新人職人がSSを書いてみる 19ページ目

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1通常の名無しさんの3倍
新人職人さん及び投下先に困っている職人さんがSS・ネタを投下するスレです。
好きな内容で、短編・長編問わず投下できます。

分割投下中の割込み、雑談は控えてください。
面白いものには素直にGJ! を。
投下作品には「つまらん」と言わず一行でも良いのでアドバイスや感想レスを付けて下さい。
荒れ防止のため「sage」進行推奨。
SS作者には敬意を忘れずに、煽り荒らしはスルー。
本編および外伝、SS作者の叩きは厳禁。
スレ違いの話はほどほどに。
容量が450KBを越えたのに気付いたら、告知の上スレ立てをお願いします。
本編と外伝、両方のファンが楽しめるより良い作品、スレ作りに取り組みましょう。

前スレ
新人職人がSSを書いてみる 18ページ目
http://hideyoshi.2ch.net/test/read.cgi/shar/1249545878/

前々スレ
新人職人がSSを書いてみる 17ページ目
http://hideyoshi.2ch.net/test/read.cgi/shar/1237414014/

まとめサイト
ガンダムクロスオーバーSS倉庫 Wiki
http://arte.wikiwiki.jp/

旧まとめサイト ポケスペ
ttp://pksp.jp/10sig1co/
2巻頭特集【テンプレート】:2009/10/01(木) 20:15:01 ID:???
〜このスレについて〜

■Q1 新人ですが本当に投下して大丈夫ですか?
■A1 ようこそ、お待ちしていました。全く問題ありません。
但しアドバイス、批評、感想のレスが付いた場合、最初は辛目の評価が多いです。

■Q2 △△と種、種死のクロスなんだけど投下してもいい?
■A2 ノンジャンルスレなので大丈夫です。
ただしクロス元を知らない読者が居る事も理解してください。

■Q3 00(ダブルオー)のSSなんだけど投下してもいい?
■A3 新シャアである限りガンダム関連であれば基本的には大丈夫なはずです。(H21,3現在)

■捕捉
エログロ系、801系などについては節度を持った創作をお願いします。
どうしても18禁になる場合はそれ系の板へどうぞ。新シャアではそもそも板違いです。

■Q4 ××スレがあるんだけれど、此処に移転して投下してもいい?
■A4 基本的に職人さんの自由ですが、移転元のスレに筋を通す事をお勧めしておきます。
理由無き移籍は此処に限らず荒れる元です。

■Q5 △△スレが出来たんで、其処に移転して投下してもいい?
■A5 基本的に職人さんの自由ですが、此処と移転先のスレへの挨拶は忘れずに。

■Q6 ○○さんの作品をまとめて読みたい
■A6 まとめサイトへどうぞ。気に入った作品にはレビューを付けると喜ばれます

■Q7 ○○さんのSSは、××スレの範囲なんじゃない?
△△氏はどう見ても新人じゃねぇじゃん。
■A7 事情があって新人スレに投下している場合もあります。

■Q8 ○○さんの作品が気に入らない。
■A8 スルー汁。

■Q9 読者(作者)と雑談したい。意見を聞きたい。
■A9 旧まとめサイトへどうぞ。そちらではチャットもできます。

■捕捉
旧まとめサイトのチャットでもトリップは有効ですが、間違えてトリップが
ばれないように気をつけてください。
3巻頭特集【テンプレート】:2009/10/01(木) 20:17:33 ID:???
〜投稿の時に〜

■Q10 SS出来たんだけど、投下するのにどうしたら良い?
■A10 タイトルを書き、作者の名前と必要ならトリップ、長編であれば第何話であるのか、を書いた上で
投下してください。 分割して投稿する場合は名前欄か本文の最初に1/5、2/5、3/5……等と番号を振ると、
読者としては読みやすいです。

■補足 SS本文以外は必須ではありませんが、タイトル、作者名は位は入れた方が良いです。

■Q11 投稿制限を受けました(字数、改行)
■A11 新シャア板では四十八行、全角二千文字強が限界です。
本文を圧縮、もしくは分割したうえで投稿して下さい。
またレスアンカー(>>1)個数にも制限があるますが普通は知らなくとも困らないでしょう。
さらに、一行目が空行で長いレスの場合、レスが消えてしまうことがあるので注意してください。

■Q12 投稿制限を受けました(連投)
■A12 新シャア板の場合連続投稿は十回が限度です。
時間の経過か誰かの支援(書き込み)を待ってください。

■Q13 投稿制限を受けました(時間)
■A13 今の新シャア板の場合、投稿の間隔は最低四十秒以上あかなくてはなりません。

■Q14
今回のSSにはこんな舞台設定(の予定)なので、先に設定資料を投下した方が良いよね?
今回のSSにはこんな人物が登場する(予定)なので、人物設定も投下した方が良いよね?
今回のSSはこんな作品とクロスしているのですが、知らない人多そうだし先に説明した方が良いよね?
■A14 設定資料、人物紹介、クロス元の作品紹介は出来うる限り作品中で描写した方が良いです。

■補足
話が長くなったので、登場人物を整理して紹介します。
あるいは此処の説明を入れると話のテンポが悪くなるのでしませんでしたが実は――。
という場合なら読者に受け入れられる場合もありますが、設定のみを強調するのは
読者から見ると好ましくない。 と言う事実は頭に入れておきましょう。
どうしてもという場合は、人物紹介や設定披露の短編を一つ書いてしまう手もあります。
"読み物"として面白ければ良い、と言う事ですね。
4巻頭特集【テンプレート】:2009/10/01(木) 20:22:15 ID:???
〜書く時に〜

■Q15 改行で注意されたんだけど、どういう事?
■A15 大体四十文字強から五十文字弱が改行の目安だと言われる事が多いです。
一般的にその程度の文字数で単語が切れない様に改行すると読みやすいです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
↑が全角四十文字、
↓が全角五十文字です。読者の閲覧環境にもよります。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あくまで読者が読みやすい環境の為、ではあるのですが
閲覧環境が様々ですので作者の意図しない改行などを防ぐ意味合いもあります。

また基本横書きである為、適宜空白行を入れた方が読みやすくて良いとも言われます。

以上はインターネットブラウザ等で閲覧する事を考慮した話です。
改行、空白行等は文章の根幹でもあります。自らの表現を追求する事も勿論"アリ"でしょうが
『読者』はインターネットブラウザ等で見ている事実はお忘れ無く。読者あっての作者、です。

■Q16 長い沈黙は「…………………」で表せるよな?
「―――――――――!!!」とかでスピード感を出したい。
空白行を十行位入れて、言葉に出来ない感情を表現したい。
■A16 三点リーダー『…』とダッシュ『―』は、基本的に偶数個ずつ使います。
『……』、『――』という感じです。 感嘆符「!」と疑問符「?」の後は一文字空白を入れます。
こんな! 感じぃ!? になります。
そして 記 号 や………………!! 



“空 白 行”というものはっ――――――――!!!



まあ、思う程には強調効果が無いので使い方には注意しましょう。

■Q18 第○話、って書くとダサいと思う。
■A18 別に「PHASE-01」でも「第二地獄トロメア」でも「魔カルテ3」でも「同情できない四面楚歌」でも、
読者が分かれば問題ありません。でも逆に言うとどれだけ凝っても「第○話」としか認識されてません。
ただし長編では、読み手が混乱しない様に必要な情報でもあります。
サブタイトルも同様ですが作者によってはそれ自体が作品の一部でもあるでしょう。
いずれ表現は自由だと言うことではあります。

■Q19 感想、批評を書きたいんだけどオレが/私が書いても良いの?
■A19 むしろ積極的に思った事を1行でも、「GJ」、「投下乙」の一言でも書いて下さい。
長い必要も、専門的である必要もないんです。 専門的に書きたいならそれも勿論OKです。
作者の仕込んだネタに気付いたよ、というサインを送っても良いと思われます。

■Q20 上手い文章を書くコツは? 教えて! エロイ人!!
■A20 上手い人かエロイ人に聞いてください。
5通常の名無しさんの3倍:2009/10/01(木) 20:41:24 ID:???
スレ立て乙。
6通常の名無しさんの3倍:2009/10/02(金) 08:36:13 ID:???

そういや未保管のSSどうする
スレが落ちたらみれなくなるぜ
7通常の名無しさんの3倍:2009/10/02(金) 09:00:11 ID:???
>>6
昼休みか今夜あたり行ってきます。
うっかり続きでいやどうもノシ
845 ◆/UwsaokiRU :2009/10/03(土) 17:52:17 ID:???
今から投下開始します。
10レスあるので、5か6レス目で一回止めますんで誰か支援下さい。
9SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/10/03(土) 17:53:24 ID:???
22/

「なんて奴等だ、戦闘で俺を圧倒するだと? ちっ! 宇宙だったら――じゃねえ、
今の戦いだけに集中しろ」

 鉤爪を持った新緑の魔鳥――カオスの操縦席で、スティング=オークレーは舌打ちを漏らした。
ファントムペインの生体CPUとしてこの戦争を生き抜いてきたが、カオスの性能に不満を覚えた
事は今だかつて無かった。

 スティングをほとんど無視して、真紅と漆黒の影が壮絶な格闘戦の軌跡を空に描いていた。

 交差して追随し、捻り込んでは身を躱す、互いの機体をライフルの熱線で結ぶその戦いは、
完成された舞踏を見るように無駄はなく、それでいて苛烈の一言。目まぐるしい戦闘を続ける
赤のセイバーと黒のムラサメは、その動きが二秒先も読む事が出来ない。

 手を出すタイミングを計り損ねたまま、既に数十秒が立っている。

「どんな操縦してやがるんだ――!?」
 全力で上昇――体を襲うGに顔を歪めながら歯噛みする。

 宇宙なら、カオスは二機をまとめて十分に戦う事が出来ただろう。
 並みのパイロットが相手なら、スティングはウィンダムでも戦える。
 
 だが、この機体、このパイロットを前にしては――ムラサメがカラスなら、セイバーはツバメだ。
カオスはロケット花火に過ぎない。

 カオス本来の性能を十分に発揮できない大気圏では、エクステンデッドといえど、一撃離脱で
嫌がらせをする程度の戦いを強いられている。たとえ接近戦に持ち込めたところで、機動性に
掻き回された上で一撃を喰らうのが明白だった。

「ネオが居れば、せめてあのムラサメ野郎だけは確実に落せるのによ」

 重い戦闘機を駆って、羽毛のように軽軽と、曲芸じみたマニューバをこなす黒い疫病神に、
"ファントムペイン"は何度も煮え湯を飲まされてきたのだ。否応なくつんだ経験によって、
ネオとスティングだけは、そこそこムラサメに対応できる。

「居ない奴に頼っても仕方ない――な!」

 一人でも戦えると証明しなければ、明日を与えられることがない。スティングは消耗品だった。

 高度を十分に上げて、機首を下に向けた。突撃と共に意識を区切り、本体と切り離したポッド、
それらの操作を同時に行う。

 スティングにはそれが出来た――エクステンデッドであるがゆえに。

10SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/10/03(土) 17:55:10 ID:???
23/

 "砲台"を先行させる、カオス本体は空気抵抗でやや減速した後に追随。高度計が
スロットの速さで回り始めた。
 体がGにたたきのめされて、血液が脳から引く。その感触がスティングの生きていることを
証明してくれる。

 手放しそうな意識をとどめるのは、にっくきムラサメ野郎を狙う、というその戦意だ。

 カオスは双頭の鷲――両の嘴からビームを連射してムラサメを狙う。

 ムラサメは加速、変形、宙を蹴って振り向き再加速、変形しつつ減速、逆噴射して方向転換と、
冗談のようなマニューバで火線を回避したが、本命は鷲の爪モ――MA形態で急降下する、
カオス本体のビーム砲だ。

「外すなよ――此処だ!」
 コンピュータに、敵の回避機動を予測させ、追い込むように公算射撃、十中八九で
ムラサメは火線に飛び込むように直撃を喰らう――はずが、ムラサメは直前であっさりと
身をひるがえした。ただ、それだけだ。

「なん――だと!」
 結果を信じられない。それほど会心のタイミングだった。

 遥か下の海面で水蒸気爆発が起こる。ポッドを回収しつつ高度を下げて、海面近くで
機首を起こして離脱する。血が引いてぼうっとする頭で、スティングは思考した。

 かろうじて頭が回るのは、戦闘前に静注した人工血液のおかげだろう。
 ――副作用は絶対に教えてくれないが。

「まさか、こっちの機動予測プログラムを先読みしていやがるのか?」
 互いにデータを取り合えば、『当てる』と『避ける』は8:2程で『当てる』に軍配が上がる。
 プログラムの性能がそのレシオを決めるが、これを逆転させるために必要な作業の地味さは、
スティングの想像を絶した。

 どんな野郎だろうか、とにかく気に食わない。と、初めてムラサメという"入れ物"ではなく、
中に座るパイロット達への殺意を抱いた。そして更に気に食わない要因を通信機に拾った。

『もういいだろう、俺たちが争っている間に――オーブは!』
『引けるならここまで来てないよ。君にまだ、見せたい物があるんだ!』
 ビームとともに宙を飛ぶ無線通信。

 ――こいつら、戦闘中に敵とおしゃべりしてやがる。
 スティングのこめかみに、太い青筋が浮かんだ。
11SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/10/03(土) 17:55:51 ID:???
24/

 ――埒が開かない。そう思いながらアスランは操縦桿を引き倒した。天地が入れ替わった
視界の端を赤い輝線が切り裂く。「話を聞け!」ビームを放った黒い機体に向けて怒鳴った。

「お前もアークエンジェルもイレギュラー。あのMSじゃないが、戦場のカオスそのものだ。
戦争に口出しするんなら、正当な手順を踏んでから来い!」
 強烈な加速度に呼吸を制限されながら、アスランは説得を試みる。

『君にはすまないけど、表玄関からじゃあ入れない処が有るって事だよ。そして僕は、
其処に裏側から踏み込むことを決めた。彼女もだ』
「わけが分からん!」

 普段の柔弱さがなりを潜めて、頑ななほど話を聞かないキラが、よりによって彼の親友
なのだった。質問しつつライフルを放ち、返答代わりのビームを頂戴する事には、流石に
うんざりしてくる。

 言葉はあやふやで、しかも行動が全くあやうい。

「行間を読むような器用なまねを押し付けるな! 俺に!」

 言葉の端々を理解しようと必死に試みる。要は、ラクスとキラが静かに暮らせる場所か、
戦争を止められる何らかのカードを探しているのだ。

 戦争のただ中で。
 戦場の真ん中で。

「お前でなければ、とっくに打ち落として居るぞ、全く」
 本当にそんな事が出来ると思っているのか。自分がやれと言われれば即座に両手を挙げる。
キラの行為の無謀さに、絶望を覚えそうだ。

「真実だとか、戦争を止めるカギだとか。軽々しくそんなものが転がっているわけあるか!」
 言いつつ、キラで無ければ何度も撃墜出来るだろう攻撃を放った。

「戦場で何を探そうと、見つかるのは死体だけだ」
 だからこそ死人を覆い隠すために、人はわざわざ兵士を棺桶に――MSに乗せて
戦場へ送るというのに。

『生きている人たちが、戦場にいるから――!』
「狙いは……奴らだな!?」

 ブルーコスモス。その上位組織であるロゴス。あるいはプラントのターミナル、ファクトリーと
言った非公式の存在。キラは恐らく、ミネルバの察知していない何かを追っている。
12SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/10/03(土) 17:56:41 ID:???
25/

『そうだよ、だからさ――』
「だからといってこの場を見逃せるほどには、俺は偉くないんだよ!」

 地球連合の同盟軍がザフトと一戦交えているところに、連合の中で――極め付けに――
ブルーコスモスの息が掛かった、ファントムペイン"だけ"を攻撃させろ、見逃せと言う。

『はぁ――っ!』
「ぬぅ――!」

 そう言う割りには、アスランでなければ防御も覚束ないような、辛辣な斬撃を
幾度となく浴びせているムラサメだった。

「何かを見せようとしているな? そのためだけに、こんなことまで出来るなら、
どうしてオーブでカガリを助けようと考えなかった!」
『それは本当は、君がやる筈の事だろう――!?』

 キラは――アークエンジェルは――ブルーコスモスだけを邪魔し、刺激し、あぶり出し、
反撃の手を向かわせることで、何かの情報を得ようとしている。

 そしてその"ついで"に、アスランにも何かを見せようとしているのだ。

『今は、僕と戦ってくれれば良い!』
「む――っ!」
 一つ言えるのは、キラの追う何かについてアスランが知るのは危険だと、キラ自信が
思っている事だ。

 際どい間合いで放たれたミサイルを撃ち落としつつライフルを向ける、MS形態の
運動性ではセイバーに軍配が上がっている事は、キラにも分かっているらしかった。

 たまに来るカオスの攻撃は、集中力の端っこで無視していた。

「カガリに戦争させたくないなら、余計にオーブに帰れ!」
 返事はビームだった。
 バーニアを吹かして回避、追いすがるように機体を狙うCIWSの弾幕はVPS装甲が
弾くに任せた。12.5mm機銃弾で沈むセカンドシリーズでは無い。

「馬鹿野郎!」
 厳しく言いつつ、ビームを射掛けて反撃の火線を送る。ムラサメは戦闘機形態で回避。

 ザフトにとってのセイバーが『変形できるMS』であるならば、オーブにとってムラサメは
『人型をとりうる戦闘機』であるために、それぞれ得意とする形態が違った。

 セイバーにサーベルを抜かせて加速、肩口から袈裟がけに斬り込もうとしたが、
力押しを嫌ったキラにCIWSとライフルで牽制され、加速を緩めた隙の離脱を許す。

13SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/10/03(土) 17:58:00 ID:???
26/

『ほんとうは、君とは戦いたくないよ』
「出来ない、それが戦争だ。撤退か投降か、どちらか選べ!」

 強靭なフレーム、充実した火力、莫大な推力の作る機動性とVPS装甲の防御力。
MA形態での運動性と稼働時間を除いて、セイバーがムラサメに劣る要素は無い。

 片手間に、めげないカオスを振り払う。邪魔するな、と思った。

 技量はほぼ互角にも拘らず苦戦するのは、機体に触れ続けた時間の差が出た結果だ。
 フェイスの称号と共に完成品を受け取ったアスランとは違い、キラはそれこそ設計図の
段階からムラサメに関わっている。パーツ一つ一つの重量まで把握していると考えて良い。

「そこまで機体を完成させておきながら……お前のやっていることは只のテロだぞ?」
 返事は一条のビーム。
 友人関係を維持すべきか疑問を抱きつつ、かなり本気で撃ち返す。が、風に舞う木の葉を
棍棒で殴るが如し、ムラサメはひらひらと、冗談のようなマニューバでビームを躱していく。

 千日手に陥る程互いの戦力が拮抗しているが、VPS装甲を使うセイバーのほうが、
確実にエネルギーが早く尽きることになるだろう。

「バッテリー狙い、か? いろんな手を打つようになったな」
 アスランは攻め手に欠けていた。
 このままエネルギーダウンまで格闘戦を続ければ、たとえキラがセイバーを見逃しても、
余裕を残したカオスに食われる。三十六計の選択肢が頭に浮かんだ。

 ふとモニターのランプが点灯している事に気がつく。通信のサイン。

「カオスから通信だと、一体なんの用だ?」
 回線を開く。カオスはやや上空でMS形態のまま浮かび、武装を向けてもいなかった。
『前置きは省いとくぜ。俺と協力してあのムラサメを落とせ』
 顔も見せないパイロットは、そんなことを言って来た。

「何だと!」ムラサメの背後に捻り込みながら言葉を返す。放ったライフルはムラサメの
左に逸れて大気に散滅した。
『大いに本気だ、別に仲良くしようってわけじゃねえ」
 存外に若い声――誰かの指示を受けているのかも知れない。

『只、俺が突撃してバランスを崩させたところにあんたが止めを刺せば良い、
それだけのことだぜ? そして仕切り直しだ、改めて俺とあんたで戦う』
「そんな、敵と協力しろというのか?」

 ムラサメが手足を振りながら回転、ベクトルを大きく変えてセイバーの方を向くと、
六門のCIWSから一斉に機銃弾を吐き出した。

14通常の名無しさんの3倍:2009/10/03(土) 18:00:48 ID:???
支援
15SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/10/03(土) 18:02:46 ID:???
27/

『俺とあんたとムラサメ、全員"味方じゃない者"同士。そして俺とあんたは軍人だが、
ムラサメは何処にも属して居ない――テロリストだ』

 セイバーの外観からミサイルは装備されていないと判断したのだろう。ムラサメは
贅沢に弾幕を張り、相当数が真紅の機体を捕らえる。
 関節や武装に直撃しない限り損害は殆ど無いが、エネルギーの残量を表すゲージが
見る間に磨り減り、焦りを誘った。

『共通点を挙げていけば、俺たちの方が立場が近いさ。それとも――』
 機体を旋回させて距離を取る。

『――今から本気を出して、そいつを殺して落とすか? セイバーのパイロット』
 ムラサメからのビームがかすり、"アムフォルタス"ビーム砲が一基使用不能となった。

「本気で戦っているに決まっているだろう! 何を言っている」
『ごまかすなよ、あんたの技量とその機体の性能、マジで殺しにいけばムラサメを
落とせないわけが無い。それをしないのは、したくないんだろうが?』

 反論しようとして、言葉が浮かばない。

「貴様、アーモリー・ワンで何をやったか忘れたのか? 戦争の引き金を引いて……」
『話を逸らすなって。あのムラサメと違って、命令が無ければ、好き好んで戦場に
顔を出したりしねえって。それに俺は、命令を聞かなければ死ぬ身分でな』

 カオスのパイロットは言葉の端に自分の正体を明かした――強化人間だという事か。
MA形態のムラサメから放たれる機首のビーム砲を躱し、すれ違う。

『嫌ならいいが、その場合、俺はあんたらの試合が終わるまで待つぜ、そしたら、
結果がどうなるかは自分でも分かるだろ?』
 そうなれば、余力を残したカオスにキラも自分も食われることになる。
迷いを残すアスランに、カオスのパイロットは畳み掛けた。

『別に星は要らねえんだ、止めはあんたにくれてやる。お友達を生かして
帰すにはこれしかないぜ?』
 ムラサメに適当な損害を与えて、撤退させる手伝いをしようというのだ。

 アスランは苦笑した、一番空戦に向かない機体ながら、主導権を得ようとしている。
自分たちの甘さが招いた事態だ。しばらくシンを怒る事は出来ないな、と思い、適当な
回避起動を取りつつ考えていたとき、全周波数で、元気すぎるほどの声が響いた。

『私は、オーブ連合首長国代表、カガリ=ユラ=アスハである!』

 がくり、と力が抜けて、一瞬操縦がおろそかになった。
 隙を見せたか? と肝を冷やすも、ムラサメも同じように体勢を乱していた。
16SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/10/03(土) 18:04:44 ID:???
28/

『そこなムラサメ、剣を引けぇ! 此処は、我々とザフトの戦場だ!』
 と言いつつ、"ルージュ"はアグニをぶっ放した。この距離で当たるわけがない、
と思っていたら、太い熱線がカオスを掠めた。『うおっ!』と声が聞こえる。

 どうやら彼も、不幸の星に生まれているらしい。ざまあみろ。

『……ねえ、見た?』キラの声。
「ああ、聞いた」静かに答える。

 ――彼女は、相変わらず元気だ。アスランは、その声を聞くだけで、不思議な程の活力が
湧いてくる事に少し戸惑ったが、直に余計な考えを振り払った。

 カガリの声で元気が出る事の、何が不思議なものか。

 そしてようやく、アスランはキラの本心にわずかながら気づいた。
 キラ単純に友達として、『カガリとアスランに殺し合って欲しく無かった』のだ。
 アスランはザフトとオーブの戦争だと思って自分を誤魔化し、オーブに討たれるのならば
それでも良いとすら思っていたが、キラにはそう見えてはいなかった。

 故に、キラが出来る唯一の方法が、敵として現れ、アスランを足止めする事だったのだから。
 キラはバカだな、とアスランは思った。

「ああ、そうだ。カガリの前で、こんなバカな敵を殺せないな」
『敵は余計だよ――多分』
「バカは否定しないのか?」
『ちょっと自覚がなくはないから』

 覚悟を決めた。親友を本気で生かす為に、親友を本気で討つ。
 カオスに通信を開いた。

「いいだろう、俺が牽制と止めを刺す。お前は隙を作れ」
『オーケーだ。ザフトの赤服』
 こうし、て太平洋上空においてセイバーとカオス、敵味方に分かれたセカンドシリーズが
初めての連係を見せる事になったのだ。

 セイバーとカオスの動きが変わった。互いを牽制しあう挙動から、互いの死角を保護する機動へ。

『アスラン? 一体何を――って、ちょっと!』
「彼女も言ったぞ、剣を引けと! キラ、お前はいい加減に下がれ!」

 カオスの動きを警戒しなくなったセイバーに不審を覚えて、キラが通信を送ってくるが、もう遅い。

 セイバーは猛然とライフルを連射し始めた。大きな隙が生まれるため、僚機が居なければ危険だ。
今のセイバーには、それが居た。真紅の後ろから深緑が飛び出し、有り余る推力を以って最大加速。
17SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/10/03(土) 18:05:28 ID:???
29/

『任せたぜ、赤服!』
 攻撃の切れ目に合わせて突撃したカオスは、ビームの間隙を縫って機動兵装ポッドを放出、
二つの砲台と本体あわせて三つの砲門から多角的にビームを発射し、ムラサメの軌道を狭めた。

 セイバーがサーベルを構えて突撃する。頭部の20mmCIWSを斉射――ムラサメは
シールドで防御。サラに接近。サーベルを翻して逆撃するムラサメの太刀筋を読むと、
ビームの刃を振り降ろすと同時に関節をロックさせた。

 ――激突。

 ムラサメの受け太刀と噛み合い、サーベルはすさまじいスパークを散らす。
 全質量を乗せた斬撃が一瞬受け止められたかに見えたが、凄まじい推力を組み合わせて
打ち込まれたビームサーベルを止めることが出来ずに、ムラサメの左腕が切断された。

『アスラン――!』キラの絶叫が響く。
 と、ムラサメが全搭載ミサイルを一斉に放出した。
 ミサイル群は少しずつタイミングをずらしながら噴射を開始し、セイバーに迫る。
ムラサメは自機の発射したミサイルと軌道を交差させるように加速し、CIWSと
ビームライフルの砲口を開いた。

 自らのミサイルを回避しながら突撃という、自爆覚悟、必死のマニューバはキラの奥の手
なのだろう、多角攻撃で死角を作りつつPS装甲を削り、ライフルで止めを狙う。
 片腕を落とされては、先程までの複雑怪奇な機動はこなせないに違いない。

 2、3発はミサイルを貰ってでもビームを回避しようとするセイバーに、漆黒のムラサメが
近づいてくる。しかしセイバーに食らいつく筈だったミサイル群は、下方から発射されたカオスの
ビームによって進路を阻まれ、殆どが爆散してしまった。

「あいつ――!」
 Gに顔を歪ませながらもアスランは苦笑する、妙なところで律儀なカオスだった。
 せっかくの掩護を無駄にはしない。狙い済まして放ったビームがムラサメの両足を貫き、
運動性を著しくそぎ落とす。

『ク――ッ! 僕たちは諦めないからね!』
 ムラサメが分解した。ように見えたのは一瞬で、両腕と武装をパージしたムラサメが
ほぼ完全な戦闘機形となって離脱する。

「やれやれ、捨て台詞まで丁寧な奴だ」
 雲を曳いて離脱するムラサメには、セイバーといえども追いつけない。戦場に、
セイバーとカオスだけが残された。

18SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/10/03(土) 18:06:25 ID:???
30/

『よっしゃ、上手くいったな』
「……それで、どうするんだ?」
 戦闘を継続するのかどうか、一応聞いてみる

『仕切り直してさあやるか……と言いたいところだが、興が乗らねえ。それに戦ったところで、
絶対に俺が負けるしな』
「……成る程」

 アスランはカオスの状態を見て納得した。二つある筈の機動兵装ポッドが片方しかない、
突撃の後、回収に失敗したようだ。戦闘機で言えば、片肺で飛んでいるようなものだろう。

『それに、上司から帰れと言われたしな』
「ああ……俺もだ」

 それぞれの母艦から帰還を命ずる信号弾が打ち上げられ、空を原色に染め上げていた。
戦況はどうなったか、確認もせずに戦闘に興じた自分はフェイス失格かも知れない。

「こちらはアスラン=ザラだ。君の名前は?」
 アスランはふと気まぐれに話しかけた。通信機の向こうで口笛が鳴らされる。

『こんなところで伝説のパイロットにお目にかかれるとはな。俺の名は……いや、忘れときな』
 カオスもまた機首を巡らせ、母艦へと帰還して行った。

「タケミカズチは……下がったか。そうだな。それがいい」
 一人残された戦場の空で、アスランはとある感慨にふけった。
 戦場には確かに真実など転がってはいないが、時々何の采配なのか奇妙なことが起こ事は有る。
 親友と再会したり、敵と協力してその親友を撃墜したりする。

 もしかしたらそんな物語の中から、新しい可能性が芽吹く事だって、有るかも知れない。

「いや、そんなことはありえない……これは感傷なんだな」
 自分の行いに希望を見いだしたい気持ちが、そう錯覚させるのだ。
 アスランの零した独り言を残して、セイバーもまたミネルバへと帰る。

 静寂を取り戻した戦場の空には、三方にまっすぐ伸びる飛行機雲だけが残された。
それらは虚空に薄れ消えるまでしばらくの間、太陽に赤く照らされていた。

19SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/10/03(土) 18:09:53 ID:???
31/31

「助かった……のか?」
 中破したグフから脱出して、ハイネは、インパルスの足下に座り込むシンを見た。
「おれ……弱かった」
「生き残ってりゃあ、幾らでも強くなるチャンスがある。それは強さだよ」

 意気消沈したシンを慰めながら、ハイネはガイアとの戦闘を思い出していた。
ルナマリアから、油断のならない機体だとは聞いていたが、至近距離で振り回した
レーザーソードを事も無げに回避して見せた反射速度は、異常の一言だった。

 飛んで逃げれば、飛行不能だったインパルスが食われる。地上で近接格闘戦に
つきあった結果、最強と謳われたガイアの陸戦能力を、二人は存分に味わったのだ。

「なあ、シン――」
「どうしてトドメを刺されなかったか……ですか? 分かりませんよ、そんなこと」
「いじけるんじゃねえよ、お前を責めてる訳じゃない」

 コクピットハッチが破られるほど損傷し、後一歩でインパルスを仕留められる場面で、
シンを目にしたガイアは何故か攻撃を躊躇ったのだ。ハイネからは、敵のパイロットが
苦しんでいるようにも見えた。撤退信号を受けて逃げるように去っていったのにも、
そうした強い感情の動きが垣間見える。

「まさか知り合いか? ……そんなことあるわけ無いよな。
シン、作戦の仕上げだ。念のため、グフの中に入りな」
 ハイネは、座らせたグフの中にシンを招き入れた。ハッチを閉じる。

 熱紋センサーが、上空から飛来する数え切れない程の隕石を捉えていた。全て、低軌道から
ザフトが落としたものだ。グフとインパルスを避けるように、連合軍の展開していた北岸に
次々と突き刺さって行く。

 激しい地響きがグフを揺らし、舞い上がった土が黄昏れ色の装甲に降り積もった。

「勝ち……ですかね?」
「この一戦はな。だが、連合の艦隊を叩けなかったし、デブリ落としの戦術もばらしちまった。
次は同じようには行かないだろうさ。グフも暫く使えないだろうし……な」

 ハイネの予想では、海峡を守るために、次はこちらから叩きに行かなくてはならない。
乱入してきたムラサメとアスランの関係も調べなくて、システムのハッキング対策も必要だ。
そもそも人事について慎重なタリアは、議長から押しつけられた形のハイネとアスランを重用は
しても信用はしていなかったりと、ハイネ視点では色々と問題が多い。

「次……か」
 ――戦いたくないのは俺もだよ。
 と言葉には出さないが、シンの厭戦気分を代わりに吐き出すように、ハイネは長いため息で
力を抜いて、疲れきった体をグフのシートに埋めた。
2045 ◆/UwsaokiRU :2009/10/03(土) 18:14:53 ID:???
以上、投下終了。支援に感謝。

カガリは出すために出した感じになっちゃいましたが、
間が延びそうだったので説教シーンはカット。

以上で24話終了。25話に続きます。
次はええっと、ステラ拾ったどー、のお話ですね。

感想、ご指摘はご自由にどうぞ。
21赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2009/10/04(日) 16:19:23 ID:???
っと、今から投下させていただきます。えーと、今回はちょっと設定説明話になります。
前、投下してた時もちょっと説明的過ぎるんで話を挟むタイミングをかなり迷ってましたが
あまり修正話だけでもあれなので此処で早めに設定を確定させる事にしました

えーと、予定レスは12前後になるので途中どなたか支援お願いします
22赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2009/10/04(日) 16:20:55 ID:???
            英雄の種と次世代への翼
               第二幕「第二次マリーメイア事変」

――パーティから12日前。ピースミリオンブリーフィングルームにて

 マリーメイア・クシュリナーダ。CEの二度にわたったプラントと地球連合の独立闘争の前に起こされた
 ナチュラルが大半を占めるコロニー郡の独立と主権を奪い合う戦争の中で
 象徴として大人達によって戦争の矢面に立たされ、地球へと宣戦を告げた指導者。
 その宣戦直前まで”地球”の政治と軍事の頂点に立っていた男、トレーズ・クシュリナーダの娘。
 そして、歪められた時代の中で何故か巨万の富を得てしまった運命の悪戯を受け
 再び歴史の矢面に立つ事になった少女は今、午後三時のスコーンのさくさくとした歯応えと紅茶の甘い香りを堪能している。
 大きなモニターが置かれている彼女の優雅なひと時と反比例する様な無機質な戦艦の一室に一人の女性が入ってくる。
 レディ=アン。ユーラシア連邦内に存在したロームフェラ財団が牛耳る武装組織OZ(オズ)に身を寄せていた彼女だが
 今はマリーメイアの後見人(と言うより身元引受人といった方が適切かもしれないが)兼秘書として行動を共にしていた。
 優雅さに過ごされていた音楽は止められて、レディはモニターのスイッチを操作していく。

「では、マリーメイア様。そろそろ、CEの戦役史の復習の時間です」
「あら、もうそんな時間ですか? けど、CEの戦役といっても殆どここ数年前の事じゃありませんか」
「はい。確かに主に大規模な戦闘はCE72年からの3年間に集約していますが、
 CE71年の頃には既に火星圏に着いていた私達マーシャンにとって蚊帳の外の話」
「それはそうですわね。まぁ、私達はろくに事情も知らされていませんでしたから」
「戦役の終わりと共にようやく、地球圏の資料が公開されましたし
 此処で真実を復習しておかないとどちらかの陣営に良い様に使われてしまいます」

 マリーメイアは背筋をピシッと伸ばしたまま、レディの話を聞きつつもモニターへと目を向ける。
 顔は僅かにこわばり、瞬きの回数は一気に減り始めて緊張と言う言葉を自らの姿勢と態度で体現してた。
 彼女達はあと数日立てば、この巨大な戦艦ピースミリオンは地球圏への帰還を果たす。
 およそ、5年振りに地球の土を踏む事になるのだが浮かれ気分の者は少なかった。
 特にCEで起こった第一次ヤキン・ドゥーエ戦役及びその2年後再び起こったプラントの独立戦争が二度も行われている。
 地球は大分ダメージを負っていると聞かされていたので、この艦に乗っている誰もが内心穏やかではなかったのだ。
 また、コロニーを火星から離脱させてからはろくに情報も入っておらず、今回それらの起きた出来事を復習する機会を設けた。
 外交上相手国の事を知る事は当然としてなのだが、何故か代表である彼女達3人は別々に時間を設けて
 その説明を受ける事になっていた。マリーメイアはそれが最後の番だった為、それだけ不安が積もっていた。

「まるで、冷戦……いえ、ナチスドイツ陥落、ソ連崩壊の時の様ですわね」
「似た様なものです」
「それもそれで、酷い言い方ですわね。ところで変な似非情報は混じってませんわね?
 何万人虐殺しただの、残酷な処刑をしただのグロテスクなプロパガンタには興味ありませんわ」
「そういう細かい事は触れませんのでご心配なく。何よりそれらは現地で見て周りませんと事実は解りませんから」
「わ、解りました」
23赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2009/10/04(日) 16:22:22 ID:???
 マリーメイアの最初の懸念事項は和らいだ。最年少である自分が最後に回されたのは
 とてもショッキングな出来事があった事への考慮なのだろうかと予想していたからだ。
 何やら、コロニーが地球へ落とされたり、軍隊がかなり消滅したとも聞かされてはいた。
 僅かに震えていた手を隠す様にしながらも、マリーメイアは事前に
 ティータイムでリラックスした状態の跡で話を聞く準備を整えていた。 
 その様子を見て、レディも僅かに頷いた後、モニターから資料を見せていく。
 大まかな戦争年表と地球と更に月とプラントが映し出されている中
 ポインターで年表を現在のCE75年からCE69年までさかのぼると地球の勢力図はまるで変わっていた。
 マリーメイアもその余りの変化の様子に目を見開きたたずを飲んで見つめている。

「では、CE68〜69までの出来事は実際、経験していますから大丈夫ですね?」
「勿論、解っていますわ。プラントより、私達のコロニー郡は一足早く独立闘争を勃発。
 といっても、殆どが僅かな特殊工作員でしたわね。それに連合のお家騒動の連鎖も加わったと」
「はい。殆どは私たちは基地を制圧出来ましたが、それにきっかけにユーラシア連邦の内ゲバが起こり
 OZとコロニー側へと寝返ったホワイトファングのお家騒動と言った所でしょうか。
 正式なコロニー側の軍隊はマリーメイア様。いえ、デキム・バートンが率いた施設軍位でしたね」

 マリーメイアは5年前までの事を一つ一つを昔、使わなくなって閉まい込んでいたおもちゃ箱を整理するかの様に記憶を整理していく。
 それはまぶたに焼きつくほど鮮明に、そして確実に自分の身を持ってして体験した壮絶な日々であった。
 その当時、地球連合内でも世界は一つに纏まっては居なかった。
 西欧を中心にリーオーやエアリーズなどという名前を付けられて20年ほど前から運用を進めていた
 MS(モビルスーツ)と呼ばれる巨大な人型で核動力を用いた兵器を多数所有し
 各地を武力による併合、制圧をしていたOZ(オズ)と呼ばれるユーラシア連邦の武装組織。
 宇宙での覇権を広げたままその第一勢力となり、月を丸々保有して多数の宇宙軍を持ち
 ブルーコスモスと呼ばれた思想団体とそれを支援する企業団体ロゴスを擁し
 後にダガーシリーズなどのバッテリー型MSや宇宙用のMAなどを多く保有したと聞く大西洋連邦。
 二つの巨大勢力の中、彼らを標的にしたヒイロ=ユイをはじめとしたガンダムパイロットがテロ活動をする中
 トレーズの娘という事でバートン財団の私設軍隊を自らが代表となり、率いていたこと。

 全ては大西洋連邦とユーラシア連邦の諍いの中、ガンダムパイロット達が介入した事に始まり
 結局、ユーラシア連邦のOZの中から反乱を起こしたホワイトファングがコロニー側についた事で
 OZとホワイトファングは共倒れになり、多くの軍人が死ぬか、コロニーへと流れ着いた。
 その戦争の後、ユーラシア連邦政府へマリーメイアとデキム・バートンの軍隊が出兵し
 地球にニュートロンジャマーが打たれる直前に軍事的恫喝の元、ドサクサにまぎれて勝ち取った独立。
 群雄割拠か戦国時代かと問われて、ハイと頷くしかない非情な戦争の歴史であった。
 
「しかし、プラントも良くリーオーやエアリーズ相手に勝てましたわね。ジンでしたっけ? 彼らのMSは」
「それはNJ(ニュートロンジャマー)のおかげですね。あれのおかげで核を使ったエンジンのMSは機能停止。
 リーオーもエアリーズも動かず、大西洋連邦のダガーが出るまで彼らの独壇場でした。
 それにユーラシア連邦のMSは私達がかなり戦力を潰してしまいましたから」
「やはり、あの計画は地球にも実行されたのですか。ホワイトファングの紛争直前に私達にも打ち込まれましたが」
「バッテリー技術が進んでいたプラントは、予めそれを見込んでの開戦の様でしたからね。
 だが、時系列的にはそれはもっと後になります。慌てて勘違いしない様に」
「解りました。はぁ、しかしなんと愚かな事を」
24赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2009/10/04(日) 16:23:59 ID:???
 その出てきた単語にイスから立ち上がりテーブルを手で叩いて憤怒の形相を,見せる。
 それをレディは止める事無くじっと見つめていると自然と握りこぶしを作ったまま
 マリーメイアはその拳を自らの膝の上において、小さく震えながらもじっと次の言葉を待っていた。
 コロニーがそろそろ連合の闘争が終結し掛けていた時、別宙域にいたプラントが
 核を止める機械をばらまく計画があるという事を知らされたのだ。
 プラントとはコーディネイト技術などかなり倫理的に問題視される技術を推進していた。

 ソレに加え、プランと野武装組織ザフトが公表していた”ジン”と呼ばれるMSは世界から笑いものにされていた。
 何故か電気バッテリーを利用した核を持たないMSだったからだ。
 確かに安全性は良いとも言えるが、正直な話バッテリーに逐電出来るだけの電力量では
 高出力のビーム兵器など積んだら、数時間と立たないうちに動かなくなってしまう。
 ただでさえ、弾薬の量など懸念事項が覆いMSにおいて、そんな設計をするのは愚の骨頂。
 その当時、誰もがザフトのMSを見て、そう思っていた。しかし、それがその計画が全て前提にして行われている事が
 解ったときは何もかもが手遅れで笑っていた人間全てはその嘲笑を後悔する事になった。
 コロニーは内心穏やかになく、大西洋連邦、ユーラシア連邦も粛々とMSの開発計画の変更を余儀なくされていた。
 マリーメイアはそれが決め手となり、ユーラシア連邦は大きく大西洋連邦に牛耳られる様になった事を改めて聞かされた。

「やはり、核が止まるとなると……地球の人々のエネルギー事情は悲惨な事に」
「けど、おかげで連合において、モビルドールシステムはご破算。ニュートロンジャマーのおかげで
 MSも動きませんし、大規模な軍事的運用が困難になっています」
「そうですね。あれが来られていたら私の軍もコロニー独立どころか出兵すら難しかったですから」
「パイロットの多くが死んだユーラシア連邦の切り札でしたからね。さて、話を戻します。
 コロニーは一部工作員によるオペレーションメテオとマリーメイア事変でユーラシア連邦から何とか独立を勝ち取ります」
「結局は理事国に私達とプラントを二つ相手にするのは無理と判断しての譲歩でしょうけど」
「はい。資料によるとユーラシア連邦に対して、大西洋連邦が治権の一時放棄とプラントへの対応を強要する為の口実だったそうです」
「……酷い話ですね。おまけに私達もプラントに敵視されたりと、結局ろくな事はありませんでした」

 マリーメイアは言葉を詰まらせながらもその大人たちの汚い国とコロニーの切り売りに憤りを感じていた。
 あの時の混乱とは今では思い出しても思い出したくない。MSを無人で運用するもビルドールシステム。
 それはホワイトファング及びユーラシア連邦の開発基地となったリーブラのニュートロンジャマーによる
 機能停止を受け、その情報からマリーメイア軍はユーラシア連邦に宣戦を布告をしている。
 開発された高性能MSガンダムシリーズや高性能だが配備数の少ないサーペントでも
 あの物量に押しつぶされたら一たまりも無かった。何より、実はまだMDを生産している基地があるとの情報と
 結果的にMSの殆どが機動不可能にするニュートロンジャマーがあるという事は大西洋連邦のMAからも
 プラントのMSから一方的に蹂躙されてしまうと言う事に繋がり、その結果を想像する事は恐怖でしかなかった。
 そして、いつでも潰せると言わんばかりに挑発を繰り返しながらも協力を取り付けようとするプラントの行動。
 周りの全てが敵と成り果てたあの絶望感はマリーメイアの幼い身の上にはとても応えた。
 だが、皮肉にもそれが彼女の更正もとい、自由を手に入れるきっかけとなったのは本人にとっても悪い冗談だった。
 彼女を傀儡として利用していたデキム・バートンはその一連の動きでマリーメイアに財産と権限の全て押し付けて
 姿をくらましてしまったのだ。『お前ではプラントにも大西洋連邦にも勝てない。代わりを探して来る』と書かれたメッセージを残して。
 マリーメイアはあまりにも序盤から力み過ぎたのか、はぁっと大きくため息を吐いたまま肩から力を落としていく。
 流石に緊張をし続けられるほど彼女の精神はまだ、大人になり切れていなかった。
25赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2009/10/04(日) 16:26:06 ID:???
「立場上、生産コロニーを作る事にも私達は反対していましたからね。
 独立を手に入れたとはいえ、大西洋連邦は殆どの戦力を出し惜しみしていましたから」
「コロニー軍の連携は監視されても居ましたから、連携も何もありませんでしたから」
「その態度が気に入らなかったのかプラントから襲撃を受けました。
 そして、私達は自治権を行使して、火星圏への離脱が始まりました」
「サーペントはその間に使い潰してしまいましたわね。ガンダムの改修も含めてバッテリー化が間に合って良かったです」
「ガンダム開発者達が何とか短時間な稼動とは言え、MS用のバッテリーを開発して下さったおかげです。
 プラントは技術開示を頑なに渋っていましたし、改修されたガンダム四機は
 バッテリー化で出力は落ちたとは言え、前線を支えてくれましたから」
「ええ、感謝しないといけません。あのままでは、折角手に入れた自治権もプラントにとられてしまう所でしたし」
「それもあって、コーディネイターでもあった火星開拓を進めていたネイティブ・マーシャン達も同情的でしたしね。
 さて、此処からはこの資料道理、双方傷つけあっただけで最終的に元の勢力図に戻して、終戦を迎えました」

 レディは淡々と自らも体験しているとてつもない被害と戦場を告げたまま、さくさくとモニターの画面を切り替えていく。
 そこは自分達が火星へと旅立った時とほぼ同じ勢力図を示している地球の姿。
 マリーメイアはその事実で結局戦争は命を散らしあっただけで終わったと言う事実を
 罰の悪そうな顔をしたまま、再び緊張感のある顔つきになり、気持ちを切り替えていく。
 あの当時の苛烈な外交状態は酷いモノだったからか、自然と下唇をかみ締めていた。
 此方がユーラシア連邦から独立は手に入れたが、大西洋連邦に吸収されて
 地球連合という大きな勢力からにらみを効かされて動きが取れない中
 戦争への参加と要請と言う名の脅迫を繰り返すプラント。 
 OZから亡命してきた多くの軍人達はコロニーの力になってくれていたが、そもそも”国”としての
 政治と言う機関を持たなかったコロニーにとっては自分達が立ち回るだけで手一杯であり
 火星への亡命と言う行為はもはや賭けに等しかった。そんな命がけの逃亡の日々を
 脳裏が過ぎった中、モニターの切り替えからマリーメイアは一つの疑問へと辿りつきそれを口にした。

「あら、2年もあっさりと飛ばしてしまうんですか?」
「はい、ここで南米の独立など細かい紛争はあった事にはあったのですがその休戦期間を経ている間
 情報は入っていましたから。重要なのはCE73年です。一回目の戦争から2年後で私達が火星へと旅立った3年後です」
「此処になって情報が殆ど入ってこなくなった時期ですわね」
「と言うより出来事が立て続けに起き過ぎて、事態が把握できなくなったのがここからの一年の戦争になります」
「ああ、ロゴスが急に連絡が途絶えたり、私やドロシーさんやリリーナさんが急にお金持ちになった辺りですね」

 緊張が少し解けてしまったマリーメイアを見て、軽く目配せをしながら年代と勢力図の表示を今度は半月単位へと切り替えていく。
 タイムスケールが一気に短くなった事がこれからの激動を物語っているというのは解っていたが 
 レディの言葉が改めてその事実を告げたが彼女らにとってこの時期は実は”よい時期”ではあった。
 マリーメイアの言葉が示す通り、マーシャンは細々と生活をしている開拓時代の中から
 インフラ整備なども一気に進められていった時期でもある。それは辛くも自分達と敵対したユーラシア連邦なども含めた
 多くの地球からの亡命希望者や資産を物資へと替えて、火星へと投資をこぞってし始めた時期でもある。
 特にその対象はマリーメイアを含め今代表として呼ばれている、ドロシーやリリーナ達へと集中していた。

「はい。まず、我々が火星圏に避難した時は戦争の爪痕もあり、マリーメイア様のトレーズ様の遺産
 その伝、バートン財団の資産で何とか2年は持ちましたがそろそろ限界でした」
「そして、急にロゴスから私達への資産の預かりや投資の話が持ち込まれたりしましたね。
 あれのおかげで元から居たマーシャン以外のコロニーも自給自足の目処が立ちました」
「はい。実はこの頃デュランダル議長がロゴスに関して政治的プロパガンタを敷いており
 民衆とプラントと一部の地球の軍が共謀して、魔女狩りが行われてた訳です」
26赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2009/10/04(日) 16:27:39 ID:???
 事情は詳しくは聞ける事は無かったが、その地球からの亡命者が上手く行き始めると彼女らへと
 ロゴスと大西洋連邦を中心とする、ブルーコスモスの企業団体までもが資金援助と投資、亡命を持ち掛けて来た。
 彼らの資金と物資は一気に火星へと雪崩れ込んで火星へと注がれていって自給自足も目処が立って来た所であった。
 それは殆どその日その日を一杯一杯に生きていた火星の元から居たマーシャン(コロニー側)に多大な富と幸福を授けていってくれた。
 正に絶頂期とも言える日々を思い出している中、突然出てきた明らかな異物の様な印象を与える言葉を耳にする。
 マリーメイアがその言葉を聴いたとき、ぴくっと体を震わせた後、その言葉を反芻かの様にレディへと返していく。
 魔女狩り。それは歴史の中でしか聞いたことが無い言葉だった。今まで血生臭い戦争や大人達の思惑が絡んだ
 世界情勢の話から飛んで急にファンタジーな感覚を覚える言葉の出現に若干、眉を歪めつつも
 それに対して疑問と確認の言葉を返していく。魔女狩りとは中世で異端審問や黒魔術と呼ばれる行為をする事
 または”有力な豪商から貴族が金を巻き上げる為に罪をでっち上げて”富と生命を奪う行為を指す。
 マリーメイアはそんな何世紀も前の一時的な現象が何故、この現代に蘇っているのか理由が解らなかった。

「ま、魔女狩りですか? えーと、あの大昔に行われていた、あの”魔女狩り”の事ですか?」
「ええ、その魔女狩りです。ロゴスと関係していた財団や盟主達は次々に襲撃され、多くの人が殺されたり投獄されました」
「……なるほど。それで、資産を移したり、地球に見切りを着けた人達がゾクゾクと火星へ来たと。何をやっているのやら」
「リリーナ様は北欧の王家、マリーメイア様もトレーズ様の娘であり、バートン財団の所属と言う名目がありましたから。
 特にドロシーさんは元ロームフェラ財団の家柄でしたから安心も出来た訳です」
「その時のドロシーさんはあまり元気がありませんでしたが、その事情を知って……でしょうか?
 私は何も知らずにぬか喜びをしてしまって」
「……気にする事はありません。マリーメイア様はよくやっていました。あの混乱の後
 デキム・バートンが姿を消して気落ちしていた貴方にはいいニュースでしたから」

 受け取った言葉にマリーメイアは心を痛めていく。自分達が火星で何とか建て直していた栄華が
 その人達の恐怖と逃亡の犠牲になった人達と遺産だったという現実は
 あまりにも惨たらしく、その富を享受していたという事への責任がより一段とその小さい背へと
 のしかかっていった。流石にあからさまに気落ちしているのを見て、レディは優しく肩を掴み慰めてくる。
 その時の顔は、時々トレーズの事を思い起こす時に見せる優しい聖女の微笑みであった。
 トレーズの死を経て、火星へと渡った時から彼女は再び眼鏡を掛けている。それと同時にその笑みを彼女は封印していた。
 マリーメイアからすれば、最初に出会った優しい笑みの聖女と眼鏡を掛け凍りついた心で仕事に生きる女の表情の差は
 著しいギャップを感じさせるが、元々は眼鏡の方が彼女の素である事は周りからは聞いていた。

「けど……実際はお金や資産は移せても、逃げられた方は殆ど居ませんでしたね」
「資産を火星に移した後、火星に向かう為月に身を寄せて居た様ですが
 結局、プラントの軍の攻撃で死んでしまいました」
「まぁ、私達はその人達の遺産で生き長らえたと……感謝しなければいけませんわね。
 おかげで今や私達3人はマーシャンの代表と言う立場です」
「D.S.S.D(深宇宙探査開発機構)も潰されてほんと困り果てていましたからね。
 自給自足を目指しながらも結局は技術があってこそですから……マーシャンは」
[何とかスターゲイザーと一部のデータだけは持ってきてくれましたけど。
 まさか、地球圏からMS単独で来るとは思いもしませんでした」
「スターゲイザーのコンピュータが二人を一番生存率が高い場所へと選んだと思われます。
 しかし、二人はある意味奇跡的生存でした」
27赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2009/10/04(日) 16:30:39 ID:???
 慰めに対して少し前向きになれそうだったマリーメイアだったが、その投資をしてくれた
 自分達の命を繋いでくれた大勢の人達と、それを支えた技術者達が殺されてしまった事を
 改めて実感させられて、気分は快晴とは程遠く曇っていた。火星と言う環境はそもそも
 人類が宇宙に出始めた後、更に遠くに手を伸ばす形になっている。木星ですら一度の往復で何十年も掛かっている中
 長い年月で様々な技術が開発されてようやく地に足をつけて根を張ることの出来た技術の結晶。
 それを支えていたのは地球連合とプラント両方から支援を受けていた組織がD.S.S.Dであり
 最後の形見とも言えるMSスターゲイザーを運んできたスウェン・カル・バヤンとソル・リューネ・ランジュも
 その多くを語ってはくれていなかった。しかし、その最新の推進航行技術であるヴォワチュール・リュミエールは
 船舶の航行速度を飛躍的に改善し、彼女達が載っている規格外の大きさである戦艦ピースミリオンも
 短期間で火星から地球へと移動する事が可能になった。

「ちなみに今回の戦争はブレイク・ザ・ワールドと呼ばれるコロニー落下”事故”を皮切りに事態が動きます。
 そのコロニーの管理責任を問い、プラントへの議会解散などを盛り込んだ要求書を提出。
 それを破棄し、地球連合はプランに対して核攻撃を始めてザフトと連合の戦争が再び始まります」
「……地球圏のコロニーはプラントの管理下にあるものでしょうに。
 何をやってたんでしょうか。それで、戦争を仕掛ける連合も連合ですが」
「破砕作業等は行っていたのですがその辺りは情報が入りません。
 まぁ、そこら辺は大人の事情もあるのでしょう。地球も被害が大きかったですし」
「解りました。察しましょうか。”事故”という事で」

 少し苦味走った顔のマリーメイアにレディは僅かに頷いた後、話を続けていく。
 地表の変動などで勢力図どころかその地形すら大幅に変わってしまったその事故は自分達が
 想像を絶する苦難に満ちていたのだろうと想像する。その後見せられる映像もまた
 幼いマリーメイアにとってはショッキングであった。津波、天変地異、異常気象etc
 おまけに聞いた話では連合もプラントもそれに乗じた無差別テロを各地で行っていたらしい。
 実際、前のマーシャン特使もその現場に居合わせていたらしく、大量のデータが未だに未解析のままである。
 全てが謎。何故、急にコロニーが落とされたのか。その間プラントはナニをしていたのか。
 科学者上がりの議長も平和の歌姫もそこについては何も語ってはくれなかった。

「後、何を血迷ったか地球連合はこのちょっと前辺りでベルリンなんかを自ら襲撃していますね。
 それは確かに親プラントに靡き掛けていたと言う傾向はあったらしいのですが、自爆行為と言うか
 これでは民衆も怒り出すのも無理は無いと思います」
「………はいぃ?」
「だから、自らの国を焼き払ったんです。何でも試作段階だった巨大MSの実験として大虐殺だった様です。
 あまり、開戦に賛同していない地域だったのと見せしめだった様で」
「本当ですか?」
「本当です。では、オーブの説明にも入ります」

 このレディの情報から一気に空気が変わる。古い表現で例えるなら、後ろに黒いトンボのマークが濁点を残しながらも
 飛んでいたり、素っ頓狂なSEが流れて何故か登場人物の胸元の服がずれたりする現象が起こりそうな位の爆弾発言だった。
 マリーメイアも一瞬レディが何を言っているか理解が出来なかったのか高く上ずった声で聞き返してしまう。
 それに短い返答を返し話題を進めるレディの言葉に、言われた事が現実に起こった確かな史実だと言う事に
 マリーメイアは頭を抱えてしまう。それを見計らっての話題の変更だという事は何となく理解してはいたが
 そもそも、自国の反乱分子をMSで焼き払うとは一体全体何時の時代の政治判断だろうか?
 共産圏で過去にそういうことが実際行われていたのは知っているが、ただでさえ国力を失い、混乱と不安に満たされた中
 この通信やマスメディアの多様化した世界で、粛清まがいの事を行うなんて正気の沙汰とは思えない。
28通常の名無しさんの3倍:2009/10/04(日) 16:33:29 ID:???
支援入れます。
29通常の名無しさんの3倍:2009/10/04(日) 16:34:21 ID:???
支援
30赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2009/10/04(日) 16:34:47 ID:???
「最初の戦役の時、連合に無理矢理併合を強いられていますが、プラントのクライン派の戦争介入と
 宇宙のアメノミハシラで軍隊を温存していたオーブのロンド・ミナ・サハクによって何とか独立を保っていました」
「永久中立と言いながらも意外としたたかですね」
「まぁ、スイスなど国民皆兵でしたし、東アジアの日本という国も昔は戦争不介入を謡いながらも
 強力な軍隊を持っていました。規模が小さかったのと人道支援を積極的にしていたと言う事情もありますが」
「……何処の国も建前と本音があるのですね。で、一年前の戦役では?」
「その頃はえーと、プラントのクライン派とオーブの亡命政府が暫定政府からオーブを奪還?
 いえ、之は侵略でしょうか? んー、いえ。そもそも、亡命していた政府があった事すら不確かですし」
「どっちなんですか? 亡命やら暫定やら訳が解りません」
「私も二度、ドロシー様とリリーナ様に説明をしていますが、今でも判断が困っています」
「では、事実だけ話してください」
「解りました。その当時のオーブの代表が誘拐されており、暫定政府が発足。
 暫定政府が地球連合に加入していたオーブがプラントから攻撃を受けた際
 誘拐された代表がクライン派と共に襲撃し、亡命していたとされる政府が主権を奪取となっています」

 シリアスな空気を持ち直す様に語られる技術立国であり、地球で唯一永久中立を謡っていたオーブ。
 コロニー民の避難にも協力を申し出てくれて、一部の住人はオーブへと移住を済ませていた。
 マリーメイア個人にとっても避難をしたマーシャンにとっても影ながらに協力してくれた国であり
 意外にも地球の国としての心象は良かった。何より以前の特使も大分世話になっており
 施設の貸し出しや治療にと至れり尽くせりだった事から、前特使から”何かあったらオーブに頼れ”は
 散々聞かされていた。今回もそれに習い頼る予定だったのだが、その事情の説明を始めるレディは
 珍しく困惑と戸惑いの表情を見せながらも、説明に苦慮していた。そして、告げられる言葉には
 マリーメイアはまるで石像の様に固まる。事実を飲み込むまでぽかんっとした表情をしている中
 沈黙と静寂がその部屋へ蔓延していた。

「……はぁ? 戦争はゲームじゃありませんよ? なんですかその滅茶苦茶な政権交代は。
 と言うか、”誘拐犯に替え玉にされた”とか”洗脳された”と思わないんですか!?」
「そうですね。私だったら洗脳は出来なくても、体内に爆弾でも仕込んで
 言う事を聞かせるか、中枢に入った所で爆破します」
「それはそれでどうかと思いますが……でも、まぁそう考えておかしくないのですが何故!?」
「といってもそれが史実ですから。一応、誘拐の部分は政治的亡命となっています。
 また、それを機にオーブは連合から離脱。独立を維持しつつ
 現プラントの最大派閥のクライン派の行動に連れ沿っていますね」

 激昂するマリーメイアの言葉にしれっと更に斜め上の文字通りの爆弾発言の応酬をするレディ。
 さすがにその言葉にはたじろきを見せているいる間に話は進められていく。
 人間爆弾なぞフィクションの話だと思うが、今のレディならやりそうと言うか
 単身で要人に爆破テロを仕掛けた彼女の経歴なら絶対にその位やっているだろうと
 マリーメイアは心の中でうなずきを返していった。代表を誘拐される亡命政府など聞いた事が無い。
 まして、その誘拐先が政府を立ち上げて主権を奪取するなど、明らかに誘拐側の意図にそった国を作られるのは承知の筈。
 そういえば、前特使の滞在中にそれを許していたと聞いていたがそのことについてあまり語っていなかった。
 確かその後、ロンド・ミナ・サハクなどと会合をしていることから、何らかの政治的決着か
 もしくは事情を説明されていたとは思うが、それでもその主権委譲の流れは疑問が残る。
 マリーメイアはもはや歴史の闇とも取れるその一連の事項について考える事を途中で止めた。
 人伝に聞いた話しでは判断は鈍るだろうし、何か事情か情報の行き違いがあったのだろうと結論付ける。
 以前助けてくれたオーブの行動から僅かな希望と信頼を抱いており、それに賭ける事にした様だ。
31赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2009/10/04(日) 16:36:24 ID:???
「ま……まぁ、オーブは良いです。プラントと連合について詳しくお願いします」
「はい。プラントはその後、地球連合の重要拠点次々に強襲、月基地も消滅させました。
 その前に連合も一糸報いてプラントコロニーを撃沈させていますね」
「消滅?! コロニーを撃沈!? う、嘘そんな事を」
「何でも、巨大なビーム砲を屈折させる戦略兵器基地を使用したらしいです。レクイエムという名だったそうです。
 プラントがそれを掌握後、修理して再使用。残っていた軍隊を焼き払ったそうです。
 それでほぼ、地球連合は宇宙での戦力を喪失していますね」

 マリーメイアは再び立ち上がり、その”史実”を疑いのまなざしとそんなことをした人類への絶望を滲ませながら
 その事実が虚偽である事を望んで叫んでいる。コロニーを直接砲撃する超兵器の開発までなら、かつてのリーブラや
 ガンダムウィングゼロの行動などの行動からまだ彼女の想像の範疇にはあった。だが、それを連合が自ら基地を母体に
 作り上げた事、更にそれをプラントが再利用して地球連合に砲火を放った事実は一転受け入れ難いと言うか
 人類は戦争どころかもはや人種の根絶レベルの行為をしている地球とプラントの思想と行動は理解し難かった。
 しかして、現実にモニターにはその時の映像が顛末が僅かに映し出されている。プラントコロニーがまるで
 ガラス製の砂時計の様に光でなぎ払われ、へしゃげてその形を失っていく様は正に恐怖と狂気の産物であった。
 恐らく、かつて最初に原爆を投下された国はこれと同じ様な衝撃を受けたのかもしれない。
 それが今の核へ対するアレルギー的な嫌悪を寄せているのに繋がっているだろうと想像できるほどの惨事に見えた。

「……プラントのその後は? えーと、確かその当時、ギルバート議長からクライン議長になった経緯は?」
「そこですか? クライン派はオーブに完全中立を破棄させ、共に宇宙に上がりプラントに宣戦布告。
 クライン派とオーブ軍は武力を用いてザフト軍を打ち破り、クライン派の代表ラクス・クラインがプラントの議長になっています」

 マリーメイアはその事実に狼狽し、受け入れることが最初は出来なかった。
 頭を抱えているのも無理はない。本来は永久中立を謡っていたオーブがプラントに攻撃を仕掛けるなどありえない。
 明らかに誘拐側の意図が見え隠れしており、それではオーブの理念もあったものじゃない。
 そして、それを全て推し進めていたクライン派の行動に恐怖を感じていた。確かにマリーメイアが出した軍勢は
 結果的に存在するだけの圧力として独立を勝ち取る事は出来たが、それも勝算と勝機を見出しての事だ。
 プラントの軍勢が大西洋連合と睨み合い、ユーラシア連邦の戦力の疲弊、ベテラン兵員とガンダム四機の掌握。
 用意と準備、奇襲と好機、乱戦への持込。すべからく準備を経てからの行動だ。
 それに対し、クライン派の行動はあまりにも無邪気で大胆だ。二度焼かれるオーブを利用し
 何処から手に入れたか解らない高性能MSを駆使して、戦場を駆け巡り勝利を掴み取っていく。
 そして、その後のプラントの人民の意思の掌握は悪魔的であるとマリーメイアは感じていた。
 一体どんな粛清と扇動とプロパガンタを組まれていたのかと思うと体の震えが止まらない。

「…………えーと、これまでの話は何時の時代の何処の国の仮想戦史ですの?」
「ほんの一年前の地球圏全体の出来事であり、れっきとした史実です」
「……コロニーに……火星に帰ります」
「ダメです」
32赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2009/10/04(日) 16:38:51 ID:???
 立ち上がり、部屋の外を駆け出る準備を進めながらもマリーメイアは
 最後に「今までの話が冗談である」という幻想にすがろうとした。
 きっとレディは「……というのは嘘で実際はこうですよ」と言う言葉を待っていた。
 しかし、それはレディの冷静な返答により、露雲へと化したのが解るとそのまま脱兎の如く逃げようとするが
 それを見越してか僅かに腰を屈めていたレディの右手が獲物を狙った大蛇の如く
 マリーメイアの肩を掴んで引き止めた。しばし、両者に静寂とぴりぴりと拮抗する緊張感が漂う中
 目をうるうるとさせながらもマリーメイアはどうにかしてこの場所から脱出したら良いか考えを巡らしていた。
 彼女はまるで壁の様に立ちふさがるレディを何とかしなければいけないというの問題は
 先ほどまで話されていた史実を受け入れるよりは安易と判断していた。
 ただ、問題は既にリリーナやドロシーも既に含めているという事が意味するモノ。
 つまり、一番聞き分けが悪いであろう自分には既に対処と対策を練っている筈。
 しかも、それを行うのが眼鏡を掛けたレディ・アンだという事が目の前の壁の分厚さを誇っている。

「なんでですか!? そんな、連中と話し合いなど通じる訳がありません!」
「それが、今回のお仕事です」
「私達が居ない間に地球圏の人間は頭が狂ってしまったんです! きっとニュートロンジャマーとかいう奴で」
「今の所はそういう報告は上がってません。医学的にも立証されてません。調べる余地はありますが」
「即急に安全確保を! きっと私も殺されるか軟禁されて洗脳されるに決まっています!
 後、マーシャンも武装化を進めないといけません! 次はきっと火星にまで手を出すつもりです!」
「その為にヒイロ達のガンダム、ドロシー様までMSを持ってきているのです。
 後、そうさせない為の今回の特使派遣による外交の再開です」
「嫌です! なんでそんな連中と付き合わなければいけないんですか!」
「仕事ですし、身の安全は私たちが何とかします。私はその為に心を封印して今回の事に対応しているのですから」

 激昂する言葉をたしなながら矢継ぎ早に出るネガティブな憶測と不安要素を潰していくレディ。
 マリーメイアも己の頭脳をフル回転させて様々な要素の上げへつらい、ここからの撤退を懇願する。
 レディの言葉は一個一個的確かつ確実に理論としては的を得ているのだが不安に駆られた少女に対する
 慰めと言う効果においては、あまり意味を成していなかったが言葉の銃撃戦はマリーメイアの連続射撃に対し
 ピンポイント爆撃を繰り返すレディに軍配が上がる。レディの言葉は力強い。
 己の力、信念、経験からなる意思はそれほど強く重いのだろう。
 マリーメイアは弾は何処だと言わんばかりにうーうーっと言葉の銃弾を探している。
 レディはそれに対して、押しもせず、かといって挑発や引くこともなくじっとその場に佇み、マリーメイアの言葉を待つ
 ――否、正確にはどんな言葉の銃撃でも間髪いれずにカウンターをする気で待ち伏せしていた。
33赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2009/10/04(日) 16:42:04 ID:???
「それに私が居たOZやホワイトファング、マリーメイア様の軍も傍から見れば似た様な感じですから。
 きっと、人類はデフォルトで誰もがそういう道を通るものなんです」
「慰めにも説得にもなってません! 第一、なんでこんなにも重要な事を、後数日で到着するって時に!」
「リリーナ様やマリーメイア様が途中で帰ったり逃がさない為です。流石にあのリリーナ様も泣いてました。
 後、ドロシーさんはもうちょっと戦力を持って来るべきだと後悔していました。
 大体、見積もったのがアストレイとサーペントの一個師団位だったでしょうか?」
「そ、そんなぁ……あ、あんまりです! 私は絶対に嫌ですよ……う、うわぁーあーーーーーんっ!!!」

 言葉に行き詰まり、もう言い訳が思い浮かばないのを見兼ねるとそのまま言葉を連ねていく。
 レディの告げた事情は少女の心へと最後のアッパーカットを食らわせてノックダウン寸前へと追い込んでいく。
 良く見たら彼女の目もどこか綺麗に濁っている事が解った。嗚呼、彼女もその現実を知った上での眼鏡の再装備なのか。
 その現実に泣きじゃくったまま、勢いだけでなんとかレディの手を振り払い部屋を出て行くマリーメイア。
 その後、彼女はキッチンに立てこもり、火星のコロニーに帰る要求を通す為篭城戦を開始した。
 しかしその願いも虚しく、レディ・アン及びヒイロ達ガンダムパイロットの物理的介入と
 事前に話を聞かされていたりリーナの生暖かい説得により”第二次マリーメイア事変”は
 ほんの数時間により鎮圧され、大事に至らず終結したのであった。
 マリーメイア本人も事態を沈静化した周りも含めて、特にめでたくもなく、めでたしめでたしと相成った。
 しかし、彼女のエンドレスワルツ症候群が再発してしまい、暫く塞ぎ込んでいた。
 ”人類は血まみれの赤い靴をはいて永遠に戦争と言うワルツを踊り続けるのだ”と月に着くまで、ずっと愚痴っていたらしい。

―事実は小説より奇なり。彼女は残念ながら、またワルツを踊ってしまう事になった様だ

                                                舞台は第三幕「蜜の老熊とお花畑戦線」へと続く
34赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2009/10/04(日) 16:43:14 ID:???
以上です。なんつーか、改めて見ると長いなほんとorz
では、投下失礼しました
35FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/04(日) 23:34:55 ID:???
投下お疲れ様です
23時45分から投下したいと思います
レス総数は12、支援お願い出来れば助かります。
36FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/04(日) 23:46:18 ID:???
機動戦士ガンダムOO-FRESH VERDURE-
第四話「愛のままに我侭に僕は君だけを傷つけない 
                      太陽が凍り付いても君だけは消えないで」

「数が多いぞ、ちくしょうめ」
「チクショウメ」

 ガンダムの追加兵装であるGNアームズ二番機は、対艦攻略用のGNミサイルポッド、
GNツインライフル、大型GNキャノン等の大型武装を備えたまさに強襲仕様と言うべき
MAだ。
 二番機は、格闘兵装こそ持たないが、制御コアとなるデュナメスの特性を最大限引き出
す為に砲戦に特化し、どの兵装も一撃でヴァージニア級を撃滅出来る破壊力を秘めている。
 人型をベースにしたMSとの違い、巨大過ぎる異様の性か、ロックオンは、操作感覚に
違和感を感じていた。
 機体の制御をハロに任せ砲撃に集中したいが、武装の特性状、敵を狙い撃つ事も出来ず
、火力にかまかけ無慈悲に圧倒するだけの戦闘は彼の流儀に反している。
 だが、皮肉にもロックオンは、国連軍のGN−Xには無い、GNアームズ二番機の圧倒
的な火力で敵の第一次防衛ラインを易々と突破に成功していた。
 しかし、大型MAは射程が長く、広域攻撃に適しているが、反面小回りがきかず、懐に
入られれば途端に不利になる。
 流石各国のトップガン達を収集しただけあって、GN−Xのパイロットの腕は並では無
い。
 後方から指示を出す指揮官の出す指示一つ取っても的確で、こちらの裏を書くように厭
らしく侮れない。
 ロックオンの攻撃で一時は浮ついた編隊がオープンチャンネルから聞こえて来た叱咤激
励の声が響くとGN−X隊は瞬く間に態勢を整えいく。
 一人だけオープンチャンネルで「大佐さああ見てて下さいねえ!」と戦場似つかわしく
無い暢気な声が流れたが、声の主を思われるGN−Xの攻撃は大胆にして精緻、まるで機
動モーションは、何千回も模擬戦闘を繰り返したように、基本に忠実で洗練された動きで
恐ろしく手ごわい。

(やり難れぇな、おい!)

 他のGN−X達も二番機の性能、特性をいち早く見抜き、巧みな連携プレーを仕掛けら
れては、MAの特性が生かせるばかりか、巨大な体躯が大きな的になってしまっている。
 GNフィールドを展開し、致命的な損傷こそ受けていないが、先刻から防衛線に釘付け
にされ、防戦一方の展開を強いられ時間だけを闇雲に浪費していた。

「不味いぞこりゃ」

 戦術プラン通りならば、既に敵輸送艦を撃破しておかなければならないタイムスケジュ
ールだ。
 レンジ外からの長距離砲撃で五機中二機を沈めたまでは良かったが、三機は健在、それ
ばかりか護衛に残されたGN−Xの数が予測よりも遥かに多い。

「GN−Xの数が違う。増援かよ」
37FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/04(日) 23:47:08 ID:???
 敵MSの想定数は約二十機と踏んでいただけに、
 三十機、いや、四十機のも大編隊を組んだGN−Xの数は、スメラギの戦術プランの崩
壊を意味している。

「狙い撃てねえ!」
 
 赤い粒子砲の渦を掻い潜り、牽制射撃とばかりにGNキャノンを連続で発射するが、G
N−Xはフォーメーションを崩さす、的確に距離を詰め、包囲網を構築しようとしている。

「邪魔なんだよ!どけええ!」

 失くした左目がジクジクと疼き、脳を駆け抜ける鋭い痛みで右眼までがぼやけ始め、ロ
ックオンは焦りを隠すように咆哮を上げた。

 地響きのような音鳴りがしたと思うと、一際強い衝撃がネーナの居座るパージブロックを
襲った。
 電装系が火花を散らし室内の電気が消え、一瞬だけ非常灯に切り替わると、また直ぐに電
力が復活する。

「痛っわねぇ。もうちょっと静かに戦えないの!」

 フックで固定されたコンテナが激しく振動し、ネーナ自身も衝撃でそのまま天井に打ち付
けられると思った程だ。
 怪我こそ無かったが、ベルトやエアクッションで体を固定しているわけも無く、そこらじ
ゅうに体を打ちつけたネーナは、苛立たしげに立ち上がり、半ば八つ当たりのようにロック
された扉を蹴りつけた。
 靴底の磁石がドアに当り重苦しい音が流れるとピーと言う間抜けな電子音が響き、ロック
されたドアがノロノロと開き始める。

「あっそっか、停電したんだっけ」

 一時的に電力が遮断された為に機能がリセットされる。
 スペースシップに良くあるパターンだが、いざ目の前にすると、こうも都合良く開くもの
かと呆れるよりも感心してしまう。

「…電気系の故障って本当に便利なんだか、そうじゃないのか」

 ネーナは、扉から顔を覗かせ辺りの様子を伺うが、人の気配は愚か、ハロの気配すら感じ
る事が出来ない。
 戦闘に入ってから、どの程度時間が経ったのか知らないが、ネーナは静か過ぎる艦内を不
気味にすら感じていた。

「チャンスか」
 だが、人気が無いと言う事は、それだけ脱出には適していると言う事に他ならない。
 ネーナは身を屈め、三叉路手前の端末目掛け、低重力移動用のハンドグリップを使わず
角の端末まで一気に跳びぬける。 
 端末にかじりつく様に着地し、もう一度辺りの様子を伺うが、やはり、人の気配は感じら
れない。
38FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/04(日) 23:47:54 ID:???
 一息ついたネーナは「チャンス!」と一人呟き、HAROの口を強引に開かせ中に手を入れる。

「ギャクタイダ、ギャクタイダ」
「うっさい、さっさとコネクタ寄越しなさい」

 艦内各所に設置された、検索用端末に降り立ったネーナは、文句を言うHAROを黙らせ
喉奥から引き抜いたコネクタ端子を端末に直結させる。
 バチリと火花が散るが、CBの共通コマンドを打ち込むと、幸運にも最低レベルの権限だ
が、艦内データベースにアクセスする事が出来た。 
 だが、一度繋がってしまえばこちらの物。
 ハロの性能では引き出せるデータには限度があるが、艦のダメージコントロールを覗き見
るくらいならば、スローネの支援AIであるHAROには朝飯前だ。

「レンジ外からの極大粒子砲でメイン推進機関の第一粒子出力炉が大破…同炉への出力をカ
ットして第二出力炉に回して、敵粒子砲を回避。どんな敵とやってるか知らないけど。全然
駄目じゃない」

 彼我戦力差一対六と言うレベルではない。
 擬似太陽炉搭載型に加え、レンジ外からの粒子砲を撃つ謎の敵の出現。
 大してトレミー側の戦力は新型大型MA二機とガンダム二機。
 艦載機の強襲用コンテナがあるらしいが、パイロットがザルでは、国連軍との戦力差を埋
めきれるとはとても思えない。

「先制攻撃も失敗してる…このままじゃ死ぬわね」
 
 今はヴァーチェとキュリオスが必死で最終防衛ラインを構築しているようだが明らかに多
勢に無勢な状況だ。
 二機が撃破されるなり鹵獲されるなり、そう遠く無い時間に防衛線を抜かれ、非武装のト
レミーは撃破されるだろう。
 生き残る為に最も必要な事は何か。
 サーシェスを倒す為に必要な処理を構築し、優先度を決定し、不必要な案件はその度排除
して行く。
 導き出された選択は逃亡。
 二機ある強襲用コンテナかドライを使い戦闘空域を速やかに離脱。
 緊急避難プランに従い、現地エージェントに接触するのが最も簡単な手段だが、サーシェ
スが襲撃して来た事を考えれば、ネーナの持つ伝手を頼る事は避けたほうが良い。
 宇宙に出てしまえば、戦闘のドサクサに紛れて逃げる事は容易いだろうが、宛も無く世界
を彷徨えばいつか捕まってしまうが、今は足の確保が最重要事項だ。
 ネーナは、そうと決まれば話は早いとHAROを抱え、まずは足の確保だと、格納庫目指
して床を蹴ろうとした瞬間だった。
 突然"左目"が疼くと目の前が真っ黒になる。
 真空の宇宙に裸一貫で放り出されたような寒気を感じると、目の前に永遠に広がる白く広
大な空間が広がった。

(なによ、これ)
39FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/04(日) 23:48:43 ID:???
 ネーナを中心に広がった白い闇は、無音の静寂と共に威圧感を伴い、物理的な衝撃となっ
てネーナの体を突き抜ける。
 肺と骨が圧迫され頭痛を覚えるが、嫌な気配を含んだ重圧は、風が吹きぬけると嘘の止み
残された物は馬鹿みたいな静けさと心を直接掻き毟りたくなるような焦燥感だった
 闇の中にはネーナ以外おらず、生物の気配を感じる事が出来ない。
 人間の気配も営みも、全てを拒絶するかのように白く輝く空間は、地獄と称するのが正し
いのか、天国と推測するのが正しいのだろうか。
 どちらにしても、人間の住む空間ではないように思えた。
 ただ、天地の感覚すら曖昧な荒涼と続く白い闇を照らすように、濃緑の粒子がキラキラと
輝き、ネーナに何かを伝えるように目の前で滞留している。

「GN粒子?」

 ネーナが粒子に手を触れると、粒子は形を変え、虹色の光彩を放ったナニカがネーナの心
に飛び込んでくる。
 熱く、冷たく、柔らかく、硬く、多種多様の感触がネーナの全身を揺らし、七色に輝く虹
の光が戦場に散らばる無数の思惟を運んでくるかのようだ。
 その殆どは小鳥がさえずりの儚く、ネーナに耳に届きはしても、何を喋っているのか聞き
取れないほど脆い。
 無数の思惟は、淡い光を燈しネーナの体をすり抜け白い闇へと無音のまま消えていく。
 しかし、無数の思惟の中でも、一際大きな光を燈した四つの思惟がネーナの心を貫いた。

『いけない、このままじゃ』
『お前…一…にするじゃ…え』
『私は…私・・・は』
『…エク…ア、目…を駆逐する!』

「ないよ、これ」

 ネーナを貫いた四つの内、緑、橙、紫色に輝く思惟は、ネーナの体を貫いただけに留まっ
たが、砂漠の空のように煌々と輝く青色の思惟がネーナの心に纏わり尽き、深い場所まで染
み込んで来る。
 ズルズルとネチネチと硬く閉ざされたネーナの外皮を強引に引き剥がし、鍛えようがない
一番脆い部分を土足で蹂躙される感触は、経験こそないネーナだがまるで強姦のようだと毒
づいた。

「なんで、涙…私泣いてるの」 
 
 青い謎の光に散々心を蹂躙されたにも関わらず、ネーナの胸に去来したのは、辱めれた怒
りでも無く、青い光に対する悲しみだった。
 青い光は、ネーナとの名残を惜しむように、ゆるゆると動き続け、やがて、白い天の彼方
へ昇りゆっくりと輝きを消していく。
 青い光が消えていくと同時に、生暖かい雫がネーナの頬を滴り、低重力の中で球形を作り
シャボン玉のように宙を舞う。
 頬を伝う涙は止め処なく溢れ、まるで、青い光が刹那そのモノのように感じ、そして彼が
すぐ傍で悲しんでいるような緻密な現実感を感じた。
40FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/04(日) 23:49:26 ID:???
 刹那の息遣いが、骨と肉の軋みがネーナの耳朶を打つ中、名状し難い刹那の悲しみが胸を
苛み、ネーナはいつの間にか涙を流していた。
 素直に泣けば心にも体にも優しいはずが、戦う事しか表現する事を知らぬ獣は、悲しみを
怒りに転化し更なる悲しみを紡ごうとしている。
 笑う事も知らず、悲しみを心に蓄え、強固過ぎた心の壁が、悲しみの一切を外に漏らさな
い。
 堆積した悲しみの欠片は、いつか刹那の心を壊し、彼を絶望の底にたたきと落とすだろう
が、今はまだ刹那の心は悲しみに耐え続けている。
 人と自分の悲しみが同一であると無意識に信じ込んでいるから、悲しみを悲しみと認識で
きない。
 心が磨耗し切った人間のなせる業なのか、悟りを開いた仙人の境地か、どちらにしても多
感な十代前半の少年が至れる境地ではなく、溢れる涙の前には、ただ虚しさだけが募ってい
く。

「そっか、あんた心が鈍いんだ」

 植物のように鈍く重い感性を備えているから、人一倍痛みに鈍感になれる。
 人の何倍も傷つき易い心の持ち主であるに関わらず、痛みに蓋をして我慢する術だけを磨
いて来た刹那をネーナは憐れに思った。
 いつの間にか白い闇は消え去り、虹色の光も消え去っている。
 虹色の光は、まるで、白昼夢のようにネーナの心をかき乱し唐突に姿を消した。
 胸に残るのは、無防備な心を蹂躙された怒りと誰の物とも知れぬ胸を抉るような深い悲し
み。
 戦い傷つき、絶望に苛まれた、希望の一欠けらも見出せない慟哭の響きだけだ。

「…いいわ、いい度胸よ、刹那」
「ドウシタ、ドウシタ」
「そんなに悲しいなら、私が変わりに戦ってやるわよ。それで貸し借り無しよ、刹那・F・
セイエイ!」
 
 悲しみに明け暮れ戦えない腑抜けなら私が敵を倒すと、胸に宿った悲しみに突き動かされ
るように、ネーナは走り出していた。
 そして、ネーナの左目が"金"では無く"朱"に輝いて居たのをHAROだけが気付いていた。

 トレミーの総合整備師であるイアンは焦っていた。
 トレミーの護衛機である四機のガンダムは、全て出払いGN−Xの相手で精一杯だ。
 多勢に無勢は承知の上。
 出来る限りの整備と強化パーツを持たして送り出したが、五分前にスメラギからもたらさ
れた戦況は、最終防衛ラインが抜かれた凶報だ。

「くそ、こりゃ不味いぞ」

 武装の無いトレミーにMSを迎撃する力は無い。
 必然的に強襲用コンテナで迎撃に出る事になるが、MS戦闘にはトレミークルーは関して
素人同然だ
 強襲用コンテナを動かすにも、操舵手、砲撃手、火器管制支援に計三人を必要とする有様
だ。
41通常の名無しさんの3倍:2009/10/04(日) 23:50:15 ID:???
支援
42FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/04(日) 23:50:28 ID:???
 付け焼刃で国連軍のトップガン達を相手にする事は不可能に等しく、頼みの綱はスメラギ
の戦術とハロを搭載したスローネだけである。
 整備AI達であるハロに命令を与え、ノーマルスーツを着込んだイアンは、ドライを起動
すべく固い鉄の床を蹴った。
 技術屋にしては運動神経は良いのか、一度の飛翔でスローネのコクピットに到着したイア
ンは、視界の隅に映ったネーナに腰を抜かしそうな程驚いた。

「お嬢ちゃん、なにしてるんだ」

 確かネーナは、パージブロックに"保護"されているはず。
 だが、白のノーマルスーツに身を包んだネーナは、怒りに燃えた瞳で真っ直ぐにこちらに
向ってくる。

(おいおい)

 焦るイアンの心中とは裏腹に、ネーナの姿はスローネへとどんどん近づいてくる。
 電気系の故障でドサクサ紛れで捕虜が逃げ出す事は良くある話だが、まさか現行技術の三
世代は先を行くトレミーで、このような事故が起きるとは笑い話にもならない。
 ネーナの様子から銃こそ持っていないが、非戦闘員であるイアンに体術の心得などあるは
ずもなく、マイスター相手に白兵戦を挑んでも結果はしれている。
 
「こりゃ死んだかな」

 諦めにも似た諦念がイアンの心をよぎり、ラボで待つ娘と妻の姿に詫びを入れながら、目
を見開いたイアンは、恐れを隠すように、スローネのコクピットに張り付いた。
 特にスローネチームは、民間人相手に暴虐の限りを尽くした要注意人物だ。
 スローネに乗せたが最後、何がどうなるのか予想もつかない。
 いや、イアンの中では予想など当の昔についていたが、あまりに恐ろしすぎる想像の為、
無意識に考えないように最悪の結果を締め出していただけだ。
 ネーナをスローネに乗せてはならない。
 ただ、それだけの為に、イアンは、助けを呼ぶことも忘れ必死でドライのコクピットに立
ち塞がっていた。

「貸して」

 だが、不退転、決死の覚悟で望んだイアンの思いとは裏腹に、ネーナの態度は実にあっさ
りしたものだ。
 瞳に純粋な怒りこそ携えているものの、殺意や憤怒と言った根深い怒りではなく、どちら
かと言えば突発的な癇癪、イアンの娘が癇癪を起こし叱られ、不貞腐れた様子にそっくりな
のだ。
 人殺しではなく年齢相応の少女が目の前で不貞腐れている。
 てっきり殺し殺される泥沼の展開になるとばかり踏んでいただけに、ネーナの予想外の心
証にイアンはすっかり毒気を抜かれてしまった。

「私が出るわ」
「出るわって、お嬢ちゃん無茶だ!まだスローネの修理は済んでないんだぞ。気密だって不
完全なのに」
「ノーマルスーツ着てるから、いい」
43FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/04(日) 23:51:23 ID:???
やはり不貞腐れた態度のままで、ネーナは、イアンを押しのけるようにドライのコクピット
に滑り込み、ドライの起動プロセスを立ち上げる。
 擬似太陽炉が生む赤い粒子では無く、スローネの腰部に増設されたGNコンデンサから純
正太陽炉と同じ濃緑の粒子が舞い散り、スローネのツインアイが"翡翠"色に明滅した。

(装甲以外の駆動性を問題無さそう。でも、スラスターが変更されるから、細かい機動戦闘
は事実上無理か…)

 サブモニターに表示されたスローネのパラメーターは所々エラーが表示されているが、強
引に捻じ伏せ各種兵装を強制的に待機状態へと起動させていく。

「誰かお嬢ちゃんを止めてくれ。人間が乗れるようには整備してないんだ」
『いいわ、イアン。ネーナを出して』
「なんだって、正気か!スメラギさん」

 インカム目掛けて怒鳴るイアンに声とは別に、スメラギの同意の声が聞こえてくる。
 拒否されれば、殴り倒してでも強引に奪う腹積もりだったのだが、意外な人物の意外な提
案に当の本人はキョトンとしていた。

「いいのおばさん?後ろからブリッジ撃っちゃうかも知れないわよ」
『そうしたら化けて出るだけよ。』

 強襲用コンテナ内から聞こえる声は、粒子の影響もあってかノイズ混じりの酷い声だ。
 だが、スメラギからは明確な意思、何かを託すような声色を感じ取る事が出来る。
  
『ネーナ・トリニティ。スローネを貴女に預けます。幸運を』
「元々あたしのよ、この年増!」

 唸り声を上げるネーナを無視し、スメラギは通信を強引に終らせる。
 どうにもやり込められた感はあったが、四の五の言ってはいられない。
 ネーナは、イアンに食ったような視線を送ると、イアンは嘆息しながら、コクピットへの
道を明け渡した。

「良いかお嬢ちゃん。ギリギリで粒子の充填は終ったが、スローネの動力はあくまでトレミ
ーから有線で供給されている。腰部のGNコンデンサは有線をパージされた時の緊急用と思
ってくれ」
「それで何分くらい戦えるのよ」
「内蔵電源での最大稼動時間は三十分が限度だ。当然攻撃にも移動にも粒子量を使う。粒子
残量には常に気を配るんだぞ」
「上等。誰に物言ってるのよ」
「それだけ言えればたいしたもんだ。いいぞあげろ」 

イアンがコクピットから離れると、HAROの瞳が赤く光り、スローネのシステムが戦闘態勢に移行
する。
 ハンガーが鈍い音を立てて移動し、ドライをリニアカタパルトに移動させる。
 視界の隅でイアンがランチに飛び乗るが見え、ネーナは、眼前に広がる宇宙を真正面から
見つめた。
44FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/04(日) 23:52:46 ID:???
 まだ戦場は遠いが、擬似GN粒子の飛び交う軌跡が瞬き光芒を散らしている。
 慣れ親しんだ戦場が目の前にあるというのに、高揚感も充実感も何も感じない。
 ただ、目の前に広がる空間が命と命のやり取りが続いている、そんな漠然とした事実だけ
をネーナは他人事のように感じていた。

『ネーナさん…刹那達が苦戦しています』

 右上に通信ウィンドウが開き、フェルトの強張った顔が映る。
 確か、髪の長い癖っ毛の後ろで、こちらを伺うようにしていた少女だ。
 話しかけてくる雰囲気すら無いので、こちらも無視していたが、人形だと思っていた割り
に意外に感情表現豊かのようだ。

「知ってる。聞こえたから」

 機嫌が悪そうに言ってのけるネーナに、フェルトが驚きの表情を浮かべた。

『つ、通信を傍受してたんですか、どうやって』
「違うわよ…直接聞こえたんだからしょうがないでしょ」
『直接って。一体どうやって』
「知らないわよ、ネーナ・トリニティ…スローネ・ドライ、出るわよ」

 耳の奥に直接語りかけてくるような刹那の声は幻聴だと切って捨てるのは容易かったが、
虹がもたらした心に直接響いてくる切迫感と焦りは本物だ。
 ネーナは、フェルトを無視し、フットペダルを踏みこむ背部のスラスターから"翡翠"色
のGN粒子が迸り、リニアカタパルトから射出されたドライの体が宙に舞う。
 宙空で機体の態勢を整え、トレミーの前に躍り出る。
 出撃して初めて分かったが、迎撃機構を持たないトレミーは、宇宙に浮かぶ巨大な岩塊
を盾に、GN−Xを迎え撃つつもりのようだ。
 トレミーの隣を強襲用コンテナが併設し二対の砲門を向けている。

「完全に待ち伏せじゃないの、打って出ないで守りきれるの」

 刹那達マイスターの防衛線が抜かれた今、トレミーの命は風前の灯だ。
 マイスター達が敵を撃破し帰艦するのが早いか、トレミー撃墜されるのが早いか。
 時間と時間の勝負にすらなっていないような気がしたが、打って出る為のピースが自分
なのだと思えば、スメラギがスローネの搭乗を許したのも頷ける。

『Eセンサーに反応。擬似太陽炉搭載型来ます』
「来た来た。死ぬつもりも馴れ合うつもりもないけど、今は貸しとくわよ、スメラギ・李
・ノリエガ!」
『スローネは牽制射撃を、』
「素人は黙ってなさい!」

 ネーナは迫り来るGN−Xを獰猛な視線で見つめ、スメラギに対する僅かな感謝と怒り
の雄叫びを上げる。
 フットペダルを踏みこむと同時に、兵装システムをアクティブに設定する。
45FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/04(日) 23:53:53 ID:???
 支援AIであるHAROが敵に即座に照準を合わせると、正面のレティクルがロックオ
ンを告げ、ネーナは躊躇せずトリガーを引いた。
 GNハンドガンから翡翠色の粒子が迸り、編隊を組み接近しつつあるGN−X三機の中
央部を打ち抜く。
 二発、三発と一機を追い込むような執拗な牽制射撃は、GN−Xの編隊を切り崩す事に
成功し、右上方へと散開したGN−Xにドライを差し向ける。。
 濃緑の粒子がスラスターから迸り、細かい旋回性能を除けばドライの性能は良好だ。
 一瞬で距離を詰めたネーナは、スローネドライの登場に困惑するGN−Xを他所に、臍
部にあるコクピット目掛け、GNハンドガンを連射する。
 濃緑の粒子に貫かれたGN−Xは赤い粒子を撒き散らしながら爆砕し、ネーナは虚空に
散らばる擬似GN粒子を隠れ蓑に残りに二機へ肉薄した。
 メインモニターにコクピットが拡大表示され、獰猛な笑みを浮かべたネーナは、GNビ
ームサーベルを引き抜こうと機体を操作すると、ガクンと重い衝撃が機体を襲い、ドライ
が唐突その場で動きを停止させた。
 トレミーに接続された船外活動用の動力供給ケーブルは、全長12キロにも及ぶが、無
重力戦闘時のMSの航行速度は音速を容易く突破する。
 超高速起動で縦横無尽に移動するMSには12キロなど軒先から一歩を踏み出した程度
の感覚に過ぎず、敵の目の前で動きを止めたドライは挺の良い的だ。

「ハロ!外電源パージ!」
「Yes,sir」

 拾い食いでもしたのか、それとも、純正GN粒子の影響でIMFがバクったのか。
ネーナの呼び声に突然調子の変わったHAROの瞳が怪しく光ると、腰部に直結された
電源ケーブルが爆砕ボルトと共に弾け跳び、メインモニターに粒子残量を表示したタイム
メーターが起動する。

「Activity limit, 1734 seconds. Gget cold feet,My Mater?BA−RO!」
「Yeah, but she had to be dragged in kicking and screaming」

 目の前の二機を相手にして、トレミーに戻り有線の再接続。
 不慮の敵に編隊を乱され、浮ついた相手には三十分もあればお釣りが来る。
 戒めから解き放たれたドライは、背筋を屈め、豹のようにGN−X達に襲い掛かる

「スラスターが動けなくても!」

 スラスター機動の全盛の時代にAMBAC(ACTIVE MASS BALANCE A
UTO CONTROL)機動を使えるパイロットは少ない。
 機体の一部を高速で動かし、発生した反作用で機体を制御するAMBAC機動は、粒子を
無駄使い出来ないドライには打って付けの駆動手段だ。
 その上、スラスター光が発生し難い為に、粒子の動きから挙動を察知される心配もない。

「これくらいは出来るのよ、HAROフィールド展開、範囲は極小。照準をずらせればそれ
でいいわ」
「sir!」
46通常の名無しさんの3倍:2009/10/04(日) 23:57:51 ID:???
支援
47通常の名無しさんの3倍:2009/10/04(日) 23:59:02 ID:???
 
48FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/05(月) 00:00:43 ID:???
 ドライの装甲板が開き、中から濃緑のGN粒子が機体を覆うように展開される。
 ステルス性に優れたドライのGNフィールドは、ヴァーチェのように対物防御特性を持っ
ていないが、既存のレーダーシステムを完全に無効化する事が出来る。
 フィールドを展開する際に擬似と純正粒子でどのような違いでるのか、全くの未知数だっ
たが、基本構造が変わらないのであれば、それに準じた効果が得られるはずだ。
 パイロットにあるまじき丼勘定だったが、機動戦闘が出来ない以上、使える物を使う事が
戦場で生き残る秘訣だとネーナは直感で理解していた。
 ネーナがドライの機体を反転させるのに約一秒、思考にコンマ五秒。
 ドライは、まるで、人が乗り移ったような滑らかで無駄の無い動きでGNハンドガンを構
え、振り向き様に左側のGN−Xに照準し発砲する。
 濃緑の粒子束が虚空に煌き、GN−Xの着弾すると、Eカーボン製の装甲がGN粒子が発
生させる熱量により融解し、背中の擬似太陽炉を貫通する。
 一瞬で塵も残さず消滅した国連軍のパイロットの命を送る篝火のように、破裂した擬似太
陽炉から伸びた赤い粒子が血化粧のように黒い地平にぱっと散った。

『馬鹿前に出すぎなのよ!』

 放射状に広がるGNの粒子の輝きにネーナは一瞬目を奪われ、スメラギの怒声ではっとは
我に帰った。
 慌てて正面を見据えると高速で接近するGN−Xが瞳に映りこみ、HAROの警告を無視
し、半ば反射的に、フットペダルと操縦桿を操る

「この」
 
 怒声交じりにドライを動かし、急制動とAMBACを繰り返す。
 接近するGN−Xにすれ違い様に引き抜いたGNビームせーベルで左腕を両断し、AMB
AC機動で機体を制御し反転、再度振り向き様に照準を付けずGNハンドガンを速射で三発
お見舞いする。
 濃緑の粒子束が、GN−Xのスタスターと右足太腿部を削り、X型のテールバインダーを
破壊し、スラスターを破壊されたGN−Xは岩塊目掛けノロノロを退避行動を取り始める。
 ネーナは、トドメの一撃を与えるべく、銃口をGN−Xに向けた瞬間それは起こった。

『よぉ…お前ら…か、こんな世界で…俺…やだぜ』
『嘘だ、ハ…ヤ…ルヤ!』

 電撃のように脳裏に過ぎった今際の声。
 悲しみに満ちた、ぽっかりと空いた空虚な穴にすき荒む風が ネーナの心に吹き荒みネー
ナはここが一瞬戦場である事を忘れた。
 荒涼と続け真空の闇の中で蠢く胸を締め付けるような圧迫感と誰の物か知らぬ毒々しい思
惟がネーナの中に溶け込み、心の柔らかい部分をまたも犯されて行く。
 自己と他者が混ざり合う、精神がざわめく感触は、自分自身の自我が海に漂う藻屑のよう
に脆い存在のように感じて、ネーナは顔を無意識に顰めた。

「誰かが死んだの…」
 
 間違いない。
 全身が泡立ち舌の上がピリピリする感触は、ヨハンとミハエルが死んだ時に良く似ている。
49FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/05(月) 00:01:28 ID:???
 なぜそんな事を感じたのか、ネーナ本人にも理解出来なかったが、この広大な戦場の何処
かで今まさに命が散った。

「しつこい!」

 爆発で腕とスラスターを損傷し、破れかぶれになったパイロット程御しやすい存在は無い。
 ネーナはGN−Xの無防備なコクピット目掛け引鉄を引くべく、GNハンドガンをまるで
道端の虫を踏み潰すように無造作に向けた。
 引鉄の軽さが命の軽さに直結するように、ドライは無造作に引鉄を引く、ひいたはずだっ
た。

「嘘」

 情けや慈悲では無い。
 ネーナは殺意を持ってGN−Xに銃口を向けたし、やはり、どす黒い憎しみを持って引鉄
を引いた、つもりだった。
 だが、現実はドライの鉄の指は、引鉄を引いておらず、間際を通り過ぎるGN−Xを無防
備で見送っていた。
 迷いと戸惑いは致命的な遅れを生み、ネーナの後ろで赤い光が瞬き光芒となって散る。
 次いで無音の衝撃がドライを襲い、暗い宇宙を大きな光の渦が照らした。

「なんで…うっ」

 反射的に口を覆うが、バイザーに遮られ手が口に届く事は無い。
 喉奥から競り上がってくる内容物が胃液共々メットに内に充満しすえた匂いに、ネーナは
もう一度えづいた。
 メットの中の撒き散らされた吐瀉物を、エアクリーナーで除去し、メットを投げ捨てる。
 気密が不完全と言いながらも、コクピット内には新鮮な空気が溢れ、限られた資材で時間
内に最低限の生命維持レベルをクリアするイアンの腕には感服するしかない。
 ほんの数時間前に食べた携帯食のすえた匂いでに鼻が曲がりそうだったが、敵を目前にし
て引鉄を引けなかったのが事の方が衝撃だった。
 確かに殺したと確信も覚悟もあった。
 だが、殺せなかった。
 最終防衛線であるネーナが抜かれ、無防備なトレミーのメインブリッジがGN−Xの砲撃
で消し飛んだ。
 回線から聞こえてくる悲痛な叫び声がネーナの耳朶を打つ。 
 強襲用コンテナの砲門が手負いのGN−Xを破壊し、赤い粒子が満天の星空に舞い、その
中で、誰かが、また−−−死んだ。

「おぇえ、うぁえええ」

 胸を襲う不快感にネーナは、吐き気を我慢する事が出来ず、コクピット内にも関わらず嘔
吐を繰り返す。
 胃液で喉が焼ける痛みよりも心が痛い。
 手が緊張で震え、足が恐怖ですくみ上る。
 背中から這い上がってくる寒気に振るえ、反射的に両肩を抱くが、心底より湧き上がる震
えを止める事は出来なかった。
50FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/05(月) 00:02:30 ID:???
(なによ、なによ、これ)

 ネーナは、自分の体に起きた変化に戸惑い、何より恐怖していた。
 引鉄を引き命を奪う行為は、ゲームのボタンを押すよりも簡単だ。
 目標をセンターに入れてトリガーを引く。
 たった、これだけの事で敵は死に、そして、ネーナは生き残ってきた。
 少なくともネーナの中の常識はこれまで引鉄を引いた結果、ショックで体が竦む事など無
かった。

『ネ…ナ…さ…聞こ…ますか』

 耳元でフェルトが大声で叫んでいるが、ネーナには届かない。
 フェルトの声が遠い異国の見知らぬ言葉に聞こえ、心が言葉を認識しない。
 巨大なうねりに飲み込まれるように、ネーナの心は萎縮し、感じた事の無い感情の波に半
ば放心状態にあった。

「…行かなきゃ」
『行くって何処に』
「分かんないよ。でも、行かなきゃ駄目なのよ…きっと」

 虹色の光が脳内でフラッシュバックし、去り際の刹那の表情が胸に焼きついた。
 色々な感情が混ざり合い、もう何色も写せないまま、世の無常と後悔を噛み締めた表情は
素直に言葉を綴る感情を持たないだけで、彼は自分にナニカ大切な事を伝えようとしたので
は無かったのだろうか。

「そう…行かなきゃ…駄目」

 口調は放課後の気だるげな女子学生のように軽いが、瞳に宿った炎は気高く熱い。
 強姦のように心に植えつけられた悲しみと人を撃った衝撃は何を表しているのか。
 刹那が、人に伝え聞かせるほど器用でないのなら、首根っこをふん縛ってでも聞きだして
やる。 
 何も言わせず、こちらの感情などお構いなく言いたい事だけ言って、はいさよならなど、
何処の誰さんが許してもネーナが許しはしないだろう。
 こちらの心の弱い部分を覗き見られたのだが、少しでも文句を言おうものならば、キスと
拳骨で黙らせる。
 一言一句漏らさず、刹那・F・セイエイの全てを語って聞かせ、全てを手に入れさせて貰
わねば、天秤が全く持って吊り合わないのだから。

「私はスパルタなの、甘やかすとかキャラじゃないのよね」
『ネーナさん、待って!何を言って』
 まるで、二日酔いの体のように気だるげな表情で、ネーナは無言のままフットペダルを踏
み込んだ。
 ドライが背後から濃緑の粒子を散らせ、ネーナの意志に逆らうことなく、ゆっくりと足を
進め、フェルトは、ネーナが危険な状態にあると瞬時に理解したが、止める術を持たない彼
女は、ネーナを見送る術しか持たなかった。
 フェルトが己の無力を噛み締める中で、ネーナは濃緑の粒子を纏うドライを走らせる。
 もう彼女を止めるモノは誰もおらず、いつの間にか戦場は、驚く程の静けさを取り戻して
いた。
51FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/05(月) 00:03:10 ID:???
今回はここまです。
支援と保管庫への保管感謝します。
では、失礼致します。
52通常の名無しさんの3倍:2009/10/05(月) 03:54:57 ID:???
みんなGJ投下乙。
53通常の名無しさんの3倍:2009/10/05(月) 22:55:53 ID:???
>>FRESHさん

投下乙。GJ.
ネーナの鉄拳はむしろご褒美。だけどゲロはいた後のキスは御免被りたい!
54通常の名無しさんの3倍:2009/10/05(月) 23:07:56 ID:???
前スレのコーラサワー、アロウズ離脱の所をたまたま読んだんだけれど、
コーラがあったりマカロンとかドーナツとか、甘そうだな、アロウズ。
55赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2009/10/06(火) 00:56:14 ID:???
一時からちょっと短編を投下します。2〜3レス位の予定です。
56通常の名無しさんの3倍:2009/10/06(火) 01:01:29 ID:???
            英雄の種と次世代への翼
      嘘番外編「だって、編集長が書いちゃったから補完しないと」

―戦艦ピースミリオンにて

「好奇心で聞くんだが デ●オ」

 地球圏へと向かう戦艦ピースミリオン。長距離宇宙航行というクルージングはやはり優雅に過ごしたいモノ。
 各々で各自趣味的なモノの持込が許可されていた。そんな中、デ●オとトロワの両名は同じロビーにて
 音楽を掛けながら平和な時間を過ごしていた。デ●オは神経を尖らせながらもピースミリオンのプラモデルを組み立てている。
 元々巨体さを誇るこの戦艦に更に細かいパーツが実によく再現されており、ピンセットでないと作れない程の
 作成の難しさを要している。トロワは再びミスをしたのか、頭をウリィィッッとかきむしり始めるデ●オに対して
 読書を中断し話しかけはじめ、ディオはそれに作業をした姿勢のまま聞き耳を立てている。

「お前が出会った中で、一番性能の安定しないMSはなんだった?」
「どんなMSだろうと機体にはそれぞれ個性にあった適材適所がある。
 白兵戦には白兵戦の、対艦戦には対艦戦の、それが闘うという事だ。
 パイロットも同様、『安定』も『不安定』の概念もない」
「質問が悪かった。酒飲んだ連中が遊びで話す
 『ドロシー・カタロニア嬢とプラントのラクス・クライン議長、どっちが戦争好きか』とかそういうレベルでいい」
「…………」

 トロワの質問にデ●オは一瞬、手を止めてキャラにでもない台詞を口走る。
 無論、トロワの質問もあまりキャラに見合ってはいないのだがそれはそれだ。
 しばし考えた後、何故かデ●オの首元に星の痣が出来たり出来なかったりするが
 当たり障りの無い回答をする。それにトロワは突っ込んだ様な言葉を繋げた。
 僅かな沈黙。デ●オは静かに口を開き、思い出しながらも話していった。

「リーオーと名づけられたMSが最も『不安定』。また、手に余る」
「リーオー? OZが使ってた奴じゃないか。量産機でかなり使われてたが」
「これは聞いた話なんだがな」

―そうして、デ●オの言葉は歴史の一ページを語り始める

 時はAC195年。ユーラシア大陸への機動コース上、OZとガンダムとの戦闘があった。
 OZ側のパイロット二名死亡。三機のMSが大破。
 戦闘の報告書とパイロットの証言にはこうあった。
57赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2009/10/06(火) 01:02:49 ID:???
         ,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
         (.___,,,... -ァァフ|          あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
          |i i|    }! }} //|
         |l、{   j} /,,ィ//|     『最初は戦闘機かと思ったがよく見たらMSだった!』
        i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ     『行き成り被弾して、組み付かれて海に沈められた!』
        |リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |
       /´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人        な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
     /'   ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ        おれも何をされたのかわからなかった
    ,゙  / )ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉
     |/_/  ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ        頭がどうにかなりそうだった…
    // 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
   /'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐  \ 新番組の一話なのにとかそれ以前に前半で主人公死亡か?とか
   / //   广¨´  /'   /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ  そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
  ノ ' /  ノ:::::`ー-、___/::::://       ヽ  }   
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::...      イ  もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
58赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2009/10/06(火) 01:05:57 ID:???
「俺が後で知った事では……その戦闘にはゼクス・マーキスが関わっていたらしい」
「その戦闘でリーオーに乗っていたのがゼクス?」
「ああ、そうだ。だが、それだけでは評価に繋がらない。リーオーとは何なのか?
 答えはそう『ゼクスだけでなはなくミリアルドにヒイロまで乗って無双をした上での量産機』 ただ、それだけだ」

 長く語られた会話の中で途中でトロワはデ●オの会話に口を挟む。
 ゼクス・マーキス。自分達も闘った優秀なパイロットだ。今は訳あって同じ勢力という事になっているが
 彼とは何度もコロニーの存亡をかけて対峙した宿敵的な存在である。

「リーオーは優秀な量産機だ。プロトタイプはゼクスの乗っていたトールギス。
 最新型のガンダムとも互角に戦う。しかし、やはり雑兵が駆るリーオーは弱い。
 俺達相手に束になっても勝てない事はザラにある」
「さっき、手にあまるって言ったな」
「己を試される機体って事さ。
 何せ乗ったパイロットによって装甲の硬さや機動性まで変わってしまう上に
 俺達もよく乗って性能を把握したつもりでいる。
 自分なら耐えられる筈という慢心を持ったらパイロットとしての命運なんてすぐ終わってしまう」

 デ●オの語る言葉はパイロット誰にとっても重くのしかかる宿命であった。
 己が慢心、自分の実力と相手の力量との見極め、戦場の引き際や攻め時。
 それらが全て合わさった形になるプレッシャーとの駆け引き。
 つまり、リーオーとはそれを如実に体現する鏡の様な機体という事になる。

「俺もそんな強いリーオーと対峙してみたいものだ」
「案外、そうなるかもな。例えば、お前が潜入した先の組織で俺達と対峙して
 お前は最新の量産型で頑張る中、俺達は奪ったリーオーで暴れるとか」
「成る程。もし、そうなったらそうなったで面白いかもしれん」

 こうして二人の火星から地球圏へと旅立つ長い長い船旅。
 全然奇妙じゃない冒険の一幕はたわいも無い談笑と共に閉じていった。

―詳細はガンダムW本編とエンドレスワルツでどうぞ
  また、編集長にはこのネタのインスピレーションを与えてくださった感謝を


投下失礼しました
59通常の名無しさんの3倍:2009/10/06(火) 14:12:25 ID:???
投下乙。
60週刊新人スレ:2009/10/06(火) 20:45:29 ID:???
あいたたた……


……と、投下乙orz
61通常の名無しさんの3倍:2009/10/07(水) 00:56:54 ID:???
雑談でもするか?
62通常の名無しさんの3倍:2009/10/07(水) 01:00:28 ID:???
先に前スレを落としちゃった方が良くない?
63弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/10/08(木) 21:49:37 ID:???
空(あま)駆ける少女達 〜少女は砂漠を走る! II〜
PHASE-04 砂漠の焔(ほむら)、芽吹く。

「えぇ、あのぅ、ポーリーンサブチーフを。――はい。こちらサンナナマル改、ゲレイロ准尉です」
 隣で聞いていてなんだが、なにやら呪文みたいだ。管制塔へ帰投報告しているようには
これはもう全く聞こえない。だからと言ってあたしが喋る訳にはいかないのがもどかしい。
MSで行動中はリョーコちゃんが機長。そう、かぁさ……、シライ隊長に決められたから。
 もっとも、我が機長殿がもどかしく感じるのはのはあたしだけではないようで。
『もうチョイ、ハキハキ喋れないかなぁ、まぁいいや。宿題……。はシライ候補生に聞こうか?』
 ポーリーンさんから往信が来る。ややほっととした表情のリョーコちゃん。 

「座り心地はなんとか。ガンバレル、起動画面だけは出ましたけどヤッパリ動きません、飛行形態
ではそもそも起動画面も出ませんでした。あと最高速試験、音速手前からスティックビビります。
――それとムラサメ、スピアヘッドとのフォーメーションは……、ちょっと無理、覚えきれませ−ん」
 二人いないと起動しないので急遽複座に改造されたのだが、ちょっと想像と違った。
こういったモンは上下とか前後だろうと、そう勝手に思っていたのだが何故に二人並んで
座るんだろう。自動車じゃ有るまいし、座り心地はともかく、実際狭い。
『今んとこ飛べるならOK。変形行程とMA形態での安定飛行、それは間違いなくクリアしてね。
あなたたちの最大の仕事は有事の際に2、000Km先の基地まで逃げることなんだからね?』 
 
 ガンダムの形をしてる以上、使おう。と断を下したのは他でもないかぁさんである。
「駐機場に突っ立ってるだけで良いんだもの。ちょっと太って見えるけどフリーダムに似てるし」
 作った本人が似せて作ったと言っている以上、当たり前と言えば当たり前の話ではある。
……そして戦闘に耐えないMSならば単なる的になる。逃げるしかない。

 ――ガンダム。たった一機で戦況を激変させる力を持った各陣営最強のGの名を持つMS達。
 無敵のストライクはたった一機、それだけで並み居るザフトのエース達を次々退けた。
 初代フリーダムはザフト、連合双方から砲火を浴びつつ、プラントへ放たれた核を全て撃破。
 戦力差を全く無視して、MSも戦艦も墜としまくったインパルスはそのフリーダムさえ撃墜。
 オーブのアスハ代表は、ストライクルージュで戦場に現れただけで戦いを止めたと言うし、
 国の危機には金のガンダムで、単身敵陣を突破。崩壊寸前の国防軍を一気に立て直した。
 デストロイがガンダムかは怪しい気がするが、単機で万人単位の人の住む街を消し去り、
 デスティニーは異常なまでの機動性と攻撃力でそのデストロイさえ撃墜数(スコア)に加えた。
 ストライクフリーダム、インフィニットジャステスに至っては、たった2機で機動要塞を撃破する。
 かぁさんだって初搭乗でいきなり一機撃墜一機中破。只の高校生は今やザフトの隊長である。
 
 ……でもそれは機体性能もさることながら優秀なパイロットの卓越した技量あっての話。
ガンダムの一騎当千の”伝説”は、だから機体性能と操縦技能、表裏一体のものなのだと、
あたしはそう思っている。だから二人ともガンダム乗りの資格は今のところ、無い。
『その機体は誰も教えられないから、操作系に慣れて。あと1時間、いじくったらあがりで良いよ』
64弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/10/08(木) 21:52:16 ID:???
#4 砂漠の焔(ほむら)、芽吹く。

「熱源センサー感度は50%ダウン、さらに有視界に限定の場合、精度については20%の……」
 隣でブツブツと呪文を唱え続けるのは、管制担当として、主に索敵、データ収集、分析を
主な仕事として割りふられたオーブのパイロットスーツの機長殿。開けるディスプレイを出せる
だけ出して膝の上には戦術の教科書2冊とポーリーンさんが作った機体のマニュアル。
理解出来ないなら、持ち前の記憶力で、マニュアルごと全て丸暗記しまおうという腹のようだ。
 リョーコちゃんはあたしと違って、良く分からないが直接関わりのないものまで背負っている。
今、此所でセブンスから『要らない』。と言われる訳には絶対にいかない、必死だ。

 一方のあたしは、操縦が仕事。余りに独特すぎる仕様ではあるが、変形も動作も一通り
はこなせる様になった。今は自分用にさらにカスタマイズを進めているが、それはポーリーンさん
でさえ気づかないはず。特殊であるが故にあたしに操縦を教えてくれる人は居ても”操縦系”を
教えられる人は居ないからだ。あたしにとって好都合この上ない。
 射撃訓練はわざと的の外側を狙っているし、さっきのフォーメーション云々の話は半分嘘。
そもそも操縦を教えてもらう必要はない。出来るんだから。

 ただ、何故起動出来るのか、ガンバレルがどうして動いたのか。そこは全く分からない。
連合のデータベースにあたしの指紋や網膜のデータが有るはずがないし、空間認識能力に
ついては昔々の検査の時、常人並みで確定だったはず。実戦になればどうにかなるんだろうか。

 勿論、実際の戦闘になればどうなるものかは分からないが、自信はそれなりにある。
だけど、昨日今日MSに乗った人間が、今、軽々と操縦して見せる訳には行かない。
 あたしだって護らなきゃイケないものがある。人から見たらちんけでちっぽけで、あきらかに
どうでも良いものだろうけど、それでも。


【 hiding secretly line /compulsion connection completion. For Commander's room / sound only】
あれ、運動系のシナプス再構築中なのに通信系に繋がっちゃった? 何、このシステム……。
しかも隊長室にハッキングかけてる状態になっちゃった。ヤバい、バレたらかぁさんに怒ら……。
『――を放置したのは不味かったわね、確かに。腐ってもガンダム、か。その後何かわかった?』
『今のところは何も。ムツキ君の話からMIA扱いの赤服を当たってるけどヤキン戦役開戦まで
遡っても該当者4名。地上の赤は数が少なすぎる。それと、純正のハウンドをMPが視認してる。
改修型で無いのは乗り辛い上に数が少ないから、ほとんど市場には出ない。その線も当たるよ』
『ゴメンね、余計な仕事ばっかり増やして。それと盗まれたアレは、ヤッパリ……?』
『そう。ポーリーン君がデータ付き合わせた限り、ファング1。――うん。セブンス襲撃事件で回収
出来なかったエディの専用機。それを再構成したモノで、ほぼ――、あ。だからそういう顔しな』
【Command:Cut out line / OK ......... Cutting the line was confirmed. ■】


 エディというのは、多分かぁさんのお師匠様、エディ・マーセッド。BTW事件に関わり、その後
人々を救うために、自らの命を削ってまで奔走した元ザフトレッド。そして、人間ミツキ・シライの
心中、師弟の枠を超えてかなりの部分を占める大事な人。あの時盗まれたのはその人の……。
65弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/10/08(木) 21:53:29 ID:???
#4 砂漠の焔(ほむら)、芽吹く。

「オレまでごちそうになって良いのかな。それに女の子の家に泊まったりして……」
 隊長室に顔を出した時に、今日は帰らないから。とあっさり言われたあたしはゲレイロ兄妹を
自宅に招くことにした。料理は苦手だし、こういう状況ならデリバリーも頼みやすい。
 泊まるのはかぁさんがあっさりOKしている。なんだかんだ言ってこの兄妹を一番気にかけて、
心配してるのはあの人である。自信の生い立ちも相まって、”家族”と言う言葉には一家言持つ
かぁさんだ。ついでに朝はリョーコちゃんに起こして貰えるので遅刻しない。
「番犬と二人だけでは心細いですよ。それにご飯はみんなで食べた方がおいしいです」
《その言われ方は心外です。お部屋には入れませんが、犬より多少はお役に立ちますよ》 

「よ、ミツキから聞いたぜ? むっちゃんの料理は”アレ”だし、店屋モンだけじゃ味気ないだろ」
 ナヴィのお客様です。の報告の三分後のリビング。ユースケさんと奥さん、そして何故か
付録が三人程。
「ん? オオノ? ――イシズカとシモダも! どうしたのさ?」
「騎士団に入ると言って聞かなくてな。四六時中まとわりつかれて困ってるんだ」
 と言いながらあまり困ったようには見えない。多分良いように自分の仕事に使ってるんだろう。
勿論騎士団じゃない方の仕事に。今だって、当たり前のようにお鍋とバスケットを持たされてる。

「あ、三尉。その、こないだは……すんませんでした」
 お鍋を持っておずおずと、といった感じでそれでも前に出て頭を下げるオオノ。
コイツ、意外と良いやつなのかも知れないな。
「オオノ君、だったね。リョータで良い。むしろ礼を言わなければいけないのはこちらの方だ。
わざわざコイツのために、怪我をしてまで体を張ってくれたんだ。むしろ謝るとすればこちらだ」
 そのリョータさんの後ろ、赤くなって呟くようにありがとうございました。と言って小さく頭を
下げるリョーコちゃん。動きに合わせてふわりと黒い髪が流れる。
「ま、その辺は飯食いながらゆっくり語ればいいじゃねーか。冷める前に喰おうぜ? 
むっちゃん、鍋敷き出してくれ。リョーコちゃん、何所に置けば良い?」

 リビングが片づいて、ユースケさんの奥さんと三人組は一緒に帰った。既にみんなシャワー
も終えて部屋に引っ込んで眠るところ。リビングではユースケさんのみが一人、ちびちびと
お酒を飲んでる筈。
 あたしは、本当は必要ないのだろうけど、スティックではなく直接ナヴィに夜の当番を頼みに
行く。一人の夜はイヤだったからこんな癖が付いたのだろう。一人の夜が平気になったのは
本当にごく最近だ。玄関横の部屋、ブラインドを上げて窓を開けると、ライトが一瞬光る。
《わざわざありがとうございます。ムツキさん。警備は私にお任せになってゆっくり休んで下さい》
 毎晩同じ事しか言わない私に、同じ台詞で彼女が返す。これであたしの一日は終わるのだ。

 ん? まだリビングの明かりが落ちていない。消し忘れて酔いつぶれたのかも知れないな。
そう思って近づくと中からはぼそぼそと話す声、二人分。 
66弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/10/08(木) 21:55:37 ID:???
#4 砂漠の焔(ほむら)、芽吹く。

「ははは……、まぁな。――処で一杯どうだ? 未成年だからなんて言うなよ? おめぇは
そんなタマじゃねぇだろ?」
「確かに。僕のキャラクターは、どちらかと言えば逆でしょうね。……でもお断りしますよ? 
飲んでいる薬とアルコールの相性が最悪で、以前七転八倒の目に遭いましたから」
「既に実験済みかよ! こいつぁいいや、……ははは」
 ――勧める方もどうかと思うが、断り方もどうかしてる。もっとも薬は嘘じゃないようだ。
そっとドアのスキマから覗くと、ポケットから大きめの平たいピルケースを出してガシャガシャと
降ってみせるリョータさん。量も種類も半端じゃない。なんの病気なんだろう……。

「面白いヤツだぜ。ますます気に入った。――でもよ、あんときゃ、流石にオレも出て行かざる
を得なくなった。士官様が喧嘩を買うとはな。……実際どうする気だったんだ?」
「あの気配はあなたでしたか……。初めから出てきてくれればいいのに、人が悪い」
 口調は、でも責めては居ない。むしろ口元にはふっと笑みの浮かぶリョータさん。
「ガキの喧嘩に騎士団服は、流石に気まずくてな……。だが、判断を誤ったのは事実だ。
タイミング間違えば、危うくおめぇの立場まで潰すとこだった。済まない」

「立場を踏まえての話ですよ。陰から喧嘩を野次馬していたから、人が悪いと言ったまでです。
――で、僕の答えですが、あなたはミツキさんが来なければどうするつもりだったんですか? 
あの場合、自らの正義に従うのが普通でしょう? それに僕は、端から社会的立場など興味が
ない不肖の輩ですから。……もっとも、彼の腕を切り飛ばそうとも思わなかったですがね」
 ピルケースから自然に薬を数種取り出すと、ひょいと口に入れて左手のカップを傾ける。
「――あなたは荒事はあまり好まないと伺いました。……あの日は何故本物のレイピアを?」

「何となく、な。経験値って奴だ。伊達に此所まで……。ん? おまえ、何で本物と?」
「只の鉄ならあんな光り方はしませんよ。職業がら多少、刃物を弄ります。お互い様でしょう?」 
 やっぱり本物だったんだ! ……あれ? でも普通の人間に見分けなんて付かないはず。
前に見せて貰った偽物は刃は無いけど、かなりの精巧さだった。チラ見で見分けるなんて無理。
 ヤキン戦役ののちに、やむなくMSに乗ったのだ。と言うのを信じれば、彼の国防軍在籍は
どんなに長くても2年ちょっと。更に彼はパイロットが本職。本物だ、と言い切れたのは何故?

「――しかし、只の学生が家族を押さえられてまで逃げる。ですか……? 連続とは言え恐喝、
せいぜい強盗の疑いなのでしょう? 此所の司法制度がどうなっているのか知りませんが……」
「少なくとも死刑にならんのは間違いない。――つるんでた連中10数人はミツキんとこで纏めて
捕まえたらしいが、あの場にいた四人のうち三人までもが姿くらましちまいやがった――但し」
 ……あいつら、まだ捕まってなかったんだ。
「その三人、治安警備支隊(ウチ)の連中が、ある事件でマークしてた三人でもある……。此所
だけの話、某マフィア組織が頭を獲られてな。ガキがやったらしいってんで裏社会は大騒ぎだ」

 あいつらは騎士団の服に怯むどころか突っかかり、予定が狂ったのだと言った。つまり……。
67弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/10/08(木) 21:56:47 ID:???
#4 砂漠の焔(ほむら)、芽吹く。

「各ロック、オールフリー。周囲の安全、……確認。起動準備よろし! えと、ムツキさん?」
「おっけ−、アイハブコントロール。行くよ? ――サンナナマル改、起動シーケンス開始っ!」
G eneral
U nilateral
N euro-link
D ispersive
A utonomic
M aneuver Synthesis System
「ゲレイロ准尉からコントロール。起動確認、各部動作良好。――現在機体管制はシライ候補生」

『こちらエピトリカ1、スピアヘッド”エピトリカ”全機、発進準備完了、待機に入る』
『デザートランサー1からコントロール。スピアヘッド”デザートランサー”全機、エピトリカ発進後
スクランブル待機体制に入る。――待機ご一緒のガズウートとアジャイル、誰の隊だ?』

『こちら一番格納庫ポーリーン。”デッドアイ”、”ムーンフラワー”どちらも現状なら推進剤補給
完了後、直ちにエプロンに出せます。パイロットも確保。どちらを使うかは隊長の自由に』
 2機とも同型の”デッドアイ”と”ムーンフラワー”はシライ隊が持っているスリムな小型旅客機。
かぁさんや市長が会議などでどこかに出かける時に使われるのが主な用途。
 特にムーンフラワーは隊長専用機として白い機体にピンクのピンストライプ、機首にかぁさん
のパーソナルマーク、三日月に花。尾翼にはデカデカとザフトのマーク。それに比べれば
ブルーグレイの迷彩で胴体に小さなザフトマークのデッドアイはいかにも軍用機。

 両機とも攻撃用の装備は出来ないが羽の下にセンサーコンテナを最大四つ、おなかにも
レーダーを一つ、更にデッドアイならば頭の上にも大きな皿のようなレーダーを取り付けられる。
 贅沢で速い移動手段としてだけでなく、空飛ぶ司令室、更には電子哨戒機としても使える。
と言う事だ。ただ電子装備が充実している関係上、デッドアイは定員が半分以下になっている。
『サブ・チーフ、ムラサメの準備が若干滞ってます。キラービー2、あと70秒必要との事!』

『ポーリィ、”デッドアイ”を完全電子戦装備で用意して。私もすぐ行く。――作戦参加全機に
通達、エピトリカ、キラービー全機とサンナナマル改は300秒後に発進開始。エピトリカ1を中心
にフォーメーション確立後空中で待機。デッドアイ離陸完了次第、機内より追って指示を出す」
『イエス・マム。デッドアイ、補給、増漕取り付け開始。完了まで480。装備完了までプラス170』
『エピトリカ1了解。サンナナマル改はエピトリカ2に続け。――離陸シーケンス開始。誘導宜しく』

『サンナナマル改のゲレイロ准尉も、聞こえたわね? 復唱!』
「コピー。サンナナマル改はエピトリカ2に次いで離陸。デッドアイ離陸まで空中待機、です」
 普段、定期哨戒以外仕事のないシライ隊の航空戦力。それを可変MS、哨戒機まで含めて
7機も投入する大作戦。どうしてこんなことになっているかというと……。
68弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/10/08(木) 21:59:16 ID:???
#4 砂漠の焔(ほむら)、芽吹く。

「――とにかく事実はこう。あそこは帝政国家樹立を宣言して、傭兵団をわざわざ呼び寄せた」
 ついさっきの隊長室。あたしが部屋の主とリョーコちゃんの三人でお昼を食べていた処に
多少慌ててトメさんとオペレーター・チーフのローズ=マリーさんが来た。
「強い傭兵団をも駆逐する、傭兵で生計を立てる国家。って言うウリが必要って事? だからと
いってレッドスネイクに喧嘩売らなくても。……ロージィねぇさん。現状戦力って押さえてる?」
「機種はジンオーカーだけどMSは最低5機は保有してるわ。練度もかなり高い。一方の帝国側、
こっちは砂ゲイツを初め最低7機保有、地上戦力多数。どうやって手に入れたのか光波防御帯
発生器と、移動可能で速射出来る陽電子砲も持ってる。国軍定数は300。計算上帝国が圧勝」

「自信がなければレッドスネイクなんてめんどくさいトコに喧嘩売ったりしないわよねぇ、確かに。
半径300キロ圏内でウチとの非戦協定、正式に断ってきたのも帝国(あそこ)だけだし」
「その自信、ドコまで裏付けが有るのか、だね。……レッドスネイクは傭兵団にオファーをかけて
誰かが受けた。サーペントテールが来るって訳じゃないだろうけど、一方的優位はこれで無いと。
――あとは、今わかってるのは作戦決行時間のみ。ローズ=マリー君?」
 トメさん達でも時間しかわかんないんだ……。あれ? 日にち、じゃなくて時間?
「本日2000をもって攻撃敢行。皇帝の死亡を持って作戦完了とする。以上。……だそうです」
「それはエラく急な話ね。忙しい人達だこと。――トメさん、この件のソース。多分ユースケね?」

「帝国の戦力もそうだけど、レッドスネイクに手を貸す傭兵団……。隊長は気にならない?」
 オレは電話番しなきゃいけないから行かないけどねー。トメさんはそう言ってそっぽを向く。
「時間は、スクランブルかけるまでもない。か。偵察(み)に行けってあいつが言ってるんでしょ?」
 傭兵団からのヘルプの依頼、更に相手は最強装備でやる気満々。それでも手をあげるなら、
傭兵団の仕事が戦闘である以上、儲かる=勝利。それこそ自分たちに自信があると言う事。
 ならば依頼があればセブンスを襲う可能性だってある。帝国の、おれんち最強! の謳い文句
は、『白き雌豹』を旗頭に据えるどこかの街にもそのまま当てはまるではないか。
「ロージィねぇさん。今ムラサメはパイロット、二人ともシフト入ってる?」


『デッドアイから各機。当機はデータ収集に当たる。各機は編隊を維持したまま国境外縁を周回、
当機の援護に当たれ。国境内からの救助要請は帝国政府からの正式要請以外、無視せよ』
 モニターの下の部分、作戦空域まで307.0secの表示が出ている。……救助、しないの?

『シライからサンナナマル改。――良いこと? そのままで聞いて。リョーコさん、ムツキ』
 モニターには【For HsPA-02 "Dead-Eye" C.I.C. / Personal talks】の文字が出る。他の人達は
聞こえていないと言う事だ。
『あなたたちを連れてきたのはMSに乗ると言うことが何を意味するか、自分の目で見て貰う為。
さっきも言ったけど他国の戦、手出しは無用。変形と火器管制、私がリモートで再ロックさせて
もらったわ。戦争は人殺しとイコールで繋がっているの。そしてMSは知っての通り戦争の道具。
――あとは自分達の目で見て考えなさい。この先、乗るも降りるもあなたたち次第よ……』
69弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/10/08(木) 22:00:04 ID:???
=予告=
 戦火の中、人々は火球に飲み込まれ、あたし達はただそれを見ていた。
「これ以上の戦闘継続は無意味であると判断し、即時の戦闘中止を要請します」
『次回 空(あま)駆ける少女達 〜少女は砂漠を走る! II〜』 
【PHASE-05 その姿は、記録された。】
 あたしが内緒にしたいこと。それはこのMS(こ)が全部、覚えてたんだ……。
70弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/10/08(木) 22:01:48 ID:???
今回分以上です、ではまた。


前スレ>>425氏 GJ! でした
お茶吹きました。
71通常の名無しさんの3倍:2009/10/09(金) 02:24:12 ID:???
>>赤頭巾さん
乙w
ねらー的にはミスもネタ。ってかんじですな。
72通常の名無しさんの3倍:2009/10/09(金) 15:40:04 ID:???
>>弐国さん
投下乙です。GJでした。

母さんでもかあさんでもなくて、かぁさんと呼んでいるところに、
すごく微妙な距離感を感じてしまう次第。

知っている筈の事を忘れているのはこまりものですが、
知らない筈の事を知っているのは恐怖ですね。
知らなかったふりがいつまで通じてくれるのか。

>>傭兵団を呼び寄せた
レッドスネーク、カモンということでしょうか?

>>再ロックさせてもらったわ
うっかりロックが外れてしまう予感がびんびんします。次回に期待です。

画面を想像するに、北斗の拳世界でプリキュアがモビルスーツに乗っているような、
コズミックイラは本当に地獄だぜハハハー。な感じがしました。

またの投下をお待ちしております。GJでした。
73通常の名無しさんの3倍:2009/10/09(金) 15:54:16 ID:???
誤字
>>65
五行目
×自信の生い立ち
○自身の生い立ち
だろうと思います。
74文書係 ◆gIyeyjcT.M :2009/10/09(金) 17:23:10 ID:???
こんばんは、文書係です。

前スレ>>317(傷心のビリー黒いよビリー〜)さん、感想dです。
元々の設定にあるお人よし研究者、白衣のビリーから、
傷心によって新たに付加された、黒ビリーが見え隠れ。
うざすぎるコーラを見つめる胸中は、5年前に比して複雑、と思われます。

前スレ>>318(ビリーが酔いどれコーラと心温まる酒臭い交流を〜)さん、感想ありがとうございます。
ビリーとコーラ、30男の酒臭い交流がしばらく続きます。
ここで一切合財ぶちまけてコーラと一緒に暴れられるビリーだったら
結末は違うものになっていたかもと。暴れませんが。

本編は公式アニメと小説、ゲームの心情・状況補完を
目的としているので、戦闘シーンの追加は皆無ですが、
心の中の戦いはそれぞれ取り上げていきたいと考えています。

>>54さん、感想トンです。
そしてカティの机の中には、フィンランド銘菓サルミアッキが……
ビリーとコーラは空母にお菓子持ち込んだり取り寄せたりしてそうだったので。
世界各国の精鋭を集めたアロウズ食堂、自販機は日本風?でしたが、
メニューは一体どうなっていたんでしょうか。
75文書係 ◆gIyeyjcT.M :2009/10/09(金) 17:23:54 ID:???
これから続き2レス分を投下します。
76文書係 ◆gIyeyjcT.M :2009/10/09(金) 17:24:37 ID:???
おまけに脳内補完/機動戦士ガンダム00/短編小説パトリック・コーラサワー 補編
/短編小説ビリー・カタギリ/「戦士の休日 その5」
(戦士の休日 その4 までは>>1のまとめサイトに収録されています)

 「だからな、クリスマスの前祝いに一丁、恋の手ほどきならヒマだし特別にしてやっからよ」
パトリック・コーラサワーの唐突な申し出に、ビリー・カタギリは初め、何かの聞き間違いかと耳を疑った。
脳内で彼の言葉を繰り返し、聞き違いでないことを確認したところで、どうにも胡乱げな思い付きであるが。
「……前祝いに暇で特別、とはまた随分な手ほどきだねえ」
思わず吹き出しそうになるのを堪えて、ビリーはおおどかに相槌を打った。

「でも僕も正直パーティーなんて苦手で、暇だし――せっかくだから、何か質問させてもらおうかな」
とはいえすっかりでき上がったパトリックを、甲板に放置しておくのも気がかりで、ビリーは彼の横に座を
占めた。
海に落ちたりでもしたら後味が悪いことこの上ないし、恋多き男の恋愛理論というのも、ひょっとすると
傾聴に値するかもしれないし――と、最初はほんの気まぐれ、暇つぶしのつもりだった。

「おっと悪りぃ悪りぃ、お前も飲むかぁ?――つってもグラス俺のしかねぇから、お前直接いけ」
パトリックはそう言うと、ワインがまだ半分ほど入ったボトルを、ビリーの鼻先にずいと差し出した。
ラッパ飲みをしろと言うことらしいが、とてもそんな豪快な飲み方をする気にはなれず、また飲みたい気分
でもなかった。
「いやあ、僕はいいよ。……お酒は、もう」
たくさんさ、と両手を顔の前で大袈裟に振り、ビリーは丁重に辞退した。やけ酒など苦く焼けつくばかりで、
およそ美味かったためしがない。

「酔って君の話を聞き損ねても、勿体ないしね」
「おう、何でもこの俺に聞いてくれ!」
ビリーの社交辞令に気を良くしたのか、彼は屈託のない笑い顔を見せ、任せておけとばかりに胸を叩いた。
彼も自分と似たような年頃のはずが、まるで小さな子供のような単純さであった。

「――と、その前に」
ビリーは演台のベルを叩き鳴らすように、立てた膝頭を手でぽん、と小気味良く打って言葉を区切る。
「僕も悪いけど、君の講師としての資質を試させてもらうよ。たとえば――そうだな、彼らを見てどう思う?」
自分と同じようにパーティーの連続に倦んだのか、それとも示し合わせて抜け出してきたのか、ビリーは
今しがた甲板に現れた一組の若い男女を、パトリックに目配せで知らせた。

「あぁ、ルイスちゃんと子熊ね」
女性士官の名がルイスというのはいいとして、子熊の方は彼がつけたあだ名なのだろうか。
しかし男性士官はむくつけき熊男でもなければ、テディベアのようにふんわりとして愛嬌のある顔立ちでもない。
むしろすっきりした風体の好青年である。
「仲が良さそうに見えるけど、どうかな。彼に見込みはありそうかい?」

テストである以上パトリックに教えるつもりはないが、ビリーは二人が親しげにしている様子を、先だっての
パーティーで既に目撃していたのだった。突然体調を崩したらしく苦しげに呻いている彼女を、子熊と呼ばれる
男性士官がさかんに気遣い、甲斐甲斐しく介抱していた。
ビリーはその光景を、見るとはなしに――いや、そんな生ぬるい状態ではなく――滅多に表に出すことのない
憎悪の情を露わにし、普段の落ち着いた声音からかけ離れた、甲高い叫び声を上げながら――視界の片隅に
収めていたのであった。
77文書係 ◆gIyeyjcT.M :2009/10/09(金) 17:25:40 ID:???
おまけに脳内補完/機動戦士ガンダム00/短編小説パトリック・コーラサワー 補編
/短編小説ビリー・カタギリ/「戦士の休日 その6」

 パトリック・コーラサワーはワインを一息に飲み干すと、グラスの脚を指の間に挟み込んで、両手を胸の前で
勢い良く打ち合わせた。
「全っ然ダメなんじゃねえの。脈ナシだありゃ」
硬質な雑音の交じる破裂音もろとも、男性士官が抱いていると思しき恋心も砕け散ってしまったかのような
錯覚に囚われて、ビリーは一瞬はっとなった。
「どうしてかい? できれば僕にも判るよう、客観的な根拠を具体的に挙げて欲しいな」
予測に反するパトリックの回答に、彼は戸惑いを隠して質疑を重ねた。

よしきたと得意気に頷いて、パトリックは指でグラスをもてあそびつつ、「恋の手ほどき」なる講釈を始める。
「直感とか雰囲気はナシってことか。じゃ一番分りやすい例な。あの娘の左手の薬指、今手袋で見えねぇけど、
金の指輪してんだよ。あそこに金の指輪するっつったら、俺たちAEUあたりじゃ結婚してるか、売約済って
こった。相手が生きてるか死んじまったかまでは分んねえけど、恋愛ビギナーの子熊のスキルでアレを外させる
のは、至難のワザだぜ」

「なるほど。彼女には少なくとも、将来を約束した人がいる――若しくは過去にいた、という事だね。しかし、
それだけでは現在、子熊の彼に対して気持ちがないとまでは言い切れない」
――これじゃただの、下種の勘繰りだ。
女性士官に聊か申し訳なく思いながらも、ビリーは成り行き上やむを得ず、彼女の心変わりの可能性を示唆した。

「確かにソレだけじゃ、な――見ろよ。時々手袋の上から、チラチラ見たりいじったりしてっだろ。よっぽど
ソイツが気になんのね」
「指輪の付け心地が悪いとかじゃあなくてかい」
ここまでくるとさすがに穿ち過ぎだよと、眉唾物の彼の見解に目を丸くするビリーに、
「んなワケねぇだろ。貰ったにしたって、後からサイズの調整くらいするもんだぜ普通」
パトリックはせせら笑うかのように鼻を鳴らすと、ふざけ半分に肩をそびやかせた。

「ホカの男に話しかけられてる時ああすんのは、思い出してるからよ。つまりあの娘は今、上の空ってコトさ。
だいたい子熊にチョイとでも気がありゃ、ああいう物騒なシロモノは最初から外すか、隠しとくもんだ」
「……無理してカタイ声作って、慣れない話し方なんかしてよ。どう見たって軍人向きじゃねえっての!
指輪の男も生きてんならなぁ、とっとと攫いに来るぐらいの甲斐性がなくちゃなぁ……ったくよぉ……」
パトリックは講釈を垂れつつ次第に酩酊の度を増し、手酌をしながら管を巻き始めた。

真偽のほどを女性士官に直接確かめる訳にはいかないものの、ビリーはパトリックが、意外にも鋭い観察眼を
有していることに素直に驚いていた。
初対面の強烈な印象から、てっきり思慮の足りない、子供が大人の外見を得ただけの男とばかり思い込んでいた
のだったが、どうやらそれだけでもないらしい。と同時に、
――他人の色恋沙汰に気を取られている内に、足を掬われても知らないよ。
ビリーの中でなりを潜めていたある疑念が鎌首をもたげ始め、呑気なパトリックの喉元につきつけられようと
していた。
78文書係 ◆gIyeyjcT.M :2009/10/09(金) 17:28:13 ID:???
今回投下分終了。

短編小説ビリー・カタギリ「戦士の休日 その7」に多分続く。
79通常の名無しさんの3倍:2009/10/09(金) 17:32:36 ID:???
職人のみなさん投下乙です。

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お久しぶりです。見づらいと評判の旧まとめサイトのまとめです。
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1 新規職人大活躍中!古参もがんばれ!
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2 キラアスシン受けとか攻めとか夢とかなんか多数!(嘘)
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2年以上にわたり無料で1人でまとめてまいりました。
まじめな話、多少疲れております。
有料化でいくらかの現金収入が有れば元気がでると思います。
80通常の名無しさんの3倍:2009/10/09(金) 18:01:35 ID:???
>>文書係り
投下乙
コーラの言葉に説得力を感じたw
よく見たら係りじゃなくて係だった。

>>とめさん
本当にお疲れ様です。
81通常の名無しさんの3倍:2009/10/09(金) 20:02:30 ID:???
えっお金とるの
82通常の名無しさんの3倍:2009/10/09(金) 21:33:10 ID:???
有料って・・・
83通常の名無しさんの3倍:2009/10/09(金) 21:46:44 ID:???
もう釣りに思えてきた
84通常の名無しさんの3倍:2009/10/09(金) 21:52:56 ID:???
>>81-82
もう一回よーく読んでみw
ついでに登録手順を実行してみたら?w
85通常の名無しさんの3倍:2009/10/09(金) 22:01:22 ID:???
冗談でも品がないわ
86通常の名無しさんの3倍:2009/10/09(金) 22:48:00 ID:???
>>72
>レッドスネーク、カモンということでしょうか?
俺も思ったww
そう言う言葉遊びが好きな人だからな
探検家や冒険家の名前を付けた船の中に カワグチ が居たりしたしな

>>81-83
リンク先クリックしてみ?
要するに・・・

砂漠2は美少女コンビいよいよ次回実戦!
次回も大期待です。

よし、登録完了


>>79
まぁいろいろと乙
一瞬驚いたわ
あんまり紛らわしいことを書かないようにw
わかり易い方が良いぜ? 冗談は
87通常の名無しさんの3倍:2009/10/09(金) 22:48:41 ID:???
>>79
読んでみりゃかなり無理があるけどな
2ちゃんの書き込みをどうやって自動登録するのかとww
88弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/10/09(金) 22:58:30 ID:???
文書係さんの短編小説シリーズが好きです。
声優さんの声で脳内再生される台詞回しとか大好きです。

登録完了!!






――自動登録、ですよね……。
89通常の名無しさんの3倍:2009/10/10(土) 05:43:24 ID:???
なんかウゼぇな。黙ってまとめりゃいいのに
90通常の名無しさんの3倍:2009/10/10(土) 07:34:28 ID:???
改めて感想。

>>FRESHさん
ネーナに集中して00一期終盤をずばずばと進めていくテンポが、
読んでいて気持ちいいです。くどいような言い回しと場面転換で、
中だるみがしないのがとてもいい感じです。

二期のネーナを知ってから見ると、とてもかわいい。
GJ!

>>79
ふう、バーボンをもらいましょうか、マスター。
91通常の名無しさんの3倍:2009/10/10(土) 08:13:48 ID:???
>>79
ザーボンをもらおうか、マスター
92通常の名無しさんの3倍:2009/10/11(日) 08:50:37 ID:???
雑談でもするか
テーマはヒロインでいいか?
93通常の名無しさんの3倍:2009/10/11(日) 09:00:57 ID:???
最初に「ヒロインだ!」と思った娘は終盤で死にました。
次にヒロインだと思った娘は妊娠EDでした。

こうなりゃちょっとくらいゲロ臭くっても良い、FRESHネーナよ
ヒロインになれ!
94通常の名無しさんの3倍:2009/10/11(日) 09:25:08 ID:???
まさかのリバースとキスとゲンコツ発言のネーナか
95通常の名無しさんの3倍:2009/10/11(日) 09:28:47 ID:???
われわれの業界では(ry
96通常の名無しさんの3倍:2009/10/11(日) 09:58:50 ID:???
>>93
その発言だけ抜き出すと
住人以外には それなんてエロゲ? って感じだな

確かに事実のみしか書いてないがw
97通常の名無しさんの3倍:2009/10/11(日) 10:14:23 ID:???
ついでに「森の娘〜」は開始時点で既婚。

「少女は〜」のヒロインはED時点で子持ちだ。

まさにこれなんて(ry
9845 ◆/UwsaokiRU :2009/10/11(日) 15:48:06 ID:???
0/
第二十五話 といいつつ、実は本編にまったく影響の無いお話スタート。
ほとんどひたすら戦闘だけです。

それでは投下開始。
99SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/10/11(日) 15:49:42 ID:???
1/

「ステラ、いったいどうしちまったんだろうな?」
「……さあ、な」
 アウルは、先の戦闘以来、すっかり意気消沈してしまったステラを心配していた。
 ガイアは、インパルスとグフを相手に互角以上に戦っていたはずだし、アウルの操るアビスに
至っては一撃でやられてしまったのだから、むしろ泣きたいのはアウルの方だったが。

「いい加減に機嫌を直せよ、ステラ。この間とどめを刺せなかったのが気になってるの?
良いじゃんか、次に頑張ればさ。撤退の信号を出したのはネオだぜ?」
「うん……ねえ、アウル。インパルスのパイロットだけど」
「何?」
「ううん。何でもない」
「顔赤いぜ? 熱でもあるのかよ、ため息ばっかりついてさ」
 ステラは熱に浮かされたような顔をしてうつむいている。

「何処かで、見た気がするの。ねえアウル。ひょっとして私、何かを忘れてない?」
「忘れてない? って……そりゃあ」
 僕達の記憶は沢山、消されたり作られたりしてるだろうさ……とは言い出せず、
アウルは押し黙ってしまう。

「……けっ」
 スティングはスティングで、ゴミ箱を蹴とばして不機嫌を露わにしていた。

「どうしたんだよ、スティング?」
「忘れてる事と言えば、ディオキアの事に決まってるだろうが。俺達に忘れさせたいって事は、
俺達が忘れたくない事があったんだよ」
「……」
「気分が悪いぜ。俺たちがせっかくバカを出来たってのに、それを忘れさせやがる」

 どっかりとソファに腰を下ろして、スティングは天井を見上げている。
 青い顔で呼吸を乱しているのは、ひょっとしたら投薬の副作用が出ているのかも知れない。
「医者を呼んでこようか?」と言ったアウルを片手で制して、スティングは目を閉じる。

 眠ろうとしているのだろうか。

「なんだよ、二人とも。つまんないじゃないか。ネオは部屋で怒られてるしさ」
 薄暗い部屋の雰囲気に耐えきれない。甲板でバスケでもやろうと、タラップを駆け上がった。

 JPジョーンズからは、彼等が逃げ出しようも無いので、監視体制が多少は緩くなっている。
起きている間をほとんど自由な時間にしてもらえたのは、ネオの計らいだ。
 仮面をしたその指揮官は、その時、難しい顔でブルーコスモスの上司と話しこんでいた。
100SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/10/11(日) 15:53:18 ID:???
2/

「困るな、ネオ=ロアノーク大佐。君にエクステンデッドの部隊を任せているのは、
君ならば彼らを巧く乗りこなしてくれると、そう考えればこそだったのだが」
「不始末は全て私の責任です。――ですがどうか、クビにはしないで頂きたいものですな」

 画面に映る血色の悪い男は、ロード=ジブリールだった。身にまとった高価なスーツは、
ネオの想像を遙かに超える価値があるのだろうが、全身からゆったりと立ち上らせる
ごくごく自然な狂気と退廃が、その見栄えを引き上げている。

「ふむ……彼らの首をすげ替えることも出来るのだがね?
従順な脳髄という物は、黄金よりも貴重な物なのだよ――」

 ジブリールの台詞が、辞書的な物ではなく言葉通りの表現だと知るネオは背中に
うっすらとかく冷や汗を気取られぬように、「分かっております」と答える。

「ならば良い――彼らは消耗品だが、貴重な消耗品だ。
使い潰す事はあっても、使い捨てられては困る」
「万全に扱いますとも」
「ふん、期待している」

 口調こそ冷酷だが、ジブリールは、従順に働くナチュラルに対して、意外な温情を示す
こともある。ネオの経験上、それらはジブリールの気分に大きく依存するが、だとすると、
今日のネオは幸運の女神から加護を受けているようだ。

 鋭い目でネオを一瞥してから、ブルーコスモスの盟主、ロード=ジブリールは画面から消えた。

「ネオ……」
 いつの間にか、ネオの背後にスティングが立っている。
「なあに、お前達は何も心配することはないさ」
 ネオは言い含めたが、戦争が終わるまでスティングが生きている保証はないし、
その前に廃棄処分にされる可能性だって否定できない。

 上から処分命令が下ったときに、スティング達を逃がしてくれるだろうか、と考えて。
 どうせ逃げ出したところで、スティング達に明日はないことに気が付き。

「それよりも準備しろ」
「あぁ?」
「アークエンジェルを落としに行く。追撃戦だ」
「……おお!」

 アークエンジェルとファントムペインの、数週間に渡る追いかけっこは、
この一言で始まった。
101SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/10/11(日) 15:55:20 ID:???
3/

 衝撃が数万トンを誇るAAの巨体を揺らした。

 地平線の向こうから、第一宇宙速度を越える初速で発射された対装甲貫通弾は、
堅牢なラミネート装甲を容易く引き裂いて機関に甚大な被害を与える。

「――艦長! ただ今の砲撃によって左舷第一メインスラスターが全壊しました!
機動性が二十一パーセント低下!」
 チャンドラの逼迫した報告に重ねて、至近弾の衝撃波が艦橋全体を揺らし、
ダメージコントロールの徹底を命ずるマリューの胸が激しく揺れる。

「くっ……ヤマト三尉とディアッカ君は何をしているの?」
「"バスター"はウィンダム部隊と交戦中――徐々に本艦との距離を離されています。
ムラサメはカオス、ウィンダムを足止めしています」
 足留めとは――物は言いようだと、マリューは唇を噛んだ。参謀兼MSパイロットの
バルトフェルドは現在格納庫において、以前の戦闘で中破した機体の最終調整を行っている。

「各員に通達! しばらくはMS隊の掩護は期待できないわ、なんとしてでも射撃地点を
割り出して……ノイマン、回避行動は任せたわよ」
「「了解!」」

 アークエンジェルは、先のダーダネルス攻防戦以来、ファントムペインの執拗な追撃を
受け続けている。2週間以上に渡り三度の戦闘を数えた追跡劇によって相応の損耗を強いられ、
パイロットの居る二機のムラサメを、逐次投入するという愚を招いていた。

「艦長、この砲撃は、付近の観測機から誘導を受けているものと思われます」
 砲撃地点の座標を報告しながら、チャンドラは通信を解析結果を告げる。

「探して。データリンクを妨害できる――!?」
「初弾で外部アンテナをかなりやられました! ――どちらも時間が掛かります」
「――計算ずくか」
 連合軍は、数に任せた力押しではアークエンジェルを落とせないと判断したようだ。
 何とか砲撃地点を推測できれば。と、マリューは必死で対策を練った。

「ノイマン、号令と同時に急上昇して――」
「――危険ですよ!」
 マリューは、姿をさらすリスクをとってでも、敵の射撃地点を割り出すことにかけた。

102SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/10/11(日) 15:56:28 ID:???
2/

「前方の雲に入ると見せて砲撃を誘います。ミリアリアさん、これまでの攻撃データを
参考に、AAの上昇から攻撃までの最短時間を割り出して!」
「三十秒下さい!」

 ダーダネルスで、ディアッカ=エルスマンと共に回収したミリアリアが、コンソールに
指を走らせる。

「いい? 次のミサイル攻撃を凌ぐと同時に上昇を開始して」
「――予測完了。解析結果を、艦のメインコンピューターに同期させました」
 ミリアリアの報告とほぼ時を同じくして、AAが上空に打ち上げたセンサーバルーンが、
AAに迫る多数のミサイルを確認、艦橋の緊張が高まる。

「――来るわよ! バルーン自爆、次いでAMM発射、CIWSはミサイルを引き寄せて密に!」
「了解、バルーン自爆させます!」
 AAの頭上で各種センサーを搭載していた気球が破裂し、派手な紙ふぶきを撒き散らした。
風に吹かれたチャフはAAのスラスターに押されて進路後方に流れていく。

 数基が進路を乱して地面に激突――"ヘルダート"の防衛網を抜けたミサイルが濃密な対空砲火
"イーゲルシュテルン"の弾幕に飛び込み破壊される。直撃は回避したものの、かなりの量の破片が
AAの船体に降り注いだ。

「ミサイルは全弾防御成功、損害は軽微――いえ、"イーゲルシュテルン"が一基使用不能!」
 マリューは艦体艦ミサイル"ウォンバット"を艦尾のミサイル発射管に装填、上昇と同時に
三機のセンサーバルーンを打ち上げることを指示した。ミリアリアには、降下までの時間を
計るよう命令する。

「――空が見えたら上昇を開始するわよ」

 濛々とAAのの視界を奪う爆煙は敵のセンサーからも白い艦体を隠してくれているはずだ。
推進器が全て正常であれば本当に雲間へと逃げ込むところではあるが、損傷を受けて停止した
スラスターがある現状では機動性に些か心もとない。マリューはノイマンに語りかけた。

「ノイマン、演劇の経験はある?」
「――は?」
 神業級の腕を持つ操舵手は、突然の質問に当惑しつつ答えた。

「雲に逃げ込む"振り"で、攻撃を誘うわ。主演をお願いね」
「小学校のときに木の役をやって以来ですが――了解です」
 巻き起こっていた粉塵が晴れた。今にも振り出しそうな曇天がAAの頭上を分厚く塞いでいる。
103SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/10/11(日) 15:57:22 ID:???
5/

「ノイマン、上昇開始。今日は貴方が主役よ――!」
「大きく振りますよ、何かにつかまっていて下さい」

 白い大天使の巨体が空へ駆け上がると同時に、ミリアリアがカウントを取り始めた。
ノイマンは手に汗と操縦桿を握り、全霊を挙げて声に集中する。息を呑む数瞬――

「総員対ショック、注意して!」
「――2、――1、――今です!」

 AAが宇宙用スラスターまで吹かして緊急降下――と、ほぼ同時に艦橋を砲弾が掠めた。
センサーバルーンが二つ、衝撃波で破裂したが、最後に砲撃地点のデータを送ってくる。

「――出ました! 近くの島影に砲艦一!」
「一番から二十四番、ウォンバット撃てぇ――!」

 マリューの指示を受けて艦尾のミサイル発射管から二十四基の大気圏内用ミサイルが発射された。
白く噴煙を引いて飛ぶメカニズムの牙が獲物を求めて空を駆けて行く。

「――名演技よノイマン! アカデミー賞ものね」
 攻撃の成否を確認する前にAAは高度を下げねばならなかった。敵が中距離に砲撃戦用MSを
配置しているだけでも、今のAAは致命傷を受ける可能性がある。

「――地形に沿ってAAを低空飛行させられる? そう何度も砲撃を受けては居られないわ」
「可能ですが、地上にMSが居たらそれこそ躱しきれませんよ――?」
「こちらが落とされるのが早いか、ムラサメ隊が掩護に帰ってくるのが早いか――よ。
イケヤ一尉たちを信じましょう。地上にMSが居るとすれば、逆にこちらがあぶりだします」

 「哨戒を密に」。マリューの檄が飛び、AAが高度を下げ始めた。直後にAAの艦体を
ビームの火線が掠る。しかもそれはAAがこれまで砲撃を受けていた地点とは反対側から来た。

「至近弾――これは! 艦長、今までとは異なる地点からの砲撃です」
「とにかく下げて! チャンドラは隠れているMSを見逃さないようににね!」
「了解――!」

 そのとき艦橋クルーの幾人かが、ディスプレイに映る曇り空を見た。
 時折巨大な鳥のような影と、雷の如く宙を走るビームの火線が雲の中を飛び交っている。
アークエンジェルは、群島の間を縫って頭を下げるように進み、砲火を避けていた。
104SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/10/11(日) 15:58:38 ID:???
6/6

『こちらバルトフェルド、出撃の準備は完了した。何時出ればいい?』
「まだ……フレアを撃ってからです。ハゥ伍長、装填は!?」
「あと二十秒!」
 その間、する事がない。艦橋のモニターに映ったバルトフェルドに、怪我の調子を訪ねようか、
無理はするなと言おうかと迷って、どちらも無意味だと気付いた。

 オーブのセーフハウスから逃げ出すときに負った傷は大丈夫だと言うに決まっているし、
モビルスーツに乗っておいて、無理をしないで済む戦場でもなかった。

『どうした、ラミアス艦長?』
「……気をつけて」
『心配は要らないとも。戻ったらとっておきの豆を使って特製の一坏を淹れるよ』
「ええ、期待しているわ。私の好みは――」
『にがみとコクを深く酸味を浅く後味はあっさり、だろう? いつかの朝に聞いたよ』
「艦長、フレア弾準備良しです!」ミリアリアが言った。

「フレア射出! 早く行って、アンディ!」
 顔を赤らめてマリューが叫ぶ。今の台詞はエロいな。艦橋の男全員がそう思った。

『アンドリュー=バルトフェルド、ムラサメ――発進する!」
 虎縞模様のムラサメは、カタパルトハッチが半分も開かない内にAAから発進した。
戦闘機形態で背が低い故の小技だ。素早く飛び出すと、AAの進路を偵察しつつ加速、
十分な速度を得たところで上昇に転じた。

『それでは、キラが帰るまで待っていてくれたまえよ、諸君!』
 上空で戦闘を続けているムラサメは、今も母艦から引き離されつつある。相手は
凄腕のウィンダムとカオス。間に合うように祈るバルトフェルドを乗せて、ムラサメは
舞い上がった。






以上、投下終了。
続きはまた今度。では、また。
105FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/11(日) 23:25:37 ID:???
投下お疲れ様です
23時45分から投下します
全18レスを予定していますので、支援出来ればお願い致します。
106FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/11(日) 23:44:04 ID:???
揺れる宇宙と脈打つ心臓の鼓動。
 耳鳴りと胸を掻き毟る焦燥感だけがうず高く積もり上がり、激戦で傷ついた内臓から
吐き出され、むせ返るような血臭がコクピット内に立ち込めても、ティエリア・アーデ
は、不思議と意識を失っていなかった。
 流した血は致死量にも関わらず、意識レベルは覚醒値を保ち、現状を委細承知とばか
りに認め、両腕を握り締め唇を噛み締めている
 装甲を失い傷ついたナドレは、太陽炉を排出し、残れた粒子はーは残り僅か。
 このまま宇宙を放流し緩やかな死を迎えるのかと漠然と思いながらも、ティエリアに
は、奇妙な確認にも似た予感があった。
 そう、まだ、自分達のソレスタルビーイングの戦いは終わってはいないと、胸の奥で
疼く直感が沸々を鎌首をもたげ、ティエリアは、反撃の予兆と言える高揚感に胸を高鳴
らせていた。

「まだ終わってはいない」

 イオリア計画の目的の中に自分達の滅亡が含まれいようと、この惨劇が例え予定調和
の出来事であろうとも、終わっていない、まだ負けていないと、今度は確信を込めて目
を見開く。

「ロックオン…」

 茫漠たる光の渦に飲み込まれ、声一つ聞かせず、ティエリアの恩人はこの世から消失
した。
 ティエリアは、ロックオンの皮肉交じりの微笑を思い浮かべ涙を流すが、胸に灯った
思いは、幾許の間も無く無残にも消える。
 しかし、ティエリアは彼の存在に救い救われ、そして、最後にはかけがえの無い大切
な何かをに残してくれた。

「ロックオン・ストラトス!」

 ティエリアは、悲しむのはこれが最後だと言わんばかりに、郷愁を振り払うように巨
大な声を張り上げる。 
 悲しむ事よりも大事な何かを受け取った自分は行動するしか有り得ない。
 呪いより強固な絆がティエリアの鋼の心臓に刻まれ、彼、彼女は、慟哭の雄叫びを上
げ、絆を求めるように手を掲げた。
 しかし、伸ばした手は虚しく空を切り、掴めた物は何も無かった。
 だが、今はそれで良いとティエリアは自嘲気味に呟き、一人静かに黒い宇宙へと精一
杯の宣戦布告を掲げる。
 装甲を削り取られ、四肢を失ったナドレの胸から血のような潤滑油が漏れ、宇宙に涙
雨を振らせていく。
 ただ、砂漠に浮かぶ一粒の砂のように、ナドレは、緩慢な動きのまま宇宙の風に導か
れ、ゆっくりとだが一時、舞台から退場した。

機動戦士ガンダムOO-FRESH VERDURE-
第五話「蒼のエーテル」
107FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/11(日) 23:44:46 ID:???
「ネーナ・トリニティ、何故ここに居る」
「何って…なにがよ」

 突き動かされるようにドライを走らせて見れば、辿り着いた場所は、何のことはなく、
ネーナの命の恩人である、刹那・F・セイエイの元だった。
 特徴的な青みがかった装甲は所々で焼け落ち、自慢の実大剣は刀身の中程からポッキ
リと折れ、見るも無残な惨状だったが、反面エクシアの周りを漂う黄金の破片が純正太
陽炉の濃緑の粒子に反射し、激戦を勝ち抜いた勝利者を称えるように美しく輝いていた。

「アリー・アル・サーシェスは?」
「分からない」
「そっ…」

 素っ気無く答えたネーナは、エクシアの周囲に漂う金色の破片に目を向けた。
辺りに浮かぶMSの装甲らしき残骸の量は、少なく見積もってもMS数機分はある。
 MSの編隊を相手にしたのか、それともMS数機分の質量に相当するMAを相手にし
たのか。
 刹那に聞けば早い話だったが、ネーナはサーシェス以外に興味が無かったのか、それ
とも、もうこの戦い自体に興味を失ってしまったのか。
 まるで、他人事のようにうそぶきながら、エクシアを見つめた。
 恐らくトランザムシステムを使ったのだろう。
 圧縮粒子を最大開放する純正太陽炉搭載機にのみ与えられた荒技は、機体にかかる負
荷も大きく、そう何度も使える機能では無い。
 設計限界を超える高速稼動により、エクシアの関節から白煙が立ち昇り、太陽炉から
漏れる光は弱々しい。
 甚大な損傷を受け粒子残量が著しく低下したエクシアは、普段の雄々しい姿と比べる
と酷く頼りなく見えた。
 
「倒したの」
「あぁ…倒した」

 通信から聞こえてくる刹那の声は、荒い息を吐き、憔悴し切っている。
 トランザムシステムを用いても尚、ここまで消耗する相手とはどのような怪物だろう
か。
 当時最新鋭機だったスローネが霞む程、インフレを起こしてしまったMSの性能に、
ネーナは馬鹿馬鹿しいと心底苦笑しながら、一旦肩の力を抜いた。

「…終ったの?」
「分からない」
 
 ネーナは、ひとまず戦闘が終結のかと質問したつもりだったが、刹那から帰ってきた
言葉重く苦しい響きを含んでいた。
 目の前の敵は倒した。しかし、未来永劫と続く終わりの無い争いの幕が上がったよう
な気が拭えず、刹那はエアクッションの効いたシートに持たれ込み、呆然としながら大
きく息を吐いた。
 
「分からないか…かもね」
108FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/11(日) 23:45:33 ID:???
 ネーナも色々なモノを失った今だから思う、思える事がある。
 やはり、戦争根絶など夢物語では無いのか。
 大きすぎる力は争いと憎しみを産む。
 ガンダムと言う存在が世界を一つに纏めようとしているが、そこには大国同士のエゴ
が絡み合う複雑怪奇で歪な関係が浮き彫りになろうとしているだけのこと。
 ガンダムマイスターが己の命を賭けて戦っても、後に残るのはマネーゲームのような
妥協と打算の産物が生み出した歪んだ世界だとしたら、悔やむに悔やみ切れない。
 そんな世界の為にロックオンは死なねばならなかったのか。
 刹那は見た。
 見てしまった。
 四方を大量のGN−Xに囲まれ縦横無尽に飛び交う粒子砲と、そして、スローネ・ツヴ
ァイの誘導兵器に貫かれるデュナメスの姿と爆発炎上するGNアームズ二番機を、流星の
ように射出される太陽炉の影を、そして、刺し違える鬼気と共に発射された極大のGNキ
ャノンが、ツヴァイの下半身を融解させた光を。
 周囲を包む閃光が消えた後には、ツヴァイの姿は見受けられず、刹那は慟哭と共に"敵"
に対する殺意を開放してしまった。
 大儀も信念も戦争根絶と言う平和への意志も無く、失った物を憎しみで埋めるかのよう
に闇雲に剣を振るい結果、後に残ったモノは誤魔化し切れない虚無感と胸にぽっかりと開
いた大きな穴だった。
 無数の皹の入った刹那の心は今や崩壊寸前だった。
 大事な仲間を失くし、信念も憎しみと悲しみで汚してしまった。
 憎しみで剣を振るい人を殺めた刹那が、幾ら戦争根絶を主張しても、熱を失った風のよ
う薄ら寒い響きしか持たない。
 刹那が人で居られた境界線は、私利私欲では無く、あくまで戦争を根絶する為に命を奪
って来た自己弁護の為だ。
 ギリギリの所で押し止めていた虚しさが堰を切ったように漏れ出すが、泣く事は愚か、
我慢する事しか知らない稚拙な情緒は、彼に涙を流す事を許さなかった。
 刹那が、忘我するように無垢の宇宙を見つめる中、スローネのコクピットに活動限界
を告げる警報が鳴り響く。

「ネーナ・トリニティ!」
「煩いわね。活動限界よ活動限界。もうまともに動けないの。システムも生命維持モー
ドに移行したら、通信だって出来なくなる…わよ」
「そうか、そうだったな」

 太陽炉を積むエクシアは、半永久的にエネルギーが尽きる事は無いが、今のスローネ
の動力は擬似太陽炉ですらなく試作品のGNコンデンサだ。
 むしろ、ここまで粒子がもった事の方が驚きだろう。
 
「どうするの」 
「…帰る」
「何処へよ」

 刹那はトレミーへとは即答出来なかった。
 いや、唇は僅かに動いたが、汚れた自分が仲間の元へ帰るのは何より怖かった。
 受け容れて貰えるだろうかと思うと同時に、堪えようの無い罪悪感が心底から駆け上
ってくる。
 フェルトは、ロックオンの事を好いていた。
109FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/11(日) 23:46:54 ID:???
 仏頂面で他人の感情の機微に疎い刹那でも分かったのだ。
 不器用でも、思いの欠片が僅かにも伝わっていなかったとしても、間違いなくフェル
ト・グレイスは、ロックオン・ストラトスを好いていた。
 恋心を抱いていた。
 そして、ロックオン・ストラトスは、刹那の目の前で死んでしまった。
 刹那がもう少し早く駆けつけていれば、もう少しMSの操縦が巧ければ、もうすこし
、いや、刹那・F・セイエイがもっと強ければ助けられたのでは無いだろうか。
 ロックオン・ストラトスは、肉も骨も欠片一片も残さず、塵一つ残さずこの世から消
滅した。
 それは、本当に人の死に方に相応しいかったのだろうか。
 刹那の脳裏には、光の海に消えたデュナメスの最期が焼きついている。
 幼き日、ガンダムと出合ったあの時は、光の渦に消え行く友の死に様を美しく、そし
て、羨ましいと感じた。
 光によって罪を浄化され、汚れ無き姿のまま、友は神の元へ召され永遠の救いを得た。
 本気でそう考え、思い込もうとしていた。
 しかし、改めて友の死を目の当りにした刹那は、自分の考えがいかに馬鹿げているの
か痛感してしまう。
 何処の世界に存在すら残さず消滅する死に方が美しいのか、
 残された人間は、旅立ってしまった人へ別れの言葉を言う事も出来ない。
 好きだった思い。
 愛していた記憶。
 何に怒り、何を憎み、何に絶望したのか。
 遺体とは、人が存在した証、故人の清濁の全てを内在した"生きた"証だ。
 生きた証がこんな簡単に平然と無慈悲に失われる行為に何処に救いがあるのか。  

(何がガンダムだ…俺はガンダムにも人にもなれなかった)

 爪が肉を押し込める感触が、ノーマルスーツの上からでも鮮明に感じられる。
 真っ白なカンバスにこびり付いた染みは、拭っても拭っても拭いきれず、いつの間
にか真っ黒に染まってしまった。
 カンバスの紙を張り替えようとも、内から滲む黒い染みが永遠に刹那のカンバスを汚
し続けるだろう。
 胸を掻き毟りたい衝動に駆られ、そして、同時に襲ってくる罪悪感と無力感が刹那を
苛み、濁ってしまった瞳で無限に広がる宇宙を恨めしそうに見つめている。
 
「"帰るわよ"」

 慣性で流れ接触したのか、それとも刹那が藁をも縋る思いでネーナの手を取ったのか。
 いつの間にか接触回線が開かれ、正面でネーナが不出来な弟を視るような瞳で刹那を
見つめている。

「帰る…」
「そうよ帰るのよ」
「何処へだ。俺が何処へ帰れると言う。こんな俺が…」

 帰れない。帰れるわけが無い。
 信念も仲間も信頼も、一緒に戻って来ると言う約束すら守れなかった。
110FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/11(日) 23:48:16 ID:???
 自己嫌悪の波が津波のように押し寄せ、信念と誇りを剥ぎ取られた刹那の脆い心を容
赦無く押し流していく。
 波の間に潜んだ巨岩が飛礫となり、刹那の身も心も粉微塵にしようと打ち付ける。
 フェルトの笑顔や心配そうに見つめる顔が浮かび、まるで、刹那を責めて立てるよう
に無垢に微笑む。
 心の優しいフェルトは、きっと刹那の事を責めないだろう。
 涙こそ流すかも知れないが、必死に我慢して、刹那に「無事で良かった」と心から迎
えてくれるだろう。
 そして、誰も居ない場所で泣くに違いない。
 その場面がありありと想像出来る現実に刹那の心は折れ曲がり、無力な自分に殺意す
ら抱いてしまう。
 反射的にエクシアの自爆機能を起動させようと手を伸ばし、反射的に端末にコマンド
を打ち込むが、いざ、最後のコマンドを打ち込もうとすれば、手が氷柱のように固まっ
てしまい微動だにしない。
 ネーナを巻き込んでしまう事や太陽炉の損失、託された想いが死を拒んだなどと高尚
な願いでもない。
 きっと、敵に撃たれ戦いの中で命を失うのならば平気なのだろう。
 しかし、いざ自ら手で命を断とうと、死の瞬間を目前にすれば、体が竦み、体中の力
が空気の抜けた風船のように死のうとする気持ちが萎えてしまうのだ。

「俺は死ぬことすら出来ない臆病者か」
「はぁ?」

 項垂れ自嘲気味に呟く刹那に、ネーナは心底分からないと言う呆れた声を漏らす。
 理解するつもりも努力もしないのか、ネーナは小馬鹿にしたような声で、ドライでエ
クシアの腕を掴んだ。

「馬鹿なこと言わないでよ。ボケたのあんた?帰るってんなら、決まってんでしょ、あ
んたのホームへよ」
「仲間<ホーム>…」

 ホームの意訳は多種多様に存在し人の主観に左右される。
 地球、故郷、実家、家族、刹那は、そのどれも選択せず"仲間"を選択した。

「そうだ…帰ろう」
 
 死へ恐怖に打ちのめされたのか、感情が麻痺して何も考えたくないのか。
 それとも、ネーナの一言で正気に引き戻されたのか、胸に抱えた後ろめたさはあるが、
帰ろうと素直に思う事が出来た。
 仲間を失った罪は罰として刹那の心を一生苛むだろう。
 ロックオンばかりでは無い。刹那達のもう一人の兄貴分であったラッセも死んでしま
った。
 死体こそ確認していないが、大破したGNアームズ一号機の惨状を省みれば、無事で
あるとは到底思えない。
 刹那は戦争の代償と割り切るには、あまりに多くの物を失くしてしまった。
 少なくとも今日は、今だけは戦う事を忘れて眠りにつきたい。
 戦争への想いも仲間も戦う意思も、全てを忘れ泥のように眠り、そして、起きてから
何をすべきか考えたい。
111通常の名無しさんの3倍:2009/10/11(日) 23:48:46 ID:???
支援
112FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/11(日) 23:50:10 ID:???
 刹那は、茫然自失のまま、ホームへ帰る為にエクシアのスロットルをゆっくりと押し
倒す。
 だが、神は彼に束の間の安息すら許さなかった。 

「会いたかった、会いたかったぞ少年」

 突如、愉悦に満ちた大声がオープン回線に割り込み、赤い光を携えた黒い閃光が、エク
シアとスローネの直上から出現する。
 
「この沸き立つ高揚感!漸く理解したぞ少年。この気持ちまさしく愛だ!少年、いやガン
ダム!」

 モニターの中で小さな光点でしか過ぎなかったMSが、瞬きの合い間に巨大な威容を現
し、赤い粒子が宇宙に乱風のように咲き乱れる。
 竜巻のような流れを伴い一機の黒いMSが燦然とエクシアの前に舞い降りた。

「フラッグ!だが、新型か!」

 茫然自失と言いながらも骨の髄まで染みこんだ戦士としての習慣が、無意識に剣を構え
ドライを庇うようにエクシアに戦闘態勢を取らせる。
 登録されたデータには該当機種は存在しない。
 背中から立ち昇る赤い粒子は、謎のフラッグが擬似太陽炉搭載機であると如実に告げて
いた。
 刹那の前に立ち塞がったフラッグの装甲は、擬似太陽炉の出力に耐える為に、従来のフ
レームに比べ二倍以上に大きさに増設されている。
 継ぎ接ぎに継ぎ接ぎを加えたフラッグの装甲は、プレートを組み合わせる西洋の騎士を
彷彿させ、擬似GN粒子を一点に集約した巨大ビームサーベルの刀身は、剣と言うよりも
、馬上から敵を射殺す大槍のようだ

「何者だ!」
「敢えて言おう、グラハム・エーカーであると!」

 オープン回線に流れ込んでくるグラハムの名に刹那はハッとし意識を尖らせた。
 ユニオンの誇る超トップエリート。
 専用のカスタムフラッグを駆り、何度無く刹那達を苦しめた因縁の相手だ。
 故郷であった金髪の青年は、油断の無い視線で刹那を睨み付け、瞳の奥に宿った戦意を
堂々とぶつけて来る。
(グラハム・エーカー…作戦に参加していたのか)

 各国のトップガンが終結する戦いで、グラハムを見なかったのは違和感があったが、乱
戦の戦場では取り立て珍しい事では無かったが、力を出し尽くした今、彼の乱入は予想外
の痛手だ。
 ガンダムが完調の状態でも手こずる相手だと言うのに、粒子も武装も使い切った状態で
は話にもならない。

「勝敗は決した。俺達の勝ちだ」
113通常の名無しさんの3倍:2009/10/11(日) 23:53:10 ID:???
つC
114FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/11(日) 23:53:46 ID:???
「勝敗の時節は私にはなんら関係無い事。私は私の意志でこの戦場に存在している。馴れ
合いは断固拒否する!」

 せめて、ブラフにでもなればと刹那は強気な態度に打って出たが、グラハムの意外過ぎ
る返答に刹那は面食らってしまう。
 剣を交えたのは数度しかなくとも、馬鹿正直までに公正で騎士道精神に溢れるパイロッ
トが、仲間の事など知った事では無いと言い切ったのだ。

「私怨で戦うつもりなのか!」
「そうだ。愛は愛を重過ぎると理解を拒み、やがて憎しみに変わっていく。行き過ぎた信
仰が内紛を呼び、愛を失った魂が叫び、憎しみの連鎖を再び繋ぎ続ける。貴様も知ってい
るはずだガンダム」

 グラハムの言葉が刹那の胸を抉る。刹那の故郷は幾度と続く宗教戦争の末に滅び、アザ
ディスタン王国として再編された。
 石油燃料の枯渇や宗教紛争、欧米列強による中東危機などの外的要因はあったとは言え
紛争の根底にあったのは、人と人との繋がり、愛に他ならない。
 刹那の故郷は、愛で滅びた多くの国の一つだ。

「それが分かっていながら、何故貴様は戦う」
「ふっ、軍人の戦いの意義を問うとは…ナンセンスだな少年」

 まるで、興ざめと言わんばかりにグラハムの刹那にへの呼び方が、ガンダムから刹那に
変わる。
 
「…貴様は歪んでいる」

 刹那とグラハム。
 戦いを憎むが故に剣を取った刹那と戦いに悦びすら感じるグラハム。
 信念と主義が舌戦でぶつかり合う中、魂の慟哭とも言える言葉が刹那の精神を焼き、違
う意味とは言え、戦いの虚しさの原因を骨身にしみた人間同士であるが故に、刹那は、こ
の場、この時において、グラハムと未来永劫に理解し合えないと悟った。

「貴様は歪んでいる」
「大事な事なので二回言ったか、ガンダム」

 刹那の地の底から響くような怨嗟の雄叫びに、グラハムの心が悦びで打ち震える。

(そうだ。こうでなくてはならない)

 信念を捨て、矜持を捨て、仲間を捨て、ガンダムと決着を着ける為に全てを捨てた。
 地位も名誉も輝かしい将来すら、目の前のガンダムとの決着に比べれば、路傍の草以下
の存在だ。
 全てを捨て、純粋な脅威と存在し、己の目の前に立ち塞がってくれねば修羅道に堕ちた
意味が無い。

「そうだ。世界など関係ない。国家の威信など関係ない。私は私の為に、エゴと我の為だ
けにガンダム、貴様を倒す!」
115FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/11(日) 23:54:27 ID:???
 フラッグの背後に立ち昇る凶悪な殺気は、異様な重圧となって刹那に襲い掛かる。
 気・剣・体・全て揃った鬼気迫る様子は、刹那の皮膚を総毛立たせ、無意識の内に筋肉の
筋が強張るのを感じた。

「さて、おしゃべりはここまでだガンダム。そろそろ力は戻ったかな。あの力は今一度使
うには暫しの時間が必要なんだろう」
「あの力だと」
「とぼけるなガンダム。金色もMAとの戦いしかとこの目で見せて貰った。MAを圧倒した
赤い流星。剣を交えるに相応しい力だ」
「出のタイミングを計るか…小癪だな」
「勘違いして貰っては困る。全力で急いだが間に合わなかっただけだ!」

 いけしゃあしゃあと堂々と言ってのけるがグラハムだが、ハッタリの類では無く恐らく真
実なのだろう。
 刹那がトランザムを使いアレハンドロ・コーナーを倒したのを偶然目撃し、戦い場に降り
立つ。
 ここまでこれば、神の悪戯を疑いたくなるが、グラハム・エーカーは、敵を倒す事一点の
みにおいて高潔だ。。
 敵を観察し出方を伺う戦術の初歩は踏襲しない。
 全身全霊で敵に挑み、その結果例え返り討ちにあったとしても笑って死ぬ。
 生き恥を晒すくらいなら死を選ぶ攻撃性は、確か東洋の言葉で武士道と言ったのを刹那は
思い出していた。

「戯言を…それこそ、貴様を油断させる為の罠だとすればどうする」
「それは有り得ないなガンダム」
「何を根拠に」
「勘だ」
「か、勘…だと!」
「と言ったが、種を明かせば通信が通じていることこそがその証。ガンダムが纏うGN粒子
が極端に消耗しているからこそ、互いの声が聞こえ通じ合える。皮肉な話だな少年」

 これは一本取られたとばかりに、刹那はコクピット内で忍び笑いを漏らし、擬似GN粒子
で構成された紅い大剣を見つめる。
 
(まるで、血の色だ)

 正気に戻り、センサーの反応を見れば、デュナメス、キュリオス、ヴァーチェの反応がい
つの間にか消失している。
 そればかりか、マイスター達の帰るべき場所であるトレミーの反応すらも消失し、周囲の
存在する機体は、刹那のエクシアとネーナのスローネ、そして、眼前で大剣を構える改造型
のフラッグのみだ。
 
(俺は一人になったのか)

 音が伝わらない真空と言う特殊な条件を除いても、周囲は耳が痛くなる位に静けさに満ち
ている。
 心に荒涼たる風が吹き荒み、命一つ残らない暗黒の空間が酷く煩わしく感じる。虚しさと
静けさの中で、荒い息遣いが刹那を捉えて離さない。
116FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/11(日) 23:55:08 ID:???
 ふと、刹那はここで死ぬのも悪くないと思えた。
 戦いだけの人生で、今迄運良く生き残ってこれた。どうせ、壊す事しか出来ない運命なら
ば、最後の血の一片まで敵を壊し続ければいいとさえ思う。

(そうだ…敵は破壊する。破壊こそが新生の幕開けだ)

 救いも良心の呵責も純粋な破壊衝動の前では何の意味も持たない。
 奪い、壊し、突発的な衝動に身を任せ、目の前を敵を完膚無きまでに破壊したいとさえ思
える。
 しかし、刹那は怒りに呑まれながらも、ドクン、ドクンと弱々しいながらも脈打つ命の鼓
動を確かに聞いていた。
 ゆっくりと後ろを振り返ると、機能停止寸前のスローネが目に入る。
 濃緑の粒子が腰部のGNコンデンサから弱々しく漏れ、刹那は、鉄の体の中のネーナ本
人を垣間見た気がした。

「ネーナ・トリニティ」
「なによ…」」
「お前は生きているのか?」
「あんた馬鹿?散々だけど生きてるに決まってるでしょ」
「そうか…生きている」

 生きていると呟くと、刹那は自分の中で、失くしたと思った大事な"何か"が中でもう一
度息吹くのを感じた。
 折れかけた意思が蘇り、血と肉に戦意と言う熱が通い始め、刹那はもう一度グラハムを
見つめ返した。

「少年…私が望むのは"ガンダム"との"決着"のみだ」
「…感謝する」
「構わんさ」
「ちょっと、あんた、何するつもりよ!」

 苦笑するグラハムを他所に、刹那の操るエクシアが、ドライの胸に手を置き、力強く彼
方へ押しやられ、ドライは慣性に従い、宇宙を駆け抜け、見る見る内にエクシアから遠ざ
かっていく。

「ネーナ・トリニティ…生きろ」
「冗談でしょ」

 ネーナは慌ててフットペダルを踏みこむが、粒子の切れたドライは文字通り鉄の塊だ。
 巨大な操り人形は、主の呼び声には答えず無言で巨躯を封印し、流れに身を任せ宇宙を
流れて行く。

「そんな、勝ち逃げみたいな。許さないわよ、刹那・F・セイエイ!」

刹那の声が届くと同時に粒子残量が完全に底を尽き、緊急用動力によりスローネのメイ
ンシステムが生命維持モードに移行する。
117FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/12(月) 00:00:05 ID:???
 電力節約の為に、非常灯のみが点灯したコクピットの中で、ネーナは過去最大級の怒り
にまみれていた。

「最低!信じらんない!終わってるわよあんた!」

 こちらの気持ちなどお構いなしに勝手に考え、勝手に行動し、挙句の果てに命を助けた
気でいる。
 馴れ合う気は毛頭無かったが、こんば馬鹿な終わり方認められるわけが無い。
 刹那・F・セイエイは、自己陶酔に加え自己完結型の最低の男だ。
 怒りに打ち震え感情の抑制が利かない。ネーナは、何度も操縦桿とHAROを殴りつけ
、蹴り飛ばし、子供が癇癪を起こしたように喚き散らすが、ネーナの怒りも虚しく、ドラ
イはただ流れていくだけだ。

「…刹那!」

 しかし、そんな中でも分厚い装甲の外で刹那の息遣いが聞こえたような気がした。

「悪いが俺は死ねない。まだ、死ねない」

 例え一人になろうとも戦い続ける。
 この気持ちがあれば、今から進む道が悲しみと後悔に満ちていようともきっと戦ってい
ける。
 茫漠たる思いは、宇宙の遥か彼方に消え去り、母なる地球目掛け流れていくネーナが目
に入った。

『この馬鹿刹那、あんたなんか最低よ!』

 GN粒子影響下の中で、通信が届くわけも無い。
 だが、刹那は、まるで、耳元でネーナが怒鳴り声を上げたような気がして、無意識に微
苦笑を浮かべた。
 遥か遠く、母なる地球へ向け、ゆっくりと流れるネーナを見つめ、刹那は再び剣を取る。
 ネーナは、視る事は無かったが、赤い流星が宇宙に舞い、そして、ソレスタルビーイ
ングの戦いは一度幕を下ろす事となる。
 そして−−−流星が散り世界は静けさを取り戻す。

 アザディスタン王国第一執務室。

「マリナ、聞こえてるの?」

 アメリカのCBCテレビから流れているのは、ソレスタルビーイング壊滅作戦『フォー
リンエンジェルズ』の実況中継だ。
 しかし、番組名は実況とうたっているが、内容はこれまでのガンダム関係のソースの総
浚いでしかなく新規映像など微塵もない散々な有様だったが、CBの行方を知る細い糸に
は違いなかった。

「聞こえてるなら返事ぐらいしなさい」
「ごめんなさい、シーリン。ニュースが気になって」
118FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/12(月) 00:00:59 ID:???
 どんな数奇な運命か、機動兵器ガンダムを有するCBと中東の小国とアザディスタンは
保守派のマスード・ラフマディー拉致事件を皮切りに何度も関わって来た。
 今でこそ嫌疑は晴れてるが、マリナとガンダムパイロットの関係を国連軍から厳しい詰
問を受けた事もある。
 たまたま時節の幸運が重なり証拠不十分で不問に問われたが偶然は偶然にしかずぎず次
はどうなるか分からない。
 マリナにはもっと国の代表として自覚を持って公務に望んで貰わねば困る思いと御輿と
担ぎ上げられた親友を不憫に思う事もある。
 だが、例え御輿であるとしても、担ぎ上げられてしまったが最後、御輿は御輿として機
能しなければならない運命だ。
 今の母国の現状を考えても、マリナに泣き言を言っている暇は無い。 
 化石燃料が枯渇し経済が立ち行かず、軌道エレベーターの恩恵も受けれないとなれば近
い将来アザディスタン、いや、中東諸国は、欧米列強の自我に取り込まれ、衰退を一歩を
辿る事になる。
 切れる外交カードが無いのなら、せめて、御輿であるマリナには清廉潔白であって貰わ
ねば困る。
 少なくともテロリストであるCBのガンダムパイロットと繋がりがあると噂されるなど
あってはならない事なのだ。

「手紙?誰からかしら」
「ソランさん、知り合いかしら」

 ソランと言う響きにマリナの眉が跳ね上がり、シーリンの呼びかけを無視してテレビに
齧りついていた癖に、手紙を半ば奪い取るような形で持っていかれれば、シーリンも面白
くは無い。

「ソランなんて私は知らないけど、一体どちら様?」
「私の祖母の古い友人。最近会ってなかったけど、どうしたのかしら」

 本人は隠せていると思っているようだが明らかに行動が怪しい。
 幼少から使い続けている机から、震える手でペーパーナイフを取り出し、慎重極まる手
付きで手紙を開ける様子は、どう見えも普通ではない。
 まるで、待ち人からの返事を心待ちにしていた乙女のようにさえ見える。

「今時紙媒体って、随分古風な方ね」
「そうね、彼無口だから」

 彼と言う事は男性だろうか。
 だが、マリナの家系図、親戚や交友は全てシーリンの頭脳にインプットされているが、
ソランなどと言う名前の男性に心当りはない。
 僅かなプライベートを覗けば、マリナとシーリンが別々に行動する事は殆ど無く、いや
、皆無と言っても過言では無い状態で見知らぬ男性かた逢瀬を重ねる事は難しい。
 可能性は零ではないが、やはり、現実的とは言えない。

(まぁ、害にならないのならいいけど)
119FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/12(月) 00:01:49 ID:???
 もう、マリナも良い年齢だ。 
 アザディスタンの適齢期は早く、早い者ならば成人の十五歳で身を固めるのも珍しく無
いが、王族と言う特殊な条件を除けば、封建社会真っ只中ではあるまいし、王女も自由に
恋愛する権利はある。
 政略結婚と言う古風な戦略も一時は議題に上がったが、
 こんな貧しい国の王女では政略の足しにもならず、そうなれば、マリナ個人を気に入っ
て貰わねばならないが、何も知らぬ片田舎の王女では他国の権力者達の食指は今一つ
感触が悪いのも事実だ。
 勝手な言い草だが、シーリンも女だ。
 好きな男性と添い遂げたいと思いは少なからずあるし、誰か一人を犠牲にしてアザディ
スタンが救われるレベルならばこれほど国の未来を憂いてはいない。
 シーリンは親友の恋心を否定する気は毛頭無かったし、相手がガンダムのパイロットで
もなければ誰でも良い。
 投げやりな言い方かも知れないが、王女の責任を全うしてくれれば勝手にすればいいと
さえ思っていた。
 シーリンは、盛大な溜息を付き、飲みかけの冷めた珈琲を口に含み、陰鬱な表情で眼下
に広がる街並みを見下ろす。
 そこそこに近代的なビル群が立ち並び、景観こそ近隣諸国と何ら変わりは無いが、国内
に跋扈するテロリストの影は後を断たず、内需は悪化の一歩を辿っている。
 このままのペースでは後十年、いや、五年以内にアザディスタンの内政は崩壊し国と言
う体裁を保てなくなるだろう。
 その前に抜本的で革新的な手段を講じなければ、アザディスタンは滅んでしまう。
 最もそんなサヨナラ満塁ホームランのような劇的な最終手段があればの話ではあるが、
少なくとも今の消極的な対話中心の外交姿勢では永久にこの国は変わらないだろう。
 オービタルフレームの遥か向こう側、宇宙の何処かで国連軍とCBの最後の戦いが繰り
広げられている。
 彼らには気の毒かも知れないが、彼らの存在は世界には猛毒だ。
 誰しもが一度は考える戦争根絶、恒久和平を武力によって実現する存在が矛盾した存在。
 皮肉にも彼らが流させた血によって世界は一つに纏まろうとしている。
 彼らの存在が世界に何を与え、何を変えたのか。
 全ては薄暗い霧の中で蠢き、未だ全容すら見えてこない。
 しかし。いかに彼らの存在が大きかろうと、世界にとって猛毒ならば、アザディスタン
にとっても猛毒と同じだ。
 毒は毒として静かに退場願わねば、抵抗力の無い小さな国々は毒によって溶け、命を落
とすだけだろう。
 世界の平和を願っているのは、シーリンとソレスタルビーイングも同じだ。
 だが、志は同じ物だとしても、シーリンの世界とはアザディスタン王国で彼らに取って
の世界とは人の生きる世界その物を指すのだろう。

(憂鬱ね)

 形と出会いこそ違えば、シーリンとソレスタビーイングは近しい友に慣れた存在かも知
れない。
 それ故に宇宙の何処かで彼らの命が消えようとしていると事を思えば、憂鬱の一つでも
覚えようものだ。
120FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/12(月) 00:02:30 ID:???
「らしくないわね…」

 ここ数日、砂漠に飲まれたアザディスタンには珍しく、景気の悪い事に雨が不機嫌なま
でに降り注いでいる。
 恵みの雨は、水源確保に持ってこいだが、シーリンは雨如きに奥底に抱える懊悩を見破
られた気がして、冷めて不味くなった珈琲を陰鬱な表情のまま喉に流し込んだ。

「マリナ、そろそろいい加減に、マリナ!」

 机に蹲り肩を揺らすマリナを見て、シーリンは顔面を蒼白にする。
 暗殺と物騒な単語が頭を過ぎり、手紙の中に毒ガスが込められているなど、良くある手
口だ。
 大慌ててでマリナに近寄り、容態を診れば、ただ、マリナは涙を流して嗚咽を堪えてい
るだけだった。
 ほっとするのも束の間、一体どんな内容が手紙に書かれていれば臆面も気にせず泣き腫
らす事が出来るのか。
 シーリンは、どんな顔でマリナに接すればいいのか、困り果ててしまい、無言で背中を
さすり、ハンカチで涙を拭いてやる。
 
「マリナ…」
「なんでも、なんでもないの」
「何でもないってことないでしょ。急にどうしたのよ」
「なんでも…ないの」

 くしゃくしゃに握り締めた手紙を胸に握り締め、マリナが空を見上げるとシーリンの努
力も虚しく、瞳に溜まった大粒の涙が頬を伝い勢い良く滑り落ちた。
 今、宇宙では国連軍との戦いに刹那が命を賭けて戦っている。
 刹那の苛烈過ぎる意志は、彼の脆さと同時に、衰えていく母国を目の前にしながら、何
の手段もプランも持たず、無力感に打ちのめされる日々に風穴を開け、萎えかけた戦意を
取り戻してくれ。
 マリナには、刹那が間違っているとは言えなかったが、正しいと断言する事も出来ない
でいる。
 力に力で対抗すれば両者の軋轢と生み、待っているのは滅びの道だけだ。
 マリナも黙って滅ぼされるくらいならば、戦って意義を勝ち取る手段も考えなかったわ
けではない。
 しかし、マリナには、刹那の考えを肯定する事も否定する事も出来ず、己の我を通せる
程の勇気も持ち合わせていないのが現状なのだ。

「刹…那…」

 ポツリと呟いた一言は幸運にもシーリンに届く事は無かった。
 憐憫でも同情でも無い、苦さと憧れを込めて呟いた一言は、マリナと刹那の関係は現し
ているように思える。
 刹那がマリナに送った手紙には、ただ一言、「ありがとう。さようなら」とだけ書き綴られ
ていた。
 ありがとう。
さようなら。
 たったこれだけの言葉の何処に平和への思いがあるのか。
121FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/12(月) 00:03:32 ID:???
 普通の人のが見れば、狐に包まれたような表情を取るか、もっと言えば馬鹿にされたと
思うかも知れない。
 だが、マリナには、刹那の気持ちが痛い程分かった。
 戦いに身を窶し、悲しみを背負った刹那が一生懸命考え、ありったけの気持ちを込めて
吐き出した言葉が「ありがとう」なのだろう。
 その一言を搾り出すのに彼にどれだけの苦悩があったのか、マリナには伺い知る事も出
来ない。
 思想、機会、感情、立場、生い立ち、物理的な距離等の様々な要因を含め、刹那とマリ
ナを隔てる溝は深く重い。
 だが、遠く離れてしまった現在があるからこそ、マリナは刹那の気持ちを客観的に、い
や、的確に受け容れることが出来た。
 ほんの僅かな優しさであろうとも、隣人にあます事無く伝える事が出来れば戦争などき
っと起こらない。
 起こらないが、たったそれだけの事がどんなことよりも難しいと言える。
 有史以来人類はお互いを傷つけ、戦争のによる莫大な恩恵に預かり、文明の発展を遂げ
てきた。
 闘争と殺戮の歴史こそが、人類の進化の大多数を占めて来た。
 しかし、言い換えれば、人類は互いに傷つけあわなければ、前に<進化>む事も出来な
い未成熟な生物なのだろう。

(刹那…何故、貴方と私の運命はこんなにも重ならないの)

 残念ながらマリナには、人類の不出来を嘆く暇も人の思惟に絶望する程年老いてもいな
い。
 今は、ただ、刹那の声を聞きたい。
 マリナの前に突然現れ、現実と過去を見せつけ、戦う意志をくれた少年にもう一度会い
たい。
 直に触れあい、自分の考えと想いを余す事無く伝えたい。
 ただ、今のマリナでは嗚咽を堪え、手紙に込められた悲しみに涙を流すだけであった。

 −−−4年後、西暦2312年

「どうだネーナ、こいつの調子は」
「相変わらずのじゃじゃ馬。これで出力の二十パーセントって言うんだから設計者の正気
を疑うわ」
「違いない」
 桃色のノーマルスーツに身を包んだネーナは、ハンガーで仁王立ちするMSに目を向け
た。
 格納庫の奥には、特別製の拘束具に身を固められた新型MSが安置され、青色と基調を
装甲板、腰に装着された二対の実大剣は見る者を圧倒する。
 工業規格製品に見られがちな質実剛健の趣こそ無いが、丸みを帯び曲線で構成された
機体は、量産機には無い一品物の風格、ある種の職人のこだわりのような気概が見て取れた。

「OOガンダム…か」

OOガンダム。
 一度は、国連軍によって滅ぼされたソレスタルビーイングが、もう一度戦争根絶を掲げ
る為に用意された、新生ソレスタルビーングの御旗となる機体だ。
122FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/12(月) 00:05:35 ID:???
 CB技術部の持てる技術とデータを全て集約させた新型ガンダムの一機だ。
 シールドは依然調整中なのか、OOの隣で今も作業中のようで、溶接の光がバチバチと
昇っている。
 ふと、ネーナがラボのラウンジを見上げると、強化ガラスの向こうに桃色のノーマルス
ーツに身を包んだ王留美の姿が瞳に映った。

「王留美?あのお嬢様がどうして?」

 ガラスの向こうで手を振る王留美にネーナは、愛想笑いを浮かべ、データ処理を続ける
イアンの端末を覗き込む。
 ディスプレイの隅に、王留美の顔が映りこみ、ネーナは背筋に嫌な感触を覚えた。
 本音を言えば、ネーナは王留美が嫌い、いや、苦手だった。
 片手で数える程しか会った事は無いが、王留美のネーナを見つめる険のある視線には毎
回ご勘弁願いたいと思うし、特に人を食ったようなと言うか、中身を見透かそうとするあ
からさまな視線が気に食わない。
 ここまで執拗にあからさまな敵意を向けられれば、流石のネーナも辟易してしまうし、
何より、穏やか過ぎる笑顔のまま向けられる害意と言う物は、感情表現豊かなネーナにと
って未知の領域であり想像の外の感情だった。

「滅多な事は言わないでくれよネーナ。王留美はCBのエージェントだが、同時に大事な
スポンサー様なんだ。新型が見たいと言われれば、見せないといけないのが、現実って奴
だな」
「はいはい、そりゃよかございました」

 今は気に食わないスポンサー様よりもOOガンダムだと、ネーナは、処理されたデータ
を食い入るように見つめる。

「新システム…やっぱり安定しないわね」 

 端末にはGN粒子の励起状態を表示するアプリケーションが走らされているが、OOの
出力を表現するグラフは、不定形状に固定され安定していない。
 
「ゲインを瞬間的に振り切ったと思えば、次の瞬間には起動指数を割るか。こうまで不自
然だと、テストパイロットに問題があるんじゃないのか、お嬢ちゃん」
「失礼ねえ。私は善人じゃないけど、実験とちる程間抜けじゃないわ。システムが不安定
なのはハード的な問題でしょ。こっちに振らないでよ」
「違いない。今のは技術屋失格だ。黙ってスルーしてくれ」
「はーいはいはい…でも、ツインドライブシステム。二機の太陽炉を同調させ粒子加速増
大させる新技術。その際の出力は二倍では無く二乗化され、トランザムシステムに並ぶイ
オリアからもたらされた遺産の一つか…何回聞いても眉唾よねぇ、現に動いてないし」
「失礼な動くが安定しないだけだ。そりゃ実戦で使うとなれば考えもんだがな。現在の状
態でもOOはエクシアの三倍強の出力はあるんだ。新型としては及第点だと自負しとる」
「それは伯父様達の成果でしょ。今のOOガンダムは、ツインドライブの性能をこれっぽ
っちも使ってないの。そんなの意味無いじゃない」
「ごもっともだ。確かに意味が無い。毎回手痛いなお嬢ちゃん」
123FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/12(月) 00:06:38 ID:???
 エクシアを改良新造させたプロポーションをしながらも、エクシアとはOOガンダムに
は絶対的な差異がある。
 CBのガンダムタイプには太陽炉は通常一基しか使用されない。しかし、OOガンダム
にはツインドライブシステムの根幹を支える太陽炉が両肩に装備され燦然と輝いている。
 太陽炉などの器官技術はイオリアにおんぶに抱っこのCB技術者だが、MSの基本設計
はイアン達生え抜きの技術者達が携わっている。
 機体単体の性能を褒められれば、素直に嬉しい物だが、肝心のシステムと連動しなけれ
ば宝の持ち腐れだろう。

「これで、わしらの持つ全ての太陽炉のマッチングは済ませてしまったわけだ」
「残された太陽炉は、エクシアのみか…ったく、あの馬鹿一体何処をほっつき歩いてるん
だか」

国連軍との最後の戦いから四年。
 ネーナの前から姿を消した刹那は依然見つかっていない。
 刹那ばかりだけでは無い。
 ロックオンは死に、アレルヤも行方不明。
 ガンダムマイスターの内、三人を失ったCBは刃を失った剣に等しく、国連軍の追撃を
恐れ、地下に潜ったネーナ達は、彼らを大手を振って探す事も出来ずにいた。
 ネーナ達、残された人間に出来る事は、彼が戻る事を信じ反撃の狼煙を上げる為に、彼
らの機体を作り続けるだけだ。
 
「データ登録終了。起動試験ご苦労さんお嬢ちゃん。後はゆっくりシャワーでも浴びて休
んでくれ。なんなら、わしと一緒に入るかお嬢ちゃん?」
「変態中年…デスヨと奥さんにチクるわよ」
「…勘弁してくれ」

 茶目っ気と嫌味を程よくブレンドしたネーナの視線に顔を引きつらせ、イアンは端末を
閉じ、OOの整備をハロ達に指示を出し溜息を付いた。
 本当は人の手による整備の方が遥かに効率的データ採取や整備マニュアルの改訂には技
術的には遥かに有意義なのだが、人員や資金の問題よりも人員不足が致命的な問題として
CBの運用に影を落としている。
 この秘密ラボにもイアンとネーナ、医療班とソフト開発担当のアニューの五人しか滞在
していない。
 国連軍との戦いでCBの人員も随分と減ってしまった。
 質の問題ではなく単純な純粋な量の問題なのだ。
 四年前は、もう少し無鉄砲に勢いと理想だけで進んでいけたはずが、今はやたらと昔を
考えてしまう。
 イアンは、目頭を押さえ「たった四年で随分と歳を取ってしまった」と自嘲気味に呟い
た。

「お嬢ちゃん」
「なによ、汗臭いから早くシャワー浴びたいんだけど」

 だが、嘆く暇があれば、今は前に進む事だ。 
 でなければ無数の屍の上に立っている自分達が、道化以下の存在に成り果ててしまう。
 死んでいった者達に報いる為にも、今はがむしゃらにでも前へと進む勇気が必要なのだ。
124FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/12(月) 00:07:43 ID:???
「三時間前、エージェントから連絡があった。近々カタロンの部隊がアロウズ直轄の収容
所へ襲撃をしかけるらしい」
「へぇ。民間上がりのレジスタンスが最精鋭の部隊に喧嘩吹っ掛けるの…負けるわよ」
「やって見れなければ分からないと言いたい所だが、旧式の機体ではアロウズには勝てな
いだろうな」
「見捨てておけないってわけ?相変わらず我らがCBはお優しいわね」」
「ティエリアの指示だ。エージェント経由で警告はしたらしいが、どうも押さえ込めんら
しい」
「あの眼鏡、相変わらず甘い過ぎね」

 カタロンとは圧政を敷く地球連邦に立ち上がった、反地球連邦組織の名称だ。
 構成員の殆どが地球連邦の直轄特殊部隊『アロウズ』の存在に異を唱えた、ユニオン、
人革連、AEUの軍人達だが、練度は兎も角、旧式の機体ではアロウズの標準装備である
擬似太陽炉搭載機には、大きな遅れを取る頃は間違いない。
 襲撃作戦には、それ相応の人員を投入するらしいが、やはり、勝敗は"比"を見るより明
らかだろう。

「恐らくこれがアロウズとの始めての実戦になる。Oガンダムの整備も上々だ。いけるか
お嬢ちゃん?」
「誰に物聞いてるわけ、伯父様。これ以上お預けだったら、機嫌の良い猫でも爪だしちゃ
うんだから」

 ネーナは、戦意を隠す事もせず、猫のようにすっと目を細め、まだ見ぬ敵に向け薄く笑
う。その様子が捕食寸前の獰猛な猫科の肉食動物のように思え、イアンは、思わず身震い
してしまう。

「分かった、分かった。あまり年寄りは威嚇せんでくれ。お嬢ちゃんの覚悟は四年前に嫌
と言う程聞かされた。そして、わしらは行動として見てきた。今更信用だ信頼だなんて言
葉は陳腐だったな」
「ご明察、決意表明はしたから、後は行動で示すだけなのよ、私の場合は」

 暫く実戦から遠のいているとは言え、ネーナは、あの悪名高きトリニティの一員だ。
 味方となった今は頼もしい事この上無いが敵だったらと思うとイアンは背筋が寒くなる
思いだ。
 
「それで、お前さんのコードネームはどうする?やはり、トリニティの名を使うのか」
「そうね、私、もうトリニティ(三人)じゃないしね」

 トリニティであるネーナは、四年前に死んだ。
 今、この世に存在するネーナは、サーシェスに対する憎しみと刹那への執着で出来た、
ネーナ・トリニティの残滓にしか過ぎない。

「それにあの馬鹿から、もう無駄に殺すなって言われてるしね」
「そうか…なら、どうする?」

 破壊の後に新生が訪れる。
 以前のソレスタルビーイングは、国連軍と世界の歪みによって破壊された。
 ならば、破壊を受け入れ、来るべきに備え耐える時間は終わりを告げた。
125FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/12(月) 00:08:35 ID:???
 ネーナの脳裏に四年前の刹那の顔が浮かぶ。 
 あれかた四年も経った。ネーナのチャームポイントだったソバカスは消え、少女の面
影こそ残しているが、ネーナは出る所はしっかりと出た大人の女性に一歩も二歩も踏み
込んでいる。
 身長も七センチも伸びた。バストのカップも二つも増えた。ヒップは大きくなり過ぎ
た気もするが、小さすぎるよりは良いだろう。
 四年前、刹那とネーナの身長は、殆ど変わらなかったが、今はどうだろうか。
 自分がこれだけ分かりやすく成長したのだから、刹那はどうなっているだろうか。
 良い男に育っている、むしろ育って貰わねば困るとネーナは思った。

(まっ、会ってからのお楽しみか)

 何せセカンドキスまで上げた相手だ。
 腕を組んで恥ずかしくない位には、身長は伸びていて貰わねば困ってしまう。
 逸る気持ちを抑えながら、ネーナは「再開の時は近い」と明確な予感を抱いていた。

「伯父様、私、コードネーム決めたわ」
「了解だ。それでどうする?」
「私の名前はネーナ。ただのネーナ。新生ソレスタルビーイングのネーナよ」

 華のような笑みを浮かべ、何処までも挑戦的な瞳のまま、ネーナは、呆気に捉えるイ
アンを他所にOOガンダムを睨みつけていた。

 
 
 今回はここまです。
 支援感謝します。
 失礼致します。
126通常の名無しさんの3倍:2009/10/12(月) 17:05:39 ID:???
>>123
器官技術→基幹技術
127通常の名無しさんの3倍:2009/10/12(月) 19:41:25 ID:???
これはもう人いないな
128通常の名無しさんの3倍:2009/10/12(月) 22:42:37 ID:???
まさか刹那がボンバーマンになってるとは予想できないだろうなネーナも
129通常の名無しさんの3倍:2009/10/12(月) 23:18:30 ID:???
一話の話かw
けどボンバーマンてw
130通常の名無しさんの3倍:2009/10/13(火) 08:28:30 ID:???
このハムいいな
大事なことなので二回言いましたとか台詞に小ネタが多い

でも英語が読めない
131通常の名無しさんの3倍:2009/10/13(火) 09:34:45 ID:???
>>130
儚くも永久の〜が流れてて吹いたw
132通常の名無しさんの3倍:2009/10/13(火) 12:34:44 ID:???
GJです
ネーナがちゃんと動いてヒロインしてるし刹那が良い味出してるのに……ハムと刹那の会話で全て持ってかれたw
この二人いいな凄くいい
色々と変化が起きているようですが次回楽しみに待っています

133通常の名無しさんの3倍:2009/10/13(火) 19:39:01 ID:???
原作準拠にこだわると、キャラクタの行動がどうしても制限を受けがちなのに、
文書係氏のコーラはフリーダムで困る。もちろんほめ言葉としてw
13445 ◆/UwsaokiRU :2009/10/13(火) 20:41:32 ID:???
割れたので、次の投下の時にトリップ変えます。
lagrange
135通常の名無しさんの3倍:2009/10/13(火) 20:46:06 ID:???
前スレ、さばそう昔話でジエンド。GJ!

>>134
トリ割れ? まぁいろいろ乙
136あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/14(水) 00:44:51 ID:???
来週から1期1話から再構成した「ガンダム00」、投下させていただきます。

・出来るだけ、1週間につき1話を投下できるように頑張ります。
・台本形式です。
・1期は細かい所は変えてあるけど、オリジナル版と流れは一緒なので、序盤は退屈するかもしれません。
・2期でオリジナル版と大きくかけ離れます。
・オリジナルキャラは登場しません。。オリジナルメカは2期から大量に登場します。
・紅龍、ラグナ、イノベ赤毛組、カタロンキッズ以外の2期キャラはリストラしました。
・外伝のキャラは台詞の中だけ登場します。
・性格設定及び立ち位置の違うキャラが何人かいる。
・刹那のマリナに対する態度はオリジナル版よりやや攻撃的。本格的に軟化するのは2期後半です。

1期のサブタイトルだけ載せときます。(あくまで暫定なので、途中で変わるかもしれません。)

1話「ソレスタルビーイング」
2話「ガンダムマイスター」
3話「変わらない世界」
4話「対外折衝」
5話「限界離脱領域」
6話「無差別報復」
7話「報われぬ魂」
8話「超兵機関介入作戦」
9話「教義の果てに」
10話「大国の威信」
11話「ガンダム鹵獲作戦」
12話「ヴェーダの影」
13話「スローネ強襲」
14話「悪意の矛先」
15話「己の敵は」
16話「Mission VL-0」
17話「絆」
18話「変革の刃」
19話「加速する世界」
20話「新たなる介入者」
21話「トランザム」
22話「世界を止めて」
23話「滅びの道」
24話「終わりなき詩」
25話「革新の扉」


最後に
「ダブルオー」という単語は出てきますが、ダブルオーガンダムは登場しません。
137通常の名無しさんの3倍:2009/10/14(水) 07:05:04 ID:???
気合入ってますね。期待しております。
138通常の名無しさんの3倍:2009/10/14(水) 21:08:50 ID:???
気合い入ってるとこアレだが、シナリオ形式は・・・
139通常の名無しさんの3倍:2009/10/14(水) 21:11:56 ID:???
>・性格設定及び立ち位置の違うキャラが何人かいる。

さすがに性格改変はどうかと思うが…
それならいっそオリキャラと置き換えた方が良くね?
140通常の名無しさんの3倍:2009/10/14(水) 21:18:40 ID:???
どの程度違うのかによるが、キャラの名前だけ利用して別人を出されてもねえ
141通常の名無しさんの3倍:2009/10/14(水) 21:30:01 ID:???
始まってもいないのに厳しいな、おまいら
142通常の名無しさんの3倍:2009/10/14(水) 22:17:48 ID:???
いいんじゃね
FRESHか
あれもネーナって言われても微妙だろ
143通常の名無しさんの3倍:2009/10/14(水) 22:22:48 ID:???
性格設定って、たとえばスメラギさんが
「今日は寝る前の一杯で止めておくわ」とか言ったら、
重大な性格の変更だろうけど、まあスメラギさんだろう

何言ってるかわかりづらいけど。
144通常の名無しさんの3倍:2009/10/14(水) 22:32:28 ID:???
>>141
この類の投下予告は大概こうなるわな
むしろ言われたくてやるんだろうぜ
145通常の名無しさんの3倍:2009/10/14(水) 23:07:35 ID:???
スルーされるよりは話題になったほうがいいんジャマイカ
146通常の名無しさんの3倍:2009/10/14(水) 23:16:24 ID:???
普段は静かなのにどこから沸いて来た?
マジで批評しか興味ないの?
147通常の名無しさんの3倍:2009/10/15(木) 08:27:45 ID:???
>>146
批評する人=職人、静かなROM=読者、なんだと思うよ
批評しか興味が無いというより批評が仕事なんだろうし
148通常の名無しさんの3倍:2009/10/15(木) 09:59:22 ID:???
職人が批評してるって
149通常の名無しさんの3倍:2009/10/15(木) 12:18:12 ID:???
え?職人だけど批評はしてない。
たまにコメントくらいはするけど。
150通常の名無しさんの3倍:2009/10/15(木) 12:27:15 ID:???
そうやってすぐに炙り出されるからさあ
151通常の名無しさんの3倍:2009/10/15(木) 13:48:35 ID:???
>>149
吊られ過ぎだろ
152通常の名無しさんの3倍:2009/10/15(木) 14:49:06 ID:???
何でも食い付くな。ブラックバスかよ。

つまり
SS作者
批評家
読者

の三種の人種がいると言いたいんだろ
153通常の名無しさんの3倍:2009/10/15(木) 15:10:12 ID:???
まあ最近は批評すら行われない始末よ
154通常の名無しさんの3倍:2009/10/15(木) 20:35:42 ID:???
上で、FRESHネーナがネーナかといわれれば微妙とあったけれども、
ネーナ周りの環境を変えてネーナのキャラがどう変化するかを楽しむ
作品だと思って読んでた。

それと、WIKIに保管しておいたので、何かあったらスレかまとめ使途で
教えてください>>FRESHさん
155FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/15(木) 22:59:52 ID:???
>>154
保管感謝します。
では、また
156SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/16(金) 01:53:21 ID:???
7/

「アークエンジェルが狙われてる――!」
 キラの焦りに付け込むなど、尋常のパイロットには不可能であったろう。
 そして、カオスとウィンダムは、並みの敵では無かった。

 カオスの"カリドゥス改"を、辛うじて盾で弾いたムラサメに、ウィンダムが突撃してきた。
熱い閃光の中、影法師のように、サーベルを振りかぶった巨人の姿が浮かぶ。

「クッ! カオスはともかく、ウィンダムが手強い!」
 抜刀から受け太刀を二合。剣の間に電光石火を散らす。ウィンダムの斬撃を受け流しつつ、
胴に蹴りを当て、同時にスラスターを開くことで、高温の噴流を浴びせかけた。

 キラの体がぐっとシートベルトに押し付けられて、ウィンダムの機体がムラサメから離れる。

『すまないスティング! 離された!』
『さっさとどけよネオ――っ喰らええ!』

 反動を使って、MA形態を取りつつ後退する機影を、カオスの放つ三条のビームが追った。
曲芸的な機動で回避してゆくが、続けざまの連携は確実に、黒い装甲を捕らえつつある。

「余裕が無いね……」
 自身でOSを改造して初めて実現した変態機動も、奇策は奇策。ファントムペインの
エース格であるウィンダムは、実力で対応しつつある。

 経験を貯められたのだ。殺したくなかった――だから今、追い込まれている。

「自業自得……だよね」
 自嘲しながらも、その因果を生み出すエゴを否定してしまっては、"静かに暮らす"夢を
持ち続けることすら危うい。世界を壊して構わないのなら、その方が容易いキラだからこそ、
殺したくないというエゴは捨てない。

 ムラサメは左腕でサーベルを掴み、"混沌"の攻撃を一旦は凌いだが、セカンドシリーズMSの
絶大な突撃力を受け流すには至らなかった。推力負けしたムラサメがバランスを崩す。

『ぶった切ってやる――!』

 触れ合う装甲からカオスの叫びが聞こえた。いや、殺意の思惟が通じたのか。不思議は無い。
戦いには相手の思考を推し量り、理解することが欠かせない。そして分かってしまった相手のことを、
"お前のことなど知るものか"と言って、この世から消し去ってやるのが戦争だった。

 それが嫌だった――本当は、意思の圧力に真正面から立ち向かい、殺意をぶつけ合うのが怖くなって、
キラは殺さないことを選択するようになったのだ。
157SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/16(金) 01:54:31 ID:???
8/

 若い声に驚く暇も無く、ウィンダムもまたサーベルを構えてムラサメの右から間合いを詰めてくる。
射撃でカオスを巻き込まないよう接近戦で仕留める腹か。

「南無三、間に合え――!」

 キラはスイッチを押し込み、ビームサーベルへ電力を供給する予備バイパスを強制的に開いた。
 閃光。
 普段に倍するエネルギーの供給を受けて、サーベルの柄が蒸発した。その瞬間に発生した
ビームの斥力場が、カオスとムラサメを真逆のベクトルに弾き飛ばす。

『ネオ――!』

 眼前に迫りつつあったウィンダム――今しも振り上げた剣に斬撃を乗せようという――に向かい、
CIWS四門の12.5mm砲弾を放つ。ムラサメにすら劣るウィンダムの装甲は紙同然で、咄嗟に
コックピットをかばったウィンダムに数十箇所も穴を開け、戦闘力を大きく殺いだ。

 しかしカオスに背を向けてしまう。キラの背筋を氷柱の如き悪寒が駆け上った。

『手前――!』
「――回避! ――間に合わない!」

 カオスのパイロットにとっては見逃しようも無い決定的な隙だ。深緑の機体は機動兵装を切り離し、
本体と合わせて三つの砲門でムラサメの進路を塞ぎつつビームを放とうとした。
 
 一撃、カオスが右手に構えたビームライフルを放つ。辛うじて直撃を避けた村雨の右腕を
荷電粒子の流れがあぶり、蒸発した塗料と融解した装甲が前面ディスプレイの端に見える。

 二撃、キラにとって左側から放たれた火線をムラサメのシールドで遮った。
同時に撃って来ないのは、時間差をつけて狙い澄ました一撃の効果を確実にするためだ。

 そして三撃、コックピットのキラを真っ直ぐ狙う砲口に火が入る。

「ウワ――ッ!」直撃の予感に絶叫した。
 火線が迸る。

 絶対に回避できない――明晰な意識が未来を予知して、肉体が恐怖にすくむ。死ぬ?
もう誰かを殺すこともなくなるのか? それは良い。でも、ラクスにもう会えなくなる?
それは……絶対に嫌だ!

 刹那、種子の割れる幻覚と共に、忘我の隙間を"何か"の意識が埋めた。
158SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/16(金) 01:55:46 ID:???
9/

 絶対に回避できないな――種子から生まれた獣もまた、そう直感していた。
 "回避は"できない。それ以外なら何だってできるさ、と、体は自然に動く。圧倒的な全能感に
導かれたまま、ムラサメはマニュピレーターを振り、ビームを"斬った"。

『何――!?』
 敵パイロットの驚きが伝わってくるかのようだった。亜光速でとび来るビームを両断する等、
考えもしまい。だが、原理的にはできる。だからできた。

「ハハッ――」
 獣の思考が敵の無能を嗤っている。唇の両端をゆがめながら、ライフルをカオスに向けた。

 放ったビームを、カオスが辛うじて躱すのは分かっていた。回避する方向に、すでに
最小限の動きで銃口を向けている。放つ二撃目がカオスのコクピットを撃ち抜く事は
決定事項で、後は予定を既定にするために、トリガーを一回、引き絞るだけだった。

『待たせたな、キラ!』
「う……あぁっ!」

 キラを人間に引き戻したのは、バルトフェルドの一声だった。カオスを殺そうと言う意識の
誘惑はあまりにも強烈で、キラの理性は戦車と綱引きをするような無理の向こうに、辛うじて
踏みとどまる。あと1mm、トリガーを引けばカオスを落としていた。

『――どうした!?』
「いえ……母艦は、AAは無事ですか?」

 呆然とした一瞬を、バルトフェルドが旨くカバーして守ってくれた。そうでなければ、キラが
撃墜されていただろう。引き金を止めるために、全神経が狂いかけ、誤動作を起こしていたのだ。
 胃袋か上がる酸っぱい感触は無理やりに飲み下したが、股間には小水以外のぬめりを感じている。

『まあしばらくは大丈夫さ、マリューはああ見えてなかなか優秀な艦長さん――だろうか、キラ?』
「――そこで疑問形にならないで下さい。傷つきますよ、あの人」

 互いにムラサメの死角を補いつつ、敵を相手にする位置取りを行っていた。突然の乱入者に
戦力の拮抗を崩されたカオスとウィンダムは、慎重に牽制を重ねるに留まっている。

『まあとにかく、すぐに撃沈されるというほどの状況ではないが、君が帰ってこないのは
"お母さん"としては心配なんだそうだ、だからこうやって僕が迎えに来たと言うわけさ!』
「ははっ、それじゃあバルトフェルドさんは――"AAのおじさん"ですね」
『お父さんと呼んでくれたまえよ』
159SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/16(金) 01:56:31 ID:???
10/

 そういえばそんな関係だったか、と一息つくころには、キラは冷静を取り戻している。
 通信を交わしながら軌道を交差して突撃、組めば数よりも強くなるのがムラサメだ。
"黒"が中距離からカオスとウィンダムをビームライフルで二機纏めて牽制し、"虎柄"が
距離を詰めてサーベルでの接近戦に持ち込む。

『それじゃあ腕一本、貰おうかねえ!』

 ビームライフルへの防御に体勢を崩したウィンダムへ向かって突進からの一撃を放つ。
サーベルによる応戦をかいくぐり、ジェットストライカーパックの翼ごと片腕を切り落とした。

『よし!』
「盾です!」
『む――!?』

 通信機越しにバルトフェルドへ警告を放った瞬間、"虎柄"左腕のシールドに突き刺さっていた
"スティレット"投擲噴進装甲貫入弾が爆発する。爆発で引きちぎられた"虎柄"のシールドは
振袖のようにぶら下がっていた。

『成る程、したたかな連中だ。キラが苦戦するわけだな――だが!』

 バルトフェルドは冷静を乱すことも無く、半分のシールドを投げつける――と、その影から
ライフルを放って、カオスの機動兵装バレルを一撃のもとに撃ち抜いた。荷電粒子の牙が
緑のバレルに喰らい付き、内部を融解、蒸発させて爆発を起こす。

『さあ、帰ろうかい、キラ!』

 ウィンダムとカオス、敵の中核を成すMS二機の戦闘能力をあらかた奪ったと判断した
バルトフェルドの声を受け、二つ返事でムラサメを翻した。片翼を失ったウィンダムと
ポッドを失ったカオスが、ムラサメに向かってライフルを放つのを"ハヤテ"空対空ミサイルで
黙らせた隙に、キラは、AAの待つ空域へとムラサメを加速させた。

「AAはこの先に――良かった、まだ浮いている」
 ムラサメのメインカメラが、地面ぎりぎりを飛行するAAの艦影を捉えた。どんよりと曇った空の下、
AAは今まさに陸地を抜けて海に出ようとしている。

「この近くに隠れているのかな?」
 自分専用に少しだけ強化されたセンサーを活用して、地形に隠れる敵を走査した。
160SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/16(金) 01:57:38 ID:???
11/

 僅かな痕跡でもあればと探ってみるが、熱紋の残りかすも見当たらない。潜んでいるとすれば、
機体の稼働率を極言まで落とし、外部に熱を放出しないようにしているのだろう。

『キラ――聞こえる? バルトフェルドさんも一緒ね』
 ムラサメとAAとの距離が縮まって通信回線が開き、ノイズ交じりにミリアリアの声が聞こえる。

「ミリアリア、AAの状況は――敵の位置は捕捉出来ているの?』

 AAからの返事は――否。敵は余程用心深く姿を隠しているようだ。データリンクでAAの
迎撃履歴を参照すると、この六分間で三回の砲撃を受けている。装甲が心配だ。

「とにかく着艦するよ、もう一度出撃するにしてもいまの状態じゃあ心もとないからね」
『右舷カタパルトハッチを開放するわ』
「マードックさんには、損傷は軽微だから弾薬の補充を最優先にして欲しいと伝えてくれ」

 そしてAAは海上に出て、ムラサメに乗るキラもそれを捉えた瞬間――
 ぞわり、と。胸中に度し難い不安感が湧き上がった。この地形、低空を行く戦艦、既視感を覚える。

 思い出す――CE71年。オーブ脱出。自分たちは、追撃部隊をどうやって躱そうとしていた?
 そうだ、あの時の敵――アスラン率いる敵部隊もこの様に低空を飛行していて、そのときの自分が
乗っていたのはランチャーパックを装備したストライクで、AAを先行させて自分は――

 キラは叫んだ。

「AA! 海だ、海中にMSが居る――!」

 警告を送りながら、AAの進行方向に向けてビームライフルを放つ。少なくともブリッジクルーは
ビームの火線を目撃したはずだ。ノイマンが少しでも反応してくれれば。
 海面に浮かび上がる影があった。背泳ぎの状態から身を起こしつつ、肩のアーマーを開くアビス。

『回避ぃ――――!』

 マリューの絶叫がキラの耳にも聞こえた。そのときにはキラは既にムラサメを加速させ、AAの
腹の下に潜り込ませている。そして復列のビーム砲を放とうとしていたアビスとAAとの間に、
ビームライフルを打ち込みながらムラサメの機体を無理矢理ねじ込ませた。

161SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/16(金) 01:58:46 ID:???
12/

 AAの船底が更に下、ムラサメとアビスとの間に濃密なビームの嵐が吹き荒れた。

「――――!!」

 脆弱なムラサメを盾としたキラを、巨大な鉄槌で打ち据えられたような衝撃が襲った。
操縦席でアラートが吼え、モニターが朱に染まる。

 直前に発射したライフルとミサイル、対ビーム爆雷。それらの影響が無ければ、いかなる幸運が
あったとしても、ムラサメが原型をとどめていることは不可能だった。かつての愛機、フリーダムをも
上回る砲口の前にムラサメを晒し、その身を以ってAA機関部への直撃を妨げたムラサメが激しい
損傷を受けつつも飛行可能であったというのは、まさに僥倖と言う他無い。

 しかし片足――主推進器の一つを打ち抜かれて幾つもの至近弾を浴びたムラサメの操縦席で、
キラは激しい振動に全身を揺さぶられ、意識を喪失しかけていた。

『キラ――気絶してはなりません……起きなさい!』
「――! 右主推進器を基部からパージ、電力を再分配――急げ!」

 弾き飛ばされそうになった意識を繋いだのは、ラクスの声だった。

「はじめて見た――あれがアビスの火力か」

 これまでキラとアークエンジェルは、海中の戦力をほとんど無視してきたので、アビスの攻撃を
見たことは無かった。ダータネルス海峡の戦いにおいては、一刀の下に切り伏せたので、その性能を
知る機会が無かったのだ。
 そのアビスは、動きの動きの鈍くなった漆黒のムラサメを先ずは撃墜しようと思ったのか、
多数の砲門がキラを向く。

「不味い、もう機動性が……脱出は――無理」

 脱出装置のスイッチに手を描けた時、AA側面の"バリアント"レールカノンが、ムラサメを
巻き込まない程度の出力で放たれた。それでも超音速の弾頭は海面に激突、運動エネルギーを
巨大な水柱に変え、アビスのビームを分厚い水の膜によって減衰させた。

『キラ! 早く着艦を!』
 ミリアリアの声に答える時間すらも惜しくて、カタパルトに飛び込んだ。ムラサメは直後に各座して
機能を停止する。

 転げ落ちるように操縦席から出てきたキラに、整備員たちが駆け寄り、声をかけた。
162SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/16(金) 02:01:29 ID:???
13/13

 「マードックさん!」その肩を借りて格納庫に入りながら、「機体を!」とキラはマードックに
叫ぶ。額が切れて、怪我の割りに出血が酷い。ヘルメットを脱いで、まぶたにかかった血をぬぐった。
 横から、救護班がテープを貼ってくれる。

「無茶を言うなよ、ヤマト三尉。お前さんは――」
 怪我の様子を見て、マードックはキラを抑えるようなジェスチャーをとった。
「無理は承知です……ですが、此処で出なければAAが危ないんですよ!」
 キラの五感は一定の間隔で連射される"バリアント"が格納庫を揺らすのを捉えていた。

 たかがMS一機の攻撃を封じ込めるために、大口径のリニアレール砲を使用している。
それほどまでに、AAは追い詰められていると言うことだ。

「調整中でも結構です! 腕や足の一本無くとも何とかして見せます、だからMSを!」
「あ、だがな三尉……エルスマンは、別ルートで脱出するそうだぞ?」
「あるんですね――!?」

 ディアッカはどうでもいい――言うとミリアリアに怒られるかも知れないが、どうせ死にそうに
無いやつだし、と割り切っている。問題はアークエンジェルだ。
 喉に何かが詰まったようなマードックの顔でキラは、稼働できる状態のモビルスーツが
まだ格納庫に眠っていることを直感した。

 オーブ脱出時に搭載していた九機のムラサメは、これまでの戦闘で殆どが大破したか、
宇宙に送られたか、あるいは部品取りに使われて、五体満足な機体は一つも無い筈であった。

「ああ、今最終調整に入ってる機体が一つだけ、あるにはあるが……」
「それで構いません! どれですか?」

 マードックは、苦虫を噛み潰したような顔で格納庫の奥を指差した。

「……あれか」
 キラが同じ方を向いた先には、ひざ立ちの状態で鎮座する鋼鉄の巨人、MBF−M1"アストレイ"。
そしてその傍に仕える獣が如く、支援戦闘機"スカイグラスパー"の姿が横たわっている。

「……」
 やっぱりやめておこうかな。キラはほんの少しだけ、後悔した。
16345』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/16(金) 02:09:44 ID:???
以上、投下終了。鳥が割れてしまったので、変えました。
感想、ご指摘はご自由にどうぞ。

>>まとめ管理人様
名も無い戦いなので、特にサブタイトルをつけなくて良いです。
毎回ありがとうございます。
164通常の名無しさんの3倍:2009/10/16(金) 10:27:30 ID:???
165通常の名無しさんの3倍:2009/10/16(金) 11:09:24 ID:???
乙だけじゃ味気なすぎる
職人がいつか逃げちまうぞ
166通常の名無しさんの3倍:2009/10/17(土) 07:59:03 ID:???
>>45
キラがだんだん吉良に……
ここのキラが強いのは描写が良くて納得できますね
167通常の名無しさんの3倍:2009/10/17(土) 09:38:19 ID:???
†氏乙です

自由がない分本当に技術と才能をフルに使わなきゃいけないキラと、ネオ達の苦悩が伝わってきた
†氏のSSのこのギリギリのスピード感は好き
168通常の名無しさんの3倍:2009/10/17(土) 20:25:27 ID:???
俺も†氏の戦闘描写は好き。言うの3回目ぐらいだけど。
「荷電粒子」好きだよねw
169通常の名無しさんの3倍:2009/10/17(土) 20:47:45 ID:???
俺も三回くらい言ってるけどミゾグチが好き
いまじゃ全然登場しないけどww
170あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/18(日) 00:33:07 ID:???
第1話「ソレスタルビーイング」 アバン

A.D.2301クルジス共和国

荒廃した街。
響く銃声。発砲し続けるMSER-04 アンフ
その中で、ひとりの男の声が聞こえる。

「この戦いは、神の御前にささげられる聖戦である」

型落ちの鈍重な機体とはいえ、MS相手に無謀にも発砲する2人の少年兵。
すかさず、アンフも発砲。
少年兵達の身体が"飛散"する。

「伝統を軽んじ、神の土地を荒らす不信仰者どもにわれわれが鉄鎚を下すのだ」

血まみれの遺体。
別方向から1人の少年兵もマシンガンを撃ち続ける。
少年の名前はソラン・イブラヒム

「不信仰者どもに屈服してはならない」

後方で爆発。爆風に吹き飛ばされるソラン。
アンフは発砲するが、ギリギリの所でかわす。

「われわれは戦いで死すことによって神の御許へ導かれるだろう」

走り続けるソラン。ギラギラした表情。
吐き捨てるように、
ソラン
「この世界に・・・神なんていない・・・!」

別のアンフもソランに近付き、発砲し続ける。追いつめられるソラン。
キッとアンフを睨むソラン。
アンフがソランに照準を合わせ、発砲しようとした瞬間、空からの光がアンフを貫く。

ソラン
「!?」

次々と降り注ぐ光。その度にアンフがひとつ、またひとつと破壊される。
周囲の銃声が止んだ。辺りを見回すソラン。
上を見上げると、緑の光に包まれたMS。
アンフとは違う、洗練された姿。
光の翼を広げたような、雄々しい姿。
その姿が、ソランの目に焼き着いた。

(※ちょっと簡略化。「神なんていない」の台詞は2回言わなくてもいいでしょう。)
171あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/18(日) 00:38:50 ID:???
第1話「ソレスタルビーイング」 Aパート その1

6年後
A.D.2307

コクピットに座る刹那・F・セイエイ
艦橋スタッフの声が響く。

クリス
「トレミー、第1ハッチオープン。エクシア、カタパルトデッキに移動します。」

スメラギ
「ファーストミッションは、アフリカ領土を巡る、ユニオンとAEUへの武力介入よ。
おそらくAEUの方には新型もあるはず。」

リヒティ
「スメラギさん、酒飲んでる!」

ラッセ
「マジかよ。」

スメラギ
「良いでしょ〜。私は作戦を考える係。後の事はまかせるから。」
ボトルを傾ける音。

カタパルトに到着する GN-001ガンダムエクシア。

フェルト
「エクシア、カタパルトデッキに到着。リニアフィールドに固定。
射出準備完了。タイミングをエクシアに譲渡。」

スメラギ
「降下ポイントへ到着次第、GN粒子最大散布、大気圏に突入して。」

顔を上げる刹那
刹那
「・・・了解。エクシア、刹那・F・セイエイ、出る。」

発進!
172あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/18(日) 00:42:22 ID:???
第1話「ソレスタルビーイング」 Aパート その2

AEU軌道エレベーター ラ・トゥール

ユニオンとAEUの戦い。 
ユニオン勢
前衛はユニオンフラッグ、ニオンリアルド
後方支援はユニオンリアルドホバータンク、シェルフラッグ

AEU勢
前衛はへリオン爆装型、へリオン陸戦型
後方支援はヘリオンイニティウム(ヘリオン92年型)、ヘリオンメディウム(ヘリオン00年型)

両者共に機動性に優れ、撃墜したり撃墜されたり。

ヘリオン部隊の波状攻撃を回避する、ユニオンフラッグのパイロット、グラハム・エーカー。
グラハム
「ちっ。数が多すぎる。」

舌打ちするグラハムに通信でアドバイスするユニオン技術顧問、ビリー・カタギリ
ビリー(通信)
「しかし、性能はフラッグの方が上だよ。いつもみたく気合でカバーしてみてはどうだい?」

グラハム
「言ってくれる。」
アドバイスになってないアドバイスに呆れつつも、フラッグの出力を上げるグラハム。

グラハムの卓越したテクニックで、ヘリオンをスピーディに3機破壊していく。
1機、2機、3機と20mm機銃やミサイルで撹乱しつつ、ソニックブレイドで一刀両断。

ユニオン兵(ノーマルフラッグ)
「お見事です!エーカー中尉!」

ユニオン兵(リアルド)
「この戦闘に勝てば・・・」

ユニオン兵(シェルフラッグ)
「どの陣営にも属していないアフリカをユニオンに取り込めるチャンスが!」

ユニオン輸送艦内でアラート。
ビリー(通信)
「ピラーから急速に接近する機体・・・もしや・・・」

グラハム
「最新兵器イナクト・・・そして、AEUの自称エースか。」
173あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/18(日) 00:43:46 ID:???
第1話「ソレスタルビーイング」 Aパート その3

ラ・トゥールのピラーから、現れたのは、AEU-09 AEUイナクト。グラハムには及ばないもののエースと自称するだけのテクニックでリアルドを攻撃。
あまり撃墜できてないものの、リニアライフルやソニックブレイドで次々と中破させていく。

やたらテンションの高いAEUのエース(自称)のパトリック・コーラサワー
コーラ
「YAHOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!
AEU初の太陽エネルギー対応型!
軌道エレベーター周辺じゃエネルギー無限大の最新機体イナクトを駆るエースパイロット、
パトリック・コーラサワー!ただいま参上!!!」

グラハム、リニアライフルで攪乱しつつイナクトに接近。挑発するように
グラハム
「頼んでもいない自己紹介ご苦労。わがユニオンの主力兵器、フラッグの猿真似だな」

ビリー(通信)
「独創的なのはデザインだけだね」

グラハム達の挑発にあっさり乗るコーラ
コーラ
「んだとコラァ!!」

グラハムvsコーラ ユニオンのトップガンとAEUのエース(自称)の戦い。
リニアライフルやミサイルを駆使しながら、プラズマブレイドを中心とした接近戦で攻めあう。グラハムの方が若干優勢。

グラハム
「性能に頼り過ぎだ。」

コーラ
「負け惜しみを!」




AEU 静止衛星軌道ステーション

AEU軍オペレーター
「Eセンサーに反応。大気圏に突入する物体があります」

モニターに移る大気圏突入中の謎の機体。

AEU軍管制官
「単独で大気圏突入だと?!どういう事だ?!」

AEU軍オペレーター
「降下予測ポイント・・・ユニオンとの戦闘領域です!」
174あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/18(日) 00:45:24 ID:???
第1話「ソレスタルビーイング」 Aパート その4

ヴァーチェのコクピット内。
(※ヴェーダルームの場所=ヴァーチェのコクピット)

ティエリア
「・・・・・・・・・・・・・・・・始まる。」



戦闘を続けるグラハムとコーラ。
イナクトのライフルが弾き飛ばされる。

イナクトのコクピット内にピピッピピッとアラートが響く。
コーラ
「うるせえぞ!戦闘中だ!・・・ああん?アンノウンだぁ?」


突如、空からビームがイナクトに被弾。

突然の攻撃に驚愕のコーラ
コーラ
「何だとぉ!!?」

さらに、ビームが降り注ぎ、グラハムとコーラ、一旦距離を取る。
粒子をばらまきつつ、高速で降下する、ガンダムエクシア。


AEU輸送機内でもアンノウンの出現にざわめく。
AEU兵
「何だあの機体は?!」

緑の光が周囲に舞う。
グラハム
「・・・・あの光・・・AEUでも人革連とも違う・・・・どこの機体だ?」

コーラ
「どこのどいつだ!?ユニオンか?人革連か?」


謎の機体出現に怒り心頭のコーラ、ソニックブレイドを取り出し、臨戦態勢。
コーラ
「ま、どっちにしてもいきなり乱入してオレの機体をぶっ壊したんだ。
ただで済むわけねぇよなぁ?」

ひとり無謀に突撃するイナクト
175あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/18(日) 00:49:23 ID:???
第1話「ソレスタルビーイング」 Aパート その5

刹那
「エクシア、目標を駆逐する」GNソードでイナクトの右手切断。

コーラ「・・・・・・・!!」

ハム「なんと!」

刹那「・・・・」

ますます怒りを募らせるコーラ。
コーラ
「・・・・・・・てめえ・・・分かってねえだろ・・・」

イナクト、今度はリニアライフルで発砲。あっさり回避される。エクシア、GNソードで引き続き

コーラ
「俺は!」左腕切断。

コーラ
「スペシャルで!」右腕根元から切断。

コーラ
「2000回で!」頭部切断。

エクシア、GNソード折り畳み
コーラ
「模擬戦なんだよォォォォォ!!!」墜落。

刹那
「エクシア、ファーストフェイズ終了。」

唖然とするユニオン軍とAEU軍。しかし、血気盛んなユニオン兵の一部がAEU軍に対し迎撃態勢に。

ユニオン兵
「助太刀感謝する!」
一部のリアルド、AEU軍に攻撃をしかけようとするも

刹那
「セカンドフェイズに移行する。」
今度はエクシア、ユニオン軍に高速接近。GNソードで次々とリアルド攻撃。

グラハム「何!?」

ビリー「ユニオンにまで攻撃!?」

(※GN粒子で通信不能設定カット。ただし、スローネドライとOガンダムは例外)
176あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/18(日) 00:51:13 ID:???
第1話「ソレスタルビーイング」 Aパート その6

宇宙
ソレスタルピーイング戦艦トレミー。ここでトレミースタッフ初めて顔見せ。

フェルト
「ユニオン、AEU共に戦闘続行。エクシア、セカンドフェイズに突入。」

ラッセ
「ちゃんとやれてるようだな、刹那は」

リヒティ
「"VL4"開始早々なんだから、失敗しちゃまずいっしょ。」

フェルト
「間もなくサードフェイズの開始時間です。キュリオス、ヴァーチェの発進準備を・・・」

緊張気味のフェルトに声をかける。
クリス
「そんなに固くならないでフェルト」

フェルト
「う、うん」

スメラギ
「ド派手に行きましょ。私達ソレスタルビーングが初めて表舞台に立つんだから。」

クリス
「トレミー、第一ハッチオープン。キュリオス、カタパルトデッキへ移動。」
トレミーのハッチが開く。
(※トレミーは愛称ではなく、正式名称が「トレミー」。外見、仕様とともに2期バージョン。)

カタパルトへ移動するGN-003 ガンダムキュリオス飛行形態。
独り言を言いつつ、ヘルメットを被るアレルヤ・ハプティズム。
アレルヤ
「実戦だ…ハレルヤ。待ちわびた?・・・僕は憂鬱だよ。」

カタパルトデッキに到着したキュリオス。
クリス
「キュリオスをリニアフィールドへ固定。射出準備完了。タイミングをキュリオスに渡します。」

コクピットのアレルヤ、表情を引き締め
アレルヤ
「あいはぶこんとろーる。キュリオス、作戦行動に入る。」

キュリオス発進!
177あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/18(日) 00:52:02 ID:???
第1話「ソレスタルビーイング」 Aパート その7

人革連軌道エレベーター 天柱

ステーション内はたくさんの人達。
女性レポーター
「第2軌道エレベーター、通称『天柱』。
その静止衛星軌道ステーションで今、電力送信50周年を記念するパーティーが華やかに行われています。
パーティーには、軌道エレベーター建設にかかわった人革連各国大使、関連企業、軍軍関係者たちが多数参加しています」

(※軌道エレベーター完成は2250年。
電力送信は2257年。
宇宙開発に向けて稼働したのは2267年。
三大国とも似たような時期に稼働し始めてる)


赤を基調としたチャイナドレスを着た王留美がジュースを飲みながら窓の外を眺めてる。
青を基調としたチャイナドレスを着たアニュー・リターナーが近付いて・・・

アニュー
「始まりました。お嬢様。」

留美
「ついに、彼らが動き出すのね。」

トレミー内。シリアスな表情のスメラギ。
スメラギ
「CBの、ガンダムマイスターが。」
178あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/18(日) 00:54:42 ID:???
第1話「ソレスタルビーイング」 Bパート その1

AEU、ユニオンがエクシアを追撃。
刹那、回避しつつもGNソードライフルモードで迎撃。
でも射撃がド下手なので、全然当たりません。
仕方ないのでGNソードでリアルド真っ二つ。


ユニオン兵
「なんて機動性だ?!」

AEU兵
「あんな機体が存在するなんて!」


グラハム、エクシアに接近する。
ここで「GUNDAM」の刻印発見。
グラハム
「ガンダム・・・?あの機体の名前か?」

リアルドやヘリオンを次々と撃墜するエクシア。

ピラーの中からヘリオン増援。

コクピット内のハロドアップ。
ハロ
「ろっくおん、ゾウエンセッキン、ゾウエンセッキン」

待機中だったロックオン・ストラトス。
ロックオン
「ははっ、こりゃさすがの刹那でも手を焼くかぁ。なら、狙うとしようか!
行こうぜ!ガンダムデュナメスとロックオン・ストラトスの初陣だ!」

囲まれたエクシア

グラハム
「距離を取れ!新型とて相手は1機、包囲してせん滅する!」

地上からのビーム!
ヘリオン、1機2機と撃墜!

AEU「何?!」

刹那「ロックオンか」

GN-002ガンダムデュナメス、AEU、ユニオン共に次々と撃墜していく。
ロックオン
「デュナメス、目標を狙い撃つ!」
179あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/18(日) 00:55:28 ID:???
第1話「ソレスタルビーイング」 Bパート その2

グラハム
「地上からの砲撃とは・・・!」

刹那もユニオン軍の機体を2機3機とGNソードで撃墜していく。

デュナメス、フラッググラハム機に照準セット。
ロックオン
「まだやるのかい?」

グラハム
「あのような性能の機体が2つもあるというのか・・・!」

グラハム、接近しようとした所、2つの光が空に舞い上がる

グラハム
「撤退命令・・・」

ビリー
「AEUにも・・・」

残った機体は全て撤退。
刹那
「セカンドフェイズ」

ロックオン
「終了だ」

撤退するユニオン軍。グラハム、チラっと後ろを見る。

イナクトの残骸の上で一人で大騒ぎしてるコーラ。
コーラ
「奴はどこだ?奴は?!俺の名はパトリック・コーラサワーだ!わかったか?!覚えてやがれ!」

グラハム
「なるほど…最新鋭機イナクト、パイロットの安全性は確かなようだ」

ビリー(通信)「AEUのセーフティーシャッターの技術は抜きん出てるからねぇ」

(※AEUエレベーター稼働してないとか条約規定以上の戦力うんぬんカット。AEUエレベーターは普通に稼働してます。)
180通常の名無しさんの3倍:2009/10/18(日) 01:00:39 ID:???
C
181あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/18(日) 01:01:45 ID:???
第1話「ソレスタルビーイング」 Bパート その3

人革連 静止衛星軌道ステーション
サイレンが鳴り響く。

人革連オペレーター
「Eセンサーに反応!最大望遠モニターに出します!」

オービタルリングに接近するモビルスーツ12機。

人革連管制官
「モビルスーツ!?またテロリストだと!?」

人革連オペレーター
「デブリにまぎれるなんて!」

人革連管制官
「第3防衛隊にスクランブルを要請しろ!」



人革連 基地内 警報が鳴り響く

ティエレン格納庫内の兵士達、慌ただしく出撃準備。
人革連兵
「くそっ、よりによって式典狙いかよ!」

人革連メカニック
「装備の換装間に合いません!」

人革連兵士
「わかっている!」

ティエレンに乗り込むセルゲイ・スミルノフ
セルゲイ
「ヘリオンだと!?またAEUの機体が流れたか・・・」



式典会場内 人革連軍人達が次々と退出。
そんな彼らを冷ややかな目で見る留美。

留美
「あらあら、自分たちだけぞろぞろと。勝手な人たちねぇ」

アニュー「避難されますか?」

留美「まさか」
182あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/18(日) 01:03:00 ID:???
第1話「ソレスタルビーイング」 Bパート その4

セルゲイ、ミン中尉、ティエレンで出撃。

人革連オペレーター
「E3エリア、アローワンスマックス。自発部隊スクランブルまで300セカンド。
アンノウン、E3から交戦エリアに」

人革連オペレーター
「コントロールより各機へ、アンノウン、ピラー接近まで0287」

ティエレン部隊を率いるセルゲイ。
セルゲイ
「各機、姿勢制御。敵のルートをふさげ!」

テロリスト、オービタルリングの影に隠れる。
ミン中尉
「くそっ!リングに隠れたか!」

セルゲイ
「追うぞ。」

ティエレン、マシンガン発射。
数機撃墜されながらも式典に目がけて突進するテロリスト。
テロリストのヘリオン、ステーションに目がけてミサイルランチャー発射!

人革連オペレーター
「直撃コース!迎撃間に合いません!」


ビームが走る。ミサイルを破壊。
式典会場内、振動。

招待客
「な、何?」

留美
「ガンダム・・・ガンダムキュリオス。お手並み拝見よ。監視者として。」
(※留美はエージェントではなく監視者という設定。)
183あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/18(日) 01:04:23 ID:???
第1話「ソレスタルビーイング」 Bパート その5

アレルヤ
「MSの数はスメラギさんの予測範囲内・・・・キュリオス、介入行動に入る。」

テロリスト、キュリオスに目がけてミサイルやマシンガンを発射。
キュリオス、回避しつつ次々とヘリオンを撃墜。途中、MS形態に変形。


驚愕するセルゲイとミン中尉。
セルゲイ
「変形しただと!?」

ミン中尉
「な、何だあいつは!?」

ビームマシンガンでさらに撃墜。しかし、残ったヘリオン3機が式典会場に特攻!

アレルヤ
「特攻?まったく、テロリストってのは!ティエリア!」


人革連オペレーター
「アンノウンが、突っ込んできます!」

その時、テロリストの前に立ちはだかるのはGN-005 ガンダムヴァーチェ。
謎のMS出現に会場内ますますざわめく。

余裕綽々の留美。
留美「ヴァーチェ・・・。」


ヴァーチェ、射撃体勢。

ティエリア
「ヴァーチェ。目標を破壊する。」

GNバズーカ発射。蒸発するヘリオン。

ティエリア
「サードフェイズ、終了」

半ばあきれた表情のアレルヤ
アレルヤ
「やりすぎだよ・・・まったく・・・」


式典会場にて、JNNの池田さん、事の顛末をカメラに収めている。
184あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/18(日) 01:05:29 ID:???
第1話「ソレスタルビーイング」 Bパート その6

ユニオン 経済特区東京

ハイスクールの食道ではニュースが流れている。女性アナの台詞カット。
ヴァーチェとキュリオスの映像。
腰掛けているミレイナの元に、駆け寄ってくるサジとルイス。

ルイス
「なになに?どうしたの?」

ミレイナ
「謎のMSがテロリストをやっつけたですぅ。」

サジ
「昨日のニュースじゃアフリカでの戦闘に乱入したってあったけど・・・」

女性アナ
「事件の最新情報です。」

3人、はっと顔を上げる。
女性アナ
「たった今、JNNにテロを未然に防止したと主張する団体からビデオメッセージが届けられました。
彼らが何者なのか、その内容の真偽のほども明らかではありませんが、事件との関連性は深いものと思われます。
ノーカットで放送しますので、どうぞご覧ください」



ビデオメッセージに移るのは初老の男性、イオリア・シュヘンベルグ

イオリア「地球で生まれ育ったすべての人類に報告させていただきます
私達はソレスタルビーイング。機動兵器ガンダムを所有する私設武装組織です」

ルイス
「ぶそうそしきぃ?」
185あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/18(日) 01:08:04 ID:???
第1話「ソレスタルビーイング」 Bパート その7

東京のビル街

イオリア
「私達ソレスタルビーイングの活動目的は、この世界から戦争行為を根絶することにあります」

じっと見る絹江
絹江「この人……」



AEU病院内
イオリア
「私達は、自らの利益のために行動はしません。戦争根絶という大きな目的のために、私達は立ち上がったのです。」

病院に運び込まれた怒り心頭のコーラ
コーラ「こいつらか!俺をこんな目に遭わせやがったのは!」



ユニオン大統領と補佐官、人革連主席、AEU各国首脳達
じっと演説を聞く。
イオリア
「ただ今をもって、全ての人類に向けて宣言します。
領土、宗教、エネルギー…どのような理由があろうとも、私達は、全ての戦争行為に対して武力による介入を開始します。
戦争を幇助する国、組織、企業なども、 我々の武力介入の対象となります。」



人革連基地
セルゲイとミン中尉をはじめとする兵士達。

イオリア
「私達は、ソレスタルビーイング。この世から戦争を根絶させるために創設された武装組織です。繰り返します・・・」

セルゲイ「犯行声明だと?」
186あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/18(日) 01:08:49 ID:???
第1話「ソレスタルビーイング」 Bパート その8

ユニオン 輸送艦内  グラハムとビリー

大爆笑のグラハム。
ハム「これは傑作だ!戦争を戦争で解決させるとは!」


アザディスタン王宮。マリナとシーリン

悲しげな表情のマリナ・イスマイール
マリナ
「戦争を無くすために武力を行使するなんて・・・ソレスタルビーイング・・・存在自体が矛盾しているわ。」



AEUの何処かの屋敷。
ベランダに立つアレハンドロ・コーナーとリボンズ・アルマーク。

アレハンドロ
「リボンズ、始まったよ。人類の変革がね・・・」

無視して退室するリボンズ。



リニアトレイン内。留美とアニュー
うっとりとした表情の留美
留美「世界が変わって行く・・・・」



トレミー内
悲しげな表情のアレルヤ
アレルヤ「マリー、世界の悪意が聞こえるようだよ。」

毅然とした表情のティエリア
ティエリア「人類は試されている。ソレスタルビーイングによって」

うつむくスメラギ
スメラギ「それは・・・悪行よ・・・」
187あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/18(日) 01:10:07 ID:???
第1話「ソレスタルビーイング」 Bパート その9

何処かの孤島。
端末で演説を見るロックオン。

ロックオン
「始めちまった…ああ、始めちまった!もう止められない」

足下ではねるハロ。
ハロ
「トマラナイ、トマラナイ」


何処かの暗い空間に佇むリボンズ。目が光っている。
リボンズ
「始まるよ。イノベイター。破壊という名の再生が。」

暗闇の中のヒリング・ケア、リヴァイヴ・リバイバル、リジェネ・レジェッタ。
リボンズと同じく目が光っている。
(※赤毛組リストラ)

半ば自分に言い聞かせるように言う
ロックオン
「俺たちは世界に喧嘩を売ったんだ。わかってるよな?刹那」

ヘルメットを脱ぎ、エクシアを見上げる刹那
刹那
「ああ、わかっている。俺たちはソレスタルビーイングの…ガンダムマイスターだ」




次回予告
戦争行為の根絶を体現する機体がガンダムである
だからこそ、パイロットは感情を律せねばならない
次回『ガンダムマイスター』
その行為、崇高なるものの苦行か
188あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/18(日) 01:10:56 ID:???
1話の投下は終了です。
長くなってごめんなさい。支援ありがとうございました。
189通常の名無しさんの3倍:2009/10/18(日) 08:10:38 ID:???
>>188
乙です。
既に見ているはずの話が、色々な所で微妙に変わってるのが面白いですね。
一期から王留美の側にアニューがいるというのも期待大。
190通常の名無しさんの3倍:2009/10/18(日) 09:55:06 ID:???
乙だが()で注釈いれるのだけは一考してくれ設定を読まされてる気になる
191通常の名無しさんの3倍:2009/10/18(日) 09:58:54 ID:???
そもそも脚本形式な文体で(ry
192通常の名無しさんの3倍:2009/10/18(日) 10:36:33 ID:???
シナリオ形式は読んで貰う、と言う時点でかなり不利

映像ありきで書かれるものだから台詞と状況が乖離しているからだ
それにいちいち誰が喋ったのかキャラ名を読まされる
それが面倒くさいので読み飛ばされる
と言いながら最近なら花嫁の人もそうだが、シナリオ形式で行くならば
もっと徹底すべきではないかとも思う


花嫁の人もそうだがシナリオとしては地の文に”色気”がありすぎる
地の文はあくまで行動、キャラの動きの説明であって
そこには設定捕捉やキャラの行動の説明は入っては来ないだろう
地の文での行動描写や細かい台詞の言い回しでのキャラのかき分けを
嫌って台詞の前にキャラ名を入れているだけの様にも思える
唐突に誰かが喋ってもキャラ名を書けば許される。それがシナリオ形式の利点
であり嫌われる部分でもある

通常スルーされるオリジナル系職人も居る事だし
上記二人はむしろシナリオ形式で何が何処まで出来るのか
突き通して欲しい
193192:2009/10/18(日) 10:54:38 ID:???
投下乙を書き忘れた

改めて投下乙

書き忘れついでに
あざーん氏には空白行の使い方と一回投下分量の見直しを求める
今後毎回投下支援が必要になると言うなら、それは2ちゃんという媒体への投下
それ自体を考えた方が良いだろう

それから三点リーダーとダッシュの使い方はテンプレ参照
長文は書いていないものの、文章としては簡潔で読みやすいと思うので
細かい事を気にする読者が多いこのスレで、
そう言う部分で評価が下がるのは勿体ないからな
194通常の名無しさんの3倍:2009/10/18(日) 10:57:53 ID:???
三点リーダーの数は気分でいいよ
テンプレはあくまで指針だからお好きにどうぞだな
195通常の名無しさんの3倍:2009/10/18(日) 15:33:14 ID:???
投下乙。

シナリオ形式を採るなら、セリフ前の名称は統一した方がいい。

名前の出ていないイケダや、名だと通りの悪いエイフマンは仕方がない気もするが、
それでも池田「さん」は論外。
これも先に指摘されている地の文の色気というべきか、ライターの感情を移入するところではないように思う。
コーラサワーはザラ議長とかぶる心配もないのでパトリックか、そのままコーラサワーで。
そこだけネタのように見える。

表記の不統一はシナリオとして見るならば、個人的感想だがひっかかる。

あと、蛇足。ハイスクールの×食道→○食堂
粘膜どろどろの所では食欲が湧かん。
これから本編とどう異なっていくかを楽しみにしている。
196八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/10/18(日) 23:59:04 ID:???
劇場版 機動戦士ガンダム00 木星の花嫁 Bride in Jupiter
アクト3 前編 1/
ルイス・ハレヴィは大いにうろたえた。
「どうして、確かに私はリボンズに向けて… 殺そうと」
今更ながらに、みずからの選んだ選択に腕が震えるも、実際に起こされた結果は意図しないものであった。
それはある意味において最悪といえる事態であるが、一面において彼女を救った事も確かであろう。
ガニメデの回線が会心のトリックを披露する男の声を届けた。最高の競演者であり、また最良の観客となった者を賞賛する。
リボンズ・アルマーク=リバース・ユピトゥス 
「リグ・ヴェーダを通して君の機体をコントロールさせてもらっていたのさ、手足の如くとはいかないまでも腕の一本だからね。
 それにしても、この体は具合が良い。邪魔な家主は岩戸に籠もったままで、なにより細胞の一つ一つが良く馴染む。
 誰に感謝をしたものかな。
 ああ、君の愚かさも敬意に値するよ。素晴しい助演だった。ただし道化としてだがね。
 知っていたかい、かつて私のプレゼントしたあのレグナントも君の忌み嫌っていたガンダムだったと」
ルイス
「あの戦争の後にすぐ」
リボンズ
「ほう、では訂正の必要があるかな。おくびにも出さず、あの時私を受け入れたとはね」
ルイス
「でも愚かというのは確かね。私はまた過ちを繰り返してしまうところだった。そういう意味ではあなたを感謝するわ。
 他人を消すことで、何かを為す事を二度としない」
リボンズ
「おやおや何を言い出したかと思えば、まあ… 君のここでの出番はもう終わりさ。
 あとは観客として手をこまねいて観ているがいい。
 ここからは他の演者の見せ場だ。但し勝手に席を立ってもらっては困るからね。機体の機能は停止させてもらった。
 それと興奮した者にからまれてはいけないから、GNフィールドは展開させておこう。
 カーテンコールには必ず招待するから気を悪くしないで欲しい」
ルイス
「あなたの演出どおりには行かないわ、私が何度でも変えてみせる」
リボンズ
「それでは失礼」
リボンズ
「これより、ジュピトリスワンの制圧を改めて再開する。花嫁はその意を示された。ジュピトリアンよ我に続け」

その呼びかけに彼らが応じるよりも早く、一機のMSの軌跡が宙域に解き放たれていた。
可変によって、その形状もまさに一筋の矢を宇宙に描くアーチャアリオスの姿だ。
アレルヤ・ハプティズム
「一番認識が甘いのは僕か、一瞬の隙を衝かれるなんて、それでもこの間なら あのMSを」
ミゲル
「させねえよ 花嫁様の許しが出たんだ。こっちとら、5日もよぅ、ぶっつぶしたくてうずうずしてたとこなんだよ。
徹底的にやりあおうじゃねえか」
アレルヤの動きに、いち早く反応した機体があった、ジュピトリアンのミゲルの駆る可変MSエウロパである。
変形したその姿もまた、宙に放たれたひとつの矢、青色の跡線が互いに交差し、衝撃はその行先を変える。
皮肉にもこの初動は、交わされた鏑矢となる。そしてここに再び戦場が創られた。
197八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/10/18(日) 23:59:46 ID:???
2/11
ジュピトリアン旗艦ガリレオから、我に帰りし者たちが機体を起動させハッチを開放しオペレートを開始する。
先駆けの誉れをCBに奪われた失態に恥じ入るかの様に、MSは競い合うが如く次々と吐き出され編隊を組み上げた。
その眼に焼き付けられたMSガニメデの砲撃と耳に刻まれたリバース・ユピトゥスの言葉が、
結果として多くのジュピトリアンを釘付けにしていたのだろう。彼らの業はかくも深い。そして彼らは理解する。
ジュノーにて花嫁様は絶望を知り受け入れてくれたのだろうと。そしてあの方は、父を我らの元に引き戻し、
今人類に別れを告げたと。
さあ、父ともに新たな母のため、地球の人々に絶望の続きを伝えよう。

グラハム・エーカー
「MS隊及び、ガガ隊は各機指定されたハッチより発進、配置につけ」
ヤオ・ハン
「忙しい連中だな、話し合うと言った口で攻撃してきおった。
 あのMSの展開速度を見る限り、あちらの予定通りではないようだが」
それはジュピトリスワンのブリッジも同様であった。
小惑星ジュノーの接近から戦闘の再開を予感し備えたはずが、
あざとくも奪われてしまった機先を嘆きヤオは部下達にかわり愚痴をこぼした。

サジ・クロスロード
「一体なんですかこれは!」
ターシン
「見ての通り停戦が終わったということだが」
セレナ・ソレンダ
「随分と勝手なことで」
「聞いての通りこれは花嫁様の意思であり、従って問題は無いはずだが」
「違う。ルイスはこんなこと望みはしない」
「花嫁様とお知り合いでしたか。しかし信用をしてもらうには難しいかもしれませんが、あの機体は紛れも無く」
「たとえそれが事実であっても、僕は僕の知っているルイスを信じます。ターシン艦長、セレナ代表、あなた方ならば、
 この戦闘を止められるはず、お願いします。いまならまだ」
「わたしはサジ君に賛成でかまいませんわ」
「…… 」
「ソレスタル・ビーイングのMSは僕が必ず止めます」
「君の言は、そこの口の減らない女性と違って信頼に値するのだろうが、
 全ての指揮権は先だって全ての者の合意をもち、リバース様に自動的に移動した。
 私には何の権限の無いと言いたいところだが、さっそく新たな役どころとして降伏の受け入れの取次ぎを仰せつかってね。
 ジュピトリスワンに回線を開放した。好き相談にしてくれたまえ」
「あらご丁寧に、まだお話できるなんて嬉しいわ。お暇な艦長さん」
火傷をしてしまうような微笑みを飛ばして答えるセレナは、サジにも笑みのおすそ分けをなげかける。
その目に宿る種火をもって彼を焚きつけようと。
サジは思う。
仮留めされていた吊り橋は、いとも容易く崩壊したと。
そして残った残骸は頼り無くも両岸を結ぶ、ほつれた横縄の一紡ぎの繊維。
そう、まだ意図は届く。
198八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/10/19(月) 00:00:56 ID:???
3/11
リボンズ
「ガリレオは以上だ。
 ネネ、君はGN粒子の散布を続けながら、花嫁のガニメデを護衛してくれ。
 どうも機体が安定しないように見える。通信も先ほどから途絶している」
ネネ
「わかりました。ご安心をリバース様、あの方には誰にも指一本として触れさません」
整いつつある戦陣を眺めると、その手綱をして停止を告げ、粒子に乗せて思念を発した。
その向かう先は、かつて彼が呼んだ名前では、コロニー型外宇宙航行母艦ソレスタルビーイング。
リボンズ
『聞こえるか、ジュピトリスワンの兄弟よ。君たちは、そして我々はイノベイドと呼称される存在である。
 今感じているこの共感覚を持ち、その肉体はあらゆる種を凌駕する。
 地球連邦政府は新たなる種の存在を一年以上も前に知りながら、この事実を隠蔽していた。
 これは恐れなのだ、そして差別ともいえよう、そして軽蔑に値する。
 欺瞞なる連邦と人類に別れを告げ、同胞達よ、いまこそ立ち上がれ』

ジュピトリスワンを貫いて見えざる波紋が水面下を伝い拡がっていく。
艦橋で一人の青年が、静に席を立ち司令卓へと近づいた。
ガイレオから繋げられた回線がヤオ司令を呼ぶセレナの音声を届けようとしたその時、
青年は司令の前に立ちその口を開く。
オペ男
「あちらから反乱を教唆する語りかけが今ありました。多分艦内のイノベイドにも聞こえたと思います」
ヤオ
「何とか間に合ったかな、どうだ艦内は」
オペ子
「はい今報告がいくつか、やはり多少の動揺はありますが、混乱というほどではないようです」
ヤオ
「セレナ代表聞こえているかね、そんなに心配しないでくれもう少し信頼してくれてもいいじゃないかな、
 それとジュピトリアンの方々に私からもよろしくと伝えてくれ」
彼の脇にあるモニターには、インタビューを受けるセレナ・ソレンダ代表の映像が流れている。
ジュピトリスワン艦内の情報チャンネルの一つを使用し1日ほど前、
つまり和平会談の送迎をしたソーマ大尉が報告を上げた時点から放映を開始したVTRだ。
池田
『つまりこのジュピトリスワンの乗員のうち6割が、そのイノベイドでしたか、
 ええと宇宙に対応するため人工的な進化を施された人間であると』
セレナ
『はい、それと先ほどお伝えしましたように自覚といったものは無く、
 多分皆さんは、放送と同時に発信しました保健局の判別証で初めて認識されたのではないかとおもいます』
池田
『わたしはどうでしょうか放送前に教えてもらえたら、えっ、いいんですか。残念、ああ貴重な機会を逃しました。
 もしイノベイドなら宇宙人ということでセレナ代表の花婿に立候補出来たのですかね』
セレナ
『うれいしのですが、生憎わたしもそのイノベイドですわ』
語られている事実のわりに他愛も無いインタビューが30分ばかり続く。
種を明かせば何と言うことはないのであるが、このジュピトリスワンではこんな保険が十分に効いたのだろう。
199八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/10/19(月) 00:02:40 ID:???
4/11
本来降伏の条件について話し合うために開かれた回線にもセレナの対談映像がジュピトリスワン側から送信されていた。
ヤオ司令の悪戯に違いない。全く、心配しては損ばかりする。
セレナ
「残念でしたわね、私が信頼するよりも、他の方々は私を信用してくれたみたいで」
このぐらいで動揺してくれるのなら可愛げがあるのだが、目の前のイノベイドがそんな男でないことはもう十分に知っている。
ターシン
「やはりあなたもイノベイドだったとは、初めてお会いしたときから、そうではないかと思っていましたよ」
いけ好かないとはこういう事だ
セレナ
「遅い。サジ君、あなたは間違ってもこんな口説き方をしちゃだめよ」

落胆の色もみせず、彼はひとり呟く、
「反応がないな、残念だ。やはり自覚の無い者達に期待しても無駄か、
 まあこちらもどの程度の自覚があるのか分かりはしないが」
リボンズ
「諸君、返答は無かった。しかし絶望はすぐにも、わかりあいを我々と彼らに与えてくれるに違いない。
 全機リグ・ヴェーダ・MSコントロール・バックアップ・リンクを開始せよ。その秘められし力を絶望として、ゆけ」
各パイロットはガリレオ艦からのリンクをリグ・ヴェーダに切り替える。
機体性能、連携、子機MA操作が、完全なる量子コンピューターのバックアップによって格段の上昇を数値上示す事は
彼らにとってかつて行ってきた演習で明らかにされている事実である。
先日の第一波の戦闘の手ごたえがジュピトリアンに小惑星基地ジュノーの到着をもって勝利を確信させていたのだろう。
有機的に活動する一つの生物のように前進してゆくMSとMAの群体が、遂にその戦闘行為を再開する。

オペ男
「きます」
グラハム
「まったく、口がダメなら、腕力とはな 弾幕集中しろMSを努めてつぶせ」
モニターを睨むも、未だ残る戦士の勘が彼にアラートを鳴らす。
「おかしい随分と動きが違う 戦意の違いか 戦術オペレーターはデータ処理だ、先だっての予想係数を修正」
緒戦の強襲ではなく予想された戦場は、その艦を要塞と為し、各所に三次元的砲火集中を意図的に作り出す。
誘導兵器にかわって復権を果たすは、古来よりの空間射線戦術である。
宇宙空間という無限の機動可能方向を持つMSと、行動予測計算の粋を集めた弾幕が
己の威信を賭け互いの光閃を描き出すはずであった。
MSの携帯火器を上回る常設砲の出力が、まずは一時の一方的暴力ともいえる火線の波を産み出す。
しかし、そこに現れた光景は、ジュピトリアンのMSがまた一機と射線を潜り抜け、ジュピトリスワンの表層へとにじりよる姿。
予測連動砲塔運動はリグ・ヴェーダに逆計算され、さらなるMSの連携運動を組み上げられた。
予想数値を上回るスペックがそれを可能とする。
あわれな羊となった砲塔達は打ちのめされ、その腹を赤く染める。
オペ子
「弾幕網突破されました。撃墜ゼロ。敵機表層制空圏まで侵入。当方MS部隊と接触します」
グラハム
「粒子撹乱弾打てーっ」
そして、ジュピトリスワンの外装の周囲に霞が立ち込めた。
200八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/10/19(月) 00:06:51 ID:???
5/11
進化の過程での枝分かれが、一つの特性を極めるMSをいくつも作り出す。
それらは、互いに研磨し潰しあい、つまりは一つが残るであろう。
叉従兄弟と呼べるその二つのガンダム、アリオスとエウロパもその日を迎えていた。
アレルヤの放つ多弾ミサイルは、速度に対応できず虚しく宙空で炸裂するのみであり。
ミゲルの射撃もまた、跡線に彩りを添えるに過ぎない。
その宙域で先に造り出されたもう一つの戦場もまた激しく粒子を散らしていた。


ジュピトリスワンの外装に穿たれようとされたビームの束は千路に乱れ、ほつれて、掻き消えてゆく
兵装の全てをGN粒子変換に頼るジュピトリアンの機体は、その前肢に輝く爪を失った。
残るはその牙しか無い、接近して比較的拡散の少ないビームサーベルを相手の体に突き立てる他は無い。
一機が、周到に切り替えられた実弾射撃による弾幕をかわしてジンクスに肉薄した矢先、その対象は赤き輝きを発して、
ジュピトリアンのパイロットが稼ぎ出した距離を一瞬にして果てしないものへと変更させる。
擬似太陽炉のトランザム、そしてGN粒子変換兵器を無効化させる技術、
それらは太陽炉装備機との戦闘と実戦運用の蓄積であった。
その場に置き去りにされた、いや誘い込まれたジュピトリアンのMSに火砲が叩き込まれ、爆光が戦場の彩色を変え始めた。
入念に練りこまれた戦術にジュピトリスワンに取り付いたMSとMAは一機また一機と損耗を重ねてゆく。
不利を悟り乱獲幕の立ち込める表層宙域から転進をする。

リボンズ
「グラハム・エーカーか、なるほどやってくれる。しかし、これで切り札は見せてもらった」
かつて自身の手中の駒として一度は扱いかねていた男の名を思い出した。艦長とは冗談とも思っていたがなかなかどうして
コンソールのチェックを進めながら、未だ減ることの無い余裕を吐き出す。
「それでも、持ち駒は私のほうが多かったみたいだね」
皮肉と指示のリズムが、また刻まれる。
「ジュピトリアン全機に伝達、新システムをリグ・ヴェーダ上に構築した。各機、システム導入と同時に、
 堅塞を抜き本陣へと槍を突け」

第2波が突入を敢行する。射線援護のない中での弾幕突破は、再び集団機動の芸術を戦場に描きだし、MSに牙を向ける。
戦術に裏打ちされた単純なる回避行動が、宙間舞踊を嘲笑い、再びその顎からすり抜けんとした。
瞬間、後を引き赤い糸が繋げられた。
「トランザム」「トランザム」
身を紅玉の如き輝きに染めたジュピトリアンの機体が、追従しガガやジンクスの装甲へとビームサーベルを突き立て、
異なる色彩を戦場に散りばめる。復讐を果たした猟犬は、狩場を蹂躙しようと次なる獲物を求め回遊する。

リボンズ
「頓挫回収機体の分析結果と私の知識があれば、トランザムシステムの解除など容易いものさ。
 ただ開放時間制限の構築に手間取ったがね」
201八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/10/19(月) 00:07:32 ID:???
6/11
グラハム
「早いな 甘く見ていたようです」
ビリー・カタギリ
「それに関しては面目も無い。ブラックボックスの解析はともかく、
 エイフマン理論の展開を無しには機能するハズがないのですが」
「はじめから使用するつもりがなかったかもしれんな。止むえん艦内坑道で迎撃を再す。全部隊引かせろ。
 司令、申し訳ありませんが予定より早く出撃させて頂くことになりました」
「どうかな今後の見立ては」
「全力をお約束しますが、引き際はお任せします」
「任されたが、シーリン副代表そちらは」
モニターに映るノーマルスーツを着用する女性は、展開に動揺を見せることなく指示の合間に司令に応答する。
シーリン
「退避艦への非戦闘員の乗艦はしばらくすれば完了します。私にしてみれば慣れたものですが、ただ見逃してくれるかですね」
ヤオ
「さて向こうで交渉チャンネルを用意したくらいだ、その余地はあるだろうさ」

後退を図るジュピトリスワンのMSの中でひとつの機体が、流れに逆らい宙域を駆ける。
彼女ソーマ・スミルノフの向かう先は、2機にして最も広い激戦区域を造りし機動戦闘の狭間である。
アレルヤ
「くそ抜けない」
トランザムを使用し突破を図るが、ここにおいても、その優位は無くなっていた。
ミゲル
「まったくずっりぃな、こんな便利なもん使うんだからよ」
青色の太陽炉の輝きが曲線を描いたかと思うと、変形を利用し、たちどころに鋭角の多角形が刻まれる。
そこに割り込む、異なる配色を、ユニクスの眼は捉えていた。MSイオはロングビームライフルの引き金を絞る。
エウロパの背後を狙ったアヘッドは、予期し得ない距離からの閃光に、下半身をもっていかれるも、
ミゲルの意識を刈り取る事に成功した。
『マリー』『アレルヤ』
アーチャアリオスの放出する多弾ミサイルがその戦場を覆い、炸薬の爆発がいくつも輝いた。
一瞬の気の乱れは、ミゲルの感覚を狂わせ。それまでの戦闘の流れの中で憶えた、獲物の持つ動きの流れを断ち切らせた。
「ちっ仕方ねぇぜ 仕切り直しだ。わりぃなユニクス余計な世話かけさせたぜ」
「来るぞ…… 何故だ2機だと……」
爆炎の向こうから、アリオスとアーチャーがその二つの輝きを放ち現れた。


リボンズ
「すばらしい、この戦場こそ私の創り出した世界。
 それでは失礼するよルイス・ハレヴィ。わたし、いや我らジュピトリアンの野望の第一幕が完成したら、次は地球だ、
 そのためにもなるべく手垢がつく前に返してもらうよ。わたしのCBを、人類にはもったいないおもちゃだからね」
ジュノー基地から引き連れる白色の親衛機のうちの半数を率い、自ら入城の指揮を振るわんと、
遂に彼リバース・ユピトゥスにしてリボンズ・アルマークのガンダムが前線に降臨する。
何も全てを駆逐するまでもない、残る戦意を砕き、自ら動かす者への約束された報酬を手にするのみだと信じて
202八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/10/19(月) 00:08:54 ID:???
7/11
彼女もまた動きを止めてはいない。リグ・ヴェーダの制御を外すため刻まれた経験を辿り、一つの可能性に賭ける。
脳量子による量子コンピュターへの介入、リボンズ・アルマークが寄生していたおり使用していた能力。
あのリバースの眠っていた霊廟での感覚を思い出しながら、たどたどしくもリンクを構成しようと意識を解き放つ
ルイス
「これじゃ これしかない でも、もっと もっと速く」
研ぎ澄まされ、磨かれ、慣れを意識できるようになるに従い、行為の難度を痛感する。
「もう」

『――るか 』
声が聞こえる、自分の中からだ

『それでは、一年かかっても終わりはしないぞ』
「うるさいわね、でもやらなくちゃいけないのよ」
『ただがむしゃらにか。力を貸そうルイス・ハレヴィ』
「さっきから何よ、だったら黙って手伝う。それで今度のあなたは誰さんなのかしら」
『私はティエリア・アーデ。ソレスタル・ビーイングのガンダムマイスターだったが今はこの通り便利な姿でね
これもGN粒子の悪戯といったところかな』
「それはもう聞いたわ」
『なんて口の悪い まったくサジ・クロスロードの嗜好を疑うよ。現状に関しては、すまないが先に君から理解させてもらった。
 この戦闘と彼の野心を駆逐する。この機体と君の協力があれば……
 まずは機体を奪い返す。自由になるが、奴のことだ油断は出来ない』
「ええ何があろうとかまわないわ。よろしくティエリア・アーデ」


目的地から拡充するGN粒子に繋がり戦場へ飛んだティエリアから、戦況と各種の情報がプトレマイスUに送り込まれる。
彼の見つけきた秘鍵をスメラギ・李・ノリエガは、道中までに組み上げ完成を見たた戦術プラン上に核として埋め込んで
その仕事を終了させた。情報技術的な擦り合わせを若い娘達に任せ、後を構えていられるほどに豪胆ではないその戦術
予報士はアルコールの代用として戦術の実行者たるガンダムマイスターに話しかけることでプレッシャーを弛緩させる。
愚痴を聞き流しつつコクピットで作戦詳細と簡易情報を確認するロックオン・ストラトスにとって、頻出する一つのある単語は、
未だ消えることの無い過去と決意に色合いを与えるものであった。
ロックオン
「イノベイド…… まいったなアニュー、結局のところ、まだ俺達はわかりあうことが出来ないみたいだ。
 だからこそ俺はその争いを破壊する徹底的にな。わかってるさこれから向かう戦場にも俺やおまえみたいなヤツが
 いるかも知れないってことはよ。ああ、あいつのした事を恨めなくなっちまうじゃねえかよ」
彼の自嘲は一つの季節の終わりを告げる。

そして、自身に未だ迷うものもまた、因縁の名を呟いていた。
刹那
「リボンズ・アルマーク…… 」
203八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/10/19(月) 00:09:38 ID:???
8/11
擬装表層など、かつてこの艦の主人であった彼にとっては子供だましに過ぎない。
複数同時に切り裂いた進入口から的確にルートを選別し、最良の指示を前線にて下してゆく。
ヴェーダの無い以上、抑えるべきは司令部ないし機関部であろう。多分にしてこれらが降伏要件となるに違いない。
各所における急造のバリケードで小競り合いが開始される。
通路にもばら撒かれた粒子撹乱が、またしても膠着状態を作り出す。
つまりは千日手がお望みということなのだろう。月軌道艦隊の到着まで大分あるだろうに。
盤上の堅守を崩すは、盤外の一手。
つまらぬ小細工を弄する事は、リボンズ・アルマークの得意とするところである。
巨大な構造体でもあるジュピトリスワンで、その細部を啓くには時間も人員も必要も軍には不足していたのだろう、
そのためのこの航海でもあったに違いない。
つまり未だ認識されていない動線経路の穴を衝く。
正当なる所有者こそが知りえる無人の回廊に、ジュピトリアンの影が進んでいく。

機関ブロックへの隔壁を残り一枚とした空間で、一機のMSの存在が認められ、リボンズの元へ報告される。
その時、彼は機関部の制圧の事実をもって、改めて降伏の意思確認を促そうかと考えていた矢先であった。

「ここから先は行き止まりだ。いやさ私のスタート地点と言わしてもらおう。
 この狭隘なる戦さ場にて私の刀から逃れることが不可能であると知りたまえ。
 グラハム・エーカー アヘッド・サキガケ推して参る」
撹乱粒子が弾幕を許さず、相対した速度が交わった時、立て続けに2機のMSが白刃のもと両断されていた。
黒光りする刀身に浮き出る赤き粒子の紋が、その手に携えし得物がGNソードと知らせる。
緊張が回廊を包み込む。ただし、この機体を抜くことは、機関部を抑えることである。
ジュピトリアンのMSが一機、倒すためではなく突破するためのスタートを切る。
一瞬の交差、サキガケの背後に抜けた時MSは残骸と化していた。
さらに突破を図る機体は続く、その輝きからトランザムを発動したMSは、高速機動を見せるも、その身を壁面に
打ちつけ挙動を乱すのみ。先のすれ違いざまに一機切り落としたグラハム機は、捩れを生じた刀を取替え、
前進するや立ち直りを図るトランザム機を一蹴し、さらに彼の前線を進める。
刀を手に歩みを落とさず迫り来る姿は戦神かであろう。
続けて敢行された機体そのものをぶつけるといった手段も、かのMSの体捌きの前では足止めにもならない。

進攻のはずが、如何にあのMSの前進を防ぐかという態にその回廊は何時の間にか包まれていった。
204八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/10/19(月) 00:11:24 ID:???
9/11
モニターが輝きを取り戻すコクピットで、覚悟が決められた。
『よし、これで完全に機体を掌握した。ジュノーのヴェーダの枷を外す。いいな』
「ええ」
イノベイドの中でも量子感性の優れたもの幾人かが、戦場に潜む何者かの存在に気付き始めた時、
花嫁の座すMSガニメデが全域交信を突然に開始する。
「私は木星の花嫁。全てのジュピトリアンよ、私の話を聞いてください、繰り返します……」

「ちっ、どうやってあの女が。いや、この干渉はオリジナル・ヴェーダいつのまに、ティエリア・アーデか」

通信機器の回復の様子から、ネネはガニメデの不具合が解消したとまず胸を撫で下ろした。
絶望に身を投じたルイスの語るであろう督戦の言葉を待つも、それに先んじて届いた通信はリバースからのものであった。
「ネネ、花嫁の機体に強制介入があった。こちらの網を潜ることが出来るとなれば、
 介入者はソレスタル・ビーイングのオリジナル・ヴェーダ」
リバースの言葉と同時に花嫁の話が始まる。じゃあこれは誰……
「わたしはこの戦闘を望んではいません。引き金となってしまった先の砲撃は、ある人物が私の機体に施した悪意が
 原因です。その男は己の野望の道具としてあなた方をも利用しています」
何を言っているのだろう。この高揚感は、あなたのもたらしたものじゃない。何なのよ悪意って、
「それにしても下種な物言いだ。多分CBのイノベイドであるティエリア・アーデが花嫁の脳量子に乗り入れをしている。
 君になら感じるはずだ」
研ぎ澄ませ。
「私は決して絶望を求めてはいません。これ以上の戦闘を中止ししてください」
うるさい、うるさい!! 捉えた。そうかお前がソレスタル・ビーイングか。
「はい、ルイス様以外の脳量子をガニメデに確認しました。わたしはどうすれば」
「ガニメデの機能を停止させ花嫁をお救いしたまえ。君にはつらいだろうが、それしか手立てはない。
 多少の損傷は仕方が無い、これ以上の冒涜を止めてくれ」
そうだ、これは許される事ではない。リバース様お導きを、
「その男の名はリボンズ・アルマーク。かつて地球圏で己の野望を戦火に変えたイノベイド
 彼が、今あなたがたの指導者リバース・ユピトゥスを騙り、その体を乗っ取っています」
もはや、その言葉はジュピトリアンの少女には届いてはいなかった。
205八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/10/19(月) 00:14:43 ID:???
10/11
「最悪、死んでくれても構わないな。所詮は座興で創ったイノベイターの出来損ない、
 いつまでも誤魔化せるものでもあるまい」
彼は一人嘯くと、回線を切り替える。
「ユニクス、君は火星の方向の監視だ、来るならスイングバイ軌道に違いない。ソレスタル・ビーイングの本隊だ」
「花嫁は…… 」
「ただのマリッヂブルーと言いたい所だが、ソレスタル・ビーングの介入だ。そちらはネネに任せた、所詮悪足掻きに過ぎない、
 それに、こちらも今終わるところだ」

ジュピトリスワン内部の一ブロックを前線拠点をして、演出の乱れを正す彼のガンダムの前に一機のMSが姿を見せていた。
剥がれ落ちた装甲は、その隙間からGN粒子を垂れ流し、発熱が限界を超えたのか各部アクチュレーターは白煙を上げる。
弓手のマニピュレーターは僅に中指がぶら下がるに過ぎなく、4分より先が最早存在しなくなった実刀は馬手にその身を任せる。
「まさか貴様だったとはな、リボンズ・アルマーク。一度は立ち会ってみたかったが、まさかその機会が訪れるとは
 私は運がいい」
ここまでにMSとMAにしても20機は侵攻路にはいたはずだ。
よくもまあと感心するも、彼がそれ相応の代償を支払っていることは余りにも明白であった。
余興にしてははしゃぎ過ぎだ、呼びかけに答えることなくただ退場を願おう。
その時、リボンズの支配するGN粒子がCBとは異なる一群を捉えた。
それは、ジュピトリスワン艦内で篭城戦を繰り広げていたはずのガガの編隊である。広大な艦内を横断し、戦闘宙域として
死角となったハッチから出撃をかけた。その進路上にあるは、小惑星ジュノー、
戦場の習いかグラハム・エーカーに、絶妙のタイミングで更なる挑発を紡がせた。
「王手飛車取りだ。貴様とその基地と、どちらが王かは知らないがな」
リボンズ・アルマークは声を荒げ返答となる言葉を吐き出す。
「人間如きがつまらぬ足掻きを!! ユニクス足止めをしろ、艦外に残した親衛機もしばし預ける」


ガニメデ艦の一室で、通信を聞いたサジは、信じた女性の名を口に出した。
「ルイス」
その喜びをひやかすように、同席して通信を聞いていたはずのジュピトリアの青年は乱れを感じさせず言葉を挟んだ。
「これで自分が正しかったと」
「もう止めましょう。こんな事は、言ってるじゃないですかルイスが」
賛成と言う軽口の言葉を飲み込み、セレナは彼らを見守ることを決める。
「だが我々のうちでは誰も納得していないよ、むろん私もだがね。そう君の論法なら、私は私の知る花嫁を信じる」
習性は変わらない、自制よりも反応が勝った。
「あら、また都合がいいわね。それに花嫁さんも言ってるわよお題目の絶望なんていらないって」
またその言葉だ…… 思い返したルイスの声が、サジに今までに積もった違和感を吐き出させた。
「彼女が求めるように、僕もあなた達の絶望を否定する」
206八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/10/19(月) 00:18:11 ID:???
11/11
ルイス・ハレヴィの語りは中断を余儀なくされた。気にかける少女の声が届けられたからだ。
「ルイス様を惑わすなソレスタル・ビーイング」
「ネネ私の声が聞こえたはずよ、もうやめて」
「だから、その声で私に話しかけるな!! ルイス様すいません 少し手荒になりますが、ガニメデを停止させます」
出力を絞ったビームの閃光が、コクピットをはずすようにして撃ち出された。
しかし、ガニメデの纏うGNフィールドはそれを寄せ付けることはない。
それもまた苛立ちを掻き立て、ネネは突き崩すかのごとくカリストMAの放射板を輝かせ粒子圧を強める。
怒涛のような奔流に堪えかね、ルイスもまた回避行動をとる。
二機のジュピトリアンのガンダムの描く粒子の軌道が、また戦場にひとつの景色を作る。
「やめなさいネネ。あなたならわかっているはずよ、これは誰でもないわたし自身の言葉だということが」
「わからない、わからないです!! もしこれがルイス様、あなたの言葉なら、なぜ私たちをお見捨てになるのですか」
「それは、あなたたちに…… ネネにもうこれ以上殺し合いをして欲しくないから」
「それじゃあ私たちジュピトリアンの絶望は」
「また、それね…… いまはっきりしたわ、その絶望が間違っている」
「なら私たちは間違いだと、出来損ないだと」
激昂が、彼女にファングを使用させた。
GNフィールドを貫くべく、千塵の牙が操者の意思を吐き出すようにスカートのマウントより展開する。
「まったく頑固な子、意固地なんだから、ホント誰かさんにそっくりだわ」
『彼の苦労が偲ばれるかい、君に任せた結果だ、決して落とされるな』
出来るならば、彼女を介し操縦を引き受けたいも、ミス・スメラギの戦術プランは余計な行動を彼に許さなかった。
ティエリア・アーデにとっても、ガニメデへのあるシステムの移転と構築を、機体操作の影響を出さぬようすすめる事が
事実精一杯である。
「あなたは、決して絶望しかないわけじゃない。それに、これじゃリボンズの野望に染められるだけ」
「じゃあ、あなたは何を満たしてくれるよ!! この絶望で満たされた器に」
昂ぶる心は、オールレンジ兵器にその乱れを影響させる。そして、ルイスもまたファングを狙うように火砲を放つ。
小さな花が咲く。


彼女の言葉は届かないのか、眼前の少女にも伝えきれないのだから。
小惑星ジュノーの前では、ユニクスの狙撃から生き延びたどり着いたガガ部隊の生き残りと、
白色のジュピトリアンMSとの戦闘が始まろうとする。
多くの兵士たちが、多くの人間たちが、多くのジュピトリアンが、
ルイスが、ネネが、ティエリアが、サジが、セレナが、ターシンが、アレルヤが、ソーマが、ミゲルが、ユニクスが、
グラハムが、リバースが、リボンズが踊る。


誰がはじめに気づいたのであろうか、戦場に近づく双円の青白き輝きを。
近づくその二つの輪は宙域の誰もが確認できる大きさとなり、光彩の中一機のMSを確認する。

そして、青年の声がする。

「ダブルオーライザー、刹那・F・セイエイ 戦争を根絶する」
207通常の名無しさんの3倍:2009/10/19(月) 00:18:26 ID:???
支援
208八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/10/19(月) 00:19:55 ID:???
以上投下終了。
次のラス1でやっと完結です。
今回も長物を読了頂きありがとうがざいます。

前回から少しずつでしたが台詞の人物名を消したりしてましたが、
今回はもう少し増やしてみてます。
判りにくいようでしたら申し訳と力不足ということで、
この一貫性に無さを楽しんでいただければ幸いです。
209通常の名無しさんの3倍:2009/10/19(月) 00:22:56 ID:???
投下乙
流石成長株、行けてるぜ
210通常の名無しさんの3倍:2009/10/19(月) 07:23:30 ID:???
>>あざーん
投下乙です。
ここからどう変わるのかが楽しみですね。

>>八丈島
投下乙です。
後半が普通に小説になっていてすごいと思いました。
211>>編集長用:2009/10/20(火) 02:00:50 ID:???
SEED『†』
24話
>>9-19
25話
>>99-104 >>156-162

英雄の種と次世代への翼
第二幕「第二次マリーメイア事変」
>>22-33
嘘番外編「だって、編集長が書いちゃったから補完しないと」
>>56-58

機動戦士ガンダムOO-FRESH VERDURE-
第四話「愛のままに我侭に僕は君だけを傷つけない太陽が凍り付いても君だけは消えないで」
>>36-50
第五話「蒼のエーテル」
>>106-125

空(あま)駆ける少女達 〜少女は砂漠を走る! II〜
PHASE-04 砂漠の焔(ほむら)、芽吹く。
>>63-68

おまけに脳内補完/機動戦士ガンダム00/短編小説パトリック・コーラサワー 補編
/短編小説ビリー・カタギリ/「戦士の休日 その5」
>>76-77

予告
>>137
第1話「ソレスタルビーイング」
>>170-187

劇場版 機動戦士ガンダム00 木星の花嫁 Bride in Jupiter
アクト3 前編
>>196-206

※敬称略

一言:もう250kb、ひょっとして最速ペースなのでは
212SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/20(火) 19:31:31 ID:???
14/

「あ、逃げられそうかも――おっと!」
 水面から、"アビス"の顔だけを出して様子を伺っていると、"虎柄"のムラサメに牽制射撃を浴びた。

 センサーを切り替えてAAの挙動を観る、環礁地帯の上空を通過して逃げようとしているらしかった。
 浅瀬では"アビス"も隠れていることができないが、もし、陸地に隠れている射撃点観測用のダガーを
発見されてしまえば、砲撃から逃げられてしまう。カモフラージュは完璧だ、と工兵のチームは太鼓判を
押していたが、ダガーからAAが見えるのならば、その逆があり得ないはずもない。

 特にあのムラサメ、今はAAに待避してしまったが、異常に勘がよく、油断のならない相手だ。
アビスが新鋭機だとはいえ、此処で逃してしまえば追うことは不可能だろう。
 ――どうする?
 アウルはすぐに決断した。

「ステラ!」通信を入れる。「出て来いよ、AAをやる……戦闘ステータスで機体を起こせ」
『アウル? ……でもネオはいざと言う時以外此処を動くなと言った。私は命令に従わないと』
 何を弱気なことを言ってるんだ! アウルはステラの態度に憤りを感じる。

「そのネオを喜ばせてやろうっていうんだよ! また逃げられたんじゃ、ネオだって悲しむ!
ステラだって嫌だろう? 怖いのが何度も何度も攻めて来るのはさあ!」
 そういって、ステラの恐怖感に訴えた。彼女は銃が嫌いだ。撃つことも撃たれることも。
だから接近戦を非常に得意とする。

『……それは、嫌。怖いのは……私に向かって撃ってくる奴は嫌』
 傷口に触れられたステラは、小さくつぶやくような声になりながら通信を返した。

「な? だから此処で沈めてやろうぜ、二度とステラに銃を向けることの無い様に、さ」
 AAに対するマイナスの感情を封じて、今度は優しく、警戒心を抱かせない口調で誘導してやる。

『でも……ガイアは泳げないし、飛べないよ?』
 ――まあ、もともと陸上、というか砂漠用のモビルスーツだったしな。
 水中用のスケイルモーターも、空を飛び続けるための大推力システムも、陸戦用のガイアは
生憎と持ち合わせていない。代わりに、とても頑丈で整備がしやすい。

「だからアビスがあるって言ってるだろ。浅いところだけを狙ってくれば良いんだよ。
少しぐらいならジャンプできるんだろ? 踏み潰される珊瑚には悪いと思うけどさ」
 強力な瞬発力を生み出す"インパクトモーター"が四肢に搭載されているので、ガイアは
百メートル単位の跳躍が可能なはずだった。ステラなら加速度にも何とか耐える。
213SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/20(火) 19:32:32 ID:???
15/

「ネオには僕が無理矢理させた、って言っておくから、ステラが怒られる事は無いって!」
『……うん』
 にやりと笑って、アビスを地上戦モードに切り替えた。ぶん、と機体を振って遠心力で肩の
アーマーを持ち上げ、人型になる。AAから迎撃のMSが出てくるまでが勝負だと、気合いを
込めた瞬間、核でも炸裂したかのような強力なレーダー波が広がった。

「無理矢理焙り出す気だな、生意気な!」
 AAから放たれた電磁波は、生身で浴びれば命にかかわる程の出力だった。指向性がある。
隠れたダガーの位置を、大まかには掴まれているのだ。

「そうか、後ろにMSが居なけりゃ安心して上昇できるもんな!」
 時間をかけすぎた。むしろAAが異常な耐久性を示していたのだが、島、海、浅瀬。
その地形がアビスにも、隠れているダガーにも追跡を不可能にさせる。

「来い! 出るぞ!」
 上空を"虎柄"が過ぎ去った一瞬、未だ見えぬガイアにそう告げて、アビスを突撃させる。
 そのとき白い艦体のサイドハッチから、発進するモビルスーツの影があった。熱紋照合。
遠くからは点にしか見えない影をコンピュータが判断して、ライブラリーがデータを映し出す。

「アストレイ? 一機で出てきたって只のやられ役じゃん。こっちはアビスとガイアだぜ?」
 アビスを含めたセカンドステージMSは、最新技術が盛り込まれてピーキーな性能を持つが、
少々癖が強いからと言って、型落ちの量産機に苦戦するとは思えない。

「――って、乗ってるのは多分あのムラサメ野郎だよね。油断大敵火の用心ってね!」
 自由落下するM1を冷静に照準、機体全体をまとめて薙ぎ払うべく、展開した肩アーマーから
全砲門を一斉に開き、ビーム兵器を全て最大火力で放った。
 アビスから伸びた数条のビームは殆どが落下するM1に直撃し、ありあまる熱量によって
跡形もないほどに吹き飛ばす――はずだった。

「――ええ!」
 しかし、M1は水しぶきを上げながら、浅い海にそのまま降り立つ。カメラは"壁"のような
ものを映し出していて、敵機の姿は、それに遮られていてほとんど見えなかった。

「――な! なんだよありゃあ!?」
 アビスの放った復列位相砲は、M1の全身を覆い隠すような板に防がれていた。

 それは盾というには余りにも大きすぎた。
 余りに分厚く、大きく、重く。そして大雑把過ぎた。
 それはまさに鉄板だった。

『……何、あの鉄板?』
 陸地から跳躍してきたガイアがアビスの横に立つ。
214SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/20(火) 19:33:25 ID:???
16/

「分かんねえよ、あんなでっかい盾持って、アストレイの機動力を殺しちまってる。
幾ら装甲が貧弱だからってなあ?」
 防衛用機体なのに、交わして当てるという設計思想にも疑問符を浮かべたアウルだったが、
かといってあの巨大すぎる盾では、格闘戦においては重りにしかならないだろう。

「とにかく攻めるぞステラ! AAを逃がしちゃったら、作戦は失敗なんだからな!」
『わかった』アウルが通信を聞くと同時にガイアが突撃、枯れた珊瑚礁の上を疾走する。
アウルは一拍待ってからアビスを追随させた。

「ステラ、横から攻めてくれ、盾から追い出したところで僕が撃つ!」
 あんな亀みたいな奴に足留めされては居られない。

 鋼の四足獣が水煙を上げながら駆けた。盾の影から放たれるビームをジグザグに躱しながら接近。
巨大なシールドの影に隠れているアストレイを叩き出すべく、漆黒の猟犬は牙を向いた。

『アウル! 今!』ステラの通信に、「応!」と答える。
 ガイアの突撃を受けて、ビームサーベルを構えたM1が盾の影から飛び出した。

「へへッ! 鈍亀野郎を燻り出して――死ねよ!」
 アビスの砲門を開き、ビームの雨を浴びせかける――と、トリガーを引く直前にアラートが鳴った。
AAから対MSミサイルの発射を確認。そして、反転したムラサメからは援護のビームライフルだ。

「――クソッ!」
 ミサイルは"ガイア"を狙う軌道だった。このまま行けば例えアウルがM1を屠ろうとも、ステラの
ガイアがミサイルに喰われる――躊躇いはゼロ秒、アビスの砲門が角度を調整し、遠くのAAごと
ミサイルの群れを薙ぎ払った。軽い衝撃が走って、ムラサメのビームがアビスの装甲を焦がす。

 空が火炎の朱に染まる。「落ちていろよ」との祈りは通じず、AAは煙を吐きながらも浮いていた。
「頑丈な船だよな、本ッ当にさあ!」アウルは毒づく。巨大な戦艦だけあって、ラミネート装甲の
熱容量が、大気で減衰したアビスの火力を上回っているのだ。

『アウル! 何をして居る……何故こいつを狙わない!』
「うるせーな、こっちはこっちで立て込んでたんだ――よ!」
 M1へと向けて少し遅れた一撃を放ったが、間一髪の所で鉄板の向こうに逃げ込まれた。
 着弾を確認、ビームを受けて過熱された鉄板が各所から冷却材の湯気を立てていた。

「それよりAAからのミサイルとか、注意しろよな。当たったらガイアでも一発だぜ」
 危なかったのはステラの方だ、とは言わずにおいた。本当の事を言えば、多分傷つく。
 あるいは怒る。余計な心配だと、憤慨するだろう。

215SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/20(火) 19:34:20 ID:???
17/17

『アウル――この盾は、倒れない!』
「ああ、その鉄板も少し不思議、っていうかびっくりテクノロジーだよ」
 アウルの脳裏に疑問符が浮かぶ。ビームの一撃を受けても貫通されず、実弾の反動で倒れない、
つまりビームコーティングとラミネート装甲を層にして、アンカーで固定しているわけだ。

 MSに"持たせる"には、防御力と重さが明らかに過剰だ。それが意味することは。

「そうか、あれは盾じゃない、MS用のトーチカだ!」 
 疑問符が感嘆符に変わる。おそらくは、海岸線に同じものを沢山並べて使うのだろう。

 もともと、ザフトが侵攻用に作ったMSに、閉じこもるための殻、掩体を用意するという発想。
防衛戦限定で、火力、装甲、機動力を両立させる苦肉の策が、これだった。

「オーブの奴等、二年前にぼっこぼこにされたのが、そんなに気に喰わなかったのかよ。
……気をつけろよステラ、そいつはきっと、鉄板の中にも武器を隠し持ってる!」
『わかってる!』
 そういって飛び跳ねるガイアは、装甲の各所から連続して火花を上げた。機銃弾とPS装甲の
エネルギーが、ぶつかり合った表面で熱に変わり、機銃弾を蒸発させて光を放つ。

 つまり、光はエネルギーのロスだ。量産機とワンオフ機との間には隔絶した性能差が存在するが、
バッテリーの持久力という例外がある。高価な蓄電システムを実装しても、展開しているだけで
電力を消費するPS系の装甲技術は、稼働時間を確実に短くしていた。

 時間稼ぎをされては……と焦るうちに、AAが遠ざかり始めた。"虎柄"もAAに随伴してゆく。
「何! あのアストレイ――ムラサメ野郎は見殺しか、もう一回当てるぞステラ!」


 ――MBF用独立機動掩体、それがM1の手にしている巨大な鉄板の正体だ。
 本来は本土決戦に至ってしまった場合、迅速に陣地の構築を図るためものである。だが、
今回M1に持たせたそれは、剥がしたAAのラミネート装甲を骨組みに貼り付け、放熱機構を
追加した表面に対ビームコーティングを施しただけのものである。

 M1の火力不足を補うため、裏側に火器を取り付けているが、そのためM1とほぼ同じ重量を誇る、
それは無骨で不格好な、一人引きこもるための要塞であった。

「うん、理解した……」
 そしてその掩体に隠れるM1の操縦席において――
「勝つのは、無理だ。誰か……助けてぇっ!」
 ――キラは、恥も外聞も捨ててびびりまくっていた。パイロットスーツのトイレパックが、
全力で作動していた。
216SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/20(火) 19:35:15 ID:???
18/

「は、は、早く逃げてくれ、AA! そして僕を、助けてえ!」
 ――ああ、どうか通信を聞いているのはラクスだけであってくれ。
 この期に及んでそんな事を気にしながら機体を動かす。
 モニターに、表示が一つ追加された。『握力感知システムにノイズ』。コントロールスティックと
操作系統との連動がカットされる。キラの震えを、プログラムがノイズと判断したのだ。

「ああ、くそ……いっそ楽になりたいよ」
 機械にすら見捨てられた気がした。プログラムしたのは自分だった。

「でも、死んだって、誰も許してくれないよね」
 ビームの嵐が掩体の表層を激しく揺さぶり、操縦席のキラにも衝撃が伝わった拍子に唇を噛み切った。
口内に甘い鉄の味が広がるが、痛くて、かえって震えが止まった。音声認識でコントロールを復帰させ、
震えの止まった手でスティックを握る。

「そうだ、僕は……生き恥を晒してみせるさ!」
 叫んだ。浅い海を飛び跳ね、黒い狼が迫ってくる。
 とてつもない反応速度で、右に左にと、M1が放つ火線を回避しながら近づく機械の獣に、
言葉にならない絶叫を放ちながらトリガーを引き絞った。頭部の左右からCIWSを連射し、
ガイアのVPS装甲を削る。PSダウンを引き起こ気なら、弾倉が空になるまで撃ち続けなければ
ならなかったが、バッテリーの消費を嫌って離れてくれれば儲け物だ。

 しかしガイアはひるまない。

『ハアアァァァ――ッ!』
 臆するどころか積極的に弾幕に突撃し、頭部からビームの牙をむき出しにしてM1に襲い掛かる。
 M1は素早くサーベルを構えた。二本。グリップ伸びたビームの刃で、ガイアの牙を迎え撃つ。
激突の衝撃が機体全体を震わせて、勝負は一合で決した。

「くぅ……重い!」
 もちろんM1がガイアに正面から勝てる道理は無く、機体関節の破壊を防ぐためにキラは、
M1を後ろに跳躍させざるをえない。

 突撃の運動量を受け流しつつ、二本のビームサーベルを精妙に振るった。
 キラが僅か十分の一秒、タイミングを計り損ねれば即座に両断されることになる決死の攻撃に、
ガイアは百分の一秒で反応した。剣閃が空を切る。

 空振り/バランスを崩した/追撃/ガイア/死――断片的な思考がキラの脳裏を占める。それでもなお、
狂戦士――内なる獣が思考の殻を破って出てくる事だけは、防いだ。

 アラートサイン。母艦から。
「何!」
 致命的な一瞬は、AAから飛来したミサイルによってなぎ払われた。
 爆発。キラを攻撃範囲に巻き込んででも、そんな覚悟で放たれたミサイルが掩護となって、
キラとM1に数瞬の余裕を生む。
217SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/20(火) 19:37:35 ID:???
19/19

「ありがたい!」
 即座にガイアを突き飛ばし、反動を利用して飛び退った。間合いを取って、一呼吸。

「何度経験しても、ぎりぎりの勝負って慣れないよね……」
 愚痴る暇も無く、猛烈な砲撃がM1を襲った――アビス。至近弾の圧力だけで機体が揺れる。
 バックパックのブーストを全開に吹かし、海面すれすれを這う様に回避、表面効果を利用して
ジグザグに滑空しながらビームサーベルを海面に叩きつけ、巻き上がる水蒸気でM1の姿を隠した。
水煙を突き抜けて迸るビームがM1を掠める。

 つい数分前まで余裕綽々だった自分をぶん殴りたい。なにが片足だろうが行けます、だ。
 本当に出ていたら二十秒で死んでるじゃないか! とまで考えて歯噛みする。

 全く、後悔はヤマトのお家芸だ。必要なのは、状況を打開する策だった。

「隠しネタその一、はもう見せちゃったしね」
 独立機動掩体――通称"亀の甲羅"で防御力を水増ししたが、敵パイロットの反応速度と、
"ガイア"のレスポンスは、それぞれキラとM1の一桁上を行っている。

「弾丸を避けられたら、どうしようもないよ」
 キラが言うのもなんだが、人外や化け物の範疇だ。
 ――可哀想に。とキラは密かに、ガイアのパイロットに哀れみを覚えている。
 おそらく相手には、機銃弾が"見えて"いる。比喩ではなく、飛来する弾丸を視認しているはずだ。
映画をコマ送りのスローで見た人のように、戦闘の時間がとてもとても長く感じられて、
そして状況を同じくする他の人間とは、きっと話が噛み合わない。

 ファントムペインの情報を少なからず知るキラは、エクステンデッド、という言葉をすぐに
思い浮かべる事ができた。

「単独の防御は無理だね、きっと」
 ならば――キラは一瞬だけAIに回避行動を任せて、コンソールを手元に引き寄せた。
号令を待つそのプログラムにenterキーで後押しをしてやるために。

『RDY SG T/launcher』
 ヘッドアップディスプレイに簡素な表示が生まれた。母艦で起動した機体の識別信号が、
レーダーに追加される。

「隠しネタその二」
 打ち合わせ通りに、それはカタパルトに乗せられていた。
 キーを小指で激しくたたきながら、キラは叫ぶ。
「間に合え――スカイグラスパー!」
 本当に機体がこれで大丈夫なのかどうか――は、あえて考えない事にした。 
218通常の名無しさんの3倍:2009/10/20(火) 19:40:14 ID:???
支援いる?
21945』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/20(火) 19:42:05 ID:???
失礼しました。
引きがスカグラはどうなんだ? とも思いつつ。今回はここまでです。

感想、ご指摘はご自由にどうぞ。
220弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/10/21(水) 21:57:52 ID:???
 空(あま)駆ける少女達 〜少女は砂漠を走る! II〜
PHASE-05 その姿は、記録された。(1/6) 

「なんかこう。動き、無いね……」
「膠着状態、って言うんですよね? こう言う場合は。――それにしても、非道い」
 攻める傭兵団と守る帝国軍。数は一応傭兵団が勝っているものの、光波防御帯と次弾発射が
一分以内、しかもキャタピラが付いて移動出来る陽電子砲に手を焼いている。膠着状態とは
言え帝国側は前に出なくて良い分、優位だろう。
『ポーリィ、陽電子砲の出力は拾えてる?』
『すっごぉ、予想の二倍。ミネルバ級搭載型の1/3も出てる。あれで速射出来るとはねぇ』
『隊長、このまま行けば帝国軍勝利だな。長期戦は無理っしょ? あの布陣じゃ』
 但し、MSや機動兵器に損耗が無くとも……。

『――歩兵二小隊、持たない! 後退す、なんっ! しま……』
 暗い砂漠に爆発の明かりが点る度。何度かに一度、間違いなく誰かの命が散っていっている。
戦闘に投入されているのは勿論MSだけではないのだ。
 ローズ=マリーさんは国軍定数が300と言ったが、そもそも此所は人口700人程度の町
だったはず。ほぼ全員が何らかの形で軍に関わっていると言う事だ。いくら光波防御帯が
あるとは言え”帝国臣民”全員が、何事もなく済むはずもない。
 さっきリョーコちゃんが『非道い』と言ったのは多分その事だ。直接見えずとも機長席に座る
彼女の前のモニターには淡々とデータが送られてくるのだ。撤退も戦闘不能も、死亡も。

 サンナナマル改の機体の解析が終われば他の人も動かせる様になる。
そこでアルバイトは終わり。但し、パイロットとして正式に残る道がある。MSの操縦が出来る
人材は貴重だからだ。普通はMSの免許取得まで100時間以上、その上でやっと訓練開始。
 かぁさんがあたし達次第だと言ったのは恐らくその事。あの明かりを点す側としてMSに
乗り続けるかそれとも……。

『有線ポッド、1ダース追加放出。――サンナナマル改。更にデータ半分、面倒見てくれない?』
「了解です、サブ・チーフ。収集と整理だけですよね? わたくしでも多少は余裕があります」
『出来ないことやれって言わないわよ。120秒後からそっちの転送量、追加になるから宜しく』
 流れてきたデータの処理をリョーコちゃんが進める。こういう地味な作業は大得意な彼女。
何で学校の成績に繋がらないんだろ、この人は……。

『ふむ。帝国優位は揺るがないわね。持久戦とは言え朝までかからないかな、こりゃあ』
 残業代が深夜換算で出るのだと聞いた。ならばいささか不謹慎ではあるが、少しくらい
長引いて貰った方が良いのかも知れない。新しいバッグが買える。
「ポーリーンさん。光波防御帯のフィールドって、どれくらい張り続けられるんですか?」
『ジェネレーターとバッテリー次第だし、システムもユーラシア純製じゃないみたいだけど
あの規模なら一晩くらいならイケるんじゃないかしら? 陽電子砲撃つ度解放してるしね」
221弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/10/21(水) 21:58:36 ID:???
#5 その姿は、記録された。(2/6)
 
 残業代まで含めればバイトが今週いっぱいでもかなりの金額になるな。などと、どうでも良い
ことを考えつつ眠くなってくる。……地上(した)では今も誰が血を流しているというのに。
【System standby......Start success ! It is not possible to use it if it doesn't transform it. 】
 ピーピーピー。操縦もほぼオートで半分眠っていたあたしを、システム変更通知のブザーが
呼び覚ます。――使用するなら変形して下さい? 使うってなにを……?
「――これ、ガンバレルだっ! 起動してる!? ねぇ、リョーコちゃん。どっかさわって……」

「――うぅ……またこの感じ。気持ち悪いものが、見える……、違う、わかる? なに……?」
 バカだった! そもそも最初の時、あたしだけで起動したのではない以上、こういう状況は
予想出来たのに! ならばあの時、ガンバレルを起動させた空間認識能力者は……。
「シライ候補生から緊急です。速攻で進行方向1時にポッド出して下さい! 何か光りました!」
 どっちに感じるの!? と、隣のリョーコちゃんに指を指させてあたしは無線に叫んだ。

『デッドアイCICから全機。前方にバクゥと思われる機影複数、レッドスネイクの増援と思われる。
上空を通過する訳にはいかない。編隊全機、回頭反転。――無線ポッドは全放出。急いで!』
 ぴぴっ。小さく音が鳴ると頭を抱えるリョーコちゃんの前のモニターにデータが流れてくる。
内訳は、バクゥ×4、ケルベロス・バクゥ・ハウンド×1、……そしてプロトタイプ・ガイア×1。
『……隊長。プロトガイアの熱紋、やはりファング1です。――その……』
『――ポーリィ、わかってる。今回は観測だけ。手は、出さない……。わかってる、わかってるわ』

 帝国の軍勢は、ここまでサンナナマル改の計算では戦力差1.3:1とやや勝っていた。
けれど、バクゥが割って入ったことで一気に数字は1:3.7に変わる。
 すさまじい勢いだという意味で”ハチクの勢い”、と言う言葉があるのだ。と、かぁさんから
聞いた事がある。ハチクが何かは知らないが、とにかく新たに戦列に加わったMS隊は、
その、ハチクの勢いで一気に戦況をひっくり返した。一番効果的、かつ一番悲惨な方法で。
『北の歩兵隊、戦車隊ほぼ壊滅。東側自走砲、西の歩兵隊もラインを下げてます。仲間を巻き
込む訳にはいかないし、光波防御帯もカット出来ないから、あれでは陽電子砲が撃てません』

 バクゥ隊が狙うのは歩兵部隊と地上施設のみ。MSは当代最強兵器。対人間では敵う訳が
ない。そして援護に向かうMSはプロトガイアが全て阻止。でも阻止するだけで撃墜はおろか、
行動不能になる様な攻撃さえしない。腕と機体性能を考えれば出来るはずなのに、しない。
「あえてMSを狙わない。人を狙うなんて、どうしてそんなことを……!」
「なんで、なんでこんな……。――お母様! もう十分に死にましたっ! ヤメさせて下さい!」
 リョーコちゃんの涙声がヘルメットに響く。
『なるほど。その手もあり、か……。アルフェ、オープンチャンネルで停戦調停の呼びかけ開始。
――リョーコさん……。ゲレイロ准尉、落ち着きなさい。あなたは今は軍人なのでしょう!?』
 ぐっと拳を握ると顔を上げるリョーコちゃん。その通りではある。アルバイトではあっても。
『――両軍から拒否されました。……隊長?』
222弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/10/21(水) 21:59:30 ID:???
#5 その姿は、記録された。(3/6)

『帝国軍、MS隊以外はほぼ駆逐されたの……? それでも引かないって、カミカゼする気?』
「こんなのって無いよ! 只の虐殺じゃないか!! ――かぁさん、どうにもならないのっ!?」
 まさに駆逐。防衛施設、戦闘車両、戦闘服を着た人達。全てきれいに居なくなった。正確には
”動いている軍隊”、が居なくなった。と言うのが正しい。おびただしい瓦礫と死体の山。
『シライ候補生、感情的な発言は控えなさい! ――アルフェ、停戦調停申し入れを再度発信』
「軍服を着ると言う事は……。腰の銃、階級章の重さ……。ならば兄様は、これまで……」
 ヘルメットのバイザー越しに両手で顔を覆うリョーコちゃん。彼女はあたしと違って臨時雇い
ではあっても本物の軍人。階級は士官だし銃も携帯している。それは攻撃の命令も出せるし、
人を銃で撃つことも出来ると言う事。下でやっていることと同じ事をする力を持たされたのだ。
 そしてそのお兄さん、リョータさんは実際に戦場に出て、撃墜経験もある。それはつまり……。
 そしてMSに乗っている以上、状況はともあれ、あたしだって大きな違いはないと言う事だ。

『レッドスネイク関係者へ。こちらはザフト・セブンス駐留軍です。これ以上の戦闘継続は無意味
であると判断し、即時の戦闘中止を要請します。なお、こちらには停戦調停の用意があります。』
『こっちゃぁいつでも良いぜ? 帝国の連中に武装解除する様に言いな。弾だって只じゃねんだ』
 MS以外は全て掃討したバクゥが、今度は帝国MSへと襲いかかる。帝国MS隊は一太刀を
返すことも出来ずに次々と動きを止めて、爆発の火球の中へと消えていく。わざわざタイミングを
ずらして出てきただけのことはある。此所(うえ)から見ているだけでも腕前は段違いだ。
『ザフト・シライ隊へ。こちらは皇帝親衛隊長。皇帝陛下の命により戦闘は続行する。現状での
戦闘放棄はあり得ない。調停の準備自体は心より感謝する。……以上、通信終わり』
 通信が終わった時点で、既に立っているMSは一機しか残っていなかった。そしてその一機も
バクゥ3機の連携でビームサーベルに刻まれ、やがて変形したガイアに一刀両断にされた。

『隊長、光波防御帯、フィールド開放! ……? 再起動音、確認出来ず。――こわれた!?』
 MSに囲まれた丸い光りのフィールドは特に前触れもなくふっと消える。そしてその中心に
位置していた巨大な高いビル、その屋上にいきなりスポットが当たる。その光りの奔流の中、
淡く人影が揺れる。
「リョーコちゃん、ビルの上、ズーム! 誰かがっ!!」
「光学最大、――更にクローズアップ。ゆがみ矯正、シャープネス最大、映像補正限界値」
 真ん中のみクローズアップされた画面。そこには拳銃を頭に当てた壮年の男性が映る。
 勿論、無理矢理クローズアップしている以上表情などは見えない。けれどその男性のまとう
雰囲気には、こんな状態であるのに悲壮感も寂寥感もない。むしろ清々しささえ感じる。

『――っ! ポーリィ、サンナナマル改のカメラ! リモートでズームアウト、いえ、カットして!』
 リョーコちゃんはかぁさんの声が終わるより早く、リモート受付拒否のコマンドを叩き終えた。
 頭からしぶきを上げた男性は、そのままビルの下へと落ちて行く。最後にどうなったかは
建物の陰になって結局見えなかった。見る必要もなかったけれど。
『雌豹、聞いてるな? レッドスネイク、ミッションコンプリート。撤退する。監視ご苦労、以上!』
223弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/10/21(水) 22:00:32 ID:???
#5 その姿は、記録された。(4/6)

 みんなが帰り支度を始める教室。リョーコちゃんとあたしもだらだらと帰り支度をしながら話を
していた。バスまでは未だ少し間がある。
「――ふーん。リョータさん、結局当分居ることになったんだ。お仕事命の人みたいだけど、
そのぉ、いろいろ大丈夫なの?」
 何故か国に帰らずに、しかも家庭教師までついて未だリョーコちゃんの家に居るリョータさん
である。当人の思惑はともかく、同じ町にいると思うとそれだけで嬉しい。
「良くおわかりですね、ムツキさん! おまえが数ヶ月、休暇になっても問題ないと言われたのだ
と言って落ち込んでしまって。――ついでに学校の勉強も試験のみは受けろ。と言われた様で、
更に深く落ち込んでいます。拒否した時点で落第なのですって。うふふ……」 
 ――成績悪いって、嘘じゃなかったんだ……。なんと言う見た目、言動とのギャップ。

「あぁ、ところでリョーコちゃん。例の件……」
 鞄を肩にかけながら何気なく、をめいっぱい装ってたずねる。ホントは一番気になるところで
あるのだが、少なくともリョーコちゃんに悟られるわけにはいかない。
「ガンバレル関連のデータ、ログは全て抹消しました。起動していたとは知りませんでした……。
でも良ろしかったのですか? 本当ならば、サブチーフに一報して……」
「ポーリーンさんにまた怒られるよぉ。変なボタンの押し方したことしか覚えてないんだもん」
 ご、誤魔化さなきゃ。この子のカンは侮れない、やばいやばい……。
「よ、よぉ、リョーコさん。今日も基地でバイトだろ? ならBルートだよな? バス、未だ帰って
来てねぇから5分くらい遅れるってさ。その、一緒に……。あ、シライもそうか」
「そう言えば、オオノ君もBルートですよね。お家、終点の方なんですか?」
「あたしゃ、おまけかっ!」
 オオノのバカのお陰でたすかった。いつもはムカつくが今回は、まぁ許してやろう。
「まぁいいや、売店でジュース買っていこ。オオノもおごってやるよ。あたし、今ゴキゲンだから」
「はぁ?」
「はい?」

 バスを降りてMPの人に敬礼で挨拶。そこまではいつも通り。でもなんだろう、何かこう、
ざわざわした感じ。特にメカマン達がやたらに忙しそうに……。
「ムツキっ。てめぇバカ遺伝子の型が親子一緒なんじゃねぇのか? いっぺん検査して貰えっ!
何も無かったから良かった様なものの、なんかあったらチェンバレンになんて言うつもりだっ!」
 いきなり胸ぐらを捕まえられる。問答無用でいきなりこんなことするのは、一人しかいない。
「ちょ、くるひ……。じ、ジーンさん……。おかえりな、さい。……な、何を、……その、いきなり」
 ヒィマ・ジーン。メカマンチーフにしてサイトーさんと双璧を成す部隊のご意見番。あたしに
とっては怖くて優しいうるさくて面倒見の良い、伯父さんみたいな人だが肩書きや言動よりは
ずっと若い。リョーコちゃんの『おじさま』はきっとこの人の対局に位置する人だろう。
「MSに乗ったそうだな? ミツキと、……隊長と同じ道を行くつもりか!? とにかく一緒に
来いっ。――ポーっ! そのお嬢さんと一緒に機体の前で待ってろ、すぐ戻るっ!」
224弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/10/21(水) 22:01:56 ID:???
#5 その姿は、記録された。(5/6)
 
「――最善は尽くしたのか? 隊長! だいたい、あんたが付いてながら何でこんな事に!」
「おほん。……とにかく、今はその話はおしまい。全責任は私、トメさんは悪くない。そう言う事で」
 隊長室の入り口、仁王立ちのジーンさんと引きずってこられたあたし。デスクで金縛りに
あった様に動けないで居るのは椅子に座ったかぁさんと書類の束を持ったままのサイトーさん。
 いきなり居ないはずの人が現れて、エラいテンションでまくし立てられれば大概固まる。
現にあたしはさっき襟首を捕まれて以来、未だ固まったままだ。
「ところでジーンさんにもポーリィからのデータ、廻ってるわよね? その様子だと例の機体で
何か掴んだと見たけど、違う? ――帰投報告は後回しでいいです。顔、見ちゃったしね」
「ヒィマ・ジーン、只今帰りました。であります! ――隊長、相変わらず切れてるな。
ハンガーで続きをやろう、人数絞ってくれ。『外の人間』に聞かせたくない話ばかりだ」

 先ずは起動条件だ。メカマンの控え室から人を追い出してジーンさんが切り出す。
「ポー、わざわざデータにタグ打ってるのにどうしてその3行上を見落とす?」
「え? どーゆー、事……、つーか何所ですか!?」
「A122、つまりあの機体が認識したグラジオラスには網膜も指紋も2組あるって事だ。起動時に
個人識別した後、再度コクピットの人間を認証しに行くんだ。そしてそれは同一人物で無くとも
構わない。コンマ一秒以下で位置を微妙にズラして二度の識別、認証を経て漸く起動キィが
解放される。初起動時に一人なら、こんなバグは廃棄まで見つからねぇだろうな」
 ……ポーリーンさんが基礎データ解析をしている間に、空の上で忙しいはずのジーンさんは
自身の時間を削ってそのデータの検証をしていたんだ。なんと言うコンビネーション、ならば。
「別におまえがサボってたとは言わん。おまえのタグがなかったら俺も見落とすとこだった」
 あたしが内緒にしておきたい事など、ジーンさんならデータから読み切っているかも知れない。
「此所からは大声で話したくない。みんな、寄れ。」

「ないしょばなしなんておかしいですよ、も、MSの話なん……」
「黙れムツキ! おまえにも関係がある。……だがその件は後回しだ」
 あれ、後に回されちゃった……。じゃぁ、内緒の話って、……なに?
「ミツキ……、じゃない、隊長。ムツキを拾った時の初期検診データ、信頼度は?」
「アンコールワットのあの先生が診てくれたんだから信頼たり得る。と、私個人的には。なんで?」
 あれ、後に回ってないじゃん。どうなって……。
「コイツはコーディネーターで確定。って事で良いんだな? あの機体は一回目の識別時に
かなり特殊な条件をクリアしないと起動出来ない。コーディネーターでは絶対無理なんだ」
 
 《The data base should be corresponding to the pilot in the system start.》
 初めてサンナナマル改に乗り込んだあの日、データベースに合致しないと起動しない。
確かにそう繰り返し言っていた。そして、あたしはその条件にはやはり合致していなかったのだ。
「旧連合軍、いやブルーコスモスが秘密裏に研究開発していたブーステッドマン。それが居ること
が起動の絶対条件、72年のデータだからエクステンデットでもアウト。ムツキで無いなら……」
225弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/10/21(水) 22:03:06 ID:???
#5 その姿は、記録された。(6/6)

 あたしでないなら。――突如涙を流しながら顔を手で覆い、くずおれるリョーコちゃん。
「わ、わたくしは……、皆さんを騙そうとか、誤魔化そうとかその様な、その様な事は決して……」
「知ってたか……。リョーコさん、だったな。まぁ落ち着け。君を責めようとかそう言う訳じゃない。
お嬢さんもむしろいろいろと被害者なんだろうさ。口で言っても納得出来んだろうがもう”身内”だ」
 頭は良いのに成績が悪かったり、幼少期の話を全く聞かなかったり。彼女の言動の腑に
落ちない部分はこれで説明が付いてしまう。……残酷だ。説明、付かなきゃ良いのに。
「自覚はない様だが、ガンバレルも君だ。データとしては残っていないが初搭乗時に敵の
位置を、なんだ、その。上手く説明出来んが感じただろう? ムツキに空間認識能力は、無い」

 あたしはしゃがみ込んで、言葉を失ったリョーコちゃんの前に両手を広げて立つ。とにかく
あたしが彼女のために出来る事は、今はそれしかない。だから!
「もう良いでしょ、ジーンさん、かぁさんも! とにかくこの話は一旦……」
「未だ終わりじゃない。おまえの話を後に回すと言ったはずだ。――単刀直入に聞くが、おまえ。
MS、乗った事有るな? 動作ログを見る限り、全く知らない人間はああ言う動かし方はしない。
完全な素人がどう動かすかはその昔、ミツキからデータをみっちり獲らせて貰ってる。ロックオン
後キャンセル、直後に明後日の方向に弾を飛ばすなんて曲芸は、一部のエースにしか出来ん」
 …………バレてたんだ。今度はあたしが言葉を失う番。

「ムツキ。……あなた、何か思い出したの? それならどうして私に……」
 かぁさんの顔がゆがんで見える。――そんなの、言える訳無い。だって、あたし。
「だって、あたし。……だって、だってあたしムツキだもん! かぁさんの娘なんだもん!
MSの操縦出来る中学生なんて居ないもんっ。あたし、グラジィはイヤなんだもんっ……!」
 両の手を広げたまま仁王立ちで、涙も鼻水も溢れるまま。スゴク不細工な事になってるだろう。
だけど、動けない。少しでも動いたらかぁさんから捨てられる。セブンスを放り出される!
 全く論理的でないとは思う。でもそのときはそう思ったし、だから動かなかった。

「おい、ジーン。解析報告は結構だが、とりあえずだ。ひとまずお開き。――で、良いんだよな?」
 いつも傍観者の立場を崩さないサイトーさんの、珍しくちょっと怒りの混じった声が聞こえる。
「あぁ、とりあえず二人に聞きたい事全部……いでで、おい! 何所引っ張って! あだだあだ」
「隊長、今日の夜勤は俺が変わるからあがってくれ。二人は頼む。――技術屋としてはともかく
こういう時のオトナの態度という物を話し合おうじゃないか、ジーン。こっち来い、この馬鹿っ!」

 その後。どうやって帰ったのかは覚えてない。ただリビングのソファであたしとリョーコちゃん、
二人の頭をかぁさんがずっと抱いていてくれた事だけは覚えてる。
「あなた達二人とも、昔何があったのか私は知らない。でもあんたは私の娘、リョーコさんは
その大事なお友達。それは何も変えなくとも良いのよ。――。バカだったのは安直にMSに
乗せた私。いくら謝ったって足りないだろうし、私を恨んで構わない。でもあなたたちを傷つける
つもりはなかったの。それだけは信じて……。そう、あなたたちは悪くない、何も悪くないの……」
226弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/10/21(水) 22:05:44 ID:???
=予告=
 だいじな普通の生活。だから、あたしは、あたしの普通を一時棚上げしようと思った。
「ファングの件、何かわかったらしいじゃない?」
『次回 空(あま)駆ける少女達 〜少女は砂漠を走る! II〜 』        
【PHASE-06 忘られしもの、忘れえぬもの。】
 ファングって。かぁさんのお師匠様の、例のアレ。ですか……!?
227弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/10/21(水) 22:06:34 ID:???
今回分以上です、ではまた。
228通常の名無しさんの3倍:2009/10/21(水) 23:44:05 ID:???
投下乙。
229通常の名無しさんの3倍:2009/10/22(木) 12:24:43 ID:???
過疎だな
230通常の名無しさんの3倍:2009/10/22(木) 13:00:02 ID:???
>>229
まだ読んでない。
平日の昼間っから暇なら感想でも書けば?
231通常の名無しさんの3倍:2009/10/22(木) 18:47:05 ID:???
過疎なのは事実だろ
そんなことを言ってる>>230こそ暇なら感想書けよ
232通常の名無しさんの3倍:2009/10/22(木) 19:17:27 ID:???
感想がない原因がSSの内容か住人にあるかは不明だが・・・
感想はSSと同じで書けと強要されて書くものではない
233通常の名無しさんの3倍:2009/10/22(木) 19:20:21 ID:???
>>弐国さん
投下乙、GJです。
234通常の名無しさんの3倍:2009/10/22(木) 19:37:50 ID:???
だか、無いよりある方が良い
無いと過疎って見えるし、モチベーションも下がる
この事実はそう変わらんからなぁ
235文書係 ◆gIyeyjcT.M :2009/10/23(金) 03:22:55 ID:???
こんばんは、文書係です。

>>80さん、dです。
手ほどきの相手が子熊だったら、一体どんな言葉をかけるつもりだったのか。
指輪を外させる方法だったら凄すぎですが、ストーリー変わるんで子熊スルーは必須。

>>弐国さん
下駄箱にお返事を忍ばせておきました。

>>133さん、トンです。
原作に準拠して、コーラには行動と発言の禁則を幾つか設けてあるのですが、
(例えば、コーラからはカティに触れないなど)結構な縛りがあるにも関わらず
フリーダムなのは、やはりキャラゆえ……などと逃げてみる。
236文書係 ◆gIyeyjcT.M :2009/10/23(金) 03:23:47 ID:???
これから続き2レス分を投下します。
237文書係 ◆gIyeyjcT.M :2009/10/23(金) 03:29:36 ID:???
おまけに脳内補完/機動戦士ガンダム00/短編小説パトリック・コーラサワー 補編
/短編小説ビリー・カタギリ/「戦士の休日 その7」
>>76,77(「戦士の休日 その6」までは>>1のガンクロSS倉庫「etc」に収録されています)
 「いやはや、なかなかどうして。お見逸れしたよ」
ビリー・カタギリはありのままに感嘆の言葉を口にして、パトリック・コーラサワーへの賛辞とした。
「それなら今度は、あくまで『if(もし)』の話だけど――自分が好きな人に利用されていただけだった、なんて
ことに気が付いたとすれば、君ならどうする?」
「オイいきなり、なんじゃそりゃあ……どういうこった、たとえばよ」
思いがけず自分に向けられた話の矛先に、パトリックははじめ当惑の表情を見せた。が、再び余裕たっぷりの
微笑を浮かべると、グラスを置きワインボトルを抱えるように足を組んで、次なる言葉を待ち受けたのであった。

「そうだねえ――例えば、君の場合なら」
眼鏡のブリッジを人差し指で軽く押し上げ、思案する風を装ってビリーは瞑目した。
「君はマネキン大佐にめろめろなようだけど、彼女は君の事なんて何とも思ってなくて、ただMSパイロットと
しての能力だけを利用する為に、君を側に置いているとしたらさ」
言い終えると彼は、パトリックを横目でちらりと盗み見る。

リーサ・クジョウが彼の許を去って以来、ビリーは当然のことながら、重度の疑心暗鬼に悩まされていた。
一般的な女性不信の上に、女性戦術予報士というものへの不信も重なっていた。
そのため、彼はカティ・マネキンに対しても、強い疑いの眼差しを向けていたのだった。

――君が僕と同じじゃない保証なんて、どこにもない。
その証拠に、ビリーの仄聞するところによれば、パトリックの求愛は既に五年目に突入しているというのに、
顕著な進展が見られないというのである。彼女はそれでいて彼を拒むでも、純粋に上官と部下の関係を保つでも
なく、二人は周囲から見れば非常に曖昧な関係のまま、しかも必要以上に一緒に居るのだった。

彼の直接知るカティ・マネキンは十年以上前、キャンパスで会ったきりであった。
才知に長け分別もあり、浮ついたところのない印象のあった彼女が、いくら多少見栄えがするからといって、
パトリックのような知性に欠けた、好色で軽薄な男に靡き、まともに相手をするとは思えなかった。

――彼女だって、クジョウと同じでないとは限らない。
カティ・マネキンが彼に特別な感情を持っていないのであれば、彼女は上官の立場なのだから、きっぱり断って
しまえばいいだけの話である。
なのにそうしないのは、やはり彼女もクジョウ同様、はっきりとした返答を引き延ばし、期待を抱かせることに
よって、その間彼の(やや問題があるらしいものの)エースパイロットとしての能力を、自陣営の為、或いは
自己の目的達成の為、最大限有効に活用するつもりなのではないかと、ビリーは分析していたのであった。

パトリックは不名誉な二つ名の他にも、連邦とアロウズの関係をもじって「カティ・マネキンの忠実なる飼い犬」
などと影で囁かれているが、ビリーには彼が、ニンジンを目に前にぶら下げられた赤毛の馬に見える。
そしてその哀れな姿は、つい先日までの自分の姿とだぶって見えるのだった。
クジョウへの想いを断ち切ってアロウズに入隊したはずであるのに、過去の自分と同じような姿を、傷も癒えぬ
内から早々に、たちの悪いことに更に滑稽な形で見せつけられるのは、彼にとって心の傷口をわざわざ裂いて
塩を塗り込まれるに等しい、不愉快極まる出来事であった。

だから正直今のビリーは、パトリック・コーラサワーもカティ・マネキンのことも、快く思っていない。
ここで敢えて毒のある質問を彼に試みたのも、半ばは「君も気をつけた方がいい」という親切心からの忠告と
弁解できなくもないが、残りの半分は、どうせただの酔漢であるし、多少怒らせても構わないという横着な
悪戯心も手伝っていたのだった。
238文書係 ◆gIyeyjcT.M :2009/10/23(金) 03:33:45 ID:???
おまけに脳内補完/機動戦士ガンダム00/短編小説パトリック・コーラサワー 補編
/短編小説ビリー・カタギリ/「戦士の休日 その8」

 残酷ともいえるビリーの挑発的な問いに、パトリックはとりたてて怒色を態度に表すでもなく、薄い笑みを
留めたままボトルからワインを直接煽って、カティ・マネキンの居た辺りを見やった。
彼女たちの姿は、既にそこになかった。
陽が沈みきる前に洋上での打ち合わせを済ませ、艦内に戻ったのだろう。

「べっつに。かまわねえなぁ」
パトリックは事も無げにそう言うと、酒で濡れた口許を手の甲で無造作に拭った。
「強がりじゃなくて、本心でかい?」
――これが『if』じゃなく現実だとしたら、君だってそんな風に笑ってはいられないと思うけどね。
あの日以来、心から笑うことのできなくなったビリーは、暗く淀んだ瞳で彼を見据える。

「……だってよ? 俺のスペシャル様としての実力は買ってるってコトだろ」
――えっ? スペシャル様って何?
咄嗟にビリーは聞き返しそうになったが、恐らく特別優秀なMSパイロットというほどの意味だろう、と適当に
当たりをつけ、わざわざ問うのをやめた。
「まあ、とりあえずそういうことにはなるね」
彼に利用できるだけの価値がないのであれば、カティ・マネキンは文字通り、歯牙にもかけないのだろうから。

「そっからスタート! で、俺様の男としてのスペシャルな魅力で大佐のハートも落とす! コレでいいんじゃ
ねえか」
そろそろ残り少なくなったワインボトルを高く掲げ、これが正解だとでも言いたげにビリーの鼻先に突きつける。
「そうすりゃ結局、今とおんなじになるぜ?」
二人は肩を並べて甲板に座り込んでいたが、パトリックは自分より幾らか背の高いビリーに向け、頬を心持ち
斜め上に傾け、同意を求めるようにウインクした。

――うわぁ……。
長い襟足をうるさそうに掻き上げ、酒気を帯び上気したうなじを露わにしながら、斜め角度から流し目をくれて
のウインクが、同性である自分の目を通してすら、ひどくあだっぽく映る。
「シケた面子」に「野郎相手にヤケ酒」云々と、かりそめにもパーティーの同席者であるビリーに向かい、散々
悪態をついてくれている以上、よもや自分に色目を使っているのではあるまい。
だがそれだけに意義に乏しい彼の色気に中てられ、ビリーは毒気を殺がれて暫し唖然となった。

もしカティ・マネキンに利用されているとしても、自分の魅力で彼女を振り向かせてしまえば、現状に追いつく
のだから、構わない――つまり、今も利用されているという認識はないし、彼女も憎からず自分を想っている、
と言うのである。パトリックは自身の能力や容姿に関して、並外れて自意識が高く、自信過剰なようだ。
軍事演習場の観覧席においてAEUの幹部らしき面々が、突然のアンノウンの襲来に動揺していたとはいえ、
晴れの席で自国家軍のエースパイロットを評して「性格に問題」「あの馬鹿!」などと口々にけなしていただけの
ことはあるのだった。

惨憺たる対ガンダム戦の戦績に加え、はかばかしい戦果を上げているとは言い難い上官カティ・マネキンへの
度重なるアプローチを背景にして、何ゆえ彼がかくも自信に満ちて前向きに、楽しげかつ自由気儘に振舞える
のか、ビリーは理解に苦しんだ。
彼からは敗者ゆえの葛藤や、他者への猜疑などの心の翳りを、どこにも看て取ることができない。
あたかも脳の当該感覚の担当部分に、スカッと爽快な風穴が開いているような気さえしてくるのであった。
239文書係 ◆gIyeyjcT.M :2009/10/23(金) 03:34:40 ID:???
今回投下分終了。

短編小説ビリー・カタギリ「戦士の休日 その9」に多分続く。
240通常の名無しさんの3倍:2009/10/23(金) 03:53:18 ID:???
>>文書係さん
GJ!寝る前にいいもん読んだw
確かにビリーは免疫なさそうだが、コーラにまで中てられるほどとはw
しかし「スペシャル様」に突っめなかったとこにワロタwww
いやそこは突っ込めよwww

続きも期待してます
241通常の名無しさんの3倍:2009/10/23(金) 07:13:39 ID:???
>>237
乙でした
脳に風穴フイタwwwww
24245 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/23(金) 18:26:03 ID:???
今から投下します。
20/から26/26まで、多分7レスです。
243SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/23(金) 18:28:38 ID:???
20/

 隠しネタその二――ありふれた手だが、無人機による掩護……手数と火力の水増しだ。
自分はガイアの動きを狙撃で封じながら、アビスを機動力で抑えて貰う。

 スカイグラスパーの自動射撃でアビスを足留めしつつ、ガイアの周囲を旋回して、"亀の甲羅"に
舞い戻った。リニアガンタンクから取り外した機関砲を手にセット、バイパスをつなげ、ガイアを
十分に引き寄せてトリガーを引き絞る。ざっと二十発強が当たると思われた。

「嘘でしょっ!?」
 それを、ガイアはよけていた。
 機関砲の発射間隔はおよそ0.3秒、その間をすり抜けるMSというのは、キラにとっても予想の埒外だ。
弾幕を九割方回避して、ガイアはキラに迫る。

「当たれ――いや、落ちなくてもいいから、こっちに来ないでよね!」
 跳躍したガイアの姿が、画面の中大写しになる。M1を寸前で仰向けに転がして牙を回避したが、
漆黒の狼にのしかかられる形になる――本能的な恐怖感を塗りつぶす為に、凶暴な意識を叩き起こした。

「――これなら、外さない!」
 犬だろうと戦車だろうと、"腹"はそう頑丈ではない。取り押さえられた機関砲をためらいなく手放し、
頭部のイーグルシュテルンを斉射した。少しだけ緩む拘束。牙が喰らいつくより僅かに早く、M1は
死の顎から脱した。バックパックを吹かしながらブリッジの要領でのけぞり、左腕の関節を駄目に
しながらもガイアの巨体を浮かす。

『ハァ――っ! 死んでしまえ』
「お断りだ――!」
 自由に動ける空間が生まれるや否や、半壊した左腕サーベルの切っ先をなんとか海面に向けた。
ビームが海水を蒸発させ、濃密なイオンの香りと共に水蒸気を浴びせる。上昇気流を浴びてガイアが浮き上がり、
キラはM1を横滑りさせて逃れた。

 突撃を受けてからわずか三秒の出来事だ。
 離脱に成功したキラは、背中にねばつく汗を感じている。

「クソ、もうしのぎ切れない」
 今の攻防で、左腕が機能を止めてだらりとぶら下がっている。警報の赤ランプは数えるのも
馬鹿らしい程で、対するガイアには、損傷らしい損傷は見あたらない。「あきれた頑丈さだよ」
左腕をパージしながら、毒づいた。次の突撃をまともに受ければ、捌き切れずに自分は死ぬと、
見てきたような確信がある。
244通常の名無しさんの3倍:2009/10/23(金) 18:29:28 ID:???
21/

 右腕一本で七一式ビームライフルを懸架、回避はAIに委任して、手動でガイアを狙う。
AIの取った行動はバックパックを吹かしながら後退――バッテリーの表示が滑り落ちるように
減って行くが、もうバッテリーを気にする必要も無いだろう。

 一撃――二撃、ビームをガイアに掠らせるも、徐々に間合いを詰められた。

「……スカイグラスパーは!?」
 焦燥に駆られたキラは、アビスに向かうスカイグラスパーの動きを追う。
 ランチャーパックを取り付けた支援戦闘機は、低空から馬鹿正直にアビスへ向かっていた。

 アビスが火砲を悠然とスカイグラスパーに向けた。「――不味い、アレじゃあ」自動操縦が
旋回を始めるのを待って、フリーダムを上回る火力が、背中をさらしたスカイグラスパーに
向かってとき放たれる。天と地を交差するビームが、共に大気へと吸い込まれた。

「交わした、どうして?」
『――助けに参りましたわ、キラ!』天真爛漫な声が、通信機から流れてきた。
「……ラクスさん!? WHY?」驚きが、敬語と英語であふれ出る。
 驚愕の隙を衝いて、ガイアがM1に飛び掛った。後方に跳躍するM1と、それを追うガイア。
寸前までM1が立っていた位置に、ランチャー"アグニ"のビームが突き刺さる。熱線がガイアの
鼻先をかすめ、その脚を止めた上で、海水の湯気がM1の姿を覆い隠した。

「どうやってスカイグラスパーに乗っているんだ、ラクス!?」
『ハッチを開けて座りましたの』
「ああそうじゃなくって――その機体は自動操縦にしていたはずだよ!?」
『ああ、道理で操縦桿が勝手に動いて、自由が利かなかった筈ですわ』
 目の前が暗くなった。

『コンソールを叩いたら、ようやくコントロールが復帰いたしましたわ』
「"アグニ"が僕のほうを狙っていたのは、ひょっとするとそのせいか……」
 故障したFCSの射撃は、丁度良い掩護になりもしたが……それは結

『細かいことはよろしいではありませんか、結果論的に考えて』
「良くない――! 君が……ラクスが死んだら僕は――!」

 ――僕は、何をしてしまうと言うのか。二人で生き延びるためには――。

「ラクス!」叫びながら、スカイグラスパーのコントロールをリモートで奪った。
「今からGがかかるけど、何とか耐えて。FCS……コントロールは奪れないな。
いいかい、僕が合図したらトリガーを引く、それだけで良い!」
『……はい! 分かりましたわ、キラ!』
245通常の名無しさんの3倍:2009/10/23(金) 18:30:41 ID:???
22/

「――! 動きが……変わった?」
 アストレイとMAが攻めてくる。主砲を発射しながら距離を詰めるスカイグラスパーの
狙いは――攻撃を当てることではない。アウルはその動きから、MAの意図を察する。
 センサーに感あり――通信機に向けて叫ぶ。
「ステラ、気をつけろよ、母艦から攻撃が来る――ミサイル!」
 ステラからの応答が無い。アウルは舌打ちを一つ洩らすと、レーダーで接近する影を確認、
モニターで噴煙を視認し、アビスの火力を駆使してミサイルをなぎ払う。

「スイッチ入ったからって、手間かけさせんなよ、ステラ!」
 爆煙の向こう、ガイアへと通信を送るが、獣の叫びを思わせるステラの声しか聞こえない。
あの状態ではアウルの声が聞こえない、というよりも、言葉として聞こえていないらしい。

「一秒が十秒に感じるような強化を受けるから、感覚だけが先走って、周りと話しも
出来なくなるんだよ、ちくしょう!」

 ――ブロックフレーズを使って制御するか? 
 そうすれば、ステラはアウルの言うことを従順に聞くマシーンとなる。とても魅力的なその
アイディアの誘惑を、アウルは辛うじて耐えた。アウルの我が儘にステラを引っ張り出しておいて、
ブロックフレーズを使用した副作用だけをステラに押しつけることは出来ない。

「それって格好悪いって言うんだよな、ネオなら、きっと!」
 ネオならば、この様な状況であっても、委細構わず威風堂々気分上々意気飄々と、散歩するのと同じく、
それが当然のように、ブロックフレーズ等使わないやり方で戦って見せるだろう。おかしな上司であるが、
ネオに出来てアウルに出来ないのなら、何のためのエクステンデッドだというのか。

『はああーーーーーー!!』
 独言など聞いて居ないステラに、こちらが合わせて連携しなければならない。
 アウルはこの戦闘のけじめとして、それだけを覚悟した。
「ああ――証明してやるさ。エクステンデッド――俺たちの有用性を!」
 ガイアはM1に突っ込んで行く。敵のMAは今こちらに旋回してきているところだ。
 このままでは、迎え撃つM1と、追撃するMAによってガイアは挟み撃ちにされる。

「ステラ! 聞こえてるかどうかわかんねーけど、M1をしっかり抑えて置けよ!」
 上空に向けてアビスの火力を振るう。"カリドゥス"複相ビーム砲、肩アーマー内の三連装ビーム砲、
"バラエーナ改"二連装ビーム砲、M68連装砲と、圧倒的な火力を僅かに時間差を掛けながら
順次開放することでスカイグラスパーを追い込んでゆく。
246SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/23(金) 18:31:50 ID:???
23/

「――!」
 あと一発で直撃弾がMAを捕らえる――確信を得た瞬間、アラートがコックピットに鳴り響く、
反応する間も無く、アビスの至近に"バリアント"が着弾した。
 衝撃に機体のバランスを崩し、後一歩というところまで追い込んでいたスカイグラスパーが
有効射程の外まで退避する。再び飛来するミサイルの第二波――

「くそッ! しつこいし、きりがねーよ。俺たち二機を落す程度に、やりすぎだっての!」
 そこまで追い込んだことを棚に上げて悪態をついた。地平線の向こうから飛来したミサイルは
MSの二個中隊を纏めてスクラップへと還すに十分な数と質だった。

「ステラ、あたるなよ!」
 照準を向ける。FCSをアンチミサイルモードにしてトリガー。遠くガイアを狙う噴進弾を、
"カリドゥス"と"バラエーナ改"で狙いつつ、近距離の目標はCIWS等の実弾兵器で対応する。
三ダース近い対MSミサイルが、役目を果たすことなく空に散り、海に落ちた。

 いや、AAの放ったミサイル群は、十分に、搭載機を支援する役割を果たしている。

「エネルギーが――心もとないな。ガイアはまだまだ元気か」
 ミサイルはアビスの高い火力でまとめてなぎ払われたが、広範囲にばら撒かれて飛来する噴進弾は
確実にVPS装甲を削り、バッテリーを消耗させていた。ビーム兵器を多用するアビスの戦い方にも
一因がある。

「意外とやりやがる――MA如きが、ってーのは侮りって言うんだよな、確か」
 この状況で、攻撃の要となっているのは、最も貧弱なスカイグラスパーだ。
 こいつが上空からアビスとガイアの座標をAAに転送し、データリンクを介して母艦からの
長距離攻撃を誘導している。

「ウィンダムの一機でも居ればさあ……。型落ちの急増チームでよくやるよ、本当!」
 ガイアは甲羅の中に閉じこもったM1にこだわっており、接近するたびにAAのミサイルと、
スカイグラスパーの射撃によって邪魔されていた。
 攻撃を受けるたびに異常なほどの反応で回避しているのはいいのだが、攻撃が来たことを
一瞬しか覚えていないのか、直に甲羅に向かって飛び掛ってゆく。

 アウルは敵の状態を観察する。

 M1は既に片腕、スカイグラスパーにしてもアビスに対して有効打を持つわけではなく、
母艦が遠ざかるにつれて不利になるはずだ。

「――まさか、死兵ってんじゃないだろうし」
 母艦を攻撃から逃がすために、死ぬまで残って戦うなんて、"ファントムペイン"や"ターミナル"を
つけ狙うムラサメ野郎の考えだとは思えない。そのしぶとさに関してだけは、ある種パイロットへの
信用にも似た確信があった。
247SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/23(金) 18:32:44 ID:???
24/

「"あの"ムラサメ野郎が、そうそう簡単に諦めるたまじゃあねえよな!」
 陣頭に立ち、殿を務める漆黒のムラサメ。
 アウル達ファントムペインにとっては疫病神だが、その帰艦への執着は誰にも否定できない。
どれだけぼろぼろにしようと、数に任せて追いかけようと、必ず次の戦闘にはやってくるのだ。

 ――なにか、まだ隠し玉をもっているのか?
 味方が助けにやってくると望みはないはずだ。ムラサメ野郎はともかく、他の搭載機にとって
ファントムペインのMSは簡単に撃破できるものではない。

 既にこちらのセンサーから、AAの艦影は姿を消している。水平線の向こうから飛んでくる
ミサイルと、M1が立ちはだかり、足留めを続けていると言う事実が、AAの存在を示すだけだ。

 ここで陸地に隠れている観測機――カメラを増設したダガーを撃破したうえでAAが引き返して、
アウルたちごと仕留めるなどという作戦は立てないだろう。

 考えがまとまらない、だから、ごちゃごちゃと思考を巡らすのは止めることにした。
 もう、AAを仕留める事は不可能だとしても、せめて『ムラサメ野郎』の首は持って帰らねば、
ステラはネオに合わせる顔が無くなる。

「落ち着けよ、アウル=ニーダ! 此処が正念場だぜ?」
 まるでスティングが言っているように、自分自身に言い聞かせつつ、スティックを押し込んだ。
モニターで周囲を見渡す。M1、ガイア、スカイグラスパー、そしてアビス。

 ――先ずは、あの邪魔なMAからだ。
 アビスをM1の甲羅に近づけつつ、MAの様子を伺う。アビスへの牽制に近づいてきたところを、
火力全開で振りほどいた。命中の必要は無し。十秒間、追い払えればそれでいい。機首を巡らせて
回避したスカイグラスパーを尻目にアビスを全力で走らせ、M1に向かう。

 MAが旋回を終えるか、AAから砲撃が来るか――とにかく十秒程度の余裕に、アウルは一つだけ、
賭けに勝利せねばならなかった。

「頼むから、ステラ――! 間違ってボクを襲うなよ!」
 スイッチの入ったステラは、識別を間違えることが希に良くある。

 そしてアウルは勝った。M1へ突撃するガイアの側を通って、"甲羅"への接近を成し遂げる。

248SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/23(金) 18:34:04 ID:???
25/

「出てきやがれ、ムラサメ野郎!」ガイアの突撃に合わせて、トリガーを引く。
 二人がかりの攻撃がとうとう"甲羅"を破壊するが、しかし、砕け散る"甲羅"はアウルの予想に
十倍する爆発を起こした。

「何――だと!?」
 衝撃に揺らされ、舞い散る破片の雨を浴びるアビスとガイア。

 爆煙の中から、損傷しつつも身軽さだけは失わないM1を確認する。
 追おうとしたアビスの至近を、スカイグラスパーのビーム砲が襲う。
 さらににAAからの支援砲撃が着弾、着弾、着弾――凡そ二十秒程度の間、ミサイルを迎撃に
精一杯となり、水煙の向こうのM1が認識できなくなる。それはガイアも等しく、アビスの張った
阻止弾幕の内側で四肢を踏ん張り、敵に襲い掛かる一瞬を待っていた。

 アウルは見ていた。甲羅から跳び退るM1が、なんらの武装を持たない無手であったことを。
 ――やれる! 弾幕の途切れた瞬間が、ムラサメ野郎の最後だ。
 この期に及んで、甲羅も無く、M1を落すのにスカイグラスパーが障害になるとは思わない。
 そして、絶える弾幕。
 水煙が――少しだけ晴れる。
 センサーに捕らえられたM1の姿と微かな熱源。水煙を目くらましに近づいて、ビームサーベルで
仕留め様というのか――甘い! 

 興奮に沸くアウルは、アビスを加速させ、今だ水蒸気の向こうに掠むM1へ近づき、肩アーマーを
完全に展開した。今更相手が何をしようが、問答無用にぶち抜いてバラバラに出来る火力を向ける。

「喰ぅらえよやあーーーーッ!」

 そして射撃の瞬間、アウルが見たものは――
「え……?」
 ――『"アグニ"を片腕で構えたM1』の姿だった。

 彼我の隔たりを激しい熱線が結ぶ。
 アビスが全力斉射した"カリドゥス"は、当然の結果としてM1を火球の中に包み込み、
キロあたり幾らの鉄くずへと変えたが――

「――っ!?」
 ――M1が全壊しながら放った"アグニ"はアビスの肩アーマーに直撃し、内蔵された武装と共に
灰に変えていた。
 装甲が蒸発して、吹き上がる金属蒸気がコックピットを揺らす。
249SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/23(金) 18:35:27 ID:???
26/

 衝撃に耐えてアビスの体勢を立て直しながら、アウルはモニターに捕らえられているMAを見ていた。
 全速力で遠ざかる、パックを装着しないノーマルのスカイグラスパーを見ていた。

「畜生……」

 "アグニ"の出処は? ――MAのランチャーパックだ。
 ムラサメ野郎は何処行った? ――向こうの戦闘機に乗り込んだ。
 この戦闘、いい所をかっさらって行ったのは? ――スカイグラスパーだ!

「あんの……スカグラ野郎!」
 こうしてアウルは、新たに殺意を燃やす相手を手に入れた。

 やがて、VPS装甲を切ったガイアが、灰色の装甲色をあらわに近寄って来る。
『アウル――敵は!?』
「知らねーよ……どっかいっちまった」
 今更正気を取り戻したステラが、暢気な事を聞いてきたので、ぶっきらぼうに答える。
『……そう――』
「畜生!」AAも、ムラサメ野郎も取り逃がした。
 腹いせ交じりに、アウルは上空に向ってアビスの火力を放つと、散々ビームを撃ちまくった
アビスはとうとうPSダウンを起す。

 ガイアのステラも『眠い……』と、鬱に入ってしまった。

 戦闘続行は不可能。
 アビスはもう動けない。ステラはもう動かない。
 二人とも、回収部隊に恥を晒してしまうことになるだろう。

 胸の奧から言いようの無い苛々が沸いて、アビスのハッチを開放した。
 丁度真西、アホウドリが飛ぶ空を向いていて、夕日が目に染みる。
「次は、次こそは海の藻屑にしてやるからな! 藻屑ってのが何なのか知らないけど、絶対だ!」
『アウル、うるさい』
 AAの去った空。とろとろと太陽が沈もうとしている水平線に向かって、アウルは叫んだ。
250SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/23(金) 18:39:08 ID:???
27/27

 スカイグラスパーの操縦席で、キラはラクスにすがりついていた。

「……キラ、どうしましたの?」
「……」

 何も言えなかった。
 たとえ一瞬であっても、"全てを殺せば平和になる"という思考を持った獣に体を委ねた事を、
ラクスに知られたくは無い。
 自分の体からアドレナリンの匂いが消えるまで、それを忘れられそうになかった。

 ――ヒトを越えながら、ヒトでありたいと願う。それを傲慢と人は言うのだよ。

 ラウ=ル=クルーゼの姿を借りた幻影が、キラのすぐ背中まで迫っていた。

 ――身の程知らずを捨てさえすれば、平穏を得られるというのに、愚かだよ君は!

「キラ……」
「ラクスの声は落ち着くね」

 その声を失うのが余りにも怖くて、キラの体が震え出す。戦うのが限界に近かった。
少女の体にすがって、石鹸と汗の香りが微妙に混じった桃色の髪に頭を寄せる。
 スカイグラスパーを自動操縦にして、ラクスはキラの髪を撫でた。

 囁くような歌声が、ラクスの唇からこぼれ、キラの耳にだけ届く。

 AAにたどりつくまでの少しの時間、スカイグラスパーのコクピットは、戦場では鬼神の
如く戦う、この脆弱な少年のためだけのコンサートホールになった。



 第二十五話 了。
 第二十六話に続く





以上です。
はい、そんなわけで、撃ち合いに始まり撃ち合いに終わった25話でした。
換装、ご指摘はご自由にどうぞ。
251通常の名無しさんの3倍:2009/10/23(金) 22:13:29 ID:???
>換装、ご指摘はご自由にどうぞ。

流石スカイグラスパー、換装するのか。
252通常の名無しさんの3倍:2009/10/24(土) 01:48:42 ID:???
45氏乙です
ほんと良い意味で追い詰められたキラがかっこいい、ギリギリで揺れてるところは心配だけど

しかしラクスがスカグラで出撃には驚いたw
ペイン一味の強さもしっかりがっちりで面白かったよ
25345 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/24(土) 17:29:56 ID:???
1/

 ――アスラン=ザラの目覚めは最悪だった。起きた途端に、脳天に釘でも刺されたような鈍痛が襲い、
体の節々が猛烈な運動をこなしたかのように痛む。無精ひげを剃ろうと洗面所に立ったアスランを
出迎えたのは、右目に青いクマを作った自分の顔だった。

「……いったい、何がおこったというんだ?」
 仕方なしにサングラスをはめて廊下に出る。
 
「……」
「七百、九十……一…………。七百……きゅうじゅう……にぃ!」

 部屋の前で、シンが汗と涙と唾液にまみれながら腕立て伏せをしていた。
 したたり落ちた汗が床に水たまりを作っていて、大層汚らしい。

「シン、何をしているんだ?」
「サー。ご命令通り、アスラン=ザラ殿が起きるまで腕立て伏せを為ております。サー」
「そのしゃべり方は?」
「サー。ご命令通り、食ったクソを反すうする前と後に、上官殿への敬意を表しております。サー!」

 そう言うと、シンはボロ泣きしながら立ち上がり、よろよろと敬礼を取った。

「一体誰の命令だ、そんなことをさせているのは」
「サー。尊敬する上官、アスラン=ザラ殿であります。サー!」
「はぁ?」

 とりあえず休め、アスランが言い放つと、シンはその場で崩れ落ちて寝息を立て始めた。
 衛生班が廊下の影で様子をうかがっていたので、手招きをしてやると、アスランと極力、
目を合わせないように看護師がストレッチャーを持って現れ、シンを運んでいった。

「……しまった、事情を聞き損ねたな。俺が一体何をしたと言うんだ」

 とそこへ、資料を抱えたメイリンがやってきたので、「ああ、メイリン」と軽く呼び止める。
 びくりと止まったメイリンを安心させるために、精一杯の笑顔を浮かべた。こうかはばつぐんだ。
振り返ったメイリンはアスランの顔を見るなり、火が吹き出るほど顔を紅くして、俯いた。

「ちょっと、昨日の事について聞かせて……」
「私、何も覚えてませんから!」
「……は?」
 硬直するアスランにメイリンは駆け寄り、目をそらしたまま、その手を取った。

「でも、私……いつでも大丈夫です! だからこれ……私の部屋の鍵です!」
 離された手には、スペアのカードキーが握らされている。
「それじゃあ!」と走り去るメイリン。
254SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/24(土) 17:30:38 ID:???
2/

「また事情を聞き損ねた。一体……何をしたと言うんだ」
 誰かに話を聞かなければと思うが、館内のクルーはアスランの姿を見るなり、
向こうから大岩が転がってきた探検家よろしく回れ右をしてしまう。

 艦内を散策する内に、アスランは整備班の二人組を発見した。
 壊れた非常隔壁の修理を為ているようだ。

「酷いな、誰がこんな事を為たんだい?」
「あ、アスラン"様"、おはようございます!」
「おはようございます、アスラン"様"」 
 やっぱり、目を合わせてはくれなかった。

「ああ、忙しいなら良いんだ。ルナマリアかレイを知らないか」
「今なら"まだ"食堂に居ます! 俺は、材料が足りなくなったのでこれで!」
「俺はソックスの香りが足りなくなったので、これで失礼します!」
 ヨウランとヴィーノは、バールのような物が突き刺さって破壊された緊急隔壁を放置して、
何処かへ去っていった――格納庫とは反対の方向へと。


 ――食堂

「あ、レイ……。……レイ?」
 食堂の壁、体操座りでぶつぶつ代何かをつぶやいている彼は――レイ=ザ=バレルと
思われた物は、長い金髪を昇天ペガサスMIX盛りにされた誰かだ。

「これはひどい……どうしてこうなった?」
 耳を寄せてみると、「ぼくはわるくないんだひとりなんだらうもぎるもたすけてはくれないんだ」
と、意味不明の供述をしており、アスランはそっとしておくべきだと判断した。

「アスラン――さん?」
 そして、テーブルの影から身を起こしたザフトレッドの影。青い顔をしたルナマリアだ。

「ルナマリア! 良かった。少し教えて欲しいことがあるんだ、一体何が起こったのか!?」
「うぅ……耳元で大きな声を出さないで下さい……もうだめ」
「え……?」
 う゛え゛え゛ぇぇぇぇぇ。乙女の口からあり得ざるべ叫びと共に黄金の吐瀉物が溢れる。
 早速風呂に入り直す羽目になって、結局事情は聞けなかった。
25545 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/24(土) 17:32:04 ID:???
3/3

 ――シャワールーム

 酸っぱい匂いを全身から漂わせるアスランは、脱衣室のベンチに座るハイネの姿を発見。

「あー……アスラン。"やらないか"」
 整備班の青いツナギを着て、胸チャックを腹まで開けたハイネが言う。

「何をするのか知らないが、"お断りします"」
 両手を八の字に伸ばして片足でステップしつつ答えた。そうしなければいけない気がした。

「心配すんな、俺も、言わなきゃいけない気がしただけだ。クソ、頭と首と……とにかく全身が痛え。
昨日の晩に何があったんだよ? 起きたら制服はゲロまみれだし、誰も話してくれないし」
「俺もだよ、昨日……何処まで覚えてる?」
「あー……キーワードは多分、"わんこスピリタス"って言葉だ。それから……種の殻が割れて、
えらく気持ちの良い気分だったのは覚えてるぜ」

 洗濯機がごんごんなっている脱衣室。二人して思い出せたことと言えば、ハイネの部屋で酒を
飲んでいたことぐらいだ。そこから、オーブの政治体系の話になって……以降が闇の中である。

「「一体……何が起こったと言うんだ?」」
「あら、そんなに知りたいの?」

 何時の間にか背後に立っていたタリアが――額に極太の青筋を浮かべた艦長が、幽鬼のような
顔と声色で二人に囁いた。"ばっ!"と直立不動で敬礼を送る二人の前に、タリアは「選べ」と、
2ガロン(9L)入りのジェリ缶を置く。背後に隠れたアーサーが失禁するほどの迫力だった。

「工業用……エタノール……だと?」
 結構呑気してた二人も、タリアが一瞬巨大に見えるほどの艦長圧力にはビビッた!

「選びなさい……"これ"で私と昨日の続きをやりつつ、起こったことを逐一確認するか。
あるいは、艦内のトイレ全部、一週間、素手"のみ"で掃除するか――!」
「「――トイレ掃除でお願いします――!」」
 二人に、そう答える意外の選択肢など、無かった。


 ――格納庫

「昨日は、"無かったこと"にします!」
 数分後、キャットウォークから簀巻きにしたアスラン、ハイネを"吊られた男"にして、
鬼の形相のタリアが集ったクルーに宣言すると、万雷の拍手がわき起こった。

 忌まわしき記憶は払拭された。今日は新生の日だ!
 "その日"の記録をとどめるのは、ザフトレッドへの艦内永久禁酒命令、ただそれのみである。
25645 ◆HHRSJTtlhQ :2009/10/24(土) 17:37:49 ID:???
第二十六話……じゃないです。これっきりです。
タイトルは「まさに歯車的アルコールの小宇宙」

感想、ご指摘はご自由にどうぞ。
257通常の名無しさんの3倍:2009/10/24(土) 17:57:15 ID:???
>>253−255
ワロタwww
何があったんだwww
258あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/24(土) 23:03:33 ID:???
第2話「ガンダムマイスター」 アバン
◎ブリーフィングルームにて。
 アレルヤ、ティエリア、スメラギ、クリス、フェルト、リヒティ、ラッセ、イアン、モレノ全員集合。
 刹那とロックオンのみ各コクピット内でモニター越し。

スメラギ「ミッションVL1。メンバーの居住コロニー『エグリプス』、開発用コロニー『クルンテープ』の建造」

フェルト「VL2。0ガンダムの太陽炉をベースに実戦用太陽炉を4つ量産。」

クリス「VL3。実働データ収集が目的の実験機第2世代ガンダム、そして、本格的な実戦機第3世代ガンダムの開発。」

スメラギ「西暦2307年、・・・ガンダムによる武力介入、ミッションVL4の開始。
・・・・VL4遂行にあたって、世界の状況を再確認します」

刹那(通信)「・・・もう散々聞いた・・・。」

ティエリア「そんな暇があったらミッションプランの検証をしては?」

アレルヤ「セカンドミッションまで羽を伸ばした方が」

スメラギ「も〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!実行部隊団結のためだと思って黙って聞いときなさ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!!」

ロックオン(通信)「了解〜。」

イアン「やれやれ・・・」
◎同じく苦笑するクルーの皆。

スメラギ「・・・地球の化石燃料も残り少なく、さらに2世紀前の中東の放射漏れ事故を機に、世界は化石燃料でも核でもない、新たなエネルギー資源、太陽光発電に目を向けたわ。
そして150年近い計画の末、全長約5万kmにもおよぶ3本の軌道エレベーターを中心とした太陽光発電システムが完成・・・」

フェルト「半永久的なエネルギーを生み出す軌道エレベーターのため、世界は大きく3つの国家群に集約。」

クリス「アメリカを中心とした世界経済連合、通称『ユニオン』」

リヒティ「中国、ロシア、インドを中心とした『人類革新連盟』」

イアン「そして、新ヨーロッパ共同体『AEU』」

モレノ「軌道エレベーターはその巨大さから、防衛が困難であり、構造上ひどくもろい建造物」

ラッセ「各国家群は、軌道エレベーター防衛の為に軍備増強。しかし、自分達の繁栄のため、三大国そろいもそろって旧式のMSをあちこちに大安売りしたせいで、テロが激化。」

クリス「民族紛争とか宗教紛争もね。」

スメラギ「そして・・・6年前にニューヨークで起こった、史上最大規模の同時多発テロを皮切りに・・・」

リヒティ「三大国の全面戦争勃発・・・」
259あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/24(土) 23:07:27 ID:???
第2話「ガンダムマイスター」 アバンその2
◎場面が変わってAEU領の何処かの屋敷。グラスを傾けるアレハンドロ。
アレハンドロ「そんな世界に対してくさびを打ち込む者たち、
                   モビルスーツ『ガンダム』を有する私設武装組織『ソレスタルビーイング』」

◎人革連何処かの屋敷のテラスでアニューに茶を入れてもらってる留美。
留美「彼らは、世界から紛争をなくすため、民族、国家、宗教を超越した
          作戦行動を展開していく」

◎薄暗い謎の空間の中で目を光らせるリボンズ
リボンズ「ソレスタルビーイングが、世界に変革を誘発する」
260あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/24(土) 23:08:51 ID:???
第2話「ガンダムマイスター」 Aパートその1

◎まだイオリア演説が街頭で放送中。下校中の沙慈、ルイス、ミレイナてくてく歩く3人
ルイス「またやってる」

◎携帯端末を取り出すミレイナ。
ミレイナ「ネットでも新聞でも持ち切りですぅ」

沙慈「中米でも民族紛争とかあるけど、やっぱり攻めて来るのかな?」

ルイス「日本は戦争なんてしてない分、安心だけどね〜。」
◎のんきなルイス苦笑いするサジ。

◎サジのマンションに到着。ルイスママがお出迎え。
ルイスママ「お帰りルイス。サジ君もミレイナちゃんもこんにちは。」

◎驚くルイス
ルイス「ママ?日本にくるなら連絡してよ〜。」

ルイスママ「びっくりさせたくて♪」


◎人革連 国家主席官邸
人革連主席「天柱のテロ事件に介入してきた組織か」

側近「わが宇宙軍が記録した未確認モビルスーツの映像です」
◎ヴァーチェとキュリオスの映像。

人革連主席「ガンダム・・・」


◎AEU首都
 コーラサワーがやられている映像を見る首脳達。

AEU首脳A「わが方の最新鋭機がこうもあっさりと」

AEU首脳B「人革連の策略か、ユニオンの自作自演だという報告も受けていますが、極秘裏に最新鋭のモビルスーツを開発できるのは、先進国レベルの技術と予算が必要になります」

AEU首脳C「確かに、武装組織には有力なバックがいるでしょうな」


◎ユニオン 大統領官邸
補佐官「大統領、彼らは本気なのでしょうか?何の見返りもなく紛争に介入するなど……」

大統領「慈善事業で国民の安全と国益は確保できんよ。経済特区をニューヨークから東京へ移転、そして国連本部をコロニー『プラウド』へ移転、ようやくニューヨーク再開発開始の目処が立った矢先にこれか・・・。」
261あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/24(土) 23:10:46 ID:???
第2話「ガンダムマイスター」 Aパートその2
◎何処かの孤島。潜伏中の刹那&ロックオン。端末でニュースを見てる刹那。ロックオンも近付いて
ロックオン「どの国のニュースも、俺たちの話題で持ちきりだ」

刹那「『謎の武装集団、全世界に対して戦争根絶を宣言する』・・・」

ロックオン「もっともほとんどの奴らは、信じちゃいないようだがな」

◎留美とアニュー到着。
留美「ならば、信じさせましょう。CBの理念は、行動によってのみ示されるのだから。」

刹那「王留美・・・」

ロックオン「監視者がわざわざ来るとは。」

留美「あなたたちのガンダムが見たくてね。それに・・・」

アニュー「スメラギさんから、セカンドミッションが届きました。」


◎ユニオンMSWAD
フラッグを整備中のグラハムとビリー。
グラハム「ガンダム・・・あの戦闘能力・・・そして光・・・。カタギリ、あれは何なんだ?」

ビリー「現段階では特殊な粒子としか言えないよ。おそらくあの光は、フォトンの崩壊現象によるものだね。それだけじゃない。あの機体には、まだ秘密があると思うなぁ」

グラハム「フ、好意を抱くよ。興味以上の対象だということさ」


◎宇宙。トレミー
クリス(艦内放送)「3300をもって、セカンドミッションを開始します。繰り返します。3300を・・・」

◎格納庫に向かうアレルヤ&ティエリア
 憂鬱なアレルヤ
アレルヤ「機体テスト込みの実戦か、まったく嫌になるよ」

ティエリア「これからのためにも、ガンダムを見極めておく必要がある」

アレルヤ「それはそうだけど・・・・」


◎トレミーブリッジ

フェルト「キュリオス、テールユニット装着完了。カタパルトデッキへ移動。」
◎キュリオスカタパルトデッキへ。

クリス「続いてヴァーチェも、カタパルトデッキへ移動します。」
◎ヴァーチェカタパルトデッキへ。
262あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/24(土) 23:12:47 ID:???
第2話「ガンダムマイスター」 Aパートその3
◎地上。刹那とロックオン、コクピットへ。
(※地上用コンテナはありません。エクシアもデュナメスも地べたで透明化して待機中。)

◎エクシア&デュナメス起動。
刹那「GNシステム、リポーズ解除。プライオリティを刹那・F・セイエイへ」

◎ハロをセット。
ハロ「アン」
ロックオン「さてと、行こうか相棒」

◎トレミー
クリス「キュリオス、ヴァーチェ、射出体勢のまま待機です。」
フェルト「トレミー、大気圏突入シークエンスに移行」

刹那「外壁部迷彩被膜解凍、フローディングモードへ」
◎透明化していたエクシアとデュナメス、出現。

刹那「エクシア、刹那・F・セイエイ。セカンドミッションを遂行する」
ロックオン「デュナメス、ロックオン・ストラトス。出撃する!」
ハロ「ジカンドオリ!ケイカクドオリ♪」

◎発進するガンダムを見守る留美とアニュー。

◎地球へ向かうトレミー。
スメラギ「GNフィールド最大展開。大気圏突入を開始!」


◎人革連 静止衛星軌道ステーション
管制室オペレーター「大気圏に突入する物体を確認。最大望遠映像、出ます」
人革連大尉「スペースシップごと大気圏突入だと・・・?」

◎セルゲイ入室。敬礼する大尉。
セルゲイ「CB・・・・あのような物まで所有する規模が、あの組織にはあるというのか。・・・進行ルートは?」
管制室オペレーター「降下予測ポイントは……インド南部セイロン島!」
人革連大尉「われらの領土内です。中佐!」
セルゲイ「奴ら、本気で武力介入をするつもりか」

◎ユニオン
大統領「ソレスタルビーイングが動いた?場所はどこかね?」
補佐官「インド南部、旧スリランカへ向かうものかと」

◎AEU
AEU首脳「セイロン島?人革連が展開しているあそこか」

◎人革連
人革連主席(それならそれでいい。あの機体が手に入るかもしれん)
263あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/24(土) 23:15:31 ID:???
第2話「ガンダムマイスター」 Bパートその1

◎大気圏突入完了のトレミー
ティエリア「ヴァーチェ、ティエリア・アーデ、行きます。」
アレルヤ「キュリオス、アレルヤ・ハプティズム、作戦行動に入る。」
◎ヴァーチェ&キュリオス出撃。

◎移動中のエクシアとデュナメス。キュリオスとヴァーチェを視認。
ロックオン「来たぞ、刹那。アレルヤとティエリアだ」
刹那「確認した。予定ポイントで合流後、ファーストフェイズに入る」
4機合流。

◎セイロン島に近付くガンダム4機。
トレミーブリッジから通信。
スメラギ「セイロン島は現在、無政府状態。多数派のシンハラ人と少数派のタミル人との民族紛争が原因よ。この紛争は、20世紀から断続的に行われているわ。この民族紛争に、ソレスタルビーイングは、武力介入します」
刹那「・・・民族紛争・・・」
リヒティ「旧スリランカ…か。確か人革連が10年前から少数派のタミル人に肩入れしてたよね」
ラッセ「ああ、紛争の平和解決という名目だが、実は違う」
クリス「人革連の目的は、セイロン島東部の海底を通っている太陽エネルギーの安全確保よ。」
ラッセ「あの周辺はタミル人勢力が強いからな。」
フェルト「でも、人革連の介入により紛争は悪化、無政府状態にまで陥ってしまった・・・」

◎ユニオンMSWAD
ハム「・・・フラッグを出せるか?」
ビリー「出撃するのかい?それは無茶だよ」
ハム「熟知している」


◎セイロン島での戦闘。
シンハラvsタミル(人革連)の戦闘。MSの量はどちらの勢力もオリジナルの3倍程。
オリジナルよりもう少しスピーディに撃ちあっている。

◎タミル勢力。
タミル兵A「敵部隊の30%をたたいた。このまま一気にせん滅させるぞ!」
タミル兵B「本部から緊急連絡!CBが来るそうです!」
タミル兵C「そうか、ここに来るか……各部隊に通達しろ!」

◎CBサイド
ロックオン「ミス・スメラギの戦況予測通りに各自対応する。それなりの戦果を期待しているのでよろしく」
アレルヤ「それなりにね」
ティエリア「僕は徹底的にやらせてもらう」
ロックオン「お好きに。おい、聞いてるか刹那?返事しろ」
264あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/24(土) 23:18:34 ID:???
第2話「ガンダムマイスター」 Bパートその2

◎刹那のフラッシュバック
モニター越しにシンハラvsタミルをじっと見る刹那。
クルジスの戦闘や0ガンダムを回想。この辺はオリジナルよりもっともっとスピーディに。

ロックオン「刹那、応答し・・・」
刹那「俺がガンダムだ」
ロックオン「おおおい刹那!!!」
◎オリジナルよりせっかちな刹那。

アレルヤ「子供のおもりをよろしく」
ティエリア「作戦行動に入る。」
◎ロックオンに押し付けるかの如くそそくさと各自持ち場へ

ロックオン「お、お前ら!」
ハロ「ビンボークジ!ビンボークジ!」
ロックオン「チッ!わかってるよ。砲撃に集中する。回避運動は任せたぞハロ!」

◎エクシア、乱入。
タミル兵「…来たのか・・・ソレスタルビーイング!」
刹那「エクシア、紛争を確認。根絶する」

◎次々と撃墜するエクシア。斬る以外にも踏み付けたりキックしたり。

◎タミルエクシアに集中砲火。
タミル軍砲兵「やったか?」
無傷なエクシア

タミル軍砲兵「む、無傷!なんて装甲?!…うっ!うわあっ!」
◎デュナメス援護射撃。次々と撃墜。

ロックオン「デュナメス、目標を狙い撃つ!」
◎敵サイドもマシンガンで迎撃するが、デュナメス回避。

◎GNスナイパーライフルで次々と落としていく。
ハロ「ゼンメツ!ゼンメツ!」

エクシアの方を見るロックオン。
◎相変わらず次々と接近戦で撃墜していく刹那。

ロックオン「気合の入れ過ぎだ!刹那」
◎援護に向かうロックオン
265あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/24(土) 23:21:56 ID:???
第2話「ガンダムマイスター」 Bパートその3

◎人革連駐屯基地付近で戦闘中のシンハラとタミル

アレルヤ「キュリオス、目標を爆撃する」
◎ミサイルにより両陣営とも甚大な被害。

アレルヤ「これで希代の殺人者…けどね!」
◎テールユニット破棄後、変形。遠距離攻撃で次々と撃破。

アレルヤ「それがソレスタルビーイングだ!」

◎ヴァーチェ、戦艦からの攻撃をGNフィールドで防御。
ティエリア「ヴァーチェ、目標捕捉。排除行動に移る」

◎GNバズーカチャージ。迎撃するMS。発射→戦艦1隻撃破。
さらに迎撃するMSをGNキャノンで撃破。


◎刹那のモノローグをバックに戦うガンダム4機。ここでマイスターズの過去のカットを数枚挟む演出

刹那(武力による戦争の根絶。ソレスタルビーイングが、戦うことしかできない俺に、戦う意味を教えてくれた。あの時のガンダムのように。
・・・俺は知りたかった。)

切り続けるエクシア。
射撃は下手なためあまり当たっていない。

◎地上に舞い降りる0ガンダム。0ガンダムの手に乗せてもらうソランのカット

刹那(なぜ、世界はこうも歪んでいるのか。その歪みは、どこから来ているのか。)

◎スナイパーライフルやミサイルを駆使するデュナメス(※まだビームピストルは持っていない)

◎ロックオン回想。
スナイパーとして暗躍するニール。拳銃を構えるCBエージェントに囲まれるシーンのカット。
266あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/24(土) 23:24:41 ID:???
第2話「ガンダムマイスター」 Bパートその4

刹那(人にはなぜ、無意識の悪意というものがあるのか。なぜ、その悪意に気づこうとしないのか)

◎変形を繰り返しながら戦うキュリオス

◎アレルヤ回想。
人革連のパイロットスーツ姿の幼いハレルヤ。寒い街を彷徨う浮浪児アレルヤ。

刹那(なぜ、人生すら狂わせる存在があるのか。なぜ、人は支配し、支配されるのか。なぜ、傷つけ合うのか)

◎ヴァーチェに発砲するMSをGNキャノンで撃破。

◎ティエリア回想。
実験室のような場所にいるティエリア(現在と同じ姿)。ティエリアの前に立つ、5つの影。

刹那(なのになぜ・・・人はこうも…生きようとするのか
俺は、その答えを求め続けている。ガンダムと共に・・・)


◎多数派のタミル軍、甚大な被害。

タミル兵「撤退!撤退だ!」
◎タミル軍撤退。それをじっと見るエクシア。そんなエクシアを見るデュナメス。

ロックオン「ここまでだ。ここまでだよ刹那」
◎動かないエクシア。刹那が暴走しなくて安心のロックオン。しかし・・・
267あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/24(土) 23:27:51 ID:???
第2話「ガンダムマイスター」 Bパートその5

◎シンハラ軍、接近。
シンハラ兵「敵は崩れた。今までの借りを返してやる!」
◎タミル軍に突進するシンハラ軍

ロックオン「この馬鹿野郎!」
◎スナイパーライフルを構えるデュナメス。

◎動かないエクシア。
しかし、すれ違い様にエクシア、シンハラ軍のMS撃破。エクシアによる攻撃。
刹那「これが、ガンダムマイスターだ。」
ここももう少しスピーディに。


◎JNN本社ビル
絹江「どう?見つかった?」
部下「ビンゴですよ。先輩。」
絹江「やっぱり、イオリア・シュヘンベルグ」

◎データベースより、イオリアのデータや画像。
部下「でもこの人、200年前に死んでますけど…」
JNNスタッフ「ソレスタルビーイングが出た!?旧スリランカの内紛に武力干渉、双方に攻撃!?」

◎ユニオン
大統領「前回と同じく双方に攻撃…」

◎アザディスタン王宮。マリナ、都市部の爆発を見ながらニュースを聞く。
マリナ「そんなことをしたら、どちらの感情も悪化させるだけなのに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・このままだと・・・」
◎何かを決意したような表情。

◎AEU中央議会
AEU首脳「ソレスタルビーイング、いったい何を考えている?」

◎人革連基地
セルゲイ「馬鹿な。一度の軍事介入で300年以上続いている紛争が終わると本気で思っているのか?」

◎ティータイムの留美。お茶を注いでやるアニュー
留美「一度だけじゃない。何度でも介入するわ」

◎トレミーで飲酒中のスメラギ
スメラギ「紛争が終わるまで。憎しみが私達に向けられるまで」
268通常の名無しさんの3倍:2009/10/24(土) 23:28:17 ID:???
多分支援が要りますね。
269通常の名無しさんの3倍:2009/10/24(土) 23:37:10 ID:???
支援
270通常の名無しさんの3倍:2009/10/24(土) 23:38:42 ID:???
もう少し早めに支援しておけば良かったか。
レス数を書いていてくれると嬉しいんだぜ。
271通常の名無しさんの3倍:2009/10/24(土) 23:50:40 ID:???
猿は午前零時で一度リセット
連続10回目の書き込みで猿は発動するだったか?
だから九回目の書き込み前に支援があると職人は投下しやすい。
272通常の名無しさんの3倍:2009/10/24(土) 23:53:28 ID:???
だいたい五回くらい連投していたら、念のために支援、で良いのかな?
273あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/25(日) 00:01:01 ID:???
第2話「ガンダムマイスター」 Bパートその6

◎宇宙。CBのシンボルマークに似た形の謎の宇宙建造物。
薄暗いブリッジ。
リボンズ「ミッションVL7、00システムが発動するその時まで。」
リヴァイヴ「さて、行こうか」
ヒリング「私達もミッション開始ね。」

◎帰投中のマイスターズ
アレルヤ「エクシアはどうしたんだい?」
ロックオン「先に帰投した。初めての紛争介入だ。思うところがあるのさ」
ティエリア「わからないな。なぜ彼がガンダムマイスターなのか・・・」

◎帰投中のエクシア。アラートが鳴る。
刹那「センサーに反応・・・?」

◎接近するノーマルフラッグ。
刹那「ユニオンのフラッグ?」

◎エクシア、接近する。
フラッグ空中変形。
エクシアとフラッグのつばぜり合い

グラハム「また会えたな!ガンダム!!」
刹那「何者だッ!?」
グラハム「グラハム・エーカー…君の存在に心奪われた男だ!!!」
グラハムのドアップババーン



次回予告
対話すら拒絶する行為に意味はあるのか?
憎しみだけで変革は訪れるのか?
次回『変わらない世界』
これぞ、否定できぬ現実

274あざーん(´・ω・`)だぶるおー:2009/10/25(日) 00:01:58 ID:???
ラストの投稿、遅くなってごめんなさい。
今回の投稿は以上です。

アドバイスありがとうございました。
275通常の名無しさんの3倍:2009/10/25(日) 00:07:57 ID:???
投下乙。
276通常の名無しさんの3倍:2009/10/25(日) 10:59:47 ID:???
シナリオだな
277FRESH ◆dd6HEbFuA. :2009/10/25(日) 13:52:53 ID:???
>(※地上用コンテナはありません。エクシアもデュナメスも地べたで透明化して待機中。)
↑こう言うのを一つずつ文章にしていかないと、読んでる方はわかりにくいよ。
278通常の名無しさんの3倍:2009/10/25(日) 13:54:30 ID:???
ありゃコテ付けっぱなしだった。
一意見としてどうぞって意味で提言してみました。
コテ申し訳ない。
279通常の名無しさんの3倍:2009/10/25(日) 14:06:02 ID:???

それよりも
(※地上用コンテナはありません。エクシアもデュナメスも地べたで透明化して待機中。)

シナリオならできるだけ本編で用いられている言葉を使わないと、子供っぽく見えるのが気になった。
またこのスタイルで書くなら、設定の文章が誰かに語りかけるような語尾なのは、違和感がある。

「地べた」→地上、地面
「透明化」→光学迷彩?だったか

一例を挙げれば
(※地上用コンテナの中でなく、エクシアもデュナメスも地上で光学迷彩を用いて待機中。)
こんな感じ。

投下乙。
280通常の名無しさんの3倍:2009/10/26(月) 12:21:07 ID:???
好きに書けばいいんですが読み手に依存する書き方をしてるとオリジナル展開になった時に苦労しますよ
281通常の名無しさんの3倍:2009/10/26(月) 14:43:40 ID:???
ガンクロwikiから来ました。
こんなスレあったんですね。
FRESH VERDURE読ませていただきました。
執筆頑張ってくださいな。
282通常の名無しさんの3倍:2009/10/27(火) 01:24:04 ID:???
あざーんの人のシナリオをWIKIに保管しました。
投下乙。
283通常の名無しさんの3倍:2009/10/27(火) 02:33:30 ID:???
>>木星の花嫁
刹那とダブルオーライザー登場までの引っ張り方が良いと思った。
284通常の名無しさんの3倍:2009/11/01(日) 18:23:24 ID:???
保守
285文書係 ◆gIyeyjcT.M :2009/11/02(月) 13:09:59 ID:???

 「よっしゃ規制解除だぁーーーっ!! おいポニテ君、さっそく俺様と『恋の手ほどき』の続きをだな」
「ポニ……? 悪いけど、てっきり長期規制かと思ってのんびり構えてたら、推敲が間に合わなくて……
いやはや、面目ない」
「お前ソレ、何の話してんだ?」
「いや、ちょっとした連絡事項。こっちの話さ――君こそ規制解除って何のことだい? あと小説四巻も出て、
手直ししたい箇所も幾つかあってね」

「俺もお前も出番なんてほとんどねぇじゃねえか。ま、俺は大佐と絶讃!愛の逃避行中だから構わねーけどな!」
「それを言うなら、脱走だと思うけど……」
「こまけぇこたぁいいんだよ! ところで俺、いつまで野郎相手にワビシク飲んでりゃいいんですか? 早く迎えに
来てくださいよぉ、大佐ぁ〜」
(迎えに来てもらうつもりなんだ……)

すきまおわび保守。
286通常の名無しさんの3倍:2009/11/03(火) 06:21:49 ID:???
>>285
保守乙
規制解除待ってる!
287保守ネタ見習い:2009/11/06(金) 23:08:24 ID:???
----------キリトリ--------------------キリトリ--------------------キリトリ-------------------
どんな願いもかなえてくれる伝説の天使が出現する慰霊碑をさがして睦月と涼子は旅立った。
雨にも負けず風にも負けず、砂漠を横断し森を抜け、草原の先にある慰霊碑にたどり着いた。
もちろんナヴィに乗って楽々と。

丸っこいのが現れた!丸っこいのが体当たり攻撃!
「ニイサン!! ニイサン!!」

防御失敗!ナヴィのドアがヘコんだ!
睦月もビックリ、ナヴィにあんな丸っこい弟がいたなんて。

睦月と涼子は呪文を唱えた!
シンカコイイマユカワユス シンカコイイマユカワユス
天界より天使マユが現れた!

天使マユはすべてお見通しだ!
涼子はコントローラーを握った!

・フツーの女の子になりたいですか?
→はい
 いいえ

涼子は倒れた!
だが目覚めるときにはどこにでもいる、フツーの少女になっているはずだ。

天使マユは睦月を見た!
睦月はコントローラーを握った!
私はかぁさんの娘、白井睦月なんだ!どこにでもいるフツーの中学生なんだっ!
(涼太さんと両思いになりますように。身長があと5cmほしいです。体重はこのままで。
2年後にはボンキュッボンで。どんなに食べても太らない体質に。順次妄想炸裂頭脳明晰料理上手
性格良好三年後地球規模全世界的美女選抜大会出場優勝後映画進出世界的有名女優一方涼太
戦場英雄大出世参謀総長睦月涼太大恋愛結婚出産続々妄想三昧美味即席明星中華三昧etc)

すべてお見通しの天使マユは呆れている。そして天使マユは睦月に問いかけた!

・ケーキの上に載ってるイチゴと炊きたてご飯に載っかった梅干しはどっちが好きですか?
 イチゴ
→梅干し

睦月は雑念が多すぎた。 しかも痛恨の選択ミス!
おてんば天使マユは逃げ出した!

こうしてフツーの少女になった涼子と、紀州南高梅を一粒手に入れた睦月は無事に家に
帰りましたとさ。めでたしめでたし。

----------キリトリ--------------------キリトリ--------------------キリトリ-------------------
不用でしたら切り取って破棄してくださいね。
288通常の名無しさんの3倍:2009/11/06(金) 23:24:30 ID:???
>>287
切り取って頂いときましたよ、保守乙&GJ!
289(SEED『†』代理投下):2009/11/06(金) 23:28:18 ID:???
SEED『†』の作者45 ◆HHRSJTtlhQ氏が長期寄生……
いや長期規制に巻き込まれ中ですので、
SEED『†』の続き5レスをこれから代理投下させて頂きます。
290(SEED『†』代理投下):2009/11/06(金) 23:30:51 ID:???
■迂闊で残念な赤服の長電話
1/

 ――ニホン フクオカシティー 中州地区

 時速85キロで蹴り破られた安普請のドアは、薄汚れた一室を滑空して、向かいの窓から飛び出した。

「ディアッカ=エルスマン! 覚悟!」

 むき出しの床に一回転しつつ、ダブルタップの相手を求めて拳銃を構えたシホ=ハーネンフースは、
もぬけの殻となった安宿の部屋に「居ないか」と落胆しつつ、肩から吊ったホルスターに黒光りする
銃身を差し込んだ。同時に、木製のドアが裏通りに落下するけたたましい音が早朝の下町に響き渡る。

 火薬の匂いはしない。神経を僅かに鎮めたシホは、怨敵の気配を残す部屋を見渡す。
 破れを足ふきマットで塞いだソファー……異常なし。
 スプリングの壊れたマット……異常なし。
 蝶番の外れたキャビネット……異常なし。
 砂嵐を映すデジタルテレビ……異常なし。

 六面見回して、何の変哲のないボロ宿の部屋だ。シホの月収で50年は借りられるだろう。

「忘れ物……じゃないわよね?」

 ただ一つ、テーブルの上に備品のように置かれた通信機を除いては。

 ぴりりりり。
 部屋に似合って安っぽい電子音を立て始めた通信機に、シホはゴキブリに対する目を向けていたが、
やがて観念したのか、手のひらに収まる中距離通信機を耳に当てた。

「早く死ねばいいのに。特別に私が手伝ってあげるわよ、裏切り者」
『残念、俺の死因は美女に悩殺されるって、決まってるのさ。良いキックだったぜ』

 開口一番、皮肉を交わしながら、シホは壁の死角に入り、窓の外に手鏡を向けた。エルスマンは
こっちを見ている。『そこからじゃ見えねえよ』裏切り野郎の声。通信機の端末画面を見ると、
アンテナが二本しか立っていない。ニュートロンジャマーの影響も計算に入れて、標的が近くには
居ないと判断したシホは、再び通信機を耳に当てた。脳内では既に、エルスマンを五回は蜂の巣に
している。

「"ターミナル"の諜報員に接触して、何の調べごとをしていたのよ?」
『お嬢さんにはとても言えない、俺とイザークの仕事だよ』
「動きの情報が宇宙にまで漏れてくるような雑魚が、隊長の手伝いを出来るとでも?」
『"俺が流した俺の情報"にのこのこ釣られた女よりは……役に立つつもりだぜ?』

 今、目の前にエルスマンが居たとすれば、視線だけで呪い殺せるだろうと思った。
291(SEED『†』代理投下):2009/11/06(金) 23:31:34 ID:???
2/

「その仕事とやら……私に寄越しなさい」
 シホ=ハーネンフースの苛烈なる行動原理には、ぶれがない。

「大人しくすれば命を"獲るだけ"で済ませてあげる」
 全てはイザーク=ジュールのため。プラントの未来を思うなら、それが最高最速最短最善最良の
手段だからだ。彼の敵は念入りに撃ち、彼の味方は厚く遇する。だがエルスマン、貴様は駄目だ。

『そりゃ怖い。アンタと話してると冷房いらずだな。だがよシホちゃん、お仕事を引き継ぐ前に
その部屋を出た方がいいぜ? 外から怖〜いお兄さん達が狙ってるからよ』
「……!」

 車のブレーキ音が甲高く響き、慌ただしく何人かが降りた。三人……全員男。足音だけで
目星をつけたシホは、裏路地に向けた手鏡の中におきまりの黒服姿を認める。とっさに読唇。
『アオキセイジョウナルセカイノタメニ』と宣言した黒服は、後部座席から打上げ花火のような
筒を引っ張り出して肩に担ぐと、二階に向けた。

『悪りぃ、呼んだのは俺だ。シホ=ハーネンフースの名前はでかい釣り餌だな』
「エルスマン――!」

 白い煙を吐きつつ上がってくるロケットランチャーの弾頭に拳銃を向けつつ、シホは叫んだ。


 ――ニホン フクオカシティー ???

 轟音を上げる通信端末から耳を離す。一拍遅れて窓の外、火薬の匂いがする遠雷が響いた。
こりゃ死んだか? と思う暇もなく、通信機が熱い16ビートの銃声を奏でる。

「ロケットランチャーで無事かよ。ミラ=ジョボビッチが裸足で逃げ出すぜ――グレイト。
ま、俺も逃げるけどな」

 数枚の記録メディアをクッションの効いたシートに置くと、青年は寝床から立ち上がった。


 ――ニホン フクオカシティー 中州地区

「火薬が一匙……足りなかったようね」
 ロケットランチャーを中空で迎撃、暴発させた。
 シホは、血相を変えて喚く宿の主人に年収分ほどの札束を渡しつつ、残弾を確認した。
外からは続けざまに急ブレーキの騒音――四台の乗用車に、シホの居る宿は囲まれたようだ。
292(SEED『†』代理投下):2009/11/06(金) 23:32:15 ID:???
3/

「一台4人としても、16人ね……。弾は予備弾倉含めて30――」
 シホ=ハーネンフースの苛烈なる行動方針には、ぶれがない。

「何よ、余裕じゃない」
 MS戦だろうが白兵戦だろうが宇宙だろうが地球だろうが――残弾>敵の数、
この不等式が成立する限り、黒髪の鳳仙花に敗北と撤退の文字は必要ない。

 もし、足りなくなったら? そんな逆境、隊長への愛で補えるに決まっている。

 二階の窓を破って飛込んだ円筒が、催涙ガスを吹き出す。視界を奪われる前に駆け抜けようと
した廊下を"何か"が転がる気配。伏せる前に加速したシホは、床に転がる手榴弾を蹴り飛ばした。

「人の恋路をじゃまする奴は――」
 綺麗な放物線を描いた手榴弾は、割れた窓から外に排出されて爆発。

「――弾に当たって死になさい」
 角の死角に潜んでいた二名の黒服の、ガスマスクと胸にそれぞれ一発ずつ打ち込んで、
シホは窓から身を翻した。四メートルの無重力旅行を経て、出店のテントに着地する。

「痛っ……!」
 打った尻をさすっているシホをひき殺すべく、ドリフトしながら黒塗りの乗用車が現れた。

 フロントガラス――血走った目のやせ男に銃口を向ける。電磁力で打ち出される直径4mmの"矢"は、
防弾ガラスへ立て続けに突き刺さり、白いヒビでドライバーの視界を奪った――それが不味かった。

「ああ、なんて事……」

 宿命と言おうか、運命と呼ぼうか――。
 コントロールを失った乗用車は激しくスピンしながら、9割の様式美と一割のお約束に従って
芸術的に配置された"果物の屋台"に突っ込み、"積まれたオレンジ"を路上にぶち撒いて壁に激突、
ボンネットから白煙を上げた。

 電気自動車なのに。

「……やはり避けられないことなのね」
 背後から寄ってきた巨漢の拳を交わし、膝で金的を蹴り潰しつつ振り上げた銃床で顎を砕く。
節約した弾丸を、思い直して倒れた巨漢に一発撃ち込んでから、シホはそう言って嘆息した。

『元気だな――港まで聞こえてくるぜ』
「港ね……入水自殺は苦しいらしいわよ」
 車に追われないように路地裏に入る。
293(SEED『†』代理投下):2009/11/06(金) 23:32:57 ID:???
4/

「美女に追いかけられるってのは楽しいもんだ」
「ミリアリアとかいうナチュラルでも追いかけていれば良かった物を……。
まあ、私に捕まる無様なところを、見られなくて良かったわね」
『ああ……確かに見せたくないところはあるな』

 と、シホは北に向う歩みをゆるめた。路地の角を曲がった先に、紙袋を抱えた少年が
立ち尽くしていたからだ。シホの険しい顔と拳銃を目にして、怯えているようだった。

「危ないわよ。向こうに隠れていなさい」
 ナチュラルかコーディネーターか区別はつかないが、精一杯の優しい声とともに、
シホは拳銃を降ろした――少年は銃を"持ち上げた"。

 ――暗殺者! 頭が空白になる。黒い銃口がシホを覗く。銃を構え直す手は絶望的に遅い。
少年の細い腕が、引き金を引くために力を込めた。

 音速を超えて走る銃弾――頭から血の霧を吹き出して、少年が倒れる。
 銃声は後から聞こえた。

『……子供の頭を吹っ飛ばす、だとか、そんな所は見せたくない』
「エルスマン――!」

 着弾と銃声の時間差、角度、射角――全てを瞬時に逆算して、射手の潜むビルを特定。
シホは身を隠すこともせずに駆けだした。

 倒れた少年の、黒い虚ろな瞳がシホを映している。小さな目蓋を閉じる余裕すら無い。

 背を向けたシホが六歩、遠ざかった時、生命活動の完全に停止した少年の体は、内側から
指向性爆薬によって吹き飛んだ。背中を殴られる衝撃によろめきながら、シホは脚を動かす。
ピンク色の肉片を、ブーツの踵が踏みつぶした。シホの右腕が返り血で紅蓮に染まっていた。

「証拠隠滅……? おのれ、エルスマン!」
『"殺した"のは俺だが、"死なせた"のは俺じゃねえよ』
 エルスマンはシホを殺そうとしていない――それは確信があった。だからと言ってシホが、
エルスマンを見逃す理屈など何処にもなかった。

『それよりも、迂闊だぜハーネンフース。俺が死んだってイザークは"悲しむだけ"だが、
アンタが死んだら"困る"だろうが、あいつが』
「……!」
 屈辱が脚を早めた。
294(SEED『†』代理投下):2009/11/06(金) 23:33:54 ID:???
5/

「ディアッカ=エルスマン……お前が隊長のために動いていることは否定しないわ」
 シホ=ハーネンフースの苛烈なる恋愛感情には、ぶれがない。

「でも……それは私の役目よ!」
 それは奇妙な"恋敵"であるとすら言えるディアッカ=エルスマンへの殺意になって現れるが、
イザークはシホの感情に頭を抱えたことはあっても、力尽くで制止しようとしたことはなかった。

 それは――ああ、なんと忌々しいことだろう――エルスマンが、イザークから得がたい信頼を
受けているからだ。シホがどれ程敵視しようとも、その銃弾がエルスマンに届く事は無い、と!

 600mの路地を90秒で駆け抜けたシホが、狙撃地点の扉を蹴破って侵入した時すでに、
そこにディアッカの姿はなかった。天井の高い倉庫の中央にはシートを掛けられた山がある。

 いや、巨大すぎて、即座にはソレが何であるのかを看破できなかっただけだ。
 シートの端から、無骨で重厚な機械の"指"が覗き見えていた。

「――モビルスーツ……ですって?」
 拳銃を構えたまま、「まさか忘れ物じゃないわよね」とシホは怪訝な顔を浮かべる。

『ゴールに着いたか? 俺は居ないよ、残念。それと湾内、ドーム球場の方からMSが上陸した。
パイロットは恐らくエクステンデッド。目標は当然アンタだよ』
 通信音声にノイズが混じってくる。NJの電波妨害が強化されているのだ。

「私を囮にして逃げるつもりなのね……」
『……ついでに、"バスター"のコクピットにイザーク宛の資料を入れてある。届けてやってくれ』

 ――勝手なことを! ありったけの罵詈雑言を返そうとしたとき、端末のアンテナが全滅して、
通信音声が途切れた。と、倉庫の外にようやく追いついた自動車のモーター音が、甲高く響いた
急ブレーキの歓声にかき消される。残弾を確認したシホは、数の不利を悟った。

「……上等じゃない」
 シホはぐつぐつと煮えたぎる腹を宥めながら、モビルスーツのシートを捲った。右腕のない
砲撃型G、"バスター"が、仰向けに安置されている。

 エルスマンがバスターを置き去りにしてシホに任せたのは、半壊したバスターでは、追っ手を
撃退できないと悟ったからだ。

 ――私ならば出来る! ジュール隊長の右腕たる、この私ならば!
 忠誠と矜持と愛憎と、全ての感情を胸に燃やし。その熱量を原動力に、煮えたぎらせた戦意を
以て、シホは怨敵の愛機、そのコクピットへと体を滑り込ませた。
295(SEED『†』代理投下):2009/11/06(金) 23:34:53 ID:???
6/6

 ――ニホン フクオカシティー ???

 寂れた街路を歩く青年は、船を漕ぐ乞食の前で立ち止まった。

「おい、こんな所で寝てたら戦争に巻き込まれるぜ、オッサン」
 目やにのたまった眉を難儀そうに開けた男は、ノリの利いたシャツとスラックスを纏う青年の
小奇麗な格好に、顔をにやけさせた。

 青年は暫し考え込んで、尻ポケットから手のひらサイズの通信端末を取り出し、男に放る。

「ザフト製軍用通信端末路……そこらの電気屋にでも売って足しにすりゃあいい」
「へへ……ありがたいこってす」
「困ったときはお互い様、さ。此処はモビルスーツが来るかも知れないぜ? 今の内に
シェルターに逃げた方が良い」

 青年の忠告を無視して、男は端末をいじくり回している。やがて探り当てた電源スイッチを
入れると、激しいノイズ溢れて男は顔をしかめた。

「今はNJが聞いてるから使えないさ」青年の説明にも不満げなのは、もう片方の端末が
何処かにあるはずだ、と思っているからだ。

「ああ……もう暫くしたら、長い黒髪の女が俺を探しに来る。俺の行方を聞かれるだろうが、
素直に教えれば、相方の端末をくれる筈だぜ」

 頭を地面にこすりつけて感謝する乞食を背に、青年は歩き始めた。乞食が正直に行方を
語ろうと、逆を言ってくれようと関係ない。その頃には既に姿を眩ませているからだ。

「さあて、長丁場も終ったことだし、天使か女神様のケツでも追いかけますか」

 モビルスーツ同士の激しい戦闘振動がアスファルトを揺らし始めた街で、
背伸びをする青年の姿は、やがてがれきの向こうへと消えていった。

■狡猾で残忍な男の長丁場 了
296(SEED『†』代理投下):2009/11/06(金) 23:37:33 ID:???
申し訳ありません。本編の続き5レス、ではなく
短編6レスの誤りでした。

作者氏と皆様に、代理投下人が全裸正装で伏してお詫び致しますorz
(代理投下完了)
297通常の名無しさんの3倍:2009/11/07(土) 00:15:05 ID:???
45氏も代理さんも投下乙です
相変わらず45氏の書く女性キャラはイキイキとしてカッコかわいいな
次回の投下もお待ちしています
298通常の名無しさんの3倍:2009/11/07(土) 20:23:27 ID:???
>>287
なんだこれwwなんで梅干しw

>>289
>SEED『†』の作者45 ◆HHRSJTtlhQ氏が長期寄生……
新人スレの長期寄生職人w
299通常の名無しさんの3倍:2009/11/08(日) 16:46:08 ID:???
連載中だから長期寄生でも大丈夫!
300通常の名無しさんの3倍:2009/11/09(月) 15:18:44 ID:???
いつまで新人というのは読んでてたまに思う
301文書係 ◆gIyeyjcT.M :2009/11/10(火) 20:23:12 ID:???
初投下作完結までかなあと自分は考えてます。
とりあえず完結しないといかんですが……
明日かあさってあたり投下に来ますノシ
302長期寄生後 ◆HHRSJTtlhQ :2009/11/10(火) 21:42:21 ID:???
ただいまからSEED『†』の続きを投下します。
多分10レスです。
30345:2009/11/10(火) 21:48:13 ID:???
すいません。
また規制を喰らいました
304文書係@携帯:2009/11/10(火) 22:19:43 ID:???
自分もです、すいませんorz
「またかよぉおお〜」
305あざーん(´・ω・`)第3話その1:2009/11/12(木) 23:43:01 ID:???
アバン
◎刹那vsグラハム。モニター越しにエクシアを見つめるグラハム。
グラハム「また君に出会えようとは・・・乙女座の私には、センチメンタリズムな運命を感じられずにはいられないなァ!!!」
刹那「高出力で押すか・・・・舐めるなッ!!」

◎GNソードでフラッグを払う。さらに、切り掛かろうとするエクシア。
グラハム「圧倒されただと!?・・・しかし!その大きな得物では当たらんよ!」

◎GNソードを避けるフラッグ。
刹那「避けた!?」

◎フラッグ、リニアライフルを連射。回避するエクシア
刹那「この程度の射撃・・・退けッ!」

◎エクシア、ビームサーベルでフラッグのライフル破壊。
グラハム「ビームサーベルだと!?・・・クッ・・・」
刹那「・・・・撤退したか・・・・」


Aパート
◎アザディスタン王国。時刻は夜。都市部ではあちこちに煙が。
寺院にいるマスード・ラフマディ。ノックが聞こえる。
ドアを開けると、質素なドレスに身を包み、スカーフで髪を覆ったマリナ。

◎マリナとマスード、テーブルに座って会話。
マスード「そうか・・・また外交へ・・・」
マリナ「これ以上、改革派と保守派の争いが続くと、CBの介入を許してしまいます・・・。」
マスード「この国を救うには太陽光発電システムが必要・・・。」
マリナ「保守派の人達を刺激してしまいますが、私がこの国を出ている間、宜しくお願いします・・・。」


◎ユニオンMSWAD 格納庫
ビリー「いやはや、本当に予測不能な人だよ君は」
グラハム「ライフルを失った。始末書ものだな」
ビリー「その心配はないよ。今回の戦闘で得られたガンダムのデータは、フラッグ1機を失ったとしてもおつりが来る。それに・・・」

ビリー、ミッションレコーダーを再生。
「何者だ!?」「君の存在に・・・」と先の戦闘での会話が流れる。

ビリー「パイロットの声や、接触時に付着した塗料から足取りをつかめるかもしれないしね」
ハム「それにしても若かったな…あのパイロットは。動きに感情が乗っていた。」
ビリー「あんなオーバーテクノロジーの固まりに乗ってるのが、若いパイロット?まさか。」
◎ユニオン経済特区 東京 JNN本社
イオリアについて調査中の絹江。
絹江「イオリア・シュヘンベルグ…21世紀の後期に出現した希代の発明王。太陽光発電の基礎理論の提唱者……」
(公に姿を見せず、血縁も彼の代で途絶えている……
でも、この人物がソレスタルビーイングを創設したならうなづける。才能的にも、資金的にも。
・・・・それにしても、どうして200年以上たった今、彼らのは動き出したの?)


◎太平洋。トレミー。帰投した刹那。
ロックオン(通信)「エクシア、視認した」
アレルヤ(通信)「着艦準備開始。下部コンテナ、オープン」

刹那「エクシア、着艦する。」
◎エクシア着艦。コンテナハッチ閉められる。

アレルヤ(通信)「着艦完了。エクシアのGNドライブ、トレミーとの連結作業開始」
ロックオン(通信)「エネルギー、エクシアからトレミーへの転送準備完了、転送を開始する。」


◎格納庫。カレルを操作して整備をしているクリスとフェルト
クリス「刹那ったら、先に帰投したって聞いたのに、一番遅く帰ってくるなんて。フェルト。エクシアの整備はあたしがやっとくわ。損傷もほとんど無いみたいだし。」
フェルト「ううん。一緒にやった方がクリスも早く休めるから・・・」
クリス「ありがとう。」
ハロ(オレンジ)「セツナ!セツナ!」
刹那「・・・」
クリス「ミッションおつかれさま〜♪」
フェルト「(クリスの後ろに隠れて)お、おつかれさま・・・」
刹那「・・・・・・・・ああ」
クリス「ちょっとは愛想良くしなさいよ?」
刹那「・・・・・・・・」
クリス「んも〜刹那といいティエリアといい」
フェルト「・・・」
クリス「(フェルトの方を向いて)・・・フェルトもあんまり怖がっちゃ駄目よ?誰に対してもああなんだから。」
フェルト「うん・・・」


◎ブリッジ。刹那が入ってくる。操舵席に座ってるティエリア。オペレーター席に座っているロックオンとアレルヤ。
ロックオン「よう、遅かったじゃないか、この聞かん坊め」
ティエリア「死んだかと思った」
アレルヤ「何かあった?」
刹那「・・・・ヴェーダに報告書を提出した。」

◎砲撃の所に腰掛ける刹那。
ティエリア「あとで閲覧させてもらうよ」
刹那「・・・・ああ・・・」
ロックオン「…まあ、全員無事で何よりってことで。」
アレルヤ「サードミッションもすぐに来る。・・・・折角地上に降りたんだから、少しは休暇が欲しいけどね」
ティエリア(・・・不愉快だ。重力というものは。)
◎トレミーのキッチン 料理中のモレノとハロ。泥酔したスメラギ。
モレノ「ファーストミッション、セカンドミッションだけで死者が200人を超えた?」
スメラギ「・・・ヴェーダからの情報よ。・・・まったく・・・ヴェーダもどうやって情報収集してんだか。・・・各国首脳から後進国の一般人のデータ、さらにはついさっき生まれた人間やついさっき死んだ人間の情報まで・・・」
モレノ「・・・その情報を律儀に閲覧しているお前もお前だ。」
スメラギ「・・・せっかくのヴェーダの力、使わないわけにはいかないでしょ・・・」
モレノ「死んだ人間の数を数える度に塞ぎ込んで酒に溺れてりゃ世話ないな。他の奴らを見習え。操舵、戦況オペレーション、砲撃、整備、ついでに料理洗濯掃除。皆自分の担当以外の仕事だってしてるんだぞ?」
ハロ(水色)「テツダエ!テツダエ!」
スメラギ「わかってるわよぉ・・・・」

◎第1サブブリッジ、第2サブブリッジの火気管制システムをメンテナンスするラッセとリヒティ
リヒティ「オレら実行部隊は少数で行動しろってヴェーダから言われてるけど・・・」
ラッセ「守秘義務のためだろ。代わりにハロをたくさん渡された。」
リヒティ「この戦艦、砲撃のためのサブブリッジが2つもあるんだから、もうちょっと人員増やして欲しいっす・・・」
ラッセ「緊急時にイアンのおやっさんやモレノさんが砲撃をやってくれるさ。普段はハロに任せなきゃならんが。」
リヒティ「・・・ハロじゃ限界あるっすよ・・・ハロのメンテだって楽じゃないんだから・・・」


◎支援組織に配るコンデンサのチャージ作業中のイアン。リンダと通信上で会話。
ハロ(緑)「コンデンサチャージ。コンデンサチャージ。」
リンダ「こっちのチームは粒子チャージ100%のコンデンサ、確かに受け取ったわ。第3、第4支援部隊にも送るよう、アニューに言っといてね。」
イアン「GN粒子を作れるのはガンダムの太陽炉だけだから、各アジトにも送るのもひと作業だな」
リンダ「実行部隊が動かせる太陽炉は4つしかないのがね〜。第2世代の機体は粒子貯蔵タンクで動かすしかないし。」
イアン「Oガンダムとその太陽炉は上層部が持っていっちまったし・・・それより、ミレイナは元気か?」
リンダ「今年、飛び級でハイスクールに入ったわ。宇宙工学専攻よ。あなたと一緒ね。」
イアン「おいおい・・・あいつには、普通の人生を歩んで欲しいんだが。」


◎人革連 統合司令部
セルゲイ「ガンダムの鹵獲・・・ですか。 」
キム司令「ユニオンやAEUよりも先に手に入れろ。」
セルゲイ「はっ!」
キム司令「専任の部隊を新設する。人選は君に任せるが、ティエレンのチューンとガンダムの研究の為に、主席が推薦した技術顧問を配属させる。入りたまえ。」

◎人革連の軍服を着たリヴァイヴが入ってくる。
リヴァイヴ「本日付けで、人革連技術顧問として着任しました、リヴァイヴ・リバイバルです。」
◎ユニオン MSWAD本部 報告中のグラハムとビリー
MSWAD幹部「アフリカをユニオン入りさせるための戦闘が、とんでもないことになってしまったな。」
グラハム「あのような機体が存在しているとは、想像もしていませんでした」
ビリー「研究する価値があると思いますが」
MSWAD幹部「上もそう思っているようだ。ガンダムを目撃・戦闘をした君たち2人に転属命令が下りた」
グラハム「対ガンダム調査隊…ですか?」
MSWAD幹部「新設の部隊だ。正式名は、追って司令部が付けてくれるだろう」
ビリー「レイフ・エイフマン教授…技術主任を担当するんですか?!」
MSWAD幹部「上はそれだけ事態を重くみているということだ。早急に対応しろ」
グラハム「グラハム・エーカー中尉、ビリー・カタギリ技術顧問、対ガンダム調査隊への転属、受領いたしました!」


◎東京のハイスクール。教室からゾロゾロと生徒達が出てくる。
サジ「あ〜あ、今度は北アイルランド紛争のレポートかぁ。工学部なのにどうして歴史の単位が必要なんだろう…」
ルイス「これからの技術革新は、軌道エレベーター保持とスペースコロニーの開発が中心となる各国との技術者との交流のためにも、歴史観を養う必要がある…って先生行ってたでしょ?」
ミレイナ「そのおかげでハレヴィさんは留学できてるですぅ!」
サジ「まあ、技術者になったら、いろんな国の人と仕事しなきゃいけないからね。」
ルイス「私と一緒にね♪」
サジ「???」
ミレイナ「・・・クロスロードさん、面白いぐらい『キョトン』としてるですぅ・・・」
ルイス「むー。ぷい。」
サジ「ど、どうしたの?急に」
ミレイナ「クロスロードさん、何してるです!こういうとき、追いかけるです!」
サジ「待ってよルイス〜」


◎ユニオン領のホテルのラウンジ
留美「エージェントから伝えられていると思いますが、間もなくサードミッションです。」
アレハン「モニターを三つ用意すること勧められている。刮目させてもらうよ」

◎少し離れた席に座ってるリボンズとアニュー
リボンズ「リヴァイヴとヒリングはそれぞれ人革連とユニオンに行ってもらったよ。」
アニュー「リジェネはAEUに送るの?あの子"あの一件"以来貴方にたいして反抗的だから、素直に聞いてくれるかしらね?」
リボンズ「・・・・・それより、サードミッションの事だが・・・」
アニュー「南アフリカ、中米ともに鉱物資源を巡っての争い。・・・くだらない。」
リボンズ「・・・君の指輪に使われている原石も、争いの元となっている鉱物なんだよ?」
アニュー「向こうがどうしてもって言うから貰ってあげただけよ。」
Bパート
◎軌道エレベーター付近の人革連基地。回収されたキュリオスのテールユニット
セルゲイ「あれが、前回のセイロン島での戦闘後、回収されたパーツか。」
リヴァイヴ「モビルスーツの爆撃用オプションパーツです。材質はEカーボン。最新素材ではありますが、構造上、目新しい技術は確認されていません」
セルゲイ「搭載されていたミサイルは?」

◎テールユニットをくまなく調べてる研究員達。
リヴァイヴ「残留物を調査したところ、ミサイルは300kg程度の誘導タイプ。ちなみに、このタイプを開発している国やメーカーはありません」
セルゲイ「やはり、独自開発か」


◎ユニオンMSWAD基地。調査中のビリーとグラハム。
ビリー「機体の受けた衝撃度からみて、ガンダムの出力はフラッグの6倍はあると思うよ。どんなモーター積んでるんだか」
グラハム「出力もそうだが、あの機動性だ」
ビリー「戦闘データで確認したよ。やはりあの機動性を実現させているのは…」


◎人革連基地。
セルゲイ「光?」
リヴァイヴ「はい。ガンダムの機体から光る粒子のようなものが放出されていたと」
セルゲイ「・・・納得できる証言だな。」


◎ユニオンMSWAD
グラハム「あの特殊粒子は、おそらく機体制御に使われている」

◎エイフマン教授、ヒリングを連れて格納庫に入ってくる。
エイフマン「おそらくは、火器にも転用されているじゃろうて」
ビリー「レイフ・エイフマン教授!そちらの女性は確か・・・」
グラハム「調査隊員のリストに載っていた、ヒリング・ケアか?」
ヒリング「よろしくね♪」
エイフマン「恐ろしい男じゃ、わしらより何十年も先の技術を持っておる」


◎人革連基地
セルゲイ「イオリア・シュヘンベルグ・・・」
リヴァイヴ「・・・ソレスタルビーイングの犯行声明に登場していた歴史上の人物です」
セルゲイ「名前は知っている。太陽光発電システムの提唱者だったな」
リヴァイヴ「諜報部はその線からガンダムを追いかけているそうです」
セルゲイ「叩いて出る埃はあるまい。このパーツもそうだ。見せていい技術は使い捨てている」


◎セルゲイの端末が鳴る。
セルゲイ「私だ・・・・・・・・・そうか、わかった。(端末OFF)AEUが動き出した。天柱の防衛システム・ティエレンジィージューに向かっている。総員、第一種戦闘配置!」
◎ユニオンMSWAD
エイフマン「できることなら捕獲したいものじゃ」
グラハム「同感です。そのためにも、この機体をチューンしていただきたい」
エイフマン「パイロットへの負担は?」
グラハム「無視していただいて結構。ただし、期限は1週間でお願いしたい」
ヒリング「着任早々、無茶言うわね〜」

◎グラハムの端末が鳴る
グラハム「私だ。何、ガンダムが出た!?2か所!?」


◎AEU中央議会
AEU首脳A「場所は南アフリカ?」
AEU首脳B「おそらく、鉱物資源の採掘権を発端とした内戦への武力干渉かと」


◎南アフリカ地域 鉱物資源採掘現場
リアルド部隊vsアンフ部隊が戦っている。
キュリオス乱入。ミサイルランチャーで両成敗。両陣営撤退。
アレルヤ「撤退を確認。ミッションコンプリート。・・・・・・・これじゃ弱いものいじめだよハレルヤ」


◎ユニオン大統領官邸
大統領「もう1か所は中米の民族紛争への干渉・・・・」


◎中米の民族紛争。リアルドよりさらに旧式の機体での戦闘。旧式の戦闘機もあり。
ヴァーチェ乱入、GNバズーカで両成敗。
ティエリア「ミッションコンプリート・・・」

◎アラートが鳴る。
フラッグ、急速接近。
グラハム「あれが人革連のテロに介入したガンダムか!!」
ティエリア「・・・報告書にあったフラッグか!!」

◎フラッグ、リニアキャノンを連射。
ティエリア「GNフィールド展開」
グラハム「攻撃が効かないだと!?・・・ならば接近戦で!」

◎フラッグ、ヴァーチェに接近。
ハム「手土産に破片の一つでも!」
ティエリア「ちぃっ!!」

◎GNキャノン2発発射。卓越したテクニックで避けるグラハム。
ティエリア「2度も避けた!?」
グラハム「当たらなければどうという事はない!!」
◎トレミー、接近。
クリス「ヴァーチェ、視認しました。米軍のフラッグと交戦中です。」
スメラギ「ラッセ。GNミサイルでけん制後、スモークを発射。」
ラッセ「了解っ!」

◎フラッグ、プラズマソードで切り掛かるも、トレミーによる援護。スモーク発射。海中へ撤退
グラハム「・・・逃がしたか・・・CBの輸送艦やガンダムが持つバリアのデータが取れただけでも良しとするか・・・」


◎トレミー
フェルト「ヴァーチェ、ミッション終了。撤退を開始。」
スメラギ(・・・この間の報告書といい、今回といい・・・あのフラッグの動き・・・・変わってないのね、エーカー・・・)


◎天柱の防衛システム・ティエレンジィージューを襲撃するAEU。
ヘリオンvsジィージュー
ジィージューの連携とヘリオンの数で互いに接戦。
コーラサワーvsセルゲイ。ライフルの打ち合い。ミン中尉の援護。

コーラサワー「以前俺達に『条約規定以上の軍事力を保持してる』とか難癖つけてたやつが、こんなふざけたMS持ちやがって!」
ミン「天柱は他の軌道エレベーター以上にテロリストの標的にされていた!」
セルゲイ「自国の繁栄の為に無作為に旧式を第三国に流すAEUに言われる筋合いは無い!」
コーラサワー「人の事が言えるのかよォ!」
ミン「お前達も、ジィージューのデータが目的だろう!?」

◎ティエレンの攻撃!イナクトに命中するが、防御力も高い。
ミン「これが最新のイナクト・・・装甲はユニオンのフラッグより優れている・・・」
コーラサワー「スロー過ぎてあくびが出るぜ人革さんよォ!」

◎セルゲイとコーラの白兵戦。
セルゲイ「だが、攻撃ではこちらの方が有利!!」
コーラサワー「なんだとぉ!?」
セルゲイ「武器さえ破壊すれば!」

◎ビームが乱入する。
デュナメスの攻撃によりコーラサワーまた撃墜される
コーラサワー「なんじゃそりゃー!!」

◎エクシア&デュナメス、ティエレンやヘリオンを次々と撃破!
エクシアvsAEU
AEU兵「3番機やられました!」

◎デュナメスvs人革連
人革連兵「化け物かよ!?ガンダム!」

◎AEU軍、撤退信号。
ロックオン「AEUの白旗確認。どうする?人革さん?」
◎人革連、まだ迎撃体勢。
刹那「エクシア、紛争介入継続。目標を駆逐する」
ティエレンの攻撃をかわしつつ、GNソードで破壊する。

◎セルゲイ、エクシアに接近。刹那の射撃はかすりもしない。
刹那「この動き・・!?」
ロックオン「デュナメス、エクシアを援護する!」

デュナメス、空中から援護射撃。しかし、回避される。
◎ロックオン「お、俺が外した!?」

◎ミン、真上から乱入。ティエレンに踏みつけられるデュナメス。
ミン「やらせんぞ、ガンダム!」
ロックオン「マ、マジかよ!」
デュナメス落下。

◎ティエレンセルゲイ機突進
セルゲイ「戦争根絶とやらの覚悟を見せてもらうぞ」

◎エクシア、回避と同時にセルゲイ機の武器破壊。
セルゲイ「肉ならくれてやる!」

◎セルゲイ機、エクシアの顔面鷲掴み。
抵抗するエクシア。しかしGNソードでは小回りが利かず、思うように動けない。
セルゲイ「その首、もらったァ!!」
刹那「やるかよォッ!!!」

◎エクシア、ビームサーベルでセルゲイ機の腕切断。
さらにエクシア突進。セルゲイ機真っ二つ。

ミン「中佐!」
ロックオン「よそ見してんなよ!」
◎デュナメス、ビームサーベルでミン中尉機撃破。


◎モニターで戦闘の様子を見ている監視者
留美「少し腕の立つパイロットが現れた途端、苦戦なんて。」
アレハン「力任せだ。ガンダムの性能にたより過ぎている。」

◎少し離れた所でリボンズとアニュー
アニュー「イオリア・シュヘンベルグが、CBの組織統制のために用意した『監視者』・・・いい気なものね。」
リボンズ「"ミッションVL5"までの辛抱だよ。」
アニュー「よく言うわ。『監視者』のシステムを一番嫌っていたのはあなたなのよ?」
◎アレハンドロ、留美、監視終了
アレハンドロ「サードミッションは終了した。」
留美「次は、支援組織の監視に行くわよ。」
アニュー(優しく微笑んで)「かしこまりました。お嬢様。」
リボンズ(・・・やれやれ、相変わらず変わり身が早いね。)


◎経済特区 東京
沙慈宅にて電話。
沙慈「もしもし、あ、池田さん?どうしたの?うん。姉さん。池田さんから。」
絹江「はい。・・・・・・・・・分かりました。すぐにそちらに向かいます。」

◎絹江いそいそと仕事の準備
沙慈「また呼び出し?」
絹江「CBやイオリア・シュヘンベルグについて調査する部署ができてね。」


◎夜。トレミーブリッジ
クリス「ガンダム4機、着艦しました。」
スメラギ「ごくろうさま。早く来て。祝杯をあげましょ。」
ティエリア「慎んで辞退します。」
スメラギ「いけずぅ。」
◎苦笑するロックオンとアレルヤ。


◎アザディスタン王宮。
出発前のマリナ、CBが各地に介入したというニュースを見ている。
マリナ「3か所に同時介入・・・そんなことをしても世界は変わらない…憎しみを生むだけよ。彼らは世界を混乱させるだけだわ」
シーリン「マリナ。そろそろ時間よ。吉報を待っているわ。」
マリナ「できうる限りの努力はします。アザディスタンを救うには、太陽光エネルギーが必要なのだから・・・」

◎マリナ、歩き出す。
シーリン「出発前だというのに随分辛気臭い顔ね。・・・思い出しなさい。なぜこの役目を引き受けたのか。」
マリナ「・・・決まっています。私にしかできないからよ。」
シーリン「そうそう。毅然とね。」



次回予告
ソレスタルビーイングを利用する国。その国すら利用する国
陰謀渦巻く戦場に、ガンダムマイスターが赴く
次回『対外折衝』
政治とは彩り変わる万華鏡……
314通常の名無しさんの3倍:2009/11/13(金) 00:14:27 ID:???
SSじゃなくてムック本なんかに載ってるエピソードガイドに見えるのは俺だけだろうか
画像の下にその場面の解説やセリフが書かれてる感じ
315文書係@携帯 ◆gIyeyjcT.M :2009/11/13(金) 12:45:40 ID:???
こんにちは、文書係です。遅くなりました。
ニフがまだ規制中なので、携帯から失礼します。

>>240さん、ありがとうございます。
フランス人もカナダ人も同意を求めるときなどよくウィンクするらしいので、
ビリーは勘違いはしてないのですが、うち続くウヘァなオープンエロに中てられ
「もう勘弁してくれないかなorz」な感じに。まだ続くよごめんビリー。
普段は叔父さんはじめ、硬派な漢たちに囲まれてるんで免疫はなさそうです。
(耽美系のエイフマン教授が惜しまれます……)

そこは言おうよ!というところで言えず、それ言っちゃう?なところで
意外にきっつい一言をかますのがビリーセンス。ということで。

>>241さん、トンです。
代わりに何か入っているというよりは、大きめの通風孔があいてる気がします。

感想ありがとうございました。
316文書係@携帯 ◆gIyeyjcT.M :2009/11/13(金) 12:49:07 ID:???
これから続き2レス分を投下します。
317文書係@携帯 ◆gIyeyjcT.M :2009/11/13(金) 12:53:10 ID:???
おまけに脳内補完/機動戦士ガンダム00/短編小説パトリック・コーラサワー 補編
/短編小説ビリー・カタギリ/「戦士の休日 その9」
>>237-238(「戦士の休日 その8」までは>>1のガンクロSS倉庫「etc」に収録されています)
 アロウズ技術大尉ビリー・カタギリは、眼前で次々と繰り出される同少尉パトリック・コーラサワーの、
噂以上の奇抜な振舞いに呆気にとられ、暫くの間為す所もなく目をしばたたかせていた。
感情が即、態度に表れるので判り易いことといったらないのだけれども、いつ何をやらかすのかが解らない。
盟友グラハム・エーカーの古風にして無鉄砲な言動に慣れたビリーであっても、パトリックの過激な奔放さには、
既にお手上げだ。まして毎日のように顔をつき合わせ、なおかつ傍目には一方的に好意を寄せられているかに
見える彼の上官、カティ・マネキン大佐の労苦たるや、推して知るべしといったところである。

「――じゃあ、設定を変えよう」
我に返り平常心を取り戻すと、彼はパトリックに提案を持ちかけた。
「“設定”って――オイオイ、お前小説家かよ」
「これもシミュレーションの一環と思えば、楽しくないかな?」
「……模擬戦みたいなもんか」
巧みな誘導に乗せられ、パトリックはビリーが予測した通りの回答を弾き出した。

「ご名答」
でもよ、とまだ何か言いたげなパトリックを尻目に、ビリーはいつになく強引に話を押し進める。
「そう、次はね――君はあるひとのことがずっと好きだった。でも彼女はわざと君の気持ちに気付かないふりを
しているんだ。なぜって、彼女には君以外に好きな人がいたから」
自分でも不思議なほど、淀みなく言葉が口をついて出た。
海上空母に降り立ち、硬い飛行甲板に腰を下ろした時から、彼にこのことを話すつもりでいたかのように。

リーサ・クジョウとの一件を、自分自身の事として他人に打ち明けるつもりは毛ほどもなかった。
それは全て自分と、クジョウとの間で解決すべきことであった。
彼女がソレスタルビーイングの青年と去ってからというもの、ビリーは事実を時系列に連ねて因果関係を探り、
彼女の行動の一つ一つについて多方面から考察を試みた。しかし所詮客観的になどなれる筈もなく、幾度検討を
重ね、時にはお人好しに過ぎる好意的な解釈を敢行したとしても、最後に辿り着くのは、いつも同じ――自分の
立場も長年の想いも、利用され、踏みにじられ、挙句置き去りにされたという、屈辱的な結論だけなのであった。

その本心からの忠告を忍ばせたビリーの問いに、自称「スペシャル様」は逆上するかと思いきや、意外なことに
笑顔で聞き入れ、確信に満ちた惚気で応酬した。これには大いに呆れもうろたえもしたけれども、軍事演習場で
冷や汗をかかされ、さっきまで不貞腐れていた、浅慮で大人気ない彼とは別の一面をそこに見たのである。
もし彼が自分と同じ状況に陥ったとすれば、いかなる見解を示し、結論を導き出すのか――酔いの戯れと承知で、
ビリーは少しばかり興味が湧いてきたのだった。

彼は意中の人であるカティ・マネキンを除けば、上官の名さえ記憶に留めないという服務態度の悪さでも名高い。
それはAEU幹部の口ぶりから、またグラハム同様、五年前には既に軍のエースであったにも関わらず、今だ
少尉止まりである不自然さからも察することができる。実際、パトリックはこれまで自分の名を一度も呼んで
いないし、尋ねてきてもいなかった。ビリーは通常旧ユニオン領の工廠にいて、頻繁に顔を合わせる機会もない。

酔っ払いの観察経験に富むビリーの診立てでは、パトリックは泥酔の二歩手前、中等度の酩酊状態にある。
まだまだ口は滑らかだが、問題行動を取るなど複雑酩酊の兆しも見せ始めていた。
かかる状態にある彼が、これから話すこと全てを風通しの良い脳に刻み込み、ビリーの経歴を洗い出して
クジョウとの関係に目をつけ、「あれはお前の話じゃないか?」と詰め寄ってきて自分を窮地に立たせる可能性は、
彼が色恋沙汰を好むという点を加算したとしても、極めて低いと推測される。
臆病にして果敢なビリーの試みは、奇妙なことに自身のでなく、パトリックの酒の勢いを借りて続くのであった。
318文書係@携帯 ◆gIyeyjcT.M :2009/11/13(金) 12:56:43 ID:???
おまけに脳内補完/機動戦士ガンダム00/短編小説パトリック・コーラサワー 補編
/短編小説ビリー・カタギリ/「戦士の休日 その10」

 「で?」
言いかけの言葉はどこへやら、パトリックは早くも大乗り気でビリーをせきたてた。
暇つぶしに恋の手ほどきなどと自分から言い出すのも、むべなるかなと頷ける。
「……彼女はその恋人を戦争で失ってしまうんだ。失意の彼女は行き場もなくして自暴自棄になって、放浪の末、
旧知の友人である君の家に突然、転がり込んでくる」
ビリーはさきの質問の続きめかして、この身に起こった出来事を、作り話のように仕立てて語りだした。

「ほお」
名を伏せるのは勿論のこと、経緯も適度に端折ってある。それでも関心を惹くには十分だったのか、パトリック
は引き込まれるようにビリーの方に体を傾けた。
――『事実は小説より奇なり』さ。何たって、本当の話だからね……。
この手で引導を渡すその時まで、已むことのない胸の痛みをおくびにも出さず、ビリーは心の中だけで冷やかに
呟く。

「君は彼女が自分を頼って来てくれたのは嬉しいけど、自棄になった彼女を立ち直らせることも慰めることも
できずに、ただ一緒に暮らすんだ」
「『タダ』……って要は、なんにもナシでか」
「……そういうことで」
ビリーは己の不甲斐なさを彼に責められているような気がして、眉根に皺を寄せ弱々しく笑んだ。
わざわざ鏡で確かめるまでもなく、情けない顔をしていることだろう。

「その時点で、俺にはありえねえ話だなぁ……気がついたら、向こうから乗っかってきたりしねえ?」
パトリックは身を乗り出して酔眼を巡らせ、なあ、とけだるげに呟いてビリーに視線を合わせた。
彼に同調するだけの根拠を持たないビリーは、反射的に身を引き慌てて目を逸らせる。
「それもちょっと、ない方向で頼むよ」
――前後不覚になっても、そんなことには……。
とこぼす訳にもゆかず、ビリーは眼鏡のフレームをしきりに指で案じて、狼狽をレンズの奥へと押しやった。
身に覚えがあるらしいパトリックは、「そうかあ?」と首をひねり、また一口酒を煽った。

「まあ、せっかく思いついたんだから、このシチュエーションで最後まで考えてみてはどうだい? 状況が
難しい方が、手ほどきのし甲斐もあるんじゃないかな」
ぽろりとこぼれる彼の赤裸々な経験談に内心どぎまぎしつつ、ビリーは話を進めることに努めた。
「君は傷ついた彼女が余りに痛々しくて、そこに存在することを黙って許す以外、どうにもできなかったんだよ
――でも実は、彼女は」
「お、新展開ね」
パトリックはワインボトルに口をつけながら、弾んだ口調で合の手を入れた。声がボトルの中でくぐもる。
「恋人を失ったことでテロリストの思想に傾倒して、敵である君を足止めする一方、軍内部の情報を得ようと
していたのさ」

期待通りでなかったことを示すように、そこで彼は声のトーンを数段落とし「へえ」とだけ言った。事実を
殊更に脚色する気も必要もないけれども、或いはややお堅い展開が、彼の嗜好に添わなかったのかも知れない。
「君は有名なテロリストである彼女の仲間が、彼女を迎えに来たことで、ようやく気がつくんだ――頼られて
いたんじゃない。ただ、いいように利用されていたって事にね」
「こんな状況なら、君なら彼女をどうするかい?」
気がつくと、胡坐のまま俯いてボトルの口に額をあてた珍妙な姿勢で、パトリックは思案し始めていた。
319文書係@携帯 ◆gIyeyjcT.M :2009/11/13(金) 12:59:17 ID:???
今回投下分終了。短編小説ビリー・カタギリ「戦士の休日 その11」に多分続く。
320通常の名無しさんの3倍:2009/11/13(金) 20:03:21 ID:TWjHXxtG
マイナーなギャルゲーSS祭りを開催したいです。
マイナーなギャルゲーSS祭り!

1. SS祭り規定
自分の個人サイトに未発表の初恋ばれんたいん スペシャル、エーベルージュ、センチメンタルグラフティ2、canvas 百合奈・瑠璃子のSSを掲載して下さい。(それぞれの作品 一話完結型の短編 20本)
EX)
初恋ばれんたいん スペシャル 一話完結型の短編 20本
エーベルージュ 一話完結型の短編 20本
センチメンタルグラフティ2 一話完結型の短編 20本
canvas 百合奈・瑠璃子 一話完結型の短編 20本
ダーク、18禁、クロスオーバー、オリキャラ禁止
一話完結型の短編 1本 プレーンテキストで20KB以下禁止、20KB〜45KB以内

2. 日程
SS祭り期間 2009/11/07〜2011/11/07
SS祭り結果・賞金発表 2011/11/08

3. 賞金
私が個人的に最高と思う最優秀SSサイト管理人に賞金10万円を授与します。
321通常の名無しさんの3倍:2009/11/13(金) 20:04:02 ID:TWjHXxtG
(1) 初恋ばれんたいん スペシャル
初恋ばれんたいん スペシャル PS版は あまりのテンポの悪さ,ロードは遅い(パラメーターが上がる度に、
いちいち読み込みに行くらしい・・・)のせいで、悪評が集中しました。ですが 初恋ばれんたいん スペシャル PC版は
テンポ,ロード問題が改善して 快適です。(初恋ばれんたいん スペシャル PC版 プレイをお勧めします!)
初恋ばれんたいん スペシャルは ゲームシステム的にはどうしようもない欠陥品だけど。
初恋ばれんたいん スペシャル のキャラ設定とか、イベント、ストーリーに素晴らしいだけにとても惜しいと思います。

(2) エーベルージュ
科学と魔法が共存する異世界を舞台にしたトリフェルズ魔法学園の初等部に入学するところからスタートする。
前半は初等部で2年間、後半は高等部で3年間の学園生活を送り卒業するまでとなる。
(音声、イベントが追加された PS,SS版 プレイをおすすめします。)

(3) センチメンタルグラフティ2
前作『センチメンタルグラフティ1』の主人公が交通事故で死亡したという設定で
センチメンタルグラフティ2の主人公と前作 センチメンタルグラフティ1の12人のヒロインたちとの感動的な話です
前作(センチメンタルグラフティ1)がなければ センチメンタルグラフティ2は『ONE〜輝く季節へ〜』の茜シナリオを
を軽くしのぐ名作なのではないかと思っております。 (システムはクソ、シナリオ回想モードプレイをおすすめします。)

(4) canvas 百合奈・瑠璃子シナリオ
個人的には 「呪い」 と「花言葉」 を組み合わせた百合奈 シナリオは canvas 最高と思います。
322通常の名無しさんの3倍:2009/11/14(土) 01:11:58 ID:???
>>319
GJ!
妖精ビリーとリア充コーラの知恵比べみたいに思えてきたwww
「友人の話だけど」で始まる恋愛相談は99%本人の話って言うよなw
次回のコーラがどんな鮮やかな回答をしてくれるのか楽しみです
323通常の名無しさんの3倍:2009/11/15(日) 01:17:53 ID:???
>>文書係氏
俺の最近一番のお気に
>>弍国氏
ムツキかわいいよムツ
>>45
戦闘シーンと各所に散
>>あざーん氏
シナリオてだけで損し
>>FRESH氏
チーチもでたでたケも
>>八丈島氏
これは内容もけっこう
>>赤頭巾氏
恥ずかしながらWを知

以上、作品が多いので十文字感想。
324通常の名無しさんの3倍:2009/11/15(日) 01:56:06 ID:???
あざーんの方保管終りました。改行タグ挿入してあとは原文ままです。
修正がありましたらここか、WIKIの連絡スレッドでお願いします。
325(弐国 ◇J4fCKPSWq.氏の代理投下):2009/11/15(日) 18:40:45 ID:???
『空(あま)駆ける少女達 〜少女は砂漠を走る! II〜』

の作者、弐国 ◆J4fCKPSWq.氏が長期規制に巻き込まれ中ですので、
ただ今から代理人による投下を始めます。

PHASE-06 忘られしもの、忘れえぬもの。

本編6レス、全部で7レスです。
326(弐国 ◇J4fCKPSWq.氏の代理投下):2009/11/15(日) 18:45:06 ID:???
空(あま)駆ける少女達 〜少女は砂漠を走る! II〜

PHASE-06 忘られしもの、忘れえぬもの。(1/6)

「歩いて行っちゃったの……。だいたい、いつ寝たんだろうあたし。――で、かぁさんはなんて?」
《学校、駐屯地とも話はしておくので、お二人の判断で休むならそれで構わないとの事でした》
 ソファの上、ナヴィに起こされた学校の制服に毛布のあたし。隣ではリョーコちゃんが同じ
格好で斜めに座ったままクッションを抱いて寝入っている。
《但し、学校へ行くと言う選択肢を取られても良い様に、この時点で一旦起きて頂いた訳です》
「でも、二人でシャワー使ってご飯食べたら遅刻じゃん」
《バスには間に合いませんが、私が責任を持ってお送りします。遅刻は絶対あり得ません》
 なるほど。どうやら”彼女”にはかぁさんから非常ランプとサイレン使用の許可が出てるらしい。
登校しようと思ったらかなり派手になるんだな。バイトが”特殊”なのは皆知ってるからいいか。
ってトコか。学校に説明した理由も凄いんだろうな。かぁさん。その辺いい加減だから……。

「おはようございます。……あ、……ムツキさん、その」
 寝癖頭のままむっくり起き上がるリョーコちゃん。でも顔は、すっかり目が覚めている様だ。
「ふふーん。言いたい事わかった。でも答えは昨日かぁさんが言った通り。あたし、今までと
何も変えるつもりないからね。――それに変の度合いならあたしだって負けてないもん!」
 まぁ、こんなこと、自慢することではないような気もするが……。
「度合い、ですか……。そんなコトで張り合っても仕方ないじゃないですか。……ふふふ」
「あはは……。ところで、ジーンさんなんだけどさ……。その、悪い人じゃないんだ。えーと……」
 怒ってたのは、多分本当に心配してたから。MSにのる事のみならず、その後の事も。
あぁ見えて意外と優しい人なんだ。だって、あの人は知っていたんだもの。二人の秘密を。
「わかっております。我がおじさまも、ものの仰り様も含めてあんな感じの方ですから」
 あたしの中の彼女のおじさまは、大きな肘掛けの付いた椅子に座ってオールバックに口ひげ
を捻って、羽ペンで書き物をする物静かな初老の紳士。……ジーンさんとは似ても似つかない。
「ジーンさんが、リョーコちゃんのおじさまに。ねぇ……」
「昨日。――少なくとも、ムツキさんの事を大事に思ってらっしゃるのは伝わりました」

《ミツキさんからお二人にメッセージをお預かりしています。そのまま再生します》
 学校への道すがら、走り始めたナヴィはそう言うとスピーカーからかぁさんの声を流す。
【……た時は、何か間違ったら命に関わっちゃうから、どうしても話さなければいけない時には、
そのときは抵抗しないで知ってる事全て話しなさい。但し、それ以外は自分が必要だと思った
時に必要だと思った人だけに話をなさい。二人とも私に拘る必要は無いからね。――だって
女の子は誰だって秘密を持ってるものでしょ? うふふ……】
 要するに基地に行ったら事情聴取があるのだ、と暗に言っているのだろう。全くこの人は、
うふふ……。どころじゃないだろうに。――けれど言われるまでもなく腹は決まった。
「わたくしは……。わたくしは、此所にいても良いのですね? ありがとうございます、お母様」
 隣のリョーコちゃんも、どうやら同じつもりのようだ。
327(弐国 ◇J4fCKPSWq.氏の代理投下):2009/11/15(日) 18:46:11 ID:???
#6 忘られしもの、忘れえぬもの。(2/6)

「よぉ、白髪頭。リョーコさんは……、一緒じゃないのか?」
「てめぇ、誰が白髪だ。それが人にものを尋ねる態度か!?」
 人の気にしてることをずけずけと……。まぁ、あたしは色素が薄い。髪が銀髪なのは事実だし。
顔色は何時だって青白い。赤い目も、赤外線でやたらに夜目が利いたりする訳では勿論ない。
あたしを”デザイン”した人は、何を思ってこんな風にしたんだろう。少なくとも砂漠向きではない。
 せいぜい、小さい時から戦技訓練を受けてた事と、MSの基本操作を教えられた事くらいで、
あとは自分の過去を全てクリアーに思い出した訳ではないあたしである。

「リョーコちゃんなら国に送る書類があるって職員室に行ったよ? ――で、コーディネート
大失敗の見本みたいな短足野郎が、銀髪輝く美少女になんの御用?」
 不毛だ。なんて不毛な会話だろう。まぁそれは相手も思ったようで。
「悪かった、……口じゃ勝てねぇよ。例によってバス遅れるってさ。――ところでおまえら、基地で
なんのバイトしてるんだ? ……今朝だって、クルクルランプ付けた車で玄関、横付けだしさ」
「女の子はみんな秘密を持ってるものよ? うふふ……。人に教えたらマジ銃殺なんだってさ」
「何がうふふ……だ。バカ! そんなヤバい仕事なのか? おまえらヤメれねぇのかよ、それ」
 此所にも心配してくれる奴がいた。もっとも心配してるのはあたしじゃないだろうけど、ね。

 バスを降りてMPの人に敬礼で挨拶。そこまではいつも通り。いつもと違うのは何故か
入り口でポーリーンさんが待ってた事。
「特に事情聴取とかは無いってよ? ただ検査みたいのは受けてくれって。みっちー、もとい
隊長から。――で、引き続き私があの機体の担当メカマンをやる事になったわ。起動条件が
わかったからコクピット、徹夜で縦に二階建てにしたの。早速ちょっと座り心地見てくれないかな、
もっと乗り心地良くするから。……今日は来ないかと思ってた。意外と強いのね、二人とも」
「強いとか、そう言うんじゃないです。ところで、……あれ? ジーンさんは? リョーコちゃんに
今日こそはきちんと紹介したかったんだけど」

 だいたいが。あの機体に興味があったからこそ、寝ないでデータと首っ引きになった結果
リョーコちゃんの秘密も、あたしがMS操縦の経験者である事も見抜いたのだ。
 それだけ興味津々なら、いつもなら担当メカマンを自分に変更してもおかしくない。言動は
ともかくそれだけの立場も”腕力”も、そしてなによりも能力。それは人並み以上にある人だ。
「事務長に夜通し説教されて、まだダウン中。あはは。……許してあげてね? 表現の仕方には
問題があるけど、二人を一番最初から心配してたのは本当だから。――まぁ、ムツキちゃんには
おなじみだろうけど、悪い人じゃないの。空気読むとか、人として大事な事が出来ないんだけど」
「皆さんからお話を伺ってどのような方かは存じているつもりです。失礼ながら我が伯父上の如く
少々変わった方なのだとお見受けします。少なくとも、わたくしは悪意は感じませんでしたよ?」
 そもそもが歯に衣着せぬ方なのでしょう? ならば、ご心配下さっているのだと思うのです。
そう言うと微笑んでみせるリョーコちゃん。昨日の涙なんかひとかけらも感じさせない。
 オーブのお嬢様は本当にお強くあられるのであった。……あたしはお嬢様でなくて良かった。
328(弐国 ◇J4fCKPSWq.氏の代理投下):2009/11/15(日) 18:47:31 ID:???
#6 忘られしもの、忘れえぬもの。(3/6)

「出撃そのものが減ってるんだ。費用対効果がもの凄く高い。空を飛べるってのが効いてるね。
言い値で買い取っちゃったから高いと思ってたけど、本年度中の償却さえ見えてくるくらいだよ」
「ねぇトメさん。普通の軍隊は兵器購入分の原価償却とか考えるものなの? ――ま、それは
良いとして、出撃後、目の前で変形して見せただけで降参。このパターン、前もあったよね?」
 夜の隊長室。サイトーさんがパンとミルクと、そして書類の束を持ち込んできていた。
「今回で三度目。お陰でMSの損耗、弾薬の消耗も最小、近隣からは感謝されて良い事ずくめ」
「盗賊団からは相当に嫌がられてるみたいね。腐ってもガンダムだものね、ホワイトシーフは。
更にムラサメが二機も一緒にいれば、足の長さとスピードだけでも相当驚異よねー、確かに」
 サンナナマル改はジーンさんの命名でホワイトシーフに改名した。曰く『各陣営の技術を
いいとこ取りでコソ泥している機体だから』だそうだ。まぁ、意味はともかく、語呂は悪くないと
思って、隣でお上品にシチューをすするリョーコちゃん共々気に入っているところではある。
 つーか、お夜食に陶器の器の、ほかほかシチュー。どうやって持ってきたんだろう……。

「ところで、まだ起動ロックの解除はまだ出来ないの? このところジーンとポーリーン君が
かなり入れ込んでるみたいだけど?」
「さっきここに報告に来たわ。自作のOSと連合系のOS、バグの修正は出来たらしいんだけど。
バグを取り除くと、こんどは何故かオーブ系のソフトがそっくり死ぬ。って頭抱えてたわよ?」
 『あいつは大天才か大馬鹿のどっちかだ、クソッタレぇ!』ついさっき、格納庫中に響き渡る
直ぐにでも殴り込みに行きそうな勢いの雄叫びを聞いてきたところである。
「ハード的にも、実際には激しい機動に耐えられるかどうか正直、怪しいからねアレは。この二人
以外で廻したいのが本音だよねぇ。――キミらには、あまり危険な機体には乗って欲しく無い」
 そう、そもそも成り立ち自体怪しいのであるが、それをおいても。
 一度爆散した機体をリサイクルしたのがホワイトシーフなのである。特に一番大事な
人間で言えば腰骨の部分を、かぁさんが以前ぶった切っている。補強した上で力が分散する
様に再設計して有るものの、何かの拍子にぼっきり折れる可能性は否定出来ない。
 そして高速で移動する飛行機と、異様なまでの瞬発力で戦うMS。変形するのだ。ジーンさん
が再計算したところに寄れば、計算上最大の60%以上もの力が、強引に再生した背骨に、既
にかかっている可能性があるらしい。力の分散は設計通り。と言われてもあまり嬉しくない。

 書類の束を持って出ていこうとするサイトーさんにかぁさんが声をかける。
「ファングの件、何かわかったらしいじゃない? 今、此所で。――だめ?」
 背中越しにもサイトーさんが、あたし達を気にしているのがわかる。ファングと言えば
ガイアの先行試作機で、そのガイア自体は当時のエースにしか渡さなかったセカンドステージシリーズ。

 セカンドステージ系は気難しい機体だと聞いたがそれは興味無し。只インパルスのパイロット、
アスカさんは見る限り良い男。最強パイロットで、デストロイはおろかフリーダムまで撃墜した、
シン・アスカ。資料で見れば優しそうで儚げな顔には、けれど激しさを漂わせ、制服越しにでも
わかる引き締まった体。流れる黒髪。何よりあたしと同じ赤い瞳。本当はどんな人だろう……。
329(弐国 ◇J4fCKPSWq.氏の代理投下):2009/11/15(日) 18:48:17 ID:???
#6 忘られしもの、忘れえぬもの。 (4/6)

 つい、アタマの中で妄想が膨らんであらぬ方向へ脱線した。話、聞いとかなきゃ。
「良いのかい? 出来れば先ず隊長一人に報告したかったんだが。……ま、隊長が良ければ」
 ファングは、かぁさんが初めて乗ったのと同型の機体でもあるし、何より奪取された機体は、
そのかぁさんの師匠。エディ・マーセッドが、破壊されるまで専用機にしていた機体なのである。
「いろいろと、覚悟はしなくちゃ……。赤なのにMIAでほっぽらかされてるのは旧ザラ派でしょ?
なら、ホワイトシーフは出せば真っ先に狙うでしょうし、だったらこの子達も話を聞いた方が、と」

「アレクサンドロ・ハリス・ロクサン。BTW直後だから、約三年前に脱走後、連合との小規模戦闘
ののちに行方不明。赤服でかなり腕は立ったんだが、隊長の読み通り旧特務隊だった男でね。
ザラ派の消滅と同時に僻地に左遷。更に微妙な時期に連合と戦闘。MIAの記録は残ってない」
 此所からだと地球の裏側で、しかも戦闘記録自体抹消されてしまっていた。だから探すのに
手間取ったのだ。とサイトーさんは続ける。
「ホワイトシーフのカメラが捕らえた映像はロクサンで確定だ。だが、だとすればかなり厄介なの
が敵に廻った。ザフトレッドは言い方を変えれば異常者。知った顔でもエディにチェンバレン。
名の通ったトコならアスラン・ザラにジュール、ハイネ、レイ・ザ・バレル、ホーク、そしてアスカ」
 MIA時の相手はかのX105の派生機種。とは言え、完全整備、サポートも戦術も準備万端で
出撃(出て)行ったか、となると。サイトーさんはそう言って溜息をつく。
「コレはもうあり得ないんだな。見つけた資料に依れば、戦闘直前に脱走してるんだ。委員会
からの禁止命令を無視して、連合の派遣した、BTWの復興支援隊と、戦闘を行うために、ね」
 なるほど。脱走兵ならばどうなろうと、MIAの扱いにはしなくてもいい道理ではある。

「しかし、その様な方がセブンス(此所)を目の敵にするのは何故でしょう。無関係では?」
「ナチュラルとコーディネーター、双方共存出来る道を模索している街だからだ。オーブの流れ
を汲むとは言え、仮にもプラントの自治区でナチュラル比率が2割を超えるのは此所だけだ」
 詳しい訳ではないが学校の教科書にもザフトの教本にも書いてあった。旧ザラ派の最終目標
は種としてのナチュラル、それ自体の根絶であったのだ、と。ならばその類の人達はナチュラル
とはそもそも相容れないであろう事は、あたしのアタマでも容易に想像が付く
「ナチュラルとコーディネーターの共存。ううん、ナチュラルの存在、それ自体が既に許せない
人達なんだよ、多分。セブンスは差別、ほとんど無いし、ホワイトシーフは元は連合の機体だし」
「そう言う事よ。ムツキは最近よく勉強しているわね。……学校の成績に結びつかないけど」

「セブンス経済圏では無いにしろ、ナチュラルとコーディネーターの共存共栄を掲げてた街が
3つ、壊滅してる。そしてその全てでバクゥハウンドと、そしてガイアが目撃されている。としたら」
 サイトーさんはそれ以上何も言わず、かぁさんは何事か考え込むと口を開く。
「……私では、ザフトレッドと戦っても的になるだけ。そもそもバクゥが群れて襲って来る様な
大規模戦闘自体、此所は想定もしていない。赤の駆るGなんてなおさら。……どうすれば」
 白き雌豹が堕とされれば、もはやセブンス守備隊の士気はがた落ち。もとより二つ名を
宣伝しながら不安視もしていたかぁさんではある。額にしわを刻んで深く考え込んでしまった。
330(弐国 ◇J4fCKPSWq.氏の代理投下):2009/11/15(日) 18:49:11 ID:???
#6 忘られしもの、忘れえぬもの。(5/6)

「赤ってーのはアカデミー出の中でも成績上位者しか認められねぇ。定員みたいなもんは確かに
あるが、年次によってはその枠を満たさない事だって有る。成績が良きゃいいってモンじゃない」
 確かに、進宙式から最激戦区に投入され常に連戦連勝、奇跡の女神と言われたミネルバの、
その艦載機インパルス、そして後にデスティニーのパイロット。彼が墜ちたが故に船が墜ちた。
とまで言われるシン・アスカ。彼も資料でみる姿はやはり赤い服であったな。と思う
「エディ、は知らんのだよなムツキは。ならばチェンバレンだ。アレも赤い服を着てたんだぜ?
射程距離250%の超長距離射撃で誤差センチ単位の精密射撃をやったり、ブレイズ装備のザク
で疑似空中戦をやったり、まぁ無茶苦茶だ。だが、それが普通に出来なきゃ、赤なんぞ務まらん」
 成績と能力。それだけじゃなく、赤は軍事力、技術力の象徴って訳だ。ホワイトシーフの足下。
左目にデータの映るゴーグルをかけながら、スパナを握る手は止めずにジーンさんの話は続く。

「ティモシーさん、そんな凄かったの? ……信じらんない」
 かぁさんの候補生時代、唯一の集合写真。船をバックに緑の服の少女を挟んで赤が二人。
右には話に聞くお師匠様。片腕のエース、エディ・マーセッド。そして左側には、緑の詰め襟
の少女との距離を微妙に取りかねている線の細い青年。それがティモシー・チェンバレン。
 未だなんの約束もしていない様だが、かぁさんの事実上の婚約者で、今はザフト内部でも凄く
エラい人を示す白い服を着るエリート。過去、かぁさんと共に戦い、そしてザフト軍人の責務
を果たす。その為に、自分の気持ちを砂漠においたまま宇宙(そら)に帰って行ったマジメな人。
 そのマジメさ故、出世コースに乗ってエラくなったのだと思っていたが、どうやら違うようだ。 
「MSだけじゃなく戦術や指揮、情報収集、地味に事務処理も凄かったぞ? 知らなかったろ?
そんなモンが二人も居たんだぜ。だから俺たちは、あの騒ぎの中でも生き残れたんだろうぜ」
 更に写真越しの動かぬ姿だったが、あたしの初恋の人。してみると最近のアスカさんへの
想いもそう言う類なのかも知れない。動かないから妄想が膨らむ……。まぁ、ティモシーさんは
実際は電話で喋った事もある。彼の想いは本物だ。初恋は撃墜されるもの、とは誰が決めた?

「定量的に人間を計る。と言うのはわたくし個人は好きませんが、それは今は横に置きましょう。
ザフトレッドの方々を10、一般的なパイロットを1、とした場合、わたくし達二人とシライ隊長。
チーフならば各々どのくらいの数値を割り振られますか?」
 突然、硬い口調で割って入ってくるのはオーブの制服のリョーコちゃん。最近はいろいろ考え
てる様だ。というよりはいろいろ考えてるのがわかる様になった、と言うべきか。もとより表情が
変わらないだけで、彼女は何も考えていない。などと言う事がある訳が無い。と最近気付いた。
 そして元パイロットでもあり、何より持って回った言い回しを嫌うジーンさんに、そんな恐ろしい
事を正面から聞けるのも彼女だけだろう。
「いきなり答え辛い質問で来るなぁ、お嬢ちゃん。――正直、隊長は最大評価でも5。他の連中は
オレも含めて良いトコ2か3、くらいなもんだ。赤って一口に言っても、まぁいろいろだがな」
「……え、かぁさんでも5なの? ねぇねぇ、ジーンさん。あたし達は?」
「二人合わせてやっと1、だ。ただ数字はまだ大きくなるかもな。記憶喪失は自分のせいでない
にしろ、未だおまえらは本当の自分を知らん。自分で出来ない事がわかって、やっと一人前だ」
331(弐国 ◇J4fCKPSWq.氏の代理投下):2009/11/15(日) 18:49:52 ID:???
#6 忘られしもの、忘れえぬもの。(6/6)

 数日後。セブンス唯一の総合病院、その院長室。
「いくら必要があったとは言え、年頃の女の子の、体どころかアタマの中まで引っかき回すことに
なった事を最初に謝らせて欲しい。――自分のためと思ってどうか許してくれ」
 息子も生きてりゃキミらと同い年だ。白衣にネクタイの壮年男性はそう言うと溜息をひとつ。
あたしもリョーコちゃんも検査自体には何も感じななかった。記憶のあるなしは別にして、定常的
にあった事だからだ。けれど、この先生は依頼からここまで良心の呵責に苛まされてきたらしい。
「先生。少なくとも、自分の成り立ちをまるで知らないのは。あたしはそれは気持ちが悪いです」
「あまりお気をやまずに。本国で何度か検査を受けましたが、結果は教えて頂けませんでした。
むしろ自分を知る事が出来る事で、わたくしは先生に感謝しています」

 だいたいが。この先生自体、普通に考えればそう言う事を気にする様な来歴の持ち主では
無いのだ。此所の院長を引き受けるまでは、彼の”赤き風の旅団”にいた。勿論、元から盗賊の
専門医、という訳ではなくその前は、なんとプラントで遺伝子工学研究所の副所長まで務めた人
なのである。但し専門分野は”戦闘特化型コーディネーターの作成と育成方法”であった。それは
勿論非合法。それがイヤになって、ヤキン戦役直後に自ら行方不明となり砂漠へと流れてきた。
 そんな人であったが為に、この地には素直に受け入れられた。砂漠は専門職は全て人手が
足りないし、医者などはその最たるものだからだ。そして過去はおいても医者としての腕は
確かで、昔はともかく良い人ではある。だから、彼を知る人はみんな、事有るごとに過去など
忘れてしまえ。とそう言う。過去のないあたしたちと、どちらがかわいそうだろう。

「シライ隊長からは、検査は依頼するが隊長への報告の義務は課さない。但し本人達には
伝えろと言われてる。それと2人はコンビだからお互いを知る必要はある。と、そうも言われた」
 只、今俺の口からは。だな……。先生は口ごもりながら2通の大型封筒を取り出す。
「ならば尚のこと、今教えて下さい。難しい医学用語や生物学用語などをたくさん見せられても
わたくしはムツキさんに教える事が、いえ。そも、自分で理解出来ませんし、それはイヤです」
 ならば今、一気に二人分説明する、詳細はその資料参照の事。良いな。そう言うと先生は、
封筒を机に投げ出し腕を組む。

「先ずムツキさんだ。キミの名前、グラジオラスは重力下戦闘に特化したコーディネーター生産
の第四期分で名前を見つけた。暗殺とゲリラ戦用に調整されたが計算上の能力の半分しか
発現せず、MSのマッチングテストは悪くなかったんだが、結果は育成中止、廃棄処分。
記憶には人為的操作の後が見受けられ、また色素の極端な欠乏もコーディネイトではなく、
後天的に人的処理されてる。多分、誰かが見た目を変え、記憶も消して助け出したんだな」
 言葉が出ない。あたしは居ないはずの、生まれついての戦闘用人間。しかも、失敗作……。
「そしてゲレイロさん。キミは初期のブーステッドマンで間違いない。MA用生体CPUとして改造
され空間認識能力を付加。更に情報処理能力も底上げ。だがMSのOS開発テストで”損傷”。
書類上廃棄処分済み。キミも連れ出してくれた人が居るね。確認した。叔父上は知っていたよ」
 予想通りです。真っ青な顔で脂汗を浮かべたリョーコちゃんは、そう言って後は押し黙った。 
332(弐国 ◇J4fCKPSWq.氏の代理投下):2009/11/15(日) 18:50:33 ID:???
=予告=
 戦闘専用人間でしかも失敗作、ショック大きいなぁ。そんな女子中学生、周りにいないじゃん。
「で……。何故、隊長でもチーフでも無く真っ先に私に?」
『次回 空(あま)駆ける少女達 〜少女は砂漠を走る! II〜』
【PHASE-07 決意、若しくは開き直り。】
 普通じゃないあたし達。ならあたし達がやる事は、……決まってんじゃん! ねっ?
333(弐国 ◇J4fCKPSWq.氏の代理投下):2009/11/15(日) 18:51:26 ID:???
代理投下完了。
334通常の名無しさんの3倍:2009/11/17(火) 20:22:14 ID:???
サイトーが持って来たほかほかのシチューは、懐で暖めて置いたんだろうか……
335通常の名無しさんの3倍:2009/11/18(水) 15:13:27 ID:???
規制は解けてるはずなんだが・・・
336通常の名無しさんの3倍:2009/11/18(水) 15:35:16 ID:???
>>326
弍国氏GJ!代理投下も乙!
ちょい想像したんだが、もしリアルで銀髪に赤い瞳で青白い顔
の少女に夜道で出会ったら何かコワイなw
337通常の名無しさんの3倍:2009/11/18(水) 15:44:30 ID:???
色素を抜いて身分を隠そうとしたのは、後から別の色に染めようとしたんかな。
それが、別の人に保護されたんで不要になったとか。
338SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/11/19(木) 00:02:24 ID:???
1/

 ――C.E.74年 二月

 一部の戦線を除いては、地上におけるザフトと連合の戦いは、物量に勝る連合の有利で
戦況が推移していた。宇宙と地上で攻守の入れ替わるねじれた戦争が続いている。

『突撃が過ぎるぞ、シン!』
「そんな事を言ったって!」
 四機の"ウィンダム"に囲まれたインパルスがたまらず地面に降りると、周囲を囲んだ
"ダガー"のライフルが背後のフォースシルエットを破壊した。ロドニアの空を行く
"ウィンダム"の動きは速く、インパルスは頭を押さえられた形になる。

「メイリン、ソードシルエットをくれ! ハイネ、右翼に"ウィンダム"が行きます!」
『レイで抑える。ルナマリアぁ! ど真ん中に大砲ぶちこめ、外したらお尻ペンペンだ。
若しくは整備班の前でポールダンスな? セクハラって言うな!』

 低空を接近したシルエットフライヤーとドッキングするまでもなく、超高速で
飛来したフライヤーから"エクスカリバー"を直接掴みとった。

「数が多い――!」

 インパルスも囲まれる事が増えている。物量差は明らかだ。
 寄り集う"ダガー"を大剣で切り払う。二機を両断したインパルスを赤い"ウィンダム"の
射撃が襲った。「専用機……エース級か!」盾を構えたインパルスとライフルを向ける
"ウィンダム"との間に、黄昏の色も鮮やかな"グフ"が割り込み、その注目を引いた。

「すごいな、あの"ウィンダム"。ハイネに攻撃を掠らせてる……いや、ハイネがわざと
ぎりぎりでよけている?」
『基本に忠実で、正確な射撃だ』

 火線を交わすめまぐるしい空中戦を繰り広げる"ウィンダム"と"グフ"。赤い機体の
ライフルは橙色の巨体を追い詰めつつあるように見えるが、決して捉えては居なかった。

『だからこそ……予測しやすいぜ!』

 "ウィンダム"決死の一撃を"グフ"が回避したとき、両機の相対速度はほぼ零だった。
鮮やかな旋回を遂げた"グフ"は、止まったように見える標的へとビームマシンガンを放つ。
たった一度の攻撃で、"ウィンダム"は装甲よりも赤い火球に包み込まれた。

『軌道部隊より連絡……質量弾頭の投下シーケンスに入りました。着弾まで120!』
『シン、ハイネ――下がれ!』
 上空から"ウィンダム"をけん制しつつ、アスランの声が響いた。
339SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/11/19(木) 00:03:06 ID:???
2/

 低軌道のデブリベルトから投下される"隕石"の破壊力は、キロトン級の飽和爆撃に
匹敵する。精密誘導を行う座標マーキングのため、前面に出ていたインパルスとグフは
デブリの降下予測範囲に入っていた。退却を始めた両機に、多数の"ウィンダム"が
追いすがる。インパルスとグフに"ついて行く"ことでしか、"ウィンダム"達はデブリの
嵐から逃れられないためだ。

「こっちの戦術を研究してきたな――ハイネ、インパルスの方が早いですよ」
『先に下がれってか? 冗談言うんじゃねえ……それに、後ろの仲間をもっと信じてやれよ』

 "ウィンダム"に向って振り向いたフォースインパルス――その翼を掠めて"オルトロス"の
光条が宙を裂いた。伸びたビームの帯が二機の"ウィンダム"をまとめて火球に呑み込む。

「そこのガナーザクファントム、危ないじゃないか」
『そこのフォースインパルス、ぼさっとしているから敵と間違えかけたぞ』

 シンは、3キロほど後方でSFSに乗った白いザクに文句を垂れた。砲口から冷却液の湯気が
立ち上るガナーザクが、肩を振って身をひるがえす。

『隣でルナマリアが撃ちたがっていたんだが……譲った方が良かったか?』
「レイ、お前って本当に良い奴だな!」
 これがレイではなくてルナマリアだったら、敵と間違われていた方が安全だったから、
シンは結構感謝した。

「終わり……かな」
『この戦闘は、な。早く戻って来い』

 ミネルバに進路を向けたインパルスの頭上を、宇宙から降り注ぐ真紅の雨が通りすがっていた。


 ――ミネルバ 艦橋

「勝ちましたね、艦長……"隕石落とし"は有効です」
「ええ。けれど油断は出来ないわ。地上班に連絡。残存施設を征圧させて」

 ミネルバの前方では、燃え尽きない流星が次々と連合軍の陣地に突き刺さっている。
いまごろ地上では大慌てのはずだ。高い打撃能力と"デブリ落とし"で快進撃を続けていたが、
ミネルバの活躍は実際、ザフトの不利を覆すには至っていなかった。

「ミネルバ、面舵。進路を南に取れ。アーサー、後は任せるわよ」
「了解です」
 タリアは、連合軍が逃げ終わるまでは、海で待つつもりであった。
340SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/11/19(木) 00:04:21 ID:???
3/

 ――地上一階 守衛室 

 "ラボ"という素っ気ない通称を与えられたその施設は、地下三層から構成される巨大な空間だ。
 今、ザフトが近くに侵攻してきたために、施設は撤退の準備に入っている。

「なにが起こった――地下から連絡は無いのか?」
 だが、一階で検問を担当する二人の守衛は、つい先程、突如として閉ざされたきり、開く気配の
無い地下入口のシェルターを相手に格闘していた。通信機は、ノイズだけを吐き出している。


 ――地下一階 居住区画 五分前

「「お母さん、お休みなさい!」」
「ええ……お休みなさい」

 部屋を照らす太陽灯のスイッチに手を掛けたまま、白衣を纏った彼女は罪悪感に立ち尽くした。
 この部屋は彼女の担当だ。管理も、処分も。外からカギを掛けた後、通気口から吹き出すガスが
彼らを安らかに眠らせるはずだ。「痛くも苦しくもないはずだよ、優しいことだろう?」所長の
言葉に吐き気がする。

「どうしたの、お母さん?」
 俯いた彼女を、下からつぶらな瞳がのぞき込んでいた。――笑え! ぎこちなく微笑みを浮かべる。
「明日は……お菓子を持ってきてあげる。博士達には秘密よ?」
 口に人差し指を当てて告げる。笑顔を背中に、扉を閉めるまで涙を見せずに済んだことに、
ほっとしていた。

 こぼれた涙を、非常灯の赤が照らす。耳を突くサイレンが、廊下に響き渡った。


 ――地下二階 セキュリティルーム 二分前

「自爆プログラムをセットしました。あとは所長の生体データを入力しなければ、
解除は不可能です」
「ふむ……宇宙の化け物共が攻め込んでくるのを止められんとは、ジブリールの私兵も
大したことがないな。……資料の処分は済んだか?」
「確実に……」

 人類の進化をになうと、己の所行を信じてやまない彼は、大量の研究資料を手に脱出し、
新天地に置いて同じことを繰り返す気だった。

「む……なんだ、どうして"凍結室"が開いている?」
 彼がカメラの一角に、開かれる筈のない扉が徐々に封印を解かれようとしている様を、
目撃するまでは……。
341SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/11/19(木) 00:05:07 ID:???
4/

 ――地下三階 凍結処置室 十分前

 少女は、咬みちぎった肉塊を吐き出して、白衣の男を蹴りつけた。武器は無いかと部屋を見回す。
 のたうち回る男が股間を押さえた指の間からは、赤黒い血が間欠泉のようにあふれ出している。

 施設放棄のどさくさ紛れに、廃棄処分となったエクステンデッドで"楽しもう"とした男は、
彼女らの洗脳ステージを計り間違えていた。完全な洗脳下にあって、ブロックフレーズが
通用するという演技を少女がひたすら続けていた事に、とうとう気づいていなかった。

 冷たく男を見下ろす少女は、何度も血の混じったつばを吐いていた。
 きょろきょろと部屋を見渡し、診察台に置かれたメスを手に取る。

「……静かにして」
 すっと、男の首元で閃かせる。赤い裂け目が口を開け、鮮血が天井まで吹き上がった。
二、三度痙攣したきり動かなくなった体を、何度も何度も、少女は憎しみをこめて踏みつけた。

「……どうしよう」つぶやく少女の目は、ぎらぎらと生への渇望に光っていた。
 ――千載一遇のチャンスだ。
 施設の"備品"である彼女が辱められようとしていたのは、基地の放棄が近い証拠だ。
 この瞬間を逃して、彼女に明日は無い。

「……」
 消毒用アルコールで口の中をすすぐ。
 恐ろしい刺激がしたが、頭がスッキリとして、彼女は落ち着いて周りを見渡すことが出来た。

 自分一人が暴れ出しても、直に取り押さえられてしまうだろう。
 ――でも、百人だったら? 
 ――制御の不可能な故に冬眠処置を施された、エクステンデッドの集団だとしたら?

 少女の目の前、マジックミラーを挟んだ向こうの部屋には、彼女の兄姉達が、
"ゆりかご"の中で覚めない夢を見ていた。意を決して、男の死骸を探ると、懐に一枚の
IDカードを見つけた。どうか、管理システムが生きていて欲しい。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん……助けて」
 切実な願いを吐きながら、少女は隣の部屋につながるドアのスロットへ、IDカードを滑り込ませた。
342SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/11/19(木) 00:05:56 ID:???
5/

 ――ミネルバ

 水に浮いていた方が艦体への負荷が軽いので、作戦後の二日間は沖に出ている。

「艦長から直に……って、一体何の任務だろう?」
 連戦続きの疲労をクルーが癒していた時の事だ。タリアからの呼び出しを受けて、シンは、
波のうねりに合わせて揺れる廊下をブリーフィングルームに向けて歩いていた。


 ――ブリーフィングルーム

 レイの隣に腰を下ろす。他にタリアとアーサーのみが、椅子に体を預けていた。

「……基地の捜索任務……でありますか?」
「ええ、そうよ。我々の侵攻と接近に伴って、連合軍はいくつかの施設を放棄して撤退。
殆どは爆破されて跡形もないけれど、中に一つ、無傷のまま放置された区画があるの」
「それがこの区画だ。近隣住民からは、幽霊屋敷扱いされている……というのも、入って行った
人数と出て行った人数が合わないからだそうだ」
「他に手の空いている部隊は居ないんですか? ……行きますけどね」
「……」
 シンは憮然としている。

「これは司令部から直々の指令よ。もっと言うなら、デュランダル議長からのね」
「議長が――!?」
 口には出さないだけで、隣に経つレイの表情も納得はしていなかったが、デュランダルの
名前をタリアに告げられて、二人はともに襟元をただした。

「――議長がどうして?」
「シン、きっと何かお考えがあってのことだ。情報部が何かを掴んだのかも知れない」
「"ターミナル"が……そうかもしれないな」
 レイに、議長に対する疑問はない。

「……とにかく、二人にはなるべく早く行って欲しいんだよ。既に調査班は施設に向っている。
なに、インパルスとザクなら直に追いつくだろうさ」
 機体の整備はすでに終わっているしね、と、アーサーは二人に作戦内容を記した
光学ディスクを手渡した。
343SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/11/19(木) 00:06:47 ID:???
6/

 ――J.P.ジョーンズ

「ネオ=ロアノークともあろう物が、ひどく損害を受けた物だな」
 ネオは、ロード=ジブリールの血色悪い仏頂面と、不本意ながら向き合っていた。

「しかし、エクステンデッド達に損害は無し。君の唯一の美徳と言えば、
彼らを生かして帰投させる……その一点に尽きるよ」
「ありがたいお言葉です」
 こうして無線通信で叱られるのが、自分の仕事だったのだろうか? 等と、日課になりつつある
会話の最中で自嘲を始めたネオ=ロアノーク。花の中間管理職である。

 詰問される割りに処罰を受けてもいないのは、指揮下の"ファントムペイン"が、他に代え難い
戦果を上げ続けていると言うことに他ならない。ミネルバに対抗しうる手腕は、ネオの部隊以外に
求められなかったのだ。

「まあ良い」
 盟主の台詞は今回、嫌味ではなく言葉通りのニュアンスを含んでいるようだ。

「君を叱って、失われたエクステンデッド達が復活するというわけでも無い。
実をいうとだな、ロアノーク大佐……」
「ほう……ロドニアのラボが?」

 かくかくしかじかと、途中で聞き耳を立てていたステラを追い払いながら、
ネオはエクステンデッド研究施設の連絡途絶を知る。
 ザフトに攻め入られた地域――施設を撤収する混乱の最中に無いが起こったのか。
それを知る術は今のネオにはなく、それを知る興味がジブリールにはないようだ。

「爆破処理は失敗し、所長の行方も不明だ。優秀な男だったのだがね。生存者の報告は
上がっていないが、ザフトの部隊が接近しつつあり、処理部隊は後方に退いたのだ」
「その後処理が、我々の任務ですかな?」
「ふっ……どう思うね?」
「それ以外考えられませんが――」
「実はだね、一つ条件付きなのだよ」

 時折ネオは、ジブリールがこの無線通信を楽しんでいるのではないのかと、疑うことがある。

「"D計画"には、ある機体に適性の高いエクステンデッドが必要だ。それは理解しているかね?」
「存じておりますとも」
「これから君に、あるリストを送る。そこに名を書かれたエクステンデッドを、以降の戦闘から
外して貰いたい」
「温存ですか」
「そうだ」画面の向こうで、ジブリールが嘆息していた。
344SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/11/19(木) 00:08:13 ID:???
7/

 ネオの端末が光り、秘密回線でデータファイルが届いたことを確認する。事前に記憶していた
解凍コードを使用すると、数十の名前と認識番号が並ぶ、簡単なファイルが現れた。

「我々は数十体のエクステンデッド――の予備と言えるが――を一度に失ったのだ。
既に実戦投入をされた個体の損耗を考えても、大きな損害なのだよ」
 ネオは内心はほっとしていた。保護を理由に、スティングやステラに課せられた
投薬プログラムを緩和、抑制する方策を考えている。

「その上で、ロドニアのラボの破壊し、痕跡を一掃するのだ。宇宙の化け物共を滅ぼす為に
必要な研究だが、明るみに出れば、愚民共が文句を言い兼ねないからな」
「ふむ……完全破壊ですか」

 元は西暦時代の核シェルター。外から地下三層を粉砕するには、それこそ核でも持ってくるか、
ザフトのように10m級の隕石でも落とすしかないだろう。

「ネオ――大変だ!」

 とそこに、アウルが息を切らせて飛込んできた。
「ス……もごもご!」誰かの名前を言いかけた、その口を手で塞いで、「どっちだ?」と聞く。
 アウルの右手が、指二本をのばして"剣"を作った――ナイフ、ステラか。

「格納庫に行け」アウルに言うと、通信画面に向き直った。
「緊急事態かね?」
「ちょっとしたケンカですよ。それでは、そろそろ任務のブリーフィングがありますので失礼します」
 何かを言いたげなジブリールの顔を、半ば強引に黒画面に変えて、ネオは仮面の下の顔を
苦々しげにゆがめる。端末でスティングを呼ぶと、青い顔の青年が応えた。

「ネオ……か。ウグっ! すまねえ、ステラが……」
「なんてこった。スティング……ステラがブロックフレーズを使ったんだな?」
「……」
 無言で肯定するスティング。
 仲間にブロックフレーズを使うなんて! ネオは目の前が暗くなるのを感じた。

「アウルをウィンダムに乗せろ。ステラを追わせるんだ。今、すぐ!」
 背後、端末に映し出されたリストをちらりと眺めた。羅列の中程に、見間違いようもなく、
ステラの名前が載っている。

「チッ!」と舌打ち、指示下しつつ、ネオは格納庫へ向けて走り出した。
345通常の名無しさんの3倍:2009/11/19(木) 00:12:35 ID:???
支援と
346SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/11/19(木) 00:13:30 ID:???
8/

 ――ロドニア

 施設上空に到着。インパルスは、調査班の設営したテントを見下ろす形で地面に降りた。

「まだ中に入ってないのかな?」
 テント周りにいる調査部隊が、未だに宇宙服を思わせる防疫スーツを着込んでいる。
『ガスと細菌の汚染を調べている所だろう。あとは、放射線だな』
 レイが応えながら、ザクは、SFSを丁寧にランディングさせた。

『ご足労、感謝いたします。お二人はまだ機体に乗っていらして下さい』
 調査隊のヨップと名乗る男から挨拶があり、シンはインパルスに膝をつかせた。

「今の通信の人、誰だろう?」
『真っ先に防護スーツを脱ぐ人がそうだ……彼だな』
 ヘルメットを脱いだヨップが、インパルスに向って手を振り、部下を従えて施設に入って行く。

「なんか学校みたいだけど……変な感じがするな」
『……振動探知の結果が残っている。地下に相当の空間が広がっているな』
「でもさ、俺たちが護衛に来たのは、デュランダル議長直々のご命令なんだろ?
だったら、中身が何なのか知っておいて欲しいと思ったんじゃないのか?」

 そうだろうか、レイは暫く考え込んでいるようだったが、やがてにヨップを呼び出し、
施設内の記録映像を回して貰うよう要請した。

『カメラの映像を回します。そちらのメインコンピュータに記録して下さい』
 二つ返事で、施設内の様子がインパルスに送られてきた。
 "ターミナル"が縄張り意識を発揮するかも知れないと思っていたシンは、拍子抜けしながらも、
インパルスのモニターをカメラと接続する。

『議長から何か言って下さったのかも知れないな。シン、C6回線から、データ形式をFに
設定すると良い』
「分かった……よし、よし。ディスプレイに映像が来たよ。……地上部分は殆ど普通の学校と
変わらないんだな。それに……なんていうか」
『……監獄めいた感じがする』
「そう、それだ」
『……それに散らかり過ぎている。撤退したのなら、もっと"もぬけの殻"で良いはずだ』
「じゃあ、誰もここから逃げてないんだろって……え?」
『……』
「まさか――だよな。"住んでた"としたら、数百人規模の広さだぜ?」

347SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/11/19(木) 00:14:19 ID:???
9/

 二人の沈黙を余所に、ヨップ達は奧へ奧へと進んで行く。闇に包まれた施設をライトの
明かりが丸く切り取って、内部の様子を明らかにしていった。

「……行き止まりだ」
 大きなハンドルを備えた分厚い扉が、ヨップ達を止める。

『シェルターだな、閉まっている』
 電源の復旧を問う隊長の声がしたかと思うと、ヨップからザクに連絡が入った。

『レイ=ザ=バレル、ちょっと頼みたいことが有るのですが』
『――突破用の爆薬を用意していない……のですか?』
『恥ずかしながら……』
『非常用の爆薬がザクに積んであります』と、レイはハッチを開放した。

「いいのかよ、インパルスでシェルターを"掘れ"ばいいんじゃないか?」
『早く目を覚ませ。居眠り操縦は危険だぞ』
 工作用爆薬がザクのシールド裏、グレネードのアタッチメント辺りに取り付けられている。
 起爆装置ごと爆薬を取り外したレイは、20kgほどのそれを肩に担いで調査部隊の後を追った。

「爆薬でセキュリティがどうなるか……気をつけていけよ。何があるか分からないぜ」
『何をするか分からない奴に心配された。ショックだ。"それはこっちの台詞だ"と、
言い返しておこうか?』
「さっさと行け。敵襲が有ったときに居なかったら罰金だからな、罰金」
『了解だ――』

 十分ほどシンが周囲を警戒していると、インパルスのセンサーが低い爆発の震動を捉えた。

『開いた……中に入ってくる』
「結局入るのかよ。興味津々じゃないか。仕方ないな」
 シンは、インパルスを立ち上がらせて警戒態勢を強めた。

348SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/11/19(木) 00:16:53 ID:???
10/

 ――"ラボ" 地下一階

 地下に踏み行った瞬間、鉄錆の匂いが漂ってきた。ヨップの肩を引いて、レイは小銃を構える。

「どうしました?」
「……動いている存在の気配がします……」
 こめかみを冷たい汗が流れ、金髪を頬に張り付かせた。奧の気配に、危険は何も感じない。
ただ、血のにおいが鼻をつく。それに消毒液のにおいが混じる。

 天井を這うむき出しのパイプ、外からカギのかかるドア。染み一つのない、白塗りの壁。
レイの視界を埋める全ての光景が、忌まわしい記憶に波紋を起こしていた。

「レイ=ザ=バレル。汗が――」
「暑がりなのです。気にしないで下さい」
 思い出したくはない……だが、見なくてはいけない。きっとそれが、"彼ら"の意志だから。

 どうしてこの手の施設は同じ作りをしているのか、レイには間取りが分かってしまう。
 入り口右の扉は、"被験体"を調べ尽くす診察室に違いない。IDチップを埋められた子供達は
二度と出ることのないゲートを潜る。その扉には『全ての希望を捨てよ』とは書かれていない。
そして、奧にはきっと"焼却炉"が有る。出られなかった子供達の終着点が。

「失礼。先に行きましょう」
 スチール製の扉を開いて、レイは中に入り込んだ。

 きり、きり、きり。ストレッチャーの足音がレイに続く。
 これは幻聴だ――。そう覚悟する前に、"研究所"の光景が眼前にフラッシュバックしていた。
 ストレッチャーに乗せられる顔は、何処かレイに似ていた。

『駄目だ。テロメアが限界に達している』それは死を告げる言葉だった。
『こいつも駄目だ――内臓からの出血が止まらない』耳の奧で反響する死刑宣告。
『老化スピードが速すぎる』『免疫系統がやられた』数多の幻聴が思考を埋めた。

 ――僕たちを作っておいて、どうしてそれだけで処分するんだ!

 逃げ出したい心に反して、奧へ奧へと、体が勝手に進んで行く。背後では、ヨップが
レイを呼び止めていたが、それを無視してふらふらと進んで行く。
 そう、此処に住んでいた子供達も、死の予感に怯えていた。
 ――彼等の気持ちがレイには"分かる"。

「もっと生きて居たかった……しにたく……僕たちは……」
「……どうしました。レイ=ザ=バレル?」
「あ……あ――あああぁぁぁぁ……!」

 ――駄目だ。エクステンド処置に脳が拒絶反応を起こした。
 聞いた事のない言葉と声。立ち尽くす。瞬間、レイの心に"何か"が入り込んだ。
349SEED『†』 ◆HHRSJTtlhQ :2009/11/19(木) 00:22:45 ID:???
11/11

 "今日も一人連れて行かれた、明日は僕かも" "今日も処分した。これから何人を、何時まで?"
"どうして僕達は外に出てはいけないのだろう?" "私の番だ。注射を打たれた。目をつむれない"
"メスを持ったお医者さんが私をどんどん開いてゆく" "俺をお兄ちゃんだなんて呼ぶな、お前を助け
る事は……出来ない" "1/10、被験体を一体焼却処分" "駄目だよ、おいしいご飯に釣られて向こう
の部屋に行ったら、帰ってこられないんだ""お母さんが助けてくれない。どうしてそこで見ている
の?""私の体が解けていく。脚を顔のすぐそばに置いたりしないで。まだ意識があるの""……もう
……諦める""1/16、暴れる被験体を射殺した。反動が右手に残っている""このお注射したら、直に
眠たくなるからね、絶対に痛くないから、良い?""お兄ちゃんがゆりかごの中で寝てる""頭の中に、
機械で出来た僕が居る""ぜろ、いち、ぜろ、ぜろ、いち、ぜろ""……御免なさい""アイツを何処に
やったんだ――!""自分の肝臓の色を見た。メスが心臓に近づいてくる……もうすぐ終る""上の階が
騒がしい。また被験体が暴れているのだろうか? 訓練施設とは分離して欲しい物だ""パン、パン。
音、赤い。熱い……暗い""2/10、もう沢山だ。この銃が全てを解決してくれるはず""大丈夫、痛く
ない""大丈夫? 痛くない?""刺しちゃって御免、直に抜くから""赤い物が溢れて止まる""2/15、
今日からここが僕の仕事場、前任者の日誌が見あたらない""……どうしてだろう、とても静かだ"
"――駄目だ、拒絶反応が起こっている。もう言葉も聞こえていないだろう""熱い……あついよう"
"――! …………? ……!!!""3/20、拒絶反応を起こした被験体を凍結処理。二度とやりたく
ない""おうに帰りたいの""これは人類の為なのだ""家に帰して!""貴重な礎なのだ。――きれい事
を! ザフトが近づいている?""2/21施設の放棄を決定する。ああ、よかった、これでこの仕事から
解放される""どうせ誰もいなくなるんだ。最後にコイツを汚してやる。ずっと前から目をつけ――"
"どうして奴らが動いて?""お兄ちゃんが目を覚ました""爪が――目が―― 逃げ。無理""反乱――
警備員を呼べ""パン、パン、撃つ。弾が切れて……""隠れる。立てこもる""設定の解除を""だめだ、
なだれ込んで……""皆殺しにしてしまうんだ""見つかった""殺す""死ぬ""撃て""切る""私は逃げ切っ
てみせる""絶対に外に出すな""出せ、出せ""お兄ちゃん殺さないで。どうかお願い"

 ――私、死にたくない。

「…………ぁ…………」
 思念の渦に絡め取られたレイの心は、体の制御すら失って膝をついた。
 早鐘を打つ心臓を押さえ、くの字に折れて嘔吐するレイを、ヨップが出口に引きずる。浮遊感。
視界にもやが掛かり、"眠りたくない"と祈りながら、レイの意識はブラックアウトした。

「レイ……レイ!」
 ……だれかが、名前を呼んでいる。
35045 ◆HHRSJTtlhQ :2009/11/19(木) 00:24:29 ID:???
以上、投下終了。感想、ご指摘はご自由にどうぞ。
OCNでさるさんをくらってしまったので、e-mobileに切り替えたらなんとかなりました。
支援有り難うございます。

最後のレスの上の方は大して意味が無いので、読み飛ばして貰っても大丈夫です。

では、また。
351通常の名無しさんの3倍:2009/11/19(木) 12:18:32 ID:???
読み飛ばしてもって
そんな態度は好きじゃないなあ
352八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/11/20(金) 23:44:20 ID:???
劇場版 機動戦士ガンダム00 木星の花嫁 Bride in Jupiter
アクト3 後編 1/

全て者がダブルオーライザーをその瞳に映す。

宇宙が彼らを包み、戦場が彼を導いた。
全てを断つ為に……

ある者は初めて目にする輝きに異質を見出し、
またある者は戦場伝説ともなっている輝きの形状を、記録にあるデータのそれと一致させた。
それぞれが原初から持つ懐かしみ、固執、杞憂、信頼、葛藤、畏怖が掘り起こされ、剥き出しにされていく。

その一瞬、輝きは時さえも支配したのだろうか、
解放されたそれぞれの時間が戦場に散り、また戦火を燃焼し続ける。

「…… 」
異質なる存在をこの戦場に近づけてはならないとユニクスはその機体を眼にする事で実感した。
ガリレオ艦甲板上にて抱えた銃身の向きを変え、静に狙いを定める。
足止めとて適うのであろうかという不吉な予感を胸に、直進する光点を照星に捉え引き金を絞る。
トランザムによって輝きと、流速を増し放たれた蒼槍の軌跡は、双環の中心を貫くことは無く、標的を中心点とした対線上から
伸びる光条によって打ち消される事となった。

「その機体特性なら、ここで狙ってくる事はお見通しだ。ハロ、射線調整を引き続き頼む」
「マカセロ マカセロ」
再度輝く戦場からの蒼光を確認するなり、ケルディムもまたその引き金を絞る。
プトレマイオスUのMSハンガーに固定された大口径GNライフルが、射手の意図を打ち出した。
光線は前方に展開するシールドビットの組み上げた円環を潜りぬけることで、微かに軌道を調整し算出された一点へと
宙を切り裂きその身を運ぶ。
先行するダブルオーライザーのわきを抜け、ガンダムイオの放った流星の光弾を再び打ち落とした。
「ロックオン・ストラトス、目標を狙い落とす。刹那、お前の足は止めさせやしない。目指すその先を見せてみろ」

僅かな減速さえなく最短の直線上を、そしてガリレオ艦とイオを抜けダブルオーライザーは戦場の中心であろう
小惑星ジュノーとジュピトリスワンの間にその姿を晒した。
ガガとの戦闘を優位に進めていた白色の戦闘群が残存するMAをまとめ、突如として現われた乱入者の排除を開始する。
打ち込まれるビームの射線を粒子の刃をもって切り払い、刹那がその戦場に初太刀を刻んだ。
続けてGNソードUから打ち出される粒子の軌条は牽制など要することなくMAを輝きと供に残骸へと変え、
加速と変向を両立させた機動性が、ジュピトリアンMSの認識を超えて瞬時に可動部を切り裂き、戦場にある兵器を
また一つと無力化していく。
圧倒的と映る勇戦のなか、しかし彼はいらだちを言葉として発していた。
「どこにいるリボンズ・アルマーク!! 貴様なのだろう、この戦いの源は」
その弾劾を嘲笑うかのように宇宙は、そして戦場は無音であり。
返事となるものは勢いの増した敵意の銃光があるのみであった。
353八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/11/20(金) 23:45:01 ID:???
2/
「ロックオン ロックオン」
「こんどはこっちかよ」
シールドビットが防御の体制を組み上げプトレマイオスUの艦橋を狙った破壊光を逸らす。
「反撃に移るぜ」
ケルディムの放った返礼は、虚しくも送り主に届く事は無く、
離れた宙点から、時を移さず放たれた同質の攻撃が、その示した発光点をもって機動狙撃への切り替えを告げていた。
「機動力もあるとは、これじゃ埒が明かねえ。ミス・スメラギ」
「ええ、このまま刹那に続いて戦場に割り込むわ。フェルトは全方位監視に切り替えを、ラッセ!!」
「おう、よっしゃあ!! 突っ込むぜ」

ケルディムとイオの相紡ぐ光条の行き交いが互いの発光点を縮めていく。
時間さえもがその身を痩つすなか、シールドビットは集合を為しえず、
向かい来る火砲の衝撃を前に、単独での抵抗を試みるも無残に散らした破片が跡に残るのみあった。
砲塔ブロックが、そしていくつかの区画が炎をあげ、プトレマイオスUの艦体は衝撃に揺れる。
一方で、ユニクスもまた彼の保持する機動半径が徐々に狭められている事を理解していた。
近づく敵艦がイオと交差する寸前の最短の一撃が、ソレスタル・ビーイングの狙撃手が仕込んだ狙いであろう。
当たれば致命傷となるであろう射線の罠を互いに廻らせ、その瞬間を誘い込む。
訪れたタイミングに解き放たれたものは、ライフルの粒子ではなく、粒子の固まりそのものを纏うMSの姿。
「こっちならどうだい、接近戦ならな」
両の手に構えられた2丁の短銃を打ち放ち、間合いを完全に殺しにかかるケルディムは、獲物とするイオを
発生させた支配範囲から逃さず、その型を描く様に美しい慣性制動は、兵器の持ち替えの隙さえ与えはしない。
2機のMSはトランザムの輝きを発しながら時間を喰らう。
避け続けることも終に限界を超えたのか、ガンダムイオが光弾の数発を装甲を犠牲に受け止めるようになっていった。
「このまま行くぜ」
ここが折り返しである。
不意にイオの手中に現われた棒状の輝きによって、打ち込んだ粒子の連弾が捌かれ、ケルディムの型の流れが乱される。
長大なるロングライフルを縦横に走る粒子排出溝を、己のGN粒子で覆い尽くす事で作り出した光棒が、ジュピトリアンの
その手には握られていた。
「…… 」
産み出した暴風の切れ目を衝かんと、銃身に纏った光の膜を解き、拡散に切り替えた手中の長物を発射した。
打ち放たれたビーム粒子の無数の雫が、空間を奪いながらケルディムをその面に捕らえようと光の網を拡げる。
雫は何モノかにぶつかりはじけて消えた。
より厚い密度を持ったGNフィールドが雨をしのぐ壁となってその場に割り込んでいた。
戦場を横断し舵を切ったプトレマイオスUが2度目の突貫を仕掛けていた。
「乗ってくか、お客さん」
「遅いぞラッセ」
交差の間に、ハッチに取り付き難を逃れたケルディムのコクピットの中で僅かに息を吐く。
「ミレイナ、ライフルは」
「後部デッキに再設置済みですう」
「上出来だ。それじゃ、第三ラウンドだ」
過ぎ行く敵艦にイオの放った一撃はGNフィールドを貫き、その後背に損傷を刻む。
同時の返礼によって肩部装甲をもがれたイオのコクピットでユニクスは、振り子の如く続くことになるであろう難敵との
長期戦の覚悟を決めた。
354八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/11/20(金) 23:45:59 ID:???
3/
「ハァ ハァ」
押し切るかのようにファングはその数を減らしながらも、ガニメデの兵装を潰し尽くした。
コンデサーと共有されるキャノンの砲身はその形を残しておらず、
そのMSとしての巨き過ぎる体躯を動かすことさえ、もはや満足に行えないないであろうことがわかる。
もうこれ以上こちらに近づけはしまいと確信を抱き、ネネはようやくにして落ち着きを取り戻した。
逃げるようにルイスから離れ、伸ばされたその手を振りほどこうと傷をつけた。
「やっと終わった」
あの声を耳に入れまいと切断していた回線を繋げなおし、他機にガニメデのジュノーへの移送を指示する。
そして、ネネは心に芽生えた苛立ちを無性に吐き出したくなった。
そんな対象を求めてカリストは、溢れ出す己の粒子を敷き詰めるように新たな戦場に彷徨い出る。

宙を臨めぬ一画は、ジュピトリスワンの坑道ブロックであった。
「無事かい」
「カタギリか、ああ…… どこかへ去ってしまった」
隔壁に背を預け腰を落とすサキガケと呼ばれたMSとおぼしき塊に、作業ワーカーが取り付きハッチを開く。
「そうかい なら、あれはやはりダブルオーライザーの粒子ということだね」
「来たのか彼が」
そう言うとグラハム・エーカーは、モニタを艦外カメラに切り替えた。
「期待に沿えず申し訳ないが、もうこれ以上の戦闘は無理だよグラハム。
 こうして動力と電装が生きてることさえ奇跡に近い。
 チューンしたとはいえサキガケでは、もう君には役不足か」
技術屋として繋げた端末情報を伝えることで、ビリーは友人としても彼を止めるよう努めてみた。
「やはり間接部だね、次は強度とプログラムを…… 」
「いや、もういいカタギリ。
 未練は無い、これでMSのファイターは仕舞いだ」
「そうかい」
「そうだ」
視線の先にあるモニタには、青く残る双円が画像を刻んでいる。
「まるで曼荼羅の絵図だな、戦いの輪廻にまだ身を焦がすか、ガンダム」
今、その輪から外れることを選んだ男は、彼にしては珍しく少し名残を惜しむかのように言葉を漏らした。
355八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/11/20(金) 23:47:02 ID:???
4/
戦いの円環の中で破壊を重ねるダブルオ−ライザーの戦場に、宙域に残っていたガガが紛れ込む。
援護であろうか、ただ騒じょうにとりつかれたのか、ダブルオーライザーに群がるジュピトリアンMSの後背を突きかかる。
瞬間、太陽炉を切り外され無力化された2機の両陣のMSが、新たに戦場を飾る静物としてキャンパスに加えられていた。
刃を振り切り残身をとる彼の耳に届くは、あの嘲笑。
「おやおや、せっかくの援護じゃなかったのかな」
「リボンズ・アルマーク!!」
「それに、いつまでそんな半端な曲芸が続けられるかな、純粋種は」
「その名で俺を呼ぶな、俺は刹那・F・セイエイ。戦争を根絶するものだ」
ガガの破壊は、斥力と化しジュピトリスワンの艦外に現存する連邦のMS隊を引き寄せる契機となった。
密度と混沌に彩られた鉄機の波状は、彼の手に一つ生命の輝きを摘み取らせ、その数を増やす。
「どこにいるリボンズ」
「どうした戦闘はまだ終わっていないぞ。それではまだ足りないのじゃないか、ソラン・イブラヒム。
 それにどうだい、この光景は、まるであの砂漠の、クルジスと呼ばれた廃墟に光臨するガンダムようだ」
「どこまでも、貴様は」
そこに、苛立ちという意味で共通する何者かの意思が、割り込むように叩きつけられた。
「ソレスタル・ビーイングーッ!!」
また一つ声が咲き乱れる。溢れんばかりの青光をその異形な大身を纏ったガンダムカリストMAが少女の激情を吐き出す。
肩部とスカートに据えられた砲門を開放し、ネネは光条の乱流を宙域に充たした。
「おまえたちがルイス様を!! それにみんな殺して一体何をしたいのよ」
出来上がった発光と発熱の飽和区域に、続けてファングが踊り込む。
だが、そこに目標の姿はない。
粒子の流れを読んでいたはずのネネは戸惑いから、眼前に現れ浮かび上がったダブルオーライザーの機影に驚愕する。
そして、粒子が搭乗するパイロットの雄叫びを少女に叩きつけられた。
「子供が、戦争をーッ!!」
GNソードVがカリストの左腕に加え、直線下にあるスカートの一部を切り取り、そのMSは振り返ることなく少女を後ろに
戦場を移す。

一人残された少女が、打ち棄てる事の出来なかった、苛立ちに震える。
「……何よ、何なのよ、誰も彼も」
そして、彼女が慰めるように言葉をかけた。
「だからネネ、あなたの相手は私って言ってるじゃないの、さあ話の続きよ」
身と覆う厚い装甲はファングによって刻まれた無数の傷跡を印す。
こうして近づく推力さえ安定を為さないその機体でどうやって僚機を振り切ったのだろうか。
しかし、こうしてまたルイス・ハレヴィの乗るガンダムガニメデは少女の前を遮っている。
「邪魔しないで。これ以上、何を言うのよ」
「これ以上じゃないわ、まだ始まってもいないくらい、知ってる? 女の話は長いのよネネ」
356八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/11/20(金) 23:48:47 ID:???
5/
呼吸を整えることも忘れ、息を乱す刹那の聴覚が宇宙にあるはずの無い銃声を創りだしていた。
「確かに、あの懐かしい戦場には子供が似つかわしいね」
「貴様が」
「いいや勘違いしてもらっては困るな、これは彼女達ジュピトリアンの始めたことさ、
 わたしは後から背中を押しているに過ぎない。
 これは彼らの戦争だ、彼らの絶望と君のそれとどちらが勝つか楽しませてくれ」
続けられる言葉は、さらに何処へと誘うのか。
「わかっているのだろう虚しさを無力を、そう、それが絶望さ」
無限と思われる戦い、それはこの宙域だけのことではない、そう彼の見てきた少年の時、
そしてソレスタル・ビーイングとして世界と、アロウズと、イノベイドと、
そして続く紛争と戦う。
この一つ一つの破壊は、何を変えるのか。
己を除く全てを破壊すれば終わりは見えるのか。
変革とは、人類とは、いったい俺に何を導けというのか。戦いの先にあるものは何だ。
思考の淵で覗く水面は暗く、体を澱みの闇の奥へと深く誘う。
ダブルオーライザーがその機動をわずかに弱めていく。
ただ光が強まった。
双肩から浮かぶ蒼き環が揺らぎ、震える。
脳量子が求めるのか、それとも機体の意思であろうか、そして宇宙に粒子が弾けた。

戦場を包みこんでいた深く濃いGN粒子が、反応を連ね天文学的に誘爆を重ねることで、量子の安定を脆弱なものとしてゆく。
量子は自己の揺らぎを知り、仮初めに創りあげた実体のはざまを、そのすべての者に体感させた。
混線するそれぞれの自己の境界のなかで、ひときわおおきく一声を拡散させ続けていた青年がいる。
彼はこの変化に気付かない。眼前にいた二人に語っていた言葉が、ここにいるすべての者への言葉であるから。
「だから、ぼくが皆に伝え、教える。
 幸せを、幸福がなにかを、そう希望を。
 絶望は誰し持っている。僕もそうだった無知と無関心、無力が絶望にすがりついた。
 それでも、僕たちには過去の何気ない幸せの記憶が残っていた。希望が」
声が上から重ねられた。ターシンの思考が
「しかし、我々は既に充たされている。希望など」
その反問を遮るようにサジ・クロスロードは言葉を続ける。
「かつて僕は世界を知っていないと教えられた。そしてこれが現実であると。
 けど今ならば、世界はそんなに狭くは無いんだと僕は教えてあげることが出来る。
 彼らが、そして君達が知っていたはずの幸せや人を好きになるといった想いもまた一つの世界だと。
 今も一人、闘い続ける僕の友人に伝えたい。
 彼の幸せの記憶を、ただ忘れてしまっていただけの想いを、そう絶望は全てじゃない。
 宇宙はもっとひろいんだ」
357八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/11/20(金) 23:50:05 ID:???
6/
「…… ええ」
空間は形を成し、そこには二人の姿があった。
少女は気付く、そこが短い時間を供に過ごし夜を語ったあの一室であると、
「ネネ、あなたは知っているはず、そして私に何度も見せてくれたわ」
正面にある姿はその金色の髪と供に、記憶に残していたジュピトリアンの真紅の制服を着こなした木星の花嫁。
そして、自身の体を彩る衣裳は白と黒のコントラストのあざやかな介添人の正装、花嫁のためだけに皆で作り、
着飾った忘れるはずも無い服だった。
「わたしは、あなたの絶望を受け入れた。けれどもね、それよりも前にもっと他のものを貰っていたの。
 それはネネあなたの微笑みや、踊るようないろんな感情のひとつひとつ」
体の憶えていたルイスの鼓動が伝わることで、ネネはその腕に彼女の手が触れた事に気がつく。
「そう、うれしいって気持ちや、困ったときのいじらしさ、それはとても幸せなことだと思う。
 だから、今度はわたしがあなたに分ける番よ。それでも解らないのなら、こうして傍で教えてあげるわ」
ルイスの手のひらの体温さえも感じて、ネネは体を竦めた。
どううしていいのかと迷う未熟な少女のそんな思いが逃避を願っていた。
「嘘よ…… こんなのまやかしよ!! ねえ、私を、誰か私をここから出して」

弾ける粒子は、彼等の身にも影響を及ぼしていた。
『ああ頭に響きやがるぜ』
「ハレルヤ、勝負を決める。いいかい」
再会もそこそこに男達は、戦いに沈む。
『まったく人使いが荒くなったな。オンナいるんだろ、テメエも手伝え』
『私の名前は、ソーマ・スミルノフだ』
「ソーマ… 」
最前までソーマ大尉と呼ばれていた女性パイロットが口に出して呼んだその同じ名は、
根源の音を響かせた。
『行きます。マリー・パーファシー』
アーチャーとアリオスは、さらに2つの意思に分かれる。
思考と反応がその翼を広げ宙を舞う姿は、つがいの猛禽さえ凌ぐ美しさを纏っている。
追いつめられていく自らを知ってかミゲルは声を荒げる。
「ちくしょう ちきしょう ここでやられるわけにゃいかねぇんだよ。
 泣くなよネネ 兄ちゃんが今すぐ行くからよう」
高まる感情は戦士の限界をも超えるのであろうか、しかし手にする火器を失い、エウロパはまた一つ傷を重ねていった。
ついに滑空するアリオスの尖角が、勇戦にとどめをさすようにコクピットをその兆しに捉える。
突き刺された機体は、白く輝くMAのそれであった。
戦域を越えて割り込んだ意思を持たぬ無人の兵器。
「あ、あにきぃ、兄貴か、意識が」
『今だミゲル、そしてネネを』
「うおー」
MAに深く穿たれた亀裂は、アリオスを押さえ込む結果となっていた。
エウロパは、ただひとつ残ったビームサーベルをその手に輝かせる。
一連の事態に反応するアーチャーの斬撃を、肩後部に残った最早飛翔さえ叶わないであろう翼をして受け止めると、
地に足を絡めとられ、もがく、同じく飛翔を生業としたガンダムへと刃を握る腕を伸ばす。
358通常の名無しさんの3倍:2009/11/20(金) 23:50:38 ID:???
sien
359八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/11/20(金) 23:51:25 ID:???
7/
頭部を包む何かに反響する自身の声が、身に纏う服が戦衣であると教えた。
先ほどからモニタが捉え続けてきたMSの傷ついた姿を認め、何があったのかと理解しようとする。
しかし腕に残るこの温もりはなんであろうか、こうして再び瞼に焼きついたあの顔は。
先の部屋のように近づこうと、バランスを明らかに欠いた粒子噴射を行うガニメデに少女は、いつのまにか話しかけていた。
「もう…… 来ないでよ。それにそんなボロボロの機体じゃ」
「あら心配してくれるの。でも、それならあなただって」
また声を聞くと、体があの先にあったはずの鼓動の熱をくれる様な抱擁を求めだす。
「だめよ、こんなにして」
肩部から縦に切り裂かれていたカリストの巨躯もまた、粒子を正常に機動へと変換する事に苦心する。
それでも今だ膨大に放出され続ける粒子光を更に強めることで、また彼女から離れようともがいていた。

『ルイス・ハレヴィ 待たせたな準備は整った』
「わかったわ」
たとえどんなに逃げても追い続ける事は彼女にとって必然でなのであった。そう、彼がしてくれたように。
それに、今は傷ついたネネのカリストが戦場にある事の恐怖もあった。
手段を問うてはいられない。
「ネネ、それじゃまずはじめに教えることは、人の話は最後までしっかり腰を落ち着けて聞くって事よ」
指がキーを叩く
「トライアル・システム起動」
『トライアル・システム起動』
傷を晒し剥離した跡さえみせるガニメデの装甲が、固定ボルトを外す炸薬の爆発にさえ耐え切れずに砕け飛んでいく。
肩が、腕が、脚が、胴が、胸が外されるというよりも剥がれ散り、その殻の内側を露にしていく。
そして、頭部では、覆っていた外装を無数のケーブルが内側から押しはがし、
その結わえ込まれていたのであろう髪を振りほどいた。
『これがガンダム・ガニメデの真の姿。システムの不在からその名だけが残されたガンダム・ユーノーだ』
欠けていたトライアルの理論が移植された事で、リバースのもたらした設計データに名前のみが記されたガンダムが
目覚め、その胸に位置する太陽炉が輝きを絞り出す。
『同調するヴェーダリンク機を全て強制停止させる』
GN粒子の青い光が、制御細管を満たした。
黄色のケーブル管は内側から照らしだされ、その金色の輝きを見せ付ける。
あらわになったユーノーと呼ばれた内なるMSは、か細く伸びる白磁の肢体のすべてを外気に晒した。
そこにあるのは、腰まで届く金髪をのばした少女の姿。

そして戦場の全てでジュピトリアンの機体は、その動きを停止する事となった。
ジュピトリスワンの坑道で格闘するMSが、宙を飛び交うMAが全てのジュピトリアンの繰り糸を切る。
360八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/11/20(金) 23:53:00 ID:???
8/
正面のMSから動きが消える。弾幕を泳ぐ機体は宇宙に流されていく。
そんな光景を目にする兵士達がジンクスにガガに砲塔に存在する。
あの空間は、そしてこれは一体、混乱の連鎖が一瞬だけ彼らに戦場を忘れさせる。
そう殺し合いのさなかの僅かの間。
そして声がした。それが良く知られたセレナ代表の声であっても最早不思議は無い、
『やめなさい』
止まる腕に、続けて今度は回線を流れ始める命令が重ねられた。
「やめたまえ」
同じ言葉であったから、よく耳に残った。続けて回線を伝う文言は補足する。
「ジュピトリスワンに所属する兵士は、直ちに戦闘行為を一時停止せよ。
 諸君らには、軍人であって欲しい。私はジュピトリスワン司令ヤオ・ハンである。
 もう一度言う、我々は軍人だそのことを考えて欲しい」
一人また一人と操縦桿を握る腕は強張りから解放され、そして肺から息を抜くと久しく滞らせていた換気を行った。

「動け! 動けよ!! もう少しなんだよ。どうして動かねえんだよ、せめて行かせてくれよ」
ロックされたコンソールに向かって男は吼える。
ミゲルの戦意の先にあるコクピットでは、起死回生の一撃の寸前で停止した敵機を見てアレルヤが現状を呟いた。
「助かったのか僕たちは」
『みたいだな あのおセンチ野郎の仕業だ』
尖角を残骸から引き抜き、人の形に身を変える。
向かい合ったMSはトライアルの虜と化すも、パイロットの強烈な思念はそのままに残すように見えた。
『で、どうすんだ。言っておくが俺たちは軍人でもねえ超兵だ。軍の記録にも、もはや存在しない者だ』
「いいさ もう僕は切り捨てない」
『いいんだなコイツラがまた襲ってくるとしても、もっと悲惨な事になっても』
「その時は、また僕が止めるさ。何度でも止めて見せるよ。そう何度でも必ず。
 そんな重荷なら僕にだって担えるはずさ、これまで君に背負わせてきたものに比べれば。
 ありがとうハレルヤ、これからは君の分も引き受ける」
そう言うと、言葉の端から腰が抜け始める。
「ごめん、ちょっと疲れたよ。なにせ…… ここのところ寝てないんだ…… あとは」
『ああ…… わかった。それに、おまえなら大丈夫だ』
アリオスは久方ぶりにその身を宙にゆだねた。
361八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/11/20(金) 23:54:19 ID:???
9/
少女もまた動かぬコクピットいる。
もう目を背け、耳を塞ぎ、逃げ出すことも出来ない。
観念したその成長途中の体にルイスの言葉が沁みこむ。
「そう聴いて」
「…… 」
「だからね、家族になろう」
「えっ」
「当然私がお姉さんで、ネネが妹ね。そして笑って、喧嘩して、泣いて、仲直りして、また笑うの。
 ね、楽しいでしょ。ネネ・ハレヴィ、どう素敵な名前だと思わない」
「だけど、だけど…… 」
「もう一度言うわ、家族になりましょう。お願い、一緒にいたいのあなたと」
「私は…… 」

ふたりの時間と会話を引き裂くように、一条の閃光が宙を走る。
「戯れ合いは終わりだ、ルイス・ハレヴィ」
オーキッドガンダム3号機・ジュピターを駆るリボンズ・アルマークよるトライアル・システムの根幹たるユーノーを狙っての
攻撃である。
自身の力への信頼か、ヴェーダへの二律背反にも似た不信であったのか、その男のガンダムはリグ・ヴェーダリンクを
必要としない孤高の存在であり、イオリアの呪縛からただ一機自由であったジュピトリアンと言える。
ただし、男は歪んだ誇りをもって言いかえる。
「イノベイターを甘く見るな、人間風情が」
『ならばコチラもみくびらないで貰おう。二度同じ過ちは繰り返しはしない』
ティエリア・アーデもまた、そんな男をよく知る者である。
かつてのCBコロニーにおける戦いでの自機の撃墜を教訓として、予期しえるこのタイミングでの攻撃に糸を張り巡らせいた。
既にして反応を起こし、闇を照らす閃光進路の予想軸を外すように半身を逸らすユーノーの姿がそこにはあった。
この機動によって、リボンズの意図は目標を捉えることなく宇宙の漆黒の向こうへと通過しやがて粒子は拡散するはずであった。
ただし、それは過ぎゆく軌道に何もなければの事象予測に過ぎなかった。
今現実に、ヴェーダの割り出した射線軸上にはユーノーの代わりとなる機体が存在していた。
その絵図を脳裏に映すや、彼女は制動を切り替え、その機体の左腕を伸ばす。
「駄目ーっ」
「!! ……えっ」
ユーノーの機影によって生じていたブライドが外れたことで、動かぬカリストの巨躯を新たな獲物としてビーム粒子が迫る。
偶然かコクピットに向かってその輝きを照らしてゆく光景が、不思議と緩やかにネネの目には映りこんでいた。
ただ言葉も意思も動かぬ重い時間の流れの中、再び何かが少女の視線の先を覆う。
その影がルイスの操るユーノーの左腕であったと気がつくのは、閃光がそれを破壊し、広がる赤と黄の炎と白煙を、
目にした際に己の漏らした、一音の放声の時であった。
362八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/11/20(金) 23:56:29 ID:???
10/
「フフ… だから君は愚かだというんだルイス・ハレヴィ、つくづく人間など」
左腕から伸びる誘爆が覆うユーノーを眺め、リボンズ・アルマークは己の意図の完成を愉しむかのように言葉を紡ぐ。
そして彼の脳量子がシステム不能によるトライアルの停止を認識した。
「貴様はまだわからないのか」
遂にその姿を晒したリボンズに刹那が叫ぶ。
あの時間の中で聞こえた彼を知りそして彼の知る男と女の示した希望を噛みしめて。
リボンズの乗るガンダムへと舵を切り駆けるダブルオーライザーの機中には少女の悲鳴がこだまする。
トランザムバーストの残響が、全てのものにその声を響かせていた。

「嫌やーっ ルイス、ルイスゥッ!!」
眼前で誘爆を続けるユーノーに向かい声を張り上げる。
自由を取り戻したことを少女に知らせる計器の輝きが、バイザーの向こうのネネの蒼白となった表情を照らす。
「なんで、うそ…… どうして私を」
右手マニュピュレーターから抑制粉塵がユーノーへと打ち出される。そしてコクピットハッチを抉じ開けると
ネネはカリストの装甲を蹴りルイスの元へ宙を渡った。
警告灯の点滅するコクピットの中、弛緩し宙に浮かぶ肢体は、かつて少女の手で着せられた赤いパイロットスーツを
纏った女性の姿。
強くそして大切にその体を抱きしめ慟哭する。
「ルイス…… ねえルイス、返事をしてよ。
 無事なんでしょ、冗談は止してよ…… 
 ルイスは言ってくれたじゃない、わたしに幸せを教えてくれるって、家族にしてくれるって、
 姉妹になろうって…… ねえ、嘘じゃないよね……
 ルイス、わたしもルイスと幸せになりたい」
愛しくそして哀しい言葉は、触れ合い繋がる身体を通して伝わることを希望するものだ。
それは宇宙をも振るわせるかのような鼓動を響かせた。
「…… うん、聞こえるわネネ あなたの声が」
少女の体に返事が届く。
「ルイス、ルイス、ルイス」
「うん、うん、大丈夫よ…… もう、また泣いちゃってホント困った子
 女の子の涙は大切なのよ、無駄遣いしちゃダメよ
 いいわ、これから…… そう、これからはしっかり教えてあげるわ」
バイザーの向こうを涙の粒でいっぱいにしているのだろう少女は泣きながら素直に頷く。
「うん、教えて。これからもいっぱい、いっぱい教えてね」
そんな言葉を受け止めると、ルイス・ハレヴィは彼女の妹を静かにその腕で抱きしめた。
363通常の名無しさんの3倍:2009/11/20(金) 23:57:21 ID:???
sien
364八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/11/21(土) 00:01:30 ID:???
11/
ダブルオーライザーの行く手を、システム呪縛から開放された白色の親衛機達が遮る。
その名を示すように、始まりのガンダムを守護するため、ガンダムをも超えたMSの排除を再開する。
「これは」
先までの個別が連なる動きさえも凌駕する連携は、ただ一人の意思そのものであり、不純物となる差異さえその機動には
あらわれていない。まるで、
「そうさ、私だ。
 そうだなMSファングとでも言おうか、意志を持たぬ木偶人形は実に扱いやすい」
一なる思考に制御された全域射撃が、回避の隙間を、そしていとまさえ刹那から削ぎ落としてゆく。
「貴様はそうやってまた自分以外の存在を見下すのか」
粒子の織り成す輝きの肖像を貫いた光線が触れたものは、ダブルオーライザーの残影であった。
再構築された刹那の刃が、リボンズのガンダムを遂に捉えようとする。
「甘い」
衝撃が機体を襲い左脚部の損傷をモニタが告げた。量子間移動の終点ポイントに撃ちこまれたビーム粒子が、
ダブルオーライザーを初めてその破壊に招待した。
「完璧に統制された複数火砲をして、広範囲に高密度の死角の無い空間を作り出せば良いだけの事さ。
 まあこんな芸当も私だから出来ることだけどね」
高揚した言葉は彼に蓄積されていた熱の放出となり、続けてその冷めた眼が笑う。
「私ばかりが目立っていてはいけないな。端役とはいえ君達も退場するにはまだ早いよ、ジュピトリスワンの諸君」
そして号令はかけられた。
「拘束は解かれた。
 さあジュピトリアンよ、絶望の演舞を再開しよう」

ユーノーの拘束が外れて、自由をその手に戻したジュピトリアンのMSは、それでも沈黙を続ける。
すでに十分な時間の経過があったはずだが、ガリレオ旗下の黄色の軍機は尚も動かない。

「ああいってるぜ、おたくの大将」
機体を任されたハレルヤは、のん気にも、先まで死闘を繰り広げていたエウロパに通信を送っていた。
「うるっせ、あんなに妹に泣かれちまったたら、もう戦えねえよ。ずっと兄貴やってんだよこっちは」
もはや興味無くした好敵手に、ミゲルは愚痴ともつかぬ心根を明かした。
「まったくどいつも、こいつも、とんだ甘ちゃんだぜ。
 おいオンナ、この寝太郎にいっとけ、
 代わるもなにもねえってな。
 それとソーマ・スミルノフ、わかってんだろ。
 そんじゃ、あばよ」
『この男はいい加減、名前を…… フン、
 マリー・パーファシー、そういうことだ、これでさよならだ。
 結局わたしはおまえであり、おまえはわたしである。まあ、当たり前のことだ。
 それでも、義父のなで呼ばれる良いものだった』
「さよなら… いいえお帰りなさいソーマ・スミルノフ」
多分最後となる別れは寂しくもあるが、これまでもこれからも彼女は知っている。
一つの戦場が彼ら以外の誰に知られることも無くその幕を閉じた。
人を想うもの達の願いを結び。
365八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/11/21(土) 00:03:02 ID:???
12/
「何故だ、なぜ連中は動かない」
「お前には聞こえなかったのか、彼女達の声が。
 幸せを希望を願うあの声が」
刹那が、一人問う彼に答えた。
「たかが戯れ言が何だというのだ。
 絶望の螺旋から抜け出れるとでも、いいや、この私が許しはしないぞ」
その眼に宿る焔は、なにを示すか。

事態を見守る事は、戦時よりもその知覚を行使していく。
そんなジュピトリスワンのブリッジクルーの間に、感覚さえ麻痺させるような劇物となるモニタリング数値が投げ込まれた。
「小惑星ジュノーに高濃度粒子圧縮反応!! 粒子値はメメント・モリ級!!」
「なんだと」
「反応地点の映像に、放出反応芯を視認。予想目標軸は、X32.Y174.Z−65.モニタに回します」
座標は無機なる数字の羅列から、このジュピトリスワンの外装を示す厚岩質の一部となった。
ノラッフ・ノエルシュは、オペレターとして情報に正しを添える。
それがどんなに彼女の望まぬもので、誰一人として喜ぶものいない事実であっても、
これまでのようにノラッフのその口が映像で見えぬ外装の内側の名を告げた。
「緊急脱出用の機動ブロック区画です。現在シーリン副代表以下の非戦闘員8,400名が搭乗を完了したところです。司令」
苦虫を噛み潰しヤオは、司令として指示を下す。
「ブロックから退避を副代表に、着撃予想時間は」
「メメント・モリと同級として引火最低濃度まで最短180秒です」
続けて、モニタを通して好転しない的球が状況を外していく。
「こちら管制室、本艦周囲に残る撹乱場でビーム粒子が安定しません。
 ミサイル群、ジュノー弾幕に撃迎されました。駄目です。こんなことならメメントに火を入れておけば」
「そしてコチラが先制してあの惑星の形を変えていれば良かったなど。
 それでは、あの馬鹿と同じだ。中東とアフリカタワーはまだ我々に怨嗟を残しているこを忘れるな
 まだだ、MS隊はどうだ間に合うか」
「無理です」
ノラッフはそう告げた。彼女の仕事に従い。そして、数分後には多くのクルーを残したまま死の光に蹂躙される機動ブロックの
融解を報告しなければならないだろう、その時自分は感情を抑えは出来まいと思う。
そして自分の声が、多分メメント・モリにその意義を与える事になるのだろう。
祈るように情報を探して見つめていたモニタに光線が映り込み、ジュノー反応芯部に爆光が咲いた。
その光の来し方には、一隻の艦艇とその半ば破壊され露出したハッチから伸びる超大型ライフルを携えたガンダムの姿が
あった。

「ショダンメイチュウ、ショダンメイチュウ チャージカイシ」
「おうよ、続けて狙い打つぜ。フェルト、あっちのダメージは」
「防護壁を一部、アロウズのそれよりも強固です。同地点で抜いてください、座標送ります」
予想発射まで90秒」
ロックオン・ストラトスは狙いを定め、努めて冷ました思考を呟く。
「後2発は無理だな、次でいけるか」
366八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/11/21(土) 00:04:03 ID:???
13/
「状況は以上ですぅ。刹那さんの方でもお願いするですぅ」
「了解した」
その機体も、リボンズの意思に操作されたMSの猛攻の前に順応してしのぎはじめるも未だ宙域に釘付けとなっている。
「そうさ、君はそこで見ているがいいさ。君達の無力を、そして憎しみと絶望がこの場を染める時を」
「そうやってまた神を気取るか」
両手を埋める武器を離すと、ダブルオーライザーはその空いた双腕を交差しそれぞれを左右の腰部へとまわす。
斜め十字を切るかのごとく、内から外へと振り伸ばされた左右の手中から放たれた光刃はGNダガーであろうか。
「ちっ」
ファングと化す白きMS達が、主の反射に応えて虚の閃を容易く逃れ、射線の檻のほころびを即座に修復したその時、
避けたはずの機体には、ダガーの柄より後を引き波打ち張り巡らされた極細なるワイヤーが獲りつき、生じた電流が
一瞬の時を絡め捕った。
ダブルオーライザーを封じ込め続けんと、ビーム密度を絶やさぬ意図を反映する最小の回避機動が、
被害を結果として大きくし、その檻の鍵を外す事となった。
既にしてGNソードを再び手にしたダブルオーライザーが、その切先を小惑星ジュノーへと向ける。
「ツインドライブ同調確認。切り裂け」
双碗で握る刃の先から延びるライザーソードの輝きが一面を照らしながら進み、その一本の光柱がわずかに外れて、
ジュノーの岩肌に衝き立てられた。
忌まわしい悪意の啓示を両断せんと振りぬこうとする挙動に従い、その柱が移動を始める。
「やらせはしない」
「なに」
ガンダムのビームサーベルが下方から斬り上げられた。
ダブルオーライザーの右肩とその先に連なる腕が切り離され、同調を失った粒子がGNソードUを飽和する光球の犠牲に変える。
そして光の柱は宇宙の闇の中へ、その姿を消すこととなった。

「刹那機ライザーソード消滅!!」
「なんだと、ちい、よし二発目狙い打つ。トランザム」
ビーム粒子が目標の真新しい傷口をえぐり、その奥にある悪腫を目指す。
「やったかよ」
計器に表示され続ける反応物質の数値の変動が、フェルト・グレイスに結果を教えた。
「目標…… 粒子反応を継続、ダメです」
「くそったれが ハロ、チャージ急げ。フェルト、次の火点を割り出してくれ」
「わかったわ」
果たしてその一撃が間に合うのであろうかという己への問いを打ち消すように、
フェルト・グレイスは次弾における絶対の決着を期し最大効率火点を求めてデータと格闘する。
そんな彼女へ一本の通信が入った。
「……ソレスタル・ビーイングだな、次の座標を回せ」

熱量の火口へその身をさらけ出したオーキッドガンダム3号機ジュピターもまた、ライザーソードの発した粒子に掠めたのか
頭部を一つ失っていた。
しかし、自機の代償と引き換えに彼の手にした成果は大きい。
切り替えられたサブカメラが拾った光景には、その右腕と供に太陽炉を一つ失ったダブルオーライザーの傷身があった。
そして、彼が守り、二度にわたるソレスタル・ビーイングの射撃を耐え切り、粒子の色合いを濃くしたジュノー基地の砲口。
数秒を示す刻の針が意図の帰結を確信させる。
「さあ、その光を見せろ」
モニターに輝きが満ちた。
爆光が溢れ、行き場を求める粒子が、外へ向かい遮る物質を砕き消し去る。
そうしてジュノー岩肌から発射施設が消え去った。
367八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/11/21(土) 00:05:30 ID:???
14/
彼自身にとっても犯されざるはずの聖域であるジュノーを打ち抜いたそのガンダムは、
その一撃を放ったことで無用の長物を化したロングレンジGNライフルを置いた。
引き金の重みを自ら選んだ男は、その射撃によって防がれた未来と現実とした今の光景を無言で眺める。

「ユニクスか!! ジュピトリアンどもめ、気でもふれたか」
「だから見えていない、どうして彼らが変ったのか解らない貴様には」
「黙れ、その機体で私を止められるか、行けMSファング」
その男の張る脳量子による繰り糸を辿る信号は、虚しく宇宙に消えた。呼応する機動の奏では一音として鳴り響かない
「リボンズ・アルマーク…… 貴様いや、あなたはもう一人なんだ」

ガリレオ艦の会議室では、ターシンが息を深く吐きこみ、同室する2人に着席を促していた。
悲壮な表情で何かを告げようとするジュピトリアンの艦長にサジとセレナは、それまでと異なる空気を見た。
「確認をしたいのだが、この会席はまだ有効だろうか」
「ええ私はそう理解しているつもりだけど」
「はい」
ならばと口が開かれる。
「我々ジュピトリアンは、今、全ての者の合意をもって、地球連邦政府所属艦ジュピトリス・ワンに対してここに無条件降伏を
 宣言する。セレナ代表には受諾をお願いできるだろうか」
勧めていた降伏を、自らが求める。それが彼らジュピトリアンの下した答えである。
対して、なんとも不機嫌な顔を見せると突然に立場を逆とされた女は口を尖らせて言った。
「出来ませんわ」
「セレナ代表!!」
慌てるサジを尻目に目を笑わせて彼女は続ける。
「だって、この席は和平条約のためにあるのでしょう。だから和平を結ぶと言ってくれなければ駄目よ」
「……クク ハハハハハ… まったくあなたは、ハハ… 楽しいヒトだ、ねえサジ君」
呆れるように慣れない笑みを浮かべるターシンの顔には、何かの哀しさがあるようにサジには感じた。
たとえ、そうであっても楽しいと言って笑顔を作ってくれる彼の友人となったジュピトリアンに、サジは笑顔で頷き返した。
「ええ本当に」

回線が伝える出来事に、リボンズは、その事実を否定するという無意味な思考を行った。
「和平成立だと、馬鹿な全ての指揮権は私が」
『だから私が彼、ターシン艦長に提案したんだ』
届いた声は、彼の内を通してか、
「おまえは」
『はじめまして兄さん』
「リバース・ユピトゥスか、今更のこのこと」
『言葉が聞こえたんだ。熱い言葉が、
 全てから逃げて絶望という言葉に閉じこもっていた僕に届いたんだ。
 そして僕の子供達は選んだ、そう意思があれば変えることが出来ると教えてくれた』
「そうだ、だから私は私の意志で手に入れる。そう宇宙を」
もはや時を逸した呼びかけは届かないのか、返事を求めぬ独語をリバース・ユピトゥスは告げた。
『ならば、彼らに代わって僕が引き受けよう。
 僕が地図を描いてしまった絶望の道の結末を、あなたと供に、今のこの幸せを胸にして』
368八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/11/21(土) 00:06:11 ID:???
15/
「決着をつけようリボンズ・アルマーク」
「ああ刹那・F・セイエイ」
互いに一つのみ輝く太陽炉が、その限界を謳い上げ粒子の波を立てる。
「きみのその業、私が終わらせてあげよう」
「余計なことだ、知っているかリボンズ。俺は、まだ何も知らないのだそうだ、幸せも、愛も。
 そんな人間が何を焦り、何に絶望していたのだろうか。
 今は、ただこの俺を友達と呼んでくれた者がいることに感謝したい
 俺はまだ変わることが出来る」
「だからそれが幻想なのだよ
 観念が、理想が何を創ってきた、争いの一因に過ぎないではないか
 きみは知っているだろう、あのクルジスの戦場を」
「ああ!!だが、おれはあの絶望の中で、希望を見た」
「希望や絶望などという愚か者の妄想では現実は変えられん」
「違う、変わることが出来た。生きることを嬉しく感じた。
 あの時のガンダムに、あなたに、こう思った”スパース”と」

宇宙になつかしい砂漠の風が吹く。

クルジスの戦場、そう初めての戦場は知識として学んできた以上に愚かで醜いものであった。
人間が人間を殺し、大人が子供を殺す、そして彼はそのどちらも殺めていった。
諾々と紛争根絶の理念に従って、機密保持という現実のために殺した。
それは偶然の悪戯であろうか、ただの戯れであったのか、自分の乗るガンダムを見上げる少年ともいえぬ子供の兵士を
一人、見逃すことにした。
その男が、初めて自らの意思で引き起こした行為であった。
呆然と佇み、その場に残された子供の手がその体に大きすぎる小銃を降ろし、何かを呟く、
その動いた口元が刻む言葉が聞こえる。
『ア・リ・ガ・ト・ウ』

大きく振り下ろされたGNソードVは、バランスを欠き、その速さも鋭さも残していない。
ただガンダムの動きが止まっていた。
GN粒子を纏う刃が装甲を切り裂き、機器を砕いて、フレームを断ち、右肩から左脇へと抜け、上体を両断した。
その断面が炎をあげ、赤い衣が黒煙のヴェールと色幕を重ねる。
青い輝きが弾け、全てが白く照らされた。
そして彼は、舞台から退場した。永遠に……
うなだれ佇むMSが一機、そこには取り残された。
369八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/11/21(土) 00:07:06 ID:???
16/
粒子の流れ込むコクピットの中で、ルイス・ハレヴィは少女をその胸に懐きながら。
彼女の知る男達の決着を看取った。
「あなただって愚かよ、リボンズ…… 」
そう別れを告げたルイスは、まわされた腕に増えた力に少女の悲しみを感じた。
「リバースさようなら、会って話がしたかったわ」
この寂寥や後悔は、繰り返し続いていくのだろう。
それでもリバースは私たちに希望を見てくれた。
そしてリボンズは彼に何かを与えられたと信じよう。
それでいいのだろう。
「―ルイス ―ルイス」
生き残っていた回路が、青年の声を運んでくれた。
「聞こえるわ、あなたの声が、
 ううん、ずっと前から聞こえていたわ。
 ねえ聴こえる、わたしの声」
「うん、ずっとずっと聴こえていたよ。
 ねえルイス いいかな、ええと実はさ、ジュノーが見えるようになったらって決めていたんだけど、
 こんな時だし、でも…… 」
「なあに」
「その、つまり僕と結婚して欲しい」
「…… はい」

彼女の返事が伝えられると、回線が楽奏のような人々の声を響かせた。
「ハッピーブライド」「お幸せに」
「おめでとうご両人」「花婿殿に乾杯」
「花嫁様万歳」「おめでとう」「おめでとう」
パイロット達が、イノベイドが、ジュピトリアンが、全ての人々が先を争うようにオープン化していた回線に言葉を贈った。
それまでの硝煙を洗い落とすように、そしてここで生まれた新たな門出を寿ぐため。
サジは、慌てて振り向くと通信の使用を取り次いでくれたジュピトリアンの友人を非難がましく見やった。
ターシンが被害者然と肩をすくめ、隣に立つ女性に視線を渡す。
恥ずかしさも憤慨も、2人に握手を求められ
「おめでとう」「お幸せに」
この言葉が、有耶無耶にした。

見知っている仲間達の声が回線から流れ出ている事に気づき少女は、涙を我慢して、
大好きな姉に祝福の言葉を投げかけようと、ルイスの胸にうずめた顔を上げ彼女の顔を見つめた。
そのバイザーの向こうに幾つも浮かんだ青い星が少女の瞳を映しこむ。
『まったく…… ルイスだって泣き虫じゃないのよ』
やっと笑みの浮かんだ自分の顔を知って、ネネは思った。
哀しいこともあった、でも嬉しいこともあった。
今は何か楽しい。だからこの笑顔をわけてあげる。
「おめでとう」
370八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/11/21(土) 00:07:48 ID:???
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17/
戦闘の終結を示したプロポーズから幾時間が経過したのか、ジュノーの重力圏から外れる外宙域をデブリと化した残骸が
一つまた一つと流れてゆく。そして、その中に微かに聞こえる生命の囁きがあった。
「何が僕が引き受けるだ、
 まさかお前が操作に介入するとはな」
『もっと兄さんと話がしたくなってね。
 あなたが今まで何を見て、誰と出会ってきたのか、
 僕だって少しでも、彼らの言った幸せを知りたいんだ』
「ふっ幸せだと、動力の死んだコアブロックだ、このノーマルスーツの電源が無くなるまでの邯鄲の夢でも見るか、
 くだらんな、ならば静に寝かせろ」
『兄さん…… あなたはあの時、幸せだったんですか』
「…… 」
兄弟は、沈黙する。
いたづらに延ばされた最後は、彼らにとって何であるのだろうか。
宇宙もまた沈黙するのみであった。
「…… おーい、…… おーい」
ハッチの向こうを叩く音と、振動として伝えられた男の声が突然に響いた。
「生きてっか? 返事しろよ、せっかく見つけた漂流仲間が仏さんじゃシャレにもならないぜ
 喋れないなら、音出せ、音」
「…… 」
「おい、生きてりゃ二回、死んでるんなら一回、どっか叩け。わかったか」
余りの馬鹿馬鹿しさに呆れると供に、しつこさに辟易して2回叩く、
「よかった生きてら、言ってることもわかるようだな。
 ならあんたは幸せなヤツだぜ」
何を言ってるのだろうか、脈絡の無い台詞がわかりかねた。
「なんせこの幸せのコーラサワー様と漂流してんだ、絶対生き残るぜ。
 今頃マイハニーが捜してくるれてるさ」
幸せを名乗る男が現われ、一瞬にして彼らを幸せ者だと断定した。
「ククク…… ハハハハハ」
『フフフ』
「なんだよ、喋れるんじゃねえか、なら暇してたんだよ、ちょっと聴いてくれ。
 こんど俺パピーになるんだぜ、それが男の子だってさ、いつ産まれるかって?
 わかんね、でも名前はちょと前に決まってんだ…… 」

聞いた話では、連邦軍の急援がコーラサワー中尉を見つけたことで、最後の救助が完了し、この戦争の幕が降りたという。
地球連邦政府は、セレナ代表とジュピトリアンの和平協定を裁可した。
慣性飛行を続ける大質量体である小惑星ジュノーは、いずれ7次にわたる減速固定ミッションが行われ、
月軌道上に配される事になるという。
政府は潜在的イノベイドの存在と、これまでのイノベイドに関連した事柄を公表した。
併せて、木星人の同胞としてジュピトリアンが紹介された。
彼らは地球を人間を知ることを求め、話し合いの結果、ジュピターモラトリアムと呼ばれる制度が作られる事となった。
そして、いずれ希望する未来を自身で選択していくのだろう。
これが嫁入り騒動と揶揄される事となっていく、一連の遭遇の結末である。
371八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/11/21(土) 00:08:41 ID:???
18/
布団が跳ね上がり、部屋の中をいつもの嵐が動き出した。
「もー、何で起こしてくれなかったのよー、遅刻しちゃう」
ドアの向こうのダイニングキッチンへ非難の声を上げる。
「何度も呼んだわよ。それに子供じゃないから一人で起きられるなんて言ってたのは誰かしら」
「いじわる。べーっだ」
そんな喧騒の中でも、女の子である。鏡の前でちょっとコンプレックスなくせっ毛に最低限のしつけをかける。
「はー、わたしの教育が悪かったのかしら、前はもっとしっかりした娘だったのに。ねえ、あなた聴いてる?」
「ああ、そうだね昔のきみに良く似てるかな。師を見て弟子は育つって言うし」
コーヒーを飲む男性と、一人分を除いてきれいに無くなったお皿をシンクに運ぶ女性が、背中越しに談笑する。
「もう、意地悪」
「それじゃ僕も時間だ、行ってきます」
「はい、いってらしゃい」
腰を上げた夫に、妻はいそいそと近づきそっと顔を上に向ける。
そして、その夫は未だにぎこちないキスを贈った。
「毎朝毎朝、見せ付けてくれちゃって。お弁当これね、ごめん、朝ごはんは無理」
「だったら、あなたも早くいい人見つけなさい。でもその可哀相なお胸じゃ無理か」
「むー、分かりました」
牛乳を一気に飲み干して、ゆで卵を二口で胃袋に収めると、トマトを飲み込み、少女はトーストを片手に駆け出した。
お先にと言って一番乗りを果たした玄関で革靴を引っ掛けながら、いつものように元気な声を上げる。
「それじゃ姉ーね、兄ーに、ネネ・クロスロード本日も学校に行ってきまーす」

―そして僕たちは家族になった。


                       終  劇
372八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/11/21(土) 00:10:21 ID:???
以上の投下をもって完走となります。
長くなってしまいましたが、最終話なので一挙に投下させていただきました。
今回も支援ありがとうございました。
いつもまとめwikiに編集くださる方には、今回の分と併せて、ありがとうございます。
形式は前回と同じにやっていただければと思います。
そして、ここまで御読了の方々に改めて感謝。
最後にご感想なんかをいただければ嬉しいです。
それではお疲れ様でした。
373通常の名無しさんの3倍:2009/11/21(土) 02:08:41 ID:???
>>372
うん……とりあえず乙。まず、面白かったと言っておく。

たぶん00のテーマについては俺と違う読み取りかたをしたんだろうけど
その結果こういう作品を作れることには素直に感嘆する。
多様かつ有意な解釈が出来るのがいい作品の条件だと思ってる俺としては
ガンダム00という作品にまた一つ、新たな価値を再生産してくれたあなたに
心から敬意を表したい。

もう一度最後に、乙。
またあなたの作品が読みたいと思った。
374通常の名無しさんの3倍:2009/11/21(土) 17:18:10 ID:???
>>45
やだ、なんか今回こわ
>>八丈島氏完結乙
GJ!最後がすごく良
375通常の名無しさんの3倍:2009/11/21(土) 18:31:34 ID:???
>>350
本当に読み飛ばしていいのか
それとも、むしろそこをこそ見てほしいのか
45氏の場合だと判断しかねるなあ。まあ俺が深読みし過ぎなだけだと思うけど。

ただ、45氏の“作家としての技量の爆発”みたいなものが垣間見えるのは
今回の投下では間違いなく>>349前半部だと思うんだよね。
何がすごいって、状況を漠然とでも想像できるワンフレーズが並べたてられることで
このたった17行ぐらいの文章に、普通は詰め込み得ない情報量を持たせている点。
これは「実験体や兵器にされ消費される子供」という、過去の多くの作品が
作り上げてきた描写のデータベース、言い換えれば共有化されたテンプレートを
利用することで可能になる情報の圧縮。むしろ普通に描写したらテンプレ通りの
グロ描写がだらだらと続きがちなこのエピソードにおいて、
そのテンプレを逆用することで冗長化を回避し、レイの方に焦点を当てた……
小さなことかもしれないけど、テンプレに呑まれて終始「ありがちな描写」の塊
でしかない作品を俺はいっぱい見てきた(自分もそういう話を書いてきた)もので。
中には陳腐なフレーズもあったとはいえ、逆にぞっとする表現も散見された上半分に
光るものを感じたし、作者様の言葉に反して今は言いたい。

 『読み飛ばしちゃ駄目だ! 地味に凄いことやってるから!』

以上、なんか狂信者のようになってしまった名無しの長文感想。
まあ厳しめの発言してくれる人は他にいっぱいいるスレだし
作者のスキルアップにつながる批評は他の人に任せる。
むしろ俺のこのレスこそ読み飛ばして結構、というオチでひとつ勘弁を。
376オートマトン:2009/11/21(土) 19:22:35 ID:???
只只只<サテ、480KBヲコエタコトダシ、ジスレデモタテルトシマスカ...
377オートマトン:2009/11/21(土) 19:33:07 ID:???
スレタテキセイチュウデシタ、マタノチホド…>只只只
378通常の名無しさんの3倍:2009/11/21(土) 21:43:42 ID:???
やってみるか
379通常の名無しさんの3倍:2009/11/21(土) 21:52:10 ID:???
新人職人がSSを書いてみる 20ページ目
http://hideyoshi.2ch.net/test/read.cgi/shar/1258807472/

以降、埋めネタ以外の投下はこちらへどうぞ
380通常の名無しさんの3倍:2009/11/21(土) 22:59:48 ID:???
>>八丈島氏
投下乙。加えて完結乙です。

wikiに保管しました。改行タグの追加と、(明らかに意識しておられると思うので)
最後一行の終劇をセンタリング(wikiのページで中心に来ます)タグだけを追加しておきました。

何か問題、あるいは修正がございましたら、こちらか、wikiの連絡用BBSでご一報下さい。
381オートマトン:2009/11/21(土) 23:11:01 ID:???
>>379
只只只<スレタテオツー。オテスウオカケシマシター!=3
382八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/11/22(日) 01:00:41 ID:???
>>379
スレ立て乙です。完結に舞い上がって自分の450k越えに気付いてませんでしたサンクスです。
>>380
保管ありがとうございました。
ざっと見たところ一箇所、本スレ内で示すと>>367(No14)と>>368(No15)の間に空行をお願いいたします。
場面と人物は同じですが、何故手元の原文では行を空けていたので折角という事で、あと一仕事頼みます。

上記に併せてさっそくの感想に感謝です。
383八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/11/22(日) 01:19:34 ID:???
連レス失礼、前のレスですが「何故手元」じゃなくて「何故か手元」です。
それとwiki修正の追加で、本文で最後にかましてしまいました脱字、
>>371(No18)「はい、いってらしゃい」を「はい、いってらっしゃい」に訂正して頂ければ助かります。
それにしても抜き出して見てみると、口語って違和感がでますね。なんか”らしゃい”の方が字面は良く見えるから不思議です。
384通常の名無しさんの3倍:2009/11/22(日) 01:22:19 ID:???
>>361

オーキッドガンダム3号機・ジュピターを駆るリボンズ・アルマークよるトライアル・システムの根幹たるユーノーを狙っての
攻撃である。

→アルマークによる(後略)

だと思うのですが、これはどうしますか?
385八丈島 ◆rM9bSs1ckI :2009/11/22(日) 01:39:21 ID:???
痛ゥ、すいません是非お願いします。
386通常の名無しさんの3倍:2009/11/24(火) 19:50:43 ID:???
さて、動きは止まった訳だけれども。
新スレに移行したし。
387通常の名無しさんの3倍:2009/11/26(木) 19:13:10 ID:???
小ネタか雑談で埋めるとか
388通常の名無しさんの3倍:2009/11/26(木) 20:52:44 ID:???
そういえば砂漠2のムツキ、オリキャラでアルビノw って感じの容姿だけれども、
あんまり容姿にこだわらない描写をしてるせいなのか気にならないな。

普通のSSだったら、個性付けのためにもっと強調しそうな気もした。
389通常の名無しさんの3倍:2009/11/27(金) 09:50:34 ID:???
何を持って普通と言うのか疑問
もっと言えば何が言いたいのかも疑問
390通常の名無しさんの3倍:2009/11/27(金) 09:55:01 ID:???
>>388じゃないが、
個人的にはアルビノ的な容姿の設定は大好きだw
391通常の名無しさんの3倍:2009/11/27(金) 15:49:22 ID:???
キャラを立てる為に特殊な容姿を使わないのが不思議に思えるんじゃないかな
でも、あえて必要以上の容姿の描写をしないのが弍国氏
前作主人公ミツキの容姿も
文中からはロリ体型であること以外ほぼわからない
392通常の名無しさんの3倍:2009/11/27(金) 16:55:53 ID:I0FS15Xs
マイナーなギャルゲーSS祭り!変更事項!


個人サイトがない場合メールアドレスとともに

arcadiaその他SS投稿掲示板に投稿して下さい。
393通常の名無しさんの3倍:2009/11/28(土) 11:25:59 ID:qlFZKyfV
マイナーなギャルゲーSS祭り!変更事項!


他人の意見や感想も参考にしますが・・・

最終的には 私が個人的に最高と思う最優秀TOP3SS作家は私が決めます


自分の個人サイトがない場合自分の個人ブログにSSを掲載して下さい。
394通常の名無しさんの3倍:2009/11/28(土) 13:54:01 ID:???
新シャアなSS職人祭り!確認事項!


住人の意見や感想も大切にしますが・・・

最終的にはガノタ的に最高と思う新シャアTOP3SS作家は新シャア板SS系住人が決めます


自分のSSサイトがない場合当スレまたは該当SSスレにSSを掲載して下さい。















こうすればスレチにはならんな

395通常の名無しさんの3倍:2009/11/28(土) 15:21:50 ID:???
八丈島の人が完結してたんで読み返そうとしたら、最初の方の書き方が
最後と余りに違ってたんで笑えたよ。
396通常の名無しさんの3倍:2009/11/28(土) 18:35:53 ID:???
人がいないね……
ネタでも書いて埋めよかな
397通常の名無しさんの3倍:2009/11/28(土) 19:13:50 ID:???
>>396
よろ!
398通常の名無しさんの3倍:2009/11/28(土) 19:17:40 ID:???
>>396
よろしく、全ては貴方の双肩に掛かっている!
399通常の名無しさんの3倍:2009/11/29(日) 20:16:39 ID:???
八丈島氏に先ずは完結乙。
個人的には、最後にガリレオでターシンとセレナが会談しているシーン。
ここが、戦場に関わる人たちというか、場面の深さを見せてくれたと思います。
400!omikuji:2009/12/01(火) 02:10:20 ID:???
どだ
401通常の名無しさんの3倍:2009/12/04(金) 19:47:13 ID:???
なまはげww
あいかわらず面白い人だなw
402通常の名無しさんの3倍

   
  (  ^ω^)
  _| ⊃/(___
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  <⌒/ヽ-、___
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