一方、スカイグラスパー二号機を操るトールは、敵モビルスーツからの砲火を避けつつ、アークエンジェルにどうにかして戻ろうと必死になっていた。
「アークエンジェルが!?」
後部シートのカガリが悲鳴に似た声を上げた。
その声につられたトールは振り返ると、その目に痛々しい姿のアークエンジェルが映った。
艦の後方に続くレジスタンスの車両群は、この戦闘で更に数を減らしている。
「畜生! やりやがって!」
「くそっ! おい! 私が砲手をする。お前は操縦に集中しろ。私達でレセップスを落とすんだ!」
トールと同様に怒りを顕わにしたカガリが、闘志を剥き出しにして言った。
だが、トールに取ってムウの命令は絶対であり、指示を受けていない以上動く事は出来ない。
「命令がねえんだから無理なんだよ!」
「命令が何だ! やらなきゃ、やられるぞ!」
「冗談よせよ! 補給中だった所為で、武器だって中途半端にしか積んでないんだぞ!」
「ビーム砲も積んでいるだろう。ありったけの武器を使えば落とせる。やりもしないで言うな! このままだとアークエンジェルは落とされるだけなんだぞ! 本隊のレセップスを落とせば、奴等は後退する! 私の仲間の死を無駄にするな!」
反論するトールにカガリは必死に捲し立て、最後は泣きそうなほどの怒鳴り声で訴え掛けた。
想像したくも無いが、確かにカガリの言うようにこのままではアークエンジェルは必ず沈むのが目に見えている。
トールは戦えないジレンマから、わずかな間頭を悩ませた。
「……くそっ! やれば良いんだろ、やれば! こうなったら、やってやるよっ!」
「よしっ! 後ろは任せろ! 奴等を蹴散らしてやる!」
やがて決断を下したトールはやけくそ気味に吐き捨てると、カガリは満足そうな顔を浮かべた。
やることは決まった――。
「行くぞ!」
トールは操縦桿を握り直し、レセップスへと機首を向けるとスロットルを解放する。
二人を乗せたスカイグラスパー二号機は一気に加速し、戦場の空を切り裂くように敵艦へと向かって飛んで行った。