『Believing sign of Ζ』
スロットル・レバーを押し込んだ瞬間に、違和感を感じた。カミーユが普段から操っていたΖガンダムよりも、今動かそうとしているΖガンダムの反応が僅かに鈍く感じられる。元々、オリジナルと全く同じに仕上げられるとは思っていなかったが、しっくりこない。
射出口から飛び出すと、その違和感はいよいよ明確になった。操縦性は扱いやすく申し分ないが、何よりもカミーユの感性についてこられるだけの“癖”が染み付いていない。戦えるには戦えるのだが、そこに気持ち悪さを抱く分だけ、動きは鈍くなる。
例えるならば、履き慣れた靴を捨て、新品の靴でいきなり全力疾走するようなものだ。徐々に慣らして操縦性に癖を馴染ませていかないと、靴擦れだけでは済まされない事になりかねない。
「金色が――」
しかし、今は一刻も早く味方の援護に駆けつけなければならない時。戦場に散在する多くの思念は、一所に集中して大きな盛り上がりを見せている。カミーユはその盛り上がりを頼りにウェブライダーを差し向けた。
その場所は、マス・ドライバーの周辺。新たなΖガンダムに早く慣れようとするカミーユの焦りを更に助長するかのごとく、押し寄せる敵の思念の大津波は、仲間への精神的圧迫を強めていた。カミーユの視線が、照準を合わせるようにアカツキを捉えた。
「エターナルに取り付いたガブスレイは――ジェリドか!」
閃きが迸った。ニュータイプとしてのセンスが拡大している中で、カミーユはそれを意に介せずに操ってみせる。それも、この世界へシフトしてきた一つの影響と言う事だろうか。しかし、それは考えない。
マウアーのガブスレイが、アカツキに襲い掛かる。側面からの不意打ちに、たじろいで身を硬直させてしまっているアカツキは、無防備すぎた。カミーユがコントロール・レバーのトリガー・スイッチを親指で押し込むと、ビームライフルの銃口から火線が伸びた。
ビームは見事にガブスレイの腕を直撃し、残光と共に宙に舞う。慌てたマウアーは即座に変形して離脱して行った。
「あのムラサメは……?」
カミーユからの援護に助けられ、火線の方向を見上げたカガリの目に映ったのは、黒いムラサメだった。いや、それはムラサメに酷似したMAと言った方が正確だろうか。
見慣れないシールドの様な三角形のSFSの上に、機体が乗っかっているような印象のフォルムで、それはムラサメには見られないものだ。
『新手のムラサメ? ジェリド!』
「違うぞ、マウアー。あれは――」
損傷部分から煙の尾を引きながら、マウアー機は後退する。それを援護するようにジェリドは飛び上がり、カミーユに向けてフェダーイン・ライフルを構えた。
「Ζガンダムだ!」
ガブスレイのフェダーイン・ライフルが火を噴く。カミーユはそれを軽くアポジ・モーターを噴かしてかわすと、ウェイブライダー形態からMS形態へ変化させた。
機体底部のフライング・アーマーが左右に分かれ、逆関節に折りたたまれた脚部が人のそれへと伸びる。胸部に収められていた腕が開いて正常な位置に戻り、そこへ胸部アーマーが下りてきてフライング・アーマーが背中にマウントされた。
そして、最後に機体の中から頭部が飛び出し、上に伸びていたブレード・アンテナが左右へと展開される。ガンダムタイプの象徴とも言える双眸のメイン・カメラが、鋭く緑の輝きを放った。
「ジェリド!」
「出てきた――カミーユ!」
ジェリドの表情が、歓喜に歪んだ。死して尚、追い続ける復讐者は、カミーユという存在に対して絶対的な敵対心を持っていた。それは誰よりも強く、味わった屈辱はジェリドの消える事の無い炎となって延々と燻り続けたままだ。カミーユの目に、その炎が見えた気がした。
双方が、ビームサーベルを取り出す。バーニアを吹かし、正面からぶつかり合った。Iフィールドで刀剣状に固定されたミノフスキー粒子が干渉し、光を飛び散らせて蛍の光のように彩る。ジェリドの怒りだ――瞬間的にカミーユが悟る。
2回、3回と切り結び、剣劇を繰り返す。ガブスレイが両肩のキャノン砲を向けると、カミーユはΖガンダムを急上昇させてそれをかわした。
「逃がすか!」
ジェリドはΖガンダムの行方を補足しつつ、エターナル周辺の状況を把握した。マス・ドライバー付近ということもあり、ここが一番防御の厚い所だ。オーブの目的が宇宙への脱出ならば、前線を突破した制圧部隊は簡単に本島のヤラフェスを手中に収めているだろう。
そうとなれば、オーブの制圧はもう成ったも同然だ。後は、アカツキに乗ったカガリと、エターナルのラクスを押さえればデュランダルの貴重な手駒を封じることが出来る。
ゲーツが予定外の動きを見せているが、それは彼の責任の範疇でもある。目の前にΖガンダムが――カミーユが居る。ジェリドにとっては、カガリよりも、ラクスよりも優先すべき相手だ。
「マウアーは金色を抑えろ! スティングはエターナルだ!」
ジェリドのガブスレイが腕を仰ぎ、2人に指示を出した。そして、フェダーイン・ライフルで狙撃し、Ζガンダムへと肉迫する。ガブスレイのフェダーイン・ライフルはロング・ビームサーベルとして銃口から刃が伸びた。
カミーユは、振りかぶり、降ろされるロング・ビームサーベルを避け、バルカンでガブスレイのバック・パックを重点的に攻撃する。スラスター・ノズルを攻撃されたガブスレイは小爆発を起こし、バランスを崩して落下していった。
「ノズルを片方やられた!? …カミーユ!」
そこへ、ビームライフルを向けるΖガンダム。カミーユがトリガー・ボタンを押そうとしたその時だった。マウアーのガブスレイからの射撃が、ビームライフルを引っ込めさせた。そして、急接近してきたマウアー機に組み付かれ、身動きが取れなくなる。
『ジェリドをやらせはしない!』
「この声、マウアーっていう――」
接触回線から聞こえてきたのは、自らを盾にしてジェリドを救った女性の声。直感的に、彼女の名前を知った過去があった。ジェリドのものとは違う、偏愛の執念。強い女性のイメージが、プレッシャーとなってカミーユを圧倒するような、そんな感じだった。
その彼女が、以前と変わらぬようにしてジェリドの傍らに寄り添っている。ジェリドを愛するその様は、マウアーの生き様なのだろう。
その生き方を、カミーユは否定する権利を持っていないが、脅迫されるようにして組み付かれたΖガンダムは、そのまま地面に落下していってしまった。
『止めだ、Ζガンダム!』
マウアーのジェリドを守らんとする気迫が、Ζガンダムを得たカミーユすらも圧倒する。以前に感じたとおりだ。強烈なマウアーのプレッシャーが、ジェリドを守ると言うただ一つの確固たる信念の大きさだけで、カミーユのニュータイプとしての力を瞬間的に上回った。
馬乗りになり、ビームサーベルを突きたてようと逆手に持った刃が振り上げられる。しかし、今度はアカツキからのビームがマウアーの行為を邪魔した。カミーユは怯んだガブスレイを蹴り上げ、上から退かした上で牽制のビームライフルを撃ち、離脱した。
「何てパイロットだ……!」
ニュータイプとしての優れた力を持つカミーユすら慄かせたマウアーの執念は、自らの命すら惜しまずに散っていった彼女らしい。接触するだけで、その強大さがひしひしと感じられた。それも、拡大する一方のカミーユの力の成せる業なのだろうか。
ダイレクトに受け入れすぎるカミーユの感性は、マウアーの強すぎる情念の影響を、モロに受けていた。
Ζガンダムとアカツキは、背中合わせになって接触する。目視でエターナルの状況を確認すると、ヒルダ達のドム・トルーパー隊がカオスの侵入を阻んでいるのが見えた。押し込まれてはいるが、数的にはこちらが有利。
『何やってんだ、お前は? パイロットをしていたんじゃなかったのか!』
通信回線から聞こえてくるのは、カガリの声。本当に国家元首がMSに乗り、動かしている事にカミーユは少なからず驚きの表情を浮かべた。ターゲットになっているのは彼女なのに、それで自ら戦場に躍り出てくるなんて、無謀すぎる。
確かに戦力は少ないが、クワトロの様に特にパイロット・センスに優れているわけでもなく、それでこんな風にして文句を言われる筋合いは無いと思った。
「代表こそ、何をやってんです? 貴方がやられてしまえば、それこそこうして戦っている意味がなくなっちゃうでしょ!」
『このアカツキは無敵だ! 私が囮になって、敵を引き付けられれば――』
気持ちの強さはキラから聞いていた通りだ。勝気で、基本的には誰かの為に行動する。しかし、その気持ちだけで、誰を助けられるものか――
「バカなことを!」
『なっ!? 私に向かってバカと言ったのか、お前は!』
気持ちだけで人を救えるのなら、カミーユはこんなに苦しんだりはしなかった。フォウも、ロザミアも――助けたかった人は、みんなカミーユを置いて逝ってしまった。一人だけ残ってしまったと感じたカミーユは、その事が身に沁みて良く分かっている。
それは、カガリとて同じはずだ。聞かされた2年前の戦争で、今と同じ事が起こったオーブの国家元首ならば、ウズミを失ったカガリならば、尚更の事。
合流して飛び上がった2体のガブスレイに砲撃され、一時的に散開する。しかし、アカツキは肩部にメガ粒子砲を受け、アーマーが吹き飛んだ。碌に訓練も受けていなかったカガリには、いきなりの実戦で反応が鈍っている。
カミーユには、そういったカガリの事情が、何と無しに感じ取れていた。彼女は、MSでの戦闘に向いていない。それなのに、自分の実力も分かっていないのに囮になるとのたまっていらっしゃる。それを守らなければいけないカミーユにしてみれば、冗談ではない。
そんな時、エターナルが動き出すのが見えた。とうとう、順番が廻ってきたようだ。カオスはドム・トルーパー隊の攻撃に阻まれ、特に警戒する必要は無さそうだ。そうとなれば――
「エターナルが動きます! 代表はそれに乗ってソラへ!」
ジェリドのガブスレイのビームサーベルを弾き、呼びかける。
「みんなの頑張りを無駄にしないでください! 貴方は、ここで死ぬわけには行かないはずだ!」
カガリは、必ず生き残らなければならない人間。こうなる事を分かっていてデュランダルの提案を受け入れたのなら、何のためにみんな必死になって脱出しようと頑張っているのか。カミーユは、呼びかけに応えないのなら彼女を脅してでもエターナルに押し込むつもりで居た。
返事を待っている間にも、ガブスレイに前後を挟まれた。援護に来たマウアーも相俟って、やはり、ジェリドはカミーユに執念を燃やし、狙いを絞ってきている。本来のターゲットであるカガリは、放っておかれている状態だ。
それは恐らく、いつでも撃墜できるという彼等の自信の表れなのかもしれない。
それだけに、ジェリド達の目がカミーユに集中している今なら、マス・ドライバーへ向かうエターナルに同乗する事でカガリの安全はほぼ保証される。カミーユとしては、この機会に何としてでもカガリに逃げて欲しかった。
一方のカガリも、そういったカミーユの考えは理解している。囮になったことで、一時的にエターナルからジェリド達の目を逸らす事に成功したが、自分の技量では5分も稼げやしないことを思い知らされていた。
相手は、純粋な兵隊畑で育った手練のパイロット。気の向いたときにMSパイロットをやっていた亜種の自分とは、格が違う。
悔しさと無念――しかし、本土を放棄する手段に手を染めようとしているカガリに、その様な感情に流される余裕は持たない。例え、犠牲を払ってでも自分は宇宙に出なければならないのだ。
Ζガンダムに攻撃する2機ガブスレイが、絡まるようにして交互にフェダーイン・ライフルを見舞っている。それを見て、カガリはカミーユの言葉に応えた。
「……分かった。ここはお前に任せる」
勝気な少女の見せた、素直な態度。それは、自分を律して冷静に努めようとしているからに他ならない。その努力がカミーユへと向けられ、受け入れられた。
『了解!』
景気良く返事をしてくれたカミーユに感謝しつつ、しかしただエターナルに乗り込むのでは、余りにも芸が無い。エターナルの追撃を行っているのがカオスだけならば、ドム・トルーパーに阻まれている今のうちに――
「叩く!」
エターナルに向かうアカツキは、追撃を続けるカオスに対してビームライフルを連射し、注意を引き付けた。そして、ヒルダに向けてワイヤーを伸ばし、秘匿回線で呼びかける。
「聞こえているか、ドム・トルーパー隊」
『聞こえているが、どういうつもりだい? あたしらの主はラクス様ただ一人。例えオーブのトップでも、命令する事は出来ないよ』
「カオスを落とすためだ。それは、ラクスのためになる」
ヒルダの慇懃無礼な物言いにも、カガリは動じることなく、落ち着いて切り替えした。下賎の者として勝手に意識しておけば、感情の抑揚もある程度制御できる。それが出来るほどには、カガリは大人になったつもりだ。
カオスの攻撃に対しては、アカツキの装甲はほぼ無敵。ビームサーベルでの接近戦にさえ気をつければ、カガリの力量でも撃墜はされない。ヒルダはそんなアカツキを援護しつつ、少しの間思考を巡らせた。
本当なら、考えるまでもないことなのだが、カリスマをラクスただ一人として崇拝しているヒルダにしてみれば、カガリからの命令は面白くないものだった。しかし、カガリの言う事を聞くことは、エターナルを守る事になり、即ちラクスの為に繋がるのだ。
この単純な答えを導き出すのに、ヒルダは時間が掛かった。ラクスに心酔してしまっている余計なプライドが、彼女の思考をややこしくしてしまっている為だ。
『――で、何をすればいいんだい?』
「このアカツキにお前達の攻撃を当てろ。タイミングは、こちらで指示する」
『本当にそれでいいのかい? いくら代表だって、ラクス様でなければあたし等は手加減しないよ』
「お父様が遺してくださったアカツキ――軟(やわ)ではない!」
あの程度のMSに、アカツキが落とせるものか、父上の魂が宿ったアカツキならば、絶対に切り抜けられる――強く念じ、カガリは啖呵を切った。伸ばしたワイヤーを引き戻し、大きく構えて見栄を切る。
カオスのスティングも、アカツキがビームの効かないMSと言う事は分かっているようで、ファイアフライ・誘導ミサイルで細かく攻撃を続けているに過ぎない。しかし、ドム・トルーパーとアカツキを相手にしながらも、そこはエクステンデッド。
数的には不利でも、被弾は許していない。
しかし、そうしている間にもエターナルはマス・ドライバーへ移動し続け、このままでは最悪、カガリもラクスも逃がす事になってしまう。スティングにも、焦りが無いわけではなかった。
「くそったれ、こいつら! ジェリドとマウアーは、何をあの新型ムラサメに躍起になってやがんだ! このままじゃ、2人とも逃げられちまうぞ!」
Ζガンダムに追い縋るガブスレイは、あまり当てに出来ない。仕方無しにスティングは、カオスにビームサーベルを引き抜かせた。アカツキの装甲にビーム砲攻撃が効かないとなれば、手段は接近戦しか残されていない。
得てして、遠・中距離攻撃に耐性のあるMSというものは接近戦によるビームサーベルに弱いのがある意味でお約束だ。それはフェイズ・シフト装甲然り、陽電子リフレクター然り。ならば、アカツキもその例に倣っているはず。
ミノフスキー粒子の加粒子砲であるガブスレイのビームに効果があったのなら、コロイド粒子で刀剣状に固定されているビームサーベルによる斬撃は効果があるはずだ。
スティングがそう考え、ファイアフライ・誘導ミサイルをばら撒いて突撃させた時だった。
「――今だ!」
カガリの号令と共に、マーズのドム・トルーパーがカオスを牽制する。その攻撃をスティングがあっさりとかわすと、間髪入れずにヘルベルトからビームバズーカを拝借したヒルダが、アカツキ目掛けてビームバズーカを発射した。
「何ッ!?」
スティングには、単なる誤射にしか見えなかった。しかし、それは直ぐに勘違いと分かる。アカツキに誤射されたかと思ったビーム攻撃は、何と反射してカオスに向かってきたのだ。
先ほどカリドゥスを跳ね返されたスティングは、ヤタノカガミの特性を完全に把握していなかった。
ヤタノカガミは、任意の方向を選んでビームを反射する事が出来るのだ。それを知らないスティングは、まさかの出来事に流石に反応する事が出来なかった。とりわけ、ビームサーベルによる接近戦を仕掛けようとしていただけに、尚更反応が鈍る。
「ぐあぁッ!」
出会い頭の一撃。スティングはそれでも尚、かわそうとしたが、被弾は免れなかった。機体を横にして被弾面積を少しでも減らそうと試みたが、アカツキの反射したビームはカオスのバック・パックを直撃し、バランスを崩して森の中に派手に転げて落ちていった。
(スティングが――)
マウアーの目は、ジェリドと共にΖガンダムに攻撃を仕掛けているが、常に状況を把握しようと努めている。勿論、カオスが墜落していった現場も、しっかりと補足していた。
しかし、ジェリドの目はカミーユに向けられている。彼は、恐らくスティングの撃墜に気付いていないだろう。それだけ彼がカミーユに拘っている証拠であり、マウアーにもそれは分かっている。果たして、この場でスティングを見捨てて彼に付き従うべきか――
『マウアー、カオスはどうしている!』
旋回するウェイブライダーを狙撃しているジェリドから、不意に訊ねられた。
「えっ……?」
『エターナルには雑魚が張り付いているはずだ! スティングはしっかりやれているのかと訊いている!』
カミーユに執着するのがジェリドだと言うのは、マウアーには良く分かっている。彼の心の中には、越えなければならない壁として立ち塞がっているのがカミーユだからだ。ティターンズのエリートとして順風満帆のはずだった彼に屈辱を与えたのが、カミーユ。
それを倒さない限り、ジェリドは先に進めないと吐露していたのを、マウアーは知っている。そして、それを共に成し遂げるのが自分だと思っていた。
しかし、最近の彼はそれだけではない事も、マウアーは感じている。モスクワでの作戦が終わった時だったか、彼はスティングを殺させやしないと言っていた。それが、ジェリドの成長の証ならば――
「でも、貴方はΖを――」
念を押してみた。フォン・ブラウンで、偶然にも遭遇した少年に突きつけた銃口は、子供に対してやる事ではないと思っていた。
カミーユは、アポロ作戦でティターンズの占領下に置かれていたフォン・ブラウンに潜入調査しに来たエゥーゴのスパイだったとはいえ、その時はやりすぎだと感じたものだ。
しかし、それでもジェリドはカミーユに突きつけた銃口を外す事は無かった。ライラやカクリコン――それをやったのがカミーユで、普通ではないと言っていたのだ。ある種の恐怖の対象だったのかもしれないと、今では思う。
果たして、今のジェリドにとって優先すべき事態は、一体どういうことなのだろうか。仲間と仇敵――その二択に迫られた彼が下す決断とは何かを、マウアーは知りたがっている。
「いいの? 放っておいて――」
『大佐と、アイツを躾ける約束をしている! この作戦の目的がオーブの占拠なら、アイツをやらせてまで戦いに拘る必要は無い!』
マウアーの念押しに、間髪入れずに返してきたジェリドの声に、迷いは無い。躊躇いの無いその答に、マウアーの心の奥底がくすぐられる感じがした。
直情的なジェリドは、カミーユへの対抗心で動いていた。その一方で、彼は仲間を大事に思うことが出来る気概をも持ち合わせていたのだ。思い出したマウアーは、ジェリドのそんなところが好きだった。
それが分かれば、それこそスティングは見捨てる事など出来ない。ここでジェリドの本懐を優先して、カオスの撃墜を知らせなければ彼は自分に愛想を尽かしてしまうだろう。ジェリドの行動原理は、カミーユへの対抗心と仲間への思い遣りなのだから。
カオスから昇っていると思われる煙を目に入れ、マウアーは息を吸い込んだ。
「カオスは飛行ユニットを損傷し、撃墜されました。エターナルは、依然MS隊を引き連れてマス・ドライバーに移動中です」
『驕りやがったか、スティング! ――カミーユとの決着は、ソラでつける事になる。カオスを回収後、一旦退くぞ!』
「了解」
マウアーのガブスレイが変形し、カオスへと進路を向ける。ジェリドはΖガンダムに砲撃を浴びせた後、同様に変形して続いていった。
「ジェリドが引き上げていく……?」
執拗に絡むジェリドの執念が、消えた気がした。事情を知らないカミーユは、そんなジェリドの行動が以外に思えたのかもしれない。敵とはいえ、戦場で幾度も銃火を交え、互いに憎しみばかりを募らせた。そのジェリドが、あっさりと引き上げるのには何か訳があるはずだ。
カミーユがその後ろ姿を見送っていると、ガブスレイはドム・トルーパーとアカツキに攻撃を仕掛け、散開させた後クローでカオスを引き上げ、撤退して行った。
「エクステンデッドを引き上げて――ジェリド……」
この世界で、何かが動き始めているような気がした。ジェリドは復讐よりも仲間を優先し、去っていく。それは、ジェリドの執念の声を聞けば、考えられないような事だ。
「行ってくれた――ハッ!」
呟きに、折り重なるように劈(つんざ)く衝撃。カミーユの頭に、声が響いた。
「――しまった、ロザミィ!」
ジェリドを気にかけて呆けている場合ではなかった。遅れてきた分、カミーユには色々とやらなければならない事が積み重なってくる。
カミーユのイメージした場所は、それほど遠くない。それが幸いだ。カミーユはスロットル・レバーを押し込み、ウェイブライダーを加速させた。
ロザミアの記憶の中は暗かった。思い出せるだけの記憶も、そこに感じられる感情も、全てが曖昧だった。果たして、それが本当の記憶なのかも分からない。
ただ、それでも一つだけロザミアにはハッキリとしていることがある。兄の存在――暗がりの中で、ただ一つだけ確定している微かな真実。それは記憶の闇を照らす、太陽の様なものだった。それがあるからこそ、彼女は生きていける。
「当てるぅ!」
記憶の中の兄は、一人だけ。カミーユ以外になど、考えられない。しかし、そのロザミアの前に、もう一人の兄と名乗る男が現れた。今、戦っている相手がそうだ。
ガンダムMk-Uのビームライフルが、バウンド・ドックに向かって火を噴く。
おかしな事になったな、とロザミアは思っていた。バウンド・ドックのゲーツと言う男は、それこそ知らないはずの男性なのに、何故か記憶に引っ掛かるのだ。“兄”と主張する彼の言い分も、まんざら嘘ではないような錯覚さえ起こさせる。
バウンド・ドックは、ロザミアの目から見て奇妙な動きをしていた。絡んできた割には、攻撃する意志が感じられない。ロザミアは遠慮無しに攻撃を続けているのだが、バウンド・ドックは回避を繰り返すだけで、まともに攻撃してこないのだ。
やってくる事と言えば、牽制のビームライフルだったり拡散メガ粒子砲だったりで、今のところガンダムMk-Uにダメージは無い。その一方で、バウンド・ドックは絡むようにして組み付こうと幾度も試みてきた。ドダイに乗っているだけ、ロザミアはそれを受け流す。
ただ、不思議とバウンド・ドックの動きが必死に見えた。理由は分からないが、ゲーツの必死さが波動となってロザミアの思考を刺激している事は確かなのだ。どうしてそこまで必死になれるのかは分からないが――
バウンド・ドックのクローが、ガンダムMk-Uの腕を掴んだ。掴まれたロザミアは、慌てて振りほどこうとコントロール・レバーを遮二無二に動かす。まるで、ナンパを嫌がる男女の諍(いさか)いの様に、ガンダムMk-Uは腕を振り回そうともがいている。
「放しなさいよ!」
『待て、ロザミア! お兄ちゃんが分からないのか!?』
「お前なんかお兄ちゃんなものか! あたしのお兄ちゃんは――」
『カミーユ=ビダンはお前の敵だったんだ! 倒さなくてはいけない敵なんだよ!』
「嘘よ、そんなの!」
頭部を回し、バルカンで掴んでいるクローを攻撃。バウンド・ドックを引き剥がして、ロザミアはビームライフルの連射を見舞った。ゲーツはMA形態に変形させ、大きく旋回して回避する。そして、そのまま機首を再びガンダムMk-Uに向け、再接近を図る。
ゲーツの機動は、ロザミアですら辟易させる。感じた苛立ちに、滅多にする事の無い舌打ちをした。
「しつこいのよ!」
『聞け、ロザミア!』
「あたしはロザミアじゃないって言ってるでしょ!」
『カミーユ=ビダンはエゥーゴの中核を成すパイロットで、俺達ティターンズの敵だ!』
「はッ……!」
接近するバウンド・ドックに、ビームサーベルで横に薙ぎ払う。しかし、それはあっさりかわされ、逆に背後から抱き付かれてしまった。接触回線から、ゲーツの声が鮮明に聞こえてくる。
『お前は俺の妹で、カミーユ=ビダンの居るエゥーゴと戦っていたんだ! 思い出せるな、ロザミア?』
「あたしが、お兄ちゃんと……?」
『カミーユはお前の兄ではない。俺が本当のお兄ちゃんで、奴は倒すべき敵だ』
妙な安息を感じる。バウンド・ドックのサイコミュ・システムが、ロザミアの脳に直接訴えかけるようにゲーツの言葉を運ぶ。それに当てられているのか、ロザミアの瞳が震え始めた。
若干のロザミアの様子の変化に、ゲーツは手応えを感じた。彼女が戸惑っている様が、サイコミュ・システムを通して何となしに分かる。このまま上手く言葉が沁み込んで行ってくれれば――
その時、2発3発とビームが襲い掛かってきた。同時に、ロザミアもゲーツも誰が来たのかを察する。ゲーツが視線を火線の方向に向けると、そこから黒く塗られたウェイブライダーが飛来してきていた。
カミーユは、ガンダムMk-Uからバウンド・ドックを引き離そうとビームガンで追い討ちを掛ける。
「ゲーツ、まだブルー・コスモスに縛られて――!」
しかし、カミーユの思惑とは裏腹に、ガンダムMk-Uの動きが少々鈍い。カミーユがいくら威嚇しても、中々バウンド・ドックをガンダムMk-Uから引き剥がす事が出来なかった。
「見ろ、ロザミア!」
ガンダムMk-Uの動きが鈍い事をいい事に、ゲーツは声を張り上げた。先ほどの接触で、サイコミュ・システムによるロザミアとゲーツの回線は開かれた。ミノフスキー粒子による通信障害も、これなら無視できる。
「あれはΖガンダムだ! Ζガンダムはソラを落とす敵! お前は、あれを倒すためにお兄ちゃんと一緒に戦っていたんだ!」
『Ζ……ソラを落とす……』
「そうだ、Ζガンダムは倒すべき敵、そして、それに乗っているカミーユも倒すべき敵!」
『ソラを落とすΖガンダムは倒すべき敵……カミーユ=ビダンは、倒すべき――うぅッ! ち、違うわ、そんなの!』
2人のやり取りを、カミーユは拾い上げている。頭を抱えてうずくまるロザミアの姿が、イメージとして浮かび上がった。
「ロザミィ――止めろ、ゲーツ!」
ロザミアとゲーツの交感を遮るように、カミーユの叫びが響き渡った。MA形態に戻り、連射するビームライフル。ゲーツの集中力を削ぎ落とすように、ひたすら撃ち続けた。次第に濃くなっていくカミーユの感性が、やがてバウンド・ドックのスカート・アーマーを貫く。
『バカな――!』
「独り善がりをこれ以上戦場に持ち込むな! あなたが敵対しなければ、こんなことにはならずに済むんですよ!」
ゲーツは、何処か違うものを感じる。ロザミアを説得しようと躍起になる彼の行為は、強化人間だからという理由で片付けてしまうには余りにも単純に思えた。カミーユには、付け入る隙があるように見える。
それは、ロザミアを気に掛けるという同じ気持ちを抱いているからに他ならない。ゲーツの想いは、カミーユのそれとも通じるべき箇所があるはずだ。敵だからといって、対立ばかりしていてもそれは悲しいだけ。
たじろいで体勢を立て直そうとしているバウンド・ドックの隙に乗じ、カミーユはΖガンダムを背後から組み付かせた。バウンド・ドックのモノアイが、振り子のように左右に揺れる。
『何のつもりだ、カミーユ=ビダン!』
「戦うのを止めてください! ロザミィは、僕達で守っていけばいいでしょう! 彼女を利用しようと企んでいるのがブルー・コスモスのやり方なら、それが危険な事だって分かるあなたにとっても――」
『黙れッ!』
バウンド・ドックの肘が、Ζガンダムの顔面を強打した。フラっと押し退けられたΖガンダムは、更にクローで突き飛ばされ、引き剥がされる。ゲーツは激情に任せ、ビームライフルを撃ちつけた。
『ロザミアは、俺の妹だ! それを殺しておいて、貴様は兄貴面をするのか!』
「そう言い切れるのなら、何で敵になるのを止めないんです! あなたの行動原理がロザミィなら、危険と分かっている事は出来ないはずなんですよ!」
カミーユの無差別な感情が、サイコミュ・システムに影響を与えているのだろうか。言葉は思惟となって跳び、無邪気にゲーツの頭を刺激する。ニュータイプの激情は力となって、直接的にゲーツの感情を激しく揺さぶっていた。
「しかしな!」
ゲーツの強烈な精神力は、カミーユの言葉すら撥ね退けようと抵抗を続ける。同じニュータイプとしての力を持つ者として、負けたくないと言う意地もあった。なまじロザミアを連れているカミーユなだけに、ゲーツにも男として引けないプライドがある。
「ロザミア、Ζガンダムを倒せ! ここで奴を葬れば、これまでのお前の敵対行動も免除される! そうすれば、お兄ちゃんと一緒にずっと居られるんだぞ!」
カミーユのニュータイプとしての力と、サイコミュ・システムを通して発散されるゲーツの言葉が渦巻く。思惟の奔流が荒波となってその場を乱し、ロザミアは混乱の度合いを深めていた。2人の言葉は、どちらもロザミアにとって真実。
だからこそ、相反する矛盾の乱気流が、ロザミアを見えないプレッシャーとなって圧迫していた。
2人の諍いを、ガンダムMk-Uは微動だにせずに見守っている。カミーユは動けないロザミアをそのままに、ゲーツを止める事を優先していた。
「こんな事を続けていたら、ロザミィは――」
サイコ・ガンダムMk-Uで強襲を掛けてきたときのように崩壊してしまうかもしれない。そう心配していたときだった。別方向からの攻撃が、カミーユとゲーツの間を割って入った。
ゲーツが振り向くと、そこからやって来たのはアッシマー。その後ろを、ストライク・フリーダムが追随し、更にその後方からパラス・アテネとバイアランが追い縋っていた。
「ブラン少佐!?」
『強化人間は、逐一命令を下さなければまともに任務を遂行することも出来んのか?』
「私は――!」
『フンッ!』
ブランはアッシマーを加速させると、Ζガンダムとバウンド・ドックの間を駆け抜けていった。そして、マス・ドライバーに目標を定め、MSへと変形させると管制塔に向かってビームライフルを連射した。
ビームによる爆発が数珠繋ぎとなり、マス・ドライバーによる打ち上げを制御する中枢が破壊される。
「しまった!」
キラが叫ぶ。背後からの攻撃を横にロール回転して回避するも、先行させてしまったアッシマーに先手を打たれてしまった。エターナルは既に移動が終了しているものの、これでは打ち上げを行う事が出来ない。
もうもうと煙を上げる管制塔の近くでその時を待っていたエターナルでも、確認は出来ていた。バルトフェルドは舌打ちし、敵の行動の素早さに歯噛みする。
「ここまで来られるとは――ザフトは突破されたか!」
エターナルが行動不能なのをいい事に、崩された前線を突破してきたウインダムが襲い掛かってくる。狙いはやはり、ラクスだろうか。アカツキが下から狙い撃つも、ミノフスキー粒子の干渉でカガリではまともに当てる事が出来ない。
「対空砲火! 照準は合わせなくていいから、接近されることだけは避けろ!」
「了解!」
エターナルの機銃が弾幕を張り、ウインダムを寄せ付けまいと抵抗する。しかし、ミノフスキー粒子下では、基本的に前に出ている方が被弾の可能性は低い。レーダーの利かない状況になれば、目視で相手を確認できる前の方が圧倒的に安全なのだ。
それを象徴するかのように、ウインダムの後続の何機かはエターナルの弾幕によって沈んだが、しかし付近のウインダムの殆どはやり過ごされてしまった。
アカツキとドム・トルーパーが何とか防いでいてくれているが、それも何時まで保てるのかも分からない。ブリッジを直撃されれば、それで全てが終わってしまう。
そして、遂にブリッジの正面に一機のウインダムが姿を躍りだした。構えるビームライフルが、狙っている。
(お、終わった――!?)
バルトフェルドがそう覚悟したときだった。ウインダムの腕に絡まる鞭。狙い撃とうとしたそれを引っ張り上げ、ブリッジの正面から連れ去っていってしまった。
バルトフェルドが艦長席から立ち上がり、その行方を確認すると、先ほどのウインダムは腹部に剣を突き刺され、火花を散らしていた。
一気にその刃が引き抜かれると、思い出したように爆散するウインダム。爆発に巻き込まれぬように離脱したそのMSは、グフ・イグナイテッドだった。
『済みません、持ち堪えられませんでした』
グフ・イグナイテッドの指関節からワイヤーが伸び、エターナルのブリッジに貼り付いた。ミノフスキー粒子下の通信手段として、応急的に備えられたそれは、しかしガンダムMk-Uにも装備されている有効的な装備だ。何よりも接触回線ならば傍受の恐れは無い。
ひとまず安堵したバルトフェルドは浮かせた腰を再び艦長席のシートに下ろし、アーム・レストに備えられた受話器を手にしてハイネの声に返す。
「ハイネか。すまない、助かった」
『いえいえ。しかし、それにしても――』
「時間が掛かりすぎているからな。おまけに、マス・ドライバーの管制塔が潰されてしまったんじゃあ、余計にな。ザフトも、頑張ってくれている事は分かっちゃいるが――」
『どうするんです? カーペンタリアから俺達の回収艦隊が向かってきていますが、殆どのオーブ兵力をソラに上げた後となった今だと、彼岸戦力に差がありすぎます』
「マス・ドライバーの制御は、こちらから信号を送ってコンピューターによるオートで行っていたんだが、こうなりゃ手動で行くしかない。俺が――」
「えっ!? 何だって、聞こえない!」
バルトフェルドが意を決し、艦長席を立とうとした刹那、ダコスタの怒声が木霊した。耳に押し付けるようにインカムを手ですっぽりと覆い、空いた方の手でマイクを可能な限り口元に近づける。
「どうした、ダコスタ君?」
「はぁ? そちらで動かすって――出来るんですか? ――はい、こちらの準備は整っていますけど――」
バルトフェルドの問い掛けに、ダコスタは振り返って人差し指を口元に当てた。
「やれるのなら、文句は言いませんけどね――ソラに出れば待ち伏せが待っている? そんな事、百も承知ですよ! はい――で、お宅はどちら様なんですか――って、あれ?」
ダコスタは首を傾げ、ゆっくりとインカムを外した。怪訝そうに何度も首を捻るその様は、一方的に通信を切られたからだろう。果たして、ミノフスキー粒子の影響なのか、それとも別の理由があるのか――
「何の通信だ?」
「手動で、マス・ドライバーの打ち上げを行うと言ってきていますけど……」
「何だと?」
エターナルの甲板。カガリのアカツキも、ヒルダ達のドム・トルーパーも敵からの砲撃に晒され、防ぐのに手一杯だ。まともに反撃する事も出来ずに、防御主体の4機は自らの体を盾にしてエターナルを守っている。
その健気な抵抗も、マス・ドライバーの管制塔が破壊されたことで、どれ程の意味も持たなくなっている。エターナルが打ち上げられなければ、彼女達の奮戦は結果が実りはしないのだ。
「今すぐにエターナルの中に入れだと!? 何だってんだ、一体!」
アカツキの装甲は、敵のビーム攻撃を跳ね返す。弾いてきたこれまでの防御兵器とは違い、そっくりそのまま返すのだ。それは、どこの勢力でも成し得なかったある意味では装甲の究極的な進化。それをやってのけたモルゲンレーテの技術力は、凡人の想像の遥か上を行っていた。
『誰かがサブ・コントロール・ルームから手動で打ち上げの管制をやるって言っているんですよ! メインをやられちゃったら、嘘だとしてもすがるしかないでしょ!』
「周辺海域の脱出経路は!」
『出られるもんなら、とっくに脱出していますよ! ミノフスキー粒子の干渉のせいで、周辺海域は嵐の中です。恐らく、オーブは取り囲まれています。逃げ道といったら、月でも目指すしかないですって』
ダコスタが、やけに偉そうにのたまってくるのを、カガリは聞き逃さなかった。バルトフェルドの忠臣にして、彼の目や手足もこなす。大袈裟な言い方をすれば、バルトフェルドの私設エージェントとでも言うべき彼は、ラクスの護衛を任される辺り相当に優秀な人物なのだろう。
しかし、それとこれとは話は別だ。カガリがオーブの国家元首としてのプライドを持ち始めている今となっては、彼の態度は不遜に聞こえる。
「本当に、逃げ道はないんだな?」
『誰の言葉だったら信じるって言うんですか!』
「分かったよ!」
戦場では、国家元首であろうとも素人だ。ダコスタはプロとして2年前の戦争も戦い抜いてきた。ここで我を出したのでは、また昔の自分に逆戻りしてしまう。大人になったつもりの今では、言葉の端を掴んで一々感情を乱すべきではない。
カガリが気持ちを持ち直し、正面に居る敵機を追い払うと、エターナルのメイン・スラスターが火を噴き始めた。設置するアカツキの足底から、その振動がコックピット内のカガリにも伝わってくる。コントロール・レバーを握る手が、振動で痺れを起こしている。
『マス・ドライバー正面! 進路の確保を! カウントダウンを省略し、進路がクリアになると同時に発進します!』
「ドム・トルーパー隊、正面の敵機を退かせろ!」
『言われなくたってねぇ!』
エターナルの砲塔と、4機の一斉射撃が進路先に集中的に放たれる。進路がクリアになると同時に、ドム・トルーパー隊は即座にエターナルの中へ踊り込んだ。カガリもそれに倣おうとした時――
「何ッ!?」
背後から放たれたビームに、アカツキのサイド・スカート・アーマーが溶かされた。ヤタノカガミを無視するその威力は、メガ粒子砲だ。気を取られ、射線の方向に注意を向けると、そこには2連ビーム・キャノンを構えたパラス・アテネが居た。
『そこの金色! あんたは逃がしはしないよ!』
「くっ――!」
エターナルの加速が始まった。そこへパラス・アテネが急襲し、カガリが乗り込もうと思っていた出入り口を大型ミサイルで破壊して塞いでしまった。
加速を続けるエターナル。ライラの攻撃で振動が起こったが、もう止まらない。レールは走り始め、後はエターナルの推進力とあわせて真っ直ぐ宇宙に向かって羽ばたくのみである。
「しまった!」
「カガリさんが――」
バルトフェルドが、艦長席のアーム・レストを拳で叩きつける。モニターで確認できる限り、カガリのアカツキはエターナルに乗り込み損なった。飛び上がり、エターナルから離れるアカツキが、艦外カメラにしっかりと映っていたのだ。
戦艦一隻を宇宙に放り上げる加速を得る為に、初期加速とはいえ相当のスピードが要求される。打上が始まってしまった今となっては、MSが単独で追いつくことなど出来はしない。重力を振り切って大気圏を抜けると言う事は、それだけ凄まじい事なのだ。
「エターナルが……」
もくもくと白い煙を上げ、光る点となって真っ直ぐに宇宙を目指すエターナル。それを、下から見上げていたカガリは思わず絶句してしまった。よもや、こんな形で取り残される事になるとは思わなかったからだ。
それでも、直ぐに気持ちを切り替えて、次のアークエンジェルに乗り込む事を考える。呆然としている事が許される状況ではない。後方から、拡散ビームが襲い掛かってきた。ライラのパラス・アテネが、先程からずっとカガリを狙っている。
『聞いておこうか? 管制塔を破壊されたマス・ドライバーが、どうしてエターナルを打上げられたのかを!』
ドダイから飛び上がったパラス・アテネのビームサーベルが振り下ろされ、カガリはそれをシールドで押し付けるように当てつける。パラス・アテネのビーム兵器で、アカツキが唯一抵抗できる手段は、それだけだ。
「言えるか!」
シールドの影からビームライフルを取り回し、突きつけるもパラス・アテネは華麗に舞って漂うドダイの上に再び着地した。コーディネイターではないにしろ、ライラの動きは素人のカガリから見れば十分に熟練している。
『カガリ!』
「キラ!」
そこへ割って入ってきたのは、ストライク・フリーダム。クスィフィアスと2丁のビームライフルをフル・バーストさせ、一時的にパラス・アテネを退かせた。
「カガリ、エターナルに――」
キラは白煙の先を目で追い――
「乗れなかったの!?」
がっかりしたように言葉を放り投げてきた。狙われているのは、第一にカガリなのだ。それをラクスと一緒に放り上げられなかったのは、厄介事が残ってしまったと言う意味で残念な事態だ。正直、MSのパイロットとしては中の下と言える彼女を庇いながらでは、些か分が悪い。
それも、しんがりのアークエンジェルの準備が済むまでの間なのだが、その僅かな時間すら今の状況では厳しい。特に、ファントム・ペインの戦力がマス・ドライバーの周辺に集中してきている今となっては、それは尚更といえる。
そのキラの苛々通りに、パラス・アテネがバイアランを伴って襲い掛かってきた。標的は、カガリなのは考えるまでも無い。2機のビームの軌跡は、明らかにアカツキを集中的に狙っている。
『くっ、くそ、こいつら――』
「カガリは僕から離れないで! 彼等の狙いは君だ!」
集中砲火に見舞われ、散開しようとしたアカツキを繋ぎとめ、キラは叫ぶ。ビームシールドを展開し、アカツキの前でその身を盾にして攻撃を防ぐ。
「アークエンジェルは――マリューさん!」
エターナルが打ち上がるのと同時に、アークエンジェルは動き出していた。今、ゆっくりと設置が完了し、後はキラを始めとする残りのオーブ兵力をその中へ押し込むばかりだ。
「戦線の状況は――」
にわかに遠くの空が騒がしくなり始める。ハイネ達ザフトを回収しに来たカーペンタリアからの増援がやってきたのだろう。エターナルが打ち上がったのを機に、作戦の終了が近付いたと察知した艦隊が、ここぞとばかりに援護攻撃をしてくれている。
しかし、連合艦隊を攻撃されても動じないのが彼等だ。パラス・アテネとバイアランは、連合艦隊が背後から攻撃を受けていても目的だけをしっかりと見据えている。ラクスを逃がした今、狙いはカガリだけに絞られたのだ。
ここで本懐を見失うほどファントム・ペインのパイロットは愚かではない。カーペンタリアからの艦隊が到着しようとも、戦力差はまだ圧倒的に連合軍の方が上なのだから。
そして、キラとカガリが密集して防御に徹しているのならライラとカクリコンはそこを突く。ストライク・フリーダムがアカツキを庇っているのは目に見えて明らかだし、ここに十字砲火を掛けないで何時すると言うのか。
パラス・アテネとバイアランは円を描くように2機の周囲を機動し、交互にビーム攻撃を浴びせ続ける。
「チィッ!」
ストライク・フリーダムのビームシールド一枚だけでは、如何ともしがたい攻撃。ストライク・フリーダムはビームサーベルを一本、抜き放った。
「そこッ!」
一方の攻撃をビームシールドで、そして、もう一方からの攻撃を、何とビームサーベルで切り払った。キラの正確なテクニックと、寸分違わずに銃口を追える彼の動体視力が、超人的な離れ業を事も無げに行ってみせる。
見せ付けられたライラもカクリコンも、これには驚愕の表情を浮かべた。最早、キラのパイロット・センスは呆れるしかないのだろうか。あまりにもの次元の違うその動きに、2人も脱帽するしかない。
『ビームをサーベルで――化け物か、こいつぁ!?』
「中尉、慌てるんじゃないよ! いくらサーカス芸が出来たって、こっちが有利なのは変わっちゃ居ないんだ!」
しかし、ライラは慌てない。キラのパイロット・センスの高さは、遭遇した時から分かりきっていた事だ。どんな凄い事をしようとも、今さら取り乱したりはしない。コンソール・パネルからビックリ箱でも飛び出してこない限り、怯むことはない。
「この人たち、乱れない!?」
キラにしても、ビームをビームサーベルで切り払う行為など、そうそう易々と出来るものではない。極限にまで集中力を高め、神経をすり減らして初めて出来る事なのだ。
それを使わざるを得なかったのは、少なくとも達人的な芸当を見せつけ、少しでもライラ達の動揺を誘おうと考えたからだった。そのキラの思惑も、当てが外れる。彼が想像している以上に、ライラとカクリコンはプロなのだ。
「なら、カガリだけでも――」
キラの視線が、マス・ドライバーにて鎮座するアークエンジェルを据えた。そして、アカツキの腕を掴むと、力いっぱいに引っ張った。
『お、おいキラ――』
「ここは僕が食い止める! カガリはアークエンジェルに逃げて!」
遠心力を加え、カガリに考える暇を与える前に無造作にアークエンジェルへと放り投げる。その余計な行動を、ライラは見逃したりはしない。ストライク・フリーダムとはいえ、止まってしまえば的以外の何物でもないのだ。
キラの集中力が、アカツキを投げ飛ばす事に向いている今ならば、当てられる。
「もらった!」
パラス・アテネが突き出した右腕の2連ビーム・キャノンが、真っ直ぐにストライク・フリーダムを定め、放たれる。キラがパラス・アテネの攻撃に気付いたのは、ライラがトリガー・スイッチを押し込んだ瞬間だった。
アカツキを放り投げた後、ハッとして回避行動を取らせるも、時既に遅し。メガ粒子砲の光が、ストライク・フリーダムの特徴的な青い8枚羽の1枚を吹き飛ばしていた。
「掠っただけ!? これも外されるなんて、あたしは夢でも見ているのか!」
ヘルメットを平手で叩き、愕然としたようにライラの驚愕が響き渡る。不意討ちをかわされてしまったのでは、隙が無いも同然ではないか――まるで悪夢のような光景に、しかしカクリコンが励ましの声を掛ける。
『大尉、しかしフライト・ユニットを損傷させられたならば、少しは奴の動きも鈍くなると言うもの!』
「そ、そうか――中尉のその考え、同意しておくよ!」
負けたわけではない。ライラは挫けそうな心を奮い立たせ、もう一度構えなおした。
「初陣で傷付けられるなんて――!」
ストライク・フリーダムが背中に背負っているのは、フライト・ユニットだけではない。ライラが吹き飛ばした青い羽の1枚1枚は、全てドラグーンなのだ。
重力下で使えないそれを背負いつつ戦っていたと言う事は、即ちキラはずっとデッド・ウェイトを課されていたという事になる。
ロール・アウトしたばかりの機体――それも、調整に時間を掛けられなかった事もあり、そのままの装備でキラは出撃せざるを得なかった。本来ならば、貴重なパーツなだけに取り外して運用したかったところだが、間に合わなかったのだ。
しかし、ハンディキャップを背負ったまま戦える相手ではない。ストライク・フリーダムは確かに究極的ともいえるMSであるが、それが勝利の絶対条件ではないのだ。パーツを惜しんでいれば、やられる。だから、キラは決断した。
「カクリコンはアカツキを追え! フリーダムは、パラス・アテネで押さえる!」
『了解した、大尉!』
「ん――?」
ライラがカクリコンに指示を出した時だった。ライラの目に、不可思議な光景が飛び込んできた。カクリコンは気付いていないのだろうか。幸いな事に、バイアランは即座に身を翻してアークエンジェルへ落下を続けるアカツキを追っていった。
「フリーダムめ、何をしている?」
意外な光景に、ライラの顔面がぴくっと引き攣った。ストライク・フリーダムが、フライト・ユニットだと思い込んでいた背中の8枚羽をパージし始めたのだ。たった1枚の羽をやられたぐらいでバランスを崩し、飛行能力を放棄するつもりだとでも言うのだろうか。
しかし、地上に降りてしまえば飛行ユニットである自分達には抗えないはずである。あの圧倒的なパイロット・センスを誇示するパイロットが、それほどにまでバカだとは考えにくい。
ただ、何かをするつもりならばその前に――
「落とすッ!」
パラス・アテネはドダイをスノー・ボードに見立て、ハーフ・パイプの中を左右に滑るように機動する。そうやって動きでかく乱した後、羽をパージしたストライク・フリーダムに向かって、2連ビーム・キャノンを連射した。
その時、不可解な出来事が起こった。突如として、ストライク・フリーダムの姿が消えたのだ。ライラは仰天し、大きく目を見開いた。
「やったのか!? ――いや、違う。ビームが当たった手応えが無かった――」
全面モニターで辺りをぐるりと見回し、ストライク・フリーダムの姿を追う。その僅か1秒か2秒の間を置いた後、パラス・アテネのカメラがその姿を捉え、警告音を鳴らせた。
「下だと!?」
ライラが股の間から下方向に頭を垂れると、凄まじいスピードでアカツキを追うバイアランに肉薄しているのが見えた。
ストライク・フリーダムはビームサーベルを片手に、弾丸のようにバイアランに突進する。カクリコンがその接近に気付いたときには、背後でデュアル・アイを瞬かせる姿があった。
「バ、バカな!?」
咄嗟に反転し、内臓のメガ粒子砲を差し向けるも、ストライク・フリーダムのビームサーベルの刃はバイアランの腕を切り飛ばしていた。カクリコンが慌ててもう片方の腕で牽制を放って離脱する。
『な、何だコイツは――ッ!? 大尉! フリーダムがこんな動きをするなんてのは、俺は聞いていないぞ!』
ライラの耳に、カクリコンの焦燥した声が響く。まるで幽霊のように突然現れたストライク・フリーダムに、さぞかし肝を冷やしたのだろう。その気持ちが痛いほどわかるのは、ライラも驚異的なストライク・フリーダムの動きに驚かされたからだ。
(あの光は、蝶の羽?)
敢然と立ち塞がるストライク・フリーダム。その影で、アカツキがアークエンジェルの甲板に叩きつけられているのが見えた。
アカツキは立ち上がり、自分の力でアークエンジェルの中に入っていく。その姿は、光の向こう側。ストライク・フリーダムの背中が、まるで蝶の羽のように淡いブルーの光を放っていた。
「あの8枚羽は、フライト・ユニットの補助なんかではなかったのか……!」
MSの装備にしては美しすぎるストライク・フリーダムの光の羽。その威光に、ライラは呆然としてしまっていた。彼女の憶測では、ストライク・フリーダムの8枚羽は機動力を上げる為のものだった。
しかし、その予測はまるで反対で、機動力を押さえ込んでいたのが真相だったのだ。そして、ストライク・フリーダムがその真価を発揮したとき、これまで見た事も無かったような機動力が発揮された。
この事実は、ライラに少なからずショックを与えた。ストライク・フリーダムの性能の高さと、自らの甘さ、そしてそれを扱えるパイロットの凄さに――
『オーブの代表に逃げられるぞ、大尉!』
カクリコンの声に、ライラは我に返る。MSパイロットとして、エース級の活躍をしてきた彼女にとって、キラの力は圧倒的だった。
しかし、ライラはそこで嫉妬や憎しみを募らせたりはしない。その反感が、オールドタイプの証明だと言う事を、カミーユとの戦いで悟っているからである。特別な存在を相手に、その様な感情を持って戦っていても勝てるわけが無い。
ライラは気を取り直し、カクリコンの声に応える。
「分かっているよ。まだ、アークエンジェルを潰せばチャンスはあるんだ」
目的は、些かも変わっていない。優先目標はカガリ=ユラ=アスハ・オーブ首長国連合代表ただ一人。彼女がアークエンジェルに逃げ込んでくれたのならば、その分だけ的が大きくなったと思えばいい。
いかに高速機動状態のストライク・フリーダムと言えども、アークエンジェルの様な大きな戦艦をたった1機で2機から守れるわけが無い。加えて、殆どの兵力を宇宙に上げてしまったオーブ・ザフト軍に対し、連合軍は未だ戦線を維持できるだけの体力が残っている。
どう転んでも、失敗する事はありえないはずなのだ。
「2手に分かれる、中尉。どっちかがフリーダムを引き付けられればいい」
『了解だ。ブラン少佐も、こちらの状況は掴めている筈だ。勝てるぞ、この戦!』
「くっ――!」
ストライク・フリーダムの機動力は、キラにとっても十分満足のいく性能だった。しかし、相手は2機である。散開されたキラは、尚も苦しい状況に変わりないことに苦心し、歯噛みした。いざとなったら――
宇宙で、ラクスと再開できるだろうか。据わった瞳で、パラス・アテネとバイアランを睨みつける。
カミーユの目は、マス・ドライバーに向いていた。先程アッシマーに管制塔を破壊され、ほぼ死に体だったはずのマス・ドライバーが、何故か機能してエターナルを宇宙へ放り上げたのだ。アッシマーは、その原因を探ろうとしているかのように動いている。
「アークエンジェルも打上げ体勢に入った――出来るのか?」
ガンダムMk-Uのドダイに一緒に乗り、カミーユはちらりとアークエンジェルを見やった。そこではパラス・アテネとバイアランの攻撃に晒され、ストライク・フリーダムとハイネのグフ・イグナイテッドが防戦に徹しているのが見える。
先程から、ロザミアの状態が芳しくない。カミーユとゲーツの乱波動が彼女の精神を刺激し、一種の憔悴状態に入っているためだ。入り混じる記憶と感性の矛盾が、真実を求めようと動き出した好奇心に晒されて混乱を生じさせている。
カミーユは、隣で俯くようにして沈黙しているガンダムMk-Uを心配そうに見やった。
「ロザミィ、大丈夫か?」
『お、お兄ちゃん……』
ΖガンダムのマニピュレーターがガンダムMk-Uの肩を掴み、接触回線が開かれた。全天モニターにガンダムMk-Uのコックピットの中の様子が映し出され、虚ろに瞳を震わせるロザミアが居た。
酷く怯えた様子で、両手を顔の前に添えてその指の隙間から僅かに表情を覗かせているだけだ。
『ロザミアを、連れて行かせてなるものか!』
「何ッ!?」
唐突にゲーツの声がカミーユの耳に届いた。咄嗟にΖガンダムの機体状況をチェックすると、ちょうど人間で言うところの肩甲骨の間にあるロング・テール・バーニア・スタビライザーにワイヤーが絡まっている事が分かった。
高機動力を担うその特徴的な尻尾のような部分は、Ζガンダムの背中で最もワイヤーを絡め易い部分だ。
Ζガンダムは肩越しに腕を回し、背後に向かってビームライフルを撃った。後ろに接近してきているバウンド・ドックを狙い、尚且つワイヤーも切れればいいと思ってしたことだが、効果は得られない。
カミーユの攻撃をかわし、ゲーツは吼える。それは、まるで人質を取り返そうという親のような叫び声だった。
『貴様の様な狂ったニュータイプに連れて行かれたのでは、ロザミアは精神崩壊を起こす! 貴様こそロザミアを大切に思っているのなら、彼女をこちらに引き渡せ!』
「狂ったニュータイプ……? 俺が!?」
『そうだろう! サイコミュも無しにこれだけの影響を与えるって言う事はだな、それは、貴様がニュータイプとして度を越えているって事なんだよ! それが、事もあろうに精神の不安定なロザミアの傍に居ようなどと!』
「彼女はただ、記憶の中の兄さんと平穏な生活を送りたいだけだ! 僕達が一緒にロザミィの兄さんになってあげればそれで良いんですよ!」
『貴様とロザミアの兄を演じろと言うのか? 冗談ではない、貴様の存在自体がロザミアに悪影響を及ぼしている事に気付け! 強化人間は、貴様ら天然のニュータイプが居るから生み出されたんだぞ! 全て、貴様らニュータイプが――』
強化人間の苦しみがいかほどのものなのか、カミーユには本当には知らない。しかし、フォウやロザミアは確かに苦しんでいた。その波動を受け取り、感じたカミーユは少なくとも強化人間の苦しみが存在する事を知っている。
しかし、その苦しみの矛先を、ニュータイプという存在に向けるのは違うと思う。本当に怒りをぶつけなければいけないのは、強化人間を生み出した者だ。ゲーツの言う事は、間違っている。
「ゲーツ! そんな考え方だけじゃ――!」
『黙れッ!』
バウンド・ドックの左腕に握られたビームライフルが差し向けられ、Ζガンダムを狙う。ビュンビュンと飛来してくるミノフスキー粒子の束に晒されながらも、ワイヤーに繋がれたドダイとその上に乗る2機はまるで風に流される凧のようにゆらゆらと揺れた。
エネルギーの奔流が大気を震え上がらせ、突風が吹いたように振動を感じる。ゲーツの苛立ちがそうさせているように、カミーユには感じられた。強化人間のニュータイプへ向けられる嫉妬や羨望の類の感情だとは、考えたくはない。
自ら望んでニュータイプに覚醒したわけではないのに、そうなってしまったと言うだけで憎まれる対象にされてしまうのは人生において大きな損だ。誰も、端から争いを好みはしないというのに。
『ニュータイプはニュータイプを殺す道具だ! それを最も良く体現しているカミーユ=ビダンは、哀れだな! その哀れさは、いずれロザミアも殺す! かつて貴様がそうした様に!』
「ゲーツ…ロザミィに拘りすぎだ!」
Ζガンダムはドダイから飛び上がり、反転してワイヤーをビームサーベルで切った。ピンと張りきったワイヤーを切られ、その反動でワイヤーが伸びていた右腕がノック・バックする。
「ふっ、ロザミアから離れるとは、結構!」
拡散メガ粒子砲を構え、飛び上がったΖガンダムを狙う。バウンド・ドックの左腕から傘のように広がる光の筋がΖガンダムを覆い尽くすように襲い、しかしその中でカミーユは怯むことなくバウンド・ドックを見据えた。
ゲーツは、ロザミアを取り戻そうとするあまり作戦行動が出来ていない。それが強化人間の業と言うならば、それは身も蓋も無い言い方だ。しかし、考えようによっては、ゲーツは仲間意識を持つ強化人間とも言える。
戦闘能力に特化した強化人間も、戦うためだけの存在ではなかったのだ。普通の人間と同じ様に同胞を思うことが出来る――ニュータイプとしての存在にもし、希望が持てるのなら、ゲーツと分かり合うことで強化人間を救うことも出来るのではないかとカミーユは考えた。
Ζガンダムのロング・テール・バーニア・スタビライザーが斜め後方に伸び、シールドを前面に構えて突撃の姿勢をとる。カミーユ=ビダンの存在に憎しみを募らせるゲーツであるならば、その鎖を断ち切るにはどうすればいいのだろうか。
考えるよりも先に、カミーユは動き出していた。彼の感性が理屈を抜きに、原因を突き止めようと無意識に体を突き動かした。
拡散メガ粒子砲の光をシールドで受け流しながら、Ζガンダムは高速でバウンド・ドックに肉薄した。光の網を潜り抜けてきたその姿を目の当たりにし、ゲーツは流石に驚きを隠せない。殆ど回避行動もせずに、無傷で襲い掛かってくるΖガンダム。
まるで、不規則な拡散メガ粒子砲の光の全てがどこに伸びているのかを全て感知しているかのように、カミーユは突っ込んできたのだ。そのニュータイプとしての可能性の強大さに、同じ存在であるはずのゲーツですら畏怖を抱かざるを得ない。
「そ、その人と思えない勘の鋭さ! それが俺達強化人間をどれだけ苦しめると――」
目の前に現れるΖガンダムを見開いた瞳で見つめ、ゲーツは言葉を濁す。バウンド・ドックの右腕のクローが、Ζガンダムを掴もうと半ば反射的に伸びた。
しかし、カミーユはサイド・スカート・アーマーからビームサーベルを取り出し、左腕に握らせるとバウンド・ドックのクローを下から撥ね上げる様に切り飛ばし、続けて右のマニピュレーターにも同様に握らせた。
右のビームサーベルを逆手に持ち直し、バウンド・ドックのスカート部分に突き立て、縦に切り裂く。クローを切り飛ばした左のビームサーベルは、返す刃で右腕の肩口から薙ぎ払うように頭部を吹き飛ばした。
「そのMSから出ているサイコ・コントロール的な何か! 消えろッ!」
スカート・アーマーに刻まれた裂傷部分から小爆発が起こり、バウンド・ドックは沈黙する。Ζガンダムがウェイブライダーに変形して離脱すると、糸の切れた操り人形のように頼りなく四肢を不規則に揺らしながらバウンド・ドックは落下していった。
そして、Ζガンダムが再びドダイの上に着地すると、メイン・カメラが振り返った先で爆発するバウンド・ドックから飛び出していく物体が見えた。カミーユの世界のMSには常識的に装備されている、コックピット兼脱出装置が作動したのだ。
「あれを回収できれば――」
カミーユの考えている事。彼は、ゲーツを招き入れることで和解を果たそうと思っていた。そのために、邪魔になるのはサイコミュ・システムを搭載しているバウンド・ドック。
サイコ・ガンダムに似た悪魔の波動を感じた彼は、それを破壊する事で強化人間の業を振り払おうと考えたのだ。それが果たして正解なのかどうかは分からない。しかし、確かな事としてサイコミュに当てられていないロザミアは比較的安定していた。
その事実を鑑みれば、ゲーツもきっと落ち着いて話に応じてくれるとカミーユは思いたいのだ。
バウンド・ドックから放り出された脱出ポッドが、幸いにも海に向かって落ちて行く。長い茶色の煙の尾を引きながら、オレンジの球体は頼りなく緩く回転している。
それを追おうとドダイを方向転換させたときだった。突如として目の前に現れたのは、オールドタイプの中でも強い力を持つテクニシャン。黄色い円盤に乗ったブラン=ブルタークが、まるでカミーユの目的を分かっているように立ち塞がったのだ。
「強化人間をやったのか? 流石のゲーツ=キャパも、黒いガンダム2機相手では分が悪かったらしいな」
マス・ドライバーのサブ・コントロール・ルームが見つからない以上、最早アークエンジェルの打上を阻止する手立ては無い。しかし、ライラは分かっていた。ブランが考えている通り、彼女はアークエンジェルそのものの破壊に取り掛かったのだ。
女性でありながらも、優秀だと思う。いや、その考えはフェミニストのする事で、軍人として見れば当然の判断と言うのが指揮官であるブランの立場としての物言いだろう。
だが、アークエンジェルにはストライク・フリーダムがたった1機で獅子奮迅の活躍を見せ、加えて残ったザフトも最後の抵抗を見せている。オーブ側にとって、アークエンジェルの打上げの終了が作戦の終了なのだから、当然と言えば当然になるか。
カミーユ達の前に躍り出る数瞬の間に考えを巡らせたブランは、アッシマーを滑らかにMS形態に変形させると、最短の動きで大型ビームライフルを差し向けた。
「アッシマー!?」
『危ない、お兄ちゃん!』
不意打ちの一撃が放たれる。如何にニュータイプのカミーユでも、ゲーツを撃墜して油断したところを襲われれば一溜まりも無い。
その前に、ブランを知っているロザミアが出足良く反応し、ガンダムMk-Uの体を押し付けてドダイからΖガンダムを突き落とした。
「ロザミィ!」
アッシマーのビームに吹き飛ばされるガンダムMk-Uの右腕。肩からごっそりと持っていかれ、バランスを崩したガンダムMk-Uはまっ逆さまに落下していった。
もし、ロザミアの助けがなければ、Ζガンダムはアッシマーのビームに貫かれて致命傷を負っていたことだろう。カミーユが焦りと驚きでガンダムMk-Uの行く先を追っていると、何とか片腕で持ち堪えたロザミアは体勢を取り直し、ドダイで低空を飛行していた。
「貴様ッ!」
危うくロザミアを失いかけたカミーユが、アッシマーの行為に怒らない訳が無かった。カミーユはフット・ペダルを強く踏み込み、最大出力でΖガンダムを空中に伸び上がらせる。バルカンで牽制し、右のマニピュレーターを沿えて左腕を差し出した。
シールドの隙間から、きらりと光る2つの弾頭。両腕部に内蔵された、グレネード・ランチャーだ。良く狙いをつけて発射されたそれは、普通のグレネード弾とは違う。Ζガンダムのグレネード弾は、通常の弾頭とワイヤー付きの二種類があるのだ。
そして、カミーユが今、放ったのは――
「紐付きのグレネードだと!?」
Ζガンダムの腕部に装備された小型の弾頭。破壊力こそ大きくは無いが、多目的に使用できるこの武器を、カミーユは好んで良く使う。
ブランは、追尾性能も無いグレネードに油断していた。特に空中での機動性に難があるMS形態では、必要以上の回避運動を嫌う。それが、付け入る隙になったのかもしれない。
紙一重でかわすテクニックを持っているだけに、弾頭の尾に細く伸びるワイヤーに気付くのが遅れたのだ。ワイヤーは一回ビームライフルに絡みつくと、そのまま先頭の弾頭が引っ掛かった反動で回転運動を始め、纏わり付く様に絡め取った。
後は、Ζガンダムが腕を引いて取り上げるだけだ。
「おのれ、ガンダム如きがッ!」
一つ目のアッシマーに拘るブランは、双眸を持つガンダム・タイプのMSが嫌いだ。スタイリッシュに洗練されたそのスタイルが、如何にもヒーロー然としていて鼻に付くのだ。
戦争という醜い争いの中で、美しさを際立たせようとするガンダムは、軍人をしている自分を愚弄された気分になる。戦争で使用される兵器というモノは、アッシマーの様に無骨で職人気質なモノでなくてはならない――
そう考えるブランだからこそ、小癪な手段で唯一の武器であるビームライフルを取り上げられた事が腹立たしい。ビームライフルを取り上げられると言う事は、即ち絶対に守り抜かなければならない虎の子を失くしたという事だからだ。
ワイヤーに手繰り寄せられ、無様にも宙を舞うアッシマーの大型ビームライフル。即座にブランはアッシマーを機動させ、取り返そうと手を伸ばした。
「落ちろッ!」
カミーユは、そのブランの焦りを見逃しはしない。ワイヤーが伸びる左腕を引き、更に大型ビームライフルを引き寄せると、代わりに自分のビームライフルを取り出した右腕を前に突き出し、無防備なアッシマーを狙った。
しかし、何発も放たれるビームは、全てブランの巧みなMSコントロールで外されてしまう。この男、どこまでもアッシマーを知り尽くした男なのだろうか。未だ新たなΖガンダムの操縦性に苦心するカミーユとは対照的に、ブランのテクニックは優れていた。
「けど!」
アッシマーのビームライフルを取り返そうとする動きを逆手にとり、カミーユはブランを翻弄するようにワイヤーを切り離した。支点を失ったワイヤーとビームライフルは、急にその軌道を変えてあらぬ方向に飛んでいく。
ブランはこれをチャンスと思ったのか、珍しく焦って行動を早めた。
それが、唯一の失態だった。遠くからビームライフルで狙ってくる分には、ブランの卓越したテクニックで回避する事が出来る。しかし、カミーユが取った行動は――
「向かってきただと!?」
MS形態に於ける、空中での機動力はΖガンダムの方が上。その利点を活用し、カミーユはロング・ビームサーベルを構えてアッシマーに突撃したのだ。
ブランがやっとの思いで掴んだビームライフル。しかし、取り回してΖガンダムに照準を合わせようとした時、既に目の前まで迫っていた。大きく振りかぶり、降ろされるロング・ビームサーベルはトリガーを引く直前のアッシマーの腕を切り飛ばした。
「こ、小僧!」
片腕と武器を失ったアッシマーに、Ζガンダムと争うだけの力は残されていない。怒りに歯を軋ませるも、ブランには撤退するしか道が残されていなかった。瞬間的にアッシマーをMAに変形させると、ブランは悔しさを滲ませながら撤退していった。
カミーユとブランの二度目の対決は、C.E.世界に於けるブランの初めての敗北と言う形であっけなく幕を引いた。
「逃げた――そうだ、ゲーツは!?」
しかし、その代償は大きい。ブランが乱入した事で、ゲーツを乗せた脱出ポッドの行方を見失ってしまったのだ。アッシマーの撤退を確認したカミーユが慌ててその行方を捜すも、何処に落ちたのかが皆目見当が付かない。
意識を集中し、ゲーツの気配を探ろうと試みるも、こういうときに限って勘が働かない。バウンド・ドックのサイコミュ・システムが途絶えたからか、ゲーツ本人が気絶してしまっているのかもしれない。
ニュータイプといっても、不便なものだ。カミーユは自らが感じていた観念が正しい事を再確認し、森の影に不時着しているガンダムMk-Uを見た。立ち上がり、こちらを見上げている様子を見るところ、どうやらロザミアも無事で、落ち着きを取り戻してくれたらしい。
「アークエンジェルに急がなくちゃ……」
ゲーツとブランを撃退できたといっても、作戦が終了したわけではない。アークエンジェルの周囲では、キラが頑張って持ち堪えてくれているはずだ。カミーユは呟くと、再びガンダムMk-Uとドダイに乗って激戦の続くマス・ドライバーに向かって飛び立っていった。
>>1乙投下は以上です
次回は水曜日辺りを予定しています
今回さるに引っ掛からなかったけどどういうこったろう?
グッジョブ!
おもしれえええええええええええGJ!
本編でクローズアップされなかったゲーツがいい味だしてるな。
たしかに、命令だとしてもゲーツのロザミアに対する執着が
本能の下「仲間意識」になってもおかしくは無い。
にしてもセリフがジェリド以上にアンチカミーユだww
あと恋する女の執念テラツヨス。
楽しかった!次回もwktkして待っているよ!
乙
最近ゲーセンにあるガンダムゲーはZがハイパー化して面白い
フリーダムとかハイパービームサーベルで一発で落とせるし
乙
カミーユが潰れませんように…
ゲーツいいなー
内容濃かった!!
満足度MAX!!
GJ〜!!
これは良いストフリ
そしてやっぱりたまらんなぁブランのアッシマー愛
GJ
キャラの精神描写が相変わらず上手いですね
そして、アッシマーに乾杯
Gj
カミーユって気絶したエマとか感じ取って見つけてたから
気絶したゲーツもすぐ見つけれそうだな
「三人で兄妹になればいいんだ」とはかつてZZで果たせなかった夢でもあるな。
ジェリドがカミーユへの復讐だけでなくスティングの事も忘れずにいられるほど
良い方向へ成長できているようにゲーツとロザミィにも救いがあるといいが。
(もっとも現状のジェリドはUCからの仲間をまだ失っていないからこその
安定かもしれず、今後もし誰かが斃れたらその際の反動が恐ろしいが…)
カミーユはNT能力が最強すぎるな
また崩壊しないか怖い
ちょろっと触れられてるけど
こっちの世界に来たせいなのかどうなのかはわからないけど
受け流すことができるカミーユを匂わせてるからだとすれば平気じゃないかな
にしても面白いなあ
各キャラが凄く魅力的だ
アッシマーがァァァァァァァッ!
はやくZの機体の色が白に戻って欲しいな
ジェリドへ、スティングへ、ロザミィへ、アッシマーへ、とみんな愛を持っているなあw
しかしカミーユがゼータに違和感を持ってるのは、慣らしがすんでないからか、黒いからなのか
ともあれ戦闘GJ
『オーブにさよなら告げて』
雲の流れが速くなる。降り続けていた雨は止み、雲の切れ間から差し込んでいた光の柱は、徐々に束となってやがて大きな斜陽の光となった。夕暮れ近付くオーブ、その光は、果たして恵みの光となるのか。
アークエンジェルの来賓室で外の様子を見つめるユウナの目には、あたかも終末の光景に見えていた。
神々しい光は、戦いを続けるMSを美しく照らす。幾何学的な線で構成された人型のロボットは、その宗教的な光の中で、人工的らしからぬ姿を輝かせていた。しかし、その成すことは、救世の類のものとはまるで逆、世界を破滅へと導く行為だ。
「何で僕がしんがりのアークエンジェルなんだ?」
一人であることをいい事に、ユウナは歯に衣着せぬ独り言を呟く。父親のウナトが居れば、そんな甘言を漏らす彼を叱っただろう。しかし、その場に居るのは彼一人。モニター越しにでしか戦闘の様子を知りえないユウナは、カガリの所在さえ知らない。
何もかもが分からず、現在の状況がはっきりしない。モニターで外の様子を見ることは出来ても、鋼鉄の部屋に閉じ込められていれば、目隠しをされているようなものだ。本質的に臆病者の彼は、内心では不安で仕方ない。
不安で軋む歯、何かを警戒するように細かく動く眼球。居ても立っても居られなくなり、ロイヤル・ファミリーの御曹司は、らしからぬ貧乏揺すりが先程から止まらない。それは、臆病者の彼の気質なのか、それともいつも傍に居てくれた父親が居ないからだろうか。
どちらにしろ、ユウナには確固たる恐怖の確信があった。
妙な胸騒ぎがする。このまま、何事もなく無事に宇宙に上がる事ができればいいのだが――ユウナは祈るように机の上に肘を付き、両手を硬く結んだ。
アークエンジェルの側壁。追い縋るパラス・アテネを引き摺り、キラは先行していったバイアランを追いかける。バイアランは片腕を切り飛ばしてやったとはいえ、まだもう片方にメガ粒子砲が残っている。
ラミネート装甲をも無視するその威力に貫かれれば、如何にアークエンジェルとて無事ではすまない。
後方から迫ってくるパラス・アテネは、囮。ストライク・フリーダムを執拗に追いかけ、意識をそちらに向けさせようとしているのだろう。そんな手には乗るものか、とキラは高速機動モードのストライク・フリーダムを更に加速させた。
「ドダイのスピードでも追いつけない! 全く、コーディネイターの肉体って奴は――」
C.E.世界のMSのコックピットは、ライラから見ても明らかに旧式然としていた。U.C.世界のMSの様にリニア・シートや全天モニターの最新式ではなく、昔の戦車の様にモニターが左右正面にあって、狭い中でMSをコントロールする。
勿論、スローター・ダガーに乗っていたライラには周知の事実で、シートの座り心地もそれほど優れているといったわけではなかった。当然、MSが機動するに当たってパイロットに掛かる負荷の軽減もそれなりで、対ショック装備も彼女にしてみれば時代遅れだ。
しかし、ストライク・フリーダムの機動力は、そのライラの目から見ても常軌を逸している。明らかに普通の人間には負荷が大きすぎるもので、それを操る人間は5分と持たずに意識を失くしてしまうだろうと思えるほどだ。
キラが特別とはいえ、その肉体の頑丈さに辟易したくなるのはライラでなくともそのはずだった。
マス・ドライバー周辺のミノフスキー粒子濃度が、徐々に薄くなってきている。ライラはコンソール・パネルのスイッチを軽やかに押し、バイアランに通信を繋げた。
「聞こえているな、カクリコン中尉。フリーダムは、どうやらそちらを狙っている。アークエンジェルへの攻撃は、こちらに任せてもらう」
『――解した』
流石に鮮明にとはいかないが、十分聞き取れる程度には通信が繋がる。カクリコンからの返答に一つ頷くと、周囲の機影を確認して続けた。
「しかし、フリーダムは機体もパイロットも伊達ではない。あまり無理はするんじゃないよ」
『俺だってティターンズのエリートなんだ。大尉が任務を遂行するまでの間は、囮を演じて見せるさ。こちらの心配はしてくれなくていい』
簡単に言葉を交わすと、カクリコンはアークエンジェルの砲撃の中、艦をなぞるように機動し、ストライク・フリーダムから逃げていった。案の定、それを追いかけるキラ。ライラはそれを確認し、キラに気付かれないように徐々にスピードを落としていった。
「あんたは何時までも鬼をやってな」
パラス・アテネが離れた事に気付くのは、何時になるだろうか。その時は、きっとストライク・フリーダムは後悔する事になるだろう。ライラは間抜けにもバイアランを追いかけていったキラの事を鼻で笑うと、2連ビーム・キャノンでアークエンジェルを攻撃した。
アークエンジェルの側壁に爆発が起こり、ドダイを華麗に操ってパラス・アテネは機動する。
「もう、2、3発同じところに当てられれば――」
アークエンジェルに振り返り、2連ビーム・キャノンを構えた時だった。側面からの警告音が鳴り響き、リニア・シートのちょうどライラの頭の上に2つ並んでいる右のランプが光った。ハッとして顔を振り向けると、そこからワイヤーが伸びてくる。
咄嗟にパラス・アテネの右腕を振り上げ、構えたが、ワイヤーに絡め取られた2連ビーム・キャノンは取り上げられ、引き千切られてしまった。更に襲い掛かってくるビーム・マシンガン。ドダイを機動させ、回避して火線の方向を睨みつける。
「…空を飛ぶMS-07なんて、気味が悪いね」
視線の先には、旧ジオン軍が使用していた地上戦用MS――にそっくりな、MSが佇んでいた。オレンジ色に塗装されたグフ・イグナイテッドは、不敵にスレイヤー・ウィップを引き戻すと、ソードを引き抜いて挑発するようにパラス・アテネに差し向ける。
その行為に、ライラは眉間に皺を寄せた。
『おうおう、好き勝手やってくれちゃって――これ以上は、このザフト特務隊フェイス・ハイネ=ヴェステンフルスが許しちゃ居ないぜ?』
ミノフスキー粒子が通信可能な濃度まで下がってきているのをいい事に、そのグフ・イグナイテッドのパイロットは全周波通信で名乗りを上げてきた。調子に乗っているのか――
士官学校の教科書に載っているグフの代表的パイロット・青い巨星のランバ=ラルの人となりを思い返せば、余りにもイメージが違う。挑発行為にしか聞こえないその陽気な声に、ライラは苛立ちを募らせた。
しかし、ライラとて数多居る連邦軍のパイロットの中でもその人在りと称されるほどのエース・パイロットだったのだ。ハイネの調子に合わせるように、彼女も全周波に通信回線を開いた。
「自己紹介とは、随分と舐めた真似をしてくれるじゃないか? けど――」
余裕を見せるグフ・イグナイテッドに対し、不意を突くように唐突にシールドを構える。内蔵されていた小型のミサイルが、無数の弾幕となってグフ・イグナイテッドに襲い掛かった。
「おおっと!」
ハイネも、余裕を見せていた割には、素早く回避してミサイルをやり過ごした。彼の言葉遣いは性分で、本当の彼は何処までも抜け目無い、慎重な性格だ。
グフ・イグナイテッドは回避したその動きのままスレイヤー・ウィップを伸ばした。触れれば、MSの胴体をも容易く薙ぎ切るそれは、如何にパラス・アテネと言えども危険な武器。ライラはそれをビームサーベルで振り払った。
その一瞬を突いて、グフ・イグナイテッドがヒートソードを構えて突っ込んでくる。パラス・アテネはシールドで殴り飛ばすように腕を押し込み、防いだ。
「それなりに、自信はあるようだが?」
艶のある唇の端を吊り上げ、ライラは不敵に笑みを零す。
『その声――お前、女か?』
意外そうに返ってきたハイネの声に、ライラは面白く無さそうに口元を引き締めなおした。女性だからといって、驚いているのだろうか。もしそうなら、それは自分に対する侮辱だ。女性が戦場に居るのが気に食わない、時代遅れの男の思考をしているのなら、尚更負けられない。
「あんたは情けない男のようだけどね?」
『そうさ、男と女だ。俺とお前は。――よぉ、だからさ、こんな事止めて、俺とデートしないか?』
「何を言っている?」
パワーだけならストライク・フリーダムとすら渡り合えるパラス・アテネは、グフ・イグナイテッドのそれの比ではない。強引に押し付けたシールドを薙ぐと、グフ・イグナイテッドのヒートソードを弾き飛ばした。
慌てて後退するハイネ。ショートする右腕を引っ込める代わりに突き出した左腕から四連重突撃銃を撒き散らし、追撃できないように間合いを取った。
「戦場でナンパかい? けどね、残念ながらあたしはあんたみたいな軟弱者が嫌いなのさ!」
スレイヤー・ウィップを切られ、ヒートソードまで失くしたグフ・イグナイテッドに、最早格闘武器は残されていない。パラス・アテネはビームサーベルを引き抜くと、ドダイに乗ったままロール回転してグフ・イグナイテッドに肉薄した。
『そうじゃない! コーディネイターがナチュラルと恋愛したっていいじゃないか? そういうお互いの偏見が、俺は気に食わないって言ってんだ! だから――』
「――だからと言って、馴れ合いをする気は無い!」
ドダイから飛び上がるパラス・アテネ。そして、ビームサーベルに対し、シールドを構えるハイネ。しかし、グフ・イグナイテッドのシールドの耐久力が、パラス・アテネのビームサーベルに対して意味を成すことは無い。
叩きつけられたビームサーベルが、一瞬のうちにシールドを切り裂き、グフ・イグナイテッドの腕を切り飛ばした。ビームサーベルの光の粒子と、溶断されたグフ・イグナイテッドの装甲の破片がきらきらと舞う。
『待てよ!』
「待たないね!」
そのまま勢い良く組み付いたパラス・アテネは、圧し掛かるようにグフ・イグナイテッドを押し込んでいった。ハイネの背後に迫る地面。このまま叩きつけられれば、衝撃でかなりの痛手を負うことになってしまう。
『何でだよ! お前も、コーディネイターは化け物としか見ていないのか!』
「化け物? ――ハッ! もし、あんたらコーディネイターが本当に化け物だったら、今こうしてあんたに止めを刺す事なんて出来なかっただろうね。所詮、遺伝子を弄ったところで人は人。それだけさ!」
問いかけた言葉に返ってきたライラの言葉に、ハイネはハッとした。その言葉の意図は別にして、彼女はコーディネイターを同じ人として認めてくれている。
ハイネの心の中には、アークエンジェルに乗っていた大西洋連邦軍の艦長の言葉がずっとしこりとして残っていた。ブルー・コスモスの言葉に踊らされ、ナチュラルの先見から来るコーディネイターへの偏見から、話し合いすらまともに出来なかった。
コーディネイターに対する憎悪の積み重ねが、ナチュラルを凝り固めてしまった結果だろう。残念ながら、それは同様にコーディネイターにも言える事だ。その憎しみの輪廻が解消される日が、果たして本当に来るのだろうかとハイネは疑っていた。
しかし、デュランダルの世界放送は、そんなハイネの疑いを多少なりともプラスの方向へと向けてくれた。ナチュラルは相変わらずとしても、コーディネイターのトップはあくまでもナチュラルとの共存を望んでいてくれたのだ。
それは、ハイネにとっては明らかな希望の光となった。力漲るその声を聞き、デュランダルを信じていけばいいと思いこませてくれたのだ。
そして、ハイネはデュランダルの言葉を信じるままに、ナチュラルの中からもその希望を見出そうとした。このライラは、正にハイネの希望だ。彼女のようなナチュラルが居ると知ってしまえば、こんな所でやられている場合ではない。
自らの希望の結末を知らずして、ここで終わってはただの夢見損。夢は叶えて初めて意味が生まれる。ハイネは少年のように瞳を輝かせ、コントロール・レバーを硬く握り直した。
「だったら、尚更お前を口説き落としたいな! その声は、絶対に美人に決まっているぜ!」
『減らず口を――』
「聞くぜ? お前は、どうして俺と戦わなきゃならん? 男と女なら、絡み合うのはベッドの上が一番良いに決まってるだろ」
『あたしが兵士で、あんたが敵だからだろうが!』
「そうかい!」
押し込まれるグフ・イグナイテッド。しかし、空中での機動力ならパラス・アテネよりも数段上だ。ハイネはパラス・アテネの下に潜り込む様にグフ・イグナイテッドを動かすと、そのまま体を入れ替えてパラス・アテネを地面に叩き付けた。
「ぐぁ――ッ!」
『そういう一本気で真面目なところ、崩してみたいもんだぜ!』
叩きつけられた衝撃で、リニア・シートがショックを吸収しようと大きく前後左右に揺れる。パイロット・スーツのアタッチメントでシートに体が固定されているものの、目まぐるしく揺れる景色にライラは苦悶の声を上げた。
そんなライラを茶化すように、ハイネは一言投げ捨てると再び空中へと伸び上がる。
「おちょくりやがって!」
リニア・シートがショックを吸収し終えると、即座にライラは上空を仰いだ。主を失ったドダイが、滑空するように宙を漂っている。ライラはブースト・ペダルを踏み込み、パラス・アテネを上昇させた。
対するグフ・イグナイテッドの装備は、片腕の四連突撃銃だけ。何とかしてパラス・アテネを追い払いたいが、後退すればアークエンジェルが危険に晒される事になる。それだけは、絶対に避けなければならないことだった。
アークエンジェルの砲塔は、のらりくらりとストライク・フリーダムを引き付けているバイアランを狙っているのだろうか。敵が居る割には弾幕の数が少ない。
ガンダムMk-Uとドダイに乗り、襲い来るウインダムをビームライフルで撃ち落す。腹部のコックピット付近に直撃したビームがウインダムの動力部に引火し、上半身と下半身を分断するように爆発が起こると、やがてMS全体を包む高熱の白球へと変わった。
ハイネとライラの戦いを、カミーユは確認した。ドダイの上に飛び乗ったパラス・アテネが、両肩部の砲門から、拡散メガ粒子砲を放つ。グフ・イグナイテッドは、大きく機体を下降させてビームの雨を避けたが、よくもあのMSで戦えているものだと感心した。
ハイネのグフ・イグナイテッドはカスタム機とはいえ、パラス・アテネとは決定的に性能が違う。動力の違い云々よりも、MS技術の歴史が、カミーユ達の方が圧倒的に長いのだ。それは、モルゲンレーテでΖガンダムの製作に携わっていたカミーユだから分かる。
今カミーユが乗っているΖガンダムは、所謂ムラサメをベースにしたコピー機であるが、殆どの箇所の改修や補強が必要だったり、加えてカミーユ自身が本格的な技術畑の人間で無かったこともあり、不完全な機体として成り立っていた。
何しろ、彼等はマグネット・コーティング技術の事すら知らなかったのだ。MSの関節をマグネットで補強し、磁力で負荷を軽減、かつ反応速度を高めるものだが、最新鋭のストライク・フリーダムは、何とフェイズ・シフト装甲で駆動系の補強を試みようとしていたのだ。
確かに、それならば耐久力は上がるだろう。しかし、余剰エネルギーの排出で駆動部分が金色に発光する事から、必要以上に目立ってしまう。特にストライク・フリーダムの様な砲撃戦を主目的に置いたMSならば、出来るだけ地味な色合いの方が好ましい。
しかし、そこはキラ専用機としての意図が込められているのかもしれない。彼の神がかり的なパイロット・センスを発揮させ、囮にもなれるように配慮されているのようにも見える。そうでなければ、高速機動モードなど存在しなかっただろう。
ただ、超高性能汎用MSを実現させる反面で、機体重量の極端な増加が問題視されていた。核融合炉を搭載したとはいえ、機体の機動には多大なるエネルギーを消費する。フェイズ・シフト装甲の非採用や極限まで削り込まれた装甲は、そういった面からの影響もあった。
当たらなければどうという事はない、とは良く言ったものだが、キラのパイロットとしての潜在能力の高さを鑑みれば、それは現時点で考えられる最も現実的な結果だったのかもしれない。
そういう迷走振りを見ているから、C.E.世界のMSが如何に発展途上なのかを知っているカミーユは、それに比べてある程度成熟している自分の世界のMSと渡り合えているハイネの力というものに、純粋に尊敬の念を示していた。
しかし、そんな事は考えている場合ではない。アークエンジェルの発進準備は整っていて、後はカミーユ達が乗り込むのを待っている状態なのだ。
纏わりつく余計な敵MSを排除し、とっとと宇宙に上がらなければ援護にやって来たザフトにも迷惑が掛かるし、ハイネも離脱し損ねる。
「ロザミィはこのままアークエンジェルに戻るんだ」
『お兄ちゃんは?』
「俺は敵を倒してから行く」
『あたしも一緒に戦うわ』
「駄目だ。Mk-Uの損傷具合じゃ、無理だ。いいな、お兄ちゃんの言う事を聞いてくれ」
ロザミアに告げると、返事も待たずにカミーユはΖガンダムをドダイから飛び上がらせた。そして、ウェイブライダーに変形させるが、やはり以前使っていたものよりも変形に掛かるタイム・ラグが長く感じる。
機体構造自体はほぼ完成されているはずだが、各所のバランスが著しく悪いのだ。一言で言ってしまえば調整不足。ピーキーな特性をもつΖガンダムにマイルドで扱いやすいムラサメの操縦性を合わせようとしたのが、そもそもの間違いなのだ。
エリカがカミーユへの負担を配慮して扱いやすいように調整してくれたのはありがたいことだが、それが裏目に出たとは何とも皮肉な結果である。しかし、それでも何とかブランやゲーツと互角に戦って見せられたのは、偶然にも入手できたバイオ・センサーのお陰だった。
アークエンジェルがデストロイの残骸から回収してきたそれが、今のカミーユを救う、大きな助け舟になっているのは疑いようの無い事実だった。
バイオ・センサーは、所謂ニュータイプ的な波動を発する人間が行う機体制御の補助デバイスとしての機能を有している。
つまり、機体とパイロットのシンクロを高次元で行うという事なのだが、そこに先鋭化されつくしたカミーユのニュータイプ的な勘が加わる事で、不完全なΖガンダムは想定スペック以上の性能を発揮できていた。
機体のマクロの実行速度の遅さも、カミーユの勘がほんの少し早く機体に伝わるだけでいい。それだけで、Ζガンダムは並居る強豪機と互角に戦えるのだ。
「この女性的な中に刃を秘めた感覚……ライラ=ライラ!」
ビームサーベルを片手に、グフ・イグナイテッドに襲い掛かろうとするパラス・アテネに向かって、カミーユはビーム・ガンを連射して牽制を放った。それに気付いたパラス・アテネは、振り向いてシールド・ミサイルを発射する。
しかし、そのミサイルも、Ζガンダムはヒョイと機体を傾けさせて回避した。パラス・アテネがシールドをΖガンダムに構えた瞬間、既にカミーユは回避運動を始めていたのだ。
「ハイネさんは後退して下さい! カーペンタリアからの回収部隊も待ちぼうけを食っています!」
『アークエンジェルの打上がまだ出来てないだろうが!』
「僕とキラで持たせます! 早く!」
『チッ!』
カミーユがハイネに後退を指示すると、面白くないといった舌打ちをしてグフ・イグナイテッドは後退していった。寧ろ、カミーユにとっては傷だらけのグフ・イグナイテッドを捌けさせたのは足手纏いを追いやるという意味があったのかもしれない。
ハイネは、カミーユのそういった思惑が何となく分かったから不貞腐れていたのだろう。しかし、グフ・イグナイテッドがまともに戦える状態でない事も事実なので、大人しく従った。
「ウェイブライダー? あたしは、今何処に向かって攻撃をしたんだ?」
ライラは、幻覚を見たような錯覚を抱いていた。それもそのはず。ライラが狙った先にΖガンダムは存在せず、ミサイルは明後日の方向に無駄に突き進んで行ったのだ。
ライラの肌が、MSの装甲越しにカミーユの存在を警告する。パイロット・スーツの下の地肌が、震えるほどに鳥肌になってしまっていた。サイド1での戦闘――命を落とすことになったあの時に感じた感覚に似ている。
「コイツ――あの時のニュータイプ!」
至近距離からのビームサーベルの斬撃を、凄まじい反応速度でガンダムMk-Uを仰け反らせてかわし、反撃のビームでコックピットを貫いてきた。名は、カミーユ=ビダン。少し前まではグリーン・ノアでハイスクールに通っていた少年だった。
その少年にMS戦で圧倒され、反骨心を抱いたライラを焦らせた。そして、最後はその反骨心が自らをオールドタイプたらしめている証と悟って散って行ったのだ。
『ライラ大尉なら、こんな戦いを止めてください! あなたほどの人なら、ブルー・コスモスが30バンチ事件を引き起こしたティターンズと同じだと分かるはずだ!』
「この声、間違いない――サイド1でエマ中尉と一緒に居たカミーユとかいう少年!」
通信回線から、少年の声が聞こえてきた。ライラの耳に残るその声の感じは、ガンダムMk-Uを奪い、エゥーゴに投降した少年と同じもの。
『こんな力押しでオーブを制圧するやり方は、毒ガスを使ってスペース・ノイドを迫害したティターンズのする事と同じじゃないですか! そんな地球の重力に魂を縛られた人の言う事なんて――』
カミーユ達の世界で俗に言う“30バンチ事件”――サイド1の30バンチで起こった連邦政府に対する抗議デモを鎮圧する為に、ジオンの残党狩りを名目としたティターンズが引き起こした大虐殺事件である。
30万人もの死者を出したその事件も、しかし、その実態は連邦内に於いても秘匿とされてきた。当時ティターンズの実権を握っていたジャミトフ=ハイマンが、事実が明るみに出るのを嫌ったためである。
それゆえ、ライラ自身も30バンチは単なる事故の起こった廃棄コロニーとしか認識しておらず、“30バンチ事件”もエゥーゴが流布したプロパガンダの為の虚言の類のものでしかないと思っていた。
しかし、彼女が目の当たりにした30バンチは、正に死屍累々の惨劇の場で、まるでコロニー一機が巨大な墓場の様な状態であった。G3(毒ガス)で死に、放置されたミイラたちが日常生活を切り取ったように転がっているその様に、流石の彼女も動揺した。
ティターンズの実態を知り、ライラ自身はティターンズではなかったものの、同じ連邦軍としてそこに疑問を抱かざるを得なかったのは事実だった。
しかし、だからと言って、この場で作戦行動を止める訳にはいかない。同じ地球であっても、ライラは誰とも知れない人々の間で生きていかなければならない身だ。カミーユの青い情に流されて、敵に情けを掛ける心情は持ち合わせていない。
「賢しい子供は、世界を股に掛けてお説教か? 戦場で白々しいと思え!」
『ライラ大尉!』
「オーブの制圧は、連合軍の結束力と力の誇示に必要な行為だ。デュランダルの演説で捻じ曲がった地球の世論を修正する為に、民衆に示しておく必要がある!」
変形を解いてビームライフルを連射するΖガンダムの攻撃を、パラス・アテネはドダイを高速で機動させてかわす。
その交戦を、ストライク・フリーダムを引っ張って丁度アークエンジェルを1周してきたバイアランのカクリコンが見ていた。
「ええい! 黒いガンダムがこちらにやって来たという事は、ジェリドもブラン少佐もやられたという事か!?」
カクリコンは後方のストライク・フリーダムに牽制を放ち、チラリとアークエンジェルを見た。MSを受け入れるために開かれたカタパルト・ハッチに、ガンダムMk-Uが入っていくのが見える。
「強化人間のゲーツが張り切っていた割には、失敗に終わったようだが――オーブの制圧も9割方は完了している。とすれば、残るはアークエンジェルか」
ファントム・ペイン的には劣勢に立たされているものの、戦いの趨勢は連合軍の勝利でほぼ決まってしまっている。カーペンタリア基地からのザフト増援に背後から急襲を受けた艦隊の一部が壊滅状態と聞いたが、カクリコンは冷静に状況を整理し、ライラに通信を繋げた。
「大尉、マス・ドライバーの周辺が混戦模様だ。このままではどっちに転がるか分からん!」
『分かっているよ。アークエンジェルは、ガンダムの収容を待っている様に見える。このままあたし達でガンダムの足を止め、味方の増援を待ってアークエンジェルを沈めたいところだが、出来るか?』
「敵の数は多くないんだ。やってやれない事は無い!」
『ようし――!』
カクリコンはストライク・フリーダムに向き直り、腕部のメガ粒子砲を連射した。急に反転し、交戦の意志を見せたバイアランに驚き、キラは一瞬だけ動揺し、反撃のトリガーを引く指を躊躇った。
しかし、直ぐに気を取り直すと、冷静にバイアランの狙いを見極め、ビーム攻撃をビームシールドで防御しつつ機体を上昇させて回避行動に移る。
「やる気になった? …アークエンジェルも火を入れ始めた――カミーユも来ているの?」
混沌とした状況の中、キラは首をきょろきょろと振り回し、モニターで確認できるだけの情報を頭の中に叩き込む。
カガリはアークエンジェルの中。ガンダムMk-Uも、先程中に入っていくのを確認した。損傷していたグフ・イグナイテッドは後退していき、駆けつけたムラサメのような黒い機体はカミーユが開発に関わっていると聞かされていたMSにそっくりだ。
対して、敵はパラス・アテネとバイアラン、そして、増援に駆けつけてくるウインダムを中心としたMS部隊がちらほら。時間を掛ければ、数はまだ増えることは分かっている。ミノフスキー粒子が薄くなりつつある事に気付いていたキラは、自軍の共通回線を開いた。
「カミーユ、あまり時間は掛けられない! パラス・アテネとバイアランだけでも撃退できればアークエンジェルの防御力で何とかなるけど――」
『フリーダムは援護を! それだけの砲門があれば、戦艦並の弾幕を張ることも出来るはずだ!』
「えっ!? でも、それじゃあ――」
ストライク・フリーダムの砲門の数は、他の一般的MSに比べても多い方だ。しかも、連射性にも優れているので、カミーユの言うとおり、戦艦と同じか、それ以上の手数をばら撒く事も出来る。
確かに、キラはストライク・フリーダムの全ての砲門を開けたとしても敵の急所を的確に突く事の出来る技量を持ち合わせているが、カミーユの動きは独特の癖があり、キラでも予測できない。ニュータイプの特徴的な動きは、状況によって順次変化し、確率論が通じないのだ。
だからこそ、キラはカミーユの提言に言葉を詰まらせた。ストライク・フリーダムで弾幕を張り、短時間で敵を追い払うような援護の仕方では、間違いなくΖガンダムに誤射してしまうという確かな予測が出来るからだ。
キラの性格では、味方を巻き添えにして攻撃する事など出来るわけが無い。
『早くしろ! このままジリ貧になりたいのか!』
「ほ、本当にいいの!?」
『タイミングはキラに任せる!』
「任せるって――知らないよ!」
カミーユの急かす声に当てられ、キラは余裕無く一言断ると、正面にマルチ・ロックのレーダーをせり出させた。ミノフスキー粒子の稀薄化で、レーダーの効力も戻りつつある。バイザーに反射する敵のマーカーが一つ一つ定められていった。
ストライク・フリーダムが両腕に握らせたビームライフルを突き出し、腰部にマウントされているクスィフィアス・レールガンが前を向く。腹部のカリドゥスにもエネルギーが充填されていき、砲撃の体勢に入った。
その構えるストライク・フリーダムの前を、ウェイブライダー形態のΖガンダムが突き進む。コックピットの中で慎重に狙いを定めるキラの息遣いを感じながら、カミーユは敵の注意を引き付けるように機動させた。
「当たってくれないでよ、カミーユ!」
キラの渾身のフル・バースト・アタックが火を噴き、圧倒的な火線がライラ達のMS隊を襲う。ストライク・フリーダムの砲門の数からは想像できないような圧倒的な光のシャワーが、MSを飲み込むように降り注いだ。
「こ、この数、何だって――」
『これだけの砲撃を放っておいて、狙い撃ちだと!?』
「中尉、上昇だ!」
Ζガンダムに気を取られ、ストライク・フリーダムの攻撃に慄くライラとカクリコン。彼女達は流石のもので、キラの攻撃も済んでのところで回避し、射線軸から離脱できた。しかし、友軍のウインダム達は回避が遅れ、キラの攻撃の中に飲み込まれていく。
踊るようにもんどりを打ったMS達が、時間差で次々と火球へと変貌して行った。
「こっちも!」
キラの視界の端に、向かってくるMS隊の群れが見えた。ストライク・フリーダムは一斉射し終えた後、その方向に向き直り、再びフル・バースト・アタックを放った。距離は大分あったが、何も正確に狙わなくてもいいのだ。
目に見えていれば、当てる事がキラには出来る。ストライク・フリーダムの放った一斉射撃は、マス・ドライバーの遠くの空を爆発の花火で彩った。
『戦力をもっていかれすぎた――!』
「中尉、もう悠長に構えている場合ではない! ガンダムは無視して、アークエンジェルを叩くぞ!」
『そうするしか無さそうだ!』
「行かせるかよ!」
ライラ達がこぞってアークエンジェルに仕掛けようとしたとき、その間に機体を滑り込ませてビームライフルを撃ってくるMSが現れた。砲身の長いライフルを両マニピュレーターで保持し、追い払うように牽制を浴びせてくるのは、カミーユのΖガンダムだ。
『野郎!? あの砲撃の中を無傷で切り抜けられたってのか!』
「奴はニュータイプだ! そのくらい出来て、当然だろうよ!」
Ζガンダムの砲撃に、間合いを取ろうと退避するパラス・アテネとバイアラン。背後から放たれるストライク・フリーダムの凄まじい火砲の中を潜り抜けてきたΖガンダムに、カクリコンは驚きの色を隠せない。
余程2人の連携がよかったのか、それともやはりニュータイプだからだろうか。
ライラが含蓄のある言葉でカクリコンを宥めると、続けてストライク・フリーダムがやって来た。増援のMS隊はストライク・フリーダムのフル・バースト・アタックで壊滅。
「もう、やったのか!?」
ストライク・フリーダムは、とんでもないMSだ。普通のMSの何倍もの作業量を、たった1機で事も無げに済ませてしまう。戦えない事も無い相手だが、殲滅型という見識では既に生ぬるい。ストライク・フリーダムは、MSサイズの戦略兵器だ。
「カミーユ!」
ストライク・フリーダムが、2丁のビームライフルを交互に撃ち、牽制するかのように砲撃を仕掛けてくる。ライラ達の実力を分かった上での、キラの援護射撃だ。まぐれで当たれば万々歳、しかし、それが全てかわされても――
「でえええぇぇぇッ!」
飛び掛ったΖガンダムが左のマニピュレーターに握らせたビームサーベルを、逆水平に薙ぎ払う。狙われたのはバイアラン、斜め後方に逃げるようにバーニアを吹かせて回避するも、即座に持ち上げられたΖガンダムの右腕からグレネード弾が発射される。
バイアランは一発をメガ粒子砲で撃ち落す事に成功するが、もう一発を仕留めきれずに右脚部に直撃した。
『うおおおぉぉぉぉッ!?』
「カクリコン中尉!」
著しくバランスを崩し、まっ逆さまに墜落していくバイアラン。しかし、カミーユが撃墜した場所が悪かった。
「しまった!」
バイアランが体勢を立て直そうと、各所アポジ・モーターで調整を図る。その真下には、アークエンジェルのブリッジがあった。カミーユが気付いたほんの少し後、カクリコンの顔に笑みが浮かぶ。
「ヘッ、しくじったな、ガンダム! これでアークエンジェルは貰った!」
「やられる――!」
慌ててカミーユがΖガンダムを向かわせるも、バイアランは振り向いてアークエンジェルのブリッジに直接腕を向けてメガ粒子砲の発射態勢に入っていた。一撃で仕留めようと、慎重に構えるカクリコン。
アークエンジェルでも、真上にバイアランが落ちてきた事を察知して騒然となっていた。カガリを収容できても、コントロール中枢のブリッジがやられてしまえば元も子もない。
「ゴットフリート仰角――」
「間に合いやしませんよ!」
即座にラミアスが指示するも、チャンドラの声に遮られて言葉を失った。
しかし、その時だった。アークエンジェルが、急に加速を始めたのである。エンジンは臨界に達し、いつでも発進できる準備は出来ていたが、余りにも唐突だった。
「何だと!?」
発進する気配を見せていなかったアークエンジェルが突然加速した事に、当のカクリコンも目を丸くして驚いていた。まさか、こんなタイミングで発進するとは思わなかったからだ。
一方のアークエンジェルのブリッジでも、ベルトの装着が十分でない者は座席から転げ落ちそうになり、必死にしがみついて慌てふためいていた。
「な、何が起こったの!?」
気が動転し、ラミアスは状況が理解できていない。サイが冷静にブリッジを遮蔽し、モニターにはコンピューター・グラフィックスで表示される赤い景色が浮かんだ。
「マス・ドライバーのレールが加速をしている……?」
ノイマンが加速する感覚を確かめるように、静かに呟く。彼もどうしてこうなったのか、どうにも要領を得ていないようだ。ラミアスが顔を振り、身を乗り出した。
「どうして!?」
「不明です! …しかし、メイン・スラスターの推力が十分ではありません!」
「それって――」
加速を開始したはいいが、突然の事にアークエンジェルのスラスターの推力が待機状態になっていた。いくらマス・ドライバーの力でも、アークエンジェルの様な戦艦を単独の力だけで宇宙に押し上げるには力不足。成層圏を抜ける前に失速して、地球に戻ってしまう事になる。
恐らく、今が宇宙に上がる最後のチャンスだろうが、しかしラミアスは――
「キラ君とカミーユ君を置いていけって言うの!?」
ここでスラスター推力を上げれば、即ち今も交戦中のカミーユとキラをオーブに残していく事になる。ザフトは既に撤退を始め、四面楚歌であるオーブに置いていく事は、如何に強力なMSに乗っている彼らであっても最悪のケースは免れない。
オーブ・ザフト軍は防戦に徹した結果、連合軍の戦力を殆ど削ぐ事が出来なかったからだ。
「キラたちには、何とかカーペンタリアの部隊と合流してもらうしか――」
「でも!」
「ここでソラに出られなかったら、次の機会は何時になるか分かりませんよ! そんな事をしていたんじゃ――」
「うぅ……祈る事しか出来ないの? 何て情けない艦長だろう、私は――!」
顔を俯けてギュッと目を瞑り、切れて血が滲まんばかりに唇を噛み締めるラミアス。しかし、一度加速を始めたマス・ドライバーを、アークエンジェルは止める術を持たない。宇宙に出るか出ないかの二択しか選べない状況で、ラミアスは非情の決断を下すしかなかった。
メイン・スラスターが白く発光し、レールを飛び出したアークエンジェルは真っ直ぐに空を昇って行った。その道筋を表す白い噴煙の軌跡が、ゆっくりと空気中に溶けて消えていく。
アークエンジェルの突然の発進に驚いていたのは、カクリコンだけではない。それを守ろうとしていたカミーユやキラも同様に狐に抓まれた様な顔で呆気に取られていた。
「今のタイミングでソラに出られるの……?」
『防衛対象が行ってくれたお陰で戦いやすくなったって思いたいけど――』
カクリコンのバイアランは、初期加速状態のアークエンジェルに跳ね飛ばされ、森の中に墜落した。戦艦にぶつけられたのだから、恐らくもう戦闘の継続は不可能の状況だろう。パラス・アテネも戦況が不利になったと判断して、バイアランを引き上げて撤退していった。
しかし、敵は次から次へと湧いてくる。アークエンジェルを逃がしてしまった今、少なくとも、Ζガンダムやストライク・フリーダムだけでも排除しておこうと考えての事だろう。物量で押し込み、圧殺せんばかりの数だ。
キラがストライク・フリーダムのフル・バースト・アタックで大部隊の一部を掃射してくれたが、それも焼け石に水。オーブの制圧が完了し、ザフトの殆どが撤退して行った今、残されているのはカミーユとキラだけだ。
『どうする、キラ? カーペンタリアの艦隊に接触したいところだけど――』
「この数の中を突破するのは――え? ちょっと待って、カミーユ!」
『どうした?』
キラの耳に、何処からかの通信が聞こえてきた。作戦の成功を前に、連合軍の撒いたミノフスキー粒子の濃度が下がっているお陰か、少し離れた所からの通信が辛うじて届いていた。味方の通信コードを使用している事から、恐らくは友軍。
キラが耳を澄ますと、初老の男性と思しき声が聞こえてきた。
『私の声が届いているな? このカグヤ島には、まだ一基、大気圏離脱用のブースターが残っている。それを使えば、君等のMSもソラに出られるはずだ』
「大気圏離脱用のブースターって……!」
薄くなっているとはいえ、ミノフスキー粒子の影響はまだ少し残っている。言葉は理解できるものの、声の主を特定するまでには至らない。キラは話を聞きながら、片方で誰の声なのかを考えていた。
『いいか、これから指定するポイントに至急向かいなさい。発進のセットは、私が済ませておく』
「貴方は誰なんですか?」
『…とにかく、急ぎなさい。私の居場所も、いずれ敵に嗅ぎ付けられる。このチャンスを逃せば、君等がソラに上がれる可能性は限りなくゼロになってしまう。時間が無いのだ』
「あっ、待って――」
キラが制止する前に、通信の相手は回線を切った。すると、直ぐに何処からか指定ポイントが送られてきた。場所は、現在地から少し離れた、海に面する断崖の様だが――
『誰からだ?』
カミーユが尋ねてくる。キラは釈然としない表情で視線を上げた。
「分からない……でも、この場所に向かえって」
キラはパネルを操作し、今送られてきたポイントをΖガンダムに転送した。
『こんな所に?』
「うん。そこに、僕達のMSをソラに上げられる大気圏離脱用のブースターがあるみたいなんだ」
『ソラに出られるのか!?』
「オーブの通信コードを使ってたから、敵の罠じゃないと思うけど――」
キラはチラリとその方向を見た。連合軍のMSは、艦隊から真っ直ぐに向かってきている。力押しの物量作戦を挑んでこようとしているのだろう。少数のMSを相手に些かやりすぎに見えなくも無いが、その自らの戦力の自信ゆえに、油断が生じている事も確か。
指定されたポイントの先の布陣が、明らかに薄い。カミーユとキラの2人が、海洋上のザフト艦隊と合流するしか手がないと踏んでの布陣だろう。正面ばかりが、やけに分厚かった。
「どうする、カミーユ?」
『どうするも何も――このままやられるのを待つだけじゃ、それに賭けるしか手は無いだろ』
「――だよね」
尤もなカミーユの言葉にキラが苦笑すると、ウェイブライダー形態のΖガンダムを先頭に、ストライク・フリーダムが続いた。
後方からストライク・フリーダムが2丁のビームライフルであらかたの敵を攻撃し、撃ち漏らした、若しくは仕留め切れなかったMSをΖガンダムで止めを刺す。
理想的な戦い方だとキラは思う。本来砲撃戦に特化したフリーダムは、味方機を援護してこそ本領を発揮する。これまではエース機としての自覚から、フリーダムが先陣を切る事が多かった。
しかし、カミーユが居てくれる事により、キラはフリーダムを本来の用途で使う事が出来る。
まるで、こちらの考えを分かってくれているかのような一体感。アスランと組んで戦っているような、そんな錯覚を抱かせてくれるほどに息が合う。カミーユが、ニュータイプと呼ばれる超能力者だからだろうか。
奇妙な感覚を抱くまでに、キラは吸い込まれるようにΖガンダムの後を付いて行った。
「この辺りか……?」
敵陣を抜けた先に広がる海。夕日の淡いオレンジ色を受けて、海の青と織り成すコントラストが美しく輝いていた。小波が絶えず光の反射加減を変え、後ろから射す西日が島の影を長く伸ばしていた。
『指定されたポイントはここで間違いないはずなんだけど――』
カグヤ島は、それほど大きな島ではない。追撃部隊も、直ぐに追いついてくるはずだ。何の変哲も無い断崖だが、送られてきたポイントはそこで合っているはず。やはり、罠だったのだろうか。
何か手がかりだけでも見つけようと、その周辺をグルグル旋回していると、ビームの光が2機を襲った。
「何、あれは!」
2人が同時に火線の方向に振り向く。彼方から飛来してきた追撃隊は、ガブスレイが2機。MA形態に変形できるガブスレイが、追撃隊の先行部隊としてやってきたのだろう。カオスを無事に母艦に戻し、再び戦場にやって来たジェリドは、コックピットの中で舌なめずりをした。
「アスハにもラクスにも逃げられたようだが、まだ居てくれた!」
スイッチを弄り、ガブスレイのコントロールをマニュアルに切り替える。Ζガンダムを視界に入れ、嬉しさに声を上げたくなる感情を御してヘルメットのバイザーを下ろした。
ジェリドのやる気に呼応するように、マウアーからの通信が入る。
『気をつけて、あの新型のフリーダムは、中隊程度なら一瞬で葬れるだけの火力を持っているわ』
「手数が多いだけだろ? そんな単調な攻撃に当たっちまったら、減俸ものだぜ」
支援です!
マウアーの忠告に軽口で返すと、一気にブースト・ペダルを踏み込むジェリド。マウアーも続き、加速する2機のガブスレイがクロスしてΖガンダムとストライク・フリーダムに襲い掛かる。
『あの新型の2機は――』
「またジェリドか! ガブスレイだ、キラ!」
フェダーイン・ライフルを撃ち放ちつつ接近してくるガブスレイ。カミーユ達は飛び上がるようにその突撃をかわすと、振り向いてビームライフルで狙った。しかし、ガブスレイは2手に分かれて大きく旋回してビームをかわすと、再び合流して向かってきた。
『僕が牽制を掛ける! カミーユは、敵が散開したらどちらか一機を!』
「了解!」
Ζガンダムがウェイライダーに変形して射線から外れるように上昇すると、構えたストライク・フリーダムが一気に全砲門を解放する。飛び出した鮮やかな色の火線が、ガブスレイを目掛けて幾筋もの煌きとなって襲い掛かった。
ストライク・フリーダムの圧倒的な火力を目の当たりにし、流石のジェリドも度肝を抜かれた。手数だけだと思っていたが、この砲撃の量は半端ではない。しかも、一発一発が明確にガブスレイの動きを捉えようと牽制と本命が入り混じっているのだ。
「こ、これは――マウアー、散開だ!」
『待って、ジェリド!』
堪えきれずにジェリドがマウアーから離れるも、その先ではΖガンダムが待ち伏せをしていた。
「カミーユ!」
ビームライフルを構えて狙っているΖガンダムに対し、ジェリドもガブスレイをMSに変形させる。連射されるΖガンダムのビームライフルを、伸び上がってかわすジェリド。それを追いかけるように徐々にビームライフルを上げていって狙うカミーユ。
Ζガンダムのビームライフルが一発、ガブスレイを掠めた。続けざまに2発3発襲い掛かるビームの群れに気圧され、ガブスレイはバランスを崩して高度を落としていた。
「は――ッ!」
カミーユが、何かを察知する。途端に攻撃の手を緩め、落ち着き無く周囲をキョロキョロと見回した。
「Ζが動きを止めた?」
感覚に気を取られ、動きを止めたΖガンダム。マウアーはジェリドを気にしつつも、フェダーイン・ライフルを構えた。
『危ないッ!』
静止するΖガンダムに向けて放たれるガブスレイのフェダーイン・ライフル。キラがそれに気付き、咄嗟にストライク・フリーダムをΖガンダムの前に滑り込ませて、ビームシールドでガブスレイの砲撃を防いだ。
『どうしたんだ、カミーユ!? 敵に隙を見せるなんて――』
「声が聞こえたような気がしたんだ――あ、また!」
『声って――?』
「…こっち!」
キラの怪訝を余所に、カミーユは感覚の呼ぶままにΖガンダムを断崖へと下降させた。キラが一つ舌打をし、ガブスレイに足止めの砲撃をかましてそれに続く。
マウアーはストライク・フリーダムからの砲撃を避け、ジェリドの方に振り向いた。Ζガンダムの攻撃で多少の損傷を許してはいるが、片腕を失っているマウアーのガブスレイほどではない。
『俺に構わんでいい!』
「大丈夫です。Ζとフリーダムの行き先はこちらで確認できています」
『逃げる先はザフトの艦隊しか無いはずなんだ。…けど連中、こんな所に一体何の用があるってんだ?』
マウアーから、カミーユ達の行き先が送られてくる。彼等が中央突破を試みないでわざわざ遠回りとなるルートを選んだのには、連合軍の布陣が一番薄かったという理由があったはずだ。それが突破できたのなら、さっさとザフトに合流すればいいものを。
何らかの意図があるような気がして、ジェリドは疑問を持った。
一方で2人は断崖に面する海に出ていた。夕暮れ時の逆光で、岸壁は黒く塗りつぶされている。
『確かに、この辺から聞こえたはずんなんだけど――』
「ん……?」
呟くカミーユ。それを余所にキラが岸壁を注視すると、僅かな光が洩れているのが見えた。岸壁が黒くなって見え辛いから良く見えないが、明らかに人工的な灯りだ。キラは当たりを付け、カメラで怪しい部分を拡大して更に詳しく調べてみた。
「あれ…洞窟だ、カミーユ!」
『洞窟? …あッ!』
微かに洩れていた光が、徐々に拡がっていく。岩の間から正体を現したのは、戦艦一隻が丸ごと納まる程の大きさの穴だった。少しして光に目が慣れてくると、その内部が人工的な洞窟になっていることが判明した。
そして、それが開ききるのと同時に、キラの元に先程の男性の声が聞こえてくる。
『来てくれたか。ブースターの設置に多少時間が掛かってしまったが、慣れないもので申し訳ない。だが、今すぐにも発進できる』
洞窟の中から、ブースターの先端がゆっくりとせり出してきた。カタパルトに設置されているそれは、やや上を向いている。
『さあ、これにしがみつきなさい』
「カミーユ!」
『分かった!』
考えている時間は無い。カミーユとキラは有無を考えずにブースターに飛びついた。
『ソラではエターナルとアークエンジェルのランデブーが行われているはずだ。座標は分かっているな?』
「はい」
『よし、では――』
『そうはさせるかってんだよ!』
男の声と共に、目の前に躍り出てくるガブスレイが2機。ここまで追い詰めておいて、今更カミーユを逃がそうなどとジェリドが考えるわけが無かった。
「マウアーはコントロール・ルームを潰せ!」
『了解』
MA形態のガブスレイが洞窟の中に突入してくる。
「しまった!」
カミーユが慌ててその後を追おうとした時、ジェリドのガブスレイが立ちはだかった。
『こんな所にブースターを隠して、ソラに出るつもりだったようだが、貴様はここで終わりだよ、カミーユ!』
「ジェリドめ!」
ビームサーベルを振り上げ、ブースターにしがみ付くΖガンダムに躍り掛かる。仕方無しにカミーユもビームサーベルを抜き放ち、ブースターから離れて応戦するしかない。
日が沈み、申し訳ない程度に電灯が点る薄暗闇の狭い洞窟の中、ビームサーベルを何度も切り結ぶΖガンダムとガブスレイ。その一撃毎にビームサーベルが激しく光を増し、薄暗闇の中を一瞬一瞬明るく照らす。
「こんなところまで追ってこられたんじゃ――」
キラも暢気にしている場合ではない。ブースターから降り、奥へ向かっていったマウアーのガブスレイを追いかけようとコントロール・レバーを握り直した。その時――
『そのままで居なさい!』
男性の声が、キラを思いとどまらせるように激を飛ばした。唐突な怒声に驚き、キラは一瞬体を硬直させてしまう。
「で、でも――」
『聞きなさい。カガリ代表は、まだ未熟だ。強く見せようとしていらっしゃるが、内心ではまだまだ躊躇いを持っている。私がオーブを放棄せよと進言したときも、表情にこそ出さなかったが、心の中は無念で一杯であったはずだ。
……残念ながら、私はこれ以上カガリ様の面倒を見てやれる事は出来ない。だから、カガリ様が一人前になるまで、身内である君やその仲間が支えてやって欲しい――』
その頃、洞窟の奥に侵入し、モノアイを光らせて周囲を索敵するマウアー。レーダーを駆使し、探っていると、何処からか電波が発信されているのをキャッチした。
「何処から出ている……?」
ゆっくりと歩を進め、用心深く探りを入れていく。
『貴方は――』
「もう、時間が無い。敵のMSがこちらに近付いてきている。……最後に一つ、息子に――ユウナに伝えて欲しい。男子らしく、強くあれ…と」
通信回線越しに、キラはこの男が既に覚悟を決めている事を悟った。管制塔を潰された筈のマス・ドライバーが機能したのも、全てこの男のお陰だったのだ。男は、最初から自分が捨石になる事を望んで、そして最後に2人をソラに導いてくれる。
今更ながらにキラは声の主に気付いた。今までどうにも思い出せなかったのは、接点があまり無かったからだ。それもその筈、男の声は偶然公務中のカガリに出くわしたときにしか聞いたことが無かったのだ。
男の名は、ウナト=エマ=セイラン――オーブを影から支えた第一人者。彼が居なければ、今日のオーブは存在し得なかったと言っても過言ではない。
ウナトとの接点は、正直なかったに等しい。そんな関係の薄い間柄なのに、キラは何故か無性にやるせない気持ちになった。俯き、ヘルメットの陰になった目元から流れる一筋の涙。
洞窟の内部を一望できる窓から、マイクを片手にガブスレイの様子を覗っているウナト。キラに言伝を頼んだ瞬間、ガブスレイの頭部がこちらに振り向いた。
『分かりました……』
「さあ、もう一人を呼びなさい! ブースターを発進させるぞ!」
「コントロール・ルームは、そこか!」
マウアーが気付いた瞬間、ウナトは拳を振り上げ、力の限りスイッチを叩いた。その刹那、フェダーイン・ライフルがウナトを目掛けて火を噴いた。
オーブ五氏族としてのセイラン家。ウナトは、その名門一族の現家長である。古くからオーブの政策を取り仕切ってきたオーブ五氏族であるが、その半数は2年前のオーブ攻防戦で血統が途絶えた。
当時の国家元首であったウズミが、信念の下、国とその命を共にする事を選び、何人かがそれに賛同したからだ。ウナトはその時、ウズミと運命を共にしようとしなかった。戦後の事を考え、何年か後にオーブが復活する日に、必ず自分が必要になると思ったからだ。
しかし、その日は思った以上に早く訪れる事になった。ヤキン戦役がカガリやラクスを中心とする第三勢力の介入により、連合とプラントの双方が休戦を結ぶ事で戦争が終わると、その後締結されたユニウス条約によって、世界の勢力図が戦争以前の状態に戻ったからだ。
そして、戦争で生き残ったカガリがオーブの英雄として帰還し、国家元首に選出されると、ついにオーブは復活した。オーブ国民は、大いに喜びの声を上げた。
だが、ウナトを待っていたのは殺人的なまでの膨大な量の“後始末”だった。戦争の被害は思った以上に酷く、特にウズミの自爆によって出来たマス・ドライバーの修理が最も大変だった。ウナトは、この時ほど人を恨んだ事は無かっただろう。
もし、ウズミがこんなにも早く戦争が終わり、オーブが復権する日が来る事を知っていれば、自爆なんかしなかったのではないだろうか。そう思えば思うほど、ウナトの中にアスハ不審が広がっていくのが感じられた。
ウズミの信念に傾倒していたオーブ国民は、当然のようにカガリの帰還を歓迎した。そして、当然のようにウズミの跡を継いで国家元首の座に就いた。
こんな小娘に、一体何が出来るのだろうか――訝しげにウナトはカガリの隙を覗っていた。だからウナトは極秘にロゴスと繋がり、連合軍を主導する大西洋連邦などの国と太いパイプを用意していたのだ。
世界の情勢を見る限り、戦争の火種は燻ったまま。近いうちに、大小は問わずに必ず争いは起こる。そう踏んでいたウナトはオーブが巻き込まれた時、連合と組ませて戦争に参加し、カガリの理念を崩壊させて失脚させようと画策していたのである。
その上で次に権力のある自分が国家元首に就く事により、オーブの実権を握ろうと考えていたのだ。
かくして、ウナトの読みどおり、ユニウス・セブンが地球に落下し、最悪的な人的被害を巻き起こした。その影響はほぼ地球全土に及び、ナチュラルの対コーディネイター意識が再燃したのは当然の流れだった。
そして、予想通りに大西洋連邦がプラントとの対決に共同戦線を申し出てきた。これで、後一歩、もう少しでオーブの実権が手に入る。しかし、ウナトがそう確信していた時、意外な事態が起こってしまった。
何と、ユニウス・セブンの破砕作業に乗り合わせていたカガリを送り届ける為にオーブに寄港したザフトのミネルバ隊が、“オーブから”大西洋連邦軍に攻撃を仕掛けてしまったのである。それを指示したのは、何故かミネルバに乗っていたデュランダル。
全くのイレギュラーな事態に、ウナトの計画は寸前のところで崩れ去ってしまったのだった。結局、オーブはプラントと同盟を組まざるを得なくなり、ウナトは苦虫を噛み砕くしかなかった。
そうなってしまえば、手は最早一つしか残っていない。予てから婚約をさせていたユウナを使うしかなかった。正直、軟弱者のユウナを嗾(けしか)けるのは不安だったが、計画が頓挫してしまった以上は文句を言ってられない。
ちょうどカガリと恋仲であると噂されていたアレックス(アスラン)がザフトに戻ったのをきっかけに、ユウナをカガリに接近させた。勿論、ユウナは殆ど相手にされなかったが、婚約を結んでいる以上、ウナト自らもカガリのプライベートな部分に接触する事が出来た。
しかし、その日々がウナトの心境を変える事になるとは、その時は全く考えもしなかった。
ウナトがカガリに為政者としてのイロハを叩き込んでいる最中、彼女はひたすら真面目にウナトの弁を聞いていた。優秀な生徒ではなかったが、忍耐力はかなりのものだと感心したものだ。恐らくだが、国家元首としての責任にかなりのプレッシャーを感じていたのだろう。
若干18歳の少女が背負う一国の重責――オーブは小国であるが、それでもカガリのような小さな少女には余りにも重過ぎる。それだけ覚悟していたのだろう。息子のユウナにも見習わせたいものだと思った。
そこで、ふと思い出した。カガリは、養父とはいえ父親を亡くしているのだ。悲しみに暮れる間も無く国家の再建に未熟ながらも尽力し、そして今も何とかオーブを守ろうと努力している。彼女は果たして、国家元首になってからウズミを思って泣いた事があったのだろうか。
ある時、ウナトは気になってカガリに尋ねてみた。
「そんな暇、あると思うか? それに、お父様なら泣いている時間があるのなら、その分国民の為に努力しろ、と言ってくださるはずだ。だから、私は泣かない。今は泣いている場合じゃないしな」
カガリは、忍耐の人だ。何処までも諦めようとせず、しつこく食い下がる。以前は、それが悪い方にばかり出てしまっていたのだろう。暴走とも取れる彼女の行動力は、何とかしたいと願う気持ちが抑えきれなかったからだ。
この時、ウナトは思った。カガリは、為政者と言う面では明らかに適性が無い。しかし、もしユウナと本当に結ばれるような事があれば、オーブは安泰なのではないだろうか。ユウナは、客観的に見ても政治家に向いているタイプだ。
親バカかも知れないが、頭もいい。ただ、唯一の弱点が精神的な脆弱さだった。しかし、そこにカガリのような肝っ玉の座った伴侶が付いてくれれば、正に理想の夫婦ではないだろうか。
最早、ウナトの頭の中ではセイランやアスハといった家名は、どうでもいい事になっていた。それよりも、自分の夢想している理想が実現する事の方が大切に思えた。この夢想が実現すれば、オーブは安定する。
その安定をもたらすのが自分の夢想ならば、こんなに心踊る事は無い。一つの国の安定を、一人の夢想がもたらすのだ。政治家として、モチベーションが上がらないわけが無い。
しかし、それも何処まで見届ける事が出来るかが唯一の心配事だった。プラントと同盟を結んでいる以上、連合軍とは敵対関係にある。地球上の勢力図は、圧倒的に連合軍の支配が強く、且つオーブと結びつきの強い連合各国も戦争には静観を決め込んでしまっている。
謂わば、オーブは地球上でたった一つのプラント勢力なのである。何とか誤魔化し誤魔化し連合の目を背けてきたが、その目がオーブに向かないわけがなかった。
そして、遂にその時が来た。ウナトは覚悟を決め、2年前のウズミと同じ様にオーブと運命を共にする事を覚悟する。
最後の我侭として、ユウナはしんがりのアークエンジェルに乗せた。少しでも長く、愛息との時間を共有したかったからだ。
ウナトの強い思いが、カミーユに届いたのは必然だったのかもしれない。ビームサーベルを交わすガブスレイの向こうで、爆発が起こった。
『カミーユ、手を伸ばして!』
火の点いたブースターにしがみ付くストライク・フリーダムが、Ζガンダムに手を差し伸べる。カミーユは躊躇わずにガブスレイを弾き退けると、急いでΖガンダムの腕を伸ばした。
『うッ――ブースターに火を点けられた!』
マウアーの苦渋がジェリドの耳に聞こえた。コントロール・ルームは破壊できたが、寸でのところで間に合わなかったようだ。
「クソッ、逃がすかよ!」
ビームサーベルを掲げ、ブースターに飛び付こうかというΖガンダムに襲い掛かる。しかし、ストライク・フリーダムのイーゲルシュテルンがガブスレイを狙い撃ち、頭部のメイン・カメラを破壊されてしまった。
『おのれぇッ!』
ジェリドの叫びが聞こえる。Ζガンダムの腕をブースターの取っ掛かりに引っ掛けて固定させると、ビームライフルを撃ってガブスレイの脚を破壊した。ガブスレイはそのままバランスを崩し、奥の方へ転げていく。
ブースターの振動が大きくなる。リニア・シートでも吸収し切れない微弱な振動が、カミーユにも伝わってきた。
『座標軸固定――これなら行けそうだ!』
「俺達は、命と引き換えにソラに出るんだ――負けられないぞ、キラ!」
『あぁ、分かってる!』
洞窟の中から飛び出したブースターは、膨大な量の白煙を吐き、2機のMSを乗せてコバルト・ブルーと茜色のグラデーションの空を昇る。その先に存在する漆黒の大宇宙を目指して――ウナトの命を乗せて。
しえん
コニール以来の名前付が昇天した今回は以上です
そして、どうやらさるは時間帯によって発動したりしなかったりするようです
ちなみに今回の時間は発動して前回は発動せず
人が集まりそうな時間は…ってことだろうか?
GJ
GJ!
偉大なる政治家ウナトに敬礼!
そしてキラとハイネがテラバケモノ
GJ
ハイネ口説くなw
ウナトパパに合掌
そしてキラはともかくハイネのあの戦闘力はなんなんだw
種死の物語とキャラが書く人が書けばこんなにマトモに……(´Д⊂
実にGJ!
GJ!!
ハイネ吹いたwwwがんばれハイネ
この作者はいつもハイネとユウナ一家を持ち上げるよな
一見態度は軽くても内面は知勇を兼ね備えたエースパイロットと
見た目ややり方はアレでも長期的には国家国民のためになる方を選ぶ政治家だ。
TVの扱いが不当過ぎるんだよ。
大体西川声パイロットはトップエース級だってのにあっけなく死にすぎなんだよな
扱い悪いってレベルじゃねーぞ!
ってか、ハイネとセイラン家の出番がある改変・クロスSSで、
待遇が改善されてないのがそもそもあったのかと小一時間。
阿部さんSSがあるじゃん。
普通に書くと改善になるとか
原作通りがヘイトな作品の面目躍如だなw
設定上ではハイネは部下の信任厚い前大戦を戦い抜いた歴戦の勇士
セイランもオーブの建て直しをした。
それを無視した負債がアレな扱いをしてしまった事に全てが集約されるなw
まあ西川さん全国ツアーが控えてたからしょうがないけど。
>まあ西川さん全国ツアーが控えてたからしょうがないけど。
その辺はスパロボに種死が参戦した時の楽しみに取っておくか。
友軍パイロットとして出てるんだから出さないわけにはいかんだろうしな。
スポット参戦or出番なしでサヨナラとかだったらバンプレと決別する。
>>68 ルートによってはミネルバが敵、なんて可能性もあるぞ?
スパロボか……
艦長会議でラクス総スルー事件は吹いたなw
しかしZの違和感って機体性能差もあるけどバイセンなしだからの大きいのかな?
でもバイセンなしであそこまでNT能力全開なカミーユが恐ろしすぎる
流石NTのキリストと言われ訳だぜ
>>71 積んでるじゃん
デストローイの回収品なのが気にならん事もないが
おや、積んでるのか
見逃してたぜ
機体とのフィット感とか
上手く枷付けてると思うな
今の段階で能力全開、且つぶっ壊れないカミーユが暴れまわると大変なことになるw
もうちょっと後に取っておかないと
そういえばライラとブランはZガンダム初見なんだよな。
>>76 まだNTへ覚醒途中だったカミーユの、しかもMk-Uだった時に討たれてたわけだしな
CEゼータでなくてホンモノのゼータだったらどっちか死んでたかもしれん
マークUも黒だし、Zもおそろいでと黒く塗っちゃったり
変形するし、別世界のMSだし。せめて操縦しやすいようにとムラサメのマイルドな特性に合わせちゃったり
良かれと思って気を利かせた事が、ことごとく裏目ってるエリカ女史がちょっとカワイイw
今日ゲーセンでガンダムのゲームみてたら
シンのインパルスとエマの幕2VSカミーユZキラストライク
でたたかってたw
エマが男のヒステリーはみっともないわよとかうんぬんかんぬん
いってて面白そうだった。
マイルドな表現がちょっと違和感
操縦が簡易化されてるでいいような…
ほしゅ
>>80 簡易化はまた違うだろ。
マイルドでいいと思うけどな。
マイルドはおかしいだろうw
>>83 どうせ食い物とかのまろやかの意味しか知らないんだろ
穏やか、緩いとかの意味があるんだから何もおかしくねーよ
RX-78-3マイルド
マイルドw
簡易化されたでいいとは思うけどな
ピーキーの反対がマイルドとは違うだろう
んなに拘ることでもないだろ
マイルドって書いてあるんだからマイルドでいいよ
じゃあ某外部にちなんでルタンドという事で。
いずれにせよ言葉尻に粘着して荒らすバカは放置。
マイルドと簡易化は別物だろ、常考
>>88 別にピーキーの反対とは言ってないじゃん
操作がシャープとか言うのの反対だろ
つか、車とかだってマイルドな乗り心地って言うよ
簡易化の方がよっぽどちげーよwww
G3マイルド?
マイルドw
このスレを見ると煙草吸いたくなるのはなんでだぜ?
間違ってるんだとしたらwikiのほうで直せばいいじゃないか
>>96 間違ってるんじゃない
一部の日本語の不自由な人が粘着してるだけだ
まあまあ、みんな冷静にいきましょうよ。ねぇ。
黒い保証
マイルドカミーユ
マイルドなんてカミーユじゃないやい
能力と性格がマイルドなカミーユってさ……
ひょっとして カ ツ じゃね?
CEゼータがマイルドであってカミーユがマイルドじゃねーってwww
というかマイルド自重しろwww
>>102 ムラサメZがイマイチな性能だったのがよくわかったw>マイルドカミーユ=カツ
そんなにネタにするほど変な表現じゃねえだろ
ゆとりレベルの表現しか知らない人間が暴れてただけだ
春だねぇ…
保守
Z時のアムロやクワトロが種・種死に来たら
>>109 きっと大尉はカガリからアカツキ奪うなw
最近のジ・オリジンとかでは、ジオン・ダイクンは理想はともかく
現実への対応力がイマイチというか地に足が着いてなかったように描かれがちだが、
それを踏まえてアスハ家がどう見えるか、というのはちょっと興味があったり。
>>110 イージスに目移りしたり幼女に目移りしたりジャスティスに目移りしたり、
2年後にはセイバーに目移りしたりロリに目移りしたりインフィニに目移りしたり……
妙に落ち着きのないエースパイロットになりそうだな
シンが見せたマユの写メに同士の姿をみて2人で自由をフルボッコにw
今回のカミーユの戦闘データなんぞ解析し始めたら
どう思われるようになるかなぁ
ストフリのドラグーン捨てて行っちゃったけど、宇宙に上がってから予備はあるんだろうか?
あとゲーツはどうなるんだろ・・・
Z見なおしたんだけど、ブランってすげぇな。
NT三人がかりで退けるのがやっとって。
まぁアムロはMS乗ってなかったけど。
ブランとヤザンはOTでも別格だからな
そういえばそうだな
ブランはすぐ死んだ奴としか記憶してなかったぜ
アッシマーの機体特性と相まって強いんだよな
ほ
し
のあき
124 :
保守:2008/03/24(月) 05:01:22 ID:???
>>112-113 こんな感じかな
「そんな決定権がお前にあるのか!」
彼は毒づいた
「口の効き方に気をつけてもらおう!」
‘知り合った時でさえギリギリだっただぞ!今の貴様など’
絶体絶命であっても嫌なモノは嫌なのである
その時
「!」
内装の一部が剥がれ電流が迸っている
‘あの部分にはMS用の推進材タンクの配管が…’
頭部バルカンのトリガーを引く
「何っ!?」
通信機から聞こえる年増の声
‘ああ、ウザ(ry’
モニターが爆炎で閉ざされるその瞬間ですら、彼の心は恐怖以外のモノで支配されていた
彼は意識を回復した
どうやらあのビッチはトドメを刺さなかったらしい
彼はコクピットのハッチを開ける
「何っ!?」
彼は宇宙にいたはずだった、だが…
「海…だと?」
周囲では戦闘が繰り広げられていた
知らないMSばかりで何がなんだかわからない
‘状況が不明すぎる。ひとまず安全な場所へ…’
彼は走り出した
パイロットスーツが彼の移動力を削る。が、脱ぐとTシャツとブリーフなので仕方がない
しばらくして…
「!」
避難船らしき船舶が停泊しているのを見つけた
‘民間人が避難ではなく脱出しているとは…’
この戦いは負け戦なのだと瞬時に理解した
彼は優秀な軍人なのだ
「あれに紛れるのが正道か…」
彼は呟いて船に足を向けた
難民に紛れて出国すれば出国先で身分を偽るのもたやすい
後の事を考えれば軽挙妄動は控え慎重になるべきだった
彼は二手三手先を呼んで行動する男なのだ
125 :
保守:2008/03/24(月) 05:03:49 ID:???
その時…
「マユの携帯!」
彼はそちらを振り向く
人影が見えた、彼にはわかる
多少発育が良すぎるがあれは間違いなくょぅι″ょだ、決して桃色姫より巨乳に見えるとか言ってはいけない
だが次の瞬間、彼の視線は他の方向に向いた
木星マッシュルームに出来損ないと言われたが、ょぅι″ょが絡むと彼の能力はエスパーの域に達するのだ
「いかん!」
彼は走り出した
通常の3倍とはよく言ったものである、つか3倍っつーレベルじゃねーぞ!
その家族は何が起こったか解らなかった
ただ、一陣の風に自分たちがさらわれ…、それまで自分達が居た場所がビームで焼き払われていただけだ
「間に合ったか…」
流石の彼でも大人二人とょぅι″ょを担ぐのは楽ではなかった
一つ間違えば全員ビームに焼かれていただろう、だが…
《ょぅι″ょにはあどけない笑顔こそ相応しい》
そう考える彼にとって全員救出は必然だった
親二人が礼を述べる、ょぅι″ょは放心状態で座り込んでいた
「マユ!」
赤い瞳をした少年が携帯を持ち駆け寄ってくる。と、ょぅι″ょの瞳に輝きが戻る
「お兄ちゃん!」
彼は無事を確認しあい笑顔を取り戻す兄妹を見て素直に喜んだ
‘やはりょぅι″ょは笑顔でなくてはな’
彼は戦争と復讐がなければクレ○ンし○ちゃんの園長と同じ道を辿っていたかもしれない、想像できんが
「ここは危険だ、早く船へ」
彼が促すと家族はすぐに同意して走り出す
シンと呼ばれた少年がょぅι″ょの手を引いていた
ある程度の距離が開くのを見届け…
彼は反対方向へ走り出した
‘シンにマユ…か。あのような兄妹の乗る避難船を、危険に曝す訳にはいかん!’
そう、彼はょぅι″ょが絡むと一手先しか見えなくなる男であった
とりあえず、吊ってくる
…シャアが変態だがいい奴に見えてきた。
続きを頼むよ。
物凄い微妙w
このクワトロ大尉は阿部さんの領域にいけるかもわからんね!
変態っぽくていい
浮上
131 :
通常の名無しさんの3倍:2008/03/25(火) 20:33:29 ID:iNjXXQuc
保守
『胎動の宇宙』
地球から成層圏を抜け、星の瞬きだけが光る宇宙に飛び出したアークエンジェル。細かいスペース・デブリは、ユニウス・セブンを砕いた残骸だろうか。人類が宇宙に進出しなければ、こんな余計な汚れも無かっただろうに――ラミアスは思う。
「先行したエターナルの光です」
「了解。直ぐに見つかって助かったわ。結局、キラ君もカミーユ君も置いてきてしまったのだから、エターナルを見つけられただけでも幸運かしらね」
「いえ、待ってください――」
報告するサイの声が上擦る。モニターを食い入るように見つめ、その表情が徐々に緊迫したものに変わっていった。
「この光は――SOSのサインです!」
「続けて、戦闘の光を確認! エターナルが、連合の艦隊に襲撃を受けています!」
「捕まってしまっていたの!?」
一斉に振り向くサイとチャンドラ。ラミアスは身を乗り出し、顔面を強張らせた。
「ミノフスキー粒子の影響で、展開されている敵の数は火線の多さからおおよそで戦艦が3隻――MSに至っては想像で補うしかありません」
神妙な面持ちで報告するチャンドラ。ラミアスは首を振り、浮かせた腰を艦長席に落ち着けてミリアリアに振り向いた。
「数を気にしている場合じゃないわ。全艦に第一種戦闘配置を告げて頂戴。アークエンジェルは敵艦隊の側面から直進、ローエングリンのスタンバイを」
「MSの発進は――」
「出せるわけ――あ、いいえ、いつでも出せるように待機させておいて」
「了解」
現在アークエンジェルに搭載されているMSは、ガンダムMk-Uとアカツキのみ。パイロットとして期待できるのは、実質ロザミアとカガリだけだった。ロザミアはカミーユが居ない事で情緒不安定に陥っており、オーブ元首のカガリには戦闘をさせたくないのがラミアスの本音だ。
しかし、艦長は常に最悪のケースを念頭に入れて行動しなければならない。敵部隊の規模が不明ならば、アークエンジェルはエターナルを逃がす為の盾役に徹するのがこの状況でのセオリーだ。その場合、アークエンジェルの腹にカガリを入れておくのは得策ではない。
万が一の場合、彼女だけでも逃げられるように用心しておくのが、艦長としてのラミアスの仕事だ。
勿論、カガリがそのラミアスの判断に即座に納得できるはずも無い。戦闘配置の警報が鳴り響く中、アカツキのコックピットから顔を出して喚く彼女の姿があった。
「スタンバイのまま待機だと!? エターナルが敵襲を受けているなら、なぜこちらからMSを出さない! キラも居ないってのに――」
腕を薙ぎ、八つ当たりするようにコジローに罵声を浴びせる。久しぶりにMS戦を経験したせいか、少し興奮状態だ。ウナトに教えられたような、冷静な状況判断がまるで出来ていない。昔の彼女に戻ってしまったかのようだ。
その足元では、怒りの矛先を向けられたコジローが困惑している。何とか宥めようと努力しているが、カガリの癇癪は一筋縄ではいかない。昔の彼女に戻ったのであれば、尚更だ。
「ですから代表、ブリッジからの命令なんです。それに、連戦でアカツキの空間戦調整がまだ済んじゃいません」
「そうだ、カガリ。今カガリが出て行ったところで、その状態のアカツキで何が出来るというものでもないだろう。オーブでの戦いで受けたダメージもまだ修理できていない」
コジローの隣から、ずいっと前に出てきたのはキサカだ。更にその後ろから、エリカが姿を現した。
「シラヌイ・パックを使う事が出来れば、話は別かもしれませんけどね」
「シラヌイ――何だそれは?」
「ドラグーンを装備した、空間戦闘用のパックです。ですが、空間認識能力を持たない代表の手には余る代物です」
「やってみなけりゃ分からんだろ! いいからさっさと換装の準備をしろったらしろ! このままラクスを見殺しに――」
「カガリ〜ッ!」
カガリがまくし立てていると、突然格納庫に男の嬌声が響いた。弱弱しい声。一気に脱力する声に、カガリはこめかみに青筋を浮かべて鬼の形相を振り向けた。
「うるさいぞユウナ! 取り込み中だ、後にしろ!」
「パパが居ないんだ、どこにも! 誰に聞いても知らないっていうし…もしかしたら――」
「クサナギに乗って、先に上がっただけだろう。そんな事で一々騒ぐな!」
「そ、そうなのかい? い、いや、そうだよな。父上に限って、まさか僕を置いて居なくなるなんて――」
カガリの言葉に納得したのか、ただ単に彼女の剣幕が怖かったのかは分からないが、ユウナは顎に手を当てて思案顔だ。落ち着いて頭の中を整理しているのか、表情も冷静さを取り戻している――かに見えたが、足は尚も恐怖で震えていた。
初めて経験した戦闘と大気圏離脱の揺れの恐怖から、ずっと引き摺っているのかもしれない。何とか抗おうとしているのは、彼なりの意地だろうか。
「ったく、ユウナのアホに付き合っている場合じゃないって言うのに――」
「ところで、カガリは何処に行こうとしているんだい?」
「ん?」
自分の頭を叩き、呆れて溜息をつくと、ユウナが怪訝顔で見上げてきた。カガリの一言に反応し、いつもの冷静な顔のユウナが顎に手を当てたまま見つめていた。こういう時のユウナは、少し頼りになる。そのカガリの感じ方も、優柔不断なアスランとの比較なのかもしれないが。
「エターナルが敵襲を受けているんだ。だから、私がこのアカツキで出撃して、少しでも窮地を救う手助けをしようって言っているのにだな、こいつらが言う事を聞かないんだ」
「そりゃあ、そうだろう。君が出て行ったところで、沈むモノは沈む。君は、自分の力を何処まで信じているのか知らないが、まともな思考を持った艦長なら、意地でも君を戦地に向かわせないだろうね」
「何だと? それはどういう意味だ」
「君程度のパイロット能力じゃ、戦況に何ら影響を与える事も出来ないって言う事さ。分からないかい? はっきり言って、君に戦場に出られたんじゃ足手纏いだって言っているんだよ」
カガリの胸に、ユウナの言葉がぐさりと突き刺さる。オーブ脱出からの興奮状態ですっかり忘れていたが、自分のパイロット・センスは実は大したことがない。それは、敵と戦って思い知り、キラやカミーユの動きを見て止めを刺された。
正直、生意気なドム・トルーパーのパイロット達にも遥かに劣るだろう。そんな事実を、カガリの高いプライドが許すはずも無いが、悔しいことにそれが現実だった。
カガリの表情が曇り、言葉に窮して押し黙る。その様子にユウナは少し笑い、キサカに振り向いた。
「戦況はどうなっているんだい?」
「ミノフスキー粒子の干渉で、敵の規模は分かっていないようです」
「そう、ありがとう――」
そして、畳み掛けるようにカガリに向き直り、続ける。
「――国土を失ったとはいえ、君はまだオーブの国家元首だ。つまり、オーブの最高権力者である君が自らMSに乗って戦地に赴くなど、愚の骨頂というわけさ。加えて、敵の戦力も量りかねている――それでも行くって言うのなら、今この場で元首の座を僕に明け渡しなさい。
そうすれば、万が一君が戦死することになっても、僕がプラントに行って君の代わりに亡命政府を打ち立てられる」
「く…くぅ……ッ!」
「どうする、カガリ? 僕としては、君がどちらを選んだとしても構いやしないんだけどね。君とは婚約を結んでいるわけだし、いずれ権力は手に入る。早いか遅いかの違いさ」
ユウナの歯に衣着せぬ言葉に、カガリの顔色が見る見る赤く染まっていく。眉が釣り上がり、頬がりんごのようにぷっくりと膨らんだ。それは屈辱と感じられるだけの気持ちの余裕がある証拠だが、全身をプルプルと震わせ、今にも爆発しそうな勢いだ。
対してユウナは余裕綽々(しゃくしゃく)。ウナトが居ない事をいい事に、言いたい放題だ。
「うぅぅぅううう……うがあああぁぁぁぁッ!」
急にカガリが奇声を張り上げたかと思うと、凄まじい勢いでコックピットの中に飛び込んでいった。そして、あっと思ったキサカが駆け寄ろうとすると、硬くハッチを閉めてしまった。
「ユウナ様!」
MSの中に入られてしまったのでは、もう止められない。キサカは恨みがましそうに口笛を鳴らすユウナを睨み付けた。
「そんなに怖い顔しないでよ、キサカ。見て御覧、アカツキは動きそうかい?」
ポケットに片手を突っ込んでいるユウナ。指でアカツキに注目するようにキサカに促した。
アカツキの中に閉じこもったカガリ。しかし、アカツキは一向に起動する気配を見せず、ただ静かに佇んでいるだけである。完全に引きこもり状態になったのか、メイン・カメラも点灯せず、恐らくこちらの様子も見ていないのだろう。
怪訝そうにキサカが視線をユウナに戻すと、相変わらず笑みを湛えたままの顔があった。軽薄そうなその表情だが、全てお見通しといわんばかりだ。
「あの子も、父上に絞られて少しは大人になったって言う事さ。それでも、まだ子供の部分が残っているようで、ああして拗ねて冷静になるまでに少し時間が掛かるんだよ。まあ、それでも僕の言葉を逃げずに聞ける様になっただけ、進歩したって事かな」
「ユウナ様……」
「心配しなくても大丈夫だよ。気持ちを落ち着けたら、いずれ彼女から外に出てくるだろうし――」
キサカが心配しているのはそういう事ではないらしい。ユウナは途中で言葉を区切ると、キサカの真意に気付いたらしく、言い直す。
「――あぁ、そういう事じゃないんだね? さっき僕が言った事は単なるブラフだよ。僕自身、あの子に死なれるのは本位じゃないし、まだロング・ヘアーの似合う女性になってもらっていない。
どうせなら、奇麗なお嫁さんを貰って、2人でオーブを導いていくのが男として理想的だろ?」
地の果てまで軟派野郎ユウナ。ウナトの教育方針が何処で彼をこの様にしてしまったのかは分からないが、氏族の倅として相当な甘やかしを受けて育ってきた事だけは分かる。時に先程のような放言もする辺り、単なるボンボンというわけでは無さそうだが、しかし――
本当に、こんな事でオーブの未来は大丈夫なのだろうか。キサカは不安にならざるを得なかった。
光の筋が瞬いたかと思うと、爆発の閃光が起こった。黒い宇宙空間に太陽の光で派手なピンクの姿を浮かべるエターナルの外壁が、敵MSの攻撃で黒焦げに変わる。
襲ってきた敵艦隊は、じわじわとなぶり殺しにしようとしているのだろうか。エターナル一隻に対して、大西洋連邦宇宙軍が送り込んできた3隻の艦隊から飛び出してきたMSの数は、思ったよりも多くない。変わり映えのしないウインダムとストライク・ダガーが10数機。
現在エターナルの防衛に当たっているのは、やはりヒルダを隊長としたドム・トルーパーが3機。手練の、しかも高性能MSに搭乗している以上、この程度の数ならば彼女達のコンビネーションがものをいう。
スクリーミング・ニンバスを応用した一列縦隊の突撃戦法で、ある程度の数の間引きは可能だ。
しかし、敵の指揮官機と思しきMSが問題だった。全身をほぼ青紫一色に染めた、可変型のMS――両肩からせり出している大型の砲門から放たれる2条の大出力ビームは、明らかに規格外の威力を顕示している。
「噂のメガ粒子砲か――!」
幸いな事に、ドム・トルーパーのスクリーミング・ニンバスでならその攻撃は防げる。エターナルを防御するといった点に関しては、心配する必要は無いように思われた。ただ、厄介なのはそのMSが変形したときの機動力。
ヒルダが撃ち落そうとビームバズーカを差し向けるも、スピードが速すぎて全く照準を合わせる事が出来なかったのだ。バーニア・スラスターを後部に集中させる事により、直進性能を最大限に高めるのはMAには良くある事。
しかし、その出力が問題だった。後部から大量に噴出される青白い光は、見慣れたMAの比ではない。地球の重力圏に引かれても、そこから重力を振り切れるのではないかと思えるほどの高機動力だ。目で追うのにも疲れる程に、その見慣れない形状のMAは速かった。
MAの名称はメッサーラ――型式番号PMX-000はシロッコが独自に開発したオリジナルMSの第一号機。地球よりも遥かに重力の大きい木星圏での使用を想定した、大推力の可変型MSである。
先頭のヒルダがスクリーミング・ニンバスを展開し、最後尾のマーズが後ろ向きのまま警戒行動を続ける。ヒルダの影に隠れ、敵を狙撃するのは中列のヘルベルト。常に3機で行動しながら、ヘルベルトが撃墜し、後方をマーズがフォローする。
これが、ヒルダ達3人の得意とする戦法、“ジェットストリーム・アタック”だ。
余談だが、勿論、彼女達は所謂“黒い三連星”の生まれ変わりといった類のものではない。当然の事ながらU.C.世界の一年戦争は知らないし、黒い三連星と既知の仲であるわけではない。
単なる偶然の一致だったのだが、一年戦争当時を知るカツが見れば、きっと仰天した事だろう。
そんな感じで見慣れないMAを追撃しつつ、ウインダムやストライク・ダガーを掃除していたわけだが、どうにもメッサーラを捕まえる事が出来ない。パイロットはコーディネイターではないかと疑うほどに、MAはのらりくらりとかく乱をしている様子だった。
「変形できないのは辛いねぇ……!」
『だが、ヒルダ。ここはアークエンジェルとのランデブー地点なんだ。時間を稼げりゃ、そのうちお迎えがやってくるってもんさ』
「そうだけどね、ヘルベルト。こんな風にして引っ掻き回されたんじゃ、あたし達のプライドが傷つくってもんじゃないか? イレギュラーだ何だ言ったって、結局はあのカミーユみたいな奴らなんだ。そんなのに遊ばれたんじゃ、面白くないだろ?」
『しかし、今の俺達の任務は、ラクス様をお守りする事だ。頭に血が上って、任務をおざなりにする事だけは避けなければな』
「それを承知した上でやるんだよ、マーズ」
エターナルの放ったミサイルが、ウインダムを一機葬った。流石は砂漠の虎こと、アンドリュー=バルトフェルドの指揮する艦である。宇宙という地球の砂漠とは比較にならない無毛の荒野でも、まるで自分の庭のように振舞ってみせる。
同じコーディネイターとして同族意識を持つヒルダにしてみれば、この上なく頼りになる男だ。その手腕は決して名前負けしていない。
「マーズ、ダミー・トラップを仕掛けな! ヘルベルトはあたしとMAを追うよ!」
『了解だ!』
マーズのドム・トルーパーが腕にチェーンの様な数珠繋ぎの物体を取り出して離れ、ヒルダとヘルベルトは隊列を崩して各個に挟み込むようにメッサーラを追った。
その動きに気付いたメッサーラのパイロット――サラは、ドム・トルーパー2機を引き付けつつ、相手方の動きを警戒していた。
「一機が離脱した――でも、パプテマス様はアークエンジェルの接近を待っていらっしゃる。ラクス=クラインを囮にカガリ=ユラ=アスハをおびき寄せ、ジブリールの要求通りに一網打尽にしようというのは分かるけど――」
ジブリールの構えた二段構えの作戦。例えオーブで2人を逃がしたとしても、アルザッヘル基地から向かわせたシロッコの艦隊に第二波を掛けさせる。オーブで疲弊したところを狙えば、如何にコーディネイターと言えども――と考えた。
それをシロッコに任せたのは、ジブリールにとって彼が今、一番信用の置ける人物だったからだ。
しかし、シロッコの考えはジブリールの様な俗物には到底理解できないだろうとサラは思う。人種間抗争に拘りを持っているジブリールは、サラから見ても器の小ささを感じざるを得ない。同じ不輸快感を、シロッコも感じ取っているはずだ。
それなのに従って見せているのは、シロッコはジブリールにまだ利用価値があると思っているからだ。ブルー・コスモスの面々の大半がザフトに拘束された今、シロッコの後ろ盾は最後に残った盟主のジブリールのみ。
時が来れば、いずれシロッコの方から手を切り、排除する事だろう。サラのある種のジブリールに対する嫌悪感は、シロッコと同じはずである。
「おかしい……」
後方から迫ってくるドム・トルーパーは、思ったよりも消極的だ。エターナルにメッサーラを近づけさせない為に牽制しているようだが、そうとなれば先程離脱して行った一機は保険を掛けて戻したのだろうか。
ふと、サラが気付くと、周囲にはユニウス・セブンの破片が漂っていた。砕かれた岩塊の破片が、衛星軌道に乗って地球周辺を漂っているのだろう。汚れたままにしてあるのは、間違って引力に引かれたとしても成層圏で燃え尽きる程度の大きさのものしかなかったからだ。
しかし、それにしては余りにも数が多すぎる。サラはメガ粒子砲で岩を砕きながら突き進んでいたが、それは後方で追ってくるドム・トルーパーの道を作ってあげていることになる。しかも、その数はどんどん増えていっていた。まるで、何処かで増殖を繰り返しているような――
「しまった!」
サラがメガ粒子砲でデブリを掃除しながら進んでいた時、ある岩を砲撃した際に明らかに砕いたものではない爆発が起こった。そこで、初めて気付く。ヒルダ達は、この数多あるスペース・デブリの中に機雷付きのダミーを混ぜている。
先程離脱して行ったドム・トルーパーは、それを仕掛けるために隊列を離れたのだ。そして、背後から迫ってくる残りの2機は、サラをその方向に誘導するように行動していた。
しかし、MS一機が持てるダミーの量は、それほど多くないはずである。ヒルダ達の目的は、機雷でメッサーラを攻撃する事ではなく――
『やっと追いついたね!』
ヒルダのドム・トルーパーが、スクリーミング・ニンバスを展開したままビームサーベルで躍り掛かる。爆発で怯んだメッサーラは数瞬、動きを止められ、その間にヒルダ達が間合いを詰めてきたのだ。
サラはアポジ・モーターを吹かし、メッサーラのバランスを取ってその一撃を回避した。そして、即座にMSに変形してビームサーベルを抜き放つも、ビームシールドとしても役割を果たすスクリーミング・ニンバスに阻まれてダメージが通らない。
『年貢の納め時さね!』
「調子に乗らないで!」
上下左右の概念が無い無重力の宇宙空間。デブリの間をすり抜け、折り重なるようにビーム同士の干渉を続けているメッサーラの背後から、ヘルベルトのドム・トルーパーが襲い掛かる。サラは顔を正面に向けたまま視線でチラリと背後を確認すると、ミサイルを吐き出した。
「くっ!?」
途端に目の前の視界が爆煙で白く染まるドム・トルーパーのコックピット・モニター。腕でその煙幕を振り払い、視界を確保すると、目前にはヘルベルトのドム・トルーパーが迫ってきていた。そして、そのまま勢い良く抱き合うように衝突した。
咄嗟にヒルダがスクリーミング・ニンバスのスイッチを切ったから良かったものの、あわや同士討ちになるところだった。
「ちょっと、何してんだい! あんたとMSで抱き合う趣味はあたしには無いよ!」
『ったく、やってくれるぜ!』
殴りつけるようにヘルベルトのドム・トルーパーを引っぺがすと、ヒルダは周囲を見渡した。ヘルベルトの間抜けのお陰で、メッサーラを見失う。辺りはマーズがばら撒いたダミーのせいで視界が悪くなり、レーダーも似たような反応ばかりで役に立たない。
『駄目だ。すっかりデブリに紛れ込まれて、こっちでもMAの位置を特定できない』
マーズのドム・トルーパーが諦め声でやってくる。元々、メッサーラを追い詰める為に仕掛けさせたダミーでも、見失ってしまっては逆に探索の邪魔だ。
ヒルダは、目を凝らしてメッサーラの姿を探してみる。ファッションで片目に眼帯をしてはいるが、それは別の意味では視力に自信がある証拠。眼鏡を掛けているマーズや熱血バカのヘルベルトに比べれば、圧倒的に索敵能力に長けている。
「何処にも見当たらない……」
潜んでいるにしても、移動する際に発するバーニア・スラスターの光は絶対に隠す事など出来ないはずだ。ヒルダの目なら、その程度の僅かな光であっても見つけることが出来る。しかし、それが全く見当たらないのだ。
そこで、ハタとヒルダが気付く。
「逆に出し抜かれた!」
『何だって!?』
これだけ探して見つからなければ、メッサーラは既にこの空域に存在しないと考えてもいい。そうとなれば、向かう先は一つしかない。
「急げ! とっととエターナルの防御に戻るよ!」
『お、おうッ!』
一つの目標に拘りすぎた――なまじコーディネイターとして戦闘に自信があっただけに、メッサーラを確実に殲滅する事に躍起になりすぎていた。ヒルダは自らの不覚を認めざるを得ず、半面で出し抜いたメッサーラのサラに対して深い逆恨みを抱いた。
一方のエターナル。大西洋連邦宇宙軍とは艦隊戦に至っておらず、相変わらずMSに拠る攻撃を受けていた。しかし、エターナルは確実に一機ずつ敵機を撃墜して行き、状況はやや好転しつつあった。
「補給はオーブから逃げる前にしこたましてある。アークエンジェルとのランデブーまで遠慮せずに迎撃を続けろ」
アークエンジェルとて、同じオーブから宇宙に上がってきたのである。そう遠くない位置に居るだろうとバルトフェルドは予想していた。そのバルトフェルドの予想は案の定で、既にアークエンジェルは交戦宙域に近付きつつあった。
尤も、敵艦隊が援護射撃を撃ってこない事に疑問を抱かないバルトフェルドではない。敵もアークエンジェルの接近を予想している事は明らかで、それが目的ではないかと疑う事は出来る。
エターナルは、アークエンジェルを逃がさない為の餌。考えられる事は、目標を一箇所に纏めての一網打尽だが――
(それにしても、敵の数があまり多くないのは何故だ……? 出し惜しみをしているって事なら――)
エターナルは通常の戦艦よりも装備の乏しい戦艦だ。本来、フリーダムとジャスティス専用の運用母艦として機能しているエターナル。機動力こそ高いものの、そこに不沈艦と称されるアークエンジェルが加われば、今の敵方の戦力では間違いなく不足している。
それで、どうやって一網打尽にしようというのだろうか。まだ、何か秘策でもあるというのだろうか。
バルトフェルドが考えていると、宙域の彼方で赤い光線が瞬き、一つの大きな爆発が起こった。突然の事に、エターナルのブリッジがざわつく。
「モニター拡大だ! 何が起こったのか報告しろ!」
「りょ、了解!」
叱咤するバルトフェルドに応え、腹心のダコスタが慌ててモニターを拡大する。2回、3回と段階を追って映像が拡大されていくと、そこには轟沈する大西洋連邦宇宙軍艦があった。
「ミノフスキー粒子の影響でCGで補完していますが、光の加減、エネルギー反応から見て陽電子砲の一撃で間違いありません」
「ローエングリン――アークエンジェルが来てくれたか!」
押さえ込まれるままだったエターナル。しかし、アークエンジェルという戦力が辿り着いてくれたならば、戦況は圧倒的優位に好転する。しかも、横からの一撃という事は、向こうと連携して十字砲火も狙える。数の上でも、遂に対等に立ったのだ。
そんな状況を、大西洋連邦宇宙軍旗艦ガーティ・ルーで指揮棒を片手に観戦する男が居た。まるで、テレビジョンの中の物語を楽しむかのように余裕の笑みを浮かべている。その男にとって、一隻の同胞艦が撃沈した事は、大した危機ではないのかもしれない。
「シロッコ司令、左翼の2番艦が陽電子砲で撃沈されましたぞ!」
「フッ、のんびり屋の大天使が今頃やって来たか」
慌てる壮年の艦長を尻目に、視線も合わせずにモニターの先の宇宙を見つめる。アークエンジェルの登場に全く動じる事も無く、シロッコはゆっくりと立ち上がった。
「慌てるな艦長。待機させている残りのMS隊を全て発進させろ。3番艦は側面のアークエンジェルに、ガーティ・ルーは正面のエターナルの対応に当たれ」
「ハッ」
「私もMSで出る。あれのテストもしておかなければならんからな」
軽く床を蹴ってふわっと浮き上がり、シロッコは天井を手で押すと、体を捻って流れるようにブリッジを出て行った。その身のこなしは、まるで平時であると錯覚させるほどに優雅で落ち着いていた。それを不謹慎とは思わないブリッジ・クルー。
寧ろ、安定を感じるほどに、色めき立ったブリッジが急速に冷やされたように落ち着きを取り戻した。その後ろ髪を引くような空気を振り払うように、シロッコは超然と流れていく。伸ばした後ろ髪が、紫の波となって風にそよぐ様に揺れていた。
ブリッジから直接ガーティ・ルーの格納庫に辿り着くと、シロッコは白亜の大型MSに向かって床を蹴った。
パイロット・スーツを着ていないのは、彼の流儀でもある。かつて、シャア=アズナブルは己の高い技量の証として、決してパイロット・スーツを着用しなかったという噂を何処かで聞いたことがあったが、シロッコも同じ理由でパイロット・スーツは着用しない。
尤も、シャアはグリプス戦役の時分にはエゥーゴのパイロット・スーツを着用しており、シロッコにとってはそんなシャアの逸話には全く興味が無い。シロッコがそこに至ったのは、彼自身の能力の高さを悟っているからこその当然の流れだった。
一般的なMSに比べ、シロッコが乗り込んだMSは一回りほど大きい。サイズとしては、彼の愛機であったジ・Oと同サイズだろう。シルエットも何となくジ・Oに似ているが、印象としてはそこにパラス・アテネを掛け合わせたような感じだ。
大きくせり出した肩部アーマーは、巨大な姿勢制御用のバーニア・スラスターを装備し、フロント・スカート・アーマーにも同様にして大袈裟なバーニア・スラスターが装備されている。ジ・Oと同じサイズの巨体を満遍なく機動させるためのものだ。
シロッコが辿り着いたMS哲学として、大型の非可変型MSのMAに匹敵する加速力と人型の高運動性が挙げられるが、ジ・Oから続く系譜として、この超高性能MSはそれを体現している。
グリプス戦役の時分からシロッコが考えていた、女性が支配する時代のためのMS――純白に染め上げられたカラーリングの“タイタニア”は、自身が乗ることを想定していなかった。しかし、その製作に目処がついたとき、シロッコは自らが乗り込むことを決意した。
未だ混迷を極めるこの世界に於いて、それを統べるべき女性の出現は尚も先の時代になるだろうと想定しているからだ。それは、もしかしたらシロッコが居なくなった時代に訪れるのかもしれない。ただ、その時の為にする事は、シロッコには分かっている。
未だ見ぬその女性の為にシロッコが出来るのは、その女性が現れた時のための下準備だ。自身の最高傑作とも呼べるタイタニアに、その時代を切り開く力があると確信するシロッコは、礎となる自身の使命感と共に戦う事を心に決めていた。
「馴染むな、この感覚……」
コンソール・パネルが股の間に浮き上がってくると、シロッコは慣れた手つきでタイタニアを起動させていく。パネルに光が灯り、球体の壁がガーティ・ルー格納庫内の景色を順次浮かび上がらせた。
「ブリッジ、外の状況はどうなっている?」
『メッサーラが、エターナルに攻撃を仕掛けています。アークエンジェルには指示通りに3番艦に対応に当たらせています。ただ、エターナルの攻撃部隊がやや劣勢で、メッサーラが撒いたザフトの新型もそちらに向かっているようです』
「アークエンジェルからのMS隊は?」
『確認されておりません。陽電子砲の奇襲の後、通常戦力で3番艦と交戦中の模様です』
「ご苦労」
適当にCICからの報告に頷くと、シロッコは通信回線を閉じた。
「フッ、やはりアスハは出したくないか」
タイタニアの初めての実戦に、シロッコは心高鳴る幼稚な興奮感を抱いてない。至極普段どおりに、ジ・Oに乗るときと同じようにして景気良くコントロール・レバーを握り締めると、タイタニアはカタパルトに向かって前進を開始する。
『PMX-004タイタニア、カタパルト接続を確認! パプテマス大佐、出撃準備完了しました!』
「タイタニア、出るぞ!」
垂直立ちの状態でも、まるで床に根を生やしているかのように重厚なタイタニアは、少し腰を落として重心を低くすると、バーニア・スラスターを点火して勢い良く宇宙に飛び出した。
宇宙空間に飛び出すと、シロッコの感性は直ぐに戦場を駆け巡った。彼の思惟は強力なほどに人々の間を刺激し、ある者は悪寒を感じて鳥肌を立て、ある者は意味不明の恐怖に挙動不審に陥る。その現象は、敵味方問わずに伝染病のように蔓延していった。
シロッコの目が、エターナルを見据えた。
「ラクス=クラインか……どれ程のものであるかは、一応確認しておくか」
その瞬間、エターナルのブリッジでゲスト・シートに座るラクスは身を震わせた。冷たい鋭利な刃で喉を貫かれたような感覚――思わず喉元に手を当て、何事も無かった事を確認してしまうほどに、ラクスは狼狽した。
(何でしょう、この……わたくしを殺すような感じは――テレキネシス・ウェイブ?)
シロッコの思惟が直接向けられただけで、ラクスの肌には無意識に鳥肌が立っていた。余りにも突然で不可解な現象に、流石の彼女も表情に疑問符を浮かべる。
しかし、ラクスの心は強固なダイアモンドで出来ているようなもの。普通の人間ならば恐怖で萎縮する場面でも、彼女なら自らの中で恐怖を克服し、処理することが出来る。この強さが、彼女をカリスマたらしめ、プラント国民に絶大に支持されている理由だった。
遠くのタイタニアでそれを感じ取ったシロッコも、ラクスがただの美少女アイドルではないと、私心ながらに納得する。
「まんざら利用されているだけのお飾りではないらしいな。しかし――」
高推力のスラスターを吹かし、巨躯のタイタニアが行動を開始する。エターナルに進路を差し向けたとき、三つの光芒が煌いてタイタニアをビームの嵐が襲った。
「ザフトの新型か!」
全身の姿勢制御用アポジ・モーターをくまなく吹かし、機動と制動を繰り返して独楽鼠のようにかわす。タイタニアの巨体からは決して想像できない、遠目から見ればまるで小型MSのような動きは、見るものを惑わすような圧倒感がある。
シロッコが上方を仰ぎ見ると、そこにはビームバズーカを構える3機のドム・トルーパーが尚も狙いを定めていた。
漆黒の宇宙の中に浮かび上がる真珠のようなそのMSを発見したとき、ヒルダはどう形容していいのか分からなかった。そのカラーリングは、余りにも目立ちすぎる。しかし、その形はどう考えてもパール・ホワイトのイメージからは掛け離れた凶暴な外見をしていた。
まるで、悪魔に天使が宿ったようなちぐはぐな見た目とは裏腹に、或いはその逆が本来は正しいのではないかと強く印象付けられた。
ただ、あのMSに乗るパイロットが敵であることだけは分かる。これはヒルダの経験からの実感としてだが、あのような悪魔とも天使とも取れるようなものに乗るうつけ者を、味方とは到底認識できない。半ば直感的に、ヒルダは識別もせずに攻撃を仕掛けた。
それは、彼女の潜在的な恐怖心を引き出されたからかもしれない。シロッコの悪意に限りなく近いニュータイプ的な圧迫感が、ヒルダの深層意識を震え上がらせ、突き動かしたのだ。
「悪魔だか天使だかなんて――天使はラクス様だけで十分! 傲慢で騙る紛い者は消え去るがいい!」
自身を奮い立たせるようにヒルダは叫び、スクリーミング・ニンバスを展開させて突撃を敢行する。ヘルベルトとマーズがヒルダの行動に呼応するように続き、一列縦隊となってジェットストリーム・アタックでタイタニアに肉薄した。
シロッコの目に映る赤い膜の様な光。絶えず前面に展開させる事により、正面から見れば全身を覆うバリアのような役割を果たしていることは、シロッコの技術的感性の観点から見ればすぐに察知できる事。
「コーディネイターという者は、確かに優れた才覚を持つものが多いらしいな。その分野に突き詰めて適応させていけば、あのような先進的な技術もナチュラルに先行して生み出す事が出来るわけだ」
U.C.世界では実用化されていないビームシールド。それを、MS開発史わずか3年足らずのコーディネイターが顕現させている。シロッコにとっても、これには流石に驚かざるを得なかった。
尤も、シロッコは敵の攻撃に当たる事など考えてはいない。シールドなどを保持していても、それは単なるデッド・ウェイトにしかならないのだ。その証拠に、基本的に彼の開発したMSは、シールドを持つ機体が少ない。
自分が乗ることを想定していなかったボリノーク・サマーンやパラス・アテネは別にして、メッサーラやジ・O、そしてこのタイタニアにシールドは存在しない。それだけ回避技量に絶対の自信を持っているからだ。
事実、シロッコはグリプス戦役に参加した戦闘で、回数こそ少なかったものの、被弾は無いといっても過言ではない。唯一、Ζガンダムとの戦いに於いては不可思議な力によって敗れはしたが、ハマーン=カーンの操るキュベレイを相手にしても被弾を許さなかったのだ。
その類稀なる驚異的なニュータイプ能力は、純粋にニュータイプとして育成されてきたハマーンですら舌を巻くほどの力だった。
スクリーミング・ニンバスというバリアを張って、ヒルダのドム・トルーパーが突っ込んでくる。当たれば、恐らくは通常のビーム兵器のようにダメージを受けるだろう。しかし、タイタニアは突っ込んでくるドム・トルーパーに対し、デュアル・ビームガンを構えて連射した。
タイタニアの体型に合わせてやや大きめのその携行銃は、やはり若干太めの軌跡を放ってドム・トルーパーに襲い掛かる。
メッサーラのメガ粒子砲でも突き破れなかったスクリーミング・ニンバス――案の定、デュアル・ビームガンのダメージは無かった。しかし、それでも尚も連射を続けるシロッコ。微妙に変化する照準をリアル・タイムでマニュアルで修正し、同じ箇所ばかりを狙い撃つ。
タイタニアの攻撃を弾く度に、少しずつバランスを崩されるドム・トルーパー。狙われているのは、左肩の辺りだろうか。何度も後ろに引っ張られるような振動に見舞われながらも、ヒルダは直進を止めなかった。タイタニアの威容が、危険な奴だと彼女の本能が警告している。
「こいつ――遊んでいるのか!?」
「フンッ」
迫ってくるジェットストリーム・アタック。シロッコは鼻で笑うと、タイタニアを後退させながら更に早い間隔でデュアル・ビームガンを速射した。
急に速くなったビームの間隔に、ヒルダのドム・トルーパーが悲鳴を上げる。ガクンガクンと機体の左側部に衝撃を受け、コックピットでコントロール・レバーを握るヒルダは堪えきれなくなる。
「くっあ――ッ!」
一発毎に早くなるタイタニアの攻撃に、遂に鈍い呻き声を発すると、ヒルダのドム・トルーパーは隊列から弾き出される様に吹き飛ばされていった。そこへ、がら空きになったヘルベルト目掛けて、タイタニアの継撃が襲い掛かった。
「うおぉッ!?」
ヒルダの突然の離脱にヘルベルトの反応が間に合うはずも無く、デュアル・ビームガンによってヘルベルトのドム・トルーパーは右腕を失う。そして、後退を続けていたタイタニアが急に前に加速すると、体当たりしてデブリに叩きつけ、彼方に追いやった。
「先ずは一機。私に仕掛けておいて、無事で済むと思うなよ?」
ヘルベルトがやられたところで、マーズは身の危険を感じたのか、即座に隊列を乱し、回避行動に入っていた。吹き飛ばされたヒルダも、ダメージこそ無かったものの、タイタニアの圧倒的なプレッシャーに目を丸くした。
「ジェットストリーム・アタックが通用しない――!?」
『ヒルダ、一つに固まっていたのでは、奴の思う壺だ!』
「マーズ……なら、散開して挟み撃ちだ! バリアは切るんじゃないよ、奴はピンポイントで狙い撃ってくる事が出来る!」
『了解した!』
まるでキラ様のようにね――忠告しようとしてヒルダは言葉を飲み込んだ。ヘルメットを平手で殴り、弱気になりかけている自分を奮い立たせる。
先程のしつこいまでのピンポイント攻撃は、最高のコーディネイターと称されるキラでなければ出来ないような攻撃だ。あの白亜のMSに乗るパイロットは、連合に降ったコーディネイターだとでも言うのだろうか。
しかし、それ程の実力を持つコーディネイターが、何の注目もされずにプラントから離反できるはずが無い。だとすれば、一体――
「イレギュラーの中にも、コーディネイターが居るって事かい……?」
考え事をして勝てる相手ではないだろう。ヒルダは首を振って雑念を振り落とし、キッとタイタニアを見据えた。
対して、シロッコは左右から襲い来るドム・トルーパーに一瞥をした後、軽く目を閉じて精神を集中させていた。今回、タイタニアを出撃させたのは、性能試験という意味もあったが、これが一番重要な課題だった。
タイタニアに搭載されているシロッコ・オリジナルのサイコミュ・システム。シロッコは別段ニュータイプ研究に力を注いできたわけではないが、彼の凄いところは得意分野でなくても才能を発揮できるところにある。
多少の知識と経験があれば、そこから知恵を絞って独自に発展させる事が出来るのだ。最初のジ・O、そしてステラのデストロイに搭載されたバイオ・センサーやゲーツの操っていたバウンド・ドックのサイコミュ・システムも、彼の試験作品的な意味があった。
そしてそれらの成功を受けて、本格的に開発、採用、搭載したのが、このタイタニアに積まれているサイコミュ・システムだった。それはシロッコ本人に完璧にフィットするように仕上げられた、完全オーダー・メイドの特注品である。
「あの女に出来て、私に出来ないわけが無い――」
対抗心を燃やす相手は、ヒルダではない。シロッコの印象に最も強く残り、唯一対等であると認めざるを得なかったハマーン=カーン――彼女の操っていたキュベレイのビット兵器は、シロッコのインスピレーションを刺激した。
ニュータイプの発する波動により、ミノフスキー粒子の干渉を無視して思念波による誘導で遠隔操作するビット兵器。かつてはジオン軍のニュータイプ専用MA、エルメスが初めて実用化し、一年戦争後にアクシズで小型、高性能化を進められていた。
その形状が、所謂“漏斗(じょうご)”に似ていた事から、俗に“ファンネル”と呼称されるようになった。
そのファンネルを、タイタニアはキュベレイに次いで装備している。サイコ・ガンダムMk-Uのような反射型のレフレクター・ビットではなく、砲身のあるキュベレイのものと酷似したものである。
大型の肩部アーマーにある、肩のラインに沿って外部へと半円型に並ぶ小さな複数の穴から、多数の輝きが放出された。ヒルダの目にも、マーズの目にもそれが何であるかが分からない。しかし、タイタニアは制止したまま餌食になるのを待っているようにしか見えなかった。
構わず、2人はスクリーミング・ニンバスを正面の安全に、ビームバズーカを構えて突撃を続ける。
「正面は守れても、そのバリア――後ろががら空きだな!」
カッとシロッコが目を見開いたかと思うと、ドム・トルーパーの背後から複数のビームの軌跡が降り注いだ。そのビーム攻撃にヒルダとヘルベルトの2人が気付くと、ドム・トルーパーの四肢がいつの間にか分断されていた。
「な、何だと!?」
『どうなっている!?』
四肢を失ったドム・トルーパーは、AMBACによる姿勢制御が困難になる。肩部や脚部に設置されていたバーニア・スラスターすら失い、宇宙空間でこんな表現は可笑しいが、蹴躓いたようにバランスを崩した。
「くッ!」
それでも何とかしなければならない。ヒルダはコントロール・レバーを引き、バック・パックのメイン・スラスターを吹かして姿勢制御を行おうと試みた。こんな所で終わるわけにはいかない、自分達がやられてしまえば、誰がラクスを守るというのだろうか。
ヒルダの天に向かってそびえる一本気質が、執念を生もうとしていた。しかし――
「脳に多少の圧迫感を感じる。――しかし、ハマーンはあそこまで使って見せたのだ。私なら、もっとできる筈だ」
ヒルダ達を歯牙にもかけず、シロッコが向ける興味はファンネルの使用に伴う評価だった。
シロッコが念じると、まだ抵抗の意志を見せようとするヒルダのドム・トルーパー目掛け、2、3基程度のファンネルを飛ばした。狙うのはドム・トルーパーが背負っているバック・パック――ヒルダの最後の生命線とも言えるメイン・スラスターだ。
今度狙う標的は、先程狙った四肢よりも格段に精密さを要求する部位。ファンネルに要求を応えさせる為には、先程以上に緻密なサイキック・コントロールが必要になる。
集中するシロッコの精神が、高まっていく。研ぎ石で刃を研ぐかのように、サイコミュ・システムを通してファンネルに伝わる意思が、鋭くなっていった。
「そこだな!」
必死にもがくヒルダとは180度反対の表情で、シロッコはファンネルに命令を下した。シロッコの先鋭化した意志をファンネルが受け取り、正確にドム・トルーパーのバック・パックを破壊する。背中を襲う爆発に、ドム・トルーパーは体を逆くの字に曲げて押し出された。
その瞬間、ヒルダは微かに見た。細長い砲身をした、漏斗のような形の無線攻撃端末が――それは、ヒルダの知っているストライク・フリーダムのドラグーンよりも遥かに小さく、正確に機動している。
「上出来だ」
本体を爆散させずに、ファンネルによってピンポイントで狙い撃ちできた事に満足そうに笑みを浮かべた。
シロッコがドム・トルーパーを相手に行っていたのは、戦いではない。タイタニアの機体性能、およびサイコミュ・システムの最終的なテストだ。この結果、シロッコはタイタニアを完成させたのだった。
想定した通りの性能を発揮したタイタニアにシロッコは納得すると、ゆっくりとヒルダのドム・トルーパーに接触した。最後まで抵抗をしようとしたヒルダこそが、3人のリーダーだと見抜いたからだ。
タイタニアのマニピュレーターの接触で、コックピットの中が微かに揺れる。既にドム・トルーパーのモニターは半分が死に、ヒルダ自身も乗機と同様に朦朧とする意識の中で何とか堪えている状態だった。
『女、聞こえているか?』
「何だと……?」
目に見える景色が、若干薄暗い。頭が重く感じられ、酩酊状態でヒルダは男のような掠れ声で返す。
『その様子だと、どうやら意識は保てているらしいな。流石はコーディネイター…と言いたいところが、君の事を強い、素敵な女性であると信じたいな?』
(女たらしか……?)
衝撃で受けたショックも、時間の経過で徐々に正気を取り戻してくる。コーディネイターとして戦いに優れているヒルダは、肉体的に一般よりも回復が早い。錯乱状態の脳も、早くも正常になりつつあった。
そこで、ヒルダはハッとする。正常になりつつある頭だから気付けた事――どうして敵のパイロットは自分が女であることが分かったのだろうか。接触回線からの通信で、こちらの顔は見えないはずである。声も、先程のたった一言で判別できるとは思えない。
何か、インチキなマジシャンか占い師に見初められている感覚に陥った。
「何者だ、お前は……」
『分かっているだろう? 君たちの間でも、我々の事が話題になっているはずだ』
「じゃあ…お前もカミーユと同じ、“イレギュラー”……」
『そうだ』
自らをイレギュラーと名乗る男。イレギュラーの存在自体は、軍の間でも限られた人間しか知られていない。連合でも、その状況は同じはずだ。それを当然の如く知っている素振りを見せるこの男は、かなりの権力者か、本物だろう。
MSで戦場に出てきているということを鑑みれば、恐らくは後者と考えるのが妥当だろうか。
しかし、まだ他の可能性が残されている。この男の技量は、明らかに普通のナチュラルの出来る範疇を超えている。ともすれば、コーディネイターでも不可能ではないかという事を、事も無げに行って見せたのだ。
キラの様な特別なコーディネイターでもなければ、そんな芸当が出来るはずもない。
「お前は、コーディネイターではないのか?」
『私は連合軍で働いているが、コーディネイターと呼ばれる人間が、遺伝子を改良して生まれてきた新たな人種である事は知っている。しかし、それでもやはり人は人でしかないのだよ』
答になっているような、なっていないような、なんとも曖昧な返答でヒルダを困らせる。とにかく、連合軍人である以上、ここで初めて敵であることを確定させた。それさえ確定してしまえば、ラクスの敵である以上はそれ以外の事はどうでも良くなる。
「その連合軍が、何のつもりだ? あたし達を殺す気かい」
『そのつもりだったが、君等に少し興味を持った。何の為に君達が戦っているのか、聞かせてくれないか?』
「口説き落とそうたって、無駄だよ。あたし達の忠誠は、ラクス様ただ一人に捧げられている。お前の様な優男に靡くようなあたしじゃないんだよ!」
『ラクス=クラインか……』
しゃべってはいけない事をしゃべってしまったような気がする。ヒルダの背筋に悪寒が奔り、こめかみから汗が伝ってくる。地の底に沈むような低いシロッコの声が、人を惑わせる魔力を感じさせた。
『……彼女は、素晴らしいな』
「何?」
『私は、彼女のような女性が戦後の世界を導いていくべきだと考えている。私はブルー・コスモスのジブリールに飼われている立場だが、いずれは奴を排除し、彼女のための世界を築きたいと思っているのだ』
気配が、変わった。ほんの一瞬感じた嫌な悪寒は、果たしてヒルダの女としての勘だったのだろうか。シロッコの声が変化して諭し口調に変わると、白々しい言葉が飛び出してきた。
「…うそ臭いねぇ」
『信じてもらえないかもしれないが、私は世界を纏め上げられる絶対者の出現を待ち望んでいたのだ。この世界は、愚民の意志を一つに出来ない愚かさから混沌に陥ってしまっている。それならば、絶大な指導力を持った人間に、それを行ってもらうしかない。
そう思うからこそ、早くから私はラクス=クラインに注目していたのだ』
(この男――)
シロッコの言葉に、眉を顰める。真実と嘘が入り混じっているようにヒルダには感じられた。――確かにシロッコの言葉は、ヒルダの価値観に合致する。しかし、ジブリールの子飼いであるこの男の何を信じればいいのだろうか。
ナンパ風の声色で、あざとい事を吹き込んでくる。一体、何が目的なのかがまるで見えない。宇宙空間と同じ、無限の漆黒を相手に問答しているような気分になってくる。
「回りくどいねぇ。何が言いたいんだい?」
回答を急かすのは、シロッコの言葉が妙に頭に浸透してくるからだ。価値観の合致がそうさせているのかもしれないが、それとは別の何かの力が作用している気がしてならない。これ以上彼の言葉を聞いているのは、危険だと判断した。
ヒルダの言葉に、通信回線越しのシロッコがフッと笑ったような気がした。
『ラクス=クラインを信奉する君達に、提案をしてあげようと思う』
「提案だと?」
『そうだ。プラントに居続ける限り、ラクスはデュランダル如きの道化師に利用されるだけの道具に過ぎない。そうなれば、例えこの戦争にザフトが勝利しようとも、彼女は決して頂点に立つ事は出来ない』
シロッコの語り口を、ヒルダは黙って聞くしかなかった。彼の言うとおり、今のラクスはデュランダルの政策のためのプロパガンダにされている。言うなれば、本来のアイドル以上の待遇を受けておらず、最終的には用済みにされる可能性が高い。
表向き、ラクスを丁重に扱っている素振りを見せているが、その腹の内ではラクスを邪魔に思っているのではないかとヒルダは疑っていた。
『ならばだ、この戦争に連合が打ち勝ち、私がジブリールを排除した上でラクス=クラインを奴の後釜としてこちらに迎えれば、即ち、彼女がこの地球圏を統べる覇者となる』
「いい話だが、あんたにジブリールを倒す事が出来るのかい?」
『おぉ、勿論だとも』
知らず知らずのうちに、ヒルダはシロッコの話にのめり込んでいた。危険と分かっていながらも、彼の話すことはヒルダにとって非常に夢のある話だ。ラクスを地球圏の覇者に戴くというシロッコの理想は、無条件にヒルダを引き込む力を持っていた。
『ジブリール如き俗物、私の相手ではない。やろうと思えば、今すぐにでも奴を倒し、プラントとの戦争に勝ってラクスの世を創って見せよう。ただ、今はその時ではないと言うだけだ』
言い切って見せるのは、絶対の自信がある証拠だ。言葉の力強さは、ラクスのものとも通じるものがある。ヒルダは少し思案を重ね、シロッコの可能性とその理想について思考を巡らせた。
「なるほど、そうなれば、ラクス様はコーディネイターもナチュラルも支配なさるお方に――」
『それが、正しい世界への道標だ』
「確かに、あんたの言っている事は正しいのかもしれないね。でも――」
これだけの野心を腹に抱える人間が、果たしてラクスの為だけにそれだけの事をやる価値を見出しているのだろうか。それでなくともナチュラル、果ては異世界からやって来たイレギュラーである。
この世界の為に真剣に議論するのもバカらしいはずなのに、どうしてこんな事を言えるのか。ヒルダの中の懐疑心は、その最後のところで自制心を働かせていた。
しかし、そんなヒルダの懐疑心を見破っているのか、シロッコは言葉に詰まる彼女に間髪居れずにその内を明かした。
『私は、世界を導く器ではないが、歴史を見届ける証人的役割である事は承知している。謂わば、傍観者となってラクス=クラインの行く末を見守りたいと考えるのが、私の心からの本心だ。分かってはくれないものか?』
「自分を道化師だと認めるってのかい?」
『デュランダルのような俗物ではないと思っている。私は、ラクス=クラインの為の礎になりたいのだ』
「いじらしいじゃないか。それで、その殊勝さは、あたしに何を望んでいる?」
『その私の夢を成し遂げる為に、手を貸して欲しい。つまり、ザフトを離反して私と共に来てくれという事だ』
「ラクス様を裏切れというのか?」
『一時的、表向きにはそうならざるを得ないだろう。だが、全てが終わったとき、その心に秘めていた本心を打ち明ける事こそ、真の忠誠心ではないのか? その方がよっぽど忠誠を立てられると思うのは、私の思い違いかも知れんがな』
「……或いは、そうかもしれないね」
短く考えた後、ヒルダはシロッコの話に頷いた。こうして話し込んでいる間にも、ヒルダの中の妄想は膨らみ、現実を意識し始める。その妄想の世界が実現すれば、ラクスの信奉者としてこれ程嬉しいことはない。ごく自然と、ヒルダはシロッコの提案を肯定していた。
『来てくれるか?』
「あたしだけじゃない。ヘルベルトも、マーズも同じ考えだよ。ラクス様が世界を統一なさるのなら、あたし達は何だってやるさ」
『その厚意、痛み入る』
「あんたの為じゃない。あくまでも、ラクス様の為に裏切るんだって、よく肝に銘じておきな。少しでもおかしな素振りを見せたら、後ろからでもあんたを刺すよ」
『フッ、そうだったな。それでは、エターナルを撃沈する事は出来なくなったようだ』
「エターナルを捕まえないのかい?」
『コーディネイター嫌いのジブリールだ。私の管理下に直接置くことになる君達なら騙しとおす事も問題ないだろうが、彼女は目立ちすぎる。今のところは、プラントに置いておく方が懸命だ』
「安全を確保してから迎えるって事だね? 貴様のラクス様に対する誠意、今は信じることが出来そうだ」
『彼女に報いるのが、私の使命でもある』
タイタニアがマニピュレーターの指関節を折り曲げると、一筋の信号弾が打ち上がった。鮮やかな光は、ガーティ・ルーの艦長の目にも入ってくる。
「パプテマス司令の信号弾――誰かをタイタニアに向かわせろ!」
その艦長からの命令を受領したメッサーラが、即座にタイタニアに接触してきた。
『パプテマス様!』
「サラ、エターナルへの攻撃は中止だ。直ぐにエターナルの攻撃部隊をアークエンジェルに向かわせろ」
『えっ、それは本気でおっしゃっているのですか!? ラクス=クラインを見逃すと――』
「後でサラには理由を話す。それと、この3機をガーティ・ルーに連れて行け。“私”の、新たな賛同者達だ……」
シロッコの声を聞いたとき、サラは悟った。シロッコは、独自に自分のシンパを増やそうとしている。それが敵であろうとも、目的達成の為には特に問題ないと言っているのだ。
後にジブリールと対決するときのためのコーディネイター達――サラはシロッコの考えを即座に理解した。
「ハッ、かしこまりました」
『では――』
シロッコが何かを言おうとした時、2人の意識を貫く波動が突き抜けた。急スピードでこの宙域に向かってくる誰かの接近を予感する。
『この不愉快な感覚――』
シロッコの声が、普段よりも引き締まる。それもその筈、接近する人物が、もしサラが感じている通りの人物ならば、それは最も警戒しなければならない男――
「これは、カミーユ=ビダン!」
ここは衛星軌道上、振り向けば大きな地球。その方向から、カミーユがやってくる気配を感じた。
まるでシロッコが主人公のような今回は以上です。
Gジェネオリジナルのタイタニアを出したのは、これから宇宙がメインの展開にシフトしていくからです。
つまり、ジ・Oの手足と頭を取ると、あの丸みを帯びた胴体が何となく円盤のように見えてしまったからです。
黄色だしw
そんなわけで、次回は週末、早ければ明後日になると思います。
>>124-125 読んで笑ってたら次の展開をど忘れしてしまったw
どうしてくれるw
GJ!
とんでもないことになってきたw
きれいすぎないユウナって逆に珍しいけど良いものですな…
なんて言ってる場合じゃねえwwwやべえwwww
鬼に金棒、シロッコにタイタニア……
勝ち目ねえww
ジ・Oはバイオセンサーの暴走で落としたわけだからな……
カミーユも苦しい戦いを強いられそうだ
シロッコやりたい放題だなw
GJ!
>>149 機体性能は更に差が付いたけど
こちらに来たカミーユは一味違うようだからあるいは
やはり今後が気になる良作
スーパーシロッコタイム始まったなw
GJ!
ヤザンとシロッコはUCでも最強クラスパイロットだと思ってるから
今回のシロッコ大暴れはニヤニヤさせてもらったぜ
シロッコww
GJ!
次がすごく気になるぜ。
GJ シロッコ
やはり自分の野望のための女性指導者候補の本命にラクスを入れていたか。
タイタニアとラクスの適正試験を同時にやったw
今考えると、三連星の性格改変はこのイベントの為だったのか。
GJ!
だがビームシールドはユーラシア連邦とアクタイオンが開発したハイペリオンが先駆では?
まぁCEは基本的に新技術はナチュラル産だよな
なぜか制式採用しまくってるのがザフトだけど明らかに盗用w
ドラグーンシステムの量子通信もアクタイオンが製作したゲルフィニートのバチルスウェポンシステムが元だったな。
>>140 シロッコはハマーンのファンネルに被弾してるが?
>>149 おいおいバイオセンサーの暴走なんてソースはない
どの資料でもカミーユが不可思議な能力でジオの動きを止めたとしか書いてない
サラの森の熊さんとレコアのパラスアテネは被弾してるがシロッコは被弾してないぞ
逆にファンネル落しはしたがなw
バイセン暴走は2ちゃんで言われてるだけだしな
事実、シロッコのバイオセンサーは便宜上バイオセンサーにカテゴリーされるだけで
本来はサイコミュなんだけどな
アナハイム製とは違うシロッコ独自の設計思想だし
>>160 いやファンネル二発くらってるから
みなおしてみ
そのあとファンネル落とすという流れ
そか、今度見直すわ
シロッコは圧倒的イメージが強すぎるのとカミーユ不思議パワーでしか殺せないっていうのが印象に残りすぎるからな
まぁそれはヤザンもなんだがw
なんかシロッコがどうしようもなくシロッコ過ぎて島田敏の声がフルボイスでぎゅんぎゅん脳内で聞こえてくるw
ファンネル使うときのみ
「やってやる!やってやるぞぉ!」
のDC兵ボイスが…
乙であります
個人的には今後、シロッコに誑かされたヒルダとその過去と決別したレコアの絡みに期待
>>146 読んで笑ってたら次の展開をど忘れしてしまったw
どうしてくれるw
Σ(;゚Д゚)
………
すんまそん…
|
|
|
∧|∧
( / ⌒ヽ プラーン
|| )
∪ / ノ
ノ ノ ノ
(_/_/
自分は『おぉ、勿論だとも』だけ
なぜか中嶋くん仕様で聞こえる
>>166 生きてw
>>167 YOUの書き込み見たら俺の脳内でもそこだけ中嶋くんで聞こえ出した。
あと語尾に「小早川」も幻視(幻聴)した。
ドギマギしながらですね、わかります
心配なので保守
浮上
保守
全てのガンダムファンにカミーユ氏の素晴らしさを伝えたい…
保守
176 :
保守:2008/03/31(月) 22:08:07 ID:???
一応、
>>124-125の続きを書いてみる
海岸沿いの林を抜けて市街地にへ入る。人の姿は見えない
彼はすぐに放置されたMSを見つけた
ーM1アストレイ
オーブ軍の汎用主力機ある
‘ガンダムタイプか、やはりゾゴジュアッジュとはいかんか…’
…ある訳ないだろ、常識的に考えて
‘カラーリングも中途半端な、せめてもう少し赤くならんモノか…’
…無茶いうな
機体は被弾で左肘から下がごっそり無くなっていた。が、彼には大した損傷とは思えなかった。つい先程までもっと酷い状態の愛機でビッチの相手をしていたのだから
コクピットに飛び乗る
「旧式のコクピット…。いや、違うな」
連邦系でもジオン系でもないと見抜けたのは双方を知る彼だからこそ、だ
「ん?マニュアル…だと」
隙間に挟まる冊子を見つけ、驚きながらもページをめくる
「まるでアムロ・レイだな…」
そう、彼の世界においてその人物はマニュアルと彼の妹の【貴方なら出来るわ(はぁと)】補正で初陣から生還した凄い素人なのである
マニュアルに一通り目を通し計器のチェックを始める
ちなみに、挟んであったこの機体のパイロットの娘(ょぅι″ょ)の写真はありがたく頂いた
「MSというよりは飛行機だな…、シーランスに近い」
大半のガノタの頭脳から忘れ去られているであろう連絡機の名を呟く
…そういえば赤くなかったね、アレ
実はマニュアルの搭載と航空機的な操作には理由があった
このMSの正式配備はつい先日。マニュアルは不慣れなパイロットが持ち込んだモノだった。また、操縦系は訓練期間の短縮をはかるのにわざと空軍機に似せた為である
もちろん彼には解らぬ事情ではあるが
177 :
保守:2008/03/31(月) 22:08:50 ID:???
通信機のスイッチを入れると死守やら固守といった物騒な単語が飛び交う
少なくともこの機体が避難船を守る側の陣営であるのは間違いなかった
‘素人の集団とも思えんな、ア・バオア・クーでのジオンの方が酷いくらいだ’
通信機から聞こえる声は職業軍人としての覇気に溢れており全体としては壊乱状態ではない
練度が高くなければ守勢でこうはいかない
‘ならば何故こうまで押し込まれる?奇襲か?いや、そうならば避難船が用意されていたのはナンセンスだ’
疑問の尽きないまま彼は無線に聴き入る。情報を収集するために
そして、ふと気付く
「ミノフスキー粒子の干渉がない…?。ん、レーダーもクリアか。マニュアルによればバッテリー駆動という事だが…」
明らかに宇宙世紀ではない。本来ならば表に出るべきではないのは明白だ。中途半端な介入は状況の混乱と死者の増大、何よりも自身を危険に晒しかねない
が、今の彼にとっては ょぅι″ょ>【越えられない壁】>その他 なのであっさりと考えるのを止めた
ハッチを閉めてMSを立ち上がらせる
瞬間、機体はバランスを崩して右に倒れた
「チィ!何というバランサーだ、無茶苦茶ではないか!」
元のパイロットが機体を捨てた理由は正にそれだった
たかだか片腕分の重量の変化だが急造OSでは対処出来なかったのである
「ええい!どうにもならんと言うのか!」
再びマニュアルを覗き込むと【シモンズ主任のアップデート講座(はぁと)】というページを見つけた。
が、彼は技術者ではない。総帥や人身御供はできても即興でプログラミングはできなかった
「くっ、せめて砲台に…」
標準を空に向けレーダーを注視する
充分な索敵で先制すれば固定砲台とて侮れない。
宇宙世紀でのMSの誕生と発展はミノフスキー粒子により索敵装置が陳腐化し機動兵器に対して固定兵装での先制攻撃が事実上不可能となったが故だ
で、あればこそレーダーで相手の位置が見えれば機動力が無くとも充分戦る。殺られる前に殺れば良いだけだ。彼にはそれ相応の実力もあった
ふと脇のモニターを見る
他地区の映像には逃げ遅れた市民の姿。兵士に抱えられたょぅι″ょの姿もある
その兵士に僅かな嫉妬を感じた刹那、画像が乱れる
映像が回復した時には、着弾したミサイルによって一帯は消し飛んでいた
民間人を、あの兵士とょぅι″ょをも巻き込んで
178 :
保守:2008/03/31(月) 22:11:48 ID:???
「!!!」
言葉に詰まる
戦場では見慣れた光景のはずだった
自分とて同じ轍を踏んでいることも十二分に承知していた
今までは大義と理想が彼の悲しみと怒りを飲み込んでいた
だが、今の彼は…
いや、抱く大義のない今の彼だからこそ、その当たり前の怒りを押さえ込むことが出来なかった
‘ょぅι″ょが!罪も無きょぅι″ょが!何故だ!なぜ無垢な命を戦いで汚すのだ!’
彼の中で何かが弾ける。俗に言う種割れだ
C.E.・コーディネーター・この世界のプログラミング言語…、この世界の情報が彼の頭脳に直接流れ込む
そんな中、
「おぇっ…」
彼は吐き気をもよおした
「何故紫ババァ声とセクロス…」
…某練金術師曰く世界には等価交換の法則が存在する
その頃…
「…サボテンの花が、咲いている。まあ、赤いから良いか〜」
「ギル?」
「そうだ!次にコーディネートする子には角を付けよう!そうすれば3倍だ、3倍〜!キラキュンなんて目じゃないぞ〜!」
「ギル!?」
「!?その声はっ!法た〜ん!」←ルパンダイブ
「!!西川かっ!」
………
「デュランダル研究員、貴方をタイーホします」
「ギル…ごめ(ry」
「認めたくないものだな、自b(ry」
と、ZZ並の続編抹消フラグが成立していたが、そこまで続かないんで関係ない
179 :
保守:2008/03/31(月) 22:12:14 ID:???
紫ババァの幻影を振り払いながら猛烈な勢いでプログラムを組み上げる
どの位速いかといえばキラよりも速い
嫁補正よりょぅι″ょ補正が上なのはファミ通の攻略並に間違いのない事実なのである
「よし」
彼は作業を終えた。機内から調整できる箇所は全て彼用に最適化されていた
改めて機体を起こす
問題はない
ふと…
『大佐なら出来ますよ』
彼は頭を抱えた。何故ララァではなくあの整備責任者なんだと
「まあ、確かにあの時と同じだ。後は私の問題なのだからな」スロットルを踏み込む
そして…、彼は戦場へと向かった
徒歩で
「ええい!完璧にならんとは!」
…飛べないならジャンプすればいいと思うよ
180 :
保守:2008/03/31(月) 22:13:18 ID:???
. . .... ..: : :: :: ::: :::::: :::::::::::: : :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
Λ保Λ . . . .: : : ::: : :: ::::::::: ::::::::::::::::::::::::::::
/:彡ミ゛ヽ;)ー、 . . .: : : :::::: :::::::::::::::::::::::::::::::::
/ :::/:: ヽ、ヽ、 ::i . .:: :.: ::: . :::::::::::::::::::::::::::::::::
/ :::/;;: ヽ ヽ ::l . :. :. .:: : :: :: :::::::: : :::::::::::::::
 ̄ ̄ ̄(_,ノ  ̄ ̄ ̄ヽ、_ノ
やっちまった…、反省はしてる
なーいす。
こんなにボケボケだけど、戦闘になったら鬼強いんだろうな。
思っていたよりまともw
ょぅι゙ょょぅι゙ょ連呼するなwww
前に無印種を舞台にした作品を書くって言った人がいたけど、
あれからあの話はどうなったの?
そういう話が無くなってしまうのは残念ながらよくある事。
良いところで更新なくなっちゃうよりかはまだそっちの方がいい。
『青く輝く星の上で』
地球の重力を振り切り、Ζガンダムとストライク・フリーダムを乗せたブースターは青く霞む星の後光を受けて無限大の闇の中に旅立った。元々片道分しか積まれていなかったブースターの燃料は底を尽き、今は慣性モーメントに乗っている。
オーブを飛び出して、まだ15分かそこら。激戦から解放されたはいいが、今度は味方と合流する為に探さなければならない。
幸い、ストライク・フリーダムのデータの中には、エターナルとアークエンジェルがランデブーを果たす為の座標位置が記録されている。キラはブースターの慣性を感じつつ、コンソール・パネルを弄って味方の探索を行っていた。
ゆっくりと、ブースターは回転する。それにしがみ付いている2機も、それに合わせて回転していた。上下左右の無い、ほぼ無重力の宇宙空間。人間にとって、この宇宙で適応していく為には相当の努力と知恵が必要だと強く再認識させられる。
ともすれば、今ブースターの回転に合わせて自分も回転しているのかすら分からなくなりそうな状況で、背後の地球が無ければとっくに三半規管が狂って、自分の置かれている状況も分からなくなってしまうところだ。特に、地上から宇宙に上がってきたばかりの状態なら尚更だ。
こればっかりは何度体験しても、例えキラが完璧と称されるスーパー・コーディネイターであったとしても、難しい問題だ。
「衛星軌道に乗っている……?」
コンピューターは、キラにそう告げている。見渡す限りでは真っ直ぐ地球から外に向かって流れているように見えていても、実際は少しずつ地球の軌道を周回するコースに乗ってしまっているようだ。キラ自身はそれが殆ど実感できておらず、驚きに少し目を丸くした。
不安定な人間の感性など、環境の変化に対応できるコンピューターに比べれば大した事が無いものだという事だろう。キラは気を取り直して操作を続けた。
「ランデブー地点は確か、地球を背に月の見えないところのはずだから――」
モニターを操作し、全方位を代わる代わる表示して、現在地から月が見えないことを確認する。衛星軌道に流され始めているが、ポイントとしては悪くない。恐らく、そう遠くない場所で発見する事が出来るだろう。
キラはキーボードを押し込んでアプリケーションを閉じると、カミーユの元へ通信を繋げた。
「カミーユ、ここからなら直ぐに見つけられそうだよ。でも、もう衛星軌道に流され始めているから、出来るだけ急いだ方がいい」
『この感覚――』
「え?」
語り掛けに、カミーユは意味不明なことを口走って返してきた。声の調子も何処か神妙で、焦りすら感じられる。キラは怪訝に眉を顰めると、気遣うように声を掛けた。
「疲れてるの?」
『いや、違う。このプレッシャーは――』
緊迫感の滲む声。益々キラは眉を顰め、辺りを見回した。
周辺の宙域は、静かなものである。つい先程までの騒がしいオーブに比べれば、背後の地球の光景も相俟って穏やかさを感じる。無重力感に抱かれ、そのまま眠りに就いてしまいそうになるほどに。カミーユの声のような緊迫感とは全くの無縁であるように感じられた。
しかし、“プレッシャー”という単語に、キラは覚えがある。それを感じたのは、奇しくも今と同じようにして宇宙に出ていたときだった。あれからそれなりの時が経っているが、今でもハッキリと思い出せる。月で遭遇した、あの屈辱的な出来事を――
「居るんだ、この近くに……」
キラの直感が、カミーユの言葉を理解する。エスパーのような彼が言うのだ、間違いなく居る。
借りを返すときがやってきたのではないだろうか。フリーダムを駆りながらも、圧倒的性能のMSを前に無様な敗北を喫した。元々、好戦的ではないキラだが、あの負け方は腹に据えかねていた。
まるで、人を動く物体としてしか見ていないような、遊びの感覚。動きからキラが感じたのは、その敵が真剣に戦いというものに意識を向けていないということだった。その気になれば何とでも出来る――驕った天才が口にするような傲慢を聞いた気がした。
『あの向こうだ……!』
Ζガンダムのマニピュレーターがその方向を指差し、キラにその存在をほのめかす。まばらな星の輝きが頼りなく灯る宇宙に、右には青い星が微かに顔を覗かせていた。
コーディネイターとして、優れた視力を持つキラの目が、彼方で光る輝きを見つけた。星の輝きではない。比較的一点に集中した光の明滅が、キラに確信させる。ハッとし、見る見る瞳が大きくなっていった。
「戦闘が始まってしまっている! 急ごう、カミーユ!」
『あぁ!』
沈黙していたストライク・フリーダムの背部ユニットが再び青い光の羽を拡げ、Ζガンダムはウェイブライダー形態に変形した。慌ててブースターから離れ、2機は脱兎の如き勢いで交戦宙域へと急行して行く。
エターナルの周囲から敵が居なくなった事を、バルトフェルドは怪訝を通り越して気味の悪い悪寒を抱くまでに不安に思っていた。何故なら、彼はガーティ・ルーと大西洋連邦艦から第二波となるMS隊の出撃を見てしまったからである。
それまで、エターナルの貧弱な武装でも優秀なクルーのお陰で、殲滅は出来ないまでも完璧に防御してきた。しかし、敵の数が多いのなら話は別だ。アークエンジェルと2手に分かれている以上、その第二波が殺到すれば完全にお手上げだった。
連合軍の狙いは、エターナルとアークエンジェルの一網打尽ではなかったのだろうか。戦力の出し惜しみは、エターナルを体のいい囮にするためのブラフだ。そこへ、のこのことカガリを乗せたアークエンジェルが到着する頃合を見計らい、後続のMS隊を吐き出す。
それに対し、エターナルもアークエンジェルも出せるMSは殆ど無い状態だった。残りのMS隊を出撃させた時点で、勝負は決まっていたはずではないのか。
悩めるバルトフェルドは、CIC席に座っている女性士官に問いかけた。
「アビー、ミノフスキー粒子濃度は?」
「は、はい。それが、どうもおかしくて――少し前から、この宙域のミノフスキー粒子の濃度が下がり始めたんです。先程までは、注ぎ足すように一定の濃度を保っていたのに――まるで、こちらに状況を見せているような――」
計器を見つめながら、浮ついた口調で何度も首を捻るアビー。ザフトの制帽からはみ出しているホワイト・ブロンドの髪が、彼女の的を射ない言葉の如く不規則に揺れている。
「一度は潰したエターナルの目を、わざと回復させているってのか?」
「そうとしか……考えられません」
連合にとって、否、ジブリールにとってはカガリと同程度にラクスの存在は邪魔なはずである。しかし、これではまるでエターナルだけ逃げてくださいと言わんばかりだ。何か目的があるにしろ、ここでラクスを取り逃がす理由は無いはずである。
この不可解感は一体――続けて、バルトフェルドはダコスタに顔を振り向けた。
「ヒルダ=ハーケンのドム・トルーパー隊はどうなっている?」
「ミノフスキー粒子が薄くなるちょい前からロストしています。撃墜された様子は無い事から、恐らくはまだ存命のはずなんですが――」
「識別信号でキャッチできていないのか?」
「可能性の話ですが、多分ドム・トルーパーは識別信号を出していないのかもしれません。そうでなければ、彼女達がこちらに報告に戻る前にアークエンジェル救援に向かうとは思えませんから」
「フム……」
不可解な一致とはいえ、バルトフェルドにそれが指し示すものが彼女達の離反である事など考えられるわけが無かった。
ヒルダ達3人組は、筋金入りのラクス信者だ。特に深い面識があるわけでもないバルトフェルドでも、彼女達の病的なまでのラクス信奉振りは、嫌でも目に入ってきた。事ある毎に護衛と称してラクスの周囲を固め、恋仲であるキラでさえ接触をさせまいとする。
彼女達は気付いていなかっただろうが、ラクスはそんなヒルダ達の行為を少し迷惑に感じていたのかもしれない。最近曇りがちだったラクスの表情は、きっとヒルダ達の過剰な護衛のせいではなかっただろうか。そう考えれば、オーブ戦の際に見せた疲れた表情も納得がいく。
そんなラクス主義者のヒルダ達が、行方不明だ。いっそのことMIAにでもなってしまえばいいのに、と考えるバルトフェルドは流石に軽薄すぎだろうか。しかし、ラクスは違う。どんな人間に対してもその無限大の包容力で包み込む彼女は、ヒルダ達の無事を心配するだろう。
チラリと、肩越しに後ろのゲスト・シートに座るラクスを見やった。
「バルトフェルド艦長、エターナルでヒルダさん達を捜索に出ましょう。まだ、この宙域に居る筈です」
スラリと伸びる足にどうしても目が行ってしまうのは、バルトフェルドがまだ健康な男子として腐っていない証拠だろうが、状況は緊迫しているのだ。下らない感傷に流されまいと気を取り直すと、一つ咳払いをしてから言葉を返す。
「しかし、お嬢ちゃんの乗っているアークエンジェルに敵方の戦力が集中している以上、エターナルが援護に向かわないわけには行かないぞ。ここは、酷なようだがヒルダ達を後回しにして、アークエンジェルに向かうのが艦長としての俺の判断だ」
「しかし、もし動けない状態で識別信号も出せないのであれば、そんな状態でこの宇宙を彷徨うことは最悪の場合――」
ラクスが何故こんな事を言うのか、バルトフェルドには分かる。彼女は、誰にでも優しく出来てしまうのだ。例えどんな悪人でも、その根が善人であると信じて。だからこそ、ヒルダ達程度の迷惑ならば、笑って受け流してしまう。
そんな彼女を、バルトフェルドは甘いと思うが、それがラクスらしさでもある。こんな時、彼女と唯一対等に言葉を交わせるのは、キラぐらいなものだろう。少し不安げな儚い表情をしつつも、強い意志を持って言葉を紡ごうとする彼女を見れば、誰だって折れてしまう。
しかし、今はキラは居ない。だから、バルトフェルドは心を鬼にして私情を殺し、ラクスに高言しなければならない。目尻を吊り上げ、据わった瞳でラクスを見上げる。眉間と口の端に皺を寄せ、いつに無く厳しい表情で見た。
「そうだがな、今は優先順位というものがある。ヒルダ達とお嬢ちゃん――考えるまでも無くアークエンジェルの方が大事だ」
「人に、優先順位など存在しません。それならば、アークエンジェルの援護とヒルダさん達の捜索を同時進行で行ってください」
「出来ないな。このエターナルは、ただでさえ少ない人員で動かしているんだ。2つのことに力を割ける余裕は、無いよ」
「では、バルトフェルド艦長は人の命に順位をつけて、そうやってこれからも生きていくおつもりですか?」
毅然としたラクスの言葉は、誰でも腰が引ける。有無を言わさないその迫力の前では、誰もが口を閉ざし、そして彼女の言葉の正しさに傾倒していくのだ。
確かに、ラクスの言っている事は正しい。しかし、それはモラル的な話であって、今は戦時中だ。結局は彼女のような思考の持ち主が戦争を止めるのだろうが、現在はヒューマニズムを振りかざしていて良い状況では必ずしも無い。
時には、冷酷に切り捨てる事も必要なのだ。
「残念ながら、今という状況に於いて優先順位は存在する。お前のその優しさは確かに必要なことだろうが、それでは戦争に勝つことは出来んよ」
「わたくし達は戦争に勝つのではありません、戦争を終わらせるのです。そこを、間違えてはなりません」
「ラクス、少し冷静になれ。お前の言っている事は、お嬢ちゃんを見殺しにすることになるんだぞ? お前は、ヒルダ達を助けてお嬢ちゃんを見捨てるつもりなのか」
「いいえ、違います。助けられる命があるからこそ、わたくし達は全力を以って救出に当たらなければならないのです。何故、それをお分かりになってくださらないのですか?」
いつになく強気の言葉をぶつけてくるラクス。バルトフェルドは反論を止め、顔を正面に戻した。それと同時に、ブリッジ・クルーの何人かが慌てて顔を背ける仕草をした。喧騒に聞き耳を立てたくなるのは、人の情け。
野次馬根性は人類全体に植えつけられた性(さが)として諦め、バルトフェルドは軽く首を鳴らした。
やはり、ラクスは疲れている。エターナルから敵が退いて行った事に、珍しく気を抜いてしまったのだろう。切羽詰った状況である事すら忘れてしまっているように見える。
ずっと、緊張の連続だったのだろう。休む間もなく奔走し、気が付けば大脱走である。おまけに新しくやって来たのはラクスおたくとも言うべきヒルダ一味。ここ数ヶ月、彼女にとって、気の休まる時間というものが本当に存在したのだろうか。
その疲れを決して表に出そうとしない鉄の女だから、バルトフェルドも始末に負えない。カガリのような単純な性格なら、もっと対処のしようもあったのだが。キラさえ居れば――バルトフェルドは他人に頼ろうとする自分の浅はかさに辟易した。
「状況を認識しろ、ラクス。エターナルへの攻撃は止んだが、その分はアークエンジェルに行っているんだぞ。いくら不沈艦アークエンジェルでも、オーブからの連戦では確実に分が悪い。今お嬢ちゃんを見殺しにする事なんて、絶対に出来ないんだ。分かってくれ、ラクス」
「しかし――」
「ヒルダ達も、覚悟をしてお前についてきたはずだ。それなのに、お前はあいつ等の覚悟を踏み躙(にじ)るつもりなのか?」
最後は、情に訴えかけるしかない。ヒルダ達の覚悟がどんなものかはハッキリ言って知った事ではないが、ラクスに言う事を聞かせるにはこうするしかなかった。
再び、バルトフェルドはラクスを見た。先程よりも俯き加減で、考え事をしている。
「……分かりました。エターナルをアークエンジェルの援護に向かわせて下さい」
短く間を空けると、搾り出すようにラクスは声に出した。その声色と表情を覗う限り、完全に納得したわけではないようだ。しかし、必死に言い聞かせようとしている事だけは見て取れた。
今のラクスの発言に、ブリッジ内が少しざわつきを見せた。直ぐにその声は消えたが、ラクスがバルトフェルドの説得の前に折れたのが意外だったのだろう。オーロラや流星群といった物珍しい現象を目の当たりにしたかのようだ。
そのブリッジ・クルーの反応は、バルトフェルドも同じだった。よもや、ラクスが自分の言う事に首を縦に振るとは思わなかったのだ。いざとなれば艦長権限を濫用して勝手にエターナルを動かそうとも思っていたが、必要の無い覚悟だったようだ。
しかし、今の出来事でバルトフェルドは確信した。自分に言い負かされる程のラクスの疲労度は、相当なものだ。張り詰めた緊張の糸は、今にも切れてしまいそうなほどに追い詰められているはずである。
「よぉし! エターナル前進だ! 目標は連合艦隊側面、敵艦隊の横っ腹に、ぶち込んでやれ!」
プラントに辿り着いたならば、ラクスを休ませなければならない。このままでは、如何に強いハートを持つ彼女でも、プレッシャーに押し潰されてしまうだろう。頭の片隅でそう考え、バルトフェルドは鬱屈した空気を払拭するかのように大声で号令を掛けた。
ガーティ・ルーとシロッコ麾下の大西洋連邦宇宙軍3番艦は、アークエンジェルに集中砲火を掛け続けていた。受けて立つはこれまで幾度もの激戦を生き残ってきたマリュー=ラミアス率いる歴戦の勇士達。
圧倒的な数の不利を切り抜けてきた彼らにとって、この程度の戦力差は日常茶飯事だった。
「艦正面連合艦から、艦砲射撃来ます!」
「当艦側面下、8時の方向からウインダム隊の接近を補足!」
「続けて、エターナル方面より接近中のMS隊を確認! 約3分後に接触します!」
「イーゲルシュテルンの弾幕は絶やさないで! 回避運動後、ゴットフリートで正面の敵艦隊を攻撃しつつ、対敵MS隊用にスレッジ・ハマー装填!」
一時的にではあるが、大西洋連邦軍に使われていた新生アークエンジェルはかなりの整備が進んでいた。特に顕著なのが、以前よりも遥かに少ない人員でも運用できるようになったコンピューター制御である。
2年前よりも少ないクルーで運用できているのは、一重に大西洋連邦軍の改修のお陰なのは言うまでも無い。
しかし、感謝こそ出来ても、敵対している以上は情けは掛けられない。なんと言っても、今アークエンジェルにはオーブの要人が2人も乗っているのだ。ここで不沈艦伝説を終わらせるのは、アークエンジェルの名に泥を塗る事になる。
2年前、搭乗員の殆どが素人で構成されていたにも関わらず、幾多の激戦を勝ち抜き、潜り抜けてきたアークエンジェル。無敵の戦艦として敵味方双方に畏怖の念を抱かれているこのアークエンジェルを、連戦とはいえたった2隻の艦隊に沈められるわけには行かない。
ラミアスの怒声にも似た命令が下ると、操舵の神様ノイマンが、その相棒として多数の業務をこなすチャンドラが、そして、そんな彼等を終戦までサポートし続けていたサイとミリアリアが、それぞれ自分の役割以上の働きを見せる。
コーディネイターのような迅速且つ正確な操作ではないが、親しみ慣れたアークエンジェルの計器を巧みに扱い、持ち前の連携プレーで驚きの成果を挙げる。
シロッコ艦隊のMS隊は、そんなアークエンジェルの抵抗に晒されて、迂闊に近付く事すら出来ない。周囲からビーム攻撃を浴びせるも、生半可な攻撃はラミネート装甲の前に敢え無く無効化させられる。逆に飛び出してきたスレッジ・ハマーに迎撃され、落とされる事が続いた。
「続けて、ローエングリンの第二射準備! 時間を掛けずに、一気にけりを付けるわよ!」
迎撃のリズムがいい。これが、歴戦のアークエンジェルの熟練度というものだ。そのリズムに合わせるように、ラミアスの声色が上機嫌に上擦る。味方のMSを出していない以上、逆に言えば気にすることなく存分に弾幕を張れる事が好都合に繋がっているのかもしれない。
対して、敵はアークエンジェルの周囲にMSを展開させすぎて戦艦の火力を十分に活かしきれて居ない。MSによる白兵戦、戦艦による艦砲射撃のどちらも中途半端ならば、単艦で当たるアークエンジェルにも勝機は十分にある。
「これなら、何とか切り抜けられそうね――」
ポツリと呟くラミアスは、半ば勝利を確信していた。しかし、その自信が新たに現れた新型敵MSに、脆くも崩される事になろうとは、彼女自身、想像だにしていなかった。
「アンノウンを2機確認! 凄まじいスピードで、こちらに向かっています!」
索敵を兼務しているサイがラミアスに振り返り、叫ぶ。血相を変えたその顔は、明らかに尋常ではない事態を知らせていた。
「機種は?」
「現在照合中――出ません! こちらのデータには無いMSです!」
「チャンドラ、解析を始めて! まずは、どんな武器を持っているかを――それから対策を!」
「了解!」
アークエンジェルの対応が、間に合わない。全員ナチュラルで構成されている彼等に、コーディネイターほどの解析スピードは期待できないのだ。
そのアークエンジェルの努力を嘲笑うかのように、アンノウンの侵入角度とはまるで正反対の方向からの攻撃を受ける。慌ててモニターで確認しようとするも、そこに敵MSに影は無かった。怪訝に思っていると、更に別の角度からの攻撃を受ける。
そちらにもカメラを差し向けるも、やはりMSの影も形も無かった。
「後部甲板被弾! 予測外の方向からの攻撃です! 敵MSの姿は確認されていません!」
「そんなに早い敵が居るって事なの? それとも、レフ板を使った新手の多角射撃型新兵器……?」
手元の艦長用モニターを自分で弄り、先程の映像を代わる代わる切り替えて確認する。そんな時、ふと目に留まった映像があった。
ラミアスが目を細めて食い入るように映像に見入っていると、またも、あらぬ方向からの攻撃を受けた。これで、3回連続で敵の姿をキャッチできていない。いい加減イライラが募りだし、加えて気持ちにも焦りが生じ始めて戦いのリズムも悪くなる。
このまま何度も攻撃を受け続ければ、如何に堅牢なアークエンジェルでも撃沈させられてしまう。
ラミアスは激震する艦体に歯を軋ませ、艦長席から転げ落ちないようにしっかりと体全体で踏ん張った。
「何かしら、これ……?」
映像を止めて、手元の小型モニターに視線を落とす。そこには漆黒の宇宙と煌く星、そして少数のデブリが散在していた。その中に、明らかに動いている物体が、ラミアスの目に留まったのだ。
その物体が何であるかは、詳しくは分からない。ただ、静止画像に残像のように映っているその物体は、正確な大きさこそ分からないが、ともすれば小型砲台のようにも見える。
「無線誘導兵器――まさか、ドラグーン!?」
えもいわれぬ恐怖に、ラミアスの顔色が見る見る青ざめていった。思い起こされるのは、ラウ=ル=クルーゼの操っていたプロヴィデンス。キラのフリーダムを撃破寸前にまで追い詰め、その特徴的な無線誘導兵器、ドラグーンによって多大なる脅威を振り撒いた。
ドラグーンは敵の死角から忍び寄り、暗殺するかのごとく使われる。その存在を察知する事は極めて困難で、特に戦艦のような巨大な物体がその攻撃を捌く事はほぼ不可能である。
そんなものに狙われたのでは、どんなに装甲を厚くしようともいずれは撃沈させられる。
「何て事なの……!」
微かに映っている映像だけでは、確証は持てない。しかし、この攻撃パターンは間違いなくドラグーンに準ずる無線誘導兵器の類だ。このまま、無残に撃沈させられるのを待つしかないのだろうか。
ただ、無防備にやられるのを待っていたのではラミアスは単なる無能者だ。アークエンジェルを預かるものとして、最低限の仕事はしなければならない。キッと唇を結び、正面を見据えた。
「カタパルト・デッキに連絡を。カガリさんを、いつでも出せるように準備させておいて」
「艦長!?」
ラミアスに告げられ、ミリアリアは目を丸くした。彼女も薄々ではあるが、現状を理解している様子だ。
「この状況で、正面を突破するのは難しいわ。だから、ローエングリンを囮に使います」
「囮ったって――」
「ローエングリンの被害を嫌うのなら、敵は必ずローエングリンを狙うわ。そうしたら、後部ハッチからカガリさんを出して頂戴」
「それは……」
ラミアスの決断の意味は、クルーにも伝わっていた。各々がラミアスの顔を見る。悲壮な決意なのは、全員が同じだ。感覚を共有するように、唇を噛み締めた。
ラミアスが、軽く溜息をつく。
「まだ、沈むと決まったわけじゃないわ。今は少し状況が不利なだけ――でも、最悪のケースも考えておかなければいけないのよ。エターナルが逃げ切ってくれれば、カガリさんも回収できる。出来る事は、先にやっておかなくちゃね」
そう言うラミアスだが、ミリアリアは不安な顔をしていた。折角オーブから何とか脱出できたのに、直後にこんな事になるなんて考えもしなかったからだ。他のみんなも、覚悟は出来ているのだろうか。
戦いには慣れているはずのミリアリアでも、女の子の感性が残っている彼女は顔を俯けた。
「こんな事、昨日今日の話じゃないだろ? 俺達は、世界の平和の為に戦っているんだ。そう思って、今出来る事をやろうよ」
「サイ……」
そういう信念を持って、最後まで戦おう――サイの目が、ミリアリアにそう告げる。
サイは、強い人間だ。ミリアリアは2年前の戦争で恋人のトールを失い、とても辛い経験をしてきた。しかし、サイはキラとの確執や、フレイを巡る複雑な関係に晒されながらも最後まで仲間を信じ、励ましてきた。
時には暴走する事もあったが、彼は自分の中で様々な蟠りを処理し、ヘリオポリス組のリーダー格として懸命に戦ってきたのだ。
サイの瞳は、その2年前から何ら変わっていない。ミリアリアは顔を上げてサイの表情を見ると、気を引き締めなおして両頬を手で叩いた。
「――うん!」
ミリアリアがMSデッキに回線を回し、ラミアスからの指示を伝える。サイは再び計器に目を戻すと、仕事を再開した。
見つめるラミアスの瞳は暖かい。
それから、何度目かになる攻撃を受ける。ラミアスは指示を出し、捕捉不可能な無線誘導兵器には構わないように激を飛ばした。周囲には相変わらずウインダムなどのMS隊が展開されているが、そちらの対応を最優先させる。
見えない敵を相手にしているよりも、見える敵に確実に対応する。この状況では、それが最もベストな対応だと、ラミアスは判断した。
「ローエングリンの発射準備は?」
「可能です。タイミングを知らせてください」
「早ければ早いほうがいいわ。アークエンジェルが十分に機能している今の内に、やって頂戴」
アークエンジェルの前足部分から、ローエングリンの砲塔が浮かび上がってくる。当然、それを警戒した敵MS部隊は、殺到するようにアークエンジェルの正面に廻ってきた。撃たれる前に、ローエングリンを破壊してしまおうと考えるのは、ラミアスの読みどおり。
しかし、そんな中でアンノウンだけは違う動きを見せた。紫の戦闘機型に掴まり、そのままマニピュレーターを放して勢いのままアークエンジェルに突っ込んでくる白亜の巨体。
「何なの!? 迎撃!」
ラミアスの指示で弾幕が注がれるも、その白亜のMSはものともせずに真っ直ぐブリッジ目掛けて突撃を続ける。巨体が慣性モーメントに振られ、不安定に見えるのに、紙一重の動きでやってくる様は、出来の悪いコンピューター・ゲームを見ている様な錯覚に陥った。
白亜のMS――タイタニアは、遂にアークエンジェル・ブリッジの正面にまで接近すると、デュアル・ビームガンを構えた。恐怖に顔が引き攣るラミアス。これでは、カガリの脱出も出来なくなってしまう。
シロッコが、そのアークエンジェルの恐怖を感じ取ったように嘲笑を浮かべた。
「終わりだな」
呟き、ビームライフルのトリガーに指を添えるシロッコ。その時、一筋のビームが、タイタニアを襲った。
「何ッ!?」
シロッコの思惟の中に貫く波動。思わず身を仰け反らせ、タイタニアも釣られて後退した。
アークエンジェルの弾幕をかわしながら、バックで後退するタイタニア。シロッコが感覚の方向に視線を向けると、そこから宇宙の黒に紛れた何かが向かってきた。目を凝らして良く見ていると、続けてメガ粒子砲の光が瞬いた。
「ムッ!」
自分の思惟とシンクロするような、極めて正確な射撃だ。明らかに、普通の人間のやってくる事ではない。ニュータイプ特有の、相手の思考を読む攻撃。
「良い攻撃だ。ニュータイプだな?」
正体は、分かっている。シロッコは反撃とばかりにデュアル・ビームガンを連射した。
上下左右に機体を振り、タイタニアの攻撃を避ける戦闘機――ウェイブライダー形態のΖガンダム。MS形態に変形すると、ビームライフルを構えてタイタニアに速射した。そして接近した後、左のマニピュレーターにビームサーベルを握らせ、逆袈裟に切りつける。
タイアニアも空いている方のマニピュレーターにビームソードを握らせて、Ζガンダムの攻撃に対応した。
「シロッコ!」
『子供が! 目障りだ!』
タイタニアの肩アーマーから、隠し腕が伸びる。Ζガンダムの頭部を掴むと、力任せに振り回して投げ飛ばした。
「カミーユ!」
投げ飛ばされたΖガンダムに、今度はサラのメッサーラが襲い掛かる。突撃からメガ粒子砲を連射し、横へスライドするように機動して動きを封じる。
「サラ! 君は、まだシロッコのところで――」
『カミーユに私の気持ちを分かってもらおうなんて、考えないわ!』
「カツの気持ちは、知っているだろう!」
『それは貴方の勝手な感傷よ!』
メッサーラが変形を解き、グレネード弾で掃射した後、ビームサーベルで接近戦を挑んできた。抜刀から繰り出される水平切りに、シールドで対応するΖガンダム。メッサーラは手頃な大きさのデブリにΖガンダムを押し付け、力と力の拮抗を見せる。
メッサーラがΖガンダムを押さえ込んだ事を見たシロッコは、サラに告げる。
「よし、サラはそのままΖを押さえ込んでおけ。これで――」
アークエンジェル撃沈の為に動き出そうとした時、シロッコを意外な出来事が襲った。味方のMS隊にアークエンジェル包囲の命令を下そうとした時、急に隊の一部が圧倒的な火線に焼かれていったのである。
まるで、中隊規模の砲撃に晒されたように、次々と爆散していくMS達。タイタニアにもその砲撃は注がれたが、シロッコはデブリを隠れ蓑にしてその攻撃をやり過ごすと、躍り出て敵の姿を確認した。
「一機だと?」
流石のシロッコも、その事実には多少の驚きを表情に出した。敵MS隊の増援と思ったシロッコが見たのは、何とたった一機のMSだったのである。そのMSは、タイタニアを睨みつけると、凄まじい速度で接近してきた。
迎え撃つタイタニアは、そのMSに向かってデュアル・ビームガンを撃ち放つも、全てかわされ、ビームサーベルを振り上げられた。
「チィッ!」
両肩の隠し腕でビームソードをペケの字に交差させてビームサーベル防ぐ。そして、左腕に持っているビームソードを、MSの腹部に突き刺そうと突き出した。しかし、MSは即座に反応して宙返りすると、腰部のレールガンで反撃を撃ってくる。
タイタニアはそれをステップするようにスライドしてかわすと、MSは続けざまに接近戦を仕掛けてきた。
「何者だ、ガンダム・タイプ?」
自分と対等に渡り合えるパイロットが、敵に居ただろうか。シロッコは考えを巡らせるが、答が導き出せない。MSはスパッと両手にビームサーベルを引き抜くと、踊るように飛び掛ってきた。
2回、3回と切り結び、干渉する剣撃。タイタニアも2本のサブ・マニピュレーターと左腕のビームソードで対抗する。
『僕はもう、あなたの好きにはさせません!』
「何?」
接触回線から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。そういえば、目の前のガンダム・タイプにも、見覚えがある。決して眼中に無かったわけではないが、シロッコはそれが脅威になるとは思っていなかった。
「貴様、あの時の――」
『月での時と同じ様に行くとは思わないでください。僕は、もうあなたに負けるわけには行かないんだ!』
「フリーダムのパイロット――確か、キラ=ヤマトとか言ったな?」
そのMS――ストライク・フリーダムのコックピットで、キラはタイタニアにシロッコが乗っていることを見抜いていた。タイタニアのジ・Oに似たシルエット、そして隠し腕と圧倒的なパイロット・センスを見せるその動き。
月面で屈辱を味わわされたパプテマス=シロッコ以外の何物でもない。接触回線でシロッコの声を聞き、温厚なキラの闘争心に火が点く。
「あなたがラクスやカガリを殺すつもりなら、僕はあなたを倒します!」
『フンッ、子供に、何が出来る!』
タイタニアの太い脚が、華奢なストライク・フリーダムの脇腹にクリーン・ヒットする。機体を横にくの字に折り曲げられ、ショルダー・タックルで突き飛ばされた。
「クッ!」
『貴様に、これはかわせまい!』
タイタニアの肩部から、十数基のファンネルが飛び出してきた。ファンネルは2、3基の纏まりを形成すると、体勢を取り直しているストライク・フリーダムを包囲して、一斉にビームを浴びせ始めた。
「こ、これは、ドラグーン!」
キラが考えるよりも、遥かに精度の高い射撃。細かい網の目のようなプロヴィデンスのドラグーンとは違い、火砲の数こそ少ないが、まるでこちらの動きを読まれているかの様に狙い撃ちをされる。
キラは全身の感覚神経を尖らせ、高速機動の恩恵とビームシールドで何とか防いでいるが、反撃でファンネルを狙い撃ちしようにもまるで破壊する事が出来ない。ドラグーンよりも小型な上、意志を持っているように動いているからだ。
そんなキラの苦戦に、メッサーラに押さえ込まれているカミーユが気付く。
「あれはキュベレイの――」
メッサーラを蹴り上げ、ビームライフルで脚部を撃ち抜く。爆発の衝撃で機体が流され、サラは慌てた。
『うっ! 待ちなさい、カミーユ=ビダン!』
「サラはシロッコから離れろ! カツなら、君を迎えてくれる!」
『カミーユには関係ないって言ってるでしょ!』
「なら、君も僕に構うな!」
メッサーラを退かせ、少しバーニア・スラスターを吹かし、振り返ってビームライフルで牽制を放つ。メッサーラが回避に手間取り、デブリの影に身を隠したのを見ると、即座にビームライフルのエネルギー・カートリッジを交換し、ストライク・フリーダムへ急行した。
メッサーラを撃墜しなかったのは、カミーユのサラに対する思いやりだろうか。脇目も振らず去っていくΖガンダムを睨みつけ、サラも追い縋る。
「カミーユは私を相手にしなかった――あくまでパプテマス様を敵視しているのよ、サラ!」
自らに納得させるように一人呟くサラ。ヘルメットの上から手を添え、感覚でカミーユの目論見を看破する。
黒いΖガンダムなんて――ティターンズ・カラーにも見えるそれは、彼なりの皮肉だろうか。カミーユ本人は嫌っているそのカラーリングも、サラには小癪に見えていた。愛機に敵方の塗装を施すのは、ティターンズに所属し続けていた自分への当てつけに決まっている。
ウェイブライダー形態で急行し、変形を解く。タイタニアがΖガンダムの接近に気付き、仕掛けてきた。シロッコは、カミーユを相手にし、ファンネルでストライク・フリーダムの動きをも完全に封じている。
キラが超反応でファンネルの攻撃を避け、一団に向かってフル・バースト・アタックを放ったが、それは虚空を切り裂くのみであった。
タイタニアは、一機でカミーユとキラの2人を同時に相手にしている。それは、稀代のニュータイプ能力者と、驚異的潜在能力を持ったコーディネイターを手玉に取っているということである。正に天才と呼ぶに相応しいシロッコのセンスは、留まる所を知らないのだろうか。
「このままじゃ、どちらも動けない! ――なら、ビーム・コンフューズ!」
サーベル・ラックからビームサーベルを取り出し、回転を加えて放り投げる。ビーム・ブーメランの様に投げ出されたビームサーベルに、カミーユはビームライフルの砲撃を撃ち加えた。
ビームライフルのメガ粒子砲と、ビームサーベルのビーム刃が干渉し、カマイタチの如き衝撃波となってファンネルを無差別に駆逐する。
「何ッ!? ――やるな!」
流石に無差別に放たれるビーム・コンフューズの衝撃波の全てを、シロッコは把握しきれない。堪らず生き残ったファンネルを自機に呼び戻した。
ビットを狙い撃つという神業は、ある意味ではニュータイプの特権だ。相手の思考を垣間見られるニュータイプ能力者だからこそ、思念を乗せて動かすビットの動きを読むことが出来る。
シロッコも、ハマーンのキュベレイのファンネルをビームライフルで狙い落とした経験があった。
しかし、今のカミーユの攻撃はニュータイプ特有の神業的な射撃ではなく、寧ろ発想力の問題だ。あれだけの数のビット兵器を一度に攻撃できる手段を編み出したのは、恐らくはカミーユだけだろう。シロッコも、思わず賞賛の言葉を口走ってしまった。
カミーユの援護で、何とかファンネル攻撃から逃げ出せたキラ。急いでカミーユと合流し、タイタニアに牽制のカリドゥスを放って間合いを開けた。
『すまない、カミーユ!』
「シロッコのビットは危険だ! 何とか敵の艦隊を押さえ込みたいところだけど――」
『ドラグーンはオーブに捨ててきちゃったし、ミーティアがあれば――』
背中合わせになって周囲を警戒する2人。追いかけてきたメッサーラの砲撃を散開してかわし、反撃で追い払う。チラリと見やったアークエンジェルは、相も変わらずに敵からの攻撃に晒され続けていた。
ローエングリンは2人の到着と同時に収納し、戦局の行方が分からなくなると、当初予定していたカガリ脱出は一時保留になったようである。
戦力が、微妙に足りない。シロッコさえ居なくなればこの急場を凌げるのだが、それが難しいとなれば敵艦隊への直接的ダメージが欲しいところだ。母艦を危機に晒されて、慌てない兵士は居ないはず。
しかし、それをするにしても、現行の兵力ではタイタニアを撃退するよりも遠回りになってしまうだろう。
ただでさえ、オーブの激戦からの連戦。核融合炉とはいえ、搭載されている燃料もそろそろ心許なくなってきた。キラは、それを打開する為の究極的装備、ミーティアを欲している。
その時、大西洋連邦艦の側面を突く砲撃が光った。ガーティ・ルーと大西洋連邦艦は射線方向に反撃を撃ちながら後退するも、砲撃はしつこく追いかけてくる。
カミーユが、エターナルの存在を感知した。
『エターナル……!』
「えっ?」
アークエンジェル、エターナル、だとすれば、あれがある――即座にキラの思考が回転を始めた。
「ミーティアが使える!」
『ミーティア?』
「頼む、少しだけ時間を稼いでくれ! 僕は、エターナルに行ってミーティアを受け取ってくる!」
『お、おいッ!?』
理解できないカミーユは、呆気に取られた。急いでいるのは分かるが、キラは事情も説明せずにカミーユを置き去りにし、エターナルへと駆けて行ってしまった。
「ミーティアって、何なんだ……?」
ストライク・フリーダムは、まだ全てではない。それを知らないカミーユは、唯呆然と後ろ姿を眺めるだけだ。有無を言わさず行ってしまったキラに、文句の一つも言えなかった。
「うおッ!?」
浴びせられたビームに、カミーユは身を強張らせてかわす。飛び跳ねるように反応したΖガンダムが、デブリを蹴って砲撃の雨の中を駆け抜けた。
『仲間に見捨てられたようね、カミーユ!』
サラの嘲笑が聞こえてくる。馬鹿なことを言うんじゃない。キラは、この難局を切り抜けるための秘策を手にするために離脱して行ったのだ。サラなんかに分かる事ではない――言いたい事はいくらでもあるが、それを口にする気は無い。
いや、寧ろ口にしている場合ではない。カミーユを狙うはシロッコ、そしてサラなのだ。おしゃべりに現を抜かして撃墜されれば、唯の笑いものだ。言い返して酷い目に遭うのは、ウォン=リー然り、エマ然り、ブライト然りとお腹一杯だ。
修正を受けるだけなら構わないが、命を懸ける戦場で隙は見せられない。カミーユはデブリの影を利用しながら、襲い来る砲撃の中をひたすら逃げ続けた。
支援
シロッコ艦隊の側面から、手薄になったエターナルからの砲撃が突き刺さる。ヒルダ達を納得させる為に放っておいたエターナルだが、攻撃をされては堪ったものではない。逃げないのなら、迎撃しないわけには行かないのがガーティ・ルーの艦長だ。
シロッコの命令はエターナルを逃がす事だが、攻撃を中止して付け上がらせてしまったのなら話は別だ。追い払うように、適当に反撃の指示を出した。
しかし、エターナルは並みの戦艦の機動力ではない。フリーダムとジャスティスの専用母艦だけあって、思った以上に動きが素早い。バレル・ロールし、艦両側面に設置されている砲門から多数のビームが放たれた。
バルトフェルドは身を乗り出し、顎に手を当ててシロッコ艦隊の出方に目を細めていた。
「この抵抗の仕方――敵にこちらを落とす気は無いと見たな」
「艦長!」
「何だ?」
側面を突いた以上、艦隊戦に於ける勝機はこちらにあると見るバルトフェルド。そんな時、アビーがエターナルに接近するMSの機影をキャッチした。
「フリーダムが接近中です。ミーティアを要求しています」
インカムを手で押さえ、振り向き加減で報告するアビー。バルトフェルドが艦橋窓に視線を送ると、青白い羽を背負ったMSが接近してきた。
「キラか! ――よくも合流してくれた」
ストライク・フリーダムは余程急いでいたのか、猛スピードでエターナルに突っ込んでくると、ブリッジの目の前で急制動を掛け、その時のバーニアの衝撃で少し艦体が揺れた。そして、慌てたように少し乱暴な手つきでマニピュレーターを接触させてくる。
『急ぎです! ミーティアを僕に下さい!』
「出来るか?」
『敵艦隊はエターナルの動きに対して緩慢になっています。ミーティアで奇襲を掛けて、どちらか一方でも沈めることが出来れば――』
「成る程、賭けてみる価値はあるな。…よし、ミーティア・リフトオフ!」
ストライク・フリーダムがエターナルのブリッジからマニピュレーターを離すと、艦側面に設置されていたビーム砲台が切り離された。その中心に機体を移動させ、収まるとアタッチメントがストライク・フリーダムの腹部を両側面から固定する。
ビームライフルをラックに収め、巨大な砲塔のような長物を握り締める。
ストライク・フリーダムの機体制御が、ミーティア専用に切り替わる。ミーティアを装備したストライク・フリーダムは、従来の性格とは豹変する。機体はMSからMAに変化し、機動性もそれに準じたものに変わる。
大推力と大火力――それは、戦略級に限りなく近い。ヤキン戦役に於いて、たった一機で戦局を動かしたミーティアは、最早伝説となって語られる存在になっていた。
ミーティアとの接続を確認すると、キラは一つ深呼吸した。
「エターナル、援護をお願いします!」
そう告げると、キラはブースト・レバーを力強く押し込んだ。ミーティアが、まるでカタパルトから飛び出したかのように加速を始める。その加速力は、大推力を誇ったメッサーラの比ではない。例え核融合炉搭載型のMAでも、その加速力に追い縋る事など出来ないだろう。
その加速のGにすら耐えられるキラ。レバーのグリップをしっかりと握り締め、シートに背中を押し付けるように身体を固定し、正面を睨む。視線の先には、ガーティ・ルーを庇うように大西洋連邦艦が虚空に浮かんでいる。
後方から、砲撃が通り抜けていった。エターナルからの援護射撃だ。回頭途中の大西洋連邦艦を牽制する。キラは焦燥する大西洋連邦艦の呼吸を感じ取ったのか、ミーティアを艦の上方に向けた。同時に、キラの正面にマルチ・ロックのレーダーがせり出てくる。
それと連動して、指が踊るようにキー・ボードを叩き、大西洋連邦艦のエンジン・ブロックやブリッジの情報が次々と入力されていく。
銀色のMAが、大きな楕円を描いて矛先を大西洋連邦艦に差し向けた。そして、遂に正面に艦影を捉えたとき、キラの指がトリガー・スイッチを握り締めるように押し込んだ。
「いっけえええぇぇぇぇッ!」
動く目標に対しても、正確に致命傷を撃ち貫くキラの技量。戦艦のような動きの鈍い対象など、彼にとっては狙うまでも無い目標なのかもしれない。ミーティアから放たれるビーム、そしてミサイルの大群は、ミーティアの何倍もの大きさを誇る戦艦目掛けて襲い掛かった。
唯でさえ早いミーティアの動きを、大西洋連邦艦のクルーが捕捉出来るわけがない。加えて、エターナルからの攻撃も受けているとなれば、尚更。キラの攻撃に気付く間もなく、大西洋連邦艦は絶望的な火線の餌食となり、やがて爆散を開始した。
最初にエンジン・ブロックが大きな炎を上げる。その時、すでにブリッジはビームに貫かれ、指揮系統は死んでいた。続いて、エンジン・ブロックの炎が燃料系に飛び火し、更に爆発の規模が拡がる。
「何だと!?」
「上方からMS――いえ、MAです!」
横でビームとミサイルの雨を浴び、轟沈する同胞艦。ガーティ・ルーの艦長は恐れ戦き、目を丸くした。
大西洋連邦艦の轟沈は、その戦域の中で、とりわけ美しく咲いた。派手に飛び散る様は、まるで宇宙に弾けた花火のよう。誰もが一瞬にして起こった事に我が目を疑い、当然にシロッコも事実に驚いていた。
「3番艦が沈んだ――まずい、ガーティ・ルーまでやらせるわけにはいかん!」
油断をしすぎたのかもしれない。シロッコは、よもやここまでの損失を被るとは思っていなかった。ある意味、彼の傲慢が実力に裏づけされている事が悪かった。アークエンジェルの力も、エターナルの存在も、勿論カミーユの接近にも対応すべき事は分かっていた。
しかし、彼の誤算はキラの存在。シロッコの頭の中に、ヤキン戦役のキラの名はその存在感を示していなかった。何故なら、月面で交戦したとき、フリーダムとキラに手応えを感じなかったからだ。その時感じた印象は、この世界の技術とパイロットのレベルの低さ。
最強と謳われていたキラの実力を知り、シロッコは驕ったのだ。その驕りは、珍しくシロッコの目を曇らせ、目測を誤らせた。その報いを、今受けているのかもしれない。
Ζガンダムの砲撃をかわし、タイタニアは飛翔した。シロッコは精神を集中し、敵意を探る。大西洋連邦艦をやったのなら、その辺りに潜んでいるはずだ。果たして、シロッコのアンテナがキラの闘争心を鷲掴みにした。
ぞくりとする悪寒を、キラは感じた。今まで感じたことの無い、シロッコの怒りのプレッシャー。それまでキラを甘く見ていたシロッコが、今の行為によって遂に本気になったのだ。まるで、金縛りに遭ったかのような寒気に、キラの腕が僅かに震えた。
「――来る!」
カッと見開いたキラの視界の中に、ファンネルが飛び交う。取り囲むようにして襲い掛かってきたファンネルを、キラはミーティアの機動力を乱暴に活かし、振り切ろうとする。
ガーティ・ルーさえ沈めれば――タイタニアとて、母艦を失えばただのMS。シロッコがいくら強力なパイロットでも、こんな何も無い宙域で母艦を失ったとなれば、一貫の終わりだ。だから、タイタニアに追いつかれる前にガーティ・ルーを落とす。
「クッ! この嫌な感じは――」
シロッコに標的にされたキラは、そのプレッシャーから逃げられない。どんなに速く逃げても、タイタニアから発せられているオーラの類といったモノは、まるで絡みついた蜘蛛の糸のように引き千切れない。
後ろ髪を引っ張られる感覚にキラが抵抗していると、ありえない方向からのビームが襲ってきた。
「うわッ……!?」
身の危険を感じる。本能が体を突き動かし、半ば反射的にミーティアから離脱した。標的にされたミーティアは、あたかも獲物に群がるピラニアに喰われる様にしてファンネルの餌食となってしまった。そして、振り返るストライク・フリーダムの前に、タイタニアが迫る。
急いでウェポン・ラックからビームライフルを取り出し、連結して構える。キャノン砲と化したその砲身から、巨大なエネルギーの奔流が放たれた。
キラでなければ、このタイミングで即座に攻撃に移れなかっただろう。普通の人間よりも脳からの伝達速度の速いキラだからこそ、動けた。
しかし、そんなキラの攻撃を、タイタニアはまるで知っていたかのようにかわし、サブ・マニピュレーターでストライク・フリーダムの両肩を捕まえる。
キラの正面に映されているモニターに、タイタニアの尖塔のような奇妙な形をした頭部が見える。そのモノアイが、光を放った。
『貴様に、これ以上はやらせんよ』
「なら、黙って帰ってくださいよ!」
プレッシャーに負けてはならない――キラは臆病を気持ちの奥にグッと押し込み、反論する。そして、間髪居れずに腰のクスィフィアスがタイタニアの胴体を捕捉した。
月面でも、似たような状況になったことがある。あの時は隠し腕の存在に気付かず、逆に追い詰められた。しかし、今は違う。タイタニアの隠し腕は肩を掴んでおり、今度こそどてっぱらに一撃を叩き込む。
その気合が空回りしたのは、キラにとっては余りにも当然だったのかもしれない。勝利を確信する心がある反面、疑う心を彼は持っていた。勝敗が着く前に勝手に勝利を確信する事は、余りにも軽率だという事をシロッコから教わったからだ。
案の定、タイタニアが視界から消えた。サブ・マニピュレーターでストライク・フリーダムの肩を掴んだまま、その上に倒立するように翻ったのだ。空しく軌跡を描くのはニアミスで発射されたクスィフィアスのレール・ガン。
即座に上方を仰ぎ見るキラの瞳の中に、タイタニアのコックピットに座るシロッコの姿が垣間見えた気がした。
(あれが、敵――!)
おぼろげに霞む男の影。揺らめく青紫の長髪に、透き通る白い肌の色。白亜のタイタニアのイメージそのままの男の姿が、幻のように見える。
激しい敵意を向けている証だ。そうでなければ、カミーユのようなニュータイプではない自分に敵の姿が見えるはずも無い。シロッコは、カミーユと同じニュータイプ。それも、相当の力を持った猛者だ。意識を飲み込まれそうな感覚は、支配を強要しているように感じられる。
悪意が、キラの共感を呼ぶ。その悪魔の声に応えては駄目だと、理性が必死に励ましていた。
《甘く見すぎていたようだな》
脳に響く声。カミーユの声が聞こえた時と、同じだ。甘い、それでいて誠実そうな男の声で、呼びかけてくる。いけない、これは悪魔の誘いだ。応えてはいけない。
《君と私は、ある意味では近い存在かも知れん》
近い存在? ――考えてはいけない。応えればそれで最後、悪魔の甘い罠の中に自ら飛び込むことになる。声を振り払うかのように、頭を振る。
《世界は、天才の手によって動いている。個人個人が勝手な構想で動くからこそ、それを排除し、統率していく指導者が必要になるのだ。君は、指導者側に廻るべき人間だった》
世界を、独裁によって導くというのだろうか。そんな世界に、一体何の意味がある。人一人の意見すら淘汰する世界に、笑顔などあるものか。自分は、そんな笑みの絶えた世界など、望んでいない。
《足を引っ張る事しか知らん愚民を、正しき目によって導けなければ、ジョージ=グレンを失ったこの世界は退廃の一途を辿るのみだ。世界を導く天才すら殺す愚か者どもは、自らの犯した過ちに気付いていない。
だからこそ、それを統べる為の新たな天才が、今必要とされているのだよ》
……もう、たくさんだ。天才だ何だと言ったところで、人間は決して完璧な存在になどなれない。完璧と称されて生まれてきたコーディネイター、そんな自分に待っていたのは、深い羨望の中に混じった憎悪だった。
ナチュラルの仲間の中に居て、一人コーディネイターだという事で疎外感を感じたこともある。クローンとして生まれてきたある男は、不完全さゆえに自分を激しい憎しみの中に引きずり込もうとした。そんなものに晒されて、何が天才なものか。
自分は、天才ではない。普通に傷つき、悩み、挫折し、そして仲間に支えられて何度も立ち上がれた。それは、一人一人が感情を持って接してくれたからだ。シロッコの言うような世界になってしまえば、人は同じ方向しか向かなくなってしまう。
躓いて倒れこむ人を、見なくなってしまう。そんな世界が、本当に正しい世界な筈がない。夢は、一人一人が自由に思い描いてこそ価値のある代物だ。その自由は、絶対に譲れない――
「あなたの自由になど、させるものかッ!」
気付いたら、キラは叫んでいた。時間が突然動き出したかのように、翻るタイタニアがバーニアを吹かして間合いを取る。
今の時間は、一体なんだったのだろうか。まるで、時間を切り取ったかのような感覚だった。ふと我に返ればシロッコの幻は消え、声も聞こえなくなっていた。あの不思議な時間は、現実時間にしてほんの一瞬の出来事だったようにしか思えない。
「今…のは……?」
眼前には、暗い宇宙の中にタイタニアが佇んでいた。呆然とするキラは、しかし直ぐに攻撃を仕掛けた。距離を離していたのでは、ファンネルの餌食になってしまうからだ。
そんなストライク・フリーダムの突撃にも、タイタニアは誘うようにビームサーベルを受け止めた。
『貴様の本当の両親は、ヒビキ夫妻と言うのだろう?』
「僕は、そんな人の事なんか知らない!」
『そうかい? ――貴様は不幸だ。選ばれた天才であったはずの貴様が、俗物どもの間に交わり、そして自らも俗物へと貶めた。それは、世界を不幸へと導く事になる』
「あなたの言う世界の方が、よっぽど不幸だ! 僕は、平等で自由な世界になればいいと思っているだけだ! 独裁で自由を奪って人の感情を殺すなんて――!」
『解せんな?』
タイタニアのサブ・マニピュレーターがダブル・パンチを繰り出し、突き飛ばされる。追い討ちのデュアル・ビームガンをビームシールドで防ぎ、襲い来るファンネルの砲撃の中を必死に機動して逃れた。
両のマニピュレーターに握らせた2丁のビームライフルを、散発する。そして連結した後、タイタニアに照準を合わせた。
「エイミング! …駄目だ、動きに無駄が無い!」
どれだけ砲撃を加えても、タイタニアはバランスを崩す事が無い。全身にくまなく設置されたアポジ・モーターは、重量級の機体を寸分のブレも無く体重移動させ、そして速い。キラほどの技量を以ってしても、正確な照準を合わせてもらえないのだ。
しかも、エスパーのような勘を持つニュータイプならば、まぐれ当たりも殆ど期待できない。諦め、キラは連結を解除し、牽制を繰り返すしかなかった。
僚艦を2隻も沈められたシロッコ艦隊も、しかしガーティ・ルーは単独でアークエンジェルとエターナルからの攻撃に耐えていた。艦隊司令であるシロッコが自らMSに乗って戦場に躍り出ているのは、ガーティ・ルーの艦長の優秀さを知っているからだ。
エターナル、アークエンジェルの双方の内、厄介なのは強力な火器を装備しているアークエンジェル。MS隊にその動きを牽制させ、エターナルからの攻撃を受け流す。そして、最後はシロッコが何とかしてくれるだろうと艦長は信じていた。
こちら側から仕掛けておいて、情けない――しかし、ジブリールが予想していたよりも遥かに厄介な戦力が、エターナルにもアークエンジェルにもあった。最も脅威だったのが、遅れて戦場に到達したストライク・フリーダムの存在である。
フリーダムの伝説は、2年前からまことしやかに囁かれていた。しかし、地上からの最新の情報では、Ζガンダムとストライク・フリーダムはオーブに残留する事が、ほぼ決定項として伝えられていたのだ。
全ての艦船の打上が終わった後で、よもや宇宙に上がっていたなどと考えられるわけが無い。完全なる予想の裏を掛かれた事になる。艦長の指揮棒を握る手が、汗で湿気を帯びていた。
「増援は見込めないのか?」
「駄目です。現在、分遣艦隊がそれぞれオーブからの打上げ艦隊を追撃中ですが、どこもミノフスキー粒子の干渉のせいで位置が特定できません」
「うむ……パプテマス司令はどうなさるおつもりなのだ? エターナルを見逃せとおっしゃるが――」
「艦長!」
悲鳴を上げるオペレーターが一人。顔を差し向けると、信じられないものを見たといった表情で振り向いていた。
「どうした?」
「接近する新たな艦影をキャッチしました! しかし、この大きさは――」
「何だ?」
艦長は席を立ち、オペレーターの席まで移動した。そしてオペレーターの顔色を一度確認してから、肩越しにレーダーを覗き込んだ。
「こ、これは――」
艦長の顔が、凍りついた。そこに映っていたのは、通常の艦船とは比べ物にならない規模の巨大戦艦の影。
同時に、戦場に多数の火線が入り乱れた。砲撃の矛先は、ガーティ・ルー及び、アークエンジェルに纏わり付くMS部隊。明らかに、連合の勢力に敵対する組織のものだった。
バルトフェルドも、突然の出来事に思わず艦長席を立った。砲撃の数は、並ではない。ガーティ・ルーは流石に落ちる気配は無いが、アークエンジェルに纏わり付くMS隊は、まるで蜘蛛の子を散らすように離脱して行った。
「アビー!」
「確認できました。ゴンドワナです」
「ゴンドワナ――イザーク=ジュールのボルテークか?」
ザフトが誇る、超巨大宇宙戦艦。戦力は通常の艦船の遥か上を行き、その巨大な威容も相俟ってプラント守備隊の旗印的な超弩級戦艦として恐れられている。連合軍がプラント本国に中々攻め込めなかったのも、一つにこのボルテークが鉄壁を敷いていたからだ。
その大戦力が、エターナルとアークエンジェルを迎えに来た。連合にとっては寝耳に水な出来事で、反面、バルトフェルド達にとっては余りにも意外だった。国防委員会が出撃を容認したのだろうが、それを動かしたのはデュランダルしか居ないはずだ。
プラント本国の防御を薄くしてまでボルテークを動かし、カガリとラクスの迎えに寄越した行動は、彼の性格を考えれば驚嘆に値する。バルトフェルドのデュランダルに対する評価は、それ程高くないからであった。
「議長は、本気なのか……?」
「プラント守備隊隊長、イザーク=ジュールより入電。貴艦を援護する、とのことです」
振り向き加減のアビーが、バルトフェルドに意見を求めてくる。デュランダルの真意が未だに量りかねているバルトフェルドは、少しの間呆然とボルテークの影を見詰めていた。そこへ、急かすアビーの咳払いが入って、ふと我に返る。
「あ、あぁ――援護に感謝すると伝えておいてくれ」
少し戸惑い気味に、バルトフェルドは短くそう告げると、ゆっくりと腰を降ろした。
“砂漠の虎”も、2年間の隠棲生活の中で随分と目が曇ったものである。知らない人間を疑うのはある意味では正解だが、知らない事が問題だったのだ。デュランダルは、思っているよりも悪い人間ではない。そう思わせてくれる、ボルテークの援護だった。
ボルテークの出現――それは、完全なる劣勢に立たされた事実である事をシロッコに認識させるのに十分だった。いくらタイタニアが優れたMSであっても、ボルテークから大量に飛び出してくるMSを相手にしていたのでは肉体的にも精神的にも不利だ。
この巡り合わせを、どう考えるか――ストライク・フリーダムを相手にしながら考えるのは、その事だった。シロッコは所謂運命のようなものの存在を信じている。曰く、“刻の運”という事なのだが、それに逆らっても良い結果は出せないというのだ。
時流にはその時々の事情があって、それを味方につけなければ勝てる戦も勝てないという事である。そういった理由から、シロッコが撤退の結論を導き出すのに、時間は掛からなかった。
「これだけの不利な条件を突きつけられれば、ジブリールの命令に従う事など出来んな。オーブの制圧とアスハの抹殺を一緒くたにするというジブリールの案は、時期尚早だった様だ」
『何!?』
ストライク・フリーダムの砲撃をひらりとかわし、シロッコはタイタニアを後退させた。
「覚えておくのだな、キラ=ヤマト。貴様は、本質的には私に近い存在である事を」
『まだそんな事を――僕はあなたとは違う!』
「子供の我侭で喚いていていいのは、世界が安定しているときだけだ。その事を、良く考えてみる事だ、少年」
タイタニアは追い縋るストライク・フリーダムをデュアル・ビームガンで牽制し、マニピュレーターの関節を折り曲げて信号弾を打上げた。鮮やかに炸裂する信号弾は数珠繋ぎのように何発も炸裂し、味方戦力に命令を伝達する。
そして撤退ルート上に点在するボルテークからのMS部隊を駆逐する為にタイタニアは動き、続けてサラのメッサーラも合流した。命令を受け取ったMS隊はガーティ・ルーを取り囲むように布陣し、戦艦の火力を合わせてありったけの砲撃を撃ち放ったまま、撤退していった。
艦長席に深く腰掛け、ようやく解放された緊張感からバルトフェルドは飲み物のストローに口を付けた。環境のまるで違う地上と宇宙での連戦に、流石に歴戦の勇士である彼も多大なる神経をすり減らした。
そのバルトフェルドの後ろで、微かに、しかし深い溜息をする人間が居た事に、彼は気付いていた。
さて、どうしたものか――敵の第二波が入る前に、この宙域からは早々に立ち去りたい。ヒルダ達を心配していた彼女は、果たして先程のように首を縦に振ってくれるだろうか。出来れば、早くプラントで彼女を落ち着けたいというのが、バルトフェルドの本音だった。
カミーユVSシロッコと見せかけて実際はキラVSシロッコになってしまった今回は以上です。
最近回線の状態が芳しくなくて前回宣言してたよりも遅くなってしまいました。
次回は調子のいいときに投下ということにしたいと思います。
平にご容赦をばorz
>>176−179
大尉、酸素欠乏症にかかって……キシリア閣下は24歳ですぜ。
あっ、でも大尉にとっちゃババァですよねーw
GJ
今回の戦いは特に見ごたえありました
次回も楽しみにしています
乙&GJ
ますますシロッコが好きになりました。
207 :
通常の名無しさんの3倍:2008/04/03(木) 02:31:11 ID:GlQa7hiq
>>その気になれば何とでも出来る――驕った天才が口にするような傲慢を聞いた気がした
本編のキラのことですね! よく分かります! 確かにキラとシロッコは本質的に似てる…か?
女(ラクス)が世界を導きべきだと考えてたり、傲慢で人の話聞かなかったり。
シロッコにはキラにはない信念と展望、ねっとりとした精神と、うさんくさいオーラがあるぞw
木星行く前のシロッコがキラみたいだったかも、というのならわからんでもないけど。
ともあれ本当に流れが悪かったな、シロッコ。なんやニュータイプっぽいキラは彼に反発して、本編より人としてまともな方向へいけるのか
そしてアスランやシンの出番はあるのかw
GJ!
シロッコハッスルし過ぎたなw
キラやサイがかっこいいよ、本当に。
>>208 確かにw今はキラサイドの話だからシンたちの影が見えんw
本作含む改変ものの中でも更生したきれいなキラならいざ知らず、
TV本編もしくはラスボス度を更にこじらせたSSでのキラだったら
シロッコと悪魔同士の抗争か、それどころかひょっとしたら意気投合という
人類最大の悪夢な展開もありうるのだろうか……
どっちみち上に立つのはラクスなんだから、種世界的には変わりあるまいw
シロッコがラクスの超展開な理論っぽいものに
ダメだこいつ早く何とかしないと。と思って粛清に走る展開しか思いつかないんだがw
保
井沢
保守
mo
保守
人いねーな
また落ちるぞ
守
保
君は保守の涙を見る
遊びで保守してるんじゃないんだよ!
サラ「パプティマス様・・・!」
つ保守
落ちると思うな、小僧!!
保守で悪いか!
『プラントへの道のり』
宇宙空間の無重力帯は、いつ感じても不思議な心地にさせてくれる。一度床を蹴れば、何かにしがみ付かない限り慣性モーメントで止め処なく流されていってしまうのは、地球の重力に慣れ親しんだ従来の物理法則で考える頭ではおおよそ想像し難い事だ。
流れに身を任せるしかないのは、謂わば何をしようとも無駄だという事。地球で生まれ、宇宙に飛び出した人間の何と無力な事か。
地球で暮らしていた人間が宇宙空間に出て、一ヶ月ほども過ごして戻ってくると、その筋力は考えられないほど衰えてしまうのだという。
それは、地球の重力の中で暮らす人間は絶えず無意識に体を鍛えられており、その重力という束縛が無くなった環境では筋力が急速に衰えるからだ。
成る程、こうして艦内をゆっくりと流れているだけで、まるで水の中に漂っているような気分になるのは、そういう事なのだとキラは思った。誰かに抱かれているわけでもない、しかし全身を優しく包んでいてくれるような夢見心地の感覚は、確かに気持ちいい。
その感覚に、自然と目蓋が下りてくるのを感じる。ある意味では、無重力帯というものは、人類の至高の安らぎの場ではないだろうか。
「何を気持ちよさそうにしてるんだ。お前はさっさとこっちに来い」
「あ、すみません」
呼ぶ声に気付き、重い目蓋を上げた。腕を引っ張られ、エターナルの格納庫内をバルトフェルドに連れられて漂う。戦闘の疲れからだろうか。ボルテークの出現でついた決着は、キラの緊張感を一気に解き放った。
オーブからの連戦で持続していた集中力が切れたのだろうとキラは思う。
とにかく、ボルテークという大戦力が護衛に付いているのだから、滅多な戦力では連合軍も仕掛けて来れないだろう。プラントに辿り着くまでは、エターナルもアークエンジェルも無事であると考えるのは、果たしてキラの驕りだろうか。誰でもそう思うのは間違いない。
バルトフェルドがやって来たのは、突然だった。キラはエターナルに迎えられ、カミーユはアークエンジェルへと入っていった。大きな深呼吸をすると、体中の力が肩からスッと抜けていくような気がした。
オーブからの敵エースとの連続した戦いは、タフなはずのキラでさえも消耗が激しい。
ヘルメットを脱ぎ、パイロット・スーツの上半身をはだけさせた。フィットするパイロット・スーツの圧迫感から解放され、キラは額から滴る汗を下着のシャツの袖でグッと拭き取る。その時、妙にシャツが湿っぽいなと感じたのは、シャツも汗でじっとりと濡れていたからである。
まるでフル・マラソンを走り切ったかのような大量の汗が、キラの全身を不愉快な感覚に包んでいた。
気だるい体をシートに預け、少しだけ休憩を挟もうとぐったりとした時、正面の壁の向こう側から乾いた音が響いてきた。何重にも重ねられたブロックは、コックピット。音が反射を繰り返してくぐもった音をキラの耳に運んでくる。
誰かが、外から叩いているのだ。キラは億劫な気持ちを抱きながらも、コックピットを開ける旨を伝えた。
「疲れているとは思うが、俺について来い」
コックピットを開いて目に飛び込んできたのは、隻眼のバルトフェルドだった。戦闘が終わったというのに、妙に気を張った表情をしているのが、不思議だった。
「何かあったんですか?」
自然と口をついて出てきた言葉だが、安堵で頭の中が空っぽになりつつあるキラにはそれ程深い意味は無かった。というのも、バルトフェルドの神妙な表情の意味を考える体力がキラには残されていなかったのだ。
オーブの脱出戦を最初から最後まで一線で戦い切り、宇宙に出ても休む間もなく連戦だった。純粋に、彼の中の休息を求める欲望が、自分以外の物事に興味を示さない。
「ちょっと、ラクスがな――」
「え……?」
ピンと来ないのは、肉体的にだけではなく、精神的にも疲れているからだと思う。言葉にも力が入らないのは、それだけ激しい戦いだったからだ。
しかし、バルトフェルドはそんなキラの疲労を考える余裕も無かったのかもしれない。有無を言わせずにキラの腕を引っ張ると、そのままコックピットから引きずり出して格納庫を流れていく。
「フリーダムの整備と修理は、プラントに着くまでにはあらかた終わらせておけよ。ミーティアを一機潰されちまったんだ、少しでも文句を減らせるように今の内に頑張っておけ」
メカニック・クルーに対するバルトフェルドの言には、キラも色々言いたい事もある。どう考えても、戦闘におけるMSの損傷は止むを得ない事で、あれだけの長い戦いの中で四肢が全て残っている時点でも上出来だと思ってもらいたいものだ。
バルトフェルドにキラを責める気は無かっただろうが、遠まわしに批判されているようで余り気がいいものではない。反論する体力も気概も無かったが、どうにも納得できなくて眉間に皺を寄せた。
「…何を難しい顔をしてんだ?」
「え? 難しい顔、してますか?」
いけない、いけない。今は全員がナーバスになっている時。苛立つ気持ちを抑えて皆が平静に努めているのに、自分ひとりだけそれを表に出してしまったらただの我侭だ。不満を押し殺し、おどけた様に笑って適当に誤魔化した。
「しているな。お前には、出来れば笑っていて欲しいもんだ」
「この状況で笑え、ですか――難しいですね」
苦笑ならできるが――そんな繕い物の笑顔など、逆効果にしかならない。笑顔の努力をするよりも、自然な表情で居た方が幾分かマシではないだろうか。
無重力を、揺れる髪。足音のしない移動は、まるで幽霊が彷徨うかのごとく。しかし、これが無重力の中の常識。人間にとって空を飛ぶというのは、永遠の課題でもあった。人は知識と知恵を駆使し、文明の力によってその夢を成し遂げた。
だが、未だ生身で宙を翔ける事は遂げられず。それでも、人類が想いを馳せた青空の向こうには、こうして空を飛ぶような夢の続きが待っていた。宇宙のロマン――人類は、宇宙に進出した事でそのトキメキを忘れてしまったのだろうか。
古くはブラック・ホール、最近ではエヴィデンス01、果ては宇宙の果て。まだ知らない事はいくらでもある。戦争なんかに注力するよりも、宇宙の謎を解明する事に全力を注いだ方が余程建設的ではないかとキラは思う。
計り知れない宇宙の広大さに比べれば、地球圏にしがみ付く人類の何とちっぽけな事か。地球からどんなに声を大きくして叫んでも、お隣の天体である金星や火星にすら届かないというのに。
疲れで頭が呆然としているせいだろうか。それとも、先程の戦闘を思い出したくないからだろうか。キラは空想の世界へのトリップを果たしていた。
「そこの突き当りの部屋だ」
声に気付くと、側壁に手を当て、キラは滑る様にして床に足をつけた。
「何がですか?」
「ラクスの部屋だ。少し元気が無いんでな。お前に、頼もうかと思って――」
そうならそうと、先に言って欲しいものだと思う。バルトフェルド自身、ラクスの様子に面食らっている部分もあるのかもしれないが、そんなに意外なことでもないと思うのは、それだけ自分がラクスの事を人よりも知っているからなのだろう。
少し嬉しい反面、他人のラクスに対する認識力の不足が歯がゆかった。
「元気、無いんですか?」
「ヒルダ達の事もあるがな――俺の言う事に首を縦に振るぐらいだ。疲れちまってんだよ、彼女」
「そういうの、ラクスを知らない人の言う事ですよ。ラクスだって、フィルターを通して見なければ、普通の女の子なんです」
トン、と軽く床を蹴ると、キラはゆっくりと突き当たりのドアに向かって進んでいった。チラリと見たキラの横顔は、バルトフェルドの鈍さに呆れているのだろうかブスッと顔を顰め、まるでだらしの無い自分を叱っているかのようだ。
「そうかもしれないがな――」
気まずそうに後頭部を掻く。キラの言っている事は分かるが、カリスマとしての印象が余りにも強すぎるラクスはそう見られて当然。しかし、ハタと思った。それがヒルダ達の過剰崇拝に近いことに、バルトフェルドは直ぐに気付いた。
他人をとやかく言う前に、我が振りを直せ――口には出さなかったが、キラはそういう事を言いたかったのではないだろうか。
「コーヒーばかりに精を注ぎ込み、僕はこの2年間、あいつ等の何を見ていたのだろうな……」
首を捻って溜息をつくと、バルトフェルドは振り返ってその場を立ち去った。
疲労から体に思うように力が入らないが、それが返って上手く行っているのかもしれない。余計な力が入らないから、無重力の中での体のコントロールがいつもより調子がいい。普段よりも物慣れたボディ・コントロールでドアの前に降り立つと、インターホンに話しかけた。
「ラクス、いいかな?」
『キラですか? 何か?』
「うん…その――」
インターホンのスピーカーから、ラクスの可愛らしい声が聞こえてきた。電子機器を通しても伝わってくる癒し。彼女の歌声に癒しを求めるのは、至極当然だと思う。しかし、キラはそこで言葉に詰まってしまった。
バルトフェルドに連れられて来ただけで、これといって話す事も無いように感じられたのは、頭の回転が鈍っているからに決まっている。そう思わなければ、ラクスに対する好意も嘘になってしまうようで、もどかしさを感じてしまう。
バルトフェルドは、言っていた。元気が無いラクスを励ます為に、彼はキラをここに連れて来たのだ。ラクスを励ませるのは、キラだけ――そう思われているのはラクスを独占しているようで嬉しいし、そうでありたいとも思っている。
男の征服欲としての気概も、キラにだってある。それを証明する為の試練でもあるような気がした。
『少しお待ちになって下さい。その――着替えをしていますから』
「あ…うん……」
どうして律儀にインターホンなんかを押してしまったのだろうか。偶然を装ってドアを開け、事故を起こしてしまえば良かったと、キラは正直に思った。
キラがそういう助平な妄想をしてしまうのは、未だ2人の関係が進んでいなくて、いわゆる肉体関係というものを持てていなかった事もある。オーブでは、養母のカリダも一緒に暮らしていた。母を言い訳にするつもりではないが、どうにもラクスには手を出し辛かった。
つまり、キラはお預けをずっとくらっている忠犬のようなものである。中性的な顔立ちをしているキラでも、男の欲望というモノは常に持ち続けているのだ。恋人同士のつもりなのに、この2年間は辛抱の連続だったような気がする。
せめて、想像だけでも――
「お待たせしました」
ドアからひょっこりと顔を出したラクスが、一瞬裸に見えた。キラはビックリして顔を赤らめるも、その幻は直ぐに消え、少し地味なベージュのワンピースに身を包んだ彼女が居た。
「…お顔が紅潮なさってますけど、具合でも悪いのですか?」
「いや! あの……MS戦の後だから、体の火照りが中々収まんなくて――ほら、オーブからずっとだから!」
「確かに、大変でしたものね」
キラの乾いた笑いに、にっこりと微笑むラクス。つまり、体が火照っているのはそのせいではなくて、多少の興奮感が残っているわけでナニかが起っているとしても、それはラクスを見たからではなくて――必死に頭の中で考えなくてもいい言い訳をする。
ラクスの微笑が、今のキラには心の中を覗かれているようで非常に気まずさを感じていた。
「とりあえず、お入りになって下さい」
そんな、何故かしどろもどろのキラに首を傾げ、ラクスは自室に招き入れた。
「意外と、広いんだね」
部屋の中は、普通の一般船室と比べるまでも無く広い。お嬢様特有の生活臭を感じさせない豪華な設備となっているが、ラクスは立派なソファには腰掛けず、普通の椅子に腰掛けた。彼女の気品のせいだろうか、何の変哲もない普通の椅子なのに質素に見える。
「わたくしは普通の部屋でいいと言ったのですが、それでは駄目だと――」
言いかけて口を噤んだラクス。そして、思い出したように席を立った。
「キラはそちらのソファにお掛けになってお待ちください。わたくしはお茶を淹れますから」
誤魔化すような素振りだが、やっぱり表情は笑顔だった。でも、幾分か冷静になってきたキラには、それが作り物の笑顔だと分かる。
随分と奇麗な笑顔を見せるものだ。棚からティー・パックを取り出し、適当に機械の中に放り込む。その横顔が、笑顔なのに何故か寂しさを感じさせた。
「ストローで飲む紅茶ですけど、普段とは違う飲み方だと新鮮に感じたりもしますわ」
笑い混じりの声。でも、辛い感情を押し殺している事は分かる。何故か知らないけど、ラクスの感情が透けて見えるような――適度な疲労感が、キラの目を柔らかくしているのだろうか。
ラクスの考えを読み取ろうと気を張っているときよりも、遥かに感情が伝わってくるような気がする。
自身が所謂ニュータイプと呼ばれる人種ではない事は分かっている。もし、そうだったならば、ラクスの事を分かるのにこんなに時間を掛けるようなことは無かっただろう。こうしてラクスの心に触れようとしているのは、単純に時間がそうさせてくれたからだ。
キラは一つ軽い溜息を吐いて、両手の指を組んだ。部屋の中には、機械の一定調子の音が鳴り続けている。
「…ヒルダさん達の事は、残念だったね」
ラクスは心を押し殺して人に尽くすような人だ。キラは、そんな彼女の本音を抉り出す。気持ちの奥底に辛さや痛みを隠し続ける彼女だから、その膿を穿り出してあげなければならない。そうしなければ、彼女はいつしか腐って朽ちてしまう。
キラの一言に、それまでせわしなさそうに、しかし無意味に動かしていたラクスの手が止まった。
「僕も一度MIAになった事があるけど――って言っても君と再開したあの時の事なんだけどね、そういう人って、案外何処かで無事に生きていると思うんだ。君みたいな優しい人に助けてもらってさ」
ラクスは少し顔を俯けて、目元が前髪に隠れた。しかし、それを覗うように視線を向けたりはしない。キラは黙って遠くのブティックに目を向けた。そして機械の音が鳴り止むと、今度はカップの中に紅茶を注ぎこむ音がした。
「ちょっと無骨な形のカップですけど、どうぞ」
ちょっとの間だっただろうが、キラには途方も無く感じられた。目の前に、紅茶の入った円筒形のカップを差し出された。ファースト・フードの飲み物のカップのような蓋から、触覚のようにストローが飛び出している。紅茶を嗜むのに、これ程不釣合いな容器も無いだろう。
気にせずに、ありがとう、と一言述べ、一口紅茶を含む。そして、目線で彼女の顔を追った。
笑顔だ。まだ笑顔を見せるというのだろうか、この可憐な少女は。どこまで我慢すれば気が済むのか。いや、彼女が死ぬまでだろう。まるで、重い鋼鉄のドアをこじ開けようとしている様な感覚だ。それだけ、ラクスの心は固く閉ざされている。
自分の事で周囲に迷惑を掛けてはいけないと、そう思って生きてきたからだろう。それがそもそもの間違いだと、そろそろ教えてあげなくてはいけない。
「ラクス、笑うの、止めなよ」
その一言に、キョトンとした。でも、まだ笑っている。それが今にも崩れそうな砂のお城のようで、キラは怖かった。早く楽にしてあげなければいけない。キラは立ち上がり、キッとラクスを見据えた。
「――確かに、ヒルダさん達の事は何とかしたいと思うよ。でもね、あの人達は君の為に戦っていたんだ。だったら、君が今しなければならないのは、無事にプラントに辿り着く事なんじゃないの?
ヒルダさん達の捜索に手間取って、それで敵の第二波を受けたら、それこそ本末転倒じゃないか」
「え…? あの――」
「行かなきゃ! そりゃあ、僕だってヒルダさん達のことはあまり好きではなかったけど、ラクスの事を大切に思っているって事は分かってた。その彼女達が、君の足を引っ張るような事を考えるわけが無いと思うんだ!」
力説して、少し怖がらせたかもしれない。普段は絶対に見せない、この表情だ。でも、言わなくちゃいけない。戸惑いを見せられても、構わない。
ラクスは、立ち上がった。少し錯乱しているのかもしれない。表情が、珍しく戸惑いの色を浮かべていた。キラの話をスルーしたのか、彼女は徐に戸棚に向かって歩き出した。覚束ない、危なげな足取りだ。
「キラは、少し疲れていらっしゃるのですわ」
「君は、君のせいでヒルダさん達が犠牲になったと思っている!」
ラクスは足を止めた。一瞬だが、波風立たぬ湖面のような静寂が部屋の中を支配する。
キラの足が、力強く行進を始めた。そして、ラクスの背後に立つと、何も言わずに抱きしめた。ドクンと高鳴る胸の鼓動。背中に押し付けるこの高鳴りが、ラクスにも伝わっているだろうか。必死な自分よ、伝われ。
「なのに、どうして君はみんなの前では笑顔で居ようとするんだ! 辛いなら、何で僕に話してくれない! 僕は、こんなに君のことが好きなのに、君は僕にその心の10分の1も教えてくれない……」
「キ、キラ……」
「僕は君の事を誰よりも知っていたい…誰よりも君を好きでいたい……だから、君の本当の気持ちを僕に見せて欲しいんだ……」
キュウっと抱きしめるキラの腕が、少し苦しい。でも、ラクスは感じる。仄かに、キラの腕は震えていた。それが疲労ではなく、悔しさから来るものだと、ラクスは気付いた。
お互いを、分かっているつもりだった。実際、ラクスはキラの事を良く分かっていた。だから、オーブで暮らしているときも、勿論2年前に一緒に戦ったときも、ラクスはキラを励まし、奮い立たせてきた。
しかし、キラの方はというと、正直ラクスに甘えるばかりで何も知っていなかったのかもしれない。知った振りをして、恋人を気取っていただけではないのかと疑ってしまったのだ。
残念ながら、キラはラクスの事を半分も分かっていなかった。それは当然の事で、ラクスは自らの心の内を決して知られまいと固く閉ざしてしまっていたからだ。それは、ラクスの周りに対する配慮でもあるのだが、それがキラには悔しい。
どうして、自分にだけはその弱さを見せてくれなかったのか。
「頼りないかもしれないけど、君の苦しみなら、僕が支えてあげる……もっと、もっと強くなるから――」
「で、でも…わたくしはどうすればいいのか――」
キラの腕にうずもれて、ラクスは瞳を震わせた。分からない、こういう時、人に言える言葉は見つかるのに、いざ自分に向けられると途端に頭が回らなくなる。
「辛いなら、泣けばいいじゃないか」
「ですが――」
「君は僕に言ったよね、人は泣けるから、泣いてもいいって――君だって泣いてもいいんだ」
「あ……!」
一粒の涙が、水玉となって漂った。頭の中は、色々なことが混ざり合って分からない。分からなくても、涙が出た。それまで溜めていた今までの苦しみを全て吐き出すように、決壊した涙腺は次々と涙玉を浮かべていく。
ラクスが、初めて自分の前で弱さを見せてくれた。それが、男としてどれだけ嬉しい事か。キラは抱きしめるラクスを向き直らせ、正面からもう一度強く抱きしめた。ラクスの腕が、キラの背中に回り、掴んだ。これで、本当にラクスの恋人になれた気がする。
ラクスの涙はやがてその数を増やし、あたかもシャボン玉のように抱き合う2人を包みこんだ。涙滴に映るは、2人の姿。それは不規則に歪み、誤魔化すように2人の姿を同じ様に歪ませていった。
アークエンジェルの格納庫内は、少し騒然としていた。カミーユが戦闘から帰還し、Ζガンダムを降りるとエリカがやってきた。調子を尋ねるのは、Ζガンダムの製作に携わった彼女の技術者としての興味からだろう。
特に気に掛けていたのが、デストロイから転載したバイオ・センサーの事である。ニュータイプ研究自体行われていない世界であるが、エリカはその一端だけでも知りたいと思ったのだろう。
「それで、実際はどうなの?」
「どうって言われても――とにかく各部の調整が甘いですからね。そっちの方が問題ですよ」
「私は可能な範囲で譲歩したつもりよ。まだ文句があるって言うの?」
「反応が鈍いんです。そりゃあ、エリカさんの常識で言えばバランスの取れたセッティングだとは思いますけど、やっぱりムラサメ準拠のバランス調整じゃ無理がありますよ」
飲料水のコップを片手に、コンテナに寄りかかってΖガンダムを見上げる。中に入って操縦しているときはそれ程気にならなかったが、やはり色が気に入らない。
本来のトリコロール・カラーも戦場ではかなり派手な外見だったが、黒はどうにもティターンズを思い出して止まない。
それでも、隣に佇んでいるアカツキに比べれば幾分かはマシなような気がしないでもないが――金色のMSなんて、自信過剰なクワトロでも無い限り、目立ちすぎて戦場になど出られたものではない。特に素人に毛が生えた程度のカガリでは怖くて仕方ない。
エリカは、バイオ・センサーがどうのこうのと言うよりも、アカツキをカガリ以外に動かせるようにする事の方が先決すべき問題ではないかとカミーユは思った。
「これ以上反応を敏感にしてしまうと、ピーキーになりすぎて扱いづらくなるわよ」
絶対の自信を持って送り出したが故に、少しショックを受けていたのかもしれない。モルゲンレーテの技術者として、これまでM1アストレイを始めとするMSの開発に携わってきた。
しかし、一筋縄ではいかない初の核融合炉搭載型MSの製作に、舞い上がっていたのかもしれない。形になって、それが驕りになったのだろう。しかし、エリカのMS的哲学では、これ以上のセッティングはパイロットの足枷になるだけで意味を成さない。
それは、マグネット・コーティングの存在を知らないがゆえのΖガンダムに対する過小評価かもしれないが。
元々、ΖガンダムはU.C.世界に於いても扱いづらいピーキーなMSとして知られていた。パイロットに求められる反応の基準が高く、扱える者も精鋭で組織されていたアーガマのパイロットの中でもエース級に位置する数人程度に限定されていたといっても過言ではない。
勿論、殆どがカミーユ専用として使用されていたが、それをアナハイムから運んできた一年戦争からの猛者であるアポリーが運用して、初めて性能を発揮できるじゃじゃ馬だったのだ。その辺の熟練していない一般兵では、とてもではないが扱いきれない。
そもそも、カミーユはそのΖガンダムを操っていたのである。ナチュラル用として“遊び”の多いセッティングをされていたムラサメを準拠にしていたのでは、Ζガンダム本来の性能には到達できない。
確かに扱いやすさはあるが、カミーユにとってはピーキーな操縦性で当たり前なのだ。環境が、彼をMSパイロットとして高い位置に押し上げた結果だが、要求を満たさない今のΖガンダムに不満が出るのは当然だった。
「とにかく、少し使い辛いんです。調整はやり直しましょう」
「まぁ、パイロットのあなたが言うのだからしょうがないかもしれないけど――疲れているでしょ? 少し休んだらどう?」
「大丈夫ですよ。敵はいつ襲ってくるか分からないんだ、出来る事は今のうちに――」
「貴重なパイロットに、無理はさせられないでしょ? いいから、先に休んでおきなさい。色も、あなたの言っていたオリジナルに塗装しなおしておくように、言っておいて上げるから」
カミーユの背を押し、お尻を軽く叩く。カミーユを出口に押し退け、エリカは腰に手を当てた。
「あ…じゃあ、すみません。お願いします」
「つまらない道草食って、疲れを溜めるのではなくてよ」
「分かってますよ」
カミーユを追い払うと、格納庫の中にランチが到着した。ボルテークからやって来た、ザフトの士官達だ。
「何だか、急に賑やかになってきたわね」
フイと一寸見やると、エリカはメカニック主任のコジローを呼びつけた。
2人の男が、アークエンジェルのブリッジにやって来た。ドアをくぐると、そこには主要クルーが待ち構えている。先を歩く男が、立ち止まってクルー達を見渡した。
「プラント守備隊、ジュール隊隊長のイザーク=ジュールだ」
「副官のディアッカ=エルスマン。お久しぶり」
地黒でブロンドの短髪を後ろに流した男が、おどけたように親指を突き出した。
緑色の制服は、ザフトの階級の中でも一番下っ端のランクに位置している。ディアッカは、ヤキン戦役の際にザフトを離れ、アークエンジェルに三隻同盟の一員として参加していた。
そのせいかどうかは知らないが、彼は復隊した今では元の赤服から降格させられ、下級兵士としての緑服に甘んじているのだ。
英雄として祭り上げられたアスランとはまるで対照的な不遇な扱いだが、ディアッカには拘るべくプライドが無いのか、気にも留めずに飄々としていた。
そんなお調子者の同僚を睨んで制する銀髪のおかっぱ頭の男は、ザフト最高級士官の証である白い制服に身を包み、超然とした佇まいを見せていた。彼もヤキン戦役には参加していたが、最後までプラント側に属し、それが賞されて最高級士官への昇格を果たしていた。
眼光鋭い眼差しは、しかし短気でプライドの高かった昔のイザークの雰囲気ではない。昇格した事により、己の自制心が芽生え、成長したのだろう。年齢もアスランとそうは変わらないが、彼の方が一段先に大人への階段を上っている様に見える。
「アスハ代表はどちらか」
見渡すイザークは、カガリの姿が見えないと見るや、ラミアスに尋ねた。イザークもカガリと直接対面したことはないが、オーブ首長としてテレビで顔ぐらいは知っている。目立つブロンドの髪の有名人が、即座に視界に入ってこないことを疑問に感じていた。
「ええ、その…ちょっと――」
「分からんな。最高評議会から、オーブ亡命政府樹立容認の許可が下りた旨を伝えにきたのだが、本人が居ないのであれば話にならん」
「それじゃあ――」
「ああ。プラントはアスハ代表の亡命を正式に認め、それに協力していく事で最高評議会は納得した。尤も、デュランダル議長は最初からそのつもりで議員の裏から色々と手を回していたようだがな」
最高評議会議長とはいっても、デュランダル一人だけの決定権だけで亡命政府を認めるには権力不足だ。何よりも他国の厄介ごとを引き受ける事態に対し、他の議員達が難色を示すのは国防上尤もな事。
しかし、これは同盟国同士の問題であって、オーブ本土放棄の非が、少なからずプラント側にあるとすれば、これはプラントの信用問題に関わってくる。裏切りの烙印を押されでもしたら、プラントの国威は内外共に失墜する事になるだろう。
それでなくとも、プラントには2年前にオーブから移住してきた難民が、技術者として在住しているのである。それが反発を示そうものなら、国内事情の悪化にも繋がってしまう。住民同士の争いが起こっては、ブルー・コスモスとの対決どころの話ではなくなってしまうのだ。
自ら厄介ごとを抱え込んだとはいえ、今はプラントが一致団結して立ち向かわなければならない時。余計ないざこざが国内で起こるのを良しとしない最高評議会は、デュランダルの後押しでオーブ亡命政府の樹立を認めることとなった。
一方で、オーブ本土の放棄はウナトの進言だったが、それを決定したのはカガリである。
元首として、国民への負担を強いる決断は愚策以外の何物でもない事を知りながらも、それよりももっと大きな、ナチュラルとコーディネイターへの新たな提案として、世界放送を受け入れた。
その決断は、確かに地球側の意識の変化をもたらした。連合は表向きは一枚岩のように見えても、その内では混乱が起こり始めている。現に、ヘブンズ・ベースは弱体化したザフト・ヨーロッパ方面軍によって容易く陥落してしまった。
勿論、そこにジブリールの意図が混ざっていた事もあるが、ヘブンズ・ベースの防衛隊は大西洋連邦と一部のユーラシア連邦の部隊のみであった。それが意味するモノは、地球側でプラントとの徹底抗戦を望んでいる国がその2つしかない事を暗に示している。
殆どの連合参加国は傍観を決め込み、成り行きを見守っている状態なのだ。そして、それらの国民の世論がブルー・コスモスに反発すれば、いつ反旗を翻してもおかしくない状態だった。
しかし、ジブリールがその状況を一変させるために仕掛けたのが、オーブ制圧作戦だった。言葉による求心力を失ったブルー・コスモス――もといジブリールは、オーブを見せしめに使う事で力による結束を促そうとしていたのだ。
オーブでの連合軍の圧勝は、恐怖を与えるのに十分だった。オーブは防衛が困難と見ると即座に脱出の準備を始め、連合軍の力の強大さを証明してしまった。
逆らえば、オーブと同じ目に遭わされる――皮肉にも、オーブの反抗的な態度からの敗北は、地球側の恐怖による結束力を固める結果になってしまった。世界放送から数日、ナチュラルとコーディネイターの対立の溝は、更に深まった。
オーブが滅びたと、地球の各国は思っているだろう。ところが、デュランダルはカガリにプラントで亡命政府を樹立させ、完全に屈服したわけではない事をアピールさせようとしていた。それは、つまり地球側の反ブルー・コスモス意識の再燃を狙った、希望の灯である。
亡命政府樹立に当たって、プラントはオーブにとって都合のいい国でもある。プラントには、2年前にオーブを焼け出されたシンのような人間が少なからず在住しているという事実があったからだ。
そこで友好国であり、同盟国であるオーブが亡命政府を樹立する事で、厄介ごとを受け入れたプラントは懐の深い国としてのアピールができる。友好的な国柄を証明できれば、ブルー・コスモスに事大する事を嫌う国は、必ず現状に疑問を抱くようになる。
連合軍の力を、これ以上増大させないだけでも、価値がある。その上でオーブの残存兵力をザフトに併合し、早期に連合軍との雌雄を決する事で、打倒ブルー・コスモスを果たせればいい。
地球側に、プラントの狙いはナチュラルの殲滅ではなく、ブルー・コスモスの打倒と分からせる事で、ユニウス・セブン落下事件から続く誤解を解く――それが、デュランダルの本当の狙いだった。
しかし、これでカガリの掲げたオーブの三つの理念は完全に崩壊する事になってしまう。果たして、政治家の端くれとして彼女がこの結果に納得できるかどうかは、誰もが閉口するしかなかった。心の内は、彼女次第――
「すまない、遅れた」
そんな時、カガリがブリッジに入ってきた。幾分が疲れた顔をしているのは、それがオーブからの脱出によるものではない事を、何人の人間が判断できただろう。続けて入ってきたユウナの姿を見た時、その場に居たキサカだけが何かに気付いたように目を閉じた。
ユウナのクドイ説教に、カガリの耳にはきっとタコができている事だろう。知能派ではない彼女には、何よりも拷問だったに違いない。
「アスハ代表でいらっしゃるな?」
カガリが床に足をつけると、イザークが手に持った書状を差し出した。カガリは受け取ると、イザークと書状を一度、交互に見やった。
「それが、プラント本国からの親書です」
「確かに、最高評議会はプラントでのオーブ亡命政府の樹立を認めてくれるつもりのようだが――」
適当に内容を読み流すと、ユウナへと書状を手渡した。
「デュランダルからの謝罪の言葉が欠けている様に思えるけど?」
同じく流し読んだユウナが、書状越しに睨んでイザークに言う。カガリが真剣な表情をしているのに対し、ユウナの顔は余裕が表れていた。
「会談の日程は調整してあります。後は直接ご本人に訊いて頂きたい」
「彼が直々に、自分の口から述べたいと考えている――と見ていいんだね?」
「想像にお任せしましょう――行くぞ、ディアッカ」
「お、おぉ」
ユウナの言い方が、気に喰わなかったのだろう。イザークは少々不満そうな感情を顔に滲ませると、振り返って早々に立ち去って行ってしまった。
「お前、まだデュランダル議長を疑っているのか?」
ドアが閉まりきると、カガリはユウナに振り向いて尋ねた。表情は相変わらず腑抜けたような顔つきをしているが、目は何かを考え込んでいるかのように笑っていない。
「僕は、こんな外道のやり方を強いたデュランダルは嫌いだよ。彼は、余りにも周囲に自分のやり方を押し付けようとする。その傲慢は、果たしてナチュラルとコーディネイターの融和を本気で信じている人間の考える事かな?」
「プラントはオーブからの難民を受け入れている事実がある。少なくとも、オーブにとっては友好的な国だと思うがな」
「それで僕達が難民にされてたんじゃ、身も蓋も無いと思うけどねぇ」
ユウナの言う事にも、一理ある。彼は純粋に利益不利益を考えられる人間だが、純粋にオーブを好きな人間でもある。ただ、政治家としての頭を持つから、カガリのような情の人間には薄情な人間に見えてしまうこともあった。
確かに、デュランダルのやり方はオーブを道具として扱う非道徳的な手法に見える。これまで努力して国を運営してきたカガリだって、到底許容できる問題ではない。ただ、それでもこうなってしまった以上はデュランダルを信じるしかない。
それがすべて誘導させられた事実だとしても、最後には刺し違えてでもオーブを復活させる事を覚悟に決めているカガリは、そうはならない事を願うばかりだ。
人間は、お互いに助け合っていく事が出来る――ナチュラルとコーディネイターが共存していた国の元首であるカガリだからこそ、その理想を追求していきたいと思っていた。
カミーユが自室に戻ると、思い出したように空腹の音が鳴った。戦闘中は興奮状態から忘れがちになるが、緊張感から解放された今は体が正直になる。そういえば、もう半日以上も何も口にしていない。寝転がったベッドの上から立ち上がり、食堂へと移動を始めた。
アークエンジェルの通路は、アーガマと雰囲気がまるで違う。アーガマよりも近未来的で、通路の壁の色も明るい。それに、カミーユが驚いたのは冗談でつけたとしか思えない温泉だった。しっかりと男湯と女湯に分けられ、まるでホテルや旅館といった佇まいだ。
確かに息詰まる印象の強い軍艦。そのぴりぴりとした空気を幾分か和らげる目的として、能天気な温泉というモノは効果的なのかもしれない。
「よう。あんたもアークエンジェルのクルーかい?」
「え?」
温泉の前を通り過ぎようとした時、不意に呼び止められ、カミーユは振り返った。視界の中に入ってきたのは、日に焼けたような黒い肌の男。入り口から、腰タオル一枚の姿を現した。その手には、何故か肌の色と同じ色のコーヒー牛乳が握られている。
カミーユが怪訝そうな表情を浮かべていると、ディアッカは何かに気付いたように手を差し出した。
「あぁ、俺、ディアッカ=エルスマン。ボルテークからイザークの付き添いで来たんだけどさ、お宅は?」
ディアッカから差し伸べられた手を握り返し――
「僕は、カミーユ=ビダン。MSのパイロットを――」
「へえ? じゃあ、あんたがイレギュラーか。別に俺達と変わらないんだな」
握手を解くと、物珍しそうにしげしげとカミーユを見るディアッカ。他人を奇異な目で見る失礼な行為だが、不思議と嫌な感じはしなかった。この男の醸し出す、妙に馴れ馴れしい飄々とした雰囲気が、そうさせているのだろうか。
何故か憎めなくて、こんな人間も居るんだな、とカミーユは思った。
「そりゃあ――ディアッカは何をしていたんだ?」
「俺? いや、前に少しこの艦に乗っていた事があってよ。懐かしい顔もあったことだし、風呂に御呼ばれしちゃって――」
「な〜にが御呼ばれしちゃってよ」
女の子の声が突然聞こえると、それまで湿気で降りていたディアッカの髪が逆立った――ような気がした。振り向けば、襟足の撥ねた茶髪の少女。
「げッ! ミリィ!?」
「あんたが勝手に入ってたんでしょうが」
指を鼻っ面に突きつけられ、顔を凄まれると、それまで調子の良かったディアッカの表情が一変、戸惑いの色に変わった。
「お、お前も乗ってたのかよ! お前、カメラマンになりたいからって言ってたくせに――」
「そういう場合じゃないって事、分かってるでしょ? 私だって、あんたみたいのなんかに任せて置けないって、考えるわよ」
随分な言い方をするなと、カミーユは思った。どうやら、2人は過去に何かあったらしい。この会話のこじれ方を聞いていれば、アストナージに朴念仁と認定されたカミーユにだって分かる。
「じゃ、じゃあ、何でさっきブリッジに居なかったんだよ?」
「私からあんたをフッた形だったんだから、みんなの前で会ったら気まずかったでしょう? 唯でさえ、冷やかされるの嫌いなんだから、あんたは」
「けどよ――」
先程の調子のよさは何処へやら。ディアッカのしどろもどろな口調に、カミーユは苦笑した。蚊帳の外の出来事でも、他人の痴話げんかを眺めているのは楽しい。少し親父趣味かもしれないが――
「風呂上りにコーヒー牛乳って、どんな趣味しているのよ?」
「風呂上りはこれだろうが。こうして腰に手を当ててよ――」
「服、着ないと風邪引くわよ。尤も、何とかは風邪を引かないって言うから大丈夫かもしれないけど」
「そりゃ、どういう意味だ!」
「自分の頭を叩いて御覧なさい。きっと、カラカラって小さい脳みそが転がる音がするわよ」
意地悪そうな顔で、ミリアリアが指で自分の頭を突っついて冗談を言う――冗談だと思うが、どうにも本気で言っているような気がしてならない。
パッと見、会話の様子を見ていれば2人の関係は悪友か犬猿の仲といった表現が良く似合う。しかし、この様な軽口をお互いに叩き合える間柄の男女は、得てして素直になれない同士というのが定番だ。今は関係が疎遠になっている2人だが、心の中ではまだ繋がっているのだろう。
「フン、顔馴染みに会ったとして、この程度で動揺しているようではディアッカもまだまだだな」
温泉の入り口から、別の男の声が聞こえてきた。カミーユが顔を振り向けて声の方向を見ると、制服の袖に腕を通しながら出てくるイザークが居た。ディアッカの痴話げんかに、呆れたように溜息をつき、しかし体からはほこほこと湯気を昇らせていた。
「君は――」
「昔の女に出くわしたからって、焦りすぎだ、腰抜けめ」
吐き捨てるように言うが、“腰抜け”の“こ”が“きょ”に聞こえた気がしたのは、果たしてカミーユの耳が悪かったからだろうか。そんな事よりも、こちらの質問を無視して勝手に愚痴を零すイザークの奔放さに、ディアッカと同じくらい個性の強さを感じさせられる。
「ディアッカ、俺は先に行くぞ。貴様はそこで女のご機嫌取りでもしていろ」
「ちょ――待てよイザーク! お前が人の事を――」
「勝手にアークエンジェルの温泉に浸かっといて、お礼も言わないのね、ザフトの士官様は」
つかつかと先を歩いていくイザークの後を追おうと慌てたディアッカのタオルを掴み、制止するミリアリア。掴んだ手がタオルがするりと引き剥がし、ディアッカはあられもない姿を晒してしまった。
「ど、どぅわッ! な、何すんだ、お前は!?」
全身の毛が逆立つような悲鳴を上げ、飛び跳ねるように驚くと慌てて両手で股間を隠す。ディアッカの頬がピンク色の羞恥に染まり、瞳は恨みがましそうにミリアリアを睨んだ。温泉の中なら裸でも堂々としていられるが、一度外に出ると恥ずかしいのは何故だろう。
対し、ミリアリアはディアッカの裸を見ても平然としている。いや、寧ろ鼻で笑い、勝ち誇ったような余裕の笑みすら浮かべているようにカミーユには見えた。ミリアリアという少女――彼女は悪魔か。
「フフン! 悔しい? 悔しいでしょう?」
「女のする事かよ!?」
「男がこの程度で恥ずかしがっている方がおかしいのよ。これを奪い返す度胸だって無いくせに。もっと堂々として見せたら? それとも、自信が無くて縮こまるしかできないのかしら」
ミリアリアは鼻を鳴らし、手に持っているタオルを振り回す。縮こまって姿勢を低くしているディアッカを、見下すように敢然と立ち塞がっていた。目に見える上下関係が表されているかのようだ。
「ち、ちっくしょう……ッ!」
駄目だ、ディアッカはミリアリアに勝てない。こめかみから伝ってくる冷や汗が、カミーユにそう伝えていた。無駄に働くニュータイプ的な勘も、そう警告している。ミリアリアに逆らっては駄目だと、激しい警鐘鳴らしている。
唾を飲み込み、乾く唇を嘗める。カミーユは何も言わずに背を向けると、食堂へと足早に歩を進めた。済まない、ディアッカ――彼を犠牲にし、トバッチリを受ける前にカミーユは逃げ出した。
「ところで、地球はどうなってるんでしょうね?」
所変わって、チャンドラが艦長席に座るラミアスに振り向いたのは、ちょうどボルテークのランチが戻っていくところが見えたときだった。ラミアスは手元のコンピューターにディスクを差し込み、イザークが纏めた報告の内容を眺めている。
「ザフトも、地上での活動を諦めるみたいよ。報告書では、カーペンタリアは独自に、そしてディオキアやスエズのザフト部隊もジブラルタルに集結してソラへの脱出を計画中とあるわ」
「じゃあ、オーブと同じって事ですか」
「そうかしら? 少なくとも、彼等にはプラントという故郷が残されているんですもの。オーブの状況とは、違うと思うわ」
オーブを脱出した国民達は、デュランダルの世界放送によって中立の立場を表明した連合の各国へと避難して行った。スカンジナビア王国や大洋州連邦を筆頭に、汎ムスリム会議や南アメリカ合衆国などである。
それらの国々は、元々ブルー・コスモスの思想に懐疑的であったり、プラントとの経済協力が行われていたり、ユニウス・セブンの落下で国力が低下している状態であったりと、戦争には消極的な姿勢を示していた。
ウナトは連合内での顔の広さを活かし、それらの国々に協力を仰いでいたのだ。
「それも、そうですね……オーブはプラントで亡命政府を打ち立てるつもりのようですけど、それでどうにかなるんですかね?」
「あの後、オーブはそのまま大西洋連邦に制圧されてしまったわ。――とは言っても、民衆もトップも居ない抜け殻をつかまされたようなものでしょうけどね。それでも、オーブが降ったという事実は、世界に大きな影響を与えるはずよ」
ジブリールの狙いは、オーブが滅びたという事実を大々的に知らしめる事だった。反旗を翻すものは、こうなるという見せしめなのだろう。
カガリ達には逃げられてしまったが、それは逆にどんなに虚勢を張っていたとしても、滅ぼされてしまっては意味が無いということの証明となった。つまりは連合軍――ブルー・コスモスの意志に逆らっても、結局は逃げるしかないのだという典型的な見本にされてしまったのだ。
オーブの姿勢に感銘を受けていた協力的な連合の国でも、失望を招いてしまった事は想像に難くない。
それを印象付けるように、オーブやプラントに友好的であったスカンジナビア王国や大洋州連邦の中でも、現地住民とオーブ難民によるトラブルが徐々に発生し始めているという。その大概が、愛国心の高いオーブ難民のプライドを刺激する陰口の類による衝突だった。
しかしその反面、汎ムスリム会議や南アメリカ合衆国では、ユニウス・セブンの被害に対するオーブの高い技術力が復興への大きな助力となり、友好的な関係を築けているという好材料もあった。そういう事実が、ほんの少しだが救いになっていると思う。
しかし、それもそう長くは続かないだろう。スカンジナビア王国や大洋州連邦でのいざこざも、早く手を打たなければどんどんエスカレートしていって、遂には大きな騒乱に発展してしまう恐れがある。
汎ムスリム会議や南アメリカ合衆国とて、財政状況の厳しさから衝突が起こりかねない。
更に悪いのが、カーペンタリア基地を大西洋連邦の圧力によって、大洋州連邦がザフトから取り上げたのだという。元々、カーペンタリア基地は大洋州連邦のものだった。それを、プラントとの交易が盛んだった為に貸し出していたのが現状だったのだ。
当然のように、カーペンタリア基地は元の持ち主の下に返却される事となる。
そういう事情が重なったがゆえの、ザフトの地上放棄だろう。ヨーロッパではヘブンズ・ベースが陥落した事でザフトの勢力が強まっているが、それだけである。
相変わらず地上の大半は連合軍の支配力が強く、いくらユーラシア大陸の西端で尖がって見せても、それは虚勢に過ぎない。ならば、いっその事戦力を宇宙に上げ、プラントの守備に兵力を回したほうが余程建設的ではないかと考えたのだ。
いつ終わるとも知れない混迷の戦局の中で、長期戦を覚悟するなら一度態勢を立て直した方がいいと、国防委員会は結論を出したようである。
「とにもかくにも、早くカガリさんに亡命政府の樹立を宣言してもらわないと、状況は悪化する一方で好転する気配すら見えないわ」
「何か、2年前と似ているような気がしますね」
チャンドラの言葉に、ラミアスは顎に拳を当てて思い出していた。そういえば、2年前もオーブからは大脱出を演じていたのだった。当時のそこからの事を考えれば――
「そうね。そう考えると――」
「勝てるかもしれない――なんて思えちゃいますね」
「そう思っていた方が、気は楽よ。私達は追い込まれているのだから、そういう希望は持っておいて、損は無いわ」
「ご尤も」
「勝ち目の無い戦いだって、勝てる時もあるのよ。私達、それを証明してしまったわ」
「確かに」
笑い合った。戦局はどんどん不利になって行っているのに、それでも可能性が消えたわけではない。彼等が気落ちしないのは、単に楽観ではなく、自らが歴史の証明として存在しているからだ。
なんと言っても、たった3隻の艦隊で連合とザフトの両陣営の戦争に殴り込みをかけたのである。それを戦い抜いたからこそ、自信がある。驕りでも何でもなく、歴史の当事者として体験済みなのである。
それに、その頃に比べれば、まだザフトという少なくない味方が居る分、気分的にも余裕がある。状況は、決して最悪ではないのだ。
ところで、ラミアスには気がかりがある。勿論ネオ=ロアノークの事なのだが、ここ最近の忙しさで考える暇もなかったとはいえ、この程度だったのだろうか。涙別れになってしまったあの時から、時間は随分と経ってしまっている。
未だに引き摺るラミアスの感傷は、やはりネオの言うとおり我侭なだけなのだろうか。感情を押し付けて、似ているからという理由でネオは憎しみの対象になった。ただ、その感情が果たして単なる憎しみなのかどうかが、分からない。
とうに過去と決別しなければならない時間が経ってしまっているし、考えたくはないが歳も歳だ。今は軍艦の艦長として男女区別なく戦っているが、本来は色濃い女性。身を固めなければというステレオ・タイプな焦りが、万が一にもネオを求めるものだとしたら――
(ありえないわ……)
思い出すべきではない。長髪のチャラチャラした風貌で、人を小ばかにした口調は遊び人そのものにしか見えなかった。ムウは、短髪で思いやりのある好青年だった。2人を重ねて見てしまうだなんて、どうかしているのだ。
疲れのせいと心に納得させ、脱走したその後、ミネルバにまたも捕まった事も知らずにラミアスは軽く肩を叩いた。
半日ほど休息をとった後、エターナルからの連絡便となるランチがアークエンジェルに到着した。ドアから出てきたのは、少し眠たげなキラの顔。その表情は短い休息に対する不満ではなく、疲れのピークを通り越して中途半端に覚醒している様なものだった。
出迎えたカミーユがその顔を神妙な面持ちで見たが、それに気付いたキラは即座に顔を引き締めて何も言わずに出口へと無重力を泳いだ。その慌て方が引っ掛かり、少し急ぐキラの後を追って、カミーユは少し強めに床を蹴って浮遊した。
「何をそんなに急いでるんだ?」
後方から、キラの足を掴んで尋ねる。引っ張られる感覚にハッとして、体を捻って反転した。カミーユの声に現実に引き戻されたのか、キラは思い出したように表情を曇らせた。
「――ユウナさんは、僕の言う事を聞いてどう思うのかなって……」
「ああ……」
カミーユは、顔を俯けた。彼も、どのようにして伝えれば良いのか、判断しかねているようだ。戦争の中で起こった悲劇――しかし、それを伝える人間は、苦悩する。
キラは膝を曲げ、カミーユの手を引き剥がした。そして体を再び前に向け、キラは先へ進む。
アークエンジェルのブリーフィング・ルームには、キラとカミーユ、それにカガリとユウナが2人に呼ばれていた。そこへ、興味深そうにノイマンやコジローが顔を出したがったが、とりあえずは断った。何はともあれ、先ずはこの2人にだけ言う方が良いだろうと判断したからだ。
4人がブリーフィング・ルームに入ってほんの2、3分――ユウナの膝ががっくりと折れ、その場に立膝をついて崩れ落ちた。
「そ、そんな……」
3人の彼を見る目は、哀れみを湛えている。ユウナにとって、どうしようもない現実だった。
「ユウナ……」
やるせない気持ちになって、カガリはユウナに手を伸ばそうとした。しかし、途中で躊躇い、伸ばしかけた手を引っ込める。誰が、今のユウナに言葉を掛けて上げられるのだろう。そんな事、誰も出来やしない。
「な、何でパパが――」
普段はウナトの事を“父上”と呼ぶユウナだが、プライベートではこの様に呼んでいた。上流家庭で生まれ育ち、優しく頼りになる父は、ユウナの何よりの自慢だった。いつでも傍に居てくれて、何かあれば直ぐに助けてくれた。
そんな、正にヒーローのような父が、居なくなった。誰にも見守られるような事はなく、一人だけでオーブに残って――
「う、嘘だろ? 君なりの冗談で、僕をからかっているんだろ、えぇ?」
立膝で床を這い、キラの足にすがり付いて見上げる表情に、まだ涙はない。しかし、思わず目を背けたくなるほどに下がった眉は、歪む口元と相俟って、何も言葉が出てこなかった。
「た、確かに僕は君に嫌われるような男かもしれないけど、そ、それは良くないなぁ? パパが、あの脱出の時に、し、死んだなんて――ほ、ほら、本当はクサナギかなんかに乗って、とっくにソラに上がってるんだろ?
今頃は、どこかの宙域で僕らと同じ様にプラントを目指しているんだろ? さぁ、お、怒らないから言って御覧よ? 正直に言えば、許してあげるからさぁ」
痙攣したようにヒクつく目元が、余計に哀れみを呼ぶ。今にも溢れ出しそうな涙が、ラクスのものとは違う、更に深い悲しみに包まれている。認めたくない現実に、言葉だけがそれを認めまいと必死に抵抗している。
しかし、言わなければ。ウナトの最後の言葉は、それを聞いたキラが直接本人に伝えなければならない。締め付けられそうな胸の痛みを耐え、振り絞るように微かに口を開けた。
「男らしく、強くあれ……と――」
やっとの思いで搾り出した言葉を最後に、キラは強く目蓋を下ろした。こんなたった一言を伝えるだけで、何時間も戦場で戦ったような気持ちになる。いや、もしかしたら戦っているときの方が、まだ気が楽かもしれない。
ユウナの瞳が、濡れる。何かが堰を切って溢れ出した様に、ユウナは床に突っ伏して大声を張り上げ始めた。政治家として、非常にみっともない姿――しかし、その場に居る誰もがそのユウナの行為を咎めようとはしなかった。
「何で、お前達――何でパパを助けてくれなかったんだ、何で…うくっ――パパを一緒に連れてきてくれなかったんだよぉッ!」
当時の状況としては、それは不可能に近かった。ウナトは所在地を決して語ろうとはせず、命を賭してキラとカミーユを宇宙に上げてくれたのだ。確かに、ウナトが自らの居場所を教えてくれていれば、助かった可能性もあったかもしれない。
ただ、もしそうしていても、それは同時に宇宙への脱出を断念する事になり、今頃キラもカミーユもこうして合流することなく、オーブで果てていただろう。いくら高性能MSを駆っていても、連合軍の大戦力に対してたった2機で切り抜けられるわけがなかった。
しかし、それが事実だとしても、今のユウナには言葉をかけられない。悲痛に裏返る叫び声を上げる彼が悲しすぎて、何も言えなくなってしまう。カミーユ、キラ、カガリ――誰しもが、大切な人を失う悲しみを知っているが故に。
カミーユは、激しく嗚咽を漏らすユウナに背を向けた。彼とて、ウナトの最期を見届けた証人なのである。その時に感じた父性が、思い出される。優しく、純粋に子の事を思い、そして一人逝ってしまう事に懺悔する感情が混ざっていた。
そこに温かみを感じる反面、カミーユは羨望の気持ちもわずかながらに抱いていた。
カミーユの父・フランクリン=ビダンは、決して良い父親であったとは言えない。母と同じ仕事人間で、家庭の事情も知ろうともしない男だった。更には外に愛人を作り、それを隠し通せているつもりで居たのだ。何と破廉恥な事か――カミーユは、その事実を知っていた。
それでも、フランクリンが父である事実は覆せないし、カミーユも割り切ってどうにでもなれと放置していた。
そんな父との決別はとっくに済ませていたカミーユは、半ば衝動的にガンダムMk-Uを奪ってエゥーゴと合流した。しかし、ティターンズとの戦いに巻き込まれて母が死に、アレキサンドリアにガンダムMk-Uと一緒に連れられてくると、そこで父との再会を果たした。
そして、エマの脱走に合わせてアレキサンドリアを抜け出し、再びアーガマと合流するも、フランクリンは自らの技術者としての欲望と愛人への欲情を一緒くたにし、ティターンズへの手土産として新型MSリック・ディアスを奪って逃走を図ったのである。
そんなフランクリンは、戦闘中の流れ弾に当たって、文字通り宇宙の藻屑となった。爆散したリック・ディアスの破片に吹き飛ばされ、あっという間に視界から消える父親の姿――涙は出ず、ただ馬鹿野郎と叫んだ。
しかし、そんな馬鹿な父でも、居なくなれば寂しいのが人の子。カミーユは親を馬鹿と罵りながらも、目の前で死んでいったことに悲しみを感じていた。
ユウナは、不幸だと思う。最愛の、立派な人柄の父親が死んでしまった以上に、その死に目に立ち会えなかったことが。それは、目の前で両親を失った自分と比べて、どちらが不幸なのだろう――数瞬考えて、そんなものを比べるべきではないと気付いた。
ウナトは、家族の事を大切に思う立派な人間だった。しかし、そういう人間が死んでいくのも、また戦争なのだ。戦争は、理由もなく人の命を奪っていく場でもある。
こんな戦争、早く終わらせなければ――悲しみばかりを増やそうとするシロッコは、必ず倒さなければならない敵。握り締める拳に誓いを込めて、目蓋を下ろした。
ブリーフィング・ルームの中は、いつまでもユウナの悲しみの嘆きが木霊していた。
保守投下は以上です。
ミリアリアはディアッカに対してはドSだと思うんだ。
種の時にナイフでぶっ刺そうとしてたし……
GJ!
ユウナ…
GJ
キラのムラムラしてる感じが富野っぽくて良かったwww
天使湯って「温泉」じゃないと思うんだが…
岩風呂っぽい浴場?
温泉法の定義で考えれば温泉じゃないけど、
一般的イメージの問題だから本物じゃなくてもとりあえず温泉でいいんじゃね。
まあ、そんでもこだわるなら大浴場とかか?
・・・・・・思ったんだが宇宙戦艦に温泉を付ける意味があるのだろうか
無重力になったら水も浮くというのに
摩訶不思議重力発生装置でも付いてるのか大天使は
遠心力による擬似重力発生装置はあったと思う
が、あんな大浴場作るほどのスペースあったっけ?
種時に比べて種死の時は少人数運用になりオートメーション化が進み、その分の空いた居住スペースを利用して作ったらしいよ。
数十人分の部屋とか潰せば、まあ出来なくもないかなという気もしないでもないが改修時に色々追加機能された事を考えると微妙。
それにそれは本編の話だから、今回の場合大西洋連邦が改修したのに天使湯があるのがそもそもの疑問。
種死本編のスチャラカアクエン組はともかく正規軍がいちいちリラクゼーション施設とはいえあんな露天風呂を模した大浴場作るものだろうか。
>>244 本編だと宇宙戦艦というより潜水航行可能になってたりするしオーブ近海で使う戦艦として改修してたんじゃね?
やっぱり宇宙にいったら水抜くんじゃないの。
まあ、宇宙であんなでかい風呂に水使うのは資源的にも普通は勿体無いしな
部隊の隊長さんとか、戦艦の艦長さんとか、だいたいどんくらいの
特権が認められてるんだろ。
個室があって私物を持ち込めて、とかそんくらい?
愛人連れてたじゃないか、虎。元ネタのラルも
まぁまぁw
天使湯の件は、作者氏の「ウィットに富んだジョーク」と言う事で良いではないか
しかし作者氏は所謂「ガンダム」的な人間模様を描くのが本当に上手だと思い知らされる…
これだけの登場人物がいて、それぞれのドラマを展開、そして本筋に繋げていける…
良いも何もダメなんて誰も言ってないだろ
スーパーシロッコタイムがあったんだ
スーパーヤザンタイムも復活するはず……!
>>247 まじデス種のAAは鬼性能だった。
綺麗な陽電子砲になったしw
ヤザンの話、続き読みたいなぁ(´・ω・`)
>>240 今回に限らずところどころで富野っぽいよな
凄く「らしい」良い文章だと思う
保守
(*´Д`)ハウハウ
∧Ζ∧ / ̄ ̄ ̄ ̄
∧( ´∀`)< あげ
( ⊂ ⊃ \____
( つ ノ ノ
|(__)_)
(__)_)
ほしゅ
∧_∧
( ´・ω・) みなさん、お茶が入りましたよ・・・・。
( つ旦O
と_)_) 旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦
ぐえっ…
…センブリ茶
タイタニアまだー?
そういえばアポリー中尉も来てるのかなぁ…
地味に登場希望
アポリーは前から何度か期待してた人達いたけど残念ながら打ち止め宣言してたよ
うっかりプラントに出現しちゃって、不審者扱いで投獄されちゃったのはロベルトの方だっけ?
確かそう。
まあ、あれは小ネタで氏の作品ではなかったけど
実際に実は来てるけど隠れてたり目立たない人結構居そうだよね。
272 :
通常の名無しさんの3倍:2008/04/16(水) 16:08:01 ID:kqjt5nIs
劇場版Zと種運命がスパロボに参戦だって
カミーユはサルファの時にキラをフルボッコして腐女子に超嫌われた事があったし、
きっと今度はシンやその他に厳しい事言っちゃうポジションだろう。
つーか種死からの参戦なら年齢も軍歴もキラの方が上になるんじゃね?
逆にキラにさとされるカミーユとか勘弁してくれw
つか、キラが大尉とかと同じ扱いなのか……
>>274 種死本編開始時準拠ならキラは無所属のプーでは
准将扱いは流石に無いだろ
スパロボの誰よりも偉くなってしまう
艦長連中+a「じゃ作戦はこんな流れで…良いですよね?」
キラ准将「えっあっハイ」
艦長連中もΖ時間だとサルファとかと違いマリューがブライトさんとかと同レベルの艦長扱いなんだろうなぁ
>>273 そんな腐れたメスブタどもなんかがガタガタ抜かしたところで
そんな連中相手にしてないスパロボにとっては痛くもかゆくもないさ
シン殴ってヒーローごっこと罵ったアスランを
「仮に友人だったとしても、部下に銃を向けた相手を部下の前で擁護するのか!
死人だって出てるんだ、戦争は遊びじゃないんだよ!」
と修正してくれないかな
むしろこの時間軸だとアスランに一緒に殴られるポジションだと思う
俺の考えたやつを投稿してもいいか?
ヤザンだったらきっとアスランをタンホイザーの斜線上に誘き出してくれるはずw
カミーユのAA作りましたが何か?
ν' ̄ ̄`'、
( 'ノ\ヽ))
< ・∀・ノ
/ ゙▼/ ̄ ̄ ̄ ̄/
(つ / MSΖ-006/
\/____/
いまハマーン様が種死世界にきたらという妄想を書き溜めているんですが
書きあげたら投下してもよろしいでしょうか?
ぜひ、お願いします!
ちんぽっぽ
ハマーン様、ばんざぁぁぁい!!
>>289 、 ⌒ |ヽ ,
. /(\lll+ll/_)
. く_ゝ|_゚ ー゚ノ|_ゝ
゙==_Ei_il_='
/ ,)) ,,ヨ/ ̄ ̄ ̄ ̄/
_<二(つ / AXIZ /_
\/____/
/l ,,,;;-―''"::: ̄ ̄ ̄::::::::`ヽ、
l::|/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::二`ヽ、
ノ/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\
/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\
/:::::::::::::::::::::::/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::L、
/::::::::::::::::::::::::::/::::::::/::::_::::::::::::_::ソ'ノイ:::::::::::::::`ヽ=、
./::::::::::::::::::::::::::::::::::::/:::/ ___\ ∠:ノィ:::::::::::::::::::::\
/::::::::::::::::::_::::::::::::::::::::l ` _/::\\ ィ" ヘ::::::::::::::::::::::::ヽ
|::::::::::::::::/ ┐):::::::::::::::::`ァ ヽ、 `<_l! ` ´ \::::::::::l:::\:l
、_ ノ: ::::::::::: :| r.〈::::::::::::::::/ ` 、 ∠、 |::::::::::|::::、:::|
\´::::::::::::::::::::l ヽ \::___チ `〈_:ノl!ノ::::::::ノ:::::|:::|
Y::::::::::::::::::::\_ `ー __ 、 ノ .|:::::::::::::::|::| ||
|:::::::::::::::::::::::: ̄フ´ /::ー-、_ヽ ´ |::::::::_ノイ /
\::::::::::::::::::::::::チ´ /::::::::::::::::|;;;/ |::::/
,,r-、`、:::::::::::::::::ノ l!_::::::: :::: :レ' /::::L_,
/;;;;;;;;;;`ー、< ̄ ̄ l \ `ー-、:ノ /::::::チ
_ノ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;フー、 | \ ー /::::、::/
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;/ \」_ `ヽ、 /::::::::::チ
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; / `ヽ、_ .〉`ー― '"'" ̄ ̄
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ノ // `ヽ.」
;;;;;;;;;;;_;;;;;;/ // /`ヽ、
-―'" \\ .// / / l__
. \\ .// / / /;;;;;;;;;\
\\ // / / /;;;;;;;;;;;;;;;;;\
旦~
58 名前:はせお ◆uFnEeBS2Ws [sage] 投稿日:2008/04/19(土) 16:14:00 ID:MXdzaaPv
帰りながらちびちび書いてく
とりあえずカットインすげぇ
とくにガンダムが、富野カットイン多用でまた泣きそうになった
これは期待していい
あとAPのグラビティブラストも凄かった
背景もばっちり、ユリカも動く
あと杉田が来ててまたブリットのマスクつけてた
アポロシルビアシリウス揃いぶみ
109 名前:それも名無しだ[sage] 投稿日:2008/04/19(土) 16:17:41 ID:kKBVHspL
>>82 メカのコクピット部分に吹きだしっぽくコマワリされてキャラの顔グラが入るアレじゃね?
178 名前:はせお ◆uFnEeBS2Ws [sage] 投稿日:2008/04/19(土) 16:22:08 ID:MXdzaaPv
>>109 それです
マークツーのアニメはかなり凄い
回しげりもする
済もーは月でムソウした時の動き完全トレス
ヒゲよりかっこよかった
259 名前:それも名無しだ[sage] 投稿日:2008/04/19(土) 16:28:39 ID:q8lvkmsk
とりあえず携帯でぽちぽちと
zはマーク2の戦闘シーン
フライングアーマーニに乗った後ビームライフル三連射
その後飛び降りてフライングアーマーが相手に直撃
さらにマーク2が追撃して〆・・だったかな
カットインはアニメのような、機体のところから飛び出して来る感じ、とでも言えばいいのだろうか
とにかくいままでとは全然違う
スパロボ厨うぜー
383 名前:それも名無しだ[sage] 投稿日:2008/04/19(土) 16:38:00 ID:gXE75WJZ
259に付け足すなら
フライングアーマーを当てたあとマーク2で蹴り、
フライングアーマーに再び乗って正面から至近距離でライフル当てて飛びさって行く。
久々にガンダム無双をやったんだけど、無茶苦茶強いな我がジ・Oは!
ちゃんと動くし
ジ・Oはサイコミュ兵器禁止と言う縛りで見れば
堅実で強い設計をしてるよなぁ。
ただ、ラスボスとしてはインパクトがちぃと護り過ぎる。
ジオング、ノイエジール、クイン・マンサ、サザビーと他の奴に比べてあれだし
かといってZでそれくらいインパクトのあるMSってサイコガンダム系以外でいたっけ?(外伝含む)
つ「量産化ギャプラン」
チャームポイントは股間に取り付けられた機銃
300 :
通常の名無しさんの3倍:2008/04/20(日) 13:24:15 ID:WuPjDDGP
>>298 外伝含むZでインパクト有るのって言われたらTR-6って言うよ
跳ね犬を足して2で割らない奴がいたな
>>304 お前は一体何を言ってるんだ?(AAry
→
バウンド・ドッグがネモ数機しか撃墜してない件について
86年月刊ジ・アニメ 富野インタビュー
アムロやカミーユ、ジュドーとNTを描いてきましたが主人公を振り返っていかがでしょうか?
富野
振り返るも何も、ワーとやってただけでガヤガヤしてたことしか記憶にないですよ。
まあ振り返って考えてみるとアムロって人は何度も殺そうとしたキャラクターだったんですが
ずっと殺せませんでした(笑)。これが彼の持つキャラクターのパワーなんですよね。
弱い人間が強くなっていくっていうのは僕自身が本当に驚かされた。
本当に強いキャラクターなってしまったな(笑)
そうですねアムロは成長しすぎという感じがしましたね。でもZで彼は一度心が鬱屈してしまいますよね
富野
人っていうのはいい時もあれば落ちてるときもあるんですよ。
Zでは彼が一番鬱屈したところだったんではないですか?ただZで最初はアムロを殺すつもりで考えてた
でも殺せなかったこれがやっぱりアムロの強さなのかなと感じさせられたところですね。
ジュドーやカミーユはいかがでしょうか?
富野
カミーユはちょっとしたマイナーな病気ということにしたんです。
これは普通にはわからない病気なんですけど
病気ですか?
富野
なぜそういう病気にしたかというと、カミーユでニュータイプを一番強く表現させることで
視聴者がカミーユから完全に離れていくことが嫌だったんですよね。
あれで人格まで健全ならただのエスパーとか幻魔大戦みたいな超能力ものになる
そのことだけは絶対に避けたかったそれがカミーユの病気の狙いですね。
まあ自分の中でも一番、ニュータイプってものをやりすぎってまで妥協せず強く描けたけど
あの病気じゃあ最後はああなるよね仕方ないよねこいつが悪いもんって矛盾を描いたちゃった(笑)
ニュータイプって言っても人の限界ってこんなもんなんだよね。
富野
ジュドーはまだ番組が終ってないんですがアムロ、カミーユとニュータイプを作ってきて
こっちはもう疲れたぞって感じでなにか変えたかったキャラクターだったんですよね
カミーユはアムロのアンチテーゼとして作ったとこもあるんだけど
どこかアムロに似通ってしまうとこもあったんだよね。
だからそれは何かって考えたときにいったんニュータイプから距離を置こうと考えたんだよね
ジュドーはだから等身大の普通の子なんですね。
ニュータイプになる前にまずやることがあるんじゃないの?
それを考えてみなさいっていうそれがジュドーなんです。
だから僕は最後にはジュドーを旅に行かせようと考えてますね。
>>309 NT能力が一番強いからカミーユを病気にしたのか富野は
福田には考えれないやり方だな
最強のNTだから病気
病気だから最強NT
どっちでもいいが
そういう病気なとこがあったから
カミーユに共感できた俺はキチガイ
カミーユは唯一敵兵を弔ってる主人公なんだよなぁ
病的に優しいとこはあったな
攻撃的なとこもあったけど
セリフは結構ヒドいけどなw
お前みたいなヤツは、存在してちゃいけないんだよ!とか。
カミーユはNT能力を超えて念動力でジオの動きを止めて勝利する
新しい力を持った若者が新旧の強大な力を合わせ持った強大な力を持つシロッコに
思いの強さだけで勝利してしまう。それはあまりにも現実的ではない
またラストカミーユが命を捨てて得た力だとしても死が描かれ続けてたΖでは
ファンタジーになってしまう
現実認知のテーマにするにはカミーユは精神崩壊しなければならない
カミーユはそのための犠牲であり天使なのだ
全富野仕事集より
自我を開放し他人の意思を共有することは
けして幸福ではない。人はそこまで他人の介入に耐えれない
それでもカミーユはNTの才能を先鋭化させ続け
死者の魂とまで感応し、自分の精神に取り込んでいってしまう
無制限に他者を取り込んでいけば、必然的に自我の枠組みは軋み、揺らぎ、崩壊する
人はNTであることに耐えられない
カミーユ・ビダンはNTとして正しく能力を拡大していったため崩壊した
Ζヒストリカ11号
AM カミーユというキャラクターが非常に感情移入しにくかったですよね。
アムロ、フォウとかの人気が比較的高いということも、逆にいえば彼らを
通すとカミーユが見えてきたからだと思うんです。
まずカミーユの設定のねらいを聞かせてください
富野 カミーユというのはパート2ものを作っていく上での基本なんです
最初からわかんないキャラであれ以上にはならないキャラだったんです。
その意味でかなり予定どうりです。現実にはみんなわけわからないとこで
ゴチャゴチャやってるよねということ。そのキャラをずーと引きずるしかなかった
ようするに人の限界っていうのはこんなもんだよ。
いくらカミーユのNT能力が最も凄くても人間なんてそんなもんです。
だからカミーユは気が触れるしかないんです
ここは一歩も踏み外してないし、こういうふうにしか作れなかった
AM NTは戦争を終結させる能力はないですよね
富野 そう、はなっからないんです。
AM そのあたりがあまりにリアルすぎて悲しみのカタルシスばかりが強かったようですが。
富野 それもなかったんじゃないかな事実ばかりがダダダってきちゃうと
悲しんでいられないですよ、ていうとこまでやってるつもりだし。
カタルシスがあるわけがない
カミーユの評価に関してはあんまり言ってることは変わらないな…
NT能力は一番だけど病気
>>314 ジュドーだってあんたの存在そのものが鬱陶しいとか言ってるわけで
売り言葉に買い言葉だろう
禿の中ではヤザンはどんな評価なのか気になるなw
けど、その理屈で言うとあれか。
カテジナさんは一般人だけど、ぶっ壊れたからあそこまで強かったのか?
後、ロザミアはもっと強くなる筈。……何だかほんと天空の学校の敵キャラみたいだな
>>318 カミーユの場合は
NT能力が最強ゆえに崩壊って説明だからな
新訳版を無視すればだが
320 :
通常の名無しさんの3倍:2008/04/23(水) 03:10:28 ID:tpO+KFsO
今は新訳が正史なんだっけ
ヤザンは一度覚醒しかけたってホント?
>>321 それは個人的には嫌だな
どうせ数年後にゃ、またネガネガして真逆のこと言い出すのは目に見えてるしw
レコアに人違いされた時な
パプテマス様と間違えられた時
病気を健やかにしたカミーユは究極のニュータイプ
>>322 レコアとの戦いで覚醒しかけたけど
自分の意思で覚醒をやめた
マーク2には誰が乗ることになるんだろうね
やっぱロザミィなのかな?
自分の意思で覚醒止めたってwww
ヤザンは規格外だな。
>>317 機動戦士Ζガンダムヒストリカ06 TV版5
編 ジェリドがシロッコに近づいていけない人だったのに対して、
逆にヤザンは親和性が良かった人ですが、それは何故でしょうか?
富野 それは、映画的な物語というものが、映画的に見合うキャラクターを、
結局はとりあげてしまうということなんです。
アウトローを主人公にする映画は簡単にできるんですが、普通の人を主人公にする映画は
なかなか上手につくれません。そういうことを、結局ジェリドとヤザンは
示してしまっているのだと思うのです。つまり、ヤザンは戯作上便利なキャラクターでしかないのだと言えます。
編 ただ、ヤザンは結局最後までしぶとく生き残り、続編の『ΖΖ』のも登場するなど、
かなり印象的なポジションになりました。敵役としてはジェリド以上に人気もあったりしますが、
その点はいかがでしょうか?
富野 この手の作品のステロタイプだから自由度がいくらでもあったし、いじりようが見えやすかった
ということです。その部分は僕の立場で言うといろいろイヤことでして
ジェリドやカミーユを中心とした物語を作れなかったという意味では不愉快なことなんです。
フイックションの世界の世間といえども、自分が設定したキャラクターを大事にすることが
できなかったわけですから。
ですからジェリドに関しては10点もあげられないし、ヤザンに関しては当たり前のキャラクターだから
点数をあげる気もしないんです。そんなヤザン的なキャラクターが受け入れられ、
評価が高かったりするのは、作り手も観客も趣味が悪いなとは思います。
「新訳」への架け橋 富野由悠季主題随想 第5回/ライバルたちが体現する「劇」の必然より抜粋
某スレで紹介されていたのでまとめサイト読んできたが、まさに神スレ
現行職人さんの作品も陰ながら応援してます
君は保守の涙を見る
332 :
286:2008/04/27(日) 19:34:36 ID:???
286です。
ジュドー戦後のハマーン様が種・種死世界に来たらという話です。
改変した箇所は
まだ野心もなく、タリアさんと別れたことを引きずっているデュランダルと
まだシャバっ気が抜けてないハイネ。デュランダルとお友達で
レイに対する父性感情が強めなクルーゼさん。
デュランダルは野心が強かったら、なかの人の影響でシャアっぽくなりそう
なので軽くしてみました。
種死での嫁補正に対抗するにはハマーン様がいいんでない?と思ったのがきっかけです。
では投下します。
彼女はゆっくりと少年のもとから離れてゆく。彼女とまっすぐに向かいあってくれた、孤独な自分に手を差し伸べてくれた優しい少年が見届けくれている。
ぼろぼろになって、傷だらけになっても、振り返ることもせず、独りで立ち続けた彼女。囚われていた彼女の魂を解き放ってくれた
少年を彼女は見つめる。孤独と寂しさに塗れた運命だったが最後に少年に出会えたことは、暖かな記憶として彼女の生に希望
を与えてくれた。自分の運命というやつも存外悪いものではないのかもしれない。
なぜなら彼がいた。きっとこの少年に会うために私は帰って来た。
彼女は静かに微笑んだ。心から笑えたのは随分と久しぶりな気がする。
「帰ってきてよかった……」
優しくて強い子に会えたのだから。
暖かな光に身を委ねながら彼女はゆっくりその瞳を閉じた。
============================
そして鮮烈なまでに咲き誇った一輪の花は舞台を降りた。
2月3日 議会終了後
アイリーン・カナーバらクライン派の議員はは行方不明になった議長の娘の捜索部隊の編成と申請に追われていた。
開戦からだんだんとザラ派に主導権が傾いていく。この流れはとまりそうにない。そんな状況である以上、戦線が拡大
しきっていないうちに「ラクス・クライン捜索部隊」の人員を確保しておきたかった。
おそらく次の議長選には勝てないだろう。だからこの時期が最後のチャンスなのだ。
「出発はいつになるかね?」
書類に目を通すクライン議長は若干の疲れが表情にでている。絶望的な状況下でも娘の無事を信じたいのだろう。
疲れを表に出さない努力をした表情で訪ねた。
「2月5日を予定しています。申し訳ありませんが現状ではこの規模が精一杯です。」
そんな表情をみて心の中で苦笑を浮かべつつカナーバは答えた。
「では、失礼します。」
カナーバは執務室をあとにした。
誰もが危険と知っている場所へ赴くため人選は難航する、時間は限られているため気が進まないが自分でいくことになると
カナーバは半ば受け入れていた。「ラクス・クラインの捜索」ができないという最悪の結果を回避するために。
だが一人の男が男が手を挙げた。最近クライン派に参加した元研究職の男だ。たしかに成功すれば多大な功績を手に入れることができるだろうが勝算はあまりにも
低い。権力を求めるならもっと別な方法はいくらでもあるだろう。それとも彼にはなにか情報をつかんだのだろうか?
不自然だ。それにこの男は名声や権力だとか俗っぽいものを欲しがっているような男には見えない。どこか世捨て人を思わせる
冷めた目が印象に残っている。こういう人間は無能か鋭い爪を隠しているかのどちらかだろう。
カナーバは結果に関係なく接触してみることを決めた。どうせ主流から外れようとしている斜陽の派閥なのだから少しくらい遊んでみるのも悪くないかもしれない。
カナーバは冷めかけたティーカップを傾けた。
============================
2月5日 捜索部隊ローラシア級ブリッジ
「ハイネ・ヴェステンフルスであります」
あまり気が進まない任務でも軍人である以上はやるしかない。やれやれだ。目の前の男は苦笑を浮かべている。表情にでていたらしい。
「ギルバート・デュランダルだ。今回の護衛よろしく頼むよ。……まあ気持ちはわかるがね」
ーーー私も似たようなものだ
と今度は悪戯っぽい笑みをギルバートは浮かべている。政治家というから融通のきかない頭の固い人間だと思っていたが、冗談もわかる人間らしい。
「今回はデブリ地帯の中心から外側にかけての捜索を行います」
はっきりいって軍籍にない船ですら撃沈されてしまうほどの張り詰めた現状だ。それなりに腕の立つ兵がいなければ単なる自殺行為だ。
そこでホーキンス隊のなかから指揮官候補として目をかけられているハイネが選ばれたのだ。
少しでも自分に経験を積ませようと上司のホーキンスが隊長に自分を推薦してくれたのは、軍人として誇らしい。
ホーキンスの顔に泥を塗らないためにも気合をいれなくてかからなくては。
「さすがに『ユニウスセブン』まで流れることは考えにくい為です。時間は三時間おき。三度の捜索を予定してます。」
「よろしく頼む」
二度目の捜索終了後
それなりに打ち解けたハイネは気になっていたギルバートに疑問をぶつけた「何故こんな危険な任務を受ける気になったのか?」と。
そして、聞いてから後悔した。
「つまり、友人に『たまには違うことをしてみろ、なにか変化があるかも知れんぞ』って言われたのが動機なんですか」
楽しげなギルバートを見ているとからかわれているとしか思えない。
「まあ、そういうことになるね。だが彼がそんなことを言うのが珍しくてね。それに彼の『直感』はよく当たる」
フフフと笑うギルバートにげんなりとしてしまった。ずいぶんとおかしな男に出会ってしまったものだ。市民感情を慮ってパフォーマンスする政治家ぐらいにしか思っていなかったが、
実際は気まぐれを起こした元科学者。
唐突にブリッジから通信がはいった。
「どうした?」
「微弱ですが生命反応をキャッチしました!」
「なにッ!わかった俺もでる」
ふりかえるとギルバートは優雅に微笑んでいる。
「いい結果を期待しているよ」
ーーーその友人とやらはすごいな。ハイネはまだ見ぬギルバートの友人に興味をもった。
===============
ヴェステンフルス隊がポイントに着いたとき、そこにあったのは脱出艇でも救命ポットでもなかった。
目の前にあるのはどう見ても上半身だけの文字通り半壊した『MS』だった。どうみてもZAFTのものではない、
「連合の新型か?これ」
「隊長、追悼慰霊団には連合の新型機に襲撃されたのでしょうか?」
「ナチュラルのものとはいえMSを撃破できるほどの装備を追悼慰霊団の船はしていない筈だが…」
「さあな、無駄口叩いてないでとっととコイツを回収するぞ」
「「「了解」」」
ーーー本命ではないが結構な戦果をえた以上長居は無用だな。
===============
。
Unknown回収後ローラシア級MSデッキ
「よしハッチを開けるぞ」
「医療班をよんでおけよ!!このナチュラルには聞かなきゃならんことがあるんだからなッ!」
ーーーこの男がこの船に来た理由はこれか…
ハイネは遠目に準備をする部下達を見ながらギルバートに問うた。目の前のMSは連合のものとあまりに似つかない。
「連合の新型の情報を掴んでいたのですか?」
「いいや。正直な話、私も驚いている」
白々しいと思わないわけではなかったが、末端の軍人に話せないことなのだろう。
まだまだ自分も青いとハイネは自嘲した。
パンッ!!!!
ハッチが開いたらしい。銃を構えた兵が緊張感をといた。どうやらまだ意識を失っているらしい。
コクピットから出されたパイロットはストレッチャーでを着たまま医務室へ運ばれていった。
すぐに尋問を行うのは無理なことからMSの簡易的なスペックチェックをハイネは考えていた。
修理ができればヘリオポリスで奪取した機体のように戦力になるかもしれない。しかもうまくいけば自分の機体にできるかもしれない。
ハイネは半壊したMSのほうに向かった。そしてコクピットを見回してみるが、情報にある連合製のMSのコクピットとは随分を異なっていた。起動は無理のようだ、残念。
そして改めて眺めるが奪取した機体と似ても似つかない。確認された連合の試作機とは明らかに系統が異なる。複数の系統で開発するほうが
効率的なのだろうか?装甲のチェックを行っている班から声が上がった。
「隊長!これを」
困惑と…若干の興奮を浮かべているようだ。ハイネはデータを覗いてみた。
「既存の装甲より遥かに頑丈・・・なんてことだ!!」
「それだけじゃないんですよ!!!」
彼は興奮して延々と15分近くしゃべり続けた。
「ありがとう、分かった範囲でかまわないのであとで私のところに報告書をたのむよ」
ハイネが疲れはじめたところで、いつのまにか後ろにいたギルバートは興奮しっぱなしのハイネの部下を労った。
「ハイネ、パイロットの様子でも見に行かないかね?もしかしたら目をさましているかもしれないよ」
助け舟を出してくれたギルバートに感謝しながらデッキをあとにした。
ハイネと医務室へ向かいながらギルバートは最近の出来事を思い返していた。
友人ーラウ・ル・クルーゼは前々から世捨て人を気取る自分に呆れていた。そのうちザラ派の軍人のラウ情報の提供を頼まれた。
クライン派の参加もほぼ形だけで自分の研究に没頭する自分がひどく退屈に見えたのだと思う。
スパイの真似事ー所詮素人なので高が知れているーが加わってなかなか面白い日々を過ごしてきた。
ラウは言った
「君のような男はそのうち面白いことをする」
何故だと問うたら、勘だとのたまった。大の男二人で馬鹿笑いをして転げまわったのは秘密だ。
そして先日、議会に召還された彼に久々にあった。ラウは変わった予言をした。
ーーーしかし正体不明のMSの回収とはキミはよほど私が困る様をみたいらしいね。
小さく息をつき医務室の戸を開けた。
「ドクター!パイロットの様子はどうなんです?」
「『彼女』の腹部外傷が少し深かったので、輸血と簡単な処置を行いました。命の別状はありません」
ZAFTでも珍しい女性パイロットであることに驚いて感心しながら、ハイネはドクターの説明に耳を傾けていた。
ギルバートは何気なくの顔を覗いてみた。眠っているだけの女性に何故か苦手意識を抱いてしまった。
「歌姫ならぬ眠り姫ですね・・・姫というより女王とか女帝って感じかな?」
説明を聞き終わったハイネがもらした軽口に納得してしまった。確かにその通りだ。
「キミはなかなかうまいことを言う」
ギルバートが答えた瞬間、『眠り女帝』の眉間に深い皺が刻まれた。
「目を覚ますようですね。予想よりずっと早い。」
手際よくドクターが水差しの準備を始めた。
ゆっくりと目をあけて、一瞬優しげな表情を浮かべた彼女はギルバートのほうへ首を向けると凄まじい憎しみを込めた目で
睨みつけた。
「な、なんだね」
突然のことにたじろいだデュランダルはやはり彼女は苦手なタイプだと思った
以上です。
駄目っぽかったらこれ以上の投下は行いませんので勘弁してください。
>335-336
>ゆっくりと目をあけて、一瞬優しげな表情を浮かべた彼女はギルバートのほうへ首を向けると凄まじい憎しみを込めた目で
>睨みつけた。
声に反応?
楽しみです!
ここは基本カミーユスレだからハマーンスレでやれや
ヤザンもこっちに来てるから別に構わんだろ
ただでさえ投下無いのに
341 :
通常の名無しさんの3倍:2008/04/27(日) 21:24:12 ID:0sVxdJFM
Zキャラがって書いてあるからべつにいいんじゃね?
342 :
通常の名無しさんの3倍:2008/04/27(日) 22:05:58 ID:pAASlvP5
GJ
>>339 どのSSスレも過疎ってるのに分けんなよ。
まだ触りだけなのでGJは出来ないが、投下乙
ーーー
これは
――
ダッシュ2つセットにした方がよくないかい?
>>344 >「歌のさわりの部分」という表現をよくしますね。
>ところで、この「さわり」というのは、どの部分をさすのでしょう。
>おそらく多くの人が、歌の始まりの部分や歌のどこか一部分だと思っているはずです。
>ところがこれは正しくありません。
>
>「さわり」というのは、もともとは義太夫節のなかでいちばんの聞かせどころの意味でして、
>それが広く解釈されて、その話や歌のなかでもっとも感動的な(印象深い)ところということになっています。
>したがって、「歌のさわりの部分」は、歌いだしのところなどではなく、サビの部分を指します。
うわぁ聞いた事あったのに
国語は奥が深い
言葉の意味なんか変わっていくものだし
ああ。人は変わっていくものだろう?
言葉でも設定でも少しくらいなら曖昧でもいいよ面白ければ。
多くの人に通じちゃうんだからいいじゃん、とアバウトな俺。
言葉様?
ひととよう?
Zキャラスレだからココで投下しておkだと思う奴
ノシ
ノシ
ノシ
職人さん投下おつー
356 :
286:2008/04/29(火) 14:33:34 ID:???
なんかおkな感じですか?止めろと2人以上に言われたらやめるつもりです。
初ssなんで色々ミスが多かったです、反省します。
次は来月に投下を予定してます。
月刊か、ハマーン様
まあ、ハマーン様はグリプス戦役にも参加なされた方。Zキャラで差し支えあるまい
>>356 >止めろと2人以上に言われたらやめるつもりです。
自演やられたら終わりじゃないか
止めろもおk ノシも
まるで無意味だからいちいち聞くな
ちょっと読みづらいけど、ネタは面白そう。続きを楽しみにしてます。
>>356 職人は強気な位でいなきゃ
応援してるぞー
ハマーン様のファンは濃いのが多いから変にカプらせたりしなけりゃいいと思うがガンガレ
ほす
前でだと思うが・・・あえてカキコ
ウオンさんを御降臨させドイツもコイツも「修正」してもらいたい。
職人さんどうしてる?生きてるか〜
>>365 ナチュはもちろんコーディといえどウォンさんの体術と鉄拳から
逃れる事はできんが、いかんせん要・修正者数が多すぎて過労死の恐れが。
ウォンさんなら余裕だと思うが。
軍人の顎を叩き割る空手有段者のカミーユをフルボッコにできるウォンさんのクンフーはCEじゃ無敵すぐるw
でも要領のいいガキにはてこずる
種の世界に要領がいいガキなんていないだろ。
372 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 17:11:44 ID:0lDBCSvl
373 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 17:11:46 ID:0lDBCSvl
374 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 17:11:49 ID:0lDBCSvl
375 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 17:11:51 ID:0lDBCSvl
376 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 17:11:54 ID:0lDBCSvl
377 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 17:11:56 ID:0lDBCSvl
378 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 17:11:59 ID:0lDBCSvl
379 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 17:12:03 ID:0lDBCSvl
380 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 17:12:06 ID:0lDBCSvl
381 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 17:12:08 ID:0lDBCSvl
382 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 17:12:11 ID:0lDBCSvl
383 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 17:12:13 ID:0lDBCSvl
384 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 17:12:16 ID:0lDBCSvl
385 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 17:12:18 ID:0lDBCSvl
386 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 17:12:21 ID:0lDBCSvl
387 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 19:30:46 ID:0lDBCSvl
388 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 19:30:49 ID:0lDBCSvl
389 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 19:30:51 ID:0lDBCSvl
390 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 19:31:56 ID:0lDBCSvl
391 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 19:32:03 ID:0lDBCSvl
392 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 19:32:05 ID:0lDBCSvl
393 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 19:32:15 ID:0lDBCSvl
394 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 19:32:18 ID:0lDBCSvl
395 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 19:32:21 ID:0lDBCSvl
396 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 19:32:24 ID:0lDBCSvl
397 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 19:33:14 ID:0lDBCSvl
398 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 19:33:17 ID:0lDBCSvl
399 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 19:33:20 ID:0lDBCSvl
400 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 19:33:22 ID:0lDBCSvl
401 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 19:33:29 ID:0lDBCSvl
402 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 19:33:35 ID:0lDBCSvl
403 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 19:33:38 ID:0lDBCSvl
404 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 19:33:40 ID:0lDBCSvl
405 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 19:33:44 ID:0lDBCSvl
406 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/05(月) 19:33:48 ID:0lDBCSvl
保守
伸びてると思ったら嵐かよ・・・
(∪^ω^)わんわんお!わんわんお!
ええいっ!
あたりどころが悪いとこんなものか
(∪^ω^)わんわんお!わんわんお!
大きな保守が着いたり消えたりしている
投下かな?
投下なら、wktkするもんな!!
保守
スレの容量的にどうなの