『地球軍側も素直に応じてくれましたから、そこまでの苦労はありませんでしたが……。いやー、実際戦いましたが彼等は手強いですよ。……私としても、また戦場で戦いたい相手です』
バルトフェルドは相手がどのような敵なのかを質問されているようだった。
金属の蓋を開けたルナマリアはプラスチックのスプーンを手にすると、プルプルした緑色の物体をすくって口の中へと含んだ。モゴモゴモゴ……ゴックン。
「アンドリュー・バルトフェルドかぁ……。活躍したし、凄い出世するんだろうなぁ」
「ラクス様助けたんだもん。出世するんじゃないの」
ルナマリアの言葉にメイリンが頷いた。
すると、姉のアホ毛が一瞬、跳ねるように動いた。どうやら何か思いついたらしい。
「将来、指揮官ってのも悪くないわね。私もザフトに就職しようかなぁ」
「……」
姉のらしくない夢見がちな言葉に、妹は思わずこめかみを押さえて目を細めた。
――お姉ちゃん、軍人なんて向かないし無理だよ無理。無理。無理。無理。
妹の心の中ではそんな言葉が繰り返された。
だが、そんな妹の心中など気付く事なく、そのリアクションのみに姉は頬を膨らます。
「……何よ?」
「あのね、お姉ちゃん。……軍隊じゃ、そんなスカートはけないし、お洒落な服も無いんだよ。お洒落出来ないの我慢出来る?」
「もしかしたら規則が変わるかもしれないし、そんなの分かんないわよ」
「軍隊だもん、あり得ないよ。それにお姉ちゃんが指揮官じゃあ……」
普段はもっと強気なルナマリアだが、将来について悩むお年頃の為か、今日は少しナイーヴ。少し不貞腐れながら食べかけの水羊羹をテーブルに置いて、紅茶を啜って妹を睨んだ。
「何よ……」
「ううん。なんでもなーい」
「……なんかムッカつくわねぇーっ!」
プチンと切れる音がした後に――いきなりスパーンと良い音が響いた。
「あっ痛っ!?」
突然の痛みにメイリンは頭を押さえて見上げると、そこには……。
スリッパを武器に凶暴化した――姉の姿。
見る見るうちにメイリンの瞳は潤み、口がへの字を書き始めた。
「うぅぅぅ……うわぁぁぁーん。お母さーん! またお姉ちゃんがまた殴ったぁぁぁ」
妹、メイリンは泣きながらリビングを飛び出すと、母のいる部屋へと走って行く。
「こうなったら、やったろうじゃない! ミニスカ穿いたモビルスーツ乗りの指揮官目指してやるわよ!」
一方、リビングに一人残った姉、ルナマリアは拳を握りしめ、将来への決意を叫んでいたのだった。
まあ、兎にも角にもホーク家は今日も安泰なようだ。