修羅の襲撃に遭っちゃうじゃないかwww
4 :
93:2007/08/01(水) 02:44:58 ID:???
>>1乙&ビアンSEEDおもすれー!!
自分の文才の無さを痛感……
「どうだ?ここまでたどり着けそうか?」
ネオ・ノアロークはブリッジ正面のモニターに映るスティングに若干の心配をこめた声で言った。
この顔の上半分を仮面で覆った男が彼らの上司であり、この地球連合軍第81独立機動群、通称『ファントムペイン』の指揮官でもある。
彼らの母艦であるこの『ガディー・ルー』は情報収集を重視して建造された特殊な艦である。
最新艦故、それなりの火力は有してはいるが、相手に真正面から挑むようなマネはあまりできない。
そのため、奪取した三機のG型を強引に回収するわけにもいかず、こうしてアーモリーワンのレーダー圏外ギリギリに身を隠しているのである。
「正直、心もとないな。アウルの機体の損傷が激しい。追撃されたら俺達だけじゃ捌ききれないぞ」
「ま、機体のことに関しちゃ、別に心配はしていないさ、三機全部手に入っただけでも百二十点満点なんだ。一機くらい乗り捨てても別にかまわんだろう」
ネオは軍人としては言ってはならないようなコトを平然と言っている。
それでもスティングはこの結果に怒りを抑え切れなかった。確かに作戦にイレギュラーが多すぎた。
確認されていない二機のMS、そしてそれらを操るパイロット……しかし、作戦に想定外の事態が起こることは半ば当然のことである。対応できなかった自分達、そして現場を指揮していた自分自身のミスである。
そんなスティングの心情を読み取ったのか、仮面の男は口元を緩ませた。
「そんな顔をするなよ、誰もお前を責めたりしないさ。悪いのはソースに対し何の裏付けもせずに齧り付いたアチラさんの方なんだからな」
ネオは艦長席に座る男のほうに顔を向けた。
「リー!!『アレ』の起動状況は?」
「出力調整に手間取っていますが、短時間の起動には支障は無いそうです」
「よし上出来だ。スティング、お前らはそのまま『ガディー・ルー』に直行しろ、尻拭いはこっちでやっておくさ」
そう言うが早いかネオはその長身を軽やかに翻すとハンガーに向う。その仕草はまるで新しい玩具を自慢するようである
そう、彼は実際に新しい玩具を自慢しに行くのだ。
『彼等』から与えられた玩具を……
5 :
93:2007/08/01(水) 02:51:14 ID:???
「申し訳ありません、三機とも取り逃がしてしまいました」
「それについては、此方側の警戒の甘さが原因なのだ。パイロットである君だけが負うではない。
既に周辺から追撃部隊が出ている、後は彼らに任せて一度帰還したまえ」
申し訳なさそうに頭を下げる青年に対し、フォローを入れると通信を切る。
「彼には厄介な役を押し付けてしまったかな?」
部屋の隅のソファーに座るデュランダルは、デスクに座ったレーツェルに訪ねた。
「新兵のフォローは兵士が必ず通らなければならない道だ。
それに先程に彼に言った通り、此度の事態は我等の危機管理能力に問題があったのだ。彼もそのことを理解しているだろう」
そう、全ての問題はザフト全軍の危機管理の無さにある。辺境とはいえ、このアーモリーワンはプラント圏内、しかも軍事基地まで存在しているコロニーだ。
そのコロニーにあろうことか襲撃まで受け、しかも最新のMSまで強奪されたのだ。油断のしすぎも良いところである。
「民兵上がりの自衛組織とはいえ、これは少々深刻だな……ところで諸君各セクションの報告と行こう」
思考を中断させ、部屋を見渡す、ここはデュランダルと教導隊が会議を行なう『部屋』である。厳密には部屋ではないのだが、この場所は教導隊とザフトでもデュランダル他数名しか存在を知らない密談にはもってこいの場なのだ。
「シン・アスカのインパルス、及び僚機のザクはミネルバに帰還した。既に修理とデータの処理および解析を開始している……」
部屋の中央で腕を組んで立っているゼンガーは無表情のまま現在の彼らの状況を端的に報告した。
「これで、『インパルス』システムのシルエット換装機能は完成に近い状態。ということかね?
「左様……」
デュランダルの問いにゼンガーは静かに頷いた。
「次は先程保護したオーブの使者の件だが、こちらに面会を求めている。」
壁に寄りかかったままの長い紫の髪の男が続けて口を開いた。
「恐らく、先程の事件についても情報を求めてくるだろう。恐らく例の事件との関連性も」
「『オーブ議事堂爆破事件』か……」
レーツェルは静かに呟いた。
「そうだ。あの事件でオーブは多くの人的被害を被った、ただでさえ親連合派の力が強くなりつつあったところにテロ事件、
中立を守りたい代表としては此度の会談をなんとしても成功させたかったのだろう」
現在のオーブの状況は実に不安定なものになってきている。先の大戦により疲弊したかの国は戦後、連合による干渉を強く受けていた。
そのため、オーブ政府内の親連合派の影響が強くなっているのである。
「そして現在における最大の問題は……」
「三機の強奪された『G』型だな。もうそろそろ追撃隊から報告が上がるはずだが……」
デュランダルの声は突如室内に入ってきた男によって中断された。
「カイ少佐……」
「おいおい、今の俺は『少佐』じゃないぞ。それより、まずいことになった」
入室してきた日系の中年らしき男、カイ・キタムラはデュランダルの方に向き直すと手にしたレポートらしき紙を読み上げた。
「追撃隊が敵部隊と接触、交戦……全滅した模様です」
6 :
93:2007/08/01(水) 02:56:47 ID:???
カイの報告にしばしデュランダルは拳で口元を隠したまま無言なり
「……不味いな」
たった一言呟いた。
「敵の数は?」
「確認されたのは一機だけだ。それも『今まで確認されたことの無い機種』だったそうだ」
その一言でこの場に居た全員が緊張の面持ちになった。追撃隊には各コロニーからザクファントム等の最新鋭機18機とナスカ級を当たらせたはずだ。いくら『G』型といえど短時間で全滅させることは不可能に近い。ともすれば……
「奴らが……行動を始めた様だな」
ギリアムが苦虫をかみ締めたような顔をする。先手は取られてしまった。しかも強力な一撃……巻き返すにもこちらの準備は未だに整っていない。パイロット、機体共に
「少しプランのスケジュールを早めねばならないようだね」
そう言うとデュランダルは静かに立ち上がると彼等の顔を見渡した。
「ミネルバを発進させよう、現状で追いつく可能性のあるのはあの艦だけだ、それに、彼らばかりに美味しくされるのも癪だ。
そろそろ反撃と行こうじゃないか?」
デュランダルはそう言うと『艦長室』を退出した。
「ミネルバを発進させる!ホントなの!?」
ルナマリアは驚いた様子でレイを見返す。
「ああ。どうやら追撃隊は全滅したらしい。この付近に残った戦力で奴らに追いつけるのは……」
「俺たちだけ。ってことか」
レイのことばをシンが引き継ぐ。どうやら相当頭にきているようだ……
いや、シンだけではない。この場にいる殆どのクルーは先程の襲撃に対するリベンジマッチを望んでいるのだ。
「今度こそ『コイツ』で……」
シンは自らの愛機が背負っている巨大な鉄の棒状の武器を見上げた。そう、コイツがあれば、どんな奴にだって負けはしない!!
「満足するな、シン・アスカ!!いくら先の戦闘で『後の先』を見極めたとしても、次に通用するとは限らん!!」
高揚するシンの心の内を見透かしたように、強烈な威圧感を伴った声が格納庫に響き渡る。瀑布の如きその声を聞いた時、
シンの心に芽生えていた慢心の二文字は綺麗さっぱりに吹き飛ばされてしまった。
「教官……」
「今回の敵はただ機体に対し不慣れだったため優位に立てたかもしれん。しかし、次に立ち塞がる奴は先の戦いと同じ動きをするとは限らんのだ。」
先程とは違い小さく、だが威圧感はそのままでゼンガーは続ける。
「ミネルバは直ぐにアーモリーワンを離れる。それまでに、今までのモーションパターンを纏めて応用を利かせておけ。でなければ、今後の戦いを生き抜けることは適わん」
それだけ言うと、シンたちに背を向け歩き出した。去り際、
「『後の先』見せてもらった。次に稽古を付ける時は。覚悟しておけ」
その言葉を聴いたシンは『あの日』以来の達成感を感じた気がした。しかし、その感情は文字通り一瞬であった……
『あの日』の悪夢の象徴が目に留まったからだ。
忌まわしき『アスハ』の姿が
ひょー、新スレ早々投下ギリアムイェーガー
叱れる大人がいるとやっぱ違うな。親分見事なムチと微アメ。
ウィンキースパロボの敵は鬼だったからなあ
二次でアフロダインだけでミサイル背負った黄色いMS七機相手する羽目になったり、
四次栄光の落日で戦艦含めた残り三機でマップを逃げまわりながらようやくクリアしたり、
オルドナ・ポセイダルでHP万オーバーの増援十機以上が複数回来たり……
今となっては良い思いでです
あの頃みたいな敵味方共に落ちて当たり前な歯応えのあるスパロボがまたやりたいね
D〜Wで敵の改造度MAXの状態と比べてどうなん?>ウィンキー時代
比べられるモンでもないな。
今のスパロボで改造マックスだと敵も味方もあっさり落ちすぎるしな。
昔のはもっと展開がゆっくりと言うか、敵味方の戦力が上手く吊りあってるかんじだった。
第三次最終面ネオグランゾンは、イジメレベルだったが。
>>10 ネオグランゾンは味方?敵?
EX以上の性能になったり……
第四次ならバットエンドだが戦える、鬼のような強さだったなぁ。
俺も思い出すなあ
縮退砲の唯一攻撃力10000越えに盛大に吹いたものだ
まあサーバインと真ゲッターで2ターンで倒したが
PSのSだと三機に分裂して非常に泣けたがなw
第十話 戦火繚乱
「私がタマハガネ艦長グレッグ・パストラル一佐だ」
骨の太そうな肉厚の顔立ちの男性が艦長席に座し、タマハガネのブリッジに上がったシン達を迎えた。
ギナとソキウス、エドの姿はない。ブリッジではすでにオペレーターや火器管制官が位置についてエンジンに火が灯るのを緊張と共に待っている。
「ナカジマ小隊隊長テンザン・ナカジマ一尉。以下小隊員着任しました」
あんまり様にならない敬礼をし、テンザンをはじめスティング達もオーブ式の敬礼をする。
「ふっ、オーブきっての問題児と呼ばれたテンザン一尉も猫を被るのはあまりうまくないな。あまり階級は気にするな。もっとも限度を超えられては困るがな」
かなり強面の顔立ちをわずかに緩ませ、唇を笑みの形に変えてグレッグが言う。意外に話のわかる人だな、とシン。
テンザンはグレッグの言葉に相好を崩していきなり姿勢をだら、としたものにしてしまう。
「そりゃ助かるぜ。こう固っ苦しいのは苦手なんで」
「砕け過ぎですよ、テンザン隊長」
「そう言うなよ、スティング〜。艦長が良いって言ってんだからよ」
「かんちょうさん、限度はあるって言ってる」
「ありゃ、ステラもかよ」
あんだよとテンザンはがしがし頭を掻き、その様を見ていたグレッグが苦笑めいたものを漏らす。DCきってのエース小隊が、こんな子供っぽさを前面に押し出した面々とは思わなかったのだ。
「退屈しない船旅になりそうだな。それぞれ作戦時間までにタマハガネの仕様を確認しておいてくれたまえ。1100より連合艦隊への奇襲作戦を行う。各人の奮闘を祈る」
解散したシンは、ステラ達と連れだってあてがわれた個室を見て回ったり、食堂や格納庫を見物していた。
格納庫ではギナの言ったとおりシン達が使用しているガームリオンやエムリオン、バレルエムリオンがメンテナンスベッドに立てかけられ、戦いの時を静かに待っている。
計11機分のMSとその整備パーツ、弾薬、燃料、予備の武装が並べられているが、艦首モジュールの中でも機動兵器の搭載を重視したムゲンシンボが換装されているため、格納庫にはまだまだ余裕がある。
格納庫の中に立ち並ぶMSの中でDC系とは異なる機体を見つけて、アウルが足を止める。スティングも興味を惹かれたのか、アウルの横に並んでそのMSを見上げた。
「お? 連合のストライクダガーじゃん。いざっていう時は乗れって事かな?」
「他にもザフト系のもあるな。水中戦用のゾノとグーン。それに陸戦系のバクゥと空戦用のディン。まあ、今回は海上戦だし、ステラのランドエムリオンも換装すれば問題ないから出番はないかもな」
「あれ可愛い」
とステラが指さす先にあるのは、犬科の動物の様に四肢をついた青い装甲のMSだ。それを見て、シンが名前を呟く。
「あれって、バクゥか。ステラはああいうのが好きなんだ」
「うん。なんだか犬みたい」
「う〜ん、確かに。でも今回は役に立たないかな。陸地か広い浅瀬があっても……やっぱ出番無しかな」
「そっか」
残念そうな雰囲気全快のステラに、困ったなあとシンは頬を掻くが、こればかりは仕方がない。戦場に適した機体の選択はパイロットだけでなく味方の命にもかかわる重要な要素だ。
好き嫌いで選ぶわけにもいかないだろう。それでも名残惜しそうにバクゥを見つめるステラと一緒にダガーやザフト系のMSを見上げていると、背後から陽気な声が聞こえてきた。
「よう、何してんだ?」
「ハレルソン二尉」
「固いなあ。階級はおれが上だけど、ここじゃお前らの方が先輩なんだ。そんなに気にしなくっていいぜ。エドでいい」
ラフにDCの軍服を着崩したエドが廊下の向こうからやってきた。スティングは、エドの気軽な調子に少し困ったような顔をする。今のメンバーでは一番軍人らしい思考の持ち主なのかも知れない。
「しかし、話を聞いた時は驚いたぜ。連合に本気で逆らおうってんだからな。言っちゃ悪いが正気を疑ったぜ? ま、おれもそれ位の方が暴れ甲斐があるって思ったけどな」
陽気な口調だが言っている事は結構やばい。
(連合の兵士ってみんなこうなのかな?)
(さあ?)
アウルとシンがこそこそ言い合うのも気に留めず、エドは話を続けた。
「この戦艦もすげえな。大西洋連邦のアークエンジェルよりもでかいし、装備も見たけどこりゃ移動要塞だぜ」
「そうですね。なにしろDCの旗艦として建造されていた艦ですから」
「そんなにすごいの?」
とはステラとシン。シンはDC加入後もほとんどビアンとロンド姉弟とのカイーナでアンティノラでコキュートスでジュデッカな特訓に明け暮れていたため、DC内部の事情に疎い。ステラは単に性格だろう。
スティングが苦笑し、できの悪い妹と弟に根気よくきかせる兄の気分になる。そういう役目兼性格であった。まあ、損な性分というわけでは無かろう。
「そうだな。超大型のテスラ・ドライブに八基のメイン大型ロケットエンジンと同じく八基の補助ロケットエンジンを搭載。船体には超抗力金属の装甲にラミネート装甲と加えて超高出力のエネルギー・フィールドの防御力。
宙間戦闘だけじゃなく、大気圏内、水中航行も可能で足も速いし、大気圏離脱用のブースターを着ければマスドライバーなしで大気圏を離脱できる戦艦だって、話だな。
それに対空砲火や対艦砲撃戦能力、MSの搭載能力にも優れた実質地球圏最高性能の戦艦だろうな。こういうのはたいてい身内びいきで尾鰭がついてるから、どこまで本当かは分からないけどな。
性能がバカ高い分、値段もバカ高くて、建造中の弐番艦アカハガネはお蔵入りするんじゃないかって噂だ。DCの建艦能力ギリギリまで費やした結果らしい。おかげでキラーホエールやストークの数が少ないそうだ」
スティング先生の授業を神妙に聞いていたエドが、感想を零した。
「なるほどな。しかし弐番艦がお蔵入り、ってのはもったいねえな。この船だけで何隻分の戦闘能力になるか分かったもんじゃない。性能だけを追求しても生産性他諸々と釣り合わないといい兵器にはならないってことだろうけどな」
うむうむ、と頷くエドに、ふとシンが気になった事を尋ねた。以前、ローレンスとした問答が頭の片隅に残っていたのだ。どうして戦うのか? その理由は?
「そういえば、ハレルソン二尉はなんでDCに?」
「エドでいいって。んー、おれがDCに着いた理由か。質問で返して悪いが、あー、シンだったか。お前さんはどうしてDCにいるんだ? いくらコーディネイターだって、戦場に出るには辛い年だろう?」
「えっ? おれは……守りたかったから。家族を、父さんを母さんをマユを。友達や家族のいるこの国を。大切な人が守れるんなら、オーブが、DCになっても構わなかったし……。それが一番の理由、ていうかそれしかないかな。おれは」
「守るため、か。いや、悪くない理由だ。ひょっとしたら一番まともな理由かもしれない。シン、おれもさ。おれも守りたいもの、取り返したいものを見つけた。少し違うな。思いだしたのさ。取られたままにはしておけない、守りたいものをな。
悪いな、小難しい話に巻き込んじまって。ほんとはお前らと親睦を深めようと思ってたんだが……。まあ、連合の艦隊とぶつかるまで時間があるんだ。また別の機会に話をしようぜ。おれはちょっとソードカラミティの調子を見てくるからさ」
それから陽気にウインク一つを置き土産にして、エドはソードカラミティ二号機のほうに歩いて行った。ふとシンは、エドの言う取り戻したいものがなんなのか、気になった。
「エドの取り返したいものってなんだろう?」
「……ハレルソン二尉の故郷の南アメリカ合衆国は、開戦直後の2月19日に連合に侵攻されて組み込まれたのさ。プラントの出した、中立国や親プラント国家に優先的に工業製品とかを輸出するっていう話に乗ろうとしたからな。
だから、ハレルソン二尉が取り戻したいものはきっと」
「……そっか。あの人は一度祖国を奪われてるんだ。だから、DCに味方してくれたのか」
(それだけじゃないだろうがな)
スティングはその呟きを胸の中にしまっておいた。経緯はどうあれ、連合のトップエースの一人が味方についた事で厄介な敵が減り、戦力が増強された事には変わりないのだから。
「うーみーはーしろいーなー、ふーかーいーなー」
「ステラ、微妙に歌詞違うよ」
「そーらーはーあかいーなー、たーかーいーなー」
「……」
さっきから窓に張り付いてステラなりにアレンジした歌を機嫌良さげに歌い続けている。傍らでシンは早々と修正するのをあきらめていた。まあ、それはそれで可愛いじゃないか、と本気で思っている。
超硬化ガラスの向こうで南国の風にかもめがのんびりと乗って飛んでいる。優しい空の青に浮かぶ白い雲が悠々と流れ、降り注ぐ太陽の光が宝石箱をひっくり返したように水面に輝いていた。
窓辺に設置されたソファに寝転ぶように座ってシンとステラの二人でのんびりと外の様子を眺めている。
タマハガネが出港してから3時間。正直暇を持て余していた。
ブリーフィングルームで事前にギナ達とのフォーメーションなどについても大方話を通しており、後は連合の艦隊を発見するのを待つばかりだ。命賭けの闘いを前にして、
あまりに平穏すぎてシンは緊張の糸がゆるみきっていた。
ああ、本当におれは今戦争をしているんだろうか? そりゃまあ戦艦に乗っているけど。
ああ、父さんや母さんやマユは無事だろうか? 結局DCに参加するのを認めてはくれなかった。そりゃそうか。自分の子供が戦場で人殺しをするなんて。
シンの傍らでステラの歌はまだ続いている。
「おーおーきなのっぽのじょやのかね。ひゃくやっつーたたきましょー」
もはや歌詞が違うとかそういうレベルでは無かった。が、シンはもう気にしていない。
……ああ、ステラは可愛いなあ。見ちゃったもんなあ、裸。責任を取らないとかなあ。ああ、でもステラだったら何の問題も……いやあるか。でも可愛いし。
あ、でもそれで行くとミナさんの責任も取らなくちゃいけなくなるなあ……ギナさんは、義弟、義兄? 毎日死にそうな目に合いそうだなあ。やだなあ。
などと、真面目に考えていた事が、こんな碌でもない事を考えるほどにである。もちろん、そんな妄想は長続きはしない。ステラとミナの一糸まとわぬ裸体を思い出して
鼻の下を伸ばしていたシンの脳裏を、鋭くけたたましい警告音が痛烈に叩いた。
「うわ!?」
「シン、行こう」
「ああ、うん!」
それまでのほほんと鼻唄を唄っていた様子から豹変して、俊敏な動作でステラはすでに走り出していた。慌ててシンもそれに続き走り出す。
息を切らしてブリーフィングルームに飛び込むと
「すいません、遅くなりました!」
「……良い度胸だ。シン、オノゴロに戻ったらトーレニングルーム『修羅界』に来い」
「……」
表情を変えないまま、ご立腹のギナ様がいらっしゃいました。ステラは、足元を濡らす液体に気付いた。訝しんでその液体の元をたどると
「シン、シン!? 大丈夫!」
「うん、大丈夫。大丈夫だよステラ」
瞳を見開いてガラス玉みたいに無機質な輝きに変え、ひきつった笑みを張りつけたちっとも大丈夫では無いシン少年が、滝の汗を流しながらステラに機械の様な声で答えた。
よほどいやな思い出らしい。
ギナはつまらなそうに、それでも幾分溜飲を下げた様子で視線を外し、アルベロがブリーフィングルームに集まった面々を前に説明を始める。
「連合艦隊を捕捉した。構成は巡洋艦二、駆逐艦六、輸送艦二、大型輸送艦一。接触まで後十分と言ったところだ。タマハガネにはフォー、シックス、サーティーンを残し、残りのMSが出る」
と、ここでギナが口を挟んだ。
「ナカジマ小隊はそちらで指揮をとれ。初戦での華々しい戦果がまぐれかどうか、見させてもらおう」
これに答えたのは、それまで足を組んで踏ん反り返っていたテンザンである。元々あまり受けの良くない顔に悪役としか見えない凶暴な笑みを浮かべ、ギナを見返しながら言ってのけた。
「ギナ副総帥こそ、あの女顔ロボが無いからって、ミナ副総帥に劣るような活躍はしないでくださいよ」
その場にいたほぼ全員が凍りついた、怖いもの知らずの台詞だった。ぴゅう、と吹いたエドの口笛だけが、ひどくはっきりと聞こえた。
「ほう。オーブ軍一の問題児、戦闘狂の評判は伊達ではなさそうだな。ナカジマ一尉?」
「んなことねえよ、本気で世界征服を狙っていたと噂のギナ副総帥には及びもしねえっての」
「…………スティング」
「なんだよアウル」
「すんごい居心地悪い」
「奇遇だな。おれもだよ」
睨みあい、虚空に見えない火花を散らす二人の様子に、アウルとスティングはがちがちに凝り固まったまま、互いの感想を述べるのだった。
ブリッジではグレッグがタマハガネの初陣とあって表には出さぬ緊張を浮かべていた。豪胆な風貌の割に慎重な性格をしているらしかった。
カタパルトデッキで待機しているギナが、DCのパイロットスーツに身を包み連絡を入れてきた。
『グレッグ艦長、MS隊用意は整った。何時でも構わん』
「承知しました。ギナ副総帥」
テンザンと言い争っていたりするが、ギナは立場的にはDCの副総帥であり本来この様な前線に出ていい人間では無かった。
のだが、これはDC上層部に共通するのか、それで死ぬようならそれまでの人間、と考えている節があるのである。
まあ、ギナの場合は最高級のコーディネートが施され、その人為的に開花され、付与された才能を生かすべく最大限の努力をこなしてきた自身への自信故なのだが。
艦橋ではDCの高性能レーダーに地球連合の艦隊を捉えにわかに慌ただしくなっていた。初陣に浮足立つブリッジクルーを宥めたグレッグは、手早く指示を出して行く。
「最大戦速を維持、ステルス・シェードを解除後、艦首魚雷全門一斉射撃。MS隊発進後、連装衝撃砲三十秒間隔で斉射。味方に当てるような真似はするな」
スペースノア級ならではの高高度からの最大戦速による突撃と同時に、それまで存在していた戦艦の規格を凌駕する火砲が一気に解き放たれた。
それまでレーダーにも哨戒機にもなんの反応を見せていなかった敵の突然の出現に連合艦隊は慌てふためき、艦載機をスクランブル発進させようとするまさにその時に、タマハガネから発射された艦首魚雷が次々と着弾し、水柱を盛大に打ち上げる。
運悪く直撃をもらった一隻の駆逐艦がゆっくりと沈み始め、にわかに救命艇や脱出艇に乗って乗員が逃げ出そうとしている。その様子を確認してから、グレッグは立て続けに命令を飛ばした。
「MS隊を発進させろ。つづいて連装衝撃砲、照準合わせ!」
タマハガネ艦首モジュール『ムゲンシンボ』から、続々とエムリオンやバレルエムリオンが出撃し、テスラ・ドライブの光を流星の尾の様に引いて飛んで行った。
「このテスラ・ドライブってのは便利だなあ」
とはエドである。ソードカラミティに搭載されたテスラ・ドライブの高性能・小型っぷりにしきりに感心している。
ソードカラミティのリア・アーマー部分に突貫で付けられたウィング付きのボックス状テスラ・ドライブの調子は上々だ。
他にもランドエムリオンでは役に立たないという理由から、ステラも換装したエムリオンに乗り換えている。
後のメンバーは、フォー・ソキウスのソードカラミティ三号機とギナの天にもテスラ・ドライブが搭載された位で、機体を乗り換えてはいない。
「海上戦でストライクダガーしか持ってきてないんならほとんど砲台の代わりしかできないわけだし、こりゃDCが初戦で勝った大きな理由だな」
確かに、連合でも水中用MSの配備やスカイグラスパーと言ったザフトのディンとも互角に戦える高性能戦闘機の開発が行われているが、エムリオン・ガームリオン・バレルエムリオンらリオンシリーズは汎用性といい、生産性といい、性能と言い、両軍の水準を上回る仕様だ。
「惜しいな。これでもう少し国力と人材がそろってりゃあ、本気で世界征服も望めたんだろうけどな」
数は力だ。戦争は数だ。確かにエドの分析通りDCの保有する技術や兵器の質は頭一つ飛びぬけている。だが、寡兵である。
エムリオンが一機ストライクダガーを撃墜する間に、連合は五機、ひょっとしたら十機、あるいはそれ以上のストライクダガーを生産しているだろう。
DCが出来るのは、噛み砕いていえば連合とザフトの中で手を出せば火傷をしてしまい、本来の相手を叩き潰すのに邪魔になると認識させて、手を出させないようにする事ではないか、と大抵のものは思っている。エドもそうだ。
ギナは南米の独立の助力をすると約束してくれたが、エド自身はそれが履行されなくても仕方がないとも思っている。DCだって余裕などありはしないのだから。
「昨日の友は今日の敵、てな。悪いが、落とさせてもらうぜ!」
多少不憫な気持ちになりながら、エドは眼前の連合艦隊に斬りかかる。艦隊からはようやくVTOL戦闘機やストライクダガーが慌てて姿を見せるが、海の上では飛行能力の無いストライクダガーなど碌に役に立たない。
ましてや、ザフトのグゥルの様なMS用のトランスポーターは、連合にはないのだから。
事実、輸送艦の甲板に展開しようとしたストライクダガー達は、テスラ・ドライブによるCE世界でもトップクラスの飛行性能を持つエムリオンにとっては、良い鴨でしかなかった。
輸送艦に突貫工事で付けられたMS用のハッチからストライクダガーが姿を見せても、そもそも足場がほとんどないし、甲板上に出ようにも輸送艦の甲板の面積はMSには狭すぎる。駆逐艦や巡洋艦などもってのほかだ。
詰まる所、海上でDCに襲われた場合、連合の部隊は構成次第ではほとんど抵抗らしい抵抗をするのはとても困難という事の証明となった。
果敢にジャンプして上空のエムリオンに向けてビームライフルを撃ってくるストライクダガー目掛けてシンのエムリオンが緑の光の鱗粉を零して迫る。
レールガンをストライクダガーの青い胴体めがけて合せ立て続けに二射。センターマークの内側に捉えたストライクダガーに向かい、シンは呟く。
「落とす!」
殺す、ではなく落とす。それはシンの精神が作り出した一つの自己防衛策だろう。だがそれも別段珍しい話では無かった。
ストライクダガーや戦闘機、戦車など人の姿が目に見えぬ相手は、殺すのではなく、『落とす』『撃墜する』。殺人の意識を紛らわす為に、シンはそれを口にする。
右肩を掠めるレールガンをバーニアをふかして回避するストライクダガーだが、陸戦タイプのMSの悲しさか、長時間の飛行やジャンプができずそのまま重力にひっぱられて落下してゆく。
自在に空を飛ぶエムリオンとの相性の悪さが露呈しているのだ。そのまま海面に落下するストライクダガー目掛けて接近戦を挑むべくシンのエムリオンのテスラ・ドライブが唸りを上げ、その右手にはアサルトブレードが握られる。
ストライクダガーのライフルとイーゲルシュテルンの緑とオレンジの火線を、左右に振る動きで回避し、多少の被弾はEFで対処する。あっという間にメインカメラのモニターに迫るストライクダガー目掛けてアサルトブレードを振り上げ、
「もらった!」
ストライクダガーのバイザー状のカメラアイを真っ二つにして、アサルトブレードの銀の刀身が、胸部までを縦一文字に切り裂いた。断たれた装甲や内部の電子部品、コードから火花が散り、ストライクダガーはゆっくりと海中へと落ちて行った。
駆逐艦や巡洋艦の対空砲火が時折傍らを掠め、機体とコクピットも揺れるが集中するのは目の前の敵に対してだ。
「……て、もうほとんどいないな」
シンがようやく一機ストライクダガーを撃破する間に、既にエドのソードカラミティやギナのゴールドフレーム天、テンザンのバレルエムリオンらがあらかたの戦闘機とストライクダガーを無力化し、駆逐艦も撃沈しているか航行不能に陥っている。
ちょうどアルベロとスティングのガームリオンがビームライフルを、輸送艦の艦橋に突きつけて降服を勧告している所だ。
タマハガネのけた外れの火力もあって、ほぼ一方的な展開になっていたらしい。
「こんな風に楽に勝てればいいんだけど」
幸いというか今のところ戦闘狂の気はないシンは、楽に勝てるならそれに越した事はないと思っている。そしてそのシンの呟きは後二回ほどかなえられるのだが、三度目には裏切られる事となった。
それから二度ほど小規模の輸送艦隊と交戦し、シンの撃墜スコアはMS7機撃墜、4機撃破とクライウルブズ以外の部隊なら破格の記録を残している。
もともとクライウルブズのパイロットと、配備されている機体の質は連合・ザフトと合わせてみてもトップクラスに位置している。
シンやステラ達エクステンデッド、ソキウスはエース級ではあるが、トップエース相手だとやや見劣りする。
精神を薬物で破壊されたソキウス達は、戦闘においてもある程度行動が機械的にパターン化してしまい、同等以上の技量の相手だと、その弱点を見抜かれてしまう。
シンやステラ達も経験不足という事もあるが、とくにエクステンデッドであるステラ達は治療によって健常な体に戻りつつある分、強化された能力も大なり小なり低下しているのがトップエースには届かぬ原因だ。
一方でアルベロやエド、ギナ、テンザンは確実にトップクラスの実力を持っている。クライウルブズの中で最低ラインが目下のところシンだが、それでも他所の部隊ではエースクラスなのだから、半端ではない戦力だ。
またシン達タマハガネ組以外にもキラーホエール二隻とオーブ領海ぎりぎりで連合艦隊を警戒している、タケミカズチ・タケミナカタの二隻の大型空母から出撃したエムリオン隊が、順次発見した連合の艦隊を襲っている。
空母からの出撃組は、長距離飛行用のブースターと推進剤を満載した追加パックを装備し、対艦ミサイルや大口径レールガン、高出力ビーム兵器による一撃を加えて早々に離脱するという攻撃方法を取っている。
直接的な打撃力には乏しいが、人材とMSが宝石よりもはるかに貴重なDCとしては安全策を取ったようだ。
また今回の奇襲作戦では、一国家としてはやや情けないが輸送艦はなるべく傷つけずに無効化して、その中身をまるまる頂く事も目的としていた。
一からMSを生産するより出来上がったものを横からかっさらう方が確かに資源は節約できるかもしれない。
これにもっとも貢献したのがクライウルブズで、都合三回の出撃の間に、輸送艦三隻、ストライクダガー十機と整備部品諸々を手に入れて見せた。
先のオノゴロ島での戦いで鹵獲、サルベージしたストライクダガーと合わせて五十機近い機体が手に入り、
それらにはエリカ・シモンズがAI1と共同開発した戦闘用人工知能が搭載され、下手な連合やザフトのパイロットよりもよほど腕が立ち連合を悩ませる事になる。
新スレ乙です。そして93氏待ってましたよー! 旧教導隊の濃いメンバーもいて、期待がわくわくです。
次に出てくる『彼等』の『玩具』も楽しみです。
GJ!
ステラかわいいよステラ
>あれ可愛い
>なんだか犬みたい
まさか虎王機フラグw
GJ・・・・・と言いたいとこだが戦闘用人工知能だけはエレガントな御方バリに否定させていただく
人工知能だからダメってわけじゃ無くて、思想の問題だと思うのだがな。
ロームフェラみたいじゃなければオッケーだろ。
つか人口知能駄目とか言われたらGGGの勇者ロボとかどうなんのよ
他にも味方の人口知能なんてザラにあるじゃん
レイズナー、フルメタ、撫子…
AI!AI!
世界に人類逃げ場なし論を発表したらどうだろう
クレイジーな人と認識されるかもっと人員が増えるか・・・気になるぜ
それにはまず羽クジラが攻めてこないとな
ヒーロー作戦のジュデッカ様なら平行世界の壁を超えられるから出演可だぜ。
>>17 自身への自信って随分頭痛が痛くなる日本語だなぁ
第十一話 エース対エース
頻繁に行われるDCの奇襲にせっかくの援軍を次々と潰され、一時的に後退した連合軍であったが、もともと国力の差は覆せぬ壁として聳える両者だ。
どれだけDCの部隊が輸送艦隊を撃破しても、その監視の目から逃れた艦隊が運び込む物資で、オノゴロ島で失った以上の戦力を取り戻していた。
とはいっても輸送艦隊が失った戦力が惜しくないわけではない。なにしろ四十機近いストライクダガーと高級機であるデュエルダガーやバスターダガーさえも何機か失われたのだから。
連合艦隊旗艦内部のある一室のモニターの中で、ムルタ・アズラエルはワイングラスを片手に愚痴を小さく呟いていた。
『まったく、DCも無駄な足掻きをしてくれますね。おかげで出費がかさむばかりですよ』
財界の大物としてもブルーコスモスの盟主としても多忙なアズラエルは、既に連合の艦隊から離れ、北米にあるアズラエル財閥の関連施設に移っていた。
既にアズラエルはついこの間まで構想していた今後の戦略とビジネスが崩壊しつつあるのを悟っていた。
ビクトリアでは、オーブ侵攻を悟ったロンド・ギナ・サハクが切り裂きエドと三人のソキウスに加えて彼らの機体を奪い去り、彼らが抜けたから、
とは思いたくはないがビクトリアのマスドライバー奪取に苦戦してしまい、ザフトの特殊部隊が仕掛けた爆破装置がいくつか作動してしまって再建するのに一カ月はかかる。
旧日本の種子島やケネディなどを始めとする小規模のマスドライバーや新たなマスドライバーも建設しているが、宇宙への物資や艦艇、MSの補充スケジュールはいささか遅延を迎えている。
酷薄な光を浮かべる瞳に危険なものを更に重ねて、アズラエルはモニターの向こうの老人へと矛を向けた。
『コッホ博士、生体CPUの連中をもう少し使い物にしてくれないと困りますよ? 何ですかあの様は。あんなふざけたMSを相手に完全に押されていましたよ』
オレンジ色の帽子とコートを羽織った老人はアズラエルの言葉をふんと小さく笑い飛ばした。ぎらぎらと精気に満ち、野心に光る瞳は皺が深く刻まれた顔の中で異様に輝いている。
額から鼻先にかけてまでビスで留められたT字型の金属がなんとも怪しい。テレビアニメに出てくる悪の科学者そのままの容貌をした老人――アードラー・コッホ博士だ。
「わしが最初から開発に関わっておればあのような醜態は晒しておらぬわ。あ奴らを仕上げた連中にその台詞を言うんじゃな。これでもわしの調合した薬品で戦闘時間は延びておる。
わしはゲイム・システムの完成を待てと言ったはずじゃぞ」
『そうは言いますがね。その機体に人間を合わせるゲイム・システムの開発滞ってるそうじゃないですか。それに宇宙の化け物どもを一刻も早く掃除したいんですよ。
その為にはオーブのマスドライバーが有用でね。できるなら無傷で、できるだけ早く手に入れたいんです』
苛立ちを徐々に表に出し、一息にワイングラスの中の鮮烈な赤い液体がアズラエルの喉を流れる。アードラーは気にした風も無く反論する。自分以外に極端に興味がない人間の反応だ。
「じゃったら最初から出せる限りの戦力を持ってくればよかろうが。新型のGに期待を寄せすぎて持ってくる戦力をけちったのが災いしたの」
『それは反論できませんね。お陰で海の上で時間をだいぶ無駄にしてしまいましたよ。身体は一つしかなく、時間は有限だと言うのにねえ?
ですがあのヴァルシオンは完全に反則ですよ。何です、あれ? 核動力でも使っているのかと思いましたが、とてもじゃないですがあんな真似できません。おまけに重力操作。まったく悪い冗談ですね。
あの巨大ロボットには人類の手にしていない技術が入っているとしか思えませんよ』
(ふん。お前はあのヴァルシオンの真の力を知らん。あれでもおそらく70〜80パーセント程度じゃろう。
忌々しいがわしが手を加えたヴァルシオン改と、あの状態でも互角かそれに近い。ビアンの天才を否定はできぬ)
内心でアズラエルの無知を嘲笑い、しかし看過できぬ事態である事はアードラーにとっても同じであり、認めざるを得なかった。
(ここでもわしの前に立ちはだかるか。ビアン総帥、いやビアン・ゾルダーク! だが、この世界でこそわしの宿願を果たすぞ)
「じゃがDCも所詮はオーブを母体とした小国じゃろう。MSの数も連合の方がはるかに多い。結局は時間の問題じゃ」
『そうだといいんですがね。どうもあの連中、油断できないんですよ。今回はこちらのエースをまわしておいたので結果が出るとは思いますが』
「ふん。お前の愚痴に用はないわ。わしは研究に戻らせてもらうぞ」
アードラー・コッホ。外道・非道の科学者であり、巨大な野心を秘めた老いた蛇蠍であった。
ビアンが基本設計した先行量産型ヴァルシオン、通称ヴァルシオン改に手を加える程度には工学知識も持ち合わせているが、それがゲイム・システムと言う名の悪魔の契約書を搭載するだけのことであり、
アードラーにとってMSなどの機動兵器関連についての知識は専門外であった事は、少なくともDCにとっては幸いな事だった。
アードラーとアズラエルがモニター越しに互いの腹の内を探り合っている頃、クライウルブズは予想だにせぬ苦戦を強いられる事となる。
「奇襲作戦、存外戦果が出ているな」
NJ下でも有効な通信手段であるレーザー通信でDC本部との情報交換から得られた今回の奇襲における戦果に、アルベロは少しばかり感心の色を乗せる。
グレッグやギナ、アルベロらタマハガネの司令官クラスが一時的に艦長室に集まっている。現在はオーブ領海北北東三〇〇キロの地点に、タマハガネは待機中だ。
「流石にエムリオンも何機か食われたようですな。幸いパイロット達はほぼ生還。加えて脱出したパイロット達もMSにも再び乗れるようですし、エムリオンの機構は正解でしたな」
強面ながらも温厚な気性から部下から信頼の厚いグレッグが、不幸中の幸いと言うニュアンスで呟いた。
ダメージコントロールが容易かつパイロットの生存性を重視し、損傷したのがリオン・パーツであるなら即座に補修・換装可能なエムリオンの面目躍如と言った所だろう。
「鹵獲したストライクダガーもかなりの数になっている。エリカ・シモンズも人工知能の開発を終えたと言うし、戦力と見て良さそうだな。
所でギナ、おれ達クライウルブズは次の戦闘で今回の作戦の一区切りとし、オノゴロ島の地下ドックに戻る。お前達はそれから後の事はどうするのだ?」
黒革張りのソファに悠然と座したギナは、左手で頬杖を突き、優雅な貴公子の絵画の様な姿のまま、アルベロの問いに対する答えを紅い唇から紡いだ。
「私とソキウス達は宇宙のアメノミハシラへ上がる。生産の終わったエムリオンの改良型を十機とガームリオンを二機、完全に砲撃支援用に再設計したバレルエムリオン四機、ストライクダガー八機を土産にな。
宇宙にもそろそろきな臭い動きがある。マイヤーとトロイエ隊は優秀だが、限度はある。加えてビアンの頼みもあるのでな」
「総帥の?」
訝しむグレッグに応える事はせず、ギナは虚空を見つめていた。ビアンが期待を寄せる『種』。それに対して、ギナはどれほどの価値を見出しているのか。
沈黙を選んだギナにそれ以上追及する事はせずに、グレッグは小さく溜息を吐きだして椅子に座り直した。人柄・能力共に優秀な人物だが、この面々の中では一番常識的だから苦労しそうだ。
艦長帽をかぶり直して、やれやれと呟く。
「さて、次で本艦の初任務も締めくくりですな。誰も死なせぬ様全力を尽くすとしましょう」
それには同意なので、ギナとアルベロも頷く。一癖あってもこの二人が非常に有能なのは事実で、そればかりはグレッグにとって救いだった。
そして、間もなく彼らは今回の奇襲作戦において最大の敵と遭遇する事となった。
「こりゃまた、豪勢な敵さんだなあ」
エドの呑気な、しかしわずかに緊張を孕んだ声が、ソードカラミティのコクピットに響く。
タマハガネから回された光学映像には、正規空母一隻、巡洋艦三隻、駆逐艦十隻、フリゲート艦十隻、輸送艦五隻の大規模な艦隊が映し出されている。
ガームリオンの中のスティングも、エドの呟きに賛同し、マジかよ、と溜息を吐いていた。
「最後の最後で大物に出くわしたな。本当にこれにしかけるんですか? アルベロ隊長」
「そうだ。良かったな、お前たち全員エースになれるぞ」
「もう全員五機以上撃墜してますよ」
アルベロは不敵に笑って答えるばかり。疲れたように小さな声で返すスティングを笑い飛ばした。
「はっはっは、そう気落ちするな。オークレー。今回の作戦が終わればオノゴロで休暇の一日くらいは貰えるだろうしな」
「にしても連合の生産能力には脱帽ですよ。これだけの国力がDCにあったら、なんて思わざるを得ないですし」
「無い物ねだりをしても始まらん。よし、ウルフリーダーより各機へ、何時も通りタマハガネの砲撃後に仕掛けるぞ。シックスとアウルは水中から奴等を叩け。攻撃型潜水艦も何隻かいる。二機だけでは厳しいかも知れんが、やれるな?」
「はい」
「任しときな、おっさん」
「ふん、その意気だ。あれだけの数だ。ストライクダガーでもかなりの弾幕になる。おそらくDC攻略に向けて水中用MSや空戦可能な機体も配備されているかもしれん。全員油断するな」
「了解」
そして、戦いが始まった。
カタパルトデッキから出撃したシンの視界には、望遠モニターに映し出される連合の大規模艦隊が映っていた。さすがにオノゴロ島で見た艦隊に比べれば少ないが、こちら側の機体はもっと少ない。
シンのエムリオンの装備は今まで通り、アサルトブレードにプラズマ・ステーク、イーゲルシュテルン、マシンキャノン、レールガンと実体系でまとめてある。
PS装甲を持つGAT−Xナンバーが相手だとかなり不利な装備だが、連合側はXナンバーそのものではなく、コストダウンした量産型の配備を押し進めているようで、まずXナンバーと遭遇する事はないだろう。
「水深の浅い所とか小島が多いからストライクダガーも展開できるな。最後の最後で一番手ごわいのとぶつかるなんて」
「おら、シン。愚痴ってねえでさっさと艦隊に突っ込むぞ!」
「テンザン隊長、砲撃支援用のバレルでよくそんな真似できますね?」
「あ〜? おれからいわせりゃそんな事も出来ねえ奴がノロマなだけだっての!」
というか鈍重なバレルエムリオン(それでもディン並に動くが)でシンのエムリオン以上の機動を見せるテンザンの腕前が異常と言うべきだろう。
タマハガネの連装衝撃砲やVLSホーミングミサイルランチャーが次々と機体を追い越して連合艦隊に群がり、水柱が怒涛の勢いで立ち上ってゆく。
DC製ステルス・シェードの効果は連合にとってまさしく対処しようの無い頭痛の種となっていて、接近するタマハガネに気付いた時には強烈な一撃をもらわざるを得ない。
406mm連装衝撃砲の直撃を受けたフリゲート艦と駆逐艦が早々に戦闘能力を失い、タマハガネのブリッジクルーは内心で喝采を挙げる
連合の空母の甲板からスカイグラスパーやスピアヘッドが次々と発進し、ストライクダガーも姿を見せ始めた。
これまでの三度の戦いは完全に洋上で行われたため、シン達にとっては制空権を握る事の出来た優位な戦いだったが、今回は付近に陸地や浅瀬があるため、ストライクダガーもある程度自由に動けて、それなりに手強い相手となるだろう。
怯みそうになる自分を叱咤し、シンはエムリオンを駆り、正規空母めがけて一気に加速させた。
「旗艦を潰せば!」
単独で突出するシンに気付いたアルベロが、小さく舌打ちしてすぐさまその後を追い駆ける。指揮官様に通信・索敵機能を強化し、左肩を黒く染めたガームリオン・カスタムが、
手にもったバーストレールガンで周囲の敵機を牽制し、スティングのガームリオンに通信を入れる。
「! シンめ若すぎるな! スティング、おれと来い! シンが空母に突っ込んだ」
「単細胞だからな! あいつ」
たちまちシンのエムリオンはストライクダガーや巡洋艦、スピアヘッドの集中砲火を浴びる事になり、時折かわしきれぬ砲火が、EFと接触して機体を揺らす。
エムリオンの青ざめた白い装甲にも銃痕や焼け焦げがわずかずつ刻まれてゆくが、シンは怯まずエムリオンに全身を命じ続けていた。
前方左右から迫るスピアヘッドの発射したミサイルをイーゲルシュテルンで撃墜し、爆煙の晴れる前からスピアヘッドの回避行動を予測、レールガンの精密射撃で撃墜したスピアヘッドの傍らを飛び抜ける。
そのすぐ後を飛ぶスティングのガームリオンと、アルベロのガームリオン・カスタムは、スカイグラスパーに纏わりつかれ、わずかずつではあるがシンと引き離される。
「ち、このスカイグラスパー、手強い! ベテランか」
スティングの罵声を無視して、アルベロは周囲の状況を把握しようと努める。
(フォーのソードカラミティとサーティーンのレイダーはタマハガネから離れられんか。シックスとアウルは敵水中用MSで手一杯、エドとギナは駆逐艦の掃討、テンザンとステラはストライクダガーの相手、か)
「スティング、シンにはこのまま空母に突撃させる。おれ達は露払いをするぞ!」
「シン一人で? 落とされますよ!」
「その時はその時だ」
ガームリオン・カスタムの両肩に搭載された力場誘導子を起動させ、機体全面に淡く発光する半球のブレイクフィールドを形成される。
「ソニックブレイカー、セット。落とすぞ!」
光り輝く人造の流星となったガームリオン・カスタムが、スカイグラスパーに突撃し、瞬く間に二機を葬る。
「AI1、シンの機体にリアルタイムで戦況を伝え続けろ! いざとなったらコントロールを奪ってでも生還させろ!」
ガームリオン・カスタムに搭載されたAI1は了承の意を伝え、シンのガームリオンとパスをつなぎ、シンが気付く間もなくエムリオンを掌握する。
これはアクタイオン・インダストリーの開発したゲルフィニートという機体に搭載されていた量子コンピューター用のウィルスを、裏の取引で入手し、
かつてアルベロとAI1が交戦したナデシコという戦艦に搭載されていたオモイカネというコンピューターとホシノ・ルリと言う少女のデータを参考に手を加えたものだ。
といっても開発段階なので、干渉した機体を完全に掌握する事は出来ない。
だが、完成すれば量子コンピューターを使用したMSならば自在に行動を操れるようになるという、マガノイクタチ並に凶悪な代物だ。
「こんちくしょおおおお!!!!」
一方でAI1の干渉によってFCS(射撃管制システム)や姿勢制御にわずかずつ補正が加えられている事に気付かないシンは、なかばやけになって対空砲火の中を突っ切っていた。断じて行えば鬼神もこれをさく、というがまさしくそれに近い。
モニター一杯に広がるオレンジ色の対空砲火に、むしろ当たっても構うものか意気込み、お返しとばかりにレールガンとイーゲルシュテルンを、残弾を気にせずばらまき続ける。
空母の甲板に連続して着弾したレールガンが、船体を大きく揺らがせ、まだ発進途中だった航空機が何機か海へと落下している。
「直接艦橋を潰せば、空母だって!」
空母まで残り100メートルの時点でテスラ・ドライブによるバーニアやスラスターでは不可能な急制動を掛けて、甲板に強引に着地して艦橋を制圧しようというシンの目論見は、空母の甲板に飛び乗った白いロングダガーによって潰える事になる。
「何!?」
フォルテストラ=強いドレスの意味を持つ増加装甲を纏ったロングダガーの放った正確無比なビームライフルが、シンの回避能力を上回り、EFに連続で着弾し、
更にロングダガーの右肩に搭載された115mmリニアガンがEFを突破し、リオン・パーツの左腕が吹き飛ばされた。
「くそ、あのダガー強い!」
機体のバランスが崩れた所に更に、ロングダガーの左肩に装備された8連装ミサイルポッドから放たれたミサイルが群がり、とっさにイーゲルシュテルンで三基を撃墜し、残りをテスラ・ドライブだよりの直角に近い機動でかわし――
「かわしきれない!?」
シンのエムリオンは一瞬で爆発に飲み込まれた。
強奪されたG五機のうちデュエルを元にして作られたダガーシリーズの派生機の一種、コーディネイターか同等の能力を有するエースパイロット様に調整された連合の高級性能機ロングダガーだ。
そのコクピットで、ジャン・キャリーは苦いものを表情に浮かべていた。
ジャン・キャリー、両親がナチュラルの第一世代コーディネイターであり、彼を語る上で外せないのは連合に所属するコーディネイターである事だ。
既に両親はかつての流行病で亡くし、プラントに移住したジャンだったが、ナチュラルとの戦争を声高々に叫ぶ同胞達を受け入れられず、地球に舞い戻った経緯がある。
工学博士だったジャンがMSパイロットとして連合に与しているのにも一つのわけがある。
それはMSによる一方的な虐殺を少しでも是正するためで、ジャンは鹵獲されたジンを駆って同胞たるザフトのコーディネイター達と闘ってきたのだ。
だが、この戦いもまたコーディネイターであるジャンの立場を、ナチュラルの上司から疑わられるものだった。
ジャンは可能な限りにおいてだが、敵機の戦闘能力を奪うに止めて、パイロット達を極力殺さなかったのだ。
不殺と呼ばれる戦闘スタイルを、同等の性能を持つジンでやってのける事は、ジャン・キャリーのパイロットとしての能力が極めて高いことを示していたが、
不幸にも彼の上司はコーディネイター憎しの典型的なナチュラルであり、ジャンへの冷遇は今も続いている。
純白に染められた機体はジャン・キャリーという裏切り者のコーディネイターを象徴し、同時に連合からの監視を戦場で容易にする為のものでもある。
それでも、ジャンは不殺の戦闘スタイルとMSを持たぬ連合に味方する事で少しでも憎悪の連鎖を断ち切る事が出来ると信じて闘ってきたのだが……。
ナチュラルでも扱えるMSの開発によって、ジャン・キャリーという希少な存在の価値は連合にとって失われているのだ。
やや白みを帯びた金色の髪を撫でつけ、いかにも学者風の知的な風貌のジャンは、内心で着いた溜息を飲み込み、思考を切り替えようと務める。
40代に入り、MSという機動兵器の適齢期をとっくに超えてなおスーパーエースと呼ぶに値する腕前のコーディネイターであっても、精神ばかりは人と変わらない。
連合がアラスカで行ったサイクロプスの自爆による敵味方無差別の大虐殺。パナマで繰り広げられたザフト兵による連合兵のリンチと虐殺。
世界はジャンにとって好ましからざる方向へと進んでいる。
「あの機体のパイロットが無事脱出できているといいが……」
暗澹たる気持ちをごまかすようにそう呟いて、ジャンは次の敵機を見定めるべくロングダガーを動かそうとし
「反応あり? そうか、撃墜してもなお別の機体が出てきたと、妙な報告があったらしいが、このロングダガー同様に装甲をパージできるのか」
そう、ロングダガーの目の前にはリオン・パーツをパージし、身軽なM1となったエムリオンが軟着地していた。
細かいスラスターの制御で驚くほど軽やかに着地するエムリオンに、ジャンはいささか険しい目つきに変わる。
「さっきは不意を突けたが、これは強敵かもしれんな」
一方でエムリオンの中でシンは冷や汗を全身に流していた。
「死ぬかと思った」
死を間近で体験したことで、頭に上った血が冷えてクールダウンしたのだろう。初戦以来多少は戦場に慣れたと思っていたのだが、戦力差に焦って軽くパニックを起こしていたようだ。
MSパイロットとしての訓練は死ぬほど、というか本気で殺されるんじゃないかと言う密度で積んでいるシンだが、いかんせん軍人としての精神、覚悟を身につけさせるには時間が足りていない。
「と、とにかく、あの目の前の奴を何とかしなきゃ」
ライブラリに照合するデータがあり、それに目を通すとどうやらコーディネイター並の能力を有するエース用の機体ロングダガーである事が分かった。
外見はストライクダガーとさして大差なく、バイザー状のカメラアイと左右で長さの違う棒状のアンテナ、後は四角いごつごつとした増加装甲を着せられたようなシルエットをしている。
右肩に115mmリニアガン、左肩に8連装ミサイルポッド、100トン近い重量を強化した推進力で無理やり高速機動させる機体だ。
以前鹵獲したデュエルダガーがナチュラル用だから、それの質をパイロット共々引き揚げたようなもの、とシンは解釈した。
実際にはロングダガーが先に作られ、その後にナチュラル用のデュエルダガーが製作されたというナチュラル主導の連合にしては変な順序を経ている。
「実質ヘリオポリスで作ってたXナンバーと同等の性能なんだよな。しかも稼働率とか整備性は上らしいし、でもエムリオンだって!」
実際、エムリオンのテスラ・ドライブによる機動性はバーニア頼りの連合・ザフトの機体に比べ圧倒的に有利だ。
これで動力源がバッテリーで無く核融合ジェネレーターやプラズマ・ジェネレーターであったら、Xナンバーだろうが、問題なく相手が出来る高性能機なのだ。
核動力MSとも互角に渡り合えるだけのポテンシャルを秘めており、実際DC本部ではエムリオンの潜在能力に目を着けた大規模改修計画も進行中だ。
これは現在二つの計画が同時進行中で、一つはエムリオンのリオン・パーツの徹底的な強化計画プロジェクト・TD(テスラ・ドライブ)。
ビアンの部下であり、かつて夢の中でカザハラ博士とアイドル・ソングを熱唱していた若き天才フィリオ・プレスティが新西暦で推進していたものに近い。
もう一つは、エムリオンのほか収集した各勢力のMSとビアンが持ちこんだPT、AMの技術、そして今はアークエンジェルの下にあるラピエサージュに記録されていたデータをもとにした統合再開発計画。
プロジェクトTDはMS出現まで主戦力だったMAや航空機に近い形でテスラ・ドライブ搭載機を再開発し、常軌を逸した高機動性を持たせるものだが、専門パイロットの不足と技術的な壁にぶち当たり、今大戦中の機体の完全なロールアウトは絶望視されている。
一方で統合再開発計画の方は、既存で確立されている技術の質向上といったもので、比較的容易であり順調に進んでいる。試作機の完成ももう間もなくだ。
話を戻そう。
エムリオンは被弾時の事を考慮し、リオン・パーツパージ後も防御能力を維持するためにEF発生機構はM1の腰部リア面に収納されているのだが、ミサイルの着弾の際に不具合でも起こしたらしく、コンディション・パネルにはエラーの文字が明滅していた。
空母の甲板上、ざっと60メートルの距離か。シンのエムリオンは飛び道具はほとんどなく、プラズマ・ステークとかろうじて回収できたアサルトブレード、後はなけなしのイーゲルシュテルン。
こんな事ならビームサーベルも持ってくればよかったとは泣きごとなので、シンは黙って飲み込んだ。
パージする際にリオン・パーツに組み込まれているレールガンも一緒に回収できるようプログラムされているのだが、生憎とミサイルに吹き飛ばされてしまい、回収できなかったのだ。
内心焦りを覚えるシンに、アルベロからの通信が入る。
「シン、すぐにお前の援護に行く。それまでもたせろ。いいか、そいつは『煌く凶星J』。連合のコーディネイターだ。ザフト・DCと合わせて見てもスーパーエースの一人だ!」
「連合にコーディネイター? ていうかそんなエースが相手なのか」
これまでで最強の敵に遭遇した事を悟り、シンの心拍数が跳ね上がる。アルベロはシンに余計な緊張を与えてしまった事を察し、すぐにフォローを入れた。
「シン、いざとなったらAI1がフォローを入れる。おれが行くまで逃げ続けていろ!」
「え? AI1が」
モニターの一つが暗転し、AI1と表示され次々と機体のステータス及び周囲の状況などが克明に表示される。アルベロが用いているという人工知能らしい。
役に立つのかな? と思わない事も無いが、今は眼前の強敵に集中だ、と切り替えたシンが、アサルトブレードを両手で保持し右蜻蛉に構える。
TC−OSのモーション・データの中でも特にシンが信頼する薩摩示現流の一撃必殺の剣撃だ。登録者はリシュウ・トウゴウ、ゼンガー・ゾンボルトとある。一度で良いから会ってみたいと密かに思っている。
下腹が破裂しそうな位に気迫を込めて、シンが固唾を飲み込み、ヘルメットの中で汗を一筋流した時、両者が動いた。
元々CEのMSとしては軽量で運動性に富むM1の性能を底上げしたエムリオンが、テスラ・ドライブとスラスターの加速にモノを言わせ甲板に足跡が残るほどの踏み込みを見せる。
TC−OSがなかったら街角のチンピラめいた斬撃に終わっていただろうが、流石に薩摩示現流の達人二人の動きを元としたモーション・データはそこまで不格好では無い。
振り上げられたアサルトブレードの銀の刀身はシンの気迫が乗り移ったかのごとく陽炎を纏って振り下ろされる。
「速い!」
エムリオンの信じ難い速度に、さしものジャンも驚きを覚えた。なによりエムリオンの人体とさして変わらぬのではと思わされるほどの滑らかな動き。
豊富な工学知識を併せ持つジャンだからこそ驚かずにはいられない。これほど高いレベルで完成された機動兵器を有するDCとは一体何なのか。少なからず疑問が湧いたが、それを優先する事は出来ない。
目の前に迫るエムリオンの巨体。コーディネイターといえどもかなり、高級なコーディネイトを施されていなければ気付くのは両断された後だろう。
だが、ジャンは対MS戦闘においておそらく現在もっとも経験を積んでいる人間の一人であり類希な能力をもったパイロットでもあった。
振り下ろされるアサルトブレードをAB(アンチ・ビームコーティング)シールドで斜めに受け、刀身を滑らせる。
切断する相手に対して可能な限り直角に刃を立てなければならないこの手の実体武器の弱点を、ジャンは戦場で学んでいる。
薩摩示現流は一撃必殺を旨とする分、二の太刀を一切考慮していない。故に一撃をかわされればそこに残るのは己の骸。
ジャンはエムリオンの踏み込みの凄まじさに、ビームライフルによる迎撃を捨てていた。構え、狙いをつけ、トリガーを引き絞る動作の間に機体を真っ二つにされると瞬時に判断したのだ。
シールドで受けると同時に背のビームサーベルの柄に伸ばしていたロングダガーの右手が、光の軌跡を描いてビームサーベルを抜き放ち、弧を描いた光の刃は淀みなくエムリオンに振り下ろされる。
「間に合わ……!」
『……』
全身全霊の一刀を交わされ、棒立ちになるエムリオン。死を悟るシンを救ったのは即座にエムリオンのコントロールを奪ったAI1であった。
アサルトブレードを未練なく放り捨てて、イーゲルシュテルンをロングダガーの右腕に集中して浴びせたのだ。
PS装甲こそないが増加装甲であるフォルテストラで高い防御能力を誇るロングダガーだが、局所に集中する75mmという口径の弾丸の砲火は堪える。
ビームサーベルを振り下ろすモーションが遅れ、AI1が掌握したエムリオンは、その隙に先程の踏み込みの位置にまで後退する。
伊達にAI1はニュータイプと呼ばれた本当に人間か、と疑うようなパイロット達が乗る超高性能機や、
素人だったのにいつの間にか超エースになった少年らが乗るD兵器、IFSという画期的なシステムを搭載したエステバリスなどしか保有していない反則じみたマグネイト・テンという部隊と交戦してはいない。
AI1に蓄積された実戦データは、CE世界の如何なるパイロットでも悲鳴を挙げるのが当然というレベルなのだ。
「今の、お前か? AI1」
AI1は答えない。変わりというわけではないだろうが、あろう事かロングダガーから通信が入り、シンは驚きと共にそれを受けた。
『エムリオンのパイロット、すまないが君は手強い。なるべく君を傷つけないように戦うつもりだったが、それも難しい。君を殺してしまうかもしれない』
「はあ!?」
正気か、シンがそう疑ったのも無理はない。実際ジャンの方にも、空母の艦長や艦隊司令から怒涛の罵声が寄せられているのだから。
だがジャンの言葉を補足するようにAI1が先程のロングダガーの斬撃のシミュレートを映した。
あのまま回避が間に合わなかった場合、エムリオンの左腕と頭部が切り落とされるもの、コクピットは無傷で済んだようだ。
無論四肢のどれかやセンサー類の密集した頭部を失えば戦闘能力は著しく低下し、また機体に不具合が起きてパイロットにも影響が出る可能性は否めない。
それでもジャンが言葉通り不殺を貫こうとしていたのは事実だとシンにも分った。そして、ジャンがそれを貫けぬ強敵だと自分を認めた事も。
『難しい注文とは思うが降伏してはもらえないだろうか?』
「ふ、ふざけるな! おれもエムリオンもまだ戦える! 他の皆だってあんた達と互角以上に戦ってる。降伏するのはあんた達の方だ」
「子供?」
癇癪を起したシンの声に、ジャンは少なからず驚いた。まだ十代半ばにようやく差し掛かった位の子供があの機体のパイロット。だがその事実が一つの可能性をジャンに示した。
「コーディネイターか」
それはオノゴロ島でシンに撃墜されたストライクダガーのパイロット同じ呟きだが、そこに含まれる感情はだいぶ違った。
「DCに強制されてMSのパイロットをしているのか、それとも自ら志願したのか」
だが悠長に構えている余裕はない。なぜならシンの言う通りクライウルブズのMS達は数倍する連合側を相手に終始優勢なのだ。
すでに駆逐艦と巡洋艦は八割近くが航行不能、残った艦もブレイクフィールドを展開したスティングのガームリオンの、ソニックブレイカーの直撃を受けて浸水している。
近くの陸地に上がったストライクダガーはタマハガネにビームライフルを叩きこんでいるが、戦艦クラスのEFとラミネート装甲、超抗力チタンや強化セラミックなどの重装甲を誇るタマハガネにはほぼ無効であった。
加えてタマハガネを守るシックス・ソキウスの駆るソードカラミティに良いようにあしらわれて、四肢の一部を失ったり頭部を潰されて戦闘能力を失っている。
相手が同等に近い技量のエースやベテランだと苦戦せざるを得ないソキウスだが、経験の浅い連合のパイロットには十分な脅威であった。
それにソードカラミティの中身は一部別物に変わっている。OSから始まり改良型のバッテリー、TGCジョイント、サーボモーターの増設などなど。元の三割増しの性能向上だ。
上空ではサーティーン・ソキウスのレイダーが、携帯火器であるM930マシンガンやGリボルバーでスカイグラスパーを牽制し、タマハガネのレーザー機関砲の雨に航空戦力は撃墜されている。
元々は実体弾による機関砲だったのだが、弾切れと誘爆を考慮してレーザー式に変えられた経緯がある。
これはアークエンジェルの交戦データを教訓として活かしたものだ。
唯一互角に戦えているのは少数生産されたフォビドゥン・ブルー部隊位だろう。それでも数ではブルーが六機、DC側は二機だと言うのにかろうじて互角というお粗末な内容だ。
もっともこれは隊長機である『白鯨』ジェーン・ヒューストンが私情を優先し、切り裂きエドと交戦に入ってしまった事もある。二人は恋仲であった。
「確かに、これは少年の言う通り、私達の負けかも知れんな」
冗談ごとではなく本気で負けを意識して、ジャンの唇がひくついたが、それでもここで自分が負けるわけにもゆくまいと気を取り直す。
『では、どうしても降伏はしないというのだね?』
「当り前だ! 煌く凶星だかなんだか知らないけど、やってみなくちゃ分からないだろう!」
『ふっ、若いな。だが嫌いではない』
やばい、向こうから仕掛けてくる気だ。
ジャンの戦意を確認したシンは焦りを覚えていた。
パイロットとしての技量は自分の方が確実に劣る。AI1がサポートしてくれるようだが、どこまで信用してよいのか。それに、できるなら自分の力で勝ちたいとも思っていた。
「残っているのは左手のステークだけか……。一か八か、いや一十くらいの賭けだけど!」
先程の、もう一度やれと言われても到底無理な斬撃を凌ぐ相手だ。シンはいろいろと覚悟しないと何だろうな、とどこか他人事のように考えていた。
エムリオンが左半身を下げ、右半身を前方に傾斜させる。これを外したら後はない。エムリオンの左手から生える三つの棒状の突起が青白く輝きプラズマを纏って青く輝く。
「勇猛だな。それとも焦ったか……」
ロングダガーの右腕のフォルテストラをパージしビームサーベルを左下段に構え、シールドを前面に押し出す構えを取らせる。
空母の甲板上での戦いには双方の味方が誤射を恐れて介入がない。
「うおおおお!!」
『来るか!』
エムリオンがまさしく飛んだ。脚部、腰部のスラスターを全開で吹かし、先程の一刀に迫る速度でロングダガーに真正面から突っ込む。小細工なし、駆け引きなしの真っ向勝負。
ジャンのロングダガーはシールドを前面に押し出したままエムリオンに合わせて突撃してきた。シールドに邪魔されロングダガーの機体が見えない。
「だったらシールドごとやってやる!」
腰脇に引き絞った左手のステークをアッパー気味に打ち込もうとするシンの不意を突いてシールドが投げつけられた。
「っしまった!?」
思わずたたらを踏み、無理な急制動がエムリオンのバランスを崩す。シールドは左に機体を傾けて回避できたものの、崩された姿勢を立て直す一秒が勝負を決める。
シンの視界に映るロングダガーの両手に握られたビームサーベルの輝き。シールドを投げつけて右上段から振り下ろされる袈裟斬りの一刀に、シンは瞬時に狙いを絞った。
「ステークセット! 全弾持っていけえええ!!!」
ステークの放つプラズマが甲板を削りながら振り上げられ、ビームサーベルを握るロングダガーの拳を捉えた。
『ぬ!?』
通信越しにジャンの驚きの声が聞こえる。
「一つ!」
ロングダガーの拳をプラズマ・ステークが砕く!
「二つ!」
そのまま振り上げられたエムリオンの左腕はロングダガーの右ひじを粉砕し
「三つ!」
一気に右腕をジョイントごと吹き飛ばした!
左腕を振り切った姿勢のエムリオンを即座に動かし、ロングダガーにとどめの一撃を加えるべくシンはコントロールスティックを握りしめ、そこでAI1の警告に動きを止めた。
「え?」
目の前には、コックピットに突きつけられた刃の出ていないビームサーベル。ジャンはステークが右拳を砕く寸前、ビームサーベルを左手に持ち替えていたのだ。
「殺られる!?」
だが、ロングダガーは動かない。
『負けたよ。先程の一撃で機体のシステムがエラーを起こした。その左手の武器のプラズマによる電磁干渉が原因だろう。私のロングダガーはもうおおよその機能を停止している。まさか、私の子供でもおかしくない年の君に負けるとはな』
どこか晴々と、しかしわずかに悔しさを交えたジャンの台詞に、シンは我知らず大きなため息をついた。かろうじて賭けに勝ったと、実感したのだ。
『どうやら全体の決着もついたようだな』
そういうジャンのロングダガーの背後では、空母の艦橋にトリケロス改を突きつけるGF天の姿があった。ミラージュコロイドで姿を隠し、瞬く間に空母に接近していたようだ。
「降伏せよ。さもなくば艦橋を吹き飛ばす。降伏すれば乗員の安全は保証するが、私はあまり気が長くないぞ?」
(うわあ、本気で吹き飛ばす気だ)
ギナの気性を身をもって知るシンは、軽く連合の兵に同情した。
『エムリオンのパイロット、名前を教えてもらえるか? 私はジャン・キャリーだ』
「……シン・アスカ」
『ありがとう。ついでに一つ聞かせてもらえるかね?』
「どうして戦っているのかって?」
『良く分かったな』
「最近よく言われるんだ。おれみたいな子供がなんで戦場にいるんだ、とかさ」
『ふ、確かに誰でもそう思うかも知れんな』
「守りたいからさ。大切な人達を。殺す為に戦う事なんてできないけど、守るためになら戦える。普通はそうなんじゃないかな。DCはそういう戦い方ができる所だとおれは思っている。自分の戦いを貫ける場所、ていうか。あんまり難しい事は解らないけど」
『自分の戦いを貫ける場所、か。君のような子供でもそれを見つけられたというのに、私は……』
「……」
ジャンの沈黙にシンは話しかける気にはなれなかった。目の前のスーパーエースが、敢えて連合に身を置いた事でどんな仕打ちを受け、どんな世界を見てきたのか、それはシンには分からない。
ただ、それが目の前の男に、こびり付き拭っても拭っても取れない疲れと絶望を与えたのだと、少年特有の感受性が感じ取っていた。
ジャン・キャリーという男が、連合という枠組みの中で孤独であり、それに苛まれながらもなお戦い続けていた、それだけはシンにも分った。敬意を払うに値する男だと言う事も。
「あの、どうやら艦隊も降伏したみたいだから……」
『ん? ああ、分かった。すぐにコクピットから出る。間違っても撃たないでくれよ?』
苦笑さえ交えたジャンの口調に、どうやらそうそうへこたれる男ではないらしい、とシンは思った。
周囲から疎外され、拒絶されてなお戦い続けてきた男だ。それくらいの精神的タフネスは備えているのだろう。
こうして、水平線に沈みゆく紅の太陽を背に、シンの初めてのエースとの激突は終わりを迎えた。
39 :
660:2007/08/02(木) 01:35:29 ID:???
ストライクダガーを三機入手しました。
バスターダガーを入手しました。
デュエルダガーを入手しました・
ロングダガー(ジャン・キャリー専用)を入手しました
スカイグラスパーを入手しました。
フォルテストラを四セット入手しました。
ストライカーパックを五セット入手しました。
長くてすいません。
>自身への自信
やっぱ変でしたよね。まあいいや、とか思っちゃいました。ごめんなさい。
>自分自身への自負〜
などに変換して読み進めください。
人工知能は、エレガントなあの御方が忌むような使い方にするつもりはないです。
ではでは、そろそろ破綻している個所も出てきましたが、ご助言、忠告、指摘お待ちしております。
GJ
遂にアードラーのジジイがでてきましたね
この様子だとアギラのババアやイーグレットも転移してきている予感
順調にキョウスケに似てきたシンにGJ、
そして爺がきやがった…
頼むからオウカ姉さんは静かにさせてくれ
つーか姉さんの選択肢が連合にさらわれて強化人間かマルキオのラクス教に入信しかねぇってのはどうなってるんだコンチキショー!
なーに
ちょっとだけ出てきて後は放置というのもある
きれいなテンザンがいるんだし、きれいなアギラフラグが立ってm(ry
けどオウカ姉さんと“乱れ桜”レナの姐御のコンビは見て見たい俺が居る。
ゼンガーがロウ達と旅して
150ガーベラは斬艦刀をモチーフにして作ったんだぜ!
なんて妄想をする暑い夏の日の午後
今更ながらグレッグ・パストラルがDC側に居ることにどうも違和感が…
>>41 ラクシズに入ったオウカ姉さんなんて恐ろしいよ〜
>45
ガーベラストレートの技術を応用してシシオウブレードとか。
>47
そういやアーチボルトはどうしたんだ?
50 :
660:2007/08/03(金) 00:38:06 ID:???
おれの中の悪魔が言うんだ。
「オウカを仲間にできなかった時の絶望と悲しみをもう一度味わうがいい」
と。
「それも悪くないか」
とかちょっぴり思う。
まあ、冗談は置いておいて――個人的にはプルとかプルツー、フォウが仲間にできるスパロボの展開が好きですし――きれいなアギラときれいなアーチボルト、あなたはどっちが好きですか?
アギラは登場する予定なかったんですけどちらほら名前で出とるし、出した方がよいのでせうか……。アーチボルトは予定していました。なお、新西暦から転移したキャラと、CE世界で生まれたOGキャラが混同していますので、ご注意を。
とりあえずOGsの死亡キャラを主軸に登場させます。なお、ビアンSEEDは戦記ものではございません。
スパロボみたいなイメージでやっていますので、細かいことは書きません。というか難しいことが分からないので、
ギレンの野望風味な感じでぽつぽつ書かせていただければ幸いと存じます。
そういえば、オーブってどれくらいM1持ってたんでしょうね? 100機位?
では、また近いうちに12話目を投下できるよう頑張ります。お邪魔しました。
死亡キャラ・・・
今回は死亡キャラも行方不明の生死不明だからなー
とりあえず覚えてる戦死者リスト
ウォーダン・エキドナ・レモン・ヴィカジ・アギーハ・シカログ
アーチボルト・セトメ・ダイテツ・イングラム・カーウァイ・ユーリア・リリー
テンペスト・揉み上げ策士・ユルゲン・カイル・アルフィミィ
こんなとこかな?
メッキーはまぁ生きてるだろうとして
四天王の名前3つでてるのにヴェンドロ君がいないってどうよ
アクセルは生きてて欲しいけど
シャドウミラー幹部の名前出せたのにヘタレワカメいないってどうよ
後、アタッドと汚いテンザンとガルインとベルゲルミルトリオかな?
フィオナもこれそうな消え方はしてるけど…
>>52 OG2.5にフィオナ出てきたらどうする?
ああウェンドロとワカメとアタッド忘れてた。
テンザンはもうこっちで復活してるから除外
ゲルミルトリオもまだ出る可能性あるから除外
ガルインは中の人書いたから除外
そういや地球保全派もといヘタレ上層部もか
あとカトライアとトロンベを忘れてた
フィオナは死んでなくてもエンジン暴走で吹っ飛ばされてきたとかでおkじゃね?
アクセルは俺も生きてて欲しいけどOG2の時点じゃ死亡扱いだし何よりSSスレ的に俺の願望なんざどうでもいいしww
後、ノーマン・スレイは?彼もネビーイーム戦で死んだよ。
友情出演:バルトールにさらわれた人達
しかしスクール勢はみんな生存してるからこっち来ないし、正気化フラグ立てにくそうだな。
DCの名前と総帥のお声ぐらい?あとはこっち側に来てからの縁か。
>>50 >きれいなアギラときれいなアーチボルト、あなたはどっちが好きですか?
きれいなアギラをお願いしますw
アーチボルトはテロリストでキャラ立ちしてるし、ジジイがいつもどおりだしな。
アーチボルト家の中にも味方っぽいヤツが居たような。
富士原昌幸先生が書き始めた所で掲載雑誌が潰れたアレに出てたヤツ。
そう考えればきっときれいなアーチボルトも、アーチボルトも…………
グラサンのアーチボルトはやっぱ敵だな、間違いない。
アーチボルドは名前、家名はグリムズ。
OGs終了時点で死亡、または生死不明なネームドキャラクターを纏めてみた。
OG1以前
カトライア、トロンベ
OG1
アードラー、アタッド、アルバート、イングラム、カール、ガルイン、グレッグ、ジーベル、テンザン(ゲーザ)、テンペスト、
ノーマン、ハンス、ビアン、マイヤー、ユーリア、リリー、レンジ
OG2
アギーハ、アギラ、アクセル、アルフィミィ、アンサズ、イーグレット、ヴィガジ、ヴィンデル、ウェンドロ、ウォーダン、
ウルズ、エキドナ、オウカ、クエルボ、シカログ、スリサズ、ダイテツ、ノイレジセイア、バン、フィオナ、メキボス、リー、レモン
OG2.5
カイル、ジジ、マウロ、ユルゲン、ラミア、リック
番外(OG2『向こう側』だと死亡、または生死不明と明言されている人々)
エクセレン(シャトル事故で死亡)、エルザム(エルピス事件で死亡)、ゼンガー(アースクレイドル内乱後、行方不明)
一部人じゃないのも混じっているがかなりの人数だ。
>>62
あれってブランシュタインの先祖じゃないの?
ブランシュタイン家とグリムズ家の先祖がそれぞれ居るね。
ついでに言えばリシュウの先祖も
グリムズの先祖もブランシュタインの先祖もいた。
トロンベってエルザムが飼ってた馬のことかwww
頭の中で「トロンベ=エルザム」の図式が出来てるからまだ死んでねぇーよと思ってたwww
ちょっと揚げ足取りなんだが、リーはGBA版じゃ確かに死んだけど、PS2版は死んでないよ
テンペストの家族も来てるとしたら復讐鬼じゃなくなってるのかな?
ああ、OGsのリーは死んでないな。
テツヤのドリルに貫かれて言葉攻めを喰らった後、限界の体を引きずって逃げたんだった。
外伝出演フラグ
話の流れをごろっと変えるんだけど、種キャラでOGの機体に乗せるとしたらどんな機体に乗せます?
自分はイメージで
初期キラ=アルト
凸=ゲシュ(ラッセル機)
カガリ=ゲシュ(カチーナ機)
ラクス=アンジェルグ
ムウ=アーマリオン
クルーゼ=ヴァルシオンCF
ロウ=ガーリオン「無明」
ガイ=ラーズアングリフ・レイブン
バリー=ホー=ソウルゲイン
とかかな?
…やっぱラクスとクルーゼはミスマッチ過ぎるかな…?
キラの方がミスマッチ過ぎるw
ただ、ガイがラーズアングリフに乗ってる姿は個人的には違和感なし
劾は何でも乗りこなせるからね
それと、キラがアルトはあり得ないw
そもそもOGだと、キラに似合う機体ってのがあんま思いつかない
ヒュッケガンナーぐらいかなあ
フルインパクトキャノン(だっけ?)がフルバーストに似ていなくも無いから
確かにヒュッケガンナーは有りかも
77 :
73:2007/08/03(金) 15:31:57 ID:???
いや初期のキラって突撃格闘系だったと思うんで…ランチャーストライカー装備してゼロ距離でアグニをぶっ放すとか…
書いてて思い直した、ビルトファルケンLだ一回でスクラップ置き場に行ってしまった不遇の名機…
キラ・・・ART−1
ラクス・・・ヒリュウ改
クルーゼ・・・ヴァルシオン、ヴァルトール
って感じじゃね
アンディ=虎王機
モラシム=シーリオン
ババ=量産型ヒュッケバイン
サトー=ガーリオン
>>79 ラクソの腰巾着に堕ちた猫にも劣る飼い虎に虎王機が応えてくれるはずは無いw
ははは全盛期の頃の話ですよ
龍には・・・ダコスタ?
虎は初登場の時からとても軍人とは思えないやつだったけどな。
気さくな態度とかそういう表層的な事じゃなくて、軍隊観や戦争観が。
能力はおいといて、典型的な政治に容喙したがる失格軍人だろうな。
虎には雷虎改がある
でも轟龍改には誰もいねぇよな・・・
ちょっと妄想を投下
前略
ザフトはAMを使い電撃作戦で
中略
地球連合軍はこの状況を打開する為
PT開発を決定,中立コロニーヘリオポリスで試験が繰り返され遂に完成した
が、ザフトも黙っておらずヘリオポリスの機体の強奪作戦を決行した。
ハガネ隊
開発機体を本部に持ち帰る為結成された部隊
正規クルーはほとんど死亡しており,ヘリオポリスからの避難民で不足しているクルー分を補っている。
パイロットも一部避難民だ!
持ちPTはR-1,R-2,R-3,R-GUN,シュッツバルト,ビルトラプター,ジガンスクード
ヒリュウ隊
ファーストコーディネーターのジョージが木星に行った船を戦艦に改修
女帝ラクスの直属部隊
隊長のクルーゼを筆頭にアスラン・イザーク・ディアッカ・ニコル・ラスティ・ミゲル等が所属
他にはアカデミーの成績優秀者(+ラクスの好み)
ソウルゲイン・ヴァイサーガ,ラーズアングリフ,ヒュッケバイン008R,グルンガスト弐式,カリオン
アストレイ組
乗る機体はアストレイじゃないが王道じゃないならおkなアストレイ組
ハガネ隊
艦長はナタルバジルール
階級はマリューの方が上とはいえ指揮能力はナタルの方が上
と言うわけで艦長の座はナタルに押し付けPTをいじりまくるラミアス
キラはメカフェチで改造したい症候群に掛かってる、どんな機体もカスタムしちゃうよ
サイは努力家,頑張る子,自力でR-2のシートを奪い取った,皆のリーダーまとめ役
フレイは危ない子,放っておくと辺りは血の海、でもR-3を扱えるのは彼女しかいない
ムウは頼れる兄貴分でR-GUNに乗るよ!でも今回は裏のことも色々知っている黒い人
ヒリュウ
クルーゼ:変態なんだ、なんか仮面付けてるし
アスラン:格闘の鬼,たとえ射撃メインの機体でも殴りかかるぞ!
イザーク:突撃馬鹿,突撃あるのみ
ディアッカ:残忍で狡猾な変人
ニコル:明らかにやばそうな機体を奪取したニコル,彼は生き残ることができるか
ミゲル:今回は死なない・多分
ラスティ:ぶっちゃけ死ぬ
ラクス:プラントの影の支配者
アストレイ組は変わらず
シンには龍虎雀武王が合いそうだ……が、速攻で命使い切りそうだからサイコドライバーか
イルイ、アルマナ達が居なきゃやってられんだろうな
シン:雷凰に乗る。師匠役はゼンガーとフォルカ
雷鳳に乗ってシステムLIOHで暴走、さらに力を追い求めるとか
シンになんとなくあってる気もするな
蹴り技ならジェスとカーツだ!
ゲシュペンストキック創始者ktkr
バカかおめえら?
蹴りと言えばキョウのアブエンダ脚しかねえよ。
ビアンSEED氏のSSなら、シンがトレーニングルーム修羅界に長期間放り込まれて機神拳体得してしまうかも
そういやフェアリーとかソードブレイカーとかスラッシュリッパーでどういう制御してるんだろうね
それがこっちにきたらドラグーンの技術が大幅に上がりそうな機がする
>>91 多分婀娜艶舞脚と書くんだろうな
新スパロボのバルマー兵器は形状がまちまちで、征服した諸勢力の寄せ集めという設定らしいが
あんなロボットどこの星が作ったんだろうかw
ビームモヒカンとかもあったな
何がやりたかったんだろうね、作ったところはwww
>>95 タコまんまの外見のバトルクラッシャーの武装は神。
・ビームモヒカン
・バトルパンチA
・バトルパンチB
・挌闘
・ハイメガキャノン
・ダークオクトパス
ビームモヒカンとかありえねえよwww
ビーム発射で涙流すしw
つくづくスタッフになにか異次元的なモノが降臨してたとしか思えないセンスだよなw
有線式ビームサーベルやミノフスキートライアングルとかもわけ分かんねwww
>>100 だって素のビームサーベルに線が付いてるだけなんだぜ?
>>101 エピオンのハイパービームサーベルみたいにジェネレーター直結してるとかじゃね?
>>103 スカウトには手がないんだ…
つまり手の代わりに動く紐で動かしてるだけなんだ。
105 :
通常の名無しさんの3倍:2007/08/04(土) 16:37:44 ID:tzl+MxU7
続きマダー?
もしも久保が種・種死の世界に来たら・・・を考えてみた
駄目だ・・・ザフトや歌姫騎士団がフルボッコにされる
第十二話 戦場の桜
いくつもの装甲の破片や黒いオイルが揺らめく海面に着水したタマハガネの格納庫に、シンはリオン・パーツをパージしてすっかりスリムになったエムリオンを戻して、コクピットから降りてヘルメットを脱ぐ。
髪の先から滴るのは流した汗の雫だ。自分でも驚くほどにぐっしょりと全身が濡れている。ジャン・キャリーとの戦闘はかつてない緊張をシンに強いていたようだ。
ステラのエムリオンやスティングのガームリオンもメンテナンスベッドに収まり駆け付けた整備兵達が群がる。
その様子をぼんやりと見つめていると、アルベロのガームリオン・カスタムが着艦し、外部スピーカーから低く抑えられ、却って恐ろしさが倍増したアルベロの声がシンめがけて吐き出された。
『シン・アスカ。貴様、自分が何をしたか分かっているな。後で艦内マラソン100周と修正を加える。覚悟しておけ、加減はせん』
「……はい」
自分の単独行動が、下手をすればどれだけの被害を味方にもたらす事になったか、一応の軍事教育を受けたシンはそれなりに理解していた。
ましてや自分が戦ったのは連合屈指のエース。命があったのが不思議な位だ。
「はは、何やってんだ、おれ?」
人殺しには慣れた。銃口を向けられるのも慣れた。そう思っていた。でも、それは勘違いで――。
「こんなに、こんなに怖いじゃないか、震えているじゃないか、シン・アスカ?」
その場で膝をつき、ジャン・キャリーとの死闘で張り詰めていた緊張の糸が切れたシンは、それまで自分でさえ知らずにため込んでいた恐怖と罪悪感を残らず吐き出す為に、滝の涙を流して、慟哭した。
「シン……」
そんなシンを遠目に見守っていたステラは、初めて見るシンの弱弱しい姿に、どうすればいいのか分からなかった。ステラにシンが今感じている恐怖・不安は理解できない。
もう随分と前にそういう風にされてしまったから。
でも、シンのそのまま消えてしまいそうな、目の前から消えてもう会えなくなってしまいそうな姿に、ステラはどうしようもなく悲しくなって、胸が締め付けられて、瞳に涙の紗幕を浮かべていた。
どうすればいいのか分からない。シンが泣いている。あんなに悲しそうに、あんなに辛そうに。
いつも傍にいてくれて、いつも気に掛けてくれて、ふとした時に頭に浮かぶ男の子。アウルやスティング、ビアンとはどこか違う人。
何ができるのか分からない、何をしてあげればいいのか分からない。それでも、せめて傍にいてあげたい。シンがそうしてくれたように。
「……あんな子達がDCの兵士なわけ?」
「はは、あいつらは分けありさ。あっちのステラって子はな、エクステンデッドっていうらしい」
「エクステンデッド?」
「詳しい事は知らないが、連合が研究していた強化人間の一種らしい。洗脳、暗示、薬物投与、外科手術、肉体と人工物の代替。そこまでしてコーデイネイターに勝ちたかったらしい。
あの子たちはDCのお偉いさんが助け出して治療しているそうだぜ。そんな子が何でこんなとこに居るかと言えば、あの子たちから戦うって言いだしたらしい。ま、それを信じるかどうかは、ジェーン。お前が決めればいい」
「自分の目で確かめろってことね」
二人の子供達をエドと金色の髪をした意志の強そうな美女が見守っていた。先程まで連合側のエースとしてエドと死闘を繰り広げていたフォビドゥン・ブルーのパイロット『白鯨』ジェーン・ヒューストンだ。
ビクトリア攻略作戦で連合から離反したエドと出会い、一日千秋という言葉に劣らぬ程の密度で募らせていた想いをぶつけあい、死闘を繰り広げた。
実際、エドのソードカラミティは対艦刀シュベルトゲベールを一本失い、左腕の肘から先を失い、TP装甲各所にダメージが残っている。
ジェーンのフォビドゥン・ブルーはビーム偏向装甲ゲシュマイディッヒ・パンツァーを片方失い、胴体や脚部に対艦刀による斬撃の跡が残っている。
元恋人の割に、いやだからこそ容赦の無い戦いを繰り広げていたようだ。幸いにして元の鞘に収まったのでめでたしめでたしというべきだろう。
「にしても良かったのかジェーン? 投降するだけならともかく、DCに参加するんじゃ連合への裏切りになるぞ?」
「いいのよ。私の居場所は、貴方のそばなんだから」
「へへっ。やっぱりお前はおれにとって最高の女だよ」
エドとジェーンが見守る中で、シンの傍らでしゃがみこみぎゅっと抱きしめたステラが、シンと一緒になって泣いていた。
格納庫ではそんな二人をどう扱えばいいのか分からず困るアウルとスティングと、静かにシンとステラの好きにさせる大人たちに別れていた。
「シンの奴、どうやら説教をくれてやる必要はなさそうだな。アルベロ三佐」
「いい薬にはなったかも知れんが、やはり子供だな。ビアンが罪悪感を抱くのも無理はない」
互いの機体から降り、ステラとシンの様子を見ていたアルベロとギナだ。オノゴロに戻れば洒落にならない制裁を加える予定の二人だが、今はシンを気遣う様子を見せている。
しばらくシン達を見ていたギナとアルベロだったが、やがて話の矛先を変えた。ギナは黒と金を基調としたパイロットスーツのままだ。
「さて、今回の奇襲作戦、どれほど価値があったと思う?」
「焼け石に水を4、5杯掛けたと言った所か。後は連合がどこまでDCを評価するかだな。ひょっとしたら我々が自分自身を過小評価しているかも知れんがな」
「ふむ。連合に過大評価されても困るが、そちらも困りものだな。だが、海上封鎖をされればたちまち物資が枯渇するのは目に見えている。
国民はホムラやウナトの説得で現状を受け入れつつあるが、在外オーブ人からの反応は好意的とは言い難い。各コロニーと月面都市群は判断を保留している感があるな。DCも問題が無いわけではないのだから」
「ふん。クーデター政権だ。反感を持つものが多数存在するのは当たり前だろう。ウズミ政権の支持率は99パーセントだったか。たちの悪い冗談だと思ったぞ。そんな国を母体にしている割によくやっているというべきなのだろうな」
「そうしておこうか。私は宇宙に上がるが、地上は任せるぞ」
「言われるまでもない」
それだけ言って、アルベロはパイロットスーツを着替えるべくロッカールームへと歩き出した。
なお、艦内マラソン百周は八十周へと手心が加えられた。
その後、捕虜にした連合の兵士とMS、諸部品を合流したタケミナカタに預けて身軽になったタマハガネは、一路オノゴロ島へと進路を向けた。都合四度の激戦を終えた若き兵達に、一時の安息を与える為に。
ローレンス・シュミットの伝言と、その後国防委員会経由で送られてきた情報を整理した結果、フリーダムが宇宙に上がったのは事実であると確認したアスラン・ザラは、DCから返還された傷病兵の一部と共に宇宙へと上がっていた。
地球軌道上に上がってからザフトの小規模な補給基地に寄港し、本国までの護衛を確保した傷病兵のシャトルとはここで別れる事となる。
「では、プラントに無事戻れる事を祈っている。父上と母上を喜ばしてやれ。ニコル」
「アスランも。特務隊としての任務、無理をしないでくださいね」
アスランとニコルは、きつく握手を結び、二人は再会を誓って別れる事になった。
死んだと思っていた戦友との再会の喜びを胸に抱いたまま、アスランはかつての親友を追う任務に戻らなければならなかった。
まだ包帯の全てが取れてはいないニコルだが、せいぜい火傷や擦り傷を隠すものだ。後二、三日もすれば傷も快癒するだろう。
「じゃあ、またいつか会おう、ニコル」
「アスラン、どうか無事に。この戦い、少しでも早く終わって、平和になるといいですね」
「……そうだな。その為にもおれに出来る事をするよ」
「アスラン、少し変わりましたね」
「そうか? そうかもしれないな」
それが、二人の別れの言葉だった。アスランもニコルも、再び出会う時、互いの立場に驚く事になるとは、この時はまだ露とも知れなかった。
ニコルと別れて、一応完成機なのだが、核動力MSという試み故か欠陥や整備性の悪さが否めないジャスティスの調整に四苦八苦する整備兵と協力して、機体調整を行う。
一息ついてコーヒーチューブを胃に流し込みながら、アスランは頭の中で情報を整理していた。
DCが蜂起するその直前、フリーダムを積んだアークエンジェルとクサナギというオーブの戦艦がマスドライバーによって打ち上げられ、消息を絶っている。
ザフトのパトロール艦隊が、不審な艦を見かけたという情報が回されてきてはいるが、これにアスランは胡散臭さを感じていた。アスランが宇宙へ上がるのを見越した上で入ったようなタイミング。
意図的に伝えられたかのような、そんな情報の通達。ローレンス・シュミットに感じたものと同じ、掌で踊らされているような感覚が拭えない。
「おれがフリーダムと接触するのを望んでいる者がいると言うのか?」
だがそれでもアスランは行かざるを得ない。それが彼の父――現プラント最高評議会議長パトリック・ザラに命じられた任務であり、彼自身の意志でもあったから。
L4コロニー群の一つ、メンデルを目指すアスランは途中までローラシア級に運んでもらう手筈を着けた。
ジャスティスに秘められた秘密。ニュートロンジャマーキャンセラーによる核動力はバッテリー機をはるかに上回る出力を与え、稼働時間の制限を取り払ったが、生憎と推進剤や弾薬は有限であり、無限に稼働するなど夢のまた夢なのだ。
暗黒の宇宙にまたたく数千年前の星々の輝きを、人の夢の残骸である鉄屑達が無粋に覆い隠す。
地球圏の身に存在する人間が犯した所業の証明――廃棄コロニー、破壊された人工衛星、宇宙の藻屑と化した宇宙船、今大戦で出現した鋼の巨人MS達の残骸……。
人の息吹も生命のぬくもりも失われた世界に佇む廃棄された円筒形のコロニーに潜むはぐれ人達に、時代は静寂を許さぬようだった。
「アンノウン? ここに近づいているの?」
メンデルのドックにつながれたアークエンジェルとクサナギは、宙域に放っておいた無人衛星の警戒網に、メンデルの付近をうろつくジャスティスがかかったことで、にわかに慌ただしさで取り戻した。
ここ数日、オーブ所有の各コロニーや月面都市の親アスハ派からの物資を秘密裏に受け取り、密かに戦力を整えていた。
が、それもここに隠れている事が暴かれればまた別の手段を講じねばなるまい。
「ええ。識別はザフトですが、ライブラリに該当する機体がありません。……ただ、フリーダムの中のデータに該当する機体がありました。ジャスティス、核動力MSです」
「! NJC搭載機? そんな重要な機体が単独で行動しているの? 連合に鹵獲された時の事とか考えているのかしら?」
「ブラックボックス化と自爆装置位は積んでいるんじゃないんですか?」
アークエンジェルの艦橋で単独で行動するジャスティスの行動に戸惑いを覚えながら、推測を交わすマリュー達だったが、とにもかくにも対処しないわけにはいかない。
既にストライクとフリーダムに乗り込んだムウとキラから通信が入り、状況を説明する。
「核動力MSか。ザフトのトップシークレットが何で単機でこんな所にいるんだ?」
「さあ。ただ何時でも出撃できるようにしておいて。ここで目ぼしいものは」
「僕たち、ですよね? マリューさん」
「ええ」
今や廃棄コロニーたるメンデルにザフトや連合が目を向けるものなど無い。あるとするなら、そこを根城にする自分達の存在位だと、理解していた。
現在の戦力はアークエンジェル、クサナギ、メズ、ゴズ、の四隻の艦艇と、MSはフリーダム、ストライク、ストライクルージュ、バスターが一機ずつ。
それにクサナギに搭載されていたエムリオン(換装パーツなし)が十機とメズとゴズに搭載されていたジン四機、シグー一機の二十九機に及ぶMS。
ザフト製のMSには旧オーブ軍のOSを搭載してあるからナチュラルでも運用は可能だ。
「ディアッカ、貴方心当たりないの?」
オペレーターを務めるミリアリア・ハウが、かつてキラがMIA勧告を受けた戦い以来ずっと捕虜にし続け、オーブ脱出後まで付き合わされる羽目になったザフトの赤服ディアッカ・エルスマンに問いただした。
「おいおい、おれがアークエンジェルの捕虜になってどれ位経ったと思ってるんだよ。所詮前線に出ずっぱりの兵士に過ぎないんだぜ?」
褐色の肌に、波打つ金髪を逆立てた少年がディアッカだ。時には酷薄な光を浮かべるややたれ気味の眼には、ミリアリアとの会話を楽しんでいる節がある。
この男、どう言うわけかアークエンジェルの捕虜になっている間に思う所があったらしく、メンデルに来る途中で自由にしたというのにアークエンジェルにそのまま居座っている。
かつて死闘を幾度も繰り広げた相手だけに、キラ達も戸惑いを覚えたが、乏しい戦力の彼らにとっては予想もしなかった味方が増える事になったわけだ。
「おれに言えるのは、あんな機体を任されるんだ。ザフトでも相当の凄腕って事くらいだな。それこそアスラン級のな。
まあ、その点、ここにいるのはザフトの最新鋭の機体とおれら赤服が束になっても勝てなかった奴、連合のトップエース“エンディミオンの鷹”とGだ。たった一機相手ならよほどの事がなきゃ負けないさ。近くに大部隊が待機していない事を祈るんだな」
「ジャスティスを囮にしているかもしれない、って事か。でもザフトがそんな事をして何のメリットがある? いやフリーダムの奪取はそれ位重要か」
ニュートロンジャマーキャンセラー。ザフトが拘るとしたらこの装置に尽きる。
連合の核兵器の使用を封じるために用いられたニュートロンジャマーは核分裂を抑制し、核兵器のほか原子力発電にも作用し、地球上の全人類にその牙を剥いた。
これによりライフラインを止められた地球各国家では凍死者や餓死者が出る事態にまで勃発し、原子力に依らない電力供給の手段が確保されていない国家では甚大な被害が起き、死者の総数は億を超えた。
この核の業火を防ぐ装置が無効化されればプラントは核の脅威にさらされ、同時に原子炉に再び火が灯されて、元から覆しようがないほど広がっていた国力が、さらに隔絶する事となってしまう。
NJCの流出はプラントとザフトにとって致命的事態を巻き起こしかねぬ一大事なのだ。まあ、そんなものをなんでMSなどに積み込むのか? と首を捻らざるを得ないのも事実だ。
確かに核動力MSは既存のMSを凌駕するスペックを、その動力源から得られる。だが、それよりも搭載されたNJCが連合の手に渡るリスクの方が圧倒的に大きいのではあるまいか?
もっとも、連合とてNJを無効化する装置・機械の開発は、NJを打ちこまれ、その威力を知ってからとっくに始めているはずだ連合製のNJCの開発も、そう遠くない未来の出来事なのかも知れぬ。
「困ったわね。罠と分っていても仕掛けざるを得ないという状況かしらね、これは」
「まあ、息を潜めていても見つかるだけだろうからな」
結局、思案顔を突きつけ合っても妙案が出るはずもなかった。一方でアスランは、まだメンデルの状態が良好で電力が生きている事を確認していた。
「なるほど、誰も近寄らず、設備が生きているならしばらく姿を隠すのには適しているな」
NJCの効果で、NJの副産物であるレーダーの妨害効果を無効化できるジャスティスは、流石に戦艦クラスの索敵能力には及ばぬが、じきにアークエンジェルとクサナギの船影を捉える事となった。
「……足付き、いやアークエンジェル、か」
流石にここまで接近すればアークエンジェル側も、ジャスティスが通り過ぎるはずがないと腹を据えたようで、まもなくアスランの追い求める相手が姿を見せた。
青い六枚の翼を持ち、ツインアイに白いGタイプの機体フリーダム。砲撃用の機体であり、近接特化の機体であるジャスティスの兄弟機。それに乗るのは――
「キラ・ヤマトか? こちらはアスラン・ザラだ」
「アスラン!? どうして君が……。ううん、君はザフトの軍人なんだ。なら、君がその機体に乗っていてもなにもおかしくなんかないんだよね」
ジャスティスと相対する形でフリーダムは動きを止め、やや距離を置いてムウのエールストライクとディアッカのバスターもそれに倣う。
「知り合いか?」
「アスラン? よりにもよって、あいつかよ。まさかイザークまで来てないだろうな」
ムウはキラの様子に疑問を抱き、ディアッカは聞こえてきた声と名前に複雑な色を浮かべる。
「アスラン、君の目的はこのフリーダム、だよね?」
「ああ、そうだ。おれは奪取されたフリーダムの回収・破壊とそれに関連した人物・施設の完全抹消の任務を帯びている」
「そう、なら戦うんだね?」
アスランの言葉に戦闘を覚悟し、キラはフリーダムのコクピットの中で固唾を呑む。力量は互角、機体の性能も互角と言ってよいだろうが、砲戦用のフリーダムは懐に飛び込まれればジャスティスに勝つ見込みは一気になくなる。
少数精鋭という事で出撃したムウとディアッカがいる事が大きなアドバンテージではあるが。
「いや、おれに戦闘の意思はない」
「え?」
「ラクスに言われたよ。おれが信じて闘うものは何なのかと。与えられた勲章なのか、ザフトでの名誉や地位なのか、父上の命令なのか。その為に戦うなら、お前やラクスが敵となる、とな」
「ラクスが……」
「キラ、おれはあの時お前への憎悪に身を任せて闘った。けれど、お前を殺したと思ったおれに残ったものは、苦い思いだけだった。仲間を殺されて、お前の仲間を殺して。
結局残ったのは、後悔と苦しみと、どうしてこんなことになってしまったのか、そんな思いだけだった。もう、こんな戦いは続けてはいけないんだ。その為に出来る事をおれなり考えたよ」
「アスラン」
「キラ、お前が見つけたという本当に戦うべき相手は、おれにとっても本当に戦うべき相手だと、おれは思う」
「それじゃあ……」
キラの声にうっすらと期待と不安が昇る。何度も戦い、互いの仲間を殺し合った二人だ。幼年学校の時の親友といえども、戦争が穿った二人の間で刻まれた溝と亀裂は、深く悲しいものだった。
でも、それでも憎しみを乗り越えて二人の断たれた絆は、新たな形で結ばれようとしていた。
「おれも、お前達と共に戦いたい。命令でも地位や名誉の為でもなく、ザフトのアスラン・ザラではなく、アスラン・ザラという一人の人間として」
凛と響くアスランの声に、キラは複雑な、それでも喜びをにじませて頷いた。
かつての親友。殺し合った友達。お互いの仲間を殺し合った二人。もう昔の様には戻れないだろう。でも、それでもまた新たな絆を結ぶ事が出来る。同じ道を歩む事が出来る。それはきっと素晴らしい事なのではないか。
「なんだよ。驚かせるなよ、アスラン」
「ディアッカか!? お前……ひょっとしてずっと捕虜だったのか?」
「そういう台詞言う? 普通、戦友との再会を喜ぶもんじゃない?」
相変わらず人を食った性格のようだ、とアスランは小さく苦笑を零した。しかし、あのディアッカがどうしてアークエンジェルと行動を共にしているのだろう?
ややこしいことすんなよ、とアークエンジェルを始め各艦のクルーに心の中で突っ込まれているとは知らぬアスランは、キラに誘導されてアークエンジェルに着艦した。
その後、ミリアリアとディアッカの間で、アスランに対する話が交わされたのだが、アスランがそれを知る事は無かった。ミリアリアの恋人トール・ケーニッヒを戦場で殺したのは、アスランだった。
宇宙でのささやかな、しかしある世界では歴史を動かすほどの大事へと発達した再会と和解とは別に、地上の旧オーブでも迫る連合との再度の激戦に向けて、連日合議が交わされていた。
首都オロファトにある行政庁に移ったビアンが、ホムラやウナト、ユウナをはじめとしたDC側についた五大首長、閣僚らと席を交えていた。
「赤道連合やアフリカ共同体、大洋州連合、また南アフリカ合衆国の旧勢力との交渉ルートは目処が付きました。後はわれわれDCにそれだけの価値と力がある事を示さねばなりません」
各国と外交ルートで交渉に当たっていたウナトの報告を誰もが沈黙を持って迎える。赤道連合はオーブと時を同じくして連合加盟を要求され、それまでの中立政策を放棄している。
アフリカ共同体や大洋州連合は親プラント国家であり、いまだザフトと交戦状態に入っていないDCにとっては希少な交易相手でもある。
南アメリカ合衆国は、連合の武力侵攻によって組み込まれてはいるものの、不満を覚える軍人や民間人、政治家が多く、DCがそれを援助する形で折衝を重ねている。
「そういう意味では、次の連合との戦闘が絶好の機会であり、まさしく僕らの命運を分ける劇的な戦い、というわけです。総帥」
いささか軽めな口調でいうユウナだが、流石に事態の重さを理解しているため、若干の緊張がその言葉に混じっていた。
ウナトの補佐として連日各国との水面下での交渉は、先に挙げられた国家だけでなく、連合の主軸である大西洋連邦、ユーラシア連邦、東アジア共和国などにも及び、セイラン家が繋がりを持つ、各産業の支配者達が集う“ロゴス”にも及んでいた。
殺人的なスケジュールをこなしながらも、普段の調子を維持しようとするユウナの根性はそこそこに評価されてしかるべきだろう。いつもは舞台に立つ役者のように整えられた髪はいくらかばらつき、眼もとにもうっすらと隈が浮かんでいる。
一見、なんの疲労も見せぬユウナの父ウナトの方もなかなかに人間離れしている。
「御苦労だったな。ウナト、ユウナ。では、現状のDCと連合の戦力比はどれほどだ。コトー?」
ギナとミナの義父、サハク家の首長たるコトーがビアンの問いに応じて、この会議に出席する面々の手元にあるディスプレイに搔き集めた連合の戦力の情報と自軍とのそれを比較したものを映した。
「ざっと三対一。無論、一が我が方です。ジブラルタル、カーペンタリア、西ヨーロッパ、アジアに残るザフトへの戦力を残しつつ、これだけの数を用意したのは、流石連合というべきでしょう」
陸海空とすべての面においてDCの三倍強の戦力を用意して見せた連合の圧倒的な物量に、出席する面々から呆れと恐怖を混ぜた溜息が零れた。
いくら連合が今戦争最大の国力を持つ組織とはいえ、プラントが独立を目指した事で抜けた、プラントの工業力の損失は馬鹿にならない。それまで一方的に搾取出来た優れた工業製品がまるまる入らなくなった事で、
プラントに依存していた工業生産の形はそう容易く変える事はできず、連合諸勢力の工業生産力に打撃を与えている。
にもかかわらずこれだけの物量を用意して見せたのは、いささか過剰すぎる。それだけDCを評価しているという事か、あるいは誰かの横やりでもあったのか。
「MSだけでも500を越えます。こちらのエムリオンは現時点で100、バレルエムリオンが44、ガームリオンが23。それと鹵獲したストライクダガーに人工知能を搭載し、実戦に耐え得るものが30機。
総数207機ですが、アメノミハシラに70機ほどが配備されている為、本国の戦力は約140機。おおよそ連合の三分の一のMSが揃っています」
ある程度整えられていたM1の生産ラインを流用したとはいえ、それなりの数を用意できたというべきだろう。
DC製MSの生産は、ヘリオポリス崩壊の1月末日辺りから開始され、月間40機強のペースで行われた計算になる。
エムリオンとストライクダガーのキルレシオはおおよそ1対2・5。これはエネルギー・フィールドを突破され、リオン・パーツをパージした状態から更に撃墜された場合を言う。
完全に撃墜されるまでに、同等の技量の相手なら一機のエムリオンで二機のストライクダガーを撃破出来、三機目を半壊に出来るという事だ。
パイロットの質自体は連合とDCでは大した差はないのだが、TC−OSを始めとしたコンピューター・ソフトウェアの充実で、DC側の方が優位だ。だが、それを考えても連合との物量差を覆すには足りない。
現在DCでもっとも優先されて生産されている軍事兵器がMSなのは言うまでもないが、戦闘機などの生産はほとんど行われていない状況にある。
これは、新西暦においてビアンが人型兵器にこだわった理由が深く関わっている。人類にとって、自らの肉体を模した人型こそが“究極の汎用性”の可能性をもった兵器インターフェイスだったからだ。
例えとして旧世紀の航空機を挙げてみよう。
当初は、敵の航空機を空中で撃破する為の高い機動性をもった戦闘機。次に領空に飛来する戦闘機を迎撃する為の高い加速性をもった迎撃機。その次に地上の目標を攻撃する為の、対地攻撃能力を付与された攻撃機。
さらにその次には発達したレーダーに捕捉されずに目標へ侵攻する事を目的としたステルス機などが目的と戦争大系の変化に応じて随時開発され、実戦に投入されていった。
しかし、これら四種だけでも、複数の航空機を配備するには莫大な負担が掛かる。このコストという面を解決するために、高い加速性と機動性を持ち、更に対地攻撃能力とステルス能力を併せ持った高性能戦闘機が開発されたのである。
一機の戦闘機にそこまでの高性能を求めた結果、一機当たりの配備コストは高くなるのだが、それでも四種類の異なる航空機を生産するよりは安上がりだった。
四種類の航空機の機能を併せ持った一機種さえあれば、あらゆる事態に対応でき、極端に言ってしまえば航空機の数を四分の一にしても同等の戦闘力・作戦遂行能力が発揮できるのだ。
数をそろえるよりも質を高めることでコスト削減につながり、更に人的資源の消耗を抑えることも可能になる。
それを突き詰めた結果、ビアンは人型の兵器にこだわったのだ。それはこのコズミック・イラの世界においても変わらず、エムリオンは汎用的な機種として完成されている。
陸海空宇宙と各換装パーツによって地理的状況に応じた戦闘能力を発揮し、また基本的な状態であるエムリオン(空戦)状態でも武装や機体調整によって他の陸、海、宇宙でもある程度戦闘能力を発揮するからだ。
故にエムリオンという存在は、人型機動兵器であると同時に戦車や航空機の役割を果たし、それまでの主戦力であった兵器達を生産する必要はなくなったのだ。
新西暦180年に完成した初代パーソナルトルーパーにして人型兵器の始まりであるゲシュペンストの誕生から、ビアンがDCを結成するまでの間に流れた6年の歳月は、人型兵器の可能性を広げ、今このコズミック・イラの世界でも活きる事となったのだ。
コトーの説明の合間に、ビアンの隣に座るミナが一つ情報を付け足した。いつもと変わらぬ黒衣を纏った秀麗な美貌には、現状を悲観する色は見えない。
「現在旧オーブ軌道上ではアメノミハシラから出撃したマイヤー司令の艦隊が、連合艦隊を牽制している。幸い、宇宙でのMSの生産は地上ほどではないらしく、そう苦戦はしていないようだな」
軌道上からの連合の増援はまず無いという事だ。これだけでも随分と戦いは楽になる。
後はビアンのヴァルシオンとミナのミナシオーネ、ソキウス達の三機のフェアリオン。それに間もなく帰還するクライウルブズの戦力次第か。
「旧オーブ領海外、第一次防衛ラインで連合艦隊を迎え撃つ。ホムラ、国外退去希望者達の受け入れをプラントや各国は受理したか?」
「多少こじれはしましたが、コーディネイター国民のプラントへの受け入れはプラント側も認めました。あちらもこの戦争で社会を構成する年齢層の人口が偏っていますからな。
ですが、国外退去希望者の数は思ったより少ない数値です。コーディネイター、ナチュラルを問わず志願する者もわずかずつではありますが日に日に増えております」
「そう、か。ただ平和を享受する日々の終わりに、何を悟ったのだろうな。彼らは」
ぎ、と音を立ててビアンは背もたれに背を預け、ほんの一瞬だけ瞼を閉じた。閉ざされた瞼が開かれた時には、いつもと変わらぬ人々をひきつける強く厳しい光がその瞳に灯っている。静かに燃えながら、激しく燃える時を今か今かと待つ煉獄の炎の様な意志。
「諸君。長き歴史と重き伝統を持つこの国の現状と未来を憂慮し、私の掲げた理想に賛同し力を貸してくれた事に、改めて感謝しよう。
今、我らの眼前にはいたずらに戦火を広げ、母なる地球の大地と空と海とを汚し、宇宙に飛び立った同胞を遺伝子操作に根付く差別で虐げた連合の艦隊が立塞がっている。
我らと連合との戦力、国力の差がどれほどのものかは改めて語るまでもあるまい。だが、私は必ずやこの戦い、我らディバイン・クルセイダーズに勝利が齎されると信じている。いや、確信している。
正義の在処は問わぬ。銃弾に銃弾を持って応じ、鋼に鋼を、刃に刃を、力に力を、血には血を持って報いる戦いを選んだ我々だ。理想の為、平穏な未来の為と大義を抱えようとも手を染める血の赤は拭えぬ。
だが、それを知ってなお今この場に集い、またディバイン・クルセイダーズの礎となる道を選んだ兵士諸君らを、私は誇りに思う。後世の者達が如何なる評価を君らに下すとも、私は三千大千世界すべてに高らかに謳おう。
今私の目の前にいる者達、今この場にはいなくともディバイン・クルセイダーズに集った者達の全てが、恥じる事など何一つ無き勇者であり、同時に極平凡な人間である事を。誰もが勇者となりうることを、諸君ら自身が証明しているのだ」
「……」
「諸君。次の戦いをもって我らディバイン・クルセイダーズの力と理想を世界に謳い上げる為の狼煙とするのだ。連合でもザフトでもない我らディバイン・クルセイダーズの存在を!」
ビアンの言葉に皆が一斉に席を立ち力強く頷き返した。彼らの瞳には、代表の座を退きながらなおオーブの影の支配者として君臨したウズミに向けられていた畏怖や異敬とは異なる、信頼と共感が込められていた。
ミナと二人、会議室に残ったビアンの目の前に、書類の束が投げられた。訝しげな顔をしていたビアンだがそれも一瞬、書類の題名を見て、どこか気まずそうにそっぽを向いた。この男がするにはあまりに似つかわしくない仕草だった。
ずっとビアンの傍らにいたミナは、どこか愉快そうな顔でビアンに書類の内容について問いただした。獲物を嬲る猫と、気に入った異性をからかう手練に長けた雌を足して二で割ればこうなる。そんな顔だ。
「お前がいささか愉快な趣味をしているのは知っていたが、これは少々行き過ぎではないかな? ビアン」
「……遊び心だ。実行するつもりはない」
ちょっぴり後ろめたそうなビアンであった。つくづく珍しい。
「『ヴァルシオン大改修計画』。なるほど、DC最強の機動兵器であり象徴的な存在であるヴァルシオンだ。あれ以上強化されても、まあ、悪い話ではない。だが、これはいささか方向性が違うのではないかな?」
その1。電磁ワイヤー使用による小型テスラ・ドライブとジェットエンジン搭載した腕部を射出・回収する『ヴァルシオン・ロケット・パンチ』。
その2。PS装甲を用い、インパクトの瞬間相転移し、超高硬度の回転衝角を叩きつける『スパイラル・ドリル・ニー』。
その3。電磁力場発生装置を組み込んだ小型円盤を射出する『超電磁フリスビー』。
その4。吸収・増幅した太陽熱を胸部から放射し対象を融解させる『ブレスト・フレアー』。
その5。ディバイン・アームに小型・高出力のビーム発生装置を組み込んだ『シャイニング・ファング・ブレード』et cetera……。
「これだけの装備を実装しようとすればどれだけの資金がかかる事やら。夜中にこっそり何かの設計図を引いているとは知っていたが……。ビアン、余計なものを作る資金と猶予はないのだぞ」
「そう何度も釘をささずとも分かっている。あくまでプラン。紙面上の話だ」
「だといいがな」
後世の歴史家たちが、ビアン・ゾルダークを語る上で誰もが共通して語ったという、『ビアン・ゾルダークは趣味人』という評価の片鱗であった。
ビアンとミナの二人だけが残ったこの部屋であったが、二人きりの空間でいられたのはほんのわずかな間だけだった。緊急用の連絡が入ったのだ。
ミナがテーブルに埋め込まれたディスプレイを操作し、画面にDC兵の姿が映る。
「何事だ?」
常と変らぬ冷淡とも言える冷静さでミナが事態を問う。
『は。それが連合のMSが現在領内に侵入し、パトロール部隊と交戦中です』
「敵戦力と位置は?」
『敵は先の戦いで確認された新型のG三機。場所はアカツキ島です。現在三機のエムリオンが交戦中。すでに付近の部隊にスクランブルをかけております』
「分かった。状況に変化があり次第、すぐに連絡を入れよ」
『は!』
暗転したモニターから目を離し、ミナが不審げに呟いた。
「このタイミングでGのみか。連合は何を考えている?」
「Gのテストか。あるいはそれに乗る者達のテストかもしれんな。あれに乗っているのはステラ達の前の世代の強化人間だ」
「私も報告は受けている。新たな強化人間を生み出す為の試験という事か?」
「かもしれん。あるいは単に末端の人間が指揮を誤ったか、だ」
「いずれにせよ、あの三機は手強い。エムリオンでもパイロットが並では勝機は少ない。私とソキウスが出る用意はさせてもらうぞ」
「頼む」
黒衣を翻して部屋を後にするミナの後ろ姿を見送り、ビアンは一人呟いた。
「アカツキ島。マルキオ導師の孤児院があったな。おそらくラピエサージュのパイロット、確かオウカ・ナギサだったな。彼女もあの島か」
とりあえずここまで。MSの数は適当なので気にしないでください。いろいろ二次創作SS読んで、
こんなもんかなーという程度で考えましたので。
115 :
660:2007/08/04(土) 18:48:12 ID:???
すいません、アークエンジェル側のMS二十九機じゃなくて十九です。
GJ!
総帥、何してる?分からないでもないが何してる?その前までの、格好良さが一気に吹っ飛んじまったじゃないか!
いいっすねーいいっすねー実にいいっすねー
……アードラーのクソジジイィィィィィィィッ!!!!オウカ姉さん獲りに来やがったなァァッァァァァ!!!!!
シンが主人公してるなー、GJっすー
そしてロボヲタ総帥は自重しろ
>>106 あの子ならガチでやりかねないから勘弁w
理想郷で見た事あったなーそういうの
確かCEに飛ばされたショックで機体がベルグバウに戻って宇宙漂流してたところをミネルバに拾われた
ちなみにラクシズには楠鰤with龍虎が拾われて出会った初っ端に完全に洗脳されますた
アゲついでに
>>120 >理想郷で見た事あったなーそういうの
>確かCEに飛ばされたショックで機体がベルグバウに戻って宇宙漂流してたところをミネルバに拾われた
>ちなみにラクシズには楠鰤with龍虎が拾われて出会った初っ端に完全に洗脳されますた
悪いそれ読みたくなった、差し支えが無かったら教えてくれないか?
なんだこのスレ
オリ小説とかキモ過ぎる・・・
内容も寒すぎる
こんなバカが「クロスオーバー足りない」とかほざいて
スパロボのシナリオに文句付けてんのか
実に夏だな
プレステ2のOGの動画見たけど、第3次αからプレイやめたことの正しさを再確認できた
まだ4週間ぐらい残ってるからな、しょうがないさ…
>こんなバカが「クロスオーバー足りない」とかほざいて
>スパロボのシナリオに文句付けてんのか
あってるよ
割と真面目に
オリジナルの小説は自サイト作ってそこで披露してろよ
キモイだけだから
>>127 愚にも着かない愚痴はチラシの裏にでも書いてろよ
キモイだけじゃなくウザイから
で、そうなったらそこを荒らしに行く、と。
>>128 キモ小説書いてる割にボキャブラ貧困だね
猿真似しかできないって・・・
>>122 >こんなバカが「クロスオーバー足りない」とかほざいて
>スパロボのシナリオに文句付けてんのか
うん。キモいよね。
age厨今度はここか。
いきなりバレてるけど。
もうね、主人公の自由度がなくなった時点でスパロボは終わったよ
スパロボ好きだから種なんぞと絡んでるの見ると気分悪いな
そもそも世界観からして馴染まないだろ
元々無理矢理でカオスなのがスパロボだもん。
アルファ以降はオリジナルとかいいつつ設定をガンダムからパクリまくっているOGで稼ぐための宣伝でしかない。
>こんなバカが「クロスオーバー足りない」とかほざいて
>スパロボのシナリオに文句付けてんのか
これは普通にありえそうだな
このスレの小説みたいなもん望んでるのかな、そういう奴らって
全く理解できねえ
んで、age厨よ、ストライクマーク2とやらのスペックはまだかい?
イージス瞬殺できて、軍板の人間がひれ伏すんだよね?www
意味の判らんレッテル貼り出てきた
さすが新シャア板の種厨
いや、思いっきりバレてるし。
SSは嫌い。しかもスパロボ。これは消えてもらうしかない。
さすが新シャア
自称エスパーがいる
自己紹介乙。さっさと仕事探せや自宅警備員wwww
>こんなバカが「クロスオーバー足りない」とかほざいて
>スパロボのシナリオに文句付けてんのか
こんな糞展開を公式に求められても困るw
自慰オリ小説だけでガマンしてもらわないと
とまあ、斯くも夏は人の脳味噌を沸騰させる訳でして
うーむ
ボキャブラリーが無いと言われりゃ終わりだが
夏だなぁ
しかも換装で伸びてるのかと思いきや変なのが沸いてるしwwwww
しかしこんな駄文垂れ流して恥ずかしくないのかね?
> これは消えてもらうしかない。
荒らし宣言でつかwwwwww本性は隠せないでつねwwwwww
こういうキモスレ立てるバカがいるのが実に新シャア板
オリ小説なんぞ書くのは腐女子だけかと思ってたのに
クソスパロボSSスレは潰れてしかるべき
んま、スパロボだから叩いてるって奴はともかくとして
オリ小説だから叩いてるって奴は新シャアその他板のオリ小説スレ全部叩いてもらわないとねぇ(・∀・)www
>オリ小説なんぞ書くのは腐女子だけかと思ってたのに
キモい子の嗜みです
腐の専売特許ではありません
目に付いたからつついてるだけだから
Fまではよかったのにな、スパロボも。
age厨必死だな
で、手口がバレてんのにまーだ同じ手でバレてないと思ってんだw
>でつ
ひさびさに「でつ」とか使う奴見た
マジで腐女子なのかな
真性やおいアニメの種見てる奴が集う新シャアなら
まあ別に不思議じゃないけれども
>>156 >>オリ小説なんぞ書くのは腐女子だけかと思ってたのに
>キモい子の嗜みです
きもい子wwwwwwwwww
言われてるぞオリ小説書いてる人wwwwwwwwwwww
バレとかどうでもいい。潰すんだ。
まぁ潰したところでマタ立てりゃいい→潰す→立てる
いたちごっこ吹いたwwwwwwww
一々荒らしの相手してる奴はなんなのさっと
こいつがスパロボ自体やってないのは知ってんだろ?自分は高尚だとか言ってw
ボロ出してからブッ叩けばすぐ尻尾だすよ。
簡単に潰れないほうが楽しめるからいい。
旧シャア板の連中は淡白だからすぐ潰れて楽しみがなくなってつまんなかった。
それは 相 手 に さ れ て な い って言うんだ。
>こいつがスパロボ自体やってないのは知ってんだろ?
やった上で種とは合わないって思った
ここの小説でも破綻してるし
もう相手すんなよ
相手してる奴も荒らしと同罪だぞ
自分のどうでもいいような主観を押し通したくて仕方が無い人が混じってるからしょうがない
>>169 そだね。今ここに来てるんはあいつに煽られた連中が数名ってとこか。
自分達が道具にされたと分かればいなくなるだろ。
こんなキモイ自慰スレ立てるほうが荒らしだと思うけど
キモくて結構!嫌なら来るな!
オリジナルの小説書くのが気持ち悪いって理解してないのがすごく新シャア
腐女子並みのきもさ
投下直後の賛美の嵐がこのスレの総意とまではいかないが主流と信じる。消えるのは貴様だ!
>>171 アレなら2名いるかどうか、だろ。1名は当然本人。
スパロボだけで面白いのにそこにウンコを混ぜ込む意味が分からない
この小説のつまらなさ見ればわかんじゃん
スレの最初は見逃してただけじゃねえの。
キモさが滲み出していると自然と叩きが始まる。これ常識。
ビアンがものすごいウザキャラにされてるね
既にボロ出てるぞ
新シャアがどうのこうの言ってる奴がいるが
そういう所に来てわざわざ荒らしをやるって言い出した時点で、
自分がここの住民以下の人間って宣言したようなもんだし。
>「左様……」
>デュランダルの問いにゼンガーは静かに頷いた。
ゼンガーって『左様』とかいうキャラだっけか
>>181 「左様」ってキャラだったと思うが…「応」の方が似合ってるが
場の雰囲気に合わせるって意味では正しいんでは?
元々そっち系のキャラだし。
>>177 >スパロボだけで面白いのにそこにウンコを混ぜ込む意味が分からない
言えてる
そもそも種とか好きな奴にOGの面白さがわかるとはおもえない
特にOG1
>>182 レスしない。まともに相手したらage厨の思う壺。アンチ意見しか言わないんだから。
そいつもage厨に誘導されてここまで来た奴か、あるいは本人。
>>185 Jane使ってるんだが名前の横に[sage]って出てるんだがな
sage入れてるせいか?
>こんなバカが「クロスオーバー足りない」とかほざいて
>スパロボのシナリオに文句付けてんのか
そういう奴が求めてるのはこのスレよりもっと低俗な意味での絡み
作品の枠を超えてのホモ的な要素
Dのジョシュアとギュネイとか
旧シャアで嵐外がなくなったから新シャアに来た。種とか見てない。
香ばしくてこの板気に入った。
踊れオメーラ。
そろそろ荒らしの自演でスレが進みだす頃だから、住人はもう寝た方が良いかもよ。
>>187 >そういう奴が求めてるのはこのスレよりもっと低俗な意味での絡み
>作品の枠を超えてのホモ的な要素
まさにこのスレじゃんwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
安易な認定は避けるべきだが、
一時期アンチラクシズSSスレを荒らしまわった奴らの手口そっくりだな
民財聞いてきたから寝る。みんな相手するなよ。
以前あったものを貼っておく。
368 名前:軍板の一住人 ◆ke.kUTVEUM [sage] 投稿日:2007/06/18(月) 12:06:53 ID:???
ちょっとお邪魔させていただきます。
昨日のような軍板のスレとの対立をこれ以上拡大しないよう説明に参りました。
文体や行動パターンから考えて、昨日、一昨日と貴スレに粘着していたのは通称「age厨」と呼ばれる荒らしだと思われます。
こいつはよく他人のコテを騙ったり住人に成りすましてスレ間の対立を煽ります。
これまでにage厨が騙ったことのあるコテは「名無し上級大将 ◆80fYLf0UTM」の他に
「タイフーン◆sePHxJrzaM」や愚者・魔術師◆XdgIHnFrK」など。いずれも偽者はトリップが違うので
本物のトリップを知っていればすぐ気づきます。
age厨の行動原理は不明ですが、私怨から特定のコテに粘着して評判を落とそうとしているとも、
特定のスレが気に食わないので潰そうとしているとも、単に構って欲しいだけとも言われています。
age厨に関する詳細はこちらのスレにあります。
【軍板創作スレ荒らし】age厨対策本部【その2】
http://tmp6.2ch.net/test/read.cgi/tubo/1179577586/ 以前から軍板のスレ同士を対立させようと成りすましと自演を繰り返していましたが
数ヶ月前に軍板のあるスレの住人を装ってCCさくら板を荒らし、対立させようとしました(誘導などの手口も今回と同じ)。
現在は双方の誤解も解け沈静化しましたが、一応の成功に味を占め、次の標的として貴スレを選んだものと思われます。
そこでお願いなのですが、age厨の目論見に引っかかってスレ同士の対立を深めないようお願いします。
軍板とか言ってくるのはage厨の行動かもしれないので、以降はスルーし、
あまりに酷いGL違反があったらレス削除依頼を出すようお願いします。
特にage厨は一度削除依頼が通った手はあまり使わないようになります。
こちらでもage厨の行動を掣肘しようとしていますが、手口が巧妙なためスルー以外に打つ手が無い状況です。
まあ軍板の場合は、age厨は軍事知識が皆無なのでその手の話題をすると逃げてきますが。
私は「宇宙人が攻めてきたらどうする」スレの住人ではありませんが、
以前age厨に同様の手口でスレを荒らされたため今回の騒動を他人事とは思えませんでした。
「宇宙人が攻めてきたらどうする」スレの住人も貴スレとの対立を望んでいないと思います。
対立が深まればage厨はより喜び、更なる対立を煽るため一層荒らすと思われます。
くれぐれもその思惑に嵌らない様お願い致します。
長文、失礼致しました。
こういう事。
age厨連呼してる子と会話がかみあわねぇ
軍版うんぬん言い出しちゃった
ちなみに08小隊スレに来てたage厨はね、sageるとID出ないのをいいことに自演しまくってたから
みんなメル欄無記名にしてID出すようにしてたらage厨消えたよ。
まあここもそうしろとは言わんけど参考までに。
夏だな。
スルースルー
これでおk
後は勝手に自滅するから
38 名前:通常の名無しさんの3倍[sage] 投稿日:2007/07/27(金) 01:36:22 ID:???
某スレで、age厨対策にID出しでの進行推奨中だからなぁ
他のスレでの保守も、ところどころID出しになっててワロスw
39 名前:通常の名無しさんの3倍[sage] 投稿日:2007/07/27(金) 12:25:21 ID:???
age厨対策に一緒になってageてどうすんだ?
それにそんなスレageたらますます厨が寄ってくるだけだろ。
40 名前:通常の名無しさんの3倍[sage] 投稿日:2007/07/27(金) 13:16:52 ID:???
難癖を付ける
↓
(自演だけど)抵抗する人がでる
↓
(今度は住人が)文句を付ける
↓
(自演、ほくそ笑みながら)じゃあID出そうぜ?sageたヤツは荒らしな?
↓
住人納得
↓
荒れた状態でスレが急浮上。厨を呼び込む
↓
ROM組、ヲチ組以外誰もいなくなる
コレはひどい
>>196
それの40はage厨がID出させない為に書き込む事が多いし、
実際にそれで潰れる所はそう多くない。来た時だけID出す所もあるしね。
ま、適時判断って事で。
潰れるかどうかともかく、荒らしが来た時点で廃れるわな。
職人来なくなったスレ見てても仕方ないし。
でもねーぞ。3年近く荒らしと対決しながら続いてる所もあるぐらいだし。
……書いててなんだが、3年も粘着するなら実生活をどうにかしろと言いたい。
ある時カウントしてみたらAM8:00〜PM10:00まで間断なくレスがあったらしいし。
しかも平日よ?
面白そうだからそれも見たいな
平日にAM8:00〜PM10:00まで2ちゃんに張り付くってか。
…………マジやめとけ。人生\(^o^)/になるから。
すごい投下祭りでも来たかと思ってwktkして
開いてみたらおまいらってやつは・・・
そういう季節だよ
職人各位はこの季節はネタ書きだめしといて後日投下するほうがいい
強制はしないけどお奨めはする
>>204 平日休みの人間だっているぞ
まあそうだとしても休日をそんなことで潰す人間のメンタリティが底辺なのは確かだがw
ブツクサ言ってる奴キモい
キラ最強の公式のソースの提示をお願いします
議長が最強って言ってた!!1!!!!
キラさんはSEED世界n
…………すまねぇ、俺の理性が邪魔をしてこれ以上書けねぇw
種キャラがスパロボ世界に来たら
>>212 そのスレ前にあったけどあっさり落ちた……はず(´・ω・`)
>>212 クロガネとか特機タイプの機体見てエェェェ(ry状態のナタルさんが見えた
アスラン(どこかで)
メキボス(会ったような)
マシンナリーチルドレン達(気がする)
216 :
通常の名無しさんの3倍:2007/08/06(月) 00:07:50 ID:Yovpye0L
なんで第四次の主人公たちは冷遇されてるの?
文句は十年後なんて設定でイルムリンを出した寺Pに言うことだな
30路過ぎで熱血キャラなパットやジェスも見てみたいな。
武装錬金のブラボー見たいな感じで。
キラがジェスの熱血指導を受けたり
レイとウィンの息が合ったり
シンがミーナに振り回されたり
>>212 C.E.の地球にバルマーが押し掛けてきて、あんな事やこんな事や凄い事をされた
シンが新西暦の地球にやってきたとかいう話を妄想した。
妄想を言えば四次F主人公らは教導隊にしごかれた第一世代とか。
その後PTXに引き抜かれたり情報部に行ったり最前線で伝説作ったり鬼教官に変貌したり
アポロン総・・・・・もとい、ギリアムさんは
素で種死世界とか来た事ありそうな感じが・・・
アポロン「この世界は・・・失敗作なのか・・・・」
ミーナの乳揺れ見せろ。話はそれからだ。
>>219 シンとミーナの組み合わせは合いそうだな
続きは?
ない
ウッソスレを見ろ。投下も無いのに延々と保守し続けてるんだぞ。
たかがこの程度投下が無いくらいで
投下いらね
切実に投下が要る
クソ駄文は自分でサイト開いて恥ずかしげもなく開陳しとけ
このスレでおk
>>231 最低SS書き乙。何書いて叩かれた?ぢぇらしいはミトモナーイ
ここの駄文はSSと呼ぶのもおこがましい文字の羅列
読めないレベルじゃないし、普通に面白い
>>234 あらあら可哀想でちゅね〜スレタイも読めない上に
最低ss書いて叩かれちゃったんでちゅか〜
なんとでも書き込みなさい貶めなさい
それだけスレから離れていく奴が多くなるからwwwwwwwww
夏だなぁ。
そうさ夏さだからお前らの駄文はいらないし冬だろうが秋だろうが春だろうが潰される運命であることには変わりない
>>239 アマーイ
その程度で新シャアは潰せねーよ。並んだスレタイ見ればわかりそーなもんだが。
調べてから来たまえ新参君。荒らしとしても下の下だね。
カスで結構なんとでも言え
■ おすすめ2ちゃんねる 開発中。。。 by FOX ★
このスレを見ている人はこんなスレも見ています。(ver 0.20)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました part26 [アニキャラ総合]
リリカルなのはクロスSSその9 [アニキャラ総合]
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リリカルなのはクロスSSその10 [アニキャラ総合]
あの作品のキャラがルイズに召喚されました part28 [アニキャラ総合]
このスレのSS? 普通に面白いけどそれが何か?
>>245 ある意味正しい行動であると思うが、りりかるってなんだよ…
>>246 語ろうスレを見てみれば何と無くだが把握はできるはず
力抜けました
リリカルに免じて潰すのはやめてやる
久遠も知らずにリリカルリリカル言っている奴は死んだ方が良い
だからりりかるってなんだよ?
般若だろ?
エロゲエロゲ
ウィキで調べたが、なんだありゃ…
気にするな、痛さ加減じゃスパロボのオリキャラも負けちゃいないw
ラッセルとラーズランドは全然痛くないぜ
どっちも設定先行なきらいはあると両方二次的にしか知らない俺が言ってみる。
ヴァンピアーレーザーと、自爆装置つきの大腿骨の杖を知らないなら黙ってろよ
はいはーい、知りませーん
夏は裸待機だって言ってんだろこのボロット野郎
体には自信がありますよ、ええ。
々に投下……したいけどあんまり投下する状況じゃないね
少し間を置こうか……
投下によって流れが変わることもある
夏厨がへんなこというかもしれんが根拠が無けりゃ無視していいし
誘い受けするぐらならそのまま沈黙してろカスが
>>262 状況なんて関係ないから
投下する気があるならさっさとしてくれ
SSスレが嫌いな理由:書いたものを「ネタ」じゃなく「作品」と勘違いしている輩が多いから
読んでもらわにゃ意味ないんだから、書いたらさっさと投下しろ。
読んで面白けりゃ荒らしなんざ気にならねえよ。
イチャモンつけられるのが怖けりゃ永遠に黙ってろ。
本物の職人は周囲の状況なんかに左右されないくらい面の皮が厚いんだよ。
アホか。職人が投下するときは、職人が投下したくなったときだ。中途半端な妄想してんじゃねえ。
バカじゃねーのこいつ
職人様気にせず好きなときに作品投下してください
と自称職人が申しています。
さっきから変なのが五月蝿いがスルーしようや
できてねえじゃんw
スルーしようと書き込んだ時点ry
で、投下マダー?
この状況で投下できるかカス共!
また後日、落ち着いた時に投下すると良い。
無理だろ
こんな夏厨ばかりのスレに居られるか!
俺は自分の部屋に戻るからな!
荒らしなんて気にするな。投下しても荒らしてやるからwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
夏休み終わるころには荒らしも職人も住人もいなくなってるんじゃね。
夏終わるまで待って一気に投下するのが一番かな?
この調子なら落ちる心配もしなくてすむしw
負け惜しみの書き込みワロスwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
とりあえず…
乳をだせよ。揉んでやるから。
うはwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww笑えるwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
284 :
通常の名無しさんの3倍:2007/08/07(火) 23:07:02 ID:kUbj31iW
み、みんな大変だ!!
>>277が…
死んでる!!!
「俺たちの闘いはこれからだ!」
視線の先に夕日が沈む。
このスレ 完
ハイハイ
自演は荒らしの必須スキル
やっぱりID表示って大事だよな
表示されなくても大体わかるもんだけどな
100以降の約半分は俺一人の書き込みだな
荒らすときはID表示なんて関係ないよ
いやいや俺だ
なに言ってんだ俺だよ。騙るなよ。
俺の書き込みに決まってんだろ!俺が一番多い!
ここでネタばらし。
職人も荒しも擁護も自治も全て俺の自演。
それも俺だ
投下が嫌になり荒らしました。
貴様達をそうさせる様仕向けたのも………
私だ
このスレ俺のレス以外ないね
つまりすべてユーゼスの仕業だったんだよ!!!
ははは、こやつめ
>>306 んにゃ、アルトスレ結構早いから雑談スレ確保しとこうと思って。
いーとこおしえてもらったwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
残念だったな、>
>>308は一晩中俺達の相手をしてもらおうか……
優しさは神様のぉ♪おくりものー
素直さは神様のぉ♪おくりぃぃもぉのぉ
>>106 そういえば、自分の出生を知った後、クォヴレーは結構普通に受け入れてたっぽいが、
キラはかなり長く引きずってたみたいだな。(種デスでは何か感情の幅が小さくなってた)
やはり十数年普通の家庭で生きてきた分、ショックが大きかったのだろうな。
第十三話 堕ちた桜の花
どおおん、と遠い雷の様な音が聞こえる。体そのものを揺さぶるような強く重い音。それが何度も、何度も。
怯え震える子供達を宥めすかしてオウカは時折不安そうに窓からのぞく外を見つめた。
濃緑のストレートの髪は、ゆるやかにオウカの動きに従って波打ちさらさらと流れた。
平凡な薄いピンクのワンピースに身を包み、孤児院の広間で集めた子供達の面倒を見ながら、こうして遠く聞こえる戦いの音が絶えるのを待ってどれほどたったろう。
DCのパトロール部隊が、連合の不明瞭な意図で侵入していた少数の部隊と交戦しているのだ。
雲に覆われ灰色にけぶる空に、時折光の筋が幾度か描かれ、眩く照らしだされている。
(少しずつ、近づいている?)
また、脳裏に走るノイズに優美なかんばせをわずかにしかめて、オウカは早くこの戦いが終わればいいと切に願う。
「大丈夫ですか、オウカ? どこか具合でも?」
オウカが身を寄せる孤児院の主である盲目の男性マルキオが、わずかに苦しみを帯びた気配を察したのかオウカの身を案じた。
黒髪をオールバックにした色白の、柔和そうな雰囲気の男性だ。年は40代とも50代ともとれる。元宗教家とあって、どこか浮世離れした所もある。
「い、いいえ。なんでもありません。導師様。ただ、一刻も早くこの様な戦いが終わればいいと、そう思って」
「そうですか。貴女の言う通りです。人類同士が争い合う闘いなど、誰も望んでなどいないでしょうに」
オウカがマルキオの孤児院に身を寄せてから五カ月近くが過ぎている。
ある強い雨の日、ぼろぼろの人型機動兵器のコクピットの中で虫の息だったオウカを子供達のうちの一人が見つけ、マルキオは極秘裏にウズミに連絡を取り、オウカとその機動兵器ラピエサージュをオーブ政府に託した。
当時エクステンデッドや強化人間を保護し、彼らの治療法を模索していたビアンの元に預けられ、オウカは二ヶ月ほど入院する事となった。
当初は通常の病院に運ばれる筈が、オウカの体内から通常ではあり得ぬ物質が検出され、彼女が何らかの外科的な処置を受けて肉体を改造されていると判明したため、ビアンに預けられる事となったのだ。
無事傷が癒えたオウカであったが、一つの問題が残った。目を覚ました彼女は自分の名前と、「ラト」「アラド」「ゼオラ」という人の名前らしきもの以外の記憶がなかった。
不思議と一般常識や教養は持っていたものの、己れがどう言った人生を経たのか分らぬ不安に苦しむオウカは、ウズミの勧めもありマルキオの孤児院で暮らす事となった。
ビアンはラピエサージュ内のデータや、オウカの体から検出された物質の配合や改造の痕跡から、オウカがCE世界の強化人間ではなく、新西暦において強化された人間であると確信するにいたった。
おそらく、地球連邦にかつて存在したパイロット養成機関「スクール」や大脳研の関係者であると目星を付けるのはそう難しくはなかった。
なぜなら旧DC副総帥アードラー・コッホが大きく関与していたのがそのスクールであり、アードラーの研究内容を知るビアンが、関連付けて結論を出すのはあり得ぬ話では無かった。
ラピエサージュに残されていたデータから、オウカがビアン亡き後のノイエDCという組織で戦っていた事は分った。ビアンが命ずればこの世界のDCの兵としても戦ったかもしれない。
だが、オウカには記憶がない。自分がかつてスクールの長子として血の繋がらぬ弟や妹たちを可愛がっていた記憶も。機動兵器のパイロットとしてその弟や妹達と銃火を交えた記憶も。己の選んだ最後の結末も。
ならば、忘れた記憶を取り戻さずこの世界の人間として生きてゆくのもオウカの選択の一つだ。
故にビアンはオウカのメディカル・データについては多くを語らず、連合から脱走した強化人間として扱い、また記憶が無い事から、一般人として暮らす平穏を与える事をウズミとマルキオとの間で取り決めた。
だが、今となってはそれも虚しい約束となってしまったのかもしれない。オウカが安息の日々を送っていた孤児院は、戦火に晒されようとしていたのだから。
一際大きな爆発の音が孤児院の建物そのものを揺さぶり、戦いの決着が近い事を伝えてきた。はっと窓を見つめるオウカの視界に、黒煙を噴いて落着するエムリオンの機体が映った。
まだ機体そのものは生きているが、パイロットは意識でも失ったのか、機体は横倒しの態勢で孤児院のすぐ近くで落着したまま動かない。オウカはわずかに逡巡して震える子供達とエムリオンを見比べたが、迷った時間は短かった。
「導師様。この子たちをお願いします」
「! 待ちなさい、オウカ。いけません! 外は戦場なのですよ!」
「あの機体のパイロット、まだ生きているかもしれません!」
制止するマルキオの声を背中で聞きながら、オウカは雨の中、エムリオンのパイロットを助けようと孤児院を飛び出した。どしゃぶりの雨にぬかるんだ大地を、オウカは躊躇わず走った。
DC所属のエムリオンと交戦している連合の部隊はあの新型のGの内の一機、フォビドゥンだった。カーキ色の機体色はPS装甲を改良したTP装甲。
背中に背負い、今は被るようにしている円形の装甲と補助アームに支えられている二つの盾はエネルギー偏向装甲ゲシュマイディッヒ・パンツァーだ。
重刎首鎌ニーズヘグを両手に握り、三機のエムリオンの内既に一機を沈め、二機目も今は大地に転がっている。
「ううらああああーーー!」
薄い緑色の髪に隠れた色違いの瞳を薬物による自我崩壊によって濁らせたシャニは、アードラーによって施された戦闘意欲と破壊衝動にしたがい、眼前のエムリオンに死神の如く恐ろしくおぞましく襲い掛かっている。
ゲシュマイディッヒ・パンツァーによって、エムリオンのビーム兵器は偏向され通じず、レールガンやミサイルも実体弾に対し高い耐性を持つTP装甲相手では効果が今一つだ。
加えてコーディネイターを超える能力を与えられた強化人間の技量は、エムリオンのパイロットのそれを大きく上回っている。
ミナやビアンに伝えられた報告と違い、他の二機がいないのは、最も人格崩壊が進んでいるシャニのデータをもとにオルガやクロトの限界を見極めるためのサンプルにしようという、残酷な意図があるためだ。
既にクロトとオルガはそれぞれ別の母艦に帰還して、艦隊と合流すべく帰路にある。
フォビドゥンの母艦である輸送船とそれを守る形で随伴している巡洋艦の艦橋では、連合の士官が不機嫌そうに暴れまわるフォビドゥンの様子を見ていた。
(ちっ、やつがどれだけ戦果を挙げた所でそれはアードラーの研究成果という事になる。おれの手柄にはならんというのが何より腹立たしい)
まだ三十前半の金髪の男だ。特徴的なもみあげと切れ長で冷たい印象が目立つ目をしている。階級章は中佐。年齢の割にそれなりの地位を得ていることからして実力もあるのだろう。
「ジーベル艦長。アードラー技術主任からそろそろ撤退するようにとの通達です」
「ふん。死に損いが、このおれにこんな役目を押し付けおって。アンドラス少尉に帰還するよう命令しろ。無視するようなら砲の一発も叩き込め」
「は、はい」
なんとも無茶苦茶なジーベルの指揮に、この人と一緒だとなんだか死にそうだなあ、とオペレーターは思ったが口には出さなかった。ジーベルは短気で知られていた。
そして、もちろんシャニが帰還命令を受け付けるはずも無かった。
「あの小僧め!! 生体CPUの分際でこのおれの命令を拒否する気か。……ふん、まあいい。どうせ薬物なしでは生きていけない使い捨て共だ。せいぜい一時の快楽に身を委ねて大いに苦しむがいい」
こういう非人道的な台詞を艦橋で堂々と言うから、この男部下からも上司からも人望が無い。
最後のエムリオンが、フォビドゥンの誘導プラズマ砲「フレスベルグ」の直撃を受けて、エネルギー・フィールドを貫かれて爆発・四散してしまう。
「なんだよ、もう終わり? ……ああ、いるじゃん。まだあそこに」
にいっと亀裂の様に唇を歪めて吊り上げるシャニの瞳には、孤児院の近くに落着したエムリオンが映っていた。
そのエムリオンのコクピットに、一人の少女が近づいているのも。
「大丈夫ですか、しっかりして!」
手探りで外部からの開閉装置を見つけ出して、首を項垂れているパイロットのヘルメットを脱がし、声を掛けた。若い、二十になったかどうかの青年だった。額から血を流して、意識が混濁しているのか目の焦点が合っていない。
それでもオウカの声をかろうじて聞き取ったのか、わずかに呻いた。
「ううっ、き、危険だ。……逃げな、さい」
「無理に喋らないで。今助けます!……きゃあっ」
エムリオンをわざと外したフォビドゥンの88mmレールガン「エクツァーン」の着弾の衝撃が、オウカを嬲り、か細い悲鳴を上げさせた。
「あのMS、嬲り者にするつもりなの?」
「ぐ、援軍が、来るまで、……私がやつの相手を、する。君は逃げなさい」
「無茶を言わないで。貴方は怪我をしているんですよ?」
起き上がろうとするパイロットを押しとどめる間にも、フォビドゥンは115mm機関砲「アルムフォイヤー」やエクツァーンでエムリオンの周囲を穿っている。
「……ふふ、なんだ。動かないのか。じゃあ、いいや。死ねよ」
反応の無いエムリオンにすぐさま興味を失くしたシャニは、フレスベルグの砲口を向け、青い輝きがその奥に灯る。
「っ!」
プラズマが迸るその一瞬の隙に、エムリオンが手に持っていたメガビームライフルを立て続けに三度、フォビドゥンに向けて狙い撃った。
強化人間ならではの反射神経で獲物の反撃を見きったシャニは、ゲシュマイディッヒ・パンツァーで光の矢をすべて逸らし、改めて立ち上がったエムリオンを見下ろした。
獲物をいたぶる悦楽の時が、今少し続く事を知った喜びが、口から突いて出た。
「へえ?」
ぎこちなく立ち上がったエムリオンは、フォビドゥンとの交戦で損傷したリオン・パーツを外し、身軽になってメガビールライフルを構え直す。
「く、今のを防がれた?」
「無茶な事を、MSの操縦は、簡単なものでは、ぐうぅ」
負傷したパイロットは広いエムリオンのコクピットシートの傍らにいた。今エムリオンの操縦桿を握っているのはオウカだった。咄嗟にコクピットに入り込んだオウカだが、自分が機動兵器の操縦ができる事を疑問に思っていた。
「どうして? 似たようなものを見た事がある気がする?」
エムリオンのコクピットはリオン系のそれに酷似している。それがオウカを助けていた。苦しみにうめくパイロットの様子を気にしつつ、コンソールパネルを見渡し、今自分が乗っている機体の状態を確認する。
「この本体自体に問題はない? 武器も、大丈夫。しっかりつかまっていてください。これから動きます」
「きみは、一体?」
ゲシュマイディッヒ・パンツァーを頭から被り滞空するフォビドゥンは、こちらの様子を窺うように攻撃を仕掛けてはこない。
「余裕、なのかしら? なら、こちらから!」
機体に搭載されたテスラ・ドライブが、オウカの操作に従い出力を上げてその能力を開放する。加速するエムリオンは直進し、フォビドゥン目掛けてメガビームライフルを通じぬと知りつつ連射する。
ゲシュマイディッヒ・パンツァーさえなければTP装甲とて貫く高出力の光学兵器も、当たらなければ意味がない。ゲシュマイディッヒ・パンツァーで受けずに回避したシャニは、機体を掠めるエネルギーの矢に恐怖さえ抱かず、エムリオンへと肉薄する。
振り上げられたニーズヘグの首狩りの刃を、重力ブレーキを掛けて装甲一枚掠めるにとどめ、エムリオンの左手に握らせたG・リボルバーの虚空の銃口を、フォビドゥンの胴体、コクピットがあると思われる個所へ向ける。
引き金に掛けた指に力を込めるのに、躊躇いは無かった。轟く銃声が重なる事三度。瞬時の差でMSサイズの巨大な銃弾を、フォビドゥンのシールドが防ぐ。
TP装甲とはいえこの距離からの実体弾なら装甲内部と、パイロットにかなりのダメージを与えられるはずだが、流石にシャニがそれを許さない。
反撃に撃ちだされたプラズマの輝きが網膜に焼きつけられるよりも早く、G・リボルバーを防いだシールドが開く動作に危険なものを感じたオウカはエムリオンを後退させていた。
左肩を掠めたフレスベルクは、エネルギーフィールドの防御を貫き、かすめたエムリオンの左肩の装甲を融解させる。
「なるほど、近・中・遠距離とバランスの取れた武装に、ビームの効かない装備と実体弾に対する高い防御を持つ装甲の二段構え、強敵ですね!」
自然と体が機体を動かす。思考と肉体をつなぐパルスはオウカの知らぬままに加速・加熱する。
オウカが乗るエムリオンの武装はイーゲルシュテルン、G・リボルバー、メガビームライフル、ビームサーベル。
取り回しの難しいメガビームライフル以外にTP装甲を打破できる武装が接近戦用のビームサーベルしか無いのが辛い。
エクツァーンとアルムフォイヤーの火線を、風に遊ぶ蝶のように優雅にかわすエムリオン。
負傷したパイロットは緊急時用のサバイバルキットから取り出した粘着テープで体を固定しながら、エムリオンを操るオウカの実力に、薄らぐ意識を驚きに満ちたものにしていた。
「これは、おれな、んか及びもしないな……」
そう呟いたのを最後に、パイロットの意識は暗黒に落ちた。
だがオウカに傍らの本来のパイロットを気遣う余裕は無かった。アードラー・コッホによって戦闘能力の強化と薬物使用による禁断症状の緩和、戦闘継続時間の延長がなされたシャニの戦闘能力はオウカに勝るとも劣らない。
ましてやオウカには、慣れぬ機体と五カ月のブランクのハンディキャップがあった。
それでも意識を失ったパイロットの体に過剰な負荷が掛からぬよう、無茶な軌道は控えざるを得ない。
「くっ、受けなさい!」
「ああらああ!!!」
メガビームライフルの光条が立て続けにゲシュマイディッヒ・パンツァーに偏向され曲げられる。
一方向からのビームだけ偏光するかと考え、フォビドゥンを中心に円を描くように動きながら撃ち続けるが、シャニもまたそれに合わせてフォビドゥンを動かす為、無駄弾になってしまう。
「あれだけの装備、エネルギーはそう長く持たないはずだけど」
着弾の瞬間にのみ相転移する事で電力の消費をPS装甲よりも大幅に抑えたTP装甲とはいえ、フォビドゥンの装備からすれば、継戦能力が長時間に及ぶとは考えにくい。
バッテリーの消費に気を使う理性は残っているのか、シャニはアルムフォイヤーとエクツァーンを主軸に射撃を行い、オウカの回避行動の隙を見つけては軌道を有る程度曲げられる反則的なフレスベルクを打ちこんでいる。
初見だったならどんなパイロットとても撃墜の危機に追いやられる兵装だ。エムリオンとの戦闘で使用されているのを見ていなかったら、オウカとても回避し続けるのは困難という他なかった。
至近弾がエムリオンの機体を揺さぶり、パイロットの呻き声にオウカの意識が逸れた。
「いい加減、うざい!」
いつまでたっても落とせず、爆発する時の輝きを見せようとしない眼前の敵に、苛立ちを募らせたシャニは、イーゲルシュテルンと
メガビームライフルの弾幕の中にフォビドゥンを突っ込ませた。
「無茶な真似を、命が惜しくはないのですか!」
「うざいうざいうざい!」
メガビームライフルをゲシュマイディッヒ・パンツァーが偏向させ機体後方へ捻じ曲げるが、立て続けにイーゲルシュテルンの75mm高速徹甲弾が着弾し火花を散らばせる。
連続する実体弾の衝撃に機体が揺れ、TP装甲も機体のエネルギーを食い散らかす。だが暴食の勢いで減ってゆく機体のバッテリーのゲージを見もせずシャニは、遂にオウカのエムリオンの懐にまで飛び込んでいた。
「っ」
「らあああ!」
虚空に描かれた銀色の弧月が、エムリオンの胴に横一文字の斬痕を刻み、コクピット内のコンソールパネルの一部が爆発し、機体のコントロールが失われてエムリオンが墜落する。
「ああっ!?」
かろうじてスラスターを吹かして機体の姿勢を整え、大地を震わせて片膝をついたエムリオンのコクピットの中で、オウカは朦朧とする意識の中、眼前に降り立つフォビドゥンの悪意を見ていた。
「……う、く」
とどめを刺そうとするシャニは、唐突に入った通信に不機嫌そうに眉をしかめた。
「待て、アンドラス少尉。その機体は撃墜せずに鹵獲しろ」
「あ?」
シャニの帰還を待つジーベルがせめてわずかでも己の功を得るべく、DC製MSの捕獲を考えつき、戦闘能力を失ったエムリオンをこれ幸いとばかりに手に入れるつもりになったのだ。
「おれに命令すんなよ」
「ふん。貴様、自分がどう言う存在か分っているのか? 命令に従わぬ道具に価値はない。そのような己の立場を弁えぬ振る舞いを続け、貴様が依存している薬物がなぜか紛失している。あるいは投薬が間に合わなかった、などという事が今後ないと言い切れるか?」
「てめえ」
「狂犬如きが鼻息を荒くするな。さっさとその機体を捕獲しろ」
ジーベルの瞳は人間を見る眼差しでは無かった。
「……いつか殺す」
それなりに端正ともとれる若い顔立ちを、隠さぬ殺意と怒りに歪ませるシャニを、ジーベルは侮蔑と嘲笑で迎え、一方的に通信を切った。
所詮、ジーベルにとってシャニは使い勝手は悪いが能力はある道具でしかないのだ。
不快さを消化できぬままシャニはフォビドゥンを沈黙したエムリオンへ近づける。この苛立ちを目の前のMSにぶつけてわずかでも溜飲を下げたい衝動に駆られたが、投与される薬物が切れた時に襲ってくる苦痛の記憶が、シャニにそれを許さなかった。
「殺す。いつか殺す。必ずぶっ殺す」
ぶつぶつとただそれだけを呟き続けるシャニは、ニーズヘグに切り裂かれたエムリオンの胴体から、パイロットの姿が見えるのに気付いた。
――機体さえあればいいはずだ。だったら、パイロットは要らない
そう考え、コクピットを潰して少しばかり胸に渦巻く憎悪と破壊の衝動を紛らわそうとシャニはニーズヘグの、灰色の空から注ぐわずかな陽光に輝く切っ先をコクピットに突きつけた。
機体そのものをあまり傷つけずに殺せるだろう――ぼんやりとそう考えて、後は実行に移すだけだ。
短めですが、ここまでです。
きれいなままのオウカフラグ立ってるけど
まだ油断は出来ないなぁ
最後の最後で・・・なんて事にはならなきゃいいけど
成功したりシャニを誉め称えよう
乙
ちょ、総帥
平穏無事に暮らさせたいならそもそも丸木尾に預けちゃいけませんw
オウカ姉さんは連合強化人間ルートかね、まだ一波乱ありそうだが
とにかくGJでした
GJ!
本来のパイロット殺されてオウカ姉さんは気付かれないまま機体ごと持ち帰り、かな?
堕ちたってサブタイからして洗脳ルートっぽいけど_| ̄|〇
乙
今来たんだけどさっきまで読んでたモンのせいで真SRXデ○ベ1に竜馬と煩悩GSとな○はがキ○ガイのギターとプ○イマスの援護を受けてオウカ姉さんを救出に
俺はSSを探しに(ry
GJ!オウカ姉さんやっぱり……(´;ω;`)ブワッ
>>322 何を言ってるんだHAHAHAHAHAHAグレートSRXアルタード○ヴァド○ゴンに乗ってるのは
ヤ○ダ・○ロ○
リ○・○ンバー○
江○島塾長
U-1
だろうが。
GJ。勿論GJなんだが……
ゲイムシステムほどヤバく無いにしても、連合軍の強化人間技術はまだまだ
未完成。アニメ中に出てきた生体CPUは悉くアレな結末になってるわけで。
グリフェプタンが切れてもがき苦しむオウカ姉様を見る羽目になるわけか。
そしてOGSと同じくこの世界でも助からず、う、うぅっ……
ちょwwwダメwwwwwww投下なんかしちゃwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
韓国核兵器手に入れる気マンマンだな
今から泊りがけでデートだから、今日は平和かもなw
んじゃ
一人で行ってきて下さい、帰って来なくていいですから!!
なんかオウカにはシンやステラの姿がアラドやラトゥーニの姿に被って見えそうだ。
第十三話 夢
頭でも打ったのか、意識が混濁している様子のパイロットの姿が目に入る。自分とそう変わらない位の少女である事に、別段シャニは驚かなかったが
「へえ、美人だな」
殺すのは惜しいかもしれない。そう思い直して、目の前の機体を持ち上げようとし、レーダーに映った反応にそれを中止した。
「……また敵?」
「何事だ!」
巡洋艦の艦橋で怒鳴るジーベルにオペレーターが答える。
「レーダーに感! DCの戦艦です。報告にあったスペースノア級です!」
「なんだと? ち、この程度の戦力ではあの戦艦の相手は出来んな。全艦急速回頭。この海域より離脱する。アンドラス少尉、さっさと戻って来い!」
「新たな反応です。スペースノア級から発進したMSが急速接近!」
「おのれ、ここでもおれの邪魔をするか! ……命令は変わらん。急げ、あの戦艦の砲撃はこの艦程度なら一撃で沈めるぞ」
ジーベルの切迫した声に、この傲岸な男がこれほど焦るとは、と艦橋にいた全員が肝を冷やしてその命令に従った。少なくともこの時は、ジーベルと艦橋のスタッフ達の心は一つだった。
オウカがエムリオンに乗り込み、シャニのフォビドゥンの戦っている時、オノゴロ島を目指し帰路についていたタマハガネが、救援信号をキャッチし、急ぎアカツキ島へと進路を変えていたのだ。
「急げ、既に友軍の機体は全滅に近い」
既にコクピットの乗りこんだアルベロだ。しかし、ここまでオーブ本島の近くまで接近を許すとは、こちらの警戒網の穴でも見つけられたか、相手がそれだけ優秀なのか、偶然なのか。
「アルベロ隊長、発進の準備整いました!」
たまたまこれまでのパーソナルデータを整理していたシンが、もっとも早く出撃の用意を整えていた。他の機体を見渡すが、まだ搭乗したばかりの様だ。シンのエムリオンがいまかいまかと発進を待っている。
「……いいだろう。艦長、シンを先行させる! ハッチを」
『分かった。シン・アスカ機を先行させる。続いて発進準備の整った機体から順次発進だ』
垂直カタパルトに乗せられたエムリオンが、発進シークエンスにそって甲板上に姿を見せる。
「エムリオン、シン・アスカ機。発進どうぞ!」
まだ二十歳を超えたばかりらしい、青い髪の少女が緊張にわずかにこわばらせた顔でシンに告げる。
生憎とその緊張をほぐしてあげられるほどシンは人生経験が豊富では無かったので、目一杯明瞭に返事をしておいた。
「シン・アスカ、エムリオン。行きます!!」
そして帰路の事など考慮しない最高速度で天翔けた鋼の巨人は、かろうじて、オウカの危機に間に合ったのだ。
骨を軋ませて肉をひしゃげさせるGに耐えたシンは、ぼろぼろのエムリオンを前にニーズヘグを構えるフォビドゥンを認め、即座にビームライフルの照準を合わせた。
敵が新型のGであると伝えられた為、レールガンやアサルトブレードは外してビームライフルを携帯している。元々大型のブースターと追加の推進剤を積んでいるシンの機体は、装備を減らす事でより機動力を増している。
「こいつが、連合の新型!」
「邪魔だな、お前」
そろそろバッテリーのゲージが危険領域に近づいているのを視界の端にとどめながら、シャニはわずかに溜飲が下がっていた気分に水を差され、顔を歪めて殺意を露にする。
幸か不幸かアードラーの施した新機軸の強化手術及び自身の超人化を信じ込ませる暗示、腑分けにも等しいおぞましい外科手術の成果でシャニを含む生体CPU達は、従来よりも長時間の継戦時間と、禁断症状の発作期間の延長、そして理性を残している。
その成果もあり、オルガ、クロト、シャニらの戦闘能力は上昇している。パイロットとしての技量はシンでは敵わぬ強敵だ。
「味方に当てないように照準を着けないとか」
シンはパイロットしては近距離、特にビームサーベルなどの武装が活きる距離を最も得意としている。中・遠距離からの射撃戦も不得手なわけではなく、オールレンジで能力を発揮する安定したオールラウンダーだ。
素質を見ても、アルベロやミナ、ギナらも口にこそしないものの目を見張るものを秘めている。精神的に未成熟であるため、その能力を完全に発揮する事は出来ていないが、
将来的にはこれまでの戦争の歴史にたまさか出現した化け物じみたエース達の一人に数えられるかもしれない。
ただ、現時点では、まだシンはシャニには及ばないのが現実であった。
幸い、フォビドゥンの傍らのエムリオンを気にする必要はなかった。フォビドゥンの方からシンに襲い掛かってきたからだ。
「来るのか!」
「落ちろよ、お前」
ゲシュマイディッヒ・パンツァーを再び頭からかぶり直したフォビドゥンが、降り注ぐ雨粒を弾いてシンに迫る。しとどに濡れるエクツァーンの砲口から放たれた弾丸を搔い潜り、シンは自分の得意とする接近戦に持ち込もうと、機体を加速させる。
「鎌をもったMSと闘うのは初めてだけど、あれの間合いに気をつけないとか」
牽制としてマシンキャノンの弾幕を張り、それを細かいスラスターの機動でかわすフォビドゥン目掛けてビームライフルの照準を合わせてトリガーを引く。
おおまかに回避先を予測し、そこへ逃げ込むようマシンキャノンと合わせてビームの矢を放ち、三本のビームのうち一本がフォビドゥンを捉える。
だが、それは勿論偏光され本体を傷つけるには及ばない。
「ゲシュマイディッヒ・パンツァーだっけか? 連合も厄介なものを造る。けど、ビームサーベルは防げないんだろう!」
勝機は接近戦にある。そう判断したシンはこちらに迫ってくるフォビドゥン目掛けて機体を走らせる。振り上げられたニーズヘグが風を切って横一文字に振われる。
背から抜き放ったビームサーベルの光刃がニーズヘグの鋼と噛み合い、赤熱化させる。アンチ・ビームコーティングされているわけでもないニーズヘグだ。長時間交差させればビームサーベルに焼き切られるだろう。
交わした刃をつっぱずし、わずかに距離が開いた瞬間にフレスベルクの砲口にプラズマが集束する。脳が認識した脅威を即座に理解したシンは機体の左半身を逸らし、同時に至近距離からビームライフルを撃ち込む。
「この距離でかわすのか?」
必殺のつもりで放ったビームはわずかにフォビドゥンの左シールドの表面を焦がすのみに留まった。だが驚きに思考を割く余裕はない。エムリオンの左腕に握らせたビームサーベルをフォビドゥンの胴体めがけて突き込む。
上昇しかわしたフォビドゥンが、エムリオンの頭部めがけてニーズヘグを振う。テスラ・ドライブに唸りをあげさせて機体を前方に直進させて、かろうじてかわす。
バックパックのウィングの一部が切り飛ばされ、多少機体の重量バランスが傾ぐも、すぐさまOSがそれを補正する。
直進の勢いを利用し、シンはスラスターの出力を瞬時に捜査して機体をその場で旋回させ、後ろ回し蹴りをフォビドゥンの胴体に叩き込んだ。
コクピットを盛大に揺らされて、シャニが苦痛に呻く。
「ぐが、こいつうぅ」
機体を揺さぶる衝撃に脳を怒りで沸騰させながら、後退したフォビドゥンを立て直す。前腕部のアルムフォイヤーとエクツァーンをシンのエムリオンに向けて撃ちこむが、弾丸の事如くはエムリオンの疾駆した後を虚しく通り過ぎる。
一方でエムリオンの中のシンも、フォビドゥンの正確な射撃に肝を冷やしていた。重量を減らし身軽なエムリオンでなかったらそれなりに被弾していただろう。
「こいつ、今までの連合のパイロットは違う!」
ともすればジャン・キャリー級の相手だと悟ったシンは、奥歯を噛み締めて、自機の無茶な機動に耐える。
(一か八かの勝負に出るか? いや、あいつを撃墜するのが目的じゃない。危険な事は出来ないか)
間もなく後続のクライウルブズのMSが到着するはずだ。危険な賭けに出る必要はない。シンの頭の中で理性が告げる。
オウカの乗るエムリオンは今のところ内部動力源の故障などによる爆発の心配もなさそうだ。なら、このままフォビドゥンを相手に時間を稼いでいればそれで済むはず。
それまでフォビドゥンを中心に円を描いていた軌道が緩やかに歪み始め、シンのエムリオンが回避行動のパターンを変えているのにシャニが気付いた。
「仕掛ける気? いいぜ、来いよ」
面白い。ひどく愉快なゲームに興じているような気分だった。アルムフォイヤーとエクツァーンの残弾ももう残り少ない。後二斉射もすればなくなるか。
図ったかの様に二機は対峙し、フォビドゥンはニーズヘグを両手に持ち、エムリオンは右手にビームサーベルと左手のプラズマ・ステークを腰だめに構えた。
ジャン・キャリーの時と似た状況。あの時は半分、いやほとんど運で勝ったが、果たして今度はどうなるのか。シンの口元は緊張に固く結ばれ、シャニはうすら笑いを浮かべている。
シンは心臓が早鐘のようになるかと思ったが、驚くほどに静かに脈動し、一定のリズムを刻んでいる。対峙して一分も経ったような気もするし、五分が経ったようにも感じれた。
だが、実際にはわずかに二秒程度の間であった。研ぎ澄まされた感覚があまりに鋭敏になった為に周囲の時間の流れが遅くなってしまったかのように感じられたのだろう。
そして
「!? スティングのガームリオン、間に合ったのか」
「ちっ、お仲間の登場かよ」
「シン、無事か!」
全速力で機体を飛行させたスティングのガームリオンをはじめ、アルベロやステラの機体の反応もある。流石にタマハガネのクルーは仕事が早い。
戦況が一機に不利になった事を悟ったシャニはありったけの煙幕と閃光弾をばらまき、即座フォビドゥンを母艦に向けて飛ばす。バッテリーの残量も危険なレベルを指示している。シン一機を相手にするのにも限界が近づいていたようだ。
そしてそれを理解する程度に、シャニには理性が残されていた。アードラー・コッホ。人格と所業はともかく、専門知識においては優秀である事は事実だった。
「今日は殺せない奴が一杯だな。……あのパイロット、名前なんて言うんだろう?」
それまで戦いを繰り広げていたシンのエムリオンなど気にも留めず、シャニは離脱するフォビドゥンのコクピットの中で、撃墜した機体の中にいた少女――オウカの事を、ぼんやりと考えていた。
「あいつ、逃げるのか」
「よせ、シン。おれ達の目的は敵の殲滅じゃない」
「スティング、でも!」
「それよりもあのエムリオンのパイロットの安否を確かめる方が先だ」
飛びだそうとするシンをスティングが制止し、シンはなんとかはやる気持ちを抑えて眼下のアカツキ島に膝を突く友軍機の傍らに、自機を着陸させた。
既にアルベロとステラがパイロットをコクピットから連れ出し、様子を見ているようだ。
「アルベロ三佐。パイロットの様子はどうですか?」
『多少頭を打っているのと、パネルの破片が腹部に刺さっている。止血は済ませたが、あまり時間の猶予はない。問題はもう一人だ』
「もう一人?」
アルベロの言葉にシンは首を捻った。複座式のエムリオンがあっただろうか?
『ステラ、スティング。お前達は機体とパイロットをタマハガネに連れてゆけ。シンは周辺の他の友軍機を見て回って来い。すぐにアウルやギナ達も駆けつける』
「三佐は、どうするんです?」
『おれは少し話をせねばならん相手がいるのでな』
抱え上げたオウカをステラに渡したアルベロは、その視線の先、
孤児院の入り口に立つ盲目の男と、その足に縋りつく幼い子供達を見つめていた。
その後、撃墜されたエムリオンのパイロット一人と機体の残骸を回収し、シンはタマハガネに帰艦した。
「あれ、アルベロ三佐。その人は?」
シンの視界に入ったのは、アルベロが連れているマルキオだった。マルキオの手にした杖と閉ざされた両目から、この人は目が見えないのかという事は分るが、なぜそんな人が、という疑問が湧く。
「こちらはマルキオ導師だ。お前も名前くらいは聞いた事があるだろう。先程の戦闘があった島で孤児院を開いていてな。戦闘に巻き込まれそうになったので、孤児たちを含め安全な場所に送る事になった」
「なるほど」
とは言うものの、民間人を軍艦に乗せていいのか、ディバイン・クルセイダーズとなったオーブのどこに安全な場所があるのか、など色々と聞きたい事もあったが、それは押し殺しておいた。
誰かに答えを聞くのは、自分で考えてからにしろと、ビアンやアルベロ、ミナ達に何度か注意された事がある。
「声からしてずいぶんとお若い方ですね。マルキオです。子供達と短い間ですが、お邪魔させていただきます」
あくまで穏やかで静かなマルキオの物言いに、シンもつられてこちらこそ、などと言ってしまった。シンが知っているマルキオ導師と言う人は、なんだか知らないけど連合やザフトに顔が利く不思議な有名人という事だ。
「そうだ。フォビドゥンと闘っていたエムリオンのパイロット、無事でしたか?」
「うむ……。マルキオ導師」
「構いません。ビアン殿が目を掛けた少年と言うならば」
神妙なアルベロの様子に、シンはわずかに困惑した。なにか機密に関わるような事を聞いてしまったのだろうか。
「ここでは人の目がある。シン、こっちへ来い。導師は子供達の所へ行ってやれ。案内はいるか?」
「いえ、子供達の声が聞こえますから。それでは」
小さく会釈して、アルベロとシンから離れてゆくマルキオの背を見送り、シンがアルベロを見つめる。アルベロは野生の獣みたいに刺々しく生え揃った顎髭を一度、ぞり、と撫でてから苦渋に近い表情を浮かべて近くの通信室にシンを連れて行った。
「この話はビアンも交えた方がいいのでな、連絡は付けておいた」
「総帥が一枚噛んでるんですか」
AI1に連絡を入れさせておいたため、通信室でアルベロが指示を出すのと同時に、メインパネルに行政庁にいるはずのビアンの顔が映る。
『久しぶりだな。シン。皆無事なようで何よりだ』
「ビアン総帥も。あの、それでエムリオンのパイロットがどうかしたんですか?」
『報告はAI1から届いている。お前がフォビドゥンと戦う前に交戦していたエムリオンを操っていたのはDCのパイロットではない。以前に私とウズミ、マルキオで話し合い預けておいた者なのだ』
「え、じゃあ、民間人なんですか?」
流石に軍事訓練を受けていない民間人がDCの誇るエムリオンを駆っていたと聞かされて、シンも驚く。だが、すぐにそれを自分で否定した。
「でも、それなら総帥やウズミ様が話し合うわけもないし」
『うむ。そのパイロット、名前はオウカ・ナギサと言うのだが――彼女は強化人間なのだ』
「! じゃあ、ステラやアウルと同じ?」
『……そうなるな。最も本人は記憶を無くしていてな。今は自分が強化人間であると言う事も忘れている。ならば余生を民間人として暮らす方が良いだろうとマルキオの孤児院に預けたのだが、今回は裏目に出たようだな』
ビアンは小さく溜息を吐いた。
「そうだったんですか。ステラ達はその、オウカさんの事は知っているんですか?」
『いや、あの子たちとは別の研究機関に所属していたからな。ステラ達にとっても初対面になる。オウカだが、久しぶりの戦闘が刺激となって体調を崩している。
タマハガネの設備では本格的な治療は出来んのでな、マルキオの所の孤児たちと共に、こちらまで来てもらう事になった』
それまでビアンとシンの会話に口をはさまなかったアルベロが、口を開いた。腕を組み、厳めしい表情を拵えている。
「いいか、シン。この事は他言無用だ。口を滑らせたらどうなるか、分かるな?」
「こんな事、そんなペラペラ喋ったりしないですよ!」
「ならいい。というわけだが、ビアン。治療の用意はどうだ?」
『こちらにつき次第すぐ取りかかれるように整えてある。最初のショック状態を超えれば後は数日休むだけで問題はなかろう』
オウカの怪我そのものは大した事はないらしい。それは不幸中の幸いというべきだろう。
帰還したシャニ達のデータを見つめる人の皮を被った、老いた獣が一匹。第四洋上艦隊を主力とするオーブ解放作戦、いや、DC討伐艦隊旗艦『アイアロス』の研究室で、アードラーは今回の生体CPU達の戦闘データを整理していた。
深く腰掛けた椅子の背もたれに背を預け、満足のいく結果に自然と笑みが浮かぶ。己の欲望の為なら他人の犠牲などいくらでも強いる事が出来る人の心を置いて来た人間の笑み。
「戦闘時間の延長も考慮に入れれば前回の作戦時より12パーセント戦闘能力が上昇したと言った所じゃな。もっとも機体の方は変わらずか。アズラエルめ、もっと強力な機体を寄越せば良いものを」
パイロットの方の強化は進むものの、肝心の機体の性能に変化がない。これではDCの繰り出すMSやヴァルシオンシリーズに勝てるかどうか。
いや、連合の物量をもってすればヴァルシオンを無視してオーブ本島やオノゴロ島を蹂躙する事は容易い。
だが、ヴァルシオンを筆頭に女性型の機体と三機のみょうちきりんなMSならば、あれらだけで艦隊群を突破して旗艦や艦隊中枢部を叩ける。それがアードラーには気がかりだった。
まあ、あれでビアンは民を見捨てる事は出来ぬ性分だ。市街が戦火に晒されれば、動きは鈍るだろう。……おそらくだが。
彼我戦力はアードラーの把握している限り3:1にまで広がっている。正面から押しつぶすだけで勝敗は決しているようなものだ。
ここであれやこれや気を揉んでも仕方がない。そう結論付けてアードラーは更なる強化の方法を模索すべく作業に没頭した。
アードラーによって着々と強化されるシャニ、オルガ、クロト達。
本来の世界よりも戦闘能力が増大し、破壊衝動と闘争本能を強制的に開放され、γ―グリフェプタンのみにとどまらぬ数多の薬物、脳内に埋め込まれたインプラントの改良・数の増加とが施されている。
皮肉にも統合的な戦闘能力の上昇を目指したが故に、ある程度連携も出来るように理性を残し、禁断症状や人格崩壊の訪れが遅れるようにも調整されていた。相反する強化人間の製造は、アードらがいなければ実現しなかっただろう。
オルガ達以外にも、能力は劣るがより安定した強化人間達が続々と連合の部隊に配備され、DC討伐後は一気にザフトの地上戦力を殲滅し、宇宙に浮かぶ砂時計に攻め込む計画が立案されている。
MSの数もパイロットも、徐々にではあるが連合は整えていた。
オウカをオノゴロにある強化人間用の治療施設に収監し、その様子を見守っていた人影が三つある。先程までいたマルキオは、オウカの容態が安定し快方に向かっている事を告げられて安心し、今は孤児達の所にいる。
今ここに残っているのは時間を作ってこの施設に足を運んだDC総帥ビアン・ゾルダークとビアンの右腕的存在であるDC副総帥ロンド・ミナ・サハク。
ミナはここにいる必要はないのだが、ビアンと行動を共にする事が多く、DCのメンバーもこの二人はセットで考えている者が多い。
円形のカプセルの中でまどろむオウカを見つめていたビアンが、残る三人目に声を掛けた。オウカに関してはビアン以上に詳しい男だ。
金色の髪にややたれ気味の瞳。左目の下にはほくろが一つ。やや気弱だが温厚そうな雰囲気の青年だ。身につけた階級章や来ている白衣から医療スタッフである事が分る。
「クエルボ、彼女の様子はどうだ?」
「一時的なショックです。戦闘行為での刺激と頭部を打った事が原因の一部でしょうが、総帥の見立て通り軽傷というほどでもないでしょう」
どこか安心した様子でクエルボは目の前のコンピューターの画面に映るオウカのメディカル・データから目を離した。
クエルボ・セロはビアン同様新西暦世界からこのCE世界へと転移してきた死人だ。ビアンとは死期が半年以上異なるが、ビアンのDC結成準備を行い始めた時期に接触し、DCに属している。
「これなら今日一日治療カプセルで眠れば明日の昼頃には目を覚ますでしょう。数カ月ぶりの機動兵器での戦闘をこなしても、大事に至らず幸いといった所でしょう」
「不幸中の幸いか」
これはミナだ。無感情な響きだが押さえた感情がわずかに滲んでいる。
ステラやスティング、アウルの他にもエクステンデッドやソキウス、強化人間の例を知っているから、彼らと同様の処置が施されている(厳密には異なるが)オウカを前にして胸の奥で憤りを覚えているのだろう。
「クエルボ、彼女を頼むぞ。お前の方が私よりもオウカに関しては詳しいだろうしな。彼女は覚えていなくても、お前が覚えている事が重要なのだからな」
「はい。それが私の贖罪でもあります」
口にした言葉を命を賭けてでも実現する――そんな決意が込められたクエルボの言葉にビアンは首肯して、ミナと共に医務室を後にした。
ビアンの背を見送り、クエルボはもう一度安らかに眠るオウカの穏やかな寝顔を見た。おとぎ話の眠り姫は毒のリンゴを食し、あるいは魔女の呪いで醒めぬ眠りに落ちたが、オウカもある種それに近い。
記憶をいじられ、人格を消去され――戦いの道具とされて。
それにはクエルボもまた大きく関わっていたのだ。
はたしてどんな夢を見ているのか、うら若い美貌に眠り姫の仮面を被ったオウカの寝顔には悪夢の欠片も見つける事は出来ない。
「オウカ……。君までこの世界に来ていたとは。いや、せめてこの世界では君は君の幸せの為に生きる事が出来るように手伝おう。それがきっとこの世界に私がいる大きな意味なのかも知れないな」
夢を見ていた。見知らぬ場所だった。見知らぬ子達がいた。最初は白身を帯びた薄い紫色の髪をした小さな女の子がいた。五歳位だろうか?
旧アジア地域の中国風の服を着て、バースデーケーキを両手に持って頭の上に持ち上げている。蝋燭が五本に、苺を乗せたケーキだ。HAPPY BARTHDAY! と書かれたチョコ板が乗っている。
この小さな女の子の誕生日なのだろう。今日の為におめかしした服は丈が長く、袖に小さな手は隠れてしまっている。
恥ずかしいのかうれしいのを隠す為か、ふっくらとした愛らしい顔はほんのり赤く染まっている。
夢の中には今よりも幼い自分も出てきた。紫地の、スリットの深いチャイナドレスを着て両手に扇を持って女の子の誕生日を祝福している。頬を赤らめた女の子ははにかみながら、嬉しそうにしている。
例え夢の中でも女の子の笑顔は、なぜかオウカの胸に暖かいものを宿らせていた。
一瞬白い光があふれて風景が変わる。先程の女の子が幾分成長し、11、2歳位の姿になっていた。オウカもまたその場にいたが、他に二人の登場人物がいた。
紫の癖っ毛に緑色の瞳をした明るい雰囲気の、ちょっと軽い感じの男の子に左側頭部を編みこんだ銀髪のショートカットに青い瞳の女の子だ。
二人とも最初の女の子よりは年上だが、オウカよりは年下だ。オウカを含めた四人の雰囲気は、そう今オウカがいるマルキオの孤児院の様な、家族の雰囲気がある。
夢の中の自分も優しい顔をして男の子や女の子達と何か楽しげに話をしている。男の子がなにかねだっているらしく、それを銀髪の女の子が窘めているのか、愛らしい目元を少しだけ吊り上げてまくしたてている。
小さな女の子はちょっと困った顔で視線を、二人の顔の間でいったりきたりさせている。夢の中の自分は仕方がないな、と優しい苦笑を浮かべて言い合う男の子と女の子に声を掛けて何か言っている。
夢の中のオウカは、どうやらうまく二人の間を取り持ったようで、男の子は顔を喜び一杯にし、女の子も仕方がないなあ、とオウカ同様の表情を浮かべている。
表面的には口喧嘩をしていても、今夢の中にいる四人は誰もがかけがえの無い家族なのだろう。夢の中のオウカはどこまでも穏やかで、優しい顔をしている。誰が見ても幸せそのものの風景だった。
「ラト……アラド、ゼオラ」
いつも思い浮かぶ思い出せない名前。夢の中でその名前が夢の中の男の子と女の子たちだと理解できる。けれどそれは夢を見ている間だけの事。目を覚ませば埋める事の出来ぬ喪失感が胸の中に見えぬ穴を空けてしまう。
オウカは閉じた瞳からいくつもの大粒の涙を流し、清らかな輝きを残してオウカの頬に幾筋も残す。失ってしまった過去の幸福な記憶。取り戻せない過去。
オウカはただただ涙を流し続けた。目を覚ませば、なぜこんなにも悲しいのかさえ分からなくなる夢を見ながら。
洗脳ルート回避。ある意味期待を裏切ってごめんなさい。
GJ!
オウカ姉さん幸せになってくれ!
適当なところで改行してくれませんか?
いやー今回はドキドキしたわ
レクイエム戦のルナの生死ぐらい先が読めんかった
しかし仲間は増えても、それ以上の戦力差は広がっていってるようで、まだまだ前途は余談を許さんな
>>338 >レクイエム戦のルナの生死
死亡フラグを力づくで引きちぎったように見えたw
GJ!
よっしゃーオウカ姉さん洗脳ルート回避!
シンよくやった!
GJ!
洗脳ルート回避!あっぶねぇ〜。
さりげなくOGs予約特典だかの最後のページに載ってるイラストネタが入ってたな
つかクエルボさんまで来てるのかwwww
はぁ〜アードラーの玩具にはならんで済みましたか。
2度も同じ目に遭うってのはやっぱムゴいからねぇ。
でも……3人に会う事も出来無いからせめて静かな日々だけでも……。
GJ!
シンGJ!!!
よかった、本当によかったー。
いっそここからフラグ立ててシンステラオウカで非念動SRXあたりに乗せるとか無茶なことを妄想。
スパロボの設定によると誰でも念動の力は持っており、その中でも特にその力が強い者を
念動能力者と呼ぶらしい。
……誰か覚醒か?
>>345 OGには結構いるがここでは貴重な「お姉様」キャラなんだから
オウカ姉さんとステラでも誰でもいいから年下の女パイロットで゜二人乗りのマシーン兵器だよ
ガンバスター参戦作品世界のデータがないのが残念だw
>>345 ここはひとつミナ様と一緒にゴスロリオンに搭乗、R・H・B(Ver.Adult)を……
「ラト、タイが曲がっていてよ」
声が違うな、うん
>>349 さっちんの中の人ってロボアニ出てたかな
MSに乗にないミネバとVガンのルペさんくらいしか知らん
アルトアイゼンは良いねぇ・・・・。
電ホのスパロボ漫画の、初出撃シーンを読んで惚れた。
第十四話 ステラ・シン・マユ
オウカの容態を確認したその帰りにオノゴロの地下国防本部にビアンとミナは顔を出した。一刻の猶予も無く迫りくる連合艦隊迎撃に向けて可能な限りの戦力を集結させ、勝利を得る為の作戦が練られている事だろう。
ビアンの姿に気付いた者達が敬礼するのを手で制し、自分達の作業に戻るよう伝えてから、ミナを伴ったままある一室に腰を落ち着けた。
室内にはビアンの他、DCの高級将校たちが顔を揃えている。ソガ、シュミット、またクライウルブズを束ねるアルベロとタマハガネ艦長のグレッグ、ギナなどなど。
この場にいない防衛ラインの艦隊司令クラスもモニター越しに顔を画面に浮かべている。
「待たせたな。余計な話は良い。単刀直入に聞こう。連合艦隊が再びオノゴロに姿を現すのはいつ頃になる?」
椅子に着くなり口を開いたビアンにソガ一佐が席に座したまま空中立体スクリーンを展開して説明を始める。無駄を省き切るビアンのやり方はDCの末端にまで浸透している。
「先立っての戦闘の様にオノゴロ島近海に艦隊を展開すると仮定した場合、残り五日ほどと報告が上がっています。
第一次防衛ラインで警戒しているタケミカズチとタケミナカタの哨戒部隊が何度か連合艦隊の航空機と接触し交戦しています。また、五時間ほど前にアカツキ島まで少数の艦隊の侵入を許しています。
現状の戦力で展開している防衛ラインの隙間を突かれたか、あるいはたまたま、か。どちらにせよ、軽視出来る事態ではありません。新たに航空機による哨戒部隊とMSパトロール部隊を編成し、領海内の警戒レベルを上げて対処しています」
もっとも、国土が戦場に直結する旧オーブだ。オノゴロ島などを始めとする主要な島々に連合の上陸を許せば一気に国土と国力が疲弊する事態になる。
故に、通常他国の領内に引かれる防衛ラインに沿って、連合艦隊を迎撃する予定である。
といっても前の戦いには間に合わなかった切り札の一つが完成した為、それを設置した海域にまで誘導するかそこで決戦を行う予定だ。
「彼我戦力差はもはや改めて言うまでもあるまい。連合も以前の戦闘以上の戦力を持って我らDCとの戦いに臨んでいる。小国に過ぎぬオーブを母体としている我らに大仰な事だ」
言葉とは裏腹に、圧倒的な戦力差を前にしてなお揺るがぬ自信を声に込めたのはギナである。もともとそういう性格というのもあるが、それに伴う実力を持っているのも事実だ。
彼の配下に着いた三人のソキウス達だけでも三十機のストライクダガーを相手にして不殺で勝利できる実力を持っている。
クライウルブズを筆頭としたDCのエース達だけでも百機以上のMSに匹敵するかそれ以上の戦力といえるだろう。
「ザフトと連絡を取り、カーペンタリアから援軍を要請しては?」
慎重派で知られる将校の一人が一応、という形で口を開いた。前回の戦闘でもあったが、今水面下で行われているザフトとの交渉の重要事項の一つだった。
アラスカで投入した戦力の八割を失い、地上の支配権を著しく失ったザフトとしては、オーストラリアのカーペンタリア基地を守る為の防衛拠点としての役割をDCに求めているのだろう。
目論見がどうであれ、ザフトと連携すれば連合艦隊の迎撃ははるかに容易なものとなる。DCとザフトの戦力とで連合艦隊を挟撃し、一気に撃滅できる可能性も無きにしも非ずだ。
これに応えるのはビアンであった。何度か以前にも語ったのと同じセリフを言う。
「いや、今回の戦闘までは我ら単独で連合を退けねばならん。我らの力を示すもっとも簡潔な方法としてな。地上の連合の戦力は既に報告に受けた段階から大きな変動はあるまい。
では宇宙、軌道上の方はどうだ? 大気圏外からの降下部隊に本島を制圧されては意味がない」
ビアンの視線の先に、DC宇宙軍総司令マイヤーの映るモニターがあった。
現在CEにただ一隻のみが存在するアルバトロス級宇宙戦艦・改『マハト』に乗艦してアメノミハシラから出撃し、オーブ軌道上で連合の降下部隊を迎撃する任に着いているのだ。
副官であるリリー・ユンカース一佐が傍らにいるのが画面越しに写っている。
『地上での動きに合わせ、月から艦隊が出撃しているのを確認した。我が方の迎撃の用意は整っている。トロイエ隊のコスモリオンとコスモエムリオン、それにロレンツォのアレもある。
軟弱な連合共の兵を一人、MSの一機たりとも地上には降ろさぬ。そちらこそ、宇宙を守りきっても地上がおとされては本末転倒。守りきれるか?』
「相変わらずの言いようだな、マイヤー。今度の戦いは私もヴァルシオンで出る。今後を考えればこちらの通常戦力を消耗するわけには行かぬゆえ、ミナやソキウス達に負担を掛ける事になる」
ただ目前の勝利のみを見ていてはDCの目的は果たせない。
頼りにしていると言外に告げられたミナは微笑していた。
「望む所だ。私達の力を披露するには申し分の無い相手、というには少し質が低いが数は申し分ない。この戦いでDCが勝利すれば地上のパワーバランスも変わる。この戦い以降の動き如何でザフトと連合の決戦が宇宙に移るかどうかの鍵も握っているようなものだ」
ミナの言う事にも一理ある。すでに宇宙戦力の強化を決定したザフトは地上戦力を順次宇宙に引き上げ、連合もまた決戦を宇宙と見定めて戦力の配備とマスドライバーの確保を進めている。
このタイミングで連合の海洋戦力の大多数を注ぎ込んだDC討伐艦隊が壊滅に近い損害を出したとなれば、ザフトにもまだ地上での戦いようがあるという光明が差すのだから。
流石に地上に残された戦力で連合相手に勝利を収めることはできまいが、来る宇宙での決戦までの時間を稼ぐ事は出来るだけでも価値はある。
「だが未来を見据えるには今を勝たねばな。三日後、タケミカズチとタケミナカタを中心に艦隊を組み、我らから連合の艦隊に仕掛ける。皆精気を養い、決戦に備えよ」
いくつかの議題を話し終えた末に、ビアンがそう締めくくり参加者の多くは自分達の仕事へと戻った。残ったのは、ビアンとグレッグだ。ミナとギナも席をはずしているあたり、余人には聞かせられぬ話であると分る。
ビアンと対峙する位置に座ったグレッグは、厳めしい顔のまま溜息をついた。ビアンはその様子に小さく笑う。
「ふふ、どうした? 慣れぬ艦長職は疲れたか、グレッグ。ラングレー基地で指揮を取っていた方が性に合うかな?」
「それもあるがな。よりにもよってDCの傘下にいる今の状況にいまだに違和感を覚えているだけだ、ビアン・ゾルダーク。
連邦の将校だった私が、連邦に反旗を翻したお前のもとで指揮を取っている。それも異世界でだ。どういう冗談だこれは? と、思うくらいは構うまい?」
「それは認める。だが現実に我々は新西暦とは異なる世界で息をし、言葉を話し、意志を交わしている。認めざるをえまい。新西暦で死した者達のうち幾人かがこの世界に辿り着いている事はな。それに連合とザフトのどちらにも属さずDCに協力する事を選んだのだろう?」
「消去法だ。ただ、戦場に立つのがあまりに速い子がいるのは、少し堪えるな」
「シン達の事か。あの子たちの力を借りなければならぬほど、我らは強くはないという事だ。歯痒いがな」
しばしかつて対立した陣営にいた二人は沈黙を共有した。少なくとも胸の内に悲しみを宿しているのは間違いなかっただろう。もっともただ罪の意識を感じているだけでは何の意味もないが。
「ふ、ここで顰め面を突き合わせていても仕方あるまい。さて、グレッグ。やはり艦長職は合わんか?」
「……そうだな。私にはやはる艦長席より基地司令の椅子の方がしっくりくる。シロガネのダイテツ艦長でもいてくれれば安心して任せられるがな。誰か良い艦長の当てでもあるのか?」
「できればリリー・ユンカース一佐に努めて欲しいが、彼女は宇宙でマイヤーの傍らにいる事だしな。一人、心当たりがある。ただし、だいぶ危険な賭けでもある……」
「お前がそこまで言う相手、か。まさか? エアロゲイターの?」
「今の彼は我々地球人類――この世界の場合そういってよいものかどうかは、少し考えねばならんが――について知りたいと感じているようだ。
彼の世界において勝利した地球人の力の、その根底的な源となるもの。精神、心についてな。そういう意味では、我らDCという存在は利用する価値があるだろう」
ビアンの言葉を、グレッグも不承不承認める。新西暦であって新西暦ではない世界からのエトランゼ。その素性を知った時、ビアンもグレッグも驚愕した。そしてその彼の世界での出来事にも。
「ビアン、この宇宙にも人類の逃げ場はないか?」
「……」
ビアンは答えない。重く深い沈黙はやがて……。
目を覚ましたオウカは自分がどう言った状況にあるのか、孤児たちやマルキオは無事なのか、という事も考えたが、なによりも目の前、それこそ鼻がくっついてしまいそうな距離から自分を見つめている女の子に、どう反応すればよいのか困った。
金色の細くふわふわした髪の、オウカよりいくらか年下の女の子だ。どこか危うい、儚さが滲んでいる。
どうしよう? とりあえず目の前の少女は、自分に対して悪意や害意と言ったものを抱いてはいないらしいというのは分る。だが、どうしろと言うのだ?
この少女は勿論ステラである。エクステンデット用の治療設備も同じ施設にあるから、適当に歩き回っている内に辿り着いたのかもしれない。
「大丈夫、どこか痛くない?」
「え、ええ。大丈夫よ。……私はオウカ。貴女の名前は?」
外見よりも幼いステラの口調に、オウカは知らず口元を緩めて優しく名前を聞いた。取り戻せないが、それでも幸福な夢の余韻が、まだその胸の内にあったのかもしれない。
「ステラ、ステラ・ルーシェ」
「そう、ステラと言うのね? ステラ、少し教えて欲しいのだけれど、ここはどこかしら? 病院?」
そう、自分はあのDCのMSに乗って闘っていたはずだ。ビアン・ゾルダークのDC結成の演説の時に映っていた映像の中に出てきた連合のMSを相手に、戦ったのだ。
どうしてMSの操縦など出来たのか? そして、DC――ディバイン・クルセイダーズ、ビアン・ゾルダーク……。どこかで聞いた事があるような気がする。
だがなによりも、孤児やマルキオの安否を確かめたかった。逸る気持ちを抑えて、ゆっくりとした口調でステラに問い、ステラは小さく頷いて答えた。
「ここは、ステラ達みたいな人の為の病院。セロを呼んでくるから待ってて」
そういうや否やくるりと踵を返して部屋を出て行ってしまったステラの背を見送って、オウカは嘆息し、自分が横になっていた円形のカプセルの様なものから上半身を起こした。
ワンピースは、白い病院着に着替えさせられている。
天井から淡い照明の光が降り注ぐ部屋をオウカは見渡した。自分が眠っていたベッドらしいものが他に四つ。出入り口は一つで、その横にはガラスで仕切られた部屋の外が見えた。多分、そちら側で部屋の中の様子をモニターして治療するのだろうか?
少し腕を伸ばしたり曲げたりしてみたが、とくに痛みが走るような事も無かった。わずかに頭の中になにか空洞があるような奇妙な感覚がするが、いつもの内容を覚えていない夢を見た後は大抵こうなるから、気には留めなかった。
所在なく腰掛けたままでいると、ほどなくして先程のステラと言う少女が、一人の男性を連れて姿を見せた。彼がステラの言うセロなのだろう。
「やあ、ステラが驚かせたみたいですまないね。具合はどうだい?」
人当たりの良い、優しい口調だ。
「いえ、とくに痛みもありませんし……。あの、ここは?」
多少警戒を含むオウカの声にクエルボは、ようやく気付いた、そんな顔で説明を始めた。オウカが自分を含め新西暦での出来事を忘れてしまっている事は知っているから、自分には反応を示さないのは分っていた。
「ここはオノゴロ島にあるDCの病院だよ。君がDCのMSに乗って連合の機体と闘った後すぐに友軍機が駆け付けて、なんとか連合の部隊は退けた。ただ、君が気を失っていて、それに孤児院にも戦火が及んでしまったから、こっちの避難施設まで一緒に連れて来たんだよ」
「そう、ですか。あの、皆は無事ですか?」
「ああ。あんまり元気がいいからね。私達の手には余るかな。少し君の容態を調べさせてもらうよ。その後に連れて行ってあげよう」
とりあえず孤児達は誰も怪我をしていないと教えられてオウカは安堵した。それから、不意にクエルボの顔を見つめて、ぽつりと呟く。
「あの、失礼ですが、どこかでお会いしたこと有りませんか?」
久方ぶりの機動兵器での戦闘が、肉体に過負荷を与えただけであって、新西暦で受けた処置が悪影響を及ぼしたわけではないようだ。
わずかに、クエルボの体が強張った。記憶を取り戻しつつあるのか?
「君が、マルキオ導師の所に行くまで旧オーブの病院に入院していただろう? 私もその時そこで働いていたからね。君は覚えていないだろうけれど、初対面ではないんだよ」
そう取り繕ったクエルボの言葉を、オウカは疑うような様子は見せず、そうですか、と納得したようだった。それから簡単な触診と質疑応答、それに機械で検査を済ませ、これといって問題がないことが分かった。
久方ぶりの機動兵器での戦闘が、肉体に過負荷を与えただけであって、新西暦で受けた処置が悪影響を及ぼしたわけではないようだ。
「よし、これなら大丈夫だ。ステラ、オウカをあの子たちの所に連れて行ってあげてくれるかい?」
「うん。一緒に行こう」
ステラはかなりクエルボに懐いているらしく、彼の言う事に従い、オウカの手を握って部屋を出る。
部屋を出ようとするオウカを、ついクエルボは呼びとめた。
「何か?」
「……いや、なんでもないよ。早く元気な所を見せてあげると良い」
結局、アラドやゼオラ、ラトゥーニ達スクールの子らの事について聞く事は出来なかった。オウカがあの子たちの事を思い出しても、この世界では二度と会えないのだ。なら、忘れてしまったままでいる方がオウカの為なのではないか。
クエルボは、一人残った部屋で懊悩した。
クライウルブズの隊員となったシンは、通常の三倍の給料と春・夏・冬の年三回のボーナスなどの特別待遇を受けていた。といってもまだ扶養される側であるシンの場合、給料は両親経由で口座に振り込まれている。
久し振りの休みをもらい、実家に戻ったシンは初給料を財布に入れて、家族へのプレゼントは何を買おうかな、とオノゴロ島内部のショッピングモールを練り歩いていた。両親は戦争で稼いだ金で買ったプレゼントなど嫌がるかもしれない事が、ややシンの胸を重くしていた。
とはいえ、そんな不安も傍らにいる妹のマユの笑顔が取り払ってくれる。久しぶりに兄と一緒にいられる事がうれしいらしいマユは、ひっきりなしにシンに喋りかけてくる。
兄妹水入らずで腕を組み、シンは戦争を忘れ、荒んだ心を癒していた。マユは買い物よりもシンと一緒にいる事が嬉しいらしく、組んだ腕を放そうとしない。
「ねえ、お兄ちゃん、次はあのお店見に行こう」
「またあ? さっきから窓越しに見るだけで買ってないじゃないか? 折角給料もらったのに……」
「いいの、それでもマユ、楽しいもん。お兄ちゃんずっと家にいないし、久しぶりに会えたんだから一緒にいたいんだよ?」
そこまで言われてはシンも返す言葉が無い。口元を綻ばせて、一人きりの妹の好きにさせてやりたい気持ちになる。結局、シンはそのままマユの気の向くままにあっちこっちを歩いて見て回った。
片手にマユの買い物をぶら下げていたシンは、ふと聞き覚えのある声に足を止めた。兄の突然の停止に、マユは不思議そうに小首をかしげた。
「どうしたの? お兄ちゃん」
「ん? いや、知り合いの声が聞こえた気がしたんだけど」
「お兄ちゃんの知り合いって……」
シンの知り合いが何を意味するのか気付いたマユは表情を暗くした。それは、DCの――兄を戦争に駆り立てる人達だと、マユは悟ったからだ。自分の一人しかいない兄を連れて行ってしまう人。幼い心が、拒絶と嫉妬、敵意が覚えても仕方の無い事だったろう。
きゅっと小さな手が、シンの腕を少しだけ強く握りしめた。シンは、それに気付かない。
ほどなくして向こう側から、十四人位のグループがにぎやかに姿を見せた。十歳にならない位の子供達がほとんどで、子供達を引率しているのが、シンの見知った面々だった。
あっちもシンを見つけてちょっと驚いた顔をしていた。スティングにアウル、ステラ、それにビアンやアルベロの言っていたオウカがいた。まあ、オウカはシンの事は知らないけれど。
「シンじゃん。なんだ、買い物するんなら声掛けろよ。そっちの子誰? シンの妹?」
腰にしがみつく五歳位の男の子にヘッドロックを軽くかけていたアウルが、シンと腕を組んでいるマユに目を向けて口火を切った。少し下がった所で迷子が出ないか見ていたスティングは手を挙げて挨拶代わりにした。お兄さん役と言った所か。
子供達の中心にいるオウカが、傍らで自分より五歳は年下の女の子と手を握っていたステラにこう、聞いた。
「ステラ、あの子はあなた達のお友達?」
「うん。シンていうの。でもあの女の子は知らない」
小さく首を横に振るステラを見てから、オウカは小さく微笑んでシンとマユに声を掛けた。向けられた笑みに思わずシンは見惚れてしまう。年上の美女にはミナという例が居るが、オウカの様な包容力のある母性的な女性に微笑みかけられる経験はない。
シンの背中に隠れていたマユも、オウカの『お姉さん』という言葉がぴたりと当てはまる慈愛の笑みに、ちょっとだけ前に出た。子供の目は余計なものを見ない。だからだろう。
「はじめまして。私はオウカよ。シン君と? 貴女は?」
「あ、あの。……マユ・アスカです」
マユってこんな人見知りだったか? とシンは少し気になるが、まあ人数が人数だから、仕方ないかなと考えなおした。マユが名前を告げたのを皮切りに、アウル達や子供達も次々と自分の名前を告げ始めた。
一通り名前を聞き終えた後で、シンは一番事情が分かっていそうなスティングに聞いてみた。
「どうしたの、これ?」
スティングは苦笑を浮かべたまま両肩を竦めた。おれに聞くなよ、という気持が半分くらいはありそうだ。
「ステラがマルキオ導師の子供達ん所にオウカさんを連れて行ったんだが、子供達を外に出たいって言いだしてよ。どう言うわけがおれ達も一緒に行く事になってたんだよ。ビアン総帥直々に言われちまっちゃあ、断れないさ。
……おれ達の情操教育の意味もあるんだろう。特にアウルやステラはあれ位の子供達と触れ合うことなんかなかったからな」
「そっか」
ステラやスティング達が、孤児院の子供達位の年の時、どんな日々を送っていたか詳しい事情を、シンは知らない。でも、スティングのどこか翳を帯びた顔つきと声の調子から、そう簡単に触れていい話でない事は分った。
だから、少し白々しくても明るく言った。
「じゃあ、スティングがしっかりしないとな。アウルやステラにとっちゃスティングが頼れる兄貴なんだからな」
「ふ、シンに慰められるとはな。まあ、おれはそういう役だよな?」
片方の眉を下げて、悪戯ぽく言うスティング。どうやら、シンの気遣いを理解したらしい。
「シン、スティング、置いてくよ!」
「ん? ああ、すぐ行く。悪いな、妹さんと二人っきりだったんだろう? どうやら、おれ達も一緒に行く流れになっちまったみたいだ」
「いいよ。十分マユと一緒に過ごしたし。マユに友達が増えるのは良いことさ」
「……友達、か。そうだな」
スティングは、慣れぬ言葉にどこかくすぐったいような感覚を覚えながら、その言葉を宝物のように噛み締めていた。
「友達か、おれ達に……。少し前だったら夢みたいな話だったな」
大所帯になったシン達はその足で海岸に向かった。以前戦場になったのとは反対の海岸だ。二日くらい前まではMSや沈んだ艦艇の破片などが浮いていたが、今はまあ、水平線の彼方に時折ぷかぷかと浮いている位か。
その内、座礁した戦艦に白いイタチを退治に行くネズミ達が立ち寄って、薬缶を母体とした潜水艦を造るかもしれない。
とはいえそんな事とは関係の無いシン達は砂浜をのんびりと散策し、今が戦時であるという事を忘れてしまうような時間を過ごしていた。
そんな時、シンと離れてステラの横に並んで歩いていたマユが、幼い顔立ちを夕暮れに照らされながら、ぽつりと呟いた。
「ねえ、ステラさん」
「なあに?」
以前来ていたのと同じ水色のワンピースのステラは、海岸で拾った薄い桃色の貝殻から目を離して、傍らのマユを見つめた。
俯いたマユは、ひょっとしたら自分よりも幼い印象を覚えるステラに意を決したようにして口を開いた。ステラはマユの様子に、この子が大切な事を話そうとしていると感じて、黙ってマユの言葉を待った。
「……」
「お兄ちゃん。また戦争に行くんですよね?」
「……うん。シンは、守るためになら戦える。ずっとそう言ってた。シンが守りたいのは、マユとシンのお父さんとお母さんだと思う」
守る、シンが常に口にする言葉。殺す為、戦う為に戦う自分達とは違う言葉。守るという行為も見方、言い方を変えれば殺す事と闘う事と変わる事はないかもしれない。
けれどシンがそれを口にする時、彼の思い描く人々の幸せと平穏な日々を守りたいという思いがある事は確かだった。
名誉欲でもない。英雄願望でもない。人間が備える根底的な、親しいものへの無償の自己犠牲。それに近いと言えるだろう。
シンの場合は無鉄砲な所が過ぎてあぶなっかしいだけであって、本人は自己犠牲云々と言われてもなんのこっちゃ? という顔をしかねないが。
「でも、マユ達の為にお兄ちゃんが危険な目にあっていいなんて、お父さんもお母さんも思ってない! 私達の事守れなくてもいいから、傍にいて欲しいんです。ステラさん、お兄ちゃんが戦争に行かなきゃ、負けちゃうんですか?
そうじゃないんなら、お兄ちゃんを戦争になんか連れて行かないでください! こんな事、ステラさんにお願いするのはおかしいってマユも分かっています。
でも、他にどうすればいいか分からなくて。お願いします、お兄ちゃんを戦争になんか連れて行かないでください」
俯いたマユの瞳から零れ落ちた涙が、砂地にぽつぽつと滴っては小さな染みを作る。ステラは、その涙を止めてあげたかったが、どうすればいいのか分からなかった。
シンが本来戦場に立つべき立場ではない事は分る。元々ビアンとて今回の戦争でシンを実戦に立たせることになるとは考えていなかった。
ただ、シンには才能があった。機動兵器のパイロットとしての類希なる才能が。
事実既にシンは連合のMSを十四機以上撃破し、撃墜数も十一機とDCのエースの一人として軍内では知られている。
戦場に立つ事を望んだのはシンの意思だ。だがそれをお膳立てした形になったのは紛れもなくビアンに責任がある。シンを無理やりにでも説得し、MSパイロットとして今戦役に参加させずに済ます事も出来た。
だが、それをしなかった。どう言う意図があろうと十四歳の少年を戦場に立たせた責任はある。それを非難する権利がシンの家族にある事は確かだ。
ただステラにそれを問う事が、間違っているとはマユにも分っている。だが、言わずにはいられなかった。
目の前に兄を戦争に連れて行ってしまった人達がいるのだ。堰を切ったように言葉が溢れるのを、留める事など出来ようか。
「マユ、ごめんね? ステラにはシンがMSに乗るのを止められない。シンが家族を守りたいって思うのが、よく分かるから。それに、羨ましいから」
「羨ましい?」
「うん。ステラもアウルもスティングも、自分のお父さんやお母さんが誰だか分からない。今は、お父さんはいるけど、本当のお父さんじゃない。だから、本当の家族がいるシンが羨ましくて、家族の為に戦いたい、そう思うシンは、ステラには止められない」
「ステラさん」
涙を流し続ける瞳でマユは自分を見つめるステラを見上げた。夕陽を背に、ステラは淡く微笑していた。夕陽の光を宝石のように煌かせて反射する金色の髪。どこまでも透き通った海の青を湛える瞳。
マユは、ステラに見惚れていた。ステラの浮かべる笑みがどこか悲しそうだと思いながら。
「だから、約束する。シンは止められないけど、シンはステラが守る」
「ステラさんが?」
「うん。シンの事が大切なマユやシンのお父さんとお母さんが悲しまないように、シンを守る。マユ達を守るシンをステラが守る。絶対に」
「……ありがとうございます。でも」
「……ダメ?」
ステラの言葉にどこか安堵したような、ふっきれた笑みを浮かべたマユの“でも”という言葉の続きが拒絶・否定であったら、とステラはたちまち泣きそうな顔になった。
そんなステラの表情の変化が面白かったのか、マユは小さく笑い、鈴を転がしたような軽やかな笑い声が零れる。
「ふふ、ダメじゃないです。でも、普通はお兄ちゃんがステラさんを守るんだと思います」
「……そうなの?」
きょとんとした顔のステラに、マユはそうですよ! と言った。胸の中の不安や恐怖はまだ渦を巻いて巣食っているが、そこに一筋の光明が差し込み、負の感情が作る暗い闇の蟠りを優しく照らし出していた。
大丈夫、お兄ちゃんはきっとお兄ちゃんのままでマユ達の所に帰ってくる。そう、信じる事が出来るような気がした。
読みやすいように最初のころ同様キャラ間のセリフの行間を開けましたが、どうでしょう? 次回アークエンジェル組久々に登場。
大天使組が原作よりもまともである事を期待しつつGJ
GJです。
シンやオウカにステラたちにはちゃんとした大人たちがついてるけど、
大天使組はまともなのいなからなぁ。
それでもだれか新西暦のまともな人がついてくれることを期待したい
GJ!
総帥の言う心当たりはやっぱイングラム?
大天使組にはそれこそダイテツが来てくれれば……
艦長候補は「それも私だ」の人のような気がする
それはそれで面白そうだ
言い忘れた
今回も楽しませてもらいました、GJです
GJ。嵐の前の静けさかな。
そしてビアンの言う心当たり……地球人の心を知りたいと思う存在で、艦長に適任の人間。
某第一艦隊司令かね。
スペインの教会っぽい名前の人ならジャンク屋にお世話になってるんじゃないかと(ry
きれいなゴッツォ一族とか、きれいなルアフとか……
イングラムやユーゼスは死んでもいろんな世界を転々としてるからなあ。
どうやら死んでない奴も来ているようだな…あれ?ロレンツォって死んでたっけ?
そして恐らくヴァルシオン改CFの相手をする羽目になるであろう宇宙の敵カワイソスwww
原作見る限りでは打ち上げ用ブースターごと爆破されてるからなぁ……。
ところで、宇宙ひらめの出番マダー?
あー。死んでりゃ来れるってことは、アインストレジセイアとか来てもいいのか。
ボスキャラで死んでないのは…最強親父ぐらいか。
あれはトレーズ様が次元の扉の向こうに押し返しただけだからな。
ラキは来てないよな?
彼女は天寿を全うして逝ったんだし
修羅王様
ラキはこないよ!
ジョッシュとの愛の力で寿命を延ばしてるに決まってるさ! 雄山の嫁の如く!
>>369 漫画の方忘れてたぜ…OGsじゃどっかに逃げちゃったからなぁ
376 :
93:2007/08/11(土) 23:59:21 ID:???
「で、彼には連合に新型の情報をリークしてあげるのと、『ADO−2』の実戦データを取ってもらうお仕事をしてもらっているわ」
「…………」
「ご不満?」
「奴の能力に関しては問題ない。しかし……」
「彼の性格?それこそ問題無しよ。彼、主義主張関係無しに自分の求めるものに関してしか考慮しないから……それにあの子達の面倒もしっかりしてくれるし」
「ブーステッドか…もうあの様な失敗作を出すことは許されんぞ」
「あの子達とナンバーズは全く異なる存在よ。彼等は同一ロットに対して連帯感……つまりある種の家族としての結束を持たせたんだから」
「それも、あの男の齎した『アイスドール』からの遺伝子データ……というわけか」
「……その名で読んだらあの子、怒るわよ?」
「事実をして語ったまでだ。それにしても、不完全なシステムにより呼ばれた男……か」
「まるで運命?」
「私は神など信じん、ただ在るのは原因と結果のみ」
そうだろう……ヘリオス
377 :
93:2007/08/12(日) 00:01:39 ID:???
シン・アスカは自室で唸っていた。発端は二十分ほど前、現オーブ首長国連邦代表、カガリ・ユラ・アスハを
MS格納エリアの上段通路にて見つけてしまったことから始まる。
シンは先の大戦中まで前述のオーブという赤道付近に点在する島国の連合国に家族で住んでいた。
しかし戦争後期に起きたオーブ侵攻作戦により父と母は死に、妹も左腕を残して閃光に消えた。
家族を奪ったオーブのアスハ、『戦争を終結した』とかでもてはやされた英雄気取りのアスハの娘……
気がついたらシンは彼女に対して怒りの声を上げていた。
「この偽善者!!」、「英雄気取り!!」あらん限りの力で叫んでいたら、カイ教官が近付いてきて……
「いってぇ……」
拳で三mぐらい吹っ飛ばされた。その後ヨウランとレイに自室まで引きずられ、
「コンディションレッドが発令されるまで頭を冷やせ」
というわけである。
「……教官は解ってないんだ、アイツ等は俺達を裏切ったんだ、オーブは戦争なんかしないっていったくせに!!」
シンは一人誰と無く呟いた、はずだった……
「いや、カイ教官は正しいことをした、少なくとも先程のお前の行動よりはな」
突然シンの背後から声がした。振り向くと紫の長髪の男が壁際で腕を組んで立っていた……
「うわぁっ!!誰だアンタ!!どうやって入ってきた!!なんなんだ一体!!」
一瞬の間をおいてシンが後ずさる。男はシンをちらりと見ただけで一人語り始めた。
「オーブという国家は戦争をしないという理念の基に成立していた」
男は再度シンを見つめた……どうやら同意を求めているらしい……シンは慌てて首を振る
「しかし、その理念は平静の世にあって始めて機能するもの。なぜなら相手にとってそんな理念など、何の脅威にもならないからだ。
まして相手は巨大軍需産業体をバックにした強大な国家だ……正義など後から如何様にでも創れるからだ」
「正義が後から創られる……」
378 :
93:2007/08/12(日) 00:04:55 ID:???
「そうだ。そしてオーブはその理念と当時の首長、ウズミ氏のある種賞賛すべき強靭なる精神によって、攻撃を受けることになる」
「なんで、強い精神のおかげでオーブが焼かれなきゃいけないんだよ!?」
精神とは強く在ればこそ良い方向に働くものではないのか?シンは男の発言に疑問を拭い切れない。
「例を出そう…ある国にリーダーが居た。強く賢く、強い意思を持った男だ。男は長く続く平和に危機感を感じた」
「何でだよ?平和が続けばみんな幸せだろう?」
シンのまっすぐな答えに男は端正な顔に少し悲しい顔を浮かべた
「平和……という言葉には美しい響きがある。しかし、その裏では人口問題、技術の低下、人々の堕落など、
上げればきりが無いほどの愚行が行なわれているものだ」
シンは愕然とした。しかし考えてみればそうなのかもしれない。とシンは感じた
「男は誠実すぎた。そして考えた。戦争が続けばいい、戦争が続けば技術は進む、腐敗も起きない…
男は高いカリスマを使って世界に戦争を挑んだ。
人が大勢死んだ。強靭なただ一人の純粋な男が考え付いた方法で……人類を存続するために」
男は語り終えた。シンはうつむいたままだ。なにせ与えられた情報が多すぎるのだ……
「どうやら話しすぎたな、元に戻そう……一人の正義は時として不幸を創る。
オーブの場合はウズミ氏が自国の理念を頑なに通そうとした事、
そして戦場の狂気を感じることが出来なかったことだ」
「戦場の……狂気」
シンは誰にとも無く繰り返していた。戦場の狂気……いつか自分も知ることになるのだろうか?
「どうかな?この中で彼女に関係することは有ったか?」
シンははっと気付いた……そう、オーブが焼かれたことにおいて、カガリは何も関係が無いのだ
「もちろん、お前のような家族を失った人間の悲しさや無力感も解る。それに代表もアスハの一族としての責任がある……
先程のお前のような中傷を言われることも有るだろう。だがそれでも彼女は罪を償って行くのだろうな、オーブを託された者として……な」
「……俺、あの人に大変なことを言っちゃったんだな」
シンは俯いたまま口を開いた。自分が何も知らず、ただ怒りばかり吐き出していたことに若干の後悔を感じていた。
「言い方は悪いかも知れんが、過ぎたことはもうどうしようも無い。後はおまえ自身がどう受け止め、どう立ち向かうかだ」
男が言いった直後、艦内に放送が入る、どうやら敵を補足したらしい……
「さあ、謹慎は解かれた……ここからはお前の戦いだ。生きて帰ってカイ教官に謝って来い!!」
「はい!!」
そう言うとシンは駆け足で自室を後にする。残された男、ギリアムは一人過去に思いをはせていた……
死は償いとはならない……生きることこそ償いなのだ。そうだろう……コウタロウよ!!
379 :
93:2007/08/12(日) 00:07:40 ID:???
ガシャン、という小気味良い接続音と共に六つの子機が両肩の接続端子にドッキングされエネルギーを再チャージする。
マゼンダに染められた機体の周りにはMSや戦艦だったものの成れの果てが数百もの残骸となってかつての主達の墓標となっている。
「短時間運用には支障は無いみたいだな……っと」
彼、ネオ・ノアロークの新しい『玩具』……『ADO2』は二つ目を模したセンサーで周辺を見渡すと生存機の有無をチェックする。
無論この機体の目撃者を生きて帰すわけには行かないためである。案の定残骸の陰に生き残ったザクが脱出の機会を窺っている……
「悪いが、生きて返すわけには行かないんでな」
そう呟くと左腕に装備した荷電粒子砲『ハルバード・ランチャー』を構え、トリガーを引く。暴力的なエネルギーを内包した渦は残骸ごと敵を消滅させた。
一瞬の閃光の内、ネオは改めてこいつの馬鹿らしさを感じ取っていた……この機体はMSではない。
全高は約21メートル、標準的なMSのサイズを祐に超える大きさである。
そしてこのパワー、搭載される核融合炉の生み出す高出力はこの世界のパワーバランスを覆すほどの可能性を秘めている。
パワ−・武装・装甲の何もかもが『有り得ない』、存在してはならない機械なのだ。そう考えた所でネオは皮肉な事実に気がついた。
「なるほど……『存在しない部隊』に『存在しない人間』、それに『存在しない兵器』か……あのオッサンも洒落たことを考えるね。そう思わないか、お前も?」
新しき鋼鉄の相棒は黙したまま何も答えない。ネオは仮面に隠された顔を不満そうにしてモニターを小突いた。
「全く、アシュセイバーなんて妙な名前が付けられたもんだなぁ、お前も……」
その時、センサーが遠方に熱源を捕らえた。瞬時に戦場の感覚に自らを馴染ませる。数は一機、もしくは一隻……熱源の分布から恐らく後者だろう。
「追撃隊は足止めだとしても、早すぎるな。ナスカ級じゃ無い、例の新型か?……リー!!」
先に撒いておいた中継器を使い即座にガディー・ルーに通信を送る。一秒も経たない内に神経質そうな副官の顔が現れた。
「敵の新造艦だ!!予想より早い、相当な足自慢な様だな……回収した三機は?」
「全機の回収は完了。カオス、ガイアの二機は概ね修理を完了しております、ただアビスの方は右腕の欠損が大きく、代用は難しいと」
「構わん、いざとなれば砲台代わりになればいい、ここで後方の憂いを断つ!!」
念の為支援
381 :
660:2007/08/12(日) 00:44:10 ID:???
おお、待ってましたよGJ!
ネオにアシュセイバー、似合いのタッグですね。やっぱギリアムがヒーロー戦記のギリアムであるっていうのはうれしいものです。
シャドウミラーはともかく、教導隊の面々がなぜCEにいるのか、とかアクセルの出番は、とか。まだ楽しみが残っていますね。
とにもかくにもGJです。
382 :
93:2007/08/12(日) 01:19:13 ID:???
いやぁビアンSEEDの人の投下スピードの速さは神だな
しかもクオリティは高いまま……恐ろしい子!!
というわけで次回はシンダムVSネオセイバーで
ネオセイバーじゃネオがセイバーに乗ってるみたいにみえるんだぜ?まぁ読みゃ分かる話だが
2人ともGJ
ここでも壁際の燻銀かギリアム=イェーガー。
ともあれGJです。
もはや御約束なギリアムワロス
>>373 どうせすぐくたばると思ってたラキがなかなか死なないで焦った愚妹が
彼女を異世界に放逐しようとして自分が飛ばされちゃいます
>>387 ノースリーブ巨乳ネクタイ挟みを馬鹿にするな!
いやキャラはアレだけどさぁ…巨乳は正義じゃん。
バカ言え
フィオナぐらいの乳がこの世で一番正しいものだ
てめーら、巨乳だ乳だとうるせぇ〜!
セニア・ミオ・ラト好きの俺に喧嘩売ってのか!?
俺はマイ位が丁度良いな。
>>390 いや違う。
セニア様は美乳キャラであって、貧乳キャラではない。
それはそれとしてシンは乳に弱いから愚妹でも落とせると思う。
393 :
390:2007/08/12(日) 23:01:52 ID:???
>>392 そうかセニアは美乳キャラか、やはり!乳の大きさは戦力の決定的な差ではない!
ラトをミオみたいな貧乳キャラと同格に置かないでもらおうか。
ラトはけっこう着痩せするんだ!
魔装機神LOEに出てくるおんにゃの子達、好きだったなぁ。
久々にやるか!
ミオは断じて貧乳ではない!貧乳ってのは、プレシアみたいなのを言うのだ!
サルファに出てきたルリアちゃんは、美乳で良いのかな?
さ〜て、乳談義が盛んになってきました!やはり、スパロボを語る上で乳は避けられないようです。
安西エリ博士が好きな俺は異端児に違いない。
おいおい、食べたもん全部筋肉になるとか言いながらけしからん乳をしてる16歳を忘れるなよ
>>398 あの乳は昔から俺のものだ。残念だったな。
とりあえず前にも書いたとおりフィオナは貰って(ry
しかしこれが始まると収まりが付かないから困る
安西エリ博士はいただいて行く!
顔といい、髪型といい、服装といい、眼鏡と言う強化パーツといい、性格といい、総て俺好み。間違いなく俺の嫁。
第十五話 漆黒の亡霊 対 月下の狂犬
ビアンが未来を託す子達が一時の休息に、傷つきそして成長した心を癒していた時、虚空の戦場では今なお多くの命が光の中に消えていた。
DC討伐艦隊に合わせて、旧オーブ軌道上の降下地点を確保すべく月から出撃した連合艦隊を、DC宇宙軍総司令マイヤー・V・ブランシュタイン率いるDC宇宙艦隊が迎え撃ち、砲火を交えていたのだ。
DC宇宙軍の戦力はマイヤーと副官リリー・ユンカースの乗艦する旗艦アルバトロス・改級宇宙戦艦『マハト』と、同時にCEへ転移した旧コロニー統合軍ペレグリン級宇宙戦艦『カタール』『ゼファー』。イズモ級特装鑑一番艦イズモと四番艦ツクヨミ。
ジャンク屋から購入・サルベージし、対MS用の防空火力を増強したネルソン級(250m級宇宙戦艦)が六隻、ローラシア級が四隻とナスカ級が一隻。加えてMS運用に特化した改修を行ったアガメムノン級空母が二隻とドレイク級駆逐艦が十一。
武装商船などもあるがあまり戦力とはいえず、アメノミハシラに残してある。
以上の艦艇をアメノミハシラの防衛と軌道上での迎撃に戦力を二分している。
迎撃に出ているのはマハト、ツクヨミ、ゼファー、それにアガメムノン級にドレイク級四隻とローラシア級二隻の十隻だ。補給艦や輸送艦、工作艦なども随伴しているが現在は戦闘宙域から離れている。
これらの艦艇に加えて、ユーリエ二佐の率いるクライウルブズに匹敵する最精鋭MS部隊『トロイエ隊』のMSが四機。他にもアメノミハシラで生産したのとモルゲンレーテから送られたコスモエムリオンが二個中隊(二十四機)。
ジンやメビウスといった旧式化した兵器には先立って開発された戦闘用の人工知能が搭載され、希少な人材の消耗を抑えるべく多数が配備されている。内わけはジンとストライクダガーが十機ずつとメビウスが二十。
まだ実戦での使用が初となる人工知能についてはあまり戦力とは考えられていないが、MSでの戦闘を始めたばかりの連合相手ならば有用だろうと、かなりの数を持ってきていた。
DC製MSと各勢力のMS、MAの終結したいささか無節操な布陣は、休むことなく稼働しているアメノミハシラの生産工場と、マイヤーとビアン、旧オーブの五大氏族らが作り上げたジャンク屋ギルドを介しての生産能力が発揮された結果と言えるだろう。
連合が送った降下部隊はMSが主軸となっており、一基に三機までのMSを搭載できる降下ポッドを幾つも腹に抱えた輸送船を護衛する艦隊と、先んじて降下ポイントを確保する艦隊とに分かれている。現在マイヤーが交戦しているのは降下ポイント制圧の部隊だ。
幾筋ものビームとミサイルが両艦隊の間で交わされ、ぬばたまの闇を照らしだす戦いの光の中を、人が作り上げた鋼の巨人たちが駆け抜けている。
連合はアガメムノン級が二隻、ネルソン級九隻、ドレイク級十三隻と智将ハルバートン提督の率いる第八艦隊の壊滅からようやく再建が軌道に乗った宇宙軍の艦隊をかなりの数動員していた。
艦隊の数はDC十隻、連合二十三隻。個々の戦力を見れば、連合に対しマハトとツクヨミが飛び抜けた性能を持っている。また指揮官としてもマイヤーとリリーという新西暦でも有能な指揮官二人が率いるDC艦隊は、数で勝る連合に優勢にあった。
MSが連合で本格的に配備される以前には、第八艦隊がたった三隻のザフト艦と搭載されたMSに壊滅させられた例もあるから、数の不利が決して勝敗を決めはしない。
連合側は数の差を生かして長距離からの砲撃戦を仕掛けてきたが、これはマハトという存在によって大きな誤算を招く事となった。
「RBSフォーメーション展開、射線軸上の友軍機に警告」
リリーの指示にしたがってマハトの母艦部分とドッキングしていた五隻の砲艦が分離し、ここに巨大な砲口の狙いをつける。アルバトロス級は五隻の砲艦とAMやPTの母艦からなる戦艦だ。
噛み砕いて言えば一隻で砲艦五隻分の火力を有する事になる。それに加えて、この世界でのアルバトロス級は、どうせ艦艇の数は揃えられないのだから、徹底的に火力を強化するという方向性で改修が加えられている。
対空防御強化の為にレーザー砲塔やミサイルランチャーの増設は言うに及ばず、最も力を入れられたのは五隻の砲艦すべてが、陽電子破城鎚『ローエングリン』を持つ事だろう。
下手をしたら直撃しなくても戦艦や空母を一撃で沈める一撃必殺に近い代物を五つも装備していたのだ。
威力に比例してエネルギーの消費も馬鹿にならないから連続しての発射は出来ないが、そこは五門という数がカバーしている。
母艦から分離した五隻の砲艦が距離を開けて、エネルギーチャージを終えて陽電子砲の莫大なエネルギーが溢れ出した。
虚空を貫く光の洪水は緊急回避した連合の艦艇の内ネルソン級を真正面から貫いて轟沈させ、ネルソン級の爆発は周囲の艦艇にも影響を及ぼした。
他にもドレイク級二隻がローエングリンに持っていかれ、編隊が大きく乱れる。数で勝り、艦隊の火力で上回る筈が、たった一隻の艦艇の砲撃で目論見が崩れたのだ。
「MS隊発進。ビーム攪乱膜散布、艦首ミサイル一斉射撃! ゼファー、ツクヨミは前方ネルソン級を。ローエングリンの次射まで本艦はここに固定」
矢継ぎ早に出されるリリーの指示に従い、艦隊の動きがにわかに慌ただしいものになる。
連合艦隊からも輸送艦や、甲板上にワイヤーで括りつけられたストライクダガーやメビウスが発進し始め、編隊の乱れた艦隊をカバーすべく数で劣るDC艦隊とMS隊に襲い掛かる。
対して対空火力を強化し、艦艇用の大出力エネルギーフィールドを搭載したドレイク級がレーザーと対MS用スプリットミサイルを惜しげもなくばらまき、アガメムノン級やマハト、ローラシア級からもDCのMS隊が出撃する。
宙間仕様のコスモエムリオン十五機とAIを搭載したジン、ストライクダガー、メビウスが連合のMS隊を迎え撃つべく推進剤とテスラ・ドライブの光が尾を引いて宇宙の闇に描かれた。
降下ポイント制圧の為の艦隊後方の、降下ポッドを抱えた艦隊にも少数のDCMS隊が襲い掛かっていた。
女性パイロットで構成されたトロイエ隊を核とした十機のコスモエムリオンと、三機のコスモリオン、それにトロイエ隊隊長ユーリエの駆るガーリオンと大型の高速シャトルが一機。
接近するDCのMS隊に気付いた降下部隊の護衛のストライクダガーがビームライフルを向けてくる。機体の遠方を過ぎ去ってゆくビームライフルの無駄弾を見て、ガーリオンのコクピットで小さくユーリエは罵る。
「動きが遅いな。MSの運用に慣れていないとはいえ、その距離からで当たるものか。各機散開、MSの撃墜よりも降下ポッドを優先しろ」
トロイエ隊は現在ユーリエを含め十二名。内、新西暦で死に、CEでの生を得たものは四名。他の八人はこちらで募ったオーブやザフト、連合の脱走兵や傭兵である。
大部分は訓練と防衛の為にアメノミハシラに残していて、今回迎撃に出ているのは旧トロイエ隊のメンバーで固められている。
また、彼女らの乗る機体もMSというよりも、AM――アーマードモジュールというべきだった。
ジュネーブ降下作戦に際しヒリュウ隊に撃破された乗機と共にこの世界に現れたため、旧トロイエ隊のメンバーは戦死した際の機体をこちら側でも使用している。
撃沈したマハトやゼファー、カタールに残されていた新西暦技術純正のコスモリオンも六機ほど確保する事が出来た。
CE技術による強化も加えられたガーリオンはプラズマ・ジェネレーターの生む核エンジン以上の出力が生み出す爆発的な加速で、すれ違いざまに二機のストライクダガーにバーストレールガンを叩き込み、滑稽なまでにあっさりと撃墜する。
「歯ごたえの無い」
ガーリオンの左手に、腰にマウントしていたメガビームライフルを握らせ、ユーリエは視界に入ったドレイク級目掛けて機体を奔らせた。
連合艦隊も、装備こそは大艦巨砲主義の旧態依然としたままではあるが、火器を目いっぱい稼働させ、DCのMSを近づけまいと足掻く。
迎撃に出た護衛艦隊のストライクダガーは七十機以上。ユーリエ達の四、五倍以上だが、それを機体とパイロットの質がなんとか拮抗以上に持ちこんでいる。
トロイエ隊のコスモリオンが放ったミサイルが、次々とネルソン級に突き刺さって爆発を生み、対空砲火の弛んだ隙を突いて飛びこんだ一機が、レールガンを立て続けに撃ちこんで撃墜する。
「ええい、こちらのMS隊は何をやっている! 数ではこちらが上なんだぞ!」
護衛艦隊の旗艦アガメムノン級空母『オルドレイク』艦橋で響いた罵声に応じる声は無い。各員が襲い来るDC部隊の迎撃で手いっぱいなのだ。
「密集して対空砲火を集中させろ。戦艦とMSの装甲の違いを教えてやれ!」
「高速シャトルが一隻こちらに向かってきます。識別はDC」
「その程度の事をいちいち報告するな。適当に撃ち落とせ。付近の宙域の友軍を呼びよせろ。砲撃手、シャトル位は落として見せろ!」
艦長の気合いに乗せられて、というわけではなるまいが、ドレイク級二隻のビームとミサイルの集中砲火が、DC側の高速シャトルに殺到し、瞬く間に船体を吹き飛ばして行く。
あっけなく火の海に呑まれるシャトルを尻目に、ユーリエは嘲りを含んで呟いた。
「自ら地獄の蓋をあけるとは、無知とは悲しいものだな」
振り向きざまにビームサーベルで斬りかかってきたストライクダガーの胴体に、メガビームライフルの銃口をぴたりと当て、サーベルが降りきられるより早く一度だけ撃つ。
これで六機目。あちらは放っておけば勝手に敵を減らしてくれるだろう。そろそろ降下ポッドの方を潰しておかねば。
高速シャトルの撃墜を報告しようとした連合オペレーターは、すぐさまそれを否定しなければならなかった。撃墜されたはずのシャトルからの反応は
「シャトル内部から高エネルギー反応! これは、大型の機動兵器です!」
「なに!? 輸送の為のシャトルというわけか。だが、駆逐艦とはいえ戦艦の艦砲を受けて無事な兵器など……」
そこまで言って、艦長が思い当った兵器に身を固くした。そう、あったのだ。DCには一機だけ、戦艦クラスのビーム砲の直撃にも耐え得る機種がたった一つ。
火を噴くシャトルの中からぬっと突き出された大きな二つの鋼鉄の掌は、シャトルを落としたドレイク級に向けられていた。その手の平の中心には菱形をしたクリスタル状の物質が嵌め込まれていた。
「クロスマッシャー!」
オーブ解放作戦において連合に多大な犠牲を強いた赤と青の二重螺旋が二筋、ドレイク級駆逐艦のどてっ腹に突き刺さり、瞬きをする間に爆発させてしまう。
同時にシャトルは、積載されていた兵器も無事では済まないと分る規模で爆発した。だが、それはそこに悠然と佇んでいた。
MSの三倍近い機体はくすんだクリーム色で、四肢は異様に太くがっしりとしている。機体後部から延びる大型のブースターや各所のバーニアスラスターが、この巨大な兵器の機動力のカギを握っているのだろう。
まん丸い人体の眼球みたいなカメラアイが、戦場を見渡しコクピットに映像を送る。コクピットで一人、パイロットであるロレンツォは呟いた。
「このヴァルシオン改・CFの本領が発揮できる戦場だな。出会った不幸を呪え、連合の兵ども」
DC宇宙軍所属ロレンツォ・ディ・モンテニャッコ一佐。慎重さと大胆さを併せ持った老獪な軍人だ。彼もまた新西暦の世界からの来訪者だった。
DC戦争の後、少数ながらもDC残党をまとめあげて、今彼の乗るヴァルシオン改・タイプCFを宇宙に上げようとし、連邦のATXチームに敗れて一度死んだ身だ。
彼もまたビアンと時期を同じくしてこの世界に現れ、かつての世界と同じくビアン・ゾルダークの元で持てる力を奮っているのだ。打ち上げ用のシャトルごと貫かれ大破させられたヴァルシオン改・CFは宙間仕様という事もあって、アメノミハシラで改修が進められていた。
フレキシブルアームを排したバックパックには百連装ミサイルランチャーと大出力ブースター、テスラ・ドライブユニットが搭載されている。
TGCジョイントや一部には人工筋肉が用いられていて、大型の機体かつあまり可動部があるとはいえない構造ながらも、それなりに柔軟な動きを可能としている。
武装はバックパックのミサイルランチャー、両掌のクロスマッシャー、頭部の75mm対空自動バルカン砲塔システム『イーゲルシュテルン』六門、
腹部の580mm複列位相エネルギー砲『スキュラ』、胸部の150mm対MSマシンキャノン四門と充実している。
基本的なポテンシャルはヴァルシオンの先行量産型の更にデチューン機なのでビアンの乗るヴァルシオンVerCEにも劣るが、それでもヴァルシオンの名を持つ機体だ。
連合やザフトからすれば化け物としか呼ぶ他ない悪夢であった。
「ユーリア二佐。MSと戦艦は私が引き受ける。降下ポッドを任せたい」
「了解。連合の残敵、かなりの数ですが?」
「引き際は心得ているよ」
不敵に笑い、ロレンツォは残る連合の艦隊に目を向けた。ロレンツォの眼には怯えた獲物が、狩人にせめてもの抵抗をしようと息巻いているように映っていた。
「喰らえ、クロスマッシャー!」
新たな二重螺旋がストライクダガーと射線上にいたドレイク級をまとめて貫いた。続いて群がるストライクダガーにバックパックのミサイルランチャーを全弾叩き込み、被弾を免れた数機を腹部のスキュラとクロスマッシャーでまとめて葬る。
次に戦艦に目を付けた。推力を最大にして、対空砲火を気にせず突っ込む。
ヴァルシオンと違い、歪曲フィールドとメガグラビトンウェーブは装備していないが、装甲の厚さでは勝るとも劣らない。
PS装甲、ラミネート装甲、超抗力装甲を始めとした複合装甲は、殺到するビームやミサイル、砲弾を弾いて見せた。ネルソン級の側面に振りかぶった右拳を叩きつけると同時にロレンツォが叫ぶ。
「滅殺、ヴァルシオンパンチ!」
クロスマッシャーを握った拳に纏わせた状態で叩きつけられたネルソン級は、紙か泥で作られた船のように呆気無く砕け散る。ロレンツォは止まらない。
テスラ・ドライブのフル稼働が、ヴァルシオン改・CFに慣性の法則を無視した軌道をある程度可能にする。ゼロから急速に加速して前を向いたまま後退し、ストライクダガーの放つビームを受けながら反撃にスキュラを放ち、二、三機をまとめて落とす。
加速したヴァルシオン改・CFは、今度はドレイク級駆逐艦の艦橋真上から突っ込んだ。ロレンツォの叫びはこうだ。
「超絶、ヴァルシオンキイィィック!!」
まとめて二隻のドレイク級駆逐艦を真ん中から蹴り貫き、虚空の闇に大きな火の玉を生む。まさしく悪夢の権化そのものと化したヴァルシオン改・CFとロレンツォであった。
「ふむ。ビアン総帥の指示で叫んでみたものの……悪くないな」
ビアンと近いノリのおっさんであるらしかった。その時、ロレンツォは機体がとらえた新たな反応を注視した。ヴァルシオン改・CFのNJの影響でお粗末なレーダーが捉えたのは、オーブ脱出以来息を潜めつづけていたアークエンジェル達だった。
この動きはマハトに乗艦するマイヤーも当然知る所であった。
「総司令」
緩やかに波打った金色の髪が艦橋の照明に照らされて純金の輝きを零しながら翻った。リリーの穏やかさと知性とが共存する瞳は傍らのマイヤーを映していた。
マハト艦橋で、傍らに立つリリーの声にマイヤーは面白いといった顔をしていた。これはこれで望ましい展開なのかもしれなかった。
「国を追われても、その国を焼かれるのは嫌か。ふふ、青いというべきかな。カガリ姫? 友軍にあちらから手を出さぬ限り攻撃は控えるよう伝えよ」
「もし、攻撃を加えてきたら?」
「加減はいらん。ロレンツォやユーリエ達にも全力で潰してかまわんと伝えておけ。ふむ、アスハ派が持って行ったローラシア級にネルソン級。それに……」
「コペルニクス自治政府に秘匿させていたイズモ級三番艦スサノオ、ですね。ツクヨミはこちらに着きましたが、やはりアスハ派の兵や将校も少なくありません」
「それなりの艦隊を揃えているな。カガリ自身というよりは周囲に優秀な人材がそろっているのだろう」
連合のDCへの再度の攻撃を、ジャンク屋ギルドを介して裏組織やコペルニクス、スカンジナビア政府から伝え聞いた――仮にオーブ艦隊とする――は、カガリの懇願によって連合とDCの艦隊戦に介入する事となった。
オーブ艦隊はクサナギ、アークエンジェル、ネルソン級とローラシア級が一隻ずつ。加えてリリーが名を挙げたイズモ級の三番艦スサノオとドレイク級二隻を新たに加えていた。
クサナギの艦橋で、カガリは焦燥に急かされた顔で、眼前で繰り広げられる艦隊戦を見つめていた。DC側の戦闘員はほぼ旧オーブの軍人で構成されている。
たとえ国を追われたにせよ、ほんの数日前までは国民だった者達が戦火に身を晒しているのだ。他を顧みない、良くも悪くも愚直なカガリの正義感が、この戦いを見過ごせるわけも無かった。
オーブ艦隊のエースであるキラにしても故国であるオーブが戦火に見舞われるのは看過出来なかったし、アークエンジェル艦長マリュー・ラミアスは情の深い性格というのもあるが、ウズミへの恩義などもあり、カガリの必死の頼みを断る事は選べず介入を許可している。
元々アークエンジェル以外はオーブの親アスハ派の兵なのだから、マリューが反対してもどれほど効果があったかは疑わしい。
一応、クサナギで艦長を務めるキサカなどはカガリを諌められるが、大抵の兵士や佐官クラスに至るまでがまっこうからカガリに反論する事は少ない。
良くも悪くも国民に多大な影響を持つアスハ家に対するオーブ国民の反応の縮図といえた。
「キサカ、連合の艦隊の動きは?」
艦長席の隣に敷設された席で身を乗り出したカガリが、険しい顔をしたキサカに詰問に近い勢いで問う。
「……降下部隊、護衛部隊、制圧部隊、どれもDC艦隊に抑え込まれている。正直な所、数で圧倒的に劣っているというのに、DC側が優勢だ」
キサカの眉間に刻まれた皺が深くなる。連合、ザフトともに今のオーブ艦隊には手に負えない相手である。その両軍に比べればDCははるかに与しやすい相手だと考えていたが。
(ある意味もっとも底が知れないのがDCか)
モニターの向こうで暴風の如く荒れ狂うヴァルシオン改・CFとユーリエのガーリオンの圧倒的な戦闘能力に、キサカは知らず唾を飲み込んでいた。
まあヴァルシオンシリーズの派生機に核エンジンをはるかに上回る出力の、プラズマ・ジェネレーターを搭載したガーリオンだ。目を付けた相手が悪い。
『キサカ艦長、ラミアス艦長。手筈通り、我々はDC艦隊に手を出さん。これは変わらんな?』
磨き抜いた鋼の様な、一風変わった色の船体色のスサノオから、オーブ艦隊の旗艦を務めるクサナギと、艦隊の中では最強の戦艦であるアークエンジェルに連絡が入る。
戦力的にも象徴という意味でもこの二隻がオーブ艦隊の要だ。
モニターの向こうで、雄々しく鬚を伸ばし、パイプを咥えた五十代半ばほどの男が映った。
右斜め前に被られた軍帽の奥に光る鋭く険しい光を宿した瞳。引き締められた唇は確固たる強い意志を表していた。軍服の襟にオーブ軍一佐の階級章を付けたこの男こそ、オーブ軍所属の戦艦乗りの中でも最高の艦長の一人に数えられる名艦長ダイテツ・ミナセである。
ウズミの正当な後継者であるカガリには目もくれず、あくまでキサカとマリューを相手に、ダイテツは話を進める。
オーブ関係者にしては珍しくカガリを必要以上に持ち上げたり、敬う姿勢を必要以上に示さないタイプだった。
『ええ。ミナセ艦長、DC側はこちらに仕掛けてくるでしょうか?』
豊かな胸の中に抱えた気掛かりな事を、マリューはあえて口に出した。今度の介入戦に参加するにあたっての最大の懸案事項の一つだった。
『うむ、相手も同じ事を考えているだろう。おそらくマイヤーの事だ。こちらから仕掛けるまでは手出しをせぬよう通達してあるだろう』
「つまり、DC艦隊からの攻撃がない限りはこちらから仕掛ける事はしないって事だろう?」
キサカの隣で座っていたカガリだ。ダイテツは一瞥してから重々しく頷く。多少口を挟んでくるものの、オーブを追われてから少しは思う所があったのか、カガリも以前よりは的を得た事を言うようになっている。
それに今度の介入もまったくメリットが無いわけではない。
DCに残っている親アスハ派の軍人や閣僚にカガリの存在を広くアピールする切っ掛けにもなるし、国を追われてもなお国土と国民を守ろうとする姿勢は、それなりに点数稼ぎにもなる。
連合の脱走艦であるアークエンジェルがいたり、ザフトの最高機密である核動力MSがいるのは、まあ、この際気にしない方向で考えた方がいいだろう。
最悪、連合とザフトに目を付けられて追いかけまわされる位だ。もともとザフトにはフリーダムの件で遠くないうちに追われる事になっただろうし、要は早いか遅いかの違いと言っていい。
そのように、ダイテツは自分に言い聞かせてきた。やはり、政治が絡む話は自分には向いていない。自分が職業軍人であると再確認するいい機会にはなったという事にしておこう。
対DCにおいてカガリの考えは、やはり旧オーブ政権の債権に重点が置かれている。ただ、そこにかつてのオーブ同様の中立政策の占めるウェイトが変わりつつある事に本人も気づいていなかった。
いかんせん、感情で突っ走る性分だから仕方がない面もある。それでもこの戦争でわずかずつ成長のきざはしを見せつつある。そうでなくては、味方に着いた甲斐もないというものだ。
(後は、政治面で彼女を導ける人材がいれば良いがな)
だが今は目の前の戦場を生き抜く事が第一だ。命あっての物種、人類が宇宙に進出してもなお通じる格言であった。
元々DC艦隊だけでも手に負いかねていた連合艦隊はオーブ艦隊の出現で敗色をよる濃厚なものに変えていた。駆け付けた味方の連合艦隊がオーブ艦隊との交戦で手一杯で、降下ポッドの護衛艦隊に回す戦力は無かったからだ。
「オーブを焼かせるわけには、あそこには友達が、家族がいるんだ!」
キラの駆るフリーダムはストライクの四倍のパワーを最大限に発揮し、ストライクダガーの周囲を駆け抜けざまにビームサーベル二刀流で四肢を切り落とす。
離れた敵にはバラエーナプラズマ集束ビーム砲やクスフィアスレールガンといった、MSとしては過剰なまでの火器がストライクダガーの四肢を貫き、頭部を砕き、武器を破壊して戦闘能力を奪う。
「連合のMS、もうこれだけの数が配備されているのか?」
アスランのジャスティスは得意の近接戦闘で次々とストライクダガーを翻弄し撃破していた。ラケルタ・ビームサーベルを連結させてアンビデクストラス・ハルバート形態に変えて、一振りごとにストライクダガーの胴や手足が切り裂かれてゆく。
両手を振るしぐさと同時に肩のバッセル・ビームブーメランを投擲し、NJの影響を受けない量子通信である程度軌道を操作し、バッセルをよけたストライクダガーをビームサーベルで、
またジャスティスから離れたストライクダガーは戻ってきたバッセルに背後から切り裂かれる。
核動力MSであるフリーダムとジャスティスが連携した時の戦闘能力はすさまじく、ジャスティスが接近戦を仕掛けて敵ストライクダガーや艦船の陣形を乱し、そこにフリーダムの砲撃が雨あられと降り注ぐ。
正確無比なレールガンやプラズマ、ビームが、同時に最大十機の目標をロックオンし、五つの火器がストライクダガーを貫いて戦闘能力を奪ってゆく。
フリーダムの性能とキラ・ヤマトの極めて高い反応速度、精密射撃の能力が繰り出す同時多目標への攻撃――ハイマット・フルバーストの五つの光が煌く度に、ストライクダガーは頭部や四肢、ビームライフルなどの武装を失ってゆく。
そこにディアッカのバスターの砲撃も加わり、散らされた蜘蛛の子の様にストライクダガーはひるんで、フリーダムやジャスティスを遠巻きに囲もうとする。
彼らにとっての不幸は敵がそれだけではなかったということだ。
怯み隙を見せるストライクダガーに、ムウの駆るエールストライクが襲い掛かり、ジュリやアサギ、マユラらオーブ三人娘の駆るエムリオン隊を筆頭に残りのMS隊もストライクダガーへレールガンやミサイルの雨を降らし始める。
旧オーブのMS隊も、DC製MSの操縦訓練はいやと言うほど積んでいる。元々機体の高性能と搭載されたオペレーション・システムの優秀さもあって、連合のパイロットよりはマシにMSを動かしていた。
彼らにとっての初戦が、数の上で大差なく余裕をもって戦える相手であったことは幸運と呼ぶべきだろう。
MS隊の後方で増援艦隊と砲火を交えるオーブ艦隊も、善戦する自軍の様子に安堵ほどではないにしろ、安心した雰囲気があった。
「いつも数で劣る戦いばかりでしたからね。今日みたいなのは珍しい」
アークエンジェルの操舵手であるノイマンがブリッジに居る全員の心境を代弁した。
確かにアークエンジェルはその始まりから本来の乗員を殆ど失い積載するはずだったGはストライクを残して全てザフトに奪われ敵となり、友軍に合流できたと思った矢先にその友軍は壊滅。
なんとか地球に降下したはいいものの、そこはザフトの勢力下であり、敵軍の中でも名の知られた名将が敵。その後も次々と迫る追手相手に苦戦を繰り広げて辿り着いた友軍の本拠地では捨て駒にざれるわ、ある意味笑うしかない戦歴だ。
これまでの戦いを振り返れば、確かに今の交戦状況は同ということが無いような気がしてしまう。
艦長席に座るマリューとて本来は技術仕官なのだから、ここまで戦い抜くことが出来たのは僥倖か、小さな幸運が積み重なった結果なのかもしれない。
形の良い唇で微笑を浮かべ、マリューは気の緩みを正すよう言う。
「そう思ってしまうのも無理は無いけど、油断は禁物よ。一発の流れ弾で命を落す兵は古今後を絶たないわ。偶然としか思えない攻撃で戦艦が沈む事だって無いわけじゃないわ」
「はい」
やや恐縮した様子のノイマンの返事に頷いて答えて、マリューが新たに指示を飛ばす。
「前方敵MSにミサイルを、ゴッドフリートの照準はクサナギ、スサノオと連動させて。DC艦隊の動きは?」
オペレーター席で、連合から離れても軍服は相変わらずのミリアリアは明瞭な調子で答える。オペレーターに見栄えの良い女性が多く配備されるのは、男パイロット連中のやる気が増すからである。冗談みたいだが、実際そうなのだから仕方がない。
「依然、連合艦隊と交戦状態にあります。こちらに仕掛けてくる様子はありません」
降下ポッドを抱えた輸送艦は半数近くが既にユーリエを筆頭としたMSに落され、護衛のMSはほとんどヴァルシオン改・CFによって掃討されている。
見ていて薄ら寒くなるほど一方的な戦闘であった。
「ビアン・ゾルダークのヴァルシオンという機体もそうだけど、あの大型の機体と指揮官機……。動力源だけじゃない、機体の完成度が高すぎる。まるで何年も人型の機動兵器を研究している見たいだわ」
『ラミアス艦長。スサノオは前進し、敵の砲火をひきつける。その隙にローエングリンで連合の空母を狙ってくれんか?』
「スサノオ一隻でですか? ラミネート装甲で防御面を強化してあるとはいえいくらなんでも」
『なに、スサノオが沈むよりも早くそちらが空母を沈めてくれればすぐにでも下がる。フリーダムとジャスティスもおるし、存外リスクは少ない。
付近の連合の艦隊が集まるより早く決着をつけねばなるまい。DC艦隊はともかく、わしらには大規模な補給を受けるアテもない。これ以上の交戦は今後に響く』
月面のオーブ所属の中立都市やウズミを慕う親アスハ派の在外オーブ人や、マルキオ導師経由で時折受けることの出来るジャンク屋ギルドからの補給はマメに行われているのだが、
一つ一つは小規模なもので、戦艦クラスが撃沈する事となれば代わりが補充できるのは何時の事か分からない。
それを考慮したダイテツの言葉に、逡巡の迷いの後、マリューは賛同した。
「分かりました。キラ君とアスラン君にスサノオの護衛に付くよう伝えて。ローエングリン発射シークエンススタンバイ。目標、敵アガメムノン級戦闘空母」
月の中立都市コペルニクスに秘匿され建造が進められていたイズモ級三番艦スサノオと四番艦ツクヨミだけでなく、イズモ級には、それぞれラミネート装甲やエネルギー・フィールドの実装、
対空砲火の強化、艦艇用大型プラズマ・ジェネレーターの搭載が行われ、大幅な戦闘能力の増強が施されている。
単艦でもそうそう轟沈するようなことはないだろう。防御面で言ったらアークエンジェル以上の艦船へと改修されているほどだ。
突出したスサノオに、終始劣勢に立たされていた連合艦隊は、餓狼の様に狙いを絞って砲火を集中させた。
マリューからの指示でキラのフリーダムやアスランのジャスティスが群がるストライクダガーを一掃し、敵艦の砲塔やカタパルトデッキ、推進機関に狙いを付けて航行能力や戦闘能力を奪ってみせる。
機体の性能もあるが、それ以上にパイロットの人間離れした技量に、ダイテツは感嘆していた。
「まったく、彼らが味方で助かったな」
「第八ブロックに被弾。イーゲルシュテルン二番、五番、沈黙。エネルギー・フィールド出力68パーセント。敵ミサイル群、来ます」
「取り舵、ピッチ角下げ三十。ゴッドフリートとイーゲルシュテルンでなぎ払え!」
スサノオの船体上下に展開したゴッドフリートからの計四条の光が迫るミサイル群をなぎ払い、砲身の冷却もそこそこにネルソン級やドレイク級に狙いを付けて、立て続けにビームを放つ。
「ふん。こうもあっさり餌に食いつくとはな。連合の人材も不足しがちか。ハルバートンの第八艦隊の壊滅は、堪えているようだな」
「MSが接近。数は一!」
「対空防御なにをしておる! こちらのMSは?」
「突破されました。フリーダムとジャスティスも、敵機に囲まれています」
残りの戦力を惜しみなく掃き出した連合艦隊の最後の抵抗だ。キラやアスランも半ば死を覚悟して迫るストライクダガーの群れに、動きを止めさせられ、スサノオがわずかに無防備になる。
今スサノオに迫るのはガンバレルストライカーを装備した105ダガー。パイロットは、『月下の狂犬』の異名を持つユーラシア連邦のエース、モーガン・シュバリエ大尉だ。
「まったく、DCとオーブが争わずに共闘の姿勢を示すとはな。現場でそんなことを言っても何も始まらんか。だが、せっかくの機会だ。戦艦の一隻くらいは落とさせてもらう!」
スサノオの対空砲火を振り切り、105ダガーが背負ったバックパックから有線制御のガンバレルが四基射出される。
メビウス・ゼロに装備されていたものに比べビーム砲を搭載している分攻撃力は高いが、バッテリーの消耗が早い欠点を持っている。
後は有線故に戦闘中に線が切れてしまったときに制御不能になるのが欠点だが、操縦者の技量次第では三次元からあらゆる方向で襲い来るガンバレルが、有視界戦闘が常道となった今回の戦争で強力な装備であることはゆるぎない事実だ。
105ダガーの持つビームライフルとガンバレルのビームがスサノオの装甲に降り注ぎ、磨きぬいた鋼に似た色の船体を輝かせる。
「ち、ラミネート装甲か。このダガーにも装備されているが、敵に回せば厄介だな。ゼロのガンバレルを装備してくればよかったか」
有効打になりえる装備が無いことに、モーガンは苦い表情を浮かべるが、ならば直接艦橋を狙えばいいと、105ダガーを更にスサノオへ肉薄させる。
だが、モーガンの優れた空間認識能力が、自身に迫る危機を直感に似た感覚で捉えた。コントロースティックを繰ったのはほとんど反射的な動作だった。
コンマ一秒前までモーガンの105ダガーが存在していた空間を、赤いビームが貫き、わずかに105ダガーの装甲表面を焼く。
「ラミネート装甲の排熱が間にあわんだと? どれほどの高出力ビームだというのだ」
105ダガーのレーダーとモニターが敵を捉えた。大型のビームライフルらしきものを持つ漆黒の機体。
バイザーの奥で光るツイン・アイ。ブレードの上の、後方上部に延びた両側頭部のアンテナ。丸みを帯びて膨らんだ手足のパーツに、大きく可動部が確保されたショルダーアーマー。
モーガンの知るザフト・連合と明らかに異なる意匠の機体。その名をゲシュペンスト・タイプSといった。
「オーブがDCから強奪した機体か?」
ニュートロンビームを構えたゲシュペンストはモーガンの前に立ちふさがり、スサノオを守る盾となる。
「スサノ……オは、やら、せん」
たどたどしい、どこか機械的な響きの混じった声がゲシュペンストのコクピットで紡がれる。パイロットもまたゲシュペンスト同様この世界では異端の姿をしていた。
宇宙でありながらパイロットスーツは身につけておらず、体の殆どが銀色に光る機械で構成されている。生身はわずかに覗く口元くらいだ。
著しく傷ついた肉体や損失した部位を機械で代用した、いわゆるサイボーグなのだろうが、ここまで肉体が機械化したサイボーグはコズミック・イラの時代でも珍しい、というよりは実現の難しい存在だ。
『ラウ大佐、すまん。助けられたな』
「問題、ない。艦長、あの機体……はおれが引き受けた」
感情は乏しいが、機械では再現しきれない人間の情動を交えた声でラウと呼ばれたパイロット――カーウァイ・ラウは頷いて応じ、眼前の105ダガーを睨み付けた。
目前の正体不明のMS(パーソナルトルーパーという別の機動兵器なのだが)が只者ではないという直感と、初めて出会うタイプの敵機に対する警戒が、モーガンに緊張を強いる。
「つくづく厄日だな」
心からの思いを吐露し、モーガンは精強な軍人の仮面を被った。
同じに105ダガーの握るビームライフルとゲシュペンストのニュートロンビームの銃口が互いを狙う。銃口の虚を染め上げる緑と赤の光が放たれた時、すでに両者は動いていた。
機体を左に動かしたモーガンは展開したガンバレルでゲシュペンストの四方を囲む。全天周囲モニターに映るガンバレルの一基にカーファイは狙いを定めてゲシュペンストを動かした。
三方からのビームをかわす代わりに、真正面からのガンバレルのビームを機体ぎりぎりに掠めつつ回避し、モーガンが回避運動をさせるより早く、左手から伸びたプラズマ・カッターが切り裂き、星空に新たな炎の星が一瞬生まれて消えた。
その場で機体をねじり105ダガーを照準内に捉えたカーウァイはニュートロンビームを三射ずつ二度撃つ。
ラミネート装甲でも防御しきれぬ高出力のビームをモーガンは淀みない機動で回避し、一発をシールドで受け止める。機体が押され、シールド表面がじりじりと融解してゆく。
「馬鹿正直にはやりあえんな!」
プラズマ・カッターで切りかかってきたゲシュペンストを残るガンバレルと105ダガーのビームライフルでけん制して距離をあけ、射撃戦へ入った。
徐々にモーガンの顔に焦りが浮かび始める。漆黒の敵機の機動性といい、武装の強力さといいとてもバッテリー機とは思えない。加えてその性能を完全に引き出しているパイロットの技量。
並みのベテランなど歯牙にもかけぬ、圧倒的な経験に裏打ちされた機動兵器の操縦者に違いない。だが、まだ精々一年かそこらしか戦争に用いられていないMSのパイロットがここまで見事な操縦が出来るものだろうか?
二基、三基とガンバレルを撃墜され、たちまちガンバレルストライカーの意味が失われてゆく。舌打ちと共に母艦から無人のガンバレルストライカーを装備したメビウス・ゼロを呼び寄せるが、その動きをカーウァイは見逃さなかった。
ゲシュペンストの胸部装甲が横に開かれ、プラズマ・ジェネレーターから供給される膨大なエネルギーが集約される。
「ブラスターキャノン」
一機動兵器が有するにはあまりに苛烈なエネルギーの奔流がメビウス・ゼロを飲み込み、跡形もなく吹き飛ばしてしまう。
「MSサイズの陽電子砲か!?」
あまりの威力に驚きの声を挙げるモーガン。無論陽電子砲ではないのだが、思い当たる武装がそれぐらいしかなかったのだ。
既に護衛艦隊はヴァルシオン改・CFの前に壊滅寸前まで追い詰められて敗走し、モーガンと共に駆け付けた艦隊も、アークエンジェルの放ったローエングリンに旗艦アガメムノン級戦闘空母『アリオロス』が沈められてしまった。
指揮系統の混乱と母艦を失い動揺するMS隊の隙を突かれ、アークエンジェルとクサナギの大火力を筆頭に一斉に放たれたオーブ艦隊の攻勢に、ほとんど戦意を喪失していた。
「ち、MS隊も残りは十四機か。降下ポッドも八割が撃墜。残りは投降するか鹵獲されてしまったようだな。これ以上は、いやかなり遅くなってしまったが、退くしかあるまい。ディバイン・クルセイダーズ――この敗北、忘れんぞ」
411 :
660:2007/08/13(月) 00:59:20 ID:???
ぎゃああ、エアリード機能発揮しなくてすいません! 安西エリとヴィレッタ隊長に一票!
嫁じゃなくてもいいから、時々その乳に顔をうずめさせてくれるだけで良し!
それと、カーウァイ・ラウてどんなキャラ? と首を捻りながら書いたので正直不安です。いや、撃墜時くらいしか本来の性格が出たの知らないもので。
改めて読み直してみると誤字脱字も多いし、設定のいじりまくりです。あいたあと思われても仕方ないですね、コレ。
徐々に大天使組も戦力強化。特にエターナルは正直やりすぎかと、思う戦力強化をするのでもっと不安。ではでは指摘・助言お待ちしております。
微乳・貧乳・微乳・巨乳・魔乳・爆乳……。なんというか、バリエーション増えたもんですね。
>>411 GJ!
微乳の下に無乳というものもあってな…
そういやゲシュSってニュートロンビーム持ってたっけ?ミサイルとカッターとメガブラスターだけだと思ってたんだけど
413 :
660:2007/08/13(月) 01:07:37 ID:???
装備が少ないなあ、と思ってつい持たせました。第四次でリアル系から始めた時の思い出もあってつい。
フル改造しても攻撃力3000(だったかな?) だから火力が足りないと思いつつ副主人公で愛用したのもいい思い出です。
バイアランが使えるのもよかった……。
GJ!
ダイテツが居るのか、ならそうそう馬鹿はしないだろう多分。
第四次かぁ、主人公・ヒロインをMSに乗せられたんだよなぁ〜。おかげで最終搭乗機はSガンダムだったなぁ。
ヴィレッタ隊長は、声のせいで小佐にしか見えない。きっちり着込んでるのに、肩が出てる為か妙にエロチック。
このダイテツって、CEキャラだよね?
ウチの第4次副主人公はF91にのってました。シーブック、気合が無いので使いにくかった。
そして主人公はGP-02Aで、「奇跡」の戦術核を。
ノンノン、ダイテツはバンプレオリジナルのシブいおやっさんさ
>>415 シロガネ及びハガネの初代カンチョッサンだわさ
しかしリーに殺されて故人になっちまったのさ、だから出演してる
いや、それぐらい知ってるが、きれいなテンザンと同じで同名のこっちの人?って話だよ。
前からオーブにいるような雰囲気だし。
CEに送られるのにも時間差があるんじゃないの?
きれいなテンザンとは違って性格もそのままっぽいしな。
ビアンよりは後に飛ばされてウズミに登用されたってトコじゃないの。
まぁ政治向きの人じゃないし、もっと前に来てたとしてもビアンの台頭は防げないとは思うけど。
でもこの人がいなければ
少数戦力で敵の中枢部に侵入、撃破
なんて無茶なプランを実行するやつなんていないと思うんだ
まぁ他の勢力相手にしてる間にどさくさ紛れにってならやるだろうけど
> 少数戦力で敵の中枢部に侵入、撃破
考えてみたら007もゴルゴもそうだな……
数の力で少数を殱滅するような主人公じゃツマラナイだろw
つ【ラインハルト】
まぁヤン・ウェンリー曰く「少数が多数の戦力を打ち破るのが目立つのは、正常人の中で狂人が目立つのと同じ理由」だって言ってるからな
>バリエーション増えた
揺乳=クスハ&ゼオラ
震乳=セレーナ
負乳=アイビス
428 :
93:2007/08/14(火) 02:14:07 ID:???
格納庫内で人があわただしく駆けてゆく……流れに逆らい、シンはコア・スプレンダーの搭乗口に何とかたどり着くことが出来た。
コア・スプレンダーは迅速な発進、合体を行なう為、通常とは異なったカタパルトからの発進となるのだ。
専用カタパルトは現時点ではこの「ミネルバ」にしか搭載されていない。
ここで、この艦、「ミネルバ」について説明をしておこう、この『ミネルバ級(クラス)』一番艦「ミネルバ」は本来は新型万能戦艦として設計されたものを
ギルバート・デュランダルが構想する『教導隊』構想による特殊作戦用MSを運用する為の艦として再設計された、万能強襲邀撃艦である。
彼等教導隊が齎したデータにより、特殊機関『テスラ・ドライブ』や大型プラズマジェネレーターを試験的に搭載し、また重力下の砲撃戦を考慮し艦首に陽電子砲を搭載している
こうした半ば強引とも呼べる改修のためか、その膨大な機密のせいか、艦内スタッフも教導隊内から派遣されたスタッフが多く居るのも特徴である。
艦長はタリア・グラディス、副長はアーサート・ライン
そして、戦術オブサーバーとしてレーツェル補佐に当たっている
「敵艦、距離二万!!会敵予想時刻まであと30!!」
「コンディション・レッド!!パイロットはMSの登場準備!!」
「了解!!コンデション・レッド発令!!」
「ブリッジ遮蔽、全戦等システム起動!!」
「全戦等システム、オールグリーン」
ブリッジ各員が職務を全うすべく慌しくなる。
「艦長……どうかね?我々が作り上げた艦(ふね)は」
艦長席の左前方に座るレーツェルはその様子に満足しながらタリアの方を向いた
「もう何回か外に出ていますが、驚きますわ……例の『テスラ・ドライブ』という機関のおかげかしら?」
タリアは驚き半分、疑問半分な口調で答えた。
「艦長、『テスラ・ドライブ』の詳細な情報はAAの機密に属するものだ……私たちがここで口に出来るものではないんだ」
艦長後方のサブシートに座るデュランダルが口を挟んだ
(AAクラス、ニュートロンジャマーと同クラスの機密か……何にせよここで言える秘密じゃないよなぁ)
全くタイミングが悪すぎる。機密を満載したこの艦の初出撃によりによって他国のVIPが紛れこむなんて……艦長席の前方に座るアーサーは艦長席後方に座るオーブの代表を見ると小さくため息をついた。
だが、事態はアーサーの予想する以上の事態となってゆくのだった
「ゲイツ、ショーン機・ゲイル機発進完了を確認、続いてザク、ルナマリア機・レイ機発進どうぞ!!頑張ってね、お姉ちゃん!!」
パイロット管制を担当するのはメイリン・ホーク、ルナマリアの妹である。
《任せときなさい!!ルナマリア・ホーク、ザク!!出るわよっ!!》
《レイ・ザ・バレル、続けて出るぞ!!》
艦橋の正面スクリーンからミネルバを飛び出すニ機のザクが見える。メイリンはその様子を心配そうに見つめている……
「心配するなって!!皆無事に帰って来るさ、君が心配な声だと皆も心配するよ!!」
メイリンの心象を察したのかアーサーが声をかける。その声に発破をかけられたのか、メイリンは目元を拭うと管制を続ける。
「中央カタパルトを展開、コア・スプレンダー、チェスト、レッグの接続を確認」
スクリーンのサブモニターにシンとカイの顔が映る
《シルエットは『ソード』でいいんだな?》
若干暗い表情のシンが口を開きかけた瞬間にカイはそれを遮った
《言い訳や弁明は後で聞いてやる……今は目の前の戦場に集中しろ。必ず生きて帰って来い。いいな!!》
《ハイッ!!シン・アスカ!!コア・スプレンダー行きますっ!!》
429 :
93:2007/08/14(火) 02:20:34 ID:???
中央カタパルトから戦闘機と胴体、脚部、武装の各パーツが発進する。
前回とは異なりオートでインパルスに『合体』すると戦列に加わった。
「敵は!?」
「前方4000に一機、後続から三機、追撃隊を壊滅させたのは恐らく前方の一機だろう」
シンの問いに対しレイは母艦から得たデータを元に判断する。
「俺たちと交戦したG型はかなりのダメージを受けたはずだ。奴らに追撃隊を相手にする余裕は無かったはずだ」
「ってことは目の前に居るのが」
「敵の主力ってワケね……」
パイロット達に緊張が走る……敵は得体の知れない新型なのだ。
どのような攻撃を行い、どういった撃が有効なのか検討が付かない。正に『出たとこ勝負』なのだ
「よし、シンがフォワード、ルナマリアがバックアップ、ショーン、ゲイルはルナマリアのガード、俺はシンの援護に回る」
「「「「了解!!」」」
各MSがそれぞれのフォーメーションに就いてゆく……それをモニター上を見ていたアレックスは自らの疑問を隠すことは出来なかった。
「通常のMSのフォーメーションは三機一グループの小隊制のはずだ……」
「興味が有るかね?」
思わず口に出すアレックスにデュランダルは口元を綻ばせながらアレックスの方を向いた。
その顔は他人に宝物を自慢する少年のそれに良く似ていた。
アレックスが恥ずかしさを隠す様に咳払いを一つすると、デュランダルはしてやったりといった表情をした。
「議長である私が言うのも難なのだが、もはや連合と我々プラントの技術的な優劣は付けがたいものになってきている。
ハードが同等ならばどこで優位に立つか?」
「ソフト……スペックを引き出すパイロットと、それらが扱うスキル」
アレックスは思わず答えてしまう。アレックスの呟きを聞いたデュランダルは満面の笑みを浮かべた
「その為の『教導隊』だよ。流石は元レッド……良い洞察眼をお持ちだ」
デュランダルの呟きは、アレックス、そして傍らに座るカガリにしか聞こえないものだった。
しかし、その言葉の意味は彼らを驚愕させるには十分であった。
MS隊の交戦開始の報を聞き、すぐさまスクリーンに向き直るデュランダル。アレックスは彼の後姿を唯見ていることしかできないでいた。
「くそっ、何なんだコイツっ!!敵は一機じゃ無いのかよ!!」
「あわてるなシン!!ドラグーンだ!!」
「にしては精密すぎるわよ!!人が乗ってるんじゃないの!!」
シン達ミネルバMS部隊は先程からドラグーンによる物らしき攻撃を受けていた…
360度雨霰と絶え間なく降るビームの雨をシンやレイ、ルナマリアはギリギリで回避してゆく。
既に二機のゲイツは撃墜さている……生き残っているのは彼等三人のみである。
敵機を射程内に収めようとしたとした直前、ルナマリアのフォローに付いた二機のゲイツが『同時に』落とされた。
敵が無線式誘導兵器使う為にこちらを引き付けていたのだった。作戦に気がついたのは既にそれによる包囲網が完成してからの事だった。
現時点の状況は防戦一方、最悪ジリ貧で全滅もあり得る状態である……
「ショーンとゲイルはっ!!……脱出っ!!……出来たかしらっ!!」
「判らんっ!!……彼らをっ!!……信じるしかっ!!……ないっ!!シン!!左八時の方!!」
「うおっ!!……助かった!!サンキュー!!」
レイは自らの機体を操りつつ的確に他の二機に指示を下す。理解は不能だが、何故かレイには先程から敵の考えているイメージが伝わってくるのだ。
(このまま敵の増援が来ると……いささか不味いな……)
レイは背中を走る冷や汗を感じながらも、冷静にコクピット内の戦術コンピュータにデータを入力する……そう、自分が冷静にならねば誰が二人を抑えるのだ!?
レイ・ザ・バレルは自分の頭の中に入ってきた情報を素早く、的確に処理していく……
「ルナマリア!!今から座標を送る!!『ソイツ』でなぎ払え!!」
「……なんだか良くわからないけど、アイツをどうにかできる訳?」
「シンも俺もこれ以上回避し続けるのは無理がある、一気にカタをつけるぞ。シン、合図でルナマリアの射線軸から退避しろ!!」
430 :
93:2007/08/14(火) 02:26:56 ID:???
「……ポイントに入った、今だ!!ルナマリア!!」
ルナマリアのザクの背部左側、本来ならばオルトロス用のエネルギータンクが設置されている其処に、彼女の『秘密兵器』が存在する……
「落っちぃろおおおっ!!」
二つ折りになった砲身を展開し、給弾ベルトを接続する。全長15メートルにも及ぶ巨大な回転砲身式モーターキャノン……所謂ガトリング砲である。
オルトロスとガトリング砲を両脇に構えたまま、指定された座標に火力を叩き込む。遠慮などしない、してやらない。
過剰な火力を叩き込まれた『ソードブレイカー』は間髪置かずにその半数を失うこととなった。
「あちゃ〜っ調子に乗りすぎたかな?ブレイカー1、5、6を接続。『ドラグーン』より火力と機動性はいいが、その他の火器システムが一時的にダウンするのはどうかと思うんだよな〜」
ネオの駆るアシュセイバーの最大の特徴、脳波操作式無人攻撃システム『ソードブレイカー』
これは未だ『彼等』の齎した技術とこちらの技術の融合が上手く行っていないことの表れでもあるため、ただの兵士であるネオにはどうすることも出来ないのだが。
(それにしてもアレは一体!?)
彼は先程から頭に響くものを感じていた。それはあの男と相対した時に感じていものに酷似していた……
「考えている暇は無いな、今は……」
アシュセイバーは腰にマウントしてあるビームサーベルを抜き取ると、自機に対しまっすぐに突っ込んでくる機体に迎撃を仕掛けた。
弾丸のごとく突進するインパルスはデブリに浮ぶ赤紫の機影を射程に納めた
「コイツが追撃隊をやったのか!?」
正体不明の機体はサーベルを構えたまま左に構えたライフルを連射する。
シンは四肢とスラスターを巧みに操り、自らのレンジである接近戦に持ち込もうとする……
が敵機の背後から新たなMSが現れた。
「カオス、ガイア……敵の増援か!?」
一機に手間取りすぎたため、増援が間に合ってしまった……シンは奥歯を噛締めた。
「ネオ!!大丈夫!?」
「心配かけさせやがって!!」
「スティング、ステラ、間に合った様だな。アウルは!?」
「大丈夫だ、アイツは留守番してる」
宥めるのに苦労したけど、と付け加える。それを聞いたネオはあいつらしいなと苦笑を漏らす、
「さあ、仕切りなおしだ!!ステラ、お前は赤い機体、スティングは白の指揮官機、俺は例の新型だ!!」
ステラは頷きスティングは不平を漏らす、どうやら先程のリベンジを希望のようだ。
年上の言うことは聞いとけよ、と諌めると三機は散開した。
「さあ来い新型クン!!コイツは『ソードブレイカー』だけじゃないんだぜ」
従来の機体を凌駕するスピードで駆け回るマゼンダのボディはシンのインパルスを翻弄していく……
インパルスも腕に装着されているビームキャノンを撃つが、機体に当たる直前で霧散してしまう。
「なんで!!ビームが聞かないのか!?……だったら!!」
シンはインパルスの背中に装備された巨大な鉄の棒を抜き取った。
全長にして15mほどの『ソレ』は一見すると、大型のビームライフルとも取れるだろう。しかしソレはビームライフルではなかった……
「展開!!」
鉄棒の上半分がスライドし、長さが倍になり、根元から先端までに2本が並列した長いビームの弦が張られる、さらに先端の先からコーティングされた流体金属の刃が現れる……
大型対艦用ビームブレイド『エクスカリバー改』開発コードはお馴染みの
「『斬艦刀』で……バリアごとぶった切ってやる!!」
光の塊を下段に構えたインパルスは背部の展開式ブースターで一気に距離を詰めると敵に踊りかかった!!
431 :
93:2007/08/14(火) 02:29:53 ID:???
なんだかキャラが変わり始めている……
次回は忘られてる方のお話
あと題名募集
GJ
忘れられた人ってアビスをフルボッコしてから音沙汰ない紅茶?
433 :
660:2007/08/14(火) 11:50:25 ID:???
乙です。GJ。ネオセイバーと親分にしごかれたシンの対決ですね。楽しみ楽しみ。
ルナマリアやレイもレーツェルかカイ少佐色に染められたりしてるんでしょうか?
紅茶とそのパートナー(?)の出番も待ち遠しい限り。次回も期待してます。
まあ紅茶が薄いのは本編準拠だしな
つOG2.5
ビアンの趣味からいってダブルジー四機合体がありそうだとか思っているのは俺だけで良い
第十七話 母なる海、血に染めて
退くと決めたならモーガンの行動は素早い。生き残りのMSと艦隊に撤退を進言し、一も二も無く同意されたため、連合の艦隊は即座に転進して、戦闘宙域から全力で離脱し始める。
途中、それなりの数の機体が落伍しているが、これは後にDC艦隊がきちんと確保し、無事な機体は有効活用させていただく事になる。
連合艦隊の敗走を見届けたロレンツォとユーリエは、宙域に残るオーブ艦隊に目をやった。ヴァルシオン改・CFとガーリオンを中心に、残りのDCMS隊が布陣する。
「ゲシュペンストMkU? いや、装備の一部が異なるか、ならば初代ゲシュペンストか? なるほど。我ら同様のものがあちらに着いたという事か」
「旧式の機体にしては性能に目を見張るものがあります。相当チューンされた機体なのでしょう」
上官であるロレンツォの横に並び、ユーリエが自分の意見を口にする。
初代パーソナルトルーパーであるゲシュペンストは六年近く過去に開発された機体なのだが、予算度外視で開発されたため、チューン次第では新西暦の新型機とも互角以上に渡り合えるポテンシャルを秘めている。
今彼らの目の前に立つ漆黒のゲシュペンストはそのポテンシャルを引き出された機体なのだ。
ヴァルシオン改・CFは多少の被弾はあるが戦闘続行に問題はない。ただミサイルは撃ち尽くしており、クロスマッシャーの残弾も十発程。推進剤の残量も五十パーセントを切っている。
ユーリエのガーリオンはバーストレールガンとメガビームライフルを撃ち尽くしていて、ストライクダガーから奪ったビームライフルと残弾四発のバズーカを抱えている。
「他には核動力MSのフリーダムとジャスティス。それにストライクとバスター辺りが手強いか。あちらに渡したエムリオンもそれなりに活躍していたようだな」
「向こうから仕掛けてくる気配はないようですが……」
「マイヤー司令次第、いやカガリ・ユラ・アスハ次第だな」
戦闘態勢を維持したまま、ロレンツォとユーリエはカガリとマイヤーがどう動くのかを待っていた。
マハトの艦橋で、MS隊を展開したままこちらの反応を待つオーブ艦隊を、マイヤーは静かに見つめていた。
DC艦隊の中でも明らかに動揺するものや、内心で押し隠すもの、決別の色を瞳に浮かべるもなどが居るだろう。
良くも悪くもオーブ国民にとってアスハの一族は大きな存在なのだ。
「流石にこちらに仕掛けてくるような真似はせんか。ゲリラに手を貸していた頃に比べれば、ずいぶんと血の気が引いたと見える」
自分の子供の成長を喜ぶのにも似た言葉だ。リリーは二つに分けていたDC艦隊を合流させ、オーブ艦隊と対峙させている。
艦艇の数は連合ほどに差はないが、双方それなりに消耗しているし、互いに一撃で潜函を沈める大火力を有する戦艦が残っている。
ローエングリンを2門持つイズモ級の四番艦ツクヨミはDCに。二番艦クサナギ、三番艦スサノオはオーブ艦隊に。イズモ級の数はオーブ艦隊のほうが多いがアークエンジェルとマハトを比べればマハトの方が火力は上だ。
強力すぎて味方を巻き込みかねないから乱用できないのはお互い様なのだが。
後は互いに有する機動兵器とパイロットの質だろう。数ではもちろんDC側が優勢だ。
だがオーブ艦隊のフリーダム、ジャスティス、ストライク、バスター、ゲシュペンストの五機は、ロレンツォやユーリエ、トロイエ隊でなければ相手をするのは難しい。
両軍ともあまり戦力に余剰があるわけではない。互いに交戦したとて得るものはない。それが分かっていればむやみに仕掛けてくるようなことはないだろう、というのが両陣営共通の見解である。お互い台所事情がお寒いのだから仕方がない。
「どうする、カガリ? 連合の艦隊は撤退した。我々も退くか?」
クサナギの艦橋で、キサカはじっとモニター越しにDC艦隊を見つめるカガリに声をかけた。オーブ軍服に身を包み、准将の階級章を襟につけているが、それ以上にカガリの立場は重いものだ。
ビアンのクーデターは五大氏族の大多数と軍部の支持のもとに行われたもので、民衆の支持こそまだ完全に受けられているわけではないが、以前から繰り返されていた地道な政治的な活動の効果もあって、拒絶されているわけでもない。
戦争が拡大する現在、強力な軍事力と不退転の意思を見せるビアンやそれに恭順している軍部の姿勢に、国民も従っても良いものかどうか判断に窮する所があるのも仕方ない。
そんな中、カガリは血のつながりこそないもののウズミの正統な後継者である。オーブの代表は五大氏族の中から選ばれるが、DCにアスハ家以外の四家が与した以上首長としての継承権を放棄した形となり、オーブという国家を継ぐのはカガリのみということになる。
オーブ本国から追われたにせよ、カガリは否がおうにもオーブの代表として行動しなければならない。連合やザフトがそれを認めるかどうか、という話とはまた別の、心構えという意味合いが強いが。
意を決した様子で、カガリはキサカに告げた。
「DC艦隊に通信を」
「……分かった」
カガリの眼差しに感じたものを信じて、キサカはオペレーターにすぐさま回線を開かせた。
「クサナギから全艦艇に向けて通信が入れられています」
「かまわん。好きなように放送させよ」
マイヤーは黙ってカガリが何を言うのかを待った。あまりに真っ直ぐすぎて周りを省みることが出来なかったじゃじゃ馬が、少しは成長したのだろうか?
マハトのメインブリッジ正面モニターに、やや緊張したカガリの姿が映る。オーブ国民であるDC兵は固唾を呑んでその姿を見守っていた。
『私は、オーブ首長連合国前代表首長ウズミ・ナラ・アスハの子カガリ・ユラ・アスハ。オーブ本土において行われたビアン・ゾルダークのクーデターによって国土を離れているが、オーブ国民が戦火に見舞われる事態を看過する事は出来ず、今回の戦いに介入した。
それは一重に、ディバイン・クルセイダーズと名を変えても貴方達が私の愛するオーブで生まれ育ち、オーブの理念を知るかけがえのない民だからだ。
今は歩む道をたがえ、こうして対峙しているが、私が、父ウズミが愛し守ろうとしたオーブとそこに住む人々への思いは変わらない。
他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の戦争に介入しないという我がオーブの理念。それが今地球連合とザフトとの戦いが激化する時勢に沿わず、両極化する時代に取り残されたものであったかも知れない。
だが、あえて私は問いたい。諸君らはナチュラルとコーディネイターが終わりの見えぬ戦いを繰り広げる今の時代に、どちらにもよらず中立を謳う意義を。
ディバイン・クルセイダーズ。私カガリ・ユラ・アスハは、いつか必ずオーブの土を踏み、オーブを再建して見せる!』
「いうようになったものだな。カガリ姫」
『! マイヤーか?』
カガリの演説を聴き終えたマイヤーだ。DCの将校や兵が聞き入る中で、二人の会話が放送される。
「今の姫の陣容を見れば、国を追われてから無為に日々を過ごしたのではないことは分かる。それなりに口にした言葉を実現する為の努力はしたようだな」
『そんなことを言う為に通信をつないだわけではないだろう?』
「よろしい。では単刀直入に言おう。我々DCの軍門に下れ」
『なんだと!?』
「国を焼かれることを憂うなら、その力我々に貸して欲しい、そう言っているのだよ。我々DCも大国と呼べるほどの力はないのでな。アークエンジェル級やイズモ級、保有するMSにパイロット。いずれも遊ばせておくにはあまりに惜しい。
それにカガリ姫が自らDCに降ったとあればアスハ派の兵の軋轢も解消できるだろう。個人の感情を殺し、国民を守る刃となり盾となる。決して間違った選択肢ではないはずだ」
理念ではなく国に住む人々を思うならば力を貸せ。言ってしまえばたったそれだけの事だ。だがそれだけの言葉の重さは計り知れない。
「カガリ」
フリーダムとジャスティスのコクピットで、キラとアスランはそれぞれカガリの決断を待った。ウズミが命を賭けて宇宙へと上げた自分達。カガリの決断次第では、その意思を無為にする事になる。
だが、オーブに迫る危機を払う為にはより強大な武力がいる。短いが果てしなく重たい沈黙の後、カガリは口を開いた。
『それは……できない。他国への武力侵攻を掲げるDCへ与する事はオーブの理念以前の問題だ。いたずらに戦渦を広げ死者を増やす事態へ道を広げることではないのか?』
「ふふ、確かにDCの蜂起はそう取る事も出来るな。では、連合の脅威に晒される国民は見過ごすのかね? カガリ姫」
『それもできない。再びオーブが、戦火の脅威に見舞われるならその時は私の命を賭して戦う。私一人で出来ることはほんのわずかだ。だが、今ここに居る者たちのように力を貸してくれる人々がいる。
そんな人々がいる限り、私は負けない、折れない、屈しない。今一度言う。ディバイン・クルセイダーズ、例えどれだけの年月を経ても、私は必ずオーブに帰還する。ナチュラルとコーディネイターの区別なく、平和を享受できる国を取り戻す』
「開き直ったか、それとも腹を括ったか。カガリ・ユラ・アスハ、覚悟のほどしかと聞き届けた。とりあえず此度の戦闘では助けられた。その事には礼を言おう。
カガリ・ユラ・アスハ、貴女の言葉が実現される日まで、オーブは確かに預かった。己の信じる道を行くがいい。その道が正しければ歴史は貴女の名を勝者として刻むだろう。一つ言っておく。
オーブという“場所”にこだわっていては、見るべきものを見失うぞ。国とはなんなのか、今一度考えられよ。……全艦、転進。アメノミハシラへ帰還する」
マハトを筆頭に、マイヤーの指示に従って一糸乱れぬ動きで艦隊が動く。ダイテツなど純粋な艦長職にある者達は、DC艦隊の錬度の高さに多少の羨ましさと、侮れぬ現実を突きつけられて唸る。
「カガリ?」
マイヤー相手に喋り終え、そのままの姿勢で立ち尽くすカガリに、キサカは声を掛けた。年相応の少女の肩には目に見えぬ重荷が幾重にも重なっている。
「キサカ。私のしようとしている事、した事は正しいのか?」
「……わたしに言える事は、カガリは間違いなくオーブの後継者であるという事だけだ」
では、そのオーブの理念が間違っていたら? 国民に痛みを強いるものであったとしたら、どうすればよいのだ? 喉まで出かかった言葉をカガリは飲み込んだ。
一国の代表としての資質に欠ける事を誰よりも痛感しているのは、カガリ自身だった。
かつて、ヘリオポリスでMSの開発が行われている事を知らなかったウズミを、こう、カガリはキラを前にして評した事がある。
“知らなかったと言った所で、それも罪だ!”
そう、一国の最高責任者たるもの、己れの知らぬ所で繰り広げられた策謀であっても、知らぬ存ぜぬでは通らない。万民の生活を預かり、責務を負う為政者が、『知らなかった』などと口に出していいはずがない。
今、カガリはその知らなかったとは言えぬ立場に立っていた。もう、カガリは自分勝手な正義感を満足させる事にやっきになってもいい少女では無かった。彼女を導いてくれる父はもう傍らにはいない。
その事を、カガリは知っていた。自分の行動の全てが、幾人もの生命と人生を左右するのだ。それを理解していた。それは、彼女自身も気づかぬほんのわずかな成長。
宇宙での戦闘が終息を迎えるよりも前、わずかな休息の時をオウカやマルキオの元で暮らす孤児達と過ごしていたシン達、若きDCの兵士達を見守るビアンとマルキオの姿があった。
シン達が海岸に遊びに行った翌日の事である。オウカの体調も安定し、今はノースリーブの青い上着と白のロングスカートをはいて、ステラや幼い子供達とおしゃべりをしていた。
『モモタロスと仲間達』という、旧日本国の古い昔話を聞かせているらしい。なぜかシンが特に耳を傾けている。気になるキャラクターでもいるらしかった。
「桃から生まれたコーヒーが好きなモモタロスは、鉞担いだキンタロスと、とても女の人が好きなウラタロス、おもちゃのピストルをもったリュウタロスと一緒に、
さらわれた良太郎王子さまを助ける為に、異魔神がすむという島へ向かいました。途中、デネヴという、忍者のような格好をした世話好きな人を道案内に加え……」
オウカの優しい読み方に、子供達とシンは真剣に聞き入っていた。内容はともかくとして、慈母の笑みを浮かべたオウカの周りで幼子達が瞳を輝かしてお話に夢中になっている光景は、誰が見ても心和むものだった。
場所はオノゴロ島にある避難用のシェルターの一室で、大きな円形のソファやカーペットの上で子供達は思い思いに遊んでいる。
私服のスティングやアウル、シンやマユも昨日に引き続いて子供達の相手をしていた。彼ら自身も十分に子供なのだが、年下の相手をする経験は珍しいのか、『お兄さん』ぶろうとしている。
もっとも、それが出来ているのはスティング位で、シンやアウル、特にステラは子供達と精神年齢は同じかもしれない。
SP代わりのソキウス三人とミナを連れたビアンは、ソファに腰をおろしてマルキオと話をしていた。
「子供達が楽しそうですね。彼等も、貴方が引き取って間もない頃に比べれば随分と明るくなった」
目は見えなくとも、マルキオは子供達の話声や雰囲気から、その笑顔や喜びが感じ取れるのだろう。子供達の方を向いて小さく微笑していた。
「そうだな。良い事だ。所で暮らしの方で何か差し障りはないか? できる限りの事はしよう」
「いえ、お気づかいなく。所で、オウカの事ですが……」
温和な顔立ちに、不安の一雫を垂らし、マルキオはビアンに向き直る。
「分かっている。彼女を戦場に立たせるような真似はすまい。容態の方も安定している。後は、子供達と共に在る事が、彼女にとって一番の治療法だろう。私が言う資格はないが……静かに暮らす事が彼女にとって何よりの幸福だろう」
「そうですね。ところでビアン総帥、一つ、頼みがあります。プレア」
マルキオが一人の少年を呼び寄せた。おのずと輝きを放つ見事な金髪に、吸い込まれてしまいそうな神秘的な青い瞳をした十代前半頃の少年だった。穏やかな表情に、どこか高貴な雰囲気を纏っている。
マルキオの傍らで足を止めたプレア少年は、ビアンをまっすぐ見つめて、小さく会釈した。威圧的なビアンの風貌を恐れる風も無い。肝も座っているらしい。
「情勢が落ち着いたら、この子を宇宙へ上げて欲しいのです」
「確かプレア、と言ったな? この子に何をさせる気だ?」
「今地上で苦しむ人々の救いとなるモノを。それ以外の事は、彼自身が決めるでしょう」
マルキオのいうモノに思い当たり、ビアンはプレアを見つめ直した。傍らのミナもビアンと同じものを思い浮かべたのだろう。いささか険しい視線でプレアを見つめた。
「仮に、導師のいうものが私達の想像通りのものだとしたら、場合によっては数万、いやそれ以上のオーダーで死人が出る。救える数も多いが、死ぬ者の数も多いぞ」
紅を塗らずとも妖しいまでに艶やかな紅唇から詰問するミナに、プレア少年が初めて口を開いた。穏やかな口調ながら、自己の意志を通したはっきりとした物言いだった。
「ですが、今この時にも死ぬ人々がいます。その人たちに、貴方達よりも多くの人が死ぬかも知れないから助ける事は出来ないと言う事はできません。僕は、この命を多くの人に役立てたいのです、ロンド・ミナ・サハク様」
「顔も知らず、名前も知らず、会った事の無い者の為にか? 有限の命を更に縮められた子よ?」
「……はい。どれだけ生きたかではなく、どう生きたか。何を成し得たか。人の生はそうあるべきだと、僕は信じています。この限られた命でできる事があるならば、僕は喜びを持って行います」
「良い目だ。我らDCに欲しいものだがな。ビアン」
「うむ。近く連合との戦闘が起きる。現在軌道上でも戦闘中だ。他国へ出てから民間ルートで宇宙へ上がれるよう手配をしておく。それで良いかな?」
「ありがとうございます。ビアン総帥」
幼い容貌に感謝の笑みを浮かべるプレアを、ビアンとミナはどこか痛ましげに見つめた。この少年の素姓を知るが故に。
「前から頼まれていた治療薬は用意した。オウカにも別の薬を飲ませておけ。あの子もまだ不安要素が無いわけではない」
背後に控えていたワン・ソキウスがトランクケースを机の前におく。プレアの抱える宿命と呼ぶべき病と、強化措置の副作用がいつ発症するとも分からないオウカの為に用意された薬が収められている。
連合から離反したエクステンデット研究者やビアンが記憶していた新西暦におけるアードラー・コッホや大脳研などのデータを元に開発された、強化人間用の治療薬の一種だ。
オウカのおとぎ話は、ビアンやマルキオ達の緊張を孕んだやりとりを尻目に、続いていた。
「『太陽』。異魔神がそう呟くと、なんという事でしょう、それまで暗雲が立ち込めていた島に、眩い太陽が生まれたのです。でも、モモタロスは負けません。見上げるほどに巨大な異魔神に向かい、こう言いました。
『おれは最初からクライマックスだぜ!』怯える様子を見せないモモタロスに勇気づけられたのか、キンタロス達も、やれやれと言った風に自分達の武器を構えました」
その日は、ビアン達はシン達よりも先にシェルターを後にした。シン達が休暇の終わりを告げられたのは、それぞれの家へ帰った後の事だった。
「こうして異魔神を倒したモモタロス達は、良太郎王子を助け出しました。次は、自分達を主上と呼ぶキリンという生き物に出会った彼らが、慶という国の王様になるまでのお話です。めでたしめでたし」
「めでたいですか?」
オウカの読む胡散臭いおとぎ話に、シンは首を捻った。
その翌日。新たな戦場へ向かう為、朝早くに家を後にしたシンは、涙目になったマユと、息子の身を案じる両親に短く別れを告げた。そうしなければ、零れる涙を家族に見られてしまいそうだったからだ。
ただ、必ず生きて帰る。それだけを胸に強く誓った。
オノゴロ島地下ドック。スペースノア級専用となっているこの場所に足を踏み入れるのにも幾分慣れてきた。オーブの軍服とは違い、中世欧州風の装飾がされたDCの軍服に袖を通して、シンはここまで一人で来た。
一般の兵の着るものはそれほど華美ではないのだが、一部の高級将校や特殊部隊の隊員などは、身分を分かりやすくする為にこう言った見た目に分りやすいものを着ていた。
既にステラやテンザン達は乗艦している。ギナやエド達も、宇宙に上がる前に連合の艦隊と矛を交える事にしたようで、タマハガネのハンガーにはGF天やソードカラミティ、フォビドゥン・ブルーが見受けられた。
リラクゼーションルームに顔を出すと、メカニックや衛生兵に混じって歓談しているステラ達の姿があった。テンザンはハンガーでなにやらメカニックと話し込んでいた。
「よう、シン。遅かったな」
炭酸飲料片手にスティングがそれまで話をしていたCIC要員グループから離れた。アウルはギナ配下の三人のソキウスの誰か相手にボードゲームに興じていた。
ギナとソキウスが別行動をしているのは珍しい。
「おれで最後かな?」
「さあな。最後の方ではあるかもしれないけどな。そう言えば聞いたか? グレッグ一佐の話。准将に昇格して艦を降りて代わりが来ているらしい」
「早過ぎないか? グレッグ艦長だって就任してすぐだったろう? それをこんな短期間で? それにクルーとのシミュレーションだって碌にできないじゃないか。そんなんで大丈夫なのか?」
「優秀だってグレッグ艦長も太鼓判を押していたらしいぜ。おれ達が休暇を取っている間にみっちりブリッジクルーと親交を深めたんだとさ。結構愚痴っているぜ」
どうやらシン達パイロット組が心身を癒している間、タマハガネクルー達はそうもいかなかったらしい。流石に連合との再戦が近いことは明白だから、一日くらいは休暇があっただろう。
「スティングはその新艦長と会ったのか?」
「いや、ただ名前は聞いている。随分変わった感じだったな。確か、エペソ・ジュデッカ・ゴッツォとかなんとか、コーディネイターらしいぜ?」
確かに長いな、とこの時のシンはそれ位にしか考えていなかった。グレッグは強面ではあったが温和な性格で、慎重さの中に果断な決断をする意志も持っていた好人物だった。
またああいう人だといいけど、シンはそう小さく胸の内で呟いた。
地上のDC艦隊はオーブ本島から遠く離れた海上、領海線よりもさらに遠方で連合艦隊を迎え撃つべく布陣していた。マイヤーから軌道上で連合の第二陣と戦闘に入ったという連絡を受け、DC地上艦隊にも緊張が走る。
宇宙ではふたたびオーブ艦隊の介入があった事が伝えられ、DCに所属した旧オーブ兵達にも少なからず動揺が走ったが、それも目の前の戦いの緊張が払拭する。
旗艦タケミカズチに乗艦したビアンを始めとした艦隊の首脳部は艦橋正面モニターに映された連合艦隊を見つめ、険しい顔色を浮かべていた。
エムリオンとストライクダガーのキルレシオを考慮しても覆しえない物量差だ。
流石に度重なる敗戦から、連合側もディープ・フォビドゥンやフォビドゥン・ブルーなどの少数ながら、生産した水中用MSの他、スカイグラスパーを中心にレイダー制式仕様を含む航空戦力を多数抱えていた。
これまでよりもより苦しい戦いを強いられるのは目に見えていた。逆に言えばこの戦いを凌げば、流石の連合も戦力の再編成に長い時間がかかるだろう。
ましてや宇宙ではザフトが戦力を強化しつつあるのだ。いつまでも地上の小国に拘るわけにはいかない。いささか大きすぎる目の上のタンコブではある事は確かだが。
「タマハガネ所定の位置に着きました。連合艦隊先鋒、第一次作戦ラインにまもなく到達します」
オペレーターの告げる現状に、トダカとビアンは頷いて答えた。迫る連合艦隊を力で退けねばならない状況は、とうの昔に分っていた事だが。いざ実行しなければならないとなれば、途方もない重圧を伴う事になる。
それに屈するほどやわな男たちではないのは、言うまでも無いだろう。
「ビアン総帥。ヴァルシオンの出撃準備はすでに整っています」
「うむ。全艦に通達。これより我々ディバイン・クルセイダーズは、眼前に迫る連合の艦隊殲滅戦に入る」
「コンディション・レッド発令、会敵まで残り三十」
超望遠モニター越しにも、連合艦隊もまた動き始めた事が見える。にわかに慌ただしくなり、垂直ミサイルセロから数多の巡航ミサイルがその先端を覗かせ、航空機やMS隊が発進の用意を整えている。
絶望的な戦力差で、決戦の火蓋は切って落とされた。
互いの艦艇から無数のミサイルが白煙の尾を引いて空に弧を描いて降り注ぎ、DC艦隊は宇宙での戦闘でも用いた艦艇用の広範囲エネルギー・フィールドを搭載した防御艦が、対空砲火で撃墜しきれなかったミサイルを受け止める。
「ミサイル第一波射出後MS隊を出せ。右翼と左翼を開く。連合艦隊を誘い込め」
トダカが矢継早に命令を出し、タケミカズチ・タケミナカタを始めとする仮装空母や、巡洋艦を改装した軽量空母からエムリオンとシーエムリオン隊が次々と発進する。
砲撃支援のバレルエムリオンの他、M1用に開発されていたフライトユニットを搭載した、鹵獲機のストライクダガーも順次艦隊前方に展開する。
連合艦隊は圧倒的な数でそのままDC側を押しつぶす作戦を取ったらしく、三倍以上の艦艇をそのまま前進させる。確かに下手に小細工を弄すればその隙を突かれる可能性も無いではない。
正面からの力押しこそが最も効果的な戦術となる事もある。
「キラーホエール艦隊、連合潜水艦隊と交戦」
オペレーターが次々と述べる状況に耳を傾けていたビアンが、ミナとソキウス達を伴い、艦橋を後にする。
「トダカ、指揮は任せる」
「出られるので?」
「私が姿を見せた方が兵の士気も上がる。ミナ、ワン、ファイブ、トゥエルブ、行くぞ」
艦橋を後にするビアンの背を見つめる事数瞬。トダカは正面モニターを振り返り、指揮を執った。今、自分がやるべき事を間違える男ではなかった。
連合のストライクダガーが陸戦系である以上、空戦能力を備えるエムリオンに対し不利なのは何度も重ねて述べたが、連合とて学習しないわけではない。
ザフトが用いるグゥルというMSのサポート用のフライトユニットに似たモノ通称ゲタを多数用意し、ストライクダガーをそれに乗せて空戦能力を与えていたのだ。
他にも生産ラインが稼働されたストライクの制式量産機ダガー、通称105ダガーにエールストライカーを装備させたものが、姿を見せている。
ラミネート装甲の装備やストライカーパックシステムでコストがかさむ為に、ストライクダガーに比べればその数は微々たるものだが、これで空はDC側のものだけではなくなっていた。
海中でも連合側のディープ・フォビドゥンやフォビドゥン・ブルーがこれまでの一方的な敗戦の汚名を返上すべくシーエムリオン達と銃火を交え始めている。
空と海と、これまでDCが有利に進めていた戦場の様相を覆そうと、連合も本気になったのだ。
勢いに乗る連合艦隊はDC艦隊の前面にひしめくほどの数で並び、圧倒的な数とそれが生む火力で迫っている。
各空母や輸送艦から出撃したDCのMS隊も数の差を考えれば驚くほどの善戦を見せているが、一機に対し三〜五機近いストライクダガーやスカイグラスパーなどが襲い掛かっており、早々にエネルギー・フィールドを破られて、戦線を離脱する者も出ている。
ストライクダガーの57ミリエネルギーライフルとセットになったグレネードランチャーがエムリオンのエネルギー・フィールドを破り、防御の要を失った本体にビームが突き刺さる。
かろうじてリオン・パーツの損害のみで済んだエムリオンが、パージと同時にテスラ・ドライブで加速し、相対していたストライクダガーの胴をビームサーベルで両断した。
PS装甲が採用されているエムリオンだが、ストライクダガーの主装備がビームライフルである為に、エネルギー・フィールドが突破されると撃墜の可能性がにわかに高まってしまう。
相手が、実体弾が主流のジンやシグーといったザフト系MSならばもっと楽な戦いができるだのが、言っても始まらない。それに艦艇からの攻撃にはPS装甲が十二分に効果を発揮しているのだ。
タケミカズチの艦橋では、次々と交戦の情報がひっきりなしに飛び込み、トダカや各艦長、指揮官がそれらに対応してゆく。
高機動性を誇るエールスカイグラスパーや、320m超高速インパルス砲アグニを装備したランチャースカイグラスパーの方が、むしろストライクダガーよりも厄介な敵だった。
第二次DC討伐艦隊旗艦“パウエル”で、艦隊司令ダーレスは昨日の一方的な敗北とは違った展開に内心で胸を撫で下ろしていた。今回はあの口うるさいオブザーバーである、ブルーコスモスの盟主もいない。
変わりに、生体CPUを調整している薄気味悪い老人がいる事は不愉快だったが。
だが真に安堵する事は出来ない。敵にはあのヴァルシオンとかいうとてつもない機動兵器が残されている。ダガーだけではあれに勝てない。おそらくあの一機だけで一個艦隊や二個艦隊位なら全滅させられるだろう。
通信士の一人に、ダーレスは声を掛けた。
「別動隊の動きはどうか?」
「は。戦闘海域を迂回し、予定通りオーブ本島へ向かっています」
現在DC艦隊と交戦しているのとは別の連合艦隊が、オーブ本島やオノゴロ島制圧の為に動いているのだ。こちらの主力艦隊でDC艦隊を打ち敗れればよし。別動艦隊が本島を制圧するのが先でも良い。
DCは総力をこちらの艦隊に向けているだろうから、よもや別動艦隊が壊滅するような事はないだろう。
ダーレスは多大な犠牲を払ってまでDCを正面から潰す事を望みはしなかった。上層部の思惑がどうあれ、実際に戦って死ぬのは彼の部下なのだ。犠牲は少ない方がいいに決まっている。
「DC艦隊後退してゆきます」
「このまま前進。各員奮闘せよ」
数の暴力を前にじりじりと後退するDC艦隊に、早く降伏してくれないものだろうかと、ダーレスは思わざるを得なかった。
彼はブルーコスモスのシンパでもなければ、コーディネイター殲滅主義者でもない、まともな軍人だった。
連合の艦隊が左右に広がったDC艦隊の中央を突破する形で全身を続けDCは艦隊、MSともどもじりじりと後退戦をしていた。
それでも、グゥルもどきで飛行能力を得たとはいえ、ストライクダガー相手ならば断然有利にエムリオンは戦えたし、エールストライカーを装備した105ダガーを相手にしても引けは取っていない。
絶対数の差はともかく、撃墜されたMSや艦艇の数は、連合側の方がはるかに上だった。
タケミカズチのブリッジでは、オペレーターの一人がいまかいまかと待ち構えていた報告を受け取り、トダカに大声で告げた。
「連合艦隊七割が作戦ポイントα、β、γに到達」
ようやくか、その思いでトダカは各員に即座に命令を下す。切り札の一つの使い時が、辛抱に辛抱を重ねてようやく来たのだ。
「重力アンカー起動シークエンススタート。友軍を下がらせろ」
DC艦隊の動きに、ダーレスは濃い眉を寄せた。DC艦隊は中央を下げて左右に扇状に広がっている。こちらを包囲する気か? だが、それでは艦隊の層が薄くなってしまう。
包囲した所で、なんとかなる物量差ではない。それが分からぬほど無能なのだろうか、DCの軍部は?
だがその疑問は最悪に近い形で裏切られる事になった。DC艦隊中央を突破しようとしていた艦隊が、突如海ごと、半球形に沈みこんだからだ。一隻だけではない。DC艦隊が描いた包囲の半円の内側に沿って、海面が球形に抉れて――いや、潰れているのだ。
「何事だ!?」
「わ、分かりません。突如海面が沈んだとか……。これは、重力異常です!」
「ばかな、これほどの規模で重力に干渉したのか!?」
連合艦隊を襲った重力異常は、かつて新西暦でアイドネウス島に落下したメテオ3と呼ばれた異星人からの贈り物に、新西暦のDCの前身であるEOTI機関が仕掛けた重力アンカーの超広範囲版だった。
予測会敵海域海底に三角形を描く形で仕掛けられた三基の重力アンカー発生機が起動し、範囲内の連合艦隊や機動兵器の全てを見えざる重力の錨に繋いだのだ。
「おのれ、こんな隠し玉を持っていたのか。脱出は!?」
艦隊後方で重力アンカーの効果範囲から外れていたパウエルで、ダーレスは怒鳴り散らした。
「……不可能です。こちらの艦艇の推力では、重力を振りきれません!
「ばかな、これでは全滅もあり得るぞ?」
海面に引きつけられ、動きを鈍くするスカイグラスパーやレイダー制式仕様、エールダガーを鴨撃ちの様に撃墜しながら、後退していたDCのエムリオン隊が反撃に出た。
動けぬ連合艦隊に遠方からレールガンやビーム、ミサイルが飛来し、無事だった連合艦隊も前方の友軍が身動きのとれぬ状況に足並みを乱して、数の利を活かせずにいる。
闘いの趨勢は一挙にDC側へと傾いていた。
「センサーに感、急速接近する熱源、接近しつつあり、戦艦クラスと思われます」
「このタイミングで! カラミティ、フォビドゥン、レイダーを出せ。彼らに迎撃させろ、何としても近づけるな!」
「司令!」
「何だ!」
「DC空母よりヴァルシオンです!」
ぎりっとダーレスの噛み締めた奥歯が鳴った。追い詰めた筈の獲物が牙を剥き、今や狩人はDCとなった。そんな思いが胸の中で不安の黒渦を巻いたからだった。
重力アンカーの見えざる圧力を挟みパウエルと対峙するタケミカズチの増設された内部デッキから甲板にせり上がる機影があった。
降り注ぐ陽光を浴びて血の色に輝く巨体。禍々しく触れる者全てを傷つけるかの様なシルエット。見る者の心に言いしれぬ重圧を与えるその姿。紛れもなくこの世界に訪れた機械仕掛けの、真紅の魔王ヴァルシオン。
究極のスーパーロボットと賛美され、恐れられた希代の天才ビアン・ゾルダークが心血を注いで作り上げた機動兵器。
その背後にはミナの美貌を再現したヴァルシオーネ・ミナ通称ミナシオーネと、白・黒・灰色に塗られた女体のラインを思わせる華奢な超音速の妖精フェアリオンが三機。
さあ、破壊の宴がようやく幕を上げるぞ。
「行くぞ」
ビアンは言葉短く告げた。ミナが、ソキウス達が沈黙を持って応じる。重力アンカーの効果範囲を避け、血塗れの魔王と闇夜の衣を纏った戦女神が、三体の鋼鉄の妖精と共に戦場を飛んだ。
DC総帥自らの出撃に、DC側の士気は盛り上がり、逆に初戦におけるヴァルシオンの理不尽なまでの戦闘能力を知る連合諸兵の士気は著しく下がる。
「一気に敵の頭を叩く。ソキウス、お前達はビアンと私の援護に徹せよ。無理に戦う事はないのだからな」
「はい」
DMR(ダイレクト・モーション・リンク)システムでミナシオーネと連動したミナは、ナチュラル相手に無理は出来ぬソキウス達にそう告げて、ヴァルシオンと共に連合の艦隊中枢めがけて、機体を加速させた。
テスラ・ドライブを内蔵したウィング・バインダーを広げ、両腰部にマウントしたハイパー・ビームキャノンとレクタングルランチャーを両手に持つ。
敵の数は多い。とりあえず撃てば当たるという状況だ。そんな状況に呆れを交えてミナは苦笑する。それでも余裕は失われてはいない。自分達の勝利を信じるというよりは、そうなると知悉しているような笑い方だった。
「ここまで数に差があると滑稽だな」
よほどヴァルシオンが恐ろしいのか、空にも海面にもうじゃうじゃといる連合の兵達は攻撃を仕掛けはこない。気持ちは分からないでもないが、いささか、情けない話ではないだろうか?
かかって来ぬのならこちらから仕掛けるまで――。機動性ではDCの保有する全MSでも1,2を争うミナシオーネに狙われて、逃げる事の出来る兵器など連合にはない。
ミナシオーネが一隻のイージス艦に狙いをつけて急降下するのと同時に、例によってゴシックロリータ調の服を着こんだ三人のソキウス達のフェアリオンもその周囲を固めた。
艦の危機に気付いた周囲の下駄履きのストライクダガーやスカイグラスパーを、フェアリオンがその速度と旋回性能、運動性を活かして瞬く間に無力化し、ミナシオーネは悠々とレクタングルランチャーの数射でイージス艦を無力化する。
ハイパー・ビームキャノンの青い光弾、レクタングルランチャーが混戦状態の中正確に連合のダガーや戦闘機を撃墜し、膨大な数を一つ一つずつ削ってゆく。
ミナシオーネのサイコブラスターを恐れてだろう、散開して射撃戦を挑む連合のMS達を不敵に見回し、ミナは挑発的に呟いた。
「このミナシオーネに傷の一つも着けられるかな?」
連合の兵からすれば死神にも等しいヴァルシオンは、その圧倒的な戦闘能力と巨躯で、巨人と小人の戦の様に、連合の戦力を蹴散らしていた。
新西暦世界においても単機で戦局を変えうる機体だ。今は本来の性能を発揮できずにいるといえども、その力は常軌を逸している。
振り上げたディバインアームから斬孤の軌跡に沿って走った光の斬撃が、巡洋艦を横から両断し、鋼の船体を薄紙のように切り裂く。若干のタイムラグを置いて左手から放たれたクロスマッシャーは、射線軸上のMSと戦艦を纏めて貫いて爆発・四散させる。
イージス艦の単装砲やストライクダガー、スカイグラスパーの砲火も集中するが、ヴァルシオンの展開する歪曲フィールドがそれらを尽く弾いてみせる。
しかし、流石に立て続けに砲火を浴び、出力が落ちた所にアグニ級の一撃を受けるとさしもの歪曲フィールドも突破されて、ヴァルシオンの装甲を、320m超高速インパルスが焼く。
左肩のアームガードでアグニの砲火を防いだビアンは、550トンという超重量の機体を、テスラ・ドライブによる急加速で疾駆させ、アグニを放ったスカイグラスパーをディバインアームで切り裂く。
歪曲フィールドを突破しても、ヴァルシオンの堅固な装甲が、コロニーの外壁すら貫くアグニにも耐えてみせるのだ。ヴァルシオンの撃墜は数を持ってしてもなお困難な一事だ。
「あまり、ここで戦力を失うわけにはいかぬのでな。諸君らには悪いが、早々に退場してもらう」
重力アンカーによって艦艇の七割強が行動不能に陥った連合艦隊に向かって、ヴァルシオンは容赦や情を捨てた悪鬼となった。放たれるクロスマッシャーの数だけ艦艇が沈み、数百、数千のオーダーで人命が失われてゆく。
母艦や戦友を失い、怒りに駆られた連合の兵達を、ビアンは卓越した技量で軽々とあしらい、数の暴力が通じぬ絶対的な存在と化して連合艦隊に死と破壊を与え続けている。
「クロオォォスマッシャアアーーー!!!」
ヴァルシオンの出撃から十分、撃沈した艦艇の数は十隻を超えた。第八艦隊が壊滅した低軌道会戦以上に一方的な展開であった。連合艦隊の不運はこれで終わらない。
連合艦隊の側面から、温存していたストーク級空中母艦三隻、虎の子のスペースノア級万能戦闘母艦壱番艦『タマハガネ』と特殊任務部隊クライウルブズが強襲したのだ。
446 :
660:2007/08/15(水) 23:56:28 ID:???
というわけで、第十七話はここまでです。新カンッチョサンはエペソ司令でした。
最初エペソで、グレッグに代わり、イングラムとユーゼスもありだな、と思ったものの結局エペソに落ち着きました。
名前ですけれど。
それでは、忠告・指摘・ご助言お待ちしております。
お疲れ
主力とは別に動いてる部隊に対しどう動くのかが気になるけど・・・
まさか電王が出るとは
こいつぁ予想外だったぜw
乙鰈。堪能しますたー。
下駄履きのストライクダガーの存在がなんか引っかかるなぁ……何の暗示だろう?
>>449 おまwwwwwwwやっぱりあっちも見てた奴いるよなwwwwwww時間近いしwwwwwwww
俺も見てた 結構いるよな
つまりここにも全裸が何人かいる、と?
おそらく
GJ!
電王から十二国につながる昔話とか想像を絶するものがw
>>452 それはオレのことかー!?
夏だからって全裸待機は止めておけとw
そしてやっぱりエペソなのね……。
今更っちゃあ今更なんだが…誰かゴシックロリータ調の服を着込んだソキウスに突込みとか入らないのか?
無表情にそれなりにがっしりした体(戦闘用でパイロットなんだし)にゴスロリ服着込んでフェアリオン……
ジョナサンや草葉の陰でフィリオが泣いてそうだw
脳内でソキウスsを綾波とか長門とかの無口キャラにしておけばおk
エペソが来たってことはガドル!(ryの人や我は…我はぁーっ!の人も来てる可能性があるってことだな…兄貴も…
ニルファサルファでは故人だからフィリオはCEに来ていて既に泣いているかもなw
んでニートが「フィリオは今泣いているんだ」とほざきつつ
ゴスロリオンを16分割しようとするが、あえなく返り討ちにあうとかwww
泣いていてもその涙はむしろ歓喜の涙だろうなwwwww
エペソはコーディネーターなんて生易しいもんじゃないなw
ソキウスの如く量産されてた人たちだが、優秀で済むレベルじゃないからなぁ。
乗艦が撃墜されてから本気を出す人たちですから。
エペソがいるということはバルマー系の技術もある程度入ってきそう。
シヴァーさんがどこにつくか次第か。
シヴァーか、ガンエデンシステムの有無で行動がだいぶ変わってきそうだ。
ハザル坊のあれは死んでるかどうかも気になる。
綺麗なテンザンに続いて、綺麗なハザルかw
坊は元から奇麗だろw
エペソさんは本当に凄い人だからな
ヘルモーズ撃墜→「何故余が死なねばならんのだ」
中から出てきたズッフィー撃墜→「フフフ…これで勝ったと思うな」
って言うくらいアレな人だけどな!
>>466 こう並ぶと、いよいよ新リュウセイにお出まし頂きたくなるなw
第十八話 ダンスの後には紅茶を一杯
出撃を前に、コクピットで出撃前に機体のコンディションをチェックするシン達に、アルベロが重々しく告げた。
「各員、そのままで聞け。戦場では生の中に死がある、死の中に生がある……。死中に活を見いだせ、与えられた任務を確実に遂行し、必ず生きて帰れ。
死には何の意味もない。倒すべき敵を倒し、生き延びろ。生に執着しろ。それが、我がクライウルブズ隊の鉄則だ」
「了解」
「へっ、死ぬ気なんて最初っから無いって」
スティングとアウルが彼ららしい返事をし、ステラとシンも頷いた。そうだ、死ねない理由がある。生き残らねばならぬ理由がある。
だからといって戦場で生き残れるとは限らない。だが、生を望まなければ死の溢れる戦場に飲み込まれ、無残な死を晒してしまうのも事実。
ならば、アルベロの言う通り、たとえ醜くても生に固執する。死んでしまっては、何も出来なくなってしまうのだから。
「生き残る……」
ステラはその言葉を反芻した。『死』、かつてステラを縛った禁忌の言葉。エクステンデットと呼ばれた次世代強化人間を抑制するためのブロックワード。今はそれに対して拒絶反応を起こすような事はなくなったが、その意味を考えるようになっていた。
死、もう二度と動く事が無くなる事。命を失う事。
話す事も触れる事も、ぬくもりを与えてくれる事も無くなる事。もう二度と会えなくなる事。それを考える度、ステラは足元が何もない奈落に変わったような不安に襲われて、涙を流しそうになる。
それは、自分に限った事では無かった。ずっとラボで一緒だったスティングやアウル、かつて研究の一段階として殺めた仲間達、自分を助けてくれたビアンやミナ、DCの人達。そして、オウカや子供達、シンにマユ。
たくさんの思い出をくれた人達と二度と会えなくなって、話す事も出来なくなってしまったら……。それが何よりもステラは怖い。自分が死んでしまうよりも、知っている人達がいなくなってしまう事の方がずっと怖い。
だから、戦う力を持つ自分が、守るのだ。そう、ステラは誰でもない自分に誓っていた。それと、マユとも。
「シン、また、マユ達と遊ぼうね?」
「ああ、絶対さ。マユも喜ぶよ」
「うん、マユが喜んでくれるなら、ステラもうれしい。だから、皆、皆で帰ろうね」
「当り前さ。大丈夫、誰もいなくなったりするもんか」
「うん。マユや家族を守るシンを、ステラが守る。そうすればマユは泣かなくていい。マユと、約束したの。シンを守るって」
「そっか、マユと。大丈夫だよ。おれが守るのはおれの家族だけじゃない。ステラもだ」
「シン、ありがとう」
シンとステラは今が戦闘の最中というのも忘れて、モニター越しに見つめあっていた。まあ、おおむね甘い世界というものは長続きしないのが世の常だ。
「シン、ステラ、話を邪魔するが、そういうのは回線をオープンにしてするものではないぞ?」
「へ?」
どこか愉快そうにアルベロが、頃合いを見計らって二人の会話に入ってきた。いつもの鬚面に、少しだけ笑みを浮かべている。それを皮切りに、シンとステラのコクピットのモニターに、アウルやスティング、エドやジェーンが映し出された。
どうも、シンとステラの世界を見せつける結果になっていたらしい。ステラは大して気にしていないようだったが、シンはたまったものではない。戦闘を前にした緊張が、たちまち羞恥に萎んで行く。
「若いってのは良いなあ。なあ、ジェーン?」
「ここまで見せつけられちゃね」
陽気に笑うエドと微笑するジェーン。シンは穴があったら入りたくなった。アウルやスティングも何か言いたそうだったが、それ以上に笑いを堪えるので精一杯の様だ。
「き、聞いてたんなら早く言ってくださいよ!」
「いい雰囲気だったのでな。人の恋路をするものは馬に蹴られて死ぬと言う故事もある。ちょうど、全員の緊張をほぐれたようだしな。良く言ったな、シン」
「……絶対笑ってたくせに」
それでもふてくされているシンを無視して、今度はギナがモニターに顔を映した。まさか、ギナさんまで? 流石にそれはないだろうと思いつつ、シンは警戒した。
「戯言はそこまでだ。すでに先端は開かれた。我らの成すべき事は連合に死をまき散らし、ただ破壊する事。戦場に立ったならば、ただそれだけを遂行しろ」
「……はい」
思いっきり悪役の台詞だな、とかなりの面々が思ったが流石に口にはしなかった。ブリッジから連絡が入り、各機出撃の用意に入る。
「ウルフリーダーよりクライウルブズ各機へ、任務を遂行し必ず生きて戻れ! アルベロ・エスト、AI1、ガームリオン・カスタム出るぞ!」
タマハガネの艦首モジュールムゲンシンボから、アルベロ機から順にスティング、アウル、ステラ、シンが出撃し、他のカタパルトからギナのGF天、
エドとフォー・ソキウスのソードカラミティ二機、ジェーンとシックス・ソキウスのフォビドゥン・ブルー二機、サーティーン・ソキウスのレイダー制式仕様が出撃する。
と、シンはテンザンがいつものバレルに乗っていない事に気付いた。鹵獲した105ダガーで出撃するらしい。ストライカーパックも見慣れないものを装備している。
「テンザン隊……じゃなくて一尉。なんでダガーに乗ってるんですか?」
「ああ? せっかくのレアもんだぜ? ちっと性能が悪くたって一回は使うのがやりこみ派なんだっての。それにこのライトニングストライカーもおれ好みだしよ」
「ライトニング?」
「おうよ。射程120キロの加農砲よ。タマハガネの甲板上からボンボン戦艦落としてやるぜ。こっちだけずるして無敵モードみたいなもんだから、おれには難易度がイージーだけどよお?」
「そういうのって死亡フラグっていうんじゃないですか? 長距離の狙撃をかいくぐってきた敵機の攻撃に、とか。戦艦を庇って、とか」
「ばぁか。んなもん知るかよ? これはマジモンの戦争なんだぜえ。いいかシン、アルベロのおっさんが言った通り戦場に立ったら生き残る事を考えな。
心をぶっ壊しちまうのも、戦争が終わった後の事も、全部は生き残ってからにしろよ」
「……なにか、悪いもの食べました?」
「アホ! ここまで生き残った後輩に兄貴分が助言するハートフルなイベントだろうが!」
「……ますます死亡フ」
「さっさと行けっての!」
モニター一杯に顔を映して怒鳴るテンザンに負けて、シンはエムリオンを連合のMS達に向けて加速させた。アルベロ・スティング・ステラ・シンの四人でフォーメーションを組み、テンザンがそれを援護する形となる。
アウルとジェーン、シックス達は、三隻のストーク級から出撃したシーエムリオンと合流して編隊を組み、連合艦隊に海の中から襲いかかっている。
ギナの天とエド、フォー、サーティーンはそれぞれ独自に動いて敵の数を減らしているようだ。タマハガネの艦橋でも、新たに就任したエペソがブリッジクルーに手早く指示を出している。
緑色の長髪を首の後ろ辺りでまとめ、理知的な顔立ちの中に傲慢さと高貴さを滲ませる若い男だ。一佐の階級章を首の襟につけ、冷たいとも言える冷徹な瞳で戦況を見回している。
ビアンとグレッグの推薦で急遽タマハガネの新艦長に就任した端正な顔立ちの男だ。艦長席に座し、眼下のクルー達からの報告を聞き、心中で優先順位をつけて命令を出している。
「MS隊全機出撃。ナカジマ機は第二カタパルト上にて砲撃支援に入ります」
「連装衝撃砲1番から5番、照準を右前方イージス艦合わせ、艦を前進させよ。MS隊を支援する」
ストーク級三隻も連合艦隊を三方から攻め込み、浮き足立った艦艇に砲撃を打ち込んでいる。所詮四隻、しかし侮れぬ四隻であった。
下駄履きのストライクダガーにテスラ・ドライブによって、機動性で勝るソードカラミティが、背から抜き放った15メートルに及ぶ対艦刀シュベルトゲベールで、次々と両断してはオイルの飛まつが空中にしぶく。
エドのソードカラミティ二号機だ。肩のマイダスメッサーを投げつけ、105ダガーのエールストライカーのウィングを切り落としてバランスを崩し、左手のロケットアンカーで頭部を掴み取り、引き寄せて真っ向唐竹割にする。
フォー・ソキウスも、カラミティに比べれば70パーセントの出力に抑えられたソードカラミティのスキュラでスカイグラスパーを牽制し、タマハガネに集中する砲火をわずかずつでも減らしている。
「はは、こりゃいいや。狙わなくても向こうから突っ込んできてくれるぜ。指揮官殿、これ本気で全滅させるのかい?」
ミラージュコロイドで姿を隠していた天がソードカラミティの傍らに立ち、接触回線でギナがエドに答えた。その間にもトリケロスのビームライフルで一機、二機とストライクダガーを撃墜している。
「当たり前だ。我らに歯向かう下賤にかける情けなどあろうはずも無い。こやつらの骸こそが我らの力の証明」
「へーへー、それはまた容赦ないこって」
周囲を取り囲むストライクダガーと指揮官機らしい105ダガーを、エドは不敵さと疲労を交えて迎えた。傍らのギナはどこまで余裕の笑みを浮かべていることだろう。
「あ〜あ、来るトコ間違えたかねえ?」
重力アンカー、ヴァルシオン、クライウルブズの投入で連合、DC間での戦力は互角にまで持ち込まれていた。
テンザンのライトニング105ダガーの砲撃とスペースノア級の連装衝撃砲やミサイルの雨は、間断なく連合艦隊に降り注ぐが、逆に連合艦隊からの反撃は、タマハガネのエネルギー・フィールドを突破できずにいる。
とはいえ、エネルギー・フィールドとて無限に展開できるものではない。着弾毎に船体を揺らし、ダメージを蓄積させる。いくら撃っても対峙している敵艦隊は数が減った様には見えず、クルー達に及ぼす心理的圧迫は重かった。
群がる戦闘機が、降り注ぐミサイルが、タマハガネの船体を揺らす。
「迎撃! 406mm連装衝撃砲4番から7番、各固に狙いを合わせよ。ミサイル発射管、全門対空溜弾装填。撃て!」
動揺などといった感情とは無縁の様に、エペソの表情に揺らぎはない。
彼がかつて戦ったゼントラーディやメルトランディ、宇宙怪獣といった連中との戦いに比べれば、ささいな遊戯のハンディ程度にしか感じぬ数の差だからだろうか。
だがエペソは知っている。地球人一人一人の力は弱くとも、強い絆で結ばれた者達が、思いを一つにした時の、奇蹟としか思えぬ凄まじい力を。
眼前の地球連合の兵達がそれを発揮するとは思えぬが、エペソは『地球』と名のつく星に産まれた者達を侮る心は持っていなかった。
「取り舵二〇、艦首魚雷発射管、装填済次第順次発射せよ。各員、汝らに課せられし責務をただ果たせ! 勝利はその先にある。……ズフィルードの加護があらんことを!」
タマハガネの周囲で迎撃されたミサイルの生む炎の花が幾輪も咲き、その炎を割いて連装衝撃砲の光の筋が、連合艦の装甲に吸い込まれ、次の瞬間には高い水柱を吹き上げて爆発する。
海面のどこを見渡しても、澄んだ青を湛えた美しい水面を覗く事は叶わなかった。海上や空中だけでなく、海中でもまた死闘は繰り広げられていたのだから。
「へ、海の中ならこっちの方が有利なんだぜ」
アウルのシーエムリオンが、水中用に調整された実体剣でディープ・フォビドゥンのダガータイプの頭部を斬り飛ばした。この時代でも海中の潮の流れや干潮の変化を克明に記録したデータは重要機密であり、それ自体が武器となる情報だ。
四方を海に囲まれたオーブが、そういったデータの価値を理解し、緻密に網羅していたのは言うまでも無い。それを利用し、DC側は水中において有利なポイントにあるよう動き回り、あるいはじっと息をひそめた。
キラーホエール級三隻と、旧オーブ艦隊の保持していた潜水艦を合わせたDC潜水艦隊は、連合の水中用MSと激しい戦闘を繰り広げていた。
ゲシュマイディッヒ・パンツァーを標準装備するフォビドゥンタイプも水中では、水圧対策と使用しているし、そも水中ではビーム兵器は基本的に使用できないから、これはさほど問題とはいえなかった。
その代り、彼らの装備するTP装甲が撃墜を一際困難なものにしている。
「まあ、こっちもPS装甲あるからおあいこってね」
シーエムリオンに装備された音速を超えて奔るスーパーキャビテーティング魚雷で次々と狙いうち、五発撃った内の二発が命中してフォビドゥン・ブルーの機体が揺らぐ。
そこに一機に接近して至近距離でレールガンを叩きこむか、アサルトブレードで間接や頭部、バックパックを刺し貫くのが有効だ。
「アウル、無駄口叩いてないできびきび動きな。海の下じゃそんなに数の差はないが、上は偉い事になっているんだからね!」
潜水艦とクジラを足したような生き物のマークが特徴の、『白鯨』ジェーンは、フォビドゥン・ブルーの手に持った銛でディープ・フォビドゥンをまとめて二機葬る。
「ああ? だからこうしてやってんじゃん! おばさんの目節穴なんじゃねえの?」
「おば!? この、後で覚えておきな! ……く、鬱陶しいね、『白鯨』を舐めるな!」
アウルの禁句に募った怒りを、周囲の連合MSにぶつけるジェーンの奮闘は凄まじく、おばさん呼ばわりしたアウルが、やべ、と思うほどだった。
ジェーンのフォビドゥン・ブルーの放ったフォノン・メーザーが、洋上の巡洋艦の船底に大きな穴をあけ、ゆっくりと沈没させた。
ジェーンの怒りはまだまだ収まりそうに無かった。
テンザンのライトニングダガーの放った加農砲を回避したスカイグラスパーやストライクダガーに、シン、スティング、ステラのエムリオンが襲い掛かりレールガンやビームライフルを浴びせかけ、瞬く間に三つの爆発が生じる。
アルベロはシン達に指示を飛ばしながら、同時に二機のストライクダガーを相手にしていた。過熱した金属粒子を、両肩の誘導子が集束させ、ブレイク・フィールドに重ねて形成する。
ガーリオンから受け継いだソニック・ブレイカーだ。下駄履きのストライクダガーも慌てて上空や左右へ飛び下がるが、ガームリオンの機動性には及ばず、また逃げ道を予測していたアルベロによってあっという間に肉薄されて機体を砕かれる。
ソニック・ブレイカーの解除と同時にバーストレールガンを立て続けに撃ち、包囲しようとしていた新たなストライクダガーを散らす。AI1の警告とほぼ同時に、培った歴戦の勘が、警鐘を鳴らし、下方から迫る強力なエネルギーを回避した。
連合の旗艦パウエルから出撃した機体が三機、クライウルブズへ牙を剥いたのだ。
「スティング、シン、ステラ、フォーメーションを崩すな! 厄介なのが来たぞ」
「あいつ、あの時の新型!」
一度フォビドゥンと矛を交えたシンは、その時の苦い戦いの記憶を掘り起こし、14歳の顔立ちを顰める。スティングやステラも、自分達の同類の登場に、緊張を走らせていた。
新型のGとはいえ、エムリオンならば性能で引けは取らない。ならば後は操るパイロットの技量が勝利へのカギだ。
リフターから機体両面に伸びたシールドで機体を守るフォビドゥン、人面鳥の様なMA形態で、腹に破砕球を抱えたレイダー、背・腹・両手とあらゆる所に火器を満載した下駄履きのカラミティ。
他にもオルガ達ほどではないにせよ強化された兵達の乗るロングダガーやデュエルダガー、105ダガーが続々と出撃し、連合艦隊中枢を守るべく布陣する。
機体とパイロットが高いレベルでまとめられたこれらの機体は、DCにとってかつてない強敵として立塞がる。
GF天やソードカラミティ、レイダー制式仕様で次々と連合のMSや戦闘機を撃破し、鬼神の働きをしていたギナとエド、フォー、サーティーン・ソキウスがそれに気付く。
「ギナ様、あれらの機体に乗っているのは連合の強化人間達と思われます」
「となると、エムリオンとの性能差を含めても並の者どもでは互角に近いか。エドワード、我らであれらを片づけるぞ」
「はいよ。一人当たり五、六機撃墜すれば万事解決ですかね」
こんな時にも陽気な調子を崩さぬエドだ。ギナはそれに満足したのか一つ頷くと、アルベロのガームリオン・カスタムに通信を入れた。
「アルベロ、新型のGはお前達に任せるぞ」
「よかろう」
それだけ短く言うと、アルベロがすぐさま指示を出したのだろう。シンとステラのエムリオンとスティングのガームリオンが三機編成のフォーメーションを組んでカラミティ達に向かって行った。
アルベロはそれまで四機で相手をしていた周囲のストライクダガーやスカイグラスパーを一人で相手をするようだ。タマハガネとテンザンの砲撃支援もあるが、いささか厳しい数を相手にせねばならなかった。
「はっはあ! あのふざけたMSはいねえのかよ!」
ストライクダガー同様下駄をはいたカラミティのコクピットで、オルガは強化薬がもたらす高揚に身を浸しながら叫び、カラミティの背から伸びる125ミリ2連装長射程ビーム砲シュラークを適当な照準で撃ちまくる。
クロトの駆るレイダーは、背後から迫るシュラークの砲撃を慌てて回避して、オルガに文句を言った。
「こら、オルガてめえ、目ん玉腐ってんのか!」
「当てなきゃいんだろう」
「よけなきゃ当たってるだろぉが!」
「……お前らうるさい」
一人シャニが、こいつらうざいと心と口の両方で呟いたが、自分達に向かってくる三機のMSに気付いた。ふと、この前雨の中で戦ったMSとパイロットの事を思い出した。
「あの女……。乗ってんのかな?」
ぼんやりとした呟きではあったが、機体の操作にまでそれを反映させはしなかった。フォワードを務めるシンのエムリオンが放ったビームを、何時もの様にゲシュマイディッヒ・ハパンツァーで受け流す。
「おい、さっさと援護しろよ」
「シャニ、命令してんじゃねえぞ」
「へ、空を飛べないお前の機体の役割だろ!」
下駄履きで機動力に劣るカラミティをおきざりにして、クロトとシャニが突出する。舌打ちを零しながら、オルガは現実を認めて、二人を援護すべく下駄の高度を上げて、
337ミリプラズマ・サボットバズーカ“トーデス・ブロック”とシュラーク、ケーファー・ツヴァイを構えさせた。どれも一撃でMSを破壊しうる火器だ。
シンとステラのエムリオンがそれぞれフォビドゥンとレイダーに向かい、スティングが状況に合わせて二機の援護に入る。
アルベロはカラミティらと同時に出撃したデュエルダガーやレイダー制式仕様を一手に引き受けていた。倒しても倒しても現れる敵にいささか閉口するが、デビルガンダムの再生能力や増殖能力に比べればどうという事も無い。
空に生むオレンジの火球はいくつも連なって生まれ、その中に散華する命がある事など、戦場に立つ誰も考えてはいなかった。迷えば、自分がそうなってしまうのだから。
先日の戦いを覚えているシンは、射撃戦ではフォビドゥンを撃破出来ないと判断し、接近してパイロットか内部機構にダメージを与えると結論していた。
ソキウスとジェーンの連合からの離反によって手に入ったフォビドゥン・ブルーのデータから、ゲシュマイディッヒ・パンツァーの理論などは解析できたが、あいにくと無効化するような装置の開発は行われていない。
対艦刀シュベルトゲベールでさえも、レーザーを散らされて実体剣としてしか機能できないのだ。ゲシュマイディッヒ・パンツァーを装備したMSの数が少ないことが救いだろう。
「ステラはレイダーを、シンはフォビドゥンを! ソキウス達が乗ってたのより火力が高い! カラミティの砲撃にも気を配れよ」
「うん!」
「この間の決着を着けてやる!」
レールガンとメガビームライフルが二機から何度も放たれ、レイダーは立体的な機動で回避し、肩から覗く砲口から機関砲で反撃してくる。
シンとステラが左右に分かれて回避した所に、今度は鳥の爪の様なアームから短射程プラズマ砲アフラマズダを撃ってくる。
MA形態の機動性で敵集団を攪乱し、敵機を各個に撃破するのが役目といった所か。
「うえええーーいい!!」
「激殺!!」
瞬時にMS形態に変形したレイダーが、破砕球ミョルニルを振り回してステラのエムリオンに叩きつけてくる。強化人間としてランクは落ちるが、ステラもDCに来てからの猛訓練とTC−OSなどの補助を頼りに、レイダーと交差する。
すれ違いざまにレールガンを叩きこむが、回避され、レイダーの左腕に装備された2連装52ミリ超高初速防盾砲から連続して弾丸が二筋の軌跡を描いて、エムリオンの後を追った。
急旋回で回避し、ステラは脳を焼く戦闘衝動に半ば突き動かされてミサイルコンテナからHEAT弾頭を搭載したスプリットミサイルをばら撒く。
一基の大型ミサイルの中に小型のミサイルを六基搭載したもので、“ゲシュペンスト”タイプに標準装備されている。
おおざっぱな説明だが、HEAT弾は旧世紀に開発された特殊弾頭で、先端の凸状ライナー部から、数千〜数万度のジェットストリームを対象装甲内部にぶちまける弾頭だ。
TP装甲やPS装甲相手では装甲表面に弾頭が留まって表面を焼くに留まるだけかもしれないが、AP弾よりは電力を食う、位の効果は見込んでいる。
レイダーはあろうことかミョルニルを勢いよく旋回させてこれらのミサイルをすべて撃墜してしまう。デットウェイトとなったコンテナを切り離し、ステラはそれをレイダーめがけて蹴り飛ばした。
「はん、小細工だね!」
クロトは嘲笑と共にミョルニルで真っ向からコンテナを吹き飛ばし、両者にとって死角となったコンテナ越しにレイダーの口部に装備された100ミリエネルギー砲ツォーンを発射した。
一瞬でツォーンに貫かれたコンテナ。その先にエムリオンがいると判断したクロトは、失策を理解していた。ステラのエムリオンが、レイダーの左側に回り込み、メガビームライフルとマシンキャノンの弾幕を張りながら突っ込んできたのだ。
「こいつぅう、生意気だよ!」
「落ちろおおぉ!」
防盾砲の52ミリ口径弾がエムリオン機体表面を穿つも、それはエネルギー・フィールドに弾かれてわずかにエムリオンを揺らすに留まる。エムリオンからの弾幕にレイダーに回避運動をさせねばならず、精密性を欠いた射撃となっていた。
一気にレイダーの懐に飛び込んだステラは空いている左手に持たせたアサルトブレードでレイダーの左腕に斬りつけた。銀色の刃が防盾砲を半ばまで切り裂いた時に、クロトはミョルニルをメリケンサックよろしくレイダーの右手に握らせて、ステラのエムリオンを殴りつけた。
ステラの食い縛った口からか細く悲鳴が零れたが、視線をレイダーから外す事はしない。
戦闘の最中、小さな疑問の暗雲がステラの脳裏に生まれた。
――何だろう? あの動き、どこかで見た事がある。
何時だったか、何処だったか、そうラボだ。ステラの記憶の大部分を占める悲しみと苦しみと、それを感じる事さえ封じられていた場所。
オレンジ色の髪と、いつもステラやスティングを馬鹿にしていた口調が、なぜか浮かんだ。ステラ達より前の世代の強化人間。短い間だけど、同じ場所同じ時間を過ごした――
「クロト?」
「そらあああ、必殺!!」
レイダーの放ったツォーンが、エムリオンの左腕を吹き飛ばした。
「っ!!」
「もらったあ!」
「ステラ!」
バランスを崩したエムリオンに止めを刺すべくミョルニルを振り回すレイダーに、シンを援護し、カラミティを牽制していたスティングのガームリオンがツイン・マグナライフルを乱射して割って入る。
エムリオンを背後に庇い、スティングは左手に握らせたM930マシンガンの弾丸をすべて打ち尽くすほどの連射でレイダーを牽制する。
「ステラ、無事か!?」
「うん、大丈夫。エムリオンもまだ戦える」
「どうした? 動きが一瞬鈍くなって……ちい!?」
オルガがクロトの不利を悟ってシュラークによる援護砲撃をはじめ、スティングとステラは慌てて回避した。その間にもスキュラやトーデス・ブロックが並外れた精密さで放たれる。
アードラー・コッホの人体改造の成果がオルガ達の戦闘能力を大幅に上昇させている。カラミティに二機揃って携帯火器を撃ちこんで砲撃を中止させて、機体の態勢を整え直す。
「スティング、あの黒いの、クロトが乗っているかもしれない!」
「なに? クロト……クロト・ブエルか?」
「うん」
「落ちろおお。絶殺!」
ツォーンとミョルニルが上を取ったレイダーから放たれ、二人はこちらも慌てて回避する。少しおしゃべりに気を割き過ぎたようだ。ツォーンが両機のエネルギー・フィールドを削りながら、降り注ぎ、放たれたミョルニルはスティングがアサルトブレードで受けた。
「おい、レイダーのパイロット!」
「ああ、なんだあ?」
「お前、クロト・ブエルか!? おれはスティング・オークレーだ!」
「……スティング? 知らない……ああ? ラボの連中か。なんでお前らそっちにいんのさ」
クロトは話をする気になったらしく、ミョルニルを引き戻してレイダーを滞空させた。クロトと別れてから随分と時間がたっているから、強化の影響で人間性を失っているかと思ったが、意外に人格崩壊は進んでいないらしい。
その事実に、スティングはかすかに息を吐いた。
「おれだけじゃない。ステラやアウルもいる。アンタが他所に移されてからラボの研究員が反乱を起こしたんだ。その時にDCの連中がおれ達を拾ってくれた」
「ふーん、なんだ。結局、飼い主が変わっただけじゃないか」
「それは違うよ」
スティングとクロトがモニターに互いの顔を映していた所に、ステラも混じった。クロトは少しだけステラの顔を見つめ、薬物の効果でネジの緩んだ記憶の棚を漁った。
継戦時間の延長と判断能力の維持を命題に新たな強化へと切り替えられた事で、クロト達生体CPUも、以前に比べれば人間性を維持、ないしはわずかながら取り戻しつつある。クロトがステラの事を覚えていたのはその恩恵だろう。
「あん? えーと、ステラだっけ?」
「うん。クロト、久しぶり」
「で、何が違うのさ? 連合の連中とDCの連中の何が?」
「ビアンおとうさんは、ステラ達を助けてくれた。戦いに出なくてもいいって言ってくれたもの」
「はあ? じゃあなんでお前らMSになんか乗ってんのさ?」
分けが分んねえ、と少年の年を出ない顔をしかめるクロトを、ステラはまっすぐ見つめて真摯に語った。
「ステラ達がビアンおとうさんやミナお姉ちゃんの為に戦いたかったら。それが、ステラ達に出来る恩返しだから」
「じゃあ、何? 戦わされているんじゃなく自分達の意思で戦っているって?」
「うん。クロト達は違うでしょ? 薬が無いと苦しいから、無理やり闘わされてるんでしょ?」
「それに、DCに来れば治療の手立てもある。薬に頼らずに生きていく事だってきっと出来る。クロト、おれ達の所に来い」
「……ふーん。嘘はついてなさそうだけど。残念、答えはノーさ!」
クロトが顔を凶暴なものに変えると同時に、レイダーはミョルニルを振り回し、ステラのエムリオンへ横殴りにして叩きつける。
不意をつかれたが、なんとか反応したステラは咄嗟に機体を上昇させて回避し、困惑したままクロトの名を呼んだ。
「クロト!?」
「はん、戦わされるんだろうが、自分で戦うんだろうが、結局一緒じゃないか! それにお前ら、DCに行って弱くなっただろう! 馬鹿かお前ら、戦場に出るのに弱くなってどーすんだよ!? そんなんなら、このままこっちで強くなるさ、ボクは!」
「ちい、馬鹿野郎が!」
スティングは罵りながら、ツイン・マグナライフルの照準をレイダーに向ける。
「スティング!?」
「仕方ないだろう、ステラ」
「でも」
「……ええい、分かったよ。なるべく殺さないようにはする。それでいいな! おれ達だって生き残るので精一杯なんだぞ!」
「……うん。ありがとう」
ステラ達が思いがけない再会を果たしていた頃、シンとシャニの二度目の対決は白熱していた。めまぐるしく動く両者に、オルガも狙いが付けられず滅多に援護しない。
以前の強化コンセプトのままだったらシャニに当たろうが構わず撃っていた所だが、今の彼には味方を撃たないという程度の分別が出来ていた。
「こいつ、今度は勝つ!」
「うらうらうらああああ!」
射撃戦では負けなくても勝てないという事を悟ったシンは、一気に間合いを詰めて、一撃の隙が大きいニーズヘグを相手にアサルトブレードで果敢に攻め込んでいる。
ニーズヘグの柄でアサルトブレードを受けた。パワーは互角。連合の新型G相手に、エムリオンはパイロット次第では互角に戦える性能を持っている。
フォビドゥンとエムリオンの互いの頭部から75mm対空砲塔システム“イーゲルシュテルン”を撃ちあって、PS装甲とTP装甲の互いの頭部に火花が散る。
カメラ・アイとアンテナがへし折れて、シンとシャニのコクピットが暗転し、その一瞬でシャニはエムリオンを蹴り飛ばして距離を離した。
サブ・カメラに切り替わるのと時を置かずフレスベルグを、勘頼りの盲目撃ちで乱射する。
全天周囲モニターが回復するよりも早く、警告音と戦場で培った経験、眼前の敵パイロットの癖から、追撃が来ると考えたシンは、考えるよりも早く肉体が動いて、エムリオンのエネルギー・フィールドの出力を機体前面に集中させた。
「が、ぐぐ。ど、どうだ、お前の考えなんかお見通しだ」
直撃するフレスベルグを耐え抜き、サブ・カメラに切り替わるのと同時、ニーズヘグを振り上げるフォビドゥンが映る。
咄嗟に体当たりをかましてフォビドゥンを吹き飛ばし、真っ二つの運命を回避する。全然お見通しではなかった事実に、シンは脂汗が滲むのを感じていた。
「く、くそ。まだ他の二機も残ってるのに」
「おい」
「な、なんだあ?」
唐突に相手からの通信に、シンは戸惑った。目の前に薄い緑の髪に、色違いの瞳をした少年――シャニが映る。こいつが、おれと闘っている敵なのか。シンの心臓が、どくん、と跳ねた。
「お前、この前邪魔したパイロットだな?」
「だったらどうした!」
「お前が助けた機体の女どうなった?」
何言ってんだ、こいつ? とシンは思わずにいられなかった。ジャン・キャリーの時も思ったが微妙に方向性が違う。シャニはシンの戸惑いなど気にせずに質問を重ねた。
「どうなった?」
オウカの事だろうが、なんでまた固執しているのか。とにかく応える義理はあるまい。
「知っていてもお前に言う必要なんかあるもんか!」
「……じゃあ、死ね」
戦闘の再開をシャニが短く告げた。リフターを被り、エクツァーンとフレスベルグがわずかな時間差で放たれる。エムリオン機体表面を焦がしながらプラズマが走り、微妙に軌道を偏向されたフレスベルグは、リオン・パーツ右腕部分とレールガンを吹き飛ばす。
「また整備の時に怒られちまうだろうが!」
「知るかよ」
右袈裟に振られたアサルトブレードを、ニーズヘグで受けたフォビドゥンの胴体に、エムリオンのプラズマ・ステークが叩き込まれる。
「くそ、浅い!」
「てめええ!」
強化に強化を重ねたシャニの反応は、プラズマ・ステークが撃ちこまれる刹那を上回った。
機体表面にTP装甲さえ砕いた痕を残すも、それはわずかな範囲にとどまっていた。あれでは戦闘能力を奪うまでに至らない。
「シンもステラも苦戦してやがんな。もうちっと気合い入れねえと初心者レベルを越えられねえぜ?」
加農砲を構え、ほぼ百発百中に近い精度で狙いを着けて戦闘機・MS・艦艇を沈めていたテンザンが、可愛い部下達の苦戦にしょうがねえなあ、と漏らす。
「I.W.S.Pストライカーでも着けて援護に行ってやっか」
ひょいとデッキ内に引っこんで、テンザンは整備兵連中にストライカーパックの換装を頼んだ。連合艦隊中枢に突撃した少数部隊は、クライウルブズが最大の強敵であるカラミティ・フォビドゥン・レイダーを抑えているから、五分以上に戦えている。
強化兵の駆る高級機も、ギナやエド、ソキウス達が次々と撃墜していた。流石に数の差が凄まじく、タマハガネやストーク級もなかなか前進できずにいる。
だが、彼らが敵機を引きつけている為に、主力艦隊の方に回される援軍の数は少なく、また、ビアンのヴァルシオンやミナシオーネ、フェアリオン三機の勢いを止められず、旗艦パウエルに到達するまであとわずかとなりつつあった。
旗艦パウエルで、ダーレスは別動隊に希望を託すしかない事を悟りつつあった。頼みの生体CPU達は伏兵を撃破出来ずにいるし、艦艇と機動兵器の弾幕をモノともせずに迫るヴァルシオンの姿が、目視可能になるまでそう遠くない事は通信士からの報告で分かっている。
予定では既に別動隊はオーブ本島――ヤラファス島に到着し、制圧しているはずだった。
「まだかっ。まだなのか!」
祈りにも似て呟くダーレスの視界の端で、また一隻の艦艇が轟沈した。
ダーレスに残された希望となった別動艦隊は、ヤラファス島海上沖で、残されていたDC防衛部隊と戦火を交えていた。そう、『交えていた』、だ。すでに戦力の大部分を壊滅させられ、残った部隊も白旗を上げて投降している。
上空では赤に染められたガームリオン・カスタムと純白のガームリオン・カスタムに率いられたエムリオンが十数機いた。これだけの戦力で、ヤラファス島やオノゴロ島に迫っていた連合の別動隊を退けたというのか?
赤いガームリオン・カスタムに乗ったシュミットが、純白のガームリオン・カスタムに乗るジャン・キャリーに声を掛けた。
「どうだね? その機体の調子は?」
「見事なものだ。だが、それ以上にこの機体の動力に驚かされたよ。核融合炉とは、な」
捕虜となったはずのジャン・キャリーだった。シンとの戦いの後、収容施設に入れられ、その特異な経歴から個人的に興味を持ったシュミットと話をしていた所に、連合の別動隊が現れたのだ。
出撃しようと走り出そうとしたシュミットにジャンが自分も戦うと告げたのは、如何なる心境の変化を経た結果なのか、シュミットにも分らない。ただ、シンの言葉がジャンの胸の奥深い所に今も残っていた。
しばし沈黙したのち、ジャンは自分が乗った機体の秘密を口にした。
「MSサイズの核融合炉か。核分裂エンジンよりもよほど高出力だな。この機体を残しておいたのは、少数で防衛することを前提しての為か?」
CE初の核融合エンジンを搭載したガームリオン・カスタムの戦闘能力は、ジャンの知るMSを軽く凌駕するものだった。
「ふ、戦いとは二手、三手先を常に読んで行うものさ。いかに連合とてヴァルシオンを真正面から相手すれば、多大な被害が出る事くらいは少し考えれば分かる。なら、もぬけの殻になった敵の本丸を攻める。常套手段だろう?」
「そういうものか。しかし、凄まじいものだな。二十機に届かないMSでこれだけの戦力差を覆すとは」
ジャンの眼下では、撃墜されたストライクダガーの残骸がひしめいていた。ジャンは不殺を貫き、幾人かは無事なようで既にDC側から救護艇が出されて、連合の兵達を海の藻屑になる前に救出している。
ジャンがパナマで見たのは、虫の息、投降した連合の兵を虐殺するザフト兵の姿だ。それを知る分、眼下でまともな対応を見ると、余計に安堵の感情が浮かぶ。
「自分の戦い、か」
「どうかしたかね?」
「いや、なんでもないさ。先に帰投させてもらって構わないかね?」
「ああ、構わんさ。戻ったら個室が用意されているはずだ。ある程度は自由にしてくれて構わんよ。私からの礼だ」
「手回しがいいな。そう言えば、この機体が白いのは、私がこうすると分っていたからかね?」
「ふふ、さてね。そうだな、私なりの勘が働いたとだけ言わせていただこう」
「喰えない人だな」
帰投するジャンに、他の部下達も同行させ、シュミットはオノゴロ島イザナギ海岸に布陣している、ロールアウトしたばかりのMS小隊の所に向かい、着地した。
赤い機体が一機と緑色の機体が三機。どれも似たようなシルエットで、直線で構成された無骨な、ゴツゴツとした機体だった。太く重心が安定し、無限軌道を装備した両脚部に、両腕をカバーする分厚いアームガード。
頭部はほぼキャノピーが占めていて、コクピットでもある。バックパックに装備された長大な砲身や何基もの弾頭を収めたミサイルと、砲撃に特化した機体らしい。
「ラーズアングリフとランドグリーズの調子はどうだね? ジェグナン三尉、ボーグナイン軍曹」
シュミットの正面モニターに茶色い髪に緑色の瞳をした青年と、赤見を帯びた茶色の髪と青い瞳の少女が映る。共にDCのパイロットスーツを着こんでいる。
「良い機体です。砲撃戦ならばバレルにも負けません」
「でもやっぱり、動きが鈍いよ〜。ユウ」
「カーラ、シュミット一佐の前だぞ」
「ふ、構わんさ。ボーグナイン軍曹は戦時任官だしな。無理もない」
「しかし、それでは示しが付きません」
「ユウってば細かいんだから。シュミット一佐がいいって言ってるんだからいいの! ほらほら、補給に戻ろうよ」
「……はあ。シュミット一佐、ではモルゲンレーテ工廠に戻ります」
「ああ。……苦労人だな、ジェグナン二尉」
忍び笑いを漏らしながら、シュミットはジェグナンとカーラの凸凹コンビが面白い事になりそうだと思った。
ユウキ・ジェグナンは元々オーブ軍に属していた軍人で、DCの思想に共鳴して籍を置いている。
対してリルカーラ・ボーグナインは、カリフォルニア南部のサンディエゴ出身で、エイプリルクライシスの際にオーブに亡命してきた民間人だ。
その後も世界中に飛び火する戦火に、芸能界入りの夢を今も持ちながら、自分に出来る事をすると言う意志からオーブ軍に志願していた。
地球連合のオーブへの侵攻を前に行われた者のDCの蜂起に戸惑ったものの、オーブ本島に住む両親を守るためにそのままDCに籍を置いている。
そして、今こうしてラーズアングリフとランドグリーズで構成された試験部隊でテストパイロットを務めている。
この両機はビアンが死んだ後の新西暦世界に現れた、いわば未来の機体なのだが、クエルボ・セロがCEに来る際に搭乗していた大破したラーズアングリフを元に改修し、そのデータを元に再設計・生産したものだ。
ただ飛行可能でコストも安いバレルエムリオンがあったため、生産数は少ない。開発の順序も、ランドグリーズのカスタム機であるラーズアングリフが先にロールアウトする、と逆の経過を経ている。
この二機も生産コストは安いし、砲撃戦で発揮される戦闘能力には目を見張るものがある。いかんせん、オーブという国家の性質上活躍の場が少ない事が、この機体の不幸だろう。
だが、連合別動艦隊との戦闘において、このラーズアングリフ一機とランドグリーズ三機の活躍は目覚ましいものがあり、核融合炉を搭載したMS隊との連携により、あっという間に連合の戦力を沈黙させた事をここで述べておく。
真っ赤に染めたガームリオン・カスタムに、DC艦隊と連合主力艦隊が激突している方角を向かせ、シュミットはじっとその方向を見つめた。残された隻眼に、戦いの様子が映るはずもないのに、ただじっと見つめ続けていた。
やがて、ポツリと呟いた。
「生き残れよ、シン」
480 :
660:2007/08/17(金) 01:27:23 ID:???
もうダメ……。投下ペースの維持が出来ません。しかし長いですね、戦闘描写をびしばし削ろう、そうしましょ。
紅茶の人は私はヒュッケバインMK−Vのガンナーに乗っけてました。死んだ人じゃなくてCE世界の同姓同名同趣味嗜好の人であってαやOG系の人ではございませぬ。
クエルボが出た時点でラーズの登場に気づいた人もいらっしゃってでしょうか? では、またいつかお会いいたしましょう。
紅茶とポケモンマスターが来たァーー!?
ついでにラーズとグリーズまで!?
多分このユウキとカーラは「こっちの世界」の二人なんだろう
ってコトはDC宇宙軍には軽トラこうけんあんぽんたーんの人とツンデレがいるのだろうかwwww
なんか色々と動いているなぁ……惜しむ楽はエペソがあちらの地球の内戦の結末を知らない事か。
知っていれば未来が有る程度読めただろうしな。
後はRG系列はオーブにおいて空飛べないというデメリットが有るが性能とコストパフォーマンスに優れてるからと
レイヴンに改造されそうな予感がするな……。
これはハブられたイルムとリン以外のF主人公の期待が膨らむ。
そしてああ…64。
アークがシンの本来のポジションに就くと申したか
乙ー。
ふと思ったがバルシェムシリーズの進退能力ってどんなもんなんだろ。
久保を見る限り侍女兼護衛のルリアをあっさり制圧するくらいはやるようだが。
とりあえずはっきりしてるのは、コーディ用OSの使われてる機体は動かせないって事ぐらいか
コーディ用のOSはすごいというより単に無駄に自分でやることが多すぎるだけのものだからね
できるからと制御系のものまで自分でやる馬鹿OSだし
でも遺伝子操作?それがどうしたの?のスパロボ世界のコーディだし。
Vガンまで存在してる世界でわざわざ駄目なOS作る意味ってないよね、本来。
ストライクのOSもあっさり連邦標準型積めばよかったんじゃないかと思うけど、
なんで独自のを作って、開発遅れでまともに動けないなんてことになったんだろう?
WINDOWSが嫌いだから自分で作ったらダメダメでした、って状況だろうか。
>>490 今までのと違った新たな機軸のOSを作ろうとした
専用のOSの為既存の物を排して完全新規で作った
あかんどう考えてもα世界でストライク作った意味がわからんwwww
>>487 あれって本当に操縦できなかったのかね。
実はできるけど、ナチュのはずなのにおかしくねって疑われるんで操縦できねって
言っただけなんじゃないかね。
バルシェムは別に超人ってわけじゃないからなあ
まあそのあたりは個人の解釈でいいんじゃない
操縦できるなんていったら、この駄目MSに乗せられる。
できないって言ったほうが安全DAYONE
人間の体いじるのはαのストーリーが始まる前にメガノイドすでに通ってるしな
>>494 いやいや、種で出てくるストライクとα3で出てくるストライクは外見が同じだけの恐らく別物。
α3ではファーストやマーク2などを開発した連邦が開発した最新型がストライク、
(連合ではない)恐らくかなりの性能と思われます。
種の世界には教導隊がいないから・・・
正直α世界でMS後進国のオーブごときと協力して新型作ること自体ばかばかしい話だよな
核融合炉あるのにバッテリーとか無駄なことやってビーム兵器多いのにPS装甲なんて
実弾しか効果ない対ビーム防御性能ない装甲とか役立たずなOとか
真面目に考えると意味ないことやってるなって感じだ
実はサルファの種MSがバッテリー駆動かどうかはわからないんだ。
動力についてはなにも言ってない。
ただ、エヴァ用の電池とかもあるから、α世界の電池はCEの電池より
高性能だろうとは思う。
まぁ何かあった場合、電力はエヴァやら電童やらに持ってかれるわけだが。
まあスパロボWとかだと、ダガー系を回してもらえない部隊は二線級扱いな罠
ソルテッカマンの方が強そうなんだがなぁ。
エステはフィールド以外はMSの方が強そう。
フェルミオンとか使ってる時点で破壊力は比較にならんな。
>>503 エステバリスはああ見えて超テクノロジー満載。
>>505 とはいえエステはナデシコ等の重力波ビーム搭載艦とセットでの兵器であって
単体での運用にはとことん向かない機体だからなぁ
単体だと性能はともかく稼働時間だけはCEのMSにすら劣ってしまう欠点がある
デュートリオンを応用してエステバリスにも使えないかな?
何でワザワザ劣化させたがる
実際スパロボでデュートリオンシステム入れるとして
・ナデシコの重力波ビームと同じ扱いにする
・戦艦のコマンドにデュートリオンチャージ
こんなとこか?
>>504 ただ、反物質とはいえ作中表現見るにそこまですごい破壊力があるわけでもないし。
大した量は使ってないのかも。
量産型ソルテッカマンってヤラレ役以外まったく出番が無いからイメージ悪い品
正直強い量産型ってメタルクウラぐらいしか思いつかないぜ
ナデシコの重力波ビームの方がデュートリオンビームの射程より長いかもしれない……
>>511 ゲイオス・グルード、ライグ・ゲイオス、量産型ヴァルシオンとかどうよ?全部バンプレオリジナルだけど。
>>512 かもしれないじゃなく、確実に長い。
>>509 常時発動の重力波ビームと同じ扱いは無理だろ。
デュートリオンはデンドー電池みたいになるな。
重力波ビームを受信できるようになると、もっと有効に使えるようになる機体があるじゃないか!
つ【ガンダムX】
>>511 ドーベンウルフが強かったはずだぜ?…いやエリート兵が強かったのかもしれんが
>>515 さらにもっと有効(ry
つ【ガンダムDX】
マシュマーって量産型にやられてなかったっけ?
量産型つーてもドーベンウルフだからなぁ
ある意味じゃエースも数の前には敵わないっていうある意味常識を見せ付けた結果なんだろうけどね
とりあえず最強の量産型はイデオンに出てきた白い奴(サルファにも出てきた)で決定してよろしいですね!
ザンザ・ルブが
>>521 異議あり!
最強の量産機はギャラクシー級の宇宙怪獣も殲滅可能なシズラーシリーズであると私は確信している!
エルアインスやドラグーンも(量産機にしては)いい線行ってると思うよ
>>524 何言ってるんだ!
ドラグーンは改造前のD兵器よりも性能上なんだぞ!
……本来それこそが正しい量産機の姿なんだが。
Vガン
>>525 だからこそ、いい線行ってると……(´・ω・`)
>>523 ステぷりの対人以外なら最強を誇れそうなアーフィ・M4ドラグーン<竜機神>が実は量産されていたりするんだぜ!?
※竜機神は<狂竜化事件>と言う200体近い個体が一斉に暴走する事件を機に、暴走を免れた26体は人に対して攻撃出来ないようにされている
スパロボには出てない&今後も出そうにないけどなー
誰もVF-19を挙げようとしない……
VF-22もか?
プロヴィデンスの背中に張り付いているドラグーン(MA)を想像した
…実にラズウェート
ネオグランゾンも場合によっては三機同時に……
まあ量産じゃないけど。いや、ズフィルードも暴走させれば量産できないこともないような
>>529 いやバルキリーシリーズが量産期として一番怖いのは、あの小回りの効く機体で反応弾を
二つ装備出来る事、バルキリーが編隊を組み反応弾を二発打ち込み一撃離脱して行くのは
まさに悪夢。
MHのレッドミラージュなんてどうよ?スパロボに出る事なんてないだろうけど。
有り余るエネルギーでテレポートすら出来ちまう化け物じゃねーかよwwww
機械って言い切れないけど、バスタードに出てくる、アンスラサクスのお付きの邪神共とか。
OGSの2.5最終話にでてくる増援のミロンガとバルトールの強さは異常
ちきしょう!一番大事なの忘れてた。
つ【ドラえもん】
ああ、そういえばあれ大量生産品だったな……
えっ!?ドラえもんって量産型なの?
そういやターンエーのお兄さんも量産機だったな
ザ・ドラエモンズ見るに、シリーズ全部不良品だと思うんだが。
まとめて回収しろよ。
最初の頃の設定じゃ割れセン並みの扱いでデパートで売られてたからなぁwドラえもん
第十九話 始まりの終わり
鈍光るニーズヘグの刃が刎ねたのは首では無く右腕だった。断たれたコードが紫電を零し、装甲は滑らかな断面を覗かせている。乱れた機体バランスを設定されたOSが立て直す。
高度を下げつつあるエムリオンがバランスを取り戻すと同時に、シンは二の太刀を振るおうとするフォビドゥンを、マシンキャノンとイーゲルシュテルンで牽制する。――あわよくば動きを止めた所にプラズマ・ステークを叩きこむ。
そんなシンの目論見は当然甘く、フォビドゥンはフレスベルグ、アルムフォイヤー、エクァーンで撃ち返してきた。
エネルギー・フィールドを全開にしてもあっという間に撃墜されてしまう火力だ。
「くそ、こいつに完全に抑え込まれている!? 数じゃDCの方が不利だってのに」
「そろそろ落ちろよ、お前」
シャニとシン、それぞれが倒せぬ相手に苛立ちを募らせる一方で、クロトと対峙するステラやスティングも、拮抗状態にあった。
倒すつもりで二人が連携すれば、クロトを撃墜する事も出来たろうが、手心を加えては互角が精一杯だ。お仲間を援護するオルガも、I.W.S.Pストライカーを装備したテンザンの105ダガーに狙われ、思うように動けずにいる。
見方を変えれば連合側で突出した戦闘能力を持つ三機を抑えて、味方の被害を抑えきっていると言える。強化兵達も並のパイロットを凌駕する実力者だったが、並のエースを上回るDC側のエース達と強力な機体に組み合わせに、ほとんど撃墜されている。
ギナ、エド、三人のソキウス達だ。
彼らの機体が通り過ぎた海面には鋼の骸が無残に散らばり、彼らの力を、ギナの言葉通り骸が証明している。
被弾したストーク級を下がらせ、代わりに連合艦隊の砲火を一身に浴びるタマハガネは船体の数か所から黒煙を噴きあげながら、圧倒的な火力で連合艦隊と互角に渡り合っている。下がるよりも、前に出続ける。攻撃こそ最大の防御を体現する姿だ。
「第八ブロック被弾、テスラ・ドライブパイル小破、右舷よりミサイル!」
「右舷ミサイルランチャー、撃て! 艦首10上げ、出力最大、連装衝撃砲3番、4番左舷敵巡洋艦に照準」
「ガーラン小隊シグナルロスト、ヴァン機、ゴーダ機戦闘不能。ストーク級壱番艦ランカスター、弐番艦クリトフ、推力低下しています」
「艦を前に出せ。参番艦ジェノスタに上空からの支援を要請せよ。各員、怯むな! 勝利は目前ぞ」
連合の分厚い艦艇とMSの層が、とある一点において瞬く間に貫かれている。ヴァルシオンを筆頭に暴れ狂うたった五機の機動兵器達である。彼らの機体の周囲に不可視の壁でもあるかの様に、
近づこうとするMSや戦闘機達、また彼らの行く手に存在する者達は尽くが破壊されていった。
三機一体のコンビネーションで虚空を踊るフェアリオンに四肢を切り裂かれ、グゥルもどきや兵装を破壊されたストライクダガーが海面に落下し、艦艇や戦闘機から放たれたミサイルは撃つ端から撃墜されてゆく。
絶妙のコンビネーションで鋼の妖精を駆るソキウス達。彼らは今、戦闘用コーディネイターという生まれ以上の力を発揮している。
「どうやら別動艦隊はシュミット一佐が防いでくれたようだね。ワン、ファイブ」
「そうだね、トゥエルブ。こちらも早く決着をつけなれば。強化人間の乗るMSも現れている。クライ・ウルブズや僕らならともかく普通のパイロットでは厳しい相手だ」
「一人でもナチュラルの犠牲を減らす為にも、僕らがナチュラルを倒さねばならない。皮肉というものだろうか?」
「だが、それが僕らの道だよ。ファイブ」
「ああ、すまない。僕が前に出る。ロイヤル・ハート・ブレイカーを仕掛ける!」
「了解」
「W−I³NKシステム、オールグリーン。テスラ・ドライブ、フルドライブ!」
フェアリオンのスカート状装甲に取り付けられた、テスラ・ドライブ改四肢駆動システム、ラム・ジェットエンジンがフェアリオンのみに搭載されたモーション・プログラム『ロイヤル・ハート・ブレイカー(三人用アレンジ版)』に合わせた出力に展開・稼働し、
極限まで軽量化されたフェアリオンは、人間と比べてもなお遜色ない動きで激しく、軽やかに、そして美しく戦場に舞う。
予備のカートリッジまでも撃ち尽くしたハイパービームキャノンを手放し、サイコブラスターとマガノイクタチの連撃で周囲の露払いを務めていたミナが、視界にとらえた空母にほくそ笑む。
人工筋肉によって搭乗者であるミナと同様の笑みを浮かべたミナシオーネは人のそれと一見して区別がつかない白皙の頬を、敵機のオイルの黒い飛沫で濡らしながら、遠く兄弟機、ないしは父娘機であるヴァルシオンを見つめていた。
「思ったよりは手こずったが、終わりが見えたな、ビアン」
「始まりの終わりがな」
ミナに応えるビアンの声は、短くも、これからの未来を思う万感の響きがあった。
テスラ・ドライブの唸りも重々しく、海面ギリギリを飛んでいたヴァルシオンが、モニターの画面いっぱいを埋め尽くすオレンジ色の火線を歪曲フィールドとPS装甲、本来の装甲で弾き、勢いを留める事無くパウエルの甲板に降り立った。
ブゥンと低い音共にヴァルシオンの四つのカメラ・アイがパウエルの艦橋を見下ろす。ビアンはディバイン・アームの切っ先を突きつけ、外部スピーカーから降伏を勧告する。地の底から響くかの様な、熟練の迫力がそのまま言葉と化したかの様なものであった。
「兵を退け。この戦い、お前達の敗北だ」
「司令……」
「っ!」
パウエルだけでも数千人単位の人間で運行しているのだ。今も沈みゆく艦艇や兵器のパイロットの数も含めればこの段階で、戦闘に終止符を打てば、助かる命は相当数だろう。だが、ダーレスにはまだ希望があった。すでに潰えた希望が。
「ヤラファス島に差し向けた艦隊なら既に我が方の防衛隊が壊滅させた。現状の戦力で我らに勝つ自信がまだあるのなら、好きにするがいい」
「壊滅しただと?」
ダーレスが、通信士に目配せをすると、若い青年の通信士は、青褪めた顔で力なく首を横に振った。ビアンの言葉の裏付けが取れてしまった瞬間だった。それを悟ると同時、ダーレスが小声で指示を飛ばした。
(旗艦をセルタナに移し、残存戦力を撤退させろ。コッホ博士に脱出の用意を)
(それが、既にコッホ博士は……退艦されています)
(機を読むに聡いという事か。死に損いめ!)
連合の負けを悟り、そうそうに見切りをつけて脱出したコッホに毒づきながら、ダーレスは敗北の味を噛み締めていた。だが、それもここで艦橋を叩き潰されて、多くの兵を道連れにしてしまうよりはましだろうか?
ほどなくして、パウエルからダーレスの名でDC艦隊への降服が通達され、戦闘で機体が損傷した者や、戻るべき母艦を失ったものなどを始めに、武装を解除始めた。
航行能力を維持していた戦艦や、ダーレスの裏の指示を聞いた者達はタイミングを見計らって、戦闘海域から脱出した。
追う事も出来ないでは無かったDCだが、こちらも消耗した戦力を割く事を艦隊首脳部が嫌い、投降した連合の部隊と残存戦力の確認などに追われる事となる。
かくして、DCの地上総戦力と、連合の太平洋第四艦隊を主軸とする海洋戦力の大半を投入した戦いは、初戦よりも大規模ながら、はるかに短時間で決着がつく事となった。
連合は投入した戦力の6割近くを失い、旗艦パウエルは拿捕。艦隊司令ダーレス以下、艦隊上層部の高級士官もそれなりに捕虜となった。
だが、連合の不幸はそれだけに終わらない。ハワイ基地への帰路に、カーペンタリアから出撃し、戦いの趨勢を見守っていたラウ・ル・クルーゼ率いるザフト潜水艦隊に襲撃を受け、更にかなりの数の艦艇と人員を失う事となったのだ。
ただし、オルガ・サブナック、シャニ・アンドラス、クロト・ブエルら生体CPUは、ザフトを相手に多大な戦果をあげ、これまでのDCとの戦いでの不名誉な評価を覆す事に成功した事を記す。
またDC側も、ビアンのヴァルシオンなど絶対的とも言える超戦力や重力アンカーといった隠し札を投入したとはいえ、物量に勝る連合との戦いの損傷は大きく、MSの消耗率は馬鹿にならなかった。
エムリオン系のサバイバリティの高さから、生還したパイロットの数が、被撃墜数に比して多かった事がせめてもの救いだったろう。
シン達が対峙していたオルガら生体CPUや強化人間のMS隊も、母艦パウエルの拿捕に伴い即座に戦闘を中止し、新たに指揮権を移されたセルタナへと足早く撤退していった。
小国対大国の、一種の見世物的な面もあった連合対オーブという図式は、連合対DCとなった事で、DCの辛勝といえる形で収まり、地球連合とザフトの戦争スケジュールに大なり小なり、変化を強制するものとなった。
連合は宇宙へ主戦場を移すタイミングを大きく逸し、ザフトは地上戦力の撤退を速やかに行えるようになったものの、まだ地上で挽回できるのでは、という欲が出て来たのだ。
そして同時に、世界の目が、ディバイン・クルセイダーズという武装勢力に、否がおうにも惹きつけられる事となった。これからが、新たな戦争の終わりを始める戦いとなる事を意識したものが、さて何人いた事か。
だが、今DCに与しした者達は、勝利の味に一時酔いしれるだけで精一杯だった。
その裏では連合への勝利により、DCを支持する声がオーブ国内に増えたものの、旧ウズミ政権の中立政策を支持する知識人や在外オーブ人などからの反発は高まり、オーブの正統な後継者であるカガリへの支持とつながる事となった。
「では、アフリカ共同体は我々に協力すると?」
『うむ。プラントへの支援と合わせて、そちら側に食料やレアメタルなどの供出を行う手筈になっている』
「となると、南アフリカ統一機構への牽制も行わなければなるまい。ジブラルタル基地が生きてはいるが、バルトフェルドの敗北でアフリカ大陸のザフトは劣勢に立たされている」
DC討伐に派遣された連合の艦隊を退けた事で、それまで見向きもしなかった地上各国との交渉に、ヤラファス島地下の行政府は慌ただしさを増していた。連合の大敗は世界情勢に新たな一石を投じる出来事であり、DCの存在価値を高くしらしめるものだった。
この為に、ザフトの支援を受けず単独で連合を退けたのだから、そうでなくては困るというものだ。
もともと協力関係にあったアフリカ共同体を始め、大洋州連合や南アメリカ合衆国といった親プラント、反大西洋連邦勢力との水面下での交渉は、毎秒は言いすぎにしても過密なスケジュールで進められていた。
今も、ギナがアフリカ共同体の大使とモニター越しに話をしている。
宇宙に上がるはずだったのだが、大規模な戦闘での後始末に予想以上に時間を食い、いまだ地上にいる。
凛々しさと威厳で造り上げた美貌に連日の交渉や戦闘での疲労を出さぬまま、モニターの向こうの、顔に走る傷跡が荒々しい印象を与える金髪の男と向かい合っている。年は四十代後半といった所か。
『こちらは秘匿していたライノセラスと修復したリオン・タイプである程度の戦力は確保している。ザフト側への説明では、無論そちらからの供出品と言い張るがな』
「そうしてもらえると助かる。こちらもあまり余裕はなくてな。とはいえ、こちらで確保したストライクダガーやジン、艦艇を近いうちに回せるよう手配は整えておく。よろしく頼むぞ、バン中将」
『承知』
バン・バ・チュン。新西暦におけるビアンの右腕的存在であり、もともとは反連邦の、民族解放戦線の闘士であり、DC結成以前からビアンの思想に共鳴して協力していた最大級の理解者の一人であった。
かの世界でのビアンの死後、アードラーによって一時壊滅したDCを再結成し、ノイエDCを作り上げた逸物だ。獅子身中の虫によって、志半ばに倒れた彼もまた、このコズミック・イラの世界への来訪者となっていた。
彼の場合、死の際に乗艦していたライノセラス級陸上戦艦と一部の乗員、純正DCのAMであるリオンシリーズ、バレリオンシリーズと共にアフリカに転移し、息を潜めて世界と時代の推移を見守っていた。
そんなある日の事であった。コーディネイター系の反連合組織や、民族的な問題から連合・ザフトと敵対しているレジスタンス達をまとめあげる者達がいる事に気付いたのは。
瞬く間に経緯も価値観も違う彼らを統率し、一つの勢力として合併させる手腕に、ある男を思い描いたバンの予想は的中する事となった。
そう、世界各地で弱小勢力や現状の情勢に反旗を翻す者たちを一つにまとめ上げた男は、かつて彼が忠誠を誓った男――ビアン・ゾルダークその人であったのだ。
ビアンとの合流以降、士気が低下しつつあったノイエDCの兵達も新たな世界で生きる事を決め、彼らはアフリカ共同体の軍部へと潜り込んだ。
元々持っていた統率力と政治的手腕、ビアンの知己であるサー・マティアスというある男の力添えもあり、バンはアフリカ共同体軍部の中で急速に力をつけ、その影響力は多大なものとなっている。
打っておいた布石が、徐々に効果を表し始めていた。
南米アメリカ合衆国出身の連合兵などにも手をまわし、切り裂きエドの名声を利用する形で南アメリカ大陸での連合に対する反攻の準備も整いつつある。
ザフトも、地上戦力の宇宙への引き上げの為の時間稼ぎとして南米や、ユーラシア連邦の反連合感情の強い地域での工作を行っていて、これを利用する形で着々と用意は整っている。なおザフトもそれほど余裕はないのか、これらの工作は半ばで放棄されていた。
後はそれを仕掛けるタイミングだろう。
『遅くなったが、連合艦隊との戦い、勝利したそうだな。おめでとうと言わせてもらおう』
「ふっ、更なる闘いの幕開けに過ぎん。これで連合の戦争スケジュールは大幅に後退した。月のプトレマイオス・クレーターを始めとした各拠点でもMSの生産は進んでいるが、ビクトリアポートの再建までは宇宙で大きな動きはあるまい。気になる事がないではないが」
『カガリ・ユラ・アスハか? それともラクス・クラインか?』
「耳聡いな。砂漠の砂嵐には宇宙の情報も混ざっているのか?」
アフリカ北部にあるアフリカ共同体の外に出ていない筈のバンの情報網に、ギナは感嘆の意を表する。有能なものに対して賞賛を惜しむような性格ではない。
『プラントで反戦を訴えるラクス・クライン、オーブを離れオーブという器を受け継いだカガリ・ユラ・アスハ。年若いが、不思議と彼女らの起こす行動の影響力は大きい。それに彼女らを結ぶ線が無いわけでもない。
両者が手を組んだ時、ひょっとすれば、我らの想像も着かぬ事態が巻き起こるかも知れん』
「予言か? バン中将」
『さてな。だが耳に届いていないわけではないはずだが? 月のコペルニクスを始めオーブ所有のコロニー、在外オーブ人を一つにまとめて、宇宙にオーブ政府樹立の動きがある事を』
「カガリか。先を見ぬ愚か者と思っていたが、それなりに賢くなったものだ。この時勢、オーブを名乗ろうともザフト、連合共に大局に影響を及ぼさないと判断して手は下すまい。
だからこそ今、オーブ政府を樹立しておく。戦いが終わった後の事を見据えた上でな。父の庇護を離れた事が、成長を促したか」
どこか感慨深く、ギナはカガリが今いる宇宙を見通す様に、天井を見上げた。
所変わり、行政庁のビアンの執務室にて、山積みの書類と格闘していたビアンは、紙束片手に、筆の名人でも人生においてわずかにしか描けぬ秀麗さを湛えた眉を顰めて入室してきたミナに気付いた。
……まさか、ヴァルシオン大改修計画その2がばれたか?
両腕から圧縮した空気をパンチと共に打ち出す『ヴァルシオン・サドンインパクト』や、発射したクロスマッシャーを纏い体当たりを敢行する『クロスマッシャー・クラッシュ・イントルード』、
発生させた特殊な磁力で敵を引きよせてベア・バッグで胴体を真二つにする『ヴァルシオンブリーカー』。
両腕部に展開した歪曲フィールドと相反する位相の歪曲フィールドの二つを反発させて生じるエネルギーで対象を破壊する『デス・アンド・ライブ』、空間歪曲の応用によるエネルギー転位兵装『マオウ攻撃』、
メガグラビトンウェーブを照射後、重力を反転させて固定した敵に正拳突きを叩きこむ『殴殺! 重圧正拳突き』……。
ビアンは諦めない事を、スーパーロボットから学んだのだ。学んだ事の使い所を間違えているような気がしないでもないが。
ミナの一言目は何だろうかと、書類を処理する目と手とは別に耳を澄ましていたビアンに届いたのは、ミナの呆れた溜息であった。まだ当たりかはずれか分からないので、ビアンは気を抜かなかった。
「どうした、ミナ」
「なに、一部の兵と将校からフェアリオンの運用について抗議が来ている。内容は下らないのだが……。数がな」
どうも繊手に抱えた紙全てが抗議書らしい。しかしフェアリオンの運用法についての抗議とは何だろうか? フェアリオンについては夢の産物という事もあるが、あまり深く考えずにいる。
W−³INKシステムといったマン・マシン・インターフェイスシステムを含む機体の仕様については、ビアンにとっても画期的なものだったし、どことなくそれらの装備が一人の天才――ある意味奇才を思い浮かばせていた。宇宙への夢を見続ける一人の青年を。
まあ、今は寄せられる抗議について耳を傾ける事にした。椅子に座ったまま手に届く範囲に置いたサーバーから、ブラックコーヒーを淹れて一口飲む。ミナにも勧めたが、辞された。
「簡潔にまとめれば、パイロットであるソキウス達の事が気に入らんようだ」
「問題はないはず……あの服装か?」
「そうだ。私が選んでやったあの服装が気に入らんらしい。なぜ、男があんな服を着せられてMSに乗っているんだと言う事だ。MS管制官を中心に抗議が来ている」
ソキウス達の来ているフリルとレースの神に祝福されたかの如きあの恰好が問題視されているようだ。
ソキウス達の外見はほっそりとした線の細い、色白の美少年だ。
ただし戦闘用コーディネイターという出自もあり、ほっそりとした体は、より合わせた鋼のワイヤーの強靭さと鞭のしなやかさを併せ持ち、屈強な兵士や格闘家を素手で制する戦闘能力を内に秘めている。
退廃的で子悪魔的なゴシックロリータ調の服が、あの無機質な無表情と、ともすれば危うい背徳感を見る者に与える病人の肌の白さ、揺らがぬ瞳とが合わさった時えもいわれぬ妖しさを醸し出しているのだ。
ミナは抗議書の内容の一部を読み上げ始めた。
「『ソキウス達にぜひ綾波レ○と長門○希の格好を、あるいはS○S団の女子三人で! から始まり、ソキウス君にはショタメイドが似合う、巫女服が似合う、バニーが似合う……。
嫁にくれ、弟にくれ、むしろペットにしたい、いや逆にご主人さまになってもらって甲斐甲斐しく世話をしてあげたい……』
我がDCの兵もおもったより腐った脳髄の持ち主がいるものだ」
やれやれと深い溜息をつくミナに、きっかけをつくったのはお前だろう、とビアンは思ったが口にはしなかった。今更言っても仕方ないし。
「オーブにそのような土壌が出来ていたとい事だろう」
「それを言われると返答に困るな。これでは、いささか我が民と呼ぶのも気が引ける」
そんなわけで、ビアンはしばらくミナの愚痴を聞いて時間を過ごした。それだけを言いに来たらしい。ミナが愚痴をこぼす相手がビアン唯ひとりなのは、さてどんな意味があるのやら。
執務室での一日で腰痛や近眼を発症できそうなデスクワークを終えたビアンは、オノゴロ島のスペースノア級用の地下ドックの更に下層にある、極一部のものしか知らない特殊秘匿フロアにいた。
更にそこから何重にも隔壁が下ろされ、核シェルターを凌駕する堅固さを誇る地下通路を通り、オノゴロ島沿岸、数十キロの地点にあたる場所に辿り着く。保管する物質の危険性が、これだけの設備を要求したのだ。
海底に突き出た岩に偽装された展望室から、執拗に隠されて海底に眠るソレを見下ろし、ビアンは先客の横に並んだ。目の前では強化ガラスと膨大な量の海水を経て、巨大なソレが今も眠っている。
タマハガネの艦長に就任したエペソが先客だった。横に並ぶビアンを一瞥して、再び眼下のソレに目を戻す。
「故郷を思っていたのかね?」
「気にならんとなれば嘘になる。余を打ち倒したαナンバーズとて、創世神ズフィルードの裁きには抗えぬだろう。……だが、彼らならばと、思わずにはおれぬ。故に、パルマーの未来がどうなるか、考えられずにおれようか」
「αナンバーズ、か。私の知らぬ希望の旗の名だ。君にとっては複雑かもしれんが私には朗報に近いものがある。ゼ・バルマリィ帝国、ゾヴォーク、ゼントラーディ、メルトランディ、STMC、バッフクラン……。
私の知る以上の脅威が宇宙に満ちている事は驚きであったがな。この宇宙ではどうかね?」
「それは余にも分らぬ。ヘルモーズは沈み、ズフィルードもまた倒れている。貴公の観測データを見せてもらったが、まだ不十分と言うほかあるまい。
なにより、余のいた宇宙でもそうであったが、コーディネイターとナチュラル、愚かな争いが宇宙を塞いでいてはな。余の知るのと、この世界の争いもさして変わらぬ状況になっているようだな」
その言葉には地球人への侮蔑が混じり、この世界でも行われる地球人同士の争いに、エペソは嘲笑を向けている。宇宙存亡の事態に陥ってさえ地球圏内での地球人同士の戦いが続いたエペソの宇宙の地球。
その一場面で描かれた戦争図がこの地球でも行われていようとは。争いこそが人の本質だろうか。そしてそれはDCを結成したビアンにも当てはまる事ではないだろうか?
エペソの視線はそれをビアンに問いかけていた。お前の行いは、プラントのコーディネイターやブルーコスモスらとどれほど違うと言うのか、と。
ビアンは甘んじてその視線を受け止めた。そうだ、戦いという手段を選んだ以上、ビアンもさして変わりはしないのだから。
「宇宙を塞ぐのは人か。母星を傷つけ汚し、何を得るのか。そう考えされる事もないではないがな。だが、一度踏み出した足を止める事は出来ん。その道の行き着く先まで行くのも踏み出したものの責務ではないかな?」
「よかろう。世界は違えども地球という星に産まれたものの未来、見届けさせてもらおう。地球人が愚かな存在であるか否か……。パルマーの民が手を取り合うべき存在であったかを知るために」
もう、遅いのかもしれないがな、小さく呟き、エペソは再び海底に眠るソレに視線を戻した。深海の静寂をビアンもまた共有して、ソレを今一度見つめた。暗い海のそこで眠る巨大な……。
マルキオ導師や孤児院の子供達、オウカはDCが連合艦隊の撃退後、避難用のシェルターからヤラファス島にあるホテルへと宿を移していた。ビアンの手配で、孤児院にいた全員が、温かい食事と寝床を十分に満喫する事が出来た。
夜も更け、むずがる子供達を寝かしつけたオウカは、暗くなった窓の外の風景を少しだけ見つめてから、リビングのソファに腰を下ろし、短くため息を吐いた。
心あるものなら、オウカの胸の内にある暗いものを取り除いてあげたいと思うような、重い溜息だった。しなやかな足を組み、ミネラルウォーターの瓶を一本冷蔵庫から持ってきて一口だけ口をつける。
オウカが落ち着くのを待っていたのか、リビングにもう一つ別の人影が入ってきた。極上の絹糸を純白に染め上げたような髪に、小ぶりな造りの顔に気品をたたえた美少女だ。オウカと年はさほど変わらないだろう。
髪の色に合わせたのか、白いワンピースというシンプルな服装だ。顔を上げたオウカが何か言うよりも早く、向かい合うようにすわり、意志の強さが伺える瞳で真っ直ぐオウカを見た。
「悩み事がある、そういう顔だなオウカ。宇宙に上がるプレアが心配か?」
「そうね、あの子は体も弱いし、気にならないといえば嘘になるわ」
「……どうやら心配の種はプレアだけではないらしいな。オウカ、なにを恐れている?」
少女の言葉はオウカの、心の悩みの本質を突いたようで、オウカは均整の取れた体を強張らせた。それも一瞬で解くと、オウカは観念したように背もたれに体を預けて、憂いをたたえて瞳を半ばまで下ろした。
「この前、私はMSに乗ったわ」
「勇気があると私は思ったが?」
「気休めを言うのも下手ね……。違うのよ、戦いが怖かったことではなくて、怖くなかった事。懐かしさのようなものを感じたことが、私は恐ろしいの。
失った記憶の中で私がいったい何をしていたのか、それを知る事になりそうで私は怖い。私はいったい何者なのか? その答えが、私は怖い」
「なるほどな。知らない自分の行いを知る事が恐ろしいか……。だが子供らと過ごす日々の中ではそのようなことを知る事にはなるまい。では、なぜお前がソレを恐れるのか。オウカ、お前戦場に立つのだな?」
「ええ。プレアと一緒に宇宙に上がるわ」
「マルキオに言われたか?」
不愉快さを隠さず少女は苛立ちをこめて言う。オウカは弱弱しく、しかし確かに首を横に振った。
「いいえ、私の意志よ。あの子達が戦争なんかに巻き込まれない為に私が出来ることをするだけ。その為になにをすべきなのか、私なりに考えた結果なだけ」
「……馬鹿者め。お前が死ねば子供達が泣く」
「そうね、自分でもそう思うわ」
少女はどうしようもない運命を前にしたもののように嘆息した。梃子でも動きそうにないオウカの意思を感じ取ったからだ。一瞬、マルキオを罵りたい衝動に駆られたがかろうじて喉の奥に飲み込み、代わりにこう言った。
「仕方ない、私もお前に付いて行ってやる。抗議及び質問は受け付けんぞ。もう決めたからな」
「だめよ、貴女まで私に付き合うことなんて」
「受け付けんといったはずだ。それに私はお前ほどあの子達に懐かれてはいないしな。それに戦いには慣れている。お前が死んであの子達が悲しむことの無い様、私がお前を守ってやる」
「そんな、そんな事……」
「ふふ、お前や子供達には感謝しているのだ。本当に久方ぶりの安らぎを与えてくれたことにな。その恩を返さぬとあっては、黄泉の父と母に叱られてしまうのだ」
「……貴女も馬鹿ね、ククル」
「今に始まったことではないさ」
ククルとオウカ、二人の少女は、どこか淋しげに笑いあった。
それから数日の後、泣きじゃくる子供たちと別れて、プレア、ククル、オウカの三人を乗せたシャトルが、宇宙へと飛んだ。
エペソ・ジェデッカ・ゴッツォが仲間になりました。
ズフィルードクリスタルを入手しました。
αナンバーズを始めとするαシリーズのデータをおおよそ入手しました。
549 :
660:2007/08/20(月) 01:13:37 ID:???
こんばんわ、今回はここまでです。結構キャラも出ましたので、簡単な早見表も考えました。載せ忘れはいない……はず。
オウカ姉様、ククルが戦場へ。……ところで二人の乳はどんなレベルでしょうね? 普通でしょうか、無難に?
スパロボ系登場キャラ所属一覧
・ディバイン・クルセイダーズ
ビアン・ゾルダーク(OGs)
クエルボ・セロ(OGs)
テンザン・ナカジマ(CE生まれ)
エペソ・ジュデッカ・ゴッツォ(第三次α)
マイヤー・V・ブランシュタイン(OGs)
リリー・ユンカース(OGs)
ユーリエ・ハインケル(OGs)
ロレンツォ・ディ・モンテニャッコ(漫画版)
バン・バ・チュン(OGs)※現在はアフリカ共同体に所属
ユウキ・ジェグナン(CE生まれ)
リルカーラ・ボーグナイン(CE生まれ)
ローレンス・シュミット(CE生まれ)※エイリアン魔獣境より
・AAおよびクサナギ(オーブ艦隊)
ダイテツ・ミナセ(OGs OR CE生まれ?)
カーウァイ・ラウ(OGs)
オウカ・ナギサ(OGs)
ククル(第二次α)
・地球連合
アードラー・コッホ(OGs)
ジーベル(OGs)
・ザフト
????
・ラクス・クライン
????
∩___∩
/ ノ `──''ヽ それイほとんどデオンじゃね?
/エペソ / | ∩___∩
/ (・) | / ビアン ヽ ストライクダガー大きくして赤く塗ってブラックホールキャノン付けね?
__| ヽ(_● | ● ● |
\ |Д| | ( _●_) ミ
彡'-,,,,___ヽノ ,,-''"彡 |∪| __/`''--、
) |@ |ヽ/ ヽノ ̄ ヽ
| | ノ / ⊂) メ ヽ_,,,---
| .|@ | |_ノ ,へ / ヽ ヽノ ̄
| |_ / / | / | | ヽ_,,-''"
__|_ \\,,-'"\__/ / ,────''''''''''''''"""""""
~フ⌒ ̄ ̄ ~ヽ ヽ  ̄ ̄"""'''''''--、""''''---,,,,,,__
/  ̄''、|ノ )ヽ
___/  ̄ ̄) / |___
こんな会話を想像した
ビゴーとテッカマンブレードの情報があるっつーことは
いやネタか
GJ!
あのクリスタルもあるんか…
あのピンク軍は素直にラクシズでいいような…
>>549 連合にいるのが小物だけってのも悲惨だなあw
そういやアードラーが自分にされたことをやったなwww
いつもながらGJであります。
ふと思ったのですが、ロレンツォ・ディ・モンテニャッコがいるって事は、ムラタのおっさんも来てるのか…?
ムラタ好みの巨大日本刀もあるし、どこかで元気に傭兵やってそうだ。
あれ、でもこの時間軸ではガーベラ・ストレートとタイガーピアスのみか?MS用日本刀。
ロウかウン・ノウ爺さんが襲われてそうだ…。
剣に対しての考え方も正反対だし、万一遭遇したら凄い命の取り合いになりそう。
ムラタって死んでたっけ?
オウカ姉さまとククルはラクシズ行きかよorz
>>556 コミック版で、シシオウブレードを弐式の口で噛み砕かれた後に、ゼロ距離ブーストナックルで粉砕されました。
GJ!
DC兵は、総帥共々頭のネジが何本か抜けてやがる。ミナ様ファイトです!
ククルとオウカ姉さん、やっぱりラクシズ行きかorz
えぇ〜、二人の乳はですな。ククルは美乳かな?オウカ姉さんは、結構ご立派だった気が。
蘊奥のじいさんに性根から鍛えなおされて改心するとかロウと兄弟弟子関係を築く
綺麗なムラタも面白いかも…
そういえばラピエサージュっていまラクシズに……
お姉さま逝かないでぇ〜〜
エムリオンVとか出るかな?
気持ち早いがムラサメをどう料理するか楽しみ
いやムラサメはアスハ政権じゃなきゃ誕生しないのかな?
お前らラクシズに期待しなさ過ぎ。きっとOGキャラの大量流入によって、
世間に対する認識を改めたキララクが……ええと……すまんちょっと冷や汗が…
>>563 ヒント:ここのラクシズ?はいずれかのスパロボ補正済み
>>563 改めたらラクシズじゃないよw
それにしてカガリに期待するとは知識人と在外オーブ人はもうダメだな。
>>565 サヨークがマスコミ支配して洗脳かましてた時期が長く続いてたとか
あるいは創○の学会員が多いとか
一々突っ掛かることはあまりしたくないが
「在外」オーブ人と「知識人」はアスハのやり方では
国民を犠牲にして国を焼くことになってただろうことをどう考えた上でラクシズ支持してるんだろ…
それにしても宇宙規模の思考・視点を持つエペソがビアンと組んでいるのは思想的にでかいな。
ますますカガリやラクスがちっぽけなものに見える。
エペソさんもごっつい選民思想は有るからなー。
しかしプレアと上がるという事は桜花とククルはXトレイルートか。
カナードと無事戻ってくる事を期待してみよう。
……後、エペソとビアンが見てたのってもしかしてアレか。紫海栗。
570 :
通常の名無しさんの3倍:2007/08/20(月) 14:02:13 ID:2FiP3OwZ
せぷたん?
>>569 いや、ここはグリーン・フラワーじゃね?
それにしても、666氏はトリを付けないのか……
572 :
通常の名無しさんの3倍:2007/08/20(月) 14:41:42 ID:L7X2K3oM
相変わらずビアンSEEDGJ!! 個人的にはせっかくサルファやMXのデータがあるんだか
ら、シンとステラはMXガルブレイズ系や竜虎王のような一体で2つの姿をもつ超高性
能特機系の機体がふさわしいと思うのですが(いやカップルなので)・・・。
573 :
通常の名無しさんの3倍:2007/08/20(月) 14:58:14 ID:L7X2K3oM
某エイリアン魔獣境の人が出ているのには感動しました!!
しかし、ここまでとんでもない面子がいると某神祖が降臨しそうで怖いです。
某神祖のまえでは、いかなるOGキャラも霞んでしまう・・・。
我こそは〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜の人は生存してるからダメか
※寿命で逝かれました
とかならよくね?
それじゃヨボヨボじゃないか!
>>567 日米安保と自衛隊に反対してた昔の日本の「進歩的知識人」にどうやって日本の国防を
担うのか聞いてみるのと同じくらい興味深いなw
「平和憲法」と「オーブの理念」は同義語かw
>>571 エペソさんなんだからナイトメア・クリスタルじゃね?
逆に考えるんだ
こちら側のあの人なら生きててもOKだ
こっちのハザル対エペソ・・・
ハザル「エペソ!何故そんなところにいる!こっちに来い!ガドル・ヴァイクランやるぞ!」
ハザル「ガァァァァァドゥゥゥゥゥルゥゥゥゥゥ・バァァァァァイィィィィクゥゥゥラァァァァァン!!」
なんか若本になった
ハザル坊登場に期待wwwwwwwww
>>577 ソ連に国を売り渡して守ってもらうつもりだったんだろ?
584 :
通常の名無しさんの3倍:2007/08/20(月) 20:05:16 ID:YQ5FSCzb
我こそは〜〜〜〜な人だけど
悪を斬る方はムリだけどメイガスさんマンセな人?なら可能じゃね
リクエストしていいっスか?
リョウト・ヒカワ(スーパー系)―――第三次αバージョンをお願いしまっス!
……自分、αの主人公、全員プレイしたんですがリョウトがいちばん気にいったんですが第二次以降……(泣)
ですので、リョウトが主人公で第二次、三次を経験して戦後誤って、跳ばされたという感じで……リョウト&リオ、真・龍虎王でDC参加してほしいっス!
OGのリョウトはαでの「悲観的に考えがちだが、それに負けず前向きに行動する」の前向きの部分が欠けていてヘタレ度がうなぎ上りだったんで。
やっぱ、最初からリオと出会っていたかどうかが問題だったんでしょうか?
ふと思ったんだ…"あちら側"のゼンガーMIA(恐らく死んでる)だから出てこれるんでね?
あとアルフィミィとか。
龍虎王伝記から東郷さんとか…無理か
もう水木のアニキ連れてきてラクシズ壊滅させちゃえばいいと思うよ
あちら側なら食通さんもいけるな
エルビス事件で死んでるようだし
そういや久保は別に死んでなくても第三次α後ならこっちに来れるよな。
平行世界間の移動も自由自在だし。でも奴が来たらさすがにバランスがやばすぎるか。
一つ言っておく
過剰なリクは職人を潰す
なんとなくだがブルコスにはCE版ゼゼーナンが居そうな予感。
593 :
通常の名無しさんの3倍:2007/08/20(月) 21:53:01 ID:QjF1EjTV
シン「あんたは一体何なんだぁぁぁぁぁぁ!」
ゼンガー「我はゼンガー、ゼンガー・ゾンボルト!悪を断つ剣なり!」
ピンク「戦闘を止めて道を開けなさい。私はラk」
親分「黙れ!そして聞け!
我が名はゼンガー、ゼンガー・ゾンボルト。悪を断つ剣なり!
おのが欲望を撒き散らす貴様等ラクシズは今日、我が斬艦刀によって潰えるのだ!!」
ビアンSEED 没ストーリー@
ビアンSEED DESTINY
・ボーイ・ミーツ・ガール 戦場で君と
ひたすら走っていた。喉が渇く。荒い息がずっと続いている。燦々と照り付く太陽は変わらぬ輝きを零しているが、それを妨げるのは黒い煙であり、より大きな破壊を齎す事を追究された光の筋だった。
地面を踏みしめて、爆音が鳴り響く世界で、心は恐怖に泣きだしそうだった。
シンがぼろぼろと赤い瞳から恐怖の涙を流すにいられたのは、少し前を行く父と母の背が見えている事と、自分が守らなければいけない妹のマユがいるからだ。
地球連合がオーブに宣戦布告し、それと同時にオーブはビアン・ゾルダークの指揮下で、ディバイン・クルセイダーズとして新生し、今こうして戦いを繰り広げている。
避難用の船舶まで、後少しという所で、マユが大事に使っていた携帯電話を取り落とし、足を止めてしまった。マユは携帯電話に気を取られ、父と母も足を止めてしまう。
「僕が」
短くそう言って、シンは木立に落ちてしまった携帯電話を急いで取りに走る。少しは知ってすぐに見つけられた。ちょっとした窪みにはまっているが、手を伸ばせばすぐにとれる。
「お兄ちゃ……」
シンは見た。自分達の上空で、青い翼を持つ白いMSと、青緑色の砲門をいくつも持ったMSの撃ったビームがぶつかり合い、その一筋が自分達目掛けて降り注ぐのを。
マユ―――……、父さん、母さん!!!
声にならぬシンの絶叫が、苛烈な光に焼かれて消えてしまった。
「……?」
思わず瞑った目を開くと、そこには自分達家族を守るようにして庇うMSの姿があった。思わずその雄姿に見惚れてしまう。
『大丈夫? 早く逃げて』
外部スピーカーを通じて掛けられた声の幼い響きと可憐さに、シンがようやく正気付いた。女の……子?
ビアン・ゾルダークの肝いりで開発された陸戦タイプのMS――ランドエムリオンであった。
上空の撃ち合いから弾かれたビームを、左腕を犠牲にして自分達を守ってくれたのだと、ようやく分かった。慌てて呆然としているマユの腕を取り、父と母の元へと走り寄る。避難船の方からも、DCの軍人が救出に向かってきてくれている。
『その人たちをお願い』
また、可愛らしい女の子の声が聞こえた。MSは向きを変え、シン達に背を向ける。聞こえていないかも知れないけれど、それでも、シンは言った。
「助けてくれ、ありがとう!」
『……気をつけてね』
どうやら届いたようだ。MSは顔だけシンに振り向いて、小さく告げた。わずかに笑みを浮かべているのが分かる、柔らかい声だった。
上空から別の機体――ガームリオンが接近し、ランドエムリオンに何か伝えているようだ。外部スピーカーが繋げられたままなようで、会話の一部が聞こえた。
『ステラ、D−4エリアに行くぞ、喰い込まれてやがる』
『うん、すぐ行く』
去りゆく二機のMSを見送り、シンは、自分達家族を助けてくれたMSのパイロットの名を呟いた。
「ステラ……」
その後、DCは連合の侵攻を尽く退け、今回の戦争の天王山であるヤキン・ドゥーエ戦にて、連合・ザフトの戦力の壊滅、両軍の戦争指導者達の戦死と相まり、休戦条約が結ばれる事になった。
DCはそのまま旧オーブ領を接収し、アスハ政権を支持するアスカ家は、プラントに移住した。
あの日、自分達を助けてくれたパイロットに会いたい、家族を守る力が欲しい――そう願ったシンは、ザフトへ入隊。めきめきと頭角を現し、アカデミーの成績優秀者上位十名に与えられる赤服――ザフトレッドとなった。
CE73年――プラントの兵器工廠コロニー・アーモリーワンにて、プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルとDC総帥ビアン・ゾルダークとの間に非公式に会見が持たれていた。
セカンドステージとされる新型MSの正式パイロットに選ばれたシンもまた、アーモリーワンにいた。新型戦艦であるミネルバの艦内で同僚のルナマリア、レイと共に待機していたシンが、非常警報を聞いたのは、デュランダルとビアンの会見が行われている最中であった。
シンの乗る新型MSの核たるコアスプレンダーに乗り込み、すぐさま発進する。
あろうことか新型機であるGを三機、強奪されたのだという。警備の怠慢もあるが、それ以上にシンは争いを呼び込みかねない行為を平然と行う者達に怒りを募らせた。
かつて自分の故国を見舞った戦火、それをまた世界にもたらすかもしれない!
ミネルバに設けられた専用のカタパルトから発進し、空中で、後から射出された上半身チェストフライヤーと下半身のレッグフライヤー、そしてソードシルエットと合体する。
灰色だった機体が白と赤を主体にしたカラーリングに変わり、シンが手に入れた力――インパルスが剣の力を得た姿を露にする。
施設を破壊して回る奪われた新型の機体、ガイアの前に降り立ち、シンは吼えた。
「また戦争がしたいのか! アンタ達は!」
息を巻くシンが、レーダーに新たに映る三つの光点に気付いた。所属は……DC。ビアン総帥の護衛だろう。
シンのインパルスと奪われた三機のGを取り囲むように、それらが降り立った。
DCのみで運用されている特機――スーパーロボットの量産型である準特機、グルンガスト弐式。
現在DCの主力MSである量産型ヒュッケバインMK−U。同じく、砲撃支援用の機体として運用されているラーズアングリフ。
「味方してくれるのか?」
思わぬ援軍に戸惑うシンを他所に、それらの機体のコクピットでパイロット達は互いに声をかけていた。
「コロニーの中だ。あまり派手にやりすぎるなよ、ステラ、アウル」
「分かっているよ、総帥もまだ避難中だしさ。舐めた真似してくれる奴らを適当にボコるだけでいいんだろう? ステラこそ気をつけろよ、弐式のパワーじゃ外壁に穴空いちまうぜ」
「そんな事しない。アウルこそ気をつけて」
ヒュッケバインMK−Uに乗るリーダー格のスティングの言葉に、ラーズアングリフのアウルと、グルンガスト弐式のステラもそれぞれ返事をした。新たな敵の登場に、新型のGを奪った謎の敵は、イレギュラーな事態に戸惑いを見せている。
これならば、この場で機体を取り押さえられるかもしれない。
シンだけでなく、スティング達もまた同じ事を考えていた。
そして、この場にいる誰もが、かつてオーブを舞台にした戦いで、一人の少年の家族と未来を救った少女が、二年の時を経てその少年と同じ大地に立っている事を知らなかった。
それもまた一つの運命であり、これから地球に巻き起こる戦いの嵐のはじまりを告げる再会でもあった。
えーと、お蔵入りした種運命版です。オーブ戦以前にシンがDCにスカウトされず、本編みたいにザフトに入隊していたら、的なもの。ガイアなどを奪ったのは他のファントムペインのメンバーとか、バンプレキャラということで。
そして、こんな拙いネタに感想をくださる皆さんに感謝を! ありがとうございます。
GJ!
でもステラが弐式ってことはラクシズに誘拐洗脳されて…orz
またはステラの声に反応したスーフリニートに…いかん、不吉な妄想がとまらない
GJ!
これはこれで面白い展開っすね。
>>598 大丈夫だ!綺麗なテンザン兄貴が居る!大丈夫なはずだ!
600ゲット
しかしクルーゼやパトリック達の動きが無いのが気になるな…
あのピンク電波級(級であって上ではない)の行動力と思想持ちのあいつらが何もしていないって事は無いだろうし……
第二十話 迷子も二人なら怖くない
相も変わらずL4コロニー群のメンデルに潜伏するアークエンジェルらオーブ艦隊であったが、アークエンジェル、スサノオ、ローラシア級、ネルソン級、ドレイク級が並ぶ中に旗印であるクサナギの姿が無かった。
ディバイン・クルセイダーズの台頭によって内部から崩壊したオーブ首長連合国の、正統なる後継者カガリ・ユラ・アスハもまたAAらとは行動を別にしていた。オーブの所有していたコロニーの、とある最高級ホテルの一室にその姿はあった。
華美な装飾が目立つアンティークや置時計、絵画に囲まれた、一般市民が目玉をひんむく一泊当たりの値段に見合う部屋だった。もちろん、盗聴などに対する対策もサービスに含まれている。
やはり最高級の黒檀のデスクに座り、傍らにキサカを置いて、カガリは行動を別にしているマリューやムウ、ダイテツといった艦隊首脳部とモニター越しに定時連絡を取り合っていた。一同はAAの艦橋に集まっているようだ。
オーブの準将の階級章を着けた軍服に身を包み、カガリは開口一番溜息をついた。よほど心労がたまっていると分る溜息だ。
「まったく、私を支持する連中と来たらDCに便乗する事ができずに損した連中や、オーブの財源やアスハ家の資産目当ての碌でもない奴らばかりだ。まともに中立政策を支持する姿勢で私に力を貸してくれるものは少ない」
憤懣やるかたないカガリに、マリューが宥めすかすように口を開く。カガリは元々気の強さが見ただけで分かる美少女だが、今はそこに疲れの色が濃い。
『それでも、支援してくれる事には変わりないんでしょう? だったら、利用するだけしてみる、それ位の気概があった方がいいんじゃないかしら?』
「ラミアス艦長の言う通りだけどな。それにしても腹立たしい! あいつらの欲の突っ張った顔と来たら! 口々にビアンに対する罵詈雑言を並べて、反対にお父様や私への美辞麗句を喋り続けるあの見え透いた態度も、耳が腐りそうで嫌になる!
結局は自分達の利益しか頭にないんだ、あいつらは!
おそらく、私を支援する一方でDCとの窓口を探して二枚舌を駆使しているに違いないんだ。おまけにそんなのが最大の支援者というのが情けない」
『仕方あるまい、という言葉では我慢できんかな? カガリ代表』
火をつけていないパイプを咥えたまま、ダイテツがおもむろに言った。オーブへの連合の降下部隊の第一陣、続く第二陣をDC宇宙軍と共に退けた後、カガリが宇宙でのオーブ政府樹立に向けて動き出した時、無言で見送った男だ。
「納得は出来ないが、我慢はするさ。今は資金も人も情報も弾薬も食料も、何もかもが欲しいんだ。笑顔の裏でどんな事を考えていようが、役に立つなら利用する。それ位、私だって覚悟している!」
『なら、よろしい。それで、クサナギと我々についての扱いが決まったかね?』
「それは、その……」
途端に委縮したカガリに、好もしげな笑みを浮かべてダイテツはカガリが口ごもった内容を代弁する。
『クサナギからカガリ代表は降りて独自にオーブ再建の行動を行い、クサナギやスサノオを始めとするわしらは、DCを良しとせぬアスハ派の軍人の暴走した集団、といった所かな?』
ダイテツの言葉に、マリューは驚きに目を見張るが、その傍らのムウは予想していたのか小さく肩を竦めるだけだった。
「いや、すまないとは思っている。でも、連合の脱走艦であるアークエンジェルやザフトの核動力MSと行動を共にしている所を見られるとまずいんだ。本当にすまない!」
既に降下艦隊と何度か交戦しているが、それに対する苦しい言い訳という意味もあるだろう。気休め程度の行為に過ぎないと言われればそれまでだが、やらないよりはましという言葉もある。
モニター越しに頭を下げるカガリに、マリューはそういうことかと納得した様子で穏やかな視線を送っていた。初めて会った頃に比べて、随分と変わったものだ。昔の彼女なら、こんなやり方には怒鳴り散らして反対の言葉を並べ立てただろうに。
『気にしないで。そもそも行く場の無かった私達を受け入れてくれたのはウズミ様のオーブだったし、その恩返しも兼ねているのよ?』
『ラミアス艦長の言う通りに受け取っておいてはどうかね、カガリ代表。わしらはわしらで身軽に行動できる。それぞれ政治と軍事でやれることをやればよい』
「ダイテツ艦長、ラミアス艦長、本当にすまない」
見ているこちらが申し訳なる位に、カガリは何度も頭を下げた。一国の代表となる人が、そんなに軽々しく頭を下げるものではないが、それもカガリの良い所だろうと、マリューは優しく見守っていた。
艦隊から離れたデブリ帯では、フリーダムとジャスティスを相手に一機の機動兵器が模擬戦を行っていた。
出力を落としたビームライフルでもいいが、その出力を落としたライフルでも焦げ位は出来ることがある。その修理でさえ惜しまざるを得ない赤貧の状況なので、レーザー照射で、コンピューターがダメージ判定を行うタイプのものを行っている。
キラとアスランという現戦役においてトップクラスのエースと最高クラスの機体を相手に互角の戦いを演じるのが、クサナギの脱出に際しDC側が意図して与えたラピエサージュであった。
キラやムウ、アスラン、ディアッカといったエース達が乗っても完全に性能を引き出す事は出来なかった機体が、今本来の乗り手が搭乗した事で100パーセント以上の性能を発揮していた。
灰と黒を基調にした装甲に、テスラ・ドライブを搭載したウィング、折りたたみ式の、実弾とエネルギーを打ち分けるオーバー・オクスタン・ランチャー、右手には三枚の刃を装填したマグナム・ピーク、左手には4連装マシンキャノンを主兵装としている。
これに加えてAAやクサナギに搭載したパーツでの改修が施され、I.W.S.Pストライカーの装備でもある9.1メートル対艦刀二本、115mmレールガン二門が腰部に追加されている。
G――ガンダムタイプにも似たツインアイの頭部に、不揃いのブレード状のアンテナを備え、肩や人間で言うふくらはぎが膨らんだ四肢をもっている。
体高は24.5メートルと、ジャスティスやフリーダムよりも6,7メートルほど大きい。
鈍重そうな外見に反して、フリーダム、ジャスティスと変わらぬ速度でスペース・デブリを搔い潜っている。巨大な刃にも似たウィングを展開し、
フリーダムに向けてO.O.ランチャーの実体弾で牽制し、動きの一瞬の停滞が生まれるや、見過ごす事無くエネルギー弾に切り替えて、精密な射撃を加えてくる。
並のパイロットでは呆気無く撃墜される一撃をかわし、フリーダムのコクピットで、キラは冷や汗をぬぐいたい衝動に襲われた。
不規則な螺旋の動きでこちらに迫ってくるラピエサージュに向けて、クスフィアスレールガンで狙い撃ち、わずかな時間差でバラエーナとルプスビームライフルの三撃を放った。
三百六十度同時に把握しているのではないかと思う動きで、ラピエサージュはフリーダムの砲撃の全てをかわし、その隙を狙ったアスランのジャスティスが振り下ろしたビームサーベルを、そのサーベルを掴む腕に左拳をあてて防いだ。
「読まれていたか!」
「アスラン!」
機体の向きはフリーダムを向いたまま、O.O.ランチャーの砲口をジャスティスに向けるラピエサージュに、アスランのジャスティスには掠りもしない言語に絶する精密さで、キラはフリーダムの火力を撃ち放つ。
デブリを五つの光が照らしだし、右手を振り上げるモーションに入っていたラピエサージュは、キラに勝るとも劣らぬ反応速度で機体を翻し、砲撃を回避して見せる。
「キラ、フォーメーションを組み直すぞ」
「分かった!」
「その様な暇は与えません」
フリーダムの元へ動こうとするジャスティスに、ラピエサージュはデブリに紛れて急速に接近し、キラが気付いて援護するよりも早く、接近戦を挑んでいた。ジャスティスの本領が発揮される接近戦だ。
ジャスティスが抜き放ったバッセル・ビーム・ブーメランをマシンキャノンで撃ち落とし(実際に撃墜したわけではない)、装備された9.1メートル対艦刀を抜き放ち、ジャスティスと切り結ぶ。
「ジャスティスがパワーで負ける!? だったら!」
シールドで受けた姿勢のまま後方に吹き飛ばされ、アスランは改めてラピエサージュの性能に瞠目する。調査段階でアスランも手を触れた機体だし、何度か乗った事もある。その度に動力源を含め機体のスペックに驚かされた。
MSを開発したザフトにも無い機動兵器のノウハウの数々、搭載されていた謎のマン・マシン・インターフェイスシステム。
DCが開発した機体だというが、これほどの高性能機を開発するなど実物を見てなお信じ難い。ザフトが開発した最新・最高のMSであるフリーダムとジャスティスに比べても遜色ない、いや、上回る性能を持っている。
今こうして模擬戦とはいえ銃火を交じえ、その事を改めて痛感していた。文字通り遺伝子レベルで整えられた典雅な鼻梁に皺を刻み、シールドの傾斜を微妙に変えて対艦刀を滑らせてラピエサージュの胴に回し蹴りを叩きこんだ。
バランスを崩すラピエサージュに、立て直す隙を与えず、背のファトム−00のフォルティスビーム砲を撃ちこんだ。二条の光の筋が、寸前にラピエサージュが放り投げたO.O.ランチャーに吸い込まれる。
コンピューターがO.O.ランチャーの爆発を告げるが、その時にはもう“継ぎ接ぎ”と名付けられた人型の鋼は、引き絞られた弓弦から放たれた矢の如くジャスティスの懐にいた。
「受けなさい、このマグナム・ピークを!」
「くっ、しまった!!」
咄嗟にコクピットを庇い、シールドを突き出すが、そのシールドごとラピエサージュが右手に持つマグナム・ピークの三枚の刃にジャスティスの左腕がPS装甲ごと穿たれていた。
流石にPS装甲そのものは持ったが、内部構造やフレームが多大なダメージを受け、実質左腕を失った状態になる。
ラピエサージュが左手に握る対艦刀で、コクピットハッチの隙間を貫こうとする一瞬、その一瞬でラピエサージュの背後からバラエーナとクスフィスの砲火が降り注ぎ、ラピエサージュの左ウィングスラスターを吹き飛ばした、と判定される。
ラピエサージュのコクピットの中で、全天周囲モニターから、フリーダムの位置を確認し、ラピエサージュに斬りかかってくるジャスティスもまた視界に収めながら、マグナム・ピークをジャスティスへ、四連装マシンキャノンをフリーダムへ。
どちらも一撃ではPS装甲を破壊できないのが欠点か。
トリガーを引く指に力をこめ――。
そこで停止信号が三機に通達された。発進したのは模擬戦を監督していたカーウァイの乗るゲシュペンストMk−Uタイプ・Sだ。
新西暦世界の地球に現れた異星人エアロゲイターの用いる金属で機体の大部分が構成されていた為に、大破した状態からほぼ自力で再生し、性能も新西暦世界においてハガネ・ヒリュウ改隊の前に立ちふさがった時とほぼ同等。
機体の何割かをCE世界技術で修復したラピエサージュを上回るスペックだ。パイロットと合わせてみれば、AA・オーブ艦隊最強の組み合わせと言える。
「そこ……までだ。三人とも……御苦労……帰還しろ」
たどたどしい機械の合成音声がほとんどを占めるカーウァイの声だ。当初は不気味なものを感じていたキラも、今では信用のおける人だと思い、あまり気にしていない。まだ出会ってから日の浅いアスランには、多少付き合い方の難しい相手だった。
「キラ、アスラン、コンビネーションに……問題……は、無いが。キラ、戦いが長引くと……動きが単調に、なる癖は……まだ治っていない……な」
「はい」
「ラピエサー……ジュの、乗り心地は……どうだ? オウカ」
「ええ、問題はありません。カーウァイ大佐」
「そう……か。戻る……ぞ」
四機は光の尾を引いてデブリ帯を後にした。
現在AAにはストライク、バスター、フリーダム、ジャスティス、ラピエサージュ。スサノオにはゲシュペンスト、エムリオン。その他の艦にも合流の際に積み込んだジンやシグー、旧M1アストレイの生産ラインから組上げたM1も数機が搭載されている。
着艦し、ラピエサージュのコクピットの中で借りたオーブ軍のヘルメットを脱いで、オウカは漂う汗の粒をぼんやり見つめた。
どうして今自分はこんな所で兵器になどのっているのだろう?
いや、自分で選んだ事だとは分かる。分ってはいても思わずにいれないだけだ。なにより、まるで長い間慣れ親しんでいたように、自分の腕になじむラピエサージュに、戸惑いを覚えていた。
ラピエサージュの本来の力はこんなものではないと、頭の中でそういう声が聞こえた。それほどにこの機体とは馴染みが深いということなのか。
失った記憶が、この機体の中にある。そんな気がしていた。過去の自分とはいったい何者なのだろう? こんな機動兵器に乗って戦場に立っていたのだろうか? 何人も葬ったのだろうか? この手でトリガーを引いて顔も名前を知らない人達を?
「何をしていたの、私は?」
恐怖に震える体を、オウカは我知らず抱きしめていた。
そうしてどれくらい時間が経ったのか、いつまでもコクピットから出てこないオウカを心配してだろう、キラとアスランが顔をのぞかせた。オウカとそう、年は変わらないが、二人とも少し頼りない所があったりするから、どうも弟みたいに扱ってしまう。
キラやアスランは、オウカにそう扱われるとちょっとくすぐったそうにする。
「大丈夫ですか、オウカさん」
「ええ、大丈夫よ。キラ、アスラン」
アスランの伸ばした手につかまり、オウカは海の中を泳ぐ様にコクピットから出る。ふわりと舞う濃緑の髪から薫る匂いを、良い匂いだなとアスランは思った。そのままハッチを軽く蹴り、三人は着替える為に格納庫を後にした。
「キラは、反応速度には目を見張るものがあるけれど、動きが単調な所があるわね。最初の一撃を凌いで長丁場に持ち込めば、癖を見つけられやすいわ。そういう意味では、アスランの方が手強いかしら?」
「カーウァイ大佐もそう言っていましたが、キラは、正規のMSの操縦訓練を受けていないから、無理もないんです」
「そうだったわね。それであれだけ機体を動かすのだから、驚かされるけれど。でもこれからはそうも言っていられないし、努力なさい」
「はい」
それぞれ軍服と私服とに着替え、廊下を歩くというよりは跳ぶ調子で進む。宇宙では分かりにくいがそろそろ昼食の時間なので食堂に向かう。丁度、ミリアリアやディアッカ、サイといったキラの友人達も居合わせたので同席した。
色の入ったメガネを掛けた少年がサイ・アーガイルだ。キラの親友だが、AAに登場する事になってから、婚約者のフレイ・アルスターとキラが仮初の恋人関係になった事もあって、一時期は険悪な関係になっていた。
今は多少なりともふっきれたので、以前ほどではないにしろ、友人としての関係は修復している。十人掛けの席に、サイとミリアリアが並び、ディアッカはミリアリアの前に座っていた。
カウンターでランチを受け取り、ディアッカの隣にキラ、アスラン、ミリアリアの隣にオウカが座る。
ミリアリア達も、先行きの見えない現状に不安を覚えているだろうが、今は明るい笑顔を浮かべていた。オーブ政権が覆ったとはいえ、故郷が戦火を免れた事で一安心といった所だろう。
恋人であるトールを殺したアスランを前にしても、狼狽する様子は見せなくなっている。
フライドポテトをフォークで突いていたディアッカが、おもむろに口を開いた。ややたれ気味だが、時折冷徹な光を浮かべる瞳は、オウカを見ていた。オウカはちょうど、ピラフを口に運ぼうとしていた。
「模擬戦見させてもらったけど、とんでもないMS作るよな、DC。バスターとか乗った時もナチュラルもやるもんだとおもったけどさ。あの機体、下手するとフリーダムやジャスティスより、って奴じゃない?」
「量産はされていないみたいだがな。実際、DCが連合の艦隊を打ち破った事で、若干ミリタリーバランスが変わった。地上に残されたザフトと手を組むかも知れないし、そうなれば当然宇宙でも動きがあるだろう」
片手にフォークを握ったまま、アスランが独り言のようにディアッカに応える。彼らとてプラントやザフトを裏切ったつもりはない。ただ、連合とザフト、それ以外の道を見つけただけだ。少なくとも当人達はそう思っている。
DCの話はオーブ出身のキラ達にとっても関心を否応にも引く話題だった。孤児達の事が気にかかるオウカも手を止めている。
サイが、最近マルキオを介して合流したオウカに聞いた。
「オウカさんは、何かDCの動きを知らないんですか?」
「いいえ、私は軍の人間ではないから詳しい事は。ただ、国内では大きな混乱などは無かったわ。DCを支持する声もあったしね」
済まなそうに首を振るオウカに、サイもまた力無く目を伏せた。オーブの掲げる平和を長らく享受していた彼らには受け入れがたい現実なのだろう。
最後にウズミと交わした言葉を思い出しながら、キラもポツリと呟いた。
「ウズミ様は拘束されたんでしたよね。でも、中立政策を強く謳っていたオーブに軍事政権が誕生するなんて、なんだか、悪い冗談みたいだ」
「キラの言う事も分るが、現実は認めないとな。どちらにせよ、連合とザフトもそれぞれ戦力の再編成を行っている時期だ。今は静かになるかもしれないが、それが破れた時が」
「決戦、だね」
「ああ、その時まで、おれ達はおれ達にしかできない事を探し、実践するしかない」
険しい表情に決意の色浮かべるアスランの言葉に、その場にいた誰もが頷いた様に見えた。ただ、オウカを除いて。
キラ達と別れて、私室に戻り、オウカは机の上に飾ってある写真を手に取って見つめた。マルキオを中心に、孤児と自分が映っているものだ。
みんな元気にしているだろうか? マルキオの知己だというDC総帥ビアン・ゾルダークは、色々と気にかけてくれているらしいから、ひもじい思いをする事はないだろう。まだ別れてからほんの数日だと言うのに、こんな風にさびしがっていては、まるで自分の砲が子供の様だ。
そういえば、シンやステラ、アウルにスティング、彼等も今どこかの戦場にいるのだろうか。ひょっとしたら、敵と味方に分かれて戦う事になってしまう可能性に、今更ながらオウカは恐怖していた。
あの雨の日、MSに乗ってから、ずっと、オウカの心には拭えぬ恐怖の色がこびり付いていた。
そうしていると、ドアに入室の許可を求めるコールが鳴った。モニターにはククルの白い美貌が映っている。なにくれとなく自分を心配してくれているククルだ。たとえ一人でいたい心境でも無碍にはできない。
招き入れて、ククルの格好に改めて嘆息した。その美しさと神々しさに。孤児院に居た頃は普通の洋服だったのだが、宇宙に上がって、私物らしい妙な機動兵器を持ちこんでからはずっと変わった格好をしている。
和服、と呼ばれる類の更に細かく分類された衣服の一種なのだろうが、あいにくと旧日本の民俗文化に造詣の深くないオウカにはそれ以上細かい名称は分からない。髪と同色の白い生地に絹の光沢が眩く、その上に金細工や磨き抜かれた小さな鏡などを連ねた飾りをつけていた。
普段は降ろしていた髪も、今はひっつめにして、胸に着けているものと同様の意匠の髪飾りでまとめている。どことなく浮世離れした雰囲気を持つククルだったが、今はことさらその雰囲気が強い。
ククルいわく、彼女の乗機である女性型機動兵器マガルガに乗る時の礼儀とでも言うべき服装らしい。オーブを委任統治領としていた日本から流れた神道関係の宗教的なものだろうと判断されている。
機体であるマガルガは、フェアリオンとミナシオーネの中間ほどに女性のシルエットを再現した機体で、約40メートル近いサイズを誇っている。携帯火器は無く、機体の四肢そのもので戦闘を行う。
DCで開発されていたモノを、DC内のアスハ派の兵達を通じて持ちこんだものと説明されている。新西暦世界において自律・自覚型金属細胞マシン・セルによって自己修復能力を得ているため、整備も必要としていない(むろん、普通に整備すればその分修復は早まる)。
あまりにこの世界の常識から外れているため、興味を持つ者が後を絶たず、いちいち彼らを追い払っているので、ククルは苛立ちを募らせているようだ。その愚痴を言いに来たのだろうか?
微笑みを浮かべたまま、訝しむオウカの顔をちらっと一瞥して、すすめられた椅子に音も無く優雅に腰掛けた。
「どうかして? ククル」
「どうかしているのはここの連中だ。マガルガに興味を覚えるのは仕方の無い事だと私も理解できるが、ここに集まった連中の考えが私には理解しかねる」
「というと?」
「ここの連中は当初、オーブを追い出される形でこのメンデルに辿り着いたのだと言う。その後は、オーブの再建もあるが、連合のサイクロプスの自爆や、ザフトのパナマ虐殺の様な事が無いよう争いを止めるために力を蓄えているそうだ。
確かに、あまりに人道を外れた行いが続いている戦だ。そう考える者がいてもおかしくはない事は私も認める。が、その後だ。いや、具体的な行動というべきか。戦いを止めるためにどうすればよいか、どうするつもりなのかと聞いた私に、なんと答えたと思う?」
うすうすキラ達と行動を共にして感じていた事だが、オウカはあえて答えずにククルの言葉を待った。大仰に溜息をついて、ククルはこう言った。
「“その答えを探している”、だそうだ。目的を叶える為の手段をここまで考えていない連中というのを、私は初めて知ったぞ。
このままでは時折連合とザフトに、ちょっかいを仕掛ける程度の事しかできん。
カガリ・ユラ・アスハが仮にオーブの実権を取り戻した所で、たかがオーブ一国で世界の趨勢を変えられるものか。
なあ、オウカよ。これではこやつらに救われた命よりも、こ奴らの所為で失われる命の方が多いのではないか?」
ククルの言うとおりだった。今ここに集っている者達は、連合とプラントの争いを止め、平和な世界を求める志を少なからず胸に抱いている。それはいい。尊ぶべき精神とも言えるかもしれない。
だが、それを実現するための方法が暗中模索の状態では、いくら声高々に耳に心地よい理想を述べた所で戯言ではないか。
まあ、DCのクーデターに際して追い出された形だし、準備も何もできない状況だったのだから仕方がないと弁護する事もできる。
それにしてもAAやオーブの戦力だけでは、宇宙海賊としては大した戦力かもしれないが、国家を相手にするには到底無理のある状況だ。これで、彼らの掲げるお題目を実現するには漁夫の利を狙うほかあるまい。それも途方も無く大規模に。
マルキオの言葉がきっかけだったとはいえ、本当にここにきて良かったのか、オウカとククルは本気で悩んでいた。正直な話、あのまま孤児院に留まるか、DCに所属した方がまだ良かったような……。
同じ事を考えていると思い当たり、ククルとオウカはそろって溜息をついた。
一方、DCの宇宙での唯一といっていい軍事拠点アメノミハシラでもささやかな動きがあった。オーブ本国に匹敵するファクトリーを持つアメノミハシラでは今も生産ラインが稼働し、核融合炉を搭載した後期型のエムリオンやバレルの生産が始めている。
旗艦マハトをはじめDC艦隊が停泊する宇宙港に、今一隻の輸送艦が入港していた。マスドライバー・カグヤで打ち上げられた艦だ。オノゴロ島で完成した新型機を搭載している。
カグヤを奪えなかったとはいえ、地上各地の小規模なマスドライバーや急ピッチで再建が進められるビクトリアのマスドライバー、新たに建設されるマスドライバーと、宇宙に連合の大戦力が集うのもそう遠い日ではないと、誰もが知っている。現状が今のまま続けば、だが。
アメノミハシラの責任者であったサハク家の趣味なのか、華やかな装飾の貴族趣味の一室で、DC宇宙軍総司令マイヤー・V・ブランシュタインとDC副総帥ロンド・ギナ・サハクがいた。
地上戦力の消耗もあったが、MSに搭載可能な核融合炉の開発に成功した事、連合の戦力の撃退もあって、一部戦力を宇宙にも上げていた。ギナがいるのも、いずれ戦力を立て直す連合の宇宙での台頭を見越した上でだ。
ソファにもたれる様に腰掛けたギナと、共に外の宇宙港の様子を見ていたマイヤー。虚空に見る未来の絵は同じものだろうか。
「宇宙も騒がしかったようだが、ご苦労であったなマイヤー」
「そちらも、な。まずは連合を相手にするという予定は変わらんか。ザフトと手を結び連合を打倒、後にザフトと事を構える。……ふっ、余人が聞けば世迷言以外の何物でもないな」
「世迷言を現実へと変える為に我らがいる。理想という名の毒に溺れるほど弱き者は我らにはいない。今頃はカーペンタリアのザフトと連携を取るために顔を突き合わせている頃だろう。
連合は南太平洋の勢力が塗り替えられてラバウルとエリス諸島、マーケサズ諸島、引いてはマーシャル諸島、パラオ諸島、トラック諸島。さらにその奥、フィジーやニューギアも気にせねばならん」
DCの次の狙いはインドのマドラス基地か、それともハワイか、南アフリカ統一機構の連合軍か。もっともそれ以前に戦力の立て直しが急務だ。
大洋州連合やアフリカ共同体から物資が流入するようになったとはいえ、DCの資源・資金の不足は否めないのだから。
今は不必要なまでに大型化した核融合炉を輸出し、NJの影響で停滞している世界各国のライフラインを復活させるための交渉材料としている。
大西洋連邦は論外だが、ユーラシア連邦内の民族独立運動や旧世紀の軋轢が残り、内紛が絶えない地域やアフリカ共同体、大洋州連合、スカンジナビア王国、赤道連合、極東連合の一部地域が主な輸出先であり、
親プラント国家だけでなく地球連合内の反大西洋連邦勢力も含む。
地球連合を内部から瓦解させる――までは行かなくとも、足の引っ張りあいを誘引する位は出来るだろう。
ただでさえ、アラスカで戦力の大半を犠牲にされたユーラシア連邦や、アフリカ大陸の統一の為に連合を利用しているに過ぎない南アフリカ統一機構など、つけ込む隙は多い。
アメノミハシラの外壁を挟み、無限大に広がる死の満ちた空間――宇宙から目を離して、ギナはマイヤーへ向き直った。
人が広げた自分達の世界の最先端である宇宙。空気も水も重力もなにもかもを自分達で造り出さねばならぬ世界で生きて、それでも人間は歴史を繰り返す。飽きると言う事を知らぬ戦争の歴史を。
「マイヤー、宇宙の状況はどうだ」
「プトレマイオス基地をはじめ、連合側の諸勢力の各拠点でMSの生産と運用実験が積極的に行われている。折角のMSも、使い方を過てば動く砲台に過ぎぬ事を連合も学んだようだ。
そうだな、一ヶ月か二ヶ月で、現状のザフトと同数のMSをそろえるのも不可能ではない、というよりは確実と見てとるべきだろう」
「流石というべきか。だからこそ、弱い者同士手を取り合わねばならんという事か」
「皮肉と自嘲。共に美徳ではあるまい、ロンド・ギナ・サハク」
「であろうな。だが、ザフトも地上でまだ戦えると錯覚を起こせば、我々にとっては都合の良い駒になる。カーペンタリア攻略に対しての橋頭保としてDCを利用するつもりであろうが、それはこちらも同じ事。
しばし地上が主戦場になるだろうが、決戦は宇宙で行って貰わねば困る。……我らの出番がなくなるからな」
最後の冗談はともかく、連合のMSの実戦投入で新たな局面を迎えた本戦役も、終わりへ向かい進んでいるのは確かだった。その先にあるものが戦争によって齎された災禍に見合うものであるかどうかは、誰にも分らぬままに、戦いは終局へ向け加速する。
地上のDC本拠地オーブ連合首長国本島諸地域にて――。
ザフトのカーペンタリア基地から出航したボズゴロフ級潜水艦が入港していた。ザフトとの同盟が水面下でプラント最高評議会との間で進められ、その影響もあって現場での対応を進める意味もあり、カーペンタリアの隊長クラスが足を運んだのだ。
そう、DCにザフト最高のパイロットの一人に数えられる男が。
かつてAAが入港したオノゴロ島の隠しドックに誘導され、短い海の旅を終えたボズゴロフ級から、ザフト側の代表がタラップを踏みしめてオノゴロ島の地下ドックに足を踏み入れた。
階級の無いザフトで手っ取り早く立場を理解する目安になる軍服のカラーは白。隊長クラスを示している。一般兵は緑、士官学校の上位十名に与えられるエリートの証の赤、艦長クラスは黒などなど。例に挙げた中では白服がトップに当たる。
肩に掛かる位に伸ばされた、淡く波打った冷たい印象の金髪。鼻梁と両目を覆う白いマスクが印象的だが、その下の顔はなかなかの美男であろうと、そのラインから見て取れる。体つきも軍人として申し分なく逞しく、180センチはクリアしているだろう。
ザフトきってのエースにして有能な指揮官としても知られるラウ・ル・クルーゼその人だった。傍らには赤服を着た銀髪の少年が付き添っている。
赤服を着た10代後半の少年。険の強い瞳に、遺伝子操作で整った容貌を与えられるコーディネイターにも珍しい位の美男だ。ただ右頬から鼻筋に掛けて走る傷が、彼の強い印象に一役買っている。
今の医療技術なら傷を消す事も出来たろうに、あえて残したのは己への戒めか、雪辱への誓いであろうか。
クルーゼ隊、ザラ隊と所属を変え今またクルーゼの元にいるイザーク・ジュールである。オーブのコロニー・ヘリオポリスで開発されていた“G”を強奪したパイロットの一人だ。その後もアラスカやパナマといった激戦区を戦い抜いた歴戦の猛者となっている。
かつて潜入した事もあるオーブへの再度の来訪に、なんとも複雑そうな表情を浮かべている。本人としてはこれでも隠しているつもりなのだ。
「どうしたね? 緊張しているのかな、イザーク」
「いえ、そんな事は」
「なに、恥じる事はない。私とて緊張していないわけではない。なにしろ、あんなものを見せられてはね」
クルーゼの言う、あんなものとは、DCと連合の初戦と過日行われたDC討伐艦隊の壊滅戦の事だ。オーブ領海に潜みながら連合とオーブの戦いを見守るはずだった、クルーゼの前で繰り広げられたのは聖十字軍を名乗る軍事結社の、異様なまでに強力な戦力。
瞬く間に国を焼かれると思われたが、それが今はどうだ。こうして一時的にとはいえ戦火を防ぎ切り、自分達が訪れる結果になっているではないか。
宇宙でも、あのヴァルシオンという機体と同サイズの特殊な機体が連合の艦隊を蹴散らしたという。DCの保有する戦力の数は少なくとも、その中に数の暴力に牙を穿つとてつもない獣が紛れている。
それを利用すれば、地上戦力の宇宙への引き上げの時間は稼げる、その目論見は一見有用に見える。問題は、DC側がそれで済ますほど柔とは思えない事だった。少なくともクルーゼにとっては。
イザークの他数名のザフトの高級士官を連れて通された貴賓室で、彼らは予想以上に高い立場にある人物と出会う事になる。無論、あの人である。
待たされる事数分、開かれた貴賓室の扉から姿にクルーゼもこれは、と意外そうな声を挙げていた。蒼みを帯びた黒髪に、雄々しく生え揃った顎髭、ゆるぎない意志を湛えた瞳。目の前にたたれば草原に立つ獅子を思わせる男。
「初めまして、ザフトの諸君。私がディバイン・クルセイダーズ総帥ビアン・ゾルダークだ」
地を這って届くような圧力を自然と備えた声だった。耳にするものの背に鋼の棒でも通されるような感覚を与える。自然とイザークは襟を正したい衝動に駆られた。
「ラウ・ル・クルーゼであります。ビアン閣下」
「うむ、カーペンタリアからよく来てくれた。互いにとって有意義な時間になると期待している」
「はっ」
ビアンを前にしても普段と変わらぬ調子のクルーゼに、イザークはやや感嘆し自分もまたザフトレッドに相応しいものとして臆する様子など見せられぬと、佇まいを正した。ビアンの傍らのミナが一瞥したきりだが、気にしても仕方ない。
クルーゼに視線を動かし、ミナが交渉の口火を切った。
「では、本題に移らせていただこう……」
会議を終え、用意された一室に戻ったクルーゼは常用している薬を飲み、一息ついていた。アラスカで手に入れた『おもちゃ』はカーペンタリアにおいて来た。今もびくびくと恐怖に震えながら、クルーゼの私室から出られずにいるだろう。
食事の世話くらいは命じて置いたから餓死するような事も無いだろう。
「ビアン・ゾルダークにディバイン・クルセイダーズ……。より戦争を長引かせてくれるかと期待したが、あれはまずいな」
会見終えたばかりで、先程まで相対していた男への評価を下していた。クルーゼの目的の為には戦争が長引き、世界が混乱と憎悪と復讐に満ちる方が都合がいい。だが、その時間を待つ猶予が、クルーゼにはあまりなかった。
オーブが連合に吸収され、地上のミリタリーバランスが変化すれば戦場は宇宙へと移り、プラント存亡の事態へと移れば、それはそれでクルーゼの希望に沿うシナリオであったが、DCの蜂起と連合相手に勝利するという事態はいささか予定にはない事だった。
「聖十字軍、か。人類の終焉にどのような役割を果たす?」
場合によっては、ビアンに退場してもらう事態も想定しておいた方がいいだろう。その方が、クルーゼの取引相手も喜ぶ事だろう。その為の準備も、既にクルーゼは進めていた。だが今は、DCの真価がどの程度か、見極めなければなるまい。
プラントにとってでは無く、クルーゼにとって価値があるかどうかを。
「もっとも、ザラ議長閣下はDCを使い捨てにするつもりらしいが。……あの男がそれで済ますような小物とは思えんな」
議長閣下という部分に侮蔑の声音を交え、クルーゼは空の彼方で今もコーディネイターの勝利にまい進するパトリック・ザラを嘲笑った。
妻を殺され、ナチュラル全体への憎しみに凝り固まった彼が、クルーゼの思う通りに動くよう誘導する事は、穏健派のシーゲル・クラインが部隊から退場したことでより容易になった。
後は、地球連合に『扉』を開く為の鍵をどのように与えるかにかかっているだろう。長年のクルーゼの渇望を満たす為に、失敗は許されない。いや、ある意味その失敗もまたクルーゼの望みだ。それが自身の死に繋がっているならば。
「まあいい。シナリオの過程がどうあれ、結末さえ同じならばな」
そう言って、端正な口元を歪ませたクルーゼは、底知れぬ暗黒が蟠る亀裂の様な笑みを浮かべた。自分さえも含んで世界の全てに憎悪と嘲笑を向ける魔物か、哀れな道化の様な姿だった。
世界の不条理に、心を歪められ曲げられてしまった哀れな道化、その名はラウ・ル・クルーゼ。破滅の劇を踊り描き、泣きながら笑うピエロ。
艦に戻る気になれなかったイザークはクルーゼに許可をもらい、DCの施設を見て回っていた。セキュリティーカードを渡され、そのカードで通れる範囲なら自由に見ていいと告げられ、監視を兼ねた警護の兵も付いていない。
それでいいのかと言いたくなるような扱いだが、文句を言える立場でもなければ状況でもないのでイザークは不機嫌そうに歩いていた。ひょっとしたら、イザークが気付いていないだけで監視が付けられているのかもしれない事だし。
実際、セキュリティーカードに極小サイズの発信機と録音機が仕込まれているのでイザークの行動は基本的に筒抜けだ。ばれたらそれなりに一悶着があるかもしれないが、ばれなきゃいいのである。
イザークはかつてオーブだったこの島について、ふとごく最近の過去を思い出していた。ラスティやニコル、ディアッカと戦友を失い、アスランと奇跡的に生還していたミゲルもプラントに戻って、クルーゼ隊の頃からの付き合いのある連中も随分と減ってしまったものだ。
「……む」
ぴたりと足を止めて、イザークは左右を見渡した。眉間に寄せられていた皺が、より一層深くなる。
「迷ったか」
コーディネイターだって初めて来た所では迷子に位はなるものなのだ。そのままそこで立ちくしていたら、後ろから声を掛けられた。
「知らない人がいる」
「ん? ここの基地の物か。いや、当り前だが」
振り返ってみると、イザークより2つか3つは年下の女の子がいた。DCの一般兵が着るのとは違う、やや装飾の凝った軍服を着ている所からして、それなりの地位か特殊な立場にあるのだろう。ザフトで言う所の赤服に当たる。
しかしどう対応すればいいのか、イザークは少し困った。軍人として対応するならいいのだが、目の前の少女はちっともそれらしく見えないしどう言う立場の人間なのか判断しかねる。第一、小さな女の子に接する機会とのものがイザークにはあまり無かった。
「ああ、すまないが少し道に迷った。道を教えてくれないか」
イザークにしては優しい言い方で聞いてみた。比較的彼にしては大人な対応と言えるだろう。一般に理性的に調整されるというコーディネイターにしては、欠陥でもあるんじゃないかという位イザークの沸点は低く、堪忍袋の紐は緩い。
ナチュラル蔑視もそれなりに持っている。少女――ステラ・ルーシェは、きょとんした顔を作ってからこう言った。
「ステラも迷子」
「……」
あってはならぬ沈黙が降りた。
オウカ×キラ、オウカ×アスラン、ステラ×イザークフラグがそれぞれ立ちました。
ラピエサージュがオーブ艦隊に配備されました。
イザークとステラがそろって迷子になりました。
大半は冗談です。
う〜ん、話が進んでいない。
そろそろラクスのエターナル強奪をやりたいのですが。しかし、私の手に余るネタになってきているような。
ではでは、ご助言・指摘もろもろお待ちしております。またいつかお会いしましょう。
>>609 >扉
ちょ、完璧親父ィー!?ゲペルニッチ閣下呼んで閣下ー!?
GJ! 最後二人揃ってなにやっとんだwwwwww
>611
落ち着け、多分NJCのことだ。
茂が生きてるかどうか明記してないのを逆手に取ってフルスクラッチしちまえばいいんじゃね>永遠強奪絡み
永遠級の数増やしてしまうとか、プラント穏健派の数を増やして国を割ってしまうとか。
反ザラ派プラント穏健派としてデュランダルやタリアのミネルバ組などをDCに亡命させるとか?
本音を言えばルナ・メイリン・レイ・整備組をタマハガネに乗せて欲しいんだけどね。
GJ!
>「ステラも迷子」
フイタwww
それはともかくやっぱりトール死んでるのか……
ちょっと哀れ。
オウカとククルはAA離脱しそうなふいんき(ryもちらほら見えてきたし、クルーゼは当然のように謀略めぐらせてるし……
今後の展開にwktkが止まりませんよ?
やだいやだい、オウカ姉さんをあんな奴らに渡すもんかー!
>>616 スクランブルコマンダーか。今更2って……
ククル姐さんの台詞に惚れたから姐さんはもらっていきまつね
ククルの台詞って普通に言われて当然な台詞だよな。
ククルとオウカはAA側から離脱してDCに戻りそうな感じだし
ダイテツ艦長はそれを理解して、その上で向こうについてるんだろうなぁ。
この世界ではククルはサメに喰われたりしないだろうな・・・
ククルが食われるのはゼンガーだけで良い
誰がうまいこと言えとwwwwwwwww
>>620 ラクス達が合流したら決定的だな、こいつらのやったこと知ったら…
あとカガリは客観的には連合の侵攻が来る前に国を捨てて逃げ出したバカ姫にすぎないから、
欲抜きで支援しようなんて奴はおらんわな。
>>624 そこらへんの人の見分けが出来てる時点で原作より優れてると思うがどうよ?
カガリは間違いなく向上してる、まだまだ道のりは遠いとはいえ。
>>622 α外伝後はそうなってるらしいぞ、非公式だけど。
プレアは既にロウ達と合流した頃か?
オウカとククルはDCに帰りたがりそうだけど、状況的に帰るに帰れないといった流れになりそうな悪寒
アスランあたりが
「そんな危険な力を野放しにするわけにはいかない!」
とか言いだしそうで。
野放しじゃなくてDCなんだがな、これが
そういえば、ククルって王族なんだよな。古代だし滅ぼされたとは言え。
ククルにマナーやら言葉遣いやらを習うカガリ………無理か。
>>628 ラクシズにとっては自分達以外が保有する戦力は
すべて例外なく「野放し」にされた戦力
>>630 超古代日本のマナーを習っても、現代ではまったく役に立たないと思う俺ガイル。
633 :
通常の名無しさんの3倍:2007/08/23(木) 22:40:14 ID:FweTeL6l
民より理念を取ったカガリと民を解放して貰う為に自分の国を滅ぼした邪魔大王国に仕えていたククル
種以上に主人公側に滅んで欲しい作品はねえなぁ
ビアンSEEDを読んで触発され、ネタを思いついたんですがこのスレに落として
構わないでしょうか
637 :
635:2007/08/23(木) 23:53:44 ID:???
多分OKじゃないかな
後必要なのは完結させれるだけの熱意だけ
完結させるってのは半端なくエネルギーがいるもんだよ…
完結させたら真っ白に燃え尽きる…いや、マジで
第21話 マドラス燃えて
ステラもmaigo……まいご……マイゴ……my碁……迷子?
「お、お前はDCの兵なのに、自分の基地で迷子になったのか!?」
「うん。なっちゃった」
屈託なくステラは頷き、無垢な瞳でアホかと吠えるイザークを見つめ返した。ラボから救出された頃は、見知らぬ人物には警戒心をむき出しにしていたステラだが、人間関係というものを学び、情緒が安定してきた昨今では、むしろ人懐っこくなっている。
頭を抱えたくなるイザークだが、こうまで子供子供しているステラを前にすると自分がしっかりしなければという風に開き直った。
「ええい、仕方ない! ステラと言ったな、どこまで道を覚えている!」
「うん? ……あっち」
とイザークが来た背後を指さす。そりゃまあ、イザークの背後から現れたのだから当然である。これは役に立たなそうだとイザークは早々に判断したが、ここであきらめるのも癪なので、息まいてずんずんと歩き出した。
「行くぞ、ステラ!」
「うん」
どことなく微笑ましい二人組の迷路脱出行の始まりだった。
で、結局脱出は失敗を継続中だった。実に三十分歩きまわった二人は、無言で自販機からソフトドリンクを買って備え付けの長椅子に座っていた。ドリンクはイザークの奢りである。ステラは財布も持っていなかった。
ちっとも道を思い出さないステラに辟易しつつ、イザークは自分がいったい何をしているのだろうと、都合34回目の思いに捕らわれていた。それからなんなんだこいつは、とくぴくぴホワイトサワーを飲んでいるステラを見た。
なんとなく子犬か何かを餌付けしている気分になる。しかし、この年齢でDCの兵、となるとどんな役職にしろ、ナチュラルという事はあるまい。15歳で成人と認められるプラントの基準から見てもまだ幼い少女だ。
どんな素姓の主か、というのも気に掛かる。
椅子に座って足を前後にぶらぶらさせているステラに、直接聞いてみる事にした。
「ステラと言ったな。お前はコーディネイターか?」
「ううん、……ナチュラル?」
「なぜ疑問形になる!? 道だけでなく自分がナチュラルかどうかも分からんのかお前は!」
「うう……」
「ええい、そんな泣きそうな顔をするな、別に怒ってはいない」
「本当?」
「本当だ。怒鳴って悪かった」
どっと肩にのしかかってきた疲れに溜息をついて、イザークは紙コップの中身を一息に飲み干した。なんとなくボズゴロフ級潜水艦に帰れない気もしていた。ザフトレッドの自分が、余所の勢力の基地で迷子って……。
こんな醜態が本国の母に知られたらどうなる事やら、とイザークはステラと出会ってから大量に生産している溜息をまた一つ吐いた。
幸い、その溜息に飽きたのか、元念法使いの神様か美しい白衣の悪魔が助けを寄越してくれたらしかった。
「あれ、ステラ? それにザフトの人?」
何故か木刀を腰のベルトに差したシン・アスカが、たまたま通りかかったのだ。シンの登場に、ステラは顔を喜色一色に染め上げて立ち上がり、シンに駆け寄った。大好きなご主人様を見つけた小動物そのままの仕草だ。思わずイザークの口元も緩む。
「えっと、シン・アスカです。あの、どうかしたんですか?」
「む、イザーク・ジュールだ。……少し道に迷ってな。そこのステラに道案内を頼んだのだが……」
「あー、ステラも迷子だったとか?」
イザークは黙って頷いた。尻尾があったらパタパタと振っていそうな様子で自分に寄り添うステラの頭を片手で撫で、柔らかい金髪の感触を楽しみながらシンは納得した。
ステラの放浪癖は今に始まった事ではない。基地や戦艦の中をうろつきまわって道が分からなくなり、通りがかった人たちに助けられた事が多々あったのだ。
「シン、すまんが、6番ドックまで案内を頼めるか?」
「え? いいですよ。おれも近くまで行く用事あるし」
ステラと手をつないで、シンはイザークの案内を承諾した。歩きだしてからしばらくして、自分よりもまだ若いシンに、イザークがこう聞いた。
「若いな。シンはコーディネイターか? ステラも?」
「え、ああそうですよ。おれはコーディネイターです。でもス……ステラもです」
ここでステラの素姓が強化人間だなどと口を滑らせたら、後でどんな問題になるか分からない。咄嗟にそこまで考えついたシンは、多少無理はあるが誤魔化した。ステラはシンに会えたのがうれしいらしく、特に気にしていない様だ。
「そう、か。オーブはコーディネイターも受け入れていたからな。いても不思議じゃあない。シンは、プラントに移住しようとは思わなかったのか? 連合が攻めて来た時、それなりの数のコーディネイターがプラントに移住したと聞いたぞ」
「ええ、おれと妹はコーディネイターですけど、両親はナチュラルだし。それに、おれは逃げるよりここで戦う事を選んだから」
少し前のイザークなら裏切り者のコーディネイター呼ばわりしかねないところだったが、アラスカやパナマ等の経験を経て人間的に成長し、思う所もあるイザークは黙ってシンの言う事を聞いていた。
「そうか。故郷を守るためか?」
「はい」
「なら、おれ達と変わらんな。……オーブにはすまない事をしたと思っている」
「? ヘリオポリスですか」
「そうだ。連合のMS開発を行ったとはいえ、コロニーが崩壊する事になるとは思ってもみなかった。ザフトを代表して、とはいかんがおれ個人としては謝罪したい」
これまたイザークを知る者なら脳腫瘍でも出来たのかとか、かなりひどい疑いを持ちかねない台詞だが、彼とてもプラント愛する人間である。
ユニウスセブンの悲劇を想起するような、コロニーの崩壊に特設関わったものの一人としては、たとえその事を口に出せなくても、申し訳ない気持ち位は湧く。
「いいですよ、別に。確かにザフトが攻め込んできたせいでヘリオポリスは壊れちゃったけど、映像が回ってきてからは、コロニーの中で重火器をばかすか撃ちまくったアークエンジェルやストライクも悪い、ていう声もありますし」
実際ヘリオポリス崩壊の映像で内部の戦闘状況が公開されると対要塞戦などに用いられるD装備のジンを使用したザフトへの非難も殺到したが、戦艦クラスのミサイルやコロニーの外壁を貫く大出力のアグニをぶっ放すストライクの姿もあり、
オーブ国民の感情はザフト・連合それぞれによろしくない。
もっとも、ウズミの中立政策や思想の影響を受けているカガリでさえ、基本的には地球連合よりの思考であり、アフリカで現地ゲリラに参加しザフトと闘っていたくらいだから、連合が攻め込んでくるまでは、ザフトに対して悪感情が強かったと言えよう。
ヘリオポリスに関してはなぜ外交ルートで抗議しなかったのか、と憤る声が多くを占めている。
シンの言葉に、イザークは多少なりとも溜飲が下がったのかわずかに肩の力を抜いたようだった。
「あ、ここのエレベーターで6番ドックに行けますよ」
「む、そうか。すまんな、手間をかけさせた」
「いいですよ」
「シン、ステラ、次は戦場でない場所で会えるといいな」
「はい、イザークさんもお気をつけて」
「ばいばい、イザーク」
小さく手を振るステラの幼い仕草に、イザークは微笑んだようだった。妹がいれば、こんな気分なのだろうかと、温かいものが胸にあった。
かくて、イザークは無事に母艦へ帰る事が出来たのだった。
「所でステラ、どうしてここに来ていたの?」
「エルに渡すお土産、お部屋に置いてきちゃったから、取りに来たの」
「エルちゃんに?」
「うん、マユの分もあるよ」
初めての給料でステラが買ったプレゼントを取りに戻ったらしい。ちなみにステラやアウル、スティングらは咄嗟の時に調整が出来るよう、クエルボの研究室の近くに私室を持っている。
エルというのはヘリオポリス崩壊に際し、オーブ本国に避難してきた一家の小さな女の子で、アスカ家のお隣さんである。マユやシンもエルとは時折遊んであげていたが、そこに最近ではマルキオの世話している孤児達や、ステラも加わっていた。
第八艦隊の壊滅した低軌道会戦では危うくザフトに奪われたGのうちの一機に撃墜されそうになったらしいが、状況を見守っていたアメノミハシラのユーリアが、事前に第八艦隊内部の内通者からシャトルに避難民が乗っている事を知らされ、
撃墜の危機を見過ごせずに助けたので、一命を取り留めたのだ。
シンは知らなかったが、エル達ヘリオポリスの避難民が乗っていたシャトルを撃ち落とそうとしたのはイザークの乗っていたデュエルだった。どちらにせよ、ユーリアの介入が少なくない命を救ったのは事実だった。
マユやエル達へのお土産の包みを大切そうに抱えているステラに、思わずシンは微笑んだ。ステラがもっとたくさんの人と出会って、その度に笑顔を浮かべられたら、シンにとってもこんなに嬉しい事はない。
そんなシンの思いは知らず、ステラはシンの腰に差された一振りの木刀が気になったらしい。
「シンはなんで木刀なんか持っているの?」
「これ? いや、折角人型に乗っているんだから自分の体を動かす訓練もしろ、自分の体も満足に制御できずに手八丁で済ますなってアルベロ三佐に言われてさ。おれってステークとかブレードをよく使うから、ボクシングとか剣術の練習をする事になったんだ」
「ふうん、木刀に名前とかあるの? シン、そういうの好きそう」
「名前? そう言えばなんか文字が彫ってあったな。ええと、漢字か。『阿修羅』だってさ」
「強そう」
「はは、そうだな。名前に負けないようおれも強くなんなきゃな」
後に飛鳥流念法始祖となる日への遠い始まりであった――かもしれないしそうでもないかもしれない。
C.E71.7月――DCの台頭によって南太平洋のミリタリーバランスが変化し、連合対ザフト・DCの様相を呈する事は、おおむね予想されたとおりだった。
アフリカ大陸やヨーロッパでの劣勢、オペレーション・スピリットブレイクの痛手により地上戦力の撤退と宇宙戦力の強化を決定したザフトであったが、前述したDC対連合の戦闘の結果により連合の海洋戦力の損失が
多大なものとなったため、残された地上戦力による反攻作戦が練られていた。
具体的にはジブラルタル・カーペンタリアへいずれ侵攻してくるであろう地球連合の戦力を削り、その時期を遅らせる程度を目的としたものであったが、もともとマンパワーで圧倒的に劣るザフトはすでに、
疲弊した地上では前線に出ている兵が満足に訓練も受けていない新兵が珍しくない状況にあり、地上戦力の早期回収によって宇宙の戦力の充実を図っていた。
クルーゼとの会見の末DCに求められたのは、インドのマドラス基地襲撃への戦力の提供である。連合艦隊を撃退してから二週間以上が経ち戦力の再編もある程度進んでいる。
現在マドラスにはジブラルタルないしはカーペンタリア攻略の為と思われる物資の搬入や戦力が集められており、その数は楽観視できるものでは無かった。
最寄で最大規模の連合の軍事基地であるハワイではまだ大敗の痛手から立ち直れずにいる。なにしろ失われた戦力と人員が半端ではないから、それを立て直すのも多大な手間と予算を必要とする。
DCから出せる戦力はたかが知れている事はザフトからも分かるが、問題なのはDCの保有する戦力は数では無くその質が常軌を逸している事に着眼していた。端的に言えばヴァルシオン一機で一個師団相当の戦力がある判断されているのだ。
まあ、総帥直々に出撃するわけもない。変わりに白羽の矢が立ったのは、総帥直属の親衛隊『ラストバタリオン』から選出された超エリートで構成された特殊任務部隊クライ・ウルブズであった。
ザフトとの共闘を告げられ、オノゴロ島地下のドックでタマハガネの格納庫に集合したクライ・ウルブズの面々に、ロールアウトした新型を受領していた。数日間たっぷりと休養を取った後の事だ。
勢ぞろいしたシン達の目の前には、核融合炉を搭載したガームリオンが二機、初めて見る新型、バレルエムリオンV、純白のガームリオン・カスタムなどが並んでいる。機種転換の必要はない仕様なので、すぐに搭乗して戦場に立つ事が出来る。
こういった簡便性はDCの基本的なコンセプトとして全機種に受け継がれている。容易な機種転換、整備性、稼働率と言った信頼性、生産コスト、パイロットの生存性et cetera。どれもこれも両立させるのは難しい注文ではあったが。
「ジャン・キャリー? なんで貴方が」
「久しぶりかな、シン・アスカ。思う所あってね、無理を言って私も加わらせてもらったよ」
柔和な笑みを浮かべて、DCの軍服に身を包んだジャン・キャリーがそこにいた。“煌く凶星J”の異名を持つスーパーエースが、何を思ってDCに身を置く事にしたのか、それに自分が大きく関わっているとは知らず、
シンは差し出されたジャンの大きな手と握手を交わしていた。
アウルやスティングなどはジャンの高名を知っているから、少しばかり目を見開いていただ、いつもマイペースなステラや話を通されていたアルベロなどは特に気にした様子はない。
ジャンとシンの挨拶が済むのを待ってから、アルベロが今回配備された機体について説明を始めた。
「白いガームリオン・カスタムはジャン・キャリーに使ってもらう。おれとスティングのガームリオンは動力源とEフィールド発生機構を新型のモノに転換する。
それとシンにはお前用に仕様を合わせたガームリオン・カスタム、アウルには動力源を変えたエムリオン、テンザンにはバレルの改良型であるバレルエムリオンVを使ってもらう。ステラには、統合整備計画で造られたアーマリオンを使ってもらう」
配備された機体全てが核融合炉搭載と言う洒落にならない編成だ。アルベロには黒と紫でペイントされたガームリオン・カスタム、スティングには緑と白のガームリオン・カスタム、
テンザンには黒で塗装され、両手にツイン・アーム・レールガンを装備し、砲撃支援用に再設計したバレルエムリオンV。
アウルには汎用性を求めてだろう、動力源と内部のセンサーやサーボモーターの出力を強化したエムリオンの後期型。
ステラには、完全な新型であるDCMS−004FAアーマリオン(Ver.CE)が渡されていた。ラピエサージュなどのデータから再現した新西暦の機種のデータを流用して作り上げた高性能機だ。
近接戦闘をメインに、射撃兵装も備えオールレンジで戦える。全高21.9メートル、重量41.9トンと、重武装ながら軽量MSであるM1よりもさらに軽い。実の所軽量なはずのM1も53.5トンと、ストライクダガーの55.31トンと大差はない。
武装は両手甲部のビームサーベル兼用のスプリットビーム二門、頭部のハードヒートホーン一振りと75mm対空砲塔システムイーゲルシュテルン二門、両脚部には電磁加熱した金属粒子を纏って対象を切り裂き破砕するソニックブーストキック、
両肩には特殊チタン刃を無数に射出するスクエア・クラスターを二門装備している。
PS装甲、ラミネート装甲どちらにも対応できる充実した装備だ。接近戦を得意とするステラには相性の良い機体だろう。防御面も分厚い装甲に加えてPS装甲とEフィールド、ABコーティングを装甲表面に施してあるから万全に近い。
関節への負担もTGCジョイントの採用で極めて軽く、超接近戦でも長時間戦えるだろう。
流石に量産タイプとなればいくらか装備をオミットする事になるだろうが、極めて高性能の機体に仕上がっている。開発に携わった者も、ラピエサージュのデータ内に残っていたこの機体を設計した者には才能があるとしきりに零していた。
新たな相棒を前にして、ステラはいつもと変わらないぽけっとした顔で見上げていた。うれしいのか喜んでいるのよく分からない。
一方で、変わらず阿修羅を腰に差すシンも新しい相棒を前に子供っぽい喜びを顔に浮かべていた。トリコロールカラーのガームリオン・カスタムだ。
右肩には、シンの名字を漢字で書いた『飛鳥』の二文字が達人の豪快な筆からなったように荒々しく塗装されていた。
なにより特徴的なのは左脇に装備された一振りの刀だろう。見事な細工の鍔と質実剛健な鞘がシンの目を引いた。DC謹製のMS用実体剣『シシオウブレード』の一振り目である。
まだオーブが健在だった頃に、オーブに立ち寄ったとあるジャンク屋の持っていたガーベラ・ストレートというMS用の名刀を目にしたビアンが、そのジャンク屋に教えを請うて完成させたものだ。
もともと新西暦世界にも同様のモノはあったがジャンク屋とジャンク屋に技術を与えた老人の技が活かされたこのシシオウブレードは、新西暦世界のモノと比べても遜色はないとビアンも太鼓判を押している。
木刀・阿修羅での剣術の修行には、このシシオウブレードを扱う為の意味も含まれていたのだろう。
他には両肩の突き出たショルダー・アーマーに推進装置が追加され突進力を向上させてあるようだ。
要所要所にもバーニアや装甲が追加され遠距離から一気に敵機の間合いに踏み込み、シシオウブレードで立ちはだかる者を斬って捨てる戦い方を前提とした、というかそれしかないじゃじゃ馬のようだ。
「それがお前用のガームリオン・カスタム“飛鳥”だ」
「飛鳥、おれの名前?」
「そうだ。その名の通り、戦場の空を飛ぶ鳥となれ。何者をも断つ刃を持った鳥にな」
「お前が、おれの新しい相棒か」
感慨にふけるシンだったが、一人エムリオンに乗る事になったアウルは不満そうだった。
「てかさあ、普通エムリオンの方がガームリオンより多いもんじゃねえ? なんで指揮管制・エース用のガームリオンの方が多くておれ一人だけエムリオンなわけ? えこひいきじゃないの」
「そう言うな、アウル。エムリオンも良い機体だ。海中で本領を発揮できる機体を一機位は残しておかんとな。お前にも今組み立て中のジガンシリーズを回してもらうようおれから上に伝えておく」
「頼むぜ、アルベロ隊長。おれだけ仲間外れってやだもんなあ」
テンザンは新しいバレルに不満はないらしく、にやにやと新しい機体を見上げていた。一見するとかなり不気味だった。ロボットゲームオタクの気性を存分に滲ませている。
「それと新しく二人のパイロットが配属される。機体と合わせてそろそろ来るはずだが……。あれだな」
アルベロの言う通りトレーラーに乗せられて先日の連合別動艦隊をさんざんに痛めつけた赤いラーズアングリフと緑のランドグリーズが一機ずつタマハガネに運び込まれてきた。見慣れぬ機体に、全員の視線が集中する。特に好みなのか、テンザンはねばっこい視線を向けていた。
その内メンテナンスベッドに二機が収まるとトレーラーからパイロットらしい二人が降りてシン達の所にまで歩いて来た。茶色い髪の青年と赤味の強い髪に褐色の肌の少女――ユウキ・ジェグナンとリルカーラ・ボーグナインの二人だ。
「ユウキ・ジェグナン三尉、リルカーラ・ボーグナイン曹長であります。遅くなり、申し訳ありません」
「うわ、ユウ、見て見てみんなこんなに若いパイロットだよ!」
「……カーラ、人の話の腰を折るな。申し訳ありません、エスト三佐」
「ああ、すいません!」
「構わん。こいつらを部下にしているとそういうのには慣れるのでな。この二人が本日からわれわれクライ・ウルブズの一員となる」
シン達を向き直ったユウはカーラの言う通り、シンやステラと言った少年少女がいる事に多少驚いたらしい。沈着冷静な性格らしく、それを表にする事は無かったが。
「ユウキ・ジェグナンだ。これからよろしく頼む」
「リルカーラ・ボーグナインよ。仲良くしようね!」
元気の良いカーラの挨拶に飲み込まれたユウだが、おもむろに懐中時計を取り出して、ひどく真剣なまなざしで呟いた。カーラはまた始まったよと小さく呟いていた。
「さて、紅茶の時間だ。よければ一杯御馳走しよう」
というわけで、ユウの持ちこんだティーセットで淹れた紅茶を食堂でシン達は堪能する事になった。ユウのうんちくも。
紅茶の味が分からなくなりそうなほどたっぷりと紅茶の知識を叩き込まれ、シンは正直辟易したが話を基本的に聞いていなかったステラは、もぐもぐとお茶菓子と紅茶を目いっぱい味わっていた。
カーラはいつもの事と慣れた様子であり、ジャンとテンザンとアルベロはすでに逃げていた。歴戦の経験が培った勘だろう。アウルはもううんざりだという顔で、黙って紅茶を啜っていた。
「じゃあ、あのラーズアングリフとランドグリーズの生産は少数どまりだと?」
「ああ、そうだ。元々テスラ・ドライブ搭載機でないラーズとグリーズは陸戦タイプである以上オーブ諸島での使用には向いてない。テスラ・ドライブの小型化には成功しているが、
搭載を設計段階で想定されていない機体に後付けする為のユニットはまだ少数しか作られていないし、それもエドワード・ハレルソン二尉やギナ副総帥のGF天に装備されているからな」
機体に話を持って行き、紅茶のうんちくを回避したスティングが、ユウと話し込んでいた。
元々はクエルボ・セロの乗っていたラーズアングリフを参考にして開発し、テスラ・ドライブの搭載を見送った為に、ラーズとグリーズの両機は飛行能力を有していない。
ただ生産コストは安く、改修の余地もあるため、その内飛行能力を持ちより火力の増した新たなラーズとグリーズの後継機も開発される可能性は残っている。
「だが、足を止めての砲撃戦で真価を発揮したラーズの力は馬鹿に出来ん。ザフトのザウードはもちろん、連合のバスターやカラミティにも負けんとおれは思っている。……ビーム兵器が無いのが欠点と言えば欠点だがな」
「コストや特性から考えれば将来他国への輸出品になりそうですね」
「確かに、大陸などの陸地でこそ活躍の場は多そうだが……。いかんな、紅茶が冷めてしまう。オークレー准尉、早く飲むと良い」
そう言って、手ずから淹れた紅茶の香りをユウは楽しんだ。
かくてまたイロモノの仲間を加えて、タマハガネはにぎやかさと戦力を増していた。ギナ、フォー、シックス、サーティーン・ソキウス達は宇宙のアメノミハシラへ。エドとジェーンはオノゴロ島で南アメリカとの交渉に関わっている。
代わりにジャン、ユウ、カーラと新型機を補充し、タマハガネは一路ザフトの潜水艦隊と合流する為に、ローレンス・シュミットの乗船したキラーホエール級二隻と共に地下ドックを出航した。
海底基地ラガシュ。大気圏外から降下したボズゴロフ級をも上回る巨大潜水艦六隻とドーム状の部位からなるザフトの極秘基地であり、カーペンタリアとジブラルタルを結ぶ中継基地でもある。
海中を潜航するタマハガネとキラーホエールはここでカーペンタリアから出撃したザフトの艦隊と合流する事になる。
DCから派遣されたのはわずかに三隻の艦船とそれに搭載された三十機に満たないMSに過ぎなかった。ただ地上戦力における精鋭が集められた『質』に特化した部隊だ。
間もなく正面モニターに映ったボズゴロフ級を始めとするザフトの部隊を確認し、タマハガネ艦橋でエペソが足並みをそろえるべく船速を調整させる。
「宇宙では役に立たん潜水艦や水中用MSを大量に投入したか」
ディンやゾノ、グーン、ザウート、バクゥと言った機体は宇宙では運用できない。宇宙への戦力の引き上げを決定しているザフトとしては地上でしか運用できない戦力の一斉放出めいた意図でもあるのだろう。
「艦長、ザフト艦より通信が入っています」
「正面モニターに回せ」
エペソの目の前に映し出されたのは今回のマドラス強襲作戦の指揮を執るラウ・ル・クルーゼであった。
『今回の作戦の指揮を執るラル・ル・クルーゼです。エペソ・ジュデッカ・ゴッツォ一佐。作戦中においては貴艦には我々の指揮下に入っていただくが、よろしいか?』
「構わぬ、その旨はビアン総帥からも通達されている。貴殿の指揮官としての力量がどれほどのものか、拝見させていただく」
『これは無様な所は見せられませんな。では、健闘を祈ります』
「ザフトとDCに武運のあらんことを」
互いに通信を終えた後、両者は言葉こそ違えども意味する事は同じ言葉を吐いた。
「あの眼、気に食わんな。あれは破滅に身を浸す者の目」
エペソは銀河規模で戦った経験から世界も自分さえも破滅させる事を望んだ者たちを想起し
「あの男、ビアン・ゾルダークと同等か、それ以上に厄介だな」
クルーゼは類希な洞察力から自身の本質に触れたエペソへ警戒を露わにしていた。
「ディバイン・クルセイダーズ、やはり早々に退場して頂かなくてはならないかな?」
妖しく呟くクルーゼの台詞には狂気に塗れた本性があった。人によって歪められ捻じ曲げられた心が纏った狂気が。
DCとの同盟により東方の防衛の為の壁を手に入れたザフトとしては、連合側に組み込まれた赤道連合への警戒を強めたいところだった。具体的に言えばニューギニア基地への攻撃が望ましかったのだ。
といっても占領地域の維持さえ難しい現状では基地施設や人員、物資の壊滅を行う程度が限界で占領に割く戦力・人員の余裕はすでにアラスカとパナマで失われていた。
もはや地上にある基地の全てが前線も同然であり、人員の再編成や新兵の訓練を行える後方は無いと言っていい。
さて、そんなザフトが今回の作戦の標的を東アジア共和国所属の旧インドにあるマドラス基地に狙いを定めたのには無論理由がある。もともと中立を謳っていた赤道連合は、オーブ解放作戦と時期を前後して、地球連合に武力を背景として無理やり組み込まれた経緯がある。
同じく地球連合に武力侵攻されたオーブが、DCという形に変わったとはいえ連合の暴虐を退けた事で国民感情から官僚に至るまで反連合の機運が高まっており、DCとカオシュン、カーペンタリアのザフト軍との連携により地球連合からの脱却を狙う動きがある。
現在DCでもセイラン家やグロード家を中心に交渉の真っ最中であり、連合側が赤道連合対大洋州連合の図面を敷く前に、赤道連合にザフトとDCの力をアピールする機会を欲した為だ。
どちらにせよ、ベテランや最新鋭の装備を宇宙に引き上げつつザフトとしては最低でも時間稼ぎが出来るのだから、文句は無かった。
最悪、カオシュンのマスドライバーを破壊しカーペンタリアへ撤退するための退路を確保するためにも、赤道連合の地球連合からの脱却は望ましかった。
DCとザフト、互いにとって妥協できる作戦が今回のマドラス強襲だった。
残された地上戦力から搔き集められたボズゴロフ級や洋上艦、ディンや戦闘機が群れ成す中に、ぽつんと異物であるDC艦隊を加えたザフト・DC艦隊は、ラガシュを出港し、ついに標的であるマドラスへと襲い掛かった。
マドラスにはアフリカ北部、ヨーロッパ東部から侵攻しジブラルタル攻略の為の物資と、カーペンタリア攻略の為に膨大な物資が集められていた。それをみればDC、ザフト両軍が唾を垂らして羨ましがるほどの物量だ。
ここら辺の実力差ばかりは技術が優れていてもどうしようもない。
貧しさは人類永遠の敵だが、兎にも角にも戦わねばならぬ敵は、今の所貧困では無く地球連合だった。
戦端はボズゴロフ級やキラーホエールから発射された無数のミサイルだった。マドラス基地の大型レーダーサイトが迫るミサイルを捉え、基地からも無数の迎撃ミサイルが打ち上げられてこちらのミザイルを撃ち落として見せる。
すぐさま戦闘機やMSが発進体勢に入り、そこに第二波、第三波のミサイル群が降り注いだ。これらのミサイルはかろうじて出撃の間に合った戦闘機やMSによって大多数が迎撃されたが、
撃ち漏らしたミサイルが着弾し基地沿岸のミサイルランチャーや高射砲を破壊して見せた。
クルーゼは水陸両用のMS隊に出撃を命じ、沿岸部の対空砲や迎撃施設の破壊を行わせる。地上からも上陸させておいたバクゥやザウート、ジンからなる部隊がマドラス基地へ向けて進軍している。
水陸両用MS隊が役目をそれなりに果たした頃、グゥルに乗ったMS隊がボズゴロフ級や輸送艦から次々と出撃してマドラス基地へと襲い掛かる。
その中にはイザークの駆るデュエルAS(アサルト・シュラウド)の姿もあった。今回、イザークには本国から配属された新兵が数名部下として与えられていた。
「ルナマリア、レイ、単機で突出するな。必ず二機ないしは三機一組で行動しろ。ナチュラルといえども決して油断するな! 戦功を挙げるよりも生き残る事を考えろよ!」
「はい、ジュール隊長」
「了解です」
それぞれグゥルに乗ったジンのパイロット達だ。現在既にビーム兵器を搭載した最新鋭量産機ゲイツが配備され始めていたが、既に運用法も確定し扱いやすいジンが新兵に配備されている。
赤い髪に真ん中あたりでぴょんと一房の髪が跳ね、溌剌とした印象を与える少女がルナマリア・ホーク、長い金髪に落ち着いたというよりは老成した印象を与える少年がレイ・ザ・バレルだ。
どちらも15歳になったばかりの新兵――というか訓練兵だが、ザフトレッドを着るエリートである。だが、イザークはたとえエリートであろうとも実戦をろくに経験していない新兵がどれほど当てにならないか知っている。かつては自分もそうだったのだから。
「ジュール隊長、DCの人達とはどうお付き合いします?」
初の実戦で相当緊張しているだろうに、それを表に出さずルナマリアが軽い調子で聞いた。彼女なりに緊張をほぐしているつもりなのだろう。
「命令があればそれに従う。それだけだ」
と答えたのはイザークでは無くレイだ。ルナマリアとは対照的に淡々としており、イザークはどこかクルーゼに似ていると思っていた。最もどこかうすら寒い所のあるクルーゼに比べれば人間味のある少年だ。
「ふん、レイの言う通りだ。いいかお前ら、生き残る事も大事だが、DCの連中に無様な所は見せるなよ! ジュール隊、出るぞ!」
「了解。ルナマリア・ホーク、ジン、出るわよ!」
「レイ・ザ・バレル、ジン 出る!」
ボズゴロフ級の垂直式デッキからグゥルに乗った三機のMSが、砲火絶えぬマドラスへと飛び立った。
「ラウの作戦だ。失敗などさせるものか!」
ゾノやグーンらの活躍で空いた防衛線に、ジン、シグー、バクゥと言ったMSが雪崩れ込み、上空ではスカイグラスパー相手にディンやザフトの航空機が死闘を繰り広げている。
本格的に量産が始まったスカイグラスパーは、ディンを相手に互角近い戦いを繰り広げている。
ほとんど実戦が初めてと言うダガー隊もなんとか混乱から立ち直ろうと四苦八苦していた。モビルスーツ戦と言う意味ではザフトの兵も経験のある者は少ないが、
流石にモビルスーツの運用には一日の長があり、パナマでの苦戦の教訓もあって数で勝る連合を相手に互角に渡り合っている。
115mmレールガン“シヴァ”でストライクダガーの胴体に大穴をあけたイザークはストライクダガーの動きの鈍さに拍子抜けしていた。
パナマでもそうだったが、ストライクやジャンの乗るロングダガーと死闘を繰り広げた彼からすれば、ほとんど素人としか思えない動きだった。ルナマリアも危なっかしい動きながらなんとかストライクダガーを一機撃墜している。
レイは訓練生とは思えぬほど落ち着いた様子で76mm重突撃銃の弾丸を叩きこむ、戦車とストライクダガーを撃破していた。
思ったよりも使い物になりそうだと、イザークはかすかに安堵した。
「ジュール隊長、タマハガネです!」
「来たか、どれほどのものか、見させてもらうぞ。ディバイン・クルセイダーズ!」
次々と飛ばされるエペソの指示に、流石に慣れてきたブリッジ・クルー達が全力で対応している。上空での戦力図がタマハガネの突入で傾き、この厄介な巨体を沈めるべく連合の火力が集中する。
「両舷ミサイルランチャー、発射! 連装衝撃砲1番3番、連装副砲4番、地上の友軍を援護する。二十秒間隔で斉射、ザフトにも警告を忘れるな。
取り舵三〇、右の航空部隊を牽制し、右舷の火砲で港湾施設を潰せ! 鑑定が出てくる前に沈めよ!」
タマハガネから出撃したクライ・ウルブズ各機も新たな力と共に猛威をふるっていた。飛行能力を持たぬラーズアングリフとランドグリーズはタマハガネ甲板上から、カラミティやバスターにも匹敵するその火力を存分に発揮していた。
アームガード内側に装備したマトリクスミサイルや、肩に装備したFソリッドカノン、リニアカノンが地上の基地施設、上空から迫る航空戦力を撃ち落としている。
「ラーズの砲撃から逃れられると思うなよ!」
「ユウ、すごい数だよ」
「その為のラーズとグリーズの装備だ。慌てずに照準をつけろ。ジャマーとタマハガネのEフィールドがある。そう簡単に落ちはしない! 落ちつくんだ、カーラ」
「うん、ごめん! ちょっと緊張していたみたい! 私らしくないよね、ユウ」
「ふ、それでいい」
ラーズの手に握らせたリニアランチャーから無数の小型弾頭がばら撒かれ、スカイグラスパーが一機直撃を受けて落ちる。カーラのランドグリーズもリニアガンを次々と地上の物資をため込んだ格納庫やコンテナに撃ちこみ続ける。
核融合炉へ動力を換装したクライ・ウルブズ各機も凄まじい勢いで近づく連合の機体を骸に変えていた。一対多の状況にすっかり慣れ切った面々は、連合の物量に飲まれる事無く戦う事が出来ている。
テンザンなどビーサーベルを振る距離までわざわざ近づいてからレールガンを叩きこむという完全に遊びの戦い方までしている。
「ひゃははは。おらおら、砲撃用の機体でここまで近づいてんだぜえ? ちっとは根性見せろやあ!」
胴と頭部にレールガンを立て続けに打ち込まれたストライクダガーが次々と破壊されてゆく。とまあ、こんな具合にである。
アルベロやスティングも、敵機の撃墜より基地施設の破壊を主な目的と理解しているから、機体に持たせた装備もマシンガンなどの点の威力は低くても面を制する事の出来る装備を持たせていた。
変わらずエムリオンを使う事に不満を垂れていたアウルもいざ実戦となれば、核動力のおかげでぐんと出力の上がった機体に満足したのか、嬉々として闘っていた。
だが、やはり誰よりも凄まじいのはシンとステラの二人だった。
「一刀両断、フルブースト!!」
両肩や腰部のテスラ・ドライブ、スラスターを全開にしたシンの飛鳥が駆け抜けた時、その軌跡に触れていたストライクダガーの胴体が両断され、ゆっくりと倒れた。
飛鳥の右手には、目に捉える事さえ困難な速度で抜き放たれた獅子王の太刀があった。刀身に刃毀れの一つなく、こびり付いたオイルを振り払い、シンは新たな敵を見据えた。
「行ける、コイツ、すごい強い!」
新たな戦友の力にシンの心は高揚していた。良くも悪くも少年の純粋さが、新たな力に喜びを抱いていた。
遠距離からビームライフルを撃ちこんでくる三機のストライクダガーに気付き、今一度飛鳥に神速の踏み込みをさせた。薩摩示現流の右蜻蛉、そこから放たれる斬撃からまぬがれる術を、連合の兵達は持っていなかった。
TC−OSに登録されリシュウ・トウゴウ、ゼンガー・ゾンボルトのモーションデータの助けもあるが、シン自身が行っている剣術の修行も、まだまだ未熟とはいえほんのわずか役に立っていた。
シンが飛鳥と共に駆け抜けた時、ストライクダガー達は一続きの銀の軌跡に、装甲を真っ二つにされていた。
「うえええい!!」
「な、なんだ、角!?」
ステラの駆るアーマリオンが振り上げた頭部のハードヒートホーンという、あまりに奇抜な装備に驚いたストライクダガーのパイロットは、頭部と首を縦に割られ、機能不全に陥った機体を捨てて脱出する羽目になった。
ステラはそのまま地上すれすれに滞空し、アーマリオンに砲弾を集中させる戦車部隊に向かい、両肩のスクエア・クラスターを展開させた。縦に長いボックス状の両肩が上下に分かれ、その中に納められた無数のチタン刃を射出する。
多数の敵を想定したスクエア・クラスターは戦車部隊に容赦なく降り注ぎ基地施設にも膨大な被害をもたらす。
連合側も、威力がありすぎるビームライフルを使うわけにいかず、ストライクダガーはジンに対するアドバンテージを活かせずにいた。それが無くてもMSとしては異常なまでの防御力を持つアーマリオンに、連合のMSは有効な攻撃法を持っていなかった。
ステラは両手に装備された拡散型ビーム砲“スプリットビーム”を次々撃ちまくり、スクエア・クラスター以上にマドラス基地や物資が溜めこまれているであろう倉庫ブロックを破壊していた。
ABシールドでスプリットビームを防ぎながら、アーマリオンに接近していたストライクダガーも、スプリットビームの砲口から展開したロシュセイバーで見る間に十文字に切り裂かれ、推進剤に引火したのか爆散してアーマリオンを赤に照らした。
イザーク率いるたった三人のジュール隊も、数少ないベテランとなったイザークがよくレイとルナマリオをカバーし闘っていた。
とはいえ、数で勝る連合のストライクダガーに、訓練兵であるルナマリアとレイを庇いながらでは流石のイザークも消耗せずにはいられなかった。
AS装備の一つ、左肩のミサイルポッドで戦車隊を蹴散らし、パイロットの技量がモノを言う接近戦に持ち込み、シールドでストライクダガーの右腕を跳ね上げ、あいた胴をサーベルで両断する。
「ちい、落としても落としてもキリがない! これからはこんな戦いばかりか!」
「きゃあ、隊長!」
「ルナマリア!?」
「ルナマリア、ええい、邪魔だあ!!」
三機目のストライクダガーを撃墜したものの、引き換えに左腕をジョイントから破壊されたルナマリアのジンに、ストライクダガーがビームサーベルを抜き放ち切りかかっていた。
ルナマリアも残った右腕に重斬刀を握らせていたが、イーゲルシュテルンを撃ち込みながら迫るストライクダガーに右腕の五指を破壊されてしまい無防備になる。レイのジンも戦車部隊に足止めされ、イザークのデュエルも強化兵の乗るロングダガーを相手に苦戦していた。
「くそおおお! どけえ!」
「ルナマリア!」
焦燥を募らせる二人の声が聞き届けられる事は無く、ルナマリアのジンに向かいビームサーベルが突き立てられた。いや、ストライクダガーの胴を薙いだ銀の光の流れの方が速かった。
思わず呆けるルナマリアの視界に、横倒れになるストライクダガーの向こうでシシオウブレードを抜き放ったモーションの飛鳥が映る。
「大丈夫か!?」
飛鳥から繋げられた少年の声に、ルナマリアは思わず反射的に返事をしていた。
「え? あ、うん」
ロングダガーを下したイザークとレイも間もなく駆けつけ、見慣れぬDCの機体に警戒を交えつつ近づく。
「そこのパイロット、部下を助けてもらい、感謝する」
「その声、イザークさん?」
「な、シンか!?」
デュエルのモニターに映し出されたシンの顔に、イザークは正直に驚いた。イザークの目をもってしても捉え難い速度で接近し、ストライクダガーを両断した技量に内心感嘆していたが、まさかそれがあのシンだったとは。
「はい。結局、戦場でまた会いましたね。あ、そのジンのパイロット、大丈夫ですか?」
「ええ、助かったわ。ありがとう、ルナマリア・ホークよ」
「おれは、シン・アスカ」
「隊長、早くルナマリアを下げなければ。敵機が近づいています」
両腕が使い物にならなくなったルナマリアのジンを助け起こしたレイが、お粗末なレーダーに映る反応に気付いて冷静な判断を下す。新たに出現したストライクダガーが三機程こちらに向かってくる。
ビームライフルの代わりにマシンガンやバズーカを装備している。イザークがルナマリアを庇うようにデュエルを前に出すが、それをシンが制した。
「大丈夫です、味方が片づけてくれます」
「な……に?」
イザークが答えるよりも早く上空から降り注いだスクエア・クラスターが容赦なくストライクダガーを貫き、
回転してながらブレイクフィールドを展開した突撃してきたアーマリオンのソニックブーストキックに一気に頭から潰されて、ストライクダガー一個小隊が壊滅した。
「す、すごい……」
「……DCは化け物か」
その光景に、レイやルナマリアだけでなくイザークも言葉を失くしていた。アーマリオンからの通信でステラの可愛らしい顔が映った時、イザークはさらに言葉を失くした。あの迷子になっていた天然が、あのとんでもない機体のパイロットだというのか。
「シン大丈夫? あ、イザークだ」
「ステラか……。お前もDCのパイロットだったのか」
「うん。イザークは大丈夫?」
「おれはな。だが、ルナマリアのジンが戦えん。後方の艦まで下がる。済まんが援護してくれ」
「分かった」
アルベロにすぐさま許可を取り、シンとステラはルナマリアを後方に下げるまで付近一帯のザフトの援護をする事になった。
純白に染められたジャン・キャリーのガームリオン・カスタムも、パイロットの技量とあいまって次々と武装や四肢、頭部を貫いて戦闘能力を奪い、山積みの物資にバーストレールガンを撃ちこんで炎上させる。
憎悪の連鎖を止める手段の一つとして不殺を選んだジャン・キャリーとしては、こうして連合の侵攻の為に蓄えられた物資を破壊する事は、軍事行動の遅延に繋がり、一見彼の信条に反さぬ行為に見えるが、結局は戦局の延長に繋がる行為でもあり、彼を悩ませていた。
「ふう、周囲の敵機はとりあえず抑えられたか。さて、次は」
ジャンの視界が捉えたわずかな動き――崩れかけていた施設ががらっと音を立てて崩れた、それにジャンの直感が警戒を告げた。崩れる施設の瓦礫を縫って一発のグレネードランチャーが、ジャンのガームリオン・カスタムが一瞬前までいた空間に着弾し、爆発する。
「崩れる瓦礫の隙間を狙って撃った? 連合にそれほどのパイロットが? 残る著名なエースは乱れ桜か」
施設の影から飛び出してきたソードストライカーを装備したストライクに、ジャンは反撃のバーストレールガンを三発叩き込む。ストライクダガーのライフルを投げ捨てたストライクは、
あろうことか抜き放ったシュベルトゲベールで一発を切り落とし、残る二発を回避し、距離を詰めてきた。
「Xナンバーか。正数が生産されているという話だったが、となればやはり腕利きが乗っているな!」
シュベルトゲベールではアサルトブレードやビームサーベルでは受けきれない。ソニックブレイカーを放つまでの一瞬のタイム・ラグで、目の前のストライクはこちらを一刀のもとに両断しているだろう。
走りながら同時に投げられたマイダスメッサーを胸部のマシンキャノンで撃ち落とし、迫るソードストライクの脚部目掛けてバーストレールガンを撃ちこむ。ソードストライクは、それを右に飛んでよけた。
ジャンはそれを見逃さず、左腰にマウントしていたビーム・リボルバーを撃ちこむが、それを小型のシールドでもあるロケットアンカー“パンツァーアイゼン”で受けてみせる。
「コーディネイター? いやそれ以上の反応速度だな」
空中でバーニアを吹かし加速したソードストライクの予備動作の極めて少ない一振りを、流石にジャン・キャリーは、装甲表面を掠めるに止めて回避する。
接近戦での不利を悟りつつも距離を取らせぬ相手の力量に、まさかとジャン・キャリーは敵パイロットの正体に険しい表情を浮かべる。
『そのカラーリングと技量、ジャン・キャリーか?』
「やはり、な。ゼン中尉、貴方か」
耳にするだけで安心だと思うような、頼れるという言葉を実感できる声だった。ジャン・キャリーの前に、三十代間近の男の顔が映し出される。短く刈りこんだ黒髪に、精悍な顔をしている。美男と言うわけではないが、誰もが信頼を置く事の出来る男の顔だ。
『DCとの戦闘で捕虜になったと聞いていたが、そうか。DCに身を寄せる事にしたのか』
寝返ったとは言わない。むしろジャンがDC側に着いた事を喜ぶ響きさえあった。連合に居る事がジャンにとって決して良い結果を生むことではないと知悉しているからだろうか。
「できれば貴方とは戦いたくなかった。強敵すぎる。それに、心情的にも貴方は、な。私を対等の仲間と見てくれた数少ない人だ」
ゼンは微笑したようだった。
『今でもそう思っているさ。ただ、おれは大西洋連邦の軍人だからな』
「貴方ならそう言うと思った」
互いに理解しあいながらその立場故に、理解するが故に敵となった両者は、対峙する。機体の性能で言えば核融合炉を搭載したジャンのガームリオン・カスタムの方があらゆる面で上回る。だが、それでも勝利が危うい事をジャン・キャリーは知っていた。
ゼン――大西洋連邦SAM(Spetial Attack Miritary)所属の軍人。同時に
支援。間に合え!
支援!
支援
再支援
支援
支援〜!
シェーン!Tバーック!
ん?どうなってんだ?
今夜はもう寝てもおk?
「地球連合最高の兵士。故に送られた称号US。即ちアルティメット・ソルジャー、究極の兵士。こんな所で会えるとはな」
「シュミット一佐」
赤に染められたガームリオン・カスタムが、ジャンの傍らに降り立つ。DC屈指のエース、ヘルファイター、ローレンス・シュミットであった。
隻眼の、深い海の底の青には、強敵を前に静かに燃える闘志が秘められていた。
「彼はわたしが引き受ける」
「しかし一佐、ここで貴方を失う様な事態は避けるべきだ。並みの相手ならともかく彼が相手では」
「若さゆえの過ちとはならぬよう全力は尽くすさ」
「貴方は思っていたよりも血気盛んだな」
「そういう事だよ。さあ彼をいつまでも待たせては申し訳ない。行ってくれたまえ」
ここでローレンスがゼンに敗れる事になればDCの損失は計り知れない。だが、ジャンはローレンスの心を汲むことにした。
機体を翻し
「武運を祈る」
とだけ言い残して去った。その言葉に笑みを浮かべて、待っていてくれたゼンを注視する。
「さてお待たせした。USゼン、こうして直に会えて光栄だ」
「おれこそヘルファイターの伝説は知っているさ。世界中のあらゆる軍が欲しがった南米最高のコーディネイター。敵にはしたくなかったな」
「君は誰も敵にしたいとは思っていなさそうだ。究極の兵士と言われながら、軍人には向いていないのかもな」
どこか和やかささえ漂う二人だが、その間にも互いの隙を探り合う不可視の戦いが行われていた。
ささいな切っ掛けが死闘の幕を開く強者の戦いであった。
規制に引っ掛ったので携帯から書き込みました。指が痛い・・・。今回はここまで、支援本当にありがとうございます。そろそろゼンやらシュミットのネタも自粛致しますね。
とりあえず今度からは2つ投下ごとに1支援くらいした方がいいかもな……
とりあえずGJ!ルナレイ登場。
狂うぜの真意をレイがどこまで理解しているのかが(゚∀゚)人(゚∀゚)ナカーマフラグの鍵ですな。
早くも何らかの動きを見せそうなふいんきですが……待て次回!かなぁ。
666 :
662:2007/08/24(金) 03:40:54 ID:???
おぉう、寝る前に携帯から確認して良かったぜ。
あまりやりすぎてもアレだが、飛鳥流念法とかの小ネタは大好きだ!
じゃあ阿修羅が折れたらシンにはこの木刀をヨウランからプレゼントしてあげてください
つ 洞爺湖
つ 風林火山
つ 毘沙門天
670 :
通常の名無しさんの3倍:2007/08/24(金) 12:31:49 ID:MarypKnu
GJ!!
今回の話しからするとシンとステラの後継機は大親分(武装もある)
と竜巻ありだろうか?
ダイアスカーとダイステラーが合体して放送禁止になりまつ
不純合体ダイメオトン
673 :
通常の名無しさんの3倍:2007/08/24(金) 13:42:53 ID:HczZxNAG
後継機の開発状況やオーブ政府樹立等をふまえると種で終わらずに種死まで行くのだろうか?
新婚合体ゴー旦那ー
それはあの桃色汚物の今後の動向次第かと…
シンがルナの危機を救って二股修羅場フラグ成立ですかw
ぶっちゃけカプの話題はカプ厨が湧く危険あるからもうやめてほしい
今、夏休みだし
今後どんなアレンジロボット軍団が出るか楽しみだぜ
OGビアンだからかオリジナル機体ばっかりだけど
いろんなデータのおかげで武装だけでも色物がドバーッ!とですね
とりあえず
「リュウセイみたいに、やってみる」
「シシオウブレード! 飛鳥(ひちょう)斬り!」とか言い出さないかなー、シン。
そこはむしろ「究極ぅぅ〜〜!ゲシュペンスト・キぃ〜ックぅぅ〜〜〜!!」だ
光の巨人になってウロボロスを(ry
682 :
通常の名無しさんの3倍:2007/08/24(金) 22:33:00 ID:v4J9DPOH
相変わらずビアンSEED、GJ!!
小ネタの元になっている作家さんのキャラ本人が登場してくれればと切に
思いますが無理ですな・・・。作家さんいわく自分の書く主人公は一応は、
善玉、でも敵に対して情け容赦なく、殺戮、拷問はお手の物、一寸刻み五
部刻み、ノゴギリビキも厭わず。悪役の方がよっぽど人間的に見えることも。
今のスパロボに一番必要なキャラだと個人的に思うのですが・・・。
GJ!
とうとう紅茶とサトシも仲間入りしたかぁ…てか空気嫁紅茶www
レイヴンの出番も楽しみにしてまつノシ
684 :
通常の名無しさんの3倍:2007/08/24(金) 23:46:04 ID:HczZxNAG
GJ!
OGのフィリオは生きてるけどαシリーズのフィリオは死んでいるのでぜひ登場させてください。
GJ!
やた!祝ルナレイ登場!
686 :
660:2007/08/25(土) 01:00:15 ID:???
稚拙なネタに、多々の感想ありがとうございます。
感想でもあげられていましたが、私個人としては、種から種運命に続けたいなあ、と思っています。
小ネタの元になっているキャラもじゃんじゃん出したいところですが、元来スパロボには関係のない方です。
ゼンやシュミットだけでもやりすぎだと思っていますし、あくまで小ネタどまりにしたいと思います。
難しい話は苦手なので、あんまり細かく煮詰めず話を進めさせていただければと思います。
リョウトとリオの真・龍虎王は、申し訳ないですが難しいです……。出そうと思えば出せなくもないですけれども。
また、フィリオには彼にとって最適の場所がSEED世界にありますので、ひょっこり顔を出す予定ではありました。
皆さんに楽しんでいただけるよう、頑張っていきたいと思っています。ご助言やご指摘お待ちしております。
>フィリオには彼にとって最適の場所
よもや丸い光背しょったガンダムを出すおつもりかw
そりゃフィリオが有るべき場所はあそこしかないだろうな……
戦後はシビリアンエムリオンとか配備されるんだろうか。
689 :
通常の名無しさんの3倍:2007/08/25(土) 16:59:32 ID:/6530+Q2
とりあえず、「ルナマリア」が「ルナマリオ」になってる件に突っ込みを
ルナマリオ吹いた
最強の赤服誕生wwww
姉(兄)は赤で妹(弟)は緑だから何も問題ないな
妹はメイージなのかルイリンなのか。
>>693 なんか魔法使いなメイリンだな>メイージ
まっ、実際魔法みたいな一発逆転で勝ち馬に乗ったし。
んで凸ともどもフラフラ裏切ってるあたりがまさにメイジドラキーだな
第二十二話 ザラ親子
炎に包まれるマドラスの連合基地。沿岸部から上陸したザフト・DCの機動兵器達と、陸路から進軍していたバクゥ、ザウートといったザフト製MS隊も苛烈なまでに砲撃を加えていた。
そこにはどうせもう、本格的な侵攻作戦を行うほどの余力が無いのだからありったけ撃ちこんでしまえ、という自棄も含まれていた。理性的に調整されていると言われるコーディネイターも、やはり人間である以上感情という鎖から逃れる事は叶わなかった。
だが、地球連合の底力がいよいよ発揮されつつあった。
獣の四肢を模したバクゥは、得意の高機動戦で連合のストライクダガーや戦車を翻弄していたが、マドラスの市街地や基地施設に入り込んでは障害物が多く長所を発揮する事はできない。
おまけに数に任せた連合の戦車隊の砲撃は、左右に逃げても雨の如く降り注ぎ、どこに逃げようともバクゥやジン、ザウートに次々と着弾しボロ屑に変えて行ってしまう。
どれだけ優れた能力を持ったコーディネイターとMSであっても、逃げる場所が無ければどうしようもない。
砲弾の形作る澱の中に閉じ込められた哀れな生贄となってしまったのだ。
戦況の変化を見て取ったクルーゼも、後方のボズゴロフ級潜水艦の艦橋から各隊単位で撤退の指示を出し、今回の作戦の引き際を模索していた。
内外から嫌われる癖の強い人物であるが、ラウ・ル・クルーゼはザフトに残された数少ない有能な指揮官レベルの視点を持った人材であった。
「さて、あまり欲をかくとこちらも火傷を負ってしまうか……。DCのタマハガネに殿を務めるよう要請しろ。彼らなら喜んでやってくれるさ」
DCを捨て駒扱いするクルーゼの命令に、艦長はじめ良識を持った兵達は懐疑的にクルーゼを見つめるが、仮面の男は冷たい笑みを浮かべたまま言った。
「せっかくの同盟だ。活躍の機会を与えてさし上げなくてはな。我々ザフトの兵の流す血は、少ない方がよかろう?」
他者への悪意ばかりで塗り固められた悪意の笑みであった。だが、顔を隠す仮面と共に己以外の全てに対して嘲笑と憎悪を、その冷笑の下に隠して接しているクルーゼもただ一人だけこの戦場で気に掛かる存在がいた。
「無事に生き残れよ、レイ」
手のかかる弟を案じる兄か、父の様な言葉だった。そこには紛れもない温かい情が込められている。この男のどこにと、彼を知る者が目を剥く言葉であった。
遅滞戦闘を繰り返し、徐々に戦線を後退させるザフト・DC。そんな中、戦線から孤立した地点があった。“US”ゼンと“ヘル・ファイター”ローレンス・シュミットという生きた伝説の一騎打ちが行われている決戦場だ。
そこが何か他の戦場と違うわけではない。弾丸が交差し誰も彼もが平等に死を見舞う場所だ。人型の鋼が戦い合う風景も既に珍しいものではなくなっている。
爆発が巻き起こり、互いの顔も名前も知らぬ多くの兵が殺し合い殺されて死に、鉄くずと原形を留めぬ肉塊が散らばる光景など、古今東西あらゆる戦場で描かれたありふれた地獄図だ。
だが『ここ』は違う。決戦場は場によるものでは無く、そこで戦う者達が決めていた。一瞬で生死が分かたれる戦いに身を晒す者達のみが、そこを決戦の場とする事が出来る。
シュミットの赤いガームリオン・カスタムが飛ぶ。宇宙の暗黒を裂く一筋の流星のように。
ゼンのソード・ストライクが切り裂く。分厚い灰色の雲を貫き奈落の底に差し込む太陽の光の様に。
射撃兵装を装備しながらゼロ距離に踏み込んだガームリオン・カスタムの手に握られた71式ビームライフル改が、核融合炉から供給される膨大なエネルギーを、メギドの火を矢としてつがえた弓の如く苛烈な熱を放つ。
シュベルトゲベールはその長大さ故にとり回しが難しく、超接近戦では活かしきれないソード・ストライクは、懐に踏み込んできたガームリオン・カスタムに距離を詰められ、一撃必斬の刃を振るえずにいる。
銃剣の様に突きだされたライフルの銃口から奔出した光は、ソード・ストライクの左肩のストライク・パーツを掠めるだけで融解させてしまう。
核融合炉に出力で劣る核分裂炉を搭載したフリーダムのライフルでも、320mm超高インパルス砲“アグニ”に匹敵する威力を誇る。その事実から、核融合炉の生み出す破壊力は推して知るべしであろう。
ビームがストライクの肩を掠めるのに遅れる事コンマ01秒、ストライクの左膝がガームリオン・カスタムの胴に叩き込まれ、それを同機の左掌が受けていた。
わずかな時の停滞。力の拮抗は刹那の時で破れた。改良型とはいえバッテリー駆動であるストライクに対し、核動力であるガームリオン・カスタムの方が何倍もパワーでは上だ。
左掌底の要領で機体を後方に突き飛ばされたストライクは、空中にある姿勢からバーニアを吹かし、着地は踏み込みと同時であった。
シュベルトゲベールの長大なレーザー刃は青い光の軌跡を描いて、ガームリオン・カスタムの首を左下から薙ぐ。
レーザー刃に裂かれた装甲から溶けた装甲が、あたかも血液の様に赤い雫になって飛び散る。だが赤い飛沫は機体上体を後方に逸らしたガームリオン・カスタムの裂かれた首の部分の装甲だ。
シュベルトゲベールが過ぎ去ると同時に、ガームリオン・カスタムの背に増設されたバーニアが火を噴き、機体頭部に局所的に発生させたEフィールドごとストライクのPS装甲に頭突きを敢行した。
両者を震わせる振動と衝撃、コクピットの中で訓練を受けた兵も昏倒するそれに、超人的な肉体を持つ両者は耐えきり、頭突きの姿勢から超至近距離での殴り合いに発展した。
シュベルトゲベールを既に手放していたストライクは、自機とガームリオン・カスタムの機体に挟まれた右腕はそのままに、左五指を握りガームリオン・カスタムの胴に叩き込む。
互いにPS装甲採用機、衝撃はほとんどそのまま機体に伝わるが、そう来る事を予想していたローレンスは更に機体を前面に押し出し、打撃面をずらして最良のインパクトの瞬間をずらして見せる。
「ぐっ」
「!」
度重なる衝撃に、図らずも両者は距離を置く為に機体を後方に下げた。それでも精々30メートルか。
右手にビームライフルを握り、左手をビームサーベルの柄に伸ばし、シュミットはストライクの中のゼンが見えているかの様に、じっと目の前の敵を見つめていた。
シュベルトゲベールとマイダスメッサーを失ったソード・ストライクは、腰部に収納されたアーマーシュナイダーを両手にそれぞれ握り、PS装甲の継ぎ目を狙うべく集中力と言う名の刃を鋭く、より鋭く研ぎ澄ます。
遠くの戦場で、近くの戦場で、今ここで、多くの死が産まれていた。それが人の定めだと言うように。
ビームライフルの銃口が跳ね上がる。ビームサーベルが光の刃を形成する。
ストライクが駆ける。人体の動きと変わらぬ流麗な動きに、シュミットが反応。ライフルとサーベルの光は地を駆けるストライクへ。
「撃たないのか?」
「命を投げ打って味方を助ける男を撃つ銃を、自分は持っていない」
それはライフルの銃口をストライクに突きつけながらも、トリガーを引かぬシュミットへのゼンの問いかけだった。
ゼンのストライクは、逃げ惑う連合兵の上に降り注ぐ瓦礫の盾となっていた。友軍からはぐれたのか、運悪くゼンとシュミットの繰り広げるMS戦に紛れ込んでしまったのだろう。
ストライクは両手を地面につき、背で瓦礫を受けていた。その間に、ゼンに庇われた連合兵達は逃亡していた。
ライフルを天に向け、シュミットが戦意を引く。それを機体越しにも感じたのか、ストライクを起こしたゼンの体からも闘争の意思は引いている。
「さて、ラウ・ル・クルーゼも後退の指示を出したか。決着は着かなかったが、ここで痛み分けと行かないかね、ゼン中尉?」
「文句を言える立場ではないさ、シュミット一佐」
両手を挙げるストライクに、くるりと踵を返してシュミットのガームリオン・カスタムが飛び立った。背後から一撃が加えられる事など無いと、シュミットは確信していた。そしてそれは、間違いではなかった。
互いに兵士として最高の評価を受けながらも、どこか軍人らしからぬ二人であった。
コクピットの中、敬礼と共にシュミットを見送ったゼンはやがて、友軍を救助する為にストライクを動かした。
その道の途中、コクピットの中にとあるメロディが響いた。ゼンの口笛だ。曲名は『ダニー・ボーイ』。
損傷したルナマリアのジンを庇いながら、イザーク、レイ達と共に後方に下がるシンとステラ。じりじりと下がる自分達に勢いづいたのか、果敢に攻めてくるストライクダガーと戦車の群れに辟易しながら、
シンはまた一機、ストライクダガーを袈裟斬りにし、刀身にこびり付いたオイルを払い落した。
マドラス戦だけでも十機は撃墜している。今やもうどこに出しても恥ずかしくないエースだ。
「イザークさん、迎えの艦まで後どれ位ですか!?」
「後400だ。ちっ、アサルト・シュラウドはもうデッドウェイトか」
ASに装備された火器を全弾撃ち尽くした事に気付き、イザークは装甲をパージして接近していたダガーにライフルを撃ちこみ牽制する。ルナマリアのジンにはレイのジンが傍で護衛についている。
現在、シン達は機体の装備を考慮し、ステラがしんがりを務めている。すでにスクエア・クラスターを撃ち尽くしたステラはスプリットビームを主軸にした戦い方に切り替え、相手を撃破する事よりも、後方に下がる事を優先していた。
「うぇえええい!」
ステラの咆哮に応じるかのように、アーマリオンのテスラ・ドライブは強く低く重く唸り、ロシュセイバーの閃光が二機のストライクダガーの頭部を内部の精密機械の集合体ごと突き刺し、これを無力化する。
だが連合側の猛攻に、アーマリオンの分厚い装甲もあちこちに融解した跡や穴があき、これまでの激戦を物語っている。だが被弾した以上に苛烈な反撃によって、連合側も笑う事も出来無い被害が続出し、一時的に追撃の手が止まった。
手を出さない方が賢い相手だと連合側で判断したのだろう。
シシオウブレードの他に固定武装のマシンキャノンとイーゲルシュテルン、それとバーストレールガンを持ってきたシンも、時折斬撃の合間に牽制を兼ねて銃撃を加えていた。
その内に、カチカチとトリガーを引く音が重なり、予備のカートリッジを叩きこんで、ガチンという心地よい音が聞こえた気がした。
シンはゆっくりと迫りくる津波の様に押し寄せながら、周囲を包囲しつつある連合の大部隊に、苛立ちを募らせていた。このままではいずれ、という思いと不安が徐々にシンの心に降り積もっている。
そんな時だ、イザークの怒鳴り声が聞こえてきたのは。
「ザーフラクが沈んだだと!?」
戻ろうとしていた母艦が、ディンやこちら側の航空戦力を突破した連合の爆撃機によって撃沈されてしまったのだ。あとわずかという所まで来ながらのこの展開に、初陣のルナマリアや、冷静なレイも顔色を青いものにしてしまった。
イザークは、舌うちを零し、すぐさま近くの友軍艦を探しはじめるが……
「くそ、おれ達で最後か!」
ジュール隊を残して、既にほかの潜水艦などは友軍を回収して後退を始めていて、イザーク達は孤立しつつあったのだ。
シンやステラといった突出した戦力に、周囲の連合部隊が集中し、その後掌を返したようにわずかずつちょっかいを出す程度になるまでの間に、他の友軍は撤退を始めていたのだ。
「隊長、このままじゃあ」
ぎり、と音を立ててイザークが歯を軋ませる。ルナマリアの言おうとする事を、彼もまた考えていたからだ。いずれエネルギーが尽き、弾薬が尽き、いや、その前に心が折れてしまうだろうか。
じりじりと周囲を十重二十重に囲む連合の物量に、流石にイザークだけでなくシンやステラも死を意識せざるを得ない。
「シン、ステラ、レイとルナマリアを抱えて可能な限り遠くへ脱出しろ。お前達の機体ならできるだろう。ここはおれが引き受ける」
「ジュール隊長!?」
それは自分を犠牲にしてルナマリア達を生かそうと言う悲壮な決意だ。あまりにも単純明快な、それだけに覆す事は出来ないと分る決意だった。
ルナマリアはすぐさまイザークの言葉に驚きの声を挙げるが、レイはそうしなければ助かる算段は無いと理解したのか押し黙っていた。いや、ここでイザークを犠牲にしても助かるかどうか。
黙って聞いていたステラがぽつりと呟いた。
「だめ、イザーク、死んじゃ駄目」
「ふん、誰が死ぬものか。プラントが勝利するまでおれは死なん。ただ貴様らがいると少々気を遣わねばならんから、さっさと行けと言っているだけだ」
前に出ようとするデュエルを、飛鳥が制した。イザークは沈黙するシンに、幼子に言い聞かせるように静かに語った。
「止めるな。シン、これは隊長であるおれが責任だ」
「格好着けすぎです、イザークさん。それに、助けが来てくれましたよ」
「何?」
「隊長、スペースノア級です!」
「タマハガネか!」
両舷の衝撃砲、対空レーザー機銃、艦首魚雷を全方向に無数に撃ち放ちながら群がる連合の軍勢を切り裂き、玉鋼と名付けられた戦艦が、救いの手を差し伸べるべく姿を見せた。
「全砲門一斉射、地上の友軍を回収せよ。クライ・ウルブズ各機は敵機を近づけるな!」
艦橋で飛ばされるエペソの檄に応じるように、タマハガネから放たれる火線は苛烈さを増し、虚空に無数の火の玉が産まれ、そして堕ちてゆく。
「助かったの? 私達」
「そのようだな」
呆然と呟くルナマリアに、レイがほんの少し安堵を交えて答えた。夫婦漫才じみた二人のやり取りのタイミングだった。
アーマリオンと飛鳥、駆け付けたスティングのガームリオン・カスタムに運ばれてタマハガネに着艦し、無事イザーク達は戦場から生きたまま離れる事が出来た。
格納庫に辿り着き、イザークはヘルメットを脱ぎ、しばしそのままコクピットに座り続け、やがて人知れず息を吐いた。
格納庫には、他にもタマハガネに救われたらしいザフト兵や、傷ついたジン、バクゥなどのMSが置かれていた。衛生兵や看護兵が、コクピットから引きずり出された意識の無い兵達に迅速に処置を施している。
苦痛の呻きと失血による幻覚・幻聴に苦しめられる兵士達の声と彼らの体からこぼれ出る血臭、機体から零れたオイルの匂いが充満していた。
ほんの数時間の戦いで、老人になってしまった様に疲れを感じていた。初めての部下、圧倒的な敵の物量。これまでは自分の事を中心に考え、時折味方の援護をしてやれば済んでいた状況ではもはやない事を改めて認識させられた。
イザークはもう、部下を持つ隊長なのだ。
「アスラン、今ならお前の苦労が分かるぞ。おれ達が部下では、さぞや苦労しただろうな」
今はプラントに戻っているはずの戦友の苦労を想い、イザークは苦笑した。まさかその戦友が、最新鋭機を与えられたまま行方をくらましているとは露とも知らず。
マドラスから撤退し、一路再合流地点を目指すタマハガネのブリッジで、エペソは再びクルーゼとモニター越しに対峙していた。収容したザフト兵の代表と言う事で赤服のイザークも同席している。
「では、我々が回収した貴軍の兵らは、このまま我々が預かれと?」
『単刀直入に言えばそうです。今回の作戦で連合の反攻作戦は大幅に遅れる事でしょう。今回の作戦で稼げた時間で、我々ザフトは後方の兵を宇宙に上げます。そしてオーブ、いえDCにはマスドライバー・カグヤがおありだ。
そちらで一部の兵を宇宙へ上げていただきたい。カーペンタリアの方からもそちらへ輸送艦が向かっている手筈ですので』
「その話は余も総帥より聞かされている。だが、傷ついた汝らの仲間を引き取ろうとは思わぬのか?」
『貴方方DCを信頼すればこそです、エペソ一佐。さてそういう事だ、イザーク。すまないがそちらのザフト兵を纏めておいてくれたまえ。私もじきに宇宙へ上がる。
近くカオシュンからも宇宙へ順次部隊が撤退する。どうやらザラ議長は宇宙で檻を完成させて、地上から上がってくるモグラを叩く事に専念するつもりらしい』
「余を前にしてそのような話をしても良いのか? ラウ・ル・クルーゼ」
『もちろん、貴方方ディバイン・クルセイダーズは大切な我々の隣人であり、戦友ですからね』
(……こ奴、暗い炎を瞳に宿しているな。しかし、宇宙の封鎖を行った所でプラントの望む結果を容易に招くとは思えぬ。何か、決定的なモノを隠している?)
わざと手の内を開いて見せるような、何か危ういものを含むクルーゼの言葉にエペソは脳裏で鳴る警戒の鐘の音を聞いていた。獅子身中の虫、この星の格言が相応しい男だと、エペソは思う。そしてそれを悟らせるような言動、自身の破滅さえも楽しんでいるのだろうか?
だとすればこの上なく厄介な相手だ。
「良かろう。エペソ・ジュデッカ・ゴッツォの名において汝らの仲間は一兵とて欠く事無く送り届けよう」
『それは頼もしいお言葉。では、よろしくお願いいたします』
淡く笑むクルーゼの表情を仮面の様だと思いながら、エペソは通信を終えたモニターをしばし見つめていたが、おもむろに傍らのイザークに向かい、一つの質問をした。
「イザーク・ジュール。貴公はラウ・ル・クルーゼの下で戦っていたと聞く。汝はあの男をどのように思う?」
それまで口を挟むに挟めず黙っていたイザークは、唐突な質問に、狼狽の相を浮かべたが、それをすぐに消してエペソの質問に答えた。
「クルーゼ隊長は……常に沈着冷静で、大局を見る目を持った方です。指揮官としてもMSパイロットしても優秀な、ザフト軍でもっとも優れた軍人の一人でしょう」
「それだけかね? それは彼の評価を聞くだけで余人が抱く印象を代弁しただけではないかな。余は彼を直接知る汝の意見を知りたい」
「……先程言った事に変わりはありません。クルーゼ隊長は優れたザフト軍人です。ただ……」
「ただ?」
「いえ……」
言いよどむイザークの顔に浮かぶ感情を読み取り、エペソはそれに満足したか一度だけ目をつむり、手を振って質問の終わりを伝えた。
「よい、要らぬ質問をしてしまったな。貴公らには士官用の個室を用意しておいた。ゆっくりと休むと良い」
何か言おうとし、自分でも何を口にしようとしたのか分からなくなったイザークは、エペソの配慮に短く礼を述べて艦橋を後にした。
小破したルナマリアのジンや、アサルト・シュラウドを外したイザークのデュエル、レイのジンもメンテナンスベッドに固定され、忙しくメカニック達が自動化された整備機械と共に整備している。
その様子を見届けてから、ルナマリアとレイはパイロットスーツを脱ぎ、自分達を助けてくれたDCのパイロットを探していた。声からして自分達と対して年が変わらないだろうと言う事も、好奇心を突き動かす一因だった。
時々タマハガネのクルーとすれ違いながら、へー、ふーん、と興味深そうに艦内の内装を見て回りながら声を挙げるルナマリアに対して、レイは無感動な調子で後について言っている。年は変わらぬ筈だが、どこか保護者じみた少年である。
しばらく見て回っていた二人の向かう反対側の通路から、DCの基準の制服と違い、やや凝ったデザインの軍服を着た少年少女が姿を見せた。
瞳に掛かる位まで伸ばされた黒髪に血を凝縮したような真紅の瞳の、きかん気の強そうな少年と、純金の輝きをそのまま移した髪にスミレ色のつぶらな瞳に、どこかふわふわとした印象の少女だ。年齢からして、この二人かしら? とルナマリアは二人に声を掛けた。
「ねえ、君。ひょっとして貴方がシン・アスカ? 私ルナマリア・ホークよ。ほら、貴女に助けてもらったジンのパイロット」
「え? ああ、あの時の。良かった怪我とかなかったんですね」
「そんな他人行儀にしなくていいわよ。私達、そんなに年変わらないでしょ? ほら、レイも挨拶しなさいよ」
肘で突かれて、隣のレイも一つ頷いてシンとステラを見つめて口を開いた。
「レイ・ザ・バレルだ。先程の戦闘では助かった」
「ああ、良いよ。当たり前のことをしただけだからさ」
「そうか」
とレイは実に口数が少ない。シンは少し困ったようにルナマリアを見て、シンの視線にルナマリアは肩を竦めただけだった。士官学校自体からの付き合いになるが、レイの子の性格は良くも悪くも変わらなかった。
「ほら、ステラも」
「うん? ……ステラ・ルーシェ」
口数の少なさではこちらも負けてはいなかった。ステラのコレは、人見知りするからだが、慣れれば表情の微妙な変化やボディランゲージでこの少女の感情が豊かな事が分るし、懐かれれば可愛らしい笑みも見せてくれる。
うちのレイと違った意味で個性的ね、ルナマリアはステラをそう評価した。
「改めて、ルナマリア・ホークよ。さっきはありがとうね、ステラ」
差し出されたルナマリアの手に、ステラはきょとんとした顔で、手とルナマリアの笑顔の間で視線をしばらく行ったりきたりしていたが、傍らのシンに、ほらと優しく促されておずおずとルナマリアの手を握った。
「ん」
(……なんだか、子猫みたいね)
きゅっと手を握ってきたステラのおどおどとした態度と、小さく柔らかな手の感触に思わず頬を緩めた。
レイもここら辺の機微が分からない朴念仁では無く、続いてステラと短いが確かに握手をした。意外にも、ステラは冷たい印象がするレイに対して警戒するような素振りは見せず、むしろ何か感じるところがあったのか興味深そうに見つめていた。
「じゃあ、今度はシンね。オノゴロ島まで一緒に行くんだし、仲良くしましょう」
「ああ、よろしくな」
屈託なく笑い手を差し出すルナマリアの手を握って、シンも笑みを浮かべて答えた。
ステラの手とはまた違う温かさと柔らかいルナマリアの手の感触が、ひどく印象的だった。
地上で多くの命がまた失われる戦いが行われた頃、大天使と神器の名を冠する戦艦を旗頭に据えるオーブ艦隊から一機のシャトルと核分裂動力機であるMS――フリーダムが、プラントへ向かい飛び立っていた。
L4宙域にある廃棄コロニー・メンデルで徐々に戦力を整えながら日々を過ごす彼らであったが、宇宙で合流したアスラン・ザラが、プラント最高評議会議長である父パトリック・ザラの元へ向かう事を希望した為だった。
合流する際に、決意を確認されたアスランだったが、今一度、息子である自分が父の考えを確認しなければならないと考え、キラを通じてマリュー達にシャトルの使用許可を得て、プラントに戻る準備はそれで終わりだ。
いや、一つあった。
今、アスランの目の前にはモニター越しではあるが、彼に大きな影響を与えた一人の少女――カガリ・ユラ・アスハがいた。クサナギから降り、キラやアスラン達と行動を別にして一人、
旧オーブ関連の財界人や亡命した国民達の間を駆けずり回り、宇宙にてオーブの再建に奔走する日々を送っている。
普段は化粧っけの無い彼女だが、今は疲れた顔色を隠す為に、やや厚めに化粧をしていた。それでも爛々と意志の光が輝いていそうな瞳は、じっとアスランを見つめている。開口一番、何でプラントに戻るんだ云々で怒りだすと思っていたアスランは、予想外の反応に困惑した。
まっ直ぐすぎるカガリなら、白黒つけるべく糾弾してきそうだなと思っていたのだが?
『で?』
「え?」
『どう言うつもりでプラントに戻るのか、原稿用紙400字以内にまとめて今すぐ提出しろ』
「え、あ、ああ。……父とちゃんと話がしたいんだ。あの人にとっては不肖の息子かもしれないけれど、あの人と血のつながった息子はおれだけだから。だから、おれが父の、パトリック・ザラの真意を聞かなければならないんだ。
父が憎しみに捉われていれば、これからの戦いはもっと悲惨なものになってしまう。それは、それだけは避けなければならない。そんな事をしても、母上は喜ばないと分って貰わければいけないんだ。そしてそれは、おれの役目だと、そう思うから」
『……普段は優柔不断の癖に、こうと決めたら梃子でも動かない所はキラに似ているな。私よりもお前の方がキラと兄弟だと言われた方が納得できるよ』
「あ、いやすまない。カガリも辛い時に……」
困ったように笑いながら言うカガリの言葉に、アスランは今更ながらに彼女の陥った状況に思い至り、自分の至らなさに俯いた。
育った国を追われ、父を囚われ、自分がウズミの実の子ではない事、またキラと双子の姉弟であると告げられ、今は導く者のいない状況で彼女なりに精いっぱい出来る事をやろうとし、その為に無茶も無理も重ねている事だろう。
アスランは、今すぐにカガリの傍にいって何か助けになりたい衝動に襲われた。
自分の中で、モニターを通じて向かいあう少女の存在が、こんなにも大きなものになっている事に気付いて、思わずアスランの胸はわずかに強く動悸した。
まったく、無謀と自分でも思う事をこれからしようと言うのに……。そんな思いに駆られて、肩から余分な力が抜けるのを感じた。
終わり?とりあえず支援
パトリックの眉が、不愉快そうに顰められる。望みどおりに動くはずの自分の息子が、突然、別人に変わり自分の考えというものを口にし始めた事に気付いた親なら、こうするだろう。
「おれ達は、一体いつまで、戦い続けなければならないのですか?」
真剣に、一心に問うアスランに、パトリックはそれまでの不愉快の仮面を剥いで、何か思いにふけるような表情をした。それはアスランがひどく長い間見た事の無い『父親』の顔だったかもしれない。
「なぜ、それを今更問う? アスラン」
「アラスカ、パナマ、ビクトリア、これらの戦場でどれだけの血が流れ、また復讐に身を焦がす者達が新たに生まれ、憎悪の連鎖が続いてゆくのか、それに思い当たったからです。父上、おれ達が追っていたストライクのパイロットは、キラ・ヤマトでした。
覚えていらっしゃいませんか? コペルニクスの幼年学校で私と親しくしていた少年です」
「……たしか、オーブの子だったな。お前が作ったロボット、鳥型のモノを挙げたと言っていたか。キラ君がストライクのパイロットか……。ヘリオポリスか?」
「そうです。おれはあいつの友達を殺しました。ニコルが、キラに殺されたと思ったからです。そして、おれとキラも本気で互いを殺す為に戦いました。……かつての友と本気で殺し合ったのです! 戦争がそれをおれ達にさせました。
顔も名前も知らぬ者たちならば、それはさらに助長されるでしょう。このまま戦火が拡大し続けた先にあるのが両者の破滅でないと、言いきれるのですか!?」
いつの間にか声を荒げて訴えかけるアスランの言葉を聞き、パトリックは一瞬目を閉じた。今彼の息子が心から呈した問いへの答えを、父もまた真摯に提示しなければならない。
「戦争の終わりか。それは我らコーディネイターの独立を勝ち取る日の事だ。ナチュラルを滅ぼす日の事ではない」
「!? では?」
「ふん、私が本気でそれを考えていると思っていた顔だな、アスラン? やはり親子といえど、腹を割って話さねば分かり合えぬものか。私はコーディネイターがナチュラルよりも優れた種族であるという考えを変えるつもりはない。
だが、コーディネイターのみで世界を作れるほど我らが完成しているとも思っていない。
今だ低下する出生率を留める手段は見つけられず、コーディネイターを生みだす母体であるナチュラルなしでは社会を構成する事さえ困難。その現実から目を話すほど私は妄執にとり憑かれてはいない。少しは安心したか、アスラン?」
「……はい」
あからさまに安堵するアスランに、そこまで自分は危うく見えたのだろうかと、パトリックは自己を省みた。少し反省。
「だがな、アスラン。戦争は勝って終わらねば意味がない。負ければかつての屈辱の時代へ逆戻りだ。屈辱を知らずに、自由に生きるコーディネイターの新たな世代達が育つまで、私は闘う事を止めるつもりはない。
だがどんな形でも、どれだけの犠牲を出しても勝てば良いとは言わん。意味のある勝ち方、未来を残せる勝ち方でなければならんのだ」
「……」
自分の考えは杞憂だったかと、アスランは心底安堵していた。少なくとも父に、ナチュラル殲滅の意思が無い事は、今の世界を憂う人間としても、息子としても、嬉しく思えた。
「だがな、アスラン。その為には今は力が必要だ。我らにとって禁忌の力であろうともだ。お前がジャスティスを何所に預け、フリーダムをどうしたのか……。
いずれにせよプラントの未来を担うあれらを、お前の一存で好きにさせるわけには行かん。アスラン、お前の罪が重い事は、分かっているな?」
「はい」
アスランは、静かにパトリックの言葉を受け入れた。少なくともここに来た価値はあった。乗り手のいなくなったジャスティスの次のパイロットを、ディアッカは引き受けてくれるだろうか、そんな風に考えていた。
父の思いが、最悪のものではないとはいえ、ジャスティスやフリーダムの所在について口を割るわけには行かない。きっと、オーブの意志を体現すべく奮闘するカガリ達や、
混沌とした今の世界の未来を憂慮するキラ達は、この世界にとって小さくとも強い希望の灯であるだろうから。
カガリとの約束を、守れないかもしれない事が、アスランにとっては気がかりだった。
パトリックが室外から呼び寄せた兵達に四方を固められて、おそらく司法局あたりの拘置所か、軍の監禁室にでも連れて行かれるのだろう、とアスランは考えていた。ホールへ横切って、出口に向かい連行される。
建物を出た所に移送車が待機しているが、あれに乗れば逃げ出す機会は無くなる。今ここで逃げ出し、キラ達の所に戻るか、それとも大人しくジャスティスをザフトから失わせた罪を負うか。