マユが生存してたら名作だった

このエントリーをはてなブックマークに追加
20通常の名無しさんの3倍
時計はもう、翌日を指していた。
「ったく、ルナマリアのやつ」
職場の同僚――俺は同僚だと思っている――に食事に誘われて、
帰路につく頃にはこんな時間になってしまっていた。
自然と歩きも早足になる。
急なことだったし、あいつに連絡を入れられなかった。
一応、遅くなるかもしれないといってあったから夕食は一人で済ませてくれているだろう。
深夜でもあるし、もう眠っていてもおかしくない。
しかし、歩調は更に速まる。
急ぐ必要は無いのだが、妙な胸騒ぎがするのだ。
21通常の名無しさんの3倍:2007/04/09(月) 22:37:03 ID:???
半ば小走りになりながら、玄関の前に到着する。
窓に明かりは見えなかった。
「ただいま」
小声で、帰宅を知らせる。
真っ暗な玄関にはだれもいない。
(俺の考えすぎか)
安心して――何に対して安心したのか自分でもよくわからないが――強張っていた肩から力が抜けた。
靴を脱いで、リビングと直結した台所へと向かう。
力が抜けたとたん、喉の渇きを感じた。
自分でもなぜ急いだのか、なぜ汗が出るほどの速足で帰ってきたのかわからなかった。
自分の馬鹿さ加減に苦笑しながら、手探りで台所の明かりを点ける。

そして、暗闇に慣れかけた視界が数瞬眩み―――
「ま、マユ……?」
――いた。
彼女が、いた。
台所の食卓に、椅子にすわった妹がいた。
ラップのかかった、冷え切った夕食をみつめながら。
シン・アスカのいもうとの、隻腕の少女が、いた。


22通常の名無しさんの3倍:2007/04/09(月) 22:39:01 ID:???
「……おかえりなさい。おにいちゃん」
「あ、ああ。た、食べないでまっててくれたのか」
食卓から視線を外さずに、マユが呟く。
前髪に隠された瞳は見えない。
「わ、悪いな。と、友達とメシ食ってきて腹いっぱいなんだ」
「なんで、こんなにおそかったの?」
「る・ルナマリアのやつがさ――」
言いかけてしまってから、失言だと気付いた。
「だれ?その女」
ぎょろりと、彼女の眼が俺を見据える。
その瞳に耐え切れず、思わず視線を左下に逸らした。
「と、友達だよルナマリアは。ヨウランやヴィーノと同じで、
あいつはただのともだちだよ」
「……ほんとに?」
「あ、ああ」
「ほんとにほんとう?」
マユが俺を見つめる。
透き通った眼に俺の姿が映し出されているのをみて、
おれの全てが見透かされているような気がした。
「ふうん……じゃあ」
妹は再び食卓に視線を移し、ぼそりと、なんでもないことのようにつぶやく。
「おにいちゃんは、ただのともだちでもキスしたりするんだぁ」
「なっ――あ、あれはルナが無理やり」
しまった、と考えた頃には遅かった。
「――やっぱり」
マユが、眼を見開く――

23通常の名無しさんの3倍:2007/04/09(月) 22:43:17 ID:???
「どうして!どうしておにいちゃんはいつもそうなのよ!」
マユが俺の胸元を掴み、がくがくとゆらす。
彼女は泣きながら俺を罵倒する。
「わたしが、わたしがいるじゃない!なんでほかのおんなが必要なのよ!」
のしかかって馬乗りになり、額をがんがんと俺の胸板へぶつける。
「わたしには、おにいちゃんしかいないのに!」
俺をたたくことを止めて、震える声で彼女はつぶやいた。
「わたしを、見捨てないでよ。ほかのおんなのところなんか、いかないでよ」
妹のマユが、おれにすがりつく。
「おねがいだから、いっしょにいてよ……」
胸が、いたい。
いもうとの肢体がとても軽いことに気付いて、かなしくなった。



――両親を喪った戦争から二年の時が経った。

僕たちはまだ、暗闇のなかにいる。











この泥棒猫とかあの女の臭いとか言っちゃうマユさんは、胸キュンですか?