【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】14

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1埋められたので立てました
新人職人さん及び投下先に困っている職人さんがSS・ネタを投下するスレです。
好きな内容で、短編・長編問わず投下できます。

分割投下中の割込み、雑談は控えてください。
面白いものには素直にGJ! を。
投下作品には「つまらん」と言わず一行でも良いのでアドバイスや感想レスを付けて下さい。
荒れ防止のため「sage」進行推奨。
SS作者には敬意を忘れずに、煽り荒らしはスルー。
本編および外伝、SS作者の叩きは厳禁。
スレ違いの話はほどほどに。
容量が450KBを越えたのに気付いたら、告知の上スレ立てをお願いします。
本編と外伝、両方のファンが楽しめるより良い作品、スレ作りに取り組みましょう。

前スレ
【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】13
http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/shar/1205586134/l50
まとめサイト
ttp://pksp.jp/10sig1co/
2通常の名無しさんの3倍:2008/05/06(火) 20:05:12 ID:???
 巻頭特集【テンプレート】

〜このスレについて〜

Q1
新人ですが本当に投下して大丈夫ですか?
A1
ようこそ、お待ちしていました。全く問題ありません。
但しアドバイス、批評、感想のレスが付いた場合、最初は辛目の評価が多いです。

Q2
△△と種、種死のクロスなんだけど投下してもいい?
A2
ノンジャンルスレなので大丈夫です。ただしクロス元を知らない読者が居る事も理解してください。

Q3
00(ダブルオー)のSSなんだけど投下してもいい?
A3
新シャアである限りガンダム関連であれば基本的には大丈夫なはずです。(H19.9現在)

捕捉
エログロ系、801系などについては節度を持った創作をお願いします。
どうしても18禁になる場合はそれ系の板へどうぞ。新シャアではそもそも板違いです。

Q4
××スレがあるんだけれど、此処に移転して投下してもいい?
A4
基本的に職人さんの自由ですが、移転元のスレに筋を通す事をお勧めしておきます。
理由無き移籍は此処に限らず荒れる元です。

Q5
△△スレが出来たんで、其処に移転して投下してもいい?
A5
基本的に職人さんの自由ですが、此処と移転先のスレへの挨拶は忘れずに。

Q6
○○さんの作品をまとめて読みたい
A6
まとめサイトへどうぞ。気に入った作品にはレビューを付けると喜ばれます

Q7
○○さんのSSは、××スレの範囲なんじゃない?
△△氏はどう見ても新人じゃねぇじゃん。
A7
事情があって新人スレに投下している場合もあります。
3通常の名無しさんの3倍:2008/05/06(火) 20:06:01 ID:???
Q8
○○さんの作品が気に入らない。
A8
スルー汁。

Q9
読者(作者)と雑談したい。意見を聞きたい。
A9
雑談所へどうぞ。そちらではチャットもできます。

捕捉
名前欄のトリップの文字列が有効なのは、したらば等一部例外はありますが基本的に2ch内部のみです。
なので雑談所では名前欄のトリップは当然無効です。既に何名かトリップ文字列がバレています。
特に職人さんが雑談所に書き込む際には十分ご注意を。
4通常の名無しさんの3倍:2008/05/06(火) 20:06:17 ID:???
〜投稿の時に〜

Q10
SS出来たんだけど、投下するのにどうしたら良い?
A10
タイトルを書き、作者の名前と必要ならトリップ、長編であれば第何話であるのかを書いた上で投下してください。
分割して投稿する場合は名前欄か本文の最初に1/5、2/5、3/5……
等と番号を振ると読者としては読みやすいです。

捕捉:SS本文以外は必須ではありませんが、タイトル、作者名は位は入れた方が良いです。

Q11
投稿制限を受けました(字数、改行)
A11
新シャア板では四十八行、全角二千文字強が限界です。
本文を圧縮、もしくは分割したうえで投稿して下さい。
またレスアンカー(>>1)個数にも制限があるますが普通は知らなくとも困らないでしょう。

Q12
投稿制限を受けました(連投)
A12
新シャア板の場合連続投稿は十回が限度です。
時間の経過か誰かの支援(書き込み)を待ってください。

Q13
投稿制限を受けました(時間)
A13
投稿の間隔は新シャア板の場合最低一分(六十秒)以上あかなくてはなりません。

Q14
今回のSSにはこんな舞台設定(の予定)なので、先に設定資料を投下した方が良いよね?
今回のSSにはこんな人物が登場する(予定)なので、人物設定も投下した方が良いよね?
今回のSSはこんな作品とクロスしているのですが、知らない人多そうだし先に説明した方が良いよね?
A14
設定資料、人物紹介、クロス元の作品紹介は出来うる限り作品中で描写した方が良いです。

捕捉

話が長くなったので、登場人物を整理して紹介します。
あるいは此処の説明を入れると話のテンポが悪くなるのでしませんでしたが実は――。
という場合なら読者に受け入れられる場合もありますが、設定のみを強調するのは読者から見ると好ましくない。
と言う事実は頭に入れておきましょう。
どうしてもという場合は、人物紹介や設定披露の為に短編を一つ書いてしまうと言う手もあります。
"読み物"として面白ければ良い、と言う事ですね。
5通常の名無しさんの3倍:2008/05/06(火) 20:06:42 ID:???
〜書く時に〜

Q15
改行で注意されたんだけど、どういう事?
A15
大体四十文字強から五十文字弱が改行の目安だと言われる事が多いです。
一般的にその程度の文字数で単語が切れない様に改行すると読みやすいです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
↑が全角四十文字、↓が全角五十文字です。読者の閲覧環境にもよります。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あくまで読者が読みやすい環境の為、ではあるのですが
閲覧環境が様々ですので作者の意図しない改行などを防ぐ意味合いもあります。

また基本横書きである為、適宜空白行を入れた方が読みやすくて良いとも言われます。

以上はインターネットブラウザ等で閲覧する事を考慮した話です。
改行、空白行等は文章の根幹でもあります。自らの表現を追求する事も勿論"アリ"でしょうが
『読者』はインターネットブラウザ等で見ている事実はお忘れ無く。読者あっての作者、です。

Q16
長い沈黙は「…………………」で表せるよな?
「―――――――――!!!」とかでスピード感を出したい。
空白行を十行位入れて、言葉に出来ない感情を表現したい。
A16
三点リーダー『…』とダッシュ『―』は、基本的に偶数個ずつ使います。 『……』、『――』という感じです。
感嘆符「!」と疑問符「?」の後は一文字空白を入れます。こんな! 感じ? になります。
そして 記 号 や………………!! 



空白行というものは――――――!!!











とまあ、思う程には強調効果が無いので使い方には注意しましょう。
6通常の名無しさんの3倍:2008/05/06(火) 20:07:07 ID:???
Q18
第○話、って書くとダサいと思う。
A18
別に「PHASE−01」でも「第二地獄トロメア」でも「魔カルテ3」でも「同情できない四面楚歌」でも、
読者が分かれば問題ありません。でも逆に言うとどれだけ凝っても「第○話」としか認識されてません。
ただし長編では、読み手が混乱しない様に必要な情報でもあります。
サブタイトルも同様ですが作者によってはそれ自体が作品の一部でもあるでしょう。
いずれ表現は自由だと言うことではあります。

Q19
感想、批評を書きたいんだけどオレが書いても良いの?
A19
むしろ積極的に思った事を1行でも書いて下さい。専門的である必要はないんです。
むろん専門的に書きたいならそれも勿論OKです。

Q20
上手い文章を書くコツは? 教えて! エロイ人!!
A20
上手い人かエロイ人に聞いてください。


===========================

テンプレは以上。以降投下待ちに入ります。
7眠大葉 ◆uotUYGHVwM :2008/05/06(火) 20:13:04 ID:???
>>1
迅速なスレ立て乙!

最初ってのはちょっと気が引けるけど、マスコットなとめさん描いちゃったんで落としてみるノシ
http://www.hsjp.net/upload/src/up17582.jpg
8通常の名無しさんの3倍:2008/05/06(火) 21:41:12 ID:???
>>7
GJ!
あらららららららーい
9通常の名無しさんの3倍:2008/05/06(火) 21:44:57 ID:???
GOOD JOB! そしてcooool!
マスコットトメサン、秒速四メートルくらいで保存しました!
10『大地と薬』:2008/05/07(水) 06:59:55 ID:???
 プロローグ・3

 ゆらゆらと、黒く巨大な姿がふるえている。
 薄暗がりに浮かぶ白い肌。背後に写る、黒い人型。蝋燭の炎がゆらめくたびに影もうごめく。
 遠くで夜の風の吹きすさぶ音が耳に痛い。
 ふしくれだった太い指がほおをなで、少女のくちびるを押す。
「……この空の上に、人が住む世界があるという話は、本当なの」
 男の声が返ってきた。それは嘘だ、と。蛙の舌のように粘着質な声色だった。
「では今、天上の人と名乗っている存在は誰なの」
 別の男が答える。悪魔が天使のふりをしているだけだ、と。
「……では、本当の天使はどこにいるの」
 男の笑い声が、いくえにも重なって返ってきた。俺達だ、俺達だ、と。
 哄笑の中、細い首に腕がのびる。十字架の首飾りが鳴る。いくつもの戦いをくぐりぬけた傷
だらけの腕。自分と他人を傷つけ続けた跡。そんな腕が何本も白い肌にのびる。
 乾燥した白い肌と、色素が沈んで黒ずんだ肌が、小さな灯火の下でからみあう。じっとりと
汗ばんだ肌が星空のように灯を反射する。
 薄目を開けた少女の視界には、ふしくれだった指と、天幕に映る影だけが存在した。
「……天使なら、私を助けてくれるの」
 約束するぞ、と再び笑い声が返ってきた。役に立つ限り、おまえだけは側に置いてやる、と
答える者がいた。
 突き出される、太く長く、ふしくれだった指。のけぞらされる体。目に映る天蓋。
 気持ちいいという言葉は嘘。
 いつか故郷に帰してくれるという嘘。
 祈れば救われるという嘘。
 天使が助けてくれるという嘘。
 全てが嘘。
 ……全てが嘘ならば、これは悪い夢だ。
 くちびるをかみしめて、少女は目がさめる時を待ち続けた。
 ゆらゆらと天幕にうつる影だけが、少女の見える全てだった。
 外からは泣き叫ぶように風がうなりをあげている。少女が暖かい寝床にいる今も、ずっと幼い
子供達は武器を与えられて命懸けで戦っているのだろう。おそらく敵は政府軍でも警察でもなく、
防備の薄い村々に違いない。理想を失った者は生きるため、つまり略奪のためだけに戦うものだ。
 ここで男達を悦ばしてさえいれば、傷つけられながらも命まで奪われるわけではない。何より、
他の誰かを傷つけないですむ。
 遠くで風が泣いている。子供達は何をしているのか、と透かし見る気分で天幕を見つめる。
 黒々とした影が、無言で笑うようにゆらめいているだけだった。
11『大地と薬』:2008/05/07(水) 07:03:42 ID:???
 エピローグ・3

 すっかり灰になった焚き火から煙が細く立ち昇ったかと思うと、風に吹き散らされていく。
 もう正午だが、太陽は山並みにかかったままで、白衣の袖口からのぞく手首に鳥肌が立つ。
もし、周囲に草木が生えてさえいたら、風をさえぎって少しはすごしやすくなっただろうが、
あいにくの荒野だ。
 少女は焚き火をいじるための枝を持ったまま、ゆっくり前後に体を揺らしている。夜間は
乱雑に散らばっていた薬瓶だが、いつの間にか背後にきちんと並べ直してあった。
 ロックオンが見つめていると、ふいに少女が顔を上げた。背中から覆う毛布に目をやり、
次に焚き火を挟んで正面に座るロックオンを見つめる。
「……これ、ストラトスさんでしょうか」
「風邪でもひかれて、今以上に病人が増えられても困るんでな」
「風邪……ですか」
 少女が首をかしげる。どうやらこの地域には風邪の病原体、もしくは概念がないらしいと
ロックオンは気づいた。もともと寒冷地には病原体が少なく、少数民族の言語には病気を
説明する語彙が少ない場合が多い。
 だが風邪とは何か、あえて説明する気は起きなかった。不思議そうに首をかしげる少女の
しぐさが、年齢に即したかわいらしいものに思えたのだ。
 熾き火がくすぶる灰の山をいじりながら、少女が問う。
「毛布、ありがとうございました。それで私は、いつから眠っていたのでしょうか」
「太陽が昇るまでは起きていたよ。まあ今は眠っているといい。夕方までには出発する」
 焚き火にあたりながらロックオンがうたたねしている間に、アンダーソンは寝床から起き
出し、診察を行っている。そろそろロックオンも手術の手伝いをしなくてはならない。少な
くとも夕刻までに担架で運べる状態にまでは持っていく予定だ。
 ふいに歓声が起こった。周囲では起きた子供達が様々な遊びに興じている。棒切れで地面に
様々な記号を書き、あるいは模様を描いては踏み渡り、遠くでは小石を投げあっている。
乳白色の塊で粘土遊びに一人興じる者もいた。最初の歓声は、何らかの遊びで一人が勝者と
なったためらしい。
「どの世界でも子供は元気だな」
「山から山へ連れまわされている間、遊ぶ事なんて考える事もできませんでしたから」
 少女の声は異様なほど硬く、視線も冷たかった。
 きっと安価な労働力として重い荷物を運ばされたりしたのだろう。子供でも扱えるような
武器を渡され、戦場で矢面に立たされた事も想像にかたくない。顔立ちのいい女性であれば、
目をかけることと引き替えに男達から夜の仕事も求められたかもしれない。目の前の少女が
周囲に比べて衰弱していないのは、おそらく……
 ロックオンは首を横に振り、おぞましい推測を頭から追い払った。
 とりあえず楽しい事を考えようとして、今夜の食事に考えが向かう。人革連や国連から
難民に支援される非常食は、多様な栄養や食事の楽しさより餓死防止と保存性を最優先し、
炭水化物と油脂を混ぜただけの塊だ。食塩等で最低限の味はつけているが、旨いとはとても
言えない。かといってガンダムの操縦席に格納している携帯食糧を食べるのも、後ろめたい
気分があった。
 羊を何匹か買おうか、と考える。人々の滋養となり、毛皮は暖かい。しかし山間に隠れる
遊牧民を探すことはガンダムをもってしても難しい。
12『大地と薬』:2008/05/07(水) 07:05:22 ID:???
 かつて、この大地は遊牧がさかんな地域で、馬に乗って羊の群れを追い、天幕に寝起きする
民族が生きていた。巨大国家に統制された後も、その生活はおおむね変わらなかった。
 しかし、長く続いた太陽光発電紛争で大地は荒廃し、かろうじて残った牧草も奪い合った
結果、黒々と乾燥した大地の広がる荒野と化している。今では山脈のふもとから中腹にかけて
薄らと生える牧草を探し歩き、かろうじてしのいでいるらしい。警戒感も強く、多少の金では
心を動かされることはないとも聞く。
 生活が苦しいのであれば、様々な施設を襲って食糧を奪ったり、別の反人革連勢力から援助
してもらう反政府勢力に人々が集まる理由もわからないではない。紛争で大地が荒廃した無能
無策の責任が人革連にあることも確かだ。
 しかし反政府勢力は山脈の片隅で必死に生きる遊牧民や、故郷を無くした難民まで襲っている。
その存在を許す気にはなれない……
「ねーおじさん、御飯いつ?」
 ……おじさん呼ばわりか。
 気づくと、子供が白衣のすそを握っていた。よく見ると白衣のすそがよだれで濡れている。
 子供は自由な方の手で小さな金属製品を持っている。
「……それ、雷管じゃないか」
 銃弾を撃ち出すためや、爆弾を起爆させるための小さな爆破装置。
「いいだろ。けど、あげないよ」
 戦時下の子供達が玩具にしているのも珍しい光景ではない。しかし中の火薬が抜かれている
としても、もちろん子供が持っていい物ではない。
「おい、それをわたせ」
「嫌だよ。あげないっていったろ」
 少女が子供を呼びよせ、自分の服で口元をぬぐってやった。そして雷管をそっと取り上げる。
「危ないから、これは没収。あと少ししたら、もっと安全な家で食事が待ってるから」
 少女が言い聞かせると、子供は素直にうなずいて走り去った。態度の不公平さにロックオンは
溜め息をつく。いくらマスクをした怪しい外見といっても、あんまりだ。
 そういえば何の話題を考えていたのか、すっかりロックオンは忘れていた。さてどうしたもの
かと、白衣に付いた唾液をふきとりながら思い返していると、ふいに少女が問いかけてきた。
「ストラトスさん、なぜここがこれほど荒れ果てているか、ご存知でしょうか」
 ロックオンは無言のまま、平地の中央で少し盛り上がった丘に目をやる。巨大な残骸がガンダム
より高く塔のようにそびえている。それが答えだった。
「数十年前の戦争で、空から宇宙船が落ちてきたのだそうですよ。不時着したのだそうですけど、
燃料に火が移り、草木が燃やしつくされたと聞きます」
「こういった厳しい気候では、一度失われた植物が元に戻るまで、長い時間がかかるからな。
宇宙船の廃棄物が大地を汚染したのなら、なおさらだ」
 今も丘に残骸が残っている宇宙船が人革連の輸送機で、内部に超兵の実験体を多くかかえて
いたこともロックオンは知っている。
 大気圏に降下する際、敵の攻撃でエンジンを損傷。攻撃による即死は免れたものの、それから
大地に激突するまでずっと搭乗員は恐怖を感じ続けたわけで、幸いだったかどうか。拘束具で
結果的に保護されていた超兵の実験体一人が生き残ったが、それもアンダーソンが連れ帰り、
直後の生体実験で命を落とした。
 この大地には毒と悲しみが染み込んでいる。
13『大地と薬』:2008/05/07(水) 07:08:44 ID:???
 ロックオンが天幕に入ると、すぐに医者の横顔が目に入った。
 アンダーソンが子供の手首を持って、脈を診ている。
「……痛くないかい」
 問いかけに、子供はゆっくりうなずいた。にい、と笑った口からこぼれる歯は黄色く、何本も
抜けている。幸いにも暴力のためでなく、歯が生え変わる時期らしい。
 医者は次の患者が眠る場所へ向かいつつ、振り返りもせずロックオンへ声をかけた。
「ようやく目がさめたか。そのように緊張感がなくて、よく世界を敵に回して戦う宣言ができた
ものだな」
「なに、子供の寝顔がかわいかったから見とれてたんですよ」
 軽口を返して、ロックオンは医者の鞄から薬品をあさった。
「点滴の余剰はないですかね」
「……点滴だと」
 医者がふりかえり、首をかしげた。無理もない、かさばるばかりで使いづらく効果が薄い点滴
より、高カロリーの非常食や抗生物質が難民キャンプでは重宝される。
「外の子供達が空腹だそうです。非常食は不味いし食いごたえもない。少しでも何とかできない
かと思ったのですが」
「点滴液なら後ろの箱に詰めてある。この場を離れる時には置いておくつもりだったが……」
 医者の逡巡を聞き流し、ロックオンは紙箱から点滴薬を取り出して並べた。
「うん、これなら何とかなりそうです」
 医者も透明な液体が詰まった袋を一つ手に取り、丸眼鏡を上げて内容物を確認した。特殊な
薬剤が入っているものではなく、栄養補助を主目的としている型だ。
「……確かに、これなら使えるだろう。好きにするといい。……それから、予定外の手術が一つ
入った。後で来い」
 ロックオンは両手で紙箱をかかえ、医者に頭を下げながら天幕を後にした。
14『大地と薬』:2008/05/07(水) 07:18:12 ID:???
 少女は、命じられるまま天幕の横に子供達を一列に並べた。子供の頬に赤みがさしているのは、
夕陽や寒さのためだけではない。
 ロックオンが一人一人へ紙コップをわたし、最後に少女にも与える。中身を見ると、ゆらゆら
震える奇妙な液体が三口ばかり入っている。
 顔を近づけると薬らしき臭みを感じたが、容器をかたむけて口にふくめば甘く、粘って舌に
まとわりついた。反政府勢力の幹部から珍しい菓子を与えられることが多かったが、これは見た
ことも聞いたこともない。
「何なのでしょうか、これは」
 ロックオンは少女の耳に口を近づけ、ささやいた。
「最初にいっておくが、あまり子供らには教えないでほしいな」
「……何です」
 硬い口調にロックオンは苦笑しつつ教えた。
 点滴の内容液という説明に少女は一瞬息を止め、しばらくして大きな溜め息をついた。
「変な臭みがあると思いました……ですが食べて良いのですか、そのような物を」
 あきれるような口調だった。
「薬として病人の身体に入れる物だぞ、毒が入っているわけないだろう。中身は栄養をつけるため
のブドウ糖がほとんど、だから甘いのさ。乾燥を防ぐために特殊な糖類……たとえると、でん粉
とかの一種かな……が入っているから、粘り気があって腹もちもする」
 医者という人種が、時として一般人に隠して信じられない行動を取るものだとロックオンは知っ
ていた。ビーカーでコーヒーを沸かしたり、特異な薬の組み合わせで自分の気分を良くするなど、
かわいい部類に入る。とんでもない者は、医療用アルコールを飲んだり、人間の胎盤を食べたり
までする。そして、疲労回復のために点滴を口にする軍医がいると耳にしたことがあった。
 日常的に人の生死とかかわりすぎるため麻痺する倫理観。それは最前線の兵士と似た心理だ。
「じゃ、俺は手術の手伝いに行くから」
 腰を上げたロックオンに少女はたずねる。
「……もう、移動に必要な手術は全て終わらせたと聞きましたが」
「予定外に産気づいた奥さんがいてな。まあ未熟児でもないようだし、心配することはないさ。
撤収の時間までには終わる」
 天幕へ消えるロックオンを目で追いながら、少女は紙コップを地面に置いた。天を見上げると、
橙色の羊雲が群れをなして東へ走っている。しばらくして雨が降るかもしれない。人々の逃げる
足音を、遠くへ続く足跡を、天の恵みが消してくれるかもしれない。
 ぽつりと自然に言葉が口をつく。
「救世主ね……」
 それが医者のことなのか、ロックオンと名乗る男のことか、あるいは両方なのか、少女にはわか
らなくなっていた。
15『大地と薬』:2008/05/07(水) 07:20:55 ID:???
 小さな足音に、少女はふりかえった。両手で紙コップを包みこむようにして、幼い女の子が歩み
よってきている。
 やがて少女の目の前まで来ると、女の子は両手をのばして笑った。
「お姉ちゃん、これあげる。半分食べたから」
 紙コップには液体が二口ほども残っている。
「甘くて美味しいよ。こんなの、初めて」
 単調で人工的な甘味で、薬臭くて、飲み込みづらい粘液。反政府勢力の中では良い物を食べて
きた少女には、さほど嬉しい味ではなかった。悪い意味で、一口で充分だった。でも、目の前の
子も、遠くでコップの底までなめている子供達も、心から喜んでいるように見える。
「そんなに美味しかった?」
「うん」
 女の子は迷うそぶりも見せず、きっぱりうなずいた。そして紙コップに二本指を入れ、かきだ
した液体を迷わず少女の口に近づけた。
 少女は一瞬迷い、やがて差し出された指を赤子のようにくわえ、甘い粘液をすすった。女の子
は残った雫を舌先でなめとり、笑った。
 汚い指で無造作に食べ物をかきだす姿は……食器の使い方を学ぶ機会もなく、上官の食べ残し
や非常食を急いでかきこむことしか知らない、難民の子供特有のしぐさだ。
 女の子の屈託ない笑みがにじんで、白くぼやけていく。
「どうしたの、お姉ちゃん。こんなに甘いのに」
 顔を近づけてきた女の子を、少女はうつむいたまま抱きしめた。正しい抱きかたは忘れてし
まったけれど、このぬくもりを手放したくなかった。涙を見せたくなかった。
「お姉ちゃん……苦しいよ」
 そう口にしつつも、腕の中で女の子はくすぐったそうに笑った。
 男達に悦ばされていた夜は、やはり嘘だった。嘘でなければ、幼い子供が細い身を削っていた時、
一人だけ平穏な場所で空腹を満たしていた少女が、まだ何の罰も受けていないはずがない。
 遠くで、産まれたての赤ん坊が鳴く声が聞こえる。
16蛇尾 ◆2/EgTZMNUI :2008/05/07(水) 07:23:25 ID:???
続く。

前スレの話だが、もう一つ書いたSSは、確かに『星降る空〜』。
タイトルが遠藤周作も正解。
連休直前に書き込もうと思っていたが、まごまごしている内にスレ移行してすまない。

書き込んだ直後に思ったが下記箇所は前後をいれかえるべできだったかな。
「 ……おじさん呼ばわりか。」
「 気づくと、子供が白衣のすそを握っていた。よく見ると白衣のすそがよだれで濡れている。」
17通常の名無しさんの3倍:2008/05/07(水) 19:38:46 ID:???
GJ.
重たいけれど、ダブルオーが描こうとしていたものは本来、
この位の背景があるはずだと思った。
18通常の名無しさんの3倍:2008/05/07(水) 21:12:05 ID:???
00だけじゃなくて種にも重い背景があるんだろうけどね。
19通常の名無しさんの3倍:2008/05/07(水) 23:41:21 ID:???
>>18
いやあ、重い設定や背景も描き方だな、とね。
20林屋 ◆oQqIC62IM2 :2008/05/09(金) 22:13:30 ID:???
シンを男らしくしてみよう!
その1
 おう、ワイや。シンや。
今日のワイは機嫌がええで〜。
 なんでかっちゅうと、調子のっとったキラのアホゥをいわしたったんや。女の腐ったみたいに泣きおうてからに、ケッサクやったで、ホンマ。グフフッ。
 これからはアイツも気ぃつけるやろ。
 これを出る杭は打たれるっちゅうんやで。学があるやろ、ワイ。ダテに赤服着とるんやないんや。だってアカデミー出身のエリート様やからな、ワイ。
 せやけどなぁ、アスランのおっさんにも腹が立つわ。アデランスがずれたからかなんだかわからんけど、ワイに殴りかかってきたんや。
 いつものワイなら殴り返してやったけどな、機嫌がええから許したるわ。大人の対応っちゅうヤツや。当然のこっちゃ。だってワイ、ザフトのスーパーエース様やからな。
 でもなぁ、次はないで。よう覚えとくんやな。忘れたらワイのメリケンパンチが炸裂するでえ。幾ら温厚なワイでも二回目は怒るでしかし! グフッ。
 議長のデュランダルはんもワイの手柄を喜んではるやろ。ワイが本気を出したらこんなもんや。
 でもな、ワイの本気はタダやないけどな。高いでぇ? 勉強して定位置のテロップの一番上で手ぇ打ったるわ。安いもんやろ。お買い得やでぇ。
 こんぐらい安いんは通販のジャパネットたかたぐらいやろ。まあ、ワイの方が信用性が高いやろうけど、グフフッ。

 以上、シンを男らしくしてみました!

追記
 なんやて、元ネタがわからんやて? こんな事を言うのは批評家の優しい人やな。優しいワイが教えたるわ。だってワイ、主人公やし。
 清原の番長日記やでぇ。分かるか? ワイの尊敬する球界の番長こと夜のバットはホームラン王の清原はんや。
 分らんかったらぐぐれば分るやろ。検索する事をぐぐるっちゅうんや。どや、結構博識やろ、ワイ。だってザフトの赤服やし、グフフッ。
21林屋 ◆oQqIC62IM2 :2008/05/09(金) 22:14:58 ID:???
変なデムパを受信したからシンを男らしくしてみた。
22通常の名無しさんの3倍:2008/05/09(金) 22:51:26 ID:???
>>林屋さん
 投下乙でした。 タイトル通り男らしいシンがコミカルでよかったです。
しかし元ネタが分かりませ……把握しました。丁寧に有り難う御座います。
 次の投下をお待ちしております。
23通常の名無しさんの3倍:2008/05/10(土) 15:04:51 ID:???
>>20
CV:小野坂昌也で再生されたw
24林屋 ◆oQqIC62IM2 :2008/05/10(土) 21:25:12 ID:???
シンを男らしくしてみよう
その2
 おう、ワイや。シンや。
 今日のワイに近寄ったら怪我するでぇ〜。なんたってワイ、機嫌が悪いからな。
 あんまり言いたくないんやけどな、アスランのおっさんに負けてもうたんや。
 あのおっさんもすばしっこくてかなわんわ。ひょっとしたらあっちの方も早いんちゃうか? グフッ。
 あっちってなんやて? こっちの話や。よいこの新人スレじゃ言われへん。大人の話っちゅうこっちゃ。
 ……ここは笑う所やぞ? 笑わんかい! まるですべってるみたいやないかい。ワイはすべってへん、すべってへんのじゃい!

 まあ、しゃーないわ。定位置のテロップの一番上やないから本気出しとらんしな。定位置やったら本気出してパチキ一発やで、ホンマ。
 艦長のタリアはんの采配も悪かったしな。
 よう言うやろ。ベンチがアホやから勝てん、てな。
 後任のアーサーはんも大変やったそうやで。あの人はストレスで胃ぃを悪くしたっちゅう話や。アホかっちゅうねん。
 まあ、ええわ。腹立つからルナマリアの膝枕で不貞寝したるでぇ〜。これが柔らかくて温かくてごっつ気持ちええんや。
 一つ良い事教えたる。男は強いだけじゃアカン。たまには弱い所を見せんとな。こういうギャップに女は弱いんじゃい。これを母性本能を刺激するっちゅうんやで。
 ワイがモテるんはザフトのスーパーエース様っちゅう肩書きやのうて色々と頭を使ってるからなんや。ホ、ホンマやでぇ!
 ワイみたいなええ男は女に惚れるんやなくて、惚れさせるんじゃい。
 誰とは言われへんけど、女にフラれたっちゅうてウジウジしてたらダメッちゅうこっちゃ。ホンマ、誰とは言われへんけどな。
 ほやけどルナの膝枕は気持ちええのう。よっしゃ、今夜は気張るでえ! グフッ!

以上シンを男らしくしてみました。


追記
おい、>>23! 小野坂って誰やねん! 脳内再生すんならワイの尊敬する清原はんの声にせんかい!
あの人はルーキーの時からファミスタに皆勤しておられる凄い人なんやで?
ソースはwikiやからアテにならへんけどな。
やっぱりソースはブルドックの中濃やでぇ。グフッ
……いくらワイがシンやからて言うてもシーンとすんなや。
ワイはすべってへんのじゃい!
25林屋 ◆oQqIC62IM2 :2008/05/10(土) 21:26:17 ID:???
変なデムパを受信したから投下。
26真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/05/11(日) 07:50:29 ID:???
hate and war
“sell at a bargain price”
 民族の誇りの為に、悲願の為にならば俺の生命なんて惜しくはない。
 長年犠牲に犠牲を重ねて来たクルジスの民の最後の生贄になるなら、一山幾らで俺の生命をバーゲン価格で投げ売りしてやる。
 人は下らない自爆テロなんて言うかもしれない。確かにそれは正しい。
 でもな、それは何も知らない平和で幸せに生きてる奴等の戯言だ。
 生まれた時から平和に生きてる奴等に、生まれた時から戦争の中にいる俺達の事なんて分る筈がない。
 民族の独立、平和。俺達は俺達の手で掴みとならなきゃならないんだ。
 だから、俺達をテロリストとして断罪する奴等、クルジスの民を蔑する奴等に教えてやらなきゃならない。
 ――俺達の言葉、お前等の言葉、戯言はどっちだろうな?
 手順は至って簡単だ。人通りの激しい所で爆弾を爆破する。教えれば猿にだって出来る程に簡単だ。

 俺はチーターみたいに沢山の獲物を求めて路上を彷徨う。目を光らせて幸せなそうな奴等の生命を木っ端微塵にするんだ。
 何も知らずに幸せに平和を享受している奴等に対するお勉強だ。授業料はその生命、高すぎるって事はない。どちらかっていうと安すぎるくらいだ。
 身なりの良い幸せそうな家族が俺の視界に入る。
 親父がいて、お袋がいて、子供が三人間抜け面でその後を追いかけてる。多分、家族水入らずで楽しいんだろうな。
 でもな、俺の親父はMSに踏みつぶされて、お袋は敵兵に犯されて、まだ赤ん坊だった妹はミルクを一口すら飲めずに骨と皮だけになって死んだんだよ。
 お前等はそんな事知らねえだろ? だから俺が教えてやるよ。
 お前等は全く関係ないけどな、関係ないから余計に憎いんだよ。俺だって家族と水入らずで楽しく過ごしたかったんだよ。
 だからこそ、お前等が憎くてどうしようもない。運が悪かった、巡り合わせが悪かったって諦めてくれ。
 怨むんだったら俺じゃなくて朝のニュースの占い師を怨むんだな。
 俺は家族連れに近寄ると末っ子だろう女の子が俺を見て微笑む。二人の兄貴達も笑っている。
 本当に楽しそうだな。その笑顔を見て俺は腹を括れる。
 俺を、クルジスの民を見て嘲笑う奴は赦さない。蔑する奴は赦せない。
 俺がこれから行くのは天国で、お前等が行くのは地獄だ。
 ――準備はOK。さあ、全部が御破算だ。
27真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/05/11(日) 07:51:08 ID:???
血迷い以下略。
28 ◆FUs75gJ6A2 :2008/05/11(日) 22:36:59 ID:???
 メイリンの結婚式以来、私はラクス様と仲良くさせていただいている。あの時お近づきに
なれなければ、こうやってラクス様の家に招かれるなんて事はなかった訳で、その点に
関してはメイリンに感謝している。あの子もようやく人の為に何かが出来るように
なったのだろう。
 ティーカップをのぞき込むと、紅い液体がユラユラと揺れている。ローズヒップティーは
嫌いじゃない。
「それにしても、メイリンさんは災難でしたわね。せっかくの結婚式だったと言うのに
トイレに隠ってしまったり、その後にシャンパンを飲み過ぎて倒れてしまったりして」
 ラクス様は楽しそうに無邪気な笑顔を浮かべている。私達は改めて二人の友情に
乾杯した。
「お腹の子どもに影響がなかっただけでも幸運ですよ。結婚式が台無しになったのは
自業自得ですけどね。でも、そんなことよりも命の方が大切です」
 そう、メイリンとアスランの結婚式はそれはそれは混沌としたものだった。
 苺やら何やらを貪った花嫁は腹痛により一時中座。会場に再び現れた時には脇目も振らず
煽るように飲んだ。その間、アスランは何を思ったろう。想像するだけ無駄だ。
彼はメイリンしか見えていないのだ。私は女に簡単に手玉に取られる男に興味などない。
「で、今はメイリンさんのお加減は如何?」
「今はちょっと塞ぎ気味なんです。マタニティブルーとマリッジブルーが一遍に
来てしまったみたいで、アスランも苦労しているみたいです」
 別にアスランが苦労しても私には関係ない。両親がメイリンに向かって溜め息を
ついたとしても、そんな事はどうでもいい。そんなのは見慣れた光景だ。
「まあ、それは大変! 私も隙を見つけてメイリンさんの話相手になってあげますわ」
 ラクス様の瞳はキラキラと宝石のように輝いている――まるで新しい玩具を買って
貰った子どものように。
「素敵だわ、ラクス様。あの子も喜びますよ。」
「妊娠していると酸っぱいものが食べたくなるそうなので、お土産は苺ですわ。

メイリンさんは気に入って下さるかしら?」
メイリンは表面上は喜ぶだろう。ラクス様のお土産に文句をつける筈はない。
 だが、あの子は気付く筈だ。苺の食べ過ぎで結婚式を失敗させた女のお土産に、
普通は苺は持っていかない。ラクス様も本当にお人が悪い――だからこそ、私はラクス様が好きなのだ。
29 ◆FUs75gJ6A2 :2008/05/11(日) 22:42:05 ID:???
ちょっとした短編を投下させていただきました。
お話はもうちょっと続きますが、眠いので今日はこの辺で。
スレ汚し失礼致しました。
30SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/05/11(日) 22:45:16 ID:???
 果て無きモノローグ

 ぽたぽた落ちる点滴を、あとどれくらい数えれば、父は眠りに就くだろう?
 遺伝子の病はコーディネーターの業だ。朝日を見ないとの宣告も、
気丈な母には覚悟のうちだったろう。
 だけど、せめてこの点滴が落ち切る前に――
「――どうか、その前に……母さんの名前を呼んでくれないかな」

 病床で朦朧とする父は、夢と現を彷徨う間に妹たちを呼ぶようになった。
 看病に疲れる母はそれを聞いて、表情の陰を深め。今は家の用事を理由に
病室を去っていた。

 横向きの短針が地面を指差すまでに十度、父は妹たちの名前を呼んだ。
 出来の良い娘たちをとても、とても可愛がっていたからだろう。
 彼女たちは、それぞれの仕事でこのプラントを離れている。多分、間に合わない。

「……。……」父の乾いた唇が幽かに動く。
 耳を寄せて聞くと呪いの様な「ごめんな、すまない」が連なっていた。
「どうして謝るんだよ……」
 父さんが付けた名前で、妹たちはそれぞれの世界で活躍している。
 流石父さんと母さんの娘だと、惜しみない称賛を浴びている。
「せめて有り難うとかさ……良くやったねとかさあ!」
 言ってあげれば、母さんは自信をもって貴方を看取ることが出来るのに。

「認めるよ、父さん。僕はあなたの望むような良い息子じゃ無かったさ」
 僕を父が呼ぶときにはきっと、育て方を間違えたとか、そんな事を言われると思っていた。
そんなの間違っていた、父さんは僕の事を夢の中にすら考えてない。
「でも……分からないよ」
 ザフトに入ると言ったとき、昏い顔をしていた理由。勲章も貰わないまま除隊されるのを
予想していたんだろうか。手柄を立てる機会を失くしたのは……父だ。
 ザフトを抜けると言ったとき、唇がつりあがっていた理由。ユニウスで農業をするのが、
そんなに嘲笑えたのだろうか。誰だって、食べるものは必要なのに。

「……、……」
 父が、また謝っている。もうすぐ行くよ、だって? 父の行く場所に妹たちは居ないのに。
「頼むよ父さん。母さんの足音が聞えるだろう?」
 母の前で、一言だけで良い。映画みたいに、『本当はお前の事を大事に思っていた』なんて
台詞は、貴方から欠片だって期待してない。
 だから。
「どうか、母さんの名前を呼んでやってくれ」 
 点滴の音を、僕は二千まで数えていた。
31SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/05/11(日) 22:49:03 ID:???
登場人物紹介。
艦長の前でならオレはいつでも全盛期だ!!
ギルバート=デュランダル 本名で登場だ!!!

ジャーナリストの仕事はどーしたッ 闘士の炎 未だ消えずッ!!
聞くも話すも思いのまま!! ミリアリア=ハゥだ!!!



『皆さん、今日我々は大きな危機に瀕しています――』
 ラジオから聞えてくる、自信と慈愛に満ちた男の声、そして言葉。
『ですが、地球の皆さん空には、宇宙には我々が居ます。地球の同胞よ、諦めないで下さい、
嘆かないで下さい。我々プラントの――』

 ミリアリアはラジオを聞くことを止め、通信機のマイクに向かう。
「誰か通信が聞えている人は居ますか? 低地に居る人はすぐに高台に昇ってください!
海から離れて、そして救助を待ってください!」
『やあ、アンタ……まだ放送してたのか……』
 ――感有り。ミリアリアの顔が輝いた。周波数を合わせる人が居たのだ。
「聞えて居ますか!? すぐに高いところに昇って、そして助けを待って!」
『……いいんだ。直撃で息子が死んだ……七つだったよ。息子に寂しい思いはさせられない』
「待って……!」
 銃声、通信機の向こうで。最後に聞えた言葉は"有り難う"だったか? 答えは来ない。
「待って……死なないでよ。最後にそんな事言わないでよ……」
 握り締めた手指の爪が、掌を破く。

 震わせる肩に、暖かな手が添えられた。
「グゥレイトゥ……ミリィ、少し休めよ。良くやったほうだと思うから、さ」
 端から元気付けようという男の声が煩わしい。けれどこいつは生きて居る。
死んだ人間の言葉はもう嫌だ。生きている人の声を聞いていたい。
「出来るわけないでしょ……北京は地図から消えたわ――少し、一人にして」
 ひとりにしないで……胸の奧ではそう叫んだ。言葉に従う男が憎たらしい。
 部屋を出る男は、救助作業に赴くだろう。彼にはMSがあった、何だってできる。
 ミリアリアには無線機が唯一つ。カメラは何の役にも立たない。

 ソラから聞えるのは、天上人の理想世界に過ぎなかった。
 明日から、答える者の無いラジオの前より、救うべき人の居る戦場を選ぼう。
 覚悟の為に今日は、このラジオの前で無力を刻む。

 後にブレイクザワールドと呼ばれた惨劇の日を、ミリアリア=ハゥはラジオと共に過ごした。
32通常の名無しさんの3倍:2008/05/11(日) 22:49:51 ID:???
短編二本投下。
それでは、また。
33林屋 ◆oQqIC62IM2 :2008/05/12(月) 22:25:54 ID:???
シンを男らしくしてみよう!
その3
 おう、ワイや。シンや。
 久し振りのオーブはええのう。ザフトのスーパーエース様になったワイの凱旋帰国やでぇ。いわゆるひとつの「故郷に錦を飾る」ってヤツや。
 待ちごうてもアスランのおっさんに負けたから傷心旅行やあらへん。センチメンタル・ジャーニーはヒロミの嫁にさしときゃええんじゃ。グフッ。
 ほな、墓参りがてらに慰霊碑行こか。天国のオトンとオカンとマユに立派になったワイの姿を見せたらんとアカン。
 ナニ、自分で立派言うなやて? スンマセン、ワイ、ザフトのスーパーエース様なんで。グフッ。
 こっから慰霊碑は遠いんか? お、ええモンあるやんけ。車椅子やないかい。おう、ルナマリア! 車椅子押さんかい! ワイは疲れるのは嫌いなんや。
 車椅子に乗って偽装したら誰もワイがシン・アスカやて分からんやろ。ファンに見つかったらプライベートがなくなるかもや。
 握手やサイン? そんなかったるい事やるか、ボケッ。 なんや、慰霊碑に着いたけどもう夕方やないか。でもええ。手ぇ合わせてなんまんだぶーや。
 どや、アンタの息子は立派に育ってるでぇ。マユ、お兄ちゃんはスーパーエース様やでぇ。
 ほな、帰ろか。ルナマリア、行くでぇ。
 ってワイのファンに囲まれてるやんけ。アスランのおっさんとメイリンもおるわ。
 しゃーない、知らん仲やないからサインぐらいはしたるでぇ。
 ワイ、ファンは大切にするもんで、グフフッ。
 なんや、自分。シケたツラやのう。ワイを見習って少しは貫禄出さんとピンクの髪の連れに愛想尽かされるで?
 ナニ、ちゃう? 自分がキラ・ヤマトやと?
 ワイはオノレに用はあらへん。さっさといね!自分もオーブの人間ならオノロゴの人間がどんなか分かるやろ。
 ガタガタぬかすとキレるでぇ! シバくぞ、コラ!
 なんや、ワイに話? ラクシズに移籍して欲しい? ワイの事ナメとるんか?ワイはオノレが嫌いなんじゃ!
 でも、折角やから話だけ聞いたるわ。
 ああ、アースダラーは信頼でけへんから円にしてんかぁ。遠征の泊まるトコも特注の部屋にしてくれたら嬉しいんやけど。
 おっしゃ、一発サインで契約や! 握手や握手!
 五年契約で……金額は税務署が怖いから言われへんけど年棒アップや!

34林屋 ◆oQqIC62IM2 :2008/05/12(月) 22:26:33 ID:???
変なデムパを受信したから投下。
35通常の名無しさんの3倍:2008/05/13(火) 21:27:12 ID:???
>>29
あのお方復活記念age
36万里:2008/05/13(火) 21:59:16 ID:???
わかってたんだと思っていたけど、やっぱりわからないんだ。あの日、目の前で人が入った灰になった日から。何もかも、受け入れようとしてきたつもりだったのに、あの日から、何ひとつ俺は受け入れちゃいなかった。
37通常の名無しさんの3倍:2008/05/13(火) 21:59:50 ID:???
父さん、母さん、エイミー…結局俺は強くなれなかったよ。そしてごめんなさい。俺は父さん達と同じ所にさえいけない。なぁ、ライル。お前はどうするんだ?俺がいなくなった世界を、どう受け入れていくんだ?
世界なんて変わらなくてもいい、俺が、お前が変われるのなら、それで全ては変わるのだから。
(閉じようとした碧は、穏やかな光を宿して。)
38通常の名無しさんの3倍:2008/05/13(火) 22:10:30 ID:???
>>万里
誤爆?
39通常の名無しさんの3倍:2008/05/13(火) 22:12:25 ID:???
あのお方って誰のことだよ?
40通常の名無しさんの3倍:2008/05/13(火) 22:13:44 ID:???
>>39
お前なんかに知る権利はない。
41通常の名無しさんの3倍:2008/05/13(火) 22:18:32 ID:???
新人スレも民度が下がったな。
>>41みたいな底意地の悪い奴は昔はいなかったんだが。
42通常の名無しさんの3倍:2008/05/13(火) 22:24:28 ID:???
あのお方は雄弁な行間ヘイトのあのお方だ。
43通常の名無しさんの3倍:2008/05/13(火) 22:28:12 ID:???
>>41

なんだかほほえましい
44通常の名無しさんの3倍:2008/05/14(水) 19:37:56 ID:???
†は高畑一派に加入したのかな。
45通常の名無しさんの3倍:2008/05/14(水) 22:22:21 ID:???
†と高畑一派はSSに対するスタンスが全然違うと思うんだ。
46通常の名無しさんの3倍:2008/05/14(水) 23:19:44 ID:???
†は微妙に高畑や真言の影響を受けてるな。
47通常の名無しさんの3倍:2008/05/14(水) 23:45:36 ID:???
真言から影響受けてるのは厠だろ
牛乳SSとか劣化コピーぽかったし
48通常の名無しさんの3倍:2008/05/14(水) 23:51:42 ID:???
逆アスのが酷いな。
オチをまんまパクってたしなw
49通常の名無しさんの3倍:2008/05/15(木) 00:45:02 ID:???
何故真言に影響されるのか疑問。
†にしろ河弥にしろ真言より上手いだろ。
50真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/05/15(木) 22:51:21 ID:???
hate and war
“何を今更”
 遺伝子で人を好きになる訳じゃない。それは身を持って知っている。
 親父とお袋はコーディネーターで、好きじゃない相手と子供を作る為に結婚した。
 それは別に良い。コーディネーターだから仕方ない事だと割り切れる。でも、やり切れない。
 俺は両親から祝福されて生まれた。しかしそれは最初だけだった。物心がついた時には二人の仲は冷えきっていた。
 二人の仲には愛情なんてなくて、子供を作るというよく分からない義務感しかなかったからだろう。
 兎にも角にも顔を合わせれば喧嘩ばかりで良く飽きないな、とずっとずっと思っていた。
 まあ、憂さ晴らしが俺に向かなかったのは有り難い事だった。
 二人とも外に愛人を作ってあまり家に帰って来ないのは有り難い事ではなかったけれども。
 それでもほったらかしの息子が少しは気にかかったのか、思い出した様に帰って来ては俺を食事に連れ出してくれた。
 言いたい事は沢山あった。でも、言う気にはなれなかった。それは俺にとっては両親は赤の他人と大差ない程に家族の絆という物が感じられなかったからだ。
  隣りのおじさんやおばさんの方がよっぽど親らしい事をしてくれた。
 俺の事を見兼ねて食事を作ってくれたし、色々な相談に乗ってくれた。
 何度隣りの家の子になりたいと思った事か。数えるのが飽きるくらい沢山思ったと断言出来る。
 でも、いつだったか変な黒服の奴等に何処か遠い処に連れて行かれてしまった。
 俺にはよく分からないけれども、それも仕方ない事だったのだろう。でなければ連れて行かれる事はない筈だ。
 何はともあれ、幸運な事に俺はどうにかこうにか生き続けていた。
 あくる日、珍しい事に両親が二人して帰って来た。
 俺にとってはどうでも良い事ではあったのだけれども、一応は親だからそれなりの対応をした。
 で、何故だか二人して神妙な顔で俺をぞんざいに扱ってきた事を謝ってきた。
 何を今更。謝られても困るというのに、何を考えているのだろうか。まったくもって傍迷惑な話だ。
 どうにも仕方がないので聞きたかった事を聞いてみる。
 家族ってなんだ?俺には良く分からないから教えてくれ。
まあ、答えに期待はしてないけど。尤も、答えられるのかどうかは分からないけどね。
51真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/05/15(木) 22:52:27 ID:???
よく分からないけど変なのを書いてしまった。
52通常の名無しさんの3倍:2008/05/16(金) 21:20:15 ID:???
>>51
†や新人が夜中にハッスルしそうな百合でエロいSSをリクエスト。
53通常の名無しさんの3倍:2008/05/16(金) 21:39:27 ID:???
>>52
クレクレ君乙w
君、馬鹿丸出しだね。
54赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2008/05/16(金) 22:28:19 ID:???
……百合って需要あったのか。
種、00はBLネタに散々されてるから
同性愛系は釣られて嫌われてると思ってたのだが
55真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/05/16(金) 22:31:40 ID:???
>>52
とめさんが許可をくれたら書いても良いよ。
>>赤頭巾さん
私はゆりゆり好きですよ?
56通常の名無しさんの3倍:2008/05/19(月) 23:05:02 ID:???
ほしゅしておこう。
57河弥 ◆w/c45m7Ncw :2008/05/20(火) 19:12:41 ID:???
「 In the World, after she left 」 〜彼女の去った世界で〜

第14話 「急告 −あやまち−」(前編)
(1/6)


 インターフォンで来訪を告げると、艦長室の扉は即座に開いた。
「キラ・ヤマト、カガリ・ユラ・アスハ、失礼します」
 キラに続いて入り口をくぐったカガリは、そこに集まっているメンバーに目を丸くした。
 タリアやアーサー、デスク脇で何やら作業をしているアスランはともかく、マリューやバルトフェルドまでが
入室していた為だ。
 この二人がダブル・アルファを離れることは滅多にない。ごくたまに作戦会議でブリーティングルームへ来る
くらいだ。
 だがそれも大概はバルトフェルドのみで、二人が揃ってダブル・アルファを降りたのは合流時以来だろう。

「何かあったのか?」
 メンバーにも驚いたが、それ以上にマリューの顔色の悪さに驚き思わずカガリは尋ねた。
「ええ、ちょっと……」
「人には聞かれたくない話……ですか?」
 言葉を濁すマリューに、キラが更に尋ねる。
「まだ私も詳しくは聞いていないのだけれど……簡単には話せないことのようね」
 顔を曇らせ黙り込むマリューに代わり、そうタリアが答えるのを聞いてカガリは得心した。
 ただの作戦会議、しかもこの人数ならば通常ならブリーティングルームで行う筈だ。
 ここに集合したということは、やはり余程の事なのだ。

「艦長、準備が出来ました」
 アスランがそう言って立ち上がった。
 タリアのデスクには元々備え付けのものの他に、もう一つ大きなモニターがこちらに向けて並んでいた。
 常のモニターはタリアだけが使用することが前提なので、それほど大きくはない。
 この人数で見るには無理があるので、大き目のものを臨時に設置したのだろう。

「ありがとう、アスラン。では、ラミアス艦長」
 タリアが端末を操作しながら促すと、マリューが頷きつつタリアにデータディスクを渡した。
「これは先程あるルートから入手した情報で、世界安全保障条約機構の加盟国のみで放送されたものだそうです。
ソースは公開できませんが……」
 マリューの言葉に今度はタリアが頷いた。
 ダブル・アルファはミネルバと行動を共にしているが、ザフトに所属しているわけではない。
 明かせないことの一つや二つはあって当然だ。
 もちろんそれはミネルバ側にも言えることであるわけだが。

 モニターの映像に見知った人物が映し出され、カガリが驚きの声を上げた。
「ユウナ!?」
 モニターの中のユウナは芝居がかった態度で一礼し、口を開いた。
「大西洋連邦、並びにその同盟国の皆様、私はオーブ首長国連邦代表代行、ユウナ・ロマ・セイランであります」
58河弥 ◆w/c45m7Ncw :2008/05/20(火) 19:13:01 ID:???
(2/6)

 ユウナは、まるでそこに大勢の聴衆がいるかのように辺りを睥睨した。
 記者会見場ではないそこには、実際はカメラと数人のスタッフがいるだけの筈なのだが。

「本日未明我がオーブ軍が、先月テロリストにより結婚式会場から拉致され行方不明になっていた我が国の
代表首長、カガリ・ユラ・アスハを救出いたしました事をご報告致します」
「!!」
 事前に映像を見ていたマリューとバルトフェルドを除いた五人が驚愕に息を呑む。
 ユウナは続けて、救出されたカガリが怪我を負っている上に長い監禁生活のために衰弱していること、しかし
命に別状はないこと、体調が回復するまで政務から離れ休養すること、その間は彼が引き続き代表を代行することを
発表した。

「残念ながら実行犯は全員が突入の際に射殺あるいは自決しており、生存者の逮捕には到っておりません」
――これに比べれば、善良な分ウチの副長の方がマシね。
 いかにも残念そうに首を振るユウナと、斜め後ろに立つ自艦の副長とをちらっと見比べたタリアの頭の片隅を
そんな考えがよぎる。
 ユウナの言葉は更に続く。
「しかし、代表の身を確保できたことにより、我が国は今まで皆様にお知らせできなかった重要な事実を
公表することができます」

 突然、モニターの映像が切り替わり、晴れ渡った空と白い石造りの建物が映る。
 タリアの記憶にはないものだったが、何となく荘厳な雰囲気がある。
 しかし何故かそれに似つかわしくない物──数機のMSが並んでいる。これはオーブの機体ではなかっただろうか?
「カガリ、これ、結婚式の時の?」
「ああ、ハウメア神殿だ……」
 キラの問い掛けにカガリが呟くように答えたのを聞き、タリアは自分の知識が間違っていないと知った。

 映像は何故か突然に乱れた。カメラに異常が起きたのではなく、その周囲が何やらひどく騒がしい。
 次に映ったのは、並んでいたものとは別のMS──フリーダムが最上段に降り立った処だった。
 カメラマンが人波に押されているのか、映像が安定しない。
 画面がまた乱れ、何も見えなくなった。
 が、すぐにピントが合い、フリーダムが先程よりもアップで映し出された。
 その両手が神殿の上にいた白い長衣の人物へと伸び、捕まえる。
 そして持ち上げられたその人物はコックピットへと連れ込まれた。

 カガリとキラが思わず視線を見交わした。
 それはまさにキラがカガリを連れ出した瞬間の映像だった。
59河弥 ◆w/c45m7Ncw :2008/05/20(火) 19:13:44 ID:???
(3/6)

 再度、映像が変わった。
 今度は空と海が映っている。しかし、先程とは違い、音声がカットされていた。
 カメラが動き、空のみが映される。その前をほんの一瞬だけ黒い影が横切った。
「フリーダムだ」
 キラがが断定口調で呟いた。
 タリアにはわからなかったが、キラの動体視力では識別可能だったらしい。
 カメラが影を追うように動く。
 そして、フリーダムがいつの間にか現れていた戦艦に着艦したのを捉えた。

「あああぁっ!?」
 アーサーが大声を上げた。
 しかし誰も──タリアでさえもそれを咎めようとはしなかった。
 フリーダムが降り立ったのは──ミネルバだったのだ。

 映像がまたユウナに戻る。
「ご覧いただきました映像の前半は、国営テレビのスタッフにより撮影された代表の拉致の瞬間です。また後半は、
哨戒行動中のオーブ海軍が撮影したものです。
 これまでは代表の身の安全のため、この映像を公開することは控えておりました。
 しかしっ!
 代表を拉致した機体はフリーダム──先の大戦中、ザフトにより製造された機体です。そしてそのフリーダムを
収容したのはミネルバ──これもまたザフト所属の艦です。
 この事が意味することは何か──答えは明白です。
 これにより我が国は、代表拉致の主犯をザフト軍と認識。対抗措置として、以前に破棄致しました大西洋連邦との
同盟を再締結し、地球連合軍の一端として行動することを表明するものであります」

「そんなっ!?」
 と、キラが叫び、カガリは声もなくその場に崩れ落ち、アスランは厳しい顔つきで強く拳を握り締める。
「やられたわね……」
 と渋面のタリアが茫然自失のアーサーの前で呟き、マリューは何かを言いかけて口を閉じた。

「し、しかし、アスハ代表の結婚式当日には本艦はカーペンタリアに入っておりました。それは」
「それを証明するのは、誰なの?」
 我に返って釈明を始めたアーサーの言葉をタリアは一蹴した。
 ミネルバの潔白はタリアが一番良く知っている。カーペンタリア入りしていたのも間違いない。
 何よりも今の放送で発表されたカガリの救出、それが偽りである証拠は目の前にいる。
 しかし、ミネルバの潔白を証明できるのはザフト軍だけだ。それでは何の証拠にもならない。
 カガリの現況を表に出すことさえも安易にできることではない。

「なら、フリーダムは。あれは確かに我が軍が製造した機体ですが、運用していたのがオーブであった事は周知の
事実です!」
60河弥 ◆w/c45m7Ncw :2008/05/20(火) 19:14:00 ID:???
(4/6)

 何とか打開案を出そうと模索するアーサーに、今度はバルトフェルドが首を振った。
「残念ながら、そのフリーダムがヤキン戦で破壊されたことも周知の事実だ。現在フリーダムを製造できるのは、
一時的にでもフリーダムを所有したオーブ、または、製造元のザフトだけ、なのもな」
 アーサーが「ぐっ」と黙り込む。

 重い沈黙が艦長室を支配した。
 それを破ったのは、ピピッという軽いコール音だった。
「グラディスよ。何?」
『ダブル・アルファよりラミアス艦長にメッセージです。至急ブリッジへ戻っていただきたいとのことです』
 それを聞いたマリューが踵を返しかけるのをバルトフェルドが止めた。
「俺が行って来る。君はここにいてくれ。彼女を……」
 と、カガリに視線を移す。

「分かりました。お願いします」
 マリューが頷いて了承しバルトフェルドが部屋を出ると、カガリがそれを追うようにフラフラと立ち上がった。
「カガリさん?」
 マリューが今にも崩れ落ちそうなその身体を支えた。
「行かなくちゃ……」
「え?」
「私はオーブに戻らなければ。戻って……今ならまだ間に合うかもしれない」
 そう言うカガリの声は、常になく弱々しい。

 声と同様に四肢にも力が入らぬのか、カガリががくんと膝を落とした。
 慌てて支え直すマリューにキラも手を貸してくれる。
 しかし、カガリの目は二人に向けられることはなかった。
 今、カガリが見ているのは、艦長室の扉――そのずっと向こうにあるオーブだけなのだろう。

 カガリの腕を支えながら、マリューは痛ましさに目を逸らした。
 少女には自分の未来と引き換えにしても守りたかったものがある。
 マリューは少女の守りたかったものごと、少女も守りたかった。
 それはマリューだけではなく、キラもバルトフェルドも、ダブル・アルファに乗る者すべての想いだった。
 一旦は為し得たと思ったそれは、今、崩れようとしている。
 オーブ、いや、セイラン家を主とした首長会は、カガリの願いを否定したのだ。――彼女の存在と共に。

「戻ってどうなる?」
 唐突に突きつけられた問いに、マリューは声の主を振り返った。
「戻ったところでできることなどないだろう!?」

 かつてないほど厳しいアスランの詰問に、マリューは愁眉を寄せた。
 先の大戦の折、父を止めるために故国と闘う事を選んだ時も彼は声を荒げることはなかった。
 大戦後も不安定だったキラを助け、国政に苦悩するカガリを影から支えていた。
 どこか危なっかしい二人と比べ、同い年とは思えぬ程に落ちついた物腰で。
 マリューにとってアスラン・ザラとはそういう少年だった。
61河弥 ◆w/c45m7Ncw :2008/05/20(火) 19:14:17 ID:???
(5/6)

 マリューは項垂れたカガリに視線を戻した。
 その表情は髪に隠れて見えない。
 声もない。
 しかし、少女の震える肩や、床に置かれた手に滴り落ちる幾つもの水滴がマリューの胸を詰まらせる。

 アスランの問い掛けへの答えは、マリューにも分かっていた。
 彼のいう通り、できることなど何もない。
 多分それはここにいる者全員が――カガリにだって分かっているだろう。
 だからこその涙なのだ。
 しかし、何もできないのは彼女だけではない。
 キラもマリューも何もできない――できなかったのは同じだ。
 けれど、何もしないでいることすらも出来なくて、足掻いた結果が現状だ。
 マリューは己の無力さ不甲斐無さに唇を噛んだ。

「そうだね。アスラン」
 マリューの隣でキラがゆらりと立ち上がった。
 カガリをその背に庇うかのように、アスランとカガリの間に立つ。
「僕にもカガリにも何もできない。できる事なんてない」
 その声は静かで――そして、苦悩が滲んでいる。
 まるで神の御前(みまえ)で懺悔をしているようにマリューには聞こえ、また胸の中が重石で塞がれる。

 が。
「じゃあ、君には何ができるの?」
 その声が一転した。
 静かなのは変わらず――しかし、噴火直前のマグマを髣髴とさせる怒気を孕んだものに。
「君には何ができたの? ――オーブで」
「っ!!」
 暴言ではない。だが、はっきりとわかる侮蔑の言葉にアスランの怒髪が天を衝く。
 同時にマリューは悟った。
 キラが立ち位置を変えたのはカガリを庇うためではなく、自身がアスランと敵愾するためだったのだと。
 二人は無言で火花を散らす。

――キラ君のあんな声を聞くのは、いつ以来かしらね。
 そんな場合でもないのに、マリューはしばし記憶を遡る。
 ヘリオポリスでキラ達をアークエンジェルに強引に乗艦させてから約三年。
 あの時、キラと一緒だった学生達は(その生死も含め)皆、別々の人生を送っている。
 あの頃からキラは同年代の少年たちに比べれば、自分を押し殺すような処があった。
 しかしまた、確かにあの頃のキラは今よりも幼く、それ故その幼さのままに感情を露わにすることもあったのだ。
 マリューやナタルの「軍人の事情(りくつ)」に反発したことも一度や二度ではなかった。

 追っ手の中に親友がいたこと、自身がコーディネイターだという事に起因する軋轢、避難民たちのシャトルが
地球への降下を目前に撃墜された事に対する悔恨。
 その他の様々な理由から、クルーや友人達と対立したこともあった。
 そんなキラが今のように変わったのは、何時からだっただろう?
62河弥 ◆w/c45m7Ncw :2008/05/20(火) 19:14:35 ID:???
(6/6)

「やめなさい、二人ともっ! そんな場合じゃないでしょう!?」
 キラとアスランの間に、タリアの叱責の声が割り込んだ。
 共に無言なのは変わらず。それでもアスランはキラから視線を外し、対照的にキラはアスランを見据え続ける。

 ふと、キラは自分の袖口が引かれているのに気づいた。
 そちらに目線を落としたキラを見上げ、カガリが濡れた頬のまま首を横に振っていた。
「カガリ?」
 キラがかけた声に、カガリは返事の代わりのようにもう一度袖口を掴む指に力を込める。
「…………」
 しばしの逡巡の後、キラはまた声を出すこともなく小さく首肯し肩の力を抜いた。
 安堵したようにほっと息を吐き出したカガリの頬を、また雫がひとつ、こぼれ落ちた。
 カガリが慌てた様子で空いた手の甲や指先で両の目を拭う。

 それが一段落するのを待って、キラは手を差し出した。
 その手を借りて、カガリが立ち上がった。
 触れた指先が、ほんの少し湿っていた。
「取り乱して、すまない」
 タリア達にそう頭を下げる肩もまた、僅かだが震えを隠せないでいる。
 立ち上がった後も、カガリはキラの袖から手を離さなかった。
 その様子にキラは「カガリを守る」という使命感にも似た決意を新たにする。
 またそれと同様、或いはそれ以上に、一旦は収めた筈の怒りが自身の中に生じるのも感じていた。

 その時、再び通信が入った。
『艦長、ダブル・アルファより入電です。そちらへ直接繋いでほしいそうですが』
「わかったわ。そうしてちょうだい」
 大小両方のモニターにバルトフェルドが映る。その顔つきがこれまで以上に厳しいものを湛えている。
 何か更によくない知らせなのは、誰の目にも明白だった。
『カガリが──オーブにいるカガリが怪我を理由に辞意を表明した』
 そこまで言ってバルトフェルドが彼にしては稀有な躊躇の色を見せ、口をつぐむ。
 カガリが不安そうにキラに身を寄せる。
『新しい代表首長にはユウナ・ロマ・セイランが就いた。……カガリの正式な夫として、な』
63通常の名無しさんの3倍:2008/05/21(水) 00:44:41 ID:???
>>hate and war
投下乙です。
主人公はぱっと見るならタリアの息子さんのようにも読めますが、違うみたいでちょっと
混乱しました。
こちらの読解力の問題なのでしょうが、途中で黒服に連れて行かれたのが主人公なのか、
お隣さんなのか、両親なのかがはっきり分からなかったです。
またの投下を期待しております。

>>In the world〜
投下乙、GJです。先を読ませない展開が流石です。続きが気になって仕方がありません。
次の投下を期待しております。
64通常の名無しさんの3倍:2008/05/21(水) 19:17:03 ID:???

65通常の名無しさんの3倍:2008/05/21(水) 19:55:06 ID:???
>>57-62投下乙!
たしかにアーサーの方がマシ。善良な分だけだけどw

相変わらず先が読めないので勝手に予想w
15話か16話で演壇に立つ偽カガリ出現!
66真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/05/21(水) 21:09:54 ID:???
GUNSLINGER
#1“義体”
 目が覚めたら見知らぬ場所にいた。
 薬品の匂いの漂う部屋、白いシーツのベッド、明るい光。全く見覚えがない。
 それ以前に俺は誰なんだろう。記憶が何処かに抜け落ちてしまった様に見事に何も覚えていない。
 上半身を起こして周囲を恐る恐る伺う。危険な物はないみたいだ。少しは安堵する。
「目が覚めたのか?」
 不意にドアが開いて話しかけられる。俺は声の主の方に視線を映した。
 体格の良い、中年と言うにはまだ早いであろう男、眼鏡を掛けているからなのか、少々知的に見える。
「俺の名前は分かるか?」
 男はベッドの傍らに置いてある椅子に座り込む。
「あ、ああ。マルコーさんだろ。マルコー・トーニさんだ」
 何故かは分からないけれどスラスラと答える事が出来る。彼は俺の答えに満足したかの様に笑う。
「よし、お前の名前は?」
 マルコーさんの問いに反応する様に色々な事が頭に湧き出てきた。何故かは分からないけど、元々そうだったと思い始めてしまう。
「……俺の名前はシン・アスカ。機能強化目的義肢・サイバネティクス試験体XB……」
「もういい。それだけ分かれば充分だ」
 マルコーさんは俺の答えを遮ると立ち上がり窓際に歩み寄り外の景色を眺める。
「なにが見えるんですか?」 浮かんだ素朴な疑問を口にして立ち上がろうとする。だけど上手くバランスが取れずによろめいてしまう。
「さあな。別に何が見えるって訳でもない。……天使が見えたと言われたらお前は信じるか?」
 マルコーさんは厳かに呟く。俺はへたり込んだまま彼を見上げる。
「マルコーさんがそう言うのなら、信じます」
 俺の答えにマルコーさんは苛立ちを隠さずに怒気を込めた瞳で俺を見る。
「……条件付け、か」
 その言葉の真意は分からないけれど、一つだけ分かった事がある。
 俺は福祉公社に所属する義体でマルコーさんは俺の担当官だ。
 俺は身体を機械化されて“条件付け”という洗脳をされた戦闘人形だ。
 時にはアイギスの盾となり、時にはゼウスの雷となりブルーコスモス、或いはロゴスのテロリストを薙ぎ倒す。
 何一つ疑問はないし不満もない。そういう風に作られたのが義体だ。
 窓の外を見ると日が陰って来ている。暫くすれば雨が降るかもしれない。
 ただ俺は飽きる事なく窓越しに空を見つめているマルコーさんを見続けた。
67真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/05/21(水) 21:13:18 ID:???
 まだ餓鬼じゃないか、と言うのがシンを見た時の率直な意見だ。ザフトレッドのエリートだという話だったが少々拍子抜けした。
 プラントから提供されたコーディネーターの試験体らしいが、詳しい事は分からない。多分、高度な政治的な話南のだろうと結論をつける他ない。
 ただ、提供の条件として外見と名前は変えないという物があったらしい。
 まあいい。今は自分の名前と義体である事、俺の名前が分かれば充分だ。
 “フラテッロ”として活動するにはまだ暫く時間がかかるだろう。
 それまでに色々と仕込めば問題はない筈だ。
 義体とは薬物、身体の機械化で後天的に能力を上げた存在だ。
 かつて存在したというブーステッドマン、ファントムペインと大差はないだろう。
 尤も、それらについては噂でしか分からないが。
 なにはともあれ俺はシンに色々と教えなければならないだろう。
 過去の記憶を抹消してあるからシンに軍属の経験があったとしても意味はない。
 問題があるとすればシンにはあまり時間が残されてはいないという事だ。
 シンはコーディネーターであるから薬物に対して抗体が強かった。その為に“条件付け”に使用した薬物は通常の義体よりも多量だという話だ。
 つまり、義体化するにあたっての消耗が激しい。コーディネーターであるから頑強であると思ったが、どうやらそうは簡単ではなかったという事だ。
 公社の上層部はコーディネーターの義体としてのテストケース、モルモットとしてシンを見ているらしいが、現場の人間、担当官としてはそうもいってられない。
 そもそも俺には前に担当した義体、アンジェリカに対する負い目がある。
 最初期の義体だったアンジェリカは消耗が激しかった。その為俺はアンジェリカを見捨ててしまった。その事に関してかなりの後悔がある。
 多分、コイツを看取るのもそうは遠い事ではないだろう。その時までアンジェリカの分も合わせて面倒を見てやらなければならない。いや、やりたい。
 俺の考えをつゆ知らずシンは俺を見ている。限られた時間の中で俺は何をこいつにしてやれるのだろうか。
 ……御伽話を喜ぶ年ではないとは思うが。

to be continued
68真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/05/21(水) 21:19:03 ID:???
GUNSLINGER GIRLクロス書いてみた。
ネタ協力:高畑・ひまじん
ひまじんさん協力感謝。
69通常の名無しさんの3倍:2008/05/21(水) 21:54:26 ID:???
>>66-68
なんでアンタはシンを虐待する様な事ばかり書くんだ?不愉快だ。
70通常の名無しさんの3倍:2008/05/21(水) 22:08:48 ID:???
>>68
【もしも】種・種死の世界に○○が来たら 2【統合】
http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/shar/1208353319/
71通常の名無しさんの3倍:2008/05/21(水) 23:17:40 ID:???
>>真言氏
投下乙。
果たして作中でシンの寿命が尽きるのが先か、作者氏の興味が尽きるのが先か。
72通常の名無しさんの3倍:2008/05/22(木) 02:05:44 ID:???
作者氏の興味が尽きた瞬間にシンが死亡と予想。次回で最終回かな。
73通常の名無しさんの3倍:2008/05/23(金) 16:34:56 ID:???
>>……天使が見えたと言われたらお前は信じるか?
この台詞が個人的に"きた"
アンジェリカ……
74通常の名無しさんの3倍:2008/05/23(金) 21:24:43 ID:???
クロス先の作品の雰囲気が出ているとは思うが、知らない人がおいてけぼりだと思う。
何気ない一言の使い方が上手いな。上の人も言ってるけどぐっと“きた”。
出来る事なら続けて欲しいがそれはワガママかね。
75通常の名無しさんの3倍:2008/05/23(金) 23:49:06 ID:???
光速展開w
76通常の名無しさんの3倍:2008/05/24(土) 00:10:49 ID:???
>時にはアイギスの盾となり、時にはゼウスの雷となり〜

このくだりは、シンが使う比喩にしては違和感があったようにも思えます。
C.E.のネーミングセンスを鑑みれば順当かもしれませんけれど。
兎にも角にも投下有り難うございました。
77通常の名無しさんの3倍:2008/05/24(土) 00:23:58 ID:???
アイギスの盾〜はCEセンスじゃなくてガンスリの本編からだに1ユーロ。
78通常の名無しさんの3倍:2008/05/24(土) 08:07:11 ID:???
>>77
いみじくもシャアの中の人の台詞だったよね、たしか
79通常の名無しさんの3倍:2008/05/24(土) 17:19:55 ID:???
>>68
ワガママを言うならBSFもクロスしてくれ。アンタの書いたアランやティを見たい。
80通常の名無しさんの3倍:2008/05/24(土) 20:21:43 ID:???
>>76
義体化されてりゃ条件付けで外見だけはシンだけど中身は別物になっていると思うぞ。
どんな風にキャラが改変されててもおかしくない。どちらかと言えば、改変されてない方がおかしい。
81通常の名無しさんの3倍:2008/05/25(日) 09:24:07 ID:???
>>80
まあ、中身がシンなくなるってのもガンスリンガーガールらしいと言えばらしいな。
酷い話だけどね。
82機動戦史ガンダムSEED 38話 1/6:2008/05/25(日) 23:15:42 ID:???
 そこには、私にとって懐かしい顔が在った。

 「……サイ?サイ・アーガイルなのか!」

 私の耳に自身のものとは思えないほど、上ずった声が耳から入る。

 ――理由はごく簡単なことだ。

 そう、私の目の前にはあの日を境にもう二度と逢うはずもない、友人の顔が在ったからだ。

 「そうだ。本当に久しぶりだなカズイ」
 
 「……ああ、本当に……あれから何十年も経った気がするよ」
 
 私は、懐かしさのあまり彼が差し出した右手を強く握り返すと、サイも力強く握り返してくれる。
 あの時の別れが、互いに人生で二度と出会う機会がないと、考えていただけに、その感慨もひとしおのものだった。
 数年と経てないはずだがこの激動の時代だ。何十年も出会ってない感覚となっていた。

 「なぁ、ここで立ち話をするのも何だろう?どうだい?うちに来て再会を祝わないか?」
 
 「いいのか?」

 微笑しながら、サイ・アーガイルは相変わらずの思慮深げな瞳で問い返してきた。

 「当たり前だろう?いいから来てくれ」
 
 「では、まぁ遠慮なく――」

 私も久しぶりの気分の高揚に大いに気を良くしていた。

 「汚い部屋なんだけど、それは我慢してくれよ」
 
 「ああ、わかった」

 私たちは互いに軽口を叩きながら向おうとしたが、サイは何か思い出したかのような様子を見せた。

 「……おっと、ちょっと待ってくれ」

 サイは自分が乗ってきたであろう、黒塗りの車の方へと視線を向けた。
 すると運転席からガッチリとした体格に黒いスーツに身を包んだ壮年の男が顔を出した。

 「……すまんが少し、ここで待っていてもらえるか?それと、周囲の警戒を引き続き頼む」
 
 「――了解致しました」
83機動戦史ガンダムSEED 38話 2/6:2008/05/25(日) 23:18:21 ID:???
 呆気に取られていた私だが、気を取り直し、改めてこの目の前の光景から一つの結論に達した。

 ……なるほど、そういうことか。

 古人曰く、”昔の友は昔に非ず”とはよく言うものだ。昔の友は”政府の犬”……也と。

 しかし、不思議なのは今の私は反アスハ活動運動に加わっているが、反政府関連の大物ではない。
 その取るに足らない私に対して、政府がそこまで目を光らせる必要があるのか?

 もう一つは、現在のオーブは実質的に大西洋連邦の属領である。アスハの独裁体制を歓迎していない。
共和政体を以ってを善しとする、大西洋連邦にとってオーブの血統主義や氏族の支配体制は歓迎すべき事柄ではない。

 アスハ批判の反政府活動に対してオーブ政府が大規模な弾圧運動を展開するならば、それを口実にして大西洋連邦は、
介入して軍を派遣し、オーブの完全併合化するであろう。

 よって、いかに傍若無人な氏族連中でも大西洋連邦やブルーコスモスの首脳部のご機嫌を損ねる訳にはいかない。
氏族連中やウズミ派が潰したがっている、反政府運動が完全に鎮圧できないのはその為であるのだ。

 サイがその走狗ならば、かつての同僚であもある私が反アスハ運動を行っている事は承知しているであろう。
だが、ここで一つだけ理解できないことがある。
 目の前で自らのSPとの会話の様子を見せ付けたのは、私に対する何らかの牽制なのだろうか?

 と、ここまで考えてみたが、情報が少なすぎる為にこのように、仮説しか成り立たない。
 結論としては……”わからない”としか解答は出てこない。

 そう、これも立派な答えである。正確な情報がない以上、相手の出方を見るしか方法はないのだ。

 「待たせたな、カズイ」

 「……ああ」

 その場では私はサイに促されるまま、自分の部屋に向う。
 今の私の心の中には懐かしい旧友の再会ではなく、”政府の犬”に対する嫌悪感と警戒感が強まっていた。

84機動戦史ガンダムSEED 38話 3/6:2008/05/25(日) 23:20:08 ID:???
 部屋に入ると、開口一番にサイは笑い出した。

 「……こいつは、ちょっとしたもんだな、カズイ?」

 そういえば部屋の片付けなど、この2週間ほどの間にしてなかった。無論、掃除機をかけた覚えも無い。

 「……ごめん。今片付けるよ。その辺にある僕の机にある椅子にでも座っていてくれ」

 「――了解」

 一人暮らしの男の部屋である。他人様に公開できるような代物ではない。だから許容範囲内だと理解してもらおう。
 私はその乱雑した光景に憮然としながらも慌てて片付け始めた。

 この部屋に客なんか来る事は想定外だったので、まともに掃除もしていない。
 仕事の資料は投げっぱなしだ。そして、タブロイド雑誌に毎回投稿している経済企画論の原稿や資料も乱雑と積み上げたままである。

 慌てて片付けるが、掃除するといっても、その辺に山積みになっているものを部屋の中心からどけて、隅に追いやるだけである。

 その作業を一通り終えると、私はキッチンに向かい、お湯を沸かした。
 無論、キッチンにも埃が溜まっていて、ろくに使用した形跡も無い。

 一人暮らしが長いために、生理的に必要な時もスポーツドリンクの類で済ませ、滅多な事では茶を沸かす事もなくなっていたのだ。
 湯を沸かし、インスタントコーヒーを用意して三畳の居間へと戻って来ると、サイが熱心に私の原稿を読み耽っている姿が目に入る。
 
 ちらり横目で確認すると、彼は私が以前から書き続けている、独自解釈の”国家経営概論”を読み耽っていた。
 いつか落ち着いた時代にでも、経営学専攻誌にでも投稿しようかと思い書き続けていた駄文の類だ。

 サイがそのようなものに興味があろうとは思わなかった私は、その当時は意外な感じがしたものだ。
実際に私自信が彼と深く関わるにつれて、当然だろうと至極、納得できるものではあったのだが。
 
 「……インスタントで悪いけど」
 
 「……ああ、気にしないでくれ」

彼は顔を上げずに、読み続けていた。コーヒーを彼が座っている私のデスク上へと置き私自身は、
もう一方の予備として片隅に置いたあった携帯用の椅子を取り出すとそこに腰を降ろした。
暫くしてサイは私の原稿から目を離すと、デスクの上のコーヒーを手にとった。

 「それじゃ、無事に生きて再会できたことを祝って……。酒じゃないのが残念だがな」
 
 「……勘弁してくれよ。酒はあまり好きじゃないんだ」
 
 「いいさ。これはこれで、俺たちの合ったやり方でいいじゃないか?」
 
 「そうか?……そうだね。あはははっ」
85機動戦史ガンダムSEED 38話 4/6:2008/05/25(日) 23:22:07 ID:???
 ぎこちない雰囲気だった室内は、その冗談めかしたサイの喋り方に思わず笑いを誘われた。
 昔から他人の気遣いに関しては人一倍敏感で責任感もある彼は周囲から自然とリーダーとして祭り上げられていた。
 彼自身も気取ったところも無く、人を思いやり、友情に厚い男だったのだ。私も彼を友人として深く信頼していたものだ。

 本当にこんな感じで笑うのは一体何年振りだろうか?私自身も笑うという行為を忘れかけていたのだ。
 久方ぶりの旧友の再会に私の心は浮き足立っていたのだろう。ヘリオポリス・カレッジの学生時代に戻ったようだった。
 あの頃は本当に良かった。素直に自分の未来と可能性を信じる事ができたのだから。あのヘリオポリスの変が起きるまでは……。

 「――で、今日どんな要件で”私”を尋ねたのだ?」
 
 「――」

 その言葉に、飲み掛けのコーヒーカップをデスクに置こうとしたサイの手の動きが止まった。

 「何のことだ?」
 
 「来訪の本当の用件さ……」

 サイの表情は一変する。親しみの溢れた瞳から、苛烈な意志がこもった眼光へと瞬時に変化を遂げる。
 あのサイがこんな眼差しをするのかと?と一瞬疑った程だ。

 「何時から、気がついていた?」

 口調もあの親しみ深さから、深みと同時に冷たい響きへと変化していた。

 「――あまり舐めて貰っては、困るなサイ・アーガイル」

 私自身も昔の口調から、本来の、そして反政府組織内で通している口調へと切り替えた。

 ごく理由は簡単なことで、私の目の前であからさまな事をしていれば、馬鹿でも気がつく筈だ。
 
 それとこれは蛇足になるが、先程コーヒーを淹れながら、私も所属している反政府関連のネット通信を
経由しての調査の結果、政府関連者リストにサイ・アーガイルの名前が検索に引っ掛かっていた。
 
 表向きは政府外交関連の事務所に所属らしい。そして、その事務所の住所は架空であり、本来は存在しないのだ。
 そして私が調べられたのここまでであった。さすがにそれ以上は、機密保持の為に調べられない。
86機動戦史ガンダムSEED 38話 5/6:2008/05/25(日) 23:24:50 ID:???
 こうして、楽しくも懐かしい昔話は終わりを告げる。
もう少しだけ”友人ごっこ”のしたままでいたかったのだが、そろそろ本題に入ってもらおう。

 私は先を促す為にも話を続ける。

 「……これでも、多少は経験を積んで知恵はあるつもりだ」

 「フッ、俺は逆にお前がそこまで、間抜けでなくて安心したよ」

 サイは苦笑しながら、再びコーヒーカップに口を付ける。毒が入っていると考えてないのだろうか?
 その点を指摘すると、そうすると彼は軽く片手を上げ笑いながら、語る。

 「その点の対策は抜かりは無い。最近の医学の進歩は素晴らしいものだからな」

 「成る程、その手の対策はきちんと講じている訳か……」

 ――政府関連者ならば当然ともいうべき用心深さだろう。この点は見習わなければならない。

 私は未だに点けたままとなっている、TVの方へと顔を向けた。
 相変わらず、白々しい新代表就任のニュースが画面意いっぱいに流れている。
 反吐が出てくる程、馬鹿馬鹿しい代物だ。こんな酔狂じみた雰囲気に酔えるとは、オーブの民はなんと幸せなものだろうか。
 余程、”現実”というものが見たくないのだろう。

 「……どうやら”アスハの犬”に成り下がったな」
 
 「俺を軽蔑するか、カズイ?」

 サイは私の推論に同意する変わりに自嘲の言葉を紡ぎ出すが、私とてそれ程立派なものではない。

 「まさか」

  「ほう?」

 私は話を区切る為に一口、コーヒーを含む。
 口の中には安っぽい豆の味が”裏切り”という名の絶妙のブレンドが加わり苦りきっていた。
 
 互いに友情という名の隠れ蓑を用意し、安っぽい演技を演じたことがそれを助長する。

 
87機動戦史ガンダムSEED 38話 6/6:2008/05/25(日) 23:33:49 ID:???

 ――私が思うに、人と人の間で友情という名の錯覚が続けてゆくことは、互いの損得と利害が一致している間だけではないだろうか?

 私は、”無私の愛”など信じないし、この世のどこにも存在しないと考えている。そして、友情ならば尚更であると。

 人というものは、利害が一致するからこそ互いに共存できる生き物である。人はその為に知恵を張り巡らせ、
そのときその場に応じて、自らにとって利益を得る最善の選択ができるようになっている。
 
 したがって、利害や欲得というものを持たない故に、生存本能のままに生きる動物の方が遥かに純粋であろう。

「――正直な話、見損なった、と言いたい……が、私自身もそう褒められた境遇ではないからね」

 私はわざとらしく肩を竦める。今更、彼を責めるつもりは無い。
 
 このオーブでは権力により近づく為には、アスハの忠実な犬に成り下がって尻尾を振るしかないのだろう。

 五大氏族崇拝の愚かさは、その人物の評価が無能でも偶像化によって肥大化することにある。
 知っての通り、前代表のウズミも無能だったが、今度の娘の方も輪をかけて無能である。
 だが、”アスハ”という名の氏族に皆は幻想を持ちすぎている。この国の成立にも関係しているのだが、その人物の能力の有無よりも、
偉大な先代の娘と言う認識の方も重視して、代表としての統治能力の有無を無視する方向へと蒙昧な輩は走りすぎている。

 このように、アスハ先代の偶像崇拝がゆき過ぎて、オーブの国民にとって既に一つの”宗教”として認識されるまでなっているのだ。
 
 宗教を政治が利用するのは特に珍しいことでもない。過去、現在を通して無数にある国を統治する事例の一つである。
 故にその事についての異議を唱えるのは後世の歴史家に任せるとしても、その時代を生きる我々にとっては重大な事象であろう。
 
 そして彼が、サイ・アーガイルが権力に寄生する生き方を選んだのは、この現在のオーブで生きる上ではそう悪い選択ではない。
 逆に利口なやり口であろう。それにその生き方自体を否定するほど、今の私も立派な生き方をしている訳ではないのだ。

「今の君が懐かしさだけで私を尋ねた訳ではあるまい?何が目的だ?それとも、私の口封じか?」

 私は冷笑した。
 
 暫しの沈黙と共に部屋の雰囲気がガラリと変わり、緊張感が増してきた。
 我ながら悪趣味だろう。そして、ここで殺されるのかとぼんやりと考えるが、不思議と焦燥感や危機感を感じない。
 
 とっくにそんな神経は磨耗しきっているし、かつての友人に殺されるなら、それもいいだろうとさえ思ってきた。
 だが、謎なのがサイの来訪の目的だ。どうせならば、これだけは聞いて地獄に行きたいものだ。
 
 「俺の目的はお前だ、カズイ」

 しかし、彼が静かに開いた口から飛び出したのは実際には、意外な言葉だった。


>>続く

88戦史:2008/05/25(日) 23:42:04 ID:???
ご無沙汰して申し訳ありません。
ブランク空きましたがボチボチと投下させて頂きます。
89通常の名無しさんの3倍:2008/05/26(月) 09:59:03 ID:???
>真言氏
“何を今更”
正直少々難解。別に種でなくてもいいのでは?
黒服とか両親が急に和解した理由とか、省略しすぎ。
?が多すぎて、いつもの氏の作品にある余韻を感じられず残念。

GUNSLINGER
原作を知らないので感想が書けない。申し訳ない。

>河弥氏
前回の軽いノリから一転。まさに「急告」。
キラとアスランが対峙するとは思わなかった。

>戦史氏
復帰を待っていた。
カズイの成長ぶりを期待する。

90真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/05/29(木) 21:17:05 ID:???
lunatic love
“she”(call my name,please. Shinn remix)
 寝ても覚めてもあの娘の事を思い出す。俺の腕の中で冷たくなっていった彼女は俺の心に引っ掻き傷を残した。
 朝露の様に儚かったけれど、彼女の温もりはは何年も経った今でも確かに残っている。
 当時の俺が彼女に対して抱いたのは恋心だったのかもしれないし、そうではないのかもしれない。
 いつの間にか少年ではなくなった今の俺には何とも言えないし、どうとでも言える。
 だけど、断言する事だけは出来ない。

 彼女ではない誰かと触れ合った時に、瞳を閉じて耳を塞ぐと朧気ながらも瞼の裏には彼女の影が映る。
 つまり、彼女を追い求める俺がいる。だけど感じるその温もりは彼女のものではない。
 分かりきった話なのだけれども、彼女はもうこの世にはいない事を改めて実感させられてしまう。
 それはそれで仕方のない話だけど、誰かを彼女と重ねてしまう俺は酷い奴だと思う。
 例えば、この前目が覚めた時にルナが目を赤く泣き腫らしていた。
 鈍い様でいて勘の鋭い彼女の事だから、ささやかな俺の欺瞞に気付いたのかもしれない。
 だからと言ってそれを確認する事は出来ないし、してはならない事だと思う。
 二人の仲に敢えて波風を立てる必要はないし、乱れたベッドのシーツが愛情を証明してくれている。
 いつか、いつの日にか俺はステラを忘れてルナマリアの温もりを腕に上書き出来る日も来るだろう。
 テーブルの上にある飲みかけのカフェオレが分離している。何かの暗示なのかな、と思ったけれど何にも浮かばない。
 かき混ぜれば元のカフェオレ。分離している俺の心と身体も混ざりきって一つに出来れば簡単なのに、と思う。
 兎にも角にも今の俺がするべき事はルナマリアを思いやる事だ。彼女の憂う事、悩み事をなくしてやらないと。
 二人の仲はまだ始まったばかりで危うい。俺には彼女が必要で、彼女しか残されていないんだ。
 彼女の腰に手を回して声を掛けて一言二言話をする。
 何故かいつもより優しい彼女の返事が俺の心の引っ掻き傷に鈍い痛みを呼び起こす。
 何故かは分からない。分からないけれど、彼女の微笑みが無理をして作られたものだという事だけが分かった。
91真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/05/29(木) 21:17:41 ID:???
血迷い以下略。
92真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/05/30(金) 22:06:49 ID:???
lunatic love
“over the rainbow”
 不意に心の傷跡に触れるとあの頃に引き戻されてしまう。つまり、あの娘を思い出してしまう。
 もう大人になったと思っていたけれど、どうやらまだまだ子供らしい。流石に純真無垢とは言う事は出来ないけれども。
ひょっとしたたただ女々しいだけなのかもしれない。
 まあ、思い出すだけ思い出せばそのうち忘れてしまうし、既にかなり記憶は劣化している。
 記憶に残る彼女はセピアと言うよりは黄ばみ過ぎて輪郭すらはっきりとはしていないし、声はとうの昔に思い出せなくなっている。
 彼女に関する物を随分前に火にくべて燃やしてしまったのが少し悔やまれる。
 でもそれは仕方ない事だ。一時の気の迷いなんかじゃなくて、彼女を思い出のままにして忘れる為にした事だ。仕方ないから諦めよう。
 昔の思い出に浸るのも良いけど、溺れるのは駄目だ。現在を生きないでいる事は過去に冒涜、未来にも冒涜だ。

 バケツをひっくり返した様な雨から一転、雲が薄れて太陽が雲間からその姿を覗かせて、遠い西の方には色彩鮮やかな虹の掛け橋がかかっている。
 価千金の絶景かな。しいて難癖を付けるなら高いビルが邪魔かもしれない。 どうやら自然と人間が作った建造物はお互いに相容れないみたいだ。
 建造物と言えば空を果てなく見上げれば彼方には巨大な砂時計がある筈だ。
板子の下は無音の冷たい、過酷な環境の寂漠の宇宙。
 そこに住んでいる人間はこんな自然を味わう事が出来ない筈だ。
 そう考えると少し優越感を覚える。
 それはあまりよろしくない考えなのだろうけれども、彼等だって能力的な優越感を持っているだろうからお互い様だ。
 まあ、難しい事は昔馴染みの友人がどうにかしてくれるだろう。
 俺からあの娘を奪ったり俺の腕を捻り上げたりしたんだから、それぐらいの事はして貰わないと困る。
 問題は俺があの娘を完全に忘れてしまうのが先か、アイツが世界を変えるのが先か、だ。
 俺は気が短い方ではないと思うけど、そんなに長い方でもない。あまり長い時間がかかると痺れを切らしてしまうだろう。
 まあ、痺れを切らしても心の中で毒づく事しか出来ないのは何とも情けない話だ。
 さて、心重い事にもうじきあの娘の命日がやって来る。
 俺のあの娘に対する重い想い、いつになったらなくなるだろうか。
93真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/05/30(金) 22:07:30 ID:???
今日も血迷い以下略。
94通常の名無しさんの3倍:2008/05/31(土) 00:21:14 ID:???
>>戦史
 投下乙です。
 ひょっとしたら戦史風種アフターというよりは、サイやディアッカの成長を楽しむ
キャラ物なのではないかと思えてきました。それくらい、カズィやサイが良い意味で
原作離れしています。
 ピュアな友情から離れても、ベクトルの違う信頼を感じられるというのが面白かったです。
 またの投下をお待ちしております。

>>she
>>over the rainbow
 未練がましい二人の、理想化された死者を想うお話。シンのステラに向けた想いは
死なせてしまった引け目に過ぎないのではないかとも思わせられます。
 血迷いは何時もの事なのでべつによいのではありませんか。
 またの投下をお待ちしております。
95SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/05/31(土) 16:36:48 ID:???
 0/0

 その日も、空は公平だった。

 人口が一千もない島。
 津波を恐れて高台に逃れたとある夫婦は、より高いところを求めて展望台に上がる。
一息ついていた彼らは、同様にたった一メートルでも高い場所を求めて上がってきた
後続に手を貸して、場所を分け合った。

 次の四人家族にも、手を貸した。
 三組目、夫は妻を立たせて場所を空けた。立錐の余地が無くなると、昇ってきた人間に、
夫は手を貸そうとはしなかった。

 十人が来て、夫は入り口を塞いだ。この場所は先に取っていたと、たった15mの為に
人間を追い払おうとするその体が八本の腕に掴まれ、下に投げ出されるのを妻は目にした。
 女は何も言わずに誰の手も借りずに階段を駆け下りて、そしてすぐに未亡人となった
自分を確認した。

 十五人の男たちが来た。彼らは夫の死体にすがる妻の細い肩を持つと、手にした鉈と拳銃で
物と場所を奪い、二人分の空間に女を座らせる。彼女を未亡人にした家族は八人がその場を去り、
二人が夫の横に並んだ。

 夫を殺された彼女と、二人を殺された家族達は隣同士だった。

 空の色が変わるころ、男たちの無骨な手が彼女の服にかけられた。
 全員、絶望の顔をしていた。
 大量の粉塵が日差しを閉ざし、鉄を裂くような轟音が響くなか、純白だった服を汚された彼女は、
涙を溜めた目に赤い塊を写す。それは真っ直ぐ近づいて大きくなった。

 直径たかだか10mの破片が空を裂き山を削り、低地に留まる者達に大量の土砂が降り注ぐ。
 静寂――瓦礫の下から這い出す影。神に幸運を感謝、祈る生き残りを津波が襲った。
 水平線から立ち上がった海神の威勢は、山よりも展望台よりも高かった。
全ては無駄だったのだ。

 何もかも静かになった島を、夕日が赤く染める。


 SEED『†』  第十四話

96SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/05/31(土) 16:37:17 ID:???
1/

 降下から四時間後――艦橋

「装甲、主砲に損傷は甚大……ね」
 艦長席について難しい顔をしているタリアは、疲労の色を隠せていなかった。
 アーサーのまとめた損害報告を読み進めるうちに、タリアの顔は沈鬱さをいや増していく。
 眉間に皺がよって、それに自分で気付いて表情を緩める。人差し指が両眉の間をなでて、
皺のあとが残って居るのを指先に覚えて、あわてて揉み解した。
 熟年のタリアである。ミネルバ艦長が時折このような悪あがきに走るのを、
見て見ぬ振りをする情けがアーサーにも存在した。

「ラミネート装甲の外材がぺらぺらと剥がれて、悲惨な状態になってますからねえ。
行儀の悪い餓鬼が、オレンジの皮を剥いたみたいにです」
「副長、そんなに剥がれてるんですか?」
「ああ、こう……爪がべろぉってなった感じで――ね、メイリン」
「ちょっと、嫌な想像させないでくださいよ副長!」
 映像で御覧になりますか? との申し出を丁重に無視する。
 只でさえ疲れきったブリッジの士気をいたづらに下げてたまるものか。

「大体、想像は付くんですよ、外の損傷具合――警報の鳴る所はモニターできますから。
でもそれを画像でイメージするのは、いやです」
「デリカシーの無い事をしたね、失礼」
「謝ってももう遅いですよ。正式に告訴します!」
「なんていう訴訟社会!?」
 いや、意外と士気は高いかもしれない。特に副長周りにおいて。
 クルーを陰鬱な気分にさせない事に、貴重な才能が在るアーサーだった。

「そして裁判官は艦長です」
「敗訴が確定した!」
 ミネルバ最弱の副長である。威厳が無いともいう。

「そこまでにしなさいなメイリン」
 対して、アットホームな口調でも威厳に満ち溢れているのはタリアだ。

「それからマリクにバート……」
 名前を呼ぶだけで、二人のブリッジクルーがシステムを自動にして振り向いた。

「アイアイ……」「報告はもうあげてるんですよ? 艦長」
「情報は直に古くなるものよ。貴方たちから直接聞かせて頂戴」
 文章に起すことの出来ない、生の実感を聞かせろという艦長のご宣託である。
 否も応も在るはずも無し。
97SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/05/31(土) 16:37:54 ID:???
2/

「推力が充分じゃないですから、ろくな舵取りが出来ませんね」
 先ずはマリクが応えた。舵を左右に大きく振って見せて、操舵が効かないアピールを取る。

「直進と、ゆっくり曲るくらいなら確実ですが、旋回曲率(アール)は2kmが目安です」
「竜骨は無事? 戦闘機動は無理なの?」
 マリクは首を縦に振った――二回ともだ。

「宇宙戦艦だって、バレルロールできるのよ?」
「某国の不沈艦ですか……艦橋が落っこちて、主機関が外れてもいいなら出来ますけどね。
その場合、副長が途中で海に落ちます」
 飛行機のバレルロールとはわけが違いますから……淡々と付け加えるマリク。

「何で私だけ!?」
「だって、他のクルーはベルトを締めるじゃない?」
「私の席は何処ですか、艦長?」
 口角泡を飛ばすアーサーから顔を背けて、タリアは艦橋の展望窓を指差した。
 曇天の夜空が窓枠に切り取られて、一枚の絵画となっている。タイトルは即ち『荒涼』。

「その辺りに立ってるんじゃないの?」
「とうとう窓際族になった!」
 服の色では威厳を保てないのが、ミネルバである。
 "ザフトにいじめはありません"とはメイリンの台詞。そして階級が無い事は公然の事実だが、
広報課の謳い文句でしかない平等とやらの裏側にはその実、序列も上下関係もあるところが、
人類の枠を抜けられない証左なのか。明確でない分余計に性質の悪い部分も在る。

「うう、故郷の母さんに申し訳がない……私の黒服は言った何のためなんだろう」
 単純に、アーサーの性格に原因があるのかもしれない。

「アーサーの立ち位置はどうでもいいとして――"どう"なの、マリク?」
 とタリアは、さりげなく上手い事を言った気持ちで――何の感銘も与えなかったが――
話のベクトルを戻した。
「推力の保証が無ければ、機動シミュレーションもやりようがないですね」
「地球は勝手が違うわよ……大気圏内での動きに自信はあるの?」
「ミネルバ級を大気圏内で飛ばしたザフトは、まだ自分だけですよ」
 マリクこそが先駆、最先任というわけだ。

「しかし飛行経験なら。輸送用の大型飛行艇も、それに陸上戦艦も動かした事があります。
自分が"アークエンジェル"の操舵手に劣るとは思っていません」
 マリクは伝説となった戦艦の実名を出して、敵愾心を露にする。
98SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/05/31(土) 16:39:17 ID:???
3/

「そうか……マリク貴方、一度は地上勤務だったわね」
「ええ、空挺部隊で飛ばしてました」
 マリクは腹の痛そうな顔で、話題を避けたがっているようだった。
 人手不足のザフトに満足な陸上部隊は殆ど無い、ましてや空挺部隊の輸送機パイロットと言う事は、
ナチュラルの軍に居たという事だ。
 恐らくは十代後半の輝ける時期を、何を考えたのかパイロットとして過ごしていたのだろう。

「周りの視線が痛くなったのでザフトに……宇宙の操艦を覚えたのは戦後です」
「あら、それでミネルバ……今回の一件は貧乏くじだったわね」
 タリアも不必要には続けない。

「……それほどでも。少なくとも自分は、乗艦を落としたことがありません」
「それは嬉しいニュースね」
 ナチュラルにとってはコーディネーターパイロットなど珍しいだけだが、ザフトにとっては
地球の環境に詳しい貴重なコーディネーターがマリクだった。

「五分の条件なら――命令があればですが――向こうにできる曲芸はやって見せますよ。
ただ、ハードの損傷がテクニックでカバーしきれません」
「そこはマッドの問題ね。分かったわ、出来る限りのシミュレートはやっておいて頂戴」
 マリクの了解をとって、タリアはバートに目を向ける。

「こっちは、殆ど万全といっていいくらいですよ」
 常に交換部品を用意しているセンサーシステムは復旧が容易いらしく、
他の地上母艦に引けをとらない索敵が可能らしかった。


「次……降りる前に無茶をさせた主砲の機嫌は?」
「ポジトロン生成は効率3%以下です……そもそも汚染を引き起こす陽電子砲は、
大気圏内で使う事は想定していないですけど」
「さあメイリン、ここでクイズよ。タンホイザーを地上で使うためには?」
「……チェンバー内部で陽電子を反応させる、ガンマ線レーザー砲に改造することが必要です」
 オペレイターの解答としては満点である。

「……でも艦長、ガンマ線だって放射線だから標的を放射化したりはするんじゃないですか?」
「汚染を起こさないためのものじゃなくて、"放射性物質を大気圏に放出してはいけない"
という条約のためだから、その方便でいいのよ」
 少しアカデミックながら、ハイティーンのコーディネーターとしては粗朴な疑問に答えるタリアは、
一種女教師のような雰囲気を放っていた。

「タンホイザーが……タンホイザーがぁ――!」
 悲しい声を漏らしたのは、チェンだ。
99SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/05/31(土) 16:43:13 ID:???
4/

「ユニウス7に向かって一生分撃ったでしょう。それで満足して我慢なさい」
 男には厳しい艦長。
「もう一生撃てないってことですか、艦長! あの素晴らしきポジトロンの燦めきがっ……
511keVの輝かしきガンマ線フラッシュ……! 自分の青春が喪失一歩手前ですっ!」
「あらそう、早く大人になりなさいな」
 チェンの嘆きはほうっておいて、タリアはレポートを読み進めた。

「問題は主機関か……気合の入った機械だったらよかったのにね」
 予定外の大気圏内航行に主機関はギブアップ寸前らしい。
 こめかみを押さえたタリアの投げやりな台詞だ。

「気合は関係ないでしょう?」
「あるわよ。根性のあるマシンなら、ギブアップ寸前からが見せ場じゃないかしら?」
「根性……って」
「作った人間の、と付け加えておくわ。ハードもソフトも、一途に丹念に、気合をこめて作れば
それに応えて意外にタフな働きをするものよ」
 どういった状況で機械のタフさを知る殊になったのだろうか。などと聞くクルーは居ない。
 艦長のアラスカ話は、始まったが最後日が沈んでもまだ続くという理屈だ。

「そもそも……本艦の飛行能力は、もともとおまけですからねえ。マリクの心配も無理は無く」
「だから、全領域戦艦なんて奇抜な作られ方をしたミネルバは、海の藻屑になっても
仕方が無いというの?」
「いや……それは」
「オマケのせいでクルーが怪我一つして御覧なさい。即座にアーモリー・ワンにとって返して、
技師連中を一人残らず締め上げてあげるわ」
 タリアならば本当にやりかねないというのが、クルーの共通認識であった。

「あの……堕ちちゃうんですか? ミネルバ堕ちちゃうんですか!?」
 そして、海の藻屑というフレーズに過剰反応を示したのはメイリンだ。
「落ち着きなさい、メイリン」
「堕ちるなんて嫌です、せっかく地球に来たのに!」
 穏やかならぬ心中もできれば隠して欲しいが、今のメイリン相手にはそうもいかないらしい。
 普段ならばタリアでも許さない私語だが、砲撃を行いつつの単独大気圏降下をやった後だ。
極限の作戦に加わったクルーがテンションを維持できないのも無理は無く、ラミネート装甲が
冷えた頃には、反動ですっかり弛緩した雰囲気がただよっていた。

「美味しいものが沢山食べられる筈なのにぃ! 生クリームがたっぷりのお菓子を食べて
スイーツ(笑)ってお姉ちゃんと一緒にやるはずだったのにぃ!」
 庶民的な願望だが、地球の実際はそれどころではない。
100SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/05/31(土) 16:44:15 ID:???
5/

「ナチュラルの男の子を適当に引っ掛ける遊びは、出来なくなるんですか?
そうなんですね!?」
「……メイリンを安心させる為に聞くけど、着水できるの?」
「現状では不可能です」
「あ〜〜っ……終わりだぁ……」
 無情なるアーサーの一言。メイリンはがくりとうなだれてコンソールに突っ伏した。

「海底まで潜る事は出来るでしょうね――我々の息が続けば」
「沈むってことじゃないですかぁ、副長!」
 絶望的な将来予想図は、艦底の損傷したミネルバの、推進力を生んでいる主機関が大気のせいで
出力を落して居るからだ。

「早急に修復計画を提出させて。出来れば二種類のパターンを――」
 珍しくタリアの言葉を遮って、アーサーが別のファイルをタリアに手渡す。

「"こんなこともあろうかと"」
 マッド=エイブスからことづてですよ、とアーサーは付け加えた。

「あら、用意がいいのね」
「絶望的なことばかりじゃないって事です」
 タリアはファイルを開く。二十四時間以内での艦底修繕計画は必然にして当然として、
主砲チェンバーの部品を流用した主機関の現地改造計画もあった。
 それはタリアから見ても満足のいく計画であるし、マッドのお墨付きであれば
殆ど確実だろう。機械の趣味は兎も角、マッドは堅実なメカニックなのだ。
 どうせ使い所の少ない陽電子砲のこと、地球仕様に改造できる場所が限られるなら、
さっさと部品を流用してしまう方が賢明だろう。

 不満の声は、火器管制官からあがった。
「"俺の"タンホイザーから部品を取ってくつもりですか!」
「チェン、貴方のではないわ」
 生粋の乱射魔は、仕事が無くなるのではないか、と気が気でないようだ。

「予備部品だけで済むなら自由にしていいと伝えて」
「艦長が機動力よりも火力を取るとは思えませんが、艦長の確認が必要ですか?
その度に一時間単位で作業が遅れるでしょう」
 タリアが万事につけて機動力を優先するというアーサーの予想は的を射ていたが、
"マッドに一任する"との一言をタリアが留めたのは、整備班の手綱を締めるためだ。
 タリアの脳裏に、斬新過ぎるドリル・インパルスの記憶が新しい。
101SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/05/31(土) 16:44:50 ID:???
6/

「順序の問題よ。仕事は山積みだけれど、それだけに一つずつ着実に片付けていきたいの」
 文字通り山と積まれた嘆願、報告書の類が、タリアに無言の圧力を突きつけている。

「……仕事のし甲斐がありますね」
「軍人なんて、ヒマな方がいいものよ?」
 同感です、と返した副長の視線が、窓の外を向いた。艦の外見も、所々煤けているようだ。
 宇宙に取り残されたデイル=ホッパーを除いてクルーに被害の無かったことは、不幸中の、
そして最大の幸いであるといえた。

「本艦の被害は以上……と。それで宇宙からの救援は?」
「正直に申し上げまして、期待できませんね。バート、メイリン、低軌道上の情報を……」
 アーサーが指示を飛ばすと、ディスプレイに赤い卵が浮かぶ。
 それは地球だった。
 紅い無数のアリにたかられたキャンディーが浮かんで居るようでも在る。
 低軌道にひしめく濃密な塵の流れが、地球の青さを遮るほど濃いのだった。

「赤い"殻"はほとんど、ユニウス7の残骸です」
 ブレークアップする限界密度を越えて低軌道に残留したデブリが、
数多くの観測衛星を巻き込みながら、いまなお増大を続けている。

「イメージとしては、デュエイン軌道が膜状に地球を覆って居るような感じですね」
 C.E.の現代に至るまで、低軌道で此処まで収拾不可能なケスラー=シンドロームが起こったのは
知将と謳われたデュエイン=ハルバートン率いる第八艦隊の壊滅時が最初である。
 第八艦隊を攻撃すれば、ケスラー=シンドロームによって軌道が利用不可能になる事を連合、
ザフト共に理解していた為、当時のザフトは低軌道に居座る第八艦隊に手が出せず、幾つもの
降下作戦を妨害されていた背景がある。

「宇宙との連携は難しい……か。上手くないわね」
「宇宙(うえ)の保安部隊が定期航路の確保に向けて動いていますが、恐らく連合の妨害を受けるでしょう」
 降下軌道を封鎖するだけで、地上のザフト基地は干上がる。

「……となると、長期的な補給を今のうちから考えないといけないのよね」
「参考までに、これから全く戦闘も補給も無かったとして、行動不能に陥まで三週間です」
 三週間……長いととるか短いと取るか、クルーの認識はブリッジの重たい沈黙が語っていた。

「アーサー……これからはそういう報告の前に、嬉しい報告も一つ用意しておきなさい」
「ナチュラルがジョークでやるような"良いニュースと悪いニュースがひとつずつ"って奴ですか?」
 笑わせるのは苦手ですね、と諸手をあげて降参するアーサーの横で、物言いたげなメイリンが
タリアに躊躇いがちな視線を送っていた。

102SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/05/31(土) 16:46:57 ID:???
7/7

「あの……艦長。オーブに助けてもらえばいいんじゃないですか? 地球も、宇宙も」
「……続けて」
「ほら、アスハ代表を乗せてますし」
 タリアに先を促されて、メイリンの口が俄然、滑らかになった。

「そもそも低軌道がデブリまみれになったのは、本当なら殆どが地球に落ちちゃうユニウス7を
軌道上で砕いたからだし。軌道の方だって、"アメノミハシラ"の人たちがなんとかしてくれるかも
しれないじゃないですか」
 オペレイターだけあって、喋り始めると立て板に水のメイリンは、最後を半疑問形で締めた。

「はあ……」
「どうしてため息なんです、艦長?」
「いや……頭が痛くなったのよ。その案は可能でしょうね……可能だからこそ……」
「アスハ代表に頼むのが気が退けるんですよね。私、なんとなく理由が分かる気がします」
「俺も……」「僕もです」
 メイリンが理解を示し、それにチェンとバートが唱和した。
 そして異口同音。
「「「アスハ代表がお人よし過ぎて罪悪感が湧く」」」
「そう……正にそこなのよ」
 頭の痛そうなタリア。

 実の所、タリアの懸念は全く違う所に在った。カガリが政治家に在り得ざる程人が良いのは
異論を挟む余地がないが、その性格は実際的ではない。
 タリアが頼む。"困って居るから助けてくれ"――カガリは二つ返事でイエスと言うだろう。
 其処までは容易だ。

「アーサー……アスハ代表は?」
「つい先ほどまでオーブの方々と通信しておられましたが、今は仮眠を取られています」

 カガリの命令で救助は来るだろう、しかしそれはオーブが味方になったという事ではない。
カガリが手を差し伸べる事はできても、"アスハ代表"がその手を取り続ける事は出来ないのだ。
 それはカガリの周囲にまつわる権謀と、つまりはセイラン派が許さない。

「そう…………今はお休みなのね」
 カガリが艦長室に呼ばれたのは、それより二時間を待ってからだった。

103SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/05/31(土) 16:47:54 ID:???
そんなわけで、第二クールにようやく突入です。
感想やご指摘をお待ちしております。
それでは、また。
104真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/06/01(日) 00:20:37 ID:???
explaration of personality
“turn the page”
 何度ページを捲っても歴史は人類の愚かさ、血塗れの歴史しか教えてくれない。
 平和、戦争、平和、戦争の繰り返しだ。良く飽きないものだと思う。
 そのうち人類が滅びるんじゃないかと思う時がある。コーディネーターという競合種が出て来た以上、それは絵空事ではないだろう。
 滅びるか、滅ぼされるかの生存競争だ。
 苦労して宇宙に出たというのに、人類は全く持って度し難い。尤も、ブーステッドマンの俺が言えた義理でもないが。
 舌を噛みそうな名前のクスリは効いている。肉体的な苦しみはない。だけど精神的には苦しい。
 落ち着いて考えると怒りで振り上げた拳を振り下ろす相手を間違えた。
 ぶっちゃけると八つ当たりをしたのは駄目だった。
 本当に怒ってたなら振り下ろす相手はあの白衣の奴等だった。怒りの矛先をあの女に向けたのは悪い事だったんじゃないかと思う。
 駄目だ。自己嫌悪だ。ページを捲り直してやり直したい。
 そう簡単にいかないのがもどかしい。
 謝れば済む簡単に話だろうけれど、チンケな俺にもそれなりの意地ってものがある。
 頭は下げたくない。間違いを間違いだとは認めたくない。一回妥協したらあとはトコトンだ。
 俺が俺である為の意地を捨てたらもう俺ではいられなくなる。奴等の言いなりになるだけの機械に成り下がっちまう。
 それだけは嫌だ。
 謝りたいし謝りたくもない。だけど、どうしたものか、と悩んでる暇は無い。終わりの足音が聞こえ始めている。
 仕方ないから現実から逃げ出すか。本を手に取る。カバーはボロボロで手垢の染み付いた小汚い本。
 ジュール・ヴェルヌだったらこんな俺を使ってどんな話を書くだろうか。
 空想、夢想。宇宙への夢は果てしないけれど、人、とりわけ俺の想像力には限りがある。
 つまり、何一つ思い浮かばない。
 駄目だと一人ごちる事しか出来ない。
 いや、ヴェルヌじゃなくて俺が書けば俺の話は幾らでも作れるんじゃないか? 確か、あの女は俺に物語を書けとかなんとか言っていた筈だ。
 名案って訳でもないけど、それはどうでもいい。
 何か書くだけ書いてあの女に読ませてみよう。悩むのはそれからだって遅くはない。
 俺が書いたものなんてどうせ鼻で笑われるのが関の山だろうけど、ページを捲ればどんでん返しなんて事もある。
 さあ、ペンを取るか。
105真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/06/01(日) 00:21:24 ID:???
今回はオルガ単体物。
10645  ◆Ry0/KnGnbg :2008/06/01(日) 13:55:08 ID:???
1/

 機動戦士巻末シードデスティニー
 〜コードヒンドゥー 覚醒のヨウラン〜

 ヨウランはソレから目が離せなくなっていた。
 何気なく床にあった"ソレ"。普段から目にしていたはずの"ソレ"。
「そ……そんな……どうして!」
 黒く、細く、そしてつややかなその表面! 何と蠱惑的なのだろう!
 ヨウランの息が次第に荒くなり、こめかみを熱い汗が滴り落ちる。
 ソレに手を出す事は、今までの己が人生を全て否定する事と知りながら、
誘惑に打ち勝つことが出来そうも無い。
 ごきゅるり。
 口の中に溜まったつばを飲み込み。ヨウランはソレに伸ばす手を、
これ以上とどめていられそうになかった。
「どうして……こんなことに!?」


 回想開始――――二十秒前。
 ヨウランは、廊下に落ちているルナマリアのニーソックスを発見した。
「こ……これは!」
 回想終わり。


「どうしてなんだ。俺はメガネ属性は無くともポニーテール萌えのはず!
観賞用としては高スペックでも実際に付き合うのは願い下げたい高嶺の花な
ルナマリアの、赤いアホ毛に興味は無い、それも靴下にどうしてこんなに……」
 こんなに心を惹かれるのか?
「いや……靴下?」
 違う、コレは靴下などと言う俗物ではない。シルクの滑らかな愛で
ルナマリアの健脚を包んでいた、ソックスという名の小宇宙だ!

「迷うな、俺の心!」

 ソックスに心を鷲づかみにされて、逆にソックスを掴むと鼻に押し当てる。
芳しい息を胸いっぱいに吸い込んだヨウランの目がかっと開かれた。

「これは……違う、フェロモンを感じない。真逆……贋作(フェイク)!?」
「よくぞ気付いた」
 どこぞから、そんな声が響いた。ヨウランも良く知っている声だ。
「この声はバートさん? 一体何処から!」
「ここだ!」 べりいっ! 壁からシートを剥がして現れたバートは、
大量のソックスを編みこんだ専用礼服"紳士"に身を包んでいた。

10745  ◆Ry0/KnGnbg :2008/06/01(日) 13:57:51 ID:???
2/

「そんな、さっきまでそこの壁は平面だったはず!?」
「平面? ……よもやヨウラン、つるぺた属性まで持っていようとは……な」
「ち、違います! 将来性のない貧乳にしか興味ないだけで、膨らむ余地の在る
つるぺたなんかに惹かれる事はありません!」
「正直だな……まあいい、先ほどの疑問に答えよう。簡単な事だしな。
このDVDに収録されている"エザリア式呼吸法"を使えばほら、この通り、
ぽっこリお腹が一日たった五分のエクササイズで引っ込むのだ」
 こおぉぉぉ……! バートが長い息吹を吐き出すと、腹が大きく引っ込んで
みるみる腹筋が割れた。
「すごい、それで平面に!」
 DVDはツェペリさんも驚きの税込み\580-だ。

「てっきりヴィーノこそが同士だと思っていたのだが、良い意味で裏切られたよ。
しかしソックスを嗅ぐとは……この変態が!」
「えええっ!?」
 現状、ミネルバで副長と一、二を争う――なにせソックスを着てる――変態に
言われて、さっきまで呑気していたヨウランも流石にびびった。

「いいか、ソックス……ソレはこころ! ソックス……それは思い!
愛でる事は許されようと、触れる事は叶わない、ましてや嗅ぐなど、
上等の料理に蜂蜜をぶちまけるが如き思想!」
「な……そうだったのか!」
 ヨウランの背景に稲光が走った。いかなる愛も情熱も、方法を間違えれば
迸る暴力に堕ちてしまうのだ。
「いままで一体なんて事を! 俺は今、ソックスに申し訳がありません!」
「いいんだいいんだ、ヨウラン。君は確かにいけないことをした。けれど今、
こうしてソックスの素晴らしさを知る、ようやくその入り口に立ったんだよ。
私は君と言う同士を得られたことに、この上ない喜びを感じられている!」

「ば……バートさん! いや、師匠!」
「ソックスレーダーと呼びたまえ、そして私の手を取った瞬間から、
君のコードネームは、いや、魂の名前はソックスヒンドゥーとなる!」
「ああ、ソックスレーダー!」
 さようなら、理性。今まで大変お世話になりました。
 そして新しい自分にこんにちわ。
 輝けるソックスの地平へ向けて覚悟、完了。
 がしいっ! 変態二人が手を取り合う、今此処に、ソックスヒンドゥーが爆誕した。

「ようこそ"男の世界"へ」

To Be Continued
108通常の名無しさんの3倍:2008/06/01(日) 19:19:05 ID:???
ソックス! ソックス! イィ! スゴクイィ!
フフフ、あなたは… ク・ツ・シ・タ の虜。ああ、虜、トリコォォォォ!
なんという私の洞察力…! 恐ろしい! 私は私が恐ろしい!
109通常の名無しさんの3倍:2008/06/01(日) 21:17:32 ID:???
>>106ー107
バロスwwwww巻末は変態シリーズですかww
14話も投下乙!どちらも続き期待してる
110通常の名無しさんの3倍:2008/06/01(日) 23:44:54 ID:???
珍しく第五世界のかほりがするスレだな
111赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2008/06/02(月) 01:34:41 ID:???
 月。地球の衛星であり、古来からその多くは信仰の対象でもあり、神としても見られたり
 様々な芸術や文化などに影響を及ぼした神秘の象徴でもある。
 それが遥か昔、アポロ計画と呼ばれる冷戦の産物から人類は初めてその大地へと足をつける。
 それから数世紀経ったCEの年代において、人類は、地球連合はコロニーを足がかりに宇宙へと進出してきた。
 此処プレイトマス月基地は人類の軌道上衛生圏から全てのコロニーを監視し、MAも開発が行われた最初の基地である。
 それは伝統であり、誇りであり、地球連合の宇宙での最重要拠点でもあった。
 その月基地は襲撃を受けている。たった一機のMS。そのMSには勝算があった。
 今、この月基地にはわずかな駐留部隊氏か残っていない筈だと。情報は得ていた。 
 地球では既に連合がザフトの脅威を退きつつあった。
 ようやく、生産と配備が安定し始めたダガーやオルガ・ザブナックを始めとするブーステッドマンの戦果は勿論
 GATシリーズから開発実験された高性能機体がようやく数だけの連合軍に力を与え始めたのであった。
 しかし、その地上の勝利と優勢とは裏腹。その機体の蹂躙により月基地の指令本部は混乱の極みに達していた。
 ザフトの近況の情報は常に入っていたがまさか、味方である連合の機体の強襲の対策などお役所仕事程度のマニュアルであった。
 まさか、権威あるプレイトマス月基地に単独で味方を装う馬鹿などこの基地に居る筈がない。そういう驕りがあった。

「ちっ、、好き勝手やってくれるな! ダガーはこれ以上被害を増やすな! ええぃっ、地球から呼び寄せたガンダムどもは何をやっている!」
「報告します! 例の機体の出所解りました! ユーラシア連邦アルテミス基地配属のハイペリオンだと思われます!」
「ハイペリオン!? 確か、開発中の機体と聞いていたが。なんでそんな機体が……誰かに乗っ取られたか裏切ったか?」
「アルテミス基地に問い合わせた所返答が今着ました。乗っているのは同所属から解任されたカナード・パルス特務兵と思われます。
 脱走後、追撃に出た同じ機体のテストパイロットを撃墜し行方をくらませているとの報告が」
「ええぃっ、そんなことはどうでも良い! 奴の狙いは何なんだ?!」
「……はっ! ルートの推察ですがオーブで回収した”例の機体”へと向かっている様です」
「なっ、となると奴の目的は……いかん! 絶対あれを渡すのも晒す事も許すな!」

 司令部に緊張が走る。”例の機体”は決して表に出してはいけない。切り札であり、希望であった。
 いや、正確に言うとそれ位しか頼みどころが無いというのが地球連合の現状である。
 ざわつきを更に混乱させる様な報告が矢継ぎ早にサザーランドへと告げられてきた。

「大変です! 訓練機ソードカラミティ・カナールの無断出撃がドックから確認。乗っているのはシン・アスカ特務兵と思われます!」
「ちぃっ、この糞忙しい時に。なんで、特務兵と言う奴はろくな人間がおらんのだ!」
「報告します! 第13ドック手前のエレベーター口にて件の二機が戦闘を開始した模様」
「なぬ!?」


      機動戦士ガンダムSEED異聞 
             〜REVENGE WERWOLF GIRL
             -00.25howl 「DOG FIGHT」
112赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2008/06/02(月) 01:36:05 ID:???
 薄暗い地下を降りていくエレベーター。MSが運用する事を前提として設計されており
 広々としたスペースの中、俺のハイペリオンが求めるものが此処にあった。
 絶対不可侵の障壁と高火力砲二門に取り回しの利くビームナイフとマシンガン。
 なにより、シールドとそれをそのまま白兵兵装へと切り替えられるのはこのハイペリオンだけだ。
 理論だけで言えば、正に完璧に等しいMSであるが、唯一の欠点は燃費の悪い事だ。
 それを解決する為に遠路はるばる月まで乗り込んできた訳だ……彼は自ら同型機のテストパイロットを殺して。
 バックパックを付けたダガー乗りは多少てこずったものの後はヒヨッ子の訓練兵や
 頭数を揃える為だけの量産機乗りの平凡なパイロットどもでは”特別”な彼相手では傷もろくに付けられなかった。

「ふん、前戯を楽しみ過ぎたな。雑魚ばかりで一体連合は何のための基地を持っているやら」
「き、貴様、連合の機体が此処を何故……!」
「はっ、俺は連合に飼われていたが、忠誠も義理もない」

 バーニアと足をやられて宙空を彷徨うだけのの哀れな”味方機”にトドメの
 ナイフを突き立てる。通信越しに聞こえる下品な絶叫と共にその機体は機能を停止した。
 それに押し出された様に敵は目の前のその哀れな味方機に向かって銃を乱射する。
 見事に四肢を粉砕、融解……跡形も無く消え去り爆散したMSの煙の中、マシンガンで掃射をすれば
 まるで、当たる為にその場に佇んでいたのか? 迎え撃つ機体達は見るも無残に撃墜されていく。
 これでは、射的屋の的が変わりにいたほうが良かったんじゃないかとすら思える歯ごたえの無さ。
 彼は非常に飽いていた。帰れば、あの一度破ったコーディと一戦交える事も出来ると踏んでいるのだが
 パイロットのあの餓鬼の首を立てに降らせるのは非常にまどろっこしいし、先を考えると憂鬱になる。

「全く、飼い犬はダメだな。皆、堕落する」
「――飼われる事も我慢出来ない駄犬が吼えるなよ?」

 宙に漂っている機体越しから太い光の一閃がまっすぐに俺に向かってくる。
 まるで戦艦の副砲クラスの基地内で使われるには威力が高過ぎる。
 まして、ダガーの様なありていに数をそろえる為の量産機体にそんな高火力の装備などある筈も無い。
 僅かに肩のパーツを焦がしながらも俺は回避する事に成功したが、非常に不利な立場に置かれていた。
 あれは、恐らくGATシリーズもしくはそれの後継機シリーズで使われる中型火力の兵装。
 そんな機体が此処に来ている情報など彼は聞いていない。本来は実験機と訓練機ばかりで
 立ち寄った連合の船が出て行くスケジュールを合わせて襲撃したというのに何たる事だ。
 苦虫を噛み潰すかの様に、ぎりぎりと歯を軋ませたまま、割り込んできた通信に言葉を返す。
 
「くっ、また変なバックパックを積んだダガーか?」
「なっ、あのモーガンのおっさんをやったのか!?」
「……む、貴様! お、女だと?」
「悪いか?」
「いや、がっかりしただけだ」

 爆風と爆煙のでカメラは覆われて視認する事は不可。熱反応を先ほど倒した機体と選別がつかない。
 いっそ、バリアを張ってそのまま突っ込むのもありだが燃料が心もとない中、むやみに使う訳のも得策ではない。
 静かに息を殺しながらも、マシンガンのトリガーを握ったまま、ハイペリオンをゆっくりと前進させる。
 元連合ユーラシア連邦所属、カナード・パルス特務兵は中のパイロットの声に衝撃を覚えていた。
 女パイロットで優秀なのは教官とファントムペインで数名居たらしいが
 こんな若い声が居るなど聞いていない。やはり、ユーラシア連邦と大西洋連邦では情報の差が大きかったのか
 と舌打ちをしつつも、前方120度前後ほどマシンガンで掃射して突っ込む。煙を抜けた先には
 倒したMSの残骸が中を漂っており、一部はまだぴくりぴくりと指を痙攣させながらも人間の様に機体を悶えさせている。
113赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2008/06/02(月) 01:38:19 ID:???
「自信家だな」
「貴様こそ! うろちょろとしてないで出てきたらどうだ!」
「居るよ?目の前に」

 目の前の一つの機体。見たことも無い新型だろうか? 紅に塗られて手足や間接に何重にも
 追加装甲を張り巡らされて、頭部のパーツは損失されて……否。そこはしっかりと装甲でカバーがされており
 僅かにアンテナが伸びている。つまり、頭部パーツは”意図的に”外されている処置がされている機体。
 それが、まるで死体の山の中から命を吹き込まれたかの様に動き出し、その大型の斬艦刀を振り下ろしてくる。
 カナードも、多少遅れてビームナイフで応戦をするもその質量と出力には差が大き過ぎたのか腕ごと
 バターの様に熱でとろけさせて爆散させる。右腕を失いつつもそのまま、バックスウェーをしながら
 背部に備え付けらたらビームランチャーが首なしの機体へ直撃するが、辛くも吹き飛ばされていたダガーの
 シールドを犠牲にそれと左手一本を焼き焦がすることにより耐え凌いでいた。
 追加装甲を溶かしながらもそれをパージすれば下はやや蒼の混じった深い緑色の機体色を覗かせている。
 それに僅かに遅れながらも重そうな機体の稼動音とともに距離をとりつつ、途中でその機体の専用武装だろうか。
 緑色の射撃武器が二門ついたシールドを構えなおす。その様は、まるで中世の騎士の様に
 右手には大きな斬艦刀、左手には大きな射撃武器付きの盾とバランスの取れた武装となっている。
 
「ちっ、ちょこざいな!」
「へぇ、ガンダムタイプか。こっちはソードカラミティ・カナール。お前のは?」
「カナール? 実験機……しかも訓練パイロット。ふん、いきがるなよ。死ぬ素人に名乗る必要など無い!」
「けちんぼだな、お前。ま、いーや。ハンデは之くらいで良いから本気で来いよ」
「ふん。時代遅れの地下墓地(カタコンベ)の騎士はそのまま棺おけに叩き伏せてやる」
「何だか芝居臭い台詞だな。 それ素なのか?」
「だ、黙れ素人の雌がぁ!」

 カナードの叫びと共にブースターを吹かしながらもハイペリオンはマシンガンを乱射しつつも、間合いを揺さぶろうとする。
 しかし、それもある程度解っているのか近距離と粉塵では威力の減退し表面装甲や盾を焦がす程度にしか出来ない。
 敵の白兵戦を前提に設計されているらしきその兵装を前にして、l迂闊に距離を取り、飛びのくのも死、懐に入るのも死。
 野生の第六感的なものがそう告げている。故に相手をただ揺さぶる事だけに注力していたカナードであったが
 そもそも、燃料切れへの焦燥感がじりじりと冷静さを蝕んでいく。何より、相手型のガンダムの恐ろしいのは、味方を平気で盾にする所だ。
 さっきから破壊されたダガーの手足を放り投げては陽動やそのまま射撃をして目の前で爆散させていく。

「そんなんでカナールの装甲は破れない!」
「くっ、調子にのるなよ! 俺のハイペリオンはそんな首無しに負けん!」
「人殺しの道具をおごり昂ぶって誇るんじゃねぇよ!」
「なんだと!」

 カナードは言葉に噛み付く様にマシンガンを放ったまま、突っ込んでくる。
 無論、近距離によるビームの減退とコーティングを施されたシールドと追加装甲の前にその弾は焦げを作るだけに終始している。
 しかし、それを見越していたのか、マシンガンの先端についてたビームナイフが光を灯ないながら射出されていく。
 アスカのカナールはそれを足に受けながらも大きく振りかぶりながらも斬艦刀を振りかぶり、ハイペリオンの左わき腹を
 薙ぐ様に叩きつけていく。一瞬の隙を見て、アスカの勝利は確定したかの様に見えた……が、次の刹那。
 斬艦刀は真っ二つにへし折られており、前面に出していた盾はじりじりと表面を焦がしていく。
 ハイペリオンは左の肘からピラミッド型にビームを放っている槍の様な白兵武装。そして、きらきらと輝いている
 薄く展開されている光の膜を纏っていた。盾はその表面に触れていたのかばちばちと音を立てながらも焦がされている。
 そのまま、再び距離をとる両者。しかし、その間もハイペリオンから撃ち出されているマシンガンの直撃を受けて
 カナールはぼこぼこと装甲を凹まされている。
114通常の名無しさんの3倍:2008/06/02(月) 01:42:09 ID:???
「はははっ、だから素人だというのだ。其方の刀さえ折れてしまえば
 アルミューレ・リュミエールを張ったハイペリオンに傷などつかせん!」
「よくそんな噛みそうなのをすらすらいえるな。練習したのか?」
「ちぃっ……随分な余裕だな。だが、それも此処までだ」
「図星か」
「違う!」
「MS分捕るわ、戦場に乱入するわ、連合から脱走するわでどんな奴かと思ったが……意外と可愛い奴だな」
「……こ、殺す!!!」

 中のパイロットが顔を真っ赤にしたか定かではないがハイペリオンはじりじりと左腕に展開したビームランスと
 その障壁を立てにじりじりと迫ろうとした所、何を思ったかアスカのカナールはそのまま機体を突進させてくる。
 カナードは一瞬、理解はできなかったが、自棄を起こしたのだろうと判断し、背部の砲を展開させ
 アルミューレ・リュミエールに吹き飛んだ所を狙い撃つ様に出力を高めていた。
 案の定、盾を前面に出しながらもそれが激しいスパーク音と表面の盾が溶けるだけで終わっていたが
 盾が溶け、反動に弾かれた瞬間、カナードは驚愕の表情を隠せなかった。 盾の下に隠れていたのは
 既に射撃体勢に入っている胸部の火力砲。その存在を目に映った背部の方の照準を下方に修正。
 ロックオンもろくにせずに、そのまま撃とうとするがそれは既に好機を逃していた。
 胸部の追加装甲を溶かしながらも胸を突き出した格好になるカナールはそのまま僅かにその障壁の外側に出た
 中型砲『スキュラ』の引き金を引き、障壁の内側からビームを射出する。
 赤く太い閃光は近距離からの射撃と言う威力の減退を物ともせずにコックピットと共にハイペリオンを吹き飛ばし
 熱で溶かしていく。その衝撃でそのまま壁へと吹っ飛ばされるハイペリオン。
 カナールは付加したブースターのままそれを追撃する形おなり。散々酷使して表面はどろどろに溶けている盾に
 付属している火砲を溶け掛けて今にも崩れそうな敵のコックピットへと押し付けた。 

「さて、ありがとう、楽しかったよ。キラ・ヤマト」
「……貴様? 俺の名はカナード! カナード・パルスだ! お前、キラ・ヤマトを知っているのか?」
「あれ? ……え、え? お前キラじゃないのか!? ……なんだ、そうなのか残念……あれ、キラって誰?」
「それより女! 答えろ! キラ・ヤマトを知っているのか!」

 カナールからとても残念そうな声と共に、ある単語にカナードは反応を即座に返した。
 キラ・ヤマト。彼が追い続け倒すべくと決めたスーパーコーディネイター。
 その失敗作であり、彼を殺して超える事こそ自らのアイディンティティーであると
 確信している彼にとって聞き捨てならない言葉。アスカはそれを無意識的に発していた。
 彼女は彼がキラ・ヤマトだと思っていた。本人すらもそれはわかって居ない。
 第六感的な直感の類か?それとも何か自分の因子がそう告げたのか。
 よく解らないまま、何故そんな名前が出たのか解らない様子で、むしろたずねたいのは彼女の方であった。
115赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2008/06/02(月) 01:43:11 ID:???
 「あ、あの……キラ・ヤマトって一体」
「二人ともそこで武器を下ろして投降しなさい! 貴方達は完全に包囲されている!」
「な!?今、月基地は侵攻で出ている筈では。なんでこんなにガンダムタイプが」

 まるで、刑事ドラマの台詞の様な台詞が通信から飛び込んできた。
 声の主はドミニオンの艦長であるナタル・バジルールであった。ふと、二人とも自分達の会話内容に混乱していると
 既に周りにはガンダムタイプが数機、武装を構えたまま包囲されている。
 カラミティなどブーステッドマン3人の期待は勿論、制式採用になったレイダーやもう一機のソードカラミティ。
 まるで連合のカタログから全部引っ張り出したかの様なガンダムのバーゲンセールである。
 これで盗まれていたGATシリーズのガンダムも加わっていればほぼ、全期揃う形となっていた。
 その光景にカナードは混乱を収める事は出来なかったが、僅かに残った冷静さが
 ビームマシンガンを基地の床へと転がし、武装解除の意思を示す事になった。
  
「はいはい、ご苦労様ですよ。お二人さん。良いショーでした。いやぁ、ほんとほんと」
「おらぁナナシ! 手前一人で楽しみやがって! とっとと倒れて代わるどころか倒すとはどういう了見だ!」
「オルガ……うざぁいっ。お前ら暴れ過ぎ」
「僕だったらもっと早く片付けられたのによ。おっさんったら待てって言って全然手出させてくれないんだもん」
「パイロット! 話はしっかりと聞かせて貰うぞ!」

 アズラエルの明るい声と共にアスカの通信に馴染みの声が掛かってくる。それに緊張の糸がほぐれたのか
 はたまた別の原因なのかそのままソードカラミティ・カナールのパイロット、アスカ・シンは気絶してしまう。
 こうして、カナード・パルスの月基地襲撃は見事なまでに失敗に終わり、彼の旗艦であるオルデュギアは
 カナードの捕縛の報を聞くと自らその投降してきた。乗員及びプレア=レヴェリーはそのまま捕縛される運びになる。
 乗員は誰もが首を傾げた。カナードは時期的に既に連合はザフトの要塞を侵攻を始めているという情報を確かに得ていた。
 では、何故それが此処までMSが駐留している事になっているのかと。

                                        Next to 暫くお休みしますorz
116赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2008/06/02(月) 01:44:11 ID:???
以上、久しぶりの本編投下失礼しました。
そして、申し訳ない。ちと、ヤキン戦の戦略等が収拾着かなくなって
書き溜めも残り本編0,5話と外伝0,5話分位まで消耗しましたorz
暫く、ルートをしっかり練り直して書き溜めの溜めるのと
某所で中篇連載の修行でちょっと色々リフレッシュしてきます。
また、復帰する時はある程度話の流れの顛末を解り易く説明するネタも
書く予定ですので。では、何かほんと飛び飛び&休載で申し訳ありませんでした。
117通常の名無しさんの3倍:2008/06/02(月) 21:38:05 ID:???
次いってみよう
118通常の名無しさんの3倍:2008/06/07(土) 20:03:43 ID:???
ほ…
119通常の名無しさんの3倍:2008/06/08(日) 23:48:52 ID:???
120SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/06/09(月) 18:23:08 ID:???
1/ 訓練規程 

 海が朝焼けの色を乱反射していた。顔を出したばかりの太陽が、赤みがかった光の手で
空の雲をなでている。

 雲よりは低く、海よりは高い場所を、くすんだ白の戦艦が飛行していた。
 新造艦ながら既に歴戦の風格をかもし出しているミネルバである。

 その進行方向へ数百m、揺らめく水面に小粒な水柱が二つ、三つとあがる。
 海に投げかけられた小さなつぶての軌跡を辿ると、ミネルバの巨体に近づくにつれて、
途絶えつつも乾いた銃声が聞えてくる。

 さらに"弾道"を辿ってみよう。
 ミネルバ甲板に設置された射撃台で、制式拳銃を構える姿が目に入るはずだ。

 三人――皆赤い軍服を纏っている。
 事実上、ミネルバから遥か遠くに着弾の跡をつけているのは、彼ら三人の内のただ一人だ。

「外してるよな」
「ああ、当たらないな。彼女の手には弾除けの魔法がかかっているという噂を耳にしたが、
思わず信じてしまいそうだ」
 台詞の終わり際に重ねての、レイが放つ二発。
 銃声はシンがかつてムービーの中で聞いたものより小さいが、衝撃は腹に響いた。

「分かる、それ言ったのアビーだろ?」
 ミネルバに正副いるオペレイターの内、髪型のセンスが理解されにくい方である。
「ああ。彼女の魔法を解くには前髪を整えなければいけないと言っていた」
「前髪?」
 予想外の単語に、シンは眉をひそめた。

「ああ、ルナマリアの前髪に一房垂れている"アレ"をなんとかしなくてはならない、
"アレ"がルナマリアの手元を狂わせ、バランスを崩し、寝相が荒く寝起きが悪く、
更には肌荒れと吹き出物の原因になっていると……」
「三分の一が射撃に関係ないよな」
 そもそもシンはルナマリアの吹き出物を見た事が無かったので、例え直に
聞いていたとしても説得力のないことこの上なかったであろう。

「切れば、良いらしいのだが……無理だな」
「無理だろ。ミネルバの中で布教するのは止めてくれないかな」
 ルナマリアの額近くで、ヨウランやヴィーノが言う所の"アホ毛"が海風と反動で揺れていた。
121SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/06/09(月) 18:23:38 ID:???
2/

「綺麗だ……」
 意外な台詞に驚いたシンは、レイの視線を辿って了解した。
 一撃も受けていないターゲットが、朝日を受けて神々しく輝いている。
傷の無い標的と言うものがコレほどにも綺麗なものだったのか。漆黒の人型は
人間を模しながら銃創を受けるべき運命を、ルナマリア=ホークの手によって
回避し続け、彼女の伝説化に一役買っていた。

「今思い出したんだけど、一応さ、先刻の賭けはきいてるんだよな?」
「ああ、的中弾の一番少ない者がなんとやら、というやつか」
 陸に上がったら他の二人におごりという×ゲームである。
「地球だから、食費はそれ程掛かんないけど、ちょっと可哀想かなって……」
「ルナマリアに限って得点十倍のハンディキャップも、係数ゼロでは意味が無い」
 これは明らかにルナマリアが悪い、とレイが言葉を足した。
 銃撃の手を止めてルナマリアを見ている男二人だが、彼らが小一時間みとれていたとしても、
スコアがルナマリアに抜かれる事はないだろう。決して、絶対に。そして永遠に。

 本人にとっては意味の無い訓練を、真摯に続けている。
「また主計官から嫌味を言われるだろう。弾薬の無駄遣いだとな」
「まあ……アレだ。例え素手の方が強くっても、銃を持ってるルナは絵になるよな」
「悔しいが、"銃は鈍器"と言い切るルナマリアの立ち姿には、同意せざるをえないな」
 なにかが間違っていても、まあいいや、という気分になることが二人にもあった。
 そのうち後から撃たれて落ちても、自己責任である。

「……あったらないわねー」
 物憂げなため息が赤い唇からもれて、銃口からたゆとう硝煙をかすかに揺らした。

 未だ硬さを見せるものの、徐々に開花しつつあるふくよかな稜線を描く胸の前で、
殺戮の銃器を構えるルナマリアは、透明感を増してゆく朝の日差しを全身に浴びている。

 銃に祈るルナマリア。

 一見して可憐な少女が無骨な軍用拳銃を構えているギャップは、その内面から感じられる
力強さによって危うい所でバランスを保ち、一枚の絵として成立されていた。

 小石を敷き詰めたような巻積雲が陽光に照らされて紅く染まる背景もあいまって、
一種宗教的な雰囲気を二人に感じさせていた。

「此処までの会話が聞かれてたら、どうする?」
「一応お前を盾にするが、どうせ当たらないから大丈夫だろう。むしろ直接攻撃(こぶし)の
方が怖いか……」
「さっきのさ……割り勘でいいんじゃないか?」
「ソレにも同意しよう」
 所詮は野郎な二人であった。
122SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/06/09(月) 18:24:14 ID:???
3/

「うーみーはーひろいーなー……なんか臭いわよ、海」
 三発立て続けに、掠りもしない弾丸を放っていたルナマリアは気だるげに歌っていたが、
弾倉を交換する時に他の二人が最早撃っていない事に気付き、耳当てを外して銃を置く。

「それが潮の匂いだよ」
「ふーん…………やっぱり臭いわよ」
 形のいい鼻梁から、潮を含んだ風を吸い込んでの一言は、シンのような地球生まれにとって、
あたかもプラント生まれの台詞に聞えた。

「それが海だから。それから最後まで歌えよな、ルナ」
 シンが射撃台に入り、両手で狙いを定める。
 炸薬の爆発力に押された数十グラムの鉄塊はシンにダブルタップの反動を残し、
衝撃波をまとい、標的にされた人型マークの腹と胸に吸い込まれた。

「ううん。歌詞を、これ以上知らないもの」
 水面に燦めく陽光を双眸に納めるルナマリアの言葉は、はたしてシンに向けられていない。
 ふと、朝の日差しを受ける横顔が大人びて見えた。
 実際にルナマリアはシンよりも一つ上なのだが、それを越えて不明瞭な感情が、
一瞬の能面となったルナマリアの面差しに隠されて居るようにみえた。

「的は外しても音程は外さないんだな」
「……」
 知らなければ聞けばいいのにそうしない。少し残念に思いながら、銃声の中の静寂に付き合う。

「泳げる?」
 唐突なルナマリア。
「今はやめとけ、プールと違って、海底に脚はつかないんだからな」
 コーディネーターでも、たまには溺死する。

「そうなの?」
「そうだよ」
「ふぅん……」
 そういうことになった。

「今は、っていったわよね?」
「うん。海岸線沿いの砂浜とか、もっと浅いところなら泳げるかな。……でもやっぱり、
今はやめておいた方が良いと思う。寒いし、ユニウス7の破片で汚いし」
 それにきっと、津波で飲み込まれた人間の欠片もまだ、海に溶けて行く最中だろう。
人の形を失っているという問題ではなくて、多くの魂が呑まれた今の海に入ると、
連れて行かれそうな気がするからだ。
123SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/06/09(月) 18:26:05 ID:???
4/

「どこかいいところ知ってる?」
「――ん?」
 いいところ、の意味が咄嗟に量りかねたので、シンはレイを見た。

「シン、これからミネルバはオーブに向かうだろう。損傷した艦隊の修理には時間が掛かる」
 こういう時に通訳もやってくれるレイだ。

「だから、アンタが泳げる場所を知らないかなって」
「ん……オーブならいくつか場所が分かるかな。あんまり……行きたくないけど」
「いま、"帰りたくないけど"って言いかけたでしょ?」
「……」
 図星だったので、黙って撃つ。ルナマリアは鋭いが、言葉を交わす程に
地上とプラントの違いが浮き彫りにされていった。

「ルナマリア。別に泳ぐ必要も無いのだろう?」
「でも一回くらいは海の中に入ってみたいじゃない? 脚だけでも、さ」
 天井が無い青空。視界の限り何処までも続く水平線。プラントには決して在り得ないサイズの
光景を、肌で感じたいルナマリアの好奇心を無碍にするのも無粋だった。

「だそうだ……何時かヒマが出来たらで構わない」
「レイも連れて行けってのか!?」
「……俺一人のけものにするつもりか? 寂しくて泣いてしまったらどうする」
「真顔で言うんじゃねえ、って何回いったら分かるんだよ!」
 済ました顔で言われるものだから、何時も本気かどうか分からないのだ。
「すまないな……こんな時、どんな顔をしたらいいかわからないんだ」
「笑えば良いと思うわよ」
「やってみろよ」

 レイは笑ってみた。
 にたぁ。
「「やめろ(なさい)よレイ!」」
 即座に二人でどついて止める。美形のぎこちない作り笑いが夢に出る程気色悪いと、
始めて知ったシンとルナマリアであった。

「ご、ゴメンナサイ……つい反射的に」
 反射的に殴りたくなる笑顔だった。
「やれと言われたからやったのに……とてもショックだ」
「だから泣くなって!」
「泣いてなどいない、これは心の汗だ」
 落ち込むレイはしばらくの間、ミネルバ甲板に銃口でのの字を書いていた。
124SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/06/09(月) 18:26:36 ID:???
5/

「でも本当、地球って面白い所ね」
「……ん?」
「水も空気も無くなったりしないのに、今度は溺れる心配をしないといけないし」
「宇宙は何も無いから危ないけど、地球は沢山あるから危ないんだよ」
 大気、地殻、海水。衝撃や破壊力を伝播するものには事欠かない。

 弾倉の十六発が空になるまでに、ターゲットには十六の弾痕が刻まれた。
 ダブル・タップが両方当たるか、両方外すか。シンの射撃はどちらかだった。

「どうやって当ててるのよ?」
「狙って、引き金を引いてるだけだよ! 黙って訓練しないと規程が終わらないぞ」
「でもこれってさ、弾丸と私の時間の無駄遣いだと思わない?」
 ルナマリアは両手を添えて、照星の向こうに狙いをつける。
 正中線に銃口を向けて、そこからやや右へ、心臓を狙って撃った……筈だった。

「ヤッパリ才能が無いのよ私は。きっとコーディネートの問題だわ」
「射撃のセンスだけピンポイントで壊滅させる遺伝子なんて聞いたことねえよ」
「そうだ、それに才能以上に、訓練は大きなファクターだろう」
 アカデミー時代、レイは努力の天才といわれていただけに重みがある。

「そうそう、レイを見習えよなルナ」
「……あれを?」
 レイは静かなリズムで正確な射撃を刻んでいる。
 と思いきや、自動小銃で標的を蜂の巣に変えていた。

「……ほら、射撃中も姿勢が安定してるだろ?」
「姿勢の問題かしら?」
 ――火力の問題かも。喉元まで来た言葉を口に出すのが躊躇われる。
「切り上げたいなら、早めに撃ち尽くすと良い。しかしちゃんと狙え」
 自棄っぱちで撃ち放していても、驚異的な集弾率を誇るレイだった。

「あ、当たったわ! 見なさいよ、シン!」
「……おい、ルナ」
「それはシンのブースだ、ルナマリア」
 レイのあきれ返った声が、訓練規程の終了を告げた。



「出遅れた……かな?」
「何にだ、アレックス?」
 離れてみていたアレックスが登場の機会を逃した事は、また別のお話である。
125SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/06/09(月) 18:27:26 ID:???
6/ ミーティング あるいは副長いじり

 ミネルバ――食堂

「ちょいと失礼」
 シンが二人と囲む昼食の席にアーサーが割り込む。わざわざルナマリアとの間に
腰を落とし込んだアーサーは、食べかけのランチプレートを手にしていた。

「三人とも、午後からは格納庫に詰めてくれ。訓練規程は中断して構わないから」
「格納庫に? モビルスーツ隊は開店休業状態ではありませんか?」
 アーサーと話すレイは合成肉の不味いミートボールを口に運んでいた。シンにとっては
"食べねば死ぬ"と自分に言い聞かせなければ飲み込めない逸品を、済ました顔で咀嚼している。
 ルナマリアも然り。味覚破壊の危機を感じて居るのは地球の料理に馴染むシンだけだったので、
何時か彼らに、地球産の料理をおごってやろうと心に決めていた。

「メカマンが形にはしたんだ。なのでザクとゲイツの調整をね」
「ニコイチですか? 予備部品を使わないとマッチングがえらいことになる……らしいですよ?」
 シンのインパルスでは実感が無いが、例えゲイツ同士であっても"他のMS"の部品は
マッチングに時間がかかり、手を抜いたらえらいことになる。

「立っているだけで充分なんだよ」
 アーサーは首肯して最後のデザートを一匙すくって笑顔になった。
 やたらと栄養価の高くて不味いメニューの中で、天然の卵と牛乳を固めた黄色いプリンは
舌の上で蕩けて踊る、ささやかな救い主だ。

「えーーっと――」
 こめかみを指差し、瞳を回して考え込んでいたルナマリアはその二週目で諸手を打つ。

「――なーるほど、そう言う事ですか」
「何が分かったんだよ?」
 一人で納得されても、シンには分からない。レイは分かって居るだろうか、とはす向かいの
金髪美青年に目をやると、得心の言った表情を――少なくとも表面上は――決め込んでいた。

「お客さんがくるのよ、きっとアスハ代表の関係者……かな?」
「あ……ああ、儀仗か!」
 式典や国賓送迎の栄誉礼等でモビルスーツを整列させて置くことを、ザフトでは
まとめて儀仗と呼んでいる。と、どこかで習ったシンである。

「そこまで形式ばったものでもないんだよ、只、相手が"ムラサメ"で来るらしいからね」
 プラントとオーブの関係であれば、栄誉礼を受けるのは元来五大氏族かそれに準ずる
有力氏族、あるいはザフトが正式に"招待"した高官というところだ。
 この場合、艦にMSが正式に来るというので、はったりを利かせておこうという話らしい。
126SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/06/09(月) 18:28:49 ID:???
7/

「にしても分かってくれたか……! うんうん、副長としても鼻が高いよ、ルナマリア君」
 それをおいておいて、アーサーは目を細めて部下の有能に感謝する。

「あら……どうせでしたら、高くなった分を引っ込ませてさし上げましょうか?」
「顔が凹む未来が見えたよ!」アーサーは顔を抑えて応じる。
 にこやかに握った一見華奢な拳は、大の男を軽々沈めるミネルバ最凶の白兵武装だ。

「なあ君たち、彼女の暴力的な思考をもっと、こう……穏やかにできないのかな?」
「できません。MSがあれば別かも」
「無理を言われては困りますね、給料に合わない重労働です」
 懇願に近い表情で問いかけるアーサーにまずシンが応えて、それにレイが続いた。
 銃とは言わずにモビルスーツ、生身でルナマリアと渡り合おう等と、シンが出会ってから
たったの五分で捨てた思考である。
 ミネルバで二番目に偉い副長の細長いため息を聞いても、この人の黒服が信じられなかった。

「ルナマリア君、彼らの言動について感想は?」
「理解の在るチームで幸せですわ、副長」
 満面の笑顔にあてられたアーサーは、天を仰いでドリンクパックを煽る。
想像の中であっても自棄酒をせずにいられないらしい。

「それじゃあ私は行くけどね、艦長を待たせて居るんだ。女性を待たせるなんて罪深い男だと、
自分が自分で恐ろしくなるね」
「あ、それじゃあついでに頼みますね」
「有り難う御座います、副長」
 立ち上がったアーサーのプレートに、三人分、空のランチプレートが乗る。

「自分でやれよ……っていうか食べるの早いな君たち!」
 消化を悪くしない早食いは、パイロットの定番技能である。

「あら……さっさと行かないと、女性を待たせた罪で実刑喰らいますよ」
「執行猶予が何処かに逃げて、私の威厳も消え去った!」
「もとからない物を消え去ったとは表現しないのではありません?」
「くそぅ、あの妹にしてこの姉ありか……!」
 瞬きが目じりから涙を落とす。

「みんな副長を愛してますから落ち込まないで下さいね?」
「皆って誰なのかはっきり言ってくれ! うぅ、分かりましたよ自分の立場くらいは」
 悲痛なる表情のアーサー=トラインは艦橋に去った。

「さて、じゃあいきますか」
 ルナマリアが席を立ったのは、アフター珈琲を飲み干した後の事である。

127SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/06/09(月) 18:30:59 ID:???
8/

 四時間後――格納庫

 航空機がミネルバに着艦するのはカタパルトの構造から困難であるため、航空機の巡航速度と
モビルスーツのフレキシビリティを発揮するムラサメがカガリの護衛に来る、というのは分かる。

 格納庫で護衛の到着を待つカガリの懸念はむしろ、その人事である。
「全く、どうしてあいつが……宇宙で何をやらかしたか忘れたのか?」
「そういわないで下さいよ代表、たぶん陸のスズシロ中将の差し金です」
 ――むしろミネルバはアイツがほとぼりを冷ますのに丁度いい状況かもしれない。
 アレックスがカガリの耳元で小さく囁くと、カガリは憮然とした表情ながらも、
カメラが外の様子を写すディスプレイに注視した。

「……来た」
 ディスプレイに米粒ほどの黒点が灯ったのを、最初にアレックスが気付いた。
 本土から一直線に近づくムラサメはミネルバとすれ違うと、後方で大きく旋回、
速度を維持したまま艦体に追いすがる。

「――早すぎる」
「おい、もう一度追い抜くつもりかよ?」
 着艦するつもりならば減速して正面から侵入するべきはずを、追い抜くような速度差がついたままだ。

「まて……見ろ!」
 ミネルバを置き去りにするかと思われた機体は、先端がミネルバと交差した辺りで瞬時に反転した。
「進行方向にメインスラスターを――?」
「失速するぞ……」
 しかし一気に減速した"ムラサメ"は直後、人型に変形して、ミネルバとの速度差を完璧に殺した
状態でカタパルトゲートに入り込む。
 それは、浮遊しているミネルバにも関わらず着艦の衝撃が殆ど観測されないほどの、
完璧な着艦であった。

「三人? 私も聞いてないぞ」カガリがつぶやく。
 ムラサメから降り立った影は三つ、パイロットスーツを纏った黒髪の青年が、
艦長であるタリアの前に立った。
「オーブ空軍所属、"サイ=アーガイル三尉"およびマリア=ベルネス技師、そしてシズル=ヴィオーラ、
乗艦許可願います」
「許可します」

「アイツら……!」
 完全なる偽名で降り立ったキラとマリューに唖然とするカガリを、宇宙に取り残されたにも関わらず
先に本土に帰っていたシズルは微笑ましげな顔で見ていた。

To Be Continued

12845  ◆Ry0/KnGnbg :2008/06/09(月) 18:33:31 ID:???
 以上、投下終了。
 どうしてシズルさんがワープしてるの? という辺りはきいてはいけません。
 それでは、また。
129通常の名無しさんの3倍:2008/06/09(月) 20:57:56 ID:???
どいつもこいつもキャラ立ってるなぁ。
ルナの射撃訓練もアーサーの立場のなさも面白い!
続き、期待してますね。GJ!
130通常の名無しさんの3倍:2008/06/09(月) 21:49:07 ID:???
>>128投下乙!
何かこう、本当にいい関係だなぁこの三人。しかしレイの「にたぁ」が見てみたいw
131通常の名無しさんの3倍:2008/06/09(月) 22:29:13 ID:???
さりげない夢枕獏ネタに吹いたwww
132通常の名無しさんの3倍:2008/06/10(火) 00:59:46 ID:???
いまのとこそれほど目立ててないシズルさんがどんな役割するのか楽しみです。
133通常の名無しさんの3倍:2008/06/10(火) 21:32:12 ID:???
>†氏
相変わらずミネルバ三人組がいい味を出してる。
ルナマリアが射撃が下手なのは分かっていたけど、まさかここまでとはw
ザフトの赤服選出基準はどうなっているのでしょうww
ラストのサイの出現には驚き。戦史のようにサイの成長ぶりがみれるかと思ったのですが偽名だったとは。
少々残念。                                                ←嘘。

スペエデで例えるとまだ1/4も終わっていないわけですが、このペースなら全60話を超える?

ミネルバはユニウスと一緒に降下したので、オーブへは遠回り、
シズルさんはユニウス落下後に、直接オーブに降りたので帰国が早かったってことでどうでしょう?
134通常の名無しさんの3倍:2008/06/13(金) 22:52:49 ID:???
やばい保守。
135弐国 ◆J4fCKPSWq. :2008/06/14(土) 12:44:44 ID:???
朝からびっくりしたです
みなさんも大丈夫でした?
136通常の名無しさんの3倍:2008/06/15(日) 18:37:14 ID:96k1a/a8
弐国さんそっちのひとだったんか
137弐国 ◆J4fCKPSWq. :2008/06/16(月) 19:40:03 ID:???
>>136
恥ずかしながら自分、トウホグ在住でございます。
138136:2008/06/16(月) 21:51:40 ID:???
都会?に住んでいるが空気がうまくないところより静かなところの方が好きだぜ
139通常の名無しさんの3倍:2008/06/18(水) 14:16:29 ID:BbgEvsKP
hoshu
140弐国 ◆J4fCKPSWq. :2008/06/19(木) 22:21:23 ID:???
保守。とだけ書くのも味気ないので

>>138
空気が美味いかはちょっと自信ないですけど
田んぼの真ん中から山をバックにビル群が見えるのは
地方都市ならでは。ですね
こういう光景は個人的に大好きです

ただ駅まで歩いて30分、更にバスの(自分の最寄りバス停の)最終が18:30なので
自動車がないと生活できませんが……
141真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/06/19(木) 23:19:20 ID:???
hate and war
“somebody got murdered”
 陰鬱な廃墟を大きな銃をストラップでぶら下げながらいつもの様に歩く。
 轟く乾いた破裂音。絹を切り裂く様な悲鳴。
 誰かが殺されたのだろう。日常茶飯事、良くある事だ。どこもかしこにも死体なんて転がっている。別段珍しい事じゃない。
 さようなら、永遠に、さようなら。死んだのが俺じゃないなら俺はハッピーになれる。
 アンフ共は獲物を求めてこの区域から出て行ったみたいだ。地響き、足音、聞こえやしない。
 物影に向かって銃を撃つと、餓鬼の悲鳴が聞こえる。悲鳴がなくなるまで弾をプレゼントしてやる。
 見れば、ビンゴ。クルジスの餓鬼が血達磨で虫の息だ。
 いってらっしゃい、神の国へ。嘯き、呟き、とどめを刺す。
 餓鬼共が戦争なんて世知辛い世の中だ。神様が見たら救い様がないから匙を投げ捨てる筈だ。
 可哀相に。もう神様にはコーヒーを掻き混ぜるスプーンもないだろう。
 今度は女の悲鳴が聞こえる。悲鳴は直に嬌声へ。
 五月蠅くてかなわないけど仕方がない。あの時の声は呆れるくらいに響くもんだ。
 可哀相に。せめて生まれる子供が顔や名前も知らない親父に似ない様に祈ってやろう。
 何度も何度も見て、聞いた光景。いい加減に飽きて来たけど逃げ出す事は出来ない。
 楽しくはないがとうの昔に人を殺すのには慣れた。慣れなきゃ俺が殺される。仕方がないけど仕方がある。
 指を咥えて待ってるだけじゃ平和にならない。平和にしなくちゃ平和にならない。
 歴史がそれを証明している。
 話し合いだと解決するまでに俺は白髪頭になるだろう。手っ取り早くするなら殺し合いをするしかない。
 響く乾いた破裂音、俺の胸が赤く染まる。痛いというには熱過ぎて、熱いというには痛すぎる。
 さようなら、永遠にさようなら。
 誰かが殺された。そして俺もくたばった。
 こんな事は良くある事だ。戦争してたら死なない方がおかしい事だ。
 うつぶせに倒れた地べたが冷たい。
 空には機会仕掛けの天使が浮かんでやがる。なんてタチの悪い悪趣味な冗談だ。
 ――今更出迎えに来られても困るじゃないか。
142真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/06/19(木) 23:21:35 ID:???
血迷い以下略。
143通常の名無しさんの3倍:2008/06/20(金) 21:36:13 ID:???
SSというよりも散文詩っぽいね。
144通常の名無しさんの3倍:2008/06/23(月) 14:53:56 ID:???
暗い、けれどそこもまあいい。
145通常の名無しさんの3倍:2008/06/23(月) 22:05:27 ID:???
暗いのよりもギャグがよみたいれす。
146通常の名無しさんの3倍:2008/06/23(月) 23:00:24 ID:???
確かに実録は読みたく存じます。
147真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/06/24(火) 21:33:04 ID:???
実録!以下マユ。
どーもー、マユでーす。う〜ら〜め〜し〜や〜。
今日のマユはひと味ちがいまーす。かとーさんの力で怨霊になりましたー。かとーさんはカトー教授じゃなくて加藤保憲さんでーす。
うわぁ、ちょー帝都物語ー。あははー。
ついでにくびちょんぱーのトール君も怨霊にして貰いましたー。それでは張り切って自己紹介どうぞぅ!
「我が躯は何処?取り戻して一戦せん!」
うわーい、将門公みたいな?何故平将門に公が付くのかと言えば祟りが怖いからー。ちょーチキン〜。
良く見ると身体に首がドリブルされてまーす。
ちょっとアレ見な〜 トールがとーおーる〜。
あははー。ばっかでー。キャップーつばつばだよーぅ。
墜ちるところまで墜ちたトール君はほっといてお兄ちゃんを呪いにミネルバに行きまっしょー。
あれあれ?マユが何もしてないのにミネルバ沈みそうだよ?なんでかな?
近付いて良く見るとお兄ちゃんが湖に棄てたステラが船幽霊になってるよ?
ちょーマヌケー。お兄ちゃんは船幽霊ステラに底を開けてない柄杓をあげたみたいー。あははー。
ぶくぶくぶくぶくぶーっ!ミネルバ沈没〜。
皆さんお手を拝借。なんまいだー。
よーし、勢いに乗った所で00も征服しちゃいましょー!
00でマユの仲間に相応しいのは……ロックオンさんの妹さん!一緒に世界を滅ぼしましょーう。
「悪いけど無縁仏と一緒にしないでくれる?」
ギギギギギ!ちょー生意気!SSスレが立ってないくせになんたる言い草!ムカムカぴーっ!
アイルランド人のくせになんて事を言いやがりますか!MC5!マジでムカつく五秒前!前にナンバが付くとチャンピオンのヤンキー漫画ー。あははー。個人的にはフジケンの方が好きー。
アイルランド人はセイバーちゃんに征服されちゃってくださーい。
悔しいのでアレハンドロさんの金ぴかをグサグサ刺して遊びまーす。
まず一本目〜。ぐさー。
ぽーん。
あれあれ?アレハンドロさんが金ぴかから飛び出したよ?うわーい、黒髭危機一髪〜。あははー。
それでは最後にお皿を数えて終わりまーす。
いちまーい、にまーい、さんまーい、しまーい。一枚足りないよーぅ。でもポケットに入れて叩けば増えるからあんしーん。
わっかるかなー、わっかんねぇだろーなー。いぇーいしゃばだばー。
それじゃーばーいびー。
148真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/06/24(火) 21:33:43 ID:???
久し振りの実録投下。
149通常の名無しさんの3倍:2008/06/24(火) 23:25:29 ID:???
>>良く見ると身体に首がドリブルされてまーす。


酷い眺めだw
150通常の名無しさんの3倍:2008/06/25(水) 21:16:51 ID:???
どうやったらこんな珍妙な文書を書けるんだ?
とてもじゃないが暗いのと同一人物が書いてるとは思えん。
151通常の名無しさんの3倍:2008/06/25(水) 21:18:07 ID:???
帝都物語かよ……
加藤+少女で一瞬別展開を期待してしまったじゃないか!
つーか加藤が絡めばあっさり復活できるんじゃないか

……新シャアで加藤で話を膨らませた所で、誰かついてこれるんだろうか
152真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/06/29(日) 01:55:55 ID:???
タマシイノカケラ
scene-1 you're an angel
 此所では幼子達の啜り泣く声は絶える事がなく、河のせせらぎを書き消している。
 子供達はまだ小さい手を鮮血で朱に染めて石を積み上げている。
 私もその中の一人だ。
 高く高く、まだ小さい私の背丈を積み上げれば救われると信じて河原の石を積み上げる。
 石は重くて鋭く、持てば子供の柔肌などは簡単に切り裂かれる。
 片手しか使えない隻腕の私の指はもうぼろの様だ。
 皮が裂けて肉は潰れ、所々白い骨が露出している。
 それでも、救済を信じて石を積み上げる。
 一つ積んでは父の為、二つ積んでは母の為。
 積み続けてあと少しという所で無慈悲な風に全てを無に帰される。
 何度こんな事を繰り返したのだろうか。パンが石に変わる程の昔から繰り返している様な気がする。
 湿り気を帯びた風は冷たく、一欠片のパンすらも食べてないのでひもじい。
 寒さと空腹、そして疲労で気が遠くなる。けれども指先の痛みで意識は覚醒し続ける。
 ――地獄だ。
 そう一人ごちるけれどもそれは余りにも愚かな事だ。
 此所は地獄などではない。その一歩手前の賽の河原なのだ。
 不幸な事に私は父母よりも僅かに早く死んでしまった。 痛みも何も感じずに死ねた事は幸運だったのかもしれないけれども、死んだ後に苦しむのであればそれは幸運などではない。
 しかしながら不幸を悔やんでも仕方がない事は分かり切った事だ。
 歴史の改竄は誰にも出来ない。故に、それは受け入れるより他ない。
 だけど受け入れる事が出来ない事がある。
 兄が私を供養してくれないことである。線香の一つも、御供えの一つもくれない。兄は私に対して何もしてくれないでいる。

 このまま成仏する事も出来ずに、永遠に苦しむのは嫌だ。
 渇く。心が渇く。
 怒り、恨み、嫉み、妬み。負の感情が私を支配する。
 もう全てがどうでも良い。報われる事がない努力は、もはや努力ではない。そんな物はただの徒労だ。
 救済なんていらない。否、救済なんて物は紛い物だ。その証拠に私は一つも救われてはいない。
 だから私は現し世に仇なす鬼となろう。生ける物に祟りをなす怨霊となろう。
 どうせは一度死んだ身だ。恐れる物は何一つない。死なば諸共だ。
 私には何もないから、世界を微塵も残らぬ様に私の胸に救う業火にて燃やし尽くそう。


単発のネタだから続かない予定。
153通常の名無しさんの3倍:2008/06/29(日) 01:59:14 ID:???
血迷い以下略。
154SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/06/29(日) 01:59:47 ID:???
SEED『†』  第十四話


1/

「"サイ=アーガイル"は実在するみたいね。オーブの大学データベースに、論文があったわ」
 ルナマリアが目の前で翻す紙の束を目で追うシンの動体視力が、表紙の文字を捉えた。
 "MS小型化についての一考察" それが論文のタイトルだ。およそ三十頁、表紙に署名が見られる。
「でも、一人の名前じゃないのかもね……」
「連名のペンネームかもしれない、か。地球で研究するコーディネーターが、
暗殺を恐れてペンネームを使うのは良くある事だな」
 かつてはモビルスーツの研究分野に、ハジメ=ヤタテという名義の研究グループが存在した。

 シンが論文の内容をルナマリアに聞くと、レイが冷徹な声で怠惰を諌めた。
「俺は科学の話題に興味無いんだよ。ルナは読んだんだろ?」
「サイエンスじゃなくてエンジニアリングよ、これ」
 分からないものだから、その違いなどどうでもいい。
 そう素直にいえば、レイから侮蔑の表情をむけられようというものだ。
「無知にも劣る、恥ずべき無関心だな――シン」
「ほっとけよ。で……どんな人なんだ?」 
「――ヘリオポリスの工業カレッジに居たのは確かなんだけど」
「ヘリオポリスか……当時は結構ニュースにもなってたよ」
 連合の"G"と"アークエンジェル"を擁していた為に、ザフトの標的となってしまったコロニーである。

「……」
「襲撃したのは確か、クルーゼ隊――って、顔色が悪いぜ、レイ?」
「何でもない、気に為るな」
 何かある、と言う事だ。携帯の事を聞かれた時に、シンが喋る口調と全く空気だったので分かった。
 レイは今までシンの携帯について深く訊ねた事は無かったので、シンはレイの沈黙を忘れる事にする。
いつかシンがルナマリアやレイに、家族の事を話せるようになったら聞くだろう。

155SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/06/29(日) 02:00:26 ID:???
2/

「アスハと因縁でもあるのかな?」
「身分を隠されてるのかもね。代表の私兵かもしれないし」
 ルナマリアは両手を肩の高さに持ち上げ、掌を天井に向けた。
 お手上げよ。
 シンのこめかみを刺したのは、私兵という言葉。
「軍人を私物扱いか――これだからオーブは!」
 ルナマリアの"仮定"を"事実"と思い込む荒々しい感性のまま、シンは島国への義憤に燃えた。

「ふむ、久しぶりだな。相変わらず筋違いな奴だ」
「シンのオーブ嫌いが出ると、なんだかほっとするわね」
「も、問題はアーガイルだかビーガイルだか、あの胡散臭いパイロットのことだ!」
「そう、それが気になるの……というわけでお願いね、シン」
「……何をだよ?」
「分からんか?」告げるレイは、シンに手帳大の箱を手渡した。
「無線機――だよな?」
「マイクはこれだ」
 レイがコードの延びたマイクを手早くシンの襟内にセットする。男ながら白魚の如きと形容される
たおやかな指がマイクを二度突くと、ルナマリアの手にしたスピーカーが同じ音を拡大した。
「……コレでなにしろってんだよ?」
「決まっている。サイ=アーガイルとやらの偵察だ――」
「――はあっ!?」

156SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/06/29(日) 02:01:04 ID:???
3/

 こんなやり取りを得て、シンが偵察役となったのが、つい十分ほど前の事である。
 サイ=アーガイル――その足取りは、ヴィーノやアーサーといったクルーから伝え聞く事で直に分かった。

「くそ、どうしてこんな――ああもう、何を話せばいいんだ!?」
 が、はっきり言って元オーブ人という以外二人に繋がり等無い。レイとルナマリアがシンを
選んだ理由は母国以外にありえないだろうが、それをおいてもシンは偵察向きの人間ではなかった。
 廊下の角を過ぎ、オーブの軍服姿を発見した瞬間、胸中に満たした決意がみるみるうちに
しぼんでいくのが分かる。

「オーブを捨てた俺が話しかけても、困るだろうし」
 郷愁に駆られた寂しい子供が故郷の事を聞きたがっている、という風にしかとれないだろう。
「しかも相手は軍人だし――」
 お互いが仮想敵の身分でも在る。
「オーブの人なら、同じコーディネーターでもプラントを警戒してたって可笑しくないし」
 ユニウス7の犯人はザフトではないが、被害を受けたほうからすればあまり関係が無い。
 シン自身は気付いていないが、未練があるなどと思われたくないというその気持ちが、
正にオーブへの未練そのものだった。

「ええい、悩んでいても仕方ない」
 意を決して、白い軍服の背中に近づく。四歩の距離を置いたところで、黒髪の青年が振り返った。
 気配を悟られたのか? ひるむな、俺! と自分を発奮させて口を開く。
「あの……サイさん、ちょっといいですか?」
「……ん? 何か用かな?」
 呼び掛けた後で「しまった」と思う。
「"アーガイル三尉"って呼ぶべきでした。すいません」
 襟元に階級章を見たのだ。
「いいよ、気にしなくて。そういえば、ザフトには階級が無かったからね」
 堅苦しいことは抜きにしてくれて構わない、とは言ってもらえたがそれでも、
ザフトレッドとして『礼』を失するのはまずい。
「ええと、シン=アスカ君だっけ?」
 それに声を掛けるまで、話題の一つも考えてこなかったのだ。
157SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/06/29(日) 02:02:16 ID:???
4/

「えーっと……」
 不味い、会話の主導権を握られると、途端に何を喋って言いか分からなくなるのは不味かった。
 相手がレイやルナマリアだとこうはならないのに。
 同じMSパイロットなら、パイロット同士の会話にすればいい。そう思いつくまでに十秒。
 サイ=アーガイル。襟元が示す身分はオーブ三等空尉。
 MSの操縦士は普通尉官だから、これはムラサメドライバーとして最低の階級であろう。
「僕の顔に何か?」
「い……いえ、そんな事は――」
 いつの間にか顔を見ていたらしい。
 どうみても十代後半――こんな年でモビルスーツを動かせるのはコーディネーターだからだろうが、
オーブは普通未成年を尉官にしない。彼のような例外を許容するのは、上級氏族の特権のみだ。
 シンの脳裏で、アスハの私兵という言葉が俄然現実味を帯びてきていた。

 パイロットの会話、パイロットの会話。脳裏で必死にばらけた言葉を組み立てる。
こんな時には頭に量子コンピュータが入っていたらいいのに。
 それで出てきた言葉が――
「サイさんはどうしてミネルバまで来たんですか?」
――だったので、流石にアーガイル三尉(仮名)も顔を顰めた。シンも自分で自分の台詞に頭を抱えたくなった。
 シンからは見えていなかったが、士官室で盗聴しているレイとルナマリアが、同時に机に突っ伏していた。
「これは……ストレートに来たねえ。観光で来られたら楽しかったんだけど、残念ながら任務だよ」
「う……」
 にっこり笑顔で「当然だよね」と、そもそも存在が当然ではない三尉が言う。

「別任務の直後でヒマしてたところに命令があったから、突貫作業でムラサメを三人乗りに改造してさ、
お陰で折角座り心地の良い専用シートも取り替えなくちゃあいけなくなって、せーまいコクピットに
寿司詰めで飛んできたんだよ。全くスズシロ中将は――ああ、この人はオーブの海軍さんなんだけどね――
人使いがあらいなあってしみじみ思ったりしてね」
 つらつらと語り始めるしみじみとした口調の中に、シンは素朴な疑問を感じた。
「あれ? サイさんは空軍所属ですよね?」
 オーブ軍の柔軟性は、それほど高くないはずだ。
 でなければ、防衛用なのに避けて当てる仕様のMSなんて出てくるわけ無い。

158SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/06/29(日) 02:05:14 ID:???
5/

「そう! わざわざウチの上司まで捻じ込んできたんだよ。曰く"ミネルバは海に浮いてるから海軍の領分"
だってさ。沈むかもしれないからアスハ代表の緊急脱出手段になって、ついでに応急修理用の部品も積んでね。
だから来た実はムラサメの兵装スペースに武器無かったり、重さで機動性が三割落ちだったり――」
 パイロットでない人間を二人ものせて、冷や汗ものの飛行だったのだろう。
 よく喋るのは、緊張の反動かもしれない。
「――そして来てみたら、まだミネルバは浮いてるじゃないか。ほっとするやら悲しいやら」
「部品、助かってるって、ヴィーノ――メカニックが言ってました」
「それは良かった。一仕事の甲斐があったってものだよね」
 でも、どうしてオーブは『戦艦用反応炉の予備部品』を常備しているのだろう?

「そこは軍事機密って奴だよ、シン君」
「どうしてわかったんです!?」
 今、声に出してはいなかった。
「あ、それは企業秘密」
「なんか、秘密ばっかりですね」
「何処にだって、見てはいけない闇があるよね」
 あくまでもにこやかな、それがアーガイル三尉の返答だった。

「君だってさ、聞かれたら困る質問があるだろう? 例えば、ミネルバのデューテロンビームでセカンドステージMSの
エネルギーをエンプティからフルゲージにするまでは、どれだけ時間がかかるんですか? とかさ……」
「う……そりゃあ確かに正確な時間なんて答えられませんけど」
 口走ったところで、ちょっとまてと思った。
「……どうしてミネルバにデューテロン送電システムがあるって知ってるんです?」
 ミネルバはここまで一度も、重陽子ビームによるエネルギー補給システムを使ってはいないはずだ。
「いいや、知らなかったよ?」
「……へ?」
 予想外の答えに目が点になるシン。
「ただ、デューテロンビームランチャーが艦首にあるのくらいは"見れば分かる"し――」
 『見れば分かる』ために必要な観察力と知識が、シンには想像も付かない。
「後は、予想されるエネルギーとビーム量と、ミネルバの艦載機から用途を推察すればいい。
本当に送電システムなのかは、ちょうど君が教えてくれたところだよ」
「う……」
 それは、機密情報漏洩の瞬間であった。
「さっきは、"おっしゃる意味が分かりません"とかなんとかでお茶を濁すべきだったねえ」
 しかも、駄目押しまで喰らった。
 完敗。
159SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/06/29(日) 02:06:12 ID:???
6/

「ま、同郷のよしみと言う事で、ミネルバが仮想敵じゃあなくなるまではこんなことレポートしないけど、
僕にこんなこと喋っちゃったなんて事は、味方の人たちには秘密にね」
「ハハ…………くれぐれも気をツケマス」
 胸の無線機がずっしりと重く感じながら、サイの忠告にシンは呆然と返した。
 人形のように整ったサイ=アーガイルの顔が悪戯っぽく輝いている。

「……僕の顔になにかついてるかな?」
「――いいえ、なんでもないですよ」
 言われて気付く、かすかな違和感。
 ――人形、というよりは――
「お昼ご飯に出たタコヤキの青海苔が歯についてるって、さっきシズルさんにいわれたばっかりだし」
 タコヤキ。
「そんなの食べてるんですか、オーブ空軍では……いや、なんでもないです」
 そしてシンは気付いた。
「――本当に、気にしないで下さい」
 アーガイルの顔が、鏡に映した様な、余りにも完璧すぎる左右対称だったことだ。工業製品染みた設計。
"する必要がない"レベルの――プラントですら違法な――コーディネイトの痕跡だ。

「つまりはサイさん、アスハ……代表の足ってことですよね」
「そう。ところで"サイさん"って言われるとさ、オーブ語で再三とか採算とかに聞えるよね」
「――え?」
 いつの間にか、会話がオーブ語になっていた。
「更に余談だけど、アーガイルって事は『Eは居ません』って言う事なのかな? どう思う? 
あるいはどっかで、ビーガイルとかシーガイルとか言われて笑われてたりして、ね?」
「あのー……」
 久しぶりで――思考が共通語ベースになっていて――言葉についていかない。
「ここで全然脈絡のない話をするけど、どこかで君の顔を見た事がある気がするんだ。
多分オーブでだよ? ここ二、三年のうちにどこかでテレビに映らなかった?」
「わ……わかりません!」
「そうかあ。どっかの画面で見た事在るような気がしたんだけどね……」
160SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/06/29(日) 02:10:46 ID:???
7/7

 ――ミネルバ 士官室

「ひとつだけ分かったことがある。あの人はどうも苦手だ」
 シンは逃げ帰っていた。
「情け無いぞ、シン」
 情け無いので在る。
「役に立たないわね」
 役に立たなかったのである。
「もしもこの場に、話も歌も巧くって角を立てずに説教できるー、みたいな赤服がもう一人いたら、
"シン=アスカが煙に巻かれたか、しかし奴はわれらの中で一番の口下手"とか言われてるわよ、絶対」
「そもそもシンを行かせたのが人選ミスだったような気がしなくもないが……な。
お陰でザフトレッドも程が知れると思われたかも知れんぞ?」
 だから、シンの扱いが四天王の力馬鹿にまで落ち込んだとしても、反論の出ようが無く、だから
「ぐう――!」の音だけ、出した。

 本心では声を大にしてこう叫びたかった。
 行かせたのはお前らだ!

「じゃ、次は私が行くわ。アンタらはそこで大人しく見てなさい!」
「ルナ、それは多分いっちゃあいけない類のセリっ――!」
「静かに、ルナマリアの気の済むようにやらせてやれ。彼女は動かずには気のすまないんだ」
 両手で口を塞がれたシンと、塞いだレイは、士官室からルナマリアを送り出した。


 三分経過。


「……見られた……まさかあそこでカミカゼが吹くなんて……見られた。見られちゃった」
 こんなうわごとを呟く青い顔のルナマリアが帰ってくるのに、丁度百八十秒である。
「一週間も経ってないのに二回も……オーブ人………………侮れないわ!」
 その一分ほどまえ、翼も無いのにミネルバ甲板の宙を舞った、とあるオーブの三等海尉がいたという。

「ルナマリアもやられた? となると……」
「俺の出番というわけ、か」
 腕組みのレイは、泰然とした表情に決意の色を固めて言った。
 
161SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/06/29(日) 02:12:56 ID:???
危うく真言さんの投下に被るところでした。

次回は多分七月の十六日以降……
それでは皆さんまた今度。
162通常の名無しさんの3倍:2008/06/30(月) 18:05:13 ID:???
投下乙!
次はレイVSアーガイル(仮名)ですかw
どんな戦いになるか楽しみに待ってますよ
163通常の名無しさんの3倍:2008/07/01(火) 01:22:51 ID:???
SEED『†』氏投下乙です
キラさんやっぱTUEEE!
けど話進んでNEEEEEE!
ってつっこみはなし?面白いからいいけどね
164通常の名無しさんの3倍:2008/07/02(水) 02:26:41 ID:???
ハジメ=ヤタテ吹いた
165通常の名無しさんの3倍:2008/07/04(金) 01:29:10 ID:80bQuXjB
あげ
166通常の名無しさんの3倍:2008/07/06(日) 14:47:05 ID:???
騙るスレも職人相談室も堕ちたの?
ちょっと最近油断してたなぁ

つーわけで弐国氏を待ちつつage
今週は投下を期待して良いのかな?
167河弥 ◆w/c45m7Ncw :2008/07/06(日) 22:57:06 ID:???
「四月一日 −No.16 & No.12−」 −Un・expected Guest−


(1/2)

 エイプリルフールの夜。もう二時間ほどで日付も変わる。
 昼間の騙し騙され、見抜き見抜かれの勝率は五分五分と言ったところだろう。
 そんな一日はそれなりに楽しかったもののそれでも疲れたことに変わりなく、俺はルナに背を向けたまま、
テレビをぼぅっと眺めていた。

「ねえ、シン。吊り橋効果って知ってる?」
「ん?」
 ルナの問いかけに俺は生返事を返す。
「『人は生理的に興奮している事で、自分が恋愛しているという事を認識する』ってヤツよ」
「んー、なんとなく……」
 やっぱり生返事のまま、頭の片隅で考えた。
 確か、ドキドキするような環境にあると恋愛していると勘違いする、とかいうのだっただろうか。

「あたし達もそんな感じで始まったって思わない?」
 ルナの台詞に、昔のことを思い出した。
 アスランの脱走にメイリンが加担し、俺が彼らを撃墜したのが始まりと言えなくもないだろう。
 吊り橋効果と言うよりは、寂しい者同士がくっついたと言った方が正確な気がする。
 それでも反論するのが面倒で、適当に相槌を打っっておく。

「ね、シンもそう思うでしょ? あたし達ってちょっと違うのよ。だから別れましょ?」
 突然の言葉に思わず驚愕の声を上げそうになる。
 が、ふと気づいた。今日はエイプリルフールなのだ。
 だから、
「そうだな。うん、分かった」
 と、あっさり返す。
 ルナは少し驚いたように目を瞬かせたものの、数秒後には笑顔になった。
「分かってくれて嬉しいわ。じゃ、残りの荷物はそのうちに引き取りに来るから」
 そう言いながら玄関へと向かう。

 どこに隠してあったのか大きなスーツケースを出してきて、部屋を出て行った。
 玄関のドアが閉じ、俺は考えた。
 ここで飛び出したりしたら、にんまり笑顔のルナに後々までからかわれる羽目になる。
 もう一分くらいすれば、ルナの方が少し拗ねた顔で戻ってくるだろう。
168河弥 ◆w/c45m7Ncw :2008/07/06(日) 22:57:59 ID:???
(2/2)

 しかし。
 ドアが閉じて三秒後には玄関に向かってダッシュしていた。
 何かよくは分からないが、イヤなモノがひしひしと迫ってくるような感覚。

 体当たりするような勢いでドアを開ける。
 開ききった四角い空間の向こう、マンションの廊下に転がり出た。
 向こうに見える星空は、プラント壁面設備の明かりだ。

「五秒三六か。最高新記録だよ。流石はシンだな」
「やぁねぇ。それだけ愛されてるのよ、あたしが」

 聞こえてきた声に、身体が硬直した。
 数秒かけて視線だけをそちらに動かすと、ストップウォッチを持ったヨウランとビデオカメラを構えた
ヴィーノ、それに勝ち誇ったような笑顔のルナがいた。

「えーっと、次はトライン副長だよな?」
「ああ。副長も優勝候補だろ? かなりの恐妻家だから」
「いや、あの人は事態を理解するのに数秒はかかるから、今一歩だと俺は思う」
 後片付けをしながらそんな会話を交わす二人の脇を、ルナがスーツケースを置き去りにしたまま戻ってきた。

「ヴィーノ、結果は今夜中にはサイトにアップされるのよね?」
「ああ。楽しみにしててくれ」
「うん、待ってるわね。あ、シン、スーツケース、よろしくね?」
「おやすみ、ルナ。シンもまたな!」

 それを最後にルナは家の中に、ヨウラン達はエレベータホールに消える。
 微妙に会話から取り残された俺は、そのまま本当に取り残された。
 俺を見ているのは、人工の星の光だけ。
169河弥 ◆w/c45m7Ncw :2008/07/06(日) 22:58:52 ID:???
「四月一日」のバージョン4になります。
(本スレには初めての投下です。「In the 〜」の続きでなくてごめんなさい。)

バージョン2とバージョン3はまとめサイトに置いていただいています。
初めての方はよろしければどうぞ。
(初回バージョンは、事情によりまとめにはありません)

他バージョンを既読の方は、2レス目からだけでもOKです。
170河弥 ◆w/c45m7Ncw :2008/07/07(月) 08:00:41 ID:???
大ポカをやらかしました。

×:「四月一日 −No.16 & No.12−」
○:「四月一日 −No.16 & No.17−」

すみませんでした。
171弐国 ◆J4fCKPSWq. :2008/07/07(月) 20:03:56 ID:???
小さな島に風は吹く
エピローグ〜芝生と煙〜

 国防本部の裏手、二尉の階級章を付けた士官が芝生の上に寝ころんで煙草を吹かしている。
胸の記章を見ればパイロットのようだ。
「構内は禁煙、芝生内は立ち入り禁止だ! 貴様、勤務時間中だな? 幹部国防官が
何を考えているか!?」
 肩から飾諸を吊った二佐が二尉を怒鳴りつけるが意に介さず傍らに置いた携帯灰皿を指さす。
「構内の監視カメラの届く範囲は禁煙だっつーのは認めるよ、アズチ閣下。ついでに此処は草むらで
芝生じゃねぇ。ジョゼフの親父が今朝方、綺麗に刈りこんじまった様だがな。おまえこそ、
こんなトコでさぼってて良いのかよ?」
「閣下は止めろ。それと、俺にも一本くれ。36時間デスクで張り付きだ、30分ぐらい休んでも罰は
あたらんだろ?」
 
 煙草のパッケージを探す為にもそもそと起きあがった男は国防空軍ダイ・ジョーモンジ二尉。
楽して儲かりそう。などと言うあまり感心しない理由で士官学校に入り、勿論成績もうだつが
上がらないまま卒業し任官したのだが、パイロットとしての資質と、何より戦術眼を認められ
任官2年目にして階級を一つあげ、一応部下も2名付いている。
「オーブには不要な人材だ」と自分で言うのはあながち間違っては居ない。
実戦以外で彼が役に立つ場面はそうは無いだろう。彼に偉くなるつもりがない以上、
 当初の楽して儲ける。は、だから達成されているようにも見える。

 一方投げつけられた煙草をさも大事そうに受け取るのは国防軍参謀本部所属のカエン・アズチ。
オーブ氏族の長、アスハの傍流に連なる血脈の持ち主である。ウズミの隠し子とも言われるが
本人も周りもそれについては言及しないので良くわからないし、彼自身は継承権を持つ訳でもない
のだが、ともかく本人がその状況を嫌った事だけが事実である。そしてハイスクールに入学する歳に
実家を離れ、一般の学生として試験を受けた上で卒業し士官学校に入った。
 だが国防軍に任官してしまえばやはり一般と同じ、と言う訳にも行かずに船乗りに、と言う本人の
要望は全く無視され三佐の階級と共に参謀本部へと配置された。
 そして本人としては全くなんの功績もないまま最近階級は更に一つ上がったのだが、
ラインを持たないオフィサーである自身の立場については不満を燻らせている。
 そしてこの明らかに相反する経歴の二人はハイスクールからの腐れ縁であった。

「どうやらヘリオポリスは完全にアウトらしい、――点かねぇや、おいライターも貸せ
――で、G計画で残ったのはストライクだけ、P02はよりにもよってジャンク屋に。――ふぅ……イギリス煙草か? 
イマドキ珍しいな――その上プラントには睨まれ、モルゲンから文句を言われ、政治屋からは体制を
整えろとか言われてだ。寝るヒマ無いだろ?」
 オーブ国内は表向き平常営業であるが政治家と国防軍上層部は大忙しである。
機密事項もかなり含まれているはずの会話であるがそれが外に漏れる事はない事を前提にカエンは
話をしている。友人としての信頼関係ありきではあるのだが、こう見えてダイが職務に忠実である事
の証でもある。
 ただ上手く戦闘機を操れるだけでは、当然だが階級章が重くなることはない。
「エライ奴は給料分仕事しろって事だ。――珍しいだろ? 近頃シルクカットなんざ滅多に手に
はいらんぜ?」


172弐国 ◆J4fCKPSWq. :2008/07/07(月) 20:06:54 ID:???
 国防空軍に所属するただのパイロットのダイには今の所、この状況については関係がないので
お気楽なものだ。
「ちっ。関係ねぇみたいな顔しやがって、もう一本よこせ。そうだ、まだ聞いてないだろう?
工廠からおまえの異動要請が出てるぞ」

「テストパイロットはイヤだなぁ。おまえが知ってるって事はもう拒否出来ねぇって事かよ? 
基本的人権はどうした」
「普段を見直して人並みにそんなものを主張出来る立場だと思ってるのか? それにただの
テストパイロットじゃないぞ? なんと聞いて驚け、MSだ」
「……! ちょっと待てよ、パイロットッたって俺はヒコーキ乗りだぞ? アレは戦車の延長みたいな
モンじゃねぇのか?」

 カエンの胸ポケットで電子音が鳴る。煙草を携帯灰皿に置くと、腕に巻いた端末のふたを開ける。
『二佐、お食事中のところ申し訳ありません。参謀長がお呼びです。至急オフィスまでお戻り頂きたい
のでありますが……』
「了解だ。10分で戻ると伝えろ。――全く新たな体系の兵器だ。大至急優秀なパイロットが必要
なんだとさ。状況が状況だけに早期の実用化に向けて政府がテコ入れしてきた。モルゲン主導で
かなり人を増員するらしい」
 最期に一度煙をすい込むと名残惜しそうに携帯灰皿で丹念に火を潰して腰を浮かせるカエン。
「一度会った事があるがモルゲンレーテのMS担当、シモンズ主任は美人だぜ? 全くうらやましい
話だ。じゃあな」



「そのぶん凄くキビシイ人だっつーの。おまえんトコにはその手の情報は行かなかったんだな。
……駄目じゃん、参謀部」
 危険手当、上げてくんねぇかな。ダイは呟くと、煙草のパッケージを胸にしまってもう一度
草に寝転がった。
173弐国 ◆J4fCKPSWq. :2008/07/07(月) 20:09:47 ID:???
小さな島に風が吹く
第1話『僻地手立ての付く島(前編)』(1/5)

「若いのに早いな? ジョーモンジ二尉。今時分はまだ年寄りの時間だと思っていたが」
「明け番から直接散歩に出ましてね。まだ50前じゃないですか中隊長殿、年寄りぶるのは早いですよ?」
 直径にして数キロの小さな島。東西南北に小さいながらも3つの港と遠浅の海岸を持つ島。本島から直線距離は
近いものの浅瀬と珊瑚礁で大型船は大回りでイーストセントラルと呼ばれる港に着けるしかない。
勿論携帯電話など届くはずもない、近くて遠い島。
 ビーチはあってもほんの小さな平地では観光をウリには出来ず、3つ有る港を生かす漁業しか産業がなかった島。
現在純粋な人口は百余名。その島の西に向いた早朝のビーチ。オーブの軍服が二人、歩きながら喋っている。
「しかし、なんだってこんなところに研究所なんか作る気になったんスかね、モルゲンは。何かご存じですか?」
「さぁな、だがおかげで毎朝散歩が出来る。君ら若者はネオン街がないってのはツライだろうがな。はっはっは……」

 へリオポリス崩壊の少し前、突如この島へモルゲンレーテの研究所が設立された。
島の中央、山の真ん中を強引に削り取り、地ならしして常識の1/4以下のスピードでイーストセントラルへの
まっすぐな道路と共に島の規模から見ればまさに『巨大』と形容できる3階建ての工場兼研究所は出来上がった。
 何の研究をしているのかは定かでないものの、工事の関係者がほぼ国防軍の施設科であったことと
不整地走行車や大型ヘリを使い放題にしたことが工期の短縮につながっているのは明らかで、ならばなんの
研究所なのかも大まかには知れようというモノだ。少なくとも食糧増産や新発電システムで無いことは確かである。
174弐国 ◆J4fCKPSWq. :2008/07/07(月) 20:12:22 ID:???
第1話『僻地手立ての付く島(前編)』(2/5)
  
特装艦アークエンジェルが秘密ドックに里帰りを果たし、もたらした技術がMSの性能を大幅に向上させた頃、
研究所が落成した。それと時を同じくして島のサウスポート付近に国防軍が駐屯地を構える。
そして漸く兵器として使い物になる段階に入ったM1アストレイのテスト部隊、ダイ・ジョーモンジ二尉の率いる
MS小隊4機は、隊の枠組みはそのままに実戦部隊として島に駐屯する中隊へと組み込まれることになった。
 楽して儲けたい男は金の使い道がない上、僻地手当まで加算された給与明細を見てため息をつくことになった。

「まぁ、使う所が無い分、金は貯まる一方でして。一生居ろと言われないなら景色も良いし、悪かぁ無いですが」
「煙草を止めりゃ口座にも健康にも良いだろうな。マイルドセブンか、高いのだろう? あぁ、ビーチは禁煙だぞ?」
 わかってますよ。と言いながら胸をまさぐろうとして上げた腕を額の上にかざす。遠浅の海が眩しく光を跳ね返す。
「ところで例のパナマ云々の噂はどうなったか、聞いてますか?」
「どうやらザフトは本格的に戦力を集中するらしい。軍(ウチ)の諜報部と、政府の情報調査局は寝るヒマも無い様だな」
 軍人である以上二人とも動向は気になるのだが、そうは言っても他国の戦争(いくさ)。野次馬的興味である。
彼らの国がオーブ連合首長国である以上、今現在、彼らに直接火の粉が降りかかることはほぼないと言えた。

「アークエンジェルの一件以来、ザフトも態度を硬化させているしな、諜報部は今色々大変らしいぞ」
「そういえばアークエンジェルの艦長と副長、なかなか美人さんだったそうで。お会いしたかったですねぇ」
「美人でグラマーな艦長に、冷静沈着な敏腕副長。確かにラミアス少佐とバジルール大尉は技術研で噂になっとるな」
 だいたい朴念仁の中隊長が知っているくらいならかなりの美人だったに違いない。見るだけでも見たかった……。
ここ暫く年頃の女性と言えば、偶にMS関連で話すことのある研究所の受付嬢ぐらいしか思い当たらないダイである。
「……そういう目で研究所のお嬢さん方を見ているのではあるまいな? 事此処に関しては何か間違いが有れば
途中は飛ばしていきなり懲戒免職だからな。俺も管理責任を免れん。家族が居る、退職金減額は勘弁してくれよ?」
ダイは真顔で話しかける上司に、冗談じゃない、こっちこそ勘弁して下さいよ。と言いながら宿舎へと足を向ける。
研究所の職員に手を出すのはいくら何でもヤバイ。研究所へは諜報部や情報局の黒いスーツが3日と空けずに
ヘリや船で出入りしているのだ。国家規模のロクでもない研究をしているのが間違いない以上、職員と一緒にビーチに
降りただけでもスパイ容疑をかけられかねない。それこそ懲戒免職ですめばいい方だろう
 可愛い女の子がいれば友達くらいにはなりたいが、命の方が絶対大事だ。
そう言った意味では駐屯地の食堂のオバチャンの方が何倍かマシだ。
「せっかくテストパイロットから逃げ出せたのに今度は幽閉かよ。全く……」
 ダイは振り返ると一尉の階級章を着けた上司の姿が見えなくなったのを確認して、煙草に火を付けた。
175弐国 ◆J4fCKPSWq. :2008/07/07(月) 20:16:36 ID:???
第1話『僻地手立ての付く島(前編)』(3/5)

「正直、間近で見たのは初めてだ。威圧感だけでも相当だな、これは。制圧に使われたらたまらんぞ、確かに……」
 煙草をくわえながら惚けた様にM1アストレイを見上げるのは制服姿で肩から飾諸を吊ったカエン・アズチ二佐。
諜報部でも下っ端の人間が来るべき研究所との連絡係の役を、何故か参謀部の彼が買って出て『僻地』の島にいる。
色々と言いたい事はあるのだが、マールボロ2カートンを手土産にMSを見せろと言われればダイに断る理由など無い。
まぁサボりたかったのだろうな。と素直に思っておく事にした。ヘリコのパイロットも海岸でのんびり昼寝が出来る事だし。
「参謀閣下、来るなら最初にそういってくれよ。可哀想に、ウチの中隊長殿は退職金と年金の減額に怯えているぞ」
「……? なんの話なのか、俺にはさっぱりなんだが。政府のエージェントも来ている様だがそれ絡みか?」

 砂浜には午前の演習で使ったアストレイ2機が片膝を付いて止まっている。メカニックは洗浄が大変だから止めてくれ
と泣いて止めたのだがダイに聞く耳はなかった。イーストセントラルポートにはリニアガンタンクや自走砲が海を睨んで
いるしノースとサウスのポートでは小型レジャーボート以上の接岸は出来ない。揚陸艇が来るならばビーチ。
だから、そこで走ったり飛んだり出来なければ、アストレイなどただデカイだけの的になるしかない。
 MSとしては相対的に機動力は高いのだろうが『敵』はMSが全てという訳でも無かろう。と彼の属する中隊の長、
ヨコヤマ一尉が口にした時点で砂浜での演習は決まった。但し『敵』の定義は曖昧であるのがオーブ国防軍ではある。
 そして平時の訓練こそが有事の的確な行動に繋がる。とその辺の哲学はキチンと教科書通りのそれであるダイだ。

「無限軌道よりも二足歩行の方が使えそうじゃないか? ダイ。障害物をジャンプで越えられるんだろ?」
「データの打ち込みと設定変更。結局それだけで午前中終わっちまったぜ? まだまだ、だな」
 実際シモンズ博士直轄のテスト部隊やコーディネーターで構成された部隊については、空中戦や空間機動戦を前提
の訓練まで始めていると聞く。翻って自らのMS小隊。ダイ以外の機はたった今、有事となったなら瞬殺されかねない。
 楽をしたいのはそうなのだが、手を抜くってのはそりゃ違うだろうな。そう思うとダイは一つため息をつく。

「なぁ、カエン。ところで何しに来たんだ? わざわざヘリコ飛ばして岩陰で煙草を吸いに来た訳じゃないんだろ? 
そうだったら写真付きでオロファトジャーナルに情報売り飛ばしてやる。税金の無駄使いだ」
「だから賄賂にマールボロを持ってきてやったろう、本物だぞ? ――用件としては個人か公人か微妙だな」
 カエンの性格を考えれば出来る立場であってもサボりに来る訳がない。俺に仕事絡みの用事? 顔を見返すダイ。
「研究所(ここ)で何をやっているか、知りたくはないか?」

「新型MSの開発、じゃねぇのか? M1みたいな量産型じゃないヤツの、OSとかの一部分……。たぶん、だがな」
「っ! おまえ、誰から…………」
「ヤッパリか……。たぶんつったろ? X105が使い物になるのがわかった以上、自分も欲しいだろ。常識的に考えて」
 胸のポケットから真っ赤なパッケージを取り出すと封を切って、煙草を取り出すと口にくわえる。 
「データ有るんだから簡単にコピー作っても良いんだろうが、我が国のエライさんは実に凝り性の連中が多いからな
それに全部工廠でやるよりはOS見たいな基本部分だけでも実績のあるモルゲンに作らせた方が早いし確実だ。
リスクも分散できるだろうしな。世界的にきな臭い方向に向かっている以上、そう言ったものを作っておいて有事となれば
氏族の、だれか若いヤツを乗せて国民と国防軍の戦意高揚を計ると」
 今やオイルを調達するのさえ面倒なライター。カキン、と音を立ててそのふたを開けるとくわえた煙草に火を付ける。
「ふぅ、煙が硬いな――カガリ様なら俺だって高揚するが、それはさすがにウズミ様やホムラ様がウンとはいわんだろ?」
「……次期から参謀部か諜報部に異動しろ、おまえ」
176弐国 ◆J4fCKPSWq. :2008/07/07(月) 20:21:53 ID:???
第1話『僻地手立ての付く島(前編)』(4/5)

「まぁ、そうでもなけりゃこんな島にわざわざ中隊規模の部隊は駐屯しねぇわな。誰でもわかる範疇の話だと思うが?」
「……それは話の前提だ。一部の犯罪組織がこの島に目を付けた。……有り体に言って研究所が襲われる可能性が
出てきたんだが、国防軍はそういったモノが相手では法的に動きづらい。中隊長にも警告しておいてくれ」
 そんなのは警察の仕事だろうが。と言いかけて駐在しているのは初老の警察官が一人なのを思い出すダイ。
彼に武装した犯罪者組織へ立ち向かえと言うのは、それは確かに死ねと言うのに等しい。
まさかそう言った連中が魚釣りで決着をつけるぞ! とはいわんだろうな。それなら勝てそうだが。

 取り留めのないことを思いながら、煙草をくわえて何となくM1を見上げるダイである
177弐国 ◆J4fCKPSWq. :2008/07/07(月) 20:25:02 ID:???
第1話『僻地手立ての付く島(前編)』(5/5)

「もう、10時過ぎたの……? ビーチが目の前なのに敷地から出ちゃダメだなんて……」
 袖に会社のマークとオーブの国旗の付いたオレンジのブルゾンを椅子にかけ、窓まで歩いてブラインドをからげると
彼女はそう呟く。徹夜明けの目に太陽が突き刺さるが、気にせず目を細めながら眼前に広がる海を見る。
 もっとも泳ぐのが得意な訳でもないし、日焼けなどしようものなら次の日には真っ赤に腫れ上がって七転八倒の
苦しみを味わうのは間違いないのだが、どう見てもロケーションはひとけのないリゾートである。
ならば海岸を散歩するくらいの楽しみは社員に与えても罰は当たらないだろうに。と思うとため息をつく。

 彼女、コーネリアス・イタバシはモルゲンレーテの国防軍用機器の開発を行う公共特機開発部に所属している。
その中でも彼女が籍を置く特殊機構プログラム課はMSのOSに特化した部署であり、彼女はこの研究所で、一応専用
の部屋を貰う程には評価をされている。今はどうやらアストレイではない新型MSのOSの一部を作っているらしい。
 らしい、と言うのは彼女が自分でも、いったい何の仕事をしているのか良くわからないからである。
ただでさえ自分の専門分野以外は見えにくい所に持ってきて、効率化と機密保持のための極端なセクト主義。
社内ではプロジェクトの全体が見えているのは本社のプロジェクトチーフ、シモンズ女史ただ一人、とさえ噂される程だ
そんな訳で、彼女が苦心惨憺仕上げたプログラム(の断片)が一体に何に使われるのかは、彼女には知る由もない。

 軍事機密に関わる仕事であるが故、敷地からの外出禁止は勿論の事、建物内部であっても彼女のIDカードでは
入れないドアの方が多いし、そこには例外なくサブマシンガンを携えた警備員が詰めている。
彼女でなくとも気づまりになろうと言うものだ。特に彼女の場合はプログラム技術を認められて抜擢されたものの
それまでは動作テスト後のアストレイの整備の仕事を、それなりに気に入ってやっていたのである。
「ビーチはともかく、工場があるのに入れないのは、これはイジメだよなぁ。」
 自分はプログラムより機械いじりが性に合うのだと思うとまたため息をつく。それと同時に机の端末が
小さくチャイムを鳴らして徹夜の成果品を政府のエージェントに渡せる形にコピーが終わったことを伝えた。
178弐国 ◆J4fCKPSWq. :2008/07/07(月) 20:27:52 ID:???
今回分以上です

『小さな島に風が吹く』がタイトルです。
タイトル間違うって……

ではまた
179通常の名無しさんの3倍:2008/07/08(火) 00:46:08 ID:???
弐国大活躍の巻〜。乙
180通常の名無しさんの3倍:2008/07/08(火) 11:25:05 ID:???
>>河弥
とうとう独立シリーズ化w 乙です

>>弐国
本スレにもまとめにも投下 大変乙です

>>まとめ
いつも乙です だが、おしい
○ 小さな島に風が吹く
× 小さな島に風は吹く
181通常の名無しさんの3倍:2008/07/08(火) 23:01:08 ID:???
河弥弐国、両氏とも投下乙
四月一日以外にも、七夕バージョンみたいなのも有れば読んでみたいですが…
そしてミツキ親子のシリーズ化希望!
182通常の名無しさんの3倍:2008/07/09(水) 20:10:23 ID:???
>>タマシイ
投下乙
既にガンダムじゃない……だがそれが良い。と言うところか
『一つ積んでは父の為、……』笑いを取ってどうするw
と思ったがそもそもテンション高いのだったな、あんたの書く彼女はww

>>SEED『†』
投下乙
ハジメ=ヤタテは確かにガンダムと名の付くところには必ず登場する『研究グループ』だわな
某御大よりもよほどMS全般に詳しいことだろうwww
サイ=アーガイル(仮名)の扱いも冴えてるな、如何にもおまえさんな感じ

>>4/1
投下乙
ドリフのもしもシリーズを思い出したw
もう少しだけあっさりした方が良いかも知れないと思いつつ
まとまりもふいんきも良し

本当はこう言うのが書きたいのではないか?
と言うか本編お休みでちょっとこの方面で書いてみてはどうか
ファンは居ても義務が発生する訳ではないのがSSな訳だし

>>風
投下乙
地の文はワザと硬い表現に拘ってるかな
何かダイとカエンのコンビは面白くなりそう
ところで今回、萌え少女はどうなっているのか聞いておきたい
三作連続で出しておいて今回はは無しとか、そう言う寂しいことをいわ(ry

>>砂漠2
投下乙
ホントはあっちに書くべきなのだろうがめんどくさいのでこっちで

珍しくスピード感を感じて一気に読まされた
『砂漠』であるので主人公は誰でも一人称なのだな。是非続編を。
クラスメイトに(設定的に)何か仕込んでそうで楽しみ
投下はまとめ限定なのかな?
183通常の名無しさんの3倍:2008/07/10(木) 20:15:59 ID:???
>>182
ドリフにワラタ
つか、もしかして同年代?(当方昭和40年代なかば)
184通常の名無しさんの3倍:2008/07/11(金) 23:21:12 ID:???
おっさ…
185通常の名無しさんの3倍:2008/07/11(金) 23:40:21 ID:???
>>183
ほほぉ、奇遇だな。あんたも18歳か

>>184
とりあえずなんだ、氏ね
186通常の名無しさんの3倍:2008/07/12(土) 14:01:10 ID:???
嫁とも子供ともガンダムの話ができる俺 ヒャホイww
187通常の名無しさんの3倍:2008/07/12(土) 14:51:38 ID:???
>>186
ある意味理想の家庭だ

まずは嫁さんを捜さなければ

ドコにいるんだろう、オレの嫁さん……orz
188通常の名無しさんの3倍:2008/07/12(土) 14:57:42 ID:???
嫁にはあんたまだガンダムなんてはまってるのと罵られ子は話しても興味も示してくれん俺は負け組orz
189通常の名無しさんの3倍:2008/07/12(土) 15:03:16 ID:???
夫婦でガノタで職人やってる方々は勝ち組なんですかね?誰とは言いませんが。
190通常の名無しさんの3倍:2008/07/12(土) 18:29:01 ID:???
>>190
負け組乙!
191通常の名無しさんの3倍:2008/07/12(土) 19:13:56 ID:???
>189
本人が幸せなら勝ち組さね

>190
見事な自己紹介乙w
19245  ◆Ry0/KnGnbg :2008/07/13(日) 00:54:32 ID:???
振られてヒマだったからss書き始めた自分負け組みw
193通常の名無しさんの3倍:2008/07/13(日) 07:42:06 ID:???
彼女作れよ
194通常の名無しさんの3倍:2008/07/13(日) 18:30:11 ID:???
女があれなら












男 が あ る じ ゃ な い か
195通常の名無しさんの3倍:2008/07/13(日) 19:03:31 ID:???
アッー!
196戦史:2008/07/14(月) 11:31:33 ID:???
ご無沙汰しています。本日、夜位に投稿いたします。
暫く、過去編ばかり書いていていましたが、流石に書いてて疲れるので
1〜2話後に現代編に移行しようと思います。艦隊戦メインで書きたいものです。
197通常の名無しさんの3倍:2008/07/14(月) 11:36:03 ID:JY0l8gQ2
戦史さん期待age
198機動戦史ガンダムSEED 39話 1/:2008/07/15(火) 02:00:49 ID:???
 「私を……?」
 「――そうだ。例えば、この論文」

 驚く私に対して、サイは論文の束を手で叩いて示す。満足そうな口元には笑みがあった。

 「――実に興味深かった。堅牢たる論理と実現性の高い経済改革を織り交えている。
――このままなぞるだけで、国家的な規模で展開できる経営理論だ」
 「それは……」

 私が口を開こうとすると、まぁ、待てと、彼は押し止める。

 「――カズイ、お前にこれほどの”才能”があるとはな」

 困惑している私に対して、サイはニヤリとシニカルな笑みを浮かべながら絶賛する。
 
 ――私としてはいささか、調子が狂う。このような流れになることは想定外なのだ。

 「絶賛してくれるのは、面映いのだが……」

 どれだけ優れた経済政策を私が打ち出しても、肝心の政府が馬耳東風である。
 
 ……ならば所詮は机上の空論に過ぎないではないか?
 
 しかも、私が企画しているこの経済改革案は、現在のオーブ政府の政策に180度真逆のものである。
採用される可能性は極めて低く、ようするにゼロに等しいのだ。

 そう私が応えるのだが、サイ・アーガイルは特に気にした様子も無く、そのままこの経済計画に
必要規模の資産の投資方法と投資資本分の回収率とを質問して来る。

 このようにして。サイの高度な専門知識に驚きつつも、私は問われるままに答えてゆく。

 暫しの時間を経て、互いにかなリの高度な経済政策論を展開できる知識を蓄えている分、
双方に専門知識が無いと、とてもではないが、成立しえない内容の論議となる。

 このままでは、話はますます専門的な分野へと移ってゆくことになろう。
199機動戦史ガンダムSEED 39話 2/:2008/07/15(火) 02:02:22 ID:???

 「ちょっと待て。最初に言っておくべきだったかもしれないが……」

 ……今更、この場でこのようなことを論議してどうするつもりなのだ、この男は?
 その結論に至った私は一端、論議を中断して彼のその真意を問い糾したくなっていた。

 「――うん」?
 「今、私と君で展開している経済政策なのだが、このままでは結局のところ、只の議論に過ぎない」

 ――実際に私の志しているものは、議論の為の学問ではない。”政治”としての経済そのものなのだ。

 経済とは、文字通り「世を經(おさ)め、民を濟(すく)う」の意である。

 本来はより広く政治・統治・行政全般を指示する語であったのだが、今日の意は、
些か宗旨が異なるものになろうが、大意としてそう捉えて貰って構わないだろう。
 
 私自身、戦時中の経験から自分が全く戦いに向かない人間であったし、あのAA時代において
何の役にも立たなかったがその屈辱こそが現在の私の躍進への反動となった。
 
 そして、その当時から今に至ってその不甲斐なさの反発として、自ら何が成し得るのか?
という人生最大の目的を模索し始めた時期であった。
 
 ――今になって当時を振り返れば、この時期にサイ・アーガイとル再会したことは、
その成果が試される運命であったのかもしれない。

 ……話は逸れてしまったが、この時も私としては自身が培ったものを、ただの机上の空論
として終わらせることは耐え難い苦痛だった。
 書生論を交わすだけの談義などは、時間の無駄以外の何ものでもないことだからだ。

200機動戦史ガンダムSEED 39話 3/:2008/07/15(火) 02:07:07 ID:???
 それを察したのか、サイ・アーガイルは、

 「――ふむ、お前はの主張はよく解った。この場での俺との論議など意味は無いと云いたいのだな?」

 と私の内心を見透かしたかのように結論を結んだ。私は論文の束の方へと視線を移しながらも、

 「――そうだ。議論する段階は既に過ぎている。私がここに書いたものは、実行に移さなければ全く無駄で意味の無いものばかりだ」
 「検討の必要すらないと?」
 「――ああ」

 と、そう断言する。論ずるより先ずは行動に移すこと事こそが肝要であるのだ。私のその答えにサイは一つ頷くと、

 「――俺も大いに賛成だ」

 サイ・アーガイルは一息を吐くために、コーヒーを一口啜ると、

 「――なるほど、諸士の議論は喧しく論ぜられても、世に国家100年の大計をたてる経世の才はそう多くない……」
 「……サイ、100年先も大事だが、現在のオーブは、ここ数年先の見通しも成り立たないのが状況だろう?」

 ――実際に笑い事で済ませることはできまい。

 ――私とサイは、この時期のオーブの政治家としては珍しく”国家”というものを目に見える形で、
数字で表現する事ができる存在である。
 その為、現在のオーブ財政を数字で表現してみれば、オーブの国家崩壊が間近に迫っていること
ヒシヒシと感じていたものだった

 この当時の私の目から見ても、この時期にアスハ新代表万歳やらユニウス条約を盾に寄せた
オーブの独立など狂気の沙汰にしか思えなかった。

 ”金”よりも”理念”とか妄言をのたまう輩などは、現在のオーブには必要ないと私は断言しよう。

 ――今、オーブに必要なのは無能な新代表ではなく、何よりも『金』なのだ、と。

 あの大戦で馬脚を現した、ウズミ前代表の”中立主義”。

 金縁で彩られ、輝けんばかりの理想として中立国家オーブの看板なのだが、実際に金縁だと思っていたものは、
物の見事に鍍金が剥がれ、所詮は己を飾るだけの安物だということを暴露した。
 
 オーブ国民は見事にこの『無能な独裁者』に騙されていたのだ。

 
201機動戦史ガンダムSEED 39話 4/:2008/07/15(火) 02:10:29 ID:???
 この時期のオーブにとって”中立理想”という理念など銅貨一枚分の価値もない。それによって国家は運営できぬし、
何よりも国民を養うことなど不可能である。

 『――何事も金である。金が無い政府など看板だけの只の飾りに過ぎない。金があってこそ政府は、国家として機能する』

 後日になるが、我々が実行した経済政策に対して、旧ウズミ派や門閥氏族どもが大反対をのサイレンを撒き散らしたが、
まともに相手にするつもりも無く、面向って安っぽいウズミの理念を唱える輩を相手にする度に、サイも私もよくこの例えを示したものである。

 ――話を戻そう。この時、100年先の大計よりも、ひとまず差し迫った困窮についてはこの男は、何も応じず、

 「お前……今のオーブをどう思う?」

 と、別の話題へと持っていった。この時も何をいきなりと思ったものだが、私は反射的に応えていた。

 「……一言でいえば最悪だな。国家として成り立っている方が不思議なほどの砂上の楼閣だ」
 
 確かに今のオーブは最悪だろう。あの”アスハ”を再び代表に据えようとは、正気の沙汰とは思えない。
 一度国を滅ぼした男の親族なと誰が再び指導者として据えようとするのか?

 国民の大部分が本気でそう考えているなど私は信じていない。これは政府内に根強く蔓延っている一部のアスハ派の狂信者と
氏族連中によるプロパガンダによるものなのだろう。
 似た例として、あのプラントにも未だに、クライン派と呼ばれる、テロリスト支援者達が数多くプラント政府に蔓延っていると聞いていた。

 「得てして妙だな……。その通りだ。俺もこのままでは、遠からずオーブは破滅するだろうと結論を出している」
 「……そうと分かっておきながら、君は、アスハに尻尾を振ってでも、今の政府に身を置いているのか?」

 その点を私が指摘すると、サイは苦笑しながら首肯した。

 「――今はまだマシな方だ。宰相たるセイラン卿が政府の実権を握っているからな」
 「セイラン卿……ウナト・エマ・セイラン卿か……ふむ」

 
202機動戦史ガンダムSEED 39話 5/:2008/07/15(火) 02:13:10 ID:???
 ――ウナト・エマ・セイラン卿は、再建したオーブ連合首長国の五大首長の一人だ。

 現実的で堅実な実務とその外交上の辣腕ぶりで大西洋連邦の首脳部と上手く綱渡りを渡り合っている。
 オーブでは珍しく有能な氏族首長であり、政治家でもあった。
 
 現在再建中のオーブの復興の殆どは彼の手腕であるといっていいだろう。
 さらに付け加えると、多少は甘ちゃんの彼の息子のユウナ・ロマ・セイランもアスハ信奉者からの評判は
あまりよろしくないが、中々有能な政治家と私は見ていた。

 彼等は無能揃いのオーブ氏族の中では珍しく有能な部類に入る人間であろう。
 ただし、オーブの国民の評価が低く陰口も酷いもので成り上がり、大西洋連邦の犬など、心無い中傷を数多く受けている。

 だが、政治などいうものは、国民の要望通りのことを実行に移せば、国内は滅茶苦茶になるのが常である。
 皮肉な例として挙げれば、現に国民の理想通りの指導者であるウズミ前代表の指導の下でこの国は一度滅んだのだ。
 
 ――政治は結果が全てである。途中までの成功など最初から失敗よりも質が悪い。

 そして現にセイラン卿は見事に結果を出しているし、ウズミは失敗した。
 ……それだけのことだ。
 
 なのにそれを認めようとしない輩が何と多いことか――。
 だがそれでも国民はアスハを支持しようとしている。昔の幻想から逃れられないのだ。

 途中まで成功など最初から失敗するよりも始末負えないとはこの事だ。最初から中立政策など失敗していれば
ここまで傷口が大きくならなかっただろうに。

 ――TVから流れる茶番劇が忌々しい。未だにアスハの幻想に踊らされている連中が多いのがよくわかる。
203機動戦史ガンダムSEED 39話 6/:2008/07/15(火) 02:16:05 ID:???
 恐らく、セイラン卿もこの手の現実的にものを見ることができない狂信的な連中の恫喝によって
大西洋連邦との関係を築くのに苦労しているはずだ。
 
 ――例えば、私がオーブ政府の中枢を担う要人であるとしよう。
 
 私なら、もしも大西洋連邦からかなりの好意的支援を取り付ける事が可能とならば、彼等、
大西洋連邦の高官達の靴の裏さえ舐める事ができる。
 セイラン卿も恐らく私と同じ心境であろう。だが、アスハ新代表や他の五大氏族の連中にはそのような真似はできない。

 今更、二束三文にもならない、無駄な”氏族の誇り”要はプライドとやらが邪魔をするのだ。
そして現実も見えない馬鹿な連中はそれに熱狂し、狂喜する。それが、今のオーブの現状だ。

 結局のところ、国家全体を視野に入れて活動すれば、国民からの支持を得るの、ほぼ不可能なのが政治というものである。
誰だって、税金を安い方がいいし、無条件で公共や福祉事業の拡大と充実を求めるのは常である。
 
 だが、そんな事は不可能なのだ。
 
 その不満を抑える為に、現代の国家群の首脳部では、軍事力を背景とした政治が執り行われている。
 無論のこと、地球連合を形成する大国間では、民主主義など完全に形骸化していて、資本を背景とした
軍需産業のトップと大財閥の意向による、国家経営が行われている。こんなものは昨今、もう珍しくも何とも無くなっている。

 従って今の政治家の役目は既得権を持つ連中に有利なような政治を心掛けねばならない。時代の流れであろう。
 国民から罵声を受けるのが役目とはいえ、このような有能な政治家が割が合わない批判されるのが、今の時代なのだ。
 
 そのような感慨を私が抱いていると、サイは徐に口を開いた。

 「お前には分かると思うが、セイラン卿はアスハ新代表を象徴として据えて、馬鹿どもを黙らせた後で、
じっくりと腰を据えた政治をしようとしていた。だがな……」

 私は、サイがその先何を言うのかを察した。
204機動戦史ガンダムSEED 39話 7/:2008/07/15(火) 02:19:46 ID:???
 「……ふむ。その先は言わなくてもわかる。肝心の”お飾り”が御輿では満足せずに、
自らの意志で勝手に動き回ろうとしている訳だな?」

 私が結論を先んじて述べると、サイは鼻を鳴らしながら、 

 「その通りだ」
 
 と簡潔に応える。

 「……フン!」
 
 舌打ちを禁じえない……致命的だ。無能な”お飾り”が勝手に動き回るほど、国やその政務担当者が迷惑を被ることもないだろう。
無能なお飾りとはいえ国の代表なのだ。
 
 ましてやこの国難の直後だ。今はひたすら国の復興と体力を取り戻さねばならない時期である。
 大国からの援助がなければ、一月ももたずに小国のオーブは破綻する。
 大西洋連邦の意向に沿って、国力の回復を待つべきだろう。今は理想がどうのとかを唱えている場合ではない。
 
 そのように、私なりの見解を述べると、

 「――至極、最もな意見だ。だがな、時代の潮流というものは、そう悠長なものでもない。
多少は目端が利く者なら、既に新たな動乱の予感を感じられずいはいられまい。――お前は違うのか?」

 歴史を一つの大河として見ると、時にはその流れは奔流となって周りの全てを押し流そうとする。
それには個人は無論のこと、国家ともいうものも一気に押し流され、奔流の中で悶え苦しみ、やがて消滅する。

 そう言いながら、サイは物騒な笑みを浮かべながら、私に答えを促そうとする。
 
 ……私はここ数十年の間、世界は国力の回復を待つ休養期間と見ていた。
 ヤキン大戦で各国家群が被った被害は数字的にみても天文学的規模だ。
 
 従ってこの後、数十年は大きな動乱を起こす体力は皆無であろうと考えていたのだが、同時にあの”ユニウス条約”の
曖昧さにも危惧していた。条約の条項を見ればわかるが、あまりにも各国の自主的な対応部分が多すぎるのだ。

 
205機動戦史ガンダムSEED 39話 8/:2008/07/15(火) 02:22:20 ID:???
 国家が他国のために利害ではなく好意的な政治するなど先ずはありえない。

 皆、自国に有利な状況に持ってゆくためにギリギリの線で条約の殆どが無視かあるいは、軽視される可能性が高い。
 従って、このような条約を結んだ所で、余りにも意味が無いことだろう。

 だがサイはと云うと、私の意見にある程度の同意を見せながらも再び動乱を予期しているという。

 「……極論だな。既に世界はヤキン大戦という殲滅戦争を経ている。私としては、この短期間の内に再び大戦を
勃発させるほど人は愚かではないと考えるのだが?」

 ――取り合えず私は無難な答えを投げてみる。差し障りが無い上に無個性だと自分でも理解している、が
彼の腹の内が未だに分からない以上、こちらの考え材料の幅を増やす切っ掛けとしても、或いはある程度の言質を
引き出す為にも向うの出方を見るほかあるまい。

 サイは一瞬だけ、失望したような表情を浮かべるが、直ぐに私の真意に気がついたように、苦笑する。

 「……聡いなカズイ。俺の事をまだ信用できないということだな?」
 「……その通りだ。今、君を全面的に信用することはできん。それが、かつての旧友であろうと、な……」

 ……やはり、こちらの意図を一瞬で見抜き、看破したようだ。この反応を見る限りにおいても
これ以上私は、彼に隙を見せるのは危険であろう。

 「だがな、その強がりも、この場で俺に殺されては意味があるまい?」
 「ならば、私はその程度の人間だったということだ。人を見る目の無い愚かな男がここで一人、この世から消えるだけだ」

 そう言いながらも喉の奥から笑いが込み上げてくる。ここで殺されるなら、それならそれでもいい。
 今のこの時代に他人を信用する事がどれだけ危険で愚かなの行為か理解はしていたが、どうせ殺されるなら、
見知らぬアスハ連中よりも、まだしも昔馴染みのアスハの犬に殺される方がマシではないかと心の片隅で思っていた。

 「クッ……あっははは」
 「……?」 

206機動戦史ガンダムSEED 39話 9/:2008/07/15(火) 02:29:58 ID:???
 サイは私のその態度を大きく笑いとばすと、いきなりまた話題を変えてきた。

 「……なぁ、カズイ。お前、この世の中を司る”力”とは何だと思う?」
 「……力?」
 「そう、この世界を司る全ては、”力”の法則で動いている」

 ……哲学の話なのだろうか?
 
 私自信、人生哲学というものをまるで信奉していない。”力”というものは直接的なものであって、
決して抽象的なものではないと捉えていたからだ。
 
 曰く、それは軍事力であり、財力であると。
 だが、サイは私のその内心を読んだかのように話を続けた。

 「――分かりやすく言えば、この世の中の仕組みは何らかの物理的強制力の保有という裏づけをもって、
他者をその意に反してでも服従させるている。言わば支配の為に”力”というものは存在している訳だ」
 「……危険な考えだな」

 そう、危険な考えであるが、一面で真理でもある。

 私達の今現在の社会情勢において”力”とは能力に直轄する。
 それは、昨今までナチュラルとコーディネイタ―という種の生誕差別に繋がっていた。
 
 が、ことの真理はそのような単純なものではない。コーディネイターとの能力差は、急速なハード関連の
発達によって埋められつつある現在、然程の差では無い。

 例えが古いのだが、かつて算盤と呼ばれた計算器具が存在し、それを操る技能によって各個人に差が生じた。
だが、電気計算機の登場によって技量による差など無くなった。

 その事例があるように、人間の能力などたかが知れている。
 
 ――ナチュラルとコーディネイター。
 
 現在のOS改良も量子コンピューター自己進化プログラムシステムによって人間の能力など比較にも
ならないほど高レベルの改良がなされるようになっていた。

207機動戦史ガンダムSEED 39話 10/:2008/07/15(火) 02:38:27 ID:???
 人間の存在意義は、生まれもった能力だけではない。ましてや人間の能力など
遺伝子を幾ら弄ろうとも、たかが知れている。

 昔から人は熊に腕力では勝てず、脚力は馬には遠く及ばない。
 
 それが何故、地球上霊長類の頂点に立てたのだろうか?それは応用できる”知恵”を持っていたからであろう。
 そして幾ら遺伝子を弄り回して無理に能力を高め、脳内でCPU並の高速計算ができようとも、
或いはOSをその場で書き換えるなども、只の技能や知識に過ぎない。

 人類は常に進歩してゆく。遺伝子なぞを弄らなくてもそれらをどれだけ上手く活用するかによる。
そのような時代に移り変わりつつあるのだ。それら小手先の技能など現在のハードウェア技術に掛かれば児戯であろう。

 人間の真の本質とは知恵に他ならない。


 「――俺は必ずその力を手に入れてみせる」

 力強い声が私を現実に引き戻した。

 「……サイ」

 暗に彼はそう仄めかしているのだ。それに私に加われと。この人界においての”力”それは”即ち”権力”を……。
 権力の腐臭を知る、私にそれを言うのか……と思わず口を開きそうになる。が、バイザーを外した彼の深い眼差しが私を捕らえて放さなかった。

 一度、その最高のコーディネイターとやらによって人生の挫折と屈辱を味わった男――。
 
 そこには、不遜で野心に満ちた瞳を持った男がいる。何時の時代にも存在する野心家の瞳だ。
 そして、同時に私は彼のその瞳に深く引き込まれていた。

 ==========================================

 ”後にオーブの政治と軍事を司る事になるサイ・アーガイルとオーブの国家財政を司るカズイ・バスカーク。
 二人の再会によって一国の歴史が大きくか変わる事になろうとは、後世の歴史家は兎も角、この時代に生きる人間には想像の外にあった事だろう。
 事実、この時を境にして、絶大だったオーブの氏族主義は衰退し、ウズミ・ナラ・アスハの掲げた中立理想主義は事実上消滅の道を辿ってゆく。
 同時にウズミ・ナラ・アスハの信奉者達の辿る運命も過酷なものとなり、それに反比例してオーブという国家そのものが、
太陽系内の覇権国家としての道を邁進する事になる。
 
 初期の太陽系国家の歴史を紐解けば、この日、この時も歴史の潮流の分岐点の一つとなるのだろうか?”


 ――太陽系国家興亡記より大意抜粋

208通常の名無しさんの3倍:2008/07/15(火) 15:31:28 ID:???
ととモノ。クロスを書いても良いですか?
209通常の名無しさんの3倍:2008/07/15(火) 18:12:33 ID:???
>>208
書きたいものを書きたいように書くのがここの流儀だ
テンプレから外れなければおk
210通常の名無しさんの3倍:2008/07/18(金) 09:15:40 ID:???
種・種死を題材とした短歌を書いてもよいですか?
211通常の名無しさんの3倍:2008/07/18(金) 11:13:18 ID:???
>>210
反応とか感想が得られなくてもOKと思えるなら大丈夫じゃね?
個人的には短歌って切り口は珍しいから見てみたい
でも風流がわからん人間なんで感想は書けないかも
212通常の名無しさんの3倍:2008/07/18(金) 15:28:23 ID:???
短歌ならいいけど狂歌なら微妙。
ルナは蝶 ネオンの街を 羽ばたくの 密かに女の 業抱きしめて

ルナは愛 日陰の女 忍ぶ恋 誰にも言えぬ 今宵ひととき

何故そこで 握手をするの 役立たず 男だったら destroy them all

疼く果実 痛みを今も 感じるの シンの注射器 大きすぎるから

桃色の 髪艶やかに ベッド上 滴る果汁 今はあなたに

わたくしは プラントの議長 欲しいもの 全て手に入れる 桃色の夢

誰も皆 わたくしの愛 欲しがるわ プラントの議長 なのですからね

父の死と 切なさ胸に 爪を立て 傷から流るる 甘き血潮

皆殺し させるわキラに あいつらを 乙女の純情 捧げたんだし

吾の事を 可愛いと言う 男いて 連合所属 アークエンジェル

あねおとうと 禁断の蜜 溢れ出す 主導権を 私は望む

やじろべえ 振り幅はそう 私なの トールとあいつを 比べているの

褐色の 肌から流れる 熱き汗 私を女に 染め上げてゆく

emotion はじける胸で 飛び込むわ 拒絶されても 挫けないから

不能者 私を散々 拒絶して 据え膳食わぬ 臆病者ね

逃避行 彼との決死の ランデブー 生き残るわよ 未来の為に

お姉ちゃん 今の私を どう見るの? 勝ち組ゲットよ 悔しいでしょう?

短歌を書いてみたよ。
美柚子のバイブルは「チョコレート革命」なんだよ。
字余りの歌が多いのはガンダムの型からはみ出す勢いがあった
種を主題にしたからだよ。
良かったら感想聞かせてね。
215通常の名無しさんの3倍:2008/07/18(金) 20:31:15 ID:???
短歌にしては趣が皆無だよね。
ふいたけどさ。
216通常の名無しさんの3倍:2008/07/18(金) 21:11:05 ID:???
短歌w
217通常の名無しさんの3倍:2008/07/18(金) 21:34:03 ID:???
wwwうぇっwww
218通常の名無しさんの3倍:2008/07/19(土) 00:08:23 ID:???
>>戦史
投下乙です。
カズィが太陽系国家興亡の歴史に名前を残すのかと思うと、機動戦史の
スケールの大きさに驚きます。
最早カズィとは思えない、という突っ込みは今更ですね。
またの投下をお待ちしております。

>>208
ととモノ。を全く知りませんが、別に良いのではないでしょうかと思います。

>>213
投下乙です。

>>ルナは蝶 ネオンの街を 羽ばたくの 密かに女の 業抱きしめて
砲煙弾雨を羽ばたく鷹な気がします。ホークですし。

>>何故そこで 握手をするの 役立たず 男だったら destroy them all
読後視聴後心底同意の短歌です。

>>疼く果実 痛みを今も 感じるの シンの注射器 大きすぎるから
CEの時代でしたら、無痛の注射針が在ると思いますよ。

>>桃色の 髪艶やかに ベッド上 滴る果汁 今はあなたに
ベッドの上で生絞りジュースを作るのは、大変危険で在るといわざるをえません。

>>皆殺し させるわキラに あいつらを 乙女の純情 捧げたんだし
捧げたの、純情の欠片も無い打算たっぷりの純潔である気がいたします。

またの投下をお待ちしております。
219通常の名無しさんの3倍:2008/07/19(土) 08:04:57 ID:???
火力こそ 中華の要 グレイトゥ 火に寄りすぎて アチチやアチチ

こんなんで良いんじゃね
220通常の名無しさんの3倍:2008/07/19(土) 10:29:20 ID:???
ラクス様 ああラクス様 ラクス様 そうよ私は ラクス・クライン
でもいいのかな?
221機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/19(土) 22:24:23 ID:???
種・種死の世界に○○が来たら…スレで少しSagaネタを書いたら本格的に書きたく
なったので、こっちに書きます。ジャンルは「種死×魔界塔士Sa.ga」物。

「機動塔士ガンダムSagaDesteny 大陸世界編」 
第1話『冒険者』
 
【SCENE1】
 突然目の前に現れた光景にシンは唖然とした。
ここは何処なのだろうと考えるが、その問いに答えを
出すことは出来なかった。
「どうなってんだ…!?」
 彼の記憶が正しければ、つい先程まで彼は月面にいたはずなのだ。
オーブ軍に地球軍残党を合わせた連合軍との、月のメサイア要塞を巡る
一大決戦だった。シンは愛機デスティニーを駆り、敵に寝返ったアスラン
の乗る∞ジャスティスと戦った。そこまでは覚えているのだ。
「それが何で、こんな所にいるんだよ!?」
 今彼は街のど真ん中に立っていた。愛機の姿は無く、パイロットスーツの
自分だけが一人、何処とも知らない街の大通りにぽつんと立ち尽くしている。
「変だ。おかしいだろ、これ」
 周り中が変だった。家々は全てレンガ造りで、煙突からは煙が立ち上って
いる。道路はコンクリートなど一切使われていない土の道。電線も無ければ
自動車も無く、人々は馬車や牛を使って荷物を運んでいる。更に人々の格好
はと言うと、ボロ布をつなぎ合わせただけの簡素な衣をまとっているだけ。
雰囲気としては、中世のヨーロッパをイメージ出来る街だった。
 シンの着ているパイロットスーツはここでは物凄く場違いな格好のようで、
先程から人々の視線が痛々しい。
(なんでこんな所に来ちゃってるのかは分からないけど…とにかく誰かに
ここが何処なのか聞かないと…)
 シンはそう考え、道行く人々に話しかけた。ここが何処なのか、誰かオーブと
ザフトの戦争がどうなったのか知る人はいないか…。しかし人々は皆シンを
不振人物でも見るかのように扱い、誰一人シンの相手をせず去っていくばかり
だった。
「無理も無いか…くそっ、なんでこんなことになっちまってんだよ…!!
神様は俺に恨みでもあんのか!?」
 突然訳の分からない状況に追い込まれたのだ。シンの愚痴を吐きたくなる
気持ちはもっともだった。しかし愚痴をこぼすばかりでは状況が好転すること
はない。日もかげってくるし、腹も減って来る。
「はぁ…どうしようかなぁ…」
 すっかり脱力してしまったシン。帰る場所は無く行く当ても無く、
シンは天下の往来で座り込んでしまった。

「おう兄ちゃん。兄ちゃんだな。昼間からこのへんをうろついてる怪しい格好
をしたピエロってのは」
 威勢の良い声に反応すると、いかにも怖そうなおじさんが3人、不敵な笑み
を浮かべてシンを見下している。日が落ちると犯罪者の時間になるのはどの
世界でも変わらないらしい。
222機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/19(土) 22:26:05 ID:???
「何ですか、あんたたち」
「実は今夜の酒代が足りなくってな」
「珍しい着物を着てる奴がいるってんで、貰いに来た訳よ」
「身包み置いていって貰うぜ!!」
(追いはぎかよ…!!くそ!!)
3人のおじさんは座り込んでいるシンを三方から囲み、ダガーを取り出した。
「どうする?兄ちゃん」
「こうするに決まってんだろ!!」
シンは即座に立ち上がると真正面の相手の鳩尾に拳をめり込ませた。
「ぐおっ…」
この奇襲により、男は気を失ってしまった。
「てめぇ!!」「このガキなめやがって!!」
 後ろの2人がダガーを振りかざす。しかしその時既にシンの手には、正面の
男から奪ったダガーが握られていた。シンは振り返ると、気絶させた男を左
から襲い掛かってくる男に向かって突き飛ばして一瞬動きを封じ、その間に
右から来る男のダガーをはじき飛ばした。更に丸腰になったその相手に膝蹴り
をかまし、ダウンさせた。
「残ったのはあんただけだ。まだやるのか?」
 シンの赤い瞳が最後に残ったおじさんを睨みつけた。軍人のシンにとって、
この程度のチンピラは敵ではない。最後に残ったおじさんはその武力の差に
脅威を感じて逃げ出した。
「ったく。どこの世界にもああ言うのはい……」
突然どかっ、と鈍い音がした。シンは油断して気づいていなかった。
彼らの4人目の仲間が鈍器を持って物陰から忍び寄ってきていたことに。
シンは背後からの攻撃に反応しきれないまま気絶させられ、目を覚ました二
人と戻ってきた一人のチンピラにボコボコに殴られ、身包みを全て剥がれて
その辺に捨てられた。

【SCENE2】
「うー…」
 朝のまぶしい日差しを浴びてシンは目を覚ました。まだ体中につけられた
傷の痛みを堪えて身を起こす。周囲を見渡すと、何処か分からないが部屋の
中のベッドの上であることが分かる。先程から浴びている朝日は、窓から
ベッドに注ぎ込まれているものだった。
「どうしたんだろう、ここは一体…?」
 昨日チンピラにやられた所までは覚えているが、そこから後のことは覚えて
いない。倒れた後誰かに運ばれたらしい。
 シンはベッドから出ると部屋を観察することにした。あまり良い部屋とは
言えず、ベッドもボロなら部屋の造りもボロ。エアコンはおろか蛍光灯も
無く、明かりは粗末な蝋燭立てが一本だけ用意されており、暖房器具は無い。
どうやら建物の2階らしく、部屋の窓から外を見ると、街の朝の光景が目に
飛び込んできた。
「あれは…?」
 シンの目に止まったのは遠く見える高い高い塔だった。色は地味な黄土色
だがその幅は大きく、高さ天に突き抜けるほど。何しろその頂上と言うのが
見えないのだ。雲に突き刺さってもまだまだ上がある程の高さだ。
223機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/19(土) 22:27:19 ID:???
シンは
思わず見とれてしまったが、冷静に考えるとこれはいよいよ、ヤバいことに
なってきたと言う事になる。シンは自分の居た世界C.Eではあんな建造物
の話は聞いたこと無い。今自分の身に起きていることが夢でも幻でもない
現実であるのなら、自分は何らかの原因によりまったく違う異世界に飛ばさ
れたことになる。
「…」
 その搭を見ながら考え込むシン。ここは何処なのか、自分は何故ここへ
来たのか、これから自分は何をすればいいのか…様々な疑問が頭の中を
ぐるぐる回転し、それらの疑問に対する答えがまったく浮かばないのに
新たな不安、疑問が次々と湧き上がってくる。その負の感情のスパイラルの
中に沈んでいくにしたがって、シンはだんだんイライラしてきた。ドアのノ
ック音が聞こえてきたのはその時で、シンははっと我に返った。
そのままドアは開き、一人の女性が姿を現した。
「あら、もう起きてらっしゃったのですね。おはようございます」
「…!!」
「? どうかなさいましたか?」
(ラクス・クライン……!?)

 シンの身体に雷に打たれたかのような衝撃が走る。今この部屋に入ってきた
女…タキシードにシルクハットと言うマジシャンのような格好をした女性の
顔は、ラクス・クラインに瓜二つなのだ。
(…いや待て、冷静に考えろ。ラクスがこんなところにいるはず無いだろう。
これは他人の空似に決まってる。そうに違いない)
そう自分に言い聞かせるシンだったが、明らかにその情緒は不安定で、ラクス
に似た女の人は不思議そうにシンを見ていた。

「あの、大丈夫でしょうか? 昨日道に倒れられていたのでこちらへお運び
したのですが、まだ傷が…?だとしたらまだ寝ていないといけませんわ」
「いえ、その、全然大丈夫です!ちょっとあんたが、知り合いに似ていただけ
ですから!」
「まぁ、お知り合いの方に?そんなに似ていますか?」
「ええ…(あんまり似ていて欲しくないけど)そっくりですよ」
「あらあら。世の中には似た顔の方が3人いらっしゃると聞きますが、本当に
そういうことがあるんですのねぇ」
「ははは…」
ここでそのお知り合いとどういう関係か聞かれたら返答に困っていたところだが
、幸いこの娘は次の話題に移ってくれた。彼女の話によるとここは街の宿屋の
2階の部屋で、彼女が傷ついたシンを運び込んでくれたのだと言う。

「ところで、朝ごはんを買ってきましたの。ご一緒に如何ですか?」
「あ、すみません… えっと…」
「私(わたくし)のことはエホと呼んでくださいな」
「エホか。俺の名前はシン・アスカ。シンって呼んでください」
「ふふ、素敵なお名前ですわね。よろしくお願い致します」
「こっちこそ。よろしくお願いします」
224機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/19(土) 22:29:06 ID:???
 一体この女は何者なのかと言う事は、今はとりあえずどうでも良い。
昨日は皆に無視されたり恐喝されたりしかしなかったから、少なくとも
自分とコミュニケーションを取ってくる人と出会うことが出来たのが、今の
シンは何より嬉しかった。
 エホが買ってきてくれたのは雑な作りのパンにバター、キャベツの漬物
、卵焼き。それを二人で分けて食べる。
「申し訳ありませんシンさん。こんな粗末なものしか用意出来なくて」
「いえ、謝らないでくださいよ。俺にしちゃめちゃくちゃ感謝してる
んですから!」
「そうですか。ところで、もう1つ謝らないといけないことがありますの」
「何ですか?」
「言いにくいことなのですが… 昨日シンさんは傷だらけの上裸で
倒れられていたので、傷の手当と衣服の用意をさせて貰ったのですが…
その際に、シンさんの、その………」
 大事な物を、とか見た、とかは言わず、そこでうら若き乙女の口は
止まる。シンにしてもどう反応すれば良いのか分からず膠着する。
「…」
「…」
「と、とりあえず食べましょう! ね、卵焼き冷めちゃうし!」
「そ、そうですね!」
異世界に飛ばされたシンの、最初の朝と朝食はそうして終わった。

【SCENE3】
「別の世界、ですか?」
「ええ。俺はこの世界とはまったく違う、C.Eって世界から来たんです」
 普通の人にとっては嘲笑の対象となるか狂人扱いされるかは確実と思われる
内容の話だったが、シンは思い切ってエホに自分の身の上を話した。少しでも
自分に関する情報を、知って欲しかったのである。一方彼女はと言うと、
黙って、真剣にシンの話に耳を傾けてくれた。そして一連の話を聞き終えた
後に、窓から見える巨搭を指差した。
「シンさん、あそこに搭が見えるでしょう」
「ええ。立派な搭ですよね」
「あの搭は、世界と世界を結ぶ門だと言う言い伝えがありますわ」
「世界と世界を結ぶ門!?本当ですか!?」
「実際どうなっているかは分かりません。あの搭へ赴いて実際に生きて
帰ってきた方はいませんから。しかしもし言い伝えが本当ならば、
シンさんの世界に戻れる方法が見つかるかもしれませんわ」

それを聞くとシンは矢立てもたまらず立ち上がった。
「エホ、ありがとう。俺あの搭へ行ってみます。けどどうして、俺の為に
こんなことしてくれたんですか?」
「どうしてだと思いますか?」
「俺には分かりませんよ。別にお金が払える訳でもないし…」
「内緒ですわ☆」
エホはくす、と小悪魔のような笑みを浮かべウインクした。

(か、かわいい…!ひょっとして惚れられた!?俺、実は年上に可愛がられるタイプだったり!?)
あほな妄想に一瞬浸りかけるシン。それをエホの言葉が現実に引き戻す。
225機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/19(土) 22:32:42 ID:???
「私は塔の1階で占い屋さんをやっていますの。搭に行くならそれまで
の道をご案内出来ますわ」
「あ? あ、ああ、お願いします!」

(何バカな事考えてたんだ俺は!今は女の子の事より、元の世界に戻る
ことを考えないといけないだろ! ザフトとオーブの戦争がどうなったか
早く知らないと…!!)
「それはそうとシンさん」
「はい、何ですか?」
「私に敬語を使ってくださる必要はありませんわ。楽に話してください」
「じゃあエホも…」
「私はこの話し方が慣れていますので、お気遣い無く。では参りましょう」
「ああ…!!」

シンの険しい冒険は、そんな緩やかな朝から始まったのだった。



登場人物
【シン・アスカ】冒険者
 主人公。メサイア要塞攻防戦において∞ジャスティスに負けた拍子で
別の世界へ飛ばされる。世界と世界を結ぶと言われる塔に登り、C.Eに
帰り着こうとする。

【エホ】占い師
ラクス・クラインに瓜二つの顔を持つ女性。塔の1階で占い屋を営んでいる。
困っていたシンを助けてくれた人。
タキシードとシルクハットがトレードマーク。
226機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/19(土) 22:34:29 ID:???
機動塔士ガンダムSagaDesteny 大陸世界編」

第2話『英雄』

【SCENE1】
 月の戦線で戦っていたのに突然中世ヨーロッパ風の世界にワープしたシン。
見た目ラクスそっくりの少女エホに出会い、彼女に連れられて搭へと到着した。
この搭には、世界と世界を結ぶ門だと言う言い伝えがあるのである。シンは
搭を登れば、自分の故郷であるC.Eに戻れるのではないかと考えたのだった。

 塔は街から少し離れた所にぽつんと建っている。天に突き抜ける程の高さを
誇るこの塔の堂々たる姿は、この世界にあるどの街や村からも見ることが出来る
のだと言う。
「それにしてもでかいよなー。この高さには驚かされるよ」
「大きいでしょう。この世界にはこれほど大きな建造物は他にありませんわ。
この世界の3人の王様のお城よりも大きいんですのよ」
「へぇ…」
シンとエホは搭の中へと足を踏み入れた。搭の中には宿屋や酒場、武器屋や
道具屋と言った冒険者用の施設が立ち並び、冒険の準備が出来るように
整っていた。もっともここで準備をして搭を登った者の中で、生きて
帰って来られた者はいないのだが。

「それにしても生きて帰って来られないってのはどう言うことなんだ?」
「私(わたくし)にも分かりませんが… 皆様は魔物が大勢住んでいるから
とか、罠がたくさん仕掛けてあるからとか噂しておりますわ。世界と世界を
結ぶと言うのも、ただの言い伝えですし…」
「だよなぁ」
一人も戻ってきてないのに、搭の中に何があるかなんて分かる訳無いのだった。
「まぁいいさ。俺が昇って、この搭の秘密を暴いてやる!元の世界に戻れたら
しめたもんだ!」
「頑張ってくださいね。私は向こうでお仕事してますから、何かあれば寄って
下さいな」
「ああ、ありがとうエホ。このお礼はいつか絶対返すから!」
エホは礼儀正しくおじぎをすると去っていった。

「さて、さくっと登るとするか」
シンは案内板を頼りに、ついに階段の登り口を発見した。後は扉をくぐり、故郷
を探す旅の第一歩を踏み出すだけである。
「…あれ?」
しかしここで重大なアクシデントが発生した。扉が開かないのだ。いくら
塔にたどり着いても、2階から先へ昇るための階段に行けなくては話に
ならない。
「なんだよ、この扉!!」
 蹴っても叩いても扉は開く様子が無い。仕方が無いから一旦諦めて、
酒屋へ入っていった。シンのセンス的に、こう言う状況下での情報収集と
言えば酒屋なのであった。シンはカウンターに座りミルクを注文する。
すると店のマスターの方から話をしてきた。
227機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/19(土) 22:35:19 ID:???
「見慣れない顔だな。新しい冒険者か?」
「まぁ、そんなもんです。塔に昇りたいんですけど入る方法が分からなくて」
「…見てみな」
マスターはそう言うと、店の奥や外の宿屋に視線を向けた。
「この酒場も宿屋も、客で溢れてるだろ。塔に入る方法が分からなくて
ここで足止め食ってるのはあんただけじゃないってことさ。まあこっちは
客が増えるんでありがたいんだが」
「ずっとこんな…?」
「ああ。ここ数年は塔の階段に行くための扉が閉まりっぱなしなんだよ。
皆必死で入る方法を探すんだが、どんな有名な賞金稼ぎでも入り方を見つけ
られなくて帰っていくのさ」
「なんてこった…」
 シンは早くも絶望した。そうなるとまず、必死に扉の開け方を研究しないと
いけないことになるのだ。シンはひとまず、この酒場から出ることに決めた。
ここにくすぶってる奴が貴重な情報を持ってるとしたら、とっくの昔に
扉は開いているはずだからである。もう少し別の観点から情報を集めなければ
ダメだと考えた。 
「マスター、お勘定頼みます」
 シンはそう言うと席を立った。

【SCENE2】
 酒屋を出たシンはひとまず、この世界で唯一と言える知り合いの家にいた。
そこでシンは、その家の主にひたむきに謝っていた。
「ごめんエホ。本当にごめん」
「お、お気になさらなくても良いですのよ。けれどもう少し考えて行動なさっ
た方が今後の為になると思いますわ…」
(返す言葉も無いなぁ)

 数十分前、シンは塔一階の酒場でミルクを注文した。しかし当然、シンは
この世界の貨幣なんか持っていない。うっかりしていたと言うのは言い訳には
ならず、シンは無銭飲食と言うことでマスターと揉め、役人に逮捕されかけ、
結局は通常の料金の3倍のお金をエホから借りて支払うことでなんとか示談が
成立し事なきを得たのだった。

「それにしても困ったことになりましたわね。扉が開かないと言うのでは」
「そうなんだ。中で何が待ち受けているかとか言う前に、入れやしない」
うーん、と二人悩んでいると、エホは1つの案を出した。
「そうですわ。私が占って差し上げましょうか」
「占いぃ?」
「あら、シンさんは占いにはご興味はありませんか?」
「占いなぁ…」
 恩のある相手に言うのははばかられるが、シンは占いにはまったく興味は
無かった。カードや水晶で未来が分かるというのなら苦労しない。
そんな非科学的かつ不確定の情報でこの先命をかけていくのはまっぴら
ごめんであった。…しかし、命の恩人の言う事であるし、他に確たる情報も
無いので、少しは耳を貸そうと考えたのだった。
「じゃあ占って貰おうかな」
「分かりました。私の占いはよく当たると評判ですのよ〜」
228機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/19(土) 22:36:51 ID:???
エホはカードを取り出すと無造作にテーブルに広げたり並べ替えたりしながら
呪文を唱え始めた。
「そ〜れ、ザクグフドム!トキテゲルググガナイノハドウイウコトナノカ
コウイウコトナノカソウイウコトナノカ……えいっ!」

本当に真剣にやっているのか疑問に思えてくる適当な作業の
末に、エホは結果をシンに伝えた。
「占いの結果、神様は『銅像に聞け』と仰っておられるようですわ」
「銅像?どういうことだそれ」
「さぁ…。けれど一応、この街には街の名前の由来になった人の銅像がありますわ」
シンはこの時まで知らなかったが、この街の名は「英雄の街 ミゲロニア」と言うらしい。

【SCENE3】
 エホの家を出たシンは街の中心にある広場にやってきた。なるほど、
確かに中央に銅像が立っている。『偉大なる勇者の像』と銘打った戦士の
銅像は、この街のシンボルでもあるらしい。
「けどこれが何だって言うんだ。ただの銅像じゃないか。俺は元の世界に戻る
方法を探してるのに…」
 一見何の変哲も無い銅像に愚痴をこぼす。とは言えしかしせっかく来た事でも
あるし、じっくり見てみようとシンは思った。像は普通の成人男性と同じくらい
の大きさで、下半身のみ装備をつけていて上半身は裸である。勇ましい顔立ちは
していても両手には何も持っておらず、あまり戦士や英雄と言うイメージは伝
わってこない。
「一体、どういう事で活躍した人なんだろう?」
「ほっほっほ。お若いの。英雄様に興味があるんか?」
銅像を見上げていたシンの隣に一人のおばあちゃんが来た。シンはおばあちゃん
にこの英雄について話を聞くと、快く話してくれた。

 おばあちゃんが言うには、かつてこの世界は乱世に次ぐ乱世の世界であったの
だと言う。各地には群雄が割拠し、何時終わるとも知れぬ争いの日々が続いてい
た。人々は戦火に悩まされた。村は略奪され、若い者は兵隊に取られ、女は犯さ
れ、子供や老人などの弱者は死んでいくしかないと言う過酷な日々を送っていた。
 そんなある時、ミゲルギッシュと言う名の男が世に踊り出た。ミゲルギッシュ
は一人で軍隊をも相手に出来る強さを持った戦士だったが、心は常に弱き者の味
方であった。始めは村々を周り兵隊の暴行から人々を守るだけだったミゲルギッ
シュはやがて各地の豪族を次々と配下に加え、瞬く間に大陸を纏め上げてしまっ
た。ミゲルギッシュは世界で唯一の王となり、王都ミゲロニアを政治拠点として
戦争の無い平和な世界を作り上げた。王国の建国後もミゲルギッシュ王は人々を
善く導き、洪水などの大災害から民と国を守るために力を尽くし、百歳の誕生日
を迎えると共に世を去ったのである。人々は偉大な王に感謝し、彼を讃え「英雄
様」と呼ぶようになり、等身大の銅像を立てた。
 ミゲルギッシュ王は「黄昏の魔王」とも呼ばれ、それは彼が戦場に身を置いて
いた際の戦い様に由来する。眩しい程に輝く黄金の剣、鎧、盾に身を包んで戦場
を駆け、踊るように敵兵の首を狩るその姿は、恐ろしくも美しかったと言い伝え
られている。
229機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/19(土) 22:37:26 ID:???
「英雄様の装備は英雄様がお亡くなりになられた後ずっと、この英雄様の銅像に
飾られていたんだけどもよ。数年前に英雄様の孫3人が勝手に盗みだして、
それぞれが今代の王だとかぬかして喧嘩しておるんじゃ。バチ当たりな話じゃ…!」
 おばあちゃんは語り終えるとぶつくさ愚痴をこぼしながら去って行った。

(そう言えばエホも、今この世界には城が3つあるとか言ってたな。英雄の子孫
の3人が、それぞれ城を造って争ってるって訳だ。けど…)
 それが分かってどうするんだ、とシンは言いたい。第一、塔の扉が開かない
話とこの英雄話はまったく結びつかない。今のシン的に、こんなものは手がかり
でもなんでもないのだ。

「エホには悪いけど、ここじゃもう得られる情報なんてなさそうだな」
 シンは踵を返して帰ろうとした。その矢先、大勢の人に囲まれた。いずれも
武器を持たない一般人だが、特に老人が多いようであった。中にはさっきシンに
話をしてくれたおばあちゃんも混じっている。
「な、なんですか!?」
「あんちゃん。冒険者だべ?」
「まぁ、そうだけど」
「ほれみろ。わしの言う通りだべ」
「何言うだか。占い屋の娘っ子に教わっただけでねぇか」
「この人ははぁ目つきが違うだな」
「もうこのあんちゃんに頼むしか無いべ」
「あの、一体どういうことですか?」

 シンが話を聞くところによると、この街の老人たちはいつまでも3人の王が
権力争いのために戦争をしているのに困っていると言う。また彼らが英雄の
装備をそれぞれ奪い去ったことに、とても腹を立てている。
老人達はシンに、3人の王の所へ行って、権力争いの停止と装備の返却の交渉
をしてくれるように頼み込んできた。

「ちょっと待ってくださいよ!なんで俺がそんなことしなきゃならないんです
か!?」
「こん通りだ。あんちゃんだけが頼りなんだ」
「塔に関心を持つ冒険者はようけおっても、街の皆のことを考えてくれそうなの
はおらんのだわ…」
(どうやらこの世界の冒険者ってのは、スーパーマンか何かみたいに思われて
るらしいな)
 まぁ怪物がうじゃうじゃいて、一度昇れば生きて帰れぬと言われる塔に挑む者
であるなら、それなりの腕はあるだろうから、こういう事は頼みやすいというこ
となのだろう。
(けど、俺はこの世界に来て2日目の即席冒険者なんだぞ。いきなりそんなこと
言いつけられてもなぁ)
心の中では断りつつも、老人達の話には耳を傾けるべきものがあった。
「あんちゃん、銭持ってねぇべ?」
「家もねぇだぁな?」
「昼飯も持ってねぇだぁろ」
「礼は街中から銭さ集めて、しこたまするだよ。行ってけれ」
「………くそっ!分かったよ!」
230機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/19(土) 22:41:16 ID:???
シンは折れた。何時までもエホの世話になる訳にもいかないし、塔を目指す者
としてこの世界で少しでも多くの経験を積んでおかなければと言う目的もあった。
シンは老人たちから前金を受け取り、それで装備、食事代、宿代を用意すること
が出来た。 
 こうしてシンは塔を目指す前に大きな回り道をすることになったのである。
…それが一番の近道になることを知らないままに。



登場人物
【シン・アスカ】冒険者
 塔を昇りC.Eに帰ることを目的とする男。しかし塔には登れないまま
大きな回り道を食うことになるのだが…。

【エホ】占い師
 異世界に飛ばされ困っているシンを助けてくれる親切な人。ラクス・クラインそっくりの
顔をしている。その占いは一見適当だが、よく当たると言われる。
231通常の名無しさんの3倍:2008/07/19(土) 22:55:43 ID:???
支援
232機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/19(土) 23:05:02 ID:???
>>231に感謝を。「機動塔士ガンダムSagaDesteny 大陸世界編」 
第3話『盾の王』
【SCENE1】
 冒険の為の費用を稼ぐため、街の人々の言う事を聞くことにしたシン。
まずは交渉対象である3人の王について聞き込みを開始した。何時間か
粘り、ある程度の情報は仕入れることが出来たのだった。
「えーっと。やっぱりこの英雄の像には、剣・鎧・盾の3つの装備がつけられ
てたってのは間違いないみたいだな。英雄のひ孫達が持ち帰ったって情報も
嘘じゃ無いみたいだ」

 現在、英雄ミゲルギッシュの血縁者で残っているのはひ孫の3人だけである。
一人目は剣の王イザク。二人目は鎧の王ディアカ。三人目は盾の王ニコルゥ。
彼らがそれぞれの城のシンボルとして英雄の装備を掲げ、己が正当性を
主張しては戦争を行っているのだ。
 それぞれの王の居場所は既に判明している。盾の王は街を出てすぐ東へ行った
ところにある盾の城に、鎧の王は北西にある鎧の城に。そして剣の王は南西に
行ったところにある剣の城にいるらしい。
「まずは一番近い盾の城へ行ってみるか。けど、王様が俺なんかの話聞いてくれ
るのかなぁ」
 シンは盾の城へ赴いた。王への謁見を申し込むと城の番人と揉め事になった。
「何をしている、出て行け!!」と追い出そうとする門番になんとか食い下がる
シン。騒ぎに気が付いた城主ニコルゥ王は、シンとの面会に応じてくれた。
 盾の城のニコルゥ王は童顔の、心穏やかそうな王であった。しかしこの城での
謁見において最もシンの目を引いたのは、王の傍に立つ大臣の存在である。
ニコルゥ王の側近であるトツラン・ヅラは、シンがC.Eのザフト軍にいた時、
彼と軍を裏切った上官に瓜二つなのだ。
(あのでこっぱちなんか、そのまんまだな…)
 大臣の広い額を見ていると、ふと懐かしい故郷世界に思いを馳せてしまいそう
になる。そんな心境は脇に置き、シンはニコルゥ王に街の人々の想いを訴えた。
要望は他二人の王との戦争を今後中止し、王の有する宝物…かつて英雄ミゲル
ギッシュ王が用いた『キングの盾』を街に返却することである。シンの嘆願に
耳を傾けたニコルゥ王は、静かに口を開いた。

「冒険者シン殿。貴方の仰ることはもっともです。我々3人の王の度重なる
戦争が、国土の退廃と民衆の不満を促進させて来たことは確かです。しかし
私にはこの国をまとめなければならない使命があることも、また事実なのです。
もし仮に血の気が多い剣の城のイザク王や、お調子者で人の上に立つ者としての
自覚が無い鎧の城のディアカ王が世界を統一するキングになった時…国民の生活
は今以上に圧迫されることでしょう。人々の安寧を真剣に考えられる政権は、
我が”盾”の他ありません」
「けど王様、国民は、今泣いているんだ!!」
「それでです。もし仮に剣のイザク王、鎧のディアカ王が私と共に装備を
ミゲルギッシュ王の像に返却し…永久講和を行うと言う条件を承諾した場合、
我が盾の城は今後民衆を一切、戦火に巻き込まないと誓います」
 これは強大な政敵を2人も持つニコルゥにとっての最大限の譲歩であった。
シンもそれを察したので、ここはひとまず城を去り、残る二人の王との交渉に
赴くことにしたのである。しかしトツラン大臣はこの交渉内容について不満で
あった。シンが王の間を去るや、トツランは主君に忠告した。
233機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/19(土) 23:05:33 ID:???
「陛下!何故あんな者の言う事をお聞き入れなさるのですか!?剣や鎧の者達
に譲歩するなど、盾の城の主として恥ずかしくないのですか!!」
「トツラン、君の言う事も分かる。けどこのまま僕達が戦争を続けても、
もっと多くの人々が不幸になっていくだけだと思うんだ。僕らのおじいさまが
成し遂げた偉業を、孫の僕達が台無しにしてしまっている。いつまでもこの
ままでいい訳が無いよ」
「だからこそ!一刻も早くイザクとディアカを討ち、天下を統一するべきなの
です!世界のキングになるのはニコルゥ王、あなたしかいない!!」
「ごめんトツラン、今日は少し疲れたんだ。この話は明日にしよう」
「くっ…。分かりました。明日は必ず、私の進言を聞き入れて貰えるものと
信じております!」
 トツラン大臣は形だけの礼をすると、足早に王の間を去った。ただ一人玉座
に残された王は、人心と部下の感情の板ばさみになっていることに苦悩した。
(部下は皆、僕を世界のキングにする為に生まれてきたと信じている。皆今
まで僕の為に戦って、僕の為に死んでいった。そしてこれからもそうすること
が正義なのだと思っているだろう。けれどその戦火に焼かれるのは常に罪無き
民衆だ。僕は、どうすればいいんだ…)

 戦乱の世に合わない優しい心を持った王は、己が立場に苦悩した。

【SECEN2】
 シンが盾の城から街へ戻ってきたとき、日は暮れかかっていた。
「今日はこれで終わりだな」
 今日は宿賃があるのでエホに面倒見て貰う必要は無い。適当に安宿を借りて、
安い夕食を食べて明日に備えよう…と思った矢先。後ろから声をかけられた。

「シーンーさーんっ!」
「うわっ! …エホか、脅かすなよ」
「ふふ、ごめんなさい。シンさんが遠目に見えたものですから、ご挨拶を
しようかと思いましたの」
 相変わらず、無邪気な表情でにぱーっと微笑みかけてくる彼女の顔は
めちゃくちゃかわいい。色気の無いタキシードにシルクハットじゃなくて、
C.Eのステージでラクスが着てた胸がばーんと開いた衣装とかだったら、
シンのズボンの前が少し膨らんでしまっていたかもしれない。
今は服が服なんで、その美貌に赤面する程度で留まるシンであった。

「どうですか?その辺りでお食事でも」
「いいけど…あんま高い物は食えないぞ。大切なギャラの前金、考え無しに
使う訳にはいかないからな」
「あら、今日はお金儲けをなさってたんですの?どのようなお仕事を?」
「前金だって言ってるだろ。とりあえず適当な店行こう。食べながら話すよ」
 シンはエホをエスコートしてその辺の定食屋に入っていった。もしC.E
で誰かにこんなとこを見られたら週刊誌記者の餌食になるだろう…が、
彼女は似ていると言ってもラクス・クラインでは無いし、ここには週刊誌
なんて洒落たものも無いので関係無かった。
234機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/19(土) 23:06:06 ID:???
【SCENE3】
「それでは、今日は盾のお城へ行って来ましたの?」
「ああ。塔に昇るのが目的のはずが、この世界の平和を守る使命を与えられ
ちゃったんだよ」
「けれど世界の為に戦うと言うのは凄いことですわね」
「世界の為…か」

 ラクス・クラインに酷似したその顔からそういう台詞を言われると、
嫌でもC.Eにおけるオーブとの最終戦争のことを思い出す。あの戦争は
管理社会による平和を実現させる為のデュランダル議長に対し、混迷であろ
うと自由な世界を創造するためにオーブが仕掛けたものだった。
 あの時シンはデュランダル議長側の兵として世界の為に戦ったが、途中で
やられてこの世界に飛ばされてからは、あれからどちらの陣営が勝ったのか
また世界がどう動いたのかはまったく分からない。
 議長は、レイは、ルナは、艦長は、副長は……大切な人全てがどうなった
も分からない。それを考えるとシンは急に彼らへの心配が大きくなり、
早く帰りたいと言う気持ちが抑えきれなくなってきた。

「俺は…早く、早く帰らないといけないのに… 皆がどうなってるか
確かめないといけないのに、こんな所で何をやってるんだ!俺は!!」
 いつの間にか悔し涙が溜まり、力いっぱい握り締めた拳でテーブルを
叩きつけていた。シンの身体はそのままテーブルに倒れこみ、荒ぶる
感情がその身体をぶるぶると震えさせる。
「くそぅ……」
「シンさん」
 エホはシンの身体をテーブルから離すと、胸を貸して優しく抱擁した。
「落ち着いてください、シンさん。お気持ちは分かりますが、貴方がそのように
なってしまっては永久に帰ることが出来ないかもしれません。辛いでしょうが
今は耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、1つ1つ問題を片付けていくことに
しましょう。そうすればきっと、貴方は元の世界へ戻れるはずですわ」
「ぐ………」
 シンはエホに抱かれたまま、力任せに彼女を抱き返した。それにエホは
痛みを訴えるような真似はせず、ただじっとシンを抱擁し続けた。そんな
状態が数分間ほど続いた頃になって、エホを抱いていたシンの力が緩んだ。
そして彼女の胸に顔を埋めたまま突然、突発的な質問をする。
「…それ、占いか?」
「はい?」
「エホは占いで、銅像に塔の扉の秘密があるとか言ってたけど…無かったぞ」
「あらあら、はずれてしまいましたか。ごめんなさい」
「で、今の…辛いことでも我慢して頑張れば元の世界へ戻れるって言うのも、
占いか?」
 そんなこと、聞く前にはシンには分かっていた。これはエホが自分を
励ますために言ってくれている事なのだと。何を馬鹿な質問をしているんだ
と自問しながらも、なんとなくエホに意地悪な質問をしてしまっていた。
それに対しエホは急に真面目な顔になって、「違います」と否定した。
235 ◆6Pgs2aAa4k :2008/07/19(土) 23:07:05 ID:???
C
236機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/19(土) 23:12:34 ID:???
「頑張った分だけ成果があると言うのは世の理ですわ。それは希望であり、夢
と言うものでもあります。人は希望と夢を抱くからこそ前へ進むことが出来る
のです。ですからシンさん、貴方は諦めてはいけませんわ」
 それを聞いたシンのエホを抱く力が、また少し強くなった。量を増す涙が、
エホの着ている黒のタキシードの胸元を濡らしていた。
「ありがとう、エホ…。俺、あんたに会えて良かった…本当に良かった…
エホがいなかったら、俺は今頃…うう…」

 シンはこの言葉に、口では言い表せないほどの元気と希望を貰った。
自分はやれるんだ、何があっても塔に昇り、いつか自分の世界に帰って
見せるのだと決めた。シンはエホに会えた運命に感謝し、もしこの世に
「神」がいるとすれば、自分と彼女を引き合わせてくれたことに礼を
述べたいとすら思った。シンにとってこの時、彼女は女神も同然であった。
 シンの顔はこの時完全にエホの胸に密着しており、彼女の表情を見る
ことは出来なかった。その事が果たしてシンにそって幸いだったのか不幸
だったのか……それは後のシンにしか分からないことである。

 ともあれシンがこの世界へ飛ばされてからの2日目の夜は、こうして
過ぎていった。エホに貰った希望の光を胸に、明日は剣の王と鎧の王に
会いにいかねばならないのだ。


登場人物
【シン・アスカ】冒険者
 英雄の像に英雄の装備を取り返すため、行動することになった
主人公。

【エホ】占い師
 異邦人であるシンを気遣ってくれるこの世界の占い師。顔は
ラクス・クラインに似ている。

【ニコルゥ】盾の城の主、盾の王
 大陸世界を統べる3人の王の一人。かつて大陸を統一した、
英雄ミゲルギッシュ王の孫。心優しい性格の持ち主で民のことを
考えており、剣の王・鎧の王との和解を考えてはいるが、立場上
簡単にはいかないことに悩んでいる。

【トツラン・ヅラ】盾の城の大臣
 ニコルゥの側近。顔はシンの前の世界での元上官に似ている。
剣の王、鎧の王を倒し主君が世界を統一するべきと考えている。
おでこが広い。
237機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/19(土) 23:14:01 ID:???
「機動塔士ガンダムSagaDesteny 大陸世界編」 
第4話『鎧の王』

【SECEN1】
 鎧の王であるディアカ王の城は、盾の城の北東に位置した平原にある。シン
は早速出かけたが、その道のりは決して楽なものでは無かった。距離の近い
塔、街、盾の城の間しか歩いたことの無いシンには今まであまり実感出来てい
なかったが、この世界には御伽噺に出てくるようなモンスターが実在するの
である。今日のシンの進路となるゾーンにはゴブリン、アルバトロス、ゾンビ
などがいた。
ゴブリンは槌を振り上げて集団で襲ってくる怪物。1匹だけならば今のシン
のダガーでも倒せるだろうが、集団で来るとなると取り囲まれて危機に陥る。
出会ったらさっさと逃げるのが吉である。
アルバトロスは上空から鋭いツメと嘴で襲ってくる怪鳥である。今のシンは
空中への攻撃が出来ない上、やはり集団で襲ってくるのでまともに相手は
出来ない。出会ったらなんとか逃げ切らなければならない。
ソンビは足が遅く、群れて襲ってくることは無い。しかし元々死んでいる
怪物なので、ダガーで攻撃してもあまり効果的なダメージは与えられない。
鈍足な連中の相手をまともにすることはない。無視して逃げるのがベストで
ある。
「ちくしょー!俺、逃げてばっかりじゃないかー!!」
 四方八方から来るモンスター達の攻撃を避けて、かわし、走り、その追撃
から逃げまくる。シンはその調子で盾の城東に広がる広大な森を抜け、鎧の
城に辿り着いた。

【SCENE2】
「俺はディアカ。この城の主だ。よろしくな」
「シン・アスカ、冒険者です。本日はお忙しい中ありがとうございます」
「いいから楽にしな。今のあんた見てるとこっちまで堅苦しくなっちまう。
リラックスして話せよ」

 盾の王の番兵と違い、鎧の王の部下達は事情を話すとすぐに王に取り次い
でくれた。城主ディアカ王は明るくフランクな性格で、シンとの謁見も非常に
和やかなムードの中行われたのだった。堅苦しいのが苦手なシンにはその
方が有難かったが、ニコルゥ王が「人の上に立つ者としての自覚が足りない」
と評した理由も、少しは頷ける気がした。
 シンは民衆が3人の王の権力争いによって苦しんでいると言うこと、
街のシンボルであるミゲルギッシュ王の鎧『キングの鎧』を返して欲しがって
いることを訴えた。
「別にいいぜ。俺はかまわねぇよ」
即答だった。
「本当ですか!?」
「そりゃあ、イザクとニコルゥの奴らが同じ条件を飲むことが前提だけどな。
奴らさえ合意すりゃあ、俺は別にかまわねぇぜ。なぁ?お前ら」
 ディアカ王は部屋にいる側近や警護の兵たちに軽く話題を振った。
「ええ、私はかまわぬと思います」
「兵火にさらされるは常にか弱き民衆。もう止めるべきでしょう」
「イザク王、ニコルゥ王お二方が賛同さえすれば、断る理由はありませぬ」
238機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/19(土) 23:14:54 ID:???
(良かった…これで後はイザク王だけだな)
 シンが心の中で一安心した時、ディアカ王は玉座から立ち上がると無作法に
シンに歩み寄り、シンの肩から後ろに手を回してそっと耳打ちした。
「ただし、俺の願いを1つ叶えてくれるよな?お前さんの用件を飲むんだから」
 一体何だろう、この手の人のお願いと言うのは大概大したことなさそうだと
シンは予想したが、そうは言っても相手は城主。万が一自分には困難なもの
だったらどうしようかと言う不安も、同時に湧き上がる。シンはディアカ王の
耳打ちと同じくらいの小さな声で、詳細を聞いた。ディアカ王は右手にグーを
作り、小指だけをピンと立たせた。
「これだよ、これ」
「…?」
「鈍い奴だな。これっつったら、女に決まってるだろ!」
「女ですか?」
「そうだ。南の村に俺好みの可愛い娘がいて告ってんだけどよ。なかなか
首を立てに振っちゃくれねぇんだわ。そこでお前、その娘と俺が上手く
行けるように手はずを整えろ。もし結婚出来たら、俺はお前に鎧をやる」
(ちょっと待ってくれ!!何だよそれ!!めちゃくちゃ難しいぞ!!)

 やはりディアカ王の頼みはしょうも無い願いだった。しかし困難なお願い
であることも確かだった。恋愛は人間と人間の気持ちの問題なので、嫌い
とか興味の無い男女の仲を結ぶと言うのはどんなアドバイサーでも完全に
出来る仕事ではない。ましてや恋愛なんか体験したことが無く女心も分からず
デリカシーの欠片も持ち合わせていないシンにはまーったく向いていない
ミッションなのである。これならインパルスでフリーダムを撃墜する方が
遥かに楽だったとシンは思った。
「あの…それは…」
「じゃ、宜しく頼むぜ。男と男の約束だ。それと他の関係ない奴にこの事
言ったらぶっとばすぞ。王の面子が傷つくからな」
 この会話、ディアカ王は密かに行っているつもりなのだが、周りの臣下の
者には何を話しているのかバレバレであった。おまけに時折大きくなるディ
アカ王の声のせいで、会話自体も少し聞こえてしまっている。「あんたが王
の面子がとやかく言える立場か!」とディアカ王を除くその場の全員が
ツッコミを入れたがったが、そのことについては皆自重した。
「で、王様。その娘の名前は?」
「ミーリィって娘だ。かわいいから村でもライバルが多いらしいんだが、
その辺はお前さんの器量と交渉術に賭けたぜ。しっかりやってくれよな」
「努力は…してみます」
まったく自身が無い為に、返答時のシンのテンションは低かった。
「おい、努力じゃ駄目なんだよ!成功だよ、成功が必要なんだって!」
「んなこと言ったって、初めて会う人とそんな相談やって、成功するはず
無いでしょう!?せめて王様が一緒に来るくらいはやってくださいよ」
 もしこれが盾の城での出来事なら、この瞬間シンは切り殺されていても
仕方が無い。ディアカ王のキャラクターに引っ張られ、シンの言葉遣いも
やや生意気になってきていた。しかし家来達は腰の物に手をかけることすら
せず、ディアカ王にしてもかったるそうな顔をしながら頭をかいても
「仕方ねーな」と言ってしまう有様であった。鎧の城は民を統べるべき
者が政務を執る所としては、やや独特の雰囲気があったことをシンは
感じざるを得なかった。
239機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/19(土) 23:18:35 ID:???
【SCENE3】
 結局シンはディアカ王と共に、鎧の城の南に位置する、深い森の奥にある
小さな村へと向かった。ディアカ王はシンに城の馬を使うことを許し、
2人きりの小行幸と相成った。外出の際、警備についていくと言う部下の
進言をディアカ王は取り下げた。今まで何度もふられていると言う話を兵士に
知られたくはなかったのであった。もっともそんな事はディアカ以外にとって
は周知の事実で、鎧の城で働く者の中に知らない者はいないのだが。

 騎乗においても、シンとディアカ王の会話は途切れることは無かった。
「それにしてもシンって言ったか。お前出身何処なわけ?この辺じゃ見ない
顔だよな」
「この辺じゃ見ないって…王様は民衆の顔を一人一人覚えてるんですか?」
「まぁな。庶民の格好して街ぶらつくのが俺の趣味だし。偉そうなこと言う
つもりは無いが、民衆のライフスタイルを知らずに王の仕事なんか出来ないぜ」
「へぇ、一応王様らしい考えもしてるんですね」
「一応って何だよ!俺は英雄ミゲルギッシュの孫なんだぞ!!」
ディアカ王がそう叫んだ後に、シンは話題を自分の話に戻した。

「実は俺、この世界の住人じゃないんですよ。信じられないかもしれない
ですけど、何かの拍子にこの世界に飛ばされちゃったんです。それで…」
「なるほどね。バベルには、世界を世界を結ぶ門だって言い伝えがある。そこ
で冒険者様になって昇ろうって訳だ」
「”バベル”?」
「この世界に残された古い文書にはそんな名前で載ってんだ。今じゃ一部の
旧家の連中しか知らんこったが。まぁそんなことはどうでもいい。とにかく
お前さんが、自分の世界に戻るためにバベル…塔を目指してるってのは分か
った。けどそれなら何で塔に行かないんだよ?塔の扉がここ数年開かないの
は知ってるけど、他の冒険者は皆塔の周りで必死に開ける方法を探してるぜ」
「金銭的な問題があって。街の人の手助けをしないと、冒険に必要な資金
を儲ける方法が無いんですよ」
「納得。なら困った時は俺に言え。俺に出来るくらいの資金援助はしてやるぜ。
まぁ今回の件が成功したら、だけどな」
(それが一番問題なんだよなぁ…)
この最後の台詞だけはシンの心の内でのみ発されたものである。

 果たしてディアカ王の悲願、村娘との恋愛は無事成就されるのか。そして
シンは、ディアカ王から『キングの鎧』を取り戻すことが出来るのか。それぞ
れの思いと目的が錯綜する冒険者と王様の珍道中が始まる。

登場人物
【シン・アスカ】冒険者
 元の世界に戻るために活動する異邦人。今は英雄の遺品である3つの
装備を探している。

【ディアカ】鎧の城の主、鎧の王
 かつて世界を統一した英雄ミゲルギッシュ王の孫。現在世界を統治する
3人の王の一人。性格はフランクで身分の差を気にせず誰とでも話す。
城の南にある村にいる娘に惚れている。
240機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/19(土) 23:21:36 ID:???
「機動塔士ガンダムSagaDesteny 大陸世界編」第5話
『鎧の王(その2)』

【SCENE1】
 シンと鎧の城のディアカ王は南の村までの道中、森の中で野宿を行った。
夕飯は持参した乾燥食を適当に食べて、そのまま寝た。幸い夜中にモンスター
に襲われることはなく、朝を迎えることが出来た。
「キシャアアアアア!!」
 しかしその朝の目覚めは敵の襲来と共に訪れた。獲物を探していた怪鳥アル
バトロスの群れは二人を発見するや否や、早速朝飯にありつこうとたちまち
急降下を始めた。

「チッ…! おい起きろ!お客さんだぞ!!」
「うーん…マユ…」
「起きろつってんだろこのバカ!!」
 敵襲来の気配を鋭く察知したディアカ王はすぐにシンを起こそうとしたが
一声で起きないので、その頭を蹴り飛ばした。
 怪鳥アルバトロスの武器は鋭い嘴と、足のツメである。アルバトロスは
上空を旋回し地上の獲物を見つけるや、鋭い角度から急降下をすることで
奇襲をかけ、すれ違い様の一撃で獲物の目を抉る。怯んだ相手にツメで
襲い掛かり、その肉を千切って、ついばみ尽くして去っていく。シンは
ディアカ王に勢い良く蹴り飛ばされた為にその一撃を受けずに済んだ。
一方ディアカ王はと言うと、軽いフットワークで敵の奇襲攻撃をかわすや
離脱する相手の背中に向けて、持参していた小弓から矢を放つ。携帯用
の小さな弓なため並の技量ではモンスターを仕留められることは出来ない
武器だが、ディアカ王は違った。ディアカ王はこの弓から一度に5発もの
矢を発射させるほどの技量を持ち、おまけにその全てが敵の喉に貫通する
形で命中した。
 蹴り飛ばされ木にぶち当たったことで目が覚めたシンは、その動きに
驚いて呆然となっていた。
「す、すげぇ…」
「何をやってる。また来るぞ、早く体勢を整えろ!」
「けど俺、魔物は倒したことなくて…」
「はぁ!? お前冒険者の癖に何を言って……」

 この程度の雑魚も倒せないのか言いかけたところで、ディアカ王は昨日の
シンとの会話を思い出した。
「…ああそうか。この世界へ来て間がない即席冒険者とか言ってたな。いいか、
絶対にそこを動くな。木の陰なら背後から襲われることは無い。そこさえ動か
なけりゃ、命だけは奪われないようにしてやる」
「は、はい…」
「こりゃとんだ足手まといだぜ」
「すみません…」
241機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/19(土) 23:22:24 ID:???
 アルバトロスの群れは奇襲が失敗し、更に仲間を多く失ったことで動揺して
いた。しかし同時に、敵が強い者と弱い者に分かれていることも学んだ。
そうだ、強いほうにかからなければいい。弱い方を全員でやれば、勝てる。
そう判断したアルバトロスはディアカ王を無視し、シンの前方・右・左・
そして上方から、10匹を超える戦力を全て投入して攻撃した。
「う、動くなって言ってもこれは死ぬって!!俺死ぬ!!」
「グゥレイト!数だけは多いな!!けど、お前らはもう終わってんだよ!!」
 ディアカ王は一射で5匹の敵を正確に射抜くことが出来る。更に、ディアカ
王の弓は射程重視の大弓では無く連射の効く小ぶりな弓だ。5発撃ちを終えて
間もないにも関わらず、第2射、第3射と行い、3方から来る全てを撃ち落と
した。そして…
「これでフィニッシュだぜ!」
シンの真正面から来る1匹目掛けて最後の矢を放ち、息の根を止めた。
「やれやれ。朝飯にしちゃ量が多すぎるな。こりゃ昼も夜も、アルバトロス
の鶏肉を食うことになりそうだ」
 余裕の表情で勝ち誇り、アルバトロスに刺さった矢を、獲物ごと回収する
ディアカ王。英雄ミゲルギッシュ王の血を引いているのは伊達ではないよう
だった。

【SCENE2】
 朝食はディアカ王の言ってた通りアルバトロスの焼き鳥だった。膨れた
腹を馬の背に乗せ、南下を再開したのだった。
「それにしてもシン、お前弱すぎ」
 シンはさっき足手まといになった時から覚悟していたが、予想通りディアカ
王にダメ出しされた。
「アルバトロスは最下級モンスターの中でも特に防御力が低い。何しろ射手に
よっちゃ、こんな小弓で撃ち取れるんだ。空飛べるし足が速いつっても攻撃手段
は接近戦だけだし、あの程度も問題なく蹴散らせないのにバベル行くとかお前
バカじゃね? つーかお前、俺がいなけりゃ今頃森の中で死んでたんだけど」
「すみません…」
「謝ってもしょうがねぇだろ。そんなんじゃお前、モンスターからは全部逃げ
きれたとしても剣の城で死ぬぜ」
「え?」
どうしてここで剣の城の話が…と思ったら、ディアカ王がそのまま説明して
くれた。

「剣の王イザクは、俺達3人の中じゃ一番好戦的で血の気が多い。更に剣術家
としてのミゲルギッシュじいさんの血を一番濃く継いでいるのがあいつだ。
少なくとも剣技じゃ、あいつに勝てる奴はこの大陸にはいない。
 それ程の剣士だから、奴はじいさんの剣を手にしていることに誇りを持って
いる。俺やミゲルゥが鎧と盾を持ってるのはあくまであいつの剣に対抗する
ためだが、あいつは剣士としてのじいさんの後釜を自認してるから、あいつの
剣を取り上げたいとなると血を見ることになることは確実だ。で、今のお前
さんの実力でイザクの奴とブチ当たると…」
「終わりって訳ですか」
「まぁ魔物の中にはイザクの剣なんて及びもしないおっかないモンスターだっ
ているからな。どっちにせよイザクに勝てないようじゃ、仮に塔に昇れたと
しても長生き出来る保障、ゼロだな」
242機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/19(土) 23:23:41 ID:???
 シンはこの時、故郷の世界C.Eはものすごく遠い所に行ってしまった
のだということを改めて実感した。
「けど…俺は諦めない。少しずつでも冒険者として強くなって、いつか元の
世界へ帰る…!!」
「そのことで意気込むのはいいけどさ。その前にやることやって貰うぜ」
「え?」
「今、看板があっただろ。村まであと一息だ」
 この旅の目的地は目前だった。二人はラストスパートだと、スピードを
上げた。

【SCENE3】
 南の森林の奥深くにある村は、小ぢんまりとした静かな村だった。ディアカ
王は以前遠乗りでこの近辺まで来たときこの村で休み、その際見かけたこの
村の娘に一目惚れしたのだった。以後なんどか足を運び告白をしたが何度も
断られ、それでも諦めてはいないのである。

「あ、ヘイカだ。ヘイカーッ!」
「ヘーカだヘーカだ。またミリ姉ちゃんにフラれに来たんだーっ」
「いい加減諦めればいいのに。私が大きくなったらお嫁さんになってあげる」
「ヘイカー、そっちの人誰ー?」

 2人が村に入るや否や何処からとも無く子供達が現れ、ディアカ王に声を
かける。すっかり有名人というか、村の人には親しみ深い人間になって
いるのが感じられた。
「王様は人気者ですね」
「ふっ。伊達に仕事すっぽかして遊びまわってないぜ。民衆の気持ちはしっか
りキャッチしてるのさ」
「いや、それは駄目なんじゃ…」

 しばらく進むと村の中央広場に出る。シンとディアカ王はそこで馬を降り、
村の厩を借りてそこへ預けた。その後長老ら村の主な重鎮が集まり、ディアカ
王に挨拶を行う。
「陛下。遠いところをお運びくださりありがとうございます。臣らにとって
この上無き名誉にございます」
「おいおい長老さん、いつも言ってるだろ?堅苦しい挨拶は無しだって。
だいたいこれはただの散歩みたいなもんで公用じゃないんだから。たまに
ラフな格好して外に出てきた時くらい、フランクに行こうぜ?」
「ヘーカは何時だって遊んでるじゃん」
向こうの方から子供の声がした。子供のツッコミは容赦ない。
「こら!陛下に向かって何て口を利くんじゃ!!…申し訳ありませぬ。我が
村の童の中には陛下を君主とも思わぬ不届き者がござって…これも臣らの
仕付けが不十分な故にございます。なんとお詫びすれば良いやら……」
「もういいから。ミーリィちゃんどこ?」
「あれは今水汲みをやっている時間でございますな。今日はやはり、あれに
お会いくださる為にわざわざ…?」
「勿論。俺はあの娘を落とす為なら何度でも来るぜ」
「なんと勿体無いことを。陛下のご命令とあらば、あれが何と言おうとも
こちらからお城に伺わせますものを」
243通常の名無しさんの3倍:2008/07/19(土) 23:29:30 ID:???
しえん
244通常の名無しさんの3倍:2008/07/19(土) 23:53:13 ID:???
245機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/20(日) 01:01:36 ID:???
「そんな、地位の力で得た女に価値なんか無いって。俺は自分で落とすのが
好きなんだ」
(じゃあ俺の力なんか借りようとするなよ!!)
 子供と違いシンは思ったことをそのまま口に出す訳にはいかなかった。それ
にしても村の人にとってシンは、王様の警護役か小姓くらいにしか見えてない
のだろう。長老達にとって話す相手はディアカ王だけであり、シンは空気化し
ていた。
「シン、お前に手伝って貰うのはいいんだよ。お前とはもう友達だもんな」
(いつの間にか友達かよ!?)
「さて、行こうぜ」
「分かりましたよ…!」

【SCENE4】
 村はずれに井戸がある。そこで水を汲んでいる一人の少女がいた。ディアカ
王目当ての村娘ミーリィとは彼女のことであった。貴族の娘にある気品のよう
なものは感じられないが、いかにも庶民的な…傍にいるとほっと落ち着くよう
な雰囲気を持った娘だった。
 ディアカ王はその辺の物陰に隠れ、シンはミーリィに話しかけることにした。

「こんにちはー」
「こんにちは。あら貴方、見かけない顔ね」
「旅の途中に立ち寄ったんだ。ちょっといいかな?」
「何?お仕事の途中だからすぐ済ませて欲しいんだけど」
「北の平原に城があるだろ。そこの王様のことなんだけど」
「ー!」 
 ミーリィの顔が急に険しくなった。彼女はよっぽど、ディアカ王のことが
嫌いなのだろうか。話題に出すのも嫌と言うのは、半端な嫌いっぷりでは
ない。ミーリィは急に警戒するような態度を取り、口調も刺々しくなる。
「何、貴方。あの王様の家来なの?」
「違うよ!王様に恋愛相談を持ちかけられたって言うのは本当だけど…
なんであんたが王様の告白を断りまくってるのか知りたいんだ」
「何でって。好みじゃないからに決まってるでしょ」
 シンは納得することしか出来なかった。そりゃあ告白を断る理由なんて、
十中八九は嫌いか興味無いかだろう。しかしそれでは困るのだ。これでは
ディアカ王の恋愛は成就せず、それはすなわちシンの冒険がここで終わって
しまうことを示している。

「何処が嫌いなんだ?あの人はあれでけっこういい所もあるよ。弓の腕は
凄いし、民衆のことは頑張って知ろうとしてるし」
「私はね、ああ言うチャラチャラした男は嫌なの!真面目で、何時もさり気
ない心配りを忘れない、誠実な人が好みなのよ!」
(おいおい、まったく脈が無いぞ…)
「それに自分で口説き落とせないからって、こうやって他の人の手を借りる
のも気に入らないわ。出てきなさい王様!!」
 そう叫んでディアカ王が潜んでいる方向を指差すミーリィ。何度も
アプローチをかけられたせいか、彼女のディアカ王の気配を察知する感覚は
この上無いくらいに磨かれていた。止むを得ず物陰から姿を現す鎧の城主
ディアカ王。
246機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/20(日) 01:02:28 ID:???
「おいおい誤解だぜ。俺は別にそいつの手を借りようとしたんじゃねえよ。
俺はお前の本心を聞きたくてそいつを聞きに行かせたんだ…」
「私は何時も本心からお断りしてるんですけど!!」
「あんたが一番最初に、恋愛に俺の手を借りたいって言ったんじゃないか!!」
 ディアカ王、ミーリィ、シンは、それぞれが好き勝手叫びまくった。
こうなるともう滅茶苦茶である。元々まとまる確立が1%より低かった
話が、更にまとまりにくくなっていく。この騒ぎの末に、とうとうミーリィは
ぶち切れた。
「もう2人とも帰ってください!暇で遊び時間がたくさんある貴方達と
違って、この村の人は忙しいんです!水汲みも早く終わらせなきゃいけない
し、ダイコン干し、縄編みと仕事はいくらでもあるんですから!」
 この怒気を孕んだ大声には、シンもディアカ王も押し黙るしか無かった。
(ぐ…シン。お前がミーリィの仕事を代わりにやってやれ)
(はぁ!?何で俺が!)
(お前に恋愛のサポートを頼んだ俺が間違ってたぜ。やっぱあいつは俺が
自分で落とす。けどそうなると彼女は仕事が出来ない)
(あんた達が話している間の仕事は俺にやらせるってか?)
(頼むぜ。これもお互いの目的達成の為さ)
(けっこう狡猾だよな、あんたって人は…!)
 シンはミーリィが持ってきたであろうバケツ4つに、井戸から水を汲んで
入れ始めた。
「ちょっと、何するのよ?」
「この王様がまだ、どうしてもあんたと話したいって言うんだよ。この水汲み
の仕事は俺がやる」
「大丈夫?」
「平気だって」
 水でいっぱいにしたバケツを長い木の棒の両端にひっかける。これを2セッ
ト作って両肩に乗せて運ぶ訳だが、それはシンが予想していたより重い上に
バランスを取るのが難しかった。5歩も歩かぬ内に足がふらつき、バケツが
落ちそうになる。

「うわわわわわ!」
「何やってんだあのバカ」
「ちょっと、本当に大丈夫!?」
「うわあああああああ!!」
 まず右肩の棒の後ろのバケツが落ちる。バケツは地面に落下し、水がこぼ
れた。後ろのバケツが落ちた反動で前が急に重くなり、棒はたちまち前下が
りに。当然前のバケツも地面に落ちた。それで全体のバランスは完全に崩れ、
シンの身体は前かがみになってしまった。今度は左肩の棒の前のバケツが落ち、
その拍子にシンは転んでしまった。2本の木の棒がシンの頭に直撃し、良い
音が響く。そして最後に残った左後のバケツはその弾みで宙に舞う。
 その時心配して駆け寄ってきていたミーリィに向かって、最後のバケツが
直撃のコースを取った。

「きゃあああああ!?」
 バケツの中の水はほとんど零れてしまっていたのでたいした重量では無か
ったが、バケツが当たったミーリィもまた転んでしまった。ディアカ王は
一人「あちゃー、やっちまった…」とでも言いたそうに額に手を当てた…。
247機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/20(日) 01:03:09 ID:???
【SCENE4】
「ほんっと、最ッッッ悪……!!」
 あれからシン、ディアカ王、ミーリィの3人は村の病院に行った。シンは
何ともなかったのだが、ミーリィは足をくじいたみたいで、今日は仕事を休む
ことになってしまった。
「本当に、もう帰ってください!何度告白されても、私は貴方と一緒になる
つもりはありませんから!!」
 そう怒鳴られて、シンとディアカ王は病院を後にした。

「帰るか。シン」
「すいません、俺のせいで…」
「いいって事よ。さっきのあいつの台詞じゃないが、確かに恋愛ごとで、
人様の手を借りるなんて発想に行き着いた俺が悪いんだ。今日の所はいったん
帰って、頭冷やすことにするさ」
(けどそれだと困るんだよなぁ、俺が)
 当初の話ではディアカ王の恋愛成就に協力する代わりにシンは、停戦と鎧の
返却を認めさせると言う内容の約束を交わしていた。なのにここでディアカ
王が失恋に終わるとそれが果たせない。
(とは言っても、人の好き嫌いは自分の都合でどうにかなるもんでもなし。
これからどうすればいいんだろう)
 しかしシンがそんな心配をする必要は、次のディアカ王の言葉と共に無く
なることとなる。
「そうだシン。鎧の一件だがな、あれ、いいぞ」
「え?」
「俺は今日もフラれちまったが、さっきも言ったとおり俺があいつにとって
魅力的じゃなかったってのが悪いんだ。お前は協力はしてくれたんだしな。
次からはまた俺一人でチャレンジするから、お前はもう協力してくれなくて
もいい。イザク、ニコルゥに同じ条件を飲ますことが出来たらもう一度俺の
城に来な。じいさんの鎧を渡してやるぜ」
「あ、ありがとうございます!!けど、まだチャレンジするんですか」
「当たり前だ!俺は何時かミーリィをゲットしてやる!」
「頑張ってください!!」
「おう、ありがとうよ!」
 シンと鎧の城のディアカ王は熱い握手を交わした。今彼らの間には身分を
超えた友情が、確かに存在していた。その余韻が何分と続かぬ内に、村人
たちの動きが騒々しくなって来た。長老は真っ先に2人のところへ駆け寄
ってきて事の詳細を伝えた。

へ、陛下!早くお逃げください!敵襲でございます!」
「敵だと!?」
「はい!ここより西にはモンスターの住む洞窟があるのですが、そこから
強力なモンスターが村を襲いに来たのです!!ですから陛下だけでもお早く
お逃げください」
「あんたらはどうするんだ?」
「我らはこの村以外の土地で生きる術を知りませぬ。村の男から女老人子供
に至るまで、全力を挙げて戦うつもりでございます」

 それを聞いた時、ディアカ王の口元が軽く笑みを浮かべた」
248機動塔士ガンダムSagaDesteny ◆4Un9H4mNSE :2008/07/20(日) 01:07:32 ID:???
「…そうか。ミーリィにゃ悪いが、俺はもう少しこの村に居させて貰うことに
するぜ。いいだろ、シン」
「はい…!!」

 突如発生したモンスターの襲来。その報を聞いたディアカ王は、脱出など
する気が無いと弓を手に取った…!


登場人物
【シン・アスカ】冒険者
 C.Eから異世界に飛ばされた男。元の世界に戻るために活動している。

【ディアカ】鎧の城の主、鎧の王
 村娘に惚れている鎧の城の主。シンに恋愛成就の手助けを願う。

【ミーリィ】村娘
 村の娘。ディアカに惚れられている。


今日はここまでです。事情があって少し間開いてしましました申し訳ありません。
以後ちびちび書いていこうと思うので以後よろしく。
基本Sagaのシナリオ通りに運ぶつもりですが、登場人物は種のもじりキャラに
する予定なんでSaga本編のシナリオと時折食い違うことがあったりしますがご了承を。
249通常の名無しさんの3倍:2008/07/20(日) 01:52:41 ID:???
乙。サガ懐かしいな〜

一階が1番苦戦した
250通常の名無しさんの3倍:2008/07/20(日) 04:05:30 ID:???
うわぁ、魔界塔士とかなついなぁ……
しかし、そうか。裏切るのか、凸の奴め……
それとも改変入るのかな?

とりあえず頑張ってジャンヌとミレイユのトコまでやって欲しいね
子供心にあれはうあーってなったよ
そんな俺も高校くらいの頃にはキングのつるぎをアイテム変化で作ったりとか、
そんなチートプレイをしてました
大人になるって、悲しいことよね……
251通常の名無しさんの3倍:2008/07/20(日) 04:12:06 ID:???
トツラン・ヅラW
すげえ名前だな
252通常の名無しさんの3倍:2008/07/22(火) 06:31:10 ID:???
鎧の王が原作に比べてかっこよすぎて主人公空気のように見える
253通常の名無しさんの3倍:2008/07/22(火) 08:53:25 ID:???
主人公が空気だっていいじゃない?
254通常の名無しさんの3倍:2008/07/22(火) 15:37:35 ID:???
今読み終わった。かなり面白いです。
サガ知らないですけど、古風なRPGの雰囲気が出てたきがします。
255駄文:2008/07/23(水) 17:00:39 ID:???
『select』
 コーディネーター達は沢山の問題を抱えてる。
 だけど彼らは平気でコロニーを落す。
 オーブの奴等は学校に行き何一つ疑う事なく愚鈍になる術を教えられる。
 ナチュラルどもは偏執的にコーディネーターを恐れて、無駄な恐怖心によってがんじがらめになる。

 全ての権力は、それを買い取る財力のある金持ちに握られている。 それは昔から変わらない。
 それを奪い取ろうとする奴はいない。そんな事が出来る勇敢な奴は金や権力で骨抜きにされるか殺される。

 歴史のステージを見ろよ。ラクス・クラインがスポットライトを浴びてるぜ。
 ダンスを踊りながら、ステップを踏みながらこの世の春を謳歌してる。
 間近で見ようとするなよ。ただ一つだけの大切な物を失う羽目になる。

 見るなら遠くで見るだけにしとけよ。ステージの周りにいるフヌケになっちまうぜ?
 さあ、選べ。
 ラクス・クラインと一緒に幸せになるのか。
 ラクス・クラインと別の道を歩んで不幸せになるのか。 馬鹿になるのか、利口になるのか。
 選んだ未来がお前の物だ。

end.
256通常の名無しさんの3倍:2008/07/23(水) 20:12:34 ID:???
>>255
掌編にしても短く、ポエムにしては冗長。
駄文、等と言わずにもっと書き込むか、言葉を選ぶかすれば良いと思います。
257通常の名無しさんの3倍:2008/07/23(水) 20:32:12 ID:???
>>225
荒削りで攻撃的な文章が面白い。
掌編やポエムと言うよりは、歌詞っぽい。言うなればUKパンクの訳詞みたいな感じだな。
特に最後がそんな感じだ。狙ってやったのだと思うが。
青春時代に聞いた白い暴動を思い出した。

長くするも短くするも、言葉と文章のチョイスが今後の課題だと思う。
258駄文:2008/07/23(水) 22:17:16 ID:???
>>256
次からはその助言を留意しよう。
>>257
慧眼恐れ入る。
白い暴動に影響されて書いてみた物だ。
259通常の名無しさんの3倍:2008/07/23(水) 22:20:37 ID:???
>>257が凄い。
260通常の名無しさんの3倍:2008/07/23(水) 22:27:53 ID:???
白い暴動を青春時代に聞いたとしたら、何歳なんだ?
261通常の名無しさんの3倍:2008/07/24(木) 18:45:10 ID:???
いや、別に今高校生や大学生くらいの年代の人で
初めて尾崎やら陽水やらを聴いて嵌まっちゃうような人はいるので、
青春時代にクラッシュやらセックスピストルズやらを聞いた20代もいると思うよ?
262真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/07/24(木) 19:22:06 ID:???
hate and war
“Hell W10”
 プラントの兵隊、ヤツらはパナマで出合った虫けらを撃ち殺したがってる。
 ロゴス供の持ってる金は世界中のお偉いさんに戦争拡大を訴える。
 訴えるどころの話じゃない、実際に命令だって下してる。
 戦争にはうんざりだ! だけどオレはなにも出来ない。
 オーブのカガリはいつもテレビに出てる。なにしろ人気とりが趣味のヤツだ、政治させるよりはマシだろう。
 プラントのラクスは影武者の方がマシだった。なんせ偽者はただのキャバスケだ。なにもしないだけ本物よりもまだマシだ。

 政治なんてうんざりだ! だけどオレになにが出来る?
 搾取! 弾圧! もううんざりだ!
 カムバック、カビ臭いコミュニズムのデュランダル!
 カムバック、軍国主義者のパトリック!
 マーシャンなんて知らない、謎の一族なんて尚更だ。
 誰が救世主なんだ、それともいないのか!?

263真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/07/24(木) 19:24:05 ID:???
良く分からないモノ投下。

私は中学生の時にクラッシュに出合った20代ですがなにか? なにかしら?
264通常の名無しさんの3倍:2008/07/25(金) 10:12:57 ID:???
>>真言
マニアックな元ネタだね。タイトルは例の無音声映画?貴方があっち側の人間だと再認識した。

怒りにが滲み出る文章は好き嫌いが分かれるので程々に。とは言え、これが貴方の借り物ではない素の文章なんだろうね。

出来ればもそっとうちひしがれた虚無感を出して貰いたかったかな。その方が“らしい”文章になる。

今後の課題は怒りを抑えてもっとクールに、だね。
今回のはかなりひとりよがりになってるから気を付けるべき。

個人的には面白かった。
265シンが酷い目にあうSS。その一1/2:2008/07/27(日) 14:33:33 ID:???
 何かに誘われるかの様に、シンは一際高いビルの屋上へと向かっていた。
 ギィ、と立て付けの宜しくない冷たい鋼鉄製の扉を開くと、生温くて生臭い風がシンの頬を撫ぜる。
 ゆるりとフェンス際まで歩を進めると、フェンスは御飾り程度の物であり、シンの腰程度の高さだ。
 俯瞰する街の景色は遠く、現実感を感じさせはしない。
 視界の限りに広がる無機質な街からは、窒息しそうな程な息苦しさを感じる。身を投出せばプラントの偽りの空を掴めそうな感じだ。
 ――クスクス。
 何処か聞き覚えのある、懐かしい様な、耳障りな、幼い少女の笑い声をシンは聞いた。
 周囲を見回しても誰もいない。気のせいだな、と思い頭を振ると風の生臭さが一段と増し、シンの不快感を加速させる。
 ――気付かないの、お兄ちゃん。
 気のせいではない。今度は確実に聞こえた。誰もいる筈のない、フェンスの向こう側からだ。
 ――ビュッ。
 風がそよぎ、宙でまどろむ。見える筈のない風がシンの網膜に映る。
 ゴシゴシと目を擦り、その一点を凝視すると、そこにはうっすらと透き通った少女の輪郭が見える。
 冷たい汗がシンの背中を濡らして、下着がへばり付く。
 マユの冷たい宣告に、シンの頬に朱が差す。
「俺は人殺しを楽しんでなんかない!」
「それも、嘘。そうでなきゃ何人も殺さないでしょ。」
「――違う違う違う違う違う違う違う!」
 熾りの熾きた様に体を動かして、シンは誰となく、それとなく叫んだ。
「交わる事のない平行線、お兄ちゃんと私みたいだね。マユにはお兄ちゃんの言葉は届かないし、お兄ちゃんにはマユが冷たい賽の河原で味わった苦しみは分からない」
 クスクスと嗤うマユが手招きをすると、シンはあがらう事の出来ない力で引き寄せられる。
 足を踏ん張り、フェンスを掴み見えない力に逆らうが、引きずられる様にシンは宙へと引かれて行った。
「なんで、なんで!」
 恐怖に打ち震えるシンに、マユは唇を歪めて嗤う。
「なんでって、祟り。お兄ちゃんはマユを供養してくれなかった。それが理由。
 ごっこ遊びの戦争なんてしてないで、御線香の一本、御供えの一つを供えてくれれば良かったのに」
 シンの瞳が大きく見開かれ、狂気の色に染まり、獣の様な叫び声を上げる。
「バイバイ、お兄ちゃん。――あの世で会おうね」
266シンが酷い目にあうSS。その一2/2:2008/07/27(日) 14:34:12 ID:???
 マユの冷たい宣告に、シンの頬に朱が差す。
「俺は人殺しを楽しんでなんかない!」
「それも、嘘。そうでなきゃ何人も殺さないでしょ。」
「――違う違う違う違う違う違う違う!」
 熾りの熾きた様に体を動かして、シンは誰となく、それとなく叫んだ。
「交わる事のない平行線、お兄ちゃんと私みたいだね。マユにはお兄ちゃんの言葉は届かないし、お兄ちゃんにはマユが冷たい賽の河原で味わった苦しみは分からない」
 クスクスと嗤うマユが手招きをすると、シンはあがらう事の出来ない力で引き寄せられる。
 足を踏ん張り、フェンスを掴み見えない力に逆らうが、引きずられる様にシンは宙へと引かれて行った。
「なんで、なんで!」
 恐怖に打ち震えるシンに、マユは唇を歪めて嗤う。
「なんでって、祟り。お兄ちゃんはマユを供養してくれなかった。それが理由。
 ごっこ遊びの戦争なんてしてないで、御線香の一本、御供えの一つを供えてくれれば良かったのに」
 シンの瞳が大きく見開かれ、狂気の色に染まり、獣の様な叫び声を上げる。
「バイバイ、お兄ちゃん。――あの世で会おうね」
 ――落下。
 シンはアスファルトに真紅の大輪の花を咲かせて動かぬ無数の肉片となった。
 手足は中心に重なり合うように、まるで白い花弁の様に鮮血の花びら飾り立てている。
 ひしゃげ潰れた頭は、もはやシンの面影等なく、無貌の仮面の様である。
 ――うらめしや、お兄ちゃん。地縛霊になったら許さないから。

 未だ宙に佇むマユの唇の動きは、シンの瞳には映る事はなかった。

 ――幕。
267シンが酷い目にあうSS。その二:2008/07/27(日) 14:35:26 ID:???
 ――ベタン。
 ルナマリアはつまづいて前に倒れた。目の前にはシンがいたが、彼は決して彼女を助けようとはしなかった。
 そして、倒れた状態であるルナマリアに手を差し伸ばそうと間しない。
 その事に付いて、ルナマリアは彼に非難がましい視線を送る事によって苛立ちをぶつけようとした。
 だが、彼女の周りには誰もいなかった。先程までいたシンはルナマリアを無視して先に行ってしまったのだろう、とルナマリアは結論付けて立ち上がる。
 埃に塗れた服を乱暴にはたく。
「根性、根性、ど根性だ〜い」
 と、間近でシンの声が聞えた。しかし、周囲にはシンの姿は見えない。
 ――新手の嫌がらせ?
 ルナマリアは頬を膨らませて朱に染め上げる。
 シンは何処かに隠れていて、ルナマリアの醜態を嘲笑っているのだ、と思うと自然に握り締めた拳に力が入る。
「おう、ルナマリア。寿司が食いてえ」
「一人でお寿司でも食べれば? アンタなんか知らない!」
 往来を行き来する人達はルナマリアを怪訝そうに見つめる。
 そんな周囲の視線に気付くとルナマリアは、オホホホホホ、と何かを誤魔化す様な猫撫で声で笑い、路地裏に消える。
「ああ、もう最悪!」
 ルナマリアは路地裏のブロック塀に拳を打ち付けて、その怒りを発散させた。
 だが、幾らザフトの一員として身体が鍛えあげられていても、乙女の柔肌からは赤い血が滲む。
「……根性、根性、ど根性でぃ!」
「いい加減にしてよ! 何処まで私を馬鹿にすれば気がすむワケ!?」
 堪えていた怒りが堰をやぶった様に溢れ出る。だが、それと同時に惨めさも浮かび上がってくる。
 ツウッと涙が頬を伝わり、雫となって地面に墜ちた。
「根性、根性、ど根性だ〜い!」
 脳天気なシンの声にルナマリアはキレた。
 獲物を狙う猛禽の様な鋭い目付きになり、周囲を見渡す。そして、姿を見せないシンの気配を感じようと意識を集中させる。
 影も形も見えない。でも、呼吸音は聞こえる。
 ――とても間近。すぐ近く。
 更に耳をすませると、吐息の音はルナマリアと重なっている。

 ――まさかまさかまさか!
 ルナマリアは自分の胸部を見つめる。
 人並み以上の大きさを持つ二つの膨らみの下に、シンはいた。
 平面シンとして。
 どっこい生きてる、シャツの中。

 ――幕。
268真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/07/27(日) 20:04:18 ID:???
リソウノカケラ
“crying locust”
 すぐ後ろに立ち声を掛けた私に、カガリは驚いた様な、惚けた様な顔をした。
「あ、ああ。なんでもない。なんでもないんだ」
 カガリは乱暴に服の袖で涙を拭い微笑む。無理をして笑ってるのが手に取る様に分かるその笑顔は、とても痛々しい。
 だけどそれよりも、富貴の身の人ならば涙を拭うのならばハンカチを使えばいいではないか、と少しばかり幻滅してしまう。
 でも、それがカガリなのだ。そして、気取る事なく有りのままに生きるカガリは、ある意味私の憧れだ。
 カガリは常にカガリであってそれ以上でもなくそれ以下でもなく、カガリのまま。
 自由である事が有り得ない身分なのに、だ。
 人は世間知らずだとか、ただの我が儘と悪く言うかも知れないけれど、私はカガリの自由さに憧れる。
 私は散歩する程度の自由しか持ち合わせていないし、箱庭の人形として仮面を被って生きている。
 素顔なままのカガリには、嫉妬してしまう程に憬れてしまう。
「でも、心配だよ。だってカガリは泣いていたから」
 カガリは涙で濡れた瞳で私を見つめて、私の肩を抱き寄せた。
「……ごめん、ごめん……」
 すぐ後ろに立ち声を掛けた私に、カガリは驚いた様な、惚けた様な顔をした。
「あ、ああ。なんでもない。なんでもないんだ」
 カガリは乱暴に服の袖で涙を拭い微笑む。無理をして笑ってるのが手に取る様に分かるその笑顔は、とても痛々しい。
 だけどそれよりも、富貴の身の人ならば涙を拭うのならばハンカチを使えばいいではないか、と少しばかり幻滅してしまう。
 でも、それがカガリなのだ。そして、気取る事なく有りのままに生きるカガリは、ある意味私の憧れだ。
 カガリは常にカガリであってそれ以上でもなくそれ以下でもなく、カガリのまま。
 自由である事が有り得ない身分なのに、だ。
 人は世間知らずだとか、ただの我が儘と悪く言うかも知れないけれど、私はカガリの自由さに憧れる。
 私は散歩する程度の自由しか持ち合わせていないし、箱庭の人形として仮面を被って生きている。
 素顔なままのカガリには、嫉妬してしまう程に憬れてしまう。
「でも、心配だよ。だってカガリは泣いていたから」
 カガリは涙で濡れた瞳で私を見つめて、私の肩を抱き寄せた。
「……ごめん、ごめん……」
269真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/07/27(日) 20:05:54 ID:???
 泣きながら謝ってくるカガリをあやす様に、彼女の頭を撫でる。
 金色の髪は手入れが行き届いていないのか、少しばかり痛み気味だ。それはそれでカガリらしいと思ってしまい顔が綻ぶ。
 暫くして落ち着いたのか、カガリは呟く様に、囁く様に私に話を始めた。
 政治の話、日々の不満。
 ――そして、悔恨の言葉。
 カガリは自分を責めている。戦争で失われた命の事、不安定な政治の事。
 私には余りにも難し過ぎて、半分も理解する事は出来ないけれども、カガリは悩み苦しんでいる。
 私は慰めの言葉を一つも持てずに、ただ、彼女の頭を撫でる事しか出来ない。
 そして、カガリは私の足元に崩れ落ちる。どうしたら良いのか、と戸惑う私はカガリの言葉に凍結した。
「――マユとシンを会わせる事が出来なかった」
 何故カガリが私の兄の名前を知っているのか、と言う疑問よりも、カガリが兄と私を会わせようとした事が、私の動きを封じたのだ。
 カガリとプラントの歌姫は懇意であるという事は、箱庭に訪れた客から聞いた事がある。
 兄もいつか見た限りでは歌姫と懇意みたいだから、兄とカガリが見知っていてもおかしくはない。 問題は、兄と私を会わせようとした事。
 今の私は素姓がよろしくない。でも、兄は違う。
 兄は今の私を知れば幻滅するだろうし、私の存在は兄の足枷になるかも知れない。
 会わない方が良いという私の結論を、カガリは簡単に覆してくれた。それは非常に腹立たしい。
 それをぶつけようとしても、泣きじゃくるカガリに追い討ちを掛けてしまう様で気が進まない。
 私はそこまで人でなしにはなれないし、そうしたら私は心醜い私を嫌いになってしまうだろう。
 しゃがみ込み、今度は私がカガリの肩を抱き寄せる。
「辛い時、悲しい時は泣く方が良いよ。思う存分、泣いて」
 夕日が沈みきるまでカガリは泣き続けた。そしてポツリポツリと兄の事を話始めた。
 私は黙って聞くままで、言葉を発する事なく純粋に聞き手に回る。

 いつしか戻らなければならない時間が過ぎた。別れの時間だ。
 私がそわそわとし始めると、カガリは再び私の時間を止めた。
「もう遅いから、送る。せめてもの、私の気持ちだ」

 カガリには、箱庭の人形の真実を知られたくない。私の気持ちを知ってか知らずかカガリは無邪気な笑顔を向ける。

 ――季節外れの蝉の声が、途絶えた。

 to be continued.
270真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/07/27(日) 20:07:02 ID:???
やっとリソウノカケラの続きを投下出来ました。
この続きは未定。
271通常の名無しさんの3倍:2008/07/28(月) 00:34:52 ID:???
マユ自ら箱庭をでるのかあるいは出されるのか、はたまた箱庭の方が壊れるのか?
続き期待してます
272真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/07/30(水) 21:45:27 ID:???
hate and war
“Give'en Enough rope”

 もしも権力者に良心があるというのなら、奴等にロープを渡してみろ。
 奴等は良心に従って、ためらわずにロープで自分の首を括るだろう。
 奴等に良心がなければ、俺は奴等にロープで首を括られるだろう。

 ようやっと長く続いた戦争が終わったというのに、あいも変わらず政情は安定しない。
 まあ、頭が変わっても中身が変わってないから仕方がないのかも知れない。
 税金は高いし、雇用保険の支払いはかなり前から滞ったままだ。
 物価だけは右肩上がりで、とにかく住みにくい事だけは確かだ。
 金がなければないなりに暮らせと昔の人はいうけれど、それを実行したら俺はそこら辺の何処かでくたばる羽目になる。
 政治というシステムは複雑怪奇で、僅かな少数の『持てる人々』を幸せにする。
 だけど多数の『持たざる人々』は幸せにはなれない。

 現実を現実として認めよう。綺麗事じゃ腹は膨れない。
 今必要なのは立派な理想よりも一欠片のパンだ。牛乳が付いていたら文句なしだ。

 ところで、ラクス・クラインは大通りのいとろかしこに張られているポスターの中でニッコリ微笑んでる。
 気にいらない話じゃないか。
 奴は良いもん食べてるのか顔色も良い。もっとも、修正が入ってなければ、の話だが。
 それに引き換えて、俺は青息吐息どころか虫の息だ。
 腹立ち紛れに奴のポスターの額に肉の字を書く。
 勿論書く物、ペンの類なんて買う金がないから、指先を噛み千切って書く血文字だ。
 髭を書きたいがなにより奴には赤い髭は似合わない。似合うのは青い髭だ。
 だから髭を書くのは諦めた。
 なんにせよ、生きる事に未来はないし、未練なんて尚更ない。今のままじゃただの生ける屍にすぎないのは事実。
 どうするべきか。悩む事なんてない。
 何か行動を起こしたくても、腹が減っては戦は出来ない。
 何もしないで野たれ死ぬしかない。
 もし、俺に運があるのならくたばる前にラクス・クラインが俺を見つけて鱈腹飯を食わせてくれるだろう。

 だってほら。俺はラクス・クラインを知ってるんだから奴だって俺を知っていてもおかしくないだろ。

 ――知ってりゃ憐れんで何か恵んでくれるはずさ。
273通常の名無しさんの3倍:2008/07/30(水) 21:46:08 ID:???
血迷い短編投下終了
274通常の名無しさんの3倍:2008/07/30(水) 21:55:13 ID:???
>>hate and war
投下乙です。
最初三行の言い回しが印象的で、とても気に入りました。
庶民的な恨みつらみでポスターに落書きをするあたりが、
等身大の憎しみを感じさせてくれます。
またの投下をお待ちしております。
275通常の名無しさんの3倍:2008/07/31(木) 16:47:40 ID:???
『鏡』

「どうしたんだ、鏡なんかじっと見てさ」
 唯一の肉親であるカガリ・ユラ・アスハの声に、少年は我に返った。
 ぼんやりと周囲を見回し、自分が戦艦アークエンジェルの医務室にいるのだと、
時間をかけて、ゆっくりと思い出す。
 いつの間にかベッドから起き出し、洗面台に備え付けられた鏡と向かい合って
いたらしい。頭に包帯を巻いた自分が、眠たげにこちらを見ている。
「絶対安静だって言われたじゃないか。お前、頼むからこれ以上心配させてくれるな。
 フリーダムが墜とされたときは、本当に死んだかと思ったんだぞ」
 墜とされた――その言葉に、もやが掛かったような思惟の中から一つの記憶が
浮かび上がってきた。圧倒的な気迫、こちらの癖を知悉した猛攻。
 そうだ、僕はインパルスに負けたんだ。
「こっちの心臓が止まるかと思ったよ、まったく。だからさ……まだ寝てろって!」
 ぐいぐいとキラをベッドの方に押しやりながら、彼女は返事を待たずに喋り続ける。
根負けした弟がいそいそと布団にもぐりこむのを確認すると、一仕事終えたように
なにやら勝ち誇った顔をして、うんうんと嬉しげに頷いた。
「しかし、お前はやっぱり並外れて丈夫にできてるんだな――なんだ、嫌な顔をして。
 私は弟の無事を喜んでるんだぞ? お前の生まれについて皮肉ってるわけじゃない」
 キラの目が語る無言の非難にさっさと弁解を済ませ、彼女は続ける。
「なにしろルージュでお前を助けに行って、ハンガーでコックピットを開けたときは、
 シートもコンソールも血まみれで、お前自身も虫の息に見えたんだからな。
 それが集中治療室に運ばれて、少ししたらどうだ。『命に別状はありません』だって?
 こうして見ても、運び出されたときより傷が少ない気がするよ……」
 自分の生還を心から祝ってくれているらしい姉の前で、キラは「ああ、それはね」と
心の中で答えた。
 “そのときの僕”はきっと、確かに致命傷を負っていたのさ。
「じゃあ、絶対安静にしろってことだし、ちょっと寝させてもらってもいいかな」
「そうだな。人がいても寝づらいだろうし、私はこの辺で退席するよ。それとも
 ……お姉さんに寝かしつけて欲しいというんなら、一向に構わんが?」
「遠慮します! オーブの理念にかけて、他人の安眠を妨害しないでよ」
 苦笑しつつ、部屋を出て行こうとしたカガリが、ふと足を止めて訊いた。
「そういえばキラ、さっきはなんで鏡なんかと睨み合ってたんだ?」
 すると弟が背を向けて「なんでもないよ」と、いかにも眠そうに返したので、
彼女はそれ以上追求することなく、今度こそ医務室を出て行った。
 世界との繋がりを遮断するように閉じたドアを振り返り、音もなくベッドから出た
キラ・ヤマトは、再び鏡の中の自分と向かい合った。
 もう眠気はない。僕は完全に覚醒している。
「なんでもないさ。本当になんでもないんだ、カガリ……」
 眼前に映る己の似姿は、どこか寂しげな笑みを浮かべている。しかし果たして、
こちらにいる自分も同じように笑えているだろうか?
 少年は己の独語に二の句を次いだ。
「ただ、ここにいるのが何番目の『キラ・ヤマト』なのかと、それを考えてただけさ……」

<了>
276通常の名無しさんの3倍:2008/07/31(木) 16:53:07 ID:???
n人目キラ説を元に1レス短編を一本。
「フリーダムを落とされたら僕は〜」とかのくだりは無かったものと考えております。
277通常の名無しさんの3倍:2008/07/31(木) 18:09:12 ID:???
>>『鏡』
GJ!
描写も分かりやすいし上手く纏まってる。
しかし視点を統一させた方が良かったと思う。
でも、不条理なオチを突き詰めてキラ視点で書いているのは秀逸。
出来ればもっとやるせなさを感じさせて貰いたかった。

>>“Give'en Enough rope”
GJ!
上の人も言ってるが最初の三行がとても印象に残った。
惜しむらくは話の本筋とは関わりがなかったところか。
元ネタ探しをすると青い髭は青髭で良いのかね。
タイトルは……いつもの様に洋楽からか。
全編通して感じる暗い閉塞感はプラントと言うよりもイギリスみたいだと思うがどうだろう。

278通常の名無しさんの3倍:2008/07/31(木) 20:53:46 ID:???
>>『鏡』
投下乙です。
n人目キラ説は2ちゃんねるでは頻繁に出てくるネタですが、
複製されているのは自覚しつつもそれを客観視できないキラ、
という視点で描いているところにうまさがあると思いました。
欠点といえるのは上の人も書いていますが、カガリが部屋を出る瞬間に
視点をキャッチボールしています。唐突だったので違和感を
覚えてしまいました。
またの投下を期待しております。
279通常の名無しさんの3倍:2008/08/01(金) 02:19:52 ID:???
>>[[鏡]]
文章には何も恐ろしい言葉や表現は無いはずなのに、言葉に出来辛いこわさを感じたよ。
キラに自分が何人目かのキラか、自覚があるっぽいところが特に…。

乙です。
280通常の名無しさんの3倍:2008/08/01(金) 16:49:31 ID:???
>>鏡
ホラーっぽく仕上げてあって面白かった。
281通常の名無しさんの3倍:2008/08/01(金) 17:48:06 ID:???
>>鏡
ラストの淡々としたキラのセリフが雰囲気に合ってて良い

ふらっと入ってこれだけ読んだんだが
「いそいそ」って楽しい時に使う表現だよな…?
たまに訳の分からない状況で使われてるのを見かけるが
慣用句としてもおかしいと思うよ…
282弐国 ◆J4fCKPSWq. :2008/08/02(土) 08:44:59 ID:???
小さな島に風が吹く
第1話『僻地手立ての付く島(後編)』(1/8)

「――それと、eqip2の中に先日お話のあった新規の反応予想の試作品を2種類、
作ってみたので入れてあります」
 コーネリアスが説明をしながらダークスーツの女性に徹夜で作ったディスクを渡す。
「2種類も? 今日、間に合うとは思っていませんでした。その、言葉は良くないですが
凄まじいスピードですね。流石主任です」
 黒い長い髪に黒縁のメガネ、あまり抑揚を感じないその女性は中央行政府から定期的に
やってくるエージェントの一人で、機密管理等を主な仕事にしているカトリーヌ・クロゥ。 
細い顎も相まって、あまり人好きのするタイプではないが美人ではある。そして見た目に反して
機械工学に明るい。
 コーネリアスは彼女が連絡員として来ることを、だから好んだ。少なくとも要らない説明をする
手間は省ける。
「まぁ、正直まだ遊びの範疇でして。それを見てもらって基本ラインだけでも決めて貰えれば
設計方針が立ちます。今回については五里霧中なんですよ、ホントに」

 何を作っているのかわからないなりに彼女は見当を付けていた。さわれる部分はかなり
限定されるのだが構造やプログラムの方向性の癖から行けば、たぶんG計画100系のOS
に近いものだと決めつけて色々作っている。
実際、アークエンジェルのヤマト少尉からフィードバックされたX105のV3以上がベースなのは、
ほぼ間違いない。それを決めつけた時点から明らかにリテイクが減った以上間違っては居ない
のだろうが、どう見てもナチュラル用OSである以上、今更連合X系のOSを改造(いじ)るくらいなら
アストレイP02あたりのデータを手直しした方が早い……。

「外は今日も暑いですよ? イタバシ主任は肌が綺麗だから日焼け対策が大変そうですね」
 急にどうでも良い話題で物思いから呼び返されて、しかも外、と言われて自分は外に
出られないコーネリアスは少々カチンと来た。
 そんなに暑いなら上着を脱いだらどうです? 思うだけに留めてそれは口に出さない。
前に彼女の上着の隙間から皮のベルトが見えたことがあるのだ。彼女はパンツスーツは着ない、
そして彼女の所属、それを考えればサスペンダーの類で無いのは明白だ。上着のサイズだけが
若干大きめで合わない様に見えるのもその所為だろう。だから。

「此処にいる限り外には出ないで生活全部すみますからね。それに徹夜ばかりでお肌は
もうボロボロ……。素顔じゃ外に出らんないわぁ、あは♪」
 と普通に受けた。クロゥが疲れの見える彼女に気を使って、雑談を振った事に思い至った
事もある。そもそも生活臭など微塵も感じさせないクロゥが、世間話を振って来ること自体
あまり無いことではあった。
283弐国 ◆J4fCKPSWq. :2008/08/02(土) 08:47:02 ID:???
第1話『僻地手立ての付く島(後編)』(2/8)

「データは間違いなくお預かりしました、ありがとうございます。私は下の工場を回ってから
帰りますので今回はコレで」
 クロゥが日本式の作法通りのオジギをしながら、そう言ってコーネリアスの部屋を出たのは
どの位前になるのか。ちょっとした修正をしようとディスプレイを覗き込んだ彼女はそのまま
作業に没入していた。
「イタバシ主任! まだ居たのですか!! 先ほどの放送、端末にも緊急メッセージ送って、
聞いて、見てないんですか!」
 いきなり前触れ無しにドアが開くと、いつも彼女がIDチェックを受ける初老の警備員が
息を切らして立っている。

「放送、壊れてるって一昨日ジャックに言ったんだけどなぁ。それにこっちの端末は
いま完全スタンドアローンだから……。おじさん、いったい何があったの? 火事?」
「とにかく大至急ここを出ます! 主任が最後です! 船はもう間に合いませんので
駐屯地まで走ります!! その端末だけ持てばいいんですね!? 山道を走りますよ!?」
 彼女は全く無視され、機密が満載の端末を電源の入ったまま持ち上げようとする警備員。
「ちょっと、おじさん! ヤルタ警備主任!! それは――――っ!?」

 部屋中が震える様なガーンという音が響くと、警備員は彼女の机を抱きかかえるように
ゆっくり崩れ落ちる。
「危機管理という面では以外とまともだな……。アナタが責任者か?」
 茶色と黒の迷彩服にサングラスの男がコーネリアスに問う。彼の持つアサルトライフルの
銃口から煙があがる。警備員が倒れた床に赤い液体が少しずつ広がっていくのを見て、
漸く彼女は理解した。

 何だか良くわからないが私は逃げ遅れたらしい……。何故冷静にそんなことを思えるのか
自身で理解が出来ない。
「所長はオノゴロの本社で会議です。序列から行けば私は5番目だからそんなに偉くないです」
「エライ必要はないのだがね。キィコードを教えてくれればそれで良い。隠せば非道い目に
遭わせなくてはいけなくなるんだが、年頃のお嬢さんにそう言うことを強いるのは趣味じゃない。
出来ればやらせないで欲しいものだな?」
「非道い目には遭いたくないです。けれど、所長しか知らないことを私がお教えする事は、
そもそも不可能だと思いませんか?」
 クロゥはもう逃げただろうか。美人でしかも諜報畑の人間だ。所属がこの手の連中にバレれば
只では済まない。

「何処にいるのかわかっているなら連絡して貰おうか。繋がれば俺が変わる、アナタは
所長と繋いでくれれば良い」
 つい本社などと口走ってしまったことを後悔するコーネリアス。だが死にたくない以上は
所長に電話に出て貰う。弔慰金なんか貰ったって死んだらブーツもバッグも買えやしない。
そう思うと意を決してボタンを押そうと受話器をデスクから取り上げるが…………。
「あの、通信制御室とか端末制御装置とか壊しました? 発信音、しないんですけど……」
 と言いながら彼女は心当たりに目を走らせる。デスクの下、既に絶命したであろう警備員の
右手がセキュリティの為のカットアウトスイッチの部分を隠すように伸びている。
 最後までプロだったんだね、おじさん。ゴメンね、私の所為で……。彼女は目線をそこから
外して受話器を戻しながら心の中で手を合わせる。
284弐国 ◆J4fCKPSWq. :2008/08/02(土) 08:49:27 ID:???
第1話『僻地手立ての付く島(後編)』(3/8)

「いいや、機器は壊しては居ないぞ? この部屋だけつながらないのではないのか?」
「そんなに大事な部屋に見えますか? さっきも言いましたけど偉くないんですよ、私」
 コーネリアスは困った顔を作ると男に向けて見せた。警備員の意志をついで全館通信不通
で押し通さなければなるまい、と彼女なりに決意をする。もとより無線も携帯も届かない島である。
通信が不通ならばパスはわからずデータも引き出せない。
 ならばシステムごとごっそり持って帰るより他に無いのだが、記録媒体の本体はこの建物の
場合は大きなホール一つ分である。大事な部分は確かに小指一本だろうが強引に外せば勿論
保存されたデータは自壊する。だからといって諦めて素直に帰る訳もあるまい。
 男が次にどんな行動を取るのか読みかねる彼女。

「……あぁ、いったん退くしかあるまい。表のヘリはどうだ? ……わかった。人質が居る。
俺とスミダがヘリだ。……? 面白いな、動かせるなら好きにしろ。――お嬢さん、悪いが
所長と連絡が取れるまで俺につき合って貰うぞ?」
 男がなにやらトランシーバーに話すのを聞くともなく聞いたコーネリアスは、銃口を突きつけ
られているとは思えない程自然な動作でオレンジのブルゾンに袖を通しながら男に話しかける。
「ヘリコプターに、……乗るんですよね? 私も」

 あぁ、私は死にたく無いから次の行動を冷静に考えているんだ。と、そう思い当った彼女は
自分を情けなく思った。
285弐国 ◆J4fCKPSWq. :2008/08/02(土) 08:53:08 ID:???
第1話『僻地手立ての付く島(後編)』(4/8)

「……だったら手紙でも出したらどうだ、女性は以外とそういうのに弱いぞ。今回は
真面目にモノにしたいんだろ?」
「そりゃそうだが、そんなガラじゃねぇしなー。あっちも仕事、忙しそうだしさ」
 岩場にまたしても煙草をくわえて座る二人。砂浜に目をやればカエンを乗せてきたヘリの
パイロットが備品の非常用シートを敷いた上でどうやら本格的に寝入っている。 
「ま、女なんざ星の数。人口の半分は女だろ? それにココだって僻地ではあるが妙齢の
お嬢さん方ならばあそこに……」
 研究所の方向を振り向いたダイがしばし固まると、首にかけていたインカムをズリあげる。
「煙が出てる! ――中隊司令室、特機小隊長ジョーモンジ二尉より至急電、応答乞う!」

『司令室フジワラ士長了解、現在研究所警備室、並びに警察、消防団への通報中。
……ところで小隊長、M1、起動してますか?ラジオにノイズがのってくるのですが』
「いくら俺でも命令無しに起動はしないぜ。ホントにMSの駆動ノイズか? 技師長に……」
『司令室、特車小隊RG2より至急電。研究所の職員が大挙して道を降りてくる、
何か聞いてるか? 応答乞う!』

「コイト! 災害発生の可能性あり、だ! 寝てるなら起きて機動準備、災害出動準備待機! 
――ヘリコの運転手叩き起こして司令室に行け! 状況によってはおまえさんの立場は
中隊長の役に立つ! ラジオ、聞いとけよ!」
 インカムをカエンに投げつけて自分のM1へと走り始めるダイ。。


『こちらは中隊長ヨコヤマ一尉である。全隊警戒態勢発令。状況を鑑み人命救助、財産の保全を
目的に全部隊に出動準備を命令する。大至急出動準備待機に入れ』
『総員起こし、総員起こし。現時をもって全隊警戒態勢、準備待機。班長以上は至急司令室へ
所在の連絡をされたし! 繰り返す……』
 駐屯地のサイレンがうなり始める

「ダイ! 何が起きたんだ!?」
「俺が知るか! たぶん火事かなんかだろ!? イーストセントラルポートのジープは道が
ふさがって上がれまい。こっちの方が早く着くか。――司令室、こちらA1。ジョウモンジ二尉
以下一名、A1、及びA4都合2機のM1アストレイを使用して現地に向かいたい、M1の起動を
許可されたし!」
286弐国 ◆J4fCKPSWq. :2008/08/02(土) 08:59:36 ID:???
第1話『僻地手立ての付く島(後編)』(5/8)

「火事かなんかか? チャンスだな……」
「リコにぃ。行くの?」
「あぁ、あそこなら多分食い物も本もディスクもたくさんあるだろ? 何とか出入り口を見つけ
られればこの先、楽だ」
 少年一人と少女が二人、煙の上がる研究所を小さな小屋の前から見上げる。
「それに薬だって名前だけはわかってる。始めから一年持たないんだ。それも探して見る」
「お水とお薬、入ってるからね? 無くしちゃダメだよ?」
 肩までの髪の面長のかわいらしいと表現するのが適当と思える少女、彼女がバッグを渡す。
「あぁサンキュ。おまえらも薬飲むの忘れるな、勉強もサボるなよ? ……行ってくる」

 少年は薮の中に走り始めると、少女達の前から姿が見えなくなる。
「……ななにち、で帰ってくるんだよね?」
 肩までの髪の少女よりは多少年長に見える、長い髪を髪をうしろで無造作に縛った少女は、
自らを振り返ったその少女の肩をそっと抱く。
「リオナ、大丈夫よ? リコにぃが優秀なおかげで私達、今まで生きてこれたんだから」
 そう言って長い髪の少女は、その優秀な『兄』を失えばその時点で自分たちの命運もつきる
だろう事に気付いた。
 食べられる野草の鑑別、簡単ではあるがトカゲや魚を捕まえてきては作ってくれた料理。
彼の存在無くして、人里離れた山奥で子供三人だけで数ヶ月生き延びる事など、絶対
出来なかったはずだ。
「そう、大丈夫。大丈夫だから……」
 彼女には生きる事への執着は無かったが、だからと言って死にたい訳でもなかった。
287弐国 ◆J4fCKPSWq. :2008/08/02(土) 09:04:47 ID:???
第1話『僻地手立ての付く島(後編)』(6/8)

「コイト准尉。起動終わりしだい各種センサー最大、先ずは様子を見る。急に走ったりするなよ?」
 ダイから見ても若者な部下に声をかける。火事であれば初期ならM1の応急消火キットで
消火が可能かも知れない以上、走っていきたいのは山々だが、警察にも島の消防団本部にも
火事発生の一報が入っていない、警備室とも連絡が取れない。と司令室から言って来た。
研究所の警備室と連絡できない、などとは平素を考えればそもそもあり得ない。
 さっきのカエンの話もある。慎重にならざるを得ない材料は既にダイの手元に集まっていた。

『もう学校は卒業して三尉です、小隊長! 火事ならば大至急現場に向かった方が良いのでは
ないでしょうか!?』
「MSが要らない状況だってあり得るだろう? 現地に行ってデカブツはイランとなったら
どうすんだ? 足場がどうなってるかわからんのだぞ! 重さで足下抜けたらジャマなだけだろうが!
つべこべ言わんで、先ずは光学観測倍率最大、司令室にそのまま絵を送れ!」
 怒鳴りおえて、すまんな。とダイは呟く。慎重になっている一番の理由はさっきのカエンの
話だが、相手が誰であろうとそれは未だ、喋る訳にはいかない。

『申し訳ありませんでした、小隊長。――A4起動完了、立ち上がります。』
 隣でアストレイがゆっくりと膝を伸ばしていく。人間の視線より17m程高いカメラが捉えた映像が
ダイの元にも送られてくる。モニターの1/4を占める画面の中、木々に遮られて上半分だけしか
見えないが一部から煙を上げる建物、穴の空いた中庭、ゆっくりとローターの回るヘリコプター。
 そして――。

「あり得ない、なんでこんなトコにモビ…………。 っ! コイトぉお! 大至急左に回避ぃっ! 
回避だ、全力後退っ! 逃げろぉお!!」
 ダイが叫んだ次の瞬間、頭を失ったアストレイA4は再び地面に片膝を着いた。
288弐国 ◆J4fCKPSWq. :2008/08/02(土) 09:06:45 ID:???
第1話『僻地手立ての付く島(後編)』(7/8)

「覚悟が良いのは結構だが、アンタは人質なんだぞ? 一応その端末も貰っていくか……」
 わかっています。コーネリアスは答えながらブルゾンのジッパーを閉める。先ずは服従しなれば
殺される。だけどその先は……。既に冷静にパニックを起こしつつある頭では上手く考えが
まとまらない。
「ヘリで5分も飛べば携帯が通じる。所長と話が出来ればアンタの役目は終わりだ。2,3日で
解放する、安心しろ」
 頭の良いお嬢さんとなら話をしたいヤツがたくさん居るからな。退屈はさせないぜ?
そう言うと男の唇の端がにやりとゆがむ。
 非道い目に遭わされて殺されるんだ。さっき殺されておけば良かった……。
彼女の足から力が抜けそうになった瞬間。

『ぱすっ、ぱすっ』
 と気の抜けた音が2回鳴った。それと同時に下卑たニヤニヤ笑いを唇に貼り付けたまま
男は前のめりに倒れる。
「大丈夫でしたか、イタバシ主任! お怪我はないですか? その、何も、されませんでしたか?」
 いつの間にか開いていた扉の向こう、大型の銃に更に長さを強調するかのようなサイレンサーを
付けたものを構えるのは、メガネと黒い上着を脱ぎ捨て、ブラウスの上に背負ったガンホルダーが
アクセサリーに見える美女。クロゥだった。

「私は大丈夫、ありがとうクロゥさん。私のことはコーネラで良いわ、みんなそう呼んでるし。
それと敬語も要らない。たぶん私の方が歳は上だろうけど」
「では、私のこともカトリで良いです。コーネラさんの5つ下のハズです。喋り方は、その、
勘弁して下さい……」
 アサルトライフルを背負って、右手にサイレンサーの付いたゴツイ銃を構えたクロゥを先頭に
長い廊下を歩くコーネリアス。地下の工場で異変に気づいたので全ての部屋を点検して回った。
敷地への侵入者は6,ないし7。そのうち4名は打ち倒して1名は外のヘリコプター。最低後一名
足り無いので気を抜かないで下さい。
 周囲に目を配りながらコーネリアスの前を歩くクロゥは簡単に状況を説明する。
 タイトスカートはスリットのように破け、ブラウスの右袖が少し破けて端が焦げているのを
コーネリアスが言うと、
「それこそかすり傷というヤツです。一応ブランド品なんですが経費で落としても良いですよね?」
 と言うと堪えきれない、といった風にすこし笑った。
 私がただ死なないように考えていた時にカトリは……。そう思うと情けなくて涙が出そうになる
コーネリアスである。

「とにかく表にさえ出られれば、何とかなります。私の立場の人間が複数居るように向こうには、
――あぁ大丈夫ですか。もうちょっとだけ、頑張りましょう――見えているはずですから、うかつに
手は出してこないでしょう」
 やっと一階まで降りたのだがあえて窓のない廊下を進むクロゥ。外にいる人数がわからない
のだ、と言いながらビーチへ続く道に出てしまえばきっともう手は出さないだろうとも言う。
コーネリアスにはその辺のロジックは良くわからないのだが、彼女が言うのならそうだろうと
思えたので、わざわざ聞いたりはしなかった。
289弐国 ◆J4fCKPSWq. :2008/08/02(土) 09:10:54 ID:???
第1話『僻地手立ての付く島(後編)』(8/8)

「ちょっとコーネラさんはココで待ってて下さい。外、見てきます。その演壇の影ならば広いし
裏からしか見えません」

 たどり着いたのは大講堂。全面ガラス張りの壁からは中庭から木々に囲まれたビーチが
見下ろせ、天気が良ければ水平線が綺麗に見える。景観は良いのだが隠れるのには如何にも
適していないようにコーネリアスには思える。 
「むしろどの方向から来ても見えると言うことです。こっちは隠れてますから先に発見できます」
「そんなモンなの? 疑う訳じゃないけど、ホントに?」
「多少頼りないかも知れませんが、一応プロです。信じてくだ、――なんで動かせたの!? 
不味い、まさか地下にっ!!」

 ココを動かないで下さい、地下に用事が出来ました! と言うといきなり走り始めるクロゥ。
「ちょっ、カトリ! 私はどうすればいいの?」
 状況を見て、左のドアから外へでたら絶対止まらずに駐屯地へ! 言いながらその姿は
入ってきたドアへ消えた。
 何が彼女を慌てさせたのか。恐る恐る窓の方を覗くと『アストレイ』がビームライフルを
中庭からビーチに向けて構える所だった
「うそぉ! 聞いてないっ!! なんでP系アストレイが研究所(ココ)にあるのよ!? 
――っ! 撃った……! 撃っちゃったぁあ……あ……」

予告
誰も経験したことのない対MS戦。ダイは軍法違反承知でM1アストレイを駆り丘を走る。
そしてクロゥと分かれたコーネリアス。彼女は生き延びる事が出来るのか?
――次回第2話―― 『史上初の戦い』
290弐国 ◆J4fCKPSWq. :2008/08/02(土) 09:14:40 ID:???
今回分以上です、では。

>>182
あまり意識してないつもりですが、そう見えますか?
291通常の名無しさんの3倍:2008/08/02(土) 11:34:49 ID:???
おっ!弐国GJ!
この『兄』てのと二人の妹?がどう関わってくるか展開が楽しみです
もちろん、兄より髪の長い少女が楽しみですがw
そして警備員のおっちゃんに敬礼!
292通常の名無しさんの3倍:2008/08/02(土) 16:56:50 ID:???
>>弐国
まさか自分が新人スレで萌え担当だと自覚してなかったのか?
293SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/08/05(火) 12:00:14 ID:???
8/
 ――ミネルバ バイタルシャフト内 廊下

 廊下を渡るレイは、頭上のエアロックに向けて飛び上がり、取っ手に手を掛けようとして失敗した。
 遠心力ではない本物の重力に、床まで引き戻されて舌打ちを漏らす。
「頭では分かっていても、体が慣れていないという感じね?」
 聞き覚えの薄い女の声だ。彫りの深い顔と風船の入ったような胸にマリア=ベルネスだと思い出す。

「私も経験が在るわ。酷い人だと、三階くらいの高さから飛び降りてしまうの。
ええっと……サイ君を探してるんでしょう?」
「ええ……ですが?」
 動揺を微塵も見せずに首肯した。
「パイロットが興味あるのは、皆そう。でも、着艦のときの曲芸は上司命令で仕方無かったの。
本当は自分の技をひけらかすような子じゃないのよ?」
 まるで古くからの知り合いで在るかのように――実際そうなのだろうか?――マリアは
アーガイル三尉の事を自慢気に語っていた。
「ちょっと特徴的なところが在るけど、基本的にはいい子だわ」
「……」
 ――応用的にはどうだか知りませんがね!
 シンの幻聴が聞えたのは、彼に毒されたと言う事なのかも知れない。

「特徴的なのはそれだけではないですが」
「ああ、プログラミングも中々の腕よぉ? 」
 技術者と知り合い、コーディネーター、プログラミングの名手、わけありのパイロット、
そしてアスハ代表の懐刀――レイの脳裏で焦点が移動し、ピントのぼやけた何者かの像が結ばれつつあった。
 顔を知らないが、もしや――
「――……――使わないの?」
「――え?」
「捜索システムをどうして使わないの? "私達"の居場所くらい、この許可証でわかるでしょう?」
 マリアは、電子チップのはめ込まれたIDカードをひらめかせた。
「結局は、その場所まで自分で行かねばなりません。主機関を?」
 レイは、マリアの来た方向を考えて話題を逸らす。
 マリアの声が聞こえないほど、思考の淵に沈んでいたのは、余り調子の良くない時だと思った。

「ええ、中は見せてもらえなくって、少し残念だわ」
 流石に当然だろうと思い黙って居ると、マリアは慌てて手を振り、三歩後退した。
「――え? ……ああ、ザフト型の反応炉を見るのが始めてだったから、ちょっと興味が湧いちゃって、ね。
私は修理の手伝いに来ただけで、機密をどうしようというわけではないの」
「そんな堂々と言い訳をする人を、スパイなどと疑ってはいません」
 人の口に戸は建てられぬ――よくいったものだ。
 お陰で、サイ=アーガイルに関しての情報を知り合いから得ることが出来る。
 修理の礼を告げてその場を立ち去った二秒も後には、マリアの顔も体も、記憶の端に追いやっていた。
意識に残るのは言葉だけ――パイロットはパイロットにしか興味が無い。
 彼女の言うとおりだろう。
 殺すか殺されるか、天秤の両端に乗る人間同士だけが、にらみ合うのだ。
294SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/08/05(火) 12:00:51 ID:???
9/

 ――ミネルバ バイタルシャフト内 士官室前

 オーブ側の客人の為に用意された部屋、の前で何故かヨウランが簀巻きにされていた。
彼を踏みつけたまま、全身を縛る荒縄――何処から持ち込んだのだろう?――の端を握のは、
藤色のスーツをまとったシズル=ヴィオーラ女史だ。
「レ、レイ、いい所に来た。助けてくれ!」
「わが軍のクルーを簀巻きにされては正直困りますが……一体何が?」
「説明したってもええけど、正直に説明してええんどすか。ザフトへの正式な抗議になりますえ?」
「な……誤解するな、レイ! 俺はただ、ちょっと――」
「海に捨てておいて下さい」

 レイは底知れぬ侮蔑を籠めてはきすてた。
「――他の方々は?」
「代表は艦長を交えて会議どす。ウチも資料を持って行かんと――アーガイルはんは知りまへんな」
「そうですか、どうも有り難う御座います。ああ、ダストシュートは其処ですので、失礼」
「おおきに」
「レ……レイーー!」
 ヨウランを待ち受ける運命に一瞥もくれず、レイはその場を足早に立ち去った。

 ――ミネルバ 格納庫

 レイは結局、勘だけを頼りにフロアを数階分降りた。ミネルバでコレだけ下に向かえば、
行き着く先は決まっている。白いオーブ軍服の三尉は予感どおりに格納庫に居た。
「失礼……アーガイル三尉。ちょっとお話があります」
 ムラサメの足元で整備のクルーから二重に囲まれ、和やかに談笑していたアーガイル三尉を借り出す。
「なんだよー、パイロットの特権て奴かぁ? お客さんを独り占めしやがって!」
とはヴィーノの台詞。

 ――ミネルバ 甲板に向かう通路

「アーガイル三尉」
「サイで良いよ、何?」
 甲板に向かう道すがら、頬にくっきりと紅葉のような跡を残す横顔に告げた。
「首が曲っております……」
「正確な報告をありがとう。ホークさんの張り手は強烈で速いね。
腕が消えたと思ったら、もう宙を舞って居るところだったよ」
 曲った首のまま、整備と何を話していたのだろう?
295SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/08/05(火) 12:01:56 ID:???
10/

「ホークさんに伝えてよ、地上の風はいきなり吹くから気をつけてねって」
 苦労して頭を両手で掴み、"ごきゅるり"と音をたてて頸部の向きを元に戻す。
「本当に"見えた"のですか。彼女はカミカゼが吹いたと言っていました……伝えておきましょう」
「見えたけど、大変な目に合ったよ。全く……モビルスーツ乗りは首を大事にしないとね」
 レイやシンならば、首が繋がって居る幸運を感謝するところだ。耐久力、Aクラス。

「感謝、かあ。いいねぇ。僕も感謝しようっと」
 懐から数珠を出して十字を切るアーガイル、レイは珍獣の糞を見るように眉をひそめた。

「で、バレル君は何に感謝するのかな。プラントに信教の在る人は少ないでしょう?」
「……天にでも。ですが、地球の太陽は少し眩しいですね」
 コーディネーターは全員人造の子である。ナチュラルの言う"神"に弓引く技術の産まれから、
それらを信ずる者は当然の如く少ない。


 二人の出た甲板は通り雨に打たれて、所々水溜りを作っていた。傾いた太陽が、レイの見上げる空に
七色の橋を架けて居る。レイは始めて虹を見た。 

「ああ、太陽を神様に持って来た人たちもいたね。感謝はいいけど地球の太陽は強烈だよ」
 潮の香りを含んだ風によって纏わり付く前髪を右手で抑えつつ、左手が作る影の下で目を細めた。
アーガイルは、レイの白い肌を見て言葉を選んだのだろう。

「……日焼け止め程度は」
「外に出るなら、麦わら帽子位は欲しいよね」
 アーガイルは平然と、日に焼けた肌を太陽の下にさらしている。髪は手を入れていないだろう、
がさついた様子だ。レイは自分の長髪が気になったが、髪が痛むのが気になってしまうようならば
今すぐにでも刈り取る準備がある。

「麦わら帽子……」ザフトでは余りに聞き慣れない言葉だ。
「うん、涼しいよ? 僕の先輩は夏に愛用してたりする」
「軍服には絶望的に似合わないでしょう――」
 ザフトとオーブのトップガンが、雁首を揃えてする話題だろうか。けれど、ぶしつけに
レイのコーディネートについて、たとえば紫外線に強い肌を持つような因子を加えられていないか、
といった事に関して聞かれてしまうよりは、答え方の分からない質問をされてしまうよりは、
このとぼけた話題の方が都合がいい気もした。

「それが、半ズボンにTシャツ姿で麦わら帽子を被って、スイカ畑の世話をしてるんだよ。
滑走路の脇に何故か畑があってね。……まあ、そもそも軍服の似合わなさそうな人なんだけど」
 どちらにしろ、ザフトの制服には似合わないだろうと思う。自然と、レイの目が細められた。
笑顔ではなく緊張によってだ。彼は、何かから話題を逸らそうとしている。
296SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/08/05(火) 12:03:11 ID:???
11/

「そうかな……制服のデザインを変えてしまえば面白いかも」
「予算の無駄遣いです……」
「そうかな?」
「そうです。それに、暫くは太陽がかげるかもしれません。紫外線を恋しく思うようになるほど、
空の色がかわってしまうかもしれません」
 アーガイルは、赤茶けた空と、時折天空を裂く流星を眺めていた。

「そうだね、ユニ――デブリのカケラが沢山落ちたから、しばらくは寒くなっていくかもしれない」
「直撃はしていません」
「君たちのお陰でね」
「……我々だけではありませんよ、三尉」
「ああ、そういえばアレックスとアスハ代表も居たね」
「それだけでは無いのです……あの場には、核を持った者が居ました」
 一番知りたかった事は、相手にとっては最も知られたくない内容に違いない。

「……へぇ?」
 だが、にこやかだったアーガイルの顔はそのまま、皮下の血管に水銀が流れ始めたかのような、
一変した雰囲気を感じさせた。

「そして同時に、大気圏を上がってくるムラサメをミネルバが記録しています」
 笑顔で鎧うアーガイルに気圧されぬように、意識して過剰なほどに語気を強めてなお、
背中にかく汗が体温を奪って行くのを、ありありと感じずに居られなかった。

「オーブはそんな機体を見てないね」
「我々は見ました、そしてアーガイル三尉、貴方はここに」
 簡単な事実を推理を組み立てれば誰でも到達しうる事実が、今レイの眼の前に居る三尉だった。

「崩壊寸前のユニウス7に取り付き、侵入した核――それを捕捉していたオーブのムラサメ。
ムラサメには超高高度での迎撃能力がありますね」
「よく知っているねぇ……それで?」
「攻撃出来るならば、護衛する事も可能でしょう?」
「何をだい? 真逆ユニウス7を、だなんて言わないよねぇ」
「……」
 レイは沈黙した。答えは相手から言わせたかった。

「……その"未確認な飛行物体"が、核を護衛していたって言いたいのかな?
一体何処のだろう、オーブは由緒正しい非核保有国だったはずだよ」
 だからこそ、プラントがNJを落としても沈黙の春を迎えなかった。
297SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/08/05(火) 12:04:11 ID:???
12/

「僕はねぇ、テロリスト達が自決用に残していた核弾頭じゃないかなって思ってるんだけど?」
「核を使って自決する理由が無い――ユニウス7の上です」
「そうだろうか、でも、"僕は"そう考えている」
「……?」
「違うよ、きっと違うんだよ。ユニウス7を落とそうとしたテロリストも、ナチュラルを全部
滅ぼそうとはしなかったし、地上にコーディネーターが沢山残って居る事も忘れてはいなかったんだよ」
 アーガイルは言葉を連ねる。

「僕は先刻言ったよね、"思ってる"って。普通、軍人が使わない言葉だけれど、今だけは多分、使える」
 レイの体中をびりびりと、背筋を伸ばす衝撃が走った。
 目を見開き、歯を食い縛ってそれを耐える。
「僕たちは"事実"だとか、充分それに類するもので無ければ信じない。
けれど思って、期待していい時――それはどんな時だろう……?」
「……国がそれを望んだ、時……」
「うん」
 アーガイルは……レイの青い瞳に映る"彼"は、見る間に存在感を希薄にしていった。
代わりに透けるような影を通して、鼻をついたのは化外の気配だ。

「彼らは……地球に"確実に"ユニウス7を落とそうとしていました。そのためにモビルスーツを
持ち出しさえした。殺意は、確実です」
「そうかもね。でも、例えばデュランダル議長とアスハ代表あたりが話し合ったなら、
そういうことにはならないんじゃないかな――」
 こいつは、何を言っている?

「――彼らが殺意の塊であった"だけ"だなんて、耐えられないよ。殆どのナチュラルは、
コーディネーターに対して特に何もしていないのに、滅びを望まれて居ることに耐えられない」
 お前は、何を言っているんだ?

「エイプリルフール=クライシスの時、プラントのシーゲル=クラインは地球の人口が一割も減ると
思っていなかったよね。NJが其処まで強力に殺すだなんて信じて居なかった。地球の人たちが
すぐに抵抗を諦めて、お互いを助ける為に動くだろうって、そんな事を信じていたんだよ」
 事実はこうだ、地球連合は戦争継続の為に幾つかの国や地域を捨てて、プラントと泥沼へ踏み込んだ。

「そしてユニウス7の落下……地球の人たちは嫌でも気付くと思うよ。地球は卵より脆いのに、
宇宙は地球に厳しすぎる――プラントは余りにも容易く地球を滅ぼしてしまうんだって」
「サイ=アーガイル、貴方は……アスハ代表がそんな嘘を信じると?」
「地球にも、宇宙にもそんな殺しを受け入れる余裕は無い。どれだけ宇宙が広くても、重力が、
人を寄せる地球の存在が、それの希薄を許さない」
 ――だったら、目を逸らすしかない。
 "殺し"という物騒な言い回しでアーガイルは印象をゆがめたが、レイに言わせれば、
オーブという国が侵した重大な各種条約違反に対する隠蔽でしかない。
298SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/08/05(火) 12:06:23 ID:???
13/

「デュランダル議長が、そしてプラントがアスハ代表の意見に応じるとは思えませんね」
「だから、アスハ代表とデュランダル議長が話し合っているんじゃないかな。
一つのシナリオはこうだ――ユニウス落としの主犯達は、最悪の災厄を起す気"だけ"は無かった。
もう一つは君の言うとおり――ザフトがどうしようもなかったテロリストの尻拭いのために、
オーブが取り出した核でユニウス7を吹っ飛ばした――公式発表されるのはどっちだろうね。
マイニチ・タブロイド・オンラインのネタになるのはどっちなんだろうね」
「彼は、そんな俗な脚本家ではない――!」
「――それとも、君の言葉ならデュランダル議長が動くような、そんなつながりがあるのかな?」
 不意に訊かれて、レイは瞬きの最中に出来る暗闇の中で想像を巡らせてしまう。
 そして、現実に起こるであろう場面に至った。
 ミネルバにある証拠を示して言葉を尽くすレイ――デュランダルは困ったような微笑を浮かべ、
同じだけの言葉を返して説明するだろう。その量で信頼を示すためで、畢竟、考えを変えはしない。
 デュランダルを困らせて時間を奪うだけだから、レイもそんな事もしない。

「そんなものは……ありませんよ」
 認めたくはないが、そうだ。たとえ信頼はあっても、レイの言葉は何も影響しないのだ。
そして、デュランダルとのつながりは、知られるわけには行かないことだった。

「……だから、彼らの遺志を無かったことにすると。事実を歪めて?」
「……生き残った人達には、真実の落とし所が必要だよね」
 真実と事実は違うのだ。悲しい事に、レイはそれを嫌と言うほど、身に染みて理解していた。

「サイ=アーガイル。貴方は多分、嘘つきだ」
「同感だね。そしてレイ=ザ=バレル、君は多分、過去を見過ぎてる」
 ――自分は未来を見ているつもりか。
 その傲慢さに腹が立つ。
 そして、今は激発の時ではないが、鋼の巨体を纏って対峙したとき――未だ彼に勝てないと、
分かって居る自分にも同じだけ苛立ちが湧いた。

「さて、僕も君に一つだけ、聞きたいことがあるんだよ。本当はもっと別の事を聞きたかったけど、
代わりにコレだけ聞いて置くことにする」
 いつの間にか太陽は空を朱に染め上げていた。

299SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/08/05(火) 12:07:10 ID:???
14/

「僕と話して、君は知りたい事を知ることが出来たのかな?」
「なぜ……そんな事を?」
「うん。僕が君を誰かじゃないかと思ったように、君は僕を誰かだと思ったんじゃないか。
ひょっとして、まだ僕に向かって言い足りない事が在るんじゃないかなって思って」
「キラ……ヤマト?」
「僕の勘は人違いで終わったけれど……どうやら君は、誰かを見つけられたのかな?」
「キラ=ヤマト――お前は!」
「"ソイツ"はここに居ないよ、レイ=ザ=バレル。でも、僕は君の威圧感に良く似た人を知っているんだ」
 アーガイルは――否、レイは否定された今こそ確信を持って呼ぶ――キラは、夕日に背を向けた。
レイから顔を背けたといえるほどには、レイ自身が強さを持っていなかった。相手の立場も考えずに
本能のまま殴りかかることのできる、シンの無分別な強さがこの一瞬だけ欲しかったが、それが得られる事は
永遠に無い事も分かっていた。

「三尉……ここに居たのか」
 アレックスがドアを押さえて立っていた。後にカガリとシズルの姿を認めて、
レイは自分を急激に覚まさなければ行けない時間だと知った。
「三尉、時間を取らせて失礼しました」
 敗北感に塗れた理性から振り絞る言葉は、真水に落としたインクのように、憎しみを混ぜ込んで震えていた。
「うん……じゃあまたね」
 振り返りもせずに、キラは言って去る。暫くは顔も目も合わせたくないが、その顔だけは二度と忘れない。

 一つだけ分かったことがある。ブレイクザワールドの日、レイがムラサメのパイロットに直感を得たように、
キラもまたレイのプレッシャーを感じて探しに来たのだ。彼らは矢張り、天秤の両端に乗るべきだった。

「ラウ……貴方を殺した奴が、すぐ近くに居ます」
 レイはこの日、仇を見つけた。

300SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/08/05(火) 12:07:57 ID:???
15/

 ブレイクザワールドより一週間――低軌道

 日光を白銀に反射する投網が真空に広がり、太陽風に軽くそよいだ。
 繊維の一本一本が人間の胴ほどもある太い金網を手繰るのは、ザクの腕だ。

『ネット放出完了! 後は展開だけですね』
「ダッチも手際が良くなったもんだが、まあ、俺に比べりゃまだまだだ」
『そりゃあ隊長には敵いませんって』
 威張る声すら様になるハイネ=ヴェステンフルスのザクファントムを隊長として、
ザクとゲイツRがトラクター・ネットを手に、汚染軌道へ散開している。

『隊長、軌道との交差まで七分切りました』
「よっし。クラウスはそのまま、周辺の警戒怠るな」
『しっかし、議長は本当に降りるんですかね、この状況の地球に』
「だから掃除してんだろ。ゆっくりしてたら俺たちで弾除けだぞ」
 とはいえ、未曾有の惨事から一週間、働き詰めの隊員を休ませてやりたい。

「これが終わったら、一旦ノウェンベルに帰還だ。一坏やろうぜ」
『へへっ、おごりは久々ですね』『ごちになりやす、隊長!』
「事故が無かったら、だ。地球産が飲みたけりゃあ、ケツを締めて作業やれ」
 自然とハイネの気前も良くなっていた。
 デブリに飛び込むストレス、それを除けば優しい任務だ。
 最新鋭のMS装備に加え、隊員はヤキン=ドゥーエを共に生き延びたベテランばかり、
肩の装甲を黄昏色に染めた"オレンジショルダーズ"はザフトに名高い。

『隊長。デブリに紛れて接近する機影があります』
「……あん? 何処だクラウス」
 だから、クラウスの駆るザクウォーリアが不審な機影を察知したときも、
誰一人として不安を感じるものは居なかった。

『三時方向東北天に三つ、アンテナ張ります……高エネルギー反応!?』
 叫びと同時に宇宙が燦めく。攻撃を受けたアンテナの蒸発煙に包まれて、ハイネの視界から
ザクが消えた。

「ダム。撃って来やがった……迎撃、迎撃だ。ネット捨てろ! クラウスは無事か!?」
『――健在っす。敵はビーム兵器、海賊じゃないっす。ネコ1、ネズミ2を確認。パターン照合中』
 素早く予備のセンサーを展開するザク、有線で繋いだアンテナを機体から離したことが
ザクを直撃から救っていた。MS1にMA2は、数こそ同じであっても俄然ハイネ達の有利だ。
301SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/08/05(火) 12:08:32 ID:???
16/

「散れ、先に目を潰すクソ脳ミソの在る奴だ! クラウスが後、ダッチはランダムウォーク!」
 隊長を務めるハイネが矢継ぎ早に指示を下すと、クラウスのザクとダッチのゲイツが散開した。
 指示を受けるでもなくデブリ捕集のためのネットを前方に展開、障害物とする咄嗟の機転は、
"フェイス"のハイネに従うだけの練度がある。

「この三日で無人の偵察機が二十は消えてたのは、こいつの仕業か!」
『オレンジショルダーズに喧嘩を吹っかけてくるなんざぁ、宇宙の道理も知らない奴ですね』
 回避乱数で狙いを絞らせない機動を行い、前面で囮となっているのがダッチだ。
敵を叩きのめす気迫の充溢している様子だったが、それこそがハイネの危機感を煽った。
 味方が調子に乗るときは不味い。ハイネはビームライフルをMSの影に向けた。

「油断するなよダッチ。クラウス、敵影は!?」
『距離三千から接近中――なんだこれ、まるでミサイルです!』
 クラウスの言うとおり、ザクファントムの構えたからダッチのゲイツR同様ランダムウォークで
狙いを逸らす機影は、短距離ミサイルのような加速を見せていた。

「FCSが追いきれない、何処の機体だ?」
 ハイネが叫び、そして幾つかの事が瞬間に、それでも順番に起こった。
 MAがミサイル/ザフトの"ファイアーフライ"を発射――ハイネ隊を襲う強烈なジャミング
――母艦との連絡を断たれたMSが、熱紋識別領域に機影を迎える。
 そして、隊長機のハイネだけが結果を知った。

「カオス――だと!? 全員、退却!」
 自機のブレイズウィザードから"ファイアービー"誘導ミサイルを全て放出しつつ絶叫する。
二種類の短距離ミサイルが共食いによって、ハイネ隊とカオス両者の中間に爆炎の花を開く。
ゴミ掃除の部隊が散らした粉塵を裂いて、小さな影が飛び出した――二つだ。

『MA2、先行して接近――』
「――ソイツはドラグーンだ!」
 本来ミサイル以上の機動力がある機動兵装ポッドが、ミサイル"並み"の加速でしか動いていなかった。
それはつまり、宇宙戦最強の機体が手加減していたという意味だ。

『あの、カオスってのはアーモリー・ワンから盗まれた――』
「馬鹿野郎、さっさと下がれ、ダッチ!」
 と言うハイネの視界を三条のビームが横切り、その全てがゲイツRに吸い込まれた。
カオスの本体は未だ粉塵の向こうだ――ポッドからのフィードバックだけで狙撃を!
分析するハイネは――味方の死は割り切れ、出ないと自分が死ぬ――爆散するゲイツRから
目を背けざるを得なかった。敵と、生き残りの味方だけが見えていた。
302SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/08/05(火) 12:09:04 ID:???
17/

『下がってください、隊長!』
 アンテナを切ったクラウスが、自分のザクから"ファイアービー"を放った。
 ビームライフルの点ではなく、面をもって制圧するミサイルの群れにカオスはしかし、
悠々とした機動で引き回しながらポッドからの掩護を使い、一基ずつ対処していった。

『隊長!』
「すまないクラウス……もう下がれねぇ……」
 その時点で、ハイネはすでに悟っていた。相手が絶対に引き剥がすことの出来ない
カオスで在る以上、母艦に連れ帰るわけには行かない。

『自分が引き付けますよ、だから隊長は――』
「馬鹿、俺ですら十秒も持ちそうに無い以上、殿なんて意味が無いんだよ」
『……』
「頭切り替えろよ、じゃないと死ぬぜ?」
『はは……』
 あくまで生き残るつもりで居るハイネの台詞に、クラウスが乾いた笑いを漏らした。
"ファイアービー"を壊しつくしたカオスが、余裕の動きでザクを見る。その背中に
二機の機動兵装ポッドがたどり着いた。

『けど、倒してしまってもいいんでしょうが、ハイネ隊長?』
 身を捻って怪鳥の姿に変形したカオスが、全力加速を開始する。

『ダッチの仇を取りましょうぜ!』
「応、ねらい目はポッドを戻す瞬間だ、カタログデータでビームは十一発!」
 トラクター・ネットに引っかかるかと思いきや、鷹が爪をきらめかせるように展開した
ビームサーベルで障害物を切り裂き、カオスは勢いを殺すことも無くビームを放った。
 "カリドゥス"の猛火に秘められた熱量が、至近弾を受けたクラウス機のライフルを溶かす。

『ぐぅ……!』
「コレを使え!」
 ハイネは手持ちのライフルをクラウスに私、自身はビームトマホークを抜き放ち突撃した。
カオスが迫るその時に、ハイネは恐らく最後であろう、クラウスに向けての命令を下す。
「ライフルの連射間隔を最短にセットしろ――死ぬなよ!」

303通常の名無しさんの3倍:2008/08/05(火) 12:28:45 ID:???
@@@@
304通常の名無しさんの3倍:2008/08/05(火) 12:45:50 ID:???
18/

 ――ガーディ=ルー 艦橋

「敵モビルスーツ、二機目が沈黙しました」
「"カオス"残存プール電力、六割です」
 慣性航行中のブリッジは静かな報告のみが響き、艦長のイアンにはたまに装甲板を叩く
デブリの断末魔が聞える程度だった。

「ふん、最後は中々粘るな。部隊長のエースといった所か……」
 帽子のつばを握ってつぶやくイアンの声は、誰かに向けたものではない。
「信号弾放出。電力が五割を切ったタイミングで作動させろ」
「了解……敵の母艦は如何いたしますか?」
「深追いは必要ない」
 MS隊が"カオス"に襲われていながら援軍を放出していない様子を見るに、艦載戦力は
残していないようだったが、イアンは不慮の事態を嫌った。
 嫌が応にも緊張の解けてしまう移動時間を戦闘の合間にはさむことが、パイロットである
スティング=オークレーにとって過大なストレスとなることを見抜いていたためでも在る。

「ししししかし艦長、た……対艦戦闘能力を測る絶好のき、機会かと……」
 もう一つの理由は、忌々しい事に拳銃を握った事もないような手をしていながら、
戦況に口を挟むこの人間鍛冶屋の存在だった。
「ここ、今度こそは艦長の命令を効きますよう、念入りに、それはもう念入りに調整を
重ねておりましてねぇ……」
「必要ないと言ったのが、聞えませんでしたかな?」
「ひぃ……っ!」
 年端も行かぬ少年の心身を回復不能に弄繰り回し、死地に戦地に向かわせて居る男は、
イアンの軽い殺気にも失禁しそうなほど慄いていた。

 ――哀れなものだ。
 イアンは三機目を着々と損傷させつつある"カオス"の少年に憐憫の情を覚えた。
調整された理性故に味方を守るため暴走し、その結果、限界に近い調整を受けている。
 コーディネーターを狩る為に作られるナチュラルの改造兵士は、歪で狂った論理と
倫理を感じずには居られなかった。

 更に非情な事に、実際のイアンは戦力としてのスティングに、全く期待して居ないのだ。
洗脳で服従を引き出した、持続不可能な戦力を望まないのは、むしろ軍人としての義務である。

「ポイントE6、距離一万より敵影出現しました。数二、種類は不明です」
「敵の増援だ。撤退させろ」
 イアンは即座に命令を下した。
 信号弾の明かりを見守るその左手が、胸ポケットの懐中時計を触っている。
家族の写真を収めたそれは、冷えた硬さを指先に伝えるだけだった。
305通常の名無しさんの3倍:2008/08/05(火) 12:54:09 ID:???
19/

「おい、返事をしろクラウス……クラウス!」
 それは、戦闘というには余りにも一方的な殺しだった。
 カオスの異常な速力を前に、なす術も無く屠られたザクは原形を留めずに浮かんでいた。
中身の見えないコクピットへと飽きずに呼びかけるハイネの背筋を、氷の柱が貫く。
 目前に迫った"カオス"から発せられる圧倒的な威圧感が、ザクを繰る腕を凍らせていた。
「う……動けぇ――!」
 ロックオンアラート、ビームの数条が飛び交う。ハイネは右腕を左腕で殴りつけて叫んだ。
 強張った腕で凍りついた機体を揺らし、コクピットだけを死守したハイネのザクは、
カオスの機動兵装ポッドから放たれる赤いビームに四肢をもがれて無為に漂う。
「なんなんだ、なんなんだお前は――!?」
 ハイネの目には、索敵レーダーに示された二つのシグナルも、敵の信号弾がつげた撤退の合図も
映っていない。ただ、深緑の装甲と妖しく光るツインアイだけが、双眸に入り込んでいた。
『……弾切れだ』
 ――たまぎれ? それは何だ。死を告げる混沌の言葉か?
 意味すら分からぬハイネの前から、反転したカオスがあっという間に消え去る。
行動不能のザクでどうしようもないまま、ハイネはカオスがもう一度反転して、
加速接近からビームサーベルでコクピットを切り裂く瞬間を待っていた。
 去り際にポッドを切り離し、赤いビームで自分を伐ち貫くのを今か今かと待っていた。

 やがて、彼の元に二度と"カオス"が戻ってこないと知った時――「無事か?」通信が入る――
ハイネはモニターの中に、二機の"カオス"を見た。
「ああああああああああ! 増えたのか、俺の部下を殺しておいてお前は増えたのか!」
「落ち着いてくれ、ハイネ=ヴェステンフルス。こちらはコートニー、プロトカオスだ!」
 ああそうかそうか、その声は確かにコートニー=ヒエロニムスだ、それがカオスに乗ってるって
言うのはつまり、俺の敵に寝返ったわけだな!
 我を忘れたハイネの思考は、異常な回路に陥っている。
「"幽霊戦艦"を追っていたが、襲撃の察知が遅れた為に君の部下が……本当にすまない」
「貴方の母艦は無事だから、だから……」
 その声はリーカ=シェダーか。メガネウサギは確かにリーカのマークだ。ガイアのテストパイロットが
プロトカオスに乗ってるなら、二人とも寝返ったのか、敵だな。
 さあハッチを開けろコートニー、助けの前に呑気に機体をペイントしていたあばずれともども、
自前の牙で食い殺してやる。ハイネは歯を剥いて行動に備えた。

「"フェイス"だろう、落ち着け。熱でハッチが溶けて開かないから母艦まで引いていくぞ」
「生命維持装置がもたないから、動力を切るね。暗くなるけど我慢して」
「関係在るか……! 俺の、俺の部下を返せ……クラウス、ダッチ……あいつらに吐くほど酒をおごらせろ!
カオスめ、カオスめぇ! 許さねえぞ、重力の底だろうと何処までも追ってやるから覚悟しろぉ!」
 そして、やっと、やっと理解した。クラウスとダッチは死んだ。部下を見殺しにした自分一人が、
援軍に助けられてぬけぬけと生き残っていて、死んだモニターを殴りつけている、破壊衝動が収まらなかった。
手袋の中で皮が裂け、骨にヒビが入っても、何度も何度も、飽きることなく繰り返した。肉ではなく、
骨に怒りを刻みつけた。この気持ちだけは、風化させてたまるものか。

「ちっっっく……しょおおおおおーーーー!」
 叫びは自然と口から出て、反響するコクピットに溜まっていった。
306通常の名無しさんの3倍:2008/08/05(火) 12:55:38 ID:???
20/

 ウミネコの鳴く軍港はイージス艦が模型に見える程に広く大きかったが、
少し高台からその港を臨む古びた本屋は悲しいほど狭かった。
 陳列された極薄の電子メディアを即時印刷してくれる機械が在るのだが、そうと知らない
一見の客は必ず品揃えを心配する店である。店内でハタキをふるって埃を払っていたカズイは、
店の駐車場に客らしき車が入ってくるのを、珍獣でも見つけたような目で見ていた。

「よっ」
「やあ……サイ」
 路面にブレーキの跡を残し、たった二台分の駐車スペースを一台で埋めてくれた車の、
助手席から出てきた男と交わした会話はそれだけだった。

「うわあ、本当にお客さんなんか来たんだ。この店」
「たまたま近くに寄ったから様子見に来たけど、大丈夫かよ?」
「なんとか、ね。何か探してる本でもあるの?」
「あー……ナチュラルとコーディネーターがお互いに理解する本、なんてあるかな?」
 カズイは黙って棚の一角を指し示した。
 ファンタジにフィクションにSF。まあとにかく、そういった棚だ。
 一応コメディの棚も探しては見たが、『世界のジョーク大全集 オーブ版』位しか見つけられない。

「野球監督とオーブ氏族は良く似ている。両方とも、酒場の親父が"自分ならもっとやれる"と思う。
違うのは、それが事実かどうか……なんだこれ?」
「一応、ベストセラーだよ」
「世も末だ」
「ああ、サイ君サイ君……ちょっとお姉さんは待ちくたびれた、かな?」
 見ると、ワインレッドのスーツに固めた女性がサイの背後に立っていた。
ヒールの分だけサイより背が高く見える。

「ええっと……アーガイルの彼女さん?」
「そんなーーー、彼女さんだなんて、そんなっ! そんなっ! ……ねえ?」
 そんな、のたびに全力でサイの背中を張り手するので、サイは息が詰まって反論も
出来なくなっている。"お姉さん"とやらは耳まで真っ赤にしていた。

「ところでさ、サイ君サイ君って繰り返すとまるで細君みたいに聞えないかい?
男なのに奥さんかよーみたいな! それじゃ、車で待ってるね!」
 うわー、この人テンションたかーい。たった三十秒でげっそりしたサイとカズイは、
彼女から見えないように目を合わせて肯きあった。男同士の無言の詩が、そこには流れていた。
 ――大変だね。
 ――ああ。
307通常の名無しさんの3倍:2008/08/05(火) 12:56:46 ID:???
21/21

「で、あの人がコーディネーター? ……そう、だったら今日入港する"ミネルバ"を見に来たんだね」
「ああ、けど本人は"入港反対"と"おいでませ、オーブ"、両方の垂れ幕を作ってきてるんだ。
此処まで来てなんだけど、未だにどっちに参加しようとしてるのか分からない」
 反物質兵器を搭載したミネルバ受け入れについては、地元住民の反対を氏族会議が無理矢理
押し切った形で問題は先送りにされている。だが、身を呈して被害を防ごうと尽力したザフトの艦に
歓迎を占めそうとするオーブ人も、特に残留コーディネーターを中心に多かった。

「……でも、反対デモにしては遅すぎない?」
「そうそう……何故かキラの奴からさ、暫くは出歩かないでねって言われて、急に連絡が来たんだぞ?
今日まで家でゆっくりしてたんだけど……ゆっくりしていった結果がこれだよ」
 家でゆっくりしていたって、必要以上にやせこけた君の顔はそう言う事なのかい?
急に遠くまで行ってしまった友達が余りにも眩しくて、カズイは目を背けた。

「そっか……君も大変な人に捕まっちゃったね。ああ、来たみたいだよ?」
「おっと、こうしちゃ居られない! じゃあまたな。ミリアリアの連絡先は知ってるか?」
「ううん、件のエルスマンに付いてったきりで、偶に手紙が来るくらいかな。
危ない紛争地帯をめぐってるらしいよ!」
 後半は、遠ざかるサイに向けて声が大きくなった。この小さな本屋で声を張り上げるなど無い事だ。

「やれやれ、行っちゃった」
 箒を手に外に出たカズイは、軍港にドック入りしつつある"ミネルバ"の、煤けた白い艦隊を見て、
今日は早仕舞いしようかな、等と考えていた。

 店先に溜まった埃と塵を払っていく。空は多少粉塵に曇っている程度で、
此処最近の感覚からいけば、まあ晴れの部類だった。

 白い艦から発進したムラサメが二機、編隊を組んでカズイの見上げる空を二つに裂く、
跡に引く飛行機雲で分かたれた空の、どちらがどちらのもので在るか、等と考えなくても良い国が、
少なくともオーブだろうとカズイは思った。
308通常の名無しさんの3倍
以上、SEED『†』 第十四話 "破壊の幕間 出会いの機会" 了です。
支援の方、本当にありがとうございました。