【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】15
燃える展開だ!
艦長かっこ良いよ艦長
どうして本編であんな扱いだったんだろう
量産型フリーダムか……敵役としてもってこいな感じですね
登場の仕方もその恐ろしさがでていていい感じです GJ !
小さな島に風が吹く
第3話『廃墟での出来事(後編)』(1/6)
「免許も全部戻ったそうで何よりだな? ダイ」
実験大隊時代から自分の機体の面倒を見てくれたメカニックであるオオニシ技術一曹、
妙に気のあったダイは旧中隊設立時に彼に声をかけて、技師長として一緒に来て貰った。
技術者としてはかなりの知識を有する彼ではあるが、機密の塊であったMSの整備については、
お前と一緒に覚えるさ。むしろいつも触れるならば有り難い。とひげ面で笑ったものだ。
その彼の前、ファイルを開いてフジワラ士長と並んで話すのは勿論ダイである。
「……あぁ、そう言う事だ、司令閣下。リモートで本部から簡単に横を向いたり頭振ったりは出来る
ようになったぜ? 各センサーはブーストかけて一応島全体が見れるようにしてある。あとは……」
そこまで言うとオオニシ技師長は、自分の腰にぶら下げてあったインカムをダイに放って寄こす。
『……ントにお願いですから。三尉、いくら座ってるだけとは言え一人で24時間監視なんてこと
出来る訳……』
『自分の機体だ。A4(こいつ)がこうなってしまった責任は自分にある。リモートは必要ない!!』
ケーブルを引きずって中庭の真ん中、島のほぼ中心に屹立した18P−S4のステッカーと
サーモンピンクの頭を付けたアストレイ。無線から聞こえるコイトの声は怒っているようにも
泣いているようにも聞こえた。
インカムを耳に当てたダイはため息を一つ吐く。
「聞いたとおりコイト君、ずっとあの調子だ……。なぁ、ダイよ。俺に仕事、させてくんねぇかな?
頭が純正じゃねぇんだ、調整はかなり手こずるぞ? 早くかかりたいんだが……」
「隊長、クロキ曹長からシフトが組めないのでA4の改修予定を早く立てて欲しいと……」
「……技師長、モモちゃん。もういい、わかった!」
イヤホン部分を回して、ヘッドセットのマイクの部分を強引に口元に持って来るダイ。
「小隊長ジョーモンジからマーシャル三尉。コイトをA4から引きずり出せ、今すぐだ! イヤだっ
つーならそれでかまわんがその場合、24時間態勢勤務容認で提訴されたらオマエも俺と一緒に
安全衛生労働法廷で被告席に座って貰うからな? 聞こえてんだろ? 副小隊長殿、どうぞ!」
『ダイ、テメーどんな嫌がらせだよ。安衛法廷のそう言う案件で指揮官側が勝てる訳ねぇだろっ!
あぁ、だぁっ、……しゃあねぇ。わかった、了解だ。――おいコイト! 今なら許してやる、たった今
降りてこい! 出てこねぇってんなら文字通り引きずり出す! 聞いてんだろーが、返事しろっ!』
いきなり無線の声が途中から大きくなり、ダイはインカムを耳から離すが、それでも聞こえる
部下達の怒鳴り声に顔をしかめると、無線のスイッチを切ってオオニシへと放り返す。
「隊長、パワハラと部隊内暴力について提訴を受ける可能性が出てきたようですが?」
「どうみても必要な措置だろっ!? はぁ……、そうなったらモモちゃんが弁護を引き受けてくれ、
頼むぜ……」
「……。セクハラ裁判では自分が原告となりますが宜しいですか?」
「…………。たった一本のヤラファスへの直通ラインが切れたそうだからな。両方とも提訴は
かなり先になりそうだぞ? ――つーコトでセクハラ裁判だけでも考え直さないか?」
第3話『廃墟での出来事(後編)』(2/6)
「ぷわっ! うぅ。はぁ、はぁ。頭でわかってたってぇ。実際、うっくうぅ。イタイものは、イタイ。です」
クロゥは肩で息をしながら、口にくわえた防寒着の袖をはき出し零れた涙をブラウスで拭う。
「――そう、ですか食料調達に、……くっつぅ、来たんです、か」
自他共に認める几帳面な彼女にしては珍しく、簡単に血を拭った針と糸を放り出す。
いくら研鑽を積んだ優秀なエージェントでも部位が太ももで麻酔無し、しかも執刀医が自分の
縫合手術は、これはかなり痛かったものらしい。
「ずっと目をつけてたんだけど入り方が分からなかったんだ。ちょうどガラスが無くなったから……」
どうやら『野生のコドモ』であるらしい彼は、建物の異変に乗じて食料の『調達』に来たところで
巻きこまれたものらしい。食料品と医療品以外は彼は集めていなかった。金目の物を持って行こう
が換金のしようが無いし、そもそもこの島で現金を持っていたところで無意味だ。
と言うのはクロゥにも理解できた。
「階段は途中までいける、外の光は見えるんだ。けど、出口は全部ダメだ」
包帯を巻き直しながら建物の構造を考えるクロゥ。爆破されたのは少年の話から行けば主に
東側の構造部。有事に備えて5つのブロックの分割構造になっている建物である。ならば。
「私が歩けるようになれば何とかなります。あと何日か待って。……大丈夫。秘密の出口を知って
ますから、私」
MS試験場から外へ至る緊急避難口は多分使えるはずだ。指紋認証やらパスワードやらは
バックアップ電源でか細いながらも照明がついている以上、生きているだろう。電源が生きている
なら解除に力は要らない。但しその先は緊急用の細く険しい階段。麻酔も無しで太股の縫合を
終えたばかりのクロゥが歩いて行くというなら、それはあまりに遠い道のりである。
「キミの食料が減っちゃうのは申し訳ないけど、長い距離は今歩けないから、ね。ところでキミの
名前を教えてよ?……命の恩人の名前くらい知りたいと思うんですけど。それに、何日か一緒に
いるのにキミとかあんたでは。……ね? ――私はカトリーヌ・クロゥ。カトリで良いですよ?」
カトリは腹を決めると全身の警戒を解いて少年に微笑んでみせる。何者であろうとも何れ彼の
世話にならなければ、当面は食事どころか水を飲むことさえもままならないのだ。
と、本気で照れた様子の少年を見て今度は本心から笑みがこぼれる。彼女はこの状況下で
生きていられた奇跡が少し嬉しくなった。
「……リコ。名字とかは、無い。みんなにリコって呼ばれてたから、多分リコで良いんだと思うんだ。
あと、食い物はたくさんあったから気にしないで良い。あんた……、その……。カトリ、の分はあと
で。うん、あとで取ってくるから。……き、気にしないで良い」
最後はうつむいてしまったリコを見て、名乗るだけでそんなに照れることはないだろうに。
この年頃の男の子って難しいですねぇ。とクロゥは思う。
但し、厳しい教練課程で『【女で有ること】も最大限に利用しろ、状況によっては微笑みでさえ盾に
なる!』等という無茶な課程を疑問も持たずに普通にこなし、その微笑みがもはや癖になっている
ので下手に発動しないように、黒縁メガネをの着用義務を課せられた事など、まるで頭にない。
そもそも、その顔立ちで教官筋から【盾の防御力】には定評のあった彼女である。
そんな訳で本人は気づいていないが、リコはその『盾』で力の限りぶん殴られてしまった。
攻防一体の最強兵器で、思春期まっただ中の少年を『一発KO』してしまったとは思い至る訳も
ない彼女は、ただ不思議そうにリコを見つめるのみである。
第3話『廃墟での出来事』(3/6)
「隊長、そんなところに入って、崩れて死んだって知りませんからね!?」
「だから、士長は入らんで良いって。同じレトルトだってモルゲンだったらもう少し良いもん喰ってる。
絶対そうだ」
18隊は現在総出でA4の試験調整中である。本来であれば試験調整の陣頭指揮を執る
はずの小隊長はMSのパーツと毛色の変わった食料を探すべく崩れた研究所の大きな窓から
中に入り込んでいた。
「図面もないから構造もわかんないですし、そもそも何時崩れるか……。早く戻って下さいっ!!
だいたい何で隊長が直々にそんなとこに行くんですか!」
することがないからだ。手空きは俺しか居ないからな。そう言うと戦闘服の腕まくりを下ろして
靴紐を結び直すと、薄い皮の手袋をはめ簡易ヘルメットのバイザーを降ろすダイ。
「学生の時に施設科の勉強もしたんだ。多分この建物はブロック分けしてある、大丈夫だ。
本部に戻ってマーシャルの手伝いをしててくれ。以後連絡はラジオで……。わかってるよ、
東側には近づかないしラジオの不感地帯にも行かない。俺だって死にたかぁ無いよ」
「――ったく、ただ文句を言いたいのか世話焼きなのか。隊長も副官も慣れてねぇと言やぁ
そうなんだがな」
必死で止めようとした副官の顔を思い出してため息を吐くと頭に付けたライトを点けるダイ。
尉官とは言いながら階級章は幹部搭乗主義のためであり、パイロット以外の部下なぞ持った
事の無いダイと、そもそもただの通信士で、特別手当を目当にダイの副官として島に残ったらしい
彼女、フジワラ士長である。通常ならこれほど不慣れな組み合わせで配置される事もあるまいに。
とまたため息を吐く。
「確かにこの辺から入っていったんだが、瓦礫に潰されたか、別の部屋に逃げたか、さて……」
彼のもう一つの目的、ガンカメラに写った少年はヘリの爆発の煽りでガラスの吹っ飛んだこの辺りから
建物へ入った。そして講堂か体育館のようなこの部屋は天井がすっぽり落ちて床が見えない。
「この程度なら照明がブチ当たってなければ即死は無さそうだな。せめて生きていてくれよ……」
彼は以前島の漁師から聞いた『野良コドモ』の話を思い出す。研究所の出来る前、山の頂上
には孤児院のような物があって物好きのじいさんが身よりのない子供を十数人手元に置いて
いたらしい。研究所の設立計画と共に保証金を積まれて移転したらしいのだが、子供が数人、
山に逃げ出して未だに行方不明なのだ。と漁師は言った。
そんな話はたった今まで彼も忘れていたのだが、だから島に数の合わない子供が居る事自体、
おかしくはない。
「第3施設大隊もたいしたことねぇなぁ。完全に天井が落ちてらぁ、カンペキ手抜き工事じゃねぇか
……。マーシャル三尉、オオニシ技師長、取れるか? ダイだ。センサーのテストはどうだ」
『感度を上げすぎて半径1k以内は真っ赤っかで良くわからん。おまえの位置トレースはラジオ
の発信位置でイケるんだがな。――技師長、どーなんだコレ?』
『各港とビーチについては完全に見える、カメラはOKだ。振動とか赤外線とかは確かに調整に
手間取るなぁ、こりゃ。定格の370%は無理があるかぁ、海はあきらめてソナー使うか……』
「建物自体の損傷は内装以外は軽微、ハッキリしたことは調査の後だが、倉庫かなんかには
使えそうだぜ? 技師長は旧中隊の記録にココの構造図か、そんなのが無いか探しといてくれ」
食い物の反応が出たら教えろ。と言うと更に足を踏み出すダイ。開きそうな扉が奥にある。
多分MSのパーツなら地下、食料庫なら1階だろう。少なくとも講堂にはどちらもあるまい。と
判断して広い講堂の奥、開きそうなドアへ向けて歩を進める。
第3話『廃墟での出来事』(4/6)
『オオニシ技術一曹から隊長へ緊急! ダイ、オマエの近所で熱源探査に感! 何かあるか?
大きさ1m〜20m、温度20〜50℃。もう見えてるはずだ』
「……技師長、なんだよそれ。巫山戯(ふざけ)てんのか?」
『すまんがわからん。熱源探査が復旧したとたんに反応が出たんだが、現状まだおおざっぱにしか
表示できないんだ。形状、高さは不明、中心位置はおまえから南に15m、東に12m付近』
彼がそちらに頭を向けると舞台の壇上、そこだけ何か盛り上がった部分がある。足早に近づいて
瓦礫をみる。
「……演壇、か?」
大型ライトの破片や天井の材料が演壇を囲んで櫓のようになっているらしい。
「技師長。熱源中心は恐らく舞台の演壇。発熱は50度以内で間違いないんだろうな?
ヘルメットと皮手しか装備がないんだ、化学薬品処理なんぞいやだぜ、俺は」
瓦礫をどけるとオレンジの布にモルゲンレーテのマークとオーブの国旗の刺繍が見える。
と、そのオレンジの布が、動いた。
「マーシャルっ! 俺の位置のトレースは出来てるな!? 要救助者発見、直ちに3、4人、
担架と一緒によこせ!! それとモモちゃん、聞いてたら医療班に準備させといてくれ!
技師長。他にもいるかも知れん、各センサー調整は後回し、定格に戻して感度最大!」
第3話『廃墟での出来事』(5/6)
大きなテントの横、たき火のそば。足を投げ出してたき火をボンヤリ眺めながら座るオレンジの
ブルゾンの女性。頭に鉢巻きのように包帯が巻いてある。もっとよく見れば手足の至る所にも包帯
やら絆創膏やら賑やかではある。
「まだおやすみではなかったんですか? イタバシ主任。寝床は女性テントに確保してあり、
……ますよね?」
「何か眠れないので。それに私、なんかたき火って好きなんですよ。――あっ。ジョーモンジ隊長、
でしたっけ。助けて頂いたのですよね? 私、その、お礼もキチンと……」
頭をかきながらコーネリアスの横に直立不動で立つのは、無精髭にフライトジャケットのダイ。
「まぁ、国防官として当然のことをしたまででして。お怪我も大したことが無くて何よりでした。
――ところで、せっかく起きてらっしゃることだし、主任にお伝えしたいことがあるんですが。
今、宜しいですかね?」
彼女が頷いたのを見ると改めてダイは彼女の隣に腰を下ろす。
「……あぁ、その前に。隊長、私に敬語は要らないですよ? 主任とかも要らないし。
私のことはコーネラで良いです。歳もそんなに変わんない、ですよね?」
「……なら俺もそうしてもらっていいっすかね。改めてパイロットのダイ・ジョーモンジ、宜しく。
俺のことはダイで良いっす。だいたい隊長なんざ押しつけられただけだし、しゃっちょこばってる
のはそもそも性に合わね、ってなもんでね」
「はぁ……。まぁ、そんなトコだろうとは思ったけどねー。……じゃあ、いつまで。って言うのは
わかんないんだ」
「未来永劫って訳じゃ無いだろうが、ね。食料と燃料が約4ヶ月分。半分に見積もっても2ヶ月は
間違いないと思う」
ダイが伝えたのは全島民避難で定期船が無くなってしまった事と、ダイの率いる18隊が
当面島への駐屯を命ぜられている事の2点。一応技術者救助の報は入れたものの、現状のまま
引き続き保護せよ。と言われてしまえば『あなたは島から出られない』と伝えるしかないのが彼の
立場ではある。
「通信筒で連絡ってアナクロよねぇ。MSが四機も配備になってるのにさ?」
「命令は電波で来るんだけどな、コッチの言い分は聞く耳持たんって事かな。ははは……」
大出力無線機もレーザー発信器も旧中隊にはあった。だが18隊と名前が変わった直後に
発信器は全て撤去され双方傍受しかできなくなっている。
当然、切られた海底ケーブルの復旧など言わずもがなな島の現状である。
「まぁ、ここ暫く休みもなかったし。有給だと思ってビーチでバカンスね。あと、迷惑でなければ
M1の整備もさせて欲しいんだけど、どう? これでも元第一MSテスト大隊付きでメカニック
出向だったのよ?」
「……俺、元はそこの第三小隊だ。世の中狭いな……。1131号機、いじったこと無いか?
はは、それ俺のヤツだ。姐さん、整備の件は是非に宜しく。ウチはMSの本職がいなくってさ。
技師長はいろいろ器用な人でさ、有り難いんだがMSの専門分野となると……」
第3話『廃墟での出来事』(6/6)
「かなり大出力のセンサーで島一面を監視してるな。……但しセンサーは基本一個。
ならば人間程度の大きさなら中腹まで登らん限りはバレねぇとは思う」
崩壊したイーストセントラルポートの片隅。黒のウェットスーツの二人組がアタッシュケースに
収まった機械を囲んでなにやら話し込んでいる。
「ならばある程度見ていった方が良いだろうな。BB、おまえは残って何かあればデータを……」
「慌てんなよ、スミダのアニキ。道沿いには間違いなく対人センサーくらいはあるって。反応が
見えないが軍用ならそんなモンだ。ジャンク屋組合のちゃちなセンサーとは訳が違う。道沿いなら
カメラだってあるはずだ。ポートから出たらヤバいぜ」
そう言いながら細面の男はアタッシュケースを閉めると複雑な防水機構を手際よくロックする。
「軍隊を置いて此処までするんだ。あの何とか言う赤服のにぃちゃんの情報は当たりと見て
良いんだろうかな?」
「マーセッドとか言ったな。うさんくせー野郎だけどさ、確かに何かはあるんだろ? 国防軍
どころかM1までいやがったからな」
「これでスカだったらさすがにリーダーに怒られるぜ。アイツの情報を引っ張ったのは
俺とおめーだからよ」
オーブの新型MS。設計図でもOSのソフトでも何でも良いから良いから持ち帰れ。
赤の軍服を身に纏った青年はそう言ってあり得ない額の提示をした。のみならず、失敗しても
返せとは言わない。と言いながら手付けとして1/4を現金でジャンク屋兼傭兵団である彼らに
渡した。半月前の話だ。
「リーダーはともかく、グランパだろ。ジャンク屋だけで食える時代じゃねーだろうしあの金が
入らなきゃウチのファミリーは終わりだぜ? アニキ。――情報屋以外に能のねぇ俺を拾って
くれた恩をグランパにかえさにゃならねぇんだからな……」
黒のウェットスーツの二人組は身支度を終えると静かに海の中へと消えていった……。
予告
住環境向上と食料の調達のために廃墟の中へと向かうダイとコーネリアス。
一方、機密を狙う傭兵団は密かに島への上陸を開始しつつあった……。
――次回第4話―― 『地下での邂逅』
今回分以上です、ではまた。
>>島風
投下乙です。
笑顔のシールドバッシュ一発KOが素晴らしい。
モビルスーツの頭の使い方が、一工夫効いていると思いました。
またの投下をお待ちしております。
>>347 投下乙!俺もクロゥさんに盾でぶん殴ってほしいですが…
四時くらいから投下です。
13/
二機のフリーダムは左右に分かれ、一機は主戦場へと赴いていった。
この場は一機で十分という意思表示らしい――その間違いを思い知らせてやろう、と
スティングが身構えていると、モニターに幾つもの光点が表示され、速度のベクトルを示す
矢印が、見る間に大きくなっていった。
「ミサイル――でかい!」
飛び来る数基に身構えるも、全長七メートル前後、噴煙を引く対艦ミサイルは
カオスを素通りして直進、母艦のガーディ=ルーへと食らいつこうとしている。
母艦に落ちられては少し困ったことになるし、何より――
「俺とカオスを無視するってのは、無しだぜ?」
――なので、MA形態に移行する反動を使って、背中から羽付きのドラム缶を放出した。
カオスの胴体ほどもある簡易型ドラグーンは、機動兵装ポッドと呼ばれている。
心の動き――脳波の量子的変化をコクピットが読み込み、フィードバックして操作するポッドは、
カオス本体にも不可能な加速力で瞬きの間にミサイル群へ詰め寄り、ビームの軸線をあわせた。
引き金だけは手元で――中指のトリガーを引き絞り、精密な偏差射撃によって全ての噴進弾を
破壊することに成功する。
と、通信――艦長から。
『"オークレー少尉"、余計なことはせずに敵モビルスーツに集中するが良い、
カオスから1mmたりとも、本艦に近寄せるな』
「了解――!」
答えてから気付いたが、一見して文句のような、遠回しな形の激励だ。
艦長が自分を、物を見る目で見ていたのは知っていた。
怪訝な顔を、ロックオン・アラートのランプが赤く照らす。
ビームを回避――体を叩くGが、口元を笑みの形にゆがませた。
――少尉、ねえ。
どうやら今の戦いには、命令では割り切れない何かが宿っている。
そう思うと、スティングは荷重の負荷を承知でスロットルを更に開いた。
敵は――むかつくことに――カオスよりもガーディ=ルーを狙っている。
「そこは――俺の帰る艦だ!」
深緑の怪鳥を思わせるMAのカオスでもって、最大火力"カリドゥス"により牽制しつつ、
ガーディ=ルーに取り付こうとするフリーダムの進路に割って入る。
敵機が羽根のような砲塔をこちらに向けて、一斉射撃の体勢をとる。
「フルバーストって奴か!」
と、多量の対MSミサイルがフリーダムに降り注ぎ、動きの出だしを押さえた。
「掩護――だと? ……へっ」
今まで思いがけすらしなかった母艦の支援に、面映ゆい何かを感じながらスティックを倒す。
前へ、ひたすら前へ――カオスは、これまでにない軽さでビーム輝く真空の宇宙を飛翔していった。
14/
フリーダムに向かった対MSミサイルは、ゆったりとしているように見える速度で中距離に
接近すると、僅かずつタイミングをずらして、鋼鉄の矢と化した。
放出された十五基は、至近距離で炸裂、数十本の徹甲芯を打ち出す対装甲仕様で、
PS装甲付きの機体といえども、関節部分に喰らっては不調を被るはず。
「アクションを見せた瞬間、その隙を突く!」
読みは正しく的中し、オレンジ肩のフリーダムはミサイルの鼻先でステップを踏んだ。
右に左に、横滑りする機動が徹甲芯の狙いを逸らす。
それだけにとどまらず、斉射(フルバースト)の矛先をミサイルに向け、一基ずつ、
精密な射撃で迎撃に成功する。
だが、過剰な大火力の使用は機体制御の間隙を生むものだ。
スティングは、フリーダムの機動に生じた僅かな乱れを見逃さなかった。
「其処だ――!」と、機体を最大速力域へ追い込む。
飛び散る破片を機首で弾くカオスは、禍々しいビーム爪の輝きを見せた。
躍りかかるカオス――敵もまた素早い反応を見せた。接近戦でライフルは不利と見るや、
サーベルを抜きはなって逆撃に転じたのだ。
互いの重量を速度に乗せた衝突は、激突の狭間にまばゆいスパークを生む。
目の眩む、超高速での邂逅は一瞬だった。
互いにビーム刃を弾き合い、すれ違うように間合いを離す。
槍騎兵同士の決闘を思わせる光景――そうしなくては、互いに減速Gで潰れるが故だ。
「接近戦では互角か!?」
スティングは分析し、次いでフリーダムが即座に接近するそぶりを見せた事に驚き、
MAからMS形態へと再変形するタイミングを逸した。
「今のは一端退くタイミングだろうがよ……!」
振りかぶられたビームサーベルを辛うじて魔鳥の爪で挟み込むが、敵の空いた手は
カオスの頭を掴んできた。
「ちっ! 鬼ごっこじゃねえんだぜ」
毒づき、掴まれた頭を引きはがそうとするが、流石は核駆動モビルスーツの力である。
カオスのマニュピレイターでは、万力で固定されているかのようにびくともしない。
互いに長物を振るうには近すぎる間合い。
――しかしカオスにはドラグーンがあった。
15/
『照準範囲に自機』
「――うるせえ、やれよ」
FCSの警告を無視して、密着したフリーダムにビーム砲の狙いをあわせると、
青い翼をはためかせる"オレンジ肩"はカオスの頭を強かに蹴りつけ、離脱する。
フリーダムはガーディ=ルーへ進路を向ける、と見せて、進路に割り込むカオスを
徐々に母艦から引きはがしに懸かった。
疑問が生じる――狙いは俺、なのか?
任務の事を全て覚えているわけではないし、恨みを買っている事が多すぎて、
誰から買った恨みなのかも特定できないスティングだ。
『オークレー少尉、聞こえますか?』
「――ああ?」
立て込んでいるときに通信を送り、しかも返事まで要求するのは誰か?
ガーディ=ルーのオペレイターだった。
『敵フリーダムから、NJCの反応は検出されていません。核駆動ですがキャンセラーは
搭載していないのです――いいですか?』
『つまり本艦のNJが復活するまでの……何分だ? ……うむ、あと七分保てと言うことだ。
――左舷弾幕薄いぞ、何をやっとるかぁ!』
オペレイターに代わり、怒声を上げる艦長だ。
余程、フリーダムに追い回されたくないのだろう。気持ちは分かる。
『できんか? オークレー少尉?』
「冗談――三分も保ちませんよ……相手がね」
『良く吠えた、任せたぞ! ……ダメージ処理班向かわせろ、バリアント……っ撃え!』
「アイコピー、キャプテン」
了解の前に通信は切られていたから、イアン艦長に聞こえては居ないだろうが、
せわしない艦橋の雰囲気を一瞬でも知ることが出来たのは行幸だった。
まだ落ちてない……それだけで十分だ。
「……というわけで、数分つきあって貰うぜ」
さて、と気を取り直し、敵に意識を集中させる。
『未練をなくすのに、それだけで十分かよ――改造人間?』
互いに猛烈なスピードで位置取りを行いながら、不意に会話がつながった。
「……そういえば、NJが利かなくなってたな」
『そうさ、お前の死に顔までばっちり見える』
「プラントの眼科は藪医者ばっかだな、遺伝子細工で病気予防のおかげか?」
通信が通る珍しい事態だ。
ポッドで牽制し、動きをゆるめさせたところに加速力を活かして背後を取ると、
フリーダムは五対の羽を羽ばたかせるように、鋭角の切り返しを見せた。
16/
『そんな甘い戦法が、通ると思ってたのか?』
「しつこいうえにうるさい奴だな――」
後ろを取られた――臓腑を捻るGを浴び、骨という骨をきしませながらなお、
スティングは虚勢に咆哮し、かつ笑って見せる。
背後、全身此れ砲台という風情の"フリーダム"は、肩関節を保護する装甲だけを、
夕陽を思わせるオレンジに染め抜いていた。
「あんた……どっかで見たことあるか?」
『そのいじられた脳みそから、記憶を反芻して、恐怖と共に飲み込みな!』
展開される濃密な弾幕に対し、変則的な乱数機動を駆使して回避する。
『個人的な恨みしかねえが――これも任務でなぁ!』
"ルプス"ビームライフルで弾幕を張り、敵は"パラエーナ"プラズマ砲をたたき込む、
そのタイミングを測っているのだろう――前大戦で戦線を荒らした悪名高きフリーダムは、
武装が良く知られている。
その性能も――弱点も。
「"ルプス"の連射モードは三連――その後に一秒空く!」
左、上、と背中を掠める攻撃が来て、三発目がコクピットを狙うタイミングでカオスを
反転させた。
「いけよ――!」
ビームを掻い潜る隙に、二基一対の機動兵装ポッドを切り放す。
第一手は、ポッドから飛び出すミサイルの嵐だ。カオスは猛然と接近してゆく。
ミサイルの処理に追われて対応しきれない敵機へ、次いでビームの驟雨を浴びせた。
疾風と怒濤――動きを乱した敵へ、本命のクロー攻撃。
フリーダムは、この期に及んでサーベルを抜いた。
「それじゃあ遅いんだよ、のろまが!」
一発――右腕を多少掠める程度の損傷で速度をゆるめずに回避し、スティングは、
フリーダムに肉薄した。避ければポッドからの追撃がフリーダムを屠る。
フリーダムは迷わずに回避を選択――
「今――!」
ポッドビーム砲の引き金を引いたスティングは、発射の直前、ポッドからの
フィードバックが途絶えた事を知る。
「……ぐっ!?」
思考に僅かなノイズが生まれ、カオスの操縦も覚束ない。その隙をフリーダムに
狙い撃たれ、カオスの胴を深々とビームが抉った。
損傷に伴う衝撃が体を揺さぶり、コクピットの中に火花が散る。
17/
『言っただろうが、任務だってなぁ! 俺一人でカオスを狩るなんて、
割り切れねえやりくちは考えてないんだよ!』
ポッドを狙ったのは、一度主戦場に向かった筈のフリーダムだった。
伏兵だ。
「へっ……油断した、だが!」
それは、戦力の逐次投入というのだ。
敵の持っていた、可能ならば一人でカオスを討ちたいという拘りが、
考えを禁じ手に向かわせたのだ。
『何――!』
スティングはフリーダムから離れず――よって、二機のフリーダムに挟撃を
受ける事もなく――機首を敵機の胸に押し当てると、カオスの爪を振り上げさせた。
「フリーダムだろうが、ザクとは変わりない、案山子と同じなんだよ!」
『カカシって何だぁ――!?』
ビームを発振させながら無理矢理蹴りつけた爪は、荷電粒子でPS装甲に
おぞましい傷跡を刻みつけながら、基部より折れて砕けた。
「ちっ、三分保たなかったな――おさらばだ! ――艦長!」
『二十秒後に全力加速して離脱する! 後部のハッチから戻ってこい!』
「了解!」
艦長に通信を送り、残存した一機の起動兵装ポッドを操る。羽付きドラム缶で
もう一機を牽制しながら、土産とばかりに損傷したフリーダムを蹴り飛ばした。
おかげで二本の脚は両方とも折れたが、スティングは溜飲を下げる。
そしてカオスの推力を解放してやると、シートに埋もれる加速Gが僅か数秒で
ガーディ=ルーに追いつかせた。フリーダムをも置き去りにする加速である。
艦影が米粒から切手程に拡大される、一秒にも満たない時間で反転、減速、側方の
スラスターを使って位置を微調整して、ぽっかりと口を開けた後部ハッチに滑り込む。
この間、僅か12秒。
カオスの固定が完了すると時を同じくして、ガーディ=ルーの後部から目映く輝く
プラズマの尾が吹き出され、クルーは手すりや壁、思い思いの場所に捕まって
流されるのを防がねばならなくなった。
「外にいるのは敵じゃない、外にいるのは敵じゃない――」
電源を落としたコクピット。ハッチを開ける前のまじないに自己嫌悪しながら、
スティングは焦げた装甲の冷却を待って正面ハッチを開く――数度の衝突と
至近距離を掠めたビームによって熱で歪んだ装甲が、ぎりぎりと部品同士で
削り合い、異音がスティングの耳を騒がせた。
「ナイスランディングです、少尉!」
開けたハッチから顔を覗かせ、スティングに向けて手を差し出すメカニックに、
スティングは一度親指を立て、それから引っ張り出して貰うためにその手を握った。
18/
「ちぃ――逃した!」
怨敵を逃したハイネ=ヴェステンフルスは、コンソールを叩いて悔しさを募らせる。
『おい、ハイネ――手前ぇ!」
「この○○○! ××の△◆野郎が、何時か絶対に‡†で⇒∴してやるからな!」
誤作動を起こしたFCSが僚機に向かってレールガンを発射するのもお構いなしに、
とても青少年には聞かせられないボキャブラリーをずらずらと並べるハイネ、
呆れた僚機のパイロットも無言に立ち返り、"フェイス"の激情が収まるのを待った。
戦場は、1ダース近い量産型フリーダムの攻勢によって、連合の陣形にチーズのような
虫食い穴が穿たれ、其処にゲイツ、ザクを中心とした部隊が攻め入る事でザフトの優勢に
傾いている。
もうじき連合側のNJが復活して、量産型に搭載された核炉が停止するであろうが、
それまでに緒戦の趨勢は決するはずだ。
イザーク=ジュールの駆るフリーダムを旗頭にした一団が槍の穂先となって、
敵中核に切り込んでいる。ここまでひたすら我慢を重ねていたであろう守護神は、
ここぞとばかりに、敵に損害を与えていた。
単軌駆けの可能なフリーダムに乗っていながらチームプレイを欠かさないジュール隊は、
反撃不可能なレベルに損傷させた敵機を残し、後衛にトドメを譲るという余裕まで見て取れる。
「こりゃあ勝ったな――」
ひとしきりガス抜きをしたハイネの、落ち着いて一言がそれだ。
フリーダムなら――そう思っていたハイネは、とても緒戦の勝利を手放しで喜べない。
ザフトでは、このフリーダム以上の戦力は望むべくも無い、然もこのフリーダムは
戦術のパーツとして組み込まれた部品だ。ハイネの自由になるものではなかった。
なんとかしてカオスに対抗するには――地上にたたき落とすしかない。
「OP.スピア・オブ・トワイライト、そのときが勝負か――宇宙じゃ勝てない」
決意を固めると共に、苦い確信がハイネを占めた。
さらに、一つの疑問がハイネの胸中を渦巻いていた。
「それにしても――カカシって何なんだ?」
ハイネは、地球の農業に詳しくなかった。
決め手を欠き、予想外のフリーダム部隊投入に対応の遅れた連合艦隊は、NJの再起動と、
それによるフリーダムの攻撃力低下を機に艦隊を再編成し、投入した戦力の三割近い損害を
被りながらも撤退した。
この会戦によって宇宙でのザフト有利が、ある程度の期間を限定しながらも決定的となる。
以後数ヶ月に渡り、宇宙では月のアルザッヘル基地とザフト宇宙軍がにらみ合い、
その間に地球上で激しい戦闘が繰り返される事となった。
19/19
――数日後、アプリリウス。
「議長もどういうつもりだか――"セイバー"、最高機密を、出戻りの俺に預けようだなんて」
与えられたホテルの一室で目を覚ましたアスランは、備え付けの電気シェーバーを
使っている間、デュランダルの台詞や仕草の逐一を思い出していた。
「しかし……底が読めない」
デュランダル――議長の行動から、プラントの方針を読み取ろうと考えての事だが、
デュランダルは遺伝子が行動に与える無意識の影響についての専門家でもある。逆に
アスランが印象操作を受ける可能性も無いとは言えないのだった。
穏やかな表情と理性的な口ぶりは、かつて見知ったシーゲル=クラインや、ナチュラルへの
報復という妄執に取り付かれる前の父を思い起こさせる。
一見して妖しいところのない、穏健派の議長であると思える。
「しかし、OP.スピア・オブ・トワイライト……」
キラからその作戦予測を聞いた時は半信半疑であったが、デュランダルは否定しなかった。
『既に作戦の準備が始まっているとして、緒戦をプラントが追い詰められるならば――』
ザフトが既に戦力をそのために割いている証拠だと、キラは言った。
ギルバート=デュランダル――争いを疎ましく思えども、必要ならば恐れないということか。
「カガリ――」
そしてあの奇妙な勝負、だ。アスランはキングを刺し、デュランダルはクイーンを奪った。
「ミーア――」
デュランダルがその後に紹介したのが、ラクスと全く同じ顔と声を保った少女だ。
『これが我々のクイーンだよ』
チェス盤から、デュランダルのクイーンを落とす事の無かったアスランへ、デュランダルは
そう言って笑った。
今もテレビには、演説を行うデュランダルと、ラクスを模した少女が映っている。
「……どうなると言うんだ」
アスランは不安を感じずには居られなかった。
息をつき、コーヒーメーカーが黒い液体をはき出すのを眺めるアスランを、
ドアベルが呼び立てる。
「はい――」
デュランダルからの呼び出しだと思い、カメラの確認をしなかったのが間違いだった。
ばんっ! とドアを蹴破って入ってきたのは、背中まで届く黒髪も艶やかな少女だ、
ただし少女に似つかわしくない事に、ワインレッドのスーツ姿は刃渡り26cmの短刀、
銘行光(めいゆきみつ)を腰溜めに構えている。
「は……?」
「アスラン=ザラ――覚悟!」
少女の煌めかせる白刃が、寝起きの眼にまぶしく映った――。
以上、投下終了。
次回予告
アスラン=ザラ刺殺さる!? 騒然とするプラントに、白服の隊長探偵が立ち上がる!
「この事件、3レス位で解決してみせる、母上の名にかけて!」
次回、プラント事件帳 〜オーブ高官殺人事件〜
シホ=ハーネンフースは見た!(ホトケの死に様を)
嘘です、感想やご指摘がありましたらご自由にどうぞ。
乙。
まさか『†』に実録マユからスペサルゲストが出るとはw
>>358 ギアス第2期と同じ展開ですねわかります
「四月一日 −No.7−」 −Long Talk & a word−
エイプリルフールの夜。もう二十分ほどで日付も変わる。
昼間の騙し騙され、見抜き見抜かれの勝率は五分五分と言ったところだろう。
そんな一日はそれなりに楽しかったもののそれでも疲れたことに変わりなく、俺はルナに背を向けたまま、
テレビをぼぅっと眺めていた。
「ねえ、シン。吊り橋効果って知ってる?」
「ん?」
ルナの問いかけに俺は生返事を返す。
「『人は生理的に興奮している事で、自分が恋愛しているという事を認識する』ってヤツよ」
「んー、なんとなく……」
やっぱり生返事のまま、頭の片隅で考えた。
確か、ドキドキするような環境にあると恋愛していると勘違いする、とかいうのだっただろうか。
「あたし達もそんな感じで始まったって思わない?」
ルナの台詞に、昔のことを思い出した。
アスランの脱走にメイリンが加担し、俺が彼らを撃墜したのが始まりと言えなくもないだろう。
吊り橋効果と言うよりは、寂しい者同士がくっついたと言った方が正確な気がする。
それでも反論するのが面倒で、適当に相槌を打っておく。
「ね、シンもそう思うでしょ? あたし達ってちょっと違うのよ。だから別れましょ?」
突然の言葉に思わず驚愕の声を上げそうになる。
が、ふと気づいた。今日はエイプリルフールなのだ。
だから、
「そうだな。うん、分かった」
と、あっさり返す。
ルナは少し驚いたように目を瞬かせたものの、数秒後には笑顔になった。
「分かってくれて嬉しいわ。じゃ、残りの荷物はそのうちに引き取りに来るから」
そう言いながら玄関へと向かう。
どこに隠してあったのか大きなスーツケースを出してきて、ルナは部屋を出て行った。
玄関のドアが閉じる音を聞きながら、俺は考えた。
ここで飛び出したりしたら、にんまり笑顔のルナに後々までからかわれる羽目になる。
もう一分くらいすれば、ルナの方が少し拗ねた顔で戻ってくるだろう。
と、思っていたらドアが開いた。
「あの、ね、シン……」
おずおず、という表現がぴったりな風にルナが顔を覗かせる。
予想以上処ではないその早さに、からかう言葉すら浮かばなかった。
「えっとね……」
彼女にしては歯切れ悪く口ごもりながら、俺に向かって、おいでおいでと手招きする。
怪訝に思いつつ、俺はルナの許に向かった。
ルナが開けたドアから廊下を覗くと、そこにはルナとよく似た赤毛の少女が肩を震わせ俯いていた。
彼女の足元には、ルナが持って出たのと同じような大きさのスーツケース。
「メイ、リン?」
名前を口にするとメイリンははじかれたように顔を上げた。
てっきり滂沱に濡れていると思ったその顔は、怒りで震えている。
「シン、お姉ちゃん、ちょっと聞いてよ!」
そう言うとメイリンは、怒涛の如く彼氏との喧嘩の内容を話し始めた。
身振り手振りを交えての一人二役の熱演は、口を挟む隙すら与えない。
喧嘩と言っても、今日が四月一日だということを加味すれば、そう深刻なものではないと思う。
そんなことは絶対に口にはしないが。
――たっぷりニ十分は話し続けただろうか。
「と、いう訳なのよ。非道い話でしょ!? ……ところで、そろそろ部屋に入れてくれない? あ、お茶も貰えると嬉しいな」
――うん。俺も疲れたよ。
そんなことも間違っても口には出さず、代わりにメイリンのスーツケースを持ち上げた。
「シン、ありがと。あれ? お姉ちゃん、そのスーツケース、何? どっかへ旅行?」
不思議そう訊ねるメイリンに、ルナは力なく首を横に振る。
「ううん、何でもないの。気にしないで」
こちらも疲れきったようなルナの声音に首を傾げながらも、メイリンは俺の前を通り過ぎ、部屋へと消えてゆく。
自分のスーツケースをずるずると引きずるルナを見かねて、俺は空いた手で彼女のそれを受け取った。
戸惑ったように視線を揺らしながら何かを言いかけたルナの声がちゃんとした単語になる前に、「おかえり」の一言で
彼女の言葉を封じた。
「四月一日」のバージョン7になります。
他バージョンを既読の(ry
カードNo.7 は「戦車」です。
行動的 とか 一途 の意味があるそうです。
今回のメイリンのイメージは「ハロウィン」です。
ハロウィンだけど「四月一日」です。
何故かと問われても答えられません。
前回(バージョン6)での「落ちたのは、シン? ルナ?」というご質問ですが。
どちらも有りです。
お好みでどうぞ。
20/
――アプリリウス。道路。
一台のエレカが、中心部にほど近い高架道路を編縁部に向けて走っていた。
「ハッハッハ! いやあ、済まなかったな朝っぱらから刃傷沙汰で!」
後部座席で相好を崩すスーツ姿は、イザーク=ジュール。
「笑い事じゃない! 危うくサスペンス物の被害者になるところだった、この傷を見ろ!」
シリアスにクレームを入れる人影は、アスラン=ザラである。
ホテルの一室で行われた命がけのナイフ戦は、イザークの一喝が無ければシホの繰り出す短刀が
アスランを血風呂に沈めるというところであった。
アスランが袖をまくると、そこには確かに、まるで何度も突きだされたナイフを必死に防いだ
かのような傷跡が刻まれている。
「向かい傷ならば男の勲章というものだ。女に刺されたとなれば尚更な!」
「歴史に汚名を刻むところだぞ!?」
「刻むなら大きな名前が良かろう?」
「雪(そそ)ぎ方も分からないような汚名は、願い下げだ!」
何時、運転手が急ハンドルでアスランを放り出そうとするかと考えると恐ろしく、
シートベルトをきちんと締めたマナー精神を久しぶりに発揮していた。
「シホに刺されたとなれば、将来の語り草だぞ? ハッハッハッハ!」
豪快に笑い飛ばすイザークに対し、
「……すでに雪辱のしようもない程を泥をかぶっているくせに――」
ハンドルを握るシホは不機嫌を隠さない。殺意を押さえた棒読みが聞こえなかった振りを
するのには、苦労が必要だった。
両手を開けてはアスランに危険という事で運転手をやっている上に、イザークが隣では無く、
アスランと並び後部座席に腰を降ろしている事も関係しているのだろう。
シホ=ハーネンフース――隊長の姿が見えなければ禁断症状に苦しむらしいとは、
ヘルマン=ミハイコビッチの弁。
「しかしまあ……流石は元ザフトレッドというものだ。体の形に白線を引かれずに済んだな」
「そのまま、元生存者にしようと思ったのです……」
半径数キロのプラントである、景色はすぐに入れ替わり、低層の集合住宅地区に差し掛かっていた。
ビルは低いが、プラントの地下は深く、広い。多くの公共施設は足元に埋まっているのだ。
「最善を尽くしましたがし損じました。申し訳ありません、隊長――」
「なあイザーク。お前の部下がこんな空恐ろしい事を行っているんだが――」
「小さい事を気にするな、アスラン!」
「そうです、貴方の生死などは全く以て些細な事――」
「全然小さくないぞ。どちらかというと外交にまで響く問題だ!」
21/
バックミラー越しに見える視線は氷点下で、アスランにとっての休暇であるはずなのに
全くくつろげる気配すらない。
そもそもアスランは、オーブで待つカガリのためと思えばこそプラントにいるのである。
彼に安らぎをもたらすべきはあくまでも、思い人であるカガリ=ユラ=アスハの他に居ない。
「国家最強の秘密兵器を持ち逃げした裏切り者に、安らかな眠りを差し上げようとしたまでですよ、
ミスター・アレックス・ディノもといアスラン=ザラ?」
「それは安眠ではなく永眠だ」
そう、断じて、ほぼ初対面の相手を骨董物のドスで突き殺そうという危険少女ではない。
叶うならば"チェンジ"の一言で交替して貰いたいものだった。
エレカは居住区を抜けて、さらに商業区を素通りし、編縁部のグリーンゾーンに入って行く。
「……なんとかならないのか、イザーク?」
アスランは、不満を口調に溜めている。
「我慢しろ。そうだな、プラントを出るまでは、お前に安らぎはないものと考えてくれればいい」
「ちっとも慰めになっていない! これは虐めか、虐めなのか……」
そこまで言って、アスランの脳裏に電流が走った。
「イザーク、お前の次の台詞は、"ザフトに虐めは無い"だ!」
「案ずるな、ザフトに虐めは無い……ハッ!」
にやり、とアスランは年相応の笑みを浮かべて、驚愕に震えるイザークを見下ろした。
「な……なぜ分かった?」
「既視感、英語で言うならデジャブがしたのさ、イザーク」
「……なんだか和気藹々としている事に○×したくて仕方ないのですが。
――それとデジャブはフランス語ですよ?」
勝ち誇るアスラン、悔しがるイザークと、そして妬むシホである。
「お二人とも、着きましたよ?」
「おっと!」
「減速のGに流されたふりをして隊長に触ったりしたらデリート……じゃない、ポアします」
「もう少しオブラートに包んでくれ、頼む!」
戦死者用の共同墓地前でエレカを停車させる。こころなしか、ブレーキがきつかった。
「御苦労だった、シホ」
自動で開いたドアをイザークがくぐると、外の温かい空気が入ってきたはずなのに、
シホと二人だけ取り残された空間で、アスランは汗が引いていった。
「邪魔ですよ、降りたらいかがですか?」
「あ、ああ……ありがとう」
「隊長が乗っていなければ……」
絶対零度のつぶやきがこれ以上耳に入らぬように、アスランは足早にエレカを降りた。
22/
共同墓地――町並みの見える小高い緑の丘を、白い墓碑が埋め尽くしている。
銘を刻まれたものたちの多くは戦場に散ったままだ、その下で眠りにつく事はない。
「ここにはよく――?」
「まあ、な。任務の合間にだが」
「――俺は初めてだ」
「罰当たりな奴め。オーブなどに行くからだ」
真ん中剛速球の物言いは、確かにシホ=ハーネンフースの隊長なのだと思わせる。
「彼女は――?」
「そう、安心した顔をしながら言うな。あいつも、此処に人を待たせている口だ。
殆どのザフト軍人はそうだろう……ここだ」
白い百合を手にしたアスランと紫の桔梗を抱えたイザークが二人連れだって
やってきたのは、かつての戦争で失われた友人の墓だ。
「ニコル、ラスティ……珍しいのを連れてきたぞ」
「……遅くなった。済まないな」
そっと花を供え、アスランが祈りを捧げていると、ふとイザークが口を開いた。
「シホが目の前にいては言いにくかったがな、アスラン……戻ってくるのか?」
「……いや……ああ」
「ふん……」
否定とも、肯定とも。
曖昧なアスランの態度に、かつてのイザークならばすぐさま業を煮やしていただろうが、
彼の微妙な立場をおもんばかってか沈黙を以て遇するのは、二年の歳月を感じさせた。
「ザフトの中で困ったら、躊躇うことなく俺の名前を出せ、多生の無理も融通も利く」
「ああ、それは心強いな」
「心が強くなるだけでないぞ、俺は実態も強いのだ」
だから信頼しろ、と眼力で言い放つイザーク。アスランの記憶ではまだ露わだった顔の傷は、
大分薄れているようで、目立つほどではない。
「信頼しているさ」
「ハッハッハ――ほめても何も出らんぞ? 俺は――」
イザークは腕を組み、丘から見える町並みを眺めた。
天に向けて掠み行くほど高く屹立する主柱は、空を覆う薄膜の夜を天頂に結んでいる。
人工的に生み出される風がイザークの銀髪をそよがせて、その一景色へと溶け込ませた。
23/
「――俺は、このか弱い大地を、プラントを守って行きたいだけなのだ。
そのためにアスラン、お前が必要ならば幾らでも助ける」
「……そうか」
「連合が敵ならば、それをつぶしてプラントを守る」
「地球を?」
「連合を、だ」
プラントのために邪魔ならばアスラン=ザラであっても容赦なく討つ。
そうは言葉に出さない事が、示しうる最後の友誼であったのだろう。
「だが、連合がプラントのためになるならばその存続に全力を尽くすぞ?」
「現実的な意見をいうようになったな」
「お前は夢見がちなままだ。……もっともそのためには、連合の宇宙勢力は強すぎる。
もっと弱体化させなければいけないがな」
探り合う必要のない二人である。
「だが……俺は出来る事ならオーブとプラントと、そして連合も含めた平和を――せめて
拮抗した冷戦構造でも良い、作りたいと思っている」
「無理だな……」
「そうとも限らない」
「一人のMSパイロットに出来る事ではない――それは政治の領分だ」
「最善は尽くすさ」
「尽くす戦場が違うというのだ」
「……」
「アスラン――出来ない事は言わない方がいいぞ? 口に出してしまえば、
思いにあわない状況に陥ってしまったとき、迷いが必ず生じる」
「……だろうな」
「俺たちには、敵を前にして迷う暇など無いのだ」
それにな、とイザークは言葉を継いだ。
「戦場に立ち、銃を握る瞬間――心の引き金を引いた時と言い換えても良い。
お前は何を思っている、アスラン?」
「……そんなときは、何も考えられなくなるな、敵しか眼に入らなくなる」
「ああ。俺も何も考えられない……戦いの事以外は何一つだ」
アスランは、例えば親友と殺し合いに興じたときのような、心の殻が弾けた全能感の奈落を
焦熱が埋め尽くす瞬間を思い出している。
敵は的でしかなく、自分はそれを討ち取るための手段――人間性を排除した、一個の兵器。
確かに、そういう存在であった刹那が存在したのだ。
24/
「政治も主義も頭から離れ、味方と敵の事しか考えられなくなってくる――そうしなくては、
自分だけなら兎も角、部下を失うからな。死んだ戦友の事すらが、過去のものになるほどだ」
アスランがイザークの視線を追うと、一つの墓碑に、黒髪の少女が跪いている。
同じような影が霊園のそこかしこに散在していた。
「なあ、アスラン……軍人は人と言えども、銃を持った獣と対して変わらない……戦争がどれだけ
進歩しても結局の所、生きるのに邪魔な相手を殺すイキモノでしかないのだ。MSに乗っていては、
敵を叩き潰す事しか出来ないし、考えられん。それ以上はただの"ヒーローごっこ"でしかないのだ」
「ヒーローごっこ……」
「軍人の域を超えているのだ……無論、悪い意味でな」
イザークが口にするには意外な言葉でありながら、いざ聞いてみればしっくり来る。
「人間には分がある」
「分……?」
「そうだ。動詞をつなげるならわきまえる、という言葉が続く」
「領分か」
「分際というものだ」
一言で訂正を加える。
「オーブにある俺は、それを侵していると?」
「そうではない」
「なら……オーブのためにザフトでパイロットをしようという俺が、か?」
イザークは黙って首を縦に振った。
「なあアスラン、俺には今のお前が、立ち位置を間違えているように見えてならない」
「立ち位置……か、確かにな」
アスランは大黒柱のようにどっしりと地に足をつけたイザークの、その背に走る一本の
"スジ"を垣間見る。立ち姿に秘められた勢いは、今のアスランには、とても覆せそうもない。
「俺達コーディネーターがありとあらゆる生物の中で、どこに立ち位置があるのかは分らん」
「生き物の中で?」
イザークは首肯し、ネアンデルタール人を例に挙げる。今の人類と同時期に生まれ、生存権を争い、
そして滅びた、最も近い種である。
「コーディネーターは、人類が多様性の実験に使う踏み台か。違うだろう?」
「そう。違う――どちらかが犠牲にされる関係では無い」
あるいは、ナチュラルがコーディネーターを産むための母体となって歴史に埋もれるかも知れないし、
ナチュラルとコーディネーターがともに、その多様性を発揮する未来があるのかもしれない。
イザークはプラント=コーディネーターに都合の良い未来を夢見ているわけでは無い。
25/
「己で立つ二本の脚を持つのはコーディネーターというあやふやなものでは無い。ヒトだ」
「遺伝子の区別を取り払って、俺達自身がよって立つべき場所を決めるという事か」
「うむ……お前のように、な」
プラントにとってコーディネーターは不可欠だが、逆はそうでは無いと、
イザークはアスランを指差した。
「それに、先刻も言っただろう――」
「切羽詰まれば、政治は関係ない」
「ああ、コーディネーターでも死ぬ。戦友を殺す原因にもなる。ヒトとして前線に立つならば、
畢竟、俺達は二本足の獣に過ぎない――」
これはオフレコだぞ、とイザークはくぎを刺し、続ける。
「所詮は、相手が邪魔だからという理由だけで殺しに走る、野蛮なケダモノに過ぎんのだ、俺達は。
悪ければ邪魔ですら無い相手も殺す――畜生にも劣る迷惑な糞袋にすらなりうる」
「そこに理性は――?」
「無い。道具が高等なだけだ」
「二本脚の獣ならば、ならどうすればいい?」
「己の家族と巣を守る事に全力を尽くせばいい」
「敵が撃ってきたら、撃つしかないと?」
それは一度アスランが選び取り、そして後悔した道だ。同じ過ちを繰り返したくないからこそ、
アスランはここにいるのだ。
「いいや、違う――」
「じゃあ――やっぱり話し合うのか?」
「……よく狙って、それから撃て」
イザークは言うべきかどうか迷い、そして口の中で言葉を二、三度転がし、答えた。
「それでは、未来の為に必要な平和は訪れない」
「巣を失くしてから平和が訪れても、意味があるまい。それに平和を作るのは俺たちではなく、
別の奴らの仕事じゃないか?」
「意外な饒舌だな」
ヒト科の獣としての正道を歩もうとするイザークの言葉である。
イザーク=ジュール。この顔に向かい傷を持る白銀の狼は、プラントというとてつもなく
か弱く貧弱な場所を巣と定め、守る覚悟を決めている。
26/
「このような場所だ……普段は語れぬような事も口を衝く。すまん……説教臭くなった」
「……いいさ」
いましも迷い続けているアスランには、立ち位置を決める道しるべとして、これくらい揺るぎない
男が必要なのかも知れない。それに背くにせよ、準じるにせよだ。
「俺の望む平和は、プラントの勝利以外にあり得ない。アスラン、お前の理想とする世界は、
どのような色に塗られているのだ?」
眠る英霊達にも語りかけるかのように、イザークは口を開いていた。
「……さあ、どうだろうな」
自分の声は恐らく彼らには聞こえるまい、彼らの思いを受け継ぐ資格がもはや無いように、
アスランは場違いな自分に身震いを一つすると、アスランを睨み付けながら近寄ってくるシホに
うんざりとしながら、プラントの風にその身を吹かせていた。
彼らは見ていなかったが、その時街部では、プラント議長ギルバート=デュランダルが
プラントの"歌姫"ラクス=クラインと共に街頭テレビに現れ、地球連合への対応を説明していた。
「ところでイザーク。ジュール隊の隊長と副隊長が同時に休暇を取っていたりしていいのか?」
「現在、優秀な副隊長補佐代理が代わりを務めている! 心配するなぁ!」
同時刻、ジュール隊の戦艦ヴォルテールでは、ヘルマン=ミハイコビッチが過労死寸前の環境で、
書類整備に忙殺されていたが、奇跡的に不備は全く見当たらなかったことが記録されている。
OP.スピア・オブ・トワイライトが発動したのは、その四日後の事である。
地球に向けて旅立つ数多のザフトMSの中には、見慣れぬ真紅の機体が存在した。
SEEd『†』第十六話 『その日、炎』 了。
To Be Continued
以上、投下終了であります。
次は十七話。
感想、ご指摘がありましたらご自由にどうぞ。
それでは。
Gj!
ヘルマンwww
たねし彼女
━━プロローグ━━
アタシ
ラクス・クライン
だからさ
おぃィ
跪けよ
アタシ
ラクス
歳?
忘れた
数えるの
たるい
みたいな
彼氏?
まぁ
当たり前に
いる
てか
下僕?
みたいな
てか
アタシが付き従えて
あげてる
みたいな
下僕の名前
キラ
歳?
知らない
てか
キョーミない
顔?
まぁカエル顔?
性格?
まぁオタク
アタシが
変な男を
付き従える訳ないし
確定的に
明らか
みたいな
アタシ
昔
歌姫
だけど
飽きた
みたいな
てか
徹子の部屋
出れないし
呼べよ
タモリ!
みたいな
今
議長
してる
仕事?
たるい
だから
人まかせ
みたいな
だから
仕事しろよ
イザーク(笑)
みたいな
最近
イラつく
シン
つかえねぇ
シスコン?
みたいな
てか
目が
恐い
だって
赤いんだよ?
だから
カラコン
しろよ
マヂ
ありえねぇ
だから
死刑?
みたいな
地獄で
妹と
ヤってろよ
みたいな
投下終了
みたいな
”――私は、代表府来訪の目的と自身の名刺と共に、面会の約束をしていることを告げた。
その場でSPによる念入りなチェックを受け入れると、来賓用の客間へと案内される。
――待つこと、数分。だが私の未だ短い人生に於いて、五指に入るほどの最も長い待ち時間に
なることは疑いないことだろう。それ程、私はこの瞬間を興奮していたのだ。
理由は単純名明快。私のような駆け出しの若造であるジャーナリストが掴む事ができた、
千載一遇の機会であったからだ。こんなチャンスをものに出切るとは当時思っても見なかったのだ。
この時期、ジャーナリスト程、社会的地位が低い職種はないであろう。
その理由を挙げれば切りは無いのだが、大筋として例のラクス・クラインとその一味が関わっていた事は、
非公式的見解に基づく事となるが、ほぼ真実であろう。
ジャーナリズムの価値を高めるのがジャーナリストとすれば、それをまた貶めるのことが可能なのも
ジャーナリストであると云うことなのだ。
此処で、一つ際立った悪例を紹介しよう。
――”野次馬”の異名を持った得体の知れない武装パパラッチ達は、”自分の見た真実をみんなに伝えたい”
という欲望を正義の建前にして、押付けてきたその”真実”とやらは、テロ武装組織”ターミナル”の活動の援助と
あの”ラクス・クライン”に全面的に利したことによって、世界的規模でジャーナリズムの不信感を蔓延させていったのだ。
あの当時、各報道機関は、こぞってターミナルによる介入を受けて、ラクシズの掲げる正義。
即ち、”報道の真実”とやらを紹介していったものだった。
私も幼心にラクシズの”活躍”とやらに不覚にも心躍らせたものであった。だが、次第に鍍金は剥がれてゆく。
ターミナルやラクシズの情報操作が追い付かなくなって来た頃に、世界中でラクス・クラインの排斥運動が起こり、
そのため彼等は宇宙へと自分の住処へと逃げ出していったのだ。
時流という名の”怪物”によってラクス・クライン一党はそ、の虚像を自己の過剰へと昇華してゆき、
それが歴史の流れに対して大いなる歪みを与え、更にはジャーナリズム自身の存在意義すらも歪めてしまったのだ。
極端な例では有るのだがこのようにして、C・E年70代から90年代に於いて地球から宇宙へと版図を広げつつある
人類社会において、ジャーナリズムの公正さをこれほど失わしめた事件はないであろう。
”報道とは常に公正であるべき”という事実と捻じ曲がった”自由と正義”とが複雑に絡み合えばどうなるのか?
この一連の不祥事は、それを証明する一環となったのは事実であろう。
だが、私はジャーナリズムとは、そのような不正行為がある一方で、また真実を伝える事ができる
唯一の手段であるとも確信していた。
彼等によって貶められたジャーナリズムをいつか”真実を報道する”という本来の使命に戻す事が我々の、
そしてこれからのジャーナリズムを志す者たちの務めであろうと愚考する。
私はその為の活動の一環として、各国首脳部によるジャーナリズムに対する不信感を解く為に、
政治家や有力者、または官僚達に向って報道の利点を説く事が必須と考えていた。
現在、宇宙へと生活圏を広げた人類ではあったが、先に述べたように報道機関の権威や信頼の失墜は甚だしく、
少しでもジャーナリズム関連の者だとわかると即座に”テロリストの手下”や”犬”扱いされるのが現状なのである。
ジャーナリズムがテロリストの走狗となった記憶がまだ、人々の間には生々しく残っているからであろう。
私はジャーナリズム=テロリズムが同意義と結びつけられ、世界に混乱を起こす元凶のように語られることは、
常に真実の報道を心掛けていた大いなるジャーナリストの先達に対して申し訳が立たないのだ。
その為に僅かな機会でも飛びつき、己の危険を顧みずに行動する事こそが是となるのだろう。
そして、その機会の一つとして、まさかこのように大国の宰相と知己となる機会を得ることができるようとは。
――扉が静かに開くと、室内に一人の老翁が入室して来た。
頭髪は雪のように白く、その顔には深い大木の年輪の如く深い皺が刻まれているが、逆にその双眸は
深く大海の深淵ともいうべき澄んだ色があり、全体として超然とした雰囲気を纏わせていた。
――カズイ・バスカーク卿。
これが、私と太陽系三大強国の一角であるオーブの大宰相を務めた建国の元勲との最初の出会いであった。
余談であるのだが、私は緊張のあまり、頭を下げようとした際にテーブルに足をぶつけて、備えてあった
灰皿を落とすという失態を卿に曝け出してしまった。
私が間抜けにも、痛みの為に声も出せずにいると、卿は闊達に御笑いになられ
「そのように緊張することはない。私は見ての通り政府の公職から身を引いて、
只今は相談役の地位にある一介の老人に過ぎぬ」
その荘厳な表情が和らぎ、近所に住む親しい隠居のような雰囲気を醸し出していた。
そこに秘書が入室して来て、薫り高いコーヒーを運んで来たので話は一時中断した。
バスカーク卿は、カップに一口着けると、
「若い時はたくさんの失敗を重ねるものだ。だがそれは決して汚点となるものばかりではない」
「……はい」
首肯せざる得ないのだが、若かったのだろう。この時、卿に対してある種の反発感が湧いてくる事を
抑える事ができなかった。私はこの瞬間、卿を多くの老人の共通にある老害の愚痴であろうと傲慢にも解釈していたのだ。
「――私も若い頃はそれは酷い失敗のや苦い敗北の経験を重ねてきた」
卿を老害と侮っていた私だが、次の瞬間その悠揚極まる雰囲気に圧され萎縮していたのだ。
……やはり器が違う、と改めて考え直す。浅慮な若造が太刀打ちできる相手ではないのだ。
片や駆け出しのジャーナリストに元とはいえ、地球連合強国へ名を連なる太陽系国家の一つ、
大国オーブの大宰相なのだ。
「――それが、今の私を形成していると思えば、そう悪いものではないと、思っている」
「はい……」
このようにオウム返しの返答をするよりなく、卿の視線を私はまともに直視することが叶わなかった。
卿の全てを見透かすような深い眼差しは、私の浅慮をとっくに見通しておられたのだろう。
この時、居た堪れない感情に私は支配されていた。
「このような引退した老いぼれを貴公のような若い俊才が、尋ねてくれる事の方に私は意義を感じる」
卿はその私の無知に対しても、鷹揚であり、逆にそのことを逆手にとって私の緊張を
和らげる材料としてくれたのだった。
やはり、人物が違う。この人は歴史上の人物としていずれ、その名をを偉人史に刻む人物なのだろう。
いわば、歴史上の人物と対面するという後世の歴史家の立場から見れば私は垂涎の的となる。
そう考えるてみると、不思議と同時に誇らしさをが湧き上がって来たる。
※この会合の遥か後年に、この手記を整理しながら、再びペンを動かしているのだが、
その時の光景は、晩年になっても色褪せることはなかった事を追記しておく。
――中略。
……卿は、この時代で私が今まで出会ったどの人物よりも、剛毅と風格を兼ね備えた偉大な人格であった”
J・J・ミラン著 C・E199年度出版 ”G・F・ミラン手記”から抜粋
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――C・E83 6月27日オーブ軍・財務部門兼後方総勤務本部長室――
この財務部部門兼後方総勤務本部長室こそが、心臓部と云えるべき存在であろう。
財務部はその名の通り、国庫という名の心臓から財務と言う名の血管を通し、資金という名の
血液をオーブ全体に潤滑に送り込む極めて効率的で実務的なシステムを構築しているのだ。
少し前まで、室内は雑然とした雰囲気の中ある種の、不安感に満ちていた。
プラントを支配するラクス・クライン一党から停戦条約集結直後からの突然の宣戦布告。
そして、電撃的な太陽系辺境〜中央回廊への侵攻とそれに伴う、オーブ各宙域の拠点衛星基地の
攻略とその防衛の要である軍事衛星ヘリオポリスUと第二機動艦隊と第三機動艦隊の壊滅。
一時期、オーブ政軍内で大混乱が起きる。新生オーブとしては、ここ近年に稀に見る
大敗北を喫してしまったからである。
だが、この財務部門は他の代表部門と比べてそれなりの平静さを保っていられるのは、
この部門の総括責任者によるところが大であろう。
一時、ざわめいていた士官達に向って、
”この程度で、我が国はビクともせん”
特にその一言で沈静化させたことがである。
有言実行の人である後方総勤務本部長・カズイ・バスカーク少将がそう仰るならば……と。
破綻寸前の国家財政を建て直し、時代遅れのモビルスーツによって成り立っていた脆弱なオーブ軍を
最先端の近代兵器であるモビルアーマー等の機動兵器群の配備等、新時代に於ける宙域戦闘可能の
軍団に転換できたのは、全てこの人物の運営能力といっても過言ではない。
その、バスカーク本部長は先の大敗北を眉一つ動かさずに冷静に受け止め、上記の至言を放ったのは
正しく、オーブにとって僥倖であったのだ。
これによって政府内部の政務文官と官僚達の不安が激減したのは確かであった。
しかし、後にその一言を放った人物は、”それは事実であり、特に気負う必要もなかった”と証言を残している。
”私は国家に於ける正確な数字を把握していただけであり、この程度の被害など挽回が可能だと
既に自身で解答を出していた。
明確な解答が既にそこにあるのに、何を闇雲にラクス一党ごときを恐れる必要があるのか?と”
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――C・E年代記偉人録・オーブ編から抜粋 C・E172年度 国際学術会 第29版発行より
384 :
戦史:2008/10/06(月) 18:48:34 ID:???
ご無沙汰してます。長くなりそうなので分けました。
次回また投下します。
>>384 戦史キタ━ヾ( )ノ゛ヾ( ゚д)ノ゛ヾ(゚д゚)ノ゛ヾ(д゚ )ノ゛ヾ( )ノ゛━━!!
待ったかいがあった GJ!!!
>>たねし彼女
投下乙
みたいな
>>戦史
少年は成長するも……カズィ翁ぅ――!?
予想外のバスカーク卿に、とても驚いてしまいました。
>>戦史
投下乙です。
カズィが歴史に名を残すオーブの宰相になっていたり、その取材の手記が
本編から一世紀以上も後に整理されて出版されたり、スケールが本当に
大きな作品だと思います。