もしカミーユ、Zキャラが種・種死世界に来たら15

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1通常の名無しさんの3倍
新シャアでZガンダムについて語るならここでよろしく
現在SS連載中 & 職人さん随時募集中!

・投下が来たら支援は読感・編集の邪魔になるからやめよう
・気に食わないレスに噛み付かない、噛み付く前に天体観測を
・他のスレに迷惑をかけないようにしよう

前スレ
もしカミーユ、Zキャラが種・種死世界に来たら14
http://hideyoshi.2ch.net/test/read.cgi/shar/1219033525/

まとめサイト
http://arte.wikiwiki.jp/
避難所(したらば・クロスオーバー倉庫 SS避難所)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/10411/1223653605/

荒し、粘着すると無駄死にするだけだって、何でわからないんだ!!
分かるはずだ、こういう奴は透明あぼーんしなきゃいけないって、みんなには分かるはずだ!
職人さんは力なんだ、このスレを支える力なんだ、
それをこうも簡単に荒らしで失っていくのは、それは、それは酷いことなんだよ!
荒らしはいつも傍観者でスレを弄ぶだけの人ではないですか
その傲慢はスレの住人を家畜にすることだ
それは一番、人間が人間にやっちゃあいけないことなんだ!

毎週土曜日はage進行でお願いします
2通常の名無しさんの3倍:2009/05/16(土) 01:01:59 ID:???
         ナ ゝ   ナ ゝ /    十_"    ー;=‐         |! |!
          cト    cト /^、_ノ  | 、.__ つ  (.__    ̄ ̄ ̄ ̄   ・ ・
ミミ:::;,!      u       `゙"~´   ヾ彡::l/VvVw、 ,yvヾNヽ  ゞヾ  ,. ,. ,. 、、ヾゝヽr=ヾ
ミ::::;/   ゙̄`ー-.、     u  ;,,;   j   ヾk'! ' l / 'レ ^ヽヘ\   ,r゙ゞ゙-"、ノ / l! !ヽ 、、 |
ミ/    J   ゙`ー、   " ;, ;;; ,;; ゙  u ヾi    ,,./ , ,、ヾヾ   | '-- 、..,,ヽ  j  ! | Nヾ|
'"       _,,.. -─ゝ.、   ;, " ;;   _,,..._ゞイ__//〃 i.! ilヾゞヽ  | 、  .r. ヾ-、;;ノ,.:-一'"i
  j    /   ,.- 、  ヾヽ、 ;; ;; _,-<  //_,,\' "' !| :l ゙i !_,,ヽ.l `ー─--  エィ' (. 7 /
      :    ' ・丿   ̄≠Ξイ´,-、 ヽ /イ´ r. `ー-'メ ,.-´、  i     u  ヾ``ー' イ
       \_    _,,......::   ´゙i、 `¨ / i ヽ.__,,... '  u ゙l´.i・j.冫,イ゙l  / ``-、..- ノ :u l
   u      ̄ ̄  彡"   、ヾ ̄``ミ::.l  u   j  i、`ー' .i / /、._    `'y   /
              u      `ヽ  ゙:l   ,.::- 、,, ,. ノ ゙ u ! /_   ̄ ー/ u /
           _,,..,,_    ,.ィ、  /   |  /__   ``- 、_    l l  ``ーt、_ /  /
  ゙   u  ,./´ "  ``- 、_J r'´  u 丿 .l,... `ー一''/   ノ  ト 、,,_____ ゙/ /
        ./__        ー7    /、 l   '゙ ヽ/  ,. '"  \`ー--- ",.::く、
       /;;;''"  ̄ ̄ ───/  ゙  ,::'  \ヾニ==='"/ `- 、   ゙ー┬ '´ / \..,,__
、      .i:⌒`─-、_,....    l   /     `ー┬一'      ヽ    :l  /  , ' `ソヽ
ヾヽ     l      `  `ヽ、 l  ./  ヽ      l         )  ,; /   ,'    '^i
3通常の名無しさんの3倍:2009/05/16(土) 01:49:29 ID:???
お前は新スレなんだ!>>1乙しなきゃいけない存在なんだ!!
4通常の名無しさんの3倍:2009/05/16(土) 18:32:51 ID:???
この >>1乙 で決めてみせる!
5通常の名無しさんの3倍:2009/05/18(月) 04:42:57 ID:???
>>1

カミーユ氏のクロスオーバーは、Gジェネとかで
シナリオ採用して欲しいな、プレイして楽しみたいぜw
6通常の名無しさんの3倍:2009/05/21(木) 05:35:14 ID:???
保守
7通常の名無しさんの3倍:2009/05/22(金) 19:26:26 ID:???
一応保守
8通常の名無しさんの3倍:2009/05/26(火) 02:02:41 ID:???
保守
9通常の名無しさんの3倍:2009/05/27(水) 01:18:49 ID:???
前スレは埋まったようだ
10通常の名無しさんの3倍:2009/05/29(金) 22:01:55 ID:???
投下待ち保守
11通常の名無しさんの3倍:2009/05/31(日) 19:32:22 ID:???
     ,r‐、       , -、
      !  ヽ      /  }
     ヽ、 ,! -─‐- 、{  ノ
      /。 。    r`'、´
    / ,.-─- 、   ヽ、.ヽ
     !/     ヽ、._, ニ|
.    {    保守      ,'
     ヽ          /,ソ
.     ヽ、.____r',/
12通常の名無しさんの3倍:2009/06/01(月) 23:15:39 ID:???
ハロッ
13通常の名無しさんの3倍:2009/06/03(水) 09:39:57 ID:???
ハンムラビ法典
14通常の名無しさんの3倍:2009/06/06(土) 02:04:04 ID:???
ロベルト戦死後のアポリーのリックディアス隊最強伝説
15通常の名無しさんの3倍:2009/06/06(土) 10:08:33 ID:???
そういやポティ中尉って戦死したのかな?
ZZじゃいなくなってたし
16通常の名無しさんの3倍:2009/06/06(土) 11:35:19 ID:???
ほしゅ
17通常の名無しさんの3倍:2009/06/08(月) 09:45:16 ID:???
他のスレでも聞いたんだけどさ
こういうSSの中で気にいったセリフとか話の流れとかあった時にさ
それを別の物に引用するのって作者さん的にはどうなの?
1817:2009/06/08(月) 12:00:59 ID:FLXfS94U
別の物って例えば二次創作の二次創作とかなんだけど…どうなんだろう?
説明が足りなくてすまない
19通常の名無しさんの3倍:2009/06/08(月) 16:02:03 ID:???
基本、2ちゃんでは三次創作はあまり受け入れられないよな
まぁネタにしてショートギャグをやるのは良くあるけどね…やりたいなら作者さんに筋を通すのは必然だろ

たまに外部でやってるねもいるみたいだけど
20通常の名無しさんの3倍:2009/06/08(月) 22:06:08 ID:???
21通常の名無しさんの3倍:2009/06/08(月) 22:07:17 ID:???
途中で送信しちまった

向こうでかなり返信来てるじゃん
22通常の名無しさんの3倍:2009/06/11(木) 00:54:15 ID:???
保守
23通常の名無しさんの3倍:2009/06/13(土) 17:35:11 ID:???
気長に待とうぜ保守

プロでも新作出るまで何年も待つ場合があるんだから
24通常の名無しさんの3倍:2009/06/13(土) 20:35:15 ID:???
昨日の森口博子は神だった
25通常の名無しさんの3倍:2009/06/13(土) 23:03:27 ID:???
>24
デビュー曲歌ってたのか?
26通常の名無しさんの3倍:2009/06/14(日) 02:49:32 ID:???
>>25
ZとF91
夜中の三時に泣いちまった
27通常の名無しさんの3倍:2009/06/14(日) 20:24:33 ID:???
見事な選曲だな
プロデューサーよくわかってるわ
28通常の名無しさんの3倍:2009/06/14(日) 23:04:43 ID:???
森口博子は垂れてるんじゃない
ちょっと下におっぱいが付いているだけだ!

高音が出なくなったと言う事で歌手活動あまりやってないけど
まだ十分いけると思うんだよね。
29通常の名無しさんの3倍:2009/06/15(月) 04:46:41 ID:???
ようつべで見たけど最近の声優歌手より断然うまいわ
30通常の名無しさんの3倍:2009/06/15(月) 12:42:29 ID:???
そりゃ本職だったし
31通常の名無しさんの3倍:2009/06/15(月) 20:29:50 ID:???
所詮、声優歌手は声優としても歌手としても二流よ・・・
一流の声優は劇団なんかに所属していて、そっちが本職だもんな
32通常の名無しさんの3倍:2009/06/16(火) 08:33:52 ID:???
そもそも声優と言う物は役者の仕事の一つだからな
33通常の名無しさんの3倍:2009/06/16(火) 23:06:49 ID:???
>>31
野沢那智さん、仕事してください
34通常の名無しさんの3倍:2009/06/17(水) 19:31:37 ID:???
女の声優はギャルゲーとかエロゲーなんかでデビューする例が多々あるけど、大抵は使い捨てじゃね?
毎年のように声優科卒の新人がデビューするけど、パイが大きくなった訳じゃない
その分埋もれたり消えたりしている訳で・・・

男の新人は貴重かもな
でも大抵は劇団に所属してる・・・
35通常の名無しさんの3倍:2009/06/18(木) 00:10:58 ID:???
これからどんどん厳しくなってくだろうな
36通常の名無しさんの3倍:2009/06/19(金) 23:27:17 ID:???
男の新人声優もシミュゲー、無双系ゲーと大量にいる時はデビューするけどな
後スポーツ物のアニメとか
37通常の名無しさんの3倍:2009/06/21(日) 00:49:51 ID:???
保守
38通常の名無しさんの3倍:2009/06/22(月) 21:56:16 ID:???
保守
39通常の名無しさんの3倍:2009/06/23(火) 00:32:55 ID:???
なんかネタないか?
保守
40通常の名無しさんの3倍:2009/06/23(火) 09:57:22 ID:???
気長に待とうぜ
41小ネタ:2009/06/23(火) 22:54:29 ID:???
「ここからいなくなれぇ――――っ!!」

ウェイブライダーの機首がジ・Oのコクピットに突き刺さり、中のパイロットを押し潰す。ウェイブライダーのコクピットの中、少年は勝利を確信した。しかし、それは破滅と新たな戦いの始まりだった。

「貴様も、一緒に……連れて行く……!カミーユ・ビダン……!」
「な、何だ?光が、広がっていく…………」





「シン、マユ、急ぎなさい!」
「わかってるよ!ほら、急ごうマユ!」
「うん、お兄ちゃん……」

地球連合にもプラントにも与さない地球上の島国、オーブ連合首長国。そのオーブを形作る小さな島の一つ、オノゴロ島は戦場と化していた。青い翼を広げた自由の天使がオノゴロの空を飛び回り、その精密な射撃が相手の戦闘能力を奪う。

「あっ!マユのケータイ……」

山道に走る地響きに足を取られ、少女が転ぶ。その弾みで、持っていた携帯電話が地に落ち、傾斜を転がり落ちた。

「ママ、マユのケータイ……!」
「駄目、マユ!」

母親の切羽詰まった叱責にも、少女は動こうとしなかった。少女の友人の連絡先が詰まった端末である。ここで失えば二度と会うことの出来なくなる友人も少なくないだろう。少女がごねるのは無理もなかった。
42小ネタA:2009/06/23(火) 22:57:19 ID:???
「俺が取ってくる。父さん、母さんとマユを連れてってくれ!」

少女の兄と思しき少年が傾斜を駆け下り、携帯電話を拾いに向かった。それを見た父親は頷き、母親と少女を急き立てる。

「どこ行った、ケータイ、ケータイ……」

携帯電話を探す少年の手が、舐めるように地を這う。砂を擦る感触ばかりが続き、さすがに焦りが混じる。

「どこだよ、畜生!早くしなきゃ……」

その時、少年の頭に稲妻が走り、こめかみの辺りから何かが入り込んだ。

「?!」

続いて、聞こえるのは若い男の声。同年代と思しき少年の声だった。

(もっと左だ。急げ)
「な、何だよ?!幻聴か……?!」

何故か、近くに誰かがいて、声をかけてくれたという発想は最初からなかった。そして、少年自身が口にした「幻聴」も、少年自身の心が否定した。

「左、左なんだな……」
(そう、そこの茂みに入れ)

おかしいと思うべきだった。声が聞こえることではない。「そこの茂みにある」ではなく「そこの茂みに入る」ことを指示したことを、である。果たして、少年は指示された茂みに分け入った。

瞬間、轟音が響いた。





少年――シン・アスカは、辛うじて無事だった。頭の中で響いた声に導かれ、シンは爆風に体を引き裂かれることなく、無事――もちろん、無傷とは言えないが――だった。

「あ、……」

それ以上、声が出なかった。
43小ネタB:2009/06/23(火) 23:02:23 ID:???
同時刻、オーブのとある総合病院で、看護士が同僚に囁いた。

「ねえ、305号室のあの患者さん、急に起き上がったんだって?」
「ああ、急に起きるなり歩き出して、担当の子が慌てて引き止めたらしいよ。しかも、引き止めたらその場に崩れ落ちちゃったんだとさ」
「へえ…………なあお前、その先は知らないの?」

急に訳知り顔になった同僚に、看護士は怪訝な顔をした。

「は?『先』?」
「そう、その先。……実は、崩れ落ちちゃったその後、急にその患者さんの体が、こう、ぼうっと、光ったんだってさ」

得意満面な同僚のその顔に、看護士の熱は急激に冷めていった。

「んなことあるわけねーだろお前……。ほら、非常態勢宣言出てんだから、早く非難非難」

ちぇっ、と舌打ちした同僚を尻目に、看護士は早足で歩き出した。

「305号室の患者……なんて名前だったか……。確か、女みたいな名前だったよな。カ…………そう、カミーユ・……なんとかって言ったっけか」





シン・アスカはプラントに渡り、ザフトに入隊、ザフトレッドとなった。ユニウスセブンの破砕作業という任務をテロリストに妨害され、地球に降下。
そして、シンの所属するミネルバに乗艦していたオーブ連合首長国代表のカガリ・ユラ・アスハを同国に送り届けるため、オーブに立ち寄った。その際、ミネルバのクルーに上陸の許可が下りたため、シンは家族の墓に向かった。

「帰ってきたよ、父さん、母さん、マユ……」

墓は、慰霊碑の形をしていた。そしてそこには、精神崩壊から立ち直ったカミーユ・ビダンがいた。

「……失礼ですけど、俺、あなたに会ったことありました?」
「さあ、わからないな。何しろ最近まで病気で療養していたから」

今、少年は運命に導かれ、ニュータイプと出会う。





お目汚し失礼。続かない。
44通常の名無しさんの3倍:2009/06/24(水) 17:16:46 ID:???
ええ続かないのかよ…
45 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/26(金) 23:37:11 ID:???
  『決起、そして』


 レクイエムの光が、連合軍艦隊を照り付けた。蜜に群がる蜂のようにメサイアを攻撃していた連合軍も、
振るった出来事に我を忘れて立ち尽くしていた。そのレクイエムの光が通過した先には、連合軍の旗艦
艦隊が存在していたはずなのだ。

「おい、どうなっている!? レクイエムはプラントを狙ったんじゃないのか!?」

 あるウインダムのパイロットが必死に無線機に呼びかける。しかし、その先から聞こえてくるのは砂嵐
の様なノイズの音だけで、彼に応える声は決して聞こえてこなかった。
 混乱。旗艦を失って指揮系統が乱れに乱れる連合軍は、レクイエムの光の意図が分からず、或いは
勘の良い者は自分も同じようにして消されるのではないかと予感して、パニック状態に陥るものも居た。

 連合軍の統率は完全に瓦解し、触覚を失った蟻の様に迷走していた。ザフトにとっては、後退する又と
無いチャンスであった。しかし、現在はミネルバとボルテールが臨時で指揮権を司っているだけで、最高
決定権を有するデュランダルの声明が出されない限りは撤退に踏み切ることは出来ない。
 タリアはメサイアへ入っていったアスランやレイがミネルバに帰艦したという報告を受けて、彼らからの
報告を待っていた。彼らなら、デュランダルと接触できたのではないかという期待感を持っていたからだ。

「連合軍の混乱具合は顕著です。攻撃の手が明らかに弱くなっています」

 アーサーが言う。その通りに、ミネルバの揺れも殆ど落ち着いている。戦場は、小康状態に入ったと
考えても良いだろう。タリアは頷いた。

「誤射かどうかは分からないけど、反射衛星砲は味方を撃った。そりゃあ混乱もするでしょうね。
――インパルスとレジェンドは甲板で待機、ヴェステンフルス隊も可能な限り収容して、同時に収容し
きれなかったMSの受け入れ援護を他の艦に呼びかけて――」

 言いかけた時、プシュッという空気の抜ける音と共にブリッジの扉が開いた。反応してシートに座る身体
を捻って反転すれば、そこには険しい表情の美男美女――アスランとラクスが立っていた。制服は血に
塗れ、ラクスすらもその限りであった。
 凄惨な姿にブリッジ中のクルーが息を飲み、誰かが喉を鳴らした。その険しい目つきと凄惨な出で立ち
が、メサイア内で何が起こっていたのかを連想させる。

「グラディス艦長、ブリーフ・ルームにて議長がお呼びです」
「ギ――デュランダル議長が?」

 アスランがタリアに言う。表情一つ変えることなく、その瞳に激しい憤りと悲しみを湛えながら、その声
は今までの彼のイメージを覆すような悲壮感すら込められていた。タリアは、そんなアスランの醸し出す
オーラに気圧され、戸惑いを抱いた。

「私は議長から託された任務を遂行しなければなりません」

 会話を続けるアスランの横を、ラクスがスッと流れる。2人の沈痛を押し殺したような態度が、タリアに
何かを悟らせた。急ぎシートを離れると、タリアは今しがたアスランとラクスが入ってきたドアからブリッ
ジを飛び出していった。
 アーサーが、副長席から身を横に乗り出して眉を顰める。
46 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/26(金) 23:39:28 ID:???
「ど、どういう事なんだ、アスラン?」

 訊ねるアーサーの言葉に、アスランは応えない。その立ち姿には、これ以上の追求を憚らせる様な威圧感
が滲み出ていた。アーサーはそのアスランの威圧に逆らうを良しとせず、すごすごと副長席に座り直した。
 メイリンのところへと流れたラクス。隣に流れてきたアイドルの姿にメイリンは緊張と面映さを表情に
浮かべ、しかしその凄惨な姿と表情に一種の恐怖すら抱いた。――分からないものである、ステージであれ
だけ眩しい笑顔を振り撒いていた少女が、今はまるで修羅のような顔つきに変わってしまっている。メイリン
は戸惑いながら目を白黒させていた。

「全艦隊へ通信を送ることは可能でしょうか?」

 徐に尋ねるラクス。口調こそ穏やかだが、やはり空恐ろしさのようなものを感じる。メイリンは口ごもりなが
らパネルを操作し、ミノフスキー粒子の影響が殆ど無い事を確認してから再びラクスの顔を見上げた。

「ミノフスキー干渉波は弱まっていますから、出来るみたいですけど――」
「では、お願い致しますね」

 短くそう告げると、ラクスはブリッジの中央で仁王立ちしているアスランのところへ向かって床を蹴った。
メイリンはそれを目で追いながらセッティングを続ける。
 並び立った、アスランとラクス。プラントではロイヤル・カップルとして衆目を集め、常に話題を提供して
きた2人だ。最近はアスランがザフトで戦っていたせいか、話題はラクスの動向が殆どであった。その2人
が、生でそこに存在しているのである。ミーハーなメイリンなら、その光景に狂喜乱舞しても不思議では
ない。しかし、今並び立っている2人からは、フィアンセと言う関係が持つ和やかな雰囲気が一切伝わって
こなかった。戦場であるという点を差し引いても、どこか冷め切っているカップルのようにしかメイリンの目
には見えなかったのである。

「セット、出来ました。いつでもどうぞ」

 なるべく平静を装いつつメイリンが報告すると、アスランがマイクを手に取った。
 目を閉じ、大きく息を吸い込んでから、ゆっくりと吐き出す。それから口元にマイクを当てた。目蓋が上が
り、アスランの瞳は何かを睨みつけているように正面を凝視する。

「ザフトの全艦隊に告げる。私は特務隊フェイス、アスラン=ザラ。同時にザフトの最高指揮決定権を故・
ギルバート=デュランダル プラント最高評議会議長閣下より賜った者であります」

 怒涛の波が押し寄せたような衝撃が奔った。ミネルバのブリッジはそのアスランの声明に一瞬だけ波を
打ったような静寂に支配され、そしてその内容を反芻すると大きなどよめきが沸き立った。
 その様子をつぶさに視線で確認するアスラン。しかし、毅然として姿勢は崩さず、動揺を鎮めるように、
作った無表情を貫き通す。

「そんなバカな! 君はさっき艦長に、議長がお呼びになられているって――」
「デュランダル議長は、ブルー・コスモスのロード=ジブリールによって殺害された!」

 アーサーの動揺に揺れる声。遮るようにアスランが力を込めて言い放つ。決定的な一言に、ブリッジ・ク
ルーの手が止まる。いや、影響はミネルバ全体のみならず、ザフト全体に行き渡っているはずである。
アスランはそれを承知の上で、続ける。
47 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/26(金) 23:42:25 ID:???
「メサイア脱出の折です。デュランダル議長閣下は死の間際、私にザフトの総司令官としての責務をお与え
になられました。私は“ザラ”としてではなく、閣下の“平和への意志”を継ぐ者として、彼女と共に謹んでその
重責を担う所存であります」

 これで良いはずだ。デュランダルは、自分に何を見ていたのかは分からない。ただ、彼はまるで自分に
こうなる事をずっと望んでいたようにも思える。その瞳に、何が見えていたのか――アスランの決起は、それ
を探す為の旅でもある。
 アスランはマイクをラクスに手渡した。白魚のように透き通った手が、無骨なそれを両手で握り締める。
少し俯き加減で、額にマイクを当てるような姿がまるで祈りを捧げているように見えた。

「皆様、ラクス=クラインでございます。この戦いが、地球の方々の総意であると考えるのは早計である以上
に、わたくし達は疲れ切っております。僭越ながら、わたくしとアスラン=ザラがデュランダル議長の代理を
臨時に担わせて頂くに当たり、どうか混乱をお鎮めになられるようお願い申し上げる次第で御座います」

 鳥のさえずりの様な声で、ラクスは訴えかける。アスランはラクスをそのままに、メイリンの元へと流れた。
 傍にアスランが寄ってきたことにメイリンが気付くと、目で何かを合図する。分かっていたように彼女の肩
越しに手を付き、前屈み気味にモニターを覗き込んだ。

『おい、アスラン! 今の声明は一体どういうことか! デュランダル議長がお亡くなりになられたと言うのは、
本当なのか?』

 シルバーの切り揃えられた頭髪に、甲高いヒステリックな男の声。それがモニター越しの男の特徴であり、
性分であるとも言える。その男、イザーク=ジュールの登場に、アスランは眉一つ動かさず、予想していたと
ばかりに応対に出た。

「事実だ。俺はこの目でそれを見ていた」
『見ていただと!? 貴様が付いていながら、むざむざやられるのを見ていたと言うのか!』

 弁明の余地も無い。護衛に向かいながら、アスランはデュランダルをみすみす死なせてしまったのである。
しかも、もう1人の護衛対象であるラクスですら護り切れたと言える自信が無い。そう、ミーアは死んでしまっ
たのだから。
 ミーアの遺体は、ミネルバの医療主任にだけ事情を打ち明け、デュランダルとは別の、誰にも目が付かな
い安置所にて保管してある。全てが終わった後に、親元へと返すつもりで居た。――その際、事実が明るみ
に出てラクスのスキャンダルとしてマスコミに取り上げられ、彼女が批難されるような事になってもそれは
覚悟の上だった。ただ、今だけはラクスの求心力が低下するのを避けなければならない。
 ミーアに、何もしてやれなかった。アスランの心を深く抉った彼女との思い出は、彼の表情を歪にさせて
いた。
 イザークはそんなアスランの事情は知らず、深刻で陰気な彼の表情に舌打ちをするのだった。

 そんな時、宇宙に信号弾の色が炸裂した。外の様子を映すモニターに、カメラが捉えた信号弾の光が
鮮やかに瞬いている。索敵班の1人が振り返った。

「連合軍の後退信号を確認。メサイアより敵部隊が撤退を開始しました」
「続けて本艦に接近するMSをキャッチ」

 立て続けにもう1人が口頭で述べる。アスランはイザークとの応対を一時中断し、身体を起こしてそちら
へと顔を振り向けた。
48 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/26(金) 23:44:05 ID:???
「デスティニーです。帰艦と同時に脱出艇の受け入れを要請して来ています」
「シンが戻ってくる? ――あの中でよくも生き残ってくれていた」

 乱戦になっていて、アスランの頭ではどれだけの被害を抑えられるかが焦点になっていた。その中で、
大きな損失もなく戦い抜いたミネルバはよく堪えた方だと思う。

「収容を。ミネルバの積載量一杯までは、合流してくる人員は全て受け入れてください」

 アスランの命令に、小気味良く返事する。アスランは元々フェイスであった為に、艦長ではない彼の命令
に対してもそれほどの抵抗は無かったようである。
 アスランが再びイザークの応対に戻ろうとした時、メイリンが何かに気付いてインカムに手を添えた。アス
ランはそれが気になり、手でイザークを制する。モニターの向こう側で、もう一度舌を鳴らす彼の不遜顔が
あった。

「今度は何だ、メイリン?」

 回線に不備が生じているのか、メイリンはアスランの問い掛けにも一切口を開くことなく、集中してインカ
ムの向こうからの声を拾っている。何度か聞き返す場面もあったが、何とか会話を繰り広げるとインカムを
外してアスランに顔を上げた。

「月へ向かったダイダロス攻略艦隊から報告です。反射衛星砲の発射の阻止は失敗に終わったとの事です」
「そんなのは、とっくだ」

 分かりきった報告に、アスランは不機嫌に顔を顰めた。しかし、レクイエムはプラントに直撃する事は無く、
代わりに連合軍艦隊を飲み込んでいったのだ。アスランが本当に知りたいのは、それが誤射であるのか
狙ってやった事なのかである。

「――他は?」
「交戦の結果、連合軍はダイダロス基地を遺棄。オーブ艦隊も作戦行動を終え、以後のザフト本隊への合流
許可を申請してきています」
「誤射は謎のままか。――了解、オーブ艦隊の合流を急がせてくれ」

 そう言うと、ようやくイザークへと向き直った。モニターの向こうでは、待ちくたびれたとばかりにストローを
口にしているイザークがアスランに気付いた。背後に立っている女性士官にボトルを押し付けるように渡す
と、シートに腰掛け直す。

『――で、どうするんだ?』
「態勢を立て直す。月に向かったオーブ艦隊が合流してくれるが――」
『あぁ。焼け石に水かも知れんが、それでいい。ナチュラルの再侵攻は“ある”と考えるべきだ。再編成は、
こちらで何とかする。それよりも問題なのは、あの大量破壊兵器の存在だ。あれがある限り、迂闊に抵抗
できん』
「コロニー・レーザーか……」

 イザークの言うとおり、一番の懸念はコロニー・レーザーの存在である。あれがメサイアを焼き、それが
きっかけとなってザフトは崩壊した。未だコロニー・レーザーは付近の宙域に存在しており、連合軍艦隊は
そこへ後退して行ったに過ぎないのだ。恐らく、射程にはプラントのコロニーも入っている事だろう。

「なぁ、イザーク。このまま受け入れられると思うか、この俺が」
49 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/26(金) 23:46:13 ID:???
 問題は山積している。若輩者である自分が、指名されたからといっていきなりこなせる様な役割ではない
し、アスランの台頭に納得を示さない者も居るかもしれない。その不安をを打ち消したくて、救いを求める
ように投げた視線がイザークの表情を曇らせる。アスランの不安そうな視線を、イザークは少し迷惑そうに
していた。

『殉死した指導者の代わりに、ヤキンの英雄と稀代のアイドルが起つ――劇的でパフォーマンスとしては
十分だ。評議会も、今はお前たちの人気に肖りたいと考えるだろう。反対する者は、居ないと思うがな』
「それが、今のプラントの状況だというのか……」
『お前には英雄としての名前がある。それでやって見せるしか方法は無いだろうが? ――少しは、前向き
なラクス=クラインを見習うんだな』

 不敵に笑うと、イザークは通信回線を切った。不安でどうしようもない、悲壮感さえ漂わせる自分の顔が
嫌だったのだろう。うな垂れて溜息をつく。

「イザークの奴、名前だけで大役を務め果せるものだと思っているのか。御気楽者め」

 吐き捨てるようにそう言うと、メイリンが顔を上げた。

「プレッシャーを感じていらっしゃるんですね? 大丈夫です、ザラ隊長なら出来ますよ」
「ありがとう。気休めだとしても、女性に励まされれば男は張り切ってしまうものだからね」

 メイリンの言葉に対して素っ気無く返すアスラン。まるで激励を皮肉で返されたような気分だ。一寸も
視線を合わせようとせず、じっとモニターの画面を見つめている。次々と送られてくる諸々の報告に顎に
手を当て、思慮深げに眉間に皺を寄せるだけ。メイリンの激励など、聞こえていないかのようだ。
 全く、男というのはどうして自分の事しか考えられないのか。大変なのは分かるが、多少の余裕は持って
然るべきだとメイリンは思う。だから抗議の意味も込めて、不貞腐れたように頬を膨らませもする。しかし
アスランはそんなメイリンの子供染みた可愛らしい仕草にも無頓着で、時に唸り声を漏らすだけだった。
 アスランにメイリンに構っている余裕は無かった。今後の事を考えれば、頭が痛い。かつて無いほど頭を
フル回転させる中、アスランは耳に柔らかな声を聞いた。それは生々しく耳に絡み付いてきて、聞く者の心
を掴んで放さない魔性の声のようである。その声に、数多の人間が或いは癒され、或いは奮い立たされて
きた。彼女の声は、プラントのカンフル剤となっていた。

「――どうか、ここで挫けないで下さい。わたくし達には、まだ護るべきものが存在しています。愛する人々
を護る為、わたくし達はここで倒れるわけには参りません」

 アスランは不意に後ろを振り返った。ラクスは尚もさえずり、傷ついた兵士達の心を少しでも癒そうと声
を振り絞る。本当なら、ミーアという友人の死をその背で看取った彼女も相当堪えている筈である。しかし
こうして人々を奮い立たせる事がミーアとの約束であると信じて、ラクスは自らを鼓舞するように言葉を紡
ぎ続ける。

「コロニー・レーザーは力です。力を持った人は、例えどんな結果が待っていようともその力を試さずには
居られません。それがどれだけ陰惨で残酷な事であるのかを、彼等は知らないのです。それが愚かな
行為であると啓発できるのは、痛みを知るわたくし達ではないでしょうか? ――止めなければなりません。
その先に平和があると信じて」

 ふと、ジェネシスを撃ってしまった父を思い出した。忘れようとしていた父の面影が脳裏を掠めた時、ジェ
ネシスの発射が果たして母を殺したナチュラルに対する意趣返しだったのか、はたまたラクスの言うとお
り、その力を誇示したかったからなのか、分からなくなった。真相は結局、父の死によって闇の中である。
50 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/26(金) 23:47:54 ID:???
 ラクスの演説に飽きたからではない。そうでなくとも、アスランは軽い溜息をついた。



 ダイダロス基地を出港したガーティ・ルーを旗艦とするシロッコ艦隊。コロニー・レーザーに後退した連合
軍本隊との合流に向けて航行中であった。オーブ艦隊の追撃は確認されていない。それどころではないだ
ろう、というのがシロッコの見解であり、その彼の予測は的を射ていた。
 以後の合流までの手はずを艦長に任せ、シロッコは自室へと戻った。広々としたスペースに、中央には
立派なデスクが備え付けられている。多機能なそのデスクの椅子に腰掛けると、空中投影型のモニターを
呼び出した。少し調整を加え、画面を整えるとスーツに身を包んだ老齢の男性の顔が表された。大西洋
連邦の高官である。

『シロッコか。よもや、レクイエムを使ってジブリールを排除するとはな。狐が狸を化かしたか?』

 レクイエムはジブリールが独自に用意した戦略的大量破壊兵器である。その存在は大西洋連邦内でも
最高機密扱いにされており、シロッコがその使用を任されていた辺り、彼がジブリールから相当の信頼を
買っていたのは疑いようが無い。シロッコは、その信頼を仇として逆手に取り、レクイエムでジブリールを
葬ったのである。そのやり取りを、高官は2人の油断なら無い人物像を揶揄して狐と狸に例えた。

「手元が狂いまして。化かすも何もございません」
『そう言って、私にも牙を剥くのではあるまいな?』
「まさか。万が一その様な気でも起こせば、事を起こす前に私が消されるでしょう」

 シロッコはそんな高官の言葉にも鼻で笑って謙遜してみせる。しかし、言葉とは裏腹に、その笑いには
嘲笑も混じっているようにも思われた。果たして、それが裏切ったジブリールに向けてなのか、画面越しの
高官に向けてなのかは然として見抜けない。まるで暗闇の中を手探りで歩いているような感覚に、高官の
顔に刻まれている皺が益々深くなった。
 高官は一つ咳払いしてから睨むような視線を投げかけてきた。もう直ぐ60に差し掛かろうかという老齢の
男性が見せるような目では無い。これまで激しい荒波に揉まれて、幾度もの修羅場を潜り抜けてきた男だ
けが持つ眼光の鋭さだ。これには、油断はならない。シロッコは目を細めて態度を改めた。

『――まあ良い。これで、空位となったブルー・コスモスの盟主に君を推薦してやれる。君には、過激になり
過ぎたブルー・コスモスの再生を担当してもらう事になるわけだ』

 ブルー・コスモスは軍産複合体であるロゴスと密接に関係している。世論は否定的になっているが、強大
な資本を有するロゴスとの関係を維持したい大西洋連邦としては、世論の反発を無視してでもブルー・コス
モスと手を切るわけには行かなかった。だからこそ、過激になりすぎたジブリールの存在を疎ましく思い、
その頭をシロッコに挿げ替える事でブルー・コスモスの印象の回復を図りたいというのが狙いだった。

「それで、ザフトへの対処はいかがいたしましょう?」

 伺いを立てるシロッコに、高官は口の端を吊り上げ、歯を見せる。含みのある笑みだった。

『コロニー・レーザーがプラントに向いている限り、迂闊に手を出すような真似はすまい。連合各国は今、
戦後のプラントの処置について話し合っている最中だ』
「プラントの降服で、戦争は終わると?」
『奴らがユニウスを落とした事で始まった戦争である事を考えれば、それが最も平和的であろう。ただ、
そういう情報を連中もキャッチしているのかも知れんなぁ』
51 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/26(金) 23:49:52 ID:???
 しわがれた声で、喉を鳴らすように高官は笑った。高慢な老人の笑い声は、聞くものを不快にさせるよう
な魔力があるように感じられる。そのまま醜く顔を歪めたまま、シロッコに横目を向けた。

『ユーラシアからの合意も得てある。君は軍の総司令としてコロニー・レーザーの防衛に当たり給え』
「ハッ」

 シロッコが敬礼をすると、通信が切れてモニターが消えた。腕を下ろし、フッと笑って立ち上がると舷窓の
付近まで身体を流し、そこから宇宙を望んだ。

「俗物というモノは、地球という小さな星の重力にさえ魂を縛られるようだが、連中はこの深淵の宇宙を見て
も地球圏の覇権争いから抜け出せないで居る。コーディネイターだのナチュラルだのという些事に拘るの
は、世界を導く天才が不在だからだろう。やはり、この世界にジョージ=グレンは不可欠な要素だったな」

 それを暗殺などという手段で簡単に排除してしまえるのが、この世界の不幸だ。その穴埋めを行うために
コズミック・イラに遣わされたのだと、ここに至ってシロッコは確信していた。
 呼び出し音が鳴り響く。舷窓にもポツンとコロニー・レーザーの姿が目に入った。シロッコは私室のドアを
潜って、ブリッジへと向かった。


 スティングは、食堂の椅子に座っている自分を不思議に思っていた。ふと辺りを見回してみても、かつて
の活気のあるナナバルクの食堂では無い。めっきりと人気が少なくなり、妙に空間が広く感じられて雑然と
していた過去を懐かしく思った。
 本当なら、一緒にジェリドやマウアー、それにライラやアウル、カクリコンも居たはずである。出撃前は
確かにもう一度会えると信じ、こんな物寂しい空虚感に襲われることになるなんて考えもしなかった。しか
し、事実としてファントム・ペインはブラン=ブルタークという頭を失い、また2人のパイロットも散っていった。
 連合軍は、ザフトに勝利寸前まで行った。だのにファントム・ペインが壊滅寸前にまで追い込まれたのは
何故なのか。それが宿命のライバルとも言えるミネルバ隊との決定的な力の差であるのかと、スティングは
自問する。

「俺たちは、この程度なのか……?」

 備え付けのモニターに、コロニー・レーザーの雄姿が映し出されていた。間接的にでも圧倒的スケール感
を与えるそれは、所々に小さな赤い光を明滅させて虚空に敢然と浮かんでいる。少し目を凝らせば、それを
守るようにして艦隊が集結している光景が確認できた。

「畜生」

 何に対してなのか分からないぼやき。恐らく、マウアーはもう戦えないだろう。ナナバルクの格納庫に戻っ
てからも、彼女は誰にも顔を合わせる事無く自室へと戻っていった。仲間として声を掛けるべきだとも考えた
が、バイザーの向こうに隠れた表情を思い描くだに、憚られた。
 マウアーだけではない。戦えそうに無いのはアウルも同じだ。あれだけ懐いていたライラが目の前でやら
れたとカクリコンは言う。激情家のアウルの事である。一度MSから降りてテンションが下がってしまえば、
二度とMSに乗る事など出来ないだろう。
 それに、スティングから見て艦長のイアン=リーはリーダーたる器ではない。艦長としての能力は長けて
いるのだろうが、部隊を纏めるようなリーダーシップは見られないのだ。ブランのように自らが率先して部隊
を引っ張るような甲斐性も無く、冷静さが売りであるイアンにファントム・ペインの指揮は柄では無いと感じた。
 ファントム・ペインなどという大袈裟な名称を付けられたこの部隊も、いよいよ終わりだろうか。正直、スティ
ングはこれ以上のファントム・ペインの活動は不可能だろうと思っていた。
52 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/26(金) 23:51:33 ID:???
 照らされる人工的な電灯の光が、妙に煩わしく感じられた。自分の暗くなった気持ちを無理矢理に明るく
しようとしているようで、スティングはいい加減面白くなくなって自室に戻ろうと椅子を押した。その時である、
無骨な手が一本のボトルを目の前のテーブルに置いた。

「貴様は、大丈夫のようだな」

 小気味のいい濁声に気付き、顔を上げる。やや後退した前髪に、四角い輪郭と見事なケツ顎。その顎に
伸びていこうかという逞しいもみあげが、男らしさを満開でアピールする。肘の辺りまで捲し上げた袖口か
ら伸びた腕には、うっそうと腕毛が生い茂っていた。カクリコン=カクーラー、普段と変わらぬ表情で椅子
に腰掛ける。

「中尉か……」
「フン、アウルの奴は自室に篭ったきり、出て来ようとせん」
「そりゃあな」
「強化人間といえども、所詮はガキか」

 吐き捨てるようにそう言うと、カクリコンは徐に食器を手に取り、フォークにスパゲッティを絡め始めた。
 スティングはそれを眺めながらもカクリコンの台詞に不遜に顔を顰め、立ち上がろうとした椅子に再び
座りなおした。

「それで仲間かよ?」
「クッ! 何を言い出すのかと思えば、まるで優等生じゃないか」

 スティングの言葉にも、カクリコンは一向に態度を改める気配を見せない。自分の台詞に対して鼻で
笑うカクリコンに、眉間に皺が出来る感触を得た。

「仲間がやられたんだ。あんたは平気なのかって聞いている」
「めそめそするのは、柄じゃないんでね」
「そんな格好付けで!」

 身を乗り出し、カクリコンに迫る。カクリコンはそれを煩わしそうに顔を顰め、目線を逸らすように顔を
横に背けた。

「軍はプロフェッショナルの集まりだ。仲間が死のうが何だろうが、俺達は命令とあらばそれに従って
見せなけりゃならん掟がある」
「そう言って、あの2人を戦わせるのか!」
「それが義務だと言っている。そいつを忘れた奴は、軍人じゃあない。ただの民間人と同じだ」

 思わず熱くなるスティングとは対照的に、カクリコンは冷静にそう言い切る。フォークに絡めたスパゲッ
ティを口の中に押し込み、ジロリとスティングを見てくる。その目つきに鋭く心を抉られる様な感覚を抱き
冷や水をひっかけられた様にスティングは押し黙るしかなかった。

「けどな――」

 何とか反論しようと言葉を紡ぎだした時、誰かが食堂の扉を潜ってくる音がした。スティングはそれに
気付き、顔を入り口の方に向けた。

「マウアー!?」
53 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/26(金) 23:53:02 ID:???
 驚く事に、食堂へと入ってきたのはマウアーだった。彼女もカクリコンと同じく普段の物腰を崩さず、
毅然とした姿勢でカウンターへと歩を進める。そして食事を乗せたトレイを持って呆気に取られるスティ
ングの後ろを通ると、当たり前のように隣の席に着いた。

「マウアー……いいのか?」

 スプーンでサッとスープを掬い上げると、その甘美な雰囲気を漂わす口元へ運んで軽く飲み干す。
その仕草を、スティングは不安そうな表情で見ていた。
 するとマウアーは、少し顔を傾けて流し目でスティングを見た。その視線が妙に扇情的で、不覚にも
スティングはそのマウアーの仕草に心をときめかされてしまった。

「私は私のすべき事を知っている。あなたが心配することでは無いわ」
「そうかよ?」
「それよりも、寧ろあなたの方が心配かもね」
「そうかよ……」

 スティングくらいの年代の少年は、得てして女性は男性より脆弱な生き物であると考えがちになる。
それは、表面しか見られない少年の単純さが、女性をそういう風に見せているからだ。
 しかし、スティングはマウアーの態度を見て、それは間違いだったのだと気付く。スティングの不安を
打ち消そうと笑みを浮かべる彼女を見た時、或いは女性の方が男性よりも精神的に強いのではないか
という衝撃を受けた。

「そういう事だ」

 ストローを口につけながら、カクリコンが尊大に言ってみせる。その態度が余りにも調子合わせ的なもの
に感じられ、スティングは猜疑心交じりに片眉を吊り上げた。

「しかし、アウルは暫くそっとして置く方がよろしいのでは? 繊細な子を急かすものでは無いと思いますが」

 マウアーが言う。自分に甘く他人に厳しいのが女という生き物だと勝手に思い込んでいたスティングは、
まるで正反対の人間も居るものだと感心する。恐らくだが、こういう女性の事を「いい女」というのだろう。
アウルは、それとはまた違う、自分にも他人にも厳しい女性をその様に感じていたらしいが――

「そんなわけに行くかよ。マウアーだってこうして顔を出してんだ。アイツだけ甘えさせるわけには行かん
だろうが」

 食事を続ける2人の傍ら、スティングがテーブルに手を突いて立ち上がる。そう言って、食堂の出口へと
歩を進めた。

「どうするつもり?」

 出口でマウアーに呼びかけられ、肩越しに振り返った。

「アウルの奴に気合を入れてくる。こういう時だからこそ、俺達は団結して見せなきゃなんねーんだってよ」

 清々しい顔つきで言い切ってみせるスティング。その姿が閉じるドアに遮られて消えると、カクリコンが
鼻で笑ってまたフォークにスパゲッティを絡ませ始めた。
54 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/26(金) 23:54:31 ID:???
 アウルは、ナナバルクの展望室で宇宙を眺めていた。窓の向こうには巨大なコロニー・レーザーと、それ
を警護するミニチュアのような戦艦の数々が浮かんでいる。コロニー・レーザーと戦艦のスケールの圧倒
的な差は、見る者に壮大なスケール感を与える。しかし、アウルの瞳はそんな息を呑むような景観すら目
に入っていないようであった。

「ライラ……」

 手すりに手を掛け、こつんと窓に額をぶつける。視線の先に大きな宇宙。星の瞬きだけが黒一色の世界
の中で懸命に光を放っている。アウルは、その先にライラの面影を探していた。
 星の輝きが、まるでライラを模っているかのように見える。パラス・アテネの背中に消えていった彼女の
笑顔を思い浮かべると、今にも溢れ出さんばかりにアウルの目は涙に濡れた。
 そんな時、ふと誰かの気配を感じ、慌ててアウルは袖で涙を拭った。

「何だよ、外に出てんじゃねぇか、カクリコンのデコめ――よぉ、大尉に助けられたんだってな?」

 振り向いた先に、芝生のような淡い緑の頭髪をした少年がポケットに手を突っ込んで流れてくるのが見え
た。スティング=オークレー、同じエクステンデッドとして、研究所時代からずっと一緒であった少年だ。

「スティング、テメェ――!」
「すまん、悪気は無い。そういうつもりで言った訳じゃないんだ」

 憤りを見せるアウルに対し、至極真面目な顔でそう言うスティングは、ポケットから出した手を上げて争い
の意志が無い事を表現する。しかし、アウルは気が治まらず、いきり立ってスティングに飛び掛った。

「許すもんかよ、そんなことでぇッ!」

 握り締められた拳が、スティングの頬にめり込む。慣性が働き、スティングは殴られた衝撃で壁に叩きつ
けられ、アウルは反動で後ろにさがる。チラリと後方を見やり、壁を蹴って再度スティングに襲い掛かった。

「お、おま――」
「殴ってやろうか! おら! 殴ってやろうか!」
「――な、殴ってから言う事か!」

 しかし、スティングとて殴られっ放しというわけには行かない。振り上げられた拳を掻い潜り、肩を掴んで
アウルの身体を固定すると、ボディに膝を突き入れる。アウルが呻き声を上げて身体を浮かせると、スティ
ングは口の端から滲み出している血を親指で拭い、そのまま浮かんでいるアウルを掴まえて天井に押し
付けた。

「大尉だけじゃねぇ! ジェリドだって居なくなってんだ! どんな死に方をしたのか、仇は誰なのかも分か
らずにな!」

 襟を掴まれ、呼吸が苦しくなるアウル。眼前で怒鳴るスティングの鼻っ面目掛けて、額をぶつける。
 アウルの頭突きを食らい、鼻に炭酸水を入れられたような鋭い痛みが拡がる。突き放され、少しして鼻の
辺りが生暖かい感触に包まれた。手で擦って見ると、大量の血が掌に付着した。手鼻をかんで鼻血を噴き
出させると、再びアウルを睨んだ。

「ライラは僕の目の前で死んでいったんだ! 好きな女を死なせちまった男の気持ちが、テメェなんかに
分かって堪るかッ!」
55 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/26(金) 23:56:27 ID:???
「そういう甘えが、大尉を殺したんだろうが!」

 腕を薙ぎ、激しく怒りを表現するアウル。その台詞を遮るように叫ぶスティング。赤い血の玉が無重力を
霧のように弾け、広がった。

「分かるか!? 俺達は今までジェリドや大尉に頼りすぎていた! お陰でこのザマなんだよ!」

 普段は落ち着いているスティングが、激しく感情を露にして叫んだ。対するアウル。それは違うと、反論
したい。反論したいが、何故か言い返せない。スティングの言う事が正論なのだと、頭の片隅で認めて
しまっているからだ。その行き場の無い敗北にも似たやるせなさが、更にアウルの拳を振り上げさせる。

「じゃあ、テメェはどうすんだよ!?」

 ただ自己のストレスを吐き出すだけの拳は、敵を殴ることは出来ても打ち負かす事は出来ない。アウル
の拳は再びスティングの頬にヒットしたが、彼の瞳は些かも屈服していなかった。その目が不愉快で、
アウルはもう一度拳を振り上げる。
 その瞬間、拳を振り下ろそうとしたアウルの顔面にスティングの拳がめり込んだ。クリーン・ヒットしたその
一撃は一発でアウルの戦意を削ぎ、彼の身体は噴き出す鼻血と一緒に吹っ飛んで背中から手すりに引っ
掛かった。

「グハッ……!」
「腑抜けの拳固が効くかよ!」
「ス、スティングぅぅぅ……ッ!」

 アウルは顔面を両手で覆ってのた打ち回った。鼻からはスティングのように鼻血が噴出し、感覚が麻痺し
てしまったように鼻が熱い。

「俺は戦うぜ! ジェリド達に甘えていた俺を殺す為にな! お前はいつまでも引き篭もってりゃいい!」
「う…くぅ……ッ! 僕…は……」

 敢然と立つスティングの姿を、自分の鼻血が玉となって浮かぶその向こうに見ていた。果たして、スティ
ングとはこういう男であっただろうか。いつしか変わって行ったスティングの変遷を思いだすだに、自分と
てそうであった事に気付く。
 ライラとのやり取りを思い出す。彼女は自分に自立を求めていたように思う。アウルはそれが嫌で、ライ
ラとずっと一緒に居たいと駄々を捏ねた。それを坊やだと詰られるも、愛情の一環だと思って気にも留めな
かった。
 これでは唯のこましゃくれたガキではないか。少し前までの事だが、今さらになって自分がどれだけ幼か
ったのかを思い知らされる。その幼さがライラの心に心配を呼び、彼女は――
 スティングは肩で息をする。無重力を漂うどちらのものとも知れない血の玉が、或いは床や壁に付着して
鉛色の空間に赤い水玉模様を描く。アウルは一度、背後に広がる宇宙を見やり、それから顔を俯けた。



 ザフトの崩壊、そしてレクイエムによる連合旗艦艦隊の消滅によって、戦争は小康状態に入っていた。連合
軍がコロニー・レーザーまで後退した事で、オーブ艦隊のザフト本隊への合流は比較的容易に済まされた。
 今は沈黙したメサイア。光を失い、かつて宇宙要塞であったその岩塊は、ただ静かに虚空に漂っているだ
けである。作業員がその中から使えそうな物資を引き上げているが、期待するほどの成果は見込めそうに
なかった。
56 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/26(金) 23:58:35 ID:???
 ゴミを排除したドックに、各艦は納まっていた。とてもドックと呼べるような環境ではなかったが、それで
も出来る限りの修理や整備は行われていた。小康状態とはいえ、戦いが終わったわけではないのだから。
 ミネルバとアークエンジェルは、同じドックで寄り添うように並び納まっていた。そして、互いの情報を整理
する為に、ミネルバのブリーフィング・ルームにはアークエンジェルの人員も会していた。

「カ、カツが死んだなんて、嘘だろ!?」

 厳粛な空気の中、部屋の後方で立ち見していたヴィーノが突如として声を張り上げたのは、エマがカツの
戦死報告を述べて次の報告に移ろうとした時だった。その余りにドライな口調に、思わず聞き逃してしまう
ところだったヴィーノは、怯えきったような表情で肩をわなわなと震わせていた。

「エマさん! 性質の悪い冗談なんでしょ、それ? そりゃあ確かにパイロットとしちゃ頼りないとは思って
ましたよ。けど、アイツはこれまで、どんなにやられても必ず帰ってきたじゃないですか!」

 ヴィーノと同じ反応を見せる少年がもう1人。黒髪に褐色の肌をしたヨウランである。カツと2人は仲が良く、
エマも何度か3人がつるんでいる所を見ていた。だからこそ、信じられないのは分かる。痛いほどに気持ち
は分かるのだが、しかしエマは懇願するような2人の問い掛けにも、顔を伏せるだけで何も口にする事が
出来なかった。

「ち、ちょっと待ってくださいよ! だって、そんな…こと……」

 ヴィーノが首を回して他のアークエンジェルの面々の表情も見た。一様に押し黙るだけで、誰もが目線を
落としている。嘘をついているようには見えなかった。
 エマの報告するカツの死――それが疑いようの無い事実なのだと知り、ヴィーノもヨウランも力なく床に
座り込んでしまった。友人の死に、自然と涙を流す2人の姿が、痛ましかった。

「戦争だからって、死ぬことなんて無いんだよ……ねぇ、そうでしょ……?」

 涙声のヴィーノ、鼻を啜るヨウラン。2人の悲痛な声を余所に、エマの報告は淡々と続けられていった。

 粛々と進められた情報交換は、とりあえずレクイエムの脅威が無くなった事と、新たにコロニー・レーザー
の脅威が浮上した事、それから多くの死傷者が出た事を口頭で纏め、解散となった。それで判明した事と
いえば、相も変わらずザフトは窮地に立たされているという事である。
 キラはブリーフィング・ルームを退室した後、ミネルバの居住区へと足を運んでいた。そこにかつてカツが
使っていたという部屋があるとエマから聞き出したからだ。
 キラがカツの私室に辿り着いた時、既にドアは開かれていた。誰か、先客が居るのだろう。そっと入り口か
ら覗き込むと、中には少年が2人居た。1人は前髪に赤いメッシュを入れていて、ベッドに腰掛けて項垂れて
いる。もう1人の褐色肌の方は、写真立てを手に佇んでいた。目を凝らして見れば、写真にはどこかの港町
の風景を背に、3人が肩を組んで仲良さげに笑っている画があった。
 キラは覗き込んでいた顔を引っ込め、壁に背を預けた。部屋の中からは、いつしか2人のすすり泣く声が
聞こえてきた。在りし日のカツを偲ぶ2人の悲痛に、キラは軽く首を振ってその場を後にした。

 アークエンジェルに戻った頃には、標準時の深夜を回っていた。それにも拘らず、キラは自室に戻ること
なく展望室からメサイアの無機質なドックを見つめていた。まだ寝る気分にはなれなかった。
 深夜でもドックで修理に勤しむ整備員達の活気は些かも変わる事は無かった。時間は圧倒的に不足して
いるし、寝食を惜しんで仕事を続ける彼らの戦いは今がピークを迎えている。この中に、あの2人も居るのだ
ろうか――ふと、そんな事を考えて溜息をついた。
57 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/27(土) 00:00:19 ID:???
「まだ起きてたのか、キラ」

 呼びかけられて、顔を後ろに振り向けた。ストローの飛び出したカップを片手に、ウコン色の眼鏡をかけ
た青年が無重力を流れてきた。

「サイの方こそ」
「シフトの交替でな。寝る前に、ここで少し落ち着こうと思って」

 サイはキラの隣まで来ると、静かに足を付けた。そうして、何も言わずにボトルをキラに差し出した。

「…ありがとう」

 受け取り、ストローに口を付け、吸い上げる。ボトルの中身は甘めの紅茶だった。一口飲んで、ボトルを
返す。サイはやはり無言でそれを受け取った。
 電灯の明かりは、就寝時間だからか最低限の光しかなかった。寧ろ、外のドックの方が遥かに明るい。
 サイが窓に背を向けて、その縁に腰掛けるように背中を預けた。

「気にしているのか?」

 少し顔を横に向けて、サイの顔を見た。何の事を言っているのかも、それなりに長い付き合いのある間柄
だけにキラは分かっているし、サイの方も一言で通じると思ったのだろう。キラはそのサイの問いに、首を
縦に振った。

「ラクスが連れて来た3人組――ドムのパイロットだった人達と会ったんだ」
「裏切りなんだろ? 聞いている。けど、悪いのはラクスじゃない。お前が気にする事じゃないさ」
「うん…それは分かっているけど――」

 キラはカツを助けられるはずだった。――それは思い上がりなのかもしれないが、助けなければならなか
ったと言う方が正確な表現なのかもしれない。自分が特別な存在として生まれてきたのならば、せめて自分
の感知できる範囲の人くらいは救って見せるべきだと思っていた。彼の眼前で大切な人を失ったのは、カツ
で3度目であった。
 キラは窓に手を当て、爪を立てた。

「トールや……フレイの事、思い出したのか?」

 キラが顔を横に向けてサイを見たとき、彼の顔もこちらを向いていた。光の反射具合で眼鏡の奥の瞳は
隠されている。表情は読めなかった。

「カツを助けられなかったのは、進歩のない僕の不徳のせいだ。あの人達をこのままで済ませるつもりは
無いよ。けど…そうやって気持ちを切り替えてしまうと、忘れていってしまいそうで、何て言うか――そうい
うの、フレイやトールに対しても薄情なんじゃないかって、そう思えたんだ」

 キラに向いていたサイの顔が、思案するように少し顔を逸らした。眼鏡の奥は相変わらず覗えない。

「キラ、お前は変わらないよな」
「えっ?」
58 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/27(土) 00:01:55 ID:???
 サイの横顔、隙間から彼の瞳が垣間見えた。その瞳は、妥当な表現が見つからないが、敢えて言えば
懐かしんでいるような感じだった。

「誰よりも他人の事を考えて、自分の事は二の次でさ。死んでしまったフレイに対してだって、今でも遠慮
してくれてる。俺にだって、気を遣ってくれてさ」

 つらつらと、サイは語る。フレイを思い出しているのだろうか。サイのなだらかな言葉と空調の音が重なっ
てキラの耳に響いていた。

「そういうところが変わりさえしなければ、フレイもトールも何も言わないんじゃないかな。みんな、あの頃
の一生懸命なキラを知っているんだしさ」
「サイは、どうなの?」

 聞くべきではないと思ったが、聞いておきたかった。フレイを巡った三角関係は、結局サイが一番割を
食ったような感じだった。アフリカの砂漠での一幕を思い出しても、よく彼が自分を許してくれたものだと
思う。サイは、人差し指で鼻を掻いて少し笑った。

「俺はお前を信じてるよ。でなけりゃ、アークエンジェルにもう一回乗りはしなかったさ」

 何を今さら、という顔をしていた。

「ありがとう」

 サイが友達で良かったと思った。キラは、はにかんだ様に笑った。


 戦闘の疲れは、残っているはずである。それなのに、色々な事が起こりすぎて興奮状態になっているの
か、自室のベッドに横になっても眠る事が出来なかった。仕方無しにミネルバ艦内を散歩がてら移動して
いると、ラウンジから人の話し声が聞こえてきた。シンは入り口付近で壁を背にしてしゃがみ込み、こっそり
と中の様子を覗った。

「小言を言ってくれる人間が居なくなると、寂しいものだな。何だか、心にぽっかりと穴が開いたような気がするよ」

 伏せ目がちに椅子に腰掛ける女性を気遣うように、男性が傍らに立っている。男性は見紛う事無くアスラ
ンであり、ブロンドの髪を肩甲骨まで伸ばした女性は、見慣れないながらもカガリであると判別できた。
 カガリの様子は、小型艇に乗っていた時のものと大分違う印象を受けた。激昂して喰いかかってくる頑固
者の面影はなりを潜め、今は心静かに物思いに耽っているようであった。そんな一面もあるのだと、シンは
カガリに対する見識を少しだけ改めた。

「そうか、カガリはあの人に命を拾ってもらったんだな……」

 アスランがカガリに向けていた視線を逸らした。複雑に揺れるその目の動きに、アスランが何かに遠慮し
ているような気がした。人の死に対してセンチメンタルになっているのかもしれないが、それ以外に理由が
あるような気がしたのは、自分の勝手な思い込みではないはずだ。
 そんな時、シンの肩にポンと手が乗せられた。喉から心臓が飛び出そうになったのは、自分の行為が
やましい事であると自覚していたからだろう。絶叫を必死に喉の奥に押し込め、首を回した。

「何やってんのよ、シン――って覗き?」
59 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/27(土) 00:03:18 ID:???
「シッ!」
「ザラ隊長とオーブのお姫様……?」

 口元に人差し指を当て、興味深そうに覗き込むルナマリアを制する。シンの肩越しにアスランとカガリの
姿が見えると、ようやく状況を理解したのか、ハッとして掌で口を塞いだ。シンが慌ててルナマリアの頭を
掴み、自分と同じ様にしゃがませる。

「――ん? 誰か居るのか?」
「気のせいだろ」

 目敏い――もとい隙の無い男、アスラン=ザラ。シンとルナマリアの気配に気付いたらしく、キョロキョロ
と首を回す。それを鈍い――もとい大らかな女、カガリ=ユラ=アスハが切り捨てる。そのお陰でアスラン
は気を取り直して姿勢を改めたが、シンにしてみれば生きた心地がしなかった。

「――ってか、何であたしまで隠れなきゃいけないのよ! 覗きなら1人でやんなさいっての!」

 小声で怒鳴るルナマリアを無視し、シンは2人の様子を覗う。やましい気持ちはあるが、決して不純な動機
でこんな事をしているわけではない。既に覗きという行為自体が不純で弁明の余地など一切無いわけだが、
シンはどうしてもカガリが気になった。
 許したわけじゃない。確かに彼女を救出した自分の行為は、数ヶ月前までなら絶対にしなかった事だろう。
その絶対にしなかった行為をしたという事は、少なからずカガリに対する蟠りを解いた証拠である。それを
否定するつもりは無いが、ただもう一声カガリからの反応が欲しかった。あのトダカが命を賭して守り通した
彼女が、果たして本当にクサナギの犠牲に値するだけの人物であるのか――その見極めの機会を、シン
は欲していた。
 ラウンジは、暫く静かだった。ルナマリアを抱くようにしてじっと息を潜めているシンは、彼女の頬がほん
のり赤く染まっている事にも気付かないで、じっと2人の様子を見つめていた。
 沈黙の重々しい空気に耐えかねたのかどうかは分からない。カガリは両膝をパァンと景気良く叩くと、徐に
立ち上がってアスランを見た。シンの視角からは丁度カガリが後ろ向きになっていて、表情がどんなもので
あるかを窺い知る事は出来ない。何か話さないかと、ヤキモキしながら固唾を呑む。

「アスラン、私はオーブに全てを捧げる。だから…お前とはもう、青春は出来ない」

 以前から噂には上っていた。アスランは、婚約者であるラクスとオーブのカガリとで二股を掛けているの
ではないかというゴシップが、ミネルバ内ではほぼ事実として流れていた。しかも、アスラン自身もそれに
対する弁解を一切しなかったものだから、真実であると信じる人が大半であった。
 しかし、これでハッキリした。アスランは間違いなくカガリと関係を持っていて、その関係がたった今、目の
前で解消された。

「……それでいい。君は、それでいいんだ」
「ごめんな、アスラン……」
「いいんだ。俺も、やるべき事を見つけてしまった。これ以上は、カガリと並んで歩く事は出来そうにない」
「うん……」

 何かを確かめ合うように2人は抱き合った。その抱擁も、惜しむようなしつこさは無い。意外なほどあっさ
りと、2人は身体を離した。

「君に会えて、良かった」
「私こそ、今までありがとう」
60 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/27(土) 00:05:05 ID:???
 信じられないほど後腐れの無い別れに、それを見守っていたシンやルナマリアの方が呆気に取られていた。
そして、それが油断に繋がったのかもしれない。呆然としているところに、退出しようとカガリが出入り口にやっ
て来てしまったのだ。2人は慌てて隠れようとしたが、時既に遅しだった。
 はたと目が合って、時間が止まる。冷たくて嫌な汗が背中を伝い、2人は身を硬直させてしまった。

「……見ていたのか?」
「べ、別に――」
「いいだろう。――ん」

 険しい顔で腕組をしていたが、怒っている風では無い。カガリは一瞥すると、2人を手招きして少しラウンジ
から離れた。

「あ、あんた――」
「あんたではない。私はオーブ連合首長国代表、カガリ=ユラ=アスハであるぞ」

 キッと睨まれ、シンは思わず萎縮してしまった。これほどの覇気を、よもやカガリから感じるとは思わな
かった。今までの彼女と、明らかに雰囲気が違う。覚悟を感じた。
 たじろいだシンを見ても、カガリは些かの気色も示さなかった。威厳に満ちた表情は、シンを見下す風で
もなく真っ直ぐな瞳で見つめていた。

「――無礼は許そう。お前にはこの命を繋いで貰った恩があるからな。だが、次からは気をつけてもらう」

 シンはカガリの尊大な物言いにも、ただ首を縦に振るだけだった。迫力に負けて声が出なかったからだ。

「ですが代表、私達に何用があってお誘いになられたのでしょうか。先程の盗み見の件でしたら、然るべき
場を持って平身低頭謝罪申し上げますから――」

 完全にカガリに呑まれてしまっているシンの代わりに、ルナマリアが前に出た。しかし、カガリは頭を振っ
てルナマリアを諌めた。

「いい。他言無用だが、その件も許す。――けど、今のやり取りを見ていたお前達には、事情を知る義務が
あるという事だ」
「事情、でしょうか?」
「そうだ。事情だ。――おい、お前も良いな」

 カガリがルナマリアの後ろに立っているシンに訊く。チラリと振り返ると、シンは渋い表情のまま小さく頷いた。

「よし。遂に一人身になったアスランの事だ。部下なら、親身になってやれ」

 そう言って、カガリは後ろを振り返ってラウンジの方向を見た。ルナマリアはその様子を怪訝そうに見つ
め、眉を顰めた。

「どういう意味でしょうか? 失礼ですが、ミネルバではアスラン=ザラがラクス=クラインと代表に2つの
股を掛けていたという噂がございます。ですから、例えそうであっても、御2人の関係が内密であったなら
ば、ラクス様との婚約関係までは――」
「そんなゴシップがあったのか? アスランも大変だったんだな……私は笑うが」
61 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/27(土) 00:07:12 ID:???
 そう言って笑うカガリが、どこか他人事のように見えた。この元首は、自分がプラントに対してどれだけ
影響力のあるスキャンダルを起こしていたのか分かっているのだろうか。その、他人を馬鹿にしたような
態度に、ルナマリアは一段と表情を険しくした。
 その気配に気付いたのか、カガリは顔の向きを改めてルナマリアを見た。

「――いや、済まない。だから、事情なんだ。ラクスとアイツは、もうそういう関係じゃないんだ」
「えっ!?」

 透き通るようなハニーブラウンの瞳が、ルナマリアを見ている。黄金色の髪と相俟って、不思議と雄々し
さを感じた。純粋な眼差しは、嘘をついているようには見えない。戸惑いつつ、ルナマリアは口を開いた。

「じゃ、じゃあ一体――」
「これも他言無用だぞ。ラクスはな、キラなんだ。キラ=ヤマト。2年くらい前からな」

 自室に戻った時、シェアしている妹のメイリンが不思議な事を言っていたのを思い出した。アスランと
ラクスから、カップルのような雰囲気を感じなかったという事――その時ルナマリアはメイリンの勘違い
であると笑って流していたが、そういう事情があったのならば辻褄が合う。何故なら2人は仮面カップル
を演じていたのだから。

「そ、そんな、どうして……」

 納得を示しかねているルナマリアを見るカガリの心持ちは、いかばかりか。そんな様子をおくびにも出さ
ずに、カガリは柔らかく笑みを浮かべ続けていた。

「だから、アイツが浮気をしてたとかそういうんじゃない事だけは、分かってくれ。それで、支えてやって
欲しい。アイツ、見た目どおりナイーブな奴だから」

 こみ上げる何かを、我慢しているようにも見えた。同じ女としてのシンパシーなのだろう。心で泣いてい
る事を察して、ルナマリアは頷いた。

「それは勿論……でも、代表もお一人になられた事は同じです」
「ありがとう。けど、蓮っ葉な女というものはそういう事を気にしない傾向にあるらしいな」

 カガリは少しはにかんだ様に笑って、徐に背を向けた。自分は大丈夫だ、心配は無用だと語る背中が酷く
不憫でもの悲しく思え、ルナマリアは思わず口元を手で覆ってしまった。同じ女性だから分かる哀愁のよう
なものを、感じたからだろう。

「待ってくれ!」

 今まで口を挟まずに居た、シンの声。その場を去ろうとしていたカガリの足を止めさせた。

「あん――代表は、隊長の事を本気で好きだったのか?」

 シンの質問に、カガリの背中が電気を流されたように震えた。
 少し、間が出来る。カガリの手が、何かを握り潰した。湧きあがる感情を、押さえ込んだのか。

「……大好きだったさ」
「だったら!」
62 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/27(土) 00:08:51 ID:???
「けど、もう、戻れないんだ」

 声は、震えていた。カガリはそう言い残すと、シンとルナマリアの前から去って行った。
 残されたのは、ビーズのような涙滴。電灯の光に、ジュエルのような輝きを放っていた。

 再びラウンジ前に戻って中の様子を覗きこむ。そこにはまだアスランが居た。ベンチに腰掛け、力なく
項垂れている。そんな彼に、ラウンジの静寂は優しかった。これが、一つの恋の終わりという事なのだろう。
切なく、侘しく、寂しい。今、思い出に立ち返っているアスランの心境を思うと、胸が締め付けられた。
 それを見守る事しか出来ないシンとルナマリアは、アスランの佇まいから醸し出される哀愁を、ただ悲し
く思うだけだった。


 メサイアは、戦艦の修理と生き残った資材の引き上げに掛りきりになっていた。ミネルバは、今やザフトの
総指揮を担う事となったアスランが搭乗する戦艦であるという事で、現場の担当を任されていた。
 艦長のシートには、代理としてアーサーが座っていた。これまで副長のシートが指定席であった彼だが、
ブリッジ中央の艦長席の新鮮な座り心地にやや上機嫌になっていた。非常時に不謹慎であるとは思うが、
ブリッジの中央に堂々と座れるこの爽快さは、一度体験したら病み付きになりそうである。一気に偉くなった
ような高揚感を得て、興奮する自分を抑えるのに苦慮する始末。クルーにもそのアーサーの高揚感は伝わっ
ているようで、まるで見ていられなかった。
 手元のモニターにマッドの顔。ノーマル・スーツに身を包み、背後では若いメカニックたちがひっきりなし
に働く姿と、何体かのMSが作業を手伝っている様子が覗えた。アーサーは口元がにやけない様に内頬を
噛んで表情を引き締めていた。

『アーサー=トライン艦長代理、ベースジャバーを引っ張り上げりゃ良いんですね?』
「そうだ、ありったけだ」

 アスランからの指示は、メサイア内のベースジャバーの回収である。MS単体の航続距離を伸ばすため
に使用されるそれを、なぜアスランが必要としているのかは分からない。しかし、彼の命令とあらば従わね
ばならない。アーサーはアスランから伝えられた事を鸚鵡返しのようにマッドに伝える。

『しっかし、こんなもんを今さらどうしようってんですかね? こんな状況じゃ、こちらから仕掛けるわけには
行かないでしょうに』
「詮索されても、何も答えられんよ。私だって、とんと理由が分からないんだから」

 アーサーは、ふんぞり返ってそう言ってみせる。偉そうに言えた台詞でもないのに、何処からそんな自信
が溢れてくるのか、マッドは呆れ返って首を傾げた。

『何て自信だ。頼りになる艦長代理様だな、あんたは』
「そうか? やはり、いよいよ私の時代が――」
『……こりゃあ“白”は当分お預けのようで』

 額面どおりに受け取り、マッドの皮肉にも気付かないで単純に喜んでみせるアーサー。画面の向こうで
深い溜息をつくマッドの通信回線が切断された。
 同時に、誰かがブリッジに入室してきた。開閉するドアの機械的な音がすると、しなやかな女性の手が
アーサーの座るシートの背もたれを掴んで傍らにやって来た。

「ご苦労です、アーサー。少し休んで良いわよ」
「グラディス艦長!?」
63 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/27(土) 00:10:37 ID:???
 思わぬ人物の登場に仰天するアーサー。女性らしくきちっと整えられた制服と、気の強そうな攻撃的な
内巻きのブロンド・ショートカットがアーサーの目に飛び込んでくる。ただ、その目は赤く充血していてウサ
ギのようになっていた。
 タリアとデュランダルが関係を持っていた事実は、一部では有名だった。噂では、今でも愛人関係にある
のでは無いかという憶測が飛び交っていたりもして、アーサーの耳にも当然その噂は入っていた。
 彼女が顔を見せたのは、アスランにデュランダルの訃報を匂わされ、血相を変えてブリッジを飛び出して
以来だった。だからこそ、アーサーは驚いていた。そこに、愛人関係にあるという噂の裏付けが見て取れた
ような気がしたからだ。

「大丈夫なのですか? もう暫くお休みになられた方が――」
「何かしてないと、落ち着かないのよ。大丈夫、ここに来る前にアスランには用事を聞いておいたから」

 アーサーはタリアを気遣いながらも、艦長席から腰を浮かせた。天井に手を添え、艦長席から退くとタリア
が入れ違いになるようにふわりと腰を落ち着かせた。アーサーはそれを見ると、天井に添える手に力を入れ
て床に足を着ける。

「せめて、引き上げ作業の間だけでも――」

 タリアに不満があるわけではない。寧ろ、デュランダルとの関係でミネルバ艦長に抜擢された経緯につい
て陰口を叩かれていた事に対しても、不言実行を貫いた彼女を尊敬してすら居る。それなのにアーサーが
休息を推すのには、もう少し艦長気分を味わって居たかったからという陳腐な理由ではなく、尊敬している
が故に純粋に気遣う彼の優しさだった。
 しかし、タリアはアーサーの身振り手振りの気遣いに応えようとしなかった。自分がミネルバの艦長である
と言う自覚を持っていたからだ。尤も、「アーサーに心配される云われは無い」という彼女なりの意地もあった
のだが。

「気は済んだわ。レイが、私にあの人とのお別れをする機会をくれたから。もう大丈夫よ」

 そう言って、タリアは笑う。その疲れ切った笑みは、ますます憐憫を誘った。
 レイは、デュランダルの遺体をミネルバに連れて来た。土気色の肌をしたその姿はあまりにも生々しく、
「デュランダルが死んだ」という現実を鋭くタリアの心に刺した。それからプラントへと移送されるまでの間、
レイと共に片時も傍を離れる事もなく、その死を悼んでいた。
 つい先程まで泣き伏せていたのだろう。普段よりも厚めのメイクは、少しキツ目のパープルのアイシャドウ。
それが、目蓋の腫れを誤魔化すようにあしらわれていた。
 タリアは気丈な女性だ。それを見るだに、アーサーはそれまでいい気になって艦長席に座っていた自分の
能天気さを情けなく思った。頬を叩き、浮かれかていた気持ちを引き締めるように制帽を整える。

「いえ、お供します」

 キュッと口元を締め、いつもの指定席へ。ひらりと飛び乗るように腰を下ろし、妙に落ち着く感触を得て舞い
上がっていた自分の能天気さを恥じる。やはり、自分の居るべき場所はまだここなのだという実感を得て、
アーサーは冷静になった。


 機材が散乱するアークエンジェルのハンガーに、以前のような整然とした印象は無い。各所から引っ張り
出されてきた様々な資材や、これから改修に掛かろうかというMSで埋め尽くされている状況なのだ。
64 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/27(土) 00:12:22 ID:???
 そのMSの中に、黄金に輝く一際目立つ機体があった。ネオはそのMSのコックピットの外から中を覗き
込み、シートに腰掛けているエリカの作業を見つめていた。その手つきや、流石は技術者であると思う
以上に、余りの手際の良さとスピードに、彼女は実は隠れコーディネイターでは無いかと推測した。そう
感心させられるほどに、エリカの指は出鱈目に見えるほどに素早くキーを叩く。

「殿方に見られれば、女は張り切ってみせるものだと思っているようですね」
「そんなこと、言ったかな?」
「“目は口ほどにモノを言う”って言ってね」
「オーブの古諺かい?」

 視線は絶えずモニターを注視している。息つく間もなく流れる文字の列を全て理解しているのか、表情は
至ってクールそのものである。それでもネオの視線が気になったのか、エリカは嫌がらせのように言って
みせ、ネオはネオでとぼけた様に視線を斜め上にあげ、後ろ頭を掻いておどけて見せた。

「いや、俺さ。今まで捕まえられてた立場の人間だろ?」
「知りません」
「ドラグーンが使いこなせるのか、自信なくってさ」
「レジェンドのは使えたのでしょう? 基本的にはあれと同じです」
「コイツのシステムは、世代が旧いと聞いている。レジェンドのような新型よりも扱いが難しいらしいじゃ
ない。だからさ、実戦で使えなかったらと思うと、不安でさ……」
「アカツキはドラグーンだけではありません。あなたがボンクラでも、簡単にやられはしないわ」

 一心不乱とは、言い難い。エリカはひっきりなしにパネルを叩くが、口を動かす余裕はあるのだ。ネオは
そんな彼女のエキスパートぶりと辛辣な言葉に、辟易したように顔を背ける。弱気を吐露して女性の母性
本能を刺激し、気を引く作戦は見事に失敗したわけだ。

「そりゃ、金ピカは並みのMSとは違うんでしょうよ」

 邪険にされれば、しつこく食い下がるのは得ではない。エリカの身持ちの固さと言うべきか、ネオはちっと
も靡く素振りを見せない彼女の態度に飽きて、アカツキを離れた。
 片隅では、ステラがカミーユと一緒に塞ぎ込むロザミアを気遣っている様子が見えた。ネオは壁を蹴って
方向転換し、そちらへと向かう。

「優しいのね、ステラ」
「ロザミィは1人じゃないもの。カミーユに心配させちゃ駄目」
「そうよね……。でも、もうちょっと……」
「うん。いいよ」

 人差し指でサッと涙を拭き、目の前の豊かな胸に顔を埋めるロザミア。そんな彼女を包み込むように抱い
て、髪を梳きがてら頭を撫でるステラ。
 その光景を目の当たりにした時、ネオは驚かされた。ステラが他人を慰めるシーンなど、今まで見た事も
無かったし、聞いた事も無かった。そんな彼女がこういう行動に出ているのは、ロザミアにある種のシンパ
シーを感じ取ったからだろうか。ロザミアを抱く彼女は、初めて他人に尽くそうとしている様に見えた。

「驚いたな。ステラが他人を気遣うなんて」
「助かってます。ロザミィ、月からこっち、ずっと調子を落としてましたから」
65 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/27(土) 00:13:39 ID:???
 無重力を泳ぎ、床に足を着けるとカミーユが話しかけてきた。ネオはステラとを交互に見やりながら、
感心した風に頷く。

「いや、こういうステラの成長を見られたのは、運が良かったのかも知れん」

 捕虜とされていた事で、ステラは戦いから遠ざかった。ザフトの扱いも思ったほど悪くは無かったし、
そういう環境で今日まで来れたミネルバの対応には、感謝する気持ちがあった。ネオがアカツキに乗る
気になったのは、そういう感情もあったからだろう。

「ややこしい敵が居たんだって?」

 徐にカミーユを見て、訊ねる。カミーユは少し表情を曇らせて、視線を落とした。

「ロザミィの場合、味方が敵になるような事もあるって話です」

 ロザミアが元ティターンズの強化人間と言う話は、おおよそであるが聞いていた。カミーユが言うような
事は、ネオもザフトとして戦う以上、覚悟しなければならない問題だ。そういう経験を、彼女が先にしただ
けの話。
 カミーユは視線を前に戻しながら、続ける。

「でもね、僕は、ゲーツは最後には分かってくれたと思っているんです」

 不思議と頷かせられる雰囲気だった。そういう力が、カミーユの言葉にはあるような気がする。
 神経質な雰囲気は繊細な性格を予感させた。眉間に寄せた皺が彼の隠し持った凶暴性を垣間見せて
いるように感じられる。その一方で、人の心を盗み見るような曇りの無い瞳は、純粋さゆえの脆さをも孕ん
でいるような気がした。
 ネオは立ち尽くすようにロザミアを見守っているカミーユの隣で、腰に手を添えて姿勢を崩した。中肉
中背といった出で立ちのカミーユは、長身の自分よりもハッキリと分かるほどに背が低い。彼を見る時
は、少し見下すような視線になる。カミーユの表情はハッキリと見えず、旋毛ばかりが良く見えた。

「勝手…ですかね? 僕」

 思いついたように呟き、カミーユは苦笑した。都合の良い解釈をする自分を嘲っているのだろう。その
力の無い笑みが、酷く疲れた表情に見えた。
 こういう時、人生の先輩として出来る事は言葉で励ましてあげる事だと思う。ネオはナーバス気味の
カミーユの気持ちを和らげる様に、フッと微笑んだ。

「それでいいさ。そういう考えを持てなきゃ、振られても、また次の女を口説こうなんて思えないもんな」

 軽口を叩いたつもりは無い。しかし、カミーユには茶化されているように聞こえたのだろう。途端に表情
を険しくさせ、軽蔑するような眼差しでネオを睨んできた。どうやら、裏目だったらしい。

「それが、娘を持つ大人の言う事なんですか」

 分別の無い大人と思われてしまったようだ。しかし、この程度で怒って仏頂面をするカミーユは、随分と
お堅い少年だと思う。――きっと、ずっとこんな調子で戦い続けてきたのだろう。疲れて当然だ。
 ネオは不快を示すカミーユに構わずに、陽気に肩を組んだ。顔が露骨に嫌がっていたが、気にしない。
66 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/27(土) 00:15:06 ID:???
「肩に力を入れすぎなんだよ、お前さんは。そんなんで戦争やったって、辛いだけだぜ?」
「考え過ぎないようには、しているつもりです」
「そりゃ誰だってそうだ。けど、俺は緊張するのは女を抱く時だけで良いと思っている」
「――ったく……僕もそうありたいですね。努力はします」

 同意の言葉とは裏腹に、カミーユの表情は渋いまま。邪険にネオの腕を払い除けると、床を蹴って無重
力のハンガーを昇っていく。取り残されたネオは、頭の後ろを掻いてそれを見送っていた。

「もうちょっといい加減になれりゃ、楽なのにな。――戦争か」

 戦争には、人の心を荒ませるという無視できない部分がある。そういう時代に生れ落ち、戦いに巻き込ま
れた多感な時期の青少年は、不幸だ。特にカミーユのような少年には、力の加減が難しい世の中だろう。
 ネオはステラとロザミアを見やった。相変わらず、ステラがロザミアの頭を撫でている。
 彼女達の行為は所詮は慰め合いに過ぎないが、そういう関係を持てる人間が傍に居るだけで大分違う。
カミーユにそういう存在が居ない事が、彼を疲れさせている要因になっているような気がした。


 ミネルバの通路を進み、指定された部屋の前に立つ。ドアが自動で開くと、中で待っていたアスランが席
を立って迎えた。中に足を踏み入れれば、円形のデスクを囲んで他にも2人の少女と、それぞれの後ろに
ボディーガードのように屈強な男が立っていた。1人はガタイの良い大柄な男で、もう1人は長身で隻眼の
男だった。
 隻眼の方は、2年前にアフリカの砂漠に降下した時に一時的に共闘した事がある。どうやら、「砂漠の虎」
ことアンドリュー=バルトフェルドのようだ。一方、大柄な方はまるで知らない顔だ。大方、オーブの元首の
付き人か何かだろう。大柄な分、目に入りやすいが、不思議な事に特に気にならなかった。

「来たか、イザーク」

 自分が最後らしいが、時間には間に合わせた。他の連中は先にやってきて勝手に待っていただけだ。
 イザークは特に悪びれる様子も無く、堂々と席につく。目の前に水の入ったコップが置かれていて、それ
は他の席も同じだった。

「それで、どういった用件なんだ?」

 少し姿勢を崩して、デスクに肘を置いて頬杖を突く。妙に緊張するのは、ラクスも同席しているからだろう。
昔から気にはなっていたが、今でも何となく意識してしまうのは未熟な証拠か。無意識的に、少し格好付け
てしまう自分を浅ましく思った。
 アスランが席に腰掛け、全員を見回した。かつて無いプラントの危機だというのに、嫌味なくらい落ち着い
た物腰だ。優秀だからか何だか知らないが、昔からアスランは常に話題の中心に居た。目上からは何かと
目を掛けられ、後輩からは慕われる。それは、ザラの嫡男だったからだと、イザークは今でも思っていた。

「先ほど、最高評議会から作戦遂行の認可が下りた。コロニー・レーザーへの奇襲作戦だ」

 淡々とした口調で、アスランは言う。声に抑揚が無く、無機質な感じに受け取れた。

「ザフトを動かす? 評議会の性質は知っているつもりだが、よくもこんな短時間で説得できたな」
67携帯 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/27(土) 00:21:46 ID:???
さるさん中です。
午前一時までお待ち下さい。
68通常の名無しさんの3倍:2009/06/27(土) 00:57:27 ID:???
あと3分!
69 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/27(土) 01:02:04 ID:???
 訊ねると、アスランはしっとりとした目でこちらに視線を向けた。感情が見えないのは、ザフトの総指揮
を任される者としての姿勢作りのためだろうか。優柔不断であるよりかは幾分かマシだが、どうにも覇気
が感じられない。こんな調子でザフトを率いる事が出来ると思っているのだろうか。

「時間が惜しいからな。俺とラクスが全責任を負う事で即決させた」

 アスランはしれっとそう言って退けた。
 一寸、視線をラクスへ向けた。彼女はアスランの言葉を聞いても些かの気色も見せず、変わらぬ美し
い姿勢のまま座している。彼女は既に了承済みということか。

「ジブリール艦隊の消滅が謀殺だった件と、連合が降服勧告を出すかもしれないという情報が同時に入っ
たんだ。敵は、パプテマス=シロッコという男だ」
「ジブリールの子飼いだったという、噂のイレギュラーか? だから、評議会は焦っているのか」

 再び視線をアスランに戻す。イザークは頬杖は止めて、今度は腕を組んだ。アスランは説明を続ける。

「それもあるが、コロニー・レーザーを潰してこちらの力を見せれば、連合は降服勧告を諦めるはずだ。何
しろ、決定的な決戦兵器を失うのだからな。だから、その上で休戦を持ち掛け、戦いを終わらせる。奇襲を
選択したのは、今のザフトでそれを可能にするにはそれしかないからだ」

 その態度に疑問を持つ。アスランにしては強引にも思えるし、行動も素早い。こういう強引な手法は寧ろ
イザーク好みの展開であるが、実にらしからぬアスランの態度が、イザークの頭に疑問符を浮かべていた。
 そんなイザークの考えもお構い無しに、アスランは顔をカガリへと向けた。

「御覧の通りです。オーブはザフトへの協力を続けて下さいますか?」
「オーブは既に腹を括っている。それに、コロニー・レーザーは潰しておきたいな」
「ありがとうございます。助かります」

 似合わぬ言葉遣いを笑ってやりたかったが、生憎今はそんな状況に無い。アスランはそんなイザークの
視線の先で一口、水を含んだ。見た目以上に緊張しているのか――口唇を舐める仕草を見て、そう思った。

「やるのか、アスラン?」

 再び訊ねると、似たような視線を向けてきた。しかし、その瞳には先ほどとは違う何かがあった。

「あぁ。明日、明後日にでも出たい」
「明日だと!? 無理だ!」

 思わず声を荒げて立ち上がった。

「言った筈だ、イザーク。奇襲を掛けたいと」
「軍の再編だって終わっちゃ居ない!」
「相手の予想しないタイミングで仕掛けてこそ、奇襲だ。そうでなければ、意味が無い」

 静かだが、力のある声だった。視線は射抜くように鋭く、イザークが声を荒げても微動だにしない肝の
据わり方が、今までのアスランと一味違う事を示していた。
 その威圧するような迫力に負けて、黙るしかない。椅子に座り直し、コップの水を一気に呷った。
70 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/27(土) 01:02:56 ID:???
「チッ。分かった。間に合わせる」
「済まない、頼む」

 タン、と音を立ててコップを置くイザークに、アスランはそう言って微かな笑みを見せた。

「――で、ネックになっている問題のコロニー・レーザーの件なんだが、これをどうするんだ?」

 バルトフェルドが当然の疑義を提起する。彼の言うとおり、それが一番の懸念だ。コロニー・レーザーが
プラントを狙っている限り、ザフトは首根っこを掴まれた猫のようなもの。アスランの返答次第では、再び
異議を出さねばならない。
 アスランはバルトフェルドの質問に対しても、毛ほどの動揺を見せない。どうやら、何か考えがあるらし
い事は見て取れる。

「勿論、メサイアを使います」
「ネオ・ジェネシスは使えないと聞いているが?」

 バルトフェルドの言うとおりだ。その事は、既に伝えてある。アスランが知らないはずが無い。

「その通りです」

 あっさりと即答するアスランに、少し拍子抜けをさせられた。どうにも、今のアスランは捉えどころが無い。
バルトフェルドは狐につままれた様な間抜け顔を晒しいて、イザークも流石にイラっとして、口を挟もうと
軽く腰を浮かした。

「だったら――」
「しかし、移動用のスラスター・ノズルは、まだ生きている……そうだよな、イザーク?」

 バルトフェルドを見るアスランの顔が、徐にこちらへ向けられたかと思うと唐突にそんな事を訊かれた。
 不思議と確信に満ちた表情を見て、口を止め、思考を巡らせる。アスランの目論見のヒントが、今の一言
の中にあった。それは、とても単純な事。ピンと来て、本格的に腰を上げた。
 考えられる作戦は、1つしかありえない。

「まさか、アスラン貴様!」

 ハッとして目を丸くするイザーク。アスランは、その抑え難いほどの激しい感情を、能面のような顔の
下に隠していた。
 アスランは、尚も表情を崩さない。イザークは思わず生唾を飲み込んだ。

「あぁ。メサイアをコロニー・レーザーにぶつける」
71通常の名無しさんの3倍:2009/06/27(土) 01:05:00 ID:???
支援だ!
72 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/06/27(土) 01:08:45 ID:???
はい、大分間隔が空いてしまいましたが、今回は以上です。
それと、どっかでトリの表示方法が変わったらしい事を聞きましたが、
どうやら本当みたいで、つまり本人なのでご了承下さい。

大体ですが、残り6話ぐらいで完結となりそうです。
後もう少し(と言っても文章量的にはまだたくさんありますが)
お付き合いくださると嬉しいです。

>>43
「続かない」って何故!?
73通常の名無しさんの3倍:2009/06/27(土) 01:25:41 ID:???
投下乙でした!

メサイヤをコロニーレーザーにぶつけるときましたか!
アクシズをゼダンの門にぶつけたアレですね
洒落にならない大質量なものがぶつかるだけでどえらい威力になるのはお約束ですねw

敵味方共にたくさんレギュラーキャラの戦死があっただけに、雰囲気が重い…
今回エマさんの戦死したカツへの描写がなかったのは意外でした

次回も楽しみにしております!
74通常の名無しさんの3倍:2009/06/27(土) 03:25:44 ID:???
投下ktkr
やはり物語から退場したキャラクターもいれば
今度は残ったカクリコンにマウアー、ステラ
まさに二次創作ならではって感じでしかも上手い
今回も面白かった!

そして次は天から来るもの
またしてもコロニーレーザー周辺でシロッコと闘うとか
もうこれどうなっちゃうの
マジで楽しみ
次回もやっぱり期待
75通常の名無しさんの3倍:2009/06/27(土) 23:52:08 ID:???
佳境が続きっぱなしでなんかこう、うずうずしてきた!
76通常の名無しさんの3倍:2009/06/29(月) 01:59:31 ID:???
最高でした
また続きを待ちます
77通常の名無しさんの3倍:2009/06/29(月) 21:22:43 ID:???
ティターンズ萌えのオレには悲しい展開だ・・・(´;ω;`)
78通常の名無しさんの3倍:2009/07/06(月) 23:09:53 ID:???
水の保守に愛をこめて
79通常の名無しさんの3倍:2009/07/09(木) 12:58:08 ID:???
青くねーむるー 水の保守に− そっと
80通常の名無しさんの3倍:2009/07/09(木) 15:04:29 ID:???
81通常の名無しさんの3倍:2009/07/10(金) 00:00:55 ID:???
たまにはサムライハートを聴きたい
82通常の名無しさんの3倍:2009/07/11(土) 23:55:05 ID:???
深度666、保ちません!浮上します!
83通常の名無しさんの3倍:2009/07/13(月) 14:45:09 ID:???
保守
84 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/14(火) 22:06:20 ID:???
  『今、立ち向かう時』


 囲んでいた2つのリングは、既に無い。残されたのは丸裸にされたメサイアの本体のみで、その形状も棘
の生えたアーモンド形を留めていない。コロニー・レーザーと核攻撃によって、頭頂部がネズミに齧られた
様に削られてしまったからだ。
 外から見れば、その無残な姿は哀れみさえ誘う。軍事要塞などという厳格な雰囲気は無きに等しく、とも
すれば滑稽ですらある。しかし、メサイアをこのような不恰好にさせた連合軍は、そこに何の感傷も抱かな
いだろう。――ザフトはコロニー・レーザー破壊の為、このメサイアを弾頭としてぶつける作戦を敢行する
事となった。

 恐らくは、最後のブリーフィング。ミネルバに集結したアークエンジェル、エターナルの各員が作戦内容
を確認し、そして互いに健闘を誓い合った。
 雰囲気は何とも言えない。良くも無いし、悪くも無い。有り体に言えば、覚悟が出来ているといった感じ
だろうか。先の戦いで数多の犠牲を払ったが、皆やるべき事は分かっている。

 ブリーフィングが終わった後は、自然と歓談の場となっていた。作戦開始までの束の間の一時。こういう
時にレクリエーションをして気分のリフレッシュしておく事は、悪くない。先の戦いは、身体的なもの以上に
精神的な負荷の高いものだった。決戦を前に、だからこそ心を楽にしておく事が必要だろう。

 ロザミアはステラと隣り合い、何やらおしゃべりをしていた。似たような境遇同士、何よりも女の子同士で
ある。最初は反りの合わなかった2人だったが、やはり馬が合うのだろう。楽しそうに話しているのを見て、
カミーユは先にブリーフィングルームを出た。

「珍しいですね、1人で」

 不意に声を掛けられ、身を翻す。ブリーフィングルームの出入り口から姿を現したのは、赤い制服を身に
纏った黒髪の少年だった。瞳に印象的な赤を宿すその少年は、続けて同じ色の軍服に身を包んだ少女を
引っ張り出した。ひらりと舞うミニスカートの裾が、めくり上がりそうで上がらない。――凄い技術だ。

「そりゃ、女の子の会話に男子は入り辛いものね」
「ルナは行けよ」

 ルナマリアが出入り口から中を覗いてそう口にすると、黒髪の少年――シンはその背中を押して無理矢
理に先に行かせた。

「ナニそれ? 人前だと偉ぶるんだ!」
「いいから!」

 怒鳴るシン。ルナマリアは頬を膨らませて抗議する。
 ちょうどその時レコアが退室してきて、様子に気付くと徐にルナマリアの腰を抱いて攫っていった。

「な、何です?」
「男は男、女は女。放っておきましょう」

 きょとんとするルナマリアに、レコアはそう言って微笑みかけた。言っている意味が分からなかったのか、
眉を訝しげに顰め、目を丸くする。
85 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/14(火) 22:07:48 ID:???
 続けて、エマも出てきた。彼女も同様に状況を把握すると、不意にシンの後頭部を叩いた。そして、前
に回りこんでその襟を左手で掴み、見下すように顎を上げた。

「うっ」

 シンが呻く。突如として後頭部を叩かれ、襟で首を絞められるという振るった出来事に、困惑していた。
 エマが睨みを利かす。まるで、かつあげの現場を目撃しているようにカミーユには見えた。

「オーブには、旧ジャパンで言う“テイシュカンパク”の慣習が色濃く残っているようね。――そういう男の
勘違いってものを!」

 エマはそうシンに一喝すると、突き飛ばすように掴んだ襟を放してレコアとルナマリアの後を追った。

「エマ中尉は、その手なずけ方を教えてくれようとしているのよ。――行きましょ、ルナマリア」
「そうなんですか?」
「大丈夫。エマさんはね、戦艦の艦長を手篭めにした事もあるんですから」
「は、はぁ……豪胆でいらっしゃるのですね」

 恐らくはヘンケンの事だろう。――言い方にかなり語弊があるが。
 どちらかと言えば、あれはヘンケンの方から猛アタックを掛けて、最終的にエマが折れたという馴れ初め
だったはず。それを言わないのは、きっとルナマリアを強引に納得させるためのレコアなりの方便だった
のだろう。――多分。
 3人は連れ立って通路を進んでいくと、やがて角を折れて見えなくなっていった。

「全く、何て女達だ。まるで分かっちゃいない!」

 そう言って乱れた襟を直すシン。勇ましい物言いだが、彼女たちが完全に見えなくなってから口にする
辺り、女性の怖さというものを本能的に理解している風に見える。それは正しいのだが、しかし、将来的に
尻に敷かれる様が目に浮かぶ。

「大変だな、シン」
「冗談じゃないですよ。女って、1人の男を寄って集って――弱いもの虐めじゃないですか、あれ」
「分かってないな。女のヒステリーが、男の我侭を許すものかよ」
「忍耐なら、許してくれるってんですか? ――面倒くさいんスよ、そういう女の習性って奴は」

 呟くように、言う。そして髪を掻き毟り、首を横に振るシンを見て、カミーユは若干気の毒に思った。

「――やっぱり、1人は寂しいですか?」

 シンから何かに気付いたかのように徐に尋ねられて、カミーユは少し顎を引いた。哀れみを向けていた
つもりだったが、シンには寂しそうな表情に見えたのだろうか。

「何が?」

 何となく、意味は分かっている。しかし、素っ気無い振りをして聞き返した。

「だって、ロザミィは違うでしょう? ――って言うか、そうだったら引きます。血が繋がって無くったって、
妹とだなんて!」
86 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/14(火) 22:09:40 ID:???
「お前なぁ。話を変な方に持っていくなよ」

 他愛の無い女の話。シンは今しがた女性を疎んじる発言をしておきながら、それを覆すかのような物言い
をする。きっと、本音ではルナマリアという存在の有り難味を分かっているのだろう。だからロザミアに掛か
りきりで浮いた話の一つも聞こえてこないカミーユを心配する。
 ルナマリアを無理矢理に先に行かせたのは、そんな彼なりの気遣いだったのだろう。しかしそれはどうも
シンに傷を舐めて貰っている様で、気持ち悪いだけだった。カミーユも男である、そういう慰めは眉目秀麗
な女性からいただきたい。

「そう言えば、カミーユってそうだよね」

 また1人、長閑な声がして振り向いた。黒髪だが色素が薄く、うっすらと赤み掛かった髪を前に流している
ヘアースタイル。シンとは対照的にのほほんとした顔つきであるが、その奥に人一倍強い意志の力を隠し
持っている。キラだった。

「お前まで」

 面倒くさい奴がまた1人増えたなと思い、カミーユは思わず顔を顰めた。一方キラはその様子を見ても、
全く意に介していない様子で微笑を湛えていた。こういう時の彼はしつこく、厄介だ。

「僕達ってほら、年頃じゃない」
「何だよ、それ?」
「良いじゃない。減るものでもあるまいし」
「何考えてんだ、こんな時に」

 まるでハイスクール気分だ。カミーユはフッと一瞥してから、先へ流れる。それに続いて後ろから2人が
床を蹴る音がした。付いて来るつもりらしい。鬱陶しい事この上ない。

「だったら、ラクス=クラインはいいんですか、あなたは?」

 シンがキラに訊ねる。カミーユが肩越しにチラリと様子を覗うと、キラは一瞬驚いた顔を見せていたが、
直ぐに平静を装おうと演技を始めた。

「どういう事?」
「こっちに帰って来てから会ってないんでしょ。そういう感じ、しちゃってるなぁ」
「バカ言わないでよ。どうして僕が彼女に――」

 乾いた笑みを浮かべるキラ。天才的なパイロット・センスを有していても、演者としての才能は欠片も
持ち合わせていないようだ。ある意味で人間離れした雰囲気を持つ彼も、やはり人間という事なのだろう。
シンに言い負かされている様子は、微笑ましくもあった。

「隠さなくたって、知ってます。あなたとラクスが付き合っているって事」
「ん、やだなぁ、僕は、あの、その……」

 勿論、シンのこの発言はカガリからの受け売りである。それは下手をすればプラントがひっくり返ってしま
うようなような大スキャンダルであるが、ただ、カミーユにとってはキラとラクスが恋人関係にある事実は
デフォルトであるから、プラントやザフトでその事実が広まる事の重大性は今一ピンと来ない事ではあった。
87 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/14(火) 22:12:26 ID:???
 他方でしどろもどろのキラは、その重大性を十分に理解している様子だった。シンがその事実を知って
いた事に、大きなショックを受けている。
 シンはそんなキラの困惑振りを見て、得意気に鼻を鳴らした。勝ち誇ったような表情をしていた所に、彼
の幼い性分が垣間見られたような気がする。困り顔のキラはそんなシンの得意顔に対し、後ろ手で頭を
掻いていた。

「大丈夫ですよ。俺だって、状況は見えています。触れ回ったりはしませんから」
「頼むよ、ホントに」
「当然です。だから、カミーユに言えた事じゃないでしょって話ッスよ」

 今の言葉にも、他人よりも優位に立ちたいというシンの幼さが見え隠れする。表向き、カミーユを庇って
いるようにも見受けられるが、その実、会話の風上に立ちたいという本音が隠されているように感じた。
恐らく、そのカミーユの推測は当たっているのだろう。

「そう言いながら、シンは俺とキラを同時に詰りたいと考えてんだろ?」

 ビンゴだった。カミーユがそう口にした途端、それまで得意気だったシンの表情が、渋く変化した。
それを見て、今度はカミーユが得意気に鼻を鳴らした。
 言い当てられて直ぐに表情に出る辺り、根は正直者なのだろう。シンは悔しそうに舌を鳴らしていた。

「俺はあんた達に勝ちたいんですよ。だったら、こういう手段に打って出たりもします」
「――俺もか?」

 カミーユは思いがけない指名に、自分を指差して目を丸くした。シンは獲物を見つけた肉食獣のように
首を回し、ギラギラとした瞳で見つめて……睨んできた。

「カミーユには、得体の知れない力がある。俺は、あんた達やザラ隊長を目標にしてきたから、ここまで
戦えるようになったんです」
「そうは言うけど、ジ・Oは君が倒したんだろう?」

 立ち直ったキラが、訝しげに問う。
 キラはアルザッヘル基地にカミーユを救出しに来た時に、ジ・Oに惨敗を喫していた。カミーユの助けが
入ってくれなかったならば、キラはその時に死んでいたかもしれない。そのジ・Oを、シンは倒したのだ。
キラは既にシンが自分よりも強い事を認めていた。
 しかし、一方でシンはその様に思っていなかったらしい。キラの言葉に反発するように手を横に薙ぐと、
キラの正面に躍り出た。

「ザラ隊長と2人で、ですよ。ヘッ! あんたは1人で戦って生き延びたじゃないですか。しかも、パイロット
はシロッコって言う凄いので、その上ジ・Oの上位機種とも互角に渡り合ったと来る。衛星軌道上の戦いの
顛末は、データで拝見させてもらいましたんでね!」
「そんなんじゃない。僕はシロッコに弄ばれただけだよ」

 どちらにも居合わせたカミーユには、覚えがある。確かにアルザッヘルでは明らかに弄ばれてたようにも
感じたし、衛星軌道上での戦いでもシロッコが本気で戦っていたかについては定かでは無い。決してキラを
貶めるつもりは無いが、彼が懸念している通り、シロッコは未だMS戦に於いて本気を出していないような気
がした。それは、ステーション攻防戦で直接対峙したカミーユだからこその実感である。
 シンはしかし、納得していないのかキラに指を突き出してライバル心を剥き出しにしていた。彼の目先しか
見えていないような言動は、子供の証明に思える。カミーユは呆れて溜息をついた。
88 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/14(火) 22:14:14 ID:???
「そういう覚悟だと、まずお前から死ぬぞ」
「誰が死ぬもんかよ!」

 カミーユはシンの大声を尻目に、ラウンジの中に入った。そこに人の姿は無く、どうやら貸し切り状態で
使わせてもらえそうだ。カミーユがベンチに流れてそこにスッと腰掛けると、シンがそれを追って対面の
ベンチへと流れた。

「ロザミィ一辺倒のカミーユが、俺をどうこう言ったって――ぬあッ!?」

 シンはカミーユの座るベンチを飛び越える時に爪先を引っ掛け、体勢を崩して座ろうとしていたベンチに
顔から突っ込んだ。ぐしゃっとまともに顔面をぶつけるシンが、もんどりうって顔を手で覆う。

「気をつけろよ。出撃前にパイロットが怪我して、どうすんだ」

 急ぎ振り返ったシンの鼻は真っ赤に腫れていて、右の穴から少しだけ血が出ていた。

「つまり、カミーユにも誰かイイ人が居た方が良いでしょって事だろ!」
「はいはい、良い良い」

 力説するシンは、しかし鼻声が間抜けでまるで説得力が無い。カミーユは顔を横に向け、呆れたように
返事をするだけだった。

「何だったら、俺の伝手で誰か紹介してやっても――」

 伝手と言っても、シンにそんなネットワークがあるわけが無い。いいところルナマリアくらいだが、彼女
の妹であるメイリンでも紹介しようというのだろうか。プラント年齢で言えば彼女は既に成人らしいが、
カミーユとしてはもう少し大人びた女性の方が好みだ――という問題では無い。

「ひゃっ!?」

 その時、背後から近づいてきたキラに不意に冷えた缶を鼻っ面に当てられ、シンはあられもない悲鳴を
上げた。何事かとカミーユが顔を向けると、涙目のシンの傍らに微笑みながらキラが立っていた。そこに、
何かと黒い気配を感じた。

「はい、飲み物。――カミーユも」
「あ、あぁ」

 パックを投げ渡され、カミーユは受け取った。キラはにこやかな表情でストローを口にし、ポケットから
ティッシュを取り出してそれをシンの目の前に差し出した。

「ほら、使いなよ」
「ど、どうも……」

 受け取り、それを紙縒りを作る様に捩り、それを右の鼻の穴の奥へとギュウッと詰め込んだ。
 シンはキラの厚意を素直に受けていたが、カミーユには何となく分かっていた。今しがた軽い悪戯をした
のは、完全に先程の仕返しだ。悪質ではないが、それを悟られないように平然とした表情をしているあたり、
陰湿だと思った。――先程の演者としての才能が欠片も無いと言う印象は、撤回しておこうと思う。
89 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/14(火) 22:17:15 ID:???
 いつかキラの趣味がハッキングだという噂を耳にした事があったが、なるほど、あれでいてキラも中々に
腹黒い。カミーユの中でのキラへの警戒レベルが一つ上がった瞬間だった。

「確かに、シンの言う事も分かる気がするな。――カミーユって、前はどうだったの?」

 キラがシンの隣に座り、訊ねてくる。ちょうど2人と向かい合うような状況になって、キラもシンも前のめり
にカミーユを見ていた。
 これは、尋問なのか? カミーユは嫌がって少し顔を横に逸らした。

「どうって……」

 正直、その質問は割りと答え難い。エマやレコアには相手にされなかったし、フォウに関してはどう言って
良いのか分からない。彼女とは恋とか愛を超えた所で通じ合ったような気がするし、そうなるとカミーユの
選択肢はほぼ消滅する。――それなりに潤っていたと思われたが、どうも乾いていたのではないかという
疑惑が今さらになって浮上した。

「居なかったんですか? 幼馴染のガールフレンドとか」

 シンが鼻から抜けるような間抜けな声で訊ねると、浮かんでいるパックを手に取って、ストローに口を付け
て一口だけ吸い込んだ。
 なぜ彼女の存在を忘れていたのか。シンの問いが随分とピンポイントだった事は取り敢えずとして、「幼馴
染」というキーワードで思い出した。

「居たよ。母親みたいに口やかましい子だったけどね」
「なら、その人ですよ。口やかましかったって事は、カミーユが気になってたって事じゃないか」
「どうかな……」

 余りにも当たり前に傍に居たから、雄と雌の関係としての単純なセックスはしたいと思った事はあっても、
彼女と恋心を交わすなんて事は考えられなかった。悪い言い方をすれば、カミーユにとって彼女は都合の
良い女である。カミーユがどれだけ色々な女性にアプローチを掛けて振られても、何故か最終的には彼女
に慰めてもらえるだろうという勝手な思い込みがあった。
 反面、幾度となく喧嘩も繰り返し、レクリエーションだと揶揄されたりもしたが、彼女とそういうことを繰り
返す事で安堵を覚えていたのも事実だった。戦争という非現実的な毎日を過ごしていく中で、彼女だけは
カミーユの日常を知っている現実の女性だったからだ。
 そういう身近な現実だった彼女を、恐らくは戦争という異常な状況に長く居すぎたが為に忘れていったの
だろう。一度心が砕けて、そういう事に気付かされた。

「幼馴染って大事だよ。でも、僕とアスランはそれを分かっていたはずなのに、間違ってしまった」

 キラは表情を曇らせながら語る。2年前の戦争の時の事だろう。今でこそ良好な関係を築けているが、キラ
とアスランは幼馴染でありながら敵と味方に分かれ、本気で殺しあった事があるらしい。状況が全く違うから、
正直キラの話は全く参考になりはしないのだが、彼の言いたい事だけは伝わった。
 キラは苦笑いをして、続ける。

「――女の子なら、尚更…ね」

 キラが目を細める。シンがそれに同意するように頷いた。
 それを最後に会話が止まり、カミーユは顔を横に逸らして視点を別に移した。
90 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/14(火) 22:20:42 ID:???
 姿を思い浮かべる。肩の辺りまである少し癖のある髪は艶やかな黒で、顔の輪郭を隠すように内に巻い
ていた。少し釣り上がった目とさして高くない鼻、それに小さな口と豊頬で堀の深くない顔立ちは、極東系
の人種の血を色濃く受け継いでいるが為に、他の同級生の女子と比べても一回り幼く見えた。
 一方でスタイルは抜群に良く、肉付きも適度にあって、抱き締めた時に男を満足させてくれる安心感が
あった。首は細く長く、適度な肩幅に女性的ななで肩から伸びる腕、それにしなやかな指先は、それで
「して」もらえたらどんなに良いだろうと想像させられる趣があった。
 女性の象徴であるバストは、それと分かるほどに豊かではあったが、注目すべき所はそこでは無い。
彼女の一番の魅力は、引き締まったウエストから伸びるお御足にある。すらっと伸びたカモシカのような
足は、肉付きの良い大腿部が最も扇情的で、しかも彼女は意図的にか無意識的にか、そこが映えるよう
な服装を好んで着用していた。そういう彼女のファッション的な習性もあってか、常にこれ見よがしに見せ
付けられていたその脚線美を、いつか「ごめんなさい」と泣いて謝るまで撫で回してやるぞ、という野望が
カミーユにはあった。
 ――そこまで頭の中で想像しておいて、ふと現実に立ち返る。

(俺、何でこんな生っぽい事を考えてんだ? そりゃあ、付き合いは長いけど……)

 それこそ、穴が開くほど見ていたのだと気付かされた。その身体のラインや顔のディテールをつぶさに
思い出せる事が、その証明となっている。自分で意識はしていなくても、心の中のオスの本能は知らず
知らずの内に彼女を求めていたのだろうか。
 そう考えると、シンタやクムのお陰で湯上りの彼女を拝見できたのは、素直にラッキーだったと思う。
それと同時に、もっとよく見ておくべきだったという後悔も、今更になって沸き起こってきた。

 今、改めてファ=ユイリィの存在を考える。いつでも当たり前のように傍に居て、エゥーゴに参加した後も
偶然救出したテンプテーションに彼女が乗っていた事で再会を果たした。考えてみれば、奇跡の様なもの
である。再会できる確率など幾程も無かったはずなのに、ファはさも当然のようにカミーユの元に舞い戻っ
てきた。それは偶然と呼べるものなのか。彼女とは、運命のような強い絆で結ばれているような気がした。
 いつも傍に居たファ。色々と世話を焼かれ、それを鬱陶しく感じる事もあった。しかし、今になって思い
返して見れば、どれも心温まる良い思い出である。そういう柔らかさを持った女性を、どうして忘れる事が
出来るのだろうか。そう思うと、急にファをいとおしく感じた。会いたくなった。

 カミーユはベンチから立ち上がり、気付けば空になっていたパックをゴミ箱に捨ててラウンジの出口へと
向かった。キラとシンが視線でそれを追う。

「どこへ?」

 相変わらずの鼻声で、中腰になったシンが訊ねる。キラも続くように立ち上がった。
 カミーユは出入り口付近の壁に手を添えて止まると、肩越しに2人に振り向いた。

「帰るんだ。いけないか?」

 自動扉が開き、それを潜ってラウンジを後にするカミーユ。モーターの駆動音が静かに響くと、残された
キラとシンは顔を見合わせて呆気に取られていた。
 具体的なことは何も言わなかった。ただ一言「帰る」――その意味するところがアークエンジェルである
事は、疑いようがない。しかし、カミーユの背中からは、どこか遠くへ旅立とうとしているかのような不思議
な雰囲気を感じた。

「カミーユって、ミステリーなんだ……」
91 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/14(火) 22:22:45 ID:???
 キラは呟く。シンも応えこそしなかったものの、心境は同じだった。
 静か過ぎて、空調の単調な音がやけに耳障りに響く。それを掻き消すかのように、シンがストローから
音を立てて残りを吸い上げた。



 点火されたスラスター・ノズルからは大量の白光が噴出し、巨大な岩石の塊であるメサイアをゆっくりと
加速させた。遠くから見れば動いているのかどうかも分からないような歩みでも、その足は確実にコロニー・
レーザーへ向けて動いている。

「メサイアはコロニー・レーザーとプラントに挟まれるように配置できた。これなら、万が一コロニー・レーザー
を撃たれても、最悪盾代わりにはなる」
「先遣艦隊旗艦ミネルバより入電。斥候部隊と接触、これを殲滅したとの事です」

 メサイアのブースターに火が入ったことを確認すると同時に、通信兵がミネルバからの通信内容を口頭で
述べた。イザークは報告に一つ頷くと、艦長席から立ち上がった。

「予定通りだな。メサイアの突入は最後になるぞ。ボルテール、発進だ!」

 イザークの号令と共に、メサイアの進路修正役であるボルテールも加速を始めた。


 メサイアに先行して進むザフト艦隊は、一本槍の様に固まって行動していた。その向かう先はコロニー・
レーザーで、メサイアの予定ルートと十字に結ばれるように設定されており、ちょうど太陽の光が背中に
当たっているという状況だった。それは、少しでも敵の目を欺けるようにという、苦肉の策。
 エターナルの艦長席に腰掛け、バルトフェルドはボトルを手にして水分を補給していた。中身は勿論、彼
のライフワークの中で生み出されたスペシャルブレンドのコーヒー……ではなく、清涼飲料水だ。流石の
コーヒーマニアのバルトフェルドも、そこまで徹底はしない。

「間も無く敵の第一警戒ラインに入ります。バルトフェルド隊長――って、あれ?」

 真面目に報告していたかと思うと、いきなり素っ頓狂に声を上擦らせて振り返った。バルトフェルドは
ストローで中身を吸い上げながら、そんなダコスタの間抜け面を訝しげに見つめた。

「何がおかしいんだ? ダコスタ君」
「ラクス様が見えていらっしゃらないようですけど……」

 赤い短髪――と言うよりもほぼ坊主に近い。後頭部から見れば、まるでバスケットボールのような頭をし
たダコスタが、きょろきょろと艦橋内を見回す。バルトフェルドはそんな様子を見ながら、ストローから口を
離して肘掛け部分にあるカップホルダーにボトルを置いた。

「直ぐ来る」
「直ぐ来るって、もう敵陣の近くですよ?」
「今は少しだけ時間をくれてやれ」
「しかし――」
92 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/14(火) 22:25:44 ID:???
 このダコスタの狼狽を見ていると、誰がこの艦の艦長なのか分からなくなる。尤も、ラクスの存在がそれ
だけ大きい事の証明となるのだろうが――しかし、バルトフェルドの立場としては、それは微妙に複雑な心
境だった。
 バルトフェルドは席を立ち、ダコスタの席へ向かって床を蹴った。

「それとも、僕が彼女の歌を歌って差し上げようか?」
「え!? 隊長が……でありますか? ――いやぁ」

 肩越しから覗き込むように顔を突き出し、詰るように言う。ダコスタはそんな意外な言葉を聞き、しどろ
もどろになりながら目線を落とした。隣の席では、通信士のアビーがくすくすと笑いを立てている。
 バルトフェルドはダコスタの頭を軽く小突くと、ふわりとバックステップを踏んで浮いた。

「エターナルの艦長は、このアンドリュー=バルトフェルドで、ラクスの事はアイツに任せている。
ダコスタ君が気にする事じゃ――」

 そう言って軽やかな身のこなしで艦長席に座ろうとしたが、計算が狂ってバルトフェルドが腰を下ろした
所は肘掛だった。ちょうど股間を強打する形になり、その激痛にもんどりをうつ羽目になってしまった。
 そのバルトフェルドを見て、上司だからと言うよりも同じ男としてダコスタは気の毒そうに顔を顰め、若しく
は自分がそうなった時の事を勝手に想像して顔を青くし、アビーは益々笑いを堪え切れなくなって腹を抱え
ていた。
 艦橋に緊張感の無いリラックスした空気が漂っていた。それは、まだそれだけの余裕が残されている時間
だと言う事。もうすぐ、こんな風に笑っていられる状況ではなくなるのだ。それまでの、ほんの一服。最後に
なるかも知れない時を過ごす彼等には、少しでも長く笑っていられる時間が欲しかったのかも知れない。

 しかし、騒がしい艦橋の一方、その部屋は静かだった。
 そこに男と女が2人。無骨なパイロット・スーツに身を包んだ男は、場違いとも思える陣羽織の女を抱いて
瞳を閉じていた。男の腰に回る女の手は、まるで大理石の彫刻のように白く美しい。顔を、男の両肩に挟ま
れるような形でその胸に埋め、ジッと心臓が拍動する音に耳を欹てていた。
 桃色と紅色をした2匹の球体のペットロボ――ハロが、その耳の羽をパタパタとはためかせて無重力の中
を緩く舞っていた。
 静寂の中に、衣擦れの音が響く。

「あまり、お気になさらずに……」

 そう言って、女――ラクスは男に向かって微笑んだ。男――キラは、その儚げな笑みを見つめて、僅かに
視線を逸らす。

「君の方こそ」

 身体を離し、キラは視線を再びラクスに戻した。
 睫毛が長い。ラクスが一つ瞬きをすると、桃色の前髪にその睫毛が触れて微かに揺れた。美しい碧眼の
瞳をより印象強くさせているように思う。口元には、瑞々しくも甘ったるい熟れた果実のような唇があり、髪色
と同じ薄い桃色のルージュが、クドくない程度にサッと引かれている。――状況が許してくれるなら、今すぐ
にでもむしゃぶりつきたかった。
 見つめれば見つめるほど、その美しさに惹き込まれていく。シャンプーの香りらしき甘い臭いにも誘われ、
キラは少しだけラクスに顔を近づけた。ラクスも顔を見上げて瞳を閉じ、頬を紅潮させて少し首を伸ばす。
「OK」というサインだった。
93 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/14(火) 22:28:08 ID:???
 ゆっくりと、顔を近づける。唇の位置を確認し、少しずつ目蓋を下ろしながら、軽く顔を傾けて角度の調整
をする。後は、行く所まで行くだけ。キラの視界が、目蓋の裏で真っ暗になった。

「ハロ」
「――ん?」

 唇の先が、チュッと何かに触れる。おかしい。ラクスの唇にしては余りにも硬質だし、ひんやりと冷たくて
明らかに人間の体温では無い。何より、ラクスはこんな間抜けな声で鳴かない。
 スッと、目蓋を上げる。真正面には、ゴマ粒のようなつぶらな瞳――いや、実際に瞑る事など無いのだろ
う。顔を真っ赤にして、その物体はあった。――と言うよりも、そのほぼ顔だけの物体は元々そういう色だ。
 ハロとキス。もう一匹のピンクのハロが、その様子を茶化すようにけたたましく電子音を上げていた。
 ラクスがくすくすと笑っていた。キラは正面のハロを手でそっと払い除け、ラクスのおでこに軽くキスをした。

「キラは、わたくしだけのあなたになって下さいますか?」

 徐に訊ねられ、キラは軽く肩を竦めた。

「君の立場があるよ」
「意地悪な人――キラのお気持ちをお聞きしているのですわ」

 キラは左手をラクスの肩に置き、右手で彼女の前髪をかき上げた。そして、そこからなぞる様に左頬へと指
を這わせる。さらさらとした、まるで御餅の様な柔肌の感触。なだらかで、そこに触れている指が気持ち良い。
 ラクスは気持ち良さ気に目を細めて頬を紅潮させ、少しだけ身体を強張らせた。その様子を見て、キラも
満足したように目を細める。

「ずっと一緒に居よう、ラクス。僕だけの君――」

 再び抱擁し、頭を撫でた。そして身体を離すと、部屋の出口へとその身を流した。

「生きて、お戻り下さい。無事のお帰りをお待ちして居りますわ」

 部屋の中央で佇むラクスが、両手を大腿部の間に添えるように重ね、しゃなりと腰を折った。キラはそれを
肩越しに見ながら、自動ドアを開く。

「行ってらっしゃいませ」
「行って来ます」

 ドアを潜り、通路に出た。直ぐにドアが閉まり始め、その隙間から見えるラクスの姿を最後まで目に焼き付け
ていた。ラクスは、ドアが閉まりきるまでその姿勢を一切崩さなかった。

 MSハンガー独特の油の臭いがする。キラは通路を流れてエアロック・ルームに入ると、そこでヘルメットを
被った。そして気密を確認すると、いよいよMSハンガーに飛び出して愛機のもとへ向かう。そしてひらりと身を
翻して上からコックピットに入り込んだ。
 シートに座ると次々とスイッチを入れていき、モニターに火が灯って内部を明るく照らす。起動準備が終わる
と、マードックとの通信回線が開いていた。
94携帯 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/14(火) 22:32:12 ID:???
只今さるさん中です
95通常の名無しさんの3倍:2009/07/14(火) 22:40:34 ID:???
支援
96通常の名無しさんの3倍:2009/07/14(火) 22:42:49 ID:???
支援
97通常の名無しさんの3倍:2009/07/14(火) 22:44:37 ID:???
紫煙
98通常の名無しさんの3倍:2009/07/14(火) 22:50:18 ID:???
支援を行う射線軸上のMSは退避しろ。
99 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/14(火) 23:01:38 ID:???
『いいか坊主。これからお前が使うミーティアは、ジャスティスの奴をバラしたパーツでニコイチにしたもの
だ。俺達の方で何とかしたつもりだが、歪みを全て取り除けたかどうかはチェックしている時間が無かった。
その意味を理解して使ってくれ』
「分かりました。やってみます」
『頼んだぞ』

 親指を立て、二カッと笑ってくれる。キラも笑みで返すと、マードックの顔がモニターから消えた。

 キラはストライク・フリーダムを出撃させた。そしてエターナルの艦首サイドに装備されているミーティア
がパージされると、慎重にその中央に身を納めてドッキングする。コンピューターの表示でドッキングが
完了した事を知ると、一気に操縦桿を奥に押し込んだ。
 瞬間、カタパルトから飛び出すよりもきついGの圧力がキラを襲う。しかし、キラは表情一つ変えること
なく真っ直ぐと前を見据え、あっという間に連合軍の哨戒部隊を捕捉した。

「――見えた!」

 通信回線の受信電波をONにしていたせいか、急激に濃くなるミノフスキー粒子のお陰で酷いノイズが耳を
襲う。煩わしさに目を細めると、キラは即座に受信回線を切った。

「敵はまるで無防備だ。それが、アスランの魂胆だとは言うけど!」

 ターゲット捕捉――キラの瞳が敵の姿を捉え、ミーティアに制動を掛けて砲身を構えさせる。それと連動
してミサイルの発射管の蓋が開かれていくと、オーラを発散させるように怒涛の砲撃が連合軍哨戒部隊に
襲い掛かった。
 突如姿を表したミーティアと次々に連射されるビームとミサイルの嵐に、連合軍哨戒部隊は成す術なく
屠られていくのを待つだけだった。よもやこのような早いタイミングでザフトが仕掛けてくるとは夢にも思わ
ず、完全に浮き足立った彼等は碌に救援要請も情報も送れず、たった1機のMAによって駆逐されてしまった。
 その場で後に残ったのは、銀色の鈍い光沢を輝かせるミーティアと、それに収まるゴールドの駆動関節を
持つMSだけである。霧が晴れるように爆発の閃光が治まると、何かを確かめるように各所を動かした。

「やれた……。マードックさんの言うようなバランスの悪さは感じない。これなら十分使えそうだ」

 残骸が散る宙域の中、キラが呟くとそこを悠々とザフト艦隊が横切っていく。帰艦命令のコールが鳴り
響くと、キラはミーティアからストライク・フリーダムを離脱させ、回収に出てきたゲイツRに後処理を任せ、
エターナルへと帰艦していった。



 コロニー・レーザー近辺で展開する連合軍の中で、誰よりも早く異変に気付いたのはシロッコであった。
機械よりも正確な彼のアンテナが、今しがたキラが殲滅させた哨戒部隊の喪失に敏感に反応する。旗艦
ガーティー・ルーにて、シロッコはブリッジの窓に向かって床を蹴り、宇宙空間に何かを探すように顔を見
回した。

「どうした、シロッコ? 宇宙鯨でも見つけたのかい?」

 茶化すように言って見せるのは、ラフな格好で飲み物を口にする女。ファッションとして眼帯を付けてい
る不真面目さは、しかしそのMSパイロットとしての腕の確かさが故に咎めるような者は存在していない。
ヒルダ=ハーケンは、シロッコよりも鈍感であるが故に気楽に構えていた。
100 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/14(火) 23:03:50 ID:???
 シロッコはひりつく感触を額に感じ、ある程度の見当がつくと、戻ってシートに座った。

「ヒルダ。ジブリールを排除した事で、君達の存在を大西洋連邦に認めさせた。これで、名実共に地球軍
に在籍することになったという事は、理解してもらえたかな?」

 シロッコの優雅な物腰に、鼻で笑うような目でその動きを追うヒルダ。舌打ちし、飲み物のパックを放り
投げる。精密な機器類があるブリッジゆえに、その軽率なヒルダの行為をフォローするクルーが、慌てて
そのパックをキャッチした。

「だから、総司令官になったあんたには媚び諂えってのか?」
「フッ」

 睨み付けるヒルダをいなすように笑みを零すシロッコ。指揮棒を手に取り、ピッとヒルダに差し向ける。
その高圧的な仕草に、いよいよ以ってヒルダの表情が険しく歪んだ。

「全艦、第2種戦闘配備だ。ヒルダ=ハーケン以下MS隊は、各個出撃せよ」
「何を言っている?」

 怪訝に眉を顰め、ヒルダはシロッコに説明を求めた。その時、俄かに鳴り響いたコールの応対に出た
通信兵の1人が、哨戒部隊の1つの反応が途絶したと報告した。
 ヒルダが驚きに目を丸くしていると、シロッコはさも当然であるかのように指揮棒で掌を叩いた。

「早かったな。第2外郭部隊をやられたか。敵の侵入角は、コロニー・レーザーの右弦からと見ていい」
「ザフトが動いた?」

 続いて、戦闘配置を告げる警報が鳴り響いた。CICクルーはシロッコの言葉どおり、コロニー・レーザー
の東側をつぶさに索敵し、遂にザフト艦隊の動きを捕まえる。遠距離カメラが、乱れるモニターにエターナ
ルの姿を映し出した。

「そんなバカな! このまま行けば、何もせずともあなた様の天下が訪れると言うのに――」

 ブロック・ノイズが酷く、モザイクのように崩れかかった画質であるが、エターナルの姿をヒルダが見紛う
はずがない。確かにその姿を目に納めた時、ヒルダは膝から崩れ落ちる勢いで前のめりになった。

「ラクス様! デュランダルが居なくなったプラントで、貴女様以外の誰が民を導けるというのです! 
戦争は、貴女様が最も忌み嫌うものではなかったのですか!?」

 両手を広げ、神に縋りつくように語り掛けるその仕草を、ガーティー・ルーのクルーは誰一人として理解
しようとする者は居なかった。奇異なヒルダを見る目は冷たく、しかし彼女自身はそんなものはまるで目に
入らない。
 そこへ、見かねたようにシロッコが彼女の肩に手を置いた。振り向いたヒルダを、色目のような視線で
見つめる。

「彼女が利用されているとは、考えないのかな?」
「利用されている?」
「助け出せれば、君達の忠誠心の証明ともなろう。君達には、君達なりの目的があって、私のような男の
所に来たのだろう?」
101 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/14(火) 23:06:15 ID:???
 癪だが、シロッコの言うとおりである。ジブリールを排除した今、シロッコは最もブルー・コスモスの盟主に
近く、大西洋連邦国内でも相当の権力を握ろうとしている。その彼がヒルダと交わした約束に、ラクスの
ブルー・コスモス盟主への登用があった。彼女を反コーディネイター過激派の組織の頭に据える事により、
地球の内側から変革をもたらそうと言うのが、彼女の目論見だった。その目的を果たすために、ヒルダ達は
シロッコの下に甘んじて収まっているのである。
 その事を今一度心の中で確認し、ヒルダは不満気に顎を上げ、肩に乗っているシロッコの手を払い除けた。

「フン! 気楽に言ってくれる。決死の覚悟で攻めてくる敵と戦いながら、お助けもして見せろと言うのか」

 軽く床を後ろに蹴り、ブリッジの出口に向かってゆっくりと流れるヒルダ。蔑むような目で睨む彼女を、
シロッコは些かも物腰を乱すことなく視線で追う。

「それが可能なだけのマシンを与えたつもりだ」
「馬鹿にするんじゃない」

 ヒルダは吐き捨てるようにそう言うと、反転してブリッジのドアを潜っていった。その後ろ姿を見送ると、
シロッコはひとつ鼻で笑って索敵担当クルーのところへと身を流した。

「ザフトが仕掛けてきたのも、官僚共のシナリオの内だよ。ジブリールが消えても、ブルー・コスモスの
花が枯れ果てたわけでは無い」

 一つの事に妄信的な人間は、狭い視野でしかものを見ない。だから、少し吹っ掛けてやるだけで簡単に
人の言う事を都合の良い風に解釈し、信じてしまう。シロッコにとってヒルダは駆け引きも何も存在しない
つまらない女だったが、御し易くはあった。

「正面、何か見えないか?」

 横に足を着けてシロッコが訊ねると、意外そうな顔でCICクルーが顔を上げた。
 シロッコが言うには、コロニー・レーザーの東側、つまり右弦方向から敵は侵入してくるという事である。
だのに、彼が気に掛けるのはまるで違う方向である正面宙域であった。
 しかし、シロッコは常人には理解し難い、エスパーの様な勘の鋭さを有する人物である。これまで、その
エスパーの様な能力でシンパの人間を率いてきた事を考えると、今度も何かを感じ取っているのだろうと
思い直す。敵が分散して襲って来るような事もあるか――そんな風に解釈し、クルーは直ぐに言われた
とおりに索敵範囲を正面に移した。

「いえ、こちらのテリトリーに侵入してくるような機影は見えません」
「正面宙域を哨戒行動中の第1外郭部隊からの報告は?」

 シロッコは索敵クルーの報告を聞くと、徐にオペレーターに向き直り、同じ様な問い掛けをした。しかし
オペレーターからの返事も同じで、首を振ってヒットが無かった事を知ると、思慮深げに腕を組んで顎に
手を当てた。
 何をそんなに警戒しているのか。シロッコが立つ傍ら、シートに座しているCICクルーは怪訝に思った。
これまでズバズバと当てていた自分の勘が外れたことが、それほど深刻な事なのだろうか。そもそも、これ
までが異常な的中率だったのだから、稀に外れるような事がある方が自然なのだと言ってやりたかった。

「何をそんなに気にしていらっしゃるので?」
「勘が当たっていればいい。しかし、外れてくれた方が尚いい。分かるか?」
「は?」
102通常の名無しさんの3倍:2009/07/14(火) 23:08:01 ID:???
支援
103 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/14(火) 23:08:25 ID:???
 フッと難しい顔がいつものような表情に戻ると、シロッコはふわっと床を蹴って自らのシートに鎮座した。
そうして軽やかに足を組むと、アーム・レストに肘を置いて頬杖を突く。その瞬間に、もう普段どおりの
シロッコだった。
 しかし、シロッコの内心では未だに正面宙域から接近してくるであろう何らかに対する警戒心は些かも
緩めては居なかった。



 パイロット・スーツに着替え、ボトルを手に取る。ポケットから取り出したケースの中には、錠剤が詰まっ
ていた。蓋を開けて振り、掌に5〜6錠程度を乗せ、口の中に放り込む。

「お邪魔」

 声に気付き、顔を振り向ける。ロッカールームの入り口には、ドアに手を掛けるネオの姿があった。
 レイは彼を一瞥すると、まるで気にする様子も無くボトルの水で口の中の錠剤を流し込んだ。ネオはその
様子に肩を竦めながら入室すると、シャツを脱いでパイロット・スーツに着替え始めた。その身体には、鼻に
刻まれているものと同じ様な傷跡が無数に残されていた。

「パイロットが不足しているって言ってもさ――」

 沈黙に耐えかねたのか、やおらネオが話し出す。レイは顔を上げる事無く、視線だけで彼を見ていた。

「あの金ピカ、見たか? 見た目どおりの機体らしいんだけど、扱いが難しいってんで頼まれちまってよ。
普通のビームは跳ね返すんだけど、メガ粒子砲は駄目なんだとさ。何だかなぁ」
「それだけでは無いだろう」

 苦笑混じりに話すネオに、レイの刺すような声。ネオは袖を通す腕を止めて少し俯き加減になった。眉間
に皺が寄り、表情が険しくなる。

 なまじドラグーンを使えてしまった事が、ネオの中のムウを大きくさせてしまっていた。それが知らない
人格に意識を乗っ取られていっている様に感じられて、ストレスだった。
 フラガの一族に連なる者の証、空間認識能力――しかし、ステラを守るにはその力を使いこなさなけれ
ばならないという皮肉が、矛盾としてネオを苛ましていた。
 レイは、多くを語らなかった。しかし、そのたった一言で意図を見抜けてしまったという事実もまた、
ネオ=(イコール)ムウという等式を証明する一助となってしまっていた。

 ネオは無視してパイロット・スーツへの着替えを再開した。気にしていないわけではない。ただ、今は
そういう事を考えたくはなかった。

「お前さ、大丈夫なのか?」

 話題を変えようとするネオの問いかけに、今度はレイが身を固くした。チラリと横目で見ると、彼のギラリ
とした眼光が突き刺さってきた。
 互いに牽制するようなやり取り。彼らの間に、信頼はまだ無い。

「貴様には関係ない」
「体調の事だよ。薬、そんなに飲まなきゃいかんのか?」
104 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/14(火) 23:10:47 ID:???
 ネオは適当に誤魔化したが、デュランダルを失った精神的ダメージが、一度に摂取する錠剤の量に表れて
いるようにも思えた。勿論、彼の肉体は日々常人の何倍ものスピードで歳をとり続けているのだろうから、
それを少しでも抑制する為に錠剤の量を増やさねばならなかったのは分かる。ただ、ネオには薬を服用する
レイの姿が、情緒不安定な人間が精神安定剤を飲むような仕草に見えた。
 レイもまた、ネオの意図に気付いているのだろう。ネオの本音がデュランダルの事であると悟れてしまうから、
レイは余計に苛立っているようだった。

 やがて、ネオの着替えが終わる。その間、レイは遂にネオの問いに答える事はなかった。ネオは何かを諦め
るように一つ溜息をつくと、ベンチに腰掛けたままケースとボトルを握り締める彼を見ながらロッカールームの
出入り口へと向かった。
 肩まで伸びたブロンドの髪。ネオと同じ色、髪型だが、色素がやや薄く思える。その前髪から微かに覗く瞳は
刃物のような鋭い輝きを宿しているというのに、一方で彼の心の中は漆黒に塗りつぶされてしまっているように
感じた。レイからは、生への執着が感じられなかった。

「お前にさ――」

 出口に差し掛かって、足を止めた。このままレイを放っておく事など、出来なかった。

「頼まれてくれんか? ステラの事」

 肩越しにレイを見やる。渋い表情でこちらを見ていた。何を言っているのか、理解できていないのだろう。
 ネオは無視して続ける。

「万が一の場合さ。保険、掛けさせてくれよ」
「俺は貴様の――」
「お前が嫌ならさ」

 レイの言葉を掻き消すように、ネオは語気を強めた。レイの意思など、関係ないとばかりに。

「他の人に頼んで欲しい。ここの連中、思ったよりも良い奴等ばかりだから、きっと面倒見てくれる人が
見つかると思うんだ。――アークエンジェルの艦長さん辺りとかさ」
「何を考えている?」

 レイは訝しげな目でネオを睨み付ける。ステラの件が建前に過ぎない事は、直ぐに分かった。しかし、
ネオを信頼していないレイは、彼が何を思ってこんな提案を持ち掛けたのかが、まるで判然としなかった。

「じゃあ、頼んだからな」
「なっ――」

 軽く手をひらひらと振ると、ネオは急いでロッカールームを後にした。これ以上レイと一緒の空間に居ると、
意図を見透かされてしまうと考えたからだ。
 ロッカールームには、中腰のまま固まるレイが呆然とした様子で残されていた。


 ミネルバの休憩室。パイロットの待機場所にもなっているそこで、一組の少年少女がベンチに座って寄り
添っていた。赤と白のパイロット・スーツに身を包み、少年の左肩に少女が頭を乗せている。少女は腕を
少年の左腕に絡ませ、その手を包み込むようにそっと少年の右手が添えられていた。薄暗い明かりが、
2人の瞳の輝きを強くしていた。
105 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/14(火) 23:13:14 ID:???
 何をするわけでもない。ただ、お互いに直に寄り添っていられる時間が惜しくて、抱き合うように腰掛けている
だけ。交わす言葉も無く、静かにその時を待っている。
 少年が壁の時計に視線を投げた。デジタルの数字が、ただ静かに時を刻んでいる。少年の仕草に気付いた
少女が、「何を見ているの」と時計に顔を上げる。少女の触覚のように跳ねた髪の束が、少年の鼻をくすぐった。
一つくしゃみをして、鼻を啜る。少女がくすくすと笑い、少年も釣られて笑った。

 時が過ぎるのは、本当に早い。特に、時間を惜しむ時ほどそれは顕著だ。ずっと寄り添って居たかった2人を
引き裂くように、警報が鳴り響いた。続いて、少女の妹の声が戦闘配置を告げる。
 少年が、少女の腕を振り解いて立ち上がろうとする。しかし、少女はその少年の顔を両手で掴んで無理矢理
に自分へと振り向けさせた。

「お、おい――?」

 グイっと顔を引き寄せられ、唇と唇が触れた。唐突なその柔らかさに、少年は驚きのあまり目を剥いた。
 間近の少女は瞳を閉じ、目尻に涙を浮かべていた。それに倣うように、少年も目蓋を下ろした。
 両頬を掴む少女の掌が熱を帯びているのが良く分かる。そして、自分の頬がそれ以上に熱を帯びているの
も分かる。緊張だ。そのせいで震えてしまっている互いを感じるも、脳が痺れるような感覚に、気付けば手を
回して抱き合い、離れるのを惜しむかのように温もりを貪り続けた。

「あ…ちょっと……」

 一瞬離れた口元から、抗議するような、悶えるような声が漏れた。構うものかと少年は再び口を塞ぎ、少女の
背を壁に押し付けて、深い悦楽に浸る。癖になるような官能的な感触と甘い薄荷の香り。肢体をしっかりと抱き、
逃れられないように少女を拘束している体勢が、少年の強い支配欲を満たしていた。
 パイロット・スーツ越しでも分かる。少女の想像以上に柔らかな身体に、異様な興奮を覚える自分がいること
に気付く。それが戦闘前の興奮なのか性欲的な興奮なのか――しかし今の少年にとって、そんな事はどうでも
良かった。自分の身体で少女の身体の柔らかさを感じられる事が重要なのであって、声は無くともそれに勝る
言葉など存在しない。この興奮と悦びは、少女から投げかけられた言葉なのだと、少年はそう思っていた。
 やがて少年が腰を抱く腕を解き、少女の肩に手をやって顔を離す。少女の目に滲む涙。小鳥のように小首を
傾げて微笑むその表情に、鳩尾を優しく手で掴まれている様なむず痒さを覚えた。

「行こう、ルナ」
「うん。シン、一緒に……」

 最後にするつもりは無い。生きて2人で戻ってくるんだという覚悟を、彼女から貰った気がした。
 ヘルメットを手に取る。待機所からMSデッキへ直通しているエレベーターに、2人は乗り込んだ。


 ヘルメットを手に取りMSデッキへ。無重力の中を泳いで辿り着くと、ちょうどエレベーターからシンとルナマリア
が降りてきた。エマと鉢合わせて「あっ」と小さく呻くように発したかと思うと、シンはそっぽを向いて早々にデスティ
ニーへと飛び上がっていった。エマがそれを怪訝そうに見送って視線をルナマリアに向けると、彼女の方も若干、
様子が変だった。

「……あぁ!」

 紅潮している頬、気恥ずかしそうに落とす視線。何かを隠すように唇を内に巻き込む。その仕草を見れば、どの
ような事をしていたのかは大体想像が付く。
106 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/14(火) 23:14:48 ID:???
「さ、先に失礼します!」

 エマが上げた声に反応して、ルナマリアは先を急ごうとする。エマはそんな彼女の手を掴んで、一寸、
引き止めた。

「な、何か?」
「守ってあげたいわね、あなたの事」
「子供じゃありません!」
「知ってるわ。――うふふっ」

 笑うと、エマはルナマリアの臀部に手を添え、コア・スプレンダーの方向へ押し出した。

「やだ。私のより良い……。若いのね」

 エマは思わず掌を返して、それをまじまじと見つめた。
 17という年齢に相応しい、小振りで程よく引き締まった形の良いヒップだった。後ろ姿を見ても良く分かる。
パイロット・スーツに張り付かれた臀部は、若々しい瑞々しさに溢れていて、エマを嫉妬させるのには十分
だった。

「エマさん!」

 不意に呼び止められる。視線をルナマリアのヒップの感触を思い出すかのように眺めていた掌から声の
した方に向けると、アスランが上からリフトグリップを握って降りてきた。
 その格好を見て、驚く。アスラン自身もパイロット・スーツに身を包んでおり、ふとハンガーを見ればイン
フィニット・ジャスティスの出撃準備も行われていた。

「出るつもりなの!?」

 今やザフトの象徴となったアスラン。御大将自らが前線に赴こうという姿勢は評価できるが、問題はイン
フィニット・ジャスティスの状態である。完全なリペアが出来ているとは思えないのだ。

「エマさんには、ミネルバMS隊の隊長をお任せしたいのです。やっていただけますね?」

 アスランはエマのところまで降りてくると、その背を押して一緒に無重力を流れた。
 何の気も無い表情のアスラン。エマは懸念を分かって欲しくて、その横顔を睨み付けた。

「そういう話は、ブリーフィングで了承済みです。私が言いたいのは――」
「顔見せぐらいは、やるべきでしょう。しかし、ジャスティスの限界領域での挙動には不安が残るのですが、
それでも修理が間に合ったんです。――だからこそ、ですよ」

 アスランが顎でエマに注意を促す。エマがアスランの横顔から指し示す先へと視線を移した時、インフィ
ニット・ジャスティスのコックピット付近で手を上げて合図を送っている人物が見えた。

「ヨウランとヴィーノ?」
「短時間で仕上げてくれたのは、彼等の尽力の賜物です。あなたのMk-Uを整備する傍らでね」

 ミネルバ内で、ヴィーノがエマに気を持っているという事実は公然とされている。つまり、アスランはそう
いうつもりで居るのだ。エマは得心したが、スマートでは無いアスランの手口には愛想を尽かされた。
107 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/14(火) 23:18:06 ID:???
「気配り屋さんでいらっしゃるのね、アスラン=ザラ総司令官殿は」
「どうなんですかね、それ?」

 わざと嫌味に聞こえるように言う。嫌味に気付いているのかいないのか、アスランはそぞろに苦笑を見せ
るだけで、リアクションは極めて薄かった。
 向かう間に、インフィニット・ジャスティスからヨウランが一人で先に離れた。2人がコックピット付近にまで
流れて来ると、ヴィーノはエマの姿に些か緊張した様子で後頭部を擦った。アスランがそれを尻目に颯爽
とコックピットの中に身を沈めると、ヴィーノがそこに顔を突っ込んで何やらアスランと話をした。

「褒美ったって、こんな時にくれなくたって良いでしょうに!」

 何を話していたのかは分からない。ヴィーノがそう叫ぶように言うと、インフィニット・ジャスティスのコック
ピット・ハッチが急に閉じた。驚き飛び退いたヴィーノは、エマに振り向いてほんのり頬を染めた。

「い、行きましょうエマさん。Mk-Uの準備も出来てます」

 ぎこちない笑顔で歯を見せると、ヴィーノはインフィニット・ジャスティスを蹴ってガンダムMk-Uへとエマを誘う。
 エマの勝手な解釈ではあるが、気の毒な少年だと思う。ジブラルタル基地でヨウランに秘めた想いを暴露され、
それで開き直ってメサイアではデートに誘ったりもしたが、それもカツの横槍でうやむやとされた。
 思えば、彼の好意にはしっかりとした形で返答をしていなかった。思春期の少年の迸る熱いパトスを、宙ぶら
りんのままにさせておくのも可哀想と思う。――エマは徐にその手を取り、名を呼んだ。

「ヴィーノ。Mk-Uは、あなたのお陰で動いているようなものね」
「エ、エマさん……?」

 振り向いたヴィーノの緊張した顔が、可愛らしかった。カミーユとは違って真面目で素直な(少なくともエマには
そう見えていた)ヴィーノは、年下に慕われるのも嬉しい事なのだとエマに思わせた。尤も、男女の関係になるか
どうかは別問題であるが。

「感謝しているのよ、そういう意味では」
「止してください。今はそういうんじゃなくて。――戦えない俺たちの代わりにカツの仇を討って欲しいって思った
から……」

 眉を顰めながらはにかむ表情が、本音と照れ隠しを綯い交ぜにしたものだというのは分かる。優しく声を掛け
てもらえて嬉しい反面、カツの事で燻り続けている憤怒の感情もあるのだろう。それらを一緒くたにしてしまう
ところが、まだ若い証拠と感じた。
 ガンダムMk-Uには、コックピットの外から手を突っ込んで出撃前の最終確認を行っているヨウランの姿が
あった。2人がやって来るとヨウランは場所を譲るように離れ、エマがコックピットの中に入り込むとヴィーノが
上半身だけ突っ込んできた。

「エイブス主任に頼んで無理矢理に担当させてもらった身です。被弾したら、俺のせいにしてください」
「何を言うの。自信をお持ちなさい」
「俺のせいにしてくれていいんです! エマさんが俺の事を考えてくれるのなら、憎んでくれたって――」

 一層身を乗り出すヴィーノの頬に、エマは首を伸ばした。そして、そっと唇を触れさせると、肩に軽く手を添えて
コックピットの中から押し出す。
108 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/14(火) 23:20:29 ID:???
「お行き」

 ヴィーノの視線の先、遠くなっていくエマの姿。折り重なるようにしてコックピット・ハッチが閉じると、
ガンダムMk-Uは双眸を瞬かせてカタパルト・デッキへと歩を進めた。
 ヘルメットを被り、バイザーを下ろす。ワイプ表示でぼんやりと佇むヴィーノを捉まえると、エマは切な
そうにこちらを見上げている彼に対して微笑んだ。

「これが、あなたにして上げられる限界。――分かってよね」

 ガンダムMk-Uがエレベーターに乗り、下降を始めた。
 下に沈んで消えていくガンダムMk-Uの背中を、ヴィーノは呆然と眺めていた。

「酷いよ、エマさん……」

 だからこそ、苦しかった。こんな優しくされてしまったら、未練が残ってしまう。
 ヨウランが励ますように肩を叩く。理由の分からない涙が溢れ、反応する事も出来ずにヴィーノは立ち
尽くした。彼にとって、エマのキスは最高であり、また、最低でもあった。



 今なら、どうしてこのようになってしまったのかが分かる気がする。天の采配とか、そういう作為的なもの
すら感じさせるこの混沌とした状況に、カミーユは静かにその運命を受け入れた。
 それは、1人の男の執念が産んだものなのかもしれない。敗北を知らなかった男が始めて敗北を知り、
世界のあらゆるものを巻き込んでしまっていた。カミーユはその妄執に引き摺られたのだ。
 アークエンジェルのロッカールームで、カミーユはパイロット・スーツの手袋をはめた。そしてヘルメット
を首の後ろ辺りにあるアタッチメントに装着させると、ロッカールームを出て通路をMSデッキに向かって
進んだ。

「発進準備、OKよ」

 もはや、見慣れた光景となっていた。Ζガンダムの開かれたコックピット付近には、ノーマル・スーツを
着たエリカが手を振ってカミーユを迎えていた。

「最高の仕上がりになっているはずよ」
「ありがとうございます」
「帰ってきなさいよ」

 コックピットに取り付くと、エリカはそう言ってカミーユの背を押した。声色にいつものような技術屋の嫌味
は無い。エリカがΖガンダムを蹴って離れると、カミーユは少し笑ってハッチを閉じた。
 ハッチが閉じるのと同時に、股下からコンソール・パネルが浮かび上がってくる。いつもの手馴れた手順
で操作し、全天モニターを表示させた。
 目線を方々に向ける。MSデッキの奥の方では、カタパルトデッキへとエレベーターで降りるセイバーが
見え、ギャプランも反対側のエレベーターに向けて歩を進めていた。

『カタパルト接続、オール・グリーン。進路クリア。セイバー、発進どうぞ!』
『レコア機、セイバー、出します!』

 回線から発進のやり取りが聞こえる。カミーユはΖガンダムをエレベーターへと向かわせた。
109 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/14(火) 23:22:26 ID:???
『続けてギャプラン、どうぞ!』
『それ行けぇっ!』

 エレベーターが降りている間に、ギャプランの発進も行われた。待つ間、指でトントンと操縦桿を叩く。
 下から突き上げるような振動が起こって、エレベーターが止まる。Ζガンダムは足をカタパルトに乗せ、
軽い前傾姿勢を取った。カミーユの眼前に広がるのは、前に伸びるレールと開かれたハッチから見える
大宇宙の漆黒。その宇宙からスウッと入り込んでくる霊気のようなものが、カミーユの思惟を昂ぶらせる。
 いつもの発進前の感覚と違った雰囲気を感じた。

『Ζガンダム、発進OKです!』
「了解。カミーユ=ビダン、Ζガンダム――行きます!」

 火花を散らせてカタパルトがΖガンダムを加速させた。加速の重圧がカミーユの身体をシートの背凭れに
押し付け、それを堪えるように奥歯を噛み締める。発進口は一瞬にして迫り、宇宙空間に飛び出すまでには
2秒も要さなかった。
 Ζガンダムは携行しているビームライフルを背に乗せると、頭部を亀のように引っ込めて胸部を上げ、両腕
をその空いたスペースに仕舞う様に折り畳み、同時に蟹股に股関節を開いて膝を逆間接にZ字に折り曲げた。
それと連動してフライングアーマーが反転して頭部の正面を隠すように覆うと、その中央にマウントされている
シールドにロックされて、航空機のシルエットとなった。ウェイブライダー形態の完成である。

「この、感覚……」

 生身で宇宙に飛び出したかのような浮遊感。MSの装甲を越え、パイロット・スーツすらも透過した何らかが
カミーユの肌に触れた。それは戦いに臨む人々の意思の力なのか。撫で回されているような心地よい感覚や、
まるで正反対の刺々しい感覚が綯い交ぜとなり、カミーユの交感神経を刺激する。不安や期待を同時に感じ
て、それに触発されて少しだけ動悸が激しくなった。それはカミーユの肥大化したニュータイプ的な感性が、
身体機能にまで影響を及ぼしているという事だった。
 ふと、頭の中を劈いた疼きがカミーユの視線を正面に固定させる。その瞬間に身体に纏わり付いた数多の
思惟は、振り落とされるようにして剥がれ落ち、カミーユの意識は遠くへと集中させられた。
 バイザーを上げ、目を凝らす。味方の進撃が続く中、漆黒の向こうに人の気配を感じた。

「自分で自分の居場所を教えている……?」

 それは、カミーユの勘違いである。感じ取れたのは、彼の敏感すぎるセンサーの成せる業であり、ニュー
タイプと呼ばれる人間の誰もが出来る芸当ではない。それを知らず知らずの内に実行している辺りに、彼の
非凡な才能が表れていた。

『ザフトの各員に告げる。最初に、この戦いが単にプラントの国家としての存亡を懸けただけのモノでは無い
事を明言しておく。その上で我々はコロニー・レーザーをこの世界に不要な代物であると判断し、それを破壊
する為に戦いに赴くのである。諸君、障害となっているモノはコロニー・レーザーである。それを破壊し、力の
妄執に囚われたナチュラルの目を覚まし、我々が殲滅戦争を望んでいない事を証明しよう。さすれば、プラン
トと地球の和平は成立し、人類が渇望する真の意味での平和というものが――』

 ザフトの専用回線を通じて、アスランの鼓舞が声高に響き渡った。それに応えるようにしてザフトが進撃を
強めると、カミーユもバイザーを下ろし、合わせてウェイブライダーを加速させた。
 倒すべき敵は分かっている。しかし、それを為した時に何が待っているのか、カミーユにはまだ分からなかった。
110通常の名無しさんの3倍:2009/07/14(火) 23:26:50 ID:???
支援
111通常の名無しさんの3倍:2009/07/14(火) 23:32:06 ID:???
支援
112携帯 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/14(火) 23:32:34 ID:???
今回は以上です

一応、何とかラストまでまとめる事ができました。
次回の投下は、週末を予定しています。

残り5話(+ちょっとしたエピローグ)、お付き合い下さい。
113通常の名無しさんの3倍:2009/07/14(火) 23:35:17 ID:???
いつものことながらGJ、久しぶりにリアルタイム遭遇したぜ
114通常の名無しさんの3倍:2009/07/15(水) 02:10:39 ID:???
エマさん強えw

>妹とだなんて!
お前が言うな!w

ファの話、そして
>「帰るんだ。いけないか?」
ついに差し迫ってきた局面

やばいwktkが止まらない
次回も期待!
115 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 21:53:51 ID:???
  『誘いの声』


 ザフトの侵攻は、予見されていた。しかし、余りにもタイミングが早かった。さしもの連合軍も、これ程早く
ザフトの戦力が整う事を予想しておらず、今は慌てて迎撃準備を行っている所だった。

「コロニー・レーザーの右弦からだよ! 脇腹を突付かれた!」
「早くミノフスキー粒子を散布しろ! 狙い撃ちにされたいか!」
「迎撃、遅い! 敵の侵入方向に戦力を集中させい!」
「MS隊は何やってんの! さっさと出ろよ!」

 怒号が飛び交い、半ばパニックに陥る。カメラが敵の先鋒部隊の光を捉えた。ミノフスキー粒子を散布
した事でカメラの解像度は低く、尚且つ太陽の光が邪魔をして正確な機種特定は不可能だった。
 辛うじて、何かが群れを成して向かってきている事だけ分かる。ただ、それにしても数が多過ぎるように
思われた。

「何機出ているのだ?」
「第一波らしいですが、少なく見積もっても100機以上は出ているようで――」
「そういう事ではない! 消耗しきった奴らの、何処にあんな戦力が残されていたのかと訊いている!」

 俄かには信じられない光景だった。瀕死のはずのザフトが、ありえない数の戦力を揃えていた事が、
混乱に拍車を掛けていた。考えられない事だが、前回の戦闘で出し惜しみをしていたとしか考えられない。
しかし、果たして敗北寸前にまで追い込まれたザフトがその様な戦術を採るだろうか。強力な指導者で
あったデュランダルが死亡した事を鑑みれば、とてもそうは思えなかった。
 考えても始まらない。現実として、ザフトは予想を遥かに上回る戦力を初撃にぶつけてきたのだ。例え
敵の戦術が不可解であろうと、やるべき事は決まっている。

「嘘みたいだがな――戦艦の火力を使うぞ、弾幕! MS隊には敵中央の集団に囲い込みを徹底させい」

 艦隊の砲撃が開始される。それを迂回するようにMS隊が加速を掛け、ザフトを囲い込みに掛かった。
 ところが、MS隊が見たのはザフトMSの集団ではなかった。彼等が囲い込みに掛かったのはMSではなく、
大量のベースジャバーの群れであった。
 その報告を受けると、連合軍内に更に動揺が広まった。また、想定していない事態が起こったからだ。

「ゲタだと!? なぜ気付けなかった!」
「ミノフスキー粒子の干渉と太陽光による――」
「言い訳は聞かん! 早急に対応せよ! 敵の本隊は――」

 無人機が魚群のように突き進む光景は、中々シュールなものであった。しかし、機械的に直進するベース
ジャバーはダミーであると同時に弾頭でもある。その事に気付いた何人かが慌ててベースジャバーを迎撃
するも、弾幕を潜り抜けた幾つかは艦隊に直撃して思わぬダメージを被る事となった。

 アスランが仕掛けた苦肉の策。彼が奇襲を掛けたがっていたのは、このダミー作戦を効果的に展開する
為でもあった。
 連合軍の初手は、空振りに終わった。敵は奇襲とダミーに引っ掛かって動揺が広がっている。これで、
ザフトの先制攻撃の舞台が整えられた。
116 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 21:55:41 ID:???
 ミネルバに先行してガンダムMk-Uが行く。後ろにデスティニー、インパルス、レジェンドを従え、その
更に後方にインフィニット・ジャスティスが居た。エマはそれをモニターで確認すると、コンソール・パネ
ルを弄って通信回線を開く。

「ジャスティスはエターナルへ。陣頭指揮はここまでで結構です」
『頼みます、エマさん。それと、レイの様子には気を付けて下さい』

 出撃の際、似たような事をタリアに言われた。デュランダルとレイの関係、掻い摘んだ程度にしか聞か
されていないが、つまり、そういう関係だったのだろう。
 チラリとカメラが捉えるレジェンドの姿を見る。今のところ、特に変わった様子などは見受けられない。
しかし、彼は普段から感情を表に出さないような性格である。実際の精神的消耗は深刻なのかもしれない。

「分かりました。できるだけフォローはするつもりです」
『すみません』
「後続のタイミングは、合わせてくださいましね」

 エマがそう言うと、インフィニット・ジャスティスは一度カメラ・アイを瞬かせて後退していった。
 エマはインフィニット・ジャスティスの後退を確認すると、今度はシン達に向けて回線を開いた。

「迎撃の敵MS隊をキャッチ。各員、掛かるぞ!」
『了解』

 レジェンドがドラグーンを展開し、ベースジャバーの迎撃に躍起になっている敵に対して先制攻撃を加え
る。――レイの調子は思ったよりも悪くないようだ。今のところ心配は必要無さそうで、一先ずエマは安心
した。
 続けてその支援砲撃を受けて、デスティニーがその機動力を発揮し、敵の中へと飛び込んだ。

「シン! いくら何でもそれは迂闊よ!」

 デスティニーには遊撃を任せておいた。シンの実力を考慮すれば、彼には無理に指揮に従わせるよりも
ある程度自由に動いてもらった方がその真価を発揮させられる。しかし、単機で敵のど真ん中に突っ込ん
で行くというのは、流石に無理がある。いくらデスティニーでも、それは如何なものか。シンの相変わらずの
迂闊っぷりに、エマは頭を抱えた。
 ところが、そんなエマの心配を余所に、デスティニーは敵の只中にあって無類の強さを見せ付けていた。
そんなシンの無双ぶりを目の当たりにして、エマは思わず喉を鳴らした。

「何て強さ……!」

 ビームが飛び交う僅かな隙間を縫って、デスティニーは次々と敵を撃破していく。その特徴である背部の
大剣と大砲は一切使用せず、右手に握らせたビームライフルだけで大立ち振る舞いを演じていた。光の翼
は幻想的にデスティニーの軌跡を描き、翻弄される敵MSはまるで幻覚でも見ているかのように翻弄されるのみ。
 ビームライフルを連射。その一発一発を正確に敵にヒットさせ、しかも一撃で戦闘不能に陥れる。その時、
僅かな間隙を縫って接近戦を挑むウインダムが現れた。しかし、それは無謀と言うもの。デスティニーは
振り下ろされるビームサーベルをシールドでかち上げると、左のマニピュレーターで腹を突き上げるように
掌底を叩き込み、パルマ・フィオキーナで一気に胴を貫いた。
 そこへ、続けて背後から別のウインダムが来襲した。デスティニーはビームライフルを回収しつつ、瞬時に
後方宙返りで斬撃を回避する。そして背後に回り込んでその背中を足場にして踏みつけ、次の敵へと飛び
掛っていった。
117 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 21:56:53 ID:???
 驚くべきシンのパイロット・センス。その動きには人の目を惹き付ける魔性があり、エマもデスティニーの
見事な戦いぶりに少しの間、目を奪われていた。

『エマさん、左弦!』

 不意にルナマリアからの通信が入り、視線を左に向ける。

「何? ――光…来る!」

 ルナマリアの警告から間髪入れずに敵の攻撃。制動をかけたガンダムMk-Uの眼前を、ビームの光が劈いた。

「ゲタのダミーに惑わされなかった敵が居る?」

 ガンダムMk-Uの指の付け根からダミーバルーンを射出。途端、扇状に開いた7条のビームが瞬時にして
出したばかりのダミーバルーンを破った。

「この距離で狙ってきた……アビス!」

 ファントム・ペインである事は即座に分かった。ガンダムMk-Uとインパルスが一斉にビームライフルで
射線元を撃つと、凄まじいスピードで2機のMAが迫ってきた。
 それらのMAはエマとルナマリアの攻撃を掻い潜ると、そのまま駆け抜けていく。一瞬の出来事で、ハッキリ
と機種を特定できたわけではなかったが、恐らくはガブスレイとカオスであっただろう。エマは振り返ってその
行方を追った。

「艦隊に仕掛けるつもりか!」

 先制攻撃が成功したザフトは、前掛りになっている。その隙を突いて、直接艦隊へと攻撃を仕掛けようと
いうのだろう。そうはさせまい、とガンダムMk-Uを反転させようとした時、アビスからの一斉射撃が再び
エマを襲った。
 モニターが通過するビームの光を余すことなく映し出し、その眩しさに目を細める。遠距離からの砲撃の
せいか、運良く攻撃は外れてくれた。
 インパルスがガンダムMk-Uを庇うように前に出て、アビスへと牽制のビームライフルを撃つ。

『行かれちゃいましたよ、エマさん! ファントム・ペインが突破して!』

 ルナマリアの危惧は尤もである。しかし、だからと言ってここで進撃の足を止めてしまっては奇襲は失敗
になり、地力の差が如実に表れる事になる。連合軍が混乱してくれている今が唯一の好機なのだ。作戦の
成功の為には、今のこの流れを手放したくは無い。エマは決断した。

「分かっている。――後続はそのまま進撃を。ヴェステンフルス隊の方々にはデスティニーのフォローを
頼みます。レイと私達はファントム・ペインに対応!」
『了解です』

 オレンジショルダーのMSが次々とエマ達を追い抜いていく。そして、それに倣って他の部隊のMSも先を
急いでいった。唯一、その流れの中にあってエマの命令を受けたレジェンドだけが別のベクトルで以って
逆方向へと加速した。
118 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 21:58:28 ID:???
「レイが突破したMAの追撃に入る? 後方にはアカツキが守りに入っているか――なら、ルナマリアは私と
ここで!」
『止めますとも!』

 姿を現したアビス。それに、バイアランの存在も察知した。エマは操縦桿を握る手に力を込める。



『灰色の奴が行っちまう!』

 レジェンドを見て、そう言うのだろう。アウルが縋るような声を出したのは、ライラの仇がレジェンドである
からに他ならない。カクリコンは進撃を妨害するガンダムMk-Uとインパルスに牽制を繰り返しながら、
アビスの動きに注意を配っていた。
 当面の敵は、ガンダムMk-Uとインパルスの2機のみ。その内、ガンダムMk-Uの機動力は平凡であり、
問題ない。一方のインパルスは、格闘戦タイプや砲戦タイプの装備であったならば問題なかったのだが、
よりによって高機動力タイプのパックを背負っている。MA形態への変形機構を持っているとはいえ、重火力
MSであるアビスでは振り切るのは難しいだろう。選択肢は、限られてくる。

「――やってみようか」

 決して敵を侮っているわけではない。ミネルバ隊とは幾度も刃を交え、カクリコンもその実力は認めている。
多対1の不利は十分承知しているつもりだ。
 右腕にビームサーベルを持たせ、左掌のメガ粒子砲で攻撃。対してガンダムMk-Uは半身にしてビームを
かわし、ついでにビームライフルを構えて反撃してきた。攻防を一度のモーションで行うのは、流石といった
ところだろうか。しかし、カクリコンとてティターンズとしてエリート街道を歩んできた身だ。この程度でたじろぎ
はしない。ガンダムMk-Uのビーム攻撃をすり抜けるようにかわして接近し、ビームサーベルを振り下ろす。

「アウル! 貴様は先に行ってマウアー少尉達と合流しろ!」
『何て!?』

 ガンダムMk-Uは左手に握るビームサーベルを逆手に持たせ、バイアランのビームサーベルを防いでいた。
 ビーム刃の接触で眩い光が全天モニター一杯に広がり、カクリコンの細い目が更に細くなる。

「Mk-Uとインパルスは俺が引き受ける。貴様はミネルバを叩け!」
『どういうこったよ! ――ってか、いいのか!?』
「軍人なら、上官の命令に従って見せろ!」
『……ッ! 分かったよ!』

 アウルの心情を汲んだつもりは無い。ただ、レジェンドが厄介な相手であるというだけだ。それに、ガン
ダムMk-Uとインパルス程度の相手ならば、1人でも十分に渡り合える自信があった。ただ、それだけだ。

「軍人は、戦いに殉じられればそれで結構!」

 それ以上の感情など、無い。
 途端に、アビスがMAに変形して加速を始めた。

『聞かせてもらったわよ、カクリコン! ――ルナマリア、アビスを追いなさい!』
119 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 22:00:18 ID:???
 ガンダムMk-Uのデュアル・アイが滲むような緑光を放った。それに同調するように、インパルスがアビス
を追い掛けようと方向転換をしたのを、カクリコンの目は見逃さなかった。

「えぇい、エマめ! させるかよ!」

 ビームライフルの砲口が向けられる。バイアランは左腕を水平に上げ、少し斜めに身をずらした。
 ガンダムMk-Uがビームライフルのトリガーを引くと、そのビームはバイアランの脇の下を穿つ。驚いた
ようにガンダムMk-Uが少しだけ顎を上げると、その隙に蹴り飛ばし、間髪入れずにアビスを追撃しようと
しているインパルスにメガ粒子砲を撃った。
 少し距離はあるが、ビームの光輝が火花のように散ったのが見えた。それと同時に、インパルスがバランス
を崩す。直撃はでは無さそうだが、手応えはあった。その間に、カクリコンはインパルスとの距離を詰める。
 ところが、インパルスは尚もアビスを追おうと体勢を立て直す。カクリコンは苛立ちに顔を顰め、スロットル
を全開にした。

「させんと言っている!」

 背後からガンダムMk-Uのビーム攻撃。カクリコンはそれを鮮やかにかわして見せると、ビームサーベル
でインパルスへと背後から斬りかかる。
 インパルスはそれに反応した。素早く身を反転させ、シールドでかち上げるようにしてバイアランのビーム
サーベルを防いだのである。カクリコンはその反応の早さに鼻を鳴らした。

「フン! これが戦闘用のコーディネイターか!」

 それはカクリコンの勝手な思い込みであり、コーディネイターの意義が強化人間と同列であると勘違いして
いるがゆえの発言である。勿論、ルナマリアがそんなカクリコンの暴言を聞いて黙っていられるわけが無かった。

『黙れ、この親父ぃッ!』

 女性が癇癪を起こすと、思わぬ痛手を被る事がある。そういう憤りの力がMSにまで伝染するような事例は
聞いた事が無いが、インパルスはそれを体現しているかのようにシールドに叩きつけられているバイアランの
ビームサーベルを弾き返した。

「パワーが上がっているだと!?」

 バッテリー型MSには、無駄にエネルギーを浪費しないように、コンピューターによって機体のバランスに
合わせたエネルギー消費制御が為されていた。
 しかし、そのままでは核融合炉搭載型MSに対抗できないと考えたルナマリアは、メカニックにリミッターを
解除できるような調整を施してもらっていた。それにより、一時的に電力を大量に消費する事でそれらのMS
に対抗できるパワーを搾り出す事に成功していた。勿論、リスクとしての稼働時間の大幅な短縮はあるが、
このように使いどころを弁えていれば非常に有効な手段だった。
 そんな事を知る由も無いカクリコンは、インパルスが強化されていたと思い込まされ、それまでの見識を
改める必要があった。最早、インパルスの性能はガンダムMk-Uと同等、いや、機動力の面で考えれば
それ以上かもしれない。
 インパルスに押し返され、更にビームライフルで攻撃された。その時点でルナマリアはリミッターを元に
戻していたのだが、そんな事がカクリコンに分かるはずも無い。なるべく迂闊な接近は避けようと後退しな
がらかわす。

「電池のくせに生意気な!」
120 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 22:02:10 ID:???
 続けて下方からガンダムMk-Uのビーム攻撃。それを後方宙返りをするように翻ってかわし、カクリコン
は味方の様子に注意を向けた。
 どうやらザフトの作戦のペースに乗せられている。乱戦と言えば聞こえは悪いが、それに持ち込む事こそ
がザフトの作戦とも言えるのだろう。初手にて連合軍のパニックを誘い、その隙に付け込んで短期決戦を
挑んでいる。実際、最初の大量のベースジャバーがザフトの戦力を見誤らせていただけで、実働部隊の数は
それほど多くは無い。それなのに、今はまだザフトの方が優勢に見えるのは、連合軍が混乱から立ち直るのが
遅れているのと、ダミーから無人特攻機へと変質したベースジャバーへの対応に追われているからだ。

 アビスの姿は、既に影も形も無い。インパルスはその追撃を遂に諦め、改めて交戦の姿勢を見せた。
 鼻を鳴らして口の端を上げる。それは緊張か武者震いか。カクリコンはガンダムMk-Uとインパルスを交互
に睨み、操縦桿を握り直した。


 コロニー・レーザーを目指す敵の流れの中を、まるで川を上る鮭のように逆走する。この作戦が危険を顧み
ない背水の陣で挑んでいる事の証左であるように、ザフトは艦隊へ直接攻撃を仕掛けようというスティングや
マウアーを阻止しようとするような敵は殆ど皆無と言っても良かった。
 最早、彼等には勝利しか道は残されていない。こうして先制攻撃を仕掛けてきた時点でコロニー・レーザー
がプラントを狙う事は確定的になり、それを阻止する事でしか彼等の生存権を確保する術は無いのだから。

「馬鹿な事よ」

 ザフトのMSは一切こちらに見向きもしない。まるで洗脳を受けて自我を失くしたかのように、ひたすら突き
進んでいく光景を目の当たりにし、退路を断ったザフトの玉砕覚悟とも言える進撃をスティングは空恐ろしく
感じた。

 もしかしたら、このまま楽にザフト艦隊に接触できるかも知れない。――しかし、そう考えていたスティング
の甘い目論見は、脆くも崩れ去った。レジェンドが追撃を掛けてきたからだ。

「敵さんは捨て身か! なら、こいつさえ何とか出来れば!」

 レジェンドは凄まじい密度のビーム攻撃を放ってくる。10基のドラグーンは縦横無尽に飛び回り、総数26門
のビームは格子状に交錯してスティング達のこれ以上の進撃を許さない。それはカオスの機動兵装ポッド
よりも遥かに小型で、より機敏に動く。同じドラグーン・システムを使う兵器だというのに、この違いは何なの
か。カオスは元々ザフトの試作機を奪取したものであるが、それにしても機動兵装ポッドのやっつけっぷりは
酷い。

「こっちも使うか? ――しかし」

 機動兵装ポッドを使おうにも、このビームの嵐の中では直ぐに撃破されてしまうような気がした。それに
機動兵装ポッドはカオスの高機動力の根幹を成すパーツでもある。リスクを冒してまでして使う必要は無い
と、思い直した。
 しかし、このままでは前に進めやしない。それならば倒すしか手は無いわけだが、今のところ突破口が
見えない。何とかドラグーンのビームをかわしながら反撃を試みてはいるのだが、レジェンドは両手甲から
光波防御シールドを出して鉄壁の防御を展開している。
 メガ粒子砲すら寄せ付けないビームシールドに、オールレンジ攻撃のドラグーン――完全に足止めを
食ってしまっている事を意識せざるを得なかった。

「マウアー、どうする! こいつをぶちのめさなけりゃ、先に行かれそうにないぞ! ――ん?」
121 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 22:03:52 ID:???
 マウアーに呼びかけた時だった。展開されていたドラグーンが一斉にレジェンドへ戻っていき、バック・パック
とサイド・アーマーへとそれぞれにリセットされて行った。
 当然の帰結だった。ドラグーンのエネルギーが永遠であるわけが無いのだから、当然それをチャージする
瞬間は訪れる。
 願っても無い瞬間だった。ここでレジェンドを無視する事も可能だが、ドラグーンのチャージが完了すれば
また同じ事の繰り返しである。それでは時間が掛かりすぎるし、カオスのエネルギーだって考えなければ
ならない。レジェンドは、ここで倒しておくべきだと判断した。

「チャンスだ!」

 スティング叫ぶや否や、MA形態のカオスがカリドゥスを吐きながらレジェンドへと突撃した。レジェンドは
カリドゥスをビームシールで無効化したが、カオスはその勢いのままMS形態へと戻り、腰部から二振りの
ビームサーベルを引き抜いた。

「マウアー!」

 大きく両腕を振り上げ、2本のビームサーベルを同時に振り下ろす。当然、ビームシールドで防がれるわけ
だが、レジェンドはカオスの攻撃によって動きを封じられた格好になった。その隙を、マウアーが逃すはずが
無い。
 MA形態のガブスレイが、レジェンドの周りを旋回して背後を取る。MS形態へと戻ってフェダーイン・ライフル
をその背に向けて構えた。
 背後からのロックオン警告。レイは忌々しげに視線を後方に流した。

「――舐めるな!」

 バック・パックに接続されたままのドラグーンが、一斉に後ろを向く。両サイドの標準型の6基が、狙撃し
ようと目論むガブスレイに意表を突くビームを放った。
 同時に、叩きつけられているビームサーベルを押し返し、カオスを蹴り飛ばした。そして続けざまにバラ
ンスを崩したカオスにビームライフルを向けるも、ビームを撃つよりも先にガブスレイがカオスを引っ張って
その場を離脱していった。

「後ろは当てられなかったか!」

 ビームライフルで狙撃するも、一発も当たらない。ガブスレイは嘲笑うようにビームをかわした。

「――チィッ!」

 業を煮やし、舌打ちをした時だった。鮮やかなビームの束が横合いからレジェンドを強襲した。
 ハッとして横に振り向けば、青い円盤状の物体が高速で迫っていた。それは人型へと姿を変え、両の腕で
抱えた長得物を振りかざす。穂先に輝く赤が、憎しみの色を湛えていた。

「アビス!?」

 両肩に貝殻を半分ずつ乗せた様なシルエット。ブルーで統一されたその「G」は、大きく構えたビームランス
をレジェンドに振り下ろしてきた。

『ライラの仇、思い知れッ!』
122 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 22:06:02 ID:???
 激しくいきり立った声を聞いた。レジェンドはビームシールドを突き出し、長いリーチを誇るその穂先を受け
止める。

『謝って許されると思うなよ! てめーは僕が殺す!』

 私情を剥き出しにした声だった。レイは反論こそしなかったが、表情に不快感を浮かべた。噛み締める
奥歯が軋む。操縦桿を握る手がキュッと音を立てた。
 レジェンドは背部に接続されたままのドラグーンを前面に向け、アビスを攻撃。しかし、アビスはドラグーン
の砲口が向くと同時に正面から消え、ビームは虚空を切り裂くのみだった。エクステンデッドの反応速度が
為せる業か、鈍重なアビスでよくも反応できたものだと思う。

「意外と!」

 レイが一瞬ガブスレイとカオスを気にした。その隙を突いて、アビスが今度は上方からビームランスを
レジェンドの頭目掛けて振り下ろしてくる。レジェンドはそれをひらりと避けると、間合いを取ろうと後ろに
飛び退いた。しかし、アビスはそれを見抜いていたのか、鋭い反応で追い縋る。
 狙っているのは、アビスだけではない。ガブスレイもカオスもこの場での決着を望んでいるらしく、アビス
の攻撃と連携して襲い掛かってきた。ドラグーンがチャージ中なのをいい事に、機動兵装ポッドが水を得た
魚のように活発にビーム砲を撃つ。ガブスレイのメガ粒子砲は最も警戒しなければならない攻撃で、それに
向ける注意は何よりも強かった。アビスはその激情任せの動きで、接近戦に拘ってくる。その気迫は、レイ
をたじろがせるだけの迫力を持っていた。

 アビスが乱入してきた事は、マウアーとスティングにとっても好材料であった。バイアランの姿が見えない
のが気掛かりだが、しかし対レジェンドのこの状況に於いて、形勢上は完全に有利に立った事には違いない。
レジェンドは今一度ドラグーンを全展開してマウアー達を散らしに掛かって来たが、アビスが加わった分
だけ分散したドラグーンの攻撃は最早、脅威ではない。それに、どうせドラグーンは展開していられる時間
も長くないし、エネルギーの再チャージの為にいずれ戻さなければならなくなる。このままであれば、レジェ
ンドを撃墜すると言う金星を得ると共に、ザフト艦隊へのルートが開けるものと思われた。
 しかし、それも長くは続かなかった。ザフトの最優先目標がコロニー・レーザーである以上、レジェンドの
増援は無いと思っていた矢先、その増援がやって来たのである。
 レジェンドがドラグーンの再チャージに入った時、それはやって来た。目を疑うほど眩い黄金色に輝く物体
は、やはりドラグーンであった。

「金色のビット? ――スティング!」
『オーブの金色だ。リフレクションするG!』
「G? 何でもかんでもガンダムにでっち上げて!」

 マウアーはコンソール・パネルを操作してワイプにその姿を表示させた。そのマシンは全身をゴールドに
輝かせていて、彼女にエゥーゴの百式を想起させた。しかし、百式のゴールドはほぼ伊達であったのに対し、
そのMS――アカツキの「ヤタノカガミ」にはしっかりとした意味があった。鏡面と見紛うほどに磨かれたゴールド
の装甲は、何とカオスのカリドゥスすら容易く跳ね返してしまったのだ。その驚異的性能は、同じ金色の
百式とは比べ物にならないほど優れたものだった。
 各3門、全7基のドラグーンが紛れ込んでくる。総数21門はレジェンドよりも少ないが、問題なのはレジェンド
のインターバルとアカツキのインターバルが交互にやってくる事で、それは常にドラグーンの脅威に晒され
ていなければならない事を意味していた。
 網の目のように細かいビームの中を、紙一重で潜り抜ける。ガブスレイもカオスもダメージを受けなかった
が、唯一機動力で劣るアビスだけは巨大な肩部アーマーに被弾していた。しかし、それでも尚、アビスは
レジェンドに挑みかかる。ライラの仇を討つという執念が、彼を突き動かしていた。
123 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 22:07:26 ID:???
「金色にはメガ粒子砲が効く。スティングはアウルの援護に回れ」

 味方の数では有利だが、攻撃の手数では圧倒的に劣る。双方を同時に相手にしていては、こちらがジリ貧
になるだけだ。マウアーはスティングに告げると、ガブスレイをアカツキへと向けた。

『俺にアウルのお守りをやれって言うのか?』
「あなたはジェリドが認めた男でしょう?」
『――やってやるよ』

 アカツキにフェダーイン・ライフルで牽制砲撃を掛ける。その間に、カオスがMA形態となってアビスの援護
へと駆けた。マウアーは接近してくるアカツキを睨み、操縦桿を握る手に力を込めた。

 その姿を目の当たりにした時、遂にこの瞬間が訪れた事を知った。それは、ネオ=ロアノークがこうして
ザフトとして戦う以上、避けては通れない道だったのかもしれない。

「正直、会いたくなかったぜ、お前たちとは」

 後ろめたい気持ちはある。メサイア攻防戦でジェリドを始めとするかつての3人の仲間が戦死したという事実
を知った時、残念に思う気持ちはあった。しかし、ネオが既に大西洋連邦軍内で死亡扱いされた存在である
ならば、今の彼の存在理由はステラを守る事だけにある。その為に戦う事に対して、躊躇いは無かった。
 ガブスレイがフェダーイン・ライフルで牽制を掛けながら接近し、左手に持たせたビームサーベルを逆水平
に薙ぎ払う。アカツキはそれを後方に飛び退いて回避するも、即座にMAに変形したガブスレイがアカツキの
背後に回り、再びMS形態となってビームサーベルを振るう。ネオはそれに辛うじて反応し、振り返りざまに
殴りつけるようにしてシールドを構え、ガブスレイの斬撃を防いだ。

「流石だな、マウアー少尉!」
『何だと!?』

 物臭なネオにとって、後腐れは残したくないものだった。それ故に、自ら正体を明かす。
 ガブスレイがネオの声に驚いていた。当然だ。死んだはずの人間が生きていたのだから。ネオは少し卑怯
と思いつつも、マウアーが怯んだ隙にビームサーベルを弾き返し、ビームライフルを連射した。「百雷」と名付
けられた速射性に優れたビームライフルは、ドラグーンほどではないにしても厚い弾幕を張る事が可能だ。
 ガブスレイが堪らず後退し、アカツキとの間合いを取る。そしてMAに変形してアカツキの周囲を旋回し始
めた。

『今の声は、ロアノーク大佐!? 生きていらしたのか!』
「色々、縁があってな」

 ガブスレイの動きを目で追いながら、ヘルメットに手を添えてマウアーからの通信に耳を傾ける。

『なら、お聞きしたい。何故その様なMSに乗っていらっしゃる。ザフトに加担しているように見受けられるが?』
「言い訳はしないさ。だがな、軍は私を陥れたという事実だけは知っておいて貰おう!」

 ガブスレイの動きが、一段と鋭くなった。マウアーの感情が、驚嘆から激憤に変わったからだ。
124 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 22:10:02 ID:???
 ガブスレイは、ネオを翻弄する程に高い機動力を見せた。アカツキはドラグーンを1基射出し、ビーム
ライフルと連携してガブスレイを狙った。しかし、ガブスレイはビームライフルの攻撃を容易くかわし、
尚且つMS形態へ変形してくるりと反転し、背後から迫るドラグーンをフェダーイン・ライフルで狙撃した。
「ヤタノカガミ」と言えど、メガ粒子砲だけは防げない。ドラグーンを破壊して前に向き直ると、ガブスレイは
再びMAへと変形してその標的をアカツキへと戻した。

『正気で寝返ったのか! あの子達を裏切って!』

 ビームライフルで迎撃するも、ヒョイヒョイとかわされてあっという間に接近される。
 MS形態に変形したガブスレイが左足のクローアームでアカツキの右腕を掴んだ。

「軍を追われた私とステラは、コーディネイターの国に居場所を求めるしかなかったんだ」
『ステラだと?』
「そういうところで命を繋いでいく行く為には、やって見せなければならん事がある!」
『女を言い訳の道具に使うような男が、スティングやアウルの親だけは面倒臭がって置いて、今さら父親
ごっこか!』

 フェダーイン・ライフルが突き付けられる。その瞬間、アカツキのバック・パックが上に持ち上がってドラ
グーンがその肩から迫り出した。しかし、ガブスレイは素早く身を仰け反らせてビームをかわすと、カウ
ンターで蹴りを突き入れてきた。
 衝撃で揺れるコックピットで、操縦桿を強く握って堪える。

「クッ――何ぃ?」

 閃きが迸る。それは、レイを感じたという事。

「何故だ? アウルを前にして、レイが戸惑う? ――そうか! ライラ大尉はアイツが……」

 事情が分かってしまう。ネオとしては複雑な心境だった。
 どうにかしてこの戦いを止めさせたい。しかし、ガブスレイはそんな余裕をネオに与えない。

「レイ、お前はここを退け! そのままじゃ、お前は――」

 ガブスレイのビームをシールドで受けて、ネオは叫ぶ。しかし、それはネオの独り善がり。レジェンドは
カオスとアビスの為されるがままに押されていった。



 カクリコンが何を考えているのか、エマは分からなかった。彼女がまだティターンズに在籍していた頃、
カクリコンと言う男はその組織の性質に見合った尊大な態度を持っていた。何と言っても、当時連邦軍の
中佐であったブライト=ノアを唐突に殴りつけたような男なのである。ティターンズは連邦軍内でも特別扱い
だったのだが、やり過ぎにも思える行為に対して何の咎めも無かったバスク=オムの態度には、エマは
当時から疑問を持っていた。しかし、そんな体質のティターンズに所属していたカクリコンが、こうしてたった
一人で、しかも決死を覚悟しているかのような立ち振る舞いをしている事が、エマを混乱させていた。

「これがカクリコンだと言うの?」
125 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 22:13:04 ID:???
 インパルスは先ほどのバイアランの砲撃によってフォース・シルエットの羽を一枚失っていた。飾り羽の
様なものだったから大した支障は無いと思うが、問題なのはインパルスのエネルギーである。バッテリー
容量の関係上、何度もバイアランと交戦させるわけにも行かず、もしカクリコンがインパルスを集中的に
狙ってくるようであれば、場合によっては形勢を逆転されかねない。
 この問題を解決する方法は、出来るだけカクリコンの注意をエマの方に向けさせるか、若しくは手早く
バイアランを撃破するかである。しかし、カクリコンの実力は知っているから、後者の案はあまり現実的で
あるとは言えない。
 ならば、選択肢は一つ。注意をガンダムMk-Uに向けさせ、時間を掛けてでも確実にルナマリアと協力
してバイアランを撃破する――それしかあり得ない。

「Mk-Uが前に出る。ルナマリアは援護に――」

 言い終わる前にバイアランが先に攻撃を仕掛けてきた。メガ粒子砲がガンダムMk-Uの右肩を掠め、
火花を散らす。エマが怯んだその隙に、バイアランはビームサーベルでインパルスへ躍り掛かった。

「しまった!?」

 考えすぎが仇になった。エマはすかさずビームライフルでバイアランを狙った。

「ルナマリアに近すぎる……ッ!」

 照準内にバイアランを納めた。しかし、ビーラムライフルのトリガーを引く指は躊躇われた。バイアランは
インパルスと重なっていて、誤射の恐怖をエマに与えたからだ。迂闊に発砲すれば、最悪の場合同士討ち
である。

 エマが手を出せない事を、カクリコンは分かっていた。元々理想主義者のエマは、当初からティターンズ
に馴染めない性格の女性だったのだ。そういう彼女が、味方の犠牲を厭わずに戦えるわけが無い。

「エマ、何故撃たん? エゥーゴに寝返った女が、今さら誤射を怖がるわけが無かろう!」

 態々エマの耳に届くようにオープン回線を開く。カクリコンがそう言葉にするのは、エマに対する皮肉と
挑発である。ワイプで表示してあるガンダムMk-Uは、そんなカクリコンの言葉に窮したように身を固くして
いた。エマの苦虫を噛み潰したような表情が目に浮かぶ。
 それよりも眼前のインパルスである。これが、中々にはしっこい。ビームサーベルを振り回して追い掛け
回すも、巧みにかわしながら距離を詰めさせない。正面を突き合わせたままバックで逃げるインパルスを、
カクリコンは眉を顰めて睨んだ。

 カクリコンの側から見れば、インパルスは余裕に見えただろう。しかし、そのコックピットに座るルナマリア
にしてみれば、とてもではないが余裕などと口が裂けても言えなかった。
 本当の意味での息つく間もないというのは、こういう状況を指して使う言葉なのだろう。縦横無尽に振られ
るビームサーベルは、瞬きをした瞬間に致命傷を受けそうなほどに差し迫った攻撃を繰り出してくる。張り
付かれたら終わりだと必死に抵抗のビームライフルを撃つが、バイアランはそれをかわしながらビーム
サーベルを振るってくる。思わず呼吸を忘れそうになりながら、ルナマリアは恐怖をひたすらに堪えていた。

「うっ……! クッ……!」

 喉にモノが詰まったような呻き声が多くなる。バイアランは次第にインパルスの動きに慣れてきているの
か、ビームサーベルの斬撃の鋭さが一段と増した。これ以上かわし続けるのは、至難の業だった。
126 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 22:15:42 ID:???
 胸部の機関砲で回避運動を誘い、ビームライフルの先端でその動きをトレースする。一瞬だけでも動きを
止めてくれれば、そこを狙い撃つつもりで居た。
 バイアランはインパルスを回り込むように横スライドし、右斜め下のあたりに来たところで逆噴射をかけた。
一瞬の硬直時間――ルナマリアの眼光が煌いた。

「――そこッ!」

 しかし、ビームライフルのトリガーを引こうとした瞬間だった。閃きがインパルスの横を劈いたかと思うと、
一瞬の内にビームライフルを破壊されてしまった。やったのは、バイアランのメガ粒子砲だった。

「嘘でしょ!?」

 咄嗟に壊れたビームライフルを手放し、シールドを構えてその爆発から身を守る。
 カクリコンが狙っていたのは、この瞬間だった。ガンダムMk-Uからビーム攻撃を受けたが、それを嘲る
ようにしてやり過ごすと、一気にインパルスとの距離を詰めてビームサーベルで斬りかかった。
 ルナマリアの耳に、悲鳴のようにして響く警報。バイアランが右腕を伸ばしてインパルスの左肩にマニピュ
レーターを添えると、メガ粒子砲の一閃が装甲を貫いて左腕を破壊した。その衝撃に目を細めて堪え、次の
瞬間、彼女の瞳にはビームサーベルを振りかざすバイアランの姿が映りこんだ。
 ギリッと歯を砕くように食いしばる。頬の筋肉が上がり、眉間に皺が寄った。

「そう簡単にぃッ!」

 ルナマリアの指が、電光石火のタッチで次々とスイッチを入れていく。そして親指で捩じ込むように最後の
スイッチを押すと、エネルギー残量を示すゲージが加速度的に減り始めた。
 インパルスが右肩越しからビームサーベルの柄を取り出す。発生した焔の刃はバイアランのそれと重なり、
激しい光を撒き散らした。

「ううぅぅッ!」

 肩部と肘の駆動関節が軋む。リミッターを解除するリスクは、駆動系にも負担となって表れていた。しかも、
エネルギーの減り方も半端ではない。あっという間に危険領域にまで残量が減り、機体機能を最優先する
ためのセーフティが発動した。フェイズ・シフト装甲への電力供給が断たれ、インパルスは石灰色へと色を
変化させた。

「あっ!」

 エネルギーが尽きるのが先か、それとも――考えている間に、遂に肘関節が限界を迎えてもげ落ちた。
 満身創痍。そこへ、更にバイアランの前蹴りが入って後方へ突き飛ばされる。
 激しい揺れに、全身を強張らせる。今のルナマリアに出来る事は、インパルスの姿勢を立て直す事だけ。
しかし、絶体絶命の状況にあって、ルナマリアは一瞬たりとも現実から目を逸らしたりはしなかった。

 インパルスは仕留めた――カクリコンがそう確信したのは、石灰色になってパワーダウンした事が外見的
にハッキリと見て取れたからだ。しかも、武器を持つためのマニピュレーターは左右とも破壊済みと来た。

「止めを頂こうか!」

 スロットルを全開にし、バイアランを加速させる。正面のインパルスの姿がグングンと大きくなり、左腕の
ビームサーベルを大きく後ろに構えた。
127 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 22:19:09 ID:???
 横殴りの水平斬り。狙いは勿論、MSの一番の急所であるコックピットである。機体ごとぶつけるように薙ぎ
払われるビームサーベルの切っ先が、インパルスの脇腹へと伸びる。
 その瞬間、不意にインパルスの双眸が瞬いたような気がした。まるで策が成った時に光らせる策士の眼光
のように。途端、カクリコンの本能が急に危険を予感し始めた。
 光の帯が、獲物目掛けて牙を剥く。しかし、その獰猛な牙は獲物を仕留めることは無かった。インパルス
は、普通のMSではあり得ない機能を披露したからだ。カクリコンは思わず目を剥いた。

「バカなッ!?」

 腰部で奇麗に上下に分断した。それはコア・スプレンダーとチェスト、レッグの3つのパーツから成るイン
パルスだからこそ可能な芸当。緊急時に一回だけ相手の虚を突くギャンブル回避。ルナマリアは、それを
この場面で一発で成功させた。
 バイアランのビームサーベルが、上下に分かたれたインパルスの隙間を斬る。その先の姿を、カクリコン
の目は捉えていた。左のマニピュレーターでフォアグリップを握り、しっかりとビームライフルを構えた狙撃
者。そのデュアル・アイの右側がビームライフルのターゲット・センサーと重なった。

「ま、Mk-Uは……エマぁッ!」

 銃口が光を放ち、光のジャベリンはインパルスの上下の隙間を縫ってバイアランを貫いていった。2発、
3発――狙いに、狂いは無い。腕をもがれ、頭部を破壊され、胴を貫かれる。砕かれるようにして直撃を
受けたバイアランは、激しくスパークを放って後方に押し流された。

「ぬぅおおおおぉぉぉぉッ!」

 コックピットの中に光が拡がる。光の向こうに、窓辺で髪をかき上げる女性の後ろ姿が見えた気がした。
その女性が振り返って微笑みを見せてくれた時、カクリコンの中に後悔は無かった。


128 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 22:23:14 ID:???
 ニュータイプは、視覚から得られる情報以外に直感を加味して相手を見ている。普通の人間ならば直感は
曖昧なソースでしかなく、それを信じる事は博打でしかないのだが、ニュータイプの場合、それは信憑性を
持つにまで至っていた。
 ニュータイプは常人よりも身体機能的に反射神経が優れていると思われがちだが、実際は普通の人が持つ
反射神経と変わらない。肉体的には、普通の人間と何ら変わらないのだ。ただ、直感が実用性を持つほどに
まで発達しているから、相手の動きを予測し、その分だけ素早く対応できる、と言うだけの話だった。

 その認識力の拡大は、人の新たな可能性を提示したものだった。しかし、1年戦争以降、それが戦場に於い
てアドバンテージとなる事を知ってしまったオールドタイプは、ニュータイプを戦争の道具として見做すように
なってしまった。アムロ=レイが自身を、存在そのものの証明として実証したニュータイプは、皮肉にも彼の
想いとは裏腹に人類の新たな進化の形としては認識されず、オールドタイプの存在を脅かす戦争上手の
化け物という誤った側面を植え付ける結果となってしまった。
 そんな時代の流れの中で覚醒した。そして、それに負けまいと可能性を求め続けた。しかし、いつしか
その想いは、カミーユ自身を蝕んでいく病因となってしまっていた。彼がどれだけ希望を掴もうと可能性を
求めても、得られた結果に悲しい事しかなかったから。皮肉だったのは、そういう経験を繰り返すたびに
自身のニュータイプ的感性が肥大化して行った事。そして、最後には遂に堪えきれなくなった。

 しかし、それはもう過去の事。そう考えられるようになって、少し自分の考え方が変わったような気がして
いた。格好付けて言うならば、「心の精錬」が出来るようになったとでも言って置こうか。心に溜め込んだ
ストレスを、過去の事として割り切り、削ぎ落とす事で心を健やかに保とうというメンタル的な防衛機能を
育ててきた。まだ至らない所もあるが、その獲得しようとしているセンスは、ゲーツとの出来事に関して良い
方向に作用してくれた。その時、カミーユはニュータイプというものが本気で考えなければいけない事が
分かったような気がした。
 それは、誰でも思いつく、ごく自然で当たり前な感情かも知れない。しかし、そういうセンスを身に着けた
時、カミーユの目にそれまで以上に宇宙の黒が眩しく見えるようになった。

 別のものを見ているようだった。鳴り止まないノイズは、戦場で命を削って戦う人々の叫び声。それは
カミーユの耳ではなく心に直接響く。誰のものとも知れない思念が当たり構わず飛び交い、見境無くカミーユ
の中に入り込んではその人生の断片を見せる。今しがたも、地球に残してきた恋人を想って誰かが散った。
 何もかもが分かりすぎていた。何所で誰が何をしてどうなったのか、言葉では言い表せられないイメージ
のようなものが思惟の中に浮かんでは消えていく。先鋭化した感性は、さながら性感帯を思わせる敏感な
感度を持っていた。その中で命が叫び声を上げる度に、カミーユの感性はより研ぎ澄まされていく。
 カミーユが視覚から得る情報量は、並みの人間と同じである。それに比べれば、キラやシンの様なコーディ
ネイターは同じ条件でもカミーユより遥かに膨大な量の情報を把握できていた。しかし、先鋭化されたカミーユ
の感性は、それをも凌ぐ。それも普通の人間では絶対に取得不可能な情報までをも取り込んでいた。

 言葉が聞こえた。――正確には言葉など聞こえていないのだが、カミーユの脳はそれを言葉だと判断した。
 全天周モニターはビームと爆発の光、それに漆黒の空間を飛び回るスラスター光を映し出していた。コン
ピューターの分析無しでは、何がどうなっているのかなどサッパリ分からないだろう。しかし、カミーユには
一つ一つのMSの動きがハッキリと「把握できて(見えて)」いた。
 脳天を貫く閃きが迸る。言葉や画を介さず、それはカミーユの脳にダイレクトに「解らせる」。

「キラが捕まった!」
『お兄ちゃん!?』
『カミーユ!』

 一際戦闘の光が激しいところに、自然とカミーユの視線が吸い込まれた。目がその姿を見ていなくても、
カミーユの脳にはしっかりと「見えて」いた。
129通常の名無しさんの3倍:2009/07/17(金) 22:28:41 ID:RWEetaPq
130携帯 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 22:30:34 ID:???
やば、とちったorz
只今さるさん中です
131通常の名無しさんの3倍:2009/07/17(金) 22:34:02 ID:???
リアル投下キター
支援
132通常の名無しさんの3倍:2009/07/17(金) 22:46:21 ID:???
支援は利くのか
133通常の名無しさんの3倍:2009/07/17(金) 22:52:07 ID:VyEAwt98
保守する事が出来るか?
134 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 23:02:01 ID:???
 ウェイブライダーが大きく方向転換を行った。それを、ギャプランとセイバーが慌てたように追随した。


 ザフト艦隊はそのものが囮だった。キラのミーティアは、その象徴である。ミーティアが派手に暴れれば
暴れるほど連合軍は危機を意識し、注意力がザフト艦隊に集中する。それは即ちメサイアがコロニー・
レーザーに向かっている事を隠蔽できる時間が延びるということであり、彼の働き如何によってこの作戦の
成否が左右されると言っても差し支えが無かった。
 しかし今、ミーティアの意味は著しく低下していた。手練のヒルダ隊が出現した事により、ミーティアの
働きは完封されている状態だった。
 キラは憤っていた。焦りがある以上にカツを殺したヒルダ達が邪魔をしているという現状が、キラの感情
を逆撫でしていた。

「ラクスはあなた達が裏切る事を知っていなかった。――何故ですか!」

 3方向から囲うようにハンブラビが飛び交っている。キラはミーティアの加速度を上げるが、旋回能力の
低さから直ぐに追いつかれてしまう。小回りで数段上の性能を発揮するハンブラビは、嫌がらせのように
纏わり付いては背部ビーム・キャノンで攻撃をしてくる。既に、ミーティアはその攻撃で装甲をズタズタに
されていた。
 機能低下を引き起こすようなダメージを受けていないのは、キラの思い通りである。ワザと受けた損傷は、
それが選び得る最良の選択肢だったからだ。しかし、キラが苛立っている理由には、ヒルダ達が立ち塞がって
いるという現実にあった。ハンブラビのビームが彼を照らす度に、その瞳を憎しみ色に染めていく。

「ラクスの為にと嘯(うそぶ)いて! 言ってる事もやってる事も違うのにあなた達は!」

 左右の大型ビームソードを横に振り上げ、両サイドのハンブラビを退かせる。刹那、ストライク・フリーダム
の正面にハンブラビが舞い降り、不敵にモノアイを輝かせた。

『ラクス様をかどわかし、戦いへと駆り立てた貴様が、あたし達にどうこう言う権利があると思ってか!』
「あなた達は自分の都合でラクスを決め付けているに過ぎません!」

 ハンブラビが海ヘビを構えるよりも早く、ストライク・フリーダムの腹部カリドゥスが咆哮を上げた。
 しかし、ハンブラビは素早く避けると即座に正面から離脱して行った。キラは舌打ちをし、目でその姿を
追いかける。

「だから、自分の都合だけで戦争をしようとするから、裏切りだって簡単に出来ちゃうんじゃないですか!」
『戦争は都合だよ。都合で戦い、都合で敵を滅ぼし、都合で益を奪って都合で自らを繁栄させる。人類が
繰り返してきた事だ!』

 ヒルダの声に翻弄されるように上下左右に首を振る。横からのビーム攻撃に目を細め、左右の操縦桿を
細かく調整してミーティアに回避運動をさせる。

『――けどね、そういう旧き時代は、もう終わりにしなくちゃいけない。人類が、いつまでも己のエゴで争いを
続けていて良いわけが無いだろう』
「何を言っているんだ……!?」
『だから、ラクス様に地球圏を治めていただく。さすれば、その先に待っているのは天下泰平の世である。
あの方の気高き理想が、世界から争いを無くすのだ! あたし達は平和を築く為に戦っているのだ。その
為に人事を尽くして、何が悪いか!』
135 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 23:07:10 ID:???
 偶像崇拝もここまで進めば立派なものだろうか――勿論、皮肉としてである。ヒルダの口から湧き出るよう
に出てくる言葉に、キラは一つも頷ける部分が無かった。ラクスを信じているという部分では同じはずなの
に、どうしてこうも話が通じないのだろう。それは、彼女を人間として見ているか崇めるべき神として見ている
かの違いだろう。キラはほとほと呆れるしかなかった。

「酒も飲まずに酔っ払う人がありますか! ラクスはあなた達の人形なんかじゃありませんよ!」
『なら、貴様は平和を要らんとほざくのだな? その様な輩に、あの御方は任せられんな!』
「そうじゃないでしょう! あなたの言っている事は――!」

 争いはキラの嫌いなものだ。こうしてMSで戦っているのも、必要だと判断したからに過ぎない。ヒルダの
言うとおり、平和になるのならそれに越した事は無いと思う。しかし、何かが違う。それはヒルダの言って
いる事が違うのではなくて、ヒルダの行為や彼女そのものに違和感を抱いた。ただ、キラはそれを言葉に
表す事が出来なくて、言いよどんだ。

『――それ以前に、あなたは人として間違っている!』

 突如、通信回線に割って入る声が響いた。それはどこまでもストレートで、ズバリとキラの言いたかった
事を言ってのけた。
 その瞬間、複数のビームがハンブラビ隊に降り注ぎ、ミーティアの付近から後退をさせた。
 レーダーに映る反応が、3機。味方の識別を示している。モニターに見えるのは、ウェイブライダーを先頭
に左右をギャプランとセイバーで固める、アークエンジェルからの増援部隊だった。

「カミーユ!?」
『平和の為に戦うというあなたの言葉は、嘘っぱちだ! あなたのやっている事は、自分の理想の為に人を
傷付けているだけの行為じゃないですか! そんな人が平和などと――それはあなたが、あなた自身の
言っていた旧き時代の人間だという、証拠です!』

 まるで、それまでのキラとヒルダの会話を聞いていたかのようなカミーユの言葉だった。――いや、それ
以上に心の中を覗いていたのではないかと錯覚するほど的を射た言葉だった。キラはヘルメットに手を
添えてカミーユの言葉に聞き入る。

「どうしたんだ、カミーユは……?」
『止まらないで、キラ!』

 セイバーがビームライフルでハンブラビを牽制しながら寄って来た。そのマニピュレーターがミーティア
に接触すると、サブモニターにレコアの顔が表示された。

『シンが敵の展開をディレイさせている時よ。私がサポートします。ミーティアは先を急ぎましょう』
「そうする必要があるということなの? …了解です」

 ヒルダ達に対して後ろ髪を引かれる気持ちはある。しかし、状況はキラの独り善がりを許しはしない。
 セイバーがミーティアにマニピュレーターを引っ掛けた。コンピューター表示でそれを確認すると、キラ
はスロットル・レバーを一息に奥まで押し込んでミーティアを加速させた。


 セイバーを乗せて、ミーティアは先行していった。しかし、キラの邪魔をしていたハンブラビはそれを追う
ような素振りは見せない。どうやら、ミーティアが目的ではなかったようだ。
136 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 23:11:12 ID:???
『あたし達が間違っているだと?』

 ビーム攻撃を受けて、少し後ろに下がる。ロザミアの援護が入り、1機は追い払ったが、続けて違うハンブ
ラビがビームサーベルで襲い掛かってくる。Ζガンダムは左手にビームサーベルを握り、それを防ぐとビーム
ライフルの砲口をコックピットへと突きつけた。

「ラクスを手段にして、自分達だけの理想を築き上げようとしているじゃないですか! それは、我侭なん
ですよ!」
『何を言う!』

 ハンブラビが素早く飛び退き、カミーユの撃ったビームは外れた。側面から狙う別のハンブラビを頭部
機関砲で牽制し、再び正面から襲い掛かってくるヒルダ機に対して構える。

『世界は平和を欲しがっているじゃないか! なら、ラクス様に頂点に立って頂くというのが筋というもの!』
「どうしてそうなるんだ!?」

 振り下ろされるクローをシールドに噛ませる。ヒルダのハンブラビはそのままΖガンダムを押し込んで宇宙
を流れた。

「あなたは他人の気持ちを思いやる事が出来ない人だ! あの人は、あなたの考えているような事を望んじゃ
いませんよ!」
『貴様がラクス様を語るんじゃない! あの方には我々の為に人身御供になるという、覚悟がある!』
「勝手な事を! 独り善がりで世界が平和になるものか!」

 この、思い込みの気迫というのがヒルダを強者たらしめている要因だろうか。誰の言葉も聞き入れず、自分
の考えの中だけで世界を創ってしまっている。それは、宗教の怖い部分のようにも感じられた。カミーユには、
頑なに閉ざされたヒルダの心が言葉と共に露出しているように聞こえた。

「でぇいッ!」

 結構な距離を押し流された。Ζガンダムがハンブラビの腕を掴み、背負い投げの要領で投げ飛ばす。
 続けてカミーユは周囲を見回し、状況を確認した。ロザミアのギャプランも、他の2機のハンブラビの姿も
無い。どうやら、ヒルダと2人だけのようだ。

「は……!」

 ふと、ふわりと撫でられたような感触がした。それは、何となく知っている気配だった。

「近くで戦っているのが居る……ネオとレイか!」

 その方向を正確に察知し、目を向ける。バーニアの光と、ビームを撃ち合う交戦の光が小さく見えた。
 感じたのは、その存在だけではない。カミーユのセンサーは、同時に気の乱れのようなものを感じ取って
いた。それは、ネオとレイがお互いを認識し合えるという、ニュータイプ的なセンスを持っていたからだろう。
カミーユの思惟がその2人の思惟の間に介在し、おぼろげながらも迷い気のようなものを感じ取った。

「この感覚が本当なら――」
137 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 23:15:49 ID:???
 カミーユはハンブラビにビームライフルで牽制を入れると、即時Ζガンダムをウェイブライダーに変形させ
て加速させた。

 牽制攻撃を軽やかな身のこなしでかわす。しかし、その気になってヒルダが構えた瞬間、Ζガンダムは
突如として気が変わったかのように別の場所に向かって加速し始めた。それを見て、ヒルダは怒りに肩を
震わせる。

「奴は、あたしが目の前に居るってのに無視をする!? 叩きに来たんじゃないのか!」

 まるでヒルダが取るに足らない相手であるかのように、Ζガンダムはあっさりと去っていった。それは
ヒルダにとっては屈辱でしかなかった。
 しかし、目的を忘れてはいけない。ヒルダ達の最優先目標はラクスを「救出」することであって、敵を殲滅
する事ではない。いくらカミーユが気に食わなくとも、それに固執していては大儀を見失うだろう。そういう
冷静さは、常に持ち続けていられるように心掛けているつもりだ。

「チッ! ――それにしても、マーズもヘルベルトも分かっているのだろうな?」

 ここはマーズとヘルベルトの到着を待つのが最善の策。彼らも、そういうヒルダの思惑を察しているはず。
 考えている内に、2人のハンブラビが追いついてきた。思ったとおり、2人ともヒルダの考えを分かってくれ
ていた。

「来たか」
『済まないヒルダ。ギャプランの始末は出来なかった』
「構わんさ。この戦いのあたし達は、それが本質じゃないんだからね」

 謝るヘルベルトに、ヒルダはそう言って笑い返す。
 それから直ぐに3機はヒルダを先頭に先へ進んでいった。



 気圧されているのだろうか。レジェンドがその性能を発揮すれば、いかにカオスとアビスが相手だろうと
苦戦するような事は無い。それはパイロットがエクステンデッドであっても変わらない。レイには、それだけ
の揺るぎない自信があった。
 しかし今、現実としてレジェンドは苦戦を強いられている。それは即ち、レジェンドの性能をレイが引き出せ
ていないということになる。

「何故だ? 何故、こうも――」

 調子が上がらない原因が、今一つ分からない。薬の時間には、いくら何でも早すぎる。身体の衰えが、
そんなに急激に進行する事も考えにくいし、レジェンドの調整に関してもメカニックとよく相談した上で決め
たものだ。間違っているとは思えない。
 カオスがビームライフルを連射する。レイは反応してレジェンドを後退させたが、いつもよりも鈍いような
気がした。

『そらぁッ! 逃げられると思うなよ!』

 律儀にも声を掛けてから襲ってきてくれるアビスが、今はありがたい。レイはレジェンドを反転させ、背後
から襲い掛かってくるアビスのビームランスをビームシールドで受け止めた。
138 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 23:21:40 ID:???
『抵抗すんなよ! テメェはバカみてーに僕にやられちまえばいーんだよ!』

 このアビスのパイロットの声に、じりじりと脳が焼けるような苛立ちを感じる。どこまでも自分の仇を討つ
ことしか考えていないこの声が、レイの苛立ちを増幅させているのだろうか。そういう冷静でない自分の
感情を、信じたくは無いが。

「クッ! 戦場で個人的感傷を――!」

 サイドアーマーのドラグーン2基を飛ばして、アビスを攻撃する。すると、アビスは途端にビームランスを
納めて後方に飛び退いた。鈍重なアビスが見せる軽快なアクションに、アビスばかりが調子良く見えて、
レイは益々苛立ちを募らせる。
 カオスが今度はミサイルをばら撒いてきた。レイはドラグーンでその全てを撃ち落す。
 これまでの動きを見る限り、カオスは完全にアビスのフォローに回っていると見ていいだろう。フォワード
はあくまでアビスであり、パターンとしてこの後にアビスからの攻撃があるはず――方々に視線を向け、
貝のように肩部のアーマーを左右に開くアビスの姿をキャッチした。

『ライラ、今、仇を討ってやる!』

 ――その時、感じていたのが不快感の正体が判明した。

「バカな、俺は……!」

 その声に、惑わされたのか。この、デュランダルを失った自分と同じ喪失感を持っているかも知れない
声に、レイはいつの間にか共感を覚えてしまっていた。それは、アビスを倒すべきか倒さざるべきかという
葛藤をしていたという事だった。調子が上がらなかったのは、その葛藤が原因だったのだ。
 しかし、そんなものは自らの運命を受け入れた時に捨てたはずだった。肉体の性質的に、常人の何倍もの
スピードで人生を駆け抜けていくレイに、迷っている時間など無い。葛藤など、無駄の極みのはずだった。

(何だ? ラウもギルも居ないのに、どうして僕はこの世界にしがみつくんだ……?)

 ふと過ぎった考えが、レイの身体を硬直させた。それは、レイにとって余りにも当然の疑問。
 このまま、アビスに討たれるべきだと考えた。デュランダルは死に、討つべき仇であるジブリールは既に
存在しない。このまま生きても、滑稽なだけだ。それなら、こんな世界にいつまでもしがみ付いていないで、
一刻も早くデュランダルやクルーゼと再会したいと願った。
 一斉射撃の構えを見せるアビスの砲口が、エネルギーを蓄えて光を放つ。その光が、レイの無表情を照らした。

「甲斐の無いまま生きていても、惰性にしかならない。それなら、いっその事――」

 呟き、諦めたようにそっと操縦桿から手を離した。最期に、アビスの恨みを晴らさせてやろう――そんな
優しくも安っぽい無責任な気持ちのまま、レイは目蓋を下ろす。

《生きるんだろ!》

 ――ただ、雷に打たれたような感覚だった。その声は殴りつけられるようにして脳に響き、一瞬にしてレイ
の全身を駆け巡った。

 記憶を、見せられた。それは近いようで遠い記憶。抜け殻となったレイの、心の虚無へと吸い込まれて
いった言葉たち。忘れたわけではない。ただ、思い出さないようにはしていた。
139 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 23:25:00 ID:???
 しかし、思い出してしまった。棺に納められ、土気色をして固まったデュランダルは、まるで蝋人形のよう
だった。手を胸の前で組まされ、死に化粧を施されて奇麗にされているその亡骸は、レイの心の中を空っぽ
にしてしまった。

 ――ギルは、あなたの事を一番気に掛けていたわ。だからかしらね、周囲の反対を押し切ってミネルバの
 艦長に私を指名したのは。お陰で色々言われもしたけど、それはギルの私への信頼の証と受け取ったわ。
 悔しいけど、全部あなたの為だったのよ。

 女性の温もりだった。膝を抱えて丸くなるレイの肩を抱いて、タリアはそう呟いていた。
 心の中にぽっかりと開いた穴。デュランダルの想いは分かった。しかし、何を目的に生きていけば良いの
か、サッパリと分からない。この失敗作の偽りの命に、如何ほどの価値があるのだろう。その答えを、自分
では見つけられなかった。

 ――頼まれてくれんか? ステラの事。

 出撃前、前触れも無くそう告げた鼻に傷を持つ男は、何を思ってこんな事を言ってきたのだろうか。投げ
遣りになりつつある自分に気を利かせたつもりならば、それは余計なお世話である。いつ終わりが来るとも
知れない命に、何ができると言うのか。それに、何よりも鼻持ちならないネオの頼み事など聞いてやるつも
りなど無いし、よしんば応えたとしてもそれが生き抜く理由などには――

 ――生き抜いて見せてくれよ……レイ……。

 デュランダルが居たから、生きてきたのだろうか。そんな単純な理由で、過酷な運命を乗り切ろうと考え
たのだろうか。
 ――違うはずだ。デュランダルの存在に自分が生かされていたのではない。デュランダルに報いようと
する自分の意思が、自分を生かしていたのだ。それは心の底からデュランダルの事を敬慕していたから
こその想いだ。そこに、自分の命のような偽りは無い。
 ならば、デュランダルの期待に応えられる自分でありたい。その気持ちは十分に生きる理由になるし、
そのついでに、ネオの頼みを聞いてやってもいいだろう。「ラウ=ル=クルーゼ」でも、「アル=ダ=フラガ」
でもない。それが、「レイ=ザ=バレル」という人間なのだから。

 目蓋を上げる。途端にレイの意識は記憶の中から逆流して、一息に現実へと戻ってきた。
 開きかけの指が再び操縦桿を握る。くすんでいた瞳が強い光を宿すと同時に、レジェンドの双眸もまた、
輝きを取り戻した。

「まだ……死ねない!」

 レジェンドが両手の甲を相手に見せるように突き出す。そのソリドゥス・フルゴールから2つの光の膜が
広がり、重なって一つの大きなビームシールドとなった。
 そこへアビスの一斉射撃が降り注ぐ。一気に飲み込まんと最大出力で放たれたそれが、レジェンドを
押し込む。しかし、ビームシールドはカリドゥスの強力な光にも揺るがない。

「ギルがくれたレジェンドがこんなもので――何ッ!?」

 後ろから襲い来るカオスに気付くのが遅れた。咄嗟にドラグーンを後方に向けて迎撃しようとしたが、
その前に組み付かれる。コックピットを激しい揺れが襲い、レイは身体にベルトを食い込ませながら
レジェンドを羽交い絞めにするカオスを睨んだ。
140 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 23:29:34 ID:???
「貴様!」
『やれ、アウル!』

 スティングが叫ぶよりも先に、アウルはレジェンドに飛び掛っていた。
 襲い来るアビスが復讐者のぎらついた光をその双眸に湛えている。ビームランスを持つ右腕が、その矛先
をレジェンドに向けた。
 しかし、その時アビスの右腕を一条のビームが貫いた。

『な、何なんだよ! もう少しだったのに!』
『止まるな、アウル! 敵は狙ってきているぞ!』

 アビスの右腕は破壊され、カオスも動揺している。レジェンドはすかさず後ろのカオスに肘鉄を入れ、引き
剥がした。

「――Ζ?」

 射線元へ視線を投げかける。1機の戦闘機が変形し、MSへと変化した。インパルスやデスティニーに見られ
るような赤、青、白のトリコロール・カラーの「G」。一部ではガンダムと呼ばれているそのMSは、砲身の長い
ビームライフルでアビスを追い捲る。
 Ζガンダムから、波動のような力を感じた。それはレイに道を示す切欠となった声の印象と共通している。
通信回線から聞こえるような機械的で文明的なものではなく、テレパシーのような有機的な柔らかさを持った
声だった。その感触からは、ネオを認識する感覚とはまた違う印象を受けた。

「あの声は、カミーユだったのか?」

 激しくも優しい気性だったように思う。そのお陰で、レイは自分が何者でどうあるべきかが分かったような
気がした。ふと、カミーユにはそういう力を備わっているのではないかと、非現実的な事を考えたりもする。
それは決して世迷言などではなく、真実味のある推測に思えた。
 Ζガンダムはビームライフルを連射してカオスとアビスに牽制を掛け続けている。レイもそれに倣い、
ビームライフルを構えさせた。

 レジェンドから迷いが消えた。ドラグーンを全て展開し、カオスとアビスを攻撃する。それまで苦戦していた
のが嘘のように、圧倒していた。カミーユはそれに合わせて攻撃していれば良かった。
 正確なコントロールのドラグーンを、高機動力が売りのカオスはともかく、重火力MSのアビスはかわしきれ
ない。1発のビームが肩アーマーを掠ると、それを皮切りにしたように次々と被弾した。装甲の厚さで致命傷
とは行かなかったが、大きく体勢を崩した。
 カミーユはその隙を狙って、アビスに躍り掛かった。Ζガンダムがロング・ビームサーベルを構え、斬り
掛かる。――不意に、ノイズのような疼きを額に感じた。

「敵……何だ!?」

 リニア・シート左上のランプが点灯し、ブザーが鳴って敵の接近を告げる。ビームがΖガンダムを掠め、
その輝きに気付いてカミーユが左に目を向けた時には、既に目前にまで迫られていた。
 Ζガンダムは咄嗟にシールドを構える。敵は突進して、そのまま組み付いてきた。
 ドシン、とコックピットが衝撃で揺れる。眼前のモニターで、褐色の頭部が興奮したようにその赤い単眼
を瞬かせた。

「ガブスレイって――迂闊じゃないのか!?」
141 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 23:32:32 ID:???
『スティングとアウルの邪魔はさせない!』

 強い思惟を感じた。それは女性独特の母性的なもの。我が子の為にあらゆる犠牲をいとわないような、
ある意味では独善的なものかも知れない。しかし、それを赤の他人に行使できる人間は、何者をも寄せ
付けない強い情念の力を持っている。マウアーとは、そういう女性だった。

『見ていてね、ジェリド。あなたの無念は、私が晴らしてみせる!』
「ジェリド……!?」

 そして、彼女には背負うものがあった。それは、志半ばで散っていったジェリドの代わりに、彼の宿願で
あったカミーユ討伐を成し遂げるという事である。
 しかし、彼女は死んだ人間の妄執を我が事とし、怨念返しを代行しようとしているだけに過ぎない。それ
は結局は独善的な自己満足に過ぎず、死んだ人間が報われるかどうかは決して分からない事だ。
 マウアー程の賢い女性ならば、そういう事は分かるはず。しかし、ジェリドへの強すぎる想いがカミーユ
討伐を使命のように思わせ、彼女から冷静さを奪っていた。そして、その余りにも重いプレッシャーからの
強迫観念が、彼女をこのような急進的な行為に走らせた。
 カミーユには、そんなマウアーが余りにも破滅的に思えてしまった。

「――無謀な!」

 ガブスレイを払い除け、ビームライフルを構える。砲口から放たれた光の矢が、ガブスレイの右腕を撃ち
抜き、破壊した。

 その瞬間、マウアーは何かから自分を解放するようにヘルメットのバイザーを上げた。

「この程度で!」

 ガブスレイは素早く左手にビームサーベルを取り、ビーム・キャノンを撃ちながら再びΖガンダムに肉薄
した。Ζガンダムはビームライフルで抵抗したが、マウアーはそれを掻い潜って懐に潜り込む。Ζガンダム
も左手にビームサーベルを抜いたが、遅い。ビームサーベルをその脇腹を目掛けて振り上げた。

「カミーユ=ビダン! ジェリドに成り代わり、その首、貰い受ける!」
『あなた、そんな事じゃ――』
「問答無用!」

 有無を言わさず、光刃がΖガンダムの胴に迫る。この瞬間、勝敗は決した。遂に、ジェリドの宿願が果たさ
れる時がきたのだ。これで、彼の無念も報われる――筈だった。
 ところが、勝利を確信するマウアーの想いとは裏腹に、その切っ先はΖガンダムを斬る事は無かったので
ある。ガブスレイの左腕は、Ζガンダムを斬る直前に、別の方向から飛来したビームによって破壊されてし
まった。
 吹き飛んだ腕が持つビームサーベルが、蝋燭の灯火が風に吹かれた様に掻き消える。すかさず不意討ち
を受けた射線方向に視線を投げると、そこには金色のドラグーンがこちらに砲口を向けて佇んでいた。

「ネオ=ロアノーク……!」

 一瞬、目を離した隙だった。Ζガンダムのビームサーベルが、ガブスレイの胸へと突き立てられた。
142 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 23:34:19 ID:???
 ――マウアーの目が、誰かの影を見る。それは幻でしかなかったのかも知れないが、彼女は今さら
自分の感覚器官を疑うような事はしなかった。例え、それが夢幻の類だったとしても、良い。こうして再び
会えた事が、マウアーにとっては幸せだったのだから。

「そこに居たのか、ジェリド。今、あなたと一緒に――」

 マウアーの心が解放される。ジェリドが、手を伸ばした。マウアーはその手を握り、微笑んだ。


「――響いた!」

 ガブスレイが爆散する。その瞬間、カミーユは自分の思惟の中を駆け抜ける何かを感じた。

「そういう情念を持つ女(ひと)だったのか? マウアーって……」

 ティターンズだからどうこう、という論法は通じない。そこにあったのは、普通の人間が誰でも持ち得る
当たり前の愛情だった。

 かつての同僚の最期を、傍から見ていたネオの目に、涙は無い。そういう情けは、袂を分かつ事になった
時点で捨てた。だから、結果的にこういう結末になってしまった事は、残念ではあるが、仕方の無い事だと
割り切っていた。
 しかし、だからと言って積極的に殲滅しようなどと考えるほどネオは冷酷非情では無かった。マウアーの
最期を見届けると、即座に振り返ってレイとスティング、アウルの戦いへと目を向けた。そこでは、今正に
レジェンドが2人を倒そうかという瞬間が迫っていた。

 アビスはドラグーンの攻撃を受けて殆どの砲門を潰されていた。カオスがそれをカバーするべく、なけな
しの機動兵装ポッドを使ってオールレンジ攻撃を試みたが、迷いを吹っ切ったレイの前に為す術も無く破壊
されていた。
 レイにとって、状況は圧倒的有利。ガブスレイが沈んだ今、ファントム・ペインとの勝敗は火を見るよりも
明らかだ。レイは最後の決着を付けるべく、ドラグーンを一斉展開した。
 カオスとアビスの周辺を包囲し、誘導するように徐々に追い込む。そして、遂に2機が背中合わせに一箇所
に纏まった。レイはドラグーンのコントロールの確実性を高める為、眉間に皺を寄せて集中力を高める。

「これで――」

 レイがドラグーンに命令を送ろうとした時だった。徐にカオスがこちらに頭部を振り向けると、その双眸が
恨めしげに光を放つ。

『そうやって、俺達の何もかもを奪っていくのか、貴様らは!』

 その声が、一瞬、レイを思い留まらせる。聞きさえしなければ、一思いに撃墜していただろう。
 恨みがましく、カオスが縋るように手を伸ばす。戦慄きか、それとも激憤の表れなのか――それは、
ぎちぎちとオイルが切れたように小刻みに震えていた。
 しかし、敵なのだ。アビスはレイを仇とし、激しい憎悪を募らせている。今ここで決着をつけなければ、
いつかは自分がやられる事になるかも知れない。自分が生きる為に、やるしかないのだ。
 レイは頭を振って2機を睨み直し、今度こそドラグーンに撃墜命令を送る――

『その2人は、ステラと同じだ!』
143 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 23:35:34 ID:???
 ――フラガの血が持つ、宿命だった。ドラグーンがカオスとアビスに襲い掛かった瞬間、その声は聞こえ
てきた。そして、その一瞬で、レイはネオのスティングとアウルに対する想いを知ってしまう。それは、幸運
だったのだろうか、不幸だったのだろうか。

「――ぅおおおおぉぉぉぉッ!」

 歪む表情が、レイの心の苦悶を表していた。そして、彼の嘆いているような雄叫びと共に、ドラグーンは
一斉にカオスとアビスにビームを撃ち始めた。
 嵐のように入り乱れるビームの軌跡の数々が、カオスとアビスをバラバラに削り取っていく。腕が飛び、
脚がもがれ、頭が弾ける――やがてビームが止むと、胴部のみとなった姿の2機が残された。
 それは戦闘宙域から逃れるように、遠くへと流れていく。そして、その背中には最低限のバーニア・スラ
スターが残されていた。

 ドラグーンがレジェンドの背中のバック・パックに再セットされる。レジェンドは、そのまま虚ろに佇むだけ
だった。
 レイは、敢えて止めを刺さなかった――刺せなかった。そういう事情を、ネオは理屈ではなく直感で理解
していた。

「甘さじゃないぜ、レイ。その判断が間違いじゃ無かったって事、分かってくれよな」

 ネオが言葉でどうこう言った所で、それはレイにとって何の意味ももたらさない。彼が自分自身で答えを
出さなければ、それは本当の意味での答えにはならないだろうから。
 今までデュランダルを主体にして生きてきたレイは、これからは自分を主体にして生きていかなければな
らなくなった。その中で、今回のような経験をたくさんする事になるだろう。限られた時間の中でその全ての
答えを導き出す事は出来ないかもしれないが、せめて最期の時には幸せであったと思える人生を送って
欲しい。ネオは、レイにそうであって欲しい思っているし、きっとデュランダルもそう願っているに違いない。

「――お嬢ちゃんか」

 やおら、目線をレジェンドからΖガンダムに移した。いつの間にか駆けつけたギャプランと合流していて、
マニピュレーター同士を組み合わせて何やら会話をしているらしい。
 どうせロザミアの事だ。恐らくははぐれてしまった事に対する文句でも言っているのだろう。ギャプラン
がその外見に似合わず子供っぽくモノアイを明滅させている様を見て、容易に想像できた。
 やがてマニピュレーターを離すと、Ζガンダムからのコールが入って通信回線が繋がった。

『艦隊が近くに来ています。僕とロザミィはこのままキラとレコアさんを追いますけど――』

 カミーユが視線をコロニー・レーザーの方に向けて告げる。ネオは一つ頷いた。

「そうしてくれ。私とレイは艦隊の援護に回る」
『頼みます。――ロザミィ!』

 カミーユがそう告げると、Ζガンダムはウェイブライダー形態に変形した。ギャプランも同様にMA形態と
なり、そのままバーニア・スラスターから青白の尾を伸ばして飛翔して行った。
144携帯 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/17(金) 23:39:23 ID:???
残り1レスでまたもやさるさんorz
145 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 00:01:09 ID:???
「ん――アークエンジェル……」

 カミーユ達が先行していったのとほぼ時を同じくして、艦隊が接近してくる姿が見えた。その中に、一際
目立つ白い巨体がある。他に青と赤のアクセントが加えられ、まるで動物の前足の様なカタパルト部分を
持つ特徴的なシルエット。それに、2年前の大戦で挙げた驚異的な戦果から称された「不沈艦」の異名。

「マリュー=ラミアス、ムウの女――か……」

 失われた記憶のカギを握るであろう、その艦長の名を呟く。しかし、ネオは幾度かラミアスと顔を合わせ
たことがあったが、記憶を取り戻す糸口すらつかめないままだった。そういう自分がもどかしいし、滑稽で
あるようにも思えた。

「最近、口を利いてなかったな……クソッ」

 気になる存在と疎遠になっている現状を、「はぁ〜」と盛大に溜息をついて嘆く。それからレジェンドに
艦隊の援護に入る旨を伝えて、アカツキをアークエンジェルへと向かわせた。
146 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 00:02:49 ID:???
今回は以上です
では、また明日
147通常の名無しさんの3倍:2009/07/18(土) 00:13:00 ID:???
     ,r‐、       , -、
      !  ヽ      /  }
     ヽ、 ,! -─‐- 、{  ノ
      /。 。    r`'、´
    / ,.-─- 、   ヽ、.ヽ
     !/     ヽ、._, ニ|
.    {    保守      ,'
     ヽ          /,ソ
.     ヽ、.____r',/

148通常の名無しさんの3倍:2009/07/18(土) 00:24:51 ID:???
マウアー…合掌
149通常の名無しさんの3倍:2009/07/18(土) 00:48:24 ID:???
150通常の名無しさんの3倍:2009/07/18(土) 00:50:08 ID:???
みんな死んでいく…
こんな死に方…
嬉しいのかよ…
満足なのかよ…
誰が、誰が喜ぶって言うんだよ…
うわああああああああああああああああん
って展開だな
乙です
151通常の名無しさんの3倍:2009/07/18(土) 00:51:13 ID:???
ヒルダも散り際に誰かを見るんだろうか
152通常の名無しさんの3倍:2009/07/18(土) 00:52:18 ID:???
みんな死んじゃった
乙です
相変わらず素晴らしいです
153通常の名無しさんの3倍:2009/07/18(土) 02:37:39 ID:???
カクリコン、アンタしっかりと軍人してたぜ!
・・・しかし切ないぜ
154通常の名無しさんの3倍:2009/07/18(土) 08:27:21 ID:???
ここでインパルス分離キタコレ
ルナマリアがやるのはいいね
バッテリー機のリミッター解除ってのは面白い手だと思った

>それにしても機動兵装ポッドのやっつけっぷりは酷い。
本当にw

マウアーとジェリドがホント
鏡のように描かれてて……切ない
カクリコンがアメリアを想って今度は後悔しないで逝けたのが印象的だった

ネオとレイとか父親ごっこの件とか
本編でもマジこういう感じがよかったよ

カミーユ頑張れ!超がんがれ
155通常の名無しさんの3倍:2009/07/18(土) 13:05:14 ID:???
超乙です!
156 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 16:40:14 ID:???
  『光の後』


 決戦だからだろうか。戦場に渦巻く人々の感情が、シロッコの脳髄に苛立ちを与えていた。しかも、それが
シロッコの勘を鈍らせるように働いているから、一入であった。

「フィルターをかけている奴が居る。カミーユ=ビダンか……」

 タイタニアのコックピットに入り込み、リニア・シートに腰を埋めてからシロッコはそう呟いた。

 ――妙な不快感が、ずっとあった。それは戦いが始まる前から感じていた事で、タイタニアで出撃して宇宙
に飛び出してからその予感は更に強まった。想像以上に手強いザフトに対してではない。ザフトの侵攻方向
とは別の方向から、シロッコに苛立ちを与える何かが接近しつつある。それが何であるのかはまだ判然として
いなかった。
 白兵戦が行われている戦域は、まだコロニー・レーザーとは距離がある。しかし、ザフトが徐々に近づきつつ
ある事が確かな事は、明らかだった。連合軍は、完全に後手に回ってしまっている。
 タイタニアはガーティー・ルーの艦橋部分にマニピュレーターを置き、接触回線を開いた。

「敵のペースに乗せられすぎだな。コロニー・レーザーは、いつでも火を入れられる態勢のまま待機だ」
『撃たないので?』
「考える事ではある」

 ガーティー・ルー艦長は、少々意外そうに訊ねてきた。ザフトが侵攻してきた事で、連合軍側にコロニー・
レーザーを撃つ義が出来た。勿論、使えば戦争は終わるという事はシロッコにも分かっている。しかし、シロッコ
は艦長の疑問を是としなかった。

「しかし、ザフトから来てくれたのならば、使わずに済む方策というものもあろう」
『連中の目論見は、コロニー・レーザーの直接占拠にありましょう。この動きは――』
「そうとも限らんぞ」
『――と、仰いますと?』

 含みのある言い方をして、シロッコはコロニー・レーザーの正面宙域へと目を向けた。それから交戦宙域
へと視線を流して、再びワイプの中の艦長に目線を戻す。

「前線に赴くのは、その探りを入れる為でもある。コロニー・レーザーの正面宙域からは、目を離すなよ」
『了解です』
「ん――」

 ザフトの動きに引っかかるものを感じていた。それは危機意識というものだろう。
 シロッコは操縦桿を傾かせ、タイタニアを加速させた。



 違う世界を見せられているような感覚だった。レコアの目に飛び込んでくるのは、森林の中を飛ぶ猛禽類が
見るような光景。違うのは、立ち塞がるMSを林立する樹木と擬えれば、その間を飛ぶ猛禽類であるミーティア
は樹木をバッタバッタと薙ぎ倒しながら突き進んでいるという事である。
 セイバーはミーティアにしがみ付き、申し訳程度の支援砲撃を繰り返していた。しかし、体感した事の無い
スピードの中で正確な射撃を行えるわけが無く、レコアの狙いは外れてばかりだった。
157通常の名無しさんの3倍:2009/07/18(土) 16:41:49 ID:???
支援
158 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 16:42:48 ID:???
 MSの操縦を極めた者が見せる世界は、レコアの想像を遥かに超えていた。キラが見せた世界は、それまで
レコアが見てきたどんな光景ともまるで次元の違うものだった。

「このスピード感……私の知っている速さでは無いわ」

 敵の姿を追うのに必死になる。バッテリー動力のセイバーは無駄撃ちが出来ないのだから、どうしても
消極的になってしまう。そのジレンマもあってか、レコアは瞳にストレスを感じていた。針の穴になかなか
糸が通らない時の感覚だ。眉間の皺はより深みを増し、レコアは鬱憤を晴らすかのように自分のヘルメット
を叩いた。

「これが、コズミック・イラ最強と謳われたキラの住む世界か……」
『レコアさん、離れて!』
「えっ?」

 叱られるように言われ、セイバーはミーティアから離脱した。――と言うよりも、振り落とされた。それは
有無を言わさない瞬間の出来事で、セイバーが離脱した瞬間、ミーティアの右ビームソードがビームに
一閃され、貫かれた。即座にパージして爆発による二次被害を回避したミーティアだったが、続けて襲い
来るビームが更に左ビームソードをも破壊した。
 キラはミーティアの放棄を即断した。ストライク・フリーダムはミーティアから離脱し、射線元へとカリドゥ
スを放つ。レコアはそれに倣ってアムフォルタスで支援砲撃をした。
 その瞬間、耳元に囁きが聞こえたような気がした。それは撫でられるような感触で、言葉よりも更に
ハッキリとした伝播手段のようにも感じられた。

「カミーユ? ――シロッコが来てるという事なの?」

 耳元に手を添え、視線を方々に動かす。意識をそちらの方に引っ張られ、セイバーは思わず立ち尽くした。
 反撃のメガ粒子砲が劈く。ストライク・フリーダムがセイバーの正面に入ってビームシールドでそれを防ぐ
と、マニピュレーターを胸部に添え当てて接触回線を繋いできた。頭部が振り向くと、ストライク・フリーダム
の双眸がレコアに正気を取り戻させるように瞬いた。

『敵が来ています! シロッコなんですよ!』
「やはりシロッコ……キラも聞いて?」
『聞いて……って? ――はッ!』

 キラが驚きの声を漏らすのと殆ど同時に、セイバーのセンサーにも反応があった。オートでワイプが開かれ、
捕捉した機影を表示する。そこに、想像したとおりの白亜のマシンが威風堂々とした出で立ちで姿を現した。
 瞬間、航空機形態のムラサメ3機小隊が、2人を追い越していった。進行方向にはタイタニア。ミサイルを
射出ながら突撃し、集中攻撃を行う。しかし、タイタニアはそのミサイルの雨の中をすり抜けるようにして切り
抜けると、デュアル・ビームガンを1発撃って一撃の下に先頭のムラサメを撃墜した。

『後続が? ――そのMSに手出しは駄目です!』

 キラが必死に叫ぶも、ムラサメはそのままミサイルを撃ちながらタイタニアに直進した。タイタニアもそれに
応えるように突進する。尚も嘲笑うようにミサイルをかわし、すれ違う瞬間、両肩部のサブ・マニピュレーター
が展開し、袖口からビームサーベルを取り出すと、そのまま並列編隊を組む2機のムラサメを同時に斬り捨てた。
 真っ二つにされて流れるムラサメ。程なく熱球へと変わると、その光をバックに純白を逆行で黒く染めた
タイタニアの姿が浮かび上がった。モノアイだけが紅く滲み、まるで悪魔の出で立ちの様に見える。それが
シロッコの本性だろうか。レコアはその男に従っていた過去を思い出し、そぞろに身を震わせた。
159通常の名無しさんの3倍:2009/07/18(土) 16:43:15 ID:???
しえーん
160 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 16:44:45 ID:???
『落とされた! ――よくもッ!』

 ストライク・フリーダムが飛び出した。2丁のビームライフルを交互に速射しながら、タイタニアの懐に
飛び込む。タイタニアがそれを嫌うようにエルボーで突き放すと、ストライク・フリーダムは即座にドラ
グーンを全展開してタイタニアを狙った。
 背中から薄く青白い膜が蝶の羽のように広がり、破格の機動力を発揮する。ドラグーンが牽制となり、
ストライク・フリーダムは両手をビームサーベルに持ち替えて、再度タイタニアへ接近戦を挑む。
 左のビームサーベルを振り上げ、頭部機関砲を撃つ。タイタニアが体捌きでそれをかわすと、デュアル・
ビームガンで迎撃した。するとストライク・フリーダムはビームシールドでそれを防ぎ、右のビームサーベル
を横薙ぎに振るう。タイタニアが左手のビームソードを逆手に持たせてそれを止めると、眩い干渉波の光を
放ち、2機を光の中に隠した。

《戦いに身を馴染ませたな? だから迂闊なのだよ》
《迂闊? ……僕がか!》

「何?」

 脳に、言葉が走った――ように感じた。傍受音声からも同じ会話の内容が聞こえているから、もしかしたら
気のせいなのかも知れない。しかし、レコアの頭に直接響いたようにも聞こえた2人の声は、通信回線独特
のノイズが全く聞こえなかった。それはテレパシーと呼べるものなのだろう。レコアは驚きに目を丸くし、息を
詰まらせた。
 援護のビームを撃つ。タイタニアはストライク・フリーダムのビームサーベルを弾いて身を退かせた。

《より、好戦的になったと言える。下劣な品性を磨いて、何とする?》
《僕のアイデンティティは僕が決める! あなたの干渉など!》

「また聞こえた! ――これは、カミーユが私に聞かせている事?」

 なぜか、カミーユが近くに迫っている事をレコアは分かっていた。ニュータイプとは、いつもこんな風に
声が聞こえていたのだろうか。初めての経験に狼狽するレコアの目の前で、シロッコの優勢は続く。
 タイタニアがファンネルを放出した。ドラグーンよりも遥かに小型でより機敏に動く。展開している8基の
ドラグーンを一瞬にして駆逐すると、その光景に数瞬窮したストライク・フリーダムへと突撃してビーム
ソードを薙いだ。

《それで何が出来た? 誰を救えた? 人よりも優れた能力を持つ者には、民を教導する義務がある。
それから逃げた貴様に、自らのアイデンティティを決める資格などあると思ってか》
《僕に本当にそんな力があるのなら、僕のやるべき事はあなたを倒して戦争を終わらせる事です!》
《そうやって自らの敵を排除して得られた偽りの平和の果てに、この戦争が起こったのだよ》
《け、結果論だ! そんな事……ッ!》

「キラが呑まれる? ――あぁッ!?」

 重ねた刃を撥ね退けられ、少し後退したストライク・フリーダムに、隠し腕がその両肩を掴んでホールド
した。そしてタイタニアはデュアル・ビームガンの砲口をストライク・フリーダムの腹部に突きつけたが、
トリガーを引く素振りは見せなかった。
161 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 16:45:57 ID:???
 それは、いつでもキラを倒せるというシロッコの自信をアピールする行為だろうか。そんな余裕を感じ
取ったのか、キラは咄嗟にサブ・マニピュレーターを振り払ってタイタニアの正面から離脱した。そして
ビームライフルを連射したが、タイタニアにはまるで掠りもしない。あたかも、見えないオーラの様なバリア
で守られているようだった。
 レコアはセイバーを突っ込ませ、タイタニアの横合いから追い捲るようにビームライフルを速射する。
タイタニアはファンネルを戻しながら身を退け、簡単にかわして見せた。
 元々当たるなどとは思っていない。キラの傍からシロッコを遠ざけられただけで十分だ。

「大丈夫、キラ!」
『れ、レコアさん……? 駄目です! コイツは危険すぎます!』
「シロッコの言葉に耳を貸しちゃ駄目よ。――そうか、だからカミーユは私に……」

 言いかけた時、別方向からの銃撃を受ける。どうやら、シロッコの増援らしい。レーダーに引っ掛かった
のはウインダムとダガーLの混成部隊。セイバーが手負いのストライク・フリーダムを庇いながら迎撃をする。
 その時、タイタニアが反転して先を急ごうとした。何か目的があるのだろうか。ただ、先ほどから感じて
いる嫌な予感が、このまま行かせてしまったら取り返しがつかなくなってしまうと警告していた。

「あたしがニュータイプになれたのなら、この勘は信じた方が良さそうだけれど――あっ!」

 レコアの不安が伝染したのか、キラが咄嗟にタイタニアを追った。

「キラ!? ――シロッコに引き摺られているんだわ、あの子。正気じゃない!」

 レコアにはシロッコに対する免疫が出来ているのかもしれない。一度その危険性に染まってしまっていた
が故に、今ではシロッコを冷静に見ていられる。しかし、キラはそうではない。責任を人一倍感じてしまう
ナイーブな性格の彼だからこそ、シロッコの術中に嵌りやすい。カミーユは、そんなキラをサポートさせる
為に2人の会話を聞かせていたのではないだろうかと考えた。
 背部モジュールを両脇に抱え込み、連射性の高いフォルティスで敵部隊を散らす。捨て置くようにダミーを
射出し、それにビームを撃ち込んで爆発させた。中身は閃光弾入りである。炸裂した閃光弾は強烈な光を
発し、その光で眩惑した敵の隙を突いて、セイバーはストライク・フリーダムを追った。

《私を追う意味を、分かっているのだろうな?》
《叩くべきは……あなただから!》

「向こうか!」

 索敵を掛ける必要は無かった。頭に響く声が、独りでにレコアに位置を報せるからだ。
 迷わずカメラを感じ取った方位に向ける。漆黒の中に2つのバーニアの軌跡が絡み合うように多角的機動
を描いて飛び回っていた。凄まじいビームの応酬は、しかし追いかけられている方が優勢に見える。

《違うな。貴様は、私に知られたくない何かを隠している。だから、追ってきた。違うか?》
《クッ……》
《私としては、訊く相手は誰でもいい。アスラン=ザラでも、ラクス=クラインでもな》
《くあああぁぁぁッ!》

 激しい嗚咽のような嘶きが聞こえる。キラの言葉にならない焦りと憤りが、綯い交ぜになった叫びだった。
 決定的ではないが、シロッコはメサイアの存在に感づき始めている。キラの苦悶を聞いて、更にその予感
を深めただろう。
162 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 16:47:23 ID:???
「キラ、しっかりしなさい! ――私が!」

 キラはメンタル的に追い詰められている。これ以上放って置けば、何を口走ってしまうか分かった
ものでは無い。
 レコアはアムフォルタスを撃ち、キラとシロッコの戦いの間にセイバーを飛び込ませた。ストライク・
フリーダムが一瞬、驚いたように身を仰け反らせる。

『な、何で来ちゃうんですかレコアさん! シロッコは僕が――』
「気をしっかりと持って! そんな事ではあの男の思う壺よ!」

 タイタニアが不敵にモノアイを瞬かせた。それはこの世ならざる者の輝き。フォルティスを連射して狙う
も、まるでこちらの心が見透かされているかのようにかわされる。逆にタイタニアのデュアル・ビームガン
から発せられたビームに右モジュールを破壊されてしまう。
 モジュールをパージし、即座にビームライフルを取って体勢を立て直す。シロッコは、レコアを見ていた。

『私を刺しに来たか、レコア?』
「お前が、一度でもそんな覚悟を持った事があってか!」

 中距離では、一撃が重いだけのアムフォルタスは使えない。ビームライフルとフォルティスの連射で
ビームを散らし、飽和攻撃にてタイタニアに反撃の隙を与えない。しかし、バッテリー機のセイバーは、
撃てば撃つだけエネルギーを消費し、その分だけ稼働時間は短縮されていく。長時間これだけの攻撃を
続ける事は不可能だ。レコアはエネルギーの残量にも気を配らねばならなかった。
 その時、ストライク・フリーダムが瞬時にタイタニアの背後に回り込み、一斉砲撃の構えを取った。まるで
瞬間移動をしたかのような機動力に、レコアの目ではその動きを追いきれなかった。そして、そのキラの
常人ならざる動きが、仇となる。
 シロッコが密かに口の端を上げる。キラの殺気は、背中が感じていた。一方、錯乱しかけているキラに、
それを見抜けるだけの冷静さは皆無だった。

「いっけぇッ!」

 ドバッと吐き出されるビームライフル、クスィフィアス、カリドゥスの一斉射撃。タイタニアはロール回転し、
ストライク・フリーダムの一斉射撃が襲い来る前に、射線から弾き出される様にして回避行動を取った。
 その瞬間、キラの表情が凍りついた。タイタニアが消えたその向こうに、セイバーが姿を現したからだ。
レコアは普通の人間である。キラの超人的な動きには、まるで反応できていなかった。
 それは、シロッコとの戦いに介入してきたレコアが悪いのか、それともレコアの動きに気を配れなかった
キラが悪いのか。考えるべきではない問いが、一瞬の内にキラの頭の中で堂々巡りを繰り返した。

「――あぁッ!」

 レコアも何とか回避しようと試みたが、結局、左脚部と右腕を貫かれる。ついでにクスィフィアスの直撃を
受け、大きく後方へ吹き飛ばされた。エネルギーゲージはその瞬間に大きく目盛りを下げ、激しく揺れる
機体にレコアは歯を食いしばって耐える。セイバーがフェイズ・シフト装甲でなかったら、今頃、命は無かった
だろう。
 一方、ストライク・フリーダムは構えたまま、硬直していた。

『レコアさん……ぼ、僕は……』
163 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 16:49:31 ID:???
 キラの声が震えている。混乱していたとはいえ、危うく味方を殺すところだったのだ。自分の仕出かしたミス
が、信じられなかったのだろう。その初めての経験に恐慌し、キラの錯乱は益々混迷の度合いを深めていた。
 サブモニターに呼び出したキラの表情は、精神病患者のようだった。虚ろな瞳は焦点が定まっておらず、
目に見えて揺れていた。半開きの口は打ち揚げられた魚のように蠕動し、唇からは潤いが消えていた。

「うっ!」

 操縦桿を握る腕に力を込める。その瞬間、刺す様な鋭い痛みが右脇腹の辺りから迸った。思わずレコアは
呻き声を上げ、目を細める。
 激しい熱を持っている感じがする。恐らくは肋骨の何本かをやってしまったのだろう。クスィフィアスの直撃を
受けた時に、衝撃で強く脇腹をぶつけた事を思い出す。

『レコアさん!』
「い、いいのよキラ……。何でもないの、気にしないで……」

 気丈に振舞ってみたが、生理現象だけは隠せない。激しい痛みに次々と溢れる冷たい汗は、キラに更なる
不安を与えてしまった。レコアの様子を見て、キラは余計に狼狽するだけだ。
 その時、上方から数発のビームがストライク・フリーダムを襲った。しかし、キラは激しく動揺しながらも
反応し、ビームシールドを展開してそれを防ぐ。それは戦士としての性か、強い生存本能か。身体に染み
付いた危機意識が、条件反射的にキラの身体を動かしたようだ。しかし、反撃をする素振りは見せなかった。
 そんなキラの不甲斐なさに苛立ちながらも、即座に射線元へと視線を上げる。そこに居たタイタニアが、
小ばかにする様にこちらを一瞥したかと思うと、身を翻して何処かへと行き去ろうとする。その不審な行動に、
レコアは眉を顰めた。

「背を向けた……? 本気で艦隊へ仕掛けようっての? ――キ、キラ!」

 シロッコがザフトの目論見を知りたがっているのは間違いない。そして、先程のキラとのやり取りを鑑みれば、
行き先が後方の艦隊である事に疑いは無い。シロッコを行かせてはならないと判断した。
 タイタニアが駆け出す。レコアはそれを認めると、直ぐにキラへと視線を向けた。

「行かせないで! シロッコはエターナルに……クッ!」
『し、しかしレコアさん!』

 声を出すだけで怪我に響く。思わず呻いてしまい、それを見かねたキラが駆け寄ろうとした。
 そんな時間は無駄でしかない。レコアは歯を食いしばって痛みを我慢し、モニターの中のキラを睨んだ。

「男の子でしょう! 私を怒らせないで! このまま、ラクスを危険に晒すつもりなの!?」
『あ……は、はいッ!』

 レコアの剣幕に煽られたのか焦ったのか、即座に青白い軌跡を残してストライク・フリーダムは飛翔した。
その華麗な姿とは裏腹に、キラの歯切れの悪い返事は余りにも頼り無い。あんな状態で大丈夫なのかと、
レコアは心配を募らせる。

「大丈夫よ、こんなの――平気なのよ、レコア! あなたは、この程度の痛みで立ち止まってはいけないの!」

 痛みを我慢できるかどうかは精神力の問題だと、自らを発奮させるように言い聞かせる。涙を堪え、呼吸を
震わせながら時間の経過と共に増す痛みを抑え込んだ。キラを一人だけで行かせてはならないと感じたから
だ。そして、レコアは噛み合わせた歯を擦り合わせ、ゆっくりとスロットルを開けた。
164 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 16:50:35 ID:???

 タイタニアが立ちはだかるザフトを薙ぎ倒しながら突き進む。キラがそれに追いつく事は、簡単だった。
 射程距離にタイタニアを捕捉し、背後からビームライフルを撃って足を止める。気付いたタイタニアが
振り返って、忌々しげにモノアイを瞬かせた。――とても不愉快な感じがした。

「止めてみせる! 僕の全てを賭けてでも!」

 キラの声を聞いて、シロッコはコックピットで鼻を鳴らした。

「身命を賭す、か? 笑わせてくれる。それでは賢いとは言えんな、少年!」

 タイタニアがファンネルが放出する。圧倒的な火線がキラに向かって降り注ぎ、彼の視界を光のシャワー
で埋め尽くす。鳩尾を拳で押し込まれたような重苦しいプレッシャーを受け、激しい精神的ゆさぶりを受ける。
少しでも気を抜いた瞬間、火線の全てが身を貫く事になるだろう。
 ギリギリに張り詰めた緊張の糸が、キラの精神的な最終防衛ラインを支えていた。光輝溢れる熱線の中を、
ストライク・フリーダムは紙一重で潜り抜けていく。
 ファンネルの砲撃を抜け、ビームライフルで牽制を掛ける。同時に左手にビームサーベルを抜かせ、勢いの
ままに突っ込んだ。タイタニアが反撃のビームを撃つが、ビームシールドで防いでそのままビームサーベルを
振るった。

「うおおおぉぉぉッ!」

 繋がれた枷から逃れたがっている獣の様な咆哮を上げるキラ。しかし、タイタニアの隠し腕が伸び、斬撃は
いとも容易く受け流される。即座に撃とうとしたビームライフルはタイタニアの左腕に押さえ込まれ、次の瞬間、
キラの瞳にビームサーベルを振り上げる隠し腕が映りこんだ。思わず息を呑み、その光景に視線が釘付けに
される。
 ザザッ――不意に回線のノイズが耳に入った。そして、何故かタイタニアはビームサーベルを振り下ろす
素振りを見せなかった。

『こんなナチュラルとコーディネイターの戦争など、下らぬものと思わんか?』
「な、何……!?」

 回線から聞こえてきた声。その声に、キラは意識を吸い込まれそうな感覚を抱いた。

『貴様には、ポテンシャルがある。私と同等のな。ならば、今からでも遅くない。私に従え』
「従え――何だって!? こんな時に勧誘!?」
『その気があるのなら、私が貴様にその力の正しい使い方を教授してやろう』

 その物言いは、本気に聞こえた。しかし、キラにはシロッコをまるで信用できなかった。

「何が目的だ! 僕を悪の手先にしようって言うのか!」
『悪だと? ――フフッ!』

 その瞬間、タイタニアのモノアイが強い光を放った。それは反逆を決して許さないような、容赦の無い光の
ように思えた。

『所詮は、才ある俗物に過ぎんか。さればこそ、そういう輩を生かして置く事は出来んな!』
165 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 16:51:55 ID:???
 逆手に握られたビームサーベルが、振り下ろされる。回避する手立ては無い。キラの眉間に皺が寄り、
一層の輝きを増す光の刃を凝視した。万事休す。シロッコの言ったとおり、キラは迂闊だった。接近戦に
於いて、4本の腕が使えるタイタニアに2本の腕しか使えないストライク・フリーダムが敵うわけが無かった。
 その時だった。タイタニアが、突如として眼前から消えた。ふと見えた赤い影。即座に目で追うと、横合い
からタックルをかまされているタイタニアが目に入った。タックルをしているのは――

「セイバー!?」

 キラは驚きのあまり、身を前に乗り出して目を剥いた。

 激しい熱を帯びている。身を焦がすような灼熱だ。それは脇腹から広がり、全身を蝕み始めている。
 最大の加速を掛けてタイタニアにぶつかった。負傷しているレコアに、その衝撃は耐え切れるものでは
なかった。一瞬、気が遠くなりかけ、しかし強靭な精神力がそれをさせなかった。

『特攻か!?』
「キラをやらせはしない!」

 タイタニアをクッションにして、岩に激突する。そこでも強い衝撃がレコアを襲い、激しい痛みに苦悶の
声を上げた。しかし、耐えてギュッと瞑った目を再び開け、モニターの先のタイタニアを睨み付けた。

「あの子は、お前の様にはならない!」

 先ほど攻撃をし過ぎたせいで、エネルギーが危険領域に入る。パワーダウンを起こし、セイバーの鮮やか
な赤が化石のような灰色に変わっていく。タイタニアの腕の一薙ぎが、弱体化したセイバーを簡単に引き
剥がした。
 その瞬間を狙っていたストライク・フリーダム。しかし、シロッコはキラに攻撃をさせる前にデュアル・ビーム
ガンで牽制を入れ、そのまま銃口をセイバーへと差し向けた。

「愚劣だな、レコア。君は、もっとまともな女だと思っていたのだがな」

 1発2発と連続で撃ち放ったビームが、セイバーの左肩と右大腿を貫く。吹き飛んだ左腕と右脚が、キラの
眼前を宇宙を漂うデブリとなって通り過ぎた。

「や、止めろ! 止めろおおおぉぉぉッ!」

 キラは死に物狂いの形相でセイバーへと向かった。しかし、結局は自らの無力を思い知らされただけだった。
 キラが伸ばしかけた手の先で、セイバーは2発のビームにその身体を貫かれた。

「あ…あぁ……!」

 パリパリと放電しながら、ボロボロになったセイバーが虚空を舞う。緩やかに回転しながら、それはさながら
人魚が優雅に宇宙を泳いでいるような光景にも見えた。
 ――違う。それはキラの脳が現実から逃避する為に生み出した卑怯な妄想なのだ。耳にザラザラと砂を
噛むようなノイズが聞こえた時、フッと我を取り戻され、改めて認識する現実に愕然とした。

『自分を勘違いした人間は、1人のエゴで全てを支配できると考えてしまうものなの……。分かるわね……?
キラには、たくさんの仲間が居る……。シロッコの様な男に、負けては駄目よ……』
166 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 16:53:36 ID:???
 耳には、そんなレコアからの忠告ともエールとも取れる言葉だけが残った。
 キラは、腫れ物を触る様に恐る恐る頷いた。慎重さを忘れると、何故かその瞬間にセイバーが消えてしまい
そうな気がしたから。それは、何とか助かって欲しいという、キラの願懸けだった。
 しかし、願いなど儚いものだ。願うだけで誰かが助かるなら、世界はもっと平和だったはず。そういう非情な
現実もあるからこそ、人は戦いを止められないのかも知れない。セイバーが閃光になってキラが心の中の
憎悪を認めた時、不覚にもそんな事を考えてしまった。そしてそんな自分に絶望し、心の中には失意だけが
残された。

 ストライク・フリーダムは身動ぎしない。失意に暮れ、コックピットで項垂れているキラの様子を感じ取った
シロッコは、一つ鼻を鳴らした。
 いくら才能があっても、それを行使するに値する絶対的に正しいと思える覚悟が無ければ、結局はこの
程度で終わってしまう。そういう存在は、放置しておいては世界にとって害悪だ。中途半端に暴れられて実害
を及ぼされる前に、排除する必要があると考えた。
 シロッコはデュアル・ビームガンを向けて、ストライク・フリーダムに照準を合わせる。

「ム……!」

 瞬間、敵の接近を察知する。強いプレッシャーだ。即座に攻撃対象をストライク・フリーダムからプレッシャー
の方に移す。誰が来たのかなど、考えるまでも無い。この下劣な感情を伴ったプレッシャーの持ち主など、
1人しか居ない。

「――来たか、カミーユ=ビダン!」

 劈くビームの軌跡。攻撃を放ったパイロットの意思を乗せて、シロッコを圧迫する。
 彼方から姿を現したウェイブライダーは、タイタニアの姿を確認した瞬間にMSへと戻った。そして、タイタニア
のデュアル・ビームガンが火を噴くと、それを避けて左手に握らせたビームサーベルを斬りつけてきた。その
斬撃を飛び退いてかわすタイタニアを、Ζガンダムの頭部機関砲が追う。

『シロッコ! 貴様、よくもレコアさんを!』
「一時の感情で! ――そこも!」

 飛び退いた先に、待ち伏せ。ギャプランが二刀のビームサーベルを構え、振り回す。

『お前か、お兄ちゃんの敵は! 嫌いだ、鬱陶しい奴!』
「この女も――! 出来損ないのニュータイプの分際で!」

 その斬撃を掻い潜り、2本のサブ・マニピュレーターでギャプランの両腕を肩から切り落とす。そして腕で
ハンマーの様に叩いて殴り飛ばすと、ファンネルで追い討ちを掛けて両脚部を破壊した。

 けたたましく鳴り響くアラート。ギャプランのコックピットでロザミアは、今までに無い計器の反応を見て
目を白黒させていた。どうしようもない。スイッチを弄ってみてもまるで反応を示さず、モニターやスクリーン
には「CAUTION」の文字が無数に踊っている。

「何なのさ!?」

 全天のスクリーンは表示が乱れ、次々と灰色の砂嵐に変わっていく。狼狽して遮二無二に操縦桿を押し
引きしていると、突然前方のハッチが吹き飛んだ。ロザミアが目を丸くして驚いていると、次にシートごと
外に放出された。緊急脱出装置が作動したのだ。ギャプランのダメージは、それほど深刻なものだった。
167 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 16:55:11 ID:???
 ギャプランのコックピットハッチの装甲が炸薬によって吹き飛び、中からロザミアが飛び出す。ギャプラン
は四肢をもがれ、漂うのみになっていた。シロッコはそれを一瞥し、視線をΖガンダムに向ける。警戒は
しているが、仕掛けてくるような気配は感じない。恐らく、ロザミアやキラの事が気になって仕方ないのだ
ろう。それは甘さでしかないと、シロッコは鼻を鳴らす。
 一方で、シロッコの感じている違和感は、益々強くなってきていた。戦いは混戦の具合を強めていると
いうのに、戦場は拡大するどころかコロニー・レーザーの東側に偏っている。その傾向を見る限り、ザフト
が陽動であることには間違いないが、しかし、それにしても本命が未だ見えない。

「接触する相手を間違えたか。――私の不覚だと?」

 それは苛立っているという事なのだろう。シロッコはその自分の感情を理解し、操縦桿を傾けた。今は
些事に構っている時では無い。タイタニアは反転すると、ザフト艦隊へと進路を取った。

 タイタニアが去っていく。カミーユはチラリとロザミアを見やった後、ギャプランに視線を移した。ロザミア
を以ってしてもあっさりと破壊されてしまったギャプランは、コックピットから噴煙を出しながら漂っていた。
爆発の危険性がある。

「ロザミィ、こっちへ!」

 カミーユはコックピット・ハッチを開き、中から身を乗り出してロザミアに手を伸ばした。ヘルメットの
通信機は故障していないはずだ。それを裏付けるかのように、ロザミアは背中にノーマル・スーツ用の
バーニアを装着してカミーユのところに向かってきた。

「レコア、本当にやられちゃったの……?」

 その手を掴んで、中に引き入れる。答を示さずとも、ロザミアなら分かっているはずだ。
 カミーユは彼女の不安げな問いに対して無言を貫き、ストライク・フリーダムを見やった。

 跡形も無く消えたセイバー。コックピットで操縦桿を握り締めるキラは、激しく肩を震わせていた。
 敵に対する怒りも、当然あった。しかし、何よりも許せなかったのが自分自身だった。レコアを死なせて
しまったのは、自分のせいだ。悔やんでも、悔やみきれない。何故セイバーに誤射をしてしまったのだろう
か、何故もっと冷静にシロッコと戦えなかったのだろうか――そんな後悔だけがキラの脳裏を去来し、自分
の無力を呪った。

『キラ!』

 カミーユの声が聞こえた。振り向いたΖガンダムの双眸が、キラを和ますように光を滲ませる。彼なりに
気を利かせてくれているのだろう。しかし、キラはそんなカミーユの気遣いに応えてやれるほどの心の余裕
が無かった。

「カミーユ……僕は……」
『いいんだ。今はシロッコを追う』

 何故だろう。カミーユとレコアは、イレギュラー同士である以上にもっと強い絆で結ばれた関係だと思って
いた。それは、レコアが記者として訪れたオーブでカミーユと再会した時に、あっさりとその職を投げ出して
しまった事からも覗う事が出来る。それなのに、対するこのカミーユのドライとも思える態度は何だろう。
キラは訝しげに眉を顰める。
168 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 17:00:30 ID:???
「どうして? だって君は……」

 ふと、ふわりとした風に撫でられたような柔らかな感触がして、視線を上げる。幻覚か――ウェイブライダー
に変形するΖガンダムの後ろ姿に、レコアの影が重なる。彼女だけではない、カツもだ。それに――

「トールに……フレイもだなんて!」

 信じられない光景に、驚きと共に目を見開く。見紛う事は無い、確かに2人の姿だった。
 2人の名を叫んだ瞬間、ウェイブライダーは青白い推進剤の光を伴って加速した。重なる彼等の影は、キラ
を誘うように後ろ手に手を伸ばす。その意図を理解する事に、何故か時間を必要としなかった。キラの脳が、
直感的に事情を理解したからだ。

「……分かったよ、みんな。僕もカミーユを信じる」

 操縦桿を握る手に力を込めると、パイロット・スーツの手袋がキュッと音を立てる。それは、失くしかけていた
戦う力を再び取り戻した音だった。

「このまま――」

 顔を上げ、前を見る。動揺を鎮め、代わりに沸き上がる敵への憎悪や憤りは燃える闘志に変える。

「――負けたくないんだ……あの男だけには……!」

 静かな呟きだった。キラは、シロッコに一度たりとも勝った事など無い。戦いで遭遇した時は、いつも翻弄
されて終わりだった。3度目の正直である今回でも叶わなかった今、最早シロッコに勝利する事など不可能
なのかもしれない。しかし、キラには立ち向かう力がある。
 まだ、終われない。キラは決意を固め、スロットルを全開にして後を追った。



 敵陣にその身を突っ込ませる事で、混戦でも戦場の拡大を防ぐ。ザフトが最も警戒している事は、敵に
メサイアの動きを察知される事である。だからこうして艦隊ごと敵陣に突っ込ませてザフトの目論見がコロ
ニー・レーザーの奪取にあるように見せかけ、連合軍の注意を引き付ける。
 しかし、それは退路を断った決死の特攻と同じようなものである。連合軍の猛攻を受け、ミネルバも当然の
如く逼迫していた。

「後部装甲被弾! トリスタン2番、沈黙!」
「敵MS接近! またあの黒い3匹です!」

 クルーの報告に、タリアが舌打ちをする。苦境に自然と身体に力が入り、思わず前のめりになった。

「迎撃! ――クッ!?」

 大きな揺れがブリッジを襲う。少し腰を浮かしていたタリアは、その煽りを受けてバランスを崩した。
 コンピューター制御のCIWSは敵に掠りもせず、代わりにビーム・キャノンの攻撃を受けてしまった。黒い
3機のMAは、桁外れの機動力でミネルバを翻弄していた。

「メーデーの部隊はまだなの!?」
169 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 17:02:24 ID:???
「Mk-U、インパルス戻ります! 映像、出します!」

 苛立つタリアの傍ら、メイリンが報告する。表示された映像には、ビームライフルで応戦するガンダム
Mk-Uと両腕を失い灰色に戻ってしまっているインパルスの姿があった。

「お、お姉ちゃん!」

 口元に手を当て、悲鳴を上げるメイリン。一瞬だけ怯み、職責を忘れてホーク家の次女としての顔に
戻ってしまう。
 その様子を見かねて、アーサーがすかさず受話器を取った。回線を繋いだ先は、MSデッキ。

「副長のトラインだ。チェストとブラストのスタンバイ、急ぎで。――そう。タイミングはこちらで出す」

 告げると、アーサーは受話器を置いてタリアに振り返った。

「デュートリオン・ビームの照射準備、させます。よろしいですね、艦長?」
「任せます。――チェン」
「ハッ」

 瞬時の的確な判断が、越権行為であるアーサーの行動にタリアを頷かせる。そのすぐ後、メイリンが
アーサーのフォローに気付いて顔を振り向けた。

「も、申し訳ありません、トライン副長」
「戦場である。無駄口は後にせよ」
「は、はいっ!」

 メイリンの感謝の言葉を無駄口と切り捨てるアーサー。真剣な横顔は、普段の迂闊な彼とはまるで
正反対の顔つきだった。
 黒いMS――ハンブラビは、ヒット・アンド・アウェイでミネルバに攻撃を仕掛けていた。そのナチュラルとは
思えないような動きを見る限り、情報どおり元ドム・トルーパーのパイロットが乗っていると見て間違い無さ
そうだ。彼女達に遭遇した時、事前に決められた対処法は殲滅である。ラクスも、その条件は呑んでいた。

「トリスタン、イゾルデの艦砲射撃は継続。CIWS、エマ機に当てるな」
「艦長、MSデッキからのOK来ました。チェスト・フライヤー、ブラスト・シルエットとも射出準備完了です」
「早いわね。――了解」

 再びミネルバへハンブラビが向かってくる。ガンダムMk-Uが腰部にマウントしていたハイパーバズーカを
取り出し、散弾で牽制をして攻撃を凌いだ。ハンブラビは先程まで居なかったガンダムMk-Uの存在に驚き、
一旦ミネルバを離れていく。
 その間にタリアは考える。これまでの行動パターンから予測すると、彼女達が再攻撃を仕掛けてくるまで
には数分のタイムラグがある。インターバルの時間に規則性が無い為に毎回、神出鬼没であったが、しかし
最低でも3分程度の余裕の確保が見込めるはずである。タリアは頷いた。

「次の接触後、インパルスの換装を行う。デュートリオン・ビーム、セット。ミネルバはそれまでインパルスを防御」
「了解しました。Mk-U、インパルス各機に通達。ミネルバは――」

 メイリンがインカムを手で押さえながら声を出す。タリアはそれをチラリと見やって、彼女が冷静さを
取り戻したのを確認すると、再び視線を正面に戻した。
170 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 17:03:35 ID:???
 それにしても忌々しいのはハンブラビである。戦いに秀でたコーディネイターであるからこそ、手強い。

「厄介な事よ……」

 顎を引き、歯を軋ませる。ミネルバの正面には、次のハンブラビの来襲に備えてカートリッジを交換する
ガンダムMk-Uの後ろ姿があった。

 予想以上に動きが速い。反応の早さだけなら、ヤザン以上のものを持っているかもしれない。それが
コーディネイターのアドバンテージなら、ガンダムMk-U単独で3機の連携を止める事は難しい。それ故に
今のエマに出来る事は、散弾で少しでも攻撃の命中率を上げる事だけだった。

「敵はミネルバの弾幕の中でも攻撃を仕掛けられるほどの手練。当てる事は――」
『インパルスが換装に入る! Mk-U!』
「了解!」

 換装の最中は、インパルスもミネルバも無防備になる瞬間。エマは更にシールド裏に装備してあるカート
リッジを取り出し、交換する。そして、ミネルバに攻撃を加えて通り過ぎていくハンブラビの編隊の背後から、
バズーカの散弾を装填してる分だけ全て撃ち放った。
 拡散する細かい礫を全てかわし切るのは、流石のヒルダ達でも不可能だった。何発かの礫はハンブラビの
装甲にめり込み、コンピューターが損傷を報せる。それは装甲をへこませた程度の傷でしかなかったのだが、
ナチュラルであるエマに攻撃を当てられた事自体がヒルダには腹立たしかった。

「セコイ手を――!」

 ふと振り返って、気付いた。ミネルバの砲撃が止んでいる。ヒルダ機が翻って反転すると、それに倣って
マーズとヘルベルトも続いた。

『どうしたヒルダ? ミネルバを黙らせなけりゃ、エターナルは前に出てきてくれないぞ。いくら俺達でも、
ザフトのど真ん中に仕掛けるのは無理なんだからな』
「気付かないか、マーズ?」
『何が?』

 マーズは気付いていないらしい。きょとんとするマーズの顔が表示されているワイプの下に、眼鏡を光ら
せるヘルベルトが顔を見せた。

『キャッチした。――インパルスは換装中だぞ』
「フン。あたしらの行動パターンを読んでの事らしいが――」
『ミネルバが無防備と分かれば、ここで仕掛けない手は無い』
「その通りだ、ヘルベルト。分かったね、マーズ?」
『沈められるって事だろ!』

 歯を見せてマーズが応えると、ヒルダも口元に笑みを浮かべて操縦桿を引いた。

 チェスト・パーツの交換を終え、ブラスト・シルエットへの換装も終えた。後はデュートリオン・ビームに
よるエネルギーの回復を行うだけ。

『軸合わせ……完了! デュートリオン・ビーム、照射!』
171 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 17:04:51 ID:???
 糸のように細い一筋のレーザー光が、インパルスの額――ブレードアンテナ基部へと伸びる。それと同時
に、ルナマリアの目の前にあるエネルギーゲージの目盛りが、上昇を始めた。ほぼ空の状態であったから、
満タンになるまで多少の時間が掛かるだろう。
 その時、不意にミネルバをビームが襲った。別働隊が抜けてきたのか――射線元へと視線を投げかける。
違う、ハンブラビが再び戻ってきたのだ。

「何で!? 早すぎるんじゃないの!?」

 インターバルが短すぎる。ハンブラビは予想よりも遥かに短い時間でミネルバに戻ってきた。理由など
分からない。分からないが、現実として再襲撃を受けたミネルバは、衝撃でデュートリオン・ビームが逸れ
てしまい、インパルスのエネルギーは殆ど回復する事ができずに妨害されてしまった。インパルスのエネ
ルギーゲージは申し訳程度の量が回復しただけに過ぎない。これでは、フェイズ・シフトも展開できないし、
ブラスト・シルエットの火力をまともに使う事も出来ない。

「こ、こんなんじゃ――」

 戦う姿勢だけは見せる。しかし、使えそうなのはミサイルと数発のレールガンだけ。ケルベロスに至って
は、一発撃つだけでエネルギーを使い切ってしまうかも知れない。とてもまともに戦える状態ではなかった。
 再び張られるミネルバの厚い弾幕の中を、ビームを撃ちながら飛び回るハンブラビ。数発が当たり、また
ミネルバの損傷度が上がる。

「――やるしか!」

 このままではミネルバは撃沈される。メイリンの乗る艦を、好きにさせるわけには行かない。ルナマリア
は必中の心構えでケルベロスの照準を合わせた。
 出し惜しみをして倒せる相手ではない。ハンブラビのパイロットの技量は、3人ともザフトレッドである
自分よりも上である。そういう前提がある以上、彼等がミネルバに攻撃を集中している今、奇襲の狙撃を
掛けるなら一撃必殺の覚悟が必要だ。僅かに回復したエネルギーは、ケルベロスに全て注ぐしかない。
 左右から2つのターゲットマーカーがにじり寄る。それがひとつに重なって1体のハンブラビを範疇に収め
ると、赤く色が変わって「LOCK ON」の文字が浮かび上がった。

「撃ち時――当たれぇッ!」

 クワッと目を見開き、トリガースイッチを押し込む。インパルスが両脇に抱えた2門の砲口から、巨大な
赤と白のプラズマ収束ビームが吐き出された。
 ルナマリアの渾身の一撃――しかし、運命は彼女に味方をしなかった。ハンブラビはケルベロスの発射
直前にルナマリアの殺気に気付き、回避運動を始めていたのだ。ケルベロスの光跡は、ハンブラビの左腕
を消し飛ばしただけだった。

「直撃できなかった!? ――ハッ!」

 突如、ルナマリアの正面モニターにエイの頭部が映し出された。2つの三日月を上下に向かい合わせた
ようなモノアイ部分から、赤い光が地獄のマグマを思わせる輝きを放った。

『マーズなら落とせると思ったか、インパルス?』
「あ、あんた達……」

 男の声。冷静さを装っているが、その裏に激しい気性を隠し持っている事が分かる。
172 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 17:06:34 ID:???
 ハンブラビの背部ビーム・キャノンが肩から迫り出す。何の躊躇いも無く撃墜するつもりだ。彼等は
裏切りに何の迷いも持っていない。大人でありながら幼児のような無邪気さを持っているのだ。そんな
彼等の無自覚さは、憤りの対象であると同時に恐怖の対象でもあった。彼等は、目的のためならば
手段は選ばない。何が起ころうとも、目的達成の為には味方すら平気で撃つだろう。――現に、そう
なっているわけだが。
 エネルギー残量はケルベロスを撃った事でほぼゼロ。動く事は出来るが、この状況はそれ以前の
問題だろう。ルナマリアに出来る抵抗は、相手を睨み付ける事だけだった。

『アスラン=ザラに従った己の愚を悔いるのだな。奴がこんな無駄な戦いを起こさなければ、少なくとも
お前のような女がこんな所で死ぬ事は無かった』
「ひ、人を裏切って傷付ける人が、そんな事を言うの? 冗談じゃないわ!」
『下衆な小娘が。この期に及んで目先の感情か。そういう先見性の無さが、今日のコーディネイターと
ナチュラルの対立構造を生んだのだ! 自らを変えられぬ者に、コズミック・イラの明日は訪れぬ!』

 高説をのたまっているつもりだろうが、中身の伴わない言葉に説得力などあるわけが無い。ヘルベルトの
言葉に、ルナマリアは欠片も同意できる部分が無かった。しかし、自分の生死の決定権を握られていては、
それ以上何も言い返せない。
 ハンブラビのビーム・キャノンの砲口が光を湛える。それを睨みながら、裏切り者の言葉に窮さなければ
ならない情けなさに、唇を噛んだ。それは、軍人としてザフト一筋で戦ってきたルナマリアにとって、屈辱
でしかなかった。

「――こんな奴なんかにぃーッ!」

 それは、諦めたくないルナマリアの一心が呼び寄せたものだろうか。彼女が悔しさ紛れに雄叫びを上げた
瞬間、突如ハンブラビがお辞儀をした。何事か――ハンブラビが視界から消えると、続けてルナマリアの眼前
を凄まじい勢いで上から下に通り過ぎるガンダムMk-U。目で追うと、ガンダムMk-Uに背中を踏みつけられ
たハンブラビがあさっての方向にビームを撃っていた。

「エ、エマさん!」

 ガンダムMk-Uは足元のハンブラビを踏み台にして跳躍すると、右肩に担いだハイパーバズーカと左手に
持たせたビームライフルの両方を交互に連射し、他の2機のハンブラビを牽制する。弾数の少ないハイパー
バズーカが早々に弾切れになると、それを投棄して空いた右手にビームサーベルを握らせた。

『敵の言葉に耳を貸すのはお止し! 戦場で大儀を振りかざすような輩に、碌な手合いは居なくてよ!』

 ガンダムMk-Uが敵に対してビームを撃ち続ける。ハンブラビは散開して回避運動に入っていた。
 心臓がかつて無い鼓動の速さを示していた。ルナマリアがパチクリと大きな瞳で瞬きをすると、呼び出し
の通信音が鳴り響く。コンソールのボタンを押して、回線を繋げた。

『お姉ちゃん、今の内にミネルバに下がって! もう一度デュー・ビームでチャージを!』
「メイリン……? けど、エマさんが!」

 サブモニターに妹の顔。同時にガンダムMk-Uの様子も覗う。苦戦している様子から、気が逸る。

『落ち着いて! 今のインパルスじゃ、足手纏いになるだけだよ!』
「そんな事! ――で、でも、そうか……その通りか……」
173 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 17:08:21 ID:???
 反論しかけて、冷静になる。メイリンの言うとおり、今のインパルスにまともな戦闘能力は無い。このまま
ノコノコと出て行っても、的にされるだけだ。それでは自分にとってもエマにとってもデメリットにしかならない。
 ルナマリアは後ろ髪を引かれながらも、エマが持ち堪えてくれる事を祈りつつインパルスをミネルバに
後退させる。気持ちだけは戦いから離れないようにしようと、気を引き締め直した。

 ヒルダ機が、被弾したマーズ機を庇って前に出る。流石に隊長機だけあって他の2人に比べてやや動きが
速い。エマの撃つビームはまるで当たらず、ビームサーベルを振り上げて襲い掛かってくる。エマはそれを
シールドでいなしながら後退し、更にビームライフルで牽制した。

『あたし達が碌な手合いでないだと? よくもほざいてくれた!』

 しかし、ハンブラビは尚も追随してくる。攻撃に対する反応が、素早い。

『貴様もカミーユやキラと同じか! 我々の大儀を理解しようともせず、見掛けだけで人を判断する!』
「何? 恨み節……?」
『ザラ派だったあたし達は、クラインに馴染もうと必死に努力してきた! けど、いくら努力したところで奴ら
はあたし達を癌細胞としか見做さず、決して認めようとしなかった! あたし達の内面を知ろうともせず、
上っ面だけを見て厄介者扱いをしていたんだよ! 志は同じはずなのに!』

 よくある話。ある一派から別の一派へと移るという事は、それなりの屈辱を覚悟しなければならない。
それも、落ち目からの転身となれば尚更である。エマの場合はエゥーゴが柔軟で懐の広い(勿論、人手不足
も理由の一つだっただろうが)組織だったから、ティターンズからの転身も寛容な待遇で迎えてもらえて救わ
れたが、ヒルダ達の場合は違ったのだろう。それは巡り合せが悪かったとか、運が無かったとかの話で、
それに同情を寄せる気持ちはある。しかし、彼女の言葉を聞いていると、何かが違うような気がした。
 そんな事を考える傍ら、一方で目線はチラリとミネルバを見る。エマは確認してから、口を開いた。

「けど、今さらそれを理由にしたって――!」

 目も眩むようなスピードで、ガンダムMk-Uのビームをかわすハンブラビ。懐に潜り込まれると、振り上げ
たビームサーベルがガンダムMk-Uビームライフルを両断する。

『そんな中でも、あの方だけは違った。ラクス様は仰ってくれたんだよ、あたし達が必要だって。嫌な顔一つ
せず、無責任だ弱腰だと散々貶してきたあたし達を、当たり前のように許してくれたんだ!』
「クッ……!」

 素早く返される光の刃に、こちらも光の刃を以って対抗する。コックピットの中を明滅する光が広がり、
エマは眩しさの中で細めた目で、再びミネルバを見やった。
 ヒルダは自分の語りに自己陶酔している。他の2機はエマを逃がさないように周囲を飛び交っている。

『過ぎるほどに優しい御方だ。その時、あたしは確信したのさ。誰に対してでも分け隔てなく慈しみを与えて
くれるこの御方こそ、妬みと蔑みとが同居するこの争いの世に、最も必要な人物だとね』

 エマが一層の険しい瞳でハンブラビを睨む。ヒルダはそれを知ってか知らずか、朗々と言葉を紡ぎだす。
 エマにとっては都合のいい展開だった。インパルスのエネルギーチャージは、順調に行われている。ヒル
ダのような自分の思想に自己陶酔している人間は、打てば打つほどに必要以上の反応を返してくれるもの
だ。そういう相手には、時間稼ぎがやりやすい。エマは更に言葉を引き出すため、口答えを続ける。
174 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 17:09:42 ID:???
「だからって、それと裏切るって事は――」
『ラクス様を利用するだけのデュランダルに、コーディネイターそのものを排除しようとするジブリール。
こんな害虫が偉そうな顔をしてのさばっている世の中じゃ、ラクス様の清貧なお人柄では割を食うだけだ。
だから、新たな時代の下準備として、奴ら俗物どもを排除する必要があった。何もかもが上手くいって、
これからって時だったのに……アスランの馬鹿が余計な事を仕出かしてくれたお陰で!』
「デュランダル議長はナチュラルとコーディネイターの融和を訴えていたのに!」
『流石は見せ掛けのヒューマニズムに騙された者の言う事。貴様の様な人の本質を見抜けない人間がのさ
ばっているから、ラクス様のような方を平気で戦争に利用してしまうんだ!』
「それが、ザフトを裏切ってシロッコに所に走った理由なの?」
『ラクス様はやがて救世主となられるお方だ。あの御方は、貴様ら薄汚い俗物どもが好きにして良い御方で
はない。それは、シロッコも同じだ。あの御方は――んッ!?』

 ヒルダが何かに気付いたように声を上擦らせると、ハンブラビのモノアイが揺れた。気付かれたのか――
エマは思わず振り返り、インパルスの様子を探り見た。

「まずい!」
『貴様はぁ! あたしを利用して、欺いていたのか!』
「自分で勝手に始めた事でしょ!」

 激昂するヒルダ。呼応して勢いを増すハンブラビが、力任せに重ねたガンダムMk-Uのビームサーベルを
弾き飛ばす。ハンブラビは更に攻撃の手を緩めずにビームサーベルを振りかざしたが、ガンダムMk-Uの蹴り
上げた爪先がマニピュレーターにヒットし、ハンブラビのビームサーベルもまた、その手から弾かれた。
 隙を見逃さず、ガンダムMk-Uは同時に左マニピュレーターをもう一本のビームサーベルの柄に伸ばす。
しかし、柄を掴もうとした瞬間、左肘をビームで撃ち抜かれる。見上げれば、別のハンブラビがこちらに向かって
発砲をしていた。

『小賢しい真似を! ――マーズ、ヘルベルトはインパルスとミネルバを潰せ! 仲間が死ぬところを、
コイツに見せ付けるんだ!』

 2機のハンブラビがヒルダの号令に応え、ミネルバへ向かう。

「させない!」

 インパルスはまだエネルギーチャージが完了していない。阻止しようとエマも追随しようとしたが、背後から
ビーム攻撃を受けて足止めをされてしまう。ヒルダのハンブラビはまるで親の仇でも見ているかのように、
爛々とモノアイを輝かせていた。
 ハンブラビが突っ込んでくる。エマは向き直って後退する。

『あたしの大儀を土足で踏みにじった事、死ぬほど後悔させてやる!』
「自分の迂闊を他人の所為にするのではなくてよ!」

 凄まじい突進スピード。ヒルダの気迫も相俟って、鬼気迫るものを感じる。しかし、その動きはあまりに
直情的に過ぎた。
 ハンブラビが右腕部のクローを振り上げる。ガンダムMk-Uに覆い被さるようにして飛び掛り、勢いよく
右腕を振り下ろした。
 その瞬間、後ろ手に伸ばしたガンダムMk-Uのマニピュレーターが先程弾き飛ばされたビームサーベルの
柄を掴み、ハンブラビが腕を振り下ろすのよりも早く斬り上げた。リーチの差。ガンダムMk-Uのビームサー
ベルが、ハンブラビの右腕を斬り飛ばす。
175 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 17:11:09 ID:???
『ナ、ナチュラルなんかにこのあたしがッ!?』

 ヒルダが自身で語った事とは矛盾したような叫びに、エマの眉がピクリと動く。謹厳実直な彼女は、その
様なダブルスタンダードは許さない。

「あなたの様な人に、理想を語る資格はありません! 反省なさい!」

 怒鳴ると、ハンブラビのコックピット付近目掛けて蹴りを叩き込んだ。ハンブラビは吹き飛ぶ。
 エマは急ぎ反転すると、スロットルを全開にしてガンダムMk-Uを加速させた。
 攻撃を受けるミネルバ。そのダメージは深刻になりつつある。操縦桿を握るエマの手が、硬くなった。


 迎撃のCIWSが絶え間なく弾幕を張っている。並みのMSであれば、そこへ飛び込むような馬鹿な真似はしな
いだろう。しかし、例外は常に存在する。2機のハンブラビは、その例外の中の一部だった。
 ルナマリアに焦りの色が浮かぶ。エネルギーは満タン手前で打ち切られた。それ以上はハンブラビが待って
くれなかったからだ。

「敵はミネルバを盾にする? ――シン、何やってんのよ。ミネルバがピンチなんだよ……!」

 チラチラと見え隠れする黒い影。ルナマリアの目でも追いきれない。ミネルバの陰に潜んだり飛び出した
りして、まるで的を絞らせてもらえない。敵は攻撃し放題、こちらは誤射が怖くて迂闊に撃てない。
 状況は圧倒的不利。ミネルバの損傷もそろそろ楽観視できなくなってきた。ジレンマだけが募り、敵を探して
首ばかりが良く回る。このままでは埒が明かないと、徐にインパルスを艦首側面付近へ背中を預けるように
して後退した。

「どうすりゃいいっての? このままじゃ――!」
『お姉ちゃん、後ろ!』
「えっ?」

 メイリンの声に当てられ、咄嗟に振り返った後方やや斜め上。ちょうど3連砲のイゾルデが備えられている
ところは、既に砲塔が破壊されていて、ひしゃげた無残な鉄屑が不細工なアップリケのようにくっついてい
るだけだった。その影から、ヌゥッと黒いシルエットを覗かせる1機のハンブラビ。黒い尖がり頭に、笑っている
ような一つ目がこちらを見下ろしていた。

「しま――」

 身構える間もなく、ハンブラビはビームサーベルを掲げて飛び上がった。反転する暇さえ与えてもらえない。
ハンブラビの凶刃が、インパルス目掛けて突き出される。ルナマリアの瞳は、我を忘れたようにそれを凝視して
いた。それは、これ以上の抵抗が無意味と悟った、諦観の目だった。

『お姉ちゃああぁぁんッ!』

 キュッと目を瞑る。メイリンの悲鳴が耳に痛いほどに響いた。終わった。もう、どうしようもない。
 ――不思議なほど、静かだった。メイリンの悲鳴が聞こえてから、5秒以上経っている筈。しかし、ルナマリア
がいくら待っても、その時がやって来ない。死ぬ時とは案外そういうものなのかも知れないが、どう考えても
おかしかった。

『ルナマリア……』
176 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 17:12:44 ID:???
 ふと、柔らかな声に呼ばれた。恐る恐る目蓋を上げる。――息を呑んだ。

「エマ…さん……!?」

 バック・パックからビームサーベルの先端が飛び出していた。それは、ガンダムMk-Uの背中。

『こ、コイツ……! ヒルダがしくじっただと……!?』

 驚愕する男の声。徐にガンダムMk-Uの手がインパルスを押した。慣性に流されて離れていく。ザラッと
した砂を噛んだ様な不快なノイズが、通信回線から聞こえてきた。
 隻腕のガンダムMk-Uの右腕が、ハンブラビの下半身を抱くようにして絡みつく。
 振り返るガンダムMk-Uの横顔。人の瞳に相当するサブカメラが、仄かに緑色の光を湛えた。それは、
見た事も無いような優しい光だった。

『シンと、仲良くね……』

 エマが言葉を遺すと同時に、損傷部から火が噴き出す。
 そのまま、美しく散る。それは、あっけないほどに一瞬の光を伴って消えていった。

「エマさあああぁぁぁん!」

 視界が霞む。心の底から湧きあがる感情が、涙となって表れたか。ルナマリアの金切り声が、木霊する。


 駆け出したヴィーノに気付いたのは、モニターの中のガンダムMk-Uの閃光が消えてからだった。いつの
間にか隣から消えていた僚友の影を探し、ヨウランは首を回した。

「どこへ行くつもりだヴィーノ!? 誰かアイツを止めろ!」

 メカニック主任であるマッドの怒鳴り声が耳に入った。同時に視界に入るノーマル・スーツ。両手でライフル
を抱え込むその姿を見て、ヨウランは思い切り壁を蹴った。
 後ろから掴みかかり、制止する。ヘルメットがぐるりと回り、バイザーの奥の横顔がヨウランを睨んだ。

「邪魔するな!」
「馬鹿! そんな玩具で、MSと戦えるわけ無いだろ!」
「うるせぇッ!」

 暴れるヴィーノを必死に抑える。振り回したライフルのグリップの底が、ヨウランのこめかみに当たった。
鈍い痛みに顔を顰め、思わず離れる。ヴィーノは詫びもせず先を行く。
 グリップの底をぶつけられた辺りが、じんわりと熱くなる。ヨウランは少し俯き、打撲箇所を指で擦ってみた。
そしてその指の腹を確認してみると、血が少し付着していた。

「放せぇッ! 放してくれぇッ!」

 悲鳴のような声に気付き、顔を上げたヨウランが次に見たのは、複数のメカニックに囲まれ、壁面に押さえ
つけられているヴィーノの姿だった。尚も抵抗していたが、しかし屈強なメカニック達に埋もれてもがくのみ。
ライフルは既に取り上げられていた。
177 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 17:14:13 ID:???
「後生だ! 俺は死んでもいい! 仇を討ちたいんだ! 討たせてくれよ! ちくしょおおおぉぉぉ――ッ!」

 泣きながら叫ぶ。駆けつけたマッドが人波を掻き分けてヴィーノの所に歩み寄り、ヴィーノの被るヘル
メットを外した。バチン――平手を張る壮絶な音が、密閉されたハンガー内に反響する。そして、拘束から
解放されたヴィーノは、そのまま蹲って慟哭するだけだった。

「カツといい、エマさんといい――クソッ!」

 呟き、立ち尽くすヨウラン。エマの死に対し、ヴィーノを手伝った彼は深く責任を感じていた。
 メカニックとは、パイロットに対して他のクルー以上に責任を感じてしまう職種だ。それは、彼等が直接
命を預けるマシンに、メカニックは最も深く関わっているからだ。だから、パイロットとメカニックの間には
信頼関係が不可欠だし、それだけに彼らの絆は深い。
 ヨウランも、ヴィーノの気持ちは痛いほどに分かっていた。しかし、どうしようもないのだ。
 ヨウランは拳を振り上げ、力の限り鉄の壁を叩いた。それが、切りの無い「たら」「れば」に対して彼に
出来る、精一杯の抵抗だった。


 ヘルメットの中に散る涙を、拭っている余裕は無かった。ガンダムMk-Uの爆煙の中から、黒い影が飛び
出す。それは両脚を失いながらも生き残ったハンブラビ――ヘルベルト機であった。目撃した瞬間、ルナマ
リアの全身の毛という毛が逆立つ。
 全身の血液が沸騰したように身体が燃え上がる。それは憤りに燃える感情が身体に及ぼした影響だろう。
こみ上げる衝動を抑え切れず、無意識に身体が動く。インパルスが構えたケルベロスとレールガンが、一斉
にヘルベルトに向けて放たれた。

「よくも、よくも、よくもぉッ!」

 感情任せに、何発も何発も撃つ。燻る遣る瀬無さに、当てる事よりも、とにかく撃つ事だけを考えていた。
しかし、そんな出鱈目な攻撃が自分よりも高度な技術を持ったパイロットに通用するわけが無い。ハンブ
ラビは嘲笑うかのようにヒラリヒラリと舞い踊り、掠りもしなかった。
 手にしたビームサーベルを掲げ、ハンブラビが迫る。ルナマリアは後退したが、機動力では遥かに劣る。
エマを亡き者とした凶刃が次に狙う獲物は、インパルス。激昂したルナマリアは、しかし怯まない、退かない。

『Mk-Uの女は道連れを計って犬死に。貴様は貴様で無駄な抵抗を繰り返す。ミネルバの女とは、全く度し
難いな!』
「言いたい事はそれだけかぁッ!」

 ヘルベルトの挑発にも敢然と返す。赤服に袖を通す者のプライドに懸けて、エマを殺したこの男にだけは
背を見せてはならない、負けてはならないのだ。
 遠心力を加えられてしなるビーム刃を、潜り抜けるように身を屈ませてかわす。ハンブラビの下に潜り込む
形になり、その腹に一気にタックルをかまして引き剥がした。
 バランスを崩すハンブラビ、すかさずインパルスがケルベロスを構えた。

「これで――うあッ!?」

 トリガーを押し込む瞬間、背後からの強い衝撃を受けてルナマリアは前のめりにベルトを身体に食い込ま
せた。コンソールモニターにダメージチェックの表示が出て、ブラスト・シルエットに直撃を受けた事を告げら
れる。ルナマリアは舌打ちがてら、すかさず左後方に顔を振り向けた。
178通常の名無しさんの3倍:2009/07/18(土) 17:15:18 ID:???
支援
179通常の名無しさんの3倍:2009/07/18(土) 17:15:34 ID:???
紫煙
180携帯 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 17:17:29 ID:???
さるさん中です
残り2レスなのに……orz
181 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 18:00:45 ID:???
「別の敵!?」

 右腕部を失っているハンブラビが、背中のビーム・キャノンでこちらを狙っている。
 更にそれを確認している内に、間断なく新たな敵の接近を告げる警告音が鳴った。首を回し、今度は
右後方に視線を投げる。

「残りの1機まで……!」

 そちらからは、左腕を失ったハンブラビ――マーズ機が接近していた。
 ルナマリアの表情に焦燥の色が浮かぶ。いくら気持ちが前のめりになっていても、本能的に感じ取った
危機が一時的にルナマリアの火の点いた感情に冷や水を浴びせる。ふと冷静になった瞬間、頭の中に
「後退」の文字が浮かんだ。
 しかし、何処へ逃げると言うのだろう。一寸、後退する素振りを見せたが、そうはさせじとヒルダのビーム
攻撃が注がれ、動きを阻害された。

「敵は、あたしを逃がさないつもりで居る? なら、敵の本命は――」

 忌々しげにヒルダ機を睨んでから再び正面へ視線を戻す。マーズ機はビームサーベルを構え、尚も間合い
を詰める。その上、先ほどタックルをかまして追いやっていたヘルベルトまでもが復帰し、いよいよ逃げ場が
無くなった。3方向から取り囲まれている状況であるが、四面楚歌――そう表現しても差し支えない。

「囲まれた!?」

 まごついている暇は無い。敵が襲い掛かってくる以上、対応するしかないのだ。このまま見す見す命を
奪われてしまうなど、冗談では無い。せめて、一矢報いるチャンスが欲しかった。

『左腕をやってくれた礼だ。たっぷりと償ってもらうぜ!』

 粗野な声の主は、恐らくはマーズという男のもの。先ほどタックルをした冷淡な声の男が、確かそんな名で
呼んでいた筈だ。確かな事は言えないが、彼の性格がこの粗野な声の通りであれば、付け入る隙はある
かもしれない。自信があるわけではないが、頼れる手段がほかに講じられない以上、今はその曖昧な推測に
縋るしかない。。
 即座にビームジャベリンを取り出し、突きを繰り出す。リーチ差で、こちらの攻撃の方が先に敵に届く。
敵が油断していれば、決定的な一撃になり得るはず。

『迂闊、迂闊ぅッ!』

 しかし、伸ばした矛先が敵を貫く事は無かった。ハンブラビは信じられないような反応と瞬発力で自機の
軌道を変え、アクロバティックにインパルスの上方に跳ね上がったのだ。

「そんな!」

 予想以上に高かったパイロット能力。そして、憔悴して切羽詰っているルナマリアとは違って、マーズには
余裕がある。ルナマリアは当然その動きに反応する事が出来ず、突き出したビームジャベリンは虚しく空を
切るだけだった。
 慌てて、顔を上げる。視線の先、ハンブラビの振り上げるビームサーベルの黄金色が、それを見上げる
ルナマリアとインパルスの瞳に映り込む。見下すハンブラビのモノアイが、確信めいた輝きを放った。
182 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 18:01:55 ID:???
『終わりだぜ、インパルス!』
『終わりなのは、あんたの方だ』

 ――瞬間、敵の通信とは別の回線から、声が響く。ルナマリアの耳に飛び込んできたその声は、彼女の
身体中の神経を一瞬にして伝い、まるで電撃を流されたかのように身震いをさせた。
 同時に、ハンブラビの背中から紅の翼が生える。見覚えのあるその色、形――猛き一対の光翼は、まるで
空想上の天使を思わせる神々しきもののようにルナマリアには見えた。
 ズリッ――途端、ハンブラビの左脇腹に大太刀が斬り込まれた。それは薙ぐ様に横にスライドすると、
ハンブラビの腹を容赦なく両断する。振りぬかれた大太刀は、刃の部分を赤く光らせていた。
 上下2つに分断されたハンブラビは、不規則にモノアイを明滅させた。既に死に体。バチバチと切断された
部分から放電しながら、虚空を舞う。

『な、何だ!? どうして俺のハンブラビが真っ二つにされてやがんだ!? どうなってやがる、いつの間に
背後に、誰がこんな事をしやがった!? 一体、俺は――ぐわあ――……ッ』

 悲鳴が聞こえると、その瞬間にハンブラビは爆発し、回線は途切れた。その声は、最期まで粗野。マーズ
は自らの敗北の理由を知ることなく、宇宙の闇へと飲み込まれていった。
 霧散する爆煙。その中から現れる影。「それ」は手にしている大太刀を背中にマウントして、代わりに肩から
ビームサーベルを抜き出した。
 大きく広げられた紅の翼は、怒りの象徴だろうか。後ろ姿からは、オーラのような怒気が立ち上っているよう
に見えた。ルナマリアはその姿に畏怖を覚えながらも、ピンチに駆けつけてくれた少年の頼もしさと、エマを
失った悲しさとを綯い交ぜにして、頬と鼻の頭を赤く染めていた。

『お前達はルナを虐めたな……!』

 確かに聞こえた少年の声が、目の前の光景が夢幻では無い事を意識させてくれた。「運命」の名を冠する
そのMSの登場を、ルナマリアはずっと待っていた。
 思わず気が緩んだ。また、視界が霞む。されど、それは先ほどとは違う種類の涙、安堵の涙だった。

「シン……!」

 一段と翼が大きくなる。散る粒子が、まるで赤い羽根が抜け落ちているようにも見えた。
 そして、それが突撃の合図。途端に、目も眩むようなスピードでデスティニーが加速した。
183 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/18(土) 18:02:44 ID:???
今回は以上です
また明日の同じ時間か夜にでも続きを投下します
184通常の名無しさんの3倍:2009/07/18(土) 18:40:31 ID:???
乙です!
エマさん・・・
185通常の名無しさんの3倍:2009/07/18(土) 20:40:35 ID:???
うぉぉぉぉエマまで・・・うあ゛ぁあ ・゚・(´Д⊂ヽ・゚・ あ゛ぁあぁ゛ああぁぁうあ゛ぁあ゛ぁぁ
ヘンケン何やってるんだ!
186通常の名無しさんの3倍:2009/07/18(土) 22:54:44 ID:???
何故だろう。
「マコちゃんいじめた」(cv:三ツ屋雄二)な声が頭に浮かんだのは。
187 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/19(日) 15:36:15 ID:???
  『悲憤慷慨』


 デスティニーがハンブラビに飛び掛る。見送るルナマリアの目には、それは加速と言うよりも瞬間移動を
しているように見えた。動画で例えるならば、途中のコマを編集でカットしているような印象。それも、随分
な量をごっそりと、である。こんな時によくもそんな変な事を考えられたものだと思うが、あっという間に
小さくなったその姿に、ルナマリアはそんな感想を抱いた。

『き、貴様はマーズを!』

 ターゲットにされたのは冷淡な声の男――ヘルベルト。彼が相当な実力を持っている事は、戦ったルナマ
リアには骨身に沁みて分かっている。しかし、両脚を失って運動性も機動力も低下したハンブラビが、今の
デスティニーと互角に渡り合えるとは思えなかった。
 同じ様に、今の一瞬でヘルベルトもデスティニーとの実力差を把握していた。彼は自らの現状を理解し、
敵の力量を見誤るような事はしない性格だった。普段なら、敵わない相手と無理に戦うような姿勢は見せな
かったはずだ。しかし、それでも彼は戦うしかなかった。それ以外の選択をさせてもらえる時間を、与えて
もらえなかったからだった。

「おのれぇッ!」

 冷静な男が見せる気色。しかし、それは虚勢に過ぎない。ヘルベルトの額に浮かぶ汗は、冷たかった。

「遅い!」

 デスティニーは残像を出しながら、神速の斬撃を繰り出す。性能の低下したハンブラビも何とか抵抗した
が、常軌を逸したデスティニーの動きにまるで対応できない。その身が、あたかもカマイタチに遭ったかの
ように、見えない斬撃によって斬り刻まれていく。

『に、逃げろヒルダ! コイツはおかしい――異常だ!』

 余りにも突然の展開に呆然と立ち尽くすヒルダの耳に、ヘルベルトの必死の声が届く。空恐ろしさから、
彼はそんな陳腐な言葉しか口に出来なかった。

「へ、ヘルベルト!?」

 ハッとして我を取り戻す彼女の目の前で、細切れにされかけたヘルベルト機に、デスティニーはスッと
左掌を添えた。その掌から光が発せられると、そこから爆発を伴ってヘルベルト機は大きく仰け反った。
 終いである。ヘルベルトは一矢報いる事すら出来ず、デスティニーの為すがままに屠られた。宇宙に散る
彼のハンブラビを眺めながら、ヒルダはシンとデスティニーの圧倒的強さに恐れ戦いて身の退かせた。

「な、何なんだコイツは!? あたし達に気付かれずに接近して、一瞬にしてマーズとヘルベルトを――!
 あ、あたしの恐怖が教えている……それ程の力を持ったコーディネイターだというのか、コイツが!」

 警戒しながら間合いを取る。恐怖にすくんで身震いをしたのは、初めてだ。キラの駆るストライク・フリー
ダムと相対した時も、こんな恐怖を抱いた事はなかった。例え損傷が無かったとしても、デスティニーには
敵う気がしない。
 ミネルバから引き上げていくヒルダ。シンの嗅覚がそれを察知し、操縦桿を握る手に力を込めた。ミネルバ
とルナマリアをこうまで痛めつけられて、それで簡単に見逃せるほどシンはお人好しではない。
188 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/19(日) 15:37:33 ID:???
「仕掛けておいて逃げるのか!」
『待って、シン!』

 制止する声に、ピクッと身を硬直させた。先走るシンを止める声。顔を振り向ければブラスト・シルエット
をパージしてベーシック・スタイルとなったインパルスが徐に近づいてくる。ハンブラビは、その間に何処か
へと去っていった。
 仕方無しに追撃を諦める。シンはハンブラビに対する黙し難い気持ちを抑えながら、デスティニーをイン
パルスに向き直らせた。

「大丈夫か、ルナ?」
『何で、もっと早く来てくれなかったのよ……』
「ゴメン……けど――」

 シンが言い掛けて、微かな振動が起こる。インパルスが、デスティニーに抱きつくようにして接触してきた。
耳にはしゃっくりと鼻を啜る音。眉を顰める。様子がおかしい事に気付いて、シンはコックピットから出た。

「どうした、ルナ?」

 身を投げ出し、インパルスのコックピットに取り付いて拳で叩く。それに応えてハッチは開いたが、中から
ルナマリアが出て来る様子が無い。心配になって、シンは中を覗き込んだ。

「ルナ……」

 シートに座ったルナマリアが、そこに居る。操縦桿を握ったまま、フルフルと身を震わせていた。怪我を
している様子は無いようで、一先ずは安心する。ただ、顔が俯いていて、表情を覗えない事が気になった。
 嫌な予感がして、ふとシンは周囲を見回した。居る筈の人が居ない――それに気付いたシンに、ルナマリ
アが頭を擡げた。

「Mk-Uが見えないけど……ルナと一緒だったはずだよな。――補給に戻ったのか?」

 バイザーの奥に、まるで迷子の稚児のように涙を一杯に浮かべる彼女の顔があった。
 訊ねるシンに、ルナマリアは手を伸ばしてシンの肩にしがみ付く。擦り付けるようにして胸に顔を埋めて
きて、その様子に戸惑った。彼女の震えが、伝わってくる。怒りと悲しみと恐怖――いずれでもないかも
知れないし、全部当て嵌まっているかも知れない。

「あ、あたし、を……か、庇っ、て……」

 泣きじゃくる幼子のような声で言葉を振り絞る。それが今の彼女の精一杯。それ以上は言葉にならずに、
すすり泣くだけだった。

「そう、なのか……」

 シンは察して、ルナマリアの頭を優しく抱いた。
 しっくり来なかった。エマが帰らぬ人となった事は分かっても、シンにはそれが実感として理解する事が
出来なかった。それは、現場を目撃していなかったせいでもあるだろう。ただ、それ以上にシンは喪失感と
いうものに慣れてしまっているのかもしれない。家族を失ったあの日から、自覚の無いままにそういう感覚
を麻痺させてしまっていたであろう事を、自分の事ながら嫌な事だと思った。
189 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/19(日) 15:38:45 ID:???
 ふと、ヘルメット内臓のスピーカーから呼び出し音が響く。シンはルナマリアを抱いたままヘルメットの
耳元の辺りを弄り、通信機の周波数を合わせる。

「シンです」

 ガリガリっとノイズが不快な音を立てた後、伸すように徐々に回線からノイズが消えていった。回線の
向こうはクルーの声が錯綜していて、騒がしかった。シンは耳元に手を添え当てながら首をミネルバの
方に回した。

『――ごめんなさいね、立て込んでて』
「いえ……そんなに――なんですか?」

 立て込んでいると言うことは、情報が整理できていないと言う事になる。かなり劣勢になりつつあるのだ
ろうか。そんな予想を立てながら、シンは身体を震わせているルナマリアの背中を擦り続けていた。

『そうね、戦争なんだもの。それで、戻ってきてくれて早々に悪いんだけど、メーデーが出ているのよ。
向かってもらえて?』

 あらかた想像通りであるらしい。シンは訊ね返す。

「どちらへ?」
『アークエンジェルへ。レジェンドとアカツキが抗戦している様なんだけど、分が悪いらしいのよ』
「レイとネオが……?」

 シンは驚いて、思わずルナマリアの背中を擦る手を止めた。それに気付いて、ルナマリアがミネルバを
見るシンの顔を見上げた。
 2人の実力が眉唾物では無い事を、シンは知っている。しかも、両者が駆るのはドラグーン装備のハイ・
スペックMS。その2機が守りに付いているアークエンジェルは、云わば安牌の筈だった。しかし、タリアに
拠ればそれが救援を求めているとの事らしい。
 俄かには信じられなかった。もし、本当にアークエンジェルが芳しくない状況にあるならば、何らかの
トラブルが発生したと考えるのが筋だろう。磐石とも言えるアークエンジェルの守りの前に、果たしてその
牙城を崩し得る敵が存在するのだろうかといえば、疑問の余地がある。――唯一つの可能性を除けば、だが。
 何にせよ、メーデーが出ているのなら救援に向かわない訳には行かない。敵味方が入り乱れるこの戦場で、
何時どこから何が出てくるのかは分からないのだから。連合軍の規模を考えれば、どんな隠し玉があっても
おかしくない。

『――ごめんなさいね、労いの言葉ひとつ掛けてやれないで。でも、あなたが最前線で敵の展開を遅らせて
くれたから、ミネルバもまだ沈まずに済んでいるの。だから、その力を――』
「え?」

 シンが返答に時間を掛けるものだから、タリアがご機嫌取りに出た。アークエンジェルがオーブの船籍だ
という事で、二の足を踏んでいると思われているのだろう。勿論、シンに既にその様な蟠りは皆無に等しいし、
今が個人の自由を主張できる状況では無い事は承知している。
 身の丈に合わぬ黙考はするものでは無いと反省。シンは慌てて手を振って、そういうつもりではないのだと
言うジェスチャーを取った。

「ち、違います艦長。俺をフォローしてくれたヴェステンフルス隊の殆どは、やられちまったんです。なら、
あの人達の分も、俺に出来る事は何でもする覚悟くらいは持っているつもりです」
190 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/19(日) 15:40:08 ID:???
『そうなの?』
「誓って。だから、アークエンジェルの援護には、向かいます」

 シンはそう告げると、回線を切ってルナマリアに視線を戻した。腫れた目蓋に赤くなった白目。不安げな
表情で見上げる彼女を見て、軽く頭をポンポンと2回、優しく叩いた。

「行くの? シン……」

 ポツリと訊くルナマリアに一つ頷くと、シンは抱いていた腕を解き、そっと彼女をシートに座らせた。
そしてインパルスのコックピットから出て、もう一度ルナマリアに振り返る。

「ルナはミネルバに戻れ。アークエンジェルには、俺ひとりで行く。――いいな」

 そう言い残して、シンはデスティニーのコックピットに戻り、シートに座ってハッチを閉めた。
 コンソール・パネルを操作して、宙域図を呼び出す。それから作戦経過時間を見て、アークエンジェルが
現在、どの辺りに位置しているのかを、大雑把に割り出した。作戦が全て計画通りに進むわけが無いのだか
ら、後の正確な位置は自分の目と勘が頼りだ。
 シンはデスティニーの通信機で再びミネルバと繋いだ。そして、チラリとインパルスに目を遣る。インパルス
は相変わらず水に浮かぶように静かに佇んだままだった。

「ミネルバへ。メイリン、ルナのフォローは任せるぞ」
『うん。シンこそ、無理しないでね。――お姉ちゃんが可哀想すぎるから……』
「分かってる」

 メイリンの言葉に頷き、通信を切る。視線を前に向けたシンは、デスティニーを加速させた。



 艦橋を大きな横揺れが襲う。戦艦の頭脳とも呼ぶべきそこでは、戦争が行われていた。しかし、それは
直接敵と刃を交えるようなものではなく、コンピューターから矢継ぎ早に送られてくる情報との戦いだった。
一瞬の気の緩みも許されないクルーの目は血走り、機械を操作する指は一時の休みも貰えずひっきり
なしに働き続けている。

「アークエンジェルの損傷率が10%を突破! ゴットフリート2番が使用不能です!」
「左翼、連合艦隊からの砲撃、来ます!」

 ミリアリアが報告し、サイが叫ぶ。両サイドからの声に、中央シートに腰掛けるマリュー=ラミアスは
眉間に皺を寄せた。

「対ショック防御!」
「うぅ……ッ!」

 再び大きな揺れが艦橋を襲う。漏れ聞こえた呻き声の数が、衝撃の規模を物語っていた。ラミアスは即座
に手元のコンソールパネルを操作し、艦内の気密チェックを行う。

「サイ、左翼の敵艦隊の規模は?」
「大きいのが1隻と、随伴艦が3隻です。メーデーのMS隊が足止めをしてくれています」
191 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/19(日) 15:41:06 ID:???
 言いながらも、ラミアスは手元の操作を怠らない。サイの報告と同時に気密チェックの結果が出て、視線
を手元から左に移した。

「火力の薄くなった左弦を狙われたわね……! ノイマン、取り舵!」
「やってます!」

 ラミアスが言うよりも早く、ノイマンが素早く判断して左に舵を切っていた。恐らくは、考えている事も分かっ
ているのだろう。しなやかに回頭するアークエンジェルの艦首が、敵艦隊と正面を切って相対する。

「ローエングリンを使います。――チャンドラ」
「了解。ローエングリン、1番2番、起動します」

 回頭に合わせて、アークエンジェルのカタパルトの下から陽電子砲の砲身が迫り出す。撃てば、この局面
を打開する一撃になる事には違いない。
 しかし、必殺兵器の顕現に慌てたのか、敵艦隊からの砲撃が一層、勢いを増した。ノイマンが舌打ちし、
舵を取り直す。

「ノイマン!?」
「無理です! 撃つ前に潰されます!」

 砲撃に晒されて振動が激しくなる。悲鳴に近いノイマンの叫びに、ラミアスは拳を握った。
 2門のローエングリンは敵にとって最大の脅威。それを怖がって、敵の抵抗も必死になる。だからローエン
グリンは使うタイミングが重要だった。易々と使う姿勢を見せれば、大概、今のような目に遭うからだ。
 しかし、敵の突破は許したくない。後方のエターナルには、アスラン、ラクス、カガリという最重要護衛対象
の要人達が陣取っている。万が一それが沈むような事があれば、その瞬間にザフト・オーブ同盟軍は崩壊
する。それだけは、避けなければならない事態だった。

「キャッチした例のMSはどうなっていて?」

 ラミアスは振り返り、ミリアリアに問い掛けた。彼女は左手をインカムに添え、ジッと計器に焦点を合わせ
ていた。

「まだ突破されていません。アカツキ、レジェンドとも健在です」

 一瞬たりとも気を抜けないのだろう。彼女の視線がラミアスの視線と合うことは無い。ラミアスも、それを
咎めるような事はしなかった。

「よし――ローエングリンを撃つ時には、メーデーの部隊への射線軸の連絡、忘れないでちょうだいね」
「はい」

 ミリアリアの反応は薄い。しかし、この状況ではそれが正しい姿でもある。
 ラミアスは捻っていた身体を元に戻し、視線を右に向けた。

「あの向うで、ネオ大佐が戦っている……」

 誰にも聞こえないような声で呟く。そしてハッとして小さく頭を振った。

「私はまだ、そんな事を……そういう女でしかないという事なのね……」
192 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/19(日) 15:43:15 ID:???
 ラミアスは自嘲的に呟いて髪をかき上げた。
 戦場で男を考えて女になってしまった事、そして未練がましく何時までも1人の男に固執し続けるストーカー
気質。どちらも、自分に失望させるには十分な感情だった。ムウ=ラ=フラガが消えてから、それほどまでに
自分は弱くなってしまっていたのかと、愕然とする。
 アークエンジェルに再び乗る事で、2年前の勇気と強さを取り戻したつもりだった。しかし、ネオに付き纏う
ムウの影が逃れられない呪縛となって、今なおラミアスを苦しめ続けていた。
 しかし、今は戦いに集中する事にする。戦艦とは、クルーとの運命共同体でもある。その長である自分が
背負うのは、自身の命だけではない。個人的な感傷で危険に晒して良いものでは断じて無い事は、承知して
いるつもりでいる。
 ラミアスは姿勢を整え、正面を見据えた。艦橋は尚も揺れが続いている。


 それは雪の様に白いMSだった。その重MSの出で立ちは、ネオとレイの知る一般的なMSのデザインとは
明らかに一線を画す代物で、一目見ただけで、それが異世界のMSである事を察する。
 ネオとレイには初見だが、既に別の部隊が接触した時の交戦記録が存在していて、アカツキとレジェンドの
コンピューターにもそのMSのデータはインプットされていた。しかし、その性能は今も未知数。武器のデータ
も機体性能も、推定の値だけしか入力されていない。
 データはあるのに謎に包まれているという不思議な機体。しかし、ただ一つだけハッキリとしているものが
ある。それは、MSの名称――

「タイタニア!」

 ネオが叫ぶ。レジェンドと連携してドラグーンで攻め立てるが、まるでビームが当たらない。
 それは、考えられない事だった。それぞれにお互いを認識し合える2人が連携してドラグーンを使えば、例え
キラやシンでさえ撃墜できる自信があった。しかし、それがサッパリ当たらない。

『しっかり狙え!』
「やってるよ! 尋常じゃないんだよ、コイツは――!」

 レイの苛立ちも分かる。焦りがあるのは彼だけではない。このコンビネーションが崩される事が、由々しき事態
であるというのは、ネオにも危機感として理解している所だ。どうやら、タイタニアのスペックは想像の範囲を超え
た所にあるらしい。
 ネオの額に、冷たい汗が浮かぶ。感応し合える2人は高度な連携を行う事が出来るが、それは同時に互いの
抱える不安までもが共有できてしまうという側面も持ち合わせていた。もし、本当にドラグーンによる
連携が通用しないのならば、彼等にタイタニアに対抗する術が無い事になる。そんな予感だけが相互干渉して、
彼らの不安はますます掻き立てられていく。

 しかし、シロッコにとっても2人の操るドラグーンをかわし続けるのは容易な事ではなかった。ネオとレイのコンビ
ネーションは、彼の想定よりも遥かに手強い。
 一方で、それと同時に、ある興味がシロッコの中に芽生えつつあった。
 キラもドラグーンを使った。しかし、彼はネオやレイほど卓抜したコントロールは持っていなかった。それはつまり、
ある一芸に於いてはキラよりも優れた人間がコズミック・イラの世界に存在していたという事である。その事実は、
純粋にシロッコの探究心を刺激した。

「この連中、ニュータイプでは無いにしろ、2人で意思の交感を行えるというのか?」

 感じ取った感覚から、シロッコはそう推測した。グレーとゴールドのドラグーンが飛び交う。一見、不規則に見えて
その実、計算された動き。確信には至らないが、概ね推測が的を射ていた事を感じさせる動きだった。
193 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/19(日) 15:45:03 ID:???
 タイタニアの右側面から、3基のグレータイプが襲う。横にスライドして逃げながら、デュアル・ビームガン
で標準サイズの2基を撃ち落とす。すると、煙幕となったその向こうからビーム刃を発生させた大型の1基
が突っ込んできた。しかし、タイタニアは反応良く後方に飛び退いてビームスパイクをかわす。

「そこッ!」

 すかさず後ろに振り返り、デュアル・ビームガンを撃つ。

「――ッ、ええい!」

 しかし、そのビームは背後から迫っていたゴールドタイプには当てる事が出来なかった。軽く舌打ちをし、
仕方無しにタイタニアを後退させる。そして、ちょうど残骸となって浮かんでいたザク・ウォーリアの頭部を
掴み取り、それを放り投げてビームを当てさせる事で煙幕を作り、その場をやり過ごす。
 しかし、その先で待っていたのはアンビデクストラス・ハルバードを構えたレジェンドだった。

「ここもか!」

 赤い刃が振り上げられる。それは紙一重で空を切ったが、間髪入れずにレジェンドの背後からアカツキが
ビームサーベルを手に飛び掛ってきた。上から叩きつけられるビームサーベルに、タイタニアの肩部、2本の
隠し腕がビームサーベルを交差させてそれを防ぐ。

「やはり、通じ合っている。興味深い事ではあるが――」

 力任せにアカツキを押し返す。デュアル・ビームガンで牽制して別の宙域に視線を移した。

「この不快感の正体は、早めに突き止めて置きたい。今はやはりエターナルに――ん?」

 視線をエターナルの方向に向けた途端、シロッコの頭を痺れるような感覚が奔った。それは、かつてアル
ザッヘル基地の防衛戦で受けた感触に似ている――と言うよりも、そのものだった。
 目線が、そこに吸い込まれるように動いた。視界に入ったのは、白が基本色のトリコロール艦。シロッコは
目を凝らしながら、指でコンソール・パネルを操作して拡大する。

「アークエンジェルのシューズが開いている? ――ええい、面倒な!」

 続いている「不愉快な感覚」ほどの危機感は無い。しかし、それでも2門の陽電子砲は危惧すべき兵器だ。
それをコロニー・レーザーの発射口に撃ち込まれたりでもしたら、大変な事になる。
 ――必然的に、「不愉快な感覚」の正体が陽電子砲ではない事が明らかとなった。ザフト・オーブ軍の狙い
は、陽電子砲によるコロニー・レーザーの破壊ではない。それ以上の目論見を、まだ隠している。
 急ぐ必要があった。「不愉快な感覚」は、次第にシロッコの中で大きく膨れつつあった。タイタニアはアカツキ
とレジェンドの攻撃を受ける中、アークエンジェルへと方向を改めた。

「何だ……別の方向へ向かう? 本丸を攻め落とそうってんじゃないのか?」

 突如として進路を変えたタイタニアに、ネオは訝しげに唸りを上げた。主体性の無い動きは、逆に彼を混乱
させていた。

『手を緩めるな、ネオ! タイタニアには追撃を掛けるしかないだろう!』
194 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/19(日) 15:46:45 ID:???
 思考の迷路に足を踏み入れそうになっていたところに、レイが叱責を飛ばした。そして、思わず佇んでし
まっていたアカツキの脇を、レジェンドが先行して駆け抜けていく。ハッとしてネオはスロットルを開け、すぐ
さまその後を追った。

「そうだった! ――この動き、アークエンジェルか?」

 レーダーで追尾しているタイタニアの動きから、行き先がアークエンジェルである事にほぼ間違いない。

「聞こえているな、アークエンジェル! 白い奴がそちらに向かった! 対応できるんだよな!」

 光線が煌き、閃光が瞬く。ミノフスキー粒子の影響がどの程度であるのかは分からないが、ネオは構わず
に警告をした。


 ローエングリンの発射タイミングが、なかなか取れない。息継ぎを忘れたかのような敵艦隊の砲撃に、
ノイマンは忙殺されかけているようにも見える。メーデーで駆けつけてくれたザク・ウォーリア部隊が白兵
戦線を支えてくれているが、アークエンジェルに未だ光明は見えない。
 チャンスは、一度きりと考えた方が良さそうだ。それも、ほんの僅か訪れる一瞬に賭けるような事態にしか
ならないだろう。敵の抵抗の仕方を見て、そういう状況になる事が想像できないラミアスでは無い。

「ロアノーク大佐より、タイタニアがこちらへ向かったとのことです」

 不意なミリアリアの報告に眉を顰める。今更になってターゲットを変更するタイタニアの目論見が、まるで
読めなかった。

「こちらに? エターナルではないのね――索敵!」
「もう、すぐそこまで来ています!」

 ラミアスが言うが早いか、サイの叫びと同時にタイタニアは既にビームを撃ち込んでいた。

「くぅっ……!」
「艦上部に被弾! イーゲルシュテルン4番6番が沈黙!」

 激しい揺れに必死にシートにしがみ付くクルー達。ラミアスは即座に顔を上げ、レーダーでタイタニアの
位置を把握する。

「コリントス発射! タイタニアに対応!」
「撃ちますが――対艦戦をやってんですよ!」

 チャンドラの悲鳴に近い叫び。言っている間に、更に激震が襲う。各員が前のめりになる中、サイが
モニターの情報に顔を青ざめた。

「後部第3ブロック大破! バリアント1番も使用不能です!」
「なんて事! アカツキとレジェンドも、来てくれているのよね!?」
「今、来ました!」
「……遅いんじゃないの?」
195 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/19(日) 15:48:13 ID:???
 白い粉塵の尾を伸ばして、撃ち出されたコリントスはタイタニアを狙う。その白い粉塵の尾を掻い潜る
ようにして回避するタイタニアは、続けてデュアル・ビームガンをローエングリンに向けて構えた。しかし、
そこへ数発のビームがタイタニアを襲い、後退させる。レジェンドがビームライフルを連射し、アカツキが
一足飛びにビームサーベルで斬りかかった。
 モニターでその様子を観戦して、ラミアスは受話器を耳に当てた。アカツキのビームサーベルは虚空を
斬り、レジェンドがドラグーンを全展開してタイタニアをアークエンジェルの傍から追い払う。

「お二方とも、タイタニアへの牽制は――」
『大丈夫だぜ、艦長さん。そちらは正面艦隊にローエングリンをぶち込んでくれりゃあいい』

 応対に出たネオの声に、ハッと息を呑んだ。ネオの声の感触、以前と比べ、随分と耳に馴染んだような
気がする。それはムウを忘れていっているという事なのか、それともネオがムウに近づきつつあるのか――

『陽電子砲がありゃ、戦艦の3つ4つは軽く落とせる。頼むぜ、艦長さん。奴の相手は、アークエンジェルの
支援が欲しい。手短に片付けてもらえると、嬉しいんだけどな』
「は、はい!」
『あん?』

 思わず、あどけない返事をしてしまった。それは会話から受ける印象が、あまりにもムウそのもののよう
に感じられたから。ラミアスの失態だった。

『おいおい、大丈夫なのかね? ホントに』

 隙を見せてしまったのは、迂闊だった。アカツキは呆れたようなネオの言葉を残してタイタニアへと飛び
掛っていく。ラミアスは受話器を置くと、今のやり取りの記憶を消すように頭を振った。こんな状況で動揺
している場合ではない。
 ノイマンの操舵は的確だ。激しくなる一方の砲撃の中を、余計な被弾をせずにアークエンジェルが泳げる
のは、単に彼の神がかり的な操舵のお陰である。ただ、しかし彼の技術を以ってしても局面の打開には至ら
ない。やはり、ローエングリンによる一撃が必要だ。ただ一度きりのチャンス――逃さぬよう、ラミアスは全身
全霊を込めて戦場の動きに注視する。


 アークエンジェルを沈められなかったとしても、せめてローエングリンだけでも破壊しておきたかったの
がシロッコの本音だった。それが出来なかったのは、巧みな連携で仕掛けてくるアカツキとレジェンドの
素早い対応のせいだ。こうなれば、多少の安全マージンを削ってでも手早くこれらを始末するしかない。

「大人しくしていれば、死なずに済んだものを」

 そのシロッコの言は、強がりでは無い。徐に目蓋を下ろし、精神統一を図る。シロッコの発する波動を受けた
ファンネルが、タイタニアの両肩アーマーからあたかも巣を刺激された蜂の大群のように飛び出した。

 その質の違いを、同じく無線式小型攻撃端末を操るレイとネオだから、分かった。同じ無線式小型攻撃端末
でも、ドラグーンとは大きさもその動きの精度も違う。それは根本的な設計思想や積み上げた技術の歴史の
差から来るものであるのだが――しかし、確かな事は現時点で圧倒的な脅威であるという事。

『奴さんはここからが本気か!』

 ネオの言葉は信じられる。レイの感じた印象も、同じだったからだ。
196 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/19(日) 15:50:08 ID:???
 胸が苦しくなる。それは低酸素濃度の部屋に放り込まれたような感覚である。ファンネルが放出されるのと
同時に、タイタニアから発する波動のような非科学的な圧迫感がレイの精神的な部分を侵蝕し、身体的に
変調を来すまでに影響を及ぼされた。

 ニュータイプは、人のこういう感情の変化に敏感だ。シロッコは、そのセンスを相手の理解の為には使わず、
自らの益を得るために使う。それがニュータイプとして覚醒した人間の得た、当然の権利であると主張して。

「なまじ感じ過ぎる事が命取りだな!」

 レジェンドは萎縮している。シロッコのターゲットは自然と定められた。命令を受けたファンネルが、得物に
食い掛るピラニアのような獰猛さでレジェンドに襲い掛かる。

「この息詰まり感……レイはこの毒気にやられているのか!?」

 動きの鈍ったレジェンドに目をやるネオに、タイタニア本体からの牽制攻撃。シールドを弾かれながらも
やり過ごし、ビームライフルで反撃する。

「レジェンドにあれはかわしきれない! ――クソッ!」

 アカツキの全ドラグーンを解放する。それをファンネルの回避に苦心するレジェンドの周囲に展開させ、
2つのピラミッドの底面を上下に合わせたような8面体のバリア・フィールドを形成した。
 防御に特化したアカツキと、高度な空間認識力を持つネオだからこそ出来る芸当である。その強固な
バリアの前には、さしもの脅威を振り撒くファンネルも太刀打ちできない様子であった。レジェンドに集中され
る砲撃は、全て弾かれていた。

『何をしているネオ! 奴の目論見は――!』

 足手纏いにされたくないレイが、言々火を噴いた。バリアで守られている現状が、不服なのだろう。レジェンド
の頭部が落ち着き無く回り、彼の困惑を表していた。
 レイの言いたい事はそっくりそのままネオの考えている事でもあるから、彼の言わんとしている事は口に
されるまでも無かった。焦る気持ちは分かる。しかし、バリアを解くわけには行かなかった。
 レイはその肉体的性質上、或いは既に肉体的にはネオよりも老齢に差し掛かっているかもしれない少年だ。
彼が苦しい事は、伝わってきている。だから、無理はさせたくない。

「分かってるよ! タイタニアは俺が止めてやるって!」

 そう軽口を叩いて強がって見せた。そしてキッとタイタニアを睨み直す。タイタニアは不敵にモノアイを
瞬かせて、不意に背を向けた。ネオの眉間に皺が寄る。

「その、人を食ったような物腰は、あの男の性質そのものを示している。――馬鹿にして!」

 その背に、視線を突き刺す。ネオは操縦桿を目一杯に押し込んで、アカツキをタイタニアに飛び掛らせる。
 ビームライフル「百雷」を連射。しかし、タイタニアはまるで背中に目があるかのようにそれを避ける。そして
軽やかに反転すると、デュアル・ビームガンでビームを一閃してアカツキの「百雷」を破壊した。
 瞬間、アカツキは壊れた砲身を投棄して両手にビームサーベルを抜いた。そして、そのままメガ粒子砲の
嵐を掻い潜って、タイタニアに接近する。

『まだ私と戦うつもりか。金色のMSがしつこいのは、どの世界でも定番だな』
197通常の名無しさんの3倍:2009/07/19(日) 15:56:58 ID:???
支援
198 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/19(日) 16:00:58 ID:???
 タイタニアのモノアイが滲ませる邪な紅が、面白くなかった。まるで清廉潔白を主張しているかのような
ボディの白さが、余計にそう感じさせているのかも知れない。タイタニアの純白は、シロッコの黒い腹の内
とはまるであべこべだ。

「諦めが悪いんでね、俺は。不可能が可能になるまで、何度だって立ち向かってやるのさ!」
『それを、無駄な努力と言うのだよ』

 そうやって、シロッコは他人の努力を嘲笑ってきたのだろう。
 最初にスティング、アウル、ステラの存在を知った。それからプラントへ来てレイの存在を知った。そして、
自分の中のムウの存在を知った。自分を含め、皆、不安定な自分を確定させようと必死にもがいていた。
だから、ネオにはシロッコの放言が許せなかった。

「無駄だと? 意味が無いと言ったか!」

 アカツキの袈裟に振るった右ビームサーベルは空を斬り、逆袈裟に振り上げた左ビームサーベルはビーム
ソードに弾かれる。一寸の間を置いて、今度は両サイドから逆水平にクロス斬り。しかし、タイタニアは素早く
懐に入り込んで、自身の両腕をアカツキの両腕の内側に突っ掛けてそれを防いだ。

「ふざけるな! この世の中、誰が生きていても良い筈だ! コーディネイターもナチュラルも関係ない。
例え存在そのものが偽りだったとしても、生きている現実があればそれが真実だ!」
『ならば、貴様が死ねば真実は嘘になる』
「ネオ=ロアノークが、この程度で屈すると思うなよ!」

 じりじりと、アカツキの腕がタイタニアの腕を押し込んでいく。まるで、ネオの気迫がアカツキに宿った
ようだった。その意外な出来事に、さしものタイタニアも首を回す。

『ほう……?』
「聞かせてやるぞパプテマス=シロッコ! 俺は地球、プラントと渡り歩いて、そういう事を知ったんだ!
誰もが生きられるのなら生きたい……その為にする努力も、お前は無駄だとほざくのか!」

 いよいよアカツキの勢いは増し、光刃がタイタニアに迫る。しかし、シロッコに慌てる様子は見えない。
タイタニアはジッとアカツキを見据え、寧ろ余裕すら見せているように感じられた。

「それを否定すると言うのなら、シロッコよぉッ!」
『愚民は、愚民らしく天上人の支配を享受していれば良い。余計な事をせずとも、世界は天才の手に委ね
られ、正しき歴史を重ねるものだ』

 タイタニアがアカツキを見下すように少し顎を上げる。それは、シロッコの確信の笑みだった。

「人の歴史は、人生って奴はぁッ! 他人(ひと)に定められて生き行くものでは――」

 気付いた時には、既にアカツキの両肩は本体からおさらばしている状態だった。音も衝撃も、何も無い。
いつ斬られたのか、ネオにはそれを感じる瞬間さえなかった。斬り落とされた両腕が、砂金のように装甲の
破片を散らしながら舞う。

「――……なッ!?」

 タイタニアの隠し腕が、ビームサーベルを持っていた。それが、アカツキの両腕を斬り落としたのだ。
199 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/19(日) 16:02:44 ID:???
 怒りのままに勢い付いていた事が嘘のように血の気が下がる。途端に、不思議と冷静になれた自分が居た。
 しかし、視界の隅から迫ってくるタイタニアの太い腕を認識しながらも、身体は反応しなかった。それは、
諦観だったのかもしれない。
 裏拳のように薙ぎ払われるそれに殴られ、アカツキは金色の破片を散らしながら吹っ飛んだ。

 ――思わず、立ち上がっていた。視線はそのモニターに釘付けにされ、身を硬直させた。

「敵艦隊を正面に捕捉! ローエングリン、発射可能です!」
「ザク・ウォーリア部隊、射線軸より後退! ――艦長!」

 立ち尽くした分だけ、判断が遅れる。ハッとして号令を掛けようとした時には、船体が激しい揺れに襲わ
れていた。ラミアスはシートにしがみ付き、浮き上がりそうになる自分の身体を必死に抑えた。

「ロ、ローエングリン1番、大破! 使用不能です!」
「か、片側だけでも問題無い筈! このまま行くわ! ローエング――敵!?」

 いきなり艦橋の側面に現れて、携行している大型のライフルを構えた。砲口は、直接こちらを狙っている。
 その白亜のMSに、躊躇は無い。この一撃で、勝負をつけようというのだろう。まるで神の意思を代行する
天使そのもののように、己が正義を疑いもしない。
 光り輝くビームの色が、艦橋の彼女達を照らした。

 その瞬間を、ラミアスは覚えていない。いつの間にか、そのMSがタイタニアとアークエンジェルの間に
割り込んでいた。

『――ったく、世話が焼けるぜ』

 若干のノイズ交じりに、声だけが届けられた。視線の先に、黄金色に輝く背中。ラミアスは顎を震わせて、
目を見開いた。中途半端に口元を覆う両手が、彼女の狼狽振りを示していた。

『ドラグーンをレイに使ってやってんのなら、自分の身を盾にするしかないものな……』
「あ…あぁ……!」
『そう言えば、前にもこんな事があった気がする……なぁ、違うかい、艦長さん』

 ドクン――! 心臓が、かつて無いほど高鳴った。

「ム、ムウ……あなた……」
『――済まない。あんたの事、思い出そうとしたけど、出来なかった。ゴメンな……マリュー』

 その瞬間、アカツキの肩の辺りから小爆発が起こり、その衝撃でアークエンジェルから吹き飛ばされて
いった。そして、力尽きたそれが再び息を吹き返して戻ってくる事は、無かった。
 ジワリ滲む涙に、視界が霞む。振り返るな――それだけを、自分の心に言い聞かせる。今振り返ってし
まったら、全てが台無しになる。苦労してローエングリンの発射態勢に漕ぎ着けた事も、アカツキが身を
挺してくれたことも、全て。
 ぱちりと瞬き一つ。邪魔な水分が目尻から弾かれて、無重力に散った。

「ローエングリン……」

 シートに縋りついた姿勢のまま、手をかざす。
200 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/19(日) 16:04:04 ID:???
「正面艦隊――ってえええぇぇぇッ!」

 心のまま叫ぶ。それはマリュー=ラミアスの心の底からの叫びだった。
 瞬間に吐き出された業火の一撃が、連合艦隊を駆け抜けた。先頭で中央に陣取る艦が直撃を受け、その
後方に位置していた大型の艦隊旗艦までも貫通する。そして、その2隻が起こす猛烈な爆発に、旗艦の右翼
に付けていた随伴艦までもが巻き込まれて撃沈した。残された1隻も、撃沈こそしなかったものの甚大な損傷
を被り、そこから後退するしかなかった。


 アカツキのドラグーンが形成していたバリア・フィールドは、アカツキが戦闘不能になった瞬間と時を同じく
して消滅した。それは、アカツキがドラグーンのコントロールを失った事。そして、ネオがドラグーンをコント
ロールする事ができなくなったという事である。
 正面に据えたタイタニアは、眩しいほどに白い。見れば見るほどに、じりじりとした痺れるような苛立ちを
感じる。レイの瞳には、憎しみの対象として映っていたのかも知れない。
 しかし、そんな事は無い筈だと、頭を振る。仇を討とうなどと考えられるほど、ネオを信頼しているつもりは
無かったからだ。

「ネオ、俺はお前に頼まれたから生きるんじゃない。最後まで生きたいと、俺自身が望むから生きるんだ!」

 シロッコのプレッシャーなど、問題にしている場合では無い。結局、レイはネオに借りを作ったままなのだ。
非常に後腐れが悪い。ならば、ネオが守ろうとしたアークエンジェルを守る事で、借りを返したい。
 レイの手が、操縦桿を強く握った。途端、レジェンドはビームライフルを構えて突撃をする。
 ビームを連射してタイタニアを追い捲り、アークエンジェルから引き離す。そして、レイの視線がその姿を
追い、ビームライフルがそれに連動した。

「そこだ!」

 タイタニアの姿を捉えた。しかしその時、思わぬ方向からの攻撃を受けて、右腕を貫かれる。慌ててビーム
ライフルを左手に持ち替えて、咄嗟にビームシールドを展開して身を守った。

「敵の増援? ――いや、奴のビットか!」

 それらは一通りレジェンドを攻撃していくと、タイタニアに纏わり付くようにして集結し、それぞれ肩アーマー
のファンネル・ポッドへと収容されていった。レイは忌々しげに舌を鳴らし、レジェンドを後ろに飛び退かせた。

「何だ!?」

 その時を待っていたかのように、今度はタイタニアを別方向からのビームが襲った。一瞬、アークエンジェル
の援護射撃かとも思ったが、明らかに方向が違う。
 レイがその姿を探し出そうと首を回していると、ピピッと音を立てて反応するコンピューターが、その正体を
割り出した。

「デスティニー――シンが来るのか!」

 細かいビームが数発タイタニアに降り注ぎ、アクセントをつけるかのように強烈なプラズマ収束ビームの
光跡が劈いた。距離の関係もあっただろう。照準は正確ではなく、タイタニアは特に動くことなくそれをやり
過ごした。
201 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/19(日) 16:06:36 ID:???
 彼方から飛来してきたデスティニーは、更にタイタニアに牽制攻撃を掛けると、素早くレジェンドに並び
かけた。そして軽く肩を触れ合わせて接触回線を繋いでくると、上部小型モニターに視線を方々に向ける
シンの強張った顔が表示された。

『アカツキの反応が見えない……? レイ、ネオは!?』
「分からん。アークエンジェルを守って、どこかに……」
『クソッ! こっちもかよ!』

 シンは悪態をつくように吐き捨てると、デスティニーをタイタニアに飛び掛らせた。レジェンドがそんなシン
の行動に連動して、ドラグーンを展開させる。
 データの中でしか知らない白い重MSを見て、シンは眉を顰めた。イザークのグフ・イグナイテッドだって、
あそこまでは白くない。

「このMSは初だぞ。――タイタニアだったか?」

 シンはコンソールモニターとカメラモニターを交互に見やり、そう呟いた。符合するデータが告げた事実
が、一段と緊張感を高める。

「キラ=ヤマトが唯一敵わなかった相手……コイツがぁッ!」

 戦場である事を忘れさせるほどの純白。それは装甲の歪など殆ど無く、かすり傷やビームによって焼け
焦げた痕も見えなかった。限りなく新品に近いその状態。それでこんな所まで戦ってきたとは、恐れ入る。
 そういう敵が相手である。ジ・Oとはわけが違う。

「パプテマス=シロッコだな!」

 肩からフラッシュ・エッジを取り出し、投擲する。タイタニアがそれを弾き返している間に接近し、再び
それをキャッチして斬り掛かる。タイタニアはビームソードでそれを受け止めた。
 その瞬間、本能的にその異質さを察した。これまで戦ってきたどんな敵よりも、このタイタニアは違う。
MSも、パイロットも底が見えない。こんな不明瞭で不確かな敵と交戦するのは、初めての経験だった。

『ほう……力がある。しかし、力だけでは私は倒せんよ』

 声に凄みがある。一見、優男風の声色なのに、心臓を手で掴まれるような圧迫感があった。
 ノミの心臓であったならば、その瞬間に怯んでいた事だろう。しかし、心臓に毛が生えているシンに、それ
は通用しない。それどころか、敵の総大将を目の当たりにして余計に気勢を強めた。

「あんたが連合軍のトップなら、あんたを倒しちまえば!」
『出来るつもりで居るのか? 少年!』

 タイタニア肩部の隠し腕が伸びて、ビームサーベルを振るう。シンの瞳は、それを見逃さない。刃を弾き、
残像だけをその場に残して離脱した。間髪入れずに追撃しようとするタイタニアに、続けてビームのシャワー。
レイのドラグーンが、タイタニアの足を止める。
 シロッコは眉を顰めて、そんな2人の連携に感心した。

「デスティニーがレジェンドと連携を組むか――まだ来る?」
202 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/19(日) 16:08:14 ID:???
 背後から殺気。シロッコが後ろを振り返ると、赤と白で彩られたガンダムタイプのMSが、右手に持った
レーザー対艦刀を振りかざして肉薄していた。

「うわあああぁぁぁッ!」

 ルナマリアが悲鳴のような雄叫びをあげ、タイタニアに斬り掛かる。しかし、渾身の力を込めて振り下ろ
したエクスカリバーは易々と回避され、続けて薙ぎ払った一撃もビームソードによって防がれた。
 刹那、タイタニアの肩からファンネルが射出され、それが放つ光輝が両脚と右腕を貫いた。

「そ、そんな!」

 煌々と輝いたその一つ目の紅が、インパルスの装甲を貫いてルナマリアに突き刺さる。それは、見つめ
られただけで抱いた恐怖。決して犯してはならない禁忌に触れたような罪悪感と共に、心の奥を見透かさ
れるような嫌悪感も抱いた。身の危険を感じた身体が、条件反射的に動く。
 インパルスが急ぎタイタニアの背後に回り込んだ。タイタニアは、それを歯牙にもかけない。
 残された左腕が持つビームライフルで、その背中に攻撃する。しかし、照準が狂ったように掠りもしない。

「何で? 何でこの距離で外れたの!? いくらあたしでも、この距離だったら――」
『知りたいか?』

 いきなり全身を氷水に漬けられたような悪寒が奔った。タイタニアが振り返り、やおらビームソードを掲げる。
瞳に映り込む、長いビーム刃。脳はそれを認識しているのに、身体が硬直して動けない。いくら鎮めようと
思っても、悪寒が鎮まらない。
 ブン、と薙ぎ払われたビームソードが、インパルスの首を撥ね飛ばす。衝撃と共に、ルナマリアの正面の
モニターがモノクロームの砂嵐へと変わった。

『それは貴様が、排除されるべき存在だからだよ』

 地の底に引きずりこまれるような重い声だけが、耳に届く。それは、けたたましく鳴り響く警報よりも更に
ハッキリと聞こえ、見えない触手のようなものがルナマリアの全身を這いずり、指1本すら動かせられない
ほどに硬直させた。
 全身が冷たい。顔中に浮かぶ汗も、渇いた口の中も、表皮、五臓六腑、骨、筋肉、毛髪といった、身体を
構成しているありとあらゆるものが、まるで瞬間冷凍されてしまったように寒い。
 何かがぶつかる衝撃。叫びたくても、喉も凍ってしまっているようで、声が出せない。コックピットが激しく揺さ
ぶられ、身に食い込むベルトだけが、廃人の様になってしまったルナマリアの身体をシートに繋ぎ止めていた。

 タイタニアが、サブ・マニピュレーターでインパルスを捕獲していた。シンの瞳に、その光景は嘘のように
映っていたのかも知れない。
 何故ルナマリアがここに居るのか、分からなかった。彼女は、もう戦える状態ではなかったはずである。

「何でインパルスが――ルナが来ちゃってんだよ!」

 タイタニアがインパルスのコックピットにビームソードを突きつける。ヤバイ――シンはルナマリアの行動
に不可解な思いを抱きつつも、四の五の言わずにデスティニーに全開の鞭を入れる。
 グンと後方に掛かる重圧に鋼の肉体を軋ませながら、高エネルギー砲でタイタニアを狙撃し、2機を分断する。
その片手間にアロンダイトを引き抜き、刀身を展開させた。

「あんたの相手は俺だぁッ!」
203 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/19(日) 16:09:56 ID:???
 大きく振りかぶり、身体の回転に合わせて振り下ろす。重量と戦艦の装甲さえ容易く切り刻む刃が、タイ
タニアへと振るわれた。しかし、アロンダイトはタイタニアに紙一重でかわされ、続けてゼロ距離で高エネ
ルギー砲を突きつけたが、サブ・マニピュレーターがその砲身を掴み、照準を逸らす。
 その瞬間、シンはすかさずビームライフルを取り出して、バルカンで牽制しながらタイタニアの正面から
離脱しようと試みた。しかし、サブ・マニピュレーターが信じられない反応の早さで高エネルギー砲の砲身
から、その右脛にと掴み換え、脚を引っ張った。

「捕まった!? やられる――やるっきゃ!」

 躊躇なく、シンはデスティニーの右脚をビームライフルで撃った。膝を撃ち抜き、トカゲの尻尾きりの要領
で辛くも逃れる。右脚を犠牲にしていなければ、今頃シンはこの世界に存在していなかったかもしれない。
直後に振るわれていたビームサーベルの空振りを見て、シンは思わず生唾を飲み込んだ。

「フッ」

 シロッコは余裕の笑みを浮かべ、デスティニーの「尻尾」を放り投げた。途端、その「尻尾」をビームが貫い
て破壊したかと思うと、スコールのようなビームの嵐がタイタニアを襲った。
 レジェンドのドラグーンだ。シロッコはファンネルを適当数展開し、それらの攻撃と合わせてドラグーンを
狙撃する。その攻撃で幾つかのドラグーンは撃墜したが、その後、ドラグーンは直ぐに戻っていった。時間
稼ぎのつもりだったのだろう。シロッコが顔を振り向けた時には、既にデスティニーは半壊状態のインパルス
を伴って遠くへ離れていた。

「私は足止めをされているな。敵の頭さえ押さえられられれば、話は早いものの……追いついてきたのか?」

 脳を刺激する閃きが、プレッシャーの存在を報せる。続けてタイタニアの後方からビームが劈き、そちらへ
向けてデュアル・ビームガンを撃った。
 チラリとレジェンドを見やる。残り僅かになったドラグーンをリセットし、ビームライフルを構えてタイタニアを
警戒していた。

「次から次へと、よくも集まってくる」

 ウェイブライダーが先行し、その後ろをストライク・フリーダムが続いた。ウェイブライダーから牽制するよう
にビームが撃たれると、そのまま進路を逸れて離脱していく。その影から姿を見せたストライク・フリーダムが、
全火器を前面に向けて構えていた。
 そうはさせじと、タイタニアはレジェンドへ迫る。迎撃のビームライフルをかわし、その背後に回りこんでストラ
イク・フリーダムに対しての盾とした。
 それを目の当たりにして、キラの表情が引き攣る。

「シロッコ! どこまでも――!」

 シロッコの行動の意味をキラは分かっていた。分かっていたからこそ、頭に血が昇った。
 これはシロッコの挑発だ。浅慮な次元で、キラを馬鹿にしているのである。

「こんな挑発までして見せて! そんなにレコアさんを撃った僕は滑稽だったか!」

 苦虫を噛み潰し、自分を抑える。同じ過ちを犯すわけにはいかないのだ。キラは構えを解くしかない。
 タイタニアはレジェンドの背中を突き飛ばすと、悠々とした様子で先を急いでいった。ウェイブライダーが、
その後を追う。キラもすぐさま追撃に掛かろうとした。
204通常の名無しさんの3倍:2009/07/19(日) 16:10:19 ID:???
支援
205 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/19(日) 16:12:22 ID:???
『待て、キラ=ヤマト。何故、レジェンド諸共タイタニアを撃墜しなかった』

 カミーユに続こうとしたその時、キラを止めたのは意外にもレイの声だった。
 元々無口で、キラには彼と会話を交わした記憶が殆ど無い。その上、彼はキラを避けている風でもあった。
 そんな彼が、自ら話しかけてきた。急ぐ気持ちはあるものの、思わず立ち止まり、視線をレジェンドへと投げ
かけた。

「“何故”って……」
『あそこでシロッコを仕留めていれば、ザフトの勝利は確定的だった。お前の甘さのせいで、千載一遇の
チャンスをモノに出来なかったんだ!』
「君を犠牲にして撃てるわけが無いだろ!」
『俺が、ラウ=ル=クルーゼだとしてもか』

 眉を顰め、一瞬、身体が硬直した。
 久方ぶりにその名を耳にした。記憶の中からその名をピックアップするのに、さして手間は掛からない。
2年前にキラを苦しめ、心に大きな傷を残した男――その名が、ラウ=ル=クルーゼ。激しい戦いを繰り
広げ、最後はジェネシスの光の中に消えていったはず。

「どういうんだ……?」

 意味が分からない。今更その名を出した事も、あまつさえ自らをクルーゼと称する事も、キラを悪戯に混乱
させるだけだった。レイの不明瞭な魂胆には、困惑を浮かべざるを得ない。
 通信回線からは、意図不明の笑い声が聞こえてくる。キラは眉を顰めてヘルメットの通信機部分に手を添えた。

『アル=ダ=フラガのクローンは、ラウ1人じゃなかったという事さ! いわば、俺はラウと同一人物――ヤキンの
A級戦犯は、実は今もこうして生きていたという事なのだよ!』

 声の質やしゃべり方を、クルーゼに近づけているのだろう。少しドスを利かせた声は、キラの記憶の中にある
クルーゼの声と一致した。クローンと言う話が真実であれば、確かに彼はクルーゼそのものなのだろう。
 ――外見的には。

「君は、本気でそう言っているのか?」
『何……!?』

 ストライク・フリーダムは向き改め、レジェンドに背を向けた。キラにとっては、その議論は意味が無い。

「自分以外の誰かと同一になるなんて、そんな事できるわけ無いよ。君は所詮、君でしかないんだ」
『俺がラウじゃないから、だから、撃たなかったと言うのか』
「そうじゃない。今日まで一緒に戦ってきた君の事を、仲間だと思っているから、撃てなかったんだ」

 それ以上の会話を重ねるつもりは無かった。今は一分一秒が惜しい時。キラはスロットルを全開にして、
ストライク・フリーダムを加速させた。

 レジェンドがその背中に向かってドラグーンを向ける。レイの親指がそのトリガーボタンに添えられ、1/3
程度まで押し込んでいた。しかし、力が入って震える親指は、まるで麻痺したかのように固まってしまって
いる。そして、遂に力を緩め、指をトリガーから離した。
 青白い軌跡が、暫くレイの瞳に残されていた。その背に広がった美しい羽は、ストライク・フリーダムを
あたかも空想世界に登場するキャラクターのように見せていた。
206 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/19(日) 16:14:26 ID:???
 呆然と見送るレイの瞳には、それは人生を懸けてまで憎悪する対象には見えなかった。



 混迷の度合いを深めていく戦場。今は、開戦当初に勢いのあったザフトの快進撃は鳴りを潜め、組織力で
勝る連合軍が趨勢を盛り返していた。
 Ζガンダムの前に、ダガーLが立ちはだかる。カミーユは攻撃をかわしながら突撃し、すれ違いざまにビーム
サーベルで斬りつけて撃破した。

「こんな所にまで敵が出ている……突破を許したのはシロッコだけじゃないぞ」
「右にも敵!」

 カミーユが撃破したダガーLを後ろ目に呟いていると、後方でシートに掴まっているロザミアが声を上げた。
 顔を振り向けるのと同時に、右腕のランチャーからグレネードを発射。左側面から迫っていたウインダムの
付近で花火のように炸裂し、その光にウインダムが怯んだ。

『せ、閃光弾か!?』
「どけぇッ!」

 ウインダムが怯んでいる隙に飛び掛り、ビームサーベルで一突きする。光の刃は胸部排気ダクト付近に
突き刺さり、ウインダムを貫通していた。Ζガンダムはそれを引き抜くと、ウインダムを蹴り飛ばして直ぐに
変形をして加速した。
 ザフトの勢いは完全に死んでいる。奇襲が全てだった以上、それも仕方ない事だ。

「ザフトが後退を始めている」
「どうして?」
「時間だからね」

 訊ねるロザミアに、カミーユはそう返した。
 奇襲は元々、メサイアの存在を限界まで連合軍に悟らせない為の時間稼ぎに過ぎなかった。ザフトが少し
ずつ後退を開始したという事は、メサイアが接近しているという事の暗示でもあった。
 コロニー・レーザーは発射までに時間が掛かる上、火を入れっぱなしにしていれば爆発もする上、連射も
出来ない。それに、今撃たれてもメサイアが盾になってくれるし、メサイアの進路が逸れてもボルテールが
コントロール艦として随伴しているから、土壇場での修正でなければ十分に間に合う、という計算だった。
 ただ、誤算だったと言えば未だコロニー・レーザーに動きが見られないという事。攻撃を仕掛けた時点で
コロニー・レーザーを使われる事を想定していたから、ザフトとしては逆に不安だった。
 コロニー・レーザーを温存しているのは、シロッコがザフトの動きを警戒したからだ。シロッコがタイタニア
で自ら前線に出てきたのも、そのザフトの思惑を探る為だろう。だから、エターナルを目指していた。ザフト
の旗艦であるそれに接触すれば、何か分かる事があると考えたからだ。

「ピンクのお船が見えたわ!」

 ロザミアの声に気付き、カミーユは巡らせていた思考を止めて前を向いた。閃光やビームの軌跡が散見さ
れる宇宙の中に、桃色をした戦艦が小さく目に入る。

「シロッコはエターナルに取り付いて――人質にしようとする!」
207 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/19(日) 16:16:26 ID:???
 抵抗するエターナルの弾幕の中を、白いタイタニアが飛び回る。護衛のグフ・イグナイテッドやザク・
ウォーリアの部隊がいくら阻止しようとしても、まるで接触も出来ずに屠られるだけだった。
 それに、タイタニアの他にも、それを支援するウインダムの姿もある。

「何かたくさん居る!」
「あれじゃあ時間の問題じゃないのか! 援軍は――ん?」

 防戦一方のエターナルに業を煮やしかけた時、ふと何かに気付いた。徐にウェイブライダー形態からMS
へと戻り、急制動を掛ける。その瞬間、Ζガンダムの胸元を、一発のビームが掠めていった。
 目線を、射線元へと振り向ける。そこには、砲身の長いフェダーイン・ライフルを構えたハンブラビが居た。
そしてモノアイを光らせたかと思うと、即座にそれを投棄して襲い掛かってくる。既に隻腕となっているハンブラビ
は、ビーム・キャノンを連射しながら左手にビームサーベルを抜き、Ζガンダム目掛けてそれを振り下ろした。

「ヒルダ=ハーケンが、こんな所で仕掛けるんですか!」

 カミーユはビームサーベルをシールドで防ぎながら、確信を持ってハンブラビのパイロットの正体を看破した。
それは、カミーユにはハンブラビに乗っている人間が誰であるかが、既に分かっていたから。

「見透かされた? ――だから気持ち悪いんだ、お前は!」

 マーズとヘルベルトが戦死した事など知らないはずのカミーユが、何故かピンポイントでハンブラビがヒルダ
のものであると見破っていた。それは、ヒルダにとっては得体が知れない感覚であり、驚きを以って言葉を返す。
 Ζガンダムがビームライフルを取り回すと同時に、ハンブラビは後ろに飛び退いた。カミーユはチラリとエター
ナルを見やり、再びハンブラビに視線を戻す。戦いの構えをしたまま、一歩も引く気が無いように見える。

「あなたの目的はラクスを守る事でしょう! 僕を倒す事では無いはずだ!」

 エターナルはタイタニアや連合軍のMSに迫撃されている。ヒルダが自分で語ったとおり、本気でラクスを地球
圏の統治者としたいと願っているのなら、こんなところで道草を食っている場合では無いはずだ。
 ハンブラビがカミーユの言葉に反応し、微かな身動ぎを見せた。しかし、次の瞬間にハンブラビは再びΖガン
ダムへと襲い掛かってきた。

『お前はラクス様を脅かす! その妖術のような力で、洗脳するつもりで居るからだ!』

 闇雲にビームサーベルを振るう。流石に一流のパイロットだけあって、動きが鋭い。しかし、それは余りにも
遮二無二で、間合いを少し離すだけで簡単に対処できた。
 ビームサーベルの一振りごとに、ヒルダの呻き声が聞こえてくる。既に彼女の精神はボロボロで、戦いは
そんな心を紛らわす為の手段と成り果てていた。
 立て続けに2人の仲間を失い、命辛々逃げ延びた。そしてラクスの為にとエターナルを目指したが、そこで
は連合軍が撃沈を目論む始末。今すぐにでもザフトに味方をしてラクスを助けたい所だが、裏切った手前、
易々と自分の心が許さない。そんな偏屈なプライドとストレスから、ヒルダは錯乱状態へと陥ってしまっていた。
 妖術とか洗脳とかいう言葉が出てくるのは、自分の行為の正当性を無理矢理に自らの心に納得させるため
の幼稚な方便だ。そういう事情を、ヒルダの息遣いから把握する。
 その時、ロザミアがシートの後ろから身体を前に乗り出した。彼女も、分かっているようだ。

「何でお兄ちゃんを狙うのよ! あんたの敵は、あっちでしょうが!」
「自分以外を、全て敵だと思うから――」
「お寝んねしてんでしょ! だから、夢みたいな事を言うんだ!」
208 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/19(日) 16:17:36 ID:???
 ロザミアの言葉に、思わずハッとした。――だから、ヒルダは現実に目覚めていないのかもしれない。

「――なら、起こしてやらなくちゃな!」

 つまりは、ゲーツやレイと同じ様に――
 今のヒルダは錯乱からの思い込みでヤケクソになっているだけだ。元々、思い込みの激しい女性である。
それが錯乱によって悪い方向に作用してしまっているから、こういう無益な行動に出ているのだろう。ならば、
しっかりと現実を認識させて、自分の目的をハッキリと確認させてやれば、その思い込みの強さが逆に良い
方向に作用するかも知れない。
 カミーユは、それに賭けて見る事にした。その志はどうであれ、彼女の思想がシロッコに利用されている事
は哀れだ。そのせいで自分を失くしかけているのなら、それは取り戻すべきだ。

「ハーケンさん! あなた、自分が何を仕出かしているのか、分かっているんですか!」

 ビーム・キャノンの砲撃をかわして、背後に回りこむ。そして脇の下から腕を差し込んで羽交い絞めにする。

『黙れ! ラクス様の敵は全て排除しなけりゃ、世界は平和になってくれないんだよ!』
「違います! それは、あなたが勘違いしているだけなんです!」
『認めない、認めないぞ、こんな世界! そうでなきゃ、あたしはまた爪弾き者にされちまうじゃないかぁッ!』

 しかし、ハンブラビはすぐさまそれを振りほどき、ビームキャンを出鱈目に撃つ。カミーユはいよいよ混乱の
極みに達しようかと言うヒルダの言葉を聞きながら、再度の接触を試みた。

『魔物め! ラクス様の敵め! シロッコはラクス様を地球圏の支配者に相応しいと認めてくれたんだ!』
「他人に頼るな! 自分の目で見なさいよ! 自分の頭で考えなさいよ! それが、あなたでしょう!」
『言うなああぁぁッ!』

 ビームサーベルの振りが、更に滅茶苦茶になる。間合いなどお構い無しで、それはあたかも稚児が駄々を
捏ねているだけのようにしか見えなかった。
 Ζガンダムはビームサーベルに持ち替え、ハンブラビの懐に潜り込む。ハンブラビが振り回すビームサー
ベルは、出鱈目ゆえに見切りが難しい。その切っ先が、Ζガンダムの肩の装甲を撫で、切り傷をつけた。

「やられちゃうぅッ!」

 ロザミアが絶叫する。全天モニターに大写しになっているハンブラビの持つビームサーベルが、2人目掛け
て振り下ろされた。
 カミーユが目を細める。その瞬間にΖガンダムは双眸から宝石が煌くような光を放ち、ビームサーベルを
振り上げた。

「――解かれよッ!」

 Ζガンダムが振り上げた光刃がハンブラビの左腕を斬り飛ばす。そして、Ζガンダムは左のマニピュレー
ターをハンブラビの核であるコックピットへと伸ばした。
 そのマニピュレーターがコックピットに触れた瞬間、ヒルダの正面に一粒の光が現れた。それは次第に大き
くなっていき、あっという間にヒルダを飲み込んでいった。
209携帯 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/19(日) 16:19:54 ID:???
今回は以上です
明日も時間が合えば投下します
210通常の名無しさんの3倍:2009/07/19(日) 16:26:50 ID:???
乙です!
シロッコ強い!
211通常の名無しさんの3倍:2009/07/19(日) 17:05:20 ID:???
グレネードランチャーの直撃とかじゃなくて、
何かをわかってもらう為の光…だよね?
二次でのCE三連星でここまで憎たらしいのもイネーヨと昨日まで思ってたが、
今のヒルダはZZのマサイに近いのかもしれないと考えると
多少は理解できるかも…
212通常の名無しさんの3倍:2009/07/19(日) 23:33:23 ID:???
もうマジで小説読んでる感覚だ…
カミーユに悲しさと希望と壮快感が掻き立てられ、シロッコの不快なんだけど、筋が通ったボスキャラさといい…
作者氏は本職の「物書き」じゃないんだろうか…

このままラストまで一気に行くのでしょうか。
頑張って下さい




小学生の頃の少年ジャンプの発売日を待っていたあの気持ちが、今…
213通常の名無しさんの3倍:2009/07/20(月) 00:40:19 ID:???
残り2話、かな?
あー、もう待ち遠しいわぁ
214通常の名無しさんの3倍:2009/07/20(月) 03:09:22 ID:???
カミーユ氏乙
前回のカミーユ小説と今回のZ小説の文庫化はいつですか?
角川さん
ユニコーンよりこれ面白いです
215通常の名無しさんの3倍:2009/07/20(月) 06:05:23 ID:???
連投来てる!

圧倒される
面白いなあ
終局へ向けてどうなっちゃうのか
物凄く楽しみ
216通常の名無しさんの3倍:2009/07/20(月) 12:56:48 ID:???
待ち遠しいのと同時に、
もうすぐ終わってしまうかと思うと一抹の寂しさも…。
217通常の名無しさんの3倍:2009/07/20(月) 13:53:40 ID:???
超GJ
こんな面白いSSがもうすぐ終わってしまうなんて……
218通常の名無しさんの3倍:2009/07/20(月) 16:17:30 ID:???
この話はかっこいい大人が多いな
ムウですら男前な死に方だよ
219通常の名無しさんの3倍:2009/07/20(月) 16:30:25 ID:???
同人誌で文庫化してくれね?
2作品とも
220 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/20(月) 23:41:47 ID:???
  『メサイア出現』


 後退を開始したザフトを易々と逃がすほど、連合軍も間抜けでは無い。攻撃を仕掛けられて追撃をしない
のでは、軍隊としての沽券に関わる。しかし、コロニー・レーザーの使用を渋る上層部と、不利と分かってい
ながらにしてなぜ攻めて来たのか分からないザフト、それに今頃になって後退を始めた理由が、分かって
ないような、そんな感じの戸惑いを秘めた追撃だった。

 エターナルは攻撃を受けていた。凌げているのは奇跡だろうか。しかし、徐々にではあるが包囲されつつ
ある。艦長であるバルトフェルドの額には、びっしりと珠の汗が敷き詰められていた。

「迂闊に主砲を使うな! 敵が散るだろう! 艦隊戦をやってんじゃないんだぞ!」

 興奮して前に身を乗り出すバルトフェルドの不安は、どの程度なのだろうか。表情を見ればかなりの危機
である事は見て取れるが、艦橋で感じる揺れを鑑みる限りは、まだ多少の余裕が残されているように思えた。
尤も、「多少の余裕」と言ってしまっている時点で既に余裕が無い証拠なのだろうが。バルトフェルドの汗は、
その余裕を使い切ってしまわぬ内にエターナルを安全圏へと退避させたい事の表れなのだろう。
 アスランはパイロット・スーツのまま佇んでいた。艦の運用に関しては艦長のバルトフェルドに任せ、彼は
じっと戦況を見つめていた。
 ふと、アスランが何かを思い立ったのか、やおらアビーの所へと流れる。逼迫して緊張感が漂っていると
いうのに、この落ち着きっぷりは既に世捨て人の佇まいだ。見ていて、あまり好ましくは無い。

「アビー。連合への退避勧告は、出しているか?」
「……ッ!? 敵ですよ?」
「決めていた事だ」

 アスランの問いに、アビーは素っ頓狂に声を上擦らせて素早く振り向いた。目を丸くさせ、信じられない
といった面持ちでアスランを凝視している。一方のアスランと言えば、相変わらずの能面のような顔をぶら
下げていた。

「ザフトが殲滅戦を仕掛けたんじゃない事の証明となる。そうすれば、折り合いが付け易いという事もある」

 良心で敵を助けようと言う魂胆は無さそうだった。どうやら、政治的に利用できるポイントを押さえたかった
だけらしい。以前の彼からはまるで考えられない事だが、アスランが本気になるとこうも冷徹になれるもの
かと、改めて思い知らされた。――ミーアが死んでから、そういう傾向が強まった気がする。
 アスランがアビーに命令を下している一方で、カガリはゲスト・シートに座したまま身動ぎすらしない。傍ら
にはキサカが護衛として付いているが、彼女自身は激化する戦闘を険しい瞳で見つめているだけだった。
 彼女もまた、随分と芯がしっかりしたような印象を受けた。戸惑いや迷いといった感情は捨てたような毅然
とした態度は、彼女そのもののレベルアップがあった事を予感させた。そして、アスランとの距離を見る限り、
2人の関係も終焉を迎えた事を察した。

「突破してくるものがあります!」
「叩き落せ! 弾幕を厚くしろ!」

 普段よりもワンオクターブは高いようなダコスタの声が木霊すると、それを上から塗りつぶすかのような
バルトフェルドの絶叫に近い声が轟いた。視線を前に向ければ、数え切れないほどの砲弾の中を、眩しく
輝く白亜のMSが突っ込んでくる。
221 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/20(月) 23:43:28 ID:???
 妙な迫力と圧迫感を感じた。それは、衛星軌道上で感じた事がある感覚だった。あの時は自分だけが感じ
ていたようだったが、今は艦橋に居る全員が感じているだろう。見渡すと、誰もが一様に表情を強張らせ、
或いはその異質な感覚に首を捻っていた。
 その感覚は、あの白いMSが発しているものだろう。そこに至って、白いMS――タイタニアがパプテマス=
シロッコの操るものだとの確信を得た。
 タイタニアは、まるで弾幕の中をすり抜けるようにしてぐんぐんと迫ってくる。「何故落とせない!」と焦燥に
駆られるバルトフェルドの怒号が響いたが、状況は好転する事はなかった。
 その瞬間、サッとアスランが出口へと駆け出した。それを見て立ち上がり、彼に向かって手を伸ばす。

「アスラン」

 呼び止めると、出口のドアに差し掛かったところで手を添えて止まり、こちらに振り向いた。

「ジャスティスに行く」
「わたくしがやってみます」
「そうしてくれ」
「ギリギリまでは――」
「待つよ。――だが、タイミングは俺が判断する」

 そう言って、アスランは艦橋を出てMSデッキへと向かっていった。

「お任せします」

 ドアが閉まる瞬間、そう声を掛けて視線を正面に戻した。そして立ち上がり、アビーに通信回線を開くよう
に指示を出す。
 艦橋の前には、タイタニアがいよいよ肉薄して、デュアル・ビームガンを構えようとしている所だった。
その時になってアビーからのセッティング完了報告が出される。画像を正面モニターに出すように言うと、
表情を引き締めた。

「タイタニアとは、かくも白く輝く。あれは、まるで自らを純粋無垢のものであると自己主張しているかのよう。
それが、心根の表れと言うのなら……パプテマス=シロッコ様でいらっしゃいますね?」

 呼びかけに応えたのか、タイタニアが少し意外そうな素振りを見せて、構えていた銃を下ろした。ここまで
接近すればエターナルの弾幕も意味が無いと分かっているのだろう。確かに、実際にその通りだし、仮に
弾幕が有効だったとしても、タイタニアがブリッジを潰す方が確実に早い。そういう先々の展開を分かった上
での、話し合いの姿勢なのだろう。
 次に、正面の大型スクリーンに映像が表示された。多少の画像の乱れはあるものの、画質に然して問題は
無い。そして、そこに現れた男の顔を見て、更に気勢を強めた。

『自己紹介を申し上げたつもりは、ありませんで』
「存じ上げて居ります」

 淡い紫の髪を、男性にしては長髪と呼べるほどに伸ばしていた。頭に巻いてあるヘアバンドは、頭頂部に
髪で円盤を形作るような不思議な結い方をしている。タイタニアと同じく白い制服に袖を通すその男は、まさか
のノーパイロット・スーツだった。余程、自分の腕に自信があるのだろう。それを納得させるだけの動きはして
いたし、尚且つそういう高慢な性格をしていそうな感じだった。
 何よりも、鋭い瞳が印象的だった。まるで、この世の全ての絶望を見てきたかのような鋭利な輝きは、底知
れぬ冷酷さを感じさせた。――誰にも悟られぬよう、一つ喉を鳴らす。
222 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/20(月) 23:44:56 ID:???
『フッ、ちょうど良い機会だ――察する所、ラクス=クライン嬢とお見受けするが?』
「お見知り置きを。応じて頂けたという事は、話し合いの余地があると思ってよろしいのですね?」

 勇気を持って一言。しかし、スクリーンの中のシロッコは肩を揺らした。

『異な事を仰る。仕掛けてきたのは、そちらではないのかな?』
「それはそうですわ。この世界に、コロニー・レーザーのような物は必要ありません」
『だから、と仰いますが、しかし、ザフトは後退を始めている。――空言は止めていただこう』

 口元に浮かべた笑み、それに相手の思惟を見通すかのように細めた目は、既に何かに勘付いているかの
ような確信に近い表情に見えた。しかし、まだ半信半疑の所もあるから、こちらの主張を嘘と断じたのだろう。
そうやって鎌をかけて、こちらの真意を探ろうとしているのだ。――迂闊に答えれば、致命傷となる。

『まさか、本気で話し合いで何とかなると思ったのではあるまいな?』

 じりじりと、にじり寄るかのような物言いが、試されているような気分にさせられた。確実にサディストの色が
あるであろう態度に、多少マゾヒストっぽいカガリが急に立ち上がった。

「それで済めば、こんな戦など不要だ!」
「カガリさん――!」

 直前に気付いて諌めようとしたが、間に合わなかった。
 話に割り込んでくるカガリに、シロッコは少し顎を上げる。

『ならば、オーブの姫よ。この会談の説明にはなりますまい』
「なるな。私たちはコロニー・レーザーの排除が望みだ」
『なるほど、これはそちら側の時間稼ぎというわけか。何を隠している?』

 タイタニアがデュアル・ビームガンを構えた。エターナルの艦橋が、一斉に色めき立った。

 シロッコにしてみれば、ほんの脅しのつもりだった。本気で撃とうと思ったわけでは無いし、こうして脅す事で
彼らの目論見を探ろうという、その為の駆け引きだった。
 しかし、その瞬間タイタニアをビームが襲う。シロッコは飛び退かせてから俯瞰すると、エターナルのMS発進
口から似たようなサーモンピンクの色をしたMSがビームライフルを構えていた。そのMSはタイタニアが睨んだ
かと思うと、エターナルを足場にしてバーニアを吹かし、一足飛びに躍り掛かって来た。

「隠れんぼかい」

 サーモンピンクのMS――インフィニット・ジャスティスは、アンビデクストラス・ハルバードに持ち替え、これ見
よがしに掲げた。そして振り下ろした上の刃がタイタニアのボディを掠め、続けざまに振り上げる下の刃が
ビームソードと重なって光となる。
 同等の性能を持つストライク・フリーダムよりも、動きに切れが無いように感じられた。それはパイロットの腕
が悪いと言う問題では無い。アスラン=ザラというパイロットが、歴史に名を刻むほどの凄腕である事は知って
いる。ならば、問題なのはインフィニット・ジャスティスそのものだ。理由を知るつもりは無いが、機体に限界を
引き出させないようなセーフティが掛かっているようだった。

「気が早いな。私は話し合いを続けるつもりで居たのだが?」
『このタイミングで仕掛けた! その意味は――!』
223 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/20(月) 23:46:48 ID:???
 インフィニット・ジャスティスの、後ろに引いた左腕。そのシールドの先端から、ビーム刃が発生した。それ
に気付き、タイタニアがビームサーベルを弾くと、インフィニット・ジャスティスが大振りのビームソードを
遠心力を加えて水平に薙ぎ払ってきた。
 モーションの大きいその一振りを、タイタニアが身を下に沈ませて回避する。頭頂部の上をビームソード
が空振りすると、サブ・マニピュレーターを作動させて、続けざまにアンビデクストラス・ハルバードを振ろう
としたインフィニット・ジャスティスの右腕を、ビームサーベルで下から斬り上げた。

『クッ……ッ!』

 斬り撥ねた腕が、慣性に乗って流れていく。アスランの苦汁の呻き声がシロッコの耳に届いた。悦に入って、
口の端を吊り上げる。
 しかし、デュアル・ビームガンを構えて止めを刺そうとした瞬間だった。不意にエターナルの護衛部隊と連合
軍のMS隊が白兵戦を繰り広げている場所で立て続けに爆発が起こり、シロッコは思わずそちらへと目を向け
させられた。

「爆発が起こった? フリーダムか!」

 次の瞬間、タイタニアを狙う正確なビームが劈いた。それは牽制となるような一発で、タイタニアとエターナル
の両方を掠めていった。その信じられないような精密な射撃に、タイタニアはエターナルの影へと移動した。

「フリーダムは私を諦めてくれんようだが、なるほど、アスラン=ザラが仕掛けたのは奴が近くに来ている事を
知っていたからだ。あのMSで勝算があるとは、流石に――」

 エターナルの影から飛び掛ってくるMSの影。ペンチのような鋏を先端に付けたアンカーがシールドから伸び、
タイタニアの腕に噛み付く。シロッコはすぐさまそのワイヤーをサブ・マニピュレーターのビームサーベルで
断ち切り、インフィニット・ジャスティスに向かってデュアル・ビームガンを連射した。
 そうしてアスランに気を取られている隙に、今度はストライク・フリーダムが背後から襲い掛かってくる。
相変わらずのエターナルへの誤射をしない正確な射撃で牽制をかけ、タイタニアに肉薄する。振り返りざま
に左手のビームソードを薙ぎ払うと、ストライク・フリーダムは上に跳ね上がって至近距離でのフルバースト・
アタックの構えを見せた。

『今度こそ当てる!』

 鼻が詰まったようなキラの声。しかし、シロッコの顔に怖気の色は無い。

「それで勝ったつもりか、少年!」

 発射直前に、ビームがストライク・フリーダムの左腕とクスィフィアスを貫いた。

「な、何……!?」

 それはシロッコが予め展開しておいたファンネルの砲撃。キラやアスランに気付かれないようにさり気なく
放出し、一瞬にして彼等の虚を突いた。ストライク・フリーダムがダメージを受ける一方、インフィニット・ジャス
ティスも何処かからのファンネルの攻撃によって両腕、左脚と頭部を破壊されていた。
 最強のコンビのはずだった。コズミック・イラでは、キラとアスランの駆るフリーダムとジャスティスに敵う者
など存在しないかに思われていた。しかし、その伝説は、たった一機のMSと1人のパイロットによって終焉を
迎えた。
224 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/20(月) 23:48:22 ID:???
 フン、と鼻を鳴らす。コズミック・イラの事情を学ぶ上で、勿論、直近の戦争であるヤキン・ドゥーエ戦役
の事は詳しく調べた。その中でも、異彩を放つフリーダムとジャスティスの活躍に、当初のシロッコはどの
程度のものなのかと期待したりもした。

「貴様達は確かに強いが、しかし相手の力量を推し量れんようでは、こういう事になるのは必然であろう」

 タイタニアの周囲を守護するようにファンネルが舞うと、やがて肩アーマーのファンネル・ポッドへと再装填
されていく。装填が終わると、タイタニアは唐突にデュアル・ビームガンでエターナル艦尾のメインスラスター
の一基を撃った。
 推進剤の誘爆によって、大きな爆発が起こる。エターナルが激しい爆発によって艦体を揺らすと、タイタニ
アは艦尾から艦首へと向かいつつ、更に数発のビームをその艦体に撃ち込んだ。

「ザフトがコロニー・レーザーからの退避勧告を出している? ――しかし、フリーダムの方が先に来たのだ。
――Ζはどこへ消えた?」

 直ぐ背後には、ウェイブライダーが付けていた筈だった。それがいつの間にか消え、疑問に思いながらも
後続を伴ってエターナルへと仕掛けた。そして未だに姿を見せないΖガンダムに、シロッコは釈然としてい
なかった。
 そんな思考を一寸している間に、再び艦橋の前に飛び出した。先ほどキラに連合軍のMS隊をやられ、その
お陰で白兵戦を繰り広げていたザク・ウォーリアの何体かがシロッコに仕掛けてきた。しかし、シロッコは一笑
に付すようにデュアル・ビームガンで乱れ撃ちをし、一瞬にしてそれらを無力化した。

「――何だ、この感覚は?」

 デュアル・ビームガンを艦橋に突きつけながら、シロッコは背後の宙域へと注意を向けさせられた。

「私の思惟が泡立った……あの先でか?」

 視線の先には何の変哲も無い宇宙が広がっているだけだった。宇宙時代の人には誰でも見慣れたような、
漆黒の中に白い星の煌きがそぼろの様に散りばめられている光景である。しかし、シロッコにはその方向か
ら感じるプレッシャーに似た不思議な感触と、オーラのようなぼんやりとした光が見えていた。




「な、何だこれは!? ――あ……何故、こんなものが見える……?」

 色々なものが見えた。それは、ヒルダがこれまで生きてきた自分の歴史そのものだった。

 自分に向かって手を差し伸べる女性の姿、そしてそれを微笑みながら見守る男性の姿。しかし、物心つい
た時には1人だった。どんな経緯や理由があったかなどは、まるで覚えていない。どうせ、今さら知った所で
大した興味も湧かないだろう。親の存在など、どうでも良かった。
 そして、ひたすら訓練を繰り返した幼少期を過ぎ、味気ない思春期の思い出を置き去りにし、いつの間にか
戦いの中に居た。

 ――よお、あんたかい。噂の最強女ってのは?
225 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/20(月) 23:50:41 ID:???
 そこで出会った2人の男は、リーゼントと眼鏡というデコボコ・コンビ。馬の合う彼らと共闘して行く内に、
知らず知らず自分が仕切るようになっていた。その後、血のバレンタイン事件を経て地球との本格的な
戦争が起こると、憂国の想いは自然と対地球強硬派であるザラ派への所属へと身を駆り立て、護国の
為に命を惜しまずに戦った。
 しかし、その中でクライン派の思想を知り、次第にザラ派の強硬路線に疑問を持つようになった。そして、
思い出したくも無いヤキン・ドゥーエ陥落の日。パトリック=ザラを信奉してきた者たちが次々と粛清されて
いく中、シーゲル=クラインが立ち上げた裏組織ターミナルの存在を知り、そこに身を寄せた。しかし、そこ
で彼女達を待っていたのはクライン派の激しい差別の目だった。それはナチュラルを見るコーディネイター
の目とも、コーディネイターを見るナチュラルの目とも違った。そこでは、誰からも信頼されず、誰からも
疎まれる存在でしかなかった。それでも、クライン派に共感した元ザラ派の3人は、それに耐えて時を過ご
すしかなかった。いつか、認められる時が来ると信じて。

 ――けど、2年待っても何も変わらなかった……誰もあたし達を必要としてくれなかったじゃないか!

 転機が訪れたのは、プラントがオーブと同盟を結んだと言うニュースが入って少しした頃だった。クライ
ン派はデュランダルの路線とシーゲルの路線とに分かれ、ターミナルは裏組織として日陰者の身となって
いた。クラインの領袖が雲隠れし、確保していたフリーダムも組織存続の為にとデュランダルに取り上げら
れ、徐々に弱体化していた。そんな時期に、ふらっとクラインの領袖が帰ってきたのである。
 納得できなかった。ヤキン・ドゥーエ戦役で、彼女が行った事は余りにも有名だ。そんな彼女が、1人の男
の為に故郷を捨て、自分たちが虐げられている間にオーブでのうのうと過ごしていた事が、許せなかった。
 しかも、彼女はターミナルにデュランダルへの全面協力を申し出てきたのだ。そんな勝手な都合がまかり
通るわけが無く、半分近くのターミナル構成員は当然反発した。
 それに混じって、便乗するような形で散々罵倒した。そうすれば、少なくとも反対派の人間には認めてもら
えるだろうと踏んだからだ。しかし、やがて彼女の懐柔によってターミナルの意思が統一されてくると、いつ
の間にか抵抗していたのは自分達だけになっていた。その時になってようやく気付いても、今さら引き返せ
ないところまで口が過ぎていた。もう、ターミナルには居られないと思った。

 ――あなた方の御力を、わたくしに貸して頂けませんでしょうか?

 やっと、自分を必要としてくれる運命の人と巡り会えた。


「――だから、ラクス様の為に、あたし達は!」

 覚醒する。そして、ヒルダの目は自然とエターナルを探し当て、その様子にカッと目を見開いた。
 煙を噴く艦体、艦橋部分に向けて銃口を向ける白いMS――目の当たりにし、ヒルダの思惟は沸騰した。

「あたしはシロッコなんかの口車に乗せられてぇッ!」
『ヒルダ=ハーケン!』

 真正面にΖガンダムの双眸が輝く。ヒルダは口をへの字に曲げ、顎を上げてその姿を俯瞰した。

「あたしを笑うのならぁッ!」

 グイと操縦桿を手前に引き、Ζガンダムに体当たりをする。そしてそれを足場にしてスロットルを全開に
して跳躍すると、一目散にエターナルへと最大加速を掛けて向かった。
 衝撃に流されて姿勢制御をするΖガンダム。カミーユは首を回してすぐさまハンブラビの姿を見つけた。
226 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/20(月) 23:51:58 ID:???
「あの人、自分でケリを付けに――?」
「行こう、お兄ちゃん!」
「シロッコだもんな!」

 カミーユはハンブラビに追随しようと操縦桿を引く腕に力を込めた。しかし、そこへ後退するザフトの追撃
に出てきた連合軍のMS小隊がやってきて、遭遇戦となってしまった。想像以上に敵が前掛りになっている
事と、急いでエターナルに駆けつけたいと逸る気が、カミーユに舌打ちをさせる。



 キラとアスランでも敵わなかった。タイタニアは悠然とデュアル・ビームガンを突きつけ、その一つ目を
嘲笑っているかのように光らせている。

『チェック・メイトだ。では、そちら側の返答を頂こう』

 シロッコはザフトの目論見を知りたがっている。エターナルが沈めばザフトもオーブも瓦解するのに、
それをしないのは、彼がエターナルを沈めるだけでは問題の解決にならないことを知っているからだ。
 そのシロッコの考えは正しい。何故なら、メサイアは今この時もコロニー・レーザーに向かって進んで
いる最中なのだから。
 ラクスは前の艦長席に座るバルトフェルドを見やった。手元のコンソール・パネルの操作に夢中になって
いるようだったが、ラクスの視線に気付いて顔を振り向けた。しかし、彼は顔を横に振るだけで、まだ時期
では無い事を教えていた。

『答えないのなら』

 痺れを切らせたシロッコの声に気付き、ラクスは顔を上げて再びスクリーンに目を向けた。艦橋正面では、
タイタニアがデュアル・ビームガンの砲口を更にずいと寄せていた。

『エターナルにはここで沈んで――』

 その時だった。不意にタイタニアがエターナルの正面から消え去った。艦橋は騒然となり、ダコスタに
確認を求めるバルトフェルドの声が轟く。
 ラクスは思わず身を乗り出し、艦橋窓からタイタニアが何かの影に連れ去られていった方向を見た。
そこには、タイタニアに黒いMSが組み付いている様子が見られた。

「ラクス様!」

 アビーが呼ぶ。ラクスはすぐさま駆け寄り、アビーから差し出された彼女のインカムを耳に当てる。

『シロッコぉッ! お前はラクス様をその手に掛けようとした!』

 ザラザラとしたノイズと共に、嘶きのような女性の声が回線に乗って聞こえてきた。ラクスは眉を顰め、
再び艦橋窓に駆け寄ってその様子に目を向けた。
 黒いMSは、既に両腕を失っている。ラクスはそれを認識すると、インカムのマイク部分を口元に添えた。

「ヒルダさんですね? タイタニアからは離れてください!」
『ラクス様……?』
「そうです! あなたのそのMSの状態では、危険です!」
227 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/20(月) 23:53:46 ID:???
 スピーカー部分とマイクとを交互に耳元と口元に当て、必死に呼びかける。頭に装着してしまえばそんな
手間は要らないのに、ラクスにはそういう事を考えられる余裕が無かった。
 ヒルダからの返信に、少し間が出来る。ラクスは訝しげに窓の外とスピーカーとを何度も交互に見た。

「ヒルダさん? どうなさいましたか、ヒルダさん!」
『……まだ、あたしの名を呼んで……こんな、あたしに……!』

 鼻を啜る音がした。ラクスは思わず窓に掌を叩きつけ、ハンブラビとタイタニアの絡み合う様子を食い入る
ように見つめた。
 ハンブラビがタイタニアから引き剥がされる。タイタニアがファンネルを放出し、手負いのハンブラビに襲い
掛かる。しかし、ハンブラビはそのビームだらけの中を被弾しながらも突き進み、タイタニアへと肉薄した。

「お止めなさい、ヒルダさん!」
『裏切りの代償は、罪は購わねばなりませぬ! ――なりますれば、最期にあなた様をお守りしてッ!』

 タイタニアの正面に躍り出て、背部のビーム・キャノンを向ける。しかし、その瞬間、ファンネルのビームが
ハンブラビの背後を襲い、背中のビーム・キャノンを破壊する。そして、ダメージを受けた衝撃で身を仰け
反らせたハンブラビは、そのままタイタニアのサブ・マニピュレーターが持つ2本のビームサーベルによって
肩を貫かれた。

『あたしの想いは、ずっとあなたにありました……ラクス様ぁッ!』

 タイタニアがビームサーベルを引き抜く。ハンブラビは一瞬の閃光となった。
 ゴツン――ラクスは窓に額を打ち付け、肩を震わせる。下唇を噛み、必死に無念を堪えていた。

「ラクス!」

 バルトフェルドが呼ぶ。顔を上げ、視線をそちらに向けた。艦長席に座ったままのバルトフェルドが、一つ
大きな頷きをする。ラクスはそれに応え、同じ様に頷くと、床を蹴って再び自分の席に向かって舞い上がった。

 ハンブラビの爆発の閃光が治まる。シロッコは飛散したハンブラビの残骸が舞う光景を眺めながら、訝しげ
に眉を顰めた。

「ヒルダめ……しかし、言葉が走ったぞ?」

 ニュータイプでもない彼女の声が、何故その様に聞こえたのかが不思議だった。それは、先ほどの不思議
な感覚に関係しているのだろうか。彼女がやってきたのは、間違いなくその不思議な感覚がしていた方向か
らだった。
 しかし、考えても始まらない。シロッコが感じている例の「不快な感覚」は、未だ継続中であるのだから。

「さて――」

 今度こそ止めを刺そうとエターナルに視線を向ける。しかし、同時にまるでシロッコがそうするのを待って
いたかのように呼び出しのコールが入った。
 コール元はガーティー・ルー。シロッコは直ぐに回線を繋げた。

『パプ――ス司令! ――イアが、メサ――らに向かって――す!』
「メサイアだと……?」
228 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/20(月) 23:55:26 ID:???
 ミノフスキー粒子の干渉が残っているようで、ガーティー・ルーとの距離では多少繋がりが悪い。シロッコ
は何とか聞き取れた部分から内容を推測し、頭の中で組み合わせた。
 ふと、記憶の中に蘇るものがある。それは、ゼダンの門(ア・バオア・クー)にアクシズが衝突した時の事で
ある。それによってゼダンの門は崩壊し、ティターンズは急速にその勢力を弱めていく結果となった。
 それと似た様な事が起こりつつあると確信する。続けてガーティー・ルーから送られてきた画像がモニター
に表示され、その光景に眉を顰めた。そこには、ハッキリとメサイアがコロニー・レーザーに向かって動いて
いる姿が映っていた。それは、シロッコがずっと気に掛けていた、コロニー・レーザーの正面宙域にある出来
事だった。

「ザフトの退避勧告は、こういう事だったか!」

 デュアル・ビームガンを差し向け、エターナルに迫撃する。ビームはエターナルを更に傷つけ、艦体の様々
な箇所から次々と火と煙が噴き出した。

『――しかし、もう遅いのです、パプテマス=シロッコ! 既にメサイアはここまで来てしまったのです! 
コロニー・レーザーは、あなた方の力への妄執と共に、この世界から排除されます!』

 力の籠もったラクスの声が轟いた。それが勝ち誇っているように聞こえ、忌々しげに舌を鳴らした。
 ザフトの陽動、そして開戦時にミノフスキー粒子を散布しすぎたせいで、メサイアの発見が遅れた。もっと
早くに察知できていれば、コロニー・レーザーで完璧な対処が可能だっただろうが、メサイアは既にかなりの
場所までコロニー・レーザーに接近しており、手遅れ感が否めない。

「この程度で出し抜いたつもりになってッ! ――聞こえているな、ガーティー・ルー! メサイアの衝突予想
時間は割り出せているな! コロニー・レーザーの照準は左右どちらでも構わん、出力は可能な限り上げておけ!」

 シロッコはガーティー・ルーに呼び掛けながら操縦桿を傾け、タイタニアをメサイア方面へと向かわせる。

「ピースメーカー隊は、メサイアのノズルを黙らせよ! ――加速による勢いを殺しさえすれば……ん!」

 咄嗟に急制動を掛ける。直後、タイタニアの直前を頭上からのビームが劈いていった。

「まだ追ってくるのが居る――Ζか!」

 直上を見上げれば、ビームライフルを構えるΖガンダムの姿。シールド裏のミサイルを連射して接近して
くると、タイタニアが振るったビームソードをかわして下側に潜り込み、ビームライフルを連射する。タイタニ
アは軽い身のこなしで攻撃をかわすと一斉にファンネルを放出し、それをΖガンダムに襲い掛からせた。
 偏光性の虫の様に群がるファンネルと、オールレンジで撃たれるビームの嵐の中を、Ζガンダムはシール
ドで身を守りながら後退する。幸いなのは、ファンネルのビーム出力が低い事だろう。
 一方でファンネルの処理に梃子摺っている間に、タイタニアは再びメサイアに向けて駆け出した。ファン
ネルの対処に躍起になっているカミーユの代わりに、ロザミアがその様子に気付く。

「逃げちゃう!」
「逃がせるか!」

 サイド・スカートアーマーからビームサーベルを取り出し、刃を発生させてサイドスロー。瞬時にウェイブ
ライダーに変形して投擲したビームサーベルを追い、上部のビームライフルでそれにビームを撃ち込む。
一本筋のビームが回転するビームサーベルに弾かれて、広範囲に拡散した。得意とするビームコンフューズ
で次々と撃破していくファンネルの爆発の中を、ウェイブライダーが突っ切ってタイタニアの追撃に入る。
229 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/20(月) 23:57:26 ID:???

 一方、エターナルの状況は深刻だった。タイタニアから受けた甚大な損傷は、バルトフェルドを始め、
クルーの全員が退艦するという事態に陥っていた。

『キラ、お前はタイタニアを追え。カミーユ1人では、不安だ』

 キラがコックピットから出てエターナルの様子に注視していると、不意にアスランからの通信が入った。
声に気付いてキラがインフィニット・ジャスティスへと視線を向けると、既にアスランはそこには居らず、
今はエターナルのハッチ部分に取り付いて脱出艇の発進を手伝っている所だった。

「アスラン! みんなは無事なの!」

 コックピットの中に入り込み、カメラで方々に索敵を掛けた。モニターに複数のワイプが立ち上がり、矢継ぎ
早に各方面の情報を表示しては消えていく。ついでに付近の味方の状況も探り、アークエンジェルがやって
来るであろう方向に視線を投げた。

「殿のアークエンジェルは来てくれるのか……?」

 しかし、アークエンジェルはまだ影を見せない。後退に梃子摺っているのか、それとも或いは、もう――
考えて、キラは頭を振った。
 続けて視線を脱出艇に向けたが、アスランの姿は既にそこには無い。ふとコール音に気付いて回線を繋げ
ると、サブモニターに脱出艇の中の様子が映し出され、操縦席に座るバルトフェルドと副操縦席のダコスタ
が忙しそうに手元の操作を行っていた。その後ろから、狭い操縦席にアスランが入り込んできて、ダコスタの
肩から身を乗り出してマイクを手に持った。

『全員無事だ』

 キラはホッと一息ついた。全員という事は、勿論ラクスも無事だという事だから。
 アスランは乱れた髪をかき上げ、パイロット・スーツの襟に指を入れて首元を緩めていた。ふとモニターが
雲って、脱出艇の中が凄まじい熱気に覆われている事が伝わってくる。恐らく、脱出艇の中はすし詰め状態
なのだろう。アスランはフウッと息をついてもう一度マイクを口元に運んだ。

『――シロッコはメサイアの軌道を逸らすつもりでいるんだ』
「タイタニアでそこまで出来るの……?」
『コロニー・レーザーを使うからな』
「それは分かるけど……はッ!」

 キラの感知の方が、一足早かった。ストライク・フリーダムは素早く身を翻すと、脱出艇の後ろに出て
ビームライフルを連射した。

「――すぐ来る!」

 ビームの軌跡の先で、複数の爆発の閃光が花開く。その閃光が治まるか治まらないかの内に、今度は
雨霰のビームの砲撃。キラは右腕に持たせているビームライフルを一旦、腰にマウントし、脱出艇に降り
注ぐビームをビームサーベルで切り払った。

「メサイアが出たのに、追撃はするのか!」
230 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/21(火) 00:00:07 ID:???
 一頻り続いたビームから脱出艇を守ると、次第にその姿が浮かび上がってきた。脱出艇の背後――ストラ
イク・フリーダムの正面から、ウインダムが顔を出す。数はおおよそでも10機以上は居るように見える。
 キラはその集団に向けてカリドゥスを放った。腹部から吐き出された強力なエネルギーの奔流はウインダム
の集団の中を劈き、散開が遅れた数機がカリドゥスに巻き込まれて爆散した。
 すかさず、キラはストライク・フリーダムを跳躍させる。そして散開したウインダムに対し、ビームライフル
で1機ずつ確実に1発で仕留めていく。

「チィッ! 手数が――!」

 武器を扱えるのは右腕一本だけ。ドラグーンも既に無い。カリドゥスは強力だが射角に問題がある。豊富な
射撃火器を持ち、殲滅戦を得意とするストライク・フリーダムであるが、現状では散開したウインダムの対応
にすら苦慮する始末。じれったい展開に、キラの苛立ちは募っていく。
 そうこうしている間に、エターナルが爆発の勢いを強めていよいよ撃沈しようかという状態になった。キラは
その様子を横目で確認しつつ、脱出艇の様子に目線を向けた。

「――あっ!」

 愕然とした。キラが散開したウインダムの駆逐に気を取られている間に、別方面から追撃を掛けてきた他の
ウインダム部隊が脱出艇に砲撃を掛けていたのだ。脱出艇は備え付けの機銃で抵抗を試みていたが、何発
かのビームが掠めてそのバランスを崩している。このまま攻撃を受け続けては、撃沈は時間の問題だ。
 キラは慌ててフォローに入ろうとしたが、背後からの攻撃を受けて足を止められる。ビームはかわしたが、
尚も脱出艇に向かおうとするストライク・フリーダムに対してしつこいまでにウインダムが攻撃を仕掛けてきて、
仕方無しにキラは振り返ってそのウインダムを撃墜した。
 このタイムロスが、どのように影響するのか――キラが即座に脱出艇の方に向き直ると、そこでは攻撃を
仕掛けようとしていたウインダム部隊が砲撃の嵐によって足止めをされ、或いは避けきれなくて撃墜されていた。

「間に合ってくれたんだ!」

 サイドモニターに艦影が映し出される。それはキラも良く知るアークエンジェルの姿だった。しかし、アーク
エンジェルも相当なダメージを受けているらしく、その姿は「大天使」とはおおよそ掛け離れた姿だった。
 ――そんな事は今はどうでもいい。キラの目は既に新たな追手の存在を察知していた。第二波のウインダ
ム部隊の更に別方面から、今度は1機のユークリッドも含めたウインダム部隊が接近しつつあった。連合軍
は、ここで全ての決着をつけるつもりで居るようだ。

『キラ! ここはいいから、お前はタイタニアを追え! このままじゃ、張り付けにされるだけだ!』

 キラがストライク・フリーダムを第三波の追撃部隊に差し向けると、通信回線からアスランのけたたましい
ほどの声が響いた。

「――言った所で!」

 確かに、このままではキラはいつまで経ってもメサイアに向かう事が出来ない。しかし、ここでこの場を離れ
てしまえば、ラクス達の乗る脱出艇は確実に撃沈される。アークエンジェルの火力だけでは、決定的に足り
ないのだ。
 どうすればいい! ――念じた所で、打開策は浮かんでこない。せめて、あと1機、強力な味方が居てくれ
れば何とかなるものを――そんな事を考えながら頭部機関砲でウインダムの頭部を潰し、更にビームライフ
ルで別のウインダムを狙撃した。
231 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/21(火) 00:01:39 ID:???
 しかし、いくらキラでも戦闘から気が逸れれば隙が出来る。普段なら最も敵の気配に敏感になっている
背後への意識が甘くなり、ユークリッドの接近を許してしまった。キラがそれに気付いてストライク・フリー
ダムの身を翻そうとするも、その砲口は既に照準を合わせ終えてていた。それは、キラに初めて訪れた
致命的なシーンだった。

「しまっ――」

 ストライク・フリーダムが振り返った瞬間に、ユークリッドのビームが発射される。その光を目の当たりに
して、既に手遅れだと悟った。ビームシールドを展開する為の左腕は既に無く、ビームを防ぐ手立てが無い。
 しかし、キラが諦めかけたその時、突如としてストライク・フリーダムの正面にMSの機影が滑り込んできた。
そして、そのMSは左手の甲から発生させた光波防御シールドでビームを弾くと、一足飛びにユークリッドに
飛び掛った。その手に持つのはインパルスのエクスカリバー。それでユークリッドを正面から両断し、続けて
背中にマウントさせてあるドラグーンを一斉展開して他のウインダムを一挙に殲滅した。
 スコールの後のように、状況が沈静化した。しかし、また直ぐに次のスコールはやってくるのだろう。

「君は……!」

 それはやおら近寄って来ると、マニピュレーターでストライク・フリーダムをメサイア方面へと押した。

『行け、キラ=ヤマト。そう時間は無いはずだ』

 相変わらず厳しい声だが、それは急いているから。そのMSがキラに向かって静かに双眸を光らせた。

「分かった。頼むよ!」

 普段は少し凶暴な印象を受けるレジェンドの顔。しかし、今のレジェンドからは、いつもよりも優しい雰囲気
を感じた。キラは仄かに口元に笑みを浮かべながら、スロットルを全開にしてストライク・フリーダムを加速
させた。

 波状攻撃のインターバルの間に、レイは懐からケースを取り出して数粒の錠剤を口の中に放り込んだ。
そしてパックのストローを口にし、中の水を全力で吸い上げた。

「何をやっているんだろうな、俺は。――次か」

 パックを放り、袖で口を拭う。そして素早くヘルメットのバイザーを下ろすと、再びドラグーンを展開させて
新たに迫る追撃部隊に攻撃を仕掛けた。
 レイの表情に、以前までのような影は無い。今までが嘘のように溌剌とした顔で、まるで彼の運命を感じ
させないような生気に滾る瞳をしていた。
 アークエンジェルが接近し、脱出艇がフラフラになりながら向かう。ザフトの後退劇は、尚も続けられていた。



 この戦場に、安らぎの場所と呼べるような場所は存在しない。しかし、一時的に羽を休める程度の凌ぎ場
くらいはあるだろう。シンは気絶したように力を失くしたインパルスを、襲いかかってくる敵から守りながら、
身を隠せるような場所を探していた。
232 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/21(火) 00:04:38 ID:???
「ゴミでも岩でも――無いのかよ?」

 後退するザフトに追撃を掛ける連合軍の部隊は、殆どが艦船に対して攻撃を集中している。いくらMSが
強力であっても、いくらコーディネイターがナチュラルよりも優れていても、母艦を潰して補給さえ断って
しまえばほぼ無力化したも同然であるからだ。残されたMSは、疲弊した所をゆっくりと殲滅してやればいい
――ザフトにしてみれば下衆にも思える連合軍の思惑が、透けて見えるようだった。
 しかし、中には他人よりも多くの武勲を挙げてやろうという血気盛んな、別の言い方では欲深い兵士も
居る。そういう人間は、デスティニーの姿を見つけると決まって攻撃を仕掛けてきた。
 今もまた、新たなチャレンジャーが1人。エールストライカーを装備したストライク・ダガーは、自身の腕に
多少の覚えがあるらしく、インパルスを抱えて右脚も失っているデスティニーに対して不敵に襲い掛かって
きた。

「貰ったぞ!」

 パイロットは、そう叫んでトリガーを押した。しかし、ストライク・ダガーが撃つビームは、デスティニーに
当たる事はなかった。しかも、その大推力スラスターの象徴である光の翼を広げたわけでもない。デスティ
ニーは、まるでストライク・ダガーの狙いを完全に見切っているかのように全て体捌きのみで切り抜けて
しまった。
 ならばと、今度はインパルスを狙う。まるで動きそうに無いそれを狙えば、それを庇って今度こそデスティ
ニーに当たるだろうと踏んだからだった。

「――なッ!?」

 しかし、パイロットが照準をインパルスに向けた瞬間、目前には至近距離に迫ったデスティニーの姿があった。
 いつ接近されたのかのかすら、分からない。気付けばビームライフルがデスティニーの左マニピュレーター
に掴まれていて、その掌から発したビームによって破壊されてしまった。

「こ、この人でなしがぁッ!」

 余りにも振るった出来事に、パイロットは声を上擦らせて激しく狼狽する。咄嗟にシールドを構えようとした
が、デスティニーのビームライフルはシールドを潜り抜けてコックピットに添えられ、一閃のビームがストラ
イク・ダガーを貫いた。

「あんたが悪いんだからな! 俺に仕掛けてくるから!」

 シンはそう言い捨て、すぐさま飛び退いた。ストライク・ダガーは腹から爆発の炎を噴出させると、次の瞬間
には全てが火の玉となって宇宙に溶けていった。それを確認すると、デスティニーは再びインパルスに駆け
寄って隠れ場を探し始めた。

「何だ――この位置、ミネルバが近いのか?」

 ふと仰ぎ見れば、MSの集団がバーニアの尾を伸ばして魚群のように突き進んでいる様子が見えた。それは、
間違いなく後退するザフトに向けての追撃部隊だろう。そして、希薄化しつつあるミノフスキー粒子でレーダー
に反応が現れてくると、シンはその中にミネルバの存在を確認した。

「ん――あれ……」
233 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/21(火) 00:06:08 ID:???
 シンの目に、あるデブリが目に入った。それは後退中に撃沈されたザフトの艦船だろうか、辛うじて判別
できる。それは既に原形を留めていない程に朽ちていて、虚空に無残に放置されていた。

「デスティニーとインパルスくらいは――」

 少しの間なら、敵に見つからずに隠れていられるだろう。シンはデスティニーとインパルスを廃艦へと
向かわせた。


 手足も頭も無いインパルスを抱えて、MSハンガーであったであろう場所に侵入する。中は見事なまでに
朽ちていて、判別不能な残骸が無重力を当ても無く漂っていた。
 シンはインパルスをハンガーの奥に寝かせるようにそっと置き、コックピット・ハッチを開いて外に出た。
そして浮遊する資材を手で掻き分けながら、インパルスのコックピットに取り付いて外からハッチ解放の
操作を行う。幸い、内側からロックされていなかったようで、インパルスのハッチは簡単に開いた。
 中には、自分で両肩を抱いて震えているルナマリアが居た。シンは中に入り込み、ハッチを閉めた。

「バカ! あんな無茶しちゃって!」

 狭いコックピットで、身体を密着させるほどの距離で向かい合う。しかし、ルナマリアはシンの存在を
認識していないかのように身動ぎ一つしなかった。

「ルナ……?」

 首を傾げる。茫然自失になっていて、シンの声も耳に届いていないようであった。

「おいルナ、しっかりしろよ! ルナ!」

 ヘルメットを外し、ルナマリアの肩を掴んで身体を揺さぶる。すると、ルナマリアは今頃シンの存在に
気付いたように顔を上げ、彼女もヘルメットを外した。

「シン……? ――シン!」
「大丈夫だから――」
「怖かった……怖かったよぉ……!」

 身体を投げ出して、シンの胸に顔を埋めた。泣きながら縋るように肩にしがみ付く彼女の手が、ありあり
と分かるほどに震えていて、その恐怖が如何ばかりであったのかをシンに推し量らせる。
 シンは察し、無言で彼女の背中に腕を回し、そして、右手で優しく頭を撫でる。その状態で、少しの間
じっとしていた。

 徐に、ルナマリアが顔を上げる。瞳に一杯に溜まった涙は、彼女が一つ瞬きをすると珠となって無重力に
散った。その上目がちに潤む瞳に、不覚にも昂ぶる。

「ねえ、お願いシン……」

 そう呟いて首を伸ばし、鼻を突き合わせるほどに顔を近づけてくる。
 鼻の頭と頬を赤く染め、乱れた前髪が汗で額に張り付いた様子が、まるで事後の姿のようで――いつか
ヨウランに見せられたアダルトピクチャーの事を思い出し、いつの間にか戦場を忘れ、見上げ眼に心を奪わ
れて見惚れていた。
234 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/21(火) 00:07:10 ID:???
「そしたらあたし、まだ戦えるから……」

 言葉が出てこなかった。
 辛かったろう、怖かったろう。エマの死を目の当たりにした。彼女自身も何度も死ぬ思いを味わった。
心はもうボロボロのはずなのに、どうして彼女はこうまで頑張ろうとするのだろうか。

 触れただけで、今にも壊れてしまいそうな危うさを感じる。両手をそっと彼女の頬に添え、猫を撫でるよう
に親指で擦った。少しこそばゆそうに目を細める仕草が、猫そのもののように可愛らしかった。
 そっと、顔を近づける。少し首を傾げて、唇を重ねた。意外なほどの、汗の臭い。恐怖のせいか、彼女の
唇からは女性のものとは思えないほど潤いが失われていた。

「ん……はふ……」

 潤いを取り戻させるように、何度も甘噛みをするように啄む。その度に、ルナマリアの甘美な吐息が鼻か
ら漏れた。柔らかく、湿り気を帯びた生温さが、心地よい。
 それからしゃぶり付く様に口を塞ぐと、少しだけルナマリアの中を味わった。一瞬、彼女の身体が電気を
流したように跳ねたが、直ぐに慣れてくれる。実際、乾いた口の粘膜の感触と、唾液を交わすという行為は
想像以上に気持ち悪かったが、それも最初だけで、脳内麻薬か何かが程なく快楽に変えてくれた。
 そして、何よりも自分の一部が相手の中に入って受け入れられたという事が、素直に嬉しかった。そうな
ると男というものは欲張りなもので、別のナニかを挿入れたくなってしまうものだった。
 肩に手を置いて、唇を離す。これ以上は、滅茶苦茶に犯してやりたいという暴走気味の衝動に歯止めが
利かなくなりそうだったから。

「帰ったらさ」
「え……?」

 シンはルナマリアの耳元にキスをするほどに口を近づけ、息を吹きかける様にそっと囁いた。そして次の
瞬間、ルナマリアの首の後ろに鈍い痛みが走った。

「な、何……で……」

 視界が、暗くなってゆく。堪えようとしたが、しかし、次第に彼女の意識は暗い闇の中に沈んでいった。

「“優しく抱いてやるぞ”って、思ったんだ。俺の楽しみでさ――」

 気絶したルナマリアを、優しい目で見つめながら呟く。そして力の抜けた彼女の腕を解き、シートに落ち
着かせてヘルメットを被せる。自身もヘルメットを被り、ハッチを開いた。
 インパルスを見ながら、後ろに跳んだ。シンが離れると、やがてハッチが自動的に閉まり、コックピットで
眠っているルナマリアを隠す。それを確認すると、身を翻してデスティニーのコックピットに入り込んだ。
 シートに腰を落ち着かせ、ハッチを閉める。モニターでインパルスの姿を見やりつつ、デスティニーを
廃艦から発進させた。――まだ、倒さなくてはいけない敵が残されているから。

 火線が舞う先に、靴のようなシルエットをしたミネルバが見える。周囲をMSに囲まれ、苦境に立たされて
いた。ミネルバを援護するMSも散見されたが、敵の数の前に太刀打ちできていない様子であった。

「俺はルナを味わった。もっと深く味わいたいんだ! だから、俺が帰る場所を――!」
235 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/21(火) 00:08:07 ID:???
 シンがレバーを奥に押し込むのと連動して、デスティニーの翼が大きく開いて凄まじい加速が掛かった。
重圧が掛かり、めり込ませんばかりにシンの身体をシートに押し付ける。
 しかし、表情は変わらない。鍛え上げられた、鋼のように固くバネのようにしなやかな筋肉が肉体を支え、
五臓六腑は既にこの重圧に慣れてしまっている。今では、この圧迫感が寧ろ心地よく感じられるようになっ
ていた。
 そういう、常軌を逸したデスティニーの機動力の前に、並居る敵は敵ではなかった。ビームライフルで迫撃
しながら数機を落とすと、ミネルバから離れている敵に向かって高エネルギー砲の一撃を放つ。プラズマ
収束ビームの強烈な光と威力のエネルギーが劈き、デスティニーが砲身を左右に揺り動かすと、ビームも
同じ様に揺れて多数の敵機を纏めて薙ぎ払った。そして高エネルギー砲をパージして身軽になると、更に
凄まじいスピードで駆ける。
 突然のデスティニーの乱入に、ミネルバを攻撃していた連合軍部隊は驚愕していた。デスティニーは続け
てミネルバ付近に居る敵機に躍り掛かり、肩から抜いたビームサーベルを振るって次々と切り刻んでいった。
そして最後のウインダムをパルマ・フィオキーナで撃墜すると、即座に索敵を掛けて別の追撃部隊の接近を
警戒する。

「凌げたのか? ――ミネルバ、見えますか!」

 続々と表示されるリザルトを目で追いながら、シンは通信をミネルバに繋げて呼びかける。しかし、回線に
不備が生じているのか、耳には音が割れているようなノイズが聞こえるだけだった。
 仕方無しに艦橋まで上がり、マニピュレーターを直接接触させる事で通信回線を開く。

『助かったぞ、シン』
「ミネルバの右舷、後方下30度にあるスクラップに、ルナとインパルスを隠してあります。回収願います」
『えぇッ?』

 シンは伝えると、息つく間も無くデスティニーを加速させた。
 デスティニーの翼から飛び散った粒子だけが、一寸の間残されていた。突拍子も無いシンの言葉に唖然と
させられていたアーサーは、インカムのスピーカー部分を見つめて暫くの間、呆然としていた。

「――キャッチしました。シンの言っていた地点にインパルスの反応を確認です」

 メイリンが報告するのと同時に、タリアの正面にスクリーンが映し出された。ミネルバが捉えたカメラの
映像には、朽ち果てた艦船のようなデブリがあり、サーモグラフィー表示になるとその内部にインパルスの
存在が認められた。

「ガモフの成れの果てのようですけど……」
「メイリン、ノーマル・スーツの用意をなさい」
「え?」

 タリアに促され、メイリンは思わず目を丸くして声を上擦らせた。

「ミネルバをガモフに付ける。――お姉さんでしょ」

 タリアには予感があった。シンが、彼女の回収を頼んだ意味――何となく、分かる気がした。

「行っておやりなさい」
「は、はい!」
236 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/21(火) 00:09:52 ID:???
 微笑で諭すと、メイリンは聞き分けよくブリッジを出て行った。タリアはそれを見送ると、アーサーに
対してメイリンの代役を命じた。

 ノーマル・スーツに着替え、ハンガーに降りてマッドに事情を説明した。すると、マッドはランチの操縦
士として2人のメカニックを用意してくれた。メイリンは礼を述べると、すかさずランチに乗り込んでガモフ
の成れの果てに向かった。
 ライトを照らし、中の様子を覗う。無重力の中を散在しているゴミを掻き分け、ランチは奥へと向かった。

「あ! あそこに!」

 メイリンが指差した先。ライトに照らされたインパルスの姿が、闇の中から浮かび上がった。

「人が居るぞ! ノーマル・スーツだ!」

 目を細めて操縦士が言う。メイリンも目を凝らすと、ライトの光の中に膝を抱えて丸くなっているパイロッ
ト・スーツ姿を発見した。

「お姉ちゃん?」

 メイリンは操縦室を出ると、背中にバーニアを装着してランチから外に飛び出した。
 無重力の中を、緩く回転していた。膝を額に押し付けるほどに丸くなった姿勢で、近づいてみると微かに
肩が震えている事に気付いた。

「お姉ちゃん!」

 両手でその身体を支え、バイザー同士を接触させて呼びかける。ガラスの奥の姉は、水玉だらけの中で
妹に泣き顔を晒していた。

「大丈夫だから……ね? お姉ちゃん」

 そう言ってメイリンが優しく背中を擦ってルナマリアを慰める。しかし、彼女は頭を振ってそんなメイリンの
慰めを嫌がった。

「メイ……情けないよ、あたし……」

 どうしたら良いのか、分からなかった。実の姉妹であるのに、いつも強気だった姉のこんな弱々しい姿を
目の当たりにして、メイリンは戸惑ってしまった。おろおろして手持ち無沙汰な腕で何とか慰めようとするが、
なぜか今の姉には触れてはいけないような気がして、何とは無しに顔を外の方に向けた。

「ホント、承知しないからね……シン……!」

 この怒りに似たもどかしさは、何に向ければいいのか。八つ当たりとは分かっていても、メイリンはかの
男に向かって呪詛のような言葉を呟くしかなかった。


237 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/21(火) 00:11:09 ID:???
 連合軍の部隊は、後退するザフトの追撃部隊とメサイア攻撃部隊とに分散されていた。さしもの連合軍も
既にコロニー・レーザーからの退去が始まっていて、それのコントロール艦であるガーティー・ルーも電波
信号が届くギリギリの場所まで離れていた。
 戦いは、メサイアに舞台を移そうとしている。カミーユが辿り着いた時には、既に連合軍とザフトのメサイア
防衛部隊が衝突していた。

「ここじゃないのか……?」

 ロング・ビームサーベルでユークリッドを貫き、それから即座に反転して背後から躍り掛かってくるウイン
ダムを狙撃する。直後、ロザミアが身を前に乗り出した。

「まだ来てる!」

 右側面から、ソード装備のストライク・ダガーがシュベルトゲベールで斬り掛かってくる。カミーユは素早く
ビームライフルのトリガーを押したが、砲口からは飛び損なったシャボン玉のように光が弾けただけだった。

「――えぇいッ!」

 素早く左手にビームサーベルを握らせ、ストライク・ダガーの懐に飛び込んで水平に斬り付ける。胴を
上下に真っ二つにされたストライク・ダガーはΖガンダムとすれ違い、後方で弾け飛んだ。
 カミーユはビームライフルのエネルギーパックを交換し、Ζガンダムをメサイアに沿って進ませる。

「ノイズが邪魔して……!」

 気配を探る。しかし、色々な人の思念がメサイアに集中していて、そんなカミーユのセンサーを混乱させ
ていた。しかし、それでは埒が明かないと、カミーユはやおらヘルメットを脱ぎ捨てる。気休めかも知れな
いが、その方が気配を察知し易くなるような気がしたからだ。

「何か、嫌な予感がする……」

 ふと、カミーユの鼻先をふわりとした髪が撫でる。ロザミアがカミーユの前に身を乗り出していて、方々に
視線を巡らせていた。カミーユに倣ってか、いつの間にか彼女もヘルメットを外していた。
 ロザミアの不安は分かる。このメサイアを取り巻く異様な空気は、何かが起こる前兆だ。そして、それを
呼び寄せようとしているのが、シロッコであるように思えた。
 灰色の岩肌を滑るように進み、メサイアの裏側へと回り込む。そこにはボルテールを中心としたザフト
艦隊があり、連合軍との攻防が繰り広げられていた。カミーユは味方を援護しつつ、ワイヤーを伸ばして
通信回線を開いた。

『援護、感謝する!』
「白い奴、見なかったか」
『白い奴? 白い奴なら、ウインダムがそこらじゅうに居るだろう』
「タイタニアは、もっと白いんだ!」
『こっちも対応に追われている! そんなの一々覚えていられるかよ!』

 収穫無し。カミーユは即座にワイヤーを戻すと、今度はボルテールへと向かった。
 敵の攻撃を掻い潜り、ボルテールに接近する。他の艦と同様に敵に攻められていて、カミーユはそれらを
駆逐しつつボルテールの艦橋部分にワイヤーを伸ばして回線を開いた。
238 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/21(火) 00:12:10 ID:???
「タイタニア、来ているんじゃないんですか?」

 サブ表示でボルテールのブリッジ内の様子が映される。応対に出たのは責任者であるイザークではなく、
艦長らしき中年の男だった。

『Ζはアークエンジェルの後退援護に入らんでいいのか?』
「連合は、コロニー・レーザーを使うつもりなんです!」
『何? それは困る! 我々はメサイアをここまで運んできたんだぞ!』

 ボルテールの艦長が声を上擦らせた時、突如メサイアのノズルの一つに複数の巨大な爆発が起こり、
その機能を停止させた。眩いばかりの光――思わずカミーユは通信そっちのけで視線をそちらへ向けた。

「何だ!?」
『ありゃあ、核の光じゃないか! メサイアの右舷――1番ノズルが停止しただと!?』
「はっ……!」

 その瞬間にカミーユはワイヤーを戻し、脊髄反射的にウェイブライダーに変形させて加速していた。
 その爆発に、引っ張られるような感覚があった。まるで自分がそうしなければならないかのように、無意識に
身体が動いた。それは、本能が勝手に行った事であると言って良いだろう。使命を感じずにはいられなかった。

「お兄ちゃん?」

 ロザミアがカミーユを見つめた。少し様子がおかしい事に気付いて、怪訝そうに呼びかける。

「教えてくれているのか……?」

 そう呟いたカミーユの瞳は、真正面のメサイアの姿に吸い込まれていた。一点の淀みも無い真っ直ぐな
サファイアブルーの瞳は、まるで、そこにロザミアが見えない何かが見えているかのように凝視していた。
 Ζガンダムは火線の中を駆ける。いくらビームが降り注がれても、形振り構わずに先を急いだ。被弾して
もおかしくない状況の中で、しかしΖガンダムは一切も掠らせる事も無く、あたかも複雑多岐に渡る様々な
ルートの中で、たった一本しかない正解のルートを辿っているかのように突き進んでいく。

 カミーユの見ているもの。それは、幻のような現実なのかも知れない――
239 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/21(火) 00:14:21 ID:???
今回は以上です
次回、最終回(とエピローグ)となります
今週中には投下すると思うので、残りあと少し、どうかお付き合い下さい
240通常の名無しさんの3倍:2009/07/21(火) 00:16:28 ID:???
乙です
ついに最終回か…
なんか寂しいな
241通常の名無しさんの3倍:2009/07/21(火) 01:36:01 ID:???
なんか馬鹿みたいだが、ついに最終回かって言葉しか俺も思い浮かばないぜ
242通常の名無しさんの3倍:2009/07/21(火) 01:39:35 ID:???
早く続きが読みたいようなまだ続いて欲しいような
243通常の名無しさんの3倍:2009/07/21(火) 01:42:29 ID:???
ここでヒルダvsシロッコ

乗り越えたレイが、こんな風にキラと……

そして
>ニュータイプでもない彼女
>言葉が走った
広がるカミーユの力?

蠢くシロッコの思惑

ロザミアが同席してるのが何かありそうだよね
ずっと読んでいたいけど
最終回来ないわけにはいかないし……

次回にも超期待して待ってます
244通常の名無しさんの3倍:2009/07/21(火) 08:53:04 ID:???
何気に
二作目は二年間以上連載してたのね
マジで乙です
またカミーユの小説書いてください
245通常の名無しさんの3倍:2009/07/21(火) 14:48:07 ID:???
最終回。なんか寂しい響きだ。
246通常の名無しさんの3倍:2009/07/22(水) 01:43:38 ID:???
もう最終回ですか・・・寂しいものだな
でもまた新しい作品と出会えるなら思っています。
247通常の名無しさんの3倍:2009/07/22(水) 17:01:21 ID:???
最終回で最高のニュータイプがどんな奇跡を見せるんだろうか
しかしシロッコが初期案並に強いな
248通常の名無しさんの3倍:2009/07/22(水) 18:45:57 ID:???
乙です!いよいよ最終回ですか・・・
249通常の名無しさんの3倍:2009/07/24(金) 19:03:44 ID:???
最終回とエピローグは一度に投下なされるのかそれとも別々か…
一気に読んでしまいたくもあり、しかし少しでも長く見ていたい気もするしで
矛盾してるがどっちも正直な気持ちなんだよなあ。
250 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/24(金) 22:44:11 ID:???
  『帰還』


「メサイアの方が、騒がしくなっています!」

 ダコスタの叫びに、バルトフェルドが駆け寄った。
 アークエンジェルに収容されたアスラン達は、ブリッジに上がっていた。ダコスタはサイの隣に座り、
アビーはミリアリアをサポートしている。当のアスランはチャンドラの反対の席に腰掛け、火器管制の
サポートを行っていた。

「騒がしくなっている?」

 バルトフェルドがダコスタの肩越しから画面を覗き込み、訝しげに唸り声を上げた。

「――ノズルが一つ止まっちまってるじゃないか!」
「1番ノズルです。メサイアの加速に、鈍りが生じ始めています。――若干ですが」

 アスランは即座にCICから情報を呼び出してシミュレートする。そしてコンピューターが弾き出した答え
を確認すると、ダコスタの方に振り返った。

「しかし、これならまだ作戦は生きている! メサイアは確実にコロニー・レーザーにクラッシュする!」
「今の所は、そうでしょう」
「どういう事だ?」

 含みのあるダコスタの返答に、アスランは眉を顰めた。ダコスタはそんなアスランを一瞥すると、艦橋
正面にスクリーンを呼び出して映像を表示させた。それを見て、アスランは益々眉間に皺を寄せる。

「これは……!」
「メサイア方面が賑やかになりすぎているんです。万が一、ノズルを全て止められるとなると、コロニー・
レーザーとの併せ技で――」

 スクリーンがシミュレート画面に切り替わる。そして、グラフィックス表示のコロニー・レーザーが同じく
グラフィックス表示のメサイアにレーザーを放った。その結果に、アスランは思わず立ち上がった。

「メサイアは外れる……!?」

 それは、あたかも未来予知のような悪い予感を喚起させていた。苦渋の声を漏らすアスランの目の前で、
スクリーンの中のメサイアはコロニー・レーザーにぶつかることなく素通りしていく。



 5つあるメサイアのメインスラスターの内、横に4つ並んでいる1番右のノズルだけが光を失っていた。その
各所では戦闘の光が瞬き、ザフトと連合軍の激しい攻防が行われている。
 メサイア衝突の予定時刻まで、残り40分弱となった。今、眼前にまでメサイアに接近して、改めてその巨大
さを認識する。これがコロニー・レーザーに衝突すれば、確かに潰せるだろう。しかし、これだけの質量の
物体を誘導する事は容易くは無いし、もし進路を変えられたりもしたら、この差し迫った時間で修正を施す
事は不可能だろう。プラントが生き延びる為には、メサイアは必ずコロニー・レーザーに直撃しなければな
らないし、外れる事など以ての外だった。
251 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/24(金) 22:45:59 ID:???
 しかし、その以ての外の事態が起こりつつある。連合軍がスラスターノズルを潰して、メサイアの加速に
よる勢いを殺し、コロニー・レーザーで物理的衝撃を与える事によってその進路に意図的な狂いを生じさせ
ようと画策しているのである。そして、その中心に居るであろう人物を、カミーユは分かっていた。

 メサイアの灰色の岩肌に取り付く。それに這うように沿ってΖガンダムをノズルの付近へ向かわせる。
 突如、正面にウインダムの3機編成が躍り出た。浴びせられるビームをかわし、ビームライフルで迎撃し
ながらその間を駆け抜け、置き去りにする。勿論、敵もΖガンダムを見逃すはずが無く、追撃を掛けられて
背後からのビーム攻撃を受けた。
 ビームは当たる事はなかったが、気が削がれる。手間ではあるが、カミーユは身を翻してシールド裏から
閃光弾を発射して追撃を撒いた。

「敵がこんなに出ている。すっかり取り付かれてしまったのか?」
「お兄ちゃん、前、前!」

 後方を確認しながら呟くカミーユの肩を、ロザミアの手が叩く。それに応えて首をもたげると、ロザミアは
正面を指差していた。
 閃光弾の光に誘われたか、メサイアの内部から更に5機のウインダムが湧き出てくる。すぐさま迎撃の
体勢を取ったが、5機から一斉に放たれたビームに、さしものカミーユも後退を余儀なくされた。

「さっきの奴らも!」

 背後から迫る複数の気配に気付く。視線を後方に向ければ、閃光弾で撒いたはずの3機が戦闘の光に
気付いて追いついてきた。これで、合計8機のウインダムが集った事になる。
 前後を挟まれ、咄嗟にメサイアの内部に逃げ込んだ。Ζガンダムに集中するビームがメサイアの岩肌を
砕き、細かい破片が飛散する。
 内部は宇宙戦艦のドックで、MSが十分に飛び回れるだけのスペースがあった。カミーユは迅速に遮蔽物
の陰にΖガンダムを隠し、入り口から侵入してくるウインダムをビームライフルで狙撃する。しかし、メガ粒子
砲と言えどもたった一機の手数では高が知れている。しかも、既にエネルギーパックを一つ消費してしまって
いる今、無駄玉を撃てるだけの余裕が無い。何とか取り囲まれる事態だけは避けられたものの、結局はジリ
貧でしかなかった。

「クソッ!」

 盾となっている遮蔽物に、攻撃が集中する。ビームが乱れ飛ぶ中、カミーユも隙を見て応戦したが、1機を
撃墜するのがやっとだった。
 これではシロッコを止める事はおろか、この場から動く事すら出来やしない。最悪、このままメサイアと運命
を共にする事になりかねないだろう。それならば、多少のリスクを覚悟した上で、ここを突破するしか講じられ
る手段は無さそうだった。
 ふと、上からビームサーベルで襲い掛かってくるウインダムが居た。カミーユはビームライフルを素早く撃ち、
その右脚を破壊。そのまま跳躍して左手に握らせたビームサーベルで胴を両断し、その勢いを足がかりとして
突破を試みた。

「――うッ!?」

 いかにスペースの広い艦船ドックとはいえ、壁という制限ラインがある以上、攻撃する方は狙いやすく、攻撃
される方としてはかわしにくい。ウェイブライダーに変形して一気に突破してやろうと目論んでいたが、想像以上
の砲撃の前に突破する事はおろか変形する暇さえ与えてもらえない。
252 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/24(金) 22:47:13 ID:???
 このまま足止めをされたままで居れば、シロッコに好き放題をされてしまう――焦って髪を掻き毟ったその
時、不意にウインダム達の背後から一条のプラズマ収束ビームが劈いた。それは射線上の3機のウインダム
を纏めて撃墜したかと思うと、突如として現れた白いグフ・イグナイテッドが、スレイヤー・ウィップを振り回し
て更に2機のウインダムを切り裂いた。

「味方が来てくれた?」
「知ってる人よ」

 ロザミアが言うまでも無く、カミーユには見覚えがある。

「ジュール隊の人達か」

 残ったウインダムは1体のみ。それまで押せ押せだったそのウインダムも、突然の背後からの襲撃にすっか
り混乱してしまっていた。ヤケクソになって特攻を掛けるそれをグフ・イグナイテッドがテンペストソードで両断
すると、一方でΖガンダムのところへブレイズ・ザクがやってきて接触回線を繋いできた。

『Ζ――カミーユ、どこへ向かおうとしていたの!』

 シホ=ハーネンフース。ジブラルタル支援作戦の折に一時的にボルテールに厄介になった時に、少しだけ
交流があった。彼女はカミーユがメサイアに居た事に頗る驚いている様子だった。

「ノズルの一つは、止まったんだ」
『後退命令は出されているのよ! 軍に居るんなら、上からの命令は厳守でしょう!』
「放っておいたら、メサイアは外れるぞ!」

 そういう危機感が、カミーユにはあった。ここで退いてしまえば、必ずメサイアは不発に終わる。そんな予感
がしているから、折角のシホの助言も受け入れる事は出来ない。カミーユには分かっている。災禍の芽は、
まだメサイアに根を下ろしたままだ。
 Ζガンダムは煩わしそうにブレイズ・ザクのマニピュレーターを払い除けた。しかし、納得できないシホの
ブレイズ・ザクがΖガンダムを掴み止めようと腕を伸ばす。

『だからって――』
「嫌な奴が残ってんの!」
『え? ロザミィが一緒!? ――なんて人!』

 後ろ髪を引っ張られるようなシホの愛想を尽かした言葉を聞きながらも、カミーユはΖガンダムを加速させ
た。途中、グフ・イグナイテッドの頭部が振り向いてモノアイを光らせる。指揮官としては非常に優秀ではある
が、癇癪を持った厄介な男だ。故に、カミーユが加速を緩める事は無い。

『――貴様! 後退命令が――』

 すれ違いざまに一瞬だけ繋がった回線が、ドップラー効果の如くイザークの声を拾った。カミーユはそれ
すらも振り切って進み、出入り口から外に飛び出した。そして、その付近で警戒行動していたガナー・ザク
が、急遽飛び出してきたΖガンダムに驚いてうっかり砲身を向けてきたが、カミーユはそれにも構わずに
先を急いだ。
 後には、ハッと気付いて砲身を下ろすガナー・ザクが、その後ろ姿を見つめていた。

「何だよ、あれ?」
253 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/24(金) 22:48:23 ID:???
 メサイアを離脱する様子は無い。ディアッカは呆気に取られて肩を竦めた。

『止むを得ん。俺達は離脱するぞ』

 中から顔を見せたグフ・イグナイテッド。イザークが苦虫を噛み潰したような声色でディアッカを促す。

「いいのかよ?」
『仕方ないだろ! ――任せるしか』
「チッ……」

 シホのブレイズ・ザクも出てくる。3機は編隊を組むと、メサイアを離れていった。


 ピースメーカー隊の核攻撃によって、1番ノズルは沈黙した。しかし、彼等を総動員しても、一つのノズル
を破壊するのがやっとだった。シロッコは確認の為にノズル付近へ出てきたが、他の4つのノズルは相変わ
らず白い光を吐き続けて、メサイアを加速させている。
 効果は、如何許りか――確認の連絡を取ろうとしたが、電波障害の影響でガーティー・ルーとは繋がら
なかった。シロッコは仕方なしに、タイタニアのコンピューターでメサイアの予想ルートと衝突までの時間を
シミュレートしてみた。

「流石に一つだけでは――」

 弾き出されたリザルトを確認して、忌々しげに呟く。確かにメサイアの加速は鈍ったが、核の衝撃の分だ
け加速していて、結局は然して大きな狂いを生じさせる事は出来なかった。これでは、コロニー・レーザー
を撃ったところでメサイアとの衝突は不可避である。

「侵入に成功した部隊が上手く事を運べば……いや、やはり私も……」

 考えるシロッコに、不意にビームが襲った。タイタニアは軽い身のこなしで岩陰に隠れてやり過ごすと、
即座に飛び出して射線元にデュアル・ビームガンを構えた。砲口の先には、スラッシュ・ウィザードのザク・
ウォーリアがビームライフルを構えている。

「よくも仕掛けた!」

 敵では無い。そのザク・ウォーリアが次弾を発射する前に、シロッコはデュアル・ビームガンを撃つ。ビーム
は見事に敵の砲身を撃ち抜き、破壊した。慌てたザク・ウォーリアは咄嗟に長柄のビームアックスを取り出し
たが、遅い。その間に接近したタイタニアがビームソードを振るい、それを撥ね飛ばした。

「効果はあるか知らんが」

 サブ・マニピュレーターが、ビームサーベルで正確にコックピットを一突き。ザク・ウォーリアのモノアイの光
が寿命の切れたネオンのように闇に消えると、タイタニアはそのまま2番ノズルに向けて放り投げた。そして、
デュアル・ビームガンでそれを狙撃し、ノズルの根元のところで起爆させる。
 大きな爆煙を伴って、メサイアの岩肌を削る。飛散した岩片がタイタニアにまで飛んできたが、しかしノズル
の火は一向に弱まる気配が無かった。艦船よりも遥かに大きいメサイアのメインノズルである。MS程度の爆発
では、流石に止まる気配は無かった。

「やはり、なまじでは駄目か……!」
254 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/24(金) 22:49:40 ID:???
 シロッコの顔に、焦りの色が浮かぶ。気掛かりなのは、今から全ノズルを停止させたとしても微妙なタイ
ミングに差し掛かってきているということ。このままでは、例え全てのノズルを停止してコロニー・レーザー
を撃ち込んだとしても、メサイアの衝突が避けられない恐れが出てきた。
 望み薄であるが、自らもメサイア内部に入り込んで、タイタニアによる直接攻撃によってノズルの制御中
枢を破壊するしか手は無い。しかし、そこをピンポイントで攻撃できれば話は早いのだが、生憎とシロッコ
はメサイアの詳細な情報は持っていない。非常に物臭で泥臭い方法ではあるが、怪しい箇所を手当たり
次第に破壊するしか無さそうだった。

「我ながら、賢いやり方では無いかも知れんが――」

 そんな贅沢を行っている場合では無い。対策を講じていられる時間があれば別だが、手薬煉を引いている
間にコロニー・レーザーを潰されてしまったら本末転倒である。美学に拘って本分を見失うほど、シロッコは
傲慢では無いつもりだった。

「――フン!」

 しかも、ノズルの停止だけに拘っている場合でもなくなったらしい。――らしい、というのはシロッコが額の
辺りに疼きを感じたからで、決して目で確認したわけでは無い。しかし、そのシロッコの予感はまるで未来
予知のように現実となる。
 突如、タイタニアを狙うビームが飛来した。シロッコはまるで決められていたかのように後ろへ飛び退き、
そのまま停止した1番ノズルの根元の部分に身を隠した。

 その白いMSを目にした時、頭の中が沸騰したかのような気持ちの昂ぶりを感じた。倒すべき敵と認識して
いるからこその、昂ぶりだと思う。そして、同時にそれで全てが終わると確信していた。
 タイタニアの背後からビームを見舞う。しかし、流石に簡単にはやらせてもらえない。タイタニアは素早く
身をかわすと、すぐさま1番ノズルの影に隠れてしまった。

「あぁー! ずるっこい!」

 舌を鳴らすカミーユに代わって、ロザミアが心の内を代弁してくれた。
 敵が姿を隠したとなれば、網膜に頼る事は出来ない。それこそ、カミーユは自分の直感を信じてシロッコ
の所在を把握しなければならないのだ。しかし、タイタニアにはファンネルという便利な武器がある。自ら姿
を見せずとも、敵を攻撃する手段を持っているのである。それは、Ζガンダムの身一つで挑まなければなら
ないカミーユにとって最大の隘路であった。
 しかし、だからと言って手を拱いていてもシロッコの思う壺である。カミーユは意を決し、Ζガンダムをノズ
ルの根元の部分へと向かわせた。それは、深い暗闇の中に足を踏み入れる事と同義だった。

「どこから来るのかな?」
「四方八方からプレッシャーを感じる……」

 ロザミアの不安は分かる。ひりひりと焼け付くようなプレッシャーを、身体中で感じていたから。
 ノズルの根元の部分まで下降し、そろりそろりと警戒しながら行く。ピリッとした、痛みの様な感覚がした。
次の瞬間、不意に右の方で爆発が起こる。即座に顔を振り向けた。

「そこか!」

 操縦桿を傾け、方向転換してスロットルを開く。両手で抱え込むように保持したビームライフルを構えな
がら、感じた方向へ急行する。
255 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/24(金) 22:51:29 ID:???
「何ッ!?」

 仰天して、思わず制動を掛けた。辿り着いた場所に、タイタニアの姿は無かったのである。そこに浮かん
でいたのは、注射器の形をした小型ビット――ファンネルが一基のみだった。
 カミーユはファンネルの攻撃をシールドで防ぎ、ビームライフルを連射してそれを撃墜する。そして目線
を上下左右に走らせ、ファンネル以外の影を探した。

「ビットが、シロッコの気配を持つ……!?」

 それは敏感すぎるカミーユの感性が招いた、皮肉な巡りあわせだった。ファンネルが放つ微弱な思惟に
対しても、それがシロッコそのものであると勘違いしてしまうほどの敏感さが仇となったのだ。
 シロッコは、そういうカミーユのニュータイプとしての能力の高さというものを認めていた。強いプレッシャー
に、高い感応力――それらが、ある意味で自分が踏み込めない領域にある事を知っていた。しかし、だから
と言ってその能力の高さがニュータイプとしての究極である事を、シロッコは認めていなかった。その力は
使いこなしてこそ、意味を持つ――カミーユにとって決定的に欠けている要素は、新人類としての自覚や
覚悟が無い事にあると確信していた。そして、そんなカミーユは宝の持ち腐れであり、ニュータイプの力を
有するに不相応であるとシロッコは断じる。
 だから、こういう単純なトラップにも引っ掛かる。力の制御も出来ない未熟者だから、ファンネルと本体の
気配の違いも見分けられないのだ。

「それが貴様の限界だ!」

 背後から躍り掛かるタイタニア。Ζガンダムが振り返ってビームライフルを撃ったが、シロッコはそれを
かわして喉元の辺りにエルボーを叩き込む。
 しかし、浅い。まともに決まっていれば頭部センサー系統くらいは殺せただろうが、シロッコが見たΖガ
ンダムの装甲のへこみ具合は、内部にダメージが入っていない事を教えていた。
 タイタニアの奇襲に咄嗟に反応できたのは、それもカミーユの持つ勘の鋭さゆえだった。もし、そうで
無かったなら、今頃シロッコの目論見どおりΖガンダムは目を失っていた事だろう。
 何とかダメージを最小限に抑えた。カミーユは衝撃で浮き上がったロザミアを手で繋ぎ止める傍らで、
絶妙なタッチでペダルを3回ほど踏み、バランスを崩したΖガンダムを奇麗に立ち直らせた。

「えぇい、嵌められた! ――ロザミィ!」

 カミーユは臍を噛みつつも、浮き上がったロザミアを手繰り寄せる。
 再びシートにしがみ付いたロザミアが、何かに気付いて上を見た。

「まだ来る!」
「え?」

 ウゾゾッと群がるようにファンネルが襲い掛かってくる。集団で集る様は、まるでピラニアのようだ。その
獰猛さは、シロッコの隠された本性の断片なのかも知れない。
 カミーユは1番ノズルや岩陰を上手く利用してファンネルをやり過ごした。しかし、間断無く弾丸のような
加速でタイタニアが急襲してくる。ビームライフルで抵抗したが、瞬く間に間合いを詰められた。そして、
これ見よがしに振り上げられたビームソードが、カミーユの瞳に映り込む。

「危ない!」

 その時、咄嗟にロザミアが操縦桿をカミーユの右手ごと掴み、思い切り奥に押し込んだ。
256 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/24(金) 22:53:00 ID:???
 瞬間、Ζガンダムは突風に煽られたように跳ね上がった。お陰でタイタニアの斬撃は空振りし、Ζガンダム
もあらぬ方向へ吹っ飛んでいった。
 それはロザミアが咄嗟に行った事で、カミーユは当然、予期していなかった出来事。機体を制御する事も
出来ず、そのまま背中からノズルに激突してしまった。

「失敗しちゃったぁ!」
「い、いや……命拾いをした!」

 衝撃に顔を顰める。しかし、そのロザミアの咄嗟の行動が無ければ、斬られていた。だから、彼女が反省
する理由など無い。カミーユは軽く手を上げてロザミアを諌めた。

「ん――うわっ!」

 気付いて、思わず声を上げる。ロザミアにかまけている場合ではなかった。休む間も無く、タイタニアが
斬り掛かって来たのだ。慌てて操縦桿を握り直し、構える。
 内臓まで押し潰されているような強烈な圧迫感だった。あっという間に再びタイタニアの接近を許してしま
うと、激しい衝撃がコックピットの2人を襲った。

「クッ…ぅ……ッ!」

 辛うじてロング・ビームサーベルで受け止めた。コックピットの2人は、ビーム刃同士の干渉による激しい
光に包まれる。Ζガンダムは、強力なパワーに押し込まれて身動きを封じられた。
 それをシロッコの執念の力と取るかは、カミーユの匙加減一つだったのかも知れない。しかし、カミーユ
には目の前に敢然と立ち塞がるタイタニアの姿が、シロッコの怨念や妄執そのものが具現化したかのような
ものに見えていた。
 シロッコもカミーユも、戦争の終結という観点から見れば目指す所は同じだ。しかし、その意味は180度反対
であると言っても差支えが無い。彼等2人にとって、平和という単語が持つ意味がまるで違うのである。
 思い起こされるのは、グリプス2の劇場跡での一幕。シロッコ、ハマーン、クワトロの3人がそれぞれに思想
をぶつけ合う中、シロッコは本音を吐露した。
 常に世の中を動かしてきたのは、一握りの天才だ――カミーユは、それを真っ向から否定した。

「あなたは――」

 しかし、そんな事は今はどうでもいい。それ以前に、カミーユにはシロッコに言いたい事があった。
 タイタニアのモノアイが瞬く。眩惑されそうな光の中でも、ハッキリと分かる赤を煌々と宿していた。それは、
漏れ出た頑ななシロッコの執念の象徴のようにも感じられた。

「いつまでも、ここに居座るつもりで!」
『うん?』

 Ζガンダムが、一瞬だけ赤い光を帯びた。シロッコがその光に一寸、気を取られた瞬間、Ζガンダムが押し
返してビームソードを弾いた。そしてバルカンでタイタニアを牽制する間にビームライフルのモードを通常に
戻して、すぐさま構える。

「余所者である僕達は、この世界に対してもっと誠実でなくてはいけなかったんです! それなのにあなたは、
その傲慢でナチュラルとコーディネイターの憎悪までも利用し、世界に混乱を拡げてしまった!」
『戯言を! 反骨の子供が感傷でモノを口にするのか?』
「悪い事してるって、思わないんですか!」
257 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/24(金) 22:54:40 ID:???
 タイタニアの撃ったビームがΖガンダムの右肩を掠める。少し掠ったらしく、粉のような火花が散った。
カミーユは目を細め、相容れない「相手」の姿を睨みつける。

『いつの世も、歴史は定められし人間の手によって紡がれてきた。私は、そういう事をしている!』
「地球は、1人の力では持ち上がらないでしょう! それを認められないから、あなたは!」

 すかさず、反撃をお見舞いする。しかし、カミーユの撃ったビームはタイタニアに掠りすらせず、メサイア
の岩肌を無駄に砕いただけ。それが、カミーユとシロッコの力の差だった。
 シロッコは他人を認めようとする謙虚さを持たない。それ故に他人からの干渉を極端に嫌い、現実的には
孤独だ。彼はそうやって生きてきたのだろうし、そういう生き方がベストだと確信していたのだろう。だから、
誰の言葉も聞き入れないし、勿論カミーユの言う事も理解しようとしない。
 そういう「相手」に対して、どうすれば良いのだろうか――しかし、今という状況にあっては叩かねばならな
い時。それは、ここでシロッコを止めなければならないと言う使命感に似た想いである。カミーユは、その
想いに駆られていた。
 タイタニアは、4基程度の足止めのファンネルを残して姿を眩ました。すかさずカミーユはファンネルの
砲撃の中を掻い潜って、それを追う。切羽詰ったような、焦燥感があった。

「お兄ちゃん……?」

 シートにしがみ付きながら、ロザミアはカミーユに起こりつつある異変に気付いていた。それは、敏感な
彼女だからこそ感じ取れた異変だろう。普通の感性を持つ人間では、まず気付かない。
 カミーユの顔にはびっしりと汗が浮かんでいた。苦境に立たされている事と、シロッコの強烈なプレッシャー
を浴び続けている事が重なったが故だろう。普段はカミーユの傍に居ると安らぎを感じるロザミアも圧迫感
というものは感じているし、それ故にカミーユが感じる苛立ちというものも分かる。しかし、彼女が感じた異変
は、そういう事ではなかった。
 もっと、観念的なものだろう。ロザミアにはそれを言葉で言い表す事は出来ないが、カミーユに何かが集い
つつあるという事だけは理解できた。それは力となるようなものなのかも知れないが、本質的には敵を討ち
滅ぼすような類のものでは無いと感じる。そして、得体が知れないと言えば恐ろしいもののように思えるが、
しかし、ロザミアは何故かそこから暖かな空気を感じた。とても優しいと思えたのだ。
 その感じ方が、果たして正しいのかどうかさえ知れない。ただ、その集いつつある何かは、カミーユを求め、
或いは力を貸そうとしているようではあった。

「誰? お…兄…ちゃん……?」

 それは、不意に口を突いて出てきた言葉だった。不思議な感覚に包まれたロザミアは、「誰か」を呼んだ。



 それは、彼等の人生観すら変えてしまうような衝撃的な感覚だった。最初はゾクリとする背筋の悪寒を
感じたものの、それは直ぐに立ち消え、次第に暖かな毛布に包まれているような空気を感じた。
 五感で把握することでは無い。それは第六感的な閃きに似た印象だった。脳の神経に直接触れるような、
抽象的でありながらも具象的であるという、矛盾した感覚。しかし、2人はそれを恐れたりはしなかった。

 キラがそれを感じ取ったのは、既にメサイアが目と鼻の先にまで迫った時だった。オーブでカミーユの声に
導かれた時よりも、もっと観念的であり、しかし、具体性は無くとも何故か瞬時に理解できる不思議があった。

「フレイ……トール……? 僕を呼びに来たの?」
258 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/24(金) 22:56:12 ID:???
 キラを促している事は確かだった。そして、特定の場所に導こうとしている。

「――カツ!」

 不意にイメージの中に浮かび上がった。警告――キラは即座に注意を後方に向けて、ストライク・フリー
ダムを反転させた。

「レコアさん? ――そういう事か!」

 存在を教えてくれている。ビームライフルを向けた先には、艦船か何かの残骸である巨大な鉄板が漂って
いるのみ。しかし、キラは迷い無くそれを狙撃した。
 ビームが鉄板を貫く。手応えあり――すると、鉄板の裏から剥がれる様にして一体のストライク・ダガーが
姿を現した。しかし、それは既にコックピットを貫かれていて、MSとしては死んだも同然であった。そして、
その手には長距離狙撃用にアグニが握られていた。つまりは、そういう力が宿ったという事である。

「カミーユを感じる……まだシロッコと接触できていないのか?」

 1番ノズルが停止したという報告は受けている。メサイアはいよいよコロニー・レーザーに迫り、衝突の時ま
でいま少しという時間になってきている。
 焦燥感というか、ハラハラする気持ちがキラの胸で早鐘を鳴らしていた。そして、恐らく最後になるであろう
シロッコとの決戦の時も迫っているように感じる。そういう緊張を和らげるように、キラを取り囲む感覚は、彼
に優しかった。
 今は進む時。ストライク・フリーダムは遂にメサイアに辿り着き、その岩肌を滑るように目標地点に急いだ。

 時を同じくして、同じ感覚を味わうもう1人の男が、別の場所に居た。

 シンのメサイアまでの道程には、まだ少し距離がある。敵と交戦するとき以外は操縦桿のスロットルは常に
一番奥に押し込んだままで、それを固く握る手がシンの逸る気持ちを如実に示していた。そんな中で感じた
違和感――シンにとっては、ジブラルタル基地でデストロイと対峙したとき以来の感覚だった。

「コニールに――マユだってのか、これが!?」

 あの時と同じ、具体的な言葉は無いのに何故か分かってしまう矛盾した感覚。しかし、そこに不信感は
無かったし、勿論、恐れたりもしなかった。ただ、シンの単純な激情は逸る気持ちに拍車を掛け、いま少し
あるメサイアまでの道程に苛立つ気持ちは消しきることはできなかった。
 そういうところがシンの持つ「らしさ」とも言えるし、それが強さへの貪欲に繋がり、彼をここまでの戦士に
至らせた。しかし、その自信は、時に彼を陥れる落とし穴になるのかも知れない。

「エマさんの言う事も分かるけどぉッ!」

 鞭は必要だ。窘める事で、少しでもその落とし穴の幅を狭められれば良いと思う。
 行く手に、2体のウインダムが立ち塞がる。シンはビームライフルで牽制しながら、一切の減速をせずに
その2体に向かって突っ込んだ。当然、攻撃は受ける。しかし、シンに――デスティニーに抜かりなど無い。
絶対的な防御力を誇る光の盾が、その両手甲に備わっているからだ。
 淡い青い膜が、マニピュレーターの甲から広がる。それはウインダムの撃つビームを、あたかも水を弾く
ように防いだ。スピードは勿論、緩めない。そのまま2体の間に入り込むように突撃した。
 両腕を引き絞る。そして両手でそれぞれのウインダムの腹部に掌底を叩き込むと、パルマ・フィオキーナ
で一気に撃破した。
259 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/24(金) 22:57:30 ID:???
「トダカさん……? ――そっちか!」

 雄々しく猛る。敵に立ち向かおうという激情は、シンの何よりもの力だ。それを後押しして、更に力を発揮
させるように、その感覚は作用していた。それは、彼を「解っている」からこその事である。
 デスティニーはその狂おしいまでに美しい翼を広げ、光の軌跡を残して飛翔した。



 継続的な振動が起こっていた。メサイア内部は、まるで占拠されているかのように多数の連合軍MSが入り
込んでいた。それらは当り構わずに破壊行為をしており、カミーユが内部に入った時には、既に見るも無残
な光景に変わり果てていた。
 狙いは、ノズルの制御中枢の破壊で間違いないだろう。粉塵と残骸が舞う中、破壊行為に躍起になってい
るウインダムに向けて、カミーユはビームライフルで攻撃した。

「いっぱい出てきたぁ!」
「ロザミィは、しっかり掴まっているんだ! このまま突っ込む!」

 ビームがウインダムに直撃し、爆散した。その爆発を皮切りとして、奥の方から湧き出るように多数のウイ
ンダムが姿を現す。数など、数える気は無かった。ウインダムの爆散によって視界が更に悪くなると、そこ
からはカミーユの独壇場だった。
 確かに、視界は悪い。カミーユにとっても、お世辞にも良い環境であるとは言えない。しかし、カミーユの
方が連合兵よりも遥かにハッキリと敵の姿が見えていた。
 「それ」は、網膜に映ることは無い。「それ」は、視覚が得た情報が脳で処理されている時に、後付けで加味
されるものだからだ。カミーユには、敵対する意思の塊と呼べるものが、見えて(把握できて)いた。
 ビームライフルで進路上の敵を排除しつつ、Ζガンダムは視界が煙る中を突き進む。ウインダムは微かな
バーニアの光を頼りにΖガンダムを攻撃したが、それが命中する事はなかった。

「へへん! 見たか、お兄ちゃんの力を! 一昨日きやがれってのよ、ベぇーッ!」

 ロザミアは置き去りにしたウインダムの集団を振り返って、舌を出していた。
 そんな風にして鼻を高くしているロザミアの一方、カミーユはしっかりとその波動の行方を追跡している。

「気配が近い……? キャッチできるのか?」

 いよいよ気が抜けない空気を感じた。通路は手当たり次第に破壊され尽くしていて、MSが侵入できないよ
うな狭い分岐路に対してもビームが撃ち込まれた形跡がある。その、要領の悪い手口であったり雑な破壊の
痕跡から、シロッコにも余裕が無い事が覗えた。
 焦っているのは、シロッコも同じだ。細かい振動は尚も続いており、緩いカーブが続く通路の先からは明滅
する光と飛散する金属片が埃と共に舞っていた。

「――居るな!」

 シロッコの波動が強く感じられる。カミーユは操縦桿のスロットルを限界まで手前に引き、一気にΖガンダム
に最大加速を掛けた。

 その背後から迫るプレッシャーを、シロッコは感じていた。しつこい追跡者には、呆れるばかりだ。しかし、
鬱陶しくてもそれにかまけていられる時間が無いのが、今のシロッコの置かれた状況であった。
260 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/24(金) 23:00:58 ID:???
 背後を振り返って足を止めている場合では無い。再び足止め用に数基のファンネルを差し向け、シロッコ
は先を急いだ。

「外の様子は見えんな――えぇい!」

 勘が頼りでしかなかったが、怪しい箇所は全て潰した。出口はもう直ぐそこまで迫っている。現在、ノズル
がどうなっているのかは、電波障害のお陰で全く把握する事が出来ない。様子を知りたくてヤキモキする
気持ちはあっても、今は天の采配に全てを任せるしかないのがシロッコの現状だった。

「ん……出口か!」

 まるで拒むものが無いかのように大きく開いた出口。その先に、コロニー・レーザーの影が見える。その
発射口から煌々と漏れ出る光が、エネルギー・チャージが完了寸前である事を教えていた。
 しかし、背後から迫るプレッシャーは益々その勢いを加速させている。タイタニアは脱出寸前で身を翻し、
デュアル・ビームガンで出口を塞ぐようにビームを撃ち込んでから飛び出した。

「どうなっている、ガーティー・ルー!」

 メサイアはコロニー・レーザーに接近している。連合軍にも撤退命令が出されているとは言え、コロニー・
レーザーのコントロール艦であるガーティー・ルーはその付近に留まり、タイタニアとの距離も接近している
はずである。
 シロッコはすかさず通信回線を回したが、耳に聞こえてきたのは酷い電波ノイズだけだった。

「電波障害の影響が消えない? ――いや、来たか!」

 辛うじてガーティー・ルーからの画像が送られてくる。シロッコは即座にそれを表示した。

「何ぃ? ――おお!」

 ブロックノイズが酷くて、最早メサイアの形もへったくれも無いような粗末な画像だったが、何とかノズル光
だけは確認できた。それは、シロッコの表情を確信の笑みへと変貌させた。




「――止められた!?」

 アスランは驚きのあまり立ち上がり、不覚にも無重力の中でバランスを失ってしまった。
 プラント出身のアスランは、軍での訓練もあり、無重力下での身体の制御は骨身に沁みるまでに叩き込ま
れていた。そうでなくとも、普通の宇宙生まれは自然と無重力の中でのバランス感覚を養うものである。そん
な彼が地球上がりの素人のようにバランスを崩してしまったのは、それだけ受けた衝撃が大きかったからだった。

「ノズルから光が見えないって――本当なのか!?」

 無様に姿勢制御を行おうとするアスランの手を取り、ダコスタが自分の所まで引き寄せた。アスランは取り
繕う時の癖のように髪をかき上げると、席に腰掛けるダコスタの背後からスクリーンの映像を見上げた。
 愕然とさせられた。スクリーンに映るメサイアは少しずつコロニー・レーザーに迫っているというのに、その
ノズルの全てはすっかりと光を失くしてしまっている。
261 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/24(金) 23:02:44 ID:???
「ボルテールからです。信じられませんけど――」

 嘘だと思いたかった。しかし、それは厳然としてそこにある事実で、アスランには変えようが無い。もう、
メサイアはコロニー・レーザーの直ぐそこまで迫っているのに、ここに至っての致命的な打撃。安堵しか
けていたアスランを絶望させるには十分な画像だった。

「すぐにシミュレートし直してくれ! 時間的な背景も考慮して――」
「アスラン、ミネルバだ!」
「何……?」

 バルトフェルドの声に促されて反対側を見やると、そこにはいつの間にか合流していたミネルバがあった。
アスランはすぐさまミリアリアの所に上がり、差し出されたインカムを受け取って耳に当てる。

「何か! ――ん? まだ出しちゃいない。――そうだ、これから――何だって!?」

 見守るミリアリアの前で、アスランの表情が変化した。

「そうなのか! ――い、いや、分かった。アークエンジェルはギリギリだ。レイを連れて、逃げ遅れている
味方の後退支援をしてくれ。――ん、タリア艦長によろしく頼む」

 アスランはそう言うと、ミリアリアの手元のコンソール・パネルを弄ってチャンネルを変えた。

「レイ、聞こえているな。君はミネルバと行け。――大丈夫だ。アークエンジェルは先に現宙域を離脱する」

 ミリアリアにインカムを返却すると、アスランは徐にブリッジの中央に降り立った。レジェンドは双眸を光ら
せてアークエンジェルからの離脱の合図を送ると、転進して離れ行くミネルバに随伴していった。
 アスランの額には、汗が浮かんでいた。じりじりとひり付く様な空気を感じ、胃が痛くなるような思いを味わっ
ているのだろう。しかし、毅然とした姿勢を崩さないのはザフトの最高指揮権を持つ者としての責任の表れで
ある。そして、その口元には希望的観測に縋るような微かな笑みが浮かべられていた。



 全てのノズルが停止した今、コロニー・レーザーを撃ち込む事によってメサイアが衝突コースを外れる事が
確定的になった――筈だった。これがまさかのぬか喜びに終わる事になるなど、シロッコの性格では想像でき
なかっただろう。
 懸念が、的中してしまったのだ。確かに全ノズルは停止し、メサイアの加速は著しく鈍った。そこに可能なだけ
出力を高めたコロニー・レーザーを叩き込めば、全ては上手くいっていたかもしれない。しかし、ノズルの停止は
遅すぎたのだ。

「確率は五分五分か……!」

 珍しく歯噛みするシロッコは、タイタニアで計算した結果を見つめて忌々しげに呟いた。
 ノズルの停止が遅れた分、メサイアは予想以上にコロニー・レーザーに近付き過ぎていた。そして、その計算
の狂いにより、必要出力のチャージ完了時刻が、メサイアの衝突回避可能ラインである時刻から僅かであるが
遅れる事となった。その結果、予測不能の事態も含めたコンピューターが弾き出した答は、どっちつかずの50%
であった。

「しかし、賭けてみるしかあるまい。あと15分強か――」
262 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/24(金) 23:04:21 ID:???
 衝突予定時刻まで、あと僅か。メサイアはコロニー・レーザーの眼前にまで迫っており、うかうかしていれ
ばシロッコも大破壊に巻き込まれかねない。
 最早、運を天に任せるしかない。そういう不確かなものに頼らざるを得ない自分が、醜態を晒しているよう
で、滑稽に感じられた。

「無様な……!」

 自らの恥を隠すように、既に用済みとなったメサイアに背を向ける。後は、事の成り行きを見守るしかない。

「ん……プレッシャーだと?」

 メサイアを離脱しようとした時、不意にピリッとした疼きがした。しかし、それはカミーユのものでは無い。
別の人間、それも複数感じられる。ニュータイプと同じ波動を持つ人間が、この世界に多く存在している
はずが無いのだが――シロッコは怪訝に眉を顰めて、プレッシャーを感じる方向に視線を投げた。

「――何だと!?」

 プラズマ収束ビームがタイタニアを襲う。それはタイタニアを掠めて、メサイアの岩肌を派手に砕いた。
 見上げた先――そこに敢然と立っていたのは、ストライク・フリーダムだった。

「しかし、この感覚――奴1人だけのものでは無い……?」

 それはシロッコに理解できるはずも無い感覚だった。本質的に孤独なシロッコには、キラを取り巻く意思の
力を認める事が出来ないのだ。だから、その信じられない現実に直面して、初めてシロッコはキラに驚愕さ
せられた。
 身体が、拒否反応を起こしているかのように強張る。似たような感触を、以前のカミーユから感じた事がある。
その時に聞こえた女性の幻聴の記憶が、自然とシロッコに警戒心を喚起させているのだろう。
 しかし、いくら相手が未知の力を発揮していても、恐れる事は無い。なぜなら、ストライク・フリーダムは既に
その豊富な火器の大半を失ってしまっているのだから。見掛け倒しの威嚇に当てられて冷静さを失うほど、
シロッコは単純では無い。

「愚かな!」

 果敢にも、ストライク・フリーダムは自らタイタニアに挑みかかって来た。それは無謀と呼べるものだろう。
何度も苦杯を舐めさせてやったのに、キラという男には学習するという能力が備わっていないらしい。シロッコ
はキラの出生の秘密を知っているが、これではカミーユと同じ宝の持ち腐れだ。

「貴様も、所詮は出来損ないのコーディネイターだったな!」

 ビームライフルで迫撃してくるストライク・フリーダム。シロッコは罵りながら、それをかわす。
 しかし、腕を一本失っているとはいえ、流石は伝説に刻まれるだけの腕を持っている。射撃の正確さは、思った
よりも容易ではなかった。――あくまでも、「思ったよりも」である。

「その能力を、もっと有意義に使うことが出来たなら、完全であったものを――」

 独楽鼠のような身のこなしでビームをかわしながら背後に回りこむと、その巨体でタックルをかましてメサイア
の岩肌に叩き付けた。そして、そのまま両脚で挟み込むように上に圧し掛かると、ビームソードを突きつけた。
263 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/24(金) 23:05:33 ID:???
「それでは、ジョージ=グレンにはなれん。完璧なコーディネイターとして生まれてきた意味が無かろう」

 今さらストライク・フリーダムの1機程度、一蹴できる事など火を見るよりも明らかだった。
 もう、キラにも興味が失せた。これ以上放置しておいても邪魔になるだけだし、そろそろ終わらせるべき
だ――シロッコがそう考えていた時、頭部を振り向けたストライク・フリーダムの双眸が、黄金色の光を
湛えた。

『出来損ない、完全、完璧――』

 耳に接触回線が繋がった時のノイズが走る。シロッコは片側の眉をピクッと吊り上げた。

『あなたはシビアな人だ。けど、人はどう足掻いても完全無欠になることなんて出来やしない。だから、
人は他人(ひと)に完璧を求めちゃいけないんです!』

 気に食わない声だった。追い詰められている立場の者が口にする台詞と声色では無い。
 普段ならせせら笑って受け流す所だが、何故か今は腹立たしい。矛盾を感じたからだ。

「貴様という存在が、そう言うのか?」
『僕自身が証拠だ。僕の生まれがどうであっても、結局はこのザマだ。肝心な所で仲間を助けられず、
あなたに勝つ事すら出来やしない。それでも、こうしてみんなと支え合って生きて来られたから、これから
も生きていけるんだ! 男と女が番いになるって、そういう互いの弱さを認め合えるから――!』

 虫唾が走る。こんな生ぬるい言葉で、キラは自らの才能を潰してきたのだ。それが、世界に対してどれだ
けの損失になるのかも理解できずに。
 タイタニアは脚でストライク・フリーダムの背中を踏みつけた。途端、キラの苦しそうな呻き声が響いた。

「しかし、今の貴様は1人だぞ」

 罵るように言うと、更に体重を掛ける。ストライク・フリーダムは喘ぐようにその身を震わせた。
 しかし、その双眸の光は、決して消える事は無い。寧ろ、何故か輝きを増していた。シロッコは、それが
気に食わなかった。

『寂しい人だ。あなたには、見えないのか?』
「何?」

 その時、また脳に疼きが走った。それは背後から突き刺されるようなゾッとする冷気で、シロッコは思わず
ストライク・フリーダムから飛び退いた。
 振り向いたシロッコの視界に入ってきたのは、長大な大太刀だった。刃に赤いレーザーを走らせ、それは
容赦なくタイタニアに振るわれる。

「デスティニーだと!?」

 キラと同じく、複数の意思の力を感じた。そして、そのパイロットの意思が、とりわけ鋭い。それは鈍色に
煌く片刃の反り返った刀剣――いわゆる日本刀と呼ばれる刃を想起させられた。
 大太刀アロンダイトの切っ先が、コックピットに座るシロッコの眼前を縦に掠めた。一瞬、肝を冷やしたが、
どうやら辛うじて外れてくれたらしい。

『1人なのは、唯我独尊を気取るあんただけだ!』
264 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/24(金) 23:07:23 ID:???
 考えるよりも先に身体が動く――そんな典型的単細胞の衝動だ。敵を見るや否や、猪突猛進に攻撃を
仕掛けるデスティニーは、シロッコにとっては最も好物と言える相手。確かにデスティニーの動きはタイタ
ニア以上に鋭いが、それ故に太刀筋は容易に見切ることが出来る。
 再びアロンダイトを振りかぶって斬りつけて来るデスティニーに対し、タイタニアはビームソードと2本の
ビームサーベルを重ねてそれを防いだ。

『あんたは自分だけが完璧だと思ってて、だから守りたい人の1人も居やしないんだろ!』
「コイツ……?」

 何故か、キラとの会話を知っている風な口調だった。しかし、それはあり得ないのだ。メサイア周辺は
コロニー・レーザーと接近している影響か、電波障害が特に酷く、シンがキラとシロッコのやり取りを聞いて
いた筈が無いのである。
 この苛立ちは何だ。その言葉は青臭く、反吐が出るほど陳腐なものの筈なのに、シロッコは初めて経験
する抑えようの無い激しい苛立ちに顔を顰めた。

『そうだろうが!』
「守られるだけの低俗を生かしておいたところで、何の意味がある? そういう輩が自らを勘違いして付け
上がり、世の中を腐らせるのだ!」
『ふざけんなよ! そんな理屈で例え罪の無い人が殺されても、それが正しいからで許されて、同じ事が
ずっと繰り返されんのかよ! あぁ――ふざけんなよ!』

 論理にもなっていない、感情が先行しているだけの子供の理屈だ。こういう相手に何を言っても通用しない
事は、遥か過去の歴史から連綿と続いている事だ。大人と子供の対立は、いつの世も絶える事が無い。そし
て、大抵は子供の方が愚かだ。
 デスティニーとは、そういう子供が操っているMSである。故に、負けることは無い。愚かな子供は、しょせん
賢い大人に勝つ事など出来ないからだ。

「俗物め。貴様の様な感情に任せるだけの子供が居るから、人は親殺し子殺しをする動物から一向にステップ
アップ出来んのだ。それでは、いつまで経っても人類は衆愚のままでいるしかない。それは、許せんな」

 苛立ちの理由に納得がいった。だから、感情が理性を上回ってしまっているデスティニーは排除しなければ
ならなかった。しかも、こうも力があるのだから尚更だ。
 シロッコは力任せにアロンダイトを弾いて、デュアル・ビームガンを連射した。しかし、流石にこの状況の中で
メサイアまで辿り着けただけあって、戦闘センスは抜群だった。相手の思考を読むシロッコの射撃を、紙一重
でかわすのだから。

「無駄に戦い慣れしているようだが――」

 しかし、それもここまで。ファンネルを放出して、それらを一斉にデスティニーに襲い掛からせる。

「私の目からは逃げられるものか!」

 デスティニーはビームシールドで防いでいたが、時間の問題である。シロッコはタイタニアを突撃させ、ファン
ネルの攻撃でデスティニーがバランスを崩した所へ斬りかかった。

「沈め! ――うッ!?」
265 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/24(金) 23:09:05 ID:???
 ――振り下ろす寸前、タイタニアの眼前をプラズマ収束ビームが劈いた。シロッコは思わず後ずさり、その隙
にデスティニーは肩から取り出したフラッシュ・エッジを投擲して間合いを開いていった。
 下から狙われた。視線を向けると、メサイアから飛び上がったストライク・フリーダムが、ビームライフルを
連射しながらタイタニアの周囲を、一定の距離を保ちながら周回し始めた。

「どういうつもりか……?」

 狙いは正確でも、シロッコが直撃を受けるような距離では無い。キラは怖じ気づいているのか――ストライク・
フリーダムが縦横無尽にタイタニアの周囲を飛び回る煩わしさに眉を顰めた時、ふと背後からの殺気を感じた。
 デスティニーの強襲。振り下ろされる大太刀を軽い身のこなしでかわすと、続けてデスティニーは左手に握ら
せたビームサーベルで突きを繰り出してきた。シロッコはそれをビームソードで難なく受け止める。

「クックック……!」

 含み笑いをして肩を揺らす。酷く不愉快だった。2人の目論見は、余りにも浅はかだ。

「その程度で私に勝てると、思っているのか!」

 2人での連携なら何とかなると思い込むのは、半畜の人間が悔しさ紛れに取る悪足掻きに過ぎない。
 シロッコは普段は出さないような大声で怒鳴り、デスティニーに蹴りを突き入れる傍ら、デュアル・ビームガン
でストライク・フリーダムをも狙撃していた。デスティニーはメサイアに衝突し、ストライク・フリーダムは左腰部
を撃ち抜かれ、左脚を根こそぎ失った。

「あ゛おッ……!」
「くぅッ……!」

 背中から突き上げる強烈な衝撃にシンは危うく嘔吐しそうになり、キラはストライク・フリーダムの左半身が
使い物にならなくなった事に歯噛みした。
 シロッコは笑った。メサイアの衝突まで残り僅か。コロニー・レーザーは今にも発射しそうな光を湛えている。
後は、高見の見物を決め込んでもいい。

「2人で私を倒そうという貴様等の目論見は、残念だったな?」

 抵抗するストライク・フリーダムを殴りつけて、メサイアで喘ぐデスティニーの近くに叩きつける。そして、自機
の周辺を囲うようにファンネルを集結させた。全ての砲口が、2人を見下す。
 シロッコの口の端が釣り上がった。それと連動するようにタイタニアはモノアイを光らせ、シロッコはトリガーに
添える指に力を入れる。

《2人だけじゃない!》

 ――瞬間、一閃のビームが数基のファンネルを撃墜した。シロッコは慌てて後ろへ飛び退き、敵襲に備えて
警戒を強める。すると、更に続けて数発のビームがタイタニアを襲った。何れも、紙一重である。
 メサイアは内部の破壊が進んでいて、所々から火を噴き出していた。ビームの出所は、そんなメサイアの
港口の内の一つからだった。シロッコの頭が、かつて無い程の疼きを感じている。

「――来るのか!?」
266 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/24(金) 23:10:07 ID:???
 僅かに畏れる心がある。それは、その相手を自分よりも上位にあると感じてしまっているという事。それが、
シロッコの無意識下の潜在意識であり、偽らざる本音であった。
 火を噴き出すメサイアの港口から炎を引き摺り落としながら、そのMSは姿を現した。



 メサイアとコロニー・レーザーが衝突するまで、もう殆ど時間が無い。安全圏にまで離脱したアークエン
ジェルからでは、既にメサイアとコロニー・レーザーはぶつかってしまっているように見えていた。

「殿のミネルバ、ボルテール両艦から離脱完了の報告です」
「これで、全ての艦隊が安全圏へ避難できたという事なの?」

 ミリアリアの報告に、ラミアスが訝しげでありながらも安堵したような表情で言葉を漏らした。
 アスランは、ふと視線を正面スクリーンに上げた。そこに、メサイアがコロニー・レーザーに衝突しようと
している様子が映されている。

「キラ達は、どこかの部隊に回収されたのか?」

 徐にそんな事を呟いて、顔をミリアリアとアビーに向ける。2人は顔を見合わせ、交互に頭を振り合って
確認すると、アスランへと顔を戻した。

「その様な報告は入ってきていませんけど――」

 アビーの一言に、アスランの顔が驚愕に歪んだ。
 考えたくない可能性が、残されている。しかも、そうであるという確率が一番高い。その可能性が脳裏を
過ぎった時、嫌悪感に似た不幸な予感を抱いてしまった。

「あいつ等、まさかまだ――!」
「コロニー・レーザーが発射されるぞ!」

 バルトフェルドの声に当てられ、アスランはスクリーンに顔を振り向けた。
 映像の中のコロニー・レーザーは、かつて無いほど眩く発光している。その光に、目を釘付けにされた。

「戻らないつもりなのか……!?」

 愕然とした。何も手出しする事が出来ないアスランには、そこで呆然と眺めている事しか出来ない。
 アークエンジェルのブリッジが、沈黙に包まれる。凍りついたような空気の中、計器の音だけが機械的な
テンポを刻んでいた。



 心身に力が漲ってくるのが分かる。その時が迫っているからこその、テンションだろう。炎の波を掻き分け
て外に飛び出した時、宇宙(そら)で必死に生き行こうとする命の力を感じた。
 メサイアから見るコロニー・レーザーが、圧倒的な存在感を感じるまでに大きくなっている。既に、鼻と鼻を
突き合わせんばかりに接近していた。コロニー・レーザーの口からは今にも溢れ出しそうなエネルギー光が
盛り上がりを見せていて、発射の時が直ぐそこまで迫っている事を示している。
267 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/24(金) 23:11:09 ID:???
 視線を投げ掛ける。その先に、倒すべき敵、倒さなくてはならない敵が居た。網膜がその具体的な姿を
映し込んだ瞬間、カミーユの思惟は更なる拡がりを持った。
 傍らに佇むロザミアが、その激しすぎるパッションを感じていた。まるで自分の心の鬱屈までも吹き飛ば
すかのような、爽快ですらあるそのパッションに、無意識に身震いが起こった。何が起こるのかは、分から
ない。しかし、それはきっと悪い事では無いと思う。何故か、そんな気がした。

「シロッコ!」

 身体の内側にある全ての鬱憤を吐き出すように、カミーユは叫ぶ。そして、そのままΖガンダムをタイタ
ニアに突っ込ませ、ロング・ビームサーベルを振るった。

「分かるんだ! ここが俺達の居るべき場所じゃないって事を、いい加減に!」
『知った風な口を利いたところで!』

 ビームソードで防がれる。激しいスパークが飛散し、カミーユの目を細めさせる。

「これ以上、お前の妄執にこの世界を付き合わせるんじゃない!」

 反発して間合いが離れると、即座にファンネルの集中砲火を受けた。対するカミーユのリアクションは
早かったが、回避運動の最中にビームライフルを破壊された。
 途端に、シロッコの眼光が鋭くなる。Ζガンダムがメインウェポンを失ったとなれば、このアドバンテージ
を利用して一気に勝負を決める事が出来ると確信したからだ。
 しかし、ファンネルへと指令を送ろうとした瞬間、シロッコの額に疼きが走った。

「――むっ!」

 右から、ビームが劈いた。顔を振り向けると、一瞬だけストライク・フリーダムがビームライフルを構え
ている姿が見えたが、すぐさまシロッコの視界から消える。
 その次の瞬間、今度は背後からの衝撃を受けて、シロッコは思わず前のめりになった。

「おのれ!」

 サブ・マニピュレーターを作動させて、背後の敵にビームサーベルを振るう。しかし、シロッコが振り向い
た時には既に姿は無く、微かに残る赤い粒子だけが鱗粉の様に舞っているだけだった。

「何だ……?」

 息つく間も無く、今度は左からの急襲を受ける。Ζガンダム。ビームサーベルを振りかぶって、飛び掛って
くる。ビームソードで斬撃を防いだが、途端にΖガンダムの双眸がシロッコを幻惑すかのようにぼんやりと
輝いた。その輝きに、不覚にも一寸、目を奪われた。

「な、何を見ているのだ、私は?」

 輝きの奥に、ぼんやりと人の影が見えた気がした。あり得ない、そんな事があるわけが無い。シロッコは
必死に自分に言い聞かせる。
 徐にコックピットが揺れた。シロッコがその衝撃に我を取り戻した時、タイタニアの左肩ファンネル・ポッドは、
既にΖガンダムの頭部機関砲の連射によって潰された後だった。
268 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/24(金) 23:13:29 ID:???
「小癪なぁッ!」

 即座に、離脱しようとするΖガンダムにデュアル・ビームガンを差し向ける。しかし、またしても額に疼きが
走ると、追撃ちを妨害するようにビームが劈いた。それは、ストライク・フリーダムからの牽制攻撃。続いて
しつこく疼きを感じると、今度は別方向からもビーム攻撃を受けた。射線元へ視線を投げると、そこにはデス
ティニーの姿あった。

「クッ!」

 流石に翻弄されている事を認めなければならなかった。それは許し難い屈辱でしかなかったが、現実とし
て受け止めなければ敗北を喫する恐れがある。それは、御免だった。
 しかし、受け止めきれない現実もある。それは、シロッコにとって最も信じ難い感覚だった。

「三位一体――いや、それ以上だと……?」

 3人の意思を感じるのに、何故か1人の意思のようにも感じられた。いや、それよりももっと大勢の人の意思
がこの場に集中しているようにも思える。
 この矛盾のロジックを解く事は、彼にには絶対に不可能だ。何故なら、それはシロッコには絶対に認められ
ない力だったから。

『俺達を繋げているもの、感じているもの、孤独なシロッコには信じられないだろう』

 不意に、諭されるような声で語りかけられる。タイタニアの正面にはいつの間にかΖガンダムが佇んでいて、
その左右をストライク・フリーダムとデスティニーが固めていた。

「繋げているもの、だと? ――んっ!?」

 幻覚なのか、コックピットに座る3人の姿が透けて見えた。それだけでは無い。彼らの周りを護る様にして
何人もの人影が見えた。そして、その中にデュランダルの姿を発見し、眉を顰める。
 他にも、仮面の男だったりオーブの政治家だったり赤服のザフトだったり、或いは赤毛の派手な女だったり
黒髪の地味な女だったり栗毛の幼い少女だったり――そこにヒルダ達の姿を見つけた時、シロッコはいよいよ
自分の目が信じられなくなって、思わず深い瞬きをした。彼等はコズミック・イラに生まれ、生きた人達だった。
 それは、今この時だけの特別な力。散っていった彼等がカミーユに共鳴し、力を貸す事で3人の思惟を完全
にシンクロさせていた。

「それは、人の可能性を信じなければ、永遠に感じる事が出来ない力なんだ!」

 カミーユの思惟の中に、シンの考えている事、そしてそれを受けてキラがやろうとしている事が入り込んでくる。
2人とも、玉砕覚悟だ。カミーユが2人の覚悟に合わせて自分の行動を決めると、その瞬間に全てが伝播して、
2人が一斉に行動を開始した。
 次の一手で、全てが決まる。カミーユは傍らで蹲るようにしてシートにしがみ付いているロザミアの頭を、そぞろ
に撫でた。

「ステラにさよなら、言えなかったよね」
「でも、あたしはお兄ちゃんと一緒よ」

 だから大丈夫だと、屈託の無い笑顔を見せてくれたロザミアに少しホッとした。そう、迷い子達は在るべき世界
に還らねばならないのだ。ロザミアは、それを理解してくれている。
269 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/24(金) 23:15:35 ID:???
 そんな彼女にカミーユはフッと笑い、操縦桿を引いた。

「ロザミィはお利巧さんだな――」

 3人がタイタニアを囲い込むように展開する。
 最初に右側に回り込んだキラが仕掛けた。ビームライフルで牽制しながら迫撃し、そのまま組み付こうと
飛び掛った。狙いは、腹部のカリドゥスによるゼロ距離射撃。
 しかし、組み付く寸前にデュアル・ビームガンが右脚を貫くと、バランスを崩して前につんのめったストライ
ク・フリーダムは、タイタニアにその太い脚で蹴り飛ばされてしまった。

「クッ! けど、最後の意地くらいは――!」

 結局、シロッコには負け通しだった。しかし、ただでは引き下がれない。きりもみ回転しながらもストライク・
フリーダムはビームライフルを連射し、その正確な狙いで多数のファンネルを撃墜した。

「これで最低限の陽動は――シン、頼む!」
『任せろぉッ!』

 無念のキラ、応えるシンの雄叫び――ストライク・フリーダムが敗れた直後、シンが背後からアロンダイト
でタイタニアを急襲し、その直上から大太刀を振り下ろした。しかし、ここでもシロッコの反応は鋭い。アロン
ダイトは交差した隠し腕ビームサーベルによって防がれてしまった。
 ところが、シンはアロンダイトをすぐさま手放すと、マニピュレーターをタイタニアの左肩に添え当てた。そして、
その掌から発するパルマ・フィオキーナで、左腕を根こそぎ吹き飛ばした。

「もう一発ぅッ!」

 吼えるシン。更に右腕も吹き飛ばそうとデスティニーが腕を伸ばした時、タイタニアが信じられないような速さ
で反転して、そのモノアイの輝きをシンの瞳に焼き付けた。

「子供が、図に乗ってぇッ!」

 激昂するシロッコ。右肩の隠し腕がビームサーベルを振るい、デスティニーの右腕を切断する。そして、続け
て差し向けたデュアル・ビームガンの放ったビームが、デスティニーの左肩を貫いて背部メインスラスターまで
も破壊した。

『くっそぉ! 後は――カミーユ!』

 悔しがるシンの声が、カミーユの耳に届く。片翼をもがれたデスティニーは力尽きたように後方に仰け反った。
 キラとシンが命がけで開いた血路、これを逃す手などある訳が無い。カミーユはΖガンダムに鞭を入れ、タイ
タニアの背後から最大加速で迫った。
 シロッコが、Ζガンダムの接近に気付く。タイタニアは素早く身を翻し、デュアル・ビームガンでΖガンダムを
撃った。ビームが左肩に直撃し、左腕を吹き飛ばす。その衝撃で、バランスを崩した。しかし、タイタニアは直ぐ
そこまで肉薄しているのだ。

「うおおおぉぉぉ――ッ!」

 最後は気迫。一息に懐に飛び込み、ビームサーベルをその左胸部に突き込んだ。
270通常の名無しさんの3倍:2009/07/24(金) 23:16:27 ID:???
支援
271携帯 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/24(金) 23:20:17 ID:???
さるさんに突入しますた
272通常の名無しさんの3倍:2009/07/24(金) 23:22:08 ID:???
おふぅ、支援失敗だぜ……
273通常の名無しさんの3倍:2009/07/24(金) 23:26:32 ID:???
しえん
274通常の名無しさんの3倍:2009/07/24(金) 23:27:53 ID:???
支援!支援!
275通常の名無しさんの3倍:2009/07/24(金) 23:28:22 ID:???
しえんー!
276通常の名無しさんの3倍:2009/07/24(金) 23:39:18 ID:???
24時まで待ったり待つよ
277 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/25(土) 00:02:53 ID:???
 しかし、シロッコも黙ったままではいない。隠し腕が振り上げたビームサーベルが、Ζガンダムの左胸部
に突き立てられる。

「まだだ!」

 カミーユが声を轟かせる。その瞬間、Ζガンダムは赤い光を纏い、タイタニアのパワーを凌駕し始める。
 それは、シロッコが敗北を喫した光。そして、カミーユが自らを崩壊させた光。

「馬鹿な!? Ζにこんな力があるはずが――」

 シロッコは焦燥した。既に致命的なダメージを与えているにも拘らず、Ζガンダムのパワーは増すばかり。
必死になって抵抗するが、ビクともしない。言い知れぬ不安がシロッコを襲い、嫌な汗ばかりが流れる。ふと、
操縦桿を握る掌がびっしょりと汗をかいている事に気付いて、歯を軋ませた。
 全く以って尋常では無い。余りにも常軌を逸している。これは、最早MSが単体で発揮できるようなパワー
ではなかった。
 この感情が、戦慄しているということなのだろうか――震えている自分の腕を見ても、シロッコはそれを
認めようとはしなかった。

「空事で! 私が二度もこんな子供に――」

 その時、不意に誰かの気配に気付く。顔を上げた。その先にシロッコが見たものは――

《パプテマス様……》
「サラ!?」

 Ζガンダムに集う、光たち。それは、イレギュラーとしてコズミック・イラに迷い込んでしまった者達の命の
輝き。カミーユは唯一の生ある思念として、自らの世界に還ろうとする彼等の媒体となる存在だった。
 ロザミアも、例外ではなかった。しかし、何が起こっていて、自分がどうすれば良いのかが分からない。
カミーユの腕にしがみ付きながら、不安そうに目を泳がせているだけである。

「え……?」

 それは、羽毛で撫でられた様なこそばゆい感触だった。

《ロザミア、カミーユは連れて行ってくれるぞ》
《そう。だから、あなたも一緒に》

 不意に頭に響いた声。それは、1人は最後の最後で兄と認めた男のものであり、もう1人は知っているよう
で知らない女性のものだった。ただ、女性の声はとても儚げで、妙に印象的だった。
 突如、少女がロザミアの前に姿を見せ、美しく微笑んだ。淡い碧の髪に、物憂げで優しい瞳。口元に引か
れたアダルトなパープルのルージュは、その少女の纏う雰囲気のせいか、寧ろ爽やかですらあった。
 その一瞬で、ロザミアはその少女が今しがたの儚げな声の持ち主である事を理解した。その微笑みはとて
も優しく、恐れる事など何も無いと諭してくれているようだった。

《カミーユに任せれば、大丈夫》
「そうか。あぁ――そうなんだぁ!」

 何も不安になるような事は無い。全ては、カミーユを信じれば良いのだ。彼はずっと、優しかったのだから。
278通常の名無しさんの3倍:2009/07/25(土) 00:05:43 ID:???
支援
279 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/25(土) 00:05:43 ID:???
全てを理解した瞬間、ロザミアは光となり、カミーユの中に溶け込んでいった。

 その時、遂にメサイアがコロニー・レーザーに接触した。刹那、コロニー・レーザーも火を噴き、レーザーは
メサイアとゼロ距離で衝突した。レーザーは巨大な球状の閃光となり、宇宙の黒を切り抜いたように白く輝く。
そして、レーザーによって砕かれたメサイアの岩肌は、四方八方へと好き好きに飛び散っていき、しかし、
それでもメサイアはその身を無理矢理に捩じ込ませるようにコロニー・レーザーに食い込ませ、更に破壊規模
を拡大させた。
 途方も無い光景だった。全長がキロメートル単位の規模である物体同士が、それぞれに激しく衝突したのだ。
それが発生させる破壊の衝撃は尋常ではなく、飛散する岩や残骸は互いにぶつかり合い、若しくは別の物体を
巻き込んで更なる凶器を増産する。無重力の中でデブリは慣性に乗った勢いのまま、減速する事無く飛散し、
連合軍、ザフトの区別無く無差別に襲い掛かる。そして、MSだろうがMAだろうが艦船だろうが、メサイアとコロ
ニー・レーザーの付近に存在していた全ての物体はデブリの仲間入りをするか、或いは衝撃で吹き飛ばされた。

 しかし、その中でΖガンダムだけは逆を行った。吹き荒れる衝撃に逆らい、タイタニアと絡んだまま、グングン
と赤い光の尾を伸ばしながら閃光の中心へと迫っていた。

「カミーユ、行っちゃうのかよぉッ!」

 嵐の様な衝撃の中、デスティニーはストライク・フリーダムに抱えられながら吹き飛ばされていた。シンはその
最中で閃光の中に飛び込もうとしているΖガンダムを発見し、それを止めようと腕を伸ばす。しかし、傷ついた
デスティニーに力は残されていないし、いつの間にか思惟がシンクロする感覚は消えていた。今、カミーユがどう
いう状態になっているのか、シンには分からない。

「帰るって……帰るってそういう事だったのか、カミーユ!」

 キラはシンを諌めながら、ミネルバでの一幕を思い起こしていた。カミーユがラウンジを出る時に口にした「帰る
んだ」という台詞――遠くへ旅立って行くように感じられたのは、今にして思えば、こうなる事を予見していたから
だったんだと理解した。
 キラもシンも、手を拱いている事しか出来ない。Ζガンダムがタイタニアと絡んで閃光の中に消えて行く瞬間を、
彼等は目にする事は無かった。

「うわあああぁぁぁ――ッ!」

 どうにも出来ない。2人は悲鳴を上げながら、衝撃の波に呑まれ、遠くへと弾き飛ばされて行ってしまった。

 ――しかし、カミーユの行為はシロッコの妄執を道連れにするという行為でしかなかったのかも知れない。
ただ、コズミック・イラに対して出来るせめてもの誠実な行為は、こうする事であると確信していた。

《貴様は、意趣返しで私を道連れにしてぇッ!》

 シロッコの呪詛のような言葉が頭に響く。しかし、カミーユの気持ちと目は、前だけを見ていた。
 眼前に迫る、吸い込まれそうなほどに眩く輝く閃光。光が、カミーユの視界を白く染める。

「在るべき世界に還るんだ!」

 髪を振り乱しながら、カミーユは叫んだ。そして、Ζガンダムとタイタニアは絡み合ったまま、溶け込ませるよう
に光の中へと身を投げ込んでいく。
 次の瞬間、コックピットが白い光に覆われた。それはまるで、透明のような白だった。
280 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/25(土) 00:07:04 ID:???

 そこは、既にΖガンダムのコックピットではなかったのかも知れない。自分の身体の感覚はあるのに、
コックピットの機械らしい物質的な触感は一切感じられなかった。この光も、きっとコロニー・レーザーの
光では無いのだろう。カミーユは、何故かそう思った。
 どうなったんだ、と首を振る。自分の姿すら見えないほどの眩しい世界で、カミーユは1人だった。

《呼んでるよ》

 声が聞こえた。瞬間、目の前に姿を現した少女を見て、カミーユは顔を綻ばせた。ずっと、カミーユの中で
彼を見続けて、励ましてくれていた存在。フォウ=ムラサメの姿を目の当たりにしたのは、久方ぶりだった
かも知れない。
 フォウが、背中を見せて弾むように駆け出した。途端、何処かから現れたのか、大勢の人が唐突に姿を
現した。それはエマ、レコア、カツ、サラ、ロザミア、ゲーツ、ジェリド、マウアー、ライラ、カクリコン等々――
コズミック・イラに迷い込んでいた人達が、一様に同じ方へ向かって進みだした。

 ――カミーユ

 とても懐かしい声だった。その声で何度もそう呼ばれ、呼ばれ慣れていた。
 耳に残る声の感触を、しみじみと噛み締める。カミーユは微笑み、一歩を踏み出した。




 遠くからでも分かる、メサイアとコロニー・レーザーの衝突の光。大きく膨れ上がった閃光は、あたかも
宇宙(そら)に咲いた花火のよう。それは、戦いの終結を告げる福音となり得るのか。

「あの光……」

 コックピットから出て、その光景を眺めるスティングとアウルには、そんな事はどうでも良かったのかも知れ
ない。ただ、彼等にとっての戦争は終わった。そして、エクステンデッドは先の見えぬ明日を生きていくしか
ないのだろう。
 スティングはカオスのハッチに背中を預けていた。アウルはアビスの上に腰を落として塞ぎ込んでいた。

「アウル。あの光の中に、ジェリド達が居ると思わねえか?」

 不意にスティングに問い掛けられ、アウルはそぞろに顔を上げた。
 途端、アウルの瞳に強烈な光が差し込み、その瞬間、涙が堪えられなくなった。

「本当に、さよならだぜ、ライラ……」

 宇宙に朝を迎えさせたかのような眩い光は、やがて収束していく。そして、再び漆黒が支配すると、それ
まで光で見えなかった色々なものが見えるようになってきた。

「ん? ありゃあ――!」

 スティングが何かに気付いて身を乗り出した。アウルは視線をスティングの見ている方へと向けると、彼方
から金色に煌く派手な物体が流れてくるのを見つけた。それは、徐々に2人の所に近付いてくる。
 MSの残骸のようであった。両腕は既に無く、土左衛門のように虚空を漂っていた。
281通常の名無しさんの3倍:2009/07/25(土) 00:08:28 ID:???
支援
282 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/25(土) 00:08:38 ID:???
 2人が銃を取り出すと、そのコックピット・ハッチが徐に開く。いよいよ警戒を強めて手にした銃を構えると、
その中からは――……



 光が収束していく間、ストライク・フリーダムもデスティニーも流されていた。その姿は、見るも無残に
傷つき、今は力無く虚空に身を委ねている。

「メサイアはコロニー・レーザーに直撃――これで、終わったのか?」

 シンはデスティニーのコックピットから出て、彼方にある光景を見つめながらそう呟いた。
 メサイアは徐々にコロニー・レーザーから離れつつある。コロニー・レーザーはと言うと、ゼロ距離での
レーザーの衝撃とメサイアの質量によって上半分が抉られてしまった様に潰れていた。

「少なくとも、戦いは終わるかも知れないね」

 キラもコックピットから這い出て、誰に向けてかも知れないシンの問いに答えた。

「本当に、終わるんですか? あんなにたくさんの人が死んで、また恨み合いになるんじゃないんですか?」

 自分がそうだったからと、シンは疑義を提起する。今さら彼自身が復讐に囚われる事は無いが、しかし、この
戦争で過去の自分の様な人間が、新たに生み出されてしまったかも知れないという可能性は、否定できない。
そう思うと、シンはキラの言葉を素直に受け取る事はできなかった。

「そんなに悲観する事は無いよ。僕達がこれから頑張って行けばいい事じゃないか」
「でも、人はそんなに簡単に賢くはなれないです」

 キラがいくらポジティブな事を言っても、シンは悲観の立場を変えない。それだけ、オノゴロ島で受けた彼の
心の傷は深かったからだ。復讐の心から抜け出すのに、2年もの時間を要した。だから、シンはどうしても
懐疑的にならざるを得なかったのかも知れない。
 キラは、そんなシンの傷を癒す術を持たないし、例え術を持って居たとしても、癒してあげようとは思わな
かった。何故なら、それは別の人の役目だと思うから。
283 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/25(土) 00:09:22 ID:???
 しかし、シンが人を信じられなくとも、彼がそれではいけないと思った。あの経験をしたシンは――

「駄目だよ、シン。信じなきゃ。僕達なら出来るっていう――ほら!」

 徐に、キラが遠くを指差した。シンはそれに促されて、顔をそちらに向けた。

「みんなとなら出来るって、信じよう。カミーユの言っていた、人の可能性って奴をさ――」

 キラの指し示した先から、ミネルバとアークエンジェルが近付きつつあった。途端、ヘルメットのスピーカー
から仲間達の安堵や心配の声が矢継ぎ早に飛び出してきた。
 手はあるか、足はあるか――あまりの騒がしさに、思わず顔を顰める。――が、とても嬉しかった。

「ね?」

 キラに顔を振り向けると、彼も苦笑していた。どうやら、同じらしい。

「はい……!」

 小さく、返事をする。しかし、それは重々しく、噛み締めるように搾り出された。

 耳からは、アスランの声が聞こえてくる。全周波通信による連合軍への呼びかけが、行われていた。

『――地球の方々には、我々からの休戦の提案を受けて頂きたく思い、どうかお聞き届け下さるよう、お願い
申し上げる次第であります。先ず双方の武力による戦闘行為を全面的に停止し、その後、話し合いによって
地球、プラントの休戦協定の締結を――』

 その少し後、アスランの言葉通りに武力による戦闘行為は全面的に禁止され、地球とプラントは和平への
道を歩み始めた。


284 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/25(土) 00:10:39 ID:???
ここまでが一応本編となります
エピローグはさるさん回避のため、この後、午前1時から投下します
285通常の名無しさんの3倍:2009/07/25(土) 00:11:43 ID:???
乙!
くっ、明日も仕事だから断腸の思いで寝させてもらうぜ
286 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/25(土) 01:02:51 ID:???


 休戦協定が締結されて、半年。プラントと地球との平和条約制定に向けての和平交渉は少しずつであるが
進んでおり、ジブラルタル基地攻防戦以降に行われたデュランダルの演説によって実質的に休戦状態であった
国々の中には、既に講和条約を結んでいるものもあった。反面、大西洋連邦やユーラシア連邦といった対プラ
ント強硬派であった2ヵ国との交渉は難航しているが、戦争終結を望む世論の後押しでいずれは講和条約が
結ばれる時が来るだろう。それは何年先になるか分からないが、その時にその場を取り成す立場に在れたなら、
それは名誉な事だろうとアスランは思う。

 プラントの首都であるアプリリウス・コロニーでは、アスランが勉学の日々を送っていた。彼はザフトを退役し、
政治の世界へと転身していた。目標は評議会に入る事で、現在は昼間は政治家秘書として現場の知識を身に
着け、夜は事務所の書斎を借りて貪るように本を漁っていた。生真面目な彼は、秘書の仕事が無い日は一日中、
書斎に篭り切りになる事もざらであった。

 ザフトを退役する時、イザークには嫌な顔をされた。何だかんだとアスランをライバル視しながらも、結局は
彼もアスランに期待を寄せていたのだ。だから、散々文句を言われたりもしたが、今ではそのほとぼりも冷め、
純粋にアスランの評議会入りを支援してくれていた。

「ミネルバをアイツに任せて良かったのか?」

 そう問われたのは、久方ぶりの息抜きにイザーク、ディアッカと3人で夜の歓楽街に繰り出した時の事である。
ブランデーの入ったグラスを片手に、ディアッカはその赤くなっているのかどうかも分からない顔でアスランから
の返答を待っていた。

「俺が後継にアイツを指名したんだ。タリア艦長も居るし、大丈夫に決まっているだろ」

 ディアッカと同じブランデーを呷り、アスランは少し不機嫌そうに視線を返した。ディアッカの隣では、制服の
上着を毛布代わりに肩に掛けられたイザークが、顔を真っ赤にしてカウンターに突っ伏している。

「悪いな、迂闊だったよな。アスラン=ザラ大先生がおっしゃる事なんだ。間違いなんてあるわけがねぇ」
「茶化すな。俺はまだ研修生みたいなものなんだから――」

 冷やかし笑いをするディアッカに、アスランはますます不機嫌になってブランデーを飲み干した。「いいね〜」
と囃し立てるディアッカを睨んで黙らせると、アスランは同じものをマスターに注文した。

 それから暫く会話を重ねたが、後日、アスランは不覚にもその内容を殆ど覚えていなかった。どうやら、その
ブランデーは随分と悪酔いするものだったらしく、次の日アスランは2日酔いで一日中ダウンしてしまったのだ。
これだから安い酒を軽々しく呷るべきじゃないなと反省しきりだったが、ディアッカはと言うと、次の日の勤務に
平然とした顔で現れたらしい。そんな話をイザークから伝え聞いて、どうやら彼は肝臓をコーディネイトされて
生まれてきたようだと、本気で考察を巡らせたりもした。
 しかし帰り際、御愛想をする時に交わした言葉だけは、ハッキリと覚えていた。

「それで、アイツは今どこに行っているわけ?」
「戦後の治安維持で働き詰めだったからな。最近、ようやく休暇を取って、今頃はオーブだろう」

 一見、何の変哲もない会話なのに、何故この会話だけを覚えていたのか。後日、その日の電子マネーの減り
具合を確認して納得した。なるほど、その日のお代も、やっぱりアスランの奢りだったからだ。
287 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/25(土) 01:04:51 ID:???


 オーブは初夏を迎えており、南太平洋に位置するオーブ連合首長国は、厳しい暑さに覆われていた。
 熱帯の地方に良く見られる椰子の木は、頭髪の様に頭頂部に深緑色の葉を茂らせ、その影にサッカーボール
ほどの大きさもあろうかというココナッツを実らせていた。男衆が木をよじ登り、それをもぎ取って落とす事が、
ある意味で椰子の木の生る国の伝統芸能と言えるのかも知れない。

 昼間の焼けるほどに暑い時間は過ぎ、オーブは夕刻を迎えていた。太陽は水平線に半分まで沈んでおり、
気温は夕闇が迫るとともに徐々に下がりつつあった。

 埠頭の先に、それは建てられていた。2年前のオーブ戦で戦没した人々の慰霊の為に建立された、記念碑
――カガリはすっかり人影の見えなくなったそこで1人、佇んでいた。
 海から吹き付ける強い潮風が、背中の中腹の辺りまで伸びたカガリの髪を巻き上げる。潮の臭いをその鼻腔
で感じ、湿気を伴った風に若干の爽涼を肌に纏わせた。
 手には、鋏が握られていた。カガリは何かを念じるように俯き、じっと目を閉じて物思いに耽っていた。やがて、
目を開いて顔を上げると、カガリは徐に左手で自分の髪を束ね、右手に持った鋏で切れ込みを入れた。

「ユウナ。オーブは、元気になったぞ」

 チョキン、と一思いに断髪すると、カガリは指を開いて今しがた切った髪を潮風に乗せた。ブロンドの髪は茜色
と群青色のコントラストが支配するオーブの空に舞い上がり、夕日の強い日差しに照らされて黄金色の羽毛の
様に美しく輝いた。

 死者の弔い、手向け――どちらも、違うような気がする。それは、宣誓と便り――そんな風に感じた。
 遠くからカガリを見つめる赤い瞳は、今しばらく佇んでいる彼女を尻目に素っ気無くその場を後にする。その後ろ
を、慌てたように同じ年頃の少女が追いかけた。

 オーブは夕暮れ。太陽はその身の殆どを水平線の彼方へと隠し、消える間際の線香花火のように強いオレンジ
を放っていた。


 オーブが夜の帳に包まれる頃、その反対側に位置する南米のとある川沿いの町では早朝を迎えていた。前日
まで降った雨は止み、所々の厚い雲の切れ間からは早朝の青白い空が覗いていた。
 町の通りに設けられた市場は、その日も新鮮な食材で溢れていた。川で捕れた水揚げされたばかりの淡水魚
だったり、取れ立ての野菜や香辛料であったり――客寄せの威勢の良い声が飛び交い、立ち寄った客が値切り
の交渉をする。早朝とは思えない騒がしさで、人波に溢れる市場は活気付いていた。

 そういう人々のバイタリティーは、レイにとっては何よりの薬になるのかも知れない。病は気からとは言うが、彼
の場合は騒がしいだけの喧騒も、力強い生命力として感じられていた。しかも、そのバイタリティーが自分の身体
にも宿るような気さえ――

「レイ、楽しい?」

 ふと、ベンチで隣に座っているステラが語りかけてきた。くりっとした大きな瞳で、不思議そうな眼差しを向けている。

「何故そう思う?」
288 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/25(土) 01:06:03 ID:???
 栄養価が高いからと勧められたマテ茶を口に含みつつ、レイは訊き返した。ステラは一寸、そのマテ茶に
興味を惹かれていたが、直ぐに視線を戻す。

「だってレイ、嬉しそうな顔してたもの」

 知らず知らずの内だろうか。市場の活気溢れる様子を眺めていて、そのバイタリティーに感化されて自然
と表情が綻んでしまっていたのだろう。
 こうして世界を巡っている目的を、忘れた事は無い。しかし、世界をじっくり見て回るという事が、これほど
楽しい事だとはレイは知らなかった。だから今、レイはとても充実した日々を送っている。

(僕は、ギルの願っていたような生き方が出来ているのだろうか)

 頭の中でそう自問してみても、不安は全く無かった。それはきっと、今のレイの生き方が、かなり確信に
近い部分でデュランダルの願望に沿っているからだろう。
 そう考えることで、レイは余計に嬉しくなって再び顔を綻ばせた。ステラは、そんなレイを不思議そうな
表情で見つめていた。

「お待たせ、2人とも」

 やおら人波を掻き分けて、ラミアスがレイとステラの所に戻って来た。
 それを迎えてレイはベンチにマテ茶を置いて立ち上がり、ステラがその隙に味見をする。その行為に何を
自由奔放にしているんだと思ったが、どうやら苦味が口に合わなかったらしく、渋い表情で舌を出していた。
 そんな自業自得な彼女は放っておいて、ラミアスに視線を戻す。

「どうです」
「駄目ね。昔の写真だから、なかなか難しいのかも知れないわ」

 そう言って頭を振るラミアスは、1枚の写真を2人に見せた。そこには、見慣れない短髪のネオ――まだ
ムウ=ラ=フラガだった頃の彼が写されていた。顔に傷も無く、2人の知っているネオよりも若干であるが若い。

「すみません。こんな旅に誘ったばかりに――」
「あ、気にしなくても良いのよ」

 ラミアスは慌てて手を振り、責任を感じているレイを宥めた。

「レイ君が誘ってくれて、私、嬉しかったのよ? だから、大丈夫。根気良く行きましょ。あの人は、必ずどこか
で生きているから――ね、ステラ?」
「うん。ネオは生きてるもの。レイが落ち込む事、無いよ」

 ラミアスに応えて、ステラが優しく微笑んだ。

 早朝の市場は朝靄のせいで湿気が多く、少し煙っていた。雑然とした印象を受ける市場だが、少し歩けば
近代的な建築物が林立する中心街に出られる。都市整備の行き届いたそこには、ストリート・バスケット用の
ハーフコートもビル群に埋もれるようにして点在していた。
 結局、ネオの情報は手に入らなかった。3人はこの市場での情報収集を切り上げ、次なる場所に向かって
歩き出した。
289 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/25(土) 01:08:24 ID:???
 彼等が市場を去った直後、入れ違いになる様に3人の男性グループが人波の中を歩いてきた。先頭の
ウォーターブルーの髪をした少年はバスケットボールを指で回しながら歩き、ライトグリーンで短髪の少年
が並列して歩いている。そして、その直ぐ背後にはブロンドの長髪を後ろで纏めた男が続いていた。その顔
には、左頬から鼻に掛けて二股に分かれる傷が刻まれていて――

 レイ達が歩く街並みは、美しくはあるが路上には空き缶や煙草の吸殻といった、たくさんのゴミが散在して
おり、この町の清掃意識の低さを物語っていた。
 ゴミ箱には乱暴に雑誌が突っ込まれており、ぎゅうぎゅう詰めになったゴミ箱の口からはみ出していた。
その雑誌はアンダーグラウンドの3流ゴシップ雑誌で、地球の出版社にしては珍しくプラントの記事も掲載
されていた。しかし、所詮は3流雑誌の記事で、その内容も随分と旬から外れている。
 湿気でくりんと紙が巻いていて、ゴミ箱からはみ出している部分から記事の一部が見える。そこには、「追放
された国民的アイドル! プラントを欺き続けた2人のラクス=クラインを検証する」と大袈裟に題されていた。



 インターネット上では、ある動画が密かな話題を集めていた。それは、ラクスのコンサートの動画である。
勿論、公式なものではなく、全てが現地の自主開催の小ぢんまりとしたコンサートだった。動画を上げてい
る人間も殆どが素人で、ハンディカメラで記録された映像は手ブレが酷く、画質も動画を上げた人によって
まちまちだった。
 その動画を、見ていた。ノード型パソコンのモニターの中には、動画を再生する更に小さな表示窓があり、
今はストリーミングのバッファ中である。動画が始まる前にイヤホンを耳に詰め、背凭れに身体を預けた。

 雲ひとつ無い、晴れ渡った空。星が瞬くコバルトブルーの夜空に、アカペラの美しい歌声が響いた。木の
廃材で組み上げられたらしい即興のステージの上で、ラクスはその場に集った数十人を相手に歌い始める。
照明機材など、勿論あるわけが無い。松明の様な篝火だけが周囲を照らし、ラクスの姿は薄暗い炎の明かり
の中に浮かび上がっているだけで、緩やかに飛び跳ねているピンクと赤のハロの方が目立った。
 しかし、その質素さが、逆にラクスの透明感を際立たせていた。炎の明かりは幻想的な雰囲気をもたらし、
即興のステージとハロのダンスもその雰囲気に相乗効果を与えていた。
 それは、偶然が生んだ産物なのだろうか――否、ラクスがそう感じられるような歌い方で歌っているから
こそ生まれた空気感だった。いつの間にか、素人の手作り感丸出しの舞台が、まるでプロが演出したかの
ような雰囲気に変わっていた。
 ふと、画面の隅に知っている顔を見つけた。小さく映っているその青年は、画質の関係でハッキリとした
顔立ちは分からなかったが、誰なのかは大体分かる。ブロックノイズで表情が潰されてしまっていたが、
微笑んでいるであろう事は容易に想像できた。

 どこで行われたコンサートなのかは、分からない。しかし、相変わらずラクスは美しい声で歌い、音質の
悪い動画からでも感動は十分に伝わってきた。

 オーブはとある海岸線。その近くに居を構える邸宅のテラスで、ルナマリアはイヤホンを外してそっと
ノートパソコンを閉じた。
 潮風が気持ち良い。テーブルの上には、すっかり食べかすだけが残された皿が置かれている。先ほど
カリダ=ヤマトがオーブに古くから伝わる日本風のお菓子を用意してくれた。これがまたオリエンタルな
味わいで、間食が好きな年代のルナマリアには直球ど真ん中のストライクだった。

「もう良いのかい?」

 椅子から立ち上がった時、不意に呼び止められて顔を振り向けた。家の中からは、コーヒーメーカーと
カップを持ったバルトフェルドが顔を見せる。
290通常の名無しさんの3倍:2009/07/25(土) 01:10:24 ID:???
私怨
291 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/25(土) 01:10:35 ID:???
「ええ。一応、最新の奴は見終わりましたし」
「じゃ、僕のスペシャルブレンドをご馳走しちゃおうかな」

 そう言ってカップを掲げて、ルナマリアを誘ってくる。

「あの、あたし、苦いの駄目なんです」
「えぇ? そりゃ残念だなぁ」

 若い娘を引っ掛けようという事ではなく、純粋にコーヒーを馳走しようとしていたのだろう。ルナマリアが
断りを入れると、心底残念そうな表情で顔を顰めていた。

「あはは! おじさん、自慢のコーヒーで振られてやんの!」
「年の差って奴をさ、考えるべきだよ。おじさん、ちょっと見境無さ過ぎなんじゃないの〜?」

 何所から湧き出てきたのか、いつの間にか子供たちがバルトフェルドを囲んでいて、茶化し始めた。本人
は凄い剣幕で「うるさい!」と怒鳴っていたが、怖いもの知らずの子供達はそれを面白がって、煽る様に余計
にキャッキャ、キャッキャと騒ぎを大きくした。
 触らぬ神に、祟り無し。シン曰く、オーブではそう言うのだそうだ。ルナマリアはそれを実践し、困り果てて
いるバルトフェルドを尻目に浜辺へと足を運んだ。

「おねーちゃん」

 不意に、呼び止められた。振り返ると、いつの間にか背後に居た背の小さな少女が、ルナマリアを見上げ
ている。年の頃は5〜6歳だろうか。赤く染めた豊頬で、全体的に丸い輪郭が幼さを感じさせた。
 その小さな両手には、ピンクと赤の2体のハロが抱えられている。

「なぁに?」
「おねーちゃんってシンっておにーちゃんの彼女? もうチューした?」
『ちゅーシタカ! ちゅーシタカ!』

 ぶしつけにそんな事を聞かれ、思わず吹き出してしまった。――そんな事よりもハロがうるさい。

「だって、ラクス様は教えてくれなかったの」
『ケチンボ! ケチンボ! らくすはケチンボ!』
「お老成さん!」

 いよいよハロが騒ぎ立て始めると、ルナマリアは下手な作り笑いをしながら軽く少女を小突いた。

 青く澄み切った空には、綿菓子のように真っ白な入道雲が浮かんでいた。彼方にはカモメが飛んでいるの
が見える。強い日差しがオーブの美しく透明度の高い海を照らし、その青に反射する光がまるで宝石が輝い
ているかのように見えた。シンは反射光に目を細め、手で目元に影を作った。

「良かったですよ」
「ありがとうございます」

 後ろを振り返れば、ラクスとルナマリアが談笑していた。
292 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/25(土) 01:12:20 ID:???
 ルナマリアは短パンに半そでシャツという味気ない格好だったが、ラクスもそれに負けじとベージュのワン
ピースという地味な服装をしていた。相変わらず頭には2つの三日月が重なったような髪飾りを付けているが、
それ以外にアクセサリーは無く、非常にシンプルな出で立ちだった。
 噂には聞いている。半ば追放されるような形でプラントから姿を消したラクスは、今は復興が遅れていたり
生活苦に喘ぐ土地を中心に地球を巡り、「流離いの歌人」として各地で自主開催的な慰問コンサートを執り
行っているのだそうだ。しかし、ボランティアの為に金銭的にはあまり豊かでは無く、だからあのような質素
な服装をしているのだろう。そう言えば、隣で佇んでいるキラの服装も、随分と着古されているように見える。

「久しぶりのオーブなんですってね。驚きましたよ、プラントから居なくなった時は」

 シンはやおらキラに語りかけたが、彼は少し悲しそうな表情で海を見つめた。当時のプラントのラクスに
対する凄まじいバッシングを思い出しての事だろう。ハッとして、無用心な事を聞いた自分を反省した。

「……すみません」
「いいよ。寧ろ、僕はこれで良かったと思っているんだ。――ラクスも、僕だけのモノに出来たしね」

 地球には、ラクスを必要としてくれる場所がある。だからこれで良かったんだと、笑顔を見せてキラは言う。
 そういうものだろうか。故郷を追われるという事は、とても辛い事だと思う。自らオーブを捨てたシンか
ら言われても説得力が無いかも知れないが――

「SEEDというものは、もしかしたらそういうものなのかも知れないですね」

 子供に手を引かれ、白い杖を突くローブ姿の男が歩いてくる。汗一つ掻かずに涼しい顔をしているあたり、
あのローブの下には熱帯のオーブで過ごす為の何らかの秘密があるのだろう。

「人々に希望を与えるのが、SEED――希望の種子を植えるあなた達を見ていて、長年考え続けていた命題に
解を導き出せたような気がします」

 全盲の導師マルキオ。SEEDというのは彼が定めたもので、人類の新たな可能性を示す言葉なのだという。
彼自身、長年その定義を見出せないで居たようだが、それに決着を付ける事が出来たのだと言った。
 マルキオはそう言い残すと、再び子供達に手を引かれて去って行った。2回、3回と寄せる波が、彼等の足跡
を掻き消す。

 潮風はシンの頬を撫で、照り付ける日差しが肌を焼く。遠くの突き出ている半島には燃えているような濃い緑
が生い茂り、青とのコントラストに美しく映えていた。
 シンは、徐に波打ち際まで歩を進め、片膝を突いてしゃがみ、そっと手を海水に浸けた。ひんやりと冷たい。
まるで、上昇した体温がそこから抜け出ていくかのような感触だった。

「ここだったんだ」

 背後から、キラの呟きが聞こえた。シンは立ち上がり、顔を後ろに振り向けた。

「カツも、エマさんも、カミーユも。みんなオーブの海から来たんだ」

 風に吹かれて、キラは懐かしむように遠い目をしていた。
 海は全ての生命の母だという。人類の遠い祖先も海から生まれ、やがて地上へと上がったらしい。
 もしかしたら、カミーユ達もそうやってこの世界にやって来たのかも知れない。海には、そう感じさせてくれる
神秘性のようなものがあった。
293通常の名無しさんの3倍:2009/07/25(土) 01:13:00 ID:???
私怨
294 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/25(土) 01:14:08 ID:???
「どうしてるのかな……」

 海が、彼らの世界に繋がっているような気がした。
 泡立った白い波が、足下を濡らす。小波の歌を聞きながら、白い雲の浮かぶ青い空を見上げた。痛いほどに
眩しい太陽が、そこにあった。


  =================


 空には、少し雲が掛かった黄金色の満月が、静かにその光を湛えていた。
 穏やかな夜の海は水鏡となり、写し込んだ細長い満月を波間に揺らしている。
 誰も居ない、宵闇の浜辺。雲が月を隠し、闇が濃くなる。小波の歌だけが、澄んだ空気の中で控え目に響き
渡っていた。

 ふと、砂を蹴る音がする。一人だけでは無い、二人が駆ける音だ。波打ち際を駆ける、一組の男女が居た。
 砂浜を、疾走している。先を行くシルエットは男のもの。重い足場をものともせず、軽やかに駆ける。そして、
後ろを追いかけるシルエットは女のもの。足を絡め取る砂場に、あくせくしながら全力で追い縋る。
 その時、忽然と女の影が砂に足を取られた。前のめりに倒れそうになり、男の影がそれに気付いて慌てて
振り返る。駆け寄った男が、女を受け止めた。そして、そのまま男を下敷きにするように砂の上に倒れ込んだ。

 背中の砂が冷たい。まだ、夜の空気が肌を切るような冷たさを持つ季節だ。しかし、覆い被さる女性の温もり
は、心に染み入るほどに暖かだった。
 雲が流れ、美しい満月が顔を覗かせる。柔らかな月の薄明かりが浜辺を照らし、男女の姿を闇の中に浮かび
上がらせた。
 月明かりに映えた少女が、不意に涙ぐんだ。そして、同じく月明かりに映えた少年が、それを宥め賺す様に
微笑む。――幸せであった。

「ファだけは、幻覚でもなければ意識だけの存在でもない。こうやって、抱く事が出来るんだから……」
「カミーユだって――私が抱けるから、嬉しいのよ……」

 カミーユは抱え上げる様にファの腰と臀部に腕を回し、その胸に顔を埋め込んでいた。ファはカミーユの頭を
両手でいとおしむ様に包み込んで、足を絡ませた。
 小波がバラードを唄う。夜空の満月はただ1人、抱き合う2人を祝福していた。

 時に、U.C.(ユニバーサル・センチュリー)0089年、3月。グリプス戦役が終結してから、1年の時が経過していた。


                                                         〜Fin〜


295 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/07/25(土) 01:14:53 ID:???
以上で全て終了です
最後に少しだけ後書きの様なものを……

今回、同じ種死という舞台でやろうと思ったのは、前回(カミーユIN〜)の
最終回の後、一度は今回のようなエピローグを書こうと挑戦してみたんです。
が、あの終わり方ではどうしても書けず、何か腑に落ちないものだけが残ってしまいました。
じゃあ、ちゃんとエピローグが書けるような話を書いてみようと思い立ち、半ばリベンジの
ような形で同じ種死を舞台にしたクロスを書いてみようというのが事の次第でした。
しかし、同じ舞台、同じ登場人物であるならネタが被るのは出来るだけ避けたいし、
何より「Ζガンダム」というアニメのキャラクターは全員好きと言っても過言では無い。
なら、出したいキャラ出してΖと種死をがっつりとクロスオーバーさせてみようと考えたのが、
今回のお話です。
そして、調子に乗ってキャラの過剰供給をし、その上無謀にも出す以上は全てのキャラに
見せ場を作ろうと息巻いた結果、非常に焦点が曖昧な主人公不在の物語になり、
ラスト近辺での死亡ラッシュに繋がってしまったという点は、自分の限界でもあると思いました。

と欠点を口にしても、何はともあれやりたい事は全てやり尽したので大満足です。

それと、シロッコがZ初期案のデザイナーズベイビーかもしれないという設定を密かに受けていたり
Ζのキャラはカミーユ以外は基本的に死人で、カミーユを含めた全員が実体を持った思念体
(カミーユIN〜の最終回後に付けてくれたレスのアイデアをパクryじゃなくて使わせてもらいました)
だという事は、話の中でハッキリとした形で示せなかったのでここに追記させてもらいます。
あ、後カミーユが戻ったのはZZの最終回で、ジェリドを出した辺りから考えていた事ですが
Ζのキャラを可能な限りカミーユのように新訳化してみようというのが裏(?)コンセプトでした。

少しだけと言って置きながら大分長くなりましたが、完結できたのが本当に嬉しいです。
そして、二年以上もの長きに渡って読んでくださった方々、本当にありがとうございました!
296通常の名無しさんの3倍:2009/07/25(土) 01:16:09 ID:???
支援
297通常の名無しさんの3倍:2009/07/25(土) 01:19:27 ID:???
あ、終わってたw
長い間お疲れさま、本当に楽しめるSSでした!
298通常の名無しさんの3倍:2009/07/25(土) 01:42:20 ID:???
お疲れー
前作から読ませてもらってましたが、うまく纏めましたねぇ、今回も


幾百 幾万 幾億の星よ
何故 光るだけなのか 語る力を示せ
今なら 俺でも 振り返らずに 飛び立つ心
星の数だけ 生命を貯えれば
銀河の群よ 光を変えて見せろ
この掌が掴む 生命の重さになる
まだ見えないよ 宇宙の道標は
この掌に触れ 光一千万年
299通常の名無しさんの3倍:2009/07/25(土) 01:47:45 ID:???
乙、面白かったぜ!
長い作品を完結してくれて本当にありがとう!
また気が向いたら何か書いてくれ!
300通常の名無しさんの3倍:2009/07/25(土) 09:00:00 ID:???
乙かれ
本当面白かったです
ただ個人的な意見としては前作は超えれなかったかなと思った
前作が神すぎた
でも本当に面白い作品をありがとう
301通常の名無しさんの3倍:2009/07/25(土) 10:25:53 ID:???
GJ
本当に面白かった。二年もの間、本当にありがとう
302通常の名無しさんの3倍:2009/07/26(日) 00:45:22 ID:???
2年間という長い期間大変お疲れ様でした。最初から最後まで楽しまさせていただきました。本当にありがとうございました。
303通常の名無しさんの3倍:2009/07/26(日) 11:30:03 ID:???
本当にお疲れ様。面白かった
こんなに綺麗なキラとアスランを見ることができるとは思わなんだ
304通常の名無しさんの3倍:2009/07/27(月) 02:45:09 ID:???
連載、本当にお疲れでした!
本当に楽しみながら読ませて頂きました。
また何処かで新たな作品と出会える事祈ってます。
305通常の名無しさんの3倍:2009/07/27(月) 02:57:56 ID:???
来てたのかー
深夜に読んでもうたw
エピローグでの生き残ったキャラの組み合わせが上手いなあと思った
特にレイとステラと魔乳
珍しい取り合わせなのもあっていい感じ

カミーユと諸々の人たち、それにキラとシンがそれぞれ
『帰還』する所がよかった
個人的に好きだ

完結乙です!
306通常の名無しさんの3倍:2009/07/27(月) 20:32:33 ID:???
2年間お疲れ様でした。
個人的には前作の方が好きだったけれど、これはこれで楽しませて頂きました。
307通常の名無しさんの3倍:2009/07/27(月) 22:24:19 ID:???
何をどうやったらこんな素晴らしい作品が思いつくんですか
本当に皆かっこ良かったです
ありがとうございました
308通常の名無しさんの3倍:2009/08/01(土) 21:23:40 ID:???
後はヤザンを待つしか…
309通常の名無しさんの3倍:2009/08/02(日) 11:52:09 ID:???
>>295
まじで乙です!
ありがとうございます!
310通常の名無しさんの3倍:2009/08/04(火) 18:30:06 ID:???
ヤザン隊長…
311通常の名無しさんの3倍:2009/08/08(土) 21:43:03 ID:???
隊長!待ってますよ!
312通常の名無しさんの3倍:2009/08/14(金) 12:29:56 ID:???
保守の数だけ命を蓄えれば(イイサー)
313通常の名無しさんの3倍:2009/08/15(土) 04:21:18 ID:ikizdTPC
あげ
314通常の名無しさんの3倍:2009/08/15(土) 20:23:36 ID:???
幾百 幾万 幾億の保守よ
315通常の名無しさんの3倍:2009/08/19(水) 22:36:25 ID:???
保守が 降りしきるペントハウスで
316通常の名無しさんの3倍:2009/08/22(土) 13:23:17 ID:???
Z時代のハマーン in C.E


「これで終わりにするか、続けるかシャア!!」
「そんな決定権がお前にあるのか!!」
「口の聞き方には気をつけて貰おう!」
キュベレイのサーベルを百式のコックピットへ持って行こうとした。
しかし、シャアの自爆とも言える行為でシャアへの最後の説得は中断
爆発して行く戦艦から脱出し、シャアの最期をチラッと見る
「シャア…私と来てくれれば…」
ハマーンにとってシャアは、その方法こそ違えどNTへの人類の革新を目的とした同志であり、元恋人であり、自分の数少ない、親しい人物であった。
できれば今後の地球圏についてどうするか一緒に側で考えて欲しかった
そんな複雑な思いのままシャアを包んだ光を後にし、ハマーンは自分の帰る所アクシズの艦隊の方へキュベレイを向けようとした
しかし


「何だこれは。レーダーが…反応しない!?」
(こんな最後の最後でレーダーの故障だと?キュベレイの整備をした者…後で覚えておけ。)
と思い、次は目を瞑り感覚を研ぎ澄ます。
NTの能力によって自分の周りに何が居るのか、位置を特定しようと思ったからだ
しかし
317通常の名無しさんの3倍:2009/08/22(土) 13:27:55 ID:???
「何!?アクシズ艦隊の気配がない!?そればかりかエウーゴやティターンズさえ居なくなっただと!?…」

なんと奇妙な事だろうか、今の今までエウーゴとティターンズの最終対決で普通にモニターからでも、丸い爆発の光やビームのピンクや黄色の真直ぐな粒子もあちこちで起こっていたのが確認できたのに、
シャアと戦艦の中に居た間に何が起こったのか、この宙域には光が全く見えず、静かな宙域を示していた

「くっ…まさか、この私ともあろう者が遭難するとは……」
318通常の名無しさんの3倍:2009/08/22(土) 13:31:23 ID:???


アルテミスを脱出したアークエンジェルはデブリ帯に向かい航路を取っていた
だが、その途中アークエンジェルのレーダーがMSを捕捉し、第2種戦闘配置になっていた。

「新型のようだけどMS1機で来るなんて、どう言う事かしら。…武器も何も持って無いようだし」
「しかし、相手は新型です。一体何をしてくるか分かりません」
艦長席に座り、疑問に思っているマリュー・ラミアスに副長のナタル・バジルールが答える
アークエンジェルの乗組員は、モニターに映る白い新型のMSの顔付きなど見た目からザフトの新型MSだと思っていた
なのに何故か、相手から攻撃が無くいつでも戦闘を行えるように待機している状態だった

「睨めっこって言うのはどうにも落ち着かねぇな…」

ムウはメビウス・ゼロの中で呟きながら、いつものザフトじゃない。クルーゼと交戦してる時と同じ物を感じ取っていた。



ハマーンが遭難と認識してから、すぐの事だった
少し離れた場所から光が見え、そこへ向かうとアーガマと同系統タイプ、いや、1年戦争でNT部隊と呼ばれていたらしい通称「木馬」そっくりの戦艦が移動している最中だった。
319通常の名無しさんの3倍:2009/08/22(土) 13:37:39 ID:???
どう見ても連邦の戦艦であり、下手をすれば今、戦闘を行っていたエウーゴ、又はティターンズの船である。
しかし、ハマーンは(多分この船を逃せば、このまま私は宇宙を遭難し続け、あっけない最期を迎えるだろう…)と思い、拾って貰うか、最悪この船を乗っとるしか無いと考えた
しかし、様子がおかしい。ハマーンはキュベレイのモニターで捉えれる程、接近していた
勿論相手もこちらを発見しているだろう
しかし今の勢力の状況的に考えると普通の敵勢力ならば、アクシズ軍総大将の私を発見すれば即座に攻撃をしかけて来る筈が未だに攻撃して来ずMSすら出して来ない。
そうして最初は様子を見ていたが、ハマーンは、このままでは埒が明かないと思いオープン回線を開いた

「私はアクシズの摂政ハマーン・カーン。そちらの艦長と話がしたい」
するとすぐに戦艦から女の通信が帰って来た
「艦長のマリュー・ラミアスです。」

ハマーンは(ほう、艦長が女とは珍しいな…)と思いながら、ミノフスキー粒子の影響が少ないのかはっきりと聞こえた通信に疑問を持った

「そちらは、何処の軍の者か」
と気になっていた事を聞いてみた
「地球連合軍です。」
320通常の名無しさんの3倍:2009/08/22(土) 13:38:44 ID:???
ハマーンはその答えに聞き間違えでもしたのかと怪訝な顔をした

「すまない。もう一度聞いてもいいか?」

「私達は地球連合軍です。」

「地球連合軍?聞いた事が無い。地球連邦では無いのか?…」

こう聞きながらもハマーンは、この艦長が嘘を言ってるとは思えなかった。
嘘にしては、1字変えただけで何か隠す素振りも無く、何より自分の勘もそう告げていた。

「はい。私達は【連邦】軍じゃなく【連合】軍です。それと…こちらからも聞きたい事があります。宜しいでしょうか?」
「あぁ、構わない」
「アクシズとは何処の国家の事でしょうか?」
さすがにハマーンもこれには驚いた。アクシズを知らない?
今やアクシズは何処の誰でも知っている。それを知らないとなると、今の自分が居る場所は自分の知っていたUCの時代では無いのかもしれない。又はタイムスリップでもして、おかしな時代に来たのかもしれないと思った

「艦長、質問に質問で返してすまないが、今の年代はUC0088か?」
「えっ?…今はC.E70ですが…」
321通常の名無しさんの3倍:2009/08/22(土) 13:40:51 ID:???


流石にこの違いでマリューも相手が何か様子がおかしい事に気付き始め、MSがザフト軍とは違う様な気がした
ハマーンはその答えを聞き、(あぁ、そうか…やはりパラレルワールドに来たのか…)
そう考えれば消えた戦闘宙域、自分の艦隊、ミノフスキー粒子が存在しない、連合と連邦の違いなど辻褄が合う。

「C.Eか…。艦長、信じられない話かもしれないが、私はどうやらパラレルワールドに来てしまったらしい。だから、すまないが、このキュベレイと私を安全な所まで送って貰えないだろうか。
しかし、それだけでは交渉にならない。私も安全な所まで送って貰えないだろうか。しかし、それだけでは交渉にならない。私も安全な所に着くまではこの戦艦の戦力として戦おう」

ハマーンは戦艦がこんな宙域を通る事は何か理由があり、何かの追撃を受けている事ぐらいは容易に想像でき、それを交渉の道具として使った

マリューは急な交渉に少し戸惑り、返事が数秒遅れたがハマーンには艦の者と話し合うので15分程待って貰う事になった
その間キラはいつ、このMSが襲って来ても迎撃できるようにコックピットで待機を命じられ、ムウはメビウスから降りてブリーフィングルームに行った
322通常の名無しさんの3倍:2009/08/22(土) 13:42:42 ID:???

「ラミアス艦長、私は反対です。パラレルワールドから来たなど信じられません。もしザフトのスパイだった場合、我々は終わりです。」
副長のナタルはあのMSがスパイの可能性があると判断し受け入れを拒否している

「だけど、今の俺達には戦力が無いんだよな。この艦にMSは坊主の1機しかないし、俺は戦力になると思うんだがなぁ…」
ムウはヘルメットを脱ぎパイロットスーツのままブリーフィングルームのモニターに映る白いMSを見て言う。

「フラガ大尉はパラレルワールドから来たと言う事を信じられるのですか?」
「いや、俺も半信半疑だけど、もしあれがザフトならこの間に襲いかかって来てるんじゃないか?」

「分かりました。先ずあちらのMSがパラレルワールドから来たと言う証拠が何か無いか確認しましょう」
それまで沈黙を保っていた艦長マリュー・ラミアスが決断する。
323通常の名無しさんの3倍:2009/08/22(土) 13:44:43 ID:???
Zのハマーンinを考えたら一気にここまで出た
今は反省してる
ごめんなさい
324通常の名無しさんの3倍:2009/08/22(土) 13:52:03 ID:???
メモ帳でもいいから推敲はした方がいいよ
325通常の名無しさんの3倍:2009/08/22(土) 15:11:05 ID:???
>>324
推敲する前に一気に書いて貼っちゃったww
スレ汚しすいませn
326通常の名無しさんの3倍:2009/08/22(土) 15:13:59 ID:???
でも、これは面白そうだが……
はにゃーんの、キラの評価とか
327 ◆1do3.D6Y/Bsc :2009/08/22(土) 16:10:03 ID:???
>>325
投下乙です
生殺しはしんどいので続けて欲しいなぁ
書いた後に一度通して読み返すだけで大分違うと思うよ
328通常の名無しさんの3倍:2009/08/22(土) 16:11:52 ID:???
トリ消すの忘れてた……orz
329通常の名無しさんの3倍:2009/08/22(土) 18:54:52 ID:???
何となく文章が幼い感じがするけど
とりあえず期待
330通常の名無しさんの3倍:2009/08/22(土) 19:10:04 ID:???
>>325
久々の新規作家さんによる新作、おつかれさまです。

ちょっとしたことですけど、ひとつ。

SEEDの冒頭では「C.E.70」といってますけど、
SEED本編開始は「C.E.71 1/25」からです。
331通常の名無しさんの3倍:2009/08/22(土) 22:14:21 ID:???
ここまでだけなら中途半端過ぎる、生殺しだ
早く続きを
332通常の名無しさんの3倍:2009/08/23(日) 11:44:43 ID:???
ぜひ最後まで続けて欲しいなぁ
>>327 気が向いたら短編でもお願いしたいですね
333通常の名無しさんの3倍:2009/08/23(日) 21:19:22 ID:???
>>330
そうでしたか
ちょっとSEED全話見直してくる


続き書いてるんですがまだ途中なんで完成は土曜日くらいになるかと…
334通常の名無しさんの3倍:2009/08/23(日) 22:26:11 ID:???
>>327
以前書きそびれていたんだが作者氏降臨したので一言

どっか別のトコで別のモノ書くときはぜひこのスレで報告を!
335通常の名無しさんの3倍:2009/08/26(水) 12:51:28 ID:???
パラレルワールドから来たという骨董無形な話を信じようが信じまいが肯定的にとらえるほうがおかしい

そもそもG(ストライク)以外のMSなんてザフト以外に考えられない状況で
出自不明のMSと正体不明のパイロットを戦力化しようと考えるほうがどうかしている

まあ負債世界の魔乳たちをそのまま再現すれば頭がおかしいか気がくるっているとしか思えない状況判断も仕方がないかな
336通常の名無しさんの3倍:2009/08/27(木) 15:18:23 ID:???
感想と喧嘩売るのは違うよ
文書に気をつけな
337通常の名無しさんの3倍:2009/08/27(木) 22:08:27 ID:???
ちょっと聞きたいんだが、このスレの住民的にSS内での歴史の改変はOK?だったらSSを連載してみたいんだが
338通常の名無しさんの3倍:2009/08/27(木) 23:01:55 ID:???
そりゃSS内で別の歴史に移行していくのか、最初から全部作り変えた状態なのか、どっちさね
339337:2009/08/27(木) 23:21:56 ID:???
Zキャラの影響でヤキン戦役の時点から徐々に変わる、という感じ。ただそんなに大筋から外れる改変はない、と思う
340337:2009/08/27(木) 23:23:27 ID:???
ごめん途中で送信してしまった。だからSSの開始時点でやや改変あり、SSの展開次第で更に変わる、というところかな
341通常の名無しさんの3倍:2009/08/27(木) 23:36:51 ID:???
>>340
要するに本編開始前から改変が始まっている状態か、いいんでないかい?
他のクロススレでそういうネタは何度か見てるし問題はないと思う、今は亡きWスレとか
342通常の名無しさんの3倍:2009/08/27(木) 23:48:38 ID:???
新しいSSが始まるのなら諸手を上げて歓迎するよ
そもそもこの間までやってたやつがやりたい放題だったんだから全然OKでしょ

>>332>>334
ファントムペインの3人をブレンに乗せてみたいなぁと漠然と思ったりしたけど
今はちょっと気がのらないっす。ごめんなさい
343337:2009/08/27(木) 23:50:45 ID:???
おk
答えてくれた人ありがとう
第一話は別に改変ないけど早速載せるわ
344337 ◆ycBHgYNLCA :2009/08/27(木) 23:59:54 ID:???
「――これでビットは使えまい!」

放棄された戦艦の中、金色のMSが白いMSに組み付き、壁に押し付けた。白いMS――キュベレイのパイロットが女性であることを考えるとどこか卑猥だが、金色のMS――百式のパイロットであるクワトロ・バジーナにそんなことを考える余裕はない。

「ふん。馬鹿め」

しかしキュベレイのパイロットであるハマーン・カーンの類まれな力は、そんなクワトロの必死の策すらあっさりとはねのけた。彼女のニュータイプとしての力は、ファンネルに、針の穴に糸を通すような精密な動きさえ可能にさせる。
ハマーンと比べて微弱ではあるものの、同じニュータイプであるクワトロは、ハマーンの思椎が背後で弾けたこと、そして、自身の失策を悟った。

「くっ?!」

ファンネル――ニュータイプの意思によって制御される攻撃端末である。そのファンネルの何基かが、百式の四肢を奪う。コクピットを襲う振動に心を押し潰されそうになりながらも、クワトロは必死にこの状況を打開する手を探した。
幸いにも――情けない話ではあるが――ハマーンとは昔懇ろだった仲だ。しかも、彼女にはやや未練が残っているとみえる。多少ならば時間稼ぎも可能、とクワトロは踏んだ。

「ハマーン……!」
「ふん、赤い彗星も地に落ちたものだ」
「何……?!」

適当な反応を返しながら、目は何かないかとせわしなく動き回る。果たして、「それ」はクワトロの目に飛び込んできた。時間稼ぎはもうする必要はない。しかし私も死ぬかもしれないな、と、クワトロは不敵に笑んだ。

「――これで終わりにするか、続けるか!シャア!!」
「……そんな決定権がお前にあるのか!」

叫ぶと共にトリガーを押し込む。百式に残された最後の武装、頭部バルカンが火を吹き、火花を上げていたエネルギーパイプを直撃した。思わず機体ごと振り返ったハマーンは、時間稼ぎをされていた、と直感した。

「シャア!貴様……」
「……!……!」

自分はハマーンに応えて何か言ったのかもしれない。しかし、爆発音に遮られ、そして目の前の光と爆風に遮られ、クワトロにはもう何もわからなかった。ただ一つ、思った。あの鋭敏な感覚を持った少年は、どうなったかと。
345337 ◆ycBHgYNLCA :2009/08/28(金) 00:02:38 ID:???





「俺の体を、みんなに貸すぞ!」

死者の魂を取り込んで、カミーユ・ビダンの感覚はどこまでも肥大化していった。カミーユは余りにも肥大化した自身の力を抑えきれず、自身が取り込んだ死者の魂と、自らの魂の区別がつかなくなっていた。

「ここからいなくなれぇ――――っ!!」

絶叫と共に、ウェイブライダー形態に変形したZガンダムが突撃する。その先にいたのは、サイコミュのコントロールをカミーユに奪われたジ・オ。パプテマス・シロッコが、必死になって制御を取り戻そうとしていた。
しかし、時既に遅し。鈍い衝撃と共にコクピットハッチを突き破り、ウェイブライダーの機首がシロッコを押し潰した。

「や、やったのか……?」

しかし、そんなカミーユの予想とは裏腹に、青い光がジ・オのコクピットから広がる。光はやがて、ウェイブライダーをも包み込んだ。

「貴様も一緒に連れて行く……」
「ひ、光が……?」
「カミーユ・ビダン……!」
「広がっていく……」





「我らのこの怒り!今度こそ、ナチュラル共にぃぃぃぃっ!!」

日本刀を模した実剣、斬機刀を振るうジンハイマニューバU型(以降ジンHUで表記)。シールドで受け止めたインパルスは機体のパワーに物を言わせ、一気に遠くへと跳ね飛ばした。

「今の内に、早く!」

少年の声に急かされ、アスラン・ザラはコンソールパネルを叩く。すると、目の前の掘削機らしき機械が作動し、彼らの立つ地面に潜り込んでいく。武装の全てと片腕を失ったザク・ウォーリアが、残された右腕を挙げた。

「よし!オーケーだ、シン」
「了解です!」

インパルスのコクピットの中、シン・アスカは意気込んでフットバーを蹴る。インパルスが飛び上がり、ジンHUに向かってビームライフルを構えた。
対するジンHUに乗るところのサトー、対ビームコーティング処理の施された斬機刀を青眼に構え、体勢を立て直すやバーニアを思い切り吹かす。
346337 ◆ycBHgYNLCA :2009/08/28(金) 00:06:44 ID:???
「小僧が、調子に乗るでないわ!」
「小僧で何が悪いんだよ!」

ビームライフルを二発、三発と連射するも、宇宙戦用にカスタマイズされた高機動仕様のジンHUには当たらない。シンはインパルスにビームサーベルを抜かせた。

「MSの性能に依存していては、俺には勝てんぞ!」
「肝心のMSがそれじゃあ、このインパルスに勝てるかよ!」

ビームサーベルと斬機刀がぶつかり合い、せめぎ合う。いくら対ビームコーティング処理が施されているといっても、長時間の鍔迫り合いをすればコーティングが蒸発する。
それを知っているシンは、押して押して押しまくる作戦に出た。それを作戦と呼べるかどうかは実際微妙なところだ。

「あとはアンタさえ落とせば、おしまいなんだ……!」
「終わらぬさ……ユニウスセブンは大気圏では燃え尽きない。見ろ、これだけの大きさを残して大気圏に突入すればどうなるか!」
「うるさい!さっさと……落ちろよぉっ!!」

またもインパルスが力任せにジンHUの右腕を掴む。斬機刀を握るその手を無理矢理押さえつけ、ビームサーベルで切断した。更にコクピット辺りを蹴りつけ、大気圏に向かって突き飛ばす。もはやサトーが助からないの明らかだった。
しかし、サトーは満足げに唇を吊り上げる。

「ふふふ……やっとだ。やっと、お前達を葬ってやれる。寒かったろう、ユニウスセブンの中は……」

その声は、アスランとシンの機体にも届いていた。

「俺もすぐそちらに行く……我が愛する家族よ……」

大気圏突入の熱に耐えきれず、ジンHUは爆散した。
347337 ◆ycBHgYNLCA :2009/08/28(金) 00:09:02 ID:???
しかし、シンやアスランも既に重力に引っ張られている。明日は我が身、どころの騒ぎではなかった。特にこの男、アスラン・ザラにとっては。

「どうするんです、アスランさん?!その機体じゃ……」
「……やれるだけやってみるさ。俺はまだ死ぬわけにはいかない。諦めるものか!」
「で、でも……」

シンは動揺していた。アスランのザクが大気圏に突入するのが困難であることももちろん原因の一つだが、サトーのジンHUが恨み言の一つも言わず、むしろ満足そうに死んでいったことにおぞ気を感じていた。
そして、恐らくは彼も「同じ」だった。大切な家族を失った人間だった。

「とにかく、何とかやってみる!君は自分のことに集中していろ!」

アスランは必死にコンソールをいじり、姿勢を変え、試行錯誤を繰り返しては減速を試みる。しかし、中破したザクに大気圏に突入するだけの耐久力はなかった。

「くそっ、まだだ!まだ諦めないぞ……こんな所で……」

アスランの額にじっとりと汗が浮かぶ。インパルスは既に姿勢制御を終え、大気圏への突入を開始していた。

「…………駄目なのか…………」

やれるだけのことはやった。しかし、どうにもならなかった。受け入れがたい事実ではあるものの、最後まで足掻いたのだ。アスランの体から力が抜け、何もかもどうでもよくなっていくのがアスラン自身よくわかった。

「……カガリ……」

しかし、希望の手は差し伸べられた。

《まだ諦めるな……》
「……?」

スピーカーを通さずに聞こえた声は、とても優しかった。

《こっちだ……》

声に導かれるように機体を動かし、赤く染まった空を飛ぶ。その先には、一機のMAがあった。

「これは……?」
《乗るんだ。無事に地球に降りられる》

トリコロールカラーのMAの背に乗り、アスランはようやく安堵の息を吐いた。不思議なことに、アスランには「これで安心だ」という確信があった。そう思うと体から一気に力が抜け、大気圏突入の最中でありながら、アスランは気を失った。
348337 ◆ycBHgYNLCA :2009/08/28(金) 00:10:35 ID:???
「アスランさん?アスランさん!」

アスランが目を覚ましたのは、ミネルバの格納庫の中だった。外側から強制開放されたコクピットハッチの向こうから、心配そうな顔がいくつも覗いている。

「あ、ああ……済まない。大丈夫だ」
「ったく、大気圏突入時におねんねとは器がデカいな。念のため医務室に行ってもらうぜ。歩けるか?」
「ああ、心配ない。ありがとう」

ザクのハッチを開けたと思しき男が、ったく、と苦笑いし、アスランも釣られて笑った。すると男は急に真顔になる。またもアスランは釣られて真顔になったが、なぜ急に真顔になったのかがわからなかった。

「お前さんのザクが乗ってきたMA、ありゃ何だ?」
「……わからない。大気圏に入るほんの少し前に見つけて、藁にも縋るような思いで乗ってきたんだ」
「……そうか、悪かったな。医務室行ってくれていいぞ」

「声」のことを言わなかったのは、信用してもらえないと思ったのと、自分自身あの時の出来事が半信半疑だったからだ。
男に医務室の場所を聞いて、アスランは格納庫を歩き出す。歩き出して改めて、重力を感じることに安心感じていた。歩いていくと、やがて「あの」MAが収容されているスペースにさしかかる。

「あ、アスランさん。大丈夫ですか?」

シン・アスカだ。メカニックが寄ってたかってコクピットを探しているところを見物しているらしい。彼の隣には、先ほど一緒に出撃した二人のパイロットがいた。

「聞きましたよ。気を失っちゃったんですって?」
「失礼だぞ、ルナマリア」

ショートカットの赤毛の頭頂部から伸びる「アホ毛」。可愛らしい顔立ちの下の女性らしさを強調する肢体。ザフト・レッド、ルナマリアホーク。
緩いウェーブのかかった長い金髪。下手をすればそこらの女性よりよほど見目麗しい容姿を持つシン、ルナマリアと同じく赤服を着るレイ・ザ・バレル。
349337 ◆ycBHgYNLCA :2009/08/28(金) 00:12:31 ID:???
「今コクピット見つけたみたいで、こじ開けようとしているところらしいです」
「そうか……礼を言わなきゃな」
「アスランさん、中の人と何か話しました?」
「いや……」

シンとアスランが出撃前より親密に話しているのを見て、ルナマリアが小首を傾げた。

「いつの間に?」

しかし、彼女の疑問に答える者はいなかった。MAのコクピットハッチがこじ開けられ、パイロットが現れたからだ。アスランのザクのコクピットハッチをこじ開けた男が進み出る。

「よーし、お前さん、自分がわかるか?」

現れたパイロットはややふらついている。白いパイロットスーツはザフトのものではないが、地球連合のものでも、オーブのものでもなかった。

「……ここは……?」
「ここはザフトの戦艦だ。お前さん、名前は?」
「……う……」

ヘルメット越しに頭を抑えるパイロットに、アスランのコクピットハッチをこじ開けた男は質問を諦めようとしたが、パイロットは頭を抑えながらも何とか名乗った。

「……カミーユ……」
「ん?」
「……カミーユ・ビダン……」
350337 ◆ycBHgYNLCA :2009/08/28(金) 00:13:50 ID:???
第一話終了です。そういやタイトルとかって必要ですか?
351通常の名無しさんの3倍:2009/08/28(金) 00:33:00 ID:???
投下乙です
冒頭を見る限りクワトロ・ヘタレ・バジーナも来てるのかな?
何となく敵で出てきそうな気がするけど
続きに期待してます

>>350
タイトルはあった方が分かりやすいけど無くても問題ないんじゃない
352通常の名無しさんの3倍:2009/08/28(金) 02:59:04 ID:???
お!新作来てたのかどうなるか楽しみだ
353通常の名無しさんの3倍:2009/08/28(金) 03:09:16 ID:???


>下手をすればそこらの女性よりよほど見目麗しい容姿を持つシン、
一瞬これにビックリしたわw
354通常の名無しさんの3倍:2009/08/28(金) 16:01:14 ID:???
投下乙!前作が神だったのでプレッシャーだろうが、頑張れ
355通常の名無しさんの3倍:2009/08/28(金) 17:58:19 ID:???
うおー面白そうだ
続き期待します
356通常の名無しさんの3倍:2009/08/28(金) 18:00:30 ID:???

突っ込むとカミーユはジオのサイコミュ乗っ取ったわけじゃなく
不可思議な力でジオの操縦系統を制御不能にしたんだけどな
357通常の名無しさんの3倍:2009/08/28(金) 19:22:01 ID:???
オーラバトラーΖガンダム
358337 ◆ycBHgYNLCA :2009/08/31(月) 18:29:14 ID:???
第二話を投下します
359337 ◆ycBHgYNLCA :2009/08/31(月) 18:30:00 ID:???
「カミーユ・ビダンね。所属は?」
「その前に、こちらから質問してもいいでしょうか?」

ミネルバ艦長タリア・グラディスは鋭い視線を向ける。舐められている、と感じたのだろうか。

「今質問……いえ、尋問しているのはこちらなのよ」
「僕はあなたがたの質問に一つ答えました。僕からも一つ質問させて下さい」

ミネルバ、艦長室。医務室で一通りの検診を受けたカミーユは、異常なしと判断され、今はこの艦長室で事情聴取を受けていた。

「……いいでしょう。あなたには我々のゲストを助けてもらった恩もあるわ。こちらが一つ質問をする度に、あなたも一つ質問をする。それでいいわね?」
「はい」

頷いたカミーユは、タリアの軍服をじっと見つめる。その視線を思春期の少年特有のものと思ったのか、タリアは一つ咳払いをした。

「あ、すいません……あの、あなたがたは確か、『ザフト』だと仰ってましたが、ザフトというのはどこの国の軍なのですか?」
「……は?」

反応を返したのはタリアではなく、彼女の副官であるアーサー・トラインである。

「……それはどういう意味かしら?」
「? 文字通りの意味ですが……?」

タリアとアーサーが顔を見合わせた。わざわざ質問をさせろ、と言ってこの質問である。二人が不信感を募らせるのも無理はなかった。
「ザフトというのは、プラントの義勇軍よ」
「……プラントというのは?」
「は?!」

これもアーサーだ。しかし、タリアは顔には出さず、ただルールを確認するのみだった。

「質問はお互い一つずつ。わかってるわね?」
「……はい」
「なら、あなたの所属は?」
「……」

カミーユは考え込んだ。ここでエゥーゴの名前を出しても、恐らくわかってもらえないのではないか?そして、わからないことが多すぎる。ザフトが何かと聞いたら、今度はプラントが何かわからない。
カミーユは、基本的な情報の量が違う、と感じた。しかし、嘘を吐くのもあまり賢い手段ではない。

「僕は……僕は、エゥーゴの者です。中尉待遇を受けていました」

結局、嘘は言わなかった。ザフトがわからない、プラントもわからないとなると、もしかすると向こうもこちらの言うことをわからないのではないかという憶測があったからだ。


「あら、あなたエゥーゴなの?じゃあエゥーゴから出向してくる予定のパイロットってあなた?」

しかし、その憶測はあっさりと否定された。
360337 ◆ycBHgYNLCA :2009/08/31(月) 18:32:38 ID:???

「あら、あなたエゥーゴなの?じゃあエゥーゴから出向してくる予定のパイロットってあなた?」

しかし、その憶測はあっさりと否定された。





ZcrossC.E
第二話「相違点」





「エゥーゴを知っているんですか?!」
「あら、ご挨拶ね。エゥーゴのことなんてもう民間人でも知ってるわよ?……その反応からして、出向してくる予定だったのはあなたじゃなかったみたいね」

妙だ。
自分は全くと言っていいほど相手のことを知らないのに、相手はこちらの組織を知っている。第一、なぜ自分は地球にいるのだ。地球に降下した辺りのことは覚えているが、ティターンズとの戦いは地球軌道上のものではなかったはずだ。
そして、仲間は、戦いは、シロッコはどうなった?

「あなた、色々と聞きたいことがありそうね?」

はっ、としてタリアの顔を見る。その顔は厳しいながら、どこか笑っているように見えた。女というやつは、時としてニュータイプなんかよりもよほど鋭い時がある。

「ええ」
「では、お互いいくつか聞きたいことをまとめて聞きましょう。その方が効率もいいでしょうし」
「あ、ありがとうございます」
「勘違いしないでちょうだい。私は早く面倒事を片付けたいだけよ」

うっすらと笑うタリアに、カミーユは感謝した。そもそも、いきなり拘束されなかった時点で結構運がいいのかもしれない。

「じゃあ、質問してもいいでしょうか」
「どうぞ」
「まず、プラントというのは?」
「コロニー群とその周辺宙域を国土とする国家よ」
「近年新しく独立した国家でしょうか?」
「独立運動は以前から行われていたわ。正式に独立したのは、二年前のヤキン・ドゥーエ戦役……プラントと地球連合各国の全面戦争が終結して、ユニウス条約が締結されてからね」
「(連合?)二年前……。二年前というと、86年でいいんでしょうか?」
「…………今は73年よ。だから二年前なら71年の出来事ということになるわ」
「な、73年?!ユニバーサル・センチュリー73年ですか?!何かの間違いじゃ……」
「ユニバーサル・センチュリー?今はコズミック・イラよ。ユニバーサル・センチュリーなんて聞いたこともないわ……」
361337 ◆ycBHgYNLCA :2009/08/31(月) 18:34:49 ID:???

ようやく、タリアも「何かがおかしい」と思い始めた。ここで、攻守ならぬ聞き手と話し手が交代する。

「あなた、何年生まれ?どこで生まれたの?」
「U.C80生まれです。地球で生まれて、サイド6に移住しました」
「サイド6?」
「地球連邦政府管理下のコロニーです」
「地球『連邦』?地球連合ではなくて?」
「ええ、連合ではなく、連邦です」
「あなた、エゥーゴ所属と言ったわね」
「はい」
「…………エゥーゴの代表者は?」
「クワトロ・バジーナ大尉です」
「クワトロ・バジーナ『大尉』?クワトロ・バジーナ大佐ではなくて?」
「大佐?……僕の知っているクワトロ・バジーナ大尉とは同姓同名の別人なのでしょうか?」

本当に妙だ。エゥーゴに関する部分だけは知識を共有しているかと思いきや、代表者の階級がまるで違う。下手に共通点があるから質が悪い。カミーユもタリアも、押し黙って考え込んでしまった。

「……カミーユ君、君はどうしてあんな所に?」

割り込んだのはアーサー・トラインだ。カミーユは一瞬虚を突かれたような顔になったが、徐々にその眉間に皺を寄せる。

「え?………………すいません。自分でもわからないんです。気付いたらあの場所にいたようで」
「そうか……。なんだか、まるで君は別の世界からやって来たみたいだなあ」

はっ、と、二人が一斉にアーサーを振り向いた。突拍子もない話だが、妙な説得力がある。答えを求める二人は、アーサーのこの説に飛びついた。

「別の世界……辻褄が合わなくもないわ」
「はい。もしかすると、エゥーゴの他にもこの世界と僕の世界には共通点があるのかもしれない」

その可能性を提示したアーサーでさえ冗談半分だったのに、聞いた二人は本気もいいところだ。アーサーの「パラレルワールド説」は完全に産みの親の手を離れ、二人の継母によって立派に育て上げられた。

「いいこと、アーサー。カミーユが別の世界から来たということを知っているのは私達三人だけよ。このことは内密にしてちょうだい」
「りょ、了解しました……」
「それと、エゥーゴにカミーユの身元の照会を。何かわかるかもしれないわ」
「はっ、了解しました」

何だか気の抜けたアーサーがあたふたと艦長室を出て行くと、タリアは改めてカミーユに向き直った。
362337 ◆ycBHgYNLCA :2009/08/31(月) 18:36:18 ID:???

「さて、この世界の我々ザフトとエゥーゴの関係を説明しておく必要があるわね?」
「はい、お願いします」
「よろしい。……そうね、エゥーゴは現時点では我々と協力体制にあるわ。エゥーゴの方から、我々の方にMSとパイロットを出向させるって言ってくるくらいにはね」

なるほど、と頷いたカミーユは、クワトロのことを思い起こした。この世界のエゥーゴも、やはり「Anti・Earth・Union・Government」であることには変わりないらしい。
もしもこの世界のクワトロ・バジーナが自分の知っているクワトロ・バジーナなら、その目的は同じはずだ。地球にしがみつく人類を宇宙に進出させ、新たな段階に引き上げる。そしてそのために、地球連合に反目している。
だからこそ、地球連合と緊張状態になっているプラントの義勇軍であるザフトに援助を申し出たりもしているのだ。
と、そこで、艦長室のドアがノックされた。そこからアーサーが再び現れ、怪訝そうな表情で口を開く

「艦長、エゥーゴにカミーユ君の身元を照会しました」
「そう、結果は?」
「……カミーユ・ビダンはエゥーゴのMSパイロットであり、かねてからの約束通りにザフトに対して派遣された。彼の身分はエゥーゴにおいて保証されるものであり、ザフトにおいてもそのように扱われたし。……だそうです」
「クワトロ大佐…………何を考えているのかしら?カミーユ、そういうことらしいから、あなたの身分に関して心配する必要はなくなったわ。ただ、あなた自身はどうする?」

「カミーユ・ビダンはエゥーゴのMSパイロットであり、かねてからの約束通りにザフトに派遣された」ということは、カミーユはMSパイロットとしてザフトに派遣されたということだ。
それはつまり、「MSパイロットとして働かないのであればお前の身分は保証しない」と言っているに等しい。もう一度生きてクワトロに会うことができたら、再び空手の腕前を披露しなければなるまい。

「……僕をエゥーゴから派遣されたカミーユ・ビダンとして扱っていただけますか?」
「いいのね?」
「はい……」

他に選択肢はありませんから、という言葉を飲み込んで、カミーユは頷いた。
363337 ◆jPpg5.obl6 :2009/08/31(月) 18:39:01 ID:???

「そう。じゃあうちのパイロット達をお願いね」
「はい…………えっ?」

含みのある笑みを漏らしたタリアは、カミーユのパイロットスーツの胸を悪戯っぽく突つく。

「そもそもエゥーゴにパイロットの派遣を要請したのはね、クワトロ大佐の前大戦……ヤキン・ドゥーエ戦役での八面六臂の戦いぶりを見て、ザフト上層部がダメもとでエゥーゴの戦い方を教えてくれないかって頼んでみたのが始まりなのよ。つまり……」
「俺に戦い方を教えろっていうんですか?!プロの軍人に?!」
「あら、ザフトは義勇軍よ?」
「〜〜!」

思わず素が出たカミーユだったが、タリアの台詞のある部分が引っかかった。

(ヤキン・ドゥーエ戦役は二年前の戦争だって言ってたはずだ。なら、二年前の時点で既にこの世界にはクワトロ・バジーナ大佐がいた……?)





「エゥーゴからザフトに出向してきたカミーユ・ビダンです。よろしく」
「俺、シン・アスカです。カミーユ、さんはエゥーゴだったんですね。じゃああのMAはエゥーゴの新型?」
「そんなとこだよ。それとあれはMAじゃなくて可変タイプのMSだ。……それから、敬語はいいよ。歳だって同じくらいだろ?」
「私、ルナマリア・ホーク!よろしくねっ」
「レイ・ザ・バレルだ。よろしく頼む」

ミネルバの休憩所でパイロット達と握手を交わすカミーユは、赤服を着ていた。
「出向してきた以上はザフトの一員として」というタリアの弁と、パイロットスーツ一つでこちらの世界に来たカミーユには服がなかったというのが理由だが、どうにもしっくり来ない服だ、というのがカミーユの感想だ。

「エゥーゴの新型かあ。ねえカミーユ、後でコクピット見せてよ!」
「え?」
「ルナマリア、あまりカミーユを困らせるな」

ミネルバのパイロット達はカミーユの予想以上に仲が良かった。なんでも士官学校時代からの友人同士らしい。

「カミーユ、後で模擬戦やらないか?お互いの戦い方は知っておいた方がいいだろ?」
「ああ、そうだな……」
364337 ◆ycBHgYNLCA :2009/08/31(月) 18:41:18 ID:???

同年代の人間はファやカツしかいなかったエゥーゴと違い、ミネルバは実に若者が多い。無理に大人を演じる必要もなく、慣れればここは居心地がいいかもしれない、と、カミーユは感じた。

「カミーユ!カミーユ・ビダンはいるか!」

シンの申し出を検討するカミーユの思考を遮って、大声が休憩所に響いた。カミーユをコクピットから引っ張り出した男だ。

「俺はマッド・エイブスってんだ。ミネルバの整備班長をやってる。お前さんの機体の整備について色々聞きたいから、ちょっと格納庫まで来てくれ」
「わかりました。……じゃあ、シン、ルナマリア、レイ、また後で」

マッドの後に続いて休憩所を去るカミーユは、マッドの節くれだった指を見つめた。いかにも職人と言わんばかりのその指が、機体を任せるという、自分の信頼を預けるに等しい行為を肯定してくれる。

「そういやお前さん、あの機体はなんて名前なんだ?」
「え……ああ、Zです」
「ゼータ?」

はい、と頷いたカミーユ。

「Zガンダム」
365337 ◆ycBHgYNLCA :2009/08/31(月) 18:42:22 ID:???
第二話終了です。一応タイトルつけました。誤字等、おかしなところがあればご指摘下さい
366通常の名無しさんの3倍:2009/08/31(月) 18:42:43 ID:???
支援
367通常の名無しさんの3倍:2009/08/31(月) 18:43:36 ID:???
>>365
乙です
あんまり細かい突っ込みですみませんが
カミーユはUC0070生まれだったはずです
368通常の名無しさんの3倍:2009/08/31(月) 18:44:44 ID:???
乙乙
やべー
続きがすげー気になるな
今回はちょっと謎が多くて楽しみ
続き楽しみにしてます
369通常の名無しさんの3倍:2009/08/31(月) 18:53:27 ID:nwOAEHQa
超おもれー
370通常の名無しさんの3倍:2009/08/31(月) 18:54:09 ID:???
371337 ◆ycBHgYNLCA :2009/08/31(月) 20:46:42 ID:???
>>367
すいません完全に勘違いしてましたorz
脳内補完しておいて下さい
372通常の名無しさんの3倍:2009/08/31(月) 20:54:07 ID:???
>>371
どんまい
wikiに登録する時に直せばいいから大丈夫だよ
続き自分のペースで頑張って
応援してます
373通常の名無しさんの3倍:2009/08/31(月) 23:21:09 ID:???
投下乙
野暮だけどグリーンノアはサイド7ですぜ、旦那!
それにしてもクワトロが気になるなー
何となく逆シャアのイメージが出てきたけど
どんな風に登場するのか、本当にクワトロ本人なのかwktkしながら続きを待ってます
374通常の名無しさんの3倍:2009/09/01(火) 00:35:58 ID:fhKjApzG
クワトロさん・・・・・・まさか孤児淫に居ないだろうな。何はなくとも乙です
375通常の名無しさんの3倍:2009/09/01(火) 13:13:41 ID:???
続き楽しみです
376337 ◆ycBHgYNLCA :2009/09/01(火) 17:06:11 ID:???
>>373
凡ミス大杉……ちょっと吊ってきます
377通常の名無しさんの3倍:2009/09/01(火) 21:24:39 ID:???
ちゃんと帰って来いよ
378通常の名無しさんの3倍:2009/09/02(水) 05:40:01 ID:???
あるエロゲで声優御本人達がシン&カミーユVSレコア&シャアでパロ台詞まじえつつゲームやってるシーンあって吹いた
379通常の名無しさんの3倍:2009/09/02(水) 14:28:27 ID:???
>>365
乙です!
380通常の名無しさんの3倍:2009/09/02(水) 21:55:00 ID:???
>>378
kwsk
381通常の名無しさんの3倍:2009/09/03(木) 10:17:05 ID:???
>>380
多分『真剣で私に恋しなさい』だな。
鈴村健一、飛田展男、池田秀一、勝生真沙子、中村悠一、藤原啓治とか出てるしガンダムパロ多数。
鈴村にデスティニーという言葉が好きでフリーダムは嫌いって言わせたり、池田秀一のシャア関連パロ台詞はすげー多い。
382通常の名無しさんの3倍:2009/09/03(木) 20:01:14 ID:???
こんな大御所までこんなエロゲーとかでないといけないって
やっぱ声優業界って大変だねえw
真綾とかもこんなのやってるのか?
383通常の名無しさんの3倍:2009/09/03(木) 22:41:02 ID:???
スレ容量が残り僅かなので次スレ立ててくる
384通常の名無しさんの3倍:2009/09/03(木) 22:43:40 ID:???
立てた

もしカミーユ、Zキャラが種・種死世界に来たら16
http://hideyoshi.2ch.net/test/read.cgi/shar/1242403155/
385通常の名無しさんの3倍:2009/09/03(木) 23:19:03 ID:???
携帯組なんでわからんが、300代で?マジか?
386通常の名無しさんの3倍:2009/09/03(木) 23:46:47 ID:???
今498だよ
387通常の名無しさんの3倍:2009/09/03(木) 23:49:38 ID:???
300台でとかすげーな
388通常の名無しさんの3倍:2009/09/04(金) 01:15:49 ID:???
すげー
389通常の名無しさんの3倍:2009/09/04(金) 01:58:14 ID:???
>>384
リンクがこのスレになってるよ、
つーわけで訂正

もしカミーユ、Zキャラが種・種死世界に来たら16
http://hideyoshi.2ch.net/test/read.cgi/shar/1251985306
390通常の名無しさんの3倍:2009/09/04(金) 17:09:45 ID:???
>>384
>>389
乙!
ところでハマーン様の人は続きを書いてくれているのだろうか……
391通常の名無しさんの3倍:2009/09/04(金) 21:40:55 ID:???
>>384
392通常の名無しさんの3倍:2009/09/05(土) 09:47:52 ID:???
>>381
遅くなったが詳細サンクス
393通常の名無しさんの3倍:2009/09/05(土) 18:12:11 ID:???
500KBならカミーユは俺の嫁
394通常の名無しさんの3倍:2009/09/06(日) 00:32:06 ID:???
ホモが!
395通常の名無しさんの3倍:2009/09/06(日) 00:33:08 ID:???
埋め
いけるか!
396通常の名無しさんの3倍:2009/09/06(日) 08:47:36 ID:???
397通常の名無しさんの3倍:2009/09/06(日) 09:41:13 ID:???
埋め
398通常の名無しさんの3倍:2009/09/06(日) 22:43:26 ID:???
埋め
399通常の名無しさんの3倍:2009/09/07(月) 22:15:48 ID:???
ウッーウッーウメウメ
400通常の名無しさんの3倍:2009/09/07(月) 22:27:24 ID:???
400!
401通常の名無しさんの3倍:2009/09/08(火) 00:00:12 ID:???
うめ〜
402通常の名無しさんの3倍
           _, ._
         ( ・ω・) ンモー !.  .
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