10月29日はアスラン・ザラの誕生日だ。
オーブ軍の宿舎で寝起きするメイリンはこの日のために1ヶ月も前から休暇願いを出しており、
さらに2ヶ月も前からエステとスポーツジムの集中トレーニングメニューを組んで
決戦の日に備えていた。
初めて迎えるアスランの誕生日を、最高の記念日にしたい。
メイリンはそう考えていたのだ。
アスランがミネルバにいた頃からこっそり憧れていた。
あのザフト基地からの脱走の時、
この人のためならば死んでもかまわない、とさえ思った。
シンやレイの激しい追撃の時でさえ
アスランはメイリンの身を案じ、AAに救助されてからも何かと気にかけてくれ
ザフトの脱走兵であるメイリンがオーブで何不自由無く暮らせるように
アスハ代表に掛け合ってくれた。
シンやルナマリアもオーブに一時身を寄せていたが
プラントと地球連邦やオーブが停戦和平条約が締結されたのを見届けた後
二人はプラントに帰っていったのに、メイリンはオーブに残ることを選んだのだ。
メイリンはただ、アスランの側にいたい、
アスランの側で、アスランの役に立ちたいとその旨のうちをこっそりと
姉のルナマリアにだけは打ち明けていた。
「馬鹿な娘ね・・・いくらあんたが頑張ったって、
アスランさんはもう心に決めた女性がいるじゃないの。」
ルナマリアは痛々しげに妹の顔を見つめる。
「ね、悪いことは言わないからわたしたちと一緒にプラントに帰ろう?
パパやママだってあんたが帰ってくるの、すごく楽しみにしているのよ?」
「ううん、わたし帰らない。パパたちにはごめんなさいって伝えて。
こっちでの生活が落ち着けばたまにはプラントに行けるだろうし
それにシンがお姉ちゃんと結婚すれば新しく息子が出来る訳だし、パパやママだって寂しくないでしょ?」
「ば・・っ馬鹿メイリン、それとコレとは話が違うわよ。」
「とにかく、お姉ちゃんが何と言っても、わたしはオーブに残るって決めたの。
心配しないで。わたしだってもう子供じゃないんだから。」
「本当にあんたって娘は・・・言い出したら聞かないんだから。」
メイリンには奥の手があった。
得意なコンピューター技術と知識をフルに働かせ
アスランのプロフィールは勿論、趣味嗜好特技性格過去の賞罰からいままでアスランが作ったハロの数まで
ありとあらゆるデーターを駆使して
今現在アスランが最も興味のあるものを誕生日プレゼントに選択したのだ。
「これなら・・アスランさんもきっと大喜びで・・・うふふふ。
頑張るのよ、メイリン。これがきっと一生を決める人生のターニングポイントとも言うべき日なの。
エステで無駄毛の処理も完璧にしたし、とっておきのLUSHの石鹸で全身磨いたし、
10月29日、アスランさんの誕生日でもあり
わたしたちの最初の記念日・・・きゃっ!恥ずかしい!」
アスハ代表は昨日からDSSDの施設の視察に出かけており
多分、今日は戻ってこないはずだ。
アスランの親友のキラ・ヤマトと元婚約者のラクスさまは
プラント評議会の来期の軍事予算会議の真っ最中だろう。
邪魔者はいない。
こんなチャンスは二度と訪れないであろうということは
メイリンの女のカンが告げていた。
メイリンは大きな紙袋を大事そうに胸に抱きしめると
急ぎ足でアスランのいるモビルスーツ格納庫へ向かった。
「・・・最近ジャスティスの燃費が悪い気がするが
やはりどこからか放射能が漏れているのか・・・?ま、いいか。
それよりももう少しビーム系の出力を上げたいところだな。
ランダムにCPUを組み替えてみるか。
5秒ごとにイルミネーションが変わるビームサーベルとか。
うはwwwwwテラオモシロスwwwwwwwwwww」
アスランは慣れた手つきでノートパソコンのキーを叩き、
モニターに映し出された色とりどりのグラフは
打ち込まれる数値によって伸びたり縮んだりしていた。
ひょい、とアスランの背後からメイリンが画面を覗き込み
首を傾げながらアスランに質問した。
「アスランさん、いまの何語ですか?
て・・てらおも・・す・・ってどういう意味ですか?」
メイリンの問いかけにアスランは軽く首を振り、ノートパソコンの電源を無言で落とす。
側に人がいると気が散って作業が出来ないのだ。
しかもVIPとPinkの三窓で作業していたとなるとなおさらだ。
「ただの独り言だ。気にしないでくれ。それよりもメイリン、どうしたんだ?
ルナマリアとプラントに帰ったんじゃなかったのか?」
アスランはほとんど腕にしがみ付きそうな勢いのメイリンから
さりげなく身を離し、苦笑しながら立ち上がる。
「・・・いじわるですね。今日はアスランさんの誕生日じゃないですか。
好きな人の誕生日をお祝いしたいっていうの・・・変ですか?」
「いや、その・・きみの気持ちは嬉しいけれど
おれは・・・応えられないと何度も・・」
「言わないで!」
悲痛な声で叫びながらメイリンがアスランの胸に飛び込んできた。
昼メロのDVDを研究し尽くしたメイリンの絶妙なタイミングに
アスランは避けることも出来ず、思わず抱きとめてしまった。
女の扱いはMSの操縦より難しい。
こんなときディアッカやフラガ少佐ならば上手くいなせるのだろうが
アスランにそれを求めるのは
マリュー・ラミアス艦長がAカップになるくらい不可能なことだ。
「メ・・メイリン・・・困ったな・・・」
アスランはぽりぽりと頭を掻く。
命の恩人を無下に突き放すのはさすがに紳士として許されざる行為と
わかっているだけに、中途半端な態度をとってしまうアスランなのだ。
「わたし、ずっとアスランさんが好きだったんです。絶対に・・・
絶対に諦めるなんて出来ないの!」
改めて自分の気持ちを口にしたメイリンは、すっかり一人で盛り上がっている。
「わたし、アスランさんにお誕生日プレゼント用意したんです。」
照れた笑みを浮かべながら上目遣いにアスランの顔を見上げたメイリンは
いそいそと手にしていた紙袋を開き中のものを取り出した。
「アスランさん、ちょっと後ろ向いていてもらえますか?」
別にプレゼントを貰うくらい、いいよな?と、心の中で言い訳しつつ
アスランは黙って後ろを向いた。
「はーい、いいですよー」
メイリンの声がしてアスランは目を開け振り返った。
「アスランさん、お誕生日おめでとうございまーす!」
「うわあああああああっ!!」
そこには大方の予想通り、ピンクのリボンを裸体にぐるぐる巻きにしたメイリンが
ヴィーナスのように神々しい微笑みを浮かべアスランの眼前に立ち
サービスのつもりか悩ましいインリンポーズをとりながら腰をくねらせていた。
とろとろに柔らかでそれでいてマシュマロのように弾力を感じさせる
小振りながらも将来性を感じさせる二つの乳房、
まだ幼さの残る曖昧な腰のくびれ、張り出した腰骨から流れるように続く魅惑の太腿、
ぺろりと覗く赤い蓼の実の唇などなど、
幼さの残るメイリンの精一杯の背伸びした大人ッぷりに普通の男ならば
胸と股間が熱くなること間違いナシだ。
「アスランさん、ピンクリボンが好きだって聞いたから・・どうですか?」
可愛らしい妹キャラのメイリンが妖艶な女の色気を前面に押しだすこのアンバランスさがたまらない。
そこに痺れる憧れるうぅぅぅ!
だが、それがアスランに通じるかどうかは全く別の話だ。
「どうって・・・きみ、こんな事をして、おれが喜ぶとでも思っているのか!?」
喜ばれこそすれいきなり怒鳴りつけられて、メイリンは目を白黒させて後ずさった。
「えエッ!!?違うんですか!?」
「違うも何も・・・そりゃあおれも男だから裸リボンが好きか嫌いかと聞かれれば大好き・・
・・いや、問題はそこじゃあない!一番大事なのは毛だ!」
衝撃の告白。
「アスランさん、やっぱりキーポイントは毛なの!?」
メイリンはひどく驚く反面、妙に納得してしまったのはいかがなものか。
しかしアスランはそんなメイリンの反応には全く触れず、
今まで秘めていた熱い胸のうちを咆哮と供にぶちまけていた。
「チラリズムで見える下の毛は男の夢、男のロマン!
ピンクのリボンの隙間から産毛と見紛う黄金に輝く細くたなびく絹糸のような下の毛、というのが
おれにとって絶対無二の存在!
それなのにきみは・・・金髪ではない上に剃り落としてしまっている!
きみはおれの聖域を踏みにじるつもりなのか!?」
「ちょっ・・ちょっと待ってください!
それってつまり、金髪なら誰でもいいって事ですか!?レイとかでも!?」
アスランの台詞にメイリンは鋭い突っ込みを入れたが
間髪いれずにアスランはメイリンを怒鳴りつけた。
「馬鹿にするな!」
びくっ!と首をすくめ、思わず涙目になるメイリン。
「ヒッ・・ご・・ごめんなさ・・!」
「レイには棒も玉も付いているじゃないか!
おれが心を惹かれるのはカガリの穢れの無い、一本の縦スジだけだ!!」
きっぱりと言い切るアスランの背後に突然じゃかじゃん!とVestigeのBGMが響き渡り、
アスランは驚愕して天空を仰ぎ見た。
「な・・・なにぃ!?」(@車田風)
はるか上空から眩いほどの七色の光を背負い
史上最強にして無敵のMS、ストライク・フリーダムが降臨したのだ。
コクピットが開き、中から見慣れた顔が続けざまに現れた。
「いい加減にしろこの変態!コーディネーターでも馬鹿は馬鹿だ!」
「やめてよね、アスランにカガリのスジが拝めるはず無いじゃない。」
「アスランが信じるモノはスジですか?」
「アスハ代表・・!それにラクス様!」
メイリンが驚いて叫び声をあげた。
まさか、なんでこの人たちがこの場に!?
不幸なことにメイリンは運命組なため、まだSEED界のお家芸「超☆展☆開」を理解するには
場数と経験地が少なかった。更にラクスとキラが揃えば言わずもがな。
「アスランったら、ぼくらがちょっと目を離した隙にメイリンちゃんを唆して
カガリの代わりをさせようとしているの?
ふうん、アスランってばいつの間にそんな『計算アスちゃん』になっちゃったの?」
キラの言葉は穏やかだったが目は笑っていない。
紫色のキラの瞳がきらりと光ったのをアスランは見逃さなかった。
「キラ・・!」
「それ以前に、せっかくのメイリンさんの初心な乙女心を無駄にするなんて
赤服の風上にも置けませんわね。」
顎にひとさし指を当て、あらあら困りましたわ、と言う風にラクスは小首を傾げたが
勿論その目は笑っていない。
「アスランはもう赤じゃないってば」
カガリはおいおい、と手を振りながらキラとラクスに反論する。
「アスランはいまや立派なオーブ軍人だぞ?な、アスラン!」
カガリはアスランに向かってにっこりと笑った。
凍てつく寒さに一筋の温もり。
アスランは改めてカガリの存在の大きさに気が付いた。
「カガリ!きみだけだ、おれを信じてくれるのは!」
「アスラン、それキャラ違うよ?いつからお笑い担当になったの?」
「わたくしはてっきりエロ担当かと思っていましたわ」
容赦のないキラとラクスの追撃にメイリンは胸に熱いものが込み上げるのを感じた。
ザフトの誇り、ヤキンの英雄が地球ではこんなイジラレキャラだなんて!
「アスランさん・・・ミネルバに・・あ、もうミネルバは無いか。
いっそのことプラントに戻りませんか?そのほうが絶対今よりイイと思います!」
メイリンの同情とも哀れみとも付かない眼差しに
アスランは全身の力が抜けていくのを感じた。
あれほど尊敬と憧れに輝いていたメイリンの変化はアスランの心を激しく揺り動かす。
「メイリン・・・」
思わず頷きそうになったアスランの心臓に間髪いれずにラクスの太い矢が突き立てられる。
「あら、アスランはプラントに戻りますの?
いまやザフトはわたくしが法律、わたくしが神ですけれど
アスランがザフトに戻りたいと仰るならば喜んで議長権限で
特務隊隊長の地位を用意させますわ。
ただし、今度ザフトを脱走したらその場でイチモツを切り落としますから
そのつもりで。」
ラクスの放った矢は絶対零度で出来ているらしく
アスランはその場で気を失う寸前までのダメージを受けたのだが
それに気が付いたのはメイリンだけで
カガリに至っては涙を零しながら腹を抱えてゲラゲラ笑い続けている。
「へぇ〜ラクスって最近冗談も言えるようになったんだな。
でも歌姫がシモネタを使うのは反則じゃないか?」
カガリが涙を拭き拭きラクスの背中を平手でぱしぱしと叩く。
「うふふふふふふ、痛いですわ、カガリさん。」
「はははは、カガリ、ラクスは見かけによらず結構お茶目なんだよ。」
楽しげに笑いあうカガリ、ラクス、キラの三人を横目に
アスランとメイリンは真っ白に燃え尽きながらただ呆然と立ち尽くしていた。
この後、ピンクリボンのメイリンはキラとラクスに喰われてしまうのだが、
それはまた別のお話・・・
・・・・おわり・・・・