もしも、CCAアムロが種・種死の世界にいたら12

このエントリーをはてなブックマークに追加
86998 ◆TSElPlu4zM
「そうか。覚悟はいいな?」
「はい。……お願いします」

 静かにアムロが聞き返すと、キラは頷いて奥歯に力を込めた。そして次の瞬間、ブリッジに殴る音が響いた。

「アークエンジェルが生き残れるかどうかは、ストライクの働きが大きく関わっている。生き残るつもりがあるのなら、どんな状況だろうと気を抜くな!」
「済みませんでしたっ!」

 アムロの怒声が飛ぶと、キラは腹の底から声を出して頭を下げた。
 ゆっくりと頭を上げたキラは、再び目をアムロへと向けると、既に顔から険しい物が消えている事に気付いた。その顔付きから、殴りたくて殴った訳では無い事が痛いくらい理解出来た。
 そしてもう一つ、ある事に気付く。全員の目が自分に向いていた事だ。
 キラはバツが悪そうに顔を背けるが、アムロがその肩を優しく叩くと、全員に向かって口を開いた。

「騒がせてしまって済まなかった」
「……済みませんでした」
「……次は気をつけてね。みんな、気を引き締めて行きましょう!」

 アムロに続き、謝罪をしたキラにマリューが優しい表情を向けると、そのまま全員に呼び掛けた。すると、その声に応じ、クルー達は表情を引き締め「了解」と言って、それぞれの持ち場へと戻って行く。

「キラ、冷やしてこい」
「いいえ。先にストライクの調整をしなくちゃいけないですから、後からでいいです」

 口元を冷やす様にアムロが促すが、修正を受けたばかりのキラは生真面目に自分のするべき事を優先する。
 その二人の遣り取りを見ていたナタルが歩み寄り、ハンカチを差し出した。

「……ヤマト少尉、これを使え」
「えっ!? でも……」
「口元に血を残しておく訳にはいかないからな。気にせずに使うと良い」

 笑みこそ浮かべはしないが、ナタルの口調は姉の様に限りなく優しかった。

「……バジルール中尉、ありがとうございます」

 キラはハンカチを受け取ると口元に当て、ストライクの調整の為に格納庫へと向かって行く。
 少しずつ強く大きくなって行く少年その背中を、大人達は温かく見守るのだった。