種・種死の世界にWキャラがやってきたら MISSION-10
前スレが埋められてたので、立てておきます。
,,. 、 __
_,.r'⌒:.:.:.:.`:.:.`ヽ、
__ /´.::::!:::;.-ヘ:::.ト、:::.:.ヾ` ,rーュ、
rくr¬ ,ノ:.::::::/{/‐ ヽ|‐ヽ:::::.:.\ ノ ,`j}
マ´、 \ /:.:.:.::::/rtテ . 'fぅ/イ:::::r、}/ /fチ′
¨´\ ヽ__::::::::{` n }:::,r-'― 、/ '′
十 Y´,, ==ミtヘ. ∪ ';タ==_=:、ヽ、 l7
'⌒) ゆ  ̄ ̄,/〃'´ ̄`ヽt、 イィ´. : :ヽヾ、:.〉  ̄ ̄ ̄ o
V//: : : : / ,l:い.` − ´/,'|: 、: :|: : : ヽy′
゙{ヘ: : : :.i: / !:ヽ.<⌒ン'∠::L:_:v:| : : /j′
`ヘ: : : i:/, :'´ ̄こ{¨丁-::::.:.:.:.フ:l : /´
゙、: ://:.:::::::::::ノ⌒ヽ::__;ノ :.V:,′
今でもW-DESTINY氏の帰還を待っている自分・・・・
乙
やはり、皆、W-DESTINY待ちか……
>>1 乙と言いたいところだがGW-Pはいい加減テンプレから外せって……
せっかく前スレ最後に修正テンプレ投下されたんだからさ。
W-DESTINYは全然再開されないねぇ。
されないまま、スレが幾つも消費されていく。
>>14 他の作者方になんか含むところでもあんのか?あ?
それとも手前ェが糞埋め荒らしか?
そこまで絡むほどのレスじゃねぇだろ……
嫌な流れだな
何だかんだいってW-DESTINYは人気あったからな〜
GW明けに再開といわれ早数ヶ月、しかも良いところで終わってるんだよなw
20 :
通常の名無しさんの3倍:2007/10/30(火) 20:04:26 ID:qZpUixP0
ハンターハンターも連載再会したんだ
いずれ再開するさ
再開されないものより順調に連載してるやつの更新のほうが楽しみな俺。
ぶっちゃけ歌姫も十分おもしろいからどうでもいい。
歌姫はきちっと完結してほしいな〜。
ぶっちゃけ全部どうでもいい
んだよ
投下されたのかと思ったぜ
投下します。
プラント最高評議会会議室。プラント首都、アプリリウスにある最高評議会
本部ビルの一室にあるこの部屋に、最高評議会議員全員が集まっていた。議長、
副議長、国防委員長など12名からなる評議員がそれぞれ円卓の一席に座ってい
る。こうして委員長職に就く評議員が全員揃うときは、決まって重要な政策な
いし、議題の可否が話し合われるのだ。
(少し前までは、議長を除くほとんどの面々が違う人間だった)
部屋の中の警備を担当する士官の一人が、心の中で呟いた。そう、ほんの少
し前まではこの部屋に入室する権利を持つ人間たちは全く違う人々で、それが
僅かな時間の間に様変わりしてしまった。
(あの時は、ブルーコスモスの総会と偽られた、旧連合の和平総会を襲撃する
という議題が話し合われていた)
ブルーコスモスとファントムペインによる擬態と気付かず、議長を除くほぼ
全ての委員長がプラントへの攻撃を恐れ、襲撃作戦へ賛成票を投じた。結果と
して、それが擬態であり、取り返しの付かないことをしてしまったと気付いた
ときは、もう後の祭りだ。評議員は全員辞表を出し、反対票を投じた議長ら僅
か数人が慰留されることになった。
(議長だけは、変わらずに)
警備士官は、卓上の最高序列ともいうべき席に腰掛ける、自分たちの国家の
代表に目を向ける。議長としても、もっといえば政治家としても随分と若々し
い、それがギルバート・デュランダルという男の第一印象だろう。
そもそも、デュランダルは、なるべくして最高評議会議長になったわけでは
ない。市民の熱烈な後押しがあったわけでもなければ、政界内の陰謀が働いた
結果というわけでもなく、謂わば成り行きだった。というのも、前大戦終了間
際、それまで議会を占領していたパトリック・ザラを初めとする右派・タカ派
の政治家たちに対し、穏健保守派で知られるクライン派が武力を持って政治的
クーデターを仕掛けた。理由は、パトリックをはじめとしたザフト出身の軍官
僚によるプラント政界の軍閥化を防ぐため、というものであった。
このクーデターに対して、パトリック派も市民も無抵抗であった。パトリッ
ク派は、激しい戦闘の最中、部下の裏切りにあったパトリック・ザラが射殺さ
れるという最悪の事態が生じ一気に求心力が低下し、市民としては時期的に戦
争に疲れ果てていたということもある。戦争も終わりそうであるし、そろそろ
和平路線に行くのも良いのではないかと、誰もが思い始めたのだ。
だが、すぐに歪みが生じた。連合との和平条約を結ぶ際に、クライン派の政
治家たち、特に当時議長職にあったアイリーン・カナーバ議長は、プラントに
不利と言わないまでも、必ずしも有利ではない条約を締結するこことなった。
必ずしも自分たちが戦争に敗北したと思っていないプラント市民は、これに激
しい憤りを憶えた。無能な政治家共! 政府は何をやっている! どうして我
々がナチュラルに譲歩し妥協しなければならない! こうした声は、一応は市
民に望まれ、受け入れられたはずのクライン派政権を押しつぶさんばかりだっ
た。連日のようにメディアはカナーバ議長の政権に対し批判記事を書き、市民
もそれに同調した。
カナーバら評議員が辞表を提出するまで、そう時間は掛からなかった。理由
は明白だし、市民は当然と思っていたので反発も起こらなかったが、問題は後
任である。戦争終わった今となっては、政敵だからといって旧パトリック派の
政治家を据えるわけにもいかない。今は、民力休養の時期だ……
そして、世間は自然と他の分野に目を向けるようになり、一人の男、ギルバ
ート・デュランダルが注目されはじめた。
第36話「スエズ侵攻作戦」
デュランダルは、様々な分野を経て政治家の道へ進むプラント政界の中で、
学者出身という割合ポピュラーな経歴を持っていた。例えば、かつて猛威を振
るったニュートロンジャマーを開発したのは、最高評議会評議員オーソン・ホ
ワイトで、彼は優秀な基礎物理学・素粒子物理学者であった。そう考えれば、
デュランダルは決して珍しい男ではなかったのだが、彼が専門とした分野が注
目されたのだ。そう、遺伝子研究である。
若くして遺伝子科学者として名を馳せていたデュランダルは、その筋の人間
たちからは『DNA解析の権威』などと呼ばれており、そこそこ知名度も高かっ
た。以前から、コーディネイターが持つ遺伝子的問題は度々議論されており、
それを解決すると明言した議長も少なくはない。だが、誰も彼もが成功や成果
を出す前に任期を終え、あるいは辞職しており、それが実現されたことはなか
った。
そこにデュランダルが現れた。『DNA解析の権威』と呼ばれる遺伝子科学者
が。メディアは挙って学者としてのデュランダルの功績や実績を書き立て、市
民はご大層な彼の肩書きに興味を覚えた。若く、まだ三十歳を過ぎたばかりと
いう年齢に危惧を覚える老輩も居ないではなかったが、これからは若さの時代
だという世論の前には何の太刀打ちも出来なかった。また、デュランダルは政
治家にしてはかなり顔の良いほうであり、女性を中心に人気が高まっていった。
こうなってくると、デュランダルの方でも自分に注目と人気が集中しはじめて
いることを肌で感じざるを得ない。
デュランダルは積極的に表の場に出て行き、もっともらしい遺伝子学の演説
を繰り返した。もっともらしいも何も、それは彼の知りうる知識のひけらかし
で、嘘は一切含まれていなかったが、市民はそれにウンウンと頷いた。いくら
コーディネイターが優秀といっても、専門分野の奥深くまでは知る由もないし、
また、なまじ知識を持っているだけに、デュランダルの物言いにさぞ説得力を
感じたものだろう。
極めつけは、デュランダルがやがては婚姻統制を廃止したいと力強く発言し
たことであった。遺伝子配列の問題から、適合者でないと出生率が著しく悪い
プラントでは婚姻統制をしいている。つまり、良好な遺伝子を持つ者同士が結
婚し、子をなし、世代を拡大していくというものである。この政策は、プラン
トが誕生した過渡期には、まあ受け入れられた。種を増やし、地盤を固めて行
くには仕方のないことだ、と。だが、時代が立つにつれ、プラントも拡大を広
げていくと、異論も起こるものである。
「我々、コーディネイターはナチュラルより優れているというが、プラントで
は愛し合った者同士が結婚することが出来ない。これのどこが優れた存在だと
いうのだ!」
言ってしまえば、プラントでは恋愛は恋愛、結婚は結婚と割り切らねばなら
ず、上の世代はまだ良いが、若い世代には堪ったものではない。お互いに愛し
合った者同士が結ばれたいと思うのは人として当然のことであり、知りもしな
い人物と、ただ相性がいいからと言うだけの理由で結婚など考えられないよう
になってきたのだ。
その難しい問題を何とかすると、デュランダルは言ってのけたのだ。学会的
にも『DNA解析の権威』と呼ばれる学者議員の男が。
政治に関心を示さない若い層まで取り込むことに成功したデュランダルの人
気は、もはや歯止めが利かなかった。こうなってくると若さに文句を言ってい
た老輩たちも、デュランダルが極度の穏健派でも、戦闘屋でもないことなど、
何だかんだと理由を付けて、彼を認めざるを得なかった。
そして、ギルバート・デュランダルは、彼が考えもしなかった最高評議会議
長の椅子を、三十歳を過ぎて僅か1,2年の間に手に入れてしまったのだ。
まあ、やらせてみようかという単純な理由で。
「先日のテロ事件からも判るとおり、ファントムペインは軍事的にかなり追い
つめられている。我がザフトに対し、一方的な敗北を被り続け、遂に戦闘では
勝ち目なしと判断したのでしょう」
会議室では、最高評議会評議員の一人が熱心に弁舌を振るっていた。今回の
議題は、軍部から直接持ち込まれた出兵案であった。
「今の地上ザフト軍は、連戦連勝続きで軒並み士気が上がっています。この好
機を逃さずして、いつスエズに攻めるというか!」
ファントムペインが持つ中東最大の軍事拠点、スエズ基地への侵攻作戦。前
々からそれは決定事項であるはずだった。今はまだ時期を見るべきだろうとし
て先送りにされてきた議題が、先日のテロ事件を期に再浮上してきたのだ。
「だが、新型モビルスーツの量産計画はやっと起動に乗ったばかりだ。せめて、
ある程度の数が揃うまで、待ってみてはどうだ?」
この発言は、当の新型モビルスーツ計画の責任者であるデュランダルである。
「奴らが追いつめられている、なるほど、それは確かに事実かも知れない。で
あるからこそ、今はこちらから攻めたてるようなことはせず、こちらの軍備を
万全にすれば良いではないか」
デュランダルとしては、どうせ侵攻作戦を実行するなら、自分の計画した新
型モビルスーツを活躍させたいと思っているので、殊更慎重論を出している。
こうした彼の態度を快く思っていない評議員は意外と多く、
「議長、テロ攻撃の被害にあったのは、他でもない貴方なのですぞ! もっと、
積極的な意見はないのですか!」
と、声を荒げたくなってしまうのだ。
だが、デュランダルとしてはそんな報復を前提にした目的で行動を起こすの
も、それこそ血気盛ん過ぎると思っている。そこには、彼の思惑も幾分か含ま
れているわけだが、皮肉なことに今では市民すら、議長は情けないだのと漏ら
しはじめる始末だ。元々、有事の際の最高評議会議長と思われていない節もあ
るためだが、これは少し短絡的すぎるだろう。
「国防委員長は、どう思われるか?」
評議員の一人が、国防委員長ヘルマン・グルードに意見を求めた。事は軍事
的問題であり、専門家の意見を聞いた方が手っ取り早いと判断したのだろう。
しかし、ヘルマンもまた彼ら主戦派議員たちが好む回答はしなかった。
「私は議長に賛同する。如何にこちらが優勢といっても、その流れいつまで続
くかなど判ったものではない。第一、ザフト軍の不利な面をカバーするために
新型モビルスーツを作ったのだ。それを使用できぬままに戦端を開いて、果た
して正しいと言えるのだろうか」
至極真っ当な意見であったが、それで納得するようならここまで激しい対立
は起こっていない。要するに、主戦派はこれ以上議長に功績を立たせたくない
のだ。誰にも野心があるように、彼らはやがて自分こそが最高評議会議長の座
に着くことを夢見ており、そのためにはここらでデュランダルよりも高く評価
されたい。出兵論が可決され、侵攻作戦が成功すれば、市民は主戦派の見識を
高く評価し、反対していたデュランダルを臆病者と罵り、彼のリーダシップに
疑問を持つようになるだろう。
そして、戦争に勝利した後、デュランダルは退陣する。理由など、いくらで
も作れるし、本人もそれほど強く議長の椅子に居続けることは望まないはずだ。
その為にも、この出兵論は何としても可決せねばならないのだ。
「ここで勝利すれば戦争は終わります。それをこれ以上先延ばしにする必要は、
何処にもない!」
賛同の声が上がる。デュランダルは馬鹿馬鹿しそうな目を隠しもせず、自己
の野心に燃える評議員たちを見て肩をすくめた。大体、勝利すれば戦争は終わ
ると言うが、負けたときはどうするのか? デュランダルは政治家であり、軍
人ではないが、気苦労が多いせいか、やたらと後ろ向きなことを考える。ザフ
トが勝利すれば、それこそその後何をしようとこちらの自由で、勝った者の特
権とも言うべき状況が待っているだろう。しかし、政治家はそんなお花畑にど
んな花の種を植えようかなどと言う空想ではなく、負けたとき、自分たちはど
うすればいいのかと言うことを考えなくてはならないはずだ。
とはいうものの、負けたときのことも考えるべきだなどと発言すれば、当然
非難されるだろう。デュランダルとて、味方の軍隊を信頼していないわけでな
いし、勝って欲しいとは願っているが、必ずしもそれが叶うとは限るまい。
怒声の混じった論争が繰り返されること四十分。結論を見いだせないまま、
強引に評決が開始された。十二人中、賛成票を投じたのは九人、無効票は一票、
反対はわずか二人だった。しかし、一同が驚いたのは、反対票を投じたのが議
長と、もう一人が国防委員長だったことである。国防委員長は、口では議長に
賛同していたが、元々は好戦的な主戦論者であり、今回も結局は侵攻作戦に賛
成するだろうと誰もが思っていたのだ。
後にそのことをメディアから質問されたヘルマンは、次のように答えている。
「主戦論者が、常に戦いを推奨するとは限らない。私は議長の慎重論に納得し、
賛同するべきだと思った。だから反対票を投じた」
この事態に、むしろ賛成票を投じた主戦派議員たちは喜んだだろう。事によ
っては、議長と国防委員長、二つの椅子が空席となるのだ。そして後日、確か
に最高評議会評議員の面々に変化が起こった。それが誰の望む結果へと変貌を
遂げたのかは、まだ誰にも判らない。
侵攻作戦を可決したのは政治家でも、実戦を指揮するのは軍人である。地球
にあるザフト軍ディオキア基地では、高級軍人による会議が行われることとな
った。出席するのは、この作戦に参加するザフト軍の地上基地司令官と、そこ
に所属する艦隊司令官である。基地司令官職と艦隊司令官職には兼任が多く、
会議の場となるディオキア基地の場合も、基地司令のモラシムが艦隊司令官も
兼任している。だが、中には例外もあり、官僚系のエリートが基地司令を担当
し、実戦は古参の軍人が行う場合もある。ジブラルタル基地がそれだった。
今回の作戦は、ザフト地上軍が配置される基地のうち、三つの基地が動く。
ジブラルタル、ディオキア、マハムールがそれで、ディオキアが会議の場とし
て選ばれたのは、ジブラルタルとマハムールから、ほぼ等距離にあるからだった。
w
マハムール基地からは副官を連れ、基地司令兼艦隊司令官のヨアヒム・ラド
ルが出席する。彼は少し前、ミネルバ隊と協力してファントムペインのガルナ
ハン基地を攻略した実績を持ち、プラント市民の人気が上昇しつつある男だ。
ディオキア基地からは、モラシムが副官と共に、そしてミネルバ艦長タリア・
グラディスが、副官のアーサー・トラインをともなって席座に着いている。問
題はジブラルタル基地で基地司令官は理由を付けて出席を拒否し、現れたのは
艦隊司令官のウィラードだけであった。
ウィラードは、ザフト軍がザフトという名である以前から軍服を着ていた男
であり、軍部の最古参と呼ばれる老人だった。年齢で言えば、ザフトのどの軍
人、軍官僚よりも上の宿将で、その戦歴はベテランと呼ばれる者でも、2,3人
では利かない。コーディネイターにしては、良く言えば恰幅がよく、悪く言え
ば肥満体という体つきで、頬も垂れ気味な老人だが、その目つきは鋭く、軍で
は「おっかない親父さん」として知られている。
一説に寄れば、官僚系エリートの基地司令官と、軍隊からの叩き上げである
ウィラードは余り仲が良くなく、それが今回、ウィラードのみが出席すること
となった原因であるとされている。ウィラードもまた、士官学校を出ていない
自分を必要以上に意識し、そうしたエリートたちに毒づく不平屋でもあるので、
節度を大切にする国防委員会からウケが悪い。
だが、それでも、ウィラードが前大戦の激戦地、アラスカやヤキンを経験し
たのは事実であり、陸海空、そして宇宙、全ての戦場で指揮を執れる老練な軍
人であることには変わりがなく、むしろ現場としてはそのことの方が重要なの
だった。
「作戦としては、ジブラルタル、ディオキア、マハムールからそれぞれ軍を進
め、三方向からスエズを圧迫、圧倒する、これしかないだろう」
決められた以上、軍人たちは最善の作戦を立てて実行に移すしかない。モラ
シムは、積極的に意見を出した。彼の作戦は、それぞれの基地から大軍を進め
ることで、スエズを包囲し、完全攻略してしまおうというものだった。仮にス
エズ基地がそれを食い止めようと出撃しても、その圧迫感に押しつぶされてし
まうというのが彼の意見だったが、ラドルが反論を唱えた。
「しかし、我々がいくら敵よりも強大な戦力を有しているといっても、それは
全体を総合すればこそだ。三つの基地から艦隊を進めるにしても、それぞれが
それぞれ、スエズと等距離にあるわけではない。敵がそこを狙って艦隊を進め、
各個撃破を仕掛けてくれば、一溜まりもないだろう」
確かに、全体を総合すればザフトの参加兵力はスエズ基地のそれを上回るこ
とが出来るだろう。しかし、個々の基地から出撃する艦隊で計算すれば、スエ
ズの戦力の方が多いのは事実だ。さらに、それぞれの基地の兵力はまちまちで
あり、均整が取れていない。
「むしろ、ジブラルタルとディオキアの艦隊は一旦どこかで合流し、それから
進軍してはどうだろうか」
形としては正論で、アーサーなどはなるほどと声を漏らしながら納得したが、
モラシムはどうやら別の意味合いを感じたようで、
「我々が合流する間に、単身スエズへと攻め入り、光を独り占めするつもりで
はあるまいな?」
「何だと!」
このいわれように、ラドルは席を蹴って立ちあがる。
「慎重論を唱えただけでその仰りよう、撤回していただきたい!」
「撤回するのはそちらだ! 貴様、俺の艦隊が単独では敵に後れを取るという
か!」
ラドルもモラシムも、決して人間的には劣悪ではない。完璧な人格者ではな
いにしろ、どちらも部下から好かれ、公明正大といわれることもあった。だが、
この時のモラシムはどこか焦っていた。
「敵艦隊が来ようともそんなもの蹴散らしてしまえばいいだけの話だ。何を躊
躇することがある」
モラシムは必死だった。彼は前大戦中こそ輝かしい武勲を持っていたが、そ
の末期は病院のベッドで過ごすという不名誉を預かっていた。復帰してからは
新兵の教育や、新築された基地の整備などに追われ、武勲を立てる機会は一度
もなかった。それどころか、先日、ファントムペインのテロ攻撃を防ぐことも
出来ず、彼の面子とプライドは痛く傷ついた。
そんな感情に左右されてか、既に敵基地を攻略するという武勲をミネルバと
分かち合ったラドルに対し、モラシムは軽い妬みを憶えていたのだ。一方的な
ものであったが、武勲は羨望や嫉妬の対象であることを知っていたラドルは、
必要以上に自分が激発しては話が拗れると思い、他者に救いを求めた。
「ウィラード隊長は、どう思われますか」
愉快そうに若輩者の言い争いを見ていた老提督は、意見を求められ、顔つき
を変えた。
「実のところ、ジブラルタルは全軍挙って出撃というわけにはいかんのでな。
確かに、ラドル隊長の言うように、各個撃破戦法を取られれば、まあ、負けは
せずとも苦戦は強いられるだろう」
負けはしない、飄々とだが言い切るのがこの老人の食えないところだ。
ジブラルタル基地は、ファントムペイン最大の軍事拠点であるアイスランド
のヘブンズベースに最も近く、小競り合いを行うことも少なくない。ここで、
スエズの攻略のために艦隊を全て出撃させたとして、ファントムペイン最大兵
力にして戦力であるヘブンズベースが、ジブラルタルに軍を送り込んだらどう
なるか?
「基地に残す戦力を考えれるば、それほど多くはだせんのだ。申し上げにくい
が、うちの基地司令官は腰抜け、いや、ちと小心者なのでな」
冴える毒舌に、場の士官たちが苦笑気味にざわめく。
「両隊長の意見はもっともだが、一口に合流するといってもそう簡単なもので
はない。例えば、ペロポネソスやクレタ辺りで合流するとして、敵が黙ってい
るとも限らん」
つまり、ファントムペインが合流を阻んでくる可能性が高いというのだ。何
せ、ジブラルタル艦隊がスエズまで赴くとなると、それ相応の日数が掛かる。
アルボラン海から地中海へ入り、サルデーニャ海を横目に見つつ、シチリアと
マルタの間を通る。そこからスルト湾方面に行き、陸地沿って進むか、イオニ
ア海に入るかは判らないが、とにかく時間が掛かるのだ。
そうした間に、ファントムペインがディオキア艦隊と戦闘を開いたらどうな
るか? もしくは、ディオキア艦隊などには目もくれず、ジブラルタル艦隊に
殺到すれば……
「いずれにしろ、そう有利な戦法というわけでもないのだから、まあ慎重にい
くべきだろうて」
逆にいえば、そう不利な条件ばかりではない。例えば、ファントムペインが、
ディオキア艦隊と交戦を交えたとして、モラシムが防御を固めて応戦したとす
る。これによってファントムペインはすぐに敵を倒すという事が出来なくなり、
時間は過ぎる一方だ。その間にジブラルタル艦隊が進軍し、側面なり後背から
攻撃を仕掛ければ、ファントムペインは一溜まりもないだろう。逆にジブラル
タル艦隊に攻撃を仕掛けてきたところで、それは同じ事だ。
「我らも敵も、まあそう選択肢は多くないのさ」
選択肢が少ないということは、それだけ立てられる戦略が多くないという意
味で、こうなってくると戦術の方を重視せざるを得ない。だが、戦術というの
はいざ戦闘が始まらないと使いにくいものだから、この際は置いて置くしかな
い。
結局、会議はそれぞれの艦隊の出発日程の日取りと、動員兵力の細かい部分
を詰めるだけで終わった。何としても武勲を立てたいモラシムの魂胆は見え透
いていたが、同じ軍人として判らないでもない気持ちだったので、誰も何もい
わなかった。
「ミネルバは、ディオキア基地の分艦隊を率いて、先陣として出撃して貰う」
決定された重要事項で、誰もが意外に思ったのはミネルバの立ち位置である。
確かにミネルバは艦隊を率いるに相応しい武勲と戦果の持ち主だが、先陣とい
うのは思い切ったことだ。先陣は武人の誉れなどといわれるように、重要で名
誉ある位置所なのだ。そこにミネルバとは……
「まあ、ミネルバは足自慢という話だし、当然だろう」
ウィラードが事も無げに呟き、周囲は納得せざるを得なかった。ザフトは勝
たねばならないのだ。そして、勝つためにはあらゆる努力と、計算をしなくて
はならない。純軍事的に見てミネルバの行動力と、攻撃力は目を見張るものが
あり、先陣切って敵と戦う力を持っている。
その評価は、タリアを満足させるに十分であり、かくして、ミネルバが先鋒
として出撃することが決定した。
艦に戻ったタリアとアーサーはクルーを集めブリーフィングを開くと、今日
の会議で決まったことを各自に説明した。
「つまり、行き当たりばったりってことですか」
作戦内容を聞いたハイネの感想が、これだった。三つの基地から出撃した艦
隊が三方向から殺到し敵の基地を攻略する。なるほど、確かに成功すれば壮麗
で華麗、見栄えのいい作戦だろう。だがそれは、敵がこちらの思惑やら誘いや
らに乗って嵌ったくれたときのことだ。ハイネは、これぐらいの作戦なら自分
程度の戦略思想を持ってしても看破できると思っていた。
「第一、敵基地と艦隊をくっつけて考えるからいけないんだ。敵艦隊と戦うに
しても、例えばディオキア艦隊で引きつけて、エーゲ海のダータネルス海峡辺
りを主戦場にするとする。あの狭い海峡なら敵は大兵力を展開しづらいし、そ
の間にジブラルタル艦隊に後輩を攻めさせれば、かなり勝率派があるはずだ。
基地の方はこの際、マハムールの陸上艦隊に任せても良いんだから」
ブリーフィング後に、ハイネは自分の意見をオデルに語って聞かせた。その
声には幾分かの呆れが混じっていた。
「確かに……だが、副長の話を聞く限りでは、どうもここの基地司令官が進撃
攻略を熱心に説いていたらしいな」
「そんなに面子が大事かねぇ。いや、人によっては命よりも大事だっていうが
……やだね、そういう奴の下で働く身にもなって見ろよ」
このところ、ハイネは出撃の準備に追われて、アスランへの内部調査が出来
ない日々が続いている。後少しで、憲兵を動かせるだけの資料が揃えられそう
なのだが、この時ハイネは迷っていた。
「この戦いは地上では最大規模といっていい大会戦になる……悔しいがアスラ
ンの実力は必要だ」
一騎当千というほどではないにしろ、アスラン・ザラとその愛機であるジャ
スティスという戦力は、今のザフトにとって軽視できないものだ。アスランに
後ろ暗いところがあるにせよ、せめてこの戦いが終わってからでも、告発は遅
くはないはずだ。ハイネはそう考え、確かにそれは正しかった。
この時は、正しいと思っていた。
一方、来る侵攻に備えているのがファントムペインである。スエズ基地から
の報告で、敵がスエズ攻略を企てていることを悟ったファントムペインだった
が、その足並みは容易に揃わなかった。
ネオ・ロアノーク大佐と、盟主ロード・ジブリールの間で激しい対立が生じ
ていたのだ。
「でしゃばりが勝手なことをしたばかりに、敵の侵攻作戦が早まってしまった
ではないか!」
事の理由は先日のテロ事件であり、ネオが独自に部隊を編成し、行わせたこ
とが内部調査により発覚したのだ。ジブリールは案の定激怒し、ネオに制裁を
加えてやるつもりだった。
「殺せたのならまだしも、デュランダルもラクス・クラインも無事で、我らに
は何一つ良いことがない。それもこれも、奴が余計なことをしたからだ」
結果としてその通りであり、ネオは何も反論が出来なかった。一応、言い分
があるにはあるが、まさか別のテロリストが現れて作戦を邪魔したために出来
ませんでしたなどと言えるわけもなかった。
このままネオが処刑されて終わりだろうかとも思われた事件だったが、彼の
功績と人望を考慮し、またザフトの進行を対処するには彼の能力が必要である
という訴えにより、譴責で済まされることとなった。普通、この程度の処罰で
済むのはあり得ないことであり、ネオとしてはザフトに救われた形となった。
「来るなら来るで、返り討ちにすれば良いだけのことだ。皆、何か意見はある
か?」
あくまで戦う姿勢を崩さないジブリールに、半ば諦めたようにネオが意見を
出した。
「敵が三方向から攻めてくる、それが既定事実だというのなら、何もこちらは
黙ってそれを見ている必要はありません。スエズ艦隊を結集し、各個撃破を狙
うべきでしょう」
それはザフトが危惧した戦法そのものであったが、ネオとしてはこれ以外に
敵の侵攻を阻む手段はないと思っている。スエズの周囲にはおよそ有利となる
地形など存在せず、戦力が敵より少ないスエズ艦隊では迎え撃つなどというこ
とは不可能だ。ならば、積極的に攻めていくしかない。
「例えば、距離的にも真っ先に地中海へと現れるディオキア艦隊に艦隊の全て
を叩き付け、これを壊滅。そして、後に現れるジブラルタル艦隊を何処かで待
ち伏せ、奇襲を狙うのです」
ネオが予想外だったのは、ザフトが陸上戦力も投入してきたことである。海
上艦隊だけなら、今言ったような時間差攻撃で対処が可能だが、あまり海上だ
けに気を取られていると、陸地から攻め込む敵に基地を落とされてしまう。
「スエズの陸上部隊は基地の堅守を絶対とし、防戦に努めます。敵の攻撃を防
ぎつつ、味方艦隊の帰還を待てば……」
「ザフト軍は全滅する、というわけか」
ネオの作戦を理解する辺り、ジブリールは決して用兵に無知ではない。だが、
その声はネオに対して甚だ非好意的だった。
「いえ、もっと有効な作戦がありますぞ」
ネオの作戦案を聴き終わった直後、そう発言したものがいる。
ホアキン隊隊長の、ホアキン中佐だった。近頃、この男はネオへの対立意識
を剥き出しにしている。
「ほぅ、それはどういうものか」
興味深そうにジブリールが尋ねる。彼もまた、ネオに良い感情を持っていな
いので、ネオの作戦より良い作戦があるのなら、そっちを採用するつもりだっ
た。このままネオの作戦を採用したとして、失敗したときは今度こそネオを処
罰すればいいが、成功すれば評価し昇進させねばならないだろう。
「ロアノーク大佐の作戦よりも、簡単で、こちらが指したる苦労を強いること
なく、敵を倒すことが出来る作戦です」
ホアキンの自信ありげな顔に、ネオは彼が何を言い出すのか、全く予想が付
かなかった。ネオはホアキンより確実に優れた戦略家で、戦術家であったが、
この時は明確なまでに感性の違いが出たと言える。
「多少、時間は掛かるやもしれませんが……」
そのように前置きをして、ホアキンは作戦内容を語りはじめた。やがて、そ
れを聞くファントムペインの幹部たちの間に驚愕が走り始める。
「馬鹿な、そんな作戦出来るわけがない!」
説明後、真っ先に異を唱えたのはネオだった。彼に珍しい大声は、ホアキン
の作戦への嫌悪感に染まっていた。
「こんなものは、まともな戦闘じゃない。どうかしている」
「おや、まともな戦闘を避け、テロ行為を実行なさったロアノーク大佐の物言
いとは、とても思えませんな」
怒声の混じった激しい口論が十分ほど続き、要領の得ないままに終わるのか
と思われたとき、ジブリールが口を開いた。
「良いだろう。ここはホアキン中佐の作戦を採用する」
「盟主、お考え直し下さい! この作戦は、自分で自分の首を絞めるようなも
の。よしんば敵を倒すことが出来たとしても、我々ファントムペインは……」
「ロアノーク大佐、名より実を取る、という言葉があるだろう? 今回は正に
それだ」
それは、詭弁だ! ネオは叫びたかったが、今の自分にはどうしようもない
ことを悟っていた。元々、ジブリールは、ブルーコスモスの一員であるホアキ
ンを重用する傾向があるし、テロ事件で彼の不孝を被ったネオでは説得の使用
もなかった。
会議が終わり、官舎へと戻る最中、ネオは苛立たしげに呟いた。
「俺も、そろそろ考えるべきかも知れないな」
場所を戻してプラントでは、議長よりも幾日か早くに帰国したロッシェ・ナ
トゥーノが官舎にて休養を貪っていた。ミーアの護衛官としての任務を十分に
果たしたロッシェは、国防委員会より勲章を授与された。さして価値のあるも
のではないらしいが、騎士の誉れとして恭しくそれを受け取った。半分以上、
社交辞令であったが。
ミーアとは、帰国後はほとんど会っていない。2,3連絡を取ったぐらいで、
彼女はマスコミ対策などに追われる毎日だった。会見は既に何度も開かれ、彼
女は始終犠牲になった人々への哀悼の念を語っていた。ロッシェには、その気
持ちが痛いほど伝わってきた。
「私は、武器を持つ全ての人に問いかけたいと思います。手にした武器で、一
体何をするのかと。銃口の先にいるのは、同じ人間のはずなのに、何故引き金
が引けるのかと」
会見でミーアが行った発言は、マスコミと視聴者、そして最高評議会を驚か
せた。特にデュランダルが受けた衝撃は大きく、すぐに政府広報に「あの発言
は何だ。誰があんなものを書いた」と問い合わせた。やがて、あれがミーアの
アドリブだったことを知ると、勝手なことを言ってくれると憤ったという。
ナチュラルとコーディネイターは、どちらも互いに同じ人間だとは思ってい
ない節がある。一方は劣等感、もう一方は優越感に抱き続け、ここまで来た。
ミーアは武器を、しいては武力を否定した。確かに、平和論者としては正しい
意見だろう。テロに倒れた者を悼み、あのような発言をしたのかも知れない。
彼女は積極的に遺族の元を訪れ、謝罪を繰り返しているという。大半は好意的
で彼女に対して感謝しているという。
デュランダルとしては、面白くない。
彼にとってラクス・クラインとは、自分の政権においてある種の広告塔の役
割をしている。つまり、あまり彼女の方に人気が出すぎると、かえって困るの
である。デュランダルはすぐにミーアに対し積極的な行動を控えるようにと広
報を通じて打診したが、彼女はそれを無視した。遺族の元を周り、謝罪する行
為を何故辞めねばならないのか? 言い返されるとデュランダルも返答に詰ま
ったが、明らかに両者の間に亀裂が発生しつつあった。
「小娘が……まあ、勝手にするが良いさ」
目前にスエズ攻略戦が迫っていたこともあり、デュランダルはとりあえずミ
ーアのことを頭から消した。そして、彼女の友人である男のことは、一切思い
出すことなく、政務に没頭していた。
ロッシェは、ミーアとデュランダルが徐々に対立しはじめるだろうというこ
とを察知はしていたが、特に積極的な行動を起こそうとはしなかった。という
のも、ロッシェはプラントでは限られた人間としか交流がないため、ミーアの
ために人脈を作るとか、そういった行動が起こせなかったのだ。
だからこそ、彼はハイネを頼ったわけだが、ハイネは現在地球におり、彼の
協力を得るには今しばらくの時間が掛かる。
することもなく、時間を無為に過ごすロッシェの元へ、ハワードが尋ねてき
た。ハワードはこの度、新型モビルスーツのグフとバビの両機を量産ラインに
乗せることに成功し、一仕事終えてきたばかりだった。
「ロッシェ、折角良い知らせを持ってきたのに、何だそれは」
彼にしては珍しく、着崩しでソファに寝そべるといった格好でいたため、ハ
ワードはサングラス越しに眉を顰めた。
支援
規制に引っかかったのかな?
「お前に、服装について何か言われる筋合いはないが……何かあったのか?」
起きあがり、ハワードに席を勧め、ロッシェはコーヒーを入れはじめる。
「実はな、お前さんが地球に降りてる間、入れ替わりで奴が補給に戻ってきた」
「元気だったか?」
「疲れていたとも言えるな。アイツには似合わん作業をさせているせいもある」
「確かに、奴は戦場で暴れ回ってこそだからな……それで? 収穫は何かあっ
たのか」
指したる期待はしていなかったが、ハワードは不敵に笑うと、聞いて驚けと
言わんばかりに言い放った。
「喜べ、元の世界に帰ることが出来るかもしれんぞ」
コーヒーカップを取り落とさなかったことを、褒めるべきだろう。ロッシェ
は意外といえば意外、驚くべきと言えば驚くべき報告に、一瞬硬直してしまっ
た。
「詳しく説明して貰おうか」
コーヒーを手に、ソファに座り込んだロッシェに促され、ハワードは話し始
める。
「奴に調査させていたのは、我々がこの世界に入り込んだ、謂わば入り口とも
言える場所を探させていたのさ」
「入り口?」
「扉のない部屋にはいることなど、普通は出来ないだろう?」
「確かに……それが見つかったといわけか」
「そうだ。ワシも調べてみたが、強い空間の歪みも発見された。微小だが、ま
だ出入り口は塞がっていないようだ」
つまり、その出入り口を何とかして広げることが出来れば、帰れるかも知れ
ないと言うことらしい。
「なら広げればいいだろう」
「簡単に言うな。宇宙空間に出来た歪みを広げるには、それこそ、膨大なエネ
ルギーが必要なんじゃ」
「エネルギー?」
「例えば、爆発力でも何でも良いが、それこそ、その空間を揺らすぐらいの勢
いがないと出入り口は広がらん。しかも、一度失敗すれば二度と開かんだろう
しな」
「なら、ザフトから爆薬の類をありったけ集めるか」
「無理だな。計算によると、必要なエネルギーはウィングゼロのツインバスタ
ーライフル並みだ。こちらの兵器では、あの出力は出せん」
では、何の意味もないではないか。
ロッシェがそう不満げな顔を向けると、ハワードはニヤリと笑った。
「こちらから開けられないのなら、向こうから開けて貰えばいいのさ」
「――! そうか、その手があったか」
「既にアイツにある種の信号を発生する装置を持たせて、宙域に送り込んだ。
信号が届けば、まあ、プリベンターが動くだろう」
元の世界に帰れる。その事実は、ロッシェに安堵感を憶えさせた。
だが……
「そうか、帰るのか」
脳裏に、一人の少女の姿が過ぎった。
「ハワード、帰るのは良いが、あっちの捜査はどうする?」
「ウルカヌスか? アレに関しては、そろそろザフトの手を借りてもいいと思
ってるんだがな」
「それはダメだ。デュランダルは信用できん」
ロッシェは強い不満を声に込めながら、デュランダルを批判した。彼にウル
カヌスの存在を教えようものなら、きっとよからぬことを企むに違いない。
「どうも、まだまだこの世界でやり残したことが多いらしい」
この宇宙の何処かにあるウルカヌス、地球で未だ戦い続けるオデル、プラン
トでロッシェの助けを必要としているミーア……元の世界に帰りたくないわけ
がない。だが、ロッシェは、全てにケジメをつけなくては、帰るに帰れないと
そう思っていた。
後々の話になるが、ロッシェはこの時の自分に対し猛烈な自己批判をするこ
ととなる。彼は、ハイネから預かったマイクロディスクをすぐにチェックしな
かった。いくら、元の世界へ帰れるかも知れないという情報が入ってきたから
といって、これは軽率の譏りを免れなかっただろう。
もし、彼がディスクの中身を知れば、全てが変わっていたのだから。
数日後、ディオキア基地からミネルバを旗艦とした、ディオキア基地分艦隊
が先鋒として出撃した。オズゴロフ級戦艦で構成されるザフト海軍の中、ミネ
ルバの姿は堂々としており、極めて目立つものであった。
「最終目標地点は敵軍スエズ基地! 全艦、最大船速!」
ザフトによるスエズ侵攻作戦が開始された。
実戦部隊として、ジブラルタル、ディオキア、マハムールの三基地から出撃
する三個艦隊が動員されることとなった。そして、遊撃艦としてミネルバが加
わる。
ザフトは海上、そして陸上から進撃を続け、スエズ基地を包囲圧迫、圧倒し
ながら攻略し、ファントムペインの中東における影響力を一気に殺ぐつもりで
あった。
「だが……果たして、それが上手くいくかな?」
一人、私室でアスラン・ザラが呟いた。
デスクの上にあるコンピューターには、メイリン・ホークによって幾重にも
偽装を施された暗号回線を通じ、アスランの元へと一通の通信文が届いていた。
「…………」
アスランは声を出すことなく、その文面を読んでいる。彼にとって、その通
信自体は予期していたものだったが、内容の方はさすがに意外さを禁じ得なか
った。
(しかし、これは使えるかも知れないな)
彼にとって、今回の会戦は個人的な武勲の立て所以上に重要なものとなって
いる。アスランには、ある一つの企みがあった。
ミネルバの発進を前後として、ジブラルタル、マハムールからもそれぞれ艦
隊が進発をはじめた。それぞれの基地から出撃し、戦意高く戦いの途に着こう
とする彼らのうち、一体何人が生きて基地に戻れるのか……
だが、ほとんどの者はそれを果たすことが、永遠に出来なかった。
つづく
第37話です。
タイトル部分を36話にしてしまった……
短く書くと読み応えがなく、長く書くと規制に引っかかる……いつもなら30分で解ける規制が、
今日は何故か40分掛かりました。支援してくださったから、ありがとうございました。
かなり先読み可能な展開だと思いますが、その辺りはご容赦いただきたいと思います。
最終話までの流れは既に決まってるので、後はひたすら書くだけです。
年内までに完結できればいいのですが……
乙、いろんなキャラの思惑が入り乱れてるな
ミネルバ組が今度の作戦でどうなるか楽しみ
GJでした。
しかし、ザフトと連合ともに負けフラグが立ってるな。
連合の方がフラグは強そうだけど、ハイネの死亡フラグはなくなりそうにないとは。
待ってました!
乙です
GJです
原作ではガッカリだったミーアが、かなり期待出来る方向へ動いてくれてるのが良いです。
ネオにも何やら動きがアリそうですし
ザフトと連合、共に大敗北フラグを立てまくっている件。連合のほうが被害多そうだな…
GJ!
ミーアとデュランダルの対立やアスランの動きなど、かなり気になるな。
ところで、誰かウィキの方のリンク貼り直してくれないか?
あちらは前スレのままなんだが、やり方がわからなくてな。
議長がどんどん小物化していってる
というか、Wのデルマイユ公爵?みたいな立ち位置っぽくなってない?
原作のデュランダル自身が小物だった件について。
>>51 何を言う。あんなにうさんくささでいっぱいだったじゃないかw
あんなタイプの小物はいないさね。あんま大物っぽくもないけど
そもそも、原作に大物は存在しない。
保守
たしかにラクスは大物だったな・・・
確かに証拠ーぐらいには
ロッシェからの信頼はゼロ以下となり、ミーアは言う事きかなくなり、
いずれアスランにも背かれてドツボとなる議長のもとに、
同じく剣としてのキラがすっかりナマクラと化したため新たな武力を求める
盆地抉れ胸黒桃毒姫偽ミーア……コホン、おっと、もとい、生物学上の前作のラクスが
言葉巧みに接近侵食を……
>>59 ………放映当時の記憶がプレイバックしてきた
やはりシナリオを大幅改変しない限り種死は駄作という事か
>>59 やっぱりスクコマ2はその方向なのか…
買わんで良かった
次のスパロボからは思いっきり改変してくれるだろう。今回のはいらね
最初は生贄かやっぱり○| ̄|_
しかし負債への捧げものもとい尊い犠牲があってこそ次回作では
・シンが主役で貫頭徹尾
・ハイネが仲間入り
・ステラ生存
と数々のボーナス特典が付いてくるスパロボになるに違いない
下手すれば最初で最後の出演になるかもしれんゴーダンナーが
不憫でならんが……。
保守
>>42 かなり亀だがGJです。
つい最近このスレに辿り着いたんだが、あなたの作品は素晴らしいな。
クロスオーバーとしても本編の改変としてもよく出来ていて、続きが楽しみで仕方がない。
今後もがんばってください。
ヒイロキラから身体能力と反応速度お墨付き貰ってるよw
スクコマの話食傷気味…
いや別に
投下します。長いです。規制に引っかかるはずです。
敵は、どこだ――?
当初、スエズ攻略戦に乗り出したザフト軍は、溢れる情熱と、戦意に燃えて
いた。それぞれの基地から出撃し、来るべき敵との戦い備え興奮を隠せなかっ
た彼らだが、その熱狂が冷めるのは意外と早かった。何故なら、一向に敵と遭
遇しないのだ。
「敵はどういうつもりだ? 何故、攻撃を仕掛けてこない」
初めにその疑問と直面したのは、先陣としてディオキア基地から出撃したミ
ネルバであり、彼らは今のところ、一切の敵に遭遇することなく進撃を続けて
いた。それどころか、このまま順調に進めば攻略目標であるスエズ基地はすぐ
そこという状態だった。
「これは、我々を敵陣深く誘い込む罠かも知れません。偵察機を複数出して、
警戒させましょう」
副官アーサーの進言を、ミネルバ艦長兼分艦隊司令官のタリアがすんなり受
けたのは、彼女にもやはり不安があったからで、広域索敵機能を備えたディン
を複数機出撃させた。だが、ディンからもたらされる連絡も敵の所在を伝える
ものではなく、艦隊には次第に動揺が走り始めていた。敵が姿を現さないとい
うのは、それだけ不気味なのだ。
「敵はきっと籠城作に出るに違いない。だから基地から出撃せず、防備を固め
ているのだ」
このように考え、不安を取り払おうとする者もいたが、そんなものは気安め
程度にしかならなかった。何故なら、全員が全員、この状況に思い当たる節が
あるのだ。
「艦長、よろしいですか?」
事態の推移を伺っていたハイネが、オデルと共にタリアの所へ訪れたのは、
三度目の偵察機も無駄に終わった直後であった。
「何かしら?」
「敵軍の動きについて、俺なりの考えをまとめてみました」
ハイネがわざわざ自発的に動いたのは、実のところタリア・グラディスとい
う軍人を、ハイネが余り評価していないところにある。女性にして艦長職を任
されるほどであるから、間違っても無能ではないのだが、それはあくまで艦長
としてである。勇猛な艦長が、有能な艦隊司令官になりうるかといえば、正直
なところ難しい話だ。
だからこそハイネは、タリアが敵の術中に嵌る前に襟首掴んで引き戻さなけ
ればならないと考えていた。でなければ、取り返しの使いないことになってし
まう。
「敵が一向に姿を見せないのは、恐らく敵が我が軍を敵陣地の奥深く、それこ
そスエズ基地まで引きずり込もうとしているが為だと、俺は考えます」
「敵が基地の防衛能力を鎧として、籠城作を使うと?」
「そうではありません。いや、もしかしたらその可能性もあるのかも知れませ
んが、敵は我々を誘い込んで、一気にケリを付けようとしてるのではないです
か? 前大戦のアラスカの時のように」
アラスカ――それはザフトにとって、思い出したくもない地名の一つだ。前
大戦時、旧連合軍の統合最高司令部が置かれていた彼の地に、ザフトは大艦隊
の派遣と、降下作戦を行った。敵軍の本拠地を叩いてしまおうと考えたのだ。
当時、まだモビルスーツの量産化も進んではないなかった旧連合軍は、この大
進行に対し、とんでもない方法で対抗した。
統合最高司令部ごと、ザフト軍を消滅させるという作戦だった。
支援
第38話「解放軍」
サイクロプスと呼ばれる、レアメタル採掘用の器材がある。元々はマイクロ
波を使いレアメタルに混ざった氷を加熱し、氷解させるための装置であり、軍
用兵器ではなかった。だが、どんな分野の技術であろうと軍用に転じさせるの
が人であり、サイクロプスは基地自爆用の破壊兵器として使われたのだ。
ザフトのニュートロンジャマーによって有効範囲を限定されたマイクロ波は
威力を増幅し、範囲内にいる全ての生物は体内にある水分を急激に沸騰させる。
その結果、人体は膨張、破裂し死に至るのが、この兵器の怖いところである。
簡単にいえば、軍用化された電子レンジといったところだろうか。
この大量破壊兵器を使った自爆作戦は、ザフト軍に致命的な打撃を与えるに
十分だった。作戦投入戦力のうち、八割を失ったのだ。これによって地上戦線
の維持が難しくなったザフト軍は、旧連合がモビルスーツの量産化に成功し、
続々と戦場に送り込んだこともあって地上での戦線が維持できなくなり、つい
には全ての基地を蜂起して宇宙へと逃れる結果に陥ったのだ。
「追いつめられた敵が起死回生を図ろうとアラスカの再現を行う……あり得な
い話ではありません。至急艦隊の進軍を一時的に止め、後続艦隊と連絡を取る
べきでしょう」
それを知っているからこそ、ハイネの口調は重く、苦いものとなる。サイク
ロプスを使った自爆、二番煎じ所か三番煎じの戦法ではあるが、成功すればこ
れ以上に効果的なものはない。ファントムペインは基地一つ失うことになるが、
代わりに敵軍の三個艦隊を消滅させることが出来る。しかもこの場合、敵はヘ
ブンズベースという余力どころか主力を残しており、今後の戦闘をかなり優位
に展開できるのだ。
「敵の姿を発見できないというのは、敵がどこかに潜み、奇襲を仕掛けてくる
可能性も低いということです。これはやはり」
「確かに一理ある意見だわ。でも、単純な発想でもあるわね。敵が同じ手を何
度も使う独創性のない相手だと、私は思えないわ」
タリアは、ハイネの言に対し否定的だった。
「大体、仮に的の狙いがサイクロプスだったとしても、前大戦時とは状況も違
う。我々はその存在も知ってるし、警戒して掛かれば大した驚異にはなり得な
いはずよ」
正論、なのだろうか?
オデルはやり取りを見ながら、そんな疑問を憶えた。ハイネからアラスカで
の戦いを語られたオデルは、それが如何に悲惨なものであり、また常識外れの
作戦であったかを知った。旧連合とやらは、作戦をより完璧なものとするため
に一部の兵士を犠牲にしたのだという。基地の守備隊などに徹底的に防戦させ、
ザフトとの戦闘状態を作る。ザフトもまさか、それが擬態であり、罠だとは気
付かない。何せ、防戦してる兵士自体が、自分たちが切り捨てられたことを知
らないのだから。
だが、今回はどうだろうか? もし敵が同じことを行おうとしているとして、
果たしてそれが成功するのか? タリアの言うとおり、ザフトはその可能性も
視野にいれて行動しているし、警戒もしている。その時点で成功率はかなり減
少する。それだけではない。ザフトがその可能性を予期できると言うことは、
スエズ基地にいる兵士だって同じことだ。まさか、基地と運命を共にしてまで
ザフト軍に勝ちたいと思う兵士は、皆無じゃないにしろそうはいないだろう。
司令部の作戦に異を唱え、暴動が起きていても不思議じゃない。
「では艦長は、敵の不自然な行動を、どう説明しますか?」
ハイネが切り口を変えた。というより、相手が自分と異なる発想を持ってい
たときは、それを尋ねるのが当然なのだ。
「我々をスエズ基地まで引っ張り込む。遠征による疲労を突くために今は出撃
しない。そんなところかしら」
「馬鹿な。それは相手がこちらより大兵力を有していた場合の話だ。ヘブンズ
ベースならいざ知れず、スエズの戦力ではそんなことできっこない!」
この反論はもっともである。スエズとて中東最大の軍事基地といわれるぐら
いだから、それなりの防衛機能は備わっているが難攻不落というわけではない。
先ほど陥落されたガルナハン基地のように地の利を活かした戦い方が出来るわ
けでもないし、基地に隠って戦うことに向いていないのだ。むしろ、基地は艦
隊の駐留、修理、補給などの後方支援のみに努めて、艦隊戦を徹底するのが一
番良い戦い方だ。
例えば、前大戦時カーペンタリア基地に所属していたモラシムが、幾度とな
くスエズ艦隊と紅海にて激戦を繰り広げたことがあった。連戦連勝を重ね、紅
海の鯱などとあだ名されるようになったモラシムだが、スエズ基地が陥落でき
たかと言われれば、出来なかった。逆に補給線が長い分、一戦勝利するごとに
疲弊、疲労していくモラシムの部隊は後方に基地を持つ敵の物量に圧され、撤
退したことが一度や二度ではないのだ。あるいはこれが、今回のスエズ基地攻
略に情熱を燃やすモラシムの理由かも知れなかった。
「どちらにしろ、敵が姿を見せないならまず罠の存在を疑って掛かるべきだ。
一度進軍を停止し、情報収集を行うだけでも……」
「そんなことして、進軍速度が鈍るようなことになったら兵士の士気に関わる
わ」
「しかし!」
不毛な応酬だった。タリアはハイネの慎重論を取り上げるつもりが全くない
のだ。形だけ、周囲の警戒を怠らず、定期的に偵察機を出すなどと約束はし、
後続艦隊に敵と未だ遭遇しない旨を伝えるため通信は飛ばしたが……
「チッ、要するに艦長は自分も何かしらの手柄が欲しいのさ」
タリアへの進言が無意味に終わった帰り道、ハイネはオデルと話していた。
「この前のガルナハンは確かに大きな戦果だったが、功績自体はヨアヒム・ラ
ドルと分かち合う形になった。僻地の基地司令だったラドルはそれで満足だろ
うが、うちの艦長は不満があったわけだ」
「功を焦っている、というわけか?」
「なまじ自分が女の士官であることを意識しすぎてるのさ。確かに陰口も多い
人だが、それを気にして出世意欲ばかり高くなってやがる。功績立てて、出世
さえすれば陰口がなくなると思ってるのかね、あれは」
自分だって若くして特務隊に所属している身であるのだから、そう大きな事
も言えないはずだが、もしかすると自分やアスランのように若くして地位や名
誉を確立している存在がタリアにとっては鬱陶しいのかも知れない。
支援
「だからといって、それは個人の感情だ。一個人の感情に左右されて、戦闘が
出来るかってんだ」
「そのおかげで敗れた軍隊は、数え切れないほどいると思うがな」
「言うな。嫌な予感に足を絡め取られそうになる」
怖いのは、ハイネも自分の進言に確証を得られないことだった。その辺りは
タリアの言うとおりで、敵が同じ作戦をそう何度も使うとは思えないのだ。い
くらコーディネイターがナチュラルを見下していると言ってもそのぐらいは判
る。しかし、そうすると一体敵の狙いは何なのか?
「可能性はいくつかあるが、現実味が薄いな。いっそ、敵が基地を放棄して夜
逃げでもしてるってほうがしっくりくるぜ」
「ヘブンズベースに全兵力を集中させるというのも、立派な戦略だからな。あ
り得ない話じゃないだろう」
これはあくまで冗談だったのだが、二人はすぐにそれが冗談では済まなくな
った事態に直面することとなる。
驚くべき事に、本当に驚くべき事に、ミネルバはその後も順調なる進軍を続
け、スエズ基地をその視界に捕らえるまで達してしまった。勿論、未だ敵軍と
の遭遇は一切ない、無傷のままでだ。
「これは、どういうことなの……」
タリアは声もなく呟き、思わず副官であるアーサーの方を見た。しかし、彼
もまた意外な事態に面食らったようにメインスクリーンを見ていた。
そう、スエズ基地の周囲には一隻の艦艇も存在せず、まるで無人だったのだ。
「こんなことって……」
出撃に備えて集まっていたパイロットたちの溜まり場でも、驚愕が響き渡っ
ていた。ハイネとオデルは共に険しい顔をしており、シンとルナマリアは普通
に驚いている。レイに至っては驚きを押し隠そうとしているといった表情だっ
た。だが、唯一アスラン・ザラだけは薄く笑ったような気がした。一瞬のこと
で、気付いた者は誰もいなかったが。
「ホントに夜逃げでもしたって言うのかよ」
ハイネが驚きとともに口を開いた。冗談のつもりだったのだが、どうやら現
実の物となってしまったらしい。基地を放棄する、それ自体は指して珍しいこ
とではない。敵軍の進行を前に小規模な基地が放棄されることは間々あること
で、所謂戦略的撤退の一つだ。だが、まさか、スエズほどの基地をあっさりと
放棄するとは……
「前大戦では、アラスカも自爆して見せたほどだ。ナチュラルは軍事的な拠点
に余り固執しないんだろう」
アスランの言った意見は、それなりに説得力があっただろう。そして、それ
と同時にある危険性が見えてくる。すなわち、やはりスエズをアラスカのよう
に自爆させる可能性である。サイクロプスではないにしろ、基地の周囲または
動力部、軍港などに大量の爆発物を仕掛け、ザフト軍が入港したところで爆破
させる。爆発によって基地も失われるだろうが敵軍に打撃を与えるにはそれだ
けで十分だ。
「さて、司令部はどうでる?」
ハイネはこのまま突入するはずはないと思っており、その通りミネルバの艦
橋ではアーサーがタリアへ一つの進言をしていた。
「艦長、敵が基地を放棄したにせよ、自爆作戦の可能性は無視できません。ま
ずは、爆発物の調査・撤去を専門とした工兵と、それを守る白兵戦部隊を基地
に上陸させては如何でしょうか?」
無論、その前に海中における機雷等爆発物の調査もを怠らずに。
「そうね、もっともな意見だわ」
タリアは各艦からその手の作業を得意とする工兵と、白兵戦の部隊を招集し、
部隊長としてアスラン・ザラを選任した。同格で、尚かつ年上のハイネを選ば
なかったのは、先日彼と揉めたことが原因だろうと思われたが少々露骨だった
とも言える。
海中の調査が終了し、一切の危険物がないと判断された結果、アスランは強
制揚陸艦へ乗り込み、スエズ基地の軍港へと乗り込んだ。どうやら自動防衛シ
ステムの類は作動しないようである。アスランは軍港の一角に仮設指揮所を設
け、指揮を始めた。
「工兵部隊は爆発物等が仕掛けられるであろう場所の調査を開始しろ。発見し
た場合は、撤去作業を行う前に指揮所に報告を入れろ。それと、白兵戦部隊の
うち工兵のバックアップに回らない者は基地の制圧作業に当たらせる。管制塔、
制御室、指令室は絶対だがここにも爆薬が仕掛けられている可能性はある。警
戒してかかってくれ」
アスランの指示で、それぞれの部隊が動き始めた。人数はそれなりにいるが、
何せ広大な基地の敷地を隈無く調査するのである。一時間や二時間で終わるわ
けがない。それでも何とか六時間後にはあらかたの調査を終えることが出来た
のは、基地内に一切敵兵の姿がなく、何の抵抗も受けなかったからだろう。管
制室も指令室も、まるでもぬけの殻だったのだ。
「基地には一人の人間もいないのか……」
唸るアスランの口調はいささかわざとらしく思えたが、それに気付き、指摘
する者はいなかった。アスランは指揮所からミネルバに回線を繋ぎ、事の次第
を報告した。
「この基地は無人です。人っ子一人、モビルスーツの一体もありませんでした」
『爆薬等は? 何もないの?』
「その手のトラップは念入りに調べましたが、何も発見できませんでした」
その他に判ったことといえば、基地のコンピュータデータが全て破壊されて
いたぐらいか。データを消去した後に記憶を司る部分を物理的に破壊するとい
う徹底的なもので、復旧はまずできそうもなかった。
「後、食料庫等の物資ですが、こちらも空っぽでした。小麦の一欠片もありま
せん」
武器・弾薬に至っては、倉庫の中身はもちろんのこと防衛システムに使用さ
れている実弾類まで抜き取られており、妙な言い方だが引っ越し後の空き屋と
いった感じに見事なまで何もない場所だった。
「ザフトの進行を見越して基地を放棄した、と考えるのが自然でしょう。地中
海に出ず、紅海方面を選択すれば艦隊が逃げ出すことも可能ですから」
『そうね……判ったわ。じゃあ、部隊はそれぞれの艦に戻っていいわ。貴方も
帰投して、報告書の作成をお願い』
「了解しました」
通信を終え、アスランは指揮所の解体を指示した。指示しながら、考える。
タリアはどのように後続艦隊たちに報告をするつもりだろうか? いや、きっ
とあの人のことだ、このように報告するに違いない。
我が艦隊、スエズ基地を攻略せしめりと――
支援
アスランの予想通り、タリアは本当にそのように各艦隊に連絡を送った。こ
れまでも先鋒を務める者として状況報告は欠かしていなかったわけだが、各艦
隊司令官たちはさすがに驚きを隠せなかった。
「なるほど、つまり敵は恐れを成して逃げ出したわけか」
いち早くそう結論づけたのはディオキア艦隊主力を指揮するモラシムだった。
その口調は何処か忌々しげだった。まさか、こんなあっさりと攻略作戦が終了
するとは思っても見なかった。一戦もせずに逃げ出すとは、敵も何と不甲斐な
いことか。これでは武勲の立てようもないではないか。
だがまあ、攻略したなどと言ってはいるが、ミネルバだって空き屋を占拠し
ただけに過ぎない。そんなことは誰にだって出来るし、武勲や功績と言うほど
のものではないだろう。
「仕方ない。ここまで来た以上、引き返すわけにもいかん。このままスエズ基
地まで進んで、ミネルバ分艦隊と合流する」
あくまで本隊はこちらなのだから、合流次第指揮権を奪ってしまえばいい。
いや、奪うなどと聞こえが悪い、正当な権利どころかか何一つ問題のない行動
だ。
一方、続いて報告を受けたヨアヒム・ラドル指揮するマハムール陸上艦隊は、
あと一日も走ればスエズ運河という場所まで進軍をしていた。
「そうか……敵は基地を放棄したのか」
同じ基地司令官として、何とも言えない気分だったのは確かだ。恐らく、上
層部から放棄命令が出たのであろうが、戦わずして逃げるという行為ほど兵士
の士気を低下させるものはない。
「隊長、如何なさいますか?」
副官が遠慮がちに尋ねてくる。進軍を続けるか、帰投するかと聞いているの
だ。
「一応、作戦が中止になったわけではない。他の艦隊だけに任せるわけにもい
かんし、このまま進軍を続けよう」
ラドルの心中は、モラシムの悔しさとは違い残念だという気分が占めていた。
彼もまた軍人であれば大会戦になると思われたこの戦いで、武勲の一つでも立
てたかったのだ。
最後に連絡を受けたのはジブラルタル艦隊であった。実のところジブラルタ
ル艦隊は他の艦隊にかなり後れを取る形で出撃していた。というのも、基地司
令官と艦隊司令官のウィラードの間で動員兵力に関する問題で食い違いが起き
たのだ。ウィラードは艦隊を指揮する立場から、全体の七割以上を今回の作戦
に動員すると決めていたのだが、司令官がそれに文句を付けてきたのだ。
「全体の七割も持って行かれたら、この基地の防衛機能が著しく低下してしま
うではないか」
まあ、確かにその通りではあるのだが、ウィーラドはこう反論した。
「では基地司令官殿は少ない艦隊で出撃して、我々に負けてこいと仰るのか?」
「そんなことは言ってない! 第一、艦隊の数が少なくとも、それを何とかし
て勝つのが艦隊司令官の役目だろう」
自分よりも遥に年長であるウィラードにこうして反発できる辺り、基地司令
官はある意味では凄いのかも知れなかったが言っていることは無茶苦茶だった。
二人の協議が続き、結局ウィラードは不本意にも半個艦隊で出撃する羽目と
なった。いくらジブラルタル艦隊が通常の艦隊よりも数多い艦艇数で構成され
ているとはいえ、これはあり得ないことだった。
「どうやらあの青二才、我々に死んでこいと言いたいらしいな。はて、そこま
で嫌われるようなことをしただろうか」
旗艦に乗り込み出撃を指示する前、ウィラードはそう呟いたという。
「しかし、閣下ならば少数の艦隊でも大丈夫だと信じてます。少数なら少数な
りの、戦い方もあるでしょう」
彼を尊敬する若い副官が熱っぽく言うが、ウィラードは首を振ると、
「さて、それはどうかな。敵軍が我が艦隊に殺到してきたら、さすがにワシも
支えきれるかどうか……」
本音である。スエズ基地の艦隊が全力上げてジブラルタル艦隊に挑んでくる
のなら、半個艦隊程度の自分たちなどものの数時間で壊滅させられるだろう。
「どうするかな……」
敵艦隊と遭遇した際の戦術を練るウィラードだったが、出撃して間もなくそ
の心配がなくなった。ジブラルタル艦隊はウィラードの指揮の下、敵に待ち伏
せされる可能性が高いボン岬からマルタへと続く航路を避け、ボニファチオ海
峡からティレニア海に進み、メッシナ海峡へと差し掛かったところであったと
いう。ここから、イオニア海に出て、クレタを経由しスエズを目指す予定だっ
たのだが、他艦隊に遅れながらミネルバから連絡が入った。
「なに? すると敵は夜逃げをしたのか?」
どうもこの老人、毒を吐く感性がハイネと似ているらしい。
「はぁ、夜に逃げたかどうかはともかく、スエズ基地には一切の敵及び、物資
が存在しないそうです」
副官はウィラードの毒づきに珍妙な掛け合いをしたが、ミネルバからの報告
に訝しがっているようだ。無理もない、こんな経験、戦歴の長いウィラードで
あっても早々経験することではないのだ。
「すると我々は物資と金の無駄遣いをさせられたわけか。はん、結構なことだ
て」
「どうないさいますか? 基地の攻略は終了しましたし、他の艦隊に任せて我
々は撤退しますか?」
航路からすればまだ半分進んだほどであるし引き返すこともできる。ウィラ
ードは海図を見ながら唸るように考え込む。本当に敵は基地を放棄したのだろ
うか? 放棄したのが事実として、本当に何の意図もなく逃げ出したのか。ス
エズほどの基地を戦わずして放棄する、戦力を拠点に集中させるつもりといえ
ば聞こえは良いが……
「だが、心理的にはどうだろうか?」
「はっ?」
「いや、敵のスエズ基地を放棄が戦略の一つだったとして、それが与える心理
的効果を考えてな。ただでさえ憎いザフトに追われ、ファントムペインが基地
を放棄したと合ってはファントムペインを支持する者が受ける衝撃は大きいだ
ろう。兵士の士気にだって関わることだ」
だからこそ、何かあるはずなのだ。平気で基地を放棄してのけるほどの何か
が。
「考えすぎではありませんか? 小官には、敵が基地を放棄して得することが
あるようには思えませんが」
「そうだといいがな……よし、とりあえずクレタまで艦隊を進めよう。作戦は
終了したも同然だが、国防委員会が何か言ってくるかもしれんし、勝手に撤退
するのはまずかろう」
こうしてスエズ基地は攻略したものの、全ての艦隊は進軍を続けることとな
った。
やがて、ミネルバに遅れること一日、ディオキア主力艦隊とマハムール陸上
艦隊がスエズ基地へと到着した。これで全軍の三分の二が揃ったわけであり、
スエズ基地はもはやザフト軍基地と言っても良いぐらいザフト軍艦で溢れかえ
っていた。
「こうも容易く攻略が終了してしまうと、かえって味気ないものだな」
モラシムは不満そうにザフト兵士によって復旧が急がれる基地を眺め回した。
基地自体は全てのデータを消去されはしたが、そんなものプラント製のものと
入れ替えてしまえば良いだけだ。修理・復旧もそう長くは掛かるまい。
「私など、ガルナハン方面の安定が終わったばかりの出兵だったというのに、
得るもの何もなしでは腹立たしいばかりですよ」
出番がなかった者同士、共感するところがあるのか、ラドルもまたモラシム
と同意見のようだ。
「我らは敵に勝ったわけではない。確かに基地こそ手に入れたが、それは単に
敵が放棄したものを拾っただけだ……これは戦果とは言えないだろうな」
「戦果も何も、一発の砲火も交えていませんからね」
軍人であれば戦場に戦いを、戦果に武勲を求めるのは当然なのかも知れない。
故にこの時の二人は、先日の反目が嘘のように互いに無念がり、悔しがっては
張り合いのない敵に対して文句を言っていた。
そんな会話がしばらく続いたとき、
「いっそのこと、スエズ基地を前線基地とし撤退した敵に追撃をかけたいもの
ですな」
ラドルとしては、何気ない一言のつもりだったのだろう。言った後も、その
言葉に深い意味などありはしなかったし、モラシムが異様なまでに食いついて
きたことに、むしろ驚きを感じたはずだ。
「周辺に住む民間人の話では、ミネルバが到着する正に前日、敵は基地を引き
払ったらしい。これなら、十分に追撃は可能と思わないか?」
「ふむ……しかし、敵とて逃げ出すからには全力、全速でしょう。そう簡単に
いきますかな」
「敵が慌てて逃げたというのなら、付けいる隙は十分にあるはずだ」
モラシムは不敵に笑うと、ラドルにある提案を持ちかけた。初めは訝しげに
その内容を聞いていたラドルであったが、思うところ合ったのか、すぐに賛同
した。彼らは、戦いを欲していた。
一方、距離的問題で最後に報告を受けたのはプラントにある統合作戦本部と
国防委員会である。彼らに報告が言った時点で、既にモラシム艦隊及びラドル
艦隊はスエズへと到着しており、それぞれの署名入りの報告書が届けられた。
支援
「確かなのか? これは」
ヘルマン・グルード国防委員長は、報告書に目を通しながらいささか驚いた
ように口を開いた。目を見張って動揺しない辺りはさすがであるが、それでも
ある種の驚愕があるようだ。
「軍人、いや武人であれば面目を保つために基地の死守をやってのけそうなも
のだが、あっさりと放棄するとはな……」
「委員長、報告書にも書いてあることですが、現地の指揮官は進軍の続行を求
めています」
「ふむ……」
報告書の最後には、『スエズ基地を橋頭堡とし、さらなる進路拡大、周辺地
域の解放に努めたい』と言った趣旨の文が書かれており、特にモラシムとラド
ルが強く希望しているようだった。彼らにしてみれば、武勲も戦果も上げられ
なかった今回の出兵は骨折り損のくたびれもうけもいいところで、このまま得
るものもなく撤退というわけにはいかないのだろう。
「どうなさいますか?」
「気持ちはわからんでもないが、基地は確保できたのだしとりあえずはそれで
満足しておいたほうが良いと思うのだがな……まあ、何にせよ私の一存では決
められん。最高評議会を招集せねば」
こうしてヘルマンはスエズ基地攻略の報告とさらなる進軍案を片手に議会を
招集したわけだが、余り良い気分ではなかった。彼は今回の戦いに反対した側
の人間であるため、こうもあっさりとカタが付いたことで主戦派に対する影響
力が弱まってしまったのだ。
案の定議会では主戦派が殊更自分たちの判断の正しさを主張し、ギルバート
・デュランダル最高評議会議長の不見識を非難し、さらに現地指揮官からの進
軍続行を早々に可決してしまった。評決の際、意地があったのかは知らないが
デュランダルもヘルマンもあくまで反対の票を入れていた。主戦派議員の失笑、
冷笑は止まらなかった。既に彼らはデュランダルとヘルマン、二人の肩書きに
『前』という文字を勝手に加えてしまっていた。
この事態の速さに驚いたのはクレタにて艦隊を停泊させていたウィラードで
ある。彼はモラシムらが自分に相談も為しに進軍案を国防委員会に提出したこ
とを批難した。
「ザフト軍の指揮官は戦場というもの個人的な武勲を立てるだけの場所と勘違
いしている節がある。実際に戦うのは下にいる兵士だというのに、そのことを
一切考えようとせんのだ」
軍人だからといって、兵が皆戦いを望むわけではない。中にはやむを得ぬ事
情でこの道を選ばざるを得なかった者もいるだろうし、何より大半が戦場でな
ど死にたくないと考えているはずだ。ウィラード自身、叶わぬ事かも知れない
が死ぬなら故郷に帰って家族のもとで死にたい。度重なる遠征や、遠路の進軍
を続けた軍隊が、望郷の念を抑えきれなくなった兵士の叛乱にあってその夢見
果てることなど歴史を紐解けばいくらでもあるではないか。
「我が艦隊に、進軍命令は来ているのか?」
「いえ、モラシム艦隊とラドル艦隊には命令が下りましたが、ミネルバ隊及び
ウィラード艦隊はスエズの確保に専念せよと」
「フン、主戦派の議員共、自分たちが武勲を取らせたい軍人を重用したという
分けか」
モラシムは極端なまでに、ラドルもどちらかといえば主戦論者である。ウィ
ラードは戦うべき時は戦うといったタイプの軍人で、それ以前に性格面のきつ
さで政界人から嫌われている。タリア・グラディスに関しては、主戦派のはず
だが恐らく議長との関係から外されたのだろう。
「きっと今頃あの女史はカンカンだろうな。何故自分だけ、と」
その頃スエズ基地では、進軍の続行が噂として流布され初め、兵士たちの間
に動揺が走っていた。
「聞いた話だが、上の連中はこのまま進軍を続けたいらしい」
「どうしてさ? 基地はこうやって制圧できたんだし、目的は果たせたじゃな
いか」
「空き城を奪ったんじゃ武勲にはならないからな。逃げ出した敵を追ったりし
たいんだろう」
「せっかく一人の死者も出なかったんだし、俺はさっさと基地に戻りたいんだ
がなぁ」
こうした会話は占拠された基地の中、様々な場所で交わされ、ウィラードが
予想したとおり上層部への不信感を募らせていった。例外があるとすればミネ
ルバで、彼らは進軍へ参加することを禁ぜられ、スエズに残らねばならないの
だ。身の安全という面ではこの上ないことかも知れないが、武勲にはほど遠い
位置にいることとなる。
「居残りなんてつまんない〜」
年若いルナマリアなどはそんな境遇に不満を募らせたが、ハイネやオデルは
モラシムやラドルが進軍を続行させようとしていることに危惧を覚えていた。
彼らはファントムペインの行動に何か裏があるのではないかと考えていたのだ。
しかし、決定された以上、異を唱えるわけにも行かず続行される進軍をただ
黙ってみているしかなかった。
「チッ、戦い好きの司令部なんてろくでもないことこの上ないな」
ハイネは毒づくが、司令部は司令部で進軍とは別の問題に悩まされていた。
というのも、制圧したスエズ基地の復旧に勤しんでいるザフト軍の元に、周辺
住民の代表団なるものが話し合いを求めて訪れたのだ。ザフトは当初、ファン
トムペインを追い払ったことに対し、感謝の言葉でも述べられるかと思ったが、
そうではなかった。彼らは基地の中を動き回るザフト兵をつまらなそうに眺め
回した後、こう言った。
「この基地の食料庫には、ファントムペインが我々から奪った食料がごっそり
入ってるはずだ。それを返して欲しい」
ガルナハンの地でもそうだったように、ファントムペインはスエズにあって
も暴虐の限りを尽くしていたようで、ここ最近は特に食料の強制徴収が激しか
ったらしい。
「もう、パンの一欠片も残ってないんだ。赤ん坊に飲ませるミルクもないし、
当然酒なんてここ数ヶ月一滴も飲んでない。圧政から解放してくださるのは結
構だが、まずは食料を貰いたいもんだな。我々が生きるために」
そんなことを言われても、スエズ基地の食料庫は空っぽである。ファントム
ペインが逃げる際に小麦の一粒も残さずに持ち逃げしてしまったからだ。
支援
支援
今回のファントムペインの作戦はあれか。ネオが確かに難色示しそうだ。
規制か・・・
この当然だが、理想的じゃない現実味溢れる要求にザフト軍は困惑しないで
もなかったが、突き放すわけにも行かなかった。ザフトは解放者なのだ。ファ
ントムペインの圧政に苦しむ人々を解放し、プラントの味方にしなくてはいけ
ない。それは戦闘に勝つことよりも、あるいは重要なのだ。
だが、スエズの食料庫が空っぽな以上、彼らに与える食料があるとすれば各
艦隊が保有する食料しかない。とりあえず、モラシム艦隊、ラドル艦隊から多
量の食料が周辺住民へ供出されることとなった。
「まあ、仕方のないことだ。基地に補給物資の追加を要請しておこう」
モラシムもラドルも苦笑しながら、当面の問題は片付いたと言わんばかりに
進軍計画の遂行に戻った。
そして、それから僅か三日後、両艦隊は更なる戦いを求めてスエズ基地から
出撃した。
プラントでは、日々今回の出兵が大成功だったことと、主戦派議員の見識の
豊かさをメディアが賞賛していた。
デュランダルがマスコミから叩かれる様を見るのは、彼のことを嫌うように
なったロッシェからすればいい気味だったが、政府が進軍計画の続行を発表し
たことが気がかりと言えば気がかりだった。
「流れが速すぎるな……周辺地域を掌握せぬままに進軍を続けるつもりか?」
勢いに乗って進みたいのだろうが、ロッシェからすればそれは愚行のように
思えた。大体、今回の作戦の成功率が高かったのは三個艦隊による包囲作戦に
よるところが大きい。だからこそ、敵は基地を放棄して、ロッシェには信じら
れないことだが、逃げでしたわけである。
にも関わらす、現地のザフトは陸上艦隊をそのままスエズから南下させ、海
上艦隊は紅海に出ようとしている。何故わざわざ戦力分散の愚を犯すのか?
無論、陸上艦隊が海上を突き進むことが出来ないのも、海上艦隊が陸地を前進
することが出来ないのも知っている。だからこそ、その不利をカバーするため
にもある程度慎重に動かねばならないのではないか?
テレビの映像には、周辺住民に食料を配るザフト兵士の慈善的な姿が映し出
されていた。そして、リポーターがファントムペインが住民たちから食料など
を奪っていた事実をあしざまに罵っている。
「食料の徴収か……」
何とも古典的な話のように思えるが、それほど不自然なことではない。圧政
を行う軍隊にとって、暴力や略奪の類は住民を押さえつけるのには必要な処置
なのだ。金品の場合は、兵士の懐を潤わせる程度にしかならないが、食料は別
だ。なければ相手は死ぬのである。
「本当に敵は基地を放棄しただけなのか……?」
ロッシェは、頭の中で思考の階段を上りはじめる。彼は今回の会戦に対して
完全なる第三者だ。だからこそ、現場の軍人や後方の政治家とは違った視点で、
戦いの様を見ることが出来る。
「仮に敵の基地放棄が何らかの罠だとして、その意図は?」
真っ先に思い浮かぶのは、基地を囮にした自爆作戦である。かつて彼が所属
していたOZが歴史の表舞台に立つべく行動を起こしたことがあった。その過程
で、彼らは計画の邪魔となるコロニー側の抵抗、即ちガンダムの存在を疎み、
罠を張った。結果その罠に嵌ったガンダムのパイロットたちは、モビルスーツ
の大部隊と戦う羽目に陥った。
だが、さすがはガンダムと言うべきか、彼らは根強い抵抗と反撃を試みた。
モビルスーツ部隊は徐々に数を減らし、戦況不利を悟ったOZの女性士官は、基
地の自爆コードを入力し、基地ごとガンダムを消滅させるという過激な方法を
採ったのだ。
結果としてガンダムパイロットの一人が爆発物の時限装置を解除し、自爆自
体は失敗に終わった。しかし、もし成功していれば、さすがのガンダムといえ
ど全滅していただろう。
「であるからこそ、自爆という行為も、立派な戦略の一つだが」
今回、ファントムペインはスエズを放棄するに際して一切爆発物などは仕掛
けていない。設置する間もなく逃げ出したのではないか、と軍部では思ってい
るようだがロッシェにはとてもそうは思えない。
彼らは初めから基地を爆破する気がなかったのではないか? 基地を爆破す
れば確かにザフト軍にある程度の打撃を与えることは出来るかも知れないが、
必ずしも成功するとは限らない。
「あるいは、もっと有効な手を思いついたか」
例えば、基地は確かに放棄したが、それはあくまで一時的なもので、すぐに
でも基地を奪還できるだけの作戦を練っているとか。
ロッシェは自分の考えに小さく唸った。
あり得ない話ではない。スエズ基地を餌に、ファントムペインはザフトを釣
り上げようとしているのではないか?
「ザフトは敵の思惑に嵌っている……」
放棄された基地を得たザフトは、指揮官や一部高官の、実にくだらない「物
足りなさ」に後押しされるように進軍の継続を開始した。既に陸上艦隊と海上
艦隊の一部が行動を開始している。これこそが、敵の狙いだとすればどうだろ
うか。
「確かにザフトは結果として戦力を分散させた。だが、それは敵も同じことで
はないのか」
ロッシェは考えをまとめるべく、デスクのコンピュータを操作し、スエズ周
辺の地図を出した。軍用なので、近場の軍事基地などの詳細もある。
「……これは」
地図を眺めていたロッシェの顔色が変わった。彼はチラリとテレビの方に目
を向けた。画面にはまだ、スエズ周辺の貧困民に食料を配るザフト軍兵士の姿
が映し出されている。
瞬間、ロッシェは敵の狙いが何であるか、読めた。
「まずい、このままでは」
ロッシェは立ちあがり、通信機器に手を伸ばし……その手を止めた。連絡を
するとして、誰に? ギルバート・デュランダル、いや、あの男は信用できな
い。だが、彼しか使える知り合いがいないのも事実だ。ミーアはあくまで民間
人であるから、軍務について口を出す権利はないし、何より彼女にそんなこと
をさせるわけにはいかない。
「ならば」
少し思案した後、ロッシェはコンピュータで検索を掛け、探し出した番号を
頼りに通信機器の回線を繋いだ。
『はい、プラント国防委員会本部ビルです』
「ザフト軍特務隊所属、ロッシェ・ナトゥーノと申しますが、委員長閣下に回
線を繋いで頂きたい」
支援。
再支援
ロッシェには嫌な予感を隠しきれなかった。もし、彼の推測や予測が全て的
中していれば、今頃地上のザフト軍は……
勢いに任せてスエズ基地から出撃したヨアヒム・ラドル率いるザフト軍艦隊
は、出撃を開始して僅か一日、予想もしなかった問題に直面していた。
「民間人が保護を求めてきている?」
ラドルは驚いたように副官の報告を聞き返した。何と、彼らが進軍するルー
トにある町や村、集落などに住む人々がザフトに保護を求めてきているという
のだ。
「何でも、スエズの陸上部隊がこの場所を通る際、略奪の限りを尽くしていっ
たらしく……特に食料が無いとか」
ただ食料を奪うだけならまだしも、ファントムペインはご丁寧に田畑を焼い
て使い物にならなくし、さらに川や池に汚染物を投げ込み魚を死滅させたとい
うのだ。
「酷いな……仕方がない、部隊の物資を分けてやれ」
ラドルは先日もしたように、艦隊から食料品や衣料品を分け与えることでこ
の問題を解決しようとした。
そうして進軍を続行したラドルだが、半日と立たないうちに新たな村々から
ザフトに保護を求める人々がやってきたのだ。
「隊長、あまり我が艦隊から食料を供出しますと、物資が欠乏しますぞ」
「判ってはいるが、見捨てるわけにも行かん。仕方ない、一時進軍をストップ
してマハムールやディオキアから届く補給物資を待とう」
ラドルは届いた補給物資の大半を、やはり飢えに苦しむ民間人に分け与えた。
汚染除去装置などを使って川の水を綺麗にしたり、田畑の手入れも手伝ってや
った。おかげで進軍は滞り、物資の不足が目立ちはじめてきたので、ラドルは
急遽本国に物資の手配を求めた。ラドルたちザフト軍だけではなく、彼らが
『解放』した地域に住む人々の分も、物資を要求したのだ。
その数は、膨大なものだった。
物資の補給要請を受けた統合作戦本部は、それを最高評議会へと回した。物
資の生産や流通に関しても、彼らが決めることなのだ。戦果の代わりに届いた
物資の要求書を面白くもなさそうに見始めた最高評議会議員たちが、その顔色
を変えるまで何秒を有しただろうか? 少なくとも、一分はかからなかったは
ずだ。
「何だこの数字は。何だこの量は!」
桁が、違いすぎる。
要求された物資の量は、通常送られる補給物資のそれを遙かに上回っていた。
いくらプラントの生産力を持ってしても、一度にこんな膨大な数を送るのは難
しいとは言えないが、簡単なことではない。
「皆さん最後の一文を、お読みになりましたか?」
デュランダルの声が、会議室に響いた。議員たちは我に返り、報告書の最後
に目を通した。
そこには一文、ただハッキリとこう書かれていた。
『物資要求は解放地域が増えると同時に、随時行うものである』
つまり、ザフトが進軍を続ける度にこのような膨大な物資要求が届くのであ
る。
「敵の狙いはこれだったのだ。基地を放棄して、殊更隙をさらけ出し進軍の続
行を諭す。だが行く手に待つのは飢餓に苦しむ民衆たちだ」
誠に卑劣な手段ではあるが、要するにファントムペインは無辜の民衆を使っ
た大規模な焦土戦を仕掛けてきたのだ。ザフトが人道目的に『解放』と称して
周辺地域を進軍し続ける以上、プラントは助けを求める彼らを無視することが
出来ない。
「だが、こんな要求を一々呑んでいたら、プラントの財政は崩壊してしまう。
生産ラインも、追いつくわけがない」
デュランダルの言葉は辛辣だった。先日のお返しだと言わんばかりに、この
進軍が失敗だったことを説いた。
「最早撤退しかない。今のプラントにアフリカ大陸の、一部とはいえそこに住
む全ての人々に食料を与える余裕など無いのだ」
ただでさえ軍事費がかさんでいるのだ。この上、金も持たない連中に無償で
食料を提供し続けることなど、プラントに出来るわけがない。それでも尚、主
戦派議員たちは口々にとりあえず敵軍を倒してからこの問題には取り組めば良
いだのと自己弁護をはじめた。もしこの進軍がこのまま失敗するようなことに
なれば、彼らは欲を掻きすぎて自滅した奴らとして世間の物笑いとなるだろう。
それは彼らが持つ羞恥心が許せなかった。
「この進軍案は現地の軍人が送ってきたのだ。彼らが何らかの成果を上げるま
で、我々は口を挟むべきではない」
やや気まずそうに発言された意見は、主戦派議員たちの僅かな抵抗心によっ
て可決された。
物資が届くまでは現地調達を心がけるべし。
基地の物資倉庫を空にしてまで周辺住民に尽くしてきた陸上艦隊に送られて
きた通信文は、たったこれだけだった。実際はもう少し長いのだが、要約すれ
ばこれだけのことだ。
「現地調達!? 本国の連中は本気で言ってるのか」
通信文を読んだラドルは唖然としながら叫んだ。調達するも何も、何もない
から物資を要求したのだ。今も、残り少ない物資を各部隊が分散して周囲に村
々に届けに行っているところだ。
「ですが隊長、我が艦隊の物資が欠乏をはじめているのは事実です。これでは
数日のうちに、周辺地域から微発でもしないことには」
「言葉が間違っているぞ、こういうときはな略奪と言うんだ。まあ、略奪する
ものが何かあればの話だがな」
最悪、自分たちが与えた食料を自分たちの手で奪う形になるかも知れない。
そんな事態だけは、何としても避けなければならない。
ラドルは一時的な処置として、一旦食糧の供給を停止させた。だがこれには
すぐに住民からの批難が巻き起こった。その対応に追われる兵士たちは、そん
な事態に不満をぶつけ叫んだ。
「何故、俺達コーディネイターがナチュラルのために腹を空かせねばならない
んだ! 俺達は連中の食料配給車じゃないんだぞ!」
これは常にナチュラルを蔑視してきた彼らの本音であったが、まずいことに
この叫びが当のナチュラルたちに漏れ伝わってしまったのだ。
食料供給停止から僅か一日、暴動が起こるには長すぎるほどだった。
支援
「重火器は使うな! ガス弾や催涙弾を使って無力化させろ!」
事態の収拾、もとい鎮圧を任された士官は賢明に叫んだが、兵士の一人が石
によって殴り殺され、他の兵士がそれを行った者を撃ち殺したとき、暴動がザ
フト兵士と民間人の前面衝突へと発展した。上層部が事態の深刻さに気付いた
ときには、既に多くの民間人がザフト軍兵士によって撃ち殺され周辺はパニッ
クとなっていた。
ラドルは必死に惨劇の収束を図るべく動き、ついにはモビルスーツまで出動
させて暴れる連中を威嚇した。
「最悪だ。どうしてこんなことになったんだ……」
ザフトは民衆を完全に敵に回した。
「解放軍が聞いて呆れるな」
ラドル艦隊に起こった惨劇がスエズに伝わったとき、ハイネは深い溜息を付
いたという。
「敵がこの基地を放棄した理由は、まさにこれを見越したわけだ。馬鹿なザフ
ト軍の指揮官が功を欲して先走り、敵の焦土戦術に嵌っていく。なかなか、敵
にも策士がいるじゃないか」
今まで圧政をし続けてきた旧連合、ファントムペインのことだ。こうした民
衆を犠牲にする方法も平気で採れるのだろう。ザフトは馬鹿正直な人道精神で
これに対処しようとしたから、こうして失敗したのだ。
「で、艦長。私としては全軍の撤退をお勧めするのですが?」
ハイネは再びオデルと共に、タリアの元を訪れていた。スエズにて後方を任
されることとなったタリアは、不満顔を隠しもせずそれに従事していたが、ハ
イネがプラントにいるロッシェに遅れながらもこの事態に対する答えを導き出
し、最早撤退以外に道がないことを伝えに来たのだ。
「全軍撤退しなければ、今に敵艦隊が大襲撃を仕掛けてくるのは間違いないは
ずです。飢えたラドル艦隊とモラシム艦隊は、これに対処することが出来ない
でしょう」
ある意味で、ラドル艦隊よりもモラシム艦隊の方が悲惨だった。彼らに回す
予定の物資も飢餓に苦しむ民衆に送られた。だが、陸上艦隊と海上艦隊の違い
は、略奪行為すら行うことが出来ないことだった。彼らは今、僅かな物資を食
いつぶしながら進軍を続ける、後のない艦隊だった。
「ここで艦長が撤退案を進言し、これが採用され成功すれば、全軍崩壊に危機
を救ったとして評価されると思いますが?」
ハイネはタリアを訪ねるに、いつもと論調を変えて挑んだ。相手が好みそう
な言葉を選び、相手の欲を刺激する。後方のタリアが戦果を上げる機会など、
最早無いに等しい以上、ハイネの意見は魅力的なはずだった。
「でも、撤退することをラドル隊長やモラシム隊長が素直に受け入れるかし
ら?」
「ラドル隊長は、すんなり受け入れてくれると思いますよ。今一番苦しんでい
るのは彼だ。モラシム隊長のほうは、ウィラード閣下に仲介して貰ったらどう
です? 閣下に言って貰った方が、効果的でしょう」
今度はタリアもハイネの意見を受け入れた。早速、ラドル艦隊に長距離通信
を飛ばし、連絡を取った。
再支援
『タリア・グラディス隊長か……』
スクリーンに映ったラドルは、いささか以上にやつれていた。精悍だったは
ずの顔には、そんな面影がキレイに消え去ってしまったようだ。タリアは敢え
てそのことには何も言わず、ハイネが到達した答えを差も自分で思い当たった
ように説明し、撤退することを進めた。
『しかし、撤退などしてそれこそ敵の侵攻を誘うものではないのか?』
「ラドル隊長、撤退は物資の残りがあるときに行わねば意味がありません。物
資があれば、敵が攻めてきても戦うことは可能ですが、なくなればそれも出来
なくなるのです」
ハイネの受け売り意見ではあったが、ラドルを納得させ、説得するには十分
すぎるほどだったようだ。
『各地に分散した部隊を結集して、すぐに撤退するとしよう。どうも貴官の意
見に間違いが見つけられそうにない』
こうしてラドルは早急に撤退準備に取りかかった。一方、海上のモラシム艦
隊はタリアから打診されたウィラードが、長距離通信の回線を繋ぎ、撤退案を
進めていた。
『ワシはあの女史の意見に賛成する。貴官とて、食力も為しに戦うことなどで
きんだろう?』
「しかし、一戦もせず、戦わずして退くなど……」
もしこの通信を送ってきたのがタリアならば、モラシムは怒声を持ってはね
除けただろう。が、相手がザフトの宿将ともなれば話は別で、モラシムはしど
ろもどろな意見を言う羽目になった。
『貴官、いい加減にしろよ! 貴官一人の欲がままに、他の兵士を犠牲にする
つもりか!』
撤退を拒むモラシムに対し、遂にウィラードが怒声を放った。おっかない親
父さんどころではない、子供が聞けば100人中100人が泣き出し、大人が聞けば
すっ飛んで逃げ出すような剣幕と迫力があった。
「判りました……撤退します」
情けなさそうな顔をしながら、モラシムは頷くしなかったという。
「何とか間に合いそうね」
折角占拠したスエズ基地を引き払う準備を進めるミネルバだったが、タリア
の顔は何処か明るい。ハイネに乗せられた形とはいえ、この手柄は紛れもなく
自分のものとなるのだ。
「艦長、ミネルバの発進が整いましたよ」
事務処理に追われるアーサーの代わりに、ハイネが伝えに来た。
「えぇ、もう少しで撤収作業も終わるわね。まったく、戦闘もしてないのに、
どっと疲れたわ」
形としては、ファントムペインにいいように振り回された形となる。後方の
タリアでさえこれなのだから、ラドルやモラシムが抱える失望感は相当なもの
だろう。
「艦長、本国の統合作戦方部より通信文が届きました!」
オペレーターのメイリンが、声を上げて報告してきた。
「通信文? 何かしら」
勝手に撤退を進めている事への苦情だろうか? いや、撤退自体はまだ知ら
せていないし、第一戦場での行動権は一手以上のものなら現場指揮官が持って
いる。撤退の判断も、指揮官の裁量次第のはずだ。
では、この通信は?
「何々……あら、何を今更って内容ね」
「どうしたんです?」
ハイネが訝しげに尋ねる。
「本国が、補給物資を積み込んだ部隊を発進させたそうよ。明日ぐらいには地
球の各基地に届くからって。今更遅い話よ」
だが、この物資が届けば、基地に帰り着いたザフト軍が食いっぱぐれること
はなくなるだろう。そう考えれば、当面は安心しても良いはずだった。
しかし、それを聞いたハイネの顔が著しく険しいものとなった。
「まずい、これはまさか」
ハイネは、冷や汗を流していた。
「それは本当ですか?」
結局、ロッシェが国防委員長であるヘルマンと面会できたのは彼が連絡を入
れてから数日後だった。最高評議会の閣議が続いたことなどが主な原因で、火
急の用件と言っても聞き入れられなかったロッシェは不満を憶えていた。
「あぁ、既に補給部隊の第一陣は物資を大量に積み込んでプラントを出発した。
そろそろ地球圏軌道にさしかかってもいい頃だと思うが?」
ヘルマンは突然尋ねてきた珍客ともいうべき男に、疑問を憶えずにはいれな
かった。ロッシェ・ナトゥーノ、決して知らない男ではない。いつだったか、
ラクス・クラインの地球における護衛役を決める話が持ち上がったときに知り
合った。その優美な容姿と、卓越された実力は忘れようはずもない。
「遅かったか」
そのロッシェが、誠に奇妙なことにザフトの補給計画はどうなっているのか
と尋ねてきたのだ。作戦内容は軍事機密ではあるが、相手はザフト軍人、しか
も特務隊であるし、ヘルマンは特別にそれを教えたのだが……
「それで、護衛は何隻ついているのですか?」
「護衛?」
ヘルマンは資料を探し出し、補給部隊に付けられた護衛艦の数を調べた。
「戦艦が三隻、モビルスーツが12機となっているが……」
「たった三隻、それじゃ少なすぎる。すぐに補給部隊を引き返させるんです!」
「引き返す? おい、話が見えてこない。一体どういうことだ」
その時、ヘルマンのデスクの上にある通信機器が音を立てて鳴り響いた。ヘ
ルマンは困惑したように、それを取る。
「ヘルマンだ……あぁ、そうだ。それで? あぁ……なにっ!?」
ロッシェには、その連絡の内容にある程度予想が付いていた。やがてヘルマ
ンは機器の受話器を置くと、蒼白となった顔をロッシェに向けた。
「補給部隊が、全滅したそうだ」
「……そうですか」
「ファントムペインの月基地から出撃したであろう、五十隻以上の艦隊に襲撃
され、一溜まりもなかったと、報告が来た」
意気消沈するように、ヘルマンはソファへと沈み込んだ。ロッシェは敢えて、
何も言わなかった。
そう、ファントムペインによる大反撃が開始されたのだ。
つづく
今回は銀英伝でしたね
第38話です。
規制になったと思ったら、割りとすぐ解け、少し投下したらまた規制、
と思ったら5分と立たずに解け、何か変な感じでした。
支援して下さった方、ありがとうございます。
やっぱり、長すぎるとこんな風に途切れ途切れになってしまうんですかね。
規制時間や規制になるレス数がランダムだと、さすがにちょっと困りますね。
今回の話は……オマージュと言うことにしておいて欲しいです。
乙です。
銀英伝なんか高校のときに読んだきりだから記憶のはるか彼方だ……
乙だぜ
なに
銀英伝も元ネタあるしな
無名時代の銀英伝パクって小説書いたプロ脚本家もいるし
乙。
銀英伝つーか、ソロモン海の消耗戦での米海軍の戦略ですな。
民衆を盾に取った焦土作戦というのは、唾棄すべきやり口だが有効な
常套手段であるのも事実だからなあ。
身体能力に驕ったコーディネイターが戦略というか古来の兵法の研究が
疎かだったという傍証にもなるかな。
そして孤立したザフト軍はガダルカナル島みたく餓死していくかソロモンみたく自給自足するか、だな。
「畜生、生きて帰れたら最高評議会の委員どもを皆殺しにしてやる!
やつらは今頃パーティーでキャビアでもつまんでやがるに違いないんだ!!」
まあ、この作品の銀英伝臭は毎度のことだし。
それよりも銀英伝にはほとんどない大気圏内外の攻防戦と、全くない単騎の戦闘機によるヒロイック・サーガが繰り広げられるであろう続きを待とうじゃないか。
アスラン、ふと笑みを漏らしていたところを見ると
敵の意図を早々と気付いていたんかね?
放置してナチュラルとコーディの対立を煽ろうとしたのかな
ザフトも疲弊させるつもりだからな
ここでそうしようと思ったんじゃないか
>>112 そうだろうね。
ここのアスランは頭がいい上に腹黒いし。
いやー、順調にいい感じのラスボスに育ってるなー。
AC製ガンダムに乗って戦うのかね、最後は。
やっぱりスコーピオに乗るんじゃないか?赤いし
ところでジェミナスとスコーピオってどっちのほうが強いのだろうか?
投稿乙!!
ザフト軍上層部それぞれの思惑、動きを見せないことが逆に不気味なファントムペイン。
ハイネ、アスラン、など原作以上にキャラが立っていて良い、そして我らが主人公シン・アス……あれ居たっけ?WWW
シンちゃんが空気化するあたり原作どおりだな
だからこそ、シンが主役なW-DESTINYを待っている。
シンはたまに登場すると精神ダメージを負ってる感じ。
シンシンうるせー
キラに至っては最後に登場したのいつだっけ状態
保守
保守