「マユ・アスカ、
コアスプレンダー行きますッ☆!!」
第八話 マユは文化祭
ねえ、皆。
音楽学校の文化祭はね。
舞台デビューの。
第一歩なんだよ。
大劇場を使って。
日頃の成果を。
家族やファンの皆様に。
お披露目するんだよ。
マユはね。
一般出番があるの。
バレエではね。
「瀕死の白鳥」。
歌はね。
「私だけに」と「私のお気に入り」。
全部ソロなんだよ。
お芝居はね。
梅川よ。
儚げで艶やかな遊女はね。
マユにぴったりよ。
さて、今日は。
通し練習なの。
予科生の前で。
やるんだよ。
あら。
彼処の娘。
こっくりこっくり。
船を漕いでるわ。
ばれないように。
瞼に目を描いてある。
姑息な手段。
それって許せない。
だって。
マユが。
メインなのに。
取り敢えず。
マユは。
とってもご機嫌斜めだわ。
後で呼び出して。
ちゃんと注意をしてあげないとね。
それが思い遣り。
だって。
マユは。
優しいの。
どれ位?
これ位。
単発設定小話 after the story 第九話「飛行」
メッサーラの調整をしているとディアッカさんがコックピットを覗いてきた。私が手を休め、顔を上げると
スケジュール表を差し出していた。私はそれを受け取り目をやると、それには変更されたスケジュールが
表示されていた。私はそれをディアッカさんに尋ねると、ジュピトリス建造の予定に合わせて、木星域の
実地調査のペースをあげるとのことだ。メッサーラのテストも早めに終わらせておきたいとも言った。
「てことだ。なんか思ってたより強行軍になりそうだな」 溜息をつく。
私はスケジュール表の変更箇所を目で追い続け、その一つに目を留めた。
「人口知能のインストール?」 私は目を丸くし、疑問符で呟いた。
「なんだ、アビーから聞いてなかったのか?作業用モビルスーツにDSSDが開発したアプリケーションを
インストールするんだと。まぁ、それ以外のには必要ないみたいだけどな」
「はぁ」 私は生返事をした。
私は人工知能を全部の国の作業用モビルスーツに導入するなんて考えられなかった。DSSDの開発
した人工知能が優秀だというのはスターゲイザー計画の成功と、あらかじめもらっていた資料、サンプル
データなどからみてもそれは認めるところだった。しかし未公開のコードが多く、信用いや信頼といった
方が適当かもしれないが、とても足りうるものではなかった。
「ま、こいつにはそんな得体のしれないものは入れさせないけどな」
ディアッカさんは私の考えを察してか、メッサーラを指差して言った。私はそれに同意し、コックピットを
出ようとした。
「今日は木星大気表層へのグラインディングテストでしたよね。ノーマルスーツに着替えてきます」
「まて。今日は俺が搭乗する」
ディアッカさんは私の腕を掴み、私がコックピットから出て行くのを制止させた。私は驚き、ディアッカさん
の顔をまじまじと見て眉をひそめた。
民間人である私には本来であれば新型モビルスーツのテストパイロットなどできなかった。しかし、開発
目的の主担当員であったのと事前のモビルスーツ適性検査をクリアし、特例で制限つきではあるものの
パイロット資格を取得していた。制限といっても、メッサーラ搭乗時の行動範囲がザフトのパイロットよりも
少し狭かったり、1日の搭乗時間が決められていたりするぐらいで、テスト内容そのものには別段の制限
はなかった。そして、今日はまだその搭乗時間の制限には引っ掛かってはいなかった。
「グラインディングテストは今日が初めてだからな」
「え、いやでも」 口ごもる。
「最初のテストを民間人にやらせるわけにはいかないだろ。マユはオペレーターを頼む」
「そんなこと今まで言わなかったじゃん」
私は明らかにいつもとは様子の違うディアッカさんに文句を言った。するとあっさりと理由を教えてくれた。
「さっきアビーにお願いされたんだよ。だからな」
私は思わず「はっ?」と聞き返した。
「だから、マユにあまりモビルスーツで船外活動させるなってさ」
「そう」
「・・・・・・オペレーターでしかわからないこともあるかもしれないし、な。今日は我慢してくれ」
私は黙って頷きメッサーラから降り、オペレータールームへ移動した。ヘッドセットを装着し、ディスプレイ
や各センサーを立ち上げた。複数あるディスプレイのうちのひとつにメッサーラのコックピットの映像が映し
出されている。ディアッカさんはそのままメッサーラへ乗り込み、船外排出区画へと移動していた。
「おう、いつでもいけるぜ」
私が許可シグナルを点滅させると、メッサーラは漆黒の宇宙に浮かぶ木星に向けて飛び立っていった。
続
単発設定小話 after the story 第十話「重力」
船外カメラが飛行するメッサーラを追いかけていた。映し出されているメッサーラの姿はすぐに小さく
なっていった。カメラの追跡がメッサーラのスピードに追いついていないためだ。カメラが切り替わり、
再びディスプレイには、メッサーラのバーニアが噴かしている光が大きく映りだされた。
「こちらメッサーラだ。異常は特に見当たらない。予定通り行う」 淡々と決められた手順を追うディアッカ。
「こちらからも特に異常ありません。予定通りお願いします」
「了解」
メッサーラは予定通りのコースを取り、木星大気表層を細かな光りを飛び散らかせながら滑らかに
滑降していく。
メッサーラが木星大気表層圏でも、高重力に負けることなく地球圏とまったく劣らずの運動性を確認
できた。これなら私の計画も順調に行くだろうと、私は抽出データを手にし、メッサーラが映す木星大気
表層の赤茶色い映像を眺めていた。
しばらくして、ヘッドセットからはディアッカさんが困惑した声が聞こえてきた。
「ん、モビルスーツの反応だと」
ディアッカさんが声を上げると同時にオペレーションブースでも反応は確認できた。そしてディスプレイ
には、メッサーラのカメラが捉えた円盤を背につけたモビルスーツが映し出された。
「ムラサメ・・・か。ちゃぶ台背負ってるみたいだな。マユ、あのモビルスーツはなんだ」
「わかりません。ディアッカさん、そのモビルスーツを拡大して映せませんか」
「んっと、どうだ」 カメラの絞りを調整する。
「ありがとうございます。キャプチャして解析に回します」
ムラサメだと思われるモビルスーツが背負っている円盤の淵には、無数の赤い受光器のようなものが
一定の間隔で取り付けられていた。
何かしらのレーダーだと思われる円盤を背負ったムラサメは、木星の重力に引かれることなく静止状態
を保ったまま木星の大気表層を滑りながら離れていく。メッサーラのカメラは流れていくムラサメを追いかけ
ているそのとき、カメラの直ぐ前にムラサメとは別のモビルスーツが映りこんできた。
「なっ、いつの間にっ」
ヘッドセットからのディアッカさんの驚いた声は鼓膜をつんざき、私は思わず目を閉じた。一寸後、目を
開けると、ディスプレイにはバックアップには木星仕様らしく大型のバックパックを背負った灰色のモビル
スーツが映っていた。バックアップは違うものの私は映し出されたモビルスーツを見て唾を飲み込んだ。
私の頭の中ではマリアから渡された設計図と、記憶に残っていた兄が乗っていたアストレイがフラッシュ
バックする。
「そんな、まさか」
私は椅子から腰を浮かせ、前のめりにディスプレイを凝視した。
「灰色の、アストレイ」
灰色のアストレイは様子を伺うようにメッサーラをくるりと回り、円盤を背負ったムラサメを追いかけた。
私はアストレイもキャプチャし解析にまわした。
兎に角、ムラサメとアストレイについては別途調査をすることとしてディアッカさんに帰還の合図を送り
メッサーラが帰ってくるのを、私は椅子に浅く腰掛け姿勢をただし、ムラサメとアストレイの写真を表示させ
たディスプレイを眺めて待つことにした。
続
単発氏乙カレー
wktkが止まらない。
単発設定小話 after the story 第十一話「写真」
メッサーラが戻ってくる間にも、木星大気表層上のムラサメとアストレイの解析は続いていた。膨大な
データベースからコンピュータがいくつかの回答を導き出してくる。どうやら円盤を背負ったムラサメの
方は機体そのものはオーブのムラサメそのものであるらしかった。しかし、私は1件だけ突飛な回答を
見つけた。それは、おおよそムラサメとは結びつかなかったが私は納得のいく回答だと思った。
「デストロイって、こっちは、まぁ・・・。えっと、アストレイは・・・・・」
アストレイの回答はムラサメよりもずっと多かった。それはある意味でアストレイの優秀さを証明する
ものだが、暗にオーブの理念を否定しているようにも見受けられる。私はオーブらしい皮肉だと思いつつ
回答を整理していく。しかし、その多さにうんざりしディスプレイに突っ伏してしまった。
「なにこれ、全部同じに見えてくるわね。もうちょっと絞り込まないと」
私が客観的な特徴と主観的な特徴とで絞込みをかけると四つにまで数が減った。しかし、それらには
ザフトのアクセス制限がかけられており、私には閲覧することができなかった。
私にはアクセス権限が与えられていなかったため、権限をもつディアッカさんが帰ってくるのを待つこ
とにした。
メッサーラが帰還し、ディアッカさんは直ぐにオペレーションルームへ顔を見せた。
「何かわかったか」 椅子の背もたれに腕を置き、ディスプレイを覗き込む。
「ムラサメの方は面白い答えが来ましたよ」
「ん、これ本当か。大きさ全然違うじゃねぇか」 眉を寄せ、唇を尖らせる。
「シルエットだけで選ばれたみたいですよ」
私がそう感想の言うと、ディアッカさんはデストロイの詳細データを自分の端末にダウンロードした。
「で、アストレイの方はどうだ」
私は先ほど絞込みをかけた四つの候補をディスプレイに表示させた。そのうちの一つを選択すると
身分認証確認のメッセージが流れ、ディアッカさんは認証コードを打ち込みデータベースへアクセスした。
「機密扱いだからどんなのかと思ったが」
赤いフレームと青いフレームのアストレイがまず表示された。どちらも妙に装甲を改造されており、元の
形を保っている部分の方が少ないぐらいだった。
「なんだ、ジャンク屋と傭兵部隊のやつかよ。・・・これじゃないよなぁ」 マユのほうに顔を向ける。
「うん、私もこれじゃないと思う」
三つ目のデータを開く。表示されたのは、背中に鉤爪のような妙に大きなものを背負った、黒に金色
の差し色の入ったアストレイだった。さっきの二つよりも原型を留めていなかった。
「・・・・・・これはっと・・・アメノミハシラのあいつか。これじゃねぇな」
「そう、ですね」
私は四つのうち三つまでが木星大気表層上に現れたアストレイではないことを確信した。残る一つの
アストレイが何であるかは私は想像できたが、私はそれを否定したくてたまらなかった。
「じゃ、最後な」 ディスプレイに最後の一つを表示させる。
私の想像は的中した。先の三つのアストレイよりも原型をより濃く残し、背中にはドラグーンの端末を
核のするバックパックをつけていた。彼が使っていたものはザフトに回収され、解析が進められた。その
際にそのモビルスーツ固有の名前の登録情報が判明していた。
「アプレンティス」 唇だけ動かし呟く。
「・・・・・・これ、だな。しかし、マユ」
「うん、わかってる。けど彼が乗っているとは限らないでしょ」
私はディスプレイをじっと見つめた。
続
第九話 マユは芸名を考える
ねえ、皆。
マユはそろそろ音楽学校を卒業するんだよ。
卒業したら歌劇団に入団するの。
その前に芸名を考えなきゃなんだ。
候補はね。
「坂本 まあゆ」
恩師に付けて貰ったの。
高額な礼金。
出費は痛いけど。
出世の為には仕方ないの。
友達にはね。
親子代々の名前をね。
名乗る娘もいるわ。
そうそう。
ジェンヌにはね。
すみれコードって物があるの。
ジェンヌは虹を織る妖精よ。
本名や実年齢。
清く正しく美しくない言葉。
そういうのは全部。
すみれコードに引っ掛かるの。
覚えておいてね。
あっ、いけない。
そろそろ最終試験が始まるわ。
首席で卒業の為に頑張らないと。
目指すのは初舞台で抜擢される事。
一番の目標はエトワール。
初舞台でエトワールを務めたのはね。
長い歴史でただ一人。
その人はね。
在団中に朝の連続テレビ小説のヒロインしたりと。
大活躍だったわ。
憧れね。
マユも歴史に残る娘役になりたいわ。
類稀に見る美貌。
歌にダンスにお芝居の三拍子揃った実力。
圧倒的な華。
歴史に残るのは必然ね。
だってマユだもん。
マユ程ピンクが似合う娘役はいないわ。
だからね。
マユのあだ名は。
パー子。
9 :
通常の名無しさんの3倍:2007/06/27(水) 00:18:50 ID:R0vRucvu
廃れ杉
単発設定小話 after the story 第十二話「感情」
「しかし、どこのモビルスーツだったんだ」
ディアッカさんはディスプレイに映っている灰色のアストレイを腕組みし、眺めて私に尋ねた。灰色の
アストレイと見慣れないムラサメがどこの所属であるのかは私にはわかっていた。DSSDに間違いない。
確信はゆるぎのないものだったが、あちらの目的はおそらく私のはずであった。私はあまり面倒なこと
にはしたくないと自分勝手に思い込み、DSSDになぜか所属し、おそらくブルーコスモスの残党であろう
と思われる、マリア・マグダレアのことは伏せたままにした。
ディアッカさんは少しの間だけ黙り込んでいた私の顔を覗き込み「お前、本当に大丈夫か」と疑心の
表情で尋ねてきた。私は顔を上げ、目に被さるように垂れていた前髪を払い「大丈夫だって」と強がって
答えた。本当は動揺し、瞳の焦点も定まらない様子だった。
「もうちょっと時間かけて調査しましょう。プロジェクトに関係するモビルスーツであれば、遅かれ早かれ
お目にかかれるのではないでしょうか」
「そうだな。今日のレポートは後で提出しておいてくれ。俺は他の連中の様子を見てからあがるわ」
「了解」
ディアッカさんは椅子から立ち上がり私に軽く敬礼した。私はなんのけなしに立ち上がり敬礼をした。
それが反射的にしていたことも私は気づいていなかった。
「っくく、マユ。お前はもうザフトの兵士じゃないんだから敬礼は不要だぜ」
「あ・・・・・・つい」
私はハッとし、右手をすぐに下ろした。ディアッカさんは苦笑いし、オペレーションルームから出て行った。
「私、やっぱり動揺してるんだなぁ」 溜め息をつく。
私はメッサーラの飛行レポートを早々にまとめあげ、円盤を背負ったムラサメと灰色のアストレイのこと
を日誌の特記事項へ記入してからオペレーションルームを後にした。デッキでは作業用モビルスーツの
人工知能のインストールとセットアップがまだ続いているようだった。スタッフが一箇所に集まりなにごと
か討論しているようだ。そのまま通り過ぎ自室に帰ろうとも思ったが、時折聞こえてくるDSSDの単語に私は
反応して、つい身体がそちらへ向かってしまい何の話をしているのか聞かずにいられなかった。
幸いにも一番外側にヴィーノ兄ちゃんがいたので私は背中越しに問いかけた。
「ね、どうしたの」
「あぁ、マユ。もうメッサーラの試験は終わったのか」
ヴィーノ兄ちゃんは私の方に顔を向け聞き返してきたので「まぁね」と簡潔に私は答えた。そして再度
何の話をしているのか尋ねた。
「DSSDが配布したAIがこっちのOSと相性がいまいちよくないみたいでさ、修正プログラムを作ってるん
だけど、中々うまくいってないのさ」
「へぇ・・・ちょっとみていい」 人だかりを書き分けディスプレイの前に出る。
私はディスプレイに映し出されているコマンドを読み、思わずキーボードを奪い取りコマンドを打ち直し
ていった。DSSDが作ったという人工知能のプログラムはかつて私が使ったあるシステムと酷似していた
ため、私はそれを読み解き、修正のコマンドも即座に作成できてしまった。
「これでいいと思う。テストしてみて」
私が修正したAIとザフトのOSは問題なくマッチングした。その様子をみてスタッフ全員が感嘆のため息
をついた。私はスタッフに囲まれる前にすぐにデッキを出て行った。
「エモーショナルシステムまで引っ張りだしてくるなんて・・・・・・」
私はまた、声にはださず、口の中で呟いた。
続
第十話 マユは初舞台
ねえ、皆。
マユはいよいよ初舞台だよ。
ラインダンスは勿論センターをキープ。
当然だけどね。
だってマユが一番足が上がるんだもの。
お衣装は純白のレオタードよ。
清らかなマユにぴったりね。
それはそうとマユは抜擢されたんだよ。
エトワールじゃなくてダンスのソロ。
舞台の上でマユだけが踊るの。
ピルエット。
ダブルピルエット。
シャッセ。
薄紅のチュチュにトウシューズ。
舞台の上で愛らしさを振り撒くわ。
先輩からの視線がちょっぴり痛いかも。
でもね、仕方ないんだ。
マユより踊れる人がいないんだもん。
そういえば。
この間ね。
トウシューズに画鋲が沢山入っていたの。
きっと誰かが画鋲の箱を落としたのね。
そう思わなきゃやってられないわ。
嫉妬って嫌よねえ。
まあ、舞台の幕が上がったらマユの勝ちね。
だって。
そうすれば身の程をわきまえるでしょ。
だから。
マユはね。
倍返し。
単発設定小話 after the story 第十三話「誘惑」
自室に戻り、私は明かりもつけずに、すぐにソファに浅く腰をかけ両手で顔を覆ってへたりこんでしまっ
た。あの場所にあのモビルスーツがいたのは偶然か必然か、そんなのじゃない。そんなことはわかって
た。そう思いたくて、思わずにはいられなくて、でもやっぱりそれは現実を放棄したことからの逃避でしか
なかった。
「・・・ったく、陰謀よ。あんなの」 顔を覆っていた両手を下ろす。
私はゆっくりとソファから立ち上がり、壁際の間接照明だけを点灯させた。間接照明は壁を淡く浮き上が
らせ、部屋全体を柔らかく包んだ。ソファに、今度は深く越しをおろし、テーブルに目をやるとコンピュータ
にメールが届いていることを知らせる青いランプが薄暗い部屋の中であざやかに点滅していた。ディスプ
レイに触れ、メールウィンドウを表示させた。メールは二通。ともに差出人はマリアだ。
私は先に届いたメールを開き、ディスプレイに自分の息が跳ね返ってくるのが感じられるぐらいに顔を
近づけて読んだ。文面は極短く「図面をお送りいたします」それだけだった。私がそれに従い添付ファイル
を開くと、ディスプレイにはアストレイの図面が映し出された。私はマリアからもらった図面を取り出しディ
スプレイの前に広げた。それはやはり、灰色のアストレイ、固有名アプレンティス。彼が乗っていたモビル
スーツだった。
「やっぱり、あなたから直接聞いた方がよさそうね」 いつの間にか、私は親指の爪を噛んでいた。
また、それにはモビルスーツの仕様だけでなく、入手経緯、開発計画、専任パイロットのことも記載され
ていた。それによると機体そのものはやはりロゴス経由で、オーブから連合へ流れていったものらしい。
そして、それはブルーコスモス庇護下の球連合軍第81独立機動群「ファントムペイン」へとわたり開発が
進められた。当初はナチュラル用にと開発が進められていたようで、OSはナチュラル用のものが記載さ
れていた。コーディネイター排斥主義者の集まりであるブルーコスモスだから当然だろう。
「・・・・・・でも、ならなんで彼が乗っていたの?すぐにコーディネイターだってわかったはず」
なぜブルーコスモスはコーディネイターであるシン・アスカを殺さずに、ましてモビルスーツのパイロット
として生かし続けていたか。記憶喪失と何か関係があるのか、それともナチュラルよりも劣る身体能力に
同情したのか。コーディネイターの失敗作だから同情したのであれば、私はなんだか彼がかわいそうで
やりきれない思いだったが、すぐに考えを改めた。運良くなにも欠けることなく、生き残ってしまっている
私に、そんな傲慢なことなど考えていいわけもないと思ったからだ。彼が背負わされた運命に比べれば
私の背負ったものなど、大きな見た目に比べ、その実、綿で嵩増しされたちっとも重たくない袋を担いで
いただけだ。人に背負わされたのでない自分の意思で背負ったものだから、たとえそれが重くとも自業
自得でしかない。結局、私は何もできなかったのだ。
私は一通目のメールを閉じ、二通目のメールは開いた。一通目のメールよりはちゃんとした文章が書か
れていた。
「To マユ・グラディス
私どもDSSDのモビルスーツの検討の方、なにとぞ宜しくお願い申し上げます。
不明な箇所、ご質問等あれば遠慮なくお問い合わせください。
From マリア・マグダリア」
私はすぐに返信した。明日の夜、セントラルステーションで会いたい、と。
続
第1話で、ステラって何か落としそうなものもってたっけか?
単発氏GJ。
つーか前スレ落ちてたのね('A`)
単発氏乙です
「アプレンティス」気になりますね
>>13 アスランが見かけたときに扇子のようなものを持ってた気がします
単発設定小話 after the story 第十四話「亡霊」
ディアッカはスタッフから提出された多種の報告書に目を通し、ひとつひとつをポータブル端末をペン
でタッチしながら承認作業をしていた。報告書とはいっても、ほとんどのものは文章ではなく項目別に
された確認表であるために読み解く必要があるのは2、3件だけだった。一通り目を通すと椅子を反転
させコーヒーを汲むために立ち上がった。
「メッサーラの調子はどうでしたか」 扉に背を預けたアビーが立っている。
「ああ。たぶん、木星大気上ならどのモビルスーツよりも早く動けるぜ。・・・たいしたもんだよ」
「それはモビルスーツのこと。それとも、マユのことかしら」
ディアッカはコーヒーを満たしたカップに口をつけ息をついた。その間にアビーはディアッカが先ほど
まで眺めていた端末を手にし、傍にある椅子に座り足組みした。ディアッカはカップをもう一つ取り出し
コーヒーを満たしアビーに手渡した後、元の椅子に座って。
「どっちもだよ。けど、やっぱりマユのことかな。初めての設計であそこまでのものを作るとはね」
「できる人は何をしてもできちゃうから羨ましいわね。私なんか、一つのことで精一杯だもの。それでも
上手くできないことばかりだし」 端末の角を人差し指で支え、くるくると回し始める。
「うん、まぁ、そのへんにしとけって。愚痴を言いにきたわけじゃないんだろ」
アビーは端末を机に置き、背もたれに体重を預け天井に見上げる。
「不審なモビルスーツが現れたみたいですから。マユのことも含めて、相談したいんです」
「・・・・・・プロジェクトスタッフとしてか、それとも」 中身が半分ほどになったカップをテーブルに置く。
「それとも、の方です」
アビーが立ち上がると、ディアッカも一緒に立ち上がり姿勢を正し、互いに正面に向き合った。
「警戒を発令します。リーズドラインを立ち上げ、コンシールレーダーの設置を命じます」
「了解」
ディアッカはアビーに敬礼し、また、アビーもディアッカに返礼した。
「とはいえ、明日でいいですから」
「なんだ、今すぐじゃなくていいのかよ」
ディアッカが少しひねた声でアビーに文句をいうと、短く「ええ」とアビーは返事を返した。そしてお互い
に椅子に座りなおし、アビーは先ほど渡されたカップに口をつけた。カップから口を離し、アビーは少し
考え込む様子をみせディアッカに顔を向ける。
「マユが明日の夜、その不審なモビルスーツの所有者と思われる人物と接触します。その前に事が起
こる とは考えてません」
「・・・そうか。なぁ、あれを出す事態にまで発展するかな」 アビーの目をまっすぐ見つけ問う。
「マユじゃなきゃ駄目なんですか」
「システムを乗せかえれば誰でもいいさ。でも、全て出し切るにはあのままじゃないと駄目なのさ」
「乗ってくれますかね」
「さぁ」
「さぁ、って」
「乗らないですむならそれに越したことはないじゃないか。そのための警戒宣言だろ」
ディアッカはカップを手に持ち椅子から立ち上がって部屋を出た。
一人部屋に残されたアビーは近くのディスプレイに自分のIDを打ち込み、マユに届いたメールを表示
させた。
「あなたに乗っているのはマユのお兄さんなの。それとも、亡霊かしら」
続
C.E.71…………
宇宙往還の設備、マスドライバーを、新たに、かつ早急に確保する必要性に迫られた地球
連合は、その為に既存の施設を持つ海洋国家オーブに侵攻した。
この突然の連合軍侵攻に対し、オーブの動きは緩慢だった。
『他国に攻め込まず、他国に攻め込ませず、他国の侵略に介入せず』のオーブの理念は、
なんら生かされていなかった。中立国を詠うならば精強でなければならないはずの軍は、実
戦に際して混乱しており、情報系統は錯綜し、本来の存在意義である“オーブの国土、および
オーブ国民の生命と財産の保護”にはなんら寄与していない、場当たり的な戦闘を起こしてい
るだけだった。否、それでもまだ、連合軍部隊に立ち向かっている部隊はマシな方だったので
ある。
連合軍の侵略対象は、主にマスドライバー施設のあるカグヤ島だったが、軍需工場の集ま
るオノゴロ島にも攻撃は及んだ。
スラスターによる跳躍で次々とカグヤ島に乗り入れるストライクダガー、それを阻止しようと
激しく射撃するM1アストレイ。艦砲射撃を受けるオノゴロ島。その両島では、戦場と化した真
っ只中を、まだ避難民の脱出が、しかも装甲も持たない徴用民間船で行われていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
その一家、4人家族も、火事場から焼け出されるように、避難船のいる港湾へと向かって走
っていた。
「マユ、しっかり!」
「う、うん」
母親に手を繋がれ、少女は脚をもつれさせかけながら走った。
反対側の手には、ピンク色の、手のひらサイズの物体。
それが、脚にあわせて振られていた手から、ポロッと零れ落ちた。
「あっ、マユの携帯!」
ピンク色の携帯電話は、少し離れた、斜面の木の根元に引っかかって止まった。
とたんに、少女は脚を止めてしまい、その方向を振り返る。
「そんなのいいから! 早く来なさい!」
「でもぉ! マユの大切な携帯なの!」
無理やり引っ張ろうとする母親、その手を振り解こうとする少女。すると、一緒に連れ合って
いた少年、少女の兄が、2人を掻き分けるようにして飛び出した。
「俺が取ってくる」
「シン!」
少年は身軽に斜面の木の根までたどり着くと、引っかかっていた携帯電話を拾い、斜面を跳
ね返るように登った。
「ほら、マユ」
手を伸ばし、携帯電話を差し出す少年。受け取ろうと手を伸ばす少女。その間の光景に、青
と白の目立つ色に包まれたそれは、割り込んできた。
次の刹那────
少女の視界を光が、全身を熱と衝撃が包んだ。
「う、うう……うう……っ」
頭がぼうっとする、記憶が少し飛んだような感覚を受ける、右腕が熱い。頭が、痛い。
顔を上げる。まず飛び込んできたのは、ピンク色の携帯電話。それを握っている手。
────あれ、でもどうしてあの手はあそこにあるんだろう?
あやふやな思考でそんなことを考える。だが、それに続く光景を見たとき、意識に衝撃が走
った。
一緒にその携帯電話を握るようにして、そのまま斃れている────少年。
混乱しつつ辺りを見回すように振り返る。
さらに視界に飛び込んでくる、変わり果てた姿の父母。
「う……あ……ぁぁっ……」
脳細胞を、神経のシナプスを焼け爛れさせるかのような激情が、奔流となって全身を駆け巡
る。
「おい、まだ生存者がいるぞー!」
「大丈夫か……って、うっ……」
駆けつけた、オーブ軍制服の男たちが駆け寄ってくる。そして、その異様な光景に思わず一
瞬、立ちすくんだ。
まだ幼い少女が、右腕を千切られている。
にもかかわらず、少女は泣き叫ぶどころか、仁王立ちになり、その姿に似合わない、しかし
強い気迫を感じさせる雄叫びを上げていた。
「うあぁぁぁぁっ……ああああぁぁぁっ!!!!」
────マユ・アスカ。11歳。
父母、そして兄を失った彼女は、その歳、姿からは信じられない程の、激しい怒りの炎を、か
すかに紫がかった瞳にたたえていた。
機動戦士ガンダムSEED DESTINY “M”
PHASE-00 怒れる瞳
>>18-19 王道なマユシン入れ替えを想定してちょっと験し書きしてみました。
いかがでしょう? と、言ってもコレだけじゃあれかな……
単発氏乙です
いろいろ心配事が溜まってきましたね
Prologue氏乙です
確かに王道入れ替えですね
そういえば今まで、いろんなところでヒネりを入れているのが多くて
ここまで本編基準のってあまりなかったような気がします
そこが逆に先が楽しみです
頑張って下さい
保守
単発設定小話 after the story 第十五話「贈物」
マリアからの返信メールはすぐに私のもとへ届けられた。
「To マユ・グラディス
返信ありがとうございます。
明日の21時にセントラルステーションのラウンジでお待ち申し上げております。
宜しくお願い致します。
先日お渡しさせていただいたディスクを是非ご覧いただきたいと思いまして、まことに勝手ながら
リーダーをお送りさせていただきましたので宜しくご査収願います。
明日来られる前までにご覧いただけると幸いです。
From マリア・マグダリア」
メールを読み終わると同時にインターホンが鳴った。私がおもむろにソファから立ち上がり扉の前
まで行き扉をスライドさせると、そこに人影はなかったが床に白い化粧箱が置かれていた。私は化粧箱
を取り上げるよりも先に廊下に半身をだし、化粧箱を置いていったに違いない人影を探した。廊下の角
を曲がろうとする影に気づき、私はその影を追いかけた。廊下の角まで来ると、ずっと前方にどんどん
小さくなっていく背中を見つけた。
「・・・・・・子供?」
私は走って追いかけたがどんどん離され、ついにその背中を見失ってしまった。同年代の娘と比べて
少し小柄な私よりもその背中はずっと小さく華奢で、走り方はどことなく子供っぽかった。こんなところへ
子連れで来ているスタッフなどいるわけもないのだが、私にはその後ろ姿と走り方は5歳前後少なくとも
10歳以下の子供にしか見えなかった。
私は自分の部屋の扉まで戻り、廊下に置かれたままの化粧箱を手に取り中身を取り出した。やはり
箱の中身は外付けタイプのディスクリーダーだった。こんなものを送りつけてまで私にシン・アスカの
ことを思い出させたいのかと若干の苛立たしさを感じたが、ディスクの中身を覗いてみたいという気持ち
が私の中にあるのもまた、否定できない事実でもあった。リーダーを手にしたまま部屋の中へ戻った。
ソファに深く腰をかけ全体重を預けた。
リーダーを使って今すぐディスクを見るべきか、それともこのまま寝てしまい明日にするか、しばらく
悩んでいた。今見てしまうと眠れずに明日の朝を迎えてしまうだろう。であるのなら明日見るべきだ。
それもマリアに会いに行く直前に見るべきではないかと私は思った。そうすれば明日の勤務にはさほど
影響がでることもなく、誰かに迷惑をかけることもなく、無事に終えることができるだろうと思ったからだ。
私はその決定に従うこととし、シャワーを浴びてすぐに眠ることにした。
マユのメールを覗き見ていたアビーにも、マユ宛の新しいメールをアビーもほぼ同時に読んでいた。
アビーはディスプレイに船内カメラの映像を呼び出し、マユの部屋の前を映し出させた。部屋の前には
顔は確認できなかったが、手に小ぶりの箱を持った子供と思われる人影が映っていた。
「子供?・・・・・・子連れで来ているプロジェクトスタッフなんて名簿にいなかったわよね」
アビーは右手の親指と人差し指であごを支え、自分の記憶を探っていた。そして顔をあげ、ディアッカ
を内線電話で呼び出した。
「あ、ディアッカさん?サズデイズ船内だけでもリーズドラインの立ち上げとコンシールレーダーの設置
を今すぐお願いします」
「・・・・・・何があった?」 声のトーンを低くしディアッカはアビーに尋ねた。
「詳しいことは後で。とにかく私も手伝いますから、今すぐお願いします」
アビーは椅子から立ち上がり早足で部屋から出て行った。
続
実録さんのSSが読みたいよう
単発氏乙です。
単発設定小話 after the story 第十六話「回線」
デッキから退出したアビーは直ぐにディアッカと合流した。
「部下連中はレーダーの設置に向かわせた。船内だけなら20分もありゃ終わるだろ」
「お休みのところすいません」 アビーはディアッカに目で一瞥した。
「で、何があったんだ」
アビーはディアッカに先程までコンピューターで見た、マユに件の人物から新しいメールが届き、そして
荷物が不審な子供から届けられたことの一部始終を話した。
「・・・ってゆーかお前、人のメールを盗み見してたの?」 眉間にしわを寄せる。
「や、やりたくてやってるわけじゃないですよっ!」
言い合いをしているうちに目的の部屋へついた二人は部屋の前で足を止めた。
「ここって、お前の部屋だよな、アビー」
「ええ、三分の一と浴室だけはですが」
そういってアビーが扉を開けると、部屋の中央には大小問わず様々色を発光するインジゲーターを
持つ機械が積まれたラックがそびえ立っていた。
「これは、女の部屋じゃないねぇ」
ディアッカがぼそっと感想を漏らすとアビーは否定することなく頷き同意した。ラックの正面に立ち、
アビーは古めかしいメカニカルタッチのキーボードを引っ張り出しカタカタとコマンドを打ち込み始めた。
「ディアッカさん、認証コードの入力をお願いします」 キーボードの正面をディアッカにゆずるアビー。
「なんとも懐古主義な設備だな。これ本当に大丈夫かよ」
「機能は問題ありませんよ。見た目と通信規格が二回り以上も昔なものなだけで中身はほとんど最新
設備となんらかわりません」
アビーがそういうとディアッカは恐る恐るキーを叩き認証コードを入力した。直後、ラックに積まれてい
た機械が一旦ダウンしたかと思うと再起動を始め、ディスプレイにはカメラの映像や宇宙図などが映し
だされた。
「さて、これでOKですね」
「なぁ現れたのは本当に子供なんだよな」
「顔を見たわけじゃありませんが、背格好からみて子供だと私には見えましたよ」
「で、子連れのスタッフはいないんだよな」
「なんですか・・・知り合いですか。その子供と」
「いや。なんというか、その・・・」
アビーは口ごもるディアッカに苛々し、口調が厳しくなった。
「はっきり言ってください!そんなのだからナチュラルの彼女に振られんですよ!」
「そ、それは関係ないだろ!・・・とにかく、俺が言いたいのはさっき子供に尋ねられてシャトル乗り場
を案内してやったってことだよ!」 アビーに大きな声で言い返す。
アビーは言葉をなくし、ディアッカを焦点の定まらない目で見つめた。
「な、なんだよ。その子供がお前の言った子供とは限らないだろ」 アビーから顔をそらす。
「こ、この馬鹿っ!ったく、うっかりで残念なんだから」
アビーはディスプレイにシャトル乗り場の映像を映したが、子供の姿は見当たらず舌打ちをした。そして
あわてて部屋を飛び出てシャトル乗り場へ向かい走っていった。
「馬鹿ってこたぁないだろうよ!知ってりゃ止めてるに決まってんだろ。おい、アビー!」
ディアッカはアビーを追いかけて部屋を出た。部屋をでると同時に廊下の証明が一斉に常夜灯に切り
かわった。アビーとディアッカは薄暗くなった廊下を全速力で走っていた。アビーはディアッカに追いつか
れる前にシャトル乗り場に到着した。
続
単発氏、乙であります。
ちょいと単発氏とは関係ない質問なんですが、VPS装甲って設定で色変えられるんですよね?
そうだよ。
インパとかは変形でほぼ自動的に変わるみたいに見えるけど。
テスタメントガンダムは一応VPS装甲
機体の色が灰色(=ディアクティブモード)から白、白から赤に変わる
テスタメントの存在がVPS装甲の設定を無意味なものに……
てゆーか、PS装甲自体が硬さの設定をどうにでもできるっぽい……
ストライクルージュがキラが乗るときに設定を変えただけでノーマルストライクカラーになってたり、だな。
そもそもストライクルージュがバッテリー改良しただけで色が変わってしまったというオチ
設定屋は何をやってたんだ?
TP装甲の設定も彩色ミスのフォローとしても後付け設定だって話だし……
その証拠に死種にTP装甲採用のMSが登場しない。
フォビドゥンヴォーテクス?
あれこそ後付け設定でry
Oct.2.CE73
プラント、アーモリー1
ZAFT軍施設の中枢であるこのコロニーは、現在、喧騒に包まれていた。
旧式化しつつある、かつてのZAFTの主力MS、ジンが、並べられ、装飾されていた。
「うぉっと」
1台の軍用オフローダー。歩行してきたジンに接触しかけて、急ハンドルでかわす。
「きゃっ」
助手席の人物が、高い悲鳴を上げた。
「ん、もう、安全確認義務違反、営倉24時間だぞ!」
振り返りながら、指をさし、聞こえるはずもないのに、おどけて言う。
「あっはは、厳しいなぁ」
運転しながら苦笑する彼は、まだ少年と言っていい容貌。しかし、プラントでは、彼の年恰好
程度の年齢に達すれば、成人の仲間入りだった。
一方の助手席の少女は、さらに年下、まだ幼いと言って良かった。
「まぁ、しょうがないよ、これだけの大騒ぎ、久しぶり、初めてのやつだって多いんだから」
少年、ヴィーノ・デュプレが陽気に言うが、少女の方は、少し寂しそうに微笑んだ。
「ヴィーノお兄ちゃん達ともしばらくお別れかぁ、寂しくなるね」
「配備は月軌道だろうけど、まぁ……一度出たら、帰ってこれるのは早くても1月後、かな」
少女の言葉に、ヴィーノは少し考えるようにしながら言った。
「今夜はみんなで盛大に送別会って話だから、覚悟しといてね」
少女は悪戯っぽく微笑みながら、そう言った。
「あはは、お手柔らかにね」
ひきつった苦笑を浮かべるヴィーノ。
私服姿の2人、ヴィーノはカジュアルなジャケットにコットンパンツ。そして少女は、サマージ
ャンバーの中にスリーブレスのタンクトップにショートパンツというラフないでたち。だが、右手
にだけ、二の腕まで届く白い手袋をつけている。そしてショートパンツのポケットには、ピンク
色の携帯電話が顔をのぞかせていた。
オフローダーは工廠地区を出て、市街地へと通じる道を行く
機動戦士ガンダムSEED DESTINY “M”
PHASE-01 破られた平穏
同時刻────
アーモリー1の宇宙港に、ひと組の男女が降り立っていた。
入管での手続きを終え、エスカレーターに乗り、シャフト・エレベーターに向かう。
「服はそのままでいいのか? ドレスも持ってきているが……」
サングラス姿の男性が、女性に向かって声をかける。
「このままでいいだろ」
女性は、不機嫌そうに言い返した。
「必要なんだよ、バカみたいに気取る必要はないが、軽く見られても困るんだ」
男性はそう言い、女性の耳元に近づいて、耳打ちする。
「非公式とは言え、君は今は、オーブの国家元首なんだ」
「ふん」
オーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハは、不機嫌そうに鼻声を漏らした。
「ええと、他に何か買っといた方がいいもの、あるかなー」
食品の詰まった紙袋を抱えながら、片手袋の少女──マユ・アスカは商店街を行く。
「大丈夫、マユちゃん!?」
足取りはしっかりしつつも、視界まで遮るような荷物を抱えているマユに、ヴィーノは後ろか
ら駆け寄り、声をかける。
「少し持とうか?」
「これぐらい大丈夫」
マユが言うと、ヴィーノは頭の後ろで手を組み、ニヤニヤと苦笑する。
「へいへい、史上最年少の赤服様には、必要ないってか」
……11歳でプラントに移住したマユは、教育検定を受けた後、飛び級の状態でZAFT軍事ア
カデミーに進学。
入学後も驚異的な成績を示し、特にMSパイロットとして類稀なる才覚を持つとされ、教練課
程を修了。
その際、成績優秀者に送られる上級隊員としての証、ザフト・レッドを贈呈された。
とは言え、マユはまだZAFT正規部隊の規定年齢に達していない。したがってザフト・レッド
も、名誉称号としてであり、その年の卒業者に贈られたザフト・レッドの規定人数の中には、
マユは含まれていない。
「っ、そんな意地悪な言い方しなくたっていいじゃない」
困ったような表情で振り向き、マユは言い返す。
「あはは、ごめんごめん」
悪びれた様子もなく、笑いながら言うヴィーノ。だが、
「あっ……」
ヴィーノが気づくが早いか、マユは角から飛び出してきた人物とぶつかる。
「きゃあっ!」
「うぇっ!!」
ドサリ、と紙袋は転地が逆転して地面に落下し、マユは背中から倒れる。そのマユの手元
に、カタン、と細長い物体が転がった。
相手の女性──ヴィーノと同じくらいの少女も、同様に背中から倒れている。
「っ、ご、ごめんなさいっ」
マユは慌てて起き上がると、相手の少女に向かって謝る。相手の少女は、ぽかん、とした顔
で、マユの顔を見ていた。
「おーい、何やってんだ、ステラ!」
ステラ、と呼ばれた少女は、マユの顔を凝視しつつ、そろりと立ち上がると、パタパタと駆け
ていってしまった。
「なんだったんだろう」
マユは、少女とその連れの2人の背中を見送りつつ、小首をかしげた。
「ひどいよな、ぶつかって来たのはあっちも同じなんだし、一言ぐらいあってもいいと思うんだ
けど」
後ろから、ヴィーノが呆れたような声を出す。
マユは落とした荷物を拾おうとして、自分の持ち物ではないそれを発見した。
「あの人の持ち物かな」
マユは手を伸ばし、それを取り上げた。見た目に反し、ずしりと思い。
「何?」
ヴィーノが興味深そうに覗き込んでくる。マユは、それをなでるようにして調べてから、やが
て、ばっと開いた。
「扇子……?」
日本文化の影響が強いオーブで育ったマユは、扇子、と呼ばれる存在は知っていた。しか
し、それはマユの知っているものと異なり、異質だった。
「鉄の扇子なんて、はじめて見た」
掲げるようにして、ヴィーノと2人、しげしげと観察する。
マユもヴィーノも知る由もないが、これは鉄扇と呼ばれ、れっきとした武器だった。閉じれば
寸鉄として打ち込みに、開けば相手を斬りつける事ができる。もっとも、実用性はさして高くな
く、A.D.前半期における日本の武人の、たしなみのような存在であったが。
それが武器だとわからない2人は、ステラという少女達の目的を推測することなどできない。
「そうか、あの人の落し物だ」
マユは鉄扇を閉じて、はっと気づいたように言う。
「んーな、ぶつかっといてすみませんのひと言もないようなやつの落し物、このまま貰っちゃえ
ばいいじゃん」
ヴィーノが呆れ半分といった様子で、だらしなく右手を振りながら言った。
「そういうわけには行かないよ」
マユはそう言い、ヴィーノを睨みつけながら、鉄扇をズボンのポケットにしまった。
「後で届けておかなくちゃ」
そう呟いてから、自分の荷物を拾い上げる。
「さぁ、急がないと。みんな待ってるよ」
「あ、ああ……うん……」
「これは姫。わざわざこのような所にまでご足労いただき、申し訳ない」
現プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルは、VIP専用のサロン・エレベーター
から降り立った、カガリとその随員の男性を、護衛官を引き連れながら慇懃に出迎える。
「聞けば、戦後初の新造大型艦の竣工式の準備だそうだが、なぜそのような場所に招かれ
たのか、理解しかねるというのが本音だ」
カガリは忌々しそうな表情でデュランダルを見、愚痴るように言った。
「代表、早急にかつ、非公式に会見を行いたいと申し入れたのは、こちらの方なのです」
サングラス姿の随員は、カガリを嗜めるように言う。
デュランダルはその随員の方に視線を向けて、一瞥すると、薄い笑みを浮かべた。
「して、その火急の用件とは、いったいいかなるものですか?」
デュランダルが訊ねる。
「我が方から再三にわたって申し入れているにもかかわらず、いまだ何の回答も頂けていな
い件のことだ」
カガリはデュランダルに食って掛かるように、険しい表情で激しく口に出す。
「先の大戦の際に流失した、わが国の技術および人的資源の軍事利用を、即座に止めて頂
きたい!」
カガリの剣幕に、デュランダルは軽くため息をつき、僅かに肩をすくめた。
「姫、それはこちらからは如何なる回答もいたしかねると、そういう意味でありますよ」
「なぜだ!?」
カガリは激しい口調のまま、聞き返す。
「確かに我が方は、先の大戦において難民となった貴国の国民を受け入れました。しかし、そ
の後貴国への帰還を制限しているわけではない」
デュランダルは言い、ガラスの外の工廠に視線を送る。
「彼らがプラントに定住する事を選ぶことも、その為に持てる技術を生かし職に就くことも、自
由であるべきと我々は考えています」
そう言って、デュランダルは再びカガリの方に向き直った。にこやかさが消え、険しい表情を
している。
「オーブが彼らの自由を制限することは、我がプラントにとって、れっきとした内政干渉です」
「なっ」
カガリの顔色がなくなる。
「これはオーブの理念、『他国に攻め込まず、他国に攻め込ませず、他国同士の紛争に介入
せず』……明らかにこれに反していると、私は考えますが?」
「それは……しかし」
カガリは、言葉に詰まり、デュランダルに言い返すこともできない。崇高と思っていた、自国
の、そして敬愛する父親から受け継いだそれを、自ら否定している、と指摘されたのだ。
「理由はわかっております」
デュランダルは言う。
「連合からの圧力でしょう、オーブがプラントに軍事技術の提供を行っている。言いがかりは
大西洋連邦の、前世紀からの十八番ですからね。しかし、そんな事実はない。堂々としてい
れば良いのです」
「…………しかし」
カガリは反論の言葉を出そうとしたが、続かない。
「姫はあの、獅子と言われたウズミ様の後継者であらせられましょう、何をそんなにおびえて
いらっしゃるのですか?」
「おびえているだと!? 私が!?」
デュランダルの問いかけるような言葉に、カガリは向きになって反応した。
「オーブの理念、その為に貴国は軍備増強に努めていらっしゃるのでしょう。そしてそれは、
我々も同じです。我々の権利を、プラント市民の生命と財産を守る為の軍備です」
「だが、強すぎる力は、また戦いを呼ぶ!」
カガリは、目をむいて、デュランダルに言い返す。だが、デュランダルは、あくまで冷静な声
で、答えた。
「争いがなくならないからこそ、力が必要なのです」
「あっれー、ヴィーノお兄ちゃん、まだ来てないのかな」
工廠地区。
新造艦、ミネルバの竣工式に向けて、最後の準備を進めるべく、皆が走り回っている。
マユは、ヴィーノと待ち合わせをし、着替えのために分かれていた。赤いザフト・レッドの制
服。マユの為の特注品で、袖は小柄な体格に合わせて詰めてあるが、丈は長めで、ミニスカ
ートのワンピースほどある。その下に、太ももまでのスパッツを着用していた。そして、右手に
は相変わらず、白い長手袋をはめている。
「あれっ?」
マユはあたりをキョロキョロと見回していて、それに気がついた。
1台のオフローダーが、少し離れた場所に停車する。そして、問題はその後部座席に乗って
いる3人だ。
見覚えのある姿、衣装。そして、そのうちの1人が、あのステラという少女であることに気が
つく。
マユは、車から降りた3人を追うように走り出した。
服のポケットに手を入れる。結局、急いでいて届け出そびれた扇子が入っていることを確認
する。
「おーい、まってよー!」
マユが声をかけるが、多数のMSや工作機械が上げる騒音で聞こえなかったのか、3人は
MS用ハンガーの立ち並ぶ、細い路地に吸い込まれていってしまった。
「あれ……どこ行っちゃったのかな……?」
3人を見失い、キョロキョロと辺りを見回しながら、適当に進んでいく。このあたりは、あまり、
人気がなかった。
すると、やがて、シャッターが開いたままになっているハンガーを発見した。
「あれ? 何でここ、開けっ放しになっているの?」
式典用に使用するMSを出したまま、誰かがそのままにしていったのだろうか。
そう思い、中をのぞく。だが、エントランスを抜けてハンガーに入ると、そこに3機のMSが立
っていた。
「あ…………」
マユは3機のMSを見上げた。話だけは聞いていた。ミネルバと同時に就役する4機の新型
MS、そのうちの3機だ。
しかし、実際にそれを見たマユは、別の感情が、意識の奥から湧き出してきていた。
攻撃を受けるオーブ、青と白のMS、閃光、衝撃、熱、引き千切られた自分の右腕、その手
を握る兄の亡骸、斃れている両親…………
マユはぶんぶんと首を左右に振り、フラッシュバックした記憶を振り払う。
「こんなことしてる場合じゃなかった」
自分に言い聞かせるように呟く。
「そうすると、あの3人は、民間工場のテストパイロットかなにかなのかな」
それならば、軍服を着ているわけでもないのに、この工廠に入り込んでいる理由もわかる。
そう考えながら、タラップの階段を上った。
「ステラさーん? いないのー?」
キョロキョロと見回しながら、MSの1機に近づく。
「ステラさーん?」
そのMSを覗きこむようにしたとき、激しい銃撃の音が聞こえてきた。
「何!?」
一瞬に意識のスイッチが切り替わり、険しい表情で音源の方を見る。
コントロールルームの方で、アサルトライフルの発砲音がする。銃撃戦がおきている。理由
はわからないが、尋常ではないことはすぐにわかった。
マユは様子を伺いながら、MSの影に身を潜めた。
「丸腰……っ」
銃を携行していなかったことを後悔する。何か武器になるものがないかと自分の身体をまさ
ぐる。すると、腰と腹部のつけねの辺りで堅い感触があった。
ポケットに入っていたそれを取り出す。鉄扇だった。
何もないよりはマシ、と、マユはそれを握る。
様子をもっと詳しく伺おうと、MSの胸によじ登る。発砲音は聞こえなくなったが、見下ろすと、
ZAFTの整備員や警備員が血にまみれ、倒れている。
そして、タラップの階段を、カンカンと駆け上ってくる音が響いた。
隣のMSに誰かが乗り込もうとしている。マユはそれを確認しようと、身を乗り出した。
と、その時。
ゆらりと、そのMSの身体も揺れる。コクピットを誰かが開けたのだ。
「わっ、えっ、ちょっと……きゃっ」
バランスを崩し、手を滑らせ、マユは頭からタラップの床めがけて落ちる。
ごいーん♪
床にではない何かと脳天が激突し、一瞬、視界に火花が散る。そして、尻餅をつくように落
下した。
「あいたたたた……」
よろけながら立ち上がり、自分と激突した何かを振り替える。まだちかちかする視界の中に、
人が倒れていた。
「って、え!? ステラさん!?」
マユは、倒れているステラに、驚いて声を出した。
しかし、直後に、さらに驚愕の事態が起きる。
周囲の、他の2機のMSが起動した。そこまではいい。しかし、その2機は、武器を使い、ハン
ガーの壁を破壊したのである。
「ちょっ、え、どうなってんの!?」
ありえない事態に、マユは目を白黒させる。
さらに、その壁と向かい合っている、別のハンガーに向かって発砲し、破壊し尽くす。
「あいつら……いったい何やってんだよ」
マユはわけが解らないなりに、事態を収拾しようと考えた。その為には、あの2機を停止さ
せなければならない。
自分の近くには、新型のMSが1機
「私に、扱えるかな……?」
疑わしく思いつつ、ステラをコクピットのデッドスペースに適当に押し込むと、自らはシートに
納まる。起動スイッチを入れる。メインモニターに、OSの起動画面が表示された。
Generation
Un subdued
Nuclear power source
Drive
Assault
Module
COMPLEX
「設定デフォルトか……動かないよりマシってだけだね」
憔悴した顔で、呟く。
ZGMF-X88S GAIA
「ガイア……」
表示された機種名を、マユは呟いた。
VPS装甲が起動し、全身が黒に近い灰色に染まる。
『おいステラ、何をもたもたやってんだよ』
通信に、2機のどちらかからの物と思われる音声が流れ込んできた。
『早くしないと、ネオに怒られちまうぜ』
『あまり急かすなアウル。全部が資料通りとは限らないし、奪った機体なんだ』
────奪う? ZAFTの新型MSを奪う、テロリスト? それとも、まさか……っ
マユは『連合』という単語を思い浮かべた。
────いや、いくらなんでも……
そう思いつつ、マユはOSの表示から、使えそうな武器を探す。
『おいステラ、早くしろってば』
緊張感のない口調で言うアウルとやら。マユは頭に血が上った。
通信と外部スピーカーの両方をONにし、叫ぶ。
「いい加減にしろぉっ!!」
『何!?』
『げっ!?』
アウルとやらと、もう1人の強奪犯が驚きの声を上げる。
ヴァジュラ・ビームサーベルを抜き、ガイアを構えさせる。
「そんなに、戦争がしたいの? アンタたちはっ!?」
>>34-41 王道とか言いながらいきなり捻ってますね……
インパルスじゃなくてガイア乗ってるし。
ステラやっつけちゃってるし……
ハイーキョ……or2
44 :
通常の名無しさんの3倍:2007/07/13(金) 10:29:22 ID:rF0s6Je/
sage
マユラならまだM1に乗れるんだがなー
>>20氏(でいいのかな?)
いい感じの捻り、GJです!
突然ガイアに乗ってしまったりとか、先の読めない要素があって期待出来ます。
続き待ってます!
単発設定小話 after the story 第十七話「睡蓮」
アビーとディアッカが乗り場に到着したときにはもうすでにシャトルが飛び立っていた。シャトルのいな
くなった乗り場はエンジンの余熱と油の匂いがまだわずかに残っていた。
「っち、間に合わなかったか」
「どうする、追いかけるか?」
ディアッカは肩で息をしているアビーに判断を任せた。アビーは少し考え、追いかけはしないと答えた。
「乗員名簿をもらってきてください。役に立つかは疑問ですが、念のため」
「あ、ああ」
ディアッカは乗り場のオペレーションルームに常駐する担当員から名簿を入手しアビーの処へ戻った。
「ほい、名簿をもらってきたぜ」
「・・・・・・そろそろ戻りましょうか。明日から忙しくなりますし」
「ん、ああ。そうだな」
「あ、レーダーの設置確認はちゃんとしておいてくださいね」
アビーとディアッカはシャトル乗り場を後にして自分の部屋へと戻った。
シャワーを浴び終えエアシャワーで水滴を吹き飛ばし、バスタオルを身体に巻きつけた。部屋に戻り
ソファに座り立ち上げっぱなしにしていたコンピュータのディスプレイに視線を向けるとメールの返信が
届いていた。マリアからの、ただ一言「承知いたしました」とだけの返信メールだった。
相変わらず短い文章になれてしまった私はメールを確認すると、すぐに睡魔に襲われそのままソファ
で眠ってしまった。
翌朝、目覚ましが鳴る前に私はソファから立ち上がりデスクに置かれた水差しからコップへ水を注ぎ
喉を潤した。そしてテーブルに置かれている昨夜贈られたディスクリーダーを注視し、今夜の邂逅のこ
とに逸る気持ちを抑えた。
一息ついてから、私は昨日遅刻した分を取り返すかのようにすばやく着替えて食堂へ向かった。私は
両手の指を組んで身体の前や上に伸びをしながら静かな船内を歩いていた。早朝の船内は空気が忙
しく動いていなくて、昼間に比べ幾分ひんやりとしていた。船外を見渡すように備え付けられた大きな窓
には赤茶色に大きな赤い斑点を浮かべた木星を見ることができた。
地球や月、火星と異なる姿にはまだ馴染めなかった。私たち人類にはまだここは未開の地であること
に変わりはなく、太陽系外へ進出するにはまだ多くの時間が必要だと思った。深宇宙の探索、はるか
昔から続けられている地球外との接触の試みはいまだ続けられていた。その活動はプラントはもちろん、
地球の各国家でも続けられており戦争で一旦は休止していたが、この木星資源惑星化プロジェクトを足
がかりに再開し始めていた。
国家とは関係のないDSSDのような独立機関も多く存在しているが、深宇宙の探索などといういかに
も壮大な計りごとをするにはその努力が実ることは無いに等しい機関がほとんだった。
そう考えるとDSSDが特殊な機関なのかがよくわかる。ある意味では国家という枠組みを越えて一つ
のことをやり遂げたいと願う、争いのない理想的な国の姿の一つといえるかもしれない。
私は大窓で足を止めいつの間にか途方もないことをぼんやりと考えていることにはっとし、窓に映った
自分と目が合った。私は自分がいつもの自分ではないことに改めて気付かされたようで、ひんやりした
空気のなかにもかかわらず額に汗をかいていた。そんな窓に映る自分と顔を合わせていると、突然窓
いっぱいに円盤を背負ったモビルスーツが現れた。私はびっくりし窓から一歩飛び下がった。
「・・・昨日のやつ!」 マユは慌てて窓際にもどり、窓に顔を寄せモビルスーツの姿を追った。
続
単発氏、乙であります。
左側なんかビミョーな雰囲気になってしまったのですが、投下行きます。
アビス、カオス。ZAFT最新鋭の2機が、起動したかと思うと、その武装を使い、ハンガーの
壁を破壊した。
さらに隣のハンガーめがけて、フルバーストを行う。ともにミネルバに収められるはずだった、
インパルスのキャスト、レッグが、ハンガーとともに無残な残骸に変わり果てる。
同じくハンガーに収められていたもう1機、ガイアの起動が遅れていた。
『早くしないと、ネオに怒られちまうぜ』
『あまり急かすなアウル。全部が資料通りとは限らないし、奪った機体なんだ』
イラついた様なアウルの発言、それに対し、やや年長のもう1人──スティングが、諌める
言葉を書ける。
ようやく、アビスの動力が入り、VPS装甲が黒に近いグレーに染まる。
『おいステラ、早くしろってば』
アウルがさらに声をかける。
だが、返ってきたのは、彼らがステラと呼ぶ存在の物ではなかった。
『いい加減にしろぉっ!』
ステラも女性、少女だが、それとはすぐに違うとわかる別の少女の声。
『何!?』
『げっ!?』
アウルとスティングは、驚きの声を上げる。
ガイアはヴァジュラ・ビームサーベルを抜いて構え、アビスとカオスに対し、敵対の姿勢を見
せた。
ガイアのコクピットに収まるマユ・アスカは、怒りの形相で、2体のMSを睨んだ。
「そんなに、戦争がしたいの? アンタたちはっ!?」
機動戦士ガンダムSEED DESTINY “M”
PHASE-02 「戦いを呼ぶもの」
(A-PART)
『なんだ……ステラのヤツ……やられちまったのかよ!』
アウルは、アビスを反射的に後退りさせる。
「今すぐ機体を停止させて投降しなさい! 今のうちなら、あなた方の生命の安全は保証しま
す!」
マユは無線と外部スピーカーの両方で、アビスとカオスに向かって怒鳴る。
『へっ、そういうわけに行くかよ!』
『待て、アウル!』
スティングが止める暇も有らばこそ────
アビスは両肩のシールドを上げ、内側をガイアに向けた。
「!」
間一髪、マユはガイアを捻る。アビスのフルバーストが、それまでガイアのいた空間を通り
過ぎ、そして……背後で、また建物を破壊した。
『どの道、俺達まで捕まるわけにはいかねーんだ、せいぜい派手に暴れさせてもらうぜ!』
『ちっ、しょうがねーな!』
カオスも複相ビーム砲と肩部のビームポッドをガイアに向けてくる。
「はわわっ」
マユはガイアを飛び退かせる。だが、またもその先で、建造物やMSが破壊される。
────このままじゃ、マユの代わりに、誰かが犠牲になっちゃう!
「アンタ達、いい加減にしなさいよっ!」
マユは2機を睨みつけると、ビームサーベルを手に、突進する。
背中のビーム突撃砲を前に倒すと、アビスに狙いをつけて、射撃する。
『おっーととっ』
アビスはそれを回避する。だが、ガイアはその間を利用して間合いに飛び込み、ヴァジュラ・
ビームサーベルで横に一閃。アビスはそれを左肩のシールドで受ける。アンチビームコートと
刀身ビームが交錯し、バチバチバチバチ、と激しく火花を散らす。
ドォン!!
そのとたん、轟音が走った。
『なっ!?』
アウルが驚愕の目でそれを見る。
左肩のシールドに搭載されていた実体弾の連装砲が、熱とスパークで暴発したのだ。
「なにっ、考えてんのよぉっ!」
ビームサーベルを振りぬき、マユは間合いを取りながら姿勢を立て直す。
────オートバランサーの設定が甘い。
怒鳴りながら、マユは心の中で舌打ちした。
『今のは俺のせいじゃねぇっ!』
アウルも反射的に言い返す。
「それってどういう……はっ」
ロックオンアラート、斜め後ろでカオスが、ビームライフルも含めたフルバーストの体勢に入
っている。
「くっ!」
マユはギリギリを捻ってかわそうとするが、初期状態のガイアでは、どうしても動きが大きく
なる。
────でも、それはアイツらだって同じはず!
マユはそう思いつつ、見つけておいたコンソールのそれを起動した。
ガイアは瞬時に4脚形態に変形すると、グリフォン2・ビームブレイドを展開し、ビーム突撃砲
を乱射しながら2体に向かって疾走する。
アビスとガイアも射撃でガイアを追おうとする。だが、その瞬間、ガイアの左肩で爆発が起こ
った。
シールドの内側に仕込んであるビーム砲が、爆発したのだ。実体弾同様、先ほどのガイア
の打ち込みのせいだろう。肩関節は無事だが、シールドは火器ごと吹っ飛んでしまった。
『何考えてんだ、アホコーディどもはよぉっ!』
アウルが毒ついている間にも、懐に飛び込んだガイアは、再び一瞬で2脚形態に戻る。
ヴァジュラ・ビームサーベルで、カオスに斬撃を入れる。だが、オートバランサーが未調整の
為、思い切った踏み込みができないのだ。
「くっ」
『あぶねぇ、あぶねぇ』
間一髪、ガイアの斬撃をかわしたカオスは、ビームライフルをガイアに向ける。射撃。だが、
それも今度はガイアに簡単に回避されてしまう。
マユ達が絡み合っている間にも、異常事態に気づいた、他のZAFT部隊が攻撃をかけてく
る。
複数のディンが、上空からアビスとカオスに向かって射撃をかけてきていた。
『こちらLHM-BB01。ガイアの搭乗者はどなたですか!?』
マユに聞き覚えのある声が聞こえてきた。
回答しようとするが、目の前で、ディンの群れに向けてアビスが射撃する。
『落ちろ! 雑魚キャラが!』
「やめなさいよぉっ!!」
マユはシールド・タックルをかけ、アビスを突き飛ばす。
「!?」
ロックオンアラート、カオスの射撃を右に捻り、跳躍してかわす。
「こちらガイア、搭乗者はアーモリー軍司令部MS教練隊所属、マユ・アスカです!」
『マユちゃん!? マユちゃんが乗ってるの!?』
無線の向こうで、マユがよく知る1人──メイリン・ホークは思わず、砕けた言葉で驚愕の声
を出していた。
だが、マユはそれどころではない。スティングは取り回しの悪いビームライフルを諦めると、
ガイアと同型のヴァジュラ・ビームサーベルで斬りかかって来た。マユは無理に回避せず、ア
ンチビームコート・シールドで受け止める。激しい火花が散る。マユは自ら間合いを詰めてき
たカオスに、天頂方向から斬撃を入れる。
『くそっ!』
スティングは振り払うようにして後退りし、間合いを取る。
『だめだ、アウル、離脱するぞ!』
ビームポッドで射撃しつつ、言う。ガイアは再び4脚形態になって、近づいたり離れたり、ジ
グザグの回避運動を取り、懐に飛び込む機会をうかがっている。
『けどよ、スティング!』
『ステラのことなら諦めろ! 運が悪かったんだ』
その間にもマユは転がり込むようにしてカオスの懐に飛び込み、2脚形態に戻ると、ヴァジュ
ラ・ビームサーベルを抜く。
スティングはマユが斬撃を加えてくるより早く、ビームサーベルも何もない、ただ組んだ手の
打ち下ろしでガイアを地面に叩きつける。
『ちっ、かっこわりーけど、しょーがねーか!』
アウルも忌々しそうに言い、アビスとカオスはスラスターを吹かして、アーモリー1の作られ
た空に飛び上がった。
「逃がさないからっ」
マユはガイアの姿勢を立て直すと、2機を追って飛び上がった。
『あー、あー、マユ・アスカ』
通信から、メイリンに変わってアーサー・トライン、ミネルバ副艦長の声が聞こえてくる。
『君に正式に与えられた任務を伝える。カオスとアビスの捕獲だ』
「捕獲ぅ!?」
マユはあからさまに不愉快そうな声を漏らした。
その間にも、カオスはアビスを護衛するかのように、背面飛行でビームポッドを切り離し、カ
オス本体も含めた複数の方角からガイアを狙ってくる。
「やってみますが、相手の機体の保証はしかねます!」
『保証はしかねるって君、アレは我が軍の……』
アーサーに女々しい言葉に、マユの怒りが爆発する。
「こっちは! OSの設定も終わってない機体で! 2:1の戦いをさせられているんです! その
上生け捕りなんて、無茶だって、ちょっと考えればわかるでしょう!! このエロゲーム脳!!!!」
直属の上官ではないことをいいことに、マシンガンのようにアーサーに怒鳴り返す。ドサクサ
紛れに秘密も暴露する。そうしながらも、身体はカオスの射撃をよけながら、2機に向かってビ
ーム突撃砲を撃つ。
「エロゲーム脳って……」
ミネルバブリッジでは、メイリンをはじめ、ブリッジクルーが白い目でアーサーを見ている。
『本気で生け捕りしろって言うんなら、まともな応援をください! ディンジンゲイツじゃ、足手ま
といなだけです!』
マユの怒声が、ブリッジ内に響く。
「今、本艦で待機している機体は?」
タリアが艦長席の回転椅子を回して、メイリンに訊ねる。
「えっと、あ……その、お姉、じゃなくてルナマリア・ホークと、レイ・ザ・バレルの……2機です」
「艦長、あの2機はまずいんじゃ……」
アーサーが、困惑した表情で言った。
「この際仕方ないでしょう!? それとも、みすみすあの2機を敵にくれてやるつもり? メイリン、
2機に出撃を下令してください」
「諒解、ルナマリア・ホーク機と、レイ・ザ・バレル機、出撃体勢に入ってください」
放送でメイリンの声が響き、アラートの鳴り響く格納庫で、タラップを上り、金髪の、まだ少年
といっていい美形の男性は、コクピットに収まる。
起動スイッチを入れる。OSの起動画面が出る。コンディションチェック。白いその新鋭機は、
発艦デッキへと進み出る。
「レイ・ザ・バレル、グフ・イグナイテッド、出る」
リニアカタパルトの、ガイド用LED照明が点灯する。カタパルトが作動し、真紅のグフ・イグ
ナイテッドは空へと飛び上がった。
「ルナマリア・ホーク、ザク・シルエット、行くわよ!」
続いて、真紅塗られた、MSがリニアカタパルトに乗せられる。ZGMF-X1000/SS ザク・シル
エット。破壊されたインパルスの新機構だった、行動中に換装可能なシルエットシステムのテ
ストベッド用に用意された機体である。本来なら、インパルスと入れ替わりにミネルバから下ろ
される予定の機体だった。
『シルエットフライヤー、ウィングシルエット、発進!』
メイリンの声とともに、白いシルエットフライヤーが、ウィングシルエットを抱えて射出する。ス
ラスターを吹かして低速で高度を維持しているザク・シルエットの背中に、シルエットフライヤ
ーから分離したウィングシルエットがドッキングする。
ウィングシルエットは試作されたシルエットのひとつで、大気圏下での飛行、及び宇宙戦時
での高機動化を目指した物だが、実際にはインパルス自身に飛行能力を持たせることになり、
ザク・シルエットとともに廃棄される予定だった。
『マユちゃん! 大丈夫!?』
『待たせたな』
「レイお兄ちゃん! ルナお姉ちゃん!」
カオスと空中戦を演じていたマユの顔が、ぱっと明るくなる。
レイのグフ・イグナイテッドがビームライフルでカオスを撃つ。
『はぁぁぁっ!』
声を上げ、ルナマリアがウィングシルエット用のフォールディングレイザー・対装甲ナイフを
構え、カオスに突進していく。
『よくもインパルスをぉおぉぉ!!』
ルナマリアが、思い切り私怨の篭った声で吼える。
『それが本音か』
レイはルナマリアのザクから逃げ回るカオスをビームライフルで牽制しながら、淡々とした口
調でそう言った。
「…………」
マユは苦笑を浮かべた後、視線をさらに上空に移す。
青いアビスが、コロニーの壁面に向かって放っていた。
マユはスラスターを吹かすと、アビスを追いかけてさらに上昇する。
「逃がすもんかぁっ!!」
>>48-53 ガイア以外は本編準拠で行く予定だったのに、なぜか俺MSだらけに……
前日にあんな物書いてるから……申し訳ないです。
だったらザクスプレンダーで委員じゃないか?それにインパルスのシルエットが使えるようにするとか
レイの機体もグフクラッシャーにするだの色々で金じゃね?それよりあんな物ってのが気になるが
まあSSの出来自体は悪くないからそれはそれで面白いけどね、兎に角投下乙
ほのぼの帰還の祈願保守
俺はまだPP戦記を諦めちゃいないぜ保守
∧||∧
( ⌒ ヽ 正直スマンカッタ……
∪ ノ
U U
PPは復活の兆しがあったけど…もう無理なのかな…?
それはないだろ、ここじゃなくてもまとめサイトでSSを投稿できる
俺はまだPP戦記も隻腕もあきらめたくない
>>58 兎に角頑張ってくれ、これで終わりなんて俺は嫌だ
>>58 あんま落ち込まないで
個人的には量産機のカスタムがどれくらい頑張るか楽しみですよ
保守してGJし忘れた
正直スマン
単発設定小話 after the story 第十八話「子供」
円盤を背負ったムラサメはあっという間に私の前を通り過ぎ、すぐに視界の外へと行ってしまった。
私は名残惜しく窓に顔を貼り付け、窓の外をまだ目で追いかけていた。その場でしばらく立ち尽くして
いると、私の横に並んで立つ人影ができた。
「マユ。今日は早いわね」 窓の外に向けていた視線をマユへ移すアビー。
「アビー姉ちゃん」 窓の外への視線をずらさないマユ。
「窓の外なんかずっと眺めちゃってなにか見つけたの」
「あ、いや。そんなのじゃないけど。ただ、木星を見てただけだよ」
私がそう答えて窓から視線をはずし食堂へ向かおうとすると、アビー姉ちゃんも私と並んで歩き出した。
私は嘘をついたことに後ろめたさを覚えながらもアビー姉ちゃんとの他愛のない会話を交わして、一緒
に食堂へ入っていった。まだ早朝のためか食堂には二、三人しかおらず、食事をするというよりは慌しく
時間が動き出す前のゆったりとした時間をじっくりと楽しむという感じであった。
私たちは朝食をあらかた食べ終えると今日のスケジュールを確認することにした。
「アビー姉ちゃん、今日からすごい忙しいんでしょう」
「DSSDの人工知能でモビルスーツの作業効率が上がっても最後は人の手での確認をしないといけない
から、どうかしら。そんなに変わらないんじゃないかしらね」
私はカップに残っていたすっかり冷めたコーヒーを飲み込んだ。
「マユ、モビルスーツデッキに行く前に私と一緒にセントラルステーションに行かない?」
セントラルステーションという言葉に、私のテーブルにコーヒーカップを置こうとした手が一瞬止まった。
カップをテーブルの上に置き、私はつばを飲み込んだ。
「作業開始前にDSSDの開発したモビルスーツのお披露目があるそうよ。今回のプロジェクトの要になる
モビルスーツだそうよ。どう、みたくない?」
「興味はあるけど。アビー姉ちゃんはもう見たの?」
「ううん、まだ見てない。ディアッカさんには私から言っておくから、ね。行きましょ」
アビー姉ちゃんは私に拒否することを遮るように話を進めた。セントラルステーションには今夜行くこと
になっていたが、DSSDのモビルスーツに興味があるのも正直な気持ちでもあったので無下に拒否する
ことは躊躇われた。
「わかった、私も行く。私の計画の参考になるかもしれないし」
私が首を立てに振るとアビー姉ちゃんは満足そうな笑顔を浮かべ、テーブル越しに私の頭をなでた。
「うーん、よしよし。お姉さんの言うことを聞いてくれるマユはやっぱかわいいわね」
「な、ちょっとアビー姉ちゃん。人前でそんなことしないでよ」
アビー姉ちゃんは嫌がる私の頭をなおもなで続け、じゃれあっていると私たちのテーブルに小さな人影
がいつの間にか映りこんでいた。私は顔を上げたがそこに人はおらず、壁際に設置された自動販売機が
あっただけだった。そして視線を落とすと私の顔をじっと見つめる子供がテーブル横に立っていた。私は
その姿を見て固まった。暗い濃い紫系の髪の色、赤い瞳。私は頭の底に方にうっすらと残っていた遠い
記憶をすぐに掘り起こした。この子、小さい頃の兄にそっくりではないか。ぼうっとしている私よりも先に
アビー姉ちゃんが子供に声をかけていた。
「ねぇ僕、私たちに用事かしら。お母さんかお父さんは一緒じゃないの?」
「これ。ママからここに置いてきてっていわれたの」
アビー姉ちゃんに尋ねられた男の子は封筒をテーブルの上に置いた。男の子はそう言って直ぐに食堂
から出て行った。私とアビー姉ちゃんは唐突な出来事にあっけをとられ、追いかけることを忘れた。
続
俺、居なくなってから気付いたんだ…シンが大事だってことに
単発設定小話氏乙です
保守
保守
感想はしないけどほしゅ
感想くらい書こうぜ、俺もお前も保守
今晩は。一月以上ぶりのご無沙汰です。
以前、幻視痛という作品を投下していた者です。
今回久方ぶりですが5レス分ほど投下させていただきます。
以上よろしくお願いいたします。
「向こうもよもやデブリの中に入ろうとはしないでしょうけど……危険な宙域での戦闘になるわ。操艦、頼むわよ」
ようやくボギーワンのしっぽを捕まえたミネルバ。
追撃戦のため、慌ただしくなるミネルバブリッジ。
その中でタリア艦長の指示が飛ぶ。
「シンとルナマリア、ゲイルとショーンの4機で先制します。
念のためレイは待機。……準備、終わってるわね」
「はい!」
その慌ただしく、しだいに緊張感が高くなってきているミネルバブリッジにデュランダル議長達が顔をのぞかせた。
「議長?」
議長はこれから戦闘になるというときにブリッジに顔を出しただけではなく、アスハ代表とその随員を同行していた。
この作戦開始時の忙しい最中に……
それもよりによってオーブの軍事を司っている代表をトップシークレットの塊のようなところへ連れてくるとは……。
「いいかな、艦長。私はオーブの方々にもブリッジへ入って頂きたいと思うのだが」
「え、あ、それは……」
――それで何がお望みなの、ギル?この忙しいときに。
――よりにもよって極秘にしたいところに他国の要人を連れて。
「君も知っての通り、代表は先の大戦で艦の指揮も執り、数多くの戦闘を経験して来られた方だ。
そうした視点からこの船の戦いも見て頂こうと思ってね」
――嘘ばっかり。たぶんそれだけじゃないんでしょう?
タリアの答えを聞くまでもなくカガリとアスランを引き入れて着席させているデュランダル議長。
先ほどのシンの言葉による落ち込みから戻ってきていないカガリ。
彼女は心ここにあらずといった風情で所在なさげに席に座っている。
「わかりました、議長がそうお望みなのでしたら」
――また、何かに利用するつもりなのでしょう、ギル、まあ、あなたの好きなようにすればいいわ。
「ありがとう、タリア」
ブリッジスタッフがボギーワンに接近しつつあることを告げた。
それを受けてタリア艦長はブリッジの遮蔽と戦闘用意を告げる。
ザク、インパルスと次々にMSが出撃していく。
――ならどうすればいい……どうすれば戻ってきてくれるのだ?
あわただしい動きを見せる中ミネルバブリッジ。
その中で一人カガリはあのオーブ出身であるといわれた少年の言葉を反芻し、思いにふけっていた。
カガリとは別に出撃管制を行っているブリッジの動きを注視しているアスラン。
素直にデュランダルの言葉通り、何か助言でもできるところがないかと少し身を乗り出しながら。
「ボギーワンか……本当の名前はなんというのだろうねえ、あの船の」
「は?」
突然、デュランダル議長に話しかけられたアスランは答えに窮した。
「名はその存在を示すものだ。ならばもし、それが偽りだったとしたら……」
デュランダル議長がチェシャ猫のような笑みを浮かべる。
「それが偽りだとしたらそれはその存在そのものも偽り……ということになるのかな?」
カガリは議長の妙な物言いに引っかかりを感じ、伏せていた視線を彼に向けた。
――何を言い出すんだ議長は?まさか……
アスランも議長の言葉に何か深い作為を感じ、彼の次の言葉を待った。
「アレックス、いや、アスラン=ザラ君」
驚きを隠せず目を見開きデュランダルを凝視するアスラン、そしてカガリ。
ブラストインパルスのシン、ブレイズ装備のルナマリア、ゲイツR2機がボギーワンを撃沈させるために先行して出撃。
「あんまり成績よくないんだけどね……デブリ戦」
ザクのコックピットの中でルナマリアは僚友達に回線をオープンにしてぼやいてみせた。
『じゃあなんなら得意なんだよ』くらいのいつも通りのまぜっかえした答えを彼女はシンに期待していたのだが。
彼女にとっては突然ではない初めての実戦。
前回は交戦することなくリタイアしたので実質的に初めての実戦となる。
そのため、緊張感をほぐしたかったのだ。
「もう向こうだってこっちをとらえているはずだ」
“周りが見えていない”シンはルナマリアの意図には気づかず、半ば彼女の言葉を無視した答えを返した。
――どこからくる、あのストライク!
ストライクを探し周囲を警戒するシン。
「油断するな」 ――キラ=ヤマトかどうかはわからないが落としてやるよ、必ず!
「わかってる」いつもの通り、軽口には軽口で返してほしかったルナは当てが外れて少しふてくされる。
「レイみたいな口聞かないでよ、調子狂うわ」
「レイが二人か……そりゃあ気詰まりしそうで大変だな、ルナマリア」
ルナマリアの意図を読んだゲイルが彼らの通信に割り込む。
「まったくねー」ゲイルの言葉に少し肩の力が抜けるルナ。
「あいつなら目を三角にして『俺はいつも当たり前のことしかいっていない』とかいいそうだな」彼らの話に参加するショーン。
「あ、そうかもね」
「まあ、それくらいにして早いこと仕事を片付けてレイの辛気くさい言葉を聞きに戻ろうや」
「そうね、さっさと連中、見つけて終わらせちゃいましょう」
デブリによりノイズが多い中、周囲への警戒をさらに強めるシン達。
――――ところ変わってミネルバブリッジ
アーサー副長他、ブリッジクルーがせわしく動く。
ボギーワンは動きも変えず、ミネルバは確実に接近していく
その中でアスランとカガリにとって彼らの周りだけ時間が静止してしまったように思えた。
実のところ、ブリッジクルー、特にタリアとメイリンも片耳では彼らのやりとりを聞いていたのだが。
「議長、それは…」
重苦しい雰囲気の中、なんとか絞り出すようにそれだけ言葉にするカガリ。
「ご心配には及びませんよ、アスハ代表。私は何も彼をとがめようというのではない。すべては私も承知済みです」
――なるほど、ギルはあの坊やがお望みだったという訳ね。でも早くも隠遁したかつての英雄に何を求めるつもり?
作戦指揮を執りながら片耳でギルの言葉を聞いていたタリアはようやく彼の意図を少しだけ理解した。
「カナーバ前議長が彼らに執った措置のこともね。ただ、どうせ話すのなら、本当の君と話がしたいのだよ、アスラン君。それだけのことだ」
――本当かしら。坊や、気をつけなさいよ。彼は相当な古狸よ。素直なのはベッドの上くらいよ。
と、戦闘態勢中とは思えないことをタリアは胸の内でつぶやいていた。
ミネルバのレーダーはシン達がボギーワンまでの距離はあとわずかであると指し示している。
ボギーワンでもインパルス達のことをとっくに確認しているはずであろうに。
「何故だ、未だ進路も変えないなんて。どういうことだ。何か作戦でも?」
ブリッジの誰かに聞かせるでもなく独り言を叫ぶアーサー。
アーサーのその言葉に我に返るタリア。
「しまった」――私としたことが……。ギルに気を取られ過ぎていたわね。
「デコイだ!!」同じく我に返ったアスランが叫ぶ。
――おそらく、本体は後ろ。先行したMSは罠にかかって足止めされるといったところか。
アスランの背筋に冷たいものが走る。
叫んだアスランへ振り向くタリア。
「ボギーワン、シグナルロスト!!」
「なんでだ、なんでまだなにも起こらない?!」
静かすぎるデブリ。耐えられなくなったのかシンがコックピットで何かに八つ当たりするように怒鳴る。
ミネルバから出撃した4機のMSがスティング達の待ち伏せている付近を通りかかった。
「さあ、始めるか」
「行こう!」
「うん♪」
「ようこそ、僕らファントムペインのショー会場へ!!イッツ、ショウタ〜イム!!」
相手には聞こえていないだろうにコックピット内でアウルが楽しそうに叫ぶ。
それを合図に待ち伏せしていたアビスの3連装ビーム砲が発射される。
瞬く間のうちにゲイツR1機が爆散した。
「ショーン!」爆散した僚機のパイロットの名前を呼ぶルナマリア。
――いた!あいつらだ!
「散開して各個に応戦!!」シンはルナマリア達に指示を出す。
「待ち伏せか?」カオスの戦闘ポッドの攻撃を避けながらうめくシン。
「……ボギーワンが……」同時にインパルスのレーダーからロストするボギーワン。
「くそ!」 ――罠かよ!
それでもお目当てのストライクの姿を見つけたシンはストライクに突っかかろうとする。
四対三でめまぐるしく動くMS同士の戦闘。その中でもシンはストライクへ攻撃ができない。
そんな乱戦の中、カオスの戦闘ポッドのビームがゲイツRの右腕をとらえる。
そして一瞬止まったゲイツRの胴体にストライクのビームライフルが命中する。
「ゲイル!」
ガイアとの戦闘中、撃墜された二人目の僚友の名前を叫ぶルナマリア。
「あいつら!!」
(あいつら、ナチュラルのはずだろう!
それが奪ったばかりのコーディネーター用のMSと型落ちのMSでどうして俺らよりよく動けるんだ!!)
「あはは〜、あいつら弱すぎだぜ、な!マユ!」
「アウル、浮かれすぎだぞ。気を抜くな!まだ始まったばかりだぞ!」
浮かれ声ではしゃぐアウルにスティングの叱声が飛ぶ。
「わかってるって!」興ざめする言葉を浴びせかけられてむっとするアウル。
「あいつは俺のエモノだ!今度こそ必ず落としてやる」
今までのもやもやをストライクに対して発散しようというシン。
しかし彼がストライクを攻撃しようとしてもアビスとカオスに阻まれて思うに負かせない。
「おらおら、よそ見してっとすぐに落としちゃうよ!」
まるでブリーフィングの内容を忘れてしまったかのような言葉を楽しそうに口にし、インパルスに砲撃を加えるアウル。
「図に乗るな、アウル!ネオの言葉を忘れたのか?」
戦闘ポッドを2匹の猟犬のように使い、インパルスをスティングとアウルの距離に押し込めるスティング。
「ちぇ!わかってるよ。冗談だってば」
――この堅物め、楽しけりゃどっちでもいいじゃないかよ!
溜まっているいいようのないイライラを目の前のMS相手に発散させようとするアウル。
彼はストライクの方へ行こうとするインパルスへなぶるように攻撃を重ねる。
「は!あんたは僕が相手してやっからさ〜」
「アウル、落とすなよ。あくまでも捕獲が目的だからな」
「善処するよ。でも間違って向こうから攻撃に当たってきたら知らないけどね」
「ふざけんな!」
「ボギーワン、シグナルロスト!!」
「なに〜!!」
驚くアーサー。
「ショーン機・ゲイル機共にシグナルロストです!」
メイリンの報告に衝撃を受けるミネルバブリッジの面々。
引き続き、熱紋を4つ発見した旨メイリンが報告する。
「……カオス、ガイア、アビス、そしてストライクです!」
「索敵急いで、ボギーワンを早く!」
こちらのMSは足止めをくらい、敵の主力もどこにいるかわからない。
その表情に焦りの色が隠せないタリア。
実験艦とはいえ女性の身で艦長にまでようやく上り詰め、これからと言うときに沈められてはたまらない。
その上、今、この艦にはザフトの議長、ギルバート=デュランダルが乗っているのだ。
タリアとしてはザフトの軍艦の新任艦長としても、一個人としても彼に怪我をさせるわけにはいかない。
――いい頃合いだ。
ガーティ・ルーはのブリッジでネオは片手をあげてリー艦長とマキ副長に合図をした。
「ダガー隊発進。各自散開。」
「機関始動!ミサイル発射管、5番から8番発射!主砲照準、敵戦艦!」
ガーティ・ルーは動きだし、そのカタパルトからダークダガーL3機、ロングダガー2機がガーティ・ルーから発進する。
動き出したガーティ・ルーはさっそくミネルバでも捕捉された。
「……後ろ?」 ――まさか!思ってもいない方向からの敵の出現にあわてるタリア。
――やはり、背後だったか。
想定に入っていたとはいえこの状況にアスランは非常に危機感を感じる。
――次は何が来る?何を防げばいい?
状況を聞きながら敵の意図を考えるアスラン。
ミネルバは完全に裏をかかれてガーティ・ルーに背後をとられ、主砲とミサイルで攻撃される。
対艦戦闘と迎撃を指示するタリア。
しかし、すぐにMS5機の存在を知らされ、指示を変更する。
この状態で足を止めてボギーワンを迎撃したらMSのいい標的にされるだけだ。
「機関最大、右舷の小惑星を盾にして回り込んで」 ――足を止めるわけにも行かない、でも逃げ切れるの?
「メイリン、シン達を戻して!残りの機体も発進準備を!」
MSがなければこの状況は何ともしがたい。しかし残りの機体といっても待機しているのはレイだけだ。
あと、1機ザクはあるがパイロットがいない。
「マリック、小惑星表面の隆起をうまく使って、直撃を回避!」
「アーサー、迎撃!」
立て続けに指示を出すタリア艦長。
しかし小惑星を盾にして回り込んでいるミネルバをMSが猟犬のように追い込み、ボギーワンが後ろからねらい撃つ。
「後ろをとられたままじゃどうにもできないわ、回り込めないの?」
答えはわかってはいたが聞いてしまうタリア。
「無理です!回避だけで今は……」
「レイのザクを!」アーサーが叫ぶ。
「無理よ!これでは発進進路もとれないわ!」
八方ふさがりとはこのことか。やや、頭に血が上り気味のブリッジクルー。
――教科書通りではなくていいから強引にでもMSを発進させる方法はないのか?
たぶん何かあるのだろうが、口を挟みにくいアスラン。
そんなモノ言いたげな彼をちらりと見つめるデュランダル議長。
「この〜、前大戦の旧式MSが〜、最新鋭のザクに勝てると思ってんの!この!この!」
相手が旧式とみてかさにかかってストライクへ砲撃するルナマリア。
性能はザクの方がストライクを上回っている。スペックだけなら、それは正しいはずだ。
強奪されたガイアにちょっかいを出されているとはいえ相手はナチュラルの型落ちの旧式MS。
ルナマリアの中では劣る要素は何一つ思いつかなかった。
「私はザフトレッドなのよ、あんたらみたいなナチュラルなんかに負けるわけないじゃないの!」
自らを鼓舞するように叫ぶルナマリア。
――こいつらはショーンとゲイルの敵!なんとしても倒してやるわよ!
メイリンからはボギーワンによりミネルバが攻撃を受けているという連絡が入ってくる。
「ミネルバが!まんまとはまったって訳?」 ――早く、ミネルバに戻らなくちゃ!メイリン、待っててね!
しかし、ルナマリアのオルトロスによる射撃はガイアにもストライクにも全くといっていいほど当たらない。
元々、ボギーワン攻撃のための対艦用装備とはいえ、全く当たらないというのはルナマリアにとって心外であった。
ストライクは余裕でよけながらライフルの威嚇射撃でザクをあしらう。
ストライクの威嚇射撃にとさかにきているルナマリアにガイアが接近戦を仕掛ける。
「このどろぼうがぁ〜!」
直線的な動きでかろうじてガイアの攻撃をしのぐルナ。
「こいつ、弱いよ!弱すぎるよ!」
マユはペロリと上唇の端を舌でなめた。
赤いザクの危うい動きを見ていて余裕の笑みすら浮かびそうになるマユ。
彼女はそれまで取っていた陽動をやめて赤ザクの始末にかかる事に決めた。
「こいつ、なんでこんなに速いのよ!本当にこいつ、ストライクなの?」
移動したところに立て続けに的確に射撃され、“旧式”のストライクの予想外の強さに困惑するルナマリア。
今のところは辛うじて避けてはいるが、当てられるのも時間の問題だろう。
「キャ!」
よけて着地した足下が崩れ、慣性で廃コロニーの反対側に落ちていくルナ。
マユはそれを即座に追撃し、無防備な赤ザクをすぐ発見する。
壁面を大回りに移動してザクを探して接近しようとしていたステラ。
「お姉ちゃんは新型君のほうへ。私もこのへっぽこな赤ザコさんを片付けてからすぐ行くから」
そういってマユはステラを制し、彼女は一人でザクの始末をすることに決めた。
「マユ、大丈夫?」
「うん、これくらいなら全然平気だよ!こいつ、すんごく弱いもん」
――あの新型君よりも数倍弱いよ。
マユの表情には優越感からくるニヤニヤが止まらない。
「弱い奴が目立つ色に変えてんじゃないわよ!そんなにやられたかったの?このザコが!!」
マユはそう叫びながらストライクに気がついてオルトロスを構えたザクの右腕をビームライフルで破壊。
ひるんだ隙に接近、左腕を肩の根本から試製9.1m対艦刀でスパッと叩っ切る。
そして両腕を失ったザクを廃コロニーの壁面に軽く蹴飛ばす。
対艦刀を納め、廃コロニーの壁面に軽く埋もれている腕なしのザクの真正面に立つマユのストライク。
コンバインシールドのガトリング砲をザクのコックピットの辺りにぴたりと構えた。
「ヒッ?!!」
ザクの両腕を失い壁面に埋もれたまま追い詰められたルナマリア。
その目の前に映る、コックピット辺りに物々しい銃を突きつけている“白い悪魔”。
彼女はその姿に実戦で初めて遭遇した死への恐怖を感じてコックピットの中で年頃の少女らしくおびえていた。
「バイバイ、コーディネーターの赤ザコさん。やられたくなかったらもう少し強くなってから出てくればよかったのよ」
――コーディネーターの軍人なんて、みんなみんな消えてなくなってしまえ!
口の端に笑みさえ浮かべ、交戦能力のなくなった目の前のMSにゆっくりととどめを刺そうとするマユ。
以上です。
GJ!
余裕がなかったり、相手を見くびったり、
敵艦の位置を予想できなかったり散々ですなミネルバ組は
幻視痛キター――(゚∀゚)―――!!!
待ってたよー
きたきた
79 :
通常の名無しさんの3倍:2007/08/13(月) 15:05:07 ID:xDuV4j0n
age
幻視痛でのタリアってもしかして結構へたれ?
今晩は。十日以上ぶりのご無沙汰です。
幻視痛という作品を投下させていただいている者です。
今回、4レス分ほど投下させていただきます。
以上よろしくお願いいたします。
5機のダガーという名の猟犬がミネルバという名の獲物を小惑星という狩り場へ追い込む。
追い込まれた獲物をガーティ・ルーという名の猟師が狙う。
猟犬を振り払おうと迎え撃つ獲物。
迎撃を逃れ、散開する猟犬。
猟犬に気をとられた隙に猟師が獲物を狙う。
猟師から逃げる獲物。
逃げようとする獲物を猟犬が追い込む。
そんな光景を繰り返たあげくにミネルバは傷つき、次第に追い詰められていく。
ガーティ・ルーから逃れるために自ら選んで小惑星の表面を盾にしたはずのミネルバ。
しかし、そこに貼り付けになり、絡め取られ、次第に自由を奪われ、動きがとれなくなっていく。
隘路になっている地表すれすれを危なっかしく逃げまどう。
それがネオ達のしくんだ罠だと気がつかずにタリア達は無邪気に慌てうろたえている。
「脆すぎる……」 ――あまりにも脆すぎる。
猟犬の中の一人がロングダガーのコックピットの中でつぶやく。
彼だけは念のため、対MS用に後方での待機であったため、まだ出番がなかった。
だから、それだけの感想を述べる余裕がまだあった。
情報によれば相手は今回が処女航海。まだ進水式も行われていない状態でルーキー達の集まりらしい。
とはいえそもそもガーティ・ルー自体も特殊戦闘艦で今回が初の実戦。
その乗員は艦長を始めベテランが少なくないがチームとしての運用実績はそんなに長くない。
彼もガーティ・ルーMS部隊の数が足りないために助っ人として出航間際に臨時に配属されたくちである。
ロングダガーという扱える者が少ないMSで数を合わせていること自体からしてつぎはぎ加減が察せられる。
もう1機のロングダガーはパイロットが完全に機体に振り回されているのが後ろからも見て取れる。
「すると指揮官の技量の差か……」
訳のわからない仮面をかぶった軽めの変な隊長と前髪とサングラスで顔を少し隠してる気むずかしい女性の副官。
風体自体には言いようのないいかがわしさが伺えるが今まで見ている限り指揮には問題がない。
むしろ大胆な隊長と慎重な副官という立ち位置がはっきりしておりバランスがとれているようにさえ見える。
「自らの不幸と思って自分の指揮官の力不足を嘆くことだな、ザフトの新米戦艦の乗組員」
そのときの彼には目の前の逃げまどう敵艦を哀れむだけの余裕があった。
至近弾を浴び続け、揺れるミネルバブリッジ――
「これではこちらの火器の半分も……」
「浮遊した岩に邪魔されてこちらの砲も届きません」
もどかしげにクルーの動きを見つめるアスラン。
その彼を相手のチェスの手でも探るかの如く眺めているデュランダル議長。
浮き足立つミネルバは次第に“詰み”の状況に近づいていく。
「意外に粘りますな……」
感心したような声を出すリー。
取りようによってはこちらの指揮のまずさを指摘しているようにも聞こえる。
「あの艦の足を止めて、そしてお終いにします」
マキが二人に、特にリー艦長に向けてそう宣言する。
唐突なその発言に怪訝な表情でマキの方に振り向くリー艦長。
「敵艦が盾にしている小惑星をミサイルで攻撃!大量の岩塊で船体を埋め、敵艦の動きを停止させる」
――先に言われちゃったよ、おいおい……
ネオはそろそろやろうとしていたことをマキに言われて少ししょげているようにさえ見える。
「じゃあ、俺は出てって仕上げてくるかな。二人とも後はよろしく」
いい所を取られた気がしてせめて自らの手でとどめだけでも刺すため、エグザスへ向かうネオ。
両腕を失った赤ザクの至近距離からコンバインシールドのガトリング砲をコックピットの辺りに構えるストライク。
「ルナ!」
ルナのピンチにカオス、アビスを無理矢理振り切り、ストライクへ突っ込むシン。
体当たりせんばかりに突っ込みをかけながら砲撃をかけ、ルナからストライクを引き離そうとするインパルス。
その砲撃をよけるために一瞬、マユは赤ザコから意識をそらしてしまった。
彼女らのすぐそばであがる爆発。その余波で溝の中から解放されるザク。
――今だ!
ストライクを蹴り飛ばし、溝の中から脱出して距離を取ることに成功するルナマリア。
「チッ!」
インパルスをあしらいながらザクにビームライフルを撃つマユ。
しかし、狙いははずれてザクの頭部をかすめて“ヘルメット”を吹き飛ばしただけだった。
「あれ、遊びすぎたかな〜」
マユは軽口を叩いたが内心では結構、後悔をしていた。
“戦場で遊びすぎだ!”
そんなふうなマキの怒鳴り声をリアルに思い浮かぶ。
――まずいよ、すっごくまずいよぉ。おばちゃんに後で無茶苦茶怒られちゃうよ〜。
あくまで赤ザコを追いかけてとどめを刺すか、このまま新型君の相手をするか悩むマユ。
「シン!」
ノイズが走るモニターで、インパルスを確認したルナマリア。
「下がれルナ!」
「ごめん、シン。でも一人で大丈夫?」
両手なし、頭部のメカ剥き出し、メインカメラ剥き出しの無惨な姿のルナザク。
「ああ」
第一、今のルナマリアのザクに戦闘能力はない。
もし、いても牽制にすらならないだろう。むしろ足手まといか。
牽制のため、ブラストインパルスの持てる火器のすべてを一斉に使いスティング達の気を引くシン。
「なに?!」
「僕たちをいっぺんに相手にしようだなんてあんた、何様のつもり?!」
「あいつ、落とす……」
「あれ?」
何となく首をひねるマユ。
シンが囮になっている間に注意深く回避行動をとり、とにかくケツをまくって逃げに入るルナ。
「あいつなら、いっつでも壊せそうだし、戻っても戦力になんないだろうから、まあいいや」
――無力化したんだから任務は完了だよね……。
モニターの片隅に映るザクをチラ見したが彼女自身、自分をそう納得させてインパルスにターゲットを代えるマユ。
結局のところ、マユはザクを取り逃がしてしまった。
しかしそのため、インパルスには合計4機のMSが襲いかかることになった。
アビスとカオスが距離を取ってビーム攻撃。
よけたところにガイアが接近戦。
それを避けるとストライクがガトリング砲で、そして対艦刀で、ちょっかいを出す。
シンにとってストライク1機でも有利な相手とは言い難いのにそれが同時に4機も。
「絵に描いたようなピンチだな、やれやれ」シンは今の自分の状況にあきれるしか手がなかった。
ミネルバに接近するミサイル群。
迎撃を命令するタリア。
「でもこれは!」
直撃ではない旨伝えるブリッジクルー。
――運がいい。助かったわ。一息つけるかも。
と一瞬、安堵するタリア。
――直撃コースじゃない……。疑念を抱くアスラン。
――ミネルバは今……?!
「まずい!!艦を小惑星から離してください!!」
――敵の狙いはミネルバの動きを止めること!
「ええ?」
――何を言ってるの、この部外者は?
突然のアスランの声に思わず振り返るタリア。
そんなアスランに何か意味ありげな視線を向ける議長。
小惑星に当たるミサイル群。
そこから生み出される無数の岩塊で大きく揺れるミネルバの船体。
「艦長!右舷が……」予想してなかった大きな被害にうめき叫ぶアーサー。
急いで小惑星からの離脱を指示するタリア。
立て続けにミサイルの第2波が降り注ぐ。
上昇よりも減速して岩塊のシャワーをやり過ごすことを優先するタリア。
……それではマキの思惑通りなのだが。
「さて、進水式もまだというのに、お気の毒さま……」
ミネルバにとどめを刺すべくエグザスで出撃するネオ。
「仕留めさせてもらうとするかな」
飛び散った破片により、スラスターを破壊され、やり過ごそうとした岩塊に行く手を阻まれる。
そしてミネルバに接近するMS達とMA。
岩塊にふさがれ自慢の足を止められてしまったミネルバ。風前の灯火。
――タリアではもはや手詰まりかな。表情をかすかに曇らせる議長。
「エイブス、レイを出して」
格納庫へ指示を出すタリア
「は、しかし、カタパルトが……」
困惑する整備班長。
「歩いてでもなんでもいいから急いで!!」
タリアはやや逆上気味に怒鳴る。
「シン達は?」
「インパルス、ザクが依然アビス、カオス、ガイア、ストライクと交戦中です」
「この艦(フネ)にもうMSはないのか!」
急に声を上げるデュランダル。
「パイロットがいません!」
――今更、何を言っているのギルは……。泣き出したくなるタリア。
その声に思わず、名乗りを上げそうになるアスラン。
そんな彼の姿を楽しげに見つめるデュランダル。
カタパルトも使えずにフラフラと岩塊の間を縫い、出撃するレイのザク。
――ミネルバにはギルが乗っているんだ絶対にやらせるものか!
「スティング、こいつ、形が残ってりゃ落としちゃってかまわないんだろ?」
インパルスに近すぎる威嚇射撃をしているアウルが舌なめずりしてスティングにまた確かめてみる。
「いや、こっちはこれだけ人数がいるんだ、ネオの指示通り捕獲する」
機動兵装ポッドを操るスティングからはそんなつれない答えが返ってきた。
「わかった」
ビームライフルで威嚇し、インパルスを遠巻きに牽制しているステラが無機質な声で答える。
「わかったよ、スティングお兄ちゃん」
ストライクのコックピットの中でコクリとうなずくマユ。
「あ〜、面倒くせ。ネオも形残ってれば落としてもいいっていってただろう?」
「それは最終手段だと行ってただろう?つべこべいうな、アウル」
「そうさ、だからとっとと最終手段をとっちまおうぜ」
「ガキがつまらんことを言うな!」
「へぇ〜、僕がガキかい、スティングってば僕にそんなこといっちゃうんだ……」
「みんなならできるって!」
怒鳴り合いそうになっている二人をマユが励ます。
――落とすだけならすぐ終わんのにさ。仕方ねえな。
ぼやくアウル。
――しかし、まったくなんで大人達はそんな面倒くさいこと考えんのかね。
インパルスを落とさないのは戦闘前のブリーフィングでネオがいったとおり“大人の都合”でしかない。
ようは連合はザフトのMSの最新技術が喉から手が出るほど欲しいのだ。
ただそれだけのことでしかない。
現在、連合の主力MSであるダガーシリーズ。
これも元を正せばモルゲンレーテと連合の共同開発で作られたストライクシリーズがそのベースになっている。
当然、連合にMSの開発ノウハウが全くないというわけではない。
そもそもストライクダガーのOSの改良部分はほぼ地球軍オリジナルと言っても過言ではない。
しかしそのノウハウ自体がモルゲンレーテの技術がベースとなっているものが今も少なくない。
ところが2年前のオーブの戦禍によりモルゲンレーテの少なくない数の技術者がプラントへと流出してしまった。
MS開発の共同開発やライセンス購入に依存していた部分に大きなブレーキがかかってしまったのも事実。
(実のところ、プラントへの技術者流出を共同開発の遅れの理由にして取引材料にしていたことが後日で判明するが)
そのため、地球連合はこれまでにもひそかに裏でいくつかの手をうった。
オーブの連合寄りの氏族や軍部に、プラントへ技術者の返還を求めるよう働きかけを行うなどの。
……氏族の方は働きかけが実現した際の“交換条件”の話ばかりが先行し、結局頓挫。
……そしてオーブの軍部は軍部で非現実な話に終始し、お手上げ状態。
オーブの某軍人曰く『カガリ様が一声かければプラントへ流出した市民もすべてすぐ戻ってくるに違いありませんよ』
真っ当な思考を持つ大人の誰がそんな世迷い言を信じるだろうか。
じれたブルーコスモスがファントムペインを使ってザフトの最新のMSの強奪を計画。
ネオとマキに命令が下る。
隠密裏に実行するため、艦籍不明にしてある特殊戦闘艦ガーティ・ルーを投入する。
それが今回、この作戦が行われたことの顛末。
しかし、ネオがスティング達エクステンデッドやソキウスとして登録されているマユを作戦に使ったこと。
それ自体はネオの“わがまま”にすぎなかったが。
以上です。
ちょっとまってくれ、ロングダガーはコーディネイター用の機体だぞ
ナチュラル用のデュエルダガーが生産されたからロングダガーの生産は中止になったんだし
パイロットはもしかしてエクステンデッドか?そこらへんが気になった
SS自体は悪くない、続きを楽しみにしている
ところで質問なんだが、
ガンダム系が斧を使うのって邪道か?
ザクが使ってるからか?
別に問題ないだろう。
もし戦場で相手が残した武器を回収して使うとしても問題はないと思うし。
アビス、カオス。ZAFT最新鋭の2機が、起動したかと思うと、その武装を使い、ハンガー
の壁を破壊した。
さらに隣のハンガーめがけて、フルバーストを行う。すでに量産されている機体として
は新鋭のザクシリーズが、ハンガーとともに無残な残骸に変わり果てる。
同じくハンガーに収められていたもう1機、ガイアの起動が遅れていた。
『早くしないと、ネオに怒られちまうぜ』
『あまり急かすなアウル。全部が資料通りとは限らないし、奪った機体なんだ』
イラついた様なアウルの発言、それに対し、やや年長のもう1人──スティングが、諌
める言葉を書ける。
ようやく、アビスの動力が入り、VPS装甲が黒に近いグレーに染まる。
『おいステラ、早くしろってば』
アウルがさらに声をかける。
だが、返ってきたのは、彼らがステラと呼ぶ存在の物ではなかった。
『いい加減にしろぉっ!』
ステラも女性、少女だが、それとはすぐに違うとわかる別の少女の声。
『何!?』
『げっ!?』
アウルとスティングは、驚きの声を上げる。
ガイアはヴァジュラ・ビームサーベルを抜いて構え、アビスとカオスに対し、敵対の姿
勢を見せた。
ガイアのコクピットに収まるマユ・アスカは、怒りの形相で、2体のMSを睨んだ。
「そんなに、戦争がしたいの? アンタたちはっ!?」
機動戦士ガンダムSEED DESTINY “M”
PHASE-02 「戦いを呼ぶもの」
(A-PART)
『なんだ……ステラのヤツ……やられちまったのかよ!』
アウルは、アビスを反射的に後退りさせる。
「今すぐ機体を停止させて投降しなさい! 今のうちなら、あなた方の生命の安全は保証
します!」
マユは無線と外部スピーカーの両方で、アビスとカオスに向かって怒鳴る。
『へっ、そういうわけに行くかよ!』
『待て、アウル!』
スティングが止める暇も有らばこそ────
アビスは両肩のシールドを上げ、内側をガイアに向けた。
「!」
間一髪、マユはガイアを捻る。アビスのフルバーストが、それまでガイアのいた空間を
通り過ぎ、そして……背後で、また建物を破壊した。
『どの道、俺達まで捕まるわけにはいかねーんだ、せいぜい派手に暴れさせてもらうぜ!』
『ちっ、しょうがねーな!』
カオスも複相ビーム砲と肩部のビームポッドをガイアに向けてくる。
「はわわっ」
マユはガイアを飛び退かせる。だが、またもその先で、建造物やMSが破壊される。
────このままじゃ、マユの代わりに、誰かが犠牲になっちゃう!
「アンタ達、いい加減にしなさいよっ!」
マユは2機を睨みつけると、ビームサーベルを手に、突進する。
背中のビーム突撃砲を前に倒すと、アビスに狙いをつけて、射撃する。
『おっーととっ』
アビスはそれを回避する。だが、ガイアはその間を利用して間合いに飛び込み、ヴァジ
ュラ・ビームサーベルで横に一閃。アビスはそれを左肩のシールドで受ける。アンチビー
ムコートと刀身ビームが交錯し、バチバチバチバチ、と激しく火花を散らす。
ドォン!!
そのとたん、轟音が走った。
『なっ!?』
アウルが驚愕の目でそれを見る。
左肩のシールドに搭載されていた実体弾の連装砲が、熱とスパークで暴発したのだ。
「なにっ、考えてんのよぉっ!」
ビームサーベルを振りぬき、マユは間合いを取りながら姿勢を立て直す。
────オートバランサーの設定が甘い。
怒鳴りながら、マユは心の中で舌打ちした。
『今のは俺のせいじゃねぇっ!』
アウルも反射的に言い返す。
「それってどういう……はっ」
ロックオンアラート、斜め後ろでカオスが、ビームライフルも含めたフルバーストの体
勢に入っている。
「くっ!」
マユはギリギリを捻ってかわそうとするが、初期状態のガイアでは、どうしても動きが
大きくなる。
────でも、それはアイツらだって同じはず!
マユはそう思いつつ、見つけておいたコンソールのそれを起動した。
ガイアは瞬時に4脚形態に変形すると、グリフォン2・ビームブレイドを展開し、ビーム
突撃砲を乱射しながら2体に向かって疾走する。
アビスとガイアも射撃でガイアを追おうとする。だが、その瞬間、ガイアの左肩で爆発
が起こった。
シールドの内側に仕込んであるビーム砲が、爆発したのだ。実体弾同様、先ほどのガイ
アの打ち込みのせいだろう。肩関節は無事だが、シールドは火器ごと吹っ飛んでしまった。
『何考えてんだ、アホコーディどもはよぉっ!』
アウルが毒ついている間にも、懐に飛び込んだガイアは、再び一瞬で2脚形態に戻る。
ヴァジュラ・ビームサーベルで、カオスに斬撃を入れる。だが、オートバランサーが未
調整の為、思い切った踏み込みができないのだ。
「くっ」
『あぶねぇ、あぶねぇ』
間一髪、ガイアの斬撃をかわしたカオスは、ビームライフルをガイアに向ける。射撃。
だが、それも今度はガイアに簡単に回避されてしまう。
マユ達が絡み合っている間にも、異常事態に気づいた、他のZAFT部隊が攻撃をかけてく
る。
複数のディンが、上空からアビスとカオスに向かって射撃をかけてきていた。
『こちらLHM-BB01、ミネルバ。ガイアの搭乗者はどなたですか!?』
マユに聞き覚えのある声が聞こえてきた。
回答しようとするが、目の前で、ディンの群れに向けてアビスが射撃する。
『落ちろ! 雑魚キャラが!』
「やめなさいよぉっ!!」
マユはシールド・タックルをかけ、アビスを突き飛ばす。
「!?」
ロックオンアラート、カオスの射撃を右に捻り、跳躍してかわす。
「こちらガイア、搭乗者はアーモリー軍司令部MS教練隊所属、マユ・アスカです!」
『マユちゃん!? マユちゃんが乗ってるの!?』
無線の向こうで、マユがよく知る1人──メイリン・ホークは思わず、砕けた言葉で驚
愕の声を出していた。
だが、マユはそれどころではない。スティングは取り回しの悪いビームライフルを諦め
ると、ガイアと同型のヴァジュラ・ビームサーベルで斬りかかって来た。マユは無理に回
避せず、アンチビームコート・シールドで受け止める。激しい火花が散る。マユは自ら間
合いを詰めてきたカオスに、天頂方向から斬撃を入れる。
『くそっ!』
スティングは振り払うようにして後退りし、間合いを取る。
『だめだ、アウル、離脱するぞ!』
ビームポッドで射撃しつつ、言う。ガイアは再び4脚形態になって、近づいたり離れた
り、ジグザグの回避運動を取り、懐に飛び込む機会をうかがっている。
『けどよ、スティング!』
『ステラのことなら諦めろ! 運が悪かったんだ』
その間にもマユは転がり込むようにしてカオスの懐に飛び込み、2脚形態に戻ると、ヴァ
ジュラ・ビームサーベルを抜く。
スティングはマユが斬撃を加えてくるより早く、ビームサーベルも何もない、ただ組ん
だ手の打ち下ろしでガイアを地面に叩きつける。
『ちっ、かっこわりーけど、しょーがねーか!』
アウルも忌々しそうに言い、アビスとカオスはスラスターを吹かして、アーモリー1の
作られた空に飛び上がった。
「逃がさないからっ」
マユはガイアの姿勢を立て直すと、2機を追って飛び上がった。
『あー、あー、マユ・アスカ』
通信から、メイリンに変わってアーサー・トライン、ミネルバ副艦長の声が聞こえてく
る。
『君に正式に与えられた任務を伝える。カオスとアビスの捕獲だ』
「捕獲ぅ!?」
マユはあからさまに不愉快そうな声を漏らした。
その間にも、カオスはアビスを護衛するかのように、背面飛行でビームポッドを切り離
し、カオス本体も含めた複数の方角からガイアを狙ってくる。
「やってみますが、相手の機体の保証はしかねます!」
『保証はしかねるって君、アレは我が軍の……』
アーサーに女々しい言葉に、マユの怒りが爆発する。
「こっちは! OSの設定も終わってない機体で! 2:1の戦いをさせられているんです!
その上生け捕りなんて、無茶だって、ちょっと考えればわかるでしょう!! このエロゲー
ム脳!!!!」
直属の上官ではないことをいいことに、マシンガンのようにアーサーに怒鳴り返す。ド
サクサ紛れに秘密も暴露する。そうしながらも、身体はカオスの射撃をよけながら、2機
に向かってビーム突撃砲を撃つ。
「エロゲーム脳って……」
ミネルバブリッジでは、メイリンをはじめ、ブリッジクルーが白い目でアーサーを見て
いる。
『本気で生け捕りしろって言うんなら、まともな応援をください! ディンジンゲイツじ
ゃ、足手まといなだけです!』
マユの怒声が、ブリッジ内に響く。
「今、本艦で待機している機体は?」
タリアが艦長席の回転椅子を回して、メイリンに訊ねる。
「えっと、あ……その、お姉、じゃなくてルナマリア・ホークと、レイ・ザ・バレルの…
…2機です」
「艦長、あの2機はまずいんじゃ……」
アーサーが、困惑した表情で言った。
「この際仕方ないでしょう!? それとも、みすみすあの2機を敵にくれてやるつもり?
メイリン、2機に出撃を下令してください」
「了解、ルナマリア・ホーク機と、レイ・ザ・バレル機、出撃体勢に入ってください」
放送でメイリンの声が響き、アラートの鳴り響く格納庫で、タラップを上り、金髪の、
まだ少年といっていい美形の男性は、コクピットに収まる。
起動スイッチを入れる。OSの起動画面が出る。コンディションチェック。白いその新鋭
機は、発艦デッキへと進み出る。
「レイ・ザ・バレル、グフ・イグナイテッド、出る」
リニアカタパルトの、ガイド用LED照明が点灯する。カタパルトが作動し、白いグフ・
イグナイテッドは空へと飛び上がった。
「ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー出るわよ!」
メイリン同様の、紅い髪を持つ女性パイロットは、戦闘機の形状をしたそれのコクピッ
トで、告げる。
ミネルバ中央部の航空機用デッキが開かれ、ガイドLEDが内側から射出口に向かって順
に点灯し、リニアカタパルトがコアスプレンダーを射出した。
それに引き続き、無人機であるチェストフライヤー、レッグフライヤー、シルエットフ
ライヤーが、順に中央デッキから飛び立つ。
コアスプレンダーは垂直上昇の姿勢をとり、チェストフライヤー、レッグフライヤーと
連結し、MS形態、ZGMF-X56S、インパルスへと変形する。そこに、シルエットフライ
ヤーから分離した『グラップラーシルエット』が背中から覆いかぶさるようにドッキング
する。
左手にアンチビームシールド、左肩にも固定式のアンチビームバックラーが装備される。
手持ちシールドから、武器が取り出される。ビームソー付ヒートホーク。
当初、インパルスの開発チームは『ソードシルエット』なる、双頭剣を装備した近接戦
闘用シルエットを企画していたが、搭乗者として選出されたルナマリアの適性に合わなか
ったため、他の2種のシルエットともども、実際の設計は大きく変えざるを得なくなった
という。
閑話休題。インパルスは高推力スラスターで急加速すると、先行しているグフ・イグナ
イテッドの後を追う。
グフ・イグナイテッドのドラウプニル4連装ビームガンが、ガイアを射撃していたカオ
スを撃つ。
『はぁぁぁっ!』
ルナマリアの咆哮と共に、インパルスがヒートホークを構え、カオスに斬りかかる。
「レイお兄ちゃん、ルナお姉ちゃん!」
カオスと空中戦を演じていたマユの顔が、ぱっと明るくなる。
『待たせたな』
レイはそう言ってから、カオスのビームポッドをビームガンで牽制する。接近してきた
1機を、スレイヤーウィップで捉え、放り投げる。
「ぐぬっ」
ルナマリアの斬撃を辛くもかわしたスティングは、ビームライフルでインパルスを撃つ。
しかし、よほど頑丈なシールドなのか、構えられたそれはことごとくを弾いて見せた。
「新型は3機だけのはずじゃなかったのか、ガイアに、こんな合体野郎まで」
スティングは、カオスのコクピットで、不条理そうに呟いた。
インパルスとグフ・イグナイテッドが、カオスを抑えかけているのを見たマユは、苦笑
を浮かべた後、視線をさらに上空に移す。
青いアビスが、コロニーの壁面に向かって、ビーム兵装のフルバーストを放っていた。
マユはスラスターを吹かすと、アビスを追いかけてさらに上昇する。
「逃がすもんかぁっ」
>>90-95 えーと、以前に投下された部分なのですが、インパルスを登場させたいと思い、改訂しました。
インパルスは、ZGMF-X56S本体は本編同様ですが、ルナマリア搭乗が前提なのでシルエットの方が変わってきます。。
続けて、B-PARTも投下します。
(B-PART)
その頃、アーモリー1の周囲では激しい戦闘が行われていた。
────否、戦闘というよりは一方的な殺戮劇だった。
アーモリー1内部で異変が起き、防衛のために警備艦隊が集まってきた。
そのうち、ナスカ級の1隻が、突然何の前触れもなく爆発四散した。
宇宙港のゲートから発進しようとした護衛艦は、突如現れた、暗い塗装の砲撃型MSに
攻撃されて、無残な姿をさらす。
ゲートは塞がれ、本来お家芸のはずのZAFTのMSは、1機も出撃できていない。
圧倒的な状況になってから、それは姿を現した。
地球連合軍、戦闘艦『ガーティー・ルー』。
かつてのアークエンジェルや、今アーモリー1の中にいるミネルバに匹敵する大型艦と
は言え、単艦でここまで鮮やかな奇襲攻撃をきめ、一方的な状況を作り出すなど、ある種
の奇跡に等しい。
にもかかわらず、ガーティー・ルーの艦長、イアン・リー少佐の表情は晴れない。
「何がそんなに、気に入らないのかな、艦長」
傍らから訊ねる、顔の上半分をマスクで覆った青年。ネオ・ロアノーク。苦みばしった
中年のリーより、彼の方が階級は上の、大佐だった。リーとは対照的に、なにか妙に楽し
そうに、マスク越しにも笑っているのがわかる。
「警備艦隊の排除は上手く行きましたが、中に入った連中はいったい何をやっているんだ
と」
リーが訊ねるが、ネオは相変わらず楽しそうに笑いながら、答える。
「この程度の遅れは想定のうちさ。戦いとは、常に二手、三手先を読んで行う物だから
ね」
そういうと、ネオ青年は司令官席から立ち上がる。
「どれ、俺が出て、しばらく時間を稼いで来ようか。フネのほう、よろしく頼むぞ」
そう言って、ブリッジ後方から出て行った。
「ネオ・ロアノーク、エグザス、出る!」
「うあぁぁぁっ!!」
アビスのフルバーストが、アーモリー1の外壁を内側から撃つ。
過酷な環境に晒される為のコロニー外壁は、MSの射撃一度程度ではびくともしない。
だが、アウルは2度、3度と、1点に射撃を集中する。その点が、やがて赤熱し始める。
「やめなさいよっ」
ガイアが、シールド・タックルで、下からアビスを突き飛ばす。
「この、邪魔だぁー!!」
アビスはフルバーストをガイアに向けて乱射する。
「?」
シールドが1基爆発した影響か、アビスの射撃はガイアに軽くかわされる。
「!」
アビスがビームランスを構えて、急降下で突っ込んでくる。マユは、とっさにガイアを
捻ってかわす。
「あっ」
自身は避けたものの、アビスは、インパルスとグフ・イグナイテッドが、カオスを押さ
え込もうとしているところへ割り込んだ。
ルナマリアとレイは、反射的にカオスから飛び退く。
アウルはビームランスでインパルスに襲い掛かる。グフ・イグナイテッドの射撃を、残
っている右側のシールドで凌いだ。
スティングは、アビスと入れ替わるように急上昇しつつ、カオスを戦闘機型のMA形状
に変化させる。
ビームポッドから『ファイアビー』近距離対装甲ミサイルが発射され、グフ・イグナイ
テッドを牽制する。命中こそしなかった物の、アビスとインパルスの格闘からはだいぶ離
されてしまった。
「!!」
マユは、垂直上昇してくるアビスに対して、ガイアを構えさせようとしたが、その途端、
カオスのカリドゥス複相ビーム砲が閃いた。反射的に回避する。その脇を、MA形態のカ
オスとそれを追いかけてきたビームポッドがすり抜けていく。
「しまった!」
マユが気付いた時にはもう遅い。カオスはMA形態でのフルバーストを、コロニーの外
壁の、アウルが繰り返し叩いていた場所に撃ち込む。
「だめぇぇぇっ」
シールド・タックルをかけて逸らせようとするが、一瞬遅い。
すでに脆くなっていた外壁はボロボロと崩壊し、穴が開いた。そこから一気に、擬似大
気が流出する。
コロニー全体からすれば、軟式飛行船の気嚢を縫い針よりやや太い物で貫いた程度の傷
なので、直ちに内部の人間を致死させるようなことはない。だが、その至近距離にいるも
のにとっては別である。
「アウル!」
アウルに呼びかけつつ、スティングは自ら、そして、
「うわぁぁぁぁっ」
マユは強制的に、空気の濁流に飲み込まれ、外、宇宙空間に押し出されてしまう。
ガイアは地上用を意識したMSでが、宇宙空間での仕様も盛り込まれている為、直ちに
どうこうという事はない。だが、外でも戦闘が続く可能性はある。
「マユ!?」
「マユちゃん!?」
レイとルナマリアの注意が、一瞬押し出されるガイアに向いた。その瞬間。
ドガッ
「ぐっ、しまった!」
衝撃に、ルナマリアが言う。アビスはインパルスを蹴飛ばすと、アビスを追いかけるよ
うに、破口から外へ逃げていった。
『ルナ、俺はすぐに追う』
「解った、お願い」
レイの言葉に、ルナマリアは同意する。レイはすぐに上昇して、破口から外へ出て行っ
た。
「ミネルバ、ブラストシルエットをお願いします」
「か、艦長……」
ミネルバのブリッジでは、ルナマリアからの送信に、アーサーが顔色を悪くして、タリ
アに振った。
「許可します」
タリアはそう言ってから、艦長席を振り向かせた。
「もはや軍機をどうこう言っている場合ではないわ」
強い調子でアーサーに向かって言った後、タリアは視線をさらに、指揮官席に移す。
「それでよろしいですね、議長」
そこには、大混乱の工廠地区から“避難”してきた、デュランダルの姿があった。
デュランダルは深く頷くと、言った。
「この場での指揮は、君に任せるよ」
タリアは頷き返し、椅子を戻した。
「ブラストシルエット、発進!!」
シルエットフライヤーが、新たなシルエットを抱えて、中央フライトデッキから飛び立
っていく。ほぼ垂直上昇で、インパルスを目指す。
それと入れ替わるように、ミネルバの右舷MSデッキに、1機のゲイツRが着艦した。
この外にも、ミネルバには、比較的無傷のゲイツRやジン・ハイマニューバ、バビが集ま
ってきている。だが、その機体だけは、事情が少し違った。
コクピットが開き、降りてきたのは、ひと組の男女。そもそも単座のゲイツRに2人乗
っていること自体がまず異常だ。加えて、その2人はZAFTの軍服を着ていない。ヤキ
ン・ドゥーエ戦役以降、ZAFT軍組織はプラントの正規軍という立場になっている。軍装
をつけないでの戦闘行為は許されない。
「なんだ、貴様らっ」
整備班の人間が、サブマシンガンを構え、銃口を彼らに向けながら問いただす。
モスグリーンの、ZAFT一般兵のパイロットスーツを着た、濃い目の栗毛に金髪のメッ
シュが入った少女。護身用の拳銃を構えつつ、整備班の人だかりを割って、先頭に立つ。
「何者ですか、あなた方は?」
口調こそ丁寧だが、険しい調子で、睨みつけるように訊ねる。
「あ…………」
女性の方が困ったように声を上げかける。そして、僅かに間が空く。
前に出ようとした女性を、男性の方が腕で制した。そして、男性も険しい表情で言う。
「こちらはオーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハだ。自分は随員のアレックス・
ディノ。デュランダル閣下との会談中、この事件に巻き込まれ、避難もままならず、護身
のためにこちらのモビルスーツ1機を拝借した」
「オーブの、代表」
女性パイロットは、銃口を下げる。整備班も戸惑いつつ、それに習うように銃口を下げ
た。
「代表はケガをされておられる。治療と、それとデュランダル閣下とのコンタクトをお願
いしたいのだが」
アレックスが言った。
女性パイロットは周囲を見渡すようにして、整備班員達を下がらせてから、敬礼した。
「失礼いたしました。私はアーモリーシティMS教練隊所属、ミレッタ・ラバッツです。
ひとまずはお怪我の手当てを。医務室にご案内いたします」
そう言って、数人を付き添いに、それ以外の人員を散らせた。
「まいったな……どうしよう」
マユはガイアの首を振らせ、周囲を見渡す。コクピットの中で、マユ自身も首を振り返
らせる。
ステラは時折「う、ぅん……」と声を出す物の、目覚める気配はない。
「まいったな……どうしよう」
同じ言葉を、もう一度繰り返す。
「まさかステラが失敗するとはね。運命の女神の悪戯でもあったかな」
紅いモビルアーマーが、アーモリー1外壁に貼り付き、静止していた。そのコクピット
で、ネオが口元を険しそうに歪めつつ、そう呟いた。
本当に冗談みたいな偶然で、マユがガイアのコクピットに収まったと知ったら、ネオは
どんな反応をするだろうか。
「とにかく、アウルとスティングだけでも回収しなければな」
モビルアーマー、エグザスはアーモリー1の外壁から離れると、メインスラスターを点
火して、ガイアにその機首を向ける。
「っえっ?」
鳴り響くロックオンアラートに、モニターを注視する。だが、敵の姿は何処にいるか判
別がつかない。とにかく狙い撃ちされないよう、前転するように方向を換え機動させる。
『マユ、気をつけろ』
ほんの一瞬前までマユがいた空間を、無数のビームが複数の方角から貫く。
「なにっ、これっ……!? ドラグーン……?」
エグザスの搭載する機動ビームポッドは有線式のガンバレル、4基だが、マユには無数
のビームポッドが周囲を飛び回っているように感じた。
それを、1発1発、紙一重でかわしていく。
「ガイアの想定稼働時間、あと300!」
ミネルバのブリッジでも、メイリンの声が高く響く。
「止むを得ません、ミネルバ、発進します!」
タリアがそう宣言、下令した。
「しかし、艦長……」
「ガイアだけでも回収しないわけには行かないわ」
困惑げな表情で言い返すアーサーに、タリアは毅然とした口調で言い返した。
「議長は、下艦なさってください」
指揮官席に座っているデュランダルに、タリアはそう告げる。
だが、デュランダルは険しい表情で、言い返した。
「タリア、とても報告を待っていられる状況ではないよ。私には権限もあるし義務もある。
私も行く。許可してくれ」
タリアは難しい表情をしつつ、
「議長がそうおっしゃられるのでしたら、私には止める権利はありません。ただ、戦闘状
況だということは、覚悟なさってください」
そう言って、椅子を正面に戻した。
「ありがとう、感謝する」
デュランダルは、薄く微笑み、そう言った。
「LHM-BB01、ミネルバ、発進します。ロック解除、ゲートは進宙シークェンスを開始し
てください。主機関始動」
就役式を行うはずだった、無蓋の宇宙船ドックの底部ゲートが開き、ミネルバは沈み込
むように、ドックのアームから離れていく。
『本艦はこれより、発進します。全ての要員は所定の位置についてください』
放送が流れる。医務室へと向かう通路でも、揺れで艦が動き出した事がわかった。
「外に避難するのか……このコロニーの損傷は、そんなにひどいのか?」
カガリは戸惑ったような声を上げる。
アーモリー1の乾ドック群用底部ゲートは、内部側の気密シャッターが閉じられ、外部
シャッターが開かれる。
「コンディションレッド発令、総員戦闘配置!」
艦橋で、タリアが下令する。メイリンが艦内放送で、続けて流す。
『コンディションレッド発令、各員所定の位置で待機してください。繰り返します……』
放送と共に、随所に取り付けられた簡易ディスプレィが、即時戦闘態勢継続を意味する
コンディションレッドを表示していく。艦内にアラートが鳴り響く。
「戦闘に出るのか、このフネは!?」
通路でそれを聞いたアレックスは、顔色を変えて、問いただした。だが、ミレッタも、
付き添いの整備員も、戸惑う事しかできない。
「アスラン!」
思わず、カガリがその言葉を口にしていた。
「アスラン……?」
しまった、というように、カガリは慌てて口を抑える。
だが、それを聞いてしまったミレッタは、さらに表情を険しくし、睨みつけるような顔
を、アレックスに向けた。
「アスラン……ザラ…………!?」
>>97-103 御無沙汰しました。
ミレッタについては、自身が別スレで書いていた前の作品から引っ張ってきました。
立ち位置はショーンやゲイルだと思ってください。簡単に殺しはしませんが。
∧||∧
( ⌒ ヽ 正直スマンカッタ……
∪ ノ
U U
∧||∧
・゚・( ⌒ ヽ・=y ターン
∪ ノ ̄
∪∪
アー・・・レスがつかないのは気にしてもしょうがないぞ、罵り藍がひど言うえ梅荒らしがスレを潰してROM戦の住人も減っただろうし
まとめサイトでも投下できるから2ちゃんから撤退しようかってのもあった
ほんとに評価してもらいたいならまじめに新人スレ辺りで投下すれば?このスレで投下したいなら頑張って書き続ければいいさ
GJ
見てますんでがんばってください
今来ました!GJです!
シルエットが変更しているインパルスの別シルエットが気になります
あと、マユはこのままガイアの専属になるのか、それとも機体乗換が多くなるのかも気になります
今晩は。十日ほどのご無沙汰でした。
幻視痛という作品を投下させていただいている者です。
今回、3レス分ほど投下させていただきます。
以上よろしくお願いいたします。
「わかったよ、捕獲すりゃあいいんだろ?りょ〜かい」
可愛い“妹”の励ましに斜に構えながらもスティングとの口論をやめるアウル兄。
インパルスへのビーム攻撃はやめていなかったが。
「うん、そうだね」
ステラも牽制攻撃を行いながらコックピットの中でうなずく。
「決まりだな」
機動兵装ポッドを操りながらスティングが話をまとめる。
「じゃあ、私が囮になるから、適当なところでお兄ちゃん達は新型君の動きを止めて」
マユがまた囮を買って出る。
「バカ!!!なんでチビのお前が囮なんか。ふざけんなよマユ!!!」と思わず怒鳴るアウル。
「バカでもふざけてるわけでもないもん。あんたこそ下がっててよアウル!
それにMSに乗ってるんだからチビかどうかなんて関係ないでしょ!」
また一定の距離を取るとガトリング砲を新型君のコックピットにこつこつと当て始める。
アウルに怒鳴った割には心の中ではまったく彼に怒りを覚えていないマユ。
――チビ、だって……なんかなつかしいなぁ。
クスリと笑うマユ。
――アウル、私のこと、最初会ったときにもそう呼んでたもんね。
あのときからずっと突っかかってきていた。最近は突っかかってくる数はめっきり減ったが。
――でもチビだってMSに乗ればマキおばちゃんやみんなの力になれるからね。
「てめえ!」 ――マユ、てめえはよ、この僕に守られてりゃいいんだよ!
そういいたくてもいえなかったアウル。
「アウル、下がってろ。機会を待て。ステラはマユのフォロー」
「わかった」ステラが答える。
「アウルと俺は新型が逃げないようにヤツを包囲する」
「……はいはい」ふてくされつつも従うアウル。
――危なくなったらその役目、僕が勝手に横取りするからな、ちびマユめ。
イライラしながらストライクの動きを見つめるアウル。
「こ、こいつ、また!」
「今度もまた私が相手だよ、新型君♪」
また、微妙な距離を維持しつつインパルスにダメージを与え始めるマユ。
「こんどはあんたの思惑どおりになんか行くかよ!!今度こそ落としてやる!!」
今度は距離を詰めることに専念し、ジャベリンで攻撃するシン。
「パワーならインパルスのほうが!」
やはり今回も力で押し込んでも受け流されるインパルス。
「こいつ、どうして!?」
焦るシン。
「動きにぶいよ。新型君♪」
こちらは2度目の対戦で、余裕があるマユ。
なるほど最新鋭のインパルスに力押しでは勝てない。
おそらく単純な機体の反応速度もインパルスの方が上だろう。
しかし、何故かいわゆる“後の先”がとれているストライクはスピードではインパルスに勝る。
「そんな、馬鹿なことあってたまるかよー!」
――やっぱり、レイがいうようにこいつ、キラ=ヤマトなのか?
――だったら絶対に俺が落としてやる。マユの敵だ!
「あんたはいったいなんなんだよぉ!!」
ストライクの動きについて行こうと必死になるシン。
しかし、振り回され、いなされて、そしてまたコックピットを一点集中攻撃される。
そしてストライクを相手にしていたシンは、ふいに背筋にぞわりとした寒気が走った。
このストライク、何かがおかしい。
MSにしては違和感がある、妙だ。
そうだ、動きが滑らかすぎるんだ。
今のストライクとインパルスの動きを時計にたとえるならばインパルスは秒単位のデジタル表示の時計。
このストライクは秒針にカチカチという動きのない高級なクオーツ時計。
それぐらい動きの滑らかさが違っているように見える。
そうか“決めポーズ”が見えないんだ。
普通、C.E.時代のMSにはいわゆる“決めポーズ”というモノが存在する。
それはコンピュータによりパターン化され、一瞬制止する制御姿勢そのもの――
そしてその動作から別の動作に移る間に入る“切り替え”の時に発生する、止まったように見える瞬間――
その止まったように見える2つの間(ま)のことを“決めポーズ”と呼んでいる。
よって同じMSは同じ姿勢で止まっているように見えるというシーンが戦闘中にも多々発生する。
ようするにMSの動作をすべて人間が操作しているわけではない。
コンピュータによるパターン化された動きが相当数存在する。
動きをパターン化することにより、人の操作を簡略化しているのである。
特にナチュラル用のMSはコーディネーターのそれよりもソフトウェアに対する依存度がきわめて高い。
そのため、コーディネーターのそれより動きが多くパターン化されており、“決めポーズ”も多い。
余談ながら通常のMSよりも遙かにハードな動きやOS自体に高度な処理を要求されているらしいフリーダム。
あれも“決めポーズ”が多いらしい。
しかし、ナチュラルが動かしているはずのこのストライクには逆にその“決めポーズ”がまったく見られない。
全く余計な動きがない、すなわち“最短距離”で機体を動かしている、ということにもなるが。
だが、実際にそんなことが可能なのか?
動きとその切り替えパターンをソフトウェアに全てあらかじめ登録しておき動作の切替を限りなくゼロに近づける?
それとも人並み外れた、いや、人ではできないような反射神経や処理速度でMSの動作をすべて人間が制御する?
すべての行動パターンを読み取る、突出した、超人的なプログラミングを行う?
どの方法をとっていたとしても全くの不可能とまではいえないが至難の業といえよう。
その為に調整された、いや、それに特化したコーディネーターや強化人間でもいればできるかもしれないが。
また、シンの背筋にぞわっと寒気が走った。
このパイロットは化け物だ…
いちいち曲がりくねった路地を走っている車とまったく他の車のいない一直線の高速道路を走る車。
この2台がタイムトライアルを競っているようなものだ。多少の機体性能の差など意味をなさない。
勝てない、相当なアドバンテージがないと勝てない。今の俺じゃ、ムリだ。
シンは目の前のストライクに恐怖を感じた。
今のシンは気がついていない。
それを感じられる彼もまた、並外れて優れた素質を持つパイロットだということを。
岩山に押しつぶされ、足を止められたミネルバから白いモビルスーツがはい出してきた。
「お〜お、さっきの白い坊主君か。こいつはやっかいだな……」つぶやくネオ。
――まあ、囮の方に全部食いつくとは思ってなかったけどな。よりによって残っていたのがこいつかよ。
「ダガー隊、MSにはつきあうな。大物への攻撃に集中しろ。
もしMSが接近してきたら散開して逃げろ。奴は“助っ人”と俺が相手をする」
ネオはエグザスで白いMSに接近しながらガーティ・ルーMS隊に指示を出した。
「あれ?俺ですか?」一応はとぼけてみる“助っ人”。
「さっきのブリーフィングでいっといただろう?今までなんのため後方待機してたんだよ」
「ああ、そうでしたね」
――いやあ、単なるいつもの仲間はずれかと思ってましたがね。
ミネルバに一番接近していた“助っ人”のとは違うもう1機のロングダガーに狙いをつける白いザク。
「ギルはやらせない!」
あたふたと逃げ出す狙われたロングダガー。
「おい、そこのロングダガー、追加武装をパージしろ!
一端目くらましして、身軽にしてそいつから逃げろ!」
ロングダガーをかばうべく白いザクが攻撃できる位置まで接近しようとするが間に合わない。
その前に助言する“助っ人”君。
実際、パージして身軽な方がいいのか高機動を維持していたほうがいいのかは判断によるが。
――だいたい、たいした腕もないのにそれに乗ってんのが運の尽きなんだろうな。
ナチュラル用のを元にOSを調整したとはいえ、“並のパイロット”には扱いづらい機体であることには代わりがない。
「それじゃ、フネを攻撃するのはライフルだけになっちまうよ」
「どのみち、あんたじゃその機体は満足に操れんでしょう?!」
「うるせえ、さっきだって何とかしたんだ。それにこいつくらい俺だって相手に出来る。
てめえは俺らと違って半分こいつらのお仲間だからそんなたいそうなことがいえるんだろうがよ!」
――結局そこですか。心の中で突っ込みを入れる彼。
彼はさっきは普通のダガーだったが機体を半壊させたので乗り換えている。
以前からロングダガーに乗っていた“彼”とは違うのだ。
後方で待機していたため、ミネルバから出てきたザクとの距離が遠く、細かい岩塊に遮られてすぐに対応が出来ない“彼”。
ようやくなんとか射角を確保し白いMSを妨害しようと肩のキャノンで牽制射撃をするが軽くよけられてしまう。
当然の事のように白いザクにライフルで撃墜されるロングダガー。
「ぎゃ〜!frtぎゅhじおこlp」
断末魔の悲鳴とノイズが聞こえる。
「くそめ!」 ――だからいっただろう!
もう聞いているはずのない相手に心の中で毒づく。
「おい、“助っ人”君!」
エグザスから通信が入る。
「はい?」
「MSをこっちへ引きつけるぞ!俺が奴の気を引くからお前がとどめを刺せ!」
「普通、逆じゃないですか?MSを囮にしてガンバレルでとどめでしょう?」
「何故かアイツとは俺、相性悪いみたいなんでね。俺の攻撃は全て読まれてるみたいなんだよ」
「そいつぁ難儀ですね」
エグザスは彼の答えを聞かずにビームガンバレルを展開。
デブリの中、レイのザクに四方から攻撃を仕掛ける。
全て見切ったように避け、反撃まで行う白いザク。しかしあまり実戦慣れしているようにも見えない。
――なるほど“手が合う”ってやつかな。
彼は岩陰に隠れて移動し、ポジションを取りながら、白いザクを攻撃するタイミングを計る。
以上です。
乙。
うーん、個人的にはシンは執念と経験(とブチ切れ)でのし上がってく印象で
類稀なる素質ってな感覚はなかったのでそこ気になったのですが
その辺は書き手さん次第ってことですかね。
全体的に負け必至なふいんきが漂ってますが
どう転ばせるのか楽しみにしてます
久しぶりに来たらかなり更新されてる
みんな等しく乙にGJさ
保守
保守
幻視痛氏投下乙です。
「ど、どうすればいいのっ」
言いつつ、アラートにしたがって回避、もしくはシールドで受け止める。一見適確に攻
撃を避けているようにも見えるが、攻撃に出れない、踊らされているだけだ。
『マユ』
「レイお兄ちゃん!?」
通信に入り込んできたレイの声に、マユは表情を輝かせる。
『防戦一方ではやられるだけだ、このパイロットは普通とは違う!』
冷静なレイの、険しい声が聞こえてくる。
「よし、なら、一番安全な場所は……」
マユはガイアにシールドを構えさせ、スラスターを全開にすると、エグザス本体に向か
って飛び出した!
機動戦士ガンダムSEED DESTINY “M”
PHASE-03 「予兆の砲火」
(A-PART)
『マユ! 思い切りがよすぎるぞ!』
言いつつ、レイはグフ・イグナイテッドのドラウプニル・ビームガンで、マユを追うガ
ンダレルを掃射する。
レイの機体の至近を通り抜けた1機が、命中を受けて四散した。だが、残りは猛スピー
ドで、ガイアの後を追う。
ガイアは宇宙空間での機動性も決して低くはないが、基本的には陸上用を主観に置いた
MSである。ガンバレルはそれほど難しくもなく、ガイアに追いついていく。
ロックオンアラートが、コクピットの中に鳴り響く。
マユが、サブモニターのディスプレィにバックカメラを写した時。
ガイアを追ってきたガンバレルに、ビームの雨が降り注ぎ、2機が爆発する。残りも進
路を変えた。
『マユちゃんごめん、遅れた』
ルナマリアの、緊張感のない声が聞こえてくる。ブラストシルエットを抱えたインパル
ス。左肩にM2100F『ユニコーン』360mmビーム・フルオートリボルバーカノン、右肩に実
体弾の120mm高初速ガトリングライフル。
当初のブラストシルエットのコンセプトでは、単発の高出力ビーム砲とミサイルによる
ピンポイントに火力を集中させる物だったが、搭乗者──つまり、ルナマリア──の適性
を評価した結果、これには向かないことがわかった。そこで、1発の威力を落としつつ、
“面”で制圧する火器が採用されたのだ。
「ううんルナお姉ちゃん、助かったんだか、らっ!」
エグザスにタックルをかけようとするが、それは避けられてしまう。しかし、急反転さ
せると、ビーム突撃砲でエグザスを撃つ。
1発、2発。2発目で、エグザスの腕状に取り付けられているレールガンの1基が、根元を
掠められて、そのまま脱落した。
「クッ、あのパイロット、大胆な……パイロットごと鹵獲したいほどだが」
ガイアはビームサーベルを構えなおし、エグザスを追ってくる。グフ・イグナイテッド、
それに不明の新型機(インパルス)も追ってくる。
「くっ」
さらに、新型艦の姿まで見えた。
「気密正常、FCSコンタクト、全機構異常なし」
ミネルバブリッジ。男性オペレーターの声が響ま。
「敵の捕捉急いで! ガイアとインパルス、グフの位置も」
タリアが吼える。
「水平12度、上方30度、距離150、敵艦と思しきエコー発見!」
メイリンの声が響いた。
「それが母艦か」
眉間にしわを寄せ、デュランダルが呟く。
「ガイア、インパルス、グフのシグナルを受信。水平5度、上方20度、距離120!」
メイリンが、立て続けに叫んだ。
「通信は!?」
タリアが、メイリンを振り返って言う。
「無理です、電波、粒子共に障害激しく、不能です」
メイリンは雑音が支配するレシーバーに手を当てつつ、タリアを振り向いて言う。
「敵の数1、でも、これは……モビルアーマーです!」
「モビルアーマー?」
思わず聞き返したのは、デュランダルだった。
「主砲戦準備! ブリッジ遮蔽!」
タリアが宣言すると、リフト機構を持つミネルバのブリッジが、装甲の中に潜り込んで
行った。
「アーサー、何してるの!?」
タリアが叱責する。副長のアーサーは、相変わらずメイリンの傍らでボケーっとしてい
た。
「あ、ああっ」
ようやく我に返ったのか、慌てて副長席に着く。
「エロゲ脳ね……」
離れていくアーサーをジト目で見ながら、メイリンは小声で呟いた。
「主砲戦準備、トリスタン、イゾルデ起動! ミサイルランチャー、ライトハンド装填!」
ミネルバの砲塔がせり出す。ミサイルランチャーのカバーが開き、ライトハンド・対艦
ミサイルが装填された。
「タリア、彼らを救出するのが先ではないのか?」
指揮官席のデュランダルは、不思議そうに訊ねる。
「そうですよ。だから母艦を撃つんです」
振り返って微笑みつつ、タリアはデュランダルに言った。
「敵を引き離すのが、一番ですから」
タリアは言い、再び険しい顔で正面を向いた。
「敵艦、有効照準内に入りました!」
操舵手と並んで座る砲撃手が声を上げる。
「ライトハンド発射!」
アーサーの声と共に、16発のライトハンドが、敵艦──ガーティー・ルーに向かって発
射された。
「全火器(オールウェポン)、撃ち方自由!」
タリアの声と共に、砲撃手は斉射のトリガーを引く。
両舷のトリスタンから、高荷電ビームの火線が、ミサイルを追い抜いて、ガーティー・
ルーに迫る。
「敵の新型か……むっ!?」
ちょうど、リーがミネルバの姿を視認した時、ロックオンアラートがガーティー・ルー
の艦橋に響いた。
「回避ーッ!!」
ガーティー・ルーが緩いロールをとり、トリスタンのビームが僅かに逸れていく。
ライトハンドミサイルは向きを変えガーティー・ルーを追っていく。ガーティー・ルー
の対空火器『イーゲルシュテルン』が、綿密な火線を作り出し、ライトハンドを撃墜して
いく。
爆発によって揺さぶられた物の、ガーティー・ルーに目立った損傷はない。
「エンジンを狙って! 脚を止めるのよ!」
「は、はい!」
タリアの声に、操舵手が慌てて返事をする。
「このままでは、もっと面白くない事になりそうだ」
エグザスのコクピットで、ネオはちっ、と舌打ちした。
情報を掴んだ、ZAFTのセカンドステージシリーズ3機強奪のはずが、1機は強奪に失敗、
1機は大破。エクステンデットの“最初の完成型”3人を投入しておきながら、1人を喪失
した。ならばせめて強奪に失敗したガイアと、もう1機の新型の首を手土産にとも思った
が、それさえかなわないらしい。
「はぁぁぁぁーっ!?」
ビームサーベルを腰だめにして突撃してくるガイア。このパイロットだ。どうやってス
テラを倒したのかは知らないが、技量はともかく動きひとつひとつが大胆だ。将来おお化
けする可能性も高い。
ギリギリでのスナップ・ロールでガイアの突きをかわす。
「縁があったらまた会おう、それまでに死んでいなければだがね、主に俺がね」
ネオは口元で笑みを浮かべながら言い、エグザスをガーティー・ルーに向けた。
「あ、待てっ」
マユがガイアに構えなおさせた時。
ポーン、ポーン、ポーン!!
3色の高輝度信号弾が上がった。上げたのはミネルバ。ZAFT軍組織で母艦への帰艦を指
示するものだ。
『ええっ、帰艦信号〜!?』
『命令だ、帰るぞ、ルナマリア』
驚いたような声を出すルナマリアと、それを冷静に諭すレイの声。
「はぁ、はぁ……はぁぁ〜」
当のマユは、エグザスが離れ、帰艦信号を見るなり、緊張の糸が緩んで、ガイアのシー
トにくてっ、ともたれかかってしまった。
ガイアをミネルバに向けつつ、それまで先頭に夢中で忘れていた事を、ふっと思い出し
た。
デッドスペースに押し込んだステラを見る。
シートに据わっている状態ではなく、あれほどの戦闘機動をガイアに繰り返させたにも
拘らず、ステラは僅かに痣ができた以外は、外傷らしい外傷を負っていない。
普通はあれだけやれば、良くて血まみれ、平均的なナチュラルなら打撲内出血過多で死
亡してもおかしくない。ステラの身体が踊らないよう、配慮はしたが……
エグザスは、ガーティー・ルーの右舷デッキに収容される。
『エグザス収容!』
自らも破損したエグザスは、転げるようにガーティー・ルーのデッキに収まった。
「撤収するぞ、リー!!」
エグザスのコクピットで、ネオは叫ぶ。
「敵、離脱します!」
ミネルバ艦橋、男性オペレーターが声を上げる。
「インパルスとガイア、グフは?」
「収容中です、全機着艦まであと3分」
タリアが訊ねると、メイリンがすぐ答えた。
「急がせて! このまま一気に敵艦を叩きます! 下げ舵30、ただし推進方向は現在を維持!
引き続き撃ち方自由!」
両舷のMSデッキを開いたまま、ミネルバはトリスタンを撃つ。更にライトハンドを発射
する。
「すまんリー、手間取った」
ガーティー・ルー艦橋。
「3対1とは言え、大佐ほどのパイロットをここまで翻弄するとは」
「どうやら、相手も只者じゃなかったらしい。早々上手い話は転がっていなかったな」
ネオが苦々しい顔で言う。リーは更に表情を引き締めた。
「敵艦、ミサイル発射!」
「回避! 取り舵27!!」
イーゲルシュテルンが、次々にライトハンドを撃墜していく。しかし、最後の方は距離
が近すぎ、その爆発の衝撃がガーティー・ルーの艦体にも伝わった。
「両舷の予備推進剤タンクを分離して爆破! アームごとでいい!」
ネオは、指揮官席に着く手間すら惜しんで、怒鳴る。
「敵の鼻っ面に食らわせてやれ! 同時に上げ舵30、取り舵20、機関全力!」
ミネルバ格納庫。
「マユちゃん、大丈夫?」
ヴィーノが、開いたガイアのコクピットを除いて、そう訊ねる。
「って、その子、なに!?」
マユは、自分よりも大きなステラを抱いて、ガイアから降りてきた。
「えっと、とにかく医務室!」
マユは、ヴィーノを振り切って、キャットウォークから居住区の方へと向かった。
「マユちゃん?」
扉をくぐろうとしたマユを、ルナマリアが呼び止めた時。
ズドドドドドドドッ!!
強烈な衝撃が、ミネルバ全体を包んだ。
「きゃぁ〜!!」
「うわぁっ!!」
マユはステラを抱えたまま、ルナマリアと共に転げまわった。
ルナマリアは背中を強かに打ちつけたところで、更にそこへステラとマユが飛び込んで
くる。ステラの頭はルナマリアとマユの胸にサンドイッチになった。
「ん、んぅ〜」
気を失ったままのステラは、子供が母親に抱きつくように、マユに抱きついてきた。
「あわわわ、ステラさんっ」
マユは顔面にステラの胸を押し付けられ、視界を遮られ、おろおろとする。
「ん〜、なんだか傷ついちゃうわね〜」
ルナマリアは起き上がりながら、むすっとした表情でそう言った。
「ルナお姉ちゃん、今はそんなこと言ってる場合じゃ〜」
「あ、そ、そうね。医務室……」
艦橋。
「まだ回復しない!?」
「待ってください!」
男性オペレーターが声を上げる。
推進剤が熱量のある粒子となってばら撒かれ、一瞬、ミネルバのほとんどのセンサー類
が能力を失っていた。
「見つけました! 右方6度、上方88度、距離500」
「逃げた!?」
てっきり反撃してくると思っていたブリッジクルーは、距離が離されていた事に、少し
驚いたように声を上げる。
「こんな手を使って逃げるなんて……なんて連中」
「大分手強い部隊のようだな」
タリアの呟きに、デュランダルは背後から声をかけた。「ならばなおの事、このまま逃がすわけには行きません」
タリアは椅子ごと振り返りながら、言う。
「そんな連中に、カオスとアビスが奪われたとなれば」
「ああ」
デュランダルも頷く。
「この火種、放置すればどれほどの大火になるか……私も、そんな事態にはしたくない」
「しかし、このままでは退艦頂く事も出来ませんが、よろしいですか?」
タリアは、デュランダルに訊ね返す。
「構わんよ」
デュランダルは言う。
「あの敵艦の拿捕、もしくは撃沈は、現時点の最優先項目だ」
「ありがとうございます」
そう言って、タリアは座席を正面に戻す。
「まだ、トレースできてる?」
「はい!」
タリアの問いに、男性オペレーターが答えた。
「それでは、本艦はこのまま不明艦の追撃を開始します。不明艦を01と規定。今後ボギー
01と呼称。機関全速、追撃を開始せよ」
タリアの命に、ミネルバの推進スラスターが全開にされる。増速して、ボギー01──ガ
ーティー・ルーを追い始めた。
「ブリッジ遮蔽解除、接触まで状況をコンディションイエローに移行」
ブリッジが開放状態になる。
『全乗組員及び搭乗員へ。本艦はこれより、不明艦の追撃戦へと移行します。想定外の初
陣となりましたが、総員、日頃の訓練の成果を存分に発揮、奮闘を期待します』
メイリンの声が、艦内に響く。
「なんだって!?」
カガリと共に医務室にいたアレックスは、天井を見上げて、思わず声を上げる。
『なお、これより当該不明艦を、ボギー01と呼称します』
メイリンの声が続く中、医務室の扉が開き、ルナマリアと、ステラを抱えたマユが入っ
てきた。
「ルナと、……マユちゃん」
緑服のパイロット、ミレッタは、マユの姿を見るなり、驚いたような声を出した。
「ミレッタお姉ちゃんもミネルバに。あれ、そっちのひとた……方々は」
マユは頭をずらして何とか視界を確保しつつ、医務室にいた面々を確認した。
そして、カガリを見た時、その瞳がきつくなる。
「あなたは……っ!!」
>>119-124 行数計算ミスってみっともない事に。
しかしマユ、兄貴より腕良くないかい?
いえ、実は意識してそう書いてます。
乙です
127 :
通常の名無しさんの3倍:2007/09/13(木) 22:10:08 ID:vg3LNcNW
>>125 GJ!
次は、いつぞやの拾った鉄扇でカガリ撲殺未遂から……?(^^;ゞ
今晩は。3週間ほどのご無沙汰でした。
幻視痛という作品を投下させていただいている者です。
前回から非常に間が開いてしまい申し訳ありません。
今回も3レス分ほど投下させていただきます。
以上よろしくお願いいたします。
シンは自らが操縦するインパルスの動きをもどかしく思いながらもなんとかストライクへ対応しようと藻掻く。
ストライクには適当な距離をとられてまたガトリング砲での一点集中攻撃される。
それを避けて距離を取ろうと試みてもアビス、カオス、ガイアから牽制攻撃を受ける。
そしていつの間にかストライクの距離に引き戻されている。
アビス、カオス、ガイアが作る輪の中でストライクに翻弄されるインパルス。
まるでインパルスが集団でのいじめに遭っているかのようだ。
――インパルスがこいつに勝っているのはパワーだけなのか?
――腕は今の俺よりも完全にヤツの方が上だ。
――いや、何かあるはずだ。何か手が。
――何故かこいつらはインパルスをすぐに落とそうとは考えていないらしい。今のうちになんとか。
そんな断片的な思考が頭をよぎる。
ストライクのガトリング砲による攻撃でインパルスのコックピットがまたガクガクと揺れる。
その振動がシンの思考をまとめさせてはくれない。
そのうち計器類も悲鳴を上げ始めることだろう。
シンはまたもや前回同様かすかな嘔吐感と耳鳴りに悩まされている。
前回と違うのはジャベリンのおかげで少し攻撃距離を縮められること。
しかし重武装のせいで相手に都合のよいポジションをとられやすいこと。
そして今のシンにはストライクに対して不快感も侮りの気持ちがないこと。
何よりも、目の前の敵が純粋に強いやつだと、勝ちたい相手だと、そう思っていることだけだった。
機体の揺れよりもひどく目の前のコンソールが徐々にゆがんで見えてくる。
被弾している振動音よりも耳鳴りの方がひどくなってきている。
もどかしさ故の不快感よりも吐き気の方が強くなってくる。
俺、だめなのか?
もう限界なのかよ……
負けたくない、こいつには負けたくないんだ!
シンは朦朧とした意識の中、思わずただインパルスの手を伸ばし、追いすがるように何かをつかもうとする。
そしてストライクがその手を振り払うために振った盾をつかむ。
「クスクス……新型君、何?鬼ごっこでもしてるの?
あ、でもタッチされちゃったね。じゃあ今度は私がオニ?
ちゃんとがんばって私、逃げられるのかな?
そんな隙だらけなフラフラの状態でね」
――さあて、そろそろおしまいにしようかなぁ。
それだけいうとマユはうれしそうな表情を浮かべシールドを握っていたインパルスの腕をふりほどき距離をとる。
そしてとどめとばかりにガトリング砲をインパルスのコックピット辺りに構える。
意識がもうろうとしていくシン。
目の前のストライクの姿もぼやけてくる。
…………
遠くでマユの声がする。
『シン……何……してるの』
『お兄ちゃん』『頑張って』
『わたし……スキだ』……
マユがそんな風に励ましてくれたような気がする。
マユ……、そうだよな、まだ頑張らなきゃな。
俺はまだ負けるわけにはいかないんだ。
マユが俺のことを励ましてくれるなら、スキだと言ってくれるならまだがんばれる気がするよ。
「……ま、まだ、俺は負けるわけにはいかないんだよぉ!マユのためにも!」
シンはもうろうとした意識のまま、何故か頭の中の一部だけが急にスゥッと霧が晴れたようにクリアになる。
「え?」
マユはたしかに懐かしい誰かに名前を呼ばれたような気がした。
突然、目の前の新型君がストライクに接近したまま、自分への被弾する事など構わず強引に両肩のミサイルで
弾幕を張る。
「きゃっ!」
マユは反射的にコンバインシールドと右腕でメインカメラとコックピットをガードした。
ビームライフルが爆発したがとっさに手放したために機体に大きな被害は受けなかった。
マユは手早く機体の被害の確認を行う。
見かけ上、右腕、両足に多少損傷はあるものの行動には特に支障はないようだ。
「マユ!」
アウルは矢も楯もたまらず包囲網を崩してストライクとインパルスの間に割って入りマユをかばう。
「チビは僕の後ろにでも隠れていりゃいいんだよ!」
――へ!決まったな。
マユからの感謝の言葉を待つアウル。
インパルスはストライクがひるんだのも確認せず、アウルの抜けた穴から包囲網を飛び出していた。
「アウル、フォーメーションを崩すな!」
――何、ヒーロー面してんだよ、この馬鹿アウルは?!
あきれるスティング。
「そうよ、何してんのよ?!」
これまでの努力を無駄にしたアウルを怒鳴るマユ。
「え?だってさぁ……」
アウルは予想外の非難にうろたえる。
――おいおい、なんでだよ?!
「何やってんだ、アウルのド阿呆めが!」
フォーメーションを崩し、インパルスを逃したアウルを怒鳴るスティング。
「ドジ!」
自分からインパルスの退路を作ったアウルを怒るマユ。
「アウル、間抜け……」
ステラがとどめとばかりにつぶやく
「え?え?え?」
――まったく、僕はマユを守っただけなのによ。男はつらいぜ。
アウルは自分がやったことをあまりわかっていないようだ。
大きなデブリを背にしたインパルスはケルベロスとレールガンの斉射を4機に食らわせる。
全てよけられてしまったがまずは一息つくことにシンは成功する。
「もう、……さっきの、……ようには、……行かせない」
シンは肩で息をしながら、わき起こる嘔吐感を抑えながらそれだけの言葉をはき出した。
――ようは後ろをとらせなければ、距離をとればいい。
シンの頭には、特にストライクに勝ちたいという気持ちも今はなかった。
――こいつら、時間稼ぎが目的みたいだから、負けないでどっかで逃げられればいいんだろ。
インパルスを落とす気がないのは時間稼ぎのため、とシンは結論づけ、腹をくくった。
――それくらいならやってやるよ。マユにも励まされたしな。
疲労感と倦怠感がまとわりつく体を無理矢理励ましてシンはデブリを背や盾にして4機を相手に戦い続けた。
「もう、あんたらの好きにはさせない、絶対に……」
白いザクが無理矢理エグザスの攻撃を振り切り、ダークダガー達にミサイルを放つ。
そして、続いて彼らへ攻撃するために接近を試みようとしている。
「やば!」
“助っ人”はやむなくロングダガーを岩陰から出すとダガー隊へ仕掛けようとしている白いザクを追いかける。
背後から白いザクへビームライフルで牽制攻撃をかける。
そして注意を引きつけておいてからミネルバの方向へこれ見よがしに右肩のリニアカノンを2発、3発と打ち込む。
「貴様らなんぞにギルはやらせん!!」
カッとなり、ロングダガーを追いかけるレイ。
「ほれ、鬼さんこちら、手の鳴る方へと……」
白いザクから彼に向けられている有り余る殺気をごまかすようにそんな軽口を叩く。
――あのフネに大切な家族かなにかでも乗っているのかよ。
ロングダガーは追いかける白いザクからの鬼気迫るビーム攻撃を一見余裕ありげによける。
――うらやましいね、そんな必死になれるものがあってさ。
そして思い出したように時折ミネルバの方角へリニアカノンを打ち込む。
――まあ、こっちは自分が生きるのがたいへんだけどな。
ダガー隊の砲撃がミネルバを襲う。
「くそ!」
ダガー隊へ向かおうとするレイをエグザスのビームガンバレルが襲う。
ビームガンバレルをよけるとロングダガーからの正確な射撃が浴びせかけられる。
完璧によけているはずが、ザクの足に、胴体に、シールドにその傷跡が次第に刻まれていく。
徐々にミネルバから引き離され、完全に2機に釘付けにされているザク。
「このままでは……」
――ギルが、いや、ミネルバが危ない!早くこいつらを振り切ってミネルバの援護に戻らなくては!
遙か向こうでミネルバが攻撃されるのを見ているしかないレイは次第に焦燥感が募っていく。
――そろそろ潮時かな。
ネオは適当に獲物からの距離もとれ、相手の動きも鈍り、心おきなくしとめられると判断した。
――そろそろ頃合いじゃないですかね。
相手の対応もちぐはぐになり、こちらの攻撃が当たる度合いも多くなってきている。
そして獲物へもすぐには戻れない距離になったため仕掛けても簡単には逃がさない状況であると“助っ人”は考えた。
「そろそろとどめを刺すぞ!」
ネオも同じことを考えていたらしい。
「了解っと。それで?」
「おれ囮、あんた囮、おれ、あんた」
「わかりました」
「いくぞ!」
時間差で四方からザクに浴びせられる4機のビームガンバレル。
よけた先には今までのパターン通り、ロングダガーのリニアカノンが浴びせられる。
「また、同じ真似を!」
――そう何度もは通用しない!
レイは今度こそはうまくよけきる。
そのよけた先にまた、エグザスのリニアカノンの攻撃が待っていた。
「何?!」
よけきれず、ビーム突撃砲ごと吹き飛ぶザクの右腕。
一瞬止まったザクのやや下方正面からロングダガーのビームライフルの光がのびる。
――しまった!
レイは全く回避できず、直撃を覚悟した。
以上です、が……
130 名前:幻視痛 「マユ達VS.ミネルバMS デブリ戦5」
は
130 名前:幻視痛 「マユ達VS.ミネルバMS デブリ戦6」
です。
失礼致しました。
乙です
いやっほーい!も・り・あ・が・っ・て・き・た・ぜ!俺が
も、もう少しで。
……なにがと言われても言いにくいのですが。
>>134 おかえりかようこそか
どっちだ。
どっちでもいいが。
バッチ来ーい!
PP戦記か隻腕だったら喜びのあまりに狂喜してしまうぞ
荒らしの可能性もあるが兎に角待ってるぜ
「あなたは……っ!!」
マユはカガリを見て、視線をきつくする。軽く身構える。
「?」
カガリとアレックスは、そんなマユの様子に、訳がわからず、キョトン、としてマユを
見つめる。
「あなたの……」
ピンポーン
『マユ、マユ・アスカ。いるならブリッジまで報告を』
険しい口調で言いかけたが、それを遮って、インターフォンがブリッジからマユを呼び
出す。
「マユ?」
ルナマリアが、少し不安そうにマユを見る。
「あ……うん、ルナお姉ちゃん、ステラさんお願い」
「うん、解った」
そう言って医務室を出て行くマユ。ルナは、その背中を心配そうに見送った。
「マユ・アスカ、出頭しました」
ブリッジに入り、マユはタリアと、その傍らに立つデュランダルに、敬礼をする。
「本来なら帰還してすぐに報告するべきところ、民間の傷病者を抱えており、出頭が遅れ
まして申し訳ありません」
少女らしからぬ杓子定規な態度で、敬礼したまま言う。
すると、デュランダルはタリアと軽く顔をあわせた後、微笑をマユに向けた。
「そう硬くならなくても良い。何も君を糾弾しようと言うわけじゃないんだ」
「はぁ」
デュランダルの言葉に、マユは一瞬、キョトン、とする。
「状況が状況だし、この際、今より君をガイアの正式な搭乗者に補したい」
「わっ、私が、ですか?」
マユは驚いて、直立不動の姿勢のまま、声を裏返らせかける。
「ちょ、待ってください」
それを聞いて、オペレーターコンソールの前にいたアーサーが、慌てたように3人のそ
ばに寄ってくる。
「そもそも、彼女はまだ正式な兵士ではありませんよ」
マユは一瞬、アーサーを、バレない様に睨み付ける。その後は、表面上は神妙を装う。
アーサーの言葉は間違っていない。ただ、お前が言うなとは言いたかったが。
「ならばこうしよう」
デュランダルは口元に笑みを浮かべたまま言い、そして、マユの正面に向く。
「マユ・アスカ。君をFAITHに任命する」
「へ?」
「なっ!?」
驚きの声を上げるアーサー。そして、マユ本人も間の抜けた声を出してしまう。
FAITH。プラント評議会直属特務隊。それに属する者は、ZAFT軍組織の中で特権的指揮
権をも行使できる。
「無茶です議長!」
アーサーが、わざわざマユとの間に割り込むようにして、デュランダルに向かって声を
上げる。
「そんな事はないよ。事態が事態だし、それに彼女はガイアを奪還してくれたし、我が軍
のモビルスーツが複数でも太刀打ちできなかった、あの紅いモビルアーマーに一撃入れて
いる。国防委員会も私の決定に反対はしないはずだ」
そう言うとデュランダルは、アーサーから視線をマユに戻す。
マユは慌てて、敬礼の姿勢をとった。
「はっ、身に余る光栄、謹んでお引き受けいたします!」
アーサーはまだ納得がいかないように、おろおろとマユとデュランダルを、交互に見て
いる。
タリアは、疲れたようにため息をついてから、顔を上げる。
「FAITHマユ・アスカ。本艦は只今アーモリーを襲撃した敵艦の追跡を行っています。戦
闘状況の発生に備えてください」
「はっ」
と、一旦敬礼したマユだったが、ふと気付いたように、タリアとデュランダルの顔を交
互に見ながら、訊ねる。
「ということは、ガイアの設定も?」
「ああ、君が使うことを前提にしてもらって構わないよ」
デュランダルが、微笑のままそう答えた。
「やった! あ、ありがとうございます!」
そう言って、最敬礼の姿勢をとる。
ポーン
インターフォンの呼び出し音がなる。タリア達は、艦内通信のモニターに眼をやった。
ディスプレィに、ミレッタの顔が映し出される。
『戦闘中のこともあり、御報告が遅れて申し訳ありません。アーモリー1での戦闘時、避
難の遅れた民間人2名が、我が軍のモビルスーツに乗って本艦に着艦、身分を確認したと
ころ、オーブ連合首長国代表カガリ・ユラ・アスハと、その随員のアレックス・ディノと
名乗っております』
「彼女が? このフネに?」
デュランダルが、軽く驚いたように声を漏らす。
マユの表情が、一気に険しくなった。
『アスハ代表は負傷されていた為、現在、第1医務室におられます。議長との面会を希望
しておられますが、いかがいたしますか?』
「解った。ひとまず空いている士官室に案内しておいてくれ。私もすぐに伺うよ」
デュランダルは真面目な表情で、ディスプレィの向こうのミレッタに言う。
『了解しました』
そう言って、通信は切れた。
「失礼ですが、自分はこのまま、格納庫の方に向かわせていただきます!」
マユがそう声を上げると、デュランダルとタリアは驚いたように振り向く。
「あ、ああ……」
「はい、戦闘に備えておいてください」
デュランダルとタリアがそう言うと、マユはブリッジを出て行こうと、踵を返しかけた。
「おっと、その前に」
デュランダルの言葉に、マユは一旦行動を止める。
デュランダルは、ポケットの中から、小さなケースを取り出し、マユに差し出した。
「これを渡しておこう。本来なら、別の人間に渡すはずのものだったのだが、ね」
それを受け取り、マユは目を円くして輝かせた。
「ホントにこんな設定で良いのかよ」
開放されたガイアのコクピットの、外側から覗き込むように、ヴィーノは中に向かって
訊ねる。
「ガイアで一番脆いのは手足でしょ? だから、これで良いんだって」
シートの中のマユは、得意そうに言う。
「しかしこんな極端な設定にしなくても良いと思うけど……」
苦笑しながら言うヴィーノ。
「ええい、FAITH様の決定に逆らうのか」
マユはおどけた様に、笑いながら冗談めかして言う。
その襟元には、Fの字をかたどったFAITHの襟章。
「はーいはい、逆らいませんよ、っと」
ヴィーノもおどけて言う。
「それじゃあ、試しに電源入れてみて」
ヴィーノの言葉に、マユが起動スイッチを入れる。メタリック無地だったガイアのVPS
装甲に色が付く。
初期設定の、ほぼ黒一色からがらりと変わった。四肢は白がメイン、胴体は黒に近い紺
に染まる。シールドは赤。フォースシルエット時のインパルスに近いカラーリングだ。
「……ZGMF-2000A(ツーサウザンド・エー)、グフは既にご存知でしょう」
コクピットでマユが悦に浸っていると、デュランダルの通る声が聞こえてきた。
「それから、新型機インパルス。私は専門外なので詳しくはご説明できませんが、技術者
に言わせると、これは効率の良い、新しいシステムなのだそうです」
コクピットハッチに隠れるように、そっと、キャットウォークの人員用エレベーターの
方を覗くと、そこにデュランダルとタリア、そしてカガリとその随員という男が見えた。
「げっ」
マユは顔をしかめ、コクピットの中に隠れようとした。
「だが! ではこのたびの事はどうお考えになる!?」
だが、カガリの怒声を聞いて、マユの動きが止まる。
「あのたった3機の新型モビルスーツのために、貴国がこうむったあの被害の事は!?」
コクピットハッチを掴む手が、震える。
「そもそも何故必要なのだ! そんなものが今更!」
血が滲みかねないほどに力が入る。
「我々は誓ったはずだ! もう悲劇は繰り返さないと! 互いに手を取って歩む道を選ぶ
と!」
「それでは!」
予想だにしなかった方からの、幼ささえ感じさせる高い、しかし毅然とした声に、カガ
リは軽く驚いて振り向く。
「オーブは軍備を破棄していらっしゃるのですか? 2年前、連合に攻め込まれたときほど
の力も持たないと」
マユは険しい表情で、カガリに叩きつけるように言う。
「いや……だが、オーブの軍備は自衛目的の為だ!」
「ZAFTの軍備も自衛目的です! まさか侵略目的だとでも仰ると?」
「なら何故こんな強力な軍備が必要なのだ!? 強すぎる力はまた争いを呼ぶ!」
「今のプラントは独立主権国家です! 軍備がどれほど必要かは、プラント自身が判断す
る権利と義務があります! ましてオーブは旧プラント理事国でもない! それとも、
我々が、オーブの軍備は強すぎる、減らせ、といったらオーブは応じるのですか!? あの
クサナギを廃艦にしろと言ったら応じるのですか?」
「それは内政干渉……うっ!」
カガリは言いかけて、言葉に詰まった。
「その通りです。内政干渉です。代表の言われている事は立派な内政干渉です」
「それは……いや、しかし……その……」
言いよどむカガリ。マユはそれを、忌々しそうな目で見、吐き捨てるような仕種をした。
「カガリ……もうよせ」
アレックスとか言う随員が、カガリを引き寄せる。慰めるように背中を寄せる。
マユはひとしきり睨みつけた後、デュランダルの方に視線を移す。
「御歓談の所、割り込みまして申し訳ありません! もし不始末がありましたら、処分は
甘んじてお受けいたします! それでは!」
そう言って、マユはガイアのコクピットにもぐりこんだ。
デュランダルは、それを、どこか心配するような視線で追ってから、カガリとの対話に
戻る。
「こっえー……どうしちゃったの、マユ?」
ヴィーノが、唖然とした様子で、コクピットを覗き込んできた。
「英雄って言われてるぐらいだから、もう少しは分別の出来てる人間だと思ってたのに…
…」
ブツブツと呟く。
「え?」
「なんでもない!」
マユは不機嫌そうに、ヴィーノに、怒声で返した。
「ああ、それと、医務室がマユ呼んでたぜ」
唖然としていたヴィーノが、思い出したように言う。
「へ?」
「ルナお姉ちゃんも呼ばれたの?」
第1医務室に向かう通路で、マユは同行するルナマリアに訊ねた。
「ううん、直接には。でも良いでしょ? あたしも気になるもの」
ルナマリアは苦笑気味に言う。
「ひょっとしたら、強奪犯の仲間かもしれないんでしょ?」
「え」
ルナマリアに言われ、マユは一瞬、答えに詰まる。
「う、うん」
俯きがちに答え、ポケットの中に手を忍ばせた。
ステラの鉄扇を握り、そして離してから、ポケットから手を出す。
医務室の前にたどり着き、マユは自動ドアのタッチボタンを押す。
「マユ・アスカ、参りました」
キョロキョロしながら医務室へ入っていくと、白衣の軍医と看護師が、カーテンで囲ま
れるベッドの1つの、傍らに立っていた。
「あ…………」
軍医に促されてベッドに近づくと、そこにステラが寝かされている。
ステラは、目を開いていたが、ぼぅっとした半覚醒の様子だった。頭に、包帯を巻いて
いる。
「そ、その、私ってそんなに石頭だったかな、ごめん」
苦笑して頬をかきながら、マユはステラに近づく。ルナマリアがその背後に続く。
「お……」
「お?」
ステラが発した言葉に、マユは少し身を乗り出す。
がばっ
「お母さん……」
ぴっし
マユが、否、ステラ以外のその場にいた全員が凍りついた。
ステラはマユにぎゅっと抱きついて離れない。
その光景があまりに異様だった。明らかに年上の少女が、小柄な年下の少女を「お母さ
ん」と呼んで抱擁を求めている。
「い、いや、あの……その……」
「どーして? どーしてマユに? 年齢的に見てもぺたん子マユに?」
「ドサクサ紛れに変なこと言うな〜!!」
ルナマリアが、不思議そうに言う言葉に、マユは、ステラにしがみつかれて身動きも取
れないまま、まま、顔を真っ赤にして怒鳴り返す。
「お母さん……ステラ怖い……死にたくない……」
「えっ?」
ステラの呟きに、マユははっとしてステラの顔を覗き込む。
ステラはおびえた様に震え、涙を零していた。
「うん……大丈夫だよ」
マユは表情を柔らかくして、ステラをぎゅっと抱き返した。
「私が、守ってあげるからね……」
あげGJ!
GJには同意するが、何故ageる。
今晩は。
幻視痛を書かせていただいている者です。
すみません、
>>134は当方ですが、名前を書いておくのを忘れていました。
お騒がせして申し訳ありません。
思ったよりも時間がかかってしまいました。
遅くなってしまいましたがまた4レス分ほど投下させていただきます。
よろしくお願いします。
「タンホイザーで前方の岩塊を……」
「吹き飛ばしてもそれで岩肌をえぐって同じ量の岩塊をまき散らすだけよ!」
アーサーの進言を即座に否定するタリア。
アスランはそんな二人の会話が進む中、表情を曇らせて何かを考えていた。
先ほど『MSパイロットがいない』と言われたときに自分が何を言おうとしていたのか、何をしようとしていたのか。
アレックス=ディノであるはずの、アスハ代表の護衛でしかない今の自分が何を。
――いや、ここでカガリを死なすわけにはいかない。だから俺は俺として今できることをするしかないじゃないか!
悩む彼を見て意味ありげに微笑むデュランダル議長。
「右舷のスラスターはいくつ生きているんです!!」
意を決してアスランはタリア艦長に声をかける。
「え?」
意外なところからの問いかけにタリアはアスランへ振り向く。
彼女の視界の片隅にいたデュランダル議長が『答えなさい』とばかりにタリアへうなずく。
「6基よ。でもそんなのでのこのこ出て行っても、いい的にされるだけだわ」
「同時に右側の砲を一斉に撃つんです! 小惑星に向けて」
「ええ?!」
アーサーはオブザーバーであるオーブ代表の護衛の提案にあきれ驚いた悲鳴を上げる。
「爆発で一気に船体を押し出すんですよ。周りの岩も一緒に……」
「バカ言うな、そんなことをしたらミネルバの船体だって」
アスランのセオリーにない無茶な作戦にあきれるアーサー。
――そうよ、そんなのどこのマニュアルには載ってないわよ。
タリアはアスランの無茶な作戦にあきれてしまう。
――それにそこで受けたダメージで次の攻撃が続かないかも知れないじゃない。
――それどころかそれでミネルバがお釈迦になったらどうする気よ。
――ようやく手にいれた艦長の地位、こんなところで傷つけたくないのよ!
――それに今、これにはギルが乗ってるんだから。
――彼にケガをさせたくないし。彼にいいところを見せたいのよ!
――それ以前に彼の前でみっともないところを見せたくない。
――だいたい『前大戦の英雄』か何か知らないけど、今は私がここの艦長です!
そんなもろもろの思いと考えが彼女の胸をよぎる。
「今は状況回避が先です! このままここにいたって、ただ的になるだけだ!」
――そんなこと言われなくてもわかってます!
もっとも現状を打破したがっているのは当のタリアなのだから。
「タリア」
デュランダルは意固地になっているタリアをなだめるために彼女の名前を呼ぶ。
「……たしかにね。いいわ、やってみましょう」
――まあ、このまま何もしなければやられるのを待つだけだし。彼の策に乗ってみるのもしかたがないでしょう。
「艦長?!」
アーサーはあくまで納得はいかない。
「この件は後で話しましょう、アーサー」
アーサーは何か感情のこもった目でアスランをひと睨みした。
――僕の方がうまく作戦を立てられるのに!まったくこんな非論理的な作戦を!
――大戦の英雄か何かは知らないけど、今はようはあんた裏切り者だろう?! さもなくばただのオブザーバーだろ!
「右舷側の火砲を全て発射準備。右舷スラスター全開と同時に斉射。タイミング合わせてよ」
ミネルバクルーが彼の提案通りの事を行うために活発に動き始める。
そのやりとりを聞きながら出過ぎたことをしてしまったのではないか? と悩むアスラン。
デュランダル議長はそんな彼を見ながら不可思議な微笑みを浮かべていた。
「さて、とどめだ」
ガーティ・ルーブリッジでリー艦長がアクションを起こす。
「岩塊に邪魔されて直撃は期待できませんが?」
ブリッジクルーの一人がリーに答える。
「追撃不能にまで追い込めばいい。
大佐はおもしろくないかも知れんがこちらのモビルスーツもそろそろパワーがつらいだろうからな。
……よろしいですな。マキ=アガタ少佐」
「かまいません。今回は3機の新型MSの奪取が目的です。あれは振り切れれば特に問題ありません」
「珍しく、意見が合いましたな。では行きますかな」
一瞬止まったレイのザクのやや下方正面からロングダガーのビームライフルの光がのびる。
とっさにビームの射線軸上にザクの足を出すレイ。
右足とメインカメラが吹き飛ばされ、コマのように回転してとばされていくレイのザク。
レイは歯を食いしばりその衝撃に耐える。
大きな岩塊の一つにぶつかりそのコマは動きを止めた。
「さて君とのつきあいもこれまでかな、白い坊主君!」
ネオはレイのザクにとどめを刺そうと再びエグザスのビームガンバレルを展開させる。
レイはカメラ越しにエグザスをにらみつけながら岩塊にたたきつけられ、半壊したザクを必死に立て直そうとする。
ミネルバのいる方角から大きな閃光があがる。
大きな衝撃波、そして無数の岩塊を吹き飛ばしながらミネルバの船体がその姿が現わした。
「「「何!」」」
ミネルバに接近し攻撃していたダガー隊がミネルバにはじき飛ばされた岩塊により全て吹き飛ばされる。
「ジョーン?! ミラー?!、トビー?!」
岩塊と砂塵、閃光でミネルバを見失うガーティ・ルー。
とっさにリーはガーティ・ルーに左へ回避を命じる。
回避運動を始めたとすぐに、右側をミネルバの主砲の光がかすめ、至近弾を食らう。
すれ違うミネルバとガーティ・ルー。
「え〜〜い、あの状況からよもや生き返るとは!」
コックピットの中でうなるネオ。
「ネオ隊長、ダガー隊、残り3機ともシグナルロスト、ガーティ・ルーにも損害を出てる模様」
ロングダガーから冷静な声でエグザスに通信が入る。
「わかってる!」
――ちっ! ここらが潮時ってことか。
彼の軍人としての感がネオに今は逃げることが先決だと告げている。
白いザクへのとどめを刺せずに、ネオはガーティ・ルーに撤退の信号をあげる。
「オークレー達に帰還信号を。宙域を離脱する!」
ガーティ・ルーではリー艦長がその信号を確認してブリッジクルーに指示を出す。
「また、いつの日か出会えることを期待しているよ、白い坊主君。そしてザフトの諸君」
ガーティ・ルーへ帰還するネオ。
「しかし、まさかあんな手を使うなんてね、侮れんねぇ」
――あのフネ、素人かと思ったがなかなか味なマネするじゃないか、実戦慣れしてるヤツでも乗っているのか。
――しかし、何を芝居がかったこと言ってるんだろうね、この隊長さんは。
エグザスを追ってロングダガーもガーティ・ルーへと帰投する。
「まあ、連中もまけるだろうし、これでよしとするか」
ネオはエグザスのコックピットの中で独りつぶやいた。
――もう1機を捕獲できたという連絡は聞かないが、仕方ないか。
ぼろぼろのレイのザク。レイはボギーワンへと帰還するMAとダガータイプを見送ることしかできなかった。
「もう、あんたらの好きにはさせない、絶対に……」
そうつぶやき、シンは酸っぱい唾液を飲み込んだ。
今の自分に出来る戦いは何かを考え、そしてをそれを実行すると決めた。
とにかく4機にポジションを取られる前に、ミサイルやケルベロスで攻撃して散開させる。
散開させておいて、そして自分はデブリを使って身を隠し、盾にして彼らの戦い方につきあわない。
とにかく距離をとって逃げ回る。
「こいつらインパルスを落とす気がないんならどこかでチャンスができるはずだ」
――チャンスを見つけてなんとかミネルバへ戻る!
焦りを抑え、目の前の4機に集中するように気持ちを切り替えた。
――まずはこいつらを何とかする。すべてはそれからだ。
「あ〜鬱陶しい」
アウルはコックピットの中でぼやく。
――マユのチビにいいとこ見せたはずなのにどうしてさ。
元々アウルは連携を取るのは得意ではないがたった1機に自分らが手間取っていることがしごく不満のようだった。
ステラとスティング、マユがフォーメーションをとろうとすると獲物の方がうまく攻撃を仕掛ける。
アウルが攻撃しても意気地なしの新型は亀のようにデブリの陰に隠れてしまう。
――こんなへなちょこ、撃墜するんならすぐ済むのによぉ、スティング……
そんなこんなで次第に彼のイライラの度合いが高まってきている。
「あの新型、うまいこと俺らを分散させているぜ。たいしたモンだ」
イライラしているアウルに引き替えスティングは動きの良くなったインパルスに感心すらしている。
――こいつ、俺らと戦いながらうまくなってきている?
「……とはいえそんなことも言ってはいられないか」
スティングはリーダーとして何か策がないか考える。
「今は無難に圧力をかけるのが得策か」
スティングは徐々に接近戦を仕掛けるステラの援護としてのポジションを形成しつつあった。
「マユ、大丈夫?」
インパルスに接近戦を仕掛けながらステラはマユのことを気遣う。
「うん、まだ、大丈夫だよ」
そういってモニター越しのステラに強がって笑うマユの額には幾筋もの汗が光る。
休息はとったとはいえ初めての実戦から1日もたっていない状況での連戦である。
ステラでさえも今、多少の疲れを感じている。
それなのに一番小さく体力的に劣るマユが疲れていないわけがない。
彼女はそう思い、マユの負担を減らそうと彼女の代わりとばかりに積極的に仕掛けていく。
逃げ回るインパルスに対して接近戦をひたすら、しゃにむに。
――マユのこと、お姉ちゃんが守るから……ステラ頑張るから。
その思いがステラの体を突き動かしていた。
ステラが接近戦を仕掛け、スティングがそれを援護する。
インパルスがうまく4機を分断していることも逆に功を奏してマユは少しばかり息をつくことが出来た。
――さっき逃がしちゃったのは失敗だったかな。
マユは先ほどの新型君を相手にしていたハイな状態からふと我に返り、そんな反省が心にわいていた。
――でもそんなこと考えたらせっかく守ってくれたアウルに悪いよね。
自分をかばってくれた“兄”に対してさっきは暴言を吐いたが、その実、あまり悪い気はしていなかった。
――そんなに意地になったみたいにつっこんで、ステラお姉ちゃん、ムリしすぎだよ。
マユは新型君へしゃにむに突っ込むステラのことが心配になって再びストライクを戦いの輪の中へと割り込ませた。
突然、ガーティ・ルーから4人に対して帰還信号があがる。
「げぇ、なんでだよー」
アビスのコックピットでわめきアウルが抗議の声を上げる。
「もうちょいだってのによぉ!」
スティングからすれば全くそうは思えない。
はっきり言ってインパルスはマユが追い詰めていた時よりも持ち直してしまったように見える。
このまま、攻撃していてもすぐに埒はあかないだろう。
正直言って彼らのエネルギー残量も心許ない。
「しかたないだろう、アウル、命令だ、帰るぞ」
スティングがそんなアウルをなだめる。
――だいたい、お前がドジらなければとっくに終わってたんだぞ!
彼としてはアウルにそんなことを言う気はない。
もし言ったら意固地になって命令無視をしてこの場でインパルスを落とそうとするだろう。
――やっかいごとはごめんだ。
「け、つまんねぇの」
まだ、不満たらたらなアウル。
「マユ、おうちへ帰ろう?」
ステラがマユに呼びかける。
「そ、だね。……新型君、また命拾いしたね、バイバイ」
少しだけ肩で息をしながらマユはインパルスに別れを告げた。
実はシンを持ち直させた原因の一端は“彼女”であることも知らずに。
「覚えてやがれ、新型野郎!」
アウルはけんかに敗れて遁走するチンピラのよな台詞をコックピットの中で叫ぶ。
4機はインパルスを置き去りにしてガーティ・ルーのいる方角へとさっさと飛び去っていってしまった。
「……助かった? また、助けられたのか?」
シンは肩で息をしながら去っていく4機のMSを見送っていた。
「ミ、ミネルバは?!」
ミネルバのことが心配になり通信回線を開こうとする。
「ミネルバなら大丈夫みたいよ。さっきメイリンとも話ができたし」
彼の声に割り込むようにルナがモニタに姿を現す。
そして両腕なしで頭部に被弾したルナのザクが今までどこに隠れていたのか姿を現した。
「なんだ、ルナ。ミネルバに戻ってたんじゃないのかよ?」
シンはモニターの向こうのルナに向かってあきれた声を出す。
「あんだけそばで暴れられればこっちも動くに動けないわよ。
見つかれば落とされるのわかってんだから、私だって慎重になるってもんよ」
「ああ、そうですか」
――やれやれ。ルナらしいといえばいえなくもないか。
「そうよ。まあ、とっとと帰投しましょうよ」
といいながらルナマリアはすでにミネルバがいるであろう方角に進路をとっていた。
――ま、無事だったんだからいいか。
「ああ、そうだな。ミネルバも心配だしな」
――とにかく、疲れた。思い切り胃袋の中のものを吐きだしたい気分だ。
シンもルナマリアの後に続いた。
……あのとき聞こえたマユの声。空耳だったんだろうか?
……それとも気を失う前に聞こえた幻聴?
……でも俺の耳にははっきり聞こえた、聞こえた気がする。あれはいったいなんだったんだろう?
彼は後ろ髪を引かれるような思いはあったがミネルバに帰投するためにその宙域を後にした。
以上です。
153 :
通常の名無しさんの3倍:2007/09/29(土) 03:56:30 ID:O9hyxiFE
保守
GJ!
タリア達の心の声が笑えるww
>>◆NXh03Plp3g
お前確かルナスレで2つSS書いてた奴だよな?
>>15 ルナスレでは短編を1つしか書いてないですよ?
>>155の言いたい事がさっぱり分からない
幻視痛さんGJです!
赤髪のディアナと赤き月の鷹(であってたっけ?)と勘違いしてんじゃね?
マユスレスタート、当初はただのネタスレにしかならないと思われたがシンがファントムペインだったらというネタが出てPP戦記連載開始
ストライクMk−U登場、今にして思えばノワールの存在を予知するかのような機体だった
隻腕の少女連載開始、本編に近い流れで動くマユの物語にファンが増える→マユ種連載開始、マユスレで最初に完結したSSはこれ
ほのぼの、単発などのネタSSが登場、シリアスやギャグのSSが増えマユスレの最盛期到来→だがこのころから更新が停滞し始める
隻腕でストライクフリーダム登場、これの設定も今にしてみれば薄ら寒いものを感じてくる
だがマユが不殺をやるのは結局負債と何も変わらないと訳の分からない理由でラクシズアンチのバッシングを受ける
PP戦記でグランドスラム登場、マユVSシンという凄まじいほどの戦闘描写が神がかっていた
しかしそれ以降は粘着荒らしが居続ける事になる→ウンメイノカケラ連載開始、本人いわくテンプレに泣かされたSSといっていたが無事完結
しかしマユスレのテンプレにあっていないという理由で批判続出、腹を立てた作者が削除要望を出しまとめから削除という最悪の方向へ進んだ
そんな中で単発完結、マユスレにひと時の安らぎ→キズナノカケラが投下されるが粘着荒らしによって離脱、埋め荒らしも登場することになる
そして単発が復活し幻視痛、マユはジェンヌなどのSSがスタート、しかし粘着荒らしがスレを荒らしたため埋め荒らし降臨、スレが潰れたかに見えた
まとめサイトで2ちゃんから撤退しようという意見が出たが一応様子を見ることに→しかしスレが復活し過疎スレとして今にいたることになる
こんなものがヲチスレで作られてた、それにしても長い
ヲチスレ住民の視界の狭さがよく分かるテンプレですね
特に見る限りおかしなところがないんだよな、おかしいなら訂正箇所を出したほうがいいぞ
そんな長い文章貼られてもだからどうしたとしか思えんがな。
過ぎたことは過ぎたこと、来るもの拒まず去るもの追わずでいいじゃん
隻腕とPP戦記は戻ってきて欲しいがね、俺は
どうやら訂正があるらしい
・連載開始の順は、マユ種→PP→隻腕
・最初に完結したSSはマユ種仕官学校編(これとマユ種は別作品)
三人目を筆頭とした荒らしの皆さんご歓迎って言うようにも見えるな<163
いっぺんここまで潰したんだからもう来ないだろ…
どんだけ暇人なのかと
人づてだがPPの人は普通にミクシにいるらしい
続き書く気あるかは知らん
が、普通に考えて多分もう無いだろうな
本編も途中で見るの止めたくらいだし
このスレが落ちたら次スレは建てずにまとめサイトに合流、2ちゃんから撤退という方向で
ageてみるテスト。
sageるマナーと職人方へのGJ
すんごい久々に投下。またぼちぼち書き始めます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「さて、どうする?お前ら。」
ネオが尋ねる。
「あいつらにケンカをしかけるっつーことは世界にケンカを売ることだ。
家族が危なくなるかもしれないし、同じ仲間を殺す羽目になるかもしれない。
特にザフトの皆はな。
それでも・・・、やるか?」
全員が頷く。
「皆の家族なら僕達『ソキウス』で何とかする、絶対守るから安心して。」
ゼロがいつもの表情で言う。
『じゃあ俺金だそうか?大変なんだろボランティアは。』
シンハロが笑いながらゼロの肩を叩く。
「だってあんな計画出されたら801なんて真っ先に否定されそうじゃない!!
あんな潔癖症なお嬢様なんか・・・・・・・!!」
嫌いなタイプの人間らしくルナマリアは敵意をむき出しにする理由はどうも情けないが。
「まぁ僕もいいかなぁ・・・、元々父さんと母さんに拾われなくちゃ死んでたしぃ、生き残るけどね!」
キースが酒のビンをぽいっと捨てて言う。
「あの子の目、普通じゃなかった。たぶん何らかの障害があるんだと思う。医者として放っておけないよ!」
カルマがぽつり、と主張する。
「俺はかたっくるしいの嫌いだからな、賛成だ。」
ジョーはにやりと笑う。
「あんな子供の夢を壊すような政策・・・、誰が許すモンですか!!」
グレイシアはすっかりやる気満々である。
「どこのカースト制度だよ・・・・、ぶっ殺す!!」
差別を嫌うアキラも殺意を身体に纏う。
「はいはい、じゃあハイネ隊は全員一致だな。ミーアは自分でどうにかするだろうから心配しなくていいぞ?」
ハイネはいつもの調子で皆に告げる。
「俺ら議長さんには世話になったしなぁ・・・・。」
「むしろ殺される可能性大だよね、私たち議長と親しいし。」
冷静に話すスティングとメイリン、はぁ、とため息をつく。
「ステラ・・・ミーアとギルパパさん・・・助ける!!」
ステラもやる気満々だ。
「マユをずっと議長は守ってくれたんだ・・・・・、助けないわけには行かない。」
シンの目に決意が宿る。
「ギル・・・・、必ず助ける。」
レイは静かに目を閉じた。
「ラクス・・・キラ・・・・・、ここまで来たら・・・・俺も迷わない!!」
アスランはグッと拳を握り締める。
「皆やる気なら、俺もやんなくちゃだなー。」
楽しそうにアウルが笑う、久々の巨大な戦闘に興奮しているようだ。
「ようぅしっ!!全員大丈夫みたいね!!それじゃ!!あのいけ好かない偽者どもをぷっとばすわよ!!」
マユの声が、大きく響いた。
>>159 しのはらさんのマユ戦記がない
あれはあれでスレで盛り上がったのに
ヲチスレは何を読んできたのか・・・
誰も覚えちゃないってことか…
00でこの板に人が戻ってきたのかあちこち動いてるな
久々のほのぼの氏GJ!
ギルパパとミーアも心配だけど、いつぞや狂うゼになんぞされたレイも心配なんだよなぁ…。
>172 全く覚えてないので過去スレ漁ってみた
あいつかorz
6スレ目の審判は祭りだったなw
しのはらはPPと隻腕とあわせて三神なんて呼ばれてたからな
リメイク版と特別編は結局おじゃんになったけど
本編を完結させた作品としてはPPと隻腕よりずっと上に位置してる
「マユ・アスカ、ガイア、いっきまーす!」
ミネルバの右舷発艦デッキで、マユはガイアに乗り込み、そう宣言する。そのVPS装甲
は、白い四肢に青い胴、赤いシールド。ただ、インパルスとは異なり、胴体は腰元も青に
なっている。
ガイドLEDが格納庫側から前方に向かって順次点灯し、リニアカタパルトが作動して、
ガイアを宇宙(そら)へと打ち出す。
「ミレッタ・ラバッツ、ジン・ハイマニューバII、出ますっ」
続いて発艦待機位置についた、ZAFT標準塗装のモスグリーンに塗られた、ジン・ハイマ
ニューバII型が射出される。
先行しているルナマリア──インパルスが、合体、ブラストシルエットを装備している
ところへ、ガイアと、ミレッタのジン・ハイマニューバが追いついてくる。
『私、デブリ戦って得意じゃないのよねぇ〜』
「あはは」
ルナマリアが通信越しにいうのを聞いて、マユは苦笑する。
すると。
通信用ディスプレィの顔が変わり、ミレッタの姿が映し出された。
『マユちゃんごめん、私あまりデブリ戦得意じゃないから、足手まといになっちゃったら、
許して!』
「…………もう、矢でも鉄砲でも持ってきて」
マユはガイアの操縦桿を握ったまま、がくん、とうなだれた。
機動戦士ガンダムSEED DESTINY “M”
PHASE-04 「癒えぬ傷跡」
(A-PART)
多少、時系列は前後する。
アーモリー1を襲撃した犯人──地球連合軍第81独立機動群『ファントムペイン』の旗
艦、ガーティー・ルーは、衛星軌道上を周回する、人工衛星や宇宙ステーション、資源用
小衛星成れの果て、デブリ(ゴミ)が集まるデブリ帯にまで逃げ込んでいた。
本来、地球航路を行く宇宙艦船はこの通過を嫌うものだが、宇宙艦並みの大きさの廃棄
物もあるだけに、追っ手を撒くための隠れ場所としては有用だった。
デブリの散乱する空間を、ガーティー・ルーはゆっくりと縫うように進む。
「慎重に行け! ぶつけたら元も子もないぞ」
艦長であるリーが、細かく指示を出している。そこへ、ネオが艦橋へ入ってきた。
「どうですか? 彼らは」
リーは少し不安そうな顔色を見せつつ、ネオに訊ねた。
「今のところは、安定を取り戻してきたみたいだよ」
ネオは言うが、その口元はやはり、あまり芳しくない様子を見せる。
「ステラを失った空白が、後々影響を出さなければいいんだがね」
そう言って、腕を組んだ。
「難儀なことですな」
「前のヤツよりは良い、って主張してきたけど、そうも言い切れなくなってきたかな」
ネオのいう“前のヤツ”とは、ブーステッドマン、今は亡きムルタ・アズラエル閥のブ
ルーコスモス一派が作り上げた、薬物によって反応速度、身体能力を向上させた強化兵士
の事だ。しかし彼らはその代償として、複雑な命令をこなすだけの冷静な思考能力を失い、
また中毒性の高い薬物の禁断症状が出るまでの短い時間しか戦闘に耐えられなかった。
スティング、アウル、そしてステラは、別のアタッチから“作成”された強化人間、エ
クステンデットだ。基本的に薬物の使用は最低限にとどめ、その代わり神経直接に働きか
けることで、その能力を向上する。ブーステッドマンと比べると遥かに繊細な任務もこな
せたが、やはり精神に重い負担がかかり、そのため“ゆりかご”と呼ばれる精神・神経調
整機に入れて、負担を和らげてやらなければならない。
それでも、ブーステッドマンよりは命令・任務に対する柔軟性など、優れていると主張
していたが、その結果は散々だった。
「我々の進退問題にも関わってきますな」
「大丈夫じゃないか?」
リーのため息交じりの言葉に、ネオは司令官席のシートに身を埋めながら、言った。
「ジブリールだって、自分の身が可愛いだろうしね」
ネオはそう言って、仮面をつけた顔の、口元で苦笑した。
「6時方向、上方15度、追尾してくる大型艦あります」
「もう来たのか!」
オペレーターの言葉に、ネオは忌々しそうに言う。
「ダガーLを迎撃に出しては?」
リーは、ネオに向かってそう提案する。
「駄目だ、やつらの腕と機体の性能じゃ、死にに送り出すような物だ」
ネオは言う。自身すらてこずらせたパイロットが相手にはいる。残り少ない搭載機を出
したところで、太刀打ちできないだろう。自惚れだったが、確信はある。
「前方、上方の資源小衛星、ヤツに近づけ!」
リーは、艦橋の前方に見えた小衛星──元は小“惑星”だった物を、地球の衛星軌道に
持ってきたもの──に、ガーティー・ルーを向かわせる。
「ギリギリにまで接近、アンカーを使って方向を変えるんだ、くれぐれもぶつけるなよ!
同時に、デコイ発射!」
小衛星に沿って方向を上へと変えつつ、直進したように見せかけるため、ガーティー・
ルーに偽装した熱パターン、電磁波パターンを発射する、デコイを発射する。
「メインスラスター出力15%、ミラージュコロイド展開! このままバイバイするぞ」
ガーティー・ルーはミラージュコロイドに覆われ、漆黒の宇宙空間に紛れる。メインス
ラスターの出力を抑えて熱量を抑え、姿をくらました。
そうとは知らない、マユ、ルナマリア、ミレッタの3機は、ガーティー・ルーの“反応”
を追って、突き進む。
「有視界距離……あら?」
ルナマリアは、それをモニターに捉えると、その姿を見て、一瞬間抜けな声を出してし
まった。
「あれが戦艦……? なわけ、ない、わよね?」
3人が追いついたのは、大形のミサイルのような物体……とても、宇宙軍艦には見えな
い。
「やられた、デコイだ!」
ミレッタが、コクピットで叫ぶ。
「! ミネルバが」
マユが短く声を上げ、ガイアを振り向かせ、スラスターを吹かす。他の2機が、それに
続いた。
「ミネルバ! 応答してください! ミネルバ! 応答してメイリン!」
「こち……、……ルバ、何……………たか……?」
デジタル変調が途切れ途切れに返ってくるが、とても会話が成り立たず、要領を得ない。
「間に合って……お願いっ」
「それで……まんまと逃げられたってわけね」
ミネルバ艦橋。忌々しそうな表情で、報告を受けたタリアは親指の爪を噛む。
『申し訳ありません、自分達の不手際です』
モニターの向こうのルナマリアが、苦い顔で言う。
「いえ……目標を指示したのはこちらだし、それに……」
タリアはそう言って、ちらりと後ろの指揮官席に座るデュランダルに視線を向けて、す
ぐ戻す。
デュランダルも苦い顔をしている。
「議長も乗っておられるし、母艦の安全を優先した事は間違いではないわ」
タリアはそう言ってから、軽くため息をついた。
「3機とも、速やかに帰艦して」
『了解しました』
ミネルバの直掩に立つように、三方に立っていた3機のモビルスーツは、ミネルバに着
艦するべく、動き始める。
「まだトレースできてる?」
タリアは、背後のオペレーターに訊ねる。
「いえ。デコイの方にホールドしていたので……付近に、艦船らしき反応、ありません…
…」
メイリンと背中合わせに座っている、男性のオペレーターが、沈んだ声で答えた。
「引き続き走査しつつ、3機を収容次第、微速前進。デブリ帯を抜けて。ぶつかったら元
も子もないわ」
「了解しました」
「了解です」
男性オペレーターと、操舵手が返事をした。
「あぁん、もーっ!」
更衣室で、パイロットスーツを脱ぎかけたマユは、ヘルメットを床に叩きつける。
「マユちゃん! 落ち着いて!」
ミレッタが近づいてきて、背後からマユの両肩を抑える。
「でも、議長にここまで取り上げてもらっておいて、こんな……」
着替える制服を手に取ると、マユは襟元のFAITH襟章を握り締めた。
ポーン
2人がやり取りしていると、更衣室のインターフォンが呼び出し音を鳴らした。
『マユ、マユ・アスカ、第1医務室から呼び出しがかかっています』
「第1医務室? あ、今行きます」
マユは手早く制服を着込むと、更衣室を飛び出した。
第1医務室に入ると、そこでは騒動が起こっていた。
「あ゛────っ、あ゛────っ!!!!」
奥から聞こえてくる奇声。医務室の床には薬品やら医療器具やらが散乱し、看護師がそ
れを拾い集めているところだった。
「この声、まさか……っ」
マユは慌てたように奥に進む。
予想通り、暴れていたのはステラだった。手足をゴムの拘束具で縛り付けられているが、
なおベッドを軋ませながら、激しく身体をのた打ち回らせている。
「ステラさん!」
マユはその枕元に駆け寄り、ステラの顔を胸元に抱きかける。
「い゛や────っ、ステラ、じぬのい゛や────じぬの怖い────っ!!」
「ステラさん、落ち着いて、大丈夫、大丈夫だから!」
マユが必死に呼びかけるが、ステラはそれが聞こえないかのように取り乱し続ける。
「ドクター! 早く、鎮静剤を!」
マユはステラを抱くように抑えながら、振り返るようにして言う。
「もう打った! だが、効かないんだ!」
「ええっ?」
マユはステラの顔を覗き込む。
ステラは奇声を上げ続けながら、涙で顔をくしゃくしゃにして、暴れ続ける。拘束具に
抑えられた手首や足首が、うっ血してどす黒く変色している。
「しかたないっ」
マユは、一度ステラから軽く離れると、自分の制服のポケットから、筒のような物体を
取り出した。無痛注射針と一体になった、小さなアンプル。
それを、包んでいるガラスケースから取り出すと、ぷちゅっ、と、ステラの腕に注射し
た。
「!? あ、あ゛ぅ……あっ……」
ステラは一瞬、驚いたように目を白黒させた。奇声を上げるのを止め、しばらく緊張し
た状態でピクピクと痙攣していたが、徐々に身体の力が抜けていく。
「ぁ……お母さ……ん……っ」
「うん……大丈夫、大丈夫だから……」
安らかそうな顔を見せ始めたステラに、マユは頭を優しく撫でる。
「大丈夫だから、ステラさんもがんばって」
「うん……」
何を、という問いは返さず、ステラは目を細めた。
そのマユの背後で、ドクターは透明アクリルの、アンプルのカバーを拾い上げた。その、
貼られたラベルを見る。そして、目を円く見開いた。
「こんな強い薬を、どうして持ち歩いているんだ」
その声に、マユは振り返った。
ステラは眠ってしまったのか、目を閉じて安らかな顔で横たわっている
「それは……こういうことなんです」
マユはそう言うと、おもむろに制服の上半身をはだけた。ブラの役目も備える、白いカ
ップ付キャミソールに覆われた、身体が露わになる。
「!?」
ドクターは一瞬、面食らったが、やがてそれを見て、目を細める。
マユは右腕を袖から抜くと、自らの腕を覆い隠す、薄手の白手袋を外した。
金属。地金の色のままのそれは、マユの上腕部の中ほどから接続されていた。二の腕は
完全にカバーされておらず、駆動機構の一部が見え、そして中央軸に─────────
──
「なるほど……それを抑えるためには、これほど強い薬しかないな」
ゴクリと喉を鳴らしながら、ドクターは言う。
「私の身体、ほとんど慣れちゃってますけどね、薬にも、この腕にも……」
マユは苦笑気味に言い、長手袋を再びはめ、制服を元に戻す。
「ステラさんは、どうして暴れだし始めたんですか?」
制服の前を留めながら、今度はマユの方から、ドクターに問いただす。
「この子は、既に普通の人間じゃない」
「えっ?」
ドクターの言葉に、マユは驚いて、一度ステラの顔を凝視する。
マユがドクターに視線を戻すと、ドクターは続けた。
「神経を弄られたような形跡がある。恐らく、連合が試作している強化人間の一種だろう」
「強化人間って言うと!」
マユの瞳の色が変わった。
オーブ上空で、フリーダムと戦っていた、連合のモビルスーツ、カラミティ。そのパイ
ロットは────
「ブーステッドマンと違って、強力な薬物の反応はないがね。直接、神経に何かを作用さ
せていた感じだ」
ドクターも唾棄するように言う。マユはステラを見ると、下唇を噛んだ。
「つまり、連合はZAFTと戦争するつもりで、ステラさんみたいな子を……」
「連合と、断言は出来ないけどな」
ドクターは言ったが、気休めのような物だった。ミネルバ並みの戦闘艦、強化人間、MS
強奪……連合の参加国以外なら、オーブぐらいしかその能力はない。だが、オーブには因
縁のあるマユだが、これほどのことをやるとまでは思えない。
「まだ、戦争、するつもりなんだ……」
マユは、ステラを見て、その頭を撫でつつ、小さく呟いた。
ミレッタの乗機、ジン・ハイマニューバIIは、サトー達テロリストが乗っている物と一部仕様が異なる。
目立つ点としては、日本刀形の斬機刀を止め、サブバッテリー付の西洋剣形メーザーソードに変更している。
>>177-181 今回は以上です。
途中まで総レス数が間違っています。申し訳ありません。
日付変わる前に乙
ツマンネ
失せろ
華麗にスルー
スルーと言ってる割にはGJのひとつもない。
お前らもホントはこの職人嫌いなんだろ?
ヒント:過疎
その前にこいつ偽装ageしてる時点で荒らしだろ
ブラキャミ姿のマユにハァハァ……
まぁシーン的に感想付けづらいのは確かなんだろうが、
乙以外に何か言ってやらんと職人さんも続けづらいだろう。
まぁ、何かって言うと俺もキャミ姿のマユハァハァですがなにか?
またgが大文字になってるよ
それ以外に言うことはないのか?
sageられもしない奴は荒らし
二言目には荒らしかよ。
>>195 十分荒らしだろうが、お前頭大丈夫か?
まあしょうがないか忠告されてもsageる事が出来ないからな
頭の中に蛆が湧いてるとしか思えん。
言いたいことはそれだけかって言ってるんだよ。
>>196 隻腕追い出して欠片を砕いた奴を相手にするなよ。
( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \
おまいら馬鹿じゃね?
今職人追い出しかけてんのはお前らだろうがよ。
どうもあちこちのスレで職人を追い出して回っている連中がいるな……
ハァ?
つまり俺が言いたいのは、荒らし云々より先に職人に言う事あるだろってことだけなんだが。
じゃあ言うと
>>183もsageなんだよな
疑うつもりもないけど、こうも続くと感想貰えなくて職人が自演してるとしか見えない
お前のせいでDESTINY Mの職人がどう弁解しようと荒らし=職人の方程式が成り立ってしまう
そういった例が過去になかったわけじゃないしな
感想レス乞食で、感想貰えなくてこんなことをしてるのであれば
もうSSを書くのは諦めた方がいい
ここはお前のような奴に住人の数を減らされて過疎状態になってるんだ
過疎の中少ない乙やGJや感想でいいという覚悟がある職人だけ残れ
荒らしたところで状態が変わるわけじゃない
逆に過疎が進むだけだ
感想が増えることなんてありゃしないんだ
あとついでにいうと過去にすがる住人もいなくなってほしい
PPや隻腕や他の未完作品がまた再開されることがあるかもしれないが
「○○が良かった」「○○が帰ってくると願っている」というレスは
今現在書いている職人に失礼だ
荒らしとやらに粘着する奴がいるのに、職人に返すレスはないってか。
終わってんな。
>>203 面白くないSSをスルーしても良いじゃない?
どっちかがスルーすればいいだけだろうに…
要は結局、つまんないってことには同意なんだろ?
なんで
>>185に反応するんだかwww
職人本人でもなくしゃしゃり出てくると思ったらやっぱりか。
この作者ってミーアスレと逆シンスレでSS書いてたしかいてるんだが
>>210 他スレの事なんて関係ない。
職人の価値は作品が面白いか否かだろ。
レス乞食で趣味が自演であっても面白ければ構わない。
面白ければ、ね。
仕方無い。俺が感想付けてやるから自演はするなよ。
>>177 句読点がアレ程じゃないけど多い。
過疎とか言ってたわりには大盛況だな。
えらく荒れてるな
このスレはもう駄目かも・・・
そりゃあ職人ほっといて荒らしには脊椎反射だからな。
このスレも立てるか立てないかで一悶着あったからな
荒れているし次スレは立てないと決めたのが、誰かが勝手に立ててしまったし
仕方無いだろ
消えた職人の復帰を待つ珍妙な住人兼ロリ公ペド助の巣窟なんだから
せっかくブラキャミマユが……
ロリーショック!な感じだな
まあこのスレが落ちたらまとめサイトへゴーだ
FD2のマユはええぞ。
あ。
スレが落ち着く=過疎っていうのは寂しい現象だな
未来がないスレに職人は来ないだろ。
♪)
227 :
赤いひと:2007/10/27(土) 07:54:05 ID:???
>225じゃばいけど、新作いくよー
228 :
赤いひと:2007/10/27(土) 07:55:35 ID:???
真っ青な空、切れ切れの白い雲、降り注ぐ日差しを一身に受ける木造の校舎、周りは木々の生い茂る山間、そこへ伸びる舗装路は一本、それも校舎の向こうに伸びている様子はない。
その校舎の一部屋にて。
「シバ学園へようこそ、私が学園長のマニエル・ドーズです」
顔にしわ、声は穏やかさを込め、極めて質素な服をまとう老女。
「初めまして、ミリアリア・ハウです」
顔に張り、声から朗らかさをにじませ、努めて簡素な服をまとう婦女。
二人は手を差し出し、握手。
「おかけになってください、ハウさん。それにしても、ひょっとしたら、私が学園長になってから初めてかもしれませんね、ジャーナリストの方から取材を受けるというのは」
「本当ですか?オーブ復興支援の中でも、特にここの生徒が尽力したことはちょっと調べればわかるのに」
訝るミリアリアに苦笑いを浮かべてドーズは答える。
「事実です」
ミリアリアはすかさず質問。
「失礼ですがドーズ様が学園長に就かれたのはいつごろですか?」
「五年前。いえ、事実上、それよりも長くやってはいますね。前任者が戦災で亡くなったその日から代行をしておりましたから、このシバ学園の学園長に正式に就任したのは戦後の話ですけれど」
「それでは、シバ学園生徒の活躍はドーズ様の指示によるもので」
「大それたことはしておりません。あの当時、私達は出来ることをやっただけで……」
こんこん、こんこん。室内にドアをノックする音が響く。
「入りなさい」
ドアの向こうの相手にドーズは入室を促す。それにつられて、ミリアリアもそちらを見る。
最初に目に飛び込んできたのは黒くて尖った何かの先端、少し目を落としてそれは黒いとんがり帽のと知る。被っているのは子供、年の頃は十二か十三.また、肩幅よりも大きい帽子の鍔に顔の半分は隠れており、さらにその小さい体は濃紺の外套で包まれていた。
その子はとんがり帽の鍔を押し上げた。帽子に収まりきらない栗色の髪に囲まれた、小さい顎、小さい口、小さい鼻、わかり易い少女の面立ち。ただその中で一つ、縁なし眼鏡の向こう側にぱっと見開いた真っ赤な瞳が輝いていた。
229 :
赤いひと:2007/10/27(土) 07:58:10 ID:???
この少女を目に留めると、ドーズは早速に言いつける。
「申し訳ありませんが、話が長くなってしまいそうなので紅茶とクッキーを用意して下さいませんか」
少女は指先でとんがり帽の鍔を弄ぶような仕草を見せると、声量はともかくとして、しっかりと言い放った。
「私がミリアリア・ハウ様の手荷物を調べ終わってから取材は許可される手筈ですよ」
「なら、そこで手荷物を調べて問題があればいつでも言って下さいな」
学園長のドーズが指差したのはミリアリアの隣。
少女は肩でため息をつき、ミリアリアの傍らに置かれた鞄を手にして「荷物はこれで全部」と確認をとる。ミリアリアが当然と頷いたのを見取ってから、少女はミリアリアのすぐ隣に着席する。
その後で、黒いとんがり帽をさけつつ、ミリアリアはその帽子で顔の隠れた少女に呼び掛け、握手する為に手を差し出す。帽子をのけてミリアリアを見返す少女、あからさまに眉をひそめている。
「すいません、手荷物の検査が終わるまでそういうのは遠慮します」
行き先を失って宙をふらつくミリアリアの手。直後にドーズの声が響いた。
「彼女はお客人です。もう少し丁寧に受け答えをなさい」
「……はい。申し訳ありません、ドーズ様、ハウ様」
口では謝罪。しかし、その一方で、この少女が小さく小さく肩をすくめたのをミリアリアは見逃さなかった。その上で改めて。
「えっと、じゃあ自己紹介だけでも、私はミリアリア・ハウ。貴女は?」
「私は……」
赤い瞳のマユ・アスカ〜或いは魔女に扮したみなしごの物語〜
第一話「ようこそ……」
「はい」
園長室を出てすぐ、マユは鞄を差し出す。鞄を受け取ろうとミリアリアが手を伸ばしたところで、ふと思い立ったマユが鞄を引っ込め、代わりに空いた手で握手。
「ようこそ、シバ学園へ」
「どういたしまして、私はミリィでいいわ」
「なら、私もマユと呼んでください」
230 :
赤いひと:2007/10/27(土) 08:00:52 ID:???
握り合った手を解いて、マユは改めて鞄を握らせた。
「まずは寝泊りするところへ案内してから取材の案内を……しようと思ったけど、早速、順番が狂いましたね」
ミリアリアに返す言葉はない。
「どうします、このまま取材に向かわれますか?」
取材に向かう、といわれてもミリアリアは気が乗らない。長く伸びる廊下の窓一つ一つから強い日差しと濃い木の影が差し込んで、遠くの喧騒が聞こえる中でも服の擦れる音すら聞き分けられそうな静けさは、校舎に人の気配がほとんどないことを教えてくれた。
「いえ、まずは寝泊りするところから」
「では、こちらです」
案内される最中、ミリアリアは、今、校舎に人がいない理由を尋ねてみた。
「実地で大体出払っています。とはいえ、確かにこういうのは珍しいかもしれません。ちなみに、生徒で一番近くにいるのは耳に聞こえている人達でしょう」
そう言われて初めて、ミリアリアは遠くの喧騒を注意深く聴いてみた。人の声はほとんど聴こえないが、重機が地面をかき乱す、いや、重機が地面を踏む音はよく聴こえてきた。
この珍しい、しかしミリアリアの耳には馴染みのある重機の音色は、彼女をそちらに誘う。特に、案内で校舎から外に出た今、その誘惑は一層強くなる。
「ミリィ、こっちです」
逆方向に呼びつけられたミリアリアは、マユの方へ向き直ると共にそういった衝動を押さえ込んだ。
校舎をぐるっと周り、校舎の角をいくつか横切って山沿いに開けた方に目をやると、細々と窓が一列に並んだ三階建ての建物があった。なるほど、外からでも小さい部屋を連ねて重ねた味気ない寄宿舎とわかる、というのがミリアリアの印象だった。
そして、マユに案内されて実際に中に入ってみると印象のままの内装だった。飾り気のない玄関から名札の掛かったドアが延々と続く廊下、小奇麗である分、また人気がない分、寂しい印象が際立った。
「ちなみにこっち側は主に教師の部屋です」
マユはそういうと玄関を入ってすぐの廊下を左に曲がり、少し歩いて少し開けた空間の前で立ち止まる。ミリアリアもそこで立ち止まった。
ミリアリアは一見して、その開けた空間は直進する廊下の左右の壁を取り払って数部屋分をつなげたところで、部屋は大人数で使う為に机や椅子が余裕をもって並べられていた、また廊下自体はこの大部屋を通り抜けて向こう側まで続いている。
「そこはレクリエーションルームで、あっちが生徒の部屋です」
231 :
赤いひと:2007/10/27(土) 08:01:56 ID:???
部屋向こうの廊下を見やってミリアリアが納得するなり、そのレクリエーションルームから少女が飛び出してきた。
「マ〜ユ〜。どうしたの、こんな時間にこっちにきて。もしかして私が頼んでい……」と、少女はミリアリアと目を合わすなり、尻すぼみで言葉は消えていった。
「そちらの方は?」
「ジャーナリストのミリアリア・ハウさんですよ。朝にモナカ様がおっしゃられていたのをお忘れですか」
真剣にたしなめる声色と赤い視線を前に、マユより二つか三つは年上の少女は目を泳がせて場を取り繕う何かを探していた。そして。
「レ、レクリエーションルームの掃除はやっておいたから。やり残しとか見つけたら後でいってちょーだいね。それじゃ、私は洗濯物を見てくるから。じゃーね」
少女は言うだけ言うと、マユ達に背中を見せて廊下を駆けていった。いなくなったのを見計らってミリアリアからマユへ。
「ねぇ、どういうこと?」
「あ、っと、まぁ、御内密にお願いします」
マユ、外套から伸びた左手の、ぴんと立った人差し指を唇に当てるジェスチュア。察したミリアリアは、さぼりの真っ最中だったらしいで結論付けた。
しかし、ミリアリアにはそれが単純に微笑ましく、次いで昔の自分を重ねてみる。きっと、自分はたしなめる方ではなく、ばつが悪くて逃げ出した方になるだろう。
「ええ、いいわよ。でもこれは貸しね」
「高くつきそう」
「部屋に案内した後で今の子に取り次いでくれたら、貸し借りなしでいいよ」
「あら、それぐらいならお安い御用で」
マユが口にした「それぐらい」という言葉がミリアリアの心に響く。その「それぐらい」が一番大切なことだった。ここに普通の女の子がいることが、その普通の子の話を聞くことが、何よりも。
232 :
赤いひと:2007/10/27(土) 08:04:14 ID:???
こんこん、こんこん。不意のノックの音でミリアリアは我に返る。その音は、マユが名札のないドアを叩いてだした音だった。
「ここがミリィの部屋です」
あの微笑ましい出来事の前に、部屋の案内は済んでいた。
「で、これがネームプレート。これを張った瞬間から、私達との共同生活が始まります」
マユが外套の中から取り出して手渡した「ミリアリア・ハウ」の名札。目の前には何もないまっさらなドア。ここにきて、ミリアリアにある疑問がわく。
「マユって私と相部屋とかじゃないの?」
「……お望みならそうしても構いませんが、そうなさいますか」
「いや、そうじゃなくて。マユは何をしている人なの?学生がほとんど出払っているのに同室でもない私を案内して?もしかして、その若さで教える側の人?」
名札と手荷物を片手に返答を待つミリアリアは、眼鏡を一つ挟んだマユの真っ赤な瞳にじっと睨まれた。
「ちゃんと教わる側ですよ。ただ、私は巡回学生ですので」
「えっ?巡回学生って、将来を嘱望された幹部候補でしょ?マユってすごい……」
驚くミリアリアに呆れるマユ。
「大間違いも甚だしいけど、ま、いいか。えっと、私のことですけど、まずドーズ様の説明で単独での取材は禁止ってのは憶えていますよね」
「もちろん。撮影や録音は必ず教師の立ち会いの下で行うように、でしょ」
「さっきも早速催促されたけど、当然、ミリィは寮内とかで生徒相手に取材をする。その際、教師立会いだと生徒も喋り辛いこともあるでしょう、それもさっきのが良い例。それでは取材にならないので立会人を私、それと寮長も務められます」
ふんふんと頷くミリアリア。
「わかって頂いたところで二つ目の質問に答えます。立会人の中で一番手の空いていた私に案内役を割り振られた、そういうことです」
「なるほどね」
マユの赤い瞳がミリィの納得した様子を見取ってから、とんがり帽の鍔を摘まんで外套を翻し、やや大仰にドアの脇へと寄った。
ミリアリアは少し面食らった。しかし、次にすることはわかっていた。一歩前にでて、手にした名札をドアに差し込む。目の前の空き部屋が、ミリアリア・ハウの部屋になった。
「ミリアリア・ハウ様。改めて歓迎します」
すぐ隣から響く少女の声、高く小さい声、けれども芯の強さを秘めた声。
呼ばれて見た先、少女は黒いとんがり帽を脱ぐ。栗色の長い髪がすらりと垂れて肩に掛かっている。真っ直ぐ伸びた小さな体、それを包む濃紺の外套も倣うように真っ直ぐ。顎を上げ、斜め上に傾いた顔は、薄い眼鏡を一枚隔てて、真正面に真っ赤な双眸を向けてくる。
思わず息を呑んだミリアリア、マユはやうやうしく頭を垂れる。
「ようこそ、ブルーコスモスへ」
>>232 乙です。
「ブルーコスモス」のマドロサ?落ちでド〜ン!wktk
最初‥ネギまかTaiを連想しました(笑)
「赤いひと」乙です!
>>233 俺の脳内では長門ボイスなマユだ。
235 :
単発:2007/10/28(日) 04:14:04 ID:???
久方ぶりしております。
時間がかなり空きましたが、やっと続きができましたので投下します。
次回以降も遅々とした投下になるかと思いますが。。。。。。。
単発設定小話 after the story 第十九話「予期」
その場に残った私とアビー姉ちゃんはテーブルに置かれた封筒を凝視していた。
「これマユ宛よね。さっきの男の子を知っているの?」
私はアビー姉ちゃんに嘘を言った。確信はないが、昨夜私の部屋の前まで来ていた子供に間違いは
ないだろう。それにしても他人の空似だろうか、あの髪と目の色。なによりも顔の造り全てが私の記憶に
うっすらと残る兄のものとそっくりだった。それにアビー姉ちゃんも最初に尋ねていたが、あの子の親は
誰なのだろう。私の脳裏にはマリアの顔がすぐに浮かび上がった。今夜会うときにまとめて聞いてみる
べきなのか。もう少しだけ、私は考える時間を欲した。
私は封筒を手に取り中に入っていた便箋を取り出した。封筒はやはり私宛だった。差出人は言わず
もがなDSSDのマリアからだ。相変わらず思わせぶりなことだと思いつつも、それも今夜ではっきりさせ
るつもりだった私は読みたいとはあまり思わなかったが我慢して目を通した。手紙には今夜会う場所を
変更したい旨が書いてあったが、変更場所の指示はなかった。
「マユ、聞いてもいいかしら?」
アビー姉ちゃんは興味深そうに私に尋ねてきた。私は目を合わすことができず、便箋を持つ手が震え
た。今、アビー姉ちゃんの前ではき出してしまえばどんなに楽になるかとも思ったが私の小さな意地が
それを遮り、私は声を絞りだした。
「・・・・・・待って。必ず、必ず明日全部話すから。お願い、それまで待って」
「本当よ?・・・・・・本当に本当よ?あなた一人で抱え込むのは、これが最後よ?」
アビー姉ちゃんは私の顔を両手ではさみ持ち、まっすぐ私の目を見て訴えた。私は視線をそらすこと
ができず小声で「うん」とだけ発した。
「じゃ、一度部屋に戻って仕度してきなさい。早めにセントラルステーションに行きましょう」
テーブルの上の封筒と便箋をそのままにして、私は立ち上がり食堂を後にし自分の部屋へ戻った。
椅子に深く座りなおし、アビーはテーブルに残された封筒と便箋をじっと見つめていた。
「・・・あの子供の瞳の色・・・・・・なぜブルーコスモスがコーディネイターの子供を?」
アビーはテーブルに視線を落とした。テーブルの上に放りっぱなしの便箋と封筒を指でつまみあげ、
それらを内ポケットから取り出したハンカチにくるみこみ、すぐにハンカチを内ポケットに戻した。
「事が起こる前になんとかしてあげたいけど・・・・・・任せられる人がいないのが悩みね・・・」
アビーは食堂を離れ、シャトル乗り場へと向かう途中で頭の中を整理した。
・DSSDにブルーコスモスの残党がいること。
・木星資源惑星化プロジェクトを利用しようとしていること。
・新しいMSを獲得していること。
・ブルーコスモスがコーディネイターと思われる子供を養育していること。
・執拗にマユに絡んできていること。
・マユが挙動不審なこと。
今のところ確信を持っていえるのは、ブルーコスモスの残党はいまだに存在し、また活動も止めて
いないということだけだ。
そして、アビーがシャトル乗り場へ着いたすぐあとにマユがやってきた。
「さ、今日から忙しくなるわよ」
アビーが声をかけるとマユは無言でうなづいた。
続
「単発」さん乙です。
アビー姉さん、頼もしい‥!
〜なんか「オデッサ化」したブルーコスモスの攻勢も‥。
まさに乙と言わざるをえない!
GJ
「ん、ちょーどいい具合に召集がかかったな。」
ハイネが通信の結果を見て呟く。
「それじゃあ作戦決行ってことね?」
ルナマリアがぽつりと呟いた。
「それじゃ、各自作戦通り暴れる事。行くぞ!!」
そう言って15機のMSは飛び立った。
「だぁっ・・いたー!!あのアマよくもやってくれたわね!!」
「まさか・・・、ここまでラクス・クラインの手が伸びていようとわね。」
「そんなあっさり言わないでください、議長。」
ラクス・クラインに占拠されたメサイアの中、デュランダル議長、ミーア、そしてサラが喋っている。
彼女達はミーアの部屋に閉じ込められており、それぞれ手と腕を縛られていた。
「どうしようかしら・・・・、今抜け出そうと思えば抜け出せるけど・・。」
「・・・・・出て行った瞬間蜂の巣よ?」
「ですよねー。」
ミーアとサラが少し気の抜けた会話をする。
「まぁ、とりあえず監視カメラをいじらなくちゃね・・、イッキ!!」
ミーアはカメラから死角の位地に微妙に身体をずらしが呼ぶと赤いハロが彼女の鞄から飛び出してくる。
そして小声でこそこそと話す
「ヨンダカ。」
「うん、ちょっくらあの監視カメラの画像、私たちの映像をしばらく大人しくうな垂れてた数分前のその画像をリピートするよういじってくれない?」
「フ、リョウカイシタ。」
そう言うと監視カメラへ移らないよう見事な位置を移動しとジャンプして監視カメラのある壁横に移動するハロ。
そのまま足の部分から吸着パーツを取り出し壁に張り付く。
そしてそのまま耳の部分からツールを取り出して見事に監視カメラを分解、いじっていく。
「・・・・所でミーア、あのハロ、私があげた時と口調が変わってないかい・」
「えぇ、シンハロに頼んで改造してもらいました。昨日も通常の三十倍にアスランにしてもらいました。」
「・・・・・何で?」
「なんか軽そうなアメリカ口調は好みじゃなかったんで、兄さん風にしてもらいました。」
「兄さん?!兄さんってなんだね!?あのハロの口調は三日徹夜して設定したのに!!」
ミーアの言葉で本気で泣きかける議長。
「そんな暇があったら仕事してください!!」
「だって!!シンハロもマユもレイも冷たいからせめて明るいハロをと思って!!」
「そんな冷たい家庭の事情で仕事を放り出さないでください!!」
サラにおこられぶーたれる議長、実はラクスに支配されたほうがいいんじゃないだろうか、と一瞬サラは考えてしまった。」
すると、突然何やら外が騒がしくなる。
「どうしたのかしら?イッキ!!外の会話!!ハックついでにここのTVに映せる?」
「リョウカイシタ。」
するとテレビから声が聞こえる。
『どうした?!』
『ミネルバ急にこちらに攻撃を!!』
『ハイネ隊が追撃をしたがダメージがひどいそうだ!!こちらに来るぞ!!受け入れ準備!!』
バラバラな所から複数音声を集めてくるのか何やら騒がしいが、これだけ聞き取れた。
「な・・・?どう言うことだね?!」
議長が驚愕の声を上げる。
「とにかく、今がチャンスと言うことです、議長。しかしこれをどうしましょうか?」
サラが縛られている縄を見て苦い表情を浮かべる。
「ふふん・・、大丈夫ですよ・・・。歌姫の必殺技パート1!!スカーレットネイル!!」
ミーアがそう叫ぶとジャキン、と言う金属音と共に赤く長い爪が彼女の手袋から出ていた。
「・・・・・・・・それは?」
「この服、いざって時の為に皆がいろんな装備をつけてくれたんです。これもその一つです。」
さらに問われて鼻高々に語るミーア。
そして自分の縄をぎりぎりと切り始める。
「それ、むしろ私かレイが装備するべきじゃないか?」
議長がぽつりと呟く。
「いいじゃないですか!!ほら今縄切りますからこっちに来て!!」
このままだとあのハロには火炎放射器がついてるんじゃないだろうか、と議長は一人考えた。
ほのぼのさん乙です。
ハロが強化し杉。
単発さん、ほのぼのさん、乙です。
>>236 アビーさん、しっかりとお姉さんしてますね。
>>241 >>歌姫の必殺技パート1!!スカーレットネイル!!」
この部分だけBGM付きでラウの声で再生されました。
>ほのぼの
乙。みあみあにされてやんよ
しかし語呂が悪いなこれw
あげ
今晩は。約5週間ほどのご無沙汰でした。
幻視痛という作品を投下させていただいている者です。
前回から非常に間が開いてしまい申し訳ありません。
>>148-151の続きを今回6レス分ほど投下させていただきます。
よろしくお願いいたします。
幻視痛 「デブリ戦後 ミネルバサイド」
被弾しながらもすれ違い、彼方へ飛び去っていくボギーワン。
それを追跡する力は満身創痍の今のミネルバにはなかった。
戦いに“もし”は存在しない。
だがもし仮にガーティ・ルーが差し違える覚悟でミネルバに迫っていればミネルバは沈んでいたであろう。
ガーティ・ルーの本来の目的がミネルバを振り切ることだったので命拾いしたといったところか。
――なんとしてもボギーワンを追跡しなくちゃ。……ギルの前でみっともないマネはできないのよ!
ミネルバブリッジでは無理を承知でタリアはボギーワンを追跡しようと考えていた。
「インパルス、ザク、エネルギー危険域です」
また、ミネルバにとって不安材料がタリアに報告された。
ボギーワンを追跡しながらMSに自分で帰投してもらうことが難しくなったということだ。
インパルスとザクの回収を優先すればボギーワンは遠のく。
――さて、どうすればいいの、タリア=グラディス、考えるのよ!
「グラディス艦長」
デュランダル議長に名を呼ばれて、はっと振り返るタリア。
「もういい。後は別の策を講じる。私もアスハ代表をこれ以上振り回すわけにはいかん」
――ゲームオーバー、というわけね。
「申し訳ありません」
タリアは議長に陳謝しつつ微かに肩を落とした。
ボギーワンが作戦可能な宙域から離脱してしまったことを確認するとミネルバは第1種警戒態勢を解く。
ブリッジを含め艦内の全ての態勢が平時へと移行していく。
その後、アスランとカガリはデュランダルとタリアに士官室まで送られた。
しかし、アスランはなんとはなしにその部屋から出て食堂のソファーにぼんやりと座っていた。
先ほどの戦闘中のことを思い出す。……あのとき、パイロットがいないといわれ、思わず腰を浮かせて。
――俺は何がしたいんだ? あの時、俺はどうしたかったんだ? 俺は……
ミネルバの食堂のソファーにぼんやりと座るアレックス=ディノ、アスラン=ザラ?
誰であろうと今の彼にその答えは出せなかった。
MS3機の帰還を確認。警戒態勢も通常状態へシフト。
ブリッジも待機状態へ移行したのを確認したメイリンは急いでブリッジを離る。
姉達のことが心配で心配でパイロットの控え室へ急ぐために。
パイロットの控え室から何かを話ながら出てくる3人を見つけ、声をかけた。
「シン、レイ、お姉ちゃん!」
「メイリン!」
「お姉ちゃん、大丈夫だった?」
ルナマリアに抱き着くメイリン。
「全然大丈夫じゃないわよ。ほんと、死ぬかと思ったわ。
でも今回はシンの大活躍で助かっちゃったようなもんよね」
「おれは大したことしてないよ。逃げ回ってただけだからさ」
「またまた、ご謙遜を〜」
ルナマリアはシンの頭を軽くこづく。
「本当さ」
――あいつらは俺のことを落とす気はなかった。だから逃げ延びることができただけだ。
彼の実力ではないことは彼自身痛いほど実感していた。
もう一つ、彼を救ったのは空耳だろうとは彼は思っていたが妹のマユの声が聞こえたことだ。
あの声が聞こえていなければあのまま意識を失っていただろうから。
――強くならなかきゃな。もっともっと強く。
ほっとしたメイリンは彼らに今回の戦いの間に知った“衝撃の事実”を語った。
アスハ代表の護衛がアスラン=ザラであり、彼の進言でミネルバは危ういところを免れたと。
「へ〜、やっぱりあの人、アスラン=ザラだったんだ。アスハ代表が口を滑らせてたし」
ウンウンとばかりに満足げなルナマリア。
――なんだ、オーブの奴に助けられたのかよ。
シンはかすかに憤りを覚えた。
――あのときは逃げ出して、でも今度は自分に火の粉が降りかかるから手を出したのか?
4人はそろって休憩しようと控え室のすぐ側にある食堂へ向かう。
「でも、本当に名前まで変えなきゃならないもんなのかな?」
不思議そうにメイリンが感想を述べる。
「やっぱ居づらいんじゃないの?」
ルナマリアは『まあ裏切ったんだし』とまで露骨にはいわなかったがそんな感想を述べる。
「でもあの人、前は英雄だったんだし……そんなでも、やっぱり居づらいのかな……アッ!」
そういいながら食堂に入ったメイリンはその話題の当人を見つけて思わず口に手をやり、シンの背後に隠れた。
食堂のソファーに座っていた当の本人はゆっくりと食堂へ入ってきた四人の方へと視線を向けた。
「へぇー、ちょうどあなたの話をしていたところでした、アスラン・ザラ。
まさかと言うかやっぱりと言うか、伝説のエースにこんなところでお会いできるなんて光栄です」
まるで挑発するかのようにルナマリアはアスランの目の前に立って彼に言葉を投げつけた。
――私の方がザクをうまく扱えるのよ!
「……そんなんじゃない、オレはアレックスだよ」
――今の俺はアレックス=ディノ。そのつもりだ、そのはずなんだ。
自らに言い聞かせるようにアスランは彼女にそう答えた。
「だから、もうMSにも乗らない?」
ルナマリアはアスランをややのぞき込むようにして再び挑戦的な言葉を続けた。
「よせよルナ、オーブなんかいる奴に……何も分かってないんだから」
シンは彼を冷たい視線で一瞥してその場を立ち去った。
「え?!」
――何故、オーブが関係ある?
アスランはシンの言葉に首をひねる。
「失礼します」
レイは律義に敬礼をしてシンの後を追う。
「でも、船の危機は救ってくださったそうで。ありがとうございました」
そういってルナマリアは食堂を出て行った。
「……そんなんじゃないさ」
そんな彼の言葉を誰もまともに聞いてはいなかった。
「あ、待ってよ、お姉ちゃん!」
置いてけぼりにされた格好になったメイリンはアスランへ簡単に敬礼をするとあわてて3人の後を追った。
――俺にどうしろっていうんだよ、あいつらは。
食堂に一人取り残されたアスランはまた深いため息をついた。また、思考だけがぐるぐると彼の頭の中を回る。
この光景、ディアッカ辺りが見ていたらこういって笑い飛ばすところだろう。
『そんなウジウジ考えているとまた額が後退するぜ』
――マユ……。
シンは一人自室の戻るとマユの形見の携帯電話を手に取り、オーブで幸せだった頃の名残の声を再生した。
『はい、マユで〜す。でもごめんなさい。今マユはお話できません。
あとで連絡しますので、お名前を発信音のあとに……』
「マユ、ステラ達、先に行くね」
そういってステラはマユを残して先にガーティ・ルーの格納庫を後にした。
スティング達は先に“医務室”へ。それからネオに報告。
マユは先にネオに報告してから“医務室”へ。
それが戻って早々マキから受けた指示だった。
「マユ、一人で大丈夫?」
格納庫で彼女たちを見送るマユを心配そうに見つめるステラ。
「大丈夫だよ、すぐにネオおじちゃんのところへ行くから」
「行くぞ、ステラ!」
うっとうしそうにアウルが呼ぶ。
マユはまだ、後ろ髪を引かれるような表情のステラに笑って手を振った。
ステラ達を見送ったマユは何となく格納庫の中を見回す。
「ストライク、ガイア、カオス、アビス……みんなお疲れ様ね」
ステラ達を乗せて戦ってくれたMS達を見上げてねぎらいの言葉をかける。
マユがモビルスーツデッキを見回すとダガー隊のハンガーには1機しか立っていなかった。
そういえばストライクをもらわなければ彼女が乗るはずだったMSも見あたらない。
これと同じ型のロングダガーだったはずだ。
アーモリーワン襲撃で出かけるときは一番隅の予備ハンガーに“使う予定がない”と固定されていたはずだが。
ただ1機ハンガーに固定され、その周りで整備員が忙しげに動くロングダガー。
マユはその正面に立って彼らがその期待の周りで動くさまをぼんやりと見上げていた。
左肩にコウモリをモチーフにしたというマークをつけたロングダガー。
たしか出航間際に急に配属された“助っ人”とか言われていた人が乗っているはずのMSだった。
「あれ、イザワさん達、まだ帰ってきてないの?」
――でも撤退命令出てからずいぶん立つのにな。
マユは誰に質問するでもなくそうつぶやいてみた。
「えっと、そうなんだ…」
マユのすぐ側に立っていた整備士が口ごもりながら答える。
「ふ〜〜ん。なにやってんのかな? 別のお仕事?」
――ブリーフィングでそんな話あったっけ? 覚えてないや。
「いや、おそらく彼らはもう帰ってこないよ」
MSの側にいたそのロングダガーのパイロット、“助っ人”と周りに呼ばれていた男が整備士に代わって答える。
「あんた!」
口ごもっていた整備士が言葉を遮るために彼の肩に手をかける。
「彼女に嘘を教えてもしょうがないんじゃないの? どのみちわかるんだからさ」
――そもそも同じ艦(フネ)乗ってんだからそのうちわかるでしょうが。
肩にかけられた手を下ろし、遮ろうとした整備班を制する。
「でも、マユちゃんにそんな……」
「これは戦争なんだから仕方ないだろう。背負わなきゃならんもの、俺たちが背負わないでどうするんだよ。
……おチビちゃん、たぶんあいつらは帰ってこないよ。マーカーロストのまま、まだ発見されていない」
「じゃあ、ハナダさんも、トビーさんも?」
「ああ、そうだよ。あいつら二人とも俺の目の前でやられた」
ふだんの人の良さそうな彼らの笑顔が思い出される。
「そっか、そうなんだ」
「それにさ、言っておくけどイザワ機は今回の追撃戦じゃない。その前の出撃で未帰還になっているよ」
「え? そうなの?」
――そっか、自分のことばっかりで全然気がつかなかったよ。
今回の出撃前のブリーフィングで感じた違和感にようやく気がついた。
いるべき人たちがいなかった、それだけだ。それだけのことなのだ。
アーモリーワンへの襲撃の時は別室でネオとマキ、そしてシイナ女史まで同席して作戦内容を聞かされた。
そしてステラ達とは別の作戦行動をとらされた。
今回はステラ達みんなと一緒。
あのときはマユはステラと一緒に出撃できることがうれしかった。
ステラ達と一緒にブリーフィングを受けられるのがうれしかった。
だから他のことは全然気にしていなかったのだ。
「そうなんだ」
「あ、そうだおばちゃん達のところへ報告に行かなくちゃ……」
肩を落としてふらふらとMSデッキを出て行こうとするマユ。
「あんた!マユちゃんになんてこといったんだよ!!」
その後ろで彼女に“事実”を伝えたパイロットに食って掛かる整備士。
「誰かが言わなくても遅かれ早かれわかる事じゃないのか。
もし、それに耐えられないんだったら、この艦から降りた方がいいよ。
ここは軍隊、これは戦争だ、ゲームとかじゃないんだから」
彼のルーズに開いたパイロットスーツの両襟をつかんだ整備士に冷たく言い放つ“助っ人”。
「でも!」
握った“助っ人”の襟に力を込める整備士。
「生き残った連中がそれを簡単に忘れてどうすんだよ。
残った連中が何も背負わずにその上にあぐらをかいていたら、死んだ連中が無駄死になってしまう。
そうじゃないのか?」
すっと腕の力が抜ける整備士。
「そうなんだろうけど……しかし……あんな小さい子に、……あの子に
……でも、どうせ、そんな冷たいこといえるのはあんたには半分しか……」
――“半分”、“半端物”、“コウモリ”……。
――結局、俺はどこにいてもそんな言葉でよそ者扱いされるのかね。
力なく抗議する整備士の言葉を遮り言葉を続ける“助っ人”
「それをいうなら俺は半分はあの子と同じようなものだ。
あの子だってソキウスなんだろう? ようはコーディネーターだろ。
……だったら半分は俺のお仲間なんだけどね。
あの歳の子につらいかもしれないが、そうじゃなきゃここでやっていけないでしょうよ」
――あの子はソキウスだと聞いている。多少のことで動じていたらここでは生きていけない。
彼はかつての自分を思い出していた。
ナチュラルと一緒になり、子供を作ったと白い目で見られた父親。
ナチュラルのくせにコーディネーターの子供を作り、プラントに移住して肩身の狭い思いをした母親。
そしていつしか毎日のように夫婦げんかを繰り返していた両親。
――さもなければ逃げ出すしかね。
父親はいつしか家から消えていた。
近所からナチュラルだと後ろ指を指されていた母親も幼い彼と共にプラントから逃げ出した。
地球に降りてきたら“化け物の親子”と呼ばれて後ろ指を指された幼い自分と母親。
――でも逃げ出しても結局死ぬまでは何かを背負ってどこかで生きていかなければならない。
母親は心労が重なり倒れ、自殺し、彼は一人ナチュラルの中に取り残された。
――ま、当たり前のことだけどね。
生まれ故郷のプラントにも戻れず、流れ流れて今はファントムペインでMSを操縦している彼。
そんな彼にとってマユはある意味放っておけない存在なのだろう。
何かもやもやとしたものが通路を歩く私の胸の奥で引っかかってる。
あれ?なんだろう。
何かしっくりとこない、もどかしい。
何かが繋がらない。
そうじゃなくて何故か繋がっていないんだ。
繋がんなきゃいけないものがなぜか繋がっていない、そんな感じ。
「 あ っ ! 」
……ダガー隊のみんながもういない。
……MSに乗ってたみんながいない。
……今回、作戦は始まるまではみんなこの艦に乗っていたんだよね。
……そういえば前回の戦闘の後みんなと話したかな、覚えてないや。
……今回の出撃前のミーティングの時の違和感、これだったんだね。
……作戦の前には一緒にいたはずの人たちがいなくなっていたんだ。
……そんなことも私、全然気づいてなかったんだ。
……今までの戦闘で、みんないなくなっちゃった。
……そうか……そうなんだ。
み ん な 死 ん じ ゃ っ た ん だ 。
……MSに乗って戦闘に出てみんな死んじゃったんだ。
……MSに乗っていて撃墜されてみんな死んじゃった。
……そうか、でもそういえば……
……そういえば私もまったくおんなじことをしてたじゃない。
……そうだよ私も同じことしていたんだよアーモリーワンで。
……私もさんざんたくさんのMSを撃墜していたじゃないか。
……ザフトのMSを爆破して切断して壊していたじゃないの。
……あのMSには全部が全部人が乗っていたはずじゃないか。
……MSをビームライフルで焼いて破壊していたじゃないか。
……それってフリーダムがオーブでやったことと同じでしょ。
……あいつがお父さんとお母さんにやったことと同じでしょ。
……どうしてそんな簡単なことに気がつかなかったんだろう。
……そういえば私もまったくおんなじことをしたんじゃない。
……もしかして私とおんなじ人を作っているかも知れないよ。
そうなんだ……
わかったよ……
あ の 時 の フ リ ー ダ ム と 同 じ 、 た だ の 人 殺 し じ ゃ な い か、 マ ユ = ア ス カ は 。
何故かあの日フリーダムに乗って戦っている私がいる。
私の撃ったビームの何本かが敵から外れて木々を焼く。
それらがお父さんや、お母さん、お兄ちゃん、私の周りに降り注ぐ。
そして、お父さん、お母さんの体と私の右腕を焼いて黒こげにした。
そしてストライクに乗って宇宙空間にいる私。
アーモリーワンの外壁でたくさんの敵を殺す。
『やめてくれ、お願いだ、殺さないでくれ、やめてくれぇ、俺が何したんだよぉー。助けてくれよぉー』
アーモリーワンの撤退戦で最後につかんだ”残骸”の中から聞こえてた何かを叩きながら叫ぶ、震える声。
聞こえていなかったはずの震える叫び声が頭の中でグルグルと繰り返し聞こえる。
見えなかったはずの恨みがましい目でにらむ血だらけの姿が脳裏に大写しになる。
いつの間にか、見たことのない誰かの姿と声が私の知っている人達のそれに変わっていった。
イザワさんの、ハナダさんの、トビーさんの、みんなの血だらけの姿と震えている叫び声に。
頭の中でグルグルとエンドレスで鳴り響く。
みんなが私の周りでぐるぐるぐるぐる回る……
そしてお父さんとお母さんのうめき声と血だらけで焼かれてぼろぼろの姿がそれに加わる。
あのときに遠くの方に見えていたちぎれた私の腕を握りしめて泣き叫ぶお兄ちゃんの姿も。
最後に右腕のない血だらけの私が冷たい表情で氷のような視線を私に向けて目の前に立つ。
痛い、とっても痛いよ、右腕が泣きたいほど痛いよ。
この右腕を押さえても痛いところはおさえられない。
いまの右腕じゃなくてなくなった方の右腕が痛いよ。
歩いても歩いても歩いても歩いてもみんなの血だらけの姿と震える声が私についてくる。
振り払っても振り払っても振り払っても振り払ってもそれが目の前から離れてくれない。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……
何を謝っているのか、誰に謝っていいのか、わからないけどただ謝る。
いくら謝っても何度も謝ってもみんな私の周りをずっとついてくる。
その場にうずくまってもみんなが周りに立って私を見下ろしている。
耳を塞いでも聞こえてくる震える声。
目をつぶっても見える血だらけの姿。
ああ、私、人殺しです、ごめんなさい。
253 :
幻視痛:2007/11/04(日) 00:52:59 ID:???
以上です。
>>253乙です。
マユさんモロにNT、
感応力が制御できないとカ○ーユになっちゃうよ(笑)