【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】8

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1通常の名無しさんの3倍
新人職人さん及び投下先に困っている職人さんがSS・ネタを投下するスレです。
好きな内容で、短編・長編問わず投下できます。
分割投下中の割込み、雑談は控えてください。
面白いものには素直にGJ! を。
投下作品には「つまらん」と言わず一行でも良いのでアドバイスや感想レスを付けて下さい。
週刊新人スレ編集長、まとめ単行本編集長、雑談所「所長」にも感謝の乙! をお願いします。

荒れ防止のため「sage」進行推奨。
SS作者には敬意を忘れずに、煽り荒らしはスルー。
本編および外伝、SS作者の叩きは厳禁。
スレ違いの話はほどほどに。
容量が430KBを越えたのに気付いたらスレ立て、告知をお願いします。
本編と外伝、両方のファンが楽しめるより良い作品、スレ作りに取り組みましょう。

前スレ
【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】7
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/shar/1189087856/l50

まとめサイト
ttp://pksp.jp/10sig1co/
雑談所
ttp://pksp.jp/rookiechat/
2通常の名無しさんの3倍:2007/09/27(木) 23:35:38 ID:???
〜このスレについて〜

Q1
新人ですが本当に投下して大丈夫ですか?
A1
ようこそ、お待ちしていました。全く問題ありません。
但しアドバイス、批評、感想のレスが付いた場合、最初は辛目の評価が多いです。

Q2
△△と種、種死のクロスなんだけど投下してもいい?
A2
ノンジャンルスレなので大丈夫です。ただしクロス元を知らない読者が居る事も理解してください。

Q3
00(ダブルオー)のSSなんだけど投下してもいい?
A3
新シャアである限りガンダム関連であれば基本的には大丈夫なはずです。(H19.9現在)

捕捉
エログロ系、801系などについては節度を持った創作をお願いします。
どうしても18禁になる場合はそれ系の板へどうぞ。新シャアではそもそも板違いです。

Q4
××スレがあるんだけれど、此処に移転して投下してもいい?
A4
基本的に職人さんの自由ですが、移転元のスレに筋を通す事をお勧めしておきます。
理由無き移籍は此処に限らず荒れる元です。

Q5
△△スレが出来たんで、其処に移転して投下してもいい?
A5
基本的に職人さんの自由ですが、此処と移転先のスレへの挨拶は忘れずに。
3通常の名無しさんの3倍:2007/09/27(木) 23:37:19 ID:???
Q6
○○さんの作品をまとめて読みたい
A6
まとめサイトへどうぞ。気に入った作品にはレビューを付けると喜ばれます

Q7
○○さんのSSは、××スレの範囲なんじゃない?
△△氏はどう見ても新人じゃねぇじゃん。
A7
事情があって新人スレに投下している場合もあります。

Q8
○○さんの作品が気に入らない。
A8
スルー汁。

Q9
読者(作者)と雑談したい。意見を聞きたい。
A9
雑談所へどうぞ。

捕捉
名前欄のトリップの文字列が有効なのは、したらば等一部例外はありますが基本的に2ch内部のみです。
なので雑談所では名前欄のトリップは当然無効です。既に何名かトリップ文字列がバレています。
特に職人さんが雑談所に書き込む際には十分ご注意を。
4通常の名無しさんの3倍:2007/09/27(木) 23:39:55 ID:???
〜投稿の時に〜

Q10
SS出来たんだけど、投下するのにどうしたら良いの?
A10
タイトルを書き、作者の名前と必要ならトリップ、長編であれば第何話であるのかを書いた上で投下してください。
分割して投稿する場合は名前欄か本文の最初に1/5、2/5、3/5……
等と番号を振ると読者としては読みやすいです。

捕捉:SS本文以外は必須ではありませんが、タイトル、作者名位は入れた方が良いです。

Q11
投稿制限を受けました(字数、改行)
A11
新シャア板では四十八行、全角二千文字強が限界です。
本文を圧縮、もしくは分割したうえで投稿して下さい。
またレスアンカー(>>1)個数にも制限があるそうですが普通は知らなくとも困らないでしょう。

Q12
投稿制限を受けました(連投)
A12
新シャア板の場合連続投稿は十回が限度です。
時間の経過か誰かの支援(書き込み)を待ってください。

Q13
投稿制限を受けました(時間)
A13
投稿の間隔は新シャア板の場合最低一分(六十秒)以上あかなくてはなりません。

Q14
今回のSSにはこんな舞台設定(の予定)なので、先に設定資料を投下した方が良いよね?
今回のSSにはこんな人物が登場する(予定)なので、人物設定も投下した方が良いよね?
今回のSSはこんな作品とクロスしているのですが、知らない人多そうだし先に説明した方が良いよね?
A14
設定資料、人物紹介、クロス元の作品紹介は出来うる限り作品中で描写した方が良いです。

捕捉
話が長くなったので、登場人物を整理して紹介します。
あるいは此処の説明を入れると話のテンポが悪くなるのでしませんでしたが実は――。
という場合なら読者に受け入れられる場合もありますが、設定のみを強調するのは読者から見ると好ましくない。
と言う事実は頭に入れておきましょう。
どうしてもという場合は、人物紹介や設定披露の為に短編を一つ書いてしまうと言う手もあります。
”読み物”として面白ければ良い、と言う事ですね。
5通常の名無しさんの3倍:2007/09/27(木) 23:41:25 ID:???
〜書く時に〜

Q15
改行で注意されたんだけど、どういう事?
A15
大体四十文字強から五十文字弱が改行の目安だと言われる事が多いです。
一般的にその程度の文字数で単語が切れない様に改行すると読みやすいです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
↑が全角四十文字、↓が全角五十文字です。読者の閲覧環境にもよります。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あくまで読者が読みやすい環境の為、ではあるのですが
閲覧環境が様々ですので作者の意図しない改行などを防ぐ意味合いもあります。

また基本横書きである為、適宜空白行を入れた方が読みやすくて良いとも言われます。

以上はインターネットブラウザ等で閲覧する事を考慮した話です。
改行、空白行等は文章の根幹でもあります。自らの表現を追求する事も勿論”アリ”でしょうが
『読者』はインターネットブラウザ等で見ている事実はお忘れ無く。読者あっての作者、です。

Q16
長い沈黙は「…………………」で表せるよな?
「―――――――――!!!」とかでスピード感を出したい。
空白行を十行位入れて、言葉に出来ない感情を表現したい。
A16
三点リーダー『…』とダッシュ『―』は、基本的に偶数個ずつ使います。 『……』、『――』という感じです。
感嘆符「!」と疑問符「?」の後は一文字空白を入れます。こんな! 感じ? になります。
そして記号や………………!! 
空白行というものは――――――!!!





とまぁ、この様に思う程には強調効果が無いので使い方には注意しましょう。

Q17
じゃあ、何度も何度も何度も何度も何度も何度も言葉を繰り返せば凄く強調した感じになる?
A17
同じ言葉を繰り返す事は、必ずしも意味や意見を強調しません。
単独の表現を反復する事は語意や文意を強めないからです。
言い換えれば、単調な描写はそれを反芻する読者の印象には残りにくいです。
簡単に言えば読み飛ばされる可能性が高いと言う事です。勿論使っていけない決まりがある訳では無いですが。
6通常の名無しさんの3倍:2007/09/27(木) 23:43:25 ID:???
Q18
第○話、って書くとダサいと思う。
A18
別に「PHASE−01」でも「第二地獄トロメア」でも「魔カルテ3」でも「同情できない四面楚歌」でも、
読者が分かれば問題ありません。でも逆に言うとどれだけ凝っても「第○話」としか認識されてません。
ただし長編では、読み手が混乱しない様に必要な情報でもあります。
サブタイトルも同様ですが作者によってはそれ自体が作品の一部でもあるでしょう。
いずれ表現は自由だと言うことではあります。

Q19
感想、批評を書きたいんだけどオレが書いても良いの?
A19
むしろ積極的に思った事を1行でも書いて下さい。専門的である必要はないんです。
むろん専門的に書きたいならそれも勿論OKです。

Q20
上手い文章を書くコツは? 教えて! エロイ人!!
A20
上手い人かエロイ人に聞いてください。


===========================

テンプレは以上。以降投下待ちに入ります。
7通常の名無しさんの3倍:2007/09/27(木) 23:54:47 ID:???
スレ立てとテンプレ乙です!
8通常の名無しさんの3倍:2007/09/28(金) 00:33:52 ID:???
>>ラクスの大きな瞳が猫科の狩猟動物の如く拡大した。
虎眼流のご門人にござるか…
9SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/09/28(金) 14:03:21 ID:???
 ウェイト・フォー・ミー

 二人を大分待たせてしまった。
 俺はルナとステラに申し訳のない気分になりながら、デスティニーの操縦席に入る。
およそ十年前、月に墜ちた時と変わらぬ姿でかつての相棒は俺を迎えてくれた。
「此処に来るのは三度目だよな」
 一度目は、コイツがこの博物館に飾られた時。アスランの偉業を称えるモニュメントとして
"ジャスティス"の隣に捨て置かれたデスティニーとインパルスに、俺とルナは涙した。
 二度目は、ルナにプロポーズする前夜。断られない為に口説き文句を徹夜で練習する俺を、
物言わぬ愛機は見守っていてくれた。
 明け方になり、これで行こうと決めた俺の前に、インパルスの影からルナが現れて只一言、
『イエス』と答えた。

 そして、今夜。
 今夜だけは俺は一人で此処にやってきた。何処にもルナはいない。ステラも居ない。
 デスティニーの胎内に収まり、操縦席に背中を預けると、気分が不思議に落ち着いた。
 館長には無理を頼んだ事になる。迷惑をかける事になる。
「でもさ、どうせなら、お前の腹ん中だよな」
 メサイヤが墜ちた日、俺がお前の中で終わっていたならば、ルナは居なくならなかった。
俺が冷たいステラを抱く事も無かった。
「なあ、お前は其処でずっと見ていたのかな?」
 俺が結局の所、護りたいもの全てこの手から取り零す様を。
「お前は……俺を待っていたのかな?」
 俺が自分の在り方を自分で決められた事など、一度も無い事に気付くまで。
「お前は――デスティニー、お前は俺を責めたかったのか?」
 沢山人を殺してそれでものうのうと生きている俺が許せなかったのか。
「――だったら心配するなよ、もうお前の手を借りる事はないからさ」
 お前の手を煩わせることも、もうしないから。

 医師に危険を知らされた時、ルナは優しく微笑んで「大丈夫よ」と囁いた。
 半ば絶望していた俺も、その笑顔とキスで彼女を信じる気になった――力強さに甘えた。
 ルナは強いから、きっとステラと一緒に笑顔を見せてくれる……信じたつもりで、
それはひたすら俺に都合の良い願望に過ぎなかった。
 彼女に一生恨まれてでも、止めるべきだったのに。
 俺が彼女との間の"自然な子供"に憧れていたと、彼女が知っていたから。
10SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/09/28(金) 14:06:35 ID:???

 デスティニーの操縦席に腰を落ち着けて数分。既に涙の枯れ尽きていた俺は
他にやる事が無いのを思い出して、懐から黒く光る鋼の塊を取り出した。
 弾を込められた自動拳銃――数十トンの巨人でなく、これがふさわしいだろう。
 敵と味方を殺し、ルナとステラを死なせた俺は、これで最後の人殺しを終える。
今更何を悔いたところで、俺が二人と同じ所にいけるとは思えないけれど――
「なるべく早く、そっちにつけるように頑張るから」
――地獄から這ってでも、君達の居るところまで辿り着くから。
 片手で持ち上げるソレの重さは、たった千七百グラムだった――ステラも。
「――待っててくれよ」
 こめかみに当たる、冷たさ。優しくて暖かい世界など本当は何処にも無くて。
 引き金は変わらず軽かった。

















 というわけでオマージュ短編……というか展開同じなのでパクリですねこりゃ。
わざわざハードル上げてなにやってるんでしょう。両氏とも快諾して下さり
有り難う御座いました。
11新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/09/28(金) 17:10:15 ID:???
おまえってホントにレベル低いな
12新人 ◆T3aqF.CV6I :2007/09/28(金) 19:19:48 ID:???
夕食終わって旧スレ覗いたらぶったまげました。
安易な酉は駄目なのですね。ガクガク震えました。とりあえず酉変えておきます。

ちなみに>>11は一応言っておきますが、別人です。そんなこと恐れ多くて言えるはずがありません。
13通常の名無しさんの3倍:2007/09/28(金) 20:04:19 ID:???
流石にわかるってw

まあ、なんだ、各所で叩かれ気味だが
それでもあんたのファンがいるってことは覚えといてほしいな。
続きを楽しみにしてる。
14河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/09/28(金) 22:07:04 ID:???
「 In the World, after she left 」 〜彼女の去った世界で〜

第10話 「指輪 −ぎわく−」(後編)
(1/9)


  ◆ ◆ ◆

「キラ」
 名を呼ばれたキラは声のほうへと首を巡らせた。ミネルバの少年少女三人を連れたカガリが
展望デッキに戻ってきたところだった。
「お前、無理するなよ?」
「ごめん。もう大丈夫だから」
 立ち上がろうとしたキラを心配するカガリに微笑んで返す。
「君たちにも心配をかけちゃったね」
 少年達にも声をかけると少女二人が揃って小さく頭を振った。息がぴったりあったその動きに
思わずキラの頬が緩む。

 キラはふと二人の艦長がいないことに気づいた。
「艦長は?」
「改修作業についてマードックさんと打ち合わせ中。後でお前にも顔を出して欲しいってさ」
「うん。わかった」
 答えながらキラは少し傾いた太陽の光を浴びて眩しく輝くカガリの金髪に目を細めた。
──またカガリに心配かけちゃったな……。
 キラはつい先刻のことを思い出す。

  ◇ ◇ ◇

 キラが意識の最後の一片を手離そうとしたその時。
 その欠片が唐突に光を放ったようにキラは感じた。
 それを切っ掛けに、光がキラの中へ戻ってくる。
 その時の感動にも似た感覚をキラは知っていた。
 それはオーブの海岸で昇る朝日を見た時のような──世界と共に心まで光で満たされるような
暖かい感情。

 だが、世界はそれほど優しくはなかった。
 足下が突然に崩れ、急激な落下感がキラを襲う。
 誰かに片腕を掴まれたが、それでも身体は落ちてゆく。
 唐突な衝撃を感じた。それはキラの臀部から背筋を駆け上り、脳天へと抜ける。
 一瞬止まったかに思えたが、再び落下感が訪れる。しかし、今度のは先ほどよりも随分と緩やかだ。
 ガクン、としたショックとともに、今度こそ落下感が消え失せた。
 同時に先程の臀部への衝撃が痛みになって戻ってくる。
15河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/09/28(金) 22:08:08 ID:???
(2/9)

「痛い……」「キラッ」
 思わず漏らした言葉と、誰かが自分を呼ぶ声が重なった。
 何時の間にか音もキラの世界へと戻って来ていた事に気づいた。
 ようやくキラの意識が覚醒した。
 最初に目に入ったのは何故かキラの右腕を両手で握ったままキラを見下ろしているカガリだった。
 視線を動かすと、マリューやミネルバクルー達の顔がかなり上にある。
 それでキラは自分が座り込んでいると分かった。
 そうしているうちにだんだんと意識がはっきりとしてくる。
 どうやら一瞬──または数秒──意識を失っていたようだ。
 そのため両足から力が抜け昏倒しかかり、しかしカガリに腕を取られた為に尻餅をつくだけで
すんだらしいと知った。

 その後は、自室で休めと言うカガリとマリューの合唱に半分だけ従った。
 つまり、休むのは自室ではなくこの展望デッキで、と了承させたのだ。


「何だ、キラ?」
 キラの視線に気づいたカガリが怪訝な顔で問う。
「ううん。何でもない」
 首を振って答えながら、キラは思う。
──いつも助けられてばかりだけど……カガリは絶対に僕が守るから。
 それはキラの誓いだった。
 姉だか妹だか判然としないが、真実キラのきょうだいだというこの少女。
 守りたい人がいる。
 それこそが今のキラの原動力。
 だから。
──絶対に僕が守るから。今度こそ……。

  ◇ ◇ ◇

 そんなキラとカガリを見ていたルナマリアは、ふとキラの眼差しに誰かの影が重なった。
 考えるまでもなくそれが誰かを思い出し、ルナマリアの胸がちくりと痛んだ。
「まだ他に見ておきたい処はあるか? 案内するぞ?」
 カガリにそう声をかけられて、ルナマリアはメイリンやレイと顔を見合わせた。

「その前にいいかな?」
 会話にキラが割って入る。
「僕、まだ君たちの名前も知らないんだ。教えてもらえるかな?」
「え? ……あっ」
 そう言われてルナマリアはまだ自己紹介すらしていないことに気がついた。
「僕は」
「キラ・ヤマトさんでしょう? 知ってます」
 口を開きかけたキラの言葉をルナマリアは遮った。
 驚いたように目を見開いたキラを上目で見つつ、何を言ったら強く印象付けられるだろうかと
ルナマリアは頭をフル回転させる。
 しかし。
16河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/09/28(金) 22:09:14 ID:???
(3/9)

「レイ・ザ・バレルです」
 レイがさっさと名乗ってしまった。
 レイはそれだけを言うと、ルナマリア達に軽く視線を送って続きを促した。
──え? それだけ? 何かもっとこう、言うことが……。
「メイリン・ホークです。MS管制担当です。よろしくお願いします」
 更にメイリンにまで先を越された。
 皆の視線が自然とルナマリアに集まる。
「ル、ルナマリア・ホークです。ザクウォーリアのパイロットをやってますっ」
 ルナマリアは上気した顔を隠すように大きく頭を下げた。

「ホーク?」
 二人の姓が同じことに気づいたらしく、カガリが繰り返した。
「ええ。私たち姉妹なんです。もちろん私が姉です」
「へぇ。知らなかったな」
 そう相槌を打ちながら、カガリは何故かキラと視線を交わす。
「何か?」
「いや、何でもない。言われてみれば似てるな」
「「そおですかぁ……?」」
 思わず口に出した否定の言葉が見事にハモる。
 ルナマリアが横目で妹を睨むと、向こうも睨み返していた。
「ぷっ」
 カガリが噴き出した。キラもまた笑い出すのを堪えている様だ。
 ルナマリアはもう一度メイリンと視線を交わし、今度は微笑みあう。


「ルナマリア。俺は一度艦へ戻ってシンの様子を見てくる」
「そう? じゃああたし……」
 この状況下でくすりともせずに声をかけて来たレイの無表情ぶりに半ば感心しつつ、ルナマリアも
また帰艦を考えた。
 シンの事が気になるのも確かだが、キラ達とももう少し話をしていたい気持ちもある。
「シンってさっきの黒髪の? だったら僕も行っていいかな? 彼と話がしたいんだ」
 キラの突然の申し出にルナマリアは困惑を隠せなかった。
 しかしすぐに、それもいいかと思い直す。
──しばらくは一緒に行動するんだし、早めに話し合っておいた方がお互いにいいかもね。
 そう考えたルナマリアだったが、レイは彼女とは逆の反応を返した。
「いいえ。今日の処はご遠慮ください。シンも今日の今日では気持ちの整理もつかないでしょうし。
 ルナマリア、お前もだ。後でフォローを頼むかも知れないが、今は俺に任せろ」
「あ、うん……」
 レイの雰囲気に何となく気圧されて、ルナマリアは是認した。
 軽く一礼してその場を去るレイの背中を、釈然としない気持ちを残したまま見送る。
17河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/09/28(金) 22:10:16 ID:???
(4/9)

──残された者だけが感じ取れる微妙な雰囲気。
 それを称して「気まずい」と言う……筈なのだが、今、この場においてそれをまったく感じ取れない、
または、物ともしない人物が存在することなどルナマリアは予想だにしなかった。
 我が妹が
「あのぉ、ちょっと聞いてもいいですかぁ?」
 と、カガリに向かって問うまで。

 案の定、カガリは面食らったように目を丸くし、それでも勢いに押されたのか「あ、ああ」と
首肯した。
「それって……左手の薬指ってことは『そういう意味』の指輪なんですよね?」
「ちょ、ちょっとメイリン!」
 慌てて妹を諌めたものの「やめなさい」の一言が出てこないのは、ルナマリア自身少なからぬ
興味を持っているからだろうか?

 一方のカガリは、目を白黒させて
「えっ、う、あ、いや、まあ、その……」
 としどろもどろに肯定とも否定ともつかない単語を繰り返している。
 時折チラチラとキラに助けを請うような視線を送っているが、当のキラは我関せず、と言うより
カガリが何に困惑しているのか分からないといった風情だ。
「いいなぁ、羨ましいです」
 どうやらメイリンはカガリの言葉を肯定と受け取ったらしい。
 だがルナマリアはその言葉にギクリとした自分を感じた。

(羨ましい……? あたし、アスハ代表のこと羨ましいのかな?)
 ルナマリアは内心で自問自答する。だが、その答えは自分でも分からない。
 その所為か頭に浮かんだ疑問を殆ど無意識に口から出していた。
「でも、今頃その指輪の人、心配してるんじゃないですか?
 だって、結婚式の途中でさらわれちゃってからオーブには戻ってないんですよね?」
「!!」
 言い終わった瞬間、ルナマリアは我に返った。
──しまった! あたし、何て事!!
 ルナマリアは自身の血の気が引くのを感じた。が、カガリの顔色もまた目に見えて変わったのを見て、
思わずメイリンと顔を見合わせた。
 怒らせたわけではないようだが、マズいことを言ってしまったのは間違いない。

「これは、その、ユウナにもらったわけじゃなくて……」
 それだけを口にしてカガリはそれきり黙りこんでしまう。
 と、ちょうどその時、ピピッという電子音が聞こえた。
 カガリはポケットから小型の通信機のようなものを出すと、そのモニターに目を落とす。
「ごめん。呼び出しなんだ。その話はまた今度」
 幾分ほっとしたようにそう言うと、カガリは二人の前から離れた。
「キラ、ちょっと……」
 カガリはキラを呼び寄せると、ルナマリア達に背を向けて二言三言言葉を交わす。
──『お前、余計なこと言うなよ』『わかってるよ』……って感じ?
 ルナマリアは二人の表情から何となく会話の内容を推察した。
18河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/09/28(金) 22:11:17 ID:???
(5/9)

 そこへメイリンが小声でルナマリアに話しかける。
「ね、お姉ちゃん。ユウナ、って代表の旦那さんのこと?」
「うん、そうだったと思うけど……。あ、でも一応まだ婚約者の筈よ」
 ルナマリアはニュースを思い出しながら答えた。
 ルナマリア達よりも五、六歳は年長に見えるやけに芝居がかった口調で話すその男に、何となく
好感が持てなかったのも記憶の端に甦る。
「じゃあ、あの指輪は婚約者から貰ったんじゃないってことぉ? それなのに『左手薬指』なのぉ!?」
「知らないわよ、そんなこと。あたしに聞かれたって!」
 つい大きくなりそうになる声を抑えながら、ルナマリアはメイリンに言い返した。
 実際、ルナマリアもメイリンと同じ疑問を持っているのだ。答えられる筈もなかった。

  ◆ ◆ ◆

 夜の帳が落ちてから数時間。
 昼間は慌しく両艦を行き来していた作業員もそれぞれの艦へと戻り、開け放たれていたハッチも
閉じられた。
 目立たぬよう艦外の照明も最小限に抑えられているので、外はかなり暗い。
 だが、艦内では改修作業が夜を徹して続けられている。

 来訪を告げるインターホンを鳴らすと、間髪を入れずドアが開いた。
 開いた扉の向こうに立つ少女に万感の想いを込めてアスランは呼びかけた。
「カガリ……」
「…………」
 カガリは何故か泣き笑いのような表情で、声もなくアスランを見つめ返す。
 満面の、ではないが、それでもカガリの笑みを見られたことでアスランはこれが夢ではないと、
毎夜見ている夢なのではないと確信した。
「ごめん。約束の時間に遅れたな」
 艦長室で明日の予定を打ち合わせているうちに、昼間マードックに言付けた時間よりも小一時間
ほど遅刻してしまった。
「いいや、私は大丈夫だ。お前こそこっちへ来ていて大丈夫なのか?」
「ああ。艦長にはアークエンジェルへ行くことは伝えてある。何かあればこちらへ連絡が来るだろう」
「そっか」

 カガリが体を少し引いて、アスランを部屋へ招き入れる。
 ふとアスランはカガリがアークエンジェルから降りてきた時の事を思い出した。
 もしもあの時レイが止めていなければ、ミネルバ・アークエンジェル両艦のほぼ全クルーの環視の
中でカガリを抱きしめるくらいはしていただろう。
 そう思いながらカガリを見つめてみたが、カガリはアスランの気持ちになどまったく気づかず、
逆に入室しないアスランをきょとんと不思議そうに見ている。
 完全にタイミングを逸してしまったアスランは薄く苦笑して促されるまま歩を進めた。
19河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/09/28(金) 22:13:03 ID:???
(6/9)

「驚いたよ。まさかカガリがアークエンジェルに乗っているなんて思ってもいなかった。
──心配してた」
 寝台に腰掛けたカガリのほぼ正面の位置にスツールを動かしてアスランは座った。
 隣に座るのを躊躇するような仲ではないが、今は顔を見られる位置にいたかったからだ。
 どちらにしても少し身体を伸ばせばすぐに手は届く。
「……ごめん。でも驚いたのは私も同じだぞ。プラントに到着したっていう連絡は来たけど、
それ以降は行方不明で……。まさかザフトに戻ってるなんて思ってもいなかった」
「……そうだな。すまない」
 唇を尖らせるカガリに、アスランも素直に謝罪する。
 確かにアスランがザフトに戻ってなどいなければ、カガリからの連絡も容易に受け取れたろう。
「本当に驚いた。先日議長にお会いした折にもそんな話はまったく出なかったからな」
「議長に?」
「ああ。『アレックス君の行方については、私も捜させましょう』なぁんて。私もすっかり騙された。
『両艦が出会った時の彼らの驚く顔が見られなくて残念だ』、ともおっしゃっていた。その時は
単純に私の乗艦のことを言っているのかと思っていたが、案外『彼ら』の中には私たちも入って
いたのかもしれないな」
「そうかもな」

 くすくすと笑いながら話すカガリに相槌を打ちながら、アスランは何かに引っかかった。
 しかしそれが明確になる前に、カガリが顔を曇らせたのに気を取られる。
「それに……あのラクスの話も……聞いた」
「会ったのか? ミーアに!?」
 アスランの問い掛けにカガリは首を横に振った。
「あの子の本当の名前、ミーアっていうのか……。
 いいや、私は彼女には会っていない。議長からはどうしてああいうことになっているのかお話は
伺ったが……。
 正直、会うのが怖かったんだ。私が冷静ではいられなくなりそうで。
 だからコンサートの様子を遠くから見てただけだ。
──お前は会ったことあるんだろ?」
「ああ。うん、まあ……」
 会ったことがあるどころか一緒に食事もした。
 知らない間にとはいえ同じベッドで寝たこともある、とは流石に口が裂けても言えない。
 幸いカガリはアスランの内心の狼狽には気づかないようなので、少しほっとする。

 だがその瞬間、先ほどの引っ掛かりがはっきりと形になってアスランの頭に浮かんだ。
「カガリ……。ちなみに……議長にはいつ会ったんだ?」
「一昨々日だ。ディオキアのザフトの保養施設で対面させていただいたんだ。部屋もご用意下さった
ので一泊した」
 屈託なく話すカガリの言葉をアスランは血の気が引く思いで聞いていた。
 一昨々日といえば、アスランも同じ場所にいた。そしてその翌日にはあの悪夢のような出来事が
起き、ルナマリアの不興を買ったのだ。
 更にカガリには絶対に知られたくないこともあるのだが、それは思い出したくもない。
20河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/09/28(金) 22:14:23 ID:???
(7/9)

「同じ日にミーアも同じ処に泊まっていたことは知っていたか?」
「うん。彼女が朝食でダイニングにいるから、もう少し近くで顔を見るか、と誘われたから」
「…………」
 口から飛び出すのではないかと思うほど激しく脈打つ心臓をなだめつつ、アスランは今カガリの
隣に座らなかった自分の判断を自讃する。
 隣にいたなら間違いなく鼓動がカガリに聞こえていることだろう。
「けど、結局それも断ったんだ。人込みに入るのもなんだったし」
 カガリの返答にアスランは心底から安堵した。
 少なくともミーアと一緒にいるところは見られてはいないようだ。

「……彼女、……近くで見てもラクスに似てるのか?」
「ああ……」
 答えながらアスランはミーアのことを思い出す。
「初めて会った時も、黙って座っていればラクスそのものだったが……。今では、話し方や
ちょっとした仕草も驚く程似ている。
 もし、最初に会ったのが今の彼女なら、俺は彼女を本物のラクスと思っただろうな」

 先日、ディオキアで再開した時のミーアはまさにラクスだった。
 ふとした時にプラントで会った時の雰囲気を見せることもあったが、そんなことは極稀だった。
『ラクス様の記録データで勉強していますの』
 ミーアはそう言っていた。
 記録データというのは、先の大戦中、シーゲル・クラインが反逆者とされた際にクライン邸から
押収された資料の中にあったラクスのプライベート記録のことだ。
 愛娘の成長を記録した映像がこんな風に使われる事になるとは、シーゲルも想像だにしなかったろう。
 シーゲル、そしてラクスの気持ちを思うと、アスランの心中は苦いもので満たされる。

「それにしても」
 アスランは軽く頭を振って、暗くなった気持ちを切り替えた。
「ディオキアでよく騒ぎにならなかったな」
「騒ぎ?」
 カガリはアスランの質問の意味が分からなかったようで、きょとんとしている。
「カガリだよ。ディオキアはラクスのコンサートもあって、かなりの人だったろう」
「そのことか」
 言葉を足すとカガリは得心したように頷いた。
「変装、したんだ。ザフトの制服借りて、カラーコンタクト入れて、髪もひとつにまとめて」
「えっ!?」
 その台詞にアスランの記憶にすっかり忘れていた少年兵の姿が浮かぶ。
「まさか……」
──まさか、あの少年兵が?
「本当だぞ。スカートははきたくなかったから男物の制服だったんだけどさ。
 私はいつ女とバレるかと冷や冷やしていたのに、結局最後まで誰にも気づかれなくってさ」
21河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/09/28(金) 22:15:38 ID:???
(8/9)

 プリプリと怒るカガリを見ているうちに、アスランの内の笑いの感情が激しく刺激された。
 カガリに似ている、と思っていたあの少年兵。
 それがまさか本当にカガリだったとは。
「くっくくくく……」
 抑えきれない感情が声になって漏れ出す。
「笑うなよっ。内心じゃあ、ちょっとは傷ついてるんだからな!」
 アスランの笑いの原因が自分にあると思ったらしく、カガリが憤慨する。
「いや、ごめん。でも」
 そう謝りながらもアスランの笑いは治まる気配を見せない。
「お前なぁ……」
 呆れたようにアスランを見やるカガリの前でたっぷり五分は笑ってから、ようやく落ち着く。

 ふと気がつくと、カガリが暗い顔をして俯いていた。
「ご、ごめん、カガリ。笑ったりして。いや、カガリを笑ったんじゃなくて、別の理由があって……」
 慌てて言い訳を始めたアスランに向けてカガリが顔を上げた。
 その真剣な瞳の色に見惚れて、言葉が尻すぼみに消えてゆく。
 その頬に触れたい、という衝動が身内に湧き上がる。
 アスランはその衝動を抑えようとは欠片も考えず、そっとカガリに手を伸ばし……。

「ごめん」
 唐突にカガリが頭を下げた。
 突然のことにアスランの気が削がれ、浮かしかけた腰をもう一度スツールに落とす。
「……何が?」
 気を削がされた事への苛立ちではなく、自身への羞恥のために何となく語尾が荒くなる。
 しかしカガリは叱られている子供のようにビクンと小さく震え、その身を縮こまらせた。
「その……、私がアークエンジェルに乗ることになったのは……」
「ああ。マードックさんから大体の事は聞いてる。それに……結婚のことはニュースで聞いた」
 カガリはハッとしたように顔を上げた。が、すぐにまた消沈の面持ちに戻る。
「私は、その……、ごめん……なさい……」
「カガリの意思じゃないことくらい俺もわかってる。理解はできるが、納得できないでもいる。
 だが、それは俺がカガリを」
「違うんだ」
「え?」
 カガリはアスランの言葉を遮った。
 アスランにはその意味が分からない。
──違う? 違うとはどういう意味だ?
「その……ユウナとの結婚は、私から言い出したことなんだ」
「!?」
 アスランは驚愕のあまり勢いよく立ち上がった。スツールがガタンと大きな音を立てて倒れる。
 その音の為か、または別の何かの所為か、カガリは怯えたように身体を震わせる。
22河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/09/28(金) 22:16:50 ID:???
(9/9)

──あいつとの結婚を望んだのは、カガリ……?
 アスランの脳裏に毎夜の夢が鮮やかに甦る。
 蔑むような勝ち誇った視線を送った後、カガリと共に去るユウナの幻影。
──あれは、正夢だったのか?
「どうしてっ!?」
 夢と現とが混ざり合い、アスランは思わず怒鳴りつけるように問うていた。
「大西洋連邦との同盟締結が決定になって……だけど私にはどうしてもそれが納得できなくて、
やめさせたくて……。
 でも私には何の力もないから、それしか引き換えにできるものがなくて……それで……」

──それで。それで俺に何の相談もなく、結婚を決めた……?
「……それで、俺に笑って許せ、と? それとも、祝いの言葉でも言って欲しいのか?」

 愛しいと、誰よりも愛おしいと思っていた少女の裏切りにアスランの心は凍りつく。
「そんなっ、アスラン!?」
「カガリが結婚したと聞いて俺がどれほど混乱したかわかるか?
 それでも今までは、あれはカガリの意思じゃない、だから時間はかかっても納得しよう、
カガリの傍を離れた俺の責任だ、と思ってたさ。なのに……っ!」
「ごめ……なさい……、アスラン、ごめ……」

 アスランは、嗚咽を堪えるカガリの左手に自らが贈った指輪が輝いているのに気づいた。
 それを渡した時の彼女の笑顔が本物だったことは疑っていない。
 しかし今となってはそれも空しいだけだ。
「こんなもの、もういらないだろっ!!」
 アスランはカガリの左手を掴み、薬指から強引に指輪を引き抜くとその場に叩きつけた。
 指輪は小さな音を立てながらニ、三度跳ねて、部屋の隅に転がってゆく。

  ◇ ◇ ◇

「!!」
 慌てて指輪を追いかけたカガリの背後で扉の開く音がした。
 振り向いたカガリの目にアスランの背中が映った。
 アスランはカガリを一瞥もせず立ち去り、扉が閉じる。
 カガリは指輪の前にぺたんと座り込むと、それを両手でそっと拾い上げた。
 カガリの頬を涙が幾筋も伝い落ちる。
 それを拭うこともせず、彼女は指輪を抱き続けた。
23逆アス ◆pyss7hdnDM :2007/09/29(土) 14:50:33 ID:???
 上陸したアスラン・ザラはあっという間にオーブを占領した。
 カガリ・ユラ・アスハを幽閉し、指揮系統を奪う。
 その間に会話はなかったという。
 それだけなら良いのだが、彼はモルゲンレーテにも手を伸ばした。
 オーブの予算を使い、ネオ・ザフトの戦力を増強していく。
 来るべき、ザフトとの戦いに備えてのことである。
 先の戦いで撃墜されたムゥ・ラ・フラガはというと、結局見つけられることはなかった。
 バラバラになったアカツキは海に沈み、詮索は無意味と判断したアスランはろく
に救出活動などをしないまま打ち切った。
 それに対し、オーブは不気味過ぎるくらいに平穏だった。
 オーブの国民の心とは正反対に……。

 そんな中マリューはバルトフェルドに連れられていた。
 マリューの瞳は怒りと悲しみに震えていた。
 当然だろう。 彼女は愛する人を二度も失ったのだ。
 一度はドミニオンの主砲──ローエングリンにその身を焼かれた。
 そして、今度はカオスのビームサーベルに貫かれ深海に突き落とされた。
 前者から生き延びた不可能を可能にする男とはいえ、今回生き延びている可能性は皆無だろう。
 奇跡が起きるのは一度だけだ。
 そんな易々と何度も奇跡が起きるならそれは奇跡でも何でもない。
 勿論、マリューも生きているかもしれないなどという淡い希望は持っていなかった。
 彼女はフラガを殺した張本人であるスティングとアスランと対面する。
 その心は穏やかではない。
 今すぐにも二人を八つ裂きにしてやりたいという葛藤と戦っていた。
 そんな中バルトフェルドはゆっくりと扉を閉めた。
 アスランはいつものラフな服装とは違い、スーツを着こなし、メガネ越しにマリ
ューを見やる。
 整然と着こなすその姿はアスランの几帳面な性格がにじみ出ていた。
「何故こんなことをしたの!」
24逆アス ◆pyss7hdnDM :2007/09/29(土) 14:53:03 ID:???
 声を張り上げて問い詰めるはマリューだ。
 アスランは憐れみを含んだような瞳でマリューを見据え、スティングはというと
楽しそうにけたけたと笑っていた。
 アスランはあくまでも、自分が上位であるという態度を崩さない。
 マリューは拳を震わせながら、二人の態度に耐える。
「何故……あなたも同じ問いをするのですね。
そんなの決まってるでしょうに。カガリやラクスは政治をやる器じゃないからですよ」
 口調は丁寧だが、アスランは不快感を露わにしていた。
「だからって……」
「だからってこんなことしてもどうしようもない。そんなこと分かっていますよ。
でもね、何もしないよりはずっとマシです。何か行動を起こさない限り何も変わらないんですよ」
 以前の彼なら、何もしなかっただろう。
 2年前もラクス達の行動に疑問を持ちながらも、結局何もしなかった。
 ただ周りに流され行動をしていただけだった。
 だが、今の彼は違う。
 一年と半年をかけて、彼は世界の隅々を見てきた。
 彼は弱い自分に反逆した。
 そのことで彼は強くなったのだ。
 彼は自分の信念に従い、行動をする。 故に、もう流されることはない。
「アスラン君……あなたは変わったのね」
「ええ、変わりました。何時までも子供のままでいるわけにはいきませんからね」
 アスランは挑発的に笑う。
 だが、その瞳に一点の曇りもなかった。
「……でも、あなたのような人を野放しにはしておけない。
せっかく手に入れた平和……それを乱させはしない」
 そう言って隠し持っていた銃を構える。
 だが、アスランはおろかバルトフェルドすら慌てた表情は見せない。
 あくまでもポーカーフェイス……無表情を崩さなかった。
「それで気の済むなら撃てば良い。ただし……」
「言われなくても!」
 アスランの挑発に乗り、拳銃の照準を彼に合わせる。
 既に安全装置は外されている。
 トリガーを引きアスランに向け発砲……。
 乾いた音が部屋に響く。硝煙の嫌な匂いが部屋に立ちこめていた。
 遅れて、カランと金属音が響く。
 銃が地面に落ちる。血が滴り落ちていた。
25逆アス ◆pyss7hdnDM :2007/09/29(土) 14:54:39 ID:???
「撃てればの話ですがね」
 撃たれたのはマリューだ。マリューの手首に一発……見事なまでの腕である。
 マリューは手を押さえながら、辺りを見回す。
 すると、銃を構えた男の姿が映った。
 先ほどまでけたけたと笑っていた少年──スティングだった。
 殺気を放ちながら、マリューを一瞥する。
 ぞくりとする程の殺気を受け、マリューは痛みを忘れる。
 人ではない何か化け物じみたものの殺気のように彼女には感じられた。
「余計なことはするな。
俺は連合のエクステンデットだ。お前ごときがサシでやれるほど甘くはない」
 そう言って、スティングは拳銃をしまう。
 バルトフェルドというと、近づいていきマリューの拳銃を拾い上げた。
「連合のエクステンデット……ですって!? アスラン君……あなたそんなものも利用しているの!」
 マリューが驚くのも無理はない。
 エクステンデットとは連合の操り人形のことだ。
 自然でない、宇宙の化け物だ、などとコーディネーターを否定するブルーコスモ
スが作りあげた化け物である。
 ただし、コーディネーターとは違い先天的なものではなく、後天的なものだ。
 その第2世代であるエクステンデットはゆりかごと呼ばれる装置で、必要のない
記憶を消し、ブロックワードを設けることで、連合の便利な人形としていた。
 だが、今となっては連合は非人道的だ、などという理由で、エクステンデットの
開発を中止していたはずである。
 そこにはプラントとオーブによる非難も理由に含まれていた。
「何故エクステンデットが……」
「簡単に言うとだ……俺はエクステンデットの生き残りだということだ。かつてネ
オ・ノワロークが率いていたファントムペインの一員のな」
「何……ですって……」
 マリューは茫然自失する。
 ふらふらと動き、壁に寄りかかった。
 ネオ・ノワローク──それはフラガにとっての罪の象徴だった。
 忘れたくても忘れられない──忘れてはいけないもの。
ベルリンでの虐殺を率いていた、これはラクスとカガリがもみ消したのだが、彼
が虐殺をした事実まで消せるわけではない。
26逆アス ◆pyss7hdnDM :2007/09/29(土) 14:56:22 ID:???
 フラガにとって一生購わなければ、ならない罪であった。
 結局、彼の罪は彼の部下だったものに断罪されることでなくなってしまったのだが……。
 だが、ネオが率いていたファントムペイン隊は全滅したはずだった。
  彼もヘブンズ・ゲートで死んだはずである。
 デストロイはシンのデスティニーに撃墜され、コクピットを貫かれた。
 普通なら即死する。
 だが、セーフティーシャッターと呼ばれるものがここC.Eにはあった。
 フラガだけでなく、アスランとキラもコクピットを貫かれた。
 だが、両者の命はセーフティーシャッターがつなぎ止めたのである。
 スティングも同じであった。 彼もまたセーフティーシャッターにより、その命をつなぎ止めた。
 虫の息だった彼を回収したのはザフト軍だった。
 エクステンデットの貴重なサンプルとして、研究所に送られ、そこでモルモットとして扱われる。
 だが、デュランダルからラクスへと政権が移ったことにより、研究所も解体……彼も殺されるはずだ
った。だが、ラクスの強い反対もあり、スティングは死を免れた。
 彼は地球に送られた。
そこで各地を転々としている時に、アスランと出会う。
「…………」
 鋭い視線がマリューに突き刺さる。
 彼女はスティングのことを正視することが出来なかった。
 彼がフラガを殺したものだ。
 だが、同時に彼はフラガの被害者でもあった。
 フラガを殺すに値する動機は彼には十分にあるし、彼女も彼を殺すに値する十分な理由はある。
「何もしないのならここにいられても迷惑です。退室して貰えますか?」
「私は……」
 言葉に詰まる。
 正義というのはか弱いものだ。
 アスランは場を支配出来るだけの力がある。
 対するマリューは銃も失い、抵抗する力も残ってはいなかった。
 マリューは自らの正義を実行することは出来ない。
「……行こうか」
27逆アス ◆pyss7hdnDM :2007/09/29(土) 14:59:17 ID:???
 そう言ってマリューの肩を叩いたのは、バルトフェルドである。
 マリューは何も言わずに出ていく。
 悲壮感漂うその背にアスランは憐れみの目を向ける。
 ドアが閉まる音とともに、アスランは大きく溜め息をついた。
 かつての仲間達を裏切り、こんなことをしている自分は本当に正しいのか? な
どという思考が彼の頭によぎる。
 しかし、彼は頭を振り否定をする。
──くだらぬ情に流され自分を見失うなアスラン・ザラ。
 そう言い聞かせる。
 葛藤が起こらないはずはない。
 彼はかつて友と呼んだものと戦うことになるのだから。
 だが、それでも彼には為さねばならぬことがあった。
 その想い、その覚悟……それこそが彼の原動力となる。
「もう後戻りは出来ないのだから」
 そう言って、窓から外を見やる。
 見慣れた景色が彼の目に入ってくる。
 幸せな生活を享受する人々……それが自然であるとさも、思っている。
 他人の不幸の上で成り立っている幸せ……そんな脆く、儚いものだとは夢にだに思わずに。
 恵まれているということに気づかぬ罪……それを分からせてやらなけばならない。
 折れはしない。 折れてはいけない覚悟。
 胸に抱きながら彼は進む。
 その道が例え、修羅の道であろうと。


続く
28通常の名無しさんの3倍:2007/09/29(土) 15:00:18 ID:???
>ノワローク
ロアノークな
29逆アス ◆pyss7hdnDM :2007/09/29(土) 15:01:49 ID:???
酉バレしたため酉は変えました。
申し訳ありませんが、まとめの方で訂正して貰えるとありがたいです。
では。
30通常の名無しさんの3倍:2007/09/29(土) 15:14:59 ID:???
うん、間違いなく本物だな
31通常の名無しさんの3倍:2007/09/29(土) 15:56:48 ID:???
>>逆アス
投下乙。それから
>>それが自然であるとさも、思っている。
→それが自然であるとさえも、思っている。

>>そんな脆く、儚いものだとは夢にだに思わずに。
→そんな脆く、儚いものだとは夢にも思わずに。

 トリップを変える必要など無い。確かに、間違いなく、本物だ。
ただ誤字は多いし、文体も荒っぽいのに、何故か逆アスの作品は
面白く感じる。マリューの叫びなんかは一瞬三石声で脳内再生
されてしまった。
 キャラクターが生き生き動いているからなんだろうな。既存の
キャラでも、それができるというのは中々良い事だと思う。
 GJ!……と言うには「よりによってこんなところで」という
誤字があったので、まあ四つ星というところで、次回を期待して待つ。
32通常の名無しさんの3倍:2007/09/29(土) 16:00:09 ID:???
>逆アス
ついでにもう一つ
罪を償うときの「あがなう」は「贖う」だ

ttp://dictionary.goo.ne.jp/search.php?MT=%A4%A2%A4%AC%A4%CA%A4%A6&kind=jn&mode=0&base=1&row=1
33ウンメイノカケラ scene-5 1/2 ◆6Pgs2aAa4k :2007/09/29(土) 19:41:01 ID:???
 光と影の住人、交わらない平行線。

 店が休みのある日、私は慰霊碑へと足を運んだ。
 潮風が運んでくる潮の香りが鼻孔を心地良くくすぐって、とても気持ち良い。
 慰霊碑に植えられている花は名前も知らないものだけど、とても可愛らしくて清々しいものだ。
 だけど、潮風のせいですぐに枯れてしまうのが運命。
 花の命は短い。だからこそ花は思うがままに精一杯に咲き誇り、人を魅了する。
 永遠に儚い花の運命は私と同じなのかも知れない。
 戦争の犠牲になった全ての人が安らかに眠りにつく事が出来る様に、手を合わせて心から祈りを捧げた。

 帰り道、少し遠回りをして海辺を歩いていると、何処かで見覚えがある人物とすれ違った。
 無言のまま会釈をすると、向こうも私に会釈を返してくれた。
 男性と女性の二人連れ、恋人同士なのだろうか。
 幸せそうなのだけれども、何処かに影を、奇妙な違和感を感じた。
 立ち止まり振り返って二人を見ると、記憶のピースがカチリとはまった。
 男性の方は誰なのか解らないけれど、あの女性は確か――プラントの歌姫だ。
  何故こんな所にいるのか、と良い疑問よりも、男性と二人連れであるという事に、私は興味を抱いた。
 下世話な話だけれども、私は醜聞めいたものを感じて静かに気付かれない様に二人の後を追った。

 二人は慰霊碑の前で誰かと話している。
 全てのものが朱に染め上げられる黄昏時では、人を容易く識別出来ない。でも、私は解った。
 ――あそこにいるのは兄だ。男性と話をしている。歌姫とも話をしている。
 心臓が不規則な鼓動を打ち始め、息苦しくなってくる。
 嬉しいけど、嬉しくない。
 兄が生きていた事に喜びはある。
 兄は光の中で立派に生きていたのだろう。気後れなどせずに、歌姫とも話をしている。
 しかし、私はそうではない。暗い影の中で箱庭の人形として生きてきたのだ。
 目の前に巨大な壁が立ち塞がる。
 あちらは光でこちらは闇。立場が全く違うし、私の職業についてまわる後ろめたさなどというものがない。
 私は心の奥底で蠢く感情を処理する事が出来なくなり、その場から走り去った。
 振り返る事など出来ずに、声にならない叫び声をあげてひたすらに走った。
34ウンメイノカケラ scene-5 2/2 ◆6Pgs2aAa4k :2007/09/29(土) 19:43:06 ID:???
 日暮れて道通し。
 次第に暗くなっていく黄昏が漠然とした不快感を伴い私を包み込んだ。
 誰が彼とも分からなければ良かった。
 砕かれた運命が私を嘲笑い、心を掴み放しはしない。
 私は薄闇に包まれながら箱庭に戻り、偽りの笑顔という仮面を被って人形としての役目を果たして一日を終えた。
 部屋に戻っても明かりをつけずに、ベッドに寝転んだ。
 頭に白い靄がかかった様に、思考がぼんやりとしていた。
 それを振り払う様に頭を振り、昼間の出来事を反芻する様に思い出そうとした。
 あそこにいたのは確かに兄だ。車椅子だった様な気もする。生きてはいたものの、何らかの障害を負っているのだろうか。
 傍らには恋人らしい女性もいた。兄は今、幸せなのだろうか。
 ――そしてプラントの歌姫。
 有名な人物と話をして、連れの男性と握手をしていた。
 関係は解らないけれど、兄は立派に生きている様だ。
 もし、私の存在を知ったら兄はどうするだろうか。
 温かく迎え入れてくれるだろうか。それとも、日に背を向けている私をなじるだろうか。
 ――解らない。
 全ては憶測の域。真実は全て闇の中だ。
 黄昏の中、勇気を出していれば知る事が出来たのに、臆病な私は真実から眼を逸して逃げたのだ。
 私は今まで何をしていたのだろう。
 運命の欠片を集めて繕っても過去の傷を癒す事しか出来なかった。
 運命が砕かれたならば、新しい運命を作り出せば良かったのだ。
 時は流れ過ぎた。私は無邪気な子供には戻る事が出来ない。
 覆水盆に返らず。全ては二度と戻す事が出来ないのだ。 醒めた振りをして悟った様な振りをして、知らずの内に歪な心を持ってしまった事に気付く。
 私は大声で泣いた。喉が涸れるまで、涙が枯れるまで。
 涙を拭うと逆さまに見える星空に流れ星が流れるのを見つけた、
 前にもこんな事があった様な、不思議な既視感。
 あの時分からなかった願い事は今なら解る。
 ――幸せだったあの頃に戻りたい。
35前スレ237-238より:2007/09/30(日) 12:54:31 ID:???
 ライフルの光条に頭部を射貫かれ、最後の仮想敵がロストする。
 外のモニターで戦いの様子を見ながら、バルトフェルドは舌を巻いていた。
まさか、模擬戦まであの戦い方を貫いてみせるとは。
「かなわんな、まったく……なあキラ、俺もやってみたいんだが、代わってくれるか」
 大人気につき、このゲームはお一人様1プレーまでです……という定型句を
思い浮かべながら、彼は球形のマシンに呼びかけた。声は聞こえているはずだ。
 だが、返事がない。
 視界の端――観戦用モニターに動きがあった。ついと視線を移すと、ストライクフリーダムは
新たな敵との交戦に入っている。
「おいおい、二回もやりたくなるほど面白かったのか?」
 そう訊いたバルトフェルドだったが、すぐに異変に気づいた。稲妻のように
めまぐるしく動き、キラの正確な射撃を軽々と回避していく仮想敵機――
「……なんだ、あの機体は?」

 もともと乗り気で来たわけではなかったから、一戦終えたところでキラはすぐに
模擬戦を打ち切るつもりだった。もともと順番待ちが列をなしていたところに、
『フリーダムのパイロット』というネームバリューを利用して割り込ませてもらったのだ。
デモンストレーションにせよ、次々に現れる敵機を二分間で、三十機も倒してみせれば
充分というものではないか。
 ところが、敵機数のカウントがゼロになった後で、レーダーマップ上に光点がひとつ、
忽然と現れたのである。
 奇妙なのは、モニターの映像であった。レーダーが示す位置にはちらちらと
平面的な光が明滅し、おそろしく精巧な仮想空間にあって、それはあまりに不自然な
ものだった。写実的な絵画に付着した、ただ一点の汚れ――そんな風にも見える。
「ひどい、ラグってるのか? 強制終了して――」
 そのとき唐突に、バグから生まれた『それ』がひとつの形をとった。
 システムをシャットダウンするボタンに手を伸ばしていたキラは、思わずその
動きを止める。こちらをじっと見つめる機体が、見覚えのあるMSだったからだ。
「……なんで?」
 今や『ガンダム』との呼び方が通称となった、特徴的なエクステリア。装甲色は黒、
ほかならぬキラ自身が葬った機体だ。よく覚えている――忘れるはずがない。
 GAT-X207 ブリッツ。
 かつて、無二の親友たるアスラン・ザラの同僚であり、ピアノを弾くのが上手な
やさしい少年だったという、ニコル・アマルフィの機体だった。
36前スレ237-238より:2007/09/30(日) 13:00:00 ID:???
 ブリッツが迫る――ちらちらと歪んだ残影を残して。完全に安定したわけではなく、
いまだその仮象はノイズまじりの揺らぎを見せる。
 思わぬ記憶を呼び返されて戸惑っていたキラは、その急迫に対する反応が
ほんの半瞬遅れた。回避が間に合わぬと悟り、とっさにビームシールドを広げて
二本のサーベルを受け止める……。
 二本?

 すでにおぼろげな記憶の中から、敵として覚え込んだブリッツのスペックを
掘り返す。ビームサーベルは右腕に固定された一本――それだけのはずだ。
 目の前の機体は、何も保持していない手元から光刃を出力している。思えば、
自分に向かってくるときの動きもブリッツにしては速すぎた。
 そして、得体の知れぬ不安にキラが後ずさった瞬間、敵機の腹部から赤い閃光が
迸った。高エネルギーの衝突に、ビームシールドが爆発的な光輝を放つ。
「こいつ……ブリッツじゃない!?」
 姿こそブリッツだったが、これは何かまったく違うものだった。基本性能、武装、
すべてが二年前の機体とは桁違いなのだ。
 あまりの圧力にさらなる後退を強いられながら、ストライクフリーダムのシールドは
なんとかその照射に耐え切った。しかし、シールドジェネレータが過負荷でダウンしており
しばらくは使えそうにない。

 しばらくは? キラは自分を嘲笑った。そもそもこれは仮想現実だ。強制終了の
ボタンを押せば、いますぐに終わる戦いではないか。
 だが、彼はボタンを押そうとはしなかった。シミュレーターなどに嫌な記憶を
呼び起こされたことも気に食わなかったし、どうせゲームのようなものなら
最後までやってもいいだろう、との思いもある。

 ヴォワチュール・リュミエールを最大稼動させる。実際の宇宙においては、
ニュートリノすら透過できない力場によってヒッグス粒子の密度分布を変化させ
局所的な慣性力の制御を可能とする、驚異の機構だ。
 使い方次第では、VL非搭載機ではどう足掻いても太刀打ちできない戦闘機動をとる
こともできる。いかにバグが生み出した機体と言えど、この状態のストライクフリーダムに
追随できるはずなどない――キラはそう思っていた。
 しかし敵は、それをやってのけた。
37前スレ237-238より:2007/09/30(日) 13:02:53 ID:???
 通常機で行えばパイロットの死を招くであろう鋭角の急旋回を連続させ、急停止して射撃。
そこから一瞬にして最高速まで加速し、またジグザグの軌道で飛ぶ――いまのキラに
思いつく限りでVLを最大限に活用した、慣性を無視した戦闘機動。ブリッツの姿で
襲い掛かる何者かは、それと同等の動きでキラと張り合ってみせたのだ。
 VL搭載機にしかできない機動、腹部の高出力ビーム……
「もしかして、外見以外のスペックは――ストライクフリーダムと同じか!」

 敵もVL全開機動に付いて来ているということは――
 キラがそれを察知するのは、まさに一瞬だけ遅かった。その刹那、敵機の周囲で
何もないはずの空間から光の矢が放たれたのだ。
「ドラグーンが見えないのは、さすがに反則だろう……っ!」
 怒涛のようにモニターを埋め尽くす警告。ドラグーン四基破壊、ビームライフル
一挺破損、VL量子力場ジェネレータ二基破損……
 白い制服の中で、冷や汗が噴き出た。そんな自分が可笑しい。何を恐れている?
これは現実じゃないんだ――
 しかし、モニターが映す敵機の姿を見て、キラは確信した。
 これは現実よりもたちの悪い何かだ、と。

 敵機の姿が変わっている。円盤状のバックパックを背負う、白銀の機体。
 ZGMF-X13A プロヴィデンス。
 それもまた忘れ得ない悪夢。キラが己の戦い方を変えてからたった一人、明確な
殺意をもって命を奪った男、ラウ・ル・クルーゼの機体であった。

 以前キラは、旧友ミリアリア・ハウのインタビューに応じたことがあった。
 レコーダーを片手に彼女が問う。
「どうしてあなたは、敵を殺さない戦い方をするのですか?」
 周りの人間がさまざまな憶測を囁き交わしていることを、彼は知っていた。
曰く、生存者の救出に手間をかけさせる作戦である。圧倒的な力の差を見せ付けて
優越感に浸るためのゲームである。クライン派の旗頭としてイメージアップを図る
宣伝行為である……など、無責任な予想だけで何冊もの本が出版されるほどだ。
 しかしキラ自身に言わせれば、もっとも不名誉な推測ですら彼を過大評価するものだった。
「深慮遠謀にもとづいてやってることじゃない。僕は、ただ……」
 ……ただ、怖かっただけだ。
 コックピットを撃つのが怖かった。アスラン・ザラと獣のように殺意をぶつけ合い、
自らが冥界の門前に立つ経験をしたあと、キラは人を殺すことに怖じていたのである。
38前スレ237-238より:2007/09/30(日) 13:05:43 ID:???
 一時はMSという兵器の一部であることに徹し、何のためらいも無く『敵』を討った。
だがアスランに破れ、一人の人間に戻ったとき、彼は自分が敵に与えてきた死というものが
どれほど恐ろしいものかを体感してしまっていた。フリーダムでアラスカの乱戦に飛び込んだ
あの日、もはや自分がかつてのように冷徹な戦士ではありえないことを悟ったのだ。
 だから、逃げた。圧倒的な性能を活かし、MSの戦闘能力だけを奪う。海に落ちていく
機体や、武装解除されたあとで撃たれる機体から、目をそむけた。
「中途半端な不殺主義、なんて批判は見当違いだ。僕はただ、怯えているだけなんだから」
 その手で他者の人生を断ち切る恐怖から逃げて、責任から逃げて、それでも
逃げ切れなかった相手がいる。その死を運命にゆだねられなかった敵がいる。
 それが、ラウ・ル・クルーゼという男だった。

 姿がプロヴィデンスになった時から、敵のドラグーンはこちらのモニターにも映るようになっていた。
 しかしドラグーンが見えるようになったとて、スペックが同等である以上、損傷している
分だけこちらが不利になる。なんとかダメージを与えて、五分の戦いに持ち込まなければ。
 しかしキラは、攻撃をかわしていてさえも、自分が圧倒されていると感じていた。
姿だけはプロヴィデンスのストライクフリーダムから、聞き覚えのある哄笑が
聞こえるような気がする。存在しないはずの敵機から、指向性を持った殺意が
放散されているように思うのも、本当にただの錯覚なのか?
 コックピットを、あるいは動力炉を撃ち抜けばそれで終わりだ。仮想現実なのだから
撃ったところで誰も死なない。そうしてもいいはずだ……。
 そう思っていたところへ、まるで吸い寄せられてでもいるかのように正確な
ビームライフルの射撃が来た。辛うじてシールドで防いだが、完全にコックピットを
狙うコースで撃ってきている。
「? 今のは……それにさっきの動き、ドラグーンの使い方……」
 その攻撃が、キラに違和感を覚えさせた。これはラウ・ル・クルーゼの戦い方とは違う。
否、いままでに戦ってきた誰のデータをフィードバックしているのでもない。
 それでいて、自分にはこの敵の戦い方がわかる。敵を殺す、という最も単純な
無力化の方法を忠実に実行しようとする、研ぎ澄まされた兵器としての戦術。
「ああ、そうか……」
 ようやく正体がわかった。それと同時に、鳴り響いていた哄笑が止まる。
「あれは僕自身だ……ストライクに乗っていた頃の、キラ・ヤマトだ!」
 プロヴィデンスの姿が揺らぎ、再び別の機体が姿を現した。懐かしい、白い機体だ。
 GAT-X105 ストライク。
 かつてキラが搭乗し、数多の敵を戦死者の列に加えていった、伝説の機体である。
39前スレ237-238より:2007/09/30(日) 13:08:35 ID:???
 外見以外の機体性能も、パイロットの能力も同じ。違うのは戦い方――殺すか、殺さないか。
 ならば、今のキラは決して過去のキラに勝てないのではないか。
「どうする……?」
 敵が電光石火の機動をやめ、誘うように佇んでいる。コックピットを撃てば
おまえは勝てるのだ――と、無言の挑発を投げかけている。
 ストライクフリーダムが、残ったビームライフルをゆるゆるとその胸に向け――

「……まあ、なんだ。あんなモンに負けたからって、お前の実力にけちが付く
 わけじゃないさ。だいたい、最後にあのまま撃ってりゃお前の勝ちだった」
 戦いが終わっても筐体から出てこないキラを心配して、バルトフェルドが外から
ハッチを開けたとき、少年は『本機は撃墜されました』の文字が点滅するモニターを
惚けたように見つめていた。

 キラは最後の瞬間、ビームライフルの射線をコックピットから外そうとした。
そのコンマ数秒という時間はしかし、最も鋭利だった頃のキラ自身を相手とするには
致命的なほどに長く。ストライクが数度手首を捻ったとき、ストライクフリーダムは
光の刃に全身を切り刻まれ、仮想の宇宙に四散していた。

 なぜ、射線をずらそうとしたのだろう。今の自分を、過去の自分に否定されるのが
嫌だったからか。理由はどうあれ、この敗北は彼自身ですら存在に気づかなかった
慢心を打ち砕いた。彼は決して、無敵の存在などではないのだ。
 そして同時に、過去との戦いは一つの未来を暗示しているような気がした。
彼は生まれが特殊であるとはいえ、平凡な学生の身から当代最強を謳われるMS乗りに
までなった。いずれ現れるやも知れぬ第二、第三のキラ・ヤマトと、どこかの
戦場で相見えることがあるかもしれない。
 それは数年後か、数十年後か――とかくその時、キラは相手を殺そうとしない
その戦い方ゆえに敗れ、命を落とすのではないか。そんな予感がしていた。

 思えば既に、彼は近い経験をしている。確実に相手を殺せるタイミングで撃てない
という弱点を衝かれ、シン・アスカに敗北を喫した。あの時は奇跡的に一命を
取り留めたが、幸運は常に彼と共にあるわけではない。
 ――ふと、討たれてもいいと思った。
40前スレ237-238より:2007/09/30(日) 13:12:26 ID:???
 今更この戦い方を変えることはできない。意図したことではなかったが、彼の
不殺というスタイルは武力行使に関するラクスの姿勢を表す象徴として扱われて
いたのだ。実際のところ、これはキラが一人でやっているに過ぎないのだが、
もし今からかつてのような戦い――鬼神、と称されたような――をしたならば
それはプラントに対する国際的な疑念すら生んでしまう。それほどの影響力が、
彼にはあったのだ。
 だから望むと望まざるとに関わらず、キラはこの戦い方を貫くしかない。それで
戦場に斃れることがあったなら、当然の報いというべきではないだろうか――。
「逃げて、逃げて、背を向けた過去に撃たれるのかもしれないな」
 自室に戻ったキラは、その日いっぱい外に出てくることがなかった。

 シミュレーションの最中に幽霊じみたバグがキラを襲った件について、バルトフェルドが
『Imit』の開発責任者を問いただした結果は、以下のようなものであった。
「……あのマシンは、量子キューブ・フィルターによって人脳の活動電位を外から
 読み取ることができます。無意識下の潜在的なものまで完璧にです。誰にでも
 やはり苦手とする相手がいるものでして、そうした弱点を克服できるようにと
 搭乗者の記憶の中から過去に戦った敵のデータを引き出してくることができます。
 今回はヤマト准将を苦しめた相手と、屈折した潜在意識をマシンが混同したために
 姿の安定しない仮想敵機が出現したものかと……」

 そう弁解した男は、『宇宙の虎』アンドリュー・バルトフェルドの怒りを正面から
受けることとなった。
「苦手意識を克服するために過去のトラウマをほじくり返す、だと……?
 ――馬鹿か、貴様らは! あんなやりかたでは逆効果だ。萎縮した兵士を量産して
 烏合の衆を作り上げるだけだろう。過去の記憶によって、過去の亡霊に克つことはできんのだ」

 数十分に渡る説教を受けた責任者は、事情を聞いたアスラン・ザラの提案に従い
『Imit』から脳波トレースの機能をオミットした。開発チームには減俸が科されたが
キラよりも先にマシンを体験していた兵士のうち何人かは、バルトフェルドの
危惧どおり心的外傷を負い、パイロットの職を辞すこととなってしまった。
 なんとも後味の悪い事件となったが、後世の記録によれば、この頃からキラ・ヤマトは
苦悩の影を色濃く滲ませるようになっていったと言う。

<了>
41通常の名無しさんの3倍:2007/09/30(日) 13:19:49 ID:???
前スレに投下しました『幻』の後編でした。

……正直すみません。書き散らかしました。自分でも前半の無難さを比べて
転落具合がひどすぎると思います。にもかかわらず、推敲の段階で
どこを直せば良くなるかがどうしても解らなかったというのが私の限界です。
前編を好意的に見てくださった方には特に申し訳なく思います。
かくなる上は住人諸氏の批評をいただき、今後の上達を目指したく存じます。

あと、言われる前に自分でバラしておきますが
これはシャアのEVOLVEを露骨にパクっております。
今にして思えば、ブリッツと埼玉は削って最初からストライクとの一本勝負に
すべきだったか、という反省も。
42通常の名無しさんの3倍:2007/09/30(日) 13:28:44 ID:???
そうだったんだ、俺はドレッドノートとストライクしか見たことないなイボルブは
なんか自分との戦いっていうのが新鮮ってゆうかキラの心情がよかったって言うか何というか
まあGJとしかいえないなおれは、批評は他のエロい人たちにしてもらってくれ
43通常の名無しさんの3倍:2007/09/30(日) 14:29:46 ID:???
>>幻
写実的な戦闘描写が緊迫感を生み出している。それがアンタの持ち味だろう。
今後も投下する意欲があるなら、その辺りを意識して書いてみると良い。
無難に纏めてあり、それなりの水準だと思う。
強いて言えばもっとサプライズが欲しかった所。
何はともあれ投下乙。
44Exploration of Personality ◆6Pgs2aAa4k :2007/09/30(日) 19:12:00 ID:???
“sound of noise”

 世界は雑音に満ち溢れている。騒々しくて喧しくて嫌になるくらい不愉快だ。
 耳障りな音だけじゃない。見る風景にも全て忌々しいノイズが掛かっている。

 朝から晩までのべつくまなく雑音とノイズに辟易とさせられる。
 だから音楽を聞く。
 生温いポップスなんてクソ食らえ。もっと激しい奴じゃないと全てがクリアーにならない。
 腹に響く様な爆音を叩き出すドラム、銃声の様なリズムで頭を貫くベース、嵐の様に全てを吹き飛ばすギター、絶叫ともいえるダイナミックなボーカル。
 精神と肉体は、不協和音に近い不透明な音色を求める。
 全てをズタズタに切り裂く様な鋭さを持つ音こそが本当の音楽。
 イヤフォンでボリュームを全開にして聞くと、この世に満ち溢れている雑音とノイズを吹き飛ばしてくれる。
 音楽がもたらす快感は絶頂に達してしまいそうになる程のエクスタシー。
 脳髄が揺さぶられて、身体の細胞が一つ一つ活性化していくのが分かる。
 陶酔と恍惚が精神と身体を支配していく。
 何がなんだか解らない衝動に駆られる。
  衝動は天国へと続く階段。一歩一歩踏み出す度にハイになっていくのがわかる。
 その衝動は破壊衝動に容易く変わる。戦闘に出ればそれがハッキリと解る。
 目の前の敵をズタズタにしたくなる。敵だけじゃなくてウザいアイツらも潰したくなる。
 僕以外の奴等をこの世から消してやりたくなる。
 誰にも止められない衝動が加速する。衝動がビートを刻んで魂を揺さぶる。
 揺さぶられた魂が僕を解き放つ。
 全てのものが関係ない、凶暴なビートとリズムの世界が見える。
 でも、そこまで。至高の世界に到達する事は出来ない。薬という手枷足枷に繋ぎ止められるからだ。
 天国から地獄。禁断症状は嫌いだ。世界に満ち溢れる雑音とノイズを加速させる。
 こんな身体じゃなかったら至高の世界に行ける筈なのに。凄く悔しい。

 雑音とノイズ、薬、この身体、世界の全てが―――ウザい。
45 ◆6Pgs2aAa4k :2007/09/30(日) 19:13:33 ID:???
投下終了。
いつになく血迷ってるなぁ、自分。
46前スレ345:2007/09/30(日) 23:35:55 ID:???
 前スレ>>340
340 名前: 通常の名無しさんの3倍 [sage] 投稿日: 2007/09/28(金) 20:08:32 ID:???
結局の所、メストさんは自分のサイトとリンクしてくれるのかな?
 がまとめの中の人かどうかを聞きたかったのです。メストさんのサイトが分からないので、
リンクが張られるとなれば嬉しかったものですから。
 アンカー付け忘れの上、ageてしまったりしてすみません。

>>逆アス
 投下乙です。
 人物とストーリーが動いていて軽快です。
 >>あっという間にオーブを占領した。  その辺りの、実際には
物凄い手間が掛かっていそうな所を正にあっという間で省略したのは
物語のテンポから考えても正解だと思います。
 誤字脱字は最早愛嬌ですし、上で散々指摘されているので言いません。
でも本来質の面ではない方が良いので、推敲だけはサボらずに。
 続きをお待ちしております。

>>ウンメイ
 いろいろあるとは思いますが、とにもかくにも投下乙です。
 「黄昏」は「誰そ彼」ですもんね。もう少しだけマユの歩みが遅ければ
シンが分からなかったかもしれないし、マユが早くてシンと二人で再会したなら、
すんなりと話し合うことも出来たかもしれない。そのどちらにもならなかった事が
高畑さんの味、ウンメイノカケラの雰囲気なのだろうと思います。
 まとめ一言掲示板の感想が哀しい……

>>幻
 むしろ前半の無難さがあったからこその落し方だとは思います。相当エグいシステムを
平気で使わせる辺りもなかなか。戦闘シーンも緊迫感が出ていて良かったです。
 ただ、短い話なのでシミュレータの説明に関しては、もっとタイミングをずらして良かった
のでは無いかと思います。作品の主題に対して、最後の締めに持って来るには話題を
厳選するべきであろうと思います。
 例えば、埼玉の出てきた辺りで開発者と虎を会話させて、虎が中のキラを心配した後で
ストライクに変身するなどさせれば、説明を最後に為なくてすみます。
 投下乙でした。又の投下をお待ちしております。

>>sound of noise
 投下乙です。
 その血迷い方こそがいいアクセントになってる感じです。
 短い文と体言止めで切って落すやり方が、心情を描写しようとしている
キャラクターにはまっていると思います。
47通常の名無しさんの3倍:2007/10/01(月) 08:41:34 ID:???
てかヘブンズ・ゲートじゃないよ、ヘブンズベースだよ逆アスさーん
48暫定テンプレート 1:2007/10/01(月) 18:33:12 ID:???
新人職人さん及び投下先に困っている職人さんがSS・ネタを投下するスレです
好きな内容で、短編・長編問わず投下できます。
分割投下中の割込み、雑談は控えてください。
面白いものには素直にGJ! を!
投下作品には「つまらん」と言わず一行でも良いのでアドバイスや感想レスを付けて下さい。
週刊新人スレ編集長、まとめ単行本編集長、雑談所「所長」にも感謝の乙! をお願いします。

また、イラストを描いてみたい絵師の卵の方や造形職人も歓迎します。
投下宣言の上雑談所『職人のチラ裏スレ』までどうぞ。

・「sage」進行でおねがいします。
・SS作者及びイラスト制作者には敬意を忘れずに。煽り荒らしはスルー。
・本編および外伝、SS作者の叩きは厳禁 。
・スレ違いの雑談はほどほどに
・本編と外伝、両方のファンが楽しめるより良い作品、スレ作りに取り組みましょう
49暫定FAQ:2007/10/01(月) 18:34:13 ID:???
Q○
新人絵師だけどどうすればいいの?

A○
本スレでこれから投下しマース宣言

雑談所に投下(若しくはURL貼り付け)

本スレ、雑談所で作品を肴に一杯

こんな流れでお願いします
50通常の名無しさんの3倍:2007/10/01(月) 18:37:54 ID:???
>>49
URLは本スレに張っちゃって良いの?
51通常の名無しさんの3倍:2007/10/01(月) 18:41:50 ID:???
>>50
h抜きでそのまま貼っても良いのではないかと
ただおかしなモノを呼び込まない様に雑談所の方が良いかも知れないが
その辺は貼り付ける人の心情次第だと思ってる
52通常の名無しさんの3倍:2007/10/01(月) 21:27:03 ID:???
提案だけど、職チラ読チラ分割しなくていいと思うんだ。そんなに書き込みもないし。
まとめサイトに雑談掲示板ひとつ作ってもらってさ、
現行の雑談所を絵師さん専用の投下まとめサイトとしてやって行けばどう?
まとめの人や所長の意見も聞かなきゃいけないけどさ。
その前に絵師さんくるかな?
53週刊新人スレ:2007/10/01(月) 21:30:10 ID:???
秋の新スレ建立記念号(1/2)

 一つのジャンルを作り出してしまった伝説の作品。作者の友人、同志の手によって遂に新人スレで蘇る!!
ウンメイノカケラ
>>289-290 >>33-35

二日酔いの明を叩き起こして荷物持ちにすると買い物へと出かける遥。明はそこで遥に対するカタチの無い違和を感じる……。 
GSNT
>>297-299,315-317

 もてるチカラの全てを解放し空回りのまま(作者のみが)全力疾走する! キミもこのテンションに付いてこい!!
短編劇場・全力種死 
>>302,321
54週刊新人スレ:2007/10/01(月) 21:31:19 ID:???
秋の新スレ建立記念号(2/2)

 月明かりの下、テラスで端末を弄る少年に、ナイトガウンの少女が近づき……。SEED『†』の作者が贈る珠玉の短編集
月明かりの下で珈琲を※>>325
ウェイト・フォー・ミー >>9-10

 大事な薬指の指輪。ホーク姉妹にそれを説明するのに苦慮するカガリ。そしてやっと出会えたアスランとの会話は……。
「 In the World, after she left 」 〜彼女の去った世界で〜
>>14-22

 オーブを占拠しモルゲンレーテを手中に収めたアスラン。愛するものを奪ったかつての仲間との会話も彼は冷徹に……。
逆襲のアスラン
>>23-27

 最強のパイロットにプログラムには存在しない機体が迫る! キラを追いつめる最強の敵とは果たして……!!
『幻』
>>35-40

 朝から晩までのべつまくなしに雑音に満ちあふれた世界。だから僕はイヤフォンのボリュームを全開にして……。
Exploration of Personality
>>44

 新人職人必読、新人スレよゐこのお約束。熟読すればキミも今日からベテラン職人だ!!
巻頭特集【テンプレート】>>1-6 絵師テンプレート【暫定版】>>48-49

※は前スレ【7】のアンカーです。

各単行本も好評公開中
詳しくはttp://pksp.jp/10sig1co/ までアクセス!
読者と職人の交流スペース開設。
お気軽にttp://pksp.jp/rookiechat/までどうぞ

お知らせ
当方は単行本編集部こと、まとめサイトとは一切の関係がありません。
単行本編集部にご用の方は当スレにお越しの上【まとめサイトの中の人】とお声掛け下さい。
また雑談所とも一切の関係はありません。当該サイトで【所長】とお声掛けの程を。

業務連絡
まとめの中の人へ。全く気にしないで使用していただいて結構です。
55通常の名無しさんの3倍:2007/10/01(月) 23:35:48 ID:???
>>52
職チラと読チラは便宜上分かれてた方が良いと思う
分かれた上での今の空気だと思うので
議論スレとテンプレスレを統合、絵師さん用スレ新設、ではないかな
ここから先は議論スレでやろう
56通常の名無しさんの3倍:2007/10/02(火) 00:08:18 ID:???
>>編集長
 いつも乙です! 全力種死の煽りに吹いた。
 今度からは、埋められるタイミングも計ってスレを立てるように気をつけましょうか。
折角のスレ容量が勿体無いし。

 まとめと雑談所の事は議論スレで。
57河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/10/02(火) 00:23:18 ID:???
「 In the World, after she left 」 〜彼女の去った世界で〜

「四方山話──タリアの手紙」
(1/2)


「 お元気かしら、ギルバート。
……なんて、ディオキアで貴方と別れてから、まだ一日だもの。勿論元気でいるわよね?

──今日、貴方ご推薦の『ダブル・アルファ』と会えたわ。
 貴方のことだから『彼』に出会った時の私の顔を想像して楽しんでいるんでしょう?
 ホンとにイヤな人ね、貴方は。

──こうして貴方にボイスレターを送るのは何年ぶりかしら。
 これを受け取って貴方も驚いているでしょうけど、こうして話している私も驚いているのよ。
 何故かしら 急にこうしたくなったの。
 私が、したいと思った事はどんなことをしても遣り遂げる性格だってことは貴方も知っている
でしょう?
 だから諦めて、あの頃に戻ったつもりで付き合って頂戴。

……ねぇ、あの頃はしょっちゅうお互いに遣り取りしていたのに、久しぶりの所為かしら?
 何だか少し照れるわね。


──話をアークエンジェル、いえ、ダブル・アルファに戻すわ。
 そうそう。今後あの艦の呼称は「ダブル・アルファ」ってことになったから。
 何時までも「議長直属の極秘特務艦」なんて、長すぎて呼べやしないもの。
 事後承諾だけど、構わないわよね?

……また少し脱線したわね。

 ダブル・アルファの改修──と言うか偽装工作も順調に進んでるわ。
 うちの整備主任とあちらと整備班チーフが、以前オーブに立ち寄った時に顔を合わせていた
らしくて。
 同じ畠の人間同士、気が合うんでしょうね。和気藹々と作業してるわ。
 技術的にもこちらも勉強させてもらってる処もあるみたいよ。
 流石は貴方が推薦するだけのことはあるわね。
58河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/10/02(火) 00:24:50 ID:???
 そうそう、そう言えば。
『色々と問題を抱えていてはいるが』
 ディオキアで貴方はこう言ったのよね?
 でも、行方不明の筈のアークエンジェルに、拉致された筈のアスハ代表の乗艦。その上更に
復元されているフリーダムまで。
『問題』の一言で済ませてほしくはなかったわ。

 アスハ代表のことはまだいいのよ。
 人間一人くらい、隠そうと思えばいくらでも隠せるわ。
 万一アーク、いえ、ダブル・アルファが沈められて代表が命を落とすことになったとしても
──勿論、そうならないように私も努力はするけれど──戦艦に乗艦している以上、覚悟はして
いるだろうし。
 ラミアス艦長から話を聞いた限りでは、確かに今オーブに戻るのは不都合だと私も思うから。

 でもね、フリーダムについては話が別よ。
 あのMSのお陰で、こちらにも思ってもいなかった問題が発生しちゃって、頭を抱えてるんだから。
 どんな問題かって?
 きっと貴方も想像もしていない事よ、きっと。

……私、本当はフリーダムを破棄させようと思ったの。
 このままどこかの海溝にでも沈めてしまおうかって。

 でもねその時ね、『知っている』って言ったのよ、代表が。
 私たちコーディネイターが、いえ、プラントに住む者が核に対してどんな気持ちを持って
いるのか『知っているつもりだ』って。
 もし『分かっている』と言われたなら反発したでしょうね、多分。
 地球に住み、核の恐怖に晒されたことのない貴女が何を分かっているの? って。
 でも彼女は『知っている──中途半端な理解しかしていないけど』って、そう言ったの。
 彼女の言葉をこんな風に捉えてしまうのは、私の買いかぶりかしらね?
 でも、だから私はフリーダムを使うことを許す気になったのだと思うの。

 ふふっ。おかしいわね。
 フリーダムは元々我がザフト軍の開発したものだっていうのにね。

……そろそろ話題も尽きてきたわ。今日のところはこれくらいで勘弁してあげる。
 次に逢う時には嫌味のひとつやふたつは我慢して聞きなさい。
 だからそれまで、この艦が無事でいることを祈ってて 」


 タリアはボイスレコーダーを停止させた。
 録音中を示す赤いランプが消える。
 少し疲れたかのように、または一仕事終えて安堵したかのように小さく息を吐き出すと、
慣れた手つきで続けていくつかのボタンを押した。
 途中モニタ画面に『Delete OK?』のメッセージが表示されたが、確認すらしないまま
『YES』を選択する。
 すべてのデータがクリアされたボイスレコーダーをデスクの引き出しに無造作に放り込み、
制帽の歪みを直しつつ、タリアは艦長室を出て行った。
59通常の名無しさんの3倍:2007/10/02(火) 18:00:43 ID:???
>.幻
投下乙
何か一気に 読まされた 感じ。俺のレベルでは何がどうとは言えないのだが
リズムが良いのかな? 一応褒め言葉のつもり。ボキャブラリの貧困さは許せ

 上の人の言う通り構成云々は読んだ後思った
説明を最後に持って来てるのでテンポが悪くなってるんだろうな
 ついでにもう一つ。前半と後半、何が文章が解離してるように感じる
ほんわかした感じの前半と硬質な後半。まとめでもう一度通してみてみようと思う

>>EX
投下乙
ちょっと投下毎に毒が薄まっている気がする
シリーズ毎に色分けをしたのかも知れないので口を出すことではないかも知れないが
もっと毒々しい文章が持ち味ではないかと
60GSNT第3話『SunriserB』1/4 ◆SEEDuhvP7. :2007/10/02(火) 21:12:04 ID:???
 駐車場を離れてから一時間半が過ぎたが、右肩にかけた携帯用のトートバッグはほとんど重みを
感じないままでいる。遥は店に入ってシャツやブラウス、ジャケットなどを移り気に物色しては、
次の店へと足を運んでゆく。買い物自体を楽しんでいるようだった。僕にはそれは、時間の無駄に
見える。通信販売で大抵のものを買い揃えてしまうので、行為自体を楽しむ、ということがあまりない
せいかもしれない。以前、ラクスに付き合って店々をめぐっているときに、彼女にそのことを尋ねると
「キラは買い物の楽しみを知らないんですのね」と笑われたことがあった。今も昔も僕は青いな、
と思う。

 いくつの敷居をまたいだか数えるのをやめたころ、ふいに遥が顔を向けた。

「明、退屈?」遥は訊ねた。
「そんなことない、涙が出るほど楽しい」

 大げさに真顔でそう答えてみると、遥は苦笑して言った。

「たぶん次のお店で少し時間がかかると思うから、ここで少し別れましょうか」
「次が本命、ってこと?」
「そうでもないけど、行きつけ、ってところかしら。30分くらいはかかると思う」
「ふうん、なら僕はその辺をうろうろしておくよ」
「じゃあ30分後にこのあたりで」

 トートバッグを彼女の手に預ける。それを受け取ると、彼女はいわくありげに口角を笑わせた。

「ここは君にはおもしろい場所だと思うわよ、楽しんでらっしゃい」

 しなやかに踵をかえして、すぐ手前右の大仰なガラス戸へ入っていった。店内を透かす表の大ガラス
には、スーツやワンピースなどを着たモデルたちの、とりどりの映像が半透明表示されている。ガラスの
向こうにも映像どおりの商品が並ぶ。大方ここもモードの店なんだろう。ここまでも大概そうだった。

 ようやく解放されたが、いざ離れてみるといささか手持ち無沙汰な感じがした。おもしろい場所、か。
あたりを見渡せば、居並ぶコンクリートとガラスに挟まれたけやき並木の下で、ひっきりなしに人の
往来が続いている。表参道にはたいして用もないので来たことはなかった。だが、国の税制優遇措置で
外資ブランドの出店が多く、そのために日本人はもちろんのこと、多くの旅行客も訪れる商業地区に
なっている、ということくらいは知っていた。人間観察の好きな人なら、たしかにおもしろいだろう。
僕もそれに倣ってみようか。

 遥の入った店のすぐ隣で、一軒のコーヒースタンドが賑わいを見せていた。移動販売車くらいの赤い
小さな店構えだが、コーヒーやジュースなどのソフトドリンクのほかにも、サンドイッチやベーグルと
いった軽食も売っていた。少し近づいていくと、店の影に隠れたベンチが空いているのを見つけた。
遠くに行って時間がずれてしまうのも面倒だ。そこで時間を潰すことにして、列に並んだ。
61GSNT第3話『SunriserB』2/4 ◆SEEDuhvP7. :2007/10/02(火) 21:13:28 ID:???
「ミックスベリージュースを一つ、そこのベンチで」
「はーい、500円お願いします」

 一人きりの店員にマネーカードを渡した。まだ若い。僕とそう年は変わらないだろう。金に染めた
髪をショートドレッドに刈り込んだ日本人で、紺のエプロンは忙しさのわりにまるで汚れていない。
カードを僕に返して、軽快な動きでカットしたフルーツとジュースをジューサーに放り込み、財布を
しまう頃にはもうそれは止まっていた。注いだカップを差し出して、「おまちどうさま」と彼は割れん
ばかりの笑顔で手渡してくれた。

 僕はベンチに腰掛けて、ストローをくわえた。苺とブルーベリー、クランベリーも入っているようだ、
酸味は強いがほどよく甘い。喉を潤しながら、ぼんやりと周囲を見回す。

 もう正午すぎで、三月らしい春の陽気を思わせる日差しが細枝から差し込んでくる。どこの店頭でも
ホログラフィやホロムービー(立体映像)が、鮮やかな色彩の服を映し出す。行き交う人の人種はさま
ざまで、日本人はもちろんのこと、スラヴ系らしい顔の角ばった白人や、黒髪で日焼けしたような肌の
ヒスパニック系、金髪碧眼で赤白いゲルマン系など、興味の対象には事欠かない。日本観光の定番
スポットだけのことはあるな、と思わされる。

 しばらくして正面の対向車線側のバス停に、細身のレザージャケットを着た、やけにパンキッシュな
四人組がやってきて、椅子に座った。これは日本人だろう。少し日焼け気味だが、肌の色と顔立ちが
それらしい。うち三人はギターのハードケースを膝のあいだに据えている。顔はピアスだらけで、髪は
赤だったり金だったり、重力に逆らっていたり左右非対称だったりと、自己主張がわかりやすい。
あのギターケースに入っているのはギブソンの白いレスポールか、はたまた琥珀色のフェンダー・
ジャガーか、夜な夜な地下のライブハウスで、満員の客の渦にダイブしたりしているのだろうかと、
いろいろ想像すると微笑ましくなってくる。ここにはいささか場違いな四人組のような気もするが。

 コーヒースタンドの繁盛ぶりは相変わらずで、ショートドレッドの彼はオーダーを手際よく捌いて
ゆく。若いながらもよくやっているな、と思う。接客業の類はアルバイトすらやったことがないので、
ああいうタイプの人は素直に尊敬できる。僕にはきっと、できないことだろうから。

 列の先頭に、一風変わった客がきた。浅黒い肌で真新しい黒のダウンジャケットを着た、中東系の
男だ。男は店員に、聞き慣れない言葉でなにかを言った。アラビア語だろうか。英語と中国語はほぼ
完全に、フランス語は日常会話程度に話せるが、アラビア語まではさすがに僕もわからない。卑下
するわけではないが、店員の彼もそれがわかるわけはないだろう。
62GSNT第3話『SunriserB』3/4 ◆SEEDuhvP7. :2007/10/02(火) 21:14:34 ID:???
 だが次に聞こえてきた声に、僕は耳を疑った。彼は流暢なアラビア語で男に応対しはじめた。彼の
ような若さでアラビア語まで話せるのか、と驚くばかりだ。男は最初、面食らって顔を歪ませたが、
すぐになにかまた言いはじめ二言三言会話が続いて、店員はオーダーを取ったらしく後ろを向いて
作業を始めた。言葉がわからないのが恨めしい。やがて紙袋がカウンターに出され、男は精算を
済ませてその場を立ち去っていった。すぐに次の客が前に出て、彼は申し訳なさそうに「すみませんね」と
頭を軽くさげた。客のほうも事情がわかっている様子で、笑って頷いていた。

 あの中東系の男は、あそこでアラビア語が通じると知っていたのだろうか。それともこの一帯は全て
そうなのか。会話の内容も気にかかる。首をかしげながら前へ向き直った。前のパンクな四人組は
まだバスを待っている。そこへ右から、髪のすっかり白くなったブラウンのダブルスーツの老人、いや、
あの背筋の伸びた、たしかな足取りは老紳士と呼ぶべきだろう、その人がバス停へと近づいてきた。

 一番右端に座っていたハリネズミみたいなスパイキーヘアが、隣のスキンヘッドを肘で小突いた。
席を譲る気だろうか、そうであればいいな、と思いながら見つめていると、四人は示し合わせたよう
に立ち上がり、ギターケースを抱えてバス停の端へと寄った。老紳士はそれを見て彼らに軽く会釈す
ると、彼らも同様に頷いた。なんてきれいなマナーだろう。行為自体はなんでもないことだが、すべて
無言のうちに交わされていた。

「お兄さん、口開きっぱなしだよ、大丈夫?」

 声がかかった。呆然と前の四人を見つめていた僕はあわてて口を閉じて、声のほうを向いた。
コーヒースタンドの店員がカウンターから身を乗り出して、気のいい笑顔を浮かべていた。さっきまで
列をなしていた客はすっかり捌ききって、一息ついている様子だ。中東系の男と彼とのやり取りは、
まだ脳裏に焼き付いている。

「失礼ですが、さっきの変わったお客さんはなにを?」僕は訊ねてみた。
「変わった?ああ、あのイランの人ね。あの人はコーヒーの値段を値切ってきてね。日本じゃ
そういう習慣はない、って言ったんだけどきかなくて、忙しいから口論している暇もないんで、少しだけ
負けてあげた。それで収まってくれたよ」

 彼はなんでもない風な口調で、カウンターに頬杖をついて言った。彼の眼光には気後れしそうな
ほど活力がみなぎっていた。損をしたはずなのに、まるで後悔している様子がない。それで少し、彼の
ロジックが見えた。

「列待ちのお客さんを待たせちゃ悪いから、っていうことですか」
「そういうことだね。普通なら俺は、強行に断らなければいけない。けどイラン人と話しているうち
に他のお客さんを待たせてしまって、その中には待つのをやめて行ってしまう人もいるだろう。俺は
機会損失を出してしまう。それなら原価を割らない程度に値引きに応じて回転率を上げたほうが、俺
もイラン人も他のお客さんも満足する。ウィン・ウィンってことだよ。あのイラン人も旅行客みたい
だし、ゴネ得が通じるなんて風聞も心配ないだろうしね」

 そこまで言ったところで、客がカウンターのそばにきた。彼は向き直って「いらっしゃいませ」と
声をあげる。彼との話はそれきりだった。
63GSNT第3話『SunriserB』4/4 ◆SEEDuhvP7. :2007/10/02(火) 21:15:40 ID:???
 この人たちは、なにか普通じゃない。コミュニケーションの方法やメンタリティが、信じられない
くらい洗練されている。あの店員は特にそれが顕著だった。まさか、ここを行き交う人々の中にも、
あんなスタイリッシュな人々が混じっているのだろうか。そう考えるとこの人通りが、なにか
おかしなものに見えてきた。

 ――いや、たしかにおかしい。注目すべきは外国人の旅行客じゃない、日本人のほうだ。彼らは
みな身体の均整が取れていて、肩のぶれない歩き方をする。猫背やO脚や内股なんてどんなに捜しても
見つからない。さらに言えば、肥満もいない。中肉中背で引き締まった身体をしているか、やや
ほっそりとした痩せ型かのどちらかだった。しかしもっと僕の心を捉えたのは、彼らが漂わすその空気だ。
柔らかく理知的な物腰を感じさせるそれは、遥に通じるものがあった。いや、遥の雰囲気そのものだ。
おそらく先の出来事は全て、この人たちには普通の日常に過ぎないのだ。

 それがわかったとたんに、薄ら笑いが顔を覆った。おそらく僕は、コーヒースタンドの店員のような
スマートな対応はできないだろう。老人にも席くらいは譲るだろうが、あそこまで考えて動かない。
つまりは、行為に論理がともなっていない。感情ばかりが行き過ぎている。コーディネーターのくせに。
知能ばかり高くても、それが行動に生かされてないのでは頭が悪いのと同じじゃないか。
僕は人生における劣等生だ。

 これだけの人の中で、僕だけが他人と違うような、孤独感が身を襲った。鮮やかな街並みが急速に
色を失ってゆく。モノトーンの世界に叩き落されたような気分だった。重く地面に目を落としていると、
視界の中に黒いスクエアトゥのヒールが止まった。

「ずいぶん景気の悪そうな顔をしているわね」

 声は、なにがあったかすべて知っているような、透徹した響きを持っていた。鈍く顔をあげると、
遥が満足そうに笑って立っていた。

「……いいものは買えたかい」精一杯の作り笑顔をして、僕は言った。
「ええ、おかげさまで。君のほうもいろいろあったみたいね」
「そうだね、いろいろあった。あとで話すよ」僕が答えると、彼女はそ知らぬ振りで言った。

「じゃあ、お昼も過ぎたし、なにか食べにいきましょうか」
64 ◆SEEDuhvP7. :2007/10/02(火) 21:18:22 ID:???
毎度。いつものように批評は手厳しくお願いします。失笑してください。
次のCで3話は終了です。

ヤバい投下するときマウスを持つ手が震えるw
65hate and war:2007/10/02(火) 22:20:03 ID:???
“Do you love me,mam?”

 俺にはお袋がいない。聞いた話によると俺がガキの時分に戦争で死んじまったそうだ。
 近所の噂では家族を捨てて他の男に走って心中したらしい。
 飲んだくれになった親父が酒瓶抱えてそう愚痴をこぼしていたから、多分それは間違いじゃないだろう。
 故に、俺は母親の愛情というものを知らない。
 親子と言ったって、所詮は甕の中から取り出しただけみたいなもんだ。血が繋がっていようが、赤の他人と変わりがない。
 コーディネーターなら尚更だ。生まれる前から遺伝子をいじくりまわして作り出されたんだから、親子の愛情なんて希薄なもんに決っている。
 なんにせよ、お袋に棄てられたって事実は俺の心に焼印を付けた事は間違いない。
 一生もののトラウマになっているのは確かだ。
 俺はいつも苛々していた。この世の全てが俺を全否定していると思っていた。
 そりゃあそうだろう。母親は不倫の果てに心中、親父はそれが原因でアル中の飲んだくれ。
 そんな家庭で育ったガキがまともに育つ筈がない。飲まず食わずで一週間なんて更にあった。
 俺はこの世の全てに憎悪を抱いていた。
 
 ――あの人に会うまでは。

 プラントの要人であるあの人が、俺みたいな下らない人間に救いの手を差し延べてくれた。
 優しい言葉をかけてくれたし、温かいスープと焼きたてのパンをくれた。読み書きとか色々な事も教えてくれた。

 犬だって三日も飼えば恩を忘れないという。
 俺は人間だ。恩を感じたのなら、それは返さなければならない。
 それが出来なきゃ犬以下の屑になっちまうだろう。
 恩を返す為に俺が出来る事は、あの人の邪魔になる奴を消す事だ。
 あの人はプラントの議長だけど、色々と敵が多い。そいつらを一人一人消す事が俺の仕事になった。
 俺みたいなガキには結構気を許す奴がいる。
 みすぼらしい乞食の真似事をしていると、不細工な優越感を身に纏った奴等がはした金をくれる。
 その中からあの人の敵を見つけるとズドンと引き金を引いたら終わりだ。なんて事はない。
 初めて仕事をした夜、あの人に報告をしたら褒めて貰えた。抱き締めてくれた。微笑んでくれた。
 温かくて優しい笑顔に乾いた俺の心は安らぎを感じた。 俺は知らないけれど、母親の愛情というものを感じた。

 俺はなんでもしてみせる。
 ――あの人の為なら。
66通常の名無しさんの3倍:2007/10/02(火) 22:30:35 ID:???
mamじゃなくてmom
67通常の名無しさんの3倍:2007/10/02(火) 22:39:31 ID:???
>>66
mamでもあってる。

>>65
久々の攻撃的な文章GJ。俺はこっちの方が好きだな。
カケラの方も頑張って下さい。
68通常の名無しさんの3倍:2007/10/02(火) 23:19:15 ID:???
>>GSNT氏
投稿お疲れ様です。
さらに変わりましたね(^^

今回の気になる点ですが。
まず、背景程度の人物のギターはどうでも良いのでは?
それよりも普段はすごく横着してるんだろうなと思わせておいて
さりげなく老人に譲ってキラが驚く→おかしいと思う→周りも確認→考察
のほうがまとまりますよ?
これは話題に対する小さな起承転結でもありますね。
後は何時ものように一つの説明に拘りすぎて話が進んでませんね。
一度、シーンを一行で全てを盛り込む書き方をしてはどうでしょうか?
もちろん1行は35〜40字程度で。
1描写はそれを5〜6行以内で完結させると。
前後とストーリーを壊さずに纏めるのは難しいですよ(笑
69 ◆6Pgs2aAa4k :2007/10/02(火) 23:23:21 ID:???
酉つけ忘れ。>>65は私です。
70通常の名無しさんの3倍:2007/10/03(水) 00:52:49 ID:???
>>GSNT
 投下乙です。
 努力のあとが見られますし、事実かなり読みやすくなりました。
 説明臭かった文章も相当改善されたと思います。

 読者の飽き易さについて。
 基本的にssなので、読んでる人たちはそこまで気が長くないです。
 つまり、一話を四つに分割した投下分についてすら、起承転結を
求めてしまいます。今回の投下は、単純にひとつなぎの内容を
分割しただけのように見えました。
 最初の一行と最後の一行が、読者をひきつけられる内容か如何か、
推敲の手を緩めぬようにしてください。

 どうしてこう言う事を書いたのかといえば、実際の買い物シーンを省いたうえに、
キラのやっていることが日本人観察だったからです。
 お姉さんが何を買ったか描写することで、キャラクターを深めたいのか。
 キラからみた日本人像について、お姉さんと会話させる事で世界観を
描きたかったのか。
 えらくスタイリッシュな日本人像については、そういう場面にでくわした事がないので、
これは個人的な違和感なのでしょう。
 仮にGSNT氏が両方を書くことの出来る文章量を持っていたとしても、
それを全て読者が読むのは時として苦行になる事もありえますのでご注意を。

 ついでに、キラは日本人をよく知らないとしたら、普段はにこやかに接するくせに、
肝心なところでは人を騙まし討ちにして大怪我させる奴ら、とイメージしていても
可笑しくないでしょうから、そこらへんもフォローが居るんじゃないでしょうか。

>>“Do you love me,mam?”
 投下乙です。
 これはまた切れ味の鋭い短編。hateシリーズに珍しく、少年に救いの手が!
と思っていたら其処まで甘くありませんでした。ナイフで心臓を刺された気分。
 どちらのシリーズも好きです。GJ。

追記。秘密のチラ裏見ました。何という百合……!
71通常の名無しさんの3倍:2007/10/03(水) 01:31:16 ID:???
>>四方山話
投下乙
締めが俺の中の艦長像と合致して良い感じ
読む人みんながそうだとも思えないがGJと言っておく

ちょっとだけ艦長が老けて見えるな、台詞回し
ただ色々考えてみたが、回避できないかも知れん
種死では 大人側 のキャラだしな

>>GSNT
投下乙
読むのに努力が要らない、種厨に優しい文体になったw
たった数日で半分出来上がってるものをここまで直した(であろう)事に敬意を表しておく
以前言われていた、提示する情報の取捨択一にもある程度成功していると思う

上の人も書いてるが悪い意味で やおい な文章になってる
通常のやおいと違うのは萌え要素すらない部分
一回投下分の中にやはりオチは欲しい。かなりデカイモノを分割して投下していることをふまえて
あえてこう書いておく

>>hate
投下乙
何か胸にイヤなモノが残る展開
いつものメスト節が戻ってきた感じ。GJ
蛇足だがあの人がわからなかった・・・
――身体が動かない。何が起きたのか解らない。爆発? 地震? とにかく吹っ飛ばされて…
そう。気がついたら辺りは荒野となっていて、俺たちの部隊のキャンプは無くなっていた。
をい。俺の右手…。どうやったらそっちに曲がるんだ? あぁ…耳がキーンってする。
それに、このヒューヒューって耳障りなの、…なんだ。オレが呼吸している音か。
 アバラがイッたんだな。肺に刺さってんな、コリャ…。コフッ。
『シン・アスカ、自分の血で溺れて死す』ってか。
ルナを泣かせた罰ってやつだな。ルナ…ごめんな。よく判んねーけど、俺、死ぬみたいだ…。

ザフトに入隊した時から、いつか“死ぬ”ことは覚悟していたさ。
『人の命を奪う者はいつか自分の命も奪われる』って。真っ当なカタチじゃ死ねないなってさ…。
いや、本当はあの時、月の最終決戦の時に、ザフトのシン・アスカは死んでたはずなんだ。
違うな。あのオーブが爆撃されて俺一人生き残った時、あれは本当は間違いで…あの時に死んでたんだよ。
父さん母さん、マユ、ステラやレイ…、プラントの市民やデュランダル議長。みんな死なせてしまった。
『護る』って言いながら、何も護れなかった。その報いが、今来ただけなんだ。そして…。

『ちょっとぉ、シン!』 『エヘヘ、シ・ン♪』 『大丈夫だよ、シン』 『シン…あたし達って…』
俺は大地に四肢を投げ出した恰好で、ルナを思い出していた。
あの時のルナ、泣いてたよな。なんでルナの顔ばっか思い出すんだ? これが“走馬灯”ってヤツ?

前の地球とプラントの大戦が終結して、俺とルナ…“ルナマリア・ホーク”は、俺の故郷、
地球のオーブ首長国連邦に、降りた。デュランダル議長やレイはあのメサイアで死んだって聞いた。
アスランの計らいで、俺とルナはオーブで新しい生活を始めたんだ。けど…。

いくら“中立国のオーブ”って言ったって、『元ザフトのパイロット』って聞けば、皆、顔をしかめるんだ。
俺のオーブ、故郷だったはずの国は、…俺たちに冷たかった。
そうだよな。俺はあの時、ザフトの“フェイス”として、オーブ軍と戦ったんだもんな。

正直、オーブに居るのが嫌だった。
『大丈夫。あたし、シンとなら少しくらい苦しくったって、辛くたってやって行けるよ。ね?』
アイツ、笑って言ったたけど、前に比べて頬は痩せて、手はアカ切れて…。
そんなアイツを見るのがツラくてさ、んで、なにもしてやれない自分がもっと嫌で。
焦ってたんだな。自分に何か出来ることあると思ってさ。だから…ケフッ。

「…ルナ。俺、オーブ政府が募集している『海外災害復興支援隊』に入ろうと思っている」
「え…?」
久しぶりの会話。あの頃の俺、イライラしてルナにも当たり散らしてたからなぁ。…バカだな、うん。
「…………」
「じ、じゃあ、あたしも…」
「いや。まだ世界は混乱が激しい。内戦や混乱に乗じて悪さをするヤツもいる。
ルナはメイリンのトコでも行って、少しゆっくりした方がいい。最近ちゃんと食べてないんだろ?
…アスランにも頼んでおくから」
「アスランって…。シン!?」
「俺は、作業用のモビルスーツの操縦くらいしか出来ないだろうけど、少しは役に立つだろ」
本音は、かいがいしく俺の世話を焼くルナとも離れたかった。誰も俺のことを知らない場所に行きたかった。
「…シン。本気なの? あの時、オーブに降りた時『オーブで一緒に暮らそう』って!
だからあたしはプラントを捨てて…シンっ!」
「…………」
俺、あの時ルナの眼、見れなかったんだよな。
「いったいどうしたって言うの? シンっ!? 黙ってちゃ解らないって! シン!!」

結局俺はルナから逃げるように、次の日には申請を出して、オーブを出た。
そして各地を転々として『1年』、…かぁ。
どうだよ、シン? お前の望み通り、誰も知ったヤツがいないトコで独り、最期を迎える気分は?
やけっぱちで自問してみる。答えは…いかん。頭が廻んねーや。ハハ…、ゴホッゴホッ!

…そういや、さっきのあの光、なんだったんだろな? 雲がパッと散って、北の空に光の帯が墜ちて来て…。
数秒後に衝撃波が来て、俺は嵐の木の葉のように吹っ飛んで…。
…………。あの光、見覚えがあるような…『レクイエム』? まさかな…。

どうでもいいか。もう目が霞んできたし、なんかすっごい眠いや。
…あれ? お前…マユ? マユなのか? それに…ステラっ? 会いたかったよ、マユ。ステラ。
迎えに来てくれたのか? …なんだよ。久しぶりに逢えたんだから、笑ってくれよ。
笑えよ。俺の馬鹿っぷりを…さ。アハハ。

さっきまで身体中がめちゃくちゃ痛かったのに、今はもうなにも感じない。
あれ…もう夜か? えらく真っ暗…だ…な。は…ぁ。ルナ…さよ、な…ら。ゴメ、ンな…。

……
…………
……………………


「……。……っ! …$○△£※っ!!」
……なんだ? なんかうるさいな。人がゆっくり眠ろうとしてんのに…。
「……#@…ろっ。…☆ぬな! 目を…◇∈ろっ!」
もう天国なのか? …天国って、やけに騒々しいな。女の声? 天使ってヤツか? うるさいな。俺は眠いんだよっ。
…んなっ!? 痛っ? 痛い痛いぃっ!! 誰だよっ、この俺を殴るのわっ!!
いい度胸してんじゃねーか。こう見えてもザフトのアカデミーを優秀な成績で卒業したんだぞっ。その俺を…っ!!

「――のっ。死にたくなかったら目を覚ませっ。このバカぁっ!!」
ピクッ。
眠いのに。『このバカ!』って科白に反応してしまった。バカって言うヤツがバカなんだっ!!
思いっきり100倍にして言い返してやろうとして、瞼を無理矢理開け…。そこまでだった。
「(…ろ…テメ…)」
くそっ。口が上手く廻らない。霞む俺の視界にボンヤリと女の姿が見えた。
お前か、この野郎! いや、女だから『野郎』じゃないな。…はて? この女、どこかで見たことあるような?
「おいっ。気がついたか? しっかりしろっ。お前は生きている!。生きているんだぞっ! おい救護班!!」
「…………」


これが俺と、あのコニールとの再会だった…。


          続く
75女神が… ◆w43rHqzb0U :2007/10/03(水) 02:34:01 ID:???
編集長、まとめの方、そして皆さま、お久しぶりです。久々に投下いたします。

なんだ、この話? と、思う方はまとめの方の『女神が住まう…』を見ていただけると。

まだ、どの文体で書けば一番いいか模索中です。

すいません。生温かい目で見てやって下さいませ  orz
76通常の名無しさんの3倍:2007/10/03(水) 20:41:32 ID:???
>>75
擬音の処理が上手くないわね。
「ケフッ」とか「ゴホッゴホッ」とか、ネタというかギャグとしてはそれなりに面白かったわ。
記号の使い方も素敵だわ。ププーッて吹き出しちゃったわよ。
頬は痩せるのではなくて痩ける(こける)ものだと思うのだけれど、貴方はどう思う?
「(…ろ…テメ…)」の部分で括弧を使用したのは何故?
主人公の独白のみで話を進めているのだから括弧を使用する必要性を感じられないわ。
句読点の処理について口を挟むつもりは無いわ。主人公の独白のみで話を進め描写を
しないと云う文体なのだから、主人公の息遣いをリアルに感じさせる効果を生み出していると
思うわ。狙って読点を多用していているのよね?
三点リーダーはねえ……注意する気に慣れないわ。散々既出なんですもの。

文章で気になったのはこんな感じよ。上手いか下手かを尋ねられたら困ってしまうわ。
色々な文体を試してみて自分に合った文体を探してみてね。

ここからはストーリーテリングについてね。
物語って起承転結が大切なのよ。私は結びの部分は嫌いじゃ無いわ。
ただ、説明すらない潔い文体故に中盤が判り難くなっていると感じたわ。
話を作るって難しいのよねえ。

総評としては「自分のSSを宣伝するには良いんじゃない?」かしら。
きっと説明不足な部分は本編を読めば理解出来るのだと思うわ。
77通常の名無しさんの3倍:2007/10/03(水) 20:45:55 ID:???
職人諸氏投下乙。
批評の前に描写と説明の話をしようか。
「キラは寒いと思った」
この文章はただの説明。
「キラはかじかんだ手に息を吹き掛けた」
この文章は行動を描写する事で寒いという事を匂わせている。
まあ、描写というものはこんなに簡単なものじゃないんだがね。

>>GSNT
手厳しくいこう。キャラクターの行動原理が全く解らん。
キャラクターに対する描写が無さ過ぎてキャラクターの輪郭が分かってこない。
買い物をするという話ならキャラクターの嗜好などが見えて来てもおかしくないのだがね。
文章が説明的で無味無臭だから読み手は飽きてもおかしくないぞ。
もう少し描写てする事を心掛けるべきだな。
展開などは優しい人や辛口の親分と重複するから割愛。
更なる精進を期待する。

>>hate
毒の含んだ攻撃的な文章はわりと好みだ。短い中で上手く起承転結を作る技量は称賛に値する。
タイトルはエヴァからと見せかけておいてハートブレイカーズか?

主人公はタリアの息子、母親はタリアであの人はラクスだな。
内容は色々と深読み出来るが、主人公によるタリアヘイトと見せかけておいて、
主人公に優しい言葉をかけてヒットマンに仕立てあげたラクスヘイトとみた。

色々とトラップを仕掛けて上っ面しか読み取らないで粘着する奴を嘲笑ってそうな気がするが俺の深読みし過ぎか?
もし俺の読みが当たってたら二人してそうとう性格悪いな。

次の投下を楽しみにしている。

>>女神
もうちょっとまともに描写をしよう。
耳がキーンとしたなら耳鳴り、ケフっとしたなら咳き込んだ。
擬音も悪くはないが、流石にこれではギャグ以下だ。
一人称だったらまともに描写出来ないとまずいぞ。
文体はこれ以外の文体が良いと思う。
更なる精進を期待する。
78河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/10/03(水) 21:13:14 ID:???
Let's Dance!


「みんなでフォークダンスを踊りましょう」
 そう言い出したのは、ただの歌姫からプラントのトップへと一気に駆け上ったピンクの髪の女だ。
「みんなで歌って踊れば、明るく楽しく平和になりますわ。マイムマイムなんて良いですわね」
 とか、寝言は寝てから言えってんだ。

 だが、そう思っているのは俺だけのようで。
 俺の周囲では次々と手が繋がれて、気がつけば大きな輪ができていた。
 向こうの方にはラクス・クラインやアスハやアスランが手を繋いでいた。
 テレビでしか見たことのない、最高評議会議員たちもいた。
「シン、あんたも早くいらっしゃいよ」
 そう俺を呼ぶ声の方を見ると、ルナが輪の中で手を振っていた。

 正面の巨大モニターには、マルチでプラントのあちこち様子が映し出されている。
 その全てに、同じように手を繋ぎ、輪になった人々が映し出されている。
 その中の一つに見知った顔を見つけた。
 ガルナハンでレジスタンスをしていたコニールだ。
 ……ってことはこの状況は既に地球にまで広がってるのか?

 輪になった人々は笑っていた。
 大人も子供も男も女も、生まれも育ちも肌の色も、偉い人も下っ端兵士も、何も関係なく
手を繋ぎ、笑っていた。

 音楽が始まった。
「シン、早くっ!!」
 ルナがもう一度俺を呼んだ。
 メイリンもヴィーノもヨウランも笑っている。

 俺は大声で叫んだ。
「いったい何なんだーっ!!」


 叫び声で目が覚めた。
 のろのろとベッドから起き上がり、カーテンを開ける。
 窓ガラスの向こう側に手を繋いでいる人はいない。
 音楽も、聞こえない。

 世界はまた少し変わろうとしている。
 俺はまだ踊れそうにはない。
79河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/10/03(水) 21:20:44 ID:???
「Let's Dance」は「 In the World, 〜 」 とは関係のない話です。

先週マイムマイムと書いてから、頭の中でマイムマイムとオクラホマミキサーが
ずっと鳴ってまして…気がついたら書き上げてました。
80愛と悲しみの歌姫 ◆O7lNelWh.I :2007/10/03(水) 21:22:13 ID:???
「良識あるプラント市民は即座にラクス・クラインバッシングを始めたわ……私も含めてね。
彼女には天使の歌声があったにも関わらず、破廉恥にも肩を露わにして体のラインが露わな
恰好をしたのですもの。楽曲も耳障りな物だったし、誰もがラクス・クラインは堕落したと
思ったのではないかしら。そりゃあザフトの軍人さんには受けは良かったでしょうよ。
彼らは死と隣合わせの生活を送っているんですもの、セックスシンボルを欲していたのでしょうね。
だからといってラクス・クラインが娼婦紛いの恰好をして殿方に媚びを売って良い理由には
なりません。
シーゲル・クラインが哀れに思えて仕方なかったわ。
……後にアレが偽物だと判ってほっとしたわね。ミーア・キャンベルと言ったかしら、あの女は。
噂では余り育ちの良くない人間だと聞いたけれど、それに間違いは無いわね。でなければ
年頃の娘があんなふしだらな恰好は出来ないもの。時代が時代なら修道院送りだわね。
ああ、今でも思い出すだけで寒気がするわ。あれほど女性の尊厳を冒涜した人間は
許されるべきでは無いわね」

(プラント某市民団体代表のインタビューより)「シーゲル・クラインの娘」としてプラントで認知されていたラクス・クラインの
豹変振りはプラントでは余り好ましくは思われていなかった。当時の議長ギルバート・
デュランダルは批判的な意見を意図的に封じ込めてはいたものの、それ故に却って
反発を強めて行った。ギルバート・デュランダル失脚後にミーア・キャンベルバッシングが
熾烈を極めたのも当然と言えよう。彼女はギルバート・デュランダルを叩く為の素材と
しては非常に優れていたからだ。
だが、果たしてミーア・キャンベルにどんな罪があったというのだろうか?
彼女はラクス・クラインの名を利用し世論をデュランダル寄りに動かそうとしたという
痛恨のミステイクを冒したものの、基本的にはザフト兵士に対する慰安活動を主体に
行っていた。彼女の笑顔で安らぎを得た兵士はどれだけいただろう。彼女の歌声で
勇気を得た兵士はどれだけいただろう。
彼女の功罪の「功」の部分について語られる事が
無い現在の状況に違和感を覚えずにはいられないと思うのは間違っている事なのだろうか。

『愛と悲しみの歌姫』より抜粋
81愛と悲しみの歌姫 ◆O7lNelWh.I :2007/10/03(水) 21:24:24 ID:???
第三話

待ち望んでいた言葉。
左手の薬指に填められ柔らかな乳白色の真珠の指輪。
唐突なプロポーズにラクスは目をパチクリさせてディアッカを見上げた。
ディアッカは緊張しているかの様な鋭い視線で真摯にラクスの瞳を真っ直ぐに見つめている。
いつもの優しい笑顔とは違うディアッカの表情に、ラクスは思わず息を飲んだ。
嬉しい筈なのに喜びの声が出て来ない。どうして良いか判らずにラクスは目を伏せた。
「やっぱり唐突だったかな。ゆっくり考えて答えを聞かせてくれ。俺は待ってるから」
ディアッカはラクスの髪を一房掴み愛おしむ様に撫でると、ゆっくりとした足取りで
部屋を後にしようとしていた。ディアッカの背中は何故か悲しい位大きく見えた。
何故素直になれないのだろう。以前のラクスなら無邪気にディアッカの胸に飛び込んでいただろう。
不意にラクスの頬に涙が伝った。涙なんてプラントにいた時に枯れ果てたと思っていたのに。
ラクスは服が汚れるのも構わずに袖口で涙を拭った。黒く滲んだ後が付いたのはきっとマスカラだろう。
服なんてクリーニングに出せばある程度の汚れは落ちる。けれど、ラクスが素直にプロポーズを
受け入れなかった理由は判らなかった。
リビングで涙を流すシチュエーション。
方向性は違えどラクスはそれをプラントで何度も経験していた。
名ばかりの議長職に押し込められ笑顔でいる事のみを強要されていたラクスは独りきりの
部屋でいつも泣いていた。
悲しいから泣くのではない。寂しさに飲まれそうになるのが怖くて泣いていたのだ。
エアコンの設定温度位なら譲歩出来ても、感性の違いから生じた差異を埋める事は難しかった。
仕事に没頭し家庭――結局は籍を入れずにいた事が幸を奏した――を省みる事の無い人間を
独りきりで待ち続けるのは辛かった。
二人でダブルベットに寝ていても相手の体温すら感じる事が出来なったのは悲しかった。
二人でいても癒されなかった孤独はどうしようも無く、自分の涙で心の渇きを癒そうと必死だった。
しかし、涙では乾いた心を潤す事は出来るはずも無く、ラクスは闇雲にもがいていた。
ディアッカはそんなラクスの心の闇を吹き飛ばしてくれた。ラクスを一人の女の子として
扱い、生きる喜びと沢山の可能性をラクスに指し示してくれた。
「私は……私は……」
ラクスは虚ろな視線で指輪を見つめた。白い輝きに飲み込まれるように、ラクス の意識は白い闇に飲み込まれていった。
82愛と悲しみの歌姫 ◆O7lNelWh.I :2007/10/03(水) 21:25:52 ID:???
ラクスが目覚めたのは日付が変わるか変わらないかといった頃だった。低血圧のせいか
寝覚めの悪い頭を大きく振りつつ辺りを見回すと、テーブルの上にはすでに冷めきった
料理がラップも掛けずに置かれていた。
「またやってしまったのですね、私」
キラの帰りを待ちくたびれていつの間寝てしまっていたのだ。ラクスは溜め息を吐きつつ
料理をシンクまで運んだ。
今日の夕食はラザニアとタコのカルパッチョとミネストローネ。美味く出来たと思っていたけれど、
今日も無駄になってしまった。捨てるのは勿体無いとは思うが仕方がない。
ラクスは瞳に暗い炎を宿らせ料理をシンクへとぶちまけた。食材を無駄にする罪悪感は
無い。料理を取っておいても自分の他には誰も食べてくれやしないのだ。
「馬鹿みたいですわね、私。いつも同じ事を繰り返して進歩してない」
ラクスは唇を歪ませ自嘲した。キラの帰りが遅いのはいつもの事。食事の準備をしても
仕方が無いのに。
ラクスは先程まで見ていた夢に思いを馳せたが、一緒にいた誰かの顔は思い出せなかった。
どうせ、他愛のない夢だったのだろう。ラクスは気を取り直して食器を洗い始めた。
「只今」
ドアの開く音と共にキラの声が聞こえる。しかしラクスは気にせずに食器を洗い続けた。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。キラの足音すらも不快に感じられて、ラクスは舌打ちをして
込み上げてくる衝動を押さえようとした。
「ラクス、いるんだろ! 僕が帰って来たのに何故出迎えないんだ」
キラの刺々しい声はラクスの心をささくれ立たせる。しかしラクスは感情を抑えられない子供ではない。
「ごめんなさいね、キラ。洗い物をしていたから気付きませんでしたわ」
クスクス笑いながら後ろへ振り返ると、眉間に皺を寄せ鋭い視線でラクスを睨み付ける
キラの姿があった。
「疲れているのでしょう? 早く休んだ方がいいですわよ。きっと明日も忙しいのでしょうからね」
いくら睨みまれても気になどしない。感情的になってもしょうがない。不必要に言い争っても
互いに傷付け合うだけだと判りきっている。
「私も明日はスケジュールが一杯ですもの。先に休ませて頂きますね」
ラクスはキラの顔を敢えて見なかった。だが、キラとすれ違う瞬間にキラから漂ってくる香りを見逃しはしなかった。
いつもとは違う香り。きっとまた相手を変えたのだろう。柑橘系の甘い香りだった。
83愛と悲しみの歌姫 ◆O7lNelWh.I :2007/10/03(水) 21:28:34 ID:???
また、相手を変えたようだ。今までは上品なラベンダーの香りだったのに。
移り香を隠し切れないなら火遊びなどしなければいい。初めの頃は誰かに取られる位なら
自分の手でキラを殺したいとも思ったが、そんな感情はいつの間にか消え失せた。
きっと傷付く事に慣れてしまったのだろう。それは人間として悲しい事なのかも知れない。
寝室に入るとラクスは服を脱ぎ捨てた。ダブルベッドは今のキラとラクスには広すぎて
互いの体温すら交わらない。しかし、ラクスはキラの体温など感じたいと思わなかった。
他の誰かを愛した手で触れられても嫌悪感と嫉妬が体を駆け巡るだけだ。
ラクスは布団にくるまるや否や顔を枕に押し付けた。枕がうっすらと湿って行く。
――こんな事、慣れているから。私、大丈夫だから。
悔しくて泣くのではない。悲しくて泣くのではない。明日を生きるために泣くのだ。
「ラクス、寝ているのかい?」
キラがベッドに入ってきた。ラクスは返事を返さなかった。プライドが許さなかった。
「さっきはごめん。仕事が忙しくて疲れていたんだ。ラクスなら判ってくれるよね――お休み」
キラがラクスの髪を優しく撫でて来た。ラクスは屈辱に耐えるように歯を食いしばった。
暫くすると隣から寝息が聞こえて来た。後少ししたらそれは煩い鼾になるだろう。
不意にラクスは布団から起き上がり自分のクローゼットへと向かった。扉を開け取り出したのは
ファブリーズ。キラに染み付いた見も知らぬ女の香水の香りなど嗅ぎたくなかった。
気付かれぬようにファブリーズをキラの顔に向けて噴射した。キラはムニャムニャと寝言を
言っている。ラクスは続けて部屋中にファブリーズを噴射した。思わず笑いが込み上げて
来たので笑い声をかみ殺すのに苦労したが、我に帰った頃には移り香は消え失せていた。
キラの鼾は不規則で心臓に悪い。ラクスは何度キラの口をガムテープで塞ぎたくなっただろう。
ガムテープを使えばキラを起こしてしまうので、ラクスはキラの鼻を摘む事にしている。
これならキラに気付かれても問題ない。キラの寝顔が余りにも可愛らしかったからとでも
言って誤魔化してしまえば良いだけだ。
幸運にもキラはラクスが鼻を摘んでも目が覚めなかった。キラは寝苦しそうに寝返りをうった。
キラが静かになったのを確認して、ラクスは再びベッドに寝転がる。
いい気味だ。ラクスの表情は自然と綻んだ。
84愛と悲しみの歌姫 ◆O7lNelWh.I :2007/10/03(水) 21:30:22 ID:???
寝覚めは最悪だった。ラクスが気付かぬのを良いことに、キラがラクスの頭を優しく撫でて
いたのだ。
「おはよう、ラクス。やっと目が覚めたのかい?」
キラの笑顔を見ても、今のラクスには何の感慨もない。沸き上がるのは不快感だけだ。
ラクスは粗雑にキラの手を払いのけた。キラにだけは自分の体に触れられたくなかった。
「今日は忙しいので、先にシャワーを浴びて来ますわ。構いませんね?」
ラクスはキラをベッドに置き去りにしバスルームへと向かった。キラの返答など聞く気すらない。
脱衣所に着くやラクスは身に付けていた下着を洗濯機に乱雑に放り込んだ。バスルームに
入ろうとした瞬間に鏡にラクスの顔が映った。眉間にうっすらと皺が出来ている気がした。
「――全てキラのせいですわ。キラに人の心があれば私の眉間に皺などできなかったのに」
ラクスは怒りに任せてシャワーの蛇口を捻った。心地よい熱さが気持ちよかった。
ラクスはシャンプーを髪に馴染ませると鬼気迫る表情で一心不乱で髪を洗い始めた。
――キラに触られたのだから念入りに洗わなきゃ。穢れた部分は念入りに洗わなきゃ。
けれどラクスがいくら入念に洗っても穢れはそう簡単には取れないように思えた。シャンプーでは足りない。石鹸だ。ラクスは石鹸を手に取り泡立てた。泡を髪全体に擦り付けて
必死に穢れを洗い去ろうとした。髪の毛の手触りがきしきしとしたが、その分綺麗になって
行くような気がした。続いて顔、体。ラクスが満足するまで洗い続けた頃には擦り過ぎた
肌は赤みを帯びていた。ヒリヒリと痛むような気がしたが、ラクスはキラに勝った気がして
嬉しかった。沸き上がる笑い声はシャワーの音にかき消されてキラには届かなかった。
風呂から上がる前にラクスは洗面器に湯を張った。石鹸で洗い過ぎた髪をどうにかしなければ
ならない。ラクスは隅に置いてある紫色の液体の入ったボトルを手に取り洗面器に少量垂らした。
ブルーベリー酢。酢を使って髪を中性に戻すのだ。ただの酢では色気が無いので
ラクスはブルーベリー酢を愛用している。
髪を洗面器の中に浸す。きしきしとした感触が無くなって行くのが実感できる。
最後に髪に付いた酢をしっかりと洗い流してラクスはバスルームを後にした。
ネル生地のバスローブを羽織り髪にタオルを巻き脱衣所を出ようとしたら、キラとすれ違った。
キラは何か言いたげに見えたがラクスは黙殺する。キラの声を聞きたくなどなかった。
85愛と悲しみの歌姫 ◆O7lNelWh.I :2007/10/03(水) 21:32:48 ID:???
投下終了です。
ちょっと時間が空いてしまったので、自分のSS覚えている方はいらっしゃらないかも
知れませんね。
次の投下は出来るだけ早く出来たらいいなと思います。
86通常の名無しさんの3倍:2007/10/04(木) 03:14:57 ID:???
>>hate
今更ながらに気付いた。“親子と言ったって、所詮は甕の中から〜”は孔融だな?
アンタのSSは読んでて気を抜けないのが改めて思い知らされた。
GJと言わせて貰う。
【アバンタイトル】

「重い風だな。舵がろくに利きやしない……」
 愚痴は機体をきしませる風にかきけされた。
 黒き波のように暗雲がうねり、大洋のごとく視界の果てまで続く。しかし単機飛行中に敵へ
姿をさらしたくはなく、雲からはなれることができない。
 荒れ狂う空においては、巨人を格納する輸送機も嵐に翻弄される小舟と変わりなかった。
不規則な風に乗せるため、操縦は熟練者の技量にたよるしかない。渦を巻く熱帯性低気圧に
飲み込まれないようするには一苦労だった。
 操縦士が口を開け、低くうなった。獣のように大きく顎を開いたあくびだった。
「地球に来てからずっと、飛びっぱなしですからね。でも、明け方にはあちらさんの基地につき
ますよ。そのままシーツの白いベッドに直行しましょう」
 副操縦士がいたわったが、操縦士は口を閉じて何も答えない。副操縦士は一つ小さなため
息をついて、機体前方に視線を戻した。そして首をかしげる。
 雲間に一瞬、光が漏れた。稲妻でも月でもない。墨を流したように黒い視界に、一粒の黄金。
気づいた時には操縦士が方向舵ペダルを踏みこみ、操縦桿を倒していた。副操縦席の操縦
桿も連動して倒れ、副操縦士が状況を確認する間もなく機体は大きく右にかたむき、かつて
輸送機が存在した空間を光線が横切った。稲妻の光ではない。
「ビーム?!」
 驚く副操縦士を操縦士が一喝する。
「黙ってろ!」
 輸送機は速度を上げ、攻撃をさけようと上下左右に機首を振る。重い人型兵器を二体も
抱えているので、まともな回避運動はできない。だが幸い厚い雲では互いにレーダーや目視が
効かない。事実、ビームは最初の一撃を除き、遠くをかすめて雲を蒸発させるだけだった。
 輸送機が蛇行を続け、ようやく東の空が白々と明るみ始めたころ、操縦桿から手を離して
操縦士が一息ついた。自動操縦に切り替えた輸送機は、進路を変更してオーブ辺境の離島
発着場に向かう。残りの燃料を計算すれば当然の判断だった。
「何だったのですか、あれは」
 憔悴した副操縦士の問いに、操縦士が答える。
「おおかた、ただの亡霊さ」
 ため息をつき、操縦士は後ろを振り返った。敵の追撃を恐れてではなく、格納庫の様子が心配
だったからだ。きっとナチュラルとコーディネイターの夫婦が喧嘩したような荒れ具合だろう。
「だって、あちらとの戦争は終わったのですよ。終わったばかりなのですよ」
「きっと自分が死んだことに、気づいてもないんだろうよ」
 そして操縦士は急に興味を失ったように眼をこすり、ひときわ大きなあくびをした。
「なぜ今、あれが出てくる必要が……」
「凱歌でも唄いに来たのだろうよ。母国の勝利を祝いにな。あるいは、呪いにかもしれんが」
 先ほどかいま見えた金色の輝きが脳裏をよぎる。
 雲間に見えたそれは、黄金に輝く巨人。軍最高指揮官と国家主席を兼任する首長を賞揚し、
守護するために建造された世界最後の偶像。
 彼らが今、共同戦線を張ろうと向かっている国の兵器、アカツキだった。
 ギルバート・デュランダル議長は倒れ、後を引き継いだプラント政権は早々に地球連合との
和平を結んだ。
 地球連合が全ての責任を軍産複合体ロゴスになすりつけることで大戦終結への一歩を踏み出
したように、プラントもまた前議長派へ罪科を押しつけて和平交渉の一端をつかんだのである。
 レイ・ザ・バレルとタリア・グラディスは、死したデュランダルをいたわるように要塞の中に残った。
要塞は崩壊しつつ月に落下し、その衝撃は月面各都市にまで地響きを轟かせた。
 勝者となったキラ・ヤマトやアスラン・ザラ、ラクス・クラインは、彼らなりに世界の秩序を再建
しようとしているという。
 ネオ・ロアノークは地球連合へと出頭。記憶喪失を主張しての精神鑑定は退けられたが、
エクステンデット関連の情報開示で司法取引を行ない、ロゴスとの直接的な関係はないとして
死刑はまぬがれた。ロアノーク元大佐の告発により、稼動を続けていた強化人間関連の研究は
大部分が打ち切られ、幾人かの実験体が救われたという。
 カガリ・ユラ・アスハはオーブ首長の立場で宇宙と地球の間を取り持ち、講和を助けた。口さが
ない者にいわせれば漁夫の利をとった格好ではあったが、各勢力に公平な利益がもたらされる
ように尽力したのも確かなようだ。ちなみに乗機であるアカツキは、しばらく使用される見込みが
ない現在、首都近郊の基地にて厳重に整備保管されている。そのはずだった。

 真空の宇宙ですら感じられた砲声がやみ、打ち捨てられた兵器は高速で舞う宇宙塵に砕かれ、
戦の痕跡は全て塵芥に還ろうとしている。
 地球の夜空にはいつも流星が降り注ぐ。流星の実体は戦災で生まれた廃棄物であり、天に
向かって祈りをささげる子供に大人は悲しみ、しかしかける言葉はなく沈黙するしかなかった。
 大気圏に落下した廃棄物のほとんどは海に落ちたが、まれに都市に落ちることもあり、大きく
明るい物は日中の砂漠ですらも観測できた。
 砂漠には、撃破され打ち捨てられた戦闘車両の砲塔が無数に屹立し、虚空に照準を合わせ
ながら錆ついている。
 撃沈されたり、戦闘不能と判断され自沈などした軍艦は、回収される見込みもないまま海底で
眠り、その油臭い体内に無数の魚を飼っている。流れ出た食料や衣類が海岸にうちあげられる
こともあり、孤児や難民の糧となった。
 人型をした兵器群もまた、海に、山に、街に、宙に、屍をさらしている。
 鋼の体は崩れ落ち、鉄の翼は朽ち果てた。世界は今ひとたびの平穏を取り戻したかに見えた。
 だが、全ての闘争が収束するには、あまりにも人は戦の世に慣れすぎていた。全ての戦火が
絶える日は、未だない。
 しかし始まりがあれば終わりはある。
 オーブ首長国連邦。群島からなる小さな軍事技術立国に、さまざまな立場の敗北者が集結し
つつあった。大戦の完全なる終結に向かうため。そして自らの敗北を抱きしめるために。
 小さな窓が並ぶだけの殺風景で狭い廊下を、赤毛の少女が後頭部を押さえつつ歩いていた。
 突然の衝撃に寝台からはねおき、そのまま転倒した痛みに顔をしかめながら、同僚の名前を
くりかえし呼んでいる。すでに戦闘は終わっていたが、ずっと同僚の姿が見えないでいるのだ。
「まったく、どこいったのかしら。さっきの揺れに気づいてないわけないし」
 少女は嘆息し、窓に写る景色を見た。水平線の先にいくつかの小さな岩影がある。オーブ連邦
を形成する諸島の一つだ。気づけば、輸送機はずいぶんと高度を落としていた。
 最東の島からは幾筋もの煙が雲より高くたなびいている。戦場が近い。ほんの少し前まで、
しばらく見ることのない光景だと思っていた。二度と見ることはないように願っていた。だけれど、
こうして目の前にすれば、体は火照り、肌が粟立つ。
 あまり多くのことを同時に考えられる性質ではないのだ。戦っている間はきっと、たくさんの嫌な
ことを忘れていられる。祖国のことも妹のことも気にしないでいられる。
 地上の空気に乾いたクチビルを、ちろりと舌で湿らせた。

 静かな薄闇から、少年は静かに目を開けた。
 振動と傾斜から着陸が近いと肌に感じる。通信機からも乗組員や同乗する兵員への勧告が
聞こえる。戦闘に備える必要はなくなったようだ。
 そもそも、寝台から脱け出て格納庫に向かったのは、奇妙な気配を感じたためにすぎない。
実際に敵と接触したのはずっと後のことだ。勝手に行動したことを知られるのはさけたかった。
それでもなぜか、少年はコクピットから出る気が起きなかった。同僚と顔を合わせる気まずさに
耐えられないわけではないが、不思議と気分が穏やかでいられるのも確かだった。
 ぼんやりと光る正面のモニターで、白い塔が一直線に空まで続いている。輸送機の外部カメラ
から得ている映像だ。あまりに遠くて映像は霞がかかり、基部は水平線に隠れて見えない。二年
前に破壊され、先ごろ再建されたマスドライバーだ。
 戻ってきた。帰るべき家こそないけれど、休戦しているとはいえ敵国だけれど、もはや宇宙にも
居場所はない。みじめでない死に場所を選ぶなら、この島こそがふさわしい。
 命の重さを量る機械があるなら、自分の重さはゼロだと思う。
 あの島には戦うべき敵がいる。自分と同じように一度たどりついた場所から転落し、生ける屍
となった男が。屍ならば死んでいるのが道理。戦って互いに命を落とすのが自然なはずだ。
 少年は思った。外界を遮断したいかのように、人型兵器の操縦席に身体をあずけながら。
【Aパート】

 オーブ辺境の港に、いくつもの軍艦が係留されていた。
 オーブはもちろん、地球連合やザフトの艦までが肩を並べている。沖合いには、巨体のため
入港不可能な艦がさらに多く浮かんである。
 その沖合いに停泊するザフト艦の一隻、宇宙両用艦独特の形状をした艦橋で、艦長らしき男が
女性オペレーターから報告を受けていた。
「ええっ、ホーク君たちが攻撃を受けたって? 状況は、二人は無事なのか」
 うろたえるアーサー艦長に、アビーが淡々と報告を続ける。
「落ちついてください。輸送機に戦闘による障害は発生していません。モビルスーツは検査中です
が、不具合があるとしても整備小隊の能力で対応できる程度とのことです」
「二人はどうしてるんだ、顔も見せないが」
 すでに上官でも部下でもないので顔をあわせる義務こそないが、昔に得た関係を活かせば作戦
行動が楽になるのも確かだ。軍隊といえども構成するのは人間である。コーディネイター同士でも
信頼関係は重要だ。
「シン・アスカは無断でモビルスーツに搭乗した件で出頭しています。ルナマリア・ホークは頭部に
軽症を負ったそうですが、大事ありません。すぐ二人とも前線に投入されるそうなので、艦長が
連絡を取るとしても戦闘後になるでしょう」
「そうか、良かった。いや良かったといえる状況ではないが、それでも無事で良かったよ」
 アーサーは一息ついて、帽子をかぶり直す。
「もう、仲間がいなくなるのは勘弁してほしいね。戦争は終わったんだから」
 目をやる周囲に人影は少ない。人手不足のため、自国でなくても、戦闘を間近にひかえていても、
停泊中に人員を割くことは難しかった。シンやルナマリアは同じ戦いをくぐりぬけて生き残った、
数少ない戦友だ。
 いや、生き残った者でも道を違えた者は少なくない。シンの上官であったアスラン・ザラ隊長や、
ルナマリアの妹であるメイリン・ホークは戦争のさなかに敵勢力に渡った。休戦して以降、一度も
顔をあわせていない。
 アビーは首をふった。
「お言葉ですが、まだ終わったとは言いきれません。」
 艦正面に見える孤島へ目をやる。戦闘による煙が黒く立ち昇り、山の稜線が赤々と燃えている。
ロゴスに協力したがゆえオーブ主流派からはじかれた勢力が立てこもり、戦闘を続けているのだ。
「あれだけの愚かしい戦いを経験したばかりなのに、まだ何を争おうというのでしょう。今のオーブ
に攻め入ったところで、全く戦略的価値はないというのに」
「ロゴスの残存勢力や関係国家に、多少なりとも健在を喧伝するためなんだろうね。勝利は考えて
いないと思うよ」
「状況を無視して遊撃隊を操る勢力なんて合同で叩き潰さなくても、放置しておけば良いではない
ですか。時間と労力の無駄です。どうせ困るのはオーブだけでしょう」
 女性通信士らしからぬ独白を聞き、アーサーは少し驚いた。
「ああ、公の場で、そういう無茶いわないで」
 そしてアーサーは顎に手をやってしばし黙考し、答えた。
「道理にあわないんだよ、きっと」
 疑問の表情を浮かべて振り返ったアビーに、アーサーは説明を続ける。
「我々は戦った。政治的に安定した状況を取り戻し、国家の利益とするために。これはどの国でも
だいたい同じ事情だったね」
 しかし最終的に勝利したのは、理想論をかかげる一勢力だった。それどころか、最後に勝敗を
決する戦闘に関わった者の全てが思想的な何かを抱えていたように思えた。アーサー自身は、
ついていけないものを感じていた。
 そして職業軍人として戦いの帰趨に全く影響力を与えられなかったことに、奇妙なわだかまりを
持っていた。世界に対する無力感、とでもいうべきだろうか。
「だから今度だけ。一度だけでいい、勝たなくてもいい、どのような政治的圧力にも屈さずにすむ
ような、明確な敵を相手にした戦いがしたいんだよ。きっとみんながね」
「……僭越ながら、艦長も、なのでしょうか」
「いや、私は。戦わずにすめば最高だと思うよ。こういうのは弱い相手をいたぶってて、まるで
リンチをしているようで好きじゃない」
 アビーの視線から逃げるように、アーサーはオーブ首都の方角へ振り返った。
「シン君にとっては、かつて拒絶された故郷か」
 国家の誇りにつきあわされ、家を失い、家族を失い、戦いを職業としないとしない未来を失った。
復讐の相手すら、あらかじめ奪われていた。
 今さら取り返すには、あまりに多すぎる。だが、ほんの少しだけでも代わりになるものを願うのは、
少年の高望みだろうか。

 ルナマリアはディステニーを一瞬ロックオンし、解除した。
 すぐに現地の指揮官から小言が返ってくる。格納庫内では物理的に安全装置をかけているので
誤射の危険性はまずないが、ビーム兵器とはいえ暴発の可能性がないわけではない。もちろん
ルナマリアにはわかっている。だけどなぜかディステニーに搭乗するシンを見た瞬間、攻撃したい
衝動に駆られた。この感情を何ととらえればいいのかわからない。確かなのは戦場に帰ってきた今、
忘れかけていた気持ちが呼び起こされたということ。何もない月面で、すがりついて泣くみじめな男
を見た瞬間に覚えた感情。
 しかし一方で今のシンはルナマリアに何の情動もぶつけてこない。現に、ロックオンを笑ったり
許したり責めたりする通信がディステニーから来ることはなかった。最後の調整を終えた整備士が
機体各部から離れると同時に、ディステニーはハンガーから離れて格納庫の外へ出ていく。帽子を
振る整備士達に返礼する様子もない。月面で涙とともに感情の全てが枯れはてたかのように、
今のシン・アスカは厚い殻に閉じこもっている。
 ルナマリアもフォースインパルスをハンガーから離し、帽子を振る整備士達に儀礼的な発光
信号を返す。ルナマリアにとって形式的な行為は難しくない。シンとも見た目は完璧に協力して作戦
行動を取れるだろう。
 ディステニーは折りたたんでいた翼を広げ、静かに滑走路の中心に向かって歩く。整備は万全の
ようだった。ディステニーは周囲に障害物のない場所で静止し、インパルスが追いつくと同時に
上空を見上げた。太陽は天頂にあり、南国の深すぎる青空が黒々として見える。
 ディステニーとインパルス、どちらも複数の戦闘をくぐりぬけ、一定以上の信頼と性能が約束され
ている。ゆえに、わざわざパイロット二人とともに最後の前線へと運ばれた。
 量産不可能な兵器など、本質的に存在しえない。そして一度の戦闘で激しく損耗する兵器は、
たいてい整備用の部品が最初から用意されている。それはモビルスーツも例外ではない。
 残された部品をかき集めれば、量産を優先してないディステニーすら一体が完成し、戦闘に充分な
交換部品も手に入った。消耗部品を現場で交換することを前提に設計されていたインパルスは、
さらにたやすく戦闘可能な状態に持っていけた。
 ならば独裁国家の首長を守るためだけに作られたモビルスーツ、アカツキも例外ではないだろう。
 ルナマリアたちを攻撃したのは、アスハが手にしているアカツキとは別の機体だ。しかしアカツキが
オーブ単独で製造された機体である以上、全くアスハと無関係な勢力が手にしているとは考えにくい。
 シンは確信する。
「あの婚約者か」
 一時期オーブの顔として対外的に出ずっぱり、ジブリールをかくまった時も広報を担当していた。
その結果として退陣を余儀なくされ、主権を回復したアスハの命で拘束された後に行方不明。
おそらくは戦闘に巻き込まれて死亡……というのがオーブの対外的な公式発表だった。
 もちろんそれを素直に信じる者など、どこにもいない。
 ずいぶん小さいな。それが男から見た第一印象だった。
 谷間に片膝を立ててコクピットハッチを開いたアカツキは、周囲の岩陰に隠れるほどの高さ
しかない。おかげで敵から視認されにくいわけだが、自分を守る鎧としては心もとなかった。
 垂直離着陸機とアカツキを繋いでいたワイヤーが、整備士達により手際よく切り離される。
四機の垂直離着陸機はエンジンを折りたたむように変型し、滑るように飛び去っていった。
地形をいかしてレーダーに察知されないよう注意深く飛び、そのままオーブ守備隊へ投降する
予定だ。炭化してくすぶる森から昇る煙も彼らの姿を隠してくれるだろう。
「途中でザフト機と遭遇しましたが、幸いにも威嚇射撃だけで向こうから離れていきました。
おそらく単独飛行をしていたザフトのモビルスーツ輸送機と思われます。宇宙を本拠地とする
ザフトには、今の地上で護衛をつける余裕もないのでしょう」
「あちらも人手不足に機体不足と聞くけど、モビルスーツ輸送機を地上で運用できるだけの力は
充分に残しているわけか」
 垂直離着陸機に無理やりアカツキをぶらさげ移送していることに気づかれたなら、相手が
輸送機であっても危なかった。あえて天候が不安定なルートを選んだことは不幸中の幸いだった。
「みんな事故もなく、よくやってくれた。移送したパイロット達には後で君たちから伝えておいてくれ。
僕はもう会うことができないだろうから」
 その言葉に、背後の何人かが顔をしかめた。怒っているのかもしれない。涙をこらえているの
かもしれない。
 そうした周囲には見向きもせず、男はアカツキに歩み寄った。近づけばやはりそれなりに
大きく感じる。陽光に輝く装甲が目にまぶしい。空を覆う黒煙と、顔に包帯を巻いた男の姿が
反射している。
これに乗って戦い、死ぬ。ならば充分だとユウナは思えてきた。
 各所から寄せ集めたパーツでかろうじて完成した一体。継続して戦うには消耗部品が足りない
が、一度くらいなら問題ない。ただ負けるためだけに作られた黄金の棺桶だ。王として死ぬことが
許されないよりは、ただの虜囚として忘れられるよりは、願われさえせず死ぬよりは、古典的だが
ずっといい。
 五大氏族にセイラン家が選ばれてから、何度となく軍事シミュレーションをくりかえしてきた。
艦隊旗艦に乗って最前線に出た経験もある。モビルスーツを操縦したこともある。モビルスーツに
搭乗しての実戦は初めてだが、せいぜい名を上げるように戦い、華々しく散るくらいのことはできる
だろう。死ねば何も残せないと思い、どんなものにもすがって生きてきた人生だったが、大事故から
生きのびた今は、不思議と何かにすがる気は起きなかった。
 ユウナは自分の掌を見下ろす。傷だらけで南国の陽光に焼けた肌と、シミ一つない生白い複製
の皮膚がモザイクだ。墜落した敵兵器にまきこまれ、四肢は砕かれ肌は焼かれた。進歩した細胞
クローニング技術がなければ確実に命を失っていただろう。傷だらけの顔はまだ包帯が取れない
でいる。
 フランケンシュタインの怪物もミイラ男にはふさわしい。
「ならば行くか、アカツキ」
 寄せ集めの怪物は、むろん何も答えなかった。死ぬためだけに生き長らえた男を、ただ静かに
異教の偶像にも似た姿で見下ろしていた。

(続)
94通常の名無しさんの3倍:2007/10/04(木) 07:16:56 ID:???
本編最終回の後で、一時間くらいの特別後日談がアニメ制作されたら、という体裁。
Aパート、Bパート、Cパート・・・という風に章立てする形式なのはそのため。
あと3回くらいの投下で終える予定。

ここには初めての書き込みなので、失礼があったら謝る。じゃあまた。
95通常の名無しさんの3倍:2007/10/04(木) 16:22:50 ID:???
 職人の皆さん投下乙です。以下私見。

>>女神
 おひさしぶりの投下乙です。ちゃんと話の筋は覚えてますのでご安心を。
 貴方の持ち味はもう少し違うところにあると思いますので、今回の文体は
あまり似合わなかったと思います。
 シンの行動方針が複雑な心境を反映したものだと思えましたので、
キャラクターの心情や性格を行動で表す力はあると思いましたが、せっかく
瀕死のキャラを一人称で書こうとしているのに、描写に手を抜いているように
見えました。
 具体的には上で言われて居るような事に気をつけてください。
 続きをお待ちしております。

>>Let's dance
 投下乙です……が意味がちょっと分かりにくいです。
 モンキーマジックの脳内リフレインが止まらない事もありますよねー、
とだけ書いておきます。

>>愛と悲しみの歌姫
 投下乙です。
 かつての自分がセックスシンボルではない清楚な存在だったと遠まわしに書く
ラクスに腹が冷えました。どんだけ死人を陵辱すればいいのか……。
 で、そんなラクスがいまやかなりどろどろな昼メロ展開を辿っている、と。
 ギャップの使い方は良いとおもうのですが、ディアッカとのシーンからキラが
出てくる場面転換が急激過ぎて一瞬取り残されました。
 それから○ァブリーズですが、家で使ってるようなものの固有名詞を
ss中に出されると急に『冷める』場合があるので注意してください。
もう少し一般的な語に言い換えた方が適切だろうと思います。ギャグパートなら、
伏字にして出してもかまわないと思うんですが。

>>ファイナルダッシュ
 投下乙です。
 一気に読まされました。
 人物の性格や状況に破綻がなく、描写の過不足も見当たりません。
 アニメが製作されたら、を体裁にしているとの事ですが、頭のなかできっちりと
映像化されました。特にアバンタイトルは、嵐の中に浮かび上がるアカツキをバックに
タイトルが浮かんできそうな出来です。
 GJ、あと三回位の投下と言う事ですが、続きを楽しみにさせてもらいます。
96ウンメイノカケラ scene-6:2007/10/04(木) 21:34:25 ID:???
いつか空になる青

 目が覚めると、窓から明るい光が差していた。
 その光に誘われて窓から空を見ると、青く透き通っていた。目に染みる程に青く、切ない色。
 ――いつか空になる青になりたい。
 ぼんやりとそんな事を考えていると、太陽の眩しさに目が痛くなった。
 目を閉じると、幸せだったあの頃の記憶が瞼の裏に蘇って来た。
 手を伸ばしても届く事のない懐かしい記憶の欠片は私の心に残る平和の残滓。
 掻き集めても意味はないだろう。過去は過去でしかないのだ。
 割り切って考えてみても、過去を捨てて未来に足を踏み出す事は怖い。
 一寸先は闇。未来は常に明るく輝いている訳ではない。 晴れの日もあれば雨の日があっても不思議ではない。
 窓から離れてベッドに仰向けに倒れ混んで天井を見上げると、雲が出て来たのか光がかげってきた。
 風は湿り気を帯びて冷たいものに変わって行く。天気が変わり雨が降るのだろうか。
 雨が降れば後は晴れるだけ。私も運命を砕かれた事を嘆いているばかりでは駄目なのかも知れない。
 私はゆっくりと起き上がり、ペンを手にして便箋と睨めっこを始めた。

“拝啓、兄さんへ”

 書き出しはいつもと同じ。でも、今日の手紙はいつもとは違う。今までは投函する事のない手紙を書いていたが、今日の手紙は投函する為に書く。
 大した事がないのだけれども、私にとってはとても勇気がいる事。
 字が下手だって、内容が支離滅裂だっていい。
 手紙を出すという事は私にとって大いなる一歩なのだ。
 未来に進む為の一歩。何が待っているのかは解らないけれど、勇気を出して踏み出すのも悪くない。

fin.
97 ◆6Pgs2aAa4k :2007/10/04(木) 21:46:29 ID:???
投下終了。
これと同じページに師匠が書いたメモを後書きとして原文のまま書いておきます。

本当に完結出来たのか不安になってくる。
これだけはきちんと形に残しておきたいから頑張らないと。後は時間との勝負。
もっと良いものが書けるかも知れないけど、時間がない。
時間さえあればもっともっと良いものが書けるのに。
でも、これが私の精一杯だ。
98通常の名無しさんの3倍:2007/10/04(木) 22:08:11 ID:???
age
99通常の名無しさんの3倍:2007/10/04(木) 22:18:41 ID:???
時間か、今ものすごく悲しい
ここで、08スレで、マユスレで高畑さんを見てたのを思い出したら涙が出てきた
もう言葉が出てこない……ありがとうメストさん
投下乙です
100通常の名無しさんの3倍:2007/10/05(金) 01:06:19 ID:???
失礼をば

終焉、焔〜アシタハアメ〜

世は人総ての晶か。そんな決まりはない
なら独りのみの宝か。誰もNOとは言わないだろう

生の抗は幾度の死の流をそのミミ、メ、カラダで知った
その惨みは最早、古。でさえあるにせよ、
誰かは誰かに遺すが理
また、光を求むものが、無孔に流れぬよう

誰かの随筆のアタマだったか、なんか判んないけど思い出した
切っ掛けはカレンダー。2/13を開いて、出てきた14。
そうか「始まった日」だ あの核の、滅ぶ光の昇った日

俺はその日、L4にいた


101SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/10/05(金) 14:11:04 ID:???
1/

――戦艦 ガーディ=ルー

「それでイアン艦長、あいつらは一体何をやって居るんだろうねえ?」
 艦橋で腕組みをする仮面の男――ネオは、モニター全体に映りこんだユニウス7を前に
ザフトの奇妙な行動を観察していた。
 十八メートル級のMSが小人に見える程の大地に、思わず距離感が狂う。
ミラージュコロイドを艦体に纏うガーディ=ルーは、慣性に乗ってユニウス7から
距離を離し、巨大な大地で行われている作業を観察している。
「さっきまでジンがせっせと働いてフレアモーターを動かしていると思ったら、
今はゲイツが破砕機を設置している……ザフトは何時から働き蟻になったのかね?」
「統一された作戦行動では無いのでしょうな」
 艦長席に座るイアンは、葬式に参列しているかのような沈鬱な表情を崩さない。
「是非直接聞いてみたいものだが……」
「モビルスーツで出てゆきますか?」
「――まさか。ビームで盛大な歓迎を受けるのはぞっとしないね」
 存在そのものが非正規であるファントムペインだ、アーモリー・ワン周辺を荒らした彼等が、
ザフトにまともな対応を望む術は無い。
 首筋にちりちりとした悪寒を感じながらも、ネオにはじっと見て居ることしか出来ない。

「とはいえ、どうしたものか……いや、先ず状況自体がどうなって居るのか」
「軌道変更、落下寸前での破砕……ザフトによる自作自演の可能性はありますが、
その意図までは計りかねます」
 イアンの厳しい目線は、刻一刻と減少しつつあるカウントを追っていた。
予測されるユニウス7の落下時刻だ。既に二時間を切っている。
「ふん……そうなると旧式組みは地球のナチュラルに復讐をしたいテロリストで、
真面目なザフト君達が破砕作業をしようとしている。捻りの無いが、そんなところかな?」
「そうとも限りませんな……」
 ネオの予測を考察するイアンは、作業を行うモビルスーツ部隊のデータを拾う。
「今作業を行っている部隊はヴォルテールの者達です」
「……それがなにか?」
「部隊長のイザーク=ジュールは、ザラ派筆頭だったエザリア=ジュールの実子です」
「成る程……対ナチュラル強行派の雄、親の薫陶を受けて居るならば、ということか」
 イアンは声に感慨を込めない。それが一層静かな迫力を、壮年の士官にもたらしていた。
 ――なんとも頼もしいねえ。
 宇宙に上がって以降の短い付き合いだが、修羅場を一つ潜る毎に信頼感が増して行く。
「対ナチュラル強行派の可能性がある、と言う事か。憎まれたもんだねえ」
「アレの出来た理由を思い出せばそれも当然と思えますが、ね」
 核に焼かれたプラントが地球に迫りつつある。太陽に照らされたユニウス7からの反射が、
艦橋に入り込んでネオの仮面を照らした。
「……遠すぎる。此処からじゃあわからんよねえ」
 陰影を深める仮面の下で、ネオは曇った笑いを浮かべた。
102SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/10/05(金) 14:13:07 ID:???
2/

 ――ユニウス7近傍宙域 カオス

『――というわけで、ユニウス7の近くまで寄って来たわけだ!
男同士の熱い連れションと言い換えても良い!』
 ――言い換えるんじゃねえよクソ上司。
 吐き出そうとした罵倒の代わりに空の胃袋から迫りあがってきたものを
喉に留めて腹の奧に押し込むが、口中に嫌な酸味が残った。
「……この冗談みてえな非常時に、棺桶の中で、アンタのやたらと高いテンションに
付き合わなくちゃあいけないのか」
 ――プラントを落したくなる気持ちも分かるぜ。

 カオスとエグザスはゆっくりと、等速運動を保ちながらユニウス7に接近しつつある。
徐々にユニウス7が大きくなってくるが、聞こえる音は僚機の通信だけだ。
「あんまりうるさいとステラに嫌われるぞ……本当にウィンダムじゃなくて良かったのか?」
『スティングがステラを語るとは驚きだがね……』
 機体に関しては問題ないと返答が来る。
『レッスンその一だ、スティング。宇宙ではコーディネーターに近づいてはいけません! 
組み合ってもいけないぞ……弱いナチュラルは特に』
「アンタは弱くないだろうが……」
 外装を灰色に染めたカオスから、マゼンタのMAはよく見えない。機体全体を覆う
ステルスコートはレーダーからもカメラからも、殆どその影を隠していた。
『弱いさ……所詮弱いナチュラルだから、なるべくモビルスーツに近づかないようにしている。
こうやってなるべく強いパイロットに機体と組む』
「そんなもんか……よし、敵は俺に任せろ」

 ユニウス7での作業を観察して記録に収める。只それだけが目的だが、
「大体あの船……ミネルバだったか? 別働隊が落しているはずじゃ無かったのかよ?」
はるかかなたには、因縁深い白亜の戦艦がポツリと浮かんでいた。
『それが現に此処に居たりするから俺たちの出番があるんじゃ無いか! しかもユニウス7が
地球に到着してしまえば、せっかく地球に送ったガイアとアビスも瓦礫の下――』
 それこそ只働きだな、といわれては返す言葉も無い。

「それに、ミネルバの白い坊主君や気前のいい新型君達がトリプルゼットの試験型を退けた。
優秀な敵戦艦を俺たちが落してこそ、"ファントムペイン"の有用性を証明できるってものさ」
 トリプルゼット――ZZZ。
 試作器の実験を兼ねてミネルバを襲撃する作戦が行われていたそうだが、未完成品を
実戦に投入する馬鹿らしさ、アイデアの反有用性はたった二機のMS――しかもゲイツに
あっさり撃破される結果となって証明された。
「有用性――か」
 ゲテモノの新兵器よりも、MSに乗る訓練されたエクステンデッドが強いと示し続ければ、
スティング達も今より大事にされるだろうか……それは分からないが。
「……ん? そう考えれば俺も同じようなもの、か」
 MSとセットに為るための新兵器――備品や部品の類である事には変わりない。
103SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/10/05(金) 14:14:19 ID:???
3/

 スティングが実際に命を張っている舞台裏では、新兵器の座をかけた縄張り争いが
行われていると言う事だ。軍人の性、派閥争いの道具となっていることに嫌悪は……覚えない。
 部品は部品、備品は備品。道具はあくまでも道具でしかなく、使い手を選べない。
 銃は引き金を引かれるだけで、使い手を憎む事も無い。
 その意味で、あっさり撃破されたらしい新型とスティングとは同じものだ。
 
『なにが同じだ、スティング?』
 黙考していたはずが、何時の間にか口に出ていたらしい。
「独言だ……オーケー、精々俺たちが役に立つところを見せ付けてやろうじゃねえか。
それでどうすれば良いんだ? ミネルバそ落すならもう少し接近しないとな」
『隠れて様子を見る……! それだけさ、今はね』
「……あのなあ、ネオ――」
『本気で言ってるぞ――?』
 前線に叩き込んで暴れさせるだけでは使い物にはならない、か。
『前線ではな、こういった地味な作戦が大事なんだ。幅の広い作戦をこなせるところ、見せてやれ』
「……了解」
 理解と共に黙った。
 元々が純粋な戦闘用のプランB――ブーステッドマン達と違い、スティング達プランE――
エクステンデッドがある程度の自由裁量を許され、より長く単独行動が可能なのは、
敵地への潜入工作さえ視野に入れられて居るからだ。
 ユニウス7における新型MS三機の強奪成功によって、一定の能力は認められた。
 ――じゃあこれは、ネオなりのレッスン2か。
 期待されているのは悪い気分では無かった。
 削れて壊れるまで、使い果たしてくれればいい。

『なあに、大人しくしていれば終わる任務だ。この件が片付いたら久しぶりに地球だぞ?
休みが取れたら、行きたいところは何処でも、一箇所だけ連れて行ってやろう!』
 兵器としてプログラムされた本懐があるから、ネオの言動についていけないところがある。
「だから、そんなのはステラとアウルに聞け。俺は要らねえよ」
 そうやってネオの気遣いを断るたびに、何故かスティングの胸の内で歯車の軋む音が聞える。
『……無欲だねえ』
 ――そうじゃない……本当に欲しい物を、どうせアンタは用意できやしないだろう?
「アンタがモノを上げすぎなんだ。特にステラ、服でつりやがって」
104SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/10/05(金) 14:16:04 ID:???
4/

 ネオは気付いて居るのだろうか?
 改造と洗脳の果てに命令どおり、無表情に殺人指令を遂行していたステラが、
任務の後のプレゼントを三人の誰よりも楽しみにしている事に。
 服の一着と仮面の下の笑顔で、殺人への禁忌が拭い去られてしまって居る事に。
 条件付けで殺すならば、俺たちは銃だ。
 愉悦の為に殺すならば、俺たちは射手だ。
 銃だったはずの何物かが、己の手でグリップを握ってしまえば、銃の為に用意された
天国に行く資格すら失うだろう。
 それがたまらないほど哀しく……ならかった。

 欲して戦えば、銃口は穢れて弾道は鈍る。
 だからスティングは高望みも、無いものねだりもしない。
 ――自由など。

 スティングに与えられたもの。
 青いドレスを纏って無重力に舞う金髪の少女。
 食堂からくすねたバケツサイズのアイスクリームを、酸素みたいにかき込む銀髪の糞餓鬼。
 何処からどう見ても違いの無いお面を四つ並べて、色を比べる変態上司。
 そして、いつの間にか自然に声を掛けてくるようになったガーディ=ルーの乗組員達。
 そんな奴らに囲まれているうち、いつの間にか自分だけ常識人に戻った気分だった。
他人と変わらない、変哲の無い兵士だと。
 しかしスティングは相変わらずエクステンデッドだ。平気で人を殺せる己の心に、
疑問すら抱く事の出来ない狂った機械だ。
 専属の医師団……とは名ばかりの人間鍛冶屋たちは、エクステンデッドを部品をして扱う。
ソレが一貫してくれていたならば、スティングもある意味でストレスを感じずにすんだだろう。
 投薬も調整も、肉体的に辛いだけだからだ。

 ネオは違う。ステラを着飾らせ、アウルとスポーツを楽しみ、スティングに彼らを任せ、
まるで三人のニンゲンであるかの様に"扱う"のではなく"接する"。
 ゆがんだ安息、いびつな心地好さに包まれて、致命的なずれが彼等の周りに生じていた。
「せめて心臓も歯車にしてくれてれば、な」
 中途半端な改造を恨む……事すら出来ずに只呆れる。
 つぶやく声は、意識せずにまろびでた本心だった。
105SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/10/05(金) 14:18:10 ID:???
5/

『サイボーグやロボットが好みか?』
「理想像だな……いいややっぱり違う。別に人間でも構わないが、半端が嫌いなだけだ」
 脳と中枢神経系にマイクロマシンを埋め込まれたエクステンデッドは、既にナチュラルな
存在とは程遠い。
 飛来する弾丸を視認する反応速度、並列思考を悠々とこなす処理能力、皮膚感覚を
バッシブソナーのように利用する強化感覚。思考形態や感覚を変化させられたスティング達の
心――メンタリティはやがて、ナチュラルのそれから大きくずれ込んで行くだろう。
 結果生まれるのは、ナチュラルでもコーディネーターでもない化け物達だ。

『半端……ね。お前たちに施された強化措置は生ぬるいものじゃあないはずなんだが……』
「軍籍が無いのにMSに乗ってるような半端さのことさ……」
 ファントムペイン。第八十一独立機動群。
 地球連合の正規軍であるにも関わらず、その構成員には"いないはず"の人員が多く存在する。
 いないのに、そこに在る――数多くの色で彩られたキャンバスにポツリと浮かぶ異様な空白は、
例えばスティング、ステラ、アウルと名前を付けられている。
 この世での存在を認められない彼らがもたらす破壊は、旋律の中に生まれた沈黙にも似て、
やがて調律出来ない程の不協和音を生むだろう。
 幻肢痛……失われた手足が感じさせる幻の痛みのように。

 雑多な考えは反応を鈍らせる。スティングに限ってそんな事は無いのだが、
万一の為に余計な思考を遮断した。
「で、俺たちはどうすればいいんだ?」
 ネオの返信まで、遥か遠くに浮かぶ一点の白い戦艦――ミネルバを見つめる。
『なあに、先ずは相手の様子をよく観察するところからだ。お前の目には如何見える?』
「ふん……アンタが俺に判断させるのか。そうだな、メテオブレイカーの位置は対称に、
分厚いところを重点的に砕こうとしているように見える。見たところは真面目に破砕を
考えてるんじゃないか?」
『……ミネルバは?』
「相変わらず動きは無し、だ。カオスのセンサーに捉えきれないなら、
エグザスのカメラでも同じことだろうぜ」
 バッシブセンサーで捕らえられるステルスではない。
『そうかそうか……どうやら白い坊主君は乗っているようなんだが。む……』
「どうした?」
『ふん、スティング。ミネルバにはしっかり注意をしておいてくれ』
「言われなくともやってるさ」
 スティングの複眼的思考は、常人のようにユニウス7とミネルバを交互に確認する必要など無い。
只単純に、視野を二つに分け、それぞれを別々の意識で観察し続けるだけだ。
「しかしよ……白い坊主君ってのをよくよく気にする奴だな、アンタは」
『どうも、近くには居るようなんだが……気配を感じない……これは、隠れて居る?』
106SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/10/05(金) 14:19:37 ID:???
6/

「いや……」
 ネオのもらした呟きがスティングの耳に入る。
「ひょっとしたらこれは……気配を殺して……狙撃?」
 その瞬間だった。
 センサーに警告……高エネルギー反応。
 スティングの視界を上下に分断して、まばゆく輝くビームがエグザスに伸びる。
『これは……しまッ――!』
 ネオの悲鳴。回避行動の一切が間に合わず、飛来した閃光がエグザスを飲み込んでゆく。

「な……」
 緊急事態と判断、戦闘準備を始めた意識が状況把握の為に処理能力の増大を指示した。
柔らかな人間としての意識が変質し、硬質な歯車と噛み合う不快な感覚が脳髄に満ちる。
 言葉も無くエグザスが光に呑まれる光景を見ることしか出来ないスティング、
その側頭部に移植されたマイクロマシンのネットワークが脳と電気的に接触し、
ヒトとしての意識と尊厳を同時に蹂躙した。

「ネオ……!」
 音も無く爆散するガンバレルと、光の奔流に焼かれる本体の映像が脳裏に刻まれる。
目を離せないで居るスティングの視界が蜂の巣状に分割され――それぞれが勝手な判断でもって
カオスから切り離された機動兵装バレルを操り、搭載されたガンカメラの映像をヘルメット越しに
フィードバック、常人に不可能な速さで情報収集を始めた。

「おい……ネオお!」
 爆発の影響も気にせず接近、捕捉。全体から火花を上げるエグザスの中心本体を保持して
接触回線を開こうとする……失敗。パイロットの生死確認も取れないほど損傷したエグザスを
ガーディ=ルーの方向へ流して、スティングは魔弾の射手を見遣った。
「よくも……ザクごときが、よくもおおおおおおおお――!」
 データリンク不調、上官のネオは戦闘不能……判断も仰げない。
 状況的バグに混乱をきたした判断機構が千切れ果てた条件付けの中から選択した行動は、
目撃者の一切排除による証拠湮滅。己と、その機体も含めて。
 分割意識にポツリと浮かんだどす黒い思考が、設定のいい加減なライフゲームのように
全ての意識を埋め尽くすのに、指を弾く程の時間もかけず――
「が……ああああああッ!」
 ――カオス、突撃。


 第十三話 世界の壊れた日


107SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/10/05(金) 14:21:36 ID:???
7/

 ――ガーディ=ルー 艦橋

 息を詰めてユニウス7を見守っていた艦橋に、耳障りなアラートが突如として鳴り響いた。
「何事か……!」
 誰何したイアンに、悲鳴のような報告が上がる。
「エグザス大破! ザクを一体発見、カオスが迎撃に向かっています!」
「馬鹿な……どうやってこの距離でエグザスが発見された!? 直に呼び戻せ!」
「秘匿通信での帰投信号……駄目です。受け付けません! 信号弾を上げますか?」
「ならん。ロアノーク大佐の状態は、カオスは今何処に居る!?」
 信号弾は敵にガーディ=ルーの位置を気取られる。

「カオスは敵ザクに向かって接近中。データより、ミネルバ所属のザクと思われます」
 索敵手はザクの座標を読み上げた。ユニウス7とガーディ=ルー、そしてミネルバは
地球にまっすぐ突き立つ正三角形それぞれの頂点に位置する形だ。一辺は数百キロとなる。
 ユニウス7とガーディ=ルーのおおよそ中間に位置していたエグザスが、ガーディ=ルーに
やや接近していたザクから狙撃を受けた事になる。
 ――ガーディ=ルーの位置がばれたか? 否。
 イアンは即座に判断する。母艦を放ってエグザスを狙う道理は無い、何らかの見落としにより
エグザスとカオスだけが探査機の索敵範囲に入り込んでしまったか。

「本艦はこのまま潜行を続ける! ロアノーク大佐のエグザスはどうしたか?」
 エクステンデッドは、イアンの指揮下に無い。直属であるネオにはなんとしてもカオスの
パイロットを抑えてもらわねばならなかった。唯一退却の為の信号弾を打ち上げる事で
間接的に命令を下す事は可能だが、現状でそれは出来ない。
「エグザス……本艦の座標に接近中、加速ゼロ!」
「エクステンデッド――たわけが……!」
 恐らくエグザスをガーディ=ルーに向けて流しただろう、カオスのパイロットへ呪いの声を飛ばす。
「大破した機体を母艦に向けて流すのは、ステルスを行う必要が無いときだけだ!」

「――艦長、格納庫でパイロット二名が出撃許可を求めています」
 それが誰かは聞かずとも分かる。
「不許可だ、カタパルトをロックしろ。本艦の方針に変わりなし。一番から七番に閃光弾装填。
機関最低出力のままコロイド維持、ミネルバがめぼしをつけて撃って来るぞ!」
 矢継ぎ早に指示を下しながら、エグザスの最接近時間を概算する。エグザスなど惜しくは無いが、
ネオとカオスはなんとしても回収しなくてはならない。
108SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/10/05(金) 14:23:33 ID:???
8/

「ミネルバより低速ミサイル接近、数六、本艦への接近三十秒後!」
「進路そのまま、後部発射管口、開放。スレッジハマー用意!」
「後部発射管口…………開放」
「復唱が遅い、死にたくなければ早くしろ……」
「了解! 八番から十六番まで、スレッジハマー装填……何時でもいけます!」
 噴進弾をゆっくりと放つのは、射出によって本艦を発見されるためだ。
ミネルバが放った接近中のミサイルもまた閃光弾、つまり今だ発見されてはいない。
「向こうとこちらを同時に起動しさせ、索敵をかく乱する」
 静かに言い含めると、ようやく理解した管制官が動き始めた。ミサイルの到着まであと十五秒。
 後部のミサイル発射管に艦対艦ミサイルスレッジハマーが装填される。その振動を、
艦長席の背もたれ越しに感じるイアンは己の冷静を把握した。
 ガーディ=ルーが本気で隠れれば、見つけられる艦は地球圏に存在しない、
それはイアンが上層部に示すべき、彼自身の有用性であり、自負であった。

 開放されたミサイル発射管から、ガイドレールに圧された閃光弾が泳ぎ出て、
慣性に流されるまま放射状に散らばり始める。
 ガーディ=ルーを発見する為の弾幕は半壊したエグザスを狙わない。
 ――狙えってくればミサイルを一発消費させられるか……
 詮の無い思考を巡らせながらも、艦を操る為の指揮は続けている。
「敵ミサイル接近と同時に閃光弾起動、左舷スラスター噴射四秒――モニターを焼かれるなよ」
 イアンは制帽の鍔を押し下げて目を細めた。
「ミサイル接近……七秒……六……」
 息を潜めるガーディ=ルーのブリッジに、カウントダウンを行う管制官の声だけが響いていた。
報告を行う声さえ潜める彼らはまるで古い潜水艦乗りの気分を味わって居るのだろう。

「三……二……一……!」
 一瞬の静寂――直後、モニターが白色の光に焼かれて視界を奪われる。
大光量によって宇宙にガーディ=ルーを浮かばせるはずの閃光弾だが、同時に複数個の光源を
発生させた事で艦影は"蒸発"した。
「今だ、八番から十六番、スレッジハマー撃て。進路そのまま」
 閃光弾――撹乱や照明に使うフレアは最大光度でやく七秒間燃え続ける。
敵艦のカメラから蒸発したままのガーディ=ルーは、かえって安全な状況から一方的に
ミサイル攻撃を行える状態にあった。
109SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/10/05(金) 14:26:00 ID:???
9/

「着弾まであと二秒…………全て迎撃されました」
「当然だ。次を撃って来るだろうが慌てるな。機関出力は最低を維持、エネルギー不足で
泣く事になるだろうが、なんとしても隠れ抜けろ」
 正面からの殴り合いでは向こうに分がある。一見情け無い命令も止む無しだ。
「なんとしてもコチラの位置を探らせるな。エグザスは何処に来た?」
「先ほどの進路変更で本艦への最接近があと八十秒、データリンク再建……エグザス、
スラスター残存一、パイロット……生きてます!」
「呼びかけを続けろ、スラスターが生きて居るなら自力での離脱が可能だ」
 通信士を端末に張り付かせ、イアンは戦況モニターを睨みつける。

「高速ミサイル第二波接近――!」
 ――どうする? 
 迷うことなく、ネオの救出を捨てた。
「ミネルバが接近してくるまではこの宙域で粘る! それ以上の行動は無理だ」
 MSは出さない。エグザスとカオスは、自分の生命力と手腕に掛けて帰還してもらう。

「艦長! ミネルバに高エネルギー反応!」
 ――このタイミングでか?
「フェイクだ……あたらん!」
 確信を持って即断する。
 イアンの言葉通り、ミネルバの主砲はまるで見当はずれの方角をなぎ払った。
だが、使用された火砲の威力がイアン達の予想を大幅に上回る。
 収束されたポジトロンビームが、先行するミサイルを捉えて対消滅を起し、
膨大なガンマ線を付近宙域に撒き散らした。
 大量のガンマ線に、ガーディ=ルーの見えない影が照らされる。
「陽電子砲……だと!? 目くらましか――違う!」
「高速ミサイル多数接近!」
「今の閃光で影を浮かばせ、大まかな位置を悟られたぞ……閃光弾射出用意!」
 ミネルバが放ってきたのは近接信管を備えた対MS用ミサイルだ。信管の作動と共に
大量の破片をばら撒き、至近弾となった幾つかがガーディ=ルーの外装を傷つけたが、
蚊に刺されたほども感じない戦闘空母は再びフレアの閃光に紛れて姿を隠す。
「艦長……今の攻撃により本艦の位置を気取られた可能性が――!」
「落ち着け、ベクトルを知られん限りは狙いが付かん!」
110SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/10/05(金) 14:28:17 ID:???
10/10

 艦橋を掠める実体弾をやり過ごすイアンの背に、艦長席を揺らす重い振動が伝わる。
「何の振動だ――掠ったか……?」
 確認に三秒を要した事が、直後の命運を分けた。
「エクステンデッド二人が、ウィンダムでカタパルトハッチを突き破って出撃しました!」
「――! コロイド解除、機関最大、加速最大取り舵二十! 直撃弾が来るぞ……逸らせ!
CIWS順次起動、迎撃は各個に任せる!」
 ハッチの損壊によって姿を晒したガーディ=ルーへと向けて、噴進弾と熱線の驟雨が振りそそぐ。
加速と着弾の衝撃に揺れる艦長席にしがみつくイアンは、ラミネート装甲に高熱のビームが
吸い込まれる間延びした放熱音を聞いた。
「あんの……馬鹿者共があ――!」
 ――これだから改造人間は!

 毒づくイアンはそれでも、湧きあがる笑みを隠せないでいた。
 全身から吹き上がるアドレナリンの命ずるまま、ずれた制帽のつばを握って投げ捨てる。
 そのさまを、その顔を目撃したブリッジクルーが小さな悲鳴を洩らした。
「機関最大を維持、右、左、右、右のステップで敵ビームを躱す! 
左舷弾幕を密にしろよ、スレッジハマー……撃てぇ!」
(ハイパーイアンだ……艦長が切れてハイパーになった!)
 誰かが呟く。
「聞えとるぞ! 無駄口叩かず、死にたくなければアンチビーム爆雷あるだけばら撒け! 
殺したければゴットフリート照準合わせ! 宇宙の化け物共は本艦を見逃すほど
穏やかではないぞ!」
 矢継ぎ早に操艦の指示を飛ばし、濃密なビーム弾幕を掻い潜りながら――地球連合軍の
操艦技術だけはザフトを凌駕すると言われている――イアンはモビルスーツ隊の発進を告げる。
「カオスにアンカーを打ち込み、大佐の仮面をひっぺがしてでも連れ帰って来い!」
 血走った両眼は、戦況ディスプレイの上、ヴォルテールからカオスに向かいつつある
光点を睨みつけている。
「生きて帰ってきたならば、全員宇宙の作法についてみっちり修正してやる!」
 ――だがその前に、こちらがなんとしても生き残らねばな。
 三度目の方向転換――竜骨を歪ませるGに耐えるガーディ=ルーは、一歩間違えれば谷底へ
まっさかさまという死線の上で、七度目の荷電粒子砲を回避していた。



以上、投下終了
>>まとめ管理人さん
 レスを分割する事になるでしょうが、7−1、7−2という風にする必要は御座いません。
今回十レスが例えば15レスになりましたら、1から15までとおし番号でつけて構わないです。
111通常の名無しさんの3倍:2007/10/05(金) 16:51:18 ID:???
読んでてて脳汁が噴出しました
112通常の名無しさんの3倍:2007/10/05(金) 16:55:56 ID:???
今度はイアン艦長がかっこよく・・・GJ
113通常の名無しさんの3倍:2007/10/05(金) 20:44:22 ID:???
†氏投下乙!
>>106で背中がゾクゾクッとなるはイアンはかっこええしGJとしか言いようがない
続き楽しみにしてますよ!
114通常の名無しさんの3倍:2007/10/05(金) 21:26:04 ID:???
スーパーイアンwww
115通常の名無しさんの3倍:2007/10/05(金) 21:53:27 ID:???
あんまりこういうことは言うべきじゃないんだろうけど……
貴方の作品がこの板で一番好きです
116通常の名無しさんの3倍:2007/10/05(金) 21:54:56 ID:???
じゃあ俺は赤頭巾が一番好きだ
117通常の名無しさんの3倍:2007/10/05(金) 22:04:33 ID:???
俺はメストが好きだと言っておこう
118機動戦史ガンダムSEED 33話 1/10:2007/10/05(金) 23:18:58 ID:???
 
 ――『歴史』は学ぶことによって『今』という時代を相対化し、「自分」という個人
による主観的観点を排除し、特に重要な事柄は、客観的に物事とらえる視点と
いうもの獲得しなければ意味がないのだ。次に重要な事は歴史的立ち位置に
よる『時代区分』ともいうべきものを把握し、理解する事にある。

 ――それこそが、歴史を学ぶ第一歩であると考えられる。
 
 西暦(AD)年代末期に世界各地で民族紛争や宗教紛争が激化し、なおかつ
石油資源の枯渇や環境汚染の深刻化、世界不況が重なり、世界各地で代表
勢力による分割が行われ、世界各地でブロック化が進んでいった。いわゆる
国家統合・再編を目的とした戦争が始まったのだ。一般に『再構築戦争』と呼
ばれたその一連の戦争は、終結と同時にそれまでの国家の枠組みが大きく
変化してしまい、この機会に国連の主導下で新暦として統一暦『コズミック・
イラ』が制定される事となった。

 C.E09年に『再構築戦争』が終結。『大西洋連邦』、『ユーラシア連邦』、『
東アジア共和国』、『南アメリカ合衆国』『アフリカ共同体』、『南アフリカ統一
機構』、『スカンジナビア王国』、『汎ムスリム会議』、『赤道連合』、『大洋州連
合』、『オーブ連合首長国』の11の国家が誕生する。
 
 ことに、『コズミック・イラ』と呼ばれた新統一暦であるこの時代は、人類史に
とっても特異の時代背景を含んでいた。それは一時的と云え、短い期間では
あるが人類が遺伝子的な生物種として別の区分に分けられた時期でもあった
からだ。 『ナチュラル』、『コーディネイター』という今でこそ笑い話に過ぎない
程度のレベルの問題が種差別意識として表面上の大問題として露出し、激し
い勘違いが加わり、更には人類の種差別による『種族抗争』へと発展してゆく
様は、現代レベルの視点で観察すれば、それは滑稽というよりも、むしろ喜劇
のレベルでしかなかった。
119機動戦史ガンダムSEED 33話 2/10:2007/10/05(金) 23:24:52 ID:???

 それは、『ジョージ・グレン』と言う名の一人の『喜劇役者』によって演じられ、
もたらされた一種のショーによる茶番劇でしかなかったのが、劇の内容が舞
台から大きくはみ出し、観客席へと物語が流れ出したのが不幸の始まりであ
った。無論、これを脅威と勘違いして劇の内容をフィクションで理解できずに、
深刻に受け止めた『観客』の方にも問題は多々あったのだが。 

 この喜劇は、とてつもない勘違いによって”悲劇”へと変わり、『種差別意識』
として世界中に広がるのは然程の時間は必要としていなかった。だが、周知の
事実であるように、その後の十数年の年月間の戦乱によって培われた驚異的
なハードウェアの発達によって種族間の能力差はあっさりと差は縮められ、人
間の能力など、所詮その程度の浅いレベルでしかなかったという、至極当然の
あたり前の現実を突きつけられた。この現実によって人々は改めて、その世界
中を巻き込み、血で血を洗う殲滅戦へと発達した馬鹿げることになった、この『
茶番劇』が、錯覚であったのだと、ようやく理解できたのだ。

 この馬鹿げた『茶番劇』によって多くの有為な人材や貴重な財産が闇へと葬
られたのは、まことに遺憾なことである。しかも、この時代は多くの『奇人』、『変
人』達が表舞台へと登場し、果ては彼等が一国の指導者、リーダーとして君臨
するという異常事態を招いたのだ。

 『プラント』と呼ばれたコロニー国家は、『平和の歌姫』と自称した一人の武装
テロリストの首領によって民主的議会制度が崩壊し、、狂信的な宗教要素を含
んだ独裁国家へと変貌したことは、人々の記憶に新しいであろう。元々、閉鎖的
社会を形成していた『プラント』の人民は、彼ら自身の異常性の価値観での象徴
でもある『平和の歌姫』という虚像から、遂に抜け出すことができす、『プラント』は
奇妙な偶像崇拝によって国民の意識を統一することに成功したのは、奇異な例
ではあるが、事実であるのだ。

 これらは極端な例になるが、人々は、宇宙を生活の場として完全に認識するよ
うになれば、自然のそのような排他的な種誕生差別になどに構っていられなくな
る。宇宙で生きる残るためには強力なリーダーの元で団結しなければならない。
個々人の技量などは、大した意味を持たない。

 ……それが、たとえ『テロリスト』であったとしても。
120機動戦史ガンダムSEED 33話 3/10:2007/10/05(金) 23:31:18 ID:???

 その意味で人の真の資質というものはは身体能力に関わらず、”知性”と”カ
リスマ”によってしか成り立たない。これは多少、遺伝子を弄くったところで、ど
うにもならない問題なのだから。 追記しておくと、この既に時代では、『スーパ
ー・コーディネイター』などと云う無駄な”モノ”は、多少は便利な『携帯電話』程
度の価値としてしか認識しかされていない。 
 
 現代においては、『コーディネイト』とは全く意味の無いものであるというのが、
一般の認識としての価値観となっている。旧時代の愚劣な人体改造レベルと
してしか認識されていないのは、語るまでもない事であろう。

=========================

 ――さて、人類が地球上から生活の場を宇宙へと完全に移せば、無論のこと
地球上で行われていた活動がそのまま持ち込まれる事となる。地球上で国家
として互いに争っていた人類は抗争の場をそのまま、宇宙へと持ち込む事とな
る。それは、また自明の理であろう。このようにして人類は闘争の歴史を容易に
宇宙時代の戦争へと対応さえ、そして独自のルールを構築しそのまま、戦争と
いう名の”遊戯”を続けてゆく事となる。

 C・E80年代前半から数十年にかけて太陽系内では、『大西洋連邦』、『ユーラ
シア連邦』そして『オーブ』等を中心とした『地球連合強国』と呼ばれる一連の『地
球連合』を構成した有力国家や『プラント』、『マーズコロニー群』のコロニー国家
や『スカンジナビア』、『赤道連合』等の小国家と諸勢力による、航宙間可能な『領
土宙域』を巡っての激しい争奪戦が展開される事となった。大国小国及び、諸勢
力はそれぞれの軍事力を背景にして、太陽系内の平和と軍事バランスの安定と
単一の統一勢力の設立を名目とし、互いの陣営勢力の拡大の為に争い続けて
来た。だが、それでも全面戦争に突入しなかった。

 それは、前戦大戦の影響でもあったのだろうか?各勢力は小康状態を保ちなが
らも、時には小競り合いを繰り返し、さながら時代は『太陽系内抗争時代』ともいう
べき動乱の時代へと形成し突入する。

 
121機動戦史ガンダムSEED 33話 4/10:2007/10/05(金) 23:36:01 ID:???

 この時代は太陽系内に『人類統一国家』を樹立する事は、各諸勢力の指導者に
とって見果てぬ夢であり、最大の夢或いは野心でもあった。その為に手段として、
話し合いによる解決ではなく軍事力を使っての統一こそが安易であるが最短の道
である、と時の権力者達はこぞって唱えた。武力による侵攻こそがこの動乱期の
正義であるからだという。
 
 そして、それに同調するのはいつの時代でも、軍人である。軍事力とは強力にな
ればなるほど、持てば持つほどに、その力を揮いたくなる。これは救いがたい人の
性であろうか?
 このようにしてコズミック・イラ時代に発生した太陽系内の統一政権樹立への夢は
、強大な軍事力を備えた勢力こそが正義あり、力こそが唯一の真理とまことに分かり
易い、パワーゲームによる領土拡張から列強による宙域支配の熾烈な闘争時代へと
突入する。
 
 要約すると、有史以来、人類が地球上で誕生してから始まった闘争の歴史の繰り
返しである。人が猿から進化し、二本足で立ち、道具を使うようになったから無数の
闘争劇が地球上表面で行われ、それがそのまま、宇宙へと舞台が変わり展開された
だけなのだ。歴史的観点から見たら、結局のところそれが結論となるのだ。
 
=========================

 国家は国民生活の場をある程度の文化レベルへと到達させると、人類は営み以上
必然ともいうべき、より一層豊かな生活の場を求め、進出しようとする。それは更なる
侵略行為を正当化するために国家間は互いの利益を守るために暗黙の協定と彼の
国達に都合の良い国際法による軍事行動を容認の土台を築き上げてゆく。

 旧暦であり、神が定めた暦と呼ばれた西暦(AD)と呼ばれた時代、19世紀の初頭
にかけて、大国が小国を侵略し、植民地として制圧する行為を正当化する主義を一
般的に『帝国主義』と呼ばれた。
 
 世界史的にみれば『帝国主義』と呼ばれる時代は、資本主義の占段階であり世紀
転換期から第一次世界大戦までを指す時代区分にあたる。またも、誠に単純な論理
で恐縮なのだが、『コズミック・イラ』と呼ばれた時代区分は、地球圏で行われた愚劣
な内部抗争を太陽系へとただスケールを拡大しただけの時代ともいえる。
122機動戦史ガンダムSEED 33話 5/10:2007/10/05(金) 23:39:01 ID:???
 
 このように、地球上から宇宙へと舞台を変えても、人類は何の進化も革新も無く
、欲望の赴くままに地球上と何ら変わらぬ、争いを続けて来たのだ。
 
=========================

 『帝国主義』という単語がある。元々、『帝国主義』とは、一つの国家が、自国の
民族主義、文化、宗教、経済体系などを拡大するため、もしくは同時に、新たな領
土や天然資源などを獲得するために、軍事力を背景に他の民族や国家を積極的
に侵略し、さらにそれを押し進めようとする思想や政策を指すものだが、C・E70年
代から地球圏内での動乱から始まった、この『コズミック・イラ』時代の”帝国主義
”は、やや様相が異なっていた。
 
 この時代に『地球連合強国』と呼称される幾つかの大国が存在する。その威勢と
強大さによって『コズミック・イラ』時代で永らく太陽系内で覇権を競い合った国家の
総称である。これらは地球圏国家を母体とした地球連合おり、国力及び軍事力は他
の中立国家や複数のコロニーで構成された『コロニー国家』とは、一線を画した『強
国』であった。主に『大西洋連邦』を筆頭に『ユーラシア連邦』『オーブ』の名前が上げ
られる。だがこの時代は、オーブを除き、『地球連合強国』は内実にそれぞれ個別の
意志を持った独立国家の集合体とも云うべき連邦国家であり、その強大な軍事力に
反して政治的基盤は脆弱で複数の政治派閥よって構成され成立している為に、単一
国家としての強固な統一意志が存在せず、あくまでも『連邦国家』としての歪な側面
を濃くしていた。結果として、建前上の近代国家が確立するにあたって常識ともいう
べき、文民統制から大きく逸脱した政治体制が構築されることになったのだ――。
 
 
 ――ヘリオポリス大学・史学部戦史科『近代戦史概論』提出論文から抜粋。

 K・W・コーズウェル著 『コズミック・イラ戦史』 第三章と
 J・J・スミス著 『地球連合興亡史』 序章を参照。

123機動戦史ガンダムSEED 33話 6/10:2007/10/05(金) 23:49:10 ID:???

 C.E78年6月23日・オーブ連合首長国<ホワイト・ヒル>――代表府執務室――

 現オーブ代表首長であるカガリ・ユラ・アスハは自分の執務室のデスクでペンを
片手で握り締めながら、書類と格闘していた。ここ数日、彼女の執務室は、膨大な
量の決済書類が山となって積まれ、巨大な山脈が築かれていた。そしてその山脈
に囲まれるようにして彼女の執務用のデスクがポツンと中心にあるという有様だ。
 
 理由は簡単である。仕事が終わらないから、自動的に書類はたまってゆくもであ
ろう。幾らやっても終わらない無限ループ地獄に迷い込んだ心境なのだ。

 この高速パーソナル・リンク時代に紙の書類で国政の決済をするというのは、些か
ナンセンスだと思われそうだが、実際は量子コンピューターによるリンク・システムに
入力し保存すれば、高度な技術のハッカーの技術によって難なくデータをハッキング
される可能性は、極めて高いのだ。それによって重要機密が強奪される例が、過去に
枚挙に暇がないほど続出したのだ。

 近年の例を上げればラクシズ下部組織である『ターミナル』が良い例であろう。この
連中のによるハッキングからデータ強奪によって世界中の政府組織はコンピューター
による機密保持に関して、疑念を抱くようになり、有史以来の人類の発明品である『紙』
による書類によっての保存を優先するようになったのだった。これによって『ターミナル』
の跳梁跋扈が身を潜め、遂には某国の機密書類強奪の未遂事件によってプラントを除
く世界中の国家による、『ターミナル』壊滅作戦が実施される事となるのだが、それはまた
別の話である。

 いつもならば、自分の仕事はご丁寧に全ての書類内容は政務報告書として体裁が、
整えられ実務の手続きやお役所仕事は全て完了しており、残りは自分が目を通して内
容を把握してから、承認印を押すだけで終わるようになっていた。
 
 それは、頭に”超”が付く程有能な『首席補佐官』が働いてくれたおかげであって実際
のところ、自分ごときにこれだけの数の政務、軍務の処理ができる訳がないのだ。
 おかげで自分は、僅かに空いた時間を利用して政治、経済、外交、等の基本的に知
識の勉強に時間を当てることができたのだった。
 
 その気になれば彼がお飾りの自分などほったらかしにして、オーブの全てを掌握し、
乗っ取る事などは朝飯前だろう。
 
124機動戦史ガンダムSEED 33話 7/10:2007/10/05(金) 23:52:17 ID:???
 
 だが現実は、彼は全ての最終決定権を彼女に委ね、その下した方針の元で政府と
軍部を運営し指揮を取っていたのだが、それがもう一週間近く途絶えており、現在の
ところ全ての政務業務は、代表首長たる自分が代行?する事になっていた。
 慣れない実務処理の連続で神経回路はいつ焼き切れるれてもおかしくなく、ベン先
は震え、既に割れかけている。
 そうカガリが書類と悪戦苦闘していると、デスクのコンソールから女性の声が入室
許可を求めてきた。

 「……どうぞ」

 何も考えずにそう応じると、執務室の扉が半分開き、顔見知りの女性秘書官が入っ
て来た。彼女は書類の束が置いてある床を巧みに避けながら、カガリの執務用デス
クの前に来ると、

 「――代表。こちらもお願い致します」

 「……これも?」

 「はい。『総合作戦本部』から至急、お目通しとのことです」

 「……」

 ドサリ、とばかりに彼女は大量の軍務報告書の束を置く。やっと今しがた、別件の
報告書を読み終えたばかりで、まだその内容を把握してないのにだ。

 ……頭が痛くなってくる。

 「では。――失礼致します」

 無情にも秘書官は一礼すると、さっさと書類山を掻き分けながら去っていった。残るった
のは、相変わらずの書類の束である。しかもまた増えている。
 
 「もうーーいやっ!!全部サイが悪いのよ!!」

 切れたカガリは大声で叫び出した、が生憎と執務室は、完全防音処理と盗聴防止処理が
施されている為に彼女の悲鳴を聞く者は、誰もいなかった。
125機動戦史ガンダムSEED 33話 8/10:2007/10/05(金) 23:58:19 ID:???

 ……大声で叫ぶと幾分かスッキリしたのは気のせいであろうか? 悲鳴の一つでも
で上げたくなるだろう。いくらやっても肝心の仕事は、遅々として進まずに問題ばかり
増えて山済みになってゆく。

 最近になって、後に『統一戦役』と呼ばれる事となる内戦が終結して、今は戦後処理
に追われる日々である。建設的な政治改革は未だに成されずに、滞ってゆくのが今の
オーブ政府の現状なのだ。
 内戦そのものは僅かな期間で終結したが、その後の処理の方に時間が費やされる
のは自明の理であろう。戦争は始めるよりも終わらせる方こそ大きな問題があるのだ。 
 
 ラクシズ連中のように戦後処理も考えずに,勝手気ままに戦えるような神経が羨ま
しい。短気な自分でも、ある程度は物事を考えてから解決するよう躍起になるが、ラク
シズの連中は、どうやら違うようだ。逆に何の成長していない事の方に驚きがある。
 
 自分の昔の事は、今では余り思い出したくない。お飾りどころか無知、無能、無謀の
三大極みであったと思うし、最低限の礼儀作法どころか、言葉使い一つすら満足に出
来ず、目上の人に対しても、平気で暴言を吐いていた。そんな無知な自分をラクス達
がいい様に操られるのは簡単な事だったろう。『あっ』という間にオーブは国家破綻寸
前まで追いられたのだから。
 
 ――はぁ、と大きく溜息を吐きデスクにうつ伏せになる。

 ――ラクス.クライン達のことは、正直いってもうどうでもいい。自分はもうラクス達
とは、完全に縁が切れたのだ。彼らが地球圏でやっていることは、相変わらず紛争地
域に首を突っ込んでは、戦闘に介入し、戦場を荒らしているだけである。これは諸外国
は無論のこと、地域に住む住人や、地球から宇宙へと移住してきた人々からの反感を
買うのは、無理はないことだと思う。
 特に現在、宇宙移民と呼ばれる人々が急増し、国の支配宙域においてコロニーの他
に小惑星などを利用した拠点が建設ラッシュの真っ最中なのだ。オーブはそれに先駆
けて、積極的にその運動を推進していた。ラグランジュ宙域の移住に対して援助金を出
して援助姿勢を惜しまない方針をとっている。人は宇宙で人口天体を建設し、そこに住
む事ができるようになったのだ。もう『プラント』に住む者達だけが宇宙に住む住人として
特別な存在でもない。
 
 もう一度大きく溜息をついた。そして、ハッ、とした。代表首長になってから溜息を吐く
回数は日増しに増え、すでに悪癖となっていることを。今更ながら気がついた。
 
 ――まだ20代なのに。彼女はそれでますます落ち込むことになる。
126機動戦史ガンダムSEED 33話 9/10:2007/10/06(土) 00:03:12 ID:???

 彼女が最も頼りにしている代表府の精鋭スタッフは、今回の内戦処理の為に各地を
飛び回っている状況だ。彼らは政治家でもあると同時に高級指揮官としての軍人とし
ての側面もある。現場で内戦の戦後処理をこなすには、現実として無骨な軍人やマニ
ュアル通りしか知らない役人だけではとても対処できないのだ。
 現在もオーブを取り巻く状況は甚だ不安定であり、いつ何時か外部からの侵攻を受
けるか分からない情勢下で、諸外国に対して隙を見せるわけにはいかない。

 「ああ……もうっ!本当にこんな時に何でサイがいないのよ……」

 カガリは大声でサイの不在を呪った。本来なら今、サイ・アーガイルは首席補佐官と
して自分の側に常に控えていなければならないのだ。今回、腹心ともいうべきミナやキ
サカ達を派遣しても平気なのは、肝心の要であるサイが代表府でどっしりと席を置いて
自分を補佐しているという条件での安心感からだった。ミナ達も『サイ・アーガイルがい
るならば』との安心感から代表府の外に出ているのだ。
 
 だが、ごらんの通り今現在、代表府の要ともいうべき首席補佐官は、不在という有様
である。オーブが誇る<ホワイト・ヒル>の首席補佐官にして、機動艦隊総司令をも兼
任している”異端の才人”は自分達をほったらかにして何をしているかと云えば……。
 
=========================
 
 ――1週間前の代表府執務室・隣にあるカガリの自室――

 ビー!ビー!とベットの側に設置された呼び出し音が鳴り響いた。時計を見たらAM
6:39となっていた。昨日寝たのは確か、午前4時半近くだった気がする。気力が尽きて
直ぐに風呂に入ってそのまま、ベットに倒れこんだところまでの記憶はあった。
 
 『はい……?』
 
 寝起きだが何とかはっきりとした声を出す事が出来た。これで『ふあぁい』とかの寝ぼ
け声が部下にでも聞かれたら、代表首長の座が危うくなるだろう。国家代表は何事にも
エレガントでなければいけない。

 『おはようございます――代表』
  
 『……サイなの?』

 『――はい。お休みのところ申し訳ありません』
127機動戦史ガンダムSEED 33話 10/10:2007/10/06(土) 00:07:23 ID:???

 何とかそう応じると、聞き慣れている男の声がした。毎日顔を合わせているから当
然なのだ。声の主は首席補佐官のサイ・アーガイルであった。
 
 早朝一番に自分への目通りを願って来たのだ。サイが自分に用事がある時は、フ
リーパスでいつでも執務室に通すように部下には言ってある。サイが自分に直接話
を通すのは、大抵は国家重要懸案のことだからだ。

 代表府では昼夜問わずに、情報或いは懸案をその時に報告するのが常で、代表
府の幹部達にへ24時間いつでも報告するようにと厳命されている。
 カガリ自身も、そうするように指示しているのだ、大抵の場合はサイかロンド・ミナ達
が問題の対処して翌日に、カガリに報告するようにしていた。深夜まで代表を働かせ
るのはナンセンスだとスタッフ間の暗黙の了解となっているからだ。無論、国家の一大
事の問題には、当然だがカガリの決断が必要になるので、恐縮だが深夜にお越し頂く
こととなる
 
 眠気を覚ますために、急いでシャワーを浴びて様相を整えて、いつもの代表首長の
制服へと着替えている間、サイには執務室で待機してもらっていた。
 およそ20分後経ったから執務室に入るとサイは来客用のソファーに腰を下ろして、
自分のパーソナル・リンク搭載のノートパソコンを操作している最中だった。

 彼は、自分の入室に気が付くと立ち上がって、挨拶すると開口一番、とんでもない
事をあっさりと言ってくれたのだ。

 『――今から出撃しますので、あとのことは、よろしくお願いします』

 『……はい?』


>>続く
128通常の名無しさんの3倍:2007/10/06(土) 00:11:46 ID:???
>>戦史さん
投下乙、GJ! 前半も後半も戦史さんの味が出ていてとても良いです!
【Bパート】

 ルナマリアは雲間から眼下の景色を見下ろした。輝く海面を三機編隊の敵戦闘機が
飛び去っていく。向かっているのはオーブ守備隊が展開している方角だ。
 狙撃したい衝動をルナマリアは自制し、念のためシンに投降の意志を示していることを
発光信号で伝える。
 あの敵戦闘機とは戦った経験がある。最新型にかなうほどではないが、ビーム兵器を
持ち、モビルスーツへの変型機構も持っている。けして弱くはない。望遠映像や速度で
見た限りでは戦闘不可能な状態とも思えない。それが攻撃をしかけてこないどころか
降伏しているのだから、戦況がよくわかる。
「ああ、もう戦いも終盤か」
 ルナマリアには少しばかりさびしい気持ちがあった。
 すでに制空権も得ているし、島の大半も制圧している。地下基地もオーブが味方に
ついているのだから発見や制圧は難しくなかった。オーブ反乱軍の敗北は確実だ。
このままでは到着する前に敵が降伏するかもしれない。
 嘆息していると、ディステニーから通信が入った。
「質問だ。あの島に今、使える滑走路はあるのか」
「そんなの残ってるわけないでしょう。あれだけ爆撃をしたのだもの。地下カタパルト
だってとっくにオーブ守備隊が制圧しているし」
「じゃあ、あの戦闘機はどうやって島から飛びあがったんだ。制空権はとっくに奪っている。
無補給で飛び続けられたとも思えない」
「あれって可変モビルスーツじゃない。滑走路がなくても変型して離着陸できる……」
 ルナマリアは途中で言葉を切った。何かが脳裏に引っかかった。
 周囲への警戒心が薄れたその時、インパルスの背後から、モビルスーツくらいに巨大な
四本指がつかみかかってきていた。指に見えたマニュピレーターは、それぞれがモビル
スーツの四肢。
 人型へ変型する途中の可変戦闘機、ムラサメだった。
 嵐の空で遭遇したアカツキは移送中だったと推測されている。おそらく輸送用ではない
垂直離着陸機を使い、吊り下げて運んでいたのだろう。実際に、モビルスーツを吊るして
運んでいたと思しき不安定で大きな影が監視記録から発見され、直後に四つの飛行物体が
島を離れたという情報も入っている。
 とにかく先ほど見た編隊は三機。一機足りない。
 独自判断で投降しなかったムラサメは、あわててかまえたインパルスのビームライフルを
ビームサーベルで切り裂いた。インパルスが左手に握ろうとしたビームサーベルも、ムラサメは
返す刀で手首ごと切り落とす。
 眼下の海にインパルスの左手首とライフルの残骸が落ちていく。
 牽制のバルカン砲も効果がなく、ムラサメは穴だらけになりながらビームサーベルをかまえて
突進してくる。インパルスは右手にビームサーベルをかまえた。
 そしてインパルスにビームサーベルが届こうかという瞬間、ムラサメの動きが止まった。見ると、
すでにムラサメの目に光はない。モニターをよく見れば、ムラサメの胸部から突起物が生えていた。
 ムラサメは背後からディステニーに大刀でつらぬかれていた。斬艦刀……本来は敵軍艦を
攻撃するため設計された、ビームと質量を併用して敵を破壊するための武器だ。
その長さはモビルスーツ本体の身長とほぼ同じ。それがコクピットを貫通していた。
 ディステニーは軽く刀を一振りし、動かなくなったムラサメを放り捨てた。斬艦刀の切っ先には
黒い液体が飛び散っている。
 ムラサメは煙の尾を引きながら落下していき、途中で雲に隠れて見えなくなった。
 名も知らぬ敵だが、威圧感は相当なものだった。しかも量産機でザフトの高級機を二機同時に
相手して、多少なりとも損害を与えた。
 インパルスが左手首の他に損傷を受けていないか確認しながら、ルナマリアはつぶやく。
「きっと、嵐の中でアカツキを運んでいたパイロットね。それも他と違って投降することもなく、
あえて不利な戦いをいどんできた……」
 弱いはずがない。恐怖に駆られて後先考えない戦いをいどんできたのではなく、確固とした
意志を持ってこちらの兵力を削ごうとしたのだ。
 ディステニーからビームライフルを受け取りながら、ルナマリアはシンに礼をした。
「フォローありがとう。それにしても、よく気づいたわね」
 本当なら自分が相手をしたかったのだが、客観的に見ると助けられたのもたしかだ。おそらく
滑走路についてルナマリアに尋ねた時、すでにシンは敵の存在に感づいていたのだろう。
 シンの返答は短かった。
「俺は、みんなを守りたいだけだ」
 乾いた声の通信はすぐに切られ、ヘルメットからは空中の電磁波を拾ったノイズだけが聞こえる
ようになった。
 ふいに、きしむ音が響いた。ルナマリア自身の歯ぎしりだった。みんなを守る、などという傲慢な
台詞が不快だった。
 できもしないくせに。できなかったくせに。
 また、身体の底に重い澱が溜まっていく。
 雷鳴に似た轟きが山の中腹に響く。
 たちこめた黒煙はまるで雷雲のようだ。稲光に似た黄金の輝きが雲から雲へ走り抜ける。
 そこかしこから放たれる光線が黄金の装甲に反射し、攻撃した者へ返される。あらがっては
ならぬ相手にあらがった神罰と感じさせる光景だ。実際にムラサメの設計者は意識していた
かもしれない。神の似姿となる兵器として。いや、最初にモビルスーツを人型兵器として完成
させた者からして、神の死んだ世界に新たなる偶像を生み出したつもりだったかもしれない。
 操縦席に座るユウナが誰にも聞かれない軽口を叩いた。
「雷神様の、お通りだ」
 口にして、自ら失笑する。ただ一柱となり人に追われ、山頂に逃げている神など滑稽だ。
 雷鳴は、巨人が引きずる斬艦刀がたてる音だ。エネルギー消耗が激しいビーム砲のたぐいは
持たない。ビームを反射し実弾も効果がないアカツキには、長距離攻撃など怖くはない。近づい
てくる者を倒すだけだ。
 周囲に目をやれば、かつて緑なしていた美しい島は黒煙で覆われ、爆撃による巨大なくぼみが
無数にあいている。黒く炭化した木々は、今なお赤熱して光をにじませている。モビルスーツの
高い視界からでは、残骸となった兵器も獣や人の屍に見えた。
 まるで地獄のようじゃないか。
 ユウナは、まるで自分が地獄をはいずりまわる魔物にでもなった心地がした。
 太陽が山の稜線に隠れようとしている。天に目をやれば、暖かい薄紅色に深い紺碧色がにじむ。
「さしずめセイランの黄昏作戦、ってところかな」
 そう口にして、古くからセイラン家につかえていた侍従が、目がしらを押さえていたのを思い出す。
なに、心配はしていない。ユウナが立派に戦って死ねば相応の立場で遇されるだろう。
 そうだ、ユウナは幼少から自分を守ってくれた従者に対して、たぶん最初で最後の恩返しを
しようとしているのだ。
 ふいにアカツキが停止し、走っていた勢いのまま振り向きつつ斬艦刀を振りまわした。切っ先が
大地を切り裂き、倒れていたモビルスーツの頭部から股間まで両断する。敵モビルスーツが握っ
ていた柄が左腕からこぼれ、落ちた実体剣が地面で音をたてた。
 ザフトの旧式兵器、ジンハイマニューバ。アカツキを攻撃しようとして、モビルスーツの残骸に
まぎれて待ちかまえていたのだ。実弾兵器もビーム兵器も効かないアカツキに対して有効な攻撃
手段は、衝撃で装甲越しに内部に損害を与えるくらいしかない。さらに起伏の多い地形を移動する
モビルスーツを攻撃する場合、遠距離からの精密射撃を当てることが困難である以上、実体剣を
用いる選択は悪くない。寝そべった状態から致命傷を与えることは難しいが、脚部を損傷させて
回避行動を封じるくらいは可能だろう。
 もし単機で行動不能に陥れば、包囲する敵になぶり殺されていた。
 ユウナはつばを飲みこむ。気づけば、すっかりモビルスーツの大群に囲まれていた。先と同じ
ように、兵器の残骸群に隠れていた。片目、片腕、首無し……多くの機体が攻撃で何らかの
破損をし、怪物的な姿となっている。爆撃で無数にあいた穴ぼこは、死者が蘇りし後の墓だ。
 アカツキが斬艦刀をふりかざす。よろめくように敵が斜面をはいあがり、襲いかかってくる。
アカツキの装甲は宇宙世紀最強といってよいが、出力は敵機とほとんど変わりない。組みついて
こられると身動きできなくなるだろう。
 無数にわいてくる半壊した機械にかこまれ、ユウナは思った。
 どうやら王として死ぬこともかなわないかもしれない。
 広い会場を埋めつくす人々が、壇上に視線を集めている。
 壇上で語りかけているのはウズミ・ナラ・アスハ。オーブの現首長だ。
 少年は直立不動で壇の近くに立ち、照明の光を浴びる首長を見つめていた。胸の内に自然と
誇らしさがわきおこる。大仰な演出に対する冷笑も批判も感じず、純粋にたたえる気持ちだけを
持つ。近くに立つ父も首長に拍手を贈っている。当然のように少年も真似をする。力強く手を打つ。
父の顔に浮かぶ渋い表情に気づくこともなく。
 ウズミの一礼とともに音楽が始まり、そこここで談笑が生まれる。なごやかでも、どこかしら
互いへの牽制や実力者への媚びがある。誰がどの勢力に属するかはわからなかったが、さすがに
少年も周囲の大人が見せる澱んだ空気に気づきだした。けして緊張しやすい性格ではないのに、
口にふくむ甘い飲み物の味もわからない。
 そんな停滞した空気を切り裂くように、一陣の風が会場へ飛び込んできた。長い髪をなびかせる
金髪の少女が正面扉から駆けこんできたのだ。ワンピースのすそが泥だらけだというのに、その
美しさを少しも損なっていない。むしろ草原からつみとったばかりの花に似て、汚れすら野生味を
感じさせ、愛らしさを浮き立たせた。
 少女は会場の中央にいるウズミの側へと駆け寄り、握った右手を差し出す。
「お父様、こんな美しい花を見つけました。何という名前でしょう」
 少女が差し出した花は白く、丸みを持って先がすぼまった花びらが連なっている。
 少し困った顔をしているウズミを見て、つい少年は横から口を出してしまった。
「鈴蘭ですね。この近くでは珍しい花です」
 子供心に、自分の年齢なら丸く場を収められるだろうという計算もしていた。
 少女はきょとんとした顔で少年に向き直り、ふっと笑った。
「へえ、物知りなんだな」
 皮肉な響きはどこにもなく、素直に感嘆する口調だった。
「気をつけてください、毒草ですから。花びらから根っこまで、口に入れると命にかかわりますよ」
 危険ゆえに屋敷の近くから取り除かれているのだ。
 ひき蛙をつぶしたような悲鳴を上げ、少女は鈴蘭を放りあげた。床に落ちる直前、少年が花を
つかみとる。
「おい、危なくないのか。すぐ外に捨てに行こう」
 こわごわと花を見る少女に、笑いかける。
「手に持つくらいなら大丈夫ですよ」
「なら、私が捨てに行く。持ってきた私の責任だ」
 よこせという感じで手を伸ばしてくる少女に対し、少年は首を振った。
「自分の名前はユウナ・ロマ・セイラン、五氏族をお守りするセイラン家を継ぐ者です。そう父から
教えられましたから、私が処分をたのんできます」
 少女が笑った。
「おまえ、変な奴だな。男の子ならボク、女の子ならワタシだろ?」
 性差を感じさせる昔の言葉で講釈をたれてくる。
 少年は苦笑した。
「そうですね。カガリ様のいうとおりです」
 今度は少女が苦笑した。
「何だ、私の名前を知っていたのか」
 カガリ・ユラ・アスハ、知らないはずがない。オーブ首長の娘だ。出生に問題があるらしく世間
には顔を出さないが、オーブ有力者の間では無礼がないようにと知れわたっている。
「マイスウィートハニーな姫様のお手をわずらわせるわけにはいけません」
 昔の映画で知った言葉を使い、せいいっぱいにおどけてみせた。カガリもくったくなく笑顔を返す。
 笑いあう幼い二人を、それぞれの父親は笑み一つ浮かべず、じっと見つめていた。
 カガリの許婚に決まったことを父親がユウナに告げたのは、しばらく後のことだった。
 事故から生き残ったのは、かつての婚約者であるカガリ・ユラ・アスハが尽力してくれたためかも
しれないと、ユウナは頭の片隅で思う。それくらいの温情はかけてくれる人だ。
「カガリ様、あなたはやはり人の上に立つ器ではない」
 敗北した虫けらなど一顧だにする価値もない。わざわざ首長自ら温情をかける必要も吊し上げる
義務もない。ただ手を汚さずに下の者に任せていればいい。国の上に立つということは、結局は
そういうことだ。
 戦場についた時、すでに太陽は水平線に沈んでいた。
 島には灯火一つなく、火事でくすぶる赤が少し見えるだけ。モニターに赤外線画像を映しても、
生命の存在は感じられない。
 島全体に目をやる。山の中腹に小山が見える。うずたかく積み重なった兵器の残骸だ。その中央
に巨人が一体たたずんでいた。昇ったばかりの月光をあび、大刀を片手でゆるやかに持ち、黄金に
輝く。それはまぎれもなく王の姿だった。
 倒すべき敵の姿だ。
「私が先行する」
 ルナマリアは一声叫び、アカツキに向かってインパルスを急降下させた。
 ビームライフルはアカツキの周囲に照準を合わせて撃つ。周囲の土砂を掘り起こし、アカツキの
目くらましにする。関節や冷却機構に砂塵が入りこんで動きを鈍らせれられれば、なお良い。背後
のディステニーも同様に大口径ビーム砲で援護する。
 アカツキは天を見上げ、静かに斬艦刀を振り上げた。その切っ先は正確にインパルスの姿を
とらえる。
 接触は一瞬。アカツキが横薙ぎした斬艦刀は正確にインパルスの脇腹をえぐり、弧を描くように
両断した。装甲がゆがみ、ひきちぎられる。しかしインパルスは直前で上半身と下半身に分離し、
致命傷にはなっていない。
 インパルスの上半身がブースターを噴射。通用しないビーム兵器は捨てた。そのまま右手で
アカツキの左肩をつかみ、左手は敵の右脇からまわす。そのまま最大出力で山の斜面にアカツキ
を押しつける。
「……つかまえた」
 ルナマリアは笑った。装甲がゆがんでいるため脱出装置が作動しない。けれど怖くはなかった。
むしろ楽しい。楽しさのあまり笑みがこぼれる。
「あなたは死ぬのよ、私とね」
 口にして、自分で少し驚いた。勝利の笑みが苦笑いに変わる。ずっと殺したかったのはシンでは
なく、ルナマリア自身だったと気づいたのだ。
 幼いころはもちろん、軍に入ってからも常に側にいた妹は、心身ともに遠くへ行ってしまった。
尊敬していた人々とも様々な形で別れてしまった。
 最後まで側にいたシンは、バカで身勝手でシスコンで、とりえのモビルスーツ操縦すらアスラン・
ザラに完敗した。考えてみると良い所なんて一つもない。せいぜい見下して哀れむ人形に使える
程度だ。それでも側にいて不快ではなかった。アスランとメイリンがいなくなった時だって、近くに
レイがいたのにシンにすがりついた。……でも、もう限界。今度の戦いが終われば、私は本当に
一人きりになる。孤独をいやす方法なんて知りやしない。明るくふるまおうとしていたのは、さびしさ
に耐えられないことの裏返し。
 ふいに、ルナマリアは宙に浮かびあがるような感覚をおぼえた。ヘルメットの内で短い前髪が
ゆれる。加速重力でシートに押し付けられているはずなのに、背中の圧迫感が消えている。
 インパルスの右掌と左肘は、アカツキの両肩を確実につかんでいる。だけれど正面モニターから
急速にアカツキが遠ざかる。噴射する燃料を使い果たしたインパルスは、落下していた。両肩部を
アカツキの斬艦刀で斬り離されて。
 気を失う直前、アカツキが足をゆっくりと上げている様子が見えた。もちろんそれは一瞬のこと。
コアファイターが作動したとしても脱出する余裕はない。落下した衝撃でコクピットがゆがみ、
破裂したモニターがルナマリアに降り注ぐ。
 光を失ったインパルスの頭部にアカツキが足をあてがい、そのまま踏み潰した。
 インパルスは何の反応も示さなかった。
短いから、できれば00がはじまる前に終わらせておけば良かったと反省。じゃ。
136通常の名無しさんの3倍:2007/10/06(土) 09:53:25 ID:???
遅ればせながら
> SEED『†』 
イアン艦長かっこええ! しかもハイパー化まで!!
やっぱり戦艦は姉ちゃん艦長よりも漢じゃなきゃ、思わせる。

下敷きとなる本編のある程度の競ってがあるからこのSSがあるんだけど
つくづく本編もこんな感じで進行してたらどんなによかったか、と悔やまれる。
【Cパート】

 アカツキがふりはらうと、インパルスの腕は簡単に地面に落下した。
 シンの口から叫びがもれることはなかった。ただ、すきま風のように喉を鳴らすだけ。声帯が
声の出し方を忘れるほど意識全てを敵の姿が占領していた。
 操縦桿の重みが急に増えたように感じる。筋肉のこわばりが緊張を伝えているのだ。
 口を閉じ、シンは絶叫を押さえつける。大丈夫だ、見た光景について、よく考えろ。インパルスは
メインカメラを潰されただけ。ルナマリアは生きていると信じる。目の前で確実に殺された強化人間、
ステラ・ルーシェとは違う。
 いや、たとえ殺されたのだとしても、兵士として生きる道を自ら選んだルナマリアは、死を覚悟
していたはずだ。復讐の念に突き動かされてはならない。
 目の前の男は待っていた。死に場所を求めていた。ならば倒す、それだけだ。
 ディステニーはアカツキに接近しながら大口径ビーム砲を乱射した。もちろん照準は地面に
合わせている。爆発で掘り起こされた土が高く舞いあがる。しかし視界の遮断は二次目的だ。
インパルスに貸したビームライフルとは威力のケタが違う。土砂どころか岩まで掘り起こし、地上の
存在を大地に埋める。
 もちろんビーム砲のエネルギーはすぐにつきる。アカツキの全身を埋める前だ。しかし足元の
地面は確実にえぐりとった。視界の効かない状態で、流動化した大地。アカツキの脚部も埋まって
いるだろう。
 動けなくすれば、攻撃するのはたやすい。大質量の物体をビームと合わせて高速でぶつければ、
アカツキの装甲であっても損傷を与えられるだろう。
 ディステニーは地上に降り、斬艦刀をかまえた。目の前でわきあがっている土煙に向かって最大
出力で突進する。心の奥底を満たしていた殺意があふれてくる。
 泣いて叫んで埋もれて孤独に死んでいけ。
 ユウナは、ほんの少しだけ驚いた。敵パイロットは無能かと思えば、意外と反射神経がいい。
 アカツキを土煙から出すと視界が開け、地面に横たわるディステニーの姿が見えた。無防備に
突進してくるだろうと予想してインパルスのビームサーベルを投げつけたのだが、命中する寸前に
機体をひねってかわしていたらしい。むろんディステニーはすぐ起き上がって距離をとってくる。
 愚かな兵士だ。ビームで土をまきあげれば、敵の目と同時に敵の姿も覆い隠してしまう。つまり
敵に反撃の機会を与えることになる。何度もビーム攻撃をしかけてくれば、土煙で視界が遮断
されていても位置を推測するのは簡単だ。あとはアカツキの足元に落ちたインパルスから手ごろな
武器を奪い、待ちかまえるだけで良かった。
 もちろん、崩れた体勢から即座に立ち上がったように、搭乗者の操縦技量はかなりある。おそらく
体に動きがしみついているのだろう。かなりの訓練をつんだ優秀なパイロットに違いない。
「憎悪で目がくもったかな?」
 下手をうったのは、同僚機が撃墜されて感情的になってしまったがゆえ、かもしれない。事実、
インパルスの残骸に機体を近づけると、格段に土砂の奔流をあびなくなった。インパルスへ誤射
しないよう、明らかに敵は気をつけていた。
「若いパイロットだ」
 ユウナは相手が自分と同年代だろうと想像した。遺伝子操作兵で構成されるザフト兵士に若年の
パイロットは珍しくない。
「もっと強いはずだろう。僕を失望させないでくれ」
 ついコンソールパネルに目をやってしまう。一度も空中で戦闘をしていないし、使用した武器は
斬艦刀だけ。燃料は充分に残っている。
「覚悟していたのに、生きのびたくなってしまうじゃないか」
 生きのびて合わせる顔があるのか。顔を合わせたい相手があるのか。ありはしない。家族で残った
のは自分一人。かつての婚約者には別の男がいる。ロゴス残党と会うなど、こちらから願いさげだ。
だが本能が生存を求め始めている。死を前にして覚えていた興奮が冷めていく。
「……相手が弱いなら、次に期待するさ」
 跳躍したアカツキは斬艦刀を振り下ろし、体勢を立て直しきれていなかったディステニーの大口径
ビーム砲を切断した。
 何もかもが失われた島に影が二つ。
 爆撃の衝撃波と焼夷弾の業火で、木々も建物も破壊された。かつて手に入れた地位や名誉を
全て失い、敗れた組織の中ですら孤独を抱え込まざるをえなかった者。多くの兵士が忌み嫌うよう
になった最前線に、シンとユウナの二人は、今なお立たされている。
 斬艦刀。重く鈍い不格好な兵器だけが、二人が自分の意志で動かせ、外界に影響を与えることが
できる、最後の力だ。
 アカツキが斬艦刀を足元に突き刺し、杖のように立てる。そして向かってくるディステニーの攻撃を
刃に滑らせ、力を使わずにそらした。いなされたディステニーはたたらをふむ。その後頭部へ刀から
手を離したアカツキの蹴りが入り、耐えられずにディステニーはうつぶせに倒れた。アカツキは再び
斬艦刀の柄を握る。そして大地から刀を抜きとり、動かなくなったディステニーへ近づいていく。
 そうした戦況報告が軍艦へ同時刻で届く。顔をしかめたアーサーがアビーの側まで駆け寄った。
「画像を拡大してくれ」
 アビーが操作盤を叩き、艦橋中央のモニターに影が浮かぶ。
「最大望遠か、これで」
 偵察機や衛星から送られてくる各センサーの情報を総合し、画像補正を何度も重ねているのに、
モザイク状の人型がゆらゆら動いているようにしか見えない。海風で舞い上がった潮や戦闘による
土煙が視界をさえぎっている。
 かすかな姿は、すぐに土煙の向こうに消えた。
「……また置いていかれるのか、私は」
 不思議そうな顔で振りかえったアビーを見て、アーサーは苦しげに笑った。
「苦手なんだよ、誇りをかけた戦いというものが。誰も彼も先に行ってしまう」
 呆然として見送るしかできなかった艦長の背中が、頭から離れない。
「当てなくてもいい。ありったけの対地ミサイルを撃ち込め」
 背後から懸念する声が上がる。
「しかし相手モビルスーツは、データから見て相転移装甲も備えています。命中しても効果は期待
できません」
「わかっている。ゆさぶりをかけられればそれでいい」
 発射管から白煙を爆発的に噴きながら、ゆらりとミサイルが射出される。ミサイルは上方に加速
しつつ昇り、目標の直上で急降下。アカツキの周囲に降りそそぎ、ビルほどに高い爆炎が無数に
立ちのぼった。
 しばらくして前線から報告が入る。
「アカツキ、健在です」
 全て予想された通りだ、何の問題もない。命中させる期待はしていないし、その必要もない。ただ、
ディステニーが再稼動するまでの目くらましになってくれさえすればいい。信頼しているのだ。
 これまでシンが誰かを守ろうとして、戦い抜いたのと同じように。
 アビーの右肩に置かれた手に、力が込められる。
「彼なら立ち上がってくれる。今度も、だ」
 オペレーターもまた、艦長の言葉に力強くうなずいた。
 気がつけば、白い砂利で覆われた野原を歩いていた。
 砂利の下は沼地のようだ。石灰質の隙間からひょろりと茎が伸び、赤い花びらが風にそよいでいる。
 湿原のように不安定で柔らかい地面をふみ、シンはステラ・ルーシェの背中を追う。
 ステラは羽のようにかろやかに、地面をすべるように歩いていく。
 どれだけ力を込めても地面の粘りに足をとられ、遅い歩みとなり、追いつくことができない。
 幾度となく呼びかけたが、ステラは振り返りもしない。シンから見えるのは、金色の髪が風をはらん
でゆれている光景だけ。
 ふいにステラが立ち止まった。その足元に二つの塊がある。人体ほどの大きさの布で包まれた塊。
端からのぞくのは薄く青い髪と、緑の逆立った髪。名も知らぬ死体を前に、ステラは歩みを止め、
じっと見下ろしている。
「ステラ」
 シンの叫びにようやくステラは振り返った。不思議そうにシンをながめ、また死体に目を戻す。
「いっしょに行こう、ステラ」
 ステラは死体から離れ、ゆっくりした歩みでシンの前に立った。真正面から見上げてくる瞳に、
それを望んでいたはずのシンは少したじろいだ。
 それでもシンは説得を続けようとする。
「いっしょに戻ろう、みんなのいる世界へ」
 ステラのさしのばした手に自分の手を重ねようとした時、足元の白骨にぽつぽつと赤い斑点が
浮かぶのがシンの視界に入った。
 垂れ落ちている血は、シンの手から流れた物だ。シンが傷を負っているわけではない。無数の
返り血がシンの手を赤く染め、ぬぐいされないほどの粘り気をもってまとわりつき、今もだらだらと
垂れ落ちている。
 よく見れば、ステラの手も赤黒く染まっている。ステラの血痕は変色して乾き、ところどころが
剥げかけだ。ずっと前の返り血なのだろう。それだけの時間が経ったのだ。きっとしばらくすれば
元の白い手に戻る。
 シンはのばした手を止め、拳を握った。
「ごめん」
 知らず知らずのうちにシンはうつむいていた。
「それ以上、君の手を汚くしてはいけなかったのに。君は嫌がっていたはずなのに」
 腕を下ろすシンを不思議そうにながめ、ステラはにこりと笑った。
「ありがとう、シン」
 ステラは振り返ってしゃがみ、二つの死体を自分に言い聞かせるようにいった。
「私はここで、みんなと待っているから。ずっと、遠い明日に待っているから」
 その二人は、ステラにとって大切な人々の一人だったのだろうと、ようやくシンは気づいた。
生体兵器として扱われた彼女でさえ、大切な仲間がいたのだ。
 そしてシンは、これまで踏みこえてきた無数の死体にも、きっとそれぞれに大切な人がいるの
だろうと思った。
「いつまでも待ってる。ずっと忘れない。だから、私は大丈夫だから、シンは自分のいるべき
場所にいて、ね」
 シンの知るステラは、これほどに会話がたくみではなかった。
 だからこれは自分が望んで見ている幻であると、いつからかシンは気づいていた。
「俺も、絶対に忘れない。君が待っていることを、君の手を再び汚してしまいそうになったことを」
 ほほえむステラの体が、ほのかな光の粒となり、はじけて消えた。
 シンは自分に言い聞かせた。
 幻だ。消えた所で何も変わらない。今やるべきことは他にある。これまでの戦闘では、倒したい
相手が敵であることが多かった。しかし現実はそんなに都合良くはない。
 対デストロイ戦では、強化人間をせめて楽にさせようと自分に言い聞かせながら戦っていた。
そうでなければ戦えなかった。アスランもメイリンも撃墜したくはなかった。戦いを続けるにつれ、
自分自身が納得できない戦闘がこれから何度も出てくるだろう。
 しかしシンは殺し続けていたのだし、これからも殺していく。軍の命令にそい、法に触れない
限りは免罪されるかもしれない。しかし世界は少しづつでも戦争そのものを違法とするように
条約や国際法を整えつつある。そして軍に入隊したのはシン自身の選択だ。
 時に誰かを殺さなければならない道を、自ら選んだ。
 ならばせめて背筋を曲げずに戦おう。胸を張って切り結ぼう。

 孤島から二筋の光が伸びた。
 ディステニーの広げた翼から出た光が、さらに巨大な翼を形成したのだ。
 その姿がアカツキに攻撃をためらわせる。その風があたりの煙を散らす。
 翼を広げたディステニーはゆるやかに立ち上がり、しっかりと前を見すえる。アカツキはすでに
斬艦刀をかまえている。
 うなりをあげる海風が戦場の静けさを浮かび上がらせる。
 大刀をかまえた二体の巨人に、天頂から月光が降りそそぐ。
 敗者として誰からも見向きされなくなっていた彼らは、そこに確かに存在していた。

 (続)
142通常の名無しさんの3倍:2007/10/06(土) 13:55:14 ID:???
ダブルオー放映後の板状況を見て、最後の投下時期を考える。じゃ。
143通常の名無しさんの3倍:2007/10/06(土) 17:30:22 ID:???
うーん・・・面白いんだけどさ、運命のスペルは「DESTINY」なのよ
デスティニー、でしょ?それに斬艦刀より対艦刀とか
重斬刀とかアロンダイトっていう名前もあるじゃん
後ハイマニューバはT型とU型があるからアレはU型ね
まあ他の批評はエロい人たちにしてもらって、投下乙です
144hate and war ◆6Pgs2aAa4k :2007/10/06(土) 20:17:30 ID:???
“courageous rascal's theme”

 青い秋桜なんて糞食らえだ。
 どんな理由があるのかは知らねえけど動物じゃねえんだ。
口があるなら言葉で話せ。手を出さないで口をだせ。
 俺は血のバレンタインを引き起こしたナチュラルどもを許す事が出来ない。
 コーディネーターが優れてるのは仕方無い。だってそういう風に作られてるんだからな。
 それを嫉妬して挙句の果てに核をぶち込むなんて狂気の沙汰だ。
 ナチュラルどもは色んな御託を引っ提げて理論武装してるけど、そんな事は関係ない。
 お返しとしてNJを落としたのは仕方の無い……いや、当然の事だろう。
 血は血を求める、名誉の為に。流された仲間の血は敵の血をもってこそ初めて贖われる。
 でも、まだまだ全然足りない。
 ユニウス7で見知らぬ仲間が死んだだけなら俺はここまで怒りを覚えなかった。
 ただ、ユニウス7には俺の親父がいた。
 人の良い小市民だったけど、親父はそれなりに立派な親父だった。
 あんまり口はきかない方だけど、でかい背中で俺に色んな事を教えてくれた。
 家族を殺されたら誰だって頭に来る。
 ナチュラルどもに殺意を抱くのは至極当然な事だ。
 人の良い親父は復讐なんて下らない事をするな、なんて言うのかも知れない。
 でも、残念な事に俺は親父から人の良いという遺伝子を受け継がなかった。
 俺が復讐するのは誰の為でもない。勿論親父の為なんてお涙頂戴な人情噺染みた事でもない。
 パトリック・ザラの示した道なんぞ知らないし関係ない。
 崇高な理念なんてものなんてものはとうの昔に犬に喰わせちまって今じゃ犬の糞だ。

 ――復讐するのは俺の為だ。

 親父を殺された憂さを張らす為だけに復讐をする。
 都合の良い事に、知り合いにユニウス7を地球に落とすなんてイカした事に誘われた。
 オーブにいるコーディネーターが何人くたばろうが関係ない。地球がどうなろうと関係ない。
 ナチュラルを殺せればそれで良い。憂さが晴らせればそれで良い。
 俺は親父の仇を討てない様な腰抜けになるなんて事は出来ない。
 すまねえ、親父。アンタの息子は間違った道を歩んじまった。
 でも俺は後悔はしねえ。
 親父がでかい背中で後悔だけはすんなって教えてくれたからな。
145通常の名無しさんの3倍:2007/10/06(土) 20:19:02 ID:???
投下終了。自分が何処まで血迷うのか心配。
146機動戦士ザクレロSEED:2007/10/06(土) 23:45:46 ID:???
 推進器から溢れた噴射炎が、ザクレロの背後に長い炎の尾を生み出す。
 その莫大な推力は、ザクレロに常識外の加速を与えた。
 行く手に立ちふさがるジンのコックピットの中、モニターに映るザクレロは距離を詰めるにつれてモニターに占めるその大きさを急速に増していく。
 コックピットに座るミゲル・アイマンとオロール・クーデンブルグには、まるでザクレロがその体を大きく膨らませながら迫ってくるように見えた。
「くっ! 化け物……」
 オロールは、迫りくるザクレロに思わず威圧され、恐怖に駆られたかのようにザクレロの進路上から逃げ出す。
 しかし、ミゲルは逃げない。
「化け物だと!? まやかしだ!」
 声を上げ、ジンにM69バルルス改特火重粒子砲を構えさせると、ザクレロの真正面からビームを浴びせかけた。
 ビームはザクレロの右の複眼センサーを焼き切り、一筋の深い傷を刻む。だが、
『ミゲル逃げろ!』
 オロールの叫びが、通信機を通してミゲルに届く。
 その時になって初めてミゲルは、自分の足が震えて動かないことに気づいた。
 眼前には、モニターいっぱいに迫るザクレロ。
 ビームを真正面から受けきったザクレロは、今まさにミゲルのジンに突っ込もうとしていた。
 悲鳴を上げる間もなくミゲルは、突然の激震に襲われたコックピットの中で全身を激しく揺さぶられ、そして襲いかかってきた猛烈なGに体を叩き潰される。
 ミゲルの意識はすぐに途切れた。
 しかし、意識を失った体を激震は容赦なく揺らし、コックピット内でミゲルを振り回す。
『ミゲル! 応答しろ、ミゲル!』
 オロールの呼びかけに、ミゲルは答えない。
 オロールは、ザクレロを追ってジンを飛ばしていた。
 ミゲルのジンは、ザクレロの顔面に張り付いたままで、宙を引きずられている。
 ミゲルの応答がない事から、ザクレロの衝突はパイロットの意識を失わせるに十分な衝撃をジンに与えたのだろうと、オロールは推測した。
 一方でザクレロは、ジンと正面からぶつかった事など無かったかのように、変わらぬ動きを見せていた。
147機動戦士ザクレロSEED:2007/10/06(土) 23:46:48 ID:???
「くぅ……」
 ザクレロのコックピットの中、操縦桿を握るマリュー・ラミアスの体にも凄まじいGがかかっている。
 まるで酔った様な感覚。そして、灰色に色を失っていく視界。
 グレイアウト……正面からかかるGで、脳内の血液が偏る事で起こる現象。気絶する事はないが、判断力の低下を伴う。
 マリューはGに耐えながら、ザクレロを戦域中の戦闘艦に向けて飛ばす事だけに集中していた。
 ガクガクと揺さぶられる座席でマリューは、何も考えずにモニターを見つめる。
 ビームを受けて複眼センサーの一部が死んでいるため、モニターの右半分にはノイズが混ざり込んでいた。
 だが、それだけではない。モニターの半ばを何か巨大な影が塞いでいる。
「ぁあ……じゃま……」
 マリューは、ミゲルのジンがザクレロに張り付いている事に、今になってようやく気づいた。
 即座に、何も考えずにトリガーを引く。
 直後、ザクレロの口からはき出された拡散ビームが、直前にあったジンの下半身を消し飛ばした。
 下半身を失ったジンは、ザクレロの顔の前からズルリと滑り、ザクレロの背に体をぶつけながら後方に吹き飛ばされたかのように去っていく。
 ジンが去り、遮る物がなくなったモニターの中、マリューは敵の姿を正面にとらえた。
 ローラシア級モビルスーツ搭載艦ガモフ。
 マリューは、Gに耐えながら呟く。
「……ごめんナタル……方向間違えちった……」
148機動戦士ザクレロSEED:2007/10/06(土) 23:49:33 ID:???
「ザクレロ、敵艦へ向かいます」
 アークエンジェルの艦橋に、索敵担当のジャッキー・トノムラの報告があがる。
 艦長席のナタル・バジルールは、思わず席から身を乗り出して通信士に向けて叫んだ。
「直掩に呼んだ筈だ! 呼び戻せ!」
「はい、呼びかけます! ザクレロ! こちら、アークエンジェル。聞こえますか!?」
 通信士は、即座に呼びかけを始めた。
 しかし、ザクレロからの返答が返る前に、戦況は推移する。
「艦長! ジンが接近してきます!」
 ジャッキーの新たな報告。
 艦後方上に位置し、M69バルルス改特火重粒子砲で攻撃を仕掛けてきていたジン。
 アークエンジェルが使用したアンチビーム爆雷によりビーム攻撃の効果が薄れた事を悟ったか、距離を詰めてきていた。
 アンチビーム爆雷の効果範囲を超えて、艦の至近でビームを撃たれれば、アークエンジェルは多大な被害を受けるだろう。
 また、更に接近を許して艦に取り付かれれば、白兵攻撃に何の対抗手段も持たない戦艦はたやすく落とされる。
「ヘルダート、コリントス発射!
 イーゲルシュテルン、対空防御!」
 ナタルの指示が飛んだ。
 艦橋後方の十六連艦対空ミサイル発射管から対空防御ミサイル「ヘルダート」十六発。
 艦尾の大型ミサイル発射管の内、後方に向けられた物十二基から、対空防御ミサイル「コリントスM114」十二発が放たれる。
 計二十八発のミサイルが猟犬の群れの様に一塊になって宙を駆け、ジンへと向かう。
 ジンは、ミサイル迎撃のため重粒子砲を薙ぐように放つ。
 ビームはミサイルの群れを切り裂くように走り、直撃および至近でビームの重粒子を浴びたミサイルを次々に誘爆させた。
 その爆光の中、生き残ったミサイルが六発飛び出してくるが、四発は目標を見失っており何もない宙へと進路を向けている。残る二発を、ジンは無視して突っ込んだ。
 近接信管で爆発し、その爆発に巻き込んで敵を損傷させる対空ミサイル。
 非装甲のミサイルならば迎撃するに十分だが、装甲を纏ったMSには効果が薄い。
 ジンは重粒子砲を抱え込んで守り、ミサイルの爆発に耐え、ほぼ無傷のままで対空防御ミサイルを突破した。
 それに対し、艦上面に六基配置されている75mm対空自動バルカン砲「イーゲルシュテルン」が無数の砲弾を吐き出し、弾幕を張ってジンの接近を阻止する。
 実弾に紛れ込ませている曳光弾が宙に光の線を描く。それが無数に集まり、まるで光の線を束ねたかのように見える弾幕。
 ジンは弾幕の合間を縫うように飛行し、わずかずつその距離を詰める。
 そして、身近に位置する艦右後方のイーゲルシュテルンの砲塔に向け、重粒子砲を放った。
 直撃を受けた砲塔が、爆発を起こして無数の破片へと変わる。
 一つ、落とされれば死角が増えて回避はさらに容易になる。ジンの動きに余裕が出て、アークエンジェルは更にもう一撃を許す。
「後方上面のイーゲルシュテルン全損! ジンが死角に入りました!」
 索敵担当ジャッキーからの報告。直後、アークエンジェルが揺れる。
「左推進機関に被弾!」
 艦を揺るがす振動の中で上がる報告の声に、ナタルは奥歯を噛みしめた。
 艦後方のジンが、アンチビーム爆雷の効果範囲を、そしてアークエンジェルの対空防御網を抜けてきていたのだ。
 これで……チェックメイトをかけられたも同じ。
「被害は!?」
「推進剤の誘爆発生。自動消火中。推力、60%以下に低下」
 足を狙われた。これで、逃走を防ぐつもりだろう。そして、とどめを刺す。ナタルはそう判断する。
 状況は危機的ではあるが、予想通りとも言えた。ザクレロが帰ってこないという一点を除いて。
「ミストラルはどうか?」
 ナタルは、残された戦力を使う決定を下す。通信士は確認の連絡をとってから答えた。
「MAミストラル。出撃準備完了との事です」
「わかった。ミストラルの出撃用意。指示を出す」
 ナタルは、ミストラル出撃について素早く指示を出す。ジンの不意をついて攻撃できるように……
149機動戦士ザクレロSEED:2007/10/06(土) 23:50:37 ID:???
 格納庫。ノーマルスーツを着込んだコジロー・マードック曹長は、無重力に故に宙に浮く体をMAミストラルのコックピットにしがみつかせていた。
 マードックはコックピットの中を覗き込みながら、パイロット席に座るサイ・アーガイルに説明をする。
「良いか坊主。今、対艦ミサイルを積み込んだ。
 おそらく、MSに効果があるのはこいつくらいだ」
 ノーマルスーツの内蔵無線通信機がサイに言葉を届けた。
 ミストラルの基本装備は機関砲のみ。これでは、ジンに対抗し得ない。
 なので整備班は、ミストラルの出撃があると聞いてから、急遽、追加装備を取り付けていた。
 とはいえ、TS-MA2メビウスの整備部品の在庫から引っ張り出した有線誘導式対艦ミサイル一基を、剥き出しのまま無理矢理取り付けただけなのではあるが。
「狙って撃つもんじゃない。自動的にホーミングして当たる。
 敵がモニターの真ん中にいるようにすればいい」
 マードックには、自分の説明が嘘であるという自覚があった。
 規格外の武器を無理矢理積み込んで、僅かな時間でこれまた無理矢理にセッティングした物だ。
 モニター中心辺りに映る目標をホーミングするようにはセッティングしてあるが、正直、ちゃんとホーミングするかどうかも怪しい。
 ちゃんと動く確率は、五分とまでは言わないが、六分か七分か……
 十五分程度の突貫作業だ。整備班全員で全力を尽くしたが、それでも完全な仕事にはならなかった。
 あと一時間あればと思うが、そうも言ってはいられない。
「わかったか?」
「はいっ!」
 マードックに、サイは緊張に青ざめた顔で答える。
 何か緊張をほぐす言葉がないかと、マードックが頭の中を探ったその時、甲板員が駆け寄ってきてマードックに言った。
「曹長! 出撃命令でました! 離れて!」
「帰って来たら、もっと良いマシンに乗せてやる! 機体を捨てるつもりでぶつけてこい!」
 無茶を言うと思ったが、他の言葉も見つからなかったマードックは、とにかくそれだけ言ってコックピットを離れた。
 残ったサイはミストラルのコックピットハッチを閉じ、緊張に震える手で操縦桿を握る。
 いよいよだと思うと、不意に言葉が口をついて出た。
「最後に、フレイに会いたかったな……」
 その言葉の意味に気がついて、サイは首を横に振って、今し方吐いた言葉を振り払う。
「何を言ってるんだ。生きて帰るんだろ、サイ・アーガイル」
 モニターの中、格納庫のハッチが開いていくのが見えた。
150機動戦士ザクレロSEED:2007/10/06(土) 23:53:06 ID:???
 ジンは、速度を落としたアークエンジェルとの距離を詰めていた。
 至近からブリッジを確実に射抜き、一撃で勝負を決めようと。
 ジンのコックピット内、モニターに映るアークエンジェルがその大きさを増していく。
 抵抗を示す対空火器がまだ砲火を輝かせているが、既に死角に踏み込んでいるジンには当たらない。
 頃合いかと、ジンは重粒子砲を構える。
 照準がアークエンジェルのブリッジを捉えようとしたその時……アークエンジェルのカタパルトから、一機のMAが出撃するのを視認した。
 機種確認。画像データからMAミストラルと判別され、モニターにその名が表示される。
 ミストラルは隠密行動のつもりか推進器を使っておらず、機体後方に噴射炎は見えない。
 ジンから離れたところで方向転換し、ジンの後背を襲うつもりか?
 ジンのパイロットの戦闘経験によれば、ミストラルは脅威になる敵ではない。
 放置してもかまわないのだが、敵の出現に対して反射的に振り上げた重粒子砲が既にミストラルを照準に捉えていた。
 カタパルトから撃ち出されたままに宙を進むミストラルは、射撃演習の的よりも当てやすい。
 ジンのパイロットはこの格好の標的を逃すことなく、引き金を引く。
 重粒子砲から放たれたビームが、宙を進むミストラルへと一条の線を描きながら突き進んだ――
151機動戦士ザクレロSEED:2007/10/06(土) 23:54:08 ID:???
 機動戦士ザクレロSEED‥‥以上。
【Dパート】

 急に視界が異常なほどクリアになる。瞳孔が限界まで開いている。
 シンは咆哮をあげ、左拳を自らの額へ叩きつけた。
 ヘルメットのバイザーが砕けて刺さり、額から左目に血が流れ、視界半分を覆い隠す。だが、
おかげで意識ははっきりした。
 暗い脳裏で何らかの種子がはじけるイメージが消え去り、冷たい感情も押し込められた。鮮明に
なりすぎた視界も普通に戻る。手元に操縦桿、脇に表示板、正面にモニター、その中央に敵。
 意識がブラックアウトする寸前、闇に落ちた視界の上方から落下してくるいびつな塊。前頭葉が
発達した人間の脳が無酸素状態になった時、視神経を刺激して起こる現象などという説もあるが、
定かではない。いずれにしろ、特殊な遺伝子を持つ者が戦闘時に見る幻影といわれている。一部
ではSEEDという通称で呼ばれているらしい。
 これを訓練時に見たという証言が入隊時の報告書へ記載され、デュランダルの目に止まったシン
はインパルス搭乗者に選ばれた。
 赤服を着られたのも、時たま能力が発現したことによる成績の底上げが理由だった。
 しかし今のシンはそれを否定する。デスティニープランの初期計画と関係があったからではない。
自分の物と実感できない、不安定な能力にたよる気が起きなかったのだ。
「戦うのは、俺一人でだ」
 アカツキの斬撃をあびてデスティニーの操縦席が揺さぶられ、シンの額から流れた血が飛び散る。
 目に血が流れるのもいとわず、シンは叫ぶ。
「戦うのは、俺自身の意思だ」
 もはや幻影に動機を求めるような姑息は許されないし、シン自身も許せない。たとえ幻影であっても、
ステラにこれ以上の死を見せることはしない。
 隊長機が抜刀し、横に構えて部下の行く手をさえぎった。ライフルをかまえて一歩進もうとしていた
モビルスーツが、隊長にさえぎられて歩みを止める。
 言葉はいらない。全ての戦いをここで終わらせる。そのために、あの二機は死力をつくして闘い、
決着をつけようとしている。ゆえに割り込むことはもはや許されない。
 戦闘の帰趨はすでに決まっている。反乱者の敗北は必然だ。それと同時に反乱者の存在感は
充分に示された。さまざまな勢力が集まった状況で緘口令をしけるとも考えられない。あとは二人の
戦いだ。
 切り結ぶ二機のガンダムを、数十体のモビルスーツ、数百機のカメラアイ、数千人の将兵が見つ
める。
 アカツキの振り回す斬艦刀には無用な力が入っていない。先端の軌跡はなめらかな弧を描き、
デスティニーへ切りかかってくる。断片的な情報から憶測していた人物像と繋がらない。長い敗走が
人を変えたのか。島での戦闘が成長をうながしたのか。かまえた姿は落ち着き、とぎすまされている。
 斬艦刀の一撃が、どのような言葉より雄弁に語りかけてくる。魂を刻みつけてくる。願いを感謝を
哀しみを太古の人類が石に絵文字で刻んだように。猛獣のごとく荒々しくも幼児のように稚拙で、
だからこそ純粋に思いが伝わってくる。
 激しい格闘で左右に体を揺さぶられながらシンは口を開いた。厚い装甲をへだてて声がとどく
はずはないのに、言葉にして語りかける。
「おまえの思いが……聞こえるぞ」
 二人は、機械人形の太刀を通して語り合っていた。
 互いに振るわれる斬艦刀からは迷いが消えている。昔ぶら下げていた勲章の重みも今はない。
重みを活かして振り子のように慣性で斬りつけるアカツキ。重さを力で強引にねじふせ叩きつける
デスティニー。金属がこすれ、ぶつかりあうたびに火花が飛ぶ。高速で動く切っ先が、満月を反射
して光の残像を描く。
 血のバレンタインから戦い続けている古参の隊長から、ふいに吐息がもれた。
「まるで……」
 踊っているようじゃないか。
 あれほどの屍を積み重ねた大地を踏み。重い枷がなき今は、どこまでも軽やかに。互いの命を
削りあう姿が不思議と美しく思えた。
 シンは確かな手ごたえを感じ、ふりしぼるように叫ぶ。
 斬艦刀の切っ先がアカツキの左脇をとらえ、逆袈裟に切り裂いていた。アカツキの左胸から先が
吹き飛ばされ、焼け残っていた建物に回転しながら突き刺さり、倒壊させた。
 アカツキが回転しながら倒れる。切断面から内部構造が見える。神々しさすら感じさせた黄金色
の中身は、他のモビルスーツと大差なかった。ただの人型をした兵器だった。
 アカツキの右手に握られたままの斬艦刀。ふいに先端がふらりと浮き上がる。先端はデスティニー
の脇腹へ突き刺さり、ジェネレーターをえぐりとる。シンの目前でモニター光量が落ちる。機体が
前方にかたむく。
 アカツキが倒れたのは攻撃によってではなかった。あえて左半身を捨て、前傾することで間合い
に入ったのだ。回転していたのは遠心力で斬艦刀の威力を増すためだった。
「どうして俺は、こんな時に……」
 気づかなかった。
 今のアカツキは間違いなく強い。左腕がなくても、あるいは両腕すらなくても、きっとシンより強い。
それだけの意思と力を持っている。死の寸前で踏みとどまり攻撃に転じることができる。
 勝とうとするなら、一瞬であっても隙を作ってはならなかった。
 もちろん悔やんでも事態は好転しない。
 今、デスティニーが倒れている場所から艦隊が展開している湾の間は、小高い山がさえぎって
いる。二機の位置も近く、遠距離砲撃による援護は全く期待できない。
 斬艦刀を杖のようにして機体を支えようとしたが、耐えきれず大地へ激突。吸収しきれなかった
衝撃が操縦席に伝わり、一瞬だがシンの気が遠くなる。その一瞬は致命的な一瞬になる。
 前線に最も近い場所で、一人の少女が戦いを見つめていた。
 泥だらけの顔。砂をかぶった赤い髪。破片で切り裂かれたスーツから血がにじむ。
 ルナマリアは脱いだヘルメットを口に当て、うわごとのようにくり返した。
 聞こえるはずかない。むしろ聞こえてほしくない気持ちすらある。シンが好きなわけでもない。
もちろん愛してなどいない。そのはずだった。仇のように憎みもした。
 だから、聞こえないからこそ、つぶやけるのだ。
「立って……立って」
 シンの耳に、雑音に混じって、わずかに声が聞こえた。
 かぼそい声は、やがて絶叫に変わった。
「立ちあがって、シン!」
 モニターが薄らと発光する操縦席の中、シンは操縦桿を握りしめた。
 口に溜まった血を足元に吐き出す。笑う。
「一人でいいと、決めたばかりなのにな」
 そしてルナマリアの顔を思い出す。
 SEEDが発現して戦闘のみに集中していれば、ルナマリアの声が届くことはなかったかもしれない。
 意図せずに、シンは自らの手で未来を選んでいた。
 シンは左手に意識を集中し、操縦桿をねじるように回す。振り上げてビームを発したデスティニー
の左掌がアカツキの斬艦刀によって砕け散る。しかし斬艦刀の刃先をそらすことはできた。
 アカツキの斬艦刀が大地に突き刺さる。振り下ろされた大刀は重く、切っ先が大地から抜けず、
構え直すために一瞬の時を要した。それで充分だった。戦場の一瞬は致命的な一瞬になる。
 左腕を砕かれる反動で、デスティニーは斬艦刀を握る右腕を振り上げていた。
 金属が破砕する音が響き渡り、粉々になった黄金の破片が周囲に振りまかれる。無理な姿勢から
であったが、斬艦刀はアカツキの胴体を横一文字に両断した。
 金属の骨格を破断させる手ごたえが伝わってくる。デスティニーにも許容値を超える過負荷が
かかり、全身が破裂しそうに震え、操縦席までゆさぶる。
 装甲表面から剥離した特殊コーティングが金色の雨となって降り注ぎ、横殴りに赤黒い破片が
飛び散る。
 アカツキの腰部は粉砕され消滅した。上半身も大地に投げ出され、残された下半身もゆっくりと
あおむけに倒れる。
 センサーで感知された衝撃が重い操縦桿を通して操縦者に伝えられる。シンは今、たしかに人を
殺したという重みをおぼえた。戦った相手の存在を感じた。
 気がつけば、白い砂利で覆われた丘を歩いていた。
 誰の声も聞こえない。風の音も響かない。ただ足下で石灰質の鳴る音だけがかすかにする。目の
前に広がる、真白い風景。
 ほおに指をすべらす。包帯をしていない。事故にあったはずの顔に傷が一つもない。
 人が意識を失った時の、死を目前にした際の、ひとときの幻影なのだと理解した。
 ユウナ・ロマ・セイランは一人で人骨の丘をふみしめ歩く。ずいぶん死なせたものだと笑いながら。
やはり本当に軽い性格なのだ。そう育ったのだ。将来の立場やら、氏族の責任やら、どうにもユウナ
には重すぎた。
 生きることが戦いだった。短い人生のわりには疲れたものだ。今ならば降りるのも悪くない。思った
よりもみじめではないと感じる。
 このあたりでいいだろう。生きることではなく、戦うことを降りるのだ。この後に、残した者達へ少しは
温和な日々をもたらすだろうと願ってみる。
 そうして男はどこまでも歩き続けた。
 一度もふりかえることはなく。
 鈴蘭の野をふみしめて。
157新人 ◆T3aqF.CV6I :2007/10/07(日) 00:51:32 ID:???
前置き。
今回は短編投下です。厨臭いです。すいません。六時間で書いたものなので粗だらけです。
ちなみに本編は推敲段階に入りました。近いうちに投下します。

成績は……orz
とりあえず父親のご機嫌とりに努めて携帯だけは死守します。

あとまとめの人、トリップ変更手間とらせて申し訳ありませんでした。

それと新人ってコテが紛らわしいとのご意見があったようで。自分としては、ですよね、て感じです。
とりあえずせめて〜が完結するようなことがあったら変えます。多分。
では……
 傷もいとわず、ルナマリア・ホークは走った。
 二体の巨人は戦い疲れて大地に崩れ落ちている。黄金の装甲と上半身を失い、身体が黒ずんだ
巨人に命の鼓動は感じられない。片手を失い破損だらけで座り込んでいる巨人も、論理的に考えれ
ば操縦者は生きていないだろう。けれど確信している。今こそシンに会わなければならない。
 今なら妹の気持ちもわかる。理屈ではなかったのだ。愛だとか理想だとか陳腐でわかりやすい
言葉では表現できない。
 ただ側にいただけの人であっても、ただ目の前にいただけの人であっても、生き続けてくれること
を願っただけ。条件反射のような感情にすぎない。きっと人という種の遺伝子に刻み込まれた本能
なのだ。
 だから、脱走したメイリン達をつらぬいたシンを、理性だけでなく感情でさえも理解し、許せたのだ
とルナマリアは思った。
 だから、脱走してシンにつらぬかれたメイリン達を、理性だけでなく感情でさえも理解し、許せる
とルナマリアは思った。
 感情でいえば、シンも悪くないし、メイリンも悪くない。そう思えるようになった。誰かが正しいから、
あるいは誰かが悪いから戦争するのではない。きっと誰にでも一理はあり、同時に誤っているのだ。
だから逆説的に、戦争を行なった全ての人を許せる気持ちになった。
 きっとルナマリアはこれからも軍人の一人として戦い続け、結果として人を殺し続けるだろう。
そしてルナマリアへの復讐を願う者も出てくるに違いない。その感情すらも許せる。ルナマリア
自身も、すでに無垢な存在ではないのだから。
 ルナマリアが駆け寄った時、シンは半壊したコクピットハッチ上に座り、水平線上の朝日を眺めて
いた。そんなシンをルナマリアが見上げる。
 傷だらけなシンの横顔から、ぽつりと声がもれた。
「……聞こえたんだ、声が」
 息をのんだルナマリアの方を見向きもせず、シンは言葉をついだ。
「みんなの声が。……だから、生きようと思った」
 視線の先では、可能な限り島に接近したザフト軍艦からボートが降ろされている。ボートの上では
逆光となった人の影がいくつも見える。
 肩を組んで手を振っている整備士の少年達。腕組みをしている整備士長。静かにひかえている
オペレーター。手をラッパ状にして何かを叫んでいる艦長。どれも、どこかで見た顔だ。
 ルナマリアはそれを見てうつむいた。やはり、シンが見ているのは、守りたかったのは彼らなのだ。
シンは帰るべき場所を見つけていた。
 しばらくして、シンはぎこちなく笑いつつルナマリアの方へふりかえった。
「だから、ありがとう、ルナ」
 シンとルナマリアは同じ方向を見て、支えあう存在だ。少なくとも、これからはそういった関係を
目指し、生きていくだろう。
 うつむいていたルナマリアは顔を上げ、シンの横顔に笑いかけた。
「どういたしまして」
 あえて本気らしさのない、冗談めかした口調だった。
「帰りましょう、シン。みんなのところへ」
 ルナマリアがシンへ手を差し出す。シンもルナマリアのいる方へと機体から降りる。
「ああ、いっしょに帰ろう。みんなのところへ」
 そして二人は肩を貸しあい互いに傷ついた体を支え、仲間達の方へと静かに歩き出した。朝焼けで
赤く染まった島をゆっくりと、しかし着実に。
 二人は帰るべき場所を取り戻したのだ。
159新人 ◆T3aqF.CV6I :2007/10/07(日) 00:53:56 ID:???
せめて、一人ぐらいは。

「……つくづく救いようがないなぁ」
 生命維持装置がその活動のほとんどを停止し、着実に身に迫る死を前にして、俺は抑揚のない声で呟いた。
 狭いストライクダガーのコックピットの酸素はあと何十分──もしかしたら何分──保つことか。
 思い返せば、俺はあまり幸福に包まれた人生を送っていなかったな。

 俺は三十半ばの善良な両親の下に、生を享けた。それほど裕福でもなけりゃ貧乏でもない普通の家庭だ。
 それでも俺は、与えられた幸せを享受し、楽しんでいた。ごく当たり前のように、な。
 それが崩れたのは、確か八歳の時、雪が降りつもる寒い夜のことだったか。
 その夜。俺は暖房を効かした暖かい部屋で、夜更かしして布団に包まって宇宙の図鑑を読んでいた。
 壮大な宇宙だったかな。黄色い月に、赤褐色の火星。石みたいな水星に、それから、忘れた。
 ともかく、そのせいで俺は一階で起きた小さな物音に気がついちまったわけだ。
 犬なんざ飼ってないから、何事かと思って覗きにいったんだよ。今では後悔してるさ。
 階段を降りて、灯りのついたリビングに続く通路を進むと、俺は人影を見かけたんだ。
 それが怖くて、俺は叫び声をあげた。親が走って駆けつけてくるのには二十秒もいらなかった。
 男は動揺したらしく、辺りに置いてあった壷や花瓶を手当たり次第に投げつけてきて──

 両親は身を挺して俺を守り、俺が無我夢中に放った銃弾は男を地獄に送った。
 その後分かったことだが、男は隣町の優しい三十過ぎのコーディネーターだった。
 素性がバレて住んでいた街を迫害され、飢餓に耐えかねて盗みを行ったそうだ。
 男を憎んでいいのか、当時は悩んだものだ。次に迫害した人たちを憎んで、やはり悩んで。
 最後には夜更かしした自分を憎んだ。自分が夜更かししていなければ、男はきっと少しの食べ物と
少しのお金を盗んだだけに終わっていただろうから。
 でも自分を死ぬほど憎めるはずがない。だから俺はそれを忘れようてして厳しい軍隊に入った。
 まさか、その結末が蒼い翼の天使様に半殺しにされて宇宙遊泳とはな。

 ふと、壊れたメインカメラに件の蒼い翼の──今では灰色で、翼ももがれてはいたが──天使様が映った。
 ぼろぼろで身動きとれないようだった。
 最後まで誰も最後まで憎めなかった俺だが、この天使様も憎めないらしい。これは誇ってもいい。
160新人 ◆T3aqF.CV6I :2007/10/07(日) 00:56:14 ID:???
 生命維持装置に送るパワーを遮断すると、残った右腕に微弱なパワーを送り始める。
「動いてくれよ」

 その思いに応えたのかどうか、ストライクダガーのメインカメラに光が灯った。
 そのまま、ゆっくりと右腕を目の前にいるフリーダムに向け、掌でそっと押してやった。
 その衝撃でフリーダムはゆっくりと、しかし確実に、幾多の光点に向かって進み出した。

 ふう、これであの天使様が助かってくれりゃ儲けものだな。
 さて、俺は優しい男とそれにしがみついた父親を貫いた我が愛しき拳銃で命を絶つか。
 しかし、最後に人を救えて良かった。あー、息苦しい。とっとと逝くか。
 あっちの世界が、せめて、人が死ぬことがない夢のような世界であることを願って。尤も──

 ──あっちの世界で人が死ぬかどうかはわからんがね。

 デブリに埋もれたストライクダガーのコックピット内で、乾いた銃声が響いた。
 それと同時にストライクダガーのメインカメラに灯っていた光が喪われた。

 男は、初めて──誰かを救った。
161新人 ◆T3aqF.CV6I :2007/10/07(日) 00:57:54 ID:???
うっわ、かぶってしまったorz
真に申し訳ありませんすいません本当にすいませんでしたorz
【エンディング】

 薄暗く四角い、大きな部屋に少年と少女が横並びに座りこんでいた。蒸し暑さに、じっとりと汗が
浮かんでいる。
 目の前には巨人の残骸が二つ。新型に近い機体を他勢力の目にさらしたくなく、回収して輸送機
で基地まで運んでいるのだ。
「今さら裏切り者に会ってどうするのよ。どうしてそんなに楽観的なの」
「いや、少し話をしてみたくなっただけさ」
「話し相手なら私がいるのに」
「え? いやアスランと話をしたいわけで。ああそうか、とりついでくれるってわけか。でも悪いよ」
「……私、やっぱりあんたのことが嫌いかも」
 少女がぽつりとつぶやいた。無感情な声で少年が応じる。
「そうなのか。じゃあ先に部屋に帰るよ。それとも俺が格納庫にいようか」
「あんたって、本当ににぶいのね……失望とか落胆とかじゃなく、もう呆れ果てて口も聞きたくなくなる
くらいよ」
 少女は長いため息をついた。
「……いいわよ、シンがそういう人間だってのはわかってたことだし。他人の気持ちを好きなだけ
かきみだして、自分だけ真っ先にへたれるような馬鹿野郎だし」
 ため息を一つ。
「でも、しかたないな。こんなへたれにつきあっていられるのは、私くらいでしょ。腐れ縁なりに一生
つきあってやるわよ」
「ん、何の話だ」
「何でもない」
「いや、だって今さっき」
「何でもないっていってるでしょ」
 少女が少年の頭を叩く音が響いた。

 おい、ケガしてるんじゃないのか。乱暴な娘だな。
「……やめてください、悪趣味ですよ」
 副操縦士がスピーカーのスイッチを切りかえた。格納庫の痴話喧嘩が聞こえなくなり、軽快な
女性ボーカルの歌が流れ始めた。ザフト広報のラジオ局らしい能天気な選曲だ。
「いやいや、平和になったんだな、と。実感していたのさ」
 操縦士は寝不足で腫れた目をこすった。
 ふくれる副操縦士を見て、操縦士は笑う。だいたい格納庫の盗聴を始めたのは副操縦士の方だ。
若い男女を同じ場所に閉じ込めるのがまずいとは、プラント旧家出身にしても考えが古風すぎる。
 何にしても悪い気分は起きなかった。戦争は本当に、しばらくの間にしても終わるのだ。
 雲のない、どこまでも高い空。機体の後方に生まれる飛行機雲。一面の青に引かれる、くっきりした
白い線。ここに人が存在しているという証明。
 いつしかラジオが天気予報を始めている。輸送機の進む先は快晴のようだ。
163通常の名無しさんの3倍:2007/10/07(日) 01:05:39 ID:???
サーバーが平穏な様子なんで、最後まで投下しといた。

>>161
エンディングはオマケなので、まあ傷は少ない。

>>143
シミュレーションとシュミレーションの方に気をつけていたら、そっちに問題があったか。
いやタイトルにも使っているからスペルは知っていたんだが。

武器その他の固有名詞は省く方針だったが、区別しにくかったのならまずかった。
SSで文章が長くなる一原因なので、主要登場人物以外の固有名詞は躊躇してしまう。
164hate and war ◆6Pgs2aAa4k :2007/10/07(日) 07:58:53 ID:???
“noone is innocent”

 廃墟、死体の山、銃声、鉄の巨人の足音。

 腐臭が酷くて吐き気がする。死んだ人達が放つ悪臭は慣れた心算だったけれども、身体と精神は拒絶する。
 良かった。まだ俺は正常なのかも知れない。慣れてしまったら紙一重の境界を越えて気が触れてしまう様な気がする。
 鉄の巨人が神やら聖戦やら訳の解らない話をしてくる。
 下らない。神様なんてこの世にいやしないのに。神様はあの世にいるだけで十分だ。
 下らない。戦争に良いも悪いもあるもんか。ただの人殺しゲームじゃないか。

 忌々しい鉄の巨人の眼の眼が俺を嘲笑うかの様に赤く光る。
 アイツらは獲物を探しては血祭りに上げる。何人の仲間が神の国に送られただろうか。
 最初の十人までは数えていたけれども、多過ぎるので数えるのをやめてしまったからもう解らない。

 走り回って物陰に隠れながら、巨人に向かって銃を撃つ。
 アイツらにとってこんなものは鳩の豆鉄砲みたいなものなのかもしれない。
 でも、一寸の虫にも五分の魂、窮鼠猫を噛むだ。
 弱くたって振り上げた拳を怒りを共に振り下ろす事ぐらいはできる。
 少しでも抵抗して、アイツらを神の国じゃなくて地獄に送ってやるんだ。
 神の国じゃ駄目だ。アイツらがあっちに行ったら先に逝った仲間をまた殺すだろう。
 そんな事は許せない。仲間が殺されるのは一度で十分。二度も殺されるなんて事させるもんか。
 巨人が俺の方を向いて、赤い無機質な眼で俺を睨む。
 俺は逃げようとしたけど、隣りの奴は恐怖の余りに身が竦んで動けないでいた。
 俺は逃げるのをやめて、そいつを思いっ切り突き飛ばす。
「ボンクラして無いでサッサと逃げろ!」
 俺の言葉に反応して、バネ仕掛けの人形みたいに逃げ出した。
 出来るなら最初からやれ、と毒吐くと、何かが俺を貫いた。
 熱くて痛い。立っている事が出来なくて、俺は前のめりに倒れ込んだ。
 俺の回りに赤い染みが広がっていく。どうやらしくじったみたいだ。
 でも、そんなに悪くない気分だ。見送るのはもういい加減に飽きた。人を助けて死ぬのならそんなに悪くない。

息が上手く出来ない。眼が霞んでいく。最後の力を振り絞って仰向けになる。どうせ死ぬなら空を見ながら死にたい。

霞む視界に空から光が降って来るのが見えた。眼を凝らすと天使が浮かんでいるのが見える。

 ――馬鹿野郎、遅過ぎんだよ。

165通常の名無しさんの3倍:2007/10/07(日) 08:00:57 ID:???
昨日00見てたらこんなのが浮かんだので投下。
166 ◆6Pgs2aAa4k :2007/10/07(日) 09:49:17 ID:???
サブタイ間違え
“no one is innocent”
です。
167通常の名無しさんの3倍:2007/10/07(日) 14:06:51 ID:???
>>戦史さん
 投下乙です。
 技術の進歩は多少の遺伝的差異を問題なくしてしまう。MSは個人の特技、
真の知性は遺伝子の調整で得られるものとは別のところに生る。
『戦史』中で繰り返されるテーマですが、劇中の書籍の立場を借りて騙られる
ので読みあきません。ドロドロになっている地球圏の社会情勢を、読者に向け
こういった形で小出しにしていくのは、やり方として正解でしょう。
 ただ、そろそろシナリオを大きく動かして貰いたい所、
と考えていたら、後半のカガリが予想以上に面白かったのでまあいいです。
本来語り部役をやるはずであった小娘君はいよいよ影が薄くなって
参りましたね。
 果たしてサイの"出撃"とは如何言う事なのか? 代表の仕事は終わるのか?
期待してお待ちしております。

>>ファイナルダッシュ
 投下乙です。
Bパート 
 確かに特番を意識しただけあって、素早い展開にひきつけられました。
登場人物を絞ってその心境を掘り込む事にも成功していると思います。
 意外とユウナが格好いいです。
Cパート
 アーサーの「また置いていかれるのか」にぐっと来ました。
いつからこんないいキャラになったんですか。
 白骨の野原の上、シンとステラの会話も心情風景の描写としてよいです。
最後、シンは自分に言い聞かせた から ならばせめて〜 あたりは、
もう少し短くまとめて心理描写に特化した方がすっきりしてよかったのではと
思います。
Dパート、エンディング
 ユウナの最後と、ルナ、シンのいちゃつきに感動しました。GJ。

>>hate and war
 投下乙です。
"courageous rascal's theme"
 読後、言い知れない感じに包まれます。
“no one is innocent”
 早い! その一言に尽きます。
 血迷いっぱなしでも此処まで書けるなら何も言う事がありません。GJ! 
168通常の名無しさんの3倍:2007/10/07(日) 15:09:02 ID:???
 以下私見

 設定について。
 この設定が無ければ物語の様相が変わってしまう……などの状況が無ければ、
新設定は可能な限り省いた方が良いです。テンポの問題もありますが。
 ただしガンダムがある程度内包するSFの要素として、設定や世界観そのものの
面白さというのが在ります。それを書く場合であっても、設定の羅列ではなく、
あくまで読み物である事を意識しながらやりましょう。

>>ザクレロSEED
 投下乙です。
 改行は……確か一文が終わるまでは改行しない主義でしたね。
携帯で閲覧するとその方が見易かったりするので、そういう意味でしょうか?
 今のところ劇中最強のザクレロに乗っているマリューがパイロットとしては
全然ヘタレで、サイ弱のミストラルに乗っているサイが一番漢な辺りのギャップが
面白いです。脳内で勝手に再生される三石声で謝られては許すしかないでしょう。

 ジンの手によって傷付いて行くAA、撃破されてしまったミゲル。
そして狙われたサイの運命は……! ザクレロなマリューさんは放っておいて、
次回もゆっくりお待ちしております。

>>新人
「とりあえずこれは持って行こう」とか言って形見の腕時計を胸ポケットに入れ、
爆発の煙に呑まれて谷底の河に落ちた新人さんが、成功率1%の手術を乗り越え
絶対に突破不可能といわれた試験受かって帰ってきたことが本当に嬉しい。

 酉バレと割り込みには注意しましょう。注意事項は今の所それだけです。
が重要なので本当に気をつけてくださいね。

 今回の短編、私はかなり面白いと思いました。最後まで憎まない事を
誇りにして生きて、死んだ男がどっかに一人位居てもいいでしょう。
 続編の事を考えると、其処で殺しておけば……! と思われますが。
 携帯からではやり難いかも知れませんが、読みながらの推敲をオススメします。

 一レスめ第二、第三段落の過去話についてはもう少し絞ることの出来たのでは
無いかと思います。親の設定については余り必要では無いです。
 隣町の優しい……に違和感、知らない人なのかよく知って居たのか分かりません。
169通常の名無しさんの3倍:2007/10/07(日) 15:37:09 ID:???
あれ、試験?テスト?失敗したんじゃないの?
それで、PCを失いつつなんとか携帯死守してるのかと思ったんだが。
170通常の名無しさんの3倍:2007/10/07(日) 15:41:24 ID:???
「ふっふっふ、わしの計算によれば新人、お前が無事に投下できる確率は
…………ゼロよ!」
 とかのノリでした。ネタを説明しなくてはいけないのは哀しいものですね、
すいませんふざけすぎましたごめんなさい。
171通常の名無しさんの3倍:2007/10/07(日) 15:46:37 ID:???
なんかこっちも読みとれなくてごめんなさいごめんなさいごめんなさい
172通常の名無しさんの3倍:2007/10/07(日) 20:39:50 ID:???
>>ザクレロSEED

 一回の投下で一度武器の名前を出したらば、あとは適当に省略した方が
吉だと思います。>>M69バルルス改特火重粒子砲

>>150 上
 ジンは、速度を落としたアークエンジェルとの距離を詰めていた。
 至近からブリッジを確実に射抜き、一撃で勝負を決めようと。

 この辺りの倒置法は一文にまとめるか、段落で分けて欲しいです。
173機動戦士ザクレロSEED:2007/10/07(日) 21:38:12 ID:???
>>168
文の途中改行は、やはり見る環境によってかえって読みづらくなるので。
代わりに、一行が短くなるよう留意してるのですが。

>>172
武器名は各投稿の最初の一回のみ全部書き、後は略す方針で書いています。
M69バルルス改特火重粒子砲は、重粒子砲と略したんですが、見落としがあったようですね。すいません。

倒置法の件は、改行せずに一行にまとめた方が良かったですね。ご指摘ありがとうございます。
174通常の名無しさんの3倍:2007/10/08(月) 02:44:31 ID:???
>>1
のまとめサイトにSSが掲示されてないんだけど
なんで?
175SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg :2007/10/08(月) 02:46:18 ID:???
酉を変えて参上。

>>174
まとめサイトの
単行本第一巻を読む
単行本第二巻を読む

がss置き場へのリンクです。
176GSNT第3話『SunriserC』1/5 ◆SEEDuhvP7. :2007/10/08(月) 13:48:57 ID:???
 横手の路地を進む遥に足取り重くついてゆくと、ひなびた喫茶店に入らされた。店内には初老のマスターが
ひとりだけ。「いらっしゃいませ」と折り目正しく腰を折るさまは、三ツ星レストランのそれにすら見えた。誰彼と
なく人の動きに過敏になっていたせいかもしれない。だがそれは確実に、僕の混乱の一部になった。

 店の一番奥に席を占めた。遥はエビクリームのフェトチーネを、僕はカレーを注文した。メニューを広げたとき
「ここはパスタがおいしいの」と遥がすすめてくれたが、僕には食事を選ぶ余裕なんてなかった。僕の中では
整然と動く日本人が過密を極めていた。

 オーダーを通すやいなや、僕は堰を切ったように話し始めた。それは混乱を全て吐き出す勢いで、うわ言にも
似ていた。コーヒースタンドのこと、バス停のこと、通りを行き交う日本人たちのことを壊れたように話しつづけた。

 しかし混乱を言葉にするにつれて、徐々に頭が冷えていくのを意識した。「王様の耳はロバの耳」とはよく言った
ものだ。脳が冷静な分析力を取り戻してゆく。話し終わる頃には、どうにかまともな思考ができるまでに落ち着いた。

 僕がまくし立てているあいだ、遥はテーブルの上で手を組んでじっと僕を見ていた。ときどき相槌を打つ以外
は何もしゃべらなかった。どんな表情もしなかった。話を終える頃になって、僕はようやく気がついた。どうやら
また一杯食わされたらしい。

 話し終えてからは、しばらく二人ともテーブルに目を落としていた。水を一口すすった。もうぬるい。上目遣いに
彼女を見やると、組んでいた手を膝に移して、何かを考えている様子だった。おそらく今、遥は僕の見てきたもの
を評価している。面白くない。

 こちらも考えをめぐらす。彼女の示したかったことは、おそらくこうだろう。モラルとロジックを両立させる。
もう一歩進めると、あらゆる事象に論理を通わせる。合理性のない善意など偽善だ、と言わんばかりに。感情に
流されることの多い僕にとって、この差は決定的だった。表参道を選んだのはもちろん買い物のためもあるの
だろうが、ここが外国人の多い場所だからだ。対比もしやすいだろうし、トラブルの発生率も高いだろう。

 しかし、こうまで徹底したロジカルシンキングを備えるのには、理由があるはずだった。社会規範の遵守や
ビジネスマナーのため、というだけでは納得できない。行き過ぎている。日本の教育の厳しさはプラント並とは
聞いていたが、それに関係があるのかもしれない。そこまで考えが及んだところで、向かいの動きに気づいた。
顔をあげると、遥は微笑を浮かべて僕を見つめていた。
177GSNT第3話『SunriserC』2/5 ◆SEEDuhvP7. :2007/10/08(月) 13:50:30 ID:???
「人間観察ご苦労さま。なかなか上出来じゃない」
「やっぱり買い物だけじゃなかったんだな」
「ごめんなさいね」と彼女は形だけ謝りを口にした。「普通の人なら来日して一、二週間もすればソーシャル
ギャップに気づくはずなんだけど、君は他人に無関心なんだもの。人から教えられる類のものでもないし」
「鈍くて悪かったね」
「でもこんなに驚かれるとは思わなかった。本当、うなだれていたときの明の顔といったらなかったわ」

 訝る僕を前にして、遥は悠然とした態度を崩さなかった。僕は大きくため息をついた。自分の無関心から
出た錆だ。からかわれても文句は言えない。

「それで、僕もロジカルになればいいのかな、君たちみたいに」僕は話題を変えた。
「そう事は単純じゃないのよ。なんのために、っていう理由が必要よね、君にも」

 遥の顔から微笑が消えた。授業の時間だ。聞きたいことに話が及び、こちらも身構えた。

「気持ちいい生活を送るため、っていう月並みな理由じゃないことくらいは想像がつく」
遥は鼻で笑って言った。「そんな気楽な理由ならいいのにね」

 彼女は組んでいた手を再びテーブルに置き、少し前のめりになって言った。

「日本みたいな資源のない国って、何を外国に売っていけばいいと思う?」

 唐突な質問だった。僕は少し考えたが、話題との関連性は浮かばない。

「技術とか金融商品とかかな。オーブみたいな技術立国が理想だ」
「じゃあ技術もお金もなかったら?」
「何もないじゃないか。お金も資源もないところの不動産なんて価値はないし」
「まだ一つ残っている」

 言葉に詰まった。僕が呻吟するのを見て、遥は薄く笑いを浮かべた。

「答えは簡単。人を売ればいいのよ」
178GSNT第3話『SunriserC』3/5 ◆SEEDuhvP7. :2007/10/08(月) 13:51:41 ID:???
 遠い世界の言葉のように、それは聞こえた。さっき見てきたものとはまったく異質の、モラルの欠片もない理由。
そうまでする必要があるのか、と思ったがすぐにそれは打ち消された。点と点は繋がった。

「人は『商品』。その『商品価値』を高めるためのロジカルとモラル、ということか」
「日本はそういう国なの。もともと省資源国でもあるし、再構築戦争の前後で巨額の金融資産と技術的バックボーン
を失って、気づけば国内には何も残っていなかった。国際市場から見放されては、この国は生き残れない。
だから、最後に残った人を売ることにしたの。わずかな国力を道徳から学術に至るまで徹底的に人づくりに注いで、
そうして育った日本人は海外に自分の力を生かす場所を求めて出てゆく。国家によるアウトソーシングみたいな
ものね。昔のスイス傭兵やユダヤ人にも似ている。君の話には出てこなかったけど、表参道には私くらいの人なんて
少なかったはずよ」

 人の流れを思い出す。たしかに、日本人は僕と同い年くらいの若者と老人ばかりだった。僕が目を奪われたのも
その年代の人だ。この喫茶店のマスターも含めて。

「若いうちは国内で必死に研鑚を積み、やがて海外で外貨を稼ぎ、一線を引くと国に戻ってくる。それが日本人の
人生設計のセオリー。円は弱いからね。いまだにE$とペッグしているのがいい証拠よ。ほとんどの人は資産を
外貨建てで持っている」
「コーヒースタンドの彼がアラビア語を話せたのも、ごく当たり前のことなんだな」
「外国語は重点科目ね。大学までに英語と中国語、フランス語、アラビア語は必修。あとはロシア語、ヒンドゥー語、
韓国語、ドイツ語、ポルトガル語の中から2ヶ国語を選択。言葉が通じなきゃ商談もできないから」

 遥は指折り数えながら言った。これは研究所でコーディネーターの僕が浮かないのも頷ける話だな、と他人事の
ように思った。

「そこまでしなきゃいけないほどだったのかな」
 彼女は静かに頷いた。
「たぶん、別のやり方もあったのでしょう」と反意して、彼女は続けた。「けど私を含めて、大方の人は今の日本を
気に入っているわ。国にお金はないしインフラの整備も進まないし税金も高いけど、治安もいいし福祉も充実して
いる。何より私たちは世界中のどこでも、自分の力で生きていける。日本人は人材として一種の『ブランド』なのよ。
品質は国が保証する。国民奉仕機関としては窮極的な形よね」

 僕が遥を見つめていると、顔に影が差した。それは一瞬で、僕と目が合った途端に影は消え、表情のない顔に戻った。
おそらく彼女も気に入っている、というのは心底ではないのだろう。何かが引っかかっている。だがそれが自分のことなのか、
国を憂いてのことなのかはわからない。両方かもしれない。
179GSNT第3話『SunriserC』4/5 ◆SEEDuhvP7. :2007/10/08(月) 13:53:03 ID:???
「それで、僕にもそうなれ、とこう言いたいわけか」話題を元に戻した。
「丸きり真似しろってことじゃないのよ。ただ、私たちのロジックやスキームは、君にとっても必要なものじゃ
ないかな、と思ったの」
「人を欺くスキームならお断りだね」
「それも一つのコミュニケーションの手段。君が嘘を嫌うのはわかる。でも人を騙すことを知らなければ、永久に
騙されつづけるだけよ。君の得意分野で言えば、ウィルスとワクチンの関係みたいなものよ」

 僕は黙った。詭弁にも思えたが、間違ってはいない。たしかに僕は、策をめぐらすことにアレルギーが強すぎる。
それが無意識に論理的思考へのアプローチを閉ざしていたのかもしれない。

「どうすればいいか、なんてことまでは言わないわ。小学生じゃないんだから自分で考えなさい。ただ少しヒントを
言えば、行動を合理的に説明できるようにすること。『なんとなく』や『良さそうだから』は許されない」
「それだけで十分だよ。僕もそこまで馬鹿じゃない」

 僕の言葉を受けて、遥は硬い表情を崩した。目に柔らかい光が戻る。どうやら話はここまでのようだ。

「私が言いたかったのはそれだけ。これから一つ楽しみが増えたわ」
「期待に添えるといいけどね」
「添えなきゃ君が馬鹿を見るだけよ。必死にやらなきゃまた何か仕掛けるわよ」

 怖い教師もいたものだな、と苦笑した。しかしふとそこで、別の考えが浮かんだ。IAIが進めている僕たちの
計画のことだ。莫大な資本と優秀な日本人スタッフを集めた本計画は、日本に多大な恩恵をもたらすことは想像に
難くない。

「一つ思ったんだけど、いいかな」
「何かしら」
「うちの社長が日本で――」

 その瞬間、遥の視線が僕を射抜いた。おそろしく冷えた刃のような視線だった。それは無言の自制を求めていた。
僕の顎は痙攣したようにかたまり、それを見計らったように彼女の目も和らいだ。

「――と、君の言いたいことはわかる。喜ぶべきことだと、私も思うわ」
「ごめん、どうも期待に添うには時間がかかりそうだ」
「しっかりしてよね。これじゃ先が思いやられる」

 彼女は眉をひそめた。ここは家の中でも、ましてやセキュリティ厳重な研究所でもなかった。店内には僕たち二人と
マスターだけとはいえ、誰が聞いているかわからない。反省しきりだった。

 だが、遥の放った視線に心はとらわれていた。あの鋭い目ばかりは、普通の日本人はしないだろう。幾多の戦いに
身を置いてきた人間だけができる目だ。自身が身に染みてわかっていることなので、これには自信があった。
だが、彼女に理由を聞くわけにはいかない。これはフェアではない。日本に亡命したとき、彼女は理由を聞かなかった。
あるいは見当がついているのかもしれないが、彼女が話題に出したことは一度もない。ストライクフリーダムを撃墜された
ときからずっと気になってはいるが、今は知るべきときではないのだろう。そう自分を納得させていた。
180GSNT第3話『SunriserC』5/5 ◆SEEDuhvP7. :2007/10/08(月) 13:54:53 ID:???
 それからまた少しのあいだ、僕たちは黙った。手持ち無沙汰で水に口をつけていると、「お待たせいたしました」と
メニューが運ばれてきた。スパイスの芳醇な香りが漂ってくる。グラスを置けば、コースターの上がすっかり水浸し
になっているのに気づいた。ずいぶん時間がかかったな、と思ったところで、僕ははっとした。

「あのマスターはもしかして――」
「それ以上は言わなくていい。無粋というものよ」

 彼女は笑って僕を指差して、言葉を遮った。今度ばかりは癇に障った。この人はとことん話の腰を折る。だが
もうちょっとで出るところだった文句は、喉の奥に押し込んだ。この策士には言いあいで勝てる気がしない。

 黙ってスプーンを取り上げ、カレーを一口すくった。うまい。暖かいのもありがたかったが、味のほうも絶品だった。
料理のことはよくわからないが、手のかかった味のように感じた。プロの仕事だった。

「なかなかいいでしょう、ここ」フォークを手にとって遥が言う。
「気に入ったよ。君の意地悪のない日に来たかった」
「私に意地悪されたときに来た店、っておぼえておけば一生忘れなくてすむわよ」

 無邪気にそう言って、なめらかにフォークをまわしてパスタを口に運ぶ。口の減らない教師だ。まあ、多少皮肉
じみているほうが彼女らしい。変に気のきいたことを言うほうが気持ち悪い。

 そう考える僕もやや屈折してきているな、と心の中で苦笑した。教師が教師なら生徒も生徒だ。僕も遥に少しずつ
引きずられつつある。また一口、カレーを食べた。こっちばかりは素直な味だな、と思った。
181 ◆SEEDuhvP7. :2007/10/08(月) 13:59:27 ID:???
毎度。例によって批評は胃潰瘍へ追い込むくらいの勢いでお願いします。
多少なりとも進歩しているでしょうか…退化しているような気もします…。

3話はいろいろ勉強になりました。批評家の皆様厚くお礼申し上げます。
182通常の名無しさんの3倍:2007/10/08(月) 15:24:50 ID:???
創作文芸板の住人には好かれそうな文章です。
良くも悪くもラノベ的ではないあたりが。ともかく投下乙。
183通常の名無しさんの3倍:2007/10/08(月) 15:36:58 ID:???
>>hate
投下GJ!上手い事言えないけど、読んだ後にモヤモヤした何かを感じた。
キャラの怒りと作品に漂う無情感が伝わってきました。
184通常の名無しさんの3倍:2007/10/08(月) 15:43:23 ID:???
このスレで完結した作品って弐国×3、実録×2、ウンメイノカケラ、黄昏の暁だよな?
185通常の名無しさんの3倍:2007/10/08(月) 15:44:47 ID:???
>>184
少し長めの短編等を考えなければ恐らくそれで正解。
186通常の名無しさんの3倍:2007/10/08(月) 16:23:40 ID:???
>>GSNT
 投下乙です。

 明君と遥お姉さんのコラム「君にも分かる! 近未来日本の国づくり〜再構築戦争後〜」
としてなら非常に完成度が高いと思います。こういう文体で長々とした文書けるのは
長所ではないでしょうか。

 ただ、もし作中の日本人をこの章でキャラクター付けしようとしたのなら、成功しているとは
言いがたいです。日本人が劇中で受けている教育、そしその成果は日本人の設定でしか
無いからです。

「日本人って結構多言語なんですね。六ヶ国語で注文してみましたけど、殆ど全部
分かってもらえました」
「……そりゃあ、もとから資源も無い国だし、再構築戦争で持ってた資産もガタガタに
なったものね。人材を育てて労働力を売るしか道が無かったのよ」

 ↑位の分量で充分説明できない? と思いました。正直長いです。

 続きをお待ちしております。
187新人 ◆T3aqF.CV6I :2007/10/08(月) 16:58:17 ID:???
 どう、と強風が吹き荒れた。
 ぽつぽつと雨も降り出し、つい先ほどまで青一色だった空は、果たして灰色に染まっていた。

 酒臭い、古びた酒場の屋根に隠れて軽く伸びをするのは十二、三の、小柄な少女だ。
 顔に少女特有のあどけなさが残っている。
 栗色の髪がそよそよと、いやごうごうと風に流され、舞った。
 路から外れた雫が、彼女の周囲を、そっと舞う。
 少女の、確かな意思を持った光を灯す眸を見るものはいない。
 少女は静かに目を閉じ、唄う。少女にしては、いや少女だからこそ透き通った歌声が雨音に消えゆく。
 時折右の義足を弄り、
 踵を気にしつつ、 
 時折右の義腕を弄り、
 顔に入った斜めの傷を指でなぞりながら、
 歌の合間に、そっとぼやく。
 誰かに聞かせるわけでもないのに、じれったく、もったいぶって。それが少女の性分なのだろうか。
「寒いなぁ……」 
 少女はぼやく。
 雨は少しずつ勢いを増していった。

 さすがに水飛沫が酷くなってきて、少女は風邪をひかぬようにと思ったのか急いで酒場の中に戻った。

せめて、夢の中だけは
第十七話 単純構造の機械は直りやすい 後

#1

 雪が酷くなってきた。視界は未だ今のところ良好だが、危ない。
 アンチカオスの熱センサーを最大駆動させウインダムの熱源を探らせる。
 効果なし。センサーを光学に切り替えるもやはり効果なし。
 地道に索敵するしかないようだ。バックパックを操り上昇。索敵。やはり効果なし。森林部に移動したか……?
「厄介だな……」
 呟き、ゆっくりと、赤子をそっと抱くように慎重に機体を移動させる。この機体の欠点が異常なパワーだ。
 ビームライフルショーティー2を両手でしっかりと構え、寸分の隙もなく。
 隙はそれだけで命取りになる。スティングはそれを理解していた。そのせいで彼は。
 ……彼って、誰だろう。
「……誰だよ」
 小さく毒づき、邪念を振り払うようにしてスティングはかぶりをふった。
 少しして森林部上空に移動が完了する。雪が一層降り、視界は悪い。熱源を探知するのにも一苦労だ。
 索敵、探索を開始して70秒が経過したころ、刹那の間、十一時の方向で何かが光った。
「っ!?」
 森林部から発せられたビームを紙一重でかわす。
188新人 ◆T3aqF.CV6I :2007/10/08(月) 17:00:05 ID:???
 この不意打ちをかわすことが出来たのは、ひとえにスティングの戦士としての直感の賜物と言えるだろう。
 マズルフラッシュを確認してから避けることのできるパイロットと機体など、この世で極僅かに限られている。
 そしてスティングもその機体もその極僅かに含まれているのだ。
 流石に放たれてから避けるのは不可能に近いが。
 また油断したかとスティングはぼんやり思った。
「さぁて」
 暴れる機体を制御し地上に向けてスラスターを吹かす。ジェットストライカーを上回る速度で機体が降下する。
 程なく視界に雪に埋もれた木々がモニターに迫る。
 十時の方向に敵機の後ろ姿を確認。低速度で移動中。地面と衝突すれすれで姿勢制御。
 スラスターの風圧と熱にやられた木々が雄雄しく蠢いた。
「ッ!」
 主に連射性を高めた左手のショーティー2‐01(オーワン)を水平に構え、威力を高めたショーティー2−
02(オーツー)を垂直に構え、照準、失敗。ぶれる。躊躇う必要なんてない、迷う必要なんてない。
 撃て、撃て撃て……撃つんだ!
「ッガァァァァッッッ!」
 ほんのゼロコンマ数秒の逡巡の後、混沌とした逡巡に反するように、振り払うようにして、
彼は引き金を引いた。

#2

 数秒の間にショーティー01から十数のビームが、ショーティー02から数発のビームが発射された。
 直撃コースから外れるものもあり、ウインダムは旋回して直撃コースのものだけをシールドで受け
止めた。しかし構え方が悪かったのかシールドが弾き飛ばされる。更にバランスを崩し地上に墜落。
 その瞬間は余りにも大きく響く。にも関わらず、ジョージは慌てず、冷静にあらかじめ用意されていたスイ
ッチを押し込んだ。同時に、地をつんざく爆音。予め設置しておいたフラッシュ・マインが作動したのだ。
 位置的にはアンチカオスの後ろ何メートルかと言ったところか。本来なら四方を囲んだ十字砲火を想定してい
たのだが。
 隠し札を早々に使ってしまってジョージは苦虫をつぶした表情になる。
「あの火力と距離ではシステムダウンすらも招けんぞ」

#3

「おぉ!?」
 数少ないロゴス幹部の生き残りである中国人の老人が唸った。視線の先には二機の戦闘を移すモニター。
 その様を嘲笑いつつ、ジブリールはワインを一飲みして一言、
「……どうなることやら……?」
 呟き、再びモニターに視線を移した。
189新人 ◆T3aqF.CV6I :2007/10/08(月) 17:01:14 ID:???
 ちょうどウインダムが体勢を持ち直していたところだ。
 にやり、といやらしい笑みを隠さずにジブリールはワインを口へと運んだ。

#4

 突然衝撃を食らったスティングは舌打ちしそうになるのを必死でこらえた。
「ッ糞がアッ!」
 噂に聞いた新型のの指向性散弾地雷――フラッシュ・マインか!
 機体にダメージ、駆動系統にエラーが見られた。指向性の散弾をもろに浴びてしまったせいだ。
 だが戦闘機動に支障はない。システム面も調整はいらないだろう。
 ウイングを操作。なんとか姿勢制御。スラスターを吹かして前進。立ち直った敵機の放つビームを膝装甲の陽
電子シールドで防ぐ。NJCあっての機能だ。続けざまに無誘導ロケット弾ポッドから放たれたロケットをピク
ウスの機銃掃射で薙ぎ払う。
「貰った……!」
 迎撃と直線速度ならこちらの勝ちだ。敵のジェットストライカーが見る見るうちに迫る。腰部のビームサーベ
ルに手をかける。
「チィッ!」
 手を伸ばせば掴めるほどまでに近づく。抜刀は未だしない。いつするべきだ。
 スティングは迷い、躊躇い──疑問に思った。何故だ。何故。一体、何故――……? 疑問は尽きない。一瞬の間にその疑問で頭の中が埋め尽くされる。
「何、でだよ……?」
 何故、ジェットストライカーがウインダムから離れてるんだ? 何で敵機は、こっちを向いて、機銃を――?
 理解するまもなく起こる爆発。装甲が焼かれ、コックピット内部にまで僅かに熱が入ってくる。ジェットスト
ライカーに搭載された燃料タンクに機銃の嵐が当たって引火したのだ。
 今更な話だが、本来MSとは精密で、慎重に取り扱わなければならない兵器である。もちろんある程度の衝撃
には耐えられるが――それが目の前で爆発するとなれば別だ。稀に肉弾戦を行うMSが居るが、それは極一部の
優れたOSとパイロット、優れた機体だから行えることなのだ。
 だが、優れたフレームを持ち、優れた装甲を持つアンチカオスと言えど、この衝撃に耐えうるはずもなく。
 衝撃のせいで体勢を崩し地にふれひす。
 エラーも激しいが、何よりもその隙が痛かった。何度も言うが、隙は命取りなのだ。敵の本当に目の前で、一
秒でも動けなくなるということは、戦場では負けを意味する。
 コックピットに突きつけられたビームライフルの接触音を聞いて、スティングは言い知れぬ脱力感を感じた。
190新人 ◆T3aqF.CV6I :2007/10/08(月) 17:02:46 ID:???
#5

 彼、今は倒れたスティング・オークレーの動きを分析していたジョージはため息をついた。
 実際、彼はよくやると思う。戦場での判断力もなかなかのものだ。
 考えるだけでも末恐ろしい。背筋をナニかが走った気がしてジョージは身震いした。

 それはナイフのように鋭く、金槌のように無骨で、凍えるように灼(あつ)く、煮えたぎるように氷(つめ)たい、
 ナニか――恐ろしいもの。

 恐怖であり畏怖であるナニかが。戦場で敵兵がRPGを構えている際に感じるものとは違う、本能的なナニ
かが、だ。退役して、昔MSを初めて目の当たりにして感じたときの、未知の恐怖。それに似ていた。

 すぐさま思考を切り替え、かぶりを振ってつぶやく。愛しむように、恐れ慄くように。ぼんやりと。
「……足りないのは、決断力と、迷いを捨てる何か、か。強いて言えばもう少しもがいてほしかったな」
 ゆっくりと、外部スピーカーを調節し、覇気のない声で言葉を紡ぐ。
「あー……」
 彼はどのような思いで聞いているだろう。憎んでいるのだろうか、悔やんでいるのだろうか、悲しんでいるの
だろうか。 ソレを窺い知ることは出来ない。当然だ。彼は今、混沌に反する者、と言う名を与えられた鋼鉄(よろい)を
装甲(よろ)っているのだから。
 鋼鉄。MSという名の、鋼鉄。そして鋼鉄と言う名の、ゆりかご。
「一つだけ、助言させてもらうとすれば、迷いを捨てることだな。決意しろ。私が君に言いたいのは、それだけだ」
 ジョージは苦笑した。この言葉は自分の言葉ではない。受け売りだった。その言葉を彼に言うとは。
 それに、友人の言葉はもっと立派だった。自分は照れてその半分すら言えてないし、心も籠もっていない。
 皮肉な、そう思いつつ、彼はゆっくりと、名残惜しそうに機体を振り返らせた。
191新人 ◆T3aqF.CV6I :2007/10/08(月) 17:04:03 ID:???
#6

『――私が言いたいのは、それだけだ』
 その言葉を、仰向けにひっくり返ったアンチカオスの中で聞いていた彼は小さく舌打ちして毒づく。
「何でもお見通しかよ。畜生……」
 やけに晴れ晴れした気分だった。自分が負けた事実には変わらないが、初めて――
「………………」
 このような感覚を、懐かしいと言うのかもしれない。
 物心ついたときから銃の扱い方を教わり、
 あらゆる体術を叩き込まれ、
 殺しのすべてを教わる以前にも、
 同じような人に出会った気がする。
 そこで彼は口を閉じ、静かに目を瞑った。
「……俺の迷いは」
 暗闇に浮かんでくる二人の少年少女と仮面の男。彼らが自分の迷いの種なのだろう。
 記憶操作されて消えてしまったもの達。今理解した。ステラ・ルーシェ。アウル・ニーダ。ネオ・ロアノーク。
 今まで、自分が自分として実感できた存在。繋がり。今は――もうない存在。
「ハハ……っはハッ、ックハはハっははハッハハアハハははハッッ! ヒャッはっハはぁ!」
 晴れ晴れする気分だと彼は思った。今までぐしゃぐしゃだったものが綺麗さっぱりなくなった気分。
 瞼を開け、モニターに映る空。灰白(しろ)い。青などどこにもない。なければ作ればいい。
 簡単なことだとスティングは思った。
 混沌をとことん綺麗さっぱりなくしてやろうではないか。
 醜い奴等を綺麗さっぱり――。
「ッハハ、クッ、俺のすることは必然的に限られてくるわけだな。フフ、シンプルで良いじゃねーか……あの野郎を……ッッ!」

 ――倒す……!
192新人 ◆T3aqF.CV6I :2007/10/08(月) 17:05:46 ID:???
 復讐者は、その復讐の過程で更なる復讐者を創り出す。
 復讐するものは、大事なものを失った、その仇のためか、はたまたその怒りゆえか。
 少なくとも今分かるのは、大事なものを失ったスティング・オークレーには復讐する動機があった。
 そして、それを実行する力もある。ということだけだろうか。
 怒りと憎悪と怨恨に基づいて、スティング・オークレーは行動する。
 それを間違いと言えるだろうか。彼にはそれ以外選択する余地が残されていない。
 親しきものを、繋がりを失った彼にとってそれはすべて。
 それを間違いだと言い、さらには身を挺して正そうとするのならば……彼は、寸分の迷いもなく、断つだろう。
 屍を捨て去り、屍を乗り越え、屍を振り払い、復讐を成そうとするだろう。
 肯定も否定も彼にとっては関係ない。己の道に立ちふさがるものはすべて断つ。いままでそうしてきたように。
 そうしてこれからもそうであるように。ただ違うのは、以前あった繋がりが今はないということだけだった。

#7

 俺はサイさんに連れられて、人気の少ないジブラルタル基地の食堂の席に着いていた。
 困ったというのは、DorA定食のくじ引きでD(でっど)定食を引いてしまったことだ。
 ザフト伝統ともいえる定食。デッド定食は良くミスをする新人さんが一人で全て作る決まりになっている。
 片割れのアライブ定食は料理長自ら自慢の腕と素材を使って振舞う。
「シンは本当に運がないなぁ……」
 とは目前で外れのないナポリタンを食しているサイさんの言葉。
 腹が減っている俺はつられてフォークを動かしたくなるが――
 この黒焦げのステーキ(肉炭)とホイップクリームまみれのサラダをどう食せと言うのだろう。ひもじい。
「はぁ……」
 俺がため息をついていると、さっさと食べ終わったサイさんが立ち上がって俺に視線を向けてきた。
 その眸はまるで機械のようで、何の感情も感じられず、しかしそれは一瞬でいつもの眸に戻り一言。
「じゃ、清算頼んだよ」
 と。
「まさか、それだけのために?」
「それ以外に理由がいるかい? ちょい、使っちゃってさ……」
 更に軽く切り返すサイさん。
 沈黙。
 複雑な気分になる。久々、と言っても何日かぶり程度だが、人の温もりを感じた。
193新人 ◆T3aqF.CV6I :2007/10/08(月) 17:08:47 ID:???
「いえ、なんかこう、説教とかしないんすね」
 俺が何の気なしに言うと、サイさんは意外そうにぷっと吹き出し、小馬鹿にした様に笑う。
「ふ、ふ……もしかして、期待してたかな? そうだなぁ……必要ないと思うんだけどね。
 食欲はあるし、人とも話せるし。不貞寝することも出来る。でも、やっぱ悲しい。そういう感じ?」
 遠回しな言い方に、俺は引っかかりを覚えた。
 違う。まるで自分のように思えたからだ。
「悲しむところじゃない」
「……はぁ?」
「そこは怒りに燃えて、燃えて、燃えて復讐するところだよ。その事象を、あるいは繰り返さない、とかね」
 サイさんはそこで言葉を切った。
 その眼鏡に隠された眸は遠くを見つめているようで、近くを見つめていて、
 同時に過去を見つめ、未来を見つめていて、
 ――まるで自分自信を見つめているかのようだ。
 過去の自分を、現在(いま)の自分を、未来の自分を。
 言葉では言い表せない様子。俺は詩とかには疎いから、上手く表現できない。ただ、そんな気がするだけだ。
 そんな俺の沈黙を動受け取ったのか、
「君には友達が居るだろ? それって、幸せなことだと思うぜ」 彼はあっけからんと言い放って見せた。

 サイさんの立ち去った食堂で、俺は一人、定食に手をつけずにお茶を啜っていた。
 珍しい緑茶だ。思えばオーブに住んでたとき以来か。食後や余った時間を潰すときに良く飲んでいた、かな。
 あやふやだ。薄れ始めてきている。嫌気がさした。かつて喪った、二度と返らないかけがえのない一瞬。
 ふと思い、サイさんが言った言葉を反芻する。
 ――君には友達が居るだろ? それって、幸せなことだと思うぜ
「友達、か」
 思いつくのはやはりレイやルナ、ヴィーノやヨウラン、メイリンに……
 ああ、もう、多すぎる。もっと限らなきゃいけないか。ええと、そうするとひいふうみい……
 だめだ、にーしー……
「どうした」
 指を折って数えていた俺は突然声をかけられた。誰かと思い振り返る。
 そこには、綺麗なブロンドの髪を持ち、済んだ青の眸を持つ少年が立っていた。
 雰囲気だけなら青年と言っても差し支えないだろう。今更だが綺麗だと思う。
 その少年、レイ・ザ・バレルは普段通りの顔で俺を眺めていた。
「いや、別に、あー、なんでもない」
「そうか。なら俺は気にしない。だが」
「?」
「残すのは感心しないな」
 レイはふっと微笑を浮かべて言った。
194新人 ◆T3aqF.CV6I :2007/10/08(月) 17:14:47 ID:???
#8

 その頃、ルナマリアもまた、ジブラルタル基地の食堂に向かって歩いていた。
 アスランが撃墜されたという報告を受けて、ルナマリアは今まで何時間も泣いていた。
 目が充血した後が見てとれる。
 泣いた理由は、アスランが撃墜されたことに対する悲しみではなく、やっぱり、と思った自分に対する怒りに
よるものだった。何故、やっぱり、なのか。それもわからなくて、泣いていた。

 だからこそ。だからこそ。もうこんな感覚を体験しないためにも、彼女は食堂に向かって歩いていた。
 ──散々泣いた、喚いた、嘆いた、悔やんだ。
 それからすることは決まっている。
 ルナマリア・ホークは落ち込む時はとことん落ち込む。が、立ち直りはその三倍早い。
 これは彼女にとって登山にしか過ぎないのだ。これから山を滑り降りる。疾風のように。
 とりあえずお腹一杯食べてたくさん訓練して。
 深夜になったらライブ──脳内ライブ──の練習──イメトレ──をする。
 当然の行いだ。内心深々と頷き、あと落ち込んでるシンを励ましてやらねばと彼女は考える。
 ──さあさあ、忙しい忙しい。

 しかし──無理やり明るく振る舞おうと努めていたルナマリアの顔に、陰りが走る。
 果たして、自分は妹やシン、レイが死んだ時も同じように振る舞えるだろうか。
 自問する。
 その答えは、未だ出ない。
 鬱陶しい雨音が、静寂を包み込んだ。



第十八話 未完の剣 に続く
195新人 ◆T3aqF.CV6I :2007/10/08(月) 17:20:20 ID:???
ルナマリアのキャラ改変が酷い……次回の次回辺りには女の子っぽい部分作る予定が……
厨臭いなぁ……



自分で書いててあれですが、自分が書く作品に出るキャラって、思いとか心情とか、そういう部分が薄い気がします。
なぁんか安っぽく……
中編くらいの長さとオリジナルが自分には合ってるのかな。
ではでは……
196通常の名無しさんの3倍:2007/10/08(月) 17:47:56 ID:???
>>181
そろそろ「SEED」にもっと関わってくる部分の話を書いてほしい。

あと本編でも設定は無いんだろうけど、
外国語のところで韓国語ってどうなのかなって思った。
一応日本語はオーブでも通じるけど、CE時代の韓国とか
北朝鮮って言葉を覚えなきゃならないほど重要な国になってるのかな。
日本共々中国に飲み込まれてそうな感じがする。
197通常の名無しさんの3倍:2007/10/08(月) 20:12:42 ID:???
>◆SEEDuhvP7氏
すごく素朴な疑問なんだが、働き盛りの人間(遥世代)が国外へ行ってしまった場合、
次世代は日本では育たないのではないか?

ついでに言えば、そうやって国外で育った次世代の「品質は国が保証する」ことは
不可能だと思うが、その点は?

昔のスイス傭兵やユダヤ人 を知っていれば判ることなのかも知れないが、
できれば解説求む。
物語中の重要そうな設定において、矛盾点があると集中できないので一応聞いておく。
198174:2007/10/08(月) 21:56:53 ID:???
>>175
サンクス
199週刊新人スレ:2007/10/09(火) 19:39:00 ID:???
秋のニート祭り! おまえら外に遊びに行けよ、マジで!!特大号(1/2)
目次

 ボイスレコーダーに向かうタリア。彼女のビデオレターの相手とは……。
「 In the World, after she left 」 〜彼女の去った世界で〜
>>57-58

 いっこうに買い物の進まない遥と別れ、一人街を見る明。彼が人いきれの中見たものとは……。
GSNT
>>60-63,176-180

忌々しい鉄の巨人が此方を睨め付け、走り回って物陰に隠れながら俺は……。最速OO短編他2作。
hate and war
>>65,144,164

 瀕死のシンは自らの息使いを耳障りに聞きながら、ルナマリアとのツライ思い出を回想していた……。
女神が住まう国
>>72-74

 「みんなでフォークダンスを踊りましょう」 輪に入れないシンの胸中は。 『彼女…』の作者、初の短編!
Let's Dance!
>>78

 待ち望んでいた言葉。だが、彼女はそれを素直に受け入れることは出来ずにすすり泣くのみだった……。
愛と悲しみの歌姫
>>80-84

 雷雲の中、悪鬼の如き輝きを放つアカツキが自らの存在を知らしめるかのように兵を蹴散らす!
『機動戦士 SEED DESTINY』FINAL DASH「黄昏の暁」
>>87-93,129-134,137-141,152-156,158,162

 箱庭の住人はある思いを抱き、青く透き通った空を眺める……。伝説の幕が遂に下りる。必読!!
ウンメイノカケラ
>>96

 カレンダーを見る。頭には誰かの書いた文章の書き出しが浮かぶ、なぜならば。そう、此処こそは……。
終焉、焔〜アシタハアメ〜
>>100

 ユニウスセブン破砕作業を見守るガーティ・ルー。ネオは状況確認のため出撃命令を下す……!
SEED『†』 
>>101-110
200週刊新人スレ:2007/10/09(火) 19:40:12 ID:???
秋のニート祭り! おまえら外に遊びに行けよ、マジで!!特大号(2/2)
目次

 書類と悪戦苦闘しているカガリ・ユラ・アスハ。そうするうちにも書類の山は更に堆く積み上がり……。
機動戦史ガンダムSEED 
>>118-127

 ジンを駆るエース級パイロットVS常識外のMAザクレロ!! 勝負の行方は、そしてアークエンジェルは……!
機動戦士ザクレロSEED
>>146-150

 ストライクダガーのコクピット。男の目には青い翼の天使が……。短編ブームに乗り、新人が今、参戦!!
せめて、一人ぐらいは。
>>159-160

 雪の中。アンチカオスのスティングVSウィンダムのジョージの息詰まる戦い。そして……!!
せめて、夢の中だけは
>>187-194

 新人職人必読、新人スレよゐこのお約束。熟読すればキミも今日からベテラン職人だ!!
巻頭特集【テンプレート】>>1-6
絵師、テンプレート【暫定版】>>48-49


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お知らせ
・投下作品とのリンクを問わず絵師の方を募集中です。 エロはアウト、お色気はおk。これくらいのさじ加減で一つ。
素材は新シャアなので一応ガンダム縛り。勿論新人スレですので絵師、造形職人さんも新人の方大歓迎です。

・当方は単行本編集部こと、まとめサイトとは一切の関係がありません。
単行本編集部にご用の方は当スレにお越しの上【まとめサイトの中の人】とお声掛け下さい。

・また雑談所とも一切の関係はありません。当該サイトで【所長】とお声掛けの程を。

・スレ立ては450kBをオーバーした時点でお願いします。

編集後記
……けれど僕は4時間以上かかったんだ。もう疲れたよパトラッシュ、絵が見たかったよ……。
微笑むシャミィとサファイアの絵が、カケラのマユでも可なのに。ミツキは……マニアの人に譲るよパトラッシュ。
光……? あぁ、天使達が……。
201hate and war ◆6Pgs2aAa4k :2007/10/09(火) 20:31:57 ID:???
“what's the wonderful world”

 世界は逼塞していて住み辛い。閉鎖感に包まれて息が詰まる。
 支配者は支配する為に世界を支配し、支配される者は支配される為に支配される。
 黒と白、敗者と勝者。二つに区分された世界は歪な秩序によって統制されている。
 ナチュラルとコーディネーターは融和したものの、新しい秩序によって新しく区分された。
 俺は支配者の一人に疎まれ、被支配者になった。
 しかし、それを怨もうとは思わない。生きている事が出来るだけマシだからだ。
 身を顰め、息を殺して静かに生きる事を覚えれば支配されるのも悪くは無い。
 支配されていてもそれなりの自由があるからだ。
 ある程度の制約はあるものの、それを多少我慢出来れば好きな職業に就く事も出来る。
 しかし、支配者はそういう訳にもいかない。
支配者は支配者にしかなれない。支配する為の秩序の番犬にしかなれない。
 秩序が綻ばないように監視するのと、被支配者の御機嫌取りが支配者の主な仕事だ。
 支配者も馬鹿じゃない。支配させて貰っているのを知っている。
 俺達支配される人間がそっぽを向けば、秩序なんて簡単にひっくり返る。
 俺達支配される人間がそっぽを向けば、秩序なんて簡単にひっくり返る。
 俺達支配される人間だって馬鹿じゃない。支配者が無能だったら秩序なんてひっくり返す。
 世界を成り立たせるのは簡単だけど難しい。

 休みの日、いつもの様に支配者は御機嫌取りの為のパレードをやっていた。
 俺はチョンガーで暇だし、何もする事がないから支配者の顔を拝みに行った。
 紙吹雪が乱れ舞い、歓声と快哉と喝采が上がる。
 微笑みながら手を振る支配者の顔に見覚えがある。
 ふとした拍子に目が合うと彼は俺の方にやって来た。
 久し振りだね、とか元気だったかい? だとか話かけてくる。俺は彼の顔を立てて恭しく適当に相槌を打つ。
 不意に手が差し出された。多分握手という事だろう。しかし俺は少し身構えてしまう。
 その手はかつて俺の腕を捻り上げた手だ。警戒してもおかしくない。
 しかし彼はそんな事なんて忘れているらしい。その脳天気さに免じて俺は握手する。
 温かいけど冷たい手だ。体温があるけど人の温かさが感じられない。
 彼に何があったのかは知らないけど、人の温かさを無くす位の苦労をしたらしい。
 素晴らしきかな、この世界。
 まだまだ捨てたものじゃない。
202 ◆6Pgs2aAa4k :2007/10/09(火) 20:45:39 ID:???
コピペミス発見。

 俺達支配される人間がそっぽを向けば、秩序なんて簡単にひっくり返る。

この分が重複しています

>>まとめの人
お手数ですが訂正をお願いします。
203通常の名無しさんの3倍:2007/10/09(火) 23:01:39 ID:???
>>編集長
 心底GJ! 毎回心の底から乙です。更新内容が気になる時、
あの作品を読み返したいとき、スレを彷徨う読者にとっての灯台です。


>>hate
 投下乙です。
 権力と支配者に対する鬱屈した気持ちに同調してしまった後で、
キラの気苦労を知った瞬間に素晴らしきかなこの世界、となる人間臭さに
クスリと着ました。

 携帯でコピペしていたら、開始する行を間違えたのでしょうか?

 題名はルイ=アームストロングのもじりでしょうか?
 続きを期待しております。

>>新人
 投下乙です。
 勢いはとても良くなってきたと思います。単純構造の機械は直り易いところを
きっちり書き終える事は、出来ていたのでは無いかと思います。
 デモベ?臭とやらが残って居るのかどうかは判別がつきませんが。

 シナリオについてはどんどん書き進めて欲しいので、細かい所を行きます。

 反復
 一応表現技法の一つではありますが、周りの描写をもう少し練った方が良い
とも思います。
 二行の間に「優れた」が四回出てますので、ちょいと表現を書き換えてみます。
洗練されたOSとパイロット、その要求にこたえる強固な機体だから行えることなのだ。
 だが、強靭なフレームを持ち、堅牢な装甲を誇るアンチカオスと(後略)

 ついでに
 スティング+アンチカオスは、ノイマン+AAのレベルだと分かってほっとしました。

 続きをお待ちしております。どうか携帯を死守なさって下さい。
204愛と悲しみの歌姫 ◆O7lNelWh.I :2007/10/10(水) 20:19:08 ID:???
第四話

「あら、この香り……」
キラから漂ってきた移り香に似ていた。はしたない娼婦が好んで付けそうな甘ったるい
柑橘系の香水。ラクスは背筋が凍り付くような感覚を覚えた。腕に鳥肌が立つのが判る。
「ラクス議長、どうしたんですか?顔が真っ青ですよ?」
如何にも心配そうに振る舞うものの、あざとさや白々しさを隠せていない口調で秘書が
助手席から振り返りラクスの顔を覗き込んで来た。
「大丈夫ですわ。少し車に酔ったようです。」
曖昧に言葉を濁しながらラクスは窓の外を見やった。今日の公務は戦災孤児の為の慰問
コンサート。野外円形ステージで童謡を披露したりフォークダンスを踊ったりするのだ。
ラクスは議長としての職務よりこういった公務を好んでいる。市井の人々との触れ合いの
方が自分に向いているし、難しい政治の話よりも楽しいと思うのだ。政治は堅苦しい。
それにしても先程の香り。ラクスは胸が焦げるような痛みを拳を堅く握り締め堪えようとした。
車の中にいるのは運転手と秘書――ルナマリア・ホークのみ。キラを寝取った売女が誰なのかは
明白だった。ラクスは自分の部下に寝首を掻かれるなどとは想像だにしていなかった。
「ねえルナマリアさん、あなた、香水を変えました?」
声が上擦らないように落ち着いた口調。かと言って不自然にならないトーンでラクスは
意を決してルナマリアに尋ねた。
「ああ、香水ですか?今までは男性用のを使っていたんですよ。私は軍人でしたから
女の子らしい香りは合わなくて。でも先日知り合いからこの香水をプレゼントされてからは
こちらに変えました。甘みのある香りも似合うだなんて言われちゃいまして」
「あらそうですの。その香り、あなたにとってもお似合いですわよ。」
本当にお似合い。男性用の香水ではルナマリア自身から立ち込める男性の劣情を誘うような
はしたなくて阿婆擦れで男好きする体臭は隠し切れないのだろう。ラクスは拳が小刻みに
震えるのを押さえようと必死だった。
「私もその香水が気に入りましたわ。宜しければ名前を教えて下さいませんか?」
「申し訳ありません、ラクス議長。この香水はオリジナルブレンドの物なので市販は
されていないんです。言って見れば私だけの香水なんです」
申し訳無いと言いながらも女の幸せを誇示するような明るい口調に、ラクスは軽い目眩を覚えた。
205愛と悲しみの歌姫 ◆O7lNelWh.I :2007/10/10(水) 20:20:36 ID:???
公務はつつがなく終わった。孤児達は笑顔でラクスを迎えてくれたし、ラクスの歌声に
真摯に耳を傾けてくれた。ラクスがみんなで歌を歌おうと提案したら大きな声で歌ってくれた。
ラクスは子供達の優しい眼差しと健やかな愛情を感じ思わず涙ぐんでしまったが、
それはラクスと孤児らの心暖まるエピソードとして大々的に報道されるだろう。
フォークダンスを踊った時に孤児達の手から感じた温もりはとても暖かくてラクスの心を慰めた。
帰り際孤児の一人がラクスとの別れを惜しみ泣き出してしまった。ラクスは帰りを急かす
秘書を振り切り孤児の元へと駆け寄った。まだ年端の行かない小さな子供。ラクスは
子供を抱き上げ頬に優しくキスをした。涙の味がした。きっとそれは子供が感じている
孤独の味でもあるのだろう。
泣き止んだ子供を下ろし、ラクスは右手の小指を差し出した。
「機会があればまたここに参りますわ。指切りをしましょう。」
指切りをするラクス達をフラッシュの嵐が襲った。ラクスはそちらへと一礼し子供達に手を
振りながら秘書の元へと戻った。
「御免なさい、ルナマリアさん。手間を掛けさせてしまいましたね」
ルナマリアの顔を見ないようにラクスは車に乗り込んだ。また気の乗らないドライブが始まる。
「ラクス議長、今日は直帰なさいますか?」
「ええ、お願いします」
ラクスは応えながら窓の向こうをぼんやりと見つめた。流れて行く景色の中にも人々の生活が
ある。ラクスはささやかだけれどもかけがえのないそれらを守りたくて今の地位に
着いたのだ。議長としての職務は激務ではあるが、ラクスは夢に向かって走り続けなければ
ならない。だがその前に幾つかしなければならない事がある。
「ルナマリアさん、宜しければオリジナルブレンドの香水をどこで作ったか教えて下さらないかしら」
「……ヤマト准将にお聞きになっては如何ですか。私、彼にプレゼントされたんです。
私、謝りませんよ。議長と彼は結婚していないんですからね。恋愛するのはは自由でしょう?
私、隠し事は嫌いなんで最初に言っておきます」
盗人猛々しいとはこんな事を指すのだろうか。ラクスは開いた口が塞がらなかった。
「今夜は彼とのデートなんです。帰りを遅らせて私を困らせようとあんな事をなさったの
でしょうが、止めてくれません?ラクス議長も姑息な手段を使うんですね」
206愛と悲しみの歌姫 ◆O7lNelWh.I :2007/10/10(水) 20:21:57 ID:???
ラクスは喘ぐように口をパクパクと動かした。ルナマリアに反論したいと思ったが、
何を言えばよいのか全く判らなかった。
「あら、何にも言い返さないんですね。お優しいラクス議長ですもの、私達を祝福して下さるんですか?」
ルナマリアの勝ち誇ったような高笑いが車内に広がる。ラクスは不意に耳を塞いだ。
ルナマリアの声を聞きたくなかった。
自分の意志に関わらず涙がどんどんと溢れ出してきた。
涙を拭こうと鞄からハンカチを取り出そうとすると、またもやルナマリアが追い討ちを掛けてきた。
「彼、言ってましたよ。ラクス議長は無反応で人形みたいだからつまらないって。
婦人科検診でも受けてみたら如何ですか?女としての欠陥が見つかるかも知れませんよ。
ラクス議長は私達プラントの希望そのものですから、何かがあってからでは遅いですよ。
良かったら私の行きつけの病院を紹介しましょうか?親切な先生ばかりで安心ですよ」
ルナマリアは楽しげに笑いながら延々と喋り続けた。言葉の端々に感じる禍々しい悪意に
ラクスは下唇をきつく噛み締めひたすら耐え続けた。涙は止まる事が無かった。
官邸に着くやラクスは車から逃げ出すように降りた。振り返りはしない。今はルナマリアの
顔を見たく無かった。
勢い良く扉を開け後ろ手で閉める。扉に寄りかかりながら、ラクスは自分の顔を覆い
その場に崩れ落ちた。
「いや……いや……いやあああ――っ」
女としての尊厳を奪われ汚されてしまったようで憎しみや怒りよりもただ悲しかった。
きっとキラはルナマリアとのピロートークで気軽な気持ちで考えなしに口にしたに違いない。
そして二人でラクスの事を嘲笑っていたのだ。声が枯れるまでラクスは叫び続けた。
どれ位時間が立っただろうか。ラクスは泣き疲れた体を奮い起こしてリビングへと向かって
這いつくばった。こんな気持ちは温かいハーブティーを飲みシャワーを浴びて洗い流してしまおう。
ラクスはテーブルに手を付き起き上がった。いつまで這いつくばっていても仕方がない。
不意に丸くて橙色の物体がラクスの視界に入った――オレンジ。柑橘類。あの女の
香水に似た匂い。憎い嫌い大嫌い。許せない許さない有り得ない。
ラクスは目を血走らせ無我夢中でオレンジを掴んだ。
存在が許せないなら食べてしまえ。ラクスは薄ら笑いを浮かべ皮が付いたままのオレンジを貪った。
207愛と悲しみの歌姫 ◆O7lNelWh.I :2007/10/10(水) 20:24:30 ID:???
一つでは足りない。二つでは足りない。足りな過ぎる。ラクスの渇いた心を潤したかった。
家にある分のオレンジだけでは駄目だ。ラクスは行きつけのスーパーに電話をし
ありったけの柑橘類を官邸まで届けさせるよう手配した。
それだけでは飽きたらず電話帳を調べ片っ端の店に電話を掛け柑橘類を購入した。
運ばれて来る前に、ラクスはシャワーを浴び化粧を直した。鏡を見れば先程までの
弱々しいラクスはそこにいなかった。そこにいるラクスは威厳と母性に満ち溢れているように見えた。
次々に運ばれて来るオレンジ、蜜柑、グレープフルーツ。ライムにレモンにスウイーティー。
家中にぶちまけても余り過ぎる程の柑橘類に囲まれてラクスはにっこりと微笑んだ。
総てを貪り尽くせば心の隙間を埋め尽くす事が出来るだろう。ラクスは手当たり次第食べ始めた。
「食べちゃう。食べちゃう。見たくないから食べちゃう。匂いを嗅ぎたくないから食べちゃう」
ぼそぼそと呟いては一個、また一個と貪って行く。腕に果汁の筋が一つ走る。
ラクスは舌で
綺麗に舐めた。幾ら食べても満腹感は訪れない。ラクスはそれが嬉しかった。
好きなだけ、思う存分食べられる。ラクスは乾いた笑い声を響かせた。
マーマレード、マドレーヌ、生ジュース。幾らでも調理法はある。ラクスはグレープフルーツを口にしながらそれらを作った。
生焼けだったならキラに食べさせればいい。キラにもそれ位の価値はあるのだ。
焼きすぎてしまったものはルナマリアだ。あの女にはそれで充分過ぎる程だ。
「本当に楽しみですわ。キラやルナマリアさんはどんな反応をするのでしょう?」
コンロもオーブンもミキサーもフル稼働させて、ラクスはそれらを作り続けた。
勿論作りながらも今度はスウィーティーを貪る。柑橘類を食べるのに飽きは来なかった。
当然だ。ラクスは柑橘類をキラやルナマリアに例えて貪っているのだ。憎いあんちくしょうを
喰らうのに飽きが来る筈はない。
ラクスが部屋を歩く度にオレンジが潰れて行く。ラクスはその感触を楽しみつつキラの帰りを待った。
風呂の準備も食事の支度も既に住んでいる。今頃キラはルナマリアとの逢瀬を楽しんで
いる事だろう。しかし、ラクスはそんな事は気にしない。キラがここに帰って来た時に
二人きりのパーティーが始まるのだ。それは一晩中盛り上がる事だろう。
部屋に充満した柑橘系の香りで、ラクスはルナマリアの香水の匂いを忘れかけていた。
208愛と悲しみの歌姫 ◆O7lNelWh.I :2007/10/10(水) 20:27:47 ID:???
日付が変わった頃、玄関のチャイムが鳴った。キラが帰って来たのだろう。ラクスは
ありったけの笑顔で玄関に向かった。
「お帰りなさい、キラ。今日も疲れたでしょう?」
ラクスはドアを開けたまま呆然と立ち尽くしているキラを引っ張り込んだ。
「ラクス……この有様は……」
眉間に皺を寄せラクスを見つめるキラの表情がおかしくて、ラクスはクスクスと喉を鳴らした。
「あら、キラはオレンジの香りが好きなのでしょう?だからキラの為に用意したのですわ。」
ラクスはキラをリビングに引っ張っていこうとしたが、キラは伊予柑に足を取られ
バランスを崩した。ラクスはそんなキラの姿を珍妙に感じながらも強引にリビングへと引き摺った。
キラが怯えたように眉をハの字にしてラクスを見上げている。さあ、宴の始まりだ。
「ほら、キラ。食べて下さいな。マドレーヌを作って見ましたわ。お味はどう?」
キラの顔に生焼けのマドレーヌを落としたが、キラは食べようとはしなかった。
キラは只顔を青くさせて小刻みに首を振っている。
「あら、キラはマドレーヌはお嫌い?とっても美味しいですわよ」
ラクスは上手く作れたマドレーヌをキラに見せびらかすように口にした。
「仕方無いですわねえ。では新鮮なレモンはいかが?疲れが吹き飛びますわよ」
ラクスはレモンをキラの眼前に差し出した。顔を歪ませ必死に口を閉じるキラの姿が滑稽だった。
ラクスは親切にもグリグリと力を込めてキラの頬に押し付けた。レモンが潰れて果汁が
キラの顔を汚した。果汁が目に入ったのかキラが口を大きく開けて叫びだした。
ラクスはチャンスとばかりにキラの口に温州みかんを皮の付いたまま放り込んだ。
「キラ、美味しいでしょう?まだまだ沢山ありますからね。たーんと召し上がれ」
ラクスはキラの腹に馬乗りになり蜜柑を強引に食べさせようとした。しかしキラは
食べようとはしなかった。
「ラクス、今日の君はおかしいぞ……止めろ、ラクス、止めてくれ!」
キラは蜜柑を吐き出して絶叫したが、ラクスは意に介さなかった。当たり前だ。
ラクスはキラの事を思って食べさせてあげているのだ。
「あら、何を言い出すと思ったら、止めてくれですって?キラ、貴方は柑橘系の香水を
ルナマリアさんにプレゼントしたのでしょう?今日のルナマリアの抱き心地は如何でした?
二人して私の事を嘲笑ったりして楽しんだのでしょう?さあ、キラ。食べるのです」
209愛と悲しみの歌姫 ◆O7lNelWh.I :2007/10/10(水) 20:29:53 ID:???
ラクスはキラの顔に八朔を押し当てた。潰れてしまったなら椪柑、花梨。ラクスは
手当たり次第にキラに食べさせようとしたが、キラはただひたすら迷子の子猫のように
ブルブルと震えており、頑なに口を開かなかった。キラの顔は果汁で汚れてベトベトになっていった。
「キラ、食べなさい。食べるのです。キラには私の気持ちが伝わらないのですか?
さあ食べなさい。食べるんだ。喰うんだ。喰え喰え喰え!」
ラクスは痺れを切らし乱暴な言葉遣いでキラに命令した。キラは目を見開いたかと思えば
何かに怯えたかのように歯を鳴らし始めた。ラクスにはキラが怯える理由の検討が付かなかった。
ラクスはざぼんを両手で掴んだ。ラクスの顔程の大きさがあるのでひ弱なラクスでは片手で持てない。
ラクスはザボンでキラの顔を一心不乱に殴り始めた。全てはキラがいけないのだ。あんな
性悪女に引っかかったり、ラクスの差し出したオレンジを食べなかったり。本当に悪い奴だ。
「キラ、食べ物を無駄にしては罰が当たりますわ。さあ、食べなさい。あの女を貪ったように
食べなさい!貴方、男でしょう?喰うんだ、さあ、早く!」
ラクスは潰れてしまったザボンを放り投げライムを差し出した。
キラはぐったりしたまま動かない。ただ瞳に暗い光を宿して呆然とラクスを凝視していた。
「そうだわ、キラ。マーマレードもあるんですのよ。これなら大丈夫。食べられるでしょう?」
ラクスは立ち上がりコンロの上に置いてある鍋を手に取る。キラは逃げる素振りを見せなかった。
「私お手製の愛情たっぷりマーマレード、召し上がれ」
ラクスは素手で鍋に手を入れマーマレードを掬い取った。人肌程度には冷めており、
若干緩かったものの悪い出来では無かった。ラクスは無邪気に笑いながらマーマレードを
キラの口の周りに塗りたくる。キラは頑として口を開こうとしなかった。
「キラ、口を開けないとマーマレードを食べられませんわよ。さあ、早く口を開けなさい」
頬、鼻筋、額。ラクスは口を開けない罰とばかりにマーマレードを塗り広げていった。
嫌々をするように小刻みに体を震わせているだけのキラの姿は滑稽で、ラクスは苛立ちを
押さえられず顔を歪ませた。ささくれ立った心はこれだけでは癒される筈はない。
ラクスはキラを見下ろすように立ち、キラの顔の上で鍋をひっくり返した。どろりとした
マーマレードがキラの顔に降り注ぐ。キラは目を閉じていた。
210愛と悲しみの歌姫 ◆O7lNelWh.I :2007/10/10(水) 20:34:39 ID:???
「嫌ですわ。キラったらマーマレードも駄目でしたのね。早く言って下されば良かったのに」
ラクスはぐったりとしているキラを強引に立ち上がらせた。
「キラの美しいお顔が酷い事になっていますわ。自業自得ですわよ、キラ」
ラクスはキラの顔をべったりと覆っているマーマレードを人差し指で掬い取った。
苦味のある甘さは何だかキラに似ているようで、ラクスは可笑しく思った。
「さあ、顔を洗いましょう。そのままでは恥ずかしいですわよ」
ラクスはキラを力任せに風呂場へと引っ張っていった。キラは抵抗する気力は無さそうだった。
「さあ、キラ、着きましたわよ。私、キラの為に特製のお湯を用意したんですのよ」
ラクスは勢い良く湯船の蓋を開けた。ラクスがキラを見つめると、キラは唖然としたかのように
ポカンと口を開け、目を大きく見開いて微動だにしていなかった。ラクスは湯船に手を入れ
湯加減を確かめる。良い湯加減だったので思わずラクスは目を細めて微笑んだ。
甘酸っぱい柑橘系の香りが浴室内に広がる。ラクスは大きく息を吸い込み香りを楽しんだ。
「このお湯を用意するのは大変でした。オレンジ、レモン、シークヮーサー、その他もろもろ
柑橘類100%ですわよ」
ラクスはキラの頭をむんずと掴み湯船の中へと押し付けた。じたばたともがく様が愉快だった。
キラは抵抗して顔を上げるが、ラクスはその度に腕に力を込めてお湯に押し込んだ。
マーマレードで汚れてしまったキラの顔は綺麗に清めなければならない。そのお湯は
キラの大好きな柑橘類でなければならない。湯船に張る量の生ジュースを用意するのは
大変な手間だったが、ラクスはキラの反応を楽しみたくて頑張ったのだ。しかしキラは顔を
洗おうとすらしない。ラクスは眉間に皺を寄せキラの顔を湯船に浸け続けた。
「嬉しいでしょう、キラ。キラは柑橘系の香りが好きなんですものね。私なんかよりも
好きなんですものね。満足しましたわよね。嬉しいですわよね」
ラクスが絶叫した時だった。キラが渾身の力を込めて起き上がりラクスを振り払った。
ラクスはバランスを崩し顔面から壁に激突し崩れ落ちた。今までに味わった事の無い衝撃――痛み。
殺されるかもしれないという恐怖がラクスの全身を駆け巡る。キラの荒々しい呼吸が聞こえた。
ラクスは額に何か温かい物を感じた。恐る恐る触れてみる。どろどろとした液体――血。
ラクスはキラを突き飛ばし浴室から逃げ出した。
211愛と悲しみの歌姫 ◆O7lNelWh.I :2007/10/10(水) 20:36:51 ID:???
投下終了です。当分回想が続くので前置きのラクス著作「愛と悲しみの歌姫」は
お休みです。
良かったら色々と意見などを聞かせて下さいね。
212弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/10/10(水) 21:08:56 ID:???
女神と天使 〜少女は砂漠を走る! Master's side〜 (1/7)
Angel  =直線莫迦の天使=

 制服を着たまま船の外に出るのが見えたので、悪いとは思ったが後をつける事にした。
気の強い娘であるが故に誰かが気にしてあげなければいけないだろう。
いくら賢くとも精神的なダメージは誤魔化せない。彼女と同年配で両親を理不尽に亡くした自分はどうであったか。
 だが彼女は気丈にも、友人に上手く自分の境遇を説明して別れの挨拶まで済ませると船へと戻ろうとする。
両親を亡くし友人とも別れ、自らの思惑など度外視されてひとり郷里を後にする少女の胸中は察するに余りある。
夕日に照らされて町の残骸を見つめる少女の後ろ姿は、けれど僕には何も語ってはくれなかった。


「はぁ……。何故そう言う結論になるんだい、ミツキくん。間違っても隊長や艦長の前で同じ事は言うなよ?」
「そのぉ、スイマセン師匠。わかってはいるんです。……けど、わたしはその」
「言いたい事はわかった上で、だからオトナに成れと言ってるのさ。キミは将来的には隊長にだって成れる器だ。
思った事をそのまま口にしていると人は付いてこないぞ……。ふぅ、こんなところか。今日はもう休んでいいぞ?」


 砂漠の中の緑なす町でテロリストに襲われた。そこで右腕と一機のMS、更には部下34名を失った僕は、
家族を亡くした元オーブ難民の少女を拾った。
 ミツキ・シライと名乗った彼女は、複雑怪奇なオペレーションを要求する、かのG.U.N.D.A.M.OSを
搭載した機密兵器プロトガイアを初見でいきなり動かし、武装無しの状態からMSを撃破して見せた。
MSなど乗った事どころか触った事もない、ただのハイスクールの生徒だった彼女が、である。
 また、シミュレーターでも動作説明を受けただけでいきなりベテランクラスのオールランクC+を叩きだして、
教官の資格持ちでもある唯一の生き残りの部下、シルビオの度肝を抜いた。射撃などはまぐれとは言え
ランクA−を既に一度出している。B+の評価さえ付いたことのないパイロットはたくさん居るのだ。
 更に彼女は一度見聞きした事は絶対に忘れないし、勿論それはなにもMSに限ったことでは無い。

 見た目はややボーイッシュな少女、言動もそれを逸脱する部分はない。が、見た目で判断してはいけない。
天才、とは彼女のような人間を指して言うのだろう。
 そして緑の詰め襟を着る事になった彼女は、僕を師匠と呼ぶ。何ともくすぐったい話ではある。


「オトナに成れ、ですか? そりゃあ確かにわたしは身長が標準に……」
「わざと話を混ぜっ返すんじゃない! そういった意味な訳がないだろうが!? ……全く」
 少女。と言ったが彼女にそれを言うと、実際にはハイスクールが今年で終わる歳なのだ、もう大人だ。と怒る。
年齢の割に幼く見えるのは精神的ショックで2年ほど成長が止まっているのではないか。とは船の医者の話だ。
コーディネーターであるし体に問題は無いのだからそのうち成長も年齢に追いつくだろう、心配ない。とも言った。
 そう言われれば顔は大人びて見えないこともない。
幼く見えるのは、普段の言動に大いに原因があるのだろうが、本人は主に身長と胸の大きさを問題視している。
そんなことは気にしないでも彼女は十分魅力的だと思うのだが。やはり女性の心理は僕には計り知れない。

 まぁ、確かにファング2のシートと操作系は彼女専用に作り直さねばならなかったのだが
213弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/10/10(水) 21:10:26 ID:???
女神と天使 〜少女は砂漠を走る! Master's side〜 (2/7)
Angel  =直線莫迦の天使=

 ドアを開け出て行く直前、こちらを振り返るとミツキくんは珍しくしおらしい顔で口を開く
「あの、ブリッジではすいませんでした。確かに師匠とシルビオさんはここの正規の隊員じゃないんですけど、
でも隊長のあの言い方は無いんじゃないかって、つい、その、あの。師匠、ごめんなさいっ! また迷惑を……」

 彼女の唯一の欠点。シルビオは戦艦の瞬間加熱器並だなどと言って笑っているが、笑い事ではない。
カッとしやすい癖は戦場では命取りになりかねない。それに彼女の事実上の専用機ファング2はGタイプ。
Gタイプで戦場に出るならば最前線以外あり得ないし、そこで冷静さを失えばPS装甲など生存率向上に
関してはなんの意味も持たない。
 だから彼女は専任テストパイロットとして基本的には実戦には出さない事にした。それに現状は戦闘が
続くものの戦時ではない。機体が足りない等と言う話は通らないし、僕も彼女の教育係として聞くつもりはない。
それに関しては彼女の書類上の上司であるマーカス隊長にも言ってあるし、理解を示してくれてもいる。
ただ彼の場合は『大事な荷物』の被損害率の方が大事なのかも知れないが、利害はこちらと一致する。
 それに彼女の感情が平時のブリッジで暴発するなら、隊長には迷惑だろうが少なくとも直接命には関わるまい。

「そう言わざるを得ない隊長の立場にも理解を示してあげて欲しいところだな。まぁ隊長も気にしていないそうだし、
キミが反省しているならそれで良い。もう同じ事はするな。明日も通常通り、良いね? ……あぁ、おやすみ」

 その彼女の行動基準はいつでも単純明快。良か否か。全ての行動が打算的である僕に対するアンチテーゼの
ようにさえ思えるほどに、彼女の判断は切れが良い。但しそれは軍隊にあっては必ずしも良い事とも言えない。
だから今日も素直であるが故に肩を落として自室へ戻っていく。小さな駆動音と共に閉まるドア。
 普通の暮らしに戻してあげたいが、当面はどうみても無理だ。ならば僕に出来る事は……。
214弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/10/10(水) 21:12:10 ID:???
女神と天使 〜少女は砂漠を走る! Master's side〜 (3/7)
Angel  =直線莫迦の天使=

「僕らの境遇が似ているという話さ。……ファングと縁が切れたら僕と一緒に宇宙(そら)にあがらないか?」
 別に他意が有って言った訳ではない。確かに正規の教育を受けた訳ではないしまだ少し荒削りではあるが、
正直、彼女ほどの人材ならば欲しがる部隊はいくらでもある。パイロットとしてはバクゥを乗りこなすほどの腕前で、
これから教える予定のオペレーターの心得も、仕込めば仕込んだだけ吸収するだろう。
 勿論、ザフトレッドや『ガンダム』を名指しで渡される様なエース達とは当たり前だが比べるべくもない。
だが彼女が優秀な事実が変わる訳ではないし、ザフトが恒常的な人材不足であることもまた事実である。
ザラ派に分類されているはずの僕を、機密兵器テスト部隊の隊長に任ずるほどに人が足りないのだ。
 加えて清々しいまでの本人曰く『直線バカ』の気性は、居るだけで明らかに周囲の空気が明るく変わる。
むしろ要らないという部隊を探す方が難しい。


 それにあまり長く僕と居るのは色々な意味で危険だ。どうやら僕は国防委員会直轄の対テロリスト専門部隊、
それもあの悪名高いカミソリモンロー率いるモンロー隊に目を付けられたようだ。
 モンロー隊。一般的な評価はともかく、かなりの精鋭部隊だ。パイロットは言うに及ばず
指揮、操艦、管制、メカ。確かに問題児ばかりだが一方で全員、その道では名の知られた出来者揃いだ。
 それにサーシャ・ニコラボロフ。能力は高いが内向的で扱いづらい彼女が隊長としてMS部隊を率いていると
聞いた。降りてきた彼も見ただけでわかる、ただ者ではない。何がしかの問題はあるのだろうが単純な能力だけ
ならニコラボロフの更に上を行くだろう。そんなろくでもない連中を仕切る隊長の能力は如何ばかりか。

 モニカ・モンロー。吹きだまり部隊のぼんくら隊長はポーズだろう。そんな御仁がフェイスを拝命する訳がない。
状況がこうである以上、ファングの地上テストの件だって彼女の差し金かも知れない。
 モンロー女史が『狂犬病のアイドル』のあだ名そのものの人物だったなら、相手が国防委員長であろうと
必要とあらば躊躇無く噛みつくだろうし、今回の件に限れば、地上テスト追加の書類を作って技術部長に
サインをさせるだけ。彼女にすれば容易い話だろう。旧特務隊でさえ、ほぼ名前だけで何でも出来たのだ。
 上層部に嫌われる程の行動力に加え絶対的な権限を持ち、更に自らの部下を地球(した)に下ろす事で
僕に対テロ専が動いている事をアピールし、こちらの動きを牽制すると言う腹芸までをも見せる彼女だ。
どう考えてもただの猪武者では無い以上、この状況下において何もしていないと思える方がおかしい。

 傭兵達に情報がリークしていたのも、セブンスで襲われたのも彼女が一枚噛んでいるかも知れないし、
ならばミツキくんから普通の暮らしを奪ったのは間接的には僕の所為、と言うことになる。
 そのミツキくんをむごい運命から救い出したいが故に『師匠』をやっているのだ。
一緒にいる事で危害を加えられる危険性があるならば、それは本末転倒というものである。


 子供の頃は宇宙で仕事をするのが夢だった、とはこの前彼女から聞いた話だ。上手くアプリリウスあたりの
部隊に押し込む事が出来れば、今後戦争になろうとも彼女は生き残れようし夢も叶えてあげられる。一石二鳥だ。
 マーカス隊長の部下である以上彼の承認は必要だが、異動自体を僕の意向で行える事は確認済みだ。
書類上、ミツキくんの直属上司である彼のサイン無くしての異動命令書など勿論無効だし、だから僕は手続き上
そこには介在しない事になる。ならば僕との関係が、後に取りざたされたりもすまい。
「今すぐとは言わないが、基地に到着する前には結論を出してくれ」
「う〜ん、モチロンイヤな訳じゃないですし、師匠と一緒なら何処でも良いんですけど……。
ちょっとだけ考えさせて貰っても良いですか?」
 とにかく首を縦に振らせる必要がある。彼女を墓標の墜ちる地上に残しておく訳にはいかない。
215弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/10/10(水) 21:14:28 ID:???
女神と天使 〜少女は砂漠を走る! Master's side〜 (4/7)
Angel  =直線莫迦の天使=

「ミツキくん、キミにケガをして欲しくない。一番正直な理由だ。……だから約束は守ってくれよ?」
 実戦に出せと言って聞かないミツキくんにそう言った。嘘も偽りもない正直な所だ。
ただ、取りあえず言葉の上では了解してくれた様だが、あの態度は確実に不満なのだろうな。とも思う。
だが、直接命のやり取りなどせずとも彼女に出来る仕事はこの船に限っても山とある。
 この船に乗っていること自体、既に危険なのだ。そして僕は彼女に危険な目にあって欲しくない。
だがそう思うのは何故か。不幸な境遇だから? 優秀な弟子だから? それとも好みのタイプだったか?
僕の所為で普通を失った少女だ。僕が護ってあげなければいけない道理ではあるのだが。
 いずれ彼女に拘りすぎだとも思えるが、実戦に出さなければそれらの一部については考える必要さえなくなる。
義理堅い彼女のことだ、不満であっても『師匠』との約束であれば護られるだろう。
 ……とその時は思っていた。


 制服にヘルメットを被ってまっすぐにこちらを見るミツキくんが病室の小さなモニターに映る。
「今怒っている暇はない、チェンバレンくんがキミの援護、シルビオは左翼を牽制する。キミにはもう、逃げ場も
時間も無い。隊長としてキミに命令する。前方の敵に突貫! マーカス隊の道を切り開き、なるべく早く
片付けて帰ってこい! 怒られたいと言うなら、そのあとで好きなだけ怒ってやる!」
『命令、拝領しましたです。なるべく早く帰ってきて怒られます! ――システムレディ、緊急起動シーケンス開始』

 実戦に出ない。と約束させた筈のバカ弟子は、僕の静止を振り切って戦闘準備を開始した。
いつの間にか戦術の初歩を身につけたらしい。僕の言い間違いから僕の頭の中の作戦を察してしまった。
ファング2が居なければ、その作戦自体実行が不可能である所まで。
 それに自分で出来ることをせずに隊(なかま)の危機を座視するなど、『直線バカ』の彼女にとっては
確かにあり得ない選択ではあろうとは思えるのだが。
「……カタパルトセット、確認! コントロール? ――了解! ミツキ・シライ、ファング2、行きまあぁすっ!!」
 きっと彼女ならば30分もすれば仕事を片づけて、申し訳なさそうな顔でわざわざ怒られに此処に来るだろう。

 ふと、彼女に師匠と呼ばれる事に違和感を感じる。それだけの物を僕は彼女に与えただろうか。
いや、むしろ……。
 彼女こそが人に道を示しているのではないか。ならば僕の進むべき道も彼女は示してくれるだろうか。
だが、道を示されても僕にはもう、そこを歩む資格はないのではないか……。
 徐々に暗くなっていく視界。病室の小さなモニターは、既に彼女の顔を写すのは止めて数字と記号の羅列
を環境ビデオの如く流している。
 そして、その暗号の如く流れる文字列は、我が愛すべき直線莫迦の天使が戦闘に入ったことを伝えていた……。
216弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/10/10(水) 21:16:45 ID:???
女神と天使 〜少女は砂漠を走る! Master's side〜 (5/7)
promise =想い=

「わたしは師匠はクロだと思います。きっと、……テロリストの親分ですっ!」
 その夜、いきなり寝間着のまま部屋を訪ねてきたミツキくんは、そう言うと約30分に渡ってその結論に
行き着いた理由を泣きながら説明する。
「わたしをダシに宇宙にあがるって言ったのは逃げるつもりだったんですか! そんなの、卑怯ですっ!!」
 適当に誤魔化せばいい。本当はそうだ。けれど彼女に適当に受け答えする事は僕には出来ない。
それに彼女に誤解されたままで居ることは耐えられない。滑稽なほど真面目に言い訳をする。
 言い訳をしながら、彼女への想いを必死になって自分にさえ隠してきた事に気が付く。
何故自分にまで隠す必要がある。かつての婚約者からは既に婚約破棄を通告された身だ。
そうでなくとも女性に対する思いを持つこと、それ自体は別に悪い事ではないだろう。
 隠してきた理由はただ一つ。一義に考えていたのが彼女の幸せであったから。なのだろう。

 彼女は気づいていないと思っているだろうが、彼女の僕に対する気持ちは勿論知っている。
だからあえて師匠と弟子の距離を計算した上で外さない様にしてきたのだ。
 その距離を詰めてしまう事ははたして彼女にとって不幸か幸せかなぞ、考える必要さえない。
そう、話は単純だ。たった今からでも彼女に嫌われればそれで良い。
 だが左の腕は勝手に彼女の頭を胸に引き寄せてしまった。

「普通の人生をキミから奪った僕には、気持ちを伝える資格など無いだろう。……卑怯者と罵ってくれて良い」
 彼女の腕が僕を抱きかえす。ミツキくん、どうして突き放してくれない。僕はキミが思うほど強くないんだ。
本当にいいのか? キミはきっともう、戻れなくなるんだぞ! もっと非道い目に遭うんだぞ!?
 それは自分に対する言い訳だ。ミツキくんではなく僕がしなくてはいけないことだ。
勿論わかっている。だが彼女を突き放すことはもう出来ない。
 吹き出した感情は、僕にはもう、せきとめることが出来なかった。


 灯りを落とした部屋。彼女のまっすぐな瞳は僕を正面から見つめる。暗がりの中、それは見えずともわかる。
「エディ、約束します! あなたがやりたいことが何であっても、わたしは全力でお手伝いします」
 背中に回った彼女の腕、背中に爪が食い込むほどに力が入る。
「もしあなたがナチュラルを根絶やしにしたいと言うなら、…………喜んで、お手伝いします!」
 コーディネーターとは言え、そもそもがオーブ人の彼女だ。ナチュラルに対して特別な感情は持ってはいまい。
彼女の心情からすればただの隣人。友人や知人だって居るはずだ。
その彼女がそこまで言うのなら僕も逃げてはいけないだろう。
たとえ、その決断が僕とミツキくんを引き離すとしても、だ。
「そんなことはしなくて良いから安心してくれ。勿論、僕もそんなことはしたくない……」
 僕のやりたいこと、か。だが彼女が手伝ってくれると言うのなら、あるいは出来るのかも知れない。
二人ならば何でも出来る。そんな気がして、少し気恥ずかしくなった。

 ドアを開けようとしてやめた彼女は、こちらを振り向くと僕に人差し指を向けてまっすぐに立つ。 
「エディ・マーセッド! あなたはわたしが護ります! 絶対ですっ!!」
 そう言い放つと僕が口を開く前に、そのまま部屋を出て行った。ミツキくんなりに何か考えがあるのだろうが、
ただあの眼。アレは頭に血が上った時の誰の話も聞かない眼だ。彼女としてはそれだけ本気だと言う事だろう。
 一つだけ確かなのは、彼女を巻き込んでしまった事。彼女のみが無事な選択肢はもう取り得ない。
 建て前と想いとが頭の中を駆けめぐる。いずれにしろ、僕は師匠としても男としても失格だ……。
217弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/10/10(水) 21:18:52 ID:???
女神と天使 〜少女は砂漠を走る! Master's side〜 (6/7)
promise =想い=

「今回のタイミングはテストのみで見送り、決行は次回のタイミングで大々的にプロパガンダを行ってからと、
そう言う予定だったのでは無いのですか!?」
 不整地走行車を護りながら連合のMSの進行を阻止しつつヘルメットのマイクに叫ぶ。
もうどれだけの時間、この微妙な作業を左腕一本だけで続けているのか。いきなり電子音と共にワーニング!
の文字がモニターの隅に表示される
【《緊急》 隠蔽周波に対する逆位相発信を確認・秘匿回線に対する傍聴の恐れ有り、注意 《緊急》】
 この状況下では秘匿回線の接続を維持するだけでもかなりの労力が必要だ。
僚機との通信さえ出来ないこの状況下でいったい誰が盗聴などしようと言うのか。

 突如、正面3機のダガーのコンビネーションが崩れると、隊長機と思しき機体の胸に光の矢が貫通し
機体は砂を巻き上げて爆散する。ビームの出所を振り返ればライフルを構えたファング2!
 何故ミツキくんがこんなところに? ならば盗聴しているのは……!
 現在使っている符丁はザフトの中でも最新のバージョンを更にカスタマイズしたものだ。
マーカス隊の機体では勿論解析出来ないし母艦も同様。だが、ファング2ならば解析する事は可能だろう。
そしてパイロットはミツキくん。ファングのマニュアルをあっさり丸暗記した彼女ならば解析させることは容易い。
『状況がそろったのよ……』
 会話の内容はきっと彼女の興味を引くはずだ。と思いながら盗聴への対抗策は講じない。
全てはもう遅い。ならば自分で情報を判断して貰う外は無い。なんという役立たずの師匠だろうか。
 出来れば聞いていて欲しくないと思うのは師匠としての僕か、それともエディ個人としての僕なのか……。

『……ほんのひとときだったけどアナタと暮らせて、楽しかった……』
 車が止まり、こちらを見上げる。バイザーはシルバーに輝き、表情は見えない。
「待ってくれ! 何をする気だ、ねぇさんっ! 僕は……っ!!」
『……巻き込まれて死ねなんてウソよ。あなたなら上手に逃げられるでしょ? って言うか逃げなきゃ駄目よ?
せっかくカワイイ彼女が出来たんだから。だからわざわざ教えに来たのよ、エディ……?』
 彼女は立ち上がると無造作にヘルメットを脱ぐとクルマのマイクを取る。急にノイズが非道くなる。
『モテ無いんだから――わいいかのじょをだいじ――でも、あっちにい――ぅっと、きょうだぃ――約束だからね!』
 爆風でなびく緩くウェイブのかかった長い髪。かつて愛していた恥ずかしげな笑顔。それは今、ここにあった。
最大ズームが彼女の目尻に光るものを捉えた一瞬の後、不整地走行車を映したモニターはいきなり白く発光する。
 
 何処までも幸薄い彼女の唯一の生きる目標だったはずの復讐。
その成果を目の当たりにすることもなく死を選んで、それであなたは満足なんですか!? ねぇさん!!
僕の為にとでも言うんですか! ならば、あなたはいったい何の為に今日まで…………!!
 あなたは……バカだ! 大バカ者だ!!
 その最後の声さえノイズと涙声で上手く聞き取ってあげる事は出来ず、彼女の為に涙を流す事も無く……。
【通信切断・相手機器障害発生の可能性有り・再接続リトライ中2......50回・リトライ中止・再接続不可・終了】
 僕のした事と言えば、ただコンソールを左の拳で叩いただけだった。

 砂漠の色に戻ったモニターの真ん中、【EHMV6D2型/高機動不整地走行車】とかかれた矢印は
黒く焦げた残骸に矢尻を突き刺している。
 女神は巨大な墓標を頭上に残して消え去り、
その遺言を聞いてしまった天使は機械の鎧を着込んだままただ呆然と砂漠に佇んでいた。
218弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/10/10(水) 21:21:23 ID:???
女神と天使 〜少女は砂漠を走る! Master's side〜 (7/7)
Last scene =祈り=

「いろいろ済まなかったな……。そして、ありがとう……」
「何を言ってるんですか! わたしはいつだってあなたと一緒ですっ!」
 体も機体もかなりのダメージを受け、このまま死ぬのだろうと思っていた僕をミツキくんは自身の危険も
顧みずに回収してくれた。
「わたしだけでこれからどうしろって言うんですか! ヒトデナシです! 非道いです! あんまりですっ!!」
 のみならず、今も間もなく死のうと言う僕をどやしつけている。
「バカ弟子を未熟なまま残して、それでも師匠ですかっ! あなたは簡単に死んじゃ駄目な事になってるんですっ!
エディ! しっかりしてクダサイ!! 今、先生が来ますから、それまで眠っちゃ駄目ですってば!! 」
 結果、最期に彼女に会いたい。と言うささやかな願いは、彼女の膝の上で抱きしめられながら
力一杯グラグラ揺すられる。と言うおまけ付きで叶えられた。
 どやされるのは願いの中には入っていなかったが、それはそれでミツキくんらしくて良いだろう。

「う……、もう、良いんだ。全部忘れて、キミは、ミツキくんだけは……、幸せに、なっ……て……。約……そ、く」
 言葉の途中で声が出せなくなったが、言いたい事は彼女には伝わったようだ。
小さくコクンと頷くと涙がボロボロ零れ始める。だからこちらも頷いて見せた。
 そうだ、僕の事なぞ忘れて普通の暮らしに、頭が良くて正義感の強いただの女の子に、戻ってくれ。

 涙に潤んだ目で僕を見つめる彼女。年齢より幼く見えることにコンプレックスを持っているその顔。
皆面白がってからかっているだけで、実際の彼女は美人の範疇に含めて構わないのだな。とふと思う。
どうして今になってそんなことに気づくのか。今や声も出なくなっては、伝えることが出来ないではないか。
 さっきまではミツキくんの顔を見られるだけで幸せだと思っていた。
この期に及んで彼女を肴に冗談を言いたくなる、人間とはどこまでも貪欲な生き物だ。
僕の様な詰まらない男にそれをやらせたくなるのは、ひとえに彼女の人間性なのだろう。
 空っぽの僕の人生、その最後にキミと知り合えて良かった。

 泣きながら、僕を見つめる彼女。その可愛いと言うよりは綺麗な顔が徐々に暗くなっていく。
僕の人生で最後に目にするものがミツキくんの顔ならば上々だろう。笑顔でなかったのは少し残念だが。
 約束だぞ、今度こそ破ってくれるなよ? せめてキミだけは幸せになってくれ。
手足の先の感覚がなくなってきた……。どうやらこれでお別れの様だ、ミツキくん。本当にありがとう。
 此処までキミに何もしてあげられなかった僕だ。今更何を思おうが遅いのだろうが、それでも。
誰にどう願えばいいのかは良くわからないが、せめてこの命がつきるまで、キミの幸せを、祈ろう……。


 目だけでなく意識も少しずつ霞んでくる。
 弟でも師匠でも無い、素の僕個人はどれほど意味のある人間だったろうか。
 そう思うと少し悲しくなったが、もう既に悲しむことさえ出来なくなりつつある。
 ただ、何か心地良い痺れとだるさに身を任せながら徐々に霞んでいく意識。

 その霞む意識の中、彼女に抱きしめられている感触を徐々に感じなくなる事だけが不快に思えた……。


=了=
219弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/10/10(水) 21:23:45 ID:???
 今回分以上です。

 色々とありまして、結果かなり前回から投下に間が空きました。すいません
 余った設定や台詞をつなぎ合わせて強引にお話にする予定がバラバラに……。
いけると思ってましたが正直、腕力が足りませんでした。短編集という事でどうでしょう orz

エディさんの中にミツキが入り込んでる……。一人称に更に自信をなくした自分です……。

 本編読み返してみたらエディがなんかヤナ奴っぽくなってたんで、
そこだけでも違って見えればいいのですが。

前スレ>>111
 その通りです……。一人称にしたのでエディの設定が丸々余りまして、
ピロートークwで強引に取り込もうかと思ってました。
自分の力量から考えてもやらなくて正解だったと思ってますがww

前スレ>>125
>蛇の生殺しを味わったエディは年上に懲りてミツキに手を出した……と。
 そう見えますね……。確かに。ロリコンの設定ではないんですけどw


ではまた。
220通常の名無しさんの3倍:2007/10/10(水) 22:26:07 ID:???
>>hate and war
投下乙
 このシリーズはブレが無いな
戦争を憎み世界を憎んでそれでも普通に生きていく
最後の2行がほんわかした感じで最終的に読み返すと
やはり釈然としないイヤなものが残る。お見事

>>歌姫
投下乙
 劇中書籍引用が無いのは気に入ってたのでちょっと残念
柑橘系の海に溺れ、キラをも沈める部分は
暴力ではない暴力、静かな狂気とじわじわ来る恐怖を感じさせる。いや恐怖はかなり直接かw
 内容がどうあれあんたの文章は読みやすい
どうしてなのかは俺には説明できんが

 で、その内容だが今回は少しやりすぎな気がする
ルナマリアとのやり取りあたりはもう少しオブラートに被せるやり方があったのでは?
彼女の性格を考えればむしろこの方が自然なのかも知れないが、作中の流れとしては多少ハードに感じる
 それとなんというか字が多い。空白行を使って貰えると目に優しいかも

>>師匠側
投下乙
ねぇさんとミツキを気遣い自信の価値に悩むエディ
本編でミツキの側から見た『エリートで完全無欠な師匠』を書ききったからこそ、
その部分がこちらでますます浮き彫りになる。お見事

エディ救済のもくろみがあったならほぼ成功だ
そして最後でミツキの容姿をちらっと書いてロリコン疑惑も否定、とw
次回作も期待する
221通常の名無しさんの3倍:2007/10/10(水) 22:31:26 ID:???
俺俗物な人間だから歌姫さんの話好きだ。
222通常の名無しさんの3倍:2007/10/11(木) 12:48:50 ID:???
編集長の見たい絵のチョイスは、それはロリ(ry
223通常の名無しさんの3倍:2007/10/11(木) 18:47:39 ID:???
>>愛と悲しみの歌姫
 投下乙です。
 ラクスの豹変が予兆こそあったものの。唐突で突き抜けていたので、
むしろ演出過剰のスプラッタムービーのようなおかしさを感じてしまいました。
ほめ言葉です。一応。

 愛と悲しみの歌姫でのルナマリアは、少なくとも表面上は寝取った事について
罪悪感を感じていない所かその事実を使ってラクスの上位にたとうとするキャラクタに
なっていますが、何故かルナマリアはこうした「悪女」的な位置づけにおかれますね。
原作でのシンに関する変遷に違和感があるからでしょうか。
 女同士の争いは感情移入こそ出来ませんでしたが、直接的に「あんたが嫌いだ」
とは言わないやり方に恐ろしくなりました。
 怒りが不貞をはたらいた男ではなく、女の方に向かう、それも香水の匂いから
行動が始まっていくのも、リアルな行動かどうかは分かりませんが、
湿度の高い狂気を感じました。

 全体的に文章が読みやすいので、キャラクタの行動がかなり突飛でも受け入れ易い、
というのがあると思います。改行位置と、段落作りに少し気を使えばより読みやすく
なると思いました。

>>弐国
 投下乙です。
 師匠の中では「直線莫迦」扱いのミツキに笑い、師匠のほのかでかつ確固とした
思いにじんわりときました。上の方もいっていますが、本編での完璧なイメージが
あるからこそ、その師匠が抱える迷いや不安、後悔が引き立つのだろうとおもいます。
 思いが純粋ならばどこかで救いがある、というわけでは無いところが、
サイドストーリーとしての完成度を高め、一人称がの視点がシナリオのザッピングを
効果的にしていると思います。一人称の中で、ミツキと師匠が「師匠」「直線莫迦」
などと呼び合っているのは、オリジナルのキャラクタを定着させる方法としては
上手い、と思いました。地の文で繰り返しキャラクタの特徴を印象付けることが
出来るからです。

 こっそりと、ミツキの実年齢を判断させる材料を出したり、意外と大人びた師匠目線の
容姿を描写していますね。師匠は決してロの付く人ではないと。
 そこで思い出したのが「このゲームに登場するキャラクタは全て〜」の注意書き。
大人びたミツキの姿は己の嗜好を受け入れたくない師匠の幻視だと理解しております。
 後書きの一文が「ミツキの中にエディさんが入りこn(略」と読んでしまったのは
ここだけの秘密です。
 GJでした。  新シリーズがもしあるのならば、お待ちしております。
224tear's in heaven ◆6Pgs2aAa4k :2007/10/11(木) 21:11:17 ID:???
“to be or not to be”

 久し振りに帰ったオーブはとても暑かった。汗が滲み出て下着が肌に張り付き気持ち悪い。
 温度や湿度などが管理されているプラントとは違い、自然をありのままに感じる事が出来るとも言える。
 なんにせよ俺はオーブに帰ってきた。
 オーブの自然は昔のままで、プラントのぬるま湯につかっていた俺を手荒く歓迎している。
 俺はオーブという国家のシステムは好きにはなれないけれど、オーブの自然は好きだという事を再確認した。
 一歩一歩歩く度に懐かしい記憶が蘇る。楽しかった事、悲しい事。色々な事があった。
 人の多い空港の入口だというのに、記憶が俺の感情を刺激して涙を流させる。
 でも、俺は溢れる涙を拭わない。涙は流れるままに流してしまうのが一番だ。
 そうすれば感情が落ち着くという事を俺は知っている。
「お若いの、どうなすったね?」
 不意に声を掛けられた。声から察するに老人のようだ。
「いえ、久し振りに戻って来たもので……。気がついたら涙が出ていました」
「ほう。この老いぼれが察するに、お前さんは良い経験を積みなすったようですな。若い内は外に出て色々な経験を積むのが良いですわい。

 俺は上着の袖で擦る様に涙を拭った。
「いえ、良いか悪いかは解りません。ただ、色々な経験を積みました」
「積んだ経験は善し悪しにかかわらず必ずお前さん血となり肉となりますわい。積んだ経験を後悔したり無駄にしてはいけませんぞ」
 老人は俺に昔話を始めた。孫が一人いて、孫はあの戦争の時にコーディネーターだからプラントに疎開をした事、
孫の便りによると、アカデミーに入りザフトに入った事、平和になったら必ず戻ってくると約束をした事。
「ワシの孫は自慢の孫でしてな。約束を違えた事はないんですわい。だからワシはこうして孫が帰ってくるのを待っとるんですわ」
 老人は俺の事など構いもせずに話続けるが、その目に浮かんでいるのは悲しみだ。
 老人は戦争が終わってから毎日ここで孫が帰ってくるのを待っているのだろう。
 そして、待ちくたびれているのかも知れない。
 俺は孫の事を知っている。アカデミーの同期で、部隊は違うけどザフトに入隊した事。
 そしてその部隊が壊滅した事。
 言うべきか、言わざるべきか。
 オーブの自然に尋ねても風が吹くばかりだ。
225 ◆6Pgs2aAa4k :2007/10/11(木) 21:14:57 ID:???
短編の新シリーズ“tear's in heaven”投下終了。
226赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/10/11(木) 23:15:33 ID:???
 ”シュレーディンガーの猫”って知ってるかな?
 そうそう、箱に猫と毒をブチ込んで死ぬか死なないかを如何考えるとかいう実験の話ね。
 いやー、あれってヒドイよね。ん? ああ、難しい事はわかんないよ。
 矛盾とか論理とかは専門外だしね。え? だったら何で話すかって?
 冷静に考えて放射物質と青酸ガスを詰め込んだ箱に猫を二時間放置って嫌じゃない?
「死んでるか生きてるかって考える前に助けろよ!」って思わない? 猫が可哀想だもの。
 その猫が生きていられるか死んでしまったかより確率や考え方のが大事ってさぁ。
 猫からしたらとっても寂しいし、何でそんな所詰め込まれなきゃならないって思うよね。
 ”生きていようが死んでいようがどっちでも良い”なんて扱いされたら誰だって嫌じゃん。
 存在してこその命なのに”在って”も”無くて”も困らないなんてさ。
 シュレーディンガー博士もさぁー、何か他に使えなかったのかなぁ?
 それとも猫嫌いだったり? いやーそれは何かな? 歪んでるよね。
 ん? なんでこんな見ず知らずの猫に対して同情的な見解をしてるかって?
 ああ、それはね。とってもシンプルで簡単な答えなんだ。聞いた事を後悔しないでね?

             ”ボクも今、大体そんな感じだからだよ?”
 
機動戦士ガンダムSEED異聞  〜嘘を吐く猫少女
  -03番目の嘘 「ボクは今まで嘘しか吐いた事しかないんだけど、この言葉は嘘かな?ホントかな?」
227赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/10/11(木) 23:17:37 ID:???
 現状は最悪だ。もう、何ヶ月もまともなモノは食べてない。髪もぼさぼさだしさぁ〜。
 潜伏用の黒髪染めも切れて、また地毛が見えてきちゃうからやばいなぁ。女の子失格じゃない?
 この黒髪染めべったりとし過ぎててお粗末なんだから薄めて使ったけど髪が痛んでるしで、もぅ!
 まぁ、海が近いから体は洗えるし、自然が残ってる島らしいから食べ物にも困らない。
 けど、川や海で魚を捕まえたり、果物で食い繋ぐなんてクマや猿じゃあるまいしって感じだよ。
 いっその事、男でも誘って体を売ることも考えたが、そういうのはあんまし好きじゃないなぁ。
 ったく! 言葉は解るにしてもお金も無いし、棲む場所も無い。無論、警察なんて行けない。
 何でこんな宇宙世紀になってまでサバイバルしなきゃいけないのかなぁ。
 いや、ココが宇宙世紀なのかもわからないんだよねぇ。オーブなんて国は聞いた事無い。
 何かと解らない単語や政権、様々に微妙にいた世界とずれている。

「はぁ、しかもまた戦争かぁ。飽きないなぁ」

 戦火の立ち登る潜伏する森からも見えてくる。街へと降りてみれば、其処は既に瓦礫の街であった。
 ドサクサに色々持ち出せそうだと思ったが、戦火が激し過ぎてとても街中に入れそうにない。
 全く、民間人をこんなに殺して戦争ってやり方を知っているんだろうか? それとも宗教とかが原因?
 こーいうのは恨みを買うから怖いんだ。所詮、人間なんて感情で生きる生き物だって言うのにね。
 お、何か死体転がってるなぁ? あらあら、あちゃー片腕吹っ飛んでるしコレは即死だねぇ。
 被災者の服か……良いじゃない♪ 死体の振りも出来るし、現地に溶け込む基本だよね。
 はいはい。君の名前はなんていうのかなぁ? お、学生証。ASUKA? ……マユ・アスカ?
 おっけおっけ。良い所の御嬢さんなんかなぁ? ま、良いや、服を頂ちゃおう。
 んっ、サイズがちょっと……ええぃ、之だから東洋系はサイズが小さいんだよなぁ。
 何で同じもの食べてるのにこんなに発育悪いかなぁ? 遺伝子って奴?
 全く不幸だよね。何処に行っても戦争戦争なんて事をする人間ってすっごくバカ。
 こんなサイズも考え方も違うのにやることは結局、全部一緒なんだもの。
 しかし、ほんと良かったパイロットスーツもいい加減うざったかったしね。
 スカートだったら足元は涼しいしこのブラウスもスッキリしてて良いや♪
 腕も焼けて飛んでるから血もあんまし出てないし、これはかなりラッキーかもね。
 この娘の御不幸はラッキーとは思えないけど、ボクだって今はかなりアンラッキーだ。
228赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/10/11(木) 23:19:01 ID:???
「マユ!……マユ、どこだ! 返事をしてくれ!」
「くっ、知り合いか彼氏? ヤッバイなぁ」

 声に反応して思わず身を屈めて体を隠す。誰かが此方へと近づいてくる。
 すぐに彼女の死体を担いで、剥いて置いた服もソレと一緒に別の茂みへと放り込んでおく。
 あ、ヤバイ。脱いだばっかりじゃん! 慌ててパイロットスーツを着込もうとする。
 折角、脱いだのに一から着込むなんて手間だなぁ。けど、裸で居る訳にもいかないし。
 ううっ、汗でベットベトだしこんなのまた着たくない。あー、足音が近いしぃやばいなぁ。隠れられるかな?
 茂みからは僅かに顔を出せば、其処には涙と汗グシャグシャな少年が一人駆け寄ってきていた所だった。
 鉢合わせする顔と視線、お互いの体を認識するのに僅か十数秒の時間を有する事となった。近いよ近いよほんと。
 さて、どうしよう? 相手は泥だらけで声も枯れている。まぁ、そんな細かい事は別にどーでも良い。まずすべき事をしないと。
 さて、こうやって脱ぎかけのパイロットスーツに更には下着もつけてない状態でこんな姿を見られている。
 このラッキースケベにコレ以上サービスする必要は無いかなぁ。さて、えーとこういう時のリアクションはやっぱり?

「マ……あ……その……す、すいません!!」
「う、撃たないで!……って民間人? ……きゃああああああーーー!」
「ご、ごめんなさい! 何も見てませんから! 後ろ向いてますから!」

 反応は上々。どっかの兵隊さんか不良少年だったらレイプされるかと思ったけど、只の子供でよかった。
 相手は自分の体を見たことから、律儀にも顔を赤らめながらばっと後ろを向いてくれる。
 うんうん、偉いぞ少年。GJ!っと心の中で親指を立てながらも次の行動について思考を開始する。
 さてっと……今の内にパイロットスーツを半分位着ちゃうか。しかし、ボクもそんなに発育は良くないんだけど
 ちゃんと女としてみてくれるって事はここいらの子は皆発育悪いのかなぁ? 良いもん食べてそうなのにね。
 しっかし、軍人相手に背中を見せるなんてバカだよねぇ。撃たれたらどうするつもりだったんだろ?
 取り合えずこの子はかなり”ノーマル”だ。一般市民、普通のことしか知らないし、考えない、只の被害者。
 さて、この市民さんをどうする? このまま遣り過すか……いや、待てよ? さっきの死体を知ってるんだろうな。
 なら此処で本人を見せてもパニくるし、最悪ボクが殺したと思うんだよねぇ。絶対冷静になれないだろうし
 かといって宥めながらわんわんと泣かれるのもすっごく面倒。よし、此処は一芝居打ってどうにかしてみよう。
 何とか意識をそらして別の方向へと誘導しつつも色々聞いてみるのがいいかもしれない。
229赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/10/11(木) 23:20:26 ID:???
「……ふぅ、びっくりした。着替えてる所に来るからさぁ」
「い、いや……って、えーとあんたどっちだ? 敵か味方か」
「少なくとも敵じゃないよ。第一、こんな丸腰で何しようってのさ。上陸した兵士にでも見える?」
「それはそうだけど……ごめん。その軍人なんて身近で見るの初めてだしあ、やっぱ若いのはコーディネイター?
 ……けど、戦ってたのは連合とオーブの国だし、オーブ国軍なのか? なんで戦場で戦ってるの?」
「はいはい、質問が一遍に多すぎ。で、細かいコトは機密事項。
 んで、戦場に居る理由は簡単だよ。戦争なんてのは低所得者と孤児達の最高の就職口だよ?
 御飯作ってくれるし、身の回りの世話とかもしてくれる。親の代わりにね」
「そ、そうなんだ」
「君ももしかするとお世話になるかもしれないよ? こんな惨状じゃねぇ。
 その時になったら色々教えられるかもしれないね。敵になっても捕まえたら吐かせられるし
 あー色んなコトできるよね。捕虜相手ってね。マスコミにばれなければ」
「い、いや俺はそんな……」

 軍についてはあまり居て良かった事ばかりじゃないし、脱走兵が軍の事を言っても説得力無いよね。
 さて、それに対して赤くなる少年は顔を左右に振りながらも言葉から沸いてきたイメージを否定している。
 まぁ、それはそーいうコトを考えてしまっているというサインなのだ。異性としてそういう面も見られている。
 取り合えず、スマイルスマイル。なんか相手も流され易そうだしここはさっさと話を進めちゃおうか。
 さて、設定は如何するかなぁ。現地人っぽそうだけど、この子は如何考えてるんだろ。
 此処の政治が悪ければ、外から攻めて来た時に歓迎して大手を振って解放とやらを迎えるか。
 それとも此処の政治は良く感じていて、生活破壊と殺戮者として認識しているか。
 此処は裕福な国に見えるけど、政治に不満を持っているかは……まぁ、カマを掛けてみるか。
 距離を詰めて顔を近づける。お、ハンサム。少し中性的っぽいけどね。嫌いじゃないなぁ。
 眼がくりくりしてて可愛いし、肌も白くて綺麗だな。コレは将来良い男になるに違いない。

「ところでさ? 誰か探してたみたいだけど、恋人か何か?」
「そうだ! 此処らへんで女の子を見なかったか? 
 髪は長くて背の丈は俺より小さくてスカートを穿いてて」
「知らないな。と言うか説明が下手過ぎ。女の子の遺体なんざそこ等辺にゴロゴロしてるよ」
「そっか……妹なんだ。さっきモビルスーツの戦闘に巻き込まれちゃって気が付いたら居なくて。
 しかも腕しかなくなってて……まさか君が!?」
「ん? ボクは違うよ。第一、そうだったとしてもそんな話聞いた後、”うん、殺したよ”って言う奴は居ないよ」
「そ、そりゃそうだけど」

 さっきの子の様だ。危ない危ない。ちゃんと学生証で確認してて良かった。そして、少年は困惑している。
 想定されて無い返答に戸惑っているのだろう。まぁ、普通こんなこと言ったら疑念を深くさせるだけだ。
 だけど、ソレで良い。下手に理解されて突っ込んだ話をされたり、敵対されるより”曖昧”が一番楽だ。
 彼はボクのことは理解出来ない。だって君はただの”ノーマル”だから。まして、ボクはかなり”アウトロー”だから。
 さて、少しネタを仕入れておこうか。この世界にもモビルスーツは居るのは解っていた。
 びゅんびゅん飛び回るのと何だか愚鈍そうなのが居て技術的に進んでるのか遅いのか解らないけどね。
230赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/10/11(木) 23:22:29 ID:???

「少なくともボクは違う。で、どんなMSなの? なんかオーブの国の赤と白の奴?
 それとも海から来てる地味っぽい量産型の奴?」 
「いや、どっちでもない」
「どっちでも?……となると飛び回ってた奴か」
「うん、青と白なんだけど、変な青い翼みたいな……そう、アイツ……あいつが!」

 あー、あの飛び回ってた高火力の奴か。ビームあんな何本も付けて燃費悪そうだけど
 やっぱり此処では技術が大分違うのだろうか。変わっているというか変な世界だほんとに。
 一年戦争クラスの愚鈍さの雑魚とアッシマーやギャプランより2〜3世代は上の高火力兼高機動MS。
 矛盾してるよね。MSが出来たてって事ならあんなに高性能なのは存在しないしだからって
 長年使ってるって割にお互いにMSの動かし方は殆どド素人の新兵クラスばかりだ。
 ま、そんな事はいいや。それより、この子はとても良い目をしている。赤いぎらついた瞳は何か綺麗だし
 闘志や殺意、哀愁とか色々なモノが混じっていながらもとても良い色合いを見せている。
 きっとこの子はアノ人と一緒でとっても強くなるだろうね。ああいうのが一番ドツボに嵌るんだから。
 ああ、この子もアレならなぁ。とても、残念、うん、凄く……きっといや、必ず……嗚呼、そうか。
 凄く繋がりたい……ずっと一人だったから感応してた感覚が途切れそうで
 あー視界がなんか溶けそうになってきた。コレはヤバイなぁ。体も熱いし…限界かも依存を……しないと

「君……良い」
「へ?」
「そのままの意味」
「そのままって……一体何を、いやちょっと君おかし――」
「ねぇ? 君の事教えてよ。どうせ、二度と会わないんだろうし」
「え!? いや、だって逢ってまだ数分だし、二度と逢わないって」
「良いじゃない。ああ、対価が必要かな。なら、素敵な青空へ逝かせて上げる」
「はぁっ!? ちょ、ちょっと!」

 少年の身体を地面へと押し付けていく。どさりっと砂煙を巻き上げながらも口に砂が入るが気にしない。
 唇を重ねられ、埃っぽくて泥の混じっているお互いの体を気にする事も無く、組み伏せ絡ませていく。
 体は戦場の熱風の中つやつやと汗に濡れて煌きながらもその隙間からは白肌の肢体を魅せる。
 眼をぱちくりとさせながらも戸惑う少年の気持などはお構い無しに、舌はねっとりと相手の口の中を犯していく。
 歯茎も奥歯も舌の根も全部嘗め尽くしながらも唾液を吸い上げて無理矢理舌を縛り上げて絡めあっていかせる。
 こういうのはあまり相手に考える隙を与えるとダメ。攻め立てて鈍ってる間に喉元まで一気に絡みつかせる。
 唾液を飲んだり飲ませたりしながらも爆音がボク達が作った水音が掻き消してくれる。
 水音が脳内で響きながらも爆音が耳を揺さぶって、理性とか色々大事なモノを漏らしていってしまう。
231赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/10/11(木) 23:24:44 ID:???
 
「ボクさ。あんまし長生き出来ないし、子供作れないんだよね。多分、出来てもすっごい奇形か未熟児」
「え? ちょ、何を言っているか」
「んぅっあっ……んぅふ……ほら、舌をもっと……良い? 世の中にはそういう子が居るの。
 出会ったら優しくしてあげなきゃね? 今、目の前のボクとかも含めて」
「……けほっ、な、あんたその……え!?」

 いやー、之ってやっぱあれなのかな? 逆レイプって奴? 盛ってる雌猫みたいだね。
 えっちぃ映像とかを見たのを真似してるだけなんだけど結構上手くいくなぁ。
 この戸惑っている少年の顔とか可愛くて素敵なんだけどね。こういうのを虐めてみてゾクゾクするよ。
 やっぱ、溜まってたのかなぁ。そりゃ、何ヶ月もずっと隠れてたらそーなるよねって自分で言い訳しておくか。
 さて、怯えさせ過ぎてたら何時まで経っても事が進まないよね。少し優しくしてあげないとダメかな?
 手をそっと股へと添えればわかりやすい反応と熱が掌へと伝わってくる。正直で宜しい。
 之で萎えられたままだと元気にさせきゃならなかったし、流石にそんなことまで自信はない。経験無いしね。
 指先はゆっくりとその物体の存在感のラインをなぞる様にしながらもじっと少年の反応伺う。
 赤い顔をしながらも怯えと好奇心で満ちた視線は実に愛くるしい小動物の様だ。ボクも結構小さいけどね。

「嫌な事も何もかも全部吐き出してさ……青空見ると気持ち良いよ」
「……で、でも」
「君は全部終わったら話してくれる自分の事とか考えてればいいから」

 一時間後、取り合えずその少年の内情も体も調べ尽くしてしまった。うむ、色々良い経験が出来たね。
 まぁ、家族に取り残されたただの少年である彼が語れる事など少ないし、ぶっちゃけて言えば誰も気にしないだろう。
 けど、ボクに必要なのは”キャラクター”だ。居ても居なくてもどうでも良い存在として彼の設定を拝借する事にした。
 どうせ、掃いて捨てるほど居る戦争被災者の一人。何かドラマチックな内容も一部混じってたしこれは同情が買えそうだ。
 そのまま少年をオーブの避難船の方へと案内した後、ボクはまた潜伏先へと帰る事にした。
 少しの間安定は出来そうだし、何よりようやくこの場から動く事が出来そうだ。さて、これからボクはどんな青空を見ようか。
 

―次回予報―
次の嘘は次の-00.6番目の嘘「”飲む”か”飲ませる”かって結局どっちの主体性が優先されるんだろうね?」になるかもね。
232赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/10/11(木) 23:28:09 ID:???
以上、ちょっと実験的要素を盛り込んだ作品と言う事で狼少女と関係在ったり無かったり事が不確定なSSです。
投下に合間があいたのはコレ書いてた所為もありましたorz
少しアダルティーな描写を混ぜていますが一応回避したつもりなのですが苦手な人はすいません。

少し日を開けたら狼少女の話も投下しますが、此方の猫少女の方もご意見・ご感想よろしくお願いします。
233通常の名無しさんの3倍:2007/10/12(金) 20:38:53 ID:???
職人諸氏投下乙。
批評は俺の感性に依る物だと断りを入れさせて貰う。

>>hate、tear's
鬱屈とした閉塞感からデルタブルースらしさを感じたが、やはりパンクだったか。
毒を吐くというアティテュードを失って無いので安心した。
思うがままに自分の道を突っ走ってくれ。

>>歌姫
氏の描く情念は演歌を彷彿させる。言うなればエリック・サティのピアノ伴奏でパティ・スミスが演歌を歌っているような感じだ。
ラクスの狂気の描写は秀逸だが、新シャアで受け入れられるかは別問題だと言わせて貰う。


>>弐国
氏の前では俺は純粋に読者になってしまうな。
氏の作品からはジャズのような感じを受けた。
次回作に期待している。

>>赤頭巾
コミカルな語り口調が面白い。喩えるならばビートパンクだな。敢えてメロコアにはしない。
エロに関してはあっさりしていたのであまりエロチシズムを感じなかったな。
もっと描写が粘着質だったらエロ職人の称号を与える事ができたのだが。
めざせ、東京事変!


更なる精進を期待する。

234通常の名無しさんの3倍:2007/10/12(金) 21:10:31 ID:???
久しぶりにアティーの人が批評したな
なんか懐かしいような気がする
235通常の名無しさんの3倍:2007/10/12(金) 22:14:16 ID:???
つーかこんな調子でアティーの人に職人テンプレを作って欲しい。
236通常の名無しさんの3倍:2007/10/12(金) 22:20:37 ID:???
>>アティーの人にテンプレ
だな。分析力はぴか一だし。
後、他の人も遠慮なく感想書こうぜと言う事で言いだしっぺに一個書いて見る

>>224
ドラマを感じさせるという手法でとても悲しいと言うか
王道的な流れとはいえ、やはり痛々しいものですね。
ただ、話の内容はいいのですが少し文章の配列が長かったり短かったりと
視線で追うのが少し疲れるかな。短文だからそんなのより雰囲気や勢いなんだろうけど
前から此処は気になってた。ではいい作品でした。GJ!
237通常の名無しさんの3倍:2007/10/12(金) 22:37:40 ID:???
>>弐国氏
完結乙! 次回作も期待します!!

>>メスト氏
なんかもの悲しくてすごく良いです GJ!

感想、こんな感じでも良いですか?
ごめんなさい、うまくかけねっす
238河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/10/12(金) 23:25:34 ID:???
「 In the World, after she left 」 〜彼女の去った世界で〜

第11話 「黎明 −いじ−」(前編)
(1/9)

 翌朝、カガリは普段より二十分ほど遅れて食堂へ出向いた。
 本当は食欲などなかったのだが、顔を出さないでキラ達に心配されるのが嫌だった。
 これくらいの時間ならキラ達はちょうど食事を終える頃だ。
「寝坊した」とでも言って先にブリッジへ行ってもらえばいい、と、そう思ってのことだった。
 ところがそんなカガリの計画は、食堂でキラと目が合った瞬間に頓挫する。
 いつも通りにマリューやバルトフェルドと談笑しつつ『バルトフェルド特製、朝食後の一杯』を
飲んで(正確には飲まされて)いたキラが、カガリの顔を見た途端、真顔になって立ち上がったのだ。

「お、おはよ、キラ」
 カガリは取り合えず愛想笑いで声をかける。
「おはよう、カガリ。──どうしたの? 何かあった?」
「え? 何が?」
 何を問われているかは分かってはいたが、カガリはあえてとぼけてみせた。
「目が真っ赤だよ」
「ああ、これ? 何か色々考えてたら眠れなくて」
 当然聞かれるだろうと思っていた問いに対して、あらかじめ用意しておいた言い訳で答えた。
 一応これでも一時間近くは冷やしてきたのだ。
 せめてメイク道具でもあればまだ隠しようがあったかもしれないが、そんなものは持ってすら
いない。それこそ今更言っても詮無いことだ。

「ホントに?」
「当たり前だろ」
 カガリは一瞬いつもの感情のままに、キラの首にしがみついて泣き出したくなった。
 しかしそれを堪え、隠すためににっこりと笑って見せる。
「……アスランと何かあった? 話は出来たの?」
「え?」
 正直言ってキラにそう聞かれると思っていなかったカガリは、目を丸くした。
 バルトフェルドやマリューは騙せなくとも、キラなら──今のキラならばあの答えで納得
させられると思っていた。
 それが通じなかった。
 カガリはキラの視線が左手に落ちていることに気づいた。
 そこに昨夜まで輝いていた赤い光はない。

「ああ、これ?」
 カガリは内心の動揺を抑えて、朝食のトレイを手に取った。
 持ち上げたトレイに乗っているナイフやフォークが揺れてカチャカチャと小さな音を立てる。
──落ち着いて!!
 自分自身に呼びかけるが、効果はなかった。
 それどころか、ナイフの立てる耳障りな音がカガリを更に追い詰める。
──駄目だ。落とす!
 そう思った瞬間、両手が軽くなった。
──!!
 足下で起こる筈の大きな音に怯えて、カガリはギュッと目を閉じた。
239河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/10/12(金) 23:27:26 ID:???
(2/9)

……しかし、音はしない。
 そっと目を開けたカガリの瞳にトレイを持ったキラが映った。
「持つよ」
 キラは怒ったようにぶっきら棒に言うと、自分の席の方へとスタスタと歩き出した。
「あ……ありがと」
 礼を言ってカガリは、ほっと息を吐き出した。
 大きな危機を脱した為か、手の震えも随分と収まっている。
「昨日ミネルバの女の子達に聞かれただろ。また色々質問されたら困るから外すことにしたんだ」
 キラを追いかけながらその背に向かって声をかける。
 これは嘘ではない。それはその場にいたキラも分かっている筈だ。

 キラは自分の隣の席にトレイを置くと、少し椅子を引いてカガリを促した。
 カガリはキラに再度の礼を、前に座っているマリューとバルトフェルドに挨拶をそれぞれしてから
腰掛けた。
「あ、それと、アスランとは少し距離を置くことにした」
 そのついでのように、何でもない事のように言葉を続ける。
 三人の視線が自分に注がれているのを感じたが、それは知らぬ振りをしてナイフとフォークを
手に取る。
「だってほら、あいつは今はザフトなんだし。あんまりこっちと馴れ合ってて、変な風に勘違い
されても困るだろ?」
 皿の上を見つめたまま、部屋で何度も練習した台詞を一息に言い切った。

「カガリ、でも」
「そうねぇ。それも仕方ないわよねぇ」
 反論するキラによりも賛同するマリューに驚いて、カガリは顔を上げた。
「さ、どうぞ」
 バルトフェルドがカップにコーヒーを注いでカガリの前に置いた。
 バルトフェルドはまた隣のマリューのカップに目を留め、空と分かると別のポットを取り、
中身を注ぐ。
 前者が『(前略)、朝食の友』で、後者が『(前略)、朝食後の一杯』である。
 これもまた毎朝の光景だ。

「あり……がとう……」
 カガリは頭を下げた。
 何でもない振りをするカガリに調子を合わせてくれる、普段通りに振舞ってくれる大人たち。
 この厳しくて優しい大人たちは、いつもこうしてカガリが耐えられなくなるギリギリの処で
手を差し伸べてくれる。
 だが、今のカガリにとってはそこが強がれる限界だった。
「私、ちょっと忘れ物したみたいだ。先にブリッジへ行っててくれ」
 顔を上げぬまま何とかそれだけを言うと、ナイフを置いて席を立つ。
「カガリッ!?」
 キラが呼ぶ声が追いかけて来ていたが気づかぬ風を装ってカガリは足早に食堂を出た。
240河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/10/12(金) 23:28:36 ID:???
(3/9)


「少し落ち着け、キラ」
 カガリを追って席を立ったキラにバルトフェルドが声をかけた。
 踵を返しかけたキラだったが、不承々々の態で足を止めた。
「でも今のカガリは変でした。そう思いませんか?」
「そう思うかって聞かれたら、そりゃまあ、簡単に言えば嘘を言ってると思うよ」
 飄々と答える年長の男の言葉に、キラが一瞬怒気を孕んだようにマリューは感じた。
「僕……アスランと話してきます」
「やめときなって」
 再び背を向けかけたキラを、やはり同じ声が止めた。

「でも、何かあったに決まってます。あれじゃあカガリが可哀想だ。
──僕はもう、カガリの泣き顔は見たくない」
 そう言って拳を握り締めるキラと、マリューも同じ気持ちだった。
 カガリは同年代の女の子が抱えているのとは比べ物にならないほど、大きく重い荷を抱えて
いるのだ。
 少しでも助けてあげたい。──心からそう思っている。
 しかしマリューはキラと共に動こうとはしなかった。
 何故なら──そんな気持ちは隣の男も同じ筈だったから。
 彼が動かない以上、何か理由があるのは間違いない。
 そしてマリューはバルトフェルドの判断を信じていた。

「自分が見たくない。
 たったそれだけ理由で、カガリが今している努力をお前は無駄にするって言うのか?」
 キラがはっとしたように目を見開いた。
「何かしてやりたい、っていうお前の気持ちは分かる。
 だがあれは多分、カガリとアスラン、二人の問題だろう。だったら二人に任せておけばいい。
 どちらかが助けを求めてきたら、その時にとことん付き合ってやればいいさ」
 キラの両肩から徐々に力が抜け、握った拳が解けてゆく。
 しばらくして俯いたキラが口を開いた。
「……そう……ですね。分かりました……」
 そう言ってキラはやや沈痛した面持ちで再び席に着く。
 それと入れ替わるようにバルトフェルドは立ち上がり、
「俺の『特製』、残したら承知しないぞ」
 と、ニヤリと嗤った。
 キラは数秒目を瞬かせていたが、やがて「わかってますよ」と頬を緩めた。


「とは言っても、あの二人じゃ助けなんぞ求めては来ないだろうなぁ」
 バルトフェルドは顎を撫でつつ、溜め息混じりに呟いた。
「そうね。キラ君もそういうところ鋭いとは言い難いし」
 並んで歩くマリューもまた苦笑混じりに返す。
「大人って面倒だよなぁ、色々と」
 そう言いながら少しも面倒だとは思っていなさそうな隣の男の顔を、マリューは頼もしい思いで
見つめた。
241河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/10/12(金) 23:29:40 ID:???
(4/9)


「遅れてすみませんでしたぁ」
 ブリーフィング・ルームの扉が開いた瞬間、シンは深々と頭を下げた。
 アカデミー時代の経験では、これで教官からの叱咤は免れた。──勝率は六割三分であったが。

 今日の遅刻は一応故意ではない。
 昨夜は昼間の態度について、レイから三時間に及ぶ説教を受けた所為か眠りが浅かった。
 全然寝た気がしないし、軽い頭痛までする。
 しかも昨日アークエンジェルを出る口実に医務室行きを使ってしまったがために、今日は薬を
もらいに行くこともできない。
 何故ならミネルバには密やかに流れる噂──戦闘時負傷以外で週二回以上医務室を利用した者は
「軍人として役立たず」として降格・左遷を艦長から言い渡される──があるのだ。
 そうすることでアークエンジェルと完璧におさらばできるのならそれでも良かった。しかし、
緑服への降格だけでミネルバ残留となったら目も当てられない。
 本当に病気ならば仕方ないが、危ない橋を渡るのはできる事なら避けたかった。

 おそらくは部屋中の視線が集中しているだろうが、それは無視して一番後ろの席に着こう。
 そう思いつつ顔を上げた。
「あ?」
 シンの口から酷く間の抜けた声が漏れた。
 ブリーフィング・ルームには、誰もいなかった。


 レイは一人、ミネルバの外でキラ・ヤマトとアンドリュー・バルトフェルドがやって来るのを
待っていた。
 二人をブリーフィング・ルームへ案内する役目をルナマリアから引き継いだのだ。

 誰も──デュランダル議長以外はタリアですら知らないが、レイはキラ・ヤマトに対して
シンにも負けない程に敵意を抱いていた。
 だが、今のところシンとは違い、レイはその感情を表に出すような真似はしていない。
 それはレイとシンの元来の性格の為だけではない。
 アークエンジェル、そしてキラ・ヤマトとの合流は、デュランダルが承認した事だからだ。
 それならば、この合流には何かしらのメリットが必ずある筈だ。
──だったら俺はそれを最大限に引き出せるようにするだけだ。
 そう思えば彼らと普段通りに接することなど簡単だった。例え相手がキラ・ヤマト──クルーゼを
殺した仇──だとしても。
 そう。
 できうる限り彼らの中へ入り込み、様々な情報を引き出すと同時に彼らに好意を抱かせなければ
ならない。
 もしも後に彼らと敵対する事があるとしたら、彼らが自分達と闘うことを躊躇する程に。
 レイはそう考えていた。
 ルナマリアはいい。楽天的な性格のためか、アークエンジェルクルーとも友好的に接している。
 アスランは元々あちら側の人間だ。
 問題はシンだが、彼には昨夜、二言三言忠告はしておいた。受け入れられたかどうかはまだ不明だが。
 レイ自身も感情を制御することには慣れている。
242河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/10/12(金) 23:30:47 ID:???
(5/9)

──だが、キラ・ヤマトは思っているほど簡単ではない。
 MSデッキでキラが意識を失いかけたあの時。
 レイはほんの一瞬、キラに嘲りを込めた悪意を向けてしまった。
 しかしキラはその一瞬で意識を手放すことを止め、完全ではないにしろ覚醒へと向かった。
 誰も、多分キラ自身もレイの悪意に気づかなかっただろう。
 が、レイはそれがキラの覚醒の切っ掛けになったことを感じ取っていた。
 それはキラが数多の死線を潜り抜けた戦士だからか、それとも彼の出自によるものか。
 レイにはまだそこまでの判断はついてはいない。
 ただ、一筋縄ではいかないだろう──それだけは理解していた。


「ルナマリアです。艦長にご相談したいことがあります。お時間をいただけないでしょうか?」
 キラとバルトフェルドの出迎えをレイに代わってもらってルナマリアは艦長室へ来ていた。

 昨日、アークエンジェルでMSを見た時から考えていた事がある。
 一晩考えてみたが、それはやはり有効な事であるように思えた。
 だがザフト軍人であるルナマリアに許可されるかどうかの判断がつかない。
 自分に判断できないことならより上位の者に判断してもらえば良い。
 ルナマリアの場合、それは艦長と副長、そして隊長であるアスランだ。
 最初はアスランに相談しようと思っていたのだが、ディオキアであのシーンを見て以来、彼とは
どうもぎこちない。
 その上今朝通路ですれ違ったアスランは何故かひどくピリピリしているようで、声をかけるので
さえ躊躇われた。
 となれば、と、やって来たのがここ艦長室だった。
 副長への相談は最初から考えていなかった。──どうせそのまま艦長へ報告されるだけだろうから。

 入室を許可されたルナマリアは、タリアへ自分の考えを説明した。
 当初かなり驚いた様子でルナマリアの話を聞いていたタリアだった。
 が、二、三の質問の後、得心したように頷くと、ルナマリアの目の前でアークエンジェルへの
通信回線を開いた。
243河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/10/12(金) 23:31:56 ID:???
(6/9)


 丸めて投げた携帯食の空パッケージは、ダストシュートには入らず部屋の隅へと転がった。
 舌打ちして立ち上がったアスランの足が何かを蹴飛ばした。
 思わず足下を確認したアスランの目に、バラバラになった部品が映った。
 カガリに──いつかカガリに再会できた時に渡そうと思っていたペットロボットの残骸。
 昨夜、カガリの裏切りを知った後、腹立ち紛れに机の上にあったそれを工具もろとも思い切り
払い落としたものだ。
 部屋の中を見渡すと、工具や飛び散った細々とした部品で惨憺たる有様だ。
 一応個室持ちであるアスランなので、アスラン自身が片付けない限りこの惨状は続く。
 それは分かっているが、今は何も手につかなかった。
 アスランはもう一度寝台へ寝転がり天井を見上げた。
 今日の作業ではまず間違いなくキラと顔を合わせるだろう。
──きっとキラは知ったような顔をしてカガリを庇い、俺を責めるのだろうな……。
 それを考えるとアスランの心は更に重くなった。
──けど、俺を裏切ったのはカガリだ。
 自分がどんな表情をしているのか知らぬまま、アスランは天井を見ていた。


「そりゃないですよ、エイブス主任〜。あんな面白そうな事、俺たちだけ参加させて貰えない上に
あんな雑用なんて〜」
「絶対に邪魔にはなりませんから、俺たちも参加させてくださいっ」
 ヴィーノは泣き落とし、ヨウランは強気の姿勢でエイブスに懇願した。
「と、言われてもなぁ。あっちの作業に合流するのは一班と二班だけだし。スプレーは三班が
こっちで準備中だし。そいつらの抜けた分の通常作業は他班でカバーしなくちゃならんし。
お前らは一番下っ端の新人だし。妥当な割り振りだろうが?」
 しかし、エイブスは指折り数えつつあっさりと彼らの要請を却下した。
「そんなぁ」
 ヴィーノとヨウランは更に食い下がろうとしたが、その前に先輩整備員がエイブスを呼びに
来てしまった。
「わかったら、さっさと自分の仕事をしろ!」
 発破をかけて、エイブスは二人に背を向けて歩き出す。
「「ふぁ〜い」」
 気の抜けた返事を返した下っ端新人たちをエイブスが振り返った。
「!!」
 バネ仕掛けの人形のように、二人の背筋がピッと伸びる。
「……手抜きをせずに早く終わらせたら合流させてやるから」
 エイブスは苦笑気味にそう言うと、今度こそ歩き去る。
「「ハイッ!!」」
 二人分の歯切れの良い返事が、ミネルバのデッキ内にこだました。
244河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/10/12(金) 23:33:13 ID:???
(7/9)


 最初の十分は、誰よりも早く入室したことを得意がってやろうと意気込んでいた。
 次の五分は、集合場所を間違えたのかと心配し、ブリッジへ確認まで取った。
 次の十分は、皆を探しに部屋を出ようか、いや、出た直後に皆がやって来るというお約束の
法則か? と葛藤していた。
 シンがブリーフィング・ルームのドアをくぐってからまもなく三十分になる。
 そして今、シンの苛立ちは臨界点を超えようとしていた。

 その時、次の訪問者がブリーフィング・ルームへと入ってきた。
 ドアを見やりレイと確認したシンは文句を言おうと腰を浮かしかけたが、レイに続いて
バルトフェルドやキラ、カガリの姿まで見えたので慌てて座りなおす。
 彼らの事など眼中にない風を装いながらも無意識に全神経を彼らに集中させている自分に気がつき、
シンは内心で舌打ちをする。
 彼らはレイの誘導に従い、最前列に腰掛けた。シンの座っている入り口側最後列とは対角の位置だ。
──レイ、ナイスッ!
 シンは胸の中でレイに賛辞を贈った。

 と、直後に今度はルナマリアが入室してきた。
 ルナマリアは部屋中を軽く見回し、シンがいることに気づくとひどく驚いた顔をしてシンの処まで
近づいてきた。
「何、どうしたの、シン。もう来てるなんて?」
「俺はちゃんと時間通りだよ。ルナ達が遅すぎるんだろ。定刻を三十分も過ぎてるじゃないか」
──正確には俺も五分くらいは遅刻だけどな。
 誰にも聞こえぬツッコミを自分自身にいれつつシンが抗議すると、ルナマリアは更に目を丸くする。
「……あれ?」
「あれ? じゃないだろ。ちゃんと時計見たのかよ」
「……じゃなくて。あたし、時間の変更があったこと、言わなかった?」
「へ?」
 シンは昨日からの記憶を思い返した。
「……聞いてない、と思う……」
 今ひとつ自信がないまま答えたシンは、しかし別のことに気がついた。
「ちょ、ちょっと待てよ。でも俺、さっきメイリンにも確認して……」
 シンは先ほどブリッジのメイリンと交わした会話を思い出す。

『メイリン、今日のミーティングの場所、ブリーフィング・ルームだったよな?』
『そうよ。間違ってない』
『サンキュ。じゃ』
──……時間、聞いてないじゃん、俺。
 シンはがっくりと肩を落とした。
──イライラしたり、部屋ん中、ウロウロしてた俺、馬鹿みたいじゃないか……。
 ルナマリアがそんなシンの肩をポンと叩く。
「良かったじゃない、シン。遅刻しないですんで」
 あはは、と笑って誤魔化しながらも微妙に目線をそらすルナマリアをシンは睨みつけた。
245河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/10/12(金) 23:34:22 ID:???
(8/9)

 だがルナマリアはそんなシンの視線にまったく動じることなく、逆にシンに文句をつけた。
「ところでシン。どうしてこんな後ろにいるのよ。今日はパイロットだけだから人数少ないの
分かってるでしょ」
 そう言ってルナマリアはシンに前の席に移るように促した。
 断固拒否して変に注目を浴びるのも躊躇われて、シンはしぶしぶルナマリアの後に続く。
 それでもアークエンジェルの三人とはできるだけ離れた席を選ぶことだけは忘れなかった。
 ルナマリアも呆れた顔をしながらも何も言わなかった。

 シンが席に着くのを見計らったようにアーサーとアスランが連れ立って入ってきた。
 そのアスランの表情が何時になく強張っているようにシンは感じた。
──アスランはあいつらとはどんな風に話すんだろう?
 何となく興味があって見ていたが、アスランは彼らと話すどころか視線すら向けようとしない。
 まさかシンが見ていることに気づいている訳でもないだろう。
 シンはアスランの不自然な行動に疑問を抱いた。


「MSパイロット諸君、集合ご苦労。本日の作戦内容は……アークエンジェル副長からご説明
いただくのでよく聞くように」
 何故か咳払いをしながらバルトフェルドに場所を譲った自艦の副長と、代わって前に立った男とを
見比べて、シンは内心で溜め息をついた。
──こりゃ……完璧に負けてるな。
 貫禄とか、時折見せる眼光の鋭さとか、その他諸々、アーサーを遥かに凌駕している。
 と言うより、タリアにも匹敵しているだろう。

 シンは昨日のアークエンジェルとの邂逅を思い出した。
 インパルスに転送された船外カメラの映像の中の精悍な男と若い女。
 前者が艦長、後者はブリッジ要員かせいぜい副長だろうと思った。
 それが逆であると知った時の驚愕は言葉では言い表せない。

 もちろんザフトにも若くして艦長を務めている者もいる。
 例えば、ユニウス破砕の際に共闘したボルテールの艦長がそうだ。
 だがあれは例外中の例外だ。
 元最高評議会議員の子息で本人も同様に政治に携わっていた時期があり、更にアカデミー卒業時に
総合二位の赤服の中でもトップエリート。
 コネも実力も十分過ぎるほど備わっているというのだから。
 ちなみにそれを教えてくれたのはメイリンである。
 シンはふと、同時にその彼と同期の総合一位がアスランであると教えられた時の感情まで
思い出してしまった。
 嫉妬や羨望や腹立たしさとは対極の──誇らしさを。
246河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/10/12(金) 23:35:25 ID:???
(9/9)

 それを自覚した瞬間、シンは片手で顔を覆った。
── 一体何を考えてるんだ、俺は?
 他人への好悪ははっきりしている方だと思っているが、アスランに対してのそれは自分でも
よく分かっていない。
 パイロットとしての技量は自分より上なのは認めざるをえない。性格はとっつきやすい方では
ないようだが、人のことは言えない。
──ネックになってるのは、やっぱり、アレだよなぁ……。
 アスランがオーブに──カガリ・ユラ・アスハとキラ・ヤマトの近くにいたこと。それが
シンがアスランを認められないでいる原因だった。
 それさえなければ、例えアスランが元地球連合軍だったとしても彼に素直に従うことは吝かでは
なかったに違いない。

「そこの黒髪の──シン・アスカ。聞こえてるか?」
「はいっ!?」
 突然名を呼ばれてシンは慌てて顔を上げた。立ち上がらなかったのが不思議なくらいだ。
 バルトフェルドはシンに向けていた視線を外し、話を続ける。
「そういう訳で、ルナマリアは本日の作戦からは外れ、その代わりにカガリが加わることになる。
カガリは一応ヤキン戦の経験者だが、パイロットとしてはルーキーだ。フォローはキラに頼む」
──そういう訳でって何だ? あの女がパイロット?
 シンにはまったく理解できなかったが、これは全面的にシンの非だ。
 後でレイに聞いておこう、と決意して、シンは姿勢を正す。

「もう一度言うぞ。本日の作戦は戦闘行為ではないが、非常に重要なものだ。しかも期限は本日
一四:〇〇。後、四時間余りしかない。
 諸君には迅速、かつ、丁寧で繊細な技術が求められる。心して作業に当たってくれ」
 バルトフェルドは一旦言葉を切って、全員を見渡した。
「さて。取りあえず希望だけは聞いておこうか。──各自、穴掘りとペンキ塗り、どちらがいい?」
247通常の名無しさんの3倍:2007/10/13(土) 14:09:47 ID:???
どが付くほどシリアスな状況かと思っていたら穴掘りペンキ塗りw
先が読めないGJ! 投下乙!
248新人 ◆T3aqF.CV6I :2007/10/13(土) 17:55:06 ID:???


希望を

 ヘリオポリスの工廠エリア、その格納庫内に躯を横にして今は眠る″G″を見上げながら、G開発
担当の副主任に就く男は口を開いた。
「Gのパイロットたちは今日来るらしいな。いやぁ予定通りでなにより」
 皮肉の類は一切見られない。心からそう思っているのだ。
 それを弾薬コンテナに腰を下ろした助手が同意するように頷き、同意を求めるように言った。
「まったくですね。それほど信用されてるってことでしょうか」
「そうとっていいだろう。それに、こいつらはGの他にホープって名前を持っているからな」
「ホープ?」
 助手が副主任の言葉を聞いて呟いた。分からないといった面持ちだ。
 副主任はその疑問の声をうんうんと頷きながら視線をGから助手に移し言う。
「こいつらは実戦を想定した特殊な試作機だ。その能力はジンを軽く凌駕する」「そんなのわかってますよ。だてに俺も副主任の助手やってませんから」
 と笑いながら言う助手を見てやんわり微笑み、またGに視線を移す。今までの苦労を思い出し、
同時に懐かしんでいるようだった。
「ああ、だがこいつは、同時に連合初のMSなんだ。今まで苦渋を強いられてきた連合初の、な」
 外が騒がしい。当たり前か。明日には全機体をアークエンジェルを移すのだから。今頃は、ラミア
ス主任が大慌てで予定を変更して修正しているだろう。あとで何か言われることを想定して副主任は
顔をしかめた。
「もうこれ以上、仲間の死を繰り返さないために、ナチュラルによって造られたナチュラルのための希望だ」
「仲間の死を繰り返さないための……な」
 ため息をつき、目を細めながら言うと彼は格納庫の出口に向かって歩きだした。その背は、実物に
反比例して矮小に見える。助手が慌ててその後を追うと、幾分申し訳なさそうに尋ねた。
「……やっぱ、奥さんの……」
「あいつは関係ないよ。あいつは死んだ。それだけだ。
 俺は死に意味を見出さない。思うが、死に意味はあっちゃいけねえと思うぜ」
 振り向かないで彼は言った。
「死は死でしかない。憎悪も怨磋も、否定はしないが──復讐なんて概念は無意味だろうよ。
 哀悼もな。死んだら意志なんて残らん。」
「……」
 助手が無言でいると、副主任が急に立ち止まり振り返って、
「復讐なんか考えて働くより、仲間のためを思って働いた方が効率が良いしな」
 自嘲が混ざらないよう気をつけながら、笑って言った。
249新人 ◆T3aqF.CV6I :2007/10/13(土) 17:57:48 ID:???
 そんな平和の終わりに、そして崩壊の始まりにそう時間はかからなかった。


 突然の爆発と震動、襲撃に狼狽えながら副主任は声を荒げて指示を飛ばし、襲撃者に対する防衛網
を構築させる。
 しかし襲撃者は並外れた身体能力を以てこれを突破。そのどれもが格納庫から運び出されたGを目
指していた。
 してやられた。彼ら優秀な襲撃者は驚いた自分たちが慌ててGを外に運び出したところを的確に突
いてきたのだ。副主任は内心毒づき、護身用の旧式のグロックを腰から引き抜いて用心深く身構えな
がら叫ぶ。
「Gを奪わせるな! 俺たちは中の機体を守りに……ッッ!? ックショウッ!」
 すぐ手前の部下が頭部を撃ち抜かれてくずおれた。
 身を伏せコンテナの影から応戦。狙いを定めて発砲。それきり銃撃の嵐は止んだ。
 すぐさま助手と共に格納庫内に走り込む、と。

「ッあァっ!?」
 助手が後方からの流れ弾に襲われて転んだ。
 腹部をライフル弾が貫通していて、長くは持たないのが見て取れる。
「っ、大丈夫か!」
 なんとか助手を物陰に引きずり、必死に助手の名を叫んだ。
 その瞬間も銃声音が鳴り響く。
 助手が血を吐きながら、震える手で格納庫内に横たわる二機のGを指し示す。
「……はっやく」
 驚くことに、躊躇う時間はほんの一瞬だった。
 Gに向かい走る。それが意味する何かを一切無視して。

 一機Gのコックピットに近づいて、そこで彼は気付いてしまった。
 上の階にいた学生に。それを狙う一人の襲撃者に。

 仲間のためを思うならば、イージス一機だけでも死守するべきだ。だが今なんの罪もない少年の命
が奪われようとしている。それを黙って見過ごせと言うか。どちらを優先すればいい。
 仲間の死を無駄にはできない。だからと言って今起こる死を見逃すのはもっと出来ない。
 副主任はとっさに襲撃者に対して発砲してしまった。
 しかし放った銃弾はすぐ隣のコンテナに弾かれる。
 気がついた襲撃者がライフルを放つのには五秒も要らなかった。
 胸に四発の弾丸を受け、遠のく意識の中デタラメに引き金を引く。運良く襲撃者の頭部に突き刺さ
ったのを見届け、少年の姿を視界におさめる。次にGの方に目を向け、
「希、望を……」
 呟き、彼は深いまどろみに襲われて意識を失った。

その後、彼が守った少年がその希望を思う存分使い回すが、死んだ彼には関係のないことだった。
250通常の名無しさんの3倍:2007/10/13(土) 18:00:10 ID:???
>>河弥氏

投下乙。
俺の批評は俺の感性に依る物だという事をお断りしておく。
指摘したい部分が一ヵ所。
ダッシュと三点リーダーが続いている箇所があり違和感を覚えた。
内容は展開を安易に予想出来なくて面白い。

余談ではあるが、氏を喩えるならばワインだな。
まだ若いが爽やかでフルーティな感じの物だ。
それはそれで良いのだが、熟成が進めば更に洗練されて芳醇な逸品になりそうな予感を感じさせてくれる。

更なる精進を期待する。
251通常の名無しさんの3倍:2007/10/13(土) 19:13:05 ID:???
>>新人氏
投下乙。
短編の様だが、そつ無く無難に上手く纏められていると感じた。
しいて難点を上げれば瞬発力不足という所か。短編は最初の一文が命だ。

更なる精進を期待する。
252通常の名無しさんの3倍:2007/10/14(日) 07:12:31 ID:???
ex氏のhateシリーズってある意味政治的な気がする。
253通常の名無しさんの3倍:2007/10/14(日) 20:30:47 ID:???
メストさんのhateシリーズは社会や体制に対する怒りや憎しみを描いていると思う。
ヘイトかも知れないけれどキャラの無念さや悔しさが伝わってきて、色々と考えさせられる。
254赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/10/14(日) 22:31:42 ID:???
 曝される白肌の乙女……否、元乙女だった雌犬の肢体を舐る様に光が照らす。
 密閉された無機質な部屋に革のベルトで吊るし上げられればつま先だけ体のバランスを取らされている。
 ぽたりぽたりっと目隠しをされたまま、革の軋む音と水溜りが出来る程の大量の汗の雫が零れる音。
 無機質な空間にくくり付けられていると、まるで本人もそのまま生命活動を止めてしまいそうになる圧迫感を感じる。
 稼動するモーターか電極の音がきゅりきゅりと音を立てながらも次の攻撃の牙を研いでいる。
 呼吸も過度に働いて落ち着く所か余計に意識が朦朧として逝ってしまいそうになる中、天の声が響いてくる。

「さて、そろそろ話してくれないと困りますよ。僕はこういう趣味は無いモノですからね」
「し……知らない。ただ……家族が死んでその後は」
「それは聞き飽きました。全く、貴女に浴びせてる電気もタダじゃないんですよ?」
「ひぃっ……あああっいやぁああああああっ」

 弾ける火花と共に少女の悲鳴が部屋の中で木霊して、容赦なく体の中を駆け巡り、心と体を焼いていく。
 一方方向の視線だけが突き刺せられていく鏡越しに、男は少女を汚らわしいモノを見る様な視線を送る。
 その視線と声の主、ブルーコスモス盟主ムルタ・アズラエルは嗜虐的嗜好を持ってはいなかったので
 部屋の中の少女が呻こうが喚こうが痛がろうが何も感じる事も無く”処理”を促している。
 少女は口を中々割ってくれない。否、正確には彼女は先ほどから実に明瞭に真実を話している。
 しかし、それが彼を納得させるか否かは別の問題である。彼女の返答はあまりにも平凡で満足いかず
 尚且つ、答えを照らし合わせても数多くの矛盾を孕んでいく結果しか返ってこない。

「仮にですね。君がただのオーブ国民で家族を殺された被災者の一人だったとしてもね。
 ”異常”なんですよ、貴女の存在はね! 全く何処の機関の試作品ですか。貴女は?」
「ち、違う……生まれはコーディネイターだったけど……ずっとオーブで」
「なら、オーブの何処の所属機関ですか?」
「だから、そんなんじゃ……うっ、やだ。もう痛いのやだぁ!」
「電力を上げて下さい。埒があきません」
「しかし、アズラエル様。コレ以上は」
「大丈夫ですよ。コーディネイターなんですから」
255赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/10/14(日) 22:33:06 ID:???
 彼の視線の合図に従いスタッフが機械を操作されれば、少女の肉体を焦がす雷撃によって
 悶絶と嗚咽の声がリピートされ続けていく。彼女が此処までの責め苦を与えられているのは
 無論、ムルタ・アズラエル氏側近のボディーガードの殺害の因縁もあった。彼は未だにそれを根に持っている。
 表面上ではさらりと流した大人の対応を見せているが言動の節々に憎悪が漏れていた。
 だが、事態はそれだけに収まらないと解ったのは彼女の遺伝子の検査結果が出てからだ。
 身元を調べる為と仮にも肉体強化を施した人間に立ち回れた原因を探る為、初日に遺伝子を取って調べていた。
 結果、運動性とスタミナが高いがコーディネイター女子の身体能力の範疇。しかし、一つ異常な点があった。
 故にその真相を吐いてもらってくれ無くては困るのだ。彼がイラついているのはその”滞る現状”だけである。

「しかし、笑えますね」
「はぁ……その何がでしょうか?」
「野良の雌犬だと思ったら本当にケダモノだったなんてねぇ」
「……ええ。コーディネイターと言うのはまだ研究段階の存在とは言え、あんな存在が偶然とはとても」
「とんだ鬼子。いや、チェンジリングって言うには少し違いますね。小鬼なんて理性的なモノではない」
「物語ならただの化け物で済みますが……まさか現実に居るとはとても」
「なぁに。カブトガニやシーラカンスも居るんですから。あながち間違いではないかもしれませんよ?」

      機動戦士ガンダムSEED異聞 
             〜REVENGE WERWOLF GIRL
       -00.3howl 「New land where gravity and human nature are lacked」


 研究員とアズラエルが目に浮かぶのは数日前。ビクトリアを連合が攻略し宇宙への足がかりを付けた時だった。
 モビルスーツを積み込んだり、補給路や航行進路などの話し合いが行なわれている。
 あのオーブ解放作戦とやらが行なわれてから十数日が経て彼女の環境も少しずつ変わっていた。
 まず、彼女を世話する3人のブーステッドマンは玩具にするには彼女は脆過ぎると言う結論に至った。
 実際に彼らに振り回される度に何度も彼女は失神や気絶を繰り返していたりとオーバーワークだった。
 それは体力や傷の治りは早いが根本的な軍人と一般人の差が大きかったのは当然であり
 その差を埋める為に自身達の肉体訓練に対して彼女を何度も参加させていた。
 彼女自身も戦艦での幽閉生活でのストレスもあり、筋力トレやランニングに積極的に付き合っていた。
256赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/10/14(日) 22:34:31 ID:???
 素人ながらに彼等のメニューの5分の1程度を消化しているのは充分な運動神経だと回りから見られている。
 しかし、事件はナイフ格闘の訓練で起きた。
 ”猫が手の中で暴れて居るネズミを甚振ることになるだろう”
 誰もがそう感じていたが、逆に実力の拮抗した軍人同士とは違った嗜好を感じ、結構な人数が集まっている。
 それにアズラエル氏も様子を見に来ていた。会議の合間の暇つぶしと言う事で観客としての同席だ。
 ボディーガード殺害に対して鬱積した感情がある事を誰もが思い当たったが、それを指摘出来る人間は存在しなかった。

「ほらよ名無し! へばるにはちょっと早いぜ?」
「オルガ、男なんだから少しは手加減をしろよ!」
「ばぁ〜か、それじゃ訓練にならねぇだろぅ? 手前も骨で覚えな!」

 彼女が記憶喪失だとわかったのはブーステッドマンに彼女を預けてすぐの事であった。
 身分証名称も持たない彼女は彼等や関係者からは”名無し”と呼ばれている。
 彼等3人に名前を付けるボキャブラリーセンスが無かった……と言う訳ではないのだが
 候補がミュージシャンや曲名、小説の登場人物、ゲームの名前やキャラと言う意見対立の中
 誰も譲らなかったと言う実に子供らしい事情の元、全員が譲歩した(と言うかさせた)形にで結果”名無し”が名前になった。
 そんな名無し扱いから脱却すら出来ぬ彼女が強化と訓練の結晶体であるブーステッドマンに勝てる訳がない。
 オルガは遊ぶ様にナイフの軌跡を描きながらも、その高い身長と筋力から繰り出す重い一撃で潰しに掛かっていく。
 それを受け流したり引き止めたりする事もままならない防戦の一方で息も上がりつつあった。

「くっ!」
「ほら! とっとと倒れちまいな。俺のは痛えぇだろぉ?」
「本気じゃなきゃ訓練じゃないんだろ!?」
「……ふん。口だけは立派だな。やっぱお前面白ぇな!」
「ん?……おい、あれ」
「……へ、どうした?」
「いや、ちょっとおい」

 一部の軍人たちが僅かに騒ぎ出していた。ざわめきが僅かに広がる中、アズラエルはそれに首をかしげている。
 圧倒的な力と技でオルガが圧倒している状況。しかし、彼女は中々倒れない。だが、優劣では負けている矛盾。
 皆がオルガの動きに集中していた視線が少女の動きへと移動されていた。するとざわめきが大きくなる。
 スピードもキレも技術も全くダメである。そもそも、純粋な筋肉量でアノ白肌の柔らかい少女の肢体が
 練磨と鍛錬で絞り上げられた鋼の腕と足捌きの前ではあまりにも”軟過ぎた”。
 では、何が彼女をああまで持たせて居るのか。それは彼女の反応速度であった。
 弧を描きながらもその筋肉が力を掛けて一気に振り下ろして行く刹那や防御に必ず彼女の手は出ている。
 ソレは時に腕であり、刃を潰したナイフの鍔迫り合いでも必ずである。
 無論、速度も力も無いのでタイミングはずれるわ、押し返されるわで成功など一度もしていないのだが
 確実のオルガの一撃の威力をそぎ落としている。一部、武の心得のある人間にはソレが見えていたのだ。
257赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/10/14(日) 22:36:06 ID:???
「……おい。あれ」
「アノ子何かやっていたか? ……いや、剣道の足すら出来てないし、構えもてんでド素人だ」
「そもそも武術やってるって体じゃないよな。あれ」
「コレがコーディネイターって奴か?」

 ざわつきがアズラエルの耳にまで届いてくる。あからさまに機嫌を崩しながらも
 段々とその視線はイラつきからビジネスマンの顔へと色合いを変えて言った。
 単純に数字とその流れだけを読み上げて、損切りと更なる投資を見定める思考へと切り替える。
 数値で測られ、切り売りしながら雌犬の肉の利用価値を見極め模索しプランが練られ始める。
 そんな目盛りの視線を注がれている事も知らずに彼女は段々と追い詰められていった。
 純粋な体力の限界。反応速度も徐々に鈍っていき相手にイニシアチブをとる行動が逆に大きな隙を作る。
 弾かれてがら空きになる正中線を真っ二つにするかの様に振り提げられるオルガのナイフ。
 勝負がついた。しかし、戦闘と言う舞曲は終わらずに機械的な動きが最後の止めへと誘っていく。
 潰された刃とはいえ死を感じる一撃。呼び覚まされる獣は鎌首を擡げてその真紅の眼を見開いて遠吠えを喚く。
 沸騰する血液は脳の麻薬を吐き出させ理性を極楽へと連れて行く。そして残ったのは……

「所詮とーしろ! 之で終わりだぁ!」
「……アアあっ……ああああっぅアアアああああああああああああっっーーーーーー!!」
「なぁ!?」

 肩がありえない角度からの刺突を鈍い音と共に繰り出していく。真紅の瞳はまるで夜の猫の様な瞳。
 肩が外れている。筋肉が悲鳴を上げている。痛みからか口からは僅かに唾液が漏れている。
 そんな客観的な事実をいかに冷静ぶって並べてみようとしてもその光景は異常。
 勝敗と言う点での結果は相打ち。お互いの刃が互いの喉元を突きつけあっている。
 しかし、オルガの反応が数秒遅く攻撃を続行していたのなら彼の喉は自らの勢いで潰されていただろう。
 しばし、硬直する訓練場。彼女は白目を向いてそのままその場に倒れ込み、その黒髪を地面へと散らす。
 息を呑みと凍りつく空気を打ち破るのは一つの手拍子。乾いた音が呆然とする軍人の意識を叩き起こして行く。
 命の天秤を計り終えた死の商人の合図と共に更なる追撃をするオルガを止める者と倒れた彼女を気遣う者。
 様々な思惑の人間が一斉に群がっていき、事件の幕を降ろして行った。
258赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/10/14(日) 22:37:49 ID:???
――それから時は過ぎて

 真っ暗な視界にまるで重石を載せられた様に体は圧迫されながらも熱と振動が体へと伝わっていく。
 目を開ければ何かへばりついた様に体が動かない。異様に体が重いは思いし体は痛むし最悪だ。
 目だけ動かせば体が震えているのではなくその周りが揺れているのが解る。世界が震えていた。
 地震かと思ったがこの場がシャトルのシートだと言うことを理解する事は何とか出来た。
 ぎちりっと歯を食いしばり、動かない手足が軋ませながらもその大気圏を抜ける振動に耐えていく。
 それから数分後。大気圏を抜けられたのか、ようやく体の重みは無くなりGの重圧から開放されていった。
 気付けば、真っ白の拘束具を着けられており体の節々が少し傷んでおり、少し動かすだけで激痛が走る。
 口の中も切れてるし節々も痛いが治療はされてて、絆創膏や包帯の布の感触が肌から伝わってくる。
 隣に誰か座っていたのが解る。肩幅の広くて大柄で髭が生え揃った屈強なベテラン軍人と言った風貌。
 子供の一人や二人居そうな落ち着いた30〜40代の年齢に見える。基地で見かけた事がありそうだが
 面識の無い男だった。なにやら無線で報告をしており、それが終わると話しかけて来る。

「14:34。護送対象、意識を回復したっと。おはようさん、体はまだ傷むか?」
「……んぅあっ、はい。……えーと、此処は?」
「わかってると思うが此処は宇宙だ。今から月へ向かう」
「月ですか……えーと、何で打ち上げられてるんですか?」
「所属が変わったんだよ。今日付けでお前はプレイトマス基地で交換訓練仕官の見習いだ。
 まったく、地上での訓練が目処がついて移動が決まったかと思ったら女の子守なんてな」
「は、はぁ……なんだかすいません」
「ま、気にするな。事情は大まかに聞いてる。俺だって外道じゃないから多少は同情している」
「それはどうも……えーと、どの位寝てたんでしょうか?」
「ざっと丸一日って所だな。貨物扱いか席に乗せるか迷った位だ」
「ははっ……はぁ」

 髭面の男は面倒くさそうにそう告げながら、内心複雑と言った心境が顔から伺わせられる。
 それに苦笑いを返しながらも、拷問されて気を失ってからだいぶ時間が経っていた事が実感した。
 そういえば、最近ちょくちょく記憶が飛ぶことはあるのだけど……こんなに長く昏睡していたのは初めてだ。
 戦災の精神的ショックによる記憶障害なら小説とかでありがちだが、体験すると中々不便だと思う。
 ひょっとして、自分は凄い天然とか思われてしまっているのだろうか? 流石に勘弁して欲しい。
 苦悶のまま眉をひそめていると隣に座っていた男はなにやらポケットから取り出してきた。
 男は何か自分の首にネックレスの様なモノをくぐらせている。首筋に鉄のひやりとした感覚が伝わってきた。
 目の前に掲げられたのはそれに付属していた小さい鉄製のプレート。ああ、これはドッグタグだったか。
 軍人が血液型や年齢、名前を掘り込まれて判別する為の名札だ。
 年齢と年月日の所は空白、調べられた血液型と……ん? Nameの所に文字が刻んである。
 てっきりNamelessとか無記名かと思ったが別のアルファベットが刻まれていた。
259赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/10/14(日) 22:40:11 ID:???
「そういや、御嬢ちゃん。これが、あんたの名前だそうだ。シン・アスカってあの若造に付けられたみたいだな」
「あ、はい。オーブの出です。けど、シン・アスカ?……ああ、そっか。
 あの人の代わりってことなのかな? ”新”アスカって事?」
「殺したボディーガードの女か? まぁ、流石に軍の訓練で名無しって訳にはいかんからな。
 便箋上の配慮だろ。 俺はモーガン・シュバリエ。お前の監視役兼上官だ」
「上官……ですか」
「ああ、お前はこれから数ヶ月。戦場に出れるか分からんが徹底的に操縦訓練を叩き込む。
 覚悟をしておけ。ザフトも女仕官やパイロットだって沢山居るんだ。こっちも手を抜く訳にはいかんからな」
「え? は、はい。解りました」

 突然告げられる言葉に驚きを感じながらもすぐ頷きを返せる位、自分の中ではすんなり受け入れられた。
 顔は目をぱちくりとさせながらも、何故か自分の中で凄く納得が出来てしまったのだ。
 強化人間の玩具から見習い訓練兵にランクアップしただけか? いや、それも凄い事だと思う。
 志願したいと言う気持ちは全く無かった訳ではなかった。だが、そういう扱いをされるとは思っていなかった。
 確かに玩具な日々と言うのは中々そのハードだったが、嫌では……違う普通に嫌だったな、うん。
 けど、あんな事があった後も後腐れなくワイワイ騒げていたのは彼らのおかげと言う事だろうか。
 そういえば、あいつ等は如何しているんだろうか? いつの間にかこのシャトルに乗ってた位に
 自分がどうしていたかも解らないのに他人の動向が解る筈も無いのだが何故か気になっている。
 しかし、こういうのは機密事項かもしれない。俺は恐る恐るモーガンへと彼らのことを尋ねる。

「あのぉオルガやシャニ達は?」
「ん? ブーステッドマン達か? あいつ等は別行動だ。何でも裏切り者の艦を落としに行くらしい」
「裏切り者?」
「アークエンジェルって名前の白い艦だ。オーブに隠れてたみたいだが」
「オーブに? ……いえ、そんなのは全然」
「ふむぅ。まぁ、市民は知らぬ存ぜぬの世界か。とはいえ、アスハって奴もなぁ。
 あの艦を匿ったり、連合相手に喧嘩を売ったりとあの時のオーブは本当に訳が分からん」
「アスハ代表がそんな」
「ま、今は取り合えず今は教えた事は全部覚えろ。何せMSは連合でも手探りの状態だからな」
「はい」
「よろしい。後、数十時間は掛かるし下手に動くと傷に触る。寝とけ」
260赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/10/14(日) 22:44:41 ID:???
 モーガンはそう諭す様に告げると、雑誌を広げながらも退屈そうに並べられた文字を目で追っていた。
 話としては不憫な言葉がぽんぽんと並べられていったが、俺が今更どうこう出来る次元の話ではない様だ。
 傷む傷のごまかし程度にはなるのかもしれないが、考え過ぎて知恵熱をだしてしまいそうな事柄。
 気にしたところで何も出来ないだろう。まして、体一つ自由に出来ない自分が考えるのも間抜けと言うものだ。
 ……何故だろう? 重力圏から離れてから”軽く”なっている。重量的な意味ではなく精神的な軽さと言う事だ。
 懐かしいと言うか何というか心がふわふわしてて落ち着いてくる。初めて話すモーガンとも緊張が発生しなかった。
 とろりっと理性と言うか肩に張り付いていた重石が取れた様な感覚。胎内回帰と言う奴だろうか。
 無重力に抱かれてまぶたも自然と重くなり、俺はそのまま再び意識を落としく。次、目覚めた頃は月だろうか?

                             Next to -00.25howl 「Two beasts that dance under moonlight.」

another route
開示済み
「〜嘘を着く猫少女」

開示予定
「〜寝不足な葦になりたい少年」
「〜Thing that doctor of nameless did not write(仮)」

外伝?予定
XXhowl「告白する種(SEED)と言う名のケダモノ」
261赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/10/14(日) 22:46:30 ID:???
以上、最後のレスは少し文章が入りきらなかったので今後の予定?みたいなのを提示してみました。
ちょっと、前回の話の合間にスパンが縮まってしまいましたが作者事情なんでお許しをorz
では、投下失礼しました。
262週刊新人スレ:2007/10/15(月) 18:36:34 ID:???
目次(1/2)
 支配者と支配される者、歪な秩序に護られた世界。そこは閉塞感に支配された素敵な世界……。
hate and war
>>201

 仄かに香る柑橘系の甘い香り。其れは彼女を絶望の淵に落とし、更に静かなる狂気を喚起していく……。
愛と悲しみの歌姫
>>204-210

 エディの元へと弟子入りした『直線莫迦の天使』。そして最期の時、エディの脳裏に去来するものは!?
女神と天使 〜少女は砂漠を走る! Master's side〜
>>212-218

 オーブに帰った彼、その彼を呼び止めた老人は……。短編の旗手の放つ新シリーズ!!
tear's in heaven
>>224

 戦火に包まれたオーブ、そのさなか。その少女は、巻きこまれた犠牲者から服をはぎ取ろうと……!
機動戦士ガンダムSEED異聞  〜嘘を吐く猫少女
>>226-231

 昨夜の件を誰にも気づかれまいと気丈に振る舞うカガリ。一方自らの感情を押し殺しレイが待つ人物とは。
「 In the World, after she left 」 〜彼女の去った世界で〜
>>238-246

 ヘリオポリス『G』強奪事件の裏側で、必死に希望を護り続ける者達! 彼らの希望とは、果たして……!
希望を
>>248-249

 その少女への拷問は続いた。彼女がコーディネーターであると言うその一点のみのために……。
機動戦士ガンダムSEED異聞 〜REVENGE WERWOLF GIRL
>>254-260
263週刊新人スレ:2007/10/15(月) 18:38:19 ID:???
目次(2/2)

 新人職人必読、新人スレよゐこのお約束。熟読すればキミも今日からベテラン職人だ!!
巻頭特集【テンプレート】>>1-6
絵師テンプレート【暫定版】>>48-49


各単行本も好評公開中
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読者と職人の交流スペース開設。
お気軽にttp://pksp.jp/rookiechat/までどうぞ

お知らせ
・投下作品とのリンクを問わず絵師の方を募集中です。 エロはアウト、お色気はおk。これくらいのさじ加減で一つ。
素材は新シャアなので一応ガンダム縛り。勿論新人スレですので絵師、造形職人さんも新人の方大歓迎です。

・当方は単行本編集部こと、まとめサイトとは一切の関係がありません。
単行本編集部にご用の方は当スレにお越しの上【まとめサイトの中の人】とお声掛け下さい。

・また雑談所とも一切の関係はありません。当該サイトで【所長】とお声掛けの程を。

・スレ立ては450kBをオーバーした時点でお願いします。

編集後記
今週は少ないな。と思ったら8作品もありました。おまえらの創作意欲には正直びっくりです。
>>203
ありがとうございます。三次職人として感涙にむせんでおります。
>>222
見たいんだもん、ほっといて下さい。ぷん
264通常の名無しさんの3倍:2007/10/15(月) 20:30:33 ID:???
>>赤頭巾
投下乙。
猟奇的な文章に引き込まれてしまった。
特に拷問の描写は秀逸。寒気がするくらいだ恐ろしかった。
ただ、『きゅりきゅり』という擬音に違和感を覚えた。まあ、俺の感性の問題と言えるが。
話の展開は氏の考えがあるのだろう。そのまま突っ走ってくれ。

以前に氏の事をシャイと評したが、訂正させて貰う。

更なる精進を期待する。

265通常の名無しさんの3倍:2007/10/15(月) 20:40:04 ID:???
>>編集長
GJ。いつも楽しく読ませて貰っている。
作品をよく読み込んでいないとあの煽りは書けないと思う。
そのアティテュードと毎週欠かさない投下は称賛に値する。いや、リスペクトする

私見ながら、編集長は三次職人ではないと思う。
喩えるならばジャンプ放送局のさくまあきらではなかろうか。深い意味は無いが。

更なる精進を期待するよりも、体に気をつけて頑張って欲しい。
266通常の名無しさんの3倍:2007/10/15(月) 20:57:15 ID:???
121:通常の名無しさんの3倍 :2007/10/14(日) 22:10:11 ID:??? [sage]
新人スレの連中がウザいから爆撃しようぜ!


こんな事を言っている奴等がいるよ。
やられる前にやっちまおうぜ!先手必勝だ!

テイルズの世界にシンが行ったら…Lv2
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/shar/1190986575/
267素晴らしき世界 ◆pyss7hdnDM :2007/10/15(月) 21:27:37 ID:???
 先日、二人の人間が死んだ。
 ラクス・クラインとキラ・ヤマト……両名は軍内部のクーデターにより暗殺された。
 キラ・ヤマトは至近距離から額に一発、ラクス・クラインは心臓に一発それぞれ鉛弾を撃ち込まれた。
 かつては英雄と崇められ、世界の誉れとまで言われたもの達。
 今では暴虐な独裁者として認識されていた。
 ……皮肉なものだ。
 今ではラクスとキラを殺した哀れな青年将校が英雄に祭り上げられている。
 独裁者が死んだことで喜びを噛み締めるプラント国民達──歓喜のあまり涙を流
すものもいた。
 その光景が俺には、酷く醜いように思えた。
 かつてのデュランダル議長の時そっくりだった。
 自分達が選んだ為政者だろうに。
 確かに、二人とも褒められるような政治家ではなかった。
 だが、その全てを否定する理由して良い理由にはならない。
 これではまるで犠政者だな、と皮肉を込めて笑った。
 政治の犠牲になったもの……あの二人を表すにこれ程ぴったりな言葉はあろうか。
 墓も建てられず、誰にも冥福の言葉もかけられずその遺体は燃やされるという。
 唯一彼の冥福を祈ってくれそうなアスハやアスランも立場上そんなことは出来な
い。
 だってそうだろ? クーデター──というより殆ど革命と言っても差し支えのない出来事だ。
 革命により、愚帝として殺されたものに誰が悲しみの言葉を送れよう。
 アスハはオーブの代表としても、プライベートの友人としても彼女らに追悼の意
を示すことは許されなかった。
 そんなことしたら次にそうなるのは自分なのだから。
 さてさて、そんなわけで誰にも冥福を祈られないまま死んでいくのでした。
 めでたしめでたし。
268素晴らしき世界 ◆pyss7hdnDM :2007/10/15(月) 21:31:19 ID:???
 ……なんて結末じゃあまりにも哀れ過ぎるだろ?
 仮にも人々の自由のために戦った英雄じゃないか。
 正直な話をすると、俺はあの二人が大嫌いだ。
 俺の夢を無残に打ち砕いたものを好きになれるはずがない。
 だからってあいつらのやったことを全否定するつもりはない。
 あいつらもあいつらなりに考えていたことくらい今の俺には分かる。
 当時のガキだった俺にはそれが分からなかった。
 頭ごなしに奴らを否定し、議長のやることを盲信していた。
 奴らにも考えがあることを忘れながら……。
 ああ、凱旋パレードが始まるようだ。
 新しい世界、新しい旅路を祝すために。
 俺か? 俺の生活は変わらないよ。
 ザフト軍に仕える哀れなMSパイロットだ。
 妻も待っていることだ、英雄の一人として立たなくてはな。
 んっ? ああ、ラクスとキラを殺したのは俺だよ。
 ただ二人を解放してやっただけだ。
 深い意味はない。
 強いて理由を上げるとすれば、あいつらが生きていなかったからだ。
 レイよりも、ステラより──俺が今まで会ってきたもの達の中で一番あいつらは
死んでいた。
 笑顔を浮かべることはあったが、目元は笑っていなかった。
作り笑顔、俺から言わせれば、それは紛い物だった。
 俺がやったのは生きていないあいつらをあるべき場所に送っただけだ。
 ここから先は憶測なんだが、多分あいつらはこうなることを望んでいたんだ。
 その証拠に俺に撃たれた時二人ともほのかに笑っていた。
 まるで、苦しみから解放されたように……。
 俺があいつらを殺したのはたったそれだけの理由だ。
ただ他の奴らが勘違いしているだけだ。
 さてと、最後に一つだけやるべきことがある。
「さようなら二人の英雄。 どうかあんた達の魂が救われますように」
──また来世。
 その時には、本当に望んだものを得られると良いな。
 そんなことを考えていると、ルナマリアが俺の元へと駆け寄ってきた。
 主催がこんなところでうろちょろしててどうするのよ、とのことだ。
 俺はルナマリアに手を引っ張られながら外へと飛び出していった。
 人々は歓声を上げながら俺を迎える。
──素晴らしきかなこの世界。
 俺は笑顔を浮かべてやった。
269 ◆pyss7hdnDM :2007/10/15(月) 21:33:38 ID:???
投下終了です。
270通常の名無しさんの3倍:2007/10/15(月) 22:23:25 ID:???
>逆アス氏
投下乙
しかしもしもオマージュのつもりならばその旨一言あったほうが良いと思う
271通常の名無しさんの3倍:2007/10/15(月) 22:36:11 ID:???
>>268
GJです。
英雄は英雄を知る。といった感じなんでしょうか。ちょっと違うか。

恒例の間違い探し。
>主催がこんなところでうろちょろしててどうするのよ、とのことだ。
シンの性格からして自らパレードを催すとも思えないので、『主賓』
なんでしょうねニヤニヤ
272lunatic love ◆6Pgs2aAa4k :2007/10/16(火) 20:58:36 ID:???
“the anniversary of a person's death U”

 彼が死んでから幾つもの季節が私を通り過ぎて行った。
 星がうつろい時代が変わり子供から大人になっても、人の心は変わる事はない。
 私の心には死んでしまった彼が住んでいる。でも、彼を失ってしまったからぽっかりと穴が開いている。
 彼を殺した人やその仲間に対してはわだかまりがあるけれど、それは表には出さない。
 彼は優しい人だったから、私がわだかまりを露にすると悲しむだろう。
 私は彼に嫌われたくないからわだかまりを厳重に閉じ込めている。
 でも、一度だけ怒りに我を忘れた事がある。それは遠い昔の忘れてしまいたい事柄の一つだ。

 今日は彼の命日。私はオーブの慰霊碑に赴いた。
 慰霊碑は静かで神秘的な雰囲気を作り出している。
 周囲には色とりどりの花が彼の代わりに精一杯に力強く、美しく、香しい匂いがこぼれる様に咲き誇っている。
 その健気な姿に傷付いた心が癒される。
 目を閉じると在りし日の彼の姿が浮かんで来た。彼は私に向かって微笑んでいる。
 不意に静寂を切り裂く様に騒がしくて無神経な足音がした。
 目を開いて振り向くと、何やら懐かしい顔がいた。
 彼を殺した奴等の一人だ。
 私はそいつを無視して慰霊碑に向かって手を合わせる。 そいつが私に挨拶などをして来るけど。私は無視する。
 今日でなければ、此所でなければそれなりに愛想を振り撒くのだが、今日という日で此所という場所だ。
 そいつが私の心に入り込む余地などは全くない。
 それでもそいつは私に向かってペラペラと話しかけてくる。
 あまりにも五月蠅いので少しだけ相手をしてやろうと振り向くと、綺麗な花束を差し出された。
 私がきょとんとしながら黙っていると、機関銃のような勢いで言葉を撃ち込んできた。
 でも、言葉は右から左にすり抜けていく。
 解った事は、その花束を私にくれるという事だけだ。

 丁度良い。花束を慰霊碑に供えてしまおう。
 花には罪はない。
 そいつから花束を受け取り供えると、風が強くなってきた。
 空を見上げると彼の姿にそっくりな雲が浮かんでいる。
 私はその雲にいつまでも手を振り続けた。
273lunatic love ◆6Pgs2aAa4k :2007/10/16(火) 21:00:10 ID:???
投下終了。
今回は出来が悪いかもです。
274通常の名無しさんの3倍:2007/10/16(火) 22:00:10 ID:???
>>272
お疲れ様です。
「出来が悪い」との事ですが文章は特に悪くはないかと。
ただ、惜しむらくは前の「the anniversary of a person's death」からの
連続性が薄い所でしょうか。
書いた方ほど覚えてないですから。
あるいは、オムニバス形式で別人の事なら説明不足ではないかと。
275 ◆6Pgs2aAa4k :2007/10/16(火) 22:27:40 ID:???
>>まとめの人

>>272のサブタイを“bouquet”に変更をお願いします
276通常の名無しさんの3倍:2007/10/17(水) 01:07:39 ID:???
「bouquet」

「花束」ですか?
277通常の名無しさんの3倍:2007/10/17(水) 06:20:00 ID:???
>>素晴らしき世界
投下お疲れ様。
たまにはこういうのも悪くないとも思うけど、シンが独善的過ぎると思いました。

>>lunatic
話自体は面白いんだけど、これなんてオリジナル?って思いました。

>>270
オマージュじゃないと思いますが。
サブタイトルと締めの言葉がex氏の作品に類似してるだけだと思います。
良く読み込めばex氏とは作風が根本的に違うのが解ります。
278通常の名無しさんの3倍:2007/10/17(水) 18:01:52 ID:???
保守age
279通常の名無しさんの3倍:2007/10/18(木) 00:00:53 ID:???
投下のなかった日ってのも珍しいんじゃないか?
280通常の名無しさんの3倍:2007/10/18(木) 19:24:18 ID:???
と言うか感想少な過ぎないか最近
いや、作品投下の密度が濃くなってるのは解るんだが
一レスしか感想ついてない作品とかもあるしなぁ。
281通常の名無しさんの3倍:2007/10/18(木) 19:58:19 ID:???
批評とか感想とかはともかく
お気にだったらGJぐらい書いても良いよな

どうしてもずらずら書かなきゃいけない
見たいな流れは良くないわな
282通常の名無しさんの3倍:2007/10/18(木) 20:31:34 ID:???
>>268
あからさまなパクりは良くないと思う。
283通常の名無しさんの3倍:2007/10/18(木) 20:57:36 ID:???
>>280-281
同意。
感想が無い事には、楽しんでもらえてるのか、つまんないからスルーされてるのか、全然わからないわけで。
書き手からすると、何か非常に味気なく感じてしまうわけです。
誰も見てないのかと思うと、どうしても創作意欲は失われていきます。

面白かったとかの感想も、書き手には大事だと強く思う所存。
レス乞食だと言われようとも、やっぱり自分に向けられたレスをたくさん見たいわけです。

と、投稿して2レスもらえた書き手より。
284通常の名無しさんの3倍:2007/10/18(木) 20:58:55 ID:???
>>河弥さん
 投下乙です。
 カガリ、レイ、シンと視点を移動させて緩急のついた構成、読みやすかったです。
 最後までシリアスなテンションで通しておいて、最後の一行で穴掘りとペンキ。
全く先が読めません。面白かったです。
 続きをお待ちしております。
285通常の名無しさんの3倍:2007/10/19(金) 02:26:03 ID:???
一言、二言の軽めの感想ならまとめサイトに専用掲示板がありましたよ。
そちらを利用してはどうでしょう?

まとめサイトTOP絵笑えました。
管理人さん乙です。
286通常の名無しさんの3倍:2007/10/19(金) 20:48:53 ID:???
>>285
それすら少ない罠。
つーか、このスレが1000まで行く可能性も無いしこっちでレスつかないと区切りが悪いと言うか
感想レス間に挟まないでSSだらけつーのもな。
まぁ、それがSSスレの理想的姿なのか?
287通常の名無しさんの3倍:2007/10/20(土) 01:16:30 ID:???
>>新人
 ほぼ一週間遅れで今更感がありますが、投下乙です。
 自嘲は混ざっていなくとも、気取った副主任の台詞回しが嫌いじゃありません、
が口に出したというのであればかなり気障な方ですね。そこらへんの、副主任が
口に出してしまった心情を動作で表現出来れば切れ味が鋭くなったと思います。

 あとは、上の方も仰っている通り、最初の一文で読者をひきつけを起す……じゃない、
引き付けられるように練ってはどうでしょうか?

>>逆アス
 四日前で今更(ry)投下乙です。
 シンが少々独善的かとも思いましたが、それもまたシン、キラ、ラクスの一つの結末
と考えるとそれもまたよしでしょう。二人を殺した事に関して自己正当化しようとする
シンの、余裕を装った必死さに味があります。
 自分の事に関して、「俺の夢を無残に――」だとか「哀れな――」等と独白しているのは
少し変かと思いました。

>>bouquet
 三日前で……しつこいですね。投下乙です。
 雑談所のチャットを見ない限りは、主役の女性が誰だかさっぱり分からなかっただろうと
断言できます。が、種の背景を知っていれば完全なオリジナルキャラでも問題のない短編でしょう。
 出来が悪いかも、との事ですが、最後の五行が素敵でした。

 花には罪はない。 か 花に罪はない。 か試しに推敲してみましたが、
リズムを切って余韻を残した前者の方が遣る瀬無い感じが……うーん。


 と、まあだらだらと書いてしまったのでたまには。

 職人のみなさあーーん!!!!  ぐッッッジョブでえーーす!!!!
 またの投下を!               お待ちしておりまーーーーす!

(↑とまあこんな風にすると、テンプレで注意されますね)
 職人の皆さん、投下乙でした。
288tear's in heaven ◆6Pgs2aAa4k :2007/10/20(土) 19:36:00 ID:???
 久し振りの非番だという事で、ぶらぶらと街を歩いてみる。
 プラント本国は直接的に戦闘に晒された訳ではないけれど、僅かだけど確かに戦争の爪痕に傷つけられている。
 例えば、シャッターに閉ざされた店の多い商店街。
 かつては活気のあって人々の笑い声が響いていた筈だけれども、今はひっそりと静寂に包まれている。
 仕方がないな、とも思うけれど、悲しいものがある。なんの為に戦ってきたのだろうか、などと考えてしまう。
 歩いて行くと公園に突き当たる。
たまにはのんびりするのも良いかな、と思って入ってみたら何かが俺の頭に当たった。
 地面には空き缶が転がっている。誰かが俺にぶつけたらしい。
 怒鳴ってみると、少女がおどおどしながら近付いて来る。
 少女は泣きべそ顔で俺に謝ってきた。聞けば、友達と缶けりをしていて、友達が蹴った缶が俺にぶつかってしまったらしい。
 鬼だった少女が代表として誤りにきたのだろう。
 そういう事ならば怒る訳にはいかない。俺はできる限りの優しい言葉で少女を慰めた。
 すると、また俺の頭に何かが当たった。今度はゴムボールだ。
 辺りを見回すと、少年がバットを振り回しながら俺に向かって来た。
 少年の言葉から察するに、少年は少女のお兄さんで、俺が少女を苛めて泣かせたと勘違いしているみたいだ。
 少年は少女を庇う様に立って俺を睨み付ける。俺の事が怖いのだろうか、肩を小刻みに震わせている。
「君、妹の事が好きかい?」
「愚図でのろまだけど……大切な妹だ! 苛めるんならぶん殴るからな!」
 少年は体を張って妹を守ろうとしている。
 では俺は? 俺は妹を守る事が出来なかった。

「ねえ、泣いているの? 眼が真っ赤だよ?」
 少女が少年を押し退けて俺にハンカチを渡してきた。
 目頭が熱くて、頬を何かが伝わっている。多分俺は泣いているのだろう。
 ハンカチを手に取ると涙を拭った。
 俺はハンカチを貸してくれたお礼にと、ジュースを奢って上げた。勿論、公園にいる子供達全員にだ。
 子供達は笑顔で俺にありがとう、とお礼を言ってくれた。
 子供達は優しく、明るい笑顔ですくすくと育っている様だ。
 俺はマユやステラ、そして死んでいった人々を守る事ができなかったけど、子供達の笑顔を守る事はできたらしい。
 それで良いじゃないか。
 財布が軽くなってしまったけれど、気分は清々しい。
 明るい未来が今確かに此所にあるのだから。
289 ◆6Pgs2aAa4k :2007/10/20(土) 19:39:13 ID:???
サブタイ入れ忘れ。
“laughin' kids”です。
290雑談所のひまじん:2007/10/20(土) 20:21:30 ID:???
 IRAが活動休止、ねえ。何を言っているんだか。
 血塗られた闘争の幕がそう簡単に降りるはずがない。
 アイルランドが飢饉で苦しんでる時にイギリスにいた地主達が何をしていたかはアンタだって知ってるだろう?
 そうだ。奴等はサロンで優雅にダンスを踊っていたのさ。
 自分達の領民が飢えでバタバタと死んでいってもお構いなしで、ダンスパーティーで女を口説いていたのさ。
 これは祖父さんがそのまた祖父さんから聞いた話だから、間違っちゃいないよ。
 その時にアイルランド人の遺伝子にジョンブルなんぞは大嫌いだって刻み込まれたのはアンタも知ってる筈の有名な話だ。
 だから、IRAは活動休止なんてしないよ。ホントに活動休止するんなら俺はローマ法皇にだってなってやるさ。
 上の方が何を考えているのか知らないけど、俺達末端の人間は止まらないよ。
 さしずめ、ブレーキの壊れた暴走機関車だからな。

 最近、ソレスタルビーイングなんて奴等が世間を賑わしているけど、それもどうだかな。
 紛争にチャチャ入れただけで終わるはずないだろうが。
 余所はどうだか知らんけど、此所は絶対に終わらんよ。
 歴史をちょっと勉強すりゃ誰だって解る事さ。和解と抗争の繰り返しだからな。
 もし、本当に止めたいんなら、 アイルランド人とイギリス人を皆殺しにするしかない。
 そんな事は誰にも出来ないよ。出来る奴がいたとしたら、そいつは大昔にドイツにいたチョビ髭の独裁者並の悪党だよ。
 まあ、馬鹿話は置いといて、だ。
 俺達の戦い方は普通の戦争とは違う。俺達はテロだから誰にも止められないのさ。
 テロは確かに悪い事だ。でも、止まる事は出来ない。
 俺達はそういうレールに乗っかってるのさ。
 レールから外れたら死、レールに乗っかっていても死なら、俺はレールに乗っかったままバッキンガム宮殿に突撃する事を選ぶさ。
 行き先はビッグ・ベンでも大英博物館でもロンドン橋だって良い。
 でも、パブだけは勘弁だ。スコッチを鱈腹飲んでしこたま酔っ払っちまうからな。
 イギリスは嫌いだけどスコッチだけは別だ。あの芳醇な薫りと味は他の酒とは違う。別格さ。
 イギリス人なんぞはビター……ギネスでも飲んでりゃいい。

 つまり、だ。俺は何を言いたいのかってえと、アイルランド万歳! イギリスは糞って事さ。
 アンタもそう思うだろ?
291雑談所のひまじん:2007/10/20(土) 20:24:43 ID:???
何をトチ狂ったのか謎短編投下。
全然ガンダムじゃないけど、ひまじんの暇潰しだと思って許して下さい。
本当にごめんなさい。
292通常の名無しさんの3倍:2007/10/20(土) 20:27:23 ID:???
いや、気持ちは痛いほど分かるから。
293通常の名無しさんの3倍:2007/10/20(土) 21:43:10 ID:???
>>288
涙腺に総攻撃を仕掛けられてちょっと今色々なってる俺参上。
GJ! 誤字が数箇所あって気に掛かったがやはり良い話を書きなさる。
やっぱね、兄は男は女を守らんとあかんですよね。

>>290
理解したるもの。そして、須らくそうであるべきもの。
まぁ、そうなんだよねぇorz そうなんだけど、そうじゃなくする為の作品でも在るんだとは思う。
ガンダムは子供向け、故にガンダムは少し希望とかを無理矢理でも見せない。
希望も未来も無い子供向け番組は嫌だからねぇ。けれど、此処は2chなのだから
こういう見方と作品も当然アリと思う。良い作品でした。GJ
294通常の名無しさんの3倍:2007/10/20(土) 21:48:46 ID:???
黒と白の御大もいる(いた?)んだしいいんじゃないんすか?
メストさんも所長もおもしろかったっす、GJだーよ
295通常の名無しさんの3倍:2007/10/20(土) 23:29:02 ID:???
>>tear's in heaven
 投下乙です。こんなシーンがあって欲しかった。涙腺が少し緩んでしまいました。
 GJ!

>>ひまじんさん
 まさかの投下乙です。何気に新人スレ二番目の00ss。
 アイルランド周りの事は学校の授業で少しやった位なので詳しく無いですが、
紛争の事がジョークに成る程恨みつらみが染み付いている、と感じました。
296通常の名無しさんの3倍:2007/10/20(土) 23:54:22 ID:???
>>これは祖父さんがそのまた祖父さんから聞いた話だから、間違っちゃいないよ。
おいw
297通常の名無しさんの3倍:2007/10/21(日) 15:12:17 ID:???
卒論がアイルランド紛争についてだった俺にはなかなか面白い話だった
298通常の名無しさんの3倍:2007/10/21(日) 20:05:44 ID:???
質問です。他スレでSSを投下していたのですが、そのスレが落ちてしまいました。
ですのでこちらに移動しようかと思うのですが、宜しいでしょうか?
299通常の名無しさんの3倍:2007/10/21(日) 20:14:31 ID:???
>>298
投下スレが無いなら良いのではないでしょうか。
>>1にも「投下先に困ってるSSもOK」とありますから。

では、お待ちしてますよ〜
300赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/10/21(日) 21:41:29 ID:???
「オマエももう立派な戦士として戦場に立てる年になった」
「……はい」

 黒光りするソレを掲げられながらも俺は押し黙ったまま小さく返事を返していく。
 目の前には血の染み付いた布を巻きつけたアサルトライフルが置かれる。
 俺にはまだ大き過ぎるソレを手に取りながらも天と大人たちを見上げていく。
 大人たちの瞳はよどみながらも静かな怒りと悲しみを込めながらも少年へとソレを託していく。

「聖戦に命捧ぐ時が来た。良いか? 我らが戦士は決して、捕まった後も命を惜しまない。
 銃が戦う為の剣ならコレは楽園への鍵だ。使い方は解っているな?」
「はい。ピンを抜いて、そのまま敵に突っ込みます」
「そうだ。決して命乞いなどするな。その先は楽園から堕落させる地獄しかない」
「質問を良いですか?」
「なんだ?」
「何故、すぐ散らねばならないのですか? 俺だったら隙を見て逃げ出すなりもっと多くの敵を――」

 ぱしんっと大きく肉と皮が叩かれる音が小さい聖堂の中で響き渡る。
 打たれた頬は赤くなりながらも痛みを首筋にまで伝えてくれる。痛い……凄く痛い。
 俺は泣かない。泣いたらまた怒られるし、戦士は泣かないからだ。そう、俺は戦士だ。
 神の為に戦い神の為に死に最後は神の楽園に召される……と言うことになっている。
 信じなければいけない。むしろ、信じなければ”やっていけない”。
301赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/10/21(日) 21:44:00 ID:???
「オマエはまだ子供だ。大人でも耐えられぬ責め苦を悪魔達はしてくる。
 否、たとえ死んだ後でもそれを成す魔物もおる。度し難いがそれが現実だ」
「……現実」
「昔、北の白い人間は全てを犯し、暴虐と略奪を繰り返してくる奴らが居た。
 男も女も老人も子供も関係なく殺され、犯され、奪われ、後には荒野しか残らない」
「東の人革連の連中もそうだ。あいつらは宗教を毒と切り捨て、全てを金でしか見ない。
 金と快楽で人を堕落させていく正に悪魔だ。あいつらの甘い言葉に飲まれる位なら死んだ方が良い」
「西の連中も大して変わらない。金と兵隊を送り込み、我々に武器と力をつけた後
 全てを放置し、爆撃の雨を降らせて家も家族も焼き払ってしまう」
「昔のニホンと言う国の連中は良い奴も居たが、あいつらも悪魔達には頭が上がらない。
 所詮、悪魔達の使いぱしりに過ぎない」

 大人達は次々と絶望を口にしながらも誰一人として諦めた目をしていなかった。
 否、諦める事は即ち死を意味している。実際に”諦めて死んでしまった奴”を大勢見ている。
 そう、此処は真ん中だ。混沌と悲劇の真ん中なのだ。誰も助けない。誰も許してくれない。
 誰も救ってくれない。誰も見てくれない。そんな場所だ。誰も彼もテレビの画面越しでしか見ない。
 俺は顔を上げて大人たちをまっすぐに見詰め返していく。

「じゃあ、誰を信じたら良いんですか?」
「我々の神以外を信じるな」

     ”じゃあ、神を信じられない俺は一体何を信じれば良いんだ?”

          『Boy of complex possession』
302赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/10/21(日) 21:45:25 ID:???
 俺はソレイタルビーンズと言う組織に居る。世界を変える為、ガンダムマイスターと名乗り
 ガンダムと言うMSに乗ってあらゆる紛争地域に武力介入するミッションを担っている。
 ……さて、此処で問題があるのだ。由々しき問題だ。残念ながら、コレがあって俺は
 ”無口”だの”影が薄い”だの”何考えてるか解らない”だの”子供”だの言われている。
 そう、つまり
          ”周りに白人と人革連の国の奴しか居ない!”

 神様、居ないとか信じないなんて言ってごめんなさい。今すぐ俺の前に来て助けてくれ……いや、助けて下さい。
 どうしたら良いか解りません。ええ、ちゃんと経緯はあります。実際に色々覚悟をして来ました。
 世界の為、戦争の根絶の為、あらゆる人類に憎まれようとも、志の為に命を散らしても良いと思ってました。
 ただ、現実と言うのはかくも厳しい。大人達に信用するな、着いていく位なら死ねといわれる人達に囲まれている。
 あの地域出身の人間は俺だけだ。ええ、しかも彼ら以外素性を明かせずに居るなんて……地獄だ。
 おまけに

               ”こいつら何を言ってるかさっぱり解らない!”

 そんな早くしゃべらないでくれ。と言うか、訛りがきつ過ぎて本気で一つの言語を喋っているのか解らない。
 おまけに、相手によって中国語からスペイン語とか色々変えてくるし、何でこんなにすらすらと言葉が切り替えられるのだろうか?
 ハッキリ言う。俺は紛争地域の生まれだ。故に学は無い。聖典の暗唱は小さい頃からやらされていたが
 自分の話しているアラビア言語を書けない。と言うか、算数の足し引き算も3桁までがギリギリだし
 掛け算の”九九”という奴なんて出来る訳が無い。そもそも、そういう知識と環境で幼少を過ごしてきたんだ。
 操縦に関しても色々とやり方は教わっているがどういう仕組みで動くとか解らないし
 ペダルとかハンドルとか単語を覚えるのも大変だった。ぶっちゃけると何個か解らないボタンもある。
 取り合えず、体の反応とか反射と刷り込みで骨に叩き込んで何時も操縦している。

「ぺらぺー。ぺらぺーーらーーーぺらぺらぺらららコーラサワーラらら。ぺらーららぺっらーースペシャルぺらぺら!
【意訳:貴様。俺が誰だか分かってんのか?AEUのパトリック・コーラサワーだ。模擬戦でも負け知らずのスペシャル様なんだよ!】」
「(何言ってるんだ? コーラがどうしたんだ? スペシャルって何だ? 特別なコーラ? オマエ、俺の知ってる言語で話せ!)」

 こんな感じで何時も何言ってるか殆ど解らない事が多いんだよな。うん、頭の中で単語を並べ替えるだけで次の言葉を吐かれる。
 本当は回線で言われた事とかも報告しなくちゃいけないんですが、いつもテープレコーダーを提出するだけで
 口頭では言ってない。いや、正直聞き取れていないので言えないんだ。おかげで喋るのが嫌いだと思われている。
 いや、俺だってちゃんと話したいんだ……無論、言語が通じればの話。母国語が通じる人が傍に少ないんだよ!
303赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/10/21(日) 21:46:54 ID:???
「セカンドフェイズ」
「終了だ」

 さっきも何か任務の為混戦していると味方に狙撃された。避けたのは良かったんですが普通に俺に当たる可能性もあるよな?
 俺、嫌われてるのかな? この前、ハロを撫でてたのが不味かったのだろうか。あの時、すぐにハロは逃げてしまった。
 一寸悲しかった。だけど、俺は戦士……泣かない、泣かないんだ! ううっ、思い出すだけで視界が霞む。
 ハロをロックオンは大事にしていたし、まさか嫉妬? いや、機械相手にと思いたいがひょっとして肌の色の偏見か?
 不浄な人間が触るなとか思われてるんじゃないだろうか。ああ、ありえるな。普通にありえる。
 人革連の国の一つに飯を食う左右の手の違いで不浄だと言う連中も居ると聞いた。
 そもそも、何かを撫でると言う行為自体が習慣的に行けないんじゃないかと思っている。ああ、やっちゃったのか俺!?

「ハレルヤ! ぺらぺーらぺらぺー【意訳:世界の悪意が透けて見えるぜ】」

 後、コイツのセリフを聞くたびに実は内心結構ビクビクしている。だって、さ?
 仮に俺が行き成り”我らが神の祝福があらんことを”とか言ったら場が凍る。絶対凍る。断言する。
 宗教宗派の違いや諍いの歴史もあるだろうし、そういう言葉って気を使って言わない様にしてたのにコイツは所構わず言う。
 俺さ。”ハレルヤ!ハレルヤ!”言いながら同い年のガキや女を殺す奴とか普通に見てるんだけど如何したら良いんだろ。
 次は俺ってことなのかな? そうなのかな? やっぱ何時か殺られるのかな俺?
 後、普通に眼鏡の人にはそんな殺気を時々感じる。正直、ソレイタルビーンズに俺の居場所はエクシアの中以外ない。

「スメラギ・李・ノリエガの戦況予測通りに各自対応する。それなりの戦果を期待しているのでヨロシク」
「それなりにね」
「俺は徹底的にやらせてもらう」
「お好きに・・・おい聞いているか刹那 返事しろ」
「(早く終わらせる早く終わらせる早く終わらせる! 何かされる前に早く終わらせるんだ!)」

 俺は今日も何かを振り切る様に戦場へと自分から突っ込んでいる毎日です。いつもこんな感じです。
 そんな訳で俺は俺は少数精鋭の任務をやっているんだけど、かなり空気を悪くしていると言うか馴染めてない自覚あります。
 けど、俺頑張るから! 凄く頑張るから! だから、これからもガンダムOO(ダブルオー)と俺をよろしくお願いします。

PS:それと、主人公なのに台詞少なくてゴメンナサイ。もっと、言葉が話せる様に頑張るから!
   これからは少しずつ増やしてもらう様にしますから!
304赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/10/21(日) 21:49:47 ID:???
なにやら電波を感じたのでよく解らないSS(コレってSSなのだろうか?)を投下。
刹那って「何で台詞少ないんだろう?」とか「何で空気悪くして突貫し出すだろう?」とか考えた結果私だとこういう解釈になりました。
では、スレ汚し失礼しました。ほんとにorz
305通常の名無しさんの3倍:2007/10/21(日) 21:58:33 ID:???
ちょwwwwwwwかなり納得wwwwwwwww
306通常の名無しさんの3倍:2007/10/21(日) 22:49:07 ID:???
>>303
バベルを感じましたw乙です。
307通常の名無しさんの3倍:2007/10/21(日) 23:25:34 ID:???
>>ぶっちゃけ何個かわからないボタンもある

 おいおいwwワロタ。
308通常の名無しさんの3倍:2007/10/21(日) 23:51:32 ID:???
セツナ(漢字でなんか書いてやらん!)素敵に頭悪い子www

無口や口下手はこういう内心ぼやき系が似合うね!
309通常の名無しさんの3倍:2007/10/22(月) 07:22:14 ID:???
特別なコーラw投下乙
310通常の名無しさんの3倍:2007/10/22(月) 12:11:45 ID:???
>>素晴らしき世界
投下乙
一時期はSSでは標準的であったとも言えるいわゆる『ヘイト』な感じを下敷きにして
それだけでは終わらせない。微妙な読後感もなかなか良い

正直2レス目でもっとシンを心情的に迷わせても良いような気がする
それが足りないので上の人のような『独善的なシン』に見えるのではないかと

>>lunatic
投下乙
固有名詞を出さずに登場人物の紹介をするあたり
あんたの何時のも手法ではあるのだがお見事

但し今回は『lunatic』の部分が少し足らないと思う
だが過去のlunaticを全面に押し出すとなると、これは違うか・・・

>>tear's in heaven
そして『lunatic』の作者でありながらこういった『普通の感覚』のものが書けてしまうのが
あんたの引き出しの広さを物語る
少年と主人公の対比もお約束だがむしろそれが良い

>>ひまじん
投下乙
せっかく投下する作品だから題名を付けてはどうか? 謎短編と言う程謎ではないと思うがw
西暦な世界観だからこそ、そのまま成り立つのだな。一人称の短い話としては良い出来だと思う
ソレスタルビーイングの文字が無ければガンダムかどうか微妙な気もするが、まぁそれはそれ
卑下する必要はない。今後の投下も期待する
個人的には国家間の微妙な話をネタにするのは好まないがOO自体がネタにしているのでまぁいいのだろう
IRAに対する考え方には非常に同意するが、さりとて、ねぇ

>>Boy of complex possession
投下乙
まだ3話目終了の情報の少ない状態でキチンとオチまで抑えてある。お見事

きっと後半の文章があんたの地の文なのだと思う。今までで一番書きやすそうに見える
1−2レス分の前提があってこその3−4レスであるのはわかるが、前段はもう少し圧縮した方が良い
説明臭くなると後半に被OOあるための勢いが削がれてしまって勿体ない

311週刊新人スレ:2007/10/22(月) 18:51:28 ID:???
秋の夜長に短編特集 目次

倒された独裁者達と、独裁者を倒した青年。だが青年の思いは救世とは違う方向を向き……。
素晴らしき世界
>>267-268

花々が種々に咲き誇る慰霊碑の前。彼女は忘れてしまいたい思い出を、決して忘れぬように反芻する。
lunatic love
>>272

非番の日。公園に立ち寄った彼の財布には、清々しい気分と共にささやかな災厄が降りかかる。
tear's in heaven
>>288

IRAが活動休止、ねえ。何を言っているんだか……。短編ブーム此処にきわまれり。遂に雑談所所長までもが参戦!
無題
>>290

全ての紛争を武力で圧倒するガンダムマイスター、刹那・F・セイエイ。だが彼の悩みは意外な所に……!
Boy of complex possession
>>300-303

 新人職人必読、新人スレよゐこのお約束。熟読すればキミも今日からベテラン職人だ!!
巻頭特集【テンプレート】>>1-6
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お知らせ
・投下作品とのリンクを問わず絵師の方を募集中です。 エロはアウト、お色気はおk。これくらいのさじ加減で一つ。
 素材は新シャアなので一応ガンダム縛り。勿論新人スレですので絵師、造形職人さんも新人の方大歓迎です。

・当方は単行本編集部こと、まとめサイトとは一切の関係がありません。
単行本編集部にご用の方は当スレにお越しの上【まとめサイトの中の人】とお声掛け下さい。
・また雑談所とも一切の関係はありません。当該サイトで【所長】とお声掛けの程を。
・スレ立ては450kBをオーバーした時点でお願いします。

編集後記
各所でSSスレが落ちている様子。大規模移民が始まりまるんでしょうかねぇ。
勢いだけのネタスレに圧倒されて種系SSスレが落ちていくのには怒りのようなものさえ感じる所ではありますが
さりとて、種死の時も幾多のネタスレがそうしてキャラ萌えスレに駆逐されていった訳で、時代は繰り返す、と。
勿論職人さん方が移籍していらっしゃるのは個人的には大歓迎ですよん。ではまた来週。
312hate and war ◆6Pgs2aAa4k :2007/10/22(月) 22:47:10 ID:???
“Chinese rock”

 せっかく声掛けて貰ったけど悪いね。
 最近ブツが全然流れて来ねえんだ。流れて来たって混ざり物ばっかの粗悪品さ。
 上客のアンタにゃクズみたいなシロモノは売れねえよ。俺は常連さんにゃあ品質を補償するのがモットーだからね。
 嘘じゃないって。俺はアンタにゃ混ざり物なしのとびきり上等のブツしか売った事しかねえだろ?
 だからアンタだってこの街に腐る程いるバイヤーの中から俺を選んでくれてるんだろ。
 俺だってブツがあれば売りたいさ。今は品薄だから高値で流せて儲けられるからな。
 ああ、勿論アンタにだったら値段は勉強させて貰うよ。取引は信頼関係だからね。

 大きな声じゃ言えないけどね、この品薄状態の原因は例のアレらしいぜ?
 いや、そうじゃない。マフィアの抗争なんかじゃないよ。
 えーと、なんだっけ?そうそう、アレだよ。ソレなんとかビーとか言う奴等だよ。
 ひでえ事に畑を焼き払っちまったんだとさ。
 何を考えてるのかは知らねえけど、ひでえ事をする奴等だよ。
 善良なお百姓さんは職を失ってプー太郎になっちまったてぇ話さ。
 そんな訳で全体的にブツが不足してるって訳さ。全く商売上がったりだよ。
 まあね、ソレなんとかはテメエらの都合しか考えてねえ訳よ。
 俺らの商売の邪魔をして、アンタみたいなまっとうな市民を苦しめるんだからね。
 紛争に介入ってのもアレだよ。傍迷惑な話じゃない?
 アンタも何年か前にあったマフィアの抗争を知ってるだろ。
 あん時は横から別のファミリーにチャチャ入れられて泥沼になっちまったってのはこの街の住人なら誰でも知って有名な話だ。
 だから世界が泥沼になるんじゃね?グタグダのバターかも知れないけどね。
 まあ、随分と話が長くなっちまったけど、俺が言いたいのはアンタに売るブツはねえって事さ。悪いけど余所を当たってくれ。
 なに? 俺がやる為のブツがある筈だからそれを寄越せって?
 冗談キツいぜ、セニョール。こいつは俺が駆けずり回って手に入れた俺専用のだから駄目だ。売れねえよ。

 おい、なにやってんだよ。そんな物騒なものはしまってくれよ。
 拳銃なんて取り出してどうする気だ?
313 ◆6Pgs2aAa4k :2007/10/22(月) 22:48:42 ID:???
投下終了。
ちょっと今回は血迷い過ぎたかも。
314通常の名無しさんの3倍:2007/10/23(火) 01:33:48 ID:???
>>302
>俺はソレスタルビーンズという組織に〜

ソレスタルビーンズについてkwsk
315通常の名無しさんの3倍:2007/10/23(火) 01:38:06 ID:???
>>314
待て待て、赤頭巾氏が書いているのは
『ソレイタルビーンズ』だ!
316通常の名無しさんの3倍:2007/10/23(火) 01:40:30 ID:???
>>313
投稿、お疲れ様です。
読ませて頂いた限りはGJ!な作品です。

ガンダム00でなくても書ける所がご本人様も言われるように「血迷った」部分かも。
第3話の畑が燃えるシーンでの事と思いますが・・・
「燃えたよ、マフィアざまーみろ。俺達をむりやり働かせた罰だ」
系のほうがガンダム00マンセーぽくて良かったかもしれませんね。
317通常の名無しさんの3倍:2007/10/23(火) 22:19:00 ID:???
そろそろ容量がやばくなってきたがそんなの関係ねえ、緊急浮上だ














































職人さん、いらっしゃ〜い
318通常の名無しさんの3倍:2007/10/24(水) 20:00:27 ID:???
>>hate
投下乙
えらくすさんだ感じでなかなか良い
ただ最後の2行はあんたにしては直接的すぎると感じる
もっと思わせぶりな感じで終わっても良い気がするがそれは好みの範疇か

所長の時にも書いたが
ソレスタル・ビーイングの文字がないとなんの話だか危うい気がする
勿論今の所、使える情報だって少ないのだが
319ある一兵士の話 ◆dCLBhY7WZQ :2007/10/24(水) 21:08:23 ID:???


チャット借りてるだけじゃね。適当に書いてみた。さあ、叩いてくれ。




やれやれ、今日も戦争ご苦労なこった。
俺は一人のしがないおっさんだよ、ただしパイロットだけどな。
俺の機体は可変機なんだぜ、かっこいいだろ。ゲームとか漫画の中にしかないと思ってた時期も俺にもあったさ。
でも、現実になってる。世の中進むねえ。
今日の命令は都市部で敵を引きつけろ、最悪そこで戦闘やるんだと。
民間人巻き込む気かよ、上層部!つっても、俺ら末端は従うしかないわけで。
家にゃジジイとババアとカカアとガキ二匹飼ってんだ。全員養うためには金がいる。
徴兵されて、一定期間終わったら帰してもらえるかと思ったら、パイロットの適性があるからって言葉に釣られちまった。
もう他の生き方なんてできなくなっちまった。まあ、そのお陰で嫁さん貰えたんだけどよ。
前線の環境なんて劣悪だぞ、ったく。ロクに寝られもしねえ、起きたら起きたで暇なときは訓練、そうでなきゃタマの遣り取りだ。
けどまあ、愛する家族のためさ、このくらいは我慢してやる。
帰ったらバカ息子の頭撫でて、嫁さんによく似た娘に頬擦りしてやろう。
この間やったら、髭がちくちくしてたのかわんわん泣いちまったな。今度はちゃんと髭を剃ろう。
そんでもって、嫁さんをしっかり抱き締めて安心させてやらにゃ。毎度泣きそうな顔するんだよなあ。
さてと、行かなきゃならないらしい。出撃!

ちょ、ちょっと待て!ありゃなんだ!?
ありゃソレスタルビーイングとかいう連中の機体か、おい!
あんなの出てくるなんて話、聞いてねえぞ!別のところだって言ってただろうが!
ってジョニー!あの野郎、俺の戦友殺しやがったな!
くそっ、俺は帰らなきゃならねえんだよ!テメーらに殺されてやる義務なんか持ち合わせてねえんだ!
あれだろうが、ソレスタルビーイングって天上世界の存在とかいう、すんげえ他人見下したような名前の組織だろ?
ソレスタルなんか知らねえよ!一番音が似てるセレスティアルってことにしただけだ!俺には学なんかねえんだ、俺にはこれしかできねえんだよ!
やめろ、やめてくれ!俺は……!
320通常の名無しさんの3倍:2007/10/24(水) 21:47:09 ID:???
>ある一兵士の話
叩いてくれって言うなら何でゴメンの一つもでないんだ?それぐらいできるだろうが
投下してくれるのはかまわんよ、むしろいくらでも投下したっていいと思う
ただチャットの場合はあんたの言動とモラルに非があるとしか思えない、コテトリスレだってあったわけだし
まあ俺はこのSSがつまらないとは思わないがね、ほかのSSはしらないし
とりあえず投下乙、きつい言い方になっちまってすまない
321 ◆dCLBhY7WZQ :2007/10/24(水) 21:53:56 ID:???
申し訳ない。
どうも気が立ってたらしい。
一応負い目は感じてるんだ。勝手に使ってるわけだし。
昨日、我慢の限界に達した人と話をしたよ。わかってるんだ、その辺。
だから、何もしないのはまずいと思った。
んで、負い目が結局「叩いてくれ」になってしまった。

俺の背景説明は終わり。自分に言おう、言い訳乙。
そして、本当に申し訳ない。
322通常の名無しさんの3倍:2007/10/24(水) 21:59:59 ID:???
職人諸氏投下乙。

>>tear'sその他
アンタの引き出しは幾つあるんだろうな。その多芸さは称賛に値する。
誤字に気をつけてくれれば何一ついう事はない。
一言で言えばChinese rockのサブタイがツボ。

>>ひまじん
場末の酒場でウダウダやってる感が滲み出ていて面白い。
初投下だという事だが、上手くまとめられといると思う。
一言で言えば結構上手いな、だ。

>>赤頭巾
トロワスレを思い出してしまった。一言で言えば、ふいた。

>>一兵士
このスレに投下したと言うティテュードだけは称賛する。
一言で言えば消化不良、だな。片手間で書きました、という様に思える。

更なる精進を期待する。
323煉獄のディアーナ ◆RCxB8cLzXM :2007/10/24(水) 22:16:49 ID:???
 朝靄に似ている。
 確かなものに触れたくて精一杯手を広げるけれど、何かを掴んだと思った瞬間には
指の間からするりと零れ落ちてゆく。もがけばもがく程に心が、体が乾いてゆく。
 全てが終わった。残されたのは汗ばむ肌と火照った体。心地良い疲労感に浸る事も
余韻に浸る事も出来ずに、私はシンの温もりが微かに残るベッドから抜け出した。
 乱れ髪、虚ろな瞳、首筋に刻まれた赤い刻印。
 女の子なら誰だってしている事だ。ラクス・クラインだって、カガリ・ユラ・アスハだって。
メイリンならお手の物だろう。彼女達は女としての幸せを享受している筈だ。
 けれど私には体を覆い尽くす程の虚しさしか残されていなかった。澱のように体に
まとわりついて来る不快感に、私は眉を顰めて舌打ちをした。こんな筈じゃ無かったのに。
 私は涙を堪えつつバスルームへと向かった。何もかも洗い流したくて仕方無かった。
 不意に洗面所の鏡が視界に入った。目の下に酷い隈が出来ていて、頬はすっかり痩けていて、
眉間には皺が深く刻まれていて――こんなの私じゃない。
 私はザフトの赤服で、スタイルや顔はそこそこ良くて、男の子には不自由してない、
そんな感じの女の子なのだ。 私の本当の姿を映さない鏡が恨めしくて、何より私自身が許せなくて力任せに鏡を叩いた。
 ぱりん。
 鏡に罅が一筋入った。
 見たくないものは壊してしまえばいい。何かに急かされるように私は鏡を叩き続けた。
 私の中で何かが弾ける。大声を上げて笑い始めた頃には鏡は何も映せなくなっていた。
 腕に血の筋が走る。私は舌で丁寧に舐め上げた。女は毎月血を流すのだ。こんな事には慣れている。
 バスルームに入ると私はシャワーを浴び始めた。心地よい熱さが気持ち良い。体にへばり
ついていたシンの残滓がすっかり消え失せるまで私はシャワーを延々と浴び続けた。
 悲しくなんかない。私は幸せ。私は幸せ。私は幸せ。メイリンよりも、ラクス・クラインよりも
幸せ。
 私を満足させる事は出来なかったけれど、利用価値のある男は私の掌中にある。
 メイリンのと比べると若干落ちるのは仕方無い。あの子は天秤計り。勝ち馬に乗る事だけは巧いのだ。
 ただ、私はあの娘とは違う。私はあの娘みたいに男には依存なんてしない。支配し
自分の思うように動かすのだ。私にはその才能がある筈だ。
 バスルームの鏡は自信に満ち溢れた私の本当の姿を映していた。
324通常の名無しさんの3倍:2007/10/24(水) 22:17:32 ID:???
>>321
何でも良いから空気を読んでくれ。
アンタの背景なんぞ知ったこっちゃない。
SSに関しては、所長やメストさんのブートレグ?みたいな感じ。

>>アティーさん
アが抜けてますよー
325煉獄のディアーナ ◆RCxB8cLzXM :2007/10/24(水) 22:20:54 ID:???
ここでは初投下の職人です。
嫁のアイデアを拝借した三次SSですが(勿論許可済)、
短編連作の形で色々と書いて行こうと思っています。
不束者ですが、宜しくお願いします。
326通常の名無しさんの3倍:2007/10/25(木) 02:55:19 ID:???
>>319
ROM専から、ちと言わせてくれ。
全体的に雑に見えた。それと前半のチャット〜の部分は削るなり分けるなりした方がいい。自分はそれで一旦読むのをやめた。
あとは、基本を学んだ方がいいか。!や?の後には空白を入れるとか。
これは人にもよるが毎段落の空白空けも必要な気がする。ぶっちゃけ読みにくい。一部では物書きの基本中の基本となっているので気をつけよう。
ついでに私見だが、後半部分に!が随分多用されているのが気になる。

ともあれ、投下乙。とにかく敵は作らないように。いろんな意味で難攻不落の新人スレで通っているからな。

>>323
これは女難スレのあれではないですか。冒頭の一行で気がついた。
自分では欠点が見つからない。乙。
327通常の名無しさんの3倍:2007/10/25(木) 12:39:07 ID:???
夏休み投下組はどした?
328通常の名無しさんの3倍:2007/10/25(木) 13:01:34 ID:???
冬休みに投下するんでしょ
329SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg
今日二十時に投下しますね。