【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】11

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1通常の名無しさんの3倍
新人職人さん及び投下先に困っている職人さんがSS・ネタを投下するスレです。
好きな内容で、短編・長編問わず投下できます。

分割投下中の割込み、雑談は控えてください。
面白いものには素直にGJ! を。
投下作品には「つまらん」と言わず一行でも良いのでアドバイスや感想レスを付けて下さい。
荒れ防止のため「sage」進行推奨。
SS作者には敬意を忘れずに、煽り荒らしはスルー。
本編および外伝、SS作者の叩きは厳禁。
スレ違いの話はほどほどに。
容量が450KBを越えたのに気付いたら、告知の上スレ立てをお願いします。
本編と外伝、両方のファンが楽しめるより良い作品、スレ作りに取り組みましょう。

前スレ
【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】10
http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/shar/1195316083/

まとめサイト
ttp://pksp.jp/10sig1co/
2通常の名無しさんの3倍:2008/02/28(木) 23:38:29 ID:???
3通常の名無しさんの3倍:2008/02/28(木) 23:41:12 ID:???
 巻頭特集【テンプレート】

〜このスレについて〜

Q1
新人ですが本当に投下して大丈夫ですか?
A1
ようこそ、お待ちしていました。全く問題ありません。
但しアドバイス、批評、感想のレスが付いた場合、最初は辛目の評価が多いです。

Q2
△△と種、種死のクロスなんだけど投下してもいい?
A2
ノンジャンルスレなので大丈夫です。ただしクロス元を知らない読者が居る事も理解してください。

Q3
00(ダブルオー)のSSなんだけど投下してもいい?
A3
新シャアである限りガンダム関連であれば基本的には大丈夫なはずです。(H19.9現在)

捕捉
エログロ系、801系などについては節度を持った創作をお願いします。
どうしても18禁になる場合はそれ系の板へどうぞ。新シャアではそもそも板違いです。

Q4
××スレがあるんだけれど、此処に移転して投下してもいい?
A4
基本的に職人さんの自由ですが、移転元のスレに筋を通す事をお勧めしておきます。
理由無き移籍は此処に限らず荒れる元です。

Q5
△△スレが出来たんで、其処に移転して投下してもいい?
A5
基本的に職人さんの自由ですが、此処と移転先のスレへの挨拶は忘れずに。

Q6
○○さんの作品をまとめて読みたい
A6
まとめサイトへどうぞ。気に入った作品にはレビューを付けると喜ばれます
4通常の名無しさんの3倍:2008/02/28(木) 23:43:29 ID:???
Q7
○○さんのSSは、××スレの範囲なんじゃない?
△△氏はどう見ても新人じゃねぇじゃん。
A7
事情があって新人スレに投下している場合もあります。

Q8
○○さんの作品が気に入らない。
A8
スルー汁。

Q9
読者(作者)と雑談したい。意見を聞きたい。
A9
雑談所へどうぞ。そちらではチャットもできます。

捕捉
名前欄のトリップの文字列が有効なのは、したらば等一部例外はありますが基本的に2ch内部のみです。
なので雑談所では名前欄のトリップは当然無効です。既に何名かトリップ文字列がバレています。
特に職人さんが雑談所に書き込む際には十分ご注意を。
5通常の名無しさんの3倍:2008/02/28(木) 23:45:35 ID:???
〜投稿の時に〜

Q10
SS出来たんだけど、投下するのにどうしたら良い?
A10
タイトルを書き、作者の名前と必要ならトリップ、長編であれば第何話であるのかを書いた上で投下してください。
分割して投稿する場合は名前欄か本文の最初に1/5、2/5、3/5……
等と番号を振ると読者としては読みやすいです。

捕捉:SS本文以外は必須ではありませんが、タイトル、作者名は位は入れた方が良いです。

Q11
投稿制限を受けました(字数、改行)
A11
新シャア板では四十八行、全角二千文字強が限界です。
本文を圧縮、もしくは分割したうえで投稿して下さい。
またレスアンカー(>>1)個数にも制限があるますが普通は知らなくとも困らないでしょう。

Q12
投稿制限を受けました(連投)
A12
新シャア板の場合連続投稿は十回が限度です。
時間の経過か誰かの支援(書き込み)を待ってください。

Q13
投稿制限を受けました(時間)
A13
投稿の間隔は新シャア板の場合最低一分(六十秒)以上あかなくてはなりません。

Q14
今回のSSにはこんな舞台設定(の予定)なので、先に設定資料を投下した方が良いよね?
今回のSSにはこんな人物が登場する(予定)なので、人物設定も投下した方が良いよね?
今回のSSはこんな作品とクロスしているのですが、知らない人多そうだし先に説明した方が良いよね?
A14
設定資料、人物紹介、クロス元の作品紹介は出来うる限り作品中で描写した方が良いです。

捕捉

話が長くなったので、登場人物を整理して紹介します。
あるいは此処の説明を入れると話のテンポが悪くなるのでしませんでしたが実は――。
という場合なら読者に受け入れられる場合もありますが、設定のみを強調するのは読者から見ると好ましくない。
と言う事実は頭に入れておきましょう。
どうしてもという場合は、人物紹介や設定披露の為に短編を一つ書いてしまうと言う手もあります。
"読み物"として面白ければ良い、と言う事ですね。
6通常の名無しさんの3倍:2008/02/28(木) 23:47:28 ID:???
〜書く時に〜

Q15
改行で注意されたんだけど、どういう事?
A15
大体四十文字強から五十文字弱が改行の目安だと言われる事が多いです。
一般的にその程度の文字数で単語が切れない様に改行すると読みやすいです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
↑が全角四十文字、↓が全角五十文字です。読者の閲覧環境にもよります。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あくまで読者が読みやすい環境の為、ではあるのですが
閲覧環境が様々ですので作者の意図しない改行などを防ぐ意味合いもあります。

また基本横書きである為、適宜空白行を入れた方が読みやすくて良いとも言われます。

以上はインターネットブラウザ等で閲覧する事を考慮した話です。
改行、空白行等は文章の根幹でもあります。自らの表現を追求する事も勿論"アリ"でしょうが
『読者』はインターネットブラウザ等で見ている事実はお忘れ無く。読者あっての作者、です。

Q16
長い沈黙は「…………………」で表せるよな?
「―――――――――!!!」とかでスピード感を出したい。
空白行を十行位入れて、言葉に出来ない感情を表現したい。
A16
三点リーダー『…』とダッシュ『―』は、基本的に偶数個ずつ使います。 『……』、『――』という感じです。
感嘆符「!」と疑問符「?」の後は一文字空白を入れます。こんな! 感じ? になります。
そして 記 号 や………………!! 



空白行というものは――――――!!!











とまあ、思う程には強調効果が無いので使い方には注意しましょう。
7通常の名無しさんの3倍:2008/02/28(木) 23:49:35 ID:???
Q18
第○話、って書くとダサいと思う。
A18
別に「PHASE−01」でも「第二地獄トロメア」でも「魔カルテ3」でも「同情できない四面楚歌」でも、
読者が分かれば問題ありません。でも逆に言うとどれだけ凝っても「第○話」としか認識されてません。
ただし長編では、読み手が混乱しない様に必要な情報でもあります。
サブタイトルも同様ですが作者によってはそれ自体が作品の一部でもあるでしょう。
いずれ表現は自由だと言うことではあります。

Q19
感想、批評を書きたいんだけどオレが書いても良いの?
A19
むしろ積極的に思った事を1行でも書いて下さい。専門的である必要はないんです。
むろん専門的に書きたいならそれも勿論OKです。

Q20
上手い文章を書くコツは? 教えて! エロイ人!!
A20
上手い人かエロイ人に聞いてください。


===========================

テンプレは以上。以降投下待ちに入ります。
8SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/02/29(金) 02:34:30 ID:???
 his story 2

 その時が近づいている。地球の人類全てが、真実を知るときが。

「ふふ……真実などではないかな?」
 自らをあざ笑い一人ごちた男は、懐の封筒を静かに弄(いら)った。
 彼が全人類に突き付けるものは、決して"真実"などではない。
そんなものは何処かに転がっている訳がないし、彼一人の口から
語られて――騙られて――それで足るものでもないだろう。

 そう、彼が知り、他者にも等しく知ってほしいのは事実だ。
 無機質で徹底的なデータと、無謬で無骨な計算とで出来た鉄壁の通達。
一個人に備えられた天与(ギフト)が、その実、人の業(わざ)によって
もたらされたという告白。
 彼の言葉によって、多くの者が傷つくだろう、また多くが死ぬかも知れない。
 ――死を選ぶかもしれない。

「ミスター、安定軌道です。そろそろ用意が出来ましたよ」
「ええ、直に行きます」
 声が掛かる。もうすぐだ。じきに、世界はそれまでと全く形を違えてしまう。
「放送を前に、ミスターも流石に緊張しているようですね」
「ええ、まあ。何せ地球の全人類、その殆どが聞いているでしょうからね」
 そして、後々も聞くことになるだろうから。

「ミスター、それは?」
 同僚が、男の弄う封筒に話を振った。
 それはこれより成し遂げる一大事に緊張している男を、少しでもリラックス
させようという心遣いだったのだろう。しかし、本来なら些事に過ぎない会見を、
わざわざ人類規模の告白に仕立てようとする彼にとって、同僚の態度はむしろ
その滑稽さによって平安をもたらした。
「種……だよ。花の種だね」
 眼の前で茶封筒を振ってみせる。粒の擦れ合う乾いた音が中からして、
同僚は余計に怪訝な顔になった。
「種……ですか?」
 なぜそんな物を、とその目が語っている、問うている。
「地球で遺伝子を少し組み替えた、新種の花でね。とても強い生命力を備えて
居るんだが、繁殖力が弱くて三代程度で滅びてしまうんだ。然も育った場所の
土壌を変質させてしまうんだよ」
9SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/02/29(金) 02:38:32 ID:???
「なんでまたそんな種を……」
「既存の生態系を破壊してしまう種だけれどね、荒れた土地に根付いて、
必死に茎を伸ばし、後に肥沃な土を残す……続いてその土地に進む、バトンを
受け取ろうとする"種"にとっての先駆け……環境を調整する種なんだよ。
旅の間に育ててみようと思ってね」

 嘘だった。

 晴らせぬ原罪を背負うと自覚する男が、堕ちる所まで堕ちた時、
せめてもの慰みにする為に持って居るのだ。
 宇宙で育つ花だから、地獄の辺土にも根付くだろう。
 旅の最中で免罪符を手に入れられぬならば、男に煉獄は生ぬるい。
「地球で育てようとすれば、排斥されざるを得ない"種"ではあるけれど、
いつか地球がどうしようもなくなったとき宇宙を目指すのなら、
きっと必要になるだろうね」
「ミスター、我々は地球を見捨てて木星に行くわけではないのですよ?」
「……それは困った。君を笑わせようと言う心づもりだったのにね」
 そういえばこの間、男に向かいジョークセンスの欠如を指摘した女が居た。
彼女は彼女で、彼とはまた趣の違う……才能ゆえに埋もれる天才だった。

「一生をやり直す事が有ったら、その時は笑いを人生の課題としようか」
「そういうところが、笑えないと言って居るのですよ、ミスター。
およそ全ての人類に並ぶ者の無い程貴方は天才ですが、
ジョークの才能だけは我々をほっとさせてくれます」
「なるほど、それは貴重な意見だね」
 暫く一人にして欲しいと言い置くと、同僚は大人しく去ってくれた。
 言葉は真実を含めて届く事など無いが、心で触れ合う事のできない、
それが人類の限界だというのなら、ソレも仕方のないことだろう。

 真実はまた違う所に在る。『告解』によって世界を覆うであろう混乱。
誰もが、叶うならばそうありたいと希う(こいねがう)立ち姿。天の采配で
あるが故に万人が諦めた栄光が、もしも人造の偶像であったならば……。
 それを想像する度に胸中を駆け巡る爽快、彼は既に己が狂気を自覚している。
告白はその先に目的を置いていたが、彼自身は過程に起こる混沌とした
世界の実現を願っていた。
10SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/02/29(金) 02:40:49 ID:???
     

 ――ヒトには、先駆者が必要となる。
 そのためには男の告白を必要とする。目指す所に彼は全く正しさを疑わず、
しかし彼がその為だけに生まれた事へは、深すぎる嫌悪を感じずに居られない。

 ――ヒトは、確実に争う。
 人類史上初の生存競争。その最中で、決して彼を許さない者も生まれるはずで、
怒りと憎しみの渦を恐怖しながら、そんな救いの無い世界を望まずにはいられない。

 胸にひび割れを起す背反への畏怖が、懐中の種子となって結晶している。

 自分を生んだ世界の闇への、義憤を伴う復讐心を必死に正しいものだと
自分にも言い聞かせて……そんな心に労する甘言を、別の心があざ笑う。
「だけれどそれもまた、偽悪なのかな……」
 そしてまた一人の言葉が、誰の耳にも届くことなく壁に吸い込まれる。
声を吸い込んだ壁が、同僚の声を逆に伝えて来た。とうとうその時間だ。
 窓の外に青く輝く地球を見定める……あの星を今から激変させようとしている。
 怖れと歓びに打ち震え、心がびしりとひび割れた。世界が形を変える瞬間、
多くのものが壊れゆく。しかし最初に壊れてしまうのは、どうやら彼の心らしい。
それを守りたいとも思ってはいなかったが、栄光の続いた彼の人生において、
黒々と残るであろう汚点は、彼自身が鋼の意志によって踏みつけた歪な
足跡だった。

 ドアに向けて生返事を返す。ドアが同僚の声で、彼の名を呼んだ。
「出航会見の時間ですよ……行きましょう。ジョージ=グレン」

 時に、CE15年の事だった。

11SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/02/29(金) 02:44:01 ID:???
 以上、お題『種』による短編でした。いつぞやに投下した
設定資料集的過去話の続編にあたります。
12鼎 ◆D/4OEv2D7w :2008/02/29(金) 19:54:47 ID:???
懐中噺“短剣”
 唐突に乾いた音が響き渡り隣にいたジョンが頭から灰色の何かをブチまけながら後ろに倒れた。
「敵襲だっ!」
 更に乾いた音が響くと前にいたスティーブが叫びながら狂った様なダンスを踊おどらされて蜂の巣にされた。
 二人とも今度の休暇で家族サービスするなんて言うから死んだ訳じゃないだろう。
 誰か明確な殺意を持った奴に殺されたのだろう。一目瞭然だ。
 俺は物陰に隠れて様子を伺う。何処の誰か解らないが馬鹿な奴がいたもんだ。
 多分まともな教育を受けて無いだろう。普通だったら学校で人を殺してはいけませんって習うはずだ。
 奴等の狙いは新型に違いない。此所にある金目のものはそれくらいだ。
 嫌だけど俺の仕事は警備兵。守るものは守らないと給料に響く。
 狙いをつけて撃つ。訓練じゃ百発百中の俺だけど全く当たらない。実戦は初めてだから仕方ないのかも知れない。
「ええい、ちょこまか動きやがって……」
 遮蔽物に隠れて低い体勢で移動すると何度も仲間の屍を越えた。
 ひでえ事しやがる。怒りが込み上げて来るけど沸騰はしない。
 仲間の死骸が俺の理性を凍り付かせる。 幾ら仲間は仲間だと言っても俺は死人の仲間入りをしたくはない。
 はっきりと見たわけじゃないが視認出来た敵の数は三人。
 たった三人に全てが蹂躙されちまった。情けない気持ちで腹が一杯、仲間の死体に囲まれて頭の中が一杯一杯だ。
 深呼吸をして心を落ち着かせる。アカデミーで学んだ事を思い出すんだ。
 嫌味な教官は俺の事をやれば出来るかも知れない男だと言っていた。
 やってみれば案外出来るかも知れない。
 俺は思い切って飛び出して銃を乱射する。
 だけど乾いた音が響いただけだ。鼠一匹いない。多分敵は俺に恐れをなして尻尾を巻いて逃げ出したんだろう。
「へ、口ほどにもねえじゃねえか」
 息を吸って吐く。少しばかり安心した。しかし、そこまでだった。
 乾いた音が一つ、俺の腹にも穴が一つ。痛いというよりは熱い。身体中の力が抜けた。
「アウル、ステラ! そんなの放っておけっ!」
「分かってるよ、スティング!」
 声が聞こえる。まだガキじゃねえか。
 誰かが俺の前に立つ。今度は小娘だ。御丁寧にナイフ……いや、短剣を俺に向けてやがる。冗談にも程がある。
 ――ちくしょう、ついてねえ。

 了
13鼎 ◆D/4OEv2D7w :2008/02/29(金) 19:55:56 ID:???
以上、お題“短剣”による短編。
14通常の名無しさんの3倍:2008/02/29(金) 20:52:43 ID:???
15通常の名無しさんの3倍:2008/02/29(金) 23:12:04 ID:???
新スレ立て乙。
投下乙。
1645  ◆Ry0/KnGnbg :2008/03/02(日) 01:26:28 ID:???
もしもトリニティが居なかったら00。
トリニティ編。

1/

 タクマラカン沙漠で大規模な戦闘が行われた数日後のこと。
 ヨハン、ミハエル、ネーナのトリニティ三兄弟は、掘りごたつに埋まったまま、
ぐつぐつと音を立てる鍋をつついていた。豆腐が多くて肉が少ない。

「ネーナ、肉はもう大丈夫だぞ……」
「ホント!? もう食べて良い?」
「……」
「ああ、俺の分も食べて構わない。今日は特別に卵もあるんだぞ、
特売で安かったからな」
「嬉しい、有り難うヨハンにい!」
「……」
「どうしたミハエル、先刻から無言だが、早く食べないとネーナが全て食べてしまうぞ」
「……俺は良い。兄貴こそ最近やせ気味じゃないのか?」
「お前たちは育ち盛りだから兄より先に食べろ、お腹が空いているだろう?」
 そうじゃなくて! とミハエルは炬燵を叩いた。上に鍋が乗って居なければ
ひっくり返したかもしれないと思われる勢いだ。
「ヒマなんだよ、俺たちの仕事が無いから動かないからカロリーを使わないから
お腹が空かないんだよ! スローネは何時になったら完成するんだ兄貴!?」
 順接の過剰な弟の勢いを、兄は両肩に手をあてて『どうどう』と止めた。
「まだまだ完成しない。擬似とはいえ太陽炉の完成には長い時間が掛かるんだ」
 ヨハンは落ち着いて、鍋の中身を取り皿につぎ分けていた。放っておくと
ネーナが全部胸のの成長に充ててしまうからだ。
「でもヨハンにい、本当に何時になったらガンダム完成するの?
あと二ヶ月くらい? それとも半年?」
「……と三ヶ月だ」
「なんだ三ヶ月かあ。そんなもんだったのかよ兄貴!」
「いや……あと、四十二年と三ヶ月だ……」
 ヨハンがさらっと、孫が生まれるくらいの時間を口に出した。
「え……ええッ!? なんだよそれ、おっさんになっちまうじゃねえか!」
「私、おばさんになっちゃう……」
「仕方が無いだろう、良い物の完成には莫大な時間が掛かるものだ。
上質の本場ワインもしかり」
「ワインなんて呑んだ事無いだろうが! この貧乏所帯で――!」
「そうか……ならば兄は、この貧乏所帯を支えるためのバイトに出かけてこよう。
ミハエル、お前も隣のクロスロードさんとこのサジ君を見習ってだな、まずは
簡単なバイトから社会に出てみたらどうだ?」
「ぐ……!」
 兄の皮肉を流せずに、ミハエルが呻いた。
1745  ◆Ry0/KnGnbg :2008/03/02(日) 01:27:10 ID:???
2/2

 ぴんぽーん。
 ヨハンの去ったトリニティ家に、気の抜けたチャイムが響く。
「ミハエルにい、お客さんだよー」
 くつろぐ妹に重労働(接客)をさせぬため、ミハエルは急いで玄関に向かった。
 覗き穴から、外の廊下を覗きこむ。
「て……手前は……!」
 ドアに付属のモニターには、冴えなくてひょろい坊主が一人映りこんでいる。
 たまに金髪の女を連れ込むところを、自宅の警備中に見た事が在る。
 隣のサジ=クロスロードだ。
「何だ手前……?」
「あ……あの、これを作りすぎちゃったみたいで、姉さんが
トリニティさんの家まで持って行けって……」
 恐る恐る差し出された手には、豚肉と大根を醤油ベースで煮込んだらしい料理が
乗っていた。三人分ほどはある。
「てめえ、まさかこの料理でうちのネーナをたぶらかそうってんじゃ
ないだろうな――ああん!?」
「い――!? いえ滅相も無いです……ネーナさんにそんな感情を持った事は――」
「何だと! うちのネーナがそんなに魅力が無いかよ!?」
 皿に盛られた料理を奪い取り、後ろ手にドアを閉める。
 全く失礼な奴だ、ネーナに惚れてもいないくせに誘惑しにくるなんて!
それもこれもネーナが可愛すぎるせいか――外出をもう少し控えさせねば
いけないかもしれない。
 部屋に戻る。ネーナは炬燵に腰まで入れて、それでも肩を震わせていた。
 ――ああ、我が家に充分な暖房費がないせいで、ネーナが寒い思いを為ている!
 絶対にガンダムを早期完成――太陽させて、紛争に介入し、給料を貰おう! と、かなり
間違った方向でミハエルは決心を固めた。

「となると先ずは研究だな! 最近のガンダムの動きをリサーチだ!」
「んー? ミハ兄いお勉強? テレビ使う?」
「おお、この間の沙漠戦で生き残ったパイロットの勉強だ!」
「確か、エクシアとデュナメスだけが脱出出来てたよねー」
 エクシアは捨て身だったので除外して、何気に軽々脱出を果たしていた
デュナメスの記録映像(ヴェーダからパクッて来た)が、テレビに映し出された。
 ――勉強なんてくだらねえ。
 そうは思いながらも、戦場に立つ"ガンダム"達への憧れを捨て切れない
ミハエル=トリニティ。十九のガンダムマイスター見習いは、まだまだ若かった。

1845  ◆Ry0/KnGnbg :2008/03/02(日) 01:33:13 ID:???
 トリニティが居なかったらと銘うっておきながらのトリニティ編。
こんなカンジで、太陽炉が完成してないのでネーナがいませんでした。

あと訂正

×>> 絶対にガンダムを早期完成――太陽させて、紛争に介入し、給料を貰おう! と、かなり
 間違った方向でミハエルは決心を固めた。

● 絶対にガンダムを早期完成――太陽炉はこの際偽物でいいや――させて、紛争に介入し、
給料を貰おう! と、かなり間違った方向でミハエルは決心を固めた。

 それでは。
19河弥 ◆w/c45m7Ncw :2008/03/03(月) 20:06:49 ID:???
「朝霧消ゆる時」


 一人掛けのソファに腰を降ろしたまま、何となく窓の外に視線を移した。
 少し前に夜明けを迎えた外の風景は乳白色の霧に包まれていて、数メートル先も見えない。
 目の前のテーブルには白い飾り気の無い封筒と一本のナイフ。
 俺はナイフを手に取り、掌の中で玩(もてあそ)ぶ。
 折りたたみ式のそれもシンプルなデザインだ。持ち運び用と考えれば当然だが、かなり軽い。
 しかし、ある特殊合金製のその刃は、薄いが丈夫で鋭い。
 使い方を誤れば、指の二本や三本、ウィンナーでも切るように簡単に落ちるだろう。
 頚動脈にあてて引けば、蝋燭を吹き消すよりも簡単に命の灯火を消し去れる。

 これが軍を除隊した俺にとって唯一残された故郷の武器だ。
 だが、これが手許に残っただけでも有り難く思うべきだろう。
 何せ俺は、脱走兵なのだから。

 そこまで考えて、俺はもっと大切な物を残してもらっていたことを思い出した。
 それは──俺自身の命。
 脱走兵の俺は、普通ならば銃殺刑にされても文句は言えない処だ。
 だが、俺の命は一人の男に救われた。
 大戦後初の最高評議会議員に選出されたその男は、遺伝子工学かなにかの研究者だという。
 まだ若いが人望もあり、次代の最高評議会議長は彼に違いないと目されているらしい。
 その男が俺を除隊扱いとしてくれなければ、俺は今、生きてはいなかったろう。

 手紙の差出し主も俺と同じに救われた一人だ。
 と言っても奴の罪状は脱走ではないが。
 そう言えば外見はこのナイフのみたいだな、と、俺は奴を思い出した。
 切り揃えた銀髪に、切れ長のアイスブルーの瞳。
 が、ナイフみたいなのは外見だけ。
 中身は、対戦車地雷並みの大爆発を繰り返すとんでもない奴だ。
 しかし、友情には篤い。
 世界中を飛び回り、なかなか掴まらない俺なのに、こうして時折手紙を送ってくれている。

 昨日受け取ったこれもそうだ。消印は三ヶ月前。
 なんと奴は母親の跡を継ぎ、政治の道を進むらしい。
『戻って来い』
 手紙の結びはいつもその一言だ。
 しかし、手紙には書かれていないが、俺は自分が故郷でどんな風に噂されているか知っている。
 かつてはトップエリートの赤服の中でも「狡猾で残忍」と言われていたこの俺が、敵の捕虜になって以降
「迂闊で残念」などと揶揄されていることも。
 だが、そんな事はこの愉快な生活に比べたらどうでもいい。言いたい奴には言わせておけ。

 けれど、今の俺の生き方を知ったら奴は──そしてあの男は、どんな顔をするだろうか?

 ふと、扉の外に気配を感じた。
 どうやら俺の獲物がやって来たらしい。
 標的に刃を突き立てる瞬間が頭に浮かび、微かに頬が緩む。
 そんな気配を隠し、俺はそっとナイフの刃を取り出す。
20河弥 ◆w/c45m7Ncw :2008/03/03(月) 20:09:32 ID:???
(2/2)

「日が昇ってきたら霧も晴れてきたわ」
 外に行っていた彼女が戻ってきた。手には一本の牛乳瓶。
 いまだに厚紙を使っているその蓋を開けるのは、ここ数日の俺の役目になっている。
 彼女から瓶を受け取ると、蓋にナイフを突き刺して外してから彼女に返す。
「朝食を食べたらすぐに出るわよ。昨日撮り残した分を片付けなくちゃ。今日こそは忘れ物がないように
気をつけてよね」
 彼女はそう言って俺の返事も聞かずに牛乳瓶を手にキッチンへ入って行く。
──昨日の機材の入れ忘れは俺じゃないぞ。
 頭に浮かんだそんな台詞は絶対に口には出さない。
 ミルクは殆どが彼女のロイヤルミルクティに化け、一口分が俺の珈琲の為に残される。
 朝飯がすんだら今日も、カメラだけを持った彼女の後ろを重い機材を抱えて着いて行く一日が始まるのだろう。
 疲れて帰ったって、頬へのキス一つもしてくれないような女の為に、足を棒にして付き従うのだ。

 ま、惚れちまったんだからしょうがない。
 生まれ育った環境が違うのだから、趣味も嗜好も違ってて当然。
「迂闊で残念」
 それがどうした。
 俺は今、最高にグゥレイトなんだぜ?
21河弥 ◆w/c45m7Ncw :2008/03/03(月) 20:12:07 ID:???
お題短編「短剣・ミルク」でした。

>19 にページ番号を入れ忘れました。2レス分の短編です。
22通常の名無しさんの3倍:2008/03/04(火) 19:25:29 ID:???
>>21
短剣で暗めの短編かと思ったけど、ミルクでそう来ましたかw
GJでした。
23通常の名無しさんの3倍:2008/03/04(火) 19:49:33 ID:???
>>朝霧消ゆるとき
GJ!
短剣+ミルク+迂闊で残念=!! のアイディアと、
一レス目の引き、2レス目でオチがいかにも河弥さんという感じですね。
24機動戦史ガンダムSEED 37話 1/6:2008/03/04(火) 22:52:26 ID:???
 ―― オーブ連合首長国代表府・財務本部執務室――

 「……わかった。その事はもういい」

 私は内線用受話器を持ち、自分のデスクで溜息を吐きながら、そう答えるしかなかった。
彼の考えはある程度は理解できるようになったつもりだ。結局のところ押し切られるのが関の山だ。

 ……どちらにしろ、短期間のことである。

 「とりあえず、直ぐにそちらに向う。細かい打ち合わせはその時にしよう」
 
 『――頼む、カズイ。いや、バスカーク卿』

 彼はそう言い終えると、内線を切った。私は受話器を置き、自然と体は椅子に深く座り込み、
背もたれへと後頭部を押付けていた。

 ……正直、面倒な事になったと思う。私は自身が政治権力へと近づく野心は稀薄である。
 だからといって、やりがいが無いわけではない。自分にこれほど適合している仕事は無いだろう。
客観的に見たら、逆に私自身の方が驚いている。
 
 そして先頃、ラクス・クラインによって討たれたプラントの前議長であるギルバート・デュランダル氏が
提唱した”運命プラン”について、思いを馳せることになる。

 現在、沸騰し混乱の極みにある、この地球圏の安定政策の為に掲げた政策として、それほど
的外れなものではないのではなかろうか――?と。
 
 実際に火星圏ではそれとほぼ、同レベルの政策が実施され、相応の効果を上げているという報告を聞いている。
動乱の地球圏と一緒にしてもらっては困る!という意見もあるだろうが私としては、
一定レベルの成果を上げている政策ならば、それは無為なものではあるまい、という意見だ。

 その意見をも含めて、デュランダル氏が唱えた政策は、一切主観を交えずに冷徹に自分の資質を
見抜いてくれるというならば、それはある意味で幸せなのではないだろうか?

 実際に私はサイがいなければ、自分のように凡庸極まる人間は、唯一ともいうべき”特技”を発揮できないまま、
世の隅で朽ちる可能性もあったのだ。
 
25機動戦史ガンダムSEED 37話 2/6:2008/03/04(火) 22:56:48 ID:???
 それ程、人は自身の才能ともいうべきものは、自身では見つけ難いものなのだ。
好きだからといってそれが自分の資質に合うとは限らない。

 ならば人の一生涯において、それに合致できるような生き様を探すのは難しいものだろう。
 
 だが、逆にあらかじめ自らの道が標されていたらどうなのだろうか――?
 
 ……いや、結論は出まい。堂々巡りだろう。実際、もはや今の時代にはもう無意味な政策であろう。
それに正論を口に出して吐きだせば、殺されてしまうのが今の動乱の時代だ。

 ――狂気が既に時代を支配している。

 例えば旧アスハ派の人間に向かってして、私がオーブの公敵だったデュランダル氏を客観的に肯定
意見を口に出せば殺される可能性もある。

 実際に私がこうして今生きていられるのも、確固たる権力基盤と軍事力をもつオーブ代表首長府という
組織に身を置いて居るからに過ぎないのだ。

 ――気分を戻すと、私は部下にアーガイル首席補佐官との会談を告げ、その足でサイが待つ首席補佐
官執務室に向う事とにした。


==================================

 ――C.E.72年・オーブ連合首長国首都オロファトの下町にて――

 今でこそ、代表府の首席財務官という晴れがましい社会的身分にいる私だが、数年前は定職も
付けずに、ボロボロの安アパートを住まいとし、その近所の私塾の講師をして口に糊する日々を過ごす毎日だった。
 
 その理由はごく単純で、この国のよく見かける日常の一つである”アスハ崇拝”がらみのことである。
 憎き地球連合に尾を振り、”アスハ”を裏切ったという名目である。
 
 やむを得ない事情とはいえ、一時的にも大西洋連邦の軍籍に身を置いていた私に対して
世間の風は冷たかった。

 それと同時に、密かにオーブ政府――大西洋連邦の管轄下にあった時代に監視下に置かれたことが
更にその問題を助長した。
26機動戦史ガンダムSEED 37話 3/6:2008/03/04(火) 23:05:45 ID:???
 正直いって、私自身も家族や親類に対してこれ以上の迷惑を掛けたくないという思いもあった。

 常に政府の諜報機関からの監視やあからさまな恫喝じみた威嚇などを、2年以上も受け続けて
受けていたら、誰しも頭がおかしくなることだろう。
 
 こうなった以上、もう親類や家族一同に迷惑は掛けられないが、同時に自ら家から出てゆくような
勇気をも持ち得ない私は、結局のところ親類一同からの義絶宣言を機に、家から追い出されるような
形で出奔する事になった。

 家を出てからは、僅かな貯金の蓄え消費しつつ、ヘリオポリスカレッジで費やした日々から得た
知識と多少の身に付けた軍事知識を利用して、日雇いの仕事や軍関連の下働き、それと、
工学学士免除があった為に工業教育関連の私塾の講師を兼ねた事務員などを経ながら、
正式な、就職に有利になるような資格試験の為の勉強などで国立図書館に通う日々を過ごす事になる。

 それから月日が経ち、オーブが形だけは大西洋連邦支配下から抜ける時期に、気がつくと私への
監視の目はなくなっていた。

 ……もはや、私ごときを長々と監視するのが無駄だということに気がついたのだろう。

 この2年近くの間、アークエンジェルの関係者……。世間で俗に言う”ラクシズ”或いは”三隻同盟”と
呼称されていた武装テロ集団の話は何度か耳にしたのだが、私自身が彼等に積極的に関わる意志も無く、
全くと言って良いほど接触することはなかった。

 そして、この時期に私が一番驚いた事件は、あの”アスハ”が再び代表職に就任したという話である。
 
 オーブを焼け野原に導いた張本人の娘が新たな代表職に就くだと……?
 
 その日、就任のニュースを偶然、近所のコンビにで”オノゴロ・タイムズ”の夕刊で目撃した私は、
自分が見たものを疑ってしまったものだ。

 正直、政府が何を考えているのか私には分からない。

 ――何の責任も取らずに国外逃亡した卑劣漢。

 私のアスハに対する評価はそれだけだ。その恥知らずが臆面もなく代表職に就任するという。
 ……人というものはここまで、醜悪で厚顔無恥になれるものなのだろうか……?!


27機動戦史ガンダムSEED 37話 4/6:2008/03/04(火) 23:08:26 ID:???
 何を考えているのだろう、政府の高官どもは?”アスハ”を再び代表に据えるなど……!!

 これはオーブ解放戦とやらで家族を失ったり、財産は元より、難民となっていった国民に
対する冒涜ではないのだろうか?
 それにウズミは、大西洋連邦の侵攻を防げずに、国土を焼き尽くし、挙句に自爆した愚か者だぞ?!

 ――私自身の境遇に対する恨みや妬み、その他複雑な感情が胸の中で激しく渦巻いていた。

 怒りのあまり、何時の間にか私は、そのトップ一面にアスハ代表就任が書かれた”オノゴロ・タイムズ”を
引きちぎっていたことに気がつかなかった程だ。

 そして気がつくと私はコンビニの店員に叱られており、自分が引きちぎった分の”オノゴロ・タイムズ”
の代金を支払うはめになっていた。

 憤然としながら、千切れた”オノゴロ・タイムズ”を手にコンビニを出た私は、真っ直ぐに
自分の住まいである、安アパートへと直行した。
 部屋に入ると同時にTVのスイッチを入れると丁度、ニュース番組が流れていて、特に画面
中央の派手な字幕が目につく。

 『――祝カガリ・ユラ・アスハ様、代表首長就任!』

 重厚なオーブ国歌と共に興奮したナレーターの声が耳に飛び込んで来る。
 
 ……一体、何なんだ?この茶番劇は?
 
 呆気に取られている私を無視し、ニュースの報道特番は流れてゆく。

 『――お聞きください!このカガリ・ユラ・アスハ代表誕生を喜ぶ国民の声を――」

 TVの画面には、白い軍服礼装に身を包んだ凛々しい少女が、代表就任記念式会場の壇上に
上がり誇らしげに声を張り上げていた。

 『――オーブ国民よ!愛するべき民よ!地球連合によって永き渡る忍従を強いてきた事を
心から詫びる!……私は今、ここに帰って来た!!』

 ――オオオオォォォォォォッ!!
28機動戦史ガンダムSEED 37話 5/6:2008/03/04(火) 23:16:25 ID:???
 新代表の演説と共に会場から轟くような歓声が鳴り響いていた。TVからでも凄い音量である。
恐らく、会場ではこの数倍に及ぶ歓声が響き渡っている事なのだろう。

 『――皆に約束しよう!私は、父である偉大なウズミ・ナラ・アスハが掲げた”オーブの理念”
である”中立理想”を再びこの地に蘇らせる事を!」

  ――ウワァァァァァァァァッ!

 再び熱狂的な歓声に包まれながらTVの中で、礼装姿のアスハ代表は壇上から、会場を埋め尽くす
人々の群れに向かって興奮の声を上げながら演説するその姿は、三流の安っぽい偶像崇拝としては
申し分のないことであろう。

 ……狂気の沙汰だ。みな狂っている。

 アスハ新代表の演説内容はとても現実に沿うようなものではない。夢のような話である。
 理想は確かに美しいが、内容は現実を全く無視しているのだ。
 その現実を無視した政策によって、現にオーブは滅んだのだぞ?!そうTVに向って叫びたくなる。

 怒りと憤激によって興奮する体を深呼吸を繰り返し二度三度して落ち着かせると、改めて考え込まざるえない。
 TVからは、相変わらずアスハ代表就任のニュースをナレーターが熱ぽく語っていた。

 ……大西洋連邦が支配下を解いたのはあくまで形の上だけだ、そう私は見ている。

 今まで、オーブは実質的に大西洋連邦の新領土としての扱っていたが、そこから上がる税収は
微々たるものであろう。
 それよりも軍駐留の維持費や破壊されたオーブ国内のインフレの整備等の方が大西洋連邦本国に
とって負担になっていたに違いない。駐留軍を本国に引き上げさせる事によって維持費の負担はなくなる。
 これだけでも大きな費用削減だろう。
 
 そして大西洋連邦政府は自身の意を受けた代官を残しつつ、実質オーブを支配体制にを続行する。
 一般的な考えができる大人ならば、誰しも想像がつきそうなもので、分かりきったことであろう。

 以前の”中立国家”としてのオーブなどは、まさしく夢想としか思えない。
29機動戦史ガンダムSEED 37話 6/6:2008/03/04(火) 23:19:07 ID:???
 それに大西洋連邦の支配化や援助を抜きにして、疲弊しきったオーブが独力で国家としての
体裁を整えらるのか?と聞かれれば、答えは”ノー”であろう。
 国内のインフラは破壊され滅茶苦茶な上に戦時によって国営施設及び、民間事業施設の
殆どは破壊され、払拭されている。

 流通ルートも独自に確保されて無い上に、物価上昇に歯止めが全く掛からない今、国民の殆どが
困窮している等etc……etc。

 呆れるほど悲観的要素のてんこ盛りである。こんな状態で独立国家などまったく笑わせてくれる……!

 私の苛立ちは頂点に達し、狭い部屋の中をウロウロする始末だ。だが、私自身は何の力も無い一介の
市民に過ぎない。だが、このままでは再びオーブは同じ滅びの道を歩む事になるのは明白だ。

 しかし、今の私には何らする術がない。その日の一日も焦燥感に包まれつつ、無為に過ごすはめになった。

 次の日の夕方、私は仕事を終え職場である私塾からいつものようにコンビニに寄り、夕食のコンビニ弁当を
購入する。現在のオーブでは一般市民に自然食が手に入るはずもなく、高く不味い合成食品しか
口に出来ないのが日常である。それだけでも、オーブ政府に対する怒りが込み上げてくる。

 帰宅すると自宅の安アパートに黒塗りの車が停められ、その車に寄りかかるようにして、顔に茶色の
濃いバイザーを掛けて素顔を隠してはいたが、身形の整っている男が立っていた。
 
 ……どうみても、このような下町風情に立っているような人種ではない。
 
 それとも、また政府関連の諜報機関の人間だろうか?私などいまさら監視を再開したところ、どうに
もならないであろう。無視して通り過ぎようとしたところ、私はその男に呼び止められた。

 「……カズイ。カズイ・バスカークだろ?」

 驚いて振り返ると、男はバイザーを外し、素顔を晒す。

「――久しぶりだな、カズイ。俺だ。サイ・アーガイルだ」

そこには、以前より遥かに鋭い眼差しを宿した、かつての旧友の顔があった。


>>続く
30真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/03/04(火) 23:23:16 ID:???
hate&war“welcome to paradise”
 この間まで大き過ぎると思っていた銃もすっかり僕の手に馴染んだ。
 初めは重たかった引き金も今じゃ鳥の羽よりも軽い。
 貰った時は黒くてピカピカに輝いていたけれど、使い込んだせいか薄汚れている。
 あれだけ五月蠅かった銃声も慣れると耳に心地良いメロディーだ。
 引き金を引く度に痛くなった心は知らぬ間に引き金を引きたがってしょうがなくなっている。
 これは聖戦。全ては神様に捧げられるものだ。
 最初はちんぷんかんぷんで意味が分らなかったけど、今は理解る。
 戦って戦って戦った先には天国がある。戦って悪い奴等を殺せば僕は天国に行けるんだ。
 だから僕は戦う。

 乾いた音が響く。目の前には僕が作った出来たての死体が転がっている。赤ん坊を抱いた女の人だ。
 可哀想だけど、これは遊びじゃなくて聖戦だから仕方がない。
 硝煙の匂いがいがらっぽく鼻につく。これだけはいつまで経っても慣れない。

 とにかくこれで今日は四つ目だ。調子が良いのか結構良いペースだ。多分僕が一番だろう。 遠くでズシンズシンと音がする。MSが現れたみたいだ。
 雷の様な音が響いている。MSは厄介だから早く倒さないと駄目だ。
 物陰を隠れ伝いながら走る。
 そこら中に死体が転がっている。知らない顔、知ってる顔、顔が無い物など色々沢山だ。
 死体の仲間入りしない様に気をつけながら進む。
 瓦礫の向こうでは仲間が攻撃を始めている。遅れたら駄目だ。僕も負けじと攻撃を始める。
 撃っては隠れ、撃っては逃げるの繰り返し。出来るだけ視界に入らない様に死角に入る。
 悲鳴が聞こえた。向こうにいた筈の仲間の姿が見えない。
 可哀想だけど構ってられない。僕は僕の事で一杯一杯だ。
「助けてっ!」
 仲間が血だらけになって泣き叫んでいるのが見えた。
 足が取れているけど四つん這いになって逃げようとしている。
 どうにも仕様がないから助けてあげないと。
 楽にして上げる為に銃を構えて仲間に狙いをつける。せめて痛くないように一発でカタをつけてあけまないと。
 引き金を引いて乾いた音を響かせる。
 ぐったりと動かなくなった仲間と再会したらこう言ってくれるだろう。
 ――天国にようこそ。
31真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/03/04(火) 23:24:30 ID:???
血迷い短編投下。
32前スレ520:2008/03/05(水) 03:44:22 ID:???
職人の皆さん、投下乙! です。

>>真言氏
血迷いまくりw

前スレの残り容量を使って職人さんか作品の人気投票をして居るので、
新スレから来た人もついでに投票してみて下さい。
前スレが埋まるor落ちるかした時点で投票締め切り。
今スレで結果発表します。
33SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/03/06(木) 21:46:11 ID:???
砂時計の夢 heaven's door

1/

 何時の世にあろうとも、悲劇は繰り返すものだ。
 対価を失くし、闇に包まれたこの場所で、姉妹は閉ざされた扉を前に立ち尽くしていた。

「そう……余りにも遅すぎたのね。私達は」
 あの時誘惑に負けていなければ……悔悟の涙を目じりから流すルナマリアは、
背中にメイリンを庇い、その扉の前に居た。
「お姉ちゃん……」
 メイリンの表情はひたすらに暗い。
「きっとこれを見るのは、私達が最初で……そして最後でしょうね」
「無理して見なくてもいいんだよ?」
「駄目よメイリン。私達は間違いを犯した……この過ちから目を逸らす事だって、
確かに出来るでしょうね。ううん……もしかしたらそうするべきなのかもしれない」
 姉が扉に向けて一歩を進める。とタイミングを計ったように、扉の向こうから
静かな鳴動が聞えてきた。
 この扉を封印し、過ちを忘れてその後の一生を送る事も出来る筈だ。

「だけどね、私はそうしたくないの。過ちから……過去から逃げ出したくないのよ」
「お姉ちゃん……でも、全部お姉ちゃんと私が悪いわけじゃないじゃない!」
「そうね」
 叶うならやり直したい過去が人にはある。そうなって居ればいいと思う瞬間が人にはある。
 メサイアにおける攻防戦に勝利していれば……と思わずにはいられない。
「ユニウス7が最初かしら……私だってね、あの破砕作戦が成功していれば、
こんな事にはならなかったとは思うわよ……でも」
 姉は妹の肩を掴み、その目をじっと見つめて語り掛ける。
「でも、もしかしたらあの日……私達がアーモリー・ワンで強奪事件に巻き込まれるその前に、
もう未来は決定していたかも知れないじゃない」
「お姉ちゃん、だからそれは……!」
「私はもう、後悔したくないの! そのためには、この扉を開けて、ありのままの
真実を目にしなくちゃいけないの!」
 その目に宿る決意を、メイリンはとうとう覆す事が出来なかった。
「開けるわ……メイリンは逃げてもいいのよ?」
「ううん。私もお姉ちゃんと一緒に見る。扉の奧がどうなって居るのか。
その真実を……」
「そう、止めはしないけどね」

 ルナマリアが扉に手を掛ける。さしたる抵抗も無く観音開きの扉に切れ目が生じると、
不気味な鳴動が止む。その奧の光景は未だ見えず、緊張感がいや増した。
「いくわよ……」
 そして封印されていた扉が今……開かれた。
34SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/03/06(木) 21:47:09 ID:???
2/

「「……」」ばたん。閉じた。
 冷蔵庫のコンプレッサーが再動して、ぶーんという振動音が沈黙の台所に満ちる。

「い……いやああああああああっ!」
「なかなか刺激的な眺めだったわね」
 叫んだのはメイリン。ため息をついたのはルナマリアだ。
「ぎゅ、牛乳が! 牛乳がどうして黄色とか赤とかになってるの!?
絵の具なの? 液晶なの? ねえ、お姉ちゃん――!?」
「さあ? お父さんか誰かが、冷蔵庫の中で前衛芸術に挑戦したとか?」
「そんなわけ無いじゃない……どうして……どうしてこんな色のミルクになるのよぉ!」
「はあ。もう、しょうがないじゃない……電気代を滞納してて、冷蔵庫が止まってたんだから。
まだ冷蔵庫の中の機密が保たれてただけマシって言ったらマシよ」
 はああ、と長めのため息――幸せだって、こんな所には居たくないだろうし。
珍しく地球産の天然牛乳がスーパーに入荷されたというから、しかも特売だったから、
暫くリッチな気分を満喫しようとしてなけなしの給料をはたいて沢山買ってきたのだ。

「その翌日に強奪事件だもんねえ……欲張ると上手くいかないものだわ。ほんと」
「のんびりしてないで、早くこの冷蔵庫を片付けようよ、お姉ちゃん!
うう……なんだか体がかゆくなってきちゃった。早くソレを捨ててぇ!」
 そういってメイリンはその場にうずくまり、自分の肩を自分で抱く。きっと空気が
"アレ"を一欠片でも含んで居ると感じているのだ、呼吸が苦しくなるのもむべなるかな。
「うーん、初の給料で買った、中々値の張る冷蔵庫だったんだけどなあ」
「あ……お姉ちゃん私大変な事思い出した」
 何? と聞き返す姉に向かい、妹は新たなる事実を口にする。
「ミネルバの観覧式が終わったら一緒に食べようと思って、下の方、野菜室……
材料が入れてあるの。海……鮮……ジョン……ゴル――」
「そんな泣きそうになってまで言わなくていいわ。分かった。私が確認してあげる」
「ゴメン……お魚も安かったの……」
 謝るメイリンを背後に、ルナマリアが野菜室の引き出しを開けて確認する。
きっかり二百ミリセコンドで閉じて、メイリン(台所の隅に避難した)の方に戻って聞く。

「メイリン貴方、七色のイカって見た事……ある?」
「いやああっ――! そんなの見た事ない。見たくもないよ! そもそも海鮮ジョンゴル鍋に
イカって材料に買ってない、買ってないのよぉっ!」
「あら……そうだったの。ってことは"アレ"は――」
「――言わないでっ!」
 想像すら恐ろしくなったメイリンがルナマリアの言葉を遮る。姉妹のヒエラルキーから
考えればありえない事態だ。

「でももう使い物にならないしね、衛生面じゃなくって精神的に……」
 どう処理したものかと悩むルナマリアの脳裏に電球がぽーんと灯る。
「分かったわメイリン。私がこれ以上無く紛れも無く跡形失く、この冷蔵庫を抹殺してあげる」
 伏せた面を挙げて姉を見上げる妹の顔には、はっきりとして尊敬の色があった。
35SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/03/06(木) 21:48:13 ID:???
3/

 翌日、ミネルバの格納庫に不思議な物体が『演習用標的』の札を貼られて転がっていた。
「なあ、ヨウラン……これってどう見ても」
「冷蔵庫……だよな。しかも見ろよヴィーノ。ゴリラだって逃げられないくらいにテープで
ぐるぐる巻きにしてあるぜ」
 これって誰が持ってきたんだ? というヴィーノの問いに、一人のメカニックが答える。
「って事は……よっぽど処理に困った秘密でも詰まってるのかな? メイリンの?」
 ヴィーノが呟き、
「ひょっとしたら、ルナマリアのかもな。持ってきたのは姉の方だし」
ヨウランが首を傾げる。
 そしてどちらからとも無く顔を見合わせると、異口同音に肯きあった


「「開けてみようか」」






 以上、お題"ミルク"投下完了。



36通常の名無しさんの3倍:2008/03/06(木) 23:20:46 ID:???
†GJ、乙です。
(((((;д;)))))冷蔵庫…テラコワス……
37はぐれワナビ  ◆EWxNN5VMR6 :2008/03/08(土) 13:41:28 ID:???
P.L.U.S. SS 「上級パイロット演習」 <6>

 二機のゲイツRが戦闘エリアの端に到達すると、反対側のツインタワーの向こうに、機
影が一つ降下するのが見えた。見慣れたシルエットは先日まで二人が演習機としていたプ
ロトジンだ。
「よし、始めるぞ!」
 レイの声に応じるように、ディスプレイに演習開始の表示が点灯する。
「ああ、任せろ!」
 モニターの向こうで操縦桿を引くシンの表情は引き締まる。先程までの間抜けなやりと
りが嘘のようだ。その様子にレイは静かに頷き、操縦桿を握り直す。
 二機のゲイツRは速度を上げてツインタワーを目指す。対するプロトジンはツインタワ
ーを盾にする形でビルの陰からマシンガンを撃ち牽制してくる。
「落ち着いて行けよ」
 迫る弾丸を俊敏に回避しつつ後方の僚機に声を掛けた瞬間、
「ドォォゥルワアァァァッッッ!」
 耳を突く怒号と共に光り輝く弾頭が二つ、レイのゲイツRをすり抜け亜音速で敵機へ迫
る。予期せぬ長距離からの攻撃にプロトジンは慌ててタワーの裏に身を隠し、二つの弾頭
の直撃を受けたタワーが大きく揺らいだ。
「すげぇっ! これがMMI−M20SポルクスWレールガンの威力か!」
 振り返るとシンのゲイツRが腰のレールガンを発射した体勢で仁王立ちしていた。
「シン! 何してる!」
「何って、試射」
 シンの声色には全く悪怯れた様子はない。
 発射の反動からようやく復帰したゲイツRはレイ機と合流すべくブーストを吹かせて前
進する。
 その隙にタワーから顔を出したプロトジンがパラパラと牽制のマシンガンを撃つのが視
界の端に見えた。
「いくら何でも無謀だぞ、シン!」
 レイは照準も確認せずに引き金を引く。
 一筋のビームがプロトジンに向けて伸びたが、さすがに距離があった。プロトジンは事
も無く回避行動を取る。
「無謀? いや、違うね。武器の性能も知らずに戦う方が遥かに無謀だ!」
 自分は何も悪くないとばかりに怒鳴り、シンはゲイツRを急発進させた。
「待てシン、一人で突っ込むな!」
 ザフト制式モビルスーツの講義としてゲイツRの武装や性能は十分に教わっていたのだ
が、今更そんな事を責めるつもりはない。レイは操縦桿を一気に押し込みシンの後を追っ
た。

<続く>
38はぐれワナビ  ◆EWxNN5VMR6 :2008/03/08(土) 13:45:54 ID:???
P.L.U.S. SS 上級パイロット演習の6話目、投下完了です。
39通常の名無しさんの3倍:2008/03/08(土) 19:20:03 ID:???
>>38
GJ!オモろかったw
なんかマトモな演習にならない気がするw
40真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/03/08(土) 19:53:57 ID:???
リソウノカケラ
“dirty hand's sorrow”1/2
 ふと、昔の事を思い出した。
 悪意に満ちた彼の視線はあまりにも意地が悪く鈍いその切っ先で私を貫いた。
 私なりに頑張ってきたつもりなのだけれども、彼は私の全てを否定した。
 綺麗事。
 その一言は私を鞭打ち、今もなおその視線と言葉は私を苛み続けている。
 そして今。彼は私の目の前にいる。
「……それは災難だったな」
 私は彼の話に言葉を選びながら答える。彼の顔色を伺いながら答える。
「笑うな。俺は災難だなんて思ってない。戦争で色々な物を失ったけど子供達の笑顔を、明るい未来を守る事が出来たって教えられたんだ」
 彼は憮然とした表情で私を睨む。その視線にはかつて程の悪意は込められてはいない。
「そうか。それならシンは幸せを一つ見つけたんだな」

 私はシンをオーブに呼び寄せた。私にはまだそれぐらいの権力ぐらいはある。
 もっともそれは公私混同の権力の使い方なのだけれども。
「幸せ……か。俺だって少しは報われたって良いだろう」
 彼は押し黙る。無駄に広い私の部屋は静寂に包まれる。
 私はその静寂を打破しようと口を開くが、彼の言葉にそれは遮られた。


「そもそも、だ。俺とアンタは仲良く話をする間柄じゃない筈だ。幾ら時間が経ったといってもアンタには蟠りがある」
 冷たく鋭い視線と言葉が私を抉る。
 私は俯いたまま答える事が出来ない。
「……でもな、此所に来る途中で見た子供達は綺麗な笑顔で笑っていた。アンタはアンタなりに未来を守ったんだって事は認めてやる」
 一瞬彼の表情が柔らかく穏やかな顔になる。
「……ありがとう。その言葉でかなり救われた」
 素直に頭を下げる。彼の言葉は彼なりに私に対する精一杯の譲歩なのだろう。
 私を許す事は出来なくても、私のやって来た事に対して一定の評価をしてくれたのは嬉しい事だ。
「それで一体何の用なんだ? 俺を呼んだからにはそれなりの事なんだろうな」
 彼の視線は私を値踏みする様なものに変った。私は大きく深呼吸をして彼を真直ぐに見つめる。
「……私の友人にマユ・アスカという娘がいるんだ。お前にその娘に会って貰いたいんだ」
 彼は目を細めて何処か遠い場所を見つめる様な瞳になる。
「マユが? ……そうか。それが用件って訳か。」
41真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/03/08(土) 19:55:14 ID:???
2/2
 シンは一瞬だけ戸惑った表情を浮かべて、悲しそうな瞳で目線の高さまで上げた自分の右手を見つめた。
「アンタの言うマユが俺の妹のマユなのかどうかは知らない。もし、そうだとしたら……会う事は出来ない」
 再会を拒絶したシンに対して、何故だと言う疑問が浮かぶ。
 死んでいたと思っていた妹が生きていたのであれば会いたいと思うのが普通じゃないのだろうか。
「なんで会えないんだ?」
 私は素直に疑問をぶつける。
「前に手紙が来たんだ。それでマユが生きていると言う事を知っている。……マユは俺が立派な人物になったと思っている」
 シンは言葉を澱ませながらゆっくりとした口調で話し始める。私は静かにその言葉に耳を傾ける。
「俺は立派な人物には程遠い。俺の手は血で汚れ過ぎている。マユを汚してしまうかも知れないんだ。だから、俺は会えない」
 シンは立ち上がると窓に歩みよっては差し込んで来る光に自分の手を翳す。
「そんな事はっ!」
 私はそんなシンに詰め寄る。シンの言葉は本心ではない筈だ。悩み揺れているからこそ言葉に覇気がなく澱んでいる。
「そんな事があるのさ。アンタには解らないだろうけどな」
 分からなくはない。でも、分かりたくはない。諦めてしまえば全てが終ってしまう。
 手が血で染まっていようが関係ない。二人には兄妹という絆があるのだ。
 断たれた絆の糸はよりを戻せば再び繋ぐ事が出来る筈だ。人の心はそんなにやわな物ではない。
 私はどんな事をしても二人を引合わせてみせる。そうしなければ私は二人と私が一生後悔してしまうと思う。

 だからこそシンの為、マユの為に二人を再会させる。
 ――そしてなにより私の為に。


to be continued
42前スレにおける人気投票結果発表:2008/03/09(日) 13:37:49 ID:???
赤頭巾
■■
河弥
■■■■■■■■■■■■■■■

■■
情熱

真言
■■■■■■■■■■■■■■■
戦史
■■■■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■
高畑
■■■■
黄昏

種を蒔く人(およびその旦那さん)
■■
弐国
■■■■■■■■■■
ひまじん
■■■■
美柚子

編集長(週刊新人スレ)
■■■■■

 真言さんと河弥さんが十五票で同率一位おめでとうございます。
このスレでも、容量があまったらやってみようかと思う次第です。

>>P.L.U.S. SS
 このシリーズは、シンの行動が楽しすぎます。二人とも大真面目なくせに、
二人揃うとまともにならないのがなんとも言えないです。いいコンビ。
続きが気になります。GJでした。

>>リソウノカケラ
 ウンメイノカケラ最後で出した手紙を、シンがちゃんと読んでいたんですね。
登場人物が必死になればなるほど救いが無くなっていく気がします。ただ、シンもマユも
実在の兄妹と向き合おうとしているのではなく、イメージ=理想の中にあるお互いを見て、
それを救いにしている事がタイトルに繋がってるのか、と深読みしました。
 GJでした。
43SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/03/09(日) 16:46:35 ID:???
 砂時計の夢

 倉庫を整理していると古びた望遠鏡が出てきたので、孤児院のテラスは
夜更かしする子供達によって天体観測の会場となっていた。

「あのWがカシオペア座だよ……自分の娘の美しさを海の妖精と比べたせいで、
わだつみの神ポセイドンの怒りを買った、アンドロメダの母親だね」
 筒の角度を調整しながら、接眼レンズを覗く男の子に星座の説明をするキラの姿がある。
夕暮れ前にアンチョコで確認した即席の知識をもっともらしく披露していた。
「あの柄杓の形をした七つの星……もっと北の方だよ。そう、それが北斗七星。
そのすぐ脇にある星は一体何だったかな? え……見えない?」

 そんなはずは無いんだけど……と、望遠鏡のピントを変えるキラを、
桃色の髪をした少女が抑えた。肩の長さに切り詰めた髪が潮風になびく。
「見えない方が良いのです」
「え……でもはっきりと――」
「――見えない方が良いのです」
 二度、全く同じ口調で繰り返されると、何故だか本当にそう思えてくるから不思議だ。
「寒くなって参りましたわね、キラ。何か温かいものを用意して参りますわ」
 消える背中を、キラは複雑な眼差しで見送った。

「こらこら、順番に見ようね」
 目を離すと直に望遠鏡を取り合う子供達を窘めて、一つ一つ丁寧に星座の解説を加える。
他人よりは多少、記憶力が良い方だった。
「ねえ、あの砂時計みたいなのは?」
 それはオリオン座だよ、そう教えようとした時だ。
「知ってるよ、プラント座だろ!」
 プラント座、プラント座と、孤児達が連呼する。プラントの砂時計型を知る
子供達に苦笑しつつ、「そうだね」と肯こうとして――

44SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/03/09(日) 16:47:39 ID:???
2/

「コーディネーターが住んでる所だ……」
――そういった少年の、声の暗さにキラの顔が凍りつく。
「コーディネーターが空から降りてきて、にゅーとろんじゃまーを落したから、
僕のパパとママは居なくなったんだ……」
「それは……」
 少年が小さく呟く「敵だ」の一言に、キラは喉まで出かかったことばを飲み込む。
 それは違うよ。
 そう、言おうとした……けれど少年の認識は多分、事実だった。

「違いますわ……、みなさんの将来のお友達が住んでいる所ですよ」
 そう言ったのは、孤児院の中から進み出て来た少女だ。ココアを配りながら続ける。
「キラおにいさんと私(わたくし)はコーディネーターです。私たちは敵ですか?」
 熱いココアをすする子供達は、暫く迷って"違う"と答えた。
「ええ、そうです。私たちはみなさんの友達ですよ」
 はっきり言い切る彼女は、子供達と一緒に居る為に本当の名前でいられないのだと、
キラは知って居る。彼の家族である権力者の力を借りても、そうしなければ駄目なのだ。
 彼女は名前を変えた。彼女は髪を切った。必要なら、顔だって変えたかも知れない。
 彼女は本当の己のままでは、地球に居ることすら出来ない存在だった。

「みんな……」
 彼女の本当の名前は――いっそぶちまけようとしたキラの唇を、柔らかい人差し指がふさぐ。
差し出されたココアを黙って受け取るキラに、同じ指を自分の唇に当てて"良いのです"と、
少女は仕草した。
「私は何も変わっていませんわよ……キラ?」
「変わっただろう……君は変わらなければいけなかっただろう?」
 彼女は答えを返さなかった。ただ、微笑む。
 囁き合う彼らの間を、何も知らない潮風が吹きぬける。肩を震わせた彼女が、
子供達に向かって寝る時間ですよ、と告げた。
45SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/03/09(日) 16:50:14 ID:???
3/3

 その夜、キラは砂時計の夢を見た。
 プラント、彼女の故郷だ。
 ――ユニウス7?
 知らない光景をキラは夢見ていた。
 彼女は元の様に髪を伸ばし、父から贈られた名で呼ばれている。
 誰に求められることなく、自分の詩で自分の曲を歌っている。
 風になびくその髪に触れたくて――本当は短くなってしまったのが残念だった――キラは
手を伸ばす。でも、キラが乗っていたのは"自由"の名前を持つ兵器だったから、抱きしめようと
伸ばした腕は武器しか持てなかった。閃光が迸る。溢れた破壊が緑の大地を埋め尽くし、
一瞬の内にそこを凍てつく墓標に変えてしまった。
 怒りも憎しみも無い世界、其処にはキラと彼女以外、誰も居なかった。

 ――……!
 彼女の本当の名前を呼ぶ、何処にも連なっていかない声は、真空の世界へ掻き消えた。
宇宙は温もりもことばも、伝えてくれはしない。
 そうしてしまったのは、キラだった。
 ――そうしてしまったのは君だよ!
 仮面の男が叫ぶ。キラの反論は聞えない……いや、言い返すことばなんて無かった。
 ああ。彼女が歌うのをやめてしまう。
 ふと、腕の中に感じた温もりは、幻想の中に希望を見出せたのではない、
キラを守ると最後に言った少女の、宇宙に残った感触でもない。
 きっとこれは、現実の自分が感じて居る温かさだ。
 こころの水面が上がってきたように、世界が色を失って、息苦しい。
 ――目覚めようとしている。

 目が覚めたなら、夢の事を全て忘れていたい、ただそれだけを望みながら、
キラは白と黒の光景から、現(うつつ)へと沈んで行った。





 お題『星座』 了 
46真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/03/09(日) 22:03:39 ID:???
hate and war
“tumbled”
 始めて踏み込んだ戦場の空気はとても重かった。まるで私の存在を拒否しているみたいだ。
 本当の戦争はシミュレーションとは程遠くて、見えない何かが蜘蛛の糸の様に絡み付いて私をがんじ絡めにする様に絡み付く。
 指を動かす事すらままならない。
 むせ返ってしまう程に強い殺意と悪意が刃となって私に突き付けられる。
 このままじゃ殺される。まだ何もしていないに、まだやりたい事が沢山あるのに。
 なんで私がこんな目に会わなければならないのだろう。
 私はただパイロットになりたかっただけなのに、格好いい英雄に憬れただけなのに。
 怖い、死にたくない、逃げたい、もう帰りたい。
 涙が視界を汚す。冷たい汗が背中を伝う。恐怖と狂気が漏れ出して生暖かく私を濡らす。

「後ろに食いつかれた! 誰か頼むっ!」
「……機体が持たない!」
「これじゃ七面鳥撃ちだぜ!」
「落ちろ、落ちろ、落ちろ!」
「攻撃が通用しない!?」

 ノイズ混じりに知っている声と知らない声の悲鳴が聞こえる。
 モニター越しに沢山の光が弾けて消えていく。
 敵も味方もなく、ナチュラルとコーディネーターの差もなくただの光となって消えていく。
 無慈悲な戦場が分け隔てなく平等に人を食らっていく。
 嫌だ嫌だ嫌だ! 私はまだ死にたくない!
 泣いても駄目。許しを乞うても駄目。誰も助けてなんてくれない。
 ……やらなきゃ私が殺される。そんなのは嫌だ!
 機体に衝撃が走る。アラートが鳴り響く。機体は激しく振動し、私はGによってシートに押しつけられる。
 私は吐瀉物を吐き出してヘルメットの中を汚す。
 更に衝撃が続く。どうやら機体の四肢が飛ばされたみたいだ。
 計器類が死んでいく。頭が真っ白に塗り潰されて訳が分からなくなりデタラメに操縦桿を動かす。
 モニターが死んだ。真っ暗なコクピットの中で私はモニターに拳を叩き付ける。

 私が望んだ物はこんな物じゃなかった筈だ。
 私が無様に死ぬなんて嘘だ。華麗に戦場を舞ってエースになる筈だ。
 こんな事は認めない。こんな事は許さない。
 何だかやけにおかしい。笑いが込み上げて来る。
 そうだ。これは夢なんだ。そうに決まっている。
 これは夢なんだ。
 ――笑い声が漆黒のコクピットに響くと、私は温かい光に包まれた――

47真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/03/09(日) 22:04:26 ID:???
リクエストがあったので戦闘物投下。
48通常の名無しさんの3倍
職人の皆さん投下乙です。