VSUに萌える女神たちのラウンジ99メガネ

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 一日目:紙飛行機



 昨今、大半の大学生は無目的だと言われている。僕も多分、その例に漏れず、無気力な若
者なのだと思う。もっとも、僕の場合は……元から親の言いなりになっているだけだったから、
目的の見つけ方すら知らないのだけれど。
 ……思索の秋、無駄な思考に耽ってみるのも悪くはない。まして、昼休みでご飯を食べた後
の若干眠気を覚えた脳みそなら尚更だ。そんなことを考えながら、少し早めに午後の授業の
教室に入ると、既に彼は指定席にいた。左後ろ、隅の窓際。携帯の電波が一番入る場所。
そして、いつも通りのスーツ姿に、結構整った顔立ち、そして、地毛の茶髪。一見すれば、夜の
商売の人と間違えてしまうかもしれない……。僕はいつも通り、そんな彼の隣に腰を下ろす。
彼は気付かない――ただ一心に、何かを繰り返している。

手元を覗いてみると、彼は一心に紙飛行機を折っていた。
もう既に3機が完成し、彼の左側に置かれている。

と、そこで。
手元にさした影で彼が僕に気付く。
「やあ、来てたのか」
彼は目線をこちらに向けずに一言だけ、そう呟く。
手はその間も止まらず紙飛行機を折っている。
「おはよ」
だから僕は邪魔にならないように、彼の右側の紙飛行機の素材になっている紙を見てみた。
そこには「反戦」、「デモ」等の文字が踊っている。
8542/3:2007/02/18(日) 23:24:22 ID:???
一ヶ月前。
僕達の住む国で議会の総選挙が行われた。
何処にでもある選挙だったけど――結果は類を見ないものだった。
与党が完全勝利し、議会で3分の2以上の議席を獲得してしまったのだ。
そして――その勝利を盾に、今の首相は戦争を起こそうとしている――とも言われている。
――正直、悪い冗談にしか聞こえない。何もかも。
このチラシは多分――今朝校舎前で配っていたものだろう。
よく見ると、教室のあちこちにチラシは散乱している……少しだけ、哀れに思えた。
「――馬鹿だよね。でもこういう馬鹿は好きだ」
彼が紙飛行機を折りながら呟く。
「馬鹿?」
「ああ、馬鹿さ」
4機目が完成し、彼の左側に置かれ、そして彼はまた右側から新しい紙を取る。
「あの党に票を入れるってことはそういうことさ。そして、こんな無駄な活動をやるのは暇を持て
 余した三年か四年って相場が決まってる。あいつらには選挙権があったのにね」
まず半分に二つ折り
「選挙ではっきりとアイツらも嬉々として与党に票を入れたんだよ? それなのに、いざ選んだ人
 が政治を始めたら口出しするなんて、良くも悪くも傲慢で馬鹿だよ」
……彼自身もかなり傲慢な気がするのは気のせいじゃない。
「少なくとも、大学の一年坊が先輩方を評する台詞じゃないと思う」
僕の呟きを、彼はせせら笑う。
「結構頭が固い娘なんだね、君って。幾ら歳が離れてたって馬鹿は馬鹿さ。第一、こんな中途
 半端な時期にデモをやるってのも意味ないしね。老人の暇つぶしと一緒だよ」
「……率直なんだね」
「君みたいに怠惰じゃないからね。君の場合、言うべきことも言わずに放置するタイプだ」
少し、ムカついた。いつものことだけれど。
「……手厳しいね。友達無くすよ?」
「相手が女だからって容赦する気はないよ。それに、君なら言いたいことを言っても大丈夫だと
 評価してるからね。誰にだってこうなわけじゃない」
……その言い方は、卑怯だと思った。
その間も彼は手を止めず、先を尖らせ、一回内側に折込み、更に折っていく。
「にしても、こうしてチラシは余り、俺に紙飛行機にされる。環境問題は深刻だってのに、ゴミを
 増やしてどうするんだか」
彼はそう言って苦笑する。苦笑しながらも、手は止めない。
8553/3:2007/02/18(日) 23:25:07 ID:???
やがて――その手が止まる。
「さてと、これで完成っと。うん、なかなか上手く折れた」
5機目は改心の出来栄えだったらしい。

と、おもむろに彼は左の窓を開け――初秋の涼しい空気が教室に流れ込んだ
そして彼は5機目を掴み――窓の外の青空へと飛ばしてしまった。
「――取って置かないの?」
「何言ってんのさ。飛べるんなら、飛びたいだろ。アイツも」
彼は飄々と目を細め、五号機の行方を見守る。
見守りながら――ポツリと呟く。
「どこまで行くんだろうねー」
紙飛行機は抜けるような青空へまっすぐ飛んでいく――。
それを見ながら、彼は僕に問い掛ける。
「なあ、君は何処へ行きたいんだい?」
答えは……考えるまでもない。
「……何処にも」

この時点では僕の周りは平和だった。まだ。




二日目:ぱそこん へ続く