00の脚本家黒田洋介の00はやっと終わりました

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77通常の名無しさんの3倍
水島精二監督インタビュー

●自分の手法と脚本家の手法が並立しないときに

 「ダブルオー」で脚本を担当してもらってる黒田洋介さんとは、この作品で初めて組む事になったんですが、
僕は最初、彼が本領を発揮しにくい方法をとってしまったんです。

 ダブルオーは、大勢の集団が登場して、個々のドラマを持ちながら、
その集団どうしも少しずつ関わっていくような、そんな「群像劇」のスタイルにしたかったです。

 群像劇を描くときには、人1人に対して割ける尺(時間)は少ないから、どれだけ短いシーンで人物を表現できるか、
セリフ1つひとつの説得力が勝負になってくるわけですが、黒田くんの面白さは、セリフの掛け合い。
たくさんの会話を積みあげてキャラクターを立たせていく手法が持ち味だったですね。
なので、シナリオを詰めていく段で、僕が入れたいそれぞれの内容に対して黒田くんがセリフを書いていくと、
30分の尺に入り切らなくなってしまった。そこで、その話数内で消化しなければならない
エピソードを収めることを優先し、セリフを短く刈り込んでいったんです。

―― どうなりました。

 キャラクターの面白みが消え印象が弱くなってしまった。

 黒田くんならではの、相手との会話の中で立ち現れるすごく奥の深いセリフや、人物の衝動、
そういう大切なところがなくなってしまったんです。

 わりと早い段階で、僕の今のやり方だと、どんどん言葉を刈り込んでいくことになるから、
黒田くんらしさがなくなるんだと気がつきました。

 それで、群像劇は群像劇でも、僕が思っているバランスからは離れるべきだと思ったんです。

―― 黒田さんのよさを生かすために。

 そうです。僕は以前、群像劇の上手な脚本家と組んでいたので、その彼とのやり方に慣れていたんですね。

 それで、黒田くんに対して、知らず知らずのうちに、そのときと同じやり方を強要していたのかもしれない
と気がついたんですね。それで自分のやり方を変えることにしました。
78通常の名無しさんの3倍:2009/05/10(日) 11:01:08 ID:pcJpjAwh
―― 具体的には。

 プロット(筋立て)を見て、自分が望んでいる部分が複雑で入りきらないと思ったら、そこの部分は主張しない。
キャラクターにある立ち回りをさせたかったとしても、そこに持っていくためにはもう2つぐらい
プロセスが必要だと思ったら、もうばっさりそのシーンはカットして他の方法で圧縮する。

―― ご自身が入れたかったシーンも、切ったりしたのですか。

 ええ。僕のほうで変えられることは変えてしまいたかったんです。
だって、せっかく黒田くんと一緒にやっているのに、僕が「そうじゃないんだよな」なんて言って、
構成を変えたりセリフを書き直してしまったりしたら、それ以降の構成は崩れて、黒田くんの負担は増えるし、
仮に上手くいったところで僕のレベルに留まってしまいますから。

―― 前におうかがいした、自分ではできないことをやるほうが、面白くできる(「人を育てない組織は必ず復讐される」)のお話ですね。

 そうですね。僕が黒田くんに対して、そうじゃないんだ、こういうふうに書いてくれと言うのは、
本人のカラーにないものをねだっていることになると思うんですよ。それは相手に対して失礼ですよね。
相手と向き合わないで、自分が思っている幻想を押しつけるということは。
そうじゃなくて、黒田くんと「向き合う」ということは、彼のいいところを引き出して、
共にフィルムでもって、もっと高いところに持っていくことですよね。

 そこで、キャラクターの造形に関してどうするかは、黒田くんと改めてディスカッションをして、
その中で、彼のやりたいことを最大限活かすようにしました。

―― その結果、いかがでしたか。

 キャラクターの面白さがすごく膨らみました。

 セリフ回しも生き生きとしてきましたし、それまで地味だったキャラクターが
ある瞬間にぱっとはじけるような描写とか、人物の躍動感がすごく増しました。
79通常の名無しさんの3倍:2009/05/10(日) 11:02:45 ID:pcJpjAwh
●「相手に合わせよう」とする人同士ゆえの難しさ

―― ぶつかってみて、ようやく気づいたこともあったと。

 そうですね。実のところ“手こずって”いましたから。

 ここまでは、自分から見た場合の話をしましたけれど、これは黒田くんの側も同じ思いでいたようなんです。
実は彼のほうも早い段階から、僕とのやり方を探ってくれていたんですね。

―― それなのに、どうして手こずったんでしょう。

 ここが人間関係の面白いところというか、黒田くんと僕が手こずった理由は、
どちらも「相手に合わせよう」というタイプだったからだったんですね。

―― 価値観は違うけれども、人へのアプローチ方法は似ていた。


 そうなんです。そのためにかえって、最初の頃は、彼とどのようにやっていくのが良いのか分からなかった。
黒田くんは社交性が高いタイプだから遠慮するし、僕に合わせようとしてくれるから、ぶつからないんですね。
それでも二人とも、ある程度仕事を長くやってきているので、多少の違和感があっても形にはなってしまう。
お互い探り合っている時間が長くて、相手の特性に気づくまでは大変でした。

 でも、こんな行き違いがない限り、今の「ダブルオー」は描けなかった。

 僕と黒田くんは、メンタリティが全く別だから、幅が出たんだと思います。
彼とディスカッションしていると面白いんです。
はっきりと主張してくるんだけど、それが論理的ではない所がある。
男気があるというか熱いというか、いわゆる少年漫画の中で描かれるような竹を割ったような人間像に近くて、それはすごく共感できる。
それでいて大人の社交術も持っているから、すごいバランス感覚だなと。
そういう黒田洋介の人間性というものが、すごく「ダブルオー」にも生きていますね。