【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】10

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488通常の名無しさんの3倍:2008/02/23(土) 22:27:06 ID:???
せっかくリレーSS続いてたのに、ここで、ぶっつり切るのはどうなんだ。

「と言うお話だったのさ。」

をやられると興ざめする。今までの話と無関係な話にしたいなら別のSSとして投下してくれ。
リーレーSSを投下した一職人より。
489通常の名無しさんの3倍:2008/02/23(土) 22:29:58 ID:EuhuhP8s
リーレーSS(笑)
490通常の名無しさんの3倍:2008/02/23(土) 22:31:18 ID:???
作中の人物に言わせれば今までのSS貶してOKってなればいくらでも荒せるな。
491通常の名無しさんの3倍:2008/02/23(土) 22:34:11 ID:???
全ては汚物バラ撒き職人が悪いんだよ!
新人スレに加齢臭をバラまいて喜んでいるんだよ!
492通常の名無しさんの3倍:2008/02/23(土) 22:34:51 ID:EuhuhP8s
>>489
リーレーSS(笑)ってなあに?
493通常の名無しさんの3倍:2008/02/23(土) 22:38:41 ID:???
>>484
他の職人のは余り面白くなかったですか?
494通常の名無しさんの3倍:2008/02/23(土) 22:38:43 ID:???
投下したのは河弥じゃないのか?
昨日まとめサイトで投下するって言ってたし。
でもコメント削除してたんだよな。
495通常の名無しさんの3倍:2008/02/23(土) 22:44:40 ID:???
>>494
リレーじゃなくて12話の続きの事。
496通常の名無しさんの3倍:2008/02/23(土) 23:03:35 ID:???
鬼畜さんのエロSSが読みてえづら
497通常の名無しさんの3倍:2008/02/23(土) 23:08:45 ID:???
俺は戦史と種まきさんの新作が読みたいだがね
498通常の名無しさんの3倍:2008/02/23(土) 23:16:32 ID:???
リレーSSはここではやらない方がいい気がする
とめさんとこでのんびりやった方が良さげだな
つーか、誰が一番最初にリレーSS書いたんだよ
499通常の名無しさんの3倍:2008/02/24(日) 01:59:44 ID:???
だが録画されていたのはリーレーの続きだった。

カガリが叫んでいる隙をつき、ラクスはその長い長い髪の毛の一本一本を手足の如く自在
に動かし、キラにまとわりつかせ誘き寄せていた。
「ああっ、苦し……た……すけ、アスラ……」
手に足に腹に胸に首にまとわり着き、グイグイと締め付ける鋼の様な髪の毛のせいで消え
入る様な声で助けを求めたその時である。

「きーーらーー!!」

これまた伝説の赤服アスラン・ザラが執務室に飛び込んで来た。
「今キラが俺を呼ん…… なっ!? なんだこれは面妖な。カガリ、説明してくれ」
「私の絶叫は聞こえないのに、キラの呟きが聞こえたのか? 」
「……なるほど。あとは任せろカガリ! キラは俺が助ける! 」
「お前はぁ…… 」

飛び込んで来た時からキラだけを見つめ、キラを見つめるついでに視界に入っていたカガ
リと会話をしている我らが赤服アスランは自信満々に言い放つ。
「俺がラクスを説得する。これでも説得には自信がある。暴走するシンを幾度も説得して
 いたからな」

……不安だ。

「聞いてくれラクス。人間には越えてはならない一線と言う物があるんだ。その一線を越
 えたら後は、後は…… 」
何かを思い出すかの様に眉間に皺を寄せ目をキツく閉じ、肩を震わせながらアスランはラ
クスに語りかけた。

「アスラン…… 後はなんですの? 」
「一線を越えたら親子でも命のやり取りをしなければならないんだ! 分かるかラクス」
「ぜんっぜん分かりませんわ。それはそれ、これはこれですわ」
「……む。確かにそれはそれ、これはこれだな。どうするカガリ? 説得されてしまったようだ」

相変わらずキラを見つめつつ、カガリに問いかける。「……アスラン。帰れ」
「……やだ」

――ぷつん。
嫁はテレビの電源を切ってしまった!

500通常の名無しさんの3倍:2008/02/24(日) 08:33:29 ID:???
リレーSS続き

「あー、もう。ドラマでも見ようかしら。韓国ドラマでも見ようかしら」

嫁はチャンネルを変えた。

『チュンサンは私のものよ。あなたになんか渡さない。私だって、ずっと昔から好きだったんだから!』

その時玄関のベルがなった。

「あら、こんな時間にお客様かしら」

嫁は玄関に出て行った。

「どなた?」
「チュンサンは私の物よ。あなたになんか渡さない。私だって、ずっと昔から好きだったんだから!」

え? 嫁は一瞬頭が空白になった。そこにいたのは、今までテレビの画面の中にいたラクスだったからだ。
なにかが振り下ろされる! 嫁はとっさに手を上げた。
ぼとり。
するどい切り口を見せて、人の腕が落ちる。・・・自分の腕だった。


「おーい、何かあったのかい?」
なかなか帰らない嫁を心配して旦那が玄関に出てきた。
そこにいたのは・・・ラクス?
倒れてるのは嫁か!? 真っ赤な何かに塗れている。
なんだ? いったい何なんだ?
「せんぱぁい。奥さんが妊娠したなんて嘘じゃないですか?
ラクスが邪気のない笑みを浮かべて話しかけて来た。よく見たら、この間抱いてやった会社の後輩だ。
「中に誰もいませんよ?」
 
501鼎 ◆D/4OEv2D7w :2008/02/24(日) 08:40:16 ID:???
懐中噺“でくのぼう”

 機械仕掛けのゆりかごの中で意識が揺らいでいく。
 記憶すら俺の所有物じゃない。誰かの勝手でどんどん削られていく。
 忘れらたくない思い出があっても不要と判断されたら真っ白く塗りつぶされる。
 ゆりかごは俺のやつの他に二つある。俺には仲間が二人いたって事だろう。
 だのに、俺はそいつらの事を知らない。欠片も覚えていない。
 大事な事から忘れていく。忘れないのは戦い方だけだ。
 それはそれで構わない。どうせ棺桶に片足を突っ込んでる俺だ。無駄な事をしないで済む。
 短い人生、人の事より自分の事。やりたい事を探す手間が省けて丁度良い。
 やりたい事よりも出来る事、戦い方だけ覚えていればどうとでも出来る。
 だけどいなくなった仲間の事を覚えている事が出来ないのは腹が立つし、情けない。何より奴等に申し訳ない。
 でもそれだけだ。思うだけで何一つ行動には移さない。 移せないんじゃなくて移さない。煩わしい事に構える程に俺の人生は長くない。
 出来る事はやる。出来ない事は切り捨てる。そうしないと何も出来ないままにあの世行きだ。
 戦う為に作られたからには戦って死ぬのが至極当然だ。
 それが出来なきゃファントムペインである意味がない。
 今まで戦い続けてきたけど、まだ一度たりとも勝ってはない。
 後何度戦えるのかは解らない。戦う事が出来るのかすら解らない。
 でも、最後に一度くらいは勝ちたい。勝ってこそのファントムペインだ。
 負け続けてお終いだと死んでいった奴等に笑われる。
 カオスは壊しちまった。次の機体がどんなのなのかは分からないけれど、多分俺の棺桶になるだろう。
 棺桶に乗って暴れ回って勝って死ぬ。
 至ってシンプルな人生設計だ。
 失ってきたばかりの、負け続けてきた俺だけど、最後には勝ちてえ。
 そうすりゃでくのぼうみたいな人生でも自慢出来るさ。
 了
502河弥 ◆w/c45m7Ncw :2008/02/26(火) 00:16:21 ID:???
「 In the World, after she left 」 〜彼女の去った世界で〜

第12話 「捕捉 −ひきがね−」(後編)
(1/8)


 通信機越しに姉の悲鳴が聞こえた時、メイリンもまた悲鳴をあげなかったのは彼女にとって幸いだった。
 もしその時声を出していたのなら、その後も姉を呼び続けるだけで職務など放棄してしまっていただろうから。
 メイリンにとってもう一つ幸いだったのは、すぐに、ムラサメは中破したがコックピットが――少なくとも
外見上は――無事なことを知らせてもらえたことと、その報告が他ならぬアスランからもたらされた事だ。
 目の端の冷たいものを拳でぐい、と拭って、メイリンは背筋を伸ばす。
 セイバーとムラサメの緊急着艦とルナマリアの負傷を関係各所に連絡し、次にシンを呼び出した。
 シンは――インパルスは数刻前からまったく変わらぬ位置にいた。
 レーダーに固定されたインパルスと応答しないシンを心配したタリアの命でルナマリアが向かったのだが――
そのルナマリアの緊急事態にもシンには何の反応もない。

『セイバー、ムラサメ、着艦するぞ』
 突然、通信機からアスランの声が割り込んできた。
 メイリンは慌てて、準備はできている旨を返答する。
『隊長、私が援護します』
 レイの声が聞こえた。その普段通りの落ちついた声音にメイリンもまた少しだけ落ち着きを取り戻す。
 一瞬だけメインモニターに向けた目に、セイバーに抱えられるムラサメの姿が映った。
 ムラサメは左肩口の辺りが黒く焼け焦げ、左腕が失われていた。
 もう一度拳で目を拭ってから、目の前のモニターに視線を据える。
『メイリン、俺はすぐにもう一度出る。指示を頼む』
「はい。了解しました」
 メイリンはアスランの要請に応えるべく、MSデッキに連絡を入れる。
 MSデッキではアスランからの直接の要請もあったらしく、既にセイバーの簡易補給が始まっていた。
 それが終了し次第発進できるよう左舷カタパルトのスタンバイを手配し終わるとほぼ同時に、ルナマリアが
コックピットから救出され医務室へ搬送されたとの連絡が入る。

 思わず腰を浮かしかけたメイリンだったが、必死の意思でそれを押し止めた。
――ダメッ。今あたしが行ってもお姉ちゃんは喜ばないっ!
 三粒目の涙は拭わなかった。
 メイリンはモニターを睨みつけるようにしてから手元のスイッチをインパルスに切り替え、大きく息を吸う。
「シンッ。何してんのよっ!」
 声の限りに叫んだ。
 ブリッジ内だとは頭の片隅で分かってはいたが、そんなことに構っている余裕がなかった。
 動かない光点。
 何度呼びかけても返らない応え。
 胸を圧迫する不安。
「お姉ちゃんが怪我したの、見えてないのっ!? 返事くらいしなさいよっ!!」
 語尾が震えるのは、力を入れすぎた為か、それとも別の理由からか。
503河弥 ◆w/c45m7Ncw :2008/02/26(火) 00:17:26 ID:???
(2/8)
 二、三度、大きく肩が上下する。
……それでも返答がない。
 震えを止めたくて、両手をぎゅっと握り締めた。
――大丈夫。だってまだ『シグナル・ロスト』じゃない。
 他の誰でもなく、自分に言い聞かせる。

「アスラン。インパルスからの応答がまだないの。再発進後、そちらに向かって頂戴。詳しい座標は送るわ」
 突然、ブリッジに響いた声の主をメイリンは振り返った。
『シンが?』
 見ると、サブモニターの一つにアスランが大写しになっていた。
 そんな状況ではないのに、小さく跳ね上がった心臓を内心で叱咤する。
「戦況は今のところ五分だけれど、長引けばどうしてもこちらが不利だわ。でも『七人目』の出撃は避けたいの。
負担は承知だけれど、なんとか頼むわ」
『……了解しました』
 一拍の間の後に返答をし、アスランがモニターから消えた。
 それと同時にタリアが振り返る。
「メイリン、聞こえたわね?」
「は、はいっ!」
 メイリンは慌てて自らのコンソールに向き直ると、セイバーの補給状況を確認する。
 その行動を待っていたかのように、直後に補給の完了を知らせるランプが点った。
「X23Sセイバー、アスラン機、左舷カタパルトより発進スタンバイ」
 セイバーはシーケンスに合わせて、カタパルトへ移動してゆく。
 その間にメイリンはセイバーにインパルスの座標を急ぎ転送する。

「アスランさん、インパルスの座標です。これで……」
 ちらっとモニターを確認してから言葉を続ける。
「約四〇〇秒、動きがありません」
『了解した』
 アスランからはぶっきら棒な返答が返ってきた。
「あの……よろしくお願いします。アスランさん」
 余計な事かもしれない。そう思いつつも言わずにはいられなかった。
『ああ』
 アスランの返答はまたしても短い。
 しかし、メイリンはその一言に全幅の信頼を覚えた。

「アスラン機、セイバー、発進どうぞ」
 アスランの駆るセイバーがミネルバを後にする。
 メインモニターでその背中を三秒だけ見送って、メイリンは何度目かの呼びかけをシンに行った。
「シン、聞こえる? 今、アスランさんがそっちに向かったわ」
 相変わらず返答はないが、メイリンは呼びかけを続ける。
「お姉ちゃんもアスランさんが連れて帰ってくれたの。だから」
 メイリンの声が止まった。
 コンソールのランプ――インパルスからの入電を示すランプが点灯しているのを見て取った。
「シンッ!?」
 ほんの少しの音も聞き逃さないようイヤホンに手を当てる。
 シンの声は聞こえない。
 だが、先程までの完全な無音とは違う。微かな呼吸の音を耳が拾っている。
504河弥 ◆w/c45m7Ncw :2008/02/26(火) 00:18:37 ID:???
「シン、無事なの? シンッ!?」
「地球軍、撤退信号ですっ」
 メイリンの声にマリクの状況報告が重なった。横目で見たメインモニターに三色の光を視認する。
「取り舵二十。地球軍を追いながらインパルスへ向かいます。アーサー、後ろは任せたわ」
「「了解!」」
 すかさず投げられたタリアの命への応答が重なり響く。
『シン。おい、どうした。シン!?』
 割り込んできたアスランの声に、メイリンはレーダーを確認した。
 セイバーとインパルスを示す光点が並んでいる。
「インパルスとセイバーの映像、出ます」
 その言葉が終わるよりも早くメインモニターに、真紅のセイバーとトリコロールのインパルスが映し出された。
 二機は並んでミネルバよりも十メートルほど上空に滞空している。

 宙に浮いたままのインパルスをメイリンは訝しく見上げた。
 モニタに表示されたインパルスの座標と実際のインパルスの位置は一致している。
 しかし、メイリンはインパルスが海面で浮いているか、最悪の場合、海底に沈んでいると思っていたのだ。
 パイロットの意識が失われている状態で滞空し続けられる筈がない。
 だとしたら、シンは意識を保っていた、ということになる。
――じゃあどうしてシンは応答してくれなかったの……?
 と、見る間にインパルスが暗灰色に変わった。
 PS装甲のバッテリーが切れたのだろう。
 ならばインパルス自体のバッテリー残量も危険域に近い筈だ。
 手元のモニターでそれを確認したメイリンは軽く瞠目した。
 インパルスのバッテリーはまだ十分に残っている。

「シン、聞こえる?」
 様々な腑に落ちぬ点を取りあえず呑み込んで、メイリンは再度シンに呼びかけた。
「シン、応答しなさいっ!」
 タリアの叱責するような声も聞こえた。

 突然インパルスが崩れるようにその場から落下した。
「シンッ!?」
 メイリンは息を呑み、ブリッジ内が緊張に包まれる。
 だが、すぐにセイバーがインパルスに追いつき、その腕を掴まえた。
 コックピットはそれなりの衝撃を受けただろうが、海面に叩きつけられるよりはずっとましだろう。
 安堵の空気の中メイリンが声をかけようとしたその時、イヤホンから僅かにシンの声が聞こえた。
『メイリン……俺……』
「シン? シンなのね!? 大丈夫? 怪我してない?」
 しかし、シンはメイリンの問い掛けには答えず、別の言葉を呟いた。
『ルナ……』
「大丈夫。お姉ちゃんもアスランさんが助けてくれたの。今は医務」
『ルナ……俺が撃った……』
「…………え? 何……?」
 メイリンの言葉を遮って聞こえてきたシンの言葉が、理解できなかった。
 撃った? シンが、お姉ちゃんを? って何? どういうこと?
『俺が……ルナ……殺した……』
 その時のメイリンにできたのは、ただ呆然とすることだけだった。
505河弥 ◆w/c45m7Ncw :2008/02/26(火) 00:19:37 ID:???
(4/8)


『君はもう少し戦力を有効に使える男だと思っていたのだがね。君の幸運はあの三機を奪取したことで使い切った
のかな?』
 J.P.ジョーンズの一角、一般兵は通行すら禁じられているエリアにある一室。
 ネオにしか操作を許されていない端末の意図的に上方に取り付けられたモニタの中で、男がネオを見下ろしていた。
 白い肌は青白い、とすら形容できる。青みがかった短い銀髪が酷薄な印象を更に強めている。
 ブルー・コスモスの盟主、ロード・ジブリールである。
 ジブリールの侮蔑の言葉を、ネオは黙って聞いていた。
 実際、勝利したと言い切れるのはG三機の奪取のみだ。
 仕留められると確信したアーモリーワン離脱直後の追撃戦でさえ、あと一歩というところで仕留め損ねた。
 前回のインド洋では極秘に建設中だった前線基地も失わせてしまった。
『調子の良かったのは最初だけ、後は下降の一途』と言われても反論の余地がない。

「申し訳ないとしか申し上げられません。その上、お手を煩わして申し訳ないのですが、少々気になることが
ありますので調査をお願いしたく」
 態度だけは恭しくネオは頭を下げた。
 それだけのことで相手が機嫌を良くするのなら、これくらい安いものだ。
『調査?』
 ジブリールの声が不機嫌ながらもわずかな興味を含ませたのを聞き取り、ネオは心のうちでほくそ笑む。
「はい。今回、ミネルバの他にアンノウンが一艦いたことはお耳に入っていることと存じますが、その他にも
面白いMSがいまして。……これを」
 ネオは端末を操作して、マルチに仕切ったモニタに一機のMSの映像を呼び出した。
「これは ZGMF-X10A『フリーダム』。二年前にかの三隻同盟の主力となったMSです」
 ジブリールの視線が頭の中の何かを探すように少し逸らされた。
『確か……大破したと記憶しているが?』
「私の調べた限りでもそうです。しかし、こうして実在しているのです」
『ふむ』
「それにこちらも」
 拳を口許に当て考える様子を見せる盟主に、次の映像を示す。
 別のモニタに黄色を主カラーとしたMSを映した。
 ジブリールからは何の反応もない。そのMSが何なのか分かっていないのだろう。
 ネオはそう判断し、彼がしびれを切らす前に答えを口にする。

「これはカラーリングこそ正規のものと異なっていますが、オーブ軍の主力MS『ムラサメ』です。
 M1シリーズならともかく、最新鋭機であるムラサメが市場に出回ったり、ザフトが所持するなど考えられません」
 何を考えているのか、ジブリールは相変わらず反応を見せない。
「更にこちら」
 MSの映像の代わりに、紺碧の戦艦の映像が入る。一般的な物とは異なる特徴的なフォルムだ。
506河弥 ◆w/c45m7Ncw :2008/02/26(火) 00:20:43 ID:???
(5/8)

「例のアンノウン艦なのですが、見覚えはありませんか?」
 しばし映像に見入っていたジブリールの眉が跳ね上がった。
『これは……ドミニオン!?』
 その反応に、ネオは表情には出さず苦笑した。
 戦艦「ドミニオン」はヤキン戦の直前から、ブルーコスモスの前盟主であったムルタ・アズラエルが乗艦し、
その生命と共に爆散した戦艦である。
 ジブリールならば当然見覚えがあるだろうと思っていたが、その予想はどうやら的中したらしい。

「矢張りそう思われますか」
 矢張り。
 幾分ほっとした雰囲気を漂わせながら、その部分を強調しつつネオは相槌を打った。
 自分では自信のなかった事柄に、上司の一言で確信を持てた。そう聞こえるような口調で。
「このJ.P.ジョーンズにヤキンの生き残りがいましてね。そいつが『似ている』って言うんで調べさせたんですが。
 確かに艦影は酷似しているんですよ。ドミニオン──正確にはアークエンジェル級に。
 艦影だけなら一致率は九十二パーセントでした」
 ふと、ジブリールの目が力を増したのにネオは気づいた。
 ようやくネオの報告に本格的な興味を抱いたらしい。
『まさか、ドミニオンだと?』
「いえ。ご存知の通り、ドミニオンは原型を留めない程破壊されましたので……」
 若干含みを持たせて、ネオは言葉を切った。
 ネオの誘導に気づいているのか、ジブリールは再び考え込む。
 彼が答えを出すのをネオは待った。
 既に解答は言葉の端に乗せておいた。後は彼がそれに気づくのを待つだけだ。
 もし彼がそれに気づかず別の可能性を提示してきたならば、それはそれで面白い。

 果たしてジブリールはネオの期待通りの単語を口にした。
『──アークエンジェル……』
 内心に波打つ落胆を顔には出さず、ネオは自身が書いた脚本の台詞を口にする。
「はい。ただ海中から出現したとの報告もありますので、確実にそうだとは言えません。アークエンジェルを
基にした新造艦の可能性も捨てきれないかと」
 一拍おいてネオは言葉を続ける。ここからが正念場だ。
「そして、問題はその艦が何処の所属か、ということですが」
『ザフトではない、と?』
「ええ。確かにフリーダムはザフトが製造した機体ですが、それではムラサメとの辻褄が合いません。更に
アークエンジェルは元々地球連合軍の艦だったわけですが……」
『何が言いたいのかね、君は』
 含みを持たせるネオの言葉に苛立ったようなジブリールだったが、唐突にはっとした表情を見せた。
 その脳裏に三点を繋ぐモノが浮かんだのだろう。
『……オーブ……』
「ええ。私もそう思います」

『わかった。オーブならば手段がある。こちらで調査してみよう』
「よろしくお願いいたします」
 深く下げた仮面の下で、ネオはにやりと嗤った。
507河弥 ◆w/c45m7Ncw :2008/02/26(火) 00:21:47 ID:???
(6/8)


 ジブリールとセイラン家とを結ぶホットラインの一方の端で、ウナトはこの場に息子を立ち合わせなかったことを
自嘲気味に安堵した。
 ユウナは描いたシナリオ通りに事が進んでいる時ならばともかく、突発事項への対処はまだ未熟だ。
 もしもこの場にいたのなら、何を口走っていたか分からない。
 そう考えているウナトの胸の内を探るように、モニタの中で銀髪の盟主がちらりと見やった。
『……という訳なのだが?』
「なるほど。お話はよく分かりました。ジブリール様のご心痛は察するに余りありますが……アークエンジェルの
件は初耳ですな」
 内心の憤慨を抑えつつ、ウナトは取り合えずしらを切る。
――まったく何が救いの大天使だ。あの艦は厄介事しか運んで来ない。

 だが、ジブリールは、そんなウナトの対応が気に食わなかったらしい。
『初耳だと? 一国の宰相が、国内での事を?』
 フンッと鼻を鳴らす気配がした。
『しかも蟻の一匹二匹の話ではない。戦艦とMSの事なのだが?』
 ジブリールの視線に蔑みの色が追加される。
 現在は宰相の地位にあるが、以前はオーブの首長会の中でも下位にあったウナトは敏感にそれを察した。
「……お恥ずかしい話ではありますが、我が国には前代表であるウズミの亡霊共が跋扈しておりまして」
『亡霊』と呟き、その不吉な響きの為かそれともウズミの名が気に障ったのか、ジブリールは眉根を更に寄せた。
 前大戦におけるウズミによるオーブ、そしてマスドライバーの喪失は、ブルーコスモスにとっても痛手だったろう。
 後にビクトリアで代用できたからといって、金銭的にも時間的にも損失は大きすぎた。
『それは行方不明の現代表のこと、なのかな?』
 現代表という単語に今度はウナトの眉がぴくりと動いた。
――本来であれば今頃はユウナ、またはウナト自身がその地位にあった筈なのに。
「いえ、まさか。小娘の事ではありません。あのような小娘、いくら足掻こうとも痛くも痒くもございません故」
『と、言うと?』
 ウナトの言葉にジブリールが興味を示した。その膝の上では黒猫が欠伸をしている。
「ジブリール様のお耳に入れるような者共ではございません」
 キサカ、キラ・ヤマト、マリュー・ラミアスを始めとしたアークエンジェルクルー達、エリカ・シモンズ等、
幾人もの名がウナトの脳裏に浮かんだ。
 その殆どは名しか知らない。今後も知るつもりはない。
「しかし、良い情報を頂きました。これで亡霊退治ができるというものです」
 ウナトは唇を笑みの形に歪めてジブリールに視線を返す。
『ほう……?』
 ジブリールもまた愉快そうに先を促した。無論その目に真の笑みの色はない。
508河弥 ◆w/c45m7Ncw :2008/02/26(火) 00:22:52 ID:???
(7/8)

 ウナトは手元の端末を操作しながら言葉を続けた。
「先程のお話にありました『ムラサメ』ですが、軍所有機に紛失などございません。しかし、何らかの事故等により
ある程度の形を残したまま廃棄処分になった機体ならば幾つか存在いたします。
 その機体の使用可能な部分のみを総て集めれば二機程度なら再構築も可能でしょう」
『では今度の件にはあのジャンク屋共が関わっている、と?』
「いえ、まさか」
 意見を即座に否定された為か、ジブリールは不機嫌そうに黙り込む。
 その様子に僅かに溜飲を下げながら、気づかぬ振りでウナトは更に続ける。
「部品のみをどれだけ揃えようともジャンク屋如きに再現を許すほど、このオーブの技術、易くはありません。
 しかし、開発に係わった技術者が一人でもいれば、それは可能となるでしょう」
『それが亡霊の正体という事か』
「はい。正確には亡霊の一匹ですが。しかし『幽霊の正体見たり枯れ尾花』という言葉もございます通り、亡霊など
その正体が分かってしまえば、恐ろしくもなんともございません。早速退治いたしましょう」

 そう言って結論付けたウナトだったが、ジブリールはそれだけでは納得しなかった。
『なるほどムラサメについては了解した。では、アークエンジェルとフリーダムはどう説明する?』
「そのような物、もちろん我が国とは何の関係もございません」
 ウナトの心の中(うち)ではこれは嘘ではない。
 確かに大戦後アークエンジェルはオーブに匿われていたのかも知れない。
 いや、多分それは事実だろう。
 しかし、オーブ軍とアークエンジェルが正式には何の関係もないのもまた事実なのだ。
『関係ない? 前大戦時にはかの艦と貴国との関係はそれは深いものに見えたのだが?』
 冷徹な、そして嘲笑するような笑みを浮かべてそう言い放つジブリールに、ウナトは思わず声を荒げた。
「あれはただの疫病神です! あの艦があったが為に、オーブは徹底抗戦などという妄想を抱いてしまったのです。
あの艦が無く、またウズミが愚かな決断をしなければ、オーブの国土が焼かれることなどなかったものを!!」
 それはこの会話中で唯一ウナトの真の――嘘も誤魔化しも無い思いだった。
 ウナトもほとんど末席とは言えど首長会メンバーの一人として、いや、オーブ国民の一人として国が焼かれた
ことに対し忸怩たる思いを抱いていた。
 ウナトには分からなかった。
 国を焼くような決断をしたウズミが何故いまだに「オーブの獅子」として英雄視されているのか。
 何故その娘カガリが、国民の支持を得ているのか。
509河弥 ◆w/c45m7Ncw :2008/02/26(火) 00:23:58 ID:???
(8/8)

『……それは我々ブルーコスモスに対する怨み言かな?』
 ウナトの勢いに呑まれたのか、ジブリールが口を開くまでほんの少し時間が空いた。
 しかし、その出てきた言葉も口調も普段のジブリールと些少の変わりもない。
「いえ。見苦しいところをお見せして申し訳ございません。
――ともかく、アークエンジェルは当方とは一切関わりはございません。その証拠、すぐにでもお見せいたしましょう」
 対するウナトもその僅かの間に態勢を立て直していた。

 これ以上は何も得られないとジブリールが判断したかどうか、それを切っ掛けに通信は終わった。
 モニタが消え、端末のスイッチが幾つか点るだけの殆ど暗闇の室内でウナトは呟く。
「ミネルバと一緒とは都合がいい。──アークエンジェル、ついに捉えたぞ」
510真言 ◆6Pgs2aAa4k :2008/02/26(火) 00:57:32 ID:???
リソウノカケラ
“blue sky. 空の憂鬱”
 初めて会った時に漠然と感じた。
 初めて話をした時に確信した。
 やはり私はマユに惹かれている。
 だけど気にかかる事が一つ。彼女は私に笑顔しか見せていない。
 他の表情を決して私には見せてはくれない。
 彼女の色々な表情を見てみたいと思うけど、彼女は私に笑顔しか見せないのだ。
 それは私に対する静かな拒絶なのだろうか。
 昔、彼女と似た境遇の男は私に敵意を剥き出した。
 彼女も彼と同じ感情を持っているのかも知れない。
 マユ本人に確認する事が出来ればどんなに楽だろうかと思う。
 だけど彼女の本心を知る事は怖い。彼女に拒絶されたらと思うと胸が苦しくなる。
 知らぬ間に私は臆病になっていた。昔は怖い物なんてなかったけれども、今では怖い事がある。
 それは私が年を取ったからなのかも知れない。
 積み重ねた年月は私に様々な事を教えてくれたけれども、それは私に取っては有益なものばかりではなかった。
 知りたい事、知りたくない事の分け隔てなく私は色々な事を教えられて、臆病になってしまったのだ。
 執務室の窓から見上げる空は雲一つ無くて果てしなく青い。
 その青さは眼に染みる程に鮮やかで私の心を憂鬱にさせる。
 視線を下に降ろすとと私の陰鬱な気分を嘲笑う様に木々が風に揺られている。
 窓硝子にはぼやけた輪郭の、今まで見た事がない様に情けない私が映っている。
 私は全てをふり払う様に頭を振り溜め息を吐く。そして曇った硝子窓にマユの名前を書く。
 マユ・アスカ。
 何故か胸騒ぎがした。
 かつて私に牙を剥いた男の名を書く。
 シン・アスカ。
 私の記憶が間違っていなければ二人は同じ日に同じオノゴロ島という場所で家族を失った筈だ。
 更に二人とも同じ姓。
 パズルのピースがはまった様な感じがする。
 もし私の推測が正しいのであれば、私は二人を引合わせるなければならない。
 二人を引き離した償いをしなければならない。
 二人の運命を打ち砕いた人間として謝らなければならない。
 そうしなければ一生後悔するかも知れない。
 再び空を見上げると空は青いままだけど、穏やかで柔らかい青だ。
 ――マユとシンに同じ青い空を見せたい。

to be continued
511通常の名無しさんの3倍:2008/02/26(火) 17:20:57 ID:???
河弥氏、真言氏 投下乙です

12話後編待ってました!
ザフト in AA に連合、オーブの反応 またまた続きが気になります。

リソウノカケラ
このまま淡々とマユとカガリの交流が続くのかと思ったらシン登場で
物語が大きく動くのだろうか?こちらも続き気になりますね。
512通常の名無しさんの3倍:2008/02/27(水) 17:11:35 ID:???
>>鼎さん
 スティングの心情を掘り下げてありましたが、ステラやアウルの記憶が無い事に
こだわらなかったのが、(あくまでも個人的に)少し残念でした。でも、無くした記憶
にはこだわらず、生まれた理由を存在理由として受け入れるのもまた味だったと思います。

>>河弥さん
 GJです。ミネルバ、オーブ、連合と、AAの存在を軸にして物語が進み、それぞれの立場を
思いから関わってゆく物語にしびれます。
 欠点を挙げるなら、次の更新が気になって仕方のないという所でしょうか。ところどころに
張り巡らされているであろう伏線を探しながら、期待して待つことにします。
 投下乙でした。

>>リソウノカケラ
 贖罪の意識から、カガリはシンとマユを引き合わせようとしていますが、その根底は
マユに会うための口実作りである気配がほんのりとlunatic風味? です。
 幸せになって欲しいという思いから出た行動も、カケラ世界で、
カガリのやったことならば、ハッピーエンドにはつながらない気がします。
 GJでした。

 職人の皆さん、作品の投下ありがとうございました。
513通常の名無しさんの3倍:2008/02/27(水) 22:05:33 ID:???
>>512
たしかに次が気になって仕方ないのが欠点だw
このスレの長編陣は更新が遅いけど、毎回読み応えがあるよ。
514通常の名無しさんの3倍:2008/02/27(水) 22:12:24 ID:???
暗い短編なんていらないよな。
515通常の名無しさんの3倍:2008/02/27(水) 22:18:01 ID:???
>>514
鬱展開は嫌いだからいらない。
516通常の名無しさんの3倍:2008/02/27(水) 22:26:03 ID:???
実録再開希望。
517通常の名無しさんの3倍:2008/02/28(木) 22:41:17 ID:???
ぐつぐつの鬱展開もみたいけど、そろそろ容量が危ないなあ。
518通常の名無しさんの3倍:2008/02/28(木) 23:38:36 ID:???
告知忘れてました。立てました。
【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】11
http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/shar/1204209377/
519通常の名無しさんの3倍:2008/02/29(金) 23:11:33 ID:???
>>518
スレ立て乙!
520通常の名無しさんの3倍:2008/03/03(月) 17:54:08 ID:???
容量が余ってるから、職人さん人気投票でもするか。過疎だけど。
一人十票を好きな職人さんまたは作品に割り当てる形式で。
締め切りはこのスレが落ちるまで。
他に投票する人が居たら、次スレの方でまとめとく。

河弥氏に三票
真言氏に三票
戦史氏に四票。
521通常の名無しさんの3倍:2008/03/03(月) 19:16:25 ID:???
†  5票
弐国 弐票
河弥 2票
真言 1票
522通常の名無しさんの3倍:2008/03/03(月) 21:21:24 ID:???
高畑3票
†2票
弐国2票
赤頭巾2票
鼎1票
523通常の名無しさんの3倍:2008/03/03(月) 21:27:06 ID:???
真言 2票
† 2票
河弥 2票
戦史 1票
鼎 1票
524通常の名無しさんの3倍:2008/03/04(火) 00:03:06 ID:???
>>5弐1
弐国 弐票 に笑ったw
525通常の名無しさんの3倍:2008/03/04(火) 20:29:44 ID:???
† 4票
河弥 4票
戦史 2票
526通常の名無しさんの3倍:2008/03/04(火) 20:48:28 ID:???
宇宙少年の夢(真言) 一票
もしも明日がはれならば(美柚子) 一票
光差す場所は(弐国) 一票
謎短編(ひまじん) 二票
編集長に五俵じゃなくて五票
527通常の名無しさんの3倍:2008/03/04(火) 23:41:45 ID:???
河弥氏 3票(彼女2、朝霧1)
真言氏 3票(Ex2、その他1)
†氏   1票(†1)
戦史氏 1票(戦史1)
黄昏   1票
高畑氏 1票

河弥氏の昨日の短編はインパクトがあったので少々甘目
528途中経過:2008/03/05(水) 03:02:36 ID:???
赤頭巾
■■
河弥
■■■■■■■■■■■■■■

■■
真言
■■■■■■■■■■
戦史
■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■
高畑
■■■■
黄昏

弐国
■■■■
ひまじん
■■
美柚子

編集長(週刊新人スレ)
■■■■■

意外と投票があってびっくり。グラフにしてみた。敬称略 五十音順?
529通常の名無しさんの3倍:2008/03/06(木) 16:34:48 ID:???
キャラ別に投票するなら、

ミツキ(弐国) に四票。
オリジナルキャラであの深さは面白い。

サイ(戦史) に三票
少年は成長するもんだ。カズイ・バスカーク卿にカトー教授と合わせて。

オルガ(真言、Ex) に二票
短い中、ナタル先生と絡めてのキャラ付けにインパクトがあった。

キラとシン(彼女の居ない世界) に合わせて一票
共闘関係で近くに居る分、互いの個性が出てきた。良い再構成だと思う。
530通常の名無しさんの3倍:2008/03/06(木) 22:26:33 ID:???
真言3票
種蒔き夫妻2票
情熱1票
弐国2票
ひまじん2票

リクエストするなら真言と鼎に戦闘物を書いて欲しい。
531SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/03/07(金) 18:32:08 ID:???
10/

 ――ミネルバ 格納庫左翼。

「状況は――シンは……インパルスは健在か?」
 モニターから目だけ逸らすと、右腕を包帯で吊り下げた金髪が居た。
 急いでも、慌ててはいない……レイは乱す所の無く秀麗な相貌を晒し、
メカニックを問いただした。
「ほら」
 傍らのヴィーノが、全体に青いインパルスのコンディション=グラフィックを示して
無事を教える。首には、四角い布製の、紐で吊り下げられた何かのお守りが揺れていた。
「インパルスに今の所大事はねえってさ! 赤服だけあるぜ、シンは」
「違うな、損傷が無いのは……インパルスの"所為"だ」
 早口――だが静かに、諭すような声がヴィーノの熱を冷ます。
「え……?」
 一瞬、ヨウランも"インパルスのお陰"と聞き間違えた。

「異常は……無いじゃんかよ。どういうことだろヨウラン?」
 ――俺に聞くなよ。
 思っただけつもりが口に出してしまったようだ。赤服――ザフト一番のエリートを前に
不味い事をしたか、と不安にもなる。シンを誉めたのに……と理解のいかないヴィーノは、
口を半開きにしてインパルスのコンディション=グラフィックと睨めっこしていた。
 整備班がなじられた事に気付かないヴィーノは、レイの目つきにも気付いていなかった。
縦の幅を二割ほど狭めた……これは馬鹿を見る視線だ。シンは絶対にしない目だ。
 そんな目で俺たちを見るな、という憤慨が湧く。
「説明しろよ、レイ」口の端に怒りが篭った。ヴィーノの代わりだ。
 薄氷を渡っているシンを心配するのはメカニックも同じで、パイロットであっても
ミネルバの仲間だと思うからこそ、緑と違う、真紅を主張する服が癪だった。

「ナチュラルみたいに一から十まで言う必要はないけど、解説はしてくれ。
じゃないと俺たちじゃ、シンにアドバイスだって送れない」
「ん……すまない」
 咳払いで間を取るレイが、何故か"ナチュラル"の一言に淀んだ気がした。
そんなわけは無いから勘違いだろう。
「……有効な武器が無ければそもそも攻めない、敵も先に狙っては来ない
つまりはそう言う事だ」
「隙が出来るほど攻められないって事かな? 今のインパルスだと」
 何も分かっていないヴィーノの台詞が、本当に正しいのかどうかは兎も角、
その能天気な表情になぜか苛つく。レイもため息で緊張を吐き出した。
「そう言う事だ……何か有効な武装があのシルエットに無いのか、ヨウラン?」
 ――そして俺に聞くのか。
 普段のおちゃらけた言動があるから仕方がない事だろうか、ヴィーノを下に見ようとするレイに、
何とか言い返したくなった。そんな場合ではないと分かっていても、だ。

532SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/03/07(金) 18:32:47 ID:???
11/

「それを聞きにわざわざ来たんだな。機体の事ならヴィーノに聞けよ。こいつのセンスはな、
インパルスの合体機構について整備班長が意見を求めるくらいだぜ?」
 ヴィーノに、なんとかいって欲しかった。
「でも……Dシルエットだぜ? 俺、戦闘になるだなんて――」
「其処で弱気になるなよ、"ドリルのついたインパルスは無敵だぜ!"って言ってただろ!?」
「DだろうがEだろうがなんでも構わない、とにかく急げ……」
 レイが痺れを切らす。
『ザク出ます。オプションはブレイズ!』アビーの声だ。
「デイルが? 止血しただけで……」
 艦の鳴動は発進のしるしだ。と、今度はメイリンが全艦に向け放送を行う。
『本艦はこれから大気圏降下を成しつつ、ユニウス7へ主砲による砲撃を敢行します』
 あちこちで照明が落され、待機中だった機関士が続々と主機関に走ってゆく。
ヨウランの胸をびりびりと電撃のような緊張感が流れて、背筋が伸びた。
「はあああ!?」
 ヴィーノは驚くのみだが、予想はしていたのだろう、レイは至って冷静なまま、
ツインテールのオペレイターが流す指示を聞いていた。

「最悪、MSを回収できない。インパルスやザクで大気圏に突入するか……
ヴィーノ、D(ドカタ)シルエットは他のシルエットと競合するのか?」
「チェストのアタッチメントを共有してるから、付け加えは無理だ。
それに戦闘中のドッキングは最低でも三秒も――」
「それは問題ない。シンは赤だ」
「うん、問題が無くてもフライヤーは……予備機がもう無いんだよ。使えるのは
全部使っちまったし、使えないパーツがDシルエットになったんだ」
「……そうか」
 そんなヴィーノとレイの会話を耳に挟みつつも、インパルスのスペック表と並べて9ザクの
スペックを読む。出力、機動力、火力に防御力、どれをとってもバッテリー機には荷の重い、
もっというなら絶望的な相手だが、加えてインパルスはビーム兵器を持っていない。

「手持ちの武装だけか。ルナマリアのザクと協力できれば……」
『――ルナマリア機、中破。ユニウス7を離脱します!』
 間が悪い、と吐き捨てたレイがインパルスの右腕に追加された武装に目を留める。
「これは残弾が残っているようだが、使えないのか?」
 レイに指し示されたもの、それは――
「それって……使えるは使えるけど幾ら何でも――」
「何でも良い、使える物ならば、俺達が使ってみせよう……だから頼む!」
 そこで始めて、レイの語気が荒くなったことに気付く。その瞬間までは
氷の静けさを保っていたレイが、感情の喫水線を見せていた。
 レイも焦っていたのだ。
 ヴィーノや自分の襟首を掴んで急かしたい内心をむかつく美形の鉄面皮で抑えて、
上っ面、表情だけの冷静を振舞っていたと、それに気付いた時、
「わかった……任せろよザフトレッド!」
ヨウランは反射的にそう答えつつ、9ザクを討つ方法を結実させていた。
533SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/03/07(金) 18:34:22 ID:???
12/ 赤服による対核ザク講座

『近くで出力負けするなら、中距離で機動力のプレッシャーを掛ける!』
 シン達がせっせとメテオブレイカーを設置しているその間、核ザク相手の時間稼ぎを
買って出たその先陣は、現在地球暮らしのアレックス、本名アスラン=ザラだった。
 人型で飛び出し、"上空"から二発、三発と撃ち込んでは再変形して距離をとる。
さかしまの豪雨を思わせる火力を回避し続けながらの機動戦だが、ザクの頭を抑えなければ、
未だに設置の完了していない破砕装置と避難していないMS部隊が狙われる。

『シン、そっちの進捗は!?』
 急いで居るから聞かないでくれ、との返答に苦笑しながら操縦桿を切る。ムラサメの
左右に突き出した空力翼を掠めるようにビームが走り、"イカヅチ"ビームライフルで返した
逆撃は――やはり動きをかなり読まれている――あっさりと躱された。

『アスラン、気をつけろ。ユニウスがデュエイン軌道に入るぞ!』
『何……!? 交差軌道に入っていたのか! 代表!』
 イザークの警告を聞く暇もあればこそ。ユニウス7を押し流すようなデブリの濁流が、
瞬きのい合間にルージュとムラサメを飲み込んだ。


 デュエイン軌道(Orbit-Duane)――C.E.71の低軌道会戦においてデュエイン=ハルバートン
率いる地球連合軍第八艦隊が壊滅した時に生じた、濃密なデブリの充満する軌道である。
 かつてアレックスとイザークが撃破した戦艦やMAの欠片――及び戦死者の遺体――で
構成されるそれらのデブリは質量の差から、危険度はユニウス7に比べるべくもないが、
落下軌道をとる彼らに対しその相対速度は秒速十数kmにも達する。
 様々な大きさのレールガン弾頭がのべつまくなしに襲いかかるような物と考えれば、
脅威は理解しやすい。
 会戦場所が低軌道であった為に大量のデブリが軌道に散乱し、C.E.73の現在に至っても、
回収の目処は立っていない。一世紀近い時間をかけてゆっくりと流れ星になるのを待つ間、
民間船舶どころか戦艦の通行も出来ない"死んだ"軌道となっている。


『自業自得……だが、!』
 事前にデブリ接近の情報を知らず、ユニウス7の地表から離れていたカガリとアレックスは、
デブリの激流に飲み込まれしまった。ユニウス7周囲に残留した人工物とのブレークアップにより
級数的に増大した宇宙ゴミが、金属の瀑布となってやや下方から降り注ぐ。
 本来なら、軌道が交差する前に全作業を終えて部隊を避難させようとしていた程の嵐である。
テログループですら岩陰に避難したのは宇宙に暮らす物の本能と言える。アレックスですら
即座に地表に立つビルの残骸に機体を寄せようとしたのだが、そうした危機感を持たない人物が
この場に一人だけ存在した。
534SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/03/07(金) 18:34:47 ID:???
13/

『うわ――!』
『アスハ代表……? カガリ――!』
 カガリの"ルージュ"をデブリ嵐から救いだすべきか、9ザクの砲撃を避けるため
大地に張り付くべきか……その判断で迷った一瞬の内に、多数の熱源がムラサメを
捕らえた。

『ミサイルだアスラン!』
『下から――!? まだ敵の部隊が残存していたのか!』
 呆然と浮かぶムラサメは良い的だったのだ。作戦の内容から既に分かっていたが、
敵は自殺覚悟でジュール隊を妨害している。
 CIWSで防御を行っても、二方向から来る破片を完全には防ぎ切れない。
相当量の金属辺と、ミサイルから分離された弾頭が全身を叩き、縦横に揺さぶられた
ムラサメが態勢を崩してデブリに呑まれる悪循環に陥った。

『しまっ――!』
 そもそも大気圏内を飛翔する為に生まれたムラサメである。
 大気圏内では音速の衝撃波に耐える表面装甲でも、宇宙空間では紙に等しい。
ジンからザクへと続くザフトMSの堅牢さ、そして電力切れを心配してPS装甲を
量産機に採用しない事、それらはデブリ衝突の危険性が常に付きまとうからだった。

『アレックス、私の心配をしないでくれ。そのために此処にいるんじゃないんだ、私は!』
 PS装甲による守りは、十全にルージュを守る役目を果たしていた。被害はむしろ、
発砲金属の装甲でデブリを受けたムラサメの方が大きい。
 だが、急にデブリに呑まれたカガリは、河で溺れた者が流れに逆らって泳ぐように、
デブリ・ストリームの進行方向に逃げてる程混乱していた。
 その最中で、助けを求める為にムラサメの姿を探したのは、むしろ僥倖である。
被害を受けたアレックスの機体に駆け寄るため、流れを横切って近づいた。
 ルージュが差し出すシールドに守られ、ムラサメは少しずつ9ザクとの距離を広げる。

『そのまま下がれ。此処でオーブ代表に死なれると、ザフトの義が無くなる!』
 イザークの怒声。だからザフト製のモビルスーツを使えばよかったのに、
というニュアンスを含んでいた。
『く……分かった!』
 アレックスとしては、大人しく従うしかない。

535SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/03/07(金) 18:35:23 ID:???
14/ 

『だったら接近戦よ。近づいてしまえば火力の違いは現れないしね!』
 ムラサメとルージュが撤退するのを見たルナマリアは、破砕装置の支えを
シンに任せて――インパルスが潰れ掛けた――9ザクに猛然と近づいた。
上空をデブリの嵐が吹き荒れる限り、敵の9クザクも無策で上昇はしない。

『射撃じゃ不利だもの……』
 というか、撃っても当たらないのでそうするしかない。
『はああああっ!』
 気合一閃、抜き放ったトマホークで9ザクのシールドを切り裂く。
 損壊したシールドを切り離した9ザクは残った片腕で同様に
高周波ブレードトマホークを抜き放つ、が。
『ぬうっ!』と9ザクパイロットの声。
『甘いわね。ザクウォーリアのトマホークは……ビーム刃なのよ!』
 刀身を振動させて装甲に食い込んでいくはずのトマホークが、バターでも
切るかのようにやすやすと半ばまで融解された。発振部分にビーム刃が到達し、
9ザクのトマホークが中心部から瓦解する。
『機体の出力が高くたって、それを活かせる武装がなくっちゃね!』
 と、ルナマリアの台詞を聞いていたのではないだろうが、9ザクは背部のバックパックに
ワイヤーで括りつけていた円筒を取り出す。
『やば――はあっ!』
 トマホークを取り落とした隙を狙う、機体を旋回させ、再び大きく振りかぶっての一撃は、
9ザクが真横の一文字に構えたビームサーベルによって阻まれた。
『やっぱり、色々持ってて当たり前よ……ねえっ!』
 9ザク本来のトマホーク装備しか使えない道理も無く、サーベルの出現に彼女が驚く事も
また無かった。重い斧を振るって取り回しの容易いサーベルと剣戟を演ずる……が、
ルナマリアがザクが両手にトマホークを握らせて即席の二刀流としたとき、9ザクは片腕を
不利と見たか、即座にサーベルを投げつけて距離を置いた。

『やば……!』
 投擲を切り払うルナマリアが、今度こそ危機を覚える番だ。
 格闘戦で優位に立ちすぎる事で、機体の優位性を忘れさせ警戒させてしまった。
全力で後退されれば、推力で劣ザクウォーリアは9ザクを追う事が出来ない。
近接戦に高いセンスとスキルを発揮するルナマリアだが、適度に苦戦する様を見せ付け、
9ザクを間合いの中にひきつけておくべきだったのだ。
 それでも、9ザクが放つ数発の弾丸を、右に左に、時として遮蔽物に拠りつつ
躱しきったのは、まさにザフトレッドの面目躍如だと言える。
536SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2008/03/07(金) 18:37:25 ID:???
15/15

 緊迫の表情が更に強張ったのは、ザクがあさっての方向にビームライフルを向けたとき、だ。
『そう来るわよねぇ……!』
 勝利条件を考えるまともなパイロットならば、誰だってそうする。
ルナマリアだって、同じ状況ならそうするだろう。だから彼女は決して敵のパイロットを
卑怯だなどとは思わなかった。
 銃口の先にはメテオブレイカーが、それを支えるインパルスの姿があった。

『させない――!』
 防御も考えずにザクを加速させ、射線に機体ごと割り込む。
 ルナマリアに出来たのはただ、それだけだった。


 三時限目 イザーク=ジュール 

 崩れ落ちるのは赤のザクウォーリア、進み出るのは白銀のザクファントム。
一振りの戦斧をしごいて9ザクと対峙する。
 真打、イザーク=ジュールの戦術とは――
『気合だ、そして根性だ』
 ――精神論だった。

 9ザクはただ、ビームライフルを、地に伏した赤いザクウォーリアに向けるだけで良い。
敵のパイロットは既に、冷静を取り戻していた。

『うおおおおおっ――!』
 猪突に猛進するザクファントム。その後の光景は、あえて語るまでも無い。



続く。
537SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg
 というわけで、SEED『†』  の続きを投下させて頂きました。
長々と戦闘ばっかり続いてます。

 で、今気付いたのですが、こっちは前スレですね。失礼しました。

 それでは皆様は引き続きご歓談下さい。