ガンダムSEED 逆襲のシン・アスカ EPISODEY

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713GSCI ◆2nhjas48dA
『さあ……』
 シンの低い声が広域回線に乗った。二股に分かれた脚部を折って身を屈め、デスティニーUの双眸が
剣呑な光を放つ。右手が真横に伸ばされ、クリーバーが起動した。刃身を光熱が駆け巡り、
チェインソウの如き真紅の奔流がソード部分に纏わり付く。
 猫目のようなモノアイが瞳孔を、もとい、カメラのフォーカス調整部分を絞って細めた。
その後ろで、黒と紫に染め上げられた3機のドムが単眼を輝かせる。
 御柱の戦鬼と、その眷属らが魂無き兵士達を睥睨した。
『行くぞ』
 恐竜のような足部が左右に開いて真後ろに跳ね上がり、ランチャーのハッチが開く。
対MS用高機動ミサイルの群がスラスターの噴射光を引きずって敵機へ襲い掛かると同時
に、シュレッダーを携えクリーバーを振りかぶり、光翼を広げたデスティニーUが血涙を
流して突貫した。

『マスターユニット、インストール完了。システム統合開始……完了』
 誰もいないコクピット内部で、メインモニターに光が灯り文字が流れていく。機内に
響き渡る生気の無い音声は、ラクス=クラインの物だ。
『核エンジン、通常起動を確認。メインシステム、ドライブ。緊急事態につき、プロセス
12イエローまで省略』
 暗い格納庫に火花が散った。MSに接続されていたケーブルが強制排除されたのだ。
ライトイエローのツインアイが無人の格納庫を照らし出す。
『発進』
 短いアナウンスの後、背部ウィングユニットが開いた。上部ハッチが開き、軽く床面を
蹴ったその機体がゆっくりと浮かび上がる。
『敵性機、モビルスーツ4機を確認。ドローン損耗率、30%を超過』
 戦闘の光が上がる方へと機体を向かせ、スラスターを噴かして微速前進する。童話に
登場する怪物のような黒と赤の機体は、まだ此方に関心を見せない。自機の出力は未だ
10%を超えていないので、レーダーが拾えていない可能性もある。
 思考を巡らせる『エミュレイター』。あくまで実物のコピーなので、複雑な判断には
若干のディレイが生じるが、戦闘を行う分には問題無い。エンブレイスとセレニティの
操縦訓練のみ行ってきたので、MSを操るのはこれが初めてだが、それもエミュレイター
にとっては、真のキラ=ヤマトにとっては些細なことだ。
『ZGMF-X10A-2フリーダム、戦闘開始』
 蒼の翼、白のボディ。赤いラインが一本入ったシールド。シンにとっての忌わしき記憶。
かつて葬られた天使と寸分違わぬ姿を持った機体が、彼方からの星明りに淡く輝いた。