イザークがこの様な行動に出るのも、アスランには理解出来た。全ては何時までも煮え切らない自分が悪いのが原因なのだ。アスランは強く頷いた。
その目に宿った物を確認したイザークは、微かに口の端を吊り上げると、
「俺は帰る。みんなによろしく伝えておいてくれ。何があっても死ぬんじゃないぞ! いいな!」
と言って、その場を後にした。
ここに集まったパイロット達の仲で唯一、イザークだけがこの場所に来る理由が無かったのだ。
アスランはイザークの言葉の端々を思い出し、ニコルとの約束を遂げる為に、自分を叱咤しに来たのだと理解すると、その背中が見えなくなるまで見送った。
それから、アスランは服を調えると部屋へと入って行った。
中で話でもしていたのだろう三人が、再び入って来たアスランを見るとディアッカが尋ねて来た。
「おい、アスラン。イザークはどうした?」
「ああ。用事があると言って帰ったが」
「冷たい奴だなぁ」
「ディアッカ。イザークはそんな人じゃ無い事、知ってるでしょう」
「あったりまえだろ」
なだめるニコルに、ディアッカは親指を立てて茶化した様に答えた。
実際、このクルーゼ隊パイロットの面々が、ここまで仲が良いのも珍しい。それもプトレマイオス基地奇襲を成功させ、余裕のある状況下でマスコット的な役目をニコルが負っているからに過ぎなかった。もしかしたら彼等に取っては、今が一番良い時期なのかもしれない。
刻一刻と出発時間が近付いて来る。
ニコルが立ち上がり、アスランとディアッカに向かって頭を下げた。
「アスラン。フレイをお願いしますね。あとディアッカも」
「……ああ」
「あの戦艦までだろう? 今度ばっかりは素直に頼まれてやるよ」
アークエンジェル追撃の任が頭にぶり返したアスランは、一瞬、躊躇したが頷いて見せると、続くディアッカは自信あり気に答えた。
雰囲気から何かを感じ取ったのか、ニコルはアスランの目を見て、再度繰り返す。
「アスラン。フレイを無事に送り届けてあげてください。絶対ですよ!」
「……任せてくれ。俺が必ずフレイを無事に送り届ける」
この瞬間、アスランはニコルの言う事を理解すると、力強く頷いた。
ニコルの目はフレイがアークエンジェルを降りるまで、アスランが必ず守り抜けと告げていたのだった。