「映画にむけて」
この度、このサイトでコラムをやらせて貰うことになりました。
正直言えば、僕がコラムなんてちょっと場違いなカンジもします…。
何故かって?
そりゃあ、僕はアニメの監督ですから。
文章を書くことも仕事のうちの一つではあるけど、こういう、沢山の人に読んでもらう文章はほとんど書いたことがありません。
小説家は小説を書くのが仕事、アニメ監督はアニメを作るのが仕事です。
みんなに訴えたいこと、自分の想いは作品に込めてきました。
番宣などで自身の声を出すことはありますが、それ以外に世の中に何かを発信するのは、本来の仕事じゃない、とずっと思ってました。
なのに、こう言ったコラムを始めようと思った何故か?
理由の一つは、映画の事です。
「映画をやる」と代々木のイベントで告知されて以降、現在に至るまで何の情報もないままで、心配されている方も多いのでは?と思ったからです。
何の情報もないせいか、ネット上ではとんでもないウワサやデマがとんでいる、なんてことも耳にします。
え‐、まずみなさんにお願いしたいのは、ネットに飛び交ってる情報は信じないでください。
たとえ「スタッフ」と名乗る方の情報でも、まあ良くて嘘が99%。
スタッフといっても作品の中枢に近い人から、内容はほとんど知らない外部のスタッフも居りますし、本当にスタッフかどうかだって怪しいモンです。
まして匿名の情報なんかは、ほぼその人の妄想と思って間違いないでしょう。
なにせ話を作ってる「僕」が知らないことまで「言っている」んですから、本当にビックリします。
そんなトンデモ情報を皆さんが見て、不安になったり疑心暗鬼になってしまっては、申し訳ない。
出来れば、ファンの皆さんには早く正確な情報を出したいのですが、アニメ誌等に情報が出るのは映画の形が見えてからのことで、そうなるにはまだちょっと時間がかかります。
それまでの間の本物の情報を、何かの形で出していけないか?と思っていたところ、「seed club」の方からお話があり、このコラムを書かせていただくことになりました。
これを書く事によって、余計に誤解を招く事があるかも知れません。
僕は文章のプロじゃないし、それに今回のコラムでは今までタブーになってた本当のコトを書いちゃおうと思ってますから。
僕の発言に戦々恐々となる方が出ること必至です!フッフッフッ……。(あ-、どす黒い感情が…(^_^; )
だからこれを読んだファンの人は『ガンダムSEED』に幻滅するかもしれない。
それは今のうちに謝っておきますm(_ _)m
その代わりに、どこよりも早い映画「ガンダムSEED」の情報と、語られなかったTVシリーズの裏話などを披露してゆこう、と思っています。
これからどうか、よろしくお付き合いください。
まず映画の制作状況ですが、今はまだシナリオの製作途中です。
当初の予定よりは大分遅れてご心配をかけていますが、制作は続けております。
「DESTINY」のスペシャルエディション制作の終わり頃から構想を始め、両澤が構成とプロットを立ててシナリオに入ったのですが、彼女が病気になってしまったからです。
アニメージュ2008年4月号で彼女自身も語っていますが、「DESTINY」に入る直前にも、彼女は子宮筋腫と卵巣嚢腫いう病気で手術を受けました。
「SEED」に入る前すでに、「お腹にしこりがある」ということに気づいていましたが、それを僕にも隠して「SEED」を執筆していました。
シリーズ構成の仕事って、みなさんにはあまり馴染みがないんで分かりにくいと思いますが、両澤はエンディングで脚本に名前がテロップされていない話であっても、必ずシナリオに手を入れて、キャラクターのセリフと世界観を統一させる作業をしてました。
アニメのシナリオは時間の制約もあって、そこまでやるというのは滅多にありません。
でも、実写映画、ドラマの世界ではむしろ当たり前の事で、複数のライターが担当する場合には、必要な事だと思います。
話の重要度やホン(脚本)の完成度によってはほとんど書き直すという事もありましたから、彼女の仕事量は半端ではありませんでした。
幸か不幸か、おかげさまで「SEED」は成功し、続編をという話が出てきました。
これが最初は「映画」という話だったのですが、諸々の要望で「もう一度テレビシリーズを」という話になって行きました。
医者にかかったのはこの頃で、1年放置していたため本当にまずい状態で、子宮と右の卵巣摘出となってしまいました。
彼女は精神的にも相当なショックを受けたようでした。
とはいってもオンエアは待ってはくれません。
手術が終わって、家庭療養の時間をとる事も出来ないまま「DESTINY」の一話を書かなければならない状態でした。
心身ともにボロボロで、本当に辛かったと思います。
「SEED」と同じ量の仕事も体力的に無理でしたが、続編となると、今まで以上に要求も多くなり、どの関連会社も前回以上の数字を求めてきます。
人に任せてゆっくりと仕事をさせてもらう・・・。そうも言っていられない状況でした。
「ガンダム」というタイトルは失敗する訳にはいかないからです。
なぜって?
そりゃあ関わってくれる沢山のスポンサーや関係者の生活がかかってるんですから。
「売れなかった-、アハハごめん!」じゃ、ぶっ飛ばされますって(^^;;;
アニメーションは共同作業ではあるけれども、作品の成否の80%を握っているのは間違いなくシナリオ(脚本)です。両澤なしでは「ガンダムSEED DESTINY」は成功しなかったでしょう。
本当に這うようにして、シナリオを書き続けてくれました。
「DESTINY」は彼女にとっては手を入れきれなかった部分も有って、不本意なトコロもありましたが、結果は「SEED」に比肩するヒットになりました。
そんな無理が出てきたのでしょう。今度はどうしても一時、仕事を中断しなければならない状態になってしまいました。
だったら、「シナリオライターを替えりゃあいいじゃないか」と思う方もいらっしゃると思いますが、そんな簡単なもんじゃありません。
僕としては、アニメ界の未来のためにも、そういう考えの方は業界には来ないで頂きたい。
それをやって成功した作品って、ほとんどないんですよね。
キラというキャラクターひとつをとっても、彼女の書いたセリフと、平井さんのキャラクターデザイン、保志くんの演技で出来ているのです。
どれ一つが欠けても、あの「キラ・ヤマト」にはならないのです。
僕はキラ・モドキなんて見たくない。せっかくの映画なんだから、ちゃんと「キラ」を描きたいんです。
セリフなんて誰が書いても大差ないじゃないか、と思う方もいらっしゃると思います。
悲しい事にこの業界にもそうおっしゃる方はいるようですが、「だから君らの作品は売れないんだよ」と心の中で僕は思ってます。
この辺はまた話すことになると思いますが、本当の意味で「シナリオを読める」スタッフが、アニメ界に少なくなってきています。
キャラクターの内にあるもの、育ってきた環境や考え、その全てが一つ一つのセリフに出てくる訳で、上っ面をなでたセリフでは、視聴者の感情を揺さぶる事は出来ません。
スタジオによっても作り方は様々でしょうが、「SEED」は「このやり方」だったからこそ成功したのだと、僕は確信しています。
幸いサンライズの上層部からも、「一度制作を止めても治療をしてくれ」、という話をいただきました。
「ガンダムSEED」という冠が付いていれば、「内容はどうでもいいんだ。公開さえ出来れば」ということじゃなく、「ガンダムseed」をちゃんと未来に残る作品として、良いものを作ってほしいと言ってくれました。
本当に「ガンダムSEED」を大事に考えてくれました。
それから1年がたち、今も治療は続けていますが、ようやく少しづつ仕事に復帰できるようになってきました。
とはいえ、悩みは尽きません。
当初のプロットが1年以上前に書かれたものなので、その時に作ったテーマとストーリーが、果たして今の時勢に合うのか?と、言うことです。
映画では「愛情」というものをテーマの一つに考えていました。
「愛」ではなく「愛情」です。
この違いがポイントです!
数年前の「冬ソナ」ブームと、2年ほど前に「LIMIT OF LOVE 海猿」という映画も支持されたことで、恋愛というキーワードに注目しました。
キラとラクスの関係を軸に「DESTINY」の続きの時代を描こうと思っていましたが・・・。
世の中は刻々と変化していきます。
国内も世界も。中高生の置かれている状況も違ってきています。
オール新作で作る予定の映画ですから、普遍性も必要ですが、視聴者の置かれている時代を無視する訳にはいきません。
「SEED」も「DESTINY」も同じ考え方で作ってきました。
ストーリーもテーマも絵作りも。
それらをもう一度、白紙にして考えている状況です。
映画が難しいのは、TVよりも一本の制作にかかる時間が長いって事です。
TVではせいぜい1年くらいの先の時代を見据えて作ればいいんですが、映画は2年とか3年とか、作品によってはもっと先の時代に上映される事を想定しなければなりません。
例えば今回の「ガンダムSEED」の映画では、大河原先生がもう半分くらいメカ(モビルスーツ)の設定を上げて下さったのですが、なんと発注した新型のフリーダムがユニコーンガンダムのギミックにとっても似てたんです。
(画像はここでは出せませんが、映画が完成すれば途中のデザインもムック等に載せる可能性はあると思いますので)
ビックリしました。いや、僕のミスです。
新しいガンダムの企画は毎年なにかしら出ているのですから、本当に人が考える先の先を見てなきゃいけなかったんですね。
ある意味、そのままやらなくて良かったと思います。
2年後3年後を考えて、メカに関してもしっかりと見直しをしてゆくつもりです。
「ガンダム」というタイトルは、良くも悪くも未来に残ります。
先日も「逆襲のシャア」と「F91」がブルーレイになって発売されました。メディアが変わっても、対応して過去の作品がリリースされる…。本当に怖いタイトルです。
迂闊に妥協して作ったものでも、半永久的に残るんですから、ハンパは出来ません。
待ってくれている方には申し訳有りませんが、もう少し時間をいただきたいと思っています。
新しい内容については、またこの場でお話したいと思います。