第4次スパロボキャラが種・種死・00世界に来たら
シンとセツコはどちらも経験ナシなのかな
シンはおそらく童貞。せっちゃんは処女でもおかしくないし、経験済でもおかしくないと思う。
せっちゃん19才で軍人なら高卒だろ
経験あるような…
>>9 処女は無いだろ
取り巻き2人もいて、一人は命張って守って散った
ヤっちゃてなければ、そこまでしない
かも知れない
>>11 妹分的な存在だったんじゃね?
もし処女じゃないとしたらアサキムにレイープされたと考えるのが打倒だな
んで、シンと結ばれる時に「ごめんね…はじめてじゃなくてごめんね……」と泣き(ry
せっちゃんは雰囲気的に腐女子
アサキムのアレは昔書いたデンゼル×トビー本の内容を音読されたんだよ
デンゼル「まずは君の体に恐怖と苦痛を刻み込む!」
トビー「アッー!」
今はカミ×シン本作成に夢中
旧シャアスレの素顔スレにあった出てくる女性キャラ全員が腐女子でカミーユ×○○
のカップリングの違いで争ってるΖを思い出したw
つーか婚約者いるんじゃなかったっけ?
それはトビーだ
せっちゃんすげーな
某スレじゃあお嬢様やミナ様を脅かしたり、
ロボゲ板でもないあちこちのスレの話題独占かよw
>>14 あれは神スレだったな
お兄ちゃん萌えのキシリア様とか、素手ゴロ最強のフラウとか
ショタコンサドのカテジナさんとか
あとワッカ頭w
こんな所にいたのか
>>18 早く帰って肉塊になる仕事に戻るぞ
了解した
関連スレの職人さんたちが早く区切りいいとこまで進めてくれるといいんだが…
>>22 お嬢様やミナ様てきに考えて逆襲のシン・アスカスレだと思う
セツコがシンに片思いなのか
シンがセツコに片思いなのか
互いに片想いと思い込んでる両想い。
すれ違いとやきもちでラブコメに。
ほす
此処ではスレ違い・・・って事はないか、クロスオーバーだし。
・・・すまん、言いたくなったから言っただけだ。
二週目ランドでクリアしました
アサキムが味方っぽすぎて困るwwwwwww
一段落したので続きの執筆に着手します
セツコ×シンとシン×セツコのどっちが良いのか
せっちゃんルート(太平洋→ジブラルタル経由左ルート行き生存フラグ回収できるだけ回収)は
せっちゃん、シン、カミーユが主役過ぎて困る。
恋愛感情とかそういうの抜きの友人関係とかそんな印象を受けた。
……おかげでレイがワリ喰ってる気がするが気にするな、俺は気にしない。
その分かはわからんが11氏のSSではシンがモモタロスなレイに
おいしいトコ持ってかれてるなw
この前は機体を九州されちまったしwww
そういえばZのグレンダイザーは正に最初からクライマックスだったよなw
>>33 けど、最終的にはレイの一人勝ちのような気のする左56話
左ルートで美味しい役なのは議長。
フロスト兄弟にサテライトランチャー撃たれて死んだ…
と思わせておいて、デューイ・フロスト兄弟戦まで生存。
フロスト兄弟とGビットが地球にサテライトランチャー向けた所で
横からネオジェネシス発射。自軍部隊と地球を救う。
その後若者達の未来の可能性を信じながら力尽きる。
運命に打ち勝て
っていう議長最期の言葉はかなり明言だと個人的には思う
>>39 うわ〜原作でも言って欲しかったなその台詞。
勿論ネオジェネシスをぶちかます相手はAAかエターナルで。
そんで覇王が「おのれ、デュランダル!」といいながらグロ死すればよかったのに
今回議長が暗殺者送ったり、デスティニープランが力押しだったりで微妙に黒い(両方とも負債発言だと否定されてるんだがまぁ負債発言でしかない)代わりに、
ラクシズがただの理想主義の考え無しで後半(´・ω・`)状態だからな。
タリアの言葉がなければ受け入れて貰えなかったし、覇王ではなかろう。
しかしルナのトライアタック(withキラ凸)は何度見ても噴く。
動揺しすぎだろキラとアスラン……。
投下が無い…やっぱりやり込んでるのかな…?
Zはやり込む価値あるよ。今回はZAFT勢のみならずオクレ兄さんのあまりのナイスガイっぷりとその悲しすぎる末路に涙した。
誰かセツコ×シンを…短編でも良いから
>>47 ロボゲ板のスレに短編長編小ネタまで揃ってるぞ
セツコにえろい入れ知恵をするエクセレン。
種のオーブ戦の頃にせっちゃんを放り込む→せっちゃんのせっちゃんによるせっちゃんのための(無意識的)光源氏計画発動。
種死の初めの頃にせっちゃんを放り込む→Zでも原作をなぞった以上、一見何の問題もないように見えるが、実際はパワーバランスが狂って大変な事になる……かもしれない
種死終わった頃にせっちゃんを放り込む→やさぐれシンとせっちゃんの妙な馴れ初めが始まる
……何処にせっちゃんを放り込んでも大変な事にしかならない気がする。
とりあえずどこに行ってもラブロマンス確定か
>>50 > 種死終わった頃にせっちゃんを放り込む→やさぐれシンとせっちゃんの妙な馴れ初めが始まる
前スレにあったよね。シンが飲んで愚痴ってる所にセツコと思しき女性が来るっての。
ランドルート途中の私はこのスレ見て後悔することしきりなんだが。
そんなにセツコ×シンいいのかッ! スレの住人らしく、Xや∀よりSEED先に取るべきだったか!
>>53 まあ隼人×ラミアや、キンケドゥ×アイビスよりは若干上かなってぐらいだ
キンケ×アイビスは雰囲気自体はそこそこいいんだが
UC屈指の一穴主義者であるキンケさんには全然そんな気ないのと
後半のアイビスとイルイのラヴラヴぶりに思いっきりかき消されちゃったw
>>55 ただしジョッシュ×ギュネイ×プロよりは下だよな
次回作で参戦したら准将とキラケンはさらに交流深めるのかw
福田家の同人ババアも新たなホモネタに大喜びだろうよ、
天下のスパロボでキラキラコンビなんてネタくれたんだw
ざまあみろwwwwwwwwwwwwww
それよりもルナ、キラ、アスランのトライチャージが至高
>>56 ジュドーは最終回でルーと旅立たなければ何気に完璧な一穴主義者だったんだがな……シスコン的に考えて
シローさんも一穴主義だけど
キンさんはトミノ主人公では珍しい
ジュドーはまだ子供ということで
>>61 原作だとプルとかに物凄い冷たいもんなw
ハマーン様にあれだけ誘惑されても頑として撥ね付けるし
本人は全くその気はないがエルになんちゃってプロポーズしてるぞ、ジュドー
「エルにはリィナを取り返したら一緒にシャングリラで待っててほしいんだ」みたいな感じのセリフ有り
65 :
グローリー☆:2008/10/20(月) 00:48:21 ID:???
シン君は私の旦那
66 :
朝金:2008/10/20(月) 00:53:05 ID:???
なんか変なのができました。セツコ・シンで、舞台はC.E.の原作後です。
締め切ったカーテン越しに聞こえるしのつく雨の音で目が覚めた。壁に掛けてある飾り気のない壁時計に目をやり、時刻がまだ午前五時である事を確認した。
昨夜の情事を終えて眠りについてから、ほんの三時間ほどしか経っていなかった。血流に乗って鉛のように全身に行き渡った、快楽の後に待つ怠惰が思考を鈍らせている。
裸体にシーツ一枚でベッドに横になっていたのは、まだ若い、十代後半か多く見積もっても二十歳に届かぬ少年だった。
日に焼ける事を知らぬと見える白い肌には、若者にありがちな不摂生を理由とする肌荒れは無縁のようだ。
今は半眼に開かれた眠気を帯びた瞳は、常は鋭く眦を釣り上げた我の強さが滲む赤色だ。ルビーのような、と華麗に飾るよりは血の気が多すぎて瞳まで血の色をしているのだと、有り余る元気さを表現したくなる。
薄暗がりに移る裸体は、男としてはやや白すぎる肌に覆われた、線が細く映る体つきだったが、骨格に無駄のない、戦うための筋肉を張り付けた戦士の肉体であると、軍や格闘技を身に付けた者には一目でわかる。
寝癖が盛大に存在をアピールしている黒髪を手で軽く掻いて、もうひと眠りするか数瞬思案していた。
ぐるりと部屋の中を見回す。今日は仕事が入っていないオフの日だから、久しぶりに部屋の片づけでもしようか、と頭の片隅で主張する自分の声を聞いたからだ。
それから、その主張が極めて意味の無いものだと認識する。あまりにも部屋の中が殺風景過ぎるのだ。
白色の壁紙に覆われた八畳の部屋には、今腰かけているベッドの他に、部屋の中央に小さなテーブル一脚、小さめの本棚が一つ、それに最低限の化粧品を置いただけの化粧台位しかない。
衣服の類はすべてクローゼットの中だし、壁に掛けてあるハンガーには仕事着しか吊るしていない。一人暮らしを余儀なくされた経験から、普段から小まめに片付ける癖と、整理整頓が習慣化しているからだろう。
置いてあるテレビもどことなく申し訳なさそうな雰囲気がくらい古い、中古の品だった。部屋の主が揃ってメディアに対して無関心だったというのもある。
『揃って』? 部屋の主は少年一人だけではなかった。んん、とくぐもった声が少年の隣で零れ落ちた。
少年に顔を向けてまだ眠りの世界にいるのは、この部屋のもう一人の主である女性だった。少年よりは年上と見えるが、こちらもまだ若く瞼を閉じた顔立ちは、人目につく派手さはないが、美女と評するに何の抵抗も感じさせぬものだった。
華々しく人を飾る大輪の薔薇よりも、ひっそりと満月の輝く雲ひとつない静夜に花開く月下美人の様な美貌だ。そこに、薄く刷いたような翳がさしていれば、より一層儚さが親しい隣人の様に、美貌を際立たせる。
こちらの女性もまた裸体のままシーツに包まり、眠りについていたようだ。女の左手が、幼子がはぐれぬようにと、親の手を握る様に、自分の左手に控えめに指を絡ませている事に少年が漸く気付いた。
少しだけ、少年の口の端が動いた。微笑したのだ。
女性の顔にかかっていた、栗色をわずかに混ぜて溶かしたような黒髪をそっと残る右腕で払う。胸元に届く程度まで延ばされた髪は、持ち主がそう気に掛けずとも絹糸のような手触りと、色艶を失わずにいる。
自分の右手の中の髪を弄びながら、少年は女性の寝顔を見つめていた。
ぱらぱらと途絶えぬ雨の音が、少年に過去を回想させた。この女性と出会ったのもまた、今日の様な暗い雨の日だった。
少年の名前はシン・アスカ。女性はセツコ・オハラといった。
コズミック・イラと呼ばれる時代に起きた二度に及ぶ、プラント・地球間の戦争は、ラクス・クラインと呼ばれるコーディネイターの少女が、プラント最高評議会議長に就任した事で一応の決着を迎える事となった。
シンは二度目の大戦においてラクス・クラインに討たれたギルバート・デュランダル前プラント最高評議会議長の傘下で、フラグシップ的な扱いを受けたエースであった。
当時のプラントの技術力を結集して開発されたMSデスティニーを受領し、ザフトと交戦状態にあったロゴスを相手に戦果を上げ、数々の勲章を受け、そして最後にはラクス・クラインと彼女に賛同する者達の前に敗れた。
デュランダル派のエースであったシンは、元上官だった男やラクス・クラインと懇意の関係にあった故国の国家元首らの働きかけもあり、諸々の権限を剥奪される程度の刑罰と引き換えに軍籍を残される事となった。
元デュランダル派のエースとして広く知られたシンの顔と軍功を快く思わぬ者や、陰口を絶やさぬ者達もいたが、シン自身どこかに疲れを感じていたのかもしれない。
軍に短い期間とはいえ在籍していたのは、せめて世界が平穏を手に入れるのを見届けるまでは、戦争とはいえ多くの人々を手にかけた自分が、そう簡単に安らぎを得てはいけないと自己を責めていたからかもしれない。
シンが除隊する事を知った、かつて同じ船で過ごした仲間達は、あるものはこれまでのシンの戦いを労い、またある者は軍を去る事を惜しみ、ある者はこれからどうするのかとシンの身を案じてくれた。
自分のことを心配してくれる人たちがこれほどいた事に望外の喜びを覚えるシンの胸は、その人たちの中に、能面のようにいつも無表情でクールだった親友の姿が無い事に、ひどく傷んだ。
軍を去る時に渡された金には多少の色が付いていて、それなりの額だったが手をつける気にはならず、戦災にあった人々への援助に全額寄付した。
それから日銭を稼ぐ仕事をしながら過ごす日々が続いたが、何の事はない、シンは自分が本当に戦う事しか能の無い人間なのだと思い知らされただけだった。
どうあがいても戦う事――兵士としてしか生きられないこれまでの自分と、これからの自分の人生に、自嘲と絶望を覚え、荒んだ生活に足を半分突っ込んでいた頃にであったのがセツコだった。
MSを扱えるという事でコロニーの周辺のスペースデブリを掃除する職を得て、その仕事の帰りに、運悪く雨に振られた日だった。安さだけが取り柄のアパートに帰るその帰路で、シンは傘も差さずに雨の中で佇むセツコを見つけたのだ。
無気力さに精神をじくじくと侵されかけていたシンは、普段だったならそのまま通り過ぎていたであろうか、たまたま交わした視線の先にある女の瞳が、それをさせなかった。
緑色の瞳は心にぽっかりと穴のあいたものにしかあり得ない虚しさが、盛大に手を広げていた。毎朝鏡を見るたびに否応なく見る事になる自分の赤い瞳の中にあるのと同じモノを、シンはセツコの瞳に見つけてしまった。
あとはどこにでもあるお決まりの話だ。
傷ついた男と傷ついた女。
降りしきる雨、そっと女の上に差し出される傘と言葉。
――行くとこ、ないんだろ?
掛けられた声の方を向く事無くかすかに縦に動かされる細い首。降りしきる雨に濡れ、冷え切った肌はただでさえ白い素肌を氷の海の底で泳ぐ人魚の様に、青ざめていた。
――だったら、家へ来いよ?
――…………
――えっと、熱いシャワーと着替えとタオルと、砂糖たっぷりのホットミルク位ならあるからさ。
――変わった人ね。
――お互い様だよ。それに、家に帰っても誰も待っている人がいないんだ。
――そう。……私もよ。似た者同士、なのかしら?
シンは答えなかった。セツコが答えを求めていないのが分かっていたからだ。
自分がどうなろうと構わないという、自分自身さえ含んだ無関心に至るまで、どんな悲しみや苦しみを経験してきたか、今のシンには、我が事の様に理解できた。
結局、セツコは腕を取ったシンにされるがままに彼のアパートへと連れ込まれた。後は言わずとも分かる展開になる、のだが、この二人の場合いわゆる男と女の関係になるのにはずいぶん時間がかかった。
たいていはその日その夜の内に傷を舐め合うようにして体を重ねるものだが、この二人の場合、ホントにシャワーを浴びてホットミルクを飲んで、少し身の上話をして寝たのである。もちろんセツコはベッドで、シンは床で。
セツコはテロで両親を失い、適性があるからとただそれだけで軍に入隊した女だった。
生い立ちは不幸と言えるセツコだったが、幸い軍では上司と同僚には恵まれ、心許せる戦友達を得たのだが、チームが自分を残して全滅し、携わっていた新型MSに関するプロジェクトからも外された。
それから先も派遣された最前線で手酷い裏切りや碌な目に合わず、ロゴスの壊滅やロード・ジブリールの死去などでごった返す連合軍内で居場所のなかったセツコは、追われる様にして除隊したという。
それから中てもなくただ生きるだけの、死んだのと同様の日々が続き、シンと出会うに至った。
似たような境遇の二人が、互いに親近感を覚えるのは瞬く間も必要なかった。シン同様にMSやMAの扱いに関しては丁寧な操縦技術を持つセツコは、実にシンの隣のグループでデブリスイーパーとして働いていた。
その小さな偶然にようやくセツコとシンは他意の無い笑みを漏らし、仕事帰りや昼食を共にするようになった。そんな二人が、一緒に暮らし始めたのは知りあって一月目の事だった。
こういう事は男の方からと、変に古風な考え方をするシンが切り出した話題に、セツコはきょとんと瞳を開いて瞼をぱちぱちさせた。あまりも幼い仕草は、意外にセツコに似合い、シンに心中で可愛いな、と思わせた。
セツコから頬を赤らめながらの了承の返事を得た翌日、二人であまりにも少なすぎるセツコとシンの荷物をこの部屋に運び、二人は一緒に暮らし始めた。
事に及んだのは一緒に暮らし始めたその日の晩である。たがいに恋愛経験値皆無に等しい二人であったが、流石にこれまで過ごしてきた時間が、男女が同じ屋根の下同じ部屋で同衾する以上、何を期待させるか、また期待するのか理解させていた。
これにはデブリスイーパー仲間達の涙ぐましい努力もあった。ようするにさっさとくっつけや、と思われていたのである。
部屋の照明を落とし、カーテンを閉め切った暗い部屋のベッドの上で念入りに、それこそ隅々まで洗いつくしたお互いの体を晒し合った。
そこまで来た二人の口から同時にまだ“そういった事”の経験がないという、今さらな告白をしあってから一時間後、悪戦苦闘の果てにようやく二人は結ばれた。
幸い、セツコは感度がかなり良いようだった。思いつく限りの事をセツコの肢体にし尽したシンの下や上で、セツコはよく鳴いた。
シン自身、自分が上手いとは思ってはいない。夜毎の艶姿は、やはりセツコ自身の体が快楽を受け入れやすくできているからだと思っている。でなければ初めてそういう事をした自分の指や舌で、ああも体を桜色に染め上げはしなかっただろう。
掌から零れる大きさの白い乳房や、簡単に抱え込めてしまう思い切りよくくびれた腰、肌触りのよさと押し込む指を押し返す弾力が瑞々しい尻。
それらを飽く事無く撫で、甘く噛み、何度も何度も丹念に舐め、時に抓り、執拗に揉み、跡が残るほど強く吸い、貫き、シンは初めて味わう女に溺れた。
セツコもまた、いつまでも自分の体を弄ぶように愛撫するシンの腕の中で未知の痛みとその後に来た快楽の渦の中で、全ての悲しみや苦しみを忘れてシンの体を強く抱きしめた。
――あれから、なんどセツコの体を抱いたのだろう?
ふと、回想から戻ってきたシンはそんな疑問に捕らわれた。少なくとも両手足の指の数では足りまい。
無意識に右手の中で弄んでいたセツコの髪に気づき、シンは甘く香る髪に口づけた。
まだ眠りの世界にいるセツコの寝顔が、かすかに微笑んでいる事にシンは気がついた。いつもは、過去の悪夢にうなされて苦しそうな顔をしている事が多い。セツコによれば自分もそうであるらしいが。
セツコにも笑みを誘うような楽しい思い出があるのか、そう思うとシンは喜びが胸に湧くのを感じた。その夢の中に、自分がいるといいのに。
そう考える自分に、シンはひどく驚いた。自分がセツコと夢の中でも一緒に在りたいと願っている事が、信じられなかったからだ。ただ傷を舐め合う筈だけだった関係が、いつの間に変わっている事に、ようやくシンは気付いた。
自分を見つめるシンの視線を感じたのか、セツコがうっすらと瞼を開け、おとぎの国の眠り姫というにはいささか翳を帯びた瞳で、シンの顔を真正面から見つめた。
寝起きですこしぼんやりとしているのか、右手でシーツを手繰り寄せてから体を起こしたが、昨夜シンが思う存分味わい尽くした右の白い乳房の先にある、小さく存在を主張している桜色の肉粒が、白いシーツの領域からわずかにこぼれていた。
シーツ越しにうっすらと浮かび上がるセツコの肢体は、すでに半分ほどシンの舌と指に触れられていた。セツコの体でシンの指と舌が触れていない場所がなくなるまで、あとほんの数日で事足りるだろう。
セツコの左手の指は今もシンの指に絡まったままだった。その指に自分の指を強く絡ませて握り、シンはまっすぐにセツコを見つめ返した。
「シン君?」
こんな関係になってもまだ“君”付けをやめないセツコが、ほんの少し首を傾げる。さらさらと毀れた黒髪が、シーツの上でさあっと広がった。
この人の近くにいたい。この女性の傍にいたい。セツコの隣にいたい。ずっと、隣に居て欲しい。そう強く願う自分の声を聞いて、シンはようやく、セツコを愛している事に気がついた。
ただその事実を静かに受け止めた。後になって自分でも驚くほど冷静だった。本当はとっくに気が付いていて、それを認める事が怖かったのだろうか。自分が大切に思う人たちを、自分の無力さで失ってきたために。
また自分に、大切な誰かができる事を恐れて。その人を失う痛みに、恐怖に、苦しみに目を背けて。
けれど、もう気付いてしまった。知ってしまったのだ。自分が傍らの女性に抱くどうしようもないほど強い思いを。だから、それを口にする事に躊躇いはなかった。
「愛してる」
何の脈絡も言葉も無い突然の言葉に、セツコは体を強張らせた。シンは答えを求めはしなかった。伝えたかった。言葉にしてセツコに伝えたかっただけ。
だからセツコがそれに応えてくれなくても構わなかった。シンは、十分に満足していた。誰かをまだ愛せる自分。どこまでも愛しい人と巡り合えた“運命”に。
セツコは瞳を閉じていた細く長い睫毛が物悲しげに揺れていた。数時間にも、永遠にも感じられる数秒が経ち、セツコの瞳から清らかな涙の滴が零れ落ちた。
白皙の肌に輝く軌跡を残した涙は、やがて滴り落ちてシーツにいくつかの小さな染みとなって消えた。
悲しみを題材にした詩を口ずさむのが最も似合うと見える、風に舞い散った花びらのようなセツコの唇は、二回だけ言葉を紡いだ。
たった二回。けれど、千の語句や万の詩よりもはるかに雄弁に、セツコの心を語る言葉を。
一回目、閉じていた瞼を開き、涙に濡れる瞳でシンを見つめながら。
「ずるい」
シンの赤い瞳の中にセツコがいた。セツコの緑の瞳の中にセツコの言葉を黙って聞くシンがいた。
二回目、肩を震わせながら、新たな涙をいくつも零しながら、精一杯の笑顔を浮かべて
「私も愛してる」
セツコは、ようやく目の前の少年を心から愛している自分に気がついた。
おしまい。
なんでこういう話を書いたのか自分にわかりません。う〜む。
てめぇGJすぎるぞこのやろうwwww
あ、あなたは神か!?
き、きわどいのをやってくれるぜ……GJ
もうエロパートに力を入れてエロパロスレに投下し(ry
ともかくGJ!
GJ!
この一言につきるな
GJ(ゴッド・ジョブ)!!
仮初めの平和が破られたとき二人の前に現れたのは瑠璃色のMS、逃れ得ぬ過去の呪縛を断ち切れ、バルゴラ! ってな展開もよし
しかしこのまま二人で、手探りながらも少しづつ幸せな家庭を築いていこう…ってだけでもまた十分よしでござる!!
77 :
通常の名無しさんの3倍:2008/10/20(月) 23:45:24 ID:0qS216pe
Z最終話、多次元世界修復時の影響で種死第一話に飛ばされたZのシンを妄想した。
堕天翅やゼラバイアを一撃で葬るシンがアーモリーワンでガンダム強奪を華麗に阻止し
ユニウスセブンをケルベロスで光にするんですね
GJとしか言いようがない!
Z再構成するとしたら、とりあえずエウレカはリストラ候補ナンバー1だな……
セツコルートでもランドルートでもゲッコーステイトのDQNどもがとにかくウザすぎる
まさかこの世にラクシズ以上に腹立つ集団が存在していようとは
かなりマイルドにされたZでそれならエウレカ原作見たら血管切れて墳血しそうだなw
まあ、実際問題としてアニメ版では凄まじくDQNの集団だったし。
ホランドなんかマジDQN。
漫画版を見て(きれいな月光ステートに)驚いた覚えがある。
逆に物凄く原作が見たくなったのはゴッドシグマだな
闘志也達が好漢すぎて癒されたわ
ガロード・ゲイナー・レントンの遠未来世界ベタ惚れ組は和むんだがなぁ。
同士討ちと和解をもう少しまともにするかサクッと削除してしまえば……。
ラクシズと最終的に和解して議長を黒幕にしなけりゃならないから、終盤になると無理が出てくる
凸の脱走とかあまりに突然すぎて吹いたわw
キラ落としたのを乗り切った時は「もしか脱走しないのか?」と本気で思ったってのに
Zは本格的なラクシズ潰しを期待してたのに仲間になってかなりガクッと来た。
次に種死が参戦する時はラクシズ潰しの出来る作品にして欲しいよ。
>>78 サイボーグに詳しい大富豪がいないのでステラ救助の目処が立たず、議長を止めようにも共に戦う仲間がおらず、AA組は電波を飛ばしまくる世界でシン一人孤軍奮闘という、原作以上に過酷な運命が待っているような……
Z再構成
オーガス→話の根幹になるので変更無理
Z出演ガンダム作品はそのまま
その他版権を、他のガンダム作品とOGに置き換える。
とてつもなくカオスになりそうだ。
オーガスくらいは見ておくか…と思ったらレンタル無えー!
おまけに尼でDVDBOX75000円という暴力的な値段にビビった
日曜のまっ昼間からとんでもない始まり方をしたオーガス
オーガスの原作は知らないが、Zやる限り時空震動弾だけ連合の新兵器として出して、
桂の代わりにセツコかシンあたりを特異点にすれば問題無く再構成できるのでは
でもって次元破壊したら様々なクロスオーバー作品が入り乱れるんですね
ライバルというか敵役にはウィンダムに乗って特殊部隊の隊長やってたツィーネをそのまま使えそうだね
Z再構成じゃない(全く新規の世界観の)セツコ主役、種死参戦ってのはダメ?
(いや、自分じゃ書かないし書けないけど)
逆に考えて見た。
種死最終回のシンがZ第二話に飛ばされるとか。
未来を変えてやると意気込んでたら妙な三人組が飛ばされて来たのを皮切りに、
次々と異世界からの異邦人がやってきたり、
異星人が襲来したりで自分のいた世界でない事に気付くも既に遅し。
トドメとばかりにブレイクザワールドで世界が融合してしまって予備知識の多くが役に立たなくなって涙目に。
だが自由撃墜やデストロイ戦などは本筋を外してなかったり、
気にかけてくれる年上のパイロットや、似た境遇の年上のお姉さん、同年代の気が合うガンダム乗りとの邂逅したりで、
ステラを殺されなかったり、オーブでジブリールを捉えたりとZ本編とも種死本編とも違う道行を行きつつ、
頑なな心を解されてゆく訳ですよ。
……まぁコニールが来ると思ったらヤッサバ隊長が来て涙目なシンを想像したからなんだが。
覇王が誠を横から殴りつけてブッ殺して、自身がラスボス化したら神だったのだが
つまりラクスの本当の親は沢越止
Zでキラはフリーダム王子やらキラキラコンビなんていじってもらえるだけマシだよな
覇王なんてディアナ様に擦り寄ろうと必死だったが他からは相変わらずほぼスルーwwwwww
Zのレイは声が低すぎる
アレじゃあホントにモモタロスだw
>>99 Zのキラはマシューとキラケンに足向けて寝られないなw
ラクスよりミーアの方が、目立っていたな。
ゴッドシグマ勢はマジでよかったな
栗は…もといジュリィの声が変だったのはともかくとして
ゴッドΣつながりでサンドマンが研究資金を肩代わりとか吹かざるを得ないだろうjk
>>102 だってミーアは平和の歌姫だし。
戦争大好きなピンクの魔帝と違って。
ミーアの歌は戦士達に立場を越えて力無き人々の命を守る思いを呼び起こした。
一方覇王はキラと共に敵陣に突っ込みミーティア無双した。
今回はラクスもかっこよかったけどな。
御大将やフロスト兄弟相手に取った女帝的な台詞は良い。
平和の歌姫では無く戦争指導者であることも自認してるし。
あと中盤までキラやマリューはウザく見えるのだが、同じAA組でも
ラクスと虎はそんなイライラさせられるような描写も無い。
良く意味で空気だった。
ラクスの改変は中々良かったと思ったけどなぁ。
戦いを呼ぶ歌姫であるラクスが平和の歌姫であるミーアを守るっていう構図は秀逸だった。
>>107 でもあれ月のナノマシン技術で治療できなかったのかなミーア
そんな事よりセツコとシンでエウレカセブン的な話を(ry
グローリースターをミネルバ隊に所属させるのはどうだろう
バルゴラは新機軸のMSでデータ集めのために色んなMSが搭載予定のミネルバがちょうどいいと
テロリストの分際でディアナに尻尾振って後ろ盾を得ようとするラクシズの腐った考えが
髭好きには不愉快極まりなかった
ここまで全く話題に上らないビーターサービス
こっちはアストレイ連中やヴァルストークファミリーと相性良さげだな
113 :
通常の名無しさんの3倍:2008/10/22(水) 09:38:33 ID:1yTQy+Ti
気持ちはわからんでもないが、それが少なくとも、
原作よりもマトモな精神を持っている
と言う事を示す事柄であるのがまたニントモカントモ……。
>>113 ラクシズが狂人揃いでも一向に構わないんだが、原作ではあの連中が絶対正義として描かれているのが不愉快になる。
戦争に善も悪も無いのは1stガンダムの頃から当たり前なのに、負債はそんな単純な事すらもわかっていないんだよな……。
あの同人ホモババアが「ガンダム」を作ろうだなんて考えるはずがないよ
今思えばカイメラ隊って、ラクシズのカリカチュア的側面があったような気がする
キラ「歌姫の騎士団にはレクイエム以上の切り札がある!
それは僕のラクスに対する忠誠心だッ!!」
凸「ああ…!キラ!キラ!!」
ラクス「自由、正義、運命……どれもみーんな私のものですわ」
違和感ねぇwwwwwwwwww
そして背後でマルキオがアイラビューと言ってラクスを操ってる訳ですね、わかります。
もう
>>110をやる際には、敵役はカイメラ化したラクシズでいいなw
>>95 再構成というか、Zの世界観は円環になってるから、参戦作品が違ってたり、
同じ参戦作品でも別の世界のキャラだったりする可能性も存在するんだよな
スパロボZで一番不遇だったキャラはディアッカのような気がする。
イザークと同じ部隊なのに仲間にならないなんて不遇すぎる。
>>114 設定上は善悪無くても、絶対に都合の良い悪役は存在するのが
ガンダムの歴史。
変なのが書けましたその2。月曜あたりに書いたシン×セツコものです。
前と同じくらいの分量で、22時ごろ投下します。なおエロは一切なしザマス。
投下です。前回と比べて明るめの話です。正直調子に乗りすぎたかもしれません。
――2
鮮やかなまでの青い空に、時折浮かぶ白い雲。燦々と降りしきる太陽の光にじりじりと肌を焼かれながら、シンは時折体を撫でて行く風の心地よさに口元を綻ばせた。
場所は地球。暦は初秋を迎えつつあった。吹きゆく風は夏の活力から秋の物静けさへと、伝えるモノを変えていた。
とある辺境のコロニーでデブリスイーパーの職を得たシンであったが、運悪くプラントの治安当局と反ラクス・クライン派の地下組織の抗争が勃発し、コロニーの建造作業とデブリの除去作業が無期限の中断となった。
その影響でようやく得た仕事仲間達も解散し、また新たな職を探す羽目になった。今は、とある修理屋の世話になり、かつての大戦で廃墟が大量に増えた地球で仕事に精を出している。
今もデブリスイーパーの職と軍に在籍していた頃に、まったく手を着けていなかった給料をはたいて購入したワークスジンで瓦礫の除去作業に勤しんでいた。集めた瓦礫を一か所に集め、一休みするかとワークスジンに膝を着かせる。
もとから開け放っていたコックピットから降り、ワークスジンの作る日陰に腰をおろしてぼんやり空を見上げた。
そういえば、ここはガルナハンに近い。コニールは元気にしているだろうか?
まだ、餓鬼の様に力を求め、力さえあれば守りたいもの全てを守れるのだと思っていた頃に出会ったが、レジスタンスの少女を思い描いた。
地球連合の過剰なまでの支配に反し、多くの犠牲を出しながらもシン達ミネルバ隊の助力もあって自由を取り戻したガルナハンの人々。
当時の自分は手に入れた力で、理不尽に苦しめられていた人々を、弱者を助ける事が出来たと無邪気に喜んだ。
だが後になってガルナハンの人々が地球連合の兵士達を見境なく私刑に掛け、現地との関係も深かったザフトの部隊が来るまでに死体の山を作ったという話を耳にした。
その時は、連合の兵士達がそうされるだけの事をしたのだから当然だと思ったが、本当は自分が守ろうとした弱者が立場を変えれば、残酷なまでに無慈悲な強者へ変わる現実を認められなかったのだと思う。
自分にされた仕打ちを、理不尽な暴力を、怒りを、憎悪を決して忘れず、それを与えたものに同等以上の苦痛を与える事を望む、人間のどうしようもない本質を目の当たりにされたことから目を背けたかったのだ。
今はオーブを中心とした勢力が地球を席巻する昨今、ガルナハンの人々ははたしてどうしているのだろう。日に焼けた褐色のコニールの顔が、ぼんやりと頭に浮かんでは離れなかった。
「…………」
『シン君』
「ん」
道端に咲いた一輪の花をぼんやりと見つめていたシンは、腰のベルトに吊るした通信機から聞こえてきた声に注意を向けた。今のシンにとって、誰よりも大切でいつまでも笑顔を浮かべていてほしい女性の声だったからだ。
『そろそろお夕飯にしよう。ランドさん達と待っているから、早く来てね』
「分かった。すぐ行くよ」
よっこらしょっと腰を上げ、再びワークスジンのコックピットへラダーに足をかけて戻り始める。
世界中に刻まれた戦争の爪痕はいまも鮮明に、そして深く残されている。シンは、今はそれを修理する道を選んでいた。
ドン、と樫の分厚いテーブルに、良く冷えたビールのジョッキが荒々しく置かれた。水滴がいくつも滴るジョッキは、仕事終りの人々にとっては伴侶にも等しい存在だろう。
「ぷはあっ、やっぱり仕事の後のビールは最高だな!」
四人掛けの丸テーブルに腰かけたシンの左隣の大男が、これ以上の至福はないとばかりの笑顔で言う。口元にはビールの泡でできた即席の髭ができていた。
170センチ前後のシンに比べ頭一つか二つは大きい。タンクトップからにょきっと生えた両腕は、魔法瓶みたいに太く筋肉の瘤を纏っている。太い首に太い腕、分厚い胸板と体つきは野性味に溢れているが、どこか人懐っこい、親しみを感じさせる顔。
毛先が黄色に染まる赤髪の三十前後の男だ。さんざん太陽に焼かれてきたのか、隆々とした体は褐色の色に染まっている。タンクトップを押し上げる分厚い胸板も、ジョッキを握る指も腕も太く、シンの倍くらいありそうにみえる。
シンが世話になっている修理屋ビーターサービスを経営するランド・トラビスだ。
ランドの隣には、シンの胸くらいまでの背丈しかない小柄な少女がいる。短めのピンク色の髪に、くりくりとよく動く快活そうな大粒の瞳。小粒にまとまった鼻や唇は、若いを超えて幼い造作ながら、内から溢れる活力で眩く輝いている。
ランドの自称婚約者メール・ビーターだ。外見からすると十二、三歳にしか見えないが実際は十六歳と花も恥じらう乙女の年で、シンが戦場に出た時と同じ年齢だ。ビーターサービスでは営業兼経理に加え、社長代行も務める。
「もう、耳元で大声を出さないでよ!」
ジョッキを叩きつける様にテーブルに置いた音と、その後の大声にメールが柔らかそうな頬をリンゴみたいに真っ赤に膨らまして抗議するが、当のランドは気にした様子も無く、悪い悪いと呟いて、軽くあしらっていた。
「ふふっ」
儚さと慎ましさが形になったように薄い唇に指を当てて、控えめな笑いを零したのは、シンの右隣に座る女性だ。
年は二十歳前後。光の当たり加減で茶の色を淡く帯びる黒髪に、不世出の名職人が、腕の限りを振るって翡翠の塊から削りだした様に美しい、緑色の瞳。
ビーターサービスのロゴが入った野暮ったい実用性一辺倒のツナギを着ているが、ふっくらとツナギの生地を押し上げる胸の二つのふくらみや、まろやかな尻肉の曲線、何より風に楚々と揺れる一輪の花の様に儚げな白い美貌が目を惹く。
シンと夢破れた敗残者という同じ共通点から、ただ馴れ合う様に傷を舐め合う日々を過ごしていただけだった筈の女性。
でも今は、シンにとって世界のすべてを輝かせる、世界で一番大切で愛しい女性セツコ・オハラだ。
二人で費用を出していたアパートを引き払い、ザフトと反ラクス派のレジスタンス達の抗争に襲われた辺境コロニーを逃げる様に飛び出て、何とか地球行きの便に乗り、宛てもなく途方に暮れていた所をランド達に拾われてから二ヶ月が経っていた。
「ランドさんは、本当に美味しそうにビールを呑みますね」
「セツコとシンは飲まないんだっけな。おれからすれば人生の半分は損してるぜ」
「ランドさんを見ているとそうかもしれないなって思います。昔、私の知り合いにも冷えたビールがとても好きな人がいて、生きていたらランドさんとはいい友達になったと思います」
「そうかい。ま、味の分かる大人ってのはそう簡単になれるもんじゃねえ。シンもまずは酒の味から覚えるこったな」
そういってぐっと左の親指を立ててシンに向けて左手を突き出し、浅黒い肌とは真逆のまっ白いを歯を輝かせた笑みを浮かべ、ランドが右目でウィンクした。
(暑苦しい)
ランドいわくヒートスマイルとかなんとか言う、ビーターサービス特有の笑顔らしい。今までに何度か見て来たものの、いまだにこの暑苦しさには慣れない。
まあ、ランドとメールが、紛れもなく善人である事はこれまでの付き合いから分かってはいるから、今の境遇に不満はない。
「別に、酒の味なんてわからなくても困った事はないから構わないよ」
「そういうな。無事仕事が終わったって事でおれが一杯奢ってやる。久しぶりにまとまった金が入ったしな」
「そうそう。二人がMSの操縦がすごくうまいお陰でダーリンと私だけだった時よりも仕事が捗るし、名指しの依頼も増えたんだから。
これまでは修理屋やジャンク屋というよりも、マフィアだの地上げ業者とかと普通の人の抗争の助っ人に呼ばれる事の方が多かったくらいなんだから。これも全部、ダーリンがザ・ヒートじゃなくってザ・クラッシャーなんて呼ばれてるせいだったんだからね」
「メール〜〜、だからおれはザ・クラッシャーじゃなくてザ・ヒートだって何回も言っているだろう?」
ザ・ヒート、というのはランドが自称する彼の通り名だ。炎のように熱い男、とかそういう意味合いで使っているのだが、同業者や無法者たちの間ではザ・クラッシャーの通り名で知れ渡っている。
ランドの過去にも起因しているらしいが、修理屋としての仕事よりも民間レベルでの抗争や傭兵まがいの仕事の依頼を受けた時の暴れっぷりが凄まじいのが理由らしい。
実際にランドの暴れっぷりを見たシンも、ザ・クラッシャーの方がよほど似合うと思っている。歴戦のエースとして修羅場をくぐったシンの目から見ても、ランドはナチュラルとはとても思えない戦闘能力を披露したのである。
そんなわけで、修理屋稼業の方がいまいち成果の上がらない(実力は一級品なのだが)ビーターサービスも、ザフトのトップエースだったシンと、地球連合のMS実験部隊に携わっていたセツコという、
民間レベルでは最高の操縦技術を持つ二人の入社により、修理屋としての評判も上々になってきている。
これには経理を務めるメールも喜びの声を上げている。今もまだ地球にも宇宙にも修理を必要とする壊された場所は多く、修理屋稼業の需要は後を絶たないのだ。実際に、支払っている二人分の給料を引いてもビーターサービスの収益は黒字の右肩上がり状態だ。
「さあさあ、今日はお仕事ご苦労様! ダーリンも、シンも、セツコさんもい〜〜っぱい食べてね!」
「おおし、食うぞぉ!」
「ほら、セツコもちゃんと食べないとだめだぞ?」
「うん、分かってる。でもランドさんの食べっぷりを見てたら、お腹一杯になっちゃうかも」
「なんふぁいっふぁか(何か言ったか)?」
口いっぱいにこの地方独特の、香辛料をたっぷり使った羊肉のローストを詰め込んだランドが、セツコにそう言った。冬に備えて食糧を蓄えるリスよろしく頬が膨らんでいたが、それを暑苦しい男がやるのを見せられるのはとても愉快とは言えなかった。
「あんたって、そういう所は子供だよな」
しみじみと呟くシンに、ランドはごくりと喉を鳴らして羊の肉を呑みこみ、
「子供の心を忘れない大人はかっこいいだろう?」
とどこか分かった風に、あの暑苦しい笑顔で言った。
翌朝、昼間近までたっぷりと惰眠を貪り、昨日とは別の地区の廃墟の撤去にビーターサービスの面々は向かっていた。
ランドとメールが乗る、ビーターサービスの看板工具ライアット・ジャレンチの他に杭打ち銃や巨大スパナを携帯している複座敷のカスタムレイスタ。
シンは、知り合いのジャンク屋に特別にチューンしてもらったワークスジン。
セツコは馬力を強化し、火砲の代わりにクレーンやレッカー、作業用のドリルを装備したバクゥだ。
以前にユーラシア連邦領内で発生した独立運動の際に、ユーラシア連邦と独立勢力との間で大きな戦闘が起きた場所で、今もあちこちに使い物になる兵器のジャンクや、廃墟となった街並みが続く場所だ。
ここら辺一帯を鎮圧した親オーブ派国家の依頼で、複数のジャンク屋や修理屋が作業に当たっている。
「ん〜〜? なんか見覚えのある片づけ方だな?」
「なんか、実体剣で叩っ切られた跡がいくつも残ってるな」
疑問符を上げるランドにシンも賛同し、近くの廃ビルを斜めに横断して真っ二つにしている斬撃の後を見る。ビームサーベルなどの熱量で焼き切る類の跡ではない。
かといってジンタイプの持つ重さで斬る実体剣でもない。105ダガーやダガーLなどが使用する対艦刀シュベルトゲベール? にしてもこれほど鮮やかな跡が残るかどうか?
シンのワークスジンに、ものっすご〜く嫌そうなセツコの声が聞こえてきた。
「シン君、これってひょっとして」
「……たぶん、そのひょっとしてだとおれも思う」
シンとセツコのその嫌な予感は的中した。視界を遮るビル群の向こうから、盛大な破壊音と共にシンとセツコが会いたくない人物トップ5にノミネートされている男の声が聞こえて来たのである。
「魔王の剣、疾風の如く! アハハハハハ、ハハハハハハ!!!」
あちゃ〜という表情を浮かべるシンとセツコに比べると、メールとランドはそれほどでもなく、ああ、あいつか、という程度で済んでいる。ほどなく、シン達の目の前の十階建てのビルに無数の銀閃が走り、三十メートルを優に超すビルが、瞬く間に解体される。
ビルの倒壊によって発生した夥しい灰塵の向こう側に、両刃の長剣を携えた漆黒の巨人のシルエットが浮かび上がる。
「おや、傷だらけの獅子に悲しみの乙女か。こんな処で出会うとは奇遇だね?」
声の響きだけでも、どこか愁いを帯び美麗な雰囲気を醸し出す若い声。そこにどこか老人の様に疲れ果てた一抹の寂が加われば、どんな女も耳元で囁かれる甘い言葉の誘惑には勝てまい。
シンの赤い血を連想させる瞳と似て非なる、どこか妖しげな光を薄霧の様に纏う鮮血色の瞳。闇の魔性の吐息で編んだような、艶を放つ漆黒の衣装を纏った、ともすれば少年と見間違えそうな、繊細な顔立ちの青年である。
名をアサキム・ドーウィン。セツコやランドらとはそれなりに深い付き合いの男だ。アサキムが搭乗し、シン達の目の前に現れたのは降り注ぐ陽光さえも漆黒の中に飲み込んでしまいそうな、黒い機体だ。
地球連合がアクタイオン・インダストリーに開発させたGAT−Xナンバーのストライクの改修機ストライクノワール。
決して一般人が使えるような機体ではないのだが、アサキムはどういう経緯でかこの機体を入手して使用している。ノワールの右手には、巨大なルビーを練磨して血の色を写し取ったような実剣が握られていた。
先ほどの魔王の剣云々と言われていた、アサキムが特注で鍛造させた剣ディスキャリバーである。こういうセンスは、同業者の間でも失笑と妙な尊敬を集めている。
「やはり僕と君たちはどこにいようとも巡り合う運命。呪いにも似た歓迎すべき縁だね」
「単に仕事が被っただけでしょう」
セツコには珍しく嫌悪を露わにした声だ。以前にも何度かアサキムと仕事が重複した事があったのだが、どうにもアサキムとセツコとシンは相性が悪いのか、アサキムの言動は一々セツコとシンの神経に爪を立てて不愉快さを煽ってくる。
「それと、その悲しみの乙女とか傷だらけの獅子とかいうのはやめてくださいと前にも言った筈です」
「すまないね。君達と初めて会った時からその言葉が脳裏から離れないんだ。これもまたなにかの縁と思ってくれ」
「おれはわりとかっこいいと思うけどな」
「ランドさん!」
「そんな顔で睨むなって」
セツコとは反対にランドやメールはさほどアサキムを嫌っていない、というよりは友人として向かい入れている。時折ランドとアサキムの二人で酒を飲みに出掛けたりもしているらしく、損得勘定を抜きにした付き合いをしているようだ。
「ふっ、あまり怒らない事だね。乙女ともあろうものが好いた男の前で怒りの顔を露わにするなど、相応しい行為ではないだろう」
男を知らぬ清らかである事を肉体的な意味での乙女、誰にも心を奪われた事がないのが精神的な意味での乙女を指すならば、セツコはとっくに心身ともに乙女ではないのだが。
ワークスジンの中のシンは、むすっと下唇を突き出した表情でアサキムに言い返した。
「あんたの顔を見て喜びたい気分にはならないね。おれだってセツコと同じ気分さ」
「なるほど、すでに身も心も一つか。素晴らしいね。甘美な悲鳴を夜毎乙女に挙げさせているんだね」
「アアアア、アサキム!! その口を閉じなさい!」
「そうだ! 毎夜じゃなくて朝でも昼でもおれはOKだ!! むしろ大歓迎だぞ」
「シシシ、シン君!?!?!?」
「うわあ、シンとセツコさん爛れてる……」
「セツコ」
「メールちゃんまで、ひどいです。……うぅ、なんですか、ランドさん?」
羞恥に頬を染め、メールからうわぁ、という目線を向けられたセツコは、くすんと薄く涙を浮かべながら、ランドからの通信を繋げた。
ニッコリと口からのぞいた白い歯が眩く輝き、ぐっと力強く立てた親指を伸ばして片目をウィンクしながらの、あの暑苦しい笑顔でランドはこう言った。
「子作りは計画的にな!」
「……」
味方が誰もいない事を、セツコは悟った。
二週目ランドクリアの勢いで書きました。なんだか、アサキムがセツコルートとはまるで別格の扱いなのが衝撃的でした。そんなわけでこのお話のなかのアサキムは、ただの邪気眼全開の、謎の変態なだけです。
この後シリアス路線で、バルゴラ・デスティニーだかザ・グローリーデスティニー(グロリアス・デスティニー)にシンとセツコが二人で乗り込み、反プラント派レジスタンスの中核戦力となってキラやアスランのクローン軍団と戦う話も考えましたが……。
逆襲のシン・アスカスレじゃん、という内容の為ボツにしました。しかし、セツコは不幸だからこそセツコなのでしょうか。どうにも書いていて違和感が拭えないのも事実。幸せにはなって欲しいんだけれど、かといって涙を流す姿も魅力的なのがいけないのでしょう。
SRWZやりこんでいたためビアンSEEDがすすんでおりませぬ。まだ2割くらいしか書けてないのです。トホホ。それでもなんとか最悪来週中には投下します。絶対に。
>>128 ああもうGJ!GJ!
アサキムがここまで良いキャラに昇華するとは
頼むからエロパロでも書いてくれww
GJっす、総帥
実は俺も34話を書いてたらシンとせっちゃんモノの怪電波を受信してしまい
どっちから先に完成させるか迷い中だったり…
相変わらずのボリュームたっぷりなSSをありがとうございます、GJ!
次回も何か電波が届いたら執筆を!
>>130 両方とも期待して待ってますぜ!
>総帥
最後の最後でアサキムの変態加減に何もかも吹き飛ばされたwwwwwwwwwwww
>11氏
どっちが先でもいいじゃない。筆の赴くままに頑張ってくだされ
実体剣と聞いて最初ロウかと思った次の瞬間、邪気眼で噴いたwww
……あれ、しかしアサキムがチーフたちの仇じゃないなら誰が仇なんだろう。
切り札は忠誠心の野郎か……?
>>128 アサキム良いよアサキム
セツコもシンも幸せそうで良い!
>>130 楽しみに待ってます!
このアサキム、ロウ辺りと仲が良さそうだなwwww
おお、ビーターサービス組との意外な組み合わせもGJ!
むしろ射撃&管制担当の一号機がセツコ、二号機の鎌&ドス担当をシンにして、
三号機はガナリー・カーバー無い代わりにジャレンチ装備のクラッs…もとい、修理屋仕様とかどうだろう
137 :
通常の名無しさんの3倍:2008/10/23(木) 22:30:52 ID:KheohdnV
>11氏
いっそのこと、二つを混ぜてしまうというのはどうでしょう。
OG外伝編で、シンをOG世界セツコと出会わせて、ラミアを含めて三角関係にするとか。
私的には無理矢理混ぜるとかは勘弁して欲しいな。
Z終了後のシンがニルファの世界に行って、シャアを倒す とか考えてみた。
カミーユの性格の違いに驚くシンとか出来そうだ。
>>137 なんというトライアングラーw
ぜひ主題歌は出番皆無なルナにwww
ちょっと気付いてしまったんだが、このスレでセツコの出番のある場合、
殆どCEにセツコがいたらって感じになってる。
って事は、あの連合のピンクの制服着てたって事だよな。
>>141 環境保護団体の私兵とかじゃなく制式任官した少尉ならナタルと同じ白いの着てるんで無い?
>>142 そうなのか。正直、あの白いのとステラとかミュージィの着てた制服どっち着るかの
基準が判らんから俺はあっちで妄想してた。種前期の准将とスウェンは同じだったし。
ゲーム本編終了後のZ主人公や、スクランブルコマンダー2の主人公が、
種死の世界に来たら、ザフトに着きそうにないな。
そりゃ地球を守るにはザフトは邪魔だし、普通に
しかし種死では地球の住民に迷惑かけてるのはザフトじゃなくて連合ブルコス派なんだが
いや、地球に迷惑かけてるのは過激派コーディ。議長とロゴス派ブルコスはそれに乗じたに過ぎん
最もベルリン戦を初めとしたデストロイ投入戦は、都市に向けたというよりザフト陸上艦隊に向けられたもの
ぶっちゃけ市民に向けた一方的な虐殺じゃないよ。
それに地球連合といっても統一した軍隊じゃないし、ベルリンやガルナハンはユーラシア連邦の内乱にザフトが介入して拡大したってのが本当
だからザフトは連合や、あるいはどちらにも属さない地域への空爆なんてのもやってる
あれ(スクコマ2)に主人公なんていたのか?
>>147 ジブリが見せしめだとか言ってたような
どう見ても一方的な虐殺にしか見えません
敢えて言おう。流れを切ってごめんなさい。空気を読まなくてごめんなさい。セツコ×シンの最初のやつのセツコsideです。
――1.セツコside
ぱらぱらと、円筒の内部の世界に作り出された人造の空から、絶えまなく降り注ぐ雨音が、優しい子守唄の様に遠く遠く、海の彼方から聞こえてくる様だった。
今は思い出す事も出来ない母が、とても自分に子守唄を聞かせてくれた事があったのかさえも分からないが、ひどく優しい気持ちになって、眼を覚ました。
行為を終えた後に、少年が濡らしたタオルで丁寧に体を拭ってくれたから、お互いの体から溢れた滴にまみれ、それの乾いた不快な感触はない。
少年が自分の体を清めてくれている間の時間は、女性のお気に入りの時間の一つだった。
うっすらと暗闇からほの暗い世界へと瞳を開き、見開いた視線の先に黒髪の少年の寝顔がある事に、かすかな喜びを覚える。我知らず、陽炎のように儚い笑みが彼女の口元に来訪を告げた。
締めきったカーテンから水の様に沁み入ってくる光はどこか闇の面影を残し、人類が虚空に建造したこの人工の大地『コロニー』の内部時刻が、まだ夜明けを迎える前だと理解する。
二十歳にならぬ男女二人が暮らしているにはあまりにも殺風景な、と万人が悲嘆に暮れる様な部屋の壁に掛けられた時計も、まだ眠り姫の魔法が解けるには早すぎると告げている。
傍らで寝入っている少年を起こさぬようにと気を使いながら、少しだけ上半身を乗り出して、少年の寝顔を覗きこんだ。真白いシーツから、冬の最中に降り積もった雪も恥じらうような肌が露わになった。
染み一つなく、薄暗い部屋の中ではほんのりと輝いているとさえ見える雪肌に、黒い糸が一本二本と数を増やしながら流れた。
黒。拒絶を告げる黒。絶望を孕む黒。恐怖を囁く黒。
けれど、その女性の黒は違う。夜に訪れて命ある者達に一時の安らぎを無償の愛で与える安らぎの黒。
染めてしまう事、傷つけてしまう事を誰もが恐れてしまいそうな位に儚い白い肌。
照りつける陽光さえも己の意味を忘れ、安らぎの眠りについてしまいそうな黒い髪。
穏やかな微笑を浮かべる唇は、淡くその存在を主張する程度に桜の花びらの色を帯び、頬との境界線を描いている。
紡がれる言葉は、これからの未来が輝いているであろう子供達やまさに人生を謳歌している少年少女から、苦しみも悲しみも喜びも楽しい事も全て味わい尽くし、涸れ尽くした老人さえも悲哀の涙にくれさせる悲劇の歌こそが相応しいだろう。
夜空に流れる流星の様に形よく弧を描く鼻梁と、手を加えるまでもなく整った柳眉はさながら、不世出の芸術家の入魂の一筆のよう。
瞳の翠は青く輝く地球という名の星に眠る翡翠の鉱脈の、最も美しく、最も長く時を重ねた一塊から削りだせばかろうじて再現し得よう。
だが、その瞳に陽に落とされた影の様に張り付いている悲しみの衣を纏わせる事は、神に愛された者がどれだけ魂を込めて腕をふるっても不可能だ。
見つめられた者が、不意に、一番隣にいて欲しい誰かを失ってしまうような悲しみを覚えてしまう瞳は、けれど、紛れもない慈しみに彩られて少年の寝顔を映している。
いつまでもいつまでも、その寝顔だけを見つめ続ける事が出来るのなら、どんなにいいだろう。そうする事が不可能だとわかってはいても、そう願わずにはいられないのだと、やはり瞳が語っている。
一糸もまとわぬ裸身を唯一あらゆるものの目から隠すシーツから、そっと右腕を伸ばし、おそるおそる少年の髪に触れる。起きてもちっとも整えないせいで、治らない寝癖であちらこちらに跳ねている髪の内のひと房に、そっと指先で触れる。
まるで自分が触れる事で、少年がこの世から消えて無くなってしまうと恐れているように、そっと。そっと。そっと。
いつも乱暴に洗うだけの少年の黒髪を、赤子の頬を撫でる慈母の様に優しく女性は撫で続けた。少しだけ体を乗り出し、大きな白桃を思わせる乳房をシーツから零しながら、少年の頭に手を触れさせる。
今度は罅だらけのガラス細工を触れる様に、壊してはならないように、傷つけてはいけないように、本当にかすかに、指先だけ触れるような手つきで少年の髪に触れ、頭を撫でる。
この世の誰よりも愛おしい人を慈しむ恋人の光景以外の何物でもないのに、今こうしている事が幸せな夢の中だと理解しているような、どこか物悲しい、見る者が目を逸らさずにはいられない『何か』があった。
女性の過去がそうさせていると言うならば、それは背負わされた誰もがその場に蹲って耳を塞いで目を閉じて、その口からはこの世の終わりを望む呪詛が絶え間なく零れるような救いの無い過去であるだろう。
女性はだからこそ、こうして安らぎに浸れる今の自分を信じられずにいた。
瞼を閉じれば否応にも蘇る過去の煉獄の光景に、眠れぬ日々を過ごす事も無い。
昼日中にも聞こえてくる仲間達の最後の声に、心が悲鳴を挙げる事も無い。
信頼を裏切られた現実を認めようとしない感情と、現実を見ろと告げる理性の狭間でもがき苦しみ事も無い。
そんな日々が続いていた。いや、それどころか――こうして、安らいだ気持ちにさえなっている。女性にはその事実こそが信じられずにいた。
真正面から女性が少年の寝顔を覗きこむ姿勢になり、女性の髪がはらりはらりと、どこか舞落ちる花びらに似て、少年の顔に触れた。
シーツから思い切りよくくびれた蜂腰から上半身を乗り出したせいで、少年の裸の胸板の上で、女性の豊かな乳房が軽く卑猥な形に潰れた。二人の肉と肌との間に埋もれた肉粒がかすかに快楽の電気信号を促したが、女性はそれを無視して少年の寝顔を見つめる。
触れれば消えてしまうと言われながら、それでも触れられずにはいられないのだと、震える指先が、今度は少年の額に触れた。
時が来れば魔法が解けると知りながら、王子とのダンスに我を忘れてしまったシンデレラがおとぎの世界にいたならば、今の女性の心を誰よりも理解しただろう。
額に触れた指が動く。決して離れず、今度は指を離してしまったら少年が消えてしまうとでもいう風に。
眉をなぞり閉じた瞼に触れ、鼻をかすめ頬を撫で、少年の唇で止まる。
何度も自分の肌に触れた唇。何度も吸いついた唇。何度も離れていった唇。
女性の肌に残るかすかに赤い無数の痕は少年の唇が昨夜――といってもほんの数時間前に残していった交わりの証だった。
うなじにも首筋にも、胸にも二の腕にも尻にも、それこそ隠すべき乙女の秘所の間近にも、少年の唇が残した刻印は、数限りなく女性の体に刻まれていた。
それと同じ数だけ、女性もまた少年に自分の唇を与えて、お互いに自分達と言う存在の証を相手に刻むように唇を交わし合った。
唇で止まった指先にかすかな吐息当たり、覆いかぶさった胸板から乳房越しに伝わる少年の心臓の鼓動とぬくもりと合わさって、少年の命の息吹を感じる。
生きている。自分と同じような悲しみと苦しみを背負い、忘却する事を誰よりも自分が許さぬ過去に心が血反吐を吐いていても、少年の命はいま、ここにある。
それを女性は自分の肉体を通じて感じていた。体で感じ、それを心が理解する。
生きている。少年も、そして自分も。
伝わるぬくもりは冷え切った心を温めてくれる。確かにそこにあるという物理的な感触が、麻痺した感性に新しい刺激を与えてくれる。言葉を交わし、意思を伝え合う事の出来る存在がいるという事実は、孤独の泥濘に塗れた魂を救ってくれる。
人間がどうして肉体と言う殻に閉じこもったままなのか、その理由の一つを、女性は少年の与えてくれるモノから理解した。
今日みたいに降りしきる雨の日、生きる意味も目的もなく、このまま悲しみも苦しみも、何もかも、それこそ自分の命さえも雨が洗い流してくれたらどんなにいいだろう。
もし、天国か地獄があったならそこに行けるといい。どちらに行けるかはわからないが、仲間達の所へは、ここよりも近い場所に違いないから。
そんな思いばかりに囚われて佇んでいたあの日。
差し出される傘。ためらいがちに、それでも意を決して掛けられた言葉。
――行くとこ、ないんだろ?
そうだ、自分にはない。帰る所も、行くところも。帰りたい場所も、行きたい場所も。どうして自分がその問いに答えたのか、今はほんの少しだけ分かる。
少年が自分の瞳に見た、心に空いたがらんどうの穴を、女性もまた少年の瞳に見ていた。少年は言った。
『行くとこ』と。それは帰る場所がないという事を、誰よりも自分自身で理解しているから出てきた言葉。
帰る所はない。何を求める事もなく自分を暖かく迎え入れてくれる場所はない。人たちもいない。この世界に、居場所なんてない。
だから、新しい場所を求めてどこかへ行くしかない。でも、どこへ行けばいい? なにもかもを無くしてしまって、歩く事も立っている事も、息をするのも生きている事さえも辛いのに。
帰る事は出来ない。どこかへ行く事も出来ない。自分がこの世界で生きているという確かな実感を得る事が出来ない宙ぶらりんな『現実』。
何の為に生きている? どうして生きている? いや、そもそも、今の自分は『生きている』と言えるのか? ただ呼吸をして食事をしているだけの肉の塊だ。それは、死んでいるのとどれだけの違いがある?
女性の頭の上に傘を差し出し、自分の体半分を濡らしながら、少年は言葉を続けた。
――だったら、家へ来いよ?
――…………
――えっと、熱いシャワーと着替えとタオルと、砂糖たっぷりのホットミルク位ならあるからさ。
その時、心のどこかで浮かべたものを、今は微笑だと思う。一人で雨の中で傘もささずに立ち呆けている女を部屋に誘うには、あまりにも幼稚な言葉だと、色恋に疎い女性にも思えたからだ。
そんな風に思う事自体、久しく忘れていた事に気付くのはずいぶん後のことだった。
――変わった人ね。
――お互い様だよ。それに、家に帰っても誰も待っている人がいないんだ。
――そう。……私もよ。似た者同士、なのかしら?
似た者同士。それが本当にホントの最初のきっかけ。どこにも居場所がなくて、誰も待っている人たちがいない者同士。これほど傷を舐め合うのに似合いの二人がいるだろうか。
諦めと疲れ以外の何も感じる事の無くなった心のどこかで、仮初で得られる安らぎを餓鬼の様に求める自分の声を、女性は地平線の彼方から届いた風の様に聞いていた。
その日から、少年――シン・アスカと女性――セツコ・オハラの運命は交差した。
シンと出会ってからある日、職場の同僚たちに笑う事が増えたと言われた。それまでは必要最低限の言葉しか交わさず、根気よく続けられる誘いも断り続けるセツコに、どこか遠慮がちに同僚は告げた。
笑っている? 自分が?
何よりもその事実が、セツコの胸を驚きで満たした。これまで何度鏡を見ても、そこに自分の笑顔が映った事など無かった。もうこれから先笑みを浮かべる事一生ないと諦めていた。
その自分が、笑っている……。
呆然とするセツコを、職場の同僚たちは心配げに見つめ、やがてほんの少しだけ好奇心を交えた質問をしてきた。
“何かいい事でもあったのか?”
いい事……ひとつだけ心当たりがあった。けど、それは、と自分でも理解できない戸惑いに揺れるセツコの心に描かれるのは……
降りしきる雨から守る様に差し出される傘。躊躇いの領地から一歩を踏み出し、孤独の虚無へと差しのべられた手。一人ではないと、嵐の最中に差し込んだ陽光の様に輝いていた言葉。
――だったら、家へ来いよ?
行く所が無かった。帰る場所が無かった。
――お互い様だよ。それに、家に帰っても誰も待っている人がいないんだ。
待っていてくれる人がいなかった。帰りを待っていてあげたい人がいなかった。
なのに。それはもう絶対に変わらないはずだったのに。なのに、今は、自分には。
――お帰り、セツコさん。夕飯作っといたんだ。一緒に食べようぜ
――ただいま。なんだ、待ってたのか、先に寝てて良かったのに。でも、ありがとう。待っていてくれて。
――おはよう。今日は同じ所で仕事だな。昼とか一緒にどうだい?
――その、セ、セツコ。これからは、セツコって呼んでもいいかな? おれの事もシンでいいからさ。え? シン君のままでいい? あ、あぁ、そっか。じゃあおれも……
見る見るうちに肩を落とすシンに、セツコでいいと告げる自分。たちまち顔を輝かせて隠しきれない喜びに綻ぶシンの笑顔。その笑顔を見て、胸の暖かくなる自分。
きっとその時、自分も笑顔を浮かべていたに違いない。シンの浮かべる笑顔が嬉しくて。その笑顔が自分に向けられているのが嬉しくて。シンにセツコと呼ばれるのが嬉しくて。
そっか。気付いた。今の自分には帰る場所も帰りを待っていてくれる人もいる。世界に居場所がある。
それを与えてくれて、きっと自分もそれを与える事が出来て、自分は、今“生きている”のだとセツコはようやく気付いた。
押し黙るセツコを心配そうに見つめる同僚たちに気付いて慌てて溢れそうになった涙を手の甲で拭う。
シンだけじゃない。今目の前にいる同僚たちだって、こんな自分の事を気に掛けてくれいるじゃないか。
色を取り戻した世界。ノイズ以外の音が蘇った世界。暖かさが戻ってきた世界。
セツコは、世界が光り輝いている事に、ようやく気付いた。セツコは、ずいぶんと久し振りに、心からの笑顔を浮かべた。笑顔というものを忘れて久しかった顔の筋肉は、なんとかうまく機能してくれた。
初めて見るセツコの笑顔に身惚れなる同僚たちの前で、セツコは少しだけ恥ずかしそうに、けれどもどこまでも誇らしげにこういった。
「とても、とても幸せな事があったんです」
セツコの同僚達は口を揃えて、セツコにあの笑顔を浮かばせたことが、つまらない自分達の人生の一番の誇りだと、家族や友人たちに語ったという。その時セツコが浮かべたのは、そんな笑顔だった。
「ねえ、シン君」
ぽて、と軽い音を立ててシンと共用している枕に顔を埋め、セツコは聞こえていないとわかった上で、シンの横顔に語りかける。
語りかけるセツコの口元に浮かぶ微笑み。見た者の誰もが、その日一日を暖かな気持ちで過ごせる、そんな微笑み。
「私が、こうしてちゃんと生きているって実感できるのも、こうやって笑えるのもシン君のお陰。あの日、私に声をかけてくれて、手を差し伸べてくれて、本当にありがとう」
聞こえてないか、と口の中で呟いてセツコは優しく肩に手をかけて来たまどろみに身をゆだねた。
とても、とても幸せな夢を見ていた。目覚めた今でも内容は忘却の霧の彼方に置いてきてしまっても、それだけは確かに覚えている、そんな夢。
夢から目覚めた切っ掛けは、傍らで眠っていたはずのシンから注がれる視線。短い時間の睡眠が重しの様に思考に絡まって、セツコは眼を瞬かせる。
「シン君?」
首を傾げた拍子に零れた黒髪が、肩を伝ってさらさらと胸の谷間へと流れて行くのを感じた。シンは気付いているだろうか。シンの指が梳いてくれる時の為に、自分が髪の手入れを彼の見ていない所で欠かさずにいるのを。
シンはまっすぐにセツコを見つめていた。いつもと違うシンの様子に、セツコの胸の中にある期待と恐怖が等しく暗雲の如く立ち込める。
まさか? いや、でも? どうか、どうかその言葉だけは口にしないで。それが言葉になってしまったら、それを伝えられてしまったら、今のままではいられなくなる。
どこかあやふやな傷ついた者達同士だからこそ一緒にいられるこの生活が、変わってしまう。シンとの生活で得られるぬくもりが、優しさが、自分の心をひどく臆病にしている事に、セツコは気付いていた。
そんな事、心配しなくてもいいんだという自分。でも、ようやく、ようやく見つけたの。私がいてもいいって、生きていてもいいんだって、言ってくれる人。教えてくれる人を。
その関係が、変わってしまったら。シンを失うような事になってしまったら、また、一人になってしまったら!
ソノ時、自分ハ耐エラレルハズガ無イ。
今度こそ本当に狂ってしまう。悲しみに押し潰されて、苦しみに血の最後の一滴までも涙と共に流し尽して。絶望に何もかもを踏みにじられて、そのまま死んでしまうだろう。
死ぬ事よりも失う事の恐怖が、セツコの心を支配していた。
でも、シンの言葉は止まらない。彼も知っている。失う事の恐怖を。残された者が味わうとてつもない苦痛を。でも、それでも彼は伝えた。恐怖にも苦痛にも勝るものをセツコに与えられると信じていたから。
「愛してる」
短い、たった数秒にも満たぬ言葉。それが、セツコの心臓を一瞬止めた。どくんどくんと自分の体の中から音が聞こえる。再び心臓が全身に血を送り始めていた。それは、止まる前よりもずっと熱い熱を帯びていた。
――どうしてかな。
それまで感じていた恐怖が、嘘の様に消えている。
――どうしてかな。どうして私が一番欲しい言葉を、君は言ってくれるんだろう。
胸が暖かい。心が暖かい。頬を伝うものを抑える事が出来ない。
――どうして、君は私をこんなに幸せにしてくれるのかな。
「ずるい」
伝えたい。シンが自分に与えてくれるように、自分もシンに与える事が出来るのだと。与えあい、支えあい、伝えあって、ずっとずっと、一緒にいたいんだって事を。この胸の中に無限に溢れる子の気持ちを伝えたい。
こぼれる涙をそのままに、セツコは精一杯笑った。一番大切な人には、一番きれいな笑顔を見て欲しい。一番大切な人には、一番可愛い笑顔を見て欲しい、一番大切な人には、一番幸せな笑顔を見て欲しい。
こんな風に笑えるのは、君のおかげなんだよ、そう伝えたくて。
ねえ、私、うまく笑えてるかな?
「私も愛してる」
シンの瞳の中の自分がちゃんと笑えているかどうか、セツコには分からなかった。涙が溢れた瞳には、シンの浮かべる表情も見えていなかった。
ねえ、止まって、私の涙。彼の顔が見たいの。
そう願うセツコの心に反して、涙は止まらない。なんとか涙を止めようとした時、そっと、頬に触れるものがあった。
例えこの目が光を失って、決して間違える事は無い。それは、シンの唇。何度も何度も触れて、触れられた唇。
それが頬を伝い零れ落ちる涙を吸い取った。今度は反対側も。セツコはシンにされるがまま、静かに涙が途切れるのを待った。シンの唇が離れる。
セツコは、また笑顔を浮かべようと努力した。伸ばした指先が、離れようとしていたシンの唇に触れて、シンが止まる。
「いっぱい、いっぱいキスしたね。けど、まだ、ここでだけしてなかったね。おかしいね。一番キスする所なのに。どうしてかな?」
「今、するためじゃないかな?」
シンの言葉に、セツコはこれまでで一番きれいで、可愛くて、幸せな笑みを浮かべて、うん、と小さく頷いた。淡く淡く映し出される二人の影。それは重なり合い、融け合い、やがて二人の唇を結び合わせる。
シンの唇にはまだ涙の滴が残っていた。セツコが流した喜びの涙。愛の涙。それが、二人の初めてのキスの味になった。
とても、とても幸せな夢を見ていた。目覚めた今でも内容は忘却の霧の彼方に置いてきてしまっても、それだけは確かに覚えている、そんな夢。
でも、今はその夢の内容を覚えている。もうどんな事があっても色褪せない夢。決して忘れない夢。夢の中でシンとセツコが笑い合っている。
どこにでもいる当たり前の恋人の様にじゃれあって、時々ケンカをして、仲直りをしてずっとずっと、年を重ねても二人で一緒にいる夢。
でも、その夢はあまり長くは続かなかった。夢は醒めるから夢。幸せな夢も暗黒の悪夢も、目覚めれば終わる。そんなもの嘘だというようにあっという間に消えてしまう夢。
だから、この夢も、長くは続かなかった。
夢の中の二人が、そう遠くない将来三人に増えたからだ。三人に増えた夢の中で、今より少し大人になったシンとセツコと、二人に手を繋がれた幼い子供は世界中の誰よりも幸せな笑顔を浮かべていた。
おしマイケル!
こんなの私じゃないよ。電波のせいだよ……。エロパロには神が御光臨あそばしているので書くことはないかな、と思います。何回かスパロボ以外のゲームで投下したことはありますが。
では、おやすみなさい。
>>154 今ようやく理解した…君の圧倒的な文才に私は心奪われた!この気持ち、まさしく「GJ」だッ!!
このスレと悶えるスレ、エロパロスレを数時間おきに巡回してる俺きめええええ
しかしこうして神様が同時多発している光景を見ることができるなんて…
ゆめが人をくるしめるなら、
ゆめが人をたすけることもできるはずだ。
ゆえにわれわれはこのプログラムを建造する。
力のかぎり。われわれがわれわれたるために。
>>154 今日は実に良き日だ。
シン×セツコが複数投下される至福の日だ。
>149 力の誇示という意味でね、殺す事が目的じゃない、まあ同じ事だが。艦隊規模の戦力を一掃できるマシンがあるという意味でもある。
159 :
朝金:2008/10/24(金) 02:47:43 ID:???
そもそもロゴス派ブルコスはティターンズのオマージュだからな
シンとせっちゃんに盛り上がれるお前らはいいよな…
セツコは俺のばあちゃんなんだぜ?
おまけに何の因果か、セツコばあちゃんにはマサキという孫(つまり俺の従兄弟)までいるw
週末最後の仕事を気力限界突破で切り抜けられる……!!実にGJだ!!!
>>154 GJ…おおGJ……!
もうここ数日のシン×セツコラッシュは夢のように思えてくる
こんなに幸せな一週間は久しぶりだぜ!
また気が向いたらシン×セツコや他のスパロボクロスオーバーも書いてくれ!
てか書いてくださいお願いし(ry
ルナ「ちょっとシン! 最近何なのよアンタ! あたし達に対して!」
シン「な、何なのって何がさ? 俺、何かしたっけ」
ルナ「しない事が問題なのよ!!」
ステラ「シン…ステラ達、構ってくれない…。寂しいよ…」
シン「えっと、それに対して俺は何かしなくちゃならんのか?」
ルナ「こちとら腐ってもヒロイン候補だっちゅうの! …酷いよ。セツコさんとばっかり」
ステラ「シン、セツコと結婚するの? ステラ達、もう要らないの…?」
シン「必要に決まってる。それに幾らなんでも結婚はなあ」
ステラ「どうして?」
シン「いや…俺、筋金入りのシスコンだし。年上、同年齢は範疇外。やっぱ嫁にするなら妹属性の年下に限るって」
ルナ「じゃあ、何? あんた、妹さんが生きてたら結婚してたって事?」
シン「ははは…あー、マユとは愛し合う仲にはなってたかも」
ステラ「……ルナ」
ルナ「……判ってる、ステラ」
シン「へ? ちょ、何で両腕掴んで…痛てて! 何処連れてく気だよ!?」
ルナ「あんたのそのヤバイ趣味をあたし達が矯正してやるわ(♯)」(年上)
ステラ「負けない…ステラ達、シンの妹になんて負けない…(♯)」(推定同年齢)
シン「お、おい待てよ!? 俺をどうすr(ry」(引き摺られていった)
セツコ「…乗り遅れちゃった。でも、私って一番損な歳よね。三つ上、かあ」
――翌日
シン「・・・」(げっそり)
ルナ「んふふ〜、シン〜♪」(すりすり)
ステラ「シン……大好き……♪」(すりすり)
ランド「あ〜あ。見事にやつれて。そして嬢ちゃん達は活き活きした肌になってるぜ」
セツコ「聞くまでも無い事だけど、何があったのシン君?」
シン「…コンセプションし過ぎて、エーテルが空っけつです」
ルナ「いやあ…矯正するつもりが逆に仕込まれたわ///」
ステラ「うん…凄く、良かった///」
セツコ「いいなあ。私も肖ろうかなあ」
ルナ「駄目です! シンに手出しするとソードインパルスが火を吹くわ!」
シン「エクスカリバーは火を吹かんだろ」
ステラ「シンは渡さない。そうならストライクノワールでお前を討つぞ…!」
シン「連ザの機体を持ってくるな」
ランド「いやあ、モテモテで辛いですなあ大将。こりゃ、先を越されるかもな」
シン「越したくないです。向こうの世界の住人になるのは俺には早いんです」
セツコ「やっぱり、十七分割しなきゃ駄目なのかしら」(ぼそっ)
シン「…色んな意味でちょっと待ってセツコさん」
セツコ「そうすればシン君は永遠に私の…」
シン「あんたは出てないって言うか、作品が違う…」
ルナ「と、兎に角!シンは絶対に」
ステラ「わ、渡さない!」
セツコ「あら。少し声が震えてるわよ?」(凍る様な笑顔)
ランド「なあ、シンよお。お前、ヤバイ領域に居ねえか?」
シン「……もう勘弁して」(げっそり)
レイ「ルナマリア、そもそもお前はこのスレ的にはヒロインであるかすら怪しいぞ。
シンが(総帥的な意味で)ステラにぞっこんだったりセツコといちゃいちゃしてたり、
シンがヒロインでお姫様だから(イレブン的な意味で)回想すらされなかったりとな。
気にするな、俺は気にしてない。なんたって後者的な意味ではクライマックスに主人公だからな」
武士道仮面の男「もし、そこの少年。誰か1人を選ぶだけが最良の選択ではないぞ。そう、3人ともが君の翼ということだ」
つまり仮面はシェリルとランカから逃げるために被ってるんですね、わかります
キラ「妹っていいよね。君の姿は僕に似ているよ」
キラに妹っていたっけ?
某反逆する人ですね、分かります
>>171 トライアングラーな流れからすると妹命のブレラのことではないかと
>>172 ターミナルに手を貸した連合側の人間ってどんな勢力?
フツーのナチュラルからしたら、
NJで10億人殺したシゲルの娘を指導者と崇めるようなキチガイコーディと手を組むとは考えにくいんだけど
>>172 秘密武装組織・・・CBが怒って飛んでくるぞw
とうとうこのスレにまでブルコス厨が湧いたか
>>176 別にブルコス厨というわけじゃないんだが?
アスカ姫がアルト姫の駄目な面ばかり真似し始めたw
アルト姫はマクロス初代主人公(作品順での輝と年代順での工藤シン)の衣鉢を継いでるんだ
アスカ姫も歴代ガンダム主人公の伝統を守っていいだろw
>>174 ごく普通のナチュラルに決まってるでしょう
誰も彼もが十把からげて一纏めにコーディ憎しなキチガイブルコスな訳じゃないんですから
流石に普通のナチュラルでは無理がないだろうか?
ターミナルとラクス派が暴れる事で利益が得られるナチュラルとか……
とここまで書いてそれに当て嵌まる奴が居るのか不安になった。
>183
ヤキン戦の状況からAA隊が連合から逃げおおせるとは思えんから、恐らく拿捕され、
これまでの狼藉を不問にする代わりに連合の一部勢力、
旧ハルバートンなどの連合内の非主流派軍閥に対して何らかの密約がなされた公算が大。
というよりカガリさらって以降、連合はもとよりジブリールにも察知されなかった事を考えると、連合政府公認の行動であった可能性が大
下手すりゃジョゼフ大統領が黒幕の可能性だってある
実際、ファントムペイン以外の連合には一切介入していなかった事を考えると、
ロゴスとギルバートを潰したい連合の一派閥そのものがターミナルだった可能性がある
それにマルキオもいるし
その辺はさあ、描写なんてさっぱりないから勝手に妄想しろって感じの部分だと思う。
俺の場合Zやるまでコープランドさんがレクイエムで死んだなんて知らんかったし。
なんつーか主要キャラの描写も碌に出来てないスタッフにそういう裏の部分の設定まで
期待する方が間違ってるだろ。
>>164 十七分割というか十七解体はルナとマユが本家ですよセツコさんw
>>184 むしろ逆だろ
連合やらコープが黒幕ならむしろジブリが知ってそうだが
ラクシズなんぞを擁護して利益なんてないだろうし
結局はラクシズを美化したいかスタッフが何も考えてないというのがホントのトコだろうな
そんな難しく考えなくても……
連合にも最終話のザフトのような脳内お花畑な奴らがいたって考えれば
いいだけの話だと思うんだけど。
>>187 ジブリには知らされなかっただけでその側近辺りはキッチリ把握してたんじゃね?
>187
まあそうだろうが
少なくともジョゼフとジブリの関係は対等に近かったはず、ジブリが黒海への(或いはジブラルタルへの攻撃)派遣を要請したら断ってた
まあ、本来はユーラシアの受け持ちであるんだけど、本来ならユーラシアの指導者がジョゼフに要請するもんだけどね
設定上、お互いに仮想敵だからジブリはその仲介役なのかもしれんな
大西洋にとっては自国を攻撃しないという確証あるなら、ラクシズをあえて泳がす
不利益囲うのはユーラシアとザフト、それとロゴス(オーブ含み)だから無問題
あとは美味く立ち回るつもりだったんだろうが
絶対あのカスタッフどもはそんなにきちんと考えてねぇwww
デュランダル「姫、この力は守るための力なのですよ」
シン「議長・・・姫ってのやめてもらえませんかね」
いくら全大戦で活躍したとはいえ地球にNJ投下した人間に娘をナチュラルが支持するとは思えんのだがなぁ……
オーブとカスナンジナビアみたいに影響うけてないところの住人くらいか?
そもそも本編でNJ投下のクラインは死ねいっ!!
なんて話あったか?殆ど見逃し無く本編見てた俺もその辺知ったのは
かなり後になってからなんだが
Z世界の種死の機体のエンジンってバッテリーなんだろうな。
ゲッター炉とかだったりして
>>194 あの豚負債がラクシズをおおっぴらに批判させるわけない
コニール達が、私達は議長を支持するぞみたいなこと言ってたシーンだって
糞エディで削除しくさってやがたたし
>>195 シルエット無しに三体合体三形態なインパルスと申したか?
まさか「ナチュラルとの融和派」であるクライン派の領袖がNJ投下を推し進めてたなんて
あまりにも想像の斜め上でブルコスのデマかなにかだと思われてるんじゃねーのw
そうか。実に簡単な事だよな
パトリック・ザラの仕業ですキャンペーンで終わりだよな。
クルーゼでもOKだろうが
何?そんなにラクシズが憎まれるのが嫌なのかい?
>>201 いいえ、むしろ悪の黒幕認定しようと(ry
もうあの自称プロどもの同人遊びから生まれた設定の話なんてやめないか
頭にウジの湧いた馬鹿どもが作った、一見するとガンダムっぽく見える極左ホモアニメが
穴だらけの粗悪品だってことは周知の事実なんだし
>>203 お前の頭の辞書には嫌味という単語すらないのか
本日のお前らはいったい何と戦っているんだスレはここですね、わかります
>>205 むしろラクシズに対する嫌味・当てこすり・婉曲誹謗をラクシズ擁護と勘違いしてるのが
>>201だろ
つーかこのスレでラクシズ厨なんてとっくの昔に淘汰されてるだろ
こんばんわ。火曜あたりをめどにビアンSEED投下させてくださいというお願いをしに覗きに来ました。ちょっと怖い雰囲気になってますね。
今週シン×セツコを連発したせいか、ごく自然にビアンSEEDの中でステラ×シン×セツコにしていた自分に気づき愕然。運命編でシンがLOEのマサキよろしく嫁さんを二人もらいそうです。
アストラナガンと同じで一種類一つしかなさそうなスフィアは出すつもりはないけれど。
>>130 いつでもどちらでもお披露目してくださるのをお待ちしております。
>>164じゃないがごく一部を除いてSSでのルナは不遇だよな
ステラ生存の煽りでシングルのままなんてよくある話で、
凸に孕まされたり、姐御になったり、
強烈な個性を持ちながらも住人に受け入れられてるオリキャラに埋もれたり…
シン「実際、ルナの事は嫌いじゃないんです」
ランド「ほう」
シン「姉貴ぶられるとどうしても反発心が出るけど、それは本気でなくて照れ隠しって奴ですよ。ルナだって悪意無しの愛嬌でやってるんだろうし、本当は嫌いじゃない」
ランド「そんなこったろうと思ったぜ少年。根は素直じゃねえか」
シン「ステラにしたって同じです。最初は何処か…そう。マユに重なる部分があって、色々と空回りしてけど」
ランド「今は違うってか?」
シン「ええ。ステラはステラだから。逆立ちしたってマユにはなれない。それなら、もう一人別の妹が出来たくらいの考えで良いんじゃないかって、そう思ったんです」
ランド「何処まで行ってもステラは妹か。そんでルナマリアは姉? 家族ごっこでもしたいのかよ」
シン「そうかもですね。俺は亡くしたから」
ランド「そっか。結構、深いんだな」
シン「それで…ランドさんとメールが兄夫婦、なのかな」
ランド「ちょっと待て! 聞き捨てならんぞ!」
メール「いや〜ん♪ 嬉しい言葉が聞こえたあ!」
シン「それで…セツコさんが」
セツコ「…え?」
ルナ「む…!」
ステラ「…!」
シン「お母さん…って言うのはどうでしょう///」
ランド「か、母ちゃんだあ!?」
メール「…うーん。それはどうだろうね」
セツコ「しくしく…!」
ルナ「えーと、げ、元気出して!」
ステラ「シン、悪気…無いと思うから」
セツコ「それは尚悪いわよう…!」
シンも罪な男だ……
お父さんは誰だ?
アサキム?
お母さんはクワトロですね
シン「ねぇ知ってる?僕たちの指にはそれぞれ呼び方があるんだ…」
誰か……電波を止めて……
変なのがかけましたその3
メールにまで爛れていると言われてしまい、しかも思い返してみるとそれを否定できないシンと自分の関係に、セツコはがっくりと肩を落としていた。
機体越しにもしょぼんとした様子が伝わるセツコをどこか満足に見下ろしていたアサキムが、また口を開いた。優美なラインを描く顔の輪郭まで覆う黒い衣装姿の青年は、常に厭世的な雰囲気が伴う。
「君達ともう少しゆるりと語り合いたいものだが、あいにくとこの仕事を頼まれたのは僕と君達だけではないらしい。君達もよく知っている彼らもすぐ近くにいる」
「ひょっとして、あの変態組か!?」
「君は口が悪いな。シン・アスカ。前世からの運命か魂に打ち込まれた楔の所為なのかい?」
「知るか」
アサキムに対するのと勝るとも劣らぬ嫌悪感を露わにするシンに、アサキムが妙にシリアスな顔で呟いた。まあ、シンの口が悪いのはもとからだ。そう簡単には治らない。
歯を剥いて突っかかるシンだが、ワークスジンのセンサーが捉えた反応に気付いて視線を動かす。大型の熱源が三つとMSサイズの熱源が一つの合計四つだ。同じくカスタムレイスタのメールとランドも気付いたようだ。
「あ、レーダーに反応。MAにMSって事は」
「カイメラの連中か」
ランドがレイスタのメインカメラを東の方向に向け、倍率を上げると、ズン、ズズンと音を立てて廃墟を倒壊させながらこちらに向かってくるモビルアーマー三機とウィンダムの姿が映し出される。
ともに地球連合軍で正式採用されている現役の機体だ。MAとウィンダムはそれぞれカイメラと書かれたロゴが描かれている。MAには蛇と獅子、それらと羊の混合生物であるキメラ、ウィンダムは羊をデフォルメしたイラスト付きだ。
ランドやアサキムらとも因縁の深い、非合法ぎりぎりの詐欺まがいの手法で悪名高い有限会社カイメラの所持している機体である。
本来、エクステンデッドと言われる投薬や催眠暗示などによって強化されたパイロット三人が運用するザムザザーには、代表のエーデル・ベルナル。
ストライクダガーの上半身を乗せた露悪的な外見のゲルズゲーには広報担当のシュラン。ずんぐりとした流線型のMAユークリッドには営業のレーベンが搭乗し、ウィンダムには会計のツィーネが乗り込んでいる。
全員が元は大西洋連邦所属の特務部隊出身で、特にエーデルは若くして准将の地位まで上り詰めた超エリートである。
後方の補給線の構築などを担当し、極めて優れた手腕とその美貌と聖母の如き慈愛深い笑みと表面上は非の打ち所がない人徳者の仮面を被り、権謀術数とその地位を最大限に駆使して広大な人脈を築いていた。
一説にはラクス・クラインの設立した秘密結社ターミナルにも匹敵するネットワークを構築していた傑物だ。
だが、先の戦争における軍需産業連合体ロゴスやロード・ジブリールの失脚の混乱に乗じて地球連合を掌握しようと暗躍して失敗し、今はその地位を追われている。
拘束命令が出されたその日の内に軍を脱走し、持ち出した軍の装備品や資金を元手に、こうして(有)カイメラを立ち上げて再起を狙っているのだ。狙い方を間違えているような気がしないでもないが気にしてはいけない。
「ほう、ビーターサービスの連中にアサキムか。私達の邪魔でもしに来たのか?」
はるか高みから侮蔑を持って見下しているような、高慢極まりない声を出したのはエーデル・ベルナルだ。
一見すると淡い紫の髪に金の瞳の美しい取り合わせと柔和な雰囲気から、穏やかな聖母を連想させる清廉な微笑を浮かべた妙齢の美女なのだが、その実、本性は自分以外の他人を徹底的に見下し、追従しない者には容赦のない制裁を加える暴虐の支配者だ。
実務能力もさることながら、本来エクステンデッド三人によって運用されるザムザザーを一人で操縦し、能力を完全に引き出す超絶のパイロット能力も併せ持ち、素でデストロイなどの巨大MSの乗りこなす万能の天才である。
薄紫の髪をまとめ、淡い色合いのルージュをひいた唇で、どんな悪人の心も現れるような慈しみに満ちた笑顔を浮かべている姿に、これまで多くの人々が騙されてえらい目にあって来た。
初めて会った時にはその表向きの仮面と悪意の全く感じられない善意そのものである言動に騙されたシンも、今ではこの女の本性を知悉しているから、棘のある言葉で言い返した。
「あんたらがおれ達の邪魔をしに来た、だろう?」
「貴様あ、エーデル社長になんという口の利き方をする!?」
「落ちつけレーベン。低能な連中にわざわざ合わせる必要はないだろう」
シンのワークスジンのコックピットに、金色の巻き毛の青年の怒りに染まった顔が一杯に映し出され、それを窘めるふりをしてシン達を嘲る、長く伸ばしたストレートの銀発に眼鏡をかけた青年が続いてモニターに映った。
カイメラ所属の、レーベン元大尉とシュラン元大尉だ。レーベンはエーデルを妄信し、シュランはエーデルの下で情報操作により人心の操作と掌握を楽しめる、という理由から直属の部下となっていた。
エーデルの事を妄信の域を超えて狂信しているレーベンはともかく、常に冷笑的なシュランがいまだにエーデルの配下にいる事は多少、不自然ではある。軍にいた頃の彼を知る者なら、落ちぶれたエーデルと行動を共にしている事に疑惑を抱くだろう。
部下として過ごした期間にそれなりに愛着でも湧いたのか、それとも?
ちなみにレーベンとシュランは共に若々しい、それこそ絵に書いたような美男子なのだが、癖のありすぎる性格からか互いに浮いた話は一つもない。
同じくカイメラ所属のツィーネとの関係も、噂はされても実物を見ればコンマ一秒で嘘だと発覚するため、囁かれる事は稀だ。
レーベンは度を越した女性恐怖症でもはやエーデル以外の女性の存在そのものを憎悪し、シュランは露悪趣味と冷淡な性格から近寄った女性を悉く追い返している。時折レーベンを見つめる視線に熱がこもっているのがあやしい所だ。
ハブとマングースよろしく牙を剥き出しにして牽制し合うレーベンとシンを他所に、残るウィンダムが着地して、ゆっくりとランドのカスタムレイスタに歩み寄った。
ディスプレイには赤い巻き毛の美女が映し出される。まだ若いが、物語に語られる魔女の如く人の快楽神経そのものを揺さぶるような、危険で蟲惑的な雰囲気を香水の様に纏っている。
近づけばそこに待つのは甘い甘い、甘すぎて近づいたものを殺してしまう危険な蜜を満々と湛えた魔花であろう。
髪の色と反対に青い瞳は視線だけでも男を好きなだけ誘えそうなほどに美しかったが、ランドに向けた視線には害意の類は見て取れなかった。ちょうどモニターには丸々とした乳房の上半分から顔までが映し出されている。
メールのペッタンコなおこちゃまボディと足して二で割れば、人並みになるだろうかと、ランドはツィーネが大胆に露出している胸が作る深い谷間を見る度に思う。
「元気そうだね、ザ・ヒート」
「おう、姐さんも変わりなさそうだな。そいつらと一緒に居んのが嫌んなったらいつでもウチに来な。美人で有能な姐さんなら大歓迎だぜ!」
「そうそう。カイメラの家事と会計を切り盛りしているツィーネさんなら、ウチも大歓迎だよ」
以前仕事先で騒動を起こしたカイメラの事務所に乗り込んだ時、割烹着と三角巾を身につけて、事務所の掃除と夕飯の支度をこなしているツィーネの姿が、ばっちりとビーターサービスの面々に目撃されていた。
どうやらレーベンやシュラン、エーデルは日常生活的な意味において戦力にならないらしく、家事の一切はツィーネが担当しているらしかった。
チリトリと箒をもって事務所の床を掃いているツィーネは、事務所に乗り込んできたランド達に気付いて硬直し、ランド達も露出過多な服装を好む、血を吸って育った大輪の赤薔薇の様な女の、あまりにも所帯じみた姿に唖然とした。
まあ、その時はツィーネが目の端に涙さえ浮かべて、忘れて! 見なかった事にして!とセツコやシンに縋ってまで口止めしてきたので、なるべく触れないようにはしている。
「ふふ、ありがとう。メール、ザ・ヒート。でもま、金払いはいいからね。もう少しだけ世話になるさ」
「そうかい。いつでもビーターサービスは姐さんを歓迎するからよ。それは忘れないでくれよ!」
ビッと音を立てそうな位勢いよく親指を立ててのヒートスマイル。並大抵の人間どころか肝の太い人間でも『暑苦しい』としか表現し得ないランドの笑顔を、ツィーネはかくのごとく評した。
「相変わらずキュートなスマイルだね」
しかも他意の無いウィンク付きだ。よほど感性が違うか、あくまでもランドの人柄を見ているからこその評価であろうか。
それまでストライクノワールにディスキャリバーを握らせたままの姿勢で黙っていたアサキムがツィーネに声をかけた。人が変ったようにツィーネの瞳の纏う雰囲気が変わる。
焦がれて焦がれて、夢にまで見た大好きなご主人様に巡り合えた女奴隷……失礼、子犬の様な雰囲気に変わる。
エーデルほどではないにしろ他者を見下していた瞳が、たちまちに潤みを帯びて、媚びるように伏せられ、誰も踏み占めていない処女雪のような肌には恋慕の情がもたらす朱が昇る。
「ツィーネ」
「ああ、アサキム」
「元気そうで何よりだ。やはり君は魔界に堕ちた哀れな人間を、幻夢に誘う煉獄の花の様に麗しい」
「ありがとう、アサキム。貴方にそう言われるだけで私は全ての苦痛を忘れられる」
「可愛いツィーネ。君の前では淫夢の支配者たる夢魔達も色褪せる。頭を伏して君の足に口づけさえするだろう」
「アサキム、私の身も心も貴方のモノ。望んでくれるならこの場でこの胸を割いて鮮血に彩られた心臓を奉げてみせる」
「ふふ」
「ああ、アサキム……」
周囲の目を気にせぬ二人のやり取りに、シンとセツコはう〜わぁ〜という顔をしていた。ランドとメールは苦笑い一つを浮かべたきりである。この反応の違いも、この二ペアとアサキム達の関係の違いを如実に表している。
なお、ツィーネがセツコとシンに声を掛けなかったのはわざとだ。見た目も性格も、共に美女であるという点を抜かせば真逆の二人の相性はよろしくない。互いに自分にはないものを見つけてしまい、それが疎ましくもあり羨ましくも感じられるからだ。
ツィーネはセツコに対し、純潔を失って尚純白のままの輝きと柔らかな春の光の様に透き通る様な美しさを見つけ、永遠に取り戻せないそれに嫉妬している。
セツコはツィーネに自分が決して持ち得ない、過剰なまでに強調されながらも、決して損なわれずに主張すればするほど艶と輝きを増す、夏の日差しの様に輝く“女”を見ていた。
こういう正反対のタイプは、何かの切っ掛けがあれば心を許し合った親友になれるものなのだが、生憎とこの二人にそう言った出来事はまだ起きていないため、お互いを軽く嫌悪する程度の関係で固まっている。
シンも、一度ツィーネに誘惑される所をセツコに目撃され、その場で幼い子供みたいにセツコに大泣きされてしまった事がるから、どうにもツィーネは苦手だ。
アサキムとツィーネが自分達だけの世界を作り出し、無視された事が癇に障ったエーデルが、装えば聖女として生涯を過ごせるであろう美貌を鬼女のそれに、天上の女神の如く優しい声音を夜叉の怒声に変える。
「いい加減にしろ、ツィーネ! お前とアサキムの馴れ合いをある程度は認めてやるとは言ったが、目に余る!」
「……」
「ツィーネ、今は彼女の言う通りにするんだ」
「アサキム……貴方がそう言うのならば」
しぶしぶアサキムに諭されてツィーネがウィンダムを、エーデルの乗るザムザザーの元へと戻した。
ビーターサービスと(有)カイメラ、そしてアサキムと三者がにらみ合う状況が再構築され、やにわに硬質の緊張感が場を満たした。話の流れ次第ではこの場で戦闘が勃発してもおかしくはない取り合わせだ。
三組全てを知っている同業者なら、とっくに逃げ出しているレッドゾーンが作り出されていた。誰かが動けば廃墟が塵芥とかす戦闘の始まりの合図となるだろう。
その空気を悟ってか、ランドがある提案をした。
「なあ、おれ達は今回正式な依頼を受けてここに来たわけだ。別に互いの邪魔をしに来たけでもねえ。そこで、だ。ここの廃墟をそれぞれ互いの邪魔をしねえ、て条件で一番多く片づけたグループが報酬の取り分を多くするって事でどうだ?」
「ほう? 私達やお前達はともかく、アサキムはずいぶんと分が悪いが?」
「ぼくは構わない。甘美な悲鳴を上げる事の無い冷たい廃墟であっても、破壊と共に奏でてくれる破砕の楽曲を聞く事は出来る。それに、混沌の獣たるカイメラと傷だらけの獅子に悲しみの乙女と刃を交えずにおくのも、たまには良いだろう」
「なら、全員文句はねえって事でいいか?」
やる気を隠そうともしないランドは、すでにカスタムレイスタよりも巨大なライアット・ジェレンチを構えさせ、いつでも開始の合図を聞ける状態だ。
「ねえ、ダーリン、勝ち目あるの? いくらなんでもあのMA三機のカイメラが有利なんじゃない?」
「心配するな、メール。カイメラの連中は修理屋やジャンク屋としてはアマチュアだからな、知識と経験ならこっちが上だ。それに連中は金欠で弾やエネルギーを節約しているからな。MAの火器は金がかかりすぎて使えやしねえよ」
「うん。それならなんとかなるかも」
エーデルら(有)カイメラも、この場では最大の戦力を誇るという単純明快な事実に、優越の笑みを浮かべている。ツィーネだけはアサキムを気遣う様子が見られたが、アサキムが諭すように目線を向けると、黙ってウィンダムの操縦に意識を移す。
アサキムは機体越しに風を感じているかのように悠然とその場に佇んでいた。
からりと、アサキムが先刻切崩した廃墟の破片が音を立てて落ち、それが合図となった。
「行け行けダーリン! カイメラに負けるなあ!!」
「おっしゃあ、行くぜ! デッカースパナだあ!!」
「レーベン、シュラン、ツィーネ、分かっているな!」
「はっ、このレーベン、エーデル社長のお役に立つ為ならば親をも殺して見せましょう!!」
「……っ!」
(シュランの奴、怖い顔しちゃって)
勢い良く飛び出したランドのカスタムレイスタと(有)カイメラ保有のMA三機に、こちらを一瞥していった可愛いツィーネを見送り、アサキムは地に突き刺していたディスキャリバーを抜き放つ。
降り注ぐ陽光を血の色に変えて反射する鮮血の魔王剣。携えるは至高天である太極に呪われし、時空の放浪者……ではなくて邪鬼眼前回の変態美青年である。
シュロウガと名付けた漆黒の愛機ストライクノワールに、アサキムは破壊を命じた。
「狩れ、シュロウガ(ストライクノワール)。……?」
シュロウガの名前を呟いたアサキムが、何かに気づいたように眉を顰める。彼にしては珍しい理解しがたい何かを感じたような雰囲気だ。
「シュロウガ(ストライクノワール)」
またシュロウガ(ストライクノワール)の名前を呟き沈黙。
「シュロウガ(ストライクノワール)。シュロウガ(ストライクノワール)シュロウガ(ストライクノワール)シュロウガ(ストライクノワール)。…………………………君が僕の敵か」
すう、とアサキムが大きく息を吸い込んだ。次の瞬間怒涛の勢いで紡がれるシュロウガ(ストライクノワール)の名前!
「シュロウガ(ストライクノワール)シュロウガ(ストライクノワール)シュロウガ(ストライクノワール)シュロウガ(ストライクノワール)
シュロウガ(ストライクノワール)シュロウガ(ストライクノワール)シュロウガ(ストライクノワール)シュロウガ(ストライクノワール)シュロウガ(ストライクノワール)シュロウガ(ストライクワノール)
シュロウガ(ストライクノワール)シュロウガ(ストライクノワール)シュロウガ(ストライクノワール)!!!………………シュロウガ(ストライクノワ)りたい時シュロウガ(ストライ)ればシュロウガ(スト)でシュロウガ()なんだーーー!!
はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、……シュロウガ。……シュロウガ? ふ、ふふふふふ、あはははは、ぼくの勝ちだ。さあ、狩れ、シュロウガ!!」
何に満足したか、高らかに笑いながら、アサキムはシュロウガに廃墟の群れへの突撃を命じる。ディスキャリバーを引っさげ、シュロウガの推進力を生かして廃墟の合間を縫う様に飛びかい無造作にディスキャリバーで切り付けて行く。
「舞え! トラジック・ジェノサイダー!!」
ノワールストライカーに装備されたウイング内側の2連装リニアガンの弾丸が超高速で飛び、着弾と同時に建物の多くを倒壊させてゆく。
こういった弾の補給や費用を気にしない豪奢な使い方ができるアサキムの資金源は、同業の者達の間でも七不思議のひとつに数えられている。
「削り裂く、その命を!」
廃墟に命も何もなくね? という突っ込みは無粋である故無用に願いたい。本人はいたって真面目に楽しんでいるのだから。
「君が何者であろうと構わない。眼魔砲!!」
シュロウガ頭部のトーデスシュレッケン12.5mm自動近接防御火器が火を噴き、トラジック・ジェノサイダーによって破砕された廃墟をさらに細かく砕いてゆく。
「あれって、ラスターエッジって言ってなかったっけ?」
前に会った時には頭部のバルカン砲をラスターエッジと呼んでいたはずなのになあ、とシンはどこかどうでもよさそうに呟いた。展開の早さというか突拍子の無さに、若干ついていけないらしい。
同じ気持ちらしいセツコのバクゥがちょこんと隣に座っている様は、遠めか見れば愛犬との散歩の途中で足を止めた飼い主みたいに見える。
パイロットの関係もまあ、似たようなものである。どちらが飼い犬で飼い主かは諸兄の判断にゆだねるとしよう。
「どうしよっか」
とセツコ。今までどこかに帯びていた翳の代わりに、吹けば消えてしまうほどに儚い光が集まったような、輝きを纏い始めた美貌の浮かべる微苦笑に、シンは頬に血が昇るのを感じた。
何度も何度も、それこそもはやセツコの体でシンの指と舌が堪能していない場所など無くなるほど、深く深く、心も体も交わり合ったというのに、セツコは毎日の様に新たな魅力でシンの胸を初恋を迎えた少年の様にときめかせている。
困ったね、というように苦笑している仕草はシンの胸を否応なく高鳴らせるが、それを悟られるのがどこか恥ずかしくて、少しだけそっぽを向いて返事をした。好きな女の子を前にして素直に慣れない少年の反応。
あれだけ肉体を貪り合い、心を通じ合わせて愛を交わしても、どうにもこの恥ずかしさを消す事が出来ない。ひょっとしたならば、恋の後に愛が芽生えたのではなく、愛の後に恋をしたのかもしれない。
赤くなっている頬を悟られないように顔の向きをずらしながら、シンはセツコにぶつぶつと返事をする。
「まあ、一応、ランドさんの手伝いはするさ。なんだかんだ言って、あの連中に負けるのは悔しいし」
「ふふ、そういう負けず嫌いな所は子供だね」
お姉さんぶるみたいなセツコの優しい言い方に、シンの中の子供の部分が反応する。セツコと出会う以前の、荒み始めていた頃の面影は、もうどこにも見られなかった。
「悪かったな」
「ううん。シン君のそう言う所、好きだから。もっと見せて欲しいかな」
「……い、いいから、ほら行かないと、負けちゃうだろ!」
「うん」
なんだか最近、年の差を利用されて弟扱いされる事が増えたな、とシンはどこかこそばゆそうに、照れ臭さを隠しながらワークスジンに一歩を踏み出させた。
おしまい
確かアサキムの中の人は初代の声だったはず。とりあえずアサキムは変態ということで確定。なんでこういう話を書いているんだろう? ビアンSEED四割くらい行きました。なんとか予定どおりに投下できそうです。
シンタロー自重wwwwwwwwwwwwww
まずい。悶え死んでしまいそう。
GJです
ぜひ今後もシリーズ化を
(有)カイメラとか一体どういう思考から生まれるんだwwwwwwwwwwwww
種死世界に満ち溢れた毒素によって、愉快なカイメラ隊の毒が裏返ったんですね、大変よくわかります
つーかもう、みんなで仲良く覇王どもの首でも狙いに行けよwww
待て、これはジ・エーデルの罠だww
それはさて置き
>>221GJと言う事で
つーか、なんで旦那はそんな流暢にアサキムにアレな言葉を紡がせられるんだよwwwwwwww
決まってるじゃないか、旦那も厨……うわ、何を(ry
>>231 地の文からしてアレな人ですから、アサキムのセリフを考えるのは楽チンなんですわ。
今後もこんな感じで時々でも書けたらいいな〜と思っています。エロパロと全年齢板の性的描写の境目をふらつきながら。
「この世界だけではなく……戦いを望む者には、どこにも居場所などないのかも知れません。特に…私のように、そのためだけに生まれた者には」
「どうかしらね。これからの戦いが……それを証明してくれるでしょう」
「では…行きます」
紅などは塗られていないものの、美しく整った唇から別れの言葉が紡ぎ出され、とある一室で交わされていた、美女二人による会話が静かに終わろうとしていた。
1人は若草色の髪を背中まで伸ばし、両肩と太腿を大胆に露出させた衣装を纏っている。
そして、その衣装の布地は胸元の部分が力強く押し上げられ、凄まじい強さで自己主張をする、極上の甘みを有していそうな最高級のマスクメロンが2つほど実っていた。
もう1人はウエーブの効いたボリュームのある髪を、赤紫色を微かに織り込んだ桃色に染め、
ゆったりとした紫色の衣装に身を包みながら、部屋から出て行こうとする美女の後姿を眺めている。
前者の名はラミア・ラヴレス。彼女はシャドウミラーにより作られた人造人間Wシリーズの中でも最高級の能力を持っているだけでなく、
絶世の美しさと、大多数の雄の視線と興味を容易く引き付ける肉体的色気をも併せ持っている。
後者の名はレモン・ブロウニング。シャドウミラーの事実上のbQであり、ラミアを始めとするWシリーズの造物主であるという、ありきたりな言葉を使えば天才科学者である。
さらに不慮の事故でCE世界から転移してきた覇王の、自らがいた世界においては出会うことができなかった、絶対に相互理解をなし得ない宿敵となった女性でもある。
そして彼女らの不仲が後にさらなる事態の変化をもたらすことは未だ誰も知らない。
ハガネのブリッジ占拠を命じられながらもその命令に背いただけでなく、機体を自爆させてツヴァイザーゲインやヴァイスセイバーに多大な損傷を与えたラミアは、
幸か不幸かコックピットブロックごとレモンのヴァイスセイバーに回収され、ある意味致命的な損害を受けていた言語機能その他の機能の修復を受けていた。
その後、目を覚ましたラミアは自分の意思で造物主レモンの元を離れることを決めたのだった。
自分の意思による判断、つまりラミアは自我の確立を成し遂げたということを意味しているのだが、それは造物主であるレモンがどうしてもなすことの叶わなかったことでもある。
それが偶然か必然かは不明であるが、皮肉なことにレモンが願って止まなかったWナンバーズの自我の確立は、彼女が目指したプランとは全く反対の方向で実現されてしまった。
組織人としては忌むべきことでありながら、科学者としては強く望んでいたことでもあり、ラミアの出奔はレモンにとってはさしずめ親鳥の元からの巣立ち、子供の親離れにも等しくもあった。
複雑な心境のレモンであったが、この場では自分のエゴ―研究者・科学者としての静かな喜びと成長した我が子にも等しい存在の1人立ちを見ての覆い隠しきれない寂しさが彼女の心を埋め尽くしている。
「…後部格納庫に修復したアンジュルグがあるわ。それに乗っていきなさい」
「!?レモン様…」
「ふふ、自爆装置は取り外してあるから安心していいわよ。あ、それと…」
「?」
レモンが何か悪戯を思いついた子供のような笑顔をふと浮かべ、思わせぶりな言い方がそれを聞くラミアをわずかに困惑させた。
「留置室にお客さんがいるのよ。回収されたあなたを助けるために単機で突っ込んできた突撃坊やに思い当たる節があるでしょ?」
「え…?」
「紫のビルトビルガーのパイロットに心当たりはない?今は知り合いだとかいう口煩いデコっ禿げとWシリーズよりも人形みたいな顔した、ちょっと可愛いひょろめな子とお話中なんだけど」
「…彼は共に戦ってきた大切な仲間の1人です。エクセレン・ブロウニングと同じく、私に色々なことを教えてくれたと思います」
一寸の沈黙の後に重い決意を伴って紡ぎ出された言葉は、ラミアの表情を明るくさせ、瞳を真っ直ぐ前を向かせ、堅固な決心とは裏腹に穏やかで柔らかく、そして暖かい笑顔を作り出した。
「そう、じゃあそのお仲間も一緒に連れて行ってもらえるかしら?あなた達じゃなくも使えるようにコックピット周りを改修して、後は登録認証をするだけのヴァイサーガがあるからそれもついでに」
「それはどういうことでしょうか…?」
「娘を立派に育ててくれことへのお礼、っていうことじゃ説明不足かしら?」
「…ですが、ラクシズ…いや、歌姫の騎士団はシャドウミラーにとっては友軍では?」
「そうよ、ヴィンデルとノイエDCの連中が余計なことをしてくれたおかげでね」
「それではどうして?」
「あの不愉快な寸胴根暗電波女に悔しがる顔をさせてみたくなったからよ」
「ず、寸胴根暗電波…」
自我を確立したとはいえ、やはり未だロジックと合理性に大きな比重を置いた思考を行うラミアにとっては、利敵行為に等しい行動を唆すレモンの真意を図りかねていた。
ハガネ・ヒリュウ改にいたときもエクセレンのトンでも発言に度肝を抜かれたことがあったラミアだったが、彼女がまだレモンやエクセレンのする「あそび」を十分に理解し切れていないのだということを
表情とリアクションから読取ったレモンは唇をやや尖らせて上を向いてどうしたものかと言う表情をしながら口を開く。
「女には世の中に絶対に相容れずに敵対する相手っていうのがいるのよ。それは理屈とか法則というもの全てを超越して存在するわ。それが女っていう生き物なの」
「…私にはまだ理解しかねますが、記録しておきます」
「そんなのいらないわ、あなたが成長していけばきっと判る時がくるもの。まあ、そんな相手には出会わないのが一番だけどね」
「つまりレモン様はラクシズの女が気に喰わない、ということですね」
「そういうことよ。でもいくらあなたでも今度戦場であったときは…わかってるわよね?」
「はい」
ラミアの返事を聞き、いよいよ巣立ちの時がやってきたことを覚悟したレモンは、おもむろにラミアの頭部に両腕を回すと自分の胸元に優しく彼女を抱き寄せた。
きょとんとするラミアの後頭部を撫で下ろし、暖かく彼女を包み込むレモンの顔は、まさに無償の愛情を以って子供を慈しむ母親のそれと違うところはない。
「…いってらっしゃい、ラミア・ラヴレス」
「…はい」
ラミアの返事を逃すまいと耳にとどめ、彼女を解放したレモンは愛娘の手に留置室のキーを持たせると再び穏やかな表情を浮かべる。ラミアはそれを自らの視覚を通じて記憶にインプットすると、
表情を引き締めて部屋の自動扉のスイッチに手をかけた。無機質な音とともに扉が閉まると、レモンの視界からラミアの姿は当然のことながら消えていたが、レモンの心はどこか暖かく、満たされていた。
ラミアが巣立ちを終えた少し前、シロガネ艦内のまた別の場所でシン・アスカも目を覚ましていた。
ラミアを乗せたアンジュルグのコックピットブロックを奪還すべく単機でシャドウミラーの部隊へ突っ込んで行ったまではよかったものの、予想外に登場したアスラン・ザラのインフィニットジャスティス、
スクールとDCでの非人道的な研究の産物ともいうべきゲイム・システムに対して、並ぶ者なきほどに高い適応を遂げたスーパーコーディネーターキラ・ヤマトの4人目が駆る
ラピエサージュに敗北し、シロガネへと連れ去られてしまったのである。
「ここは…」
自分の体は仰向けになったまま、どこか見覚えのあるような天井がシンの目に映っている。続いてゆっくりと体を起こそうとすると、わずかな気だるさが残りながらも体は正常に機能し、
上半身が起き上がった。さらに続けて辺りを見回すと目の前には垂直に伸びた鉄の棒が一定の間隔で並び、自分のいる部屋と同じようなつくりの部屋が幾つもあり、
シンは自分が捕虜などの留置施設の鉄格子の中にいるのだということを理解した。
そしてすぐに、アスラン・ザラたちとの戦闘で敗れたことを思い出すと、自分がアスラン達に囚われてしまったのだろうと予想した。
「目が覚めたか」
聞き覚えこそあるものの、聞くだけでシンの心のうちの不快指数を急上昇させる声が室内に響く。
声のした方向に目を向けると案の定、室内に足音を響かせながら頭部毛髪生え際の進行を青い前髪で隠した元上司が近付いてきた。
「アスラン…!」
出来ることならば2度とその顔を見たくもなかった人物を、シンは忌々しげな視線で刺し殺すように睨み付ける。
それに気付いた上でまったく意にも介していないのか、それとも向けられている敵意に気付いていないのかは不明であるが、アスランは鉄格子越しにシンの姿を見ると、
まるで手のかかる子供を半ば呆れながら眺める大人のような顔をしながら口を開いた。
「いくら言ってもお前は俺の言うことを聞こうとしないからな。悪いが力づくで連れてきた」
「アンタの言うことならもう散々聞かされた。聞いた上で到底理解も同意も賛同もおまけに納得もできないっていうだけだ」
「シン!お前…!それが…!!………いや、いい。これでようやく話ができるんだからな」
「お生憎様、俺にはもうアンタに話すことなんてないね。わかったらさっさとどっかに行ってくれ」
CE世界で重ねてきた戦いに加え、新西暦の世界に来てからこれまで行ってきた3回の戦闘を経てシンとアスランの間にはそれなりに相当な言葉が交わされている。
新西暦の世界において繰り広げられた口論をかいつまんで要約すれば、いい加減に目を覚ませ→目なら覚めてる→連邦はスクールの出身者を…だからアギラ様は…→
→冗談じゃない、それはDCの仕業だろ→だからお前は騙されてると言ってるんだ。お前は騙されやすい、議長にも…→別に俺は騙されてなんかいない、自分で考えたからアンタ達と戦ったんだ、
という水掛け論にも近い争いが戦いながら幾度も繰り返されており、もしもアンドロイドを連れた黒服の交渉人がいたならば、とっくにショータイムに突入しているであろう。
だが今回はそこに加わろうとする第三者兼火薬庫へ飛び込んでいこうとする火種がいた。
「待って、アスラン」
どこかでかすかに聞いたことがあるような声に訝しい顔を浮かべるシンと、耳に溶け込んでくる心地よい声を聞いた途端に恍惚とした顔を浮かべたアスランとが
視線を向けた先から、1人の男が歩いてきた。シンやアスランとさほど変わらない身の丈、耳を隠す位にまで伸びた茶色がかった髪をしたその男には、アスランだけでなく、シンにも見覚えがあった。
ユニウスセブン落下によるブレイク・ザ・ワールド直後にミネルバがオーブに立ち寄ったとき、シンはオーブの海岸にある慰霊碑で1人の男と会ったことがある。
慰霊碑の周りに咲いた花が波をかぶってしまったのを見たシンはその時、いくら誰かが花を植えてもきっと人は吹き飛ばすと言ったが、それを聞いたその男はそれ以上何も言わなかった。
「キラ!」
「キラだって!?じゃあ…こいつが…フリーダム…!」
「そうだ、フリーダムのパイロットのキラ・ヤマトだ」
「………そのフリーダムのパイロットが俺に何の用だ」
「君と話がしたくて、ね」
「俺と?」
テロ旅行をしながら世界を歩き回る前に話の1つでもしようとしたのか、お前がいきなり戦場に乱入してタンホイザーを撃ち抜いて何人の仲間が死んだと思ってやがるんだ、
せっかく錯乱していたステラに戦闘をやめさせ、話が出来そうになって、もう少しで救出することができたかもしれなかったのにお前がでしゃばってきたおかげで全てが台無しになったんだ、
アメリカでアカシックバスターの業火にストライクフリーダムごと飲み込まれて爆炎の中に姿を消したお前がどうして生きているんだ、と喉まで出かかったが、それを何とか堪えてシンが聞き返した。
「君は…どうして戦うの?」
「ハァ?!」
「答えろ、シン!」
「何だよ、世界をテロして回ってた奴が取調べでもするつもりか?」
「シン!」
「五月蝿いな、ギャーギャー喚くなよ。そんなに聞きたいなら教えてやる!シャドウミラーやDC、アンタたちラクシズみたいな連中を好き勝手にさせないためだ!これで満足か!?」
「お前、よくも!!」
アスランの両腕が鉄格子を鷲掴みにした。その顔は怒りに満ち溢れ、怒りに任せた両腕に掴まれた鉄格子は音を立てて震えている。
アスラン・ザラにとってはキラ・ヤマトの言葉、考え、存在が最も重要なのであり、キラ・ヤマトへ寄せられる想いの性質・内容はともかくとして、強さは凄まじいほどのものであった。
だからこそ、エンジェルダウン作戦後にも、ミネルバの艦内にて、それも大声で「キラは敵じゃない!」と叫ぶことができたのである。
だが想いを寄せられているキラ・ヤマトはここではそれについてメンションはせずに、シンとの会話を続ける。
「でも僕達は世界のために戦ってるんだ…連邦が正しいとは思えない」
「へえ、やっぱりシャドウミラーの親玉が言ってた永遠に戦いが続く世界ってのがデスティニープランに反対したアンタ達、テロ屋の正しさってわけか」
「そんなことはない!」
「じゃあ『世界のため』に戦ってるっていうアンタらが、どうしてシャドウミラーの連中と一緒にいるんだよ!」
「きっとあの人達だって何かを考えてるはずだ!じゃなきゃラクスが手を貸すはずがない!!」
「アンタはどうなんだよ!!」
「ラクスは『想いだけでも、力だけでも』って…だから…」
「だから、何なんだよ!」
「きっと…僕達は…そう…君は花が咲いても誰かが吹き飛ばすっていうけど…僕達は吹き飛ばされてもまた花を植えるよ。駄目、かな…?」
「キラ…」
自分に何一つやましいことがないと考えているからこそ作り出せる無垢な微笑を浮かべたキラ・ヤマトから差し伸べられた手が鉄格子の中のシンへと徐々に近付いてくる。
そしてその光景をアスラン・ザラはこの世で最も美しいものを見ているかのような、恍惚とした表情を浮かべながら見ていた。
だがキラ・ヤマトの腕がシンの前へと到達する前に、突如としてシンの目が大きく開く。
歯を喰いしばり、目を最大まで大きく広げ、彼の戦いの原点ともいうべき怒りを宿した赤い瞳が無垢なる薄紫の瞳に音のない負の言葉を浴びせかけ、それに続けて口が開く。
「当たり前だ!死んだ人達はもう帰ってこない!」
「え…?」
「父さん母さんも、マユも…ミネルバのみんなもステラも…いない!みんなだ…みんなお前が殺したんだぞ!わかってるのか!!!」
シンの中で限界まで張り詰められた何かが、ブチッという鈍い音を立てて切れ、堰を切ったように積もりに積もった言葉があふれ出した。
ここにいるシンが転移してくる前にいた世界とは異なる、とある平行世界では見目麗しい男を愛する邪神にどこまでも呪われたがためにシンはアスラン・ザラに無様な敗北を喫しただけでなく、
仲間だと思っていたルナマリアには突如として土壇場で戦いをやめろと言われ、疑心を抱きながらもそれ以上に信じることが出来る者がいなかったがために手を貸したギルバート・デュランダルと、
CE世界の狂気の産物でありながらももう1人の自分とは正反対に世界の存続を願ったレイ・ザ・バレルの死を知り、心をズタズタに引き裂かれてもはや生きる気力を失った。
そんな平行世界のシン・アスカには、キラ・ヤマトの言葉に対して何かを、一言ですらも言い返す気力も体力も、精神力ももはや残っていなかった。
だが、この世界のシンは違った。ブリットやキョウスケ、エクセレン、ラミアらATXチームを始め、タスクやリョウト、SRXチームやアラド、ラトゥーニら旧スクール出身者、
彼らの影となって密かに戦い続けているゼンガーやレーツェルといった、新しく出会った、心から信頼できる仲間がここにいるシン・アスカにはいた。そしてシンのいた仲間は彼らだけではない。
平行世界とは異なり、尋常ならざる強い意志とある少女の気まぐれから新たな命の火を得たレイも、記憶を失ってはいるものの間違いなく生きている。
これらのことが気付かぬうちにシンの心の支えとなり、信じられるものを作り、育み、戦い続ける意思の火を守ることとなった。
幾つもの世界が1つとなった多元世界に存在した、ギリシャ神話に登場する神の名を冠した部隊の仲間達が担った役割を、ハガネやヒリュウ改の仲間達が果たしたのだともいうことができよう。
そして、シンは渾身の力を込めて握った拳を壁に叩きつけ、なおも言葉を紡ぎ続ける。
「俺は…絶対に戦うのをやめない!俺は…ハガネやヒリュウ改のみんなと一緒にアンタ達を戦い続ける!俺に戦う心がある限り…いつまででも!」
「シン!どうしてお前は憎しみに任せて…お前が欲しかった未来は俺達と一緒のはずだ!」
「大切な人の仇を憎んで何が悪い!それに俺は憎しみだけで戦ってるわけじゃない!」
「君は…どうして…でも…僕達は…世界を……それなのに……」
キラは言葉に詰まって、声の出ぬまま口をぱくつかせていた。そんな状態を作り出したシンはアスランにとっては戦犯ともいうべき存在であり、アスランから繰り出された怒りの視線が
シンへと突き刺さる。だが一歩も引かないシンもアスランを睨み返し、三者が沈黙したまま数十秒ほどの時が流れた。
論を言葉で述べることにあまり長けていない3人であるが故に、永遠に続くかとも思われた沈黙であったが、それからしばらくして響いてきたドアをノックする音と用件を告げる声が沈黙を破った。
「捕虜の食事を持ってきました」
「…僕が行くよ」
そう言って扉の方へキラは歩いていく。このまま沈黙が続くことは誰しもが望んでおらず、どうにかしてこの状況を突き崩す必要があったが、
鉄格子を挟んでにらみ合いを続けるシンとアスランに比べれば、次の言葉を探していたキラが一番動きやすかったのである。
そしてカギに手をかけ、自動扉が開いた次の瞬間、キラの視界は何かに覆われてしまった。
さらにキラが自分に起きた出来事を理解する前に、鳩尾部分に凄まじい衝撃が加えられて後方へ吹き飛ばされる。
「キラ!」
キラが後方の壁に背中から叩きつけられた音で入り口の方へ目を向けたアスランが見たのは、ジャケットのような上着を顔に被せられたまま地面に座り込むキラと、
若草色の長い髪を靡かせながら自分の下へ猛スピードで突っ込んでくる1人の女らしき人影であった。それ以上のことはアスランには認識する必要がなかったのである。
キラ・ヤマトに攻撃を加えた時点で対象は十中八九敵であり、それ以上のことを把握しようとすれば自分の身に危険があると本能で察したのである。
そしてその本能に対して十二分に体の動きが応えることができたのは、彼がザフトのアカデミーでトップガンの証である赤服を獲得し、月面都市コペルニクスにおいては覇王暗殺を狙った刺客達を
尋常ならざる動きで瞬く間に返り討ちにしたほどの驚異的な身体能力と戦闘能力がアスラン・ザラに備わっていたからに他ならない。
身を低くした相手から突き出された空拳を、アスランはガッチリと合わせた両腕で受け止めると同時に動きを止めた相手に蹴りを放つ。これだけの動きを瞬時に遂げただけでも普通ならば
十分なのだが、ここでアスランにとって不幸だったのは、彼の相手がアスランにも劣らない、今までに戦ったことがないほどの凄腕だったことであろう。カウンター気味に放たれた蹴撃に対して女は
即座にさらに身を低くして蹴りを回避しつつ、アスランの体を支えているもう片方の足に思いっきり足払いをかける。アカデミーの教官からも喰らったことのない強さの衝撃から態勢を
支えきれなかったアスランは床に倒れ込みながらも受身を取ろうとするが、さらにそこにすらりと伸びた瑞々しい肉付きをした足がアスランへと襲いかかり、彼を吹き飛ばした。
そして女はアスランが態勢を整え直す前に素早く鉄格子脇にあるカードリーダーにマスターキーを通すと、シンを閉じ込めていた牢獄の扉が空気音とともに開かれる。
一方シンは扉が開けられる前から、アスランに向かっていく若草色をした柔らかくなびいた長い髪、その胸元にたわわに実った最高級の果実を見た瞬間から、そこに現れた人物が誰なのかがわかっていた。
「ラミアさん!」
「話は後だ!ついて来い!」
初めて聞くラミアの荒っぽい声にやや驚いたシンであったが、開け放たれた扉から出てきてすぐに部屋の外へ向かって思いっきりラミアに手を引かれた。だがそれによりやや態勢を崩したことが
シン達にとっては幸いなこととなった。体勢を崩したシンには、音もなく懐からアーミーナイフを取り出し、こっちにむかって床を蹴り出そうとするアスランの姿が目に入ったからである。そこで咄嗟に
シンは、目の前にあったラミアの太腿にベルトで固定されたナイフに手をかけた。アスランの手に握られた兇刃は真っ直ぐラミアの左胸部へ迫っていく。だがシンに意識を向けていたためにラミアは
反応が遅れてしまい、さらに迫ってくる刃に対する回避行動が間に合わないことを即座に認識する。しかし彼女の予想に反し、迫り来た兇刃は横から飛び出してきたもう1本の刃に弾かれて
軌道を逸らされ、ラミアの頬のすぐ横を通り過ぎていった。そしてすぐにアスランとシンのナイフによる鍔迫り合いが始まり、押し付けられあう刃が耳障りな音を立て始める。
「後ろから刃物で女に襲いかかるなんて、意外とハードなんだな!」
「シン!邪魔をするなっ!」
侮蔑の眼差しを向けられたアスランであったが、命の取り合いに男女の違いなど全く関係のない戦場での行動としては、兵士としての彼には微塵ほどの非もない。とはいえ、ともにいたキラ・ヤマトが
ラミアに喰らった蹴りによって伸びている状況において、仮にもザフトレッドになるくらいの実力はあるシンと、Wシリーズの最高傑作と造物主に呼ばしめたラミアを同時に相手にしたことだけは、
アスランのアカデミー時代からの友人以上に迂闊なことであったといえよう。ナイフを握った腕は伸びきっている状態でボディや顔面はガラ空きなのに、ラミアは自由に動ける状態となっている。
「しまっ…」
「もう遅いっ!」
素早くアスランの横に回りこんでいたラミアの鉄拳が繰り出され、アスランの顎を殴りつけた。モロに入った拳はアスランを吹き飛ばしたが、それだけにはとどまらなかった。殴りつけられてなお
アスランは立ち上がろうとするが、強靭な肉体を持つ彼であっても脳を揺らされて思うように体が動かない状態となっている。そんなアスランを見て、彼がすぐに自分達を追跡することは
できないだろうと判断したラミアは再びシンの手を引いて走り出した。
240 :
通常の名無しさんの3倍:2008/10/27(月) 08:38:14 ID:v8L5y+JJ
sienn
「ち、ちょっとラミアさん、どこに行くんですか!?」
短い期間であったが滞在していたことのあるシロガネの、見覚えのある風景が続く艦内の廊下をまだラミアに手を引かれたまま走り続けているシンが問いを発する。
「後部格納庫だ!」
「え!?な、なんでそんな所に…」
「置いてある機体で艦から脱出する」
「あ、なるほど…そういえば今日のラミアさん、喋り方がすごく普通ですね」
「機能障害を起こしていた言語機能を修復してもらったからな」
「修復?」
「さあ、もうそろそろ格納庫だぞ」
ラミアが人造人間であることは先日の戦闘での話でなんとなく知ってはいたが、ここまで露骨な説明を受けるとさすがに苦笑いを浮かべざるを得なかった。とはいえ、そんなことを悠長に考えている
時間はなく、2人は素早く格納庫の一角へと到達しようとしていた。実際のところは、レモンが格納庫周辺のWシリーズに対して密か指示を出してWシリーズらが忠実にそれに従ったために、
シン達は誰かと遭遇することもなく格納庫へと到達することができたのであったが、到達した格納庫でまずシンの目に入ってきたのはピンク色と白を基調として、さらに腰部から膝下にかけてを
スカート型のアーマーで覆った女性的なフォルムと天使の白い羽を模したウイングを持った特機アンジュルグであった。ラミアの手により自爆しながらも、レモンの手による突貫作業で修復された上、
各武装も密かに強化されたことはまだラミアですら知らない。そしてアンジュルグの横には格納庫の床に横たわった特機サイズの機体があるのがシンの目に入ったが、コックピット部分を除いて
機体全体をシートで覆われているためにその姿形をうかがう事はできない。そんな中、2機の特機を眺めるシンをよそに愛機アンジュルグのコックピットにラミアは既に到達しようとしていた。
「そこの機体に乗れ!」
「え!で、でも俺まだあんまり特機に乗ったことがないんですけど…」
「大丈夫だ、乗れば分かる!早くしろ!」
「は、ハイ!」
反論の余地なく、言われるがままにアンジュルグの脇で横たわる特機のコックピットに飛び込んだシンであったが、そこで彼の目に映ったのはどこか見覚えのある構造をしたコックピットであった。
これは、レモン・ブロウニングが嫌々ながらもキラやアスランでも使うことが出来るようにコックピット周りを、予め提供を受けたザフト・クライン派の技術とレモン・ブロウニングの技術を融合させて
改造した結果である。まさかの思わぬサプライズで戸惑いながらも計器にシンが手をかけると、電子音声が生体認証を行うための登録開始を告げ、それを終えると次々に各種計器に火が灯り、
目の前のディスプレイにアルファベットの文字列が映り始めた。
「DARK‐KNIGHT…ダークナイト?」
「その機体の開発コードだ。VR−02、機体名はヴァイサーガという」
「ヴァイサーガ…」
「武装は列火刃というクナイに両腕の鉤爪水流爪牙、それと腰に下げている五大剣で幾つかの技が使える。音声入力システムもあるから安心しろ」
辺りを見回すと、言われた通りにシート脇に簡易マニュアルと思しき薄い冊子があった。素早くそれに目を通すと、シンは深く息を吸い、続けて息を吐き出し、コントロールスティックに手をかける。
2度も惨めに敗れた相手であるアスラン・ザラが乗ろうとした機体をいただくことになるとは、実質的な所有者の1人とも言うべきレモンの承諾によるとはいえ、
アスランやレモンの事情を知らぬシン(乙女座)にとっては僥倖とも言ったら大げさであろうか。2度も敗れただけでなく、さらに捕獲されて生き恥をさらした甲斐があったのかもしれない。
だが今のシンにそのようなセンチメンタルなことを考える時間も余裕もなく、ただ機体を動かすことに意識を集中しようとしていた。そして起動を宣言すべく口を開く。
「機動!ヴァイサーガ!!」
シロガネは先発部隊が制圧を完了した連邦軍の基地へ入港しようとしていた。艦全体を大きく揺らす衝撃がシロガネを襲ったのはそんなときであった。
後部に大きく開けられた穴からは黒い煙があふれ出してきており見る者の視界を奪うが、そんな黒煙の中で何か2つが赤く輝き、目にも止まらぬスピードで艦の外へと飛び出していく。
何事だと怒鳴るヴィンデルの脇で、シロガネのブリッジから外の光景を見ていたレモン・ブロウニングにはホワイトピンクの天使の如き天使と、
操縦しているパイロットと同じ真紅の瞳を持ち、全身のほとんどを覆っている強い黒みを持つ青色と黒色の装甲を持つ、西洋の騎士を連想させる近接戦用と思しき特機であった。
そして、かつてシンが乗っていた運命の名を冠した機体のように、黒色系統の色で覆ってはいるこの特機であったが、手にした剣は機体とのコントラストを形成するかのように、降り注いでいる太陽の光を反射して、閃光を宿す刃となっている。
それはまるで、一部の者が歌姫の騎士団と呼ぶラクシズに反逆し、戦い続け、仮にCE世界のコーディネーター達の持つ価値観を基準にしたのならば、
暗黒面に堕ちたのだと言われるかもしれぬ騎士の持つ、強く、そして優しい心に対し、手にした刃のみが光を以て応えようとしているかのようであった。
第34話「光刃のダークナイト」
つづく
え〜、以前どなたかがおっしゃっておられた、デスティニーはどうなったのよ、という点についてお答えします。
…すいません、どうもする予定はなかとです…
当初から乗り換え後の機体はヴァイサーガと決まっていたので…
その代わりといっちゃなんですが、35話で凸との戦闘に区切りをつけたら書く予定の
Z絡みで受信した電波でデスティニーを出すことにします。
243 :
通常の名無しさんの3倍:2008/10/27(月) 09:01:35 ID:v8L5y+JJ
悪の限りのラクス一味、全滅だ〜(某所のインパルスの歌より)
ヴァイサーガ…よかったなハゲなんぞの乗機にならなくて
金ぴかに塗りたくられてエンペラーと呼ばれるおそれがあったしなw
ちょうど手ごろな剣も出てきたことだし
もういっそゲシュペンストDで
デスティニー・デンジャラス・ダイナマイト・ダッシュ色んな意味があるぞ!
ダイナミックのD、ダイナマイトのD?
そりゃアスカ・シンだ!
>音声入力システムもあるから安心しろ
GJ!
これで安心ですね!ってなんじゃそりゃあwww
むしろヴァイサーガ・デスティニーとかにしちゃって
パルマとか付けちゃえばいいのに
ヴァイサーガは鉤爪あるんだからあんまりパルマはいらないような
公「乙女座と聞いて」
マント外して光の翼を設置、より高機動、高速度に……でいいんじゃね?
ディスティニーの光の翼は、OG世界でも充分通用する脅威のメカニズム(なんと光子ロケット……)だしね。
252 :
通常の名無しさんの3倍:2008/10/27(月) 14:31:50 ID:v8L5y+JJ
>デスティニーの光の翼
しかも推進剤要らずの惑星間航行用のスラスターですからね、重力制御タイプで慣性重量(動かしにくさ)と重力重量(重さ)を個別に軽減するテスラドライブとは別ベクトルの
惑星間航行用で済む代物じゃねーぞ、アレ。
エネルギーと耐久性の許す限り加速を続けられて、
理論上光速度に到達できると言う、
恒星間航行用としての実用に耐えるブツだ。
しかも、CEのエネルギー状況であの出力だから、
プラズマジェネレーター辺りにつないでテスラドライブ併用したら、
どこまでの事が出来るか正直わからねぇ……。
しっかし、最低でも反物質が必要だと言われている光子ロケットのエネルギーを、
いったいどうやって核分裂炉で賄っているんだろうな、アレ……。
テスラ研で解析結果が上げってれば既存の機体にマ改造を施してデスティニーっぽくするのは出来そうかな?
カスタム機の前例が豊富で量産機の他に固定パイロットのいない試作機も残っているゲシュペンスト
現行の主力量産機で試作機の外見が最も近いヒュッケバイン
光の翼に目をつけそうなプロジェクトTDでアステリオンの開発母機になってるガーリオン
個人的に見てみたいのはラピエサージュのATXの継ぎ接ぎっぷりに怒ったマ博士が
鹵獲したアシュセイヴァーを近接格闘特化型に元祖マ改造を施したデュ・・・もといアシュセイヴァーデスティニー
見た目同じで一部仕様の異なるジャスティスがつくのは無しの方向で。
とりあえず話は変わりますが00の4話で「あれ、ゼンガーいてもよくね?」が証明されましたね
「あんなの」が存在しているぐらいですし、ウォーダンとかいても違和感無い
ミスター・ウォーダン!?
途中まで真面目だったのにヴァイサーガに乗るあたりで
ミスターブシドーを見てしまったんだろうなw
たまに盛り上がる物理系の話って文系の人間にはよくわからないんだよな
大学入試に必要な程度にしか勉強してない俺には福田と同じく
ビーム砲と陽電子砲の原理の違いなんてわからんし
核分裂と核融合の違いもプラズマジェネレーターとの違いもわからない
>>258だがなんか空気悪くしたらスマソ
ただスレの流れ見てたら呟きたくなっちまったんだわ
>>258 それは文系か理系かでしなく
SF好きかそうでないかの違いかと
理系のリカオはオニールの島一号すら知らなかったぞw
Zのシン・アスカで種死を初めからする って話を書く場合ここに投下していいの?
Z後のシンで本編再構成って事?
>>262 そうです。
バンプレオリキャラは出す気ないです。
バンプレオリキャラ出なかったら、流石にまずいですかね?
それはちょっと違う気がするぜ
バンプレオリキャラが出る、Zシン主役の種死再構成を、巧く書けたらここに投下します。
パンプレオリジナルの技術なら
ステラ復活も余裕ですね わかります
修羅王様なら気合いでいけるよ。
是非オクレ兄さんとアウルも救ってやってほしい
何でステラだけなんだよ・・・Z
下手に扱い良かった所為でオクレ兄さんとアウルの悲惨さが倍増しだったのがZだな。
いまさらだがラミアと肉弾戦が互角な凸すげーなw
バランス的に見ると種世界最強の戦士だからな。あの禿wwww
だが格闘能力が互角でも耐久力が違いすぎるからタイマンやったら勝負にならんだろうな
ラミアがAと同じスペックならドモンと一矢の意図せざるサンドイッチクロスに耐えられるw
生身の人間でそのラミアと同じように素敵サンドイッチに耐える
アクセル隊長は更にすげえなwwwwww
アホセルは巧みに急所を外した感じだが
ラミアはモロに食らってたなw
今回はシンがしっかり主人公をやれたと思いんだがどうよ?
しかしラミアの言語機能改善でなんだか男前になった分、姫っぽさが否めないw
ラミア王子とアスカ姫 でした。
さーて、次回はもっとヤバイぜ。特濃親父が3人も突っ込んでくるんだぜ?
まあまあ、刃物持って襲い掛かった凸からラミアを守ったじゃないかw
手を引かれるあたりは姫だったがwww
ラミアに言われるがままヴァイサーガに搭乗しようとするシン。
だが、しかし…
シン「なんかおかしいっ…」
本来武骨っぽいデザインのヴァイサーガ、しかしそこにあったのは。
なんかスリムな体型、すらりとした足、スカートを模したブースター。
アンジュルグ程ではないにせよ張りがある胸、そしてひげが排除されフォルム
も細い顔。
明らかにみてヴァイサーガではないものがそこにあった。
アスカリオンとかあったらどうだろうか、背中にデスティニーの翼乗っけて。
総帥と違って11氏はあんま魔改造したり、オリロボを出さないからねぇ。
改造したと言ってもビルトシュバインを飛ばしたり
ビルガーを紫にしてリュウタロス風な銃を持たせるくらいで、極力原形を留めようとしている印象がある。
よく言えば手堅い、悪く言えば退屈って感じか?
つ 「バイ」サーガ
姫と乙女座を介してシンがハム化し始めてやがるwww
>>242 乙でありGJなのです。う〜ん、いよいよヴァイサーガか。シンオリジナルのモーションとかも今後あるのでしょうか?
おれの必殺技シリーズをもつレイに対抗してここはひとつアスカ姫にも決め技を、などと思いますね。
この後はソウルゲイン版のアクセルとシンで一騎討ちかな? 続きも大きく期待してお待ちしております。GJでした!!
んじゃ、今度はヴァイサーガの壊される時期を予想してみようか。
俺、北米のインスペクター戦に50姫賭ける。
姫路線を行くなら
レモン様が「アンジュルクの原型があるから持っていきなさい」と用意してくれたスイームルグに乗るという線もあったなw
やwめwろwww
元々、姫と呼ばれた乙女座のアイツだって乗機自体は至極男らしかったのにw
アルト姫は射手座じゃないのか?
乙女座はセンチメンタルな赤い糸のミスターブシドーだwwwwwww
シンも騎士っぽい機体に乗り換えたんだから仮面を被らせてミスターキシドーと呼ぼう
って無理かw
シン自身はシュラドーの方が似合う……かな?
せっかく今回は主人公らしくラクシズにビシって言ってやったのに姫扱いが続くw
ヴァイサーガはニンジャっぽいのでMr忍道(ニンドー)で
なんかいずれにしてもダイテツ艦長に死亡フラグが…
火影様…
ミスターナデシコだろ
ブラッドレイ大総統を忘れるなんて
あしゅら男爵
シンが合体ロボの足部分に乗ればヨシ
一応、後継機では胸になってるんだぜ
ガットラー総帥
>>299 そしてDVD特典ではヒロイン(公式設定)に「結婚しようよ」と言われる優遇ヒーローだしな
>>299 ちょwクライマックスフォームwwwww
>>301 原作見てないんだけど結構ハーレムだよなアイツ
>>304 ざんねん おれ は アカウント を もっていなかった
307 :
302:2008/10/28(火) 17:51:20 ID:???
グラヴィオンのことだったか
迂闊で残念だったぜ
結局エイジってリィルフラグ、斗牙フラグ、ドリルの人フラグ立ってんの?
>>309 リィル→エイジ⇔斗牙
↑
渚のドリル娘
こんな感じ
リィルはツヴァイで斗牙と微妙にフラグ立ちしてたようにも思えるが、途中からエイジと斗牙とガチすぎて霞んだ
ちなみにこの2人は最終回よりも、ソルグラ登場後の方がヤバい
ソルに乗ったエイジと、ゴッドに乗った斗牙が、頬染めして目をウルウルさせながらケーキ入刀(真・超重斬)するわ、
その後に正式に搭乗機を決めるときに、「僕を支えて欲しいんだ」とかこれまた目を潤ませながら言うわで
主人公 サンドマン
ヒーロー エイジ
ヒロイン 斗牙
これが公式設定だから困るw
だって監督が
ヒーロー→エイジ
ヒロイン→斗牙
って断言しちゃってるもん
主役はサンドマンだし
小説版だとドリル娘とのフラグがかなり強化されてたな
なぜかヘイとの間にもフラグらしきものがあったりなかったり
いまさらだがモモゼインはどうした?
>>310 セシルフラグ及びオペ三名のらきすけフラグを忘れるなんて……
溺愛していた姉に売られたエイジは女性不信になって男に走りました
漫画版では偽女教師として自分の学校に潜乳、もとい潜入していたミヅキにも
らきすけしていたなw
>>318 潜乳ワロス
ラミアやエキドナも「潜乳工作員」だなw
アイビスやフィオナには絶対向かない仕事だな
性格的にも体型的にもw
ディアナカウンターにいたときのせっちゃん…は別にそうでもないか。
しかしシンセツに悶えすぎて
・セツコ主役、種死未参戦、新規世界観(否Z世界)
なSSを考えてたのに(ここで言うとスレチ板チなので深くは言わない)
ゲストとしてシン&デスティニー(Z世界から転移)だけは出したくなってしまっている…w
ヴィレッタ隊長も元は潜乳工作員だぜ
まあ11氏の作品だと空気だけど…(つかそもそも登場したっけ?)
Wシリーズもそっちは得意だが本領は戦闘なんで
一番「潜乳工作員」の名に相応しいのセレーナでは
設定上では戦闘はあくまで自衛レベルで潜入調査が主のはず
実際には後継機になるとマップ兵器ジェノサイドしちゃうけどw
ビアンSEED 第六十七話 破壊王の脅威
無数のプラント群を守る防衛ラインを形成する、要塞ボアズ周辺の宇宙にはかぞえきれぬほどのMSの残骸が、わずか数時間の攻防の間に生み出されていた。仔細にそれらを観察しなくとも、構成比がザフト系の兵器で多くを占められている事に気付くだろう。
無数に生まれ続けるオレンジの火の玉を散らした闇色の帳を背景に、白く輝く無数の星達の煌めきを照明にした舞台に立つ、漆黒の破壊神アズライガーの手によって生み出された無数の躯達である。
両膝の超巨大回転衝角カラドボルグを撃ち尽くし、百メートル余というMSの四〜五倍はあろうかという巨体は、それを操る搭乗者達の狂気と憎悪と破壊への渇望を陽炎のように滾らせている。
ボアズ防衛部隊精鋭中の精鋭ラルフ・クオルドが率いる核動力MS部隊も、アズライガーの片手を奪うという戦果と引き換えにして隊員の半数を失い、隊長を務めるラルフもまた愛機プロヴィデンスを大破寸前にまで追い込まれていた。
アズライガーの伸ばす破滅の魔手から、ラルフとボアズに展開するザフト宇宙軍を逃れさせたのは、エルザム・V・ブランシュタインと、ディバイン・クルセイダーズ特殊任務部隊サイレント・ウルブズ達であった。
急遽アルテミス要塞から出港したスペースノア級万能戦闘母艦二番艦アカハガネが、大気圏離脱や緊急時に用いるオーバーブーストまで駆使し、かろうじてボアズ侵攻戦の決着がつく前に到達したのである。
すでにボアズで暴れ狂う地球連合の圧倒的戦闘能力を持つ規格外MS、ないしは特機の報告を受けていたサイレント・ウルブズ司令フェイルロード=グラン=ビルセイアは、アカハガネの艦橋で指揮を取りつつ、保有する戦力の投入を即座に決した。
即ち、A級魔装機“風の魔装機神”サイバスター、同じくA級魔装機“大地の魔装機神”ザムジード、推定ランクA級オーバーの超魔装機イスマイル、C級魔装機ブローウェル・カスタム、B級魔装機風のジャメイム、地のブラウニー、火のスマゥグの七機だ。
フェイルの乗る超魔装機デュラクシール・レイはアカハガネ内でパイロット共々待機となり、善意の協力者であるシュウ・シラカワとグランゾンは、この戦闘には我関せずとアルテミスに残っている。
サイレント・ウルブズ最強の二角こそ姿を見せぬものの、B級魔装機でも既に核動力機に肩を並べる性能を誇るし、C級魔装機のブローウェルも、名称の後にカスタムの四文字が付けば、その性能はA級魔装機に届きかねない。
A級魔装機、いわゆる魔装機神や超魔装機に至ってはその性能たるや純粋なCE製MSでは、比肩し得るものはほぼない。ミーティア装備の核動力機が火力や最高速度などで並ぶか凌駕する程度であろうか。
戦術レベルでなら、単独で戦局を変えうる化け物共が雁首を並べているのがウルブズと呼ばれる部隊の最大の特色なのだ。
ただこの場合、アズライガーが、単独で戦局さえも左右するオリジナルのヴァルシオンや天下無敵のスーパーロボット、SRXクラスに名を連ねる化け物の親玉格である事が問題であるだろう。
静かなる狼達の先頭を切ったのは、全ウルブズ中最速を誇る風の司サイバスターである。純然たる白銀に輝く装甲に虚空に瞬いては散華する命の火を移しながら、既に右手には冥府の刃ディスカッターを握っている。
これまで地上、宇宙と何度か戦闘を重ね、戦争を心身ともに体感していたマサキではあったが、周囲を埋め尽くさんばかりに漂うMSや戦艦の残骸に、緑色の眉を寄せて眉間に皺を刻んでいた。
なすすべもなく敗れ去る、というのはウルブズを敵に回した相手が大概は辿る運命であり、マサキとサイバスターに挑んだ多くの者達もこの場の死者達同様に躯を晒してきた。
マサキ自身も慣れはしないが装甲越しにもはっきりと分かる人の命を奪う感覚や、人殺しの自覚は嫌というほどある。
自分達のしている事が戦争であり、それが仕方のない事である諭されても、殺人への嫌悪と禁忌の念は拭えぬし、それを感じなくなったら、それはもうただの戦争中毒者か殺人鬼、機械の様に命令に従うだけの人形になった証拠だとマサキは思っていた。
だからボアズへ向かう中、時折紛れ込むボアズの惨状を伝える通信の内容と、送られてきた映像の中で暴れ狂うアズライガーの姿は、マサキの胸の中にたとえようもない嫌悪感を抱かせている・。
映像越しにでもわかるのだ。あの巨大な破壊の巨人が、殺戮と虐殺を楽しんでいる事が。それはルオゾールへ向ける憎悪にも匹敵するほどマサキの心に苛立ちと怒りを沸き立たせていた
こいつの存在を許してはいけない。戦争という人の歪みが産み落とした人の悪意の塊のような存在であるこいつを!
オリジナルサイバスターの右腕と共にこのコズミック・イラの世界を訪れたディスカッターを片手に引っさげ、サイバスターの背の白銀の翼から翡翠の粒子が溢れる。
あらゆる空間に満ちるエーテルを取り込み、推進力へと変えて、サイバスターは操者マサキの激情と生体エネルギー“プラーナ”の脈動に応じて虚空を疾駆する。
MSとは文字通り桁違いの高エネルギーと超速を誇るサイバスターの存在を、アズライガーもまた同時に感知。
アードラー達が研究した段階ではすでに自我を消失していたはずのゲーザ・ハガナーの脳髄は、自ら=アズライガーに迫る白銀の麗騎士の姿に焼けた鉄の杭を突きたてられるような激痛を幻想する。
『ぐああああ!? てめえええええ、てめえが、おれを殺した奴かぁ!?』
ゲーザ・ハガナーへと変えられる前、人間としての最後の時をもたらしたあの男と共にいた、別世界のサイバスターの姿が一瞬リフレインし、目の前の現実との境界を失って混濁する。
『死ねやあああ!!!』
「堕ちろおお!!」
ゲーザとアズラエルの叫びが重なり、暗黒に走る五条の光。アズライガーの左の五指から迸る戦艦の主砲さえも凌駕するスプリットビームガンを、サイバスターは半月を描いて軽やかにかわす。
「いくぜ、ソートカノン、カロリックミサイル乱れ撃ち!!」
ディスカッターを握らぬ左手をかざし、永久機関によって増幅され、機体内部を駆け巡るプラーナとエーテルを放出するソートカノンと、カロリック(熱素)を錬金学と魔術の組み合わせによって弾頭状に加工し、発射するカロリックミサイルの弾幕で返礼する。
一筋だけでも戦艦を沈めるスプリットビームガンと交差する無数の光の雨は、しかしアズライガーの巨躯に一発とて命中する事はなかった。
『ひゃはあ!』
「Eフィールド、TEスフィア!!」
ゲーザによって動かされるアズライガーは必要最低限の動きで最大の回避行動を行い、同時にアズラエルに命じられたソキウス達が、Eフィールドとターミナス・エナジーによる防御場TEスフィアを展開。
その巨体故に回避しきれぬ光の嵐を、異なる二種の光の壁が一切の通過を許さない。サイバスターの保有する魔術的射撃兵装のことごとくが通じぬ光景は、操者であるマサキよりも生みの親であるテューディの癇に障った。
大地系の最高位である聖位『闇』の精霊にも匹敵する守護を強制的に受けさせた超魔装機イスマイルのコックピットの中、煉獄で燃えたぎる烈火の如き髪を持った妖艶なる美女は、ただでさえ普段から険の強い美貌に、不快な色を添えている。
自らのすべての技術と知識とプライドをかけて生みだしたサイバスターの攻撃が通じぬ眼前の光景が、どうしようもなく腹立たしいのだ。
鋭角のシルエットに闇の深さを溶かしこんだ装甲を持ったイスマイルへの絶大の信頼からか、パイロットスーツの類を身に着けぬままのテューディが、同じようにパイロットスーツを着込んでいないマサキに通信を繋げる。
アズライガーの放ってきたマイクロミサイルの弾雨の回避に神経を尖らせていたマサキは、意識のごく一部だけを割いて髪の色にも劣らぬほど気性の激しい恋人に答えた。
「なんだ、テューディ! わりいが回避で忙しい、手短にしてくれ」
「マサキ、イタクァを使え。私が許可する」
「なにい? だっておまえ、あれはまだ調整中だって」
「いいから使え。サイバスターの武装であの守りを突破できそうなのはアカシックバスター以外では今の所それしかあるまい」
「そりゃまあ、そうだけど」
温度の低いテューディの声音に気付いたマサキが、一瞬の余裕を作ってモニターの片隅に移るテューディを見て、その場で神経に冷水を流されたような寒気に背筋を震わせた。
怒りがある程度のレベルを超えると人間は口数を少なくし、表面上の激情を抑えるという。今のテューディがそれだ。
C.E.サイバスターの開発・製造にはテューディの妹ウェンディと共用していた知識と技術が、最大限に利用されている。そのサイバスターの無様な姿はテューディ自身のみならずウェンディへの侮辱にもつながる。
その存在に対して果てしない憎悪さえ孕むほどに相反していたはずのウェンディに対し、いつの間にか――この世界のマサキと出会ってから特に顕著に――テューディの感情は変わっていた。
同じ男を愛した姉妹。テューディの心情の大きな変化は、この世界のマサキに愛される事でその事に気づいた事、そしてウェンディがテューディに対して抱いていた姉妹の愛情に、ようやく気付けたことに起因する。
故に、ウェンディとテューディ、二人に対する侮蔑にも似た眼前の光景は、テューディの精神に許し得ぬ光景として認識される。
テューディの押し込めた激情が陽炎の如く立ち上る美貌に気圧されて、マサキはサイバスターを一度大きく離脱させてから、右腰部装甲に収納されている冷たく輝く白銀の輪胴式拳銃を、サイバスターの左手に握らせた。
ヤラファス島での対ヴォルクルス戦や、南米での対地球連合軍、対イズラフェールでの戦いでも使用される事はなかったサイバスターの射撃兵装だ。
外なる宇宙の神の神話を綴ったH・P・ラブクラフトのものした超狂気的神話群クトゥルー神話及びその高弟ダーレスによって大系化された邪神群に名を連ねる風の神イタクァの名を冠し、その製造に希少なオリハルコンを用いた魔術兵装でもある。
地上にも数えるほどではあるがオリハルコンを産出する鉱脈を持った国家があり、地上では用途の無かったオリハルコンを、DCは開戦以前から水面下の外交活動によって入手していた。
これは無論、ビアンが大破したヴァルシオンと共にこの世界に転移する前後に、オーブ領海内にオリジナルサイバスターの右腕が落着し、その装甲がこれまで利用する術が無く価値を見出されていなかったオリハルコンであると、後にビアンが発見した為だ。
開戦後は水の魔装機カーヴァイルと、C級魔装機ブローウェル及びジャメイムの量産型である風系C級魔装機ティルウェスの開発データと引き換えに、ユーラシア大陸西方のとあバルツフィームという王政国家からオリハルコンの供与を受けている。
その希少なオリハルコンを銃身に用い、サイバスターの装甲同様に分子レベルで魔術文字及び神秘数学的数式などを組み合わせ、物理法則そのものに干渉して極めて高い殺傷能力を発揮する魔銃が産声を上げる……筈だった。
邪悪、いや、人類が幾億幾兆集まろうともその深遠なる思慮思考に触れる事叶わぬ超越存在“旧支配者”の名を冠した事がサイフィスの癇癪に障ったのか、名前に宿る言霊による霊的干渉が発生したのか……・。
イタクァの実射テストは今に至るまで良好な結果を残せてはいない。
逆にデュラクシール・レイに装備された超超高熱プラズマを発射するクトゥグアは、超魔装機であるデュラクシールがもともと精霊との加護契約を結んでいない事がプラスに働き、制御に関して問題はない。
テューディの持つ錬金学の技術体系、地上の魔術・神秘学・呪術、ビアン・ゾルダークを始めとした異世界のオーバーテクノロジー、またゼ・バルマリィ帝国の科学的に解析された霊力に関する技術の総動員したイタクァは、魔術兵装という実験段階の兵器だ。
にもかかわらず、良好とはいえない結果の段階でも、現状の兵器関連の常識をはるかに凌駕する成果を残している。
精神感応という特性を持つオリハルコンの銃身内部で霊的コーティングを受けたエーテル弾頭は、射出者の意識と自らの弾道をリンクさせ、射出者の思い通りの軌跡を描いて飛翔する。
加えてあらゆる空間に満ちるエーテルを弾頭状に加工した為に、周囲のエーテルを取り込みながら無限に飛翔可能な弾頭は、射出者――この場合マサキの集中力が途切れぬ限り、半永久的に目標を追い続ける魔性の猟犬と化す。
飛翔と同時に周囲のエーテルを取り込み、サイバスターの風の属性を帯びて大気圏内、つまり風の存在する空間においては、決して目標を見失う事無く、風そのものが鋭敏なレーダーとなってマサキに目標の位置、状況を伝える。
無限の飛翔時間に、条件を満たせば絶対に目標を逃がさぬ特性の組み合わせは、MSレベルでの戦闘においては無敵に近い存在と言える。
テスト段階において、最長飛翔時間三百秒を超え、フェイズシフト装甲も破砕してみせる破壊力は、特筆に値するだろう。だが、これはあくまでも万全に用意を整えた上での話。
このようなアズライガークラスの強大な敵を前にしての使用は初となる。先程から加えられている、さながら年経た古の竜王の吐息のように放たれるアズライガーの火力の雨の中で、どこまでイタクァの制御が可能か、マサキにはあまり自信が無かった。
「もちろん、いきなり撃てなどとは言わん。私もサポートするから、ここぞという時には嫌というほどのあの悪趣味な機体にエーテルの魔弾をぶちこめ」
「それならなんとかやってみせるぜ。行くぞ、テューディ!」
「ああ!」
イスマイルの全身に仕込まれたバスターキャノンやカーズといった武装が同時に解き放たれ、マサキは復讐の女神の名を冠する機神を操る恋人に背を預けて再びアズライガーへと突撃を敢行する。
「我々も続くぞ、ライディース!」
「了解だ、兄さん。あの機体、ここで落とす!」
漆黒の姿へと変わったジャスティスを駆るエルザムが実弟ライディースと共に、サイバスターとイスマイルの援護に加わった。共にミーティアを装備し、防御能力で大きく劣るものの、火力と速度を生かせば正面からアズライガーとも戦う事の出来る二機だ。
アズライガーは、その冷たい鋼の心臓に火がともってから、最強の敵を迎えようとしていた。
『ぎゃはははは、いいねええ、ゲームはこうでなくっちゃつまんねえってのお!!』
「来いよお前らあっ! 全員まとめて、そこらで死んでいるコーディネイター共みたいにぃい、この、ぼくがっ!!! お前達を!!! この世から消してやるよぉおオオオオ!!」
世界を焼く終末の火を幻視してしまうほどに、強烈な、そしてなによりも無慈悲な光がアズライガーの胸部の砲口に集まる。
「させん!!」
「遅せえ!!」
エルザムとマサキの声が重なり、ミーティアの左右から伸びる長砲身から高出力ビームが、サイバスターから射出された二基のファミリアレスが同時のタイミングでアズライガーの砲口めがけて殺意を殺到させる。
『そりゃ狙うよなあ! 見え見えの弱点だもんなあ!? だけどなあ、そんなのこっちもお見通しだってのぉ!!』
猛るゲーザの声を聞く者は誰一人とていなかったが、アズライガーは光の速さで迫る猛攻を、機体の半身をそらす動きだけで回避し、残る腕のスプリットビームガンの出力を落とし、代わりに連射速度を上げ、エルザムのジャスティス・トロンベに照準を合わせた。
エルザムは、その巨体故に旋回性能や機動性は決して高くないミーティアで、加速を生かし、光弾の着弾を受ける前にジャスティス・トロンベをその場から離脱させる。
さらに強引なスラスターの噴射で機体をほとんどその場で反転させ、数十門を超すエリナケウス艦対艦ミサイルの雨をアズライガーへと降り注がせる。
「我が返礼、否が追うにも受けて頂く!」
エルザムに襲いかかるGは身体強化に特化したコーディネイターといえども瞬く間に気を失ってもおかしくないほどに強烈であったが、それにエルザムは見事耐えて見せた。
口の中に広がる血の味を感じながら、エルザムの目は噴煙を吹き出しながらアズライガーに迫るミサイルを追った。
『当たるほど鈍間だと思ったかあ!? ついでに、これが陽動だってバレバレなんだよお、ボケがあ!!』
「そらああ、落ちろお!!」
アズライガーの背後から全長百メートルを超すビームソードを展開したライのミーティア装備のフリーダム。ミサイルの回避の為に機体に回避行動を取らせれば、その瞬間を狙って、傍らを通り過ぎざまにアズライガーを両断するつもりだったのだろう。
「気づいたか、だがこの距離ならば外さん!!」
『ひゃはあ!』
「無駄無駄あ!!」
すでにアズライガーの胴に迫る長大な光の刃は、気づいた所で回避不可能な距離にある。本来の歴史におけるオルガ・サブナックとカラミティの如く機体を両断されて、爆発の中に散るのが運命というものであろう。
だが、それに抗うものがたまさか存在する。たとえば、この悪逆非道の破壊王の様に。
あろうことかアズライガーはその場で、両足後部と胴体前面にあるスラスターを噴射し、機体を縦に一回移転させて見せたのだ。ビームソードがアズライガーの胴体を切り裂くよりも刹那ほど早く機体を回転させるアズライガー。
人間の曲芸師の如き軽技を、よもやヴァルシオンの二倍はあろうかという巨体の機動兵器がやってみせる現実は、目撃した番人の誰もが受け入れ難いものとして認識しよう。
馬鹿な!?
その一言を浮かべて凍るライの思考。しかし、それは即座に活動を再開させた。機体を回転させているアズライガーが、頭部のツォーン四門をこちらに向けているのを、類稀な反応速度を持つライは認識したからだ。
「ッ!!」
アズライガーを両断するつもりで加速していた以上、このわずかな、それこそ一瞬という言葉よりも短い時間で回避行動に移るのは不可能。ライはひたすらにフットペダルを踏み込み、ミーティアに加速を命じていた。
アズライガーの頭部より放たれる雷の短槍が、ミーティアの後部に着弾し、高出力のビームに撃ち抜かれたミーティアはたちまちフリーダムにアラートを鳴らさせた。
「ミーティアパージ。くっ、みすみすミーティアを失うとは!」
搭載していたミサイルや推進剤を巻き込んで大爆発を起こしたミーティアをパージし、盾を構えながら噴煙から姿を見せたライのフリーダムに、さらに迫るアズライガーの追撃は、両腰に備えた470mmターミナス・キャノン。
咄嗟にルプス・ビームライフルを構え、反撃を行おうと試みるライ。盾の防御は意味を成さないと瞬時に理解したが上だが、例え反撃を行えようともそれはアズライガーにとって蜂の一刺しにも劣るだろう。
自分の運命の糸がぷつりと断たれる音を、この時ライは幻聴していた。そして、それをかき消す風騎士の咆哮も。
「冥府の刃ディスカッター! 烈風の如く!!」
『ああっ!?』
ライの目を持ってしてもかすかに白銀の流れを認めるのが限度の、超高速で飛ぶサイバスターの一刀がターミナス・キャノンの砲身を二門とも切り裂いていた。
アズライガーのコントロールを奪ったゲーザは、複数のソキウス達の知覚を強奪し、荒々しく吹いた一陣の刃風を追う。風は、すでに数百メートルの彼方で白銀の道に翡翠の雪を降らしていた。
彼方の怨敵へ胸部のスーパースキュラを向け、そこで既に眼前に迫るサイバスターの威容に気付く。
――こいつ、速い!? 速過ぎる!!
「おらおらおらあ、喰らえ、奥義ダンシング・ディスカッター!!」
ディスカッターをサイブレードへと昇華させるプラーナを斬撃に乗せ、高まるプラーナがサイバスターの躯体を躍動させる。TP装甲、PS装甲に依らずとも堅牢極まるアズライガーの装甲に、浅い斬痕が幾筋も重なり合って無数に刻まれてゆく。
サイバスターを撃墜せんと巨体に搭載されているレーザー砲塔を稼働させ、EフィールドやTEスフィアを解除したが為に、展開する隙を与えぬサイバスターの神速の刃が切り込んでいるのだ。
だが、ゲーザはサイバスターの神速にこそ驚嘆したものの、その攻撃には薄ら笑いを浮かべている。無論、浮かべるべき顔を失っている以上、心情的な意味合いになる。
「そんなおもちゃの剣で、このぼくのアズライガーが、斃せるものかよおお!!」
「くそ、なんて固い装甲だ!?」
精霊界や荒れ果てた未来で修業したわけでもなく、ちょっとプラーナを乗せて数限りなく切りつけるだけの、その場の勢いで名付けたダンシング・ディスカッターではアズライガーに明確なダメージを与える事は出来なかった。
アズライガーにダメージを与え、動きの鈍った所でイタクァのエーテル弾頭を撃ち込む気でいたのだが、これではあまり効果は見込めまい。
「こうなりゃ、もう一回……」
『なーにをやっとるか、マサキ・アンドー!! さっさとそこのデカブツを片づけてこっちの応援にこい!!』
「うるせえ、ヴィガジ!! 自分の尻ぐらい、自分で拭きやがれ!!」
サイバスターのモニターに映し出された白目しかない禿頭に、マサキは怒鳴り返した。この二人の相性はよろしくない。流川と花道的な意味で。
マサキ達がアズライガーと死闘を繰り広げている頃、本来登場しているはずのマシンから、B級魔装機に乗り換えていたインスペクター四天王の内三名は、アズライガーの守護を任された二機の巨人達と激突していた。
「ええい、あ、こら待てマサキ・アンドー!! 貴様、人の話は最後まで聞けと母親に教わらなかったのか!! お前の母ちゃん、デーベソ!! ……ええい、地球に伝わるという最大の侮辱の言葉に反応せんとは、マサキめ通信を切りおったな!」
「このタコヴィガジ! 馬鹿な事やってないで、こっちに集中しな!」
「……」
「ええい、わかっておるわ!」
アギーハは、高速で飛び交う翡翠色のエネルギーを纏った打撃型遠隔操作兵器シックススレイブの猛攻を、ロングソードで捌きながら、アギーハがマサキと低次元の言い争いをしているヴィガジを怒鳴りつけた。
一方のヴィガジも、通信に気を取られている間に迫っていた敵の振り上げた、巨大な白銀の聖刃ディバインアームを、とっさに掲げたスマゥグのバルディッシュで受け止める。
「この、ヴァルシオンにベルゲルミルだとお!? シャドウミラーの連中が残したデータにあったオリジナルほどではないが、この機体では!!」
「弱音を吐くんじゃないよ! あんたそれでも文明監査官の一員かい!? この機体だって悪かないんだ。男なら意地をお見せ! ウチのダーリンみたいにね!!」
「………………」
「ぬああ、やかましい!! 戦闘に集中させろ! こんのバカップルが!!」
ヴィガジのスマゥグ、アギーハのジャメイム、シカログのブラウニーらが相対していたのは、アーウィン・ドースティンの量産型ベルゲルミルとグレース・ウリジンのヴァルシオン改である。
この戦場に置いてイングラム・プリスケンが使用している真の力を発揮した場合のR−GUNパワードや、ヒューゴ・メディオの搭乗している極めてオリジナルに近いガルムレイドと並び、地球連合側では最強級のスペックを誇る。
この二機に登場しているのがいわゆるニュータイプ的な感覚に目覚めつつある二人であり、パイロットの安全を配慮した簡易版とはいえゲイム・システム搭載機である事を鑑みれば、いかにインスペクター四天王の三人といえども苦戦は必至であった。
シカログが絶妙なタイミングでブラウニーのブリッジトガンで牽制を加え、ヴァルシオン改はスマゥグから離れる。つづけてヴィガジもシカログの二撃目のブリッジトキャノンに合わせ、スマゥグにドラグショットを撃たせる。
ともにプラーナを基とする魔術兵装だ。ヴァルシオン改の持つアンチビームフィールドやEフィールドも大きな効果を発揮する事はない。
だが、迫る火竜の炎弾と大地の巨人の砲撃を受けてなお、深い青を湛えた魔王は、その装甲に焦げ跡一つ付けず余裕さえみせる動きでそのすべての攻撃かわし、そればかりか背から延びる竜頭の様なパーツに青と赤の光が零れはじめる。
「ちい、クロスマッシャーか。メガ・グラビトンウェーブが無いだけまだましとはいえ!」
「……」
「口を動かす暇があるなら、腕を動かせ? 言われずとも分かっているわ、シカログ!」
「ん〜〜、なんというか愉快な人達と戦っているような気がしますぅ」
ゲイム・システム用の顔の上半分を覆うヘルメットを被ったグレースが、どこか間延びした声で、声は聞こえずともなんとなく漫才みたいなやり取りをしていそうな雰囲気を感じ取り、そう呟く。
あながちはずれでもない当たり、さすがニュータイプと評価すべきなのか、単なる勘というべきなのか。
「でもとりあえずは、クロスマッシャー♪ ポチっとな」
眼を焼き潰すほどに輝きを増すヴァルシオン改の背より放たれる、二重螺旋を纏う白色の槍。たとえ特機といえども直撃すればただでは済まぬその一撃を、羽虫の様にさっとスマゥグとブラウニーは左右に分かれて回避する。
「ち、ガルガウかドルーキンがあれば、一撃や二撃は被弾しても構わずに突っ込めるものだが。この機体の火力と装甲ではどうにも決め手に欠けるか」
「……」
黙したままのシカログではあったが、心中ではヴィガジの発言にある程度理解を示していた。今自分達が載っているB級魔装機も決して悪い機体ではない。
生前交戦したヒリュウ・ハガネ隊で運用されていたビルトシュバインや、アルトアイゼンなどと肩を並べるだけの性能は有しているし、自分達との相性もなかなか良好だ。
ただ、これらの機体に比して自分達の本来の乗機の方が数等上の性能を持ち、それらに乗っていたら、こんな苦戦はしないという確かな自負もある。故にヴィガジがついついそう漏らしてしまうのも仕方はないと、シカログは判断していた。
ヴィガジと違ってシカログが愚痴を零さないのは、人生が常に困難な選択を迫られ、こちらの用意が整った状態で迎えられる事など滅多にない事を知っているからだ。
ありとあらゆる困難も、持ちうる手札で撃ち破らなければならないと、この静かなる巨漢は心肝に刻んでいるのだ。迫る困難に常に最良最高の状態と豊富な選択肢を持った状態で相対できる事など、まずありはしない。
シカログは臍の下“丹田”に意識を集中させ、体内で力を爆発させるイメージを思い浮かべる。わずかに間を置いてシカログのプラーナがブラウニーの全身を駆け巡り、機体の性能を底上げする。
「……!!」
「ぬ、シカログめ。大した気迫だ。おれも愚痴ばかり零してはおられんか」
同じ魔装機乗り、そして文明監査官としての自尊心が刺激されたのか、ヴィガジはそれまでの無駄口を一切噤み、スマゥグの操者になって以来フェイルやテューディに受けさせられたプラーナのコントロールを行う。
地上のヨガや古代中国の仙人に至る過程で発生した、修行を受けた万人の内、一桁しか生き残らないという古代借力(こだいしゃくりき)といった武術を強制的に受けさせられたせいで、確かにプラーナのコントロール技術は増していた。
新たにスマゥグから放たれる怒涛の気迫のプレッシャーは、グレースに頬を撃たれたような錯覚を覚えさせるほどに密度を濃くしている。
「ぬああああ!! 行くぞ、ヴァルシオン! いずれはあのビアン・ゾルダークの首も取らねばならぬかもしれんのでな! 貴様はその予行演習にしてやろう!」
つるりと禿げあがった禿頭に青筋浮かべたヴィガジは、波に打たれながらも厳然とたたずむ巌のように険しく表情を引き締めたシカログと共に、グレースの駆るヴァルシオン改へと果敢に突撃した。
「うわ、なんかちょっと暑苦しいといいますか、思わず引いちゃうなにかがありますね〜」
パイロットだけで見れば、二十歳にもならない少女に襲いかかる禿頭の巨漢二人の図が出来上がるわけだから、ある意味グレースの発言は正しい。
余裕があるからこそそんな軽口も叩けるのだが、実際にはグレースは時折脳に突き刺さる電流の針の様な痛みに、眉を顰めていた。ゲイム・システムによる脳への負荷が、グレースの限界に迫りつつあるのだ。
「すみませんけど、私も本気で行きますよ〜!」
どこか呑気とも取れる声の響きに、自身の破滅を告げる鐘の音が迫っている事に対する恐怖が隠れていると、聞きとる事が出来るのは、アーウィンだけだったろう。
だが、そのアーウィンもまた、グレースの危機を感じ取る余裕はなかった。アギーハのジャメイムのみを相手にしている状況ならば、グレースの支援に駆けつける事も出来ただろう。
しかし、彼の操る量産型ベルゲルミルの前に立ち塞がっているのは、風の魔装機のみではなく、峻険な大山脈の如き威厳と、彼方の見えぬ大地の様に雄大な迫力を湛える大地の魔装機神ザムジードがいたのだ。
突貫で作り上げられたとはいえ、そこは希代の天才ウェンディ=ラスム=イクナートの実姉テューディの手掛けた機体だ。すでに宇宙用の調整も万全に済み、大地の精霊ザムージュからの加護も十分に機能している。
背に負った大口径プラーナ砲エレメンタルバスターが、操者リカルドのプラーナを糧に極太の光の柱となって虚空を穿ち、その光の柱の中に二基のシックススレイブが飲み込まれる。
「本命は外したか。つれないねえ!」
「ちいっ、南米で確認されたDCの特機か!」
「そらそら、あたいから目を離すんじゃないよ」
「くっ」
身を翻す量産型ベルゲルミルに迫るジャメイム。両手に握ったロングソードが、膨大なプラーナの光に包みこまれ、ジャメイムの持つ技の中でも威力では一、二を争う天空斬が放たれる。
咄嗟に、左手の手首から肘に向かって伸びるビームサーベルを起動して天空斬をかろうじて受ける。気性の激しいアギーハのプラーナを烈火の如く滾らせた天空斬が、じりじりと光の刃の中へと斬り込む。
「ビームサーベルを切り裂く? ABCソードか!」
「死にな!」
「だが、それは油断だ」
生き残っていたシックススレイブが、ジャメイムの背後で旋回する勢いも凄まじく、鎖から解き放たれるのを待つ猟犬の様に浮いていた。
「後ろ――!?」
「刻め、シックススレイブ!」
「ちょいな!」
ジャメイムの背を切り刻むべく動きだしたシックススレイブを、今度はプラーナの光を纏ったザムジードの拳が殴り飛ばす。元飛行機乗りという経歴の故か、リカルドの視野は広く、熱を入れて狭窄的になりがちなアギーハを良くサポートしていた。
「悪いね、リカルド」
「いいさいいさ。相手がいても美人が死ぬのは世界の損失だからな」
「あはは、やっぱりあんた分かっているじゃないのさ。今度一杯奢ってあげるよ」
「上等なのを頼むぜ」
アギーハ、今も文明監査官の矜持だのなんだのと口にするヴィガジに比べ、シカログと二人で過ごしたこの世界での穏やかな時間を愛している事を、認めている。
生来の気性の激しさは変わらぬが、文明監査官としての責務も半ば放棄したような状況である事もあいまって、DCに協力することや地球人と馴れ合う事に対する禁忌の念がまったくなくなっていた。
既にシカログという恋人のいるアギーハに対してはリカルドもさしてアプローチする事もなく、今は気心の知れた酒飲み友達というポジションに落ち着いている。
「任しときな。ついでに店を再開させたらしばらくはただ飯食わせてやるよ!」
「オッケー、だったら目の前のこいつをさっさとスクラップにするか」
マシンナリーライフルを構え直し、三基に減ったシックススレイブを背のフレームに戻した量産型ベルゲルミルを前に、ザムジードとジャメイムは肩を並べる。アーウィンの神経を圧するプレッシャーは、流石は魔装機神というべきか。
「DCがこれほどの戦力を持っていたとはな。だが、ここでむざむざやられるようなおれではないぞ!」
ゲイム・システムによる精神への負荷を感じながらも、アーウィンは戦意の炎に新たな薪をくべて、眼前に立ちふさがった機神達へと挑んだ。
「うおおおお!!」
『あひゃあ!!』
マサキの咆哮に呼応し、大上段に構えられたディスカッターがプラーナの烈風を纏ってサイブレードへと昇華される。美しくも雄々しき刃より放たれる真・天空斬を、アズライガーの右肩で勢い激しく回転する巨大ドリルが迎え撃った。
接触面から盛大にプラーナと装甲の火花を散らして衝突するも、サイバスターが螺旋を描くドリルの勢いに弾かれる形で、即座に決着がついた。
そのまま繰り出されるアズライガーの握り拳の直撃を受けたサイバスターはあえなく後方に吹き飛ばされ、カバーに入ったライのフリーダムに受け止められる。
「大丈夫か?」
「あ、ああ。わりいな。しっかしとんでもねえバケモンだぜ、あの機体」
「確かにな。アレ一機にザフトのMSが百四十機、戦艦が十隻沈められた。いくら地球連合といえども、あんな機体を簡単に作れるとは思いたくはないがな」
「冗談! あんなのを量産されたらおちおち寝てもいられねえ」
「ふ、それだけしゃべる元気があるのなら、期待させてもらうぞ。DCの助っ人」
「分かったよ。まあ、任しとけ、損はさせねえぜ?」
そう言うや、フリーダムに抱えられていたサイバスターは再び勢いよくアズライガーめがけて飛びだした。
別に長年肩を並べて戦場を共にした戦友の様に語り合うライとマサキの様子に、悪鬼羅刹も震えるかの如き冷たい笑顔を浮かべていたテューディに気付いたからではない。
現在、エルザム、ライ、マサキ、テューディというこの場ではこれ以上望むべくもない取り合わせの四人を相手にしてなお、アズライガーはその威容と脅威を維持していた。
今もエルザムの駆るミーティアから放たれる無数の火器の乱舞を不規則な回避運動でかわし、同等以上の火力で苛烈すぎる返礼を加えている。
肉体的な制限を失い、機体そのものとなった事と引き換えに、機動兵器の操縦能力という点において比類なき能力を得たゲーザの魔的な技量であった。
マサキもなんとかイタクァの全霊を賭した一撃を見舞おうと隙を窺ってはいたが、イスマイルの放つオメガブラストや、フリーダムのフルマット・ハイバーストを防御するのと同時に四方に向かって際限なくビームを走らせるアズライガーを捉える事が出来ずにいる。
「くそ、エネルギー切れって言葉を知らないのかよ、あいつは!!」
今が崩せぬ破壊王の牙城に、マサキは焦燥に駆られた声を上げる。それが聞こえたのか、ゲーザのもはや正気の一片も残されてはいない、狂気を伴侶に選んだ叫びが木霊した。
『ああはははああああ。潰す潰す潰す! プチプチプチ、プチッてなああ!!!』
――続く。
……ボアズが無駄に長い。それにしても11さんの投下後はスレが伸びますなあ。羨ましい限りです。
>魔改造オリジナルともに大好物ですが、後になって読み返すと死ぬほどこっぱずかしいのよね。とにもかくにも暇つぶしにでもなれば幸いです。おやすみなさい。
GJ!
ビアンSEED本編お久しぶり!GJっす!
ダンシング・ディスカッター吹いたw
あと何気にパルツフィーム王国の名前が出てきて胸がときめいた
これは種死編での彼女の登場に期待せざるを得ない
>>332、早速のGJありがとうございます。こんごもよろしければ読んでやって下さいまし。
>>333、期待も何も最初から出す気満々な私がここにいますよ〜。真魔装機神リメイクしないかなあ……。絶対買うのに。
シン×セツコ――4
愉快な有限会社カイメラや、いつでもどこでも神出鬼没な変態美青年アサキムらと廃墟の片づけを終え、ビーターサービスの名義で借りている安いだけが取り柄の宿に戻った。
ランドとメールは自前のトレーラーがあるから、そちらで寝起きしている。
セツコはシンと共に自室のベッドの上にいた。服は脱いでいない。身につけたままベッドの上に横になり、セツコはシンの思うがままに弄ばれている。抗う気力は、ベッドに押し倒された時に根こそぎ奪われている。
セツコは母親のおなかの中の胎児の様に背を丸め、きゅっと瞼を閉じて零れ出そうになる吐息を必死に堪えていた。
MSを操縦するにはあまりにか細く見える右手は震えながら握り拳を作り、喉の奥からシンによって際限なく引き出される声を殺すように、桜の花びらを張り付けたような可憐な唇に押しつけられている。
しっとりとした湿りを帯びた淡い桜色のセツコの中を丹念に丹念にかきわけ、シンは飽く事無く何度も何度も進入と後退を繰り返した。
急角度で反り返った先端が何度もセツコの体の中に擦りつけられ、どんな凹凸も逃すまいと浅く小刻みに動き、時には奥に秘された宝を狙うように時折深く侵入してくる時もある。
入口の辺りで浅く小刻みに動かれるのも、大胆なほどに奥の奥まで突きこまれるのも、どちらにも抗う気を損なわせる痛みに似た快楽があった。
苦痛のベクトルへ向かわずにこそばゆさを伴う気持ちよさを、無償でセツコに与え続けているのは紛れもなくシンの技量に依る。
そのまま突き込まれれば自分の肉を破って本当に体の中を突き刺しそうなほど硬い、棒状の感触と、それを巧み操るシンに、セツコはどこか恍惚と酔いしれていた。
(シン君、すごく上手……)
眉間に深い皺を刻み、セツコは少年の卓越した技量に一抹の羞恥を感じながら、ただただ驚いていた。震える唇も、小さく握り締められた右手も、先程から快楽をごまかすようにシーツを握ってしわくちゃにしてしまっている左手も、すべてはシンの所為だ。
「…………」
当のシンは、先程から固く唇を結び、まるで実験結果を冷徹な目で見つめる科学者の様な瞳でセツコの奥を、淡々と見つめている。
セツコへの海の底よりも深い、などという陳腐な言葉では足りぬ思いやりも、胸をかきむしり心臓を抉り出してしまいたくなるほど狂おしい程の独占欲も、時の果てを迎えても決して色焦る事の無い愛情も、今はまるで死んでしまったかのように陰に隠れていた。
ほんの数時間前までとはまるで別人の様なシンのそんな瞳が、暖かさを失ったガラス玉の様な眼が、自分に向けられている。そう考えるだけで、セツコは我知らずに甘く、桃色を帯びた吐息を薄く開いた唇から零していた。
零れた吐息に触れた風さえも淡く色づいて地に落ちそうなほどに艶やかな、セツコの声。その声を一言でも聞いてしまったら、性の快楽を知らぬ未成熟な少年でさえも、ソレに対する渇きにも似た欲望を抱かせてしまうだろう。
だというのに、シンはまるで反応を示さなかった。セツコを抉り、中から掻き回し、なじませるようにこすりつける行為だけを繰り返している。
「ん……あ……」
「痛くない?」
「う、ん。……大丈夫だから、続けて。……お願い」
「分かった」
セツコの体を慮る言葉も、了承を伝える言葉もどこか今までの様な熱はなく、まるでセツコに対する情熱の一切を失ってしまったのではないかと錯覚してしまうほどに淡々としている。
ただ機械的に作業をこなしているような印象さえある。一体、二人の間に何があったというのだろう。
セツコだけがいつもと変わらぬ清楚さと共に隠し持った、どこか背徳感さえ感じさせる、清らかな淫らさとでも言うべき矛盾した艶姿を演じているきりだ。
シンにとっては毎夜の如くセツコから引き出しているその姿は、すでに見る価値を失ったとでも言うのか、シンはいっかな機械的な様子を変える素振りはなく、ひたすらに同じ作業を繰り返す。
絶える事の無いシンの動きは、その時間に比例して加速度的にセツコの体と心を蝕んでいた。理性や道徳、倫理観といった堅固に築かれた筈の心の中の砦が、快楽を始めとする極めて原始的な感覚に崩されつつあった。
「ふう……ぅう……」
「どうした? 痛いのか? やめる?」
立て続けに瞼を閉じて懸命に堪え様としているセツコに浴びせかけられる、シンの言葉。どこか掌の上で踊るマリオネットを愛おしむ傀儡使いの様な、はっきりとした一線の引かれた言葉であった。
ようやく意地悪げな感情の色をかすかに帯びたシンの声に、セツコはほんのわずかに首を横に振って答えた。薄く開いた唇からは絶え間なく密度の薄い霧の様な吐息が零れはじめていた。
首を振って答えたのは、もう言葉で答える余力さえもないからだ。その細いガラス細工の様に儚い輪郭を描く顎が、シンの手に捕らえられた。
痛みを感じはしない程度に力を加えられ、セツコは頭の動きを封じられる。首を動かす自由を奪われ、セツコは両足の内側や足の指先を切なげに擦り合わせて今感じている感覚を打ち消そうともがいた。
「こら」
年の離れた幼い弟妹を叱るように柔らかな叱咤だというのに、シンの口から紡がれたというだけで、セツコにはもう抗う事が出来なかった。
びくりと、わずかに肩を震わせて、電流が走ったように体が硬直する。シンに怒られるのでは? そんな恐怖からではない。では、シンに嫌われてしまうかもしれない。そんな不安ではない。
自分の顎を捉えて自由を封じたシンの手の感触に、体が喜び、心が歓喜の歌を歌ったからだ。今確かに自分に触れているシンの手の感触。
なんどもセツコにぬくもりを与えてきた手。悲しみの殻に閉じ込められ、絶望の闇に心を塗りつぶされていた自分に差しのべられた手。それが、今はこんなにも確かな実感を伴って自分を束縛している。
それに気づき、セツコはなによりもまず喜びを覚えたのだ。
そっと、シンの唇がセツコの耳に寄せられる。自分の髪がかすかにシンの体に触れる感触。自分の頬に当たるシンの黒髪の感触。少しだけ野生の獣の様な匂いを含んだシンの匂い。
耳に当たるシンの吐息を意識した時、セツコは大きく息を吐きだした。こんなに近くにシンがいる。こんなに近くでシンの声が聞こえる。こんなに近くに、シンの傍に居てもいい。それが、なによりも、嬉しい。
そっとシンが囁く。夜陰に乗じて姫君の寝所に忍び込む秘密の恋人の口にする愛の言葉の様に甘く、夢の中でこの世ならぬ快楽を与える代わりに、現実の世界で二度と満足出来ぬ快楽を与える夢魔の睦言の様に、危険な言葉。
「あ……」
「動いたらダメだって言っただろ?」
「……ごめん、なさい」
「分かったら、もう動いちゃダメだぞ」
「……はい」
大好きなご主人様に怒られた子犬の様に、セツコはたちまちの内にかすかに上気しつつあった美貌を暗く沈め、申し訳なさそうに瞳を閉じる。あまりにも従順で、素直な様子が気に入ったのか、シンはセツコの頭を捕えていた手を離す。
そして、セツコの頭を優しく優しく撫で始めた。すべすべと何の抵抗も与える事無くセツコの髪は、シンの掌の愛撫を受け入れていた。
最近少しだけ日に焼けたシンの手の下で、セツコの艶やかな黒髪は持ち主同様に、シンの与えてくれる感覚を受け入れているように見えた。
何度も何度も、決して痛みを与えぬようにと加減されて滑ってゆくシンの腕。たとえそこに痛みが加えられようとも、セツコは新たな喜びと共に甘受しただろう。
シンに与えられるモノが、例え苦痛であれそれは『シンに与えられる』という前提が存在すれば、セツコにとって拒絶する理由の一切を失う。
痛みさえも、セツコにとってはシンを感じる事の出来る要素として受け入れても構わぬモノへと変わっていた。
シンに何かを与えられるという事。シンに何かを与える事が出来るという事。シンから何かを奪われるという事。シンから何かを奪う事が出来るという事。強奪され略奪され搾取されても、それがシンによるものであるなら、セツコはそこに幸福を見出すだろう。
二人は、そんな関係になっていた。
「ごめんな。すこし意地悪だったな」
「ううん、いいの。シン君の好きにして。私、大丈夫だから……。シン君がしてくれるなら、平気」
頭を撫でられる度に胸が暖かくなり、セツコは至福の法悦に包まれて、どこまでも美しく、かすかに『女』の匂いを漂わせる微笑を浮かべていた。
赤くなった顔に浮かぶ微笑はあどけない幼女の如く無垢。
瑞々しく濡れた唇が形作る笑みは描く天空に輝く三日月を写し取った様に美しい。
そんな笑みも、一泊の間を置いて動きを再開したシンによって、たちまち恍惚の色を隠そうとしても隠しきれない切なげなモノへと変えられる。シンに突きこまれセツコの中を堪能しているモノは、途方もない硬さでセツコの体の中でその存在を主張し続けている。
セツコが体の中から溢れる感覚に支配されつつあるというのに、シンは息を荒げる様子さえなく、ひたすらに入れては出し、出しては入れてを繰り返していた。
セツコは動こうとする体を必死に抑え込もうとしていた。
――分かったら、もう動いちゃダメだぞ
そう言ったシンの言葉が、呪いの様にセツコの体の中と心に張り巡らされて自由を奪っていた。たった一つの言葉だけセツコを支配してしまえるほど、今のシンは絶対的な存在になっていた。
赤い赤い、血の様なシンの瞳がセツコを見つめ続けている。あの瞳に私の体はどう映っているのだろう? そう思うだけでセツコはどうしようない羞恥とほんのわずかな不安を覚え、体はそれに比例するかのように熱を帯びていった。
早く終わって欲しい――嘘。
手を離してくれないかな――ホントにそうなったら、寂しいのに?
好きに動いていいって言ってほしい――そんな気ないくせに。彼にされるのが好きなんでしょう?
私も、シン君にしてあげたい――それが本音。でも、それだけじゃないでしょう? 私なんだから、隠さないで言ってみて。
……まだ、もっと続けて欲しい。まだ半分も終わっていないんだもの――ほら、ようやく素直になれた。この時間がいつまでも続くといいわね。
そう、ね。ずっとこうしていられたらいいのに……。
心の中で、セツコは二人の自分の間で揺れ動いていた。今、シンがセツコに施してくれている行為を、もっともっと続けて欲しいと切望する自分。シンがセツコにするように、自分もセツコにいくらでもしてあげたいと渇望する自分。
どちらも自分。どちらも心からの望みだった。
――なんてわがままなんだろう。
呆れ、自嘲する自分の声を聞きながら、セツコの心は夢想へと飛んだ。
シン君は喜んでくれるだろうか? そもそも私は上手くできるだろうか? もし私が拙いばかりに彼に不快な思いをさせてしまうくらいなら、このままただされるだけの関係でもいいのではないだろうか?
ああ、でも。シン君が、喜んでくれたら。私に微笑んでくれたら。あの手で私の頭を撫で、頬を撫でて褒めてくれたなら、そっと唇に口づけてくれるのなら。
自分はそれだけで幸福の頂に登り詰めるだろう。セツコにはそれが太陽が東から昇るのと同じくらい当たり前の事実のように思えていた。それほどまでにセツコの心はシンのモノへと成り変っていた。
行動のすべてのベクトルが根底的にシンの喜怒哀楽の感情へ対するものになり、シンには笑顔を浮かべていてもらいたい、シンの愛情をすべて独占して心も体もそれを実感し続けていた。
それがセツコの心も肉体も魂も何もかもが最優先にしている事だった。それまでセツコの体の中を蹂躙と愛撫の狭間で刺激し続けていたシンが、完全に抜き取られてしまう。
「あ……」
名残惜しさを微塵も隠さぬ自分の声に、はしたない、と感じたのは一瞬だった。つい今しがたまで異物を受け入れ、敏感になっていた体の中に、シンの吐息が吹き込まれていた。
「ふぅ……うん」
くた、と力尽きたように体から力を抜くセツコに、シンがこれまでよりも幾分柔らかい声をかけた。目の前で心地よさげに脱力しているセツコの艶めかしい肢体に、満足げな笑みを浮かべている。
セツコのやや熱を持って赤くなった頬を手のひらで触れるかどうか、という程度に撫でながら、続きを強要する。
「ほら、頭を動かして。じゃないと続けられないだろう? …………耳掃除」
「うん」
やや恥ずかしげにセツコが体を起こし、体の向きを変えて再びシンの膝に遠慮がちに頭を乗せた。
そう、セツコは今、シンに膝枕をしてもらいながら耳掃除をしてもらっていたのだ。シンの手にはそれまでセツコの体の中――耳の穴を丹念にねっぷりと掃除していた耳かきが握られていた。
うんしょ、と小さく声を出し、自分の膝の上で頭の向きを変えるセツコに、いますぐ抱きしめたいという強い衝動を感じつつ、シンはかろうじて自制する。
今度はシンの方に顔を向けた姿勢で膝に頭を置いたセツコが、真下からシンの顔を見上げて、ふふ、と嬉しそうに笑う。
「なにかおかしかった?」
「だって、今度はシン君の顔が見られるもの。それが嬉しくって」
「そっか。痛かったらすぐに言うんだぞ」
「うん。よろしくお願いします」
「任された」
そうしてシンはセツコの耳掃除を再開しましたとさ。
『シンとセツコの耳掃除』編――おしまい
最近の私はどこかがおかしい。これくらいの描写ならここでもOK? 次はもっとアレなので……性的な意味で。
>>331 GJ……GJと言った!
見事なSSだ、総帥! この展開をよしとする!
>>336 連続での投下だと! 執筆力が高すぎるぞ、総帥!
分かってたさ、ああ、分かっていたとも!
耳掃除かマッサージだって事くらい!
でもドキドキは止められないのさ!
……GJさ……もう、はらぁ一杯だ……
1ヽ| │| / ,/.-' / 丶 ,, -. 丶_ や
'、 /ゞノ ! !/'"゙' " − _...r'' ,.ィ;, /イvスヽ ゙゙三 -、;-....,
〈゙ !_ ⊥ .r‐;"´_ ..r / ̄ ,__フ´ ,..t`; .‐ `ー、\ っ
: t1 丶 !. ' l'' /´ 、 /l´ ,..r'''''´ − _t| ` 丶亠< 、 `
ヘハ..,, ニー 、} 」'´ rlf゙′ /' ノ‐ ̄ ̄ヌニ! _,, !|i!'´ ,.r 1 ゛ て
弋| _丶 1, !l、lリ _ / ...., ;.! t ||| ー‐‐'′ 」 ュ'
/土'゙゙゙‐ーll\ ,゙ヘ /」 ( ◎) ,ノワ || |l.j ____,/''´ |::. く
..`ヾゞハ-ヾnt l_ ゙Y''' : l;__............r;ニノ ┌ ffー...... -丶--nノ
│ │ 《φゞ.. `丁弋 ニ `−- 、 'ヘ: /ソ -‐‐'''' / _. 、 れl
│ |ゝ..丿l'ノl‐ !'_ r { ;ー-―-t;" /丿 ´ ー ノ'ニ..-"
│,,,..ハ| 1` ! '「 `l 1 ゙1 | ィ_____,..y____ / た
|! - 「│ | ,.j-..,, 丶.._ |.j ,/ l'′ `"j
{ t、 l │ / ___,/ `''ャ、 ヽ| !゛ ''ヾ{ ゙ー..,, l 喃,
│ "゙ー、j `1_l´ ,/ノ′ l′ > 、||\ │ ゙''t、ノl
丶 丶----ャ'' ヘ,r゛ _ ' /tl. ヽ 丶. │
>>336 `ー 、 `ゝ;l!っ--'" ,,,..ここニニ」lll)! 、 `ー ` . l´|、
`ー、 1|t l !エエ..工エ!-‐--||/゙fl \ \_,l'′゙ 、
゙l ノl│‖ _,,..-----―-r'`'1 ゙ーヘ ││ / 、 l
! l!´│r~~ゝ. 丶 `‐「 ノ | l゙ゞ \ ヘ
|,..-'" ゙│ ! ヘ_ 丶 ,,, | ] _/''´ . ,/ tj丶
l'ン" ゝ !........ゝ、..,,_ ├'"''゙゙ -__,..llゞ ./゙「
! ! ´ ヘ、`''‐‐'"´
ふう・・・
お前ら、こんな時間まで起きてないで早く寝ろよ?
>>336 おまwww
事情を説明して、次回だけエロパロに投下すれば良いんじゃね?
総帥GJなんだが、嫌な予感がするぜ。
そう、ヤキン決戦辺りに唐突にグロスタの連中が出てきて
セツコ以外全滅とかありそうな気がしてきた
総帥乙。
真魔装リメイクはシナリオ書いてた人が自分の作ってる卓ゲで忙しそうだし厳しいんじゃないですかねぇ……
スwwラwwwムwwダwwンwwwwクwwwww
総帥乙です
二作品の温度差凄すぎるw
これ続けて読むと、マサキ達が懸命に盟主王と戦ってる最中に、シンだけセツコと呑気にイチャついてるように見えて吹いたw
マサキのアサキム化吹いたwww
ヴィガジがすっかり萌えキャラになってるwww
マサキはかっこいいんだが、インスペクター四天王のステキ化に吹くwww
盟主王強いなぁ。
サイバスターがいずれヴァニティリッパーを手に入れるのを楽しみにしてるぜ!
総帥GJでした!!
関係ないけどZのバルディオンENDってクリアしたことになるの?
隠し要素が2人の主人公クリアって聞いたんだけど
このスレ、まだ00を扱ったSSは一つも無いんだな
総帥がセブンソードをギミックとして使ったのと、アウルの「俺がエムリオン」発言ネタぐらいか
2期が終了したら使用頻度上がるかな
乙女座は00ネタだろw
なんかマサキがテラ主人公w
さすがサイバスターはでかくて硬い敵に向かっていくのが絵になるぜ!
現在、ヴァイサーガの相手を凸とアクセルのどっちにしようか激しく迷い中…
凸に一票。主としてレモンさんの鬱憤を晴らすために。
凸かなぁ。
でも凸だとグレミーとルーの関係みたいに見えてくるから不思議。
私も凸で。特濃おやじの三人の暴れっぷりも楽しみ楽しみ。
まさかの凸大人気www
そういえばタイトルがダークナイトと必殺技の光刃閃をコントラストにしてるのに今気づいたw
凸だろう。そろそろチート∞も痛い目に遭うべきwwwwwwwwwww
アレ?既にモモゼインにフルボッコされた気がw
>総帥
遅ればせながらGJ!
菊地謹製の怪しい武術でパワーアップしてるヴィガジ達に吹いたw
あとグレースがティーン設定ってことは、もしか若かりし頃の社長も居るのだろうか
あとシンセツの方は筆力無駄遣いしすぎw
>11氏
アクセルにも以前ボコられてるから意趣返しして欲しいところだけど、まああっちにはキョウスケという本命のライバルがいるし、
やっぱ凸の方が圧倒的に恨み骨髄だからなあ
まあこの世界観でキョウスケとアクセルの因縁に割ってはいるのはKYだからな
主人公を目立たせるのと主役マンセーはまた別だから
シン用の敵としてわざわざラクシズを連れて来てるようなもんだし
キラやラクスはともかくとして、アスランはOG2の地点で決着がつきそうだな。
それもアースクレイドルあたりで
ここまで負けてばっかりな上に、姫と呼ばれるようになった時点で主役マンセーはないだろw
マンセー→肉のマンセー→マンセーといえばカツサンド→美味しい
すなわちこのスレにおける主役マンセーとは負け続けたり姫扱いされたりといった
ネタ的に美味しい扱いのことを指すんだよ!!
むしろ某二世の方が近いような、カルビ丼の
作者自身がシンは表の主人公みたいなこと言っていたから、裏や影の主人公もいる、つまりその分だけは薄くなるんだよw
366 :
議論スレにて1001変更案を相談中:2008/10/31(金) 17:59:54 ID:c7RTOMPC
やはりハゲじゃなかった凸でしょう、本人は(キラをボコった)ラミアをボコりたいのに、シンがラミアとアクセルの決闘をジャマさせないためにヴァイサーガでメカ隠者を抑えるに一票。
(ボコられて)遅く出撃したキラによって齎されるアスカ姫のピンチは駆けつけたモモゼインがクライマックスに助けるに一票。
鰤、紅茶、レイあたりが裏、影、真の主人公ポストだろうなw
まぁ、姫はヒロインだからな
他の職人さん達は無事かな
無事だよ。
4丁目あたりで見かけたから。
ビアンSEED 第六十八話 おれのいるべき場所、いたい場所
風の祝福を満身に与えられた少年が、無限の虚空へと叫ぶ。
魔を払う天上世界の戦士の如く凄烈に。
ただ一人で時果てるまで地獄門を塞ぐ孤高の剣士の様に痛切に。
少年は、名前をマサキ・アンドーといった。
「おおおお!!」
真空の宇宙に銀躯の騎士が飛翔する。過ぎ去ったその後に翡翠の霧を零しながら、四基の小型自律誘導兵器ファミリアレスが従順な下僕としてつき従わせている。
目指す先には、かろうじて人型と見える、巨大な翼と両肩に巨大な螺旋を描く巨大衝角――ドリルを伸ばす破壊巨神アズライガーの姿があった。
銀風が騎士の姿となったかの如き機械巨神は名をサイバスター。この星とは異なる次元に存在するラ・ギアスと呼ばれる世界で、予言に謳われた滅びを齎す“魔神”に対抗するために生み出された、人造の守護者“魔装機”の最高位の一種“魔装機神”の一つだ。
ほんの数時間前に大量に作り出されたモビルスーツのなれの果てが、無数のデブリとなって漂う宇宙空間を、サイバスターはファミリアレスに火砲による支援を行わせながら、不規則なランダム軌道でアズライガーを目指す。
アズライガーに挑むのはサイバスターだけではない。三十メートル余のサイバスターと同等近い巨躯を誇る、闇色の装甲を持った存在しないはずの第十七番目の魔装機イスマイル。
ディバイン・クルセイダーズ所属の最精鋭部隊の一つサイレント・ウルブズに所属する上記の二機に加え、同盟勢力であるザフトの最高クラスのエース、エルザム・V・ブランシュタインのジャスティス・トロンベ、その実弟ライディースのフリーダムの姿もある。
ライのフリーダムは追加武装オプションであるミーティアを失っていたが、エルザムのジャスティス・トロンベはミーティア装備のままアズライガーと壮絶な砲撃戦を演じている。
イスマイルとフリーダムは全身に無数の火器を仕込み、多対一のコンセプトをそれぞれ高水準のレベルで体現した機体だ。ミーティア装備のジャスティス・トロンベも近接戦闘に特化した機体特性に、前述の二機以上の火力を備えていた。
イスマイルに搭乗するテューディは決して戦闘が本職ではないが、ブランシュタイン兄弟はそれぞれが天才の名を恣にするエース中のエースと言っていい。
またイスマイル自体も単独での戦闘能力は、現大戦中最強に分類されるべき超高性能機だ。本来存在する筈の世界では、戦局を左右するレベルの戦闘能力を有し、尋常ならざる再生能力さえも有している。
永久機関に加え、強制し強化した真性ならざるものとはいえ、最高位レベルの精霊からの加護は、並大抵のMSを数十単位で集めようとも寄せ付けぬ絶大な力と言っていい。
であるならば、それほどの力を集めてなお今だ牙城崩れぬアズライガーは、悪夢そのものの存在と言えるだろうか。
トランスフェイズ機構と自己再生機能を持つラズナニウムを用いた装甲、ニュートロンジャマー・キャンセラーによる核動力、自然界にあまねく存在するターミナス・エナジーを動力とし、それまでの地球連合の機動兵器から頭抜けた機体であるのは確かだ。
その巨躯の内に『戦友』の名を与えられた戦闘用のコーディネイターの脳髄を複数納め、さらには過激なコーディネイター排斥思想団体となったブルーコスモス盟主ムルタ・アズラエルを乗せ――今は異世界からの死せる来訪者ゲーザ・ハガナーが支配していた。
消えていた筈の自我を蘇らせたゲーザが、今はアズライガーそのものを偽りの肉体に変えて、静かなる狼達の牙共と破滅のダンスを舞い踊っている。
『てて、めええを潰せばこの頭痛も消えるだろおおお!! ああ!? ぷちぷち潰してやるってばよお!』
「コ、コーディネイターの味方する、くくくクズどもお! お前らも同罪ダヨォォオナアアア!」
アズライガーの胸部にある計三門の大口径の超高出力エネルギー砲であるスーパースキュラが、奔流となって溢れ出す。
真正直すぎるその攻撃に当たるほど、四人は鈍間ではなかったが、いい加減無尽蔵かと思わされるほど連発される攻撃に、徒労感に似た疲労が溜まりはじめている。
「くそ、こいつどうしてこんなタフなんだよ!?」
少なくとも二十回以上放ったアートカノンが、再びアズライガーの展開する二重の防御――エネルギー・フィールドとターミナス・エナジースフィアによって阻まれて霧散するのを見て、マサキが苛立ちを隠さぬ声を上げる。
成功するかどうか分からぬ銀麗の魔装銃イタクァに頼るよりも、多量のプラーナ消費覚悟でアカシックバスターを撃ち込む方がまだ勝機があると、脳裏で囁く自分の声を聞く。
ただ、こうしてアズライガーを相手に苦戦している事は決して無駄足ではなく、アズライガーによって破壊し尽くされていたボアズの防衛戦線が、多少なりとも落ち着きを取り戻し、クオルド隊とは別の核動力機部隊なども再機能し、地球連合軍と激突している。
サイレント・ウルブズとブランシュタイン隊をはじめとするディバイン・クルセイダーズとザフトの精鋭達の到着は、少なくない恩恵をボアズの守備隊に齎していた。
もっともアズライガーと延々死闘を繰り広げているマサキに、それに気づく余裕はない。今もサイバスターの左の翼を掠めた100mm口径のエネルギー砲ツォーンに、体の中から心臓を握られたような怖気を走らされたばかりだ。
眼にも分かりやすい、極めてシンプルな暴力と理不尽の権化と言えるアズライガーの破壊の旋風は、ルオゾールやシュウとはまた別のベクトルの、ダイレクトに生存本能に働きかけてくる原始的なまでの暴力だ。
理屈でも感傷でもなく、対峙するだけで思わず身が竦むほどに圧倒的なのだ。単純に視覚的な問題でも、通常のモビルスーツを大きく上回るサイバスターの三倍弱あるアズライガーの巨体は、それだけで踏み出す一歩を躊躇わせるものがある。
自分に対しての悪意を隠そうともせずに立ち塞がる、自分の三倍以上ある上背の巨漢を想像すればいい。はるか高みから見下ろしてくるそいつの瞳はさぞや冷たく、途方もなく恐ろしいものとして映るだろう。
また、精神的なプレッシャーを別にしても、操者の生体エネルギーであるプラーナを駆動及び武装の糧とする魔装機タイプは、MSなどと比べれば長時間の戦闘には向いていない。
事前に、バナナ味の高カロリースティックを胃に入れておいたから丸三日は何も食べなくても栄養面では支障はないが、それでもこれまで連発したアートカノンや真・天空斬の消耗が体力的に響いている。
つい先ほど、テューディの制止を無視して半ばヤケクソに放ったサイフラッシュの影響も大きい。代わりにアズライガーに残るマイクロミサイル全弾とビームガンバレルを破壊する事は出来たが、マサキの体力と精神力の消耗にも拍車をかけている。
想い人のバイタルサインとプラーナ反応から、これ以上緊張状態を維持したまま硬直状態に入る事はうまくない、と判断したテューディはイスマイルの最高火砲オメガブラストで一気に片を付ける、と腹を括る。
いかにアズライガーの誇る二重の光の壁と堅牢な装甲が相手とはいえ、こちらもまた地底世界ラ・ギアスの技術の粋たるイスマイルの全力の攻撃だ。ただで済むはずはない。
これまで堅牢無比を誇った光の壁に一孔を穿ち、その漆黒の巨躯に大穴を開けてやる、とテューディは決めていた。
仮に機体そのものにダメージを及ぼす事は出来なくても、マサキ以外にもライとエルザムがいる。あれほどの腕の持ち主ならば、イスマイルの一撃で揺らぐアズライガーの隙を見逃しはすまい。
これまではあくまでマサキとサイバスターに、いわば華を持たせようとサポートに徹していたが、膠着しこちらの疲労ばかりが目立つようになってきた状況がそれを許さなくなり始めていた。
加えていえば、こちらの予想をはるかに上回るアズライガーの運動性能と、パイロットの異常なまでの操縦技術というマイナス要素もあった。あれでは仮にマサキがイタクァの操作に集中できても当てられるかどうかは、分の悪い賭けという他はない。
(止むを得んか)
テューディは、イスマイルのコックピットにある、サイバスターとおなじ球形のコントロールスティック――この場合、コントロールスフィアとでも呼ぶべきか――を握る五指に力を込める。
男の肌も知らぬと見えるほど透き通るような肌に覆われたテューディの指を通じ、イスマイルに多量のプラーナが供給され、制約によって束縛された精霊から強制的に力を引き出し、増幅されたプラーナと魔力は闇色の光となってイスマイルを取り巻く。
見る者の不安を駆り立てる闇と絶望と恐怖を満々と封じ込めた邪悪の黒を纏うその姿は、魔界の深淵から地上に姿を現す背徳の魔女帝の如く禍々しく、しかし、見る者の魂を魅了する美しさがあった。
禍々しくあるが故に美しいのか、美しささえ感じさせるほどに禍々しいのか。テューディという存在は美貌と恐怖とが等しい意味を持つ女なのかもしれない。
「マサキ、ライディース、エルザム、これからイスマイルであのデカブツに一撃を見舞う。威力は保障するが、奴の動きが早く、不規則で回避予測ができん。可能な限り私が良しというまで足を止めさせろ」
「こちらの火力で突破できん以上、そちらの提案に乗らせて頂く」
「選択の余地はなさそうだな」
ブランシュタイン兄弟は、一瞬の間をおいてそれぞれテューディの提案に賛同の意を表した。
彼らなりの自尊心や同じ軍に身を置く同胞たちの仇は自分達が討つべき、という意識が働きかけたが、それ以上にアズライガーの撃破こそが優先されるべきだと自分自身を納得させたのだろう。
「テューディ、大丈夫なのかよ。おれとサイバスターの事を気にしてんなら、お門違いだぜ。おれもサイバスターもまだまだ戦える!」
「私の身を案じてくれるのはこの上ない喜びだが、マサキ、案ずるな。なにもカミカゼをしようというのではない。私のプラーナと魔力をあるだけ乗せたオメガブラストを撃ち込むだけだ。それまでお前が私を守ってくれれば何も問題ない」
「っ、分かったぜ。お前には傷一つ付けさせやしねえ!!」
「ふふ、少しこそばゆいな。それとも女冥利に尽きると、そう言えばいいのかな?」
はにかむような笑みを口の端に浮かべ、テューディは烈火の激情に灯火の様に小さな喜びの感情を混ぜ、復讐の女神たるおのが愛機に獰猛な叫びを挙げさせる。
「さあ、イスマイル。この私の憎悪、嫉妬、羨望、怒りから生まれた魔装機よ。私のプラーナを貪り、貴様の力を示すがいい!」
制約の呪いに捕らわれた精霊の呪詛の声であろうか、イスマイルはテューディの咆哮に呼応するように、その体に纏う闇色の光を強く脈動させ、貪るようにテューディのプラーナを啜り、牙を立て、血肉を喰らう餓虎の様に搾取していく。
自らの生み出した鋼の子の呪わしき出生を悔いているのか、まるで自らに課した贖罪の如く、自分の心身を顧みぬ所業に、マサキはひどく胸が痛み、どす黒い不安が渦を巻くのを感じていた。
マサキの知らぬテューディの過去が、テューディの現在に恨みも露わにして復讐しているのだろうか。
愛しい恋人が進んで苦しみを味わう事を是とするような心を、なぜ持っているのか、それを知らぬ自分を、マサキは嘆き、それ以上に呪いたくなるほど怒りを覚えていた。
サイバスター越しにも次々とイスマイルに流れ込み、奪われてゆくテューディのプラーナが分かる。まるでぽっかりと世界に穿たれた深淵の黒い穴に、休む事無く命という名の光が飲み込まれているようだ。
テューディ自身もそれ相応にプラーナは消耗している。マサキほどではないにせよ過剰なプラーナの喪失は、生命の危機につながる。無論、マサキがそれを是とするわけもない。
だったら、するべきこと、しなければならないことはただ一つに集約する。
「てめえをぶっ倒すぜ!! このドリル野郎!!」
イタクァの通常弾頭を二発、三発と撃ちながら突撃し、迎撃に放たれる五連のスプリットビームガンを螺旋の機動を幾重にも描いて回避。
アズライガーの注意を惹くために真っ向から、派手に切りつけるサイバスターを援護するために、エルザムとライも左右から絶え間ない連続射撃を加えて、アズライガーの動きを牽制する。
展開した二重の防壁を解除する暇を与えぬ波状攻撃だ。三百六十度ありとあらゆる方向から攻撃可能だったビームガンバレルが残っていれば、防御フィールドを展開したままでもある程度の反撃は可能だったが、既にサイフラッシュによってすべて撃墜されている。
『ちい、ハメ技ってかあ!? ダーティープレイってやつかよ』
いまやアズライガーを掌握しているゲーザは、三方向から加えられる攻撃に対し、もっともダメージが低いと思われるサイバスターのディスカッターの斬撃を受ける事を選択した。
ジャスティス・トロンベとフリーダムからの攻撃はビームによるものでTP装甲があまり役に立たないが、サイバスターの実体剣ならば相転移した装甲は破格の防御能力を発揮する筈だからだ。
前方のサイバスター以外の方向に対して防御フィールドの展開を維持しつつ、正面でディスカッターを突き込む姿勢にあるサイバスター目掛け、スーパースキュラを放つと同時にフィールドを解除。
解除とスーパースキュラの発射までのタイムラグの間に、アズライガーの一撃必殺の反撃を見てとったサイバスターは、掴んでも手の中をするりと吹き抜けてゆく風のように素早い機動で回避して見せ、ファミリアレスの火砲がアズライガーの胸部に集中した。
「いい加減てめえの顔も見飽きたぜ! つりはいらねえ、とっときな!!」
イタクァの純銀色の銃身内部で集束され形を与えられたエーテル弾頭が、マサキの不可視のプラーナを乗せてより強く輝きを帯び、ファミリアレスの放つ光弾と共にアズライガーへ確かに命中する。
傍目にも大きく装甲にひびが入り、内部から小さな爆発の焔がのたうちまわる蛇の如く噴出する。
「頂く!」
「ハイマット・フルバースト……シューート!!」
機体内部に大きな損傷を被ったアズライガーが、防御フィールドの展開を維持できずに、それまで無敵の防御を誇っていた光の壁が消え去る。
ブランシュタインの名を持つ兄弟達がその隙を見逃すはずもなく、ミーティアから延びる百メートルに届こうかという長大なビームサーベルと、フリーダムの全身から迸る五色の雷が、アズライガーの背にある大型ウイングの両翼を粉砕してみせる。
『ぐおおおおお!? てめえらああああ!!』
「まだだ、まだ、ぼくはぁあああ!!」
このまま行けば! 確かな手ごたえを感じ、マサキはイスマイルを振り返る。すでにそこには機体から途方もない高エネルギーを発する復讐の女神の姿がある。
「堕ちろ、オメガブラスト!」
イスマイルの中のテューディが重々しく告げると同時に、イスマイルの機体から放出される破滅の光の本流。主推進機関であるウイングを破壊され、機動がままならぬアズライガーへ無慈悲に襲いかかり、その左半身へと牙を突きたてた。
『おおおお!? おれは、こんな処で死ぬキャラじゃねえってのおおお!!!』
オメガブラストの砲撃を受けながらも残る推進機関で強引にアズライガーを動かし、主線軸から外れるアズライガー。ついにオメガブラストの放射が終わった時、アズライガーは恐るべき事に左腕のみを失った状態で、イスマイルを睨みつけていた。
「強引に砲線から外れたか、だが、もう一撃は防げまい」
アズライガーの満身創痍の状態を確認し、テューディだけでなくライ、エルザム、マサキも、武装の照準をアズライガーへと据える。ボアズで猛威を振るった破滅の盟主王も命運も、ようやく尽きようとしていた。
――その時。
「やらせねえぜ!!」
真上からマサキ達とアズライガーの中間を凪ぐ翡翠色の光が降り注ぐ。輸送艦シルバラード所属のリュウセイ・ダテが搭乗する白い鋼の幻獣ヴァイクルだ。ゲーザが最後に搭乗し、共にこちらの世界を訪れた機体でもある。
今はメインエンジンやカルケリア・パルス・ティルゲムを連合製のものに変えられてはいるが、そこにイングラムが一枚噛んだことで技術的な面での調和がとれて、本来の性能に近い水準を維持している。
リュウセイと同じくシルバラード所属のWRXチームは本隊に同道して、ボアズ守備軍を相手に悪鬼羅刹の如く、一方的な活躍を見せている。
リュウセイがこちらに回されたのは、これまで順調過ぎるほどに快進撃を続けていたアズライガーの進行が止まり、ひいては旗艦であるアークエンジェル級五番艦シンマニフェルへの脅威を憂慮したレフィーナの指示による。
アズライガーとは反対の宙域であまたのMSを相手取っていたこともあり、多少到着は遅れたが、まさに絶好のタイミングで間に合ったと言い換える事も出来る。
やや前に出過ぎる傾向のあるリュウセイをサポートするために、元教導隊所属のギリアム・イェーガー少佐と、イングラム・プリスケン少佐主導のWRX計画関係者であり、今はギリアムと同じ情報部所属のアヤ・コバヤシ大尉も同行している。
ギリアムはエールストライカーを装備した105ダガーに、アヤはT−LINKストライカー装備の同機だ。
コックピットの中で、ギリアムはアズライガーの交戦している相手に気づき、端麗な顔立ちを強張らせる。いくつもの世界を彷徨う特殊な事情に置かれている彼が、これまで何度となく共に肩を並べて戦った戦友の姿が、そこにあったからだ。
「サイバスター……操者はマサキ・アンドーか? ヴァルシオンにベルゲルミルまで、量産型とはいえ、あんなものまで用意していたのか」
「ギリアム少佐?」
「いや、なんでもない。アヤ大尉、アズライガーの退路を確保したら、我々もすぐに退くぞ。DCやザフトも消耗しているようだが、真っ向から戦える相手ではない」
「了解です。リュウ、聞いていたわね? ヴァイクルのカナフ・スレイブでうまく敵機を牽制して。できるわね?」
「任せとけよ! でもいいのか、碌に戦わないで逃げちまっても?」
「私達の任務ではないもの。それに本隊の方がボアズに取りついたから、こちら側で無理する必要もないわ」
「まあ、そういうんなら、おれもゴネる気はないけどよ。とにかく、DCとザフトの連中が相手だ。手加減はなしだぜ!!」
リュウセイの戦意に応じ、ヴァイクルに収納されている無数の十字が飛び立つ。ヴァイクル最大最多の遠隔操作兵器カナフ・スレイブだ。MSの胴体ほどもある十字というシンプルな形状をしており、中心部の空洞に光の刃を形成して敵を貫き切り裂く。
万人が持つと言われる『念』を特に強く発現させた異能者のみが扱う事の出来る特殊な武装で、地球連合でもこれを扱えるのは、目下リュウセイとアヤを含めて十指に満たない。
アズライガーとの長期戦闘で疲弊していたマサキ達に、まるで嵐の如く襲いかかる無数のカナフ・スレイブ達。三百六十度ありとあらゆる方向からの攻撃を可能とする宇宙空間では、地上でこの攻撃を受けるよりも回避は困難であろう。
テューディは、本来スペースノア級の艦首モジュールとして開発されていた広域防御フィールド『エルダー・サイン』を展開してカナフ・スレイブを防ぎ、ライやエルザム、マサキは機体の高機動性を生かして回避しつつ迎撃している。
だが、加速性能には目を見張るものがあるものの、小回りの利かなさに関してはもはや手の打ちようが無いミーティアが、周囲を包囲するカナフ・スレイブに捕まり、エルザムはミーティアをパージせざるを得ない状況に追い込まれた。
たちまちカナフ・スレイブが一つ二つ、三つ四つとミーティアに突き刺さり、エルザムのジェスティス・トロンベが離れた頃には瞬く間に大爆発を起こして塵と消えた。
兄弟そろってミーティアを失った事に対し、屈辱の念を覚えたが、エルザムはついで襲いかかってきたエール105ダガーに意識を振り分ける。
機体性能ではこちらが明らかに上のはずだが、まるであらかじめこちらの攻撃を見えているかのように回避し、そこから攻撃途へ転じる百戦錬磨という言葉が霞むような洗練されつくした動き。
人型機動兵器の存在が確立されて間もないこの世界では、どんな天才であろうとも不可能な、圧倒的な経験値を積んだ者のみが可能な領域の機動といえた。
「よもや連合にこれほどのパイロットが残っていたとはな。月下の狂犬か乱れ桜か……。全力で相手をさせていただく!」
「漆黒の機体色、ブランシュタイン家の紋章、エルザムか。ヴィレッタの報告ではお前もまた死人だというが、おれがヘリオスであった時のお前なのか?」
牙銀、と硬質の物体同士が打ち合う鋼の音を立てて、ディスカッターが纏めてカナフ・スレイブを打ち払う。すでに展開した全四基のファミリアレスは、マサキがこの手の遠隔操作兵器の操作が苦手な事もあいまってカナフ・スレイブに撃ち落とされてしまっている。
もう一発サイフラッシュを撃てば、一度にこの光刃の群れを破壊する事も出来るだろうが、消耗した自分自身のプラーナを考慮すれば、そもそも撃てるかどうかというレベルだ。
もう一歩であのバケモノを倒せたというのに、とマサキは奥歯を砕きかねぬ思いと共に噛み締めた。
ヴィガジやリカルドらは相変わらずベルゲルミルやヴァルシオン改と互角に近い戦いを演じており、そちらにはカナフ・スレイブが向かっていない事もあり戦況が硬直状態にある。
また、後方のアカハガネやウィクトリア他ザフト・DCの増援艦隊も、母艦を失った友軍機や救命ポッドの回収と襲いかかる地球連合艦隊本隊の迎撃に忙しく、こちらの戦闘に助けの手を伸ばす余裕はない。
アズライガーの後方に控えていた地球連合の大部隊を相手に、防御フィールドと圧倒的な火力と対MS戦を考慮した無数の近接防御火器を兼ね備えたアカハガネを中核にして、善戦しているのだから、これ以上無理は言えまい。
直衛についているのがオールトのブローウェル・カスタム一機のみではあったが、その一機の性能が段違いに高い事と、パイロットがあくまでも堅実な戦闘を好む事もあいまって、よくアカハガネを守っていた。
アヤのTL105ダガーが、T―LIMKリッパーを展開しながらビームライフルを撃ってライのフリーダムを牽制しつつ。アズライガーに近距離通信を送る。パイロットの姓名などは不明だが、それは瑣末なことだ。
アズライガーの機体の状況を考慮すればここは一端後退させるしかない。というよりもそこまで追い込まれていながら、何の反応も見せず、機能が停止したように動きを止めているアズライガーに、アヤはパイロットに何かあったのかと不安を覚えていた。
「聞こえる? 応答しなさい。状況の報告を……」
『……めえか……』
「え?」
それは、アズラエルの声ではない。念動力を持つアヤだからこそ聞こえた、脳髄へと成り果てたゲーザ・ハガナーの狂気の一念であった。一瞬、空耳かと忘我するアヤの精神に、決壊した堤から溢れる濁流の様にゲーザの思念が流れ込む。
『てぇぇえめええええだなああああ!!! おれを、おれをおれをおれをおれを、ここ殺殺コロしたのはあ!!! てめぇえがおれの、仇ィィダナアア!?』
「っ、なん、なのこの声は!?」
自分の全てを呑みこまれるかの様なゲーザの思念に嫌悪感と恐怖を刷り込まれ、体と心を内側から汚辱されるような感覚に、アヤは無意識の内にT−LINKシステムをカットしていた。
そうしなければ情報部でも詳細がつかめなかった、目の前の巨大MSから放たれる思念の渦に飲み込まれ、二度と自分を取り戻す事が出来なくなると恐怖した為だ。
手首から先を失った右手でアヤのTL105ダガーを殴り飛ばし、アズライガーの残された全砲門はヴァイクルをロックオンする。
ソキウス及びシステムが友軍機へのロックオンの認証を許すはずもないが、それをヴァイクルから移植したカルケリア・パルス・ティルゲムで増幅されたゲーザの念が強制的に無力化している。
「味方を撃つつもりなの? リュウ!!」
「なに!?」
『死ねやあ!!』
まさか、と思うのと同時に疑惑は確信へと変わり、アヤがリュウセイへの警告を発した時には既にアズライガーの胸から、憎悪の光が群れをなしてヴァイクルに襲いかかっていた。
リュウセイは生まれ持った反応速度とT−LINKシステムに助けられ、ヴァイクルに直撃を受けることこそなかったが、突然の味方機からの攻撃に戸惑いは隠せず、カナフ・スレイブ達のコントロールに明らかな乱れが生じる。
「てめえどういうつもりだ! こっちは味方だぞ」
『殺す、殺す、潰す、潰す、てめえだけはあ! おれの頭痛を消す為にい、おれが“おれ”の仇を討つんだってのオオオオオ!!』
「がっ、なんだコイツ!? 声、じゃねえ。あいつの考えている事か!?」
アヤ同様にとてつもない密度で渦巻くゲーザの狂気の一念を感じ取ったリュウセイは、その場で嘔吐したい衝動に突き動かされつつも、かろうじてこらえ、ヴァイクルめがけて再び火砲を乱射してくるアズライガーに気付く。
いや、あくまでもヴァイクルこそ狙っているが、それを除けば無秩序に放たれるビームやターミナスキャノンは味方への誤射も恐れず、同士射ちなど思慮の外としか思えない乱射状態だ。
マサキやテューディ、ギリアムやアヤ達だけでなく、魔装機と死闘を繰り広げていたグレースやアーウィンにまで飛び火し、周囲の戦闘をわやくちゃに混乱させている。
『うはあうはあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!』
「く、ギリアム少佐、これでは手がつけられません!」
「仕方あるまい、この場を離れるか……」
アズライガーの放つ一切の倫理的な制限を失った砲撃は、敵味方に回避のみを選択させていた。アズライガーから距離を取って離れたアヤが、エルザムとの戦闘を中断しているギリアムに通信を繋ぎ、対処の是非を問う。
ギリアムがそれに答える間も、アズライガーはひたすらにリュウセイの駆るヴァイクル目掛けて残された火器の全てを放ち続けていた。
念動フィールド越しにかすめてゆくエネルギーに揺れるコックピットの中、リュウセイは今も脳に差し込まれるようなゲーザの念の放射を受け、苦痛にまみれながらヴァイクルの操縦を続けていた。
飽きる事も尽きる事も知らぬゲーザの念が、リュウセイの精神を掻き乱し、ヴァイクルの操縦にも影響してその機動はおぼつかないものになっている。
「ちくしょう、何考えてやがる!? こうなったらコックピットだけ外して撃墜するか」
執着といってよいレベルでヴァイクルを狙い続けるアズライガーの様子に、マサキやテューディ、ライやエルザムも困惑に彩られていたが、既にアズライガーには大きなダメージを与えていたし、その不可解な行動によって連合側の動きも停滞を見せている。
一度後退し、ボアズの守備軍と合流し直すの事も選択肢に入れるべきだろう。後方でアルテミスを出港したDC軍を指揮するフェイルと連絡をつける頃合いかと、テューディは思案した。
こう言う時にフェイルが最前線にいないとサイレント・ウルブズは迅速に行動の統一が取れないのが欠点だ。
軍人としての経歴や年齢を考慮すればオールトが指揮を取ってしかるべしなのだが、良くも悪くも軍人然とした忠義の人であるオールトでは元民間人や異星人で構成されるメンバーをまとめ上げるのは難しい。
その点フェイルなら、ラングランでクセのありすぎる魔装機操者達を指揮した経験があるから変わり者の扱いも慣れているし、身命を賭してラ・ギアス統一に動いた胆力や決断力、その際に培った経験と威厳から、まず全員が意見を尊重する。
今回の様に母艦と大きく離れた状況下での戦闘において、各機の連携や指揮をまとめ上げるリーダー役がいないのだ。このメンバーの場合能力もそうだが、個性もかなり強烈でなくてはならないのが悩ましい所だろうか。
今回の場合は、テューディがいの一番に口を開いた。とりあえずオメガブラストを一発当てたことである程度気持ちの整理ができ、周囲の状況を把握したからだろう。
「全員聞こえているな。一度退くぞ。今なら部隊を下げても追撃はあるまい」
二、三口答えする声はあったが、全員の了承の返事が返って来たのはすぐだ。目の前では変わらずアズライガーのヴァイクルのみを眼中に置いた出鱈目な砲撃が続き、ヴァイクルや105ダガー二機も攻撃を加えるわけにもゆかず遠巻き距離を取っている。
唯一返事の無いサイバスターに気づき、イスマイルのカメラをそちらに向けると、銀の魔銃を構えたまま回避行動をとりつつ、プラーナを高めている姿が映る。
「……マサキ?」
サイバスターのコックピットの中で、マサキは確かにテューディの意見を理解していた。アズライガーが意図や理由は不明だが味方に牙を剥いている今の状況は確かに、部隊を退げるには絶好だ。
だが、ここまで追い詰めた強敵をみすみす逃がすというのには素直に承服せざるものを覚えていた。ここであの機体を破壊しなければ、時を置いてまたあの猛威が振るわれる。機体そのものが破壊の快楽に彩られているかの如き暴虐が繰り返されるだろう。
「そんなのを繰り返させるくらいなら、少し無理してでもここで倒しといた方がいいだろ! 行っけええ!」
渦巻く嵐の様なマサキのプラーナが、サイバスターの左手に握られた銀銃に収束し、輪胴に装填されたエーテル弾頭内部に圧縮される。風の魔装機神操者であるマサキの意思が、サイフィスの加護のもと弾頭そのものと繋がり、意志のままに飛翔する用意が整う。
引き絞られる引き金。弾頭を叩くハンマー。回転する輪胴。無音の宇宙にも響くエーテルの炸裂する霊的な轟音。放たれたエーテル弾頭がマサキの瞳と同じ色に輝いている。
アズライガーの全身から絶え間なく放たれていた数種の光線の間を、糸を縫うようにして飛翔した弾頭が狙い過たず、ツォーンを連射していたアズライガーの額に命中し、エーテルが飛散するえもいわれぬ美しい散華の光と共に破壊して見せた。
まるで無敵を謳われた神話の世界の城塞の様に揺るぎ難かったアズライガーの頭部が跡形もなく粉砕され、アズライガーの動きがようやく停止する。
ムルタ・アズラエルの居るコックピットやソキウス、ゲーザ・ハガナーらの収められた箇所は頭部ではない。
しかしFCSや各種センサー類、カルケリア・パルス・ティルゲムの補助システムなど繊細な電子部品を積み込んだ箇所の破壊が、機体のシステムに過剰な負荷を与えたのが原因だろう。
「へっ、どうだ!! このまま、い……きに? ありゃ、力が……」
「プラーナを乗せすぎだ! 馬鹿もの!」
「わ、悪い」
「く、サイバスターはイスマイルで運ぶ。アカハガネに戻り、ボアズの軍と合流する」
『その必要はない』
「フェイル? どういう意味だ」
『……たったいまザフト司令部から通達が来た。ボアズを放棄しヤキン・ドゥーエへ後退するとな』
「……落ちたのか?」
『余力を残した状態でヤキンの部隊と合流するためだろう。徹底的に抗戦すれば連合の被害もさらに増えるだろうが、それよりはDC本体とヤキンのザフトと合流して地球連合を迎えうつ算段、といった所だろう』
「なるほどな。分かった。そちらに帰投する」
イスマイルでサイバスターの肩を掴み後方を確認すると、こちらへの牽制としてアズライガーとの間にヴァルシオン改や量産型ベルゲルミル、ヴァイクルが位置していた。
連合側の面々にとってもアズライガーが厄介の種ではあるが、一応味方である以上見殺しにする気はないという事だろう。
お人よし共め、と自分達毎敵を葬ろうとした味方を庇う姿に毒づいてから、テューディは母艦アカハガネを目指し、イスマイルを動かした。
一方で踵を返すDC・ザフトの部隊を見送るギリアムやリュウセイ達は、シンマニフェルからアードラーの指示でアズライガーの回収に出撃した部隊を確認していた。
頭部を破壊された影響が今も残っているのか、アズライガーは動く様子はなく、かろうじてパイロットの生命反応が感知されているきりだ。動力もかろうじて生きているようで、またいつ動き出して暴れはじめるか分からず、下手にその場を動くわけにもゆかない。
「なんなんだよ、コイツ! 急にこっちに砲を向けたと思ったらひたすら撃ちまくってきやがった!」
「確かに。一体何があったのかしら? 少佐、何かこの機体についてご存知ですか?」
「いや、おれのセキュリティレベルでもこの機体に関してはアクセスできなかった。情報部でもマティス部長クラスの権限が無ければ触れられん秘匿事項だ」
「こいつからなんだかすげえ敵意と憎悪を感じたんだけどよ、一体誰が乗っているんだ? この機体。あんたらは知らないのか」
リュウセイが水を向けたのは、左腕を失ったヴァルシオン改と機体全体に細かい損傷を負った量産型ベルゲルミルだ。問いの矛先を向けられたグレースとアーウィンも、リュウセイらと同じ疑問を抱いていたから、無論答えられるわけがない。
「すまんが、おれ達もその機体、アズライガーの護衛任務を与えられたきりでな。誰が乗っているとか、そういった情報は一切知らされていない」
「必要ではないから知らされていないという事か。だが、少なくとも君達は見境なく味方に銃口を向けるわけではないようだな。私はギリアム・イェーガー少佐だ」
「リュウセイ・ダテだ。あ、階級は少尉な」
「アヤ・コバヤシ大尉よ。ω特務艦隊所属よ」
「グレース・ウリジンですー。将来はぁ、グレース・ドーウィンになる予定ですので、披露宴にはいらしてくださいね〜」
「グレース、何を言っている! 失礼しました。シンマニフェルMS隊所属アーウィン・ドースティン少尉です。ω特務艦隊の高名はかねがね耳にしています。お会いできて光栄です」
「しかし、二人とも良くその二機を使いこなせたな。MSとは全く異なる系統の機動兵器と見えるが?」
「イェーガー少佐の仰る通りですが、乗れと言われれば乗るのが任務ですので。それに新しいサポートシステムも搭載していますから、泣き言は言えません」
「ゲイム・システムって言うんですよ〜。使っているとすこぉし頭が痛くなってしまうのが欠点ですけど〜」
(ゲイム・システム。やはりアードラー・コッホの手掛けた機体か。となるとあのアズライガーにも搭載されているとみた方がいい。どちらにせよ、イングラムとヴィレッタにもこの事を告げなければなるまい)
胸中に忌まわしきシステムを使うアードラーへの嫌悪と義憤を募らせつつ、ギリアムは敵味方に分かれた因果の鎖で結ばれた仲間達を想った。この世界での戦いもまた、過酷なものだと改めて認識したせいだけではないだろう。
(並行世界の同位体はともかく、なぜ異なる世界の死人がこの世界に、しかも機動兵器と共に現れるケースが複数確認されているのか。これもまたフラスコの中の実験か)
遠く思いを馳せるギリアムの胸中を正しく理解できるものは、この世界にも数えるほどしかいなかった。
ボアズ陥落の知らせを聞いたビアンは、さして驚いた様子もなく目線をロンド・ミサ・サハクへと移した。先ほどまで病室のベッドの上で体を起こし、目を通していた立体映像式モニターのハンドサイズパソコンを、テーブルの上に戻す。
今も映し出されている画面には、次期主力量産機候補の機体が数種類挙げられていた。
実弾・エネルギー兵器を備えたオクスタンライフルの発展形として開発され、近接戦闘用の実体剣、中距離戦闘用のビームサイズ、遠距離専用の実体弾砲と高出力ビーム砲を備えた全領域対応汎用兵装ガナリー・カーバーを運用する青色のMSバルゴラ。
ノイエDCで運用され、アフリカでいまも死闘を繰り広げているバンがもたらした、ビアンの本来の世界で数年後にエルシュナイデという名前で完成する筈の、エルアインスというマルチロールパーソナルトルーパー。
新西暦世界でカオル・トオミネ博士にパーツを強奪された為に開発が途中で見送られたダイナミック・ゼネラル・ガーディアンシリーズ三号機(トオミネ博士はLIOHと名付けていたが、採用するかどうかは論議中)の、量産型開発計画。
現在DCの主戦力を務めるエムリオン、ガームリオンだが、これは途中まで形作られていたM1アストレイの生産ラインを流用する形で開発された、いわば今回の戦争に間に合わせる為の機体だ。
急場しのぎの割にテスラ・ドライブやTC−OSなどを始めとした異世界の技術を盛り込み、多少のコスト高に目を瞑ったおかげで量産機としては破格の性能を持つに至ったが、今後の戦闘を考慮しすでに開戦時から次期主力機の開発と選定が行われている。
それ以外にも極東地区にある日本の富士山麓における未知の鉱物資源の調査経過や浅間山での宇宙から降り注ぐ放射線の中に未知の者が含まれているかどうかの観測記録、エーゲ海はバードス島に眠る古代遺跡の調査報告なども盛り込まれている。
これだけでも氷山の一角で、エペソやAI1がもたらした異世界の地球に眠っていた超古代の遺産達がこの世界でも眠りについているかどうかの報告も挙げられていた。今のところほとんどが無駄足に終わっているのが、残念至極ではあるが。
他にもこちらはややビアンの趣味が入るが、DSSD(深宇宙探査開発機構)に在籍しているとある青年の提唱する有人による宇宙探査計画『プロジェクトTD』への、惜しみない技術供与なども盛り込まれている。
また、すでにテューディから出されたA級魔装機つまりは、残る二体の魔装機神開発や第二次魔装機開発計画のタイムスケジュール表に、魔装機関係で繋がりのあるバルツフィーム王国や周辺国家との今後の外交意見書もあった。
ちなみに外交に関するテューディの意見とは、もっとオリハルコンを寄越せ、というシンプルな内容である。本来魔装機に使用されるオリハルコニウムを錬成し、使用するためには、今のオリハルコンの入手量では心許ないものがあるからだ。
また、バルツフィーム王国で魔装機が徴用されるのにも一応の理由がある。話が長くなるが、宇宙クジラという外宇宙の知的生命体の発見以来、地球で発生した多くの宗教はその意味合いを失い、多くの信心深かった人々や宗教家達に道を失わせてきた。
そんな中、バルツフィーム王国を中心とした地域では、いわゆる精霊信仰というものが広く信じられるようになっている。
これは森羅万象を司る精霊を信仰し、日々の恩恵に感謝するというような原始的かつシンプルな内容で、ラ・ギアスにおける精霊信仰に極めて類似したものだ。
その成果と言うべきか、バルツフィーム王国周辺の地域では他地域に比べて精霊と契約を結んでいる魔装機の性能が、数パーセントから十パーセント前後まで底上げされる事が偶然にも確認されたのだ。
たまたま供与した水の魔装機カーヴァイルが、カタログスペックを上回る数値を叩きだした理由を調査した結果、オカルト的ではあったが消去法でそれしか理由が無いと、テューディやフェイルが断言している。
周辺国領土内での戦闘に限るが、並みのMSを上回る魔装機がタダで強化されるわけだから、バルツフィーム王国を始めとした周辺諸国では魔装機関係の技術は、ニュートロンジャマー・キャンセラーほどではないがかなりの需要があるのだ。
ミナは、うむと重々しく頷くビアンが何を見ていたのかとその瞳で画面を一瞬見た。上記までの内容はいい。いずれは必要になることであるし、ミナも報告は受けている。だが、
(テスラ・ドライブ搭載の大型ボードによる不規則機動を可能とするリフボードに、三機の戦闘機の組み合わせによって機体特性を大きく変えるスーパーロボット、高効率の燃焼機関搭載の構造がシンプルなロボットの開発案か。
これはまだいい。ビアンの才覚ならばそれ相応のものができよう。費用がかかり過ぎるようであれば首を締め落としてでも止めれば良いだけのこと。だが、問題なのはここから先だ。
トレーディングカードゲームに、超合金製のスーパーロボットや百分の一サイズのPTやMSのプラモデル、フィギュア、ガシャポンの販売計画はどう考えてもこやつの極めて個人的な趣味だな。一度本気で脳を調査した方が良いか。……ガシャポンとは何だ?)
コレがなければなあ、としみじみと何度目になるか分からない溜息を心中で零し、ミナはビアンに気付かれぬ程度に眉間にしわを寄せて首を横に振った。
大帝国の頂点に君臨する女帝の如きこの女傑にかような、何とも言い難い『こいつだめだ』というような素振りをさせるだけでもなかなか大したものである。あまり良い意味ではないが。
そして、シンは今もなお夢とも現実もつかぬ不可思議に捕らわれたままだった。
――砂の焼ける大地で、認め難い男から寄せられる期待に困惑し、現地の少女のすがるような眼差しに奮起し、危険な任務に臨む自分。
――あまりにも鋭敏過ぎ、感受性の豊かな未成熟な時期に過度の精神的な負荷を受け、ついには最後の敵の思念と共に精神を壊した少年と巡り合い、互いに反発と共感を覚えながら戦友と呼べる中になってゆく自分。
――かつて家族と国を焼いた理念を捨て、大国の脅威を恐れるあまりに自分達に牙を剥いた、故国に憤る自分。
――男達の魂が変わったかのような星屑の煌めきの下、義を掲げる男と見事に成長を遂げた青年が激突し、その最中で狡猾に生き抜こうとする女の悲しみと苦悩を知り少なからず共感を覚える自分。
――そこに恩人がいるとも知らず、ただ憎しみと怒りに身を委ね、凶悪なまでの衝動に突き動かされて空母の艦橋を叩き潰す自分。
――逆十字の称号を持つ人外の外道でありながら、人として生き抜いて見せた男に敗れ、今一度人としての強さを求め、人でいる事に耐えられなかった弱さと対峙する男に憧憬と羨望を抱く自分。
――幾度となく戦場で対峙した敵が、自分が守ると口にした少女と知り、何とか救おうとするもどうする事も出来ず、あったかい世界へ返すと約束させ、少女が慕う仮面の男へと少女を返す自分。
――預言者の名を語る組織と男と出会い、ミネルバのクルー達と共に成長し、今まで知らずにいた現実、見ようしていなかった事実、苦い真実を知り、わずかずつでも前へと歩む自分。
――あったかい世界へ返す。その約束を反故にされ、仮面の男にもそうするしか道はなかったのだと知りつつも裏切られた悲しみと怒りに叫ぶ自分。
――数多の世界がまざりあい、驚嘆する他ない凄腕のパイロットや、似た境遇の年上の美女、同じ年頃の異世界のガンダムに乗った少年達をはじめとし、生まれも境遇も世界さえも違うのに確かな絆で結ばれた仲間達と共に歩む自分。
――恐怖に苛まれ、不安に押し潰される少女に諦める事無く声をかけ続けて少女を落ち着かせ、助ける事が出来る、そう思ったのに無残にも機体の胸部をビームサーベルで刺し貫かれ、助けだした時にはもう自分の手の中で冷たくなってゆく少女に何もできない自分。
――月面での最後の戦いに敗れ、宿敵と共に鎮魂歌の名を持つ光の中に飲み込まれて異世界へ辿り着き、そこでいる筈の無い宿敵達に対し、今度は心から信頼できる仲間達と、そして記憶を失ったクライマックスな親友と共に立ち向かう自分。
――救えなかった少女の末路に心のどこかを壊し、麻痺させ、自由の名を持つ敵を倒す事に全てを捧げ、斃した後には何もなくただただ壊れたように笑う自分。
何もない世界に漂うシンの周囲で常に表示され続けるいくつもの世界の、『シン・アスカ』という存在の過程と結末は、いまも絶える事無くシンの瞳に映し出されている。
そこにこの世界のシン・アスカは何を見る? 何を見出す? 何を思う?
不意に、シンとは上下をさかさまにした姿勢で誰かが、シンの目の前に立っていた。背後に後光が差しているわけでもないのに、その姿は全身の輪郭から体の中心に掛けて暗闇に覆われている。
華奢な体格に、体にぴったりとフィットした衣服をまとい、襟を立てている事と多少髪の毛が波打っているのが、識別できる。
落ち着き払った少年の声とも、何百年も生き続け、疲労に塗れた老人の声とも聞こえる不思議な声が、少年の口のあたりから零れ落ちた。とうてい感情の色は伺えぬ、暖かさも、そして冷たさも感じられない声だった。
魂も感情も生命も持たない人形がしゃべれば、こんな声になるのかもしれない。
『シン・アスカ、これはお前が無限の並行世界の中で辿った無数の軌跡の中の一部だ。今のお前はカルケリア・パルス・ティルゲムの暴走とお前が習得した武術の影響で念を暴走させて意識を失い、その意識のみが次元の狭間を漂っている』
無論シンに答える気力も意識も思考もある筈が無い。
『ここからお前が抜け出すにはお前自身が望む世界を思い描けばいい。だが、もしそれがもといた世界でなかったならば、お前は永劫にこの狭間に囚われ、どこにも辿りつけずやがて無へと帰すだろう』
暖かくも冷たくもない声に、わずかに色が帯び、熱が込められた。これから告げる事を、シンが果たす事を、心の底で、この少年は望んでいるのかもしれない。
それは善でも悪も、正でも負でもなく、その狭間にあるべき存在と運命づけられたこの少年の心に、確かな人間の情が根付いている事を意味している。
『この無限の選択肢の中から選ぶんだ。お前がもと居た世界を。お前の帰りを待っている人々がいる世界を。お前が守りたい人々の居る世界を。お前がいるべき場所を、お前がいたい場所を。強く、強く思い描き、帰る事を望め。そうすればお前は戻る事が出来る』
わずかに、シンの唇が動いた。
「おれの……いるべき場所、おれの……居たい……場所。……それは」
徐々に意志の光を取り戻すシンの瞳に、少年――クォヴレー・ゴードンは淡く、かすかに口の端を釣り上げた。それは見た者が人の善なる事を信じたくなるような、そんな暖かな微笑みだった。
――続く。
不意打ち気味の投下でした。死んだミハエルとヨハン出せば00関係出せるなあと妄想する日々。
660氏更新お疲れ様です!
笑いありシリアスありの展開でしたがそろそろシン復活ですかね?
おつでした。前からあまり間が空いてない投下で驚き。
ボアズ放棄とかゲーザ暴走とかいろいろありますが、
まずは祝!バルゴラ開発計画発動。スター1&同2からの情報提供かな?
あとTDが…どうも将来的にスタゲとプランの競い合いになってしまいそうな…。
そういや、レイスタとかシビリアンアストレイとかどうなるんですかね、この世界。
オーブ→DCになってユン・セファン路頭に迷ってないだろうし。別の民間用MSとか作られるのかなぁ。
着々とCE73の土台作りが進んでいますねぇ。
ビアンSEEDの機体をスパロボのロボット図鑑みたく解説書いてみたくなるこの頃。
お疲れ様です。
バルゴラ開発計画……まぁ、固有武装のガナーリー・カーパーさえどうにかなればスフィアの事を考えなくとも行けるかも?
それでも何だか性能ががくんと下がりそうですが
ミハエルとヨハンだと!?
今回もシンの可能性・in新シャアバージョンのどれがどこなのかすべて判った俺は勝ち組
もういっそリリカルな魔法世界にたどり着いたり、復讐鬼と化して塵芥の名を持つMSで戦ったり、出撃前に皆で「インパルスのうた」を歌ったりすればいいと思うよ!
そしてこの世界の総帥ならマジでLFO・ゲッター(アクエリ)・ウォーカーマシン作っちゃいそうで困るwww
こうやって小ネタの一つ一つにニヤリとさせてもらえるのは嬉しいなぁ、と思ってたら… ちょwwwwバwwwルwwwゴwwwラwwwwww
>>386 >>リリカルな魔法世界にたどり着いたり
志村ー、前々回前々回ー!!
こんばんわ。さて、ビアンSEEDのお話を読んでくださっている方にご質問があって書き込みさせていただきました。
ここまで付き合って下さった方々は、もうお分かりでしょうが、私は思い込んだら、こうクッと突っ走るタイプでそれが原因で痛い目にも会います。
たとえば菊地御大好きが暴走して白い医師を出したりとか、デモベネタに走るとか、スパロボにそもそもかかわってないな版権作品のネタを連発するとか、相変わらず読み直しても誤字脱字を見落とすとか、自己批判しても足りないくらいです。
さて、なぜこんないまさらな前置きをしておくかというと、今私がシンとセツコの関係に悶える状態に首までつかり、いずれバルゴラとぐろ☆すたの登場まで確定となった昨今、00のヨハンとミハエルだそっかなあ〜などとのたまいましたが……
GジェネDSのディー・トリエルとノーマ・レギオ、出しちゃダメ? うん、いや、あの、ね? 好きなんです……この二人が……。ただ前置きもなしに出すとやっぱりお叱りも受けるだろうなあと考えるくらいには学習したので。
まあ出るとしても一年ごとか二年ごとか、今のペースだとそれくらいでしょうけれど。
時々自分でも何考えてるんだろう自分と怖くなる時があるんですよ。なにしろビアン総帥暗殺未遂の時に、DC側の護衛として雇ったコン・タオローとホージュンVSバイオニック・ソルジャーの南雲秋人とフィル・ローバーとか寸前まで考えてたりするくらいの人なので。
というわけで、スパロボ未参戦の版権キャラクターを出すのは是が非か、ご意見いただければ幸いです。とりあえず今考えているのは上記した四人だけです。よろしくお願いいたします、長々と失礼いたしました。
スレ的にどうよとかは別として、自分はこのまま660氏に突っ走って貰いたいですなあ
他版権作品はそのまま使わず、オリキャラのモデルくらいにした方が無難かと
俺も
>>390に賛成かなあ
さすがに未参戦でそのまま使うのはちょっと抵抗が
まあ突っ走るのも660氏の作風ではあるんだが
思うように書いていいと思いますよ〜
逆に俺は冒険したのはリュウタロス風ビルガーやモモゼインくらいで
悪く言えば地味で華がないので、総帥が華やかな方がスレも賑わうでしょうし
個人的に鬼哭街の内家達人二人はニヤニヤどころかニマニマレベルですが、控えたほうがいいかな?
見たいのは血の涙が出るほど思っているのですが、さすがにオリジェネと関連作品以外は自重したほうがいいような気もします。
匂わせる程度なら問題ないと思いますがw
……でも、すげえそのVSとか見てみたいのでいつか別の場所で書いてしまったら、教えてくださるとすげえ嬉しいです。
総帥の作品は常に楽しみにしているものでした!
スポット参戦なら賛成
メインキャラ入りなら反対
シンとセツコの関係はステラが健在な世界でどうなんでしょうね?
スーファミの魔装機神みたいに合法的に重婚可にするとか?(ビアンならきっとやってくれるよ!)
シンとステラの間にある感情が兄妹愛的なものっぽいとスパロボZで言われてたりしてましたな。
とりあえずどんなキャラかSS内の文だけでもある程度つかめるなら
いくら出していただいてもおkっす
兄妹愛かあ……。
シンにとってステラは守れなかったマユの代わりっていう方が強かったのかもなあ
あれロボ関係の版権は、未参戦でも使用可ってことになったんじゃなかったっけ
総帥の時は既に物語が佳境の状況でダイノガイスト出すと破綻する恐れがあるんで反対意見が多かったってだけで
ロボ関係無い版権作品のキャラは、
>>390と同意見かな
確かシンパチ氏も、全然関係無い作品のキャラをオリキャラのモデルにしたりしてたし
俺は未参戦の版権加えたスパロボは見たいな
寺田発言で参戦がかなり絶望的になった作品とか少なからずあるし
個人的にムゲフロにコスモスでた繋がりでゼノサーガ参戦とか見たいけど難しいかな
ついでにゼノギアスもだ!
いやマジにE.Sやヴェルトールやエルデカイザーが暴れまくるスパロボがやりたい
まあロボが出てくるもので、ちゃんとクロスオーバーしてれば立派なスパロボだから大抵はOKじゃないでしょうか
それこそGジェネのキャラやMSだって、やろうと思えば使ったって良いと思う
流石に特撮物とかはネタに使う以外はNGだろうけどw
対して幾らなんでもロボが全く出ないキャラを使うには、メインで使いたいならオリキャラという扱いにして何らかの機体に乗せる、もしくはゲストとして扱うに留めるのどちらかしかないでしょう
>>395 スパロボを正史的に扱うのはどうかと
と来年の種カレンダーのシンステ絵に萌えた自分が通りますよ
>>401
モモゼインの立場がなくなるじゃないかw
両方とも感情が幼いんだよな
愛情だけど家族に対するそれに近い
恋愛感情ではなさそう
ぶっちゃけ双方とも幼げな恋愛感情じゃね
ただこれ以上議論するとラクソズ厨並にタチの悪いカプ厨を呼びかねないので話題を変えた方が…
11氏のSSのヒーローとヒロインは誰かとか
ヒーロー レイもしくはラミア
ヒロイン アスカ姫以外見当たりません
姫はヒロインと言わざるを得ないな
レイの方がアインスト関係の機体って事でエクセレンみたいな目に遭う図よりも
シンがそうなる図の方が容易に想像できる
ライン・ヴァイサーガになるんですね
総帥氏に言いたいのは新規参戦作品含みのスパロボをやりたいなら現在連載中の
ビアンSEEDとは別の作品にしてほしいということだな
それならむしろ大歓迎
現行作完結後でも、同時進行でもどっちでもいい
氏の手間苦労は一切考慮しないw
総帥ならきっと、ACE2に出て来たガンアークとバスターアークだって出してくれると信じてる
>>400 グリリバにすら忘れられてたフェイ……(つд`)
>>411 技繰り出した時の気合くらいしか声ないじゃん
>>412 おまいはあの全裸EDに代表されるアニメシーンを見ていないのか
ビアンSEED 第六十九話 分岐点
びょう、と、もし大気があったならばそんな音を立てて切裂くような白刃の軌跡が、虚空に幾重にも描かれた。
かたや分厚い近代技術の粋を持って製造された複合装甲の盾と、光の刃を手に持った鋼の巨人。
かたや星の光を白刃の中に閉じ込めた弧月の如く優美な弧を描くひと振りの刀を鞘におさめ、右手を柄に添えている鋼の巨人。
一刀を握る古武者然とした外装のガーリオン・カスタム無明の周囲には、すでに三機のMSが屍となって漂っている。
どれも一刀の元に斬り伏せられ、腹部を横一文字に割られて紫電を零していた。これが人体であったなら、内臓が血潮と共に零れ落ちた凄惨な地獄絵図が描かれているだろう。
いずれも無明の放った剣術「居合」によって一瞬の剣閃の煌めきのもとに斬り伏せられていた。
居合とは、一撃必殺を旨とする剣術である事は、言うまでもない。鞘の内で勝負が決まると言われるのも、抜いた時には既に敵を斬っている技であるためだろう。
だが、もし敵を斬り損ねた時、一撃で勝負が決まらなかったらどうだろう。相手は刀を鞘におさめるのを待ってはくれないだろう。では外れた一刀に続く技が、居合にあるのか?――ある。
無明が鞘に納めていた刀を抜き、右手一本で握るやだらりと下げた。これまで鞘から描かれた銀蛇にことごとく仲間を斬られた巨人――ダガーLのパイロット達は相手の思惑は分からぬが、これは好機かと餓えた獲物のように餌に群がった。
無論、萎縮し距離を放そうとするダガーL達を誘う為の罠だ。すでに目の前にした無明の桁外れの実力に戦意を凍らせて、逃げ足を踏もうとしていた連中に、まともな思考は出来ず、しゃにむに無明に斬り掛かる。
居合の基礎である中極意の技「表次第(おもてしだい)」のうち、「押立(おしたて)」でいわゆる起居(片膝立ち)の姿勢を、踏みしめるべき大地の無い宇宙でもそのまま行い、刀の柄は相手の二の腕の内側を抑えていた。
すでに体は相手の懐の内、つづけて一歩下がって横一文字に胴を抜き打ちにし、鏡の如く練磨された断面が相手の胴に描かれる。吹き出る血潮はないが、代わりに機体を躍動させるオイルが球になって内部から零れる。
無明の流れる水の様に動作はやまない。
左手で押し出した鞘が相手のメインカメラを押しつぶし、人間で言う頸動脈に当たる部分を引き斬り、振り下ろされるビームサーベルをかわしつつ、首の両付け根を断つ。
断たれたダガーLののっぺりとしたバイザー状のメインカメラが、恨めしそうに無明を映していた。
続けて襲いきた二機目には、胴への横薙ぎまでは同じだがそこからの一連の動作はさらに複雑さを帯びる技を見舞った。
相手の右二の腕を、刀の峰に左手をあてて引き斬り、こちらの顔面へと突いてきたビームサーベルを刀身で払いつつ、柄で左側頭部を叩き潰し、切っ先で反対側も同じく打つ。最後に腹部を刺し貫き、「向次第(むこうしだい)」の一技「掛蜻蛉(かけとんぼ)」となる。
両耳を落とされ、右の二の腕を斬り裂かれ、胴を横一文字に割られ、さらに鋭利な切っ先に腹部を刺し貫かれた凄惨な死体の出来上がりだ。
無明は一瞬の停滞もなく三機目の巨人と相対する。自機の右横に位置していた相手に、座した状態から立ち上がるような勢いで機体を駆動させ、相手の左首筋を切って片手上段。
苦し紛れに右膝を突いてきた手を斬り下ろして斬り飛ばし、首に回ると突きかかってくるのをかわして両首筋へ一刀を送る。鋼の噛み合う音が虚しく霧散する世界で、胴と泣き別れになった首が、一瞬の交差の間に分かたれた生と死の現実に嘆いているようだ。
「右次第(みぎしだい)」のうちの、「燕返(つばめがえし)」だ。
日本の古来の剣法に詳しい者ならば、一連の剣が、林崎夢想流居合術の流れを汲むものと看破できただろう。
それを操ってみせた機動兵器の操者――後に魔剣の二つ名で恐れられる男、ムラタのアレンジが加わってはいるが、かつて諸国漫遊の旅の折に北海道は旭岳、海抜二二九〇メートルの雄峰の麓にある寺の住職から学んだ漸光(ぜんこう)流抜刀術がもとだ。
漸光流は田宮平兵衛重正から派生した流派である。大本は日本における抜刀術の祖林崎甚助重信(天文十七――1548年生まれ)が百日の神社籠りの末に完成させた居合術、林崎流抜刀術にまで遡る。
当時の剣術は相討ち覚悟の剣であったが、速度を重視し、相手よりも早く敵を斬る技を求めた末に編み出された居合術は、いついかなる時でも自由自在に刃を抜き放てなくてはならない。
それを甚助は秘伝「卍抜き」をもって成し遂げ、普通の太刀は二尺三寸(約六十九センチ)なのに対し、三尺三寸(約九十九センチ)の太刀を振るった。敵の刃が届く前にこれを斃す事を大前提とする居合という術が、それを選ばせたのであろう。
こんな言葉がある。『一寸長ければ一寸の勝ち』。言われてみれば単純明快な、しかしそれゆえに揺るぎない事実であろう。
後に父の仇坂上主膳を討った甚助はかの大剣豪塚原卜伝のもとを訪れ、幾度となく敗れるも卜伝から『座禅しろ』、という言葉を聞いて心胆を練る。そして二、三年後には五格にまで上り詰め、卜伝から唯受一人と言われる『一の太刀』を与えられるまでに至る。
以後、林崎流でもただ一人に対してこの一の太刀を伝授しているという。そこまでムラタが伝授されているかは不明だが、この男の恐るべき魔技には、多くの剣術の血脈がとうとうと流れているのだろう。
余談だが、林崎流には多くの逸話がある。
ひとつ、幕末時代に江戸にあった三十六の剣術道場のことごとくが、とある突きの名手によって敗れたという。六尺の大太刀を操る幕末にその名も高き三剣大石進であった。
最後に残ったのが窪田清音という人物の道場で、ここの塾頭に新庄藩に伝わる林崎流居合の名人・北条勘平という人物がいた。
両者が対峙して一瞬の間の後、迸った林崎流居合の妙技「合剣太刀(あいのけんのたち)」に、大石は打ち合う事も出来ずに悶絶したという。
ふたつ、戊辰戦争の折に、新庄藩は官軍についていた。そこへ襲いかかってきた庄内藩に、一人格闘技に長けた指南役がいて、新庄藩は軍旗を奪われるという失態を演じてしまう。
これに相対したのが林崎流の名手・松坂某。「体込み(たいこみ)」なる技を持ってこの指南役を撃破し、見事軍旗を取り返して見せたという。
みっつ、同じく幕末のころに、林崎流の老達人・常江主水は宮城への湯治の際、中山平という峰で六人の山賊に囲まれてしまう。金を出せと言われた主水はわざと体を震わせ、財布取り出し、山賊達は素直な獲物に安心して円陣を狭めて近づき――
その刹那、迸った銀光が六つの首を一筋の軌跡でつなぎ、まもなく六つの首が宙に舞ったという。骨ごめに六人もの大の男の首を断った技は、後に「天車引留(てんしゃひきとめ)」と名付けられた。
林崎流の命脈には多くの勇名が名を連ねている。高松勘兵衛の一宮流、田宮平兵衛重正の田宮流と日本武道史に輝く歴々の名が挙がる。まだ田宮平兵衛からは関口弥六右衛門氏心、長野無楽斎槿露が輩出され、無楽斎から一宮左太夫照信に伝わった。
漸光流はこのうち、若干二十歳を持って免許皆伝を許された逸材・風街隼人源心の創始になる。後に一派を開く関口氏心も、無楽斎も事居合に関してはこの若年の後輩に及ばなかったという。
それほどの実力を持ちながらも、風街隼人は二十一歳で逼塞する。その理由は語らず知るものとてなく、漸光流は歴史という名の書庫にうず高く積もった塵の一粒になって消え果てた筈であった。
その流派といついかなる理由で巡り合ったか――斬ってこその刀、血に濡れてこその剣術を標榜していた鬼の如き狂気の一念が出会わせたか――、ムラタが学んだ剣術は、今こうして別の世界で鋼の巨人の巨躯を通じて恐るべき威力を持って振るわれていた。
刀身にこびり付いたであろう機油を払う動作もなく、白銀の刃シシオウブレードを鞘に納める。払わないのではない。払う必要が無いのだ。実にシシオウブレードの剣速は機油の粘着力に勝り、その美麗なる刃に留まる事を許さなかった。
かつて林崎甚助が京の丹波街道で父の仇・坂上主膳を一刀の元に仕留めた折、証拠としてその血を拭わずに帰郷したと言うが、その当時の甚助に勝る剣速を無明は体得していた。
もっとも人体とアーマードモジュールという血肉を備えた生物と人造の機械という、根本的な違いはあるが。
と、鞘にシシオウブレードを納め、右手も離した無明に、付近の隕石群に隠れていた地球連合製のMSブリッツが、光学的な迷彩であるミラージュコロイドを解除し、PS装甲を展開して襲いかかる。
ビームなどの光学兵器以外に対して絶大な防御力を持つPS装甲を持ちながら、味方がやられるのを待っていたのは、敵をすべて倒したという無明の油断を待っていたからか。
右手に装備した攻防一帯の複合兵装盾からビームサーベルを伸ばし、ブリッツは背後から無明へと斬りかかる。
ミラージュコロイドを維持し、機体の姿を消したままにしておかなかったのは、まずスラスターなどの排熱などで位置を特定される事と、すでにミラージュコロイドで姿を消した他のブリッツが一機、四肢を根元から断たれて屍と変わっていたからだ。
目には見えぬ不可視の敵を補足したのはムラタの練磨の果てに習得した超人の第六感で会った。感覚で敵を補足する相手に、姿を消したところでどれほどの意味があろうか。故にブリッツのパイロットはPS装甲の防御と不意打ちの二段構えを選んだのだ。
卑怯と罵る事は出来ぬ。ここは今だ戦場、刃を納め油断する方が当然悪い。油断したならば、だ。
ビームサーベルが振り下ろされるよりもはるかに早く無明の右手が稲妻の動きを見せ、鞘から抜き放たれる白刃のなんという冷たい輝きか。
中段で剣光を交わした二機が、そのまま二刃を上段へとすり上げた。
次の瞬間、ブリッツのOSが反応する間もなく無明が身を沈めるや、自然に下がってきたシシオウブレードの刀身で、ブリッツの喉元の装甲の継ぎ目を鮮やかに刺し貫いていた。
鹿島新当流剣術「霞の太刀」の一本目「遠山(えんざん)」。
鹿島新当流剣術は、ざっと西暦四〇〇年頃からあった甲冑剣法を元にかの塚原卜伝が編み出したものとされる。生涯に二百十二人を斬ったとされる卜伝は、疲れ果てた姿で鹿島に戻り、千日祈願を行う。
そして神からの言葉、『こころを“新”たにして事に“当”たれ』を授かり、鹿島新当流と名付けたという。
柳生新陰がいかに破るか目標にしていたという鹿島の剣術を、この剣鬼は骨身に刻みこんでいたのだ。
鹿島新当流剣術――日本剣術史有数の大剣豪・塚原卜伝を鼻祖として、その門人に斎藤伝鬼房、諸岡一羽常成などそうそうたる面々の名を擁し、京の都に発した京流、香取に生まれた神道流と共に日本最古の剣法として伝えられてきた一派である。
卜伝が活躍した時代は、上杉、毛利、織田、武田、北条と名だたる歴史の人物たちが群雄割拠する戦国時代であった。当時の戦場での経験から新当流の奥義は生まれてくる。
いかにして甲冑を身に纏った敵を斃すか、この命題への回答である。
鎧の上からでは胸を突こうが腹を斬ろうが死なない。ならば喉、小手、頸動脈といった鎧の守りが及ばぬ箇所に致命の一撃を見舞う。
これを現在のPS装甲という対物理に置いて最硬の鎧をまとった相手に実演してみせ、しかも確実に効果を生ませたムラタの技量を何と形容すればよいのか。
たった今、新たに生んだ鋼鉄の骸を一瞥し、無明のコックピットの中でパイロットスーツも身に着けていない四十頃の髭面の男が人知れず嘆息していた。本人も気づかずにいるかもしれぬほど、かすかな溜息である。
新西暦世界で情動に走った剣に敗れ、この世界で蘊惱やロウ・ギュール、シン・アスカといった、殺人の道具にすぎぬ剣がまぶしく輝いていた彼らとの邂逅を経て、ムラタは歩んできた屍山血河の道筋と、新たに見出した活人剣の狭間で心揺れていた。
真に剣の道を究めるのはひたすらに有象無象を斬り続けた果ての修羅道か。それとも殺し合いの道具にすぎぬ剣で人を活かす境地へと辿り着く活人の剣か。それとも両の道を極めて後に見える第三の道か。
既に四十年余の人生のほとんどすべてを剣に捧げ剣と共に生き抜いたこの男を持ってしても、答えは出せず、暗雲に閉ざされた道に光の射す気配はない。
無性にシン・アスカやロウ・ギュールと剣を交えたい気分だった。あの二人と刃を交わしている時は本当に楽しいのだ。それは強者との試合を楽しむ羅刹の心ではなく、まるで幼いころ道場で懸命に竹刀を振るっていた時の様な、純粋な楽しさだった。
血に塗れた過去に悩むでもなく、暗中模索の疲労が待ち構える未来への不安でもなく、ただ剣を学ぶ事が楽しくて仕方がなかった頃の気持ちに戻れる。
自分の心の感傷に気づき、ムラタはもとから険しい眉間にさらに深い皺を刻んだ。どうにもあのザフトの中継ステーションでゼオルートやウォーダン、シンと心の底から魂の震え立つような斬り合いを演じてから、この手の思いに囚われがちだ。
悪鬼羅刹に堕ち果てるも本望と剣を振るっていた頃の自分からすれば、今の自分が腑抜けという言葉でも甘すぎるほどに堕落して映ることだろう。
選ぶべき己が道が見えず迷う己の心を、誰よりもムラタ自身が持て余していた
ふと、彼方に移る月を見つめムラタとある剣豪が残したという詩を口ずさんだ。
「『しのぶれど 築きしかばね 修羅の道 月みしたびに 涙流るる』。……ククッ、名も知らぬ古の剣豪よ。貴様はまだマシよ。修羅の道筋の果てに人の道に戻り、歩んだ道を振り返って流す涙があるのだから。
流す涙もなく、行く道も定められず、これまでの道をただ煩悶するおれと通ずるのは、振り返る道に屍の山が築かれていること位か。我が道にいまだ光明差さず。リシュウよゼンガーよ、貴様らの言葉、今は露ほどにではあるが理解できるぞ」
二度と戻らぬ過ぎ去った日々に、行くべき場所の定まらぬ未来に、そして前にも後ろにも動けぬ今に思いを馳せるムラタの心中を、無明とシシオウブレードだけが知っていた。
無明とその前に立ち塞がり、見るも無残に切り捨てられた屍の周囲では、ラピエサージュ、フリーダム、ジャスティス、ドレドノートH、マガルガといった面々が数倍する戦力を相手取り、あっけに囚われるほどの素早さで無力化していた。
ラクス・クラインを筆頭に第四勢力として小規模ながらDC、ザフトから少なくない注目を浴びているノバラノソノの軍団だ。
旧オーブ宇宙軍やプラントのクライン派、連合やザフトの脱走兵に傭兵、民間軍事会社からのエージェントを主戦力とし、保有する機動兵器の数もゆうに百を超える。
国家レベルの戦力こそ持たぬが、一武装組織としては破格の戦力に、DC同様にオーバーテクノジーの塊であるスーパーロボットなども複数保有する。
実質的な戦闘能力という点に限れば、通常のMSなら二〜三倍の数であっても勝利しうるだろう。
現在世界を覆うプラントと地球間でのいつ終わるとも分からぬ戦いを憂い、平和の道を模索する形で集った勢力ではあるが、首脳陣の一人であるラクス・クラインが実際にはプラント寄りの行動方針を打ち立てている事と、他の面々もそれを容認しているのが実状だ。
かような内情を鑑みれば、彼らがプラントを援護し地球連合と敵対する場面が多いのも無理からぬことであるだろう。
ラクスがプラント生まれのコーディネイターである事や、構成メンバーの半数近くがザフト兵である事を思慮の外に置いて、現在の世界情勢を考えてみるに、ブルーコスモス思想の蔓延する地球連合が一方的な勝利を迎えるよりも、
マンパワーに置いて弱小たるプラントが対等近い条件で、戦争に勝つ事が長期的に見て今後のナチュラルとコーディネイターの関係において望ましいというラクスの判断を、他のメンバーがある程度容認しているからだ。
地球連合の大部隊のボアズ侵攻を聞かされた彼らは、ボアズが数日で落ちる筈が無いと判断し、月からの大規模な補給船団へ奇襲を仕掛けていた。
ボアズ攻略の艦隊が数会戦は可能な途方もない物量を運ぶ船団には、ラクス・オーブ両艦隊と同数近い護衛の部隊が随伴し、しかける側であるノバラノソノも保有する戦力のほとんどを投入していた。
その結果は、連合の補給船団の完膚なきまでの敗北という形になった。
ウォーダンのスレードゲルミル、オウカのラピエサージュ、ククルのマガルガ、カーウァイのゲシュペンスト・タイプS、キラのフリーダム、アスランのジャスティス、カナードのドレッドノートH、ムウのドラグーンストライクといった面々の実力の故だ。
またフリーダムとジャスティスにはミーティアが装備され、搭乗者の圧倒的な操縦技能とあいまって特機と同等以上の理不尽な戦闘能力を発揮したし、前回のベルゼボ戦で合流したムラタの剣の冴もあった。
周囲の宙域に連合の部隊がいない事を事前に把握し、また周囲の警戒に相応の部隊を編成してから、お零れに預かる形で鹵獲船や投降した船から多量の物資を搬入する作業が行われる。
今回の戦いで失った人命と装備は無視できる数ではないが、少なくとも装備に関しては十分に補う事が出来るだろう。
そんな光景を見ながら、淡い紅色の特徴的な船体の戦艦エターナルの艦橋で、艦長を務めるアンドリュー・バルトフェルドはやれやれと溜息を零していた。火事場泥棒、という言葉が脳裏に掠めていたのかもしれない。
「やれやれ、資金と資材に乏しいとはいえ、あまりほめられた光景じゃあないねえ」
「あら、じゃあアンディがどこかからお金と物資を都合してくれるのかしラ?」
「おいおい、ぼくは都合の良い魔法使いじゃあないんだ。背に腹は代えられないくらいは分かっているよ」
「だったら、文句を言うのは筋違いでショ? 椅子に座って見ているだけなんだし、ね?」
「分かったよ、君には勝てんなあ」
艦長席の前方に座る、エターナルの砲撃手を務めているアイシャの窘めに、バルトフェルドは早々に反省の意を表して両肩を竦めた。こんなリラックスしたやり取りも、戦闘が終わっているからこそできる。
アフリカ大陸で行ったアークエンジェルとの死闘から、なんとか生還した恋人二人は、以前と変わらぬ信頼と理解で結ばれているようだ。
ほかのブリッジクルー達もこの二人のやり取りには慣れたのか気にする素振りは見られない。むしろ、この人達は、と微苦笑している位だ。
艦橋につながっているエレベーターの扉が静かに開き、その奥から桃色の髪を後頭部で結わえた少女が姿を見せた。陣羽織と太ももを大胆に露出したミニスカートの様な着物風のワンピース姿のラクス・クラインだ。
プラントでは成人の年齢とはいえ、まだまだ少女の領域を出てはいないラクスは、しかし不似合いなまでに、美しい顔立ちを厳しく固めていた。先ほど私室に戻った際にとある報告を受け取ったからであった。
そのまま軽く床を蹴って、バルトフェルドの艦長席の傍らに設けられたオブザーバー席に座り、アーム・レストに付随しているスリットに、メモリースティックを差し込んだ。
ラクスの様子にただならぬものを感じたバルトフェルドがリラックスしていた状態から、戦士の雰囲気を纏い直し、問うた。
「何があった、ラクス?」
「地球連合の動きが私たちの予想をはるかに超えるものでした。先ほど、ボアズが陥落したそうです」
「なに!?」
バルトフェルドのみならずブリッジクルー全員の注目を集めるには十分すぎる言葉であった。ラクスが手元のコンソールを手早く操作し、エターナル艦橋のメインモニターやサブモニターなどに、先程送られてきたばかりのボアズの戦闘の様子を映し出す。
ボアズをぐるりと囲む地球連合艦隊の圧倒的な物量、揃えられた無数のMS、ひしめき合い、数えるのがいやになるほど存在している戦艦。
いくらコーディネイターの方が個々の生命体としては優れているからと言って、地球連合に戦争を仕掛けた事を誰もが後悔するのではないかと思えるほど、ザフトでは考えられぬ物量が、まず最初に映し出された。
誰かが息を呑む音が、ひときわ大きく聞こえた。
「まったく、どこにこんな物資と余裕が残っていたんだか。だが、地球連合との国力の差は前から分かっていた話だ。ザフトも地上組の大部分を回収できたし、DCの増援もあっただろう。いくらなんでも物量だけでボアズが陥落するとは思えんがね?」
「確かに、数だけでしたら、DCの方々の増援もあり一日で落ちるような事はなかったでしょう。ですが、地球連合の繰り出してきた二つの牙がそれをさせなかったのです」
続いて映し出されたのは、ゲイツやメディウス・ロクスといった現在ザフトの戦線を支える主力MS達が、なすすべもなく巨大な人型に破壊し尽くされる光景であった。無論アズライガーによる蹂躙と虐殺と破壊の光景である。
常に飄々としたところのあるバルトフェルドも、流石にこの光景には息を呑み、語るべき言葉を見つけられずにいた。ちょうど、アズライガーの全砲門が展開し、数十機のMSと艦船を沈める所が映し出されていた。
「名称は不明ですが、この連合の繰り出してきた巨大なMSないしは特機によってボアズの守備戦線は壊滅。トリプルエースの一人、ラルフ・クオルド隊長の部隊も敗走しました。ブランシュタイン隊とDCの精鋭部隊が間に合ったのは不幸中の幸いでしょう」
再び画面が動き、サイバスターやイスマイル、ジャスティス・トロンベと交戦し、左腕や頭部を破壊されるアズライガーの姿が映る。
「とはいえ、完全に撃破できたわけでもないか。こんなのが五機も十機も完成していない事を祈るばかりだな。ジャスティスやフリーダム、それにミーティアを持ってしても、これを撃破するのは容易じゃない」
「おっしゃる通りです。また、この機体とは別に地球連合内部で結成された精鋭部隊の、ω特務艦隊がボアズのSフィールドを突破し、そこを中心に連合軍がボアズに取りついたようです」
「ω特務艦隊か。ぼくらがメンデルでやり合ったアークエンジェル級を中核とした遊撃部隊だったな。またアークエンジェル級が増えているし、規模もだいぶ大きくなっている。
おまけに特機の姿まである。こりゃまあ、DCもうかうかしていられない兵器の充実ぶりだな」
「それで、ザフトはどう動いているの? 歌姫サン?」
「ボアズの放棄を早い段階で決定した事もあって、かなりの部隊がヤキン・ドゥーエに後退しているようです。とはいってもこれほどの短期間でボアズが落とされるのは予想外でしょう。
DCの本隊もアメノミハシラを出立してプラント本国付近やヤキン・ドゥーエに駐留してはいますが、十分な迎撃態勢が取れるかどうかはわかりません」
「確かにね。しかし、どうやって連合はこれだけの戦力を整えたんだ? 確かに原子力発電をはじめとした核エネルギーは復活したが、荒廃した地上の再興や戦争初期での喪失戦力の補充、人的資源の教育は、そう簡単には行えない」
「もし仮にプラントが独立を謳う前の地球でも、この短期間であれだけの機体の数を揃え、新型機を開発するのは不可能でしょう。なにか、プラントの工業生産力などを上回るバックアップがあるとしか思えません」
そう、地球連合の物量は圧倒的だ。だが、これはあまりにも圧倒的“過ぎた”。ラクスの言うとおり、プラントの工業力を失った地球連合がその底力を見せつけたにしても、多すぎる。
兵器を製造する資源も必要とされる時間も技術も、そもそも資源を採掘する労力や機器にさえ不自由していたのが、ほんの数ヶ月前の世界の状況ではなかったか。
エイプリールフールクライシスと呼ばれたNJCの投下前さえ上回っているのではと思わされる地球連合の底知れぬ力に、ラクスは幼さを残した顔に、疑惑の翳を差し込ませていた。
穏やかな南シチリア海の小高い丘にある優雅な邸宅で、ある女が午後のうららかな日差しを満身に受けながら読書に耽っていた。手編みの籐の椅子に深く腰掛け、傍らの丸机に淹れたばかりの紅茶のカップが湯気を立てている。
身に付けた衣服も屋敷の内外を飾る装飾物や展示品も、すべてが一流を超えた超一流の財で集められ、品位と美意識を損なわぬよう繊細なまでに配置された一瞬の美術館の様な屋敷だ。
黒髪に、どこか鋭利な光を帯びる目をした若い美女と呼んで差し支えのない女が、この屋敷の主人であった。
カップの奥に置かれたモニターには、四十代頃の酷薄な顔立ちの無機質的な冷たさを滲ませる男が映っていた。後ろにまとめて流した黒髪に剃刀で裂いたように細く鋭利な瞳。常に厳しく引き締められた口元と、感情の類と縁があるとは思えない能面の様。
『ボアズが落ちたな』
「そう。当然の結果ね。アレだけの装備と人員を配したのですから。このままヤキン・ドゥーエも落とせるでしょう」
『楽観的だな』
「すべては情報を吟味した結果の結論よ。そして情報と名の付くものはすべて私の元に集められる。全ての情報を制した私の観点からすれば、もうこの戦争の結果も見えているわ。地球連合の勝利。プラントの隷従……」
『プラントを滅ぼす手段を用意しておいて、プラントを残すつもりなのか?』
「コロニーを壊すのなんてMS一機と装備があれば簡単にできる事よ。それにアレは宇宙空間では威力の大きな爆弾に過ぎない。
取り敢えずの平和の後に火種を残しておくためにもプラントは確保しておきたいけれど、場合によっては彼らに綺麗サッパリいなくなってもらった方がより多くの人類の幸福に繋がるわ。
それにコーディネイターがいなくてももともと世界に紛争や諍いの種なんて、いくらでも転がっているし、いくらでも作り出せる」
『その意見を肯定する。では私はいつもどおり物資の手配を行おう』
「助かるわ、批評家さん。そういえば全ての情報は私のものなんて言ったけれど、どうしても手に入らない情報があるわ」
『なにか?』
「貴方よ。常にこうして連絡を取り合う時はモニター越し。私の手の届く限りにおいて貴方の事を調べ上げたけど、一切の情報が出てこないまま。そろそろ直に顔を合わせてみるのも良いのではないかしら」
『その提案を批判する。我々はあくまでも利害の一致による協力者だ。必要以上の接触は不要である。では』
暗闇に閉ざされたモニターを見つめ、女は予想通りと顔に書いて笑う。確かに男に対する情報は得られぬままではあったが、ある程度の性格や思考パターンというものは把握できている。
ああして無駄に長くしゃべったのも情報を得る為だ。もっともいまだ不明なあの男の背景やこちらに隠しているであろう真の目的などは不明で、迂闊に手を出せばどのような形でこちらに報復に出るか分からない。いずれにせよ慎重に事に当たるべきであろう。
「いずれは貴方の正体も白日の下、とは行かないけれど晒してみせる。この世界を常に歴史の陰から管理し、人類の幸福を守って来たのは我々なのですから」
通信を切り、先程まで女と会話していた男が背後を振り返る。いや、この男に限っては、振り返るという動作で表すのが果たして正しいかどうか分からない。
後ろを人間が振り替える動作を真似たというべきか。男からすれば後方の映像に切り替えたという方が正しいのかもしれない。いずれにせよ男の意識が後方に向けられた事は事実だ。
あの女――マティスも、先程までの通信が地球から遠く離れた別の星からのものとは欠片ほども思ってはいないだろう。NJの影響下にありながら惑星間規模の距離で、しかもタイムラグなしに通信を可能とする技術をこの男は持っていた。
男は首からつま先まで黒い衣服で纏めていた。黒塗りの鞘に柄の拵えまでも黒い日本刀らしきものを手に握っている。長い時を己の練磨に捧げた剣士の様にも、策謀に耽る軍師の様にも見える。
男が歩いた。音はない。
血が通わず骨に肉を待っていない生き物であるからか。それとも確たる血肉を持ちながら足音を立てぬ完璧な消音の歩方を会得しているからか。
透過性の、とある惑星に生息する植物の樹脂を固めて作った板越しに、これまで地球連合各国に秘密裏に運び込まれた大多量の物資を生産する工業施設が、視界の彼方まで広がっていた。
どこにも人の気配はなく、もし仮に運悪くこの星に足を踏み入れた人間がいたならば、この広い人造の都市に、人間の生きている気配がただ一人分も感じる事が出来ない事を遠からず悟り、愕然と絶望と孤独の不安に膝を折るだろう。
そこは地球のいかなる地域、歴史にも見受けられない未知の文明と文化を持つ者達がかつて作り上げた都市を模した場所だった。極めて広大な敷地には、一切天然自然のものはなく、すべてに人の手が入ったものだ。
今も休む事無く稼働し続ける工廠施設では、地球連合の規格に沿った無数の兵器が生産され、マティスも知らぬ空間跳躍の技術で地球圏へと運ばれ、指定の手順を踏んでマティスから各国の軍へと配布される。
男は生産ラインの稼働に問題が無い事を確認し、わずかにほくそ笑んだ。怒りにしろ愉悦にしろ、いかなる感情とも縁がなさそうなこの男には奇跡の様に珍しい確かな感情の動きであった。
マティスには伝えていない事の一つに、ザフトが隠し持つ一撃で戦局を左右する禁忌の切り札がある。その情報がマティスには伝わらぬように工作するのは、そう難しい事ではなかった。
この都市ごとこの世界に来た折に持っていた予備知識の多くは役には立たなかったが、ある程度本筋は残され、男は概ね計画通りに動けていた。今はまだプラントと地球の双方に倒れられては困る。
今度はこの戦いのその後の知識も収集したいという欲望を、男は抱いていたからだ。地球連合とプラントの切り札は前の世界とは違い、双方が知らずにいるままだ。それがかつて収集した結末とは異なるものになる事を、男は望んでいた。
知識を、新たなる知識を、失われた知識を、誰も知らざる知識を、我が手に! そして、知識を持つものはただ一人でいい。複数の存在が知識を共有する必要などない。
故に、男は収集する価値のある知識を手に入れた終えた暁には、地球圏の全生命体の抹殺を計画していた。その為の基礎はこの都市であり、その為の手駒はこの都市の作り出す無尽の兵器達。
そして――
「貴様らに動いてもらう時もいずれ来る。存分に働いてもらおうか、過ちを犯すものよ」
男が新たに空中に開いたモニターには、全高二〇〇メートルを超す白亜の四足の巨人と、その足もとで、無数のチューブに繋がれた羽根の生えたピンク色の肉団子の様な物体が映し出されていた。その周囲で、“過ち”を守る様に黙して立つ三体の巨人も。
過ちとその子らは、全ての知を求める批評する者の手中に堕ちていた。
場所は映り、ボアズ近辺の宙域で月からの補給と増援の艦隊を待つボアズ攻略部隊の旗艦シンマニフェルに随伴している大型の輸送艦で、頭部と左腕に背の主推進機関を失ったアズライガーの修理が行われていた。
その巨体と搭載したシステム及び搭乗者の素性から、他者の目が一切入らぬ場所が必要となり、アガメムノン級ほどもある専用の輸送艦が建造されたのだ。オートで動く整備ロボットが蜘蛛の子のようにアズライガーの上で動き回り、見る間に修復作業を終えて行く。
もとからある程度の修復機能を備えたラズナニウムを使用している事もあってか、その修理速度は、目を見張るものがあった。
キャットウォークの上で、その作業を見守る人影が三つ。アズライガーに搭載された外道のシステムの開発者であるアードラー・コッホとそれを補助する科学の魔女アギラ・セトメの二人だ。
かたや七十代の老人、かたや二十代後半の妖艶なる美女ながら、その精神性に置いて常人が吐き気を催すほどの歪みを持った狂人でもある。その二人と肩を並べているのはアズライガーのメインパイロットを務めるムルタ・アズラエルの姿があった。
すでに専用のパイロットスーツから私服として愛用しているスーツに着替え、アズライガーの修理作業を見下ろしている。
アズライガーの操作中に半ば発狂したアズラエルであったが、バックアップとして保存されていた人格をダウンロードされ、アギラやアードラーに都合の良い手駒として再調整されていた。
「途中でおぬしのバイタルサインに乱れが見られたが、どうやらゲイム・システムと機体のコントロールのサポートに使っておる脳髄の一つが、一時的に人格の残り滓を取り戻した影響の様じゃ」
「そうですか、途中で勝手に動くもので困ったものです。まあこうして五体無事には戻ってこれはしましたが、次はこういうの、ごめんですヨ? そこのところ、良く理解してくださいね、コッホ博士」
「ひひ、言われんでも分かっておるわい。わしの意図を外れて動いて見せたのは意外じゃが、うまく利用すればアズライガーの戦闘能力を高める事も出来るじゃろう。そこはわしよりもアギラの腕の見せどころじゃがの」
「ゲーザ・ハガナーとか言ったか。そやつが特に反応をして見せたのは確か味方の機体相手じゃったな。そこの所をもう少し詳しく調べれば、使い方次第ではうまく転ぶな」
「そうですか、ではご両名ともよろしくお願いしますヨ。アズライガーの修理と艦隊の補給が済み次第すぐにヤキン・ドゥーエとあの忌々しい砂時計を落としに行きますから」
言うべき事を言うと、人格を修復されたアズラエルはついにそれには気付く事もなく入口の薄闇の彼方へと姿を消していった。その背を見送り、アードラーとアギラは地獄の悪魔に魂を売った背徳者の顔で言葉を交わす。
「あやつの人格のバックアップを取っておいてよかったな。余計な手間が省けたわ。それにしてもよもやヴァルシオン改にベルゲルミル、それにこのアズライガーにまで手傷を負わせる輩がおるとはま。流石DCといった所か」
「忌々しい限りじゃ。ビアン・ゾルダークでは人類の統治などできぬという事がDCの俗人どもには分からぬのだ。わしが人類を導いておれば、あの世界でも異星人共を駆逐する事など造作もなかったものを」
「ならば、まずはこの世界でプラントのコーディネイター共をどうにかしてみせる事じゃな。でなくばお前さんの大言はただの妄想にすぎんわ」
「貴様もわしに逆らうか、アギラ・セトメ!!」
「別に逆らってはおらんよ。腐ってもDC副総帥だったおぬしじゃ、相応の能力があるくらいは承知しておる。まあそれだけ自分の実力を口にするのじゃ、証明して見せろと思うのも仕方なかろ?」
「ふん、気に食わん物言いをしおる。とにかく、今度はω特務艦隊をアズライガーに同行させる。余計な横やりが無ければアズライガーに倒せぬ敵などありはせんのじゃ。たとえオリジナルのヴァルシオンでもな」
アードラーは知らない。そのオリジナルヴァルシオンが、この世界に来てから、ラ・ギアス、調律されしMX世界、コズミック・イラ、終焉の銀河におけるゼ・バルマリィといった数多の世界の技術と超頭脳達によって生まれ変わっている事を。
「しかし良いのか? あのリュウセイ・ダテがおるぞ? またゲーザに何か拒絶反応が起きかねん。こればかりはわしでも保証はできんぞ」
「構わぬ、どうせハガネに所属していたような奴よ。まとめて吹き飛ばせば良いのじゃ」
「それはそれは……」
どこか揶揄する様な答えを口にするアギラではあったが、立場が違えば同じ言葉を口にする事を躊躇うような精神の持ち主ではない事は、火を見るよりも明らかであった。
ボアズの陥落を知らされたプラント評議会の動きも早かった。その報は少なからず評議会のみならず国防委員会や、ザフトの隊長陣も敗走してきた自軍とヤキン・ドゥーエの防衛部隊との再編成に追われる。
特にボアズで猛威を振るったアズライガーに対する対策は急を要し、これに対抗できる戦力としてDCの特機部隊、あるいは自軍の持つ切り札たる特機WRXの使用が検討される。それ以外の戦力では対抗できない事は明らかであったためだ。
エルデ・ミッテ博士の不在もあり、TEアブソーバーの増産や新型機の開発は凍結されていたが、唯一ロールアウトしたサーベラスと専属のパイロットであるアクア・ケントルムはそのままWRXチームに配属となった。
他にも隊員の約半数を失ったクオルド隊はブランシュタイン隊に合流し、核動力機部隊の編制、ミーティアやその量産型であるヴェルヌの配備が急かされる。
DC側へもサイレント・ウルブズ及びザフト側から情報が伝えられ、今も面会謝絶状態と偽っているビアンに変わり、ミナやマイヤーが報告を受けアルテミスを出立したギナの部隊との取りまとめに追われていた。
予想される地球連合の勢力は月からの増援部隊も加えれば、ザフト・DC双方を合わせた戦力の倍では済まない事は確かだった。
ヤキン・ドゥーエの防衛網を突破されれば最悪の場合プラント本土での戦闘、いや、それ以前にそうなった時点で敗北というべきか。人が生身では決して生きる事の叶わない宇宙に浮かぶプラントは脆い。
守るものもなく、憎悪に駆られた連合の兵士の誰かがボタンを押すだけで、あるいは誰かが命令を無視するだけでプラントが壊れるのは、そう難しい事ではない。
仮にここでザフトが負けてもプラント住民二千万全員が皆殺しにされるわけではないが、かつてプラント理事国の統制下にあった時代よりもはるかに冷遇され、地を舐めるような暮らしを強要される事だけは確かだ。
大なり小なりコーディネイターという出自にナチュラルに対する優位性を秘めるプラントのコーディネイター達、特にナチュラルとの偏見や差別を体験してきた親世代のコーディネイターには許容しうる未来ではない。
住民毎プラントが破壊されるという選択肢と天秤にでも掛けられぬ限りは、そうそう投降する様な事はないだろう。
いずれにせよ、ヤキン・ドゥーエの戦いが、地球連合、ザフト、DC、そしてそれ以外の思惑を持つ者達にとって大きな分岐点になる事だけは確かだった、
――続く
こんばんわ。かなり速いペースで投下していますが、そろそろ月に一回くらいに落ちる頃かなと考えている660です。
ボアズで手間取った分次でもうヤキンに入ります。これからはキャラを減らす作業ですので若干気落ちしますが、もうしばしお付き合いくだされば幸いです。
ACE2のあの二人か……、そういえば忘れてたなあ……。
GJ
ってか、敵が多いなぁw
これ、種、種死どころか劇場版までやらなくちゃ片付かないんじゃね?
もしくはいつものスパロボのように最後に怒涛のボスラッシュか
ヒヒョーきてたーw 過ち一家はRのかしら。
完璧パパンだけは出ないでほしい今日この頃です。
乙でしたー。
またまたおつですたー。ペースが早い早い。
種時点では存在明かしに留まるだろうけど、この終盤にWとRの敵かー。
この先を考えればまだまだ増えそうなバンプレキャラ陣。その底の無さ、恐るべし。
あと、前々からこっそりだけどだけどマティアス&マティス、一族関連の話も出てきてるのですよね。
あの大仰な設定のせいでクロスSSの類では削られがち…どころか滅多に見ない顔なので、Dアストレイ好きとしては嬉しい限りです。
Zの話を見聞きしてると野次馬馬鹿が出ないのが悔やまれて仕方ないったら。
総帥乙!
相変わらずムラタのターンだけ空気が違いすぎるw
無印編で一番安否が気になるキャラだ
つかスペルブレードw
総帥乙です!
ムラタのターンだけですげえ満足してしまいましたw
いや、他のも素敵なんだけど、世界が違いすぎるww
アズライガーとか一人だけでぶった切っていきそうで六剣連中は洒落になってない!
いまだ不明の残り二剣はロウと今回出てきた謎の男かな? Rはやったけど、Wはやってないんだ!
剣術描写、濃厚な世界観共に全て憧れる一方です。
剣戟大好きな自分としてはもはや心の師匠です! 頑張ってください!!
GJです。
過ちさん一家も来てたのか……どっちの主人公のときの過ちさんなのか気になるな。
男のときはミズホが過ちさんの求めた答えっぽいもの言ってますが、女のときはラージは言ってない上元の時代に戻ったときに主人公に死ねやゴラァって感じで殺されてるし……
フィオナルートの最後はマジ鬼畜すぎw
あそこだけ見るとどっちが悪党か分からん
総帥乙でした。
しかしそろそろキャラを把握するのがしんどくなりましたね。
元ネタがわかりづらくなるというかなんというか。
所属もどんどん複雑になってきているような。
次回も楽しみにしています。
まあまあw
デュナメスもそれまで散々悪行をやらかしてきた上に
フィオナは恋人的存在を半殺しにされてわけなんだし、死ねやゴラアも不思議じゃないさ
デュミナス三姉妹がどう活躍するかだなぁ。
シンと絡ませたらマユあたり嫉妬に狂いそうだ。
有りそうなのはスティングたちとのチーム戦かな。
親の為に戦う子供という点では共通してるし。
まぁ某所のコウタみたいにティスと喧嘩じみた戦いするアウルや兄弟姉妹を守ろうと奮闘するスティング対ラリアーとか見たいだけなんだけど。
確かにオクレ兄さん達と絡ませるには絶好の手合いだな
それはそうと、「三姉妹」という言い方に何の違和感も感じないのが恐ろしいw
俺はフィオナの方がしっくり来たな。あれだけやらかしたんだから
綺麗に纏められた方が違和感だったし。
総帥GJ。そんでもって乙です。
アードラーから、原作に匹敵する小物臭がするw
何と言うか、種の最後でウォーダンに斬られんじゃ無いかとwktk。
存在を忘れられていた、ACE2の主人公とヒロイン。
バスターアークは兎も角、ガーディアンが無いと使えない子なガンアーク。
出てくれたら嬉しいけど、どうなる事やら(ぁ
次話からのヤキン戦も楽しみにしています
シンがヨロイでやってきたらなんて妄想はここじゃないですか?
「俺からステラの死まで奪う気かよ!あんたはァ!」みたいな
「ああ、夢を見てたよ。悲しい夢だった。」
「だけど、もう終わったよ…一人にさせてゴメン・・・ステラ。」でもいいけど
ACE2ならガンアーク作った博士のことも思い出してあげてください
このままスパロボキャラ総ざらいラッシュが続いたら、αシリーズの『当初の』ラスボス予定だった、半版権のあのお方まで出てきたりしてなwww
そう…我らの『ガンエデン』様が!
ちなみにょぅι゛ょでもバーローwでもなく、本当に初代αの時点でテラーダが出したかった方のガンエデン様だぜ!
>>439 悪魔融合前のケイサル・エフェスみたいな?
>>440 史上最強のサイコドライバーで、三つの僕と、使徒とも殴り合える連中を従える、その名は101なあの方ですよ
442 :
議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/08(土) 08:44:37 ID:7dbgeXxV
偉大なるBFか……
出てきたらいろんな意味でヤバくね?
後過ち三姉妹で思ったんだが(敵として)シンとの相性悪過ぎね?
下手したら防戦一方で攻められない気が……
BFはバベル二世にマーズが混じってるからなー。
αシリーズのボスでBF様が出てきたら、
やっぱり六神体と三つの僕に乗った十傑集引き連れて、
自分はガイアーの肩に乗って連携攻撃しかけてくるのかね?
昔書いたSSで、101のラストでヨミと相打ちになったバビルが逃げ延びた先が秋の島新島で
そこに生命維持装置の故障で死に掛けていたマーズが
瀕死の二人が無意識のうちに生き残るためにお互いの肉体と融合しBF様誕生というネタやったんだが
設定的には本当にそんなようなものだったらしいなw
そう言えば、バベル2世とマーズのクロスオーバーSS で、
実は地球監察官を置いた異星人とバベル一世の故郷は同盟関係にあって、
地球人の中にバベル1世の遺伝子が拡散したからマーズは地球破壊を思いとどまった
=誤作動を起こしていたのは、遥かな昔からずっと稼動していたせいで、
培われた自意識と先入観でそれに気付けなかった他の地球監察官だったって
オチのSSを見かけたことがあったな……。
で、地球監察官達がバベル二世の元に集って、BF団の雛形になるって話。
最初のOVA版マーズの「マーズは最後まで地球人を信じたのに結局地球は破滅する」というオチ
は秀逸だったのに
売れ行き悪くて打ち切られてしまった
(オチは小説版でわかる)
ゴットマァァァァァズ!
ズール皇帝は正義だ!
>>447 >マーズは最後まで地球人を信じたのに結局地球は破滅する
kwsk
敗北エンド?
>>450 マーズは戦死
その前にガイアーの爆弾を解体することに成功していたので地球を守れたと満足して
死んだんだけど
原作漫画で監視者(6神体パイロット)たちが会議していた部屋に大きな時計があったろ
あの中に予備爆弾があって地球あぽーん
そういえばシン主人公、ラスボスBFで、二人が定められた宿敵同士って設定のSRCがあったなー
参戦作品もファフナー、パトレイバー、ダイガード等かなり異色なラインナップだった
>>445 >>446 >>453 kwsk
>>451 意外と原作でも予備爆弾はあったのかもな
つーか周到な異星人なら用意してて当たり前のような
マーズが予定通りガイアーの爆弾を爆発させたから使用しなかっただけで
ビッグファイアの話なら俺もまぜてくれぇ!
シンの中の人は、バビル2世もやったことあるんだぜ! 黒歴史だけどな!
その昔、富士原先生(詳しく話すと長くなるが、寺田とすげー仲良い漫画家さん)が昔出した
スパロボ64の同人誌に、『スーパーロボット大戦・雷』という作品があってだな
詳しくは「真 ゴッドマーズ」でググると一番最初に出てくるサイトが詳しいが、ガチでビッグファイア様がラスボスだった
『鋼の救世主』ではイルイ・ガンエデンと兄妹喧嘩してたり・・・
まぁこれはあくまで二次創作だが、初代αの時点でビッグファイアがラスボス候補だったのはガチっぽい
その辺はドリームキャスト版のαに追加された新規エヴァルートで描かれてたんだぜ
つ
http://www.nicovideo.jp/watch/sm746179
>>454 >>455 スパロボBBSの、でたらめに挙げた参戦作品でスパロボを妄想するスレのSRC化作品
タイトルは「スーパーロボット大戦ds」
アンソロの常連でメカデザもやった富士原に注釈は不要かとw
>>456 富士原さんの漫画は半公式に近いから困る
星薙の太刀なんか公式化しちまったしなwww
侍リオンといいギブアップせいといい、大御所のくせに二次創作と公式の境界が薄すぎだろスパロボ
>>457 設定だけざっと目を通してみたが…
まるでシンが主人公のようだ…
>>459 >二次創作と公式の境界が薄すぎ
まるで某型○だなw
あそこは同人上がりだからまだいいとして
仮にも業界最大手会社の子会社なのにw
二次創作が公式になったのって安西センセのドリルフリークが最初だろうかw
463 :
議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/08(土) 17:10:32 ID:6rqPX0NC
>>460 あそこではちゃんと主人公してるんだよな
SRC自体は2話か3話で止まってるが
でも、スパロボって版権から許可もらった同人みたいなものだろう
>>459 つーかスパロボ同人御三家の富士原・環・津島は事実スパロボスタッフだしな。
K×6氏を公式にw
今の所OG限定だが八房先生も半公式か。
無明、タイプCF、ヒラメ、妖機人と来てるから次はAMやPTのパーツ取り込んだイェッツトかね。
そのうちこっそりラスキンが混じってたり……ねーか
>>446 それ途中からスーパー横山大戦になっちゃって現在絶賛停止中の某しもべじゃねーかwww
たしか王子が残月になって、土鬼は先代ガンダ、水の精霊が命の鐘だったな
ラスキン老に師事するシンとかも良さそうだな
ただその場合乗機にはヴァーダントのように大量の剣を装備させないと辛いか
>>456 雷ってマジ読みたいんだが、どの店あさっても見かけた事すらないなあ
真ゴッドマーズに物凄い興味あるんだが
>>472 ヤフオクはテンバイヤーが暴利をむさぼってるからなぁ
渋谷のまんだらけで偶然発見したときは手が震えたぜ
以下、俺が初めてこの作品の存在を知ったサイトの紹介文を抜粋
”
(前略)
島本和彦先生の弟子である富士原昌幸先生が作成した『スーパーロボット大戦64』の同人誌。テーマはズバリ「横山光輝大戦」。
周知のとおり、『スーパーロボット大戦64』には『ゴッドマーズ』及び『ジャイアントロボ』が参戦している。富士原先生はここに着目し、
ただでさえ横山光輝世界の統一を図った『ジャイアントロボ』と、 横山光輝『マーズ』からスピンアウトしたアニメ『六神合体ゴッドマーズ』の更なる大統一を図った。
その作品世界は未完成交響曲〜G ロボ用語集〜に出てくるような知識がデフォルト扱いであり、
具体的に言うとビッグファイアと直系の土鬼が兄弟だと知らないような奴はことごとくおいてけぼりである。
(中略)
これまた周知のとおり、『ジャイアントロボ』の十傑集が搭乗する怪ロボは『マーズ』のロボットが元ネタである。そして『ゴッドマーズ』は『マーズ』のロボット群の設定を受け継ぎ、
デザインは大幅にリファインする形で合体ロボ・ゴッドマーズを生み出した。
そして富士原先生は考えたのである。
「じゃあ十傑集が乗った『マーズ』ロボを合体させればいいじゃないか」
こうして生み出された奇想が「七神合体 真・ゴッドマーズ」であり、ゴッドマーズ VS 真・ゴッドマーズである。
(後略)
”
どうも富士原・環・寺田つながりでビッグファイアにやたら強い思い入れがあるらしく
その後に出された、こちらは比較的入手しやすい『鋼の救
その後に出された、こちらは比較的入手しやすい『鋼の救世主 前伝』でも国際警察機構&BF団連合vsイルイ・ガンエデンとかやりたい放題やってたな
だめだ、ついこの話題になると長くなる…長文すまんかった
>>475 そのシーンはじめて読んだとき鳥肌立ったなぁwww
他にもGR・バーニィ・クリス・龍虎王・スレードゲルミルvsミケーネ・恐竜帝国連合とか
ガンバスター・シズラー・F91・ビギナ・リュウセイの代わりにレビ様搭乗のSRXvsEVA三機を取り込んだ無敵戦艦ダイUとか
ラストのまさかのディアナ様とか本当にやりたい放題だったなwww
あと富士原的真・サルファ最終話な『嵐』も良かったな。
完全覚醒した真・龍王機改め応龍王with孫vs
現代のαナンバーズ全員(α・外伝・ニルファ組含)&未来世界組(未来ゼンガー含)も最高に燃えた。
例によって例の如く微妙に美味しいポジションだったBF様には吹いたがwww
あとこれの後日談もなかなか良かった。
お前達、いい加減スレ違い気味だから
せめてその場にシンがいたらくらいの妄想しろ
なにこのBF様な流れを切ります。さすがに、出せないっすわ。
某別板のスレに投下させていただいた小話のこちらのシンセツ版です。
変なのが書けました改め、
・シンとセツコと愉快な変態達――その5『だきしめる』
シン・アスカとセツコ・オハラの朝は、おおむね昨夜をどのように過ごしたかで起床時刻に大きく変動が起こる。特に昼近くまで寝て過ごす時は、大抵翌日が休日の時で、夜の間中、シンが自分の腕の中からセツコを離そうとはしないからだ。
口では拒む言葉を出すセツコも、そっとシンの胸に押し当てた腕にわずかにしか力を込めていない事や、ダメ、と囁く唇から熱く濡れた吐息を零し、澄み切った湖を通して見つめているかのように潤んだ瞳で拒んでいては、説得力などというものは皆無に等しい。
セツコの体をシンの腕が羽毛を運ぶような軽やかさでベッドの上に横たえ、MSの操縦桿を握れば比類ない戦闘能力を発揮するとは思えない指がセツコの首筋をなぞり、胸や腰、尻の上でピアノの名演奏者の様に淀み無く全身に緩急と強弱を合わせた刺激を与える。
時にはシンの舌や唇が良く馴染んだセツコの体を這い回り、シンの舌が這った軌跡は窓から差し込む月光に照らされててらてらと艶めかしく輝いて、裸身を晒したセツコの体を覆い尽くし、気紛れに強く吸った唇の跡は所有を示す烙印となって無数に刻まれる。
シンの指や舌が動き回る時間と唇の刻む烙印の数に比例して、セツコの体の中に眠る快楽神経を弄り貞淑なセツコの心の中に秘められた雌を揺さぶり起こし、体の内側から留まる事を知らぬ淫らな熱に冒されたセツコの体は、隠しようもない悦楽の朱に染まる。
そうなればもう、シンもセツコも道徳や倫理を忘れたケダモノになり果てるまでに、時間はいらない。そうして夜の闇に沈んだ地平線が、黄金の朝日に照らされるまで、二人は二人だけの淫らで優しい世界に溺れるのだ。
だから、休日ではない今朝は、わりと早い時刻に起きた。タオルケットに包まり、相手の裸体を抱きしめながら眠っていた姿勢から目を覚ます。
大抵はセツコの方が早い。自分の腰や首に回されているシンの腕の確かな感触と、すぐ目の前にあるまだ幼ささえ残す想い人のあどけない寝顔に、じんわりと胸の奥が暖かくなり、意識しなくても穏やかな笑みが浮かぶ。
そんな朝が来る事に、セツコは確かな幸せを感じていた。ベッドに体を預け、共用している枕に頬を預けて、四肢を投げ出したしどけない姿勢のまま、しばらくシンの寝顔を見つめる。
瞼を閉じ、安らかな寝顔を見つめるて、かすかな寝息を聞いていると、シンを独り占めしているような感覚が、わずかな背徳の感情を交えてセツコの胸に喜びの感情の波を大きく起こす。
罪悪感を感じるにはあまりにもささやかな、人間ならだれもが持っている愛しいモノへの独占欲。ただそれだけの事に、黒い罪悪感の一点を心のキャンバスに描いてしまう。セツコはそんな女だった。
シンの瞼が震え、規則正しい寝息の中にん、んん、という声が混じりはじめる。そろそろ起きる頃かな? セツコだけが知っているシンの無防備な姿を独り占めできる世界の終りが、ほかならぬシン自身によって告げられようとしていた。
それがさびしくもあり、同時にシンが自分を見てくれる、感じてくれる、求めてくれる、必要としてくれる――そんな、あまりにも幸福すぎて、現実の事なのかと信じられないような一日の始まりも意味していた。
シンの瞼が開いた。ゆっくりと覗く鮮血色の瞳に真っ先に映るのが自分である事が、ひそやかなセツコの誇りであり、自慢だった。
世界で一番好きな人に、その日で一番最初に見てもらいたい。そんな童女みたいにささやかで微笑ましい願いを叶え続けて居る自分に対する、まるで初めて恋を知った少女の様な、幼い喜び。
シンの口元に確かな笑みが浮かぶ。いつも目を覚ました時に最初に目に映るのが、セツコである事が、どれほど心の中に喜びを生むのか、安堵の念を湧き起こすのか、きっとセツコは知らないだろうと、シンは思っていた。
近く――それでは遠い、傍に――まだ遠い、隣に――それでようやく満足――居て欲しい人が、居たい人がいる事を一日の始まりの時に実感できる事の喜び。言葉に表せぬほどの幸福。
だから、シンはいつも優しい、セツコにしか見せない恋人の為の笑顔を浮かべてこう言うのだ。
「おはよう、セツコ」
だから、セツコはいつも愛しさに充ち溢れた、シンにしか見せない愛しい人の為だけの笑顔を浮かべてこう返すのだ。
「おはよう、シン君」
言葉を交わした二人の口元が、やわらかく、慈しみに満ちた笑みを浮かべた。
ベッドから揃って降りて、一緒にシャワーを浴び、セツコはシンの視線を気にする風もなくフロントホックのブラを身につけ、青いショーツに足を通し、緑のシャツと(有)ビーターサービスのロゴが刺繍されたツナギに腕を通した。
すでに隅々までその魅力に充ち溢れた体を味わい尽くし、セツコ以上にセツコの体を知り尽くしたシンだが、毎朝見るその光景には不思議と胸が高まり、凶暴なまでの性欲よりも目の前の女性と自分が共に生き、愛し合っているという事実を夢のように感じている。
仕事の朝に遅刻しないのは、手を伸ばせ届く距離で行われるセツコの着替えの光景に対し、シンが欲情よりも掌に間違って舞い降りた小鳥を愛でる様にセツコを待っているからだ。
最後に背に掛かるくらい延ばされた茶の色を帯びた黒髪を後頭部の高い位置で結わえて、ポニーテールにする。無論、MSの操縦や修理屋稼業の邪魔にならないように、という配慮の為だ。
最もそれが建前に変わるのはあっという間だった。普段シンはまっすぐに下ろされているセツコの髪を、飽きる事無く手で梳いたり撫でるのを好む。それこそ一日中そうして過ごしても一切公開する事無い位だ。
そのシンが、セツコが初めてポニーテールや三つ編みの髪を披露した時に、見惚れて言葉を失ってから数秒して、ようやく『似合う』『きれいだ』と芸はないが嘘偽りの無い誠実さで褒めてくれた時の喜びは、色褪せる事無くセツコの胸の奥に残っていた。
今も、シン君、そう思ってくれているかな? とゴム紐で髪をまとめながらセツコは自分の背を見つめているシンに対し、密やかな期待を抱いていた。シンが果たしてどのような気持ちでセツコの艶やかな後ろ姿を見つめていたのかは、無論語るまでもない。
しかし、現実は無残である。残酷である。理不尽であり、時に絶望にさえ等しいモノが大顎を開いて待ち受けているものだ。
宿を出て、滞在しているこの街で利用しているカフェテリアで、先に待っているランド達の所へ向かった二人を、とある青年がにこやかに迎えた。
「やあ、健やかな朝だね。悲しみの乙女、運命の君」
ガルナハンにほど近い灼熱の街で、髪の色から足の爪先、指先に至るまで全身黒ずくめの美青年が、シンと同じ色の瞳に愉快気な光を浮かべ、コーヒーカップ片手にそう抜かしてきやがったのである。
「……………………」
朝も早よから幸せメーターMAXだったシンとセツコのテンションが、一気に下がった。
例えるならば気力限界突破持ちで気力170だったのに、たった一人の敵の増援の登場によって発生したイベントで、そこまで上げるのに費やした労力も虚しく気力が50にまで下がってしまったようなものだ。
苦虫をまとめて百匹も噛み潰したみたいに、たちまち表情を曇らせる二人を尻目に、黒
づくめの青年――アサキム・ドーウィンは優雅ともいえる仕草で右手のカップを傾けた。
カップの中身もブラックかと思いきやカフェオレの茶色だった。味覚ばかりはこの青年の趣味に対して裏切り者であるらしい。
「どうしたんだい? 早朝の澄み切った空気で胸を満たし、蒼穹の空を仰いで見たまえ。今日も変わらずに照りつける太陽が美しく輝いている。その輝きを浴びれば、魂を縛る煉獄の獄鎖も自らに相応しい冥府の世界を思い出して、束縛を緩めるだろう。
まずは席に着きたまえ。往来の真ん中で足を止めてはいけないという決まりはないが、最低限のマナーだろう。いかに君らが共にある事で陽光や月光さえも霞む光を放つ運命の恋人といえど、その程度の分別はあるだろう」
「……ランドさん、なんでアサキムがいるんですか」
「セツコォ、そんな恨めしそうな声出すなよ。いいじゃねえか朝飯ぐらい。今日はコイツと共同で作業に当たる予定だしよ」
更なる絶望をセツコに与えつつ、ランドは厚切りのハムステーキとトマト、玉ねぎ、レタスのサンドイッチを二口、三口で片づけている。大きな体に相応しい、見ていて気持ちの良い食べっぷりだ。
ぐびぐびとブラックのコーヒーも飲んではお代りをしている。コーヒーのお代わりは無料だからだ。隣のメールは、小さな体に相応しく、小ぶりな口でスクランブルエッグを口に運んでいた。
傍から見れば倍ほども違う年齢に見える二人の関係は、ガキの頃にいろいろと『やんちゃ』をした男と、その『やんちゃ』をしていた頃に造った子供、と見えない事もない。
二十七にしては三十越えの貫録を醸し出すランドの風貌と、実年齢よりも4,5歳幼く見えるメールの外見という真逆の要素を持つ二人の組み合わせなればこそであろう。
ベッドから揃って降りて、一緒にシャワーを浴び、セツコはシンの視線を気にする風もなくフロントホックのブラを身につけ、青いショーツに足を通し、緑のシャツと(有)ビーターサービスのロゴが刺繍されたツナギに腕を通した。
すでに隅々までその魅力に充ち溢れた体を味わい尽くし、セツコ以上にセツコの体を知り尽くしたシンだが、毎朝見るその光景には不思議と胸が高まり、凶暴なまでの性欲よりも目の前の女性と自分が共に生き、愛し合っているという事実を夢のように感じている。
仕事の朝に遅刻しないのは、手を伸ばせ届く距離で行われるセツコの着替えの光景に対し、シンが欲情よりも掌に間違って舞い降りた小鳥を愛でる様にセツコを待っているからだ。
最後に背に掛かるくらい延ばされた茶の色を帯びた黒髪を後頭部の高い位置で結わえて、ポニーテールにする。無論、MSの操縦や修理屋稼業の邪魔にならないように、という配慮の為だ。
最もそれが建前に変わるのはあっという間だった。普段シンはまっすぐに下ろされているセツコの髪を、飽きる事無く手で梳いたり撫でるのを好む。それこそ一日中そうして過ごしても一切公開する事無い位だ。
そのシンが、セツコが初めてポニーテールや三つ編みの髪を披露した時に、見惚れて言葉を失ってから数秒して、ようやく『似合う』『きれいだ』と芸はないが嘘偽りの無い誠実さで褒めてくれた時の喜びは、色褪せる事無くセツコの胸の奥に残っていた。
今も、シン君、そう思ってくれているかな? とゴム紐で髪をまとめながらセツコは自分の背を見つめているシンに対し、密やかな期待を抱いていた。シンが果たしてどのような気持ちでセツコの艶やかな後ろ姿を見つめていたのかは、無論語るまでもない。
しかし、現実は無残である。残酷である。理不尽であり、時に絶望にさえ等しいモノが大顎を開いて待ち受けているものだ。
宿を出て、滞在しているこの街で利用しているカフェテリアで、先に待っているランド達の所へ向かった二人を、とある青年がにこやかに迎えた。
「やあ、健やかな朝だね。悲しみの乙女、運命の君」
ガルナハンにほど近い灼熱の街で、髪の色から足の爪先、指先に至るまで全身黒ずくめの美青年が、シンと同じ色の瞳に愉快気な光を浮かべ、コーヒーカップ片手にそう抜かしてきやがったのである。
「……………………」
朝も早よから幸せメーターMAXだったシンとセツコのテンションが、一気に下がった。
例えるならば気力限界突破持ちで気力170だったのに、たった一人の敵の増援の登場によって発生したイベントで、そこまで上げるのに費やした労力も虚しく気力が50にまで下がってしまったようなものだ。
苦虫をまとめて百匹も噛み潰したみたいに、たちまち表情を曇らせる二人を尻目に、黒づくめの青年――アサキム・ドーウィンは優雅ともいえる仕草で右手のカップを傾けた。
カップの中身もブラックかと思いきやカフェオレの茶色だった。味覚ばかりはこの青年の趣味に対して裏切り者であるらしい。
「どうしたんだい? 早朝の澄み切った空気で胸を満たし、蒼穹の空を仰いで見たまえ。今日も変わらずに照りつける太陽が美しく輝いている。その輝きを浴びれば、魂を縛る煉獄の獄鎖も自らに相応しい冥府の世界を思い出して、束縛を緩めるだろう。
まずは席に着きたまえ。往来の真ん中で足を止めてはいけないという決まりはないが、最低限のマナーだろう。いかに君らが共にある事で陽光や月光さえも霞む光を放つ運命の恋人といえど、その程度の分別はあるだろう」
「……ランドさん、なんでアサキムがいるんですか」
「セツコォ、そんな恨めしそうな声出すなよ。いいじゃねえか朝飯ぐらい。今日はコイツと共同で作業に当たる予定だしよ」
更なる絶望をセツコに与えつつ、ランドは厚切りのハムステーキとトマト、玉ねぎ、レタスのサンドイッチを二口、三口で片づけている。大きな体に相応しい、見ていて気持ちの良い食べっぷりだ。
ぐびぐびとブラックのコーヒーも飲んではお代りをしている。コーヒーのお代わりは無料だからだ。隣のメールは、小さな体に相応しく、小ぶりな口でスクランブルエッグを口に運んでいた。
傍から見れば倍ほども違う年齢に見える二人の関係は、ガキの頃にいろいろと『やんちゃ』をした男と、その『やんちゃ』をしていた頃に造った子供、と見えない事もない。
二十七にしては三十越えの貫録を醸し出すランドの風貌と、実年齢よりも4,5歳幼く見えるメールの外見という真逆の要素を持つ二人の組み合わせなればこそであろう。
あ〜あ、なんだかな、あれだよねーという投げやりな雰囲気を全開で噴出させながら、シンとセツコも席に着いた。もうあれだ、なんか慣れた。悪い意味で。そう二人の背中が語っていた。
とりあえず安上がりなモーニングセットを、愛想のいいウェイトレスのおばちゃんに二人前頼んだ。アサキムのお陰で、一日の活力たる朝食は灰色の憂鬱を帯びつつあった。
「どうしたんだい? 野に咲く花も恥じらうほど、所構わず桃色の風を振りまく君らが、まるで知人の死に際したように暗闇に陥っているね」
お前がその原因だ、と無言で睨むシンとセツコの視線はどこ吹く風と、アサキムはどこまでもマイペースにカフェオレのお代わりを注文した。
この調子で今日一日アサキムと付き合わねばならないのだから、シンとセツコはもうヤダァ、と早くも疲れを感じ始めていた。
二杯目(ランドに聞いたところ実は五杯目)のウィンナーコーヒー(お代りの度に違うものを注文している)を音もなく、光景だけを切り取ってみればどこの王侯貴族かと見紛う優雅な仕草で、アサキムは喉に黒い液体を流し込んだ。
「ああそうそう。実は今日は共に肩を並べて仕事に励むという事で、詰まらないものだが、土産を持ってきた。特に傷だらけの獅子たるランドと運命の君であるシンには喜んでもらえると思うのだが……」
「兄弟が土産ねえ。なんかうまいもんか?」
「いや、食べ物ではないな。嗜好品、というよりは僕のちょっとした趣味でね。知人の間ではなかなか評判がいいんだが」
なにやら懐の中に手を突っ込んでごそごそやり始めたアサキムを、ランドは興味深げに、シンは無関心さの上に、社交辞令程度に関心を乗せて見つめる。
「コレだよ」
「!?」
「ッ!!」
アサキムの黒革の手袋に包まれた指先が懐から取り出した、長方形の薄い紙媒体。それが徐々に全容を現し、そのわずか50ページにも満たない紙の中にいかなる淫猥な世界が描かれているかを認識した瞬間、シンとランドが動いた。
表紙には二次元で再現されたセツコの美貌と惜し気もなく晒され、乳房の先にある二粒の果実や、秘すべき女の宮の身を隠して、汗の球を全身に散らして輝く裸身。
そしてその桜色に染まりつつあるセツコの体を幾重にも縛る赤い紐と、それを手に持ち、セツコ同様に半裸になりながら、恍惚と嗜虐の笑みを浮かべるツィーネが精緻極まる技量で描かれていた。
いわゆる同人誌。しかもツィーネとセツコの女性同士の性交を題材にしたSM系の百合本らしい。それを認識するのを合図にシンとランドとアサキムの世界は文字通り加速する。
ランドが勢いよく立ちあがり、彼方の青空を指さして大声で開口一番
「あーー、あんなところにTFOがーーー!!」
「え! ダーリン、それ本当!?」
「TF……、UFOじゃなくてですか?」
根が単純なのと素直な幼女と美女の組み合わせが、揃ってランドの指さす方に目を向ける。閃光の速さで翻ったシンの腕がアサキムの指に撮まれていた本を奪い取り、二冊あったそれをまるで何度も予行演習を重ねていたようにシンのツナギの懐の中へ。
シンとアサキムとランドの視線が交錯する。
(アサキム、お前、どこでこんな本手に入れやがった!!)
と恋人を汚されて怒髪天を突くシン。これは当然の反応だろう。ここで0・01秒。
(そうだぞ、兄弟! どこで手に入れた、こんなすばらし……もとい青少年の教育にはまったく持って不要な、じつにけしからん大人の為の本を!!!)
ある意味シンに匹敵する情熱を違うベクトルで燃やすランドが、鼻息も荒くアサキムに視線で問いかける。ここで0・33秒。
(ふふふ、サークル・グリーンリバーライトと増田照男をシクヨロ、ベイベ☆)
紛れもない愉悦の笑みに口の両端を吊り上げ、アサキムは掴みかかる直前にまでヒートアップしたシンとランドに答えた。ここで0・48秒。
(グリリ……? 増田……お前のペンネームかあああ!! って、お前かああ、こんな本書いたのはアアア!!!!)
(なに、ツィーネは実に協力的だったよ。執筆の途中で我慢しきれなくなったらしくて眺めすかすのに少し腰が突かれた。まあ、途中でツィーネの好きに動かさせたしね。それに締切直前の徹夜には慣れているさ。僕の体を心配してくれなくてもいいよ)
(誰がお前の体の心配なんかするかああ! お前の頭の中身の方が心配だっつーの! この総天然ゴキブリ色ファッション野朗!!!)
(兄弟いいい!! おれにも一冊書いてくれえ!! というかシン一冊寄越せええ!! そんなお宝を独り占めしようなんざ、人類の宝の喪失だぞ! おれのリビドーへの理不尽な介入だ! 男の子なら誰だってそういうのに興味があるって解るだろ!?)
(ランドさんまでなに言ってんですか!! 第一あんた、もう男の子って年じゃないでしょう!? というか、セツコはおれの! おれのセツコだ!!
例え本の中でだって、他の野郎に何か、裸を見せてやる気はない、というか見せるわけもない! こいつはおれが処分します!!)→0・73秒。
がるるるる、とまるで餓えた獣の様に喉を鳴らして威嚇するシンの様子に、こりゃ本気だな、とランドも気付く。一方でアサキムはにやにやと薄ら笑いを浮かべているきりだ。
(一晩だけでいいんだが。……それでもダメか?)
(ダ・メ!!!!)
(…………)
しょぼん、と巨体に似合わぬ落ち込んだ様子を見せるランドの肩を、アサキムが慰めるように叩いた。
(安心したまえ。ほかならぬ君の頼みなら僕は七十二時間眠らずに筆を取る事も厭わない)
(おお、アサキム。流石はおれのソウルブラザー……)
(なんなんだあんた達はああーーー!!!)→ジャスト一秒。
というシンのこれ以上ないという魂の咆哮と共に
(時は動きだす!)
「なにやってんの、アサキム?」
「いや、なんでもないさ。ちょっと新しい決め台詞を考案中でね。五里霧中を長らく彷徨っていたが、少しいいものが思いついたよ」
「良かったね!」
特に深く考えずメールは言った。アサキム相手に深く考えてもあまり意味が無い事を経験から知っているのだ。アサキム自身が物事をあまり考えていないからである。
がっくりとうなだれ、テーブルに額を押しつけているシンの様子に気づいた、セツコが不思議そうに声をかけた。自分達が他所を向いている間に一体何があったのか、知らぬ方は幸せだろう。
「シン君、お腹でも痛いの?」
「いや、ちょっと今日は疲れるだろうなあ、と思っただけ」
「う〜ん、否定は出来ないかな?」
困ったように苦笑するセツコの声を聞きながら、シンは別の事を考えていた。はたして懐の中にある実にODEな本とセツコと、はたして今日はどちらを食べてしまおうかと悩んでいたのだ。性的な意味で。
(決してセツコに飽きたわけではなくて、二次元の中でもセツコを好きにしていいのはおれだけだから、断じてこんな本がほかの男の目に触れて良いわけはないのであるからして、これはおれが隠しておこう。うん、そうしよう。それがいい。
アサキムが書いたという事実にはあえて目を背けてこの本の中を熟読して今後のマンネリ対策の一環として活用するのも、円満な恋人関係には必要だろうから、別に読んでも浮気じゃないよな。中もセツコだし。ああ、でもなあ……)
なんだかんだでランドと同類のスケベ根性は持っていたらしい。
で、悩んだ末今日はやっぱりセツコを頂く事にしました。
その日の夜、美味しく頂かれた後、セツコはシンの胸に背を預けていた。シンの両腕が包み込むようにセツコの体の前面に回され、慎ましく窪んだセツコの臍の上あたりで指を組んでいる。
直接触れるシンの手は暖かく、頂かれている最中とはまた違った感覚で、シンの存在を感じる事が出来て、セツコはささやかな幸福を感じながら、シンの胸に頭を預けていた。
「ねえ、シン君」
「うん?」
ほのかに甘い香りのするセツコの髪ごとうなじに顔を埋めていたシンが、言葉は少なく、しかしどこまでも穏やかに返事をした。
「こうやってだきしめるっていう行為も二通りあるよね。こうして後ろからだきしめれば、二人は同じ方向を見る事が出来るけど、お互いを見つめ合う事は出来ない。
お互いを向きあってだきしめると、お互いを見つめ合う事は出来ても、二人が同じ方を見る事は出来なくなってしまう。同じだきしめるっていう行為も、それだけでずいぶんと違うと思わない?」
「お互いを見つめ合うのと、同じ方を見る、か。セツコはどっちが好き?」
「私は、内緒。シン君が教えてくれたら教えてあげる」
「ずるくないか? でも、そうだな。おれはこうして同じ方を見ながら抱きしめるのも」
セツコの体に回された腕に少し力が加えられ、セツコは自分のうなじを吸うシンの唇の感触に声を押し殺した。強く強く、鬱血する程に吸った跡を丹念に舐め回すシンの舌の感触も、労わる様に甘く啄ばむ唇も、どちらもセツコは好きだった。
「それから、こうしてお互いを見つめ合って抱きしめ合うのも」
腕が離され、シンの右手はセツコの背中に、左手は細い顎にあてがわれて背中の方にあるシンの方を向けさせられた。セツコが上半身をねじって、シンと見つめ合う体勢だ。
「どっちも好きだよ、もちろん相手はセツコじゃないと嫌だけどね」
「シン君の答えもずるいね。でも、うん、私も一緒」
「どっちが? だきしめる向き? それとも相手の方?」
「どっちも。だきしめあうのはどっちも好き。相手は、シン君じゃないと嫌っていうのも、両方ともよ」
「そっか、一緒だな」
「うん」
「そうだな、それに、別にどっちかのだきしめ方しかしちゃいけないなんで誰が決めたわけでもないさ。いつでも、好きなようにお互いをだきしめればいいんだ。おれは、いつだってセツコの傍にいるんだから」
「私もよ。私も、ずっとシン君の隣にいるから」
セツコは日課となった日記を綴る腕を止めた。後ろのベッドではシンがすでに眠りの世界に入り、穏やかな寝顔に変わっている。
それを慈母と恋人とが半分ずつ混ざった笑みを浮かべて見つめ、セツコは今日の日記の最後の一文を記した。メールが日頃着けている思い出ノートという日記に触発されて、セツコも真似ているのだ。
いつも最後は、セツコ・オハラと署名して書き終える。開け放たれた窓から吹き込む夜半の涼やかな風に揺れるレースのカーテンが、夜空に煌々と照る満月の白い光を淡く霞ませ、窓際の机に腰かけたセツコに月光と夜闇のドレスを着せているかのようだ。
ふと、セツコが悪戯を思いついたように、日記に何かを記した。それから、シンの寝顔を見つめて、再び笑顔が浮かぶ。
「いつか、そうなるといいんだけど。こういうのは男の人の方から、なんだよね? シン君」
セツコ・オハラと結ばれる筈の日記の文章には、オハラの文字を消してこう書かれていた。『セツコ・アスカ』と。
セツコはいつかそうなれたら良いのに、となかなか期待に応えてはくれそうにない恋人に、少しだけ拗ねたような笑みを浮かべてから、その隣へと潜り込んだ。
「おやすみ、シン君」
すでに眠っているシンの額に口づけて、セツコはゆっくりと瞼を閉じた。眠りにつく前も後も、その口元に浮かぶのは誰もが祝福したくなるような、そんな幸せそうな笑み。
いや、幸せ『そう』なのではない。今、セツコは紛れもなく幸福の只中にあるのだから。シン・アスカと共に。
おしまい。
二重投下誠に申し訳ありません、平にご容赦を。
私怨
どどど、同一人物だったんかい!
しっかし一粒で二度おいしいのは間違いなくグリーンリバーのおかげwww
緑の光が集まって、川のブルーになるんですってやかましいわ!!wwwww
BF様の話題は、すまんつい楽しくて乗ってしまった
出さなくていい、って言うかいろんな意味で出しちゃだめだから安心してくださいませ
ま、増田…テリオン!?
…え? 聖書の獣www
>>483 非常にGJ!!セツコ可愛い!!
それにしても、某シンセツスレで投下されていた三年後のシンセツを取り扱った長編物は出来婚の大団円だったが、
果たして此方のシンはそれより前に結婚に踏み切るのか見ものだww
CE世界で結婚式なんて挙げたらその日に紛争に巻き込まれそうで嫌です
結婚式にMSで乱入して来るようなのも居るしな
和風なら大丈夫か?
それと邪気眼はメールのハードなの(異種とかの)書いてそうだよな
聖書の獣的な意味で
『そして時は動きだす』
このセリフをアサキムが言うには100年くらい海底で過ごしてからじゃなきゃw
>>488 幸せに…ようやっと幸せを掴んだ…はずだった。
「何が起ったんだ!」
「わからねぇ」
「ちきしょう、ちきしょう」
事の発端は、ここの近くでテロリストと平和維持軍を自称する『奴ら』がかち合ってらしい。
そして、あろう事はその戦火は街にまで…いや街にまで広げたと言った方が正しいだろう。
「げほっ、げほっ…セツコッ!セツコッ!!あ、あぁ…」
そこにあったのは白いショールを紅く染めた右手…そこから先は存在していなかった。
「あ…あぁぁ…」
上見上げるとそこにはお構いなしにフルバーストするフリーダム、そしてリフターを切り離したジャスティス
がそこにいた。切り離されたリフターはテロリストのMSに当りそのまま地に落下、爆散。
落下地点にいた者達は悲鳴をあげる間もなくそれに巻き込まれた。
うん、スレ違いだなぁ
>>491 読みたい展開ではあるがセツコ死亡の時点で勘弁な
>>491 ( ゚∀゚)o彡°続き!続き!
せっちゃんがあぼんしているから嫌だ?
逆に考えるんだ、だからこそ逆シンの凄惨さがより際立つんだと
流石にシンが精神崩壊起こすだろ…
本編より不幸なネタは勘弁だな
シンが結婚式で乱入してきたMSに誘拐されて
それをセツコが助けに行くなんてどうよ
なんというヒロインw
流石アスカ姫。アスハんところの姫よりよっぽど姫らしいぜ!
昔、シンが女だったらってスレがなかったっけ?
色々ひどい目に遭うの。
>>498 (オーブ慰霊碑をバックに)
テレレレテレレレデッデレテレテレレ〜、てれれーテテテテテーデン
(急に空が暗くなってフリーダム出現、シンを連れ去る)
なんて魔界村ちっくなOPな電波を受信したぜ
>>500 アレは姫に見えないというより女に見えん代物だしw
お前らの所為でファイナルファイトのオープニングでつるされてる市長の娘が
吊るされてるシーンをシンで脳内再生しちゃったじゃないか。
流石にセツコに市長の格好させる訳には行かんけど、2のくのいちならOKだよな!!
市長とか言うから、マクロス7を思い浮かべちゃったじゃないか
>>504 SFCのファイナルファイトタフに婦人警官が参戦してるからその格好を希望
たしかショートパンツの生足だったはずw
>>491 悲惨だなぁ…ここまで来ると大義名分とか関係なしに問答無用で復讐に走りそうな予感
正義がどうのとか、悪がどうのとか一切合切放り投げて憎いから殺す、みたいな
…そうなった復讐者はある意味とんでもなく強いぞー
で、続きマダー?(AAry
勝手に
>>491の続き
VSキラ
「アンタが、アンタ達がセツコを殺したんだ!」
「君の言いたい事もわかるけど……!」
「うるさい! 御託は良いから死ねぇーーーっ!!!」
「それでも、僕はっ……!」
VS凸
「やめろシン! そうやってお前はセツコの望んだお前の幸せまで殺すつもりか!?」
「気安くセツコの名前を呼ぶな!! アンタにセツコの何がわかるって言うんだ!!」
「この馬鹿野郎っ!!」
うん、この二人って絶対に自分の非を認めない気がする
>>508 キラはともかく凸はそこまで悟りきってないんじゃね?
無駄に悩む上に相手に滅茶苦茶強く言われると反論できないタイプだし
>>509 でも凸の思い込みの激しさはCEでも断トツだから
自分が正しいと思い込んだら絶対相手の言い分に聞く耳持たないんだよな
ここで復讐つながりでガン×ソード参戦
ラクス「あなたはつまり…馬鹿なんだ!」
カギ爪は露骨に「自分が正しい」って思い込んでるのが出ててよかったな。
シン「オレは!」
ヴァン「俺たちは!」
シン・ヴァン「「この生涯アイツへの愛を貫くと誓った!!
ぅぉおおおッ!!セツコォォオオオッ(エレナァァアアアッ)好きだァアッ愛している!」」
とか叫んだり
「「オレは童貞だッ!……!?」」
とか暴露大会が開催される訳ですね、解ります
いやー総帥さんはほんとGJだわ。
セツコがヒロインで、主人公は某工藤明彦とか某<凍らせ屋>の系統の男キャラという風に、
Zのシナリオを総帥さんに直してほしい位です。マジで。
菊地キャラの非美形キャラならスパロボにもなじむし、DQNキャラにはちょうど良い制裁機関になってくれると思う。
なにより、人間でなくなりそうなセツコ(まだ途中ですのでよくわかりませんがそうなりそうな気が)にも一生付き合ってくれると思います。
工藤明彦と南風ひとみのように。
総帥さんこのまま突っ走ればいいのです!!
もうこうなったらZの世界に魔界都市が出現して、煎餅屋や白い医師、某魔界刑事あるいは黒い医師、十六夜の名をもつ剣士が大暴れするのもいいではないですか。
秋月くんもいいな。
…俺はイヤだな
>>210 いまさらですが、いいじゃないですか嫁さん二人ゲットOKでしょう!!
>>514,515
まずは私のお話を読んで下さったこと、ほめて下さったこと、誠にありがとうございます。ただ申し訳ないのですがお二人のご意見を採用するのは多分にスレの内容を逸脱するものと、個人的に思います。
私は菊地先生の作品群は好きですし、もちろんスパロボも種も種運命も好きです。これまで行き過ぎたことが多々ありました分、私なりに限度というものを自分の中で設けています。
その範囲で考えるに、さすがにお二人のご期待には添えないかな、と思います。ごめんなさい。
>>517 いいなあ、美少女と美女の嫁さん二人かあ……よし、がんばってビアン総帥に重婚OKにしてもらえるようプロットを練り直すぞー!!
とりあえずは今書いてるシンセツみたいにイチャイチャよりは姉弟妹的なほのぼの系を目指すつもりです。
そういえば、逆襲のシン・アスカぽいものの話題出ていますがどうしよう、書きたくなってしまうw
ところで、ビアンが主人公だから、というシンプルな理由でビアンSEEDというタイトルなのですが、おそらく年末年始には運命編に突入するこのお話。
現在の予定では主人公:シン、準主人公:ビアン、マサキ、キラ、アスランになっております。なんかもうビアン主人公じゃなくなったなあ〜と思っていた事もあり、
運命編では改題しようかなと思っています。今のところディバインウォーズにならってディバインSEEDDESTINYが候補なのですが、なにかよいアイディアありますでしょか?
もしよろしければご意見を聞かせてください。それでは長々と失礼しました。
>>515 r、 r、
ヽヾ 三 |:l1
\>ヽ/ |` }
ヘ lノ `'ソ
/´ /
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/ ─ ─ \
/ (●) (●) \
| (__人__) |
\ ` ⌒´ ,/
r、 r、/ r、/ r、 それはない
ヽヾ 三 |:l1 ヽヾ 三 |:l1
\>ヽ/ |` } \>ヽ/ |` }
ヘ lノ `'ソ ヘ lノ `'ソ
/´ / /´ /
\. ィ \. ィ
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>>518 個人的にはシンかビアンかというよりも、DCという組織そのものが主人公だと思ってます
そういう意味では、総帥が挙げた改題案は妥当かなと思う次第
自演荒らし乙
>>518 「時代は今重婚を望んでいる」奇跡の村Aさんより
「重婚こそが正義!いい時代になったものだな」サザンクロス首領Sさん
「何を躊躇うことがある!時代は今悪魔(性的な意味で)が微笑む時代なんだ!」北斗神○伝承者Jさん
>>518 おねがいです、セツコが死んじゃう話だけはどうかやめてください
ここって書き手は読み手の言いなりにならないといけないのか?
マジレスすると、そんな訳は無い
書き手は読み手の意見で尤もだと思ったものや面白いなと思うものだけ取り入れてくれればいい
まずは何より自分が描きたいもの描かなきゃモチベが続かんだろう
私は基本的に描きたいものを描いていますし、
>>526さんの仰るとおりかなと思いますねえ。
というわけで投下するのも書きたいから書きました。
>>491さんの勝手な続き物。
シンとセツコと愉快な変態達その6――復讐鬼
雨が降っている。なだらかな丘の上に立つ焼け崩れた建物の後を前に立ち尽くした少年の頭に、肩に、ぱらぱらと雨粒が降り注いでいた。
かつては小さな教会が建ち、宗教への信仰が薄れた昨今でも新たな人生の門出を祝福する人達とされる人達の笑顔で充ち溢れ、不幸の二文字など欠片も存在していなかった場所。
しかし、今ここにかつての輝くような幸福の光景を見出す事は出来ない。半ばから崩れおち骨組みが露わになり、近くに落ちたビームの焼いた大地や爆発で生じたクレーターがぽっかりと穴を開けている。
その光景を前に、右手に花束を下げた少年が目前と立ち尽くしていた。裾のほつれが目立つ黒コートに、ぼさぼさに伸びきった髪。履き古したブーツはここに来るまでの間に纏わりついた埃で灰色に汚れていた。
その日一日を陰鬱な気持ちにさせられるような雨の中で、そんな世界の住人だとでも言うように、少年が雨に打たれ続けていた。
ぱらぱらと雨は降り続ける。まるで少年を責め続ける様に。少年はシン・アスカといった。
コズミック・イラ7×年。
元大西洋連邦准将エーデル・ベルナルが直属の部隊であったカイメラを率いて南北アメリカ大陸にて現オーブ政権およびラクス・クラインが最高評議会議長を務めるプラントに対し宣戦を布告。
同時に南米及びカリフォルニアからニューヨークに至るまでの北米を勢力下に置き、ユーラシアや東アジア共和国、赤道連合、大洋州連合内部の反オーブ、反プラント勢力がカイメラに同調の意を表し武力による決起を行う。
これに対しオーブ代表カガリ・ユラ・アスハはただちに直属のアスラン・ザラ准将と、ムウ・ラ・フラガ大将及びマリュー・ラミアス一佐が率いるアークエンジェル級を旗艦とした特務部隊によるテロ組織であるカイメラの壊滅を表明。
カイメラに同調する各国や勢力対しても断固としてテロに屈しない姿勢を表明する。
今やオーブとプラントによって統治され、旧地球連合構成国が名前のみを残して形骸した傀儡国家となった世界情勢を見れば、地球は全てオーブの領土と等しい事は暗黙の内に認められていた。
故に自国に対する『理不尽』な侵略行為に対し、オーブ国民の反感感情は高く世界各国へと防衛のために派遣されるオーブ軍は国民から、義憤に駆られた勇気あるものと湛えられてオーブを後にした。
もはや徹底的なまでに中立を貫いたかつてのオーブの姿勢を見つける子は出来なかった。
オーブのカイメラに対する決して怯まない断固たる姿勢は世論から喝さいを浴び、盟友たるプラントもまたオーブの姿勢を支持。クライン議長直属の最精鋭部隊ピースキーパーと部隊長であるキラ・ヤマトの派遣を決定する。
常に気高く、正しく、美しく、なによりも平和を求めるラクス・クラインが、武力を行使する事への葛藤と悲しみを押し殺して下したとされるこの決断に、全プラント住民は惜しみない賞賛の声と拍手を挙げたという。
黙ったまま雨に打たれるシンの頭上に横から傘が差し出され、冷たい雨の責めから一時だけシンを守る。シンの顔が横を向いた。
病的なまでの白さへと変わり果てた肌。刃で殺ぎ落とした様に扱けた頬。何よりもその瞳に、傘を差し出した男――ランド・トラビスは息を呑んだ。
これが、あのシン・アスカなのかと。かつての少年らしい生意気さと活力と、そして何より愛しいものといる事への喜びに満ちていた面影などどこに残っていない。
無理もない、あれだけ惚れ抜いていたセツコが、あんな目に遭っては。
アレから一年。たったの一年か、それともまだ一年か、あるいはもう一年というべきか。どの言葉を用いるにせよ目の前の少年にとっては無意味な日々だったろう。彼女が、セツコがいないという事は、シンにとってそう言う事だと、ランドは知っている。
なんと声をかければ良いのか分からず、結局口から出たのはありきたりな言葉だった。
「体、冷えちまうぜ」
「お久しぶりです。ランドさん。お変わりないようで、安心しましたよ」
「お、おう」
慇懃な口調よりも、親しげに言葉を吐きながら何の感情も宿っていないその声に、そしてそんな声を親しいものに向ける笑みさえ浮かべて吐いてみせるシンに、ランドは知らぬうちに手に汗を握っていた。
なんだ? なんであんな声を出せる。この、セツコがこの世からいなくなっちまった場所で、どうしてそんな声が出せるんだ? そんな、なんにもないがらんどうの声を。シン、お前、今までどうしてた? いや、なにになっちまったんだ。
喉まで出かかった言葉は、しかし喉にへばりついて決して形になろうとはしなかった。何か口にする事で目の前のシンの形をした別の存在の逆鱗に触れる事を恐れているのだと、ランドは気付いていない。
かつてのランドの馬鹿話に良く笑い、メールの冷やかしに顔を赤くした少年は、今や姿形のみならずその精神を別の異形へと変えていた。シンはこんな奴ではなかった。少なくとも、隣にいたらこいつに殺されるんじゃないかと、訳もなく怖くなるような奴では。
再び、お前に何があったと問いたい衝動に駆られ、死を恐れる生存本能が厳重にその質問を封じた。
ピースキーパー隊ジブラルタル基地所属のザフトレッド、ヘンリー・マーキンスが自宅で何者かに惨殺された死体となって発見される。ヘンリーは白兵戦に置いてアカデミー時代から並ぶものと謳われ、戦えばあのアスラン・ザラとも互角と言われていた。
ヘンリーは自宅にて、深夜訪れてきた何者かに襲撃されたものと思われる。死体発見時、ヘンリーは得意のナイフで犯人と交戦するも力及ばず一方的に殺害された者と思われる。
死体発見時、赤いペンキをぶちまけられた様な一室には、実に百を超すパーツへと解体されたヘンリーの亡骸がちら散らばっており、現場を目撃した者の多くはその場で嘔吐するか、長く悪夢に魘される事になる。
「その花束、彼女へか」
なぜか、セツコと呼んではいけない気がした。そう呼んでいいのは目の前の少年だけだろう。もう二度とセツコが答える事はないが故に。
ランドの質問に応じる様にシンは右手に持っていた花束を胸元まで持ち上げた。今の時代品種改良の所為かによってあらゆる四季に咲かぬ花はない。
竜胆やカスミ草、薔薇、百合、ガーベラをはじめ雨に攫われていなければランドの花を強く刺激するほど濃厚な香りが立ち込めているほど、無数の花が束ねられていた。
シンの口元が苦笑の形に歪んだ。変わった、ではない。歪んだのだ。ランドの流していた冷や汗が止まった。目の前の人の形をした人ではない何かによって流す事を強制された冷や汗が、同じ異形によって強制的に止められた。
「ああ、これですか。あの人の好きな花束を持ってこようと思ったんですけど、何の花が好きか知らなくって。はは、おかしな話ですよね。あの人の事は何でも知っているつもりだったのに、好きな花の一つも知らないなんで」
同じくピースキーパー隊所属のヒラリー・ブルックスが自宅にて首を落とされた状態で発見される。室内は一切荒らされた様子はなく、ブルックスは犯人の侵入に気付く事無く殺害されたものと思われる。
ブルックスはかつてザフトの暗殺部隊にも在籍し、両手の指に余る要人暗殺とその技能を生かした暗殺対策のスペシャリストであり、サイレント・キリング――無音の達人であったという。
胴体が横たわっているベッドのサイドテーブルに載せられたブルックスの生首は凝固し始めた鮮血でテーブルを真っ赤に染めながらも、熟睡しているかのように安らかなものだったという。
最後の瞬間が訪れても尚、ブルックスは自分に振り下ろされ死神の鎌に気付く事はなかったのだ。
やめろやめろやめろ。もう喋るな、もう笑うな。シンの形をしていてもお前はもうシンじゃない。あの日、あの時、この場所でお前も死んでいたのか、シン。彼女と一緒に死んじまったのか。
今のお前は抜け殻になったシン・アスカの体をたった一つの想いが動かす人形だ。人間じゃない。生物でさえない。ただ一つの目的の為だけになんでもする機械になっちまった。
ああ、ちくしょう、でもお前ならそうなっちまうだろう。お前と彼女ならそうなるしかないだろう。お前と彼女と、どちらかがあんな形で互いを失ってしまったらそうなるしかないくらいに、お前達は一緒だったんだ。
ああ、シン、お前はもう……。
「シン、あれは、お前の頼み通り用意した。……おれには、もうそれしかできないんだな」
「はい」
「止められねえのか? 止まらないのか?」
「はい。おれもおれが死ねばいいと何万回も思いましたけど、これだけは、何が何でもやり遂げます。邪魔する奴は誰であろうとも許さない」
「……そうかい。シン、お前」
「ありがとうございました。ランドさん。恩は一生忘れません。ビーターサービスで過ごした日々はおれにとって何物にも代えがたい宝でした」
それが、ランドとシンの交わした最後の言葉だった。あるいはそれが、残っていたシンの人間性が最後に残した言葉であったかもしれない。
あの日この場所で、シン・アスカは半身を失った。もはや彼の瞳は未来を見ず、今を見ず、一年前のあの日で何もかもを凍りつかせたままだ。
花束を教会の入り口だった男にそっと置き、シンはランドに頼んでいた品が乗っているトレーラーへと向かって歩き出した。雨雲を通して降り注ぐ陽光が薄く地に落とした影には絶望のみが充ち溢れていた。
花の都パリのシャンゼリゼ通りにある高級マンションの一室にて潜伏中の国際指名手配犯であるテロリストグループ全員が四肢を切断され、腹を搔っ捌かれて臓腑を引きずり出された状態で発見された。
昨夜行われたとされる犯行は、テログループの全七名が手にしたマシンガンや拳銃を撃つ間もなく嵐の如く襲いかかり、全員を平等に殺害したものとみられる。
また死体の状況から七人全員が四肢の機能を奪われてから一人一人ゆっくりと時間をかけて、体内の臓物を生きたまま引きずり出されたものと思われる。
臓腑を引きずり出されて尚死ねなかった者が犯人から逃げる様に、両手両足を失い腹から臓腑を零したまま這いずり回った跡が高価なペルシャ絨毯に血の跡を幾筋も描いていた。
目の前で行われる地獄の光景に、七人の内二名はみずから舌を噛んで自殺を図ったようだが、犯人はそれを許さず、彼らが死にきる前に治療を施し薬物で一時的に延命させて後同様の目にあわせたものとみられる。
七人全員の浮かべた死相に、最初の発見者であるボーイは精神に異常をきたし、半年にわたる精神病院での生活を余儀なくされた。
これらの被害者達に共通するものとして、一年前のとある郊外にて行われた反体制組織とプラントから派遣されたピースキーパー隊の戦いが挙げられた。殺害されたのはいずれもその時の戦いの直接参加した者達であった。
シンの瞳に怒りがともる事はなく、その口元が喜びの笑みを浮かべる事はなく、その耳から聞こえる音はノイズでさえなく、その心が波打つ感情は二つだけに堕ち果てて、シンは歩いた。
どこまでも絶望の暗闇だけに満ちた足元さえ見えない冥府を行く罪人の如く。
去りゆくシンの背を見つめ、ランドは手に持っていた傘を思い切り地面に叩きつけた。
「何がザ・ヒートだ! 何がザ・クラッシャーだ!! おれには、もうあいつの凍っちまった心を溶かしてやる事も、あいつの絶望をぶっ壊す事も出来やしねえ!! ちくしょう、ちくしょーーーーー!!!!」
シンは最後までセツコの名を呼ばなかった。傍らにいないあの人の名前を呼んだ所で、心の中の虚無が領地を広げるだけだと知っていたからだ。
いや、違う。もうすでに虚無で一杯になり、心に残った二つの感情を残して何もかもが無くなってしまった事を理解しているからだろう。
当初圧倒的な戦力とこれまでの実績から瞬く間にカイメラを、平和と正義の名の下に殲滅し尽すと思われたピースキーパー及びオーブ軍であったが、カイメラのジエー・ベイベル博士の開発したMSとは異なる機動兵器の前に思わぬ苦戦を強いられる事になる。
予想に反するカイメラの精強ぶりにオーブ・ピースキーパー連合が手間取る間にも反プラント・反オーブ勢力は力を増し、反クライン派狩りを免れた旧ザラ派、旧デュランダル派、地球諸国の勢力を取り込み、エーデル・ベルナルの元でカイメラは強大化してゆく。
そしてある時期を境にカイメラのレーベン率いる一番隊、シュラン率いる二番隊、ツィーネ率いる三番隊とは別に、たった一機のみでありながら番隊クラスの戦力を持つとして四番隊として認められたモノがいた。
ジエー博士の考案したVWFS(ブイ・ウィング・フライト・システム)にヴォワチュール・リュミエールを応用した光の翼を組み込み、破格の追従性に規格外の運動性能と機動性を獲得。
全領域対応汎用兵装であるガナリー・カーバーにアロンダイト、高エネルギー長射程砲、フラッシュエッジ2を組み込み、あらゆるレンジに置いて最強足り得る可能性を手にした、紺碧色のMS。
かつてロゴスの支配下にあった大西洋連邦において実験部隊がテストしていたというバルゴラというMS。
どこからか入手したそれに、かつて月面で行われたデュランダル派と、ラクス派、オーブ、地球連合残党による決戦で大破したMSデスティニーのパーツを組み込んだキメラMSは、圧倒的な戦闘能力で次々とピースキーパー及びオーブの部隊を壊滅させた。
(貴女は、きっと今のおれを見たら悲しむんだろうな。止めてとも言うだろう。でも、貴女は死んでしまった。だから、おれを止める声も、悲しむ声も聞こえない。何だっていい。おれを怒る声でも、憎む声でもいい。貴女の声が聞きたい。
笑顔じゃなくたっていい。なんだっていい。貴女を感じたい。貴女が生きているという事実を感じたい。でももう、それはできないんだよ。
思い出の中にしかいなくなってしまった貴女を、おれの隣にいない貴女を、おれが隣にいてあげられなくなってしまった貴女の名前を呼ぶ事はもうないだろう。
もしあなたの名前をもう一度呼ぶ事が出来るのだとしたら、それはおれが貴女の所に行って、貴女の存在を感じる事が出来た時だけだ。だからおれは、早く死にたい。少なくともここよりは貴女の居る所に近いだろうから。
ああ、一刻も早く貴女の隣に行きたい。もし待っていてくれるのならもう少しだけ待っていてくれるだろうか。おれが何の意味もなくなってしまった生にしがみついているたった一つの理由を終わらせるまで)
バルゴラ・デスティニーのコックピットの中、シンは閉じていた瞼を開いた。敵機の接近をレーダーが告げている。味方はいない。カイメラに力を貸す時に出した条件の一つだった。
自分以外のすべてが斃すべき敵。そんな状況の方が気が楽だ。いちいち殺す相手と殺してはいけない相手を区別する事を、シンは嫌った。何もかも目の前にある存在全てが復讐の相手だったらどんなに楽な事か。
黒々と胸の中で渦を巻く憎悪の感情に身を委ねている間は、魂も肉体も犯す喪失感と倦怠感を忘れていられるのに。
シンは、どこか気だるげにバルゴラ・デスティニーの操縦桿を握りしめた。
戦いは一方的だった。グフ・イグナイテッドやドム・トルーパーで構成された四十機余りのMS部隊は、ものの五分で壊滅し、物言わぬ残骸と朽ち果てて黄塵に打たれている。
その残骸の真ん中で、ぽつんと立ちつくしていたバルゴラ・デスティニーのレーダーが新たな敵を確認した。ソレが何かを確認したシンの瞳が、あの一年前から始めて大きく揺らいだ。
シンの唇が歪む、歪む、歪む。悪魔さえも恐れ戦く形に歪み上がる。それは、それは、人の心を捨て去った人ならぬ者の浮かべる歓喜の相。ともすれば心持たぬ筈の機械でさえ恐怖を感じるではと、錯覚してしまうほどの異形の笑み。
拡大されるモニターの画面には、かつてデュランダル派との戦いを終わらせた英雄アスラン・ザラの駆る無限正義の姿が映し出されていた。その途端、シンが壊れたレコーダーの様に喋り始める。
「見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた………………ミツケタ」
まっすぐこちらへ向かってくる敵機に気づき、アスランは連れてきた部下達を散開させ、迎え撃つ。長方形の箱型の武器から実弾を連発してきた敵の攻撃をかわしながら得意の近接戦闘へと持ち込む。
アスランの意図を察したのか、誘うようにバルゴラ・デスティニーも持っていたガナリ・ーカーバーをくるりと回転させ、収納されていたアロンダイトを展開し、インフィニットジャスティスと切り結ぶ。
何度も交錯を交わし、アスランは抱いていた疑念が確信へ変わるのを感じた。
「お前、シンだな!? どうしてお前こんな事をしている」
「………………るさいな」
「あの時、おれの役目は終わったって笑顔でザフトを去っていたのは嘘だったのか!? おれやキラなら大丈夫だとそう言っていてお前が、どうしてこんな事をする!? おれ達が不甲斐ないからと再び剣を取ったのなら別のやり方が……」
「うるさいなあ」
「!?」
「少し黙ってくださいよ」
「シン、お前……」
モニターに映し出されたシンの顔を見て、アスランは息を呑んだ。誰だ、コイツは!? いや、“何”なんだコレは!?
記憶の中にあるのと変わらぬ赤い瞳がしかし記憶の中の元一致せぬ違和感が、不快感を伴ってアスランの脳髄を駆け上がった。
色ばかりは変わらぬ瞳の中にはあるべき人の感情が全くなかった。黒々と、星の光を取り除いた宇宙の様な虚無が延々と広がり、その中に小さな蝋燭の様な火だけが灯っている。
だが、その火は、それの名前は憎悪と絶望という名だった。
「ねえ、アスラン。あんたってさ、今まで殺した人たちの事覚えてます?」
「なにを!?」
「ああ、別に覚えてない事を責めているわけじゃないんですよ。おれだって殺した人の事覚えてないし。でもねえ、一年前にあんた達が教えてくれたんですよ。殺された側の人間は決して忘れないって事をね」
「お前、おれ達がお前の大切な人を殺したというのか!?」
「ええまあ、そう言うわけです。
もうね、あの人は笑わないんですよ怒らないんですよ悲しまないんですよ喜ばないんですよ憎まないんですよ悲しまないんですよ喋らないんですよ話を聞いてくれないんですよ話しかけてくれないんですよ触れる事が出来ないんですよ触れてくれないんですよ。
抱きしめる事が出来ないんですよキスする事も出来ないんですよあの人が感じられないんですよ。ええ、なにしろ死んじゃいましたから」
「シン、お前……は……」
「だからさぁ、おれが死んであの人の所に行く為にはさあ、あんたらを全員皆殺しにしなくちゃいけないんだよ。おれからあの人を奪ったお前らを、一人残らず皆殺しにしてからじゃないとおれ死ねないんですよ。だから、さっさと」
切り結んだビームサーベルを跳ね上げられ、インフィニットジャスティスのコックピット目掛けて突き出される、バルゴラ・デスティニーの左手。そこに宿る輝きに、アスランは目を奪われた。
「死ねよ」
机を前にしてう〜むと唸っているアサキムの背中に、三本ラインの入ったジャージを着たツィーネが声をかけた。
「どうしたのアサキム?」
「いや、今度出す本を書いていたんだが、流石にこれはどうかと悩んでいてね」
「どれどれ。…………これは、流石にシンもセツコも怒るんじゃない? セツコ死亡が前提だし。場合によってはランドも怒るんじゃないの?」
「君もそう思うかい? 仕方ない、ここはベターにシンセツもので行くとしよう」
そういってアサキムはそれまで書いていた『復讐のシン○アスカ』という伏せ字の意味が全くない原稿を、屑かごに丸めて捨てた。
おしまい。
というわけでアサキムのネタでした、というオチです。
>>528さん、セツコは死んでないですから安心して下さいね。本編でもそうする予定は一切ございませんので。
ではおやすみなさいzzz。
>>531 面白かったッス
復讐鬼なシンが格好良かったのに、そのオチがwww
>>531 そこでアサキムさんがかきはじめた つぎのおはなし
それが あまたのせかいから はがねのゆうしゃたちが いちどうにかいする
あいとゆうきのおとぎばなし スーパーロボットたいせんゼット はじまりはじまり!
つまり…OGシリーズがギリアムのフラスコの中で起きている物語とするならば
Zはアサキムの冬の新刊の中で起こった物語だったんだよ!
こ れ は ひ ど い
でもGJしちゃう(ビクッビクッ
冬の新刊一冊であれだけ長いの書けるアサキムの才能に嫉妬
>>531 GJ!。
あああよかったあぁぁ。
こうしたシリアスとギャグパートのギャップがたまらんとです。
しかし何でツィーネさんにはジャージ属性が付くんだろうなwwwwwwwww
ツィーネ「あ、母さん?うん、元気してるよー。
え゛、んなも困るー。見合いだなんてそんな。
したってまだ若い…好きな人?う、うん。まぁ。
連れて来いって、まだ。あ、う、うん。とにかく見合いなんて
やだからな。あ、うん。ああ、うんほんね、じゃ」
みたいなイメージがあるからじゃないか?
ツィーネにはアクアさんと同類疑惑が出てるな
あのコスは本人の意思ではなく無理矢理着せられてると
相方がツグミ様なら絶対に無理矢理なんだがw
オチがギャグであってくれとこんなに思ったの初めてだったよ〜
じ,GJ
総帥さんのうまいのは菊地キャラは登場自体はチョイ役っぽいけどシンは十六夜に鍛えられたことでリュウセイ以上の念能力者(十六夜とリュウセイでは十六夜の念の次元は念動力をはるか超越していると思う)になりそうな気がするし
能力もすでに原作の後半に達している例を見ても実は大きな影響をあたえているのがよいです。
他並列世界の因子が入った事も在って色々変貌しそうだしな
改造人間になったりとか魔導に足を踏み入れたりとか金的英雄とか、
平行世界のシンはキラ以上にdでもだから…
誰もが知っていた。誰もが理解していた。誰もが予期していた。誰もが望んでいた。
この戦いの終りが訪れようとしているのを。この戦いに終止符が打たれようとしているのを。この戦いの幕が降りて、勝者と敗者の線引きが行われるのを。
これから数多生まれるであろう死者達の案内をすべく、冥府からの使い達が今か今かと自分達の役割を果たす時を待っている事を。
死ぬかもしれぬ。生きては帰えっては、来られないかもしれない。もう二度と故郷の土を踏む事は出来ない。家族と抱擁を交わしまた生きて会えた事に喜ぶ事は出来ないかもしれない。
分かっていた。目に映ってもおかしくないほど濃厚に、かぎ取る事が出来てもおかしくはないほど充ち溢れている。空中を手で掴めばその掌の中に形を持って残っていそうなほどに、“死”がそこらじゅうを満たしていた。
自分の背後や傍らで、死という現実が親しげに囁きかけ、労わる様に肩に手を回し、今行くから楽しみにしていろとほくそ笑んでいるのを。
自然のままに生まれたものと人の英知によって母の胎の中で変えられた自然ならざるものと、そしてこの世界で生を受けてさえいない、異世界からの死せる来訪者達が戦端を開き、遼原の火の如く広げた戦争の終わり――終わる為の戦い、まさしく決戦が始まる。
ボアズを陥落させ、月からの増援と補給と合流し、プラントを殲滅しつくしてもあまりあるだけの物量を武器に侵攻する地球連合軍。
残る最後の砦ヤキン・ドゥーエに、徴兵年齢を下げて動員した学徒兵まで一兵残らずかき集め、用意し得る最大戦力で地球連合艦隊を待ち受けるプラント。
自ら痛みを与える役を引き受け、プラント、ひいてはナチュラルとコーディネイターの未来の為に動いたラクス・クラインと、現実と未来を見据え始めたカガリと共に旧オーブを脱出したアークエンジェル及びオーブ艦隊連合のノバラノソノ軍。
アメノミハシラを出立したマイヤー宇宙軍総司令をはじめ、サイレント・ウルブズ、クライ・ウルブズや最精鋭部隊を集結させて地球連合を、そしてザフトを討つべく牙を研ぎ済ますディバイン・クルセイダーズ。
四者四様に、自分達の未来の全てを賭けたと言っても過言ではない最終幕。そして、四者の戦いの結末を持って動かんとする、やはり、異世界からの“招かれた”死者達。
幾重にも要素が折り重なり紡がれてきたこの荒唐無稽、支離滅裂な物語の一幕が、降ろされるべき時を迎えている。
どうか、その幕が降りきるその時まで、しばしお待ちくださいますよう、これまでこの物語を見守ってくださった皆様に、伏してお願い申し上げる。
長きに渡り書き散らされたこのお話も、ようやく終わるのだから。ビアン・ゾルダーク、シン・アスカ、キラ・ヤマト、三者に訪れる運命の結末をどうか見守っていただきたい。
――では、この悲劇にして喜劇、娯楽劇の最終章、いざ開幕とあいなります。
ビアンSEED 第七十話 オペレーションSRW
天井から降り注ぐ白色の光の下で、鮮血の中に浸して染めたように赤いコートの裾が、ふわりと翻った。壮年の男の逞しい腕が袖を通過し、重力に従って垂れ落ちたコートは一部の隙もなく着こなされ、戦装束の如く威風堂々としていた。
病院着以外の衣服を久方ぶりに身につけたその男の口元が、わずかに吊り上がる。これから己が赴く場所とそこで成すべき事と責務を、心底から理解し、立ち向かう事を改めて認識したからだ。
では、なぜそれが笑みにつながるか? それは男にも分からない。あるいは新たな命の賭け場を迎えた事への名状しがたい昂りがそうさせたのか。かつて自分の死さえも思惑の内に入れた賭けを行った男であればこその心理かもしれない。
少なくともそこに死への恐怖も、自分が巻き起こした戦乱とそれによって生み出された悲劇への後悔はなかった。悲しみはある。他に選びうる道が無かったかと、不意に思う時もある。
だが、それでもなお選ばねばならぬ道と、男はかつての世界で、そしてこの世界で決断し歩む事を選んだ。
ならば、後はただその道を歩き続けるだけだ。いつか辿り着く道の終わりまで。鋼の魂で、止む事を知らぬ風の様にいつまでも、どこまでも。
逆立った青味を帯びた黒髪に、研ぎ澄まされた刃の鋭さを湛えた双眸。厳しく引き締められた口元を覆う口髭。四十代半ば頃の体に漲る迫力と、それとは正反対に、風の無い水面の様に静かな理性をその瞳に湛えた男は、ビアン・ゾルダークという。
短い期間ではあったが生活の場となっていた病室に別れを告げる為、そして最大の戦場となるべき戦地へ、聖十字の旗の下に集った兵士達を赴かせる為、ビアンは傷を負った身をおして、死に装束であり戦装束でもあるDC総帥の地位を示すコートを再び纏っていた。
それを見守っていた、ビアンよりも背の高い女が口を開いた。滝の如く流れる艶やかな黒髪。今は何も浮かべぬ唇は血を吸って育った薔薇の如く凄烈な赤。今も傷の癒えぬビアンを見つめる瞳は氷の冷たさの中に、小さな蝋燭の明かりの様な情を揺らめかせていた。
ビアンの身を案ずる言葉、戦地へ赴かんとするこの男を留めようとする言葉はいくらでも思い浮かんだ。それを口にする事は容易い。ただそれを言っても無駄な事はとっくの昔に知り尽くしている。
だから、傍から見れば傷を負っているなどとは微塵も信じられぬビアンに対し、女――DC副総帥ロンド・ミナ・サハクは、万感の想いを押し殺して短く問うただけであった。
押し殺してもわずかに“女”を感じさせる声は、朱の唇から零れ落ちる前にビアンの耳に届いた。はたしてビアンがミナの声に含まれたものをどこまで聞きとったものか、ミナに答えるビアンの返事もまた短かった。
「行くか?」
「うむ」
だがそこには、言葉では語れぬ深い所で理解しあった者の間でだけ存在する絆が、確かにある事を感じさせる響きだった。
多くの言葉を交わすわけではない。抱擁を交わし互いの存在を感じ合うわけでもない。ただ、二人が肩を並べている光景がごく当たり前に感じられる。そんな二人だった。
病室を出て、SP代わりでもある三人のソキウス達と親衛隊ラストバタリオンに所属する兵士達を引き連れ、この戦争を助長させた原因の一人たるビアンは、地球連合との決戦の時を待つDCの戦士達の元へと歩を向けた。
一方でプラントの自衛組織である民兵による軍隊“ザフト”は――
最後に残されたプラント本国防衛の要衝であるヤキン・ドゥーエには、本国防衛のために残されていた部隊や、ボアズから逃げ落ちた部隊、また各宇宙ステーションや基地に配備されていた部隊が可能な限り集結している。
ひしめき合う様にして軍港に並ぶ軍艦や、MSの光景は壮観の一言に尽きる。だが、今ここに居並ぶザフト諸兵の誰一人とでその光景に感慨を覚える事は出来なかっただろう。
まさしくこの場にいる全ての兵の双肩に、誰一人例外なく自分達の故郷であるプラントの未来と運命が、物理的な重量さえ備えているような錯覚でのしかかっているのだから。
ナスカ級、ローラシア級に混じって、決戦用MSである核動力機用の特殊な整備施設などを備えたエターナル級はまだしも、鹵獲した地球連合の艦艇の姿さえあるのは、まさしくザフトが持てる全戦力を動員している証拠に他ならない。
ヤキン・ドゥーエの管制室にはプラント最高評議会議長と国防委員長を兼任しているパトリック・ザラや、エザリア・ジュール、シーゲル・クラインといったプラントを代表する顔ぶれもあった。
軍事の専門家ではない故に口出しは無用と弁えたシーゲルの前で、パトリックは眼下で休む事無く指示を飛ばす管制官達を見下ろし、沈黙の只中にあった。
周囲では武官である黒服や隊長格である白服達も忙しげに動き回り、迫りくる地球連合の脅威に向けて立ち向かわんと走り回っていた。
シーゲルは、石像と化したかのようなパトリックの横顔を見ながら、プラントの前組織の創成期からの付き合いで、状況が極めて厳しいものであるとパトリックが判断している事を読み取っていた。
今となっては愛息ラクスの不可解な行動も、結果的にプラントにとっての利益になっている事から、多少なりとも心労は和らいだが、ボアズ陥落の知らせは重い鈍痛をシーゲルに与えていた。
ましてや自ら辣腕を振るい、その状況を打破しなければならぬ責務を負う地位にあるパトリックの心中は、穏やかなものであろうはずが無い。せめて無力な自分でも友の傍らにいる事は出来ると、シーゲルは自身もまた黙してその場に居続けた。
黒服の一人が声を控える様にしてパトリックに声を掛けた。じろりと、静かな眼差しが大山のような迫力を伴って動く。パトリックの物理的な圧迫を覚えさせる無言の問いに背筋をただし、黒服が答える。
「マイヤー・V・ブランシュタインDC宇宙軍総司令より、DC艦隊の布陣について問い合わせが来ております。現在ヤキン・ドゥーエのSフィールドにてホーキンス隊、サトー隊と共に防衛を任せる手筈となっておりますが」
「構わん。そのままの配置につかせろ。それと事前に通達した宙域に部隊は“展開させていない”な?」
「はっ。しかし、よろしいので? 前線を突破されればプラントまで無防備となりますが……」
「構わん。そこには特殊部隊が防衛の任についている。通常の指揮系統には属しておらんが、私の特命を受けた部隊だ」
「は」
パトリックの有無を言わさぬ強い口調に、黒服の男性は納得してはいないと顔に書きつつも、了承の返事をするのと同時に踵を返した。そのやり取りを聞いていたシーゲルが、小さくパトリックに聞いた。
「ラクス達の事か?」
パトリックの言った特殊部隊の事である。以前ラクス側から接触があり、応じたと告げてきたエルザムを介してラクス陣営にザフトの布陣や迎撃プランを伝えてある。
常識で考えればあり得ぬ選択ではあったが、エルザムという人間の人柄とラクスのこれまでのプラントに利する行為が、パトリックにその選択を選ばせた。
それにもし最悪の形でその行為が裏目に出たとしても、ラクスらに任せようとしている宙域はアレの射線上にある。いざとなればラクスも地球連合軍も諸共に吹き飛ばしてしまえばよいのだ。
娘の名をあえて冷淡に呟いたシーゲルにパトリックははっきりと答えた。血の繋がりがあろうとも、それを上回る責務を負っている事を知り尽くした二人である。私情を交えてはならぬ時の分別など、とっくの昔に身についていた。
「そうだ。彼女らにはそこで働いてもらう」
「信用しているのか?」
「公平に評価した結果だ。少なくともプラントが滅びるのを黙って受け入れるわけではない事は確かだろう。もっとも、恩を売ってプラントの英雄になるつもりだと揶揄する声も前から多いがな」
「否定の材料が無いな。私心なくプラントを守ってくれる事を祈るばかりだ。情けない親だ。私は」
「兵の前で弱気な姿を見せるな。私達は指導者なのだ。……それに子の事では私もお前を責められん」
「そうだな。後はDCか……こちらも信用はしていないのか」
「ああ。アレは最後まで油断していい相手ではない。ビアンが死に、聖十字の旗が燃え尽きるまで、背は見せても油断はしてはならん。そういう相手だ」
「前門の虎、後門の狼か。少なくとも狼がまだ牙を剥いていないだけ救いか」
「いずれ剥くと分かっている牙だがな。どちらにせよ、あんなモノを撃つ様な状況にならねば良いがな」
「……そうだな」
艦船やMSの製造ラインや資材、資金の多くを割いてまで建造したプラント最大にして切り札が、決して撃ってはならぬ代物だと知るが故に、パトリックとシーゲルは重々しく呟いていた。
ヤキン・ドゥーエ防衛の為の布陣を築くためにDCの艦隊もまた慌ただしさに賑わっていた。
ユーラシア連邦から奪取したアルテミス城塞から赴いてきたロンド・ギナ・サハク率いるラストバタリオン本隊とマイヤーのDC宇宙軍の再編成は済み、マイヤーとその副官であるリリー・ユンカースの辣腕のもと、最善最高の部隊が編成されている。
DC最強の剣と矛であるウルブズは、ユーリア・ハインケル率いるトロイエ隊と共に最前線にて地球連合の大部隊と相対する事が決定し、移動要塞と呼んで差し支えのないスペースノア級を中核とした艦隊の構成となる。
クライ・ウルブズに所属する、旧地球連合の作り上げた次世代強化人間“エクステンデッド”の少年少女達は、今はウルブズ司令を兼任するエペソ・ジュデッカ・ゴッツォの許可を得て、一時母艦タマハガネを離れてシン・アスカの病室を訪ねていた。
ビアンとは事前に面会を済ませてあり、戦場でまた会う約束もしていた。今もベッドに寝かされ、呼吸器や点滴のチューブがつながったままのシンを前に、三人は重く口を閉ざしていたが、やがて薄緑の髪を逆立てた落ち着いた印象の少年が口を開いた。
この三人のまとめ役であるスティング・オークレーだ。
「シン、ステラとアウルの面倒はおれに任せな。お前が目覚めた時に誰かがいないなんて事には絶対にしない」
「おれらの活躍を後で聞いて悔しがんなよ。ずって寝てサボっていたお前が悪いんだからさ。撃墜スコアでシンを追い抜いてやるよ。……だからさ、安心して寝ていな」
ともすれば女子としても通用しそうな中性的な顔立ちをした水色の髪の少年が、スティングに続けてシンに対して、軽い口調で声をかける。だが、そこにはシンの身を案じる思いやりが確かにあった。
口には出さぬが、様々な実験を受けていたラボを出て以来、初めての友達と呼べる存在のシンの事を、心から案じている。スティングもアウルも。
返事はなく、瞼を閉ざしたまま死んだように眠り続けているシンの顔をしばらく見つめてから、スティングがアウルの肩を叩いて退室を促した。アウルも素直にそれに応じ、最後の一人である少女を残したまま二人はシンの病室を出た。
一人残された、いや残してもらえた少女は、身を屈めて眠り続けるシンの顔をまっすぐに見下ろした。繊細に染めた絹糸の様な金の髪の毛先が、かすかにシンの白蝋の色に変わり果てた頬に触れる。
まだ十代半ばほどにしては十分すぎるほどに育った体に忌むべき人の業を負わされ、かつては兵器の一種とされていた少女は、ステラ・ルーシェといった。星を意味する名前を持った少女は、どこか妖精めいた幼い顔に決意の色を浮かべていた。
「今度こそ、マユとの約束守るから。ステラがシンの事を守るから。だから、ここで待っていてね? シン、ステラは絶対、絶対に約束守る。シンを守る。シン、そしたらいつか目を覚ましてくれるよね? それまでステラが守る」
シンは答えない。病室にうつろに響く自分の声に、不意にステラは胸に強い痛みを覚えて涙ぐんだが、それをごしごしと手の甲で擦った。
シンが目の前にいるのに喋ってくれない。答えてくれない。触れ合う事が出来ない。たったそれだけの事が、ステラの心をこんなにも悲しみと苦しさと淋しさでいっぱいにしてしまう。
アウルもスティングも、クライ・ウルブズのみんなが一緒にいてくれても、声をかけてくれても、優しくしてくれても、そこにシンがいない。たったそれだけでステラの世界は色彩を失い、音は雑音の如く濁る。
ステラは、胸の中に大きく領地を広げた寂しさを紛らわすように、そっとシンの唇に自分の唇を重ね合わせた。冷たかった。まるで氷の様。それが余計に寂しさを強くしたが、ステラは涙を零さなかった。
いつかこの唇があの、心を暖かくしてくれるぬくもりを取り戻す時の為に今は戦う。ステラは心の幼い少女ではあったが、同時に戦士でもあった。そしていまは、戦士であるべき時だと、知っていた。
「ステラ、頑張るね。……シン、行ってきます」
ステラは、シンが見ていないと、聞いていないと知りつつも、精一杯の笑顔を浮かべて病室を後にした。
もしステラがあと一分だけ、その場に留まっていたならばそれに気付けただろう。彫刻のように固く閉ざされていた筈のシンの瞼がかすかに震え、血の気を失った唇が小さく言葉を紡ぐのを。
「…………おれの、いるべき………………場所は……」
DC宇宙軍のほぼすべての戦力を投じられた艦隊の先方を務める大役を任されたスペースノア級二番艦アカハガネの船内では、テューディと彼女からレクチャーを受けた整備兵にしか扱えない魔装機の全面的なチェックが行われていた。
使用されているパーツの多くはDCでのみ製造されている特殊な品であり、まだ可能な限り現行の科学技術による産物ではあったが、一部に魔術的な触媒を必要とする事もあり、整備性は良好とはいかないのが、魔装機の欠点の一つだった。
魔装機と合わせ、搭載された全ての機動兵器や艦自体の状態も入念なチェックが行われているのは、言うまでもない。これが最後にならぬようにと、手を動かすメカニック達の姿は本当のプロフェッショナルだけが纏う迫力に満ちている。
ボアズを出港した地球連合艦隊との会敵予想時刻まで多少時間があり、今はまだ間借りしているザフトの浮きドックに留まっている。反対側にはスペースノア級一番艦タマハガネの姿もあった。
ともにDCの超技術の粋を集めて建造された戦艦であり、その内に同じく超技術の塊である機動兵器群を搭載した最強戦力だ。
昨年六月から今大戦に参戦したDCを初期から支え続けたタマハガネと、中盤から南米支援を主に活動していたアカハガネの勇名は、自軍だけでなく連合とザフトにも知れ渡っている。
最大最後となるであろう戦場では、DCのフラグシップであるこの二隻に敵の砲火が集中するのは自明の理であり、それを理解している為に艦とMS、特機を整備する整備兵達も常以上に気迫に満ちていた。今この時が彼らにとって戦場なのだから。
そしてメンテナンスを受けていたのは機動兵器や戦艦だけではなかった。アカハガネに設けられたただ一人の為の医療室で、アカハガネ艦長兼サイレント・ウルブズ司令フェイルロード=グラン=ビルセイアは、はだけた胸元を正していた。
それまで横になっていたメンテナンスベッドから上半身を起こし、モニターに目を向けている女医の背に声をかけた。オノゴロ島を出港してから、今日に至るまでフェイルの体をメンテしていたのはこの女医であった。
いつも何処かけだるげで厭世的な女医は、フェイルに背を向けたまま何やらキーボードをタイピングしながらしゃべり始めた。どこか甘さを帯びた灰色のソプラノだ。音色を色づける感情の響きに乏しい。
アップにまとめた髪の艶やかさと白衣の襟からのぞくうなじの曲線や、白衣を押し上げる体のラインは生唾を否応なく飲み込ませる妖艶さをにじませていたが、フェイルはそれを意に介さなかった。
「お疲れ。今日も調子は上々ね。貴方の体に組み込んだ有機パーツと生体部分の適合も問題なし。魔力の行使については門外漢だから口にしないけど、これならデュラクシールに乗って暴れ回っても平気よ?」
こちらの世界にきたばかりの頃のフェイルの肉体は、生前がそうであったように過酷な修行と投薬や重傷を負った反動から余命幾許もない状態だった。
それがここまで一見健全な状態の様に振る舞えているのは、その肉体の大部分を人間の肉体を極限まで再現した有機的な人造品に置き換えているからだ。
血管や内臓諸器官から毛穴の数まで徹底的に生身のモノを再現したそれは、目に見えぬ魔力の行使も可能とし、フェイルに人間以上超人未満の身体能力を与えていた。
ただし、昨今のサイボーグ技術を見渡しても前例のない試み故に、今のフェイルの肉体の開発者である女医が、定期的に生体部品と生身の部分との適合を調べねばならない。
アカハガネ艦橋にて指揮を取るという責務もあるが、フェイルがデュラクシールで出撃する機会が少なかったのも、機動兵器の操縦が肉体に及ぼす負荷を鑑み可能な限り控えるよう厳命されていた事にもよる。
「そうか。それは有難い。今回はアカハガネの指揮よりもデュラクシールの力を優先させなければならないかもしれないからな」
「ふうん? 艦長さんの代わりが務まる人なんて、いるのかしら? 命令する人のいなくなった船なんて簡単に沈むわよ」
「副長は私以上にこの艦に精通しているよ。南米の時も私がデュラクシールで出ている間見事な指揮を見せた」
「まあ、ここに引き篭もっている私にはあまり関係が無いわねえ。ねえ、サイボーグマン、死んだりしちゃダメよ?」
「私が貴重な被検体だからかい?」
「ま、そう言う風に私の事見ていたのねえ、ちょっとショックだわ。なんだかんだで何ヶ月もお付き合いしているわけだし、少しは情が移るものよ。
貴方に死なれたら私の生活サイクルも乱れちゃうし、ちゃんと生きて帰ってきてね。そしたら一晩限りでCまで好きなようにさせてあげる。そっちの方は元のままでショ? お望みとあればいくらでもタフネスにしてあげるし、サイズアップも引き受けるけど?」
「貴女を誤解していた事は謝罪するが、一晩限りの付き合いに関しては遠慮しよう。ただ、生きて帰る、それだけは約束する」
「そ、ちょっとつれない返事だけど、それで良しにしてあげるわ。それじゃ、頑張ってねミスタ・フェイルロード」
最後まで背を向けたまま、ひらひらと手を振って一方的に別れを告げる女医に苦笑したまま、フェイルは医療室を後にした。良くも悪くも肩の力が抜ける相手だった。あるいは彼女なりに決戦を前にした戦士に対する労い方だったのかもしれない。
一晩限りのお付き合いに関しては遠慮させてもらうが、酒くらいは一緒に飲んでも構わないか、そうフェイルが思いついたのは、女医がはじめて自分の名前を口にしたと、気づいた時だった。
タマハガネのブリーフィングルームで、二つのウルブズに所属する若い兵士達が一堂に介し、決戦を前に意気込みを語る者やいつもと変わらぬ調子で平静を装うもの、軽口を叩いて緊張をほぐそうとする者達の喧騒で賑わっていた。
機動兵器に乗っている時もトレードマークのバンダナを外さない元メカニックのタスク・シングウジや、燃える情熱の赤い髪に褐色の肌と自ら輝くような溌剌とした活力が眩いカーラが輪の中心となり、長い戦いを共に乗り越えてきた戦友達に声を掛けている。
小さな音を立てて開いたドアの向こうから、スティングを戦闘にステラ達が姿を見せたのに気づき、純金にも勝る輝きの巻き毛と水底までも透き通った湖の様な青を湛えた瞳のレオナ・ガーシュタインが声をかけた。
「もうシンのお見舞いは済んだの?」
「ああ。変わりはなかったけど、とりあえず挨拶だけはしておいた。起きた時にはDCの勝利だってな」
スティングには珍しくやや血の気の多めな台詞だった。レオナやカーラ達にしてもまだ十代の少女だ。こうして仲間内で喋って緊張をほぐしてはいるが、これまでで最大規模の戦いを前に心を平静に保つのは至難の業だ。
ステラ達三人の中では一番理性的とはいえ、スティングとて数多の人体実験を受けてきた身だ。いざ戦闘となれば否応なく好戦的になるよう調整された名残が、わずかにある。
「あまり意気込むな。常に感情はニュートラルにする事を心がけておけ。高まった感情は視界を狭めるぞ」
それまで口数の少なかったユウキ・ジェグナンが窘めるというよりは忠告する様に、スティングに向けて言う。タスクらの中では一番大人びた理性的なものの考え方と思考をする。
スティングは分かっていると頷いて返したが、ユウの言い方が癪に障ったのか、アウルは少しばかり鼻息を荒くして言い返した。
言われなくても分かっているが、やはり指摘されると多少腹が立つ。そう感じた反発を押し殺せずに吐露してしまう程度には、まだアウルは子供だった。
「偉そうに言うなっての。今さらビビるたまじゃないさ。熱くなったって連合の連中なんかに負けるかよ!」
「そうなら良いがな」
「なんか文句あんのかよ」
「こらこら、ユウもアウルもそんな風に言い合わないの。これから背中を預ける戦友でしょ?」
「はん!」
鼻を鳴らしてそっぽを向くアウルに手を振って宥めながら、仲裁に入ったカーラはパートナーの時には勘違いされやすい態度にやれやれと溜息をついた。もう少しオブラートに包んだ励まし方の一つもあるだろうに。
これだからユウキ・ジェグナンには自分が付いていないとだめなのだと、カーラは一人心中で頷いていた。その様子に何か不審なものを感じ取ったのか、ユウは心持ち眉を険しくしたが、何か言うわけではなかった。
「アウルもそんな風に言い合うなよ。シンに笑われるぜ? アウルは単純だなってよ」
「へん、タスクこそジガンが硬いからってあんまり盾役ばっかやってっとヒラメの時見たく痛い目見るぜ? おれの乗る筈だったジガンなんだから、簡単に壊すなよ」
「昔の事を根に持つ奴だなぁ。それと確かに痛い目にはあったけどよ、あれはおれとレオナちゃんとの絆を強める為の愛の試練だったわけで、痛い目以上の役得はあったんだぜ? ねえ、レオナちゃん」
「……この口がふざけた事を言う悪い口かしら?」
「いてててて、いやそんな強く抓らなくても……!」
す、と瞳を細めてタスクの唇を抓るレオナの様子に、ステラが可愛らしく小首を傾げた。小動物がするような仕草である。それから隣のスティングの顔を見上げて口を開く。
「タスクとレオナ、仲いいの? 悪いの?」
「さあな。ただまあ、いつも飽きずにあんな事やってんだ。嫌いな相手なら繰り返し同じ様な事しないだろ? あの二人なりに仲良くしてんじゃないのか。ステラはどう思うんだ。タスクとレオナが仲悪いように見えるのか?」
「……んーん。二人とも楽しんでいるみたいに見える」
「ならそう言う事さ。あの二人はお前とシンみたいなものだよ」
「ステラとシン?」
スティングは、頭の上に疑問符を浮かべてスティングの言葉の意味を考え始めたステラに対して、シンとステラがどういう風に周りから認識されているのか、当人達に自覚が無い事に苦笑する。
お互いの事が好きで好きで仕方が無いって事だよ――スティングは心の中でだけ、うっすら桜色の唇にたおやかな指をあてて、ん〜と首を捻って唸っているステラに答える。
なあに、ステラとシンなら放っておいてもごく当たり前のようにくっつくだろう、とスティングは、ステラにとって遠くない未来に出現する途方もなく強大な恋敵の存在を知らぬが故に、この時はまだ楽観視していた。
その恋敵とステラとシンとの三角関係が、まさかあんな事になるとは、この時点ではいかなる予言者も未来を言い当てる事は出来なかっただろう。
タスクとレオナの様子に、あたしたちもスイーツな時間を〜、とユウにボディランゲージで訴えかけるカーラや、それに辟易している振りを装って満更でもなさそうなユウ。
少し赤くなったタスクの唇を見て、少し力を入れすぎたかしら? と内心では心配するレオナと、それを敏感に察知して心の中で脈あり? と期待するタスク。
シンの不在を寂しく思う気持ちを心の片隅に留め、この仲間達と必ず生き残る事をひそかに誓うスティングとアウル。
そして、最も強くシンの不在を不安に感じている筈のステラは、シンだけではなく今ここにいる皆も守りたいと、強く強く願っていた。いつのまにか、ステラには大切な宝物が、こんなにも増えていた。
これからももっともっと、大切に思える人と出会っていきたい。そして、出来るならシンに傍にいて欲しい。シンが傍にいてくれる未来を思うだけで、ステラは胸の奥が暖かくなるのを感じた。
ステラは初めて、“今”だけではなく、“未来”を想うという事を知った。
過去を奪われ与えられ改竄され、ただ純粋な兵器として現在を殺戮の牙を研ぎ澄ます時間としていた少女は、出会った人々と自分では気付いていない恋心に、ようやく未来に目を向けるという事を教えられたのだ。
ステラの精神でゆっくりと起こっていた変化が芽吹くのと前後して、さらに数名新たな入室者があった。
オレンジ色のDCのパイロットスーツに身を包んだテンザン・ナカジマや、白色の同じパイロットスーツを着たジャン・キャリーやゼオルート=ザン=ゼノサキスなどのウルブズのアダルト組だ。
加えてアカハガネの乗員である筈のヴィガジ、アギーハ、シカログのインスペクター四天王(一名不在)に、風の魔装機神操者マサキ・アンドーとその恋人であり全DC製魔装機の生みの親であるテューディ=ラスム=イクナートだ。
やや遅れて大地の魔装機操者リカルド・シルベイラも入室する。ドッグの施設を借りる事も出来たが、何処にあるか分からぬ目と耳を考慮し、タマハガネに各員が集合を告げられていた。
DCの最終作戦SRWの最終フェイズ前後に置いてザフトは決して味方ではないという事もあるし、DCの理念上ザフトといずれ矛を交える事も運命づけられている。今日の友が明日の敵となるのが、世の常なのだ。
いの一番にテンザンが、がっちりとした輪郭を描く顎の上にある大口を開いて笑いながらアウルの肩を叩いた。どこぞのお料理パパの目つきを極端に悪くしたような顔は、意地悪そうに唇を吊り上げる。
「なんだなんだ、てっきりビビってやがるかと思えばいつもと変わらねえじゃねえかよ。こいつは余計な心配しちまったぜ!」
「はあ? ビビるとか有り得ねえし。おれらがそんな腰抜けじゃないって一番付き合いの長いアンタが知ってるだろ」
「ホ! 生意気な口はおれにシミュレーターでも模擬戦でも勝ち越してからにしろっての! おれの小隊にいた頃よりか腕は上がっちゃいるが、アウルじゃおれにはまだまだ届かねえんだからよ」
「なんだよ、自分だけ特機顔負けのMA乗っているからって偉そうにさ」
アウルがMAと言ったのは現在テンザンが乗機としているヴァイクルの事だ。七十メートルを越す巨大な機体は、実験段階にある特殊兵器やマン・マシン・インターフェイスを搭載した次世代MAという触れ込みになっている。
実際にはエペソの協力によってある程度完成を見せた、カルケリア・パルス・ティルゲムなどバルマー系技術のこれ以上ないサンプルであり、研究の為に内部機器のいくつかはDC開発のものに変わっているとはいえ、MAとは言い難い代物だ。
実際、テンザンのアドバンスド・チルドレンとしての適応性によって、その一対多の状況に置いて無類の戦闘能力を発揮するヴァイクルは、MSの数を揃えるのが虚しくなるほどの活躍を見せてきた。
テンザンがその戦果を盾に傲慢な態度を取った事はないが、アウルの言葉もある程度仕方が無い。なにしろ元から傲慢な一面の持ち主だからだ。
それでもまあ、DC決起前から世話になっているという自覚はあり、何げにアウルやスティングらの心中ではなかなか好感度が高かったりする。
「お前だって新型のMSもらってガキみたいに喜んでたろうが。お前らに寄せられた総帥の期待になるだけ応えるこったな」
「それこそ言われるまでもねえっつうの!」
そういってアウルの背中をバシン、と音がするほど強くき、アウルの抗議を華麗にスルーしてステラの前で足を止めた。なあに? と大粒の宝石みたいな瞳で見下ろすテンザンの顔を見上げ、ステラが無言で問いかける。テンザンが口を開いた。
「ようステラ、シンの奴は寝ぼけたままだがよ、お前大丈夫か?」
「……うん。大丈夫、シンが寝ている間はステラが頑張る。頑張って、シンが起きたら褒めてもらうの。がんばったね、って」
「そうかよ。ま、シンの奴ならいくらでも褒めてくれるだろうよ。なにしろお前に首ったけだからな」
「くびった……?」
「お前の事が大切って事だよ。覚えときな」
「ん。テンザン、ありがとう。ステラの事心配してくれたんでしょう?」
「ああ? まあ、な。なんだかんだでお前らとの付き合いも長くなったしよ。どうせなら最後まで付き合うのも悪かねえって思った所でよ。へ、柄じゃねえが、頑張れよステラ。とりあえず死なない程度にな」
「うん」
少し照れくさそうに、テンザンは手を振って椅子の一つに腰かける。自分のキャラじゃないと思っているのだろう。
あの人にも結構世話になったな、とステラの隣でスティングは思った。初めてビアンに紹介された時は、だらしなくたるんだ腹といい、人を舐め腐っているとしか思えない態度に反発しか覚えなかったが、最初に衝突しておいて正解だったのかもしれない。
人と人との関わりにおいて、最も関係が薄いのが無関心だ。相手がどうなろうとも全く興味が無いという事は、好悪の感情以上に相手との関係の希薄さを如実に表す。
テンザンに対して最初にマイナスの感情こそ抱いたものの、それが反対のベクトルに変わるのにはそう時間はかからなかった。初めて会った時に当たり障りのない対応を取っていたら、もっと時間の掛った事だろう。
まあ、テンザン・ナカジマが、贔屓目に見ても美点よりも欠点の方が多くあげられる人物なのは間違いないのだが。
テンザンとは正反対のベクトルで、良い意味で大人の見本たるゼオルートとジャン・キャリーも、シンの不在がステラに齎す悪影響を心配していたが、思いの外ステラが悲しみを表に出さずにいる様子に、安堵の息を零した。
二人からしてみれば、ステラやアウル達どころかカーラやレオナ達も自分の子供でもおかしくはない年だ。
そんな年頃の少年少女が戦場に、しかももっとも危険な最前線にいる事が悲しむべき事なのは間違いない。それでも、今この場に流れる空気は確かに心地の良い、まるで戦争をしている事が嘘の様な優しさと穏やかさに満ちていた。
パーソナルカラーである白に染色したパイロットスーツを着たジャンが、ステラやアウルらの表情に、自身の表情を緩めた時、傍らのゼオルートが声を掛けてきた。
「全員がいい顔をしていますね。決戦を前にしても不必要に気負っているわけでもない。この部隊ならではかもしれません」
「確かに、貴方の言う通りかもしれないな。ふ、あの時シンに負けて正解だったと、今差ながらに思うよ」
「貴方が全力を出していなかったと、シンは愚痴を零していましたよ?」
「それはどうだろうな。それに今私とシンが対等の条件で戦ったら、私の方が十中八九負けてしまう。少し大人としては情けない限りだが、子供が大きくなるのは早いものだ。貴方に鍛えられてからのシンの成長は目を見張るものがある。
あの子は強くなった。なによりも心が。それはこんな時代でも決して絶望に負ける事の無い支えとなってシンに力を与えるだろう。ただ、本音を言えばシンやステラ達が戦わなくて良い時代だったら、もっと良かったと思ってしまうがね」
「生まれる時代は選べません。ですが生きる時代を変える事は出来る。少なくとも貴女はそれを知っているでしょう? ジャン・キャリー」
「ああ。あの子たちの未来と、その後に続く子供達に戦争の無い時代を生きてもらいたいからね。今は唯、やるべき事と出来る事をするだけさ。それがきっと、私達が望む新しい時代の礎になる」
「親は子の為に、子はその子の為に、心と命を繋いで行く事ができる。人間の行える最も素晴らしいものの一つですね。大人の私達は子供であるシン達の為に、そしてシン達はその次の世代の為に」
「まずはこの戦いを終わらせよう。ゼオルート、頼りにさせてもらう」
「こちらこそ」
ともに静かな強さと、穏やかな強さを併せ持った二人は、自分達の果たすべき役目を目の前の子らから教えられ、改めてこの戦いの先に待つ未来を想った。
やがていつかは辿り着くと甘い言葉に踊らされてと、笑いたければ笑えばよい。
今いる場所がその目指した場所ではないからと、これからも辿り着けはしないと、いつか味わう絶望に目を背ける臆病者などよりも、一歩を踏み出す愚か者の方が、少なくとも勇気はある。
未来の為に戦う大人、その未来を生きる子供達。延々と繰り返される命の輪廻の果てにはたして、ゼオルート達が望むような優しく暖かな世界があるのかどうか、掴む事が出来るのかどうか、それを願うゼオルート達自身にも分からなかった。
ただ、そこを目指して歩き続ける事は出来る。時折来た道を振り返るのもいいだろう。旅とは歩んだ軌跡を思い出して感慨に耽るのも楽しみの一つだ。
“命”という名の旅人が歩んできた“歴史”という名の旅の始まりと終わりの双方からはほど遠い、無数の通過点にすぎぬ今も、その“今”が無ければ終着点に辿り着く事は出来ない。
変える事の出来ない過去も、これから迎える無数の可能性で溢れた未来も、すべて“今”に繋がり、“今”から繋がってゆく。
たとえ自分達が死んだ後も永劫に紡がれてゆく命と、過去と今と未来という三重の螺旋に思いを馳せ、ジャン・キャリーとゼオルートは、それが明るいものだと信じるが故に、穏やかな微笑を口元に浮かべた。
同年代の見知った顔が一つない事に、事前に聞かされていたとはいえ、マサキは一瞬曇った表情を浮かべた。共に過ごした時間は短かったが、過ごした時間の密度が十分に補っていた。
たこ焼き屋のおじさんと馴染みの喫茶店のオーナー夫婦という接点を持つヴィガジやアギーハ、シカログらもシンの不在に関しては気にしている素振りを見せ、直前まで見舞いに行っていたステラ達に安否を問うてきた。
「そうかい、ずっと眠りっぱなしかい。その話を聞いたらオノゴロの御両親やマユちゃんが悲しむねえ」
「…………」
と親戚のおばちゃんみたいに呟くのはアギーハだ。いくらなんでも、と言いたくなるほど地球での生活になじみ切っている。シカログも目を閉じてシンの回復を祈るように沈黙する。高徳の僧の祈りの様にどこかご利益がありそうな姿だ。
シンの生家であるアスカ家とお隣さんという事情もあって、アギーハやシカログにとってみれば、シンは親戚の子供みたいな存在のようだ。そんな二人に、場の雰囲気を察知するという意味ではやや能力の低いヴィガジが大声を張り上げる。
「シン一人がいないくらいでなにをしょげているか、お前達は。確かにグルンガストがないのは戦力的に痛いが、その程度で臆するほどおれ達は弱くはあるまいが! シンに情けないと笑われるぞ」
「うるっさいね、ヴィガジ! あたい達はビビってんじゃなくてシンの坊やが怪我しちまった事を心配してんの! 空気の読み方を母親のお腹ん中から勉強しなおしておいで!」
「まあまあ、ヴィガジさんもアギーハさんも、シンの事を心配してくれているんでしょう?
そんな二人が喧嘩したらそれこそシンが悲しみますから」
「……」
サイレント・ウルブズではシカログぐらいしかいなかったこの二人の口喧嘩に、クライ・ウルブズ幼年組のまとめ役が板についたスティングも宥めに入る。アクの強すぎる両ウルブズメンバーの合流後も、なんとかやっていけそうではあった。
とりあえず気を落ち着かせたヴィガジが、鼻息も荒々しく口を開く。
「ふん。だがな、地球連合の切り札はあの化け物MSだけではないぞ。お前達サイレント・ウルブズが何度か交戦してきたWRXチームを始めとした、アークエンジェル級で構成された艦隊。あいつらは我々に匹敵する戦力を集めた強敵だ。
心構えとは別にシンの不在が大きく響く相手だと肝に銘じておけ。ただでさえ数で数倍は勝っているのが間違いない相手の中に、質でも匹敵する強敵が混じっているのだ。一瞬の油断もするなよ」
「やられるつもりなんかこれっぽっちもないね。それにシンがいない分はおれらがカバーするさ。そんで目の覚めたあいつにこう言ってやるんだよ。お前がいなくても楽勝だったってね」
これはアウルだ。突然の怪我で試合に出場できなくなったチームメイトを気遣い、不器用に励ます中学生みたいに分かりやすい照れ隠しめいた言葉だ。
こんな言葉が出てくるあたり、ステラだけでなくアウルもまた精神的な成長を緩やかに迎えてきているのだろう。
アウルらよりは一つ年上のマサキも、アウルに同意する様に首肯した。生来の元気の良さとやや斜に構えてはいるが、ちょっと調子に乗りやすい気風を浮かべた顔には、かつて南米で殺人に対する迷いと困惑、そして恐怖に直面し肩を震わせた影はない。
今も自分が殺した人々の陰に魘されて、夜中に目を覚ます事はあるが、この少年もまた足を止めずに歩み続ける心の強さを手にしつつあった。いずれその重みと苦しみを背負って尚前を見つめる、しなやかな強さを手に入れるだろう。
「楽勝か。ならばお前にはあのアズライガーとやらの相手を一人でしてもらおうか?」
やや冗談めいた口調で言うのは、声さえもどこか艶やかに濡れたように妖艶淫靡な、燃える赤髪の美女テューディ=ラスム=イクナート。ま、雰囲気とは裏腹につい数ヶ月前に純潔を失ったばかりだ。
その純潔を失う事になった原因であるマサキの傍らにごく自然に寄り添う。倍近く年の離れた二人は、互いが近くにある事がすでに当たり前になっていた。
この世界のマサキと初めて会った時にテューティの脳裏に閃いた“私色に染めるか?”というネジの外れた思惑は、テューディ自身がマサキ色に染まるという副産物を生みつつも成功していた。
テューディはアウルの返事を、薄笑いを浮かべながら待った。かすかに口の両端を釣り上げたテューディの底意地の悪い笑みは、甘い香りで獲物を惑わして骨まで溶かし尽す妖しい食中花の様だ。
DC情報部の必死の活動の成果として、ボアズで猛威を振るいサイレント・ウルブズとザフトのトップエース達を一度に相手取った悪夢の様な敵の名前がアズライガーである事はすでに判明していた。
テューディに不意を突かれたアウルは、冷静な部分が一人で勝てる相手ではないと判断する反面、勢い良く啖呵を切った手前引っ込みがつかないと感じている感情の板挟みになった。
意気込みだけならば、アウル一人でもアズライガーを倒して見せる気は満々なのだが、現実を見やればアウルのナイトガーリオンといえども、勝ち目ははるか霧の彼方という他ない。
むむむと情熱と冷静の間で固まるアウルを、テューディは面白げに見つめていたが、それも数秒ほどで飽いたのか、アウルが気の毒になったのか、微笑を苦笑に変える。
「もっともあのアズライガーとやらは私のイスマイルとマサキのサイバスターで形も残さずに消し飛ばしてやるつもりだがな。なあマサキ?」
「ん? まあな。ボアズの時は決着が着かなかったが、今度はきっちりおとしまえ着けて見せるぜ。それにビアンのおっさんも今回は出るんだろ? おっさんのネオ・ヴァルシオンも大概バケモンだぜ」
ここにいるメンバーの中で、数少ないネオ・ヴァルシオンの戦闘能力を知るが故のマサキの発言である。
分身体とはいえヴォルクルスを瞬く間に屠ってみせたその実力は、ビアン、シュウ、テューディといった超頭脳の組み合わせと数多の超技術が融和した結果と考えれば当然かもしれない。
究極のスーパーロボットの後継機は、その二つ名に相応しい人造の大魔王とでも言うべき存在なのだ。
しかし、ビアンの名が出てきたことでアウルやステラの顔にかすかな翳が差した。
「でもお父さんも怪我してる。たぶん、まだ治ってないと思う」
「だよな。シンよりかは軽傷だって聞いたけど、顔色は良くなかったからな。そうとう無理してんじゃねえかな」
「そうか、本当にそうなら怪我を押してでも前に出る覚悟と決意があるって事だろう。ますます頑張らないといけない理由が増えたな」
「うん、ステラね頑張る。お父さんの為に、シンの為にいっぱい、いっぱい頑張る」
「へ、ステラだけ頑張らせたりはしないさ。おれだってスティングだって気合入りまくって仕方ねえんだからさ」
「二人ともあんまり無理はすんなよ? しっかしクライとサイレントの二つのウルブズが一緒に戦うのって、実はこれが初めてか? 最後の決戦でようやく主役が顔を揃えたって所だな」
それぞれのウルブズが、単独でも途方もない戦闘能力を有する規格外部隊だから、根本的な戦力の数に乏しいDCでは、あちらこちらの戦場を転戦させざるを得なかった事情もあり、確かにマサキの言うとおり双方のウルブズが同じ戦場で戦うのは初めての事だ。
DC系技術とC.E.系技術の機動兵器を主軸に置くクライ・ウルブズとラ・ギアスの魔装機によって構成されるサイレント・ウルブズ。
月下に闇夜を震わせながら遠く吠え啼く狼と、太陽の下でも満月の下でも音一つなく静かに牙を突きたてる沈黙の狼。聖十字の旗の元、二頭の狼はその牙と爪とを存分に振るう機会を与えられたのだ。
通常で考えれば同規模どころか、下手をすれば桁が一つ上の数を相手にしても勝利してしまうほどの超弩級戦力だ。ただし、これから彼らが戦う相手もまた、本来のこの世界の常識では測れぬ化け物揃い。
いかなる形にせよ戦いが終わった時、この場にいる誰かが欠けていないなどという保証はどこにもない。本当にどこにもないのだ。誰の胸の中にも。
戦場であまたの恐怖と死を振りまきながらも、二つのウルブズの隊員達は、戦争の狂気に飲まれる事無く、平和というモノの尊さを知り、命の重みをその手に感じる極めて健全なメンタリティを維持していた。
そうでありながら、兵器を乗りこなし戦場で相対した敵を殺す事を是とする精神とこれまでの行いに対する報いが、今度の戦いで殺される側になるという形で彼ら自身に降りかからぬと誰が言えよう。
所詮人殺しは人殺し、殺人は殺人なのだから。奪った命は自らの命を持ってのみ代償足り得るだろう。すでに多くの命を奪い手を血で染めた彼らの頭上に、贖罪の大鎌が振り下ろされるのは、今日かもしれなかった。
話声で賑わうブリーフィングルームに新たに四人の人物が入室した時、場に流れていた空気がたちまちの内に硬質化し、緊張の色を濃く帯びた。
アカハガネ艦長フェイルロード=グラン=ビルセイアと従容と影の様に着き従うケビン=オールト。
タマハガネ機動兵器部隊隊長アルベロ・エストにタマハガネ艦長エペソ・ジュデッカ・ゴッツォである。ウルブズ首脳陣であるこの四人の登場となれば否応なく注目が集まる。
全員が所定の席に着くのを待ち、エペソが四人を代表して、口を閉ざした一同を見渡して口を開く。人造の忠義の将は、この世界の地球人類の命運を占う決戦を前にしても、常と変わらぬ傲岸なまでの自信に満ちていた。
「我々DCの戦いもついに終わりを迎えようとしている。ここに至るまで貴公らはよく戦い、また良く生き残った。一人この場にはいない事が惜しくはあるが、誰一人欠ける事無く戦い続けてきた貴公らの実力に、余は賞賛の言葉を惜しまない。
だが心せよ。死は常に生の隣にある。勝利は生きて味わってこそ真の意味と価値がある。余はここにいる皆が生きて戦い抜く事を切に願う。さて、これ以上、気構えを語る必要もあるまい。これより最終オペレーションにおける我らの役割を伝える。心して聞け」
DC艦隊旗艦アルバトロス改級戦艦マハト。DC宇宙軍総司令マイヤー・V・ブランシュタインとその盟友にしてDC総帥ビアン・ゾルダークを乗せた漆黒の船の艦橋で、マイヤーの隣に用意された席から、ビアンが悠々と立ち上がった。
彼方に聳える、天に角突くほどの大山脈が不意に立ち上がったような、途方もない重圧と迫力がビアンの全身から立ち上っていた。ビアン・ゾルダーク、科学者が持ってはならぬ『英雄』の資質を持ってしまった男。
マハトの艦橋で、通信越しにビアンの姿を畏敬と畏怖とで見つめている全DCの兵士達に向かい、ビアンは粛々と口を開いた。全てのDCの艦艇の中から、固唾を飲む以外のすべての音が払拭される。
ただ一人の男の言葉を聞く為だけに、静寂がその翼を大いに広げ、音を奪い去っていた。
鋼の棒が通っているように一部の隙もなく延ばされた背筋。逞しい体つきをいっそう映えさせる絶妙な角度と、陽炎のようにビアンの体を縁取り揺らめく威厳。
ビアンが静かに瞼を閉じた。万感に胸を浸らせたか、これから無数に散るであろう命の冥福を祈ったか。再びその瞳が開いた時、そこに宿っていたのは不退転の三文字で輝く決意の光であった。
「ディバイン・クルセイダーズの旗の元に集った全ての者達へ。DC総帥ビアン・ゾルダークである。
まずは、私の声に応え、この戦争の只中で共に望む明日を掴み取る為に立ち上がり、ここまで私に付いて来てくれた諸君とこれまでの戦いで志半ばにして倒れた者達全てに感謝の意を表したい。ありがとう。心より諸君らに敬意と感謝を。
そして、今しばらく私に諸君らの力を貸して欲しい。地球連合とプラントのコーディネイターとの飽くなき戦いの輪を撃ち砕き、新たな秩序と世界を築く為に、どうか私の声を聞く者全てに助力を乞い願う。
……今我々の前には地球連合の強大な力が立ち塞がっている。圧倒的な力だ。強大な力だ。比較するのが馬鹿馬鹿しくなるほどの力だ。
だが、決して勝てぬ力ではない。絶望に膝を屈するほどの力ではない。希望を打ち捨てるほどの力ではない。我々は負けん。我々が勝つ。何よりもそれを信じろ。我々がこれまで歩んだ道と、その先に待つものを迎える為に、この戦いさえも通過点にすぎぬのだ。
私はこれ以上語る言葉を二つしか持たない。一つ、生き残れ。どんなに見苦しくても良い。生き恥などという言葉は忘れろ。この戦いを生き延びるのだ。戦争が終わった後にも未来を造るという戦いが待っている。
戦争の苦しみを知る諸君らは、次の世代にそれを伝え二度と戦争などというものが起きぬよう諭す役目がある。
二つ……ディバイン・クルセイダーズ最終オペレーション“SRW”の発動を承認する!! 戦え戦士達、戦場を舞うのだ!! 強く、気高く、雄々しく、そして生き抜け!!
行け、未来を我らの手の中に掴むために!! DC全兵士に告ぐ、今こそ死力をも使い果たす決戦の時なのだ!!」
ビアンが拳を振り上げるのと同時に、すべてのDC籍の艦艇が内側から轟いた歓声に震える。死は恐ろしい。未来の可能性を奪われる事は例えようもない恐怖だ。だが、それでも彼らは行く。
望む未来、変えたい時代、血肉と同化したように纏わりつく過去との決着――理由は様々あれども、この戦いの先で、なにがしかの答えが出る。それが全ての理由に共通していた。
未来も過去も今も、その全てに答えを出す為に。戦争に身を投じるのだ。戦場に足を踏み入れるのだ。足を止めず、前に進み続けろ。それがきっと、生きるという事だ。
全兵士が熱狂に沸く中、ビアンは悠然と席に腰を下ろし、傍らのミナとマイヤーにしか聞こえぬ程度に細く息を吐く。事前に投与しておいた痛み止めと止血剤は効果を十分に発揮し、一時ビアンに苦痛を忘れさせていた。
ミナとマイヤーとが無言で問いかける。質問の内容は、改めて記す必要もあるまい。ビアンは寸毫ほども衰えぬ力を秘めた瞳で見つめ返し、返事とした。
本来ならばまだ病室のベッドの上で治療を行っていなければならぬ筈の怪我人とは、誰も信じぬほどに活力と迫力とが充ち溢れている。死を前にした蝋燭の最後の灯火とは違うその輝きを認めたが故に、ミナとマイヤーはビアンのマハト搭乗を許したのだ。
銀色に輝く砂時計の様なプラント本国の前に築かれた、巨大なリング型の軍事衛星の周囲はザフトの艦艇とMSがひしめき合い、ヤキン・ドゥーエ周辺でもありったけのMSが展開している。
再び侵攻を開始した地球連合との会敵予想時刻まであとほんのわずかな時間しか残っていなかった。
プラントからすればこの防衛線を破られれば、本国を守るものは何もなくなる最後の戦いだが、地球連合は仮に敗れてもザフトやDCよりもはるかに早く失った戦力を充填し、息を着かせぬ波状攻撃で、やがてプラントを蹂躙し尽すだろう。
勝利にせよ敗北にせよ、守るザフトとDCの方が圧倒的に不利な戦いであった。そして、ミナとマイヤーとビアンの元に、戦端が開かれた事を告げる報告が伝えられた。ビアンが詩を吟ずるように短く呟いた。
「始まったな。終わりの始まりが」
プラント・DC同盟軍と押し寄せる地球連合艦隊との間で戦端が開かれた頃、プラント本国にある軍病院のある一室で、患者の様態を見回りにきた、とあるうら若い看護士が、もぬけの殻になったベッドを前に呆然と立ち尽くしていた。
まだ暖かいベッドの上には血の滲む包帯がとぐろを巻いて捨てられていた。白い包帯に滲む赤は、流れたばかりである事を証明するようにベッドのシーツにも赤い染みの領土を広げていた。
病室の主の名は、シン・アスカといった。
――続く。
今回みたいな演説って苦手です。何を書けばよいのかわからないんですもの。ご感想、ご指摘、ご忠告諸々いただければ幸いです。
うははははははははイイヨイイヨー
でもね、総帥
> 「生まれる時代は選べません。ですが生きる時代を変える事は出来る。少なくとも貴女はそれを知っているでしょう? ジャン・キャリー」
ジャンは何か怪しい泉にでも落ちたのでせうかw
556 :
通常の名無しさんの3倍:2008/11/16(日) 09:56:41 ID:BkjqRZNc
2,3回読み直して気付いて吹きたw
>少なくとも貴女はそれを知っているでしょう?
総帥乙です
傷だらけの主人公二人、出陣って感じで良いわー
まさに最終血戦て感じです
>>556 男が女に変身して魔法使うラノベが有るらしい
キャリーって名前の女性も多いし……
毎度おつでした。
C.E.71最終決戦、開・幕。
…しかしシリアスそっちのけで一番吹いたのはステラの将来の恋敵出現確定なのでした。
シンが死にそうだw
ってか、なんかそこかしこに死亡フラグがあって怖いぞ
次でぶつかるのか、それとも連合ザフトラクシズのインターミッションが入るのか…
「キャリーが女の名前で悪かったね、でも僕女の子だったんだ」
>>まさかあんな事になるとは、この時点ではいかなる予言者も未来を言い当てる事は出来なかっただろう。
いったいどうなるっていうんだwwwwwwwwwwwwwwwwww
総帥氏乙です。
ステラの将来の恋敵出現確定発言、恋敵は一人かな?
オーヴで多夫多妻制容認法案可決、とか……。
てゆーか恋敵は誰ぞ?
原作準拠のルナか、今が旬のセツコか、それとも第三の存在か?
>>564 ラングランでは戦士の氏族は重婚可だしなー。
シンがこのまま成長して師匠の十六夜と同格になったらたぶん、その時点で運命編も終わりますな。
菊地キャラが表立って動かないのは、あの人たちが凄すぎてあっという間に話を終わらせてしまうからだと思いますし。
個人的にはZで十六夜がいて本格的に参戦したら多分30話くらいで話が終了してしまうと思う。
騙し屋ジョニーをよんで京也が与える影響の大きさを考えるとあのチートブリがわかる。
それはそれとして恋敵はやっぱりセツコでしょう。総帥さんのアレを読むと。
年末のコミケはセツコ本が多いでしょう。
ルナマリアは最初から計算に入ってないだろ
ただルナマリアのキャラが悪い訳じゃない
シンとくっつくという原作(笑)の流れ、プロセスの描写に
説得力があると感じる人間が少ないからルナマリアは戦力外になってる
>>568 いい加減菊池信者を装った荒らしうぜー
スパロボにも種にも関係なく、ただ小ネタで使われただけの話題にいつまでも食いつくなよ
十六夜マンセーしたいなら別のどこかに行け
>>個人的にはZで十六夜がいて本格的に参戦したら多分30話くらいで話が終了してしまうと思う。
とりあえず菊池キャラはドラゴンボールの世界に放り込まれたらフリーザに全員瞬殺されると思うよ!
>>570 まずは落ち着け、落ち着いてこのクスh…栄養ドリンクを飲むんだ
苛立つのは解るがお前まで同じ所へ落ちてどうするよ
原作(笑)の流れとは違った総帥氏流の流れで、
ルナマリアと恋仲になるのを見てみたいのは俺だけだろうか?
それも悪くないが、ステラセツコに比べると劣るなあ
>>570 ネタだとは思うが、それは有り得ないと思うぞ。
そりゃあ、物理的な破壊力だけを抜き出せばそうかもしれないけれど、
魔人ブウと戦えるレベルのスピードと、「界王神? なにそれ?美味しいの」レベルの特殊能力を持つ魔人がうじゃうじゃいるからな。
>>570,574
多作品キャラの強さ比べは最強スレだけにしろよや
>>573 確かに劣るかもしれない。
シンを中心にしたステラ、セツコ、ルナマリアという
三角関係ってのをみたいきがするが・・・
>>576 三角関係?
って事はシンそっちのけで女三人で仲良くなる方が面白いかも
>>576 それ四角……
ただ四角にするには女同士に走るのが一人居なきゃならない
…立体の三角形で頂点をシンと考えれば三角関係と言えなくもないか?
つまり、三角錐関係と?
シンルナネタというとこの子が思い出されるw
,. -―- ..
/ _ `ヽ、
l /  ̄` ‐\
,. --'´! /´  ̄ `丶、
/ l / \
/ ,、! ヽ
l / ヽ ト、\ ',
| /`ヽ、ヽ ヽ\_j l l
ハ l .| \l '´ ヽ ! !
! i`ヽ | ヽ. l /
! lj f ヽ l (●) (●) 冫 /
ヽヽー-|` T` \___/ レ
`ヽ、ヽ、.! \/ ノl /
\{`ー 、 _ ,.. 〆 j′ ノレナマリア
ノレナマリア
ルナの使い魔で逃亡したシンを捕獲するのが主な仕事
やはりセツコが恋敵と思うが、それだとシン・ステラ・セツコの小隊構成になるだろうから、運命編の機体は三人で合体ロボだと書くのは楽だと思うが。
いや3人のほうが何となくバランスがいいではないですか。
>>578 三角錐を上から見詰めていると考えるんだ!
三角錐関係……言い辛いな、三角関形?
三体合体のスーパーロボ……
駄目だ、アクエリとゲッター位しか思い付かん
それ以外ならゴーダンナー
<トリッキーなネオ・オクサー、パワーのゴオ・オクサーのどちらかと合体を選べる。最終技ではセレブレイダーとのトリプルドライブが存在>とか、
ヴァンドレット
<一体の小型人型機と三機の宙間戦闘機個別の合体パターンが有り最終的には全体融合、三段階変形するスーパーロボ化
コクピットが色んな意味で羨ましいエロさ>とかか……
オリならいっそ参式とかフォルテギガスやコンパチ(初代)って手も……
貴様ザンボットとダルタニアスとゴッドシグマとアルベガスとトライゼノンに謝れ
シン、ステラ、セツコでトライアングラーとな?
ルナ「きぃ〜みは誰とキスをするぅ〜?」
シン、ステ、セツ、ルナ、レイで五体合体を、と言ってみる。
>>585 ライナーダグオンとセイントブラスターもあるぞ。
しかもどっちももう一人追加しても大丈夫だ。
お前ら一体何処へ行くつもりだw
それはさておき合体しなくて良いと思うのは俺だけか。
三人で仲良くトライチャージして「ガンホー!ガンホー!ガンホー!」って叫んでも良いと思うんだ。
栄光合体トライガンホー
やっぱり合体ロボのほうがいいですよね。
その方が燃えるでしょうし。
超々マイナーですがボルナッスなんかどうでしょう。
分離形態が3機なので。
サンバルカンロボやライブロボも三人乗りだぜ!
ばっか、三人乗りっていったらアレだろう。
ビグザム
四人乗りだがこれもある
ガオガイガーマニュアルFFver
ただぶっちゃけると、シンもステラも単体で優秀なパイロットだから、寡兵のDCがわざわざ複座機体にして、
パイロット枠を一つ無くすメリットが無いんだよな
それこそ単機で戦局を塗り替えてしまえるぐらいの超絶性能な機体でない限り
ガンバスターとかどうよ
モノアイをRB−79ボールに差し替えれば三人乗りだぜ
ちょwwwwwwwwww元祖SRX忘れてたwwwwwwwwwww
シン・ステラ・セツコ・ルナマリア・レイ・マユで超重合神
マユ圧勝か?
超運命合体ロボ・デスティニー5
シン=感情的だけど人一倍優しい主人公
ルナマリア=紆余曲折するけど主人公と信頼を築き上げる正統派ヒロイン
ステラ=元は敵だったが愛の力で仲間になった天然系ヒロイン
セツコ=年上としての余裕と少し少女趣味なギャップ萌え系ヒロイン
レイ=腐女子用ヒロイン
どのヒロインと結ばれるかは君次第だ!
ノレナマリアって正統派か?
嫌いじゃないんだが原作(笑)が、凸をラクシズにいかせたゴタゴタで
余りもんどうしをとりあえずくっつけてみたイメージしかないもんだからさ…
キャラ的にっていう意味でないの?
世話焼きな幼馴染とか、素直になれずに口ゲンカの多いクラスメートキャラみたいな。
>>603 ちまき版ルナは正にそんな感じ
シンとレイの仲が悪かった頃は二人の間に入って緩衝材役をしていた
オリで複座機体といえばライブレード
パートナーと同乗し、キスでプラーナが全回復するというシステムが非常に有名だが、
一方で実はヒロイン毎にキスの使用回数制限に差があるということは意外と知られていない
これに照らし合わせると、ルナマリアは多分3回だなw
士魂号複座型が思い浮かんだ俺は大人しく仕事っ行ってきます。
士魂号複座型の場合、脳の直結で士魂号の脳と二人のパイロットの脳が同調した別人格になってしまうからな……。
そうだ、ここは、フリーダムの天敵ともいえるバンガイオーで……。
>>554 遅レスですが、こういう場合の演説は基本的に戦う相手に対する弾劾と自軍を鼓舞する内容を、起承転結に沿って纏められれば十分かと
特別凝ってたり難しい言い回しは必要無いと思います
あとは史実上、実際に行われた演説を参考にするといいかも知れません
ギレンのガルマ追悼や、ヘルシングの少佐の「戦争は好きだ」等のフィクション史上に残る名演説も、一応元ネタがあるぐらいですし
演説上手でパッと思いつくのはヒトラーとチャーチルだけど、参考にするならチャーチルのほう。
ヒトラーは演説は確かに上手かったけど、そのベクトルがその場の勢いとカリスマに拠って立つものだから、
思いっきりパワーでガンガンいく(そして極端に思想的)タイプのキャラにしか適合しない。
一方チャーチルは全ての演説に原稿を用意していた文筆家で、文章として見せる演説ならこっちのほうがいい。
ラジオとかアニメみたいに声が流れる媒体だとまた違ったところもあるだろうけど。
ヒトラーの演説は聴覚のみならず視覚込みで完成だからな
スタジアムの外に列車砲配置して、聴衆の目にヒトラーと列車砲の砲身が同時に入るやつなんて
記録映像見て鳥肌だった
ヒトデヒットラーとヒドラーにはなぜカリスマ性がなかったのか
カリスマ性のあるキャラとして描くとユ○ヤがうるさいから
Zの死に様はかっこよかったけどね。
ヒトラーは凄いのになると、チョビ髭は傀儡で、本体は金髪碧眼の美形で空間と操ったり時間を巻き戻したりできるんだぜ
漫画や小説ではカリスマヒトラー描けるのに
テレビでは駄目なんだろうな
>>609-610 ご助言ありがとうございます。そっか史実の人の演説を参考にすればよいわけですね。次回から活かせるよう頑張ります。ありがとうございます。
ビアン総帥もその場の勢いとカリスマタイプかな? どちらかといえば。
そういえばマンガで二重人格で素は奇跡を起こせる善人というのもありましたね。スプリガン。
シンとセツコと愉快な変態達――その7 『復讐鬼A』
破滅の光を宿した『運命の乙女』の左手は疾風の如く突き出され、無限正義の胸部を正確に貫く筈であった。その左手が虚空を穿ったのは、ひとえに無限正義――インフィニットジャスティスのパイロットたるアスラン・ザラの能力による。
紛れもない事実として、現在MSパイロットとしては最強の一角を担うアスランであるからこそ、回避し得た神業的な反応だった。加えて、目の前の復讐鬼が愛機としていた機体の武装を知悉していた事も大きい。
今は亡きギルバート・デュランダルが今は復讐鬼へと成り果てた少年にかつて与えた、『運命』という名の機体が持っていた武装を組み込んだ特殊な複合兵装に光の翼、となれば運命――デスティニーが両の腕に携えていた光の槍もまた備えていてもおかしくはない。
事前に伝えられていた反体制組織カイメラの機動兵器群のデータに目を通し、当たって欲しくはないと願っていた予感が、最悪の形で的中し、皮肉にもそれがアスランの命を救った。
雷雨の中とオーブと月面と、三度にわたるデスティニーに乗ったシンとの過去の戦いの記憶が、かろうじてアスランに生死の境を生へと傾けさせた。
その事が、後にアスランに命を拾った事を後悔し尽す残酷な生を与える事になったのは皮肉という他ない。必殺のパルマ・フィオキーナをかわされた復讐鬼の瞳は、驚きの色を浮かべる事も何かの感情に揺れる事もなかった。
目の前で起きている事象をただ見つめている。対象に対して関心など欠片も無いのに、機械的に観察を続けているかのように、どうでもよさそうだった。
いったん距離を離す、そう考えて愛機を後退させんとしたアスランは、唐突に上方から襲ってきた衝撃に、脳を強く揺さぶられ、何が起きたと疑問を抱くよりも早く、紅色の愛機共々地べたを舐めさせられた。
幸いにして、大地に広がっているのは無残に打ち砕かれ、破砕され、撃ち貫かれたMSの残骸だけであった。シンが失った最愛の人の様に、誰かが巻き込まれるような事はない。
インフィニットジャスティスのビームサーベルを切り上げるのと同時に上方に振りかぶっていたガナリー・カーバーのストック部分でインフィニットジャスティスの左肩部を、振り子の勢いと落下の速度を上乗せして、叩きつけたのである。
落下と打撃の衝撃でパイロットであるアスランの意識が混濁し、機体内部の繊細な電子部品などに支障が起きたのか、インフィニットジャスティスに動く気配は見られない。
引き金に添えた指を、あとほんの数ミリ動かすだけで、アスランの骨も残さず蒸発させる、灼熱のビームが大神の下す神罰の雷光の如くインフィニットジャスティスのコックピットを穿つ。
「…………」
シンがわずかに沈黙に時をゆだねた。かつての上官への情が唐突に湧いたわけもあるまい。高エネルギー長射程砲の代わりに、本来ガナリー・カーバーに装備されている実体弾を射出するストレイ・ターレットの銃口をインフィニットジャスティスに向けた。
引き金が引かれる。一度、二度、三度と、呼吸をするようになんという事はない行為だと。感情を乗せる様な行為ではないと告げる様に淡々と。
放たれた弾丸が、正確にインフィニットジャスティスの銀色のフレームや、関節部、ライフルの引き金を引く指や特徴的な頭部の鶏冠の様なアンテナ、リフターの両翼を撃ち抜いてゆく。
「あの人はあの日あの場所で空から降って来たビームに焼かれて死んでしまった。あの人と同じように痛みを感じる間もなく、死ぬ事に気付く事も無く死ぬという事をあんたに教えてやるつもりはない。
与えられる痛みにもがいて何もできない自分の無力に苛まれて目の前で奪われ続ける恐怖に泣き叫んで、そして孤独の中で死ね」
引き続かれる引き金。吐き出される銃弾。着弾の度に揺れ、少しずつ原型を失ってゆくインフィニットジャスティス。
おお、見よ、万物に平等足る筈の太陽の光さえも触れる事を恐れるかのように、黒々とした不可視の怨念を陽炎の如く立ち上らせる青い機体を、バルゴラ・デスティニーを。
機械の巨人の体を借りて地上に姿を現した魔界の公爵でさえも、これほど人間の感情を根底から恐怖させるおぞましさを持ちうるかどうか。搭乗者の怨念そのものを噴霧の如く吹き出すバルゴラ・デスティニーの姿は宗教画に描かれる悪魔よりも禍々しかった。
たった一人の人間が発する感情の発露であると分かるが故に、同じ人間はソレに恐怖する。慄いて拒絶し、恐怖し、不理解を訴える。同じ人間だからこそわかる。目の前の存在が人間でなくなってしまった、人間の形をした別のナニカだという事が。
人間である事をやめ、かつて人間であった名残を肉体の姿に留め、異様に歪んだその精神が恐ろしいのだ。憎悪と絶望と、その二つの感情が極まった時、人間はここまで恐ろしい異形の精神を備えるのだと。
同じ人間であるからこそ、人間がこのような存在になれる事が、恐ろしい。
散々に打ち据えられてボロ雑巾のように捨てられた哀れな塊と化したインフィニットジャスティスを見下ろしながら、緩やかにバルゴラ・デスティニーが、自分自身が生み出した鋼の骸の山の中へと降り立つ。
告死の天使よりも神々しく、冥府の使いよりもなお暗く、其は人知を超えた不吉なるもの。鋼の乙女よ、主の仇を討つべく復讐の鬼を新たな主に選んだのか。
四肢がもぎ取れ全身の装甲が激しい凹凸にへこみ歪んだインフィニットジャスティスの頭部を左手で掴み、持ち上げる。
機体の内部を循環する冷却液やオイルがもがれた四肢から滴る様子は、酸にして鼻。凄にして惨。生きながら餓えた獣に貪られる方がまだ幸福だと思ってしまうほどに無残であった。
何の反応も無いアスランに向かい、例え夢の中であろうとも地に投げ落とされた影のようにへばりつき、復讐の旅を続けてくれる、とシンの瞳の虚無の中で揺らめく青白い炎が告げていた。
「もう夢の中だろうと休めると思うな。小休止も許さない。おれかあんたがこの世に存在し続ける限り、狩人と狩られる者の関係は続く。今日はあんたの力を奪った。踏みにじった。
次はあんたの眼をもらうか? それとも腕か? それとも足か? それとも内臓を一つずつ抉り出してやろうか? 忘れるな、覚えていろ、夢の中でさえ悪夢にうなされるがいい。
最後の一人になるまで生き続けろ。その眼で自分達が狩られる様を見続けろ。あんたの大事なキラ・ヤマトも邪魔する屑どもも誰一人生かしてはおかない。一人残された事の意味に苦しみ、仲間と組織が崩壊する様を魂に刻みつけて悶えろ」
これまで感情をごっそりと失ったようにがらんどうだったシンの声に、ようやく乗せられた感情は、猛り狂う激情であった。残骸になり果てたMSから噴き上げる死の炎や紫電よりもなお熱く、しかし冷たく。
感情を発するべき心のどこかは凍てついたままだった。ソコが凍てついている限り、シンの心が救われる事はなく、そしてこの世にシンを救うぬくもりはもう存在していないのだった。
もし、感情を物質とする事が出来たのなら、今のシンの心中に渦巻く絶望と憎悪はたちまちの内にこの星を呑みこみ、はては太陽系までも覆い尽くすだろう。
形を持って溢れ出した二つの感情は触れる者を悉く発狂させながら、留まる術を知らぬまま世界を終わらせる。
シンにとって生きるという意味が果てしなく虚ろで無意味なものになってしまった時から、シンの世界はとっくに狂い、ねじ曲がり、壊れ、失われているのだから。
持ち上げたインフィニットジャスティスの左のカメラアイにストレイ・ターレットの銃口を押し当てる。VPS装甲はすでに内部で動作不良を起こして、無限の正義は灰色に煙っていた。
紅蓮の炎の激しさと滴る鮮血よりもなお赤い瞳は暗黒の虚無の中で揺らめく憎悪のままに、かすかに細められた。引き金に添えられた指が動く。
「さようならアスラン。そしてまたすぐに会おう。おれはその時ようやく死ねる」
インフィニットジャスティスの左目から侵入し、頭部の中身をぐしゃぐしゃに貫いた弾丸は、後頭部から抜け、飛び散る脳漿の如く細かな部品を散らばせた。
両手両足と頭部を失い、鋼鉄の芋虫と変わり果てたインフィニットジャスティスが、ゴミ屑のように地面に落ちた。掴んでいた頭部を離し、硝煙たなびくガナリー・カーバーを片手にその場に立ち尽くすバルゴラ・デスティニー。
その周囲を、アスランが引き連れていた総勢十二機に及ぶバビとムラサメが取り囲んだ。アスランの命令によって戦いを見守り、そして大戦を二度に渡って終結させた生ける伝説が敗れた光景を前に、茫然自失としていた者たちだ。
憎悪に駆られ瞳を濁らせたものたちが争いを繰り返す中、常に悲しみを抱き世界を憂いて剣を取り、世界を救ってきた歌姫の武の象徴たる無限正義と、英雄アスラン・ザラが取るに足らぬ筈の愚かな反逆者に敗れた。
それを認める事は、世界の調和と平和を守る絶対的正義の存在である彼らにとっては受け入れ難かった。常に正しいラクス・クラインの誉れ高き剣であるアスランが敗北するなど何かの間違い。
そして間違いは正されなければならなかった。正しいからこそ許される彼らの行いを、否定される事を何よりも恐れる様に。彼らは自分達が正しいからこそこれまで勝ち続けて来たのだと、そう妄信していた。
自分を取り囲むMSを、シンは空っぽに戻った瞳で見渡した。それから、呟く。出てきた言葉は短かった。
「邪魔をするなら……殺すぞ」
古より多くの人間の口から放たれた言葉であったろう。だがこんな風に殺意を口にする者が果たして何人いた事か。殺意を訴えるにはあまりにも感情が希薄な、殺戮への歓喜も忌避の念も何もない声であった。
人は人の命を奪う時にかくも無関心でいられるのか。そして、シンの言葉は正しく実行され、数時間後別動隊が到着した時、残っていたのは半死半生のアスラン・ザラただ一人だけであった。
荒れ果ててゴースト・タウンと化したとある町のスポーツ・センターにシン・アスカの姿はあった。怨敵アスラン・ザラと邂逅し、復讐者が自分である事を告げてから三日ほど経っている。
周囲には暗闇の帳が落ちていた。天空で煌々と燃えている月ばかりが異様に明るい。月の光に落とされるシンの影は、それでもなお闇よりも黒々としていた。その心が月の光さえも憎悪の渦の中に飲み込んでいるのだろうか。
たとえ一切の光の差し込まない真の暗闇の中にいても、シンの影だけははっきりと浮かび上がって見える事だろう。周囲の暗闇よりなお深く暗く、闇さえ飲み込む影の人型が見える。
身にまとっているのはタートル・セーターとスラックス。黒いそれらは闇に紛れればちょっと判じ難い。背に負った強化ビニールのバックパックだけが夜陰行の供であった。
高さ四階のスポーツ・センターの広大な敷地の内部は方々が荒れ果てて雑草や罅に折檻されて、昔日の賑わいを失って久しい。
正面玄関を遠くに見る位置で、シンは尻ポケットにねじ込んでいたカイメラのジエー・ベイベル博士が開発した万年筆サイズの電子シールダーを作動させ、あらゆる電子の監視網を無効化した。
半径三メートルにわたって吸収性の電子障壁を発生させて、あらゆる電子流を通過させる性質を持つ。これによって電波の反射・吸収によって侵入者を感知するたぐいの電子装置は無効化される。
同時に電子機器の位置も探知するから、監視カメラなどの死角への移動などのサポートにもなる。地面に置いていた黒いコートをまとい、フードを被って頭部も丸々と隠す。
目の部分には特殊硬化ガラスが入っている。一見すると何の変哲もない平凡な生地のコートであったが、腰の辺りに付けられている小さなパネルの上でシンの指が停滞なく動くと、背や腰にある指先くらいの穴から黒色のガスが噴霧され、シンの全身を覆いつくした。
個人携帯用のミラージュコロイド発生装置を搭載したステルスコートであった。光学迷彩であるミラージュコロイドと電子シールダーを組み合わせれば尋常な監視装置の類の大半は無力化できる。
ゴム製の靴底がかすかな足音も吸収し、シンは音無き殺戮者となってスポーツ・センターへと足を踏み入れた。月のみが見守る闇の世界で、鮮血に濡れた殺戮の幕が開こうとしていた。
シンが足を踏み入れたスポーツ・センターはとあるテログループの使用しているアジトの一つだった。現在地球を統治しているオーブとクライン政権に対し御託を並べて反旗を翻してはいるものの、行っている事は極めて性質の悪い傭兵まがいの悪行ばかりであった。
要人の暗殺や、戦闘行為への参加は言うに及ばず、民間人への示威行為どころか表には出来ぬ虐殺行為や武器麻薬の密売製造、人体実験の為の誘拐や人身売買と、禁忌としている犯罪行為など何一つ無い。
そのグループの幹部の一人が、屈強な護衛に囲まれて、酒を呷りながら恐怖に震えていた。
飛び交う銃弾やビーム、ミサイルの雨の下をくぐり、二十人の軍の特殊部隊に囲まれながら嬉々として銃を撃ち返した猛者であった。その時迎え撃つのは男ただ一人という状況であり、そして男は二十人すべてを殺害して生還したのだ。
身長百九十センチ、体重二百キロを超す巨漢が、かすかに手を震わせながらアルコールで恐怖を紛らわしているのだ。二百キロの体も真四角に近く幼少のころから天賦の肉体に血反吐を吐く修練を重ねてきたことを誇示している。
この男の突進は軍用ライフルの猛打でも止められそうにない。黒犀や巨象も撃ち殺す象狩りライフルが必要だろう。
その屈強さに相応しく、男は素手で軍の兵士をまとめて七人ほど撲殺した事もある。自分の拳で叩き潰される顔面や、腕の中でへし折れる脛骨の音に恍惚となり、死者達を眼下に見下ろしながら高笑いした。
その男が震えていた。何に? 無論恐怖に。パリの高級ホテルでこの世のものとは思えぬやり方で殺されたテロリスト達は男の仲間だった。他にもベエズエラ、ロシア、インド、フランスと、世界各地の仲間達が同様の手口で惨殺され、組織は大きく揺れた。
彼が実の兄弟と等しく頼みにするボディガードの一人を特別に貸し出した幹部が、四肢を捩じ切られ、睾丸を蹴り潰され、下顎を引き裂かれた状態で発見された時、男はようやく恐るべき殺戮者に恐怖を抱いた。
壊されたマネキンの如く誰も歓迎せざる死にざまを迎えた幹部を守る筈だったボディガードは、幹部が死んだ自宅の庭で、彼の手に握っていた拳銃の弾丸十六発すべてを、腹に撃ち込まれた状態で発見された。
いかなる手腕でボディガードの拳銃を奪い、彼の手に握らせたまま自分の腹にダブルカーラムマガジンに収められた全弾丸を撃ち込ませたものか。
殺された幹部の邸内にいた他の二十名に及ぶガード達も、その死の手からは逃れ得ず、全員が二度と口のきけぬ死体となって発見された。
幹部の邸宅は廊下、物置、屋根裏、地下室、全居室に至るまでが針の先ほどの監視カメラを備え、庭には遺伝子操作によって嗅覚と兇暴性を増したドーベルマンとサブ・マシンガンと防弾チョッキで武装したガードが守っている。
猫の子一匹が侵入したとしても、一分で完全武装のガードマンとドーベルマンが駆けつけて処理する。
もし仮に敵が戦車や戦闘機、MSで武装していても邸宅の地下に設けられた格納庫から全五機のジンやストライクダガーが出撃して敵を迎え撃つ。これまで敵対組織の放ってきた暗殺者達を全て物言わぬ死体に変えて来た無敵の要塞。
その要塞の中で、自分が頼みにするボディガードごと幹部が葬られた事実に、男は戦慄していた。
その残虐極まり手口による殺害方法が、テロリスト達のみならず、死神と蔑まれ守護天使と崇められるピースキーパー隊の隊員にまで及び、自分達の組織の被害者達と合わせて、彼らがとある町の戦闘に関わった者たちであると判明して久しい。
そして、男はテロリスト側の、一年前のとある戦闘に関わった最後の一人だった。これまでに戦闘の参加者四十三名の内四十二名が殺害され、その護衛についていたガードの内、二百七十四名が殺戮の宴に名を連ねていた。
酒に酔う事も出来ず、部下達の目の前でだけかろうじて対面を維持する事に成功しながらも、一日一日憔悴し続け、男は最後の一人になった事に恐怖していた。来る。来る。おれの首を取りに、顔も名前も姿も分からない死神がやってくる。
粗末なテーブルの上に五本目のウィスキーが並んだ時、閉め切られていたドアが、ゆっくりと蝶番の軋みを開けて開かれた。即座に控えていたガード達が懐の内や肩からベルトで吊るしていた機関銃の銃口を向ける。
ぎいい、といやに耳障りな音を立てて開いてゆくドアの先に人影はなく、おそらく壁に身を隠しているのだと、ガード達はドアの両際に銃口を向ける。こんな時間に挨拶もなしに男の部屋を訪れるような奴はいない。
その認識がガード達に引き金を引かせようとして、ころころとドアの向こう側から室内に転がり込んできた円筒の物体に注意をひかれた。手榴弾か!? 爆発よりも早く投げ返そうと手を伸ばすもの、その場に伏せる者、男を庇おうとする者達が動く。
同時に、手榴弾は太陽が落ちて来たのかと思わせる強烈な閃光を放った。数秒間視界を奪う軍用の手榴弾だ。白い閃光で充ちる世界で視界を奪われ背を丸める男達のど真ん中へ、闇色の憎悪が躍り込んだ。人の形をした憎悪にして復讐――シン・アスカ。
左手に握っていた剃刀のように薄いナイフが一人の護衛の喉を横一文字に咲く。ぴゅう、と噴水のように血が吹き出るよりも早くシンの体が翻り、盲撃ちに機関銃を構えた別のガードの喉に、右手のナイフが突き刺さる。
瞬き一つをするよりも早く二人の護衛を葬ったシンは、すでに男がいない事を見抜いていた。閃光手榴弾を転がすよりも早く、ドアが軋みを挙げた瞬間に背筋を昇った悪寒に従って、男は裏口へと逃げだしていたのだ。
最後の一人の護衛の金的を蹴り潰し、くけ、と鳥を絞め殺すような声を挙げる護衛の首に腕をからませ、一息に脛骨をねじった。かすか痙攣と、脱力に襲われて命の火が消えた事を告げる男の死体をその場に打ち捨て、シンは前後に揺れるドアを見つめた。
わずか二秒足らずで生んだ三つの死も、ここに至るまでにスポーツ・センターの内部で生みだした数十の死も、すでに忘れたとその背が告げていた。
復讐を果たすのに邪魔だった。だから殺した。道端の小石を蹴り飛ばすよりもさめざめとしたもののみが、シンの心にあった。
「逃がすかよ」
二十歳にもならぬ少年の声というにはあまりにも疲れ果て、こびりついて落とせぬ疲労のみを滲ませた声は、数百歳の生き過ぎた老人の様であった。セツコの居ない世界で、シンは自分が長く生き過ぎていると心から思っていた。
セツコを失ったあの日の内にシンは死んでしまえたらどんなに楽だろうと、何万回も思っていた。だが、それをせずにこうして生きているのは、ただ一つの目的が彼に最愛の人の元へ行く事を許さないからだ。
おれからセツコを、世界の全てを奪った者共に復讐を。おれの復讐の邪魔をする者共には呪いを与えてくれる。
朝目が覚めたとき、傍らに愛する人がいる事の喜びに、穏やかな笑みを浮かべていた少年は、もう二度とこの世には戻ってこない事を、その瞳が語っていた。
「ひい。ひい。ひい」
恐怖に凍えた心肺は容易に呼吸を楽にはしなかった。男は、裏口のドアを何度も回し、寸毫ほども動こうとしないドアに、憎悪さえ向けていた。
来る来る来る。死が、もうそこにまでやって来ていた。ほうら、こつり、こつりと音を立てて死が近づいてくるじゃあないか。
「ひ、ひひあああ」
男は狂気に蝕まれた瞳を背後の暗闇に向けた。
男の後を追うシンは、わざと足音をたて、ゆっくりと歩いていた。スポーツ・センターの間取り図は完璧に頭の中に叩きこみ、裏口や窓、正面玄関に至るまで外へと通じる出口は、すべて事前に塞いでおいた。
シンを殺す以外に、この陸の孤島と化したスポーツ・センターの死の夜を生き残る術はない。そして、男が逃げ込んだ先が、左右に部屋の並ぶ一本道である事を、シンは知っていた。
こつりこつりと立てられる足音が、生命を奪われる恐怖に襲われた者にとってどれほど恐ろしいものか知りつくしたシンは、ゆっくりと、ゆっくりと、歩く。その音が重なるたびに、お前は死に近づいているのだと宣告するために。
これは逆襲ではない。復讐だ。怨念と憎悪に彩られた凄惨劇だ。恐怖しろ恐怖しろ恐怖しろ。それが復讐される側であるお前達に許された事だ。それがお前達の役割だ。
こつりこつりこつりこつり、新たに死が近づく音が四度重なり止まる。シン=死が足を止めた。目の前で男が大型自動拳銃を頭に押し付けている。ただし自殺の為に自分の頭に、ではない。丸太のように太い左手に抱えている小さな子供の頭に。
薬を嗅がされているのか閉ざした瞼を開く様子はない。男の足もとにも五歳前後の子から十歳程度の子供までもが倒れていた。彼らの扱う商品だろう。
各地で誘拐された子供達が、健康な臓器やチャイルド・ポルノなどを目当てに売買されているのは、今も昔も変わらない。あるいはテログループの忠実な兵士にするべくさらったのか。幼女趣味の誰かが、おぞましい欲望の捌け口にすべく近隣からさらったのか。
シンの瞳が男の腕に抱えられた子供の顔を見つめた。埃で汚れてはいるが、ふっくらとしたリンゴのほっぺに、艶やかな黒髪。あどけない寝顔が愛らしい女の子であった。シンが少女を見つめた事に、男の唇が恐怖以外の笑みを浮かべた。
「近づくな、この餓鬼を殺すぞ!!」
「おれには関係の無い子供だ」
「ひ、ひひ。だったらどうしてこの餓鬼を見たんだ? 気にせずおれを撃てばよかっただろう? 言っておくが、おれはこう見えてもコーディネイターでよ。地下格闘技用に調整されて生まれているのさ。
金的、眼つぶし、噛み付きありの、なんでもあり命がけの地下格闘技さ。お前の銃口は今ちっとばかし下がって、ちょうどおれの腹を狙っている。そこじゃあ餓鬼の胸に当たっちまうわな。
お前が下げた銃口をおれの頭に向け直すのと、おれの銃がテメエを撃つのとどっちが早いかな。いっとくがよ、地下じゃあ銃の早撃ち対決もあったぜ。おれは負けなしよ」
「……」
シンの銃口がわずかに下がる。三百グラムに届かぬ軽量プラスチックの銃を支える事に腕が疲れたわけではない。誘いだ。男の拳銃がシンの額をポイントする。少女の頭からシンの額へ。シンは躊躇わずに引き金を引いた。
肉に銃弾のめり込む音がした。
さらに夜が更け、月が傾いた頃、夜半の電話に駆けつけた警察官たちは、廃墟と化したスポーツ・センターの正面玄関に、風邪を引かぬようにと何枚も毛布をかけられて眠る子供達を見つけた。
全員が近隣から誘拐された子供たちであると判明し、息を飲んでスポーツ・センターの中へと足を踏み入れた警官達は、建物の内部に渦巻く死と濃密な血臭、そして無残に横たわる死体の山に息を呑んだという。
誘拐された少女達が無事保護されるのを見届けて、遠くの林の中で木の葉が擦れる音を立てて遠ざかる影が一つあった。
少女の頭に押し付けていた男の銃口がシンに向けられた時、雷光の如く動いたシンの銃は、拳銃を握る男の指を撃ち抜き、茫然とする男の両目と額、口の中へ四発の弾丸を見舞ったのだ。
付近の森に隠していたバルゴラ・デスティニーのコックピットに戻り、シンはシートに背を預け静かに息を吐く。吐き出した息が白く濁った。
「あと、二人……。キラ・ヤマトとアスラン・ザラ。こいつらを殺したら、おれも貴女の所へ行ける。同じ所には行けないだろうけど、それでもここよりは近いだろうから。だから、おれは早く貴女の所にいきたい。
あの日から、おれにとって世界は地獄だ。貴女の居ない世界に何の意味があるんだろう?
どうしておれはまだ生きているんだ? 貴女を抱きしめる事も声を聞く事も愛する事も何もできないのに。
怒るかもしれないけど、悲しむかもしれないけど、おれにはもう生きている意味なんてなくなってしまったよ。もうこの世でするべき事は復讐だけだ。だから、それが終わったら、おれが死ぬ事を、許してくれ」
シンは、決してこの世では二度と呼ぶまいと決めていた最愛の人の名前を呟いた。頬を、流し尽した筈の涙が濡らしていた。
「セツコ……」
いなくなってしまった愛しい人の名前を呟いたその声には、聞いた者の胸を打つ悲しみばかりがあった。夜が開けて彼方の地平線が黄金に染まるまで、シンは泣き続けた。
「と、いう内容なんだが?」
「…………」
自分が書いた本を、肩を震わせながら読んでいる目の前の二人、シン・アスカとセツコ・オハラにアサキム・ドーウィンはニヨニヨと口の端を吊り上げながら聞いた。ツィーネに意見を求め、止めたら? と言われた内容の本を、結局書いたらしい。
(アサキムの場合分かっていてやっているのよね)
セツコとシンを呼び出したダイナーのボックス席で、カイメラの制服とは違う落ち着いた印象の、赤いタートルネックのセーターとブルージーンズ姿のツィーネが、アサキムの隣でコーヒーを口に運びながら呟いた。
同じ内容の同人誌を読んでいたセツコとシンが揃って顔を挙げた。浮かんでいるのは満面の笑み。あ、やばいな、とツィーネはこそこそとテーブルの下に退避した。アサキムはその顔が見たかったと、恍惚と震えている。
シンとセツコの口が揃ってアサキムの名前を呟いた。
「アサキム」
「なんだい?」
「……地獄に堕ちろ」
「気持ち悪い」
「ひどいな。フ、フフフフ、この高揚感、フフフフフ。だがぼくは止まらない。何故なら僕は自由人のパーパと魂を同じくするもの(たぶん)。ぼくはぼくの心の望むままに自由であり続けるのさ」
恍惚と頬を赤らめるアサキムめがけてシンとセツコが立ちあがり、にわかに慌ただしくなり始めたテーブルの上の様相を尻目に、テーブルの下に退避したツィーネは、やっぱりこうなったわねえ、と思いながらコーヒーを啜った。
とまあ、こんな感じで現実はいたって平和だった。
――つづく。
ちなみにシンとセツコを、キラとアスラン及び各ヒロイン、機体を置き換えれば三主人公それぞれの復讐劇が楽しめるお手軽使用となっております。
ところで、OOのキャラ出していいですかと聞いておきながら、前回の話をみたせいでセルゲイ、ソーマ、マリー、ハレルヤ、アレルヤ、ミン中尉で部隊組まして登場させようとしている自分がいる。アルベロとセルゲイ、ビアンと並べて中年トリオとかもやりたくなってしまう。
総帥、最近筆が走ってるなあ、GJっす!
復讐鬼シンの描写が凄いだけに、最後のアサキムでどうしても笑うw
00は元々スレ違いじゃないし、種死編以後なら割と問題無く出せると思いますけどね
無印編での戦争で、地球連合の勢力図が大幅に塗り変わって、ユニオン・人革連・AEUが誕生したとか
あるいはキャラやMSだけ設定変えて出すってのもアリかと
現在進行中の物語を出すのは至難の業な気もするんだけどなあ
現時点でもキャラはかなり多いんだから
00勢出すのは別作品にしたほうが無難
死人召喚で呼べる連中がまだ少ないからね
マリーにぶっとい死亡フラグならぬオベリスク立ってるとはいえ
まあ総帥が種死編に突入するのと、00終了と、どちらが早いかも分からんしw
>>622 GJ!いずれ「泣いて、哮えて、呻いて、叫んで、命乞いをしてみせろ!」とかいいだしかねないシンですね。
>>622 「あの世でセツコにわび続けろ、アスランーーーーー!!!!!」
このシンには、某□が出したゲームのセリフも似合う。
GJでした。
今日も今日とて仕事と(ゲフンゲフン)に励むシンとセツコ。
しかし、そんな彼らに奴らの魔の手が伸びてきた。
シン「なんだって、またあんたらが!」
キラ「その青い機体を渡してくれればいいだけなんだ!」
セツコ「何、バルゴラが狙われているの?」
アスラン「シン、お前も来るんだ!こんなところでくすぶっている様な人間じゃないはずだ!」
シン「俺はあんたらに愛想が尽きただけだ!」
アスラン「止めろシン!可愛いアスラン・ザラだぞ」
セツコ「ランしか合ってない…!!」
しかし、奮闘空しくセツコごとバルゴラを鹵獲されてしまったのだった。
そして、半壊のMSから身を乗り出したシンは叫んだ。
シン「うぉぉぉーーーー、セツコさんに一回でも手を出してみろ!その時は
我魂魄百万回生まれ変わろうとも、この恨み晴らすからなーーーー!!」
アサキム「っていうのはどうかな?」
シン「素直に死んでください」
>>630をみて、何故かヨヨが種死に来たらと思ってしまった。
フリーダム機上
「サラマンダーよりはやーい」
シンとか以外にもこんなのもありかな?
エペソ「魔装機神操者の諸君、合神せよ!!」
マサキ「行くぜえ! ポゼッション・フォーム!!」
――中略
マサキ「超精霊神、ゴッドサイバスター!!」
とかLOEのタイトルにちなんでゴッドオブエレメンタルでGOEとか。語呂悪いですね。
やっぱりネタは考えたり妄想している時が一番楽しいなあ。それとビアンSEED第七十一話を水曜日あたりを目処に投下いたします。どうぞよろしくお願いします。
アニバスターのキャストを種死キャラに振り分ける
主人公=シン
主人公の病弱な妹=マユ
幼なじみの異性=ルナマリア
マサキ=レイ
リューネ=?
シュウ=キラ
リューネの位置に入るのは誰だろう
>>634 アニバスターのリューネ・フランクがどんな性格だったか流石に思い出せないな
どうでも良いが、個人的にあのグランゾンタンクは嫌いじゃなかった、中途半端なミリタリチックなデザインで
>>633 総帥、コラだけど魔装機神全体合体の奴でエレメンタルマスターやエレメンタルロードと言うものが…
そう言えば総帥の作品で竜虎は出て来るんですかね?
東郷氏(先祖)なら条件クリアしてるけど矢張り無理かな、作品的に超マイナーだし
量産されたデストロイがボコボコにやられる様を見て
グラタン(グランゾンタンク)を思い出したのは俺だけではないはず
リューネは無印になるけどフレイが一番近いと思う
>>634 あのおっさんシュウ=キラはないだろw
(本家シュウはもっとありえないがw)
というかアニバスターのシュウとサフィーネの地味さは異常
大人として落ち着いてるんじゃなくて、単に地味
つーか、ニートと凸は1000度程、死ねばいいと思うよ
>>638 アニバスター自体が地味
あ、いかん、言ってはいけないことをw
DC脱走したいけど脱走出来ない主人公の上官=凸か痔
>>640 曲はいいんだけどねぇアニバスター。
まああれやるくらいならLOEをアニメ化してマサキのハーレムENDとか
やったほうがいろんな意味で後世に残る作品だったろうがなw
アーサー「ダメだ!間に合わない」
タリア「本艦はこのまま大気圏突入し、艦砲射撃にてユニウスを砕きます」
シン「く、このままだとそのまま大気圏突入してしまう…!!」
ルナ「シンはまだなの!?」
レイ「ここはあいつを信じるしかないだろう」
アスラン「まて、様子がおかしいぞ」
アーサー「うは、なんだ。」
タリア「くっ、この光は…」
議長「………な、地球が…消えた!?」
みたいなスパロボDみたいな展開はどうだろう。
問題は逆シャアの扱いをどうするかだが、そこは今はやりの多元世界で流用できるか?
ジョシュアならシンの良い兄貴分になれるんだろうなぁ
多元宇宙って便利だな、何でもアリどころの騒ぎじゃないもんなwww
次回作以降のZシリーズ(仮題)は、やっぱりあっちこっちの世界が多元世界に放り込まれるんだろうか
反OZ組織やら、それ☆すた4人組やらが「ガンダムがこんなにたくさん…!?」とか驚くのをシンやカミーユたちが生暖かい視線で見守る、と
俺としては、寺田が第三次αにイデオンを出すために取っておいたのと同じように
Zシリーズ最終作で『あの作品』を出すために、多元宇宙なんて設定を出してきたんだと信じてるぜ!
え? コナミの版権?
フェイスレス「自分を信じて『夢』を追いつづけていれば、夢はいつか必ず叶う! 」
黒のカリスマは自分が因果律の番人、見たいな事を吹いてたが
アニメにもOGシリーズにも出張ってた久保はほぼ間違いなく出るだろうな
ただできることなら、普通のアストラナガンが使いたい…まず無理だろうが
版権の都合か何かで金子氏と揉めてくれないかな…
ビアンSEEDではメイガスの腹の中にいるっぽいんだっけ?
>>646 ベルグバウ&ディストラ好きの俺への嫌味か
ギュネイと打ち解け、プロに尻を狙われる助手ならばシンどころか凸とすらも融和できそうだ
>>643 シン「チッ、あんたまでアスラン、アスランかよ」
ジョッシュ「見てたのか。怒るなよ、シン。おまえはオレの命の恩人で、頼りになるパイロットだと思っている。
友人ともな。それじゃいけないのか?」
シン「……アモーリーワン以来、全てが狂いっぱなしなんだ。
ミネルバに乗るまではずっと1人でやってきたし、オーブ出身って事で他の連中にはやっかまれてな。
俺は、別にそれでもよかった。インパルスのパイロットにしてもらって、俺は他と違うからな。それが、いまじゃめちゃくちゃだ」
ジョッシュ「焦ってんだ」
シン「何?」
ジョッシュ「オレと同じさ。どうしたらいいか、何をしたらいいか、わからなくて、焦ってる」
シン「……俺は、コーディネイターだ」
ジョッシュ「コーディネイターも人ってことだろ?」
>>649 テンプレ改変乙
しかしこの会話、自分の能力に自信を持ってるのに上手くいってない奴を励ますのに何と適していることか…
ジョッシュすげぇ、そして考え出したかがみんまじすげぇ
OGに出たら、ギュネイ役はフェルナンドあたりだろうか
お前知らないのか?
鉄也さんとギュネイはOG3に特別参戦するんだぜ
フェルナンドはもう味方になってるから
ギュネイというよりはプロの方だな
バンオリキャラで最初は敵なやつがいい
女だけどスレイとかw
スレイだとプロってイメージじゃないな。
カルビ姐さんとかはどうだ? 女だけど。
>>654 いや、ギュネイの方
まあカルビでも敵として登場してすぐ味方でもいいな
Dギュネイなんて万が一逆シャアも他のスパロボも知らないやつだと敵キャラって印象もないくらい
すぐ味方になってるし
ただギュネイ役が女キャラになると、シャワーシーン再現できなるからな
え、別に再現しなくていい?
じゃあ、Jのかませ犬のジェア=ムはどうだ?
あとは、Dのイグニスとか
Dのイベントで起きるんだからそれこそイグニスは無理じゃねーかwwww
>>656 むしろイベント発生場所場所を変えるとかどうよ
戦地拡大で一騎打ち状態から08のシロウとアイナの如く機体トラブルで動けなくなり救助信号発しながら互いに川で汚れた体を洗うって流れとか…
.....これだと別のフラグ立ってしまうから無理か
ジョッシュには少なくともリムからのお仕置きイベントフラグが立ってしまう
助手とイグニスが雪山で遭難→イグニスが雪を溶かして温泉
イグニスと聞くとどうしても若本声を連想してしまう俺はKOF厨
イグニスと聞くと紅い髪のがっかりパンティーなお姉さんが思い浮かぶ俺は…
イグニスと聞くとイグニスストリームが思い出される。
全然出てこねーし、出て来て倒しても吸収できねーよ。
665 :
通常の名無しさんの3倍:2008/11/24(月) 01:26:23 ID:Veq6IVbF
>>659 そういう状況に陥ったら、ジョシュアはどう対応するんだろうな?
やっぱり、努めて気を遣おうとするんだろうか? あるいは、あんまり気にした風もなく自分を優先するのか…?
>>663 生命科学研究所の妖魔男系最上位ゼフォンを狩りまくって、オトモに
フレイムが出て来ることを祈るんだ!
こんばんわ、十二時前後に投下いたします。ちょっと長くなっているので、支援していただければ規制を免れるかなと思うのでよろしくお願いいたします。
皆! 支援の時だ!!!
承知!
では投下いたします。
ビアンSEED 第七十一話 飛鳥飛ぶ
かつん、かつんと硬質の物体同士がぶつかり合う音が重なる。生命の存在を許さぬ最も無慈悲な世界“宇宙”に浮かぶ、鋼鉄の箱舟の中であった。狭隘な空間に木霊したその音の余韻が途切れる前に、足を止め、男は壁を背に預けている目の前の男に目をやった。
艶を失った黒塗りの鞘に収められた日本刀は、飾り気のない柄頭といい、所々がわずかに欠けた鍔といい、名刀の類とは見えはなかったが、古色蒼然たる様には過酷な風月を耐え忍び、数多の血を吸ってきた事を忍ばせる妖しいまでの風格が漂っていた。
名刀ではなく業物と評すべきか。
刀を左の肩に預け、瞑想にふけ入るかのように、縦に傷跡の走る左目と無事な右目を閉ざした男――ムラタ。
ムラタを前に足を止めたのは、青に染めたコートを押し上げる逞しい体躯とそれ以上に放たれる静謐な威圧感が物理的な圧迫感を感じさせ、灰銀の髪に彩られた顔は巌から削り出したかのように厳しいが、その奥に深い情が垣間見える男だ。名をウォーダン・ユミルという。
雪と氷の大地に伝わる偉大なる隻眼の神と、その主神と対立する大いなる巨人の名を持つ鋼の漢。
人の手によって作り出された人間ならざる超人と、半ば魔人の領域に足を踏み入れた剣徒の二人であった。
宇宙を戦場に人類が争うこの時代に、共に腰に日本刀を下げ、生まれる時代を間違えたと主張する二人の邂逅に、世界は困惑していたかもしれない。足を止めウォーダンが闇の中で煌めく白刃のように鋭い瞳をムラタにむけ、ムラタはそれを黙して受けた。
たったそれだけの事実が、互いの周囲に漂う空気をたちまちの内に硬質化させ、息を呑んだ次の瞬間には骨肉切り裂き、血しぶきの舞う決闘が起きてもおかしくはない世界を作り上げていた。
共に機動兵器乗りである事以上に、生身の戦闘に置いて超常の戦闘能力を発揮する、尋常な生物の枠に収まらぬ剣士である。
夜の闇の様に静かに口を閉ざしていたウォーダンが、止めていた足の動きを再開させた。かつん、かつんと重なる足音。ムラタの前を通り過ぎ、数歩さらに歩んで背の後に置き去りにし――そこでムラタの声が掛けられた。
刀身を濡らした鮮血を拭わず、そのまま錆びつかせたような声であった。銀月の如く抜き放った刀身から立ち上る血の匂いを嗅ぎ取れそうなほど人を斬った人斬りの声。
「おれは次の戦いでここを出る」
「そうか」
「マルキオからの報酬ではそれでちょうど切りがいい。だが、それとは別に死合いたい相手もいる。まずはゼオルート=ザン=ゼノサキス。三度奴とは刃を交えたが、純粋な技量ではおれがわずかに遅れを取る。それが嬉しくて口惜しくてたまらん。
おれよりも上を行く奴の剣の技がな、こう、喉から手が出るほど羨ましいのだ。臓腑が煮えくりかえるほど妬ましいのだ。まったくここが宇宙なのが悔やまれる。地上であったならMSで死合い、そして生身でも死合えたものをな。
だが、ひょっとすれば、おれはゼオルート以上に奴と刃を交えたいのかもしれん。くく、不思議と笑みがこぼれるのを抑えられんのだ。奴との死合いを、いや、戦いを思い出すとな。血肉が喜びに沸き立つのとは違う昂揚が細胞の一つ一つに湧き立つのよ。
こう、心が弾むのよ、魂が喜ぶのだ。斬る以外に雑多な情動などいらぬと捨てた筈の、この心が。
無常の闇に堕ち、見果てぬ暗夜行を行くこのおれの魂がだぞ? 奴の剣と向かい合うとな、それが動くのだ。喜びに弾むのだ。熱を帯びるのよ。胸をかきむしり、心の臓を抉りだしたくなるほどにな」
「シン・アスカ」
おれもそうだ、そう告げるようにウォーダンはシンの名を呟いた。シン・アスカ。ゼオルート、ムラタ、ウォーダンらと比べれば数等劣る筈の幼き剣士は、しかし、この三人の胸に他の誰よりも鮮やかに焼き付いていた。
敵でありながら、手塩にかけた弟子の様にその成長を楽しみに思ってしまうなにかをシンは持っていた。
時間さえあればシンに稽古を着けているゼオルートのみならず、戦場で命を賭けて斬り合ったウォーダンもムラタも、出会う度にその強さを増し、そのまっすぐさを失わずにいるシンの成長と変わらぬ心に不思議と喜びの様なものさえ覚えていた。
「ふふ、その言いぶりではウォーダン、貴様もシンと剣を交えるのが楽しみか。よく分かるぞ。奴と剣を交えると不思議と雑念が無くなる。奴が刃を振るう度に成長するその様が妙に嬉しくなるのよ。そしてその度におれ達の振るう刃もより成長するのが手に取る以上に分かる。
おれ達が奴を鍛えるのと同時に、奴がおれ達をより強くさせている。貴様、あの中継ステーションの前と後でどれだけ変わったと思っている?」
「もし、以前のおれと今のおれが戦えば、十中八九の確率で今のおれが勝つ。あの時と今とでは違うとはっきりと分かる」
「そうよ、その通りよ。くははは、やはり剣士の事は剣士が一番理解しておるわ。だがシンにはおれ達の心は理解できまい。奴はまだおれ達の所まで堕ち切ってはおらん。
いや、それ以前に何者でもない。奴はただのシン・アスカ。それ以上でもそれ以下でもない。ただの人間、ただのガキよ。
だが、それこそが奴の強さだ。弱さだ。奴がただのシン・アスカでいる限り、どこまでも強くなる。どこまでも弱くなる。まっこと、目の離せぬガキだ」
「ふっ、敵とは思えぬ言い草だな」
「否定はせん。だがなウォーダン、だからこそ、奴はおれが斬る。奴を斬った時、おれはどんな心になるだろうな?
強敵を斬り捨て、己の強さを確信した喜びか? それとも互いを高め合う友とも呼ぶべき強敵を失った悲しみか? それともいまだ剣の道の果てが見えず暗雲に囚われたままの疲労感か?
ウォーダンよ、おれはな。シンを斬るのも、そして奴に斬られるのも楽しみで仕方がないのだ」
「……度し難いな」
「くく、だが事実よ。そうだろう」
「全くだ」
ウォーダンの声には心からの賛同の意思が込められていた。シンを斬る事も、自分達を斬るほどにシンが成長する事もどちらも楽しみで仕方がない。そう思っているのはムラタだけではなく、ウォーダンもだったのだ。
そしておそらくはこの場にいないゼオルートも、心からの賛同の意思を見せただろう。
ムラタは背を預けていた壁から離れ、左手に鞘を握った。利き手である右手をあけているのは常在戦場の意識が徹底しているからだ。
寝込みを不意に襲われても、雲に隠れた月が照らしだすのは胴を断たれたか、首を刎ねられた無残な襲撃者の屍骸のみ。ムラタがそこに倒れている事はあるまい。
振り返る事をせずにムラタと語り合っていたウォーダンに、ムラタもまた背を向けた。離れ行く剣鬼と魔剣。その心の根底に通じあっていたのは果たして何であったろうか。
「ウォーダンよ。この戦いが終わったら貴様とも死合うぞ。この世界、おれにとってはまさしく極楽よ。貴様がいる。ゼオルートがいる。そしてシン・アスカがいる。まったく、死に損なってみるものだな。くくく、くははははは!!!」
ムラタの冥府の鬼もおびえる底知れぬ笑い声の余韻が消え去った頃、ウォーダンは静かに歩みを再開させた。その背が語るのははたしてムラタへの賛同の意であったか。それとも魔性さえ怯える剣士とはまた違った心であったか。
いずれにせよ、それはウォーダンにしかわからぬ事であった。
ノバラノソノに所属する全艦艇がヤキン・ドゥーエに向かう準備を整え、出向を数時間後に控えた頃、旧オーブが所有していた旧式のコロニーでなんとかオーブの再興を始めたカガリが、久方ぶりにアスランと面会していた。
かつては老獪な欲肥りの老狸を相手に愚痴ばかりを並べていたカガリも、不満を外に出さぬ程度には成長したのか、あるいは決戦を前にしたアスランの心中を慮ってか愚痴は一つも零していなかった。
エターナルの廊下の片隅で、二人で肩を並べて目の前に広がる星の海を眺めながら、言葉は少ないが穏やかな時間が二人の間に流れていた。本当に久しぶりに会って、沢山話をしたい事があったと思っていたのに、こうして顔を会わせてみれば、思うように言葉は出てこなかった。
二人が共にいられる事の喜びが、会えなかった時間で積もった不満やいら立ちを全て吹き飛ばしたからかもしれない。
ザフトの赤い軍服を身にまとったアスランに気遣わしげに視線を向け、アスランの横顔を見つめながら、カガリが口を開いた。言葉は拙いが、声はアスランを思いやる気持ちに充ち溢れていた。心根はやさしい少女なのだ。
「アスラン、お前はこの戦いが終わったらどうするつもりなんだ? プラントに戻るのか?」
「そうだな。…………はは」
「何がおかしいんだよ? 急に笑うな」
「いや、この戦いを終わらせる事ばかり考えていたせいでその後の事なんて考えていなかったよ。今カガリに言われて気がついた」
「お前なぁ、やっぱりコーディネイターでもバカっているんだな。戦いを終わらせることも大切だけど、戦いが終わった後も別の戦いが待っているんだぞ。
お前もキラもラクスも、この戦争を終わらせる事ばかり考えてないで、戦争が終わったら自分がどうしたいかも考えたらどうだ?
したい事が出来るかどうかはわからないけど、それでもこう在って欲しい、こう在りたいっていう未来を自分の心の中に持っておくと生きよう、頑張ろう、そう言う風に思えるぞ」
「そうだな、やっぱりこの手にもう銃を握らなくてもいい。誰かが誰かに銃を向けなくていい。戦争なんてしなくて済む、そんな世界が欲しいな」
「生真面目だな。もっとこう、遊びたいとか旅行に行ったりとか、友達と買い物に出かけたいとか、そういうのはないのか?」
呆れた声を出すカガリに、アスランは苦笑したが、それしか思いつかないんだ、と小さく答えた。戦争が終わった後の事、と聞かれて思ったのはもう二度と戦争なんて起きない未来が欲しい。これだった。
母を核の炎に焼かれ、同胞を同じ無慈悲な暴力から守ろうと軍に志願し、戦場で多くの地球連合の兵士を殺し、そしてキラと言う昔の親友と戦い、戦って戦ってお互いの友を殺しかけて。
その挙句に心の底から憎しみ合って親友同士でありながら殺しあって。
本当に、もうこんな事はごめんだ。自分だけじゃない。他の誰かが同じような悲劇に見舞われるのだって嫌だ。理屈じゃない。感情がそう言っている。つまり心だ。
誰かと誰か、ましてや顔見知りなのに殺し合うような事が起きるなんて、しかもそれが当たり前のように次々と起きる戦争なんて間違っている。
そんなもの、もうおれ達はたくさんだって、きっと誰もが思っている。だから、本当にこの戦争が終わったら平和な世界が来るといい。そして、できればそこで生き続けられたら、もっといい。アスランはそう思っていた。
「まあ、そんな所もおまえらしくて私は好きだけどな」
「カガリ、よくそう言う事を恥ずかしげもなく言えるな」
「あのな、私だって少しは恥ずかしいと思っているさ。でも仕方ないじゃないか、本当の事なんだから。お前はどうなんだよ! 私にばっかり言わせるな」
「いや、それはその、な?」
「なんだ、“な?”って。私はそんなんじゃ納得しないからな!」
「わかったよ。そうだな。久しぶりに会えたんだし、な」
日頃から大人びた言動の多いアスランには珍しくいたずらを仕掛ける幼い子供のような笑みが、端整な口の端に浮かんだ。自分の顔を見上げているカガリに向き合い、そっとその腰に両手を回した。
典雅な音楽のさざめくダンスホールで淑女を導く紳士の様に優雅に。幼い妹が迷子にならぬようにと体を寄せる兄の様に優しく。比翼の鳥のように、連理の枝のように寄り添うように、そっと、しかし、確かな愛しさを込めて。
不意を突かれたカガリは、小さく口を開いては閉じて困惑と羞恥と、抑えきれぬ喜びに頬を朱に染めていた。
うまく行ったな――いつもカガリに教えてもらうばかりで、励ましてもらうばかりで、それをどこか申し訳なく思っていたアスランは、思った以上に効果覿面だった事を如実に表すカガリの表情に、笑みを深くした。
抱きしめたカガリの体のぬくもりが、戦いの無常さに荒む心を慰めてくれる。このぬくもりを人が人に伝えられる限り、そして失わぬ限り、人はいつか争う事よりも共に寄り添って生きる事の大切さを理解する時が来る。それがとても自然な事のようにアスランには思えた。
こんなにも暖かい人間が命を奪いあう現実に立ち向かう勇気を、カガリが与えてくれる。
なんだ、結局カガリには元気づけられるばかりか、内心で苦笑するアスラン。腕の中のカガリは抵抗する素振りも見せず、安らぐように肩から力を抜いてアスランの胸に頭を預けた。
アスランがカガリのぬくもりに癒されたように、カガリもまたアスランの存在に心を安らかなものにしていた。
世界中の人々がこんな風に気持ちを伝えあう事が出来たのなら、とっくに人類は血で血を洗う争いの歴史と別れを告げているだろう。
この暖かさを持った人間が殺し合う世界。容易く引き金を引く事の出来る世界。あまりにも命の価値と意味が軽い世界。そう感じている自分たちもまた他者の命を奪っているこの世界。
瞼を閉じ、安らぎに心を委ねていたカガリが悲しげにつぶやいた。
「どうして戦争なんて起きるのかな」
「きっと、その本当の答えを誰も知らないからだよ。外交の手段としての戦争じゃない。もっと人間という生き物だけが抱えている罪深い何かが、戦争を起こすんだ。
起こす事を許してしまう。時には望んでさえしまう。でも、同じように戦争を止めたいと願う心だって人間にはある。
名前も顔も知らない誰かの苦しみや悲しみを共有する心もある。その辛さから助けてあげたいって、そう思う優しさだって持っている。おれは、そっちを信じるよ」
「うん、そうだな。私もそうだ。人間がもっと、ずっと良い生き物なんだって信じたい」
「ああ。だから、そんな未来を造る為にも、今は戦うしかない。それがどんなに愚かで悲しい選択肢だとしても、それ以外の道を見つけられなかったおれ達だから」
「うん。……なあ、アスラン、お前さえよかったらなんだけど。戦争が終わったらさ、オーブに来ないか?」
「おれがオーブに?」
「うん、やっぱりお前がその、私の傍にいてくれたら心強いし……。こんな事言うのは卑怯だけれどプラントに残ったらお前、かなり危険な立場だろう? 心配なんだ」
不安に揺れるカガリの声。そこに何よりも自分の事を案ずる思いやりが含まれている事に、アスランは不謹慎かなと思いつつも、無上の喜びを感じていた。
愛しく思う人に等しく思われているのだという何よりも確かな事実が、未来への迷いも最後の戦場へ向かう不安も、何もなせぬまま死ぬのではないかと言う恐怖も忘れさせてくれた。
「どうだろうな。おれがザフトの最高機密を奪い軍を脱走したという罪は重い。銃殺刑どころで済む問題じゃないからな。それに、おれは罰を受ける義務がある。この戦争で命を奪ってしまったおれには」
「……」
「でも」
「でも?」
「カガリには憶えていて欲しい。おれが、アスラン・ザラが誰よりも傍にいたいのは、そしていつまでも傍にいたいと願っているのは、君だって事を」
「アスラン」
「おれがどんな裁きを受けるかはわからない。でも、もしこの命を拾う事が出来たなら、おれは必ずカガリの所へ行くよ。カガリの隣がおれの居場所だ」
「……うん」
(そして、もしそれが許されるのなら、おれはアスラン・ザラを捨てる事も厭わない)
獅子の娘と獅子の名を持つ少年は、そうして生まれてきたかのように固く互いを抱きしめあった。
フリーダムのOS周りの微調整の為に、機体のコックピットに潜り込んでいたキラは、自分を呼ぶ声に顔を挙げた。キャットウォークに、ピンク色の連合の士官候補生の制服を纏った赤毛の少女がいた。フレイ・アルスターだ。
メンデルでの戦いの折に、ウォーダンの助力もあって、無事アークエンジェルへと“帰る”ことができた女の子。
そのフレイがキラを呼んでいた。今ではずいぶんと耳に馴染んだ声だった。遠くから見つめる事しかできなかった頃は、挨拶さえ碌にしたことも無い。
住んでいたヘリオポリスが崩壊し、キラの出自を知り、非日常だった戦争が日常となり父を目の前で失い、憎悪に駆られてキラを罵倒した声。
戦いに傷ついたキラを慰め、そして荒んだ心に表面だけを取り繕った安らぎを与え、フレイ自身を戦う理由に仕立て上げて、キラに戦場に立つ事を促した声。
なのに、やがてキラの優しさに頑な心を解きほぐし、想いやる言葉が偽りではなくなりつつあった声。もう二度と会えないと諦めていたのに、奇跡のようにまた出会えた声。
キラは少年らしい屈託のない笑みを浮かべながら、フレイの元へとフリーダムの装甲を蹴って飛び降りた。無重力の環境下ならではの芸当だ。水の中を泳ぐように緩やかにフレイの目の前まで軽々と飛翔し、フレイの差しのべた手を握って着地する。
小さくて柔らかなフレイの手。その手のぬくもりが自分の手を包み込む喜びにキラの心は満たされていた。キラもフレイも出会った頃とはだいぶ変わったのだろう。この戦争の大渦に巻き込まれてから過ごした日々は、善悪を問わず少年と少女に変化を促していた。
手の中の繊細な硝子細工の人形を扱うように、キラは優しい声でフレイに聞いた。重なっている手は淡雪のように溶けて消えてしまいそうなほどに儚く見えた。
「どうしたの、フレイ?」
「どうしたのって、私はキラが緊張してないかって心配になって。これから大きな戦いに行くんでしょう? だから、私、キラに何かしてあげられる事があったらって」
「そう、ぼくの事を心配してくれたんだね」
不安げに揺れるフレイの瞳に、キラはそんな事はないよと告げるように笑いかける。何ができるかはわからない、それでも何かしてあげる事が出来るならと、そう自分の事を気遣ってくれるフレイの思いやりが、なによりもキラにとっては嬉しかった。
復讐に利用する為ではなく、フレイが自分の事を純粋に案じてくれる。それだけでアークエンジェルに帰ってきた折に、サイにけじめとして一発殴らせた頬の痛みは十分にお釣りがきた。
今の自分とフレイの関係がどんなものなのか、キラには答えが無い。恋人は、違う。戦友も違う。仲間? それもどこか違う。なら友達だろうか。それが一番近い様な気もするが、やはりそれも違う。
頭に思い浮かぶ関係を表す言葉のどれもが、自分とフレイとの間を現すには不適切なものとしか思えなかった。
友達でもなく仲間でもなく恋人でもない。けど、決してよそよそしいわけでも冷め切っているわけでもない二人の関係。
曖昧な距離は、しかしどこか穏やかな時間を二人に約束し、キラとフレイは離れ離れになる前とはまた違ったお互いに、心地良さを感じていた。少なくとも互いを思いやって、優しさを向け合う事の出来る関係を拒む筈がなかった。
青い空の下、青い海の上でキラがフレイに告げた『ぼくたちは間違った』という言葉は、今の二人には当て嵌まらぬ言葉だろう。親しい友人と共に過ごすよりも穏やかで、家族と過ごすよりもどこか心が喜びを感じる不可思議な関係は、決して間違いなどではない。
キラは自分の手の中のフレイの指に自分の指をからめた。少しだけ、自分の心に正直になろうと、キラはごくごく当たり前の少年のように考えていた。
一年前後の期間の間に死を見過ぎ、戦争の負の面を知りすぎた少年は、しばらくぶりにごく平凡な少年である事を、自分に許していた。今だけは自分が犯した罪も奪った命への罪悪感も、贖罪への義務感も、キラの心からその姿を消していた。
たとえ誰であろうともそれ位は許すだろう。肩を並べるキラとフレイの二人は、どこにでもいる普通の子供にしか見えなかった。
「壊れて行くヘリオポリスからフレイの乗っていた救命ポッドを拾ってから、もう一年以上経ったんだよね。すごく長かった気もするし、あっという間だったっていう気もする」
「……うん」
キラにしたこと、キラに与えてもらったもの、キラから奪ったもの、キラに与えたもの。共に過ごした時間の記憶が、刹那の間、洪水のようにフレイの心に光と影のダンスの様に浮かんでは消え、消えては浮かんだ。
思い返してみれば、沢山の事を知らず知ろうとせず、自分の周りしか見えていなかった。そのせいでキラを傷つけ、サイを傷つけ、自分自身も傷つけた。いつかキラが言ったように、自分達は――自分は間違ったのだと今は分かる。
そして、それに気づけた事、またこうしてキラと会えた事が、とても幸福な事だとはっきりと分かる。笑顔を浮かべフレイを見つめるキラに、フレイはどこか不思議そうな色を浮かべ、気づいた時にはこう聞いていた。
「キラは――」
「なに?」
「どうして、そんなに私に優しくしてくれるの? 私、貴方にたくさんひどい事をしてそれを謝りたいってずっと思って、謝ってからも、申し訳ない気持ちが消えなくて。なのに、キラは私を責めたりもしないで、そうやって穏やかに笑いかけてくれる。キラは優しいわ。
でも、どうして私なんかにそんなに……」
「フレイ、ぼくは君の事を嫌ってなんかないよ。憎んでも無い。確かにぼく達は間違ったって言った事もあるけれど、あの時のぼくがきみに救ってもらったのは本当の事なんだ。
ぼくにしかできないからって、ぼくがコーディネイターで、そうする力があるからって、仕方のない事だったけどそうして流されるままに戦っていたぼくが、安らげたのはフレイの隣だった。これは本当の事」
優しい優しい、慈しむようなキラの言葉。嘘偽りではないと分かるその言葉はフレイの心の中に沁み込んで、負い目と悔恨に縛られ自分自身を苛む心に確かな喜びを感じさせてくれる。
でもあんなにキラを傷つけた自分が、こんなに優しくしてもらえる事が嘘みたいで、現実とは思えなくて、どうしてもフレイは悲しみに似た後ろめたさの翳に囚われてしまう。
一つ年下のフレイの幼さを残す美貌に浮かんだ翳に気づいたキラは、メンデルで再開してからふとした折に顔を出すフレイの翳にずいぶんと前から気付いていたが、今でもそれを払拭する事が出来ない悔しさに臍を噛む思いだった。
フレイにはそんな顔をして欲しくない。それは紛れもないキラの本心。だって、フレイは――
「ねえ、フレイ。ぼくはね、この戦争が終わったら君に伝えたい事があったんだ」
「私に? 何、私、キラの言う事なら何でも聞くから」
「うん、でも、何でも聞いてもらうとちょっと困るって言うか、こればっかりはフレイの意思で答えて欲しい事なんだけど。というか本当は戦争が終わったらって思ってたんだけど、やっぱり今言う事にするよ」
「ええ、何でも言って」
どこか遠まわしな、というか生来の優柔不断さが顔を覗かせたキラの言葉にも、フレイはやや後ろ向きな想いを原動力に、自分にできる事ならなんでもしてあげたいと答えてしまう。
罪の意識に後押しされたフレイの心は、それこそキラが望んでいないものなのだとフレイ自身が気付けずにいた。
キラと手を繋いでいない手で小さく握り拳を造りたわわな胸元まで持ち上げ、フレイは真摯さを疑う余地も無い顔でキラの顔を上目使いに見た。
まいったな、とキラは内心で苦笑しながら、こんな顔をするから今言いたくなってしまうんだと、砂糖菓子の様に甘い愚痴を零す。
かすかに頬に朱を昇らせて、キラは一度息を浅く吸ってから言った。
「ぼくはフレイの事が好きです。一人の女の子として愛しています。フレイがもし嫌じゃないって言うのならぼくと恋人になってください」
「…………」
「フレイ? フレイさん? ………………あははは、やっぱり突然だったかな? あの、でも今しか言うタイミングないかなってさ、あの、フレイ?」
「…………」
小さく口を開け、キラの告白に何の反応も起こさないフレイを前に、キラは次第にこれが歴戦の戦士、人類の夢スーパーコーディネイターか、と呆れてしまうような慌てぶりになり、やっぱり言うんじゃなかったかなと、年相応の少年らしいヘタれぶりを垣間見せ始めた。
思えばはっきりと異性に対して恋愛感情を露呈し、告白するなど初めての経験である。これまでの関係が関係だけに、少なくとも嫌われてはいないくらいの自信はあったのだが、こうも反応が無いと不安が胸の中で大きくとぐろを巻きはじめる。
「あ、あのフレイさん? ご、ごめん。そうだよね、ぼくとなんか恋人になるなんて嫌だよね。ごめんね、こんな大変な時にッ!?」
冬の枯れ葉見たいに見ていて悲しくなるくらいにしょぼくれたキラは、唐突に抱きついてきたフレイに言葉を遮られた。ふわりと、フレイの抱擁の勢いに押され、二人の体が無重力に舞う。背に回されたフレイの小さな手が、ぎゅっとキラの軍服を握りしめていた。
手のひらの中の大切な宝物を落とすまいとする小さな子供のように強く、固く。
フレイ? そう問いかけようとして、キラはフレイの肩が小さく震えている事に気づいた。はっとそれに気づけばかすかにフレイの嗚咽も聞こえてきた。小鳥の囀りの様に小さな、けれどキラが生き逃すはずがない想い人の声。
ぼくの所為なのかなと、キラはやはりと言うべきか冷静になどいられず、真珠の様になって浮かび上がるフレイの涙に心の平静を失っていた。フレイを泣かせるつもりなんてなかったのに。
泣くほど嫌だったのかと衝撃を受け傷つく自分の心よりも、フレイが泣いているという事実の方が圧倒的な破壊力でキラの理性の堤防を押し流し圧壊させていた。
フレイの体を抱きしめ返す事も出来ずにきょろきょろと周囲に救いを求めて視線を彷徨わすキラの耳に、今度は嗚咽以外のフレイの言葉が届いた。ただし内容はなかなか辛辣だった。
「バカ、キラの馬鹿。バカバカバカバカバカ! 宇宙一の馬鹿! 大馬鹿よ!!」
「え、あ、う。……馬鹿でごめんなさい」
「うぅ……ほんとうに、どうして、そんな事いうのよぅ。キラに、ひどいこと言って、利用しようとして、たくさん傷つけたの、私なのよ? なのに、どうして、そんな事……うっく、ひぅ」
「ごめん。本当にごめん。でもどうしようもないんだよ。ひどい事を言われた。利用されもした。傷つけられもした。そうかもしれないけど、それでもぼくは君が好き。君が泣いているのならその涙を止めたい。
君が悲しみに沈んでいるのならその悲しみを笑顔に変えてあげたい。君が誰かに傷つけられようとしているのならぼくは君の盾になって守ってあげたいんだ。
全部、フレイの事が好きだからなんだ。たぶん、誰かを好きになるって理屈じゃないんだ。好きになろうとして好きになるんじゃなくって、好きになってから気付く事だから」
「どうして、そんなに私が、言って欲しい事を言ってくれるの? こんなに私を喜ばせてどうするのよう。私、キラの事好きになっちゃいけないって、そんな資格は私には無いってどれだけ考えたと思っているのよ。
なのに、それなのに、キラの方からそんな風に言ってくれたら、私……」
「そんな風に誰かを好きなっちゃいけないなんて誰も決めてないよ。もしいるとしても、それはきっとその人自身だよ。フレイみたいに自分は誰かを好きになっちゃいけない、誰かに好きになってもらっちゃいけないって。
でもそんな事、本当は全然無いんだ。だから、ぼくは君に伝えたんだ。ぼくがたくさん傷つけて、ぼくにたくさん安らぎをくれて、ぼくが守りたくて、ぼくを守ってくれた君に、好きだって事」
「うん、うん!」
「あの、ところでフレイ、その……」
「……なぁに?」
「あの、ぼくの告白ってオッケーをもらったって思ってもいいのかな?」
ここまできておいてどこか不安げに聞いてくるキラが、もどかしく、それでいてキラらしいと思わず吹き出しそうになって、フレイは思い切り抱きしめていたキラの体から少しだけ体を離す。涙にぬれるフレイの瞳に、不安げに瞳を揺らすキラの顔が映った。
――キラって時々すごく子供になるわよね。
それさえ愛しく感じられるのは愛情という色眼鏡を掛けているからだろうか。フレイは精一杯微笑んでから、諭すように囁き、
「これでオッケーじゃないなんて、世界中の誰だって思わないわ」
喜びに笑顔を浮かべようとするキラの唇に、自分の唇を重ねた。不意を突かれたキラの瞳が激しく揺れた。優しく重ねるだけのキス。花びらと花びらを重ね合わせる様に淡い感触。それでも確かに伝わるぬくもりと、愛しさ。
「これでも、まだ足りない?」
眼の端に涙を浮かべつつ、世界の誰よりも奇麗だとキラが思う笑みを浮かべるフレイ。キラは全身に広がるこの上ない喜びと目の前の少女に対する愛しさを多くの言葉よりも一つの行動で表す事を選んだ。
「少しだけ足りないから、ぼくも伝え直すよ」
あ、と零れ出た小さなフレイの声を呑みこむようにして、キラの唇がフレイの唇を塞いだ。
ようやく番を見つける事が出来た喜びに翼を休めて寄り添う鳥達の様に優しく、長い時を経て蕾を開かせた花を慈しむ太陽の様なぬくもりと共に、二人は眼を瞑り重ね合わせた唇から伝わるお互いのぬくもりと愛しさに心と身を委ねた。
イズモ級スサノオの艦橋で、懐から取り出した懐中時計を見つめていたダイテツがそっと蓋を閉じて、艦橋のメインディスプレイに、年老いてなお刃のように鋭い迫力を持つ瞳を向ける。
胸元を飾る旧オーブの勲章の数が、ダイテツのこれまでの人生が過酷なものであり、その全てを乗り越えてきた男である事を表していた。家柄や権力などではなく、自分自身の才覚のみを頼りに上り詰めた男なのだ。
そして時にはそれを捨ててでも選ばねばならぬ道がある事も知っていた。だからこそ、ここにいるのだ。
胸元を飾る勲章が虚飾の意味合いを強くしている事は理解していたが、自分が生まれ、育った国を誇る気持ちは燻ってはいない。実の孫娘よりは年長だが見ていて危なっかしい所の目立つ国家元首に付き合う馬鹿が一人くらいいても悪くはないだろう。
軍人として、また一人の人間として故国を愛する気持ちと、祖父として孫の生きる世界が争いの無い平和なものであってほしいと願う気持ちがこの道を行く事を選ばせていた。
時が来た。この年老いた身が選んだ新たな道のひとまずの折り返し地点が目に見えてきた。プラント本国を守ろうとするザフト、宇宙における戦力の大多数を投じた地球連合。勝敗の天秤がどちらに傾くにせよ、多くの命が失われ、地球圏に生きる者の未来を占う戦いだ。
これが最後にはなるまい。ナチュラルとコーディネイターとは、両者が存在する限りにおいて永劫に争い続ける存在なのかもしれない。そもそもそんな新しい区別が生まれる以前から、人類は争う事を止められずにいるのだ。手に入れられるのは一時の平和だけだろう。
年を重ねるたびに澱のように心の底に降り積もっていた“現実”という名の苦味が、一種の諦観を伴ってダイテツに感傷を忍ばせたが、未来ある若者たちの顔がその重い諦観をどこかへと追いやっていた。
自分の様な老人は、後に続く若者たちの礎となるのが最後の役目だろう。そう心の中で呟く。
「ダイテツ艦長、そろそろ時間ですな」
ダイテツと長い間船の上で同じ時を過ごしてきた副長ショーン・ウェブリーがいつもと変わらぬ、ちょっと散歩に出かけるような調子で呟いた。
ユーモアとセクシャルなコミュニケーションを欠かさぬが、常に冷静沈着な視点を保つ有能な副長の瞳は外界に浮かぶ星のきらめきを映していた。
ひょっとしたら、争いなど忘れてこの星の海で航海し続ける事が出来たらどんなによいのかと、感傷に浸っていかもしれない。
年老いた船乗りは陸の上よりも海の上での死を渇望する。青い海の船乗りも星の海の船乗りも、その心は同じなのかもしれなかった。
ダイテツはスサノオのブリッジクルー達の顔を瞼に焼き付ける様にゆっくりと見渡した。自分の子供ほどの年齢の者もいる。まだ二十代の若者もいる。これから先数十年を数える日々が待っている者たちだ。
誰も死なせたくないものだな。初めて自分の船の艦長席に腰をおろしてからいつも思っていた事が、やはり、今回も胸の中に去来した。その思いを実現できるように努力し、学習し、経験し、実践してきたがそれでも力及ばずに、クルーの死を前にした事もある。
それを繰り返すうちに、心のどこかで可能な限り死人を少なくできれば、と諦めと同じ意味を持つ考えが芽生えていたのは隠しようもない事実であったかもしれない。
だが、今は、そんな諦めなどダイテツは自分の心の中に塵芥ほどもある事を許してはいなかった。
「では行くか、ショーン。若者たちの未来への礎になりに、老骨の意地を見せにな」
「左様ですな。しかしどうせならもっと老いさらばえたいものです。それに老人には若者たちの未来を見守るという最高の生き甲斐が残っていますからな。艦長もお孫さんの花嫁姿を見るまでは死んでも死にきれんでしょうし」
「ふふ、それもそうだな。ならば改めてこう言おう。行くぞ、より良き未来を手に入れる為に出航の時だ」
「それならばお供いたしますぞ。生きて戻ったらとっておきのワインで乾杯と行きましょう」
「ならわしも秘蔵の大吟醸を出すとしよう」
荒ぶる神の名を持つ船の上で和やかに交わされる歴戦の勇士のやりとりに、スサノオのブリッジクルー達は肩に重くのしかかっていた重圧が和らぐのを感じていた。
プラントへの航路を一心に進むノバラノソノ艦隊総数三十八隻あまり、戦闘可能な機動兵器の総数はのべ百十二機。プラント出身の者達はエンジンを臨界まで稼働させたい衝動を、到着後の戦闘に備えてかろうじて抑えていた。
コーディネイターもナチュラルも、彼らの乗るすべての船が今大戦最大規模の戦場を目指す。
より良い未来で生きる為にか? それとも他の誰かの未来の為に死にに行くのか? 誰の為、自分の為、世界の為、未来の為、死んでいった者達の為、二度と戻らぬ過去の為。口に乗せられる〜〜の為という言葉の全てが白々しく虚しい。
他者の命を奪い、未来を奪い、可能性を奪い、想いを拒絶し、今を拒絶し、そうする事でしか自分達の未来をつかめぬ愚かなイキモノ。コーディネイターもナチュラルも皆等しく愚かだ。醜いだろう。汚らしいだろう。存在している事自体が何かの過ちだと思うだろう。
けれど、本当に人間がその程度でしかない生き物ならば、どうして人間はここまで歴史を刻む事が出来た? なぜ百年の昔、千年の昔、万年の昔に滅びずにここまで来れたのだ? 自らを滅ぼすほどには愚かではないから?
それとも数千、数万という月日を重ね人はより良い生き物へと変わりつつあるのか?
それとも年月を重ねるごとにより愚かな生き物と成り果ててこの時代でその歴史に幕を引くのか?
神ならぬ、人でしかない人間には答える術はあるまい。ひょっとしたら、その答えが得られる日の為に人間は生き続けているのだろうか? 自分達が本当に存在しても良い生き物なのかどうかどこかの誰かに、あるいは他ならぬ自分達自身に答えを与えられるまで。
いつからか自分の胸の中で閉ざされた円環の様に終わる事無く繰り返されている問答に、ラクス・クラインは凛然と繕った白い美貌に、薄い硝子を被せた様な疲れの翳を落とした。
ナチュラル、コーディネイター、遺伝子操作、禁忌の技術、神の領域への冒涜、自然ならざる不自然な存在。
肌の色・宗教・経済・歴史・人種・国境・貧困・富、数えればきりの無い戦争の理由にまた新たに加えられた自分達という存在は、それ自体が始まりのヒトが犯した原罪にも等しいのではないだろうか。
在る事自体がヒトの罪なのだと、不意にラクスは想い、それを否定する。
わたくしたちもまた所詮は人間。迷い、恐れ、怯え、過ちを犯し、取り返しのつかぬ事をしてしまう罪深い存在。けれど、誰かを思いやり、慈しみ、愛し、番い、子を成し、未来と過去を造る事が出来る。わたくしは、そちらを信じましょう。
誰にも明かした事の無い胸中の想いをしまいこみ、ラクスは小ぶりな造作の唇を動かした。ダイテツ同様に古めかしい懐中時計で時刻を確認していたバルトフェルドと、砲撃手の席に座りこんでいたアイシャが歌姫を振り返った。
人の善きある事を信じ、愚かである事に悲しむ少女は、悲しみの海の底で祈る乙女の様に、清らかに美しかった。
「平和を叫びながら、その手に銃を取る――それもまた悪しき選択なのかもしれません」
振り返っていたバルトフェルドとアイシャが、ラクスのささやきを耳にしながら、前方へと振り返る。平和を望み、しかしそれを成すために武力を振るう。戦いを終わらせる為に戦う。その戦いがまた新たな憎しみと火種を生み、戦いの輪を広げる。
政治は戦争に終わりを齎す。だが政治は人の心に宿った憎悪に終わりを齎さない。戦争と言う行為が終わってもその爪痕は長く長く人々の心に傷を残す。
例えそれが実際に戦争を体験したわけでもない新たな命達であっても、古い命は新しい命に歴史が育んだ憎悪という呪いを、祝福として与える。
プラントのコーディネイターとナチュラルの今回の戦争は、長く両者の間に遺恨となって残るだろう。
ナチュラルは宇宙から災いの如く降りかかってきたエイプリールクライシスの悲劇と、各地でおきた戦争行為で失った親しき者達への喪失感とそれを埋める事叶わぬ怒りと憎悪の故に。
コーディネイターは自分達を不当に差別し、理不尽な要求を突きつけ、多くの同胞を奪った核の炎を解き放ったナチュラルの行為に。
「――でも、どうか今……」
祈る。誰に、いや、何に? 神という存在があるのならかくも愚かしく人間を造りはしないだろう。蛇にかどわかされて禁断の果実を食し、楽園を追われた罪の故に愚かであるというのなら、なぜ神は人の愚かさを正さない?
神が人を正す事も裁く事も許す事も許さない事もしないというのなら、そして人が罪を持って生まれてくるというのならば、その罪を許し、正し、購うのもまた人間であるだろう。
だから、ラクスは神には祈らず、人間に祈る。自分自身もまだ大罪を犯した罪人であると知っているから。
「……この果ての無い憎悪の連鎖を断ち切る力を……!」
ラクス・クラインは知っている。断ちきった憎悪の連鎖は、あまりにも簡単に新たな憎悪によって再び繋がる事を。自分達は、これ以上ないほどに虚しい事に命を賭けているのだと、心のどこかで囁く自分の声が、ひどく疲れている事に、ラクスはずいぶんと昔から気付いていた。
それに気付かぬ振りをする事にも随分と慣れたが、新たに生まれいずることを止めぬ疲労は、静かに絶望と虚無感に変わりつつあった。
<ザフトの勇敢なる兵士達よ! 今こそ、その力を示せ! ヤツらに思い知らせてやるのだ! ――この世界の新たな担い手が誰かという事を――!>
画面の端で声高らかにザフトの兵士達を威武する、銀髪の女性、プラント最高評議会議員エザリア・ジュールの演説が流れるマハトの艦橋に一人の青年が足を踏み入れた。
すでに戦端が開かれ、各艦艇やザフトからも通信がひっきりなしにかわされ、マハトの艦橋は沸き立つような慌ただしさに満ちていた。
副官リリー・ユンカースと共に、迅速かつ的確な指示を伝えながら、DC宇宙軍総司令マイヤー・V・ブランシュタインは、青年を一瞥し、すぐにまた戦況を伝えるモニターとリリーの報告に耳を傾けた。
青年の身を装うのは足首まで届く長い丈の白衣を模したロングコート。しなやかな長身は風にかすかに揺れる柳の木を思わせた。ただし、いかなる暴風雨の只中にあっても平然としているこの世ならぬ樹木だ。加えて妖しく美しくあった。
高貴を表す紫の色に彩られた髪も、その下にある典雅な顔立ちも、申し分なく美しいといえる。そしてそれらすべてに闇の暗さに似た輝きを与えている、青年の精神が体のいかなる部位よりも妖しく魔性の香を醸し出していた。
何物にも束縛されぬ自由を欲し、そうあろうと願うが故に自由に縛られた青年――シュウ・シラカワ。
招かれた異世界の死人達と違い、このC.E.世界に招かれた死人の手によって蘇った青年。死者によって蘇生させられた死者は常に浮かべている、在るか無きかの微笑に侮蔑の色を混ぜてモニターに映るエザリアを見つめた。
いつも肩にとまっている使い魔のチカは、今はグランゾンのコックピットの中で待機させている。
「新たな担い手を自称しますか。個人的には分不相応な、と言わせてもらいたい所ですね。……お加減はいかがです? ビアン総帥」
「シュウか。こうしてただ座している分にはなんの問題も無い。手持無沙汰でな、すこし参っておった所よ。所詮技術畑の人間の私には艦隊の指揮など出来ぬしな」
「そうですか」
オブザーバー席に腰を下ろすビアンの横に並び立ち、盗み見たビアンの顔色にシュウはかすかに美眉を寄せた。ビアン自身が言うほどに彼の体が回復しているわけではない事を察したからだ。
「総帥お一人の体ではないのですから、ご自愛されますように」
「ふ、お前にそんな事を言われる日が来るとはな」
少しなりともシュウの邪神ヴォルクルスに操られていた頃の人となりを知る者なら、目の玉を剥きかねぬシュウの声であった。冬から春へと移ろいつつある事が分かる風の様な声だった。声をかける相手に対する労わりの心がこもっているのだ。
心の優しい少年だった頃のシュウを知る者ならともかく、多くの者達――特にマサキなどは、シュウの野郎、拾い食いでもしたのかとか、頭でも打ったのかとか、空から槍が振ってくると言い出してもおかしくはないだろう。
ビアンはそれに驚いた風もなく、かすかに微笑しただけだった。シュウがかつてDCに協力していたのは、ビアンの思想に惹かれたという以上にビアンのこんな所も理由だったのかもしれない。
「それで戦況の方はどうなっていますか? まださして大きくは動いていないように見えますが」
シュウの問いに答えたのは、ビアンの傍らに立つ長身美躯の黒き衣を纏った美女――ロンド・ミナ・サハク。シュウの訪問にも嫌な顔一つせず、DC副総帥として、また一個人としてもビアンの傍らにいる事を選んでいた。
手元に招き寄せた3Dディスプレイに刻一刻と移り変わる戦況を映し出し、同じものをシュウの手元にも展開させる。淡々と事実を告げる口調で、ミナが現状をかいつまんで説明し始めた。
「MSの性能は概ね同等。士気も両軍共に高い。負ければ本国の守りを失うザフトと勝てば戦争を終わらせられる地球連合、共に奮起するには十分であろうよ。ただし、どちらも奥の手は切らずにいる。
連合はアズライガーを出していない。ザフトもWRXを出していない。この場合、連合の方が有利ではあるだろう。同じWRXに、圧倒的な物量、量産タイプの特機まで保有している。加えてニュートロン・ジャマー・キャンセラーを手に入れた以上、核の使用もあるだろう」
「仮に核兵器が使用可能だとして、連合は撃つと思いますか? ミナ副総帥」
「撃つだろうな。ボアズでの戦闘で地球連合の切り札がアズライガーだと散々に印象付けられているし、ボアズが艦隊と機動兵器のみにとって落ちたという事実もある。なにより、まさか再び核を使うとは、とプラントの者達が無意識の内に思い込んでもいる。
最大のジョーカーを切る最高のタイミングだろう。国防委員長も兼任しているパトリック・ザラやザフトの上層部がどこまで読めているかにもよるがな」
「では、DCはどうするのです? 核融合ジェネレーターやTC−OS、マグネットコーティングやリニアシート、全天周囲モニターにテスラ・ドライブと、DCの開発した量産機でさえザフトの核動力機を上回る性能です。加えて二つのウルブズの超戦力。
真正の魔装機神に匹敵するA級魔装機二機に、超魔装機二機、ブラックホールエンジン搭載型PTヒュッケバイン、その他の機体もこの戦場でトップクラスの高性能機揃い。パイロットもそれに見合うエースクラスのみという編成。
NJCを持たず、核分裂関連の技術を使えぬ不利を補って余りあるのではないですか?」
「目下、スペースノア級二隻を中核とした艦隊で連合の左翼に展開した艦隊と交戦中だ。とりあえず任されたエリアに連合の艦隊の侵攻は許しておらぬ」
「なるほど」
様子見ですか、とそう口の中で口から出ようとした言葉を噛み殺し、シュウはメインディスプレイに眼を移した。ともすれば、手を出さぬと決めたはずなのにグランゾンでDCへ助力しようかと考えている自分に気づいたからだ。
支援
天に支援、地に懇願
猿?
ビアンはミナとシュウのやり取りを聞きつつも、どこか遠くを見つめるような眼差しを、一瞬だけ虚空の彼方にあるプラント本国へと向けた。銀色の砂時計に似たあの作り物の世界で眠る少年の事が、頭をよぎったからだ。
傷つき、目も当てられぬほどに病み衰えた病人と見えたシン・アスカ。生きている事自体が奇跡だと言われた少年。どうして死んでいないのか分からないと言われた少年。この自分が戦禍へと招きこんでしまった少年。いつの間にか戦士として逞しく成長していた少年。
翼の折れた鳥のように力無く倒れた少年が、しかし、より力強く羽ばたく時が来るのを、ビアンは心の片隅で確信していた。
「信じているぞ、シン。お前が再び立ち上がる時を」
そしてそれが悲しかった。まだ十代半ばほどの、実の娘リューネよりも幼い少年に戦場を体験させ、戦士として成長させてしまった事が。
シンは再び傷つく事を顧みずに人間の最も愚かな面が作り出す、この戦争という悲劇にして喜劇の舞台に自らの意思で立つと、確信していたから。信頼と申し訳なさと、相反する感情を抱きながら、ビアンは加速する戦場の様相をその瞳に映していた。
「これで、五十機目?」
目の前でオクスタンライフルのEモードによって一掃した三機のストライクダガーが爆散する様を認め、レオナは玉の汗を結び始めた白い美貌にかすかに疲労の翳を差し込ませた。ウルブズでエースと認められる撃墜スコア五十機をクリアした達成感は微塵もなかった。
それよりもひっきりなしにモニターとNJの影響でおそまつなレーダーが捕らえる、新たな敵影に心と体に疲弊を強制されている。
ジャン・キャリーのヒュッケバインMk−U、アルベロのビルトシュバインと共に愛機であるガームリオン・カスタム・ラーの三機編成で、波濤の如く迫りくる地球連合の大軍を相手にしてどれだけの時間が過ぎたのか、憶えていない。
引き金に添えた指がかすかに麻痺し始めていることからして、長時間に及んでいるのは確かだった。
スティング・アウル・ステラ、ユウ・カーラ・ゼオルートと、クライ・ウルブズのメンバーが三機編成の小隊を三つ作り、ローテーションを組んで補給と休憩を挟みつつ戦闘を繰り広げている。
「レオナ、おまたせ! あたしたちが変わるから今の内に補給にいっといで!」
勢いよくランドグリーズ・レイブンと共に姿を見せたカーラの姿に、かすかにレオナは口の端に微笑を浮かべた。カーラとて疲労に細胞を浸しているだろうに、こちらを元気づけるような明るい声と笑みを浮かべている。
どこか羨ましくも感じられる素直な明るさと活力が、レオナに力を与えてくれる。
カーラと共に出撃したユウのラーズアングリフ・レイブンとゼオルートのM1カスタム(前回のベルゼボ戦で修理不可として破棄されたため、二機目となる)が、前に出て群がるダガーLと相対する。
空になったカートリッジを排出し、最後の予備弾倉をオクスタンライフルに叩きこみ、銃身が過熱したグラビトン・ランチャーを腰裏にマウントしたビルトシュバインと、純白のヒュッケバインMk−Uが、レオナのラーの両脇を固めた。
両機とも機体そのものに大きな損傷はないが、携行していた弾薬はほとんど撃ち尽くし、装甲のあちこちが焼け焦げている。トップエースクラスの腕前の二人が、最高クラスの機体に乗っても無傷ではいられぬ苛烈な戦場だ。
時が経てば経つほど連合の攻勢は勢いを増し、こちらには被害と疲労が増してゆくだろう。
「レオナ、ジャン、状況を報告しろ」
「損傷は軽微、戦闘継続に問題はない。と言いたい所だがチャクラムシューターのワイヤーが切れた。オクスタンライフルも銃身が熱を持っている。銃身が歪んでいるかもしれない」
「Eパックと弾倉の残数が共に一です。左脚部の推進機関をやられましたが、機動に問題はありません」
「……タマハガネに戻るぞ。殿はおれが務める。ピクニックから帰れると思って下らん油断などするなよ!」
「ふ、まだまだ先は長そうだからな。安堵の息は吐けそうにないな」
そう笑うジャンの顔にも、幾筋も汗が流れていた。一瞬でも気を抜けば四方八方から降り注ぐビームに撃ち抜かれる極限状態が続き、戦争初期からMS戦を経験していたこの男も、流石に体力的な限界に、浮かべた笑みに力はなかった。
コーディネイターとはいえすでに四十代に差し掛かった肉体には厳しいものがあるだろう。そも、彼は最初から職業軍人ではなかったのだ。
一方でアルベロはシンとグルンガスト飛鳥の不在の影響が色濃く響いている事実に表情を険しくしていた。シン単独でウルブズの一個小隊に匹敵する働きをしてみせるほどにあの少年は成長していた。
それに誰から見てもあぶなっかしくて、そそっかしいシンが戦場で奮闘している様は、自分達がシンの前で無様な所は見せられないと、全員の胸に思わせる力があった。
その存在がいなくなって初めて、クライ・ウルブズにとってシン・アスカが戦力的にも精神的にも大きな役割を果たしていたのだと、ここにいたり気付く。
「ふん、シンの奴め。初めて会った時は普通の子供だったが、今では一端の戦士だな」
にやりと針金を植え付けたような顎髭をゆがめ、アルベロは笑みを浮かべた。実子フィリオや元いた世界のヒューゴらを鍛えていた頃と同じ気分だった。これから芽吹く素質と成長の様が楽しみで仕方がない。そう思わせるもの。
指導し鍛える側を期待させる資質というものを、シン・アスカは持っているのだ。
かすむ眼を強く閉じて潤いを与え、レオナは遠くに見えるタマハガネを目指してラーを進ませる。二隻のスペースノア級を中心にローラシア級やネルソン級戦艦が並び立ち、その脇をドレイク級駆逐艦が固めている。
どの艦艇もひっきりなしに砲塔や砲門を働かせ、ビーム、ミサイル、実体弾、アンチビーム爆雷をはじめとした特殊弾頭が次々と放たれている。
タマハガネへ着艦しようと速度を緩めるレオナのラーを、不意に一条のビームが襲った。いかなるエースであろうと、それこそ相手の殺気を知覚できるパイロットであろうとも回避不可能な一撃――すなわち流れ弾であった。
レオナではない誰かを狙って放たれた敵軍が友軍のものかさえ分からないビームは、完全に無防備なラーの背中のバックパックめがけて突き刺さらんとし、ラーよりもはるかに巨大な紅の巨人に阻まれた。
「タスク!?」
「油断大敵火がボーボーってね。さあさ、レオナちゃんはしっかりとおれが守るから、はやく休んどいで」
「……ふぅ、そうね。今回ばかりは貴方に助けられたわ。ありがとう」
「どういたしまして! このタスク・シングウジ、レオナちゃんの為なら例え火の中、水の中、生身一貫でMSにも突撃してみせるぜ!」
「あら、ならその言葉が本当かどうか、私への愛に誓って実行してみてくれるかしら?」
「え゛」
「ふふ、冗談よ。タスクこそ、変に調子に乗るのではなくてよ」
「了っ解!! 安心しな、レオナちゃんが乗っている以上、タマハガネはこのおれとジガンスクードがなにがなんでも守り抜いて見せるぜ!」
ジガンスクードとヴァイクルの二機のスーパーロボットを操るタスクとテンザンは、タスクがタマハガネ・アカハガネと共に僚艦の護衛と、補給に戻った友軍のガードを務め、テンザンは独自の判断で地球連合の部隊の邀撃を任されていた。
ヴァイクルの装備が多対一において途方もない性能を発揮する事と、その性能故に他の機動兵器と連携が組みにくい事、さらにテンザン自身の実力を考慮しての判断だった。
アカハガネから出撃した各魔装機部隊も、ヴィガジ・アギーハ・シカログ、マサキ・テューディ・リカルドが小隊編成を組んで迫りくる敵機を無敵に等しい壁となって迎え撃っている。
オールトのブローウェルカスタムに乗ったオールトは、友軍のガームリオン・カスタムやエムリオンと共にウルブズの母艦の直衛についている。
ほぼいつもどおりのフォーメーションと言えるだろう。
Eフィールド展開による友軍艦の防御を行う特装艦に改装されたドレイク級の配備が間に合った事もあり、DC側の艦艇の喪失は他の二軍に比べて驚くほど低い。
見渡す限りに展開している地球連合の部隊が、スペースノア級二隻を目下の最優先目標として定め、戦力を集中させている事もあるだろう。
現在に至るまで二つのウルブズはこれまでに築きあげた勇名に相応しい戦果を挙げていたが、狼の首を欲する無数の敵との絶え間ない戦闘は、少しずつ彼らから戦う力を薄く薄く、冷たいナイフで生皮を剥がす様に削ぎ殺していた。
アウルの乗るナイトガーリオンがブレイクフィールドを展開し、主武装であるインパクトランスを構え、一番槍の栄誉を求める巨馬に跨った中世の騎士の如く敵陣に突撃を敢行し、二機のダガーLが、回避が間に合わずに直撃を受け、盾に串刺しにされて爆発する。
振り返った時には既に遠方へと加速して離れているナイトガーリオン目掛け、残る二機のダガーLがビームカービンを向けるも、周囲に輝線を幾重にも描いた黄金の小型自律誘導砲台の放ったビームに貫かれてあえなく撃墜される。
支援
シェーン!Tバーック!!
アウルと同小隊に配属されたスティングの駆る金色のMS、夜明けを意味する言葉を名前とするアカツキだ。
三百六十度全方向に対する極めて高い同時空間把握の広い視野と、判断力が要求される空間認識能力が認められ、遠隔操作兵器を搭載している。
またオーブの技術の粋によって装甲に命中したビームをそのまま相手に反射して撃ち返すという常識外れの装甲ヤタノカガミを持つ超高性能MSだ。
アウル、ステラに比べて理知的で状況の判断能力や適応能力の高さを認められ、スティングが小隊長を務めている。とはいっても特に指示などは出さず、好きにアウルとステラを暴れさせて、危なっかしくなったら自分がフォローを入れるという程度の事しかしていない。
アウルのナイトガーリオンも純正のアーマード・モジュールという事もあって高性能だが、それ以上にステラの駆る暗黒の子宮を動力源とするヒュッケバインの性能が頭一つも二つも飛び抜けている事も理由の一つだ。
アウルとの連携でさらに三機のストライクダガーを屠ったスティングは素早くコンソールとレーダーを見渡し、ステラの位置を確認、戦闘状況を把握する。
105ダガーとダガーLの小隊と激突していたようだが、八連装ミサイルランチャーでダガーL、ついでロシュセイバーで二機目のダガーLを撃墜し、怯んだ105ダガーをリープスラッシャーで八つ裂きにして、あっという間に敵を撃墜していた。
最大火器であるブラックホールキャノンの長砲身を腰にマウントし、右手にはオクスタンライフルを持たせていた。後はヒュッケバインの標準装備である60mmバルカンや八連装ミサイルランチャー、リープスラッシャー、ロシュセイバー、マイクロミサイルとなっている。
通信越しに、息一つ乱しいていないステラの顔を認め、スティングは安堵の息を吐いた。どうやら今のところ、ステラの精神は安定しているようだ。
アウルはやや興奮気味だったが、戦闘直前でのブリーフィングルームである程度リラックスできていたようだから、まださほど心配しなくていいだろう。
一旦、三機とも集結し、周囲の友軍の状況を確認するためタマハガネと連絡を取った。戦況は概ね五分と五分。互いに切り札を残し、まだ余力を残した戦闘と言えるだろう。
核融合ジェンレーターに換装されたアカツキのエネルギー切れは心配ないし、非推進剤依存推進機関であるテスラ・ドライブのお陰で推進剤の残量も気にしなくていい。
後はパイロットの疲労と機体の損傷に気を配ればいい。それが一番デリケートで、気を使わなければならぬが。
「アウル、あまりブレイクフィールドを過信すんな。集中砲火を浴びたら破られかねねえ。シールドをうまく使えよ」
「言ってくれんじゃん! スティングこそアカツキの装甲を宛てにして下手な弾に当たんなよ」
「敵、来た」
ステラの抑揚の無い声がアウルとスティングに警告を告げる。戦闘時になるとふだんのどこか気弱で大人しい性格は引っ込み、好戦的になるのがステラの常だったが、肉体の健全化治療の効果もあって戦闘中でも声を荒げたり攻撃性を剥き出しにする事はない。
BHエンジンによって駆動する現在、世界で唯一のMS兼PTであるヒュッケバインが一足早く、新たな敵群に向かって飛翔する。
一個中隊全十二機のMSが相手だ。
バスターダガー三機にダガーL九機の組み合わせで、ステラ以外にも彼らに気づいたDCのバレル・エムリオンとコスモリオンが二、三機こちらの援護に向かってくる。ステラは敵も、味方さえも気に掛けずに、オクスタンライフルの照準を戦闘のダガーLに向ける。
「ちぃ、あのおバカ! シンの奴の言う事は素直に聞く癖によ! こっちの言う事無視して突撃かよ」
お前だって似たようなもんだろう、とアウルに言ってやりたい気もしたが、スティングはナイトガーリオンで慌ててヒュッケバインを追いかけるアウルに続いた。
確かにアウルの言うとおり、シンが常に傍らにいる時のステラはシンの言う事に先ずノーとは言わないし、自分達の言う事も素直に聞く。
シンが傍らにいない状況で戦闘した事はあるが、今回の様にはっきりとシンがいない事を知っての上での戦闘が、実はステラにとっては初めてであると知り、スティングはかすかな危惧に囚われた。
次で容量あふれるから投下前に新スレを
>>689 (・ω・`)乙 こ、これは乙じゃなくてポニーテールなんだからね!
乙&GJ
. ヘ○ヘ ! _、_ n
|∧ ( ,_ノ`)( E)
/ | ̄ ̄ ̄|
. | ̄ ̄ ̄| |.XPSP |
. ( ^ω^)| .2000. | | |
| ̄ ̄ ̄. | | |
| 98SE |.. ウッウー | |
. (´ー`)| | ( ゚д゚) | |
(・∀・)| ̄ ̄ ̄ | | ̄ ̄ ̄.... |
 ̄ ̄ ̄ 98 | |XP無印. |
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| | |ヽ( ゚Д゚)ノ ウンコー
| orz |  ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ Vista
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まだだ!まだ終わらんよ!!
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