もしカミーユ、Zキャラが種・種死世界に来たら14

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1通常の名無しさんの3倍
新シャアでZガンダムについて語るならここでよろしく
現在SS連載中 & 職人さん随時募集中!

・投下が来たら支援は読感・編集の邪魔になるからやめよう
・気に食わないレスに噛み付かない、噛み付く前に天体観測を
・他のスレに迷惑をかけないようにしよう

前スレ(残念ながらほぼ即死)
もしカミーユ、Zキャラが種・種死世界に来たら13
http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/shar/1218096973/
前々スレ(実質前スレ)
もしカミーユ、Zキャラが種・種死世界に来たら12
http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/shar/1210180876/

まとめサイト
http://arte.wikiwiki.jp/

荒し、粘着すると無駄死にするだけだって、何でわからないんだ!!
分かるはずだ、こういう奴は透明あぼーんしなきゃいけないって、みんなには分かるはずだ!
職人さんは力なんだ、このスレを支える力なんだ、
それをこうも簡単に荒らしで失っていくのは、それは、それは酷いことなんだよ!
荒らしはいつも傍観者でスレを弄ぶだけの人ではないですか
その傲慢はスレの住人を家畜にすることだ
それは一番、人間が人間にやっちゃあいけないことなんだ!

毎週土曜日はage進行でお願いします
2通常の名無しさんの3倍:2008/08/18(月) 13:40:12 ID:???
2げっと

>>1乙!
3通常の名無しさんの3倍:2008/08/18(月) 19:12:29 ID:???
即死会費

>>1
4通常の名無しさんの3倍:2008/08/18(月) 20:07:11 ID:???
>>1

↓以下即死回避のため30レスまでしりとり開始
5通常の名無しさんの3倍:2008/08/18(月) 21:32:49 ID:wU7QZcZU
しりとり
6通常の名無しさんの3倍:2008/08/18(月) 21:33:19 ID:???
りす
7通常の名無しさんの3倍:2008/08/18(月) 21:34:20 ID:???
すり
8通常の名無しさんの3倍:2008/08/18(月) 21:34:51 ID:???
りょうり
9通常の名無しさんの3倍:2008/08/18(月) 21:37:22 ID:???
リ・ガズィ
10通常の名無しさんの3倍:2008/08/18(月) 21:41:14 ID:???
イリア
11通常の名無しさんの3倍:2008/08/18(月) 21:42:42 ID:9EIVanSY
12通常の名無しさんの3倍:2008/08/18(月) 21:43:19 ID:wU7QZcZU
13通常の名無しさんの3倍:2008/08/18(月) 21:43:50 ID:wU7QZcZU
14通常の名無しさんの3倍:2008/08/18(月) 21:44:20 ID:wU7QZcZU
15通常の名無しさんの3倍:2008/08/18(月) 21:44:53 ID:wU7QZcZU
16通常の名無しさんの3倍:2008/08/18(月) 21:45:24 ID:wU7QZcZU
17通常の名無しさんの3倍:2008/08/19(火) 00:12:20 ID:???
アムロ・レイ
18通常の名無しさんの3倍:2008/08/19(火) 00:28:22 ID:???
カミーユビダン
19通常の名無しさんの3倍:2008/08/19(火) 01:18:56 ID:???
>>1
保守足んなかったなあ
投下がないスレではないから皆気を付けてこまめにレスしようぜ
20通常の名無しさんの3倍:2008/08/19(火) 01:37:01 ID:???
おk
21通常の名無しさんの3倍:2008/08/19(火) 02:31:13 ID:???
オッケ〜イ我が命にかえても
22通常の名無しさんの3倍:2008/08/19(火) 04:00:40 ID:???
23通常の名無しさんの3倍:2008/08/19(火) 04:05:30 ID:???
俺のレスをみんなに貸すぞ
24通常の名無しさんの3倍:2008/08/19(火) 04:15:46 ID:???
即死って何?
25通常の名無しさんの3倍:2008/08/19(火) 07:18:36 ID:???
朝保守
26通常の名無しさんの3倍:2008/08/19(火) 07:58:57 ID:???
むう、即死か。聞いたことがある
立ったはいいが、誰からも相手にされず、あるいは極少数にしかレスをもらえなかったスレは自動的に消されるのだと
だから立ったばかりのスレは、ある程度保守してやらねばいかんのジャよ
27通常の名無しさんの3倍:2008/08/19(火) 10:55:43 ID:???
たった8レスしかつかなかったからなw
28通常の名無しさんの3倍:2008/08/19(火) 12:07:19 ID:8CvZALMx
あげ
29通常の名無しさんの3倍:2008/08/19(火) 12:08:00 ID:???
実質カミーユ氏が連載をやめたらもうこのスレも終了だろうしな
30通常の名無しさんの3倍:2008/08/19(火) 12:27:15 ID:???
遊びでやってんじゃないんだよ
31通常の名無しさんの3倍:2008/08/19(火) 14:02:31 ID:???
          _,、 -‐''''""~~""''''‐- 、_
        ,.-'"             ゙ヽ,
       ,r"                    ゙、
     _,/                       ゙、
.   ,r'"                       ゙、
   {     {                      ヽ
    {     {     ..,,_              ヽ
.   ノ     ,'゙'、ヾ、レ‐---、ヾ゙)ノ)   -、         ゙,
  /     {  ,、-:::::..  :. :::ツ ノ     ゙、゙'、       }
  ,"      _!,,ソ:::::::::::::::.. :. :::::ノ{     } }      ノ
  {     r'':::::::::r-、;_::::::::  :. :/ ゙'‐-、,   }.ノ      {
  ゙、    { ::::::::;'   `''ー-‐'"     ノ  リ       ゙ヽ
.  ゙'‐-、 ゙'、 ::::/           、,クノハ         }
     ゙'‐`'{'゙iヽ、'   __,,,.、    ,.,.,.,,,_/_ハ       {
        `'ヽ  r,"-''"     | ┌ー-゙-ニっ     ヽ、
         {ヽ  r"      | .|      } ト)    ヒ`ゝ
         `~}ヽ      /.| |      -‐"  ヽ、 マ
     l'''ニニニニ{、、,゙'、.,__-‐"  | |            ヽ'
.      | i     ノ     l,.、-'"| |
      | i     `つ   ζ   .| |
      ヽ,ヽ     `''ー'l
.       ヽ,゙、         !
無事>>30を越えたか
まだ人類に絶望するには早いようだな…
32通常の名無しさんの3倍:2008/08/19(火) 19:54:25 ID:???
ハマーンの人期待
33通常の名無しさんの3倍:2008/08/20(水) 01:00:49 ID:???
hosyu
34通常の名無しさんの3倍:2008/08/20(水) 08:51:54 ID:???
保守!
35通常の名無しさんの3倍:2008/08/20(水) 21:00:30 ID:PGvG7NrO
age
36通常の名無しさんの3倍:2008/08/20(水) 22:10:52 ID:???
即死はないわ
37通常の名無しさんの3倍:2008/08/21(木) 18:25:52 ID:???
保守
38通常の名無しさんの3倍:2008/08/21(木) 22:46:32 ID:???
投下は、まだか…保守だな?
バァーン♪
39通常の名無しさんの3倍:2008/08/21(木) 23:33:34 ID:???
ヤザン厨閣下も待ってます
40通常の名無しさんの3倍:2008/08/23(土) 15:09:47 ID:GmCIijR+
41通常の名無しさんの3倍:2008/08/23(土) 21:36:31 ID:???
ヤザン厨さんは息災なんだろうか。
42ヤザン厨 ◆fACt0Nk7D. :2008/08/23(土) 23:43:08 ID:???
何とか生きてます…。 ええと、アルテミスでバックパックのコンテナ回収したところで切れてました。
その続きを投下!
43ヤザン厨 ◆fACt0Nk7D. :2008/08/23(土) 23:44:43 ID:???
 
 「これが…【ヤタガラス】か…」
 
 コンテナをアークエンジェルに運び込み、パスワードを入力してハッチを開くと、中には4機の、地球空間戦闘用の
戦闘機のようなものが固定されていた。MS、それもG兵器・GATシリーズにどう接続するのか正直、始末に迷う形状だ。
これはもう聞くしかない。そう思った俺は、周囲に誰も居ないことを確かめてから、ナハトに向かって右拳を突き上げる
ハンドサインをしてから、整備用の携帯端末の電源の灯を入れた。……間髪入れずに、ニヤニヤ笑いの白衣を着た、
オーブで言う、【翠の黒髪の】ロングヘアの理知的なやや吊り気味に目をした女が現われる。その表情はなぜか狐…
FOXを連想させた。ミオ在りし日の、雑談で聞いたナインテールの伝説を思い出す。狐が化けた美姫の伝説だ。

 『素直なものだな、ゲーブル? こうも簡単に、人に教えを請うとは思わなかったぞ』
 「事は一刻を争うんだよ! 一体コイツはなんだ? 戦闘機か? 」
 『ヤタガラス。高高度襲撃用ストライカーパック。イザヨイ…いやナハトのためだけに創られたと言っても過言では無い』
 「もう少し、具体的に説明をしてくれないか?」

 端末の画面のミオの部分が小さくなり、【ヤタガラス】のワイアーフレームが表示された。どうやら戦闘機の機首に見えた
部分が外れる仕様で、分割してシールドになった。あとの残りの部分は、逆三角形のような形でバックパックに装着される。

 『一度見せてやったはずだが、忘れたのか…? 』
 「気が抜けない狸親爺と化かし合いをして来たんでな。今度は優しい雌狐に慰めて貰いたいのさ、覚えてるだろ?
  いつかのナインテールの話を? 」
 『そんな事も……あったな。それでは餓狼…いや野獣に餌をやるとしようか』

 途端に【ヤタガラス】のワイヤーフレームに色が付き、画面が縮小される。そして、現状のナハトのポリゴンモデルが新しく表示された。
44ヤザン厨 ◆fACt0Nk7D. :2008/08/23(土) 23:47:50 ID:???
 
 この携帯端末のスペックをフルに使う気らしい。多分、ミオの喋りのレイトレの口パクだけでも結構な容量を喰っているはずだ。
そんな俺の内心の意に介せず、画面が表示されていく。ナハトにヤタガラスが装着されるのだが、武骨な外見のナハトには
似合わず、珍妙でチグハグな印象を与えてしまう。……ウィンドウのミオがムッとした表情を見せる。端末にはカメラなぞ無い。
ナハトから俺の様子を各種手段で監視していることに気付いた俺は、背筋に戦慄を覚える。ヤバイ。コイツは怒らせない方が
いい。きっと見ている。恐らく、アークエンジェル艦内で、俺の全てを。途端に、画面の中のナハトの各部分装甲やら関節やら
から部品が離れていく。

 「な…! 胸部装甲までハリボテだと?! これだけパージしたら…! 」
 『そのための【ヤタノカガミ】装甲だったが、当たらなければ良いのだろう? ゲーブル?』
 「そんなにいやらしく笑うなよ、雌狐め…。一体、何のためのパー…」

 何のためのパージだ、と言おうとして、俺は眼を見張った。痩身になったナハトが、なんと【変形】して行き、MA然とした形状に
なって行く。バインダー、テールバインダー、シールドにすっぽりMS機体本体が覆われる形になり、最終的に変形が終了する。

 『このためのパージだ。単体だとほぼ垂直に大気圏に鋭体突入出来るはずだ。鈍体突入だとこの上にMSを載せて突入……』
 「…シミュレーターの理論上、だろ?」
 『まあそうなるな。やってみないと解らん。ヤタガラスを装着すれば、ナハトをGAT−X105ストライクに偽装したカバーパーツの
 ロックを任意で外せる。判断は任せるぞ、ゲーブル』

 やってみたらシミュレーター通りに行かず死にました、と言う結果だったらどうする心算だ、と腹の中で思いきり毒づいていたら、
端末画面一杯に戻ったミオが優しく微笑み、俺を見ていた。そうだった。ストン、と腑に落ちた。何もコイツに怒ることはないのだ。

 「失敗したら心中だぞ? ミオ…」
 『それこそ開発者冥利に尽きると言うモノだ。打ち上げから打ち止めまで見守れる。そのときは黙って一緒に星になるだけさ』

 ……冗談じゃない。折角弄(イジ)り甲斐のある玩具を手に入れたのだ。愉しまなければ嘘だろう。そして、その時はそう遠くない。
ZAFTの奴等がアルテミス要塞に襲撃を掛けるまでにナハトへの装着を終えなければならん。……そして背後の僅かな人間の気配に
ようやく俺は気が付いた。マードックの親爺さんがウンウン、と頷いていた。無償に暴れたい衝動に駆られる俺だったが、我慢する。

 「さあ、取り付けにかかるぞ! …勿論、手伝うよな? ヤ・ザ・ン」
 「…ああ。手伝うよ」

 時間は有効に使うべきだ。一刻たりとも、無駄には出来ない。今頃はカズィの奴も映像分析・編集に掛かりきりになっていることだろう。
45ヤザン厨 ◆fACt0Nk7D. :2008/08/23(土) 23:50:04 ID:???
投下終了! …すっかり長文が投下しにくくなったなぁ…。
アク禁やらなんかがあって疎遠になり、そして00で裏切られ…。
いいさ、理想は常に胸にあり! ではまたいつか…。
46通常の名無しさんの3倍:2008/08/24(日) 06:43:26 ID:???
誰?
47通常の名無しさんの3倍:2008/08/24(日) 06:54:31 ID:???
イヤッハァァァァァーーーーーー!!!!!
ヤザン厨氏復活ッ!
ヤザン厨氏復活ッ!
ヤザン厨氏復活ッ!
ヤザン厨氏復活ッッ!!
しかも新機能はZっぽい可変機能ときたもんだ!
待ち続けた甲斐があったぜ
48通常の名無しさんの3倍:2008/08/24(日) 12:56:11 ID:???
>>46
ZのヤザンがSeedの世界に来たならば
ttp://www16.atwiki.jp/yazangable/
通の知る人ぞ知るスレだったからなぁ
49通常の名無しさんの3倍:2008/08/24(日) 13:32:41 ID:???
うわー、懐かしいってレベルじゃねーぞ
でもお帰りなさい。
50通常の名無しさんの3倍:2008/08/24(日) 17:36:52 ID:???
>>46
誰?って言ってる時点でもう)ry実はクロススレでは2番目に古いのに。
みんなここだけは語るスレとかの話題や餌食にしなかったからな。
51通常の名無しさんの3倍:2008/08/24(日) 23:13:10 ID:???
ヤザン厨閣下投下乙であります>
52通常の名無しさんの3倍:2008/08/24(日) 23:47:30 ID:???
魔乳が乳揉まれるヤツだっけか?
53通常の名無しさんの3倍:2008/08/24(日) 23:56:04 ID:???
そう揉まれて乳首立ってたw
54通常の名無しさんの3倍:2008/08/25(月) 11:14:05 ID:???
ヤザン厨さん、ご無事でなによりです(´;ω;`)
55通常の名無しさんの3倍:2008/08/25(月) 21:02:39 ID:???
ヤザンのss WIKIで見てきた。超カッコいいなヤザン!

ところで、42まで更新されてるけど上に投下されてるやつの間の話しってないの?
すっげー気になるんだが
56通常の名無しさんの3倍:2008/08/26(火) 01:13:12 ID:???
つ過去ログ
57通常の名無しさんの3倍:2008/08/26(火) 11:12:22 ID:???
>>55 発掘してきた

774 名前: ヤザン厨 ◆fACt0Nk7D. [sage] 投稿日: 2007/09/09(日) 10:59:34 ID:???

 「そこ! ミストラルくらい満足に扱えんのか! 」
 『…僕達カレッジの学生だったんですよぉ…』
 「今言ったのバスカークだな? …帰ったら3時間の強制サイクリングがいいか? それとも修正2発か? んぅ? 」
 『ヒぃ! 済みません、すみませんからぁ! 』
 「修正だな、楽しみにしていろよ」
 
 泣き言を散々ほざいてくれる「元」学生連中に俺は軽く檄(げき)を飛ばすが、情けない口答えが帰って来たのでニンマリ
する。まだ口答えをする元気があるだけマシだ。各種残骸が漂う要塞の一部区域に案内され、ヤマト2等兵を除く『元』
学生連中を連れて『お宝探し』に洒落込んでいた。外壁から隔壁を開けて入ると、凄い船の残骸の山だ。所々弾痕に血痕
が残っていたりするのはご愛嬌で、中には水分を失ったノーマルスーツのままの死体、真空中に突然さらされた死体やら
そのまま漂っていたりして、中々のワンダーランドぶりだった。アルスター2等兵なんぞミストラル内で反吐を吐いてしまい、
アーガイル2等兵が慌てて始末した程だ。……死体が残るだけマシな死に方なんだぞと言ったが、お嬢様には解らんだろうな。

 『…ゲーブル、手元のカメラをもう少し先に向けてくれ。そう、そこだ』
 「ミオ、あれか? 」
 『…十中八九、ヤタガラス在中のコンテナだ。レーザートーチを使った後があるだろう?』

 ナハトに『居る』ミオに見せるためリアルタイムで連動させたヴィデオカメラをあちこちに向ける。出所はミリアリア・ハウ2等兵が
ヘリオポリスの半壊したショッピングモールで拝借して来た奴だ。拝み倒して借りた俺に「絶対に傷を付けるな」との注文で渋々貸して
くれるタマなのだから、トールよ、貴様は絶対尻に敷かれるぞ…。それを空間内のあちこちに向けていたのだが、オーブの国籍徽章の
入った丈夫そうなコンテナを発見する。コンテナにはこじ開けようとして失敗したのか、所々焦げ目やら破砕孔やらが残っていた。
58通常の名無しさんの3倍:2008/08/26(火) 11:13:29 ID:???
775 名前: ヤザン厨 ◆fACt0Nk7D. [sage] 投稿日: 2007/09/09(日) 11:00:02 ID:???

 「よおし、俺のお宝は見つけた。貴様等は何か見つけたか? 」
 
 新兵連中に呼びかけると、収穫は0だと言う。ま、こんなモンだろう。…値打ちものなら要塞駐在の奴等がとっくに拝借済みだからな。
ここに保管してあるのは基本的にこれらが『表沙汰に出来ない廃棄物』であるからだ。撤退を呼びかけようとした俺にカズィから連絡が入る。

 『ゲーブル大尉、船外活動してもいいですか? 船の中にはまだ『灯』が点いてるものもあります』
 「同乗者に聞け。ケーニヒ2等兵、操縦を換わってミストラルの姿勢を保ちつつ、カズィを待っていられるか? 」
 『は、はい! やってみます! 』
 「努力する奴は、俺は好きだぞケーニヒ2等兵」
 『や、やっぱり…』
 「何だアルスター2等兵? アーガイルの奴も中々スジがいいんだがな? 」
 『だ、駄目ぇ! サイは許して! 』

 二人一組で3機のミストラルを運用している。サイとフレイ、トールとカズィ、俺とミリアリアでチームを組んでいる。俺はカズィと
組む予定だったが、ヴィデオカメラの件で無理矢理ミリアリアが俺の機に乗り込んで来たのだ。…俺はトールと組ませたかったんだがな。
ミストラルのマニピュレーターでコンテナを捕まえ、隔壁へと急ぐ。『閣下』に中身を知られては非常に困るからだ。先のデータの件も、
デュエルのデータをブリッツと偽って渡したが、あの狸親爺め、いけしゃあしゃあと信じたフリをしやがった。…己の警備兵すら信用して
いないのがこの事例で解かる。誰も居なければ絶対にデュエルであることを指摘していただろう。ジェラード・ガルシア。喰えない男だ。

 「カズィ、30分くれてやる。船に航海日誌や、船内カメラのデータが残っていたら…」
 『わかってますよ大尉、僕に抜かりはありませんから。個人端末を持ってきました。片っ端から記録します』
 「急げよ。俺に自分が漢であるところを見せたいならな? 」
 『期待してて下さいよ、クックックッ…』

 …死体に耐性が出来ているのはコイツだけだった。普段、ウェブでグロテスクなものを見慣れている御蔭だろう。ヤマトとは別の意味で
『壊れている』人間だ。データ収集はガルシアの首に鈴を付けるのには持って来いだ。俺はクロック表示を呼び出し、25分のタイマーを
セットする。5分前行動は新兵となったこいつ等にも叩き込んである。30分後にアークエンジェルが存在していれば御の字だが、な!

>>43-44の流れ
59通常の名無しさんの3倍:2008/08/26(火) 15:59:05 ID:???
>>58
ありがとう!恩にきるよ
60通常の名無しさんの3倍:2008/08/27(水) 01:30:31 ID:???
乙乙乙

つーかもう一年経ったのか・・・・・・
長かったような、あっという間だったような。
俺も早く就職しないとなー。
61通常の名無しさんの3倍:2008/08/27(水) 09:12:07 ID:???
>>57
>>43-44ともどもWikiに追加してみたよ。でもサブタイトルの付け方が解らないよ
62通常の名無しさんの3倍:2008/08/27(水) 22:04:17 ID:???
他の職人がた無事ですかー!
63通常の名無しさんの3倍:2008/08/29(金) 18:02:51 ID:???
保守
64通常の名無しさんの3倍:2008/08/31(日) 02:05:04 ID:ED0qTCit
そろそろ保守
65携帯から ◆x/lz6TqR1w :2008/08/31(日) 21:28:03 ID:???
只今絶賛アクセス規制中保守
長いですorz
66通常の名無しさんの3倍:2008/08/31(日) 22:21:14 ID:???
67通常の名無しさんの3倍:2008/08/31(日) 22:51:48 ID:???
いつまででも待ちますぜ
68通常の名無しさんの3倍:2008/09/03(水) 08:51:36 ID:???
遊びで保守してんじゃないんだよッ!
69通常の名無しさんの3倍:2008/09/04(木) 10:53:51 ID:???
保守
70通常の名無しさんの3倍:2008/09/05(金) 15:24:49 ID:???
捕手
71通常の名無しさんの3倍:2008/09/07(日) 00:48:04 ID:???
拿捕
72通常の名無しさんの3倍:2008/09/07(日) 01:12:04 ID:???
>>71
「サチワヌですね。色は塗り替えてあるようですが」
73通常の名無しさんの3倍:2008/09/08(月) 01:28:30 ID:???
捕縛
74通常の名無しさんの3倍:2008/09/09(火) 14:44:01 ID:???
「レコアさんを発見したんです。それと、カイ・シデンさんという方を救出しました」
75通常の名無しさんの3倍:2008/09/10(水) 22:27:03 ID:???
保守
76通常の名無しさんの3倍:2008/09/13(土) 00:22:32 ID:???
何と保守な
77通常の名無しさんの3倍:2008/09/14(日) 21:04:56 ID:???
事態は見えてきたあとは保守だ。
78通常の名無しさんの3倍:2008/09/15(月) 01:08:01 ID:???
いえあのそのあの 困った挙句に Zも増えてく 言った矢先からアチャー
79通常の名無しさんの3倍:2008/09/15(月) 03:07:59 ID:JmArI+po
80通常の名無しさんの3倍:2008/09/15(月) 03:24:31 ID:YpTQ3lDg
81通常の名無しさんの3倍:2008/09/15(月) 16:42:50 ID:???
82通常の名無しさんの3倍:2008/09/15(月) 17:57:23 ID:???
なんと破廉恥な!
83通常の名無しさんの3倍:2008/09/16(火) 19:43:49 ID:???
84通常の名無しさんの3倍:2008/09/16(火) 20:37:15 ID:???
85通常の名無しさんの3倍:2008/09/17(水) 00:06:27 ID:???
86通常の名無しさんの3倍:2008/09/17(水) 01:29:02 ID:???
87通常の名無しさんの3倍:2008/09/17(水) 09:53:49 ID:???
88通常の名無しさんの3倍:2008/09/17(水) 10:09:38 ID:???
89通常の名無しさんの3倍:2008/09/17(水) 16:36:01 ID:???
90通常の名無しさんの3倍:2008/09/17(水) 19:27:28 ID:gZa9tS1m
91通常の名無しさんの3倍:2008/09/17(水) 19:57:42 ID:???
92通常の名無しさんの3倍:2008/09/17(水) 22:48:15 ID:???
93通常の名無しさんの3倍:2008/09/17(水) 22:56:48 ID:???
94通常の名無しさんの3倍:2008/09/17(水) 22:57:28 ID:???
95通常の名無しさんの3倍:2008/09/17(水) 23:12:31 ID:???
A
96通常の名無しさんの3倍:2008/09/17(水) 23:38:23 ID:???
K
97通常の名無しさんの3倍:2008/09/18(木) 00:08:26 ID:???
U
98通常の名無しさんの3倍:2008/09/18(木) 14:41:44 ID:???
S
99通常の名無しさんの3倍:2008/09/19(金) 15:22:16 ID:???
100通常の名無しさんの3倍:2008/09/19(金) 23:45:13 ID:???
ピード?
101通常の名無しさんの3倍:2008/09/20(土) 01:05:14 ID:???
ZAK-KUN
102通常の名無しさんの3倍:2008/09/20(土) 06:56:58 ID:???
ザクゥーンまさかのプロアイドルデビュー!
103通常の名無しさんの3倍:2008/09/20(土) 18:15:14 ID:???
なんだよ。投下来てると思ったじゃないかよ。
104ハマーンのひとこと286:2008/09/21(日) 21:40:18 ID:???
なんかどーでもいいとしか思われてないと解ってたけど
レスの最初の方で期待してくれてるヒトがいたことに感動してしまいました。

なんか就職したりで忙しくてあんま2ch見れなかったんすよ。最近
今さっき見返したら酷かったんでつくり直したらそのうち投下してみたいと思います。

ヤザン氏はまとめをみたら素晴らしすぎてニヤニヤが止まりませんでした。
自分のかってな解釈ですがスーパーコーディネーターは人間の性能の究極、我らがヤザン隊長は人間の範囲からはみ出ちゃったお方wだと思ってしまいました
105通常の名無しさんの3倍:2008/09/22(月) 19:00:52 ID:???
FA(ファイナルアンサー)
ZAKU SUGEEE
とでも続けば良かったんだが……アルファベット1文字で来てる所へ、ピード?はないだろJK
106通常の名無しさんの3倍:2008/09/22(月) 20:26:45 ID:???
>>104
期待して待ってます
107通常の名無しさんの3倍:2008/09/25(木) 19:42:20 ID:???
職人さんこないね
108通常の名無しさんの3倍:2008/09/25(木) 23:49:43 ID:???
本日発売スパロボZ…

ちょ、女主人公序盤の展開まさにこのスレそのものw
109通常の名無しさんの3倍:2008/09/27(土) 00:29:21 ID:???
スパロボZスレより

708 :それも名無しだ:2008/09/27(土) 00:24:15 ID:JT6bmo6e
>>645
キラは相変わらず嫁補正で具体的なことは何も言わず「でも」「だから」「まだ」「それでも」連発の電波
要するに正しく原作再現

シンはスパロボ補正でカミーユと仲良くなり、カミーユがレイ以上の友情、アスラン以上の指針を示してくれたおかげで
原作よりもいくらか素直に成長しトダカ虐殺も無ければステラも助けることができかつ自分の意思で議長にも立ち向かう

要するにシン=エヴァのシンジ的改変


スタッフ、このスレ見てたんじゃ…
110通常の名無しさんの3倍:2008/09/27(土) 00:48:11 ID:???
カミーユは優しい上にNTのキリストだからな
111通常の名無しさんの3倍:2008/09/27(土) 03:16:42 ID:???
正確には、条件次第でミネルバ組離脱時にシンとルナだけ残ってくれるルートありで(1周目は女主人公のみっぽく、2周目からはどちらでも選択可能?)、その場合のみステラ、ついでにレイとタリアも説得&撃墜で仲間in可能らしい。
シンがレイを諭すとか…

…シン、ちょっと皮肉が効いてるけど、運命を乗り越えたんだね…(ホロリ)カミーユに感謝しなきゃ…
あとアークエンジェル組はどう転んでも最後は味方
112通常の名無しさんの3倍:2008/09/27(土) 09:52:01 ID:???
こんなところでネタバレされるとは
113通常の名無しさんの3倍:2008/09/27(土) 09:55:52 ID:???
買うまで覚えてないからどうでもいい
114通常の名無しさんの3倍:2008/09/28(日) 02:59:13 ID:faeDLZjd
スパロボZはカミーユ氏が以前完結させたカミーユinCEを思わせる脚本が多かった
カミーユと絡むことでシンが成長していくという流れがよかった
もしかしてカミーユ氏はバンダイに就職した?
115通常の名無しさんの3倍:2008/09/28(日) 03:09:30 ID:???
このキャラと絡ませるとこうなるってパターンが同じなだけだろ
だれでも思いつきそうな事ではある
ただし大抵の者は妄想止まりで終わる
それをうまく文章化して物語にできるのが職人
うまくシナリオ化できるのがライター
116通常の名無しさんの3倍:2008/09/28(日) 03:14:34 ID:kMiHNOHF
つーか、本題スレ忘れてない? 種、種氏にΖが来たら、新種出る幕ナシですけど何か?
117通常の名無しさんの3倍:2008/09/28(日) 03:19:58 ID:kMiHNOHF
>>116追加
まあ、頑張っても、ジェリド級が、いいとこかな〜!(やられ役の、名前付き)
118携帯 ◆x/lz6TqR1w :2008/09/28(日) 22:09:17 ID:???
規制が発生して早一ヶ月半
未だ解除の兆しもなく、投下できない日々が続いております。
ちょっと調べてみたら、どうも永久規制に巻き込まれたようで
いつ解除されるのか分からない状況です。
正直、投下出来るのに投下できないのはなかなかしんどいっすorz
119通常の名無しさんの3倍:2008/09/28(日) 22:13:21 ID:???
>>118
またまた〜
本当はスパロボの新作のシナリオ書いてたんでしょ?
120通常の名無しさんの3倍:2008/09/28(日) 22:30:34 ID:???
なんてこった…

そろそろ解除されるだろうと思って楽しみにしてたからダメージが大きいぜ
121通常の名無しさんの3倍:2008/09/28(日) 22:43:13 ID:???
CD−Rに焼いてネカフェへ行くんだ!!
122通常の名無しさんの3倍:2008/09/28(日) 23:40:45 ID:???
>>118
うおおお新作まだ読めないのか_| ̄|○
123通常の名無しさんの3倍:2008/09/29(月) 22:23:06 ID:???
カミーユIN.CEが再現されているのか?

買うしかない!!
124通常の名無しさんの3倍:2008/09/30(火) 00:41:22 ID:???
ごめん、告白大会に惹かれてゾラから始めた
125通常の名無しさんの3倍:2008/09/30(火) 07:51:58 ID:???
USBメモリの1Gなら500円くらいで買えるでしょ。
それに入れてネカフェにGOだ!

ネカフェでUSBメモリ使えたっけ?
126通常の名無しさんの3倍:2008/09/30(火) 08:37:15 ID:???
無理言いなさるなw
127通常の名無しさんの3倍:2008/09/30(火) 14:25:47 ID:???
‘貴男は何故そのプロバイダーに拘るのですか?’
‘使い慣れたメールアドレスですか?利用料金ですか?マンション契約だからですか?’
‘人は規制に巻き込まれます。何故?どうして?私は荒らしではないのに’
‘プロバイダーを変えても良いのです’
128通常の名無しさんの3倍:2008/09/30(火) 14:57:58 ID:???
あんまり無理言うなよ
129通常の名無しさんの3倍:2008/09/30(火) 18:34:29 ID:???
ラクス自重w
130通常の名無しさんの3倍:2008/09/30(火) 23:36:57 ID:???
カミーユ氏の無事確認!
いつまでも待ってます!!
あなたが来るまで…待ってます!!涙
131通常の名無しさんの3倍:2008/10/01(水) 00:23:50 ID:???
UC93
シャアの反乱も終戦となる少し前のことであった・・・
アムロ「やめてくれ、こんな事に付き合う必要はない下がれ来るんじゃない!」
ジュドー「アムロさんだけにいい格好させるかよ!」
カミーユ「クワトロ大尉の身勝手で地球を潰すなんて間違ってる!」
アムロ「無理だよ・・・ みんな下がれ!」
アムロの言う通りである、機体の大半はいずれかの部分が損傷しているし
現に今でも摩擦熱で爆発している機体がある
シャア「結局・・・こんな悲しみだけが広がって地球を押し潰すのだ、なんでこれが分からん・・・?」
カミーユ「それは違う!今ここにいる人は一つの事に共感しているんだ!」
アムロ「それでもそんな人々に人の心の光を見せなきゃならないんだろ!?」
その時であったνガンダムから不思議なオーロラのような光が現れ冷たい巨岩を包み込んだ
その光に接触したMSは次々跳ね飛ばされアクシズから離れていった
カミーユ「くそっ・・・ 俺は・・・ 死ぬの・・か?」
カミーユは薄れゆく意識の中で声を聞いたような気がしたが闇のなかへ落ちていく意識の中ではそんなことはどうでもよかった
132通常の名無しさんの3倍:2008/10/01(水) 13:49:30 ID:???
ネカフェだとプロキシ規制に引っかかって投稿できないことあるよ
133通常の名無しさんの3倍:2008/10/01(水) 18:28:26 ID:???
ひっかからないとこもあるよ
134通常の名無しさんの3倍:2008/10/02(木) 11:56:28 ID:???
ガンダムのクロスssに避難所みたいなところないんだっけ?
あればそちらに投稿とかできるのになぁ…
135通常の名無しさんの3倍:2008/10/03(金) 15:24:30 ID:???
ルイズのとこみたいにwikiに直接投稿できないんだっけ?
136通常の名無しさんの3倍:2008/10/03(金) 18:11:59 ID:???
>134
あるぞ

クロスオーバー倉庫 SS避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/10411/
137通常の名無しさんの3倍:2008/10/06(月) 22:18:20 ID:???
  ∧痔∧
 (;`・ω・)  。・゚・⌒) 炒飯作るぜ!!
 /   o━ヽニニフ))
 しー-J

  ∧痔∧
 (;`・ω・) ほ、保守じゃねぇからな!
138通常の名無しさんの3倍:2008/10/06(月) 23:35:15 ID:???
新作まだかなー
139通常の名無しさんの3倍:2008/10/09(木) 20:00:12 ID:bw2Xx6AZ
かみーゆ
140通常の名無しさんの3倍:2008/10/10(金) 00:36:17 ID:???
保守
141携帯 ◆x/lz6TqR1w :2008/10/11(土) 01:12:42 ID:???
規制の解除を待っていても埒があかないので
避難所の方にスレを立てさせて貰って、そちらの方に投下させて貰いました。
待って下さって居てくれた方々、もしまだ興味がおありでしたら読んでやって下さい。

いやぁ、さるさんに引っかからないって、本当にいいものですねW
142通常の名無しさんの3倍:2008/10/11(土) 01:50:40 ID:???
首を長くしてまっちょりました。乙であります
143通常の名無しさんの3倍:2008/10/11(土) 02:25:57 ID:???
今回も楽しませて頂きました。

次回も楽しみにしています。
144通常の名無しさんの3倍:2008/10/11(土) 02:31:59 ID:???
>>141
乙です。早速読ませて頂きました。
ティターンズメンバーかっけええw
145通常の名無しさんの3倍:2008/10/11(土) 03:52:50 ID:???
キラとシンの共闘ってのもいいもんだなぁ…
カツの選択で今後どう状況が変化していくか楽しみだw

とりあえずあっちのスレ貼っとくよ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/10411/1223653605/l50
146通常の名無しさんの3倍:2008/10/11(土) 17:14:24 ID:RpuxOjJh
乙です
147通常の名無しさんの3倍:2008/10/11(土) 21:30:35 ID:???
避難スレ立て&投下乙
今回も面白いなあ
キャラが増えて単純にその分楽しいのが凄い
148通常の名無しさんの3倍:2008/10/11(土) 21:35:31 ID:???
俺は誰から退場していくのかが凄く怖い・・・
149通常の名無しさんの3倍:2008/10/12(日) 00:00:40 ID:???
もしやられそうになったら>>148が出て行ってやっつければいいさ
150通常の名無しさんの3倍:2008/10/12(日) 03:36:44 ID:???
ティターンズメンバーが死ぬのはつらいなぁ・・・・・・




あっ、シロッコ様は別にいいです。
151通常の名無しさんの3倍:2008/10/15(水) 10:32:05 ID:???
何とか読めた、GJ
152通常の名無しさんの3倍:2008/10/18(土) 00:06:57 ID:???
保守
153通常の名無しさんの3倍:2008/10/20(月) 09:01:55 ID:???
154通常の名無しさんの3倍:2008/10/21(火) 00:55:58 ID:???
155通常の名無しさんの3倍:2008/10/21(火) 17:39:27 ID:???
156携帯 ◆x/lz6TqR1w :2008/10/22(水) 22:57:02 ID:???
新しいのを避難所に投下しました。

一つ忠告しておくと、加筆やら修正やらしていたら前回比、25%ほど
ボリュームが増えてしまったので、一気に読む際はできるだけ暇で時間
のあるときをお勧めします。
157通常の名無しさんの3倍:2008/10/22(水) 23:38:04 ID:???
GJでした。

まさかカツがまともに見える日がくるとは…

次回も楽しみにしてます
158通常の名無しさんの3倍:2008/10/23(木) 02:17:35 ID:???
GJ!!
カツ頑張ったのになあ……
今回ほどあのバンダナキノコヘッドが憎たらしく思えたことはないよ!
159通常の名無しさんの3倍:2008/10/23(木) 02:46:35 ID:???
GJやっぱ新訳Zの究極のNT論の体感を絡めてきたか
凄いキレイに纏まってる気がする
160通常の名無しさんの3倍:2008/10/23(木) 03:23:50 ID:???
投下乙です。経験を積んでNT的にも成長したカツが
皮肉にも憧れのアムロと同じ傷を負ってしまったのが何とも切ない…

シロッコが色んな意味で強すぎるorz
161通常の名無しさんの3倍:2008/10/23(木) 04:32:27 ID:???
誰か避難所に誘導してください
162通常の名無しさんの3倍:2008/10/23(木) 05:06:43 ID:???
163通常の名無しさんの3倍:2008/10/23(木) 19:43:14 ID:???
>>156
乙です。
ヒルダとか(゚听)イラネとか思ってたんですがw
やっぱり良いです!
164通常の名無しさんの3倍:2008/10/23(木) 22:53:51 ID:???
やっぱカミーユ視点になるとこの人の小説は物凄く面白い
カミーユのキャラをよく捉えてるというか
165通常の名無しさんの3倍:2008/10/24(金) 04:24:27 ID:???
>>162
ありがとうございます
166通常の名無しさんの3倍:2008/10/26(日) 09:47:15 ID:???
ゲーツって、どうなったんだっけ?
167通常の名無しさんの3倍:2008/10/27(月) 01:33:28 ID:TpPGQisE
あげ
168通常の名無しさんの3倍:2008/10/27(月) 23:44:55 ID:???
でもやっぱりカツは好きになれんな。
169通常の名無しさんの3倍:2008/10/29(水) 01:03:23 ID:???
保守
170議論スレにて1001変更案を相談中:2008/10/31(金) 20:18:43 ID:???
この何と言うか、あと一歩いや半歩なのにどうしても惜しくも想いが届かない
辛さ・もどかしさ・ままならなさがいかにも富野節…というか殊にゼータ節だなあ。
次回にも期待。
171議論スレにて1001変更案を相談中:2008/10/31(金) 23:39:31 ID:???
サラの何処が、良いのか俺には分からん…
172議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/01(土) 00:04:45 ID:???
一目惚れに理屈はない
しいて言うなら見た目だろ
173議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/01(土) 14:48:50 ID:???
それはそうと、昔あったパプテマス様inZAFTは
どうなってしまったのだろうか?
アレはすごく楽しかったのに・・・
174携帯 ◆x/lz6TqR1w :2008/11/01(土) 23:17:24 ID:???
続きを投下しておきました。
175議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/01(土) 23:20:09 ID:???
向こうに飛べなくなってる(泣)
176議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/01(土) 23:43:31 ID:???
投下乙です!!
終局に向かって進みだした感じですね
カミーユとシロッコがすげえいい味出してる
177議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/02(日) 03:16:12 ID:???
今回もGJだった
カミーユがめっちゃ頑張るターンだったね
シロッコの本格的始動でいよいよ佳境へ
続きに期待!
178議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/02(日) 04:15:06 ID:???
サラvsロザミィ、命のやり取りしてるってのに不覚にも萌えたw
つかカミーユほとんどマジギレしてるじゃないかw
GJ!
179議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/02(日) 15:35:32 ID:???
GJです
カミーユがついにハイパー化しちゃったね…
でも次の境地に達する感じだからハイパー化を超える力を発揮するのだろうか?
一つ疑問なんだけど
なんでハイパー化してオーラを放出してたのになぜに被弾したの?
バリアー形成までのハイパー化までいってなかったってこと?
180議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/02(日) 15:45:18 ID:???
>>179
完全なハイパー化でなくて
ハイパー化する瞬間の時だったからじゃね?
完全にカミーユがハイパー化したらビームもサーベルも効かないだろうし
それどころか敵機のモニターが破壊されたり、制御不能になっちゃうし
181議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/03(月) 00:15:38 ID:???
ちょw何この燃える展開!
サラとロザミアの会話は、もう貴方の中の富野が全開です!
シロッコもなんか微妙に生存フラグ立てたか?
182議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/03(月) 01:22:05 ID:???
乙です
なんという殴りあい宇宙w
183議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/05(水) 17:48:14 ID:???
女同士のケンカは痛いなw
しかしエリカも妙な気配りしなきゃ、技術者として役立ってるな
良かれと思って、Zを黒くしちゃったり、ピーキーだと使いづらいだろうとマイルドにしたりしてカミーユに怒られてたがw
184議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/05(水) 23:04:44 ID:???
女性らしくていいじゃん>気配り
キャラ立ってるw
185議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/06(木) 05:36:13 ID:???
カミーユとかの台詞回しは上手いけど
女の台詞がどうも痛いというか読んでて恥ずかしい感じの表現が多いな
まあ充分面白いけど
186議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/06(木) 05:36:59 ID:???
>>179
俺もハイパー化してんのに被弾してるのは違和感あったな
187議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/06(木) 06:37:58 ID:???
>>185
富野節ってあんなモンじゃないか。小説とかの書き方だとね。
188議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/06(木) 23:10:01 ID:???
さすがにそれはないw
189議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/07(金) 02:25:22 ID:???
結構富野節感じるところあると思うな
文章自体がそう似てるわけじゃないと思うんだけど
感じが似てる
凄く良く出てるというか
190議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/07(金) 21:25:11 ID:???
カミーユの台詞は本当に上手いというか
カミーユの特徴を完全に捉えてる

ただ
「聞きなさいな、カツに優しくない女! 好きだって事、分かってるくせにあんたは――」
『ニタ研のニュータイプが気にする事ではない! そういうあなたこそ、カミーユなんかのフェロモンに惑わされて!』
「カミーユはあたしのお兄ちゃんだ! だから、一緒に居るんだ!」
『教えてあげる! カミーユは、敵である私にも色目を使ってくるプレイ・ボーイなのよ。そういう男に纏わり
付くあなたって、とっても汚らわしい。恥をお知りなさい!』
「あんただって、シロッコとかっていう胡散臭い男に腰を振ってるんでしょうが!」
『腰を!? ――下劣なッ!』
「ほら、動揺した! 自分のやましさ、分かってんじゃない!」
『卑猥な表現で私の口を閉ざしておいてぇッ!』
「いやらしいんだ?」
『どっちがよ!』

富野節にはこれはないw
191議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/08(土) 00:36:36 ID:???
うぜえ粘着だな、じゃ手前が手本見せて書き直せや
192議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/08(土) 02:15:05 ID:???
突っ込まれたら
逆切れかよw
193議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/08(土) 02:23:11 ID:???
俺も富野の小説に似てるとは思わないな
あの独特な言い回しは富野の文章の下手さから来てるわけだし
それがいい味になってるんだがね
というかトミノになる必要はないだろう
カミーユ氏はカミーユ氏の色があるのは当然
ただその表現が合わない人もいるという意見もあるのも当然
マンセーすればいいというものでもない
俺は凄い好きだけどねカミーユ氏の小説は
194議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/08(土) 03:09:24 ID:???
基本的にマンセーでいいと個人的には思うね
合わないならスルーでいい
こういう所の職人は叩いてもあまりいい事ない

>>191
>>185はともかく>>190
富野節だろ?に対し、違うだろと答えてるだけだからお前が書けはどうかと

まああんまりカリカリせずにいこうや
195議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/08(土) 03:21:20 ID:???
まあ福井の小説よりは遥かに面白いよ
196議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/08(土) 03:23:19 ID:???
味をしめて毎回富野節になってないとか何とか文句つけてきそうだな。
佳境に入ってきたところで、瑣末な事に逐一言い掛かりつけて居座るというのは
荒らしの典型的なパターンの一つだから。
197議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/08(土) 12:07:44 ID:???
以前も同じ流れで感想言った奴ら叩き出したくせにまたマンセーし続けてるのかよ
感想なんだから、何言ったっていいだろうに
198議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/08(土) 12:09:05 ID:???
違うだろ。女に憎悪を持ってるお決まりの
種類の人間が女のぶつかり合いに不快感を持ってるだけ。
男視点や軍人的女視点だったらスルーされてる。
リアルタイムで見てないくせにスラムダンクとかを
腐女子に人気があっただけとか言ってる人間と同じ。
199議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/08(土) 12:22:54 ID:???
盲目的なマンセーは確かに引く>>196みたいなのは
ここはマンセーするこじゃなく
カミーユ氏や職人が書いた小説に対してリアクションするとこであって
カミーユ氏の小説に対しても否定的な意見がでるのもしょうがないだろう
つっても以前のカミーユ氏の小説の時は批判とか受けてもその反省をうまく次回に昇華させながら
見事完結させて凄いいい作品になったんだがな
200議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/08(土) 12:25:29 ID:???
前回のカミーユ小説を文庫化して欲しいな
寝転んで読みたい
201議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/08(土) 17:58:43 ID:???
そもそも富野節の小説である必要はないだろうに…
カミーユ氏の小説なんだから、読みたい奴だけ読めばいいだろ
富野節が恋しいなら、お禿げ様の小説読めばよろし
まぁお禿げ様は「読むな」とか言いそうだがw
202議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/08(土) 18:30:50 ID:???
>>199
リアクションするとこなら盲目的なマンセーでもいいわけだ
まあ冗談半分は置いておいて
>>197みたいな粘着は盲目的なマンセー以上にいらない
なんだその脳内妄想
またマンセーし続けてるのかよ、だってw
203議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/08(土) 19:46:03 ID:???
富野小説Zのフォウがカミーユに欲情するシーンのカミーユの描写がエロい
204議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/08(土) 19:46:25 ID:???
>>201
富野節が恋しいとかじゃなくて、すげー富野っぽいとか言われてたからそれ違くね?
ってなっただけだろ
叩く奴がウザイのはわかるが、ピント外れの擁護もウザイ
205議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/08(土) 20:17:22 ID:???
>>202
とりあえずお前が今は一番荒れるもと作ってると思うんだが
そういう意見もあるんだくらいでスルーすればいいこと
もっとキャパ広げろ
206議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/08(土) 20:20:17 ID:???
富野っぽいことは富野っぽいんじゃね
富野節ってあんなもんだ→いやそれはねーよw
あたりが正確では

なんら作者には影響を及ぼさないであろう感想だし
好きに話していいと思う
207議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/08(土) 20:21:20 ID:???
>>205
とりあえずお前が今は一番荒れるもと作ってると思うんだが
そういう意見もあるんだくらいでスルーすればいいこと
もっとキャパ広げろ
208議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/08(土) 21:02:56 ID:???
俺はカミーユ氏が好きなもん書いてそれを読めればいいので
どちらの主張もアレでソレだと思う
209議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/08(土) 21:03:47 ID:???
俺は面白い作品が読めればいいので
それ以外は全部消えて
210議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/08(土) 22:03:42 ID:???
これ以降にバイストン・ウェルが絡んできたらネ申
211議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/09(日) 21:44:37 ID:???
つか、以前にちょっと否定的な意見あった時にカミーユ氏自身が否定的な意見はいらない
マンセーだけでいいって言っちゃってんだもん。
納得できない人はここはそういう場だと思って見るしかないぜ。
212議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/09(日) 21:49:22 ID:???
そら2chでまんまん舐めたいって意見とまんまん臭いから舐めたくないって意見じゃ
舐めたいって方が通るだろう
213議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/09(日) 22:58:46 ID:???
ヤザンのひとはその点フトコロ広かったな
こんなのヤザンじゃねーよと悪口とか粘着をしこたま喰らっても平然としてた
214議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/10(月) 00:07:13 ID:???
>>211
そんなこと言ってないだろうw
215議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/10(月) 01:04:21 ID:???
>>214
以前スレが否定的意見もあるのは当たり前だっていう話になった時に
肯定的意見だけでいいっていうのはカミーユ氏言ってる
コピペ嵐の前のスレあたりだったかな、見てみ
216議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/10(月) 02:26:15 ID:???
別に作者が何を言おうが強制力なんか無いんだけどね
褒め称えようが、貶めそうが書き込む奴の勝手だよ
217議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/10(月) 07:41:56 ID:???
雑誌のアンケートはえげつないのが多い
ネット以上に個人の悪意をぶつけれるからな
中には某アニメ化した漫画の後番組にアニメ化されたからと言って複数人から「お前が漫画書かなきゃ某アニメが続いたのに!」と剃刀等を送りつけられた漫画家もいる
外から見るとわかる
醜い、と
俺は江川達也個人が大嫌いだ
情報番組での奴の発言には何度反感を覚えたかわからない
だが奴の作品のいくつかは好きだ
それで良いと思っている
218議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/10(月) 21:34:50 ID:???
>>215
自分で引っ張って濃いよ
証明したいなら
219議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/10(月) 21:37:17 ID:???
>>215
カミーユ氏ってそんな餓鬼だったのか?
批判もあるだろうが自分の書きたいものを書くから
読みたい人は読んで欲しいって意味だと思うんだが
あの人自身もマンセーしてくれなんか一言も言ってないだろう
勝手に捏造すんな
220議論スレにて1001変更案を相談中:2008/11/10(月) 21:42:55 ID:???
お前ら自重しろ
221通常の名無しさんの3倍:2008/11/10(月) 22:19:59 ID:???
枯れ木も山の賑わい
薪にしかならないみたいだが
222通常の名無しさんの3倍:2008/11/11(火) 09:37:39 ID:???
>自分は、馴れ合いでもいいと思っています。
>意見が飛び交うのもいいですけど、それでこのスレが殺伐としたら、それでは本末転倒だと思うんです。
信者多数だったから否定意見を荒れると切って捨てて馴れ合い推奨してるのは本当なわけだが。
223通常の名無しさんの3倍:2008/11/11(火) 09:46:30 ID:???
つか、まんま同じ流れだな
富野節どうので感想つく

荒らしはくんな

馴れ合いじゃなくて、そういう感想あってもいいんじゃねーの?

はいはい、粘着、荒らし荒らし

カミーユ氏、馴れ合い推奨。決着
具体的にマンセーしてくれとまでは言って無いけど封殺したのは確か。
まあ、このスレはカミーユ氏で動いてるからマンセースレでいいんだけどね。
224通常の名無しさんの3倍:2008/11/11(火) 10:33:18 ID:???
つーかカミーユ氏が規制喰らいっぱなしでこっちに書き込めないから憶測が流れる訳で
しかしこんなに長く規制続いてるってどこなんだ?
225通常の名無しさんの3倍:2008/11/11(火) 11:03:02 ID:???
なんか昔に比べて巻き込みで全板規制みたいのされやすくなったから、
毎回その煽りうけてるんじゃね
226通常の名無しさんの3倍:2008/11/11(火) 11:36:30 ID:???
今って報告すればとりあえずで規制されちゃうんだよな
その後、個別に特定してプロバに報告とかだから人が多くて規制受けやすい地域なのかもね
227通常の名無しさんの3倍:2008/11/11(火) 11:52:21 ID:???
まあ一般論として、批判的な意見言うのもいいけど、書き手や肯定派に対しては
「批判がいやなら2chでやらず自分とこだけでやってろ」を錦の御旗に持ち出す人が
その自分の意見が叩かれたり否定されたりするとやれ封殺だとかなんとかあたかも
弾圧の被害者かのように振舞ったり喧伝するのは正直見苦しくはあるわな。
「批判が〜」の文言は時に自分にも返ってくるというだけの事だし、それが元で
PCなり携帯なり書き込み環境を封じられたり訳でもないんだから…
228227:2008/11/11(火) 11:57:06 ID:???
しまった…
×→封じられたり訳でもないんだから…
○→封じられたりする訳でもないんだから…
229通常の名無しさんの3倍:2008/11/11(火) 12:23:39 ID:???
>>227のは多数派の立場っていうかさすがに強者の視点からの意見だろ。
以前の時も知ってるけど、ぶっちゃけそう厳しい事言ったわけじゃないのに
完全に荒らし扱いして追い出したのは確かだぞ?
どっちが見苦しいかっていったらそういう信者の方が正直見苦しい。
まあ、俺はカミーユ氏の作品は凄い好きで文句無いんだが、上みたいな事書くと粘着だなんだって扱われるんだろうけどさ。
230通常の名無しさんの3倍:2008/11/11(火) 20:35:52 ID:???
そもそも富野節とか言う馬鹿が悪い
231通常の名無しさんの3倍:2008/11/11(火) 20:43:27 ID:???
極論乙
232通常の名無しさんの3倍:2008/11/13(木) 00:21:21 ID:???
誰か避難所につれてって!切に
233通常の名無しさんの3倍:2008/11/13(木) 01:00:20 ID:???
上の方にURLあるだろ
234通常の名無しさんの3倍:2008/11/13(木) 15:35:34 ID:???
否定も肯定も無視すればいい。
235通常の名無しさんの3倍:2008/11/14(金) 03:00:07 ID:???
俺と作者以外はいなくなればいい
236通常の名無しさんの3倍:2008/11/14(金) 09:59:13 ID:???
流石、最高のコーディネーターだな…
237通常の名無しさんの3倍:2008/11/15(土) 17:54:49 ID:???
それよりヤザンまだー
238通常の名無しさんの3倍:2008/11/19(水) 14:14:55 ID:???
アッガーレ
239通常の名無しさんの3倍:2008/11/22(土) 04:19:11 ID:???
240通常の名無しさんの3倍:2008/11/22(土) 11:20:23 ID:???
241通常の名無しさんの3倍:2008/11/22(土) 12:38:20 ID:???
242通常の名無しさんの3倍:2008/11/22(土) 12:57:10 ID:???
243通常の名無しさんの3倍:2008/11/22(土) 15:54:48 ID:???
244通常の名無しさんの3倍:2008/11/22(土) 16:47:39 ID:???
245通常の名無しさんの3倍:2008/11/26(水) 19:07:27 ID:???
246通常の名無しさんの3倍:2008/11/26(水) 19:52:29 ID:???
247通常の名無しさんの3倍:2008/11/26(水) 19:58:25 ID:???
248通常の名無しさんの3倍:2008/11/29(土) 14:54:26 ID:kUkDM/Dc
http://cecilpla.up.seesaa.net/image/10A1B21.jpg
■最高のニュータイプ、カミーユ   
富野由悠季監督はカミーユを「最高のニュータイプ」だという。   
これは「戦闘能力ではなく」、広大なジャブローでレコアの居場所を特定するなどの   
随所で見せる感受性の評価だ。とくに最終決戦ではその能力で死者の思念を受け入れシロッコ圧倒した。  
249通常の名無しさんの3倍:2008/11/29(土) 15:28:18 ID:???
TVのカミーユは最高のニュータイプだから壊れるしかなかったと富野は言ってたけど
それが一番説得力あったというか
富野は力の代償として落とすとこは落とすっていうのがいいよな
250通常の名無しさんの3倍:2008/11/29(土) 17:21:42 ID:???
もしカミーユが種の世界にいたら

アスランの機体がエンストを起こす。
251通常の名無しさんの3倍:2008/11/29(土) 20:10:08 ID:???
人という種族に絶望して
ハイパー化→超能力月光蝶とかしそうだ……
252通常の名無しさんの3倍:2008/11/29(土) 20:31:36 ID:???
どのスレで質問していいのか分からない若葉マークなのでここに書き込みます。

今更だが、
シャアがニュータイプだったのは納得がいかない。
ジオン最高峰のパイロットにペーペーのアムロが対抗できたのは
ニュータイプだったからという設定で見ていたのに、
シャアもニュータイプ(大人になって覚醒?)だったというオチにはガッカリした
記憶がある。
ニュータイプの価値と同時にシャアの価値も下がった。

(・з・)誰か納得できる回答をオクレ!!
253通常の名無しさんの3倍:2008/11/29(土) 20:34:59 ID:???
アムロがNT覚醒したのはランバ・ラル戦中〜後
それまでは純粋にガンダムの性能がクソ高く強いだけ

ちなみにシャアはララァに出会ってNTになりかける
ララァが死んでNTに目覚めるが、心に迷いがあるので完璧にNT能力を発揮できない

あとその程度NTの価値が下がったとか言うな
ZZなんてNTのバーゲンセールだぞ
254通常の名無しさんの3倍:2008/11/29(土) 22:35:01 ID:???
NTのバーゲンというが
ZZのシャングリラの餓鬼はカイとかハヤトがアムロの意思感じ取ったくらいのもんでしかないだろう
あとは強化人間ばっかだし

本当にNTが多かったのはZ
ジェリドやエマやレコアですらNT描写がある
255通常の名無しさんの3倍:2008/11/29(土) 23:19:58 ID:???
プルシリーズ(´・ω・`)

Zはヤザンが自分の意思でNTの精神感応を拒否したのが印象的だったなぁ
256通常の名無しさんの3倍:2008/11/30(日) 00:37:31 ID:???
グレメカだとグリプス戦役はNTの最も質が高かった時代と評価してたな
確かに
白い悪魔のアムロ
赤い彗星のシャア
木星帰りの天才シロッコ
アクシズのハマーン
歴代最高のニュータイプ能力者のカミーユ

シャアは微妙だがNTに関してはマジでトップクラスが勢ぞろいしてる
257通常の名無しさんの3倍:2008/11/30(日) 00:51:38 ID:???
ファンネル落しが出来るパイロットが3人も……
段違いすぎる
258通常の名無しさんの3倍:2008/11/30(日) 05:09:36 ID:???
>>255
あの正に「一蹴」って感じが好きだったなぁw
259通常の名無しさんの3倍:2008/11/30(日) 17:45:07 ID:???
ヤザンのああいう所がスゲーかっこいいと思う。
まぁ実際覚醒しなくても尋常じゃないくらい強いもんな。
260通常の名無しさんの3倍:2008/11/30(日) 23:18:52 ID:???
そうか!ヤザンはカテゴリーFなんだよ!
261通常の名無しさんの3倍:2008/12/01(月) 00:07:12 ID:???
新訳のZZというか、「星の鼓動〜」から「逆シャア」に繋がる話が
何らかの形で映像化されるなら、ジュドー達が登場するかどうかはさておいても
ヤザンには小説版ZZのような粋な退場劇を用意してやって欲しいな。
262通常の名無しさんの3倍:2008/12/01(月) 19:23:16 ID:???
いらね
263通常の名無しさんの3倍:2008/12/01(月) 23:51:42 ID:???
ジュドーらの個性ありきのZZだと…
264通常の名無しさんの3倍:2008/12/02(火) 01:31:37 ID:???
俺の中でシャアは、NT能力はトップより少し劣るが
ニュータイプの素質を見出す&育てる事に関しては一番、なイメージがある

最後まで面倒みて無いけど
265通常の名無しさんの3倍:2008/12/02(火) 12:51:12 ID:???
NTホイホイはブライト艦長だと思ふ
266通常の名無しさんの3倍:2008/12/02(火) 13:04:41 ID:qNRk32wk
実際、ハサウェイか何か覚えてないけどそういう話があったな……。

ブライトの周りにはなぜかNTが集まり、
そして、集まったNT達は常に事態の中心となって物事を動かして行くってんで、飼い殺しにしてるって話が……。
267通常の名無しさんの3倍:2008/12/02(火) 13:09:38 ID:PJuTti8U
【実写版】セイラ・マスは北川景子【ガンダム】
http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/geino/1227848979/
268通常の名無しさんの3倍:2008/12/03(水) 12:21:32 ID:???
      ____
   /__.)))ノヽ  
   .|ミ.l _  ._ i.)  
  (^'ミ/.´・ .〈・ リ   
  .しi   r、_) |   NTはわしが育てた
    |  `ニニ' /  
   ノ `ー―i
269通常の名無しさんの3倍:2008/12/03(水) 21:23:32 ID:???
星野鼓動は愛
270通常の名無しさんの3倍:2008/12/06(土) 01:46:37 ID:???
× 星野鼓動は愛

○ 星野虚動は哀
271通常の名無しさんの3倍:2008/12/06(土) 19:55:09 ID:???
保守の行動は愛
272通常の名無しさんの3倍:2008/12/08(月) 21:30:09 ID:???
保守党は可愛い
273通常の名無しさんの3倍:2008/12/14(日) 18:07:25 ID:???
流石にこれだけ放置するのはマズイか、な?
274通常の名無しさんの3倍:2008/12/14(日) 18:52:43 ID:???
アカツキがヤタノカガミ無双

いい気になってるとヤザンのハンブラビと遭遇

胸にウミベビが直撃

アカツキがシステムダウンして行動不能に

という幻影を見た
275通常の名無しさんの3倍:2008/12/14(日) 21:23:06 ID:???
ウミベビってなんだw
276通常の名無しさんの3倍:2008/12/14(日) 23:51:50 ID:???
説明しよう!!
ハンブラビに付いている強力な必殺電撃ワイヤー、
それをウミヘビという
277通常の名無しさんの3倍:2008/12/15(月) 00:45:44 ID:???
説明しよう!!
へに付いているスタンダードな濁点、
それを見逃したのを276という
278通常の名無しさんの3倍:2008/12/15(月) 20:23:53 ID:???
説明しよう!!
>>227のよううな安易な改変を
クソレスという
279通常の名無しさんの3倍:2008/12/16(火) 08:48:18 ID:???
可哀想な227
ムッとしたからって怒りのあまり矛先を間違えてはいかんよw
280通常の名無しさんの3倍:2008/12/16(火) 17:41:44 ID:???
普通に>>227がコピペ改変だと思ってしまった俺と>>227に謝れw
281通常の名無しさんの3倍:2008/12/17(水) 18:22:33 ID:???
まあまあ、元気で何より
282通常の名無しさんの3倍:2008/12/19(金) 14:47:37 ID:???
もうすぐクリスマス
283通常の名無しさんの3倍:2008/12/19(金) 23:49:28 ID:???
僕らが精神崩壊する日ですよねNNNNNNNN
284通常の名無しさんの3倍:2008/12/20(土) 01:32:18 ID:???
今年は教皇猊下がフォースの力を示すらしいね
285通常の名無しさんの3倍:2008/12/22(月) 22:03:59 ID:???
保守
286通常の名無しさんの3倍:2008/12/23(火) 22:34:35 ID:???
イブ前日にアゲ
287通常の名無しさんの3倍:2008/12/24(水) 20:25:01 ID:???
ちぃ職人はまだか・・・待ってるぜ
288通常の名無しさんの3倍:2008/12/24(水) 21:52:23 ID:???
今年は、もう投下無いのかな?
戦闘から逸れたネタでもイイから続きが読みたい…
289通常の名無しさんの3倍:2008/12/25(木) 01:29:42 ID:???
それとも別で投下続けているのか?
290通常の名無しさんの3倍:2008/12/28(日) 22:44:03 ID:???
投下マダー
291通常の名無しさんの3倍:2008/12/29(月) 12:46:17 ID:???
今だから言うけど当時カミーユの声を聞いたとき

すげー地味な声だなって思った。
292通常の名無しさんの3倍:2008/12/29(月) 17:45:23 ID:d83tDVR2
地味で何が悪いんだ!!
293通常の名無しさんの3倍:2008/12/29(月) 20:45:08 ID:???
>>291
いまじゃ変態医者としてしか聞こえないけどなwww
294通常の名無しさんの3倍:2008/12/30(火) 03:40:02 ID:???
違うよ、少佐、少佐殿、大隊指揮官代行殿だよ
295通常の名無しさんの3倍:2008/12/30(火) 13:50:10 ID:???
総統代行じゃなかったっけ。
296通常の名無しさんの3倍:2009/01/01(木) 01:17:37 ID:???
あけおめ保守
297 【ぴょん吉】 【317円】 :2009/01/01(木) 21:56:03 ID:???
洞爺湖の妖精さんでもあったりする。
298 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/02(金) 01:58:55 ID:???
test
299通常の名無しさんの3倍:2009/01/02(金) 03:32:17 ID:???
おおおおおおおおおおお?!
300通常の名無しさんの3倍:2009/01/02(金) 15:45:50 ID:???
このスレ的に無双2はどうなん?
301通常の名無しさんの3倍:2009/01/03(土) 03:16:01 ID:???
相変わらずZガンダム強いし、オフィシャルも優遇されてるよな。υは化け物じみて強いけど。
302通常の名無しさんの3倍:2009/01/03(土) 20:07:20 ID:???
>>210を見て
「もし、カミーユ、Zキャラがバイストンウェルに来たら」を想像した俺がいる

無論物語後半でダンバイン主要キャラが逆にZ世界へ行くというオチを期待
303通常の名無しさんの3倍:2009/01/04(日) 04:05:56 ID:???
カミーユは最強の聖戦士になりそうだな
304通常の名無しさんの3倍:2009/01/04(日) 07:51:27 ID:???
>>301
いや、だから「またカミーユとシンの組み合わせかよwww」とか
「ジェリドとシンってやっぱ合うなあwwwww」とかそういうのを聞きたいんだが・・・
305 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 17:50:19 ID:???
今さらながらあけおめです
いつの間にかアク禁が解除されてたようなんで久々にこちらへ落とします
いつにも増して長いです(´・ω・`)
306 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 17:52:44 ID:???
  『ムーン・アゲイン』


 事前の準備が良かったからなのか、はたまた連合軍が目測を見誤ったからなのか、メサイアを最終防衛
ラインとするザフトのプラント防衛戦は、連合との戦力バランスから考えれば随分と健闘していた。左右か
らの挟撃による包囲殲滅作戦が功を奏し、また、フリーダムやジャスティスといったエース級の活躍でファ
ントム・ペインを始めとする敵主力部隊を封じ込めている事が、これまでの拮抗を支えている大きな要因
だった。
 そのエースの一員としてのシンは、先程から何かを探すようにして戦場を駆けていた。彼は、一度混戦に
巻き込まれた時にジ・Oの姿を見失ってしまっていたのである。キラに大見得を切って見せた手前、手を拱
いている場合ではないと、先程から血眼になって捜索していた。

「あんなのを放っておいたら、こっちの被害だってバカにならないぞ……」

 モニターには多数のワイプが浮かび上がり、全方位に対して索敵をかけている。ジ・Oの機影に対して
オート・リアクションを掛けてはいるが、一刻も早く見つけ出さねばならないという焦りからか、シンの目線は
絶えず方々のモニターを見ていた。
 デスティニーの背にマウントされていた高エネルギー砲と対艦レーザー刀のアロンダイトは、もはや影も
形もない。フラッシュ・エッジも使い切ってしまった今、残されている装備はシールドとビームライフル、それ
に掌に内蔵されているパルマ・フィオキーナであった。
 そんなデスティニーの現状に、シンは若干の心許無さを思い、しかし頭の中はジ・Oを探す事で一杯で
あった。MSは人間が動かすものなのだから、そういった精神状態は、個人差はあれど動きに表れる。特
に、テンションで機動に差が出るシンの場合、それは顕著であった。果たして背後からの敵の接近に気付
いた時、シンはジ・Oを求めるあまりに散漫になっていた敵への警戒心の希薄化を嘆く。

「こんな事じゃ、俺は――!」

 それは、自分への苛立ち。振り向いたデスティニーに襲い掛かるのは、ウインダム。ビームライフルの攻
撃をシールドで防いだ時、シンはソリドゥス・フルゴールの存在をすっかり忘れていた事に気付いた。

「そうか、こいつもあった。――なら、正面からでも!」

 ウインダムはデスティニーの反応の早さに怖気づいているように思える。ビームライフルを構えてはいる
が、その姿勢が及び腰になっているのがありありと見て取れた。パイロットは不意討ちが失敗した事でデス
ティニーに態勢を直され、正面から交戦せざるを得ない状況になってしまった我が身の不運にすっかり狼
狽してしまったのだ。
 デスティニーの右籠手から縦長の光の膜が発生する。ビームシールド――それを発生させ、ウインダム
の攻撃を防ぎながら高速で直進した。そして、光を纏いながらウインダムの直前で急停止したデスティニー
は、そのまま跳ねてウインダムの上に倒立するように翻る。
 俊敏なデスティニーの動きに、ウインダムはまったく対応できていない。数瞬の遅れがあって、ウインダム
の頭部が上方に位置するデスティニーに気付いて顎を上げた。
 至近距離に、デスティニーの顔。互いの顔が向き合った。ウインダムのカメラ・ガラスにデスティニーの顔
が反射して映し出されたとき、内に迸る闘気を吐き出すようにしてその双眸が光を噴出させた。

「ビームのシールドなら!」

 デスティニーの背中の高出力バーニア・スラスターが翼を拡げた。途端、ほぼ静止状態であったデスティ
ニーは凄まじい加速を見せ、身体ごと突っ込んでビームシールドで縦にウインダムの背中を撫で切った。
307 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 17:53:53 ID:???
 魚の背を開くようにぱっくりと斬られたウインダムの背部。熱で溶断された切断面は赤々とした飴色を
煌々とさせ、その傷口から血を噴き出す様にして放電していた。弓形に仰け反らせた機体は、もはや死に
体に等しい。一寸、爆発を堪えていたが、直ぐに白球へと姿を変えた。

「どこ行っちまったんだ、アイツ……目立つ色をしていると思うんだけどな……」

 何事も無かったかのようにシンは呟く。その慎重な呟きが滑稽である事にすら気付かないほど、シンは
ジ・Oの発見に身を入れていた。
 レーダーが効き辛くなるミノフスキー粒子の特性にも、いい加減に慣れた。慣れたはいいが、こう戦場が
雑多になっていると、黄土色の派手な色をしたジ・Oでさえ、ビームの光に惑わされて見分けがつかない。
 シンはチラリと時計を確認し、大まかにジ・Oを見失ってからの時間を確認した。この時計が進めば進む
ほど、ジ・Oは脅威を振り撒き、シンは焦燥を募らされていく。他の味方が撃墜しているかもしれないなどと
は、一切、考えなかった。それだけ、ジ・OとブランはMSもパイロットも完成されていると感じたからだ。
 そして、それを止めなければならないとシンが感じているのは、ザフトのエースとしての自覚が彼の中に
芽生えたからだった。

「ん……?」

 ピピピ、と機械音が鳴り響く。これは、デスティニーのコンピューターに張らせておいた網に獲物が引っ掛
かった音だ。しかも、ミノフスキー粒子散布下という事を考慮すれば、かなり近くに居るはずである。
 果たして、目的の機影を捉えたカメラの映像をサブ・モニターに大写しにすると、ずんぐりとした黄土色の
MSの姿を発見した。

「見つけたぁッ!」

 再捕捉に苦労した分、鬱憤が溜まっていた。シンは見つけられた喜びと、再び見えるジ・Oとの対戦を前
に、興奮を抑えきれずに前のめりになった。ベルトの存在を忘れていて身体を締め付けられるも、そんな
苦しさもお構い無しに、瞬間的に沸騰するテンション。それに同調するように、デスティニーがジ・Oまっしぐ
らに突撃を開始した。
 ジ・OはザフトのMSと交戦中。ミノフスキー粒子が連合軍にもザフトと同じ様に作用しているのならば、デ
スティニーの接近にはまだ気付いていない可能性がある。それを証明するように、ジ・Oはこちらを警戒す
る素振りを見せていなかった。
 行ける――デスティニーがビームライフルで速射すると、ジ・Oは慌てふためいたように全身のアポジ・
モーターを噴かして回避運動にてんやわんやになった。
 キッとジ・Oの頭部が振り返る。その時になってようやくデスティニーの接近を察知したのだろうが、もう遅
い。既に加速を終えているデスティニーは光の矢となってジ・Oへと突き刺さるようにして突っ込む。

『また貴様か!』
「また俺だぁッ!」

 流石にジ・Oは反応が早い。デスティニーに接触を許す前にビームライフルを差し向けたのは、並みの腕
ではない。しかし、シンの勢いはそんな事で殺がれたりはしない。ジ・Oにビームライフルのトリガーを引か
せる前に、デスティニーが喧嘩キックで蹴り飛ばす。

『こ、こいつ――ッ!』

 奇襲は成功。ジ・Oのモノアイが蹴り飛ばされたビームライフルを追い、動揺しているように明滅した。
 これはチャンスだ――ブランの動揺を感じ取ったシンの瞳がきらりと光る。
308 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 17:54:43 ID:???
「一気にケリをつける!」

 デスティニーが両腕を前に突き出す。ジ・Oに掌を見せるように手首の部分で合わせ、獲物に噛み付こう
かという狼の口のように指を開いた。左右の掌の砲口、パルマ・フィオキーナをジ・Oの腹部に突き刺すよう
に伸ばす。
 しかし、シンの目論見は甘かった。ジ・Oはシンの予想以上の反応速度を見せ、逆水平にビームソードを
薙いできたのである。ビームサーベルよりも太い刀身、明らかにパルマ・フィオキーナのリーチよりも長い。
 このままではカウンターでコックピットごと胴を切り払われる。ひり付く様な一瞬の命のやり取りに、シンの
全身の毛穴がブワッと開いた。頭の中で何かが弾け、高まる集中力が時間の流れを遅く感じさせる。

「――んなろぉッ!」

 クワッと見開く目。瞬間的なシンの修正が、デスティニーのモーションを変化させる。牙のようにジ・Oの腹
に食いつこうかという指は真っ直ぐに矯正され、掌は合掌する様にその面を向かい合わせた。そして、その
ままの状態でビームソードに手を伸ばし、上下から挟み込む。
 真剣白刃取り――実際にはデスティニーのマニピュレーターはビームソードには触れておらず、パルマ・
フィオキーナの極小のビームサーベルの干渉で受け止めているだけである。しかし、掌で刀身を挟んで受
け止めているその様は、まさしく真剣白刃取りの構えであった。

「どうだ! これでもう逃げられないぞ!」

 我ながら会心であった。薄氷の上を渡るようなギリギリのコントロールの中、よくもこんな大道芸が出来た
ものだと思う。この動きに、ジ・Oはどう思ったのか。表情を覗うように頭部を見れば、忌々しげにモノアイを
光らせているように思えた。手応えを感じ、シンは口元に笑みを浮かべる。
 しかし、シンは自分も手を出せない事に気付いていなかった。ブランはそれが分かっていて、デスティニー
がどうしようも出来ない事を分かって笑っていた。そして、それとは別にチラリと時計を見て、一つ鼻で息を
鳴らした。それがシンの耳にも聞こえてきて、笑みから一転、怪訝に眉を顰める。

『捨て置けんな、その台詞は。――と言いたいところが、残念ながら時間だ』
「何?」

 何を言っているのか分からない。接触回線の声の調子からは、動揺は感じ取れなかった。その不敵な言
い回しは、寧ろまるで戦意を感じず、既に戦いが終わっているかのようだ。時間とは一体何の事なのか、シ
ンはブランの言葉に逆に動揺してしまった。
 その言葉の意味は、直ぐに判明した。シンから見えるジ・Oの肩越しの向こうの宇宙、戦闘空域外の虚空
を、いきなり巨大な一筋の光が劈いたのである。

「なっ……!?」

 余りにも突然で、余りにも圧倒的な光景。まるで夢の中の出来事のように輝く一筋の大きな光は、シンを
絶句させるには十分だった。

『何ィ? ――撤退だと!?』

 呆然となったシンは、接触回線から聞こえてくるブランの声によって我に返った。目の前にジ・Oが居る事
を思い出し、慌てて操縦桿を握りなおす。
 しかし、ほんの一瞬であるが気を弛緩させたシンに、急に高いコンセントレーションを取り戻す事は出来
なかった。
309 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 17:55:44 ID:???
 動き出しでジ・Oに遅れを取り、後手に回らざるを得ない。パッとビームソードを手放したジ・Oにショルダ
ー・タックルを食らわされ、突き飛ばされる。コックピットで激しい振動に見舞われたシンは、固く操縦桿を
握って堪えた。

「グッ!」

 ジ・Oがデスティニーを警戒するようにバックで後退する。シンが衝撃で瞑っていた目を開いた時、ジ・Oは
先程デスティニーに蹴り飛ばされたビームライフルを回収し、反転して退却を開始していた。そして、それが
切欠になったように連合艦隊から信号弾が打ち上げられ、連合軍MSが撤退して行く。その連合軍の撤退
を知ったザフトからも帰還命令の信号弾が各所で炸裂したが、シンは暫くそれに気付けないで居た。
 一挙に閑散としていく戦場の中で、シンはまだ信じられないといった面持ちで呆然としていた。ハッとして
我に返ると、慌ててコンピューター・ディスプレイに宇宙図を表示させた。

「今の光、何処行った? まさか、プラント――」

 記憶の中の光景を頼りに、光の向かった先を計算で割り出そうとする。しかし、先程の光景を思い出すだ
に、手が震えて思うように操作できない。何とかかんとか必要な情報を入力し終えると、ディスプレイに表示
された事実にシンの表情が凍りついた。
 弾き出された答は、先程の光がプラント・コロニーを目指していったという事。
 コックピットの中が妙に鬱屈していて、空気が澱んでいる気がする。その息苦しさから逃れるようにシンは
ヘルメットを脱ぎ、額に滲む汗を拭った。

「ナチュラルって――ブルー・コスモスってのは、あんなのを俺達に使ったのか……!?」

 先程の光に慄いたのは、シンだけではない。彼と同じ様にコンピューターで光の行く先を計算したのであ
ろう他の友軍MSも、あまりの出来事に立ち竦んでいるようである。パイロットの心情がダイレクトに立ち居
振る舞いに表れてしまっているのか、MSが項垂れた様な格好で宇宙に立ち尽くしていた。

「戦争ったって、これが人が人に対してする事だなんて……」

 抵抗する力を持たない一般民衆を直接狙った先程の光。
 ブルー・コスモスは、コーディネイターを同じ人間と見なしていないと聞く。ナチュラルを母体としているコー
ディネイターなど、ナチュラルに毛が生えた程度の違いしかないのに、だからと言ってここまでやれてしまう
ブルー・コスモスの行き過ぎた非道は、もはや戦争などと言うレベルで語れる話ではないとシンは思う。

「許せるかよ、こんな一方的な虐殺……!」

 今しがたの光景に、身の毛が弥立つ。薄ら寒さを感じたからではない。無性にやるせなくて、憤りに身体
が震えるのだ。
 力の弱者でもある民衆には、圧倒的な力の前ではあまりにも無力だ。そして、一方的に蹂躙されるしかな
かった過去を持つシンは、その無力感の中から這い上がってきた。そんな彼が、レクイエムの光に対して
義憤を抱かないわけが無かった。
 ミノフスキー粒子が希薄化してきた。通信回線の状態が徐々に回復し、シンの所にもメサイアからの帰還
命令のコールが鳴り響いた。戦闘は終わったのである。終わったのであるが、シンの心の内に燃え上がっ
た憤りの炎が鎮火する事は無い。命令に応じ、帰還の途につくデスティニーの後ろ姿であったが、その背
からは、静かに炎が揺らめいているような怒気が立ち上っていた。
310 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 17:56:57 ID:???
 レクイエムの輝きは、まるで宇宙を切り裂くような長い軌跡を描いて、糸が切れるように消えていった。ザ
フトと連合軍の攻防戦は、連合軍の後退によって戦火を収束させていく。
 本来の作戦であれば、連合軍には後退のプランは存在していなかった。レクイエムの発射は、それ自体
が勝敗を決するものであり、プラント・コロニーの崩壊によるザフトの乱れに乗じて一気にプラント本国を制
圧に掛かるというのが本作戦の趣旨だったからだ。
 しかし、実際にはオーブの廃棄コロニー調査艦隊の活躍でレクイエムの光は辛くも一部のコロニーを掠
めるに止まり、更には挟み込まれている戦況の不利を悟っていては、後退するしか連合軍に道は残されて
いなかったのである。ザフトにしてみれば、命拾いしたというところだろう。
 オーブ艦隊の派遣はデュランダルの臆病から端を発し、ユウナの打算によって編成されたようなものだ。
当初の目論みと相違があっても、結果的にオーブ艦隊の派遣はプラントの寿命を延ばした格好になる。

 シンがブランにあしらわれていた頃であった。レクイエムによる作戦が失敗した事を悟った連合軍の艦隊
から、信号弾が次々と打上げられ、鮮やかに炸裂した。何とかジェリド達を撒いたキラは目を細め、その光
を見つめていた。
 陣形的に不利な状況を打開する為の、一時的な後退だろう。体勢を立て直した後には、再度侵攻が予想
される。先程のレクイエムによる強烈な超長距離ビーム攻撃も、一発だけで終わりとは限らないだろう。

「――だったら、少しでも数は減らしておかないと!」

 考えて思い立ったキラは、尚も後退する連合軍を追撃した。後顧の憂いを絶つ意味でも、戦況が好転し
ている今の内に敵の戦力は少しでも削いで置くべきだと判断したからだ。
 ――尤も、普段のキラならばこんな事は考えたりはしない。彼は敵であろうと命を粗末にするような行為
は決して認めなかった。そして、自身も悪戯に敵の命を奪うような事はしなかった。それが自らの決意であ
り、哲学でもある。それに、それを可能とする力も備わっていた。
 しかし、キラは許せなかった。超長距離ビーム攻撃は、直接プラント・コロニーを狙っていたとしか思えな
い軌跡を辿っていた。何の罪も無い民間人を、戦う力を持たない一般人を狙う――それは戦争ではなく、
唯の虐殺以外の何物でもないではないか。彼もまた、シンと同じ憤慨を抱いていたのである。
 勿論、歴史上にナチュラルとコーディネイターの汚点とも言うべき悲劇が多数起こっている事は分かって
いるから、ナチュラルがコーディネイターを敵視する気持ちがあることは、受け入れる事は出来ないが理解
する事は出来る。しかし、もし、ブルー・コスモスがコーディネイターであること自体が罪であると主張するな
らば、それは単なる傲慢でしかない。そうやって問答無用でコーディネイターをゴミ扱いするから、コーディ
ネイターだって抗わなければいけなくなるのだ。
 そんなキラの主張を表現するように、ミーティアは後退する連合軍のMSを次々と撃墜していった。しか
し、その時、後退する連合軍のMS隊と入れ替わるように、新たな部隊が前に出てきたのをサブ・カメラが
捉えていた。見れば、ウインダムの特殊装備部隊のようである。その背には、巨大な砲塔が装備されてい
た。キラは、それが何であるかを即座に見抜いた。

「アトミック・バズの砲身――まさか、ピース・メーカー隊!?」

 核武装を施されたウインダムの特殊装備。ニュートロン・スタン・ピーダーに消されていったピース・メー
カー隊は、戦前に予想していた通り複数存在していた。
 恐らくはレクイエムとの連携を狙って温存していたのだろう。しかし、そういう場合ではなくなった。後退す
る味方部隊を援護するように出てきたピース・メーカー隊は、一斉にその砲身をメサイア、そしてその後ろ
にあるプラント本国に向けた。
 局面の最後に来て現れたピース・メーカー隊に、キラも焦る。ここで致命傷を受ければ一巻の終わりだ。
自然とそちらへの対応を優先させようと操縦桿を傾けようとした。
311 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 17:57:52 ID:???
 その瞬間であった。メサイアから、ピース・メーカー隊に向かって伸びる巨大なエネルギーの奔流。先程
のプラント・コロニーを狙った超長距離ビームよりは規模は小さいが、十分な威力のビームが砲身を構える
ピース・メーカー隊をあっという間に飲み込んでいったのである。
 ネオ・ジェネシス――メサイアに備え付けられている主砲である。以前のジェネシスよりも小型で威力も落
としてあるが、それでもその攻撃力は凄まじいものを誇っている。

「こういう状況に対して、何を策を講じていないとは思っちゃいなかったけど……」

 キラは呆然とコックピットの中でその光景を眺めていた。
 自分の知らないところで、戦術というものは動いている。連合軍は核兵器というプラントにとってトラウマと
も言うべき武器を囮にし、レクイエムによるコーディネイターの殲滅を目論んでいた。一方のザフトは連合
軍の核攻撃を想定して用意していたニュートロン・スタン・ピーダーの他にも、メサイアのネオ・ジェネシスを
切り札として温存していた。つまり、メサイアの射線上に部隊を殆ど配置しなかった本当の目的は、ネオ・
ジェネシスを遠慮なく使うためだったのだ。
 戦場でいくらMSで戦果を挙げても、戦術上では一つの手札に過ぎない。兵士は、謂わば作戦を成功させ
る為の駒でしかないのだ。どれだけキラが力を持っていても、所詮は一兵士にしか過ぎない。そんな実感を
植えつけられた様な気がして、キラは大きな溜息をついた。


 メサイア――プラントの盾となるべく設置されたその司令室には、中央の椅子に座るデュランダルの姿が
あった。眼前では、国防委員長がしきりに指揮を執り、デュランダルの傍らではカガリが佇んでいた。
 デュランダル曰く、コロニーに居るよりもメサイアの方が頑丈で安全だからという事らしいが、別行動を
取ったオーブ軍に同盟を反故にさせない為の牽制だったというのが本音だろう。
 しかし、下手をすれば戦争に負けていたかもしれない状況を鑑みるに、それも今となっては正解だったの
かもしれない。密かに胸を撫で下ろし、騒然とする司令室の中、デュランダルは立ち上がって国防委員長
のところへ流れていった。

「ネオ・ジェネシス、予定通りに機能してくれたようです」

 デュランダルがやって来た事に気付いた国防委員長が振り返り、ホッと溜息をついた。表情に安堵の色
が浮かんでいて、ジェネシスを使った作戦も確実性があったわけでは無い事を覗わせた。
 デュランダルはチラリとカガリを見やり、その国防委員長の安堵に気付かれていない事を確認してから再
度、国防委員長を見た。

「それは結構だが、先ほどの光は何だ? 何処から来て、何処へ向かった?」

 デュランダルの問いに、国防委員長は少し視線を落として言葉に詰まった。苦々しげなその表情は、まる
で詳細が判明していない事を如実に表していた。

「は…何処からの攻撃かは割り出し中ですが――」
「コロニーが狙われていた事だけは分かっている――そうだな?」
「はい。幸い、直撃は免れたようですが、一部のコロニーでは停電等の影響が出ている模様です」
「不味いな。電力の復旧が遅れるとなると、国内に動揺が奔る。直ちに復旧作業を開始するように伝えろ」

 考えるべきは、一般市民への影響だろう。コロニー国家のプラントにとって、ライフ・ラインの確保は何よ
りも重要になってくる。中でも電気はコロニー内の空気や水などの環境の整備に重要なものであり、それの
復旧が遅れることで一般市民に不安が広がることをデュランダルは一番懸念していた。一般市民に不安
が広がれば、それが軍や政治不信に繋がり、国内情勢の不安定化へと傾いていく事になるからだ。
312 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 17:58:38 ID:???
 まずこれからすべき事は、停電の起こっているコロニーの復旧作業を全力で行う事。国内情勢の安定を
図り、連合に対して隙を見せない事だ。デュランダルは顎に手を当て、一つ頷いて通信班に命令を下した。
 それと同時に、1人のオペレーターが振り返ってこちらの様子を覗っている。インカムに手を当てるその仕
草は、何らかの通信をキャッチしたらしい事を示していた。

「よろしいでしょうか?」
「構わん」
「はい。廃棄コロニーの調査に出向中のユウナ=ロマ=セイラン オーブ軍総司令官より、緊急連絡です」
「何?」

 デュランダルと国防委員長が顔を見合わせ、そのオペレーターの所へと駆け寄った。そして、ユウナとい
う名前を聞いたカガリも、そんな2人に倣うようにして床を蹴る。
 デュランダル達がオペレーターの傍の大型ディスプレイの前に立った。少し遅れて、カガリが後ろの方で
足を着けるのをチラリと見やる。デュランダルはそれを待っていたかのように口を開いた。

「正面に廻せ」
「ハッ」

 デュランダルの声に応え、果たして大型ディスプレイにシートに腰掛けるユウナの姿が映し出された。恐ら
くは今の超長距離ビーム攻撃に関係しているのだろう。表情には緊迫の色が浮かんでいる。

『デュランダル議長、そちらは大丈夫だとは思いますが――』
「ならば、今プラントを襲った超長距離兵器に関係していると?」
『そうです、反射衛星砲です。連合は、複数のゲシュマイディッヒ・パンツァー装備のコロニーを中継ステー
ションに仕立て、ビームの軌道を多角に曲げる事で月からプラントを狙撃しようとしました』
「月から……!?」

 デュランダルは驚きに表情を歪めた。よもや、そんな遠くから直接プラント本国を狙い撃ちにしようとしてく
るとは思わなかったからだ。
 誰かが息を呑む音が聞こえた。静寂と化した司令室の中、電子音が無機質に一定のリズムを刻んでい
る。デュランダルは少し思考をめぐらせた後、再び顔を上げて画面の中のユウナを見た。

「それでは、核攻撃はやはり、こちらに先程の戦略兵器を見せないがためのブラフだったと?」
『そう考えてよろしいでしょう。プラントは、核に対してトラウマを持っています。それ故に、どうしても核の存
在に目を奪われがちになってしまうものですから、その習性を利用されたのです』
「習性と言いますか――」

 所謂“血のバレンタイン事件”と呼ばれるユニウス・セブンへの核攻撃は、未だプラントにとって記憶に新
しい。10万を超える同胞を一瞬にして失ってしまったその出来事は、プラントの核兵器への恐怖と憤りを心
理面に植え付ける契機となった。
 ジブリールは、そのコーディネイターのトラウマを利用したのだ。ザフトに核の輸送船団が発見されたの
も、全ては連合軍が次の作戦に核を必ず投入してくるだろうと思わせるためだった。そうする事でプラント
の目を核兵器に向け、レクイエムの存在を秘匿する事に成功したのである。尤も、デュランダルの臆病が
オーブ艦隊の派遣を呼び、シロッコがステーションの防衛に失敗する事までは読み切れなかったようである
が――
 血のバレンタインの当事者で無いユウナが軽く言ってのける態度はあまり気の良いものではなかった
が、今はそんな些細な事に目くじらを立てている場合ではない。デュランダルは一つ咳払いをするだけに止
め、気を取り直してユウナに訊ねる。
313 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 17:59:55 ID:???
「――では、あれが連中の切り札だと考えてよろしいのですね?」

 ディスプレイの中のユウナは、デュランダルの問い掛けに深く頷いて見せた。

『連合の本命は、反射衛星砲でほぼ間違いないというのがこちらの見解です。現在、そのステーションの一
つを我々で占拠していますが、軌道の修正を行えば別のルートで直撃コースが繋がってしまうと、こちらの
エリカ=シモンズが弾き出しています』
「出所は――」
『ダイダロスです。ですから、そこを攻略する為にも、ザフトには援軍を要請したく思います』
「そちらで叩いてもらえると? ありがたい事だが。……ふむ」
『時間はあまり残されておりません。お早目のご決断を』

 デュランダルは、ユウナの打算には気付いていた。だからこそ、カガリを自分の傍に置いているわけだが
――恐らく、モニターの向こう側のユウナにもカガリの姿は見えているだろう。表情は冷静を装っているが、
内心では臍を噛んでいるに違いない。
 デュランダルはカガリの表情を横目で盗み見た。毅然とした表情と姿勢、真っ直ぐに見据えるブラウンの
瞳は、金獅子の如く雄雄しさと気高さを感じさせる。最早、アーモリー・ワンで会った時のような青臭さは微
塵も見られなくなっていた。当時の事を思い返せば、随分と大人びたものだと驚かされる。
 言葉を詰まらせ、沈黙を続けるデュランダルに業を煮やしたのか、決断を渋る彼の背を押すように、カガ
リが顔を振り向けた。デュランダルは、思わずカガリへ向けていた視線を外す。

「私のような立場の人間が口にするべき事ではないと思いますが――」
「いえ、同盟国の国家元首でいらっしゃる代表の意見は、貴重なものです」

 その反応が意外だったのか、カガリは謙虚な姿勢を見せるデュランダルの態度に一瞬だけ窮したように
見えた。そういう仕草を見るだに、まだ多少の子供っぽさは残されているのだろうとデュランダルは微笑ま
しく思う。
 カガリは胸元のネクタイを直す仕草をし、動揺を誤魔化すように気を取り直した。それも、自分に対する
失礼を気に掛けての行為だろう。彼女には、そういった慎ましやかさといったものを持ち続けていて貰いた
いものだと、デュランダルは思う。

「ありがとうございます。では、言わせて貰えば、ここは早急に戦略兵器の元を断つべきと存じます」
「その心は?」
「そうでなければ、故郷を発ち、ここまで流れてきた私達の想いも報われませんし、何よりも多くのプラント
国民がその命を散らす事になってしまいます。ナチュラルとコーディネイターの融和を目指す我々にとって、
この危急の事態を看過する事など出来ません。何卒、御英断を下される事を願います」

 ユウナの打算とは裏腹に、カガリの決意は固まっていた。彼女の願いはナチュラルとコーディネイターの
真の融和。愚直なまでに純粋なその理想は、時に周囲の嘲笑を貰うかもしれない。しかし、その愚直さがカ
ガリの魅力であり、デュランダルはそんな彼女をそれほど嫌いではなかった。オーブとは、自国の事しか考
えられない国柄であると思っていたデュランダルにとって、同盟国とはいえ他国であるプラントの危機を憂
慮する正義感を持つカガリは、好意に値する。
 カガリの射抜くような目線が、デュランダルを直撃する。その信念に固まった力強い瞳は、国家元首に相
応しいと認められる。しかも、歳を重ねていない分だけ利権に囚われるようなこともなく、理想を追い求める
純粋さがより眩しく見せていた。
 そんなカガリの強い意志に押し切られたのかどうか、デュランダルには分からない。彼の腹の内は既に
決まっていたが、今の彼女の一声で余計にその決意が固まったような気がした。
314 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 18:00:50 ID:???
「わかりました。ザフトの戦力をいくらかそちらに回します。――国防委員長、部隊の編成を急いでくれ」
「ハッ」

 デュランダルがそう告げると、すぐさま国防委員長は敬礼をしたまま床を蹴って流れていった。
 その姿を見送ると、デュランダルはモニターの中のユウナとカガリの顔を交互に見やった。

「よろしいですかな? ダイダロスといえば、大西洋連邦の一大軍事拠点であります。そこへ仕掛けるという
事は、それ相応の痛みが伴うという事を――」
「覚悟しております。この状況で一国の我侭を申してはおられませんから。――ユウナ、頼んだぞ」
『拝命いたしました。反射衛星砲の件はこちらにお任せください、代表』

 ユウナがその言葉を言い終えると同時に、通信は途切れた。

 通信を終えると、ユウナは伸ばしていた背筋を緩め、どっかりとシートに背中を押し付けた。

「デュランダルの奴、カガリを手放す気は無さそうだ」

 ユウナは、一応戦闘も想定した廃棄コロニーの調査を名目としていた為、安全を考慮してカガリの同行を
視野に入れていなかったのである。その代わりに、いざとなればキラにカガリを連れて来て貰うつもりだっ
たが、デュランダルにこんなに近くに居られたのではそれも難しいだろう。デュランダルはカガリをコロニー
に待機させて置くのではないかとユウナは考えていたが、今になって考え直してみれば、用心深い彼がそ
んな甘い事をするわけが無いのだ。こんなことなら、無理矢理にでも連れ出すべきだった。ユウナにとっ
て、痛恨の失敗だった。
 デュランダルは、分かっているのだ。オーブにとって、今はカガリが唯一の希望であることを。彼女が居な
ければ、例えユウナが懸念するとおりプラントが滅び、オーブだけが生き延びたとしても指導者を失った国
はやがて空中分解する。本来なら新しい指導者を立てて再建するべきところだが、その土台が今のオーブ
には皆無なのである。だから、悪い言い方をすれば今のカガリはデュランダルに人質にされているようなも
ので、本人もそれを分かっているようだった。

「我々に対する牽制のつもりなのでしょう。カガリ様をああして見せつけ、イニシアチブがあちらにある事を
意識させているのです」

 通信でのやり取りが終わり、席を外していたトダカがふわりと艦長席に腰を落とす。簡単に言ってのける
トダカに対し、イライラを募らせていたユウナは不機嫌そうな横目でトダカを睨み付けた。

「分かっているよ。お陰で僕は、やりたくも無い作戦を立てるハメになってしまった」

 お手上げと言わんばかりに、ユウナは肩を竦め、両の掌を返して見せた。


 終戦が近付いている――連合軍では、そういう話題が上るようになっていた。それというのも、圧倒的破
壊力と高い戦略性を併せ持つレクイエムの存在が、彼等の意気を上げていたからだ。現在は一時後退中
であるとはいえ、戦力的に見てもザフトよりも優位に戦えている。そういった余裕も作用しているのかもしれ
ない。
315 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 18:01:39 ID:???
 ファントム・ペインの中でも、そういう話題がちらほらと上がる様になってきた。そういうお気楽な風潮を、
ブランは悪い事だとは思わない。ぎすぎすに尖がった戦争状態の中で、緊張感を持ったままずっとやって
来た兵士には、精神的な安らぎが必要だ。例えば戦後に退役を考えているものが居るとしても、それが終
戦へのモチベーションに繋がるのであれば歓迎してしかるべきだ。そういう前向きな目標を持つという事
は、正常な精神を持っていることの証明になるからだ。死にたがりの兵士など、軍には必要ないとブランは
考えている。

「少佐は、終戦後はどうされるおつもりなのですか?」
「ん?」

 シロッコがガーティ・ルーを使っていることで、ファントム・ペインは同型艦のナナバルクに配属となった。
 ブランが腕を組んでブリッジで佇んでいると、徐にイアンが尋ねてきた。その声に振り向き、ぶっきら棒に
一言答えてから、怪訝そうに片眉を吊り上げた。ブランの少ししゃくれた顎と見事なリーゼントは、イアンも
既に見慣れたものである。
 それにしても、ブランと言いジェリドと言い、彼等の世界ではブロンド髪の男性の間でリーゼント・スタイル
が流行っていたのだろうか。C.E.の流行から考えれば、若干の古臭さを感じさせるが、しかし特に気に掛か
る事では無いだろうとイアンは口にも顔にも出さない。

「藪から棒だな。貴様でもそういう事を気にするのか?」
「はぁ。失礼であることを承知で申し上げますと、少佐はこの世界の人間ではいらっしゃいません。最初か
ら戦争ありきで軍にスカウトされた経緯がございますので、本心ではどう思っていらっしゃるのか、興味が
あった次第であります」

 かなり丁寧な物言いは、決して萎縮しているからではない。イアンは、元々この様な口調の男なのだ。生
真面目な軍人タイプで、そのお堅い佇まいを苦も無く演じられるような変わり者である。ブランは、そんな冷
静沈着な艦長の存在を頼もしく思っていた。
 ただ、それとこれとは話は別だ。珍しく人間的な話題を振ってくるイアンを、それまでサイボーグのように
思っていたブランは、やはり彼も人間なのだと苦笑する。

「フン、貴様も随分と物好きな男だ。そんなこと聞いたって、何の得にもなりゃせんのになぁ」
「ぶしつけでありましたら、申し訳ありませんでした」
「そう言ってくれるな。別に何も考えちゃいないだけだよ」

 俗事に通じなければ、大抵の人間はストレスが溜まる。中には奇麗事ばかりを口にしてお高くとまってい
る下らない人間も居るが、ブランはそれは嘘だと思っている。出歯亀や野次馬といった根性が無い人間な
ど、この世に存在するわけが無いのだ。そういう欲望が無ければ、人類は何度も戦争を起こして互いを殺
し合うような真似をするはずが無い。
 それは人類に植え付けられた性だ。その性が人間を形作っている要素であるならば、イアンの興味は寧
ろ好意的に解釈できる。ブランは怒る様子を微塵も見せることなく、イアンの生真面目さを肩で笑った。

「――が、MSから降りる気にはなれないな。軍の空気が肌に合うのさ。飯も食わしてもらえる。強いて言え
ば、そういう事になる」
「なるほど」

 ブランは再び顔を正面に戻し、ブリッジから見える光景に視線を戻した。イアンは顎に手を当て、納得し
たように頷く。チラリとその様子を盗み見たブランは、呆れたように苦笑を浮かべていた。
316 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 18:02:57 ID:???
 ナナバルクの格納庫を、柵に肩肘を乗せて背中を預けているスティングが後ろ向きに見下ろしていた。そ
の視線で整備状況を覗うのは、自分の愛機カオスと、同小隊の機体である2機のガブスレイ。いずれも損
傷は軽微で、次の出撃に支障は無さそうである。スティングは軽く溜息をついた。

「それにしても、よくもあの程度のダメージで済んだものだ」

 不意に声を掛けられて、スティングは声のした方に顔を振り向けた。特注の黒い制服に身を包み、長身と
その長い手足は憎いほどに似合っている。だが、若干の時代遅れの感がある金髪のリーゼントを揺らす
のは、最近の若者の感性を持つスティングからすれば何とかならんものなのかと不満があった。時々眉毛
が黒くなったりブロンドになったりしている様に見えるのは、果たして彼の気のせいなのだろうか。ジェリドで
ある。

「あのコンテナ付きのフリーダムに狙われた時は、流石に肝を冷やしたぜ。カリドゥスを外して気分悪くなって
る時だったからな。下手すりゃ、逃げ切れなかった」
「俺とマウアーのお陰だろ?」
「そりゃあそうだけどよ。恩着せがましく言われると、素直に面白くねえな」

 苦笑交じりにスティングは拳を突き出す。ジェリドは彼に付き合う形で自身の拳をこつんとスティングの拳
に突き合わせた。
 思えば、スティングとは随分と親しくなれたものだ。記憶を改竄して都合よくしてあるとはいえ、彼のような
思春期真っ盛りの少年は、カミーユを例に挙げるまでも無く、厄介なものだ。その世話役を押し付けられ、
当初は何故自分がと、ネオを恨みもした。しかし、ジェリドにとって救いだったのは、スティングという少年は
思ったよりも大人だったという事である。

「――スティング、俺は戦争が終わったらマウアーと一緒になるつもりだ」

 いきなりの告白に、スティングは思わずジェリドの顔を凝視した。必死に動揺を顔に出すまいと努力して
いるようであるが、バレバレである。

「死亡フラグか?」
「何だ、そりゃ?」
「だったら、何を今更そんなこと言ってんだよ。態々俺に言う事でも無いだろうが」

 強がって言うスティングの仕草を、ジェリドは笑おうとしなかった。これは、信頼する仲間に対して表明する
極めて重要な決意である。それを笑って行う事など、言語道断。どこまでも真剣であるという事を、スティン
グに示しておく必要が、ジェリドにはあった。

「いや、お前にはきちんと言っておきたくてな。俺はこの世界で骨を埋めるつもりだ」
「は? 何言ってんだよ、ジェリド……?」

 自分が異世界人であるという事は、スティングには言えない。言えば、彼の記憶に破綻を来してしまうか
らだ。こういう重要な隠し事をしなければならない事を申し訳なく思う。
 しかし、その一方でスティングもジェリドに対して隠し事がある事を知っていた。スティングはマウアーに対
して憎からず思っている部分がある。彼は決して口に出したりはしなかったが、ジェリドは匂うところがあっ
た。恐らく、まだ自分で気付けるレベルにまでその想いが達していないだけだとは思うが、後々の“しこり”
を残さないためにも、この場できっぱりと宣言しておくべきだと感じていた。
317 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 18:03:44 ID:???
「戦争で死ぬつもりは無いってことさ。俺は、そういう事を言っている」
「――んだそりゃ? 俺達が負けるわけねーじゃねぇかよ。自慢にしか聞こえねぇぜ、正直」

 動揺している自分に動揺しているのだろう。そんな自らを誤魔化すように、スティングの口調から棘が顔
を覗かせた。

「悪いな、スティング。お前には、正直に話しておかなくちゃいけないことだと思っていたんだ」
「何を謝ってんだか。いつ決めんのかヤキモキしていたところだ。“ようやくか”って感じだよ」

 微妙に視線を合わせない仕草が、スティングの心の動揺を感じさせる。彼にとって、とてもナイーブな部
分である事を知れば、ジェリドも無理に視線を合わせようなどとは考えない。

「ま、ジェリドの場合、この先どうなるか分からんねーからよ、先に“おめでとう”を言っておくよ」

 憎まれ口を叩くのは、照れ隠しをしている証拠。その辺の心情や性格の諸々を分かっているジェリドは、
大人の余裕の佇まいを続ける。

「ほざけ――けど、ありがとうよ」
「止めろよ。おめーの“ありがとう”なんて気持ち悪くて仕方ねーぜ」

 そこまで話して、ジェリドはようやく笑顔を見せた。スティングも釣られる様にしてぎこちない笑顔を見せ、
そのはにかんでいる様が、やはり少年らしさを垣間見せる。大人への過渡期である微妙な年頃、本音と建
前の使い分け方に戸惑い翻弄される世代。寄りかかっていた柵から離れ、逃げるように背中を向けるス
ティングの後ろ姿を、ジェリドは感謝の眼差しで見送っていた。

 格納庫のパラス・アテネの下で整備を監督しているライラは、そんなジェリド達のやり取りを腰に手を当て
て眺めていた。ああいう微妙な関係は、得てしてこじれやすい。しかし、ジェリドがそこを上手く纏めた事に、
ライラは満足そうに笑みを浮かべていた。

「素質だけは、昔から認めていたんだが――」
「ライラ!」

 その分、ライラは楽だろうか。慕ってくる少年は、些か子供っぽい短気を見せるが、それがライラにとって
は刺激となって楽しめる部分でもある。呼ばれて振り返れば、奇抜な制服に身を包んだ青髪の少年が無重
力をダイブしてくる。

「アウルは――アビスの整備は、終わっているのか?」
「ライラは戦争が終わっても軍に残るのか?」

 ライラの質問を無視して、アウルは自分勝手に疑問を投げかけてくる。自由奔放さは、やんちゃで健全な
少年の証である。ただ、その全てを刺激的と称して看過していれば、少年の自分勝手さしか育たず、将来
的な人間形成に悪影響をもたらす事になる。それを許してしまったのならば、保護者としての意味が無い。
 ライラは額に指を当て、少し不機嫌な仕草を取ってアウルを迎える。

「あんたはあたしの質問が聞こえていなかったのか?」
「終わったから、こっちに来たんだよ。――で、どうなんだ?」
「はぁ……」
318 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 18:04:46 ID:???
 減らず口に溜息を漏らすライラ。その様子も気にならないとばかりに、アウルは床に足を着けて傍らに流
れてきた。元が悪いのか、自分の教育が間違っていたのか、ライラは軽い頭痛を覚えた。

「そういう話題がそこかしこで流行ってるからってね――」
「ライラがどうするかで、俺の将来も決まるだろ? だったら、気にもなるぜ」
「あんたは一生あたしにくっついてくる気かい?」
「ずっとそうして来たんじゃねーかよ」

 腕を組み、スレンダーな体型で彫刻のような華麗な佇まいを見せるライラに、身体を摺り寄せるように並
び立とうとしてくるアウル。後ろ頭で両手を組み、軸足に絡ませるように足も組む。まるで猫が媚びる様な仕
草に、ライラはそれも悪くは無いと拒絶はしない。
 しかし、それは内心で思っていることであって、馴れ馴れしく寄って来るアウルに対して、表面上はあくま
でノー・リアクションを貫き通す。彼のような少年は、一度甘い顔を見せれば直ぐに調子に乗るからである。

「あんたはいい加減、女を作りな。何時までもあたしに甘えているようじゃ、坊やからは卒業出来ない」
「浮気は好きじゃねーんだ」
「誰があんたと付き合ってんだ」

 身長は、ライラの方がアウルよりも高い。背後から見ればまるで仲良し姉弟のような並び立ち。ライラは
少し顎を上げ、不敵な笑みを浮かべるアウルを睨んだ。

「ライラよりもいい女なんか、居るかよ」
「フンッ」

 ポッと頬を赤らめ、視線を外して恥ずかしげなアウル。勇気を振り絞った彼を、ライラは鼻で笑った。
 アウルはライラに求める母性を恋心と勘違いしている。本当ならその間違いを指摘して自立を促してあげ
るのが母親役の自分の成すべき事だと思う。しかし、軍隊の中で生きてきた彼女は、厳しい言葉が口をつ
いて出てきてしまうことがある。自立させなければならないと考える一方で、迂闊に突き放す事でアウルの
心が自分から離れていってしまう事を、ライラは密かに恐れていた。
 ネオに提案された時は、厄介事を引き受けてしまったものだと後悔したものだ。記憶を改竄する前の、出
会った頃の事を思い出す。あれだけ自分に反発していたアウルが、今やこんなに素直になって自分の大切
な存在になるとは、当初は考えられなかった。アウルは、ライラ本人も気付かない内に、彼女の中でかけが
えの無い存在へと変貌していた。

「そういう生意気は、酒を旨く感じる歳になってから口にするんだね。ミルクがベスト・マッチの坊やには、気
取った台詞は似合わない」

 ライラはそう言うと、床を蹴ってふわりと後ろに身体を浮かせた。アウルの瞳が、そんな彼女の姿を追っ
て動く。
 その場から離れたが、本気で拒絶しているのではない。ライラは少し小バカにするような笑みを浮かべつ
つも、表情そのものは概に柔和であった。アウルもそれは分かっているようで、些かも慌てた素振りは見せ
ない。彼の経験則として、ライラがそういう照れ方をするものなのだと思い込んでいるのだ。勿論、そういう
風にアウルの心情をコントロールする事がライラの目論見でもあるのだが。

「いつかはライラの方から言わせて見せるさ。“あんたよりもいい男は存在しない”――ってね」
「あたしに、期待させるつもりか?」
「ライラが俺を見てくれるんなら、何でもするつもりさ。だから、一緒にこの戦争に勝とうぜ」
319 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 18:05:15 ID:???
 アウルはそう言うと、指で拳銃の形を作り、発砲する真似をして見せた。一体、誰を狙って撃っているの
か――敵のザフトか、はたまたライラのハートか。或いは、その両方なのかもしれない。
 肩越しからチラリと盗み見たアウルの顔は、ライラが思っているよりも大人びて見える。少年の成長は
日々行われ、特に成長の遅い男子はほんの僅かな期間で驚くほどの成長を見せることもある。ライラは、
そのアウルの横顔に“いい男”の片鱗を見た気がした。
 ライラは内心で笑い、目を閉じた。願わくば、今アウルが口にした約束が反故にされないようにと願うばか
りである。戦争が終わるその時までアウルを守ると、ライラは心に決めていた。


 シロッコが艦隊ごとダイダロス基地へと召致されたのは、一重にジブリールの怒りを買った事に関係して
いる。シロッコはジブリールから特別に恩借を受け、重宝されてきたが故に、自らの艦隊を組む事を許され
ていた。その彼が、レクイエムの中継ステーションを守りきれなかったのである。それも、相手はオーブの
残党軍とも呼ぶべきもの。そんな弱小軍団を相手に、好き勝手に編成を許したシロッコの艦隊が敗れたの
である。いくらジブリールがシロッコに目を掛けていても、許される事ではなかった。
 ガーティ・ルー以下、シロッコ艦隊がダイダロス基地へと入港した。アルザッヘル基地での任を解かれ、シ
ロッコは個人的にジブリールに呼び出されていた。
 ダイダロス基地にある、VIP用の特別室へのドアをくぐる。絢爛豪華とはこの事だろうか、いかにも成金趣
味な装飾で部屋は眩いほどに飾り立てられ、そこかしこに宝石の色が輝いていた。シロッコは目を細める
と、デスクの向こうで背を向けて座っているジブリールの後頭部を見た。

「何故呼ばれたのか、分かっているだろうなパプテマス=シロッコ」
「ステーションを守りきれませんで――」
「そういう事を言っているのではない!」

 目を伏せ、シロッコが頭を垂れようと背を丸めると、怒気を孕んだジブリールの叱責が部屋の中に響き
渡った。デスクの影から「にゃあ」という鳴き声が響き、そそくさと早足で逃げるように猫が歩いていく。それ
を目で追った後、シロッコは身動きを止めて上目にジブリールを見た。

「私は、貴様を隙の無い男だと思っているが――」

 そう言って、ジブリールは椅子から立ち上がる。リクライニングの背もたれがジブリールの体重から解放
され、ギシ、という軋んだ音を立てた。

「ナチュラルである事には変わりない。時には失敗するような事もあるだろう」

 ゆっくりと振り向いたジブリールの表情は、思っていたよりも険しくなかった。ただいつものように華奢な体
つきからは想像だにできない厳しい顔があるだけだ。シロッコは、一歩一歩踏みしめるように歩いてくるジ
ブリールを目で追う。

「そういう可愛らしさというものを持つのが、人間らしさというものであろう? しかし、コーディネイターの連
中は、そういう理屈が通じない。そういう輩は驕り、我々を地球から迫害するだろう。宇宙の化け物どもに、
我等が母星を渡すわけにはいかん。だから、人類の安息を手に入れる為、地球を我等の手で守る為に
コーディネイターを討ち滅ぼす戦いを続けてきた。貴様は、その尖兵となってくれるものだと思っていたよ」

 ジブリールが歩んだ先には、食器が整然と並んでいる棚があった。木製で、職人の手によって施された
彫刻細工は、正に芸術品だった。正直、ジブリールにはもったいない代物だとシロッコは思う。
 ジブリールは棚からカップを一つ取り出し、それをしげしげと眺めながら口を動かしている。
320 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 18:05:47 ID:???
「その私の期待がプレッシャーになって犯した失態だと、貴様は言いたいのだろう? 分かっている、分
かっているよパプテマス=シロッコ――しかし、だ」

 鼻を鳴らすと、ジブリールはそのカップを持って今度は応接用のテーブルに歩を進め、そこに用意されて
いるティー・ポットを手に取って、紅茶をカップに注ぎ始めた。

「その理屈が通用するのは、私の掌の上で踊っているという前提が必須条件だ。その点、貴様はその限り
ではない」

 液体が注がれる音。泡立つような少しくぐもった音が聞こえてくると、カップの縁からは淡い湯気が立ち上
る。紅茶を注ぎ終えると、ジブリールは立ち上る湯気を香るように鼻を近付け、優雅に首を左右に振って見
せた。
 嫌な事をハッキリと口に出して言う男だ。尤も、そういうあつかましさといったものが無ければここまでの
地位には上りきれないし、ブルー・コスモスの盟主など務まるはずも無い。
 シロッコは、そう思いながらもジブリールの言動から目を離さないで居た。問題は、彼がシロッコがワザと
ステーションをオーブ艦隊に占拠させた事に気付いているのかどうかだ。それさえ分かれば、いくらでもね
ちっこい説教を聴いてやる気ではいた。
 やがて、ジブリールは淹れ立てのカップをシロッコの前に差し出した。ジブリールが御持て成しなどするよ
うな柄では無い事を知りつつも、差し出されたものを受け取らないのは失礼に当たる。しかし、シロッコがそ
れを受け取ろうとした時、不意にジブリールはカップを引き戻した。
 パシャッという水が弾けた音。気付けば、シロッコに紅茶がひっかぶせられている。ジブリールの眼光が、
一段と鋭くなった。

「私は、貴様の功績に見合う以上に貴様の好きにさせてきた。身元の怪しい貴様への、前代未聞の先行
投資――なのにだ、貴様は衛星軌道上でアスハの抹殺に失敗したばかりか、ステーションも守り通す事が
出来なかった。無能の極みだと思わんかね?」

 空になったカップの底をシロッコに見せたまま、ジブリールは冷ややかな視線をシロッコに向けていた。そ
こに怒りは勿論の事、呆れや失望といった類の感情が渦巻いている事は、容易に覗える。
 しかし、その口ぶり。シロッコの関心はジブリールの怒りではなく、それだけに意識を集中させていた。そ
して分かった事は、シロッコの懸念はまるで気にしなくても問題が無いということ。ジブリールはレクイエム
によるプラント狙撃の失敗が、シロッコの仕業である事に全く気付いていない。
 滴る紅茶が、白い制服を赤茶色に汚していく。シロッコは、ただ黙したままジブリールの言葉を聞いてい
た。品格を気にするシロッコは、流石にジブリールの品の無さを不愉快に思ったが、口答えをしても余計な
癇癪を起こすだけだろうと目を伏せて反省の姿勢を示す。内心では、自分の意図に気付いていないジブ
リールの愚鈍さを笑っていた。
 しかし、その態度が逆に不遜であるとジブリールの反感を買ってしまったのだろう。それまで冷ややか
だった表情が急に熱を帯び、眉を釣りあがらせたかと思うとシロッコの頬に力の限り平手をかました。

「貴様に最後のチャンスをくれてやる。ザフトは、恐らくレクイエムを破壊しにここへ攻めて来るだろう。も
し、守りきれるものなら、これまでの失態は全て水に流してやる」
「ハッ、身命を賭してでも閣下の期待に応えて御覧に入れます」
「その言葉、忘れるな」

 シロッコは今度こそ深々とお辞儀をすると、滴る紅茶もそのままにジブリールの部屋を後にした。
321 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 18:06:43 ID:???
 ジブリールの部屋を出ると、そこではサラが待っていた。紅茶で汚れているシロッコを見ると、驚きに表情
を歪めて慌てて駆け寄ってくる。腰ポケットの中から白いハンカチを取り出して、紅茶に塗れているシロッコ
の顔や服を拭いた。

「パプテマス様、これは――」

 手を動かしながらも、シロッコの身に起きた屈辱的な出来事にサラは声を震わせた。しかし、シロッコの
表情は至って普段どおりで、サラはそれが不思議でしょうがなかった。何故、シロッコの価値を計り違えて
いるジブリールにここまでされて微笑んでいられるのか、サラは怪訝に首を傾げた。

「私は権力を持った人間には嫌われるものらしいが、ジャミトフもバスクも、もう少し冷静で居られた。だか
ら、こういう事もあろう」
「そうはおっしゃいますが、あのような低俗な男――」

 シロッコは、不満を漏らすサラの口を塞ぐようにそっと人差し指を彼女の口元に当てた。白い肌の色に細
い女性のようなしなやかな指――表情には爽やかな笑みさえ浮かべている。

「ジブリールは、レクイエムを私に預ける事で自分の背中を預けたのだ」
「どういうことでしょう?」
「ならば、その期待には、応えてやらねばなるまい?」
「応えるって――あっ!」

 サラの頭の中に閃きが迸り、即座にその言葉の意図を理解した。その瞬間、シロッコの不可思議な余裕
に対する疑問は得心へと至った。
 そんなサラの表情の変化を、聡明な女性として見ているシロッコは微笑みを浮かべた。

「フフ、そういう事だよ」

 褒めて言うシロッコはサラリとサラの髪を撫で、歩を進め始めた。その後ろを、煽てられて有頂天になり
かけているサラが続く。

 シロッコは、最初から全てお見通しだった。ステーションを守りきれなかった事でレクイエムによる作戦が
失敗に終わったとして、それでもジブリールが自分を切れないことを。それは自惚れでは無く、客観的に自
分とジブリールとの関係を想像した上での結論でもあった。
 シロッコは、自慢ではないが自らの能力の高さに比肩し得る様な人材は、そうは居ないと考えている。こ
れは、彼のおよそ26年に及ぶ人生で実際に出会った、或いは見知った人間の中に自らを超えるような人
材が果たして存在しなかった事から導き出した結論だ。勿論、それが単なるシロッコの私見によるものであ
るという自覚はあったが、それでも統計学的には十分と言える数の人々と接してきた自信はあるし、唯一
意識したのもハマーン=カーン唯一人だった。
 ジブリールはサディスティックな性格をしている。だから先程もシロッコを激しく叱責したりもしたが、しかし
その反面で彼はシロッコに依存している部分が見られた。シロッコを無能と罵倒しておきながら、レクイエ
ムを簡単に預けたという事実が、彼のシロッコに対する依存具合を如実に示している。
 故に、シロッコがジブリールに対して腹を立てるようなことは、まかり間違ってもありえない。今は都合の
良いパトロンとしてシロッコの後ろ盾になってくれているジブリールは、彼の大事な財布なのである。彼のジ
ブリールに対する認識は、大袈裟に言えばその程度であった。紅茶を掛けられたのも、がま口に指を挟ん
だ位の認識しかなかった。
322 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 18:07:52 ID:???
 ジブリールは、才能あふれるシロッコを手放す事など考えられないのだ。だから、ダイダロス基地の防衛
という任務を与え、失態を水に流すという形式上の名目を果たさせようとしていた。そして、よしんばそれも
失敗に終わったとしても、ジブリールは何かと理由をつけてシロッコを許すだろう。その背景には、レクイエ
ムの他にもシロッコのお陰で用意できた切り札が残されている事が関係していた。


 レクイエム以外にも決戦兵器が用意されているなどと、露ほどにも思っていないユウナ達には、それも当
然だと言う他に無い。まさか、レクイエムまで用意しておきながら更に隠し玉を控えている事を想像しろと言
うのは、無理な話だ。当然、可能性として疑う余地くらいは見出しておくべきだったが、当面の目標であるダ
イダロス基地攻略、及びレクイエムの破壊、若しくは占拠という作戦の完遂に向けて英気を養わなければ
ならない時である。そこまで考える精神的な余裕というものは持てていなかった。

 ダイダロス基地攻略に向け、オーブ艦隊と増援のザフト艦隊が合流する場は、連合軍の動きを警戒して
ステーションで行われる事になっていた。果たして、何時連合軍の反撃が来るやも知れないと怯えていた
頃、ザフト艦隊が合流した。
 ところが、そこにやって来たとある戦艦の姿を見て――いや、実際にはその戦艦に乗っていた人物を見
て、ユウナは驚愕に声を裏返してしまった。
 ユウナが見た戦艦はエターナル。そして、そこに乗船していたのはキラだった。

「キラ…キラ=ヤマト! 何で弟君がこっちに来ちゃうんだい!?」

 連絡船のドアから姿を現したキラ。その姿を目にした時、ユウナはすぐさま床を蹴ってキラの元へと駆け
寄った。
 そんなユウナの形相を見て虚を突かれるキラ。興奮するユウナを宥めるように両手を上げてクール・ダウ
ンを促す仕草を取った。

「あ…あの、プラントにはミネルバが残らなくちゃいけないから、じゃあ増援には僕とエターナルがって――」
「君が自分で言い出したって言うのかい!」
「い…いえ、ザフトの方から言われたんです」

 まるで反省の色が見えないキラ。純粋にザフトを信用しきったこの純朴な青年に対し、ユウナは呆れ果て
て何も言えなくなってしまった。思わず手で顔を覆い、間抜けな自分の判断を大いに嘆く。悪気なんて、何も
感じていないのだろう。キラの瞳は嫌味なほどに澄んでいて、ユウナはそれが癪で堪らなかった。
 連絡船からは、キラの他にもザフトの士官が数名。ユウナはチラリと彼等を見やり、ソガに気を引くように
アイ・コンタクトを送った。

「弟君、ちょっとこっちに来て」

 ソガが上手い事ザフトの士官を呼び集めている。ユウナはそれを横目で確認しながら、キラを格納庫の
隅の方まで連れて来た。話すことは、勿論、件の約束の事である。他の人達に背を向け、簡単に逃げられ
ないように肩を組むも、キラは怪訝そうな顔をするだけでまるで事情を飲み込めていないようであった。
 ここまでふてぶてしければ、もはや口で言って分からせるしかない。ユウナは口を開く前に、一つ大きな
溜息をついた。

「君が来ちゃったら、本末転倒じゃないか! カガリを連れて来るっていう僕との約束はどうなったんだい!」

 声を押し殺し、且つ激しく追及する。そこに来てようやくキラも理解したのか、嫌がるように表情を歪めた。
323 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 18:08:52 ID:???
 その顔がまた憎たらしく見えて、余計にユウナの苛々は募るばかり。一寸、彼の鬱陶しそうな髪を、思
いっ切り掻き毟ってぐしゃぐしゃにしてやりたい衝動に駆られるも、コーディネイターを相手に喧嘩を吹っ掛
けても返り討ちに遭うだけだと思い直す。
 キラは一旦視線を落として、再び上げた。

「確かに約束したかもしれませんけど、一方的だったし、しかも密約じゃないですか、それ? オーブさえ良
ければそれで良いなんて、そんなのは良くないですよ」

 ああ言えばこう言う。屁理屈だか駄々を捏ねてはぐらかすやり方は、カガリそっくりだ。こういう所を見せ
付けられれば、例えコーディネイターとナチュラルの姉弟であっても血が繋がっていると信じられる。カガリ
の方は幾分かマシになったと思うが、弟の方にも教育が必要だと感じた。

「君は、オーブの置かれた立場というものを考えてモノを言っているのかい?」
「そりゃあ、勿論――」
「いいや、分かってない、分かってないからシレっとそんな事を口走っちゃうんだ。いいかい、オーブにとって
カガリは最重要人物であり、その彼女の身柄はデュランダルの手の内にある。言ってしまえば、人質だ」
「まさか、そんな――」
「僕は万が一を想定して、ザフトが負けた場合もオーブが生き残れる道を模索していた。残念ながら、デュ
ランダルには僕の目論見が見透かされていた可能性がある。だから、カガリを自分の手元に置いておいた
んだ。最後までオーブをプラントと一蓮托生にさせるためにね」
「そんな……」
「そういう男なんだよ、ギルバート=デュランダルという男は。オーブと無理矢理同盟を結ばせた件といい、
彼には一度手に入れたものは二度と手放すまいとする、タコの吸盤のような執念を感じる。2年間、惰眠を
貪って勘の鈍っている君には、分からないだろうがね」

 矢継ぎ早にキラに捲くし立て、ユウナは腹の内にある不満を遠慮なくぶつけた。そうして少し頭をクール・
ダウンさせた後、チラリと後ろを振り向いて人の目を気にする。臆病な性格のユウナが取る、過剰な警戒
行為だ。
 無事が確認できると、ユウナは再びキラの顔を見た。キラは複雑な表情を浮かべていたが、明らかに不
快の色を滲ませている事が読み取れる。温厚な彼も、流石に頭にきたのだろうか。肩を組むユウナの腕を
払い除け、その行動にユウナは思わず身体をビクッと震わせた。

「そういう可能性、考えたくなる気持ちも分かりますけど、それはプラントの負けを前提としてます。僕達は、
負けるために戦争をしているんですか?」

 実力行使に出られれば、ユウナは一方的にやられるのを待つしかない。自分の腕っ節の弱さは認識している。被害を最小限に抑えようと、ユウナは身構えた。
 しかし、キラにその意志が無いと分かると、気を取り直して構えを解き、咳払いをして脈を落ち着けた。
 キラの視線が鋭く突き刺さる。ユウナは気合負けしないように視線を逸らし、少しだけ距離を開いた。

「未来が分かれば、誰も苦労はしない。プラントの勝利が確約されていれば、何の策も弄さずして僕は偉そ
うに胡坐をかいていられる。けど、そうは行かないんだ。だから、心配をしている」

 ユウナがそう言うと、キラの鋭い視線が幾分か柔らかくなった。何が引っ掛かったのか分からなくて意外
だったが、次にキラの口から出てきた名前を聞いて、納得した。

「カガリが、心配なんですか?」

 キラにとって、カガリは純粋に血が繋がった唯一の肉親である。ユウナが彼女を政治の道具としてしか見做していないのでは無いかという不安があったのだろう。キラに問われ、ユウナは頷いて見せた。
324通常の名無しさんの3倍:2009/01/04(日) 18:40:09 ID:???
しえん
325 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 19:02:46 ID:???
「決まってるだろ。あの子は僕のお嫁さんだ。死なれては困る」
「まだ、違うじゃないですか。それに、カガリはアスランが守ってくれます」
「アレックスの事かい?」

 冗談めかしていながらも、本心を語るユウナ。キラも本心を分かったからなのか、大分表情を和らげてき
ていたが、「アスラン」という名前を口にして、今度はユウナが不機嫌に顔を顰めた。

「それは駄目な理屈だ! 僕はね、彼に任せるのが嫌だったから君に頼んだというのに、君ときたら!」
「ぼ、僕は――」

 複雑な事情が絡み合う。公式的、対外的にはカガリとユウナは婚約を結んでいる立場にある。しかし、キ
ラはアスランのカガリに抱く好意は知っているし、カガリも憎からず想っている事にも気付いている。それ
に、キラはアスランと長年の付き合いがあり、心情的には友人の願いが成就される事を祈っている立場
は、2年前から依然として変化が無い。
 しかし、ユウナのことも不埒者の一言で済ませるには忍びない。彼もオーブを心から大切にしたいと思っ
ており、それがカガリの為になっていたりもする。それに、彼は何と言ってもキラを信じてカガリを任せてくれ
たという事実がある。信を預けてくれた人を無下に出来るほど、キラは薄情では無いつもりだ。
 だから、キラの心情は複雑だった。気持ち的にはアスランの応援に廻っていながらも、完全にユウナを否
定できない葛藤が、微妙な心理としてキラを強く出られないように自制させていた。

「あぁ、もう! 完全に予定が狂ったなぁ!」

 ユウナは頭を掻き回し、人波へと床を蹴った。その姿を追い、キラは首を回す。ユウナはトダカの前で足
を着けると、チラリとキラを恨めしそうな目で睨んだ後、口を開く。

「トダカ、クサナギはプラントへ引き返すよ。ソガとアマギはアークエンジェルに乗り移れ」
「えぇっ!?」

 唐突な命令に、トダカは気が動転してしまい、間抜けに声を上げる。どうせいつもの臆病風が吹いたの
だろうとは思うが、このあからさまな態度の急変は、一体どうしたものだろうか。
 その鍵を握っていそうなキラが、慌てた様子で追いかけてきた。表情は、かなり焦っている。どうやら、
彼と一悶着あったらしい事が見て取れ、トダカは少し様子を覗う事にした。

「ユウナさん! それは――」
「君は黙っていたまえ。こうなったら、僕自身で彼女を守る。もう、君は当てにしない」

 ピタッとキラの顔の前に手を掲げ、駆け寄ってくる彼を制止した。ユウナの表情には静かに憤りが浮かん
でいる。その妙な迫力に、伝説のパイロットとまで謳われた然しものキラも怖じけた様で、それ以上は何も
言えず、尻込みをしてしまった。
 場が騒然とし始める。ザフトの増援艦隊の編成について説明を受けていたソガにもその様子は嫌でも目
に入った。事の発端がユウナの思いつきとしか考えられない命令にあったであろう事は明白であり、ザフト
の士官に少し時間を貰ってからユウナのところへと身を流した。
 クサナギの艦長でしかないトダカには対応できないのだろう。複雑な表情で言葉を喉の奥に押し込めてい
る彼には、助け舟が必要だ。ソガは2人の間に割り込むようにして足を着けた。

「それは余りにも突然であります。クサナギはダイダロス攻略の旗艦を果たさなくてはなりませんし……そ
れとも、ザフトに指揮権をお渡しするつもりですか?」
326 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 19:03:53 ID:???
 ソガが考え直しを要求すると、ユウナはあからさまに嫌そうな顔をして顔を斜め上に逸らした。突き上げ
るようにして上げた顎が、彼の梃子でも曲げない決意を表しているようだ。
 ダイダロス基地攻略艦隊は、ザフトからの増援があるとはいえ、基本的にはオーブの艦隊である。クサナ
ギは総司令官であるユウナの乗艦であり、現場の最高責任者であるソガの乗る艦でもあった。そのクサナ
ギが離脱するという事は、即ち旗艦不在という事になる。そして、旗艦を持たずして艦隊行動は取れないわ
けだから、当然新たな旗艦を決める事になるだろう。その候補は、当然指揮が執れる人員が乗っている艦
に限られてくる。その筆頭は、「砂漠の虎」の異名を持つアンドリュー=バルトフェルドが乗艦するザフト船
籍であるエターナルだろう。
 ソガの懸念どおり「旗艦エターナル」となれば、オーブ艦隊も事実上ザフトに併合される形になってしまう。
ひいてはオーブの権威の衰退に繋がりかねない。その恐れがあるから、ソガは待ったを掛けたかった。

「だから、君を残すんじゃないか。君が僕の代わりに艦隊司令を勤めるんだ。君なら、僕以上にマシに出来
るだろう?」

 皮肉を言っているわけではない。ただ、客観的に見て自分の総司令としての仕事が機能しているとは思
えなかったし、何よりも今はカガリの身の安全の保証が第一であった。この最優先事項は変わることは無
く、ソガの具申に対しても決して意見を曲げるつもりは無い。
 そんなユウナの我侭を、セレブ独特の理不尽さと切って捨てるのは簡単だ。しかし、ローエングリンを持
つクサナギの離脱は大幅な戦力ダウンを意味し、戦略的な見解から見ればそれは出来るだけ避けたい。
 ソガは引き下がれず、何とかしてユウナに思い留まらせようと試みる。

「そうはおっしゃいますが――」
「クサナギが抜けたとて、無敵のアークエンジェルがあるでしょうが。それに、フリーダムだって戦力として十
分に期待できる。イレギュラーのMSも3体あるんだ。上手くやれるだろう?」

 理屈っぽい口調は、今に始まった事ではない。ユウナは、何事にも理屈を付け加えたがる癖がある。感
情論で纏めるよりも、インテリを気取って理路整然と並べ立てる方が格好がいいと思っているからだ。今、
自分を突き動かしているものが感情的であるということに気付かずに。
 しかし、ソガもこれ以上の反論は無意味であると気付いたようで、大人しくユウナの言葉に従う。それを見
て、ようやく反対意見が無くなった事を知り、ユウナは気を落ち着けるために一つ咳払いをした。

「メサイアにはキサカを残してあるが、フリーダムがこちらに来てしまった今、カガリを引っ張り上げられても
彼女を運ぶ足が無くなってしまった。クサナギは、代わりに足になる必要がある」
「ハッ」
「うん。じゃあ、ソガにはよろしく頼む。――トダカ、直ぐにもクサナギはプラントへ戻るよ。反射衛星砲の詳
細が分からない以上、連合が動き出すタイミングだって分からないんだから」

 そう言うと、早々にユウナはその場を立ち去っていった。
 呼ばれたトダカは、制帽の縁を持って整えると、チラリとバルトフェルドを見た。いやらしく笑みを浮かべて
いる様からは、ユウナの感情的な行動に対して少なからずの好意的解釈が混じっているであろう事が覗え
る。飄々としたバルトフェルドは、若者の活発な行動力を羨ましく思い、また、好きなのだろう。トダカは冗談
では無いと思いつつも、面倒を掛ける事になるであろうバルトフェルドに対して、多少の申し訳ない気持ちも
あった。

「アンディ、すまないが頼らせてもらう」
「あぁ、気にしてくれなくて結構。こちらは任せてもらっていい。しかし、ちと嬢ちゃんの事を考えすぎだとは思
うが――」
「カガリ様のお供が出来るのだ。君には分かるまい」
327 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 19:04:38 ID:???
 そう言って強がって笑ってみせるトダカ。バルトフェルドは理解しかねているのか、苦笑で返していた。
 トダカは実直なオーブの軍人である。シンをプラントへ導いたという温情を持つ好漢でもあるが、根底にあ
るものはオーブへの深い慕情である。だから、ユウナの勝手で決まったようなプラントへのUターンも、振り
回されてる感は否めないが、カガリを護衛できるという意味では嬉しいのだ。
 バルトフェルドはオーブに在住していたが、オーブで育ったわけではない。生粋のオーブ人であるトダカを
目の前にして、その胸中を量りかねているようだった。

「分かりませんね。どうせ、僕はプラント出身のコーディネイターだ。お嬢ちゃんは僕達にとってのラクスに
当たるんだろうけど、それともちょっと違う気がするのは、どうしてだろうねぇ?」
「必ず守り通さねばならない御人だ。ユウナ様は、私にその実力があるとお認めになって下さっている」

 自らの力を評価するような人間では無いはずだ。バルトフェルドは変に自信を覗かせるトダカの言動を意
外に思い、やや大袈裟に驚いて見せた。
 そのバルトフェルドの様子に気付いたのか、トダカは少し気恥ずかしそうに制帽の唾を下に引っ張った。

「英雄にでもなりたいのか、あなたが?」
「そうは言っていないが――オーブの歴史に名前が刻まれるとすれば、それは誉れ高き事だと思っている」
「そんなもんですかねぇ」

 やっぱり納得できないバルトフェルドは、しきりに首を捻ってトダカの言葉に疑問を呈していた。

 バルトフェルドとキラが乗ってきたエターナルには、ラクスは搭乗していなかった。エターナルはラクスの
戦艦であるというイメージが強いが、実際の所有権はプラントの旧クライン派、通称「ターミナル」にある。
 ターミナルは、デュランダルとは政治的な繋がりを否定していた組織であったが、実際には兵器開発の面
で今大戦の前から接触は持っていた。その証拠に、最初にミネルバがオーブに持ってきたフリーダムは
ターミナルの持つファクトリーが出所であったし、決定的なのは開発系統の違うはずのデスティニーとレジェ
ンドに使われていた装甲材や動力炉がストライク・フリーダムとインフィニット・ジャスティスにも流用されて
いる点だ。これは、ガンダムMk-Uの研究結果がファクトリーにも流れていた証であり、ファクトリーがデュ
ランダルの承認の下に活動しているという示唆であった。
 ターミナルはシーゲル=クラインが組織した団体であり、彼らにとってその息女であるラクスの安全の確
保は何よりも最優先されるものであった。それ故に、増援に送る際にエターナルにラクスを乗せる事に反
発を見せるだろうと予測していたデュランダルが、彼女の乗艦を制した経緯があった。

 バルトフェルドは、トダカにとってのラクスはカガリであるとは思うが、自分はプラントに残してきたラクスに
対して彼ほどの執着を見せていないことに気付いていた。確かに重要な人物であるとは思うが、振り回され
て笑っていられるほどではない。だから、トダカの不思議に嬉しそうな顔はバルトフェルドには到底理解でき
ない表情だった。

「お国柄の違いだとは思うが――」

 そう呟いて、バルトフェルドはユウナを追って流れていくトダカの後ろ姿に背を向けた。同じ艦長職である
が、とても同じ思想を共有できるとは思えなかった。


 ザフトとの合流が終わり、当初10隻程度の編成であったオーブ艦隊も、ザフトからの10隻の艦艇を加え、
拠点攻略に最低限必要なくらいの規模にまでは膨れ上がった。ステーション防衛隊の必要性であったり、
ザフトの補給艦を伴って戻っていくクサナギという引き算はあったが、それでもエターナルとキラのストライ
ク・フリーダムの参戦は大きい。
328 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 19:05:13 ID:???
 次は、ダイダロス基地の攻略である。そこにあると見られている反射衛星砲の破壊、若しくは占拠という
難しいミッションであるが、その時が近付くにつれてカツの予感は加速度的に増していた。
 何故か、非常に胸騒ぎがするのである。それが、一体何が原因なのかは量りかねているが、サラに関係
しているという事だけは何と無しにわかっていた。

「つまり、ダイダロスにはサラが居るって事なのか……?」

 胸騒ぎの正体が何であれ、サラが居るという事はシロッコも居るという事である。この、何とも言えない不
安がシロッコの存在に臆している自分の気持ちであるならば、それは認めてはいけない事だ。そうでなけ
れば、誰がサラの目を覚ましてやれるのだろうか。
 アークエンジェルの通路は比較的開放的だ。見通しの悪かったアーガマやラーディッシュの通路に比べ、
人の気配というものを感じやすくなっている。何と無しに通路を流れていると、角の先から人の声が聞こえ
てきた。

「ラクスをプラントに残して来てくれたのは助かりました」
「結果的にそうなっただけの話だがな。しかし、まさかヒルダが連合に寝返るとは――」

 声の主は、1人は聞き慣れたカミーユ。話の内容は、カツも聞き及んでいる離反者の事だろう。ヒルダとい
う名前に聞き覚えは無いが、寝返ると言えばその者達の事である。
 気になったカツは、会話の続きを聞こうと耳を澄ませた。

「エマから話だけは聞いていたが、パプテマス=シロッコ――そういう男か」
「シロッコって――」

 シロッコの名前に、カツは思わず飛び出して2人の前に姿を躍り出した。顔を見せたのは、顔に大きな傷跡を残した褐色肌のバルトフェルド。突然のカツの登場に、驚いて身を少し仰け反らせていた。

「ほぉ、カツか! 撃墜されたと聞いていたが、元気そうじゃないか!」

 丸くなっていた目を柔和に山形に微笑ませ、バルトフェルドは口の端を吊り上げて見せた。そして「結構、
結構」とか言いながら力一杯カツの背中を叩いて、豪快に笑い声を上げる。
 叩かれた背中がびりびりと痺れ、鈍い痛みにカツは片目を瞑って顔を顰めた。バルトフェルドは豪胆な人
間ではあるが、手加減というものを知らない。大男である彼が小柄であるカツに対して遠慮しない粗暴さを
鬱陶しく思ったが、今のカツにはそれは問題ではなかった。少し身を屈ませて痛みを堪えると、すっくと姿勢
を正して再度バルトフェルドを見た。

「余計なお世話です。――それで、シロッコがどうしたっていう話です?」
「ん? あぁ――」

 シロッコの名前に過剰に反応しているカツ。小さな瞳であるが目が据わっていることが分かる。その瞳に
表れた感情は、並々ならぬ闘争心だ。そのカツの若々しい反応に嬉しくなる反面、バルトフェルドはカツと
エマに出会った当初の事を思い出していた。
 最初にシロッコの名前が口から出てきたのは、エマの方だった。彼女の話によれば、シロッコは一人で局
面に影響を与えられるような天才肌の人物であるという。それだけを聞けば、戦略家として危険な人物であ
るという認識が一番印象に残る。
 しかし、その時カツは間髪入れずに、今のように感情を露にしてシロッコに対する敵愾心をぶちまけてき
た。その時の言葉を掻い摘んで言えば「女の子を利用する最低野郎」という事なのだが、バルトフェルドは
それを聞いてシロッコという人間が良く分からなくなった覚えがあった。
329 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 19:06:10 ID:???
「ラクスの従者であった3人のパイロットが、シロッコに従って連合に降ったって事は、カツも知っている事だ
ろう?」

 カミーユが代わりに答えると、カツは「そりゃあ、知ってるけど」と言って頷いた。

「――そういうことだ。だから、ラクスを連れて来なくて正解だったという話をしていたんだ」

 特にシロッコがどうしたという話ではない。名前に反応して飛び出してきたカツは、まるで期待外れの話で
あったようで、肩を落とした。その態度は盗み聞きをしていたにしては失礼だとは思うが、バルトフェルドは
そういう事に細かく拘るような人間では無い。カツの態度にハラハラするカミーユを余所に、親切にも話を
続けた。

「折角キラのお陰でラクスの心の負担も軽減されてきたところなんだ。ここで余計な手出しをされたら、責任
感の強い彼女はまた心労を患っちまうからな。その前に、何とかして手を打つべきだろうって事を言おうと
していたんだよ」
「あの人が心労ですか? 想像できないなぁ」
「見た目じゃあな」

 能天気な発言をするカツであったが、バルトフェルドは彼の言葉を笑えなかった。バルトフェルドとて、キ
ラから鈍感さを指摘されるまではラクスの事をカツと同じ様に見ていた。元気が無い事を気にしてはいた
が、気に病むほどとは思っていなかった。
 ラクスには担がれるだけの魅力があり、その責任に応えられるだけの精神力を持っているものだと思っ
ていた。しかし、一方でキラ以外の誰もが彼女を18歳の少女としては見なかった。側近のような立場であっ
たバルトフェルドでさえ、そうだったのだ。

 ラクスが疲弊していた理由の一つに、最高評議会とターミナルとの仲介がある。彼らにとってのクライン
派の領袖はあくまでシーゲルの息女であるラクスであり、同じ派閥でもクライン派とザラ派の中道的な毛色
を持つデュランダルとは常に一定の距離を保っていた。兵器開発という面で極秘に繋がりは持っていた
が、秘密組織に近いターミナルは謂わば最高評議会の非公認組織である。現在、二大派閥の一つのザラ
派はその勢力を縮小させているが、最大派閥であるクライン派の内部で分裂が起こっている事態は宜しく
ない。そう懸念していたデュランダルの要請を受けて、ラクスは秘密裏にターミナルと接触し、現最高評議
会への協力の仲立ちをしていた経緯があった。
 ところが、ターミナルの中でも右と左に分かれる事態が起こっており、その原因がラクス本人の失踪に絡
んでいた。左派の言い分は、勿論指導者たり得るラクスがターミナルという組織を見限ってオーブに降りて
いた事への不満であった。
 その彼女が今更になって現れて、彼らからすれば亜流であるデュランダルの派閥への併合とも取れる提
案を申し出てきたのである。それに反発する彼等を説得するのに、ラクスは一番心血を注いだ。中でも、ヒ
ルダ達は改革派の最先鋒であったのだ。
 ヒルダ達は元々ザラ派に属するザフトであり、そんな彼女達がライバル派閥であるクライン派に鞍替えし
たのも、そもそもは第2次ヤキン・ドゥーエ戦役に於けるラクスの行動に感銘を受けたからであった。
 しかし、いざクライン派へやって来てみれば当のラクスは雲隠れ。しかも、いつの間にかデュランダルとい
う何処の馬の骨とも知れない輩が幅を利かせ始めてしまったではないか。これでは、何の為にクライン派
へ合流したのか分からない。
 ヒルダ達には、ラクスに対する不審が渦巻いていた。一番最後まで彼女の説得に抵抗していたのは、裏
切られたという思いがあったからだ。しかし、その分、説得に応じたヒルダ達の忠誠は誰よりも強かった。
愛憎とは表裏一体。だから彼女達はデュランダルを嫌悪し、ラクスを過剰なまでに持ち上げる。
 そして、その結果の裏切りでもあった。彼女達にとっての敵は、ブルー・コスモスは勿論の事、デュランダ
ルでさえその限りに含まれているのである。シロッコは、その心の隙を突いたのであった。
330 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 19:07:14 ID:???
 バルトフェルドは、最近になってようやくラクスの苦労というものを理解できるようになってきた。それという
のも、彼女の脆い一面を見ようという心構えが芽生えてきたからかもしれない。キラに指摘されるまでは、
そこは見てはいけない一面だと思っていたからだ。

「それで、その3人ってカミーユが見たって言う黒いハンブラビの事だろ?」

 バルトフェルドの思考を止めるようなカツの声がして、ふと我に返った。

「逃げられちゃったけど」
「じゃあ、ダイダロスで決着を付ければいい。シロッコが居るなら、その人達も居るってことだから」
「分かるのか、カツ?」

 妙に自信たっぷりに言ってのけるカツに、バルトフェルドは勿論の事、カミーユすら目を丸くした。カツは
優越感を感じたのか、気取って身体を横に流し、通路の壁に背中を寄りかからせた。

「サラが居るって事だけは感じているんです。そこからの逆算ですけどね。サラが居るならシロッコも居る、
シロッコが居るならその3人も居る。ブルー・コスモスってコーディネイター嫌いなんでしょ? だったら、シ
ロッコの近くに居るしかないから――」
「凄いじゃないか、カツ」
「このくらい、当然ですよ」

 カツは片手で得意気に髪をかき上げ、感心するカミーユに対して余裕を見せていた。
 ニュータイプ的な感覚は、バルトフェルドには理解できない。カミーユが驚嘆に声を上擦らせる理由は分
からないが、それが彼等の特性なのだろう。大人の自分が一人だけ蚊帳の外というのは悔しいので、バル
トフェルドは何となく分かった振りをしていた。
 どの道、カツの勘が当たっていようがいまいがシロッコの動きに対する警戒はして置くべきなのだ。カツの
予測は可能性の範囲として参考にはなる。

「けど、残念なのは僕が使うMSが無いって事です。ガイアはシロッコにやられちゃったから――」

 それまでの自信満々の調子は何処へ行ってしまったのか。カツは急に声のトーンを落として視線を床に
落とした。
 彼のガイアは、先達ての戦闘でシロッコによってスクラップ同然にされてしまっていた。修理しようにも完
全に修復できるかどうかも分からないし、縦しんば修理可能であったとしても次の作戦には確実に間に合
わない。乗り換えるMSがアークエンジェルに残されているわけでもなく、カツの配属も未定のまま。指を咥
えて待っているしかないのかという焦燥感が、カツの不安に拍車を掛けていた。
 そんな落ち込むカツの姿を見ていて、バルトフェルドは気の毒だとは思う。戦いたくても戦えないのは、戦
士にとって途轍もなく苦しい事だ。
 カツの落胆はそういう意味ではなかったのだが、勘違いしたバルトフェルドはある事を思いついた。顎に
手を当て、目を閉じて少しの間、黙考した。果たして、カツに託すだけの価値があるのかどうか――若年な
がらここまで戦い抜いてきた男だ。可能性はある。

「ん…なら、僕が持ってきたものを使ってみるかい?」
「えっ?」

 きょとんとするカツ。思いがけないバルトフェルドからの提言に、瞳を輝かせた。その少年の反応を目の
当たりにするだに、若々しさに刺激されて気持ちが昂ぶるのを意識した。
331 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 19:08:04 ID:???
「いざとなったら僕が使おうと思っていたのだが――そういう事なら君に預けてもいい。どうだ、エターナル
に来てみるつもりは無いか」
「MSがあるんですか!?」
「そういう事だ」

 身を乗り出して詰め寄るカツの瞳が、一層の輝きを放っている。つぶらな瞳とは彼のような目を指して
いっているのだとは思うが、黒目がちなカツの目は何ともシンプルだ。

 そんなカツの熱意に押されたわけではないが、バルトフェルドは彼を伴ってエターナルの格納庫へとやっ
て来た。途中、内線で連絡を取り、誰かを招集していたようだが、カツは気持ち逸ってそれを気にしている
場合ではない。
 果たして、エターナルの格納庫に入ると、そこにはストライク・フリーダムの姿と横に並べられているもう一
体のMSの姿が目に飛び込んできた。
 興奮を抑えきれなくなったカツは、バルトフェルドに先んじてすぐさまそのMSの足元へ向かって壁を蹴っ
た。それは灰銀の色をしたMS――恐らくはガイアと同じくフェイズ・シフト装甲の機体だろう。そのシルエット
には、見覚えがあった。

「これって、もしかしてキラさんがベルリンで使ったストライク・ルージュ……?」
「気に入ってくれたかい?」

 一通り機体の周りを泳ぎ、足元に降りてくるとバルトフェルドが得意気にカツに訊ねてきた。カツは尚も興奮しているのか、ストライク・ルージュに直に手を触れている。
 鈍い光沢の装甲。MSの装甲などは無機質な印象を受けるものだが、電気の通っていないフェイズ・シフト装甲は一際冷たく見える。装甲を触る手に、冷気を感じた。

「そりゃあ――だって、ガンダムですよ」
「レストア品のようなもんだがな、性能は保証する。――しかし、ガイアだってGだったんだ。確かにこいつは
見栄えのする造りだとは思うが、別段、珍しいものでもあるまい?」
「僕にとってガンダムは特別なんです。それに、この見た目――」

 のめり込む様にカツはストライク・ルージュに執心している。そんなカツの喜びように、バルトフェルドも自然と目を細めた。まさか、こんなに喜んでもらえるとは思っていなかったからだ。

 ベルリンでキラが乗っていた時から気にはなっていた。色こそ赤がベースであるが、そのシルエットやディ
テールといったものはカツの良く知っているRX-78に酷似したものである。シンプルに纏められたシルエッ
ト・ラインに、Ζガンダムとは違ってガンダムMk-Uのような脹脛のある脚線。それでいてそれ程マッシブで
はなく、背中の派手なバック・パックは余分だと思うが、頭部の形状は正統派の精悍なルックスを持ってい
る。その顔で、特にカツにRX-78を彷彿とさせたのが、アイ・カメラの下に入っているアイ・ラインである。ガ
ンダムMk-U以降、ガンダム・タイプに見られなくなった赤いアイ・ラインは、アムロ=レイが乗っていたRX-
78が特別であるという証だとカツは思っているだけに、フリーダム等のアイ・ラインが入っている機体はカツ
の憧れでもあった。
 その憧れの形に最も近いと思っていたストライク・ルージュが、自分の愛機になるという。敬慕するアムロ
に少しだけ近づけたような気がして、カツは嬉しくてたまらなかった。
 ふと気付けばコックピットのハッチが開いている。誰か先に乗っているのだろうか。怪訝そうにしているカ
ツの前に、バルトフェルドが身体を出した。

「どうだ、キラ。何とか出来そうか?」

 呼んだ名前に反応して、カツはバルトフェルドの顔を見た。

「キラさんが――どうして乗っているんです?」
332 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 19:08:47 ID:???
「言ったろう、いざとなれば僕が使うつもりだったって。僕が使うようなセッティングじゃ、ナチュラルのカツに
は動かせないだろうが」

 にやりと口の端を上げて応えるバルトフェルド。先程バルトフェルドが内線で呼び出していたのは、キラ
だったのだ。
 すると、バルトフェルドの声に応えて、間髪を入れずにキラがコックピットの中から顔を出した。

「まだやり始めたばかりです。僕だって、そんなに早くできると思わないで下さいよ」
「時間、掛かりそうか?」
「前にムウさんの奴をやった事がありますから、そんなに掛からないとは思いますけど――ね」

 そう言いながら、キラは起動のスイッチを押していき、フェイズ・シフト装甲を展開させた。その鮮やかに色
に染まっていく光景を前に、カツの小さな瞳は興奮に震えていた。

「うわ――ぁ……ッ!」

 感嘆の吐息というものは、本当に感動する場面に出会った場合、本人の自覚無しに自然と腹の底から出
てくるものである。今のカツはそういう状態だった。
 赤く染まると思われたストライク・ルージュ。しかし、カツの前で染まっていく色は、全く違う色だった。基本
色がホワイトである点は、以前のストライク・ルージュと大差は無い。しかし、口紅色の様であった胸部は鮮
烈なブルーに染まり、それだけで全体の印象を爽やかに変える。アンテナ基部、及び足底のレッドはより鮮
明に映え、情熱の色を美しく輝かせていた。
 カツの前に現れたのは、まさしくRX-78のリファイン・モデルであった。見栄えのするトリコロール・カラーに
染まったストライク・ルージュ。カツはただ、感動に言葉を失くしていた。

「フェイズ・シフトの設定を変えたのか。昔お前が乗っていたヤツを思い出すなぁ」
「手を加えてくれてありますけど、基本設計の古さは誤魔化せませんからね。ビーム兵器が相手なら、機動
力重視のエネルギー効率を上昇させる方向で調整しようと考えているんです」
「ふぅん、キラのセンスなら信頼できるが――フッ、カツに使いこなせるかな?」

 呆然と見上げるカツに、バルトフェルドが鼻で笑って意地悪そうな目で視線を送ってきた。にやける顔は
見くびっているようだ。カツはムスッと顔を顰め、鼻息を荒くした。

「失礼ですよ。僕を侮らないで下さい」
「侮っちゃ居ないさ。いや、ただな、僕は君の実力を良く知らない」

 中々失礼な物言いをしてくる。バルトフェルド本人にとっては少しからかっている程度だろうが、カツにして
みれば自尊心を刺激され、あまり面白いものではない。
 口にせずとも、カツが最前線のミネルバに所属していながらここまで生き抜いてきたという事実が、彼が
優秀なパイロットであるとの証明になっている。それを分からないバルトフェルドではないはずなのに、意地
悪のつもりで挑発してくるのだ。バルトフェルドはちょっとした遊びのような感覚で言っているのだろうが、子
供だからという理由でおもちゃにされたのでは敵わない。口答えはしておくべきだ。
 カツは顔面の筋肉の痙攣を我慢しながら、必死に表情にゆとりを持たせた。余裕である事を表現するた
めに、鼻で笑ってみたりもする。やや不自然なぎこちない笑顔を浮かべ、大袈裟に腕を組んでも見せる。

「バルトフェルドさんは、自分に自信が無いからそういう事を僕に言うんでしょう? 自分が使うとなった場
合、ルージュを乗りこなせないんじゃないかって、不安に思ってる――違いますか」
333 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 19:09:59 ID:???
 対して、カツの痩せ我慢を見抜いているバルトフェルドは若気の至りで立ち向かってくるカツの勇敢さが
面白おかしく、安い挑発にはまるで乗らない。飄々とした佇まいを一片も崩すことなく、顎を上げてカツを軽
く見下した。

「違いますねぇ。これでも昔は“砂漠の虎”の2つ名で呼ばれていたんだ。四本足も二本足も、僕に掛かれ
ば同じ様に扱って見せるさ」
「そ、そんな事――証明できなければ、何の根拠にもなりませんよ」
「ほぉ。論拠が欲しいのか? それなら、次の作戦で僕がルージュを使って、君に証明して見せても良いん
だぞ」
「そ、それは――」

 勝負あり。カツの口撃に対してバルトフェルドのカウンターが決まり、あっさりとK.O負けを喫してしまった。
こう言われてはカツに返す言葉が無い。
 カツにとってストライク・ルージュは新たな専用機であり、また、サラを説得する為の貴重なツールである。
折角使用許可を貰えたのに、下らない意地を張ってチャンスを失うのは愚の骨頂だ。カツは大人しく負けを
認めるしかなかった。

「――使いこなして見せますよ。あなた方ほど上手く出来ないかもしれませんけどね、ダイダロスくらいは落
としてやろうじゃないですか」

 鼻息を荒くして主張するカツを見て、バルトフェルドは囃す様に軽く口笛を吹いた。何処までも見くびるつ
もりで居るらしいが、こうなったら意地でも戦果を挙げ、見返してやろうと闘志を燃やす。
 尤も、そんなカツの反応を予想したバルトフェルドの目論見でもあった。こうして若者を焚きつけて気合を
充実させるのも、年長である自分の役割であると心得ていた。――そして、ほんの少しのストレス解消も含
まれていたりもして。

「大きく出たじゃないか、少年――が、その意気だ。本当は、エターナルから出てくれる君に期待しているんだ」
「大人の言う事――それ、今、思いついたんでしょ」

 言われ、バルトフェルドは見透かされている事に驚かされた。カツはもっと単純な少年であると思っていた
だけに、思いもがけない所から飛んできたパンチがモロにヒットした。お陰で、変にどぎまぎしてしまった。

「どうして分かる?」
「顔に書いてありますからね」

 そう言うと、バルトフェルドの動揺が分かっているのか、カツはフイと顔を背け、床を蹴ってキラの篭るコッ
クピットへと上がって行った。
 納得がいかない。隙を見せたつもりは無かったのに、カツはいとも簡単にバルトフェルドの世辞を見抜い
て見せた。カツの勘が鋭いだけなのか、はたまた自分が思っている以上に間抜けだったのか。それを確か
めたくて、ちょうど近くを通り掛った女性メカニックを徐に呼び止めた。

「実は僕、前から君の事が気になっていたんだ」

 勿論、そんなのは口から出任せの嘘っぱちである。ただ、バルトフェルドが確かめたかったのは、自分が
直ぐに表情に出てしまう人間なのかどうか。果たして、その女性メカニックは不機嫌そうに顔を顰めた。
334 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 19:10:21 ID:???
「何スか、艦長。ッつーか、ぶっちゃけ冗談はその無駄に立派なもみあげだけにして欲しいんスけど」
「えッ?」
「あたし、このクソ忙しい時に艦長の遊びに付き合っていられるほど暇じゃないんで。勘弁してもらえないっ
スかね、マジで」

 喉が酒で焼けたようなしゃがれた声。まさかの厄介者扱いに、バルトフェルドは思わず身の仰け反らせて
しまった。
 よくよく見れば、その女性メカニックは薄汚れた年季の入ったツナギを着用し、薄いメイクの上から黒ず
んだ油で鼻や頬に線を引いてデコレートしていた。頭に被ったキャップの後ろからは、ブリーチされて痛ん
だ髪が一括りにされて背中に垂れている。可愛らしい顔立ちをしているが、目は鋭く、細長に整えられた眉
は、どう見てもちょっと不健康そうな乱暴者、平たく言えばヤンキーにしか見えなかった。
 完全に掴まえる相手を間違えた。その女性メカニックが醸し出す不機嫌オーラに気圧され、バルトフェル
ドは 「失礼しました」 とだけ告げ、そそくさとMSデッキを後にして行った。

 去り際のバルトフェルドの目が、うっすら潤んでいたのをキラは見逃さなかった。ストライク・ルージュの外
からコックピットに顔を突っ込む形になっているカツは、先程まで偉そうにしていたバルトフェルドの情けな
い体たらくに溜息をつき、まるで気に掛けていない様子である。

「何かちょっと泣いてたみたいだけど、大丈夫かな、バルトフェルドさん……」
「単なるレクリエーションですよ。大人って、物凄く見栄えを気にするんです」
「気にするほど悪くはないと思うけどな……」

 要はカツを挑発したのが間違いだったのだ。バルトフェルドはカツを歳相応の少年だと思っていたが、彼
はバルトフェルドの思っている以上に大人の世界というものを知っている。
 カツは、エゥーゴという資金難に怯える組織に所属していて、それを取り仕切る大人達のおべっかの使い
方を嫌というほど目の当たりにしてきたのである。とりわけカツが嫌悪していたのが、クワトロがアクシズの
ハマーンに頭を下げた出来事である。戦争によって孤児になったカツにとってジオンは悪の組織という認識
が強く、コロニー・レーザーを封じる為とはいえ、ジオンの力を借りなければならない大人の事情を納得で
きないで居た事もあった。
 クワトロとて、本心ではジオンとの共同作戦など気が進まなかったはずである。それなのに嫌々頭を下げ
る行為が、カツには理解できなかった。
 そういう大人の裏と表が透けるような環境で過ごしてきたカツは、単純な嘘程度なら簡単に見破ってしま
う。ニュータイプであるという点を差し引いても、サラに騙された経緯もあって、彼は嘘には人一倍敏感で
あった。
335 ◆x/lz6TqR1w :2009/01/04(日) 19:15:25 ID:???
今回は以上です
ヒルダ達の設定に関しては若干の改変を加えてあります
336通常の名無しさんの3倍:2009/01/04(日) 23:50:49 ID:???
nageeeeee!!!
お年玉キタコレ

相変わらずそれぞれの世界の人間の絡ませ方が凄く良い

ザフト対連合って大きな軸があって
各人がそれぞれの思惑を持って動いてるだけで全然違う
脚本の都合だけでキャラが動かされてるのが見え見えになってた種本編もこういう感じならなあ
337通常の名無しさんの3倍:2009/01/05(月) 11:55:33 ID:???
お疲れ様でした。
338通常の名無しさんの3倍:2009/01/05(月) 20:21:49 ID:???
GJ!!
カツのガンダムだから、ノーマルスーツの色
グリーンでもカッコ良かったかも
339通常の名無しさんの3倍:2009/01/06(火) 00:48:52 ID:???
乙です
カツがガンダム乗りだ…と…!?
つか何してんだ砂漠の虎w

シロッコの切り札に期待してます
340通常の名無しさんの3倍:2009/01/06(火) 01:04:34 ID:???
実際のところ何だろう?
今更一直線にしか撃てないコロニーレーザーでもないだろうし
タイタニア以上のバケモノMSというのも違う気がするし
コロニーや小惑星落としといったやり方は性格的に似合わないし…
ひょっとして「愚かな凡人はずっと寝ていろ」とエンジェルハイロウの類でも
持ち出してくるとか…
341通常の名無しさんの3倍:2009/01/06(火) 01:34:25 ID:K/0sYAAq
>>338
「ストライク・ルージュ」ならぬ「ストライク・ヴィリジアン」ってか。なかなか渋い感じになりそうだ
342341:2009/01/06(火) 01:36:42 ID:???
sageるの忘れたスマソorz
343通常の名無しさんの3倍:2009/01/06(火) 02:36:24 ID:???
俺が想像したのは、明るい色
ストライク・ベリル(エメラルド)って感じだな
ついでに、ヤタノカガミも付けてしまえw
344通常の名無しさんの3倍:2009/01/06(火) 03:02:17 ID:???
カツつぶらな瞳過ぎて吹いたwwww
345通常の名無しさんの3倍:2009/01/06(火) 19:22:15 ID:???
しかし緑はいらない子・・・
ヒーローメカとしては避けた方がいいカラーだ
346通常の名無しさんの3倍:2009/01/06(火) 19:47:34 ID:???
>>345
貴様はブルシーザーとブルゲイターとウォーカーギャリアとサスライガーと
マイトガンナーとガンマックスとダグアーマーと風龍とガンダムレオパルドと
グリーンフレームetcetcを舐めたッッッッッッ!!!!!!!!
347通常の名無しさんの3倍:2009/01/06(火) 20:28:18 ID:???
グリーンフレーム?
小売店にとってはマジいらない子

ほかにもギャリアとサスライガー以外は割といらない子のような・・・
348通常の名無しさんの3倍:2009/01/06(火) 22:28:09 ID:???
>>346
レロレロレロレロレロレロレロレ…

嘗めた、な
349通常の名無しさんの3倍:2009/01/06(火) 23:11:35 ID:???
新シャア的にグリーンフレームと言えばカオs
おや誰か来たようだ
350通常の名無しさんの3倍:2009/01/06(火) 23:13:03 ID:???
まとめサイトの更新が混乱気味になのは仕様ですか?
351通常の名無しさんの3倍:2009/01/11(日) 21:49:19 ID:???
保守
352通常の名無しさんの3倍:2009/01/11(日) 22:57:38 ID:???
x/lz6TqR1w 氏の奴はいいな
どこもかしこも美化シンや最強シンばかりで辟易してから、こういう本編どおりの糞餓鬼なシンを見ると溜飲が下(ry
いや安心する。
しかしシン主人公SSって文章レベルから酷いのばっかりだな
353通常の名無しさんの3倍:2009/01/12(月) 00:13:43 ID:???
カミーユ氏は前の小説も神だったからな
同人誌でいいからまとめて出して欲しいぜ
354通常の名無しさんの3倍:2009/01/12(月) 00:17:44 ID:???
>>352
スレ違い
よそはよそ、うちはうち
355通常の名無しさんの3倍:2009/01/12(月) 01:12:19 ID:???
x/lz6TqR1wはスレ違いじゃなかろう
何勘違いしてるんだか
356通常の名無しさんの3倍:2009/01/12(月) 01:20:37 ID:???
>>355
ちゃんとレスを読めば分かると思うんだが
357通常の名無しさんの3倍:2009/01/12(月) 01:22:05 ID:???
>>352
シン嫌いの信仰告白はチラ裏に書いとけってこった。
他スレのSSにもケンカ売って火種にしようとしてるし新手の荒らしだろ。
死ねよもう…
358通常の名無しさんの3倍:2009/01/12(月) 03:07:55 ID:???
>>357
文章読めば似たようなシンモノに辟易し嫌気、と書いてある様に見えるんだが俺の気のせいか?
この脊髄反射ぶりは信者さんか何かですかね?
そしていくらなんでも死ねは言い過ぎだろう。
自分が荒らしてどうするんだよ。

対応がまるで物を知らない子供そのものじゃないか・・・・。
359通常の名無しさんの3倍:2009/01/12(月) 03:35:35 ID:???
夜中に自演して
スレの空気を悪くしないで下さい
360通常の名無しさんの3倍:2009/01/12(月) 14:10:40 ID:???
都合が悪いと全部自演認定すか・・・・
361通常の名無しさんの3倍:2009/01/12(月) 14:15:59 ID:???
まあ、構う事自体が無駄な気もするからほっとくのが一番
他所は他所、うちはうち。他所の事をここに書き込む必要は無い、ってね
362通常の名無しさんの3倍:2009/01/12(月) 19:00:17 ID:???
ここまで俺一人の自演
363通常の名無しさんの3倍:2009/01/12(月) 22:48:53 ID:???
暇なら続き書け
364通常の名無しさんの3倍:2009/01/13(火) 21:04:17 ID:???
このスレも終わったな・・・・
まともなのは俺しかいないし。
あとは都合が悪くなったら自演認定してくる荒らししかいない。

もう駄目だ・・・・。
365通常の名無しさんの3倍:2009/01/13(火) 22:11:29 ID:???
別に自演認定なんかしないけど、止めないからどうぞ一人だけ勝手に終わってね。
心配しなくてもスレはゆるゆる続いていくから二度とこないでいいよ。
366通常の名無しさんの3倍:2009/01/14(水) 00:14:13 ID:???
そして刻は動き出す
367通常の名無しさんの3倍:2009/01/15(木) 00:15:37 ID:???
>>365
過剰反応するなアホ
368通常の名無しさんの3倍:2009/01/15(木) 22:44:38 ID:???
ストライクって種死だと、どれくらいの強さかな?
インパルス>グフ>ザク夫>ストライク>ムラサメくらい?
369通常の名無しさんの3倍:2009/01/16(金) 01:02:49 ID:???
スレ違いっぽくね
370通常の名無しさんの3倍:2009/01/18(日) 15:07:58 ID:???
保守
371通常の名無しさんの3倍:2009/01/22(木) 22:08:41 ID:???
保守
372通常の名無しさんの3倍:2009/01/26(月) 00:27:05 ID:5c2fTBTd
あげ
373通常の名無しさんの3倍:2009/01/31(土) 01:31:51 ID:???
保守
374通常の名無しさんの3倍:2009/01/31(土) 02:26:45 ID:???
>>368

亀だがストライクはザクヲやウィンダムと同等。ソースはプラモのパンフやデータコレクション。
でもin種死では確かブラッシュアップしていて少しは性能が上がっていた気がする。
375通常の名無しさんの3倍:2009/02/03(火) 02:28:36 ID:SpUq6McU
ふじょうしmす
376通常の名無しさんの3倍:2009/02/03(火) 04:08:06 ID:???
ハマーンがアクシズ事行ったら……
377通常の名無しさんの3倍:2009/02/05(木) 05:54:28 ID:???
ハマーン自身はいいんだがな。周りがどうしてもギャグにしてしまうからな。
378通常の名無しさんの3倍:2009/02/05(木) 16:35:55 ID:???
ならば、ハニャ〜ン時代の穏健派シャア軍が来たら…って違うか!



そろそろ投下まだ〜!!
379通常の名無しさんの3倍:2009/02/06(金) 15:41:36 ID:???
>>376
アクシズもってけばザフトよりは戦力大きいな。
380通常の名無しさんの3倍:2009/02/07(土) 06:42:23 ID:???
地球へ帰還中のアクシズが何故かCE世界の地球に
381通常の名無しさんの3倍:2009/02/10(火) 23:31:15 ID:???
保守
382通常の名無しさんの3倍:2009/02/13(金) 01:30:50 ID:???
そろそろ続き読みたいね
383 ◆x/lz6TqR1w :2009/02/14(土) 16:50:31 ID:???
  『月の空』


 アークエンジェルの格納庫内、一様に緊張した空気がMSデッキ内に充満していた。それもそのはず、こ
の作戦の成否如何で、プラントの存亡が決まる。延いてはオーブの復活にも関わってくる事であり、決して
失敗は許されないのだ。緊張するなと言う方が、無理であった。

「パーツの予備は少ないんですからね、大事に使ってもらわなければ困ります」

 緊張しているのは、何もパイロットだけでは無い。メカニックも同じようにして緊張感を共有し、送り出すパ
イロットが無事に帰還することを祈願する。――尤も、中にはエリカ=シモンズの様な研究の虫という変り
種も存在しているのだが。

「もう大丈夫ですよ。機体の調整は、ちゃんと仕上げたじゃないですか」

 コックピット・ハッチに取り付き、入り口からリニア・シートに腰掛けるカミーユを見るエリカ。学校の先生の
ように口うるさくしてくる彼女の心配性に、露骨に厭そうな顔で反論した。その態度を生意気と見られたの
か、エリカはコックピットの中に顔を突っ込んできて、ピッと指を突き出した。こと、MSに関しては、この女性
はいつもこの調子である。黙っていれば美人なのに――少し残念な心持ちになった。

「過信するってことは、想像力が欠けている証拠です。フライング・アーマーだって、ザフトの補給艦がオー
ブから引っ張り上げてきた資材を持ってきてくれなかったら、修理だって出来なかったわ。貴重なΖガンダ
ムを、大事にする気構えくらい持ちなさい」

 前回の戦いではシロッコにこてんぱんにやられた。だからこそだろう、損傷したΖガンダムを見た時のエ
リカの顔が何とも残念な事になっていたのは。彼女にしてみれば手塩に掛けた貴重なワン・オフ機。二度と
再現不能かもしれないオーパーツが、見るも無残な姿となって帰ってきたのである。その修理自体は幸い
にもパーツの差し替え程度で済んだものの、こんな経験は二度とゴメンだという事で、補給部隊と合流後に
カミーユを無理矢理つき合わせて仕上げを急いだ経緯があった。
 その時の事は、あまり思い出したくない。エリカは決して妥協を許さない完璧主義者のような振る舞いで、
カミーユは叱られながらの作業を強いられていたのだ。それは決して良い思い出とは呼べるものではな
かった。

「メガ・ランチャーは、使わせてもらえるんでしょ?」

 カミーユは話題を逸らしたくて、予てからエリカと準備していた大型のランチャーを話題に出す。オーブで
Ζガンダムの開発を行っていた折、かつてのハイパー・メガ・ランチャーの事を話したのが切欠だった。大
出力、かつ高収束率のメガ粒子砲の開発は、流石のエリカも難航を極めたらしく、研究はメサイアに上がっ
てからも続けられていた。しかし、それでも何とかしてしまうのが、ガンダムMk-Uに使われている技術をコ
ピーしてムラサメをΖガンダムにでっち上げてしまった彼女の天才的頭脳がなぜる業か。
 天才とは、時に常人には理解できない狂気的な性癖を持つ。エリカは益々顔を顰めて尚も気勢を強めた
ままだった。何がそんなに不満なのか、戦いに出る以上はMSの損傷は止むを得ない事は、彼女の頭脳な
らば体験しなくとも自明であろうに。

「長距離狙撃用のランチャーは、白兵戦には向かないでしょうが」
「了解」
384 ◆x/lz6TqR1w :2009/02/14(土) 16:51:34 ID:???
 あぁ、そういう事か。彼女は、せっかくこしらえたハイパー・メガ・ランチャーを壊されたくないのだ。メカに
対する執着を見せるのは技術者らしいと言えばそうだが、何だか家庭を顧みない誰かさんの親を見ている
ようで気分は良くなかった。
 取り敢えずカミーユは納得した素振りを見せ、これ以上エリカが機嫌を損ねない様に適当な生返事で会
話を終わらせようとする。エリカはまだ言いたい事があるらしかったが、警報の鳴る艦内の雰囲気に流され
るようにして顔をコックピットの中から出した。

『あーっ! エリカはまたそうやってお兄ちゃんと仲良くしようとしてる!』

 MSの外部スピーカーから飛び出してきた甲高い大声が、MSデッキ内に反響する。出撃準備を進めるメ
カニックも、その声に耳を塞ぎ、何だ、何だと声の主へと振り向いていた。その視線の先には深緑色のマシ
ン・ドール。単眼を激しく明滅させ、激しい怒りを表現しているのだろうか。
 自分の事を言われているのだと気付き、エリカは顔を上げて声の方に顔を振り向けた。視線の先にギャ
プラン。子供のような癇癪は、勿論ロザミアである。コックピットに顔を突っ込んでカミーユと顔を突き合わし
ていたのが秘密の行為に見えたのか、ギャプランが器用にマニピュレーターでこちらを指差していた。

「何なのよ?」
「何なんです?」

 エリカはコックピットに座るカミーユを見た。横分けの青髪。癖の強そうな髪は、先端が内に巻いたり外跳
ねしていたりする。その前髪の下の瞳は、ハッキリした二重の丸目。目尻が釣り上がって見えるせいか、や
や神経質そうな印象を受ける。鼻はそれ程高くないが形は良く、閉じた口はへの字に曲げられていて小生
意気に見えた。
 顔立ちそのものは、悪くない。中世的な色香を醸し出す一種の神秘性を漂わせ、いわゆる美形と呼ばれ
る部類に属すると思われる。適度な丸みを持った輪郭は、豊頬の美少年と言ったところか。オーブでΖガ
ンダムを開発していた時分にも、女性スタッフからはそれなりに評判も良く、人気があったようだし、その手
の少年が好みの女性がお熱になるのも頷けた。
 しかし、それでも彼は未成年の少年である。幼さを残すくせに変に大人を気取ろうとするところもあり、そ
のちぐはぐさがエリカはどうにも好きになれなかった。そんなカミーユと男と女の関係になどなる訳が無いと
思っていたし、なりたくも無かった。だから、ロザミアの頓珍漢な誤解が腹立たしく、即座に手で押してΖガ
ンダムのコックピットから離れた。

「フンッ。誰が子供とロマンスを演じようなんて思いますか」
「悪かったですね。どうせ僕は子供ですよ」

 一瞥をしながら随分な捨て台詞を放つエリカ。その声が耳に入ったカミーユは、ムッとしてコックピット・
ハッチから身を乗り出し、不満そうに口を尖らせる。しかし、エリカはまるで相手にしていない素振りで無重
力の中をゆっくりと泳いでいった。

「ロザミィも! ギャプランは鹵獲アーマーなんだから、壊さないように丁寧に扱う事! 宜しいわね!」
『何さ? そんなにMSが大事なら、あんたが使えばいいんじゃないか』

 誰かが「そりゃあそうだ」と言って笑う。エリカの地獄耳はその声の主を聞き分け、キッと睨み付けた。そ
の睨み付けられた誰かは、慌てて目を逸らしてワザとらしく口笛を吹き鳴らす。しょうもない男も居たもの
だ。エリカは再び視線をギャプランへと向ける。
385 ◆x/lz6TqR1w :2009/02/14(土) 16:52:22 ID:???
「そういう問題じゃなくて、賄のパーツが足りてないって言っているの! そのくらい分かってよ!」
『ヘンっ! ヒステリーなんか起こしちゃって。エリカはずっと怒って、顔に余計な皺の数を増やしていれば
いいんだ!』
「な、何ですってぇッ!?」

 MSデッキにドッと笑いが沸き起こり、エリカは思わず顔に両手を当てて確認した。
 唯でさえ没頭しやすい技術畑の仕事。1日や2日の徹夜はざらで、肌が荒れて畑を耕したようになってしま
う事も間々あった。技術者で母親とはいえ女性でもあるエリカは、当然の事ながら肌の健康についての悩
みを抱えていた。
 ロザミアがそれを知っていたとは思わないが、幼さは遠慮を知らないが故に容赦が無い。大きく身振りを
して訴えたのがヒステリックに見られたのも、そういう理由からだろうか。痛いところを突かれ、カーッと頭に
血が昇ってゆくのが自分でも分かった。
 ロザミアは無邪気であるがゆえに言葉を慎むという事を知らない。言葉に詰まり、怒りに我を忘れそうに
なった正にその時、ガンダムMk-Uが間に割って入るように通り過ぎ、ハッとして我に帰ることができた。

『出撃ですから。――カミーユ=ビダン、躾はきちんとなさい!』
『も、申し訳ありません! ――ほら、ロザミィ!』

 エマの声が格納庫に響く。厳しい叱責を飛ばすエマに慄いたのか、それまで密かにほくそ笑んでいたカ
ミーユがΖガンダムから姿を見せてロザミアを必死に宥めていた。
 危うく年甲斐も無いヒステリーを起こすところであった。寸前で思い留まる事が出来たのは、エマが間に
入ってくれたお陰である。みっともないところを衆目に晒さずに済んだ事にホッと胸を撫で下ろしていると、
続けてレコアのセイバーが目の前を横切った。そのカメラ・アイが宥めるように柔らかく光る。

「レコア?」
『悪いこと言ってるって自覚が無いんですよ。そういうのって、悲しいと思いません?』
「強化人間だから仕方ないで済まされるものですか。ロザミィのあれは、私にとっちゃ笑い事ではないのよ」

 苦笑交じりで返すエリカ。さわっと頬を撫でて、ざらっとした感触にしかめっ面をする。エリカにとってロザミ
アの言葉は現実的であり過ぎたのだ。

『気になさるほどでも無いと思いますけど』
「煽てても、何もでないわよ。流石に、この歳ともなるとね――皮肉に聞こえちゃうわ」
『そんな――でも、お肌の曲がり角には、まだ遠いのではないですか?』
「お仕事柄、と言うべきでしょうかね。あなただって、そのうち笑っていられなくなるわよ」
『それは、怖いですね。戦争が終わったら、ゆっくり考えましょ』

 適度な緊張感というものは重要だが、必要以上の緊張は妨げとなる。レクイエムという存在が戦争の趨
勢を左右する戦略兵器ということで、この作戦が占める戦略的意義は大きい。この作戦の成否が分水嶺で
あるという事で、意気込むクルーはかなり神経質になっていた。
 ふと冷静になった時、艦全体が緊張で萎縮しているように感じられた。力を存分に発揮するという意味で
は、ロザミアの無邪気さは一種のリラクゼーション効果があったのかもしれない。エリカはセイバーの後ろ
姿を見送りながら、そんな事を考えたりした。
386 ◆x/lz6TqR1w :2009/02/14(土) 16:53:14 ID:???

 月の重力圏内に入るのは、久しぶりだ。前回は拉致されたカミーユの救出の為にアルザッヘル基地へと
仕掛けた時であった。あの時の作戦行動はほぼアークエンジェル単艦であったが、今回は違う。オーブ艦
隊にザフトの増援艦隊が加わり、規模としては連隊に相当する。複数のモニターに目をやれば味方艦隊の
姿。アークエンジェルは列の中央に陣取り、左右を守られるような形で月の重力圏内を進んでいた。ラミア
スは少し、味方の数の多さに気が大きくなっていた。

「ダイダロスまで約20000の地点です。周辺のミノフスキー粒子濃度上昇、ジャミングによる影響の為、作戦
前の僚艦との無線通信はこれで最後になります」
「了解。始めようか」

 サイの報告。艦隊総司令のソガが、副艦長席に座るアマギからマイクを受け取った。

「――各艦に最終確認。本作戦の趣旨は反射衛星砲の破壊、または制圧にある。捜索に掛かる機動部隊
は、可能な限り敵との交戦を避け、コントロール・ルーム及び反射衛星砲本体の発見を最優先とせよ」

 月の中立地帯から降下し、ダイダロス基地を目指す。周辺の景色は未だ灰色の荒野なれど、機械は敏
感に変化を感じ取っていた。ミノフスキー粒子の感知は、敵がこちらの侵攻を警戒している証左となってい
る。やはり、一筋縄ではいかないということか――ラミアスはソガの背中を見ながら、緊張を解そうと深呼吸
をした。

「目標地点まで15000を切りました。ダイダロス、目視可能です」
「ミノフスキー粒子濃度、更に上昇。カメラが光をキャッチ。艦艇とMSです」
「各艦の配列、完了しました。当艦は中央に配置、ローエングリンの発射スタンバイに入っています」
「システム、オール・グリーン。イーゲルシュテルン、ゴットフリート起動、バリアント装填準備。ローエングリ
ン、発射シークエンス開始」

 慌しくなるブリッジ。ブリッジが遮蔽され、それまでの明るい空間から一転、薄暗く変貌した。モニターや計
器類の光が一層強くなり、それに照らされるようにしてクルーの顔が亡霊のように不気味に浮かんでいる。
 素早い臨戦態勢への移行は、さすが手馴れたクルーの仕事と言ったところだろうか。ソガが大きく頷く。

「15秒間の斉射後、第一波MS隊発進。各艦のタイミング合わせ、大丈夫だな?」
「その筈です。……1stフェイズ発動まで5秒前、4、3、2、1――」
「作戦フェイズ発動。各艦一斉砲撃、始め!」

 振り上げられる腕。ソガの号令が轟くと、アークエンジェルの左右に並んでいる僚艦から、一斉砲撃が開
始された。それと同時に、アークエンジェルのカタパルト下部からローエングリンの砲身が顔を覗かせる。
エネルギーのチャージはほぼ完了。後は、艦長であるラミアスの号令を待つばかりであった。
 ソガが顔を振り向け、チラリとラミアスを見た。ローエングリンの発射許可。ラミアスはソガの目に頷くと、
艦長席から少し身を乗り出し、下腹部に力を込めた。

「ローエングリン、1番2番――ってぇッ!」

 轟々と燃え盛る火炎のような光が、アークエンジェルの足から吐き出された。十分に引き絞られた弦は、
それに比例して矢の威力を高める。放たれた2条の矢は、ただひたすら真っ直ぐに敵へ向かって放たれて
いった。
387 ◆x/lz6TqR1w :2009/02/14(土) 16:54:34 ID:???

 高空を行く艦隊から、いくつものバーニア・スラスターの光が伸びる。各艦から発進したMS隊だ。それは
各艦ごとに、或いは複数艦ごとに部隊を組み、それぞれが囲い込むように分散してダイダロス基地を目指
す。その目的の一つに、敵に的を絞らせないという狙いがあったが、一番の目的は勿論、レクイエムの早
期発見、及び制圧にある。戦力を分散させるという事はそれだけ各隊に危険が伴うという事だが、それ以
上に今作戦には迅速な作戦展開が求められている。時間的猶予がどの程度残されているのか判明しない
以上、リスクは覚悟の上で臨まねばならないのだ。
 今作戦の要は、戦艦の面制圧的な火力ではなく、MSの機動力であった。ソガは、その点を重視して作戦
を立てていた。キラのストライク・フリーダムは、連合軍に最重要警戒対照として位置づけられているはずで
ある。彼を陽動として連合軍の前に晒せば、必ずそこに攻撃が集中するだろうという事は予想できた。勿
論、その分キラが危険に晒される事になるとは思うが、それだけ他の味方部隊の作戦遂行が易しくなるの
だという事実は、考慮して然るべきだ。彼がピンチに陥れば陥るほど、第二波の機動力部隊の作戦成功率
が高くなるのだから。

 キラは、その事を自分の事ながら良く理解していた。何と言ってもストライク・フリーダムは外見が派手だ
し、その上、駆動部は金色に発光するのだ。形容するならば、宇宙に舞う蛍とでも言えばいいだろうか。
 キラは、ストライク・フリーダムを目立つようにワザと高く舞い上がらせる。そうして戦艦の砲撃から逃れる
ように低空から接近してくる敵MSに向かって、2丁に分けたビームライフルを乱射した。
 当然の如く、ストライク・フリーダムを発見するダイダロス基地の守備部隊。ウインダム、ストライク・ダガ
ーの汎用MSに加え、ザムザザーやユークリッドといったMAも点在している。その全てのカメラが、高空で
威風堂々と佇むストライク・フリーダムを見たような気がした。そういった視線が一挙に自分に集中するよ
うな刺々しさといったものが、チクチクとした針のような痛さをキラに感じさせた。

「狙い通り……!」

 怒涛の攻撃によってビームの嵐に晒されるストライク・フリーダム。しかし、キラは慌てずにドラグーンを解
放、展開して牽制を掛けさせ、本体はメイン・スラスターを起動して青白い光の羽を拡げた。
 デスティニーの光の翼に近似したその推進システムは、ドラグーンを解放した時に初めて使用できる代物
である。しかし、限定的である分その性能は絶大で、唯でさえ機敏なストライク・フリーダムが更に手が付け
られなくなる。まるで流れ星のように機動するストライク・フリーダムは、敵の攻撃をまったく寄せ付けない。

「さぁ、捕まえられるものなら!」

 ドラグーンは、レイのレジェンドのものに比べればやや機械的。しかし、牽制には十分で、敵MSは翻弄さ
れるばかりである。
 キラは敵MSの群れの中に単独で飛び込ませた。四面楚歌。周囲はすっかり敵に囲まれ、キラに逃げ場
は無い。飛んで火にいる夏の虫とはこの事か――チャンスとばかりに一斉に襲い掛かってくる敵、敵、敵。
360度を包囲されていると言っても過言では無い状況でも、キラは感情を乱したりはしない。
 左手に持ったビームライフルを一旦手放し、ビームサーベルを逆手に握らせる。背後から飛び掛ってき
たMSをそれで一突きにすると、同時に右手に持たせているビームライフルが火を噴いて右から襲い来る
敵を撃破する。突き刺したビームサーベルはそのままにし、左手は月の重力に引かれて落下しようかとい
うビームライフルを再び握って左からの敵を狙撃。更に両手のビームライフルを前後に合体させてロング・
ビームライフルにすると、正面の敵を一撃で粉砕。そうして、最後に背後のMSに突き立てていたビーム
サーベルを引き抜いて腰部のサーベルラックへと納めた。
 時間にして5秒も掛かってないかもしれない。一瞬で4機のMSが撃墜され、光の加減で黒く塗りつぶされ
ているストライク・フリーダムの双眸の輝きが、イエローの戦慄を放っていた。その周囲を、力尽きたMSが
月の重力に引かれて灰色の荒野に落下していった。
388 ◆x/lz6TqR1w :2009/02/14(土) 16:55:38 ID:???
 連合軍のパイロットにとって、初めて目にする圧倒的性能、そして驚異的操縦技術。これを見せられて怖
気づかない方がおかしいのだ。未だストライク・フリーダムを包囲している状態であっても、まるで金縛りに
遭ったように動かない――動けない。数的な有利を作り出しているはずなのに、全くそんな印象を感じさせ
ない段違い感を受けて、完全に萎縮してしまっていた。

『な、何だってそんな事を平然と! フリーダムって奴は、その名の通り何でもアリって事なのかよ!?』
『バカ言え! 同じMSがすることだろうが! 神様じゃねぇんだからそんな事――』
『し、しかし、あれはとても人が動かしているようには思えません!』
『なら、それがコーディネイターって事なんだと認識しろ! そういう奴らがユニウスを使って地球を潰そうと
したんだぞ! 同胞の亡骸を使って――血も涙も無い連中だ! だから、排除しなけりゃならんのだ!』

 究極的な集中力の高まりが、キラを極限の世界に誘う。それは潜在的な力であったのだろうか、導師マ
ルキオは、その力を次世代を切り開く種として「SEED」と名付けていた。イメージも、そんな感じである。頭
の中で種が弾けた様な感触を得ると、途端に爽快になり、一種の「ハイ」の状態になる。スポーツ選手が
ゾーンと呼ぶ状態に近いだろうか。時間の流れすら澱ませてしまうような集中力の高まりは、人間の動きの
無駄を削ぎ落とし、より洗練させていく。余計な事を考えない分、状況がダイレクトに脳に伝達され、急に強
くなったように見せることもあった。キラはこの状態に自分の意志で持っていく事が出来、それが彼を伝説
のパイロットたらしめている秘訣でもあった。
 だからこそ、嫌なのである。ミノフスキー粒子で殆ど雑音にしか聞こえないノイズ混じりの傍受音声でも、
極限まで集中力が高まっているキラはその内容を聞き分けてしまうのである。だから、こうして聞こえてきた
敵の呪詛のようなやり取りも、嫌でも頭の中に入ってきて、キラは何ともやりきれないのだ。
 やはり、コーディネイターとナチュラルの共存は不可能なのだろうか。オーブでは上手くいっていた事で
も、人類全体がそうなるには解かねばならない誤解や超越しなければならない憎しみが多すぎる。

「敵の目を引き付けちゃ居るけど、このまま睨み合ってても――」

 感傷に浸っている場合ではない。レクイエムの阻止は至上命題であり、キラが敵を引き付ければ引き付
けるほど作戦の成功率は上昇する。
 動かなければ。キラは敵の視線を引き付ける様にストライク・フリーダムを高空へと上昇させる。

「もっとこっちに来い! ダイダロスの戦力、全部纏めて僕が相手をしてやる!」

 釣りあがる眉、鋭くなる目。微かに開いた口の奥では固く食いしばられた歯が軋んだ音を立てる。力の入
る顔面筋は顔の中心に多数の皺を寄せ、プライベートでのキラの温厚で柔和な表情は鳴りを潜めていた。
険しい顔つきは戦士の顔。その視線が射抜くは敵。
 敵MS群の上空を飛翔するストライク・フリーダムは、ドラグーンを自機周辺に呼び戻して射撃武器の全て
を下方に位置するMS群に向けて構えた。ミノフスキー粒子の影響で、以前ほどの正確な狙い撃ちは出来
ない。しかし、キラの目論見は目立つ事。今はただトリガーを引きさえすれば良い。

「派手に行くんだ――フリーダム!」

 8基のドラグーン、2丁のビームライフル、2門のクスィフィアスに1門のカリドゥス。計13の光が一斉に放た
れ、連合軍のMS達を上から襲った。高速で機動しながら何発も撃たれる砲撃は、さながら月に降り注ぐ雨
である。乱射されるビームの雨霰は敵MSの動きを活発にし、何機かのMSはどさくさに紛れて撃墜されてい
た。同時に月面に着弾した砲撃がおぞましいまでの煙を巻き上げ、より混迷の度合いを深めていく。これで
は、連合軍もストライク・フリーダムに怖気て居る場合ではない。
389 ◆x/lz6TqR1w :2009/02/14(土) 16:56:33 ID:???
 キラの攻撃に流石に動きを活性化させ、戦場が動き始める。20機は軽く超えていそうなMS達が一斉にス
トライク・フリーダムを狙って攻撃を加えてくるも、キラはそれを避ける、避ける。目線では追い縋れないほ
どの機動力で翻弄し、目立つ事で敵の注目を集める。
 キラの目論見は的中。ピピッと警告音がコックピットに鳴ると、サブ・カメラがこちらへ接近する新たな光を
捕捉した。バーニア・スラスターの光、大まかな数は、大体20程度であろうか。今現在相手にしている敵の
数が、倍に増えるだけである。殲滅する必要が無ければ、キラにとって問題の無い数であった。

「――えっ!?」

 ――と思ったら大間違いであった。おおよその敵の数を確認した直後、別のサブ・カメラが更に接近してく
る機影を捉えたのである。キラは慌てて視線をそちらに向けた。
 こちらの方も、ざっと数えてみてやはり20機程度は居るだろう。中隊規模の戦力が一気に2つほど集まっ
てきた計算になる。全部ひっくるめて数えれば、大隊クラスにまで膨れるのではないだろうか。「人気者は
辛いね」などと冗談交じりに強がって見せるも、キラは思わず唾を飲み込み、しかし不敵に口の端を上げた。

「流石は大西洋連邦の要衝。遠慮ないんだな」

 恐怖しているのか、武者震いなのか。何とも言えない感情が胸の奥で燻り、こそばゆさがキラに微笑を浮
かべさせた。
 果たして、自分はこの状況を切り抜けられるのか。襲い来るビームの数は、100では済まないかも知れな
い。ストライク・フリーダムは設計思想上の問題で装甲と装甲の隙間が多く、しかも広い。それは限りなく人
間に近い動きを再現する為のもので、被弾が許されない構造をしていた。
 しかし、そんな綱渡りのような状況の中を、キラは寸分のコントロール・ミスも犯すことなく、まるでゲーム
をクリアするかのように次々と切り抜けていって見せた。
 キラは引き攣る笑みでストライク・フリーダムを操る。先述の理由から一発の被弾も許すことなく、向かっ
てくる敵は容赦なくビームサーベルで切り捨てた。大隊規模の敵を相手に、一見無敵。しかし、キラにストラ
イク・フリーダムの軽快な動きほどの余裕があるわけではなかった。
 何とか相手をしていられるが、いくらキラでも限界というものは存在する。現在相手にしている敵の数は、
完全にキラが処理可能な許容範囲を超えていた。何度も敵に埋もれそうになりながらも何とか切り抜けら
れているのは、彼の意地に過ぎない。
 その証拠に、少し前までは涼しげだったキラの顔の表面に変化が起こり始めていた。肌の色はうっすらと
紅潮し、額と鼻の下に滲んだ汗が玉となっていた。白目は赤みを帯び、加速する呼吸はバイザーの口元の
部分を白く曇らせる。明らかな疲労の色が表れていた。

「クッ! この程度で――」

 こんな火線の数、と強がってみるも、いつまでも捌き切れるものではない。次第に呻き声を発する回数が
増えてきて、普段なら何でもない攻撃でも妙に神経を使うようになった。
 これが物量攻撃の恐ろしさなのか。MSにも、パイロットであるキラ自身にも表面的ダメージは無い。ダメ
ージはその更に内側、キラの内面に及んでいた。倒しても倒してもキリが無い無限ループのような感覚に
陥り、見えないゴールがボディ・ブローのようにじわじわとキラから精神的な体力を奪っていく。
 チラリと時間を見て、愕然とした。出撃から、まだ30分も経っていないではないか。既に疲労を感じ始めて
いるのは、鍛え方が足りないのか、連合軍の数が異常なのか。どちらにしろ、これは洒落にならない。
 そして、もっとキラに失望感を与えたのが、他の交戦区域の状況である。これだけ自分が引き付けている
というのに、まるで効果が無いとばかりにあちこちで火線が飛び交っているのだ。つまり、今キラが相手して
いる敵の数も全体の敵の数に比べれば大した数ではないのである。これには、流石のキラもショックを受
けた。
390 ◆x/lz6TqR1w :2009/02/14(土) 16:57:39 ID:???
 しかし、それでもやり通さねばならない囮の役目。キラは決して逞しくない根性を振り絞って気合を入れ直
した。
 その時だった。背後で敵MSが狙撃され、爆散した。ハッとして後方を振り返れば、今の一撃で堰を切った
ように続々と注がれる援護のビーム。増援に気付いた敵は、一斉にそちらへの警戒を強め、幾分かキラへ
の攻撃が緩くなった。

「メガ粒子砲の光のようだけど――エマさん!?」

 援護はM1アストレイとザク・ウォーリア、ゲイツRの混成部隊。その中に、明らかに威力が違うビームが混
じっていて、キラは即座にそれがガンダムMk-Uのものだと分かった。緩くなった敵の攻撃をすり抜け、月
面を滑りながらビームライフルを連射しているガンダムMk-Uの姿を発見した。キラは追いかけてくる敵を
撃退しながらガンダムMk-Uのところへと向かい、隣に着地させて肩を触れ合わせた。

「すみません、エマさん。僕がもっと上手くやれていれば――」
『頑張り過ぎよ! あなた1人で何でもしようだなんて!』

 エマの意外な返答に、キラは驚かされた。しかし、彼女の言葉に甘えるわけにはいかないというエースの
意地もある。

「けど、僕はフリーダムを使わせて貰っているんです。コイツを使うんだったら、あの程度は手玉にとって見
せなきゃ!」
『過信のし過ぎです! MSも、あなた自身も!』

 エマがそう言うと、ガンダムMk-Uがストライク・フリーダムの腕に自分の腕を絡ませて後ろに跳躍した。
引っ張られて、為すがままに向かうのはクレーターの中だった。反転し、身を隠すようにしてクレーターの内
壁に腰を下ろす。直径にして2000m程度であろうか。深さは、MSがしゃがんで身を隠せるほど。安全とは言
えないが、リムが思ったよりも高くて一息つくには適当なサイズだ。
 思いも寄らないタイミングでの休息。しかし、疲弊している事には違いない。キラは即時、ヘルメットを脱い
でサバイバル・キットの中から手拭いを取り出し、汗に濡れる顔を乱暴に拭った。汗をかいた分、水分の補
給も必要になるだろう。手拭いを適当にケースの中に押し込み、続けて飲料ボトルを取り出してストローに
むしゃぶりついた。

『キラは十分にやってくれたわ。だから、時間どおりにこういう事が出来る』

 ガンダムMk-Uが左腕を天に掲げ、シールド裏のランチャーに装填されていた信号弾を打ち上げた。キ
ラの視線の先、尾を伸ばして光が月の空に昇っていくと、高空で炸裂して眩いばかりに青白い閃光を放っ
た。キラはストローを口から離し、サブ・モニターの中でコンソール・パネルを弄っているエマに視線を送る。

「何をしたんです?」
『これで機動力のあるカミーユ達の変形スーツ隊が先行してくれるのよ』
「そんな! まだ陽動は完全じゃ無いはずです。なのに、第二波を行かせちゃうんですか?」
『時間どおりと言っています』

 エマはキラとまるで視線を合わせず、まともに取り合わない。ガンダムMk-Uのヘッドが周囲を警戒する
ように上と左右に回り、キラは無碍にされて口を尖らせた。

『作戦時間を遅らせるわけに行かないのは、分かるでしょう? あなたは、今の状況というものを――』
391 ◆x/lz6TqR1w :2009/02/14(土) 16:58:44 ID:???
「仲間の犠牲を減らす事に気を取られて、その間にプラントを討たれたのでは本末転倒だって言うのは分
かります。けど、僕はこのタイミングだとは聞いてないんですよ!」

 キラは作戦前のブリーフィングには参加しなかった、と言うよりも、参加できなかった。彼にはエターナル
のMSデッキでカツの為にストライク・ルージュの調整を仕上げる仕事があって、ブリーフィングに顔を出して
いる暇が無かったのだ。
 エマはそんなキラの事情を知っているから、ブリーフィングの不参加を咎めたりはしない。代わりにカツに
作戦の概要を報告させるように言っておいたが、突撃の時間を知らされてないとはどういう事だろうか。
 よく思い出してみれば、カツはキラと陽動をする役割だったはず。その彼の姿が、何故か見えない。その
事実に、思わずエマは戦慄した。どう考えても、彼の悪い病気が発祥したとしか思えなかった。

『お、おかしいじゃない? カツには、ルージュの調整でブリーフィングに参加できなかったあなたと一緒に
陽動に回ってもらう予定だったのに、居ないなんて――』

 動揺するエマの声。パネルを操作する手を止め、何やら考え事を始めた。その様子から、カツが自分に
伝えた事が随分と曖昧なものであったと気付く。
 どういった理由でそんな事をしたのか。考えて、唯一つ分かった事は、カツは単独で行動したがっている
という事。独断専行を咎められないようにと、カツは不都合な部分をキラに隠していたのだ。

「カツからは、僕が陽動にまわされたとしか聞かされていませんでした」
『勝手なことを!』
「作戦を無視してでも単独行動を取りたかった理由があったんじゃないですか? 多分、例のサラって子」
『だとしても、そんな事が許されるわけが無いわ! 軍は私怨で動かれたら堪らないのよ!』
「それは当然です。けど、今は――!」

 キラはケースの中に飲料ボトルを押し込み、思いっきりブースト・ペダルを踏み込んだ。ストライク・フリー
ダムに急上昇を掛け、腕をガンダムMk-Uの腋に絡ませて一緒に舞い上がる。そうして転がるヘルメットの
顎の部分を掴んで乱暴に頭に被ると、即座にバイザーを下ろして先程まで自分たちが休憩していたクレー
ターを見た。
 クレーターの急斜面を滑り降りながらビームライフルを構える敵MS。先程エマが打ち上げた信号弾が、敵
に自分たちの居所を知らせる切欠になったのは間違いないだろう。
 キラはドラグーンを射出、ガンダムMk-Uを連れながら後退し、追撃隊を阻止する。

「エマさん! 僕たち陽動部隊の突撃はあるんですか?」
『状況によるわ。艦隊の安全が保証されれば、或いは』
「分かりました」

 やるべき事はハッキリした。単純に言えば、戦えば良いのだ。敵の攻撃部隊を叩けば、それだけ艦隊の
安全は保証される。キラは、そういう状況に持って行かなければならない必要性を感じていた。
 カツの独断専行は、無茶だ。無茶は、時に人の可能性を開かせる事もあるが、時に人を殺める事もあ
る。可能性を信じたいキラであったが、彼にはトールという苦い過去があった。
 かつて、アスランのイージスと死闘を繰り広げた時、トールはスカイグラスパーで2人の戦いに介入し、そ
の命を散らせてしまった。必死にキラを援護しようとした勇気、しかしそれは無茶であった。イージスの投げ
たシールドがスカイグラスパーのコックピットに突き刺さった光景を、キラは忘れられない。
 同じ事を繰り返させやしない。キラは是が非でもカツを追いかけなければならないと感じていた。その手
には機動兵器を動かす操縦桿。親指が、淀みなくトリガー・スイッチを押し込んだ。
392 ◆x/lz6TqR1w :2009/02/14(土) 16:59:36 ID:???

 月面を走る一体のMSが居た。地球の6分の1の重力があるとはいえ、移動にMSの足を使うような時代で
はないはずだ。あまりの時代錯誤に、或いは誰もその存在を気にしないのかもしれない。そのMSは、態々
フェイズ・シフト装甲の電力を落として石灰色に染まり、灰色の月面に溶け込むように走っていた。保護色
を纏ったそのMSは、月の空で戦闘を繰り広げるMS達には目もくれずにひたすらダイダロス基地を目指し
て疾駆していた。

「エマ中尉の信号弾の色、カミーユ達の突撃の合図だ。――連合の奴ら、ミノフスキー粒子の使い方、分
かってないんだよな」

 レーダーが死んでいる状態で月面を走る灰色のストライク・ルージュは、空中戦が主役となった現代戦術
に於いては、ことMSに関しては死角になっているのかもしれない。航空ユニットの発展が著しい現代に於
いて、まさか二足歩行のMSが態々移動の遅い徒歩で駆けているなど考えたりはしないからだ。

「――サラが近い?」

 バーニアの光すら発しないストライク・ルージュは、まるで透明人間になったかのような存在感の薄さで、
誰にも気付かれる事無くひた走っていた。そのコックピットの中で、カツはヘルメットの耳に手を当てて何か
に気付いたように視線を動かしていた。


 黒い空に炸裂する信号弾の色。それは作戦の開始から30分ほどが経過した、時間通りの合図だった。
 カミーユは全天モニターに浮かび上がっている作戦時間を確認した。艦体を整えて艦砲射撃の15秒後に
MS隊の第一波が発進するまでが作戦フェイズの第一段階。それから約25分後に第二波が出撃して第2
フェイズが始まった。そこから彼ら機動力部隊の突撃を告げる第3フェイズ開始の合図が、エマの上げた信
号弾だった。

「アークエンジェルの弓勢(ゆんぜい)なら当然かもしれないけど……思ったより前に出てるな。作戦は順調
に消化できているって事か」

 ローエングリンの光はやはり怖いのか、予想戦力を上回る数のMSがダイダロス基地からオーブ艦隊を
迎え撃っていた。レクイエムのような戦略兵器を平然と使っておきながら、戦艦1隻の主砲に慄く彼等のセ
ンスは信じられないが、その非常識さが味方についてくれている今がチャンスでもある。
 正面からストライク・ダガー。ストライカー・パックは標準的装備のエール。特に留意しなければならない武
器も無い。手に持ったビームライフルの砲口を向け、攻撃してきた。
 身体に馴染む感覚、カミーユは違和感無く反応してくれるΖガンダムに、若干の高揚感を覚えた。エリカ
は流石で、彼女が本気を出せば、これ程にまで要求を満たした機体に仕上がるのかと感動する。
 僅かに操縦桿を傾けただけで、跳ねる様なレスポンスを発揮する。過剰なまでの反応とも思える調整で
あるが、このじゃじゃ馬っぷりこそがΖガンダムの手応えである。慣れ親しんだ操縦感覚に、ストライク・ダ
ガーのビームを体捌きですり抜けるようにしてかわして見せた。

「――後ろにも!」

 調子に乗れば、勘も冴え渡る。ニュータイプ特有の閃きが迸り、バルカンで正面のストライク・ダガーを牽
制しながらカミーユ自身は顔を後ろに振り向けた。
393 ◆x/lz6TqR1w :2009/02/14(土) 17:00:49 ID:???
 Ζガンダムの背後から、ゲルズゲーが大きな蜘蛛の足で月面に叩き落そうと圧し掛かってくる。力任せに
抱きつこうと言うのか、こんな単細胞的な奇襲などに、カミーユが捕まるわけが無い。挟み込むように開か
れた多脚がΖガンダムを捕獲しようと襲い掛かると、一瞬にしてウェイブライダーに形態を変化させ、まる
で消え去るかのように離脱して見せた。
 パイロットは、さぞかし驚いた事であろう。完全に背後からの襲撃で、尚且つミノフスキー粒子の影響で
レーダーに捕捉し難い状況になっているのである。だのに、まるで背中に目があるかのような反応で機動し
て見せ、ゲルズゲーのパイロットはΖガンダムを見失ってしまった。

「ど、何処だ!? 何処に消えたんだ!?」

 見えない敵の恐怖。狼狽したゲルズゲーのパイロットに、カミーユの動きを察知する術は無かった。スパ
イダーの胴体から身体を生やしているダガーの頭部が、落ち着き無く上下左右を見回す。
 その後方斜め上、Ζガンダムが変形を解き、ハイパー・メガ・ランチャーを両腕で抱え込むようにして保
持しながらゲルズゲーへと突貫した。
 ゲルズゲーは陽電子リフレクターを持つ。高出力のメガ粒子砲と言えども突破は不可能だった。手にして
いるハイパー・メガ・ランチャーでの狙撃でも撃墜は出来ない。しかし、空間展開型のバリアである以上、そ
の特性はIフィールド・バリアに通じるところがあるはずである。

「バリアの内側からなら!」

 ゲルズゲーの後ろから、着地するようにして圧し掛かるΖガンダム。ハイパー・メガ・ランチャーの砲口を
突き刺すようにしてゲルズゲーに接着させると、背中のロング・テール・バーニア・スタビライザーがアンテ
ナのように起ち、発射の反動に備えて青白い光を放った。

「そこだッ!」

 手元の操縦桿のトリガー・スイッチを押すと、丸太のようなエネルギーの奔流が放たれる。ハイパー・メ
ガ・ランチャーの砲身は反動で天に掲げるようにして振り上げられ、Ζガンダム自身も釣られて後ろへと
仰け反るように翻った。
 バリアの内側に潜り込まれれば、陽電子リフレクターも効果が無い。ゲルズゲーを貫いた軌跡は、更にそ
の向こうに浮かんでいたストライク・ダガーにも命中、撃墜していた。カミーユには、ゲルズゲーの影に隠れ
たそれが見えていたのである。

 翻ってそのままウェイブライダーへと変形し、機首をダイダロス基地へと向けた。と、後方で爆発の光が
観測され、そこから追いかけてくるMAの姿を2つ、確認した。1つは紅色の航空機的フォルムを持つセイバ
ー、もう1つは隙間から覗くようにしてモノアイを光らせている深緑色のギャプラン。

「レコアさん、ロザミィ」

 足並みを揃える為にカミーユはウェイブライダーの速度を落とした。追いついたセイバーとギャプランは
ウェイブライダーを挟むような形で陣形を組み、両翼端にそれぞれ接触させてきた。両手に華、なんて事を
お年頃のカミーユ少年は一寸、考えてしまうが、そんな場合では無いと自分で自分のヘルメットを叩いた。

『カミーユ、エマ中尉の信号弾の色は、見えていたわね?』

 レコアが言う。カミーユはそれに対して一つ頷いた。

「青でした。突撃のサインです」
394 ◆x/lz6TqR1w :2009/02/14(土) 17:01:41 ID:???
『私達のような少数編成の部隊ならば、敵に気付かれる前に接触できるかもしれないわね』
「MSの数が多くて乱戦状態ですから、そういう作戦のはずです。――トップは僕に張らせてください」
『頼みます』

 ワイプから親指を立てるレコアが消えると、セイバーは一瞬速度を落としてウェイブライダーの斜め後ろ
に付いた。一方で、ギャプランは翼端を接触させたまま。ロザミアは言葉を発さず、ワイプに映る彼女の横
顔は珍しく神妙な面持ちをしていた。
 その表情を見たからなのか、それとも翼端を接触させているからなのか。ロザミアが抱える不安が、カミ
ーユに伝わってくる。彼女が何に不安になっているのか、カミーユにもその理由は概ね分かっていた。
 何も言わないロザミア。それが黙っているのではなく、言葉を捜しているだけだという事を分かれば、カミ
ーユは静かにロザミアが言葉を纏めるのを待つだけだ。やがて、眉尻を下げた、訴えるような震える瞳でカ
ミーユを見つめてきた。

『あの向こう、知っているような人が居るのよ……』

 ゲーツ=キャパの事か。そう心の中で呟いて、カミーユはロザミアに視線を戻した。

「僕が付いている。大丈夫だ。お兄ちゃんに任せれば良い」
『だけど……あたし、あの人の声に応えなくちゃいけないような気がするんだ。――良く、わかんないけど』

 そう呟くように言って、ロザミアは頭を覆う様にヘルメットに手を添えた。
 人間、思ったよりも頭が固いもので、特に先入観を植え付けられた場合、それは最も顕著になる。ロザミ
アは自由奔放なエゴイスト。偽りの記憶で塗り固められているとはいえ、カミーユを独占しようという気持ち
は人一倍強く、些細な出来事でも過剰に反応する。出撃前にエリカに対して必要以上の嫉妬を見せたの
も、そういった理由からだった。
 彼女は利他的にはなれない。性格の幼さから自己中心的であり、他人を気遣ったり自らを控えるといっ
た慎ましやかさとは無縁の性格をしていた。だからこそ、理不尽な出来事には素直に嫌悪感を示すし、納
得できなければ遠慮なしにものを言う。それが時に波乱を呼ぶような事もあった。
 しかし、悪い事ばかりではない。彼女の無邪気で素直な言葉は、凝り固まった思慮に一石を投じる。勿
論、素直に受け入れる人と、受け入れられずに逆上する人とが居るが――サラは後者であった。
 そんなエゴイスト・ロザミアが、殆ど初めてと言って良いくらい他人の事を気に掛けていた。この心境の変
化、それなりの刺激が無ければ考えられない。カミーユは、ステーションでのカツとサラの感応がロザミアに
影響している事は理解していなかったが、彼女の変化を喜ばしい事として受け止めていた。
 戦争の道具として生み出された強化人間。ロザミアはその最たる存在で、本来の人格は破壊されてい
る。その彼女が、再び人間として当たり前の感情を持ち始めていた。ならば、その変化を促してあげる事
が自分の役割でもあるのだと私心ながらに思う。

「――それが、本当に救うって事になるかもしれないんだもんな……」
『えっ?』
「い、いや――」

 頭の中で考えていたはずの台詞が、思わず口を突いて出てきてしまった。そういう無用心さを、カミーユ
は自分の欠点だと思う。聞かれていた事に赤面し、慌てて手を振って、違うんだという事をアピールした。

『そっかぁ。あの人だって、もしかしたら本当はあたし達と仲良くしたいのかもしれないものね。そういうの、
歓迎だなぁ』
395 ◆x/lz6TqR1w :2009/02/14(土) 17:02:31 ID:???
 言われて、ハッとした。カミーユが「救う」と言ったのは勿論ロザミアの事であるが、彼女はゲーツの事な
のだと誤解している。誤解しているが、その言葉が逆にカミーユの思考に閃きをもたらした。ロザミアの無
邪気な指摘が、一石を投じた瞬間だった。

「そ、そりゃあそうだろう。誰だって喧嘩しなくて済むのなら、そうしたいものな」

 否定の仕草はすぐさまキャンセル。パイロット・スーツの襟とヘルメットの間のアタッチメントを直すように
指を入れてその場を誤魔化した。
 不器用な微笑でワイプのロザミアに横目の視線を送る。先程までの似合わぬ神妙な面持ちは既に無く、
普段の無垢な表情を浮かべていた。カミーユのぎこちない笑みに、嬉しそうに笑って手を振って返してくれ
るロザミア。ギャプランが翼端から離れて接触回線が途切れると、カミーユはホッと溜息をついた。

「僕は今まで、ニュータイプと言っても所詮、人殺ししか出来ないものだと思っていた。けど、それは違うん
だ。この力を、人を殺す為の武器としてではなく、人を生かす為の道具として使えれば、きっとゲーツだって
――」

 ロザミアの言う通りにして見せたところで、戦争が終わったりはしない。ゲーツ1人と解り合えたところで、
全ての人類が手を取り合ったりはしない。しかし、それでも身近なロザミアに喜びをもたらしてあげることが
出来る。ゲーツと和解する事で、ささやかではあるが身近な平和を1つ手にする事が出来る。人類全体の
平和も、その小さな平和の積み重ねなのだと、カミーユは思う。解り合う事がニュータイプの概念であるの
ならば、ニュータイプとはその小さな平和を生み出す為に発祥した能力なのでは無いかと考えた。
 ニュータイプの力といえども、使い方次第でその性質を大きく変える。シロッコのように自らのエゴを満た
す手段に用いれば、それは禍々しきプレッシャーとなって争いを呼び込むだろう。カミーユは、そうはなるま
い。シロッコと正反対の用い方をして見せることで、ニュータイプをよりポジティブなものへと位置づけようと
していた。

『そろそろダイダロスのテリトリーに入るわよ。準備はよろしい、カミーユ?』

 気付けば、セイバーからワイヤーによる接触回線を繋げられていた。思索から現実世界に引き戻される
と、正面には軍事基地の景観が広がっていた。
 モノクロームで配色されたかのような地味な軍事拠点は、コスト的な意味だけでなく、月の大地に溶け込
ませるような迷彩的な意味も持つ。立ち並ぶ建造物は、内部の電灯の光が微かに洩れる以外はシンプル
で味気ない存在だった。
 よくもこれだけすんなりと接近できたものだ。陽動の部隊がかなり頑張ってくれているという事だろうか。
カツとキラが頑張りすぎているかもしれないという懸念もあるが、エマが良いサポートをしてくれるだろうから
心配は無い。しかし、何にしても陽動部隊の負担を軽減する意味でも、作戦の迅速な遂行が望ましい事に
は変わりないのだが。

「この感覚――」

 頭が痺れるようなプレッシャーを感じた。刺々しさを孕むこの感触は、シロッコのもの。唯我独尊の男は、
自分以外の全てを卑下していた。他人を卑下するような人間は、自らも卑下されるべき存在であると気付
いていないのだ。平気で高みの見物を決め込むような曲がった根性を持つ男には、「修正」を食らわしてや
らなければなるまい。
 その為には、ダイダロス基地の何処かで余裕をかましているシロッコを引きずり出す必要がある。カミー
ユがウェイブライダーの高度を下げると、倣ってセイバーとギャプランも続いた。
396 ◆x/lz6TqR1w :2009/02/14(土) 17:03:04 ID:???
「仕掛けます。2人は俺の後に続いて」
『了解』
『うん、分かったお兄ちゃん』

 高空から攻めれば、標的にされやすくなる。月面を這うように飛行し、射程圏内にダイダロス基地の姿を
捉えると同時にMSへとチェンジ、ハイパー・メガ・ランチャーを展開して砲身を構えた。
 ファースト・アタックをΖガンダムが放つ。ハイパー・メガ・ランチャーのビームはダイダロス基地へと軌跡
を伸ばし、防壁に直撃して爆発を起こした。その一撃が引鉄となって、ダイダロス基地から反撃の砲撃が
向かってくる。Ζガンダムが腕を扇いで他の2人に指示を送ると、編隊を組んだまま横のスライドを加えて
反撃を回避し、尚も接近を続けた。

「こちらの動きに気付いた。なら、MSが出てくるはずだ」

 カミーユの目線の先、ダイダロス基地のサーチライトの光がカミーユ達の姿を探そうと蠢いている。月面
を滑るように砂煙を上げて接近を続けていると、セイバーがΖガンダムの前に躍り出て、アムフォルタス砲
を放った。これも直撃、爆煙の規模が更に拡大する。
 それと同時に、幾つかのバーニア・スラスターの光がダイダロス基地から飛び上がってきた。カミーユが
予測したとおり、ダイダロス基地の守備部隊が出てきたのだ。
 距離は既に1000mを切っている。Ζガンダムが敵MSの出現にも構わずにダイダロス基地へと照準を固
定させていると、流石に敵もそれを見逃すはずも無く、ウインダムの一団からビームが降り注いだ。その回
避で照準がブレ、ハイパー・メガ・ランチャーのトリガーが引けない。1機のウインダムがビームサーベルを
振り上げて襲い掛かってくると、いよいよ舌打ちをしてΖガンダムの砲撃の構えを解いた。

「えぇいッ!」

 苛立って声を上げた瞬間、ウインダムが横合いからビーム攻撃を受けてビームサーベルを持つ腕を破壊
された。何事か――その眼前を緑の風が吹き抜けて、ウインダムは慄きに身を仰け反らす。頭部をキョロ
キョロと動かし、敵の姿を捉えようとするが、しかし、無情にも2条のビームがそのウインダムを背後から貫
き、致命傷を与えた。爆発前のスパークを放っているその脇をギャプランが悠然と駆け抜けると、ウインダ
ムは大量の爆煙を伴って無残にも月の空に消えた。
 ギャプランはそのまま次の標的を定め、遊撃行動へと入っていった。MA形態のギャプランの加速に、人
型のウインダムやダガーLは追随できずに右往左往している。

『ロザミィの援護に入るわ』
「了解。ダイダロスへの攻撃は続けます」

 セイバーからレコアの声。カミーユが応答すると、セイバーがMSへと戻ってギャプランを追った。この分な
ら、彼女達にMS隊の相手を任せても良い。幸いにして数も少ないし、問題は無いはずだ。カミーユは視線
を再びダイダロス基地へと戻し、Ζガンダムにハイパー・メガ・ランチャーを構え直させた。
 すると、俄かにダイダロス基地の別方向でも交戦の光や爆発の煙が見られた。どうやら、別の突撃隊も
無事にダイダロス基地へと辿り着けたようである。
 これなら、敵の狙いも分散させられる。Ζガンダムがマニピュレーターの指の付け根から2つの信号弾を
発射すると、小さな白い光が瞬いた。敵を無視して先へ向かえという合図だ。
 セイバーがギャプランを先行させ、フォルティス砲で牽制を掛けた後、ダミー・バルーンを射出してその後
を追う。ダイダロス基地へ直行する気なのだと気付けば、連合軍パイロットも易々と向かわせるわけには
行かないかった。

「我々を無視してダイダロスに取り付こうとか? ――させるかよ!」
397 ◆x/lz6TqR1w :2009/02/14(土) 17:03:55 ID:???
 最終防衛部隊でもある守備隊が、虚仮にされたまま敵の侵入を許しては沽券に関わる。ウインダムのパ
イロットは、そうはさせじと操縦桿を押す手に力を込めた。
 その時だった。突如として正面モニターにMSの頭部が大写しになり、その双眸を1回、瞬かせた。その緑
のぼんやりとした光り方が不敵で、パイロットは思わず後ずさりするようにシートの背凭れに身体を押し付
けた。Ζガンダムだった。

「こ、コイツはぁッ!」

 臆する気持ちを紛らわすように気を吐いた瞬間、その抵抗を挫く様にして激しく明滅する光と共に正面モ
ニターの映像が潰滅していく。至近距離から頭部メイン・カメラにバルカン砲の弾を叩き込まれたのだ。パ
イロットは激しい光に呻き声を上げ、顔の前で手を交差させた。
 小爆発の後、モワッと頭部から煙を噴出するウインダム。気絶したようにふらりと月面へと落下して行き、
二度と浮上する事は無かった。Ζガンダムは続けてセイバーと同様にダミー・バルーンを射出すると、身を
翻してウェイブライダーへと変形し、先行した2機の後を追っていった。

 ダミー・バルーンで敵の足止めは出来た。この隙にダイダロス基地内に侵入できれば、敵も迂闊には手
を出せないはず。カミーユは後ろに反転させていたリニア・シートを正面に戻し、スロットル・レバーを前に押
した。
 殿から先頭へ。先行するセイバーとギャプランに追いつき、そのまま前へと出た。ダイダロス基地は目
前、上空から見下ろせば、その規模の巨大さが良く分かる。
 まだまだ何かが出てきそうな予感がしていたその矢先の事であった。白い影が3つ、威嚇するように飛び
出してきた。蛤のような楕円に近い形、触角を伸ばすように機体下部に4つの砲門を持つMAユークリッド。
そのサイズにしては珍しく陽電子リフレクターを持つ高性能機で、その素早い動きから撃墜が困難な機体
であった。特に、取り回しが難しいハイパー・メガ・ランチャーを持つΖガンダムでは、まるで歯が立たない
だろう。

『カミーユは下がって!』
「レコアさん!」

 セイバーが前に出る。レコアの言うとおり、ここはフォワードを彼女に任せ、自分は援護に回ったほうが得
策だろうか。カミーユはΖガンダムに制動を掛け、腕部のグレネード弾で微力ながらの牽制を掛けた。
 ビーム兵器が主体であるセイバーも、陽電子リフレクターを相手にしては分が悪い。唯一効果があるの
が、接近戦武器であるビームサーベルである。しかし、高機動力のMAを相手に、MS形態で接近戦を仕掛
けるのはほぼ不可能。相手のパイロットが余程の下手でも無い限り、手も足も出ないのは自明だった。

「ロザミィ、頼めて?」
『お兄ちゃんの為なら、やってあげるわ』
「なら、やってもらうわよ」

 ユークリッドはMA。機動力にかけてはMSの比ではない。しかしギャプランの機動力は、そんなユークリッ
ドとも次元が違う。肉体強化された強化人間専用に設計されているそれは、運動性能でも加速力でもユー
クリッドを凌駕する。
 1機ずつの確実な撃破。レコアは3機のユークリッドを分散させるようにビームサーベルで切り掛かった。
勿論、当たるなどとは思っていない。もしかしたら当たってくれるかもしれない、などという淡い期待を抱い
ていたりもしたが、当然、現実はそんなに甘くない。ひらりとかわされ、忌々しげにユークリッドを睨み付け
たが、しかし目論見は的中。上手くバラけてくれた事を確認すると、「良し」と軽く呟いた。
 一方、適当に当りを付けたロザミアは、レコアが散開させたユークリッドの内の1機を韋駄天の如きギャプ
ランで追走した。
398 ◆x/lz6TqR1w :2009/02/14(土) 17:04:46 ID:???
 戦闘機同士の戦いに於いて、背後に回ったものが圧倒的有利な点は不変の事実。ギャプランに背後を
許した時点で、そのユークリッドの敗北は決まっていたのだ。何とか前後関係を逆転してやろうと様々に機
動に変化をつけるも、ぴったりとマークしているギャプランは些かのミスも犯さない。ユークリッドのパイロッ
トは、焦りから操縦桿を握る手にびっしょりと汗をかいている事を意識した。
 上に覆い被さる様に背後に付かれる。MA形態のままでは、陽電子リフレクターを破るのは不可能のは
ず。よしんばバリアの内側から射撃しようにも、相対速度を合わせなければクラッシュして最悪の事態を引
き起こしかねない。どうするつもりなのか――パイロットがドキドキしながらモニターのギャプランを見つめて
いると、唐突にギャプランの形態が変化した。腕が生え、マニピュレーターがユークリッドへと伸びる。ガシ
ッと片手で機体を掴むと、反対の手がビームサーベルを引き抜いた。

「まさか、そんな事が――」

 捕獲された衝撃で揺れるコックピット。モニターにはビーム刃が目に痛いほど輝き、パイロットは戦慄の
表情を浮かべて冷や汗を流す。まさか、MA同士のドッグ・ファイトの最中にMS形態へとチェンジし、組み付
くことが出来るパイロットが居るなどと、想像だにしなかった。これがコーディネイターとナチュラルの、勿論
ロザミアがコーディネイターではない事は知らないが、持って生まれた才能の違いなのかと悟る。その悔し
さにも似た悟りの中、ギャプランのビームサーベルがユークリッドに突き立てられた。

「――次ッ!」

 ビームサーベルをユークリッドから引き抜きつつ、ロザミアは後方から迫る次のユークリッドを見る。仲間
をやられて、激憤しているのだろう。直線的な意志の塊を察知して、それが至近距離まで迫った瞬間、沈
黙している目下のユークリッドを足場にしてバック宙返りをした。
 突貫するユークリッドは、今さらコントロールを変える事などできない。ギャプランが宙返りをしたことで、
ユークリッドはその下に飛び込んでいく形になった。それは、死への招待門。吸い込まれるようにユークリッ
ドは進む。
 倒立するギャプランがメガ粒子砲を構えた。片腕を万歳するように上げ、砲口が真下に向けられる。その
砲口の先に擦れるようにしてユークリッドの機影が潜り込んでくると、その刹那を狙ってロザミアの指がトリ
ガー・スイッチを押し込んだ。

「そこッ!」

 装甲に触れるくらいの至近距離。絶妙な空間把握能力とタイミング感覚がなければ出来ない芸当。それ
を、事も無げにクリアしてみせるロザミア。そこまで砲口を近づければ、陽電子リフレクターも問題ではな
かった。発射されたビームがユークリッドを貫くと、再びMAへと変形してその場を離脱した。

 残るユークリッドは1機。しかし、立て続けに僚機をやられたことで尻尾を巻いて逃げてしまう。戦場に逃
げ場などあるものかと、カミーユは軽く溜息をついた。そしてハイパー・メガ・ランチャーを防壁に向かって撃
ち、侵入口を開く。
 ダイダロス基地への道は開けた。セイバーとギャプランが降下の態勢に入ると、カミーユも遅れじと操縦
桿を引く。2人の前に出ようとした時、ふとセイバーの肩と触れ合った。

『Ζ、ダメージの心配はありませんね?』
「男は度胸です。先に降ります」
399 ◆x/lz6TqR1w :2009/02/14(土) 17:05:33 ID:???
 相性とはいえ、ユークリッドを相手にカミーユはまるで役に立たなかった。彼女達はそんな事では彼を
笑ったりはしないが、男の証明を求め続けたカミーユにとって、汚名返上の機会は出来るだけ早くに欲し
い。そんな思いがあってか、カミーユはレコアとロザミアに先行してΖガンダムをダイダロス基地へと突入
させた。
 侵入口からダイダロス基地内部へと突入し、敷地内に着陸する。内部は、思ったよりも静かで電灯の光
もそれ程強くなく、薄暗く感じられた。戦闘状態の軍事基地とはこんなものかと思うも、妙な違和感は拭い
去る事は出来なかった。

「何だ、この静けさは……?」

 物言わぬ建造物が林立する。整然と整理された区画の景観は、さながら小都市にも見える。しかし、街
のような賑わいは無く、静まり返った様子が得も言われぬ不気味さを演出していた。お化け屋敷などという
小洒落たものではない。カミーユの抱いている違和感は、もっと性質の悪いものである。例えるなら、ストー
カーが獲物を待ち伏せしているような、そんな悪趣味なものを感じていた。
 ロザミアも同じ違和感を持っているのだろう。後方を警戒しながら後ろに付くセイバーとは対照的に、ギャ
プランのモノアイは落ち着き無くひっきりなしにあっちこっちを見ていた。
 間違いなく、敵が潜んでいる。施設内部だと言うのにミノフスキー粒子は異常なまでの濃度を叩き出し、
レーダーは全くの役立たず。建造物の窓からは微かな光すら洩れておらず、明らかに人が出払っている
証拠であった。
 ふと、その建造物の窓からぼんやりと灯る青い光が視界に端に入った。

「はッ……!」

 途端、ウインダムが建造物の陰から躍り上がり、ビームライフルを構えて襲い掛かってきた。それにタイミ
ングを合わせるように周囲の建造物が爆発して倒壊し、隠れていたMS達が一斉にその姿を現した。

「やはり――性懲りも無く出てくる!」

 爆薬を使った爆破で、カミーユ達の周囲は煙霧状態となった。出現したウインダムの数は6機。煙を避け
て飛び上がり、上方から煙の中に紛れるカミーユ達を針の筵にしようとビームの雨を降らす。着弾するビー
ムが更に爆煙を吹き上げ、風船が膨らむかのごとく煙霧を増大させた。

「ヘッ! ダイダロスに突っ込んでくるなんざ、ザフトにゃあ身の程知らずも居たもんだぜ!」

 不意討ちは成功。1人のウインダムのパイロットが拳と掌を突き合せて快哉を上げた。
 ところが、そんな彼のウインダムの眼前を、一筋のビームが突き抜けた。それは煙霧の中から煙を劈い
て放たれ、ダイダロス基地の天井を突き破った。

「な、何ッ!?」

 慌てて離していた手を操縦桿に掛ける。煙霧の中から抜け出てくる機影は絡みつく煙を尾にして落としな
がら飛び上がってくる。そのトリコロール・カラーのMSは、長大な青い砲身を手にし、そして、立て続けに深
緑色と紅色の風が吹き抜けた。
 先程の一撃で破壊された天井は崩壊を始め、瓦礫が降り注いでくる。崩落する天井の巻き添えを食わぬ
ように慌てて避難するも、僚機がそのどさくさに紛れてビームに貫かれて撃墜された。
 ダイダロス基地の一区画を犠牲にするという最後の手段とも言うべき奇襲が、通用しないどころかそれを
利用して反撃に転じられた。その事実に、ただただ我が目を疑うばかりであった。
400 ◆x/lz6TqR1w :2009/02/14(土) 17:06:30 ID:???
 長大な砲身を重そうに振り回すGタイプのMSは、まるでパイロットの考えている事が分かっているのでは
ないかと錯覚するほどの動き出しの正確さで、巨砲を撃つ。取り回しの難しい狙撃武器が、白兵戦に向か
ないことは百も承知である。だのに、融通の利きにくいそれを、あたかもフレキシビリティの高い兵器、例え
ばビームライフルのように扱って見せたのは、パイロットにとって脅威以外の何物でもなかった。しかも、一
撃貰えばアウトという強力なメガ粒子砲である。薄氷を踏む思いで回避する度に、パイロットの中の死の恐
怖が膨張していく。

「く、くそぅッ……!」

 ビームライフルで応戦。ビームを一発、撃つたびに、そのGは近づいてくる。人の顔を模して擬えたような
Gの頭部。その双眸が爛々と輝き、獲物を狩る喜びに震えているかのように見える。
 この敵を、近寄らせてはならない。近寄らせてはならないのに、こちらの攻撃は一向に当たる気配が無
かった。ロックオン・マーカーの中に姿を納めている暇はない。少しでも抵抗を弱らせれば、この敵は一息
に眼前にまで近づき、あっという間に自分を殺すだろう。一瞬でもトリガー・スイッチから指を離してはならな
い。一瞬でもモニターから目を逸らしてはならない。瞬きをすれば、それが最後だと肝に銘じ、ひたすらに
歯を食いしばって我慢した。
 絶対に逃げ切ってやる――そう頭の中で何度も反復して唱えるも、そのGはまるで実体を持っていないか
のようだった。すり抜けるようにじわり、じわりとビーム攻撃を掻い潜って接近を続けるそのMSは、片時もこ
ちらから目を逸らしていない。その双眸の輝きは、狩猟者のそれと同等である。百獣の王ライオンが、全力
で野うさぎを狩りに来ているのである。本気になった肉食獣を相手に、矮小な草食動物である自分が敵う
わけが無いのだ。
 ふと、機体の背中が何かにぶつかった。あれ程目を離さないと誓っていたのに、思わず確認する。そこに
待っていたのは、絶望だった。基地の鉄の壁に機体が背中から衝突したのだ。基地内の地形は把握して
いたはずなのに、敵から逃れようと必死になるあまりに注意力が散漫になっていた。もう、後ろに逃げ場は
無い。
 急いで視線を元に戻した。敵は、もう目前にまで迫っている。その姿が近くなったからかどうかは分からな
い。不思議と、頭部アンテナ基部の底に刻まれている「Ζ」という文字が見えた。パイロットは、それを「ゼッ
ト」と読んだ。アルファベットの一番最後の文字。概して、終末をイメージする。
 道理で攻撃が当たらないわけである。このGは自分に死をもたらす死神だったのだ。見れば、普通のGタ
イプの表情と少し違う、細面のシャープな顔立ちをしている。見慣れたGよりも表情が乏しく感じられ、その
無表情が空恐ろしかった。

「こ、殺されるぞ……死んじまうのか、俺……!?」

 うっすらと滲む視界。訓練で捨てたはずの感情が沸き起こり、恐怖で涙が浮かぶ。顔の表皮は冷たい汗
で塗れており、何度啜っても鼻水が出てくる。カチカチと音を鳴らす歯は不規則なリズムを刻み続け、まる
で氷水の中に全身が浸かっているかのように悪寒と震えが止まらない。

「うわあああぁぁぁ――!」

 ぼんやりと霞むモニター画面に、巨砲を振りかぶったGが突貫してくる姿が見える。恐怖から錯乱状態に
陥ったパイロットは、もはや無我夢中であった。ただ手にした操縦桿を遮二無二動かし、訳も分からずに絶
叫していた。
 何がどうなったのかは、分からなかった。その瞬間の出来事はまるで記憶に無く、次に目に入ってきた光
景は下から見上げるGの姿であった。
401 ◆x/lz6TqR1w :2009/02/14(土) 17:07:21 ID:???
 他の仲間はどうなっただろうか――そんな事を考える余裕など、そのパイロットには無かった。ただ、一
刻も早く視界の中から目の前の死神が消えて欲しい。それだけをひたすらに願った。人間、待ち焦がれて
いる時間は長く感じられると言う。そのGが次のターゲットに照準を絞って行動を開始するまでの時間の、
何と長い事か。
 永遠に視界から消えないかと思われたそのGがようやくモニターから消えると、パイロットは安らかに目を
閉じた。一生分の気力を使い果たしたかのような脱力感。恐怖の死神が消えてくれた事で、股間が湿って
いようが後の事は既にどうでも良かった。

 天井は崩落を続け、時に落盤に押し潰される機体もあった。煙霧は落盤に促進される形で拡大の一途を
辿り、視界は最悪。辛うじてMSの発する光は見えるが、とても戦闘を継続できるような状態ではなかった。
 充満する煙。おぼろげなMSの機影と思しきものが、火花を散らせて衝突した。まさか、ロザミィとレコアさ
んじゃないだろうな――カミーユがそう懸念した時、ふと背後から迫る気配を感じた。ハッとして振り返れ
ば、煙の中から見えてきたのはセイバーであった。

「レコアさん!」
『無事ね、カミーユ』

 セイバーは周囲を警戒しながらΖガンダムの肩に手を掛けてきた。

『――敵がこういうトラップを仕掛けてくるって事は、このエリアに反射衛星砲の手がかりは無いと考えてよ
さそうね?』

 基地の損壊を気にしない作戦でトラップを仕掛けていたこのエリアに、レクイエムのコントロール・センター
が存在しているとは思えない。カミーユは左右を確認してから頷き、賛成の意を示した。

「じゃあ、ロザミィをキャッチしたら次のエリアに――」
『それも手だけど、この広いダイダロスを虱潰しに探すよりも、本体を探した方が賢明だと思うわ』

 確かに、広大なダイダロス基地は多数の区画に隔てられていて、それらを全て捜索対象にしていたので
は時間が掛かりすぎる。それは作戦展開の都合上、出来るだけ避けなければならない事で、レコアの言う
事には一理ある。占拠し易いが何処にあるか分からないコントロール・センターを見つけるよりも、占拠し
難いが見つけ易いと思われるレクイエム本体を探した方が理に適っているとカミーユは思った。
 崩落が収まってきた。天井が吹き抜けになった事で、煙霧状態も徐々に回復に向かっている。周辺の景
色も克明になってきて、ウインダムを追いかけるギャプランが上方で駆け回っているのが見えた。

「時間は、待っちゃくれないか。――それで行きましょう」
『了解。私が先行します。カミーユはロザミィを』
「はい」

 そう言うと、セイバーはMAに変形し、バーニア・スラスターから普通とは違う紅粉を撒き散らして飛び去っ
ていった。それは、バーニア・スラスターのアフター・バーナーで別口から噴出する金属粉を燃焼させる事
で、可視光による識別をし易くするという機能である。ミノフスキー粒子の影響下では、こういった工夫が欠
かせなかった。
402 ◆x/lz6TqR1w :2009/02/14(土) 17:08:30 ID:???
 煙霧の中から飛び出し、レコアは下にダイダロス基地を見た。100kmや200km級がごろごろと点在する月
のクレーターの中では比較的小さなサイズではあるが、人類が利用するには十分な広大さだろう。その中
にすっぽりと納まるようにして存在する巨大基地は、3機で捜索するにはあまりにも広すぎる。外郭を見れ
ば、自分達と同じ様に取り付いた突入部隊が戦いを繰り広げている様子が垣間見られたが、彼等がレクイ
エムのコントロール・センターを発見する望みは薄いだろう。だとすれば、やはりレクイエムの本体を発見、
直接攻撃をした方が手っ取り早い。

「コロニーをまるごと媒介にするような巨大戦略兵器の姿は――」

 その規模から、そう簡単に隠し通せるようなものではないはずだ。基地から迎撃の弾幕が注がれる中、
華麗に旋回運動をしてかわしながらも、レコアの目はレクイエムの姿を探し続けた。
 しかし、画一的で無機質な基地の景観は、どこもかしこも同じ様な景色ばかりで、確信を持って場所を特
定する事は困難を極める。カミーユに目標の変更を提案した手前、何としてでもレクイエムの本体を発見し
たかったレコアであったが、これならコントール・センターを探すのと大差ないかもしれない。

「……ん? あれは――」

 そう諦めかけていた時だった。何の気なしに見上げた空に、赤い光を明滅させる物体が見えた。それは
かなりの高度にあるらしく、詳細な形こそハッキリしなかったが、レコアにはその物体が何であるかが直ぐ
に分かった。

「ステーション! なら、その下が反射衛星砲の本体のはず!」

 恐らくは一番最初の角度修正用の中継ステーションなのだろう。レコアはそう閃き、セイバーの進路をス
テーションの真下へと向けた。
 その瞬間だった。2条のビームがセイバーを急襲し、その眩しさにレコアは目を細めた。セイバーは今の
一撃でバランスを崩している。直撃こそ受けなかったものの、飾り羽の1枚や2枚は吹き飛ばされているか
もしれない。

「今の攻撃――!」

 完全な射程距離外からの砲撃。流れ弾が偶然掠めたわけでは無い事を、レコアは直感で悟っていた。
 それは、恐らくニュータイプの攻撃によるもの。明らかな敵意を孕んだその1撃は、レコアに敵機の接近を
報せる。
 セイバーがMSへと戻り、全身のバーニア・スラスターを細かく噴出してバランスを持ち直す。丁度その時、
セイバーの紅粉の光を辿って追っていたΖガンダムとギャプランが到着し、ワイヤーを放って接触回線を
繋いできた。

『レコアさん!』
「カミーユ、ダイダロスの南の空にステーションを見たわ」
『ステーション……?』
「そう。あなたはロザミィとその下に向かいなさい。そこに、目的のものがあるはずだから」
『レコアさんは、どうされるのです?』

 鋭い勘を持つ少年、カミーユ。二言三言のやり取りで、既に何かを察している。ワイプの中の彼の瞳は、
心の中を見透かすかのように透き通っていた。その瞳に、心を射抜かれたような感覚がして、レコアは思
わず目を伏せた。
403通常の名無しさんの3倍:2009/02/14(土) 17:17:38 ID:???
支援
404 ◆x/lz6TqR1w :2009/02/14(土) 18:01:37 ID:???
『まさか、お1人で敵の足止めをするつもりじゃあ――』
「甘いわね、カミーユ。作戦を完遂するためには、こういう役割を演じる人間が必要になる時もある」
『けど!』

 渋るカミーユ。そんなに頼り無いのかと腹を立てるも、それが彼の純粋な優しさであると気付けば怒る気
にはなれない。果たしてどれだけの効果があるかは分からないが、安心させようと笑みを浮かべて見せ
た。その顔を見せるだに、益々カミーユの表情は困惑の色を強めるばかりである。失敗だったと内心で反
省し、彼には正直に話すべきだと思い直した。

「あの……さっきのメガ粒子砲の撃ち方ね? あれで、サラが来ているって分かってしまったのよ」
『レコアさん……』
「彼女の事は、私に任せて下さらない?」

 意志を示す。サラだからこそ、かつて同じ男に従った女同士だからこそ、レコアはサラを止めなければな
らない。サラがどんな男に付き従おうと、それを咎める権利が自分に無い事は分かっている。しかし、だか
らと言ってシロッコの意、そのままに尖兵となる彼女の行為は、阻止しなければならないと思っていた。
 サラとの接触まで、もう時間が無い。レコアが睨むように視線を向けていると、サブ・モニターのカミーユ
が首を縦に振ってくれた。レコアの迷いの無い目が、カミーユに理解を示させた。

『――分かりました。けど、絶対に無理はしないで下さい。僕とロザミィはターゲットを攻略して、そこでレコ
アさんを待ちますから』

 ズキン、と心が痛む。カミーユの声は何処までも純粋で、一心に信頼を向けてくれていることが分かった。
その信頼を、かつて自分は裏切ったのだ。思い出して、急にカミーユの顔を直視できなくなった。
 かつての裏切りを許してくれなどとは言わない。しかし、贖罪はしなければならない。こうして彼の力にな
ることで、少しでも役に立てるのなら、レコアはどんな事でもするつもりでいた。
 そんなレコアの気持ちを分かっているのか、Ζガンダムはワイヤーを引っ張って反転すると、少し惜しむ
ようにこちらの方を見ていた。しかし、やがて次の砲撃が飛んでくると、慌てたようにウェイブライダーへと変
形してギャプランと共に飛び去っていった。

「カミーユ……優しい子。――あの子の邪魔はさせない!」

 キラリと、MAの光が瞬いた。レコアはその方向にアムフォルタス砲を構え、発射する。赤と白の複相ビー
ムが漆黒の月の空に吸い込まれていき、レコアは舌打ちをした。

「手応えは、無い。――来る!」

 アムフォルタス砲のビームは、回避された。ハッキリとそれが分かるほどの手応えの無さに、以前よりも
手強くなったサラの存在を意識する。
 レコアはセイバーを移動させた。それを追いかけるように、2条のメガ粒子砲が襲う。

「クッ! お嬢さんはそういう小賢しい事をしないの!」

 お互い、姿を視認できる距離には入っていないはずだ。なのに、サラの攻撃はレコアよりも遥かに正確
だった。彼女が、ここまでのニュータイプ的センスを有していたとは――キッと射線の方向を見ると、ようや
くメッサーラが姿を現した。
 レコアの全身が、緊張に強張る。操縦桿を握り直す手が、キュッと音を立てた。
405 ◆x/lz6TqR1w :2009/02/14(土) 18:03:47 ID:???
今回は以上です
残り1レスでさるさんとか(#^ω^)ビキビキ
406通常の名無しさんの3倍:2009/02/14(土) 20:43:10 ID:???
相変わらずGJです

次回も楽しみにしています
407通常の名無しさんの3倍:2009/02/14(土) 22:15:30 ID:???
GJ、あちこちにあるZらしさがたまんない
408通常の名無しさんの3倍:2009/02/15(日) 00:02:24 ID:???
すげー
こんなにキラ頑張れと思ったのはえらく久しぶりのような気がするw
GJ!
ゲーツの事は今後のカミーユにとってキーになりそうだね
409通常の名無しさんの3倍:2009/02/15(日) 03:25:49 ID:???
キタキタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!!!!!!!!!
オーブ、サフト連合がしっかり主役してて燃えます。
シン達活躍みてぇー!
410通常の名無しさんの3倍:2009/02/15(日) 10:35:31 ID:???
投下乙&GJ!相変わらず面白い。
何よりおいしい所で次回とかw
「俺に構わず先に行け!」は王道ながら熱いな。レコアさん頑張れ。
411通常の名無しさんの3倍:2009/02/16(月) 23:41:54 ID:???
このタイミングなら浮上出来る
412通常の名無しさんの3倍:2009/02/18(水) 21:52:12 ID:???
保守
413通常の名無しさんの3倍:2009/02/22(日) 18:38:32 ID:???
保守
414通常の名無しさんの3倍:2009/02/23(月) 19:57:09 ID:???
アムロスレ比べて雑談少ないなぁここは
415通常の名無しさんの3倍:2009/02/23(月) 23:47:09 ID:???
あっちは多過ぎて自治厨と煽り合い宇宙になるからな
416通常の名無しさんの3倍:2009/02/24(火) 00:05:00 ID:???
職人の数の差だろう
417通常の名無しさんの3倍:2009/02/24(火) 03:33:59 ID:???
人自体少ないだろ
418通常の名無しさんの3倍:2009/02/24(火) 03:34:55 ID:???
ごめん、ROMってた。
419通常の名無しさんの3倍:2009/02/26(木) 08:55:17 ID:???
age保守
420通常の名無しさんの3倍:2009/03/01(日) 01:23:45 ID:???
待ち
421通常の名無しさんの3倍:2009/03/01(日) 22:29:37 ID:???
ガイル?
422通常の名無しさんの3倍:2009/03/02(月) 21:31:11 ID:???
保守
423携帯 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/02(月) 23:58:09 ID:???
>>421
ガイルはスト2で初めて使ったキャラです
お陰でタメキャラ大好きです


てゆーかまた規制…だと……?
んなわけで再び避難所投下です。
424通常の名無しさんの3倍:2009/03/03(火) 05:10:12 ID:???
GJです(o^-')b

カツとサラが心からお互いを理解しあえる結末にとても感動しました(T_T)

エマさんとレコアの共闘にもワクワクしますし、カミーユ&ロザミィとゲーツがどうなるかもすごく楽しみです。
425通常の名無しさんの3倍:2009/03/03(火) 21:45:54 ID:???
カツ…サラ…正直好きじゃないキャラだったが、その2人に泣かされた俺がいる…GJ
426通常の名無しさんの3倍:2009/03/04(水) 02:50:20 ID:???

めぇーっでしょ!で笑った後に、こんな展開になるとは

カツ…お前さんの射撃シーンは俺の中で
1stのラストシューティングを彷彿とさせたんだぜ…カツゥゥゥ!!
427通常の名無しさんの3倍:2009/03/04(水) 03:48:54 ID:???
ロザミィ最強だなw
今回もGJ!
レコアとハンブラビの件といい相変わらず上手くかぶせてくるなあ……
あの世界で死んだ人達は今度はどうなっちゃうんだろうね
とりあえず今回は

『カツのくせに!』
428通常の名無しさんの3倍:2009/03/04(水) 06:06:57 ID:???
>>427
多分00世界に行くんじゃね?
429通常の名無しさんの3倍:2009/03/05(木) 01:16:27 ID:???
冗談じゃないよw
430通常の名無しさんの3倍:2009/03/05(木) 01:27:54 ID:???
>>428
ネゴトワ=ネティエ
431通常の名無しさんの3倍:2009/03/06(金) 11:36:05 ID:???
        _,,:-ー''" ̄ ̄ ̄ `ヽ、
     ,r'"           `ヽ.
 __,,::r'7" ::.              ヽ_
 ゙l  |  ::              ゙) 7
  | ヽ`l ::              /ノ )
 .| ヾミ,l _;;-==ェ;、   ,,,,,,,,,,,,,,,_ ヒ-彡|
  〉"l,_l "-ー:ェェヮ;::)  f';;_-ェェ-ニ ゙レr-{   
  | ヽ"::::''   ̄´.::;i,  i `'' ̄    r';' }   
 . ゙N l ::.  ....:;イ;:'  l 、     ,l,フ ノ  
 . |_i"ヽ;:...:::/ ゙'''=-='''´`ヽ.  /i l"  
   .| ::゙l  ::´~===' '===''` ,il" .|'".   
    .{  ::| 、 :: `::=====::" , il   |     
   /ト、 :|. ゙l;:        ,i' ,l' ノト、
 / .| \ゝ、゙l;:      ,,/;;,ノ;r'" :| \
'"   |   `''-、`'ー--─'";;-'''"   ,|   \_
432通常の名無しさんの3倍:2009/03/06(金) 22:51:58 ID:???
頭の染みは?
433通常の名無しさんの3倍:2009/03/08(日) 22:38:04 ID:???
保守
434通常の名無しさんの3倍:2009/03/11(水) 19:58:14 ID:???
保守
435通常の名無しさんの3倍:2009/03/15(日) 14:01:45 ID:???
保守
436通常の名無しさんの3倍:2009/03/16(月) 15:17:31 ID:???
ドムトルーパーの人逆じゃない?
確か眼鏡がヘルベルト、リーゼントがマーズだった筈なんですが…
437 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/16(月) 17:58:59 ID:???
>>436
調べてみた




     ||
   ∧||∧
  ( / ⌒ヽ
   | |   |
   ∪ / ノ
    | ||
    ∪∪
     ;
   -━━-


公式だとリーゼントがヘルベルトで眼鏡がマーズと言う風に見えたので、ずっと勘違いしてたようです。
やっぱりきちんと確認しなくてはいけませんね(´Д`)
非常に申し訳ないことですが、脳内で2人の名前を逆にしてください。次の登場から修正します。
性格や口調に関してはもう取り返しが付かないところまできてしまっているので、このままで行かせて頂きます。
でも、実は公式っぽいカードでこんなものもあったりする……

ttp://www7a.biglobe.ne.jp/~anaheimzakkaten/16WCH-S89.jpg
ttp://www7a.biglobe.ne.jp/~anaheimzakkaten/16WCH-S90.jpg

自分はガンダムの設定に関しても博識であるわけでもなく、多分他の方々に比べれば随分と知識も浅いものかと思われます。
その辺を誤魔化しながら何とかここまでやってきましたが、これからもたくさんのポカをやらかす可能性が高いです。
その時は適当に突っ込んで流してもらえたら幸いです。

まあつまりどういうことかと言うと、次回は今週中に投下できれば良いな、と言う事です。
438通常の名無しさんの3倍:2009/03/16(月) 19:47:10 ID:???
マーズの方(実はヘルベルト?)のカード持ってるのであってるもんだと
本編だとどっちがどっちでも良いもんな
439通常の名無しさんの3倍:2009/03/18(水) 13:45:09 ID:???
保守アゲ
440通常の名無しさんの3倍:2009/03/20(金) 13:15:22 ID:???
保守戦士乙ガンダム
441通常の名無しさんの3倍:2009/03/23(月) 00:08:06 ID:???
保守の鼓動は愛
442 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 21:42:22 ID:???
  『戦士の輝き』


 機動要塞メサイアは、文字通りの動く要塞である。外敵からプラントを守らんと位置するそこには、ザフ
トの9割以上の戦力が集結し、プラントへと進軍を続ける連合軍と全面的な戦闘に入っていた。戦闘が開始
されたのは、奇しくも月でのダイダロス基地攻防戦が始まったのとほぼ同じ時刻だった。
 ただ、展開されている戦力の規模はまるで違った。この戦闘には、大西洋、ユーラシア両連邦の連合軍
と、メサイアやゴンドワナを中心としたザフトの全戦力が衝突をしているのである。瞬くビームや白球の数
は、月の比ではなかった。

 ひっきりなしに飛び交う情報の嵐。メサイアの司令室は白亜で彩られており、高い天井が音の反響を良く
していた。幾重にも重なる多重音声に、しかしデュランダルは眉をピクリとも動かさず中央の座席に鎮座し
ていた。
 視線の先では状況の変化に追われる国防委員長が忙しなく身振り手振りをしている。全ての出来事を把握
しているかのように、次々と的確な指示を出して連合軍の動きに対抗していた。

「――勝率はどの程度と考えているか」

 一区切りが付くや、その合間を縫うようにデュランダルは国防委員長に尋ねた。刻まれた皺と鋭い眼光
の精悍な中年の顔が、振り向いた。

「戦いは生き物です。刻々と変化する状況によって、その可能性にはバラツキが出ます」
「概算でよい」

 そう言うと、国防委員長はこめかみの辺りを人差し指で掻き、数瞬ほど渋い顔で物思いに耽っていた。そ
れから再び顔を上げると、渋い顔のまま口を開く。

「4割強といったところでしょうか。勿論、この数字も前提としてオーブ艦隊がダイダロスを落としてくれ
る事が条件ですが。実際は、もっと低いと思ってください」
「厳しいな。ふむ――」

 司令室の中央に、小高い丘のように盛り上がっている場所がある。デュランダルの座る椅子はそこにあ
り、その貴公子的な容姿も相俟って、まるで皇帝が君臨しているかのような佇まいを見せていた。
 デュランダルは肘掛に肘をつき、軽く頬杖を突いて忙しなく動く眼下の国防委員長に目を細める。

「――とは言え、連合の物量に対してそれだけの数字を出せているのならば、かなり健闘していると言って
良いだろう。――ですよね? ラクス嬢」

 流し目で傍らに立つ少女に視線を向ける。そこには陣羽織で着飾り、威風堂々とした佇まいを見せるラク
スの姿がある。その目線はジッとモニターの中の戦闘風景に釘付けになっており、人形のような顔立ちか
らはおおよそ想像できない様な険しい瞳を湛えていた。キュッと結んだ唇は、大人への過渡期であるがゆ
えの幼さと色気を兼ね備えており、それが益々、凛々しさを際立たせ、健気な印象を与えてくれる。
 デュランダルの声に応えて、その険しさを湛える瞳が陽炎が揺れるかのごとく動く。例え僅かな仕草で
も、とても魅力的で気品が漂っていた。オペレーターの1人がその様子を盗み見ようと余所見をしたが、隣
席の上官らしき人物に拳骨を貰っていたのが、デュランダルの視界の端に見えた。

「わたくしは机上の数字だけでものを申したりは致しません。ですが、この戦いに負けるわけには行かない
という事だけは、承知しているつもりです」
443 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 21:44:22 ID:???
 凛とした張りのある声。艶やかで、それでいて勇ましい。やはり、本物の声はミーア(替え玉)の声とは
違う。デュランダルは、フッと鼻で笑った。

「結構。戦いには戦術と、何よりもそれを全うする兵士のモチベーションが不可欠であります。ラクス=ク
ラインにはラクス=クラインの役割を果たしていただきましょう」

 デュランダルはそう言うと、立ち上がってラクスに席を勧めた。
 ラクスは、数瞬迷う。ナチュラルとコーディネイターの間で中立だった自分が、一方に肩入れをする。そ
れは中立を表明して第2次ヤキン・ドゥ―エ戦役に介入した自分のする事ではないと思った。自分がこれか
らする事は、ただザフトを鼓舞するだけ。それは悪戯に戦争を拡大させるだけではないだろうかという懸念
があった。
 ふと、見やったデュランダルの瞳は強い光を湛えていた。爛々と輝くその瞳は、何としてでも理想を実現
させてやろうという野心家の目だ。ラクスは、その理想が自分の理想と同じ場所へ通じていると感じたか
ら、デュランダルに協力しようという気になった事を思い出した。
 相反する2つの気持ちが、ラクスの内にあった。しかし、ここまで来てしまった以上、今更、迷うような
事ではない。ラクスは軽く首を横に振り、意を決して司令室の中央席に腰掛けた。

「ラクス、お前……」

 デュランダルは、ラクス以外にもう一人の少女を傍らに置いていた。その髪は、開戦当初に比べれば随分
と伸びたものである。背中の肩甲骨辺りまであるブロンドのロング・ヘアーは、約束の証。カガリは、ラク
スの気苦労を気遣って声を掛けた。
 そんなカガリの気遣いを軽く受け流すように、或いは心配させないように、ラクスは柔らかな笑みを浮か
べるだけだった。

「大丈夫です、カガリさん。わたくしは、カガリさんのような強さが欲しいのです」

 皮肉にしか聞こえなかった。捻くれた解釈が詰られているように感じさせ、カガリは少し目を伏せった。

「私は強くなど無い。ただ、がむしゃらに精一杯やっているだけで――」

 それは思い違いなのだと、カガリは弁明する。褒められた事がくすぐったかったからではない。自分が強
いだなんて全く思わないから、否定しておきたかった。しかし、ラクスはそんなカガリの言葉を聞いても柔
和な笑みを崩さなかった。それは、まるで本当の自分を知っている親の眼差しのようで――

「その一生懸命さが、尊いのです。それが事を成す上で一番大切なことなのだと、わたくしは思います。で
すから、カガリさんはお強いのです」

 きっぱりとそう言われ、カガリはきょとんとした顔で立ち尽くしてしまった。
 美しい顔立ちから、まるで調べに乗せるように紡がれた言葉。自然と口元に視線が吸い寄せられ、適度な
厚みを持った形の良い唇が、カガリの頬をほんのりと桃色に染めた。薄めのルージュは透き通る様な白い柔
肌の中で一際の存在感を放ち、ほんのりと重ねられたグロスがてらてらとした妖しい艶を出している。童女
のような大きな瞳と、アンバランスなアダルトチックな唇――その危ういバランスに、同じ女でありながら
ドギマギさせられた。「可愛い」の中にほのかに混じる「エロス」。これがラクス=クラインという事なの
か。女性としての圧倒的な魅力。アスランを取り合いになっていたら、絶対に勝てなかったであろう。
 顔を見つめるだけでこんな調子なのだ。何となく、プラントが彼女に熱狂する理由が分かった気がした。
もし、自分が男として生まれていたなら、きっと自分も彼女に惚れていた事だろう。そうなると、キラとは
恋敵になるということか――一瞬考えたが、直ぐにバカらしくなって首を振った。
444 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 21:45:04 ID:???
「有り得ん。こんな時に何を考えているのだ、私は」

 誰にも聞こえないように独り言を呟き、自らの頬を張る。それからチラリとラクスの表情を覗った。
 そこには、一寸前までの可憐な美少女は居なくなっていた。柔和な笑みは鳴りを潜め、きりっと引き締ま
る表情には少女のあどけなさなど消え去っていた。

 準備は既に整っていたのか、モニターにはラクスの顔が次々と映し出されていった。ラクスはその様子を
確認すると、一つ小さな深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
 高鳴る鼓動が、徐々に遠くなっていく。精神の集中が戦争の喧騒を遠ざけ、ラクスの意識は自分の言葉
を届ける事だけに夢中になっていた。

「今、この放送を拝聴されている全ての方々は、どうかわたくしの声をお聞き届けください。わたくしは、
ラクス=クラインと申すコーディネイターの女です」

 ぷっくりとした柔らかな口元から、芳醇な美声が漏れ出た。それは甘美な響きでありながらも、抜き身の
刀のような凛然とした鋭さがあった。ラクスの魔性の調べが、地球圏全域へ向け流れ出した。


 戦場には、いつものようなミノフスキー粒子による電波障害は少なかった。それは、ジャミングを減らし
て少しでも長距離の砲撃を行うための戦術であり、メサイアには連合軍の放った多くの砲撃が注がれてい
た。しかし、巨大なバリア・リングによって光波防御帯を形成するメサイアへの実質的な被害は、未だ皆無
に等しかった。

 デスティニーが広げる光の翼と繰り出す数多の残像は、それだけで連合軍へのプレッシャーとなる。シン
のデスティニーの活躍は、連合軍内でも話題に上っており、既にフリーダムと並ぶ程の警戒対象として恐れ
られていた。

『――コーディネイターはナチュラルの方々との争いを望んでおりません。ならば、ナチュラルがコーディ
ネイターとの争いを望んでいるのでしょうか? いいえ、そうではありません。わたくしには、ナチュラル
の友人も居ります。では、何故? どうして? わたくし達は、手を取り合う事だって出来るはずなのに』
「ラクスの演説が始まった? 戦闘中だぞ!?」

 全周波で、問答無用にスピーカーから流れてくる柔らかい声は、戦場そのものを忘れさせるような安寧が
宿っている。気を弛緩させるようなラクスの声に、シンは抗うように毒づきながら、ビームライフルでウイ
ンダムを撃墜した。

『コーディネイターは、宇宙という苛酷な環境に適応する為に生まれ出でたものです。言うなれば、その程
度のものでしかないのです。ナチュラルとコーディネイターの違いなど、些細なものでしかありません。そ
れなのに、それを殺し合いの理由にしよう等と、愚者の考える事でありましょう。ですが、わたくし達は残
念な事にその愚を犯しています。これが本当に宇宙にまで進出したわたくし達、人類の為すことなのでしょ
うか?』

 連合軍の布陣は、メサイアを軸に展開するザフトを左右から挟みこむように展開している。それはネオ・
ジェネシスを警戒する布陣である。最終防衛ラインであるメサイアを守りきらねばならないザフトにしてみ
れば、袋のネズミにされたようなもので、そういった焦心をも喚起させる心理的な意味も、連合の布陣には
込められていた。
445 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 21:47:45 ID:???
 シンは、LとRに別たれた戦闘フィールドの内、Lフィールドでの遊撃をこなしていた。彼の所属艦である
ミネルバがLフィールドの旗艦として構えているからという単純な理由である。反対側のRフィールドではイ
ザークのボルテールを中心に戦力が整えられていた事から、エース部隊のミネルバはLフィールドに配置さ
れる必要があった。

『――ブルー・コスモスはコーディネイターを討った世界こそが平和と主張します。しかし、何を以って平
和と言い切れるのでしょう。憎しみの上に成り立つ平和など、砂の城を壊すよりも簡単に崩れ去るものです』
「温室育ちのお嬢様に、何が言えるってんだ」

 煩わしい害虫の羽音を聞くようなしかめっ面をして、シンはまた1機、ウインダムを撃墜した。
 シンは、ラクスの事を知識としては知っていても、彼女のカリスマを実感として知っては居ない。その感
覚のズレが、ラクスの言葉を妨害電波として認識させていた。奇麗事を吐くその様が、どうしてもカガリと
重なってしまうのだ。
 しかし、そんなシンの感想とは裏腹に、ザフトの士気は高まる。それまで劣勢気味であったザフトが、ラ
クスの演説が始まったのを皮切りに、その活動を活発化させた。
 声を発するだけで、これだけの影響力を与えるられるものなのだろうか。まるで異性から好意を告げられ
たかのような高揚感が、ラクスの声を聞いただけの彼等を鼓舞しているのである。妙に張り切っているよう
に見えるその様が、シンには見ていられなかった。

「愛撫されてんじゃないんだぞ。プラント育ちは、この程度の事で悦ぶのか」

 彼女の声には、プラント国民の脳内麻薬を分泌させる効果でもあるのだろうか。オーブ生まれ育ったシン
には理解できなかった。

『話し合い、和解できればそれに越した事はありません。しかし、例え理解し合えなくとも、暴力で相手を
従わせようとする行為よりは遥かに文明的であると、わたくしは考えます』
「そうは言うがぁッ!」

 目標捕捉。シンの瞳に連合軍の艦艇が映り込む。撒き散らされる弾幕と、それを守るように展開する守備
MS。デスティニーが光の翼を広げると、支援機のザクやゲイツRが展開する連合軍の守備MS隊に取り掛かっ
ていった。
 シンのデスティニーは、一直線に艦艇を目指す。弾幕の嵐の狭い隙間を縫うように、デスティニーの姿は
幾重もの残像を繰り出しては敵の視覚を狂わせる。やがて、艦の正面に現れると、背中からアロンダイトを
引き抜いて艦首部分を横薙ぎに切りつけた。

「敵が襲ってきている状況で、よくもそんな事を言う! 戦ってる最中に理想論を述べるのがラクス=クラ
インかよ!」
『同感だな、デスティニー!』
「何ッ!?」

 通信機越しの、くぐもった声が聞こえた。シンは一回、周囲をグルッと見回したが、直ぐに視線を正面に
戻した。
 戦場は雑多になっていて、どこから電波を拾ったのか分からない。しかし、今の声には聞き覚えがある。

「何処だ?」
446 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 21:48:52 ID:???
 今しがた切りつけた戦艦は、まだ沈んだわけではない。ブリッジはまだ生きているし、砲塔が沈黙してい
るわけでもない。当然、反撃は行われるわけで、デスティニーは砲撃の中に身を晒された。しかし、シンは
些かも動じることなく、寧ろその砲撃の中でそれまで以上に軽快に踊って見せ、ついでにまたウインダムを
1機撃墜した。

「違う、こいつじゃない」

 光の翼からミラージュ・コロイドの粒子を撒き散らし、華麗に戦艦から離脱。去り際に高エネルギー砲の
一撃をブリッジに叩き込んで、シンは再び索敵を掛ける。戦艦はブリッジを失い、爆発の規模が拡がって程
なく轟沈。帰る場所を失くした守備MS隊も、ザフトの勢いに呑まれて次々と屠られていった。

「空耳だったのか? ――あッ!?」

 その時、不意に味方のMSが撃墜された。それまでの快進撃が嘘のように、簡単にビーム攻撃を受けて爆散
してゆく仲間達。一撃でMSを葬るビームの威力、メガ粒子砲だ。
 間髪入れずに警告音が響く。今度狙われたのは自分だ。シンの目が左モニターを睨むように見ると、光が
瞬いた。フラッシュするモニターに目を細め、歯を食いしばって必死に操縦桿を傾けた。
 損傷部位は幸いな事に無い。どうやら掠めただけで済んだようだ。コンソール・パネルの画面を切り替え
ながら、シンは背筋の悪寒を鎮めた。

「さっきの声、ジ・Oか!」

 デスティニーの機動が、鮮やかな残像となって人々を幻惑させる。殆どの人間はそれに惑わされ、デス
ティニーとシンの織り成す奇跡的なMSの動きの前に、成す術も無く敗れ去っていく。しかし、類稀なる戦闘
センスを持ったパイロットには、それは通じない。
 ブラン=ブルタークは、そういった所謂エース・パイロットの中の一人だった。ジ・Oは恰幅の良いその
体型を晒しながらも、決してそれが欠点になるような脆弱さを持たなかった。被弾面積が広かろうが、それ
を問題にしないだけの機体性能を誇っているからだ。そして、ブランはその性能を満遍なく引き出せるだけ
のセンスを持ったパイロットであった。
 ギラリと、シンの目がその姿をキャッチした。小憎たらしいほどに存在感を強調し、巨躯を惜しげもなく
見せつけるジ・O。全身が緊張で強張る。睨みつけるその目のまま、顎を引いた。

「来たな……!」

 ジ・Oのビームライフルがデスティニーを狙う。メガ粒子砲の直撃は致命傷を意味する。それに当たるわ
けには行かない。細心の注意を払いつつ、且つ大胆に身を翻してかわす。
 シンはデスティニーにフラッシュ・エッジを引き抜かせ、それをビームサーベルとして持たせた。それを
見たジ・Oが、待っていたとばかりに左手にビームソードを持たせ、加速する。得意の格闘戦に持ち込もう
としているようだ。しかし、思ったとおりに行くものかと、シンもスロットル・レバーを押し込んだ。
 フェイントを織り交ぜたトリッキーな動きで勝負。デスティニーが光の翼を展開すると、その輪郭を歪ま
せて驚異的なスピードでジ・Oの左側から強襲し、ビームサーベルを振り上げた。しかし、不思議なことに
ブランは何の反応も見せなかった。
 ブランに考えを読まれているのか、それともただ単に反応できないだけなのか。瞬きをするよりも短い一
瞬では、判断を躊躇っている時間的余裕などは無かった。デスティニーはそこに幻を残すと、宙返りするよ
うにジ・Oの上方を翻り、その右側面からビームサーベルで切り掛かった。

『初撃はフェイク――甘いな!』
「なっ……!?」
447 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 21:49:56 ID:???
 刹那、バチィっと激しい閃光がコックピットのシンを照らした。目を凝らせば、スカート・アーマーの裏
側から伸びる隠し腕が持つビームサーベルが、デスティニーのビームサーベルを防いでいるのがおぼろげに
見える。その閃光の向こう、ジ・Oのモノアイが刺すような上目でこちらを睨みつけていた。完全に攻撃を
読まれていたのだ。

『その程度でやり合おうとは』
「クッ……舐めるな!」

 ジ・Oが右腕のビームライフルを掲げる。ボウっと砲口がビームの光に輝くと、シンは慌ててビームシー
ルドを展開させた。
 切り結んでいたビームサーベルを弾き、ビームシールドで砲撃を防いで後退。その際、頭部機関砲をばら
撒いて足止めを試みる。どれ程の効果があるのかは分からないが――

『そんなもので!』

 思ったとおり、ジ・Oの重装甲にそんなものは通用しなかった。チッと舌打ちをするが、悔やんでいる暇
など存在しない。凄まじい突進力で追撃されると、サブ・マニピュレーターがデスティニーのシールドに掴
みかかってきたのである。
 原始的でありながら高精度を誇るそのサブ・マニピュレーターが、デスティニーのシールドを左腕から引
き剥がすかのような勢いで取り上げる。まるで、左腕を丸ごと持っていかれたかのような力の強さ。
 間髪居れず、ジ・Oは手にしたそれをデスティニーに投げつけた。

「クッ!」

 一瞬だけ、デスティニーのロックオン・マーカーが投げつけられたシールドをロックした。オート・リア
クション――普段は便利なその機能が仇となった。それは即ち、一瞬だけジ・Oを見失ったという事。眼前
に迫ったシールドを払い除けると、既にジ・Oは姿を消していた。シンの背筋が、ゾッと悪寒を覚えた。
 見失うというのは、無防備になるという事と等しい。ジ・Oを相手にその隙は、致命傷となる。言うなれ
ば、自身の生死に直結するという事である。これまでの戦いの中で生死の境界を自然と本能に刻み込んでき
たシンには、今がどれほど絶望的な状況であるかが嫌と言うほどに理解できていた。
 時間が止まる。頭が真っ白になる。死の直前の人間の心境が、分かったような気がした。

 オ・レ・ハ……

 全身の毛穴が一斉に開いたかもしれない。全身が汗を噴き出している様な放出感に包まれた。それは集中
力の高まりなのか、諦観の境地なのか分からない。動き出した「時」は、一瞬一瞬がコマ送りになったよう
に遅く感じられた。それは、まるで時間の流れが停滞しているかのような不思議な感覚だった。
 「あの感覚」だ。幾度となく危機を乗り越えてきた、自身の内に眠る謎の力。それが発動する時、決まっ
て今のような感覚に陥り、まるでそれまでの自分が嘘だったかのように超人的になれる。シンは、射精感に
も似たその瞬間が堪らなく好きだった。この感覚、病み付きになる。
 頭の中で何かが弾ける。鬱屈した閉塞感の殻を内側から破ったように、途端に爽快感に覆われた。

「そこだぁッ!」

 パッとデスティニーが身を翻して反転した。後ろが見えていたわけではない。ただ、狙われるとすれば背
後からだろうと思っただけに過ぎなかった。しかし、その単純な思考が、シンの身を救う事になった。
448 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 21:50:53 ID:???
 ビームライフルの砲身の先には、同じくビームライフルを構えて逆さに相対しているジ・Oが存在してい
た。相手も、急にデスティニーが振り返ったので驚愕しているのだろう。先にトリガーを引いたのは、意外
にもデスティニーだった。
 メガ粒子砲に比べれば威力は低いが、十分に高出力のビーム。収束率も高く、貫通性能は高い。そのエネ
ルギー波が、ジ・Oの脚部、外脛を掠めた。チリッと火花が飛び散り、焼け跡が残る。

「チィッ、外した!」

 入れ違いになるように、ジ・Oのビームライフルが火を噴いた。メガ粒子砲の暴力的な威力。ビームシー
ルドで防ぐが、衝撃で腕をもがれそうになる。やはり、純粋なパワー勝負では太刀打ちできない。
 咄嗟に間合いを開く。そうでもしなければ、一方的にやられてしまう。

「死んで堪るかよ――死んでぇッ!」

 デスティニーが高エネルギー砲を小脇に抱えた。直撃さえできれば、ジ・Oとて粉砕できるであろう高出
力のビーム砲である。しかし、その砲口を見てもブランはまるで意に介す素振りを見せなかった。全身に配
置された50にも及ぶアポジ・モーターの数。巨躯でありながら圧倒的な運動性能を発揮するジ・Oの回避力
に、ブランは絶対的な自信を持っていた。
 デスティニーから吐き出された光の奔流。高威力な分、射撃モーションが大味になるのは否めない。不意
討ちで無ければ回避は容易いものである。軽くあしらうように高エネルギー砲の一撃をかわす。ブランに
とって、この程度は朝飯前である。

「一瞬、動きが良くなったようだが――奴は接近戦を諦めたか」

 射撃戦に持ち込もうという意図が見え見えである。高エネルギー砲を抱えながらビームライフルを構える
デスティニー。必要以上に間合いを詰めさせようとせず、その様がまるでパイロットの苦心を表現している
かのように見えた。ジ・Oの特性を考えれば、賢明な判断だと言えるが。

「だが、そうはさせん!」

 デスティニーの目論見に、わざわざ付き合う必要など無い。ブランは構わずジ・Oを突っ込ませた。
 黄土色の機体が、恐ろしい勢いでシンの砲撃を潜り抜けてくる。その大型の体躯そのものが迫り来る脅威
としてプレッシャーを与えてくる。

「な、何だコイツ!?」

 あっという間に接近を許してしまった。覚醒している状態でこの体たらく、悪い夢でも見ているかのよう
であった。
 しかし、シンに驚いている暇など無い。ジ・Oは左手に持たせたビームソードを掲げ、デスティニーの右
肩から左腰にかけて袈裟に切りつけようとしていた。
 射撃戦に持ち込もうという目論見は外れたということか――再び接近戦になり、シンの神経の糸が千切
れそうなほどの張りを見せた。

「誰がそう簡単にぃッ!」

 デスティニーが、両手に持つ火砲から手を離した。そして、その掌から炎が噴き出る様にビームの光が漏
れ出す。パルマ・フィオキーナ――極短のビームサーベルを発生させ、振り下ろされるビームソードを挟み
込んだ。
449 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 21:51:37 ID:???
 バチィッと光の刃を挟んだ掌から激しい光が溢れ出した。ビーム粒子同士が干渉し合って、反発を起こし
ているのだ。
 飛び散ったどちらのものとも知れない微粒子が、蛍が舞い飛ぶかのように美しく舞う。大部分は即座に冷
やされて儚く消え去ったが、残った少数の高熱を帯びたそれは、互いの装甲に付着して僅かばかりの焦げ跡
を付けた。

『フッ、よくもこんな事を2度もやろうと考える。小僧、度胸だけは一人前と認めよう』

 白刃取りは一度見ているから、ブランに驚きの様子は無かった。尤も、シンにも度肝を抜かしてやろうと
いう思惑があったわけではない。何よりも高度な操作を要求される白刃取りは、彼にとっては一か八かの賭
けであり、それに頼らざるを得なかったというのが実情だった。

『ラクス=クラインはコーディネイターの歌姫らしいがな?』
「知るかよ!」

 苦しい胸の内を隠すように気を吐く。何を言いたいのか知らないが、ブランの余裕たっぷりの声が癪に
障った。
 デスティニーが白刃取りをしたままジ・Oの腹部を前蹴りする。密着状態からの脱却、そして僅かばかり
であるがジ・Oのバランスを崩せた。
 隙が出来た。ショートレンジの攻防に於いて、致命的なタイムロス。ジ・Oが見得を切るようなAMBACで体
勢を立て直す間に、シンはビームライフルの砲口をその腹部に接着させるように差し向けた。

「これで――うわッ!?」

 チャンス――しかし瞬間、シンを妙な重心の移動が襲う。
 普通、人間の姿を模して造られたMSは腕が2本しかないのが基本である。ところが、ジ・Oは更に2本の腕
を隠し持っている。
 デスティニーの腰回りを、ジ・Oのフロントスカート・アーマーから伸びたサブ・マニピュレーターが掴
んでいた。それが相撲技の「うっちゃり」をするように、デスティニーを後方に投げ飛ばしたのだ。

「クッソ――」

 緩い斜めの回転を加えられて流されるデスティニー。シンは細かくブーストペダルを踏み、四肢の振りを
加えたAMBAC制御でバランスを立て直す。隙は、なるべく小さくしたつもり。視界から消えたジ・Oを探し、
先ずは左右を確認。それから、正面を見る。

「――ッ!?」

 正面モニター一杯に広がるジ・Oの頭部。悪魔のような赤いモノアイが、シンを飲み込まんと光を灯す。
 声を失くすシン。あまりにも突然な出来事に、思考が停まる。ただ、彼の本能だけが身の危険に対して反
応を見せた。
 無意識に動いた腕が、咄嗟にデスティニーにビームシールドを構えさせた。両手甲のソリドゥス・フルゴ
ールが光の膜を形成、頭部を抱え込むような防御姿勢をとった。
 本当に、間一髪だったのだろう。コックピットのモニターを全て白く染め上げるように光が広がり、後方
へ押し込まれるような強い重心の移動を感じた。ビームライフルかビームサーベルか――いずれにせよ、何
らかの攻撃をビームシールドで防いで、吹き飛ばされた事には違いないはず。
450 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 21:52:18 ID:???
 突如、ズシンと後方に掛けられていた重心が一気に前に掛かった。急な衝撃に内臓が配置換えを行ったか
のような不快感が襲い、同時にシンを座席に固定していたベルトが身体に食い込んだ痛みも併発した。一瞬
だが強烈な締め付け。胸骨の辺りからミシっという軋んだ音が漏れた。
 先ほど撃沈した戦艦の残骸だ。バラバラになった船体の装甲の一部に、背中からぶつかったのだ。それは
複数枚で形成された緩い御椀型の鉄板で、MS1機をすっぽりと包み込むほど巨大なものだった。

『プラントは、争いを望まぬ方々とは戦いません。手を取り合ってくださる方々とは、未来を共に切り開く
為の約束をいたします。しかし、刃を向けてくる限りは、プラントは抵抗を続けます。これは、コーディネ
イターの排斥を錦の御旗とするブルー・コスモスへの、糾弾の戦いであります』

 スピーカーからは尚もラクスの声。シンにとって、その戦場に似つかわしくない柔らかな声は、引き締め
た帯を弛ませる様な脱力感を孕む。聞いちゃ居られない。シンは高いコンセントレーションを持続させよう
と、安らぎのラクスの声から耳を塞ぎ、目の前の危機であるジ・Oを睨み付けた。

『こういう演説はなぁ!』
「こんなの――」

 「ラクスが勝手にしゃべっている事だ!」と言おうとしたが、ジ・Oが弾丸のように突進してきて言葉に
出来なかった。

『俺達が、コーディネイターの魔女の言う事を聞くと思ってか!』
「コーディネイターなら誰でも聞くみたいに言うな!」

 ビームソードで押し込んでくるジ・Oから、罵倒するような、それで居て余裕溢れる声が届けられる。通
信機のノイズ混じりでも感じ取れる自信。脂の乗り切った男は、その声色だけでシンの様な若輩者に経験値
の差を思い知らせる。
 しかし、臆してはいけない。技術、経験でも劣っているのに、そのうえ気持ちまで負けてしまったら、そ
れは完敗を認めることになる。完全敗北は、シンのプライドが許さない。
 とにかく、何でもいいから抵抗して見せなければならなかった。敵の言葉を享受すれば、戦いの意思を折
られる。それは即ち敗北、そして死を意味する。まだ、こんな所で死にたくは無い。
 デスティニーは顎下に揃える様に拳を構えるピーカブー・スタイルで身を固めた。ビームシールドという
ものは、通常の物理シールドに比べて圧倒的にビーム兵器に対する防御力が高く、効果的であった。如何に
高出力のビームソードであっても、その牙城を崩すのは困難を極めるはず。
 しかし、ジ・Oには隠し腕がある。腹部の下から伸び出るそれは、ピーカブー・スタイルの隙間から突き
上げるアッパーカットのようなものだ。ブランに、抜かりは無かった。
 ソロリと、スカートアーマーの内側からサブ・マニピュレーターが顔を覗かせた。ブランが口の端を上げ
て笑みを浮かべる。こうして退路を断った以上、勝機は彼のものである。

「威勢だけは――」

 ブランが言いかけた、その時だった。突如としてデスティニーを押し付けている鉄板が、熱で溶断されて
いく。溶断面は飴色に色づき、しかし即座に冷やされて黒焦げとなった。目を見張るブランの視線の先――
溶断された鉄板の隙間から、エメラルド・グリーンの輝きが2つ、零れた。

「新手か!」
『後ろ?』
451 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 22:00:41 ID:???
 デスティニーが頭部を振り向けた。刹那、腕で溶断した鉄片を払い除け、デスティニーの上に覆い被さる
ようにして紅のMSが飛び出してきた。マニピュレーターが掴んでいるのは、オールの様な両刃のビームサー
ベル。それを威嚇するように大きく振りかぶったかと思えば、容赦なくジ・Oに振り下ろした。

「ぬぉッ!」

 咄嗟にブランは操縦桿を引いた。ジ・Oがデスティニーの腹部を蹴り、その反発力を利用してギリギリで
その一撃をかわす。
 些か肝を冷やした。不意討ちを卑怯だとは言わないが、面白くは無い。舌打ちし、新たに出現したMSを
キッと見据えた。

「セイバーに似ているが、違う。鶏冠付きのMS? 鶏頭だが――」

 右腕のアンビデクストラス・ハルバードを前面に構え、左腕でデスティニーを庇うように立ち塞がる。各
駆動関節には鈍い銀色が輝きを放ち、背にはSFSと見紛うほど大きな背負いものを付けていた。

「あれを大出力のランドセルと言うか。――解せんな」

 コンソール・パネルを弄り、機種特定を行う。データ・バンクに、前回の戦いで入手した新型機のデータ
と符合する機体が見つかった。

「引っ掛かった――ライラ隊が接触した新型? 成る程な」

 乱入者――付けられた名はインフィニット・ジャスティスと言う。アスラン=ザラ専用の、ジャスティス
の後継機。その性能はデスティニーやストライク・フリーダムと並び、シロッコが持ち込んだ核融合動力機
にすら匹敵する。
 その仰々しい外見から、ただのMSでは無い事を即座に見抜く。しかし、ブランはインフィニット・ジャス
ティスの背中のファトゥム01を鼻で笑い、微塵も動揺する気配を見せなかった。
 ゆっくりと様子を覗うように、デスティニーとインフィニット・ジャスティスの周囲を旋回するジ・O。
インフィニット・ジャスティスの頭部がその動きを追い、警戒する。アンビデクストラス・ハルバードは常
にジ・Oに見えるように構え、プレッシャーを与え続ける事を忘れない。
 アスランの目に、初めて見えるジ・Oの姿。データや映像で見るのよりも更に大きく見える。キラがスモ
ー・レスラーと称していたように、かなりの重MSだ。その外見からザフトが付けたコードネームは、そのま
ま「ファット・マン」。

「あれがキラをやった“ファット・マン”、ジ・Oか。――シン?」

 背後でデスティニーが動きを見せる。アスランはデスティニーの腕を引きながら、シンとの接触回線を開
いていた。

「デスティニーはやれるな、シン」
『は、はい――行けます!』

 一方的にやられていたようにも見えたが、シンの気力は衰えては居ない様子。精神的なムラが戦闘能力に
も影響を及ぼしかねない彼の一番の弱点は、気合負けをしてしまうことである。しかし、今の声を聞く限
り、彼はまだ十分な闘志を持っている。アスランは安心したようにフッと鼻で笑った。

「いいか。ファット・マンは、俺とお前の2人掛りで潰す」
452 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 22:01:23 ID:???
『デスティニーとジャスティスで――ですか?』
「卑怯などとは思うな。戦いは、生きるか死ぬかの2つしかない。手段は選べないんだ」
『分かってます。生か死ならば、俺は生きる方を選びます』

 ハッキリと意思を示すシン。数ヶ月前までは何時死んでもおかしくないような無謀な戦いを繰り返してい
た少年の言う事だろうか。そんな生への執着を見せる彼を引き出したのは、間違いなくルナマリアの存在だ
ろう。
 シンのモチベーションの源が、女性そのものという肉欲的なものであって、挙句、戦場にその気分を持ち
込んでいたとしても、アスランは咎めようとは思わない。何故なら、自分とてミーアに熱を上げ始めている
事に気付いているからだ。
 女性に愛や優しさだけでなく、肉欲的なものも求めたがるのが男なんだという事を、ミーアと出会って改
めて思い知った。アスランは傷心を癒そうと、既に頭の中で何度かミーアを抱いている。彼女が好意を寄せ
てくれている事は知っているから、裸を想像する事に何の躊躇いも無かった。
 しかし、妄想の世界では、余りにもその肢体の輪郭はおぼろげだ。そして、それを補完する為に、どうし
てもカガリのイメージが混じってきてしまう。傷心を癒す為に行った事が、逆にフラストレーションを溜め
る結果となってしまっていたのは、何とも皮肉なものであった。
 実物を確認してみたい――肉感を得られない欲求不満は、直に彼女に触れて見たいという願望と活力へ
と繋がった。そのために戦いで生き残ろうとするモチベーションは、そのまま男の力となる。
 シンも男なら、きっと自分と同じ様にルナマリアの事を見ているはずだ。だから、そういうシンには自分
の背中を預けても良いと思える。彼も、再びルナマリアに会わずして死ぬつもりなど毛頭無いだろうから。

「俺がファット・マンの動きを止める。デスティニーはジャスティスの動きに合わせられるな?」
『やれます』
「よし、散開だ!」

 ジ・Oがビームライフルを構えた。瞬間、デスティニーが光の翼を広げてその場から飛翔する。一方でイ
ンフィニット・ジャスティスは注意を引きつける為にその場に留まり、敢えてジ・Oのビーム攻撃の中に身
を晒す。何とか回避し終えると、アンビデクストラス・ハルバードを二分割して二刀流の構えを取らせた。

「ファット・マンは近接戦闘が得意。だが、ジャスティスとて!」

 全身に凶器を隠し持っているようなインフィニット・ジャスティスだ。ビーム刃の本数ならば、ジ・Oを
軽く上回る。一方的な展開だけにはならないはずだ――アスランはジ・Oの懐へと飛び込んだ。
 インフィニット・ジャスティスの機動力の高さの為せる業か、それとも敢えて迎え入れたブランの策略
か。あっという間に急接近した両機は、互いの視線をぶつけ合わせた。
 片やヤキン・ドゥーエ戦役を生き残り、英雄と称されるまでに至った若き驥足。片やアムロ=レイ、シャ
ア=アズナブルといった2人の伝説的なパイロットと数度に渡って激闘を繰り広げたベテラン。戦いのキモ
を知り尽くしている2人――先に動いた方が不利であることを、経験則として身に付けている。コンマ何秒
のミクロ単位の時間でも、少しでも長く我慢できた方が主導権を握る事になるのは明白であった。

「――はあああぁぁぁッ!」

 気合一閃。先に仕掛けたのは、アスランだった。焦れたのではない。これ以上は待てないという、ギリギ
リのレンジまで侵入してしまったのだ。我慢の限界だった。リーチは、僅かながらにジ・Oの方が長い。
 右腕のビームサーベルを袈裟に斬り付ける。オーバー・アクションなどしない、実にコンパクトに纏めら
れた斬撃。しかし、ジ・Oは胸部のアポジ・モーターを軽く噴かし、スウェーバックでこれを回避。立て続
けにアスランは左手のビームサーベルを今度は逆袈裟に振り上げたが、これもかわされる。アスランの気合
は完全に空回り、ただビームサーベルを振り回して踊っただけだった。
453 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 22:02:28 ID:???
 逆にジ・Oの隠し腕ビームサーベルがアスランを襲う。距離は5m程度か。先に攻撃を仕掛けたインフィ
ニット・ジャスティスには、隙が生まれてしまっている。このままでは回避できない。
 しかし、下から振り上げられる2本のビームサーベルはインフィニット・ジャスティスに届く事は無かっ
た。ジ・Oが隠し腕で斬りかかった瞬間、上方から降り注いだ一筋のビームが両機の僅かな隙間を劈き、攻
撃する事が出来なかったからだ。
 目の前でビームの残粒子が粉の様に舞い散る。続けて2発3発と降り注ぎ、ジ・Oはそれに追い立てられて
インフィニット・ジャスティスとの間合いを開かざるを得なかった。アスランの耳に、「チッ」というブラ
ンの舌打ちが聞こえた。

『デスティニーは鶏頭の援護に回ったか。――そういう事ならば!』

 ジ・Oがデスティニーとインフィニット・ジャスティスに交互に2発ずつビームライフルで牽制すると、素
早く身を反転させて後退を始めた。
 同時に、それを援護するように数体のウインダムが出現。ビームライフルの集中砲火を浴びせてくる。

「ファット・マンが逃げる? ――シン!」
『追撃します!』
「そうだ、アステロイドに追い込め! そこでなら、余計な邪魔は入らないはずだ!」

 前後からインフィニット・ジャスティスに襲い掛かってくるウインダム。挟まれていようが、アスランに
は問題ではない。
 前方のウインダムの突きを上体を仰け反らせるスウェーバックでかわすと、その動きの流れから右足を大
きく縦に振り上げ、向こう脛のグリフォン・ビームブレイドでウインダムを股下から切り裂いた。そして、
そのままサマーソルト・キックの要領で、軽快に後方へと翻った。
 素早い動きに、背後から襲い掛かったダガーLは肩透かしを食らい、そのまま切り裂かれたウインダムへ
と抱きつくようにしてぶつかる。それが切欠となったのか、ウインダムの爆発に巻き込まれて2体は諸とも
閃光となって消えた。

『泥に満ちた争いの時代は、省みる事で終わりを迎えます。思い出してください、これまでの悲劇を――ナ
チュラルはコーディネイターを滅ぼしますか? コーディネイターはナチュラルを滅ぼしますか? それと
も、和解して共に歩もうとしますか? その決定権は、他ならぬ皆様方一人一人に委ねられています。です
が、殺し合い、流血を望むのが皆様方の考えることでは無いと、わたくしは信じて居ります』

 アスランの耳にもラクスの声。昔ほどの安らぎを感じず、或いはミーアの声がアスランにとってのラクス
であるかのように変質してしまっているのかもしれない。しかし、彼女の言わんとしている事は、アスラン
自身の願いでもある。彼女にはあまり良い思い出が無いアスランでも、理解は出来た。

「デュランダル議長はラクスをプロパガンダとして使う。彼女は本来、そういう存在ではあるが――ミーア
を用意したのは、彼女に対しての議長なりの当てつけという事なのか?」

 最初、ミーアをラクスに仕立てたのは、彼女をラクスの替え玉にする為であると単純に考えていた。しか
し、デュランダルのような人物がその為だけに態々スキャンダルに発展するようなリスクを冒すだろうか。
もしかしたら、性格の色が異なるミーアをでっち上げてラクスの自尊心を刺激し、彼女が自ら姿を現すよう
に仕向けたデュランダルの罠だったのかもしれないと、今になって思えた。尤も、不愉快に思っていたのは
彼女よりもキラの方で、彼女自身は怒るというよりも、寧ろ良き友人が出来たとミーアの存在を喜んでいた
ようだが。
 とは言え、真相はデュランダルの胸の内。アスランがいくら考えたところで、それは妄想でしかない。
454 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 22:03:10 ID:???
「――今という状況で考える事ではないな」

 特徴的なデスティニーのバーニア・スラスターは、良い目印になる。先行していったシンが、要求どおり
の宙域へとジ・Oを追い込んでいくのを確認する。
 そこは、大小様々な隕石が集積された場所。本来は連合軍にメサイアまでの直進ルートを迂回させる為に
ザフトが作り上げた暗礁宙域であった。そのため、好んでそこへ足を踏み入れようとするMSは連合軍、ザフ
ト双方共に殆ど居らず、アスランはそこをブランとの決戦の場としようと考えた。
 デスティニーの砲撃の先、岩陰の隙間をバーニア・スラスターの青白い光がチラチラと見え隠れする。先
程の支援砲撃といい、この追い込みといい、シンは本当に色々な事が出来るようになった。

「デスティニーが位置を教えてくれている。なら、それに応えるのが隊長としての俺の役割だ」

 連携という言葉からは縁遠かった男との共同作戦。かつて、ミネルバでの初陣であったインド洋でのファ
ントム・ペイン戦を思い出す。その頃のシンは口答えが目立ち、誰に対してでも棘を隠さないような乱暴者
でしかなかった。あれから幾月――多くの戦場を経験し、彼自身もまた、人間的に成長できたのだろうか。
そう思わせる頼もしさを、デスティニーの動きから感じ取っていた。
 インフィニット・ジャスティスを暗礁宙域へと侵入させる。岩を利用して出来るだけ身を隠しながら、デ
スティニーの砲撃先へと忍び寄る。人工的に作られた暗礁宙域ということで、岩の密集具合が凄まじく、窮
屈に感じた。しかし、シンの援護が入ると考えるだけで、随分と気が楽だ。今の彼は、それだけ頼りに思え
る。

「――見えた!」

 デスティニーのビームライフルの一撃が、岩を砕く。削り取られたその向こうに、ジ・Oの尖がり頭が覗いた。
 まるで、かくれんぼの鬼になったような気分。まだ子供っぽさを残すシンならば、その瞬間に興奮を隠せ
ないだろうがアスランは違う。性格の違いとも言えるが、彼は普通は興奮するような場面でも逆に自らを律
して冷静であろうと努めようとする傾向がある。それは性癖なのかもしれないが、常に死と隣り合わせの戦
場に於いては有利な要素なのかもしれない。
 狭い岩の間では、あまり強い加速は掛けられない。アスランは絶妙なタッチでスロットル・レバーを押し
込み、インフィニット・ジャスティスをジ・Oへと躍り掛からせた。
 左にビームライフル、右にビームサーベルを持たせる。ビームライフルの砲口を差し向け、アスランの正
面の照準がジ・Oの姿をその枠内に納めた時、不意にモノアイが振れてこちらを見た。偶々なのか気付かれ
ているのか、このまま行くべきか一旦思い留まるべきか――考えているうちに、アスランはビームライフル
の発射タイミングを逸してしまった。

「南無三――!」

 彼のもう一つの性癖。物事に対して優柔不断になるのは、あれこれ色々と考えすぎて思い切りの良さを
殺してしまうからである。様々な可能性を考慮するという事は、思慮深いということにも通じるが、それも
決断力が無ければ宝の持ち腐れ。その思慮深さを活かせないのは、ある意味で彼は「未完成」なのである。
 しかし今さら後悔しても遅い。ジ・Oは既にインフィニット・ジャスティスへの臨戦態勢を整えており、
アスランはそれに仕掛けるしかないのだ。
 ビームサーベルを横薙ぎに一閃。ひらりとバックステップで逃れるジ・Oに向けてビームライフルを3連
射。巨体が身体を半身にして軽々かわすと、幅広で長いビームソードを振り上げた。インフィニット・ジャ
スティスに制動を掛け、紙一重でその斬撃をかわす。
455 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 22:03:50 ID:???
 一見、互角の攻防だが、その実、間合いはジ・Oのものである。インフィニット・ジャスティスが仕掛け
るにしては微妙にリーチが足りないが、ジ・Oは届くという絶妙な距離。軍人としての経験ならば圧倒的に
上のブランが作り出したフィールドである。

「チィッ! 隠し玉は――」

 接近戦のギミックは、ジ・O以上に豊富に持っている。特に左腕に装着されているシールドは、一見普通
のものに見えるが、それ自体が暗器の宝庫である。ブランの作り出した距離など、あっという間に無効化す
る事も出来るだろう。しかし、いざと言う時の為になるべく手の内は晒したくないという事情もある。

「――うッ!?」

 ビームライフルが2発、撃たれたかと思いきや、アスランの眼前を黄金の軌跡が通過した。長刃のビーム
ソードがインフィニット・ジャスティスの顔面を掠めたのである。知らず知らずのうちに反応した身体が、
いつの間にか操縦桿を引いて微かに機体を退かせていた。それが無ければ、今の一撃で戦闘不能であっただ
ろう。身も凍る思い――アスランは眩惑せざるを得なかった。

『鈍いな!』
「クソォ……ッ!」

 ジ・Oの下腹部から振り上げられる2本のビームサーベル。出し惜しみをしている場合ではない。
 左腕を、居合い抜きを構えるように右腰の辺りに添えた。シールドの先端がビームの輝きに溢れ、イン
フィニット・ジャスティスが左腕を逆袈裟に振り上げるのと同時にビームの刀身が伸びる。

『仕込みドスか!?』

 そんな生易しいものではない。インフィニット・ジャスティスのシールド先端から出でたビーム刃はブラ
ンの予想を遥かに超えて伸び、果てにはジ・Oのビームソード以上の長大さを現した。それは近接戦闘を生
業とするインフィニット・ジャスティスの仕込み武器の1つ、シャイニング・エッジの変化形のビームソー
ド。ジ・Oのビームサーベル2本を、その一振りだけで防ぐ。
 本来なら、こんな風にして使う予定ではなかった。暗器というものは、相手の意表を突くからこそ効果的
であって、一度見せてしまってからではその威力は半減してしまう。状況が不利な以上、贅沢を言っていら
れる場合ではないのは百も承知であるが、しかし、暗器を攻撃にではなく防御の為に「使わされた」という
現実が、アスランの鼻っ柱をへし折ったのは事実であった。何よりも、インフィニット・ジャスティスとい
う最新鋭機を使いこなせない自分が、悔しかった。屈辱だったのだ。

『何やってんです、隊長は!』

 声が聞こえると同時に、複相ビームの光が傍を掠めた。ジ・Oのモノアイがぎょろりと周囲を見回すと、
ビーム刃同士の反発力を利用して正面より離脱、それからインフィニット・ジャスティスの上方に向けてビ
ームライフルを撃ってデスティニーに牽制砲撃を掛けた。

「逃がすかッ!」

 シールドからシャイニング・エッジを取り出し、それをジ・Oに向けて投擲。しかし、あっさりと切り払
われてしまう。

「クッ……!」
456 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 22:04:31 ID:???
 アスランの顔が苦汁に歪んだ。ジ・Oが強敵だからなのか、今一調子に乗り切れない。浮かれているのか
――どうにも空回りしているような気がして、自らの不調を訝しげに思った。
 脇を、デスティニーが駆け抜けた。岩陰に身を隠そうとするジ・Oに、そうはさせじとビームライフルを
連射して迫る。ジ・Oの反撃をものともしない運動性能で、光を纏ったデスティニーは圧倒的であるように
すら見えた。接近戦で苦杯を舐めたシン、肉弾戦でなければ互角以上に渡り合えるのかもしれない。

『英雄アスラン=ザラは――!』
「え……?」

 苛立ちを含んだ声。久方ぶりに聞くシンの声色に、アスランは不覚にも気圧されてしまう。かつての刺々
しさを持った声と同じであるが、当時と違うのは少しの淀みも無い事。雰囲気がまるで違うのだ。
 ジ・Oとデスティニーの中距離での撃ち合い。即死レベルのメガ粒子砲をものともせずに舞うデスティニ
ーは、まるで怖れを知らないかのようであった。神業のような機動は、特殊な推進システムを装備している
からではない。それを使いこなすシンのパイロット・センスによるものだ。

『この程度じゃないはずでしょ! 本気でやって下さいよ、本気で!』
「何だと!? 俺は手を抜いちゃ――」

 ここは暗礁宙域。身を隠す岩は腐るほど存在している。デスティニーが逃げようとするジ・Oを阻止しよ
うとビームライフルを撃つが、ひらりと岩陰に隠れられてしまった。それならば、とデスティニーが左の脇
から鉄色の砲身を伸ばし、高エネルギー砲を放った。

『俺は――』

 ケルベロスやオルトロスと同系統の武器であるが、それよりも更に威力を高めたその一撃は、ジ・Oが隠
れた小隕石を容易く砕いた。しかし、手応えが無かったのか、通信回線からはシンの舌打ちが忌々しげに
聞こえてくる。
 デスティニーは即座に高エネルギー砲の砲身を上方に構えなおした。彼には逃げたジ・Oが見えていたと
いうのか、何の迷いも無く2撃目を放った。その射線の先、慌てたようなバーニア・スラスターの青白い光
が、アスランの目に微かに入り込んだ。
 休む間もなく、デスティニーが再加速する。高出力のバーニア・スラスターの恩恵は絶大で、アスランす
ら驚愕するような加速力でジ・Oへと突っ込んでいく。

『隊長の事はあまり好きじゃありませんでした! 故郷のプラントを捨ててアスハにべったりで――ザフト
に復隊したと思ったらいきなり隊長でフェイスで――わけ分かんないって思ってた!』

 それは知っている。シンが2年前にオーブで起きた戦いのせいで家族を失い、その原因を作ったウズミの
娘であるカガリを憎んでいた事、そして、その護衛をしていた自分の事を軽蔑していた事も。
 しかし、それが何だと言うのか。今この時に言うべきことでは無いだろうに。今さら昔の癇癪がぶり返し
て喧嘩したくなったとでも言うのか。

「不満があるのなら、後で聞く! 今という時に話すことでは無いだろう!」

 やはり、シンはシンでしかなかったのか。ビームライフルでジ・Oを狙い撃つも、既に当初予定していた
連携行動は形を成していなかった。先程感じた彼の成長は、夢幻でしかなかったのか。

『見ちゃいられないから!』
457 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 22:05:56 ID:???
 加速しながらデスティニーが右肩からフラッシュ・エッジを取り出し、それをジ・Oに向けて投擲。しか
し、ジ・Oはフラッシュ・エッジを簡単に弾く。デスティニーは弾かれたフラッシュ・エッジを再度回収、
そのままビームサーベルとしてマニピュレーターに持たせ、ビームライフルで牽制を掛けながら斬りかかっ
たが敢え無く回避されてしまう。お返しとばかりにエルボーを首元に受け、デスティニーが脳震盪を起こし
たようにグラついた。
 危ない――咄嗟に撃ったインフィニット・ジャスティスのビームライフルが、ビームソードを振りかぶっ
たジ・Oを後退させ、何とか事無きを得ることが出来た。

「バーサークしている!? ――何を考えているんだ、シン!」

 やはり、単独で立ち向かっても勝てないのだ。ジ・Oはそれだけの強敵であり、倒すにはしっかりとした
連携は必須である事には間違いない。いくらシンでも、その事が分からない筈が無い。だのに、彼は尚もア
スランの言葉を無視してジ・Oに向かっていく。

『隊長の事は嫌いだったけど、でも、MSパイロットとしては尊敬してた! 嘘じゃない、本当なんです! 
インド洋で初めて一緒にファントム・ペインと戦った時、敵わないって思った! だから、戦っていく内に
アスハの事も忘れて、1人のパイロットとして認めてた! ベルリンでデストロイを倒した時、隊長は俺を
一人前のパイロットとして認めてくれた――嬉しかったんです! キラ=ヤマトの様にだってなれるって言
ってくれた事や、何よりも英雄だって言われている隊長に認めてもらったことが、俺の誇りになったんです
よ! なのに、今の隊長は何をやってんです!? 偉そうに語ってた隊長が、俺の前で無様をやって恥を晒
して――自分をみっともないと思わないんですか! 悔しいって思わないんですか!』
「シン……」
『アスラン=ザラはもっと強かったはずだ! 英雄なんでしょ! プラントを救ったんでしょ! なら、そ
の名に恥じない姿を見せてみろ! 出来ないなら、俺は今のあんたを認めない! 隊長とは呼ばない! 命
令にだって従うもんか!』

 ギリギリの瀬戸際――ジ・Oと銃撃を交えるシンに、アスランの印象ほどの余裕は無かった。本当なら、
こんなべらべらとしゃべりながら戦ったりなどしないはずだ。しかし、それでもシンは声を大にして言いた
かった。これ以上、不甲斐ないアスランを見たくなかったからだ。自分が尊敬する男がこの程度だと認めた
くなかったからだ。
 分かっていたはずだ。カガリがどうとか、ミーアがどうとか考えながら戦争をやって、それでまともに戦
えるわけが無い。迷いを持ったまま戦場に出ればやられる。当たり前の事じゃないか。

『今のあんたには頼らない! ジ・Oは俺が1人で倒す! あんたは邪魔にならないように適当にやってろ!』

 シンの乱暴な言葉は流石に頭に来るが、彼の言う事も尤もだ。こんな体たらくで、今やザフトのトップ・
エースに名を連ねる彼に偉そうに出来る立場では無い。頭を冷やすのだ。余計な事は今は忘れて、戦場で何
を為すべきなのかを考えるのだ。煩悩は、目を曇らせる。煩悩に惑わされない目が欲しい。
 アスランは一つ大きな深呼吸をした。吐息がバイザーの内側を白く曇らせる。口元の辺りから膨張してい
き、吐く息を止めると、それは逆に少しずつ縮小していった。
 その白い曇りが、アスランの煩悩だ。薄く開けた目でぼんやりと眺め、徐々に小さくなっていくそれが消
え行くのを待つ。頭の中がシンクロしている――まるで着膨れしていた服を脱ぎ捨てるように、頭の中が軽
くなっていく。それは、とても不思議な感覚だった。曇りが小さくなっていくのと同時に、煩悩が削ぎ落と
されていくような感じ。アスランは、目を閉じた。
 頭の中が、透明になっていく。今のアスランは空っぽだ。行動する為には、何か目的を考えなければなら
ない。1つでいい――アスランは戦場である事を考えた。
 バイザーの曇りが、消えた。同時にアスランの目蓋が上がる。頭の中で、何かが弾けた。途端、窮屈に思
えた暗礁宙域が広く見えた。
458 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 22:06:39 ID:???
「もう迷わん……!」

 見えなかったジ・Oが、今なら見える。アスランは操縦桿に添えた手を一息に奥まで押し込んだ。何の躊
躇も淀みも無い動作だった。

 暗礁宙域に追い込んだという認識は、間違いだったのかもしれない。ジ・Oはその巨躯を晒しながらも、
この隕石が数多散在する状況であっても些かのパフォーマンス・ダウンを起こしていない。それどころか、
隕石を利用して多対一の不利を埋めようとしている。それはジ・Oが高性能であるとか、パイロットの技術
的な問題ではなく、ブランの経験値が生み出した状況である。シンとアスランは、この暗礁宙域へとブラン
を追い込んだのではなく、誘い込まれたのかもしれない。たまたま思惑が一致したのだと考えれば、勘違い
も筋が通る話であるが――

「クゥッ!?」

 ジ・Oは巧みに物陰を利用して、シンをかく乱してくる。逃がすわけには行かないというシンの心理は、
追う者の焦りとして隕石を利用するという行為を怠らせていた。こちらから敵の姿は見えないが、敵からは
こちらの姿は丸見えなのである。機体の性能差やパイロット技術云々の前に、状況で不利を作られてしまっ
ている現実に気付くには、シンはまだ未熟であった。

「どうすりゃいい? ――そこッ!」

 横合いからビーム攻撃を受けた。シンの超絶的な反応が不意討ちの一撃を回避させ、間髪を入れずに
射線元へと高エネルギー砲を撃つ。しかし、隕石を粉砕した先にジ・Oの影も形も無かった。

「また外れ!? ――うわっ!」

 攻撃を受けてその射線元に向かっても、いつの間にか別の方向から更なる攻撃を加えられる。いい様に弄
ばれているだけの状況では、如何ともし難い。しかも、それがブランの時間稼ぎなのだとは露ほどにも思わ
ないシンは、無駄に時間を浪費しているだけだという事にすら目が行かなかった。

「この手詰まり感――もぐら叩きをやらされているのか、俺は!」

 八方塞とは、こういう状況を指して使う言葉なのか。何とか被弾は免れているが、いつまでも続けられる
ようなものではない。単機で挑んでもにっちもさっちも行かないとは分かっていても、先程のアスランの体
たらくを見る限り、彼を当てにする事は出来ない。ジ・Oは、自分1人でやるしかないのだ。

「やるしかないんだ……俺が! ここで!」
『落ち着け、シン!』

 通信回線にアスランの声が入り込んできた。シンは耳の辺りに手を添え、インフィニット・ジャスティス
の機影を探す。

「隊ちょ――あんたはノコノコと! 偉そうなのは口ばかりで!」
『騒がしいと言っている。敵は――』

 漆黒の闇の中にギラリと光る刃の輝き。それは、鏡面に磨き上げたメッキのような銀ではなく、研ぎ石で
研がれた刀のような鈍色の煌き――インフィニット・ジャスティスの銀色の輝きが、隕石の陰に潜んでいた
ジ・Oを押し出して姿を現した。
459 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 22:07:22 ID:???
「あんなところに――隊長は見えていたのか?」

 2刀のビームサーベルでビームソードを押し込み、脛のビームブレードでサブ・マニピュレーターのビー
ムサーベルを弾く。
 いつの間に見つけたのか。接近戦に持ち込んでいるインフィニット・ジャスティスは、ジ・Oの肉弾戦の
強さを意識させないような鋭さがあった。力任せに弾き飛ばされるも、インフィニット・ジャスティスは隕
石を蹴って跳躍し、ジ・Oを蹴り飛ばした。その一連の動きはマシンではなく、人間のもの近い。
 全身に鳥肌が立った。何だろうか、このわくわくする高揚感は。ラクスの演説なんかメでは無い。少年の
心をくすぐる強いアスラン=ザラは、シンの瞳を憧憬の光に溢れさせた。

『何をしている! ジ・Oは2人掛りで叩くと言った事を忘れたか!』
「あっ――はい! すんません!」

 ジ・Oに向けてビームライフルを連射。インフィニット・ジャスティスがジ・Oへと迫撃する。

『狙いが甘い! 俺の隊に射撃が下手な奴は2人も要らない!』
「な――了解です!」

 厳しい叱咤が飛ぶ。つい数分前までの男の声色とは思えない。しかし、心地よい響きだった。ようやくア
スランがシンが期待するような実力を発揮し始めたのだ。有無を言わせない力強い声は、自然とシンを従わ
せる迫力があった。

 迫り来るインフィニット・ジャスティスは、明らかに雰囲気が違った。動きの質が、一味も二味も違うの
だ。一体、どんな革命が起こったと言うのか――ブランに知る由は無い。

「背中のランドセルをパージした?」

 インフィニット・ジャスティスのバック・パックが、分離した。それは左右から翼面を展開し、方々から
ビーム刃を突き出した。ファトゥム01――まるでコンドルのような姿形を取り、自立してジ・Oへと体当た
りをしてくる。

「ふざけた事を!」

 デスティニーのビーム攻撃など、問題ではない。インフィニット・ジャスティスは動きに切れを増した
が、MSの機動の根幹を成すバーニア・ユニットを遠隔武器として使うようでは、アイデアの高が知れる。MS
の命は機動力と運動性能だ。それを自ら捨てる輩に、ジ・Oを操る自分が負けるわけがない――ブランはそ
う思った。
 ファトゥム01の加速力は、インフィニット・ジャスティス本体を切り離した事で数段跳ね上がった。しか
し、それなりの大きさを示すそれに直撃されるほどブランは間抜けではない。ひらりとかわし、ビームライ
フルをインフィニット・ジャスティスに向けて発砲した。
 ビームが粒子の尾を煌かせてインフィニット・ジャスティスに迫る。ビームにはビームで――インフィニ
ット・ジャスティスのシールドから、膜で包み込むように光波防御帯が広がった。ビーム攻撃に対して絶対
的防御力を誇るビームシールドが、メガ粒子砲をも無効化する。

「しかし、ランドセルを失くした機体ではな! ――鶏頭ぁッ!」
460 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 22:08:03 ID:???
 メイン・スラスターを切り離した機体に、まともな機動力など皆無。最低限の機動力程度は残されている
かもしれないが、戦闘機動を行えるとはとても思えない。インフィニット・ジャスティスはバック・パック
をぶつけるという奇を衒ったつもりが、自ら墓穴を掘ったのだ。
 インフィニット・ジャスティスへと迫る。デスティニーの援護射撃を岩を盾にしてやり過ごし、ビームソ
ードを構えた。
 その時、インフィニット・ジャスティスのシールド中央部から鋏のような物体が射出された。尾にワイヤ
ーの紐をつけたアンカー攻撃。まだ隠し武器を仕込んでいたと言うのか――しかし、ブランは慌てることな
くそれをかわした。

「悪あがきを!」
『どうかな?』
「何ッ!?」

 微笑を含んだ不敵な声。それがただの強がりでなく、確信を持った声だと気付いた時、不意にインフィ
ニット・ジャスティスが信じられないような加速でこちらに突っ込んできた。メイン・スラスターを失った
MSが取るような加速ではない。流石のブランも度肝を抜かれた。
 謎の加速から繰り出された回し蹴りが、ジ・Oの左腕を捉える。脛のグリフォン・ビームブレイドが二の
腕に食い込み、斬り飛ばした。

「よくも!」

 そのまますれ違い行くインフィニット・ジャスティス。しかし、そのままで済ますブランではない。即座
に反転し、右腕に握られたビームライフルが火を噴いた。

『撃たれた!? ――えぇい!』

 メガ粒子砲の軌跡が、インフィニット・ジャスティスの右足の膝を撃ち抜く。バランスを崩し、若干のき
りもみ回転をしながら、しかし不思議なことに加速力自体は衰える事はなかった。

「何だ? ――あれか!」

 インフィニット・ジャスティスがシールドから伸ばしたアンカー、それが先程に飛ばしたファトゥム01に
鋏で喰い付いていた。何て事は無い、インフィニット・ジャスティスの謎の加速は、ファトゥム01に引っ張
られたことによるものだったのだ。だから運動性に自由が利かず、今のインフィニット・ジャスティスは良
い的である。

「奇策を用いるという事は、貴様に力が無いという証左だろう! そういう人間は、得てして目先の結果だ
けに目を奪われがちになる! だから、奇襲は出来てもその後の事を考えられなければこういう事に――」

 ビームライフルの照準をインフィニット・ジャスティスに合わせ、トリガー・スイッチを押そうとした時
だった。インフィニット・ジャスティスの彼方から、赤と白の炎熱のようなビームがジ・Oを飲み込まんと
飛来してきた。高火力の一撃、デスティニー以外には考えられない。

「あ、あ奴ら、示し合わせていたと言うのか! この状況で……!」

 お陰で、狙撃のタイミングを逸した。ブランは忌々しげに舌打ちをするのだった。
461通常の名無しさんの3倍:2009/03/27(金) 22:52:44 ID:???
終わり…かな?

GJでした、次回も楽しみにしてます
462 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 23:03:29 ID:???
 結果的に、アスランは命拾いをした事になる。しかし、本人はそういうつもりは全く持っていなかった。
シンは先程アスランの「ジャスティスに合わせられるな?」という問いに対して肯定して見せたのだ。だか
ら、必ず援護は入ると思っていた。

『隊長ッ!』
「次で決める! 攻撃パターンを変えるぞ! ジャスティスの動きを見逃すな!」
『了解!』

 ファトゥム01の制御は所謂ドラグーン・システムの応用で、遠隔操作でもある程度の融通は利く。ただ、
MSのようなフレキシビリティな運用は出来ないから、高速機動中の旋回には大きな弧を描く必要があった。
 インフィニット・ジャスティスがアンカー・ワイヤーを切り離した。ファトゥム01は大きく旋回してジ・O
の頭上から襲い掛かり、そして本体は隕石を足場にして跳躍し、再度ジ・Oへと迫撃する。

「十字砲撃――かわせるか!」

 ファトゥム01のフォルティス砲、そしてインフィニット・ジャスティスのビームライフル。前と上からの
十字砲火でジ・Oを攻撃する。しかし、ジ・Oは「ファット・マン」というザフトの蔑称に似合わぬ運動性能
で、アスランの渾身の攻撃ですら掠りもさせない。
 これまでの戦いを鑑みれば、予想通りといえば予想通り。ならば、最後の手段に打って出るしかない。

「お前に賭ける……シン!」

 ファトゥム01がビームスパイクとなってジ・Oの上から襲い掛かる。当然のようにジ・Oはかわすが、アス
ランはその回避で出来た一瞬の隙を突く。インフィニット・ジャスティスは隕石を蹴った跳躍の勢いそのま
まにジ・Oへと突撃し、左腕に持たせているアンビデクストラス・ハルバードをバトンのように回転させな
がら振り上げた。

『カミカゼのつもりだろうが!』
「そんなつもりは無い!」

 ジ・Oのビームライフルがインフィニット・ジャスティスの左肩を打ち抜き、左腕が吹き飛ばされる。
 瞬間、アスランの目が見開いた。固く食いしばった歯が、鎖の封印を解かれたように開かれる。

「うおおおぉぉぉ――!」

 アスランの雄叫びと共にインフィニット・ジャスティスが腰を捻った。右手に握らせたビームライフルの
砲口が突き出され、ジ・Oの頭部モノアイに突き刺さる。

「吹き飛べぇッ!」

 ゼロ距離からの射撃。ビームが発射され、ジ・Oの頭部を貫通。ビームライフルはジ・Oの頭部共々、爆散
した。

『も、モニターが――何だと!?』
「今だ、シン! トドメを刺せ!」
463 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 23:05:12 ID:???
 咄嗟にビームライフルから手を離したインフィニット・ジャスティスの右腕が、ジ・Oの腹回りを抱くよ
うにして拘束した。
 ブランはメイン・カメラをやられた混乱で、状況の把握が遅れている。今がジ・Oを撃墜する最初にして
最後の好機であろう。これを活かすも殺すもシン次第――アスランは、彼が必ずやり遂げてくれると信じて
いた。

 シンは、アスランの意図に気付いては居なかった。インフィニット・ジャスティスがジ・Oの頭部を破壊
しても、どのタイミングで援護を入れるかを考えていた。しかし、インフィニット・ジャスティスがジ・O
に抱きついて動きを封じた時、彼の身体は自ずと然るべき動作を行った。それは、理屈で行う事ではない。
彼の本能の部分が、理性を超越して身体を突き動かした。
 デスティニーの手が右後背部にある長得物を取り出すと同時に、光の翼が広がった。損傷したインフィ
ニット・ジャスティスではジ・Oを長い時間、抑えていることは出来ない。デスティニーが持てる最大限の
力を解放して、シンは急いだ。

「ケリを付ける――ジ・Oッ!」

 両手で柄を持つ。腰に帯刀している様な脇構えで突撃。半分に折りたたまれていた刀身が展開すると、片
刃からレーザー刃が光を放った。
 一方、大半のモニターが砂嵐に変わったジ・O。ブランは背後から凄まじいスピードで迫るデスティニー
の存在は察知していた。しかし、組み付いたインフィニット・ジャスティスが邪魔で身動きがとれない。
 初めて陥った劣勢。ブランは、自身の命の危機を感じ取っていた。アムロ=レイにアッシマーが撃墜され
た時の記憶――その時と同じ予感がする。とても嫌で屈辱的な予感だった。
 しかし、今ブランが乗っているジ・Oは、アッシマーとはモノが違う。圧倒的に不利な視界でも、機体の
性能を最大限に引き出せれば苦境を脱する事だって出来るはずだ。ブランはまだ諦めていなかった。

「こいつめ!」

 サブ・マニピュレーターが、ビームサーベルでインフィニット・ジャスティスの二の腕を切る。

『そ、そんなバカな!?』

 アスランの焦燥した声。既に左腕を失っていたインフィニット・ジャスティスは、ジ・Oを掴まえておく
術を断たれた。最早素体に等しいこの敵は、無力も同然だ。ブランは生き残ったモニターから伝えられる僅
かな情報を頼りに、デスティニーと相対させた。
 ジ・Oを反転させた時、デスティニーは既に眼前へと迫っていた。大きく右肩に大剣を構え、今にも振り
下ろさんばかりの迫力。その、シンの覚悟とも言うべき大きな構えが、ブランに時間を与える事となった。

『もらったぁッ!』

 加速を乗せて、大剣・アロンダイトが振り下ろされる。円運動をする切っ先が、ミラージュ・コロイドの
光と合わさって黄金の軌跡を描いた。その切っ先はジ・Oの肩口へと迫り――外れた。

「ハッ! そんな隙だらけの動きで――」

 瞬間、ブランは我が目を疑った。デスティニーが、まるで時間を巻き戻したかのように再び同じポーズで
アロンダイトを構えていたのだ。しかも、その足元ではアロンダイトを振り下ろしたデスティニーが蹲って
いる姿もある。そこから胴回しをして現在のポージングに至る過程が、幻影として残されていた。
464 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 23:06:44 ID:???
 それは、ブランが初めてデスティニーの幻影に惑わされた瞬間だった。余りにも速過ぎるデスティニーの
動きが、ブランの常識を凌駕していた。
 最早、為す術は無い。一度回避して油断した以上、もう一度アロンダイトをかわすだけの力が、ジ・Oに
は残されていなかった。

「イアン! ファントム・ペインの指揮は――」

 デスティニーの双眸が、緑の軌跡を描く。目に焼き付いたそれが、ブランが今わの際に見た光景となった。

「でやあああぁぁぁッ!」

 シンの咆哮と共に振り下す。刀身が今度こそジ・Oの肩口に切れ込みを入れると、ぐりぐりと抉り込む様
にして胸部に食い込んでいった。レーザーで焼き切りながらその重量でジ・Oの身体に沈んでいくアロンダ
イト――脇腹の付近まで捩じ込むと、そこで押すも引くも出来なくなった。

「離脱!」

 シンはアロンダイトをジ・Oに切り込んだまま放棄し、ボロボロになって漂っているインフィニット・ジ
ャスティスを抱えてその場を離れた。
 頭部と左腕を失い、胴体部には大剣が切り込まれている。数瞬の静寂の後、ジ・Oは大きな爆発を伴って
四散した。

 振り返り、爆発の閃光を見る。心臓はバクバクと早鐘を鳴らし、呼吸も平時と比べれば相当に早い。固く
操縦桿を握る指は脈の鼓動を一本一本で感じ、気付けば全身が温い湿気に覆われていた。思い出したように
瞬きをすると、存外に目が痛い。酷く乾いていたようで、鏡を見れば瞳と同じ色の白目がお目にかかれる事
だろう。
 実感が、湧いてこなかった。本当にジ・Oは自分が倒したのか、そもそもあのジ・Oは本物だったのだろう
か――全てが閃光の中に消え去った今となっては、自分の記憶だけが依拠できる証拠である。
 コックピット・ハッチを開き、外へと身を出した。思った以上に疲れているらしく、上手く身体に力が入
らなかった。

『やったな、シン』

 放心状態の中、耳に聞こえてきたのは尊敬する男の声だった。その男が一応の目撃証言者という事になる
のだろうか。何はともあれ、彼の存在なくしてジ・Oの打倒は無かっただろうという事を考えれば、いくら
感謝してもし切れないだろう。
465 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 23:07:26 ID:???
 アスランは同じ様にコックピットから出て、ハッチの縁に腰掛けていた。こちらに向けて拳を突き出し、
親指を立てる。若干の距離があって表情までは読めなかったが、きっと笑顔で見てくれていることだろう。

「あ、ありがとうございます……」

 小さく、掠れていた。喉の奥から出てきた声は、自分でも驚くほど細い声だった。
 シンの虚ろな瞳が、インフィニット・ジャスティスに視線を泳がせた。大仰にも見えた紅のMSは、見るも
無残な姿に変わり果てていた。マントのようであった背中のファトゥム01を失い、右膝から先と両腕を失っ
た素体にも等しいインフィニット・ジャスティスは、そのパイロットの強さからは大きく掛け離れた貧弱で
脆弱な姿を晒していた。――アスラン=ザラがここまでやられなければ、ジ・Oは倒せなかったのだ。
 アスランが掌を上に返し、肩を竦めた。インフィニット・ジャスティスの惨状を嘆いての事だろう。掛け
ていた腰を浮かし、スゥッと再びコックピットの中に消えた。

「どう…ですか」
『このくらい――と言いたいところだが、無理だな。遺棄するまでではないが、ダメージを受け過ぎている』

 途端、インフィニット・ジャスティス各部の銀色が、黒ずんだ鈍色に変わった。まるで役目を果たし終え
たかのようにフェイズ・シフト装甲のエネルギー供給が停止したのだ。

『情けないが、ここは一旦――』
「隊長」
『ん? どうした』
「ミネルバへ帰艦します」
『あ、あぁ……? そうしてくれ』

 シンはふとミネルバの事を思い出した。ジ・Oとの戦いはかなりの時間を消耗した。戦況を確認するとい
う意味でも、一度ミネルバに戻るべきだと思う。それに、インフィニット・ジャスティスは戦闘継続が不可
能な状態であり、アスランを無事に帰還させるという理由もある。
 アスランの方も、それは納得していた。ミネルバへの一時帰艦は補給の意味でも重要であり、シンの言う
事は尤もであった。しかし、アスランが怪訝に思えたのは、ジ・Oという強大な敵を倒しても、シンの態度
がしおらしいという事実であった。礼を失しているかもしれないが、シンという人物像を考えた時に、彼が
取るような態度とはとても思えなかった。
 ジ・Oの撃破――この事実の実感を得るには少し時間が必要だろう。シンは不思議なほど冷静な自分を、
我ながらおかしいと自嘲つつも、今はこれで良いと思えた。戦士としての確かな成長――それだけは、実感
できていたからだ。それは、シンにとってとても喜ばしい事だった。

 背中を抱くようにして、デスティニーはインフィニット・ジャスティスを連れ行く。暗礁宙域の中は、相
変わらず静かだった。
466 ◆x/lz6TqR1w :2009/03/27(金) 23:12:03 ID:???
さるさんに引っ掛かりつつも今回は以上です。
VSジ・Oにまるまる1話費やすのはどうなんだ?と思いつつも
シンとアスランは行く行くはこんな感じになるんだろうな、と種死本編を
観ていた当時を思い出しながら今回の話を書いてみました。

まぁ、本編ではアスランが敵になり、シンがまさかの敗北を喫したわけですけど……
467通常の名無しさんの3倍:2009/03/27(金) 23:39:05 ID:???
乙です
カミーユのZのエクスカリバーそうびするシーンが欲しいw
昔のZのサーベルのコードネームがエクスカリバーだっただけに
468通常の名無しさんの3倍:2009/03/28(土) 00:33:13 ID:???
テストしてみて使いにくいと捨てられるんですね、分かります
469通常の名無しさんの3倍:2009/03/28(土) 01:16:26 ID:???
Zがハイパー化したらエクスカリバーってどうなるんだろうなw
ちょっと面白そうw
470通常の名無しさんの3倍:2009/03/28(土) 04:11:04 ID:???
すげー……
面白かった!GJ
相変わらず実に上手く種にZっぽさが乗っている
シンとアスランがまともに共闘
ホント、こうなりゃよかったのにね……
471通常の名無しさんの3倍:2009/03/28(土) 14:14:39 ID:???
GJ
なんという綺麗なアスラン
472通常の名無しさんの3倍:2009/03/28(土) 20:17:04 ID:???
機動戦士ガンダム語録(株式会社ソニー・マガジンズ発行)
発行日 2009年3月27日
協力 株式会社サンライズ

その後のガンダム
〜「機動戦士Ζガンダム」「機動戦士ガンダムΖΖ」「機動戦士ガンダム逆襲のシャア」解説〜

アムロ・レイ
危険な英雄として連邦の監視下にあったが
ロンド・ベルのモビルスーツ隊長として
地球人類を守るために再び戦う。

カミーユ・ビダン
アムロよりも一層深い孤独と狂暴性、
そして死者とすら心を通わせられる究極のニュータイプ能力を持つ少年。
小型モビルスーツのコンテストで優勝するほどの
機械好きだが名前のコンプレックスから空手を身につけている

ジュドー・アーシタ
高いニュータイプ能力を持つが、これまでの主人公とは異なり
明朗快活で何事にも縛られない。
「妹や仲間を守りたい」と自らの感性に従って戦った。
473通常の名無しさんの3倍:2009/03/29(日) 19:11:35 ID:v7o5a+Ov
そういえば00見て思ったけど
先週のトランザムの赤い光とトランザムバーストの緑の光が
混ざって戦場全体に燐粉が振るって演出が
まんまカミーユ氏の前作のカミーユとサイコフレーム光の演出に似てたな
スパロボ以外にも00でもぱくられたのか?w
474通常の名無しさんの3倍:2009/03/29(日) 19:15:21 ID:???
りぽんずと安室が完全同化したら手がつけられないね
475通常の名無しさんの3倍:2009/03/29(日) 19:15:43 ID:???
何を今更…今日も逆シャアしてたぜ
476通常の名無しさんの3倍:2009/04/02(木) 09:13:14 ID:???
オマージュというには、非道過ぎるパクりだった・・・
477通常の名無しさんの3倍:2009/04/02(木) 17:36:24 ID:???
関係ない作品でやってりゃパクリだろうけど、あれはどう考えてもオマージュだろw
478通常の名無しさんの3倍:2009/04/02(木) 19:28:41 ID:???
どうでもいいなあ
見てないし
479通常の名無しさんの3倍:2009/04/02(木) 23:10:39 ID:???
ケロロ以下は忘れること
480通常の名無しさんの3倍:2009/04/03(金) 09:37:02 ID:???
OOみたいな糞とガンダムを一緒にすんな
481通常の名無しさんの3倍:2009/04/03(金) 13:29:25 ID:???
ギャグアニメとして見れば最高傑作だったよ00は
482通常の名無しさんの3倍:2009/04/03(金) 14:02:27 ID:???
意見そのものには同意だが、そもそもガンダムはギャグじゃねえよwww
483通常の名無しさんの3倍:2009/04/03(金) 15:53:48 ID:???
種>00>越えられない壁>種死、程度には面白かったよ
484通常の名無しさんの3倍:2009/04/03(金) 19:44:56 ID:???
面白いだけなら00はGに並ぶ
ガンダムとしては…だけど
485通常の名無しさんの3倍:2009/04/03(金) 20:49:51 ID:???
ここは00スレではありません
486 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/03(金) 22:28:52 ID:???
  『ソラに消えて』


 瀬戸際で戦いを強いられているザフトにとって、大西洋連邦とユーラシア連邦という二大強国の攻撃から
身を守らなければならない状況は非常に困窮したものだった。大量の兵力を背景に攻めてくる軍勢が、爪が
食い込むように徐々にザフトの陣営を崩していく。真綿で首を絞められるというよりも、密室にて少しずつ
酸素を抜かれていく感覚と言った感じだろうか。
 何とか渡り合っている。それが正直なところだった。しかし、それも何時まで保てるのか分からない。ラ
クスの声がカンフル剤となって一時的な活力をザフトに与えているが、その効果も永続的ではない。
 ミネルバの艦長席に座しているタリアは、先の事を思えば不安でないわけではなかったが、それでも指揮
官として顔色だけは平静を保っていた。

「メサイアのジェネシスは使えないのでしょうか?」

 アーサーの不安げな質問が耳に入るものの、タリアは顔を向けようとしなかった。ただ黙し、戦況をじっ
と見つめているだけだった。
 薄暗さが、クルーのブルーな気分に拍車を掛けているようだった。計器類のモニターの光だけが勤しむク
ルーの苦々しげな表情を浮かび上がらせ、ひっきりなしに続く微振動が、ミネルバの置かれている窮状を如
実に表していた。

「グラディスかんちょ――」
「一度使ってしまった兵器が今更切り札になるわけないのだから、そう易々とジェネシスの射線軸に敵が入
ってくれるなんて都合のいい展開が、本気であると思って?」

 困窮している時にしつこくされると、頭に来る。ヒステリーが無いとは言い切らないが、短絡的に怒鳴っ
たりするのは責任者としての理想的姿では無いと思うタリアは、アーサーに宥めるように返す。勿論、釘を
刺すと言う意味で、その奥にある苛立ちの情念は隠さずに。

「しかし、使わない手は無いでしょう。攻勢に出られない事情は分かりますが、リスキーな展開の仕方だっ
て作戦として必要であります。司令部は――」
「アーサー」
「ハッ! ですが――」
「過ぎた口は自らを貶める行為と知りなさい。あなたの座っている椅子は、ミネルバの副長席です」

 鈍感な男は何処までも鈍感だ。危機意識が一際強いアーサーは兵としては優秀な能力を持っているが、対
人関係に際した場合、その評価は180度逆転するだろう。
 その時、一際大きな振動が起こった。これまでの揺れとは一味違う。直撃を受けたのかもしれない――
タリアはすかさずマリクに顔を振った。

「被害状況、報せ」
「上部甲板被弾! ナイトハルト3番から5番が沈黙です!」

 報告に舌を鳴らす。苦渋に汗を滲ませて険しく目を細めると、次にバートへと視線を投げかけた。

「ミネルバは微速後退」
「ハッ」
「それから、周辺の部隊にメーデーを――」
「艦長、ヴェステンフルス隊からのコールが入っています」
487 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/03(金) 22:29:35 ID:???
 命令を下そうとしているところへ、若い声がタリアの言葉をカットする様にして割り込んできた。
 視線を声の主へと向ける。そこには、赤毛のメイリンが半分くらい椅子を回してタリアの表情を覗っていた。

「ヴェステンフルス隊?」
「はい。ナイス・タイミングですね」
「そうでしょうね。ハイネ=ヴェステンフルスという殿方は、そういう人物と伝え聞いています。――繋い
でちょうだい」
「はい」

 ハイネ=ヴェステンフルスを隊長とするオレンジショルダー隊は、フェイスである彼の指揮するザフトの
独立MS戦隊だ。それは精鋭と呼ぶよりも、ハイネ本人の人望によって結束されている部隊であり、その実力
も誰もが認めるだけのものを持っていた。ザフトではその実力を評して、イザークの指揮するジュール隊と
並び称されていた。
 そのオレンジショルダー隊からコールが入ったという事は、タリアにしてみれば幸運だった。勿論、ハイ
ネもミネルバの意味を良く理解しており、それが窮地に立たされている事を知ったからこそ接触してきたの
である。

『メーデー、まだ出ちゃいませんが――』

 メイリンから「どうぞ」という合図を受け、手元の受話器を耳に当てると、青年のハスキー・ボイスが聞
こえてきた。
 「優秀な人物」という言葉は、痒いところに手が届くような人の事を指す時に使う言葉である。ハイネが
こちらの窮状を分かって接触してきた事が、今の一言で覗えた。

「ミネルバ艦長、グラディスです。そちらはハイネ=ヴェステンフルス殿でいらっしゃいますね?」
『分かっていらっしゃるのならば話は早い。ヴェステンフルス隊はミネルバの防御に入らせてもらいます』
「それは――助かります」

 スイっと一体のグフ・イグナイテッドがミネルバのブリッジに寄り添うような形でやって来た。全身を派
手にオレンジに塗装し、真っ暗な宇宙にあって必要以上に目立つ。
 自己主張の激しさを連想させるが、それがハイネという人物の自信の表れなのだろう。そういう人物が応
援に入ってくれるという事で、安心は出来る。アスラン不在の今、ハイネのような人材をミネルバは必要と
していたからだ。
 手元の小型モニターに映るグフ・イグナイテッドのモノアイが、カメラ方向に振れた。優しく光を湛える
それが、まるで憔悴しかけていたミネルバを宥め賺しているかのようだった。

『ファントム・ペインの狙いは、どうやらあなた方のようです。ミネルバがLフィールドの旗艦であると見
抜かれている。この攻められ方が、それを裏付けているんですよ。面白くない事にね』
「それが戦術というものであると知って居られるのであれば、貴官にはレジェンドとインパルスの統制をお
頼みしたいのです。よろしいか?」
『ミネルバとそのMS隊の意味は、知っているつもりです。タリア=グラディスがそう仰るのであれば、ヴェ
ステンフルス隊はそちらの指揮下に――』

 突如、突風のようなビームの奔流がミネルバのブリッジを掠めた。ちりちりと舞う微かなビーム粒子の残
りカスは、しかし直ぐに降り始めの粉雪のように消えた。そんな儚いロマンを感じられる状況では決して無
い事を分かっていても、一瞬でも死の瀬戸際に立たされた人間は逼迫した状況で変に冷静になれたりする。
一時的に騒然となったブリッジの中、タリアもまた、他のクルーと同様に目を丸くしていた。
488 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/03(金) 22:30:16 ID:???
「な、流れ弾?」
『いいえ、どうやらそうでは無いらしい』

 射線元へ向けて弾幕を濃くするミネルバ。その傍らで、今のビームで飛び退かされたグフ・イグナイテッ
ドが、各部から姿勢制御用ブースターを細かく噴かして機体バランスを調整している。
 流星が多く瞬いているかのような幻想的な漆黒を見つめるハイネの目には、今のビームの軌跡が焼き付い
ていた。C.E.のものと比べて遥かに強烈なビーム。規格外の威力を誇るそれには、かつてオーブで体験した
出来事に思い当たる節があった。
 サッとハイネはミネルバのブリッジ前にシールドを出し、次弾を警戒する。

「この、敵の手馴れ方! ……ミネルバのパイロットは若い者が多いと聞く。ここはグラディス艦長の言う
とおり、前線の支援に向かうべきと見たが――お前たち!」

 ジッと先を見据え、レーダーの反応を覗う。――攻撃を受ける気配は無い。警戒の必要が無いと判断する
と、即座に部隊専用の通信回線を開いた。

「いいか。ヴェステンフルス隊の指揮権を、一時ミネルバに移譲する。各小隊はミネルバの指示に従って守
りを固めるんだ」
『隊長はどうされるんで?』

 ハイネの呼びかけに応えて、ヴェステンフルス隊の小隊長が一斉に彼の傍へと集結した。その数、4体。
3〜4機で構成される4小隊が中隊を形成し、ハイネはその総責任者に当たる。
 ハイネは集った部下達を見回しながら続ける。

「俺はミネルバのMS隊と合流して奴らを叩く」
『しかし、核融合炉搭載型を相手にグフでは――』
「貴様達は俺の機体を嘲るのか? このカリカリのチューンド・マシンを、貴様達の乗る機体と同じにする
んじゃない」
『そりゃあ、そうですが……』
「ソラに戻ってから改良も加えられている。こいつには、イザーク坊やの奴よりも金が掛かっているんだ」

 言いながらも、警戒は怠らない。首を方々に回し、モニターで360度をカバーする。

「ライバルに後れを取るわけにいかんのは、俺のプライドの高さを知っている貴様達ならば分かるだろう。
――見えた、メガ粒子砲の光!」

 目に飛び込んできたのは、数多のビームの輝き。ハイネはスロットル・レバーをグイと奥に押し込み、渋
る部下達の言葉を遮るようにしてグフ・イグナイテッドを加速させた。
 それと同時に、肩部をオレンジに染めた様々なMSが続々とミネルバの周辺へと展開していった。ザクやゲ
イツR、それに旧式のジンやシグーがそれぞれにカスタムされており、実に千差万別であった。

『――ったく。各員、“ミネルバを守れ”とのお達しだ』
『言いつけは守る。ミネルバの指示には従おう』
『が、やり方はこちらの好きにさせてもらうって事だな?』
『その通りだ。そういうノウハウは、仕込まれちゃ居るからな』

 軽い口調は隊長譲りか。しかし、現れた敵の一団をあっさりと撃退して見せたその手並みを見る限り、噂
どおりの実力があることは確かだった。
489 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/03(金) 22:30:57 ID:???
 戦場にあって、一際激しい応酬を繰り返す宙域があった。レイのレジェンドとルナマリアのインパルスの
ミネルバ隊に対するは、ファントム・ペイン分隊であるライラの指揮する小隊である。
 パラス・アテネの拡散メガ粒子砲が雨のように降り注げば、アビスのカリドゥスが丸太のような太い軌跡
のビームを伸ばす。バイアランはその機動力を活かしてレイ達の援護に入ろうかというザフトのMSを逐一牽
制し、撃退していた。
 ハイネの瞳には、ライラ達の圧倒的有利に見える。
 レジェンドの操るドラグーンは悉くかわされており、その優位性をまるで活かしきれて居ない。フォース
・インパルスもその合間を縫ってビームライフルで攻撃を加えるも、統率の執れたライラ達の陣形は崩す事
が出来なかった。
 果たして、それが数の不利による結果だとは思えなかった。レイとルナマリアの連携は、ライラ達に比べ
てもぎこちなく見えた。彼等には、統率する人間が居ないのだ。
 それでも何とか渡り合えている辺り、実力の高さを覗う事は出来るが――

「敵がフォーメーションを組んできてるってのに、フリーファイトで挑んで対抗できるわきゃねぇだろうに!」

 グフ・イグナイテッドはテンペストソードを引き抜き、臨戦態勢となって四連重突撃銃を構えた。

「ミネルバのMS隊長は、かの英雄アスラン=ザラという話だが、奴は下に何を教えていたんだかな!」

 バルカンのようにビームの礫を連射し、広範囲に渡ってばら撒く。それは、牽制以上の効果は認められな
いような貧弱な火器であったが、敵にハイネの接近を報せるには十分であった。

「ビンゴか。こうしてまた遭えたのは、運が良いんだか悪いんだか――」

 それがハイネの未練だと言ってしまえば身も蓋も無い。しかし、そのMSの姿を発見した時、ハイネの中で
湧き上がる何かがあった。オーブ脱出の折、一度だけ交戦したライム・グリーンのMSパラス・アテネ。顔も
知らないパイロットのはずなのに、接触回線から聞こえたその女の声が妙に気になっていた。
 それは、恋をしてしまった感覚に似ている。「敵に対してなんて感情を持ってしまったんだ」と自らを罵
る一方で、ナチュラルとそういう関係を持っても良いのでは無いか、とも考えた。そういう節操の無い心根
を恥と知りつつも、反目しあうだけの関係よりは、余程生産的であると思う。――勿論、相手にその気があ
ればの話であるが。

『平和を尊ぶ心は、万民共通であるとわたくしは信じます。ナチュラルの方々、どうか、コーディネイター
の些細な違いに目くじらを立てないで下さい。コーディネイターの皆さん、自らを優勢人種として驕らない
で下さい。ナチュラルもコーディネイターも、争う為だけに存在していたのでは、それは人として余りにも
悲しすぎるではありませんか』

 ラクスの演説は続いていた。あわよくば彼女のセイレーンの歌声のような魔性で敵を惑わせようという
デュランダルの姑息な目論見から端を発したパフォーマンスであるが、ハイネはその言葉をそのまま素直に
受け止める。身体に馴染むと言うか、彼女の言葉どおりになって欲しいという気持ちが共感を呼んでいるか
らだ。
 ハイネは、オーブでアークエンジェルを沈めた時の事を未だに引き摺っていて、今もその答えを探し求め
ていた。あのパラス・アテネのパイロットなら、何か教えてくれるのでは無いだろうか――そういった期待
感が、ハイネの原動力の一部ともなっていた。
 ブーストを、また一段上げた。パラス・アテネは宇宙の闇でかくも緑に輝き、まるでハイネの心を引き寄
せる様に視線を独占している。これは運命だ。そう思わなければ、この雑多となった混沌の戦場で再会でき
るなどとは思えなかった。
490 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/03(金) 22:31:37 ID:???
「人種の違いを生物の種の違いとして認識している内は、人は暴力を止めないぜ。なら、どうすりゃ良い?
 お前なら、どう答える!」
『何だ?』

 グフ・イグナイテッドの白刃を袈裟に切りつける。狙われたパラス・アテネは、シールドでそれを防ぐと
ビームサーベルを引き抜き、逆水平に薙ぎ払った。光刃がグフ・イグナイテッドのコックピット付近を撫で
るように空振りし、シートに腰を埋めているハイネは顔を引き攣らせた。
 攻撃が鋭い。底冷えするようなこの感覚は、永久凍土に身体を埋めるよりもなお寒い。ただ、それに耐え
られるだけの訓練を、ハイネはこなしてきたつもりだ。

「お前はオーブで、ナチュラルもコーディネイターも関係ないと言った! 兵士だから戦うと、そう言った
んだ! じゃあ、戦争が終わった世界で、お前はコーディネイターを等身大の人間として見られるはずなん
だよな!」
『このジオンチックなMSは……! ――オーブだと?』

 即座にスレイヤー・ウィップを伸ばして叩きつけるも、パラス・アテネはシールドから小型ミサイルを放
出して逃れていく。ハイネは四連重突撃銃で迎撃すると、ザフト専用のオープン回線を開いた。

「こちら、ハイネ=ヴェステンフルス。レジェンドもインパルスも聞こえているな? ミネルバからの要請
で、貴様達の指揮を任された。従ってもらうぞ」
『ハイネって……あのオレンジショルダーで有名な!?』

 サブ・モニターに1人の少女が顔を出す。赤い前髪の隙間から覗かせる愛らしく大きな瞳と、返答の声は
まだ少しのあどけなさを残す。
 しかし、その回線元のインパルスは、ビームライフルでアビスを牽制しつつ、左に手にしたビームサーベ
ルで豪快にウインダムを切り裂いて見せた。
 その戦い方は、顔と声に似つかわしくない女傑そのものといった印象をハイネに与えた。成る程、ミネル
バの就航当時、配属パイロットに赤服のルーキーが抜擢されたという話題が昇ったが、どうやら伊達ではな
さそうで安心した。
 実力は十分である。後は、その力を引き出すためのアドバイスをしてやればいい。グフ・イグナイテッド
がテンペスト・ソードを掲げ、ドラグーンで躍起になっているレジェンドに注目を促した。

「そうだ。――レジェンドは!」

 ドラグーンは強力である。しかも、レイはそれを使いこなせるだけの驥足でもあった。しかし、だからこ
そである。ドラグーンのビーム量は飽和するほどの熾烈さを極め、インパルス以外の味方機が迂闊に動けな
い状態にあった。それはファントム・ペイン以外の敵も同様であるが、レジェンドとインパルスが苦戦して
いるのであれば、それは矯正すべきだ。

「周りを見ろ。どうなっている?」
『周り……?』
「ドラグーンの使い方を心得るんだな。パイロットはただMSに乗ってさえ居れば良いというものではなかろう」
『頼りすぎていたというのか? ――了解です』

 レジェンドは展開していたドラグーンを自機の周辺に呼び戻し、拡散砲のような使い方に切り替えた。今
までよりもコンパクトな使い方をする事で、敵側への面攻撃を維持しながら味方の戦線を押し上げる事が可
能になる。
491 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/03(金) 22:32:18 ID:???
 ほんの僅かなアドバイスで即座にハイネの言わんとしている事を実行に移せる理解の早さは、流石はザフ
トのトップ・エース部隊と称されているだけの事はある。しかも、いきなり指揮を執ったハイネの言葉を素
直に受け入れる辺り、中々感心な若者だと思った。これだけ御しやすいのであれば、アスランが指導に手を
抜きたくなる気持ちも分かるような気がする。――勿論、実際はそういうわけではないのだが。

「ゲイツ白兵部隊とザク砲撃部隊はファントム・ペイン以外を牽制しろ。ミネルバの双方はアビスに攻撃を
集中、これを叩け」
『他の2体は?』
「パラス・アテネを俺が押さえれば、バイアランはアビスの防御に入らざるを得なくなるはずだ。そうすれ
ば、その分だけ味方が動きやすくなるし、こちらがイニシアチブを握れる」
『了解』

 ハイネの指示に合わせ、各部隊が展開する。ゲイツR隊がダガーLとウインダムの敵部隊に突撃を開始し、
それを援護する形でザク・ウォーリア部隊がオルトロスで砲撃をした。それまでミネルバ隊とファントム・
ペインの独壇場で膠着状態だった戦闘エリアが、一気に動き始めた。
 レジェンドがバイアランを追い散らし、インパルスがその隙に後方に陣取っていたアビスへと強襲を仕掛
ける。重火力MSであるアビスに、高機動力装備のフォース・インパルスに接近戦を挑まれれば窮するしかない。

「よし、これで後は俺がパラス・アテネを抑えりゃ――」

 けたたましくアラートが鳴る。同時に、2つに連なるビームがグフ・イグナイテッドを上から襲った。咄
嗟に雨から身を守るように頭上に掲げたシールドで防ぐ事は出来たが、アラートが鳴るのが後ほんの少し遅
れていたら、今頃は宇宙の藻屑となっていたことだろう。

「新開発のメガ粒子砲対応型アンチビーム・コーティングが施されていなけりゃ、今の一撃でお陀仏だった
か。――しかし!」

 シールドから小型ミサイルを撒きながら、パラス・アテネが上方から急襲してくる。ハイネはミサイルを
迎撃しながらその隙間をすり抜け、回避した。

『お前が司令塔と見た。先に仕留めさせてもらう!』
「自分から来てくれたな。――歓迎するぜぇ!」

 接近戦。パラス・アテネが右手に持たせたビームサーベルを逆水平に薙ぎ払う。それを鋭い反応で身を屈
めてかわし、反撃でテンペスト・ソードを振り上げた。パラス・アテネはシールドで下に押し込むようにそ
れを防ぎ、テンペスト・ソードのレーザー刃が切り込まれると同時にそれをパージしてその場から離脱。そ
して、残されたシールドは中身の小型ミサイルが誘爆を起こして爆竹のように炸裂した。

「やる……ッ!」

 モニター一杯に拡がる爆煙。正面は元より、左右後ろのモニターまでも白く覆われてしまっている。
 直ぐに霧散するような煙幕であるが、それを待っている時間すら惜しい。バーニアの逆噴射を全開にして
煙幕の中から即座に抜け出る。

『出てきたな!』
「何ッ!?」
492 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/03(金) 22:32:59 ID:???
 敵機との間合いを取ろうと後退したハイネ。しかし、ライラはそれを先読みしていた。ハイネの背後には
パラス・アテネが2連ビーム・キャノンを構えて待ち構えていた。

『往生しな!』
「まだまだぁッ!」

 パラス・アテネのビーム・キャノンがグフ・イグナイテッドをすり抜ける。ハイネの素早い反応が、グ
フ・イグナイテッドを半身にさせてビーム攻撃を回避させた。
 股間が縮み上がる思いは、これで何度目だろうか。しかし、ハイネは怯むことなくスレイヤー・ウィップ
をパラス・アテネに叩きつける。その鞭は、蛇のようにうねって標的を絞め殺そうとその身を伸ばした。
 ぐるりと、パラス・アテネの右腕に巻きつく。熱線のスイッチを入れればその装甲を締め千切る事も可能
であるが、ハイネはそれをやらなかった。その指がコンソール・パネルを弄り、接触回線を開く。

『わたくし達は違う星の生き物ではありません。同じ言葉を話し、同じ感動を共有だって出来る。ならば、
互いに蔑み合うだけのこの関係を、良きものとして続けている愚かさを知るべきなのです。コーディネイ
ターもナチュラルも、なぜ自分たちが変われると信じられないのです? 過去を水に流せとは申しません。
ただ、ほんの少し、対話の余地を頂きたいのです』

 聞かせたかったのは、ラクスの言葉だった。ナチュラルとコーディネイターの拘りに縛られないライラな
らば、多少の聞く耳と言うものを持ち合わせているのでは無いかと期待したからだ。

『どういうつもりだ?』

 パラス・アテネから、ライラの当惑したような声が伝わってきた。その当惑はハイネの理解不可能な行動
に対する警戒から生まれたものであるが、ハイネにしてみれば理由はどうあれ、動きを止めてくれただけで
も御の字と言ったところか。この隙に、付け込む。

「彼女の言葉、聞いてみる気は無いか」
『聞く? あたしが? プラントの魔女の言葉を?』
「俺は、あんたにその可能性があると思っている。大西洋、ユーラシア以外の連合加盟国の殆どが静観を決
め込んでいる今、世界は新たな時代の流れを生み出そうとしている。俺たちならば、その新しい時代の流れ
に乗ることが出来ると思わないか?」

 地球側の世論が反戦へと傾きつつある今、その流れを利用する形で一部の識者達がナチュラルとコーディ
ネイターの共存論を叫び始めている。その尻馬に乗るような形で、ハイネは戦場からそのムーブメントを拡
げようとしていた。
 ライラには、ハイネの言葉を聞き入れるだけの心の余裕的な土壌があると思った。戦場が殺し合いだけが
全てではないと証明したかった。ハイネはライラに賭けていた。

『フッ。男ってのは、殺し合いの時でもロマンを語るのかい?』

 ハイネに返ってきたのは、しかし、嘲笑だった。そして突然右手のビームサーベルを伸ばしたかと思う
と、巻き付いたスレイヤー・ウィップを切断し、佇むグフ・イグナイテッドへとその刃を叩きつけてきた。

「貴様……!」

 泡を食ってシールドでビームサーベルを受け流す。そのハイネの様子を笑うように、パラス・アテネのモ
ノアイが徐に光った。
493 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/03(金) 22:33:40 ID:???
『戦場で口にする事と違うんだよな、そういうの』
「戦場だからって、戦いが全てというわけでは!」
『そうだよ。しかし、現実を直視できずに反感を抱くだけのあんたは、何時まで経ってもオールドタイプの
ままだ。そういう奴は、自分の都合ばかりで相手を見ようとしない』
「俺はそのつもりは! ……なら、どうすれば――」
『受け入れな! さすれば、何か見えるかもしれないね!』

 再び振り上げられるビームサーベル。袈裟斬りが空振りすると、腕を引き絞ってグフ・イグナイテッドの
左肩口に光刃を突き刺した。

「ぬ…ぐぅ……ッ!」

 パラス・アテネが突き立てたビームサーベルを振り上げる。切り裂かれた損傷部分が小爆発し、左腕が根
こそぎ千切れ飛んだ。
 結局、こうなってしまうのか。ハイネの理想は夢想でしかなかったのか。ラクスの言葉はただの妄言に過
ぎないのか。

「畜生ッ!」

 分からないまま、ハイネはテンペスト・ソードを振るった。斬撃は虚空を斬り、パラス・アテネはビー
ム・キャノンを構える。悔しさを抱えたまま、グフ・イグナイテッドの左足がパラス・アテネの右腕を蹴り
上げる。

『結局、あんたも戦うんじゃないか』

 ライラの嘲笑が聞こえる。抗えるだけの反論が出来ないのは、彼女の言葉が図星であるからだ。詰まる
所、ハイネとて戦うしかない。ナチュラルとコーディネイターの融和を夢見ようと、ハイネはザフトであ
り、ザフトにはプラントを守ると言う使命がある。それを捨てて戦場に立つことなど出来なかった。

「譲れない事情がある! 俺は――」

 敵は、倒さなければならない。しかし、出来うる限り可能性は追いかけたい。その理想と現実の狭間に直
面した時、ハイネが選択したのは「敵を倒す」という現実であった。

「そうさ。互いに守らなければならないモノがある。ナチュラルとかコーディとか、そういうものとは関係
ないところでね」

 ライラに出来た、守らなければならないこと――護るべきもの。不敵に笑う少年が脳裏に浮かんだ時、ハ
イネの説得など一瞬にして蒸発した。敵の一方的な理想の押し付けなど、ライラに戦いを止めさせる理由に
は一切なりえなかったのだ。

「だから、あたしはあんたを倒す!」

 逆手に握りなおされたビームサーベルが、グフ・イグナイテッドの胸部に突き刺さる。
 ハイネの左側が小破し、スパークが迸った。それが彼の左腕を切り裂き、鮮血が珠となって飛び散った。

「くぁ……ッ!」
494 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/03(金) 22:34:21 ID:???
 損傷部から、黒い煙が溢れ出る。目を細めたハイネの前で光が消えていき、コックピットの中は緊急事態
を告げるブザーが鳴り響いた。コンソールパネルには「CAUTION」の文字が点滅し、機体ダメージチェック
の表示が真っ赤に染まっている。
 一挙に絶望が押し寄せた。絶対的に孤独なMSのコックピットの中で、ハイネはパラス・アテネに敗北した
事を悟りながら人生のカウント・ダウンが始まっている事を感じていた。

「ぷ、プラントを守り通せずに……!」

 これ以上の任務遂行は出来ない。無念がハイネの心の中に去来した。しかし――

『何ッ!?』
「だがな……ザフト・レッドとしての意地だけは通させてもらう!」

 明滅していたグフ・イグナイテッドのモノアイが鋭く煌き、ライラの目を疑わせた。それは、ハイネの命
の刃が煌いた瞬間だったのかもしれない。
 瀕死のグフ・イグナイテッドが決して手放さなかったテンペスト・ソード――それが、パラス・アテネの
左腕を断ち切り、脇腹から刀身を食い込ませる。

「……浅かったか。――お前たち、後の事は頼んだぜ」

 致命傷足り得なかった。しかし、それをMSの性能差のせいとは考えなかった。ハイネのグフ・イグナイテ
ッドには彼の無茶な意見が取り込まれており、一部の伝達系や駆動系にはデスティニーやレジェンドが使う
ような希少品が非正規に使われていた。その無理を聞いてくれたメカマンたちには感謝こそが本心だった。
 最期に想った事は何だったのか――黒煙に包まれていくコックピットの中、ハイネは微かに顔を俯けた。

 その様子が、まるで恋人同士が抱き合っているように見えたのは、アウルの深層心理にライラを独占し
たいという欲があったからだ。それは嫉妬と呼ぶには激し過ぎ、義憤と呼ぶには余りにも感傷的過ぎるも
のだった。

『ライラ! 母さんが――あっ……!』
「アウル! 何……しまった!」

 カクリコンが気付いた時、既に発作は始まっていた。アビスは唐突に動きを止め、襲い来るインパルスの
存在にすら気付けて居ないようであった。
 カクリコンはドラグーンをかわしながらインパルスにメガ粒子砲で牽制を掛けた。

「一時凌ぎだが、えぇい! こんな時に――!」

 最悪の状況で最悪の展開。アウルは自らブロック・ワードを口にし、恐慌状態へと陥った。アビスの回線
からは、彼の激しい嗚咽が聞こえてくる。その様子から鑑みるに、とてもMSの操縦が出来る状態ではなさそ
うだった。
 カクリコンは視線をパラス・アテネに向けた。グフ・イグナイテッドの爆発に押し出されるようにして吹
き飛ばされたパラス・アテネのモノアイは、壊れたネオンサインのように不規則に明滅を繰り返していた。

「大尉! ライラ大尉! 聞こえていないのか大尉!」

 カクリコンは、必死にライラに呼びかけた。刹那、球面のスクリーンに嵐のようなビームが降り注ぎ、リ
ニア・シートに座している彼を囲う。
495 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/03(金) 22:35:02 ID:???
「――おのれ、ザフトガンダムめ!」

 悠長に呼びかけている暇すら与えないレジェンドのドラグーン。戦艦の残骸を盾にしつつ退避した。
 アビスの援護に向かおうとしたカクリコンを、レイはドライな瞳で見つめていた。
 ミネルバの戦いの始まりとなったアーモリー・ワンでのセカンド・シリーズ3体の強奪事件――アビスは
その中の1機であった。そして、その時からの因縁の相手であるファントム・ペイン。長きに渡って凌ぎを
削り合ってきた同士であるが、レイはそこに感傷的な感情を抱くほどセンチメンタリズムな性格をしては居
なかった。ただ、冷徹にハイネの作戦を遵守し、敵機の分断を図る。
 目に付いたのは、アビスだった。

「アビスの動きが止まった――何故だ? 或いはブロック・ワードとか言う……」
『レイ、ハイネ機が!』

 ルナマリアがハイネに気付いた事に、レイは舌打ちをした。インパルスが彼の様子を気にして動きを止め
たのは、彼女の甘さでもある。それによって折角のチャンスをフイにする事態になるかもしれないことに、
レイは危機感を募らせた。

「分かっている! だが、この好機を活かせればプラントを守りきれそうな気がしないか」
『え……?』
「ここでどうするかはお前次第だ。だが、俺なら戦局を優先する。勝つ為にな!」
『――分かった。そうする!』

 強制したところで、純な女性型の思考を動かせるわけは無い。レイはルナマリアに自発的に考えさせ、レ
イの思ったとおりの行動を取るような誘導的な言葉を投げかけた。それが功を奏したのは、朴念仁のレイの
最大のファイン・プレイだったのかもしれない。
 ともかく、インパルスは戦場で迂闊にも動きを止めたアビスへとビームサーベルを振り上げて躍り掛かっ
た。わざわざビームサーベルを使う辺り、シンの性格に影響されての事なのかもしれないが――
 そのルナマリアの選択は結果的に失敗だった。アビスに飛び掛った瞬間、何者かが脇腹にタックルをかま
してきたのである。

「何で――」

 ルナマリアの視線の先、組み付いたMSのモノアイが瞬く。それは大きく迫り出した肩部アーマーが特徴的
なバイアランのものだった。

『誰が易々と!』
「離れなさいよ!」

 抱きかかえられたまま、インパルスはバイアランに連れて行かれてしまった。レイはその様子を見て、ル
ナマリアの迂闊に苛立ちを募らせる。

「ライフルで狙撃していれば無様な事には――しかし!」

 バイアランも迂闊であった。レイがルナマリアにアビスの撃破を指示したのは、彼がバイアランを牽制す
る役割だったからである。だからインパルスを阻止したところで2人の役割が入れ代わるだけの事であり、
結局アビスが無防備である事には変わりないのだ。

「確実に仕留める……!」
496通常の名無しさんの3倍:2009/04/03(金) 22:43:57 ID:???
支援いたそう!
497 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/03(金) 23:02:47 ID:???
 レジェンドのビームライフルの砲口が、アビスに向けられた。焦る事は無い。ハイネの指揮のお陰で戦況
は有利に働いており、レイにはゆとりがあった。
 メットバイザーに反射する照準の奥で、細めた彼の目が鋭利にその先を見つめていた。

 酸欠なのか過呼吸なのか分からないような苦しみ方をしていた。ヘルメットの中では垂れ流しになった唾
液が飛散しており、口の端には細かい粒子状の泡が吹き出ていた。大きく見開かれた血走る目は、しかし何
も見えていないようである。喉の奥から絞り出される喘ぎ声は、まるで声帯を高熱で焼かれてしまっている
かのような掠れた声で、それが嘆いているようにも怒号を発しているようにも聞こえた。苦しみから逃れよ
うと全身で暴れるが、ベルトのセーフティがガチャガチャと立てる音が響くだけで、振り回す手と足がコッ
クピットの中のそこかしこを当たり構わずに叩きまくった。
 アウルに、既に理性と呼べるものは無かった。怒り狂った獣のように、本能の赴くままに暴れる事しか頭
に無い。しかし、MSのコックピットという檻の中に閉じ込められている今のアウルには、その暴走すらも虚
しいだけの抵抗であった。

「母…さん…母さ……あああぁぁぁ――ッ!」

 猛り狂うアウルの瞳に、モニターの先で銃身を構えているMSが見えた。彼の命は風前の灯であるにも関わ
らず、しかし今の彼にはその事が全く理解できていなかった。
 体力尽きるまで、アウルの慟哭のような叫びは止まない。レジェンドがゆらゆらとビームライフルを揺ら
して照準を合わせていた。そして、遂にその砲口がピタリと動きを止めた。

 その光は、あまりにも突然の出来事であった。メサイアの影、その向こう側――ちょうど、Rフィールド
と定めた方角である。まるで太陽が飛来したかのような強烈な閃光が、メサイアに直撃して弾けた。

「何なのよ今度は!?」

 振り返るルナマリアの視線の先、逆光でまっ黒く塗りつぶされたメサイアと大きく伸びる影。それを生み
出しているのは、あたかも宇宙に朝を迎えさせたかのような弾ける白であった。

「な…何よこれ……?」
『コロニー・レーザーが発射されたぁッ!』
「こ、コロニー……レーザー!?」

 隙を狙ったようにビーム攻撃。その間隙をすり抜けてかわすと、ビームサーベルを手にバイアランが急襲
してくる。
 ルナマリアもビームサーベルで応戦。ビーム刃が干渉して眩く輝きを増すが、それもメサイアの向こうの
閃光に比べれば微々たる物でしかなかった。
 バイアランのビームサーベルが、インパルスのそれを弾く。そのまま蹴りで突き放すと、一目散にアビス
へと進路を向けた。
 光は、未だに戦場を白く染めていた。

 アウルが多少の正気を取り戻せられたのは、その光のお陰だったのかもしれない。ショック療法みたいな
ものだ。圧倒的な光景が苦しみを忘却の彼方に追いやり、彼の意識を光に釘付けにさせた。
 光は、徐々に治まっていく。地平の彼方に沈む太陽のようなロマンチックなものでは無い。ただ、ふと先
程ビームライフルを向けられていたことを思い出した時、未だ五体満足である自分を不思議に思った。
 徐に、目線を正面に戻す。その眼前、中央モニターで彼を待っていたのは、更なる驚愕だった。

「な、何で……」
498 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/03(金) 23:03:29 ID:???
 左腕を失い、その身に刀剣を埋め込んだまま、そのMSはアウルの眼前に敢然と立ち塞がっていた。それは
まるで窮地から我が子を守る親のように。
 ライム・グリーンの背中に、ふと女性の顔が浮かぶ。それは憔悴しきったアウルの脳が見せた幻覚に過ぎ
なかったのかもしれない。振り返ったその顔は、彼の最愛の女性――ライラだった。
 口元が微かに笑みを湛えていた。瞳はとても温かだったが、反面、とても寂しげでもあった。

「ライ…ラ……」

 全身を小刻みに震わせながら、アウルが手を伸ばした。その瞬間、パラス・アテネは内から膨れ上がる火
球に押し出されるようにして四散した。

「あ…あぁ……ッ! 待ってくれ!」

 目の前で塵芥になっていく。アビスが両手を広げて分散を防ごうとするが、何一つ手に掴む事が出来なか
った。
 やがて、爆発の煙の向こうから1体のMSが姿を現す。それは地獄からの使者のように双眸の緑を滲ませ、
アウルを見ていた。ダーク・グレーに塗られた全身には、禍々しく燃え滾る鮮血のような赤と絶対零度の凍
て氷のような青がアクセントとして配色されている。その背に背負われたバック・パックが円形のシルエッ
トを浮かび上がらせ、不自然なまでに黒く見えたアウルの瞳に日食の太陽のような不吉を予感させた。

「――やった…やったな……やったんだ……」

 しかし、どれだけ空恐ろしく感じても、闘志は寧ろ反比例するように激しく燃え上がった。震える足が、
操縦桿を強く握る手が、血が滲むほど固く食いしばった歯が、アウルに戦えと命じている。その身体の反応
を我慢する道理など、どこにも存在しなかった。

「てめぇがぁッ! ライラをぉッ!」

 最早、刺し違える事も辞さなかった。いや、それ以上に玉砕でも構わなかったのかもしれない。ただ、こ
の心の底から湧き上がる怒りを、どうにかして敵にぶつけたかった。
 ブロック・ワードによる禁断症状など、既に問題ではなかったのかどうか――アウルは後に当時を思い出
した時、それがどうしても思い出せなかった。ただ1つ確かな事は、何も出来ずに逃げ帰った事だけ。
 アビスにビームランスを構えさせた。長柄のそれを両の腕で握り締め、アウルがスロットルを全開にしよ
うと操縦桿のグリップに置いた手に力を込めた時だった。グイと、機体が何かに引っ張られた。

「何だ…何!? カクリコン、てめぇッ!!」
『ここは後退だ!』

 いつの間にかやって来たバイアランが、腕をアビスの肘に絡めて引っ張っていた。

「嫌だ! ライラを殺されたんだ! このままじゃ引き下がれねぇんだよ!」
『ガキだからってガキみたいな事を言うんじゃない!』

 愚図るアウル、暴れるアビス。カクリコンは今にも飛び掛って行かんばかりの彼を必死に制止しつつ、母
艦であるナナバルクへの後退ルートを算出する。

「ここを切り抜けられれば――」
『逃がさん!』
499 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/03(金) 23:04:17 ID:???
 後退の余地も与えるつもりが無いのだろう。レジェンドはカクリコンたちが弱り目であると見抜くと、一
挙に決着をつけようとこれまで以上に激しい攻撃を加えてきた。

「ぐおおぉッ!」

 ドラグーンの一斉砲撃が、間断無く放たれる。バイアランが肩と脚部に直撃を受け、アビスと共にもんど
りを打って吹き飛ばされる。
 単独であったならば、被弾する様な事は無かっただろう。しかし、重MSであるアビスを抱えている今、ド
ラグーンの砲撃の中を無傷で潜り抜けられるだけのMS性能としてのキャパシティが、バイアランには無かった。

「クソがぁッ!」

 アウルが叫ぶ。ドラグーンは尚も2人を狙っており、このままではカクリコンまでも撃墜されかねない。
 アビスはバイアランから離れ、単独で後退を始めた。カクリコンがそれに気付いてくれたのか、メガ粒子
砲でレジェンドを牽制しながら後に付いて来る。
 利用できるものは何でも使った。デブリは勿論の事、時には撃沈された味方の艦船の残骸をも盾にした。
それが功を奏したのか、やがてドラグーンの攻撃が止み、追撃を振り切ったことを確信した。

「くっ…うぅ……」

 苦しい、苦しい呻きだった。アウルの声帯から発せられる詰まった音には、無念以外の感情は込められて
いなかった。
 正直、心は決まっていなかった。ただ、ここでカクリコンと共倒れになる事だけは、絶対にしてはならな
い事だと思った。そうでなければ、ライラが身を挺して守ってくれたことが無意味なものになってしまう。
 心は空虚だった。そして、ライラを殺され、それに対して何も出来なかった自分自身が、果てしなく情け
なかった。
 復讐――その言葉だけが脳に浮かんでいた。しかし、そうしたいにしても、アウルの心は余りにもボロボ
ロになり過ぎていた。


 連合軍艦隊の旗艦には、作戦総司令官を差し置くようにして我が物顔で鎮座している人物が居る。銀の短
髪にパープルの病的なルージュを口唇に彩ってある細身の男である。とうに中年に差し掛かっている年齢で
あろうが、仕草や外見は女性的であり、男性として則しているとは言い難い風貌であった。ブルー・コスモ
ス盟主、ロード=ジブリールその人である。
 コロニー・レーザーは発射された。彼にとって、それが本当に最後の切り札である。
 実は、コロニー・レーザーはプラント側に察知されていた。それはオーブ艦隊がレクイエムのステーショ
ンに、調査に赴いた時の事である。ジブリールにとっては運良く、オーブ艦隊はステーションの方にガサを
入れたのだが、その時モルゲンレーテの技術主任であるエリカ=シモンズは、それに並行するように浮かん
でいたコロニー・レーザーの存在を認知していたのである。
 しかし、レクイエムの詳細が分からない以上、コロニー・レーザーの詳細までもつぶさに調べている時間
的な余裕は無く、結果的に詳細不明のままその調査は蔑ろにされた。そして、メサイア攻防戦とダイダロス
攻防戦が同時に展開される事となり、その存在が公になる事無く現在に至ってしまった。つまり、ザフトは
レクイエムの察知には成功して対処できたが、コロニー・レーザーの諜報には失敗したのである。
 本来は先のレクイエムの発射で決着を付けようと目論んでいたが、予想外のシロッコの失態でそれは失敗
に終わった。そこで、保険で用意していたコロニー・レーザーの出番と相成った。
 レクイエムの件でジブリールはやや慎重気味になっていたが、無事に作戦は成功した。これまでのストレ
スが少しだけ和らいだような気がして、彼の気分は頗る良い。その表情は恍惚に歪み、慌てふためくザフト
に対して嘲笑を浮かべていた。
500 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/03(金) 23:04:58 ID:???
「コロニー・レーザーの発射により、このフィールドに於ける敵対戦力は激減。それと同時に敵機動要塞を
覆っていた光波防御帯の消滅を確認。これにより、白兵部隊の敵機動要塞への上陸が可能となりました」
「フッ、そうだろうな」

 オペレーターの報告を喜々とした表情で聞くジブリール。ご満悦のまま、首を伸ばして隣に座している艦
長へと顔を向けた。

「――艦長」
「ハッ」
「この艦もザフトの棘付きアーモンドに付けろ。我々も乗り込む」

 衝撃的な宣言が飛び出した。しかし、ジブリールは歪な笑みを浮かべ、平然とした顔で言ってのける。
 いきなり何を言い出すのか――驚かされたのは艦長だけではなく、総司令官もそうだった。思わず取り乱
し、無重力に身体が浮かび上がる。

「な、何を仰っておられるのです、ジブリール卿?」
「言葉の通りだ」
「冗談を仰らないで下さい。閣下自らがそのような危険な真似をなさらずとも――」
「私、自らがデュランダルとのケリを付けようと言っているのだ」
「コーディネイターの特殊部隊が配置されている可能性があります。閣下の命をわざわざ危険に晒す道理が
ありません。そのような事、末端の兵にやらせれば済む話であります」

 バランスを戻し、天井を軽く手で押して総司令官はシートに戻った。その様子を見ながら、不遜そうに顔
を顰めたジブリールが呆れたように溜息をつく。

「口を開けば危険、危険だ。今さら何を恐れる必要がある? 我々は今日までその化け物を相手に戦ってこ
られたのだぞ。それに敵はコロニー・レーザーの一撃で瀕死だ。いくら化け物が相手でも、ここまで来て我
々が負けるものかよ」
「それは仰られるとおりでありますが――」
「蛮勇と茶化すか?」
「い、いえ。滅相もございません」

 最早、大西洋連邦大統領のジェゼフ=コープランドでも彼の暴走を止める事が出来なかった。実質的な軍
の最高決定権は金の力によって官僚を買収した彼のものとなっており、流石に閣僚にまで手を出す事は出来
なかったが、それ以外の大西洋連邦国内の主立った反抗勢力は秘密裏に排除し終えていた。
 世論は、どうでも良かった。ジブリールは一番のストレスであるコーディネイターの排斥が叶えばそれで
万々歳だし、ブルー・コスモス盟主という影に隠れている彼にとって、世論など隔世の出来事だ。政治的責
任などは、ジョゼフにいくらでも被せてしまえば良いのだから。
 ぬるりと、爬虫類のようにジブリールの眼球が横にスライドする。見つめられた総司令官は時が止まった
ように身を硬直させた。まるで毒蛇のような獰猛さを感じつつ、或いは自分が蛙にされてしまったのではな
いかと錯覚するほどに、ジブリールの瞳は欲望に餓えていた。


 2機のゲイツRに抱えられ、インフィニット・ジャスティスがミネルバに帰還した。ミネルバはダメージを
負いながらも、思った以上に深刻でない事に安堵し、それがヴェステンフルス隊の活躍のお陰である事を
知ったアスランは、その隊長であったハイネの顛末をレイとルナマリアから伝え聞いて静かに目を閉じた。

「俺の迂闊が、彼を殺してしまったのか……」
501 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/03(金) 23:05:48 ID:???
 シンの援護に向かい、レイとルナマリアを御座なりにしてしまった結果、ハイネという優秀な人物を失う
事になってしまった事に対し、アスランは自責の念を抱いていた。
 ミネルバの周辺では、今もヴェステンフルス隊の面々が護衛に入ってくれている。隊長を失っても尚、忠
犬のようにその遺志を守る健気な姿は、傷ついたミネルバを必死に励ましているかのようでもあった。
 一方、格納庫には応急修理に入るインフィニット・ジャスティスの他にも、補給と整備を行っているレジ
ェンドとインパルスもMS用ハンガーに並んでいた。
 メカニック達の威勢の良い声が響く中、それを階上から見下ろせるレスト・ルームで、アスランを中心に
レイとルナマリアが会していた。

「しかし、ザラ隊長とシンがジ・Oを撃破し、パラス・アテネが沈んだ今、ファントム・ペインの戦力が大
きく低下した事は確かです。その結果、このLフィールドにミネルバと抗し得る敵対戦力は実質、存在しな
くなったと言えます。結果的にハイネ=ヴェステンフルスの死は無駄ではなかったと――」
「仲間の死に対してそういう言い方をするな、レイ。俺達はパイロットだ、作戦参謀じゃない」

 淡々と口にするレイに対し、アスランは呆れたように溜息をつきがてら、飲料のボトルを持った手で叱る
様に指差した。

「ヴェステンフルス隊は、今もミネルバを守ってくれているんだぞ……」
「……申し訳ありません」

 外の様子が覗えるモニターには、警護を続けるヴェステンフルス隊のMSが映されている。レイが横流しの
視線でそれを垣間見ていたが、果たして本当に反省したのかどうか。長い髪から覗く彼の瞳は、どこか虚ろ
に見えた。その一方で、ルナマリアはストローを口に咥えてもごもごと動かし、瞳が落ち着き無く方々を見
渡していた。彼女はレイとは対照的にそわそわしている様に見える。

「……そういえば、シンを見ないですけど。ご一緒ではなかったんですか?」

 ルナマリアがタイミングを計ったようにボトルから伸びるストローを口から離すと、アスランに問い掛け
てきた。口調こそ普段どおりであるが、若干強張った表情と内腿を擦り合わせている仕草が彼女の内心を如
実に示していた。
 アスランはパイロット・スーツの襟を指で直すと、汗で濡れた前髪を片手で掻き上げながら振り向いた。

「Rフィールドのイザークのところへ向かわせた。ルナマリアが言っていたコロニー・レーザーのお陰で、
向こうは戦力を欲しがっているんだ」
「シンは、その……大丈夫なんですか?」

 ルナマリアの心中を推し量るくらい、恋愛下手のアスランだって容易く出来る。

「あぁ。イザークにはシンとデスティニーの面倒を看て貰う様に言ってある。信頼できる男だ、大丈夫だ」

 柔らかく微笑む。隊員のストレス・コントロールも、隊長である自分の役目であろう。

「そうですか……」

 ベンチに腰掛け、ルナマリアは手にしたボトルを両手で包み込んだ。今の言葉と表情で理解してくれたの
だろうか、それとも気を遣ってくれているのだろうか。彼女の表情が、ほのかに柔らかくなったような気がした。
 それから3人は口数も少なく、静かに補給と修理が終わるのを待った。疲労は確実に蓄積されており、次
の出撃の時までの間、3人は体力の回復に全霊を傾けていた。
502 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/03(金) 23:06:30 ID:???
 
 Rフィールドに於けるコロニー・レーザーの被害は、ミネルバには正確に伝わっては来なかった。メサイ
アが被害を受けた事で、最高司令部からの情報や指令が途絶えてしまったのだ。Rフィールドからメーデー
を求めて駆けつけてきた伝令も、突発的な出来事による混乱と私見による抽象的な表現が殆どで、危機的
状況である事以外は具体的な詳細は何も判明できなかった。

「艦長、ミネルバを動かすべきではないでしょうか?」

 眉間に皺を寄せたアーサーが、タリアに具申する。彼の意見に、タリアは珍しく考え込んだ。
 ミネルバがLフィールドの旗艦である以上、現場を離れられない事はいくら彼でも分かる事だ。しかし、
ザフトは未曾有の危機に陥っており、そんなセオリーが既に通用しない次元にまで状況が逼迫している事は
タリアにも理解できていた。アーサーの言っている事は、決して軽率から出た言葉ではなく、現実として選
択肢に含まなければならないものであった。
 考えを纏める時間が欲しい。タリアは無言を貫いて必死に頭を回転させていた。

「ですが、それではLフィールドの統率が乱れます。こちらまで突破を許してしまったら、勝敗が決してし
まいます」

 チェンが言う。確かにその通りだと思う。しかし、ボルテールが健在である事以外、Rフィールドの具体
的な状況が判明していない以上、ここでの判断ミスがプラントの存亡を左右する可能性は十分にあった。仮
にチェンの言うように、セオリー通りにミネルバをLフィールドの旗艦として固定させておくとしても、そ
れが正しい判断かは分からないのだから。
 圧倒的に判断材料が不足している。タリアの眉間に皺が増えていく。そんな時、ふと食い入るようにコン
ソール・パネルに向かっていたメイリンが顔を上げた。

「ちょっと待ってください。受信範囲を広げて傍受した友軍の通信によると、Rフィールドを突破したエネ
ミーはメサイアへの上陸を開始したそうです。光波防御帯発生装置であるバリア・リングは機能停止状態に
陥っているらしく……」

 難しい顔をしながらも、メイリンがインカムを耳にめり込むように押し当て、そう述べる。
 僅かながら判明した状況――タリアの頭の中で2択に揺れる天秤が一方に傾いた。

「それは、確かなの?」
「ノイズ交じりなので鮮明ではありませんが……。ラクス様の演説も途絶えたままですし」

 確認を取るタリアの質問に、小首を傾げながらそう返すメイリン。アーサーが副艦長席から覗き込むよう
に顔を出した。

「白兵部隊投入による、ザフト総司令部の直接制圧が目的では無いでしょうか」
「何てこと! あそこにはギルやラクス=クライン、それにオーブのカガリ代表も居る! ――最初からそ
れが目的だったのね……!」

 ぎりっと歯を軋ませ、ストレスを発散するように激しくアーム・レストを叩いた。
 連合軍は、効率よくザフトを制圧する術を持ち出してきた。それは、本来なら物量に劣るザフトが採るよ
うな作戦だった。司令系統を失ったザフトは統率が乱れ、連合軍に蹂躙されるのを待つばかりである。それ
がジブリールのやり方と分かっても、到底受け入れる事は出来なかった。
 タリアは怒りに我を忘れそうな自分の理性を取り戻すために大きく深呼吸をした。そうして指揮官として
の冷静さを取り戻させると、メイリンへと顔を向ける。
503 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/03(金) 23:07:13 ID:???
「メイリン、ボルテールには繋げられて?」
「可能ですけど――まさか艦長!?」

 タリアの声色で察したのか、それとも単にメイリンの勘が良かったのか。それは分からないが、彼女はタ
リアの言わんとしている事が分かっているようであった。
 タリアは目を丸くするメイリンに対し、一つ首を縦に振った。

「Rフィールドの戦力が激減している状況で、両方から迫る敵を分散して対応していたのでは余りにも不利
よ。こちらの艦隊と向こうの艦隊を合流させて、ボルテールになら旗艦を任せられる」
「それじゃあ……」

 メイリンの言葉に、タリアはもう一度首を縦に振った。

「総司令部がその機能を停止させた今、緊急事態措置方策としてタリア=グラディスのフェイス権限を発動
させます。これにより、臨時にLフィールドに於ける最高指揮決定権をミネルバのブリッジが有するものと
し、これを以って以後の対応に当たる事とします」
「了解。――Lフィールド各艦とコンタクト!」
「伝令、ただ今の旨をLフィールド各艦に通達。当艦ミネルバは現作戦空域を離脱し、メサイアに侵入した
敵白兵部隊の駆逐任務へと作戦を移行します。――待機しているアスラン達にも、そう伝えて」
「は、はい!」
「進路反転、目標メサイア。後続に後退支援要請、出せ」
「ハッ。発光信号、上げ!」

 ミネルバがその身を翻し、メサイアへの行程を取る。同時に信号弾が打ち上げられ、眩い光を炸裂させた。



 シンのデスティニーがRフィールドに到着した時、連合軍は既にメサイアへの上陸を果たそうと動き出し
ている時だった。
 何が起こったのかなど、ずっと戦場で戦っていただけのシンには分からない。ただ、レクイエムに似た光
がその戦場を焼いたであろう事と、ボルテールが健在であったという事だけが確定情報として伝わってきて
いた。

「少しは休めたけど……」

 シンは一旦ボルテールに収容され、デスティニーの補給とそれから僅かな休憩をとった後、再び戦場へと
繰り出していた。
 今シンが指揮下に入っている人物は、かつてアスランと同じ部隊で活躍したというイザーク=ジュールと
いう男だった。白いグフ・イグナイテッドのカスタム機に搭乗する、少し癇の強い白服の男だ。確か、ユニ
ウス・セブン破砕作戦の時に一度協力してもらった事があったはずだ。
 元々は評議会議員の母を持つボンボンであったと言う話だが、第二次ヤキン・ドゥーエ戦役後に彼の母エ
ザリアがクーデターによって粛清されたという事を鑑みる限り、どうやら親の七光り――というわけでも無
さそうだ。若年で最高位にまで上り詰めた背景には、先の大戦の功労と一時期、最年少評議会員と騒がれた
という事もあっただろうが、それ以上にシンはイザークの戦士としての力強さに感銘を受けていた。
 アスランとは違う迫力を感じる。ジュール隊の隊長として率先して前線に赴く勇者であり、彼自身のパイ
ロットとしての能力も高い。尤も、部隊の長が進んで前線に出ること自体はそれほど芳しくない事なのであ
るが、しかし、シンの場合は寧ろそういう勇猛さを示してもらった方がモチベーションを上げやすかった。
504 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/03(金) 23:07:53 ID:???
 そのイザークのグフ・イグナイテッドを、2方向からのビームが襲った。バーニアで細かく姿勢制御を行
いながら、しかし後退することなくかわしてみせる。

『ディアッカ!』
『おう、任されて!』

 グフ・イグナイテッドの背後から、劈く複相ビームが射線元へと伸びていく。大きな砲身のオルトロスを
構えたガナー・ザクが、グフ・イグナイテッドの影に隠れるようにしてスナイプした。

『チッ! 外した!』
『隊長!』

 ディアッカの放ったオルトロスの一撃は、そのまま虚空へと消えていった。手応えは無い。その間隙を狙
う様に、側面からのビーム攻撃がイザークを襲った。しかし、その間に滑り込んだブレイズ・ザクがシール
ドでその攻撃からイザークを防御する。

『済まん、シホ』
『いえ。――もう一撃、来ます!』
『散開だ!』

 ディアッカのものとは違う複相ビームの輝きが、3機を襲った。イザークの掛け声と共に一気に散らばる
と、デブリである岩を砕いてその光は消えていく。

 シンはジュール隊と少し距離を置いて、遊撃行動を取っていた。慣れない環境で完全にイザークの指揮下
に入るよりも、ある程度融通が利く遊撃手としてジュール隊に参加した方がストレスも少ないだろうとディ
アッカが取り成してくれたからだ。尤も、イザークは良い顔をしていなかったが、お陰でシンは戦闘行動に
ある程度の自由を与えられていた。
 傍から見て、ジュール隊のコンビネーションは見事だと思う。シン達ミネルバ隊と比べても、遥かに意思
の疎通が出来ている。流石はアスランが信を置く男の部隊だけの事はある。ただ、敵方の小隊もそれに匹敵
するほどの実力を備えているようであるが――
 イザーク達を狙うMSは、3機確認されている。その内の同機種である2機の甲殻類の様な形をしたくすんだ
ブラウンのMAは初対面だが、それと連携を組んでいるカオスの姿を見て確信した。

「ファントム・ペインだからって! ジ・Oはもう居ないんだぞ!」

 機体性能の差なのか、可変型の3機は、イザークの小隊を翻弄していた。高機動力の機体のみで編成され
たファントム・ペイン――ジェリド隊に対しては、白兵能力に主眼を置いたグフ・イグナイテッドやブレイ
ズ・ザクでは相性が悪いのだろう。
 そうでなくとも動力炉の差であったり、機体設計の差であったりと、根本的とも言える部分で性能格差が
大き過ぎる。恐らく、あの新型のMAと真正面から渡り合えるのはシンのディスティニーを含めた一部の機体
のみであろう。
 言うまでも無く援護は必要だ。しかし、メサイアへと足を速める敵の存在もある。Rフィールドの要であ
るイザークを援護するか、それともこれ以上の敵部隊の侵攻を少しでも食い止めるべきか――
 一兵卒であるシンに、戦局を変えるような力は無い。彼の判断が与える影響は、微々たる物であろう。そ
れは分かっている。分かっているが、「しかし」である。

「味方に任せるべきか? けど、ジュール隊がやられればこのフィールドは潰滅しちまう。――クソッ! 
どうすりゃ良い……!」
505 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/03(金) 23:09:13 ID:???
 迷えるシンに天からの啓示は無かった。その苛立ちをぶつけるように、敵増援のウインダムに対してパル
マ・フィオキーナを叩き込む。
 イザークからの命令が無い以上、自らの判断を信じるしかない。シンは少しでも自分の判断に自信が持て
るように、つぶさに周辺状況へ目を配った。

 コロニー・レーザーの照射は、Rフィールドでの趨勢を決定付けた。殆どのザフト兵は戦意が低下し、そ
の反面で連合軍の勢いは増すばかりである。しかし、その中にあって些かも戦意を落とすこと無く抵抗を続
ける3機編隊を相手にした時、ジェリドの頭の中でそれがザフトの中心部隊であると言う推理が働いた。
 イザーク隊の連携は、大したものだった。並みのザフトMSよりはカスタムされているようだが、所詮は限
界性能の底上げを行ったに過ぎない。基本性能の違いがあるガブスレイとここまで無難に戦ってみせるザフ
トのパイロットは、さぞかし名のある猛者なのだろう。

「ヘッ! こういう相手を挫けば、俺達の勝利が近づくってね。――マウアー!」

 MAからMSへとロール回転しながら変形。砲身の長いフェダーイン・ライフルを両腕で抱えるように持ち、
前進しながら連射する。マウアーのガブスレイが付き添うように機動し、絡み合いながら入れ替わり立ち代
りの連携行動を見せる。カオスの機動兵装ポッドが細かな牽制を放つと、いよいよ以ってイザーク達は苦し
くなった。時折アクセントを加えるように輝くカリドゥスの光は、恫喝しているようにイザーク達の後退を
促進させていた。

「スティングの牽制が効いている。俺は大砲持ちに掛かる」
『ハッ』
「スティングはでしゃばっている前の2機に攻撃を続けろ。マウアーは援護だ」
『任せろ』

 後方のガナー・ザクを庇うように前列に出ている2機が、接近を仕掛けようとするガブスレイへ牽制砲撃
を掛けてくる。しかし、その行為もジェリドにとっては苦し紛れの抵抗でしかなかった。
 軽くアポジ・モーターを噴かしてその牽制弾幕を潜り抜ければ、きらりと光るオルトロスの砲口。ロック
オン警告が耳に危険を報せるよりも早く、ジェリドは既に回避運動を始めていた。
 身を捩じらせてオルトロスの一撃をやり過ごす。スティングの牽制も相俟って、グフ・イグナイテッドと
ザク・ウォーリアのバリケードを突破すると、赤く瞬いたガブスレイのモノアイがガナー・ザクを完全に
キャッチした。
 ターゲット捕捉――ジェリドの腕がスロットル・レバーを力強く押し込むと、バーニア・スラスターの光
を一段と大きくしてガブスレイが加速度を上げた。

「貰った!」
『俺にダイレクトかよぉッ!?』

 オルトロスを下ろすガナー・ザク。ミサイル・ポッドから大量の弾頭を吐き出す。噴煙の尾が煙幕になる
ように散り、ガブスレイに迫った。

「ぬるいってんだよ!」

 アポジ・モーターと四肢を連動させ、まるで踊るように機動するガブスレイ。ミサイルの嵐の中をビーム
サーベルで切り払いながら突き進む。ビーム・キャノンで撃ち落したミサイルの爆発によって一瞬の煙霧状
態になったが、構わず突き抜けてその先の敵へ向かって脚を伸ばした。
506通常の名無しさんの3倍:2009/04/03(金) 23:09:25 ID:???
支援!
507 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/03(金) 23:09:55 ID:???
 脚部クローアームがガナー・ザクの左肩を掴んだ。ビーム・キャノンで掴んだ肩部を攻撃し、ガナー・ザ
クの左腕吹き飛ばす。ガナー・ザクは焦燥して被損傷部を庇いながら間合いを広げた。しかし、それをみす
みす逃すようなジェリドではない。

「ここまでだ! 止めを刺す!」
『却下だ!』

 ガナー・ザクの男とは別の男の声が聞こえた。その瞬間、たなびくスレイヤー・ウィップがジェリドを襲
い、ビームサーベルを片手にガナー・ザクへと追撃を掛けようとしていたガブスレイの足を止めた。
 見ればグフ・イグナイテッド。漆黒の宇宙で真っ白に施された塗装は、嫌でも目に入る。余程敵に狙われ
たい性質のドMパイロットが乗っているらしい。

「チッ。邪魔が入ったか。――貴様から先にやられたいか!」
『後方を狙うとは、この腰抜けが! 貴様の相手はこの俺が――』

 その身をしならせて、再びグフ・イグナイテッドのスレイヤー・ウィップが唸りを上げる。
 ところが、そのスレイヤー・ウィップも横合いからの狙撃によって切断されてしまった。

『クッ――!』

 苦虫を噛み潰したような呻きと共に、グフ・イグナイテッドは後退する。ジェリドがフイと視線を火線元
へ向けると、マウアーのガブスレイがフェダーイン・ライフルを構えてそれを追っていった。
 ならば、と援護に失敗したグフ・イグナイテッドと入れ替わるように前に出てきたブレイズ・ザクであっ
たが、こちらはカオスの攻撃の前に防戦一方にされていた。

『私とスティングでこいつらは抑える。ジェリドは先程の作戦通り、砲撃ユニットの撃破を』
「おう! ――スティング!」

 マウアーからの通信。視線をずらせば、カオスも了承したように左腕をを軽く上に掲げた。今の通信のや
りとりを聞いていたのだろう。それを確認するや否や、ジェリドはガブスレイをMAに変形させてガナー・ザ
クの追撃に入った。

 追われる身としてのディアッカは、とてもではないが冗談ではない。砲撃戦能力に特化し、運動性能と機
動力を犠牲にしているガナー・ザクは、他の汎用機と併用する事でその真価を発揮する。それは、逆の言い
方をすれば、単機ではその性能の半分も活かせないという事になる。このイザーク達と分断された状況、し
かも脅威の新型に狙われているとなれば、誰に言われるまでも無くピンチだった。

「ナチュラルのMSがやる事か! ――ちっくしょう!」

 ディアッカは歯を食いしばると、即座に反転してバーニア・スラスターを全開にした。後ろを振り返って
敵の姿を視認している余裕など無い。かく乱するように不規則に機動し、なるべく進行方向を悟らせないよ
うな動きをとった。しかし、機動力が売りのガブスレイから鈍重であるガナー・ザクが逃げ切れるわけが無
かった。

 ジェリドの表情には確信の色が浮かんでいた。
 それは、こうしてガナー・ザクを追撃していることで分かったことである。敵小隊を分断して個々の相手
をする事で、その性能とパイロットの能力がハッキリと浮き彫りになった。その結果、ジェリドは各個撃破
が作戦として望ましいと判断した。
508通常の名無しさんの3倍:2009/04/03(金) 23:14:29 ID:???
支援!支援!
509通常の名無しさんの3倍:2009/04/03(金) 23:20:38 ID:???
さるさんかな?
続きは避難所の方に投下されてはいかがでしょうか?
510携帯 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/03(金) 23:44:26 ID:???
>>509
それだと読む人がややこしいだけなので零時まで待ってちょんまげ
511通常の名無しさんの3倍:2009/04/03(金) 23:54:03 ID:???
>510
了解です
お待ちしております
512 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/04(土) 00:02:22 ID:???
 確かに3機纏まっている時こそ手強かった。しかし、その分断に成功した今、マウアーやスティングが他
の2機に後れを取るような事は無いだろう事は容易に想像できた。
 指でコンソールの摘みを弄り、周波数を合わせる。カオスへの、ピンポイントの通信だった。

「スティングはマウアーを頼む。俺はこのまま砲戦タイプの追撃に掛る」
『了解。後でだな』
「あぁ――」

 今では兄弟のように思っているスティングの声を、ジェリドは微笑ましい表情で聞いていた。
 若干の青臭さは残すものの、スティングはジェリドが思っているよりも大人の性格をしていた。果たして
自分が彼と同じ年の時、同等の冷静さを持ち合わせていただろうか――回顧するだに、少し気恥ずかしくな
った。ともかく、彼ならば安心してマウアーを任せられるだろう。
 そうしてジェリドは視線を再び前に向けた。

「俺は、前の世界で手に出来なかったものを全て手に入れて見せる――全部だ! それを邪魔しようって言
う輩は、どんな奴であろうと叩き潰す!」

 プライド、師、友、恋人――かつての世界でジェリドが失ったモノは余りにも多すぎる。その全てが1人
の少年に集約されていた。そして、その復讐を果たそうとして返り討ちに遭い、何も成し遂げられぬままジ
ェリドの最初の人生は幕を下ろした。
 しかし、どんな因果が働いたのか、新たに新生した世界で、ジェリドは失ったものの大半を取り戻した。
唯一、プライドだけは今も取り戻せないで居るが、しかし、それを補って余りある新たな絆を手に入れた。
 今のジェリドは満たされていた。しかし、だからと言って幸福に腑抜けになったわけではない。かつて、
ティターンズを掌握してみせると意気込んだ野心は、捨てたわけではなかった。さすがにティターンズはも
う無いが、今は大西洋連邦という新たな組織がある。ジェリドの次なるターゲットは、そこでのし上がる事
だった。

 RフィールドにもLフィールド同様に連合軍の侵攻を妨害する人工の暗礁宙域がある。ガナー・ザクはそこ
へ紛れ込み、姿を隠した。

「かくれんぼかい」

 その往生際の悪さを、ジェリドは嘆息交じりに嘲った。呆れたように軽く肩を竦め、袋のネズミを追い込
むようにしてガブスレイをその中に飛び込ませていく。
 ガナー・ザクの行方は、バーニア・スラスターの光で逐次確認している。いくら逃げようとも、ジェリド
がその行方を見失うようなことはない。

「諦めたか?」

 ある大きな岩で動きを止めた。それを確認したジェリドは、フェダーイン・ライフルを構えて突撃した。

「――何ッ!?」

 しかし岩の裏側はもぬけの殻だった。そこに存在しているはずのガナー・ザクの姿は何故か無く、ジェリ
ドは面食らって慌てて周囲を見回した。
 ピピピッ――突如として鳴り始める警告音。その音がジェリドの耳に入って脳が判断し終えるのとほぼ
同時に、上方から突き立てられる槍の様にして劈く一閃のビームが、眼前の岩を貫いて二つに割った。
513 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/04(土) 00:03:25 ID:???
「戦艦の援護だと!? 一体、どこから――」

 素早くその場を離れ、コンソールを弄ってカメラにその姿を探させる。全天モニターの左右に、次々とワ
イプが浮かび上がっては消えていく。そして、MSの影をカメラがヒットすると、それを正面に表示させてジ
ェリドは敵の姿を確認した。

「違う! あれはミネルバのMS! 羽付きのデスティニーとかっていう――」

 カメラが捕捉した方向へガブスレイが振り向く。翼のようなバーニア・スラスターの光を輝かせながら機
動するMSと、それに抱えられるように先程のガナー・ザクが行く。

「脅しやがって! 逃がすか!」

 ジェリドがフェダーイン・ライフルで狙撃すると、デスティニーがガナー・ザクを手で押してその場から
離脱させた。そうすると、今度はガブスレイに向けてもう一度高エネルギー砲を放った。

「そうかい。キサマが相手になるってか!」

 直撃を受ければ、ガブスレイとて一撃で終いだろう。その複相ビームは岩を砕きながらも、しかし減衰を
殆どすることなくガブスレイを襲う。バーニア・スラスターの推力と岩を蹴った反動で機敏にかわして反撃
するも、こちらの攻撃は邪魔な岩に阻まれて碌に効果も無い。ジェリドは苛立ちに舌を鳴らすと、不利な
フィールドであるデブリ帯の中から飛び出した。
 ガナー・ザクには逃げられてしまったか。しかし、ジェリドのターゲットは既にガナー・ザクではなく、
現時点で相対しているデスティ二ーへとスライドしていた。こういう大物を仕留められれば、また一歩、野
望に近づく事になる。
 デスティニーの光の翼が、更に大きく広がった。派手さと比例するデスティニーの機動力は、更にコロイ
ド粒子による残像をも生み出して、あたかもイリュージョンを披露しているような芸達者な一面を見せる。
しかし、それは芸という生易しいものでは決してなく、人の視覚を惑わせる魔性のリンプンであった。美し
い輝きは、これから屠られるであろう哀れむべき者へ向けられた餞別なのかもしれない。
 デスティニーが肩から柄の様なものを取り出した。ビームダガーと呼ぶべき短刃を発生させて、サイド・
スローで投擲してくる。投擲武器など、ビームライフルが全盛の現代に於いては子供の玩具のようなもので
ある。ガブスレイが、子供騙しに過ぎないような攻撃を防げないわけが無かった。
 回転して襲い来るそれを、ビームサーベルで一笑に付すように弾き飛ばす。敢えてかわさなかったのは、
余裕を見せることで相手にプレッシャーを与える為だ。
 ところが、それにも拘らずデスティニーはもう片方の肩からも同じ柄を取り出して、同じ様に投擲の姿勢
を見せた。プレッシャーが通じないほど鈍感なのか、それともジェリドの事を侮っているのか。どちらにせ
よ、舐められている事には違いなく、ジェリドは腹に据えかねない苛立ちを感じた。

「2度も同じ事をさせるか!」

 脇構えのフェダーイン・ライフルをロング・ビームサーベルにしてデスティニーに急襲する。もう一度投
擲をさせるつもりは無かった。下から掬い上げるようにして振り上げられる逆袈裟斬りが、デスティニーを
完全に捉えていた。
 デスティニーが投擲モーションを止め、手にしたビームダガーを構えた。敵はリーチ差も考えられないの
か――先程の投擲で、ビームダガーの刃渡りの長さはロング・ビームサーベルに遥かに及ばない事は了解済
みだ。防げるわけが無い。
514 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/04(土) 00:04:06 ID:???
 ところが、そのジェリドの予想を覆すかのように、ビームダガーはその刀身を伸ばした。それも、思った
以上に長く伸び、一般のビームサーベルのそれと同等の長さになる。意図して出力を絞っていたと言う事な
のか――この時点で、ジェリドの間合いは崩された事になる。
 ビーム刃同士がぶつかり、反発力を起こす。長得物の分、ロング・ビームサーベルのガブスレイの方が硬
直が大きくなり、その隙を突いてデスティニーが先に二撃目を振るった。
 デスティニーの水平斬りが、フェダーイン・ライフルの砲身を薙ぎ切った。更に返す刃でビームサーベル
を振るうデスティニーの斬撃をかわしつつ、ガブスレイは両肩部のビーム・キャノンを2連射する。しかし
デスティニーは素早い反応でビームシールドを展開し、それを防いだ。その隙にガブスレイはビームサー
ベルを引き抜き、振り下ろされるデスティニーのビームサーベルにそれを重ねた。

『あんた達のやり方ぁッ!』

 若い少年の声だ。激しく激昂するのは戦闘中ゆえの興奮のせいか、はたまた未熟な感性によるものか。ひ
たすらに青く生臭い声は、腹に据えかねる誰かを想起させる。

『戦略兵器を幾つも持ち出して、そうまでして俺達を滅ぼしたいのか!』
「馬鹿め。ガキの声で、何を言う!」
『ガキが口にしちゃいけない事なのかよ!』

 拮抗。光り輝く刃は輝度を増し、迸る2人の情熱を表現しているかのように燃え盛る。流動的に形を変え
る刀身はまるで有機物のように揺れ曲がり、滾る2振りの朧はしかし一体化するように絡み合う。
 譲れないものが互いにあるからこそ、退かない。退けば、それは自らの敗北を意味し、守るべきものはそ
の瞬間に音を立てて崩れ去る。己の正当性を証明するためには戦って勝利する、ただそれだけしか方法は存
在しない。2人の意地だった。

『そうやって聞く耳も持たずに、一方的な虐殺を繰り返してぇッ!』
「ほざけッ!」

 ビームサーベルでデスティニーの斬撃を防ぐ。左手にもビームサーベルを握らせ、デスティニーのコック
ピット目掛けて突きを放った。ところが、デスティニーはそれをマニピュレーターの掌で叩き除けた。まる
で武術の達人が相手の拳を受け流すように弾き、ジェリドは狐につままれた様な気分にさせられた。
 そのような武器が搭載されているとは聞いていた。一種の暗器であると取っていたが、驚くべくはそれを
この様に使いこなすセンスか。コーディネイターだからという理由だけでは無いだろう。それは、パイロッ
ト・センスの顕現である。
 ガブスレイがビームサーベルを2本構えた事で、デスティニーが無理矢理にバーニア・スラスターの推力
を上げて強引に突き放してきた。ガブスレイの二刀流を警戒しての事だろう。
 デスティニーが左手に持つビームライフルの砲口が、コックピット・シートに腰掛けるジェリドを目掛け
るように光り瞬いた。全天モニターの画面に、幾条ものビームの軌跡が降り注ぐ。

『地球を追い出して、ソラで虐めて――それで楽しいのかよ、満足なのかよ!』

 デスティニーには、絶対に負けられないと思った。こちらの感情を逆撫でするような癇の強い声と、その
言い回しがカミーユを連想させるからだ。
 幾度となく苦杯を舐めさせられた因縁深き相手――それと同じ匂いのする手合いに負けるわけに行かない
のが、ジェリドだった。もう、敗北は十分であった。
 このパイロットとして大きな可能性を秘めた敵が、やがて大きな脅威となって身に不幸を振り掛ける様な
予感がしていた。カミーユに似ているから、という理由からだろうか。そういう敵を捨て置いたままでいれ
ば、いずれまた仲間の命を奪われてしまうような気がしていた。
515 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/04(土) 00:04:47 ID:???
 ビームライフルの攻撃を掻い潜って再接近を試みる。今ならまだ、対抗できる。ここで後顧の憂いを断っ
ておくべきだと思った。

「ヘッ! 戦場で説法か? チャラけて居られるのも、今の内だぜ!」
『チャラけであって堪るか!』

 逆水平、袈裟、突き――2本のビームサーベルから繰り出す斬撃を、デスティニーは残像で誤魔化しなが
ら避ける。反撃のビームライフルが撃たれたが、ジェリドは見事な体捌きで掠らせもしなかった。逆に間隙
を縫って距離を詰め、再びビームサーベルを交わす。ジェリドのヘルメットのバイザーが目まぐるしく光を
反射し、眩しさにその目を細めた。

『衛星砲と言い、先程のレーザー攻撃と言い、根絶やしにしようっていう魂胆が見え見えなんだよ!』

 少年の声は、怒りと絶望が綯い交ぜになっていた。気持ちは分からないでもなかったが、だからと言って
遠慮してやる道理は無い。

「だから、どうした!」

 戦術レベルの戦いで種がどうのこうのと言った大局的な話はジェリドの趣味では無い。しかし、彼がティ
ターンズで手に入れられた確たる信念が、一つだけあった。

「この世は弱肉強食だ! 力ある者が全てを制し、力の無い者はそれに従うんだよ!」

 デスティニーが一瞬、虚を突かれた様に弛緩した。ガブスレイはビームサーベルを弾き、斬撃と突きを何
度も繰り出し、デスティニーを圧倒する。

『力……俺が求めていた……! それが、世界の理だと!?』
「権力、体力、知力、気力――“力”のある者だけが、高みへ昇る資格がある! この戦いは、俺達とお前
達の力比べだ! 負けた方が勝者の言う事に従う――当然の事だ!」
『馬鹿な! そんな奴らが支配する世界で、誰が生きていけるものか!』

 デスティニーが窮している。こちらから繰り出す攻撃に、防戦一方になっていた。言葉で押されて、動揺
してしまっているのだろう。つい先程の調子に比べ、若干覇気が弱くなっていた。パイロットとしての能力
の高さとは裏腹に、精神的にはまだ脆弱な部分があるようだ。
 ここは、一気に押し込める――そう確信したジェリドは更に語気を強めてデスティニーに襲い掛かった。

「強者だけが生きていける世界になる! それこそが、この世界の真の姿だ!」
『――ンなわけあるか! そんなんで平和って言えるのかよ! おかしいだろ、絶対に!』
「なら、教えてやる!」

 強がってはいるが、デスティニーに本来のキレは無い。左右のビームサーベルでそれぞれ袈裟、逆袈裟と
斬りかかると、続けて放った右のハイキックがデスティニーの右腕にヒットし、その手に持っていたビーム
サーベルを弾き飛ばした。

『クッ! ――なら、こいつで!』
「遅いッ!」
516 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/04(土) 00:05:39 ID:???
 デスティニーが左手のビームライフルを差し向けた。しかし、ガブスレイは右腕を差し込んでデスティ
ニーの左腕をかち上げる。ビームライフルは虚空しか存在しない上方に向られ、虚しくビームの軌跡を伸ば
した。
 がら空きだ。この至近距離で、デスティニーはあられもないほど無防備な姿を晒している。

「終わりだ!」

 ガブスレイのモノアイが瞬いた。それはジェリドが勝利を確信した証。しかし、何故か頭の中には仲間の
顔が走馬灯のように浮かんでいた。ブラン、アウル、ライラ、カクリコン、スティング――そしてマウアー
が微笑んだ。時間の流れが、急に停滞し始めた。
 左のビームサーベルを振るう。その切っ先が間違いなくデスティニーの胴体部へ伸びるのが、ハッキリと
確認できた。そして、この不思議な感覚は達人の境地なのだと確信した。何故なら、デスティニーの撃破は
火を見るより明らかだったからだ。
 MSのパイロットとして、遂にここまで自らを昇華させる事が出来た。正に、これ以上無いという境地だ。
今なら苦杯を舐めさせられ続けたカミーユにだって勝てる気がする。――間延びした刻の中で、ジェリドは
歓喜の表情を浮かべていた。

 2人を見つめる砲身が、煌いた。


 グフ・イグナイテッドとブレイズ・ザクは、スティングとマウアーにとって敵ではなかった。接近戦に特
化したグフ・イグナイテッドとスタンダード・タイプのブレイズ・ザクは、相性が悪い。砲戦タイプのガナ
ー・ザクが揃ってこそのイザーク小隊は、トリオの1機が欠けただけで脆弱になった。
 対してマウアーのガブスレイも自分のカオスも高速戦闘が得意なカテゴリーのMSである。MS形態とMA形態
を巧みに使い分ける術は誰よりも心得ている自信があった。既に長く愛機としているカオスの特性は、身体
に染み込むまでにスティングは把握している。
 ブレイズ・ザクがビームライフルで牽制。スティングはMA形態のカオスで大きく弧を描いて優雅に回避す
る。間髪入れずに下方からエネルギー反応を察知。急制動を掛け、MSに変形して四肢を大きく振るAMBAC制
御でこれをやり過ごす。

『食らえッ!』
「ム……ッ」

 スティングの背後から鉄線がしなって襲い掛かる。振り返ると同時に、マニピュレーターにビームサーベ
ルをスタンバイさせた。
 スバッ――そんな音が聞こえてきそうな一コマだった。振り返りざまに水平に薙ぎ払おうとしたカオスの
ビームサーベルを差し置いて、スレイヤー・ウィップを切り飛ばしたのはマウアーのガブスレイだった。カ
オスの上方から降ってきて、ビームサーベルでスレイヤー・ウィップを一刀両断したかと思うと、そのまま
のスピードで駆け抜けていく。

「マウアーは俺の保護者気取りか? ――逆のつもりなんだがな!」

 そんな文句を口にしながら、グフ・イグナイテッドを睨み付けた。スレイヤー・ウィップを斬られて、お冠
であるらしい。そんな事は知った事かと、スティングは鼻で息を鳴らした。
 この流れなら、余所見をしている余裕すらある。スティングは機動兵装ポッドを1基飛ばすと、ガブスレ
イが向かった先にカメラを向けた。マウアーは既に別の敵に取り掛かっており、フェダーイン・ライフルで
次々と敵MSを葬っていく。その爆発の軌跡が、数珠繋ぎとなって瞬いては消えていった。
517 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/04(土) 00:06:19 ID:???
 言葉など交わす必要は無かった。チームとして成熟した自分たちには、状況を見るだけで互いに何が必要
なのかを察する事が出来る。それは、仲間という枠を超えた、家族のような信頼関係だった。

「お偉方連中はコーディの粛清だとか地球圏の統一だとか息巻いているようだけどな! 俺達は最高のチー
ムだ、それだけで十分だぜ!」

 ザフトの増援が現れた。しかし、スティングには問題ではなかった。ビームライフルで一瞬にして撃破す
ると、「よっしゃあ!」と快哉を上げた。
 ジェリドは自分の大切な人を任せてくれた。それは彼が自分に相応の信を預けてくれていなければ出来な
い芸当だ。そういう信頼関係で結ばれているからこそ、実感できる充足感というものがある。他人に必要と
されているという実感が、スティングをより強くさせていた。

 何処からともなく信号弾が紛れ込んできた。派手に煙を撒き散らしながら、かく乱するように自由奔放に
掻き乱したかと思うと、鮮やかな閃光を放って戦場を照らした。それは、連合軍の信号弾の色ではない。ス
ティングの記憶の中には、その信号弾の色は無かった。

「この発光信号……マウアーは知ってるのか?」

 ふと、交戦していたグフ・イグナイテッドが大きく腕を仰いで何かを指示している。そして、それに呼応
してザフトのMS部隊が続々と後退を開始した。やはり、ザフトの後退命令だったようだ。
 バーニア・スラスター光の尾びれが、吸い込まれるようにしてメサイア方面へ向かっていく。それはザフ
トのものも連合軍のものでもある。戦線が、メサイアの周辺にまで上がっているという事の証左であった。
 イザーク隊も後退命令に従って退いていった。急に周辺が閑散とし出し、スティング達の戦闘状態は解除
された。
 友軍部隊は休むことなく進撃を続けている。追い越していくMSやMAを眺めながら、スティングは戦闘状態
に緊張して強張っていた身体を解す様に軽く深呼吸をした。

「メサイアへの上陸命令が出ているからな。けど、俺達は――なぁ、マウアー」

 コンソールパネルのスイッチを弄って通信回線を繋ぐ。カメラがガブスレイの姿を探し、スティングは労
うような声でマウアーに呼びかけた。

「……マウアー?」

 様子がおかしい事に気付いたのは、呼び掛けて10秒ほど応答が無かった頃だった。再度、呼びかけて見る
も、反応が返ってくる気配は無い。
 怪訝に思って通信回線の周波数を確認してみた。間違いない、確かに繋がっている。
 ピピッという音と共にカメラがガブスレイの姿をキャッチした。そこには、続々とメサイアへと向かうMS
の群れの中で不自然に直立したまま動かない姿があった。不思議に思って眉を顰め、スティングは軽く操縦
桿を傾けて徐にガブスレイの所へ向かった。

「どうした、マウアー? 早くしないとジェリドがうるさいぜ」
『スティング……』

 アポジ・モーターを細かく噴かせて傍らに寄り添うと、そっとマニピュレーターをガブスレイの肩に置い
た。ところが、ようやく返ってきたマウアーの声は普段の彼女からは想像できないほど弱々しく、か細いも
のだった。
518通常の名無しさんの3倍:2009/04/04(土) 00:06:42 ID:???
支援!
519 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/04(土) 00:07:47 ID:???
「どっかやられたのか? 見た目はそんなに……損傷は見えないが」

 ガブスレイに損傷らしい損傷は無い。目を凝らせば装甲が少しへこんでいたり、細かい傷も多数見受けら
れるが、その程度の傷はどんなに優れたパイロットであろうとも免れる事は出来ないし、そういう傷が原因
でMSが機能不全を起こしたなどという事例は無かったはずだから、動けないはずは無い。
 ただ、どこか動くのを拒否しているようなマウアーのガブスレイが、何故か不安だった。

『……そうだな。ジェリドが待っている』

 次に返ってきたマウアーの声は、普段どおりだった。しかし、後に思い返した時、その時のマウアーは無
理に平静を装っていたのだと気付いた。それは、遅すぎる理解だったのだが。

「なら、合流だ」

 何の気なしに、スティングはマウアーを促した。その時のマウアーが何を感じていたのか、その時点のス
ティングには知る由も無かった。
 しかし、ある宙域で胸部から上だけになった、そのMSの残骸を発見した時、思い知らされた。

 頼りなげに宇宙という虚空に浮かぶスクラップ。本来は甲冑を纏ったような装甲を持つ人型のロボットで
あった。見事に腹部を狙われていて、下半身部分は既に何処かに流されて見当たらない。一直線の溶断面で
ある事から、一撃でやられていることが分かる。溶断面付近の装甲は焦げていて、褐色を黒く汚していた。
 付近に敵は存在していなかった。恐らく、到着前に決着が付いて、その後に先程の後退命令に従って去っ
て行ったのだろう。周辺は不自然に岩が浮いている、いわゆる暗礁宙域であり、「これ」をやった敵MSのタ
イプが砲撃戦タイプであると推測する事が出来る。岩を隠れ蓑にしてかく乱し、隙を突いて狙撃したのだろ
う。下半身部分が喪失してしまっているので言い切ることは出来ないが、他に損傷が無い事を鑑みるに、勝
負は一瞬で決まってしまったらしい事が覗える。
 まさかと思うが、あのガナー・ザクなのだろうか。敵を出し抜けるほどの狡猾さを持っていたとするのな
ら、目測を誤ったと言わざるを得ない。「これ」のコックピットを正確に狙撃するその手並み、単機で行っ
たとしたら、これは驚異的だ。鈍重な砲撃戦MSで、高機動型である「これ」を相手取って勝利を収めてしま
うのだから。

 ――だから、どうしたと言うのか。残骸と化した「これ」の現場検証を行ったところで、それは現実逃避
に過ぎない。しかし、そうやって適当な事を考えていなければ、この受け入れ難い現実に頭が錯乱し、どう
にかなってしまいそうな自分が居た。
 光の灯らないモノアイ。まるで、人が死んでいるように「これ」は静かに浮かんでいた。全ての機能を停
止し、二度と動く事の無いMS――ガブスレイ。これで、パイロットが生きているはずが無いのだ。

 スティングは無言のまま物言わぬガブスレイの残骸を見ていた。耳には無線が傍受している、友軍の連絡
を取り合う声が幾重にも重なって聞こえていた。彼等が仲間の無事を確認しあう度に、溢れ出しそうな涙を
堪える。
 マウアーを見た。佇む彼女のガブスレイは、微動だにしない。ただ、吸い込まれるように同じ姿をしたMS
の残骸を見つめているだけだった。
520 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/04(土) 00:08:28 ID:???
 何か声を掛けようと、コンソール・パネルに手を伸ばした。しかし、今のマウアーは誰にも声を掛けて欲
しくないだろうと思い、直前で思い留まった。彼女は、自分以上に堪えているはずだからだ。――尤も、励
ましの言葉が見つからなかったと言うのが本当の事であったが。

「いや、違うな……」

 或いは、慰めの言葉が欲しかったのはスティングの方だったのかも知れない。最も親しい仲間を失ったや
るせなさをどうにかしたいが為に。虚無に沈んでいきそうな心をもう一度奮い立たせたいが為に。そして、
何よりもマウアーが大丈夫であるという確証を得たいが為に。
 マウアーは動かない。スティングはその痛ましい姿から目を逸らすように、周辺状況へと注意を向けた。

「メサイアへの上陸作戦は進行中、か……」

 補給へと母艦に戻るMSや、逆に発進してメサイアを目指すMSがそれぞれ居た。艦隊は進撃を強め、ザフト
の最終防衛ラインである岩の要塞にバーニア・スラスターの尾を伸ばしていく。
 戦局に、一人の兵士の死など取るに足らぬものなのかもしれない。軍は大事の為に動かなければならない
と分かっていても、しかし勢いづく連合軍の士気とメランコリックな自分の気分のちぐはぐさが、理不尽さ
を感じさせていた。
 スティングは呟くと、唾を吐き捨てるような舌打ちをした。

「マウアー、ナナバルクへ戻ろう。俺達、休む必要がある」

 返事を聞かないように、言葉を投げ掛けた瞬間に通信を切った。泣きじゃくるマウアーの声を聞いてしま
えば、自分も絶対に号泣してしまうだろうと分かっていたからだ。今はまだ泣くべき時では無いと、スティ
ングは本来の形を失った残骸に背を向ける。
 ゆっくりと、操縦桿を押す。背後を映すカメラに目を向けながら、そのガブスレイであった残骸に別れを
惜しむようにスティングは目を瞑った。その少し後、マウアー機が後ろ髪を引かれながらも機体を反転させた。

「何故だ、ジェリド……マウアーのこと、どうするんだ……」

 少し前、死ぬつもりは無いと見得を切っていたのを思い出す。あれは、結局何だったのだろうか。ジェリ
ドに裏切られたという気持ちは無かったが、あれはある種の約束であったと思っていた。

「法螺吹きジェリドめ……」

 顔を上げる事などできなかった。スティングは俯いたまま、カオスを母艦へと向かわせていく。
521 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/04(土) 00:15:47 ID:???
ファントム・ペイン側の視点からお送りした今回は以上です。
今回も長くなってしまってごめんなさい。規制解除まで待ってくれてた人ごめんなさい。
支援してくれた方さるさんに支援は効かないらしいです。
とりあえず長丁場お疲れ様でした。

んで、ジブの切り札は何の捻りも無くコロニー・レーザーでした。
レクイエムを後出しにしたほうが良かった気がしないでもないですけど……

ちなみに話の中で描写することがないので補足しておくと
ジェリドを狙撃したのはディアッカ=ザ=グゥレイトです。
522通常の名無しさんの3倍:2009/04/04(土) 00:18:53 ID:???
グゥレイトォ!やる時はやるのが俺、ってね!
523通常の名無しさんの3倍:2009/04/04(土) 00:23:10 ID:???
投下お疲れ様です!

うーん… カツ・サラ、ブランに続いてライラにジェリドまで退場とは
何かZキャラだけが連続して退場するというのは…
それにしてもジェリドが退場するとは思えなかった
もうちょい後のほうまで関わってくると思ってたのになぁ…残念です

次回も楽しみにしております!
524通常の名無しさんの3倍:2009/04/04(土) 01:25:22 ID:???
さすが炒飯、おいしいトコどりだぜ
525通常の名無しさんの3倍:2009/04/04(土) 10:38:40 ID:???
今回もGJ! しかし…
・UCでの、特に大事な仲間達とほぼ再会でき、揃って生き抜いてきた。
・鍛えがいのある後輩を得て、指導する側としても成長した。
・連合トップを目指すという、上昇志向に値する明確な目標がある。
・レプリカZや運命等、とっておきの主役機に対してもガブスレイは
  まだまだ十分なアドバンテージを確保していたetcetc

かように心身環境とも絶好調で、正直ある意味シロッコ以上に
どうやったらやっつけられるのか見当もつかなかったここのジェリドが…
小説ファーストのリュウを髣髴とさすこのあっけない苦味がまたイイ。
526通常の名無しさんの3倍:2009/04/04(土) 12:37:05 ID:???
乙です!
527通常の名無しさんの3倍:2009/04/04(土) 21:16:44 ID:???
あえて言わせてください・・・
ジェリドオオオオ!!何でお前があああああ!!

失礼しました。(泣)
528通常の名無しさんの3倍:2009/04/04(土) 23:28:14 ID:???
GJ!
ジェリドはある意味幸福だっただろう。勝利を確信したまま死んだ訳だし。しかしこのディアッカは狡猾で残忍だぜ……
529通常の名無しさんの3倍:2009/04/05(日) 03:19:27 ID:???
ちらほら人死にが出てきたってことは、終わりが近いんだろうか
530通常の名無しさんの3倍:2009/04/05(日) 04:09:35 ID:???
ここでコロニーレーザー!
そして途絶えた らくす の せんのうは

流石ライラは佳い女
そしてジェリド!
何の因果かシンとの戦いってのはありそうだなと思ってたけど
まさかこういう結末とは……!
何気に逃げ切ってしっかり狡猾な炒飯はグゥレイトゥだぜ

あとドMパイロットイザークにワロタw
531通常の名無しさんの3倍:2009/04/05(日) 07:08:07 ID:???
カミーユ氏にはこの連載が終ったら
もしカミーユが00の世界に来たらを執筆してもらうことが決定してる
532通常の名無しさんの3倍:2009/04/05(日) 18:47:19 ID:???
王道の戦争を書いてるわけじゃないし、00の世界とか行っても活躍のしようがないだろ
ハイパー化してCBフルボッコして満足?
533通常の名無しさんの3倍:2009/04/05(日) 18:58:04 ID:???
UCCE混ぜ混ぜで 真ガンダム 散華!刻の大落涙編 を執筆してもらったほうが
534通常の名無しさんの3倍:2009/04/05(日) 18:59:03 ID:???
>>532
満足!
535通常の名無しさんの3倍:2009/04/05(日) 19:59:28 ID:???
こりゃ痛い
536通常の名無しさんの3倍:2009/04/05(日) 23:26:44 ID:???
ゴォォッドォォォォオジョォォォォブッ!!!
やはり神だ!
537通常の名無しさんの3倍:2009/04/05(日) 23:39:36 ID:???
>>532
カミーユは明らかにイノベイターに対して反発するだろう
やってることがシロッコの裏からの暗躍に近いし
538通常の名無しさんの3倍:2009/04/05(日) 23:53:48 ID:???
どのみちCBにも同調する事はないだろうから話を作りにくそうだな
539通常の名無しさんの3倍:2009/04/06(月) 00:17:14 ID:???
なに作者無視して勝手に話進めてんだかw
540通常の名無しさんの3倍:2009/04/06(月) 00:21:14 ID:???
今のシリーズの場合、UCで死んでCEに来てこれまた死んだら
今度はどこへ行くのかというのが気になる。
SSになるかどうかは別としてね。
541通常の名無しさんの3倍:2009/04/06(月) 00:50:07 ID:???
アローズはまんまティターンズだしな
542通常の名無しさんの3倍:2009/04/06(月) 00:57:16 ID:???
00厨ってしつこいね
543通常の名無しさんの3倍:2009/04/06(月) 12:18:08 ID:???
>>540
ク●ノス星だったりして、ジェリドの中の人的に
544通常の名無しさんの3倍:2009/04/06(月) 13:21:04 ID:???
お誂えむきにサラ(CV水谷優子)も戦死してるからな。
しかし性格の悪い兄妹になりそうだw
545通常の名無しさんの3倍:2009/04/06(月) 15:47:03 ID:???
遅まきながらカミーユ氏GJ!
どうしてカミーユ氏のルナマリアはこんなに可愛いんですか?(*´Д`)ハァハァ
546通常の名無しさんの3倍:2009/04/07(火) 01:25:49 ID:???
タリアの声で○○フィールド とか防衛の指示を出してる所を想像すると
なんとなく不安になるア・バオア・クーマジックw
547通常の名無しさんの3倍:2009/04/10(金) 01:15:00 ID:???
捕手
548通常の名無しさんの3倍:2009/04/10(金) 22:28:49 ID:???
投手
549通常の名無しさんの3倍:2009/04/10(金) 23:54:40 ID:???
遊撃手
550通常の名無しさんの3倍:2009/04/12(日) 08:55:50 ID:???
二塁手
551通常の名無しさんの3倍:2009/04/13(月) 01:06:10 ID:???
一塁手
552通常の名無しさんの3倍:2009/04/13(月) 21:35:46 ID:???
ジェリド好きのオレにはツライ展開です(´;ω;`)
553通常の名無しさんの3倍:2009/04/14(火) 04:51:35 ID:???
ザフト側があんま死んでないな
554通常の名無しさんの3倍:2009/04/18(土) 06:55:36 ID:???
これからだよ
555 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/18(土) 22:43:33 ID:???
  『ザフト崩壊』


「連合軍が、メサイアを取り囲んでいます。ザフトは防戦一方です!」

 ブリッジに響く悲鳴。中腰でモニターの映像を食い入るように見つめるユウナの瞳に、陥落間近のメサイ
アは絶望となって映されていた。

「な、何が起こったっていうんだい……?」

 驚愕に声を震わせるユウナ。トダカも絶句して目を剥いている。CIC担当の1人が、振り向いた。

「巨大な人工建造物をキャッチ。これは――」

 ユウナはシートを離れ、手で天井を押してその者のところへ流れる。突起に手を添えて制動をかけると、
レーダーに反応している物体の巨大さに眉を顰めた。

「正面モニターに出せ」
「ハッ」

 CGで合成されたその物体が、正面の大画面モニターに表示される。それは巨大な円筒形の物体で、筒の口
付近には多数のエネルギー充填用のミラーが並べられていた。一見、途方も無く大きな砲身のようにも見え
るが――

「これ、コロニーじゃないか……」
「反射衛星砲の中継ステーションでもありません。コロニーそれ自体が、巨大な光線兵器になっている模様
です」

 コロニー・レーザー近辺には、多数の艦隊が陣取っている。恐らく、クサナギとその随伴艦隊の存在も察
知されているだろうが、その艦隊が動き出す気配は感じられなかった。仕掛けてこない限り、コロニー・レ
ーザーの防衛を優先するという事なのだろう。そこから見ても、コロニー・レーザーが連合軍にとっての虎
の子である事が読み取れるも、今のクサナギにそれを制圧するだけの力は微塵も無い事をユウナは分かって
いた。
 そんな事よりも、現状で最優先しなければならないのは、一刻も早くメサイアに馳せ参じる事である。
状況が判然しない限り、カガリの安否すら確定できないのだから。
 ユウナはトダカに振り向いた。

「クサナギの進路はメサイアで固定だ。今はあんなのに構っている暇は無いよ」
「元より。――クサナギは進路そのままでメサイアへ向かう」

 一応、艦隊としての形は成しているが、その殆どが補給艦であり、今更ザフトに加勢しようにも到底戦力
になるような規模ではなかった。しかし、それでもカガリを救出する為には敢えて飛び込まなければならな
い。クサナギは、絶望の中へ足を踏み入れようとしていた。


 メサイアに寄り添うようにしてミネルバは存在していた。港湾を塞いで仁王立ちするミネルバは既にメイ
ンエンジンが不調を訴えていて機関出力も碌に上げられない状態であり、砲台としての最低限の機能しか発
揮できていなかった。
556 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/18(土) 22:44:15 ID:???
 そんなミネルバを援護するヴェステンフルス隊は、尚もハイネの遺志を継ぎ戦っていた。敵を蹴散らして
はいるが、そんなエース部隊の彼らも、押し寄せる敵の多さに損傷を受けていないMSの方が少なかった。
しかし、その中で現状で出来うる最上級の働きを、彼等はしていた。亡き隊長の、その名を汚さぬように。
 それでも、必死に抵抗するザフトの攻撃を潜り抜けてメサイアの内部へ侵入してきたMSも居る。メサイア
内部では、連合軍のMSが施設を破壊して蹂躙していく様が繰り広げられていた。

 1機のウインダムが、ミネルバとヴェステンフルス隊の苛烈な砲撃をすり抜けて僅かな隙間からメサイア
へと侵入する。ハンガー・デッキへ入り込み、避難兵を収容する為に待機している脱出艇へとビームライフ
ルを差し向けた。
 その瞬間、突如として横から現れたMSに、脇腹をビームサーベルで突き刺された。何かに縋るように手
を伸ばし、ガクガクと機体を振るわせて息絶えるように身体を曲げるウインダム。MSはビームサーベルを
引き抜き、メサイア内部での爆発を避けるためにマニピュレーターで押して外へと放り出す。

「不意討ちだからって、悪く思わないでよね。こっちも必死なのよ」

 ルナマリアはヘルメットのバイザーを上げ、顔に滲む汗を拭った。汗に濡れた前髪が目蓋を刺激してひり
ひりとする。それを、煩わしそうにヘルメットと顔の隙間へ横流しに押し込んだ。ルナマリアの瞳は絶えず
敵を探して眼球運動を繰り返し、瞬きの回数の少なさから若干の赤眼になっていた。
 そうこうして一息ついていると、再び敵MSが侵入してきた。今度は複数だ。外郭部隊は押されているのだ
ろうか――ルナマリアは考えながら、既に愛機となって久しいようにも感じ始めたインパルスにシールドを
構えさせた。
 途端、新たに侵入してきた内の1体が跳ねた。――その表現自体、無重力で上下左右のない世界で妥当だ
とは思わないが、しかしそう見える光景であった。次の瞬間、その他の敵MSを複数のビーム攻撃が襲う。
針が突き刺さるように撃ち抜く軌跡は、MSの頭部やバック・パック、或いは武器を携行している腕であった
りを正確に破壊し、戦闘能力を奪い去っていく。そして、無重力に漂うだけになったそれらのMSを、殴りつ
けるようにして外部へと排除していくダーク・グレーのGタイプ。勿論、メサイアの中で爆発させない為の
行為であり、敵に情けを掛けたわけではない。レイのレジェンドであった。

「レイ!」

 ルナマリアもそれを手伝いがてら、援護を感謝するように歓喜の声を上げた。レジェンドの大きなバック

パックに、メサイア内からMSを排除する作業と並行しながらドラグーンがリセットされていく。その頭部
がインパルスを横目で見るように光を灯すと、レイからの通信回線が入ってきた。

『複数の相手は俺に任せろ。ルナは撃ち漏らした敵を仕留めてくれればいい』
「そうさせてもらうけど――ザラ隊長の方だって気になるもの。おたおたしてらんないのよ」

 全ての敵MSを外に排除してから、呆れているとも疲れているとも取れるような溜息をついた。
 ルナマリアは、何人かの人員を引き連れて要人救出の為にメサイアの内部へと向かっていったアスランの
事を気に掛けていた。結局、インフィニット・ジャスティスは修理が追いつかず、アスランはデュランダル
達の救出へと身一つで向かっていったのである。
 MSが駄目だから仕方ないとはいえ、ろくすっぽ指揮を執らないアスランは好き勝手が過ぎるような気もし
ないでもない。ハイネが居なかったならファントム・ペインに出し抜かれ、今頃ミネルバの存在はなかった
かもしれないという事を分かっているのだろうか。ルナマリアの溜息には、そういった思いも込められていた。

『シンがジュール隊と合流してファントム・ペインの3人目を撃破したんだ。ザラ隊長も大丈夫のはずだ』
557 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/18(土) 22:44:55 ID:???
「それって、さっきのボルテールからの全周波通信のこと?」

 レイの方は、アスランの事を信頼しているらしい。男の友情とか言うものだろうか。女には分からない事
なのだろう。ルナマリアは敢えて理由を尋ねなかった。

『そうだ。恐らく、ザラ隊長も知っているはずだ』
「今のザフトって、そういう話題、少しでも多く欲しい時だものね」
『ああ、随分と助かっている』
「へへ……」
『ん?』

 照れくさそうに笑い、人差し指で鼻を擦る。そんなルナマリアの仕草に疑問を呈するようなレイの視線を
感じ、取り繕うように一つ咳払いをした。
 根拠の無いレイの「アスラン安全説」をどこか猜疑心交じりに聞いていたルナマリアだったが、シンの活
躍に関しては頗る嬉しかった。自分の事では無いのに、まるで自分を褒められているような気分だった。

「そ、そうよ。助かってるのよ。ザフトはピンチだけど、アイツは1人で元気なんだから」

 1人で納得した風に頷いた。そんな彼女の態度を、レイはどこか冷めた様な視線で見つめていた。
 ラクスの言葉が聞こえなくなった今、ザフトの士気を支えているのはそういった局所的な勝利の報告だけ
である。連合軍の猛攻の前に、何とか諦めずに抵抗を続けていられるのはそういった即席の英雄譚があった
からだった。
 レイにとっても、シンの活躍は心強いものであった。ポジティブな話題でネガティブな気分を払拭し、そ
れを不安な気持ちの拠り所としていた。そうでなければ、デュランダルが無事であると信じられなかったか
らだ。
 レイは何かを確かめるかのように指を開いたり閉じたりした。それから大きく深呼吸をして、動悸の乱れ
が無いかを確認する。大丈夫だ――体調不良が無い事を確信して、安堵の溜息をついた。

「そうさ…ザラ隊長がきっとギルを連れてきてくれる。今の俺は、そう信じて戦うしかないのだから……」

 しかし、言い聞かせようにも決して拭いきれない不安感がレイに付き纏う。陥落寸前のメサイア、追い詰
められたザフト、続々と侵入してくる敵――いくら大丈夫だと言い聞かせようにも、不安材料が余りにも
多すぎる。平静を努めようとするも、険しい顔つきは決して弛緩するような事は無かった。
 その時、大きな振動が起こり、メサイアの内壁が崩れだした。何事かと目を剥き、急ぎミネルバに連絡を
取った。

「何が起こった、メイリン!」
『ちょっ、ちょっと待ってください!』

 突然の事に、サブ・モニターに顔を見せたメイリンは目を白黒させて困惑顔だった。何度も周囲を見るよ
うに首を振り、耳を傾けている。

「判断が遅い! CICは寝てたのか!」

 レイは思わず声を荒げ、勢い余ってヘルメットを脱ぎ捨てる。無重力に舞う髪を掻き揚げ、親の仇のよう
な目でメイリンを睨み付けた。

『ちょっと! メイリンに向かってそんな言い方は無いでしょうが!』
558 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/18(土) 22:45:36 ID:???
 もう一つのサブ・モニターにルナマリアが割り込んでくる。むっつりとした表情で妹を庇うその姿――し
かし、レイはデュランダルの安否だけが気になって仕方ない。フン、と鼻を鳴らしてルナマリアの怒りの矛
先を軽く受け流すと、舌打ちをしてメイリンの返答を待った。

『――だ! ――を撃ち込んできやがった! 敵艦に張り付かれ――』
『えっ!? 核……核なんですか!? 当たったんですか!?』

 マイクが拾った、遠くから聞こえる喧騒のような声、そしてメイリンの恐慌。彼女がハッキリと「核」と
口にしたのを聞くと、レイの形相が更に険しいものになった。
 もう、居ても立ってもいられなくなった。このままでは、本当にザフトは終わってしまう。そうすれば、
デュランダルの安否は絶望的になる。いくらアスランが英雄で身体能力にも優れていても、他人任せではや
はり心許無い。自分が行かなければ――最早、忍耐の限界であった。レイは急ぎレジェンドをミネルバへと
向かわせた。

『ど、何処行くのよ!?』

 ルナマリアの声が聞こえる。しかし、レイはそんな声を無視してハッチからミネルバに飛び込んだ。


 デスティニーは後ろ向きで後退を続けていた。そして、それに庇われるようにして先を行くのは片腕を
失っているガナー・ザクだった。向かう先は、ディアッカが所属している母艦のボルテールだ。シンにサ
ポートしてもらって、そこへ帰還する途中だった。
 シンはキョロキョロと宇宙を見回す。向かう先のボルテールは、メサイアとは少しずれた位置にある。連
合軍のMSの殆どはメサイアに直線的に突き進んでおり、こちらに仕掛けてこようという敵は少なかった。

「エルスマン機を抱えたままじゃ、できるだけ刺激したくは無い。でも、どうする……?」

 敵に見向きもされないのに、ビームライフルを構えて警戒する様は滑稽だった。操縦している本人にも、
そう見えているだろうという自覚があるほどに。
 魚が群れを成して泳いでいるようにメサイアへ向かう大軍を相手に、今の自分ならば或いはそれなりの抑
止力になれる自信はあった。しかし、痛手を被っている友軍機を背負っているだけに迂闊に手を出す事が出
来ない。シンはその状況に歯噛みするしかなかった。デスティニーが、不自然に揺れる。
 そんなデスティニーの挙動不審が、ディアッカにシンの意図を見透かせる理由になったのかもしれない。
ディアッカは軽く溜息をつき、ガナー・ザクが徐にデスティニーの傍を離れた。

「デスティニー、ここまで連れて来てもらえれば大丈夫だ。ここから先は、俺一人で行ける」
『エルスマンさん? けど――』

 デスティニーの頭部がディアッカに振り向く。見る限り、そのボディに損傷らしい損傷は見当たらなかっ
た。戦場に出ずっぱりの癖に、大したものだと思う。

「俺を気にしてくれなくていい。継戦が可能なら、俺の分まで少しでも敵の数を減らしてくれ」

 デスティニーの頭部が、周辺を警戒するような動物的な動きをした。パイロットのシンも、動物的なのだ
ろう。ディアッカはそう思った。

『……了解。行きます!』
「頼んだぜ」
559 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/18(土) 22:46:25 ID:???
 短く間を取った後、シンは力強く返事をした。そう言うや否や、デスティニーが派手に光の翼から羽根の
様に抜け落ちる粒子を撒き散らして突撃していった。鬱憤が溜まっていた証拠だろう。疲れも見せずにあっ
という間に小さくなっていくデスティニーの光を見つめて、それは燃え滾る情熱が成せる業なのだと感じ取
っていた。
 その情熱を持てていたならば、或いは今でも「彼女」の傍に居られたのだろうか、などと余計な事を考え
たりもする。

「今さら考えるような事じゃねぇや。――アスランの奴、いい部下を持ったな。アイツはきっと、俺達なん
かよりも大物になるぜ」

 軽く首を振り、雑念を振り払う。ディアッカは操縦桿をグイと押し込んだ。

 敵の進撃を、態々見過ごせるほどシンは臆病ではない。ディアッカが離れた事により、枷の無くなったデ
スティニーはまるで狂った獣のような凄まじい機動で暴れまわっていた。それは決して比喩表現などではな
く、実際に連合軍側からはそう見えていた。それは、まるで悪鬼羅刹が戯れに己の力を試しているかのよう
な恐ろしげな印象を与えていた。
 そんな連合軍側の印象など、シンに知る由は無い。その戦いっぷりは、敵の数の多さに余分な雑念が入り
込む余地が無いからであったが、決して我を忘れたわけではなかった。シンは連合軍側が思っているよりも
遥かに冷静で、戦場では不自然なほど落ち着き払った目をしていた。それは集中力が生み出す究極の境地、
キラと同じ次元に位置する「SEED」能力だった。

「長物を振り回してる場合じゃない。――手数と機動力で勝負だ!」

 マニピュレーターに持たせていたビームライフルとビームサーベルを納め、素手ごろの状態になる。その
瞬間、それまで萎縮していた敵が自ら丸腰になったデスティニーを見て好機を見出したのか、豪雨のような
密度のビームを注いだ。しかし、デスティニーは大きく光の翼を広げると、その隙間を紙一重の回避運動
で、まるで実体が存在していないかのようにすり抜けていく。

『そ、そんなバカなッ!?』

 性質の悪いビデオ・ゲームのようだ。相手をさせられる方の身にしてみれば、堪ったものではなかった。
絶対に回避不可能の弾幕の中を、まるで幽霊のように透けているかの如く潜り抜けてくるのだから。それが
現実に起こっていて、慌てないわけが無かった。
 そのまま、武器も持たずにデスティニーは敵の只中へと突撃した。そしてデュアル・アイを瞬かせてコロ
イド粒子の残光を発したかと思うと、次々とそのマニピュレーターを添え当てながらMSの間を駆け抜けていく。
 デスティニーが駆け抜けた後には、攻撃を受けて撃墜されるMSだけが残った。いつの間に攻撃を受けたの
か――そんな事が戦士として覚醒したシンを前にして分かるはずも無く、ただ時間が飛ばされたような感覚
だけを味わって、為す術も無く恐怖のうちにやられていくのみであった。

『こ、このッ!』

 余りの凄まじさに、動くのを忘れて迎撃していた。デスティニーの現実のものとは思えない動きを見て、
呆気に取られてしまったのである。そんな精神状態の射撃が、覚醒状態のシンに当てられるわけも無く――

『ぐほッ!?』

 衝撃と同時に正面モニターが暗闇に染まった。パイロットには何が起こったかのかなど、知る由も無い。
恐怖に冷や汗を浮かべ、闇雲に操縦桿を動かす。ビームライフルのトリガー・スイッチも遮二無二押した。
560 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/18(土) 22:47:06 ID:???
 デスティニーが掴むは2体のウインダムの頭部。右と左のマニピュレーターにそれぞれ、すっぽりとカメ
ラを覆い被せる様に掴んで掲げ上げていた。
 肉食獣に捕獲された獲物は、じたばたと暴れて抵抗する。四肢をばたつかせ、手にしたビームライフル
は出鱈目な照準で無駄撃ちを繰り返している。その流れ弾が誤射を生み出しているも、敢然と直立してい
るデスティニーには掠りもしていない。威風堂々と敵中で見せしめのようにウインダムを掴み上げていた。

「潰れろぉッ!」

 気合一閃、シンの掛け声に呼応してデスティニーがそれぞれ掴んでいる頭部をパルマ・フィオキーナで破
壊した。2体のウインダムの頭部はものの見事に粉々に砕け散り、煙を噴出してふらりとよろめいて流れて
いく。その2体は最早抗う力など残されておらず、廃人の様にぐったりとしていた。
 そして、爆煙の向こうから双眸と頭頂部のメインカメラの緑がうっすらと浮かび上がる。煙が晴れると、
そこにはダーク・トリコロール・カラーの「G」が敢然とした様子で佇んでいた。
 その立ち姿が、悪魔に見えたのかもしれない。デスティニー周辺の連合軍MS部隊は、蜘蛛の子を散らす
様に後退を開始した。

 コックピットでシートに座るシンは、軽く肩で息をしていた。顔には大粒の汗。しかし、操縦桿を握る手
は、尚も力が込められていた。
 周囲が静かになると、再びシンは顔を動かした。その目は次のターゲットを探す狩猟者の目のようであっ
たが、決して悪戯に狩ろうという悪意のあるものではなかった。それは、先程の部隊も殲滅して見せようと
思えば出来たかもしれなかったが、そうしなかったという出来事が証明している。

「派手に動きゃ、敵はビビッて逃げてくれる…そういうものだけど――あれは?」

 目に留まった光。メサイアとは逆方向であるが、確かに交戦の光である。ザフトがメサイアを放棄すると
は思えないから、もしかしたら何がしかの特殊事態が起こっているのかもしれない。カメラを拡大して様子
を確認する。画面の乱れで鮮明ではないが、連合軍の攻撃を受けている事から、どうやら味方と思しき戦艦
が捉まってしまっているらしい事が覗えた。
 助けなきゃ――思うが早いか、反射的にシンはスロットルを全開にしていた。


 ズシン、ズシンと連続的に揺れるブリッジ。ユウナは、かつてこんな恐ろしい体験はした事がなかった。
しっかりと遮蔽されているブリッジでも、戦闘に関してはずぶの素人であるユウナは、ブリッジ・クルーと
トダカの信じられないほど冷静な対応に感心すら覚えさせられるほどに驚かされていた。

「機数12、MSが11でMAが1です」
「特定、遅いぞ」
「内訳、出ました――ダガーの105型が2とL型が4、残りの5つはウインダムです。アーマータイプはザムザ
ザーであると判明」
「MS隊にはザムザザーを牽制させろ。クサナギはメサイアへの接近を続ける。後ろの補給艦には盾になって
もらう」

 恐怖が先行している普通の人間であるユウナには、彼らのやり取りが余りにも平然としすぎていて、まる
で違う生物を見ているような気さえ起こさせた。それも慣れであると思うが、怖い事を怖いと感じられなく
なる軍人の感性の麻痺が最も怖い事であると、ユウナは感じた。

「君達は、死に対する恐怖が無いのか?」
「命を賭して国をお守りするのが、我々であります。――守れませんでしたがね」
561 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/18(土) 22:47:47 ID:???
 震える声で訊いてくるユウナに、トダカはフッと自嘲交じりに返して見せた。その表情の複雑さに、地球
でのオーブ撤退からの行き場の無い怒りが渦巻いている事を知る。軍人としての恥を晒し続けているトダカ
に、命を惜しむような感性は既に皆無なのかもしれない。それを見るだに、ユウナは益々軍人に対する一種
の嫌悪感を募らせた。
 ユウナの不信感を募らせたような表情、それにトダカは気付き、人差し指で鼻の頭を掻いた。

「あぁ――怖い事には怖いのです。ただ、それを我慢して何処まで冷静になれるかが肝でして」
「僕は、君達が怖い。軍人というのが皆、そういう涼しい顔をして戦っているのかと思うと、とてもではな
いが理解できなくて気が狂いそうになる」
「戦いを知らない方から見れば、そうも見えましょう。しかし、我々軍人を唯の人殺しとしてしか見れない
ような低俗な感性を持ち出すのだけは、お止めください」

 トダカの表情、平静な表情。瞬間的に険しく歪める事もあるが、殆どは平時であると勘違いさせられるほ
どに表情の変化が乏しい。それが本来なら艦長としての冷静さの顕れとして心強く思うものだが、軟弱なユ
ウナにはそうは見えなかった。戦闘から離れたところで戦っていたユウナには、別世界の人間のする事とし
て認識されていたからだ。だからこそ、別世界の現実を目の当たりにして戸惑う。

「頭で理解しようにも、納得を得るまでには時間が掛かる。僕は普通の人間だ、そう見えてしまっても仕方
ない事だ」

 トダカは、そんな弱気で不謹慎を口にするユウナを気にも留めず、クルーへの指示を続ける。ユウナはそ
ういう人間なのだと割り切り、まともに相手をしないようにするスタンスを確立したからだ。
 そんな態度のトダカに、ユウナはやはり不満顔だった。

「君ぃ」
「カガリ様をお救いするのです。国を守れなかった以上、カガリ様をお助けする事にこの命、何ら惜しむ必
要はありません」

 ギラリとしたトダカの視線。ユウナは一瞬たじろいだが、強がるように鼻を鳴らした。

「カミカゼ精神かい? 心構えは立派だが、死すべき戦いに意義を見出せるものか」
「ユウナ様は、この艦に自らの御意志で搭乗なさっていらっしゃる」
「僕に押し付ける気?」
「なるべくそうならないようにするのが私の責務でありますが、いざという時にはお覚悟を」

 じろりと睨みつけられる流し目に、ユウナの冷たい背筋が余計に冷たくなった。イカれているとかいない
とかの問題ではなく、既にトダカは覚悟を決めていたということだろう。何が何でもメサイアに取り付こう
という執念が、鋭い刃のような輝きをトダカの瞳に与えている。その迫力に圧倒され、無意識にユウナは唾
を飲み込んだ。

「ムラサメ隊、突破されました。ザムザザーが本艦へと突っ込んできます!」

 CICの索敵を担当しているクルーが絶叫と同時に振り向いた。2人の頭が一様に振り向いた。

「弾幕! それからアストレイ隊に援護!」
「駄目です、間に合いません!」
562 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/18(土) 22:48:27 ID:???
 レーダーの赤色の光点が凄まじいスピードで接近しているのが分かる。MA特有の直進性能、ザムザザーで
ある事に疑いは無い。味方機を示す青色の光点が一斉に寄り集まってくるも、とてもではないが、それが間
に合うなどとは思えなかった。
 やられるのか――そう思った刹那だった。突然猛スピードで接近していた赤色の光点が消失し、クサナギ
の搭載MSではない証拠である緑色の光点が代わりに点灯した。

「MAロスト!」
「索敵班!」

 唐突過ぎて、何が何やら状況がハッキリしない。流石にブリッジもざわつきを見せ、それぞれに確認作業
に入る。目を配るトダカとは対照的に、ユウナはキョロキョロと辺りを見回して落ち着きが無かった。

 傷だらけの船体がクサナギであることを知ったのは、シンがザムザザーのコックピットをパルマ・フィオ
キーナで貫いた後である。クサナギの船体は、ザフトであるシンに馴染みのあるシルエットでは無い。

「クサナギ……って、何でこんな所に? 月じゃないのか?」

 ビームライフルやバルカンで牽制を放ちながら後退してくるオーブのMSを確認した。シンもそれを援護す
る為に高エネルギー砲を構えて一発敵陣に向けて撃った。その一撃が効いたのか、はたまたデスティニーの
姿に恐れをなしたのか、敵はすぐさま退却を開始した。
 戦闘行動に一先ずの区切りが付けられると、後退中のムラサメがワイヤーでデスティニーに接触を求め
てきた。サブ・モニターには中年の男の顔が映される。

『助かった、デスティニー。貴官が援護に入ってくれなかったら、クサナギはやられていたかもしれない』
「そんな事より、何だってクサナギがここに居るんです? 月でダイダロスの攻略に掛っているはずじゃな
いんですか?」
『補給艦の帰還を護衛する為だ』
「そんなもの、建前だろうに」

 話にならないとばかりにシンは一方的に通信を遮断して、クサナギへと流れていく。クサナギのブリッジ
は、分かり易い。果たしてその傍らに寄せると、マニピュレーターの指先を接触させてコールを求めた。

「月へ向かっていたクサナギが、メサイアに何の用なんです?」
『アスカ君か?』

 覚えのある声。顔を見なくとも分かる、トダカだ。

『メサイアへ取り付きたい。護衛を頼まれてはくれんか?』
「質問に応えるのが先でしょう」
『火急であるのだ――』

 トダカは奥歯に物が詰まったような物言いで、要領を得ない。その理由は、シンに対してカガリの救出が
目的である事を告げることが、交渉の決裂に繋がる事を容易に想像できたからだ。
 対してシンもそんなトダカの目的を、おぼろげながら見当がついていたのかもしれない。言葉に詰まるそ
の様が、シンの感性に妙に引っ掛かる。頭の煩わしさが、そういう事なのだと告げているようだ。

『――カガリを、カガリを助けるためだ! そうしなけりゃ、オーブは二度と元に戻らない!』
『ユウナ様! それは駄目です!』
563 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/18(土) 22:49:08 ID:???
「何だ?」

 急に騒がしくなった耳元に、シンは片目を瞑って眉を顰めた。

『メサイアが陥落寸前で、カガリがまだそこに居るのなら、僕らはそれを救出しなければならない義務があ
る! それを理解してくれるのなら、君はそのMSでクサナギをメサイアまでエスコートするんだ!』
『彼に対してその理屈は駄目です!』
『プラントはオーブの地を見捨てた過去がある! 君がザフトならそれに負い目を感じて、僕の言う事も聞
き届けて見せるというのが筋だろう! もし君もコーディネイターが同じ人間であるとデュランダルの様に
主張するのなら、僕の言う事に従え!』

 必死に諌めようとするトダカの声と、訴えかける軟弱そうな軽い声が入り混じり、シンの耳をノイズとな
って襲う。時々裏返るような必死さが、その青年の本気がどれだけのものであるかを物語っていた。その必
死さに、シンは触発されるだけの情を持っていた。
 しかし、内容が良くない。よりによって、カガリを救出しに来たと言うのだ。しかも、それを自分に手伝
えと命令してくる。シンにとって、こんな横暴は屈辱以外の何物でもなかった。

『いいか、オーブはプラントの為に犠牲になったんだ! だったら、人間であるならば恩義を感じ、手を貸
すのが人として当たり前の事だと思わないのか!』
「……いい加減な事をほざきやがって」

 食いしばる歯が音を立てた。シンの肩が震えている。

『何だと?』
「あんたらはオーブっていう国が欲しいだけなんだ。アスハという偶像を戴き、下らない理念を掲げて自分
に酔う――そのせいで死んだ人間の事なんて、これっぽっちも考えずに!」

 父も、母も、幼かった妹も死んだ。全て、前オーブ政府の判断の甘さと遅さが招いた悲劇だ。それを事も
あろうに美談とし、そしてプラントへと流れていった自分の様な難民は忘れ去られた。

『知った風な事を!』
「慰霊碑だなんだって、俺は、そんなものが欲しかったんじゃない! もっとこう……誠意って奴とかさ!
形で表したらそれで終わりみたいな……あんたらのすることはいつだって格好付けの見せ掛けだけで、まる
で誠意って奴が見えやしない! その癖、自分達の正しいと思った事だけは俺達に押し付けて……それで俺
達が喜んでるって本気で思い込んでいて――そんな傲慢なんかで俺達家族は!」

 鬱憤を晴らすかのように、シンは心の思うままに、罵倒するような激しい口調で責め立てた。
 当時の記憶を留める為に慰霊碑があることは知っている。しかし、シンはそんなものは見せ掛けだと思っ
ていたし、オーブの体面を取り繕うような慰霊碑などで誤魔化してほしくなかった。

『ザフト風情がオーブ国民の代弁者のつもりかい? えぇッ!』
『ユウナ様! 彼は元オーブ国民で、前大戦後にプラントへ移住して行った者です。私が手配をしました』
『今はザフトだろう! 関係あるものか!』
『ご家族を亡くされています!』
『う……ッ』

 軽い声の青年が、言葉に詰まった。シンは内心でざまあみろとほくそ笑んでいた。
564 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/18(土) 22:49:49 ID:???
 気持ちを汲んでくれたトダカをありがたくは思う。彼の言葉遣いから、恐らく相手にしていたのはオーブ
の中でも相当の権力者であるだろうという事は予想できる。そんな相手に暴言を吐いて、それをフォローし
てくれたトダカのお陰で、カガリに対して溜まっていた鬱憤が少なからず晴れた事は、感謝すべき事だ。そ
して、それと同時にシンにも割り切らなければならないことがあると感じていた。

 もう、2年経ったのだ。ずっとシンを縛り続けてきたのは、アスハによって全てを奪われたという被害者
意識。そろそろ、そこから脱却するべきではないかという考えが、少し前から漠然と頭の中にあった。きっ
かけは、今なのかもしれない。
 オーブでごくありふれた家族の1人として幸せに暮らしていた過去の自分は、もう居ない。今の自分はプ
ラントを守護するザフトの一員であり、軍人である。その軍人となった自分が、今窮地に陥っている人間が
居るにもかかわらず助けない――それは、傲慢だと思う。
 ただ、カガリに対する蟠りを全て捨てたわけではない。自分は軍人としての役割を果たすために行動する
のだと、心の中で言い聞かせた。

 沈黙。焦りはほんの少しの時間すらも長く感じさせ、重苦しい空気が澱んでいた。

「……クサナギをメサイアまで導くだけです。そこから先は、自分たちで何とかしてください」

 戦況が不利な激戦区へと向かう事が、果たして良い事なのかは分からない。しかし、今のクサナギにとっ
ては何とか見出せた光明であって、それが例え死への道標だったとしても目的を果たせるのであれば後悔は
無い。怯えを見せているユウナも、その一点に関してだけはクルーと共通していた。

『あ、ありがとう。感謝するよ』

 トダカの声。まさかシンが引き受けるとは思わず、若干声が困惑に揺れている。シンは少し照れくさそう
にぽんぽんとヘルメットを叩くと、デスティニーを先行させた。


 いよいよザフトも危なくなってきて、捕虜として監禁してあったネオの部屋も安全の為にロックが外され
ていた。逃げ出すつもりなど毛頭無かったが、軍人としての性か、状況が知りたくて部屋を抜けたくなって
ステラを呼んだ。怪我は完治とまでは行かないまでも、それなりに身体を動かせるまでは回復していた。
 ステラを連れて、格納庫へ足を運ぶ。情報を得るにしても、戦闘ブリッジには当然ながら入る事は出来な
いだろうし、それならば戦況によって対応に追われる事になる格納庫へ行けば多少なりとも情報を得られる
だろうと判断したからだ。

「ん? 何の騒ぎだ」

 最早、勝手知ったる何とやらの如く格納庫へやってくると、ちょうどレジェンドが入り込んでくるところ
だった。レジェンドは器用に床に着地すると立膝を突き、コックピットからはレイが出てきた。

「補給はまだのはずだが――どこかやられたのか、レイ!」

 メカニックがその様子を怪訝そうに眺めている。整備班主任であるマッド=エイブスがレイに訊ねるも、
その問い掛けは無視されてレイは何処かへと流れて行った。

「どういうんだ、一体……?」
「おい、どうしたんだ?」
565 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/18(土) 23:02:02 ID:???
 ステラに付き添われて、ネオはマッドのところへと降りた。彼には突如として現れたように思えたのだろ
う、マッドはネオがやって来た事に驚き、素っ頓狂に表情を歪ませた。その表情が滑稽に見えたのか、ステ
ラがキャハハと少女らしい笑い声を発した。
 そんなステラの笑い声に、マッドは不遜そうに腕を組み、ジロリとネオを睨みつける。

「捕虜が、ここに何の用か。残念だが、脱出艇は用意してやらないぞ」
「随分だな。――まぁ、期待しちゃ居ないさ。ここまで来りゃ、私もこの艦と一蓮托生したくなる」

 ファントム・ペインも悪くは無かった。居心地という点では、捕虜として監禁されている立場のミネルバ
の方が見劣りするには違いない。しかし、ネオは既に連合軍から切り捨てられた立場であり、ステラも脱走
兵になっている。今さらミネルバを脱走しようにも、彼等には既に帰るべき場所は存在しないのだ。
 今のネオの生き甲斐は、ステラしか残されていないのかもしれない。この無垢な少女を守らなければなら
ないと感じているからこそ、ネオは何かしらミネルバの役にも立って見せたいと思っていた。

「クルーでもない唯の捕虜が、よくも大それた事を口にするもんだ」

 ネオの気持ちなど、露ほども汲んでやるつもりが無いマッド。相手にしていられないとばかりにそっぽを
向いた。しかし、ネオはその肩に手を置いて制止する。マッドは不快そうに横目でネオを睨んだ。

「何だよ?」
「さっきのあれ、レイだろ? MSを置いて何処行っちまったんだよ?」
「知るかよ、んなこと。戻ってくる気配もないし、何か急ぎの命令でも下ったか――」

 ドスン、という衝撃がミネルバの艦体を激しく揺らした。格納庫内はその衝撃で備品やパーツ類が無重力
に浮かび上がり、とっ散らかりを見せている。係留もせずに放置されていたレジェンドも、床から僅かに浮
かび上がっていた。
 バランスを崩し、姿勢を維持することが出来ないネオを、ステラが手で引っ張って繋ぎとめる。マッドも
突起にしがみ付き、堪えていた。

「――ったれがぁ!」

 マッドが苛立ちを吐き出すように拳で壁を叩いた。それから素早くレジェンドに取り付いて、コックピッ
トを覗き込む。
 レイは何もせずに出て行ったらしい。計器類は光を放ったままで、臨戦態勢のままだった。マッドはコン
ソール・パネルを操作し、レジェンドの各部異常を確認してみるが、奇麗な外観どおり、異常など何処にも
見当たらなかった。

「どういう事情か知らねぇが、レジェンドを遊ばせて置くってのはよぉ!」
「だったら、私に使わせてくれないか?」

 外から首を突っ込んでパネルを叩いているマッドの後ろから、ネオが声を掛ける。マッドは煩わしそうに
髪をガシガシと掻き毟り、刺すような視線でネオに振り返った。

「脱走するつもりなら、もっと上手い言い訳を考えるんだな」
「そんなつもりは無い。私は、お前たちを助けてやろうってんだぞ?」
「どうだかな」
「他人の厚意を、そういう風にして無碍にするのがザフト流だというのか!」
566 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/18(土) 23:02:50 ID:???
 コックピットから顔を出し、ネオの肩に手を置いて突き放すようにどけると、マッドはふわりと床に下り
ていった。ネオもレジェンドを押してそれを追いかける。

「私なら、レイと同じ様にレジェンドを動かしてみせる。そうすりゃ、ミネルバだって沈まなくて済むだろ?」

 この一言が、ネオが自分自身をムウであると認める一言になっていた事など、全く意識していなかった。
頭でいくらムウを否定していても、結局はジブラルタル基地でのレイとの語りが決め手となって、知らず知
らずの内に無意識下では認めていたのだ。それが、遂に言葉となって噴出してしまった格好になった。
 勿論、マッドがネオとレイが、歪な関係とはいえ、血縁関係に当たるなどとは知っているはずも無く、疑
いの目が更に不審を帯びていっている事など、当のネオは知る由も無かった。
 マッドが、呆れたように溜息をつく。そんな時、ブリッジからの呼び出しのコールが鳴った。苛立ちを隠
そうともせず、乱暴に受話器を取って耳に当てる。ネオは、その様子を固唾を呑んで見守っていた。

「――はい、分かりません。レイは、何も言わずに出て行きました。――えぇ、上の方からの指令を受けた
のではないかと踏んでるんですが、良く分からないんです。――使えることには使えますが、パイロットが
……」

 受話器の声に集中していたマッドの瞳が、ネオをチラリと横目で見た。

「虜囚のネオ=ロアノークが、レジェンドのパイロットに志願しています。本人曰く、レイと同程度に使っ
てみせると豪語していますが、どの程度なのかは実際にやらせてみるまでは分かりません」

 コールの主が誰なのかは分からないが、何やら脈がありそうな内容に聞こえる。
 マッドの視線に、ネオは目を輝かせた。やがて、話し込むマッドの表情が驚嘆に歪む。

「――では、条件付で許可を下されるというんですか!? 猫の手も借りたい艦長のお気持ちもお察しいた
しますが――えぇ、分かりました。あの娘を使います」

 そう言って受話器を戻すと、マッドはネオに向き直った。まだ納得し切れていないようで、苦虫を噛み潰
したような苦汁に満ちた顔をしていた。
 そしてマッドが顎で部下に何かを指示した。ネオはその様子を怪訝そうに眺め、次の言葉を待った。

「ネオ=ロアノーク、グラディス艦長からのお許しが出た。あんたにはレジェンドを使ってもらう」
「本当か!」
「但し!」

 身を乗り出して喜びを表現しようというネオを宥めるように、マッドは声を張り上げた。

「あんたが裏切らないとも限らない。だから、お嬢さんは人質にさせてもらう」

 ハッとして振り返るネオ。すると、そこには既に後ろ手に錠を施されたステラがヨウランとヴィーノに捕
らえられていた。

「ゴメンな。本当は女の子にこんな事をしたくは無いんだけど――」
「エクステンデッドだったら俺らが敵うわけ無いから、こうするしかないんだ」

 少年2人に捕らえられ、ステラはわけが分からずに狼狽していた。それまで普通に接してくれていた彼等
が、急に牙を剥いたのである。困惑するのも当然だ。
567 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/18(土) 23:03:32 ID:???
 ただ、ネオが予想しているよりは遥かに落ち着いていた。確かに不安がっている事には違いないのだが、
ネオの知っているステラならばもっと激しく暴れても良いはずだ。その様子が無いという事はつまり――

「レジェンドには乗せる、しかし、もし裏切りの素振りを見せようものならこのお嬢ちゃんは――」
「待て! それ以上は言わなくても分かっている!」

 ステラの様子に訝しがっている間に、危うくブロック・ワードを口にされそうになって、ネオはそれを掻
き消す様に声を張り上げた。
 重苦しい空気が充満する格納庫。細かい揺れが断続的に起こり、戦闘が続いている事を如実に実感させて
いる。
 ネオはステラを見た。彼等の態度の急変が、怖いのだろう。必死に涙を堪えようと全身を強張らせ、仄か
に震えていた。それでも、その瞳は一点の淀みも無くネオを見つめている。とても澄んだ、純真な眼差しだ
った。

「ステラ……」
「大丈夫、ネオ。ステラはネオを信じているもの」

 その一言で、迷いが吹っ切れた気がする。
 同時にパイロット・スーツが投げ渡され、ネオはそれを手に取った。

「サイズはそれで合っているはずだ」
「信じてくれ。私は、お前たちを裏切ったりはしない」

 よもや、ザフトと馬を並べることになろうなどと、かつての自分からは想像だに出来なかっただろう。し
かし、運命は巡り巡り、その想像できなかった事が現実となった。大西洋連邦軍の大佐からザフトの捕虜に
なり、脱走して復隊したかと思えば即座に切り捨てられ、こうして再び虜囚とも思えないようないい加減な
扱いを受けている。その凋落振りを鑑みるに、自らの情けない運命に落胆せざるを得ないも、今はこうする
事でしか自らを守る事が出来ないのが現実であった。
 パイロット・スーツに着替えたネオが、レジェンドのコックピットの中に入り込む。少し緩く感じるパイ
ロット・スーツは、暫くの療養生活で衰えた筋力のせいだろうか。その分、パイロット・スーツの圧迫感は
軽減されるだろうが、戦闘機動に衰えた肉体が耐えられるのかという不安は少なからず沸き起こった。

「ファントム・ペインのメンバーに見つからないことを願いたいが――」

 同じMSである以上、ザフト製も連合製も操縦系統に大した違いは見られない。簡単に説明を受けた後、軽
やかに操縦桿を動かして機体をカタパルト・デッキまで移動させる。まるで、元から自分の為にあったかの
ような違和感の無さに、益々ネオは自分の中のムウの存在を確信してしまった。

「ブリッジ、発進援護を頼む。発進後はインパルスと合流して敵性戦力の排除に当たろう」
『艦長のグラディスです。半端な野心は身を滅ぼすだけだと、肝に銘じて置いてください』
「念を押してもらえて助かる。――レジェンド、出るぞ!」

 カタパルトに乗ってレジェンドが加速する。久しぶりに感じる重圧に、歯を食いしばり耐えた。
 加速の重圧から解放され、ビームの光と閃光が渦巻く戦場へと躍り出ると、宇宙という無限世界の開放感
にネオの思惟が一瞬にして広がっていくような高揚感を覚えた。命のやり取りを行う場でもある戦場である
のに、心踊るこの高揚感は果たして兵士としての自分に刻み込まれた性分なのであろうか。空間の広がりと
そこに存在しているMSの位置が、手に取るように分かる気がした。
568 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/18(土) 23:04:13 ID:???
 前後左右のモニターを首を振って確認し、ミネルバ周辺の戦況を把握する。ドラグーン・システムの使用
は初めてであるが、まるで最初から扱い方を知っているような感覚で射出した。

「オレンジショルダーは一旦さがれ! 掃射ビームで蹴散らす!」

 ネオの呼びかけに、レジェンドが別人によって運用されている事にヴェステンフルス隊は疑問の声を上げ
た。「なんだ」「どうした」といった声が方々から聞こえたが、要領を得ないまでもネオの言葉に反応して
引き下がっていった。
 ネオの目が瞬き一つしないで敵を捉える。レジェンドがビームライフルを連射して敵MSを散らせると、一
斉にドラグーンが飛び掛った。それは警察犬のような獰猛さと忠実さで襲い掛かり、圧倒的な火線の数と正
確な射撃であっという間に敵を退けてしまった。
 辛うじてドラグーンからの一斉射から逃れられたものも、一時的な戦力の減衰で後退せざるを得ない。そ
れを逃すまいと、ヴェステンフルス隊が狙撃して追撃を掛けた。
 久々の戦闘で勘が戻っていないからか、ネオは身体がふわふわと浮いているような錯覚に陥っていた。無
重力だからという理由ではないはずだ。そういう現実的な感覚ではなく、もっと抽象的な感覚だった。

「……使えた。皮肉なものだ、レジェンドを乗りこなせば乗りこなすほど、アイツの言っていた事が本当に
なっていっちまう。ステラを守るためとはいえ、これじゃあ俺自身が――」

 元同胞を敵に回した事に対して、ネオはもっと罪悪感が付き纏うものであると思っていた。しかし、そん
な心配は必要なかったようで、特に感傷的になる不快感は感じられなかった。そういう薄情さが、人間とし
ていかがなものかと言う指摘もあるだろうが、連合も自分を切り捨てたという点を鑑みればお相子であると
論じ切れる自信はあった。
 それよりも、ネオが一番ショックだったのはレジェンドが想像以上に自分にフィットした事である。その
事実が、ネオの中のムウの存在を大きくさせているように思えた。自ら志願した事とはいえ、実際にその現
実に直面した時、やはり脅威に感じた。

『レイ、戻ったの?』
「ん?」

 メサイアの港湾出入口から、インパルスが顔を出すと、正面上部の小型サブ・モニターに少女の顔が映し
出された。従順素直なステラと違って、少し気の強い勝気そうな少女だ。
 少女は一息つくと、ヘルメットを脱いだ。汗に濡れた髪が額に張り付き、乱れたその様が少女らしい健康
的な色気を振り撒いていた。取り出したハンカチで汗を拭うと、もう少し「汗に塗れた少女」を鑑賞して居
たかったネオは勿体なく思った。

「シンの女か。レイで無くて悪いが、一緒に戦わせてもらうぞ」
『えっ!? あんた、ネオ=ロアノークじゃない! どうしてレジェンドに――』
「迷惑は掛けないつもりだ。アイツが入用があるようなんで、その代わりを務めさせてもらう。よろしくな
シンの女」
『ル・ナ・マ・リ・アですぅッ! ――ったく、よくも艦長が許可したわね。裏切るって事、考えらんない
のかしら!』

 ステラが人質に取られている以上、ネオにルナマリアが言うような気を起こすつもりは無い。ただ、余り
にもミネルバのクルーから信用が無い事に、自然と笑いが零れた。

『何よ?』
「いや――」
569 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/18(土) 23:04:56 ID:???
 敵の姿は、見えない。どうやら、ミネルバの必死の抵抗のお陰で、敵もミネルバ近辺からの侵入を諦めた
ようだ。ネオはバイザーを上げ、周囲を良く見回す事でそう結論付けた。

「君は一度戻ってインターバルを挟んだ方がいいな」
『そうは行かないっての。あんたの監視をしなけりゃいけないんですからね』
「ふっ、タフなお嬢ちゃんだ。――じゃ、代わりに甲板で休ませてもらうとするか。実は、久しぶりで緊張
してたんだ」
『はぁ!? 一体何しに出てきたってのよ、あんたは!』

 緊張を解くように、ネオがぷはぁっと息を吐き出す。それが合図になったように、一気にネオの毛穴から
汗がドッと染み出てあっという間に玉になった。
 操縦桿を動かして、レジェンドをミネルバの甲板へと接地させる。ビームライフルを構えて、見せ掛けだ
けは警戒してみせるが、コックピットのネオは襟を緩めてストローに口を付けてリラックスしていた。療養
中に落ちてしまった体力のせいであると思うが、まさかこれ程にまで衰えてしまっているとは思っても見な
かっただけに、ショックはそれなりに大きかった。
 気だるそうにコンソール・パネルを操作し、カメラでメサイアの様子を確認する。ミネルバ周辺とは違い
他のエリアではまだまだ戦いの真っ只中という感じである。ネオは険しく目を細め、その外観を見つめた。


 コロニー・レーザーの衝撃と、核による攻撃でメサイアの内部は崩壊が始まっていた。ザフトの中枢であ
る中央司令室も、すでに退避命令によって人っ子一人残っていなかった。これによって、ザフトは最高司令
系統が事実上消滅した事になる。最早、敗北は時間の問題であった。
 しかし、それでも一縷の望みを叶えるべく、デュランダル達は脱出を急いでいた。こうなってしまっては
メサイアの放棄も止むを得ない。全てはコロニー・レーザーの詳細を事前にキャッチできなかった情報戦の
敗北が全てであった。

 デュランダル、カガリ、ラクスの3人は、身体能力に優れたコーディネイターを選抜して組織されている
親衛隊に護衛されながら脱出への道を進んでいた。しかし、既にメサイアの通路も塞がれた箇所が多数あり
マップ・ナビも殆ど機能していない状態で、立ち往生している状態に近い。いくらか脱出経路を回ってみる
も道が途切れていたり塞がれていたりで時間は過ぎていくばかりである。

「ここも駄目か……次だな」

 ライトが照らす先に、鉄屑によって塞がれた通路がある。何度と無く打ちひしがれる様な虚脱感に襲われ
ながらも、諦めなければ絶対に何とかなるという強気を忘れないのは、彼等3人の強き意思ゆえなのかも知
れない。デュランダルが気を取り直すようにそう言うと、親衛隊の1人に新たな脱出ルートの割り出しを命
令した。
 その時であった。突如炸裂する火薬の音が響いたかと思うと、何人かの悲鳴が轟いた。兆弾による火花が
非常電源に切り替わった薄暗い通路を一瞬だけストロボのように鮮明に照らす。間違いなく銃器が発砲した
音だ。親衛隊の1人がさっとライトを向けると、暗視ゴーグルで顔を覆った武装した兵士数名がライフルを
構えていた。

「議長、お下がりください!」

 隊長が手で3人を制すると、親衛隊は一斉に手にした火器でその特殊部隊に向かって応戦を始めた。
 銃火器による応酬は火薬の臭いと血の臭いが入り混じる地獄絵図。物陰に隠れて息を潜めているラクスの
手の甲に、生暖かい液体が付着した。指で触って目を凝らして確かめると、粘性のある赤い液体である事が
分かる。銃創から溢れ出した誰のものとも知れない血に、ラクスは眉を顰めて表情を歪めた。
570 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/18(土) 23:06:17 ID:???
「これで終わりだ、コーディ共め!」
「くそったれ! 白兵部隊の上陸を拒めなかったか!」

 薄暗い中では、誰が何をしゃべっているかなど分からない。あちこちから聞こえてくる怒号に、戦う力を
持たない3人はひたすら見守る事しか出来なかった。

「ぐあっ!」
「あぐっ!」

 発砲する音が一段と増したかと思うと、苦しみに呻く声も一段と増えた。敵の増援だろうか――そうも考
えたが、激しい銃器の音がやがて止むと、親衛隊長がデュランダルの傍にやってきて手を差し伸べた。

「どうなった?」
「味方が駆けつけてくれました。この場は、何とか凌げたようです」

 うむ、と言って立ち上がるデュランダルの目に、その姿は入り込んできた。それは、アスラン率いるミネ
ルバの一団であった。アスランは3人に遭遇できた事に驚いているのか、目を丸くしていた。

「まさか、見つけられるとは思わなかった……」

 浮かぶ死体を掻き分けて、アスランはデュランダルたちの下へ歩み寄る。

「慧眼であった。アスラン=ザラにフェイスの称号を与えた私の眼に、狂いは無かったようだ」
「いえ、偶然です。しかし、ご健在のようで何よりでした」

 3人のうち、1人も欠けることなく無事で居てくれた事に、一先ずアスランは胸を撫で下ろした。そうして
その中の1人が熱い視線を向けてくれていることに気付く。カガリだ。

「アスラン!」

 笑顔で近寄ってくるカガリ。しかし、アスランは表情を曇らせたまま、彼女を迎え入れようとする仕草を
取らなかった。その様子のおかしさにカガリも気付いて、投げ出しかけた身体にブレーキを掛けた。

「アスハ代表も、ご無事で何よりです」
「アスラン? な、何を言って――」

 他人行儀な態度は、公人としてのカガリの護衛であったアレックス=ディノの時の態度に似ている。しか
し、それが再会を喜んでいる時間が無いからという理由ではないように思える。アレックス=ディノを演じ
ようと言うアスランは、明らかにカガリを避けている様であった。
 アスランはデュランダルに向き直ると、腰に下げている拳銃を手渡した。

「先を急ぎましょう。メサイアの陥落は時間の問題です」
「うむ」

 銃を受け取り、手に馴染ませるように確認するデュランダル。親衛隊に囲まれて先に行くと、続けてラク
スがアスランの表情を怪訝そうに覗いながら流れていく。そして、カガリは動かないままだった。

「代表、ここも危険です。早くしませんと敵がやってきます」
571 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/18(土) 23:06:57 ID:???
「あ、あぁ……」
「頼みます。アスハ代表をお連れしてください」

 ミネルバから連れて来た精鋭にカガリを護衛するように命令する。アスラン自身はそれを見送ると、周囲
を警戒しながらしんがりを行った。カガリは、まるで違う人のようなアスランの態度に理由を見つけられず
沈痛な表情を浮かべて俯いていた。

 壁に爆弾をセットし、時限設定をする。急ぎ退避すると、その数秒後に凄まじい炸裂音と共に夥しい量の
煙が噴き出した。飛び散る破片が無作為に拡散して行き、その向こう側にある部屋へ抜ける空気の流れが次
第に煙を晴らしていく。

「向こう側は広いホールになっているはずだな?」
「はい。そこを抜けられれば、脱出まであと一歩です。――確認します、少々そこでお待ちください」

 隊員の1人が腰のポケットから何やら取り出し、芯の様な物を引き抜くと、それは一気に膨れ上がって等
身大のダミー人形になった。それを爆弾で開けた穴の向こうに押し流す。ダミー人形が見えなくなると、一
斉に発射される銃器の音が鳴り響いた。舌を鳴らしてアスランが前に出る。

「張られていた! ――掃討する! 後続!」

 両脇に抱え込むように2丁のサブ・マシンガンを携行し、勢い勇んで飛び出すアスラン。それに続いて生
き残った親衛隊とミネルバの精鋭部隊が空気を切るように素早く動いた。

 同じ頃、1人でメサイアを進む少年が居た。パイロット・スーツに身を包み、手にはミネルバから失敬し
てきたサブ・マシンガンが1丁握られている。
 警戒しながら進んでいると、俄かに揺れたような感じがした。

「何処かで爆薬を使った? 近いな……」

 ヘルメットのバイザーの向こうから覗くブロンドの前髪。レイは一度手にした銃器の状態を確認し、いつ
でも撃てる事を再確認すると、壁を蹴って更に奥へと進んでいった。

 穴の向こうはダミー人形が破裂した事によって煙幕が張られていた。待ち伏せていた連合兵士は、突然視
界が奪われた事にうろたえ、煙に向かって遮二無二ライフルを連射していた。その煙の中から、凄まじい突
進力で身を低くしたアスランが飛び出してくる。目に入った男にタックルをかまして壁に頭を叩き付けて気
絶させると、それで口火を切ったように次々と飛び出してくる親衛隊と精鋭部隊の面々。アスランは両腕に
抱えたサブ・マシンガンをひたすらに撃ち、続々と敵を掃射していく。
 これに慌てたのは、連合兵士だ。あっという間に減っていく味方の数に完全にパニック状態に陥り、懐か
ら取り出した手榴弾を乱雑な手つきで力の限り放り投げる。

「しまった! あそこにはカガリや議長が――」

 アスランが声に出した時には、もう手遅れだった。無重力で直線的に投げられたそれは、壁にヒットして
少し跳ね返された所で爆発し、天井の高いホールは一瞬にして瓦礫の渦に巻き込まれることになった。

「クッ!?」
572 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/18(土) 23:07:38 ID:???
 それは、ホールの近くで身を隠していたデュランダル達3人にも被害が及び、巻き起こる埃と塵の嵐にカ
ガリは腕を顔の前で交差させて目を塞いだ。
 その時、不意に身体に浮揚感を感じ、誰かに抱きかかえられている感覚を得た。

「アスラン……?」

 期待して顔を上げた彼女に待っていたのは、残念ながら彼の顔ではなかった。グレーの髪を後ろで束ねた
無骨な骨格を持つ大男。レドニル=キサカが小柄なカガリを小脇に抱えるように運んでいた。

「キ、キサカ!? どうして――」
「私で済まないと思うが、妥協してもらうぞ」
「そうじゃなくて――」
「カガリを救出しに来た」
「どうするつもりなんだ! ラクスや議長は――」

 身を捩じらせてカガリが暴れだす。しかし、キサカの丸太のような強靭な腕は、少女の力でどうにかでき
る代物でもなく、頑として動かない。キサカはカガリを抱えて駆けたまま、横目でカガリを見下ろした。

「残念だが、私ではカガリ1人を救出するのが精一杯だ。後は他の者達に頑張ってもらうしか他に無い」
「そんな事が許されると思っているのか! 私達は誰1人が欠けても駄目なんだぞ! プラントを滅ぼすつ
もりか!」
「しかし、カガリさえ生きていればオーブだけは何とかなる!」

 声を張り上げるキサカ。自分のしている事が、どれだけ卑怯な事かは彼自身が一番良く分かっているのか
もしれない。自分の主君を守るためとはいえ、どさくさに紛れてカガリだけを連れ出した自分の行為が、果
たして人間道徳に則しているものかと言えば疑問を抱かざるを得ない。キサカの呻きに似た声は、それが分
かっているようだった。カガリはそんな彼の気持ちを汲んでか、口を閉じた。
 この状況で手段を選んでいる場合ではない。キサカは自分の中の優先順位を決め、それを実行する事に徹
していた。そうして情を抑えなければ、カガリの救出すら危ぶまれたかもしれないからだ。

「こちら、レドニル=キサカ。無事カガリの確保に成功、現在そちらへ向かって移動中」

 キサカが腕にはめたマイクに向かって語り掛ける。すると今度はスピーカー部分を耳に当てて、その向こ
うからの声に耳を傾けた。それから数瞬の後、再び口元に当てて「了解」と呟くキサカを眺めて、カガリは
不思議そうにその様子に目を向ける。

「誰だ?」
「この様な事態になった場合、本来ならキラ君のMSでカガリを連れ出してもらい、ユウナ様の艦隊に合流し
てもらう手筈だったのだが、それも叶わなくなった」
「そんな事考えていたのか、アイツ……」
「その代わり、クサナギがメサイアに戻ってきた。私は艦載艇でメサイアに乗り込み、カガリを探し、そし
て見つけ出せた。殆ど偶然のようなものだったが、ハウメアのお導きによるものだと信じたいな」

 十字路に差し掛かったとき、薄暗く煙る向こう側に微かな人影が見えた。その瞬間、キサカは背負ってい
るハンド・バズーカを担ぎ出し、有無を言わさずにぶっ放した。そうして壁を蹴って方向転換し、別の道を
進む。

「お、おいキサカ! 今の――」
573 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/18(土) 23:08:26 ID:???
「敵か味方か、今は確認している余裕は無い。嫌なら目を閉じていろ」

 そう言うキサカの目は、いつもの穏やかで暖かなものではなかった。銀色に鋭く煌く刃のように鋭利に尖
った目尻は、カガリを戦慄させるような凄惨さがあった。別に、ゲリラ活動もしていたカガリに今さらキサ
カの行為を責められるような資格は無い。寧ろ守ってもらっているのだから、不平不満を漏らすのはお門違
いである。カガリが言われたとおりに目を瞑ったのは、そんな怖いキサカを見たくなかったからだった。


 爆発によって崩れるホール。重力が無い分だけ、崩壊を免れているようにアスランには見えていた。しか
し、状況は圧倒的に良くない。その激しさに誘われたのか、雪崩れ込むように連合軍の白兵部隊が押し寄せ
てきたのである。
 ホールは一面が霞みかかった煙に覆われていて、迂闊に動く事は出来ない。アスランは見える範囲で必死
の抵抗を試みる。

「ラクス! 君は俺から離れちゃ駄目だ!」
「は、はい!」

 その細い腕を掴み、サブ・マシンガンで襲い来る敵を薙ぎ倒していくアスラン。埃と煙の影響で視界は最
悪であったが、その高い白兵戦能力で敵を近寄らせない。
 耳には絶えず銃弾が発射される火薬の音。不規則に人の絶叫や悲鳴といったものがホールの壁に反響して
いる。鼻を突く刺激臭は、最早火薬の臭いなのか血の臭いなのか判別不能なまでに混じってしまっていて、
その嗅覚自体を麻痺させてしまいかねないような不快な臭いにラクスは吐き気を催し、苦しそうに呻いた。

「カガリを見失った――おい! みんなはまだ無事なのか!? 無事なら返事をしろ! 議長は――」

 叫び、呼びかけるアスラン。生き残っている仲間が、あと何人程度残っているのか、それを確かめたかっ
た。しかし、アスランの必死の声も発砲音と絶命の絶叫に掻き消されて、反応は返ってこない。
 手にしているサブ・マシンガンが、カチッカチッと乾いた金属音を立てる。弾倉の空になったそれを投げ
捨てると、ベルトで腰にぶら下げてあったもう1丁を握って再び撃ち始めた。

 暫く地獄のような殺し合いが続いていると、やがて濃い煙が霧散するように薄くなってきて、ホールの様
子が徐々に鮮明に見えるようになってきた。アスランはラクスを守りながら戦う傍ら、視線でデュランダル
の姿を探す。

「居た、デュランダル議長!」

 デュランダルの周りには、何人もの亡骸が無重力に浮いていた。当初10人程度で組織されていた親衛隊は
2名にまでその数を減らし、アスランが率いてきたミネルバの精鋭達も数人規模にまで減少していた。それ
に対し、敵は増えはしないものの一向に減る気配が無い。常に10人前後をキープしたままで、これだけ不利
な条件でよくもここまで凌げたものだと思う。
 連合軍の攻撃は、やはりデュランダルのところに一番集中していた。それは彼らの周りに浮いている亡骸
の数が証明している。しかし、それでも何とか持ち堪えられているのは、その亡骸が盾になってくれている
からだろう。凝固しきれていない血飛沫が舞う中、デュランダルは手にした拳銃で果敢にも応戦していた。

「デュランダル議長は、必ずお守りする!」
「プラントの未来が掛っているんだ! ここで敵の好きにさせるな!」
574通常の名無しさんの3倍:2009/04/18(土) 23:48:29 ID:???
かなりの規制か?支援
575 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/19(日) 00:01:57 ID:???
 残された僅かな護衛が、命を絞るような悲痛な声で気を張り続ける。しかし、そんな必死の抵抗も数の暴
力の前に敢え無くその命を散らせる事になる。或いは胸に、或いは額に銃弾を受け、悲しいまでに容易く絶
命する。デュランダルを守る人間が、居なくなった。

「デュランダル議長!」
「クッ!」

 ラクスの精一杯の叫び。それも虚しく、連合兵士に握られたライフルの砲口はデュランダルの胸を照準に
収めていた。連合兵士の口の端が、にやりと歪に釣り上がる。人差し指に力が入り、トリガーが引かれよう
とした、その時だった。目を剥くデュランダルの目の前で、その連合兵士は側頭部から血を噴出し、その場
で絶命したのである。更に、上方から注がれるような銃弾の雨あられが降り注ぎ、次々と声を上げて倒れて
いく連合兵士達。

「何だ!?」

 拳銃を構えたまま探すデュランダル。そこへ、1人の細身の少年が舞い降りてきた。

「ギル! 僕が来たからにはもう大丈夫だ!」
「レイ!」

 サブ・マシンガンを構え、デュランダルの前に敢然と立ち塞がるレイ。そのレイの登場を境に、連合兵士
の攻撃が徐々に緩慢になってきた。必至に抵抗し続けた結果、一時的に敵の侵攻を凌ぎきれたということだ
ろう。

 ――実際に、その場で戦っていた誰もがそう思っていた。ホールには夥しいまでの量の亡骸と、数え切れ
ないほどの銃火器がそこかしこに浮いている。いくら連合軍でも、人数に限りがある以上、必ず終わりがあ
るものだと思っていた。
 しかし、その考えが甘かった。発砲の音が止むと同時に、一同がほんの少し、気を緩めた瞬間だった。音
も無しに、デュランダルがぐらりとその身体を傾けた。

「え……?」

 その様子に、レイは一言発しただけでそれ以上は声にならなかった。彼の瞳に焼きついたのは、胸から血
を噴き出して仰け反っていくデュランダルの姿だけだった。
 何が起こったのかなど、レイに分かるはずも無い。胸に埋め込まれた凶弾、黒い長髪とコートをなびかせ
て流れる肢体。横たわるように浮かんでいる柱に背中から引っ掛かると、一つ咳をした。何かが喉の奥に詰
まっている様な、嫌な咳だ。顎を上げて倒れるデュランダルの口が、信じられないような量の吐血をした。

「クハハハハハッ! やったぞ、デュランダルを倒したぞ! ハァッハハハハッ!」

 静まり返ったホールに、下卑た笑い声が響いた。
576 ◆x/lz6TqR1w :2009/04/19(日) 00:07:45 ID:???
恐らく初めてZ側のキャラが出てこなかったクロスオーバーSSにあるまじき今回は以上です。
次回はちゃんと出ます

……後半からですけど

それにしても、さるさんはやっかいですね。10レスで発動だからいけると思ってたのに
9レスで発動したりとか、法則がいまいち分からない……
長すぎるといわれればそれまでですけど。
577通常の名無しさんの3倍:2009/04/19(日) 02:16:48 ID:???
乙でした!
カーチャン今気付いたから支援できなくってごめんね
した所で微妙みたいな話もあるけど

とりあえずユウナ(ノ∀`)アチャー
駄目指揮官アスラン、ギル命のレイ
おかげで3トップなんとか助かった……と思いきや!
いよいよもって最終局面ですね
ますます期待!
578通常の名無しさんの3倍:2009/04/19(日) 03:27:04 ID:???
乙です!
白兵戦かなり緊張感があり圧巻でした(^O^)

白兵戦高能力というアスランの設定がここまで生きてるのを初めて見ましたo(^-^)o

ラストまで頑張ってくださいm(__)m
579通常の名無しさんの3倍:2009/04/21(火) 03:34:31 ID:???
乙です
凄いとしか言いようがないです
580通常の名無しさんの3倍:2009/04/25(土) 19:02:55 ID:???
保守
581通常の名無しさんの3倍:2009/04/26(日) 04:07:42 ID:???
GJ!
デュランダルは退場か……。そのままレイも退場しそうな空気で怖いぜ……
582通常の名無しさんの3倍:2009/04/28(火) 21:02:54 ID:???
保守
583通常の名無しさんの3倍:2009/05/01(金) 10:16:46 ID:???
乙です!
議長「まだだ!まだ終わらんよ!」
584通常の名無しさんの3倍:2009/05/07(木) 18:28:51 ID:???
保守を継ぐもの
585通常の名無しさんの3倍:2009/05/07(木) 19:55:15 ID:???
近くのキセカチ設置店が全滅した…orz
586通常の名無しさんの3倍:2009/05/09(土) 23:45:44 ID:???
ageるのが怖いのか…?
587通常の名無しさんの3倍:2009/05/10(日) 00:28:42 ID:???
もうちょいねばれね
588通常の名無しさんの3倍:2009/05/11(月) 00:15:26 ID:???
保守
589通常の名無しさんの3倍:2009/05/11(月) 09:40:02 ID:imofVhyU
いいやッ!限界だ!ageるねッ!!
590通常の名無しさんの3倍:2009/05/11(月) 10:03:13 ID:???
「大きな胸が、揺れたり跳ねたりしている…。大きい…!ラクスかな?いや、違う、違うな。ラクスはもっとペタンとしてるもんな。」
591通常の名無しさんの3倍:2009/05/11(月) 13:21:21 ID:cNDv2Res
ビーーーーーーーームコンフュウウウウウウウウウズ!!!
592通常の名無しさんの3倍:2009/05/12(火) 17:55:33 ID:???
まとめwikiのカミーユ In C.E. 73最終話っていつなくなっちゃったんだ
前あそこで読んだような気もするんだけど・・・
593通常の名無しさんの3倍:2009/05/12(火) 23:18:36 ID:???
言われてみれば消されてるな
594通常の名無しさんの3倍:2009/05/14(木) 23:28:29 ID:???
保守
595 ◆x/lz6TqR1w :2009/05/15(金) 23:14:58 ID:???
  『生と死の狭間で』


 視線は男の姿を捉えていた。薄灰色の短髪に病的なスキン・カラー、凍えて変色しているような紫の口唇
に爬虫類のように剥く目。ノーマル・スーツに身を包んだその手には、大袈裟なスナイプ・カメラと先端に
サイレンサーが付いた一丁のライフルが抱えられていた。笑い声は反吐が出るほど汚く、聞くに堪えない。

「何やら騒がしいので来て見れば、ハハッ! こうも容易くデュランダルを葬れるとは思わなんだぞ!」

 ライフルの銃身を立て、見下すように顎を上げるその仕草が、男の猟奇性を際立たせる。デュランダルを
撃った事に何の感傷も抱かず、ただ狩りで狙った獲物を仕留めたような恍惚を浮かべていた。
 レイの拳が震える。まるで、デュランダルを屠殺されたような気分だ。手にしたサブ・マシンガンがカタカタ
と音を鳴らした。

「き……貴様ぁッ!」

 喉を焦がすような重くくすんだ声。それは怒号と言うよりも、最早絶叫と呼ぶべきものだった。言葉に
なっているのが不思議なくらい、レイの声は低く、そして歪んでいた。
 男――ジブリールに対して半身の姿勢になってサブ・マシンガンを構える。レイがトリガーを引くよりも
早く、護衛が盾となって立ち塞がった。

「うわああああぁぁぁぁッ!」

 理性を失くした獣の咆哮で、レイは叫んだ。サブ・マシンガンの砲口が火を噴き、有機物も無機物も関係
無しにひたすらに撃った。着弾で舞い上がる埃、そして銃弾を受けて負傷、或いは絶命するナチュラル。
 ジブリールはそんな鬼の形相のレイを嘲笑う様に口の端を吊り上げた。その様が、細い顎のせいか口が
裂けているように見える。

「我々とコーディの共存だと? デュランダルの奴は、そんな事を口走っていたなぁ。――下らん! そん
なゴミのような思想は、この屑要塞と共に宇宙の塵となればいい! 我々が貴様らと共存するという事は、
こういう風にして殺し合うと言う事なのだからな!」
「貴様ぁッ!」
「化け物コーディは須らく抹殺される運命にある! だからこそ、ギルバート=デュランダルは死んだ! 
クソの役にも立たんような愚かな理想と共に!」

 立ち塞がる護衛の姿に紛れ込んで、ジブリールは高笑いをしながら姿をくらます。許せない――レイは
それを追って床を蹴った。

「待て、レイ!」

 制止するアスランの忠告も聞かず、サブ・マシンガンを抱えて低い姿勢で突っ込むレイ。ジブリールの
逃走を援護する護衛の銃撃が、レイの右上腕を掠めた。その切るような痛みに表情を歪め、バランスを
崩す。連合兵士の銃口が、レイの額に照準を合わせた。

「くっそぉッ!」

 アスランはサブ・マシンガンを投棄し、素早く懐からハンド・ガンを取り出した。そして一瞬で照準を合わせ、
レイを狙う連合兵士の眉間に一発で命中させる。鉛玉を頭に打ち込まれた兵士は、そのまま倒れ込んだ。
596 ◆x/lz6TqR1w :2009/05/15(金) 23:17:14 ID:???
 この隙にこちらへ――しかし、銃撃の激しさは増すばかりでにっちもさっちも行かない。レイは物陰に
隠れて事無きを得る事が出来たが、そこから動けないで居る。窮状である事に変わりはなかった。
 アスランとレイの距離、僅か20〜30M程度。銃撃で援護するには近いが、救出に動くにはやや遠い。
アスランが単身であったなら強行突破が可能な距離であったが、ラクスを連れたままでは難しかった。

「お2人とも、こちらです!」

 歯軋りするアスラン。その時、不意にラクスの声が響いた。いや、実際に声を発したのはラクスではなく
別人だった。即座に振り返ると、そこにはミーアが手を差し伸ばしていた。

「ミーアか!?」
「ラクス様をこちらに!」
「頼む!」

 脱出と激戦で疲労したラクスの背中を押し、ミーアの元へと預ける。そうして身軽になったアスランは、
壁から剥がれ落ちた3M四方はあろうかという大きな鉄板を隠れ蓑にして連合兵士へと飛び掛った。

「な、何だありゃ!?」
「鉄板が人間を襲うものかよ! 構わん、撃てぇ!」

 連合兵士も多少困惑しながらもその鉄板に集中砲火した。鉄板とはいえ、それは盾となれる程の剛性を
持っていない。その影に居る奴は、蜂の巣だろう――しかし、ぐらりと傾いた鉄板の先には、そこに存在して
いるはずの死体の姿は無かった。
 不思議な出来事にうろたえる連合兵士。ちょっとしたパニック状態に陥り、落ち着き無く頭を動かした。
そこへ、上方から降り注がれる銃弾が2人の連合兵士を貫く。仲間の悲鳴に気付いて慌てて顔を上げるも、
襲い掛かるアスランは既にもう3発の鉛玉を1発ずつ3人に撃ち込んでいた。
 アスランの銃弾に、次々と倒れる連合兵士。彼が床に足を着いた時、腰の鞘から眩しく光を放つ鋭利な
ナイフが引き抜かれ、神速の如きスピードで一突きする。鳩尾からあばら骨を潜る様に突き込まれたナイフ
は心臓に達しており、引き抜くと同時に吐血して白目を剥いた。その傷口から噴出した血飛沫が、アスランの
制服に付着する。
 残すは1人、恐怖に竦んで身を震わせている。アスランは赤くべっとりとなったナイフの血拭いもせず、間髪
入れずに引き攣った表情でライフルを構える兵士の胸を突き刺す。その正確なナイフ捌きがあばら骨の隙間
を突き通し、同じく心臓に命中した。そうして最後の1人も倒れると、返り血を嫌ったのかナイフを突き立てたまま
遠くへ蹴り飛ばした。

「……終わりか?」

 乱れた呼吸、しかしそれも直ぐに整え、アスランは他に潜んでいるかもしれない敵を探す。全身の神経を
尖らせ、僅かな空気の揺らぎすらも見逃さない。
 暫く身構えていたが、それらしい気配は感じなかった。どうやら、そのホールには既にアスラン達しか
残されていないらしい。構えを解き、大きく息を吐き出した。
 激しい戦いだった。数多の死体が散在しているそこは、まさしく戦場の跡。血溜まりが球状となって無重力
に浮かんでいる。主を失った銃火器は、僅かな光に頼りなげな鈍色を湛えていた。こうして生きているのも
不思議なくらい凄惨な光景に、アスランは自分の運がまだ尽きては居ない事を確信した。
 敵を退ける事には成功した。しかし、こちらも親衛隊とミネルバの精鋭部隊は全滅、カガリはいつの間にか
行方不明になっており、デュランダルも――

「ギル!」
597 ◆x/lz6TqR1w :2009/05/15(金) 23:19:06 ID:???
 振り返るアスランの視線の先で、横たわるデュランダルの傍で蹲る少年の後ろ姿があった。全身を震わせ
顔を見なくとも泣いている事が分かる声だった。
 ミーアと共に身を隠していたラクスも、事態の収拾を感じ取って姿を現した。アスランもそれに倣うように
デュランダルの元へと床を蹴る。ゴホゴホと、喉から何かを掻きだす様な咳が聞こえた。

「ギル!」
「2人は――アスランとラクスは……」

 弱々しく伸ばす腕。レイが両手で包み込んで励ますように握り締める。じわりじわりと胸から拡がっていく
コートの赤い染みが、残り僅かなデュランダルの命を削っていく。
 狼狽しきるレイなど、初めて見た。アスランの目には、レイ=ザ=バレルという少年は常日頃からどこか
達観した悟り人のように見えていた。しかし、今の彼は歳相応の何処にでも居るような思春期の少年の顔を
している。彼とデュランダルの関係、それが果たしてどのようなものであるのかは知れない。ただ、2人は強い
絆で結ばれているのだろうな、とは思った。――何故か、父の事を思い出した。
 レイがデュランダルのうわ言の様な声に反応してアスランとラクスを交互に見る。アスランはラクスに目配せ
をして、横たわるデュランダルの顔を覗きこんだ。

「デュランダル議長、わたくしはここに」
「直ぐに脱出します。ミネルバに戻るまで、今しばらく辛抱してください」

 アスランがそう言うと、デュランダルが鼻で笑ったような気がした。それがまるで自分の死期を悟っている
ようで、無性にやるせなくなる。元々白かった肌の色は失血で余計に蒼白さを増し、僅かに開かれている
目の下は徹夜続きのように黒くくすんでいた。
 ヒュー、ヒューと空気の抜けるような音を立てて呼吸をするデュランダルの口が、必死に言葉を紡ぎだそ
うと律動する。アスランとラクスの2人は、体勢を低くして言葉に耳を傾けた。

「君達に、プラントとザフトを頼みたい……」
「デュランダル議長……!?」
「アスランと言う英雄の名、ラクスと言う歌姫の名……ザラとクラインの領袖でもある君達なら、きっと
纏められる……」

 何がそんなに嬉しいのか、アスランにはトンと分からない。分からないが、デュランダルはそう言って、
まるで少年が将来の夢を語るように瞳を輝かせていた。
 しかし、急にそう言われて戸惑わないわけが無い。英雄と呼ばれていても、それに見合うような器では無い
事をアスラン自身が認めていたからだ。情けない自分を自覚するからこそ、素直に頷けない強情さが顔を
覗かせる。優柔不断な彼の性格が、その場での即答を躊躇わせていた。付け加えて、婚約破棄となったラクス
と今さら手を繋いで矢面に立つ事に抵抗があった。――こんな時にそんな下らない事を考えられる自分の
不真面目さに、私事ながら密かに心の内で呆れていた。
 ラクスはどうなのだろうか。チラリと顔を横に向けて表情を覗う。そこには、デュランダルの意志を引き継ごう
という決意に満ちた顔があった。澄んだ瞳は真っ直ぐにデュランダルを凝視し、キュッと真一文字に結ばれた
口元は有無を言わせない力強さを感じさせた。
 ラクスが、こくりと頷く。アスランも、それに倣って頷いた。正直、彼女のような自信が自分にもあるとも思え
ないが――

「ありがとう……これで、プラントは大丈夫だ……安心したよ……」

 安心している場合ではない。デュランダルの出血は致死量に至ろうかというほど既に流れ出してしまっている。
決して口には出せないが、アスランは既にデュランダルが助からないだろうということが予感できていた。
598 ◆x/lz6TqR1w :2009/05/15(金) 23:20:21 ID:???
 デュランダルはそんなアスランの顔を、意味深な瞳で見ていた。今わの際である事を一番理解しているの
は、もしかしたらデュランダル本人なのかもしれない。細めた目が、一同を和ますように笑ったのを見て、そう
思えた。

「それから、ミーア……」
「は、はい」

 呼ばれ、まさかの展開に動揺を見せるミーア。気を遣って少し離れた所で佇んでいた彼女も、慌てて駆け
寄ってくる。アスランとラクスが場所を譲ると、それまで2人がしていたように身を被せるように顔を覗きこんだ。

「君には、嫌な役をやらせてしまった……それだけは、謝って置きたかった……」
「そんな、私は――」

 死に行く人間が、これほどまでに弱々しく、か細い存在であるとミーアは知らなかった。どんな感情が
渦巻いてそうなったのかは分からない。ミーアは、デュランダルの顔が余りにも感傷的過ぎて、独りでに
涙を流していた。
 無重力に玉となって浮かぶミーアの涙。それが瓦礫だらけになったホールに美しく散ったかと思うと、
デュランダルは徐に目を閉じた。

「ギル!」

 ミーアを突き飛ばし、レイがデュランダルを抱え上げる。力の抜け切った肢体は、そんなレイの腕の中か
ら、今にもするりと抜け出してしまいそうだった。
 泣きながら何度も「ギル、ギル」と呼びかけるレイ。その声が力を与えたのか、デュランダルは残された
力を搾り出すように再び目蓋を上げた。

「ギル、大丈夫だ! 少し我慢すれば、ミネルバに辿り着ける! そうすれば――」

 レイの頬を、デュランダルの手が触れた。微かに残された最後の力を振り絞り、最愛の息子の温もりを
その掌に感じ取る。幼子のように泣き喚くレイの頬を、宥め賺すかのようにそっと撫でた。

「レイ、何も…してやれんで……」
「何を弱気になって――しゃべっちゃ駄目だ!」
「私は…お前の父親たり得ただろう…か……?」
「決まってるじゃないか! それは今までも、これからもずっとそうだ! だから――」
「なら、お聞き、レイ……。お前に、言い遺したい事が…あるんだ……」
「そんな、最期みたいな台詞、止めてくれ!」

 死を意識したデュランダル、死を諦めきれないレイ。2人の認識の差が、会話に齟齬を生み出していた。
 デュランダルは、そんなレイの必死の抵抗をかわし、続ける。

「レイ、運命に負けるな……お前なら、ラウとは違った人生を歩ける……私は、そう信じているよ……」
「僕はラウのように世界に絶望なんてしない! ギルの言うような人間にもなってみせる! だから、ギル!
 ……お願いだから死なないで!」

 それは決意表明ではなく、懇願のようであった。子供が親に対して要求を満たしてもらおうとする駄々に
近いかもしれない。その我侭を言う権利も、今のレイならば世界の誰よりも有しているだろう。
599 ◆x/lz6TqR1w :2009/05/15(金) 23:21:56 ID:???
 デュランダルは、そんな息子の幼さが微笑ましかったのか、口元が微かに笑みを湛えた。実に彼らしい、
数多の人々に何度も不敵に笑って見せた彼の、最期の微笑である。

「フッ……生き抜いて見せてくれよ……レイ……」

 かつて、破滅に向かうクルーゼを止められなかった。友人の戦死を聞いたのは、第2次ヤキン・ドゥーエ
戦役が終結して間もなくの頃だった。
 彼の闇を晴らせなかった自分の無力を悔やんだ。だから、レイと養子縁組を結んだのは、最初はその
罪滅ぼしだったのではないかと思う。しかし、レイを罪滅ぼしの為のエゴイスティックな手段にしてはいけな
かったのだ。それに気付いてからのデュランダルの眼差しは、親のそれと同じだった。
 仄かに触れるくらいで撫でられていたデュランダルの手が、その動きを止めた。刹那、重々しく目蓋が
下がり始め、その目尻からは1滴の涙が溢れた。

「タリア……君を、幸せに出来なかった…私の無力を……」
「ギル!?」
「私は……皆が悲しい思いをしなくて済む…世界を、創りたかっただけ…なのに……」

 最早、呂律も回らないほどに力が抜け切っている。何を口走っているのか自分でも理解できていないよう
な朦朧とする意識の中で、デュランダルの目が何かを見た。覆い被さるレイの顔は、霞んでしまって既に
定かでは無い。その向こう――光が消えていくその瞳が、誰かの影を見た。
 気付かないレイ。生気が失われていくデュランダルを、ただ涙ながらに抱き締めるしか無かった。

「あぁ…ラウの声が、聞こえる気がする……私を、呼んでいるのか……?」
「駄目だギル! 僕を置いてかないでくれぇ!」

 くしゃくしゃの顔で呼びかけるレイ。しかし、デュランダルの目は再び開く事は無かった。

 メサイアの振動が大きくなる。恐らく、上陸した連合兵士が仕掛けたであろう爆薬が爆発しているのだろう。
現在居るホールも、いつ爆発に巻き込まれるか分からない。アスランはデュランダルの亡骸を抱きかかえた
まま泣き伏せているレイに声を掛けようとした。

「ザラ隊長」

 出しかけた声を喉の奥に押し込む。レイがデュランダルを肩で担ぎ上げ、立ち上がった。

「メサイア内にまだ敵が残っているかもしれません。ここは自分が囮になり、敵の注意を引き付けます。
隊長はお2人を連れて別ルートにてミネルバに戻ってください」
「囮ったって――」

 途中まで口に出して、その次を声に出さなかった。レイの言葉が建前だという事は、デュランダルを担い
でいるレイの後ろ姿を見れば分かる。2人の時間を邪魔することなど、無粋でしかない。

「分かった。気をつけて――」

 言いかけて、また言葉を止める。

「――必ずミネルバに帰投しろ。これは命令だ」
600 ◆x/lz6TqR1w :2009/05/15(金) 23:24:00 ID:???
 言い直したアスランの言葉に、レイは一度だけ頷いてみせた。それを確認すると、アスランはラクスと
ミーアの手を取って脱出を急いで行った。

「ありがとうございます、ザラ隊長……」

 呟き、生命体としての活動を終えたデュランダルを担ぎ直す。まだ、ほんのりと人の体温を感じる。
これから、少しずつ冷たくなっていくのだろう。デュランダルの手を握り締め、レイは床を蹴った。


 メサイアの崩壊が、早まってきたように思う。ミネルバへと戻る道中、何度か大きな振動が脱出中である
アスランたち3人を襲った。無重力の分だけ、崩れた鉄材に押し潰される心配は少ないが、何処に潜んで
いるかもしれない見えざる敵に、アスランの神経は磨り減らされていた。
 アスランはチラリとミーアを見た。ラクスと並ぶその顔は、同じはずなのにミーアの方が魅力的に見えた。
それはラクスに対する個人的なマイナス・イメージと、気落ちしていた自分を救ってくれたミーアのプラス・
イメージが生み出した主観に過ぎないのかもしれないが。

「ミーアさんは、どうしてこんな所に?」

 ラクスがミーアに訊ねた。それは、アスランも感じていた疑問である。彼女のような戦う力を持たない女性
が、軍事要塞丸出しのメサイアに居た事が不思議だった。ミーアは、ラクスの問いに少しばつの悪そうな
表情で俯いた。

「……万が一の場合、あたしがラクス様の身代わりになれればと――」
「デュランダル議長が……?」

 被せるようなラクスの言葉に、ミーアはふるふると頭を振る。

「あたしがデュランダル議長にお頼み申し上げたんです。もしもの時に、あたしが囮になる事でラクス様を
お助けできるようにと」
「そんな事――」
「あたしの存在って、その為にあるものだと思っていますから」

 平然と笑顔でそう答えるミーア。その態度にラクスが険しく表情を変化させると、ミーアはそれが分かって
いた様に視線を落とした。

「何故その様な事をあなたが思う必要があるのです? ミーアさんは、この世に2人と居ない人間なのですよ?
 わたくしに友人を盾にして逃げろと仰るのですか」
「今、ラクス様があたしを友人と仰ってくださりました。それだけで、十分です」
「お黙りなさい。その様なミーア=キャンベルなど、わたくしは許しません」

 厳しいラクスの口調を、アスランは諌める事は出来なかった。ここは流石にラクスの言う事の方が正しい
と思ったからだ。ミーアがラクスの代わりを演じていたとはいえ、そこまで思い詰める事は無い。いくらラクス
の熱狂的ファンでも、そこまで卑屈になる道理など何処にも無いのだ。特にアスランは、ミーアを1人の魅力
的な女性として見ているだけに、彼女の破滅願望的な思考が面白くなかった。
 しかし、ここでミーアに説教をしている余裕は無い。アスランは少し不貞腐れた表情をしながらも、通路の
角の先に居る敵の存在を感知した。

「え……?」
601 ◆x/lz6TqR1w :2009/05/15(金) 23:25:49 ID:???
 アスランが無言で腕を出して2人を制止させる。口を閉じたままのラクスと、微かに声を上げるミーア。
険しいアスランの瞳に、意図を察して慌てて両手で口元を押さえた。アスランが指で角の先の敵の存在を
示唆すると、2人はそれに応えて頷いた。
 アスランが軽く床を蹴って先行する。敵はそのアスランの接近を今か今かと待ち構え、ライフルを構えて
いた。果たして、アスランが浮遊していた誰のものとも知れないヘルメットを掴んで放り投げると、ライフル
の銃弾がそれを砕いた。

「メットだけ――何ッ!?」
「甘いな!」

 虚を突かれ、錯乱する連合兵士。アスランが天井を蹴って死角から飛び掛ると、一瞬にしてハンド・ガン
の狙いを定め、2発の弾丸を確実に撃ち込んだ。

「ど、どういう事だこれは!? ラクス=クラインが2人も居るなんて聞いてないぞ!」

 絶叫し、倒れる連合兵士。その刹那、背後から――ラクスとミーアを待たせている方向から別の男の声が
響いた。

「しまった!?」

 甘かったのは、自分の方だった。敵が複数存在していたという事を、なぜ考慮しなかったのか。アスランは
自らが犯した信じられないようなイージー・ミスに、表情を醜く歪めた。

「くっそォッ!」

 振り向いた時には、既にライフルを構えた連合兵士が2人を照準に収めていた。間に合うか――アスラン
も即座に銃を持つ手を上げる。乾いた2発の銃声が、重なって木霊した。



 メサイアからは、まるで水責めに遭ったアリの巣のように脱出艇が次々と発進していた。しかし、その
脱出艇の半数近くが、群がる連合軍の前に敢え無く撃沈されてしまう。
 クサナギは、あるメサイアの港湾出入り口付近で艦体を横たえていた。そしてそれを守るオーブのMSと
デスティニーの姿があった。
 戦闘ブリッジのトダカは、獅子奮迅の活躍を見せるシンの頑張りに身を締め付けられるような思いに
なっていた。2年前、自分が勧めたプラントへの移転は、決して間違っていなかったのだと。

「レドニル=キサカから入電。2、3分後に出てくるそうです」
「了解した。――間に合いそうですな」
「間に合うのかい?」

 オペレーターからの報告を聞き、顔を振り向けてくるトダカに懐疑的に視線を返すユウナ。クサナギの揺れ
は、メサイアに取り付いてから激しさを更に増していた。既に幾つかの砲門は沈黙しており、艦載機のMS隊
とて半分以上はやられている。シンのデスティニーがいくら頑張ってくれていても、1機のMSがカバーできる
範囲には限界がある。明らかに不利であるこの状況で、ユウナは不安で仕方なかった。

「ここで沈んではオーブ軍人の名折れ。必ず持ち堪えて見せます」
602 ◆x/lz6TqR1w :2009/05/15(金) 23:27:36 ID:???
 トダカはそうは言うが、クサナギの損壊も拡がっており、果たしてカガリを収容できたとしても連合軍の
追撃から逃げ切れるのかという疑問があった。

「光信号を確認! キサカです!」

 ユウナが考え込んでいると、唐突にオペレーターが叫んだ。トダカの目が見開かれる。

「よぉし! カガリ様を収容後、当艦はメサイアを離脱する!」

 ちかちかとライトを断続的に光らせ、小型艇がメサイアの出入り口から顔を覗かせた。トダカの号令に
応えてクサナギのハッチが開かれると、受け入れの体制に移った。
 しかし、その行動が敵に何かを悟らせるきっかけとなってしまったのかもしれない。クサナギが収容の
準備を始めた事と、メサイアから脱出する小型艇の存在が、それに重要人物が載せられているのでは
ないかという憶測を呼んだのである。それまでクサナギとそのMS隊を攻撃していた連合軍MSも、次第に
ターゲットを小型艇へとシフトし、クサナギの収容作業は困難を極めた。

「何やってんだ! カガリが狙われているじゃないか!」
「収容を焦ったのが裏目に出た? ――デスティニーは!?」

 絶叫するユウナ。キサカが極限状態の中でも必死にコントロールしてくれているお陰か、小型艇は何とか
攻撃を受けずに済んでいる。しかし攻撃に晒される小型艇はフラフラと揺れ、いつビームが命中して沈むか
分からない危機的状況に陥っていた。
 シンが、オペレーターの呼びかけに応じる。ブリッジのモニターに、表情を歪めるシンの顔が映し出された。

『何なんです!?』
「アスカ君! クサナギの裏にカガリ様の小型艇がある! 向かえんか?」
『自分たちで何とかしてくださいよ! そういう場合じゃないって、こっちも数が多くて――うわっ!?』
「アスカ君!?」

 別のモニターが交戦するデスティニーの姿を映し出している。複数の敵に取り囲まれ、埋もれる様にして
抵抗を続けていた。いくらシンでも、直ぐにあの状態からは切り抜けられない。デスティニーの援護は見込め
そうに無かった。
 そうこうしている間にも、小型艇への攻撃は止む事は無い。キサカがどれだけ頑張ってくれても、攻撃を
受け続けて無事に済むとは思えなかった。
 クサナギのブリッジは、静かに揺れていた。音の無い恐怖が、これほど精神的にきついものだとは、思わな
かった。ユウナは、いつしか空気が冷え込んでいた事に気付いていた。それは肌で感じる気温の変化ではない。
雰囲気が、変わったのだ。

「ユウナ様……」
「ん……」

 トダカの視線に何かを感じ取ったのか、ユウナの表情が恐怖に引き攣る。しかしユウナは気を取り直すよ
うにノーマル・スーツの首元を指で軽く緩めると、シートに埋める腰を掛け直した。トダカはその様子を眺め
ながら、恥を隠すように制帽の唾を指で抓んで目深に被り直す。

「本来なら、あなた様を脱出させなければいけないところなのですが……」
「緊急時である。僕の事は構わずに、君は最善と思われる行動を取りたまえ」
603 ◆x/lz6TqR1w :2009/05/15(金) 23:31:20 ID:???
 制帽の唾の影から、ユウナの様子を盗み見る。どっしりとシートに腰掛けているように見えても、肘掛け
に乗せる腕はカタカタと小刻みに震えているし、その瞳も動揺を隠し切れなくて落ち着きが無い。額には
脂汗が浮かんでいて、唇は極度の緊張で乾ききっていた。それでも気を張って構えているユウナを見る
だに、以前に比べれば遥かに逞しくなったと思う。

「ユウナ様はお強くなられた。ウナト様も、満足しておいででしょう」

 世辞や気休めではない。トダカの心からの賛辞を、ユウナも肌で感じ取っていたようだった。
 トダカの言葉に応える人間は誰も居ない。覚悟を決めた彼らに、最早言葉は必要なかった。

 ビームの光が、こんなに怖いものだとは思わなかった。カガリの瞳に次々と明滅するビーム攻撃の光の嵐
は、MSのコックピットの中で見るそれとは全く違うものだった。戦闘用のMSとは違って武装の類を一切持た
ない小型艇の、何と心許無いものだろう。果たして、自分は戦場を甘く見すぎていたのだろうか。綱渡りのよう
なこの状況で、そんな事を冷静に考えられる余裕など無かったのも確かだった。カガリは、自分の表情が
恐怖に引き攣っているであろう事を意識した。
 小型艇の運動性能など、フレキシブルに設計されているMSに比べるべくも無い。遥かに鈍重である小型艇
の操縦に四苦八苦しながら、キサカは歯を食いしばって一縷の望みに賭けていた。しかし、そんなキサカの
頑張りも圧殺せんばかりの攻撃の前に、遂に1機のMSの銃口がピタリとこちらに向いた。
 時間が止まったような感覚。なまじMSのパイロットをしていただけに、それが不可避であると嫌でも思い
知らされる。そのMSのビームライフルの銃口がビームを吐き出そうと輝きを灯す瞬間、全ての努力が徒労
に終わろうとしている事を実感した。
 ところが、その視界を遮って巨大な物体が間に滑り込んできた。キサカは勿論、カガリも良く知るその
シルエットは、2年前からオーブ軍宇宙艦隊の象徴とも言える戦艦――クサナギ級の1番艦だった。

「な、何をしている!?」
「クサナギが、盾になる? ――トダカ一佐!」

 クサナギに潜り込むような形になった。艦底からの姿では、どんな状況になっているのかが分からない。
その向こう側でビームの光が煌く度、クサナギのシルエットを逆光となって黒く染める。推進装置がビーム
に貫かれると、一際大きな爆発を起こした。飛び散る破片が、クサナギの残り僅かな寿命を表していた。

「止めろッ! 何を考えているんだ!? そんな事をして命を粗末にすることは無い!」

 クサナギの無謀な行為に、カガリは叫ばずにはいられなかった。クサナギが撃沈を厭わずに盾となって
くれている事が、分かってしまったからだ。
 自分というオーブの偶像1人を助ける為に、戦艦1隻の人員が命を散らす。――オーブへの貢献度で考え
たならば、彼等の方が遥かに適っている。彼等が死ぬ必然性が、どこにも見当たらないのだ。
 涙が出てきた。弱さを隠し切れない自分は、何処まで未熟なのだろうと悔しくなる。
 その時、突如として通信モニターが開かれた。クサナギからの電波だ。激しく乱れる映像の先に、うっすら
と青年の顔が見える。薄青紫の癖の強い頭髪と特徴的なもみあげで誰なのかは直ぐに分かった。カガリは
モニターにかぶり付いた。

「ユウナ!」
『デスティニーがそちらに向かってくれるだろう。辿り着くまでは持たせるつもりだ』
「何を!? ――今すぐクサナギを退避させろ!」
『キサカ、カガリの事を頼むよ』
604 ◆x/lz6TqR1w :2009/05/15(金) 23:33:54 ID:???
 カガリの言葉など、聞く耳を持たないとばかりにユウナは話をキサカに振る。キサカはそんなユウナの決意
を汲んでか、無言で重々しく頷いた。

「聞いているのかユウナ! これはオーブ国家元首の命令だ! こんなバカな事は今すぐ止めて、逃げろ!」

 ユウナの顔が、笑っているような気がした。それが精一杯の強がりであることを、彼の軟弱さを知っている
カガリは見抜いていた。そして、インテリを気取る彼は常にカガリを見下していた事も知っている。しかし、
今この場に於いては、そんな彼の性根の悪さは微塵も見られなかった。

『カガリ。僕の一番好きな人。――でも、君が一番好きな人は僕じゃないって事を、僕は知っているんだよ』
「ユウナ……!?」

 ユウナの抵抗。見えているようで見えていないような、酷く曖昧な敵としてアスランと戦い続けていた。
そんな彼の、唯ではカガリを渡さないという、最期の意地。俗に言い換えれば、鼬の最後っ屁である。
カガリの人情深い性格は分かっている。こう言えば、不惑の彼女の心も揺れるという事を、ユウナは見抜い
ていた。

『長く伸びた髪、素敵だよ、ハニー』

 ハッとして触れる自分の髪。気付けば肩甲骨の辺りまで伸びていた髪の滑らかな触り心地。そして乱れる
モニター、辛うじて判別できたウインク。その台詞を最後に、通信は遮断された。

「ユウナ、ユウナ!」

 喚き、何度も再接続を試みるカガリ。しかし、通信機器の不具合か、或いは拒否されているのか、クサナギ
との通信回線は二度と繋がる事は無かった。

 ブリッジが生き残っている事が、奇跡のように思えた。それほどクサナギの被害は広がっており、最早
戦艦としての機能など望むべくも無いまでに疲弊しきっていた。クサナギに残された役割は、小型艇を守る
ための防御壁としてのみである。
 ユウナは、不思議と落ち着いていた。いや、怖い事には怖いのだが、誇らしげに胸を張れるこの心地よさ
と言うものは、一体何なのだろう。好きな女性の為に命を懸けられる自分の、男としての甲斐性の発現と
発見が、目新しいものとしてユウナを励ましているようであった。
 ビームの雨あられが、光のシャワーとなってユウナ達を照らしていた。鉄を容易く溶かすその光の中でも
トダカを始めとしたみんなが付いていると思うと、不思議な一体感を得て心強ささえ感じた。
 ふと、綯い交ぜになった感情がユウナの瞳から熱いものを流させた。それがどんな意味を持って溢れてき
たのかは、彼自身にも分からない。ただ、自然と感情に委ねて流す涙は、父・ウナトを失った時とは違う静か
な興奮を覚えた。

「カガリ……。結局、僕は君にこの程度の事しかしてやれなかったけど、どうか僕の事を忘れないで居て
おくれよ……」

 ユウナの呟き。トダカが制帽を整えた。クサナギのブリッジが、一際強い光に包まれた。

 迸るビームの光が、鉄を溶かし貫く。艦体を貫いて、爆ぜた破片が飛び散る瞬間は何時見ても無残だ。
それが味方のものであるとなれば、尚一層の悲壮感を覚える。クサナギのブリッジにビームが直撃した
瞬間を、シンの目が見ていた。
605通常の名無しさんの3倍:2009/05/15(金) 23:39:12 ID:???
紫煙
606 ◆x/lz6TqR1w :2009/05/16(土) 00:06:53 ID:???
「他にも……他にもやり様はあったかもしれないのに……!」

 煙を噴くクサナギのブリッジを見て、シンは操縦桿を握る手を震わせた。モニターを通して映し出される
クサナギの艦体が、ヘルメットのバイザーに反射して映されている。見開いた瞳は、瞬きを忘れてそれを
凝視していた。

「どうして“オーブ”(あんた達)はいつもそんな風にしかやれないんだッ!?」

 命を賭して誰かを守る。それが、自爆して散っていったウズミの行為と重なる。シンの気を吐く咆哮は、
悪戯に自分の耳を刺激しただけだった。

「トダカさん、あんた卑怯だよ……。こうして見せれば、俺がアスハを助けに行くしかないって、考えてた
んだろう? ヘッ、俺の気持ちの準備もさせない内にさ……クッ!」

 自嘲した瞬間、歯を軋ませた。ギュウッと操縦桿をきつく握り締め、ガクッと首を前に落とした。
 シンの脳裏を、一瞬、家族の姿が過ぎった。オノゴロ島での、無残な記憶。飛び散った姿は深く記憶に
刻まれ、永遠に色褪せる事は無い。

「――死んで、誰が喜ぶものかよ……ッ!」

 吐き出した言葉。直後、シンはデスティニーに鞭を入れて全速力でクサナギの陰に居るであろう小型艇の
救出へと向かった。未だ何とか形になっているクサナギの艦体――そう呼ぶよりも、最早スクラップに近い
姿となっていたが、それを回り込んで目標を探す。

「見つけた……ッ!」

 クサナギの影に隠れて立ち往生している小型艇をその視界に捉えた。そして、同時にそれに仕掛けようと
いうMSの姿も捕捉した。チッとシンが舌を鳴らすと、デスティニーが双眸を瞬かせてフラッシュ・エッジを引き
抜いた。光の翼がデスティニーの存在を誇張するように開かれると、駿足の機動が一瞬にしてそのMSとの
距離を詰めた。そしてこちらの接近を感知させる間も与えず、背後からコックピットを一突きする。
 MSの爆散と同時に光の粒子を振り撒いて小型艇へと急行するデスティニー。クサナギが、今にも爆発し
そうなスパークを放っていた。クサナギの限界が近い事を悟ったシンは、急ぎ小型艇にマニピュレーターを
接触させた。

「この場を離脱します! ミネルバまで辿り着ければ――」
『クサナギを……クサナギを見捨てて行けと言うのか、お前は!』

 カガリの声。耳に煩わしさを覚える。極限状態に我を忘れそうになっているのか、言葉が余りにも子供染
みている。恐らく、クサナギがどういう状態なのかも理解できていないのだろう。
 カガリの台詞は、身勝手にしか思えなかった。シンは歯軋りをして苛立ちを胸の奥に押し込む。

「見りゃ分かるだろ! クサナギはもう無理だ!」
『そう言って誤魔化すのがシン=アスカの私への復讐のつもりなら、それは鬼畜生だ! 外道だ!
 人でなしのすることだ! ユウナ達は、まだ生きているかもしれないんだ、助けたいんだ!』
「何を言って――」
『彼の言うとおりだ、カガリは大人しくしているんだ!』
『うるさいキサカ! お前の出る幕ではない!』
607 ◆x/lz6TqR1w :2009/05/16(土) 00:08:25 ID:???
 従者と思われる男との喧騒も聞こえてきた。いよいよ以って、カガリの短所でもある頑固者の一面が顔を
覗かせる。
 カガリの必死な声。しかし、シンはそれを彼女にとっての都合の良い希望的憶測に過ぎないのだと切り
捨てる。その我侭を、シンは決して許さない。

「いい加減にしろ、あんたは! こんな所でうだうだやっている暇なんて無いんだって、分かれよ!」
『何だと、貴様!』
「あんたは生かされたんだろ! それがどういう事なのかも考えずに――トダカさん達がどんな思いで死ん
でいったのかを考えろ!」
『死んでいっただと? ――決め付けるな!』
「あんたがオーブの一番偉い人なら、トダカさん達が託した想いが分かるはずだ! 奇麗事だけじゃないって
 ――二度と俺のような人間を生み出さないような決断を下してくれよ! 頼むから!」

 シンは故郷への憎しみを持ったまま生きてきた。家族の死に納得できず、それでも仲間のお陰で蟠りを
少しずつ解いてきた。最後に残った蟠りは、カガリのみである。2年前にウズミが行った、自決による責任の
取り方など望んではいない。今こそ生き延びてオーブを復興させ、国家元首としての責任を果たすべき時
では無いだろうか。そうしてくれれば、シンは最後の蟠りを捨てられるかもしれないのだ。

『うッ……わあああぁぁぁ――!』

 耳を劈くような喚き声が聞こえた。カガリの、心からの絶叫。それはシンの心の脆い部分を突く様に刺激
した。女の子の号泣が感傷的だったからではない。カガリの無念が、シンの心に響いたからだった。

『……行こう、デスティニー』

 次に聞こえてきたのは大人の野太い男の声だった。先程カガリを諌めようとした男だろう。

「……了解です」

 返答すると、小型艇が動き出す。デスティニーがそれを護衛し、周囲の敵に対して威嚇を繰り返し、或い
は襲い掛かってくるMSを撃墜した。
 少し移動したときだった。クサナギの艦体が遂に限界を迎え、誘爆が酷くなってくると、やがてその身を
巨大な熱白球へと変えた。

「トダカさん……」

 恩人の名を、ポツリと呟く。シンは後ろ髪を引かれる思いを振り切るように操縦桿を押した。



 無重力の中を、アスランは残骸を手で退かしながら進んでいた。後ろには、同じ顔をした少女を背負う
少女。背負われている少女の脇腹からは、赤い血が滲み出していた。苦しそうに息をし、額には大粒の
汗がびっしりと浮かんでいる。

「くそッ……俺がもっと注意して敵の存在を感知できていれば――!」

 鉄屑を掴んで、力いっぱい投げ放る。崩れかけの側壁に、カツンと言う金属音を響かせて遠い闇の中に
消えていった。
608 ◆x/lz6TqR1w :2009/05/16(土) 00:10:42 ID:???
 臍を噛むアスランの言葉にも、少女は言葉を発さなかった。彼を責める権利など誰にも無いと知って
いるからだ。

「ラクス…様……」

 苦しそうな声で、か細い声が少女の耳元で囁かれる。肩に乗る少女の顔を、横目で追った。

「しゃべらならないで下さい。ミネルバまでは、もう直ぐですから」
「約束、を……」
「少し急いでください、アスラン。いつまでもメサイアの中をうろついていられる場合ではありません」

 背負う少女、ラクス。背負われる少女、ミーア。ラクスは足を止めることなく、通路を進み続ける。一刻
も早くミーアに治療を受けさせてあげたくて、辛辣にアスランを急かした。
 今のような責め立てる様な要求は、ラクスは生まれて初めてかもしれない。誰に対しても慈愛を投げ
かけるような、聖女のような彼女が、今だけは俗な感性を持つ普通の少女に成り下がっているのである。
いや、寧ろそれが彼女の本音の姿なのかもしれない。

「分かっている。だから、こうして懸命に道を作っているんじゃないか」

 浮遊する残骸が多くて、進むべき道には困難が要されている。苛立つ気持ちは、アスランも同じだった。
 アスランとて、早急にミーアに治療を受けさせたい。それは単純に他人を助けたいという気持ちではなく
特別な情が絡んだ想いだった。もしかしたら、今はカガリ以上にミーアの事をいとおしんでいるのかも知れ
ない。その想いが死に瀕している彼女を見たからでは無い事を、苛立ちだけでは無い別の恋心的な感情を
意識する事でハッキリと確信していた。
 ラクスも珍しく感情が先行しているのか、そんなアスランの弁明も一蹴するような厳しい目をしたままだった。
穏健な2人が喧嘩する場面など、この先もう二度とない事だろう。

「口を動かす前にやるべき事が――」
「喧嘩は、止めて……お2人とも、大好きなんです……喧嘩するのは…辛い……」
「ミーアさん……」
「お願い、です…ラクス様……聞いて……」

 前に向けた顔を、再びミーアに向ける。目蓋を下ろし、苦しそうな吐息が継続的にラクスの鼻に血の臭い
を運んでくる。先程、一度咳をして吐血していた。口を良く拭いたつもりであったが、ミーアの口の端からは
また一筋の血が流れていた。僅かに開いている口の中は、血で真っ赤に染まってしまっている。

「一緒に……歌、を……」
「傷口に障ります。その話は、後ほどゆっくり――」
「今…今、歌って欲しいんです……後悔したく、無いんです……」

 生命力が抜け落ちていくように、弾痕から血が流れる。激しい痛みは決して治まることなく、著しく弱った
ミーアのメンタルを攻撃して体力を奪っていく。それでも尚、彼女は言葉を紡ぐ。それは決して後悔したく
ないという彼女の意地であった。
 ミーアが一番恐れている事は、死ぬ事ではない。治療が間に合うかもしれないという可能性を考えられ
ないわけでは無いが、間に合わないかもしれないと考える事で怖いと思うのは、ラクスと一緒に歌を歌うと
いう夢を果たせなくなってしまうのではないかという不完全燃焼感である。その夢を果たすまでは、死んで
も死にきれない。痛みを堪えながら声を振り絞るのは全て、その夢を叶えたいという一心からであった。
609 ◆x/lz6TqR1w :2009/05/16(土) 00:12:36 ID:???
「ですが……」
 静かな この夜に――

 有無を言わさずにミーアが歌いだす。ラクスは驚きに目を見開いた。

 あなたを 待ってるの――

 ラクスは、抜け落ちていく生命の残酷をその背と耳で感じていた。弱々しく震えるミーアの、何と頼り無い
事だろう。歌い出した彼女を止める術を持たず、眉尻を下げるしか出来ない自分の無力が、呪わしい。

 あの時 忘れた――

 吐息混じりの細い歌声。以前、ミーアの歌を聴いた時は、もっと張りのある威勢の良い声をしていた。
それが、こんなにも弱々しくなってしまうなんて。

 微笑を 取りに来て――

 笑顔など、浮かべられなかった。ただ、こうして背負うだけの自分の、あまりの無力が悔しかった。

 あれから 少しだけ 時間が 過ぎて――
「あれから 少しだけ 時間が 過ぎて――」

 できる事は、願いを聞き届けてあげる事だけ。それも、一緒に歌うというだけの、他愛のない事である。
果たして、それが本当にミーアの心からの願い事であるのかは分からない。ただ、ラクスはせめてミーア
の心に響くようにと、できる限りの想いを込めて歌い始めた。
 ラクスが歌い始めると、苦しそうにしながらも、ハッとして口が笑う。ミーアは痛みで燃えるような身体の
熱を気力で我慢し、残された力を歌声に全て注ぐ。

 想い出が 優しくなったね――

 声帯が似た2人のハーモニー、合唱がアスランの耳にも聞こえてくる。それは「静かな夜に」と名付けら
れた、2年前からアイドル・ラクス=クラインを代表する楽曲である。ミーアがラクスの代わりを演じ始めて
からも、大幅なアレンジを加えられて今でも親しまれていた。

 星の 降る場所で――

 サビの部分。歌の中で最も盛り上がる部分でも、一つ一つの歌詞を噛み締めるように2人の歌声は
紡がれ続けた。それは、まるで過ぎ行く時間を惜しんでいるかのように、ゆっくり、ゆっくりと。
 重なる歌声が無性に胸に沁みる。ミーアの声なのか、ラクスの声なのか、そんなのはどうでもいい。
2人の――ミーアの歌い続ける健気さが、アスランの琴線を激しく揺らすのだ。

 あなたが 笑っていることを――

 自然と目に熱いものが浮かぶ。ミーアの歌声が、次第に小さくなっていくのが分かるのだ。直ぐに空間
に吸い込まれて消えてしまうような声で、必死に歌い上げようとしている姿を想像すると、とてもではない
が辛すぎて振り返る事など出来なかった。

 いつも 願ってた――
610 ◆x/lz6TqR1w :2009/05/16(土) 00:14:37 ID:???
 ラクスとミーア、2人のデュエットを独り占めしている自分は、世界にたった1人の果報者なのだろう。
柔らかく、滑らかにゆっくりと紡がれる歌が、このままずっと続けば良いのにと願う。

 今 遠くても――

 願いは願い、現実を変えられる力を持たない。山の端に沈み行く夕日のように、ミーアの歌声が消えて
いく。アスランはギュッと目を瞑った。

 また 会えるよね

 最後はラクスの独唱だった。耳が静かになると、アスランは顔を上げて涙を拭った。



 死に際のザフト。ジブリールは、最後の止めを刺すのはレクイエムしかないと考えていた。最終防衛ライン
であるメサイアがほぼ落ちた事で、ザフトは瓦解が始まっている。ミネルバやボルテールが中心となって
必死に統制を取ろうとしているが、如何せんザフトの損害が大きすぎて動揺の方が遥かに大きい。統制を
失ったザフトは規律が乱れ、酷く緩慢になっている。止めを刺すのなら、今しかない。前回のような失敗は
繰り返さない――ジブリールは月のシロッコに連絡を入れる。

 相も変わらず、シロッコは司令室で鎮座したままであった。時折、何かを感じ取るように眼球を動かすも、
それ以外は殆ど指揮棒を手で遊ばせているだけで、指揮らしい指揮などは特に見られなかった。
 シロッコは、機を覗っていた。ザフトが崩壊する事は疾うに予見済みであり、後は如何にしてジブリール
を蹴落とすかである。

「メサイア攻撃部隊旗艦より入電。ロード=ジブリール ブルー・コスモス盟主閣下より通信が入って居ります」

 オペレーターからの報告に、待ちわびたように立ち上がる。大スクリーンにジブリールの顔が映し出され
ると、シロッコは敬礼を決めた。
 そのまま無表情を装いながら、ジブリールの表情を深く観察していた。彼も無邪気にはしゃぐ様な歳では
ない事だし、馬鹿みたいに間抜け面を晒したりはしない。しかし、悦びを隠しきれない彼は、顔の端々に僅か
な感情を覗かせていた。シロッコはそれを見逃さない、それだけで作戦が成功したのだと悟る。

『パプテマス=シロッコ。貴様の用意したコロニー・レーザーのお陰で、メサイアの陥落は目前となった。
それと同時に、デュランダルの始末も完了した。これで、コーディネイター殲滅の為の橋頭堡が築かれた
事になる』

 言わずもがな、そんなことは口にされなくとも分かっている。本来なら、愚者の自慰に一々付き合って
喜んだりなどしないシロッコであったが、ジブリールの調子に合わせるように笑顔を見せた。

「おぉ、それはおめでとうございます。これで、閣下の理想の世界に、より一層近付いた事になりますな」

 両腕を広げ、少し大袈裟に祝辞を述べる。しかし、そのわざとらしさが逆に不快であったのか、ジブリール
は渋く表情を引き締めた。

『そんな下らない台詞を聞くために連絡を入れたのではない。レクイエムはどうなっているのかと訊いて
いるのだ、私は』
「それは勿論、健在でございます。閣下のお達しどおり、敵の侵入は1機たりとも許しては居りません」
611 ◆x/lz6TqR1w :2009/05/16(土) 00:16:48 ID:???
『フン、首の皮一枚で繋がったな』

 鼻で一笑すると、ジブリールは顎を上げた。尊大な性格の彼が持つ癖の一つである。

『止めを刺す。目標は、分かっているのだろうな?』
「勿論でございます。ターゲットは、必ず殲滅して御覧に入れます」

 胸に手を添え、深々と頭を垂れるシロッコ。口元に不敵に笑みを浮かべ、その眼光が鋭く光を放った。



 カツとサラが昇天した。その頃から、カミーユの思惟の拡大が止まらなくなった。同時刻、違う場所で
それぞれに失われていく命に、カミーユは敏感に反応していた。
 固く握り締める操縦桿、球体の全天モニターの先に黒光りする巨躯のデストロイ。その周りをビーム
サーベルを抜き、スライドしながら砲撃を加えて隙を覗おうかというギャプラン。カミーユが全身に力を
込めると、その思惟がプレッシャーとなって拡散されていく。

 ずっと、呼びかけられているような気がしていた。攻撃を仕掛けられる度、訴えかけてくるようなプレッ
シャーを感じていた。最初、それはサイコミュ・システムの誤認では無いかと感じた。それほどに、相対
するΖガンダムとギャプランが自分に求めてくるものが攻撃的なものではなかったからだ。ゲーツは迷い、
それがデストロイの動きにも反映されていた。

「な、何だこれは? 敵のパイロットが目に見えるなんて……?」

 飛び交うΖガンダムとギャプラン。それが正面を向いて仕掛けてくる度に、それに乗っているであろう
パイロットの幻のようなイメージがゲーツを襲う。それがニュータイプ的なプレッシャーだと無理矢理に
解釈しても、身に受け続ける事で何らかのメッセージが含まれている事が分かって、別物であると気付く。
 そのニュータイプ的なものは、観念的過ぎて言葉になど言い表す事は出来ない。出来ないが、何を訴え
かけようとしているかは理解できていた。

「敵は私を知っている――私も敵を知っているだと……?」

 身体を貫かれるような感覚。ゲーツは自分の意識の中に他人の思惟が入り込んでくるような感覚を得た。
それは酷く不愉快な事であるはずなのに、自分の中に封印されている何かがその思惟を求めているような
気がした。
 ギャプランのマシン越しに、女性の影を見た。意識の中に浮かび上がる幻影に、ゲーツは得体の知れない
ものを感じて恐怖を抱いた。

『ロザミィ、無理だ! 迂闊に近付こうとするんじゃない!』
『お兄ちゃんはあの人を助けようとしているわ! だったら、あたしはそのお手伝いをするまでよ!』

 兄妹の会話に、いつかそんな関係が自分にもあったのでは無いかという錯覚を抱く。その自分の歪んだ
記憶を一瞬でも意識してしまうと、ゲーツはいよいよ自分が何者なのかが分からなくなってきた。ミノフスキー
粒子の希薄化にも気付かずに、操縦桿を掴もうとした手が1回、空振りをする。

「レクイエムを止めに来た敵が、どうして私に拘るのだ? どうして――」
612 ◆x/lz6TqR1w :2009/05/16(土) 00:19:04 ID:???
 機首を向けて突っ込んでくるギャプラン。無我夢中でトリガー・スイッチを押し、迎撃する。何故か分かる
その動きに、ゲーツの腕が自然と連動した。ギャプランがデストロイの5本指から放たれるビームを制動を
掛け、機体を沈ませて回避して見せると、それをなぞる様にして下げられた腕が、ギャプランの動きを捉えた。

『え……?』
「この頭痛が、あの女の考えている事を報せていると言うのか?」

 開かれたデストロイの5本指。それが扇状に5条のビームを放つと、ギャプランはその光に脚部を破壊され、
月面に墜落していった。

『ロザミィィィッ!』

 癇癪のような少年の悲鳴が、耳に痛いほどに響く。
 自分の信じられない反応に、ゲーツは慄いていた。いくら強化されて反応速度が上がっていても、今の
ギャプランの動きには付いていけるはずが無いのだ。サイコミュ・システムの補助があるとはいえ、デストロイ
の鈍重さでは目で追うように動かす事は出来ない。自分の奥深くに自分の知らない何かが隠されているような
気がして、目を見開いた。
 ハッとして、Ζガンダムを見やる。その双眸の輝きが、憤りとも哀れみとも取れるような不思議な輝き方を
していた。それはまるでΖガンダムがパイロットの意志を汲み取って人間のように感情を表現しているかの
ようで、ニュータイプとはマシンにそこまで擬人的にさせるものなのかと驚愕させられる。

《このままで良い訳が無いだろ!》

 頭の中で銅鑼を鳴らされたような衝撃を受ける。その力強い声は、回線を通してなのかテレパシーなのかは
分からない。ただ、衝撃波のような強い意志の波動をその身に受け、思わずゲーツの身体が反応して痙攣を
起こした。

《ロザミィを忘れてしまって、戦闘人形にさせられたゲーツ=キャパ! あなたが本当に求めていたものを、
思い出すんだ!》
「思い出す? ロザミィ……ロザ……?」

 ゲーツの眉間に、皺が寄った。ロザミィという単語の、何かが引っ掛かる。
 ふと、Ζガンダムからオーラの様な波動が放たれているような錯覚を覚えた。ゲーツはそれから目が逸ら
せず、吸い込まれるように凝視していた。

 いつしか浮遊感を得て、ゲーツの意識は不思議な空間の中に迷い込んでいた。立ち尽くすゲーツの目の前
には、蹲り、身体を震わせている少女が居た。見覚えのあるような姿だ。ふと上げたその顔に、ゲーツの口が
自然とその名前を発した。

「ロザ…ミア……?」
《お兄ちゃん……?》

 泣き崩れていた少女が、途端に口元を綻ばせた。頬を伝う涙が美しく、綿雲の様な髪は弾むように揺れる。
少し大人びた少女の、不相応なほどに無邪気な笑顔。立ち上がって飛びついてくるその肢体を受け止めた
時、ゲーツの思惟が弾ける様な広がりを見せた。その広がりが、記憶の封印されていた扉を無理矢理に
こじ開ける。
613 ◆x/lz6TqR1w :2009/05/16(土) 00:21:55 ID:???
 意識が現実空間に戻ってきた時、Ζガンダムから放たれていたオーラの様な波動も消えていた。錯覚だった
のか――現在視界にあるのは、荒野の月面と静かな闇の中に星の煌きを宿す宇宙だけた。ゲーツが意識を
別の世界に連れて行かれていた間、現実の空間で変わったことは一切無かった。――ゲーツの記憶を除いて。

「な、何と言う事だ……!」

 徐に、ゲーツの身体が震えだした。自らの中で覚醒した記憶が、彼の身体を震撼させていた。

「私は――俺はロザミアを……」

 見開かれた瞳が、月面のギャプランを見る。脚部を失ったギャプランは、モノアイを明滅させながら横た
わっていた。まるで患者がベッドに横たわるような姿に、ゲーツはそれが自分がやった事なのだと認識する
と、その自らの行為に戦慄した。自分は、あれほど渇望していたロザミアという妹を、その手に掛けようと
したのである。

『ゲーツ!』

 耳に聞こえてくるは喧しい少年の声。カミーユ=ビダンという名の、彼もロザミアの兄を自称している。
いや、忘れてしまっていた自分よりも彼の方が、ロザミアの兄に相応しいのかもしれない。しかし、それは
心の中で認められても、口に出すのは憚られる。ゲーツにも、プライドと言うものがあるからだ。
 記憶を取り戻せたのは、ほぼ間違いなくカミーユのお陰であろう。その事は素直に感謝する。ただ、だから
と言って彼にロザミアを渡すわけには行かなかった。認めてしまえば、自分のアイデンティティが崩壊する。
戦闘人形と揶揄される強化人間である自分が真のニュータイプへと至る為には、ロザミアは必要な存在だ
からだ。ゲーツは、カミーユへと敵意を向けるようにデストロイの腕を持ち上げさせた。

「カミーユ=ビダン! 俺は戦闘人形なんかでは無い! ロザミアの兄、ゲーツ=キャパである!」
『ゲーツ、ロザミィを思い出したのか?』
「ニュータイプが、御人好しだけで人を救えるなどとは思うな!」
『止めろ!』

 放たれる5条のビーム。Ζガンダムはそれをひらりとかわして見せる。撃つタイミングも、照準も分かって
いたような回避運動だ。
 それを見るだに、ゲーツはカミーユに対して対抗心を更に燃え上がらせた。彼を倒さない限り、自分に
明日は無いと思えた。――尤も、それが間違いであると気付ける余裕があったならば、ゲーツはもっと違う
道を選べたのかもしれない。

『あなたはあたし達と一緒に居ればいいのよ! あなたがカミーユお兄ちゃんと争わないって言うなら、
あたしはあなたの事もお兄ちゃんと呼ぶわ! それでいいじゃないか!』
「それでは意味が無いのだ、それでは――!」

 ロザミアの声を、久しぶりに聞いたような気がした。その声色に、人間らしい感情が込められていると
感じ取った時、果たして自分が彼女をここまで人間らしくする事が出来ただろうかという疑問が浮かび
上がった。カミーユだから出来たのではないかという劣等感が、ゲーツの歯を食いしばらせる。
 ギャプランを見る。ギシギシと駆動部を軋ませながら、身を起こす。あくまでカミーユに味方しようとす
るその姿は、もはや誑かされたとかそういう次元の話ではない。彼等の絆に、自分の入り込む余地が無い
と悟った瞬間、ゲーツに残されたのは強化人間という業からの逸脱であった。
614 ◆x/lz6TqR1w :2009/05/16(土) 00:23:41 ID:???
 月面に埋め込まれているレクイエム。デストロイの股間の間から見える、クレーターのように人工物が
隆起しているところから、仄かに光が洩れている事がロザミアには分かった。

「あれは――」

 見開く瞳、固く握り締められる操縦桿。宇宙を劈いた最悪の光の記憶が、フラッシュ・バックしてロザミア
に警告を与える。その輝きがこれから起こそうという悲劇を想像するだに、彼女の頭を痛みが襲った。
 レクイエムの発射が、今にも行われそうになっているのである。そう気付いた時、ロザミアはギャプラン
を浮き上がらせてMAに変形させた。片脚を失った事でバーニア・スラスターの推力バランスは著しく崩れ、
しかしそれを持ち前のテクニックで修正しながらレクイエムへと突撃した。デストロイの頭部がこちらに
振り向いて驚愕している風であったが、歯牙にも掛けずに加速させる。

『何をするつもりだ、ロザミア! いかん、戻れ!』
『1人じゃ――ロザミィ!』

 スピーカーからゲーツとカミーユの声が聞こえた。しかし、ロザミアはそれを振り切る形で操縦桿を更に
押し込む。バランスが崩れたギャプランは直進性能が著しく低下し、ロザミアの思ったとおりの機動を成さ
ない。それを操縦桿を抉らせて言う事を聞かせ、劣悪な振動の中で歯を食いしばった。

「あれは、絶対に撃たせちゃならないんだ!」

 激しい揺れにリニア・シートが上下左右に振れ回る。そこに力の限り腰を押し付け、両手は操縦桿を固く
握り締めて体が転げ落ちないように固定する。
 全天モニターに表示されたワイプに、背後から追ってくるΖガンダムが映し出される。ロザミアは見向き
もせずに、ひたすらギャプランに鞭を入れる。何度も呼びかけられる声が聞こえるが、ロザミアの意識は
レクイエムの光に吸い寄せられていた。
 レクイエムまで、もう少し――徐々にその月面に埋まったレクイエムの巨大な砲身の全容が明らかに
なってくる。上空からその筒の中を覗き込めば、眩い光を溢れんばかりに輝かせ、モニター越しにその
光を受けるロザミアも、その絶望の光に全身を照らされていた。
 こんなもの、損傷しているギャプランがたった1機でどうにかなるような代物ではない。いくらロザミアでも、
レクイエムの光の前には無力であることを悟らざるを得なかった。それでも、何とかしなければならない
という使命感を抱き、メガ粒子砲をその中心に向けて発射した。
 ところが、メガ粒子砲の光はレクイエムの中枢に届ききる前に掻き消された。減衰して消えてしまったの
ではない。放水を壁に打ち付けるようにして拡散したメガ粒子砲の光は、明らかにバリアによって弾かれた
と分かった。レクイエムの防御に、万事抜かりはなかったのである。

「そんな! どうすればいいの――」

 ヘルメットを外し、泣きそうな表情で両手を頬に添える。下から照り付けられる光が、ロザミアの堀の深い
顔にくっきりと影を作り、その光の当たり加減が、彼女の心中の絶望感を表現しているようであった。
 慄きに身を竦ませるロザミアは瞳を震わせ、成す術もなく茫然自失とする。救いを求めるように、乾きか
けの唇が言葉を紡ぎだそうと震えた。

「――お兄ちゃん!」

 縋るように呼びかけた時、ギャプランを大きな振動が襲った。ロザミアは転げ落ちそうな身体を必死で
リニア・シートにしがみ付かせ、悲鳴を上げて目を瞑る。
615 ◆x/lz6TqR1w :2009/05/16(土) 00:25:12 ID:???
 カミーユがレクイエムの発射口で呆然とするギャプランに組み付こうとした時、不意にモニターの横を
黒い影が駆け抜けた。一瞬の出来事で、それが直ぐに何であるかというのは分からなかった。気を取ら
れて横に向けた顔を正面に戻すと、巨大な腕がギャプランを掴んでいるのが見える。

「何ッ!? これは――ゲーツ!」
『貴様は退いていろ、カミーユ!』

 レクイエムから盛り上がってくる光。発射間際のそこから、デストロイのシュトゥルム・ファウストが
ギャプランを掴んで離脱する。直後、レクイエムは大きな光の柱を天に向かって吐き出した。

「あぁっ!」

 遂に発射されてしまったレクイエム。後続は遂に間に合わず、悪魔の光が目標を殲滅しようと放たれる。
 眼前の光景に絶望し、思わず立ち尽くすカミーユ。光の柱が、いつまでもそこに存在しているような感覚
すら抱いた時、その脇を黒い巨躯が通り過ぎていった。

「ゲーツ!?」
『貴様はロザミアを連れてここから去れ!』

 デストロイがレクイエムへと突っ込んでいく。それと入れ違いになるように、シュトゥルム・ファウストが
ギャプランをΖガンダムの元へと運んできた。そして、陽電子リフレクターを展開しているデストロイが
レクイエムの中に消えていく。

「駄目だ、ゲーツ! 止めろ、デストロイでどうなるものでもない!」
『レクイエムがロザミアを苦しめるのなら――』

 レクイエムの口から、スパークする光が洩れた。通信が乱れ、ゲーツの声がノイズに変わる。
 ギャプランを掴んだシュトゥルム・ファウストが、ゆっくりと月面へと降りていった。カミーユもデストロイ
の様子を気に掛けながらそれを追って降下する。

《戦闘人形が、こんな事をするか!? 俺はロザミアの兄、ニュータイプ・ゲーツ=キャパだ!》

 ゲーツの叫び、抗い、願い。彼にとって、ロザミアは全てだったのかもしれない。そのロザミアの障害を
排除する事に、或いは願いを叶える事に、ゲーツは自らの命を惜しまなかった。
 ゲーツの思惟が弾ける様に四散すると、レクイエムで大きな爆発が起こった。途端にシュトゥルム・ファ
ウストが糸が切れたように月面へとゆっくりと落着した。



「メサイアからの離脱、完了いたしました」

 連合軍旗艦ブリッジ。ストローを口に咥えながら、ジブリールは恍惚の笑みを浮かべてシートに座していた。
シロッコとの通信を終えた後、程なくしてレクイエムの発射が行われたと言う連絡が入ったからだ。

「レクイエムは、約30秒後に本艦正面10000m、向かって3時から9時に掛けて通過する予定です」
「こちらから見えるか?」
「光度を抑えたモニター越しであれば」
616通常の名無しさんの3倍:2009/05/16(土) 00:36:35 ID:???
紫煙
617通常の名無しさんの3倍:2009/05/16(土) 00:45:40 ID:???
さるさんかな?
618通常の名無しさんの3倍:2009/05/16(土) 00:49:41 ID:???
避難所に投下してくれれば代理するよ
619通常の名無しさんの3倍:2009/05/16(土) 00:56:54 ID:???
ってか容量ギリなのか
新スレ立ててくる
620通常の名無しさんの3倍:2009/05/16(土) 00:57:13 ID:???
容量で新スレ立てようとして立てられないとか?
621通常の名無しさんの3倍:2009/05/16(土) 01:00:38 ID:???
もしカミーユ、Zキャラが種・種死世界に来たら15
http://hideyoshi.2ch.net/test/read.cgi/shar/1242403155/

どぞー
622 ◆x/lz6TqR1w :2009/05/16(土) 01:00:47 ID:???
 うむ、と応えてジブリールはCIC席のところまで身体を運んだ。担当員が彼に見易いように拡大した
モニターを上部に表示させると、いよいよジブリールの顔が悦びに歪んだ。

「さて、奏でておくれよ、レクイエム――」

 釣り上がる口。口角が上がり、頬の盛り上がりで山形になる目。手にしたボトルを、まるでプラントの
コロニーを破壊するように捻り潰した――その時だった。

「エ、エネルギー反応が本艦に接近! これは――」

 CIC担当の1人が、尋常では無い反応を示した。上擦る声にジブリールは怪訝に顔を振り向けようとした。
そのモニターから逸らした横顔に、強烈な光が照らされる。ジブリールの瞳が、その光に反応して横に向いた。
煌々とした光に、自然と目を剥く。
 瞬間、ジブリールの乗る連合軍旗艦は光の中に飲み込まれた。何が起こったのかも分からず、レクイエム
の直撃を受ける連合軍旗艦艦隊。劈く光の中に、ジブリールはその野望と共に消滅していった。



 もうもうと煙を噴き上げるレクイエム。デストロイの自爆がレクイエムの自壊を誘い、更なる爆発が
起こった。それは連鎖するように幾度も炎を噴き上げ、まるで火山の噴火を思わせる光景を示した。
 レクイエムが朽ちていく。それがまるでゲーツの叫びが巻き起こしたもののように思え、カミーユは
唇を噛んだ。

『お兄ちゃん、ごめんなさい。あの人もあたしのお兄ちゃんだったのよ……』
「いいんだ。ゲーツはロザミィに優しかったんだから――」

 ロザミアの涙声がノイズ混じりにカミーユの耳に届く。レクイエムはロザミアの台詞を皮切りにしたように、
一際大きく火柱を上げた。月面から天を突くその火柱が、まるでゲーツの魂が昇天していく最後の送り火
のようで、幻想的な感覚すら抱かせた。

 ニュータイプとは、死の間際でしか分かり合えない人種なのだろうか。分かり合えても、それはいつも
少し遅かったりする。――そういう経験を通じて、カミーユはニュータイプ的感性を磨き上げてきた。
 やるせない結末であるとは思う。それをどのように解釈しても、結局は悲哀が残るだろう。その悲哀と
どのように向き合うか、またどのように扱うかは、当人に委ねられた部分でもある。

 レクイエムは破壊された。同時に、ガーティ・ルーを始めとするシロッコの部隊がダイダロス基地を出港
し、オーブ艦隊は敗北と勝利を同時に手にした。
 帰艦命令の信号弾が月の空に炸裂する。レクイエムの火柱はやがて細くなり、消えていった。
623通常の名無しさんの3倍:2009/05/16(土) 01:07:27 ID:???
支援
624 ◆x/lz6TqR1w :2009/05/16(土) 01:12:40 ID:???
非常にお待たせしました。
さるさんなんて無くなればいいのにと本気で思った今回は以上です。
この後インターミッションを挟んで、最期の決戦に入っていきます。

>>618
すんません、待ってるだけなのも暇だったんで他のことしてて気付きませんでした。

>>621
ヘルメットしてると新スレ乙できないんだ?
625通常の名無しさんの3倍:2009/05/16(土) 01:15:41 ID:???
乙です

。・゚・(ノД`)・゚・。皆死んでく……
626通常の名無しさんの3倍:2009/05/16(土) 15:25:35 ID:???
GJ!
最終局面でバタバタ死んでいく所はやはりZだな……
627通常の名無しさんの3倍:2009/05/17(日) 19:28:38 ID:???
物凄いZっぽいよね
雰囲気が凄く良く出てる
今回もめちゃくちゃ面白かった
GJ!
628通常の名無しさんの3倍:2009/05/18(月) 17:46:45 ID:???
カミーユ In C.E. 73の最終話後編が見れない・・・
結末がすんごく気になるんだが、ひょっとしてまだ続きが投下されてないだけなのかな?
629通常の名無しさんの3倍:2009/05/18(月) 19:55:51 ID:???
上でも出てるけど
消されたみたい
最終話だけとか……
630通常の名無しさんの3倍:2009/05/18(月) 20:03:56 ID:???
荒らしが勝手に消した?
消す理由が判らん
631通常の名無しさんの3倍:2009/05/18(月) 23:12:46 ID:???
GJ…ミーアァァァァアア!!ゲーツゥゥゥゥゥウ!!!
632通常の名無しさんの3倍:2009/05/19(火) 16:39:41 ID:???
628だけど、今見たらちゃんと最後のお話も読めるようになってたー!
(やっぱり一時的に消えてただけ?)
凄く面白かったです、作者さん超GJ!&乙でした
実に富野的というか、もしイデオンをハッピーエンドにするとしたら
こんな感じになるんじゃないかなぁと感じますた。
633通常の名無しさんの3倍:2009/05/19(火) 17:40:11 ID:???
誰かが登録しなおしたみたいね
ありがとう、どこの誰とも知れない人!
634通常の名無しさんの3倍:2009/05/19(火) 20:39:27 ID:???
劇場版のイデオンは「明るいイデオン」って事だったらしいぜ・・・
635通常の名無しさんの3倍:2009/05/20(水) 21:03:42 ID:???
発動篇ほど救いのある終わり方は無いな
Zの方がよっぽど鬱だ
636通常の名無しさんの3倍:2009/05/21(木) 18:17:36 ID:???
カミーユ発狂後の「彗星が云々」にもちゃんと元ネタがあったのを知ってビックリ。
1910年のハレー彗星接近時に人類滅亡説を唱えた
カミーユ・フラマリオンっていう名前の天文学者がいたんだとか。
富野監督はネタのチョイスが渋いなぁ。
637通常の名無しさんの3倍:2009/05/22(金) 01:13:11 ID:???
それがネタ元なら女の名前で何が悪い!もなかったかと
638通常の名無しさんの3倍:2009/05/24(日) 19:46:23 ID:???
保守
639通常の名無しさんの3倍:2009/05/24(日) 21:06:47 ID:???
保守
640通常の名無しさんの3倍:2009/05/25(月) 00:07:26 ID:???
のこり6k、保守するくらいなら埋めろw
641通常の名無しさんの3倍:2009/05/25(月) 14:01:57 ID:???
そうか梅干し
642通常の名無しさんの3倍:2009/05/25(月) 17:29:01 ID:???
埋め
643通常の名無しさんの3倍:2009/05/25(月) 21:42:27 ID:???
ウッーウッーウメウメ
644通常の名無しさんの3倍:2009/05/25(月) 22:03:23 ID:???
    た ロ           _/ l       /
 ク  く  リ          ヽヽヽiィー!   .it、 / .─‐┼─‐、
 ワ  .ま コ            r 、lヽ/ l;;iニ \ ゙゙゙./ ;;_ヽ___|_ノ_
. ト  し ン            |l .lL__il、、i__ソ=´.\, l'-, l 、 .`'-..,、
 ロ   く. で          l.! .| lLl|/、、    .l゙.,./ノ `' l  ''ッ,,.   ´
. ・   育 も            |l lム{,l゙.l、'ッ-'゙j'j/  _/_\>、、
 バ.  っ い           l ゙l>ー'l/`'i‐./゙|、.\,i' / ─ァ ゙'ゝt,゙,/´
 ジ.  て い       ,.... --、iリr‐''゙i′゙.l/  / .\ /  _`'ッ,,、  `'
  |  ほ      /─‐-i"´. -彡!'ッ''゙''''、./   ,/、     \  ゙゙̄'''
 ナ  .し    ,/   l / ,」_, -'''"\ /  `'''=/゙  ‐| /ヽ ヽ、
 大  い     /-、 ̄ニ=t|  lヽ.   _,イ,   .,..-''ゞ,゙/|´  | .i;;'"゙'、
 尉   。  / ./    ヽ l.,>;;='!,i'_..-'"´ _,,,,.l_.l  |   し  \,ヽ
 _,,.._..‐i、.   |,..!    ,、   ゙l´_/  ,,.!  , -‐'´ ヽ  ___     `
彡!-`-ー゙‐'―-トi",,...ノ ,ゝ_;; } ! .! ./ ./       ヽ.|、ヽ   |
            l.!トiミ,,,..ィ、 _/ノ. ! l l゙          | \\ |
二二二ニニニ,〉.i=i ‐- フノ   .! .l .l           └─ヽ‐┘    、
__,゙二―ー''''''''"゙l!"  !;;-ィ〃゙゙/ .! | .|       / |   ヽ|/゛.\
     /゙''二,゙'!i′  |  !、 .|_,, l,! .l     /    / ,|
 _,, -- ! /  ヽ. lー、,.゙'ニ´.l,.l  .゙''ミ!、l   /    / / ヽ
´    .!.|    l.ゝ .\. `'リ .| ̄l, !.!.l /     /───┐ヽ
     .l..!、    l=三ヽ,'-,.l!,!ヽ、l.,l、 l     /ヽ  ヽ   | _,ゝ 、
    _..-''''iヽ    ーヾ、, ゙/__{、ヽ`!、_ .,.イ、  ヽ_\__,l´
.-''"´   . l`゙\     .`~\  ..l_ l .!.!  l.     ./
       /、  ゙''‐、    .,..l.,,ノ゙.l  .! .! !  .|    \ !   ノ
    , ‐'" `-iー'"'''''ゝ-ィ‐'リ,゙、、 ,ソ./ . ! .!  .l     l/   ,,,,
  ,. エ       ,!---...........ヽ l....|./゛ .!  | !  ゙、   / l  /゙゛
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''!、 ゴ    l.! |            ゙'=ッ ..,゙゙'.  .|'、 !      l ! .ヽ
 .`‐広 ヽ  .〃│           ,/ヽ、`'''ー-! ゙''|      .リ   !、
.   報 |  iリ  |_、     _/    `''-、   !   .,.. -'.!    `
 .、 部  ! `゙l,    ̄ ̄'lニ,゙         ゙'-、  |‐'"´   .|
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645通常の名無しさんの3倍:2009/05/25(月) 22:04:35 ID:???
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    丶         へ \           /  <あ、ロリコンだ!
     \       ( б)_>ヽヽ        /
        \      ヽ_      __ /ノ
.         \       ( _    ̄ _ リ__ソ
.          ヽ   ) ソ ノ F ̄ ̄リ~ 「 __ -二─-
            レレ丿 ̄ゞミ ミ-( ‖リ ̄/~ フ ̄レヽ
             _ノ - _  ミ ( ||/ ヘ ─~フ   レ|
          _─∠__ ─-_   ̄_=二 . / │ -フ   │|
       /  ̄\__\ __ノ  (,    |│ ノ __.丿  │|
     《 / /  \  ~\ __/  \_  ノ. レノ __ノ   | |
      ソノ( ノしへ.   ~\_ _ノ    ̄    __ノ     リ
      |      |      \-∠__/_  ∠_;;    ノ
      |        |, ヽ        ~ノ /フ /    ノ
.      |      ) ノ         \ヽ ノ/    .ノ
646通常の名無しさんの3倍:2009/05/25(月) 22:16:41 ID:???
  /     {  ,、-:::::..  :. :::ツ ノ     ゙、゙'、       }
  ,"      _!,,ソ:::::::::::::::.. :. :::::ノ{     } }      ノ
  {     r'':::::::::r-、;_::::::::  :. :/ ゙'‐-、,   }.ノ      {
  ゙、    { ::::::::;'   `''ー-‐'"     ノ  リ       ゙ヽ
.  ゙'‐-、 ゙'、 ::::/           、,クノハ         }
     ゙'‐`'{'゙iヽ、'   __,,,.、    ,.,.,.,,,_/_ハ       {
        `'ヽ  r,"-''"     | ┌ー-゙-ニっ     ヽ、
         {ヽ  r"      | .|      } ト)    ヒ`ゝ
         `~}ヽ      /.| |      -‐"  ヽ、 マ
     l'''ニニニニ{、、,゙'、.,__-‐"  | |            ヽ'
647通常の名無しさんの3倍
     ,, ‐' ´  ´´   ´ー:z.._
    /'             `ヽ_
  /!'                `ゝ
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  ゝ   ,イ-ト、リ_ヽノ V´ レ',.-、 , )!
. (/     )´、r‐o-=' /=c<,ィ ル'
  !  r‐、 }  ,,ー‐'  ( ー-' !/     r───────
  ヽ {.fi {( ;;;;;     _」  │   ノ  ちゃんと埋めろ
.  ヽ. `ー;`'     r─-、´  /    '⌒i   ロリコンめ!
   _`ヽ {    └--‐'  /┐    `ー──────
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