん、フォルティス・アーラの機体状況を看破した上での判断だ。もっとも、フォルティス・アーラが万全と呼ぶには程遠い状態にあるなどと、誰が見ても一目瞭然ではあるけれど。

「ふんんんぬううう!!!!」

 ルイーナに対して積もりに積もらせた怒りと、ヴェリニーとガズムに虐げられて貯め込んだ鬱憤を八つ当たり気味にミナール・ハンマーに詰め込んで、イスペイルは躊躇なく振り下ろす!

「…………かすめたか」

 かすかな音を立ててフォルティス・アーラの残っている左腕の外側装甲をミナール・ハンマーがかすめて、それだけでどれほどの衝撃が伝わったものか、瞬く間に左腕の装甲は剥落してゆく。
 振り下ろしきった位置から、ミナール・ハンマーを振り上げてフォルティス・アーラを左足から胴体にかけて叩き潰さんとしたイスペイルの思惑は、エンダークの首がほとんどない頭部が、フォルティス・アーラの左足に蹴り飛ばされたことで中断された。

「こいつ、恐怖がないのか!?」

「血に染まりながら我らの王の血肉となるがいい」

 体勢を崩すエンダークに撃ちこまれる紫色の光線の束。フォルティス・アーラに残るエネルギーの大半を注ぎ込んだサギッタ・ルーメンの連射である。
 イスペイルが愛機の体勢を立て直し、回避か防御の選択肢を選ぶよりも早く連射されたサギッタ・ルーメンは、次々とエンダークの頭部を中心に着弾して光の粒子の中にエンダークを閉じ込める。
 攻撃の効果を確かめるべく隻眼を凝らすアクイラに、光の煙を割いて迫りくるミナール・ハンマーが迫る!

 かろうじて神がかり的なアクイラの反応速度に、フォルティス・アーラは一度だけ答える事ができた。横殴りにフォルティス・アーラの頭部を砕きに来たミナール・ハンマーは虚しく空を切り、鉄槌に砕かれた風がフォルティス・アーラの胸を打つ。

「ぬうっ」

「甘く見てもらっては困る。このエンダーク、これまで滅ぼしてきた文明の技術は全て取り込んである。貴様らの機体も万全ならば十分に脅威といえたが、そのザマでは我がエンダークの敵ではないのだよ! ふうっははははははっはははははははは!!」

 サギッタ・ルーメンの出力も低下していたものか、継ぎ接ぎの機体外見から重厚さの割に脆弱そうにも感じられるエンダークであるが、それでもサギッタ・ルーメンの連射に損傷を負わぬ頑健さを有しているようだ。
 久々に我が世の春が来た、とばかりに哄笑するイスペイルは瞼のないぼう、と夜空に輝く黄金の満月の様な瞳に、傷つき弱ったフォルティス・アーラの哀れな姿を映して自分の勝利の予感に酔いしれる。

「ちょっとちょっと、私らの分は残してあるんでしょうねえ? イスペイル」

「ふ、この程度の有象無象どもでは肩慣らしにもならんではないか。そこの指揮官は少しはましなのだろうな」

「ヴェリニーにガズムか。雑魚の掃除はもう終わったようだな。普段から私任せにしないでそれくらいには働け」

 愚痴をこぼしながらイスペイルが周囲を見渡せば、メトラとデスエラがぐるりと周囲を囲み、ビクトーラとゼナディーエが凶の気配を纏いながらフォルティス・アーラの背後に悠然と立たずむ。
 アクイラが引き連れていたルイーナの軍勢の残りは、すべて切り裂かれ、撃ち抜かれ、破壊されてはるか彼方の海面へと黒煙を噴きながら落下して、無数の残骸と変わって青い海を汚している。
 三方からフォルティス・アーラを束縛するイディクス幹部のプレッシャーに、アクイラは機体を動かせず最後の一撃をどの機体にぶつけて、自らの存在に終焉を打つかのみを考えて始めていた。

「あ〜あ、ここまでぼろぼろじゃ首を刎ねるか動力炉を抉るくらいしかできる事ないじゃない」

「あまりやり過ぎるなよ、ヴェリニー。こいつにはいろいろと背後関係について聞かねばならぬ事が多い。面倒ではあっても、ル=コボル様のもとへと戻るためには堪えるべき時だ」

「分かっているわよ。私達の存在は全てル=コボル様に帰結するんですもの。あの方のためになす事が私たち自身の為でもあるのだから」

「……」

 欠片と呼ばれる悪意の精神エネルギー結晶によってその存在を成り立たせているイディクス構成員は、ル=コボルを頂点に指揮官クラスほど欠片の密度をより濃いものにする。
 その存在の根源が同一であるために、イディクスの構成員すべてが同一の個体と言えなくもないのだ。しかしながら、三人の指揮官の中でイスペイルだけは比較的存在の密度が薄いためにか、ル=コボルに対し反逆の意図を持っている。
 そのイスペイルからすれば、あくまでもル=コボルへの忠誠篤いヴェリニーとガズムの言葉は、いずれ敵対する未来を予感させるものであったろう。

 ヴェリニーとガズム、そしてヴェリニー兵を滅ぼして彼女らを構成する欠片を自らに取り込むことでより強大な存在へと進化し、この世界の軍事技術を取り込んでエンダークもまた強化してル=コボルをも打倒する力を手にする事。
 それがイスペイルの秘めたる野望。己の存在を確立させ、ル=コボルの呪縛にとらわれぬ自由なる存在となる事。ある種、究極的な自由を求めるシュウ・シラカワと同じように、イスペイルもまた自分を縛る存在からの脱却を願っているのだ。
 感傷に浸る心を無視し、イスペイルは完全に包囲したフォルティス・アーラへ意識を集中し直す。
 フォルティス・アーラがなけなしのエネルギーを蓄え、爆発させる時を待っている事はこちらのセンサーとこれまでの戦闘経験から理解できる。
 だがこの場で自滅されるわけにはゆかない。フォルティス・アーラが次のアクションを具体的に起こすよりも早く、こちらの手によって無力化して情報源になってもらわねば、わざわざ危険を冒してまで戦いに踏み切った甲斐がないというもの。

「ヴェリニー、ガズム、奴に自滅などさせるな! 撃墜もするなよ、聞かねばならん事はいくらもあるのだからなあ!!」

「何回同じ事を私達に聞かせる気!? あんまりしつこいとそのカブトムシとゴキブリを足したような顔を後で引っ掻くわよ!!」

「な、せ、せめてカブトムシ一本にせんか! Gは無かろう、Gは!!」

 イスペイルは、夏場に三角巾とゴム手袋、前掛けの完全装備で事務所の給湯室の掃除などをしていた時に、わずかな隙間から顔をのぞかせた黒みがかった茶色の虫が大いに苦手になっていた。

「言い合う暇があれば手を動かせ、手を」

 呆れる声を出すガズムに注意されて、ようやくヴェリニーとイスペイルは口論を止めて、それぞれの機体の携える武器を構える。エンダークはミナール・ハンマーを、ビクトーラは左の腕先に輝かせる巨大な爪を。
 ガズムは半身と呼んでも差し支えないゼナディーエの傍らに暗黒空間より招いた巨大な棺を呼び出し、封じ込められている悪意の渦を放つ時を待つ。
 もっとも破壊しやすいのは運動性に特化しているために装甲を犠牲にしたビクトーラだが、一撃を当てやすいのは鈍重なエンダーク。
二撃目を思慮に入れない片道限りの万歳アタックならば、いまの機体状況でもエンダークをかろうじて粉砕することはできるだろう。道連れに選ばれたとは気づかず、イスペイルは破壊の衝動に身を任せてミナール・ハンマーに凶暴な唸り声を上げさせる。
 おれの最後の戦いの相手というには、いささか物足りぬが――アクイラが胸中でいくばくかの物足りなさを噛み締めて、残ったエネルギーと共にフォルティス・アーラを内部から崩壊させる。
 だが、それを、唐突に出現した同胞の気配を感じたことでアクイラは止めた。肩すかしを食らった様な脱力感が胸中に染みのように広がった。だがアクイラの苦闘を感じて窮地を救いに来たという事ではあるまいが、助かったのは事実。
 フォルティス・アーラに迫っていた三機のイディクス指揮官機を、天から降り注いだ黒い雷が打ちすえて吹き飛ばす。
 黒い情念を内包した雷はそれほど大量のエネルギーを内包していたわけではないが、ゼナディーエらを吹き飛ばすには十分なだけの威力は有り、それぞれが三百メートルほどフォルティス・アーラと距離を取る。
 吹き飛ばされた各指揮官機に目立った損傷はない。あくまで牽制のための雷であったという事か。
 半径三百メートルの空白地帯に、黒い雷と共にいくつもの機影が出現してフォルティス・アーラとアクイラを守るように円形に陣を敷いていた。
 真っ白い鰻のような凹凸のないつるりと滑らかな表面は生物の皮膚の様な質感を持ち、開かれた口には肉食獣や大型の肉食鮫を連想させる牙がずらりと並んで生え揃っている。
 アンゲルス、ペルグランデに続くルイーナ第三の主力機動兵器スカルプルムだ。その上位機種であるSタイプと共に、ひと際異様な、より禍々しく有機的なフォルムの機体が降臨していた。
 二足歩行の恐竜の体に何本もの食虫植物の蔦が絡みついているかのような、見る者に困惑と不理解を与える異形の機体で、フォルティス・アーラやファービュラリスの様な他のメリオルエッセの機体とは一線を画している。
 名をウィオラーケウム。ラテン語で菫色の、という意味を持つ。
 機体同様に操り手もまた人間ではないと一目でわかる異様な風態の男であった。植物の緑とおなじ色彩の肌を持ち、爬虫類のような印象を受ける冷たい瞳と大きく開かれた口から覗く、血が溢れているような真っ赤な口腔。
「コンターギオか。まさか貴様が出張ってくるとはな。ご苦労な事だ」

「くかかかかか、お前ほどの男がこうまで追いつめられるとは私も驚きだよ。我らの軍備はいまだ整っておらぬ。お前を欠く事は今後の活動に支障をきたすと判断してな、こうして参ったのだ」

「ふむ、確かにおれの代わりを作るよりはその方が効率的ではあるか」

 自分自身の生死にまるで拘泥せず無頓着なアクイラの事は、尋常な精神の持ち主には到底理解し得ぬものであったろうが、この場で彼らに対峙しているのは彼ら同様に破滅を関する異形軍勢。
 アクイラとコンターギオと呼ばれた男の会話など元より念頭に置かず、驚きに襲われる事もなく、ただ敵意の炎を大火へとより大きく燃え上がらせるのみ。

「ちい、このタイミングで援軍か。あいつらを思い起こさせる連中だな」

「ビビってんじゃないわよ、イスペイル。質問に答える口が一つ増えたって考えればむしろラッキーよ。それに暴れ足りない鬱憤を晴らせそうなのがごろごろ来たじゃない?」

「余計な手間をかける事になったな。お前達、兵をやられんように気をつけろよ。エネルギーが補充できればおれが無人機を作り出すこともできるが、あいにくと今の状態では無理なんでな」

「バイオゾイドとかオーバーマンあたり? 装甲と特殊能力がえげつないから、使えたならかなり楽ができたかもしれないわね」

「ガズムがコピーを作るためのエネルギーもマイナスエネルギーで賄う予定だったからな。それを奪ったのは連中だ。つまるところ我らの兵力不足も奴らルイーナとかいう輩のせいだ」

 さりげなくルイーナに対する敵対意識を募らせるようにイスペイルは誘導する。もっともそうせずとも彼らは、自分達と類似するがゆえに目的達成の過程で衝突する可能性の高いルイーナを壊滅させる腹積もりだ。
 イスペイルの言動にさほど効果があるわけでもない。
 特に敵意の放射が激しいヴェリニーに反応したのか、コンターギオの命令によるものか、真新しいスカルプルム達が口を開き爪を戦慄かせ、奇声を上げながらビクトーラへと踊りかかる。
 忠誠篤いヴェリニー兵達は、それぞれのデスエラでビクトーラに襲いかかる不届きもの達を阻む壁とならんと動こうとするも、それを激しい語調のヴェリニーの一喝が留める。

「お前達、余計なまねはするんじゃないよ! こいつらはね、私の獲物さ」

 ヴェリニーとビクトーラ双方の唇が実に凶悪な角度に吊りあがり、悪意に満ちた三日月がそこに姿を現した。
 ビクトーラはまさしく四足の獣のごとく身を屈め、腕先から伸びる長大な爪が注ぐ陽光をことごとく切り裂いて、命を刈り取る時はまだかまだかと喉を鳴らして待っている。
 スカルプルムの首が伸び、脚が伸び、手が伸び、ビクトーラの野生美に溢れる機体に食らいつかんとし、ことごとくがその半ばほどから断ち切られ、紫とも緑ともつかぬ見る者が不快感を催す汚穢な体液が噴水のごとく噴き出す。
 巨大な機動兵器でありながら野生の獣の俊敏さで、迫りくるスカルプルム達の間を駆け抜けたビクトーラの仕業であった。
 絶命の叫びをあげて崩れ落ちてゆくスカルプルムの死に様を背景に、スカルプルムの体液に妖しく濡れる爪を一振りして、ヴェリニーは破壊の喜びに背筋の獣毛がちりちりと焼かれるような感覚を覚えた。
 スカルプルムとてその異様な外見を裏切らぬ戦闘能力を保持し、地球人類が主力とする機動兵器MS相手ならば、一体で複数機を相手取ることも可能だったろう。
 しかし、スカルプルムの初陣の相手として迎えたのは、いくつもの文明と惑星を破滅させてその存在をより強固凶悪なものへと変え続けたもう一つの破滅“イディクス”の幹部達。その事だけがスカルプルム達の不幸であった。
 ゼナディーエも手に携えたままだった棺の蓋を改めて開き、その奥に無限に広がる暗黒の魔性世界からさながら怨霊のごときマイナスのベクトルを持った精神エネルギーが次々と放たれて、生ある者を呪う死者の念のごとくスカルプルム達へと食らいつく。
 仕切り直しか、と小さく吐き捨てたイスペイルも、あまり好きではないと言ったミナール・ハンマーを風を千切りながら振り回して、スカルプルム達の軟体質の外部装甲をものともせずに叩きつぶしている。

「これまで蓄えに蓄えた我らのストレスと持ち腐らせていた実力のほどを、その身で存分に味わえい!」

 新たな援軍に肝を冷やしたイスペイルであったが、スカルプルム達を圧倒する同僚達の姿に勇気づけられ、兵士達の援護射撃を受けながら勇壮無双の働きを見せてウィケラーティオとフォルティス・アーラを目指して猛進する。
 言っている事はなにやら情けなくて涙を誘うものであったが、実際に振るわれる暴力は侮った相手を木端微塵に砕いてあまりある威力を誇る。
 エンダークに数機のスカルプルムが食らいつき、その蔦の様な手足や牙を重厚な装甲に突きたてようと足掻くのを、イスペイル兵達が抜群のコンビネーションで、各搭乗機のガトリング砲、ミサイルランチャーで弾幕を展開して主の道を開く。

「くくく、アクイラ、お前を手古摺らせたこ奴らの実力、確かめるとするか?」

「侮るなよ、コンターギオ」

 エンダークの真正面に動いたウィケラーティオは、エンダークの上半身を飲み込むほど巨大なビームを放つ。同時に両腕の先にある爬虫類と植物を足したような頭部が口を開いて、がちがちと牙を打ち鳴らす。
 ビームの直撃を受けてなおこちらに向かって襲いくるようであれば、左右の両腕で食らいつき、動きを止めて追撃の手を加える腹積もりか。
 コンターギオの未来予想図はほぼ過つことなく現実に変わる。ビームの直撃にも怯まずイスペイルはエンダークの機動をそのままに、ミナール・ハンマーを盾にしながらウィケラーティオへ鋼の弾丸と化して襲いかかった。

「貴様も叩きつぶしてくれようかぁ!!」

「これはこれは、活きの良いことだ」

 アクイラが感じたのと同じようにコンターギオもまた目の前の正体不明の連中が、破滅の王に似たエネルギーが意思を持った存在であると判断していた。こやつらの意識を絶望と恐怖に染めたうえで倒せば、王のよき糧となるだろう。
 びゅる、と生々しい音を立てながらウィケラーティオの両腕が生ける鞭、あるいは鋼の硬度を持つ蛇となってエンダークに絡みつくが、それらをイスペイルは複数あるエンダークのマニュピレーターで握りしめる。
 ぴんと張り詰めたウィケラーティオの腕がいまにも引き千切れそうに震えるが、コンターギオに焦燥の色はわずかもない。

「この距離であのミサイル攻撃はできまい? 貴様らは自分達に被害が出る事をひどく嫌っているようであるしな」

「ぬぐ、エンダークと同等に近いパワーか。だがしかし、それでもまだ我らイディクスの方が有利よ! ヴェリニー!!」

「気安く呼ぶんじゃないよ」

 どこぞの闇モスの様なセリフと共に、エンダークの背後から疾風の獣と化して颯爽と飛び込んできたビクトーラがその爪を閃かせれば、エンダークをからめ捕るウィケラーティオの両腕に斬痕がいくつも刻み込まれる。
410後少し、持ってくれよ……!:2010/06/17(木) 00:36:56 ID:???

 生物の皮膚と変わらぬようなウィケラーティオの腕であるが、実際の硬度はフォルティス・アーラやインペストゥスを守る装甲と比較して遜色のあるものではない。
 それを切り裂いたビクトーラの爪の鋭さをこそ褒めるべきだろう。さらに追撃の一手にウィケラーティオの背にビクトーラの左腕から放たれたスパークリングゲイザーが直撃し、生体装甲の破片を街き散らし、エンダークの拘束が緩む。

「もらったああああ!!!!」

 ミナール・ハンマーを振るうのに必要な最小限の動作で、エンダークのマニュピレーターは旋回してウィケラーティオの右側頭部を容赦なく捉え、植物と爬虫類の混合生物の様な機体を吹き飛ばす。
 目でかろうじて終えるかどうかという速度で吹き飛んだウィケーラティオは、巨大な水柱を打ちあげながら海面へと激突する。ミナール・ハンマーの一撃がどれほどのものであったか、ウィケラーティオはそのまま沈み浮かび上がってくる様子はない。
 イスペイルはウィケラーティオの反撃を予想し、ミナール・ハンマーを構えた体勢のまま油断なく待ち構えていたが、暫く経っても動きがない事にわずかに警戒を緩める。

「ふふん、私のエンダークのパワーの前には歯も立たんかったか」

 いささか気を良くしたイスペイルは、顔面の構造上表情の変化が分かりにくいが、声の調子からして喜んでいるらしいが、小中学生が目の前にいたら顔を引き攣らせて泣き出す事請け合いである。
 と、そのイスペイルの鼓膜……があるかどうかは不明だが、とにかく聴覚器官をヴェリニーの怒声が揺さぶった。すぐ隣に雷でも落ちたのかと勘違いしそうな大声量に、イスペイルはぎゃっと叫び声を上げる。
 悪意の欠片の集合生命体と言う割にはなんとも肝の小さい御仁だが、まあそこらへんも含めて兵士達は付いていっているようだし、それがイスペイルの人徳というものなのだろう。

「なに悦に浸っているのよ! アンタのご自慢の継ぎ接ぎトンカチで倒したんじゃなくて、攻撃を利用されて逃げられたのよ!! こんのドアホッ!!!」

「……なぬ?」

 妙な発音でイスペイルはヴェリニーに聞き返す。思考の一部がおかしな反応をしている傍ら、冷静な思考個所はイスペイルの指と目を動かして、エンダークにウィケラーティオの反応を追跡させている。
 結果を見てイスペイルは絶句という言葉の見本にしたいくらい、黄ばんだ牙の並ぶ口を開いて言葉を失う。なるほど勢いよく吹き飛ばし、敵を海面に叩きつけた瞬間までは良かった。
 ここまでならヴェリニーもイスペイルを責めはしなかっただろう。しかしイスペイルが様子見に徹する間にウィケラーティオは海中でも不自由しないのか、さっさと深海へと潜り込み、戦闘空域から離脱してしまっていたではないか。

「んな、なあ!? だ、だがおま、お前達とて先ほどまで戦っていた奴はどうした!! ととと取り逃がしたのか!」

「あんたの援護している間に逃げられちゃったのよ。あの鰻もどき、あいつを逃がすためだけに連れてこられたみたいでね。追おうとするこっちの邪魔ばっかりしてきたのよ。仕方ないでしょうが」

 セリフだけを並べてみれば強気なヴェリニーであるが、実際には自分達の失態であると認めている証拠に、反論の声はさほど大きなものではなかった。
 ビクトーラの後ろの方では、ガズムのゼナディーエがビクトーラの半分ほどのサイズになって、スカルプルムの残骸をもてあそんでいた。機体サイズを大幅に変更できるゼナディーエの特性を活かして、反省の態度を取っているつもりらしい。
 胸中に千単位の罵声の言葉が浮かび上がってきたが、イスペイルは五回ほど深呼吸をしてなんとか喉までこみあげてきたそれらを飲み下す。
いま、この場で言い争ってもヴェリニーがヒステリーを起こし、それに乗じてガズムがこちらを言い負かせようとしてくるに決まっている。
となればいまここでしおらしくへこたれている二人に、簡単な説教と注意をする程度に留めた方が結局は、自分の為になるのではないかとイスペイルは結論付けた。

「まあ、連中の新たな戦力については判明したし、こちらに損害もなかった。最近地球人どもが戦争を再開させたおかげでマイナスエネルギーも徐々に蓄積できてはいるからな。ここで焦っても仕方あるまい。私にも非は有った」

「次はこんな無様なまねはしないわよ」

「ヴェリニーと同じく、な。そろそろこの場を離れよう。地球の軍に捕捉されては面倒だ」

「そうだな。とりあえず適当な無人島にでも降り立って休憩にするとしよう。久々にエンダークを動かしたから、具合を見ておきたいのでな」

 そういってくるりとエンダークの踵を返すイスペイルの背後で、ヴェリニーとガズムが顔を見合わせて笑った。

――ちょろい


つづく
今回ここまで。いやいや二週間以上間があいてしまいました。大変申し訳ありません。
やっぱり浮気するとこうなってしまったか。次はテンザンがガンキラーに乗っている理由や超機人関連の話にずれる予定です。
ではではご指摘やご感想ご批判、首を長くしてお待ちしております。

あと、どなたか本スレに代理投下をお願いできますでしょうか。厚かましいお願いでは在りますが、なにとぞお願い致します。
412転載ミスのお詫びorz:2010/06/17(木) 00:48:37 ID:???
 私の作業ミスにより、>>407>>410の冒頭に空白の行が1行ずつ入っております
総帥のオリジナル投下分にはそのような行は入っておりませんので、まとめwikiに収録される方は
その点にご注意くださいませm(__)m
413通常の名無しさんの3倍:2010/06/19(土) 21:23:45 ID:x6hnYd1d
しかし、総帥さんは相当に書いているけど本にしたら滅茶苦茶分厚いだろうな。
それを成し遂げられる、あまりにも文才が違いすぎることに絶望したwwww。
414通常の名無しさんの3倍:2010/06/20(日) 07:43:44 ID:???
総帥と転載者乙
名前欄にフイタ
415通常の名無しさんの3倍:2010/06/25(金) 02:04:24 ID:???
総帥アンド転載乙!
なんでこう、人間味溢れてるかなイディクスは・・・
416通常の名無しさんの3倍:2010/06/26(土) 16:44:42 ID:???
まぁ人間だしなぁ、特にイスペイル
メリオルエッセも基になったのは南極のリ・テクだという予想もあったっけ
417通常の名無しさんの3倍:2010/06/27(日) 21:26:52 ID:???
気が早い話で申し訳無いがスパロボは3DSで出るのだろうか?
いやなんかあれは化けそうな気がするので。
418通常の名無しさんの3倍:2010/06/28(月) 07:14:49 ID:???
立体感ある乳揺れか・・・
419通常の名無しさんの3倍:2010/06/28(月) 23:47:44 ID:???
そこまでいくともうジンキみたくエロゲにでもしろよって批判きそうだな。
420通常の名無しさんの3倍:2010/06/29(火) 00:16:07 ID:???
>>419
硬派(笑)な連中なんざ放っておけばいい
421通常の名無しさんの3倍:2010/06/29(火) 09:17:10 ID:???
それにしたってちょっとな…
別に硬派気取る気はないがロボメインなのにギャルメインになるのは
スパロボ本来の楽しみ方ではないと思うが
422通常の名無しさんの3倍:2010/06/29(火) 14:31:13 ID:???
そもそも寺田がギャルゲ作りたがってるのに、禁止されてるから仕方が無い
まあ、エロがあるのは最初期のロボアニメからだが
423通常の名無しさんの3倍:2010/06/30(水) 14:24:35 ID:???
あれそうだったか?
寺Pってヒーロー大戦系を作りたいって言ってたんじゃなかったっけ?
424通常の名無しさんの3倍:2010/06/30(水) 17:44:40 ID:???
確か一番好きなのが特撮ロボだったかな。
425通常の名無しさんの3倍:2010/07/04(日) 15:41:04 ID:???
特撮か……やはりレオパルドンが最強なのだろうか?
426通常の名無しさんの3倍:2010/07/04(日) 17:38:35 ID:???
>>425
確かにアレに勝るのはいないだろうなぁ色々な意味も含め
427通常の名無しさんの3倍:2010/07/04(日) 20:13:27 ID:???
特撮・・・実写版キャシャー・・ゲホッゲホッ

なんでもない
428通常の名無しさんの3倍:2010/07/05(月) 20:40:55 ID:???
OVA版ブライキングボスとデビルガンダムのタッグ
アンドロ軍団が人間を捕らえて強制労働とゾンビ兵の量産
まさに暗黒時代

ついでにメイガスとドロシー(ガレリアンズ)も加えて

えーと、あと何かロボットやコンピューターの反乱ってあったっけ
クトゥルフの民が攻めてきてもいいかな
429通常の名無しさんの3倍:2010/07/05(月) 22:16:06 ID:???
実写だけどガンヘッドとか。
430通常の名無しさんの3倍:2010/07/05(月) 23:31:45 ID:???
>>428
コンピューターと反乱で思いつくといったら鉄人兵団かねぇ。
こんどリメイクされるんだったっけ?
431通常の名無しさんの3倍:2010/07/06(火) 12:02:48 ID:???
絡めたら面白そうったらデューンの世界かな。
かつて高度なコンピューターの反乱でエライ目にあったんで、そう言った技術が封印されて超能力とかバイオテクノロジー系に突っ走った世界。
超光速宇宙船も、特殊な麻薬の投与で覚醒・変質した超能力者の能力で跳んでいる。


>>429
ガンヘッドは小説版だと、
社会の発展で自然にそう言ったシステムの統治下に入って、
それにコンピューターではなく、一部の不満を持つ人間が反乱起こしたんだよな。

映画版だけだと、本当に背景っ設定が無きに等しいけど、小説版は設定が正反対だと言う。


>>430
 鉄人兵団の故郷は、そもそもロボットしかいない世界だよ。
 人間が家畜を使うノリで、高度な労働が可能な人間を労働力にしようって話だから、コンピューターの反乱とは違うんじゃね?
432通常の名無しさんの3倍:2010/07/06(火) 17:13:13 ID:???
どっちかっていうとドラえもんならブリキの迷宮だよな
ナポギストラーとか意匠的にブライキングボスと通じる独裁者イメージが

・・・ここのスレのノリ的に組ませて良いのかはともかくw
433通常の名無しさんの3倍:2010/07/07(水) 18:10:40 ID:???
>>425
変形開始から撃破まで長くて2分。戦闘時間30秒だから
スパロボに例えると最低でも2ターンで勝利確定か・・・・胸が熱くなるな。
434通常の名無しさんの3倍:2010/07/07(水) 23:53:47 ID:???
ロボ戦無敗の戦隊って少ないよな

なんだかんだで苦戦バッカリだけどシンケンジャーは不敗だったが
435通常の名無しさんの3倍:2010/07/08(木) 00:07:32 ID:???
スーパー戦隊大戦

ゴレンジャーからバトルフィーバーJまでの戦隊を除いた総べての参戦
隠しキャラで地獄からの使者参戦
436通常の名無しさんの3倍:2010/07/08(木) 00:52:32 ID:???
全スーパー戦隊ロボが勢ぞろいか…
一番でかいのはキングピラミッダーかな
437通常の名無しさんの3倍:2010/07/09(金) 09:08:27 ID:???
実は和田対スーパー戦隊なんて言うトンデモスレが建ってたりする
http://hideyoshi.2ch.net/test/read.cgi/shar/1272982340/l50
438名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 19:20:44 ID:???
戦隊・・・

合身戦隊

コンギスターが地球に来襲

でも結果としてはNJのおかげでオメガミサイル撃たれず
皮肉にも地球はシーゲルに救われたのである(オメガからだけは)
439通常の名無しさんの3倍:2010/07/15(木) 16:53:46 ID:???
最近ネタがない…
なんかいいロボゲーかロボアニメってない?
440通常の名無しさんの3倍:2010/07/15(木) 19:30:22 ID:???
ボーダーブレイクでも勧めよう
441通常の名無しさんの3倍:2010/07/15(木) 19:56:08 ID:???
>>439
ブレイクブレイドとかどうよ?
機体デザインで敬遠する人結構居るけど動いてる姿みるとイメージ変わるよ?
つかファブニルやエルテーミスとかがドシドシ歩いてるなかデルフィングが一瞬で追い抜くとかアニメになって異様さが際立っててすげぇ

コミックなら今アクエリオンがオリキャラブッ込んだオリジナルルートやってたりする
442総帥代理:2010/07/16(金) 11:07:51 ID:???
相変わらず規制ですよ、チクセウ。投下行きます! 一ヶ月近く放置していたのか、と我ながら呆れています。申し訳ありません。

ディバイン SEED DESTINY  
第四十五話 テンザンの憤慨 / セルゲイの憂鬱

 それぞれが「滅び」を意味する名を冠するルイーナとイディクスの因縁の戦いが、南半球で行われていた時より、いささか時は遡る。
 かつてヤキン・ドゥーエで早退したデビルジェネシスや真ナグツァートなどの異界の魔物を除けば、シン・アスカの歴戦の経験を持ってしても一、二を争うほどの窮地に追い込まれた戦いの直後の事である。
 ロード・ジブリールが己の持てる強権を最大限に活用し、地球連合各構成国から強制的に招集した、高い質と圧倒的な物量を兼ね備え、さらには奇策までも用意した艦隊との激戦を終え、本隊と合流してオノゴロへと帰還するその道すがら。
 過剰余熱で熱を持ったアサルトバスターシルエットが、DCインパルスの素体から作業用クレーンによって、王族の着替えを行う侍従の様な繊細さで外されてゆく。
 まだ試作段階に在るアサルトバスターシルエットが、過酷極まる使用にも耐え破損することなく持ちかえられたのはきわめて幸運なことといえた。
 今回の戦場が昨今の戦いの中でも群を抜いて厳しいものであったことも確かだが、それ以上にインパルスのパイロットであるシンは、とかく機体に無理をさせて損傷させる、とメカニックや研究班から辛辣な評価をされているからだ。
 実際には、シンが機体にも自分にも無理をさせるのは、そうしなければ部隊に多大な被害がもたらされるような不利な状況に陥った場合にのみ限られる話である。
 だが自軍の者たちでも信じられないような戦果をあげてきたクライ・ウルブズにぶつけられる敵戦力は、近代戦のセオリーを無視した物量か質をそろえたものである事が多く、その無理をしなければならないケースが増えてきているのも事実だった。
 そのために必然としてシンが機体と自分自身に無理をさせる事は多く、機体の整備の時や健康診断を受けるたびに自分の体と愛機の事をもっといとえと諭されてばかりいる。
 コックピットからラダーを使ってセプタ級ジグロードの格納庫に降り立ったシンは、インパルスに続いて着艦してきた特異な外見の機体に目を向けた。
 DC最強と言われるクライ・ウルブズの精鋭といえどもさすがに損傷している機体ばかりで、メンテナンス用のオートロボットやメカニック達は死体に群がる蟻のようにせわしなく動き回っている。
 彼らにとっていまこそが本当の戦場であったろう。戦闘の後の興奮を二度の呼吸で整えたシンは、メカニックの一人から受け取ったドリンクで咽喉を潤しながら額に浮かぶ汗の玉をぬぐう。
 シンが赤い視線を向ける機体の全高はインパルスとそう大きく変わらぬものではあったが、円筒形の二の腕や太もも、重火器やシールドなどを携帯していない無手に、どことなくテレビの中の悪の幹部やライバルキャラを思わせる露悪的なデザインは否応に目を引く。
 まあ、DCに、特にクライ・ウルブズに籍を置いていると奇妙奇天烈な外見の機体に出くわす機会が多いのでさほどインパクトは強くなかったが。
 ガンキラーという名前らしい機体が足元のシンに気付き、顔をこちらに向ける。全身にサブ・カメラがあるはずだから、わざわざメインカメラを向ける必要はないだろうに。
 とはいえやはり人型をしている以上、メインカメラを向けられると見られている、という意識が否応にも抱くものだ。シンはそのガンキラーに向けて軽く右腕をあげる。簡素だが、とりあえず再会の合図である。

「お久しぶりです、テンザン大尉」

『いよう、シン。やっぱりてめえらはおれがいねえと駄目だなぁ。ええ? ぎゃはははは』

 格納庫に響き渡る人を食ってかかる根性の悪い男の笑い声に、シンは憎たらしくも懐かしさを覚えて、苦笑を浮かべる。
 テンザン・ナカジマ。シン・アスカにとって最初の上司であり、オーブ解放作戦からヤキン・ドゥーエ戦役の終戦に至るまでの間、共に闘い続けた戦友でもある。
 戦争をゲーム感覚で行っている危険な傾向は有るものの、その機動兵器パイロットとしての資質は極めて高く、オレンジとイエローのパーソナルカラーに塗装したヴァイクルを駆って多くの戦果をあげている。
 経歴や人格を全く考慮しないわけではないが、それ以上に個人の実力を重視するDCらしいパイロットの一人であると言えよう。
443総帥代理:2010/07/16(金) 11:09:21 ID:???


 テンザンとガンキラーがセプタ級に着艦した一方で、フューラーザタリオン形態からデストロイドアグレッサーへと再変形し随伴させながら、艦長兼パイロットであるレーツェル・ファインシュメッカーは、エペソと通信にて会談を行っていた。
 大洋州連合、ザフト、DCの三国で編成されていた本艦隊の司令を務めるエペソは、目下被害状況の確認や着艦事故、撃墜機の回収など忙しさに追われる身ではあったが、生み出される時に付与された高い能力で、一区切りつけたのだろう。
 サングラスをかけた怪しい人物との会談を平然と行っているエペソの姿に、エペソと接した経験の短いセプタ級の艦長とブリッジクルーは胡散臭げに見つめているが、エペソに気にした様子はない。
 体中に張りめぐらされている神経が、一般人と異なって鋼のものと言っていいくらいに頑丈にできているのだろう。
 それも単に鈍感というのではなく他人からどう見まれているかも理解したうえで平然としているのだから、並みならぬ胆力だ。

「貴公らは我らに合流するわけではない、と?」

『テンザンとガンキラーは置いてゆくがフューラーザタリオンとミルヒーのヒュッケバインは別の用に使わねばならんのでな。大洋州の南極調査隊がルイーナの軍勢に壊滅させられた事、各地で続く部隊の行方不明事件……』

「部隊の消失はゾヴォークのやり口。DSSDステーションでも同様にゾヴォークの軍勢が姿を見せている。確かに貴公らの実力と機体でもなければ少数での調査には向かぬな」

『その通りだ。現状、どれほどの正体不明の勢力がこの地球圏に紛れ込んでいるかわからん。かといって正規軍を動かすには地球連合とザフトとの緊迫状態が危うすぎる。サイレント・ウルブズは欧州の抑えとして動かせんしな』

「ふむ。ならばオーブの残滓を利用することも視野に入れておくべきであろう。あれらの保有する戦力は消して馬鹿に出来ぬ。地球圏の統一を為さねば対抗できぬ脅威が出現するのも、そう遠い日の事ではないかもしれんぞ?」

『総帥や我が父もそれは理解していよう。ゆえにフューラーザタリオンをはじめ戦力の増強に余念がない』

 答えるレーツェルであるが、内心はそういうほどに平静というわけではない。実際、DCの軍事部門で重要な人物となっているエペソとて、こちらの宇宙にゼ・バルマリィが出現すればそちらに着く事はほぼ間違いない。
 せめてストライキあたりで済ましてくれれば御の字といったところだろう。この人造の将がここ数年でずいぶんと地球人にも好意的(非常に察しにくくは有るが)になっているが、故国に対する忠義は微塵も揺らいではいないのだ。
 エペソもその事は公言して憚らぬから、大佐という階級、クライ・ウルブズ司令という立場に在りながらDC軍内部での情報閲覧に厳しい制限が設けられている。
 良くも悪くも裏切る、裏切られるということをどちらも覚悟している。

「ふ、前戦役でルオーゾルめが暴れたせいで、いざという時に一致団結しやすくはなっているかも知れんが、それも精々前線に赴き現実を知るモノだけであろう。画像とデータでだけしか知らぬ連中の判断は、常に遅きものよ」

『言ってくれるな、エペソ司令。理想としてはDCの手で地球圏を統一し、その後に事が起きるのが望ましいがな』

「もっとも貴公と余で話をした所で未来が変わるわけでも分かるわけでもない。不毛な話はここまでとしよう。テンザンとガンキラーは余の責任においてしかと預かろう。貴公らはいつ行くのだ?」

『私とミルヒーもオノゴロまでは共に行き、そこで補給と修理、物資の積み込みを終えてから地球圏の調査に動く。南半球では特に問題ないが、北半球では少々動きづらいのが問題だが』

 そうか、と味気なくエペソは呟き、両者の会談は幕を閉じた。地球の水に馴染み始めたか、と自分でも思う頃になって活発化し始めた異星勢力。
 それらが自分達同様に死後にこちらの世界に転移してきたものか、それとももともとこちらの宇宙に存在したものかは今は分からない。
 だがどちらにせよ、ゼ・バルマリィの御旗がこの宇宙にはためいているのなら、自分は迷わずその御旗のもとへと馳せ参じるだろう。それ自体に迷いはない。
444総帥代理:2010/07/16(金) 11:10:33 ID:???
 だが、このクライ・ウルブズの者たちを筆頭に、地球の諸勢力を敵に回す事になるかと考えると、

「手強いな」

 と思わずにはいられない。自分も少なからず精強となるに一枚噛んだ部隊を敵にした時の想像に、我知らず、エペソは静かに笑みを浮かべていた。手元で育てた弟子の成長を喜ぶ師の胸中かもしれない。
 あるいは全身全霊を賭しても勝てるとは断ずる事の出来ない強敵との相対を待ち望む、武人としての高揚ゆえだったかもしれない。
 どちらにせよ、エペソは心中に思い浮かべたクライ・ウルブズとの戦いに、浮かび上がる笑みを抑える事はしなかった。



 トダカ率いる三国合同艦隊本隊との合流を果たしたクライ・ウルブズは、無事にオノゴロ島への帰還の途に在り、クライ・ウルブズ預かりとなっているセプタ級の艦内では、久方ぶりの合流に話の花が咲いていた。
 クライ・ウルブズの機動兵器パイロット達が集合し、賑わう食堂の一角の中心には古参パイロットであるテンザンがいた。
 前大戦終結後、専用機動兵器であるヴァイクルと共に低軌道ステーションアメノミハシラ防衛任務についていたはずの男であるが、今回、新型MSガンキラーと共に古巣であるクライ・ウルブズへと合流してきた。
 テンザンの元部下であったシンやステラ、スティング達の他にもテンザンとは初対面の刹那、アクセル、エキドナ、ティエリア、ジニンといった面々もこの場に顔を突き合わせている。
 人を見下した態度が常のテンザンであるから、初対面の相手にはとかく悪印象を持たれがちだが、そこはそれ、テンザンの気質をよく知るシン達が同席しているためにさりげないフォローが行われている。
 アウルに持ってこさせたストロベリークリームソーダをちゅうちゅう音を立てて啜ってから、テンザンはしげしげと食堂に集まった面々の顔を見回す。

「しっかしまあ、バラエティに富んだ面々が集まってるじゃねえの。シン達とそう変わんねえくらいのガキンチョもいるかと思えば、ピンクおかっぱの姉ちゃんもいやがる。ますます軍隊離れしてんなあ、こかぁよ」

 ガキンチョと言われたのは刹那やレントンらであり、ピンクおかっぱと言えばもちろんエキドナである。クライ・ウルブズ構成員の中でも露出過剰の衣服で豊かな事極まりない肢体を覆っているから、性的な視線を寄せられるのも無理はない。
 テンザンの歯に衣着せぬものいいに、ほとんどの人間は顔を顰めて不愉快気な顔をするが、エキドナばかりは人の心の機微を持たぬゆえにさして気にとめた様子もない。

(テンザン・ナカジマか。DCに所属するアドバンスド・チルドレンの一人。ディバインウォーズからDCに在籍し、多くの戦果をあげたエース。性格に難は有るが高いパイロット適正と実力は侮れんか)

 要注意対象が一人増えたか、とエキドナは電子頭脳内のメモリーチップに書き加える。アクセルもいまだエキドナのよく知る彼らしい素振りを見せずにおり、ヴィンデルやレモンからの連絡もない以上、エキドナは特に大きな行動をとるつもりはなかった。
 テンザンにじろじろと舐めまわす視線を向けられているにも関わらず、エキドナは微動だにしなかったが、周りのジニンやアクセルはむしろエキドナがこの場に居る事に小さな驚きを覚えていた。
 基本的に周囲に対して無関心な調子でいる事が多いエキドナが、新しく赴任――というよりも再赴任してきた元所属員の顔を見ようとするのは、首をひねる思いであったからだ。
 テンザンの方は周囲の反応やエキドナの無関心には興味がない様子で、対面に座ってアイスココアをちびちびと飲んでいるステラに目を向け直す。その目には悪戯小僧めいた光が輝いている。

「ところでよ、ステラ」

「なに?」

 と小首を傾げるステラ。十六歳の所作としてはいささかあどけないものだが、幼い雰囲気と相まって何とも愛くるしいものがある。
 ふわふわと綿菓子のように柔らかな金髪の先端が、桜色の頬に数本かかり、菫色の瞳は他者への悪意や疑いを知らぬ無垢な瞳できらきらと輝いている。
 グルンガスト弐式を駆ってヴァルシオン改と死闘を繰り広げた疲労は、いまだ体の中に残っているはずだが、ちっともそれが表に出てはいない。
 エクステンデッドとしての後天的付与能力はほとんど失ったが、同時に苛烈な訓練と過酷な実戦で積み重ねた経験が、ステラの体に尋常ならざるタフネスを与えているのだ。ステラやアウルもそれを同様であろう
445総帥代理:2010/07/16(金) 11:11:44 ID:???
「おめえ、シンとどうよ? 前からおめえらいちゃいちゃしてたけどよ、少しは仲ぁ、進んだかあ?」

「ふぇ?」

 ぶふぅ、と口にしていたオレンジジュースを噴き出したのはシンである。周囲が二人の仲は二人の自然な成り行きに任せる、と空気を読んで暖かく見守ってくれていたのに対し、この太めの元上司は容赦なく当人たちに切りこんできた。

「おめえが忘れても記録にはばっちり残ってんだよ、シン。初出撃ん時に、ステラが撃墜されたと勘違いしたてめえが怒りまくって叫んだのやらなんやらなあ? 第一、総帥も副総帥も二人の事はほとんど暗黙してんじゃねえかよ」

「い、いいや、それはそれで、これはこれで! お、おれとステラは、その、な、なんという、なんといいますか!」

 汚した口の周りを軍服の袖で乱暴にぬぐいながら、シンは理路整然と言う言葉からはかけ離れた調子で、なんとか弁明しようとするもろくに言葉を整える事も出来ない。
 シンの対面に座っていたアウルは、顔面に浴びせかけられたオレンジ色の滴をぬぐいながら、怒りを満とたたえた瞳でシンを睨んでいるが、あっという間に切羽詰まされたシンに気付く余裕はない。
 周囲の方も、ずばりと切りこんだテンザンに、デリカシーがないとは思いつつも結局、思う所は一緒なので、シンのフォローに回る事はなかった。
 ティエリアやジニン、刹那などは何を言っているんだこいつらは、といった所だが、アクセルやレントン、タスクあたりは興味を示している。意外にエキドナも部隊内の人間関係の情報とあって、テンザンとシン達のやり取りから目と耳を外さずにいた。
 シンが慌てる一方で、ステラはにっこりと笑んだ。大輪の向日葵がそこに咲いたような、輝かんばかりの笑みであった。

「ステラ、シンの事、大好きだよ!」

「あ、う……」

 爆弾といえばもうこれ以上ないというほどのステラの爆弾発言に、シンは自然と抗弁する口を閉ざす。話題の中心人物の片方がこの様子では、自分が何を言おうとも無駄に終わるのは明白だ。
 以前は男女の好きではなく、友情の延長上での意味合いの大きかったステラの好きも、今ではすっかりと異性に向ける好きに変わってきている。
 自分の発言に困ったような嬉しいような、けれど賛成はしてくれていないシンの様子に、ステラは不安げに眉根を寄せる。シンにはステラの頭にしょぼんと垂れる犬の耳がはっきりと見えた。無論、幻覚だ。

「シンは、ステラのこと嫌い?」

 大粒の瞳を不安げに揺らし、かすかに開かれた唇から紡ぎだされた言葉には拒絶への恐れと期待が混じり合い、上目づかいに自分を見上げてくるステラの様子に、シンは耳の先まで赤くなり熱くなるのを自覚した。
 ステラさん、それは反則ですよ。

「……もちろん、おれも、ステラの事が、好きだよ」

 噛み締めるように力を込めて、シンはステラを安心させるように笑みを浮かべる努力をしながら正直な気持ちを告げる。シンとてステラに対して向けている自分の感情くらい、流石に把握している。
 初めて会ったときからはや二年近い年月が経過していて、いまさら自分の気持ちに気付いていないという事は、散々鈍感、鈍い、と言われてきたシンでもなかった。だからといって公衆の面前で口にするのには果てしなく抵抗を覚えるけれど。

「うん!」

 そんなシンの心境はお構いなしに、シンもステラの事が好き、と言ってもらったステラは、喜びの表現を惜しむ事はなく、隣に座っていたシンの左腕に自分から抱きついて頬を摩り寄せる。
 ステラがシンに対して頻繁に見せる子犬が甘えるような仕草であるが、豊満なステラの乳房を惜しげもなく当てられ、挟み込まれているシンとしては非常に困るモノがあった。おもに下半身が。
 かといってこの極楽状態から自分の意思で脱しようなどという考えは、思春期まっただなかのシンに在るはずもなく、鼻の下を伸ばしながらステラの好きにさせるきりだった。
 ただ、後から食堂に入ってきた黒髪の女性が、目に見えないハートマークとうっすらピンク色の雰囲気を振りまいている二人の姿を目撃して、自分でもわからぬうちのその場から逃げ出してしまったが、無論、シンがその事に気付くはずもなかった。

「けーー」

 と奇怪な声と共に舌を出し、やってらんねえぜ、と言外に物語っているのはこのきっかけを作りだした当のテンザン本人である。シンの奴を久しぶりにからかってやろうと思ったのに、間違って藪を突いて蛇を出してしまったらしい。
 シンとステラの衆目を憚らぬ様子に、集まっていた面々もあーあー、はいはい、ごちそうさま、といった様子だ。ま、たしかに第三者が見ていて楽しいものでもない。
446総帥代理:2010/07/16(金) 11:12:43 ID:???
 シンとステラは周囲の様子に気づかないようで、ステラがシンの腕に抱きついた姿勢のまま長いことその場を動かなかった。
 その場の雰囲気を何とかしようと努力したのは、スティングだった。微妙に口元をひきつらせながら、なるべくシンとステラを視界の外に外してテンザンの顔を覗き込む。あまりまっすぐ見つめて楽しい顔ではなかった。

「ところで大尉のヴァイクルはどうしたんだ? 正直、ガンキラーよりあっちの方が大人数を相手にするのは向いているだろ?」

「け、ヴァイクルよりもガンキラーの方がおれの趣味に合うっての。……ヴァイクルの奴ぁなあ、壊されちまったんだよ。いま思い出しても胸糞悪いぜ」

 スティングの質問にあからさまに不機嫌になって答えるテンザンに、ヴァイクルの性能とテンザンの実力を知る古参組の面々がそれぞれ顔を突き合わせた。
 テンザンの実力もさることながら一対多の戦闘において圧倒的な戦闘能力を発するヴァイクルが破壊された、というのは少なからず衝撃を与えるものだ。
 七十メートル近い特機以上の巨躯とそれに見合う耐久性、下手なMSを上回る高い機動性、機体を保護する強固な防御フィールドに、一撃で艦船を轟沈させる強力な砲や無線誘導兵器であるカナフ・スレイブと、申し分ない装備を備えている。
 発見時にはほぼ大破に近い状態であったため、ゼ・バルマリィ帝国純正のパーツがいくつか欠損しており、DC製のものに置き換えられているがそれでもその性能は、現状の地球圏では指折りのものを誇っているはずだ。

「テンザン大尉が乗っていて、ヴァイクルが壊されちまったのかよ?」

「ちいと前にアメノミハシラ近海で、連合の連中が怪しい動きをしているってんでザフトの艦隊と一緒に警戒している時に、アンノウンに襲われっちまってよ。ザフトのWRXともどもそいつらにやられちまったぜ」

「WRXも!? じゃあ、ルナマリアやレイ、シホは無事なのかよ」

「ん〜? ああ、おれもこうしてピンピンしているのとおんなじでよ、あいつらもちょいと怪我しただけで大したこたぁねえよ」

 ヴァイクルのみならずザフトのWRXも敗れた、という話は惚気ていたシンとステラにも、その顔に真剣なものを浮かばせるだけの効果があった。前大戦時によく共闘する機会の多かったWRXチームの敗北は、容易には信じられたものではない。
 友人の訃報にたいする拒絶もあるし、WRXというザフトの切り札的機動兵器の戦闘能力から、敗れる姿が想像できなかったというのもある。
 シン達に衝撃を与えるテンザンの言葉はさらに続いた。

「それだけじゃねえぞ。その時の戦闘を嗅ぎつけて姿を見せた地球連合の艦隊もまとめて潰されちまったからなあ。そん中にはあのリュウセイとかいうクソ野郎のヴァイクルも含まれてたぜ。け、ザマアミロっての」

 地球連合のヴァイクルとなれば、さんざんテンザンのヴァイクルと戦って互角の戦いを繰り広げた機体だ。古参組のクライ・ウルブズのメンバーの中には戦った経験のある者もいるから、その厄介さをよく理解している。
 WRXにヴァイクル二機が撃破されたというテンザンの言葉に、アウルは驚きを隠さずに声を上げる。女の子っぽい顔立ちの中で鋭すぎて印象を悪くしている瞳がまん丸と見開かれていた。

「マジかよ!? 大尉もリュウセイって野郎もルナ達も相当にやれるはずだぜ? よくまとめて倒せたな。その三機だけでMS百機くらいは軽いだろっ」

「まあ、おれらの周りにいたフツーの連中はまるで役に立たなかったわな。ヴァイクルよりもでけえ奴でな。下半身は蛇で腕は四本、そのうち右の上の腕が蛇の頭みたいになってたな。白い奴でまるで十字架みたいにも見えたぜ」

「ザフトに連合、DCにまで牙を向けてきたとなるといったいどこの連中だ? 大尉はなんか聞いてんのか」

 テンザンの言う白い奴の姿くらいは、あとでデータを閲覧すれば見れるかもしれないが、実際に戦ったテンザンがこうも憎々しげに脂肪満載の顔を歪めている所を見るに、相当に強力な機体であるのは間違いないだろう。

「いや、その後にマイヤー総司令なんかと会う機会はあったんだがよ、なにも言わねえでやんのよ。ありゃ何か知っている可能性は高いが、まだおれらに知らせる段階じゃあねえ、てことだろうよ。
 どうにもうちの上層部は得体の知れねえ連中の機動兵器や事情ってやつを不自然なほど知っているみたいだし、うっさんくせえ所ありやがっかんなあ」
447総帥代理:2010/07/16(金) 11:45:56 ID:???
テスト
448総帥代理:2010/07/16(金) 11:48:31 ID:???
あれ? もう解除されてるぞ? まあいいや結果オーライ

 上層部批判というほどではないにせよ、人の耳目が集まる所でよくもまあ口にできたものだ。テンザンの神経の図太さもさることながらそれを容認しているDC内部にも、いろいろと問題はあるだろう。
 流石にテンザンの物言いがあざと過ぎると思ったのか、タスクが宥めにかかった。

「いやいや、そこらへんで止しときなってえ。これ以上はアルベロ少佐かエペソ大佐に怒鳴られかねないっですってば」

「けえ、んな賢い大人にゃなりたくねえっての」

「相変わらずだなぁ。大尉が部隊に戻るってんだから、おれ達の苦労が増えるなあ」

 とほほ、と言わんばかりに顔面表情筋を崩すタスクに、テンザンはぐふふ、といかにも小悪党丸出しの笑みを浮かべる。部隊に戻ってもテンザン節とでもいおうか、悪態度を崩すつもりはないらしい。
 これは周りの連中が苦労することだろう。



 東アジア共和国領にある軍事基地にて、新品同然のティエレンをはじめとした東アジア共和国最新から従来の信頼性の高い品に至るまで、大量の軍需物資が大型の輸送機によって運びこまれていた。
 先だってのクライ・ウルブズ壊滅戦にて手痛い反撃を被り、無数の被害者を出した“頂武”部隊に対する人員と物資の補給である。
 強制的に徴収された頂武部隊だが、共和国軍部の期待以上の戦果をあげる事が出来なかったが、それはどこの国エース部隊も同じということもあり、上層部から早急に処分を下されることは免れている。
 今回運び込まれた物資のリストに目を通していた壮年の男性士官が、問題のない事を確認してリストを兵士に渡して下がらせる。場所は大型輸送機の入り込んだ格納庫内だ。
 MSが立ったままでも問題なく動き回れるほど広い格納庫の中には、待機状態のティエレンを中心に、ウィンダムやスカイグラスパーなど連合の主戦力となっている機体がずらりと並んでいる。
 経験と実績を併せ持った優秀なパイロット達を多く失い、それらの機体を有用に活用できる人材は少なくなっていて、機体よりも人材の補充の方が男性士官――セルゲイ・スミルノフの頭を悩ませていた。
 セルゲイの予想を超えた実力を持っていたクライ・ウルブズの戦闘能力に加え、想定外というほかない増援部隊の出現と、頂武やオーバーフラッグスのエースらでも対処できる限度を超えた事態が続いた以上、仕方のない結果ではあるかもしれない。
 しかし次代の戦争に対し切り札として用意していた超兵を四人も投じ、潜在的仮想敵国である大西洋連邦やユーラシア連邦と轡を並べて戦ってまで、明確な結果を出せなかった事に、上層部がよい顔をするわけもない。
 いまはまだ強制的に今回の作戦を発動させた大西洋連邦に非難が集中しているが、実績を出さねば直にセルゲイと頂武の面々にもそれなり処罰が下されるのは間違いないだろう。
 指揮官としての責任を負う事に恐れや迷いはないが、部下たちにまで累が及ぶことだけは何とか避けられないか、それが不可能でもせめて処罰が少しでも軽くなるよう、結果を残しておきたい所だが。
449総帥代理:2010/07/16(金) 11:49:26 ID:???
「とはいえ、部隊の再編に時間はかかる。ザフトとDCが国内に侵攻してくれば出撃の命令も出るかもしれんが」

 現状では頂武がまともに部隊として機能するのはいささか難しい。セルゲイや副官のミン中尉の能力があれば、それでも部隊をまとめ上げることは不可能ではないが、万全とは言い難い。
 部隊規模を小さくするか強制的にでも共和国内の優秀な人材を集中させるべきか。敵が来るのを迎え撃つ防衛戦ならまだしも機能はできようが。
 セルゲイの冷めた心情を知らぬげに、旧世紀の環境破壊の影響によって砂漠化の進んだユーラシア大陸の大地に吹く風は、多分に黄砂を含み、開け放たれている格納庫の中にまで入り込んでくる。
 数時間も放っておけばなにもかも黄色い砂の中に塗りつぶされてしまう過酷な環境だ。セルゲイは眼に砂が入るのを嫌って、両眼を細めながら基地に戻ろうとした所で、腰につけていた通信機が応答を求めてきた。

「私だ」

『中佐、超機人の起動実験の時間までもうまもなくです。司令部にまでお越しください』

「分かった。すぐに行く」

 超機人。それもまたセルゲイの頭を悩ませている元凶の一つであった。東アジア共和国軍上層部が、他国にもパトロンたるブルーコスモスの盟主達にも秘した半生体兵器。
 セルゲイ自身が目のあたりにしてもなおその存在を信じきれぬ、常識の埒外にある超古代文明が残したという遺産達。
数ヶ月前に超機人を発掘していた共和国の部隊が、謎の二勢力によって壊滅させられた際に、土中から出現した神話上の生物を模したMSの軽く倍はある巨躯を持った紛れもない兵器だ。
それが四機。
いずれも古代中国で存在が論じられた四方を守る四体の神獣の姿をした彼らは、自らの意思を持ち、さらには操者を選ぶのみならず特定の異能力を持たねば、操縦するごとに命を削るという。
どの情報も、発掘現場襲撃の際に超機人達に乗り込んだ共和国軍兵士四名の証言によって判明した事ではあるが、明らかに現代の兵器としては扱う事に困難の二文字を思い浮かばせられる内容ばかりだ。
せめてもの救いは彼ら自身が選んだ操者たちが自軍の所属兵であり、こちらの命令を聞く事と、ロストテクノロジーの結晶である彼ら自身に自己修復能力があり、メンテナンスの心配がない事か。

「しかし、よもやあのようなオカルト的な存在が実在していたとは。歴史がひっくりかえるかもしれんな」

 ひょっとすればこの中国大陸の地下には超機人達の同類が今も無数に眠りについているのかもしれない。龍王機、虎王機、雀王機、武王機、彼らの発見によって軍上層部が迷走してしまうのではないかと、セルゲイは一抹の不安を隠しきれない。
 これまで四機の超機人達の調査は全く未知の存在に対するものであることと、意思を有する半生体兵器であることを懸念したセルゲイの進言もあって、内部構造などに踏み込んだものではなかったが、いつまでもそうはしていられまい。
 焦った上層部や研究班が独断で事を起こし、超機人の暴走を招こうものなら目も当てられない惨事になりそうだ。さんざんSF映画やパニック映画で見られた展開ではあるが、現実でも似たような出来事が歴史で繰り返されてきている。
 自分たちだけがその例外であるなどと、傲慢にも思う事はセルゲイにはできなかった。
 それに超機人達を地球連合を構成する他国に対する対抗手段にしようという上層部の判断にも、セルゲイは戸惑いを禁じえない。確かにこれまでの調査段階でも彼らの潜在的な戦闘能力の高さは報告に挙げられているが、それらは全て推察の域を超えてはいない。
 まるで彼らの戦力としての有用性をよく知るモノが上層部を動かしているようではないか。いくらなんでも考え過ぎのようにも思えるが、セルゲイにとっては超兵の若者達四人よりもよほど厄介な問題のように思われた。
 とにかく、今は自分の目で彼らという存在をよく見、そして判断しなければならない。彼らは国家と国民にとって有益なる存在なのか否か。
 そう遠くない未来に、国家と国民という枠を超え、人類にとっていかなる存在であるか、そう判断しなければならない事態に陥る事を、さしものセルゲイといえどもこの時点で察する事が出来るわけもなかった。

続く。
一週間に一話更新という目標を保てず情け無し。そして変らず規制で本スレに書き込めない状況が腹だたし。
ご感想ご指摘ご助言ご忠告お待ち申し上げております。またお手透きの方がいらっしゃいましたら転載をお願い致します。


代理投下終了。
450通常の名無しさんの3倍:2010/07/17(土) 18:29:05 ID:???
総帥氏・代理氏
共に乙でありました

エペソが敵対かぁ・・・いずれは避けられない・・・

あれ・・・?
ユーゼスはどっちかっていうと粛清対象か?
451通常の名無しさんの3倍:2010/07/17(土) 20:01:53 ID:???
更新乙でした。

ホワイト・デスクロスだから、レビの方か。
・・・まあ、当然黒い方もいるんだろうな(´・ω・`)
452通常の名無しさんの3倍:2010/07/18(日) 15:17:27 ID:???
悪魔王対最終地獄は有り得るのか?
453通常の名無しさんの3倍:2010/07/19(月) 18:22:40 ID:???
クォヴレーとユーゼスも元をただせば浅からぬ因縁があると言えて
ある意味因子は十分溜まってるような

でも正直ブラックデスクロスじゃあまりにも分が悪いというか・・・
しかし設定上で考えればブラックデスクロスとアストラナガンとネオグランゾンは同等のはずなんだか
DWではディスとアストラもほぼ同等の描写だっけ
アストラナガンはCGPSの模倣のティプラーシリンダーで平行宇宙のエネルギーを汲み上げる次元連結システムで
ディスはそれを基礎にして転生待ちの死霊を使う負の無限力の借受・・・

ふと思った
ディス・アストラナガンはドラクエの勇者や僧侶に弱い
454通常の名無しさんの3倍:2010/07/19(月) 21:05:05 ID:???
さすがに人一人ではキツいだろう・・・
455通常の名無しさんの3倍:2010/07/19(月) 22:09:05 ID:???
保志が主演やってるロストユニバースに出てくるソードブレイカー(ヴォルフィード)のイレイズシステムなら多少効くかな?
正の精神力で負の精神力と対消滅させるものだったはず。

スパロボにでないかなぁ…林原ボイス+メイド服+AI+おっぱい=俺の好みなんだが。
456通常の名無しさんの3倍:2010/07/19(月) 22:38:26 ID:???
>>455
キャナルだったっけ?
あれは良いものだ……ADAとあれが俺がAIスキーになった原因だわ。
そういや、ACE-RにアルトリーゼとART-1が出るらしいな。
このスレでやっていたようなネタが半公式化されるとは良い時代になったもんだ
457通常の名無しさんの3倍:2010/07/19(月) 23:22:38 ID:???
>>455
クリスタルハートみたいなものか
アストラナガンならまだ人類の範疇に近いだろうけど
単機だと・・・
458通常の名無しさんの3倍:2010/07/20(火) 17:21:44 ID:???
>>456
スリーサイズは95.58.92だそうだ
459通常の名無しさんの3倍:2010/07/23(金) 23:05:07 ID:???
脚本・構成が八房の新アニメ版は宵闇テイスト溢れてたらいいな
460通常の名無しさんの3倍:2010/07/24(土) 19:35:26 ID:???
>>459
何かの間違いでアインストの中にタッドポールが混じってて
その中に更にジエー博士が混じってても驚かないぞ
461一尉:2010/07/25(日) 18:39:49 ID:???
支援
462通常の名無しさんの3倍:2010/07/29(木) 10:09:39 ID:???
よくよく考えたら00って敵側で出せる貴重なキャラだよな
基本テロリストだし。あ、そういったらWもか。
463通常の名無しさんの3倍:2010/07/29(木) 10:37:58 ID:???
黒本やXみたいなアウトロー組も展開次第で敵にも味方にもしやすいな。
実際劇中で正規軍とやりあってるし
464通常の名無しさんの3倍:2010/08/19(木) 21:19:30 ID:???
保守
465通常の名無しさんの3倍:2010/08/23(月) 01:34:12 ID:???
やっと総帥の作品に追いついた……
466通常の名無しさんの3倍:2010/08/26(木) 18:13:43 ID:???
保守
467通常の名無しさんの3倍:2010/08/27(金) 00:28:46 ID:???
>>456
ACEが悪いとは言わない。
だが、ACEと無双は違うんだ……。
468通常の名無しさんの3倍:2010/08/27(金) 07:47:31 ID:???
スパロボL記念age
前作と似たラインナップや事前の反応等、Jの後にWが出たときと似たような雰囲気のためか、密かに名作になりそうな予感がする
469通常の名無しさんの3倍:2010/08/28(土) 00:33:10 ID:???
OOはいつスパロボに参戦するんだろうか……。

出るとしたらコードギアスやフルメタと出るか?
470通常の名無しさんの3倍:2010/08/29(日) 23:07:14 ID:???
00の話を最初から絡ませようとすると地球が危機的状況なのに敵対or第三勢力が基本で味方で出てもNPCっていう
Fの時のWみたいな困った扱いしなきゃならんだろうし面倒なんでない?
471通常の名無しさんの3倍:2010/09/03(金) 21:09:07 ID:???
今回もゲッターなしか……。
規制が解けたと思えばまた規制。なんなんですかね。

ディバイン SEED DESTINY   第四十六話 黄泉帰りのキャリコ

 地球のとある空間にて。
 全長十キロメートルほどの島の上に、ザフトの陸上戦艦レセップス級が一隻鎮座していた。またレセップスから二百メートルほど離れた所には、神話の時代に建設されたというバベルの塔を思わせる白い巨塔がそびえている。
 不思議な空間であった。
 真昼の様な明るさが空間を満たしてはいたが、空には紅蓮に燃えさかる太陽はなく、また静かな光で夜の闇を照らす月もない。夜天を流れる川の様な無数の星もあるわけでもない。
 なにも光の源となるはずの天体はないのだが、世界が不思議と明るさに満ちているのは、島に聳える塔をはじめとした建築物になにか秘密があるのだろう。
 南洋の海上にて滅びを名とする軍勢同士の戦いに介入した月に潜む騎士『フューリア聖騎士団』と、彼らをこの場に招き入れた『バラル』を名乗る集団が、いま、巨塔の中で会合を行っていた所である。
 前大戦で地球連合との戦いで撃沈されたレセップス級の一隻をジャンク屋から買い取り、フューリーの技術も加えて回収した船の艦橋で、一人の女性がなんとも暇を持て余した様子で艦長席に腰かけていた。
 憂いを秘めた瞳で溜息でもつけば、絵になる様な美女であったが、鬱陶しげに頬にかかる雪色の髪を掻き上げて、彼方に映る巨塔を見つめる視線は猛禽類のごとく鋭く、近づく事さえ憚られるような雰囲気を濃密に醸し出している。
 引き締まった太ももを大胆に晒すレザー製のミニワンピースの上に、月に根拠地を置くアシュアリー・クロイツェル社のロゴが入った緑のジャケットを羽織る美女は、カルヴィナ・クーランジュ。
 地球圏の水先案内人としてフューリーに協力している元地球連合のMSパイロットでもあった。
預けられたフューリーの尖兵であるトーヤ、カティア、フェステニア、メルアの教官役も務める彼女であったが、バラルとの会合においては非常時に備えてレセップス級に待機していた。
バラルの最高意思であるイルイ・ガンエデンと名乗る女性との会合自体は既に終わっており、いまはレセップス級に戻ってきたトーヤ達が艦橋に上がるのを待っている所である。
何度目か、苛立たしげにカルヴィナは左手首に巻いた時計に目をやった時、自動扉の開く音と共に、四人分の足音がカルヴィナのピアスをはめた耳に届く。
戦場に立つにはまだ早いだろうと思わせる少年少女達の帰還であった。
 艦長席に座ったまま、こちら側へ回り込んできたトーヤへ、カルヴィナはぞんざいな口調で話しかけた。不機嫌だな、と初対面の人間でもすぐにわかるだろう。

「ずいぶん遅かったじゃない。鼻の下でも伸ばしてた? トーヤ」

「そんなわけないだろう。それと、地球ではおれはトーヤ・セルダ=シェーンじゃない。紫雲統夜だ」

「ああ、それがアンタの地球人としての名前だったわね。次から気を付けるわよ。それで、なにか収穫はあったの? この分けの分からない所に転移させられて、こっちの手も足も出しようのないってのは、安穏としていられるような状況ではないわよ」

 本来ならMS管制オペレーターの座るシートの背もたれに座ったトーヤは、カルヴィナの用心深さを頼もしく思いながら、肩を竦めて答えた。
 月を立つ時、地球に眠るバラルとの過去の経緯は聞かされている。過去の記録が間違っていなければ、彼女らは心強い、そして決して欠く事の出来ない味方になる。

「イルイが言うにはルイーナの連中はまだ大規模な戦力を整えられてはいないらしい。南極の根拠地の場所も分かってはいるが、破滅の王がわざわざ力を割いてまでシールドしているから、突入するのは無理みたいだ」

「なに、それじゃあ、私達は外に出てきた雑魚を片づけることしたできないってこと? タイムリミットありの相手なんでしょ。すでに状況が詰んでいるってのは考えたくもないわね」

「いやそっちもイルイがなんとかするってさ。おれ達のするべき事はルイーナの尖兵と、その他の脅威の排除。今、地球連合とDCとザフトの三つ巴の戦いの裏で動き回っている連中を、地球圏の戦力が消耗しきる前に出来るだけ叩くなり、情報を集めておく事だ」

「灯りなしで暗闇を進むような話ね。フューリーの情報網でもあまり詳しい事は分かってないって、アルが言っていたわよ」
 確かに、と答える代りにトーヤこと統夜は肩をすくめて見せる。
それにしてもヴォルレントを駆り、戦場に立った時と比べてずいぶんと砕けた口調の統夜だが、どうも普段の騎士然とした時代がかった口調や所作は作ったもので、こちらの普通の少年の様な言動の方が本来の統夜のようだ。
目の前の白髪の美女が、フューリーを支える騎士団有数の騎士であるアル=ヴァンと恋仲である事は、統夜も知る所であった。
 カルヴィナの苛立ちは、状況の不透明さの他にもアル=ヴァンとしばらく会えていないこともあるのかもしれない。
意外に、というべきか、この女性は情の深い所がある。時折その情の深い所が彼女にすごみを与えて、話をしている時にふいに背筋冷たくなるのは、統夜だけではあるまい。

「とりあえずシャナ王女、総代にはご報告しないと話を進められません。地球に降ろす戦力を私達だけに留めるのか、それとも追加の騎士達を降下させるのか、それに今地球圏で起きている戦争にどれだけ干渉するのか、まだまだ早急に決めないといけない懸案も多いし」

 そう取りなしたのは統夜の傍らのカティアだ。地球に降下して以来捜し続けていたバラルとの接触が叶い、いざこれから本格的な活動を、とは簡単には行かない事情が彼らフューリーにもあった。
 フューリーの本拠地ではいまだに新たな故郷への入植を夢見て眠りについている同胞たち数百万が居り、それに対してフューリーの保有する戦力や人員はすくなく、組織戦を挑むには心許無い点が多い。
 月に立ちあげたアシュアリー・クロイツェル社を隠れ蓑にして、機動兵器の保有数を確保し、経験不足であった新米の従士、騎士達を鍛え上げる事には成功していたが、地球圏に蠢く勢力の全てを敵にするには不足であった。
 統夜達とてフューリーの規模から考えれば、消耗を是と出来るような小さな戦力ではない。
 また友好勢力となったバラルの組織の全容もまだ把握できおらず、フューリーの意思を決定するシャナ=ミア王女達の判断を待ってからでなければ、統夜達も次の行動へ移る事は難しい。
 統夜達がいかにも深刻そうに話す様子に、面白くないとばかりにフェステニアは、見た目通りの子供らしい仕草で頬を膨らませる。

「せっかく地球の美味しいものが食べられると思ったのに。フィッシュ&チップス、ボルシチ、天麩羅、すき焼き、北京ダック、トムヤムクン……」

「……テニアの胃袋は相変わらずとして、骨休めにはともかくここに長居すると退屈で死んでしまいそうね」

 いまにも涎を垂らさんばかりの様子のテニアに呆れながら、カルヴィナは憂鬱そうに環境の外に広がるバラルの園の光景を見やる。古代の遺跡を思わせる意匠の建築物がそびえ、生い茂る緑が辺り一面に広がる光景は、欧州風の観光地に見えない事もない。
 しかし、まるで時の流れが止まっているかのように、静謐の中に沈むこのバラルの園の雰囲気は、たしかにカルヴィナの言うとおり慣れぬ者には退屈に殺されてしまうような気分に陥ってしまうことだろう。
 テニアは変わらず地球各地の名物料理をひとつひとつ列挙していたが、それにつられてメルアの方も世界各地のスイーツの名前を口にして、目の前にそのお菓子がずらりと並べられているのを幻視しはじめていた。
 普段は二人を注意する事の多いテニアも、これはもう注意しても直る様なものではないと諦めたのか、額に手を当てて大きなため息一つを吐く。


 東アジア共和国国内『頂武』専用基地地下に設けられた広大なスペースに、いま、四機の巨大な機体が鎮座している。
 将来的に開発される特機の運用なども考慮に入れて建設された基地の地下は、全高二十メートルを超す機体が居ても、まだまだ十分な余裕があり、
 特機の標準サイズとされる五十メートル級の機体があと二個小隊は収容できるだろう。
 煌々と輝く証明の光を浴びながら鎮座しているのは、翼の生えた青い鱗の機竜『龍王機』と白い体に黒い縞の身体を持った機虎『虎王機』。
 さらに朱色の身体を持ち刃を重ねたように鋭い翼を折り畳んでいる機鳥『雀王機』に巨大な岩石の塊から削り出したような甕の巨体と蛇の尾を持つ機亀『武王機』である。
 宇宙にまで人類が進出し生活の場とする昨今に、よくも残っていたと感嘆するような深山幽谷の地に眠っていた古代の人々が残した人界守護の機神達だ。
 共和国上層部が、予め彼らの存在を知って大規模な発掘部隊を送り込んだのかどうかまでは分からぬが、よくもこのようなオカルトめいたものが実在していたのものだ、
 と格納庫の壁面に設けられた観覧ブースの中で、頂武指揮官セルゲイ・スミルノフ中佐は内心で溜息を吐いた。
 自分の目で見たしか信じない、と普段から部下や同僚に公言しているセルゲイではあったが、
 これまでの自分の軍人生活で培った価値観や常識の壁を崩す存在を目の前にするとやはり認めがたいという想いは否めない。
 とはいえ、未知の技術の塊である四体の超機人を前にして、研究・解析の為に派遣されてきた特殊技術開発関連部署のスタッフ達は、
 超機人のデータを閲覧した時から色めき立ち、寝食を忘れて職務に没頭している。
 セルゲイは彼らの情熱には辟易するものを覚えるが、仕事振りに関してだけは認めなければと思っていた。
 しかしその特技のスタッフ達の情熱が理由でトラブルもまた発生していた。機体を解体して内部の動力機関など、
 核となる部分の解明に触手を伸ばそうとした彼らを、それぞれの超機人のパイロット達が制止した為に、口論に発展してしまったのである。
 超機人のパイロット達――クスハ・ミズハ、ブルックリン・ラックフィールド、リオ・メイロン、リョウト・ヒカワの四名の語る所によれば、
 超機人達はそれぞれに高度な知性と明確な自我を併せ持っている、という。
 それに合わせて気位も高く、彼らをぞんざいに扱う事は要らぬ敵意を抱かせ、今後超機人を戦力として組み込むつもりであるならば、
 解体をはじめとした踏み込んだ調査は控えるべきだ、というのがパイロット達の弁である。
 機動兵器が自我を持ち、更には自分達の搭乗者を選ぶ、というのは現状の地球圏の軍事技術を考慮すれば、到底実現不可能に思える超技術だ。
 それを数千年も昔の時代に実現されていたという事も考慮すれば、超機人達の存在自体が、人類史の一部に改訂を要する起爆剤といってもいい。
 クスハ達の言い分を完全に飲み込んだわけではなかったが、セルゲイは歴史的にも軍事的にも極めて大きな価値を持つ超機人達の扱いに慎重な態度を取り、
 特技スタッフの熱意を退けて、突っ込んだ機体の解析を控えるよう通達していた。
 いまだ解明が遅々と進まぬ超機人達は、意思があるとは思えぬ様子で黙して語らず鎮座し、それぞれ機体を拘束具で固定された状態にある。
 超機人にもともとから設えられていた、まるで背後から巨大ななにかの爪で掴まれるようなコックピットには、
 東アジア共和国軍と同一規格の通信機器や操縦に必要な装備を設置されていた。
 超機人達の意思を感じ取れるのが目下それぞれのパイロット達だけという事もあり、
 装備の増設にしても彼らを立ち合わせて、超機人達の様子を逐一確認しながらの作業で随分と時間がかかったものだ。
 現在は超機人とパイロット達が交信している状態をモニタリングし、超機人運用に関するデータを収集している。
 セルゲイは副官のミン中尉と部隊きってのエースであるソーマ・ピーリスを伴い、その様子を見守っていた。
 ブースに無数に設置された各種のモニターは先ほどから変わらぬ画面のままで、なにがしかの益となる様なデータを得られているようには見えない。
 超機人の発掘からこの基地までの移送、解析などにかかった費用もばかにはならず、
 軍上層部が見切りをつけるのも早いのではないかと、セルゲイは冷静に判断していた。
 もしそうなったら、自分達が何を探しているのかも知らず、壊滅させられた発掘部隊の面々が浮かばれないことが、セルゲイには気がかりだった。
 それに超機人のパイロット達は全員が発掘部隊の数少ない生き残りである。仲間達の無念を考えれば、
 パイロットの四人も叶うならば超機人によってなにがしかの成果を上げたい所であろう。

「少尉達の様子はどうか?」

 手近な所でモニターを食い入るように見つめている特技のスタッフに声をかければ、人形を相手にしているかのような淡々とした声が返ってくる。
興味対象以外にはまるで無関心な態度を取るのが、特技スタッフの特徴だった。

「モニターを開始してから変化はありません。超機人の方も同じです」

「そうか」

 いまだ超機人達は秘めた力を振るった事はなく、その存在に驚愕の念こそ抱くものの兵器として運用する事には懐疑的なセルゲイからすれば、 このまま彼ら超機人は死蔵される方がよいのではないかとも思える。
 現在、東アジア共和国を含めた地球連合軍で普及している特機は、前大戦時に開発されたユーラシアのガルムレイドを、量産用にデチューンした機種だけだ。
 ザムザザーやゲルズゲーと言った大型MAの開発と配備も進められているが、DCが今後繰り出してくるであろう特機を相手にするには、いささか物足りなく感じられるのも事実だ。
 また大型MAが開発されたことで、地球連合軍内でもMSとMAのどちらを軍の主戦力とするかで派閥が分れはじめており、
 いまはまだ問題なく機能しているが今後MSやMAの開発・配備に支障をきたすと危惧する者は少なくない。
 そんな中でまた新たに特機にまで手を伸ばすとなると、また余計な一波乱が起きそうなものだ。それに、地球連合と一括りにされてはいるが、
 東アジア、ユーラシア、大西洋の三勢力は、結局のところ一枚岩などではなく潜在的敵対勢力である事は三国それぞれが知悉している。
 DC、プラントという共通の敵がいるからこそ手を結んでいるが、戦後に復興が進んだ時には、三国がそれぞれを敵性国家として見るようになるのは火を見るよりも明らかだ。
 その様な事態に陥った時、他国に対するアドバンテージは一つでも多く所持している事が望ましい。
 発掘された超機人達も今後の展望を見据えたうえで、繰り出す札の一枚となればと目を掛けられたからであろう。
 しかし予算も時間も人員も限られている状況下で、伝える者絶えて久しい超機人の存在をどうやって共和国上層部が知り得たのか、
 セルゲイは訝しくこそ思え、謎を解き明かすことはできそうになかった。

「超機人か、よもや上層部が本気で兵器としての運用を狙っているとは信じ難いが。少尉、ハレルヤ達はいまはどうしているのかね?」

 普段ならミンと共にセルゲイの補佐的な立ち位置には、ソーマの双子の姉妹であるマリーがいるのだが、
 今日はハレルヤが受領した新型機の調整にアレルヤと共に立ち会っており、この場には不在であった。

「はい、タイムスケジュールでは現在ミロンガの飛行テストを行っている予定です」

 銀髪金眼の人形めいた造作の美しさの少女は、セルゲイに淡々と伝えた。
 同じ超兵でありながら一人だけ新型機を受領したハレルヤへのやっかみが、わずかなりともあったせいかもしれない。
 それを察知する事が出来るのは、同じ超兵のマリー、ハレルヤ、アレルヤ、それに傍らのセルゲイくらいのものであろう。

「そうか」

 稚気に近いソーマの苛立ちは、セルゲイには手に取るように把握できたが、それを指摘する事に何の益も見出さなかった為、ソーマに返す言葉は短かい。
 そしてまた、ハレルヤが受領したミロンガという機体にもセルゲイには思う所があった。
 東アジア共和国で主力MSとして配備の進むティエレンとはコンセプトをまるで別とした新型機は、
 高性能テスラ・ドライブの搭載による高機動・高加速性などを活かすために極力装甲を殺ぎ、またパイロットへ多くの負担を強いるものだ。
 殺人的なGを強要するミロンガは、コーディネイターをはるかに上回って身体強化措置を受けた超兵ならともかく、
 一般のパイロットが搭乗した所でその性能を十全に活かせる仕様とは言い難い。
 セルゲイ自身はミロンガでも十分に戦闘を行える優れた技量と頑健な肉体の主であったが、画期的なGキャンセラーかパイロットスーツの改善が見られなければ、ミロンガを友人機として主力機扱いするのは難しいことだろう。
 地球連合構成国内では最大の人員を持つ東アジア共和国といえども、そうそうあのミロンガという機体に適性を持つ人間を確保することはできないだろう、というのがセルゲイの私見であった。
 軍上層部の迷走とも思える様な行動の数々は、セルゲイに少なからぬ不信感と不安の種を埋め込んでいた。
 セルゲイが悩む間も、超機人達は何の変化も見せてはいなかったが、不意に心電図が乱れるようにしてモニタリングしていた画面が大きく乱れて、甲高い電子音が鳴り響く。

「どうし――」

 セルゲイの言葉を遮ったのは、超機人の異常を伝える電子音に重なる更なる警報であった。警報の音のみならず地下まで伝播する大きな振動も断続的に続く。

「状況を報告しろ。どうなっている?」

「先日交戦したバグスの群れです。既に第三警戒ラインまで侵入されています。基地の防衛設備が迎撃していますが、既に三十パーセント以上が機能していません」

「どうしてここまで発見が遅れた」

 そう問い詰める間もセルゲイは足を動かし、MS格納庫へと急いでいた。ソーマ、ミンもセルゲイにつき従う。
 現在の頂武は所属人員も保有MSにも欠損を出し、本来の能力を発揮できる状態にはない。
 基地に配備されていた部隊は、既にバグス――メギロードのコードネーム――迎撃に向けて動いているだろうが、質的には頂武に劣る。
 バグス個々の性能もさることながら、その数も脅威だ。基地の部隊では足元をすくわれる算段の方が大きい。
 だからこそセルゲイは動かす足を速める。

「レーダーに映らない低空から一気に侵攻してきたものかと。また侵攻速度が速く、迎撃が追い付いていません」

「なんとか私達が間に合うまで保てばいいが」



 予め砂中に設置されていた対空レールガン、対MSガトリング砲をはじめとした火器が盛大に弾薬をばらまき、一直線に頂武基地を目指すバグスの群れを叩き落とさんとするが、
 昆虫の外装通りの軽快な動きに当てられず、反撃に放たれるリング状のレーザーによって次々と沈黙してゆく。
 バグスことメギロートに搭載された各種センサーは、既に稼働状態にいたり自分達を迎え撃つべく布陣を敷くティエレンを認識していた。しかし彼らの最優先目標はティエレンではない。
 地下に眠る超古代の遺物超機人であった。目標達成の障害となるティエレン部隊の排除を選択したメギロートらが、折り畳んでいた肢を展開して格闘戦の対応も可能な状態に移行する。
 鏃の様にメギロートらが編隊を組み直し、機動性を活かして一挙に基地構内に飛び込んで基地の壊滅を狙うといったところか。
 基地まで残り七百、六百、五百メートル……。ヤマアラシの針よろしく基地から伸びる火線に数機撃墜されながらも、メギロートの侵攻速度はまるで遅れる事はなく、
 基地に突入されるまで数秒とかからない所まで接近する。
 そして唐突に編隊の戦闘を飛んでいたメギロートが、飛来した無数の弾丸に貫かれて爆散する。ギギ、とメギロートの内の数機が昆虫めいた音声を洩らして機首を巡らし、
 上空で白い尾を引きながら高速で迫る機影を発見する。
 フレームにほとんど最低限の装甲を被せ、背には幾枚ものウィングバインダーを伸ばす東アジア共和国の新型MS・ミロンガである。
 顔もティエレンやダガータイプのゴーグル型と異なり、縦長の細い造作だ。
 右手に構えたストレイ・トマシンガンを無造作に見えつつ正確無比な狙いで、薬莢をばら撒きながらメギロートを次々と白い爆炎花に変えて行く。
 回避機動をとるメギロートを相手に、自身もまた高速で飛行しながら命中弾を重ねて行くミロンガのパイロットの技量は、それこそ神がかったと讃えるほかあるまい。

「おいおい、もう歯応えがねえな。この前の人型は出し惜しみかあ?」

 血に餓えた野獣を思わせる猛悪な笑みを浮かべて、ミロンガの高速機動が生む殺人的な加速にも平然と耐えているのは、金銀妖眼の凶戦士ハレルヤ・ハプティズム。
 超兵専用に用意されたティエレン・タオツーから新たにミロンガに乗り換え、機首転換訓練の最中に在ったのだが、
 メギロートの強襲という事態に制止する周囲を振り切り、独断で迎撃に出たのである。
 正式な命令を受けたわけではない軍令無視の行動であったが、ハレルヤとミロンガがメギロートの頭を上空から抑え、銃弾と両肘内部の小型ミサイルで叩き落とした事は、
 基地の迎撃の用意を整える貴重な時間を稼ぎだしていた。

「おれに全部相手させる気かあ? ええ、アレルヤ、マリー?」

 ミロンガめがけて放たれるリングレーザーの雨の中を、鼻歌を歌い出しそうな余裕を伺わせながら躱すハレルヤは、
 自分の機首転換訓練につきあっていた片割れと同類の名を呼ぶ。
 打てば響く鐘の音の様なタイミングで、速度で勝るミロンガに遅れていたアレルヤのタオツーとマリーのタオツーがメギロートの横脇腹を突く方向から姿を現し、
 滑空砲を連射して弾幕を形成しながら吶喊を刊行する。

「ミロンガはまだ細かい調整が残っているのよ、無茶は禁物よ、ハレルヤ」

「中佐とソーマが出てくるまで状況を維持しなくては。ハレルヤ、ぼくとマリーがサポートする」

 二人に返ってきた答えは極めて好戦的なハレルヤの脳量子波であった。あくまで思考の芯は冷徹に、しかし戦闘の昂揚に性的な快楽に近いものを感じながら、
 ハレルヤは自己の生を実感するためにもより激しくメギロートの群れに斬り込んでゆく。
 ストレイト・マシンガンのマガジンを交換する片手間に、マイクロミサイルで包囲を狙うメギロートを牽制撃墜し、
 ハレルヤはタイム・ラグなしで伝わるアレルヤの思考とマリーの思考を脳量子波で受け取り、誤射などまるで気にした素振りの無い大胆な操縦を続ける。
 メギロートが展開した節足でミロンガに接近戦を挑む。小型のメギロートであっても、機動性の為に装甲を犠牲にしたミロンガを破壊することは容易い事だ。
 四方八方からごく小さな旋回半径を描いて、在る種の蜂が敵に群がってその熱と圧力で殺す様に囲い込んだ上で迫りくるメギロートを、
 ハレルヤはビームサーベルで首を刈り取る様な仕草で容易く斬り飛ばす。
 あるとは見えないメギロート間のわずかな隙間を見つけ出し、節足を弾きくぐりいなし、次々と胴を断たれ、頭を落とされ、羽を斬り飛ばされたメギロートの数が飛躍的に増えて行く。
 ことにアレルヤとマリーの息のぴたりと合ったとしか言いようのない援護の合いの手が、ハレルヤの動きをより大胆にし、
 メギロートの周囲をミロンガが鋼の風となって駆け抜け、射撃と斬撃により、メギロートの殲滅は時間の問題かと思われた。
 だが、そうやすやすと事が運ぶとは、ハレルヤもアレルヤもマリーも考えてはいなかった。
 以前の発掘現場の戦いで姿を見せたのは、この虫達だけではなく、現状の地球圏の機動兵器の水準を上回る人型の部隊。
 それらがまだ姿を見せてはいない。先だっての戦闘以来、メギロートの襲撃は少なくとも東アジア共和国各地では確認されていないために断定はできないものの、
 より困難な事態になると予測しておくことは必要だ。
 既にメギロート迎撃のための基地の部隊も展開を終えて、一般兵士用のティエレン地上型もビームライフルや滑空砲、対空連装砲などでメギロートの撃墜に一役を買い始めている。
 いつ増援が来るか、とアレルヤ達が気を張りめぐらした時、彼らの脳量子波をかき乱す何かが稲妻のように額の裏を貫いた。
 鈍い痛みを伴う悪寒は彼らに粘っこい脂汗を一粒二粒と滲ませる。
 前回、メギロートを有するアンノウンの部隊と交戦した時以上の、胸の内を潰すような重圧とこめかみを万力で締め上げられるような苦痛が超兵たる三人を襲う。
 さしものハレルヤも浮かべていた残忍な笑みを崩し、苦痛を齎す何ものかへの憎悪を募らせた表情を浮かべた。

「んだ、この感じは。この前の野郎と同じ感じだが、前よりヤベえな」

「来るぞ!!」

 アレルヤの緊張に満ちた声と共に、基地上空の空間が歪曲して、そこにMSとほとんど変わらぬ巨大な質量が姿を現し始める。
 メギロートの迎撃に集中し始めていた頂武及び基地の部隊を嘲笑うようにその上空や背後、左右に降下しだす。

「そんな、空間転移!? プラントやDCだって実現できていない技術なのに」

 マリーの驚愕の声が収まらぬうちに、以前頂武部隊と敵対したヴァルク・ベンではなく、全体的に丸みを帯びた緑色の機体『ゼカリア』達が、
 重々しい着地音を立てながら、即座に携えていた長い銃身のオプティカル・ライフルをティエレンと撃ち始めた。
 空間転移という想像だにしていなかった奇襲方法に、心理的動揺に見舞われていた基地の面々は満足に回避する事も出来ず、
 呆気ないほど簡単に光弾に重厚な装甲に穴を穿たれてゆく。
 ウィンダム、イナクト、フラッグなど地球連合の主力MSに比べて一段分厚いティエレンの装甲は、たとえ直撃を受けても一撃ならば耐えたが
 二撃、三撃と着弾が重ねると流石に耐えかねて、黒煙を噴き出しながら倒れ伏す。
 ゼカリアとメギロート達の交戦を見下ろす高度では、顔の上半分を特異な形状の仮面で覆ったキャリコ・マクレディが戦闘の様子を観察している。
 今回は、ヴァルク・ベンこそ伴って来なかったものの、二十機以上に及ぶゼカリアを同道させており、戦力的には十分なものであった。
 人の感情を持っているとは思い難い冷笑を浮かべ、キャリコは嘲りと共に厚い岩盤と幾層もの構造材を見透かすように、それらを見つめる。

「この星の超機人の性能とサイコドライバーの能力、そろそろ試させてもらおうか」

 キャリコの発するどす黒い――それこそ星や太陽の光さえも飲み込む無限の闇の様な圧倒的な質量さえ備えた重圧は、生前の彼が持ち得なかったものであるが、
 一度死を経験した事によって、この男は言い知れぬ何かを身に着けていた。
 昇降エレベーターから基地地上部に到着したセルゲイ、ソーマ、ミンは混戦の様相を呈している状況をいち早く察して、
 無言のままに火器の方向をゼカリアに向けて一気に火を噴かす。
 ややミンは遅れたが、きっかり三機のゼカリアの頭部や胸部に滑空砲の着弾による爆発が起きる。

「わざとバグスを発見させたのは空間転移による奇襲のカモフラージュか。空間転移を察知する技術など、こちらにはないというのに」

 両陣営の技術格差をわざわざ知らしめるような行為にセルゲイは苦虫を噛み潰した思いであった。

「中佐、マリー達が」

 ソーマの声にゴーグルに投影されている全方位映像の一画面に目をやれば、それまで基地を目指していたメギロート達が、
 目標をハレルヤやマリーに切り替えて基地側のセルゲイ達と分断するように動き始めている。

「戦力の分断か。常套手段を取ってきたな」
 とはいえ増援が来る見込みもない現状ではいかに東アジア共和国有数の指揮官とはいえ、
 手札がまるでない状態では先の展開を読む事もイカサマを仕掛ける事もできない。

「ミン中尉、少尉、緑色の機体の撃墜を急ぐぞ。バグスに囲まれたパーファシー少尉達の救出はその後だ。彼らの力量を信じる」

「了解」

「……了解っ」

 自分を半分に分かったも同様のマリーを、すぐに助けに行けぬ事にソーマは二の足を踏む思いだったようだが、
 全幅の信頼を置くセルゲイの判断に異を唱えるような事はしなかった。
 ゼカリアの不意を突いた転移襲撃に浮足立った頂武部隊員達も、指揮官であるセルゲイが姿を見せ、
 ソーマとミンを伴って格の違う実力で持ってゼカリアを撃墜しだすと徐々に混乱が落ち着き、効果的な反撃を行い始める。
 流石にそうやすやすと行くとは思っていなかったのだろう。キャリコは浮かべる嘲笑こそ変わらぬ冷たい温度を保っていたが、
 事態の推移が遅々としたものである事に稚気とそう変わらぬ苛立ちを覚えたようであった。
 仮面を軽く叩いていた指を止めて、キャリコは幾分か億劫気そうに居住まいを正して動かぬ超機人達を見据える。

「ふ、眠りが永すぎたか。ならば無理矢理にでも眼を覚まさせてやろう。サイコドライバーのサンプルはあるに越したことはないが、
既に必要なものではないのでな」

 高空でホバリングしていたヴァルク・バアルは、万雷の喝采を受ける往年の大俳優のごとく左右に腕を開き、その存在を誇示するように胸を張る。
 その胸部装甲の奥底で、世の果てまでも震えあがらせる魔物の咆哮の如き音が徐々に大きくなり始めた。
 音は光を伴い、砂漠の灼熱の陽光を押しのけて赤黒い光がヴァルク・バアルの胸部を禍々しく輝かせ始める。
 やがて地獄の門が開かれるようにして、ヴァルク・バアルの胸部装甲は花開くように展開して、その最奥に秘していた物体を露わにする。
 キャリコはソレをこう呼んだ。

「さあ、出でよ、ディス・レヴ」

続く
お久しぶりです。とはいえ、はたして私の書く文章などに需要はあるのでしょうか? 最近思い悩む様になってしまいました。
しかし改めて振り返るに鋼鉄の咆哮2、ロストカラーズ、デモンベイン、武装神姫とネタにばかり走る自分が何をしたいのかよくわかりません。
こんごも投下間隔が伸びてしまうかもしれません。まことに申し訳ありません。
また出来ますれば本スレへの代理投下をお願い申し上げます。よろしくお願いいたします。
480通常の名無しさんの3倍:2010/09/06(月) 00:21:31 ID:???
以上、避難所からの転載でした
一部、行が長過ぎて改行を入れないと投下できないところがあったので勝手ながら私の判断で改行させていただきました
まとめWikiへの転載の時はその部分に御注意願います
481通常の名無しさんの3倍:2010/09/06(月) 14:41:45 ID:???
総帥&転載の方おつでした。
ここしばらくはまだかまだかと待っていたので、投下は嬉しい限りですよ。

しかし今回はまた物騒なシロモノを…。
482通常の名無しさんの3倍:2010/09/08(水) 20:34:52 ID:???
キャリコにディス・レヴか
似合わないというか、扱いこなせると思えないというか
調子に乗って使ってるうちに自滅するパターンにしか思えないが
この引き、想像を越えるか・・・?

そしてバアルという名前を久々目にして思った
キャリコを踏み潰すかどうかでEDが変わるよん・・・なんてな
あっちはそもそもバエルでバアルは仲間にするほうだが
483通常の名無しさんの3倍:2010/09/09(木) 02:51:16 ID:???
おー、久々乙でした。
情勢も混沌とされてますが、気になった誤字が

>>477
に二か所ほど出てくる

「機首転換訓練」

その前の「機首を巡らし、」という表記につられたんだと思いますけど、こちらは「機種転換訓練」だと思います。
484通常の名無しさんの3倍:2010/09/11(土) 14:56:12 ID:???
避難所に総帥がなんか置いてったので転載

ディバイン SEED DESTINY 外伝 『They revived in the new world』

* これはべつに読もうと読むまいと本編には全く関係の無いお話です。気分転換程度にお読みくださいまし。一部の設定にペルソナ4で出てきた単語や人物が出てきます。


 お気に入りの、白い生地に青い水玉模様を散らしたカーテンの隙間から、ようやく地平線の彼方に上り始めた朝陽が、水の様に私の部屋の中に染入ってくる。
 私なんかよりもずっと早起きな雀の鳴き声も少しずつ活発になっていって、早く起きろって私に囀っているみたい。仕方無しに私はまだ眠たい目を擦り、もにゅもにゅと口を動かしながらベッドに身を起こした。
 胸元のはだけている赤一色のパジャマを脱ぎ、急いで仕事着に袖を通して、洗面所に向かって足を動かす。この家の朝は早い。特に私の朝は。
 年代物の鏡の前に写っているのは、あちこちにピョンピョン跳ね飛んでいる赤い猫毛、金色の瞳を小悪魔的に輝かせ、頬には少しのそばかす。
いつもと変らない私――ネーナ・トリニティがそこにいた。
ここは東アジア共和国日本地区八十稲羽市の稲羽中央通商店街にある、久慈川豆腐店。通称マル久豆腐店。久慈川の久を○で囲んでいるからだってさ。
 なんで私がお豆腐屋さんを手伝っているかって? 色々あったのよ、色々。
 お台所の前を通ると朝の冷たく澄んだ空気の中に、最近ようやく馴染んだミソスープの匂いが混じり始めている。もうおばあちゃんが朝ごはんの用意をしているみたいだ。
 早くしなくっちゃと私はぱたぱたと足音を立てながら「おばあちゃん、おはよう」と、簡単に挨拶をする。するとお台所の方から小さいけれど、おはよう、というおばあちゃんの返事が返ってくる。
 うん、やっぱり、挨拶を返してもらえると嬉しい。
 お台所に入って、おばあちゃんが用意してくれていた朝ごはんの乗ったお盆を手に取り、私はそれを運ぶことにする。
 自慢にはならないけれど、私はあまり料理が得意なほうではない。得意ではないけれど不得意でもない、てところ。
 前に一度会ったことのあるおばあちゃんの孫の女の子は、作る料理が何でも辛くなっちゃうらしい。おばあちゃんのお豆腐料理は美味しいけれどあっさりしている反動かもしれない。
 それからなんどか私はお台所と居間を行ったり来たりして朝ごはんの準備を済ませた。私とおばあちゃんが忙しく動き回ってると、ようやく置き出した男連中が顔を出してきた。

「ああ〜〜、ねみぃ」

「おはよう、ネーナ」

 と大あくびを隠さないミハ兄と既にきっちりと仕事着を着込んだヨハ兄が顔を出す。私よりも先に死んでしまった兄兄ズと再会できたことは、この世界に放り出された私にとって最も幸運な事だった。
 兄兄ズは、私が五年分成長していたことにかなり驚いたけど。ヨハ兄はともかくミハ兄とはほとんど変らなくなっちゃったんだもん。仕方ないよね。
ちゃぶ台を、おばあちゃんとミハ兄とヨハ兄と囲む。兄兄ズはもう着替えていて、ヨハ兄は働いている工場の制服の上着を脱いだYシャツ姿。営業と事務を兼任しているらしい。
 ミハ兄は白いタンクトップ姿。今日も工事現場に出向いて肉体労働に勤しむから、着込む必要は無いみたい。
 朝一番の私の仕事は、前日水に浸しておいた大豆を新しい水で洗う事。大豆は作るお豆腐によって種類が変るので、大体五銘柄くらい。一種類に付き二升から四升を用意しておく。
 この大豆を洗う作業は力とコツがいるし、持ち上げる時はかなり重量がある様に思える。おばあちゃんにはつらい作業だから、これは私の大事な仕事だ。よし、と私は自分を激励して、一日の始まりの仕事に息巻いた。
 ほかにも豆乳を搾って箱に詰め、絹豆腐や木綿豆腐なんかをすべて「〜〜ながら作業」でこなしてゆくのだけれど、これがもう大変。
 私が大変だな、辛いと思うような作業も、おばあちゃんはにこにこと優しい笑顔のままびっくりするくらいの速さでこなしてゆく。一つの事を何十年もやってるとこうなるんだなあ、と感心感心。
 そういうと、おばあちゃんはこれしかできないんだよ、ていうけれどそれでも私はすごいと思う。いつか私もあんな風になれるのかしら?
 誰かが聞いても別に楽しくはないかもしれないけど、これが今の私の日常。
 何か文句ある?

おしまい
485通常の名無しさんの3倍:2010/09/11(土) 14:56:55 ID:???
たまにはこんな短い話も良いかなと投下しました。
まだ本スレにてご感想ご指摘ありがとうございます。反応をいただけることが私の何よりの糧です。
なにも反応がないのはとても寂しいものです。
とにかく、トリニティの三人はこんな感じでのんびりと過ごしています。


だそうです
486通常の名無しさんの3倍:2010/09/11(土) 19:51:18 ID:???
トリニティが何故豆腐屋の居候してんのかその経緯が気になる。

あと、豆腐屋ということで峠を攻めるハチロクがふと頭の中に浮かんだ。
487通常の名無しさんの3倍:2010/09/11(土) 20:30:53 ID:???
>>486
中の人ネタじゃねえ?
488通常の名無しさんの3倍:2010/09/11(土) 22:10:50 ID:???
ああ、中の人ネタだな・・・
りせちーはアイドル復帰したから居ないってわけか・・・

本当なら迷うことなくテレビの中に突き落としてやりたい気分だが・・・・・・あの婆ちゃんを悲しませることはできねぇよ
orz
489通常の名無しさんの3倍:2010/09/12(日) 22:10:02 ID:s5N/Jkxx
ほす
490通常の名無しさんの3倍:2010/09/14(火) 22:16:08 ID:???
>>487
ミハエル=番町(主人公)
ネーナ=りせ だっけ?
見事なまでに正反対な性格だな両者
491660 ◆nZAjIeoIZw :2010/09/20(月) 09:49:57 ID:???
規制とけたかな?

ディバイン SEED DESTINY 
第四十七話 ディスの心臓

 広大な格納庫の中、特機用に合わせて作られた巨大な拘束具で四肢を束縛された四体の超機人達が、不意に一斉に伏せていた顔を上空へと向ける。厚い岩盤と幾十層もの防壁に覆われた天空の先に、恐るべき『ナニカ』の存在があると気付いたがために。
 青龍、白虎、朱雀、玄武と古の幻獣を模した超機人たちのみならず、その操者達もまた突如全身の細胞を捉えたおぞましい気配を感じて、顔面に驚愕の表情を張り付けていた。
 龍王機にはクスハ・ミズハ、虎王機にはブルックリン・ラックフィールド、雀王機にはリョウト・ヒカワ、武王機にはリオ・メイロン。
 はるか天空にて死者の怨念、憎悪、憤怒とありとあらゆる負の感情を力と変えるモノが、その存在を自ら知らしめた事によって、強制的に彼らは知覚させられていた。
 空を覆い尽くす暗雲に嵐の到来を予感するように、自分達にとって天災にも等しい何かがすぐ傍に現れた事を。
 東アジア共和国有数の指揮官セルゲイ・スミルノフの指揮下に組み込まれ、超機人のパイロットとして頂武に転属されていた四人は、全員がパイロットへの転向に納得していたわけではない。
 しかし背筋を貫く悪意の風に生存本能が危機を伝える警鐘を打ち鳴らし、戦わねば死ぬという現状を無理矢理にも魂が理解していた。
 脳波測定用の器具を内蔵した特別なパイロットスーツに身を包んでいたクスハは、龍王機と自分自身が感知した気配に、顔色を青く変えてひどく冷たい汗で頬を濡らしていた。

「やだ、なん……なの、この感じ。龍王機、貴方も感じているの?」

 数千年の眠りから目覚めた人界の守護者は自ら選んだ操者に答える余裕もないのか、主動力機関である五行器を猛々しく唸らせて、全身に力を漲らせていた。
 龍王機が炎の海の真ん中に放りだされ、一縷の望みを胸に抱いて脱出路を探しているかのような焦燥感に突き動かされている事を共感し、クスハは自分達に襲いかからんとしている脅威が、予想をはるかに超えたものである事を悟る。
 それはクスハだけではない。
 あの発掘現場で偶然にも生き残り、四体の超機人に選ばれた他の三名もそれぞれの超機人達が焦燥に急かされて、急速に鼓動を速めている事を理解していた。
 虎王機の操者ブルックリン――ブリットも、クスハにはやや劣るが優れた強念者として素養から、まるで青空が鉛と変わって自分達を押し潰そうとしているかのような重圧に歯を食いしばりながら、現状をどうすれば打破できるか、必死に頭を巡らして考えていた。

「中佐はこのまま待機しているようにと言ったが、このままここに居ても何もできない!」

 ブリットの意思に呼応するかのように、虎王機が自らの意思で伏せていた状態から立ち上がり、四肢を拘束していた拘束器具を引き剥がし、ひしゃげ、千切れた器具が辺り一帯に散らばり始める。
 四体の超機人の中ではその気性から先陣を切る事の多い虎王機に続けとばかりに、武王機が、次いでその対となる雀王機が、さらにやや遅れて龍王機も立ち上がろうと動き始める。

「勝手に動いたら命令違反になるよ!?」

 ブリットを制止したのはリョウトである。やや気弱で自己の意思を表現するのに気後れしている所のあるリョウトには、セルゲイの待機命令を破る形になるのが不安なようであった。
 軍規違反に抵触する行為であることは紛れもない事実だ。
 もともとは整備兵であったという事もあり、超機人のパイロットになる事にもっとも難色を示したのもリョウトであった。とはいえこの場でのリョウトの反応も致し方ないというよりも極正常なものである。
 一度も戦闘を経験しておらず戦闘能力は未知の上に、現行の技術から成る新型機どころか数千年も昔の遺失技術によって作られ、ほとんど解明も出来ていない機体で戦場に出た所で一体どれだけの事が出来るのか、保障するものは何もないのだ。
 理由も根拠も何も分からない不安感や焦燥感に駆られて命令違反を犯してまで、地表の戦闘に乱入しても戦力となるかは不明で逆に足手まといになるかもしれないとあっては、行動に移る事を躊躇するのは当然だろう。
492660 ◆nZAjIeoIZw
「だからってこのままじゃ、まずいわ。なにが拙いのか分からないけど! とにかく」

「それは僕にもわかるけれど」

 躊躇するリョウトをリオが叱咤するも、言葉にできない焦燥感によって自分自身が冷静ではない事を自覚しているのか、リオの言葉は彼女にしては珍しく力がない。
 死線を幾度もくぐり戦士としての経験と覚悟、矜持を抱いていたならばともかく、この場に居る四人はまだ実戦の場をくぐっていない新兵も同然であり、沈着なる態度を望むのは難しい。
 そして、事態は四人の迷う間にも進展していく。
 頂武基地上空、セルゲイや四人の超兵達が襲い来るメギロートやエスリムを相手取り猛火の応酬を繰り広げるのを見下していたヴァルク・バアルの胸部から溢れる光は、よりその禍々しさを増していた。
 知的生命体の暗黒面に落ちた霊魂。天文的な数に及ぶそれらを多次元宇宙全体から吸収し、自らの力と変えるディス・レヴの力の極一端の開放に過ぎなかったが、総量からすれば匙の一掬い程度に過ぎない力でさえ、天地が鳴動し大気をどよもす絶大な脅威である。

「ディス・レヴの鼓動、確かに届いているはずだが、まだ眼を覚まさぬか。それとも怯え、足が竦み動く事さえできなくなったか? いずれにせよ、もうお前達を待つのは止めだ。四神の超機人よ、操者と共に滅するがいい」

 因果律の番人の保有するディス・レヴとはことなり、赤黒く輝く光を荒れ狂う龍のごとく四方八方に発していたヴァルク・バアルの中枢に設えられたディス・レヴはその光を、前方の空間一点に集中させる。
 ディスの心臓とも呼称されるディス・レヴを保有するディス・アストラナガンは並行世界より力を酌み取る機能を持つティプラー・シリンダーとの併用によって、対象を存在しなかった時間軸にまで逆行させる現象を可能としている。
 ディス・レヴ単体では時間軸に干渉して対象を消滅させる事は極めて難しいが、ティプラー・シリンダーに対応する動力機関として、量子波動エンジンを搭載した事によって、ヴァルク・バアルもまた時間逆行現象を引き起こす事が可能となっていた。

「人界の守護神を詐称する骨董品共よ。存在し得なかった時まで遡り、この宇宙の因果より抹消してやろう」

 ヴァルク・バアルの周囲を赤雷の世界と変えていたディス・レヴの鼓動が唐突に収縮し、前方の空間の一点に複数の光球を形成する。
 ひと際大きな光球を中心に軌跡が円を描く回転運動を始めれば、それは因果律や時間軸への干渉能力を有さぬ限り、防ぎようのない必殺の一撃となる。
 現行のザフトやDC、地球連合の戦力では前大戦時に姿を現したディス・ヴァルシオンやポゼッション状態のサイバスター、ネオ・グランゾン辺りでもなければ抵抗することさえできまい。
 頂武の基地ごと超機人らを葬るだけの力を蓄え終え、キャリコはわずかに人差し指を動かしてトリガーを引こうとし、ヴァルク・バアルの周囲を囲むように発生する空間の歪曲に気付いて注意を逸らした。

「重力場の異常、か。この前といい、横槍の多い事だ」

 正体不明の何物かの出現という事態を前にしてもキャリコは慌てた様子を見せず、闖入者への苛立ちをかすかに冷笑の端に浮かべて、ヴァルク・バアルの前方に発生させた中性子の群れを、いままさに現出しようとしている何ものかへと放出する。

「ふ、まずはこいつらから消すか。さあ、因果の果てへと消え去るがいい!! アイン・ソフ・オウル、デッドンエンドシュート!!!」

 厳重に絡みついていた鎖から解き放たれた猛獣のように、負の思念を周囲へと伝播させながら、赤光の群れはようやく具現化しようとしはじめていた何か達へと容赦なく襲いかかり、着弾地点を中心として旋回をはじめる。
 赤い光の球体達は空間それ自体を食料とする異界の魔物であるかのように、転移してきた骨の様な異形達数十体を空間ごと抉り、次々とその姿をこの世から消し去ってゆく。
 眼で追うのも困難な速度で餓えた狼の群れのごとく白骨の異形達へと襲い掛かる球体達は遂には異形達の姿を完全に消し去り、最初から異形達などまるで存在していなかったよう。
 ほんのわずかにディス・レヴと量子波動エンジンの力を解放した程度に過ぎないが、数十体の異形を葬るのには十分以上の力であったと見える。
 新たに手にした力に暗い愉悦を噛み締めながら、キャリコは時間軸から抹消した異形ではなく、自身の背後に忍び寄っていた別の気配へと言葉の槍を向けた。