ゲートを抜けたストライクは、突入前に投げ捨てた三五〇ミリガンランチャーを真っ先に拾い上げ、迫り出し始めた火器と自分が出て来たゲート付近に向かって散弾を発射し始めた。
問答無用に次々と迎撃兵器を潰され、ザフト軍基地は徐々に機能を麻痺させて行く。
表立った物だけを壊すと、最後にミラージュコロイドの噴霧器を破壊し、キラは踵を返して全速力で離脱して行った。
「これで作戦は上手く行くはず」
そう呟いたキラは、ストライクを予定通り岩場の窪みへと入れると、マニュピレーターを手動で動かしてコンボウェポンポッドの装着を始める。
装着自体はそう手間取るものではなく一分ほどで終え、すぐに九四ミリ高エネルギー収束火線ライフルを持たせると、いつでも戦えるように身構えた。
エネルギーは一回の戦闘に耐えうるだけはある。さっきの戦闘能力を再現出来れば負ける事はないだろう。
すぐに出て追っ手が出て来ると思い身構えていたキラだが、レーダーは何の反応も示さなかった。
「一体どう言う事……?」
普通なら追っ手が来てもおかしくはないはずだ。岩場の影からザフト軍基地を伺うが一向に動く気配は見せなかった。
キラ自身は気付きもしない事だが、全ては脱出した際にゲートに向けて発射した三五〇ミリガンランチャーにあった。端的に言えば、ストライクを追って出た最後の車両を木っ端微塵に吹き飛ばし、追う術すら失っていたのだ。
その事を知るよしもないキラはレーダーを見つめ続けた。
「……やっぱりレーダーに反応なしか」
動きの無いレーダーにそう呟くキラだが、そうしていてもここはこの灼熱の砂漠。嫌でも喉は乾く。
軽く息を吐いたキラは、ヘルメットを脱ぎ捨て再びサバイバルキットを引っ張り出して、水を流し込み喉を潤した。
そして、再度レーダーで動く物が無いのを確認すると、コックピットを開放し、身を乗り出すようにして頭だけを外に出すと、残りの水を自らの頭にかけたのだった。水は髪を伝い数メートル下の砂に吸い込まれ、瞬く間に消えて行く。
頭を一度振って髪を水を飛ばしたキラはすぐにコックピットを閉じると、シートに背を預けて思い切り息を吐いた。
「ふぅ……。僕……生き残れたんだ……」
一息吐いた事で、自分が先ほどの戦闘を乗り越えた事を実感し始めながらも、先ほどの不思議な感覚を思い返した。
「あれ……僕がやったんだ……」
これまで生きて来た中で初めての事に、キラはわけも分からないまま呟いた。
確かに何をした覚えてはいる。そして何かが弾けたような感覚があったのもだ。だが、それが出来た理由がさっぱり理解出来なかった。
確かにバルトフェルド隊との演習ではそれなりの戦果を挙げ、それなりの自信を深めたが、アムロの言う『自分の間合い』と言うだけであんな動きが出来るはずがない。コーディネイターだとしてもそれは異常過ぎた。
「少し怖いけど……。それでも……僕は生き残れたんだ……。これで……また逢えるんだ……」
自分に起こった何かに不安を感じながらも、今は生き残れた喜びに酔いしれ、キラは脳裏に仲間達と今は離れてしまった彼女に想いを馳せた。
砂漠の陽は徐々にだが西へと傾き始めていた。