何か色々触発されたwww
色々なシリーズの世界にシンが突入させてみたいwww
2ゲット
惨げと
じゃ、シンフォニア希望
レジェンディア
アビス。いっそマルクト軍人になっちまえ。
レジェンディアもいいかもしんねー
声優同じだったっけ?
同じどころか
ステラァァァァァァァ!!
と絶叫します。
クレアアアァァアア!!!11
シンフォニアまでしかわからない
と思ったらリバースを忘れてた
てーか、シンはセネルスレにいるだろ
11 :
通常の名無しさんの3倍:2006/12/29(金) 00:26:07 ID:x8hGaGdh
>>10 まあいいじゃん。ここはここで楽しもう
>>6 お、いいね。なんか浮かんできたからまったり小説書いてみよーか
PS版の方のデスティニーとかは?
13 :
通常の名無しさんの3倍:2006/12/29(金) 01:07:31 ID:YESs+Uaj
シソ「ステラ!!」
吉良「フレイ!!」
プレセア「………。」
シンフォニアなら天使化して光の翼を
エターニアなら会話がおもしろくなりそうだな。
リッド=凸 キール=キラだし。
リッドとセネルならPSPのテイルズで出てたぞ
マイソロジー。
>>15 凸の声であんなんだったらシンきっと卒倒すんじゃね?
陸上戦艦タルタロスにて。
俺がこのオールドラントに来てから数ヶ月が過ぎた。
何故か気付いたら変な生き物がうろつく部屋に居て、何事かと思ったら金髪に色黒の男が目の前でニヤニヤ笑っていて、殺気に後ろを振り向けば槍を俺の喉元につきつける胡散臭い顔の男。
それからひともんちゃくあって、別の世界に来た事が分かった。冗談じゃない!
そして知らぬ間にこの国の皇帝によってマルクト軍の第三師団に入れられ、この胡散臭い男…死霊使いと呼ばれる上司に部下としてこきつかわれるハメになった。
そして、今、第三師団はキムラスカという国に親書を届ける任務を受けて、キムラスカに向かっている。
『そこの辻馬車!道を開けなさい!巻き込まれますよ』
マユ、俺は今日も頑張るよ。いつか戻れると信じて…
aga
リ「グランドフォールを止めないと世界は滅ぶんだ!」
セ「そうやって無茶なことをやって、またあの悲劇を繰り返したいのか!アンタは!」
フ「ちょっと!なに仲間割れしてんのよ!」
キ「やめてよね。」
リッド・キール・セネル・ロニで組むとさ、
色々面白そうじゃね?
カオスなスレになりそうw
「シン、あなたもですよ」
そら、また来た。
エンゲーブという村についたらしい。
俺は強制的に胡散臭い眼鏡と共にタルタロスから降りねばならないらしい。
正直言って、嫌だ。
部屋に籠ってマユの写真を見ていたい。
鏡を見ながら自分の来たマルクト軍服を整え、しぶしぶ眼鏡につきしたがう。
ローズさん宅で眼鏡とローズさんという女性が話してると、村人が食料泥棒を捕まえたとかで乱入してきた。
乱入してきた村人に連れてこられたのは、赤い長い髪を持ったいかにもおぼっちゃまなヤツと、綺麗な女性だった。
導師のおかげで彼らは食料泥棒ではない、と分かり解放され彼らは何処かに生き、俺は再び眼鏡の横で話を聞くハメになっていた。
「ふふふふふ…」
「ラクス?」
「行きますわよ、キラ。この世界は私のものですわ!」
なんかおもしろそうなのキタ
ちょwwwwwいきなりラクスがwwwwwwwww
age手見る
「キラ、私、実はずっと思ってましたの」
「何?」
「一国一城の主ではなく、全世界の主になってみたかったんですわ」
「へえ、そうなんだ」
「ええ、ですからエターナルがないとはいえ、地球連邦やプラントというしがらみのないこの星を私の領地にするんですわ」
「頑張ってね、ラクス」
「まずはこの近くにいる六神将とやらと接触しますわ。利用できるものは利用、邪魔する者は全力で潰しますわよ!」
「応援しているから」
「って!キラさんただ機械いじるのに夢中で生返事だし!」
「メイリン〜キラ「ああもうっ、アスランさんは黙っててください!」
次の日、眼鏡は出掛けた。何でも導師を探しに行ったとか。
俺はついていかなくてよかったらしく、気を楽にしてベッドに転がった。
しばらくして眼鏡が戻って来たらしいが、そんな事は知らねぇ。呼びにこないし正直言って眼鏡と居るのはツラい。
ただ、風の噂によるとせぶんすふぉにむとやらで不法入国したキムラスカの公爵子息とオラクルの女性をついでに捕えて来たとか。
「マユ………」
ケータイの写真を一通り見ると懐に戻し、ベッドの上で寝返りをうつ。
その時だった。警報が鳴ったのは。
「大変だ!魔物が!」
敵襲なのか!?
今は一応マルクト軍人なので、対応はせねばなるまい。
というよりしなかった場合眼鏡がうるさいだろう。
そう思って、部屋の扉を開けた。
age
キラワロスw
ワロスww
良スレage
現在進行形でアビスやってる俺にこれは狂wwwwwwwww
やばい、なんかおもしろそうだw
「死ねぇ!」
扉を開けた瞬間、マルクト軍のものでない鎧着た人間が飛び込んで来た。
「わ、わ、わっ!……てやぁっ!」
相手に手刀を喰らわせ、気絶させる。
「…………」
この鎧はオラクルのものだ。一応眼鏡に渡された本に載っていたのを覚えてる。この先、マルクト軍服では何か危ない気がしたので相手の身ぐるみ矧がして自分がオラクル兵に化けた。
しばらくして…
真っ赤な長い髪を持った男を後ろ姿だが見かけた。エンゲーブで食料泥棒と勘違いされていた赤毛のヤツとそっくりだな、と場違いと思いつつ別の場所へ移動する。
あたりはオラクルばかり。知り合いのマルクト兵や、他の上司達は血を流して床に伏していた。
……しゃくだが眼鏡の指示を仰いだ方が懸命だな。
そう思い、眼鏡を探して歩きまわる。途中でオラクル兵の上司らしきヤツにしかられる。だから次はこっそり眼鏡を探しまわる。
だが、いきなり
『骸狩りを発動せよ!』
ズゴンッ
ゴゴゴゴゴゴ
眼鏡の声が響いたかと思ったら、いきなり隔壁が降りだした。
ちょっと待て!俺まで閉じ込められるのか!?
そんな心の叫びも虚しく、嗚呼悲しきかな隔壁は降りきり俺は閉じ込められてしまった。
どうする?俺。
この鎧の持ち主はロープでグルグル巻きにしてバスルームにぶちこんどいただけだから、俺がマルクト兵だとバレるの確実?時間の問題?
最悪。
俺、元の世界に帰る前にご臨終?
そんなのごめんだ!…何とかして、逃げださねぇと。
そんな時、艦橋方面の隔壁が大きな音を立てて引き裂かれた。
「………」
隔壁を引き裂いて現れたのは、黄色の獣だった。
「うおっ!?」
驚いた俺は思わず後ろに飛んで…
ズルッ
ドスッ
バキッ
見事にすっころんで壁に頭を打ち、情けなくも意識を失ってしまった。
「うーん……」
ああ…頭がガンガンする………俺、何してたっけ?
てか俺、
誰だっけ?
思いだせねぇ。
とりあえず、目を開けた。
「………!?」
ピンクの髪の女の子が、俺を覗きこんでいた。
「!?!」
「大丈夫…?」
女の子が話しかけてくる。
ピンク……なんか、引っかかりがあるようでないような。
なんかムカつく色だったよな。
「ああ、大丈夫…」
あれ?兜が脱げてる。いけねぇいけねぇ…
あれ?何でいけないんだっけ?
…ああ、そっか。俺は今はマルクト兵なシン・アスカだもんな。
ってんなのんびりしている暇あるかよ!
「驚いた…ごめんなさい。貴方も、ついて来て」
は?強制連行?ちょっと待て!
「ついて…くるです」拒否権ナシに、俺は魔物に乗ったピンクの髪の女の子についていくハメとなってしまった。
「……あなた、名前は?」
「シン…シン・アスカ」
「そう…この子、アリエッタの友達」
へぇ、この子、アリエッタって言うのか。
35 :
通常の名無しさんの3倍:2006/12/31(日) 00:23:23 ID:xfNJg6jP
何か面白い事になってるWWWWWWWWW
「シン」
アリエッタは俺の方を振り向かず言う。
「後で、この子と遊んで…くれる?」
「あ………ああ」
肯定の言葉を返すと、アリエッタはこっちを向いて嬉しそうに笑った。
…………ステラを、思いだす。
やがて外への入り口が見えた……と思ったら………
眼鏡がいた。
幸い兜を被ってるので面は割れてないはずだ。もし割れたらどうなるか分かったもんじゃあない。
とりあえず、待機。いつか逃げ出せるさ、シン。
明日はなくても明後日はあるさ(←混乱)
とりあえず、怪しまれないよう動いて…
ん?
なんかタルタロスの上部から…
なんか降ってきた!
「ガイ様華麗に参上!!」
…うわ、なんだこいつ……とりあえず、拘束されてた導師を助けた所を見ると…味方?
ってアリエッタが眼鏡の人質になってる!
とりあえず、武器を捨ててタルタロスに戻れと言う事らしい。
どうする俺、今ここで眼鏡の方に行くか?
………
……
…
なんでだろう、何かもう俺までタルタロスの中に入ってしまった。俺オラクル違うのに。
………………ああもうっ。どうにでもなれ!!
「ここか」
「はい、アッシュ響士。ラクシズと名乗る一派が指定した接触場所はここです」
「罠の可能性は?」
「我々が先に調査しましたが、怪しいものはありませんでした」
「失礼ですわね。客人をもてなすのに罠なんて必要ありませんわ」
「!!?」
37 :
通常の名無しさんの3倍:2006/12/31(日) 17:40:55 ID:xfNJg6jP
ステラとアリエッタって雰囲気似通って………るかも?
種死見直さねぇと。
ラクスのキャラ濃い
あんたってひとは!!!!!!!!!!
PSPのレディアントなんたらやってんだが、偉そうなシンとアホっぽいアスランが見れた
とりあえず種とテイルズの中の人表
キラ→キール
アスラン→リッド
ムウ→ジェイド
イザーク→スタン
シン→セネル
ステラ・ナタル・フレイ→プレセア
ムルタ→ヴェイグ
バルトフェルド→ディムロス
ラウ・レイ→ロニ
ヒルダ→ナタリア
ソル→カイル
セレーネ→リムル
ガイ・ムラクモ→クラース
キラママ→フィリア
抜けてるのがあればたのむ
ロウの中の人も確か……
スターゲイザーに、ヒルダの中の人がいた気がする。
俺は今、なぜだか違う世界にいる。
なんでも今この世界は、ダオスとかいう魔人とたたかっているそうな
俺は感謝したよ。
C.Eでの俺は散々なものだったから・・・
この世界なら!
おれがダオスを倒せばきっと主役になれるはず!
マユ、兄ちゃんを見ててくれ!
シン・アスカ行きます!
時はアセリア暦800年位
シンの冒険が今始まる!
誰も、まだ言ってないがスレタイがティルズ
検索んとき少し迷ったw
>>44 シン×すずに成りそうな予感……期待してます
>>45 俺が50の時に言おうと思ってたのに!?
age
セネル「ステラァァァッ!」
シン「ステラァァァッ!」
セネル、シン「…………」
セネル、シン「「なんなんだよアンタは!」」
セネル、シン「………」
age
53 :
久々の続き。:2007/01/06(土) 11:30:08 ID:???
「私はラクス・クライン。その容姿から見るに、貴方は六神将・鮮血のアッシュですわね」
ピンクの女はラクス・クラインと名乗った。
「ああ。…何の用だ」
「私達ラクシズは、貴方方に力を貸したいと思ってますの。その為の協定を…」
ヴァンの利益になるような事なんぞ知るか!
適当にあしらっておくか。
「で、貴殿方の総長にお伝え「俺は知らねぇ」
「あら、それでよろしいですの?本物のl「黙れ!この屑が!!なんでそんな事を知っている!」
なんなんだこの女は!何故そこまで知っている!
「私の情報網を甘く見ないで欲しいですわ。この私の情報網、そして私達が持つこの技術。神託の盾…特に貴殿方には+になるものばかりではなくて?」
「………ちっ…この屑が」
「では、よろしいのですわね」
かくして、俺はヴァンにこの事を伝えなくてはならなかった。
あのピンク女の後ろで凸っぽいのがボロボロになっていたのは気にしない事にしよう。
「ふふふ…貴殿方もいずれ嫁補正で染め上げてさしあげますわよ!」
「アスランさぁぁぁぁん!!!」
このノリいいねえ
age
---Side.S---
さて、どうするべきか。
タルタロスに入ったはいいが、しばらくは閉じ込められてるし。
アリエッタにせがまれて、断れなくて一緒に魔物のライガと遊んだ。魔物と言っても動物と変わらねぇんだな。
何日かして、タルタロスが動き始めた。不思議と俺が入れ替わっている事には気付かれてないらしい。
ある日、アリエッタが泣いていた。隣には見慣れないライガ。
どうしたのかと聞いたら、ママを殺されたのだそうだ。―あのメガネに。
聞いた時、あの、家族が死んだ時の事を思い出した。
――言いようのない怒りが俺の中にこみあげる。
アリエッタは彼らを追うのだそうだ。
その時、初めて知った。俺がアリエッタにかばわれていた事。
俺が入れ替わっていた兵士はとっくに見つかっていて、アリエッタは俺がマルクト軍所属だと知っていてかばっていてくれたのだと。
彼女曰く、友達だから、だそうだ。
彼女がメガネ達を追う際に俺はタルタロスを脱出した。彼女は俺に卵-彼女の母親の唯一の忘れ形見だそうだ-を託し、一匹のライガを貸してくれた。
目指すは、メガネがいる場所。まずは合流しねぇとな。……アリエッタの母親を殺したんだから、気は進まねぇがな。
がんがれシン!オリジナルイオン亡き今アリエッタのあの眉間の縦皺を取れるのは君だけだ!
age
なぁなぁ、このスレに投下されたSSとかSS連載、ホムペ作って過去ログとしてまとめて掲載していいか?
そしたら2が出来た時に見やすくなるし。
俺が作るぜ。
期待してる
期待age
いい奴がいるなぁよろしく頼みます
SS職人もたくさん来ないかな
---Side.S---
タルタロスから脱出して幾日。
俺はフーブラス川のあたりに来た。
そこに倒れているのは、アリエッタとライガ。
「アリエッタ!!」
駆け寄るとアリエッタは低く唸り、起きた。
「シ…ン?」
その時、後ろの首筋に殺気を感じ、振り返ろうと…
「動くな」
神託の盾法衣を着た紅い髪の男がいた。
だが俺は別の点で驚いた。
前にタルタロスでメガネが連れてきた男と瓜二つの容姿を持っていたからだ。
「アッシュ…シン、アリエッタの友達。…ダメ」
「………」
アリエッタがそう言うと、男―アッシュは剣を退いた。
そして何事かを話した後、アッシュは何処かに去って行った。
俺を睨むのを忘れずに。
「な…なぁ、アリエッタ」
俺は彼女に話しかけた。
「…俺、……アリエッタを、守りたいんだ。アリエッタと一緒にいていいかな?」
「シン…?」
「だから、その、俺、アリエッタの事、友達なんだ。友達を守るのは当然だろ?」
「……うん。でも…」
「いいんだ。…いい、よな?」
「…………うん。じゃあ、この子達とも友達でいてくれる?」
そこにはライガ、そしていつの間にかフレスベルグも来ていた。
「もちろんだ」
「…ありがとう…」
かくして、タルタロスに乗船していた事から、もう死んでると思われているだろうと勝手に決めつけ、アリエッタと行動を共にする事を決意した。
次の行き先はカイツールだ。
「なぁ、いいだろジェイド!こいつらも記憶喪失なんだし」
「疑わしいんですがねぇ」
「なんだよこのおっさん」
「やめろアウル、仮にも保護者になるかも知れないんだぞ」
「ステラ、よく分かんない」
俺もいいよ。ABYSSEED。
よろしく頼む。
何この良スレ…
良スレはageなきゃ。
テイルズって久しくしてないなぁ
やらないとネタがわからん…
両方知ってる俺としては…GJ!
アビス世界なら「生まれた意味&人は変われることを知る」シンだな。
しかし世界設定と人死にの多さが過酷なだけに耐えられるかが問題。
割とオールマイティな主人公がいるシンフォニアで世界再生もお薦め。
言える事はどちらの世界もメロン付き。
レジェンディアはセネルという最大の壁があるがスルースルーw 見た目も心も別人。
「家族」が最大のトラウマであるシンにとっちゃ一番成長できる世界かも。
シンならファンタジアが一番いいんじゃね。似たような設定のいるし
ラスボスの闘う理由が重すぎてユニコーンの泉で帰りたくなるシン。
やっぱデスティニー2だろ。
冒頭カイルにカガリと同じ匂いを感じ、バルバト強襲後の神殿で泣きながら帰るシン。
ロニのフォローに全てが託される運命のRPG。
運命を解き放つRPG・・・
パルマフィオキーナ?
age
>>41 キラママ→ルーティ
ついでにTOPFVEからだが、バルトフェルド→アーチェ父
種考えなければもっといる。マ・クベまたはシャギア→ダオスなどなど。
>>42 ゼロス・ワイルダーだな。シンフォニアにおける、テセアラの神子だ。
クレス→「一緒に戦おう!」
言ってる事は同じでも笑顔で握手
スタン→「イヤッホォォォウ!!!一緒に戦おう!」
言ってる事は同じでも笑顔で握手
リッド→「ファラのオムレツ食いたいから生きて帰る」
実際食べたいから戦う
カイル→「もう神はいらないんだ!!」 CE世界の神があの2人なら戦う
ヴェイグ→「クレァ(ry」 ピーチパイ美味い気持ちはナチュコディ同じだから戦う
グリューネさん→抱きしめられても怒るヒロインいないから戦う。いても戦う
ルーク→一回総スカンされてこその主人公。戦う
アスラン→「お前は何が欲しかったんだ!!?」
あんたは一体何が欲しかったんだと問い詰めたい。
Dイドはシンにまでフラグを立てるのだろうか
ハーフエルフ差別見てたらナチュとコーディの確執って何だろうと思えてくる
そんなシンさんには世界再生ツアーがお薦め。
テセアラ編で妹属性に見えて実は・・・なプレセアの手伝いとして参戦。
これは良い桑島です。今なら特典として雪見デートで死亡回避フラグもお付けします。
ラクシズとの最終決戦後にローレライによって召喚されたシン
しかし出現した場所は世界一豪華なブウサギ小屋…もといマルクト皇帝ピオニー9世の私室だった。
その後、ピオニーに気に入られたシンは根暗マンサーの部隊に配属されてしまう!
シンは(生きて)元の世界に戻れるのか!? 「鬼畜眼鏡が大問題だなby皇帝」
そして裏で張り巡らされる数々の陰謀…
「兄さま…渡すです」「貴重な実験材…もとい人材を渡すとでも?」
……がんばれシン!負けるなシン!世界は(多分)君を見ている!!
テイルズ・オブ・ジ・アビス異伝−深淵より生まれし運命−
妄想が爆発しました…俺って文章力ナサス
良スレハケーン
EとSしかやってない俺は
他のテイルズの話が分からなくて残念だ(´・ω・`)
職人さんガンガレ!
「2000年前の歌が、俺を大人に変えていく」だっけ?アビスのTVCM
あれ当時めちゃイケでしか見れなくて探し回ったな。
シンじゃ「2002年に出没した負債が、俺を空気に変えていく」
・・・・。
すなわち凸と聖なる炎の灰。
ある意味仲良くなれそうだ。
あ、間違えた。
聖なる焔の灰
だ。
慰霊碑の前でラクシズの軍門に下ったあとシンは一人で酒を煽っていた
「―――なんて無様。」
こんな台詞が出るほど今のシンは弱っていた。
倒すべき仇であるはずのラクシズの軍門に下るとは
人生色々と言うがこれはやりすぎだ
「父さん、母さん、マユ、そしてステラ、みんなごめん」
でもこれは自分の中途半端さが招いたものの結果なんだ、シンはそう思った。
「それにしても俺は報われないな、ラクシズのやつらは思い通りになるのに、あのハゲですら」
この世界は自分に優しくない。ふとそんなことを思った。
「たとえば違う世界なら、嫁の力の及ばない世界なら俺は―――」
そんなことを思いながらシンの意識はそこで途絶えた
「――――知らない天井だ。」
ここは?おれは昨日自分の部屋で飲んでたはずだ、変な台詞も出てきたし
「あ、起きたぁ♪」
明るい声のする方を向くと、そこにはピンクの少女が立っていた。
シンの冒険が今始まる!
舞台はTOP、ラクシズはダオス側につくはず。
大いなる実りをダオスが必要とする理由も早めにでてくるかも
それでもダオスをシンが討つ理由、どうしようかな
五分で考えたから変わるだろうな、続き書くかもわかんね
ラクシズはトールハンマー壊せ・使わせるなと命じられたら間違いなく
マナ消費する兵器持ってくるぞw
田中声マーテルのSOSに反応してダオスレーザーEND。
保守
90 :
通常の名無しさんの3倍:2007/01/14(日) 01:03:28 ID:KtNnj9vz
まとめマダー?
シン、アルヴァニスタの兵士(王子救出作戦時)にキレる
「あんたって人は〜!」
シン、オリビの隠し通路を塞いでいる道具屋店員にキレる
「あんたって人は〜!」
シン、忍者の村の鶏にキレる
「あんたって鳥は〜!」
シン、アルヴァニスタのカニにキレる
「あんたって甲殻類は〜!」
シンは『せっかち』の称号を得た!
あー、レディアントマイソロジー+シン書きたい!
書きたいけど時間がないよ……。
携帯のメモ帳に電車内とかで書きまくってPCに打ち直して投稿すれば?
シャーリィ「どうして陸の民と水の民はこうなってしまうんだろう…」
芯「今話していたのはあんたの兄さんのセネルの身の上話だろ!話をすり替えるな!」
レイ「聞くなシン!」
芯「大沈下なんて嫌だとか言いながら…あんたって人はァァァァァァ!」
レイ「シン、メルネスは既にかなり錯乱している!」
芯「分かるけど…!レイの言う事も分かるけど…!」
芯「 セ ネ ル は今泣いているんだ!!俺じゃなくてセ・ネ・ルが!」
レイ「共通しているのは妹がいることだけだ!声の件はもう忘れろ!」
芯「こんな妹を持ったのに耐えてきて、今泣いているんだぞ!なぜあの女はそれが分からないんだ!」
芯「ワルターのストーカーも、大好きなお兄ちゃんがモテモテなのも、許せるはずないことだって!
全て陸の民の、特に女どものせいだって!」
レイ「仕方がないんだシン!メルネスは言葉を聞かない!」
芯「そう言って大沈下を起こすのか!?セネルがクロエのフラグ振り切ってここまで来たことも知らず!」
レイ「今ここでメルネスを討てば過労のワルターと不死身のマウリッツが出てくる!
そうなれば世界はまた海水と嫉妬大爆発の中に逆戻りだ!」
芯「……なら俺は…グリューネさんと逃げる!!」
シャーリィ「……えっ!?」
ノーマ「メロン狙いっすか!?」
>>93 いやね、文は頭の中であっという間に構築できるからいいんだけど、打ち直しの時間がないのだ、マジで。
96 :
通常の名無しさんの3倍:2007/01/15(月) 15:14:53 ID:FUhnLhvj
シンとセネルでダブルパルマフィオキーナ!とか、威力はざっと 百万ダメージ!
シン「マユ…」
カイル「ねぇ、シン。それ何?」
シン「(ケータイのディスプレイに映るマユを見せながら)妹だよ。俺の」
カイル「ケータイデンワが?」
シン「そんな訳ないだろ!」
ジーニアスが何返したのか知ってる人は無駄に宿屋泊まった仲間だと思うw
ジーニアス「ねえ、シン。プレセアのプレゼントのお返し何にすればいいと思う?
シン「貝殻のペンダント…とかは?
ジーニアス「シンがステラって人に貰ったのと同じじゃない。芸がないなぁ
シン「…芸がない?芸がないだと!?よくもそんなことが言えるな!あれはステラの形見なんだぞ!
ジーニアス「シンなら何をもらうと嬉しい?
シン「お前のような人間は屑だ!
ジーニアス「いや僕ハーフエルフだから。それでシンなら何を貰うと嬉しい?
シン「・・・・・・・・・・・・・・出番だよ!!
ジーニアス「・・・・・・ごめん僕が悪かったよ。やっぱりロイドに聞いてくる
ロイド「頼むからそこで俺に振るな
保守
保守
保守
投下マダー
反対の事を考えてみる。
とりあえず俺は最近アビスをやってるのでアビス中心。
ルークがCEに来ればいいんだ。
と、考えてみる。
超振動でオーブ壊滅
大沈下
晒しage
シンがアビスの世界に来たSSの作者、ちょっと日本語変じゃね?
話の構成自体は悪くないけど。
>>107 でも読めない事はないからよくね?
>>103 俺が考えてみた。
ファブレ邸にて、侵入者の女性とファブレ子息ルーク・フォン・ファブレとの間に疑似超振動が発生。
それによりルークが気を失い、次に目を醒ました時彼は見慣れない場所にいた。
「ここ何処だよ!何なんだよ!」
そこには侵入者の女性も、彼の幼なじみの使用人も、大好きな師匠もいない。あるのはただ何もない空間。
「そこで何をしているのかね」
「!」
その空間に、何者かが入ってきた。
彼が振り向けば、そこには仮面をつけた金髪の男性がいた。
「お…俺は何にもしてねーっての!何なんだよお前!」
「私?私は…ラウ・ル・クルーゼだ。君は?」
「………俺は…ルーク。ルーク・フォン・ファブレだっての」
「ルーク、か」
始まりはこんな感じか?wwwww
シンなら絶望してるルークを見放すんじゃなくてちゃんとしてくれそうだ。
「でぇやあぁぁ!」
アロンダイトを構え突撃するデスティニー
「うおぉぉぉぉぉ!」
ビームサーベルを構え迎え撃つ∞ジャスティス
両者、正にぶつかり合わんとしたその時
フッ……
デスティニーが消失した
「なっ!」
あまりの出来事に呆然とするアスラン
無理も無いだろう
シンが突然遥か遠い場所に移動した
ましてやその場所が異世界などとアスランは知る由も無いのだから
シンが気づいた時、そこは全く見覚えの無い場所だった
広場の真ん中にポツンと木が立っている
「あれ?俺は確か…」
∞ジャスティスと戦っていたはず
そう思った時、声が聞こえた
「あなたが精霊アスカか?」
声は自分に向けられた物のようだ
よく見るとデスティニーの足元に何人か人が居た
皆、見た事も無いような格好をしている
「確かに俺はアスカだけどs…」
精霊って何の事だ?、と言おうとしたが
「やったな!やっと精霊アスカに会えたぜ!」
赤い服を着た少年の大声に遮られた
「これでルナと契約出来るね」
「ここまで本当大変だったよな」
目の前の集団は自分を置いてけぼりで盛り上がっている
アスランとの戦闘での張り詰めた緊張もすっかり緩んだシンはとりあえず
「ハァ・・・」
何もかもが意味不明な現状を嘆いて大きな溜息をついた
シン・アスカ
異世界で光の精霊(代理)としての第2の人生のスタートだった
>>110 ワロタw
つーか、アロンダイト一刀でシリーズ最弱ボス、ミトスは終わるだろw
>>113 まぁそれでもシリーズ最強はフォルトゥナだけどな
総長が一番楽だったぜ!
CEでの総スカン=死
>>92氏はシンinレディマイ書かないのかな?
だったら俺が書いちゃったりなんかしちゃったりしたいんだぜ
期待age
120 :
117:2007/02/01(木) 21:13:26 ID:???
色々書いてるからちょっと待って頂戴
今週中には投下してみる
アビスにシンが行くSSの人もうこないのか?
それなら違うヤツ俺が書きたい。
123 :
121:2007/02/03(土) 22:40:35 ID:???
今俺的シンInアビス構想練り中…
来週には投下するぜ
age
みなさん乙だ!
保守
シン「フリーダム、今日こそ、虎牙破斬!」
キラ「君は!? 虎牙破斬!」
アスラン「俺たちが戦う必要がどこにある!? 虎牙破斬!」
ルナ「このー! 裏切りものがッ! 虎牙破斬!」
レイ「俺はラウ・ル・クルーゼだ! 虎牙破斬!」
ラクス「イカスヒィィィィップ!
グレイツ、アッッッパァァァァッ!!
ヘェビィィィ、ボンバァァァァァッ!!!」
やっと書けたぜ、SSって大変だな!
これから投下開始するので、良かったら見てやってくれ
誰だってそうだと思うんだけど、いきなり予想外の出来事に見舞われたら頭の中真っ白になるよな?
その考えでいけば、俺ことシン・アスカも十二分に普通の人間だった。
レクイエムの辺りでの戦いで、俺は多分アイツに――アスラン・ザラに負けたのだと思う。“思う”の理由は後述。
圧し折られたアロンダイト。斬り潰された右脚。叩きもがれた両腕。
デスティニーは満身創痍、でもアイツのジャスティスには殆どダメージは無くて。
アスランの言葉、割り込んだルナ、ステラの幻影、あの時の俺はキャパシティを超えた事ばかりが起こっててもうボロボロだった。
それで、月面に叩き落とされた瞬間に意識はぶっつり途絶えてた。限界だったんだろうなと、無駄に冷静になった今はそう思う。
…………問題は、ここからなんだよ。
何かに呼ばれて目を醒ませば、そこに広がってたのは別世界。
木の根が絡み付いた石壁、やや苔むして湿気った床、周りの壕を巡る水。
トンネルのむこうは不思議の町でした、ってレベルじゃねーぞ。
驚いて身を跳ね起こした俺の視界に、妙なものが入った。
飛んでる、白い、ねこ?
唖然と見詰める俺に、そいつは口を開いて。
「目が覚めたかい? なかなか起きてくれないから、心配しちゃったよ」
「………………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
思わず絶叫。CEにはそもそも喋くる動物なんかいませんでしたからね、ええ。
「え、ちょ、なにこれ? どんなシステムで動いてんの?」
「うわ、止めてよ! そんなまさぐっちゃ、らめぇ、あ、アッー!」
好奇心からそいつをひっ掴み撫で繰り回してみるも、チャックとかは特に見つからなかった。どうやらマジモンの生物らしい。すっげ、世界すっげ。
で。
「へ、君記憶とかあるの? 生まれたばかりってわけじゃないんだ」
「誰が生まれたての16歳だよ」
「言ってないからそこまでは」
珍生物ことモルモ曰く、俺はディセンダーとか何とかって存在らしい。正直ワケワカメだ。
テレジア。それがこの世界の名前だとモルモは言う。
訝しい思いを抱きながら、俺は着慣れたザフトレッドの制服を軽く触った。デスティニーの中ではパイロットスーツを着ていた筈なんだけどなぁ。
喋くってるモルモを軽くスルーし、所持品を確認する。
銃が一挺、鞘に入ったナイフが一本。あとは…………赤いグミっぽいのも何個か。
最後にポケットを探ると、喜ばしい事にマユの携帯が見つかった。あぁ、これもこっちに来てたんだな。傍にこれがあるだけで大分落ち着くよ、マユ…………
「ちょっとシン、聞いてる?」
「はっ?」
いけね、思わずトリップしちゃったよ。
ふと顔を上げると、モルモが怒ったぬこの顔でこっちを睨んでいた。全然恐くはないんだけど、その迫力にやや引く。
「もう、ちゃんと聞いてよ! ディセンダーっていうのは、」
手をわたわたさせて説明しようとした、その瞬間。
「きゃあぁっ!」
劈くような悲鳴が、俺の耳に飛び込んできた。
「今の声は!?」
「説明は後にしよう、行くよシン!」
「言われなくともっ」
耳の奥に残る甲高い声に急かされながら、俺とモルモは一気呵成に駆け出した。
悲鳴の主はすぐに見つかった。
時代錯誤な鎧を着込んだ太ましいヤツに詰め寄られている、短い桃色の髪をたたえた女の子。
癇に障る怒鳴り声、それが心の琴線を爪弾く。
脳を駆け巡る衝動に任せ、俺は思いっきり地を蹴った。
浮遊感。
「ぶひひひひ、女ァ。まさかスパイの扱いを知らないわけd「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」ぶげらぁっ!?」
鎧野郎のピザっぽい横っ腹に、見事ドロップキックが決まる。
物凄い勢いで吹っ飛ばされていく野郎。ざまぁみろ。
女の子は、やや怯えた様子でへたり込んでいた…………その姿が、助けられなかったあの子にオーバーラップして。
苛立ちでざわめく心。
守ってみせる、絶対!
そんな思案にくれていたら、ピザ野郎が起き出してしまった。良い感じに入ったと思ったのに。
目を血走らせ、三日月のような刃がついた長斧を構えるピザ。
「ぶひー、ぶひー、貴様もスパイだなぁ!? もう許さん、そこの女共々纏めて始末してやるっ!」
息も荒々しく、男は一気に突っ込んできた。
って、速い!
想像以上の速度で振ってきた刃が、ギリギリ避け損ねた俺の髪を斬り散らす。あとコンマ1秒でも遅れたら頭割られてたぞ!?
「モルモ! その子を連れて離れてろっ」
「わ、分かった! 気を付けてよシン」
叫びに応じて、モルモが女の子と一緒に下がった。ピザ野郎はまず俺を消す気なのだろう、そっちをほんの一瞬ばかり見ただけでまたこっちに来る。
くそっ、舐めるな! 俺だって赤服なんだ、FAITHなんだ!
振り下しからの薙ぎ払いを屈んで躱し、懐に突っ込む。
しかし相手は柄の部分でこちらを振り払ってきた。ちっ、腐ってるように見えてもこんなに戦えるのか!
柄を短く持って次々に攻撃を仕掛けてくる。そのスピードの速い事といったら、悔しいがこっちは捌くので手一杯だ。
また髪を少し持っていかれた。あぁもう背筋が凍りそうだ。
こうなったら、肉を斬らせて骨を断つより他は無いか。痛みくらい耐えられる、耐えてみせる!
動きを止めた俺を認識し、男は再び柄を長く握って大上段から下ろしてきた。
もしこれで刃が当れば間違い無くあの世逝きだ、けど!
「そぉぉぉぉいっ!」
――ガツン!
じわり、痛みが拡がる。
勢い込んで相手の懐に飛び込んだ俺は、柄に肩を打ち据えられたけどほぼ零距離にまで間を詰める事が出来た。
ここまで寄れば、こっちの物。
地面を擦るように逆手に持ったナイフを跳ね上げ、怯んだ隙にもう一発さっきの横っ腹へ膝蹴りをお見舞い。
同じ箇所に短いスパンで2発、これが効かない道理は無い。
ガードが下がったのを見計らい、ヘルメットも気にせず顔面へ狙いを定める。
脚から腰、腰から肩、肩から腕。
全身を捩り生み出した螺旋のパワー、当ればタダじゃ済まさない!
「さぁせる、もんかぁぁぁぁっ!!」
顔面に、拳を、突っ込んで、殴り抜けるっ!
鋼とその向こうの肉を打つ、鈍い手応え。兜堅ってぇな。
加減も何もしない本気のパンチは、今度こそ完壁にピザ野郎を捉えた。これで動いたら俺、もう神様信じない。
…………大丈夫みたいだ。
異世界での初めての戦いは、見事に俺の勝利で幕を閉じる。やったよ、マユ!
ナイフを鞘に納めたところで、モルモと女の子が走り寄ってくる。
うん、ちょっと怯えは残ってるみたいだけど女の子は無事だ。良かった。
「あ、あの。本当にありがとうございましたっ!」
「いやいや、どう致しまして。あはは」
「お前はその子連れて逃げただけだろーが。それも俺に言われてから」
何をか況んやモルモめ。
むにっと頬を掴んで捏ね回してやる。うりうり、嫌がったって止めてなんかやるか。
…………と、向こうから誰かが走ってきた。
「カノンノっ!」
息を切らせながらこっちにきたのは、水色の髪をオールバックにした青年。うわ、こんな実戦向きの弓矢なんて初めて見るかも。
「はっ……はっ……カノンノ、無事だったか!」
「チェスター! 心配掛けてごめんね、この人が助けてくれたの」
「そうだったのか。俺からも礼を言わせてくれ、ありがとう」
そう言い、チェスターと呼ばれた人は頭を下げる。面と向かってこうお礼されたりすると、なんかちょっと照れるな。
女の子はカノンノっていうのか。
頭を上げたら、彼は思い付いたような口振りで。
「折角だ、行くトコがないんなら後でウチの街に来てみな。その見なれない服装、お前達も難民なんだろ?」
「「なんみん?」」
「…………違うのか? まぁ良いや、そこでクラトスって男を尋ねてみろよ。『アドリビトム』、そう言や話が通じるかもしれないぜ」
「は、はぁ」
曖昧な俺の返事に代わり、モルモが後を継いで。
「クラトスさん、だね。わかったよ、ありがとうチェスター」
「おう。そんじゃ俺達は先に行くぜ」
「また会えると良いね。それじゃあっ」
「お気を付けてー」
手を振るモルモと俺が見送る中、二人は歩き去っていく。
ふぅ、溜息が漏れた。
「オイラ達も行こうか、シン」
「そうだな…………いつまでも、止まってるわけにはいかないか」
仲間の事、議長の事、ミネルバの事、アスランの事、フリーダムの事、正直心配は山積みだ。
けど、今の状態じゃ逆立ちしたって元の世界には戻れない気がする。
――やるしかないんだ。ここで、ナニカを――
続く。
>>117氏、晒すわけじゃないけど、過疎ってるからageるよ?
GJ!
面白い!
でもまさか声が同じだからってセネルとやたらフラグ立てるのは
やめてほしい。まあまだそこまで言ってないから余計なことだけど
じーじぇい!
138 :
某コテ:2007/02/10(土) 19:04:45 ID:???
力作だなおい。戦闘描写が迫力あっていい
心理描写もなかなか。
亀だけどGJ。
レディアントやったことないけど、先が凄く気になる
GJありがとう、凄く励みになるよ
なるべく面白いと思ってもらえるモノ書きたいから更新速度は亀みたくなると思うけど、付き合ってくれると端くれとは言え物書き冥利に尽きる
次が出来るまでもう暫く掛かるので、気長に待って貰えるかな?
追記。連投規制コワいぜ
すごく読みやすかった!
保守
携帯から失礼。かなり時間が経った。
では俺的シン(種死s)インアビスをうpしよう。
下手くそですまない。
・序章
そこは銀の世界。
ラクス・クラインがザフトの議長となった翌日、シン・アスカは警備の為同じ部隊のメンバーと共にザクで宇宙を航行していた。
彼の赤服とバッジはあの終戦の日以来取り上げられた為、今の彼は一般兵として在籍していた。
『…こちらレッサス2、前方に異常を確認…』
『こちらレッサス1、…有り得ねぇ…なんだこれは…なんでこんなところに?誰も気づかないはずが…』
『こちらレッサス3…デカい…デカすぎる……』
メンバーが騒ぎだすので、シンもそちらに注意を向けた。
「……!ブラックホール……こちらレッサス4…まず上部に報告、調査隊を出すのが妥当じゃないか?」
『それが妥当だろうな…よし、レッサス2、母艦に緊急…うぁぁぁっ!』
その時、リーダー機がブラックホールへ突進していった。
時を同じくしてシンを含むメンバー達もブラックホールへと突進していく………いや、それは端から見たらの話で、実際には急激に引き寄せられていた。
『ぐぁぁぁあっ!!』
『きゃああああっ!』
「うぁぁぁぁぁっ!」
ブラックホールは四機を呑み込むと、その後何事もなかったように姿を消した。
レッサスチーム4人か、シン以外のメンツが気になるな
乙、良い引きで続きが楽しみだぜ
age
サンクス。励みになるよ
>>145 では、頑張って続きを書いてみる。
「ん………」
暖かくて、柔らかい感触。
ここ何年か感じた事のない気持ちのよい感触に、シンは目覚めを拒否していた。
(…あれ…俺、確か……ブラックホールに……って!)
そこまで思考を到達させるのにしばらくかかったが、それにたどり着いた途端彼はガバリと起きた。
「……!!……あれ?………」
木目の壁、ガラスの窓とその奥に見える白銀の景色、絨毯、見知らぬ文字で書かれた背表紙の本とそれらが詰まった本棚、木のテーブルと椅子、テーブルの上に置かれた湯気がたっている料理―恐らくはお粥の類であるだろう―とマグカップ、そして自分がいるふかふかのベッド。
「な、なんだここ!?」
ザクに乗っていたはずなのに、次に気づいた時はこんな所。シンは夢だと思って頬をつねるが…
「…痛ぇ……」
現実的な痛みが帰って来た。
「あら、起きたのね?大丈夫」
「!?」
いきなり後方から声が聞こえたので、シンはバッと後ろを向いた。
「その様子だと大丈夫みたいね」
クスクスと笑う白髪の女性。他に誰もいない事から間違いなく彼女が声の主だとシンは判断した。
「あなた…は?」
シンは女性に聞く。女性は笑うのを止め、椅子の所まで来て座った。
「私?私はゲルダ・ネビリム。貴方の名前は?流れ星の王子様」
>>147 GJ!先生絡みか!
先生は苦労したな…。
>>139 誰か登録しないかな。見やすくなるし。
続き。
「な…流れ星?あ、俺シン・アスカって言います!」
「そう、シンって言うのね。ああ、流れ星と言うのは…」
女性…ネビリムが話すには、昨日空から流れ星が降って来て、彼女が住むこの街―ケテルブルクとやらの外れの地面に衝動。その後街の有志で堕ちてきた緑色の人型のもの―言わずもがなザクであろう―を調べていたら、中から俺が出てきたという。
扱いに困っていた所、その話を聞いたネビリムが引き取る事にしたらしい。
どこかの未開惑星にでも堕ちたのだろうか、という疑問が浮かぶ。
(……ブラックホールに呑み込まれたんだ。不思議じゃないだろ…)
そう自分を納得させる。
「不思議な服と兜を身に付けていたからね、貴方の着替えは教え子に頼んだの」
「教え子?」
シンは首を傾げた。
「ええ。…あら、ジェイドにサフィール、ピオニーにネフリー」
ネビリムが扉の方に注意を向ける。シンも彼女にならう。
そこには亜麻色の髪に赤い瞳のメガネ、銀髪に紫の瞳、金髪に蒼の瞳の肌の色が濃いという三人の少年達と、亜麻色の髪の少女がいた。
「起きてたようだ」
「よかった!あの人型の音機関について色々聞きたい事があるんだ!」
「空から堕ちてくるなんて最近読んだ永遠の物語の冒頭みたいな話だなぁ」
「あの人が噂の…」
一人はそっけなく、一人は目を輝かせて、一人は陽気に笑って、一人ははにかんでいる。
毛色の違うこの四人を見て、シンは思わず口をほころばせた。
今更気づいた。
衝動×
衝突○
>>148 GJありがとう。俺も先生は大好きだ。
では、続き…
「シンさん…ですか」
ネフリーという少女は、顔を赤くさせてシンの名前を言った。
「空から降って来たし、異世界。そりゃすげぇなあ。なあジェイド」
「研究対象としては興味深い」
「うわぁ…凄いなぁ。凄い凄い!話聞かせて!」
金髪の少年ピオニーが茶化すように隣の眼鏡の少年ジェイドに話しかけた。一方銀髪の少年サフィールは先ほどと変わらずきらきら目を輝かせてと彼を見る。
「そうだな、俺が乗ってた人型の機械がわんさかいてな、軍もそれで編成されてるんだ。もちろん、特別なタイプのヤツもあったりな」
「軍人か。若いのに」
「…まあな」
話しているとジェイドが横やりを入れてきた。
「まあ能力が高けりゃそれ相応ってやつか。戦争も経験したのか?」
「ああ…負けた、けどな」
ピオニーはカラカラと笑ってシンに尋ねる。
その横でサフィールが嬉しそうに質問してくる。
「やっぱりその人型の音機関で戦争するの?となるとシンさんの世界ってすごく技術が進んでるんだね!」
彼はそこまで言うと、一呼吸おいた。
「僕、将来はシンさんの世界に行けるような音機関作るよ!でもってシンさんを元の世界に帰してあげて、僕も行くんだ!」
晒し好き
いい雰囲気だ…
続き
サフィールのその発言にピオニーがからかうように反応する。
「そりゃすげぇ大胆な発言だなぁ。もちろん俺も連れてってくれるよな」
「その前にそいつにそこまで出来るのか疑問だ」
「ジェ、ジェイドぉ!僕を馬鹿にしてるのか?絶対、絶対に作ってやる!先生またね!」
「あ…またね、サフィール」
そう叫ぶと、彼は部屋を飛び出して行った。
「僕も帰るか。では先生、後ほど」
「じゃあ俺も。またな先生〜」
二人も彼の後を追うように部屋を出ていく。
その場に残ったのは…
「またね、二人とも」
「私も…行ってみたいなぁ……」
「………」
優しげに笑うネビリムと、まだ赤く染めたままぽつりと呟くネフリー、そしてポカンと扉を見つめるシンの三人だった。
--------
あれから数日が経った。
シンも体調をすっかり回復させ、ケテルブルクでの生活を彼なりに楽しんでいた。
この世界で何処にも行く当てもないシンはどうしようか悩んでいたのだが、彼の事情を聞いたとある街の人が自宅の一室に彼を下宿させてくれる事となり、今現在彼は街で自分に出来る仕事をしながらこの世界の事を学んでいた。―時折ネビリムのこっそり私塾に顔を出しながら―
中でも最初にここで目覚めた時に出会った四人の子供達―主にサフィール―はよく彼を訪ねては彼の世界…C.E世界の事を聞きたがっていた。
続き
何時までもこんな事が続くのだろうか……
ケテルブルクで生活し始めて一年。この世界オールドラントの生活にも慣れある程度の知識もつけたシン。
ベッドで寝ころんでいた彼の頭にふとした事でそんな考えがよぎった。
一緒に墜落したザクは何故かある日突然砂山が崩れるように崩れて跡形もなくなり、タンスの奥にしまったヘルメットとパイロットスーツのみが唯一彼が異世界の人間である事を証明していた。
「……なんだかなぁ…」
見えない明日。普通なら預言を詠んでもらうらしいのだが、彼は預言に詠まれてはいない。
「…まあ、一生をここで終えるのもいいかな……でも、ネビリムさんに相談してみよう」
そう考えを締めくくると、シンはベッドを起き上がり彼女の家へと向かった。
---------
激しい爆音。
隣を走り去った“彼女”
その場にいたのは彼女の亡骸と、ジェイドだった。
「ジェイド…さっきのネビリムさんだろ…なんでネビリムさんはここに…」
シンの問いにジェイドは小さく返す。
「あれはレプリカ。…暴走、した…」
「レプリカ…?レプリカって…」
「僕が考えだした。オリジナルの情報を元にオリジナルそっくりのレプリカを産み出す技術、フォミクリー」
続き
あくまでも淡々と答えるジェイドに、シンは思わず怒鳴る。
「それとネビリムさんが何の関係があるんだ!?さっきのは何なんだ!答えろよ!」
「うるさいっ!…ネガティブゲイト!」
ジェイドが譜術をシンに向かって放った。歪んだ空間がシンの近くに出現する。
「ちょっと、おい、待てよジェイド……うぁぁぁあっ!」
ネガティブゲイトによって発生した歪み。
シンはそれに呑み込まれてしまった。
(また俺こんな事に…………今度は、死ぬのかな………?)
答えは出るはずもなく、拍子で意識を飛ばしてしまった彼はゆっくりと歪みの中へ沈んでいった。
序章・糸冬。
GJ!!
・第一話
始まりの場所
「っ……」
シンはズキズキと痛む頭を抑えながらゆらりと起き上がった。
「……ん?ここは……俺、そっか。ジェイドの譜術を受けたんだよな」
そのままゆっくりと頭に響かないように立ち上がり、あたりを見回す。
海が見えて、川の流れる音がする。
「綺麗な場所だなぁ………」
朝方特有の太陽の暖かさと、冷たい風、そして露に濡れた草花の感触にシンは身震いした。
「雪、降ってないしケテルブルクじゃないのかな……戻らなきゃみんな心配してるかな」彼は立ち上がる。すると目の前に奇妙な袋が落ちている事に気づいた。
「……?ガルドだ」
中身を覗けばガルド。シンの感覚からして十数日は食べていけるだけの額はあった。
「はは、ユリア様のおぼしめしってヤツか」
そのまま懐金にしてしまうと、彼は至極のんびりとその場所を去って行った。
その場所――始まりの地にして終わりの地・タタル渓谷――
---------
ケテルブルクに帰るにはとりあえず港のある街に着ければいいと判断し辻馬車も拾わず歩き続けた。
だからだろうか。
一人の人間にも会う事もなくシンはローテルロー橋を越えてマルクトへと入った。
その後カイツールに向かう男性によってマルクト首都グランコクマに行くか旅券があるならキムラスカのカイツール軍港に行かない限り港がこのあたりにはない事、反対方面にあったケセドニアなら港があった事を知って急いで来た道を引き返したシン。
だが橋は見るも無惨に破壊されており、戻るに戻れなくなってしまったのであった。
タイトル訂正。
始まりの場所×
始まりの地より○
続き
グランコクマへと向かう事になったシン。
彼は途中セントビナーという城塞都市に寄った。
神託の盾と呼ばれる兵達がいるもののすんなりと入れ、今は宿屋の一室に彼は陣取っていた。
「…しっかし、驚いたよなぁ」
部屋でシンは小さく呟いた。
「ND2017。まさか二十数年先もの未来にタイムスリップかよ。…C.E.じゃないのかよ」
頭を抱える彼の脳裏によぎるのは、四人の少年少女と一人の女性、そして仲良くしていた街の人々。
「俺の事、覚えてるかな……」
彼にとってはほんの十数日前の記憶、だが彼らにとっては二十数年前の記憶。
「だとしたらジェイドは35歳、サフィールも35歳、ピオニーは36歳、ネフリーは……やめておこう。みんな俺よりかなり歳くったって事か。何か変な気分だなぁ……」
今になっては過去の思い出ばかりが募ってくる為、シンはそれらを振りきる気分転換の一環として食事を取るという事を思いつき部屋を出る事にした。
--------
宿屋の食堂。ポテトサラダをつつきながらシンはこれからの事を考えていた。
ケテルブルクに戻っても以前の生活は望めない。
なら何をすればいいのだろうか。
食事は気分転換にもならず、とりあえず残ってるポテトサラダを口に詰め込み咀嚼・咽下し、最後の品である炒飯に手をつけようとした時だった。
「やーっとメシかよ」
「そうだなぁ、ルーク」
がやがやとした一行が食堂に入って来た。
「あー腹減った」
「何を頼むの」
「俺は…その魚のヤツかな。ルークは?」
「俺はチキンのヤツがいいっつーの」
(なんかヤツらの声だけよく耳に響くなぁ…)
シンは不快感をあらわにした顔でそちらを振り向く。
赤髪の少年、金髪の青年、亜麻色の髪の女性、そしてどこかで見たような気がする蜂蜜色の髪の男性。
「おいジェイド、テメーは何にすんだよ」
(ジェ、ジェイドぉー!?)
カチャーン、という音を立てて炒飯のスプーンが床に落ちた。
GJ!この先の展開にwktk
ところでイオンは?この時点では同行してたよね?
GJ!!
職人さん
お疲れ様です!!
保守
164 :
名無し:2007/03/09(金) 00:41:44 ID:???
保守
保守
保守
おい、人いるか?
1
時刻を超えて!2、惨状!!
はい3
ちょっと覗いただけの4!
同じく通りすがりの5
実質三人かよw
久しぶりにきた俺もいる
書き込みこそしないが毎日チェックしてる俺もいる
保守
俺も保守
保守
運命を解き放つ保守
痔『おっさん!』
ジェイド「おっさんではない。私はマルクト軍 ジェイド・カーティス大佐。
ルークぅ30過ぎたらおっさんというツッコミは許可しません。」
シン「なんでアンタまでこっちに来てるんだ〜〜」
保守
俺も保守
シンの称号(TOA)―『運命(定め)の悪魔』
SE:スコアを盲信する者全てに『異端』とされる者
つまり、スコアを覆す可能性を秘めた者
便乗
『イビルブラッド』
SE:え?俺だけ完全悪役?嫌だなぁ……
人いないので俺も便乗
『譜眼施行者?』
『ツンデレ少年』
保守させてくれ
保守
TORで構想中なんだけど
マオがヒロインになりそうだ
レイともシン、ステラともガンガン仲良くなりそうだし
リバース序盤の微妙な関係、結構好き
トイレが仲間になる前までな
とう!
保守
保種
捕手
ABYSSEEDの作者はどうしたんかな
あげ
これってシンがテイルズ世界に行けば他キャラは別にいいの?
それなら駄文を練ってみようかと思うけど
自由にやれば良いんじゃね?
自由だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
フリーダム
保守
保守
今思うとこのプロットすっげー痛いなって思って消しちゃったんだけど
シンフォニア序盤でロイドがイセリア人間牧場のマーブルさんを助けようとして逆にイセリアが燃やされる、っていうシーンあったよね。
アレ結構ネタにできるかなー、とか思ってたんだよ。
シンも「インド洋の死闘」を見てたら似たような事やってたし、あの場にシンがいたら間違いなくロイドに協力してそう。
で、間接的に自分がイセリアを燃やしちゃったことがシンにとってはかなり深い心の傷(改心フラグとも言う…)になるかなー、と。
シン「…これじゃ…俺もアスハとやってることが変わらないじゃないか…」
とか思ったりして。アスランに「戦争はヒーローごっこじゃない!」とか言わせるよりはよっぽど効果的だと思うんだけどなー。
>>200 良いプロットじゃないか
書いてみたらどうだい?
202 :
200:2007/06/12(火) 21:21:44 ID:???
>>201 ありがとう。ちょっとやる気になったよ。
国語力ない俺が20分で考えた出だし。お目汚しかもしれないけど。
シンフォニアも長いところやってないから、記憶がかなり曖昧なんで間違い多いかもしれないけど…
―どうして、戦争がなくならないんだ?―
―どうして、人と人の争いが続くんだ?―
―どうして、差別が起きるんだ?―
ベッドの上で横になって、そんな事を考えていた。
俺はそういった物が無い世界が欲しい…作りたい。だから力が欲しい。
そうして俺はザフトに入った。
けど…実際の俺は無力だった。
「ユニウスセブン」の落下も止められなかった。アーモリーワンで破壊工作を行ったテロリストも逃してしまった。
俺は…やっぱり何も出来ないのか…?
考えてる内に、自然と眠くなってきた。
考えるよりも今は目の前にあることをどうにかするべきか…そう思って、眠る事で思考を中断しようと思った。
…?
気づいたら、俺はミネルバの船内、俺とレイの私室ではない、どこかにいた。
床の上に毛布が敷かれて、そこで眠っていた。
俺の隣にはレイと…ルナマリア、それにメイリンも寝ていた。まだ起きてないみたいだ。
…レイはまだしも、なんでルナマリアとメイリンも?
疑問を一端置いといて周りを見渡すと、木で出来た壁に女の子の部屋と思われるような装飾があった。
一体誰が、それにどうやって?そもそもここはどこだ?
そんな風に思ってると、下の方から階段を昇るドタドタという音が聞こえてきた。
…が、その音は途中でドスン、と誰かが転ぶような音がした。
…誰だ?この家の主か?
そんな事を考えて軽く身構えて待っていると、現れたのは長い金髪をした少女だった。
15〜6歳、自分達と同じ位か、それよりちょっと幼いかな、と思った。
203 :
200:2007/06/12(火) 21:23:13 ID:???
「あ、良かった〜!起きたんだね!私、中々起きないから心配しちゃった!」
少女は嬉しそうに、また元気そうに言った。
「あ…君は?」
俺は少々戸惑いつつ、彼女に尋ねた。
「私?私はコレット。コレット・ブルーネル。あなたは?」
「俺はシン、シン・アスカだ。それとこっちの金髪がレイ・ザ・バレル。
赤い髪のショートカットがルナマリア・ホーク、ツインテールがメイリン・ホークだ。
三人はまだ起きてないんだ」
「へ〜え、この二人って良く似てるけど、姉妹なの?」
「そうだよ」
話してみると、ちょっと服装が変わってるけど、至って普通の子だな、と思った。
会話が少し流れに乗ってきたので、質問する事にした。
「…なあ、ここ、どこだよ?それで、君はどうして俺達を拾ってくれたんだ?」
「ここはイセリア村、シン達は私の家の側に気を失ってたから、お父様に話して連れてくる事にしたの」
「…イセリア?聞かない地名だな…どこにあるんだ?」
「えっとね…ちょっと地図持って来るね」
地図を持ってくる、と行って降りて行った後、2回ほど転ぶ音がした。
内心、大丈夫か?とも思ったが、それ以上に驚いたのはコレットが持ってきた地図だ。
「えーと、ここがパルマコスタで、ここがトリエット、それで、イセリアはこの端っこ」
「…え、ちょ、ちょっと待て!?これが世界地図だって!?」
「そうだよ。シンは見たこと無いの」
「あ、いや…」
俺は一瞬言葉を止め、考えた後こう質問した。
「あのさ…プラント、って知ってる?」
コレットは不思議そうな顔をしてこう答えた。
「プラント…?植物?どうしたの?」
俺は確信した。ここは俺達とは全く違う世界だと言う事を。
そして、俺は驚きのあまり叫んでしまった。
「なぁー!?」
その叫び声に反応したのか、ルナマリアは「シン!うるさいわよ!」と起きた。
レイとメイリンも、目が覚めようとしていた。
ちょっとおかしな部分があったけど、こいつは期待せざるをえない
>地図を持ってくる、と行って降りて行った後、2回ほど転ぶ音がした
ドジっ子wwwwwwwwwww
そういやコレットのドジは女神の幸運がついて回ってたよなぁ
頑張ってくれ、俺だけでも見ているぜ
205 :
200:2007/06/13(水) 23:46:25 ID:???
褒めてくれてありがとう…ッス。
マジ生まれて初めての小説だったので、手間取りましたが、認めてくれる人がいてくれて安心です。
まず、シン(達)の状況についてですが、大体原作で言えばオーブに降りてきた直後ぐらい(第9〜10話くらい)です。
文中の「ユニウスセブンの〜」あたりを見れば解かると思いますが。
何故かというと、後半の方のシンは正直頭が固くなりすぎてると思うのです。議長思考一直線というか。
かといって、FP後だと今度は信奉対象が議長からキラに変わっただけじゃないですか。
ですから、微妙に序盤気味にしておくことでシンの成長を書くのがやりやすくなるかな、と考えました。
また、見てのとおり、シン以外の種死キャラも結構出すつもりです。
後、ゲーム的な演出(SSでは考えなくてもいいんだけど)では
メイリンはPS2版デスティニーでいうところのサポートタレントにするつもりだったりします。
MSパイロットであり赤服であるシンやレイなら生身での戦闘にも相当心得があるでしょうが
通信兵のメイリンだとどこまで戦えるか解からないので(まあ軍人だから最低限はできるでしょうが)
各キャラの武器の予定は
シン→大剣 レイ→槍 ルナ→斧
のつもりです。
レイが槍なのはレジェンドの武器が一応「ビームジャベリン・デファイアント改」となっていたので。
またネタができたらその都度投下しに現れますので…
生暖かく見守ってください。
頑張れ
住人がもう俺ら二人しかいないような気もするけど頑張れ
207 :
200:2007/06/14(木) 23:15:33 ID:???
SEED OF SYMPHONIA
PHASE−1 響きあう世界へ
「シン、いきなりうるさいよぉ〜」
「あ…コレット、ちょっと待っててくれよ。俺、三人に話があるんだ。すぐ終わるからさ」
「うん、わかった」
コレット…結構物分りが良い子だな。おかげで助かったよ。
コレットにとりあえず誤魔化しておいて俺は怒っているルナに話しかけた。
「シン!人がぐっすり寝てるのを邪魔しないでよ、もう!あなたは昔っからすぐ大声出して!」
「ちょっと待ってくれ、ルナ!今落ち着いて事情を説明するから!よく周りを見てみろよ!」
「え…?」
ルナは不思議そうにあたりを見渡した。どうやら少しは状況が分かったみたいだ。
「シン…ここは…?」
「それを今から説明するさ」
寝ぼけ気味のメイリンを気づかせるのにはちょっと苦労した。
一方で、どうやらレイは起きてすぐ違和感に気づいたみたいだ。
俺はコレットに聞こえないように、小声で三人に話しかけた。
ここは俺達の住んでいた世界とは全く違う世界だ。それを三人に説明した。
三人とも、困惑というよりも納得しなさそうな顔をしていた。
まあそりゃそうだろうな。俺だってまだ納得してないさ。
「どうするのよ、レイ?大体異世界から来た、なんて説明しても今時冗談にもならないでしょ?」
「そうだな…とりあえず、話がある程度解かる大人に俺達の事情を聞いてもらうのがベストだろう。
異世界や空間、そういった事に学識がある者なら案外楽に帰る方法を教えてくれるかもしれない」
提案したのはレイだった。やっぱり、頭脳という意味ではレイがこの中では一番頼りになる。
そんなわけでこれからの方針が決まった。
「シン、結構話長いよぉ〜」
怒っているのだろうが、そうは見えないような顔でコレットが話しかけてくる。
「ゴメンゴメン、もう終わったからさ。
ところで…この村で学識がある大人の人、誰かいないかな?その人と話がしたいんだけど」
「学識?勉強ならリフィル先生が一番この村では出来るよ」
「先生…?まあいいや。その人、どこに住んでるのかな?」
先生、というのは恐らく学校の教師なんだろうな。ただそんなんで大丈夫なのか?
そう思ったが、とりあえず何の手掛かりも無いよりはいいと思って、コレットに案内してもらうことにした。
208 :
200:2007/06/14(木) 23:18:23 ID:???
外に出てみると、イセリア村ののどかな風景が見えてくる。
ルナはこの光景を見て「田舎ねぇ〜」とかつぶやいていたし、俺も実際そうだな、と思ったけれど、ここの雰囲気は好きになれそうだった。
なんだか、村全体を優しさと暖かさに包まれてるようで、ここだけ時間が止まったような気がして、オーブで家族と暮らしていた時みたいに思えた。
しばらく歩いていると、一軒の家に辿り着いた。
コンコン、とコレットがノックをすると、扉が開いて一人の女性が現れた。
20代後半といったところの、落ち着いた雰囲気の女性。自分達よりも遥かに大人だ、と思えた。
「あら、コレット。こんな休みの日にどうしたの?それも妙な子達を連れて…」
「えっと、シン達が先生とお話したいって言うから、連れてきてあげたんです」
コレットが少し体をずらし、俺達がリフィル先生に見えるように立つ。
リフィル先生は興味深そうにこっちを見ている。
まあ、そうだよな。自分の生徒が全く知らない友達を何人も連れてきて、
しかもいきなり話がしたい、なんていうのは変だからな。
それにメイリンはまだしも、俺とレイとルナはお揃いの服(ルナは改造してるけど)をしてるわけだし、
教師じゃなくても変に思うって。
「…リフィル・セイジよ。この村の唯一の学校で教師をしているわ。
…ところで、話というのは?」
俺達は先生の家の中の一室で話す事にした。
コレット、いやこの村の他の人々に聞かれると面倒だ、とレイが考えたからだ。
そして、先生に俺達はこの世界とは全く違うところから来た、ということをだ。
正直、あまり話せるだけの事はなかったけど、どうにか解かるように俺たちの事情を話したつもりだ。
すると先生はしばらく考え込んでからこう尋ねた。
「…あなた達の世界にはシルヴァラントと同じようにマナの力や精霊が存在するのかしら?」
…マナ?精霊?俺は勿論三人も頭に?マークが出そうな顔をしていたが、レイは率直に答えた。
「いえ…そのような力とは俺達の世界は全く無縁です」
「そう…いえ、ならいいのよ」
リフィル先生の顔がどこか残念そうだった。何なんだろう?
…とはいえ、ほんのちょっとだけど前進はした。
シルヴァラント、それがこの世界の名前か。
209 :
200:2007/06/14(木) 23:25:34 ID:???
気取ってみてタイトル付けてみました。
なんだか冒頭、旅立ちに入るまでで相当に時間を食ってしまいそうな予定になっています。
例えばロイドやジーニアスと出会ったり、三人が始めて魔物と戦闘になってその後武器をどうにか確保したり〜
と、本舞台に入る前の準備段階が一番時間かかりそうです。
まあ、そもそも現実世界の人間がファンタジー世界に飛ばされれば色々と面倒なことが多いとは思いますから、
ある意味長くなるのは仕方ないかもしれませんが。
リフィル先生はとりあえず一番話を解かってくれそうですし、子供に対しても面倒見いいでしょうと考えて早めに出させてもらいました。
後、ブルーネル夫妻とかについても書きたかったんですがそういったサイドな話まで書いてると冗長になってしまいそうですので省かせてもらいました。
文章についても、会話部分なんかを少し省いて進行を早めたつもりです。
そのせいでかえって見づらくなってるかもしれませんが…
最後に
スレ活性化を期待してageときます。
うお!久しぶりに来てみたら新たな職人さんが!
これからも頑張れ!
211 :
200:2007/06/16(土) 20:37:06 ID:???
それから、リフィル先生に色々とシルヴァラントの事情を聞いた。
それで解かった事は大体こんなところだ。
・マナと呼ばれるエネルギーが失われつつあり、世界全体が衰退している
・文明はせいぜい地球でいうところの中世で、機械なんかも大して発達してない
・エルフやハーフエルフといった人間のようで人間でない種族が存在する
リフィル先生はエルフだ
・中でもディザイアンと呼ばれる連中は危険だから関わらない方がいい
・更には生物の域を越えた精霊という超常的存在もいる
・村の外に出ると魔物やらディザイアンやらに襲われるから迂闊に出るな
こんなところだ。
メイリンは「本当にファンタジーな世界なのね…」とか感心なのか恐れなのかよくわからないような声で呟いていた。
ルナもなんだか信じられなさそうな顔だった。実は長い夢なんじゃないの?とでも思っていそうな顔をしていた。
まあ俺も大体そんな所だけどな…RPGっていうジャンルのゲームもそこそこやってるし、平凡な少年が異世界に、っていうのも定番だ。
でもいざ自分がその立場になってみるとフィクションの世界みたいにスムーズに事が進むものじゃないんだな。
212 :
200:2007/06/16(土) 20:38:50 ID:???
それで今、イセリアの学校にいる。
先生がここを寝床として使っていい、と許可してくれたからだ。
とりあえずは住む場所については確保できたのは幸いだった。
「さて…これからどうしようか?」
俺は提案した。
大体、外に出ずにここで帰る方法について検討するにはいくらなんでも行動半径が狭すぎる。
だけど、この世界の金も無ければ満足な物資もない。
まあ少しはこの村で恵んでもらうことはできるかもしれないけど、いつまでもお世話になってるわけにもいかないしな。
四人で話し合った末、俺とルナとレイは村の外に出てみてメイリンはここでしばらく様子を見る、ということだった。
勿論先生の話を聞いていたから村の外に危険がある、というのは重々承知だったけど
三人、それもザフトの赤服として数々の訓練を受けた俺達なら何とかなる、と思ったからだ。
とはいえ、メイリンは俺達に比べたら劣っていて不安に思った留守番してもらう事にした。
しばらく道…といってもコンクリートで舗装されたような道路ではなく土の道を歩いていると大きな建物が見えた。
遠めに見てもイセリア村の施設に比べたらしっかりとした作りになっていて、近代的に見えた。
この辺りには特に他の施設があるわけでもないし、とりあえず行ってみようか、という結論に至った。
213 :
200:2007/06/16(土) 20:43:31 ID:???
折角の休日なので投下。ちょっと短くなってしまいましたが。
シンフォニアもクリアして1年以上経っているので正直かなり忘れてます。
攻略本も所持しておらずwikipedia等ネット上ぐらいしか資料のアテがないので、結局曖昧な記憶に頼る部分が多くなってしまってます。
イセリア人間牧場はマップ回転させれば街道から一応見えたと私の記憶にはあったので、そういう風にさせてもらいました。
さて、次はいよいよロイドも出せそうですし、三人の初めての戦いも書けそうです。
GJ!
いきなり人間牧場突入か……。
シンの性格じゃ、間違いなく突撃するよな、ありゃ。
で、ちょっとおかしいんじゃないかな、と思った文。
>「さて…これからどうしようか?」 俺は提案した。
提案ではないと思う。
>とはいえ、メイリンは俺達に比べたら劣っていて不安に思った留守番してもらう事にした。
文章の繋がり的に、とはいえ、ってのはちょっとおかしいような気がする。
>不安に思った留守番してもらう
ここは脱字かな?
次は、初の戦闘シーンということなのでwktkして待ってます。
215 :
200:2007/06/17(日) 08:24:32 ID:???
>>214 すんません。
俺もSSは初めてなもので日本語力もそう高くないし…
脱字だけは本当です。
後、別に牧場に突撃するわけじゃないですよ。
俺的プロットでは
突然魔物の強襲→誰か(ルナが候補か)負傷→ロイドによって助けられる→ロイド&ダイクの家で治療
って感じの予定なので。
戦闘といってもまだ武器も無く素手(って、一応制服の中にナイフとか持ってるのかな?)の戦いなので、
精々「やり過ごす」或いは「ロイドに助けてもらう」ぐらいにしかならないかと。
それでは。
216 :
200:2007/06/18(月) 21:05:52 ID:???
俺達は例の施設へ向かうため森の中を歩いていた。
木々の間から太陽の光が入り込み、地を照らしている。まあ、自然の美、って感じだ。
そんな風に思いながらのんびりと坂道を歩いていた時…
突然空から降りてきた「それ」はルナを襲った!
「きゃあッ!?」
ルナはすかさず飛び退いたけど、右腕に傷を負っていた。
「ルナ、大丈夫か!?」
俺はすかさずルナに近付き、ルナの右腕の傷を見た。
「あ…シン、私は大丈夫だから!」
ルナはそういうけど、俺にはルナが大丈夫そうに思えなかった。
結構深い、何かが刺さったような傷だ。放っておいたらマズイかもしれない。
でもどうやって応急処置しようか?イセリアに帰るとしてもそれまで大丈夫か?
そう思っていたところにレイが俺に向かって言った。
「シン!まだ攻撃してきた相手が俺達の近くにいるかもしれない。ルナマリアを守るようにして周囲を警戒しろ!」
俺ははっと我に返った。
そうだ、一発仕掛けるだけで逃げる相手なんていない。ましてや俺達以外に誰もいないのだから狙いが俺達なのは確実だ。
俺は後ろ、レイは前にルナを囲むように立ち、辺りを見渡した。
「上…あの鳥か!」
レイはすぐに気付いた。鳥の嘴に真新しい血がついている。さっきルナを攻撃した時の、だ。
敵の姿は解かった。だけどそこで別の問題が生じた。
「レイ、あいつに向かってどう仕掛ける!?」
俺達が持ってるのは制服の中にある銃とナイフぐらい。当然対空攻撃なら銃でやる。
とはいえ、あのスピードで迫る鳥にどうやって仕掛ければいいのか?そんなのは訓練でもやった事はない。
こんな状況で信用できるのはレイの頭脳だ。俺やルナじゃ悔しいけど冷静な判断は出来そうにない。
「奴が攻撃をしてくるのはルナマリアだろう。
一度攻撃を加えた相手にもう一撃与え、戦闘不能にする。各個撃破の策を取るのが相手からしてみれば最善だ。
相手は攻撃の時、僅かにだがスピードも落ちるだろう。
それに奴も急激な軌道変更は出来ないだろうから、軌道を先読みすれば十分に当てられる」
レイが冷静に状況を分析する。
俺もルナも、アカデミーの頃からレイの思考には随分と助けられてるし、ミネルバに乗ってからもそうだった。
だからレイの判断は信用していい、と思った。
「勝負は一瞬で決まるぞ、シン、ルナマリア…!」
俺とレイは銃を握り締め、上空の鳥の方に照準を向けた。
ルナも左手で右腕の傷を抑えながら銃を取り出した。
217 :
200:2007/06/18(月) 21:07:32 ID:???
鳥は大きく旋回し、一気に下降してきた。
「来た…!」
俺とレイの声が重なった。
下降し、ルナに向かって突っ込む鳥。予想通りだ。
「こんのぉー!落ちなさいよ!」
ルナが銃を撃つ。ルナが撃った三発の弾はいずれも鳥は回避した。
だけどそれも俺達からすれば作戦だった。今のは十分な牽制になった。
すかさず、レイが一撃を加える。ルナの弾に気を取られていた鳥は回避できず、腹に直撃を食らった。
多分即死だったんだろう。鳥は無残に落下していった。
「やった…な」
俺は鳥に近寄り、鳥が完全に死んでいる事を確認した。
とりあえず、この場の危機は去っ…ていなかった。
「うう…ッ」
「ルナ!?」
ルナは右腕の傷を抑えながら、膝をついた。
そうだ、応急処置をどうにかしないと…
そう思った俺は、とりあえず俺の制服の上着を少しナイフで切り取って包帯代わりにルナの右腕に巻いた。
「あ…シン、ありがと」
ルナの顔がちょっと赤くなった。それと同時に俺自身もなんだか妙に恥ずかしくなった。
「あ…ああ」
俺はそう答えるしかできなかった。
218 :
200:2007/06/18(月) 21:11:40 ID:???
とりあえずは歩ける状況になったところで俺達は再び歩き出した。さっきよりも警戒を強めながら、だ。
「あれが魔物…か…」
俺は思わず口から言葉がこぼれていた。
あんなにも凶暴で容赦のない奴がいきなりに襲い掛かってくる。
シルヴァラントではこんな事が日常茶飯事なのか?それともさっきのは幸運な方だったのか?
考えてみると、少し怖くもなってきた。人々を襲う脅威がいつ来るか解からない…ここがそんな世界だったなんて。
そんな時、レイは俺とルナに話しかけた。
「この銃の弾数は十発。弾のストックは俺達の手元に無い。この世界にある可能性も有り得ない。
今のような戦闘を続けていたら長く見積もっても五、六回程度の戦闘しか持たないことになる。
ナイフ一本だけでどこまで戦えるかを考えると恐らく厳しいだろう。
どうにかして武器も確保しなければならないな…」
俺はその発言によって考えを止めた。そうだな、とりあえずは現状の問題を解決しなくちゃな。
武器の必要性はさっきの戦闘で痛感していた。それも敵を討つ、為ではなく自分の身を守る為の武器の、だ。
どういう武器がいいんだろうか?剣?槍?斧?ナイフ?もしかしたらこっちの世界にも銃があるかも?
そんな他愛も無い事に思考をめぐらせながら道をしばらく歩いていると分岐点が見えた。あそこを曲がると施設だろうな。
そう思った瞬間、遠くから迫ってくる狼の姿があった!
それも一匹じゃない、三匹だ!
「三対三だって!?」
さっきは一体だけだったから数の上では十分有利だった。だから慣れないシチュエーションも突破できた。
だけど今回は対等、いや相手の方が地の利や経験という意味では上かもしれない。
「畜生!こんな最悪のタイミングで!」
最悪、としか言い様がない。こっちは一人は傷を負ってるし、こんな戦闘には慣れてない。
プラントにはこんな野生動物はいないし、オーブにだって凶暴な人を襲うのはいなかったんだからな。
俺とレイはすかさず銃とナイフを取り出し、応戦体勢を取る。ルナもナイフを取り出していた。
俺はすかさず銃を二発、先頭の狼に向かって撃った。
しかし、狼の奴はそれをジャンプして回避した!
な!?と俺が思った瞬間、狼は着地し、俺に突っ込んでこようとしたその時!
219 :
200:2007/06/18(月) 21:16:33 ID:???
「魔神剣!」
突然地を掛ける刃が俺の目の前の狼を切り裂いた!
俺は驚愕した。この刃は物体じゃない、衝撃波というか何かの「気」が集まったものみたいだった事に。
残り二匹の狼がルナに襲いかかろうとする。が、二匹ともが地に突っ伏した。俺達は何もしてないのに、だ。
ピンチを切り抜けたのはいいが、あまりに突然の事態に言葉が出ないでいると、声がした。
「危なかったな〜。お前ら、大丈夫か?」
大丈夫か?という台詞を聞いてこいつは敵じゃない、と判断した俺は武器をしまった。レイとルナも同じだ。
そこにいたのは赤い服をした、茶髪の少年。歳は俺達やコレットと同じくらい、といったところか。
腰には二本、剣の鞘が付けられている。狼を切った武器がこれであることはすぐにわかった。
が、俺は助けてもらった以上分析とかは後にしてまずは礼を言おう、と思った。
「ああ…ありがとう」
「いいっていいって、そんな礼言われるほどのことじゃないさ」
すらっとそいつは答えた。その返答を聞いてこいつは信頼していいな、と思った。
恩人なんだし、名前ぐらい知っておこう、と思って俺は尋ねた。
「俺はシン・アスカ。シン、って呼んでくれていい。お前、名前は?」
「ロイド・アーヴィングだ。ロイドでいいぜ」
220 :
200:2007/06/18(月) 21:25:46 ID:???
休日を使って一気に書き上げました。アップするの遅くてすいません。
さて…やっとロイドが登場しました。
初登場時の心象も(シン達にとって)良いものとしたことで話を進めやすくしたつもりです。
戦闘シーンを書く事がこんなに大変だとは思いませんでした…
説明臭い台詞(レイの分析解説とか)が多いのは不自然かもしれません。
ですが自分としては行動に説得力を持たせる為にやっているので…
それと色々
・イセリア周辺で出る敵を調べてたら、ホークとウルフがいたので使わせてもらいました。
本当の鷹や狼ではないです。
・ルナが三発とも外した、というのは最早説明不要かと。
ルナの射撃激苦手病を逆利用させてもらいました。
・当初狼はジャンプしてそのまま突っ込んでくる予定でしたが「相手が空中にいたら魔神剣当たんねーじゃん!」と気づいて
着地させちゃいました。これも不自然な気も…
さて、まだまだ序章が続きそうなのですが…
ここで一度話を区切って次から「PHASE−2」に移行した方がいいでしょうか?
GJ!
流石はルナマリアwwww
まず間違いなく格闘系キャラ……。
更新速度は気にしないでいいと思うよ。
ゆっくり書き上げればいいかと。
区切りとかも、キリが良いな、と感じたらそれで区切ればいいと思う。
んで、今回のちょこっと気になった点。
>だからレイの判断は信用していい、と思った。
「と思った」を消して、断言する形のほうがいいかと。
ていうか、「と思った」を少し使いすぎかと。
>武器の必要性は(中略)それも敵を討つ、為ではなく自分の身を守る為の武器の、だ。
読点の位置がちょっと気になる。
>プラントには(中略)、オーブにだって凶暴な人を襲うのはいなかったんだからな。
凶暴な人、を襲う てな感じで読めた。読点が欲しいかと。
次はロイド家か、期待してます。
222 :
200:2007/06/19(火) 19:48:16 ID:???
>>221 見返してきたら書いてきたのがカキコ十回分、これで一話にすると結構まとまりいいかな、とか思いました。
が、自分としては「シンフォニア本編スタート前」を一つの区切りとしたいのでまだ一話のままにしとこうかな〜とも考えてるのです。
…最初にタイトルを「PHASE−1」ではなく「プロローグ」としておけば良かったと思ってます。
「〜と思った」とか「〜と考えた」が多くなってしまうのはシンの視点で書いてる以上付けておいた方がいいかな、
と自分では考えてるのですが、確かに多い気もします。
こういうのを付けると日記みたいな気も…まあ私の語彙力と文才が無いのが悪いんですが。
…一つ聞きたいのですが、次の小説からは一人称視点でない文章(地の文)に変更してもいいでしょうか?
いきなり文章のスタイルを変えてしまうのは物書きとしてはあんまり良い事でないとは思いますが、
一人称視点だとシンの主観で構成されてしまうので細かい心理描写とかしづらいですし…
書きやすいように変えればいいと思うよー
たしかに一人称ではおかしい表現がおおいのでそのほうがいとおもいますよ。
225 :
200:2007/06/23(土) 22:40:29 ID:???
SEED OF SYMPHONIA
PHASE−2 交差する道
軽く自己紹介をお互い交わした後で、シンは聞いた。
「なあ、この分岐点を曲がった先にある施設は何なんだ?」
「ああ…あれはディザイアンの人間牧場だ」
「人間…牧場?」
「…ディザイアンの連中が捕らえた人間を無理矢理働かせてる」
シンはその事実を聞いて、心の底から怒りに近い感情が込み上げてきた。
あの時オーブに侵攻してきた大西洋連合…そのバックにいるブルーコスモス。
コーディネイターを化物であるかのように扱い、迫害してきた組織。
それと同じ事をするような奴らがシルヴァラントにもいる、という事実にだ。
シンが家族を失った理由、それにはシンの言う通りアスハ家にも責任があった。
しかし、ブルーコスモスという存在もまたシンにとっては忌むべき存在だった。
自分達とは違う種族、違う存在を異端とし、奴隷のように扱う。
そんな非道がシンは許せなかった。
家族の仇だとかいう事は関係無く、不当に人を虐げる事が。
226 :
200:2007/06/23(土) 22:44:52 ID:???
「シン、お前、奴らと戦うつもりか?」
レイが尋ねた時、シンは無意識の内に人間牧場の方向に足を向けていた。
レイもシンという存在をそれなりに長く見ているが故にシンがこういった事を許せない正義感の持ち主である事を知っていた。
「何だよ、レイ!そんな酷い奴らを放っといてもいいのかよ!?」
シンはすぐさま言い返すが、レイは冷静に反論する。
「そうではない。だが、俺達では勝てない、という事だ。
落ち着いて考えてみろ、あれだけの施設、それも強制労働施設に軍人やそれに近い人員がいないはずないだろう。
対してこちらは若干三人、それに準備もなっていない。はっきり言うと、突入は無謀だぞ」
「だけどよ…!」
そんな連中、許せないじゃないか!とシンは言おうとしてた。
そこで間に入ってきたのはロイドだった。
「イセリアはディザイアンとは不可侵条約を結んでるんだ。
だからディザイアンに攻め込まれはしないけど、手を出す事も出来ないことになってる。
勿論俺だってシンみたいに理不尽だ、許せない、って思ってはいるけどさ、
変に手を出したらイセリアのみんなに迷惑がかかっちゃうかもしれないだろ?
だから今は抑えてくれよ、な?」
シンはロイドの言う事情を少しは理解した。
そこでシンが言葉に詰まったところにルナマリアが割り込んできた。
「シン、少し落ち着いて。
私達はまだまだ知らない事ばっかりじゃないの。
だから私はロイドの言う通りにした方がいいと思うわ」
当たり前の事なのにシンはルナマリアの言葉に対しては妙に納得できた。
シンはひとまず怒りを抑える事にした。
227 :
200:2007/06/23(土) 22:48:08 ID:???
ちょっと間が空いてしまったので、生存報告がてらに短めに投下。
三人称視点もまた結構難しいです…
それと補足。
シンってブルーコスモス…というか、連合についてどう思ってるのか自分自身あんまり記憶してないので、
結構恨んでることにしちゃいました。
シンが恨みをぶつける相手はいっつもオーブな気がしますので…
折角三人称視点になったので、今後は多少別キャラの様子も書く予定です。
一日空いてしまったがGJ!
ブルコスに関しては、よっぽど矛盾が生じない限りは、好きなように設定していいかと
そもそも、連合ってかブルコスが攻めてこなければシンの家族は死ななかったしね
229 :
200:2007/06/27(水) 20:15:04 ID:???
それから四人は少し話し合って、ロイドの家に行く事にした。
シン達は何かしら元の世界へ戻る手掛かりが僅かでも欲しかったし、ルナマリアを治療する必要もあったからだ。
「解かった。俺、案内するよ。
…と、ノイシュ!」
ロイドが呼びかけると、向こう側から緑と白の毛並みをした奇妙な動物が現れた。
「な…何、これ?」
問いかけたのはルナマリアだった。
「何だよ、ノイシュは犬だろ?」
「いや…こんなに大きい犬はいないと思うけど…」
「でもこういう毛並みと耳をした動物って犬だと思うぞ」
ルナマリアが少し反論したが結局ノイシュは「犬」という事で通す事になった。
―もしかして、こういう犬がここでは一般的なの?―
ルナマリアは自分が全くの異世界に来てしまったのだ、という事を改めて感じた。
230 :
200:2007/06/27(水) 20:16:12 ID:???
「あ、ちょっと待っててくれ」
シン達が「?」と思っているとロイドは少し離れた所へ行って何かを言っていた。
すぐロイドは戻ってきたが、気になっていたシンはその事を聞いた。
「今、何してたんだよ?」
「ああ、俺の母さんに挨拶してたんだ。ただいま、って。
あ、それと新しい友達が出来た、ってのもな!」
「なあ、お前の母さんって…」
「…俺の母さんは死んじゃってな、まだ俺が小さかった頃に。
それで俺は今の親父に拾われたんだ。
…何、シンがそんな気にすることじゃないさ」
シンは悪い事を聞いたな、と思った。
事情はどうあれ、自分もまた家族を亡くした身であり母親のいない寂しさというものを理解していたからだ。
しかし、それ以上にシンにとっては心を打たれた事があった。
それはロイドが自分達を「友達」と認めてくれた事だ。
自分達とロイドはまだ出会ってほんの僅かな時間しか経ってない。
なのに、ロイドは自分達をすごく好意的に見てくれている。
その寛大さ、他人を受け入れる心の広さはシンには足りないものだった。
―俺は、ロイドみたいな奴がちょっと羨ましいな…―
誰にも聞こえないような小声でシンは呟いた。
231 :
200:2007/06/27(水) 20:18:09 ID:???
「…親父、そういう事なんだけど…」
「別に俺は構わねえ。ただ、お前の友達なんだからお前が自分でどうにかしろ」
「解かってるって」
ロイドは養父であるダイクに話をつけ、シン達を家に上がらせてもらった。
とりあえずルナマリアの治療をするだけの道具は十分有ったので、ケガについては解決した。
だが、三人にはまだ聞きたい事があった。
「ロイド、上で待っていてくれないか?
お前の養父に聞きたい事がある」
「ん?ああ」
ロイドは三人がシルヴァラントの住人ではないという事実など知る由も無く、何の疑問も持っていなかった。
三人はダイクに自分達の事情を話した。
大人であり、またここでひっそりと暮らしている者なら情報を漏らす可能性も低い。
また、ロイドから聞いた話だと彼はドワーフという種族らしく、なら人間が知らない事も何か知っているのではないか。
そう考えた上での行動であったが、ダイクの返答はこうだった。
「…すまねえ、流石に俺もそりゃ知らねえな。
ただ、少しぐらいだったら手伝ってやってもいいぜ」
232 :
200:2007/06/27(水) 20:19:14 ID:???
その後、三人はロイドの家の倉庫を漁っていた。
武器なら少しくらいは貸してやる、とダイクが言ってくれたからである。
しばらく見定めをした後、使い物になりそうな物が三つ見つかった。
一つは片手でも持てるほどの小さな斧、
一つは「斬る」よりも「叩きつける」目的で作られたのであろう重い剣
そしてもう一つは、人の身長ほども刃渡りがある巨大な剣だった。
こういった武器そのものは三人とも直接訓練はしていない。
ただコーディネイターという身体的にも頭脳的にも優れた人間であり、
更に軍人としてある程度の白兵戦訓練を受けているシン達は武器の使い方を理解するのも早いのだ。
三人は十分「使える」と判断し、これらを持っていく事にした。
三人はこれ以上留まる理由も無くなったので、ここを去ろうとしていた。
「色々世話になったよな。ありがとう、ロイド」
「おう、気を付けてな!また会えたらいいよな!」
「…そうだな!」
―こんなにさっぱりとした別れ方なんて始めてかもな―
シンは別れ、というのに寂しさを感じなかった。
233 :
200:2007/06/27(水) 20:22:12 ID:???
以上、投下完了です。
レイの武器に関しては結局重斬刀になってますが、
その理由は二つあり、一つは槍の魅せ方を私が理解しておらず、長く出すキャラの武装として不適切な事。
それともう一つあるキャラに槍を使わせたいという事情があるからです。
さて、シン達の視点はそろそろ終わりにして、次辺りで他キャラの状況を書くつもりです。
GJ!
ルナが手斧で、レイが重斬剣、んでシンが大剣か。対艦刀?
レイは弓使ってもいいんじゃないかとか思った。
シンフォには弓使いキャラいなかったし、レイは細いイメージがあるから、重い武器を扱うてのが想像しにくい。
だがそこに期待。
んで、今回の気になった点。
所々場面が飛んでるのは、わざとかな?
>>230でいきなりダイク家前に場面移ってるし。
>>229では怪我したルナがノイシュに乗ったの?
この二つがちょっと描写不足に感じた。
235 :
200:2007/06/28(木) 20:58:13 ID:???
>>234 単純に
レイ→クルーゼ→シグー→重斬刀
ってつもりでした。
確かにシンフォニアには弓キャラがいませんね。
今後出す予定で武器が決まってないキャラがいるので彼にあげちゃおうかな、と。
ネタ出しありがとうございます。
所々キングクリムゾンが発動してましたが…はい。そんな感じにするつもりだったのです。
すいません。
236 :
236:2007/06/30(土) 10:42:15 ID:???
駄作ですが、書いてみたんで投下します。
TOAで、種死の最終回もどきから始まりますんで。
後半がgdgdなのは勘弁してください…では、プロローグより
―――C.E.74.『メサイア』攻防戦―――
『もうお前も、過去に捕らわれたまま戦うのはやめろ!!』
通信回線から割り込んでくる、その声。一度は殺したと思った、
それなのに生きていた―――男の声。
『そんな事をしても、なにも戻りはしない!!』
そんなのは重々承知だ。でも、他に方法はない。
2年前のあの日、その名の如く無差別に暴れ回ったフリーダムを家族の…マユの腕の前で睨んだ時。
その瞬間から俺は力を求めたんだ。何者にも負けない、そして自分が目指す世界を作る、力を。
そして・・・やっとで手に入れたんだ。自分の信じた理想のために闘う剣を。
それなのに・・・それなのに!
この、紅い機体に乗っている男が。裏切ったにも関わらず、
正義面して説教を垂れるこの男が。俺の前に立ち塞がる!
その腹立たしい事実に自分でも知らずに憤っていたのか、二本のフラッシュ・エッジを両方とも、『敵』に向けて投げつける。
『敵』はその二本の内一本は(強引に)ビーム・シールドで弾き、もう1本は同種の兵装で相殺する。
―――これで、貴重な武器が二つ、なくなってしまった
しかし『敵』はそれに構わず(当たり前だが)、直進してくる。
237 :
236:2007/06/30(土) 10:48:20 ID:???
>>236 『なのに未来まで殺す気か!お前は!!』
(なっ…)
未来を殺す―――だって?議長が未来を殺すなんて、誰が決めたんだよ!?
結局、それを全て決めたのはあんた達じゃないか。それに、ラクス=クラインなら未来を殺さない保証でもあるって言うのか!?
……いきなり言われた言葉に、一瞬混乱したからだろうか。反応が少し遅れた。
胴抜きを狙って振り抜かれた対艦刀:アロンダイトが、『敵』の頭一つ分上を通過する。……下を取られた!!
『お前が欲しかったのは本当にそんな力か!』
うるさい、黙れ。力は力だ、それ以上でも、それ以下でもない!
その言葉と同時に、ビーム・サーベルが本体の手前を薙いだ。回避できたのは今までの訓練の、そして実戦における経験のおかげといっても
いいだろう。しかしその代償は大きかった。目の前で、真っ二つになった対艦刀―――『不滅の刃』、アロンダイトは砕け散った。
(くそっ……!!)
……未だ何事やら喚いてくる通信機の電源を、苛立ちを込めて切る。
味方からの通信も聞き取れなくなったが―――この乱戦だ。さして支障はあるまい。
ともかく、これで主武装も失われた。オールラウンダーだが、どちらかというと接近戦を主体として設計されているデスティニーにとって、
アロンダイトは正に『必殺』の兵装だったのだ。これで、目の前の『敵』に勝つ(文字通り)最後の手は、
両手にあるパルマ・フィオキーナを使っての特攻……それしかない。しかし、それには相当の危険を伴う。こちらに他の武器はない。
だから、失敗すれば、いや、成功したとしても死ぬ確立はかなり高い。まして、『敵』の兵装はほとんど健在なのだから。
(………それがどうしたっ!!)
高まる死の恐怖に対抗するかのように、自己を叱咤激励する。
レイが今、フリーダム『もどき』を押さえていてくれる。あの金色の、趣味が悪いとしか
いいようのない機体も、味方がなんとか押さえている。
今、この状況を置いて―――『こいつ』を討つ機会はない!
238 :
236:2007/06/30(土) 11:04:00 ID:???
>>236 (………)
思えば、『こいつ』ほど評価が変わった奴はいない。 最初は敵視していた。間接的とはいえ、『仇』の犬になった奴だ、と。
次にそのMS戦の強さに驚き、そして憧れもした。 その次はハッキリしない態度に苛々させられ、脱走したと聞いた時は驚愕を覚えた。
そして、次に合った時は敵同士であり、煮え湯を飲まされた。 そのことに対して再度苛々させられると共に、再び目標としての『こいつ』が出来たことにほんの少しだけ喜びもした。
『こいつ』を倒せば、名実共に最強だ…!!そんな目標が、出来たことに。
(それに……レイとも、約束したからな。)
対峙する、二つのMS。片方は武装をほぼ失い、対する片方はほぼ無傷。
もし、これを外野から見物している者がいて賭けをやっているならば、どちらにウェイトが集まるだろうか?
大抵の人は、後者に賭けるだろう。しかし、それでもどちらかの賭け率が10割になることはほとんどありえない。
それは、後者に集まる分だけレートが上がるからかもしれないし、分が悪いほうが燃えるからかもしれないし、
もしかしたら他の理由かもしれない。しかし、そういう者は確実に存在し、だからこそ賭けが成立するのだ。
そして世の中にはこういう言葉がある―――『勝負は、やってみなければわからない』。
……僅かな、しかし当人からすればかなり長い時間が、『二人』の戦場を支配した。
それは、何時弾けるか解からない膨張しすぎた風船のようなもので。きっかけさえあれば、すぐにでも弾けるだろう。
……すぐ近くに、戦艦の主砲が通過し、無数の岩石が四散・消滅した―――次の瞬間、
そ れ は 弾 け た
先に仕掛けたのは、どちらなのか…それは解からない。しかし、その二機はほぼ同時にバーニアを吹かし、突進した。
瞬発力だけなら最新型のMSをも遥かに凌駕する―――むろん、目の前の機体も、だ―――
『運命』が懐に飛び込み、コックピットを狙おうと腕を伸ばす!
紅い機体の脚部に付けられたビーム・クローが、こちらの唯一の武装である腕を切り裂こうと跳ね上がる!
―――避けきれない!そう思った『運命』は、驚くべき行動を取った。空いている片腕でビーム・クローを抑えようとしたのだ。
数秒の火花の後、砕け散る左腕。だが、数秒持てば十分だった。その間に伸ばしたほうの片腕は、コックピットに―――
入る筈だった。しかし、軽い振動の後に放たれた青いビームが貫いたのは―――右腕。
(………読まれていた!?)
この局面で捨て身ともいえるこの策を読むとは。デスティニー受領直後に脱走した『こいつ』には、スペックを見る余裕はなかったはず。
それが―――見たことも聞いたことも無い筈の手が―――あんなに簡単に防がれたっていうのか!?
(……これが、ヤキンを生き残ったパイロットの力かよ……!!)
その強さに、センスに、改めて戦慄する。しかし、退くわけにはいかない。間合いを取られたら、こっちの負けだ。
こちらも左腕を失ったが、『こいつ』は右腕を失ったんだ。喰らい付ければ条件は―――五分!
239 :
236:2007/06/30(土) 11:10:25 ID:???
>>236 (はあぁぁぁぁぁぁ!)
自分でも意味が解からない叫びを発しながら、回避運動を取る『こいつ』に突っ込む。
刹那、何かが『弾けた』ような気がしたが、知ったことではない。
今はただ、『あいつ』を―――
必殺の気迫を込めたパルマ・フィオキーナが、その直線上に紅い機体のコックピットを捉えた。もはや、どう足掻いても逃げ場はない。
………殺った!そう確信した次の瞬間―――
突如、紅い機体の前に出現する機体があった。それは――― か つ て の 愛 機 の 姿。
インパルス…ルナ!?駄目だ、出て来るな。ル…
それは、幾重にも『偶然』が重なった悲劇だった。『もしこの時』、デスティニーの左腕が健在であったなら。
『もしこの時』、インパルスの姿勢制御機能が働いていたら。『もしこの時』―――『あいつ』の機体の貫かれた右腕が爆発を起こし、
それによって故意か不可抗力か、インパルスの真後ろに吹き飛ぶことがなければ。
それらの他、数多ある要素が欠けていれば、防げたかもしれない。しかし、現実に『if』などは存在しない。
必殺のパルマ・フィオキーナは、慣性の法則のままにインパルスを―――守るべき人の乗る機体を―――
貫 い た
ル・・ナ・・・・ルナぁぁぁぁぁ!!
小さな爆発の後、インパルスが上下に分割される。脱出機構が、作動したのだ。
しかし、脱出すべき者がいないのに作動して何になるというのか。インパルスの中枢は―――コア・スプレンダーは、消滅してしまったのだから。
(そ…んな……)
また―――守れなかった。いや、守れなかっただけではない。今度は、自分が殺してしまったのだ。守ると誓った―――自分自身が!!
……不思議と、涙は出なかった。悲しみすぎて感覚が麻痺してしまったのかもしれない。自分自身への怒りが大きいからかもしれない。
それとも、戦い続きで『泣く』ということを忘れてしまったのかもしれない。……その内のどれかか、それとも全てか。
しかし、皮肉にも自身の機体名である『運命』の女神は、よほど彼を追い詰めたいようである。
240 :
236:2007/06/30(土) 11:24:53 ID:???
>>236 『LEGEND:SIGNAL LOST』
(……レ・・イ……)
あの無口で聡明で、何を考えているのかさっぱり解からなくて。でも白兵戦以外、何をやっても自分より一番だった少年が死んだ。
戦場での『SIGNAL LOST』は、死に直結する。・……特に、宇宙では。
・・……また一つ、戦う理由を失った。いや、まだだ!まだミネルヴァが―――
そう思い、呆然としていた体に気合をいれる。スロットルを引き、ミネルヴァのいた方向に、機体を向ける。
ミネルヴァは―――健在だった。良かった…と安堵したのも束の間。
紅い機体のサブ・フライトシステムが、ミネルヴァの艦体を、エンジンごと貫いた。
艦体各所から火を吹き、爆発を始めるミネルヴァ。最初に爆発を始めたのが、どこであったのかを、『運命』は見ていた。
それは―――救命ポッドや脱出艇が搭載されているエリア。いや、そこ一箇所ではないが、艦内で格納庫の次に保有量が多いのはそこなのだ。
しかも、艦橋から一番近い。それに輪をかけて最悪なことに、格納庫でも爆発が起き始めた。こうなっては―――脱出は、不可能。
爆発を続けるミネルヴァの艦体が、左に傾いた。
そして、まるで飴細工が溶けるかのようにそのシャープなシルエットが歪み―――四散した。
「・………は、はは・……」
戦う理由を、全て失った―――その事実に、ここが戦場であるということも失念して棒立ちになる『運命』。
完全に動きを止めた『運命』に、無数のビーム・ライフルが降り注ぐ。―――眼を見開いたまま、虚ろな瞳でメイン・カメラをそちらに向ける。ムラサメ。
それを認識した直後―――『運命』のコックピットを一条のビームが撃ち抜いた。
(ステラ…今・・…逝くよ・……)
その思いを最後に、シン=アスカは『世界』から消滅した。
241 :
236:2007/06/30(土) 12:58:16 ID:???
以上、今回の投下終了です。
気に入らない所やつまんね、って人はどうか意見を書いてください。
ではでは。
絶望したシンがTOAでどうなるのか、wktkして待ってます
強いて気に入らないところをあげるなら
ところどころに混じってる
…・・…
ってな部分の「・・」かな
. ,;' ,;ルヾ;) なに、「…・・…」の「・・」が気になる?
. 》i' ~,i~,;' 逆に考えるんだ。不自然な「・・」こそ注目してほしいんだと。
-'`ヾ"゛ィ-、 たとえばその位置が暗号になっているとか。
とジョージ・ジョースター卿もおっしゃっておられます。
保守
245 :
200:2007/07/03(火) 20:04:24 ID:???
三人は来た道を戻りイセリアへ帰ろうとしていたが…
「通り道に魔物がいるな…三体。それに回り道とか気付かれずに進むのも無理みたいだ。
レイ、この状況…早速こいつら使ってみてもいいかな?」
「構わん。遅かれ早かれ使わざるを得ないのだからな。
ルナマリアもいいか?」
「私はシンとレイの言った通りにするわよ」
「決まりだな」
シンは大剣を、レイは重斬刀を、ルナマリアは斧を構え、戦闘態勢をとった。
通り道を塞いでいる魔物達に対して先手を取り、一気に仕掛ける作戦だ。
シンが先陣を切り、強襲をかける。
突然の事態に魔物達は動揺しており、態勢がとれていなかった。
人の身の丈程もある剣が振り下ろされ、三体の内二体がまとめて切り落とされる。
そしてレイとルナマリアが残る一体に向けて仕掛けた。
ルナマリアが高速で払い抜け、崩したところにレイが本命の一打を加えた。
結果、その一体もまた息の根を止めた。
246 :
200:2007/07/03(火) 20:07:10 ID:???
シンは勝利を確信し、得意気になっていた。
アカデミーの頃模擬戦で上級生を倒したときのような、新鮮な勝利の喜びを味わっていた。
ルナマリアも舐めないでよね、と思っていた。
一度は痛手を負わされた身として借りを返した、といったところだ。
レイはそういった感情が無いわけではないが、さっさと帰るぞ、という思考が彼の場合先に立つのであった。
勿論実践する事で武器の有用性を確認したのは良かったとは考えていたが。
三人とも別の思いをしつつ再び帰り道を歩き始めた。
247 :
200:2007/07/03(火) 20:09:29 ID:???
その後は何の問題も無く、イセリアへと辿り着いた。
強いて言うなら食事という問題があったが、それも容易に解決した。
魔物が資金を落としてくれたのでそれで村の食材店でパンを幾つか購入し、食事としたのである。
無論あれだけ動いてパンの一つだけで完全に済んだのではないが、
四人とも軍人であり、ある程度の空腹下でも任務をこなせるように訓練を受けているのだ。
多少の空腹は我慢する、という事にした。
メイリンは不服そうだったが、ルナマリアがそこは抑えた。
夜、木の床の上で毛布に包まりながら四人は色々な事を考えていた。
ミネルバの皆は心配しているだろうか?
自分達が急にいなくなってしまって大丈夫だろうか?
議長や軍の上層部はちゃんと手を打ってくれているのか?
これからどうやってこの世界で食っていこうか?
元の世界へ戻る手掛かりをどう見つけようか?
シンもまたそんな事を考えながら制服のポケットから一つの物を取り出した。
ピンク色の、女の子らしい携帯電話。妹、マユの形見である。
それを見てシンは誓った。
「マユ…俺、ちゃんと戻ってみせるから、心配するな」
天国の妹に向かってシンは小声で言った。
彼はその後眠りに付いた。
248 :
200:2007/07/03(火) 20:15:15 ID:???
OGSオモスレー
とか言ってる間に何時の間にか新しい職人さんが舞い降りてたり、
保守レスが付くようになってたりしたので続き投下。
色々ちょっと補足
「各々の思いを〜」
要するに、戦闘勝利演出っぽくしてみたわけです。
「魔物が落とした資金で〜」
ゲームっぽ過ぎるかもしれませんが良いネタが浮かばなかったもので。
それにアビスの序盤(エンゲーブ)で
ルーク「金っつったってどこにあるんだよ?」
ティア「魔物が落としたお金があるでしょ」
って会話があったのでいっそこんな感じでいいか、と思っちゃいました。
次はやっと他キャラが出せるはずです。
…実質プロローグとも言える部分に時間掛けすぎてる気もしますが、
その分本編(原作と同じところ)は結構省略気味にするつもりです。
こういうクロス系ではオリジナル展開の方が望まれそうだと考えてるので。
. ,;' ,;ルヾ;) なに、魔物がお金を落とすのが気になる?
. 》i' ~,i~,;' 逆に考えるんだ。魔物は本能的にお金を求めて人を襲うんだと
-'`ヾ"゛ィ-、 つまり魔物の持つお金は元々は人間のだったんだよ!
いや、なんかごめん
今回も乙です
展開に関しては、原作をなぞるだけなんてつまらないですからねぇ
オリジナル展開、期待しています
特に気になった点はなかったです、頑張って!
あれ?魔物を倒してガルドが入るのって、
魔物の肉とか牙とかを拾って後で売ってるからじゃないの?
……って思ったがそれじゃあゴースト系の魔物で
ガルドが入る説明が出来ない……
RPG系の謎だよな、モンスターが落とす金……
保守
保守
アビスinシンの職人さん帰ってこないな…
>>251 死んだモンスターが宝石に化ける
専門のギルドで報酬を貰う
倒したモンスターの毛皮や魂、牙や目玉を専門の業者やマニアと取引する
等、ファンタジーの世界によって違う
デスティニーではモンスターの傷口からレンズ排出→換金だったな
257 :
235:2007/07/14(土) 12:55:34 ID:???
なんだか解りませんが、新シャア板のスレに『だけ』全く!!つながらなくなりました
それが解決しないと書き込みできません・・・orz
Janeとかの専ブラを導入してみては?
慣れると快適ですぜ
保守
保守
261 :
236:2007/07/26(木) 20:31:19 ID:???
第一話:「世界を越えた者」
それは、一種異様な光景とも言えた。青を基調とした神秘的な、それでいて厳かすぎない部屋。
その節々に置かれている調度品も、豪華すぎず、しかし質素すぎず…といった程度のもの(と、言っても一般人には一つ一つが眼が飛びぬけるほどの値段なのだが)が置いてある。
そして、部屋の隅に設置された寝台。それも、一目見るだけで、かなり凝った造りになっていることが窺い知れるようなものである。
しかし。しかし、だ。どれほど立派な調度品が揃えられていようとも。
どれほど凝った造りの寝台が設置されていようとも。
それらの調和を一撃で、しかも完膚なきまでに粉砕する『要素』がその部屋には存在した。そして―――
ブゥ ブフ ブウ ブブ ブヒブヒ
……その要素『たち』が一斉に鳴き始める。決して狭くはない壁に反響するその鳴き声は中々に喧しい。
が、それだけならまだ良い。 しかし、奴らの行動はそれだけに留まらない。
ある者は部屋をゆっくりと闊歩し、ある者は他の者を追いかけ回し、ある者はそれから逃げるために 僅かに開いた外への扉をなんとか開こうとし…等等。
正に、『思い思いに』行動する。その行動によって部屋が汚れることなど、お構いなしだ。
キィッ
小さな音と共に、(目に見える範囲では)外に通じる唯一の扉が開かれる。
それを見た『要素』の内一体(外への扉を開こうとしていた奴)は これ幸い、とばかりに扉に突っ込んだ。
―――扉の前にいる人物が、誰かも知らずに。
262 :
236:2007/07/26(木) 20:38:32 ID:???
「へ〜い〜かv追加ですよvv」
片手一杯に書類を持ったいかにも、という感じの男が、その風貌に似合わない猫撫で声で呼びかける。
この部屋の主がいれば、間違いなく次の瞬間に『キモイ』と返されるであろう、そんな声で。
しかし、幸か不幸か―――多分(国にとって)不幸だと思うが―――現在、この部屋に主は居なかった。
一通り部屋の様子を探り、そのことを確認した男・・・ジェイド=カーティスは軽く肩を竦めると、
とりあえず机の上にその書類を置くために部屋の中に入った。
そのついでに逃げようとして扉に突っ込んだ結果、足元まで辿り着いた一体の頭部を(あくまでも軽く)
踏むことも忘れはしない。
踏んだジェイド曰く、『頭の悪い低級魔獣』:ブウサギ(つぶらな瞳がチャーム・ポイント)は
ぶぎゅっ、という鳴き声を発した後に脱兎の如く駆け出してUターンした。それと連鎖して、という訳でもないだろうが、他のブウサギたちも一斉に扉から…否、ジェイドから遠ざかる。
(逃げられて、また仕事を増やされると面倒ですからねぇ)
以前、あの家畜が逃げ出して宮殿中を駆け回った時のことを思い出す。
まだ即位間もない頃で、主が私室に家畜を飼っているなどとあまり知られていなかった時のこと。
その時の家畜は今より一体少ない三体だったが、それはもう宮殿内で大暴れしてくれたものだ。
そしてその時、休暇中だったジェイドが(何故か)駆り出させられ、宮殿中を舞台とした数時間の追走劇の挙句、漸く収まった…という、なんとも面白くない経験だった。……その時、厨房に紛れ込んでいて
危うく解体されそうになった一匹が、自分の名前を付けられた家畜だったのが特に。
そんな話はさておき。家畜の餌となる草(床に置かれている)やら主のコレクション(兼護身用の武具)やらを出来るだけ踏まないように留意し、部屋の奥に足を進める。
それと共に、放射状に拡がっていた家畜が一ヶ所に集結し始めたが、もちろん気にはしない。
263 :
236:2007/07/26(木) 20:44:27 ID:???
「……おや?」
片手に山のように積み上げられた書類を、器用にも全く崩さずに机の上に移し終った時―――
ふと、何かを感じた。常人なら…いや、訓練された譜術士(フォニマー)でも見逃したであろう、
僅かな音素(フォニム)の乱れ。はっきり言って譜眼を施している自分だからこそ
見えたようなもの(普通は集中しないと見えない)だが、それにしてもその乱れ方は異常だった。
空気中の音素が、部屋の一部の空間から消え失せているのだ。いや、消え失せるというのは正確ではないだろう。周囲の音素が、その空間を避けるようにして流れているのだ。まるでその場所が神聖な場所―――何者の侵入も許さない、不可侵領域であるかのように。
「…………」
その、ある種異様とも言える光景にしばし黙考する。通常、こんな音素の動きはありえない。こんな、音素自体が意思を持っているかのような動きなど。
確かに、第一音素から第七音素までの各音素にはそれぞれに意識集合体といえる存在が宿っているとされる。
しかし、それは理論上のことで実際に見た者はいない。―――恐らく、今、この瞬間を除いて。
(これは…意識集合体の実在を証明する一つの証拠に成り得るかもしれませんねぇ。
いや、しかし…結論を出すにはまだ早過ぎる)
研究者としてのシビアな結論に達すると同時に、今ここにいなければいけないはずの陛下がいないことに
(まさか、あの幼馴染みが仕事から逃げ出したことが結果的に良かったと思える日が来るとは思わなかったが)僅かながら安堵の念を覚える。
この現象が敵対勢力の行為ではない、とは言い切れない。我が主が即位してから一年が経ち、即位に
反対していた敵対勢力も減少の一途を辿っているとは言え、それでもまだ国内に敵は少なくない。
そして万が一敵対勢力の行為だとしたら、最も単純な標的は敵の王将の首―――
即ち、我が主にしてこのマルクトの主でもあり、熱狂的なブウサギ狂でもある皇帝の首だ。
しかし、そういったことを行いそうな反対勢力―――所謂『過激派』と呼ばれるであろう者たちは真先に
(政治的・武力的を問わず)潰してきたし、中立派の大半も皇帝派に靡き始めている。
いくら反対派が劣勢だとはいえ、そういった状況下で仕掛けてくるほど過激派も馬鹿ではないだろう。
まあ、絶対に無いとは言い切れないが、可能性としては低い。
(あとは…親キムラスカ派の工作という線もありますが、それなら出現した直後に何らかの行動がなければ
意味がないですしねぇ。―――やはり、ただの特異現象でしょうか)
何か納得がいかない―――そう思いながら肩を竦めて、ジェイドは再度その『空間』の観察に移る。
264 :
236:2007/07/26(木) 20:47:51 ID:???
音素は相変わらず『空間』を避けるようにして周囲を流れているが、気のせいだろうか…その濃度が高くなっているように見えた。いや、それだけではなく、良く見ると周囲の音素の流れも速くなっている。
そう、まるで何かを形作ろうとしているような…
そこまで考えついた時、ある論文の内容が頭に浮かんだ。だいぶ前に少しだけ見かけただけだったが、
中々面白い発想をすると思い、興味を持っていたので覚えていたのだ。
まあ、その論文はいつの間にか消失してしまっていたが。
「試してみますか。」
そう呟き、ジェイドは両手の掌を胸の前で向かい合わせた。淡い緑色の光が掌から発せられ、次第に細く、
長く伸びていく。しかし、ジェイドはほんの少しだけ―――真ん中の柄らしきものが現れた瞬間に、
光を『空間』に向けて投擲する。光は空間に向かって飛んでいき、衝突する寸前にその形状を完全に固定した。その形状は、槍。
バシュウッ
槍の先端の刃に含まれる音素と空間の周囲に漂っている音素が、相干渉を起こす。しかし、その現象が起こったのも束の間。
両音素の相干渉によって宙に浮いていた槍が、濃密な音素の防壁に負けて弾き飛ばされる。弾き飛ばされた槍は空中で暫し回転した後に、刃先から垂直に落下して、その青を基調とした床に突き刺さった。
(周囲に集まっていた音素が、音素障壁の代わりとなった―――ということですか。やはりこれは……)
「お、何だ。来ていたのか、ジェイド。」
推測した矢先に、本来はここに居なければならない筈の、しかし今は出来れば居てほしくない人物の声が
聞こえた。……床下から。
265 :
236:2007/07/26(木) 20:54:36 ID:???
「……陛下、ま〜た隠し通路掘ったんですか。懲りない人ですねぇ。」
「何を言うか。わざわざ忙しい合間を縫って、可愛くないほうのジェイドにも会いにいってやってるんだ。
感謝しろよ?」
「何がどうなって、感謝へ結びつくほどの錬金術に発展するのかはわかりませんが…
とにかく、その通路も後で塞いでおきますから。それに『忙しい』とか言っている割には、
あまり書類の進みが良くないようですが?」
「誰も『仕事が』忙しいとは言っていないぞ?『通路を掘るのが』忙しいといっているんだ。
ちなみに、他にも掘ってあるから塞いでも無駄だ。」
「駄目な大人の見本ですねぇ。将来生まれてくる後継ぎには是非反面教師になって貰わなくては。」
ああ言えばこう言い、こう言えばああ言う。そうこう言い合いをしている間に、重そうな床の石畳の一画が
持ち上げられ、そこから一人の男が出てきた。外見年齢は20代後半くらい、端正な顔をしており
さほど薄くない(むしろ濃い)金色の髪をどちらかというと長めに蓄えている。
瞳は宮殿内の壁のような神秘的ともいえる青さを持っており、やや深く、そして濃い肌の色と相まって
中々に威厳を持ったような様相をしている。
まあ、それも軽口を叩いて、人好きのするような顔でにっこりと笑っていなければ、だが。
しかし、この男こそがこの国を統べる皇帝―――ピオニー=ウパラ=マルクト九世なのだ。
「しっかし…何してるんだ、ジェイド。俺の私室で槍なんか出しやがって。下手な奴に見られたらまた煩いぞ?」
首をコキコキ鳴らしながら、床に突き刺さったままの槍を見遣る。その意を受けたジェイドはツカツカと槍に近づき、突き刺さったそれに手を触れた。手を触れた瞬間、槍は虚空に融け消え、砕けた石畳のみがその場に残る。
「いえいえ、少し気になる現象が世界一大きいブウサギ小屋で起きましたので。
物理的衝撃を与えてみたらどのような変化が起こるか、といったことを試してみただけですよ。」
「それで槍をぶん投げるか、お前は。万が一、俺の可愛いブウサギたちに当たったらどうしてくれやがる。」
「私がそんな低級魔獣のことなど気に懸けるとでも?」
再度始まる、言葉と言葉の応酬。しかし、それも長くは続かなかった。
「なあ、死霊使い(ネクロマンサー)殿。」
「何ですか、ブウサギ陛下。」
「さっきから疑問に思っていたんだが…何だか、音素の流れが変じゃないか?」
「それがさっき言っていた『気になる現象』ですよ。音素に意思があるかのように空間を避けて通るに留まらず、
物理的衝撃にはそれを守るようにして集約し、音素障壁の代わりとなる。…極めて特異な現象です。
一体「いや、それもあるんだが。俺が言いたいのは―――」
いつになく歯切れの悪いピオニーの言葉に疑問を覚え、振り向いて背を向けていた『空間』に目を遣る。
しかし、既に『空間』はなかった。そう、『空間』は。
「―――この子供は、誰だ?」
そんな、ブウサギ陛下の至極真っ当な疑問が、室内に響き渡った。
266 :
236:2007/07/26(木) 21:07:11 ID:???
一ヶ月近く掛ってやっとで書きあがりました。
しかし…やはり自分には文才が足りないということが良く分かる内容にorz
もし万が一でも待っていてくれた人がいれば、嬉しく思います。
やっぱり、どんな駄作でも投稿しないよりはましってね!!って感じですから。
次は恐らく、シンの驚愕と当惑と、ブウサギ陛下のラブコール(笑)がメインになると思います。
あ、後死霊使いの説明も。
>>242 >>243 あの「…・・…」は3点リーダーに変換する際に間違えたものです。
原文は3点リーダーに変換していないので…読み辛くして、すみませんでした。
おぉ、とうとうか
続き期待してます
GJ!!面白かったです!!
長らく待ってた甲斐がありました!!
GJです。
音素障壁の代わり……デスティニーが守ってくれているのだろうか。
>>269 だが・・・SEED世界から来たシンは
デスティニーが守ってくれた・・・よりも
ステラやマユが守ってくれた・・・の方があってる気がする。
保全
保守
保守
住人いないけど保守
適当。思いつくままに書いてみる。ベースはD2ってことでよろしく。
彼が目を覚ましたとき、そこは物置のように見える部屋だった。どうやら仰向けになっているらしい。
頭が酷く痛む。どこかぶつけたわけでもない。だが、脳内の血管が締め付けられるようだ。
「……英雄とは…………ましてなろうと思ってなれるわけでもない……。」
下から声が聞こえる。十代の少年のようだが、妙に落ち着いている。
「くうっ……とにかく動いてみないと……ってうわっ!」
彼は気付いていなかった。彼がいたのは天井に近い物置台の上だったのだ。起き上がったはずみで床へと落ちていく。
だが、固い床に叩きつけられずにすんだ。何故なら、誰かを下敷きにしていたからだ。
「あーいてっ、なんだぁ?何が落っこちてきて……って人間?」
軽口を叩きながら立ち上がったその青年は浅黒い肌とすらりとした長身を持っており、それでいて無駄のない筋肉を身に纏っている。
「なんだなんだ?何が起きたんだロニ?」
ハリネズミのような金色の癖毛を持つ少年が自分を見下ろしている。好奇心をその小柄な体に収めきれない、といった体(てい)だ。
「あ……。その、すまない。ところでここは一体どこなんだ?どうして俺はここにいる……?」
彼は気付く由もなかった。自分が今いる世界が、かつて自分が経験した世界ではないことに。
この邂逅が、この世界を揺るがすことになる。
以上。需要ないなら撤退する。
D2ベースは珍しいから続けて欲しい
>>276 んじゃ、のんびり書くことにする。
今日は投下しない。っつうかできない。ネタがまとまってないhhhh
一応タイトルだけは気取ってつけておくよー。
「fortune X destiny - 出会いの運命、そして宿業」
今後ともよろしく。
落とさせはせん!!
一応続き。ネタでTIPS入れたけど、不評なら以降止めます。
1 エスケープ
「で、ここがどこだかわからなくて、どうやってここに来たのかもさっぱり、と。また厄介な。尤も、同じような人間は目の前にいるけどな。」
色黒の青年、ロニ・デュナミスは自分の上に落下してきた少年、シン・アスカの話を聞くなり言い放った。
どうやってこの物置を改装した地下牢に入ったかわからない人物は、もう一人いたからだ。
「そうそう、ジューダスだっておんなじなんだからさ。気にすることはないって!」
ジューダスとはシンの目の前にいる、紫の炎をイメージした模様が描かれている黒衣の少年のことだ。自分とほとんど歳は変わるまい。
だが、一貫として落ち着いている。それ以上に目を引くのはその仮面だ。竜族の頭骨を軽量化と視界確保のために削ったものを被っている。
ただ、その立ち居振る舞いと隙間から覗く端正な顔立ちから、育ちのよさがうかがい知れた。少なくとも、他の二人よりは。
「お前……どうしてこう、いつもいつも脳天気なんだよ、全く。お前には先行きの不安とかこう、シリアスさはないのか!?」
ロニは金色のハリネズミの頭を押さえつけ、わしわしと髪の毛を引っ掻き回している。
「そんなこと言ったってさ。それよりここから脱出しないと!あの子に追いつけなくなっちゃうよ!」
このハリネズミの名はカイル・デュナミスという。ロニと同じデュナミスという姓を名乗っているが、どう見ても兄弟には見えない。
何か込み入った事情があるのだろうと、その話を後回しにすることにした。
「それで、シン。何か武器は持っていないのか?話を聞く限り、元々は軍人だという話だからな。」
シンは現在赤い制服を着込んでいる。カイルたちがコスプレをしているようにも思えないから、服装から考えて中世に近い世界状況だろう。
この派手な色さえ無視すれば、いや、自分の存在をアピールする軍人もいたようだから自然なのかもしれないが、少なくとも服の形式上は軍服に見えないこともない。
ジューダスに言われたシンは懐に収まっているはずの拳銃を取り出そうとした。
「あ、ああ。ちょっとした鍵だけだから、多分俺が持ってる拳銃なら鍵を撃ち壊せば……あれ?」
「どうした?」
「拳銃がなくなっている……ナイフだけならあるけど。」
代わりに懐から取り出したのは折りたたみ式のナイフだ。
この牢屋のなかに鍵穴はない。ナイフで鍵を開けようとするのなら、鍵穴にナイフを刺し込み、ピッキングの要領で開けるより方法はない。
「参ったな。とにかく、ここがどこか把握するためには脱出しなきゃいけないのに。よりによって拳銃をなくすなんて。」
「頼みの綱も駄目か。あーあ、やれやれだ。」
シンとロニが嘆いていると、ジューダスが鍵のかかった扉の前に立った。
「……どいていろ。」
ジューダスは背に隠し持った剣を抜き放ち、瞬時に扉を両断した。両断された扉は静かな音を立てて外側へと倒れた。
シンはジューダスをまじまじと見た。そんな力をどこに隠し持っているのかと思いたくなる。
「いくぞ。」
黒衣の少年のその声で、呆然とした頭を現実に引き戻した。いつ見張りが戻ってくるのかわからないのだ。油断できない。
牢の入り口すぐ横にカイルとロニの武器が立てかけてあった。カイルは剣を背負い、ロニは槍と斧の複合兵器、ハルバードを手にした。この武器は二人によく似合う、とシンは思った。
「駄目だ、見張りがいる。このままじゃ出られないよ。」
「別の道はないのか?強行突破するか?」
「危険すぎる。余計な戦いは避けた方がいいんじゃないか?」
カイル、ロニ、シンが額を集めて悩んでいると、一人離れていたジューダスがただの壁にしか見えない場所に立っていた。
「こっちだ。」
「こっちだ……って、ただの壁じゃねえか。こんなところに何があるんだ?」
「……見ていろ。」
ジューダスは懐から指輪を取り出した。何か円盤状の結晶体を嵌め込み、ある一点を狙って光線を発射した。途端に、そのすぐ近くの壁が崩落し、通路が姿を現した。
「隠し通路?こんなのがあったのか。よくこんなの見つけられたな、ジューダスさんよ。」
「これしきのものを見つけられないほうがおかしい。ここから地下水路を通って脱出できる。逃げ出したかったらさっさと付いて来い。」
ジューダスはマントを翻し、そのまま先へと進んでいった。慌てて三人も続く。こんな湿っぽいところには長居したくはない。
「なあ、ジューダス。今のリングは何だ?あれで壁を破壊したわけじゃなさそうだけど。」
シンの問いかけに、歩きにくいはずの水路を難なく進むジューダスは先程のリングを取り出し、そしてシンに投げ渡した。
「ああ、これか。これはソーサラーリングという道具だ。過去にオベロン社が開発したもので、レンズを1枚消費する代わりに衝撃を与える熱線を放つことができる。」
オベロン社だのレンズだのと言われても、シンにはわかるはずもない。今は話で時間を浪費できないのだから、時間のかかりそうにないレンズに関して聞こうと思った。
「あー……レンズって何?俺にはわからないんだ……。」
「レンズってのはこいつだよ。」
ロニが皮袋から取り出したそれは、正しく「レンズ」と呼ぶべき形状をしていた。直径2センチほどの円盤で、表面は緩やかに盛り上がっている。
「こいつにはエネルギーが蓄積されててな。こいつのエネルギーを引き出して術を使うこともできるわけだ。」
完全に剣と魔法の世界に迷い込んだらしい、とシンは思った。しかし、どうにか元の世界に戻るためには脱出して方法を考えなければならない。
嫌でもここから脱出し、この世界のやり方を覚えて生き残らなくてはならない。
「でも、そんな都合のいいもの、そこらに落ちてるわけがないよな?」
「そうでもないよ?ほら、来た!」
カイルの声にあわせるかのように、水中からモンスターが出現する。
「モンスター?まるでゲームじゃないか!」
シンはナイフを構え、目前に迫った巨大化した魚のようなモンスターの脳天にナイフを突き立てた。
弱いモンスターだったのか、そのままそのモンスターは絶命し、彼がつけた傷口から何やら結晶体が吐き出された。レンズだ。
「生物がレンズを取り込むとモンスターになっちまう。人間だって同じだぜ?晶術……ってまあ……。」
ロニはシンが倒したモンスターが吐き出したレンズを拾いながら言葉を続けた。
「そいつはレンズで使える術のことだが、それが使える人間も化けもんみたいなもんだな。俺たちとかな。」
頭が痛くなってきた。完全にゲームの世界に入ってしまっているように思えた。こんなことで脱出できるのかわからない。しかも。
「よおっし、ここの水路のモンスターもなんとかなりそうだ。ロニ、これならあの子に追いつけるかな?」
「このバカカイル。俺たちは完全に足止めを食ってるんだぞ!?そんなわけがあるか。」
「もう少し静かにしてくれないか。お前達の馬鹿な話を聞いていると頭が痛くなる。黙っていてくれ。」
これである。なんともまとまりのない面々だ。ただでさえ困難な脱出だというのに、さらに面倒になってくる。
苛々が募ったのか、つい言ってはならないことを口にしてしまった。
「あの子に追いつくとか何とか言ってるけどさ……事情がよくわからないんだけど、それってストーカー行為じゃないのか?」
カイルが凍りついたように見えた。その場で固まり、目が虚ろになっている。
「あ、あのー、カイル・デュナミスさん……?」
「ほら、言わんこっちない。絶対そう言われるって思ったんだよ、全く。……っておーい、カイル?」
カイルは頭を激しく振り、シンに顔を向けた。
「そっ……そんなことあるもんか!あの子は英雄を探している。俺は英雄を目指してる。これって運命だと思わないか?なあ、なあ!?」
あまりの勢いに、シンは吹き飛ばされそうな気がした。最早頭を縦に振るより他はない。そんな気分にさせられたものである。
「そっちは片が付いたのか?いくぞ。」
ジューダスが自らの感情を封印したかのような声で促す。もたもたしていると気付かれて追っ手が来るだろう。
シンは再び前進を始めようと足を上げた。と、またも水飛沫だ。魚型のモンスターが躍りかかる。
「ってまたモンスターか?いい加減にしてくれ!」
先程斃したモンスターから得られたレンズをソーサラーリングに嵌め込み、モンスターに狙いをつけて発射する。
「どうだ?」
撃たれたモンスターはもんどりうって倒れたが、再び起き上がって牙を剥いて突撃してくる。
「チッ、面倒な。シャドウエッジ!」
ジューダスが何やら唱えて剣の切っ先をモンスターに向けた。その瞬間、闇の刃がモンスターの頭上に現れ、串刺しにした。
さすがにこの攻撃には耐えられなかったらしく、レンズを排出して絶命した。
「これが晶術だ。お前にできるかどうかはわからんが、ここから脱出してから試すといい。今練習するなよ、足手纏いになるだけだ。」
ジューダスの言葉にむっとしたが、それが正しいことに気付いていた。確かに練習をこの場でしたところで邪魔になるだけだ。
とはいえ、負けず嫌いの性格ゆえに試したくなる。シンはレンズを握り締め、ジューダスの真似をして詠唱してみた。
「ええい、シャドウエッジ!」
さすがのジューダスも目を剥いた。彼の目の前に闇の刃が出現したからだ。
「……できた……。」
「ほう、足手纏いにはならないらしい。シャドウエッジだけできるなどとは言わないでほしいものだな。」
通常、晶術を使える者は4種類の属性を持つ。カイルならば風、火、光、地の4種、ロニならば光、闇、地、水だ。
また、それとは別に回復晶術が存在し、この場ではロニが使えるだけだ。回復は破壊以上に難しいものなのだから、使える者が少ないのは当然だろう。
「俺は今の今まで晶術の存在なんか知らなかったんだ。今のは見よう見まねでたまたまできただけで……ん?」
彼は左手首の違和感に気付いた。腕時計ではなく、ブレスレットのようなものが巻きついている。
腕時計の時計盤にあたる部分には、レンズのような形をした銀白色の結晶が嵌め込まれており、何やら神秘的な輝きが宿っているようだ。
「何だこれ?こんなの持ってたっけ?」
「あれ?あの子が持ってたペンダントにそっくりだ!シン、それ拾ったの?」
カイルの言葉にジューダスが振り向き、一瞬シンの手首に巻かれたそれを見たようだったが、すぐに彼は進行方向に向いてしまった。
「いや、気付いたら手首に巻きついてた。もし本人に会って、それで本人のものだとはっきりしたら渡すよ。」
彼はそのままにしておくことにした。もしかしたら、これが元の世界に帰る鍵になるかもしれない。そう思ったからだ。
モンスターの妨害もなんとか切り抜け、粘着質が絡んだ部屋もカイルがフレイムドライブを乱射して焼き払ったため、あっさり通れた。
「謎解きも何もないな。力任せとはよく言ったものだ。」
と二人ほど呆れていたが。しかし、呆れていても足元の水に変化があることくらいは気づく。何かが蠢いている。
「皆、何かいるぞ!」
シンの声に呼応するかのように水面が盛り上がった。黒く長い水蛇のような姿のモンスターがこちらを睨んでいる。ヴァサーゴだ。
「時間の無駄だ、さっさと決めるぞ!」
ジューダスが背に隠した剣を抜き払い、さらに左手に短剣を持って斬りかかる。だが、ヴァサーゴの鱗が固いのか浅いダメージしか与えられない。
逆に長い尾でジューダスとロニを叩きのめした。二人が宙を舞い、水飛沫が上がる。
「チッ、シン、晶術を使え。最悪ソーサラーリングで直接攻撃してもいい。」
「言われなくたって!シャドウエッジ!」
シンのシャドウエッジが炸裂し、ヴァサーゴの体が揺らぐ。そこを狙ってカイルが剣を振るう。
「はっ!散葉塵!」
斬りかかり、さらに素早く三連撃を加えてヴァサーゴをのけぞらせる。だが、ヴァサーゴもやられてばかりではない。口を開き、晶術を発動させた。
高速回転する水の弾丸がシンに命中した。アクアスパイクだ。骨こそ折れなかったが、衝撃は大きい。彼の体はもんどりうって水面に叩きつけられた。
「くっ……これでも食らえ!」
ソーサラーリングを構え、ヴァサーゴの下顎に命中させた。衝撃を与える道具だけに、弱点を打たれたヴァサーゴの体勢が崩れる。
「よし、後は俺に任せろ!いくぜ、双打鐘!」
ロニの裏拳がソーサラーリングで打ちのめしたヴァサーゴの下顎に炸裂し、さらに切り払う。この攻撃に耐えられず、ついにヴァサーゴは水面下に沈んだ。
「ふう、そんなに強いモンスターじゃなかったから助かったあ。これで外に出られるんだよね?」
これで強くないというのだから、これからどんな危険が待っているのかと思うと身震いがした。
しかし、こんなことで挫けてはいられない。戻らなければならないのだ。自分を待つ、あの強気な少女が脳裏に浮かぶ。
「いろいろと学ばなきゃならないらしいな。しかし聞く相手がこれか……。」
彼の視線の先にはカイルとロニが映っている。正直なところ、彼らの行いには頭痛がする。
「悪い連中じゃないんだけどな……。」
あれこれ考えているとジューダスがどこかへ行ってしまった。どうやら脱出の手伝いだけをしただけのことらしい。
「もう日が傾いてる。早いとこ孤児院に戻らないとルーティさんが怒るぜ。」
「母さんに黙って出てきちゃったからなあ、絶対怒ってるって。でも、旅に出ることは伝えなきゃいけないし。」
「俺が代わりに言っておこうか?」
「いや、こういうのは自分で言わなきゃ。そうでないと意味ないもんね。」
ふざけているように見えて、実は責任というものをよく知っている、とシンは思った。先程の評価を訂正しなければなるまい。
「なあ、シン。お前、これからどうするんだ?行く当てもなさそうだし、俺たちの孤児院に来るか?」
彼は間髪いれずに答えた。
「ありがとう。そうさせてくれると嬉しい。それから、何か手伝えることがあるなら、俺に手伝わせてほしい。」
「ほんとに?」
カイルの期待に輝く瞳を見て、まさかと想像したが、そのまま続けることにした。
「ああ、この世界のことを知らなきゃいけなくなったんだ。できれば見知った人間と一緒の方が心強いしね。」
「じゃ、一緒に来てくれるかい?シンは晶術も使えるみたいだし、それにあの子のペンダントに似てるもの持ってるし。」
ああ、やはり、とシンは思った。いよいよゲームの流れそのものだ。
「くぅぅぅっ、ねえ、ロニ。やっぱりこれって運命だよな?俺が英雄になるためのさ。」
どうして英雄になりたがっているのか、全くわからない。シンは英雄に近い立場に祭り上げられたことがあるが、それほどいいものではないのだ。
だが、その手伝いをしたくないとは思わなかった。カイルには好感が持てる雰囲気がある。
「英雄になる手伝いをすることが、世界を知ることになるのかな……。」
シンは水路から海岸に出た。この一歩が歴史を巻き込む冒険の始まりであることなど、今の彼には想像できることではなかった。
TIPS
称号
赤い瞳を持つ少年
血を思わせる瞳を持つ少年。その瞳に宿るのは怒りかそれとも……。
NO ABLITY
激情家
激しやすい性格。周りが見えなくなることがあるので注意が必要。
攻撃+0.5 命中-1.0
異世界の住人
まさに右も左もわからない。究極の迷子。
防御+0.5 SP回復-1.5
ここまでです。やっぱいらないかな、TIPS……。
GJ
TIPSは正直に言うと要らないと思う。俺はね。
これからどうなっていくのか期待してるから続きお願い。
>>286 どもー。
あ、やっぱりいらない?
元々新規の技なんかの読みを書くために用意したんですわ。
最後に「これは何々と読みます」なんていうのは不恰好だし、文中に括弧書きで書くのは戦闘描写において著しくスピード低下を誘発しますし。かといって既存の技だけだと面白くないですから。
何せD2の技は全て新規作成されたものですから、他の話に出てくる技は極力使いたくないし、機能を被らせるわけには行きませんからね。
しかも、ただ名前書くだけだと面白くないから説明を……などなどをTIPSに書こうと思ってたんです。
ついでにD2って称号でパラメータが決定するゲームで、後半になるとやばい称号が出てきて(攻撃+6.0とか)、称号を出しておけば成長もはっきりわかると思ってたんですが。
やめときますか。でも、技の読みはどうしよう……。
「これは何々と読みます」と言わなくていいぐらいの理解しやすい言葉を使うとか
>>288 うーん、難しいですねえ。
元々テイルズの技の名前、単純に読めるものは少ないんです。
例えばかなりメジャーな技の秋沙雨ですら、知らない人には読めません。
魔人闇など、デスティニーを知っていなければ読めますまい。
こうなると読みにくい漢字配列で技を作っていると開き直った方がそれっぽく見えるはずですから。
雰囲気作りのためにも読みやすいものは逆に避ける(といってもある程度読める範囲で収めますが)方がよいのではないかと。
>>289 何て読むのか聞かれたときだけ答えるとか。
TIPS使うとか。一応要らないと思うって言ったが、使ったほうがやりやすいなら使ってもいいし
自分がやりやすい方法で。どうするかは任せるよ
それでは新しい技を出したときだけTIPS書くことにします。
無駄にシステムとか考える俺って一体……。
さてと、自分のレスに続けて書くのは抵抗があるんですが。投下します。
2 明日への一歩
3人は地下水路を脱出し、カイルとロニが育った孤児院があるクレスタに向かっていた。クレスタは3人が閉じ込められていたダリルシェイドの東にある。
しかも、真っ直ぐ東ならば話は早いのだが、南東にある山を回っていかねばならない。真っ直ぐ向かおうとすると崩れやすい崖の縁を歩いていかねばならないのだ。
「あー、じれったい!真っ直ぐ進めない上に結構離れてるなんて、どれだけ時間がかかるんだ!」
「嘆いても距離は縮まないんだ。急いで帰らないとな。」
ロニの言は正しい。この世界の地理など全くわからないのだから、急いでついて行くしかない。
「カイル。クレスタってどんなところだ?」
「はっきり言って田舎だよ。でも、俺はあそこが好きなんだ。のどかだしさ。」
「田舎かあ。都市で暮らしてたから、逆に憧れるかもな。」
「結構生活は苦しいんだぜ?金がないから孤児院の修理もできないからさ。だから俺たちはラグナ遺跡ってところにある巨大レンズを取りに行ったんだけど……。」
カイルの後を受け、ロニが続ける。
「ところがそのレンズから英雄を探してる女の子が出てきてな。その後レンズ泥棒として捕まってたってわけだ。カイルといると退屈しねえよ、全く。」
話の筋から、どうやらその女の子が出てきたときにレンズは壊れたらしい。その後事情を知らない者に捕らわれた、ということだろう。
「ああー、ロニ酷いじゃないか。全部俺が悪いみたいな言い方して。」
「違うのか?そもそも一緒に行くって言ったのはお前の方だぜ?」
「むぅぅぅ……。」
空気が悪くなりそうだと判断したシンは、無理やり誤魔化すことにした。これくらいしかできない。
「とにかく、孤児院に帰らなきゃならないんだろ?急ごう。」
彼らがクレスタに到着した時には23時を過ぎていた。シンは孤児院に行こうと2人に誘われた。
が、ただでさえ事態が紛糾しているのだから部外者がいるとこじれるから、と断った。孤児院についていくつもりだったが、カイルの家庭事情を乱すくらいなら風邪を引いた方がマシだ。
この世界の金銭は持っていないのだから野宿しかない。カイルを待つ孤児院の主が、彼を待つためにまだ孤児院の明かりを灯したままだ。
余程心配しているのだろう、とシンは思った。とりあえず孤児院の入り口が橋なので、その袂で寝ることにした。これなら万が一雨が降ってもやり過ごせる。実際、雲行きは怪しい。
尤も、本当に雨が降ってきて増水したらまずい。近くの海まで押し流されてしまう。とはいえ、自分で決めたことだ。文句は言えない。
シンは「デュナミス孤児院 院長 スタン・エルロン ルーティ・カトレット」と書かれた、やや老朽化した木製の看板を眺めながら橋の下に潜り込んだ。
「これでよし、と。カイルに雷でも落ちるのかな。」
程なく、孤児院の方向から凄まじい怒鳴り声が聞こえる。
「カイル!今何時だと思ってるの!あんたに冒険なんてまだ早いって言ったじゃない!」
今の声の主は院長の一人、ルーティ・カトレットなる人物のものだろう。あの反応は本物の親子そのものだ。いや、本当に親子なのかも知れない、とシンは思う。
「いい親子だな……。仮に本当の親子でないにしても……。」
実際にはカイルとルーティは血の繋がった親子なのだが、また彼はそれを知らない。
「今日はいい夢を見られるかな……。」
できれば過去の夢がいい。それも、家族がいたあの頃の夢が。彼は目を閉じ、意識を沈めていく。
「……もう、カイルって酷いのよ……。」
遠のいていく意識の中で、シンはルーティの声を聞いている気がした。どうやら外に出ての独り言のようだ。
「……あ、今笑ったでしょ?…………はできてるつもり。………………あの子が……私は……。」
その言い方は、まるで死者への言葉のように聞こえる。そこまで考えたところで意識は夢の世界へと沈んでいった。
シンは座り込んでいた。目の前には宙に浮かぶ人影がある。顔立ちがはっきりわからない。
「……ン・アスカ……お前を……いに呼んだのは……のためです。」
朦朧とする意識の中、彼は辺りを見回しながら返事をする。
「何故……らんだ?俺に……なことができるわけが……。」
どうやらどこかの神殿らしい。ひんやりと落ち着いた空気や、今いる部屋の雰囲気からの想像だが。
「おま……んだのは、その……さを生かしてほ……です。お前が何を……でいたのか、どうすれば人は……のか。よく知っているはずです。」
無茶を言う、と感じた。会話の内容を把握できない割に、どこかでわかっているらしい。
「俺……んなことについて詳し……けじゃないんだぞ。……なことになら……まっている。」
その人物はあくまで優しく語りかけてくる。人の望みを掻き立てるように。
「いいえ、そ……とはありません。お前に……レ……や……ラ……うようの奇…………を与えます。このちか……かって……とを……に導くのです!」
シンの体が光に包まれ、浮いた。そして、強い衝撃と共に脳天から真っ逆さまに落ちていく感覚がした。
「はっ……ゆ……夢?」
そこでシンは目が覚めた。夢の内容が思い出せない。霞みがかった意識の中で頭を振り、周囲を見渡す。
クレスタでは雨が降らなかったらしい。川が増水した形跡もない。大雨が降って増水していれば命がなかった。危ういところだ。
まあ、昨日の雲行きから考えればそこまでにはならないだろうが。ダリルシェイドで同じことをしていれば間違いなく死んでいる。
かはたれ時の冷たい空気を頬に受けて、睡眠の世界から現実世界へと意識が戻ってきた。現実と言ってもかなりふざけた世界だ。何しろ剣と魔法の世界なのだから。
「悩んでいても仕方がない。自分に何かできるか考えないと。せめて剣くらいはなあ……。」
晶術を使えることがわかったとはいえ、接近戦の時に使える武器がナイフだけというのは心許ない。
リーチが短い分剣や槍を使う相手に対して、思い切り間合いを詰めさえすればそれですむ。だが、モンスター相手にはそれなりの刃渡りと重量が必要だ。
しかも、シンの勝気な体質がカイルやロニの陰に隠れて晶術を放つ、などという真似を許さなかった。
「このままだと本当にお荷物になる。それだけは避けないとな。はあ、『力を寄越せ!』とかで剣が手に入ったらいいんだけどな。」
冗談のつもりだった。だが、その言葉に反応するかのように左手首に巻かれたブレスレットの結晶が光り、いつの間にかサーベル二振りが両腰に吊るされていた。
「……へ?」
わけがわからない。ついでだからとあることを念じてみた。できそうにないことの代表格、「浮け」と。シンの体が浮いた。橋の陰から飛び出し、クレスタを出た。勿論浮いたままで。
「俺の望みに反応するのか、この結晶……。もしかして!」
帰れるかも知れない。よし、と彼は「元の世界に俺を戻らせてくれ!」と念じてみた。だが、反応はない。
「うーん、情けない。比較的小さな望みを叶えられるだけか……。」
ふと結晶に目をやると、文字が浮かんでいた。
ZGMF−X56S/α
この記号の配列には見覚えがある。かつての愛機、インパルスの型番だ。
「……何でこんなのが浮かんでるんだ?……待てよ、飛行能力、それにサーベル……インパルスの能力を俺自体が再現しているのか?」
彼は思い返してみた。確か「力を寄越せ」と願ったはずだ。つまり、これは自分が一番わかりやすい力の形態がこのインパルスの能力だったのだろう。
ある意味当然かもしれない。シンが家族を失い、ザフトに入り、パイロットとして戦うために与えられた機体がインパルスだったのだから。
しかも、型番からわかるように、これはフォース形態なのだから、最低でもソードとブラストの2形態は残っているはずだ。着地して試してみたが、どうも今はこの形態しか取れないらしい。
「今は、フォースだけということなんだな。これから残りも使えるようになるといいんだけどな。」
この世界ではおそらく、法が自分の身を守ってはくれまい。まともな法が存在するなら、まず戸籍登録から国民を把握し、人権を保障するはずである。
だが、彼はいきなりこの世界に放り出されたのだ。戸籍が存在しない上に、そもそもこの世界の人間の定義に当てはまるかわからない。
何しろシンはコーディネイターなのだから。晶術が使える人間よりも余程化け物だ。遺伝子のコントロールで普通の人間よりも不自然な能力を持っている。
レンズを埋め込んだ負傷兵から生まれる、ゾンビなどと同じ扱いをされるかもしれない。
人権がないというのはあまりに危険なことだ。問答無用で殺されても文句を言えない。人権がなければ物になる。物を壊しても殺人にはならない。
自分を殺した相手が、器物破損の罪に問われるかどうかすら怪しい。彼は誰かの所有物ではないのだ。
法がないほうがマシだといいたいところだが、そうでもない。今度は治安の悪さから、自分の人権があったとしても助けてもらえない。
要するに、法律の観点から言えばシンは物扱いになるかもしれないし、その辺りが整備されていないと治安が極端に悪くなる。どちらにしてもいい方向には向かない。
誰も守ってくれないなら自分で身を守るしかない。故に、単純な力を必要とした。
「力を与えてくれる結晶か。まあ、いろいろと試してみるか。まだカイルが出てくる様子はないし。」
クレスタ周辺のモンスター相手に戦闘だ。自分に何ができるかくらいは把握しておく必要がある。
左手の剣を投擲して影を刺し、身動きを封じて右手の剣で斬る「鏡影剣」。
離れた位置から突きを繰り出し、風の槍を発生させる「穿風牙」。
地面を突き刺して岩の槍を足元から出現させる「地竜閃」。
大きく振りかぶって斬撃と共に炎を放つ「火炎斬」。
両手の剣を交互に突きを放ち、計6回相手を刺す「六連衝」。
今のところ、これだけ使えるらしい。他にも晶術を試してみるとフレイムドライブ、ウィンドスラッシュ、ストーンザッパーが使えた。
「ということは、俺の4つの属性は闇、火、風、地か。バランスがいいんだか悪いんだか。まあ、ぼやいても仕方ないけど。」
そろそろシンの感覚では7時を回った頃だ。カイルが孤児院から出てきてもおかしくない時間である。
クレスタの孤児院前に架かる橋を渡ると、シンはカイルとロニに会った。今話が終わって出てきたところらしい。
「昨日は怒られていたみたいだけど、大丈夫だったか?」
「ああ、大丈夫。母さん俺のこと心配してたみたいだけど、でも今日になって許してくれたよ。それに、お金まで。」
カイルは皮袋を取り出して振って見せた。シンは許可を得て受け取ると、それはずっしりと重たい。
「俺たち、ルーティさんにばれないように金をためて孤児院に『寄付』してたんだが……カイルの癖字でばれちまってな。」
「しかも、母さんに渡した分より多く戻ってきたし……。」
シンは思う。あの怒鳴り声から、本当はカイルを冒険の旅には出したくなかったはずだ。だが、それでも承知したのはカイルの並々ならぬ思いがあったからだろう。
英雄になる。英雄を探す少女に自分を認めさせる。その一途な思いがルーティを折れさせたのだろう。孤児院という特殊な環境で育ったが故の責任能力、そして強い意志。
確かにこれだけなら英雄として相応しいかもしれない。ただし。
「さあ、あの女の子を追いかけよう!俺が英雄になるために!」
シンは大きく溜息をついた。
「これさえなければなあ……。」
英雄になるための一歩を踏み出したカイル。それを見守ることを自らに誓うロニ。自分の世界に戻るという目的を持つシン。
それぞれの目的を持ち、三人はクレスタを旅立つ。長く遠い旅路の始まりだった。
TIPS
鏡影剣:キョウエイケン
穿風牙:センプウガ
地竜閃:チリュウセン
火炎斬:カエンザン
六連衝:リクレンショウ
ここまでです。
本当はいっぱい書きたいんですよね、TIPS。
鏡影剣の投擲が別の敵に当たったら技が停止するとか。
フォース形態で操作するとき、飛行するためには□+↑で離陸、アナログパッドで操作するとか。
飛行中はSP回復、与えるダメージが減殺されるとか。
でも、技の名前だけと言ったので技の名前だけにしときます。
GJ
レベルがあがったりするとデスティニーになったりするのかな?
これからも続けてくれ
どもー。
>>299 ばれたwww
でも、簡単にはさせませんw
シンにはしっかり頭を捻ってもらうとして。今回フラグばら撒いたんで注意して見ていてください。
って一番気をつけないといけないのは俺か……ばら撒いたフラグ、ちゃんと回収しないと。
投下します。
書くペース早いけど大丈夫なのか、俺。
3 追跡
お互いの経過を話し合いながら3人はダリルシェイドに戻ってきた。ダリルシェイドはこの世界に存在する国家の内、セインガルドの首都だった都市だ。
カイルたちによれば、18年前に起きた動乱のためにダリルシェイドは壊滅的な打撃を受け、現在は都市機能をほとんど失っており、古都でしかないらしい。
シンはダリルシェイドの中を見回し、その被害の大きさと人々の無気力感に呆然とした。
18年前も経っているのに瓦礫の撤去も行われず、土砂に押しつぶされた家屋が目立つ。かつてそこに存在した栄華を惜しんでいる。そんな雰囲気だ。
各所にテントが張られ、そこで生活したり、物を売り買いしているようだ。復興計画をまともに練る者もなく、住民は誰かが救済してくれることを願い続ける。
ロニが所属していたというアタモニ神団の炊き出しで、何とか食いつなぐ毎日を送る人々も少なくないという。
「これはまた、酷いな。脱出するときに外から見たけど、近くだともっと酷いんだな……。」
豊かで便利だったダリルシェイド。それが崩壊したとき、人々は昔の姿ばかりを追い求める。
尤も、この未練にも理由はある。古来よりセインガルドは他の国家、ファンダリア、アクアヴェイル、フィッツガルド、カルバレイスよりも繁栄しており、現在でもそうだ。
そして、ダリルシェイドはその中心であり、まさに世界の中心だった。それが今では壊滅している。その事実を認めたくないのだ。
人間とはそういうものである。起こってほしくない事態が起きたとき、それを現実であることを否定したがる。集団でそれが起きると増幅され、生活は取り戻せずに負の連鎖が続く。
そんな荒れ果てた古都に冷たい雨が降る。シンは雨に打たれながら物悲しい街を歩いた。
「ダリルシェイド……か。」
そんな冷たい空気を一瞬で加熱するのがカイルだ。
「よーっし、グミの用意もできたことだし、あの子を追ってアイグレッテに行こう!」
元気なことだ、とシンは思った。雨に打たれているはずなのに、カイルの周囲だけ雨が降っていないような感じがする。何ともお気楽な限りだが、それが彼の強みなのだろう。
「なあ、そのグミって治療薬なんだよな?」
シンの問いに、ロニが応じる。
「ああ、アップルグミは怪我を治すし、オレンジグミは心を落ち着ける作用がある。どっちも食えば効果がある。これからモンスター相手に戦わなきゃならないから、間違いなく必要だな。」
ロニの提案で、一行はアイグレッテに向かうことになっている。
アイグレッテはセインガルド北部にある宗教都市で、世界の中心なのだそうだ。その規模から事実上セインガルドの首都となっている。正確には首都ではなく、聖都と呼ぶらしい。
アタモニ神団の本部、ストレイライズ大神殿の門前町のようなものだ。動乱によって破壊された都市、ダリルシェイドやハーメンツ、それに近郊のアルメイダの住民を吸収し、世界最大の人口を誇る。
ロニがアイグレッテに向かおうと提案した理由はこうだ。
カイルがストーキングしている(とシンは思っている)少女は英雄を探しているらしい。
現状で英雄といわれているのは、スタン・エルロン、ルーティ・カトレット、フィリア・フィリス、ウッドロウ・ケルヴィンの4名だという。
そのうちのスタン・エルロンは十数年前に旅に出たままなので所在が掴めておらず、彼を探すことはないだろうとロニは言った。また、ルーティを訪ねた形跡もない。
残るはフィリアとウッドロウの二人だが、フィリアはストレイライズ大神殿で大司祭となっており、ウッドロウはファンダリア王国国王であるため、首都のハイデルベルグにいる。
セインガルドの南部に位置するファンダリアへは18年前の動乱の際に道が崩れたため、アイグレッテの港からファンダリアのスノーフリア港に向かうほかない。
つまり、この二人を訪ねるためにはどちらにしろアイグレッテに向かう必要があるというわけだ。
「さすがに冴えてるよな、ロニは。」
とカイルが褒めたがロニはアイグレッテでしばらく生活していたというのだから、その辺りの地理は頭に入っていることだろう。
「で、質問なんだが。18年前の動乱って何だ?」
それについてもロニが説明してくれた。カイルだと猛烈にはしゃぐため、説明にならないのだ。
それによると、18年前に「神の眼を巡る騒乱」というものが起きたらしい。
当時、エネルギー資源であるレンズの取引を一手に行うオベロン社という企業が存在し、その総帥のヒューゴ・ジルクリストが世界を乗っ取ろうとしたという。
その野望を打ち砕いたのが前述の4人の英雄なのだそうだ。ヒューゴは神の眼と呼ばれる巨大レンズをエネルギー源とし、大量破壊兵器ベルクラントによって空爆を繰り返した。
しかも厄介なことに1000年前に存在した空中都市群を復活させ、そこから攻撃を仕掛けてくるのだ。手の出しようがなかった。
それだけならまだしも、ベルクラントによって巻き上げた土砂を空中で固定し、外殻と呼ばれる地面を上空に作り上げていった。結果、地表に太陽の光は当たらなくなり、人々は絶望に陥った。
だが、英雄達の手によってヒューゴは死に、神の眼も破壊された。ここまでが一般に知られるスタン・エルロンの英雄譚だ。
「でも、アタモニのお偉いさんの暴走が神の眼を巡る騒乱のきっかけだったって話だし、他にもいろいろ黒い噂は絶えないな。」
最後のロニの言葉に引っ掛かりを覚えたシンだったが、これで納得できた。まさしく英雄によって救われた世界なのだ。だからこそ英雄を目指す者、英雄を探す者が現れるわけだ。
「それで、それでさ。俺の父さんはスタン・エルロンで、母さんはルーティ・カトレットなんだ!」
なるほど、とシンは思った。幼い頃からそれを意識していたのだろう。そして、自分も両親のように英雄になりたい。どれだけ自分の両親を尊敬し、慕っているかがよくわかる。
「でもさ、親がしたことを子供がしても、あまり評価は得られないって話だし、どうやって英雄として名を上げるつもりなんだ?」
「そんなのいろいろ試してみないとわかんないよ。でも、同じことをしたって駄目なのはわかってる。俺が英雄だと認められたら、それが父さんを超えた証拠になる。俺は父さんみたいになりたいんだ。」
目を輝かせ、拳を握り締めて語るカイルの目は輝いていた。無謀と無茶の塊で、その上考えなしに突っ走る。周囲は苦労するだろう。だが、その真っ直ぐさは眩しいほどだ。
「まあ、俺の無謀ぶりもカイルと変わらないけどな……。」
アイグレッテとダリルシェイドの中間地点にあるハーメンツバレーに向かう途中、シンは不自然な海岸線を見た。
円弧状の海岸線。しかも、断崖絶壁の上に柱状摂理を形成しているわけでもないのにほぼ垂直にそそり立っている。表面は恐ろしいほど凹凸が少ない。
「この海岸線ってまさか……。」
シンの呟きにロニが応える。
「ああ、これがベルクラント直撃の痕さ。あっちにはほら、クレーターができてるだろ?この辺りにはこういう痕がいくつもある。」
確か、クレスタの近くにもあった。ただそれがベルクラントが直撃した痕だとは気付かなかった。痛々しい痕跡がそこここに残されている。
「大勢死んだんだろうな……人も生き物も。」
人間のエゴで人間が滅ぶ。それはある意味自業自得だが、それに巻き込まれるのは別に人間だけではない。それだけは忘れてはならない。
それに、シンには苦い経験がある。民間人として戦地となった故郷を逃げ惑い、家族を亡くした。故に、民間人が殺されるという事態が許せなくなっていた。
彼はかつて地球軍が赤道付近の拠点の設置に現地民間人を使い、逃亡しようとしたところを射殺されたその現場を目撃した。
「許せない。」
その時、激しい怒りが彼の心を満たした。夢中だった。気付いたときには拠点をほとんど廃墟にしており、拠点の外と中を区切るフェンスを引き抜いていた。
そのことについて後悔がなかったと言えば嘘になる。ただ、やはり戦争に民間人を巻き込みたくないという姿勢だけは変えたくないし、変えることはなかった。
「まあ、化け物みたいなベルクラントだが、途中で放り出したらしいぜ。んで、エネルギー源の神の眼はスタンさんが壊してくれたから、今は平穏な限りだけどな。」
「平和か……いいもんだな。争いを起こすのは簡単だけど、平穏にするのは難しいって話だし。争いが続いてないだけ幸せなのかもな。」
彼は闘いの爪痕が残る世界の空を見上げ、そう呟いた。
一行はハーメンツバレーに到着した。この谷にかかる吊橋を越えればアイグレッテは間近なのだが、その吊り橋が最近壊れたらしく、復旧の目処も立っていないという。
「そんな!これじゃアイグレッテに行けないじゃないか!」
シンは飛行能力があることを二人に伝えてある。だが、気流が複雑であちこちの風穴から暴風並みの風が時折吹き付けてくるので、とてもではないが二人を抱えたまま飛べるとは思えない。
飛んだら最後、あの世に飛ぶことになるだろう。二人にそう言った。
「参ったな。一端谷底まで降りてから登るしかないか。面倒だが。」
シンは言いながら谷底を見た。かなり落差がある。ところどころに歩けそうな場所があるから、無理さえしなければ降りられないこともない。
「そういえば、さっきピンクの服を着た女の子が、そこから谷底に向かったよ。」
という行商人の言葉を聞き、カイルとロニはぴんと来た。
「その子だ!今なら追いつけるかも!」
カイルはほとんど自由落下と変わらない勢いで崖を駆け下りていく。慌ててロニが慎重に足場を探し、シンはフォース形態をとって緩やかに谷底へと向かう。
「シン……便利だな、それ。……こらバカカイル!あんまり急ぐとこけて怪我するぞ、おーい!」
突発的な風にでも吹かれればまずいのだが、シンは風穴が近くにないこと、そして比較的気流が安定したコースを選んでいる。
どうやらこのフォース形態は彼の4つの属性の一つ、風属性を強調した形態らしい。明らかに風を読む力が増しているのだ。
「一応、風の具合考えて飛んでるけど……。これでも調整は難しいんだ。……う……。」
3分の2ほど降りたところで、ふわりとシンはロニの目の前に柔らかく着地した。怪訝そうにロニが問いかける。
「どうした?」
「……疲れた……頭の方が。」
「何ぃ?」
そうなのだ。このフォース形態での飛行はレンズを消費しないとはいえ、常時晶術を使用しているのと同じくらいの負担がかかる。
当たり前だが精神力も消費する。下手をすると晶術や折角覚えた剣技が使えなくなるほど消耗するのだ。シンの精神力はそれなりに強い方だが、調子に乗って飛び続けるとこうなる。
「オレンジグミでも食うか?すっきりするぜ?」
「いや、俺の馬鹿な飛行で消費するわけには行かないからな。別に飛べなくてもモンスターと戦えるし。」
むしろ着地状態の方が剣技のダメージは大きくなる。通常、格闘する場合や武器を振るう場合、腕の振りだけでダメージを与えられるわけではない。
地面を踏みしめ、しっかり足の裏なりつま先なりを固定し、腰、胸の筋肉を連動させて初めてダメージを与えられるのだ。ところが宙に浮いていると踏みしめる地面がない。
踏みしめる地面がないと、腰や胸の筋肉を捻ろうが何をしようがダメージは与えられない。それどころか固定するものが何もないのだから、斬りつけると自分がその場で回転してしまうのだ。
シンが宙に浮いたままで斬りつけても回転しないのは、浮遊力を回転の方向と反対側にかかるように調整しているからだ。この辺りは彼がモビルスーツのパイロットだったからこその知識だろう。
実際、モビルスーツの主戦場である宇宙空間には足場はおろか重力も空気抵抗ないのだから、格闘をするにあたって反作用の相殺を考えないといけないのだ。
最低でも、この程度の物理現象くらいは知っていないとモビルスーツパイロットなど務まらない。
その物理現象の詳細をロニに話すと、こう返ってきた。
「俺にはさっぱりわかんねえけど……空中にいたらダメージが与えられないってのはわかったつもりだ。便利だと思ってたけど、案外そうでもないんだな。」
「そもそも武器同士の戦いだと上から攻撃するのって、不利になるだけだって聞いたけど。上にいると足元狙われるし。長柄武器使ってる相手なら余計にそうらしいな。」
シンは自分の技の特性や飛行能力から、ある結論を出していた。それは、「自分の能力は真正面から最前線で戦うものではない」ということだ。
例えば穿風牙はカイルの同系統の技である蒼破刃よりもやや射程が長い。鏡影剣ともなると敵の動きを縛り付ける技だ。火炎斬のようにダメージを押し込む技もあるが、どちらかといえばサポート寄りだ。
飛行能力による高機動性を使って撹乱し、味方の攻撃を支援する。それはある意味でかつての乗機、フォースインパルスの特徴である。特別強固な装甲を有しているわけでもなく、強大な火力もない。
俊敏な動きで翻弄し、決定打を僚機が与えて仕留める。それが本来の姿なのだ。彼がウィンダム30機を叩き落していたのは、単に特攻癖のせいだろう。
特攻すれば狙いは自分に向く。それを全て反撃で倒していく。それが可能だったのはインパルスの「息継ぎ」ができる機体性能と自分の反応力があってこそだ。
「まあ、相応な戦い方をさせてもらうよ。」
やっとカイルに追いついた。カイルはその場でうずくまっている。地面に落ちた何かを見ているようにも見える。
「どうしたカイル。怪我でもしたのか?考えなしに降りたりするから……。」
ロニの言葉に、カイルは首を横に振った。
「違うよ。これ……あの子がつけてたものじゃない?」
カイルが差し出したそれは、ペンダントだった。ロニと一緒になって覗き込んだシンは驚いた。自分が身につけているブレスレットに酷似しているのだ。
銀白色の結晶が赤い縁取りの中に嵌っている。その神秘的な輝きまでがそっくりで、首に巻きつけるか腕に巻きつけるかの違いしかなさそうだ。
「ああ、確かにあの子がつけてたペンダントだな。それにしてもシンのブレスレットとそっくり……。」
ロニが言い終わらないうちに、カイルが拳を握り締めて叫ぶ。
「よおおおし、これって運命だ!絶対あの子と出会うのは運命だったんだ!な、そう思うだろ、ロニ!」
「このバカカイル。どうしてこう、お前は偶然を運命だと思うんだ?もう少し考えることをしろよ。な?」
カイルは聞いていなかった。
「このペンダントをあの子に渡そう!そうしたらまたあの子に会えるし、俺が英雄だってこともわかってもらえる!行こう、ロニ、シン!」
ロニとシンは思わず同じタイミングで溜息をついたものだ。
「……いくか、シン。」
「……そうだな。」
二人とも諦めの表情を浮かべながら駆け出したカイルの後を追った。
「ない……どこにも……あれがないと私……。」
不安そうな表情を浮かべた少女が周囲を見回している。淡く薄手のピンク色のワンピースを身に付け、赤く細い帯をほっそりした腰に巻きつけている。
紫色で玉状の髪飾りをつけた髪の毛と大きな瞳は濃い茶色で、その髪と眼の色合いが彼女の持つ驚くほどの色白さを強調している。その雰囲気は神秘的で不思議な空間を醸し出しているかのようだ。
「あー、見つけた!」
彼女は驚いたような表情で後ろを振り返る。そこには、つい昨日出会った黄金色の髪と青い眼を持つ少年が息を切らせている姿があった。
「やっと……追いついた。」
カイルの後ろから、さらに2人がやってくる。彼女の力の源である「あるもの」は手元にない。害意を持っている相手だとするなら、今はあまりにも無防備すぎる。
彼女は不安そうな視線を彼らに向けながら、後退りした。
「あ、待って。これ……。」
カイルは彼女を不安がらせないように笑顔を見せながらペンダントを取り出した。
「…………!」
「これ、君のだよね、はい。」
彼女の眼の色が変わった。おずおずと彼女は手を伸ばし、それを首に巻きつけた。これこそが彼女が探していたものだった。どうやら谷底に降りる過程で落としたらしい。
「…………。」
彼女はほっとしたようにペンダントを撫でている。その態度に腹を立てたのはロニだ。
「おい、こっちは親切にあんたの落し物を届けてやったってのに、礼の一つもないのか?」
「ロニ、やめとけよ。多分、大事なものが戻ってきたから、そのことで頭が一杯なんだ、きっと。」
シンはロニを留めた。自分でも命に代えられないもの、シンに喩えれば妹の形見の携帯電話を落としたとしたら、うっかり礼を失念するだろう。彼女からはそんな感じがした。
尤も、シンは自分の手元に携帯電話がないことに最初から気付いている。銃をなくしたのと同時に携帯電話もなくしている。探すだけの気力は彼にはなかった。
彼はこっちの世界に来るときに、元の世界においてきたのか、もしくは自分を呼び寄せた存在が携帯電話まで転移することができなかったのか、そのどちらかだと思うことにした。
簡単に割り切ることはできないが、そう思わなければならない。彼はそう思っていた。
ロニとシンのやりとりを聞いていたのか、彼女は消え入るような声で返事をする。
「あ……ありがとう。」
「いいんだ、英雄たる者、これくらいの人助けはしないと!」
カイルの言葉に、彼女はペンダントを見つめ、何かの反応を待ったようだったが、すぐに首を横に振った。
「……やっぱり違う……。」
「何が違うんだろう?確かにカイルは英雄とは言いがたいけど、そうまで断言するほどのものじゃないと思うんだけどな。」
シンはそう言ったが、彼女にはそんな言葉は聞こえないようだった。
「拾ってくれたことは感謝してます。でも、これ以上私に関わらないで。」
彼女はそう言うと、その細身からは考えられないほどのスピードで崖の凹凸を利用して跳躍し、さらに風穴の暴風を利用してあっという間に昇ってしまった。
「……なあ、カイル。何か嫌な女だぜ、あいつ。女なんてほかにもいいのがいるだろうが。いい加減追うのをやめろよ。」
「いいや、絶対あの子には何かある。あの子が探している英雄は俺なんだ。」
そこまで断言する理由は一体何なんだ、とシンは思ったが、口には出さなかった。ただの思い込みだけでここまで突っ走るとは思えない。思いたくないが。
カイルの性格を考えるとただの思い込みかもしれない。そんな暗い考えがシンの脳裏に浮かんだ。
「とにかく、カイルはこのままあの子を追うんだよな?ここまで来たら仕方ない、追うことにしよう。」
シンが諦め口調でそう口にし、彼女が通った道を辿ろうとした。だが。
「モンスターか!」
鳥と人間が融合したようなモンスター、ハーピィと岩でできた生きた人形、ゴーレムの混成部隊の襲撃だ。都合8体ほどいる。
「やるしかなさそうだな!」
ロニがハルバードを構え、ゴーレムに斧の部分を叩き付け、さらに双打鐘を叩き込んだ。だが、さすがに岩石でできた相手だ。ダメージは浅い。
「ここは俺がやる!穿風牙!」
素早くフォース形態を取り、シンが真上から風の槍を放った。ゴーレムの体が揺らぎ、頭頂部の一部が欠けた。だが、そのシンにハーピィが襲い掛かる。
「っ、危ない……!」
鋭い爪の蹴りをかわしたが、第二撃までは避けられなかった。かわすために高度を下げたところを別のゴーレムが殴りかかってきたのだ。
「ぐぅっ……!」
背中を強打され、一瞬呼吸が詰まる。が、何とか空中で体勢を立て直し、鏡影剣でゴーレムに反撃する。影を射抜かれたゴーレムの動きが一瞬止まり、影を纏った斬撃を浴びた。
「まだだ!蒼破刃!」
カイルの巻き起こした斬撃が風の塊となってゴーレムを叩きのめし、その体が崩壊する。
「まず1体!」
シンは次のターゲットをハーピィに定め、斬りかかる。
「でええい!鏡影剣!」
ほとんど剣を投げ落とすようにハーピィの影を貫く。ハーピィは空中で身動きを封じられ、羽ばたけなくなったがために落下する。
「今だ!雷神招!」
それを狙ったロニのハルバードが轟音を放ち、ハーピィを叩きのめしつつ雷をぶつけ、黒焦げにして見せた。
「残り6体!」
シンは着地し、ゴーレムに六連衝を叩き込む。わずかに揺らいだその隙を狙って、さらにソーサラーリングの熱線をぶつけた。立て続けに衝撃を受け、ゴーレムが横転する。
だが、その間にカイルがハーピィ3体に囲まれていた。
「カイル、今行く!くらえ、火炎斬!」
シンのサーベルが炎を纏い、強烈な振りと共に火炎が撒き散らされる。ハーピィはその攻撃を避けたが、連係を乱すには十分だった。
「助かる!空翔斬!」
素早く飛び上がったカイルは、上からハーピィを押し斬るように剣をぶつけた。地面に叩き落されたハーピィはそのままロニの振り下ろされたハルバードで真っ二つになる。
「今度はこっちの番だ!蒼破刃!」
シンがダメージを与えたゴーレムが起き上がり、シンに殴りかかろうとしたところを狙った。既に脆くなった胴体に衝撃波が命中して砕ける。
「よし、これで半分!地竜閃!」
剣を地面に突き立て、離れたハーピィの真下から岩の槍が突き出す。虚を衝いた攻撃にハーピィは避け損ねた。
「もう一発!」
シンは別のハーピィに狙いを定め、地竜閃を放った。今度は避けられ、左から接近したゴーレムに再び殴られた。
「ぐっ……回避が甘いか!」
さすがに地面に叩き付けられた。とどめを刺しに来たゴーレムにソーサラーリングを打ち込み、地面を転がって何とか脱する。
「シン、大丈夫か?俺が回復する!」
「ロニ、すまない。こうなったら…………ストーンザッパー!」
地竜閃でダメージを与えられなかったハーピィに石飛礫をぶつけ、ロニへの攻撃を牽制し、さらに上空へと舞い上がって飛礫をぶつけたハーピィに斬りかかる。
「このっ!」
一太刀浴びせてのけぞったところで、カイルの蒼破刃がハーピィに命中する。猛攻を受け続けたハーピィは地面に叩きつけられ、そのまま絶命した。
「ヒール!」
シンの怪我の大部分が癒えた。痛みのなくなったシンは残るハーピィに斬撃3連撃を加え、さらにゼロ距離での穿風牙を叩き込んだ。
ハーピィもやられてばかりではない。シンの左腕に爪を食い込ませ、ぎりぎりと締め付ける。だが、この攻撃はハーピィの逃げ場を失わせただけだった。
「デルタレイ!」
カイルが放った光弾3発が背中に命中し、ハーピィは力尽きて地面へと落下した。シンはその間に戒めを解いて着地する。
「あとはゴーレムだけだ!気を抜くなよカイル、シン!」
ロニはカイルにヒールを唱え、怪我を回復させる。そのカイルはゴーレムの攻撃を掻い潜って抉り込むように斬り上げた。
「まだまだ!六連衝!」
ダメージが減るとはいえ、注意を自分に向けるには丁度いい方法だ。ゴーレムが自分に拳を振るおうとするのを確認し、素早くその場から離脱する。
「……アクアスパイク!」
ロニはカイルとシンが斬り込んだところから詠唱し、隙を狙えるようにためておいたアクアスパイクを放った。衝撃が激しいのか、攻撃を受けたゴーレムが崩れた。残るは1体だ。
「一気に決めるぜ!放墜鐘!」
「了解!穿風牙!」
「よし行くぞ、散葉塵!」
強烈な突きと放り投げで浮いたところを風の槍で押し込まれ、とどめに素早い三連撃を受ければさすがのゴーレムも歯が立たない。
見事な連係攻撃の末、モンスターを倒すことができた。
「やっと倒せたか。随分と時間をロスしちまったな。」
その場に座り込んだロニは、やれやれという表情で自分やカイルにヒールをかけ、ふうと溜息を一つ吐いた。
「連係がきちんと組めるってことが確認できただけでもよかったと思ってる。それに、今から急げば多分追いつけるさ。」
シンにはこの二人と連係して攻撃できる自信はなかった。だが、何とかなりそうなのでほっとしてた。出かける前にクレスタ周辺で練習しておいてよかったと思っている。
「さあ、行こう、アイグレッテへ!」
どこまでも元気なカイルの声に励まされ、ロニとシンは重い腰を上げた。
「……ロニ。あの過剰なポジティブさはどうにかならない?」
「……無理だな。」
少々頭痛がしたような気がしたが、気のせいだと思いなおし、彼はカイルの後について崖を登り始めた。
ここまでです。
今回は新しい技がないのでTIPSなし。
でも説明がくどい気がするのは何故だろう……。
あああああああああ、修正。
×「まだまだ!六連衝!」
ダメージが減るとはいえ、注意を自分に向けるには丁度いい方法だ。ゴーレムが自分に拳を振るおうとするのを確認し、素早くその場から離脱する。
○「まだまだ!六連衝!」
シンは上空から六連衝を繰り出す。ダメージが減るとはいえ、注意を自分に向けるには丁度いい方法だ。ゴーレムが自分に拳を振るおうとするのを確認し、素早くその場から離脱する。
GJ
書くペースは早かろうが遅かろうがどっちでもいいよ
完結してくれるなら
>>311 どもども。
ああ、早いとか大丈夫かとか、これはですね。
「最初の内は勢いよく書きまくるが、あとになって1話書くのに1ヶ月かかる」とかいうパターンに嵌りそうだって意味です。
何度か連載しましたけど、正直竜頭蛇尾もいいとこで、今のうちに力使い果たしたりしたらまずいという危惧なんです。
まあ、何をおいても完結だけはさせたいと思ってます。
質問です。
技名紹介のときに技の属性設定を公表すべきでしょうか。
このゲーム、実に名前と属性が一致しないことがあるので、一応、と思うのですが。
(例:絶破滅焼撃→無属性、粉塵裂破衝→無属性)
まあ、所詮設定作成厨の戯言ですけどね……。」
>>313 >(例:絶破滅焼撃→無属性、粉塵裂破衝→無属性)
これは初めて知ったな
属性を書くことが必要なら書いたらいいし、設定を作成するだけなら要らないんじゃない?
属性を知ったところで見ている側がどうこうするわけじゃないし、基本的に自由にしたらいいと思うよ。
投げやりな言い方で悪いが。
>>314 あ、どもです。
別に投げやりだとは思いませんから、ご安心を。
属性設定の書き込みは忘れないようにする、という意味もあります。
モンスターには弱点属性や得意属性が設定されていて、書く上で有利不利を演出するには必要な要素ですから。
それなら自分のメモ帳に書けばいいというところですが、メモ帳だとデータ消失の危険性があるので、消えにくい掲示板を利用する、というわけです。
非常に身勝手ですけどね。読む上でのスパイスだと思っていただくとありがたいところです。
あと、そこに上げた二つの技は無属性としていますが、正確には武器の属性です。不正確ですんません。
ではでは、投下します。
属性は一応公表することにして、今まで出した技の属性をTIPSの形で出すことにします。
4 アイグレッテ
3人はアイグレッテに到着した。アイグレッテは繁華な街で、グランド・バザールでは客・商人を問わず人の海で溢れかえっていた。
「おおおおおお、スゲー!ロニ、お祭りでもやってるのかな?」
「おのぼりさんみたいなことを言うんじゃない、カイル。」
にぎやかな街並みだ。グランド・バザールは粗末な掘っ立て小屋が並び、商人たちが笑顔を振りまいて商売している。
「今日は人参が安いよ!見てって損はないよ!」
「お母さん、あれー。」
「こら、離れないの!迷子になるでしょ!」
シンは自分の顔が少し緩むのを感じた。静かな田舎と物悲しい廃墟の街を見てきたので、少し活気がほしかったのだ。
「カイル、離れるなよ!何なら手をつなぐか?」
「子ども扱いするなよな!」
そんなやりとりにも笑みを漏らしてしまう。ロニの過保護ぶりは少々いただけないが、本当の兄弟のようなやりとりを見て、彼は昔を思い返していた。
二人から聞いたのだが、カイルとロニは血を分けた兄弟ではない。
元々デュナミス孤児院は捨て子だったルーティが育ったところだ。騒乱が収まってしばらくした後に、ルーティは経営者の老夫婦から孤児院を譲り受けた。それをスタンも手伝うようになり、やがて結婚したのだそうだ。
ロニはスタンとルーティがボロボロの孤児院を受け継いですぐに二人に引き取られた。ロニは二人を敬愛していたし、二人も実の子のように可愛がった。そんなある日、ルーティが男の子を出産する。
それがカイルであり、ルーティはカイルを孤児院に引き取った子供達と同じように扱われることになった。そして、大抵はデュナミス孤児院出身の者はデュナミス姓を名乗る。故にカイルもロニもデュナミス姓なのだ。
孤児院では年上の子が年下の子の面倒を見ることが多かった。そのため、お互いの結びつきは非常に強い。
特にロニにとっては恩人である二人の息子なのだ。守りたいという気持ちもあるし、ほんの赤ん坊の頃から世話をしてきたという親心のようなものもある。
ロニの態度はまさしく、父親の取るそれと等しいものだった。
「シン?」
どうやらぼんやりして立ち止まっていたらしい。カイルが目の前に立っている。
「ああ、ちょっと……な。すまん、奥に行こうか。」
彼は石畳を白いブーツで踏みしめながら歩く。活気があるのはいいが、人ごみが激しく、真っ直ぐ進めない。
「う……苦しくなってきた……。」
「うん、何か……息苦しい……。」
「人ごみに慣れてないから、息しにくいだろ。まあ、そのうち慣れるって。」
彼は、体のあちこちが圧迫されているせいだと思ったが、実は酸素濃度が低下していたのだ。確かにぼんやりするこの感覚は、酸欠状態を示している。
何とか人の海を掻き分け、ストレイライズ大神殿正門の前までたどり着いた。この周辺にはグランド・バザールのような人ごみはないが、参拝客がそこここに見られる。
周辺には参拝客のための宿泊施設やレストラン、そして生活用品を売る店などが並んでいる。
「なんつーか、ここに来るのも久しぶりだな。」
そういえばロニはアタモニ神団の騎士だったと聞いている。何でも、嫌気が差して辞めようと思っていた、と聞いているが、その理由までは聞いていない。
「ロニ、そういえばなんでアタモニ神団抜ける気だったんだ?別に生活が苦しいわけでもなさそうなのに。」
「ああ……俺は元々人を守るために騎士になったんだ。ところがアタモニの連中は神団関係者しか守ろうとしねえ。最近はエルレインとかいう女が神団に入ってな。」
「……エルレイン?」
どこかで聞いたような気がする。だが、それは気のせいだろうと思い、ロニの話を聞くことにした。
「エルレインが来てから変わっちまった。エルレインには奇跡を起こす力があるらしい。そいつを売り物にして信者を増やしてるらしい。それだけならいいさ。けどな……。」
ロニの表情が目に見えて曇りだした。遣る瀬無さが感じられる。
「エルレインはレンズを集めてる。『人々を幸せにするためだ』ってな。けど、レンズを持ってきたやつに特別奇跡を与えてるんだ。平等にって精神が失われちまってる。」
「思いっきり免罪符だな。対価を払って加護をって発想は、腐りきってると思うぜ、俺も。」
「それによお、アタモニのとこの女ってやつは何度も何度も花を送ろうがデートに誘おうが、アタモニアタモニって……こんないい男が側にいるってのに見向きもしねえんだよ……くぅぅ……。」
「……………………。」
真面目に免罪符の話を持ち出したシンだったが、ロニの後半の言葉に呆れた。女にもてなかった方が理由ではないかと、少し疑った。
それにしても、ロニの女好きには頭痛がする。カイルと離れた隙にナンパしていたほどだ。
「しかし、エルレイン……やっぱり気になる。」
気のせいだと思った。思いたかった。だが、心の奥底にある何かがそれを否定する。お前は知っているはずだ、と。
「……誰なんだ?」
軽く頭を振り、シンは神殿の正門を見た。十分に荘厳な彫刻が施されているが、まだ石材や木材をつぎ込み、職人達がせっせと組み上げている。その隣では別の職人がレリーフを刻んでいた。
「どこまで増築するんだ?信者の寄進が増えたからなんだろうけど……。」
それにしてもやりすぎではないのか。彼はそう思う。信者の精神的な負担を減らすのが宗教の役割であり、自らを神の使途のように見せかけるのは本来の目的から乖離しているものだろう。
妙に煌びやかな衣を纏うことも、華美な装飾を施した神殿も必要ない。必要なのは心であって、外観ではないのだ。宗教の概念が失われた世界に暮らしていたとはいえ、それくらいは感じている。
「宗教関連はともかく……芸術には疎いからな……よくわからないな。」
シンは未だ建築中の門を、そう評した。と、彼はここで何か引っかかりを覚えた。
「あれ、俺ってこんな人間だったっけ……?」
モビルスーツの操縦やらゲームに関する知識は問題ないのだが、宗教だの歴史だのと勉強した覚えはない。学校で習ったきりだ。
学校で聞いた内容だとしても、モビルスーツなどの知識と比してそれほど興味もなかったはずだから、あっさり思い出せるのが気にかかる。
「何か、さっきから自分に違和感がありすぎる。どうなってるんだ?」
だが、そのことについて真面目に考える前に、周囲の人間の騒ぐ声が耳に飛び込んできた。
「聖女エルレイン様だ!エルレイン様がいらしたぞ!」
「本当か!?是非に奇跡を目にしたいものだ!」
「地方を行脚していたって聞いたけど、帰ってこられたのか!」
エルレインの名を聞き、シンは見ておくべきだろうと思った。ロニが嫌な顔をするだろうと思うと気がひけたのだが。
「聖女!?なあ、ロニ、今から何が始まるんだろ?見に行こうぜ!」
「こっ、こらカイル!引っ張るんじゃない!」
今回ばかりはカイルに感謝しつつ、シンは大神殿正門前広場に足を運んだ。
凄まじい人だかりだ。グランド・バザールの混み具合よりも酷い。どこからこんなに人間が集まるんだ、とシンは突っ込みを入れたくなった。
ただ、タイミングが早かったせいか、3人とも最前列に並ぶことができた。間近でエルレインを見ることができそうだ。
「さてと、どういう奇跡を見せてくれるんだろうな……?」
「シン……聖女の奇跡は最早見世物扱いか?」
「あれよりはマシじゃないか?」
シンが指差した先にはカイルがいた。見ていて目が痛くなるほどはしゃいでいる。
「うわーっ、すっげー人だかり!どんなことが起きるんだろ。俺、わくわくしてきた!」
「…………シン、あれは別格だ。」
「……すまない、比較対象を間違えた。反省するよ……。」
カイルもシンも年齢は16と変わらない。それなのに、身長でも精神年齢でも明らかにシンの方が勝っている。
かつて生活していたプラントの平均身長は170センチ前後であり、シンは168センチと少し低めだ。この世界の平均身長はわからないが、カイルは160センチしかない。実に小柄だ。
ロニの話を聞くと、カイルの父親のスタンは172センチとそれなりに背が高かった。ルーティは157センチでやや小柄というところだろう。
どうやら、カイルは母方の身長が遺伝したらしい。ロニによると、ルーティには弟が一人いたらしいが、その弟も小柄だったとのことだ。身長についてはカイルも気にしているので、触らない方がいい。
「背が低いから余計に子供っぽく見えるんだが……俺も結構精神年齢低いと思うんだけどな。」
「シンよ、二度も言わすな。カイルは別格だ……。」
「…………。そうだった。」
何というか、馬鹿馬鹿しい会話だ。だが、その会話で落ち着く自分がいる。ここまで楽しく会話できる相手が今までいなかったのだから、ある意味当然だろう。
群衆のざわめきが大きくなった。エルレインが広場まで来たのだ。シンは少しだけ背伸びし、その姿を見ようとした。
「ん?見覚えがあるような気がするな。」
彼が目にしたのは、供を2人引き連れている落ち着いた大人の女性だ。茶色の長い三つ編みで一本に纏め上げ、それをほとんど地面に付きそうなくらいまで髪を伸ばしている。
着衣は思ったより派手さはないが、聖職者を示すアンクベレットとゆったりした白い聖衣は、それだけで彼女が聖なる存在であるように見せている。
しかし、何よりシンが反応したのは、彼女の首にかけられたペンダントだ。カイルが追っている少女もだが、エルレインもほぼ自分のブレスレットと同じ形状のペンダントをしている。
そう思った次の瞬間、ブレスレットから熱を感じた。エルレインが近づくにつれて、帯びる熱は強くなっていく。
「エルレインに反応しているのか?」
彼女は一瞬シンを見たようだったが、そのまま笑顔で彼の前を通り過ぎた。エルレインは広場の中央に着くと、軽く右腕を掲げた。
「この場に集う人々に救済を……。」
掲げた掌から零れるような光が溢れ、周囲に飛び散った。それを浴びると、何とも言えない幸福な気分になる。
だが、エルレインの力はそんなものではなかった。
「あ、あれ?目が……目が見える!」
「足が…………僕、歩けるようになったよ!」
「おお……長年苦しめられてきた病が……消えたぞ!」
人の手ではどうにもならない患い、苦しみ。それが彼女の手にかかればあっさりと消えてしまう。確かに奇跡とはよく言ったものだ。
「エルレインの力はあんなもんじゃねえ。噂じゃもっとすごいことができるって話だ。」
「あれ以上なのか、なかなかすごいもんだな。」
まだ発熱が続いている。関わりがあるのは確かだが、如何なるものかがわからない。
待てよ、とシンは思う。規模が違うにせよ、「望みをかなえる」という点においてはシンのブレスレットの力もエルレインの奇跡も変わらない。おまけにブレスレットとペンダントのデザインも同じと来ている。
力の源はおそらく同じものだろう。だとするなら、何故自分にこんな力があるのか。何故自分が使えるのか。その説明がつかない。
不意に、彼の頬が大気の揺れを感知した。カイルがエルレインに食ってかかろうと飛び出したからだ。
「そのペンダントを返せ!それはあの子のだ!」
どうやら、エルレインのペンダントをあの少女のものと勘違いしているらしい。ただ似ているだけかもしれないというのに。
「えっ?」
さすがのエルレインも少し怪訝な顔つきになった。それを見て取ったロニはカイルを捕まえ、謝罪した。
「すみません、こいつ田舎から出てきたばっかりで、礼を知りませんで……。知ってる子が似たようなペンダントをってたんでつい……。」
シンもカイルの右腕を掴み、一緒になって謝罪する。
「ああ……そうです。似たペンダント持ってました。だから、その、勘違いしてしまったみたいで。どうもすみません。」
まずい、とシンは感じた。これだけ大勢の群衆の中でエルレインに喧嘩を売ったも同然の状況だ。このままだと間違いなく信者に襲われる。
だが、エルレインの反応は柔らかなものだった。
「ああ、そういうことですか。はじめに断っておきますが、このペンダントは私のものです。ここにいる教団関係者が証明してくれるでしょう。」
「あ……ごめんなさい。」
いくら過剰なポジティブ思考で、我が道をどこまでも突き進むようなカイルでも、これはまずいと思ったらしい。エルレインはあくまで柔らかい応対をする。
「いいのですよ。それだけ必死だったのでしょう?もし私があなたの知っている子から奪っていたとしたら、私から奪い返すつもりだったのですね?」
「いや、その……。」
「あなたは優しいのですね。あなたのような優しい者にこそ、神の加護が得られるべきです。あなたの名前は?」
「……カイル・デュナミスと言います。」
「そう、カイル。覚えておきましょう。」
エルレインはゆったりとした歩調でストレイライズ大神殿に戻っていった。それを見届けた群衆は解散していく。グランド・バザールに戻る者、ホテルに向かう者、様々だ。
「ふぃー、肝を冷やしたぜ。お前、あんなところで飛び出すか、普通。無茶しやがって。」
ロニの説教を、カイルは聞いていなかった。
「エルレインって人……あの子に似てたね。」
「ああ?冷や冷やしてて顔なんかまともに見てなかったぜ。」
シンはカイルの言葉を聞き、考えてみた。確かに似ている。顔立ちというより、その雰囲気や周囲に醸し出される空間の種類がだ。
「似てた……って表現にも問題はあるけど、似ているといえば似ているかもしれないな。とりあえず、ロニ。宿に泊まろう。今後についてはその後にしよう。」
ロニは黒髪赤目の少年の言を受け入れることにした。確かに休息が必要だ。特にロニには。
「誰かさんのお陰でどっと疲れが出ちまったぜ。そうだな、宿に行こうか。」
3人は連れ立って宿に向かうことにした。
アイグレッテの宿はかなり規模が大きく、値段も高い。聖地巡礼を行う利用客層を考えると当然とも言えるが、財布の中身がどれだけ減るかを考えると溜息が出る。
「そういえば3人でいいのかね?連れの子は一緒じゃないのかい?」
宿の主人にそう言われ、3人は揃って首を傾げた。
「連れの子?誰のことだろ?」
「ほら、エルレイン様と同じペンダントを持った女の子だよ。あんたたちの知り合いじゃないのかい?」
それを聞いたカイルが身を乗り出し、宿の主人に問う。
「えっ、その子がどこに行ったかわかる?」
「なんだい、待ち合わせしてないのかい?あの子ならストレイライズ大神殿に向かったよ?」
カイルは聞き終わらないうちに宿を飛び出し、神殿のほうに駆け出していった。
「あっ、こらカイル!」
「あ、すみません!また後で来ます!」
ロニも慌てて飛び出した。シンは宿の主人に頭を下げながら駆け出す。
カイルは神殿正門で足止めを食っていた。
「駄目だ駄目だ、今日は礼拝の日ではない。とっとと帰らんか。」
「でも、女の子が一人、この中に入っていったって話を聞いたんです。通してください!」
「何度言ったらわかるんだ、そんな人間は見ておらん!さっさと帰れ!」
あっさり護衛兵に追い返され、カイルはとぼとぼと戻ってきた。そして、彼は状況についてロニとシンに説明する。
「来てない?どういうことだ?」
「わからないよ、そんなこと。でも、宿の人が嘘を言っているようにも見えなかったし。」
「どうなってんだかわかんねえが、あの子の目的を考えるとストレイライズ大神殿の中にいるのは間違いなさそうだな。」
「でも、どうやって入るんだ?正門からはまず入れないよ。」
「飛んでもいいけど、絶対目立つからなあ。俺は今回役に立ちそうにないな。」
シンの飛行能力を使おう、と言いかけたカイルの機先を制した。疲れるというのも理由の一つだが、やはり目立ってはまずい。ただでさえ、エルレインとの一件で目立ってしまったからだ。
「待てよ、確か抜け道があるって聞いたことがあるぞ。町外れの遺跡からって話だが……。」
ロニがそう言うと、カイルは思い切り元気な声で言った。
「よし、じゃ、その抜け道を探そう!」
抜け道はあっさり見つかった。かつては石畳が敷き詰められていたのだろうが、今では朽ち果てており、蜘蛛の巣や床の窪みなどが目立つ。
「随分と埃っぽいな。管理されてないだろ、この遺跡……。」
シンはプラントで生活していたため、清浄な空気に慣れている。コーディネイター故に咳き込むことはあまりないが、この手の埃っぽい空気は好きになれない。苦手なものは苦手だ。
「この遺跡の存在を知っているのは教団関係者でも一部の人間だけさ。大神殿の一部なんだろうが、ほとんど忘れられてるからな。」
ほぼ一本道だったので、あっさりと敷地内に出た。信者から多額のお布施を受け取っているのだから、これほど無用心なことはないのだが。外部の人間に知られていないのが救いだろう。
「さてと、まずどこから探すか……。」
ゲリラ戦の要領で、シンはあたりを警戒しながらストレイライズ大神殿の敷地に足を踏み入れた。かなりの敷地面積だ。特定の人物を探すのは難しい。
とはいえ、ここの聖職者達の服装はわかっている。おそらく、聖職者の着替えを入手するのは難しいだろう。明らかに浮いた人間を探せばいい。
「うわーっ、でっかい建物だなー。あっ、あっちには石像が……ぐむぅ……。」
ロニがカイルの口を押さえ、声を殺しながらカイルを窘める。
「こらカイル!でかい声を出すな!俺たちは不法侵入者なんだぞ!」
「むぐぅ……むぐっぐぐぐむぐむぐむぐぐ……。むぐぐーぐぐ……。」
どうやら「わかったから離してくれよ、苦しいだろ。」と言っているらしい。ロニはゆっくりとカイルの口から手を離した。
「……っぷはぁ、ああ、びっくりした。」
「それはこっちの台詞だ、バカカイル。こっそり侵入してるってことを忘れるんじゃない。」
シンは耳を澄ませ、どこかで会話がないかを探っている。コーディネイターというのは便利なものだ。このあたりも常人よりも強化されている。
「あっちの大きな白い建物……多分礼拝堂から声がする。様子を窺ってみよう。」
その礼拝堂では、カイルが追っている少女の姿があった。彼女はある人物と対面し、対話している。
その相手こそ四英雄が一人、フィリア・フィリスだ。鮮やかな緑色の髪を二房の三つ編みにし、後ろで垂らしている。
聖衣はエルレインのものよりも簡素で落ち着いたものだ。ただ、その白さはエルレインのものと変わらない。
視力が弱いのか眼鏡をかけており、混じりけのない水晶を磨いて作ったと思われる眼鏡用のレンズは、かなり高価なものだろう。
「私は英雄を探しているんです。それも、とても強い力を持った……教えてください、フィリアさん。どうすれば英雄に出会えるのですか?」
不思議な雰囲気を持つ少女は必死な様子でフィリアに尋ねる。フィリアは心の底からの優しげな眼差しで、彼女に問いかけた。
「その前に……リアラさん、と仰いましたね。何故あなたは英雄を求めるのです?」
リアラと呼ばれた少女は続ける。
「英雄には強い力があります。それは歴史すら変えてしまうような……。私は彼らの力の源が何なのか知りたいんです。そして、私もそんな力が……ほしいんです。」
「力を求めるのは悪いことではありません。ですが、何のために求めるのです?」
フィリアに理由を尋ねられたリアラはどもってしまう。言いたくない。言えるわけがない。そんな口調だ。
「それは……ごめんなさい、どうしても言えません……。」
「では…………。」
フィリアが何か言おうとしたそのとき、フィリアは背後の空間が歪むのを感じた。振り返ると渦巻く闇が徐々に人の形を成していくことがわかった。
その男は何もかもが大きかった。手にした斧、身長、鍛え抜かれた筋肉質の体躯。青くウェーブがかった髪を伸ばし放題にし、それを後ろに放り投げている。───垂らすというイメージは、どうしても生ぬるく感じる。
「お前が四英雄が一人……フィリア・フィリスだな?」
ドスの利いた、野太い声だ。それだけで彼が有する凶暴さが剥き出しになっている。
「あ……あなたは?!」
「死に逝く者に名乗っても無駄だ……砕けろ!」
その巨躯からは想像もつかないほどのスピードでフィリアに接近し、斧で殴りつけるようにフィリアを袈裟懸けに切り裂いた。
「きゃあああああああっ!フィリアさん!」
わずかに彼女が身をよじったために、何とか即死だけは免れたが、放置すれば間違いなく死ぬ。
「ぬるい……。これが英雄と呼ばれた者なのか。この俺を満たす強者はいないのか……!」
彼の視界の端で、リアラが治癒の晶術を使うのを見て、この狂戦士はリアラをも切り裂こうと斧を構える。
「貴様……俺の邪魔をするか!」
その刹那、礼拝堂の扉が開け放たれた。様子を窺っていたカイル、ロニ、シンがなだれ込み、狂戦士を取り囲む。
「そこまでだ!ここからは未来の英雄、カイル・デュナミスが相手だ!」
狂戦士は血走った目をカイルに向け、咆哮した。叫ぶというレベルを超えている。
「ふっはっはっはっはっはっ……小僧、思いあがるなよ。この俺の前で英雄と口にしたことを……あの世で後悔するがいい!」
シンは肌で知覚していた。間違いなく、勝てる相手ではない。だが、怪我人がいる。しかも、今は戦いとは関係のない人間を本気で殺そうとした。
「逃げるわけにはいかない……!」
彼はフォース形態を取り、二人の援護のためにと宙を舞った。夕方のストレイライズ大神殿を舞台にした混迷を極める戦闘が、今幕を開ける。
TIPS
鏡影剣:キョウエイケン 闇
穿風牙:センプウガ 風
地竜閃:チリュウセン 地
火炎斬:カエンザン 火
六連衝:リクレンショウ 武器依存
ここまでです。
何となく中途半端な気もしますが、そこは気にしないことにして。
戦闘シーンは長くなる上に疲れるので、次回に回させてください。
GJ
次回も期待してる
>>326 どもですー。
ああ、戦闘描写に関しては定評があるんですが、正直今回は自信ないです。
何しろこのバルバトス戦は序盤最大の山場ですからね。
理不尽なカウンターや、戦闘システムの特徴を生かした戦闘を描くのはなかなか難しいです。
しかも、シンが参加していて、尚且つシンが荷物にもならず、バルバトスが雑魚にもならず、加減して書かなければなりません。
多分、今度はほぼ戦闘だけで話が終わりそうな悪寒。D2はどっちかというとコミカルな調子が売りだと思うんですが、こればっかりはね……。
期待してくれる方もいらっしゃいますし、頑張ります。
……でも今何人このスレを見てるんだろう……。
とりあえず俺で一人かな。
自信なくても俺は気にしない。がんばってくれ。
俺も見てる。次回も期待してる
久々に覗いて一気に見終わった俺参上
超期待してる
おお、結構見てる人いますねー。こりゃ頑張らないと。
というわけで投下します。なかなかしんどいよ、パトラッシュ……。
5 狂戦士バルバトス・ゲーティア
「ぶるあああああああああああああああ!」
狂戦士の雄叫びが礼拝堂一杯に広がり、反射して共鳴する。強烈な裂帛と共に放たれた斧の一撃は衝撃波を巻き起こし、カイルたちを打ちのめた。
「ぐっ……なんてやつだ!」
「カイル、俺が空中から援護する!俺が攻撃したら突っ込め!」
シンは穿風牙を放ち、さらに間合いを詰めた。だが、自分で言ったように武器同士での戦いは上にいる者の方が不利になる。
危うく脚を斬られそうになり、一時弧を描いて穿風牙をものともしなかった狂戦士から離れた。その次の瞬間。
「男に後退の二文字はねええええええい!絶望のぉぅ、シリングフォール!」
突如として崩落してきた天井がシン目掛けて降ってくる。空中で体を捻っても無駄だ。自分が有する推進力だけが頼りである。
「うおっ!危ないな!」
何とか体勢を立て直し、今度は床すれすれを飛行しながら突撃する。だが、接地していないことには変わりない。狂戦士の斧の一撃をサーベルで受けたが、そのまま弾き飛ばされ、礼拝堂の長椅子に激突した。
「ぐぅ……。」
シンが攻撃を受けている隙を狙い、カイルが狂戦士の背後に回り、斬りかかろうとした。だが、それも無駄だった。
「俺の背後に立つんじゃねええええええええええええい!」
カイルは胸倉を掴まれ、力の限り放り投げられた。カイルの体重は55kgで、このむくつけき狂戦士よりも遥かに軽い。彼も離れた床に叩き付けられる。
「こんなものか?ならばこちらから行くぞ!破滅のグランバニッシュ!」
床が崩壊し、カイル、シン、ロニがまとめて地のエネルギーの海に叩き込まれる。その恐るべき破壊力は、礼拝堂の長椅子の大部分を崩壊させた。
「まっ……マジでやべえぞ、こいつ!」
ロニは比較的軽傷だが、残る二人はそうもいかない。ロニはハルバードを構え、大斧を携える狂戦士に斬りかかる。
「でりゃっ!」
斧と斧が激しくぶつかり合い、耳障りな金属の擦れ合う音が響く。鍔迫り合いだ。だが、180センチはある長身のロニよりもさらに高く、体重も勝る狂戦士にロニは押されている。
「ぶぅぅぅぅぅああああああああ……。」
ロニの脳裏に、あることが蘇った。それはカイルには絶対に話してはならない。
血を流して倒れ伏す慣れ親しんだ者の姿、血塗られた斧、巨躯の男、狂気に満ちた血走った目。
「あのとき」の男に酷似していた。だが、もう十数年も経っているのに全く同じ姿だ。
そんな考えを巡らせていたせいか、ハルバードを握る彼の手の力が抜けた。それを見逃すほどこの狂戦士は甘くない。
「虫けらがあああああああああ!」
ロニの手からハルバードが弾き飛ばされた。さらに即死級の一撃をロニに叩き込もうと斧を振りかざした狂戦士だったが、今度はシンが離れた位置から地竜閃を放ち、狂戦士の対応を鈍らせる。
「ロニ、カイルの回復を頼む!」
「シンは大丈夫なのか?」
「何とか!」
シンは駆け出しながら穿風牙を放った。狂戦士が風の槍を斧で叩き落したところを確認すると、一気に間合いを詰めて斬りかかる。
「でやあああああああああああ!」
しかし、この狂戦士のパワーは桁外れだ。斬りかかったはいいが右手のサーベルを斧で叩き折ってしまったのだ。
「なっ……!」
再び狂戦士の一撃が降って来る。左手のサーベルで受け止めようとしたが、これも折れてしまうかもしれない。せめて盾があれば、と思った矢先、シンは奇妙な感覚を覚えた。
折れたはずの右手のサーベルが戻っている。同時に、左手のサーベルが中央に尖った十字が描かれた、赤い縁取りの黒いヒーターシールド(腕部固定型騎乗用盾)に変わっていた。
「よし、これなら!」
よくわからないが、防御できるというのは心強い。斧の一閃を受け止め、さらに反撃しようとした。だが、狂戦士の猛攻が激しく、盾を頼みに何とか持ちこたえることしかできない。
しかも、それに乗じて狂戦士は追い撃ちをかけてくる。
「縮こまってんじゃねえええええい!灼熱のぉぅ、バーンストライク!」
強烈な火炎弾が炸裂する。構えた盾でバーンストライクを受け止めた。が、狂戦士の猛攻によって脆くなっていたのか、すぐに崩壊してしまい、直撃を受ける。
「ぐあああああっ、まずい!」
さすがに大ダメージだ。已む無くシンは後退する。シリングフォールも漏れなく付いてきたが、それは何とか回避した。
その間にロニがカイルの回復を終え、シンの回復に移る。今度はカイルが狂戦士に挑む。
「でえやあっ!空翔斬!」
素早く斬りつけ、さらに飛び上がって体重をかけて斬りにかかる。だが、やはりこの程度の攻撃では狂戦士には通じない。
狂戦士の血走った目がさらに狂気の色を濃くした。奥義が一つ、三連殺を使おうとしている。
「カイル、離れろ!」
シンが体勢を立て直し、狂戦士に向かおうとしたが、遅かった。
「死ぬかぁ!」
狂戦士が炎の波を纏った斧で大きく斬りつける。カイルは直撃だけは避けたが、ダメージは決して小さいものではない。
「消えるかぁ!」
上昇気流を伴う斧のカチ上げを食らい、カイルの体が宙に浮いた。狂戦士はさらに追撃をかける。
「土下座してでも生き延びるのかぁ!」
浮いたカイルの体を掴んで、膝で蹴り付け地面に叩きつけた。その衝撃で床の一部が割れて破片が飛び散る。
「うっ……。」
カイルはぴくりとも動かない。死んではいないようだが、ダメージが濃いために気絶している。
「カイル!」
シンはロニから受け取ったライフボトルを取り出した。こういう状況で使うものだということらしい。
栓を抜き、カイル目掛けて投げ付ける。ライフボトルの液体を浴びたカイルは、虚ろになる目を瞬かせ、素早く離脱した。
だが、この行動こそが狂戦士にとって一番の癇の障りどころだったらしい。
「アイテムなぞ……。」
いきなりシンにシャドウエッジが炸裂した。刺されても外傷はできないが、ダメージを受けることに変わりはない。
さらに狂戦士は続けて追加晶術を放つ。
「使ってんじゃねええええええええええええええええい!」
炸裂したシャドウエッジが哭きながら黒き十字架へと姿を変えていく。ブラッディクロスだ。
四方に闇が飛び散ったその形は正しく十字架であり、シンは空中で磔にされたも同然だ。
「っぅぐはあっ!」
磔刑台から引き摺り下ろされ、床に体が叩き付けられた。全身が猛烈に痛む。
「ま、まさかこいつ……。」
シンは気付いた。この狂戦士は優先順位はともかく、シンが有している属性と全く同じだ。
属性は性格と大きな関わりがある。火なら熱くなりやすい性格で、水なら冷静な性格、という具合だ。
似たような属性を有していると性格は似てくる。まさか自分もこうなるのでないか、という不安がシンの胸を過ぎる。
だが、それ以前に勝たねばならない。深く考えるのは後回しだ。
「本気でまずいぞ、これは……。このままじゃ……もっと俺に、強い力があれば……。」
ふらつきながら立ち上がったシンは、再び両手にサーベルを構え、狂戦士に向かっていく。
「もうお終いか。耐えぬ方が身のためだぞ?」
「まだまだあああ、でやあああああああ!」
シンは狂戦士に六連衝を放った。それは全て斧に弾かれ、この巨躯の男には届かない。
「ぐっ、まだだっ、三連追衝!」
飛翔しながら一発、降り立って一発、下から抉り込むように一発突きを放った。一発ずつの間隔は異様に短い。
浮遊力をフル加速させたり、逆向きに発生させたりすることで徹底して連撃を途切れさせないようにする。それが六連衝の追加特技、三連追衝なのだ。
この攻撃はさしもの狂戦士も防ぎきれなかったらしい。かすり傷とはいえ、傷つけることには成功した。
「ほほう、やるな。だがこれまでだ。砕けろ!」
斧が強烈な衝撃波を生み出した。ターゲットはシンだ。だが、避けられない。丁度背後に傷を手当てしているリアラと、未だ目が覚めないフィリアがいるのだ。
「耐えてくれ、俺の盾!」
シンは左手のサーベルをシールドに変化させ、衝撃波を防ぎきった。その隙を狙って突撃してくる狂戦士に、シンは火炎斬を叩き込んだ。
狂戦士に炎は届かなかったが、火の粉は飛んだらしく、少し後ずさりしたようだ。
「カイル、頼む!」
「わかった!」
カイルは素早く散葉塵を使って狂戦士に斬り込み、さらに追加特技の散葉枯葉を使った。さらなる素早い連撃を繰り出し、狂戦士を翻弄する。
自分が軽い場合、下から攻撃すると効果的だ。多少狂戦士の体が泳いだようだ。
「今度は俺が行く!ロニ、忙しいだろうけど頼む!」
ロニは先程から詠唱を続けている。2人ともやたら怪我をするので、とにかく忙しいのだ。
「わかってるって。あんま怪我すんじゃねえぞ!」
「無茶言うな!」
だが、実際問題全員の精神力を使い果たす事態は避けたい。ロニは唯一の回復要員であり、カイルは一番の攻撃要員だ。
そして、シンは唯一空中からの支援ができる攻撃要員であり、全員、全く替えが利かない。無茶でも何でもやる他ない。
「……ここでやられてたまるか、俺は生き延びてやる!」
シンがそう叫んだ瞬間、両手に持ったサーベルがV字の鍔と鍔の先端に4つの輪の飾りがついた大剣、クレイモアに変化した。
同時に、彼は自分の皮膚が頑丈になるのを感じ取り、さらに全身に溢れるような力が宿っていく。ブレスレットの結晶体にはZGMF−X56S/βという文字が浮かんでいる。
「ソード形態か!いくらかあいつの攻撃を受け止められるか……!」
先程までの俊敏さはない。だが、漲る力を剣に伝え、そのまま振るうと剣を斧で受け止めた狂戦士の体が振動したように見えた。
「何ぃ……この力は何だ!?」
「俺の望む力だ!」
シンは全身を捻り、力任せにクレイモアを振りかざした。狂戦士は斧で弾いて攻撃をかわす。
「そうだ、この感覚だ!この俺を楽しませてくれるとはありがたい限りだ!ぶるあああああああああああああああああ!」
剣を弾かれたためにシンの体勢が崩れ、一瞬の隙を見せる。狂戦士はその隙を逃さず、斧を振るった。それでもシンは何とか反応し、鋭いバックステップを踏んで斧自体の攻撃は避けた。
だが、衝撃波までは避けられない。シンの体に衝撃波が炸裂し、吹き飛ばされる。そう、吹き飛ばされると思った。だが、シンはダメージがないわけではないが、その場で踏みとどまり、狂戦士に反撃の一太刀を浴びせていた。
「俺の攻撃を受けても踏みとどまるだと?さっきは簡単に飛んでたのにな……。面白い!」
フォース形態が風を強調した形態なら、ソード形態は地を強調した形態だ。攻守両面でインパクトの瞬間に自重を増やすことで、攻撃を受けたときにはのけぞらず、攻撃を放つときには重量のある攻撃を行える。
さらには防御能力の向上もそれに伴うものだ。溢れる力も同じ理屈で、持ち上げるときにかかる重量を減らし、振り下ろす瞬間に元に戻している。
動きこそ鈍くなるが、最前衛で戦うには申し分のない能力だ。しかし、彼はそれだけではない。ここからがシンの力の見せ所だ。
「いくぜ!」
シンはフォース形態に戻り、空中に舞い上がる。その状態で穿風牙を放ち、さらに狂戦士に接近する。
「そんな子供だましが通じると思っているのか!」
狂戦士は穿風牙を回避するまでもなく斧で叩き落して止めた。だが、その選択が間違いだった。シンは空中でソード形態に入れ替え、左手のクレイモア放り出して右手のものを両手で大上段に構えて振り下ろした。
「そんなものが……ぐふぅ!」
ソード形態では重量が変化する。重量とは重力加速度9.81m毎秒毎秒前後を基準に測定した質量であり、物体にかかっている重力の強さを示す値だ。この重力加速度が変化すると重量も変化する。
つまり、ソード形態はシンの体や武器にかかる重力を操作しているのだ。剣を振り下ろした瞬間、シンにかかる重力が増大する。つまり、落下スピードが通常より速くなってしまうのだ。
落下速度は余程空気抵抗が変化しない限り変化しないのだから、普段のタイミングと一致しない。故に、狂戦士にダメージを与えられたのだ。
「どうだ!」
「俺に正面から傷をつけたことは評価しよう。だが、ここまでだあああああああああ!」
狂戦士の斧が唸りを上げた。シンはクレイモアを構えて受け止めた。インパクトの瞬間に重量を増加させたというのに、それを物ともせずにシンの体を礼拝堂の壁に叩きつけた。
「そんな……!こうなったら……カイル!俺の後ろから突っ込め!ロニも頼む!」
シンはフォース形態をとり、飛行する。ただ飛行しているのではない。頭が下に、足が上という体勢だ。
「空中で逆立ちだと?奇を衒ったつもりか!」
別に奇を衒ったわけではない。武器戦闘における上下の優劣関係を消すための行動だ。上にいると足を狙われやすいが、どちらも同じ位置しか狙えない。結果として、飛行能力を生かそうと思うとこの方法しかないのだ。
「でえやあああああああああ!」
シンはサーベルを振るい、狂戦士の斧とぶつかり合う。だが、この形態では弾き飛ばされてしまう。だが、それも彼の狙いのうちだった。
「鏡影剣!」
飛ばされる瞬間を狙い、シンは狂戦士の影をサーベルで射抜いた。逆さ向きの方が影を狙いやすいのだ。狂戦士の動きが一瞬停止する。
「ぬうっ!?」
「今だ!カイル、ロニ!」
「任せろ!」
ロニのハルバードが唸りを上げ、狂戦士の体を叩きのめし、双打鐘で衝撃を加えていく。さらにロニの後ろからカイルが飛び出した。
「爆炎剣!燃えろ!」
振り下ろした剣が床に到達すると同時に狂戦士の足元から火が吹いた。さらに爆炎連焼を使い、炎を纏った剣で狂戦士を一閃する。
「こいつら……。」
どっと狂戦士の体が折れ曲がり、片膝をついた。
「やったか?」
カイルは一度バックステップを踏み、狂戦士から離れる。だが、その瞬間狂戦士の目がぎらりと殺意を剥き出しにした。
「なるほど、礼を失したようだ。ならば本気を出してやろう!」
「カイル、離れろ!」
ロニの声が届く前に、狂戦士の斧がカイルを襲っていた。何とかカイルはその一撃を避けたものの、剣を弾き飛ばされてしまった。
「残念だったな、くっくっくっくっ……ぶぅっはっはっはっはっはっはっ!」
狂戦士が斧を構えたその瞬間、礼拝堂の入り口から何物かが侵入した。さらに、その人物は短剣を投げ付け、それを狂戦士の脇腹にクリーンヒットさせる。
「ぬぐぅ!?何者!」
「カイル、受け取れ!」
カイルが弾き飛ばされた剣を、その仮面を被った少年、ジューダスがカイルに投げて寄越した。間髪いれず、カイルは剣を手にし、狂戦士に一太刀浴びせた。
「やああああああ!」
「ぐはぁ!」
まだまだ力を隠している様子だが、これ以上は戦うつもりはないらしい。狂戦士は脇腹に刺さったままの短剣を放り投げ、自らの周囲に闇を生み出しながら咆哮した。
「強いなあ、カイル・デュナミスよ。俺の名はバルバトス・ゲーティア。今度会うときは……もっとこの俺を楽しませてくれよ……ふぅっはっはっはっはっはっは……!」
狂戦士バルバトス・ゲーティアは高笑いしながら闇に包まれ、そしてその場から消えた。
「……ふう。」
生身での戦いに余り慣れていないシンだ。極度のプレッシャーからか、その場にへたり込んでしまった。カイルは剣を鞘に収め、リアラとフィリアの様子を見に行ったらしい。
ロニもシンと似たり寄ったりの状況らしい。この礼拝堂でまともに立っていられるのはジューダスくらいのものだろう。
「シン、ロニ、ジューダス!フィリアさんは無事みたいだ!」
ジューダスの表情が仮面の奥でぴくりと動いた気がしたが、シンはそれが何なのかはわからなかった。
「フィリアさんの怪我は君が治してくれたんだよね?ありがとう。」
「あ……うん、ありがとう。」
リアラはカイルの眩しい表情を見て、少しだけ顔を綻ばせた。
「とりあえず、フィリアさんをフィリアさんの部屋に運ぼう。この子一人じゃ連れてけないからな、全員で協力しよう。」
ロニの言葉の同意したシンは、適当な棒と布を探してきて、簡単な担架を作り、それにフィリアの体を載せた。傷口は塞がり、呼吸も安定しているらしい。
「まずは目を覚ますまで待たないとな。」
それにしても、とシンは思う。何故フィリアを襲ったのだろうか。あの様子だと殺すこと自体が目的らしく、金目当てというわけでもなさそうだ。
しかも、あの剥き出しの憎悪と殺意は尋常ではなかった。フィリアの方にも見覚えがなさそうだから、彼女への復讐にも見えない。
「あの様子だとまた俺たちと戦いそうだな。今度問いただしてやる。」
そのときには苦戦などするものか、とシンは胸に秘め、眠り続けるフィリアの意識が戻るのを待っていた。
TIPS
三連追衝:サンレンツイショウ 武器依存
ここまでです。次はどこまで進めるかわかりませんし、再来週には学校も始まるのでほいほいと投下できなくなりますが。
頑張りますんでよろしく。
GJ
自分のペースでがんばってくれ
>>339 どもー。
マイペースは前に連載したときから変わってませんw
D2は意外と量が多いので(それでも趣味で多少水増ししますが)、書くのには手間も時間もかかりますから。
そう言ってもらえると気楽な限りです。
では、前振り。新たな仲間を加えたカイル一行。その前に立ちはだかる新たな問題とは?
GJ!!
デスティニー2とのクロスって初めて見たけど、面白かったです!(マダオワッテネエヨ
投下速度はご自身の好きなようにしていいと思います
自分も他スレで連載していますけど、投下速度の遅い事……orz
では、次回にも期待しています
>>341 そこまで喜んでいただけると嬉しい限りです。
まあ、実際のところはこのスレが立つ前から妄想していた内容ですから。
骨組みにも手を出して改造してますけどね。こうやって書く機会があるのは幸せだと思います。
言ったら何ですけど別に話を書いて飯を食ってるわけじゃないですから、速いのを自慢する気はないし、遅いのを攻める気も気に病むつもりもないです。
俺に言えることはただ一つ、同じ書き手として頑張ってください、です。
それではこんな時間ですけど投下します。
6 アルバイト
カイルたち5人はフィリアを彼女の私室に連れて行き、ベッドに彼女を寝かせて起きるまで見守ることにした。
念のためにロニとリアラがヒールをかけ、深い部分の怪我を治す。表面の止血が出来ても、内出血が酷ければ治癒は無意味なのだから。
「フィリアさん、大丈夫だよね?」
「彼女……リアラが俺たちが戦っている間に必死になって治癒してたんだ。助かるよ、きっと。」
シンは確証のないことを口にしたが、彼女の努力が無になることは避けたいと思った。彼はもしかしたらあのバルバトスが戻ってこないかと警戒していたが、どうやらフィリアを殺すことを諦めたらしい。
内心ほっとしながらシンは自分のブレスレットを見た。どの形態もとっていないので何も表示されていない。このブレスレットをリアラに見せてみようと思い、シンはリアラの横に歩み寄る。
「リアラ、といったかな?これなんだが、見覚えはないかな?」
シンは彼女にブレスレットを見せた。リアラは驚いたように彼の顔を見、ついでブレスレットの結晶を見つめた。
「これ、私のペンダントにそっくり!どうしてあなたが?」
「気付いたら身につけてたんだ。俺にもよくわからない。ただ、リアラが似たようなものを持っているみたいだから聞いてみたかったんだ。」
「これは……今は言えないけど……。でも、あなたも薄々感じてるんじゃない?どんな力があるか。」
確かにシンはある程度の範囲で理解していた。願望を叶える力だと。自分の持つ力ではそれなりに制御できる範囲で、自由に出し入れできるようだ。
リアラの場合は不安定でそれなりに強い力が扱えるのだろう、とシンは見当をつけている。エルレインともなると、かなり強力な効果を有し、その上で自由に扱える。並大抵のことではない。
フィリアの顔色がよくなってきたのを確認したカイルが、リアラに話しかける。その声には賞賛が多く含まれている。
「ねえ、君。リアラっていったよね?フィリアさんを助けられた君の力はすごいんだな。」
「そんなこと……私なんかまだまだで……。」
「でも、人一人助けるのって結構大変なんだ。リアラはそれができたんだ。だから、やっぱりリアラは凄いよ。それにさ、母さんが言ってたんだ。」
カイルは腕を組み、目を閉じて続ける。
「反省するのは大事だけど、後悔はよくないって。」
「あ……。」
「その人の言うとおりですよ、リアラさん。」
その場にいる全員がベッドの方向に目を向けた。そこにはベッドに腰掛けるフィリアの姿があった。
「フィリアさん、駄目ですよ。まだ寝てないと。」
リアラが寝かそうとしたが、それをやんわりと押し留めた。それが出来るくらいまで回復させることが出来たということだろう。彼女の治癒能力はなかなかのものだ。
「大丈夫ですよ、もう心配ありません。」
「よかった……。」
「……リアラさん。あなたは英雄を探している、と仰いましたね。私にも探し方はわかりません。ですが、一つだけ言えることがあります。」
フィリアは昔を懐かしむように語る。18年前の騒乱では、自分はソーディアン・マスターとして戦い、そして、平和を手に出来たと。しかし、それにはあるものがなければ為せなかったと言う。
「それは仲間です。苦しいとき、悲しいとき、あの人がいたから私は戦い続けることが出来たのです。私はあの人に感謝しています。どこまでも前向きで一途な……。」
シンには誰のことを言っているのかは大体わかった。おそらくは、自分の左に立ってフィリアの話に聞き入っているハリネズミの父親のことだろう。
カイルの馬鹿馬鹿しいほどの前向きさを考えれば、その父親も似たようなものだろうという、単純極まりない推測だ。
「仲間……。」
リアラのその言葉を聞いたカイルが彼女の横顔を見つめる。その顔には「一緒に行こうよ」と書いているようだった。
カイルにとっては「英雄を目指す」旅、リアラにとっては「英雄を探す」旅になるだろう。お互いの条件としては悪くはあるまい。
「フィリアさん……。」
「答えは出ているのでしょう?」
この前向きな少年なら、確かに懸命になってくれる。それに、一緒に旅をしている二人もなかなか心強い。頼ってもいいかもしれない。彼女はそう思った。
「じゃ、じゃあ、お願いしていい?」
「勿論!俺カイル・デュナミス。こっちがロニで、もう一人が……。」
「シン・アスカ。よろしく、リアラ。」
シンは微笑を顔に浮かべてそう言った。その表情は間違いなくぎこちない。カイルたちに出会うまでほとんど笑うということをしなかった。というよりもできなかった。
無理もない。彼が14歳を間近に控えた時に、家族はシン一人を残して死んでしまった。
プラントに渡ってからは我武者羅に訓練に明け暮れていたし、戦いの最中に出会い、守りたかった少女は目の前で殺され、挙句の果てには自分自身も殺されかけた。
笑えと言われれば間違いなく窮する。ここ最近は笑う回数も増えたが、それでもぎこちないものはぎこちないのだ。
「あっ、待ってよジューダス!」
カイルの声に反応して振り返ると、仮面の少年が背を向けて外に向かっていた。そういえばジューダスには礼も言っていない。カイルは既にジューダスを追って駆け出している。
「あっ、カイル!」
慌ててロニがカイルを追う。シンは2人が忘れた挨拶を忘れなかった。
「あ、フィリアさん、いろいろありがとうございました。失礼しますっ!」
彼は精神力を使い果たしているのでフォース形態をとることが出来ない。走って3人を追いかけた。
「それじゃ、私も……フィリアさん、ありがとうございました。」
リアラもその場を立ち去ろうとしたが、フィリアに呼び止められた。
「待ってください。リアラさん、こちらに。」
フィリアはリアラの頭を抱えるようにし、彼女の耳を自分の胸に軽く押し当てた。
「聞こえますか?私の心臓の鼓動が……私は生きています。あなたが守った命です。それは何よりも大事なこと……リアラさん、それだけは胸に留め置いてくださいね。」
「……はい。」
リアラは急ぎ、カイルたちの後を追った。一人取り残されたフィリアはカイルの言動や容姿が、かつて共に戦った人物によく似ていることに気付いた。
「待ってくれよ、ジューダス!」
ジューダスは振り返り、カイルたちを見遣った。4人とも息を切らせている。
「何だ、まだ何か用か?」
「ほら、さっき助けてくれたでしょ?お礼言ってないからさ。ありがとう、助けてくれて。」
「ただ通り掛かっただけだ。」
「タイミングが良過ぎると思うぞ、ジューダス。大体、正門が塞がってるし礼拝の日じゃないのにどうやったら通り掛かれるんだよ。」
シンの言葉にむっとし、ジューダスは皮肉めいた口調で返事をする。
「だったらどうしたというんだ。」
「可愛くねえやつ。」
ロニが毒づいたが、ジューダスはいっこうに表情を変えない。
「今回手を貸してやったのは、遠くから見ていてお前達の要領の悪さに苛々しただけだ。」
門の方から誰かが来る。警備兵だ。二人いる。先程揉めた人物ではないようだから、どうやらあの後交替したらしい。ジューダスは警備兵二人に背を向けた。
「お前達、怪しい者を見かけなかったか?」
シンは内心で「一番怪しいのは俺たちだよな。」と思ったが、それは口に出さないことにした。そして、心にもないことを言う。
「いえ、特に見てませんよ。何かありましたか?」
「神殿に賊が侵入したらしい。礼拝堂が荒らされたそうだ。」
ある意味、賊は自分達だろう。不法侵入したのだから。礼拝堂を荒らしたのも間違いなく自分達だ。
「へえ、賊ですかあ、それはおっそろしいですねえ。」
ロニが何とも調子のよさそうな口調で言う。こんな見え透いた嘘がどこまで通じるかわからない。
「ところで、お前達はここで何をしている?今日は礼拝の日ではないし、どうやって入った?」
来た、とシンは思った。ここは適当に切り抜けるしかない。
「あー、ちょっと道に迷ってしまいまして。俺たち、山歩きが趣味なんですけど、途中で道が途切れてしまいましてね。迷っているうちにここについてしまったんです。」
ありがちな上に、見え透いている。こんな理屈が通るかどうか。
「ふむ……おい、そこの者!何故こちらに顔を向けない!」
警備兵がジューダスに声をかけた。仮面を被っているのだから、確かに怪しい。
「あ、そいつ俺たちの仲間なんです。なあ、ロニ。」
ジューダスの肩がぴくりと動いた。カイルの言葉を受けたロニがさらに続ける。
「ええ、腹が痛いって休んでるんですよ。なあ、リアラ。」
「え、ええ、そうなんです。」
「こいつ、苦しがってるときの顔を見せたがらないんですよ。勘弁してやってください。」
ロニ、リアラ、シンが続けてこう言うと、不審そうな表情をシンたちに向けた。まずい、と内心で冷や汗をかきながら、次の言い訳を考えた。
「あー、あそこに怪しい人影が!?」
ロニが門の外を指差して叫んだ。
「そういえばあいつ、さっきここから逃げ出してましたよ!」
「どっ、どこだ!」
「ほら、あっちあっち!」
「よ、よし、追うぞ!」
警備兵が二人とも門の外に走っていった。この場合は一人残してもう一人が確認に行く、というのが警備の基本のはずなのだが。
「未熟な警備兵だな……。」
馬鹿馬鹿しい限りだ、とシンは思った。どうやら少々武器が使えるだけの能無しを雇っているらしい。これでは抜け道となる遺跡の存在を知ろうともしないだろう。
「ねえ、ロニ。あやしい人影ってどこ?」
「バカ。お前まで本気にしたのか?ああでもしないと面倒だろ。」
シンは鳩が鳴くような声で笑いを噛み殺し、左手で胸を押さえた。あまりの馬鹿馬鹿しさに堪えていた笑いが限界を超えたらしい。
「あー、シンひでぇ。」
「カイル……何故僕を仲間だと言ったんだ?」
感情の起伏が少ないジューダスだが、今度ばかりは少々揺らいでいた。
「え?だってジューダスは俺たちの仲間じゃん。」
「そうそう、さっきカイルが俺たちの仲間だって言ったときに否定しなかったしな。」
ロニの発言は屁理屈もいいところである。だが、ジューダスを引き込もうという意図を察して、それは黙っておくことにする。
シンはこの得体の知れない仮面を被った少年を少々気に入っていた。皮肉屋ではあるが、実際のところはカイルのことを守ろうとしているのではないかと思ったのだ。
わざわざつけてきて、カイルのピンチに現れ、あれこれ誤魔化そうとするあたりは可愛げを感じさえする。
「それに、遠くから見ているから苛々するんだろ?近くにいれば苛々せずにすむよ、きっと。」
逆に頭痛が酷くなるのではないか、とシンは心の中で突っ込みを入れた。
おそらくジューダスはかなり前からカイルを保護者のような視線で見ているに違いない。最後の一押しにとシンは口添えする。
「この面子、常識知らずが多いからな。多分ジューダスが舵取りをしたら少しはマシになるんじゃないか?そうすれば、遠くから見ていて苛々っていうのはなくなると思う。正直、俺たちはジューダスのような人間が必要なんだと思うから。」
必要とすること。この言葉は一匹狼体質の人間には効果が薄いのだが、シンの言葉に嘘はない。実際、常識に欠ける面々ばかりが揃っている。
単純バカに女好き、英雄探究しか頭にない人、そして究極の迷子。自分を含めてこの世界での旅に向いていない。
「僕と一緒に旅をするとろくなことがないんだ、止めておいた方がいい。それでも、というのなら……。」
「大丈夫。もう既に厄介ごとには巻き込まれてるし。これ以上の厄介ごとが起きても気にしたところでどうにもならないから。」
「……後で悔やんでも知らんぞ。」
ジューダスは渋々といった様子で承知したらしい。斜陽に染め上げられた神殿は、徐々に濃藍色の闇に包まれ始めている。
「よろしく、ジューダス!」
「さてと、仮面ストーカーのお陰で助かったわけだが、これからどうする?宿に泊まろうか?」
ロニの発言に鋭く突っ込みを入れつつジューダスが言う。
「仮面ストーカーとは僕のことか?……まあいい。この時間にアイグレッテ港からスノーフリア港へ向かう船はない。一泊しなければならないだろうな。」
「よおし、それじゃあ宿に…………あれ?」
カイルは元気よく宿に行こう、と言おうとしたらしいが、歯切れの悪い言葉に変わった。その表情を見たロニが怪訝そうに問う。
「どうした?」
「お金を入れてた袋がない!」
「何いぃぃ!?」
バルバトスとの戦いで落としたわけではなさそうだ。この世界のガルド通過は金色をしているのでかなり目立つ。もしそうならすぐに気付くはずだ。となると可能性は一つしかない。
「グランド・バザールで掏られたな、カイル。」
掏られる機会は二回ほどある。グランド・バザールの猛烈な人ごみか、エルレインの奇跡を見物に行ったときだ。ただ、タイミングや集まってくる人間の層を考えればグランド・バザールが一番怪しい。
「ええええええええええ?どうしよう!?」
「どうしよう、はこっちの台詞だバカカイル!」
混乱しているカイルたちに、ジューダスは冷静な声をかけた。
「何をしている。さっさと宿に行くぞ。」
「え、でもお金が……。」
「僕が出す。いいからついてこい。」
遠慮がちに4人はジューダスの後に続く。そして、ジューダスは5人分、二部屋の代金を全て払ってくれた。
「だが、これで僕の手持ちの資金も尽きた。金がない以上、船にも乗れんぞ。」
「うーん……どうしようかなあ……。」
「参ったな、こりゃ。」
「どうしよう……。」
4人の反応を見ていたシンは、思い切って口を開いた。
「なあ、皆。明日半日使ってバイトしてみよう。この宿のレストランで募集してたし、少し離れたところにも倉庫の在庫整理のアルバイト募集があったからさ。」
その稼いだお金で明日の最終便に乗ってスノーフリアに向かおう。シンはそう言った。
「それに、レストランの従業員にうってつけの人間が4人もいるんだ。無駄に明るいのと、逞しいのと、結構可愛いのと、クールでかっこいいのと。」
「……僕は倉庫の方がいいんだが。」
「ソード形態の俺と腕相撲して、勝てたら倉庫に行っていいけど。」
ジューダスは沈黙した。ソード形態での腕力は彼も目にしている。素早い連撃と剣技で戦うジューダスでは重い荷物は運べない。
「正直、俺は愛想が悪いから。それに、フォース形態とソード形態を随時入れ替えればなんとかなるし。」
「まあ、他に方法もないんだし、やるっきゃねえなあ。」
ロニはもう厄介ごとには慣れたと言わんばかりの口調でそう言った。カイルも半分項垂れながらも同意したし、リアラでさえも先に進むためには、という顔をしていた。
夜が明けた。一行は早めにチェックアウトを済ませた。ねぼすけのカイルの顔に往復ビンタ炸裂させて叩き起こしたシンは、グランド・バザールに程近い商業用倉庫に向かった。
「すみません、募集の紙見て来たんですけど、今日の夕方まで雇ってくれませんか?」
かたやカイル、ロニ、リアラ、ジューダスの4人は宿に残り、レストランのアルバイト従業員として雇われることになった。
服はそのままでいいとはいえ、服についた埃だけはしっかり払っておかなければならないし、武器もロッカーに入れて鍵をかけておかねばならない。
「よし、頑張るぞ!」
「俺の華麗な皿運びのテクニックで、お嬢様方の視線を釘付けにしてやるぜ。」
「……私に勤まるかな……。」
「……いらっしゃいませ……何名さまでしょうか……かしこまりました…………慣れんな、こういうのは。」
非常食で腹を満たした5人だ。さっそく朝食のアルバイトから始める。
「店員さーん、お願いしまーす。」
「はーい、ご注文は?」
「オリエンタルライス1つと……。」
「……はい、かしこまりました。」
「とんかつ定食まだですかー?」
「今参ります!」
一方のシンはフォース形態を使って軽いものを素早く運び、重いものをソード形態で運んでいた。
シンは気付いていなかったが、今ソード形態で運んでいる物はなんと300kgある。倉庫の持ち主は唖然とした様子でシンを見ている。
彼の体格はほっそりしており、55kgしかない。カイルより身長が高くて体重が同じなのだから、シンはかなり痩せていることがよくわかる。
そんな彼がそれだけの荷物を持って歩くのだから、到底信じられない光景だ。
「よいしょ……次はこれか。すんませーん、この荷物はこっちの棚でいいんですよねー?」
「あ、それは反対側。頼める?」
「はーい!」
軽々と荷物を担ぎ、何ともないように歩いていく。現実離れした光景だが、目の前で起きている事象を否定しても意味がない。
「資金が足りないんだから、人の五倍は働かないと。……次はこれなんですけど、伝票貼ってませんよ?何かわかりますか?」
「ああ、それは私個人の荷物だからおいといていいよ。」
「では、その旨だけ書いた紙を貼っておいて下さい。間違ってしまってはことですし。」
そう言いながらゆっくりと荷物を降ろし、別の伝票が貼り付けられた箱を抱えて倉庫に向かった。
カイルたちはというと、こちらもなかなかいい売り上げだ。
カイルはその明るさとあどけなさからご老人に人気があるらしい。
わざわざカイルを呼んで注文を頼む客も少なくない。
「はい、今日のスペシャルですね?か、かしこまりました。」
使い慣れない言葉故に舌を噛んでしまうが、それがまた可愛いのだろう。わざわざ用事もないのに呼びつけられ、その度に水を注ぐのだから大変だ。
「はい、お待たせしました。B定食です。」
ロニは孤児院で大量の食器を運んでいた経験を生かし、一度に4つの皿を持って運ぶ。その手さばきと逞しい体つきから奥様方に人気がある。
若い女の子に人気がないのは悲しいが、これも旅の路銀のためである。そもそも仕事中にナンパは出来ない。ナンパしたいという欲求を押さえ込み、せっせと料理と空いた皿を運んでいる。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
鈴の鳴るような声で応対するのはリアラだ。あまり女性的な発達をしていない彼女は子供好きの男性客(ロリコン)から人気がある。リアラが窓の近くで仕事をする姿につられて店に入った者もいるようだ。
「ご注文は……はい……はい、承りました。」
しかし、なんと言っても売り上げを引き伸ばしているのはジューダスだろう。奇妙な仮面を被っているが、そこから覗く端正な面持ち、喋り方、すらりとした体格から女性客を引き寄せている。
ジューダス本人はあまり嬉しくないらしいが、ロニからは猛烈に羨ましがられた。カイルがロニに放った言葉、「今の女の子はジューダスみたいなタイプがいいんだよ。」はロニをマイナス273.15℃の世界に叩き込んだものである。
朝食の時間が終わると、今度は店内の清掃だ。パンくず一つ、糸くず一本残さず掃除しなければならないが、カイルとロニの孤児院組が頑張ったので、早く終わった。
さらに、食器洗いもこの二人が懸命に働いたので、すぐに片付いた。いつも孤児院で手伝わされているからだろう。そもそも「全員で助け合わないと生活できない、年長者はお手本になれるようにする」なのだから。
昼もこんな調子で、14時を過ぎた頃に遅い昼食を食べ、4人は給金を貰った。少々多いのはジューダスが客を引き寄せたからだろう、とカイルは思った。
「それじゃ、シンの様子を見に行こうよ。そろそろ仕事も終わってるだろうし。」
4人は連れ立ってシンが向かったという倉庫へ向かおうと宿を出た。そこで待ち構えていたのは、迎えに行こうと思っていた本人だった。
「やあ、お疲れ様。俺のところは結構早く終わったんだ。それで戦果はどうだった?」
手持ちのお金を計算すると合わせて15000ガルド稼げたらしい。当面はお金に苦労せずにすみそうだ、とはロニの言である。
「それじゃあ、まずジューダスに利子つけてお金を返すことにして……。」
「シン、それは無用だ。仲間になった時点で僕の手持ちの資金など考える必要はない。」
「ジューダスがそう言うのならそれでいいけど。えーと、リスクを分散させるために、ロニとジューダスにそれぞれ7500ガルドずつ持ってもらおう。」
「俺には持たせてくれないの?」
いつもの調子で明るく言うカイルに、シンは世にも嫌な顔をカイルに近づけながら言った。
「……カイル君。君には学習という言葉はないのかね?」
「あ、いや、ごめん……。」
「わかればよろしい。まあ、もう一段階リスク分散ってことで、ロニとジューダスに7000ガルドずつ、それからカイルに1000ガルドを預かってもらおうかな。これならカイルの分を掏られても、それでスリは満足するだろうし。」
「ひでえ……。」
シンの言っていることはある意味本気だが、カイルを傷つけようとは思っていない。冗談で言っていることくらいはわかっているはずだと思うのだが。
「シンって酷いやつだ……。」
「……本気にしたのか?」
「じゃあ、もっとお金預けてくれる?」
「だめっ!」
カイル以外の4人が声を揃えてそう言ったので、カイルはしょんぼりしながら頭を掻くしかなかった。
ここまでです。
全然話が進んでない……。
でも、このスレのちょっと前の方にあったお金の問題について書きたかったので、後悔したくないです。
いや、ほんと、わがままですんません。
352 :
236:2007/09/07(金) 14:56:16 ID:???
「脈拍は概ね正常、外傷は軽微、内臓の損傷も命に関わるものは見当たらず―――と。こんな所か。」
そう誰に言うでもなく呟き、机の上に置いてあるカルテにその診断結果を書き込む。上部中央に二箇所の
小さな穴が空けられ、それに紐を通す極簡単といえる形式のカルテノート(20ガルド)には、それまで
診てきた患者のデータが多数記録されていた。
無論、今目の前にいる青年のデータも取ってあり、青年が何に悩んでいるのかも鮮明に書き込んである。
「……Dr.リセンディ。もっと―――もっと、効くクスリはないのですか?」
Dr.リセンディと呼ばれた男の前で黙りこくっていた薄い銀色の髪をした青年が、震えるような声で言葉を
紡ぎ出した。その言葉を聞いた医師―――セルフィニス・リセンディは、どう答えようか、と少しだけ悩んだ。
結論から言うと、青年が求めている‘ある要素に対して更に強力なクスリ’はもう、ない。と、いうより
調合しても出来たら渡したくはないの代物である。まあ、その理由は追々述べる事として。
セルフィニスは、重大な悩みを現在進行形で抱えている青年とこうして対談している事に頭を抱えていた。
「今度、『あいつ』は何をやらかしたんだ。フリングス。」
「…………私室の床下からカーティス大佐の部屋まで穴を掘って、出入を自由にしようとしていました。」
「……なんとまあ。」
呆れ果てて、二の句が告げない。あの悪名高いどころか自軍内でもぶっちぎりと言われる、『死霊使い』の部屋
まで通路を繋げようとするとは。確かに、あの悪魔すらも恐れて近付かないであろうあそこを非常時の退避場所
とするのは良い考えかもしれない。が、正直言って途中でロックブレイクとかグランドダッシャー、
下手したらサンダーブレードから派生するグラビティで通路ごと生き埋めにされてもおかしくはない。
と、いうかその確立の方が高いだろう。
「しかし、それは以前もあっただろう?」
そう、前話(第一話)で呆れたカーティス大佐が述べていたように、『あいつ』―――愛すべきブウサギ陛下が
「有事における脱出通路」という名目で、他所に繋がる通路を創ったのはこれが最初ではない。これまでに最低
でも(=発覚しただけでも)二回ほど同じような事を行っている。本人曰く、「お前たちは俺を過労死させる気
か!?」との言だが…どう見ても、過労死するほどの仕事量をこなしているようには見えない。むしろ、主の
しでかした事の後始末に奔走するであろう側近たちを殺す気か、と反論したいのは自分だけだろうか?
「………ええ、それは何とかして納得しましたよ。クスリを新しいのに変える事によって…ですがね。」
その側近の一人であるアスラン・フリングス大佐は疲れを溜め込んだような溜め息を吐き、軍服の懐から瓶を
差し出す。空になったその容器には前面に皹が入った骸骨マークが貼られていて。それだけで、嫌でもこの瓶に
入っていた薬の危険性が想像出来る。ちなみに、余談であるが前回アスランが一月分処方した薬を受け取りに
医務室を訪れたのは、一週間前だったりする。
353 :
236:2007/09/07(金) 15:18:57 ID:???
「ですが、此度の事はとても納得できそうにありません!!」
「……例の侵入者の事か?」
そう、普段温厚なアスランがここまで昂ぶって(ついでに胃も荒れて)いるのは、二日前に捕らえられた
侵入者の事に関してであった。出現したのはなんと皇帝の私室。しかも普段はいないのに(脱走常習犯)、
こんな時に限って陛下が在室していたものだから、目も当てられない。たまたま、カーティス大佐が直々に
ピオニー陛下への追加書類を持ってきていたから良かったものの―――と言うほどの危険な状態だった
(らしい)。
それなのに、騒ぎを聞いて慌てて登城し駆け込んできた(休暇中だったが、有事の際に備えて軍本部に設置
されている図書室で読書中だった―――真面目すぎる)アスランを迎えたのは、
「よし、こいつの尋問は俺直々にする。だから、とりあえず医務室に置いておけ。」
そういった信じられない言葉で。医務室に置いておけ―――というのはとどのつまり『治療を受けさせて
おけ』というのと同意儀の言葉だ。どこの世界に暗殺されそうになった皇帝が、その暗殺者に治療を受けさ
せるということがあるのか!!そうは思ったが軍人、そして臣下と言う立場である以上、主君である皇帝の
令には従わなくてはならない。それに同じく現場にはカーティス大佐がいたというから、その人が何も
言わなかったという事は何か考えがあるのだろう。しかし、理解は出来ても納得は出来ない……と言った
所だろうか。
「まあ、無理にとは言わんが割り切った方がいいぞ?それがお前のためだ。……ああ、本題のもっと効く
胃薬の事だが、しばらくはあれで我慢してもらうしかない。あれ以上強力な薬を調合しようとすると、
どうしても特別な材料が必要だからな。」
諭すような口調でそう言い終えると、机の引出しから『持ち出し厳禁!!』と書かれたラベルが貼られた
瓶を取り出す。それを見たアスランはもう一度、大きな溜め息を吐き、その瓶を受け取った。
「……それでは、Dr.リセンディ。またの機会を。」
「ああ、お大事に。―――無理、しないように。」
最後にかけられた言葉に苦笑しながら、アスランは医務室を去った。しかし、その後ろ姿を見送る間もなく
次の検診者が入れ違いに入ってくる。今度の患者は緑がかかった頭髪と鋭い眼つきが特徴の、第二師団十二
所属の一般兵だ。話してくれた事、それと噂によると、一年程前以前の記憶の大部分を失っており、
それから流浪の旅を続けていたという。そんな彼(推定年齢17歳)が何故マルクト軍に入ったのかという
と、たまたま立ち寄った小さな村が十人ほどの小規模な盗賊団に襲われており、それを村人の協力も得て
各個撃破して叩きのめした所を、村人が救援を要請したマルクト軍の一小隊(演習中だったらしい)に
遭遇、その小隊長であった、ある少尉によってスカウトされたという事だ。
当然、この小隊長の独断に関してはスパイではないのか、とかマルクト出身の者以外を入れるべきではない
などという意見も出たらしいが、ここ最近はその風潮も沈静化してきている。と、いうのも彼が軍人として
中々に優秀であり、且つその経緯に関わらず交友関係が広いからである。しかもそれに加えてリーダーシッ
プをも兼ね備えているのか、今年入ってきた新兵の面倒という一種の雑用もそつなくこなしていると聞く
(そのせいか、新兵の中には彼を「アニキ」と呼び、慕っている者もいるとかいないとか)。
まあそんな噂はともかく、将来有望なのは確かである。
「待たせて、すまなかったね。さて、話を聞こうか。君の…『夢』に関する話を。」
354 :
236:2007/09/07(金) 15:33:13 ID:???
深淵 in Shin(仮称)
第ニ話前編:「夢の中の逢瀬」
俺は、漂っていた。何も見えない世界で。ただただ―――漆黒が彩る世界で。いや、そもそも自分が
存在しているという感覚すらない。辛うじてあやふやな輪郭を保った身体がそこにあると『解る』だけで、
他は何も解らない。例えるならば、芯だけ残った林檎…と言った所だろうか。
(俺は……死んだんだよな…)
はっきりと、そう思った。この闇の中に放り出されて大分経つが、その直前の記憶はよく覚えている―――
俺は、死んだ。ムラサメのビーム・ライフルにコクピットを撃ち抜かれて、一瞬で。
そう、死んだ…はずだった。と、なるとここは死後の世界か?なんだか、イメージが違う。小さい頃に
祖母に聞いた話だと、死後の世界は天国と地獄に別たれているらしいが―――
(……まあ、ここが何処でもいいか)
どうせ、守りたい人は皆死んでしまったんだ。ルナも、レイも、ミネルヴァに乗ってた仲間たちも。
そして…ステラも。ああ、でも。皆が死んで、俺も死んだのなら。それなら、もうすぐ会えるかもしれない。
まあ、少なくとも「自縛霊」とやらにはならずにすむだろう。
そう思った瞬間、元来はっきりしなかった身体の輪郭が更にぼやけていくのを感じる。「皆に会えるかも
しれない」、そう思った瞬間に、変化が生じるのだから現金なものだ。「病は気から」という言葉があるが、
それと似た様なものだろうか。とにかく、俺は―――
―――シン…シン―――
その時……何も見えない、何も感じられなく成りつつある闇の中で。その声だけが意識中に響いた。
そう、もう会えないと思った、愛しい人。
―――シン、ダメ。こっちに来たら、ダメ。―――
どうして、そんな事を言うんだ?もう、俺は死んだんだ。だったら、生きている時に一緒になれないのなら、
死んで君の傍に居たいんだ。……ダメかな?ステラ。
―――ううん、シンの気持ちは嬉しい。でも…シンは、まだ、来る時じゃないの―――
え…
―――シンはステラに、思い出をくれた。過去を―――昨日をくれた。そう、だから…―――
その言葉と共に、泣きそうな表情をしたステラの顔が脳裏に浮かび上がった。しかしそれも一瞬。
―――ステラは、シンに、明日をあげる―――
その言葉と同時に、『俺』は霧散した。―――最期に、泣いているステラの顔が見えたような気がした。
355 :
236:2007/09/07(金) 15:34:15 ID:???
「……………えーっと。」
―――何でこんなことに?あれ、俺って死んだんじゃなかったっけ。確か皆死んだからどうでもよくなって、
死んだと思ったら360度暗闇の世界に。んでそこで漂ってたらステラが迎えに来て、だけど一緒に逝こう
といったら拒絶されて(泣)。まあ、ともかく。何度も繰り返すが俺は死んだ…はずだ。
それなのに。
「紅い瞳ねぇ…隠し子か?」
「参考までに聞きますが…………誰のです?」
「もちろん、おまe「炸裂する力よ!」
「屋内で、特に医務室で譜術を使うのは止めて欲しいのだが…」
そ れ な の に 。
今、目の前で繰り広げられている光景は何だ―――?
「エナジーブラスト!!」
「当るか!お前の下級・中級譜術は(実践仕込みで)知り尽くしているからな。詠唱術さえ分かれば
簡単に…「タービュランス。」のぉぉ!!」
「……詠唱省略か、それとも詠唱持続か。何にせよ、無様だな…」
三人いる男の内、茶色掛かった長髪の眼鏡が叫ぶと同時に、小さな閃光(爆発?)が発生する。それを
見事に避けた、金髪の何処か偉そうな男が得意げに喋っていると、今度は小さな竜巻のような現象が
その男を中心として巻き起こった。避けられるはずもなく、極小竜巻に巻き上げられる男(ついでに書類)。
そして三人目の男は、そのようなじゃれ合い(?)に加わらずに、時折ぽつりと呟きながら静観していた。
正直何の漫才だ、と突っ込みたいが、死を覚悟して目覚めた直後に起こったのがその光景である。
…………はっきり言って、突っ込む気どころか死ぬ気も失せるような心境だ。はあ、と溜め息を
吐いても文句は言われまい。
「ではDr.また後ほど。私は、このサボり魔を軍本部まで連れて行って、ここ数日で溜まった
書類の処理 に専念させなければいけないので。」
「ああ、程々にしてやれよ。―――すまないな、少年。」
356 :
236:2007/09/07(金) 15:39:52 ID:???
未だ足で儚い抵抗を続ける金髪男を引き摺って部屋を出て行く長髪眼鏡を見送った(最後に、俺を見たのは
気のせいだろうか)後、静観していた三人目の男が、僅かに困ったような表情を浮かべながら俺に声を掛け
てきた。咄嗟に我に返った俺はそれにいえ、と手を振って答えようとする。が、出来ない。何故なら、今の俺は
囚人宜しく手枷をはめられている。ベッドの上という事もあって重りはついていないが、さすがに
愉快な気分にはなれそうもない。
「いえ、別に…良くはないですが、一つ聞いてもいいですか。」
「三つ、だろう?『ここは何処で、自分は何故このような所にいて、何故このような状況に陥っている
のか』。ああ、もしかしたら『私が何者なのか』という問いも含まれているかもしれないね。このような
状況における、典型的に過ぎる疑問を述べてみただけだが―――違うかね?」
違わない。しつこく言うと、死んだはずの俺が何故生きているのかも疑問だが、今の所はどうでもいい。
「さて、それでは少年。君の問いに答えよう。『ここ』はマルクト帝国の首都、グランコクマにある軍本部
の医務室だ。次に『何故このような所に』という答えだが、それはこちらが聞きたい。君は一昨日の昼に、
腐ってもマルクト帝国皇帝の私室に唐突に『出現』したのだから。最後の問いだが、そのような正体不明
の人物を警戒するのは当然の事だろう?まあ、陛下が君を気に入ったらしいので、牢には入れられていな
いが。そして私の名はセルフィニス・リセンディ。軍本部第二医務室の主治医を務めている。」
何とも、訳が解らない説明だった。マルクト帝国なんて国は聞いたことがないし、グランコクマという
都市も聞いたことがない。しかし、自分の置かれている立場が、皇帝の私室にいきなり『出現』した事によって
かなり危険なものとなっているらしい…と言うことは即刻理解できた。いや、何時の間にそんな事ができる
ようになったのかと言う疑問もあるが、それも今は置いておこう。
「さて、これで君の聞いた事には全て答えた。次は、君の事を聞かせてもらおうか。」
「……なんで、俺の事なんか知りたがるんですか?」
「おや、悪いかね?こちらは君の質問に全て答えた…にも関わらず、君が答えないと言うのは公平ではない
―――そう思わないか?」
思いっきり本題からはぐらかせられたような気がするが、それもそうだ。あちらが話してくれたのに、
こちらが話さないという事もない。それに、ザフトの技術の粋を極めて開発された核融合エンジン搭載機である
愛機…デスティニーの事はともかく、俺の名前や出身は機密でもなんでもない。
そして何より、今の俺に拒否権が与えられているとも思えないし。
357 :
236:2007/09/07(金) 15:51:33 ID:???
「………シン・アスカ、17歳。出身はオーブ連合首長国。15の時にプラントに上がって、ザフトアカデ
ミーに入学。二年後、同アカデミーを卒業、新造艦:ミネルヴァ搭載MSの一機のZGMF−X56S:
インパルスのテストパイロットを経て正式パイロットに任命される。その後、ミネルヴァ進宙式直前に機
体強奪事件が起こり、更に地球連合がプラントに宣戦布告、それらの対処のためにミネルヴァと共に地球
に降下、以後各地で転戦を続けて、最新鋭機であるZGMF−X42S:デスティニーを受領。その後、
いくら前大戦の英雄とは言えNEETやテロリスト、果ては裏切り者が幅を利かせる事を本来なら
憂うべきのオーブ軍と戦闘して戦死したはずが、何故かここにいる―――これで、いいんですか?」
まるで報告書に記載されるような淡々とした口調で、自分の事を簡潔に説明する。途中、ある連中に対する
悪意に満ち溢れた表現があったかもしれないが、それは仕方ないだろう。俺の家族然り、ハイネ…
え〜っとヴァ、ヴァ、v…西川然り、レイ・ザ・バレル然り、ステラ然り。それが戦争の常とはいえ、
それら多くの友人・知人、そして俺にとって大切な人が(結果的としても)あいつらが関係した事によって
殺されている。特にハイネ・西川など、完全にとばっちりだ。
しかし分からない。何故、この人は俺の履歴なんか知ろうとするんだ?先程の説明よりは少し荒いが、俺の
事なんか調べようと思えば簡単に調べられるはずだ。俺自身、議長のプロパガンダ戦略(俺の経歴は『戦争
を終わらせる』という事を強調するにはうってつけだったらしい)と併せて、ザフト内部でも『前大戦で
最強を誇ったフリーダムを落とした』という事で少しは話題にされていたし、それ関連で多少の知名度は
有していた(……はっきりいって、ルナが嬉しそうに話していたそんな噂にほとんど興味はわかなかったけど)。
「ああ、話してくれてありがとう。中々、波乱万丈の人生を送ってきたようだね。……所でつかぬ事を聞くが、
今はND何年かな?」
「ND?……C.E.の間違いじゃないんですか?今は確か、C.E.74年ですけど…」
そう言った瞬間―――目前にいる男の表情が薄ら笑いから変化した。何ですか、その『我、確信を得たり』
みたいな、演説が上手く行った時の独裁者が浮かべるようなニヤリ笑いは。
「では、今の回答を訂正しようか。現在はND2014年、シルフリデーカン・ノーム・21の日。
間違っても、君のいうC.Eという年号ではないので以後、気を付けるように!!」
……いくら直情的とか、猪突猛進とか、考え無しとか。それこそアカデミーから散々言われてきた俺でも、
(皮肉にも)そのアカデミーでTOP10に入れるほどの学力はある。だからこそ、その明言の意味する事も
はっきりと理解できてしまった。
―――マユ。お兄ちゃんは、お兄ちゃんは…死後の世界を一歩どころか二十歩ほど通り過ぎて知らない世界
=異世界に来てしまったようです…
358 :
236:2007/09/07(金) 16:17:15 ID:???
前編、終わりです。……相も変わらず、投稿が約一ヶ月間隔になってる…
新連載の◆dCLBhY7WZQさんはコンスタントに投稿してるのに…OTZ
前回の次回構想で「シンの驚愕と〜」とか書きましたが、それは後編に回そうと思っています。
まだ、シンは一不審者(下手すれば極刑も有り)としての立場しかありませんので。
…ええ、決して予想以上にオリキャラが使いやすかったとか言うわけではありません!(超言い訳)
訂正、途中で出てくる薄い緑色の髪をしたえくs…一説によると『禁句』が50に関連したものであると
言われる軍人は「第二師団十二 所属」とありますが、これは「第二師団第十二小隊所属」と書いていた
ものを投稿直前に「第二師団所属」に変更したためです。
理由は、「師団の下に○○連隊とか大隊とかついたっけ?」というのが判らなくて(と、いうか調べるのが
面倒だったので)、ただ単に師団でいいや、という自己中心的な判断からです。
読み辛いと思う人には、先にお詫びしておきます。すみませんでした。
2人ともGJ
続きもよろしく
どもー。
>>358 俺、アビスは知らんのでそんなに読めませんが、同じスレに投稿するものとして応援してます。
基本的には他人が書いているものに対して寸評はつけないことにしているので(いちいち書き方とかぐだぐだ言うから自分が嫌になるので)、あれこれ言うつもりはありません。
というか、カイルの年齢設定失敗したぁ……。カイルは15歳だった……。無念……。
今日も投下します。
でも、いつまでこんなペースが続くことやら……。
出せる限りは出していきます。
7 リアラの奇跡
一行はアイグレッテ港から出る夕方の最終便に乗り込んだ。この便は定期航路を取るという話なので、まずはカルバレイスにあるチェリク港を目指すのだそうだ。
さらにチェリク港から南進してフィッツガルドの首都ノイシュタットに向かい、そこから中央大陸南部の海岸線伝いにスノーフリアに至る。
地図上で確認すると、セインガルドとファンダリアがある中央大陸をほぼ一周するルートだ。何故こんな航路を通るのかとジューダスに聞いてみると、以下のような答えが帰ってきた。
「アイグレッテ港からスノーフリア港にかけての海域は浅瀬や岩礁が多い。座礁を避けようと遠回りすると、補給もままならないし、風向きの問題もある。結果的に遠回りの方が安全かつ確実ということだ。」
シンは大いに納得し、「急がば回れ」という言葉を思い出した。
夕方の乗船ということで、宿泊可能な部屋が用意されている。船上での夕食の後、ここでも二部屋確保し、カイル、ロニ、ジューダス、シンで一部屋、もう一部屋をリアラにあてがった。
ただし、男部屋にベッドは3つしかない。シンは野宿の訓練を受けているからと、毛布だけ貰って床で寝ることにした。軍人としての訓練を受けているのは便利なものだと思いながら、シンは睡眠の世界へと落ちていった。
夢の世界で、シンはディオキアの海にいた。
岩場の上で踊る儚い少女、足を滑らせた彼女を追って海の飛び込む自分。
溺れて怯える彼女を抱き締めた柔らかな感触、洞窟の中で爆ぜる焚き火の音。
ありありと彼の目の前でリプレイされる。そして、彼女、ステラとあの道路で別れた。
いつの間にかシンはインパルスのコックピットの中にいた。飛翔する機体の足元ではあちこちで火事が起き、かつての都市の姿はない。目の前には黒く巨大なモビルスーツ、確かデストロイという名前だったはずだ。
彼は叫んでいた。全周波放送だった。誰かに聞かれようと構わない。自分の思いがデストロイのコックピットの中にいる彼女にさえ伝わればいい。そうすればこんな酷いことはやめてくれる。
そうとも、あのとき機械や薬品の調整を打ち破って自分のことを思い出してくれたじゃないか。今度だってそうに決まっている。シンはそう思った。
「やめるんだ、ステラ!俺が!君を守るから!」
デストロイの動きが止まった。やったんだ、わかってくれたんだ。そう思った矢先。
カメラで見る限り、コックピットの中のステラは怯えていた。自分の後ろにいる何かに。彼女が懐いていたネオ・ロアノークのウィンダムを撃墜した存在、フリーダムがいたのだ。
その存在に気付いてさえいれば。夢の中にいる自分とは別の自分がそう言った気がした。
フリーダムのビームサーベルがデストロイの複列位相エネルギー砲に突き刺さっていた。エネルギーチャージしている途中だった。誘爆が誘爆を呼び、デストロイが崩壊する。それはステラの命が崩れ去ることをも意味していた。
「ステラ……ステラアアアアアア!」
「うわあああああああああ!」
悪夢から覚めたシンは、自分が涙を流していることに気付いた。そうだ、自分は夢の世界にいた。
夢の世界では自由に動き回れると聞くが、シンには無理だった。結果はどうしても変えられない。同じことの繰り返しだ。
「今は……前に進むしかないんだよな、ステラ……。」
シンは自分の声で起こしてしまったロニとジューダス、それにあれだけの大声でも起きなかったカイルをつれてリアラを起こしに行き、5人で食堂に向かった。
寝ている間にチェリク港に泊まり、ノイシュタットに向けて出航したところだという。それを船員から確認したシンは、テーブルに向かった。
悪夢を見ようが何をしようが、朝食を食べたいのは変わりない。朝食は一日の資本だ。パンと牛乳、それにサラダと干し肉をお代わりを繰り返して食べた。さらに、食後の運動にと後部デッキに行き、剣の素振りをする。
少しくらいは訓練しないといけないだろう。ザフトのアカデミーにいたときも、誰にも負けるものかと訓練を繰り返していた。
今の彼を突き動かすのは元の世界に戻りたいという意志、そしてバルバトスがまた襲ってきたときに対応できなければならないという、力への欲求だった。
「くっ……はっ……でやあ!」
幸い乗客はそれほどいない。後部デッキにやってくる人間も多くはないので、ありがたい限りだ。
「シン、ここにいたんだ。」
カイルだった。どうやらシンを探していたらしい。シンは何となく嬉しくなった。
「ああ、あんまり剣に慣れてないから、練習してたんだ。疲れたから一休みしようと思ってたんだけどな。」
彼は形態解除すると、甲板に座り込んだ。その隣にカイルも腰掛ける。
「あのさ、ロニが言ってたんだけど。シン、寝言で『ステラ、ステラ』って言ってたらしいけど、誰?ロニはシンが振られた女の子の名前だって言ってたけどさ。」
「振られてはいないよ。ただ、わかれざるを得なかった子の名前だよ。そう、彼女は……ステラは俺の目の前で殺されたんだ。」
ふっとシンは最初顔を緩めたが、同時にその表情は曇りだす。彼は、覚悟を決めて口を開いた。
「俺は……13歳のときに戦争で家族を亡くした。そのとき10歳だった妹のマユも……。俺は攻めてきた連中と、その背後にいる組織、それに俺たちを守ってくれなかった母国を恨んだ。」
「……。」
「何としてもやつらにでかい口を叩かせないために、俺は俺と似たような人間が集まってる国……プラントの軍隊に入った。我武者羅に訓練して、エースになれた。けど、また戦争が起きて……。」
シンの瞳の赤さが強みを増したように見えた。彼の目は色素が極端に少ないため、血の色そのものをしている。そのため、感情が昂ると目の血流が増えて瞳の色彩が濃くなるのだ。
「俺たちはコーディネイターって言って、生まれる前にちょっと操作して、普通の人間より努力が報われやすい体質なんだけど。プラントはそんな人間の集まりだ。その技術を敵対国に盗まれたんだ。」
技術を盗まれるというのは一大事だ。知的財産という面は勿論、軍事機密ならばパワーバランスを崩す元になる。
「その戦いの最中に出会ってしまったんだ、ステラとは。あれは俺が休暇のときだった。ちょっと遠出をしてたら、ステラが楽しそうに海の岩場で踊ってた。ああいうのが平和で幸せなんだって思った。そうしてたら、足を滑らせて……。」
「海に落っこちちゃったの?」
「ああ。それを助けたんだ。その後さ、問題は。その後の戦いで、彼女がエクステンデッド……普通の人間をあれこれ改造した生体兵器だってことがわかった。それも、敵対国の。」
カイルははっきりした嫌悪感を抱きながら言った。
「……ひどいな、それ。同じ人間が人間にすることじゃないよ……。」
「俺もそう思う。捕まえたはいいんだけど、一定の処置を受けないと生きられない体だった彼女を救うために、敵国に引き渡した。あったかくて優しい世界に帰してくれるように頼んだ。」
カイルは黙っている。シンの瞳が明らかに濡れてきたからだ。
「こんなことしたら俺は間違いなく死刑になるはずだった。けど、俺は必要な戦力だからってことで死ねなかった。そして……彼女はまた戦場に送り込まれた。今考えれば当たり前のことだったと思う。でもさ……。」
彼は続ける。
「もっと考えてみれば、別にステラが出なきゃいけなかったわけでもなかったと思うんだ。後になって『あれ』がやたら出てきたこと考えると……。ステラは馬鹿でかい兵器に乗せられてた。街一つ丸ごと破壊できる、そんな兵器だ。」
「そんなものが……。」
「俺は命令を受けて出撃した。最初はステラが乗っているとは気付かなかったんだけど……けど、乗ってることがわかってしまった。それで、俺は躍起になって止めようとした。俺のことを思い出してくれる。そうすればやめてくれるって。」
「……そんなこと、できたの?」
「ああ、できた。確かに俺が叫んだとき、動きは止まったから……。」
シンの瞳の怒りの色彩がより濃くなっていく。同時に涙が溢れた。
「でも、あいつが邪魔をした!俺たちの邪魔をし続ける連中が!ステラがあいつのために錯乱したところ狙って、あいつは……あいつはエネルギーをチャージしてるその兵器を壊したんだ。そのショックで……ステラは死んでしまった。」
彼の脳裏には、あの10枚の翼を広げた死の天使が焼きついていた。戦争に介入し続け、自分達が正義だと言わんばかりに。あの傲慢さが許せない。
「シン……。」
「俺……どんどん冷たくなってくステラに何言われたと思う?『好き』だって!自分のことを好きになってくれた女の子一人すら守れなかった!俺は……俺は……!」
涙が止まらない。甲板に塩を含んだ、暖かい雫が零れていく。
「俺は……ステラを近くの湖に葬った。誰にも手出しされたくなかった。ほっとけば解剖されたりするから。俺は……あの死の天使を斃した。斃したつもりだった。けど、またやってきて……。」
シンの涙は枯れていた。そこに残されたのは虚空だけだった。
「結局俺はやつらに負けた。プラントは……やつらの手に渡った。俺が覚えてるのはそこまでさ。その直後くらいに俺はこの世界に来たんだ。」
「シン、結構大変だったんだな。俺……。」
シンは何かに気付いたように顔を上げた。
「お、俺、なんでこんなこと話してるんだろ?ちょっと、泣きすぎたから顔洗ってくるよ。」
彼はそのまま船内へと駆け込んで行った。強気なところを見せ、元の世界に戻ろうと前向きになるあのシンが、ここまで弱気なところを見せたのが、カイルには不思議でならなかった。
「でもシン、俺たちがいる。俺たちはステラって人の代わりにはなれないけど、元の世界に帰る日まで一緒に戦うから。」
カイルはそう言いながら空を見上げると、マストの根元にリアラがいるのを見つけた。
シンは顔を洗いながら思った。絶対に自分らしくない、と。ただ、宗教関連の話をしたときよりは違和感はなかった。
おそらく、カイルには人を信用させる何かがあるのだ。だからこそ、秘めた思いを吐き出す気になったのだろう、とシンは思う。
「英雄か……もしかしたらカイルは英雄になれるかもしれないな。」
そのためにはそれを助けることができる人間がいる。ロニやジューダスなどは申し分ない。自分も可能な範囲で手助けしようと思う。リアラはどうだろうかと思うが、何かのきっかけでカイルを認めるかもしれない。
「気長にリアラがカイルを認めるのを待つか。」
シンがそう口にした次の瞬間、船が大きく傾いた。岩礁に衝突した衝撃ではない。まさか、と思ってシンは外に出た。赤い海蛇が船に3体も纏わりついている。かなり大型のモンスターだ。
「うわああああ、フォルネウスだ!このアルジャーノン号も沈められてしまう!」
船員達が慌てて逃げ出し、乗客たちも怯えている。このままでは海の藻屑となるか、フォルネウスの食料になるかのどちらかだ。
「こんなところで死ねるか!」
シンはフォース形態をとった。今回ソード形態は使えない。重量の変化によって船が脆くなってはいけない。どうやら他の仲間も気付いたらしい。
「なんだありゃ?あんなのと戦うのかよ?」
「このまま死にたくなかったら戦わねばならんだろう、文句を言うんじゃない。」
ロニとジューダスが口々に言いながらフォルネウスに向かっていく。
「雷神招!」
「飛連斬!」
雷を放つロニのハルバードと素早く飛び上がって切り刻むジューダスの剣。型こそ対照的だが、フォルネウスが後退するほどのダメージを与えられたのはさすがだ。
「俺もいく!火炎斬!もう一発、炎衝対閃!」
振りかぶって火炎を叩き込み、さらに火を纏った左手のサーベルを逆手に持って、下から抉り込むように突き刺した。相手が海洋生物だけに、火は効果的だ。
「何なんだよ、これは!」
カイルが遅れての登場だ。リアラも一緒らしい。
「いいから手伝え!乗客を死なせたくなかったらな!」
ロニの声を受け、カイルは赤い海蛇のような生物に斬りかかる。リアラも晶術を詠唱し始めた。
「ええい、鏡影剣!鏡影閃翔!」
シンは影を射抜く剣で動きを止めさせ、斬りつける。さらに、影を纏ったサーベルを飛行能力と組み合わせて突きを放った。
「……?」
彼は気付いた。自分が狙っていたのは一体の海蛇のはずだ。だというのに、全ての海蛇の動きが停止したのが気にかかる。偶然ではなさそうだ。
「これは……まさか!」
うねうねとくねり、襲い来る鞭のような一撃を避けながらシンは考える。
おそらく、この複数の海蛇のような生き物は、全て一つの体で繋がっているはずである。さらに、このフォルネウスの外観を完全に見た者はいないらしい。つまり、どんな姿をしているのかはまだわからないのである。
その上、「このアルジャーノン号も」と言っているということは、もう何隻もの船を海に沈めているらしいが、この程度の海蛇が絡みついただけでは沈まない。
下に重い体があっても、水の中に棲む生物なのだから、まず水とほぼ同じ密度のはずである。こうなると浮力が働き、重みをかけて沈めることは不可能なのだ。水を上向きに噴射してもいいが、船の浮力はそんなもので沈めることは出来ない。
「となると考えられる方法はただ一つ……そうか、これはガルナハンのときと同じ戦法なんだ!くっ!」
シンは慌てて船底へと向かった。そう。船を沈めたいのなら、船底に穴を開けるのが一番なのだ。表面に囮を配置して重要な部分を下から攻略する。彼自身がローエングリンゲート攻略戦の時にとった戦法だ。
「こっちが水に潜れない以上は攻撃してくるところを狙うしかない!早めに斃して、被害を最小限にしないと!」
混乱に乗じて乗り込んできたモンスターを一閃して葬り、乗客たちを部屋に押し込んで鍵をかけさせた。そして、船底部へと向かう。
「すみません、通してください!俺の勘が正しければやつは!」
シンの剣幕に驚いたのか、船底の倉庫の番をしていた船員が飛びのく。シンはひらりと船底に着地し、振動の強い部分を探した。
「来たか!」
フォルネウスの本体が船底を突き破って姿を現した。頭足類の腹部に顎を備えたような怪物で、多くの目がシンを睨んでいる。うねうねとうなる海蛇のようなものは、フォルネウスの腕だったらしい。
「でえええええやあああああああああああ!地竜閃!地竜乱斬!」
地竜閃そのものは地面に働きかける技だ。船上の戦いでは船を傷つける恐れがあるが、そこは戦闘センスを持つシンだ。直接地竜閃をフォルネウスの脳天に炸裂させた。さらに、そのまま素早く地のエネルギーを纏うサーベルを振るい、4回斬りつける。
ダメージを受けたフォルネウスが暴れ、周辺に木材の破片を撒き散らす。フォルネウスは触手の先端から高圧の水をシンに放った。
「やられるか!」
シンは飛翔能力を利用して攻撃を避けた。だが、中級晶術、スプラッシュは避け切れなかった。各所に水柱が発生し、木でできた船底に叩きつけられる。
「くっ、六連衝!三連追衝!」
連続で突きを放つこの技を受けてもフォルネウスはびくともしない。目から放たれた閃光がシンを再び叩きのめした。
「ぐあああああっ!」
フォルネウスがさらに触手を何本か伸ばし、別々の方向から水を高圧噴射してくる。シンは転がりながら攻撃をかわし、ソーサラーリングを放って一本の触手の噴射口を潰した。
「火炎斬!」
さらに縛り上げようとした触手を焼き払い、再び飛翔する。厄介な敵だ。軟体動物だろうと考えていたが、どうやらこのフォルネウスはコウイカの一種らしい。腹部の甲が装甲化し、さらに顎の形状を持ったのだろう。
元々この甲は貝殻の名残なのだから、それが再び発達すれば強力な装甲となるのだ。頑丈なのも頷ける。
「く、鏡影剣!鏡影閃翔!奥義、飛天千裂破!」
影を左手の剣で貫いて身動きを封じて斬りかかり、さらに一度後退して飛行しながら突いた。それに繋いで仕掛けるのは奥義の飛天千裂破だ。一度上空に舞い上がり、急降下しながら突きを放った上に着地してから計12回突きを放つ。
飛翔能力を持つフォース形態特有の奥義だ。しかし、それだけでは済まさなかった。シンの中で何かが弾ける。SEEDが覚醒したのだ。知覚が鋭敏になり、相手の行動がはっきりわかる。こうなると、さらなる技が使える。秘奥義だ。
「風に舞い散れ!剣時雨……。」
右手のサーベルを顔の前に構え、フェンシングの突きの体勢をとる。同時に彼の周囲に風の剣がいくつも出現し、突きを繰り出すと風の剣が一斉にフォルネウスを襲う。
「風葬!」
両手の剣を交差させて振るうと切り裂く風が生み出され、フォルネウスの触手を切り裂いていく。これがフォース形態が有する秘奥義、剣時雨風葬なのだ。凄まじい風の連続攻撃によって敵を切り裂くのだが、一発当たりの破壊力には欠ける。
フォルネウスの甲は異様に固かった。この秘奥義を以てしてもフォルネウスを斃すことはできなかったらしい。
「駄目か……!」
秘奥義を使うと疲れ果ててしまい、まともに剣を振るうことも、飛翔することも出来ない。フォルネウスの触手が何本も伸び、シンの体を締め付ける。
「ぐ、う……。」
その頃、カイルたちは甲板から船底に向かっていた。
いつの間にかシンが消えていたことに気付いた4人だったが、途中で動きが鈍ったフォルネウスの触手を全て斃し終わると、船員からシンが船底に向かったことを聞いた。
それで4人は納得したのだ。シンは先回りし、少しでも早く被害を食い止めようとしたということを。
「カイルも単純な馬鹿だが、やつは冷静さに欠けるバカだな。」
「あいつは熱いやつだからな、こういうときこそ助けてやらなきゃな!」
「シン、今助けてやる!」
「無事でいて、シン!」
船底にたどり着いた4人が目にしたのは、傷だらけになり、フォルネウスにもダメージを与えたと思われるシンが締め上げられる姿だった。顔が紅潮しているところを見て、まだそれほど時間は経っていない。
「シン、無茶しやがって!」
ロニのハルバードが唸りを上げてフォルネウスの触手を切断し、シンを助け出す。
「ご苦労だった、シン。ここからは僕達がやる。お前は下がって休んでいろ。」
ジューダスがシンの後ろ襟を掴んで引きずり、フォルネウスから離れさせる。シンは朦朧とする意識の中で応えた。
「俺のフォース形態は……援護するためのものだ……。だから……足止めできたってのは……俺の特色生かせたってことだからな……嬉しい限りさ……。」
「そうか。ならいい。お前がそうやすやすと死ぬわけがないからな。そこで僕達の戦いでも見ていろ。」
ジューダスはすぐにフォルネウスに双連撃を仕掛けて斬りかかる。だが、その固さから剣を弾かれてしまう。
「大丈夫?シン!」
リアラが駆け寄ってきた。彼女は杖を片手にヒールを唱えた。ロニのものと比べて治癒力も詠唱速度も速いそれは、あっという間にシンの体から傷を消し去ってしまう。
「うおおおお!爆炎剣!燃えろ!」
うねる触手を避けながら接近したカイルは、レーザーを放つ目を爆炎剣、そして爆炎連焼によって焼き払った。これで攻撃力が低下した。
「まだまだ俺もいくぜ!穿風牙!終局穿風!」
離れた位置からシンが風の槍を放ち、さらに接近して斬りつけて斬り上げた。さらに浮いたフォルネウスの体の下にもぐりこみ、風の槍を3発放った。どくどくと銅分を含む青い血が撒き散らされる。
「とどめは俺だ!割破爆走撃!」
シンが脱出したのを確認すると、ロニがフォルネウスを斧で引っ掛けて引き寄せ、体当たりをする。そして。
「貴様を屠る、この俺の一撃!クリティカルブレードォ!」
ロニの強烈な打撃を胴にめり込ませ、フォルネウスは盛大に青い血を流しながら自ら開けた穴から深海へと沈んでいった。
フォルネウスは斃したものの、船底に穴が開いている以上は沈んでしまう。応急処置にと船底の貨物室を封鎖し、空気の漏れを最小限にしたのだが、依然として沈み続けている。
「このままじゃ皆死んでしまう。どうにかならないのか?」
「男はともかく……。」
ジューダスの言葉には、女子供が泳ぎきれるような距離と深さではない、という意味を多分に含んでいる。救命ボートもあるのだが、全員が乗れるほどの大きさではない。
「シン、君の飛翔力は使えないのか?」
「駄目だ、二人くらいならともかく、最低でも70人はいる乗客と乗組員全員を助け出すなんてことはできない……!」
「ああ、もう、ここで全員海の藻屑かよ!」
ジューダスはつとめて冷静にリアラに言った。
「一つだけ全員助かる方法がある。……リアラ、力を使え。」
びくん、とリアラの表情が凍りついた。その表情は、自分にはそんなことはできないと書いてあるようだ。
「でも……。」
「命を助けられるその力……今使わずにそのまま沈むのか?」
ジューダスの言葉に、ついに決意を固めたらしい。
「わかったわ……。」
リアラはペンダントに意識を集中する。強烈な発光とともに、船に衝撃と揺れが走った。
「っう……ああ……!」
「リアラ!」
カイルがリアラの下へと駆け寄る。何も出来はしないが、カイルはリアラの手を握り締める。せめて、自分がついていると。その姿勢は間違いなく英雄のそれだった。
「これは……!」
シンのブレスレットが彼女のペンダントに反応し、発光している。もしかしたら、とシンはリアラに近づいた。
「俺の力を貸せるかもしれない!リアラ、ペンダントに集中してくれ!」
確信などなかった。今は自分の勘を信じ、シンはブレスレットに意識を集中させる。
「頼む!リアラに力を分けてあげてくれ!」
シンのブレスレットから一筋の光が放たれた。それはリアラのペンダントに伸びていき、ペンダントの結晶の表面に光の波紋が生まれる。
「これは……デュートリオンビーム……いや、それに似たものなのか!?」
その途端に、船に宿る振動が激しくなった。
「お願い、飛んで!」
それはまさに奇跡だった。海面に塩水の雨が降った。その真上には雲ではなく、大きな船がある。船底に開いた穴から水が滴り落ち、それは飛沫となって進路を描く。
ゆっくりと水面の上を滑るように飛びながら、フィッツガルド大陸北部沿岸に向かっていく。そして、比較的浅い海にたどり着くと、ゆっくりとその巨体を揺らして砂地に降りた。
乗客たちはその光景を夢ではないかと思った。だが、実際にたどり着いてしまった。助かった。彼らは喜び合った。涙を流しながら。
「やった、リアラ!俺たち助かったんだ!リアラのお陰で助かったんだ!」
自分のことのように喜んでくれるカイル。リアラはある思いをカイルに持った。だが、それは英雄を探す自分が持ってはいけない感情である。
彼女はそれを隠した。その方がいいのだと。そして、彼女はその場でふらりと倒れかけた。おそらく、自分のことを大事に思ってくれるだろう少年に支えられながら。
TIPS
炎衝対閃:エンショウツイセン 火
鏡影閃翔:キョウエイセンショウ 闇
地竜乱斬:チリュウランザン 地
終局穿風:シュウキョクセンプウ 風
飛天千裂破:ヒテンセンレツハ 武器依存
剣時雨風葬:ツルギシグレカザホムリ 風
ここまでです。
昔、絶好調のときは毎日一話ずつ投下したものですが、ここ最近は全く駄目ですねえ……。
あ、それとこのスレは上げた方がいいのでしょうか?なんだか後ろから6つ目になってますし、勝手に落ちては、と思うのですが。
今日もGJっした!
落ちるのって、順番関係あったんだっけか?
俺はちょっとわかんないや
どもー。
>>370 関係あったような気もしますが、もしかしたら書き込まれているスレは落ちないのかも。
杞憂ならいいんですけどね。
以下独り言。
やっとTIPSの意味が出てきましたねえ。剣時雨風葬を「つるぎしぐれかざほむり」と読める人はあまりいらっしゃらないでしょうし……。
それに、終局穿風を元ネタにあわせて「ラストシューティング」なんて読みにしなくてよかった……。さすがにこの読みを考えたときは血迷ってましたね、俺……。
でも、今回リアラは回復だけ……まあいいか、一番の見せ場はちゃんとしたはずだし……デュートリオン送電ついてますけどね。
GJ
これからもよろしく。
ではでは、投下します。
8 父の記憶
リアラは倒れそうになったが、意識を失うほどではなかった。ひとえにシンが力を貸したからだろう、ジューダスは評した。
そのシンもふらふらしている。気分が悪くなったと彼はいい、その場に座り込んでしまった。
さすがにシンはリアラのような力は持っていない。今回船を浮かせるために貸せた力は、必要な全エネルギーの内の1割にも満たないだろう。
戦いにしても、決定的な打撃はあまり与えられていない。多分、今回は役に立っていないだろうとシンは思う。
「うう……とにかく休まないと。特にリアラは……。」
リアラはその奇跡の力を使ってアルジャーノン号に乗る人間全員を助けたが、助けた本人は空っぽもいいところだ。意識はあるし、話すこともできるのだが、歩くためには支えが必要だ。
一応ベッドに寝かし、今後について船長と話をすると、この近くのリーネの村に5人を降ろすので、彼女には休養を摂ってもらいたい、この船はノイシュタットのドックで修理しながら待つ、と言った。
「応急処置は致しますが、それほど長い時間は航海できませんから。聖女様と聖女様を守る英雄の皆様は皆様のペースでノイシュタットまでいらしてください。」
大げさだな、とシンは思ったが、反論するだけの体力と気力はなかった。それに、次のロニの言葉でシンはリーネに行くことそのものには反論を持たなくなった。
「リーネか。ちょっとラッキーかもな。カイルにスタンさんの生まれ故郷を見せてやれるってのも悪くない話だ。」
5人はすぐ近くにあるリーネの村に向かった。リーネは外から見てもわかるほど田舎ということがわかる村だった。そこここで牛や鶏が鳴き、老人が畑を耕している。
「ここが父さんが生まれ育った村かあ。クレスタよりも田舎なんだなあ。」
カイルは目を輝かせながら言う。その背中にはリアラがいる。彼女は心地よいカイルの背の温かみに触れていた。
「随分と田舎臭い村だな。いかにも田舎という匂いが漂っている。」
ジューダスが皮肉めいたことを言う。ただ、本気で貶したいわけでもなさそうだ。ジューダスの目には、どこか懐かしむような色があったからだ。
「ここがスタンさんの育った村かあ。いいとこじゃねえか。」
ロニにとっては憧れの存在で、親代わりの恩人の故郷だ。聞いたことしかないのだが、スタンが話してくれた通りの村だ。長閑な雰囲気がロニにはたまらなく嬉しかった。
「……平和そのものだ。俺、こういうのは好きだな。」
シンは平和なものを見るのが好きだ。ずっと戦い続けてきた彼にとっては、それが何よりも癒してくれる。少々ふらつく足取りだが、歩けないわけではない。平和な光景を力に変えて歩き続ける。
リーネの村にあるスタンの妹、つまりカイルの叔母であるリリスの家にたどり着いたときには、リアラはぐったりとしていた。彼女には何をおいても休息が必要らしい。
「叔母さん、話は後でするからリアラを寝させてくれない?」
リリスはカイルのものよりも幾分かくすんだ色合いの金髪で、それを長く伸ばしている。白いエプロンの下に鮮やかなピンク色のワンピースを着ており、35歳という実年齢よりも若々しく見えた。
こう見えてもかなりの武術の達人で、手にしたおたまでモンスターを一撃で撃沈できるほどの腕前だという。18年前にはノイシュタットの闘技場で兄とも対決しており、僅差でスタンが勝った。
ロニがこっそり話してくれたところ、彼女には娘が一人いるらしいが、リリスに似たのか剣を携えての武者修行に出ているらしい。何とも元気に溢れた家系だ、とシンは思った。
「あらあら、大変。それじゃあ、私のベッドを使って。」
彼女が使っているベッドは二段ベッドである。かつてスタンと二人で使っていたのだが、スタンがルーティと結婚してからは、このベッドを使うのは彼女一人きりだ。
まずはリアラをベッドに寝かせ、事情を説明した。微妙にオブラートに包んでいる。フォルネウスに襲われて危うく沈みかけたことは伏せておいた。あまり驚かすのはよくないと思ったからだ。
「そう、大変だったわね。今日は泊まっていくんでしょう?晩御飯の準備をしておくから、村の皆に兄さんの話でも聞いてらっしゃいな。いろいろ楽しいことが聞けるはずよ。」
一行はリリスの言葉に甘えることにした。まずは村長の家に向かおうとカイル、ロニ、それにその後ろからジューダスがついていく形でリリスの家を出て行った。シンはリリスの家に残った。
「あら、あなたは行かないの?」
「疲れてますし、内容はカイルから後で聞きますよ。」
本当はついていきたかったのだが、足が動かないのだ。ここまで消耗しているとは思わなかった。
シンの戦闘能力は、エルレインやリアラが持つ奇跡の力を利用したものだ。小規模で引き出しやすく扱いやすいのだが、一つ欠点がある。
この能力は膨大な力を消耗する。しかも、飛行能力以外、使っている当人はほとんど気付かないという有り様なのだ。
彼はお構いなしに連続して技を使い、秘奥義を放ち、さらにはリアラに力を分け与えてしまったのだから当然だ。
それが今になって疲労という形でシンを襲っているのである。あれこれ経験を積めば問題は解消するのだろうが、今の彼には辛いものがある。
そもそも、四つの属性のうち、風属性はシンにとって一番比重の少ない属性であり、その秘奥義を全力で使った以上、こうなるのは必然と言える。
「あら、そうなの。それじゃあ悪いんだけど、リアラさんのことを見ていてくれない?これから近所の人から野菜を分けてもらわないといけないの。こんなに大勢でいらっしゃったんだもの、家にある分じゃ足りないわ。」
「あ、すみません。いきなり何の前触れもなく押しかけてしまって。」
「いいのよ、ここは田舎でしょ。これくらいのトラブルがたまにあった方が楽しいわ。」
申し訳なさそうに頭を下げるシンには、リリスが心の底から楽しそうに見えた。それが眩しく、シンはあまり見せない笑顔を漏らした。
一方のカイルは少しショックを受けていた。
カイルにとって父親は半ば神格化された存在で、英雄として称えられているものだった。ところが、この村の住人からは、ねぼすけだのやんちゃ坊主だのという答えが帰ってきた。
ショックと言っても悪い意味ではない。父親に対して、親しみやすい、そして等身大の印象を持った。カイルは世間一般のスタンのイメージとは違う、のびのびと平和に暮らしていた頃のスタンの姿を見ることが出来た。
「あ、ブランコだ。」
カイルはリリスの家の横にあるブランコを見て、このブランコの縄の縛り方が、孤児院にあるブランコのそれとよく似ていることに気付いた。
「ああ、スタンさんが言ってたな。何でも、おじいさんがこのブランコを作ったの覚えてて、うちの孤児院にも作ってみようってことらしいぜ。」
おそらくはスタンが参考にしたのは、このブランコだろう。カイルはこのブランコに腰かけ、少し揺られてみた。何となく、遥か記憶の彼方にある父親の匂いを感じた。
「ちょっと思い出すな……父さんのこと。ずっと昔に旅に出ちゃったけど、でも何となく覚えてる。」
ロニの胸に鋭い痛みが走った。だが、それを押し隠してカイルの話を聞く。
「うーんと、そう、俺、父さんの膝に乗せられてさ、ブランコに乗ってるんだ。それで、後ろ向きに揺られるときに金色に光るものが見えるんだよ。多分……父さんの髪の毛だと思う。あったかくて優しい匂いがするんだ。」
ロニは思った。そんな光景を見たような気もする、と。幼いカイルを膝に乗せて、父親らしい笑顔を見せるあの日のスタン。その姿はありありと思い出せる。
「ああ、あったなあ。あの頃のカイルは可愛かったんだけどなあ……。」
「何だよ、今だって子ども扱いするくせに!」
カイルとロニのやりとりを見ているジューダスは、まるで子供だと思った。だが。
「スタン……カイルはお前によく似ているな……。」
ジューダスはふと漏らしてしまい、軽く頭を振った。その口調は、スタンをよく知っている者のそれだった。
「僕らしくない……。」
彼はそれだけ言うと、カイルたちの後ろにつき、リリスの家に戻った。もう、晩御飯のいい匂いが漂っていた。
「はあい、皆さん、ご飯が出来ましたよ。」
リリスのおいしい晩御飯にありつけたため、4人は疲れから解放された気がした。リアラだけは眠り続けている。消耗の次元が違うので、食事も出来なかったらしい。
「リアラ、食べられないのか。こんなに美味しいのに。」
「仕方ないだろ。寝込んでいるのに起こすわけにはいかないからな。」
シンはカイルにそう言い、昼間に聞いたスタンの話をカイルから聞いた。わかりやすいほどカイルの父親だということがよくわかり、シンは腹を抱えて笑ったものだ。
「人の畑から野菜を引き抜いて食べるって……どんな悪戯だよ……。」
呼吸困難になるかと思うほど彼は笑った。憎めない悪戯だ。シンの笑いは嘲笑ではなかった。その楽しさに対する笑いだった。
「お前は疲れてるんだから、今日はソファで寝ておけ。いいな?」
と床で寝ようとしたシンはロニに言われ、申し訳なさそうにソファの上に寝転がった。寝転がると眠りの世界が足音を立てて近づいてくる。彼は毛布を被り、目を閉じた。
暖かく心地よい眠りが彼を包み、シンの意識は沈んでいった。だが、その意識の沈み方はどうやら浅かったらしい。ふと彼は目を覚ました。
すっかり夜は更けていた。声を殺した話し声が聞こえる。カイルとロニだ。
「……父さん、俺くらいの頃にはもう英雄になる特訓とかしてるんだと思ってた。」
「そんなわけがあるか。」
「でも違ったんだね。悪戯したりとか、今の俺とあんまり変わらないことしてたんだ。」
「けど、そこからは違ったんだ。わかるな、カイル。」
「うん。父さんはその強い力で世界を守ったんだよね。」
「確かにそうなんだが、でもな、カイル。あの人は力が強かっただけじゃない。心が強かったんだ。」
「心が……。」
「『どこまでも人を信じ続けること。それが本当の強さだ。』スタンさんはそう言ってた。人は大抵途中で裏切っちまったり信頼が揺らいだりしちまう。けど、スタンさんはそうしなかった。こりゃ並大抵のことじゃないぜ。」
シンは思った。どこまでも信じ続けるというのは、ある意味馬鹿のすることだ。だが、人を裏切ったり、信頼が揺らいだりするのは自己保身のためなのだから、それは逃げの姿勢であり、臆病なのだろう、と。
確かに並大抵のことではない。裏切り癖のある元上司はともかく、シンはデュランダル議長やレイを最後まで信じることは出来なかった。レイと二人で議長に面会して以来、彼は孤独を感じるようになっていた。
それは正しく、スタンの言う本当の強さを持っていないからだろう。ただ、ラクス・クラインにしろ、デュランダル議長にしろ、どちらにも主義主張に欠点を抱えているような気はしていたのだ。
「俺一人では何も出来なかったな……あの時は……。」
誰にも聞こえないように呟く。こんなことを考えていても寝付けない。昔の家族のことを考えてみた。
最初に思い出したのは12歳の頃だ。自分の誕生日に近くの山に行ってバーベキューパーティーを開いた。あの山はまるで自分の誕生日を狙ったかのように紅葉し、大量の葉が地面に降り積もっていた。
シンの父によれば、かつて日本経済の影響を受けていたオーブに、世界再構築戦争の際に宗主国の国民である日本人が大量に流れ込み、そのままオーブ国民となったのだそうだ。シンの家系もそうらしい。
彼らは故郷の季節を思い、遺伝子操作を行って春に紅葉する落葉広葉樹を作り上げ、本来火山島で不毛の島だったのを植物だらけにしたのだという。
そのため、南半球にあるオーブで9月に紅葉するのだと教わった。勿論、この遺伝子改良技術がシンたちコーディネイターを作り上げる技術にも繋がったらしい。シンは何となくこの山の木々に親近感を持ったのを覚えている。
食事が終わって、シンは一人で本をアイマスク代わりにして寝ていた。そこを狙って、妹のマユが大量の落ち葉を顔にかけ、そのまま鬼ごっこに突入したこともはっきりと思い出せる。
幸せだった日々。最早シンの手に戻ってくることはない。世が世ならレイやルナマリア、そしてできればステラを家族に紹介したかった。
ただ、この3人は軍に関係する中で手に入った知り合いなのだから、本末転倒なのだが。それでも、と思ってしまう。
「家族、か……。」
また目の周辺が湿った気がした。シンは悲しさを振り払うように目を閉じ、眠りの世界へと沈んでいった。
シンは早々に目を覚まし、伸びをした。まだカイルとロニは寝ているが、ジューダスの姿はない。
「あれ?どこに行ったんだろ、ジューダスは。」
さらに、リアラの姿もない。村からは出ていないはずだが。そう思い、シンはリリスの家から外に出た。
「ジューダス。」
表にジューダスがいた。普段は背に隠し持っている剣を振るい続けている。時折独り言のようなものを呟きつつ、訓練をしているらしい。
「ここにいたのか、ジューダス。」
「……シンか。」
ジューダスはシンの存在に気付くと、一度手を休めてシンのいる方向に顔を向けた。
「何をしている……ってのは愚問だな。訓練、続けてていいよ。」
「何をしに来た?」
ジューダスは再び剣の素振りを始めた。その腕はかなりのものだ。フォルネウス相手にダメージを与えられなかったが、対人戦では間違いなく無敵を誇るはずだ。
「いや、別に。外の空気を吸いに来たんだ。あ、そうだ、ジューダス。」
「何だ?」
「稽古つけてくれないか?所詮我流だから効率よく戦えそうにないし。」
シンを見遣るその目は冷たいが、それは仕方ないことだろう。
「僕は手加減なんかしないぞ。それでもいいのか?」
「構わない。俺は強くならなきゃいけないからな。」
シンは素早くフォース形態をとった。ジューダスが斬りかかってきたからだ。ジューダスの一太刀を回避し、サーベルを抜き放った。
「ハッ、ハッ!」
無駄のない動きで斬りかかるジューダスの斬撃を、シンはサーベルで受け続けた。反撃する余裕がない。
「もたもたするな!お前のサーベルは擬似刃だろう、手前に引く動作を忘れるな!」
サーベルというものは騎乗用の剣であるため、馬上で敵を斬ることを想定しており、大抵が片刃か、擬似刃(フォールスエッジ)と呼ばれる形態をしている。
特にフォールスエッジは刀身のうち先端から3分の1が両刃で、残りが片刃という構成であり、刺突、斬撃の両面に優れた特性を持つ。
この手の武器は軽めに作られるため、手前に引かないとターゲットを切断できない。それをジューダスの指摘されたのだ。
「こうか!?」
シンは脳内でシミュレートしながら戦うタイプだ。特定の状況に対してどう動くかを考えておき、敵に合わせた動作を行うのである。モビルスーツが登録された動きしか出来ないのと同じだ。
故に、型を覚えなければならないと考えるのは当然である。アドリブだけでは限界があると感じた。
「まだ引く動作が鈍い!」
「くっ!」
1時間ほど続いた稽古は、シンがジューダスに冷やりとする剣を首筋に押し付けられるという結果で終わった。なかなか課題の残る稽古だった。
「まだお前は伸びる可能性が残されている。これからの戦いでも気を抜くなよ。」
とはジューダスの言である。
「わかった。また機会があったら頼むよ。」
シンは形態を解除し、リリスの家に戻った。どうやら訓練の間にロニは起きたらしいが、カイルはまだ寝ている。
「こら、カイル!起きろ!」
「うーん……もうちょっとだけ……ぐぅ……。」
止むを得ない、とシンがカイルに近づこうとしたが、その前にリリスが言う。
「こんなところまで兄さんに似ちゃったのね、仕方がない、久しぶりにあれをやるか!あ、皆さんはちゃんと耳を塞いでいてくださいね。」
彼女はお玉とフライパンを持ってきた。何をするのかは想像がついた。まずい、とシンは全力で耳を塞ぐ。
「秘技、死者の目覚め!」
シンはリリスの手を見ようとしたが、それは叶わなかった。異様なスピードでフライパンを乱打するお玉が、最早閃光を放っているように見えた。その上、しっかり耳を塞いでいるにも拘らず、その振動が頭蓋骨を通して耳に伝わる。
「ぅん……おはよう……あれ……母さん、なんか感じが……。」
ルーティはスタンと結婚するにあたり、リリスからこの死者の目覚めを伝授されたのだという。リリスは兄の低血圧を起因とする熟睡から叩き起こすためにこの秘技を編み出したのだ。
カイルは父のスタンに似たのか酷い低血圧で、叩こうが抓ろうが、何をしようが起きられない。軍隊で訓練を受けたシンの往復ビンタは一応効果があるが、それでも一応でしかない。
やはり親子なのか、カイルもこの死者の目覚めでやっと起きられるくらいなのだ。
リリスの死者の目覚めはさすがに開発者本人のものだけあり、威力は絶大だ。耳を塞いでいてもシンは耳鳴りが治まらない。
「さあ、起きた起きた。朝ごはんにしましょう。」
リアラがいないことに気付いたカイルは、外に出て彼女を探すことにしたらしい。眠気覚ましの散歩も兼ねて、リリスの家から出た。
「うう、頭が……くらくらする……。」
シンはソファに座り込み、頭を抱えた。ロニも似たり寄ったりの状況らしい。ジューダスは相も変わらず無反応だ。
「何で無反応でいられるんだ……機械か、ジューダスは。」
「僕は生身の人間だ。勝手に機械にするんじゃない。お前達の鍛え方が足りないだけだ。」
ジューダスの皮肉屋ぶりは衰えていない。どうやら本当に堪えていないらしい。恐るべしジューダス、とシンとロニの二人は同時に思ったものである。
しばらくしてカイルが戻ってきた。リアラを連れている。少し時間がかかったところを見ると、少しばかり話をしてきたのだろう。
「うーん、今日のスープも美味しいねえ。リリスさんの料理は最高!」
「うん、美味しい。昨日のシチューも美味しかったけど、今日の朝ごはんもいいですねえ。」
「はぐはぐ……むぐむぐ……リリス叔母さん、おかわり!」
「お前はもっと落ち着いて食え!」
楽しい朝食も終わり、5人は早速ノイシュタットへ向かう準備を始めた。リリスはもっとのんびりしていけばいいのに、と惜しんだが、あまり船を待たせるわけにもいかない。
リリスは5人の気持ちを察して、保存の利く食料と方位磁針を渡した。シンがそれを受け取り、リリスに問う。
「方位磁針?何でまたこんなものを?」
「この辺りは霧がよく出るのよ。だから、外に出歩くときはそれがどうしても必要になるの。なくしちゃ駄目よ、霧の中で迷ったら大変なんだから。」
リリスの温かい心遣いに感謝しつつ、5人はリーネの村を出た。次の目的地はフィッツガルドの首都、ノイシュタットである。
ここまでです。でも全然進んでない気がする……。
次は白雲の尾根の小屋以降まで行きたいと思います。思いますが、たどり着くかな……。
保守
>>379 GJ
確かに進んでない気もするが、気にせずがんばってくれ
どもー。
>>381 はいー、気にしないようにします。確かに進度が遅いんですけど、あとあと必要になってくる要素があるので。
ある意味でわざと遅らせている部分もあるんですがね。
特に(自主規制)の部分は。多分、シンにとっては展開上一番きついんじゃないかな……。
書きあがりましたので、投下します。
9 白雲の尾根
5人は白雲の尾根に突入し、ノイシュタットに向かっていた。
白雲の尾根は18年前の騒乱の際にベルクラントの攻撃を受けたために、フィッツガルド大陸の地形が変わってしまったことを起因とする。
地形の変化が起きれば気流も変化する。霧が溜まり易い地形へと変化し、さらに海からの湿った空気が流れ込みやすくなったため、ほぼ一年中霧がかかった状態になってしまったのである。
それについて説明してくれたロニに、何故そんなことを知っているのかと聞くと、
「ストレイライズ大神殿の図書館の受付の女の子に取り入ろうとして躍起になって覚えたんだけど、こんなところで役に立つとはなぁ。あはははは……。」
なのだそうだ。つまり、その後ふられたのだろう。ふられマンなどという不名誉な称号を持つロニだ。ありそうな話である。
「さてと、この霧の中でモンスターに襲われたら大変だ。さっさとノイシュタットに行こう。」
人間というものは外部の情報の大部分を視覚に依存している。霧の中というのは周囲の様子が見えないだけではなく、光が散乱してどこも光っているように見える。
これが一番のネックで、光の刺激そのものはあるのだから、他の感覚に切り替えるというのが難しくなる。闇の中では聴覚が物をいうのだが、霧の中ではそうもいかないのである。
しかも、霧が溜まり易い地形というのは大抵が気流が安定しているため、風の音が発生することが少なく、聴覚ですら危うい。闇の中に放り出されるよりも危険な場所なのだ。
「リリスさんにコンパス貰っておいて正解だったな。」
シンは方位磁針を取り出し、方向を確認する。とりあえず南西の方角に進んでいけばいいはずだ。看板も参考にしつつ進んでいく。
「なんか……吸い込まれそうな場所だね。」
「ねえ、方角はこっちであってるの?」
カイルとリアラが不安そうな声を上げる。合っているはずだが、とシンも少々不安になる。
「大丈夫だよな、ロニ。」
「シン、なんで俺に言うんだ?」
「ほら、この辺の地形の勉強したって言ってたじゃないか。」
「霧の発生原理だけ勉強したんだよ。他は知らねえよ。」
馬鹿馬鹿しいやりとりに疲れるのか、ジューダスは歩調を速めた。
「……さっさと行くぞ。」
「ジューダスはこの辺の地理は大丈夫なのか?」
「僕だってこんなところを歩くのは初めてだ。」
つまり、全員この霧の中を歩いたことはない。迷えば餓死して即日白骨死体になる。シンは周囲の様子を窺ったが、やはりモンスターが自分達を狙っているらしい。
「まずいな、迷ったら間違いなく死ぬな、これは。」
「いざとなったらモンスターを狩って調理すればいい。モンスターと言っても元はただの生き物だ。レンズさえ抜ければ元に戻る。」
ジューダスはあっさりと言い放った。前にそうやって食べたことがあるのだろうか、とシンは思った。
「僕は肉があまり好きではなかったからな、僕の知り合いが狩ったモンスターを食べているのを見たことがあるだけだ。」
知り合いの少なそうなジューダスの知り合いがどんな人物なのか、とても知りたいところだが、早くこの憂鬱な空間から抜け出したい。
だが、そうもいかないらしい。
「……あれは食えないよな?ジューダス。」
ゾンビだ。4体いる。通常は負傷兵にレンズを埋め込むことでゾンビになるのだが、餓死寸前の人間が持っていたレンズに取り込まれてもああなる。
レンズは貴重なエネルギー資源だ。誰でも見つければ拾いたくなるものだ。それが仇となってモンスターになるのだから、皮肉なものである。
「食えるわけがなかろう。……霧の中ではぐれるなよ、カイル!」
霧の中での戦闘は危険極まりない。前述の通り、戦闘中に方向感覚を失うのは勿論のこと、戦闘を行うと大抵は向いていた方向と違う方向を向くことになるため、その後に迷う可能性があるのだ。
「互いに位置関係を確認しつつ戦うぞ!いいな!」
ジューダスはそう言いながらゾンビに素早く斬りかかる。やはり、この手のヒューマノイドタイプのモンスター相手には強い。ゾンビには打撃耐性があるので、一撃で仕留められないが、かなりの手傷を負わせることが出来たのは間違いなさそうだ。
「ふっ、はっ、せいっ!火炎斬!炎衝対閃!」
間髪いれず、シンのサーベルが三連撃と火を放った。ジューダスがダメージを与えていたゾンビが火達磨になり、黒焦げになった。
「よし、カイル、大丈夫か!」
位置関係を把握するために、シンは声を張り上げた。その彼の背後からゾンビが迫る。だが、その前にリアラがその存在に気付いていた。
「フレイムドライブ、フォトンブレイズ!」
火炎弾と、相手を縛り付けるような高熱の輝きがゾンビを襲う。瞬時にして火葬してしまい、レンズがその場に残された。
「リアラ、助かった!残るは2体……!」
シンは上空に舞い上がった。ロニとカイルが一体ずつ相手にしているらしい。ここは一つ援護しよう、とシンは思った。。
彼は穿風牙をゾンビ一体ずつに放った。見事に狙いは的中し、体勢が揺らいだ。カイルは爆炎剣、ロニは雷神招でそれぞれ仕留め、ゾンビ相手の戦闘は一先ず終わった。だが。
「増援か!」
今度はハーピィだ。ハーメンツバレーに棲んでいるものよりも幾分動きが鋭い。しかも数も多い。6体はいるだろう。
「空中戦には慣れてるけど……霧の中でそれは止めたほうがよさそうだな。」
人間というものは地面を歩く生き物だ。前後左右の感覚はあっても、上下の感覚は鳥などに比べると鈍い。この霧の中で空中戦でもしようものなら、あっという間に仲間とはぐれてしまう。
シンはひらりと着地し、ソード形態をとった。フォース形態より接近戦におけるリーチは長いので、空中から攻撃を仕掛けてくるタイプのモンスターには有効なはずだ。
「穿風牙!」
この技はどうやらフォース形態と共通らしい。ハーピィは風に耐性のあるモンスターだから効果は薄いが、離れた位置に攻撃できるというのは心強い。
「シン、いけるか?」
「ジューダス、ちょっとだけ援護を頼む!双炎輪!」
シンの手にある大剣が小太刀に変わった。彼はそれを思い切り回転力を与えながら投擲する。同時に、2つの小太刀の刀身が火を吹いた。
ハーピィは鋭いカーブを描いて回避した。しかし、それもシンの計算の内にある。
「双輪還元!」
直進したはずの小太刀がハーピィの背中目掛けて戻ってきた。ハーピィはそれを避けきれず、背中を切り裂かれた。さらに追い撃ちをかけるようにジューダスの晶術詠唱が完了する。
「ストーンザッパー!」
地面から放たれた石飛礫がダメージを受けたハーピィに命中し、そのまま地面に叩き付けられた。
「うっ……風神招!」
リアラが空中からの攻撃に梃子摺っている。何とか風で反撃したらしいが、うまくいかないようだ。
「ええい、地裂斬!」
手元に戻ってきたクレイモアで地面を抉りながら、強烈な斬り上げでリアラを攻撃していたハーピィを攻撃する。ハーピィの狙いが自分にシフトした。
「斬衝刃!」
二本の大剣を地面に向けて切り払った。その斬撃が衝撃波に変化し、急降下してきたハーピィを撃砕する。
系統的にはカイルの父親であるスタンの魔神剣に近いが、扇状に広がること、射程が4mと短いこと、生み出された衝撃波が最終的に彼の身長の高さまで到達することなどの違いが挙げられる。
残るハーピィ4体が一斉にシンに襲いかかる。弔い合戦らしい。
「こっちから仕掛けないのに来るからだろうが!影殺撃!」
シンは飛び上がりながらハーピィに斬りかかった。同時にハーピィ自身の影から黒い槍が伸び、ハーピィを突き刺す。
それを見た別のハーピィがシンの後頭部に蹴りを入れた。さすがのシンも体勢を崩し、地面に落ちた。
「くう……。」
しかし、このシンの攻撃も時間稼ぎに過ぎなかった。カイル、ロニ、リアラの晶術詠唱が完了する。
「デルタレイ!」
「アクアスパイク!」
「バーンストライク!」
3つの光弾、高速回転する水、さらに多数の火炎弾を浴びたハーピィはまとめて絶命した。
「やれやれ、結局怪我したのはシンとリアラだけか。すまないな、わざわざ囮になってくれて。」
ロニがすまなそうに言い、ヒールをかけてくれた。さらに、リアラにもヒールをかける。
「いや、ソード形態は最前線で敵に殴り込みをかける形態だし。仕方ないさ。」
「その度に回復が必要となると、ロニやリアラの精神力が持たなくなるぞ。確かに形態別の用途を考えるのはいいが、ダメージを受けないことに勝るものはないからな。」
「一応、わかってるつもりだよ。ソード形態だと逃げにくいから、頑張んないといけないけど。」
5人は坑道跡を通り、山岳地帯を抜けた。下手に霧のかかる場所を通るよりは、ルートが確定している坑道跡の方が確実だということだ。
「とりあえず、この地図で見る限り、途中に小屋があるみたいだぜ。今日はそこに泊まることにしようや。」
ただでさえ視界を塞がれて疲れる山道だ。適当に休息を摂った方がいい。
「えーと、この辺りのはずなんだけど……あっ、あった!」
坑道から出たカイルが、早速その小屋を見つけたらしい。存外頑丈そうな小屋だ。この街道を使う人のために設置されたのだろう。
中も意外と居住性に優れており、薪や非常食、毛布も用意されている。
「これで一休みできる……。霧の中を延々歩くのは疲れる……。」
シンの赤い瞳が色褪せている。目の血流が減っているのだ。余程疲れているのだろう。
「一晩寝よう。それからノイシュタットに向けて出発だ!」
どこまでも元気のいいカイルを横目に、シンはぐったりと座り込み、毛布を被って寝てしまった。
目を覚ましたのは、それからしばらくしてからだ。ロニの怒鳴り声が聞こえたのだ。
「関係ねえよ!」
状況がつかめない。寝たふりをして様子を窺うことにした。
「あ、すまねえ。いや、何でもないから寝ていてくれ、リアラ。」
怒鳴りつけた相手はリアラだったらしい。あのロニがリアラに怒鳴りつけるなど、珍しいこともあったものだ。
「うーん、リアラぁ……。」
カイルのぼんやりした声をきっかけに、空気に緊張が走ったようだった。だが、彼の次の言葉に、一気に緊張はなくなった。
「リアラ……ずっと……一緒……ロニも……ジューダスも……シンも一緒……へへ……。」
寝言らしい。どうやら5人で終わらない旅を続けている夢でも見ているようだ。
「ジューダス、もうやめようや。この脳天気な寝言聞いてたら、お前が何者かなんてどうでもよくなっちまった。」
「……お前がそれでいいなら僕はそれでいい。」
シンは納得した。ロニはジューダスの正体を知りたがったのだ。確かに得体の知れない人物なのだから、いつ寝首を掻かれるかと思っても仕方ない。
ただ、これまでにもチャンスはあった。本当に寝首を掻くつもりなら既に実行しているに違いない。
「ジューダス、お前は休めよ。目が覚めちまった。まだ夜は長いんだ、この辺で休んどけよ。」
「ああ、すまない。」
誰かに心配されるというのは気持ちいい、と言いたげな口調でジューダスは毛布に包まった。寝るときまで仮面を外さないというのは奇妙だったが、それだけ正体と内面を知られたくないのだろう。
「ごめんね、ロニ。」
「いいってことよ、俺も目が覚めちまったしな。」
「そうじゃないの、変なこと言っちゃって……。」
「気にすんな。さ、リアラも寝てろ。な?」
どうやら一件落着、らしい。曖昧な遣り取りだったが、お互いに納得できたのならそれでいい。カイルの脳天気さに感謝しつつシンは再び眠りに就いた。
夜が明けて出発だ。ロニがやや疲れたような顔をしているが、気にしないでおくことにした。下手に言うと余計に疲れるだろう。
「次の坑道を抜けて、南下して海岸線にぶつかったら東だ。坑道内部で分かれ道があるが、間違えるなよ。」
ジューダスが地図を確認し、きびきびとルートを決める。決断の早いジューダスがいることで、この5人の旅は効率的なものとなった。
「ジューダスが仲間でいてくれて、俺たち助かってるよなあ。」
カイルが何の気なしに言ったその言葉に、ジューダスはどこか鋭い痛みに耐えるような顔になった。過去の古傷なのだろうか。
「本当に……ジューダスがいなかったら、今頃野垂れ死にしていると思うぞ。」
「お前達が頼りないだけだ。」
皮肉屋は相変わらずだ。だが、世間にはツンデレなる言葉がある。ジューダスはまさにそれではないか、とシンは思う。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか濃霧の領域から脱出していた。じめじめした空気から解放され、目に見えて5人は生き返った。
「ふう、やっとか。真っ直ぐ行けばノイシュタットなんだな。」
何度かモンスターの妨害にも遭ったが、あっさり撃退できるレベルで助かった。なんとか消耗する前に到着できたらしい。
「早速港に行ってみようよ!」
レンガ造りのアーチをくぐり、5人はノイシュタットに入った。この街はかつて貧富の格差が激しく、子供の売り買いさえあったという。
そんな街の状況に心を痛めていたのが、オベロン社のノイシュタット支社長であるイレーヌ・レンブラントなる人物だった。彼女はフィッツガルドの発展と、格差是正に真剣に取り組んでいた。
しかし、彼女はその状況を早く打開したかったがために、ヒューゴと共に地上の破壊を目論んだ。一度破壊しつくし、新たに世界を作り直そうと。
結果、彼女はアタモニ神団の暴走によって各地を巡っていた頃に親しくしていたスタンによって討たれることになった。
ただ、フィッツガルドの住人は彼女のことを忘れていない。外殻が降って来たために市街地の多くが破壊され、ノイシュタットも大きな被害を受けた。
それでも彼女が感謝されているのは、それによって格差がほとんどなくなったからだ。貧困層にあった人々はそれまで労働に従事していたため、災害復興を素早く行えた。
一方の富裕層は、金を使うことしか考えていなかったために復興が遅れた。結局富裕層は散財し、貧困層は力をつけることが出来た。
だから、かつての貧困層にあった人々は外殻の落下を「イレーヌさんからの贈り物」と呼ぶ。彼女が本当に慕われていたことがよくわかる。
そんな話をジューダスから聞き、シンは何故そんなことを知っているのかを知りたくなったが、それを口にすれば不機嫌になるだろうと黙っておいた。
「活気があるな、この街は。なんていうか、人から活力が感じられる。」
シンはそう評した。道行く人々の笑顔が絶えない。商人たちの声にも張りがある。カイルにせがまれたロニが露天に寄ってバナナを人数分買ったが、そのバナナすら活気を帯びている気がした。
「いいところだな。」
彼は近頃、元の世界に帰ることに対して悩みはじめていた。この世界はあまりにも心地よい。戻ったところで荒れ果てたプラントと地球、それにろくな政策も期待できないラクス政権が待っているだけだ。
だが、この世界は18年前には大混乱があり、これまでの苦難を越えて来たはずである。ならば、荒れ果てた元の世界を正さねばならない。具体的な方法は帰ってからにしよう。シンはそう思った。
港はすぐ近くにあった。荷物を積みおろしする人々の顔にも笑顔がある。その中に、あのアルジャーノン号の船長の顔があった。
「船長、こんにちは。」
「おお!英雄のご一行!」
相変わらず大げさだとシンは思ったが、カイルは大喜びだ。シンは可能な限り冷静に船の修理について聞いてみた。
「どうです、作業の方は。」
「それが……なかなか。もう少し時間がかかるようです。意外と傷が深いようで。竜骨には影響はないようですが、浸水の被害は……。」
「そうですか……。」
シンは状況を仲間に説明する。手持ちの資金も少しばかり増やしておきたいところだ。いざという時のためにはやはり、資金は大事なのだ。
「つってもなあ、何をすりゃいいんだ?」
その様子を窺う者がいた。じっとりと値踏みするような視線だ。シンは少し首筋が痒くなった。リアラが少し身震いする。どうやら視線を感じているらしい。
不審さを感じた5人は、全員がその方向に視線を向けた。
TIPS
双炎輪:ソウエンリン 火
地裂斬:チレツザン 地
斬衝刃:ザンショウジン 武器依存
影殺撃:エイサツゲキ 闇
双輪還元:ソウリンカンゲン 火
ここまでです。
お次はカイルのバカっぷりが炸裂する話ですが、台詞がなかなか思い出せなくなってきた……。
友人にTOD2を貸しているので台詞の確認が……。最近台詞の捩れがありますが、どうかご了承ください。
あと、念のため。この話はPSP版に準拠しています。
GJ
次回も期待してる。
秘奥義の時のカットインを作ってみたんだ
適当に改造しただけだから笑ってくれて構わんよ
_,.-'´ _,.-''´ _ - ´ _,ィ"´ ヽ;::'r彡=ヽ::::lミ、 ヽ:::::::::::::::::::::::〃
l _, -''´ _, '´ _,.-ヘ:::::', _/イメヽ ,.-l::メ, ミ、 l::::::::::::::::::::〃
"´ , '´ _,ィ::::| j ヽ::ヾr'"li! {:::::´:::} '′ l:::::::::::::::::〃
_ - ´ ,/:/_|:::::|_ `ーヽ:::ヽ `ー'´,:〃 j:;イ::::::::::〃
/ /:::|アf;::::トミ、ヽ ヽ::ヽ ,.=彡'´ // l::::::;〃
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r−―;‐┘l::l::::::ト、!:::!‐' ,; l:::::::::::::::\' 、 j:/〃 /
ヽ ';:ト;::::! ヾ;:!=彡':::::::::::: `ヾ;、 〃 l| l __
' , ` ';:::! ヾ'、 ′ `` / jl l´
どもー。
>>391 期待されるというのは嬉しい限りですよ。
期待に応えられるように頑張っていますが、前述の通り台詞を忘れてきてますから、「それっぽい」台詞を使って書かざるを得ない状況になってきています。
思い出せるように精神修行をするか、友人から台詞確認のために一時的に返してもらうか、対策を考えなくては。
>>392 えーと。こわっ。
でもそれっぽいかも。うん。
力をよこせとか其のあとの展開とかこれはもう・・・
夢小説ですな
>>395 あ、やっぱりそう思います?w
大丈夫です。それなりに納得出来るような理由にはしますし、既にその布石は打ってありますから。
さてと、では投下します。
10 イレーヌの遺産
5人が向けた視線の先には商人らしき男がいた。思い切り媚を売るような顔つきだ。
「皆様方は冒険者かとお見受けしますが……。」
「そうですけど、何か御用ですか?」
商人の問いに、シンが応えた。胡散臭いことこの上ないが、威嚇するのも問題がある。可能な限り敵意は抑えておくことにする。
「皆様方に……その、頼みごとを、と思いまして。」
この手の依頼は8割方商人が儲かるようになっている。しかも、こちらに危険な仕事を押し付けるだけ押し付けて、だ。断るに限る。しかし。
「頼みごと!?英雄たるもの、困っている人を助けるものだからね、引き受けようよ!」
などと暴走する人物が仲間内におり、しかもリーダー格なのだから頭が痛い。
「英雄……おお、そうですとも。英雄の皆様方に是非お頼み申し上げたい。つきましては、私のあばら屋にお越しくださいませ。この街の北にありますのでわかりますかと。詳しい話はそちらで……。」
商人は表面だけの笑顔をたっぷり振り撒いて町へと戻っていく。
「……カイル。本当に依頼を受ける気なのか?」
ジューダスはつとめて冷静に言っているが、苦虫を噛み潰したような口調である。ジューダスも胡散臭いと感じているらしい。
「当たり前じゃんか。」
「……ならいい。今更何を言っても無駄のようだ。」
ジューダスもついに諦め路線を覚えたらしい。カイルの発言や行動には説得力こそないが、周囲の人間を諦めさせる力がある。
おそらく、カイル自体がエネルギーの塊のような存在なので、誰もついていけないのだろう。
「さあ、行こうよ!」
元気よく歩き出したカイルについていけたのはリアラだけだった。残る3人は溜息を吐きつつついていくことになった。
商人はあばら屋などと言っていたが、どう見ても金持ちの家だった。どうやらイレーヌの苦労が報われなかった例もあったらしい。
中に入ってみると、金持ちが好みそうなものが大量に展示されており、いかにもと言いたくなるようなメイドが恭しくお辞儀をしてくる。
あの商人がどういう人物なのかはよくわかった。カイルがやると言ってしまったのだから、これはさっさと終わらせなくてはならない。シンは精神的に鬱陶しい、と感じた。
「おお、おいでになりましたか、英雄ご一行様。」
何とも内側にある軽蔑したような感情が滲み出ているようだ。シンは苛々を募らせたが、ここで怒鳴りつけても意味がない。
しかも、何故かシンには何か「売り物」を見るような視線を送ってくる。理由は何となくわかった。シンの赤い目が珍しいのだ。
この目は元の世界でも珍しいものだった。そのため、学校やアカデミーでもよくこの目の事を聞かれたし、街を歩いていても自分の目を見る人間は決して少なくなかった。
だが、この売り物を見るような目は普通ではない。大抵は興味や畏怖、嫌悪などの視線であり、この手の視線はほとんどない。シンにとっては居心地が悪い視線だ。
フラストレーションを押さえ込み、依頼内容を聞く。
「では、内容をご説明いたします。実は偶然知ったことなのですが、この近くのオベロン社廃鉱に財宝が眠っているという話がございまして。」
「それを取って来い、ということですか。冒険者向きの依頼ですね、確かに。」
シンは皮肉な色を押さえ込んだが、多少滲み出てしまったらしい。しまったと思ったが、商人は何事もなかったように続ける。
「はい、その通りでございます。」
「わかりました、今すぐ行きます!」
カイルが意気込み、拳を握り締め、すぐに駆け出そうとしたが、ジューダスが一歩前に踏み出た。
「その前に……貴様、何故彼女の手紙にしか書いていないことを知っている?どこで手に入れた?」
その口調は静かなものだったが、まるで知人を侮辱されたようなものだった。静かではあるが怒りがこもっている。
「いや……その……わたくしはイレーヌ・レンブラントの手紙など知りませんが……。」
「僕は彼女の手紙と言った。別にイレーヌのものだとは言っていないぞ。」
ジューダスはあくまでも冷静だ。はめられたと思った商人は口を戦慄かせながら言い放つ。
「な、何たる言い草だ!こ、この話、無かった事に……!」
空気が悪くなってきたので、カイルが慌てた。英雄を目指す者として、ここは何が何でも依頼をこなさなければ、と思ったらしい。
「あああああ、待って待って。要するに、その廃鉱に行って宝物を取ってくればいいんだよね?」
「それは、そうですが……。」
「それじゃ、今すぐに出発するよ。期待していてね!」
ノイシュタットを出発した一行だったが、また白雲の尾根に突入しなければならないと知り、意気消沈した。
「はああ……またあの霧の中を歩くのかよ。」
「仕方ないよ、そういう場所にあるんだし。」
「あのなあ、カイル。お前が考えなしに依頼を受けちまったことがそもそもの発端だろうが!」
「文句を言う暇があったら足を動かせ。こんな下らん依頼はさっさと終わらせるに限る。」
「俺はあの商人が嫌いだな。俺のことじろじろ見て……あの野郎……!」
「まあまあ。……あれがそうじゃない?」
リアラが指を指した方向に、山肌に黒々とした口を開けた廃鉱が見えた。
「あれかあ。さあ、張り切って探すぞ!」
カイルが嬉々として廃鉱に入っていく。リアラがそれを追い、残る3人が追いかけた。
中は意外と広い。土に埋もれた階段があったり、機能が停止した筏があったりはするが、かなり頑丈な作りらしい。
「ここが廃鉱か。人の手が入らなくなったから、モンスターが棲み付いてるな。」
「モンスターだけならいいけどさ、お化けが出るかも。うーらーめーしーやー、って。」
シンがさらりと言ってのけたその言葉に、ロニは目に見えて怯え始めた。
「な、なななな何を言っているのかね、シン・アスカ君。そそそ、そんなものいるわけが……。」
「ロニ、お化けが怖いの?」
カイルの問いにもロニは震えている。
「ここここ怖いなんてことがあるか。ただ、その、いたら……困るなって思ってよ……。」
「それを怖いというんだ。」
ジューダスはあくまで冷静だ。ロニはお化けが怖い、というより苦手なのだ。手にしたハルバードで攻撃できるものならともかく、実体がなく得体の知れないものは駄目らしい。
普段は頼りになる兄貴分のロニだけに、このギャップは情けないを通り越して滑稽ですらある。
「きゃっ、今そこに何か……!」
リアラの小さな悲鳴にも、ロニは目に見えて過剰な反応を示した。
「なななななな、何が見えたんだリアラ!何が見えたか言ってくれ!あー、でも聞きたくないでも聞いた方が……。」
「リアラ、それはお前自身の影だ。」
ジューダスは相変わらず冷静だ。明らかに年齢も身長も低いジューダスの方が大人に見える。
「な、なーんだ、リアラ、お化けだなんて大げさだなぁ。ぅははははははは……。」
「あー、ずるい!私、お化けだなんて言ってないわ!」
この騒がしい漫才のような遣り取りが、シンは気に入っていた。彼にとっては何よりも心を癒してくれるものなのだ。
「……!?ヒギャアアアアアァァァァァ!」
ロニが盛大に悲鳴を上げて駆け出した。何が起きたかは想像がついた。水の雫がロニの首筋に当たったのだろう。
「やれやれ……シン、ロニを止めろ。」
ジューダスは呆れたような口調でシンに言った。シンも呆れた表情でフォース形態を取り、鏡影剣でロニの影を射抜いた。
「あああああああ、金縛りが!お化けが!助けてくれー!」
鏡影剣で影を射抜かれると、声帯と顔、それに横隔膜以外の随意筋が硬直する。そのため、ロニはその場でつんのめり、叫び続けている。
「ロニ、そろそろ静かにしてくれないか?モンスターを呼び寄せることになるだろ!」
笑顔のシンが、右手のサーベルをロニの目の前で突き立てたので、ロニは顔を青くしながら沈黙した。
しばらく進んでいくと、広い空間に出た。用途不明の機械とコンソールと画面のようなものがついた箱型の機器、おそらくは中央制御コンピュータのようなものだろう。
「これは……。」
シンは箱型の機器に向かい、あれこれ操作してみたが、エネルギーが供給されていないせいか動かない。
「動力炉……みたいなものがあるんじゃないかな?」
自分の背中に張り付くようにしているロニのために素早く動けないが、大型のパイプがいくつかついている機械に目をつけた。ジューダスはすぐに気付いたらしく、シンより先にその機械を確認してる。
「この装置は……おそらくレンズ起動型エンジンだな。ここにレンズを入れて動力を確保するための機械だ。だが、そのレンズが今入っていない。」
「必要な数はどれくらいだろう?手持ちのレンズでは足りないかな?いろいろ機械を確認するためにはエネルギーが必要だろうし。」
機械に囲まれて暮らしていたシンはすぐに飛びついた。機械がそれなりに好きでなくてはモビルスーツのパイロットなど務まらない。
「数は……そうだな、最低でも200は必要だ。」
「200だって?俺たち、そんなに持ってねえぞ。」
「ロニ、多分ここのどこかに保管レンズがあると思う。この動力炉はレンズを使って動いてるんだよな?けど、ここが働いてたとき、この機械に必要なレンズはどうしたんだ?予備くらいは置いてるんじゃないかな。」
シンの考えに同調するように、ジューダスが補足する。
「それにこの鉱山は18年前の騒乱の後に、オベロン社が復興事業に全力を注いだために忘れ去られている。レンズを回収する余裕もなかっただろう。」
「じゃあ、その保管レンズを探そう!」
奥に進むと岩肌が露出し始めた。あちこちにつるはしやスコップ、一輪車にトロッコが放置されている。
「この木箱は?」
カイルが指差した木箱は厳重に鎖で縛られており、ご丁寧に鍵までついている。ジューダスが剣を一閃させて鎖を切断すると、中からレンズがこぼれた。
「レンズだ。でも、これが財宝ってことはないよね?」
「鉱山跡にある財宝だ。レンズだとは断言できないが。」
その時はその時だとシンは思った。あの商人が財宝と言っていたくらいだから、正体まではわからないらしい。適当に誤魔化すのも手の一つだ。
「それじゃあ、持って行くか。他にもあるかも知れないけど、まずはこれだけ。」
シンはその木箱を担ぎ、レンズ起動型エンジンのところに持っていった。足りずに他のレンズを探すことになったため、何度か往復することになったが、ロニが騒いでくれたお陰か、モンスターは襲ってこなかった。
「さてと、定数は満たしたはずだ。このレバーをセットすれば……。」
ジューダスがスイッチを入れた。何かが唸るような音がして、エンジンに光が灯る。
「シン、そっちの中央制御システムは扱えるか?」
シンはコンソールを叩きながら応えた。
「今試してる……元の世界のコンピュータの操作方法とそんなに変わりはないな。ちょっと複雑だけど……あ、ジューダス!爆弾製造装置がこの廃鉱内にあるみたいだ。さっきの土砂に埋もれた階段に爆弾仕掛けてみる?」
「そうか。どこにある?全体図は出せるか?」
「えーと……このボタンでいいのかな。いや、違うな。このシステムを呼び出せば……よし、出せた!そうだなあ……大型の機械……入り口の近くにあるみたいだ。」
「よし、そこに行くか。だが、機能しているかどうか。」
「こっちのシステムでコンディションチェックしたけど、センサーは正常に働いてるし、原材料も問題ないみたいだ。」
ジューダスとシンが何やら操作しているのを見ていた3人は、置いてけぼりを食った気がした。
「は、話についていけないわ……。」
「俺にはちんぷんかんぷんだよ……ロニは?」
「お、俺がわかるわけないだろ。」
一頻り操作し終えたところで、シンとジューダスが振り返った。
「この廃鉱の入り口付近に爆弾製造装置があるらしい。それを使って土砂に埋もれた階段を露出させるぞ。」
ジューダスの発言に、ロニは少し顔を歪めた。
「ば、爆弾?んな物騒なもんがあるってのかよ?」
「鉱山開発には爆薬が不可欠なんだ。人の手だけでは限界があるから。」
じめじめした、暗い道を戻っていく。入り口の眩しい光を感じながら、一行はそれらしい機械を探した。
「えーと、見取り図だとこっちの方に……。」
「シン、こっちだ。」
ジューダスが示した機械はベルトコンベアが付属し、さらに複雑にパイプと箱が組み合わさったような形をしている。その機械の画面とコンソールをチェックすると、確かに爆弾製造装置のようだ。
「ニトログリセリン反応用の配管、バルブが閉まってるみたいだ。それを開けて、それから……。」
じれったそうにカイルが口を開いた。
「なあ、適当でいいじゃないか。」
「爆薬扱ってるのに適当な手順なんか踏んだら、即爆死するぞ。普通の工場だって手順を間違えたら火災が起きたりするんだから。」
シンはこれでもその手の勉強はしている。工業において、絶対に守らなくてはならないのがその手順だ。何のためにその手順を踏まなければならないのかは、大抵理由が存在する。
この順番を間違えると事故が起きる。特に化学工業においては発熱、爆発が当然のように起きるので、面倒でも従うほかない。
「えーと……これでよし。それじゃ、カイル。右から三番目のバルブを開けて。次に左から4番目の……。」
しっかり手順どおりにカイルを動かし、製造装置のスイッチを入れた。唸るような音と配管を流れる液体の音がしばらく聞こえた後、ベルトコンベアからダイナマイトが運ばれてきた。
「ちょっと作りすぎたかも……。まあ、いいや。後で使えるかもしれないし。」
シンはダイナマイトをいくらか懐に放り込み、手順を踏みながらシステムを止めた。
「さてと、これで爆弾は手に入ったけど、導火線とか時限発火装置がないんだよな。」
「シン、お前に渡したソーサラーリングはどうした?」
そうだった。ソーサラーリングならば熱線で火をつけることもできる。うっかりしていた。
「そうそう、それがあった。じゃ、行こう、皆!」
土砂に埋もれた階段のところに戻ってきた。シンが必要な箇所に爆弾を仕掛け、全員を離れさせた。
「それじゃ、耳塞いで。」
彼はしっかりと狙いをつけながらソーサラーリングを撃った。熱線が爆弾に直撃し、炸裂して土砂を吹き飛ばした。埋もれていた階段が姿を現す。
「さて、何があるのか楽しみだな、カイル。」
「うん、俺、すっげー楽しみ!」
ロニとカイルがわくわくしている。シンはそこまで楽観的ではない。オベロン社の遺産であることを考えると、物騒な兵器、例えば毒ガス爆弾のようなものだったとしてもおかしくない。
少々不安ではあるが、二人の後について階段を上っていく。しかし、そこは行き止まりだった。
「行き止まり?なんだよ、つまんねえな。」
「いや……これを見ろ。おそらくだが、この先に通路がある。」
ジューダスが指を指した壁は、妙に周りとは違う色の壁があった。何かで塗りこめられているようにも見える。
「シン、爆弾は?」
「まだ結構ある。また仕掛けてみるか?」
「そうだな、その方がいいだろう。」
先程と同じ手順で爆弾を仕掛け、爆破した。ジューダスの読みどおり、崩れた壁の先に通路が現れた。その先へゆっくりと歩を進めると、それらしき箱があった。厳重な鍵のついた、それも衝撃を緩める素材を内部に用いているらしい。
誰もまだ開けたことがないようだが、近くに鍵が落ちていた。それを使ってみると、中には何やら石ころが入っていた。見た目はただの石のように見えるが、触ると静電気のようなものを感じる。
「これが……宝物?こんな石っころがか?」
ジューダス以外の4人は落胆したが、ジューダスだけは鉱石をまじまじと見ている。そして、意を決したように口を開いた。
「間違いない。確かにこれはオベロン社の遺産だ。この鉱石は……レンズの力を増幅させる力がある。この鉱石はあのベルクラントに用いられたものだ。」
「ベ、ベルクラントだって!?オベロン社の遺産ってのはそんなに物騒なものだったのかよ?」
「この鉱石の精錬法はまだ確立していない。あのオベロン社が躍起になって研究したが、まったく解析できなかった。あの商人如きが使いこなせるようなものじゃない。文字通り石ころほどの価値しかないというわけさ。」
「まあ、物騒なものを作られるよりはマシさ。さてと、これを持って帰らなきゃならない。まずは鍵をかけて……ん?」
シンは大気の揺れを感知した。風がある。それも、もっと奥の方からだ。奥の方向に視線を向けると、光が漏れている。まだ何か空間があるらしい。
「奥に何かあるみたいだ。行ってみよう。」
とりあえず箱を縄で縛り、ロニに担いでもらうと、5人は奥に向かって歩いた。徐々に光が強くなっていく。そして、それが5人の目に入った。
そこは美しい場所だった。岩の切れ目から零れる光が辺りを照らし、切れ目から浸入したと思われる水が小さな池を作り上げている。ロニが驚いた水の雫は、どうやらここから漏れたものらしい。
光の周りには草が生え、花まで咲いている。この世のものとは思えない、そんな光景だった。
「こんな綺麗なところがこの廃鉱にあったのか……。」
「ねえ、これは何?石碑……かしら。」
リアラが見つけた石碑は、半ば草に埋もれていたが、刻まれた文字は風化していないようだ。ロニはそれを読み上げる。
この鉱山で取れる鉱石はレンズの力を増幅させる作用があります。この鉱石を使えばノイシュタットの生産能力は向上し、さらなる発展と格差是正に繋がるはずです。
この鉱石はそのままでは使えず、長い年月、光に晒されることによって反応し作られるようです。偶然この鉱石がある場所に偶然岩の切れ目があった。これは神からの贈り物なのでしょう。
ですから、この場所を壊さないでください。この場所が壊れると光が届かなくなり、鉱石が作られなくなります。
鉱石の力をノイシュタットの発展と住民のために役立ててください。
この文章を読む未来の誰かへ
イレーヌ・レンブラント
「なるほど、確かにレンズの力は兵器だけじゃない、工場や船にだって使える。物騒だと思ってた俺たちも、この鉱石を軍事利用した連中とおんなじ頭だったってことだな。」
ロニはやや皮肉めいた言葉を放った。ベルクラントによって家族を亡くしたロニだったが、それを使った人間と同じ考えだったことに反省しているのだろう。
「イレーヌ・レンブラント、か。確かに過去に彼女のしたことは間違ってたと思う。でも、思いそのものは本物だったんだな。」
シンはしみじみと言う。どの世界に行っても技術を兵器に転用したがる人間はいる。元は薬だった火薬しかり、坑道爆破に作られたダイナマイトしかりである。
そもそも、シンが搭乗して戦っていたモビルスーツですら、本来は宇宙空間で作業をするために作られた機械だった。人間に出来ない力のいる仕事、そして人間並みの細やかな仕事。
そんな夢のある、そして人間を豊かにする道具が、いつの間にか戦場の主力兵器と化してしまった。人間とは愚かな限りだと思う。
「結局僕たちは無駄足を踏んだということか。」
「そんなことないよ、ジューダス。」
カイルはあくまで明るい。
「この綺麗な場所そのものが宝物だと思わないか?」
「この場所そのものが、か。たまにはいいこと言うじゃねえか、カイル!」
「うん、この綺麗な場所、守っていきたいね。」
「それはノイシュタットの人の仕事だよ、きっと。俺たちが手を出していいようなものじゃないんだし。」
「この場所が宝か……安っぽいな。だが、そういう安っぽいものもたまにはいい。」
5人が5人なりの反応をし、廃鉱を出た。来るときよりも、ほんのりと暖かいものを胸に秘めながら。
「それにしても、イレーヌさんって本当に心の綺麗な人だったんだなあ。あの人の思いは本物に違いないぜ…………って何だよその反応は。」
ロニの発言は他の4人を絶句させた。ジューダスが全員の思いを代弁するかのように口を開いた。
「いや、お前が女性の外観ではなく、内面を評価したのがお前らしくないと思ってな……。」
「普通なら美人だとかなんだとか言うと思ったんだけどな。」
シンの追撃に、ロニはわなわなと震えながら応える。
「お前ら……あー、そうだよその通りだよ!イレーヌさんってきっと美人なんだろうな、とか思ったよ!悪かったなチクショウ。」
ほのぼのとしても、最終的にはここに落ちてくる。だが、それがいいのだろうとシンは思った。
ここまでです。
このシーン、TOD2でも屈指の名シーンなんですが、マジで記憶が……。
どこか抜けてるかもしれません。
とりあえず、焦らず書こうと思います。
GJ
プレイしているとスキップで話はあっさり進んでいくけど
文章に起こすとなかなか省略するところが無くてなかなか進まないな。
次回も期待してる。
どもー。
>>405 このイレーヌの思いを綴ったシーンだけは飛ばしたくなかったので、長いこと書いてしまいました。
本来なら戦闘シーンも入れておくべきなのですが、戦闘を書くとまるまる2レス分くらい消費してしまうので割愛しました。
何より大きな比重を占めているのがスクリーンチャットの内容です。ここのチャットは結構好きなので入れてしまいました。
特にロニのお化け嫌いのネタが(ry
今は少し反省してます……。
>>406 べつに反省しなくていいよ。投下されるのもそれなりに早いと思うし。好きにやっていいよ。
続けてくれるだけでありがたい。
>>407 あ、どうもありがとうございます。
自分で理解していますが、この手の二次創作ははっきり言って書き手の妄想の産物に過ぎません。
ただ、自分の嗜好だけで書くと全体のバランスが崩れてしまうので、そのあたりは反省しないといけないんです。
今回は自分の嗜好を強くしすぎましたから。
反省なくして向上なし。そう自分に言い聞かせる意味もありますから。
では、投下します。
11 寒い道
アルジャーノン号も無事修理が終わり、一行はスノーフリアに向かう船の上にいた。シンは笑いを噛み殺していた。ノイシュタットの商人の無念そうな顔を思い出したからだ。
見つけ出した宝が石ころだと知り、他に何もなかったかと自分達に問う商人の必死さ、そして、報酬のガルドを渡すあの残念そうな顔が滑稽でたまらなかった。
欲ボケをした罰だとシンは思った。イレーヌのことは伏せておいた。あれはあの手の汚い商人に見せるべきものではない。ノイシュタットの住民に見せるべきものである。
勿論、鉱石の用途も伏せた。本当に精錬法を見つけ出されてはまずい。とはいえ、金に汚いだけの商人にそんなことが出来るとは思わないが。
「これでよし、と。スノーフリアは寒いって話だから、コートが必要だな。俺はともかく、へそ出しルックのカイルとロニ、それに薄着のリアラは……。」
シンの着込んでいる軍服は耐熱性も断熱性もある。とはいえ、氷点下まで冷え込むだろう寒冷地の夜は耐えられまい。
まずはスノーフリアに着いたら衣料店に向かい、それぞれに見合った防寒具を買い込もう。シンはそう思った。金銭の心配はない。何しろあの商人から巻き上げた分で賄えそうだからだ。
「……イレーヌのこともオベロン社のことももう18年も前の話だ。やけに詳しいから、ちょっと気になっただけで……。」
ロニの声だ。またトラブルらしい。
「だから僕のことが信用できない、と?遠まわしな表現はやめたらどうだ。」
「あのなあ、ジューダス。しまいにゃ怒るぞ。単に歳の話をしてただけなのに、どうしてそういう信用するとかしないとかの話になるんだよ。」
そこに慌ててカイルが割り込んだ。
「待って待って。ロニはジューダスの歳が知りたいんだよね?んで、ジューダスは言いたくないんでしょ。だったらこの話はおしまい!」
「だが、そう言うわけにもいかないようだ。そこに隠れているのも、どうやら僕に聞きたいことがあるらしいからな。」
柱の陰から姿を現したのはリアラだった。リアラもジューダスに何か言いたいらしい。この状況で出て行くのはまずい。このまま状況を見ておくことにした。
「……どうして……。」
「どうして私の力について知っているのか、だろう。リアラ、お前が何者かを明かすことが出来るのなら僕も理由を言おう。どうだ?」
それは聞きたいところだが、リアラは黙ってしまった。それほど黙っていたいものなのだろう、とシンは思う。誰にでも隠したい部分はあるからだ。
「僕のことが信用できないのならスノーフリアで別れる。荷物をまとめておく。」
ジューダスはカイルたちのいる甲板から船内に入ったが、扉の陰に隠れたシンの目の前で立ち止まった。
「お前は僕に自分の力について聞かなかったな?僕がそれなりに知っているような素振りを見せたというのに。」
「自分で何とか調べてみるつもりだからな。それに、あの程度のことで別れるとか、ちょっと言い過ぎだぞジューダス。」
シンの目は真剣だ。赤い瞳の色合いが濃くなっており、彼の感情がはっきりと浮き出る。
「ジューダスは確かに不審人物にしか見えないさ。隠しておきたいところもある。けど、あの地下牢だの大神殿だの散々助けてくれたし、本当に危害を加える気なら霧の中で始末してもよかった。」
「……。」
「それだけじゃない。俺たちははっきり言って隙だらけだった。でも、何の危害も加えないし、むしろアドバイスもくれる。剣の修行だってそうさ。俺はジューダスを信用してる。」
「何の正体も明かそうとしない僕をか?」
「あのさ、ジューダス。ジューダスは相手の秘密を全部知ったらその人を好きになるの?」
ジューダスを追ってきたカイルが言った。ジューダスはいきなり言われたことに驚いたのもあるが、この質問には答えられないらしい。
「それは……。」
「俺、ジューダスのこと好きだよ。秘密があるとことか、そういうのをふくめて全部好きなんだ。だから、一緒に旅を続けようよ。」
「カイルの言うとおりだと思う。秘密なんて防寒具着込んでるのと同じさ。外が寒いのなら、自分が寒く感じるなら着込んでおけばいいんだ。無理に脱いだら凍えてしまう。無理強いしてもいいことないしな。」
先程考えていた防寒具を引き合いに出してみた。何やら誰かの二番煎じの気もしたが、まあ、それはいいだろう。
「……。」
「防寒具は脱ぐ気が起きたら脱げばいい。秘密は見せる気があるなら見せればいい。それだけさ、ジューダス。」
シンとカイルはロニとリアラのいる甲板に向かった。ジューダスは呟く。
「あの時とは違うと思っていた。だが、今も同じことを繰り返している……。それでも、それでもだ、僕はやり遂げなくてはならない。知られぬままに……気付かれることなく……。」
ジューダスは怯えていた。決してカイルたちには見せない怯えだ。仮面を被っているのもそうだが、その態度も内面を押し隠す「道具」である。
彼は知っていた。カイルたちが自分を大切な仲間だと思っていることを。だが、ジューダスはその「仲間」で苦い経験をしている。再び過去のようになりはしないか、その苦い過去が浮きではしないか。
ジューダスにとって、この旅は償いなのだ。かつて、自らのエゴで裏切った友への贖罪。傷つけてしまった血を分けた存在への贖罪。
ジューダスは背中からする「声」を聞き、返事を返す。誰にも聞けない声だ。小声での返事だ。
「わかっている。僕はあいつらの面倒を見なければならない。それが僕の仕事だ。」
彼は全ての感情を心の奥底に押し隠し、甲板に向かった。
「さてとこれからどうするか……。」
ロニが今後のことについて考える。ジューダスには悪いことをしたと思うが、くよくよしていても始まらない。そんな口調だった。
「そろそろスノーフリア港に着く。荷物をまとめる準備をしろ。」
ジューダスだった。いつも通りの口調である。
「ジューダス……。あ、さっきはすまなかったな……。」
「いや、ロニ。僕の方こそ大人気なかった。」
「な、なんだよいきなり。らしくねえな。」
「実年齢はともかく、精神年齢はお前より僕の方が上だ。その僕としたことがうっかりしていた。」
最初は感激していたロニも、段々と元のロニに戻りつつあった。
「ジューダス……てめえ……!」
「あはっ、あはははははははは……。」
「うふっ……あはははははははは……。」
「あははは、ははははははははは……。」
カイル、リアラ、シンが笑い出したので、ロニは矛先を三人に向けた。
「こら、お前らも笑うな!」
シンは笑いながら思った。これでいい。これがいつも通りなのだと。
スノーフリア港からスノーフリアの街に入った5人は、まず衣料品店に向かった。防寒具の購入だ。ジューダスはいらないと言ったので、4人がそれぞれに選び、着込んだ。
一撃で商人から受け取った報酬が吹き飛び、さらにアルバイトで稼いだお金も少し削られたが、凍死するよりはマシだ。
寒いと震えていたカイルとロニ、そしてリアラは防寒具を身につけた途端に元気になった。
「うわー、雪だぁ。一面真っ白だあ。ねえ、雪合戦しようよ。」
スノーフリアの外に出たカイルは大はしゃぎだ。一面に降り積もった雪など目にした事がないのだろう。
「そいつぁいいなあ。……ほれ!」
ロニものりのりだ。カイルがスタートの合図をかける前に雪玉をカイルにぶつけた。
「うわっ、ロニ、後ろからなんてひどいじゃないか!えいっ!」
カイルがロニを狙って投げた雪玉が、ロニが避けたことでリアラにぶつかった。
「きゃっ、ひっどーい、カイル!」
「あ、ごめんリアラ。でも今のはロニが……っぷぇ!」
「へっへーん。おかえしですよーだ。」
リアラも負けじとカイルに雪玉を投げつけた。ルールも何もない、仁義なき雪玉の応酬だ。
「俺もやるか。赤道付近で暮らしてたから、天然の雪は馴染みがないんだよなぁ。」
シンも少し童心に返ったつもりで、この仁義なき戦いに乱入した。
「うお、シンか!お前もなかなか好きなんだな、うりゃ!」
「当たらなければ、ってね。それ!」
「うわ、いきなり俺?負けるか!」
「私も負けないわよ。それっ!」
「あてっ、リアラに当てられたか。まだまだ!」
その様子を眺めていたジューダスは呆れているようだ。普段ならジューダスと共に突っ込みに回るシンが、一緒になってふざけているからだ。
「僕はやらないぞ。そんな子供じみた遊びはとっくに卒業し……。」
流れ弾がジューダスの仮面に当たった。それでもジューダスはクールに決めようとする。
「フッ……聞こえなかったらしいな。僕は……誰だ、今石を入れたものを投げたのは!」
さすがに怒ったらしい。ジューダスは背に隠した剣を抜き払った。
「わー、ジューダスが剣を抜いた!逃げろ!」
「貴様らそこになおれ!」
4人は慌てて逃げ出した。シンはさすがにまずいと思った。フォース形態をとり、カイルとリアラを抱えて飛んで逃げた。
「あ、こら、お前らずるいぞ!」
ロニが雪に足を取られながら逃げたが、ジューダスにあっさり捕まった。足を払われ、肩を踏まれたのだ。
「ストーンザッパー!」
ジューダスが放った石飛礫がシンを襲った。シンの脳天に炸裂し、シンはふらつきながら雪が積もった地面に倒れ、やはり3人まとめてジューダスに捕まった。
「お前達……。いいか。勝手にふざけるのは結構だ。だが、参加したくもない人間を引き込もうとするのはどういうことか。いや、そんな意図がないとしてもだ。周りを巻き込まない方法を考えないのか。」
ジューダスは4人を雪の上に正座させてお説教だ。このメンバーの中で二番目に若い彼が説教をする姿は、何ともシュールな限りである。
「特にシン!お前は普段そこの馬鹿どもを止める立場の人間だろう。お前までふざけていてどうする。」
彼にとってシンは突っ込み仲間のようなものだ。だからこその説教なのだろう。4人は足が冷たいのと痛いのとで、反省せざるを得なかった。
1時間ほど続いた説教も終わり、一行はハイデルベルグに向けて再出発だ。
雪が降り出した。スノーフリアに到着したのは早朝のことだから、今のペースを維持できればハイデルベルグには夕方に着くだろう。
「ハイデルベルグってどんなところだろう?」
「英雄王ウッドロウが治めるファンダリアの首都だ。アイグレッテの次に発展してる街で、18年前の騒乱から早い段階で立ち直ったところだ。」
シンの問いにジューダスが即答する。どこか憮然とした口調だ。
「こんな気候なのに、よく立ち直れたよな。」
「こんな気候だからだ。早い段階で立ち直れなければ凍死するのは自分だ。それに、この地方の人間は雪に慣れている。お前達のように無意味にはしゃぐこともなければ、寒いからと引き篭もることもない。」
「……まだ怒ってる?」
「当たり前だ。」
そんな一行の前にモンスターが立ち塞がった。スノウだ。5体いる。スノウは所謂雪霊で、凍てつく風を巻き起こし、通行人を凍死させる。
「来たか!」
シンはフォース形態をとった。滑りやすい地面を踏みしめるソード形態ではまずい。
「でやああああ!」
飛翔力に任せてスノウに切りかかった。だが、スノウは小柄なモンスターだ。簡単に攻撃は当たらない。
「くっ、火炎斬!炎衝対閃!飛天千裂破!」
フォース形態には似つかわしくない力任せの戦法だ。スノウに攻撃を避けられ、コールドブレスを受けた。防寒具を通して冷気が体を冷やす。
「うっ……。」
「シン!何をしている!その形態は支援攻撃のためのものだろう、自分で忘れてどうする。」
どうかしている。ここ最近は戦闘に突入すると自分を抑えられなくなっている。まるで、あのバルバトスのように。
「……いや、俺はああなりはしない。俺はあいつのようには!」
彼は着地し、ソード形態をとった。スノウ相手には火による攻撃が一番だ。双炎輪と双輪還元を使い、まず一体のスノウを仕留めた。
その間にカイルも別のスノウと戦っている。
「はっ、てっ、てっ!閃光衝!」
カイルは身長が低いため、小柄なスノウに対しては攻撃しやすい。本人は小柄であることを悩んでいるようだが、十分な敏捷性と力を持っているのなら小柄な方が有利なのだ。
故に、閃光衝のような突き上げ技もスノウに当てることが出来るのだ。ある意味でこれは才能である。
「カイル!援護する!穿風牙!」
シンのクレイモアが風の槍を生み出した。スノウは巻き込まれて仰け反る。さらにカイルは追撃の爆炎剣を叩き込んでスノウを撃破する。
「まだまだあ!」
シンは再びフォース形態をとった。スノウのいる箇所目掛けて飛んでいき、ソード形態に入れ替えた。
「でやああああ!」
落下する勢いそのままにスノウに斬撃を与えたが、着地に失敗して、その場に倒れてしまった。スノウはそれを狙ってコールドブレスを吹きかける。
「ちいっ!」
だが、シンはフォース形態に入れ替え、コールドブレスを避けた。上空に舞い上がったシンは晶術の詠唱に取り掛かる。さらにジューダスがシンが攻撃していたスノウに間合いを詰める。
「はっ、はっ、はっ!月閃光!」
光を放つ斬り上げと共にスノウをジューダスは仕留めた。素早いの一言だ。
「フレイムドライブ!」
シンはジューダスが仕留めることくらい予測していた。だから、このフレイムドライブはリアラを狙ったスノウへの攻撃だった。
「ありがとう、シン!バーンストライク!ヴォルカニックレイ!」
多数の火炎弾と吹き上がる火炎によって、リアラはスノウを仕留めた。
「お、やべえ、俺全然仕留められてねえ!」
ロニが慌てた。大柄な彼はスノウのような小柄なモンスター相手は苦手なのだ。こればかりはどうしようもないだろう。
「ええい、爆灰鐘!」
地面を打ち砕きながらスノウを叩きのめしにかかるが、なかなか当たらない。ロニは最近使えるようになった奥義を使った。
「空破特攻弾!」
ハルバードを両手で持ちながら回転してスノウに向かう。この攻撃に巻き込まれればただではすまない。このスノウもついに斃れた。
「すっかり足止めを食っちまった。こりゃ、ハイデルベルグに到着するのが遅れるな。」
到着予定は19時以降になるだろう。スノーフリアとハイデルベルグを繋ぐ街道は整備されているが、雪が本格的に降ってきたら埋もれてしまう。
5人は足早に歩いた。何度かモンスターの襲撃を受けたが、その度に迎撃して退けた。
「このままこんなところで夜を明かすのはごめんだぜ?いくら防寒具を身につけていても死ぬって、この気温。」
「俺のフレイムドライブで暖を取ってみる?」
シンの冗談めかした発言に、ロニは苦笑しながら応えた。
「遠慮させてもらうぜ。当たったら痛いじゃすみそうになさそうだ。」
「とにかく急ごうよ。結構寒い……。」
予定時刻より大幅に遅れ、結局到着したのは21時を回っていた。何とか宿屋を見つけ、そこで休むことにした。しかし、シンはこの寒いのに出かけるという。
「おいおい、こんなときに何しに行くんだよ。おとなしく寝てようぜ。」
「風邪でも引かれたら迷惑だ。止めておけ。」
ロニとジューダスがそれぞれに止めたが、シンはそれでも出かけるつもりだ。
「ちょっと図書館に。断片的にしか知らないから、この世界のこと。もう少し知っておきたいんだ。」
歴史については特に知らなければいけない要素だ。歴史は過去の人間が積み重ねてきた結果なのだ。過去があるから現在があり、さらに未来がある。
この世界を知るのに一番適しているのは、やはり歴史である。正直なところ、シンはあまり得意ではない。だが、知る必要がある。生き延びたいのなら尚更だ。
幸い、図書館はまだ開いていた。歴史関連の棚から適当に本を選んで借りると、カイルたちが待つ宿に戻った。
「えーと、『天地戦争の謎』『レンズの歴史』『神の眼を巡る騒乱』『ケルヴィン王家の起源』『アタモニ神団に神はなし』……借りすぎたかな。」
ぼやきながらシンは、「神の眼を巡る騒乱」のページをめくった。その内容はほとんどゲームのシナリオのようなものだった。いや、神話と言う方が正しいかもしれない。あるいは中世の英雄譚とも。
ただ、彼は気になったページを見つけた。「ソーディアンマスターは6人いた。そのうちの4人が世間で知られる四英雄だが、残る2人は敵となった。一人はヒューゴ・ジルクリスト。もう一人は裏切り者リオン・マグナス。」
「リオン……マグナス?」
この本には落書などなかったが、リオン・マグナスの挿絵だけがやたらと爪の跡がついている。それだけ彼は恨まれているのだろう。
それにしても、この絵で見る限りはリオン・マグナスなる人物は相当な美男子である。黒い髪がさらりと額にかかっており、手にはやや湾曲した剣が握られている。解説によればこの剣はソーディアン・シャルティエというものらしい。
ソーディアンが如何なるものなのかはこれから調べるとして、シンは少し気になった。
「このシャルティエって剣……どこかで見たような……?」
それも、かなり身近な人物が使っているように感じたが、気のせいだと思った。この本では、そのシャルティエは使い手であるリオンと共に海の底に沈んだと書いてある。
「せめてこの本くらいは読んでしまわないとな。」
ぱらぱらとページをめくり、順番に読んでいく。シンは全員が寝付いたと思っていた。だが、実際には違っていた。ジューダスは起きていた。
シンが歴史を知ることに反対はしなかったが、彼は少々不安だったのだ。そのシンが少しばかり気付きかけたときジューダスは焦ったが、別の方向に気持ちを向けたとき、胸を撫で下ろした。
一方のシンはそんなジューダスの様子など気付かずに読みふけっている。興味深い内容が次々と出てくる。続きが気になって仕方がないのだが、眠気には勝てないらしい。
「俺も寝よう。明日はこれを読むことだけ考えることにしよう……。」
シンは栞を本に挟みこみ、布団を被った。外では静かに雪が降っている。全ての音を吸い込むように。静かな夜が更けていく。
「ハイデルベルグか……ここもいい街だな。」
静けさが眠気を増幅させ、シンは眠りの淵へと沈んでいく。深い眠りは夢を覚えさせないというが、今日は夢も見ずに眠れそうだ。
シンはそんなことを考えながら眠りに就いた。
翌日、一行はハイデルベルグ城に向かうことになった。ジューダスは「あの甘ったれた男の言葉を聞く気にはなれない。」と言ってどこかへ行ってしまった。
シンも遠慮することにした。借りた本を全て読まなければならないから、と。残る3人は城へと足を向けた。
一般人の3人がどうやって王に会う気なのかはわからないが、ロニはやたら自信があった。
「よからぬことでも企んでるんじゃないだろうな。」
シンはそうぼやいて、図書館に向かい、借りた本を延々読み続けた。「ケルヴィン王家の起源」はあまりにも伝説的な脚色が濃すぎて読めたものではなかったが、残りは違うらしい。
「天地戦争の謎」ではその戦争がいかなるものなのかを知ることができたし、ベルクラントがいったい何なのかを知ることもできた。ソーディアンについても知ることができた。兵器6つごときで戦局を覆すなど無茶に等しいが、元の世界の兵器を考えると人のことは言えない。
さらに、「レンズの歴史」でソーディアンの開発記録や現在用いられているレンズの行方、そもそもレンズがいかなるものであり、どこから来たのかも知ることができた。
「なるほど、彗星に含まれていたのか。衝突したために粉塵が舞い上がって……ああ、そうか、それで空中都市群が必要だったのか。」
「アタモニ神団に神はなし」は完全にネタの本だと思っていたが、実はかなりハードな内容だった。アタモニ神団は本来巨大レンズである神の眼を秘匿する存在として設立されたものだというのだ。
それが1000年かけて宗教として成立したものの、どうやら上層部は神の眼を秘匿する存在であることを知っているらしく、それが18年前の騒乱の起因となったらしい。
宗教が利用されること、さらに宗教が力を持つことの危険性がはっきり書かれた本だった。
「うん、意外と真面目な本だな。ネタで持ってきたけどネタじゃなかったのか。」
本当のことかどうかは知らないが、悪くはない。正しいかどうかは自分で判断せざるを得ないのだが、この手の本は嘘を書いていないことも結構ある。
「信じるに足りる、かな?」
とりあえずは読めるだけは読んだ。本を返しておかなければならない。
「ええと、この棚のここだったな。それから……。」
すべての本を仕舞い、シンは図書館を出た。ハイデルベルグ城にいるはずのカイルたちを迎えに行くために黒いコートを羽織り、城の方角に向いた。
「……あれ?カイル?」
城から飛び出してくる小柄な影は間違いなくカイルだった。どこか泣きそうな顔に見える。
「……ちょっと様子を伺うか。ああいうときは俺じゃない方がいい。慰められる人間がいるとすればそれは……。」
彼はフォース形態をとり、民家の屋根を踏みながらカイルを追った。シンが適任だと思ったその人物がカイルを追っていくの確認しながら。
ここまでです。
次はサブノック戦。PSP版だとアクアラビリンスでバルバトス、ダンダリオンとともに襲ってくるんですよね。
あのちょこまか動き回る鬱陶しさを表現できればいいんですが。
そして、ついに時を越える……。
GJ
次回も期待している。
418 :
通常の名無しさんの3倍:2007/09/16(日) 08:53:38 ID:Sv96c/UW
419 :
通常の名無しさんの3倍:2007/09/16(日) 12:28:32 ID:Ijw8fzW3
マジでキモいよ
どもー。
さて、貸していたソフトも戻ってきたので(ダチは挫折したそうな)、台詞の確認も出来ます。
やっとこさ正確に書けそう……。
どなたかここのSS、
>>418氏が提示しているところに入れてほしいですね。最低でも俺以外のは。
俺には……無理だ……orz
まあ、リアルジェンダーは男で腐女子思考がやや入ってますけど。
シンの力の正体はきちんと提示しますから。それに、このTOD2をプレイした人のうち、もう8割くらいは気付いてるんじゃないかな。
わかりやすい布石ですからね、わかる人にはつまらないかも……。
>>420 つまる、つまらないは人が感じることだから
つまらないと思う人もいるし、面白いと感じる人もいる。
何が言いたいかというと、気にせず書き続ければいいよ。
そもそも発売されてかなり経ってるし、読んでいる人が全員わかっていたとしても不思議じゃないし。
まあ がんばって続けてくれ。
これだけの文章量をこのペースで書けるのは凄いと思う。
何が言いたいかというと、頑張ってください。
たびたびどもー。
まあ、楽しめてもらえるなら何よりも嬉しいことですが。
わかりやすくしたのはニヤニヤしてもらうためでもあります。ただ、加減が難しい……。
このペースと長さはテンションと暇があればこそですが、もうそろそろそういうわけにはいきませんから。
では、投下します。
12 ハイデルベルグの鐘が落つ
「うーん、俺って趣味悪いかな。他人がデートみたいなことしてるのを覗き見なんて……。」
民家の屋根の上でシンはぼやいたが、別に付き合っている二人ではないのだと自分に言い聞かせ、彼はカイルたちの様子を見ることにした。
「カイルー!」
ややいじけた調子のカイルに、リアラが声をかけた。息を切らせている。シンが適任だと思う人物。それはリアラだった。
「いきなり走ってっちゃうんだから、びっくりしちゃった。」
「あ……リアラ、ごめん。」
「え?」
何か、いつもの調子ではない。シンは自分の趣味の悪さを自覚しつつ、カイルを眺める。
「その、俺舞い上がっちゃって。そうだよな、俺、父さんと母さんのお陰でウッドロウさんに会えたんだ。それなのに浮かれて、リアラが大変なのに……。」
どうやらリアラの英雄とは、ウッドロウではなかったらしい。そして、大体の遣り取りは掴めた。
「ははあ、ロニはカイルがスタンとルーティの息子だと言ったんだな。」
手っ取り早い方法だが、それはカイルをカイルとしてではなく、「スタンとルーティの息子」としか見せなくなるものだ。
早い話が、カイルを見ているのではなく、スタンとルーティを見ているということだ。これは、カイル本人の価値を失わせることになる。
それについて説教したのは、シンの想像が正しければジューダスだ。冷たいように見えるが、実は優しさも備えている。ロニが甘い父親の役をするのなら、ジューダスは厳しい父親の役をしているのだろう。
「保護者もいいところだな……。ああ見えてジューダスはカイルの目的のために全力を注いでる。本当に血縁関係者じゃないのか?」
仲間が悩んでいるところで浮かれてはいけない。ジューダスならそう言うだろう。遠慮も何もない。はっきり言うべきことははっきり言う。それがジューダスである。
「あ、いいの。私、気にしてないから。」
「でも、英雄探しは一からやり直しだね。これからどうする?」
「うん……でも、気晴らしに公園にいこ?」
これは事実上デートのお誘いだ。これはまずい、とシンは退散する。これ以上の覗き見は本当に変態の域に達する。
「俺は空中散歩でも楽しむか……って目立つよな。普通に散歩でもしようか。」
カイルとリアラが記念公園の方に向かうのを確認すると、シンはひらりと着地し、雪の降り頻るハイデルベルグの街を歩いた。
雪が多い土地柄だというのに、ほとんど雪が道に積もっていない。よく見るとせっせと住民が雪を道路から離れた位置に持っていき、さらに街の外に出しているらしい。
しかも、外に出すのも入り口が塞がらないように気をつけているらしい。彼らの顔には活気がある。雪なぞ来るなら来てみろ。弾き返してくれる。そう語っているように見えた。
「本当に……いい街だ。住み着いたら……まあ、不便だとかなんだとかで俺は駄目なんだろうけど。」
環境と言うものは大事だ。普段と生活環境が違うと、人間と言うものは体調を崩したり精神不安定になったりする。コーディネイターであるシンにはあまり起きないものだが、違和感はある。
コーディネイターの中でも地球に住むのはごめんだという者もいる。偏に生活環境のためだ。
「寒さに負けない人間は強いな。それに平和だ。きっと寒さと雪という戦う相手がいるから、人間同士で戦う必要がないんだろうな。」
オーブに暮らしていた頃、社会の授業で教師が言っていた。「今ばらばらの国が本当に一致団結することがあるとすれば、それは地球人類以外の敵が地球を狙って襲ってきたときだ。」と。
理屈は同じだろう。人間ではないものが居住区機能を侵すという意味では。厳しい気候だからこその強さ。それは何よりも勝るものだろう。
「頬が冷たいな。ロニたちと合流しないと。」
シンはコートの襟を閉め、ハイデルベルグ城に足を向けた
そのとき、大気が大きく揺らいだ。空が翳った。どこからともなく飛来したそれは、ハイデルベルグ城のシンボルとも言える鐘が吊るしてある塔を破壊した。
澄んだ音を街中に放つといわれるそれは、鈍い音を立てて石畳に激突する。音から察するに、無残に変形したことだろう。
「あれは……飛行竜?」
飛行竜はレンズ技術を用いた飛行マシンだ。全長100メートル、翼長100メートル、体高60メートルという巨体にも関わらず、最高速度はマッハ0.8を誇る。
半機械、半生物の輸送設備であり、並大抵の予算では購入、及び維持できない。
シンはレンズに関する本を読んでいたお陰で、簡単には動揺しなかったが、それでも慌てることは慌てる。ハイデルベルグ城を衆人環視の中で襲撃するなどまともな人間の思考ではできまい。
「明らかに敵意を持って起こした行動だ。カイルたちも向かうはず!」
彼は人の目など気にしなかった。フォース形態をとり、一気にハイデルベルグ城まで向かった。空を飛ぶ人間などそういないだろう。何人かの叫び声を聞いた気がしたが、無視して飛び続ける。
「これは……。」
ハイデルベルグ城の兵士達が戦っている。だが、あの飛行竜には大量のモンスターが搭載されていたらしい。さしもの兵士達も苦戦している。
「助太刀する!」
シンは一気に飛翔力を爆発させて斬りかかった。技を使うまでもなかった。骸骨状のモンスターは一瞬で崩れ、レンズと共に床に散らばった。
「何者だ!?」
「俺はカイルと共に旅をしている。乗りつけた連中が気に入らないから助けに来た!」
何とも不良というか、ごろつきの言う台詞だ。「気に食わない。」というその姿勢を偽善で塗り固めるくらいなら、はっきり表に出してやる。シンはそう開き直った。
「でやああああああああああ!」
モンスターたちのターゲットが自分に向いた。彼はソード形態をとり、二本のクレイモアを振りかざして突撃する。
「邪魔だあああああああああああああ!」
明らかにモンスターたちの目的を邪魔しているのはシンなのだが、そんなことを考える思考すら失われていた。
彼の目の前に敵がいる。敵を叩き潰すと戦意が昂揚する。その繰り返しだ。新しい技を使えたら嬉しい。新しい形態を手に入れられたら嬉しい。
そして、敵よりも強くなれたら嬉しい。それに気付いた瞬間、シンは手を止めた。
「これじゃあまるで……バルバトスと同じじゃないのか!?」
その隙を逃すモンスターたちではなかった。一斉に骸骨の大軍がシンを斬りつける。我に返ったシンはその攻撃を叩き潰しにかかったが、タイミングが遅れた。
「しまっ……!」
コートごと赤い軍服ごと、胸を袈裟懸けに斬られた。黒いコートから血が滲み、赤黒く変色する。傷は思ったより深いらしい。
それだけではすまない。仰け反ったところを狙われ、左肩、右前腕、左大腿部にも軽度の怪我を負った。どれも戦闘能力に関わる部位だ。
「だが、ここで死ねない。終わってたまるか!」
激痛を振り払うように、大剣を振るう。傷口から血が流れるのを感じたが、気にしてどうにかなるものではない。
気にしていたら、突撃してくるモンスターの迎撃などできない。シンはまた、あの危険な昂揚に身を任せた。
「斬衝刃!追衝双斬!」
扇状に広がる衝撃波で吹き飛ばし、さらに追撃にと2つのクレイモアによって鋏み切った。この形態での攻撃力は高い。武器の重量と相まって骸骨が砕け散る。
「まだまだあ!地裂斬!地裂鉄槌!」
床を抉りながら破片と共に斬り上げた。さらに、巻き上げた破片と共に振り下ろされる大剣の面の部分で叩きのめす。
「砕け散れ!飛礫戈矛撃!」
シンの周りの重力が大幅に変化した。床が砕けた。さらに、二つの大剣の柄頭同士をぶつけて結合させ、アンビデクストラスフォームへと姿を変える。
それを頭上で旋回させると砕けた石が浮いた。浮いたところで剣の向きを90°変え、剣の面で石を叩き、敵に向けて弾き出した。
「はああああああああああああああ!」
その名に恥じぬ破壊力だ。弾き出された石は戈矛となって切り裂いていく。接近したモンスターは勿論のこと、離れた位置にいたモンスターですらも切り裂いて薙ぎ倒す。
「ふうっ、ふうっ……。」
シンの目が血走っている。ダメージが深いのだ。今の攻撃で傷が開いたらしい。目が霞む。
「ぐう……。」
危険な昂揚もさすがに限界を迎えたらしい。がっくりと剣を杖代わりにし、跪いた。シンの目にはモンスターが殺到する様子が映し出されている。
「……。」
シンの横を駆け抜ける影がある。それは素早く剣でモンスターを切り払い、ハルバードで叩きのめし、しなやかな動きで翻弄する。そして、傷口から血が滴る感覚がなくなった。傷口が塞がっている。
「シン、またお前は無茶な真似を。死にたいのか。」
「俺たちがいるってこと、忘れんなよ。」
「これからはできるだけ合流するようにしようよ。危ないし。」
「あなたの気持ちもわかるわ。でも、皆で行く方が心強いはずよ。」
カイルたちだった。シンはほっとしつつ、口元に笑みを浮かべた。安堵の笑みだった。
「この状況だとウッドロウさんが危ない!玉座の間に行こう!」
とりあえず、自分達への襲撃を退けたカイルは決然と叫んだ。ウッドロウがいかに自分のことを「スタンとルーティの息子」として扱ったとはいえ、彼の厚意は決して偽りではない。
そして、四人の英雄として、穏健なファンダリアの国王として失ってはならない人物だ。
「手遅れにしてはならない。急ぐぞ、カイル!」
ジューダスですら焦っている。その態度はウッドロウのことを本気で心配しているようだ。
甘ったれた性格と酷評しているが、それは嫌っているからではないらしい。むしろ、それが仇になりはしないかという感覚だ。
「待たれよ!」
その彼らの前に立ち塞がったのは、獣を模した兜を被った、日本刀のようなものを携えた剣士だった。犬のようなモンスターを連れている。
「我が名はサブノック!己の信念に生きる騎士なり!参られよ少年達よ。貴公の信念と我の信念、どちらがより強固か戦いによって証明しようぞ!」
シンはこの剣士が只者ではないことを感じ取った。その勘は正しかった。いきなり間合いを詰め、シンに斬りかかってきたのだ。
「くっ!」
大剣で受け止め、反撃しようとするが、振るったときには既に離れている。
「何だと……!速い!」
このサブノックの剣技は居合い斬りと呼ばれるものである。鞘の内の剣と言われ、敵に攻撃する瞬間まで刀は鞘に入ったままだ。
だが、素早く間合いを詰め、抜き様に斬りつけることで太刀筋の見切りを難しくする。
アクアヴェイルに伝わる剣技を、何故サブノックが知っているのかはわからないが、この剣技相手にまともに戦えるのはおそらくジューダスくらいだろう。
「その敵の剣技が相手では無理だ。僕が相手をする!」
シンはフォース形態をとり、サブノックから離れた。だが、今度は犬型のモンスター、オセが晶術を放つ。アクアスパイクだ。
「くっ……!」
シンは何とか回避して穿風牙を放ったが、オセは避けてしまった。
「回避合戦になりそうだな……。」
その間、ジューダスとサブノックは切り結んでいた。見切りにくい剣技を相手にジューダスは左手のナイフで攻撃を受け流し、斬りかかる。
しかし、サブノックは動きが速い。ジューダスの剣が振り下ろされる前に後退する。
「ちいっ!」
「貴様、主を裏切って何故ここにいる。何故我らの邪魔をする。」
「お前達のやっていることが自己満足に過ぎないからだ!」
言葉少なに遣り取りをする。この様子から察するに、どうやら知り合いらしい。そして、元々仲間だったというのか。
「っ!そんなこと気にしている場合じゃない!」
オセが再び晶術を放つ。シンは鋭いカーブを描きながら逃げ回り、さらにソード形態に入れ替えてオセの前に立つ。
「でええええい!影殺撃!影殺狂鎗!」
振るった剣と共に影から伸びる黒い槍がオセを襲う。さらに、オセの周囲から影の槍が一斉に伸び、さらに追撃をかける。だが、この攻撃は避けられた。
「こんな大雑把な攻撃じゃ駄目か!」
フォース形態に入れ替え、サーベルで斬りかかるが、それも避けられた。的が小さいのだ。
「ガアッ!」
シンの左前腕にオセが食いついた。締め付ける牙が左腕を痛めつける。
「シンから離れろ!閃光衝!」
カイルがシンの危機に気付いたのか、素早く潜り込んで光芒を放つ突き上げでオセを攻撃する。オセはシンの腕にぶら下がっていたために避けられない。やむなくオセはシンの腕から離れ、晶術を詠唱する。
「させない!エアプレッシャー!」
いち早く気づいたリアラがオセをエアプレッシャーで攻撃し、詠唱を妨害した。
三人がかりでオセを攻撃している間、ジューダスはサブノック相手に一歩も引かない。一進一退の攻防だ。さらに、そこにロニが割り込んだ。
「おりゃ!」
「邪魔立てするな!」
サブノックの居合いがロニを襲うが、そこはジューダスが防ぎ、一太刀浴びせることに成功する。
「お前も無茶なやつだ。相性の悪い敵に向かうなど、死にに行くようなものだぞ。」
「知ったことか。俺は早いとこウッドロウさんを助けたいんだよ。」
「なら何も言わん。足さえ引っ張らなきゃな。」
「誰が引っ張るか。お前こそその貧弱な体を斬られんなよ!」
全く対照的な二人だが、カイルの保護者という意味ではその立場は見事に一致している。意外と気が合うのかもしれない。
「ぬう!」
ジューダスに刀を受け止められたサブノックが一瞬戸惑う。そこを狙ってロニが仕掛ける。
「霧氷翔!」
ジャンプしたロニが突き出したハルバードの穂先から、氷の槍が放たれた。サブノックはそれを避けたが、ジューダスがさらにサブノックを斬りつける。
一発一発の威力は低いが、確実にダメージを与えている。さすがのサブノックも焦り始めた。
「くっ、心眼・無の太刀!」
今までの動きが嘘のように、サブノックがジューダスの目の前に迫った。太刀筋が全く見えない。さすがのジューダスもこの攻撃は避けられなかったらしい。
「ちっ……!」
「おいおい、ジューダス!大丈夫か?」
「こんなのかすり傷だ。回復したいなら勝手にしろ。僕は何とも思わないからな。」
「減らず口叩くな。軽い傷じゃねえよ。」
ロニはできるだけ早く回復できるよう、晶術を早口で詠唱し始めた。
「させんぞ!」
サブノックはロニの晶術を妨害するつもりだ。無防備なロニに向かっていく。
「今こっちくんなって!」
ロニは慌てた。ここで詠唱を妨害されてはまずい。だが、決して軽くない怪我を負ったジューダスが攻撃を受け止めた。
「足を引っ張るなと言っただろう!」
「てめえこそ!ヒール!」
晶術が間に合った。ジューダスの傷が消え、動きが鋭くなった。ロニはハルバードを振るい、サブノックを襲ったが、そこは素早いサブノックだ。攻撃を避けられた。
「お前の攻撃は馬鹿力で叩きのめすだけか。当てなければ意味がないんだぞ。」
「うるせえ、敵の集中力乱してやってるんだ、文句言うな!」
「今回は僕が主体になってダメージを与えろという意味か?」
「当たり前だ!いろいろ因縁があるんだろうが。お前がやらなくてどうする!」
「今だけは感謝してやる。ありがたく思え。」
「へいへい、御託はいいから止めを刺せよ!」
ジューダスとロニが言い合いをしながら連係プレーを見せている間に、シン、カイル、リアラはオセ相手に苦戦している。
何しろちょこまかと動き回る上に、放っておけば晶術を放ってくる。厄介なことこの上ない。
「こうなったら身を食らわす!」
シンが真っ直ぐに突っ込んでいき、サーベルで斬りかかった。無茶にも程がある。オセはサーベルを掻い潜り、先刻噛んだところと同じところに食いついた。
「ガゥゥゥゥゥゥ……。」
「かかったな!」
シンは懐からダイナマイトを取り出した。廃鉱で作りすぎた分をまだ持っていたのだ。それをオセの口に押し込み、ソード形態に入れ替えてクレイモアの柄頭でオセの頭を殴り続ける。
「このっ……。」
口の中の異物の感触と、殴打に怯んだオセが腕から離れた。まだ口にダイナマイトが引っかかっている。それに狙いをつけ、シンはソーサラーリングの熱線をダイナマイトにぶつけた。
爆音と共にオセの体が砕けた。バラバラと肉塊が転がり、シンは血飛沫を浴びた。その姿は鬼神とでも言うべきものだった。元々ソードインパルスの装甲色は返り血と言われるほどだ。ある意味では、血飛沫が似合う。
「オセ!」
サブノックがオセに気をとられたその瞬間、ジューダスの剣が閃光を放った。ジューダスの目付きが変わり、鋭い光を湛えている。
「千裂虚光閃!」
サブノックを浮かせ、さらに素早く突きの連続だ。サブノックは滅多突きを食らい、動きが鈍る。ジューダスは追撃の秘奥義を放った。
「切り刻む……遅い!魔人千裂衝!」
地面を滑るように斬りかかり、ややジャンプしつつ後退しながら撫で斬る。さらに前進して上下に剣を振るい、長剣短剣を交互に繰り出した。そして、最後に斬り上げながら衝撃波を放つ。
これを目にも止まらぬスピードで行うのだから、ダメージは大きい。
「し、信じられん……!」
ついにサブノックも斃された。
「ぐあ……!」
シンが目にしたのは、穏健そうな色黒の王がバルバトスに斧で切り裂かれる姿だった。致命傷は避けたようだが傷が深い。
「ウッドロウ!」
ジューダスが叫んだらしい。我を忘れているように見える。
「ほう、また会ったな。カイルと言ったか。」
「お前がウッドロウさんを……くそ、許さないぞ、絶対!」
「俺の目的は達した。お前達と一戦交えても面白いが……後はあの女が勝手にすること……さらばだ、カイル。」
バルバトスは闇に包まれながら姿を消した。みすみすバルバトスを取り逃がした。悔しくないわけがない。だが、それよりも気になることがある。
「あの女……一体、誰のことだ?」
カイルは少し考え込んだが、何より優先すべきことがある。それは、ウッドロウの治療だ。
「大丈夫か、しっかりしろウッドロウ!」
真っ先にジューダスが駆け寄っていた。彼が見る限り、それほどひどくはないらしい。かつて戦いの中に身を置いていたウッドロウだからこそだ。
「傷は深いがかろうじて急所は外れている。大丈夫だ、これなら助かる。おい、早く医者を呼んで来い!」
ロニが叫びながらヒールをかける。ヒールはあくまで応急処置だ。医者の手に委ねる方がいいに決まっている。
「フィリアさんに続いてウッドロウさんまで……このままでは時の流れに大きな歪が生じて……まさか、これは全部あの人の仕業なの?」
リアラには思い当たる節があるらしい。そして、その人物が後ろから現れた。
「だとしたら何だというのかしら、リアラ。」
エルレインだった。アタモニ神団のトップに立つ彼女が何故こんなことを仕組んだのか。シンにはさっぱりわからなかった。
「あの時素直にレンズを渡していれば、こんな目に遭わずに済んだものを……。」
ハイデルベルグ城には国民から集められたレンズが蓄えてある。エルレインはその提供を打診したらしいが、ウッドロウによって断られていた。
「そのためにわざわざこんな真似をしたのか、あんたは!」
奇跡を起こすために、力を得るためにレンズを欲する。そして、そのために彼を傷つける。許されざる行いだ。
「エルレイン!あなたは間違っているわ!こんなやりかたで人々を救えはしない!」
「では、お前はどうするの?未だに何も何も見出せないお前に救いが語れるというのか?」
「そ、それは……。」
この遣り取りを見る限り、リアラとエルレインは知り合いらしい。それも、ただの知り合いではなく、それぞれに同じ目的のために動いていたように見える。
「どうなってんだ?なんでエルレインがここに……。それに、リアラ、どうして君はエルレインの事を……。」
戸惑うカイルは二人の顔を交互に見遣る。その横で、ロニが怒りに打ち震えていた。
「わかんねえことだらけだが、一つだけはっきりしてることがあるぜ。それは、あの女が黒幕だってことだ。いくぞ、覚悟しろエルレイン!」
ロニのハルバードが唸りを上げ、エルレインを打ちのめそうとするが、彼女の部下の一人が遮った。
「ぐっ……!こいつ!」
「エルレイン様には指一本触れさせん。」
「ならば!」
今度はジューダスが斬りかかった。だが、謎の障壁に彼は弾かれた。時を同じくしてロニも攻撃を受けて弾き飛ばされた。
「ぐっ!」
「うっ!」
「ジューダス!ロニ!」
「人々の救いは神の願い……。それを邪魔する者は誰であれ容赦はしない……。」
エルレインの声は静かだったが、どこか狂気を帯びているように感じる。自分のしていることに疑問を持たず、自らの思い全てを信じきった狂信者独特の口調だ。
「やめてエルレイン!」
「私を止めることは誰にも出来はしない……。そう、たとえお前でもだリアラ。」
「いや!やめて!私にはまたここで果たすべき使命が!」
リアラが悲鳴を上げている。彼女の周りの空間が発光している。ただの光ではない。吸い込まれるような感覚がする。
「未だに何も見出せぬ者に、ここにいる意味はない。還るがよい、弱き者よ。」
どこか見下した、同時に哀れむような口調だった。彼女の姿が光の中に消えていく。
「いやああああああああああああああ!」
「リアラ!」
カイルが慌てて光に包まれた彼女を追って光の中へと飛び込む。
「カイル!リアラ!」
「追うぞ!」
ロニとジューダスも続く。
「エルレイン!あんたは必ず討ってやる!だがな、それは仲間とともにだ!」
シンもまた光の渦の中へと飛び込んでいった。その光が消えたとき、5人はこの時空から姿を消していた。
TIPS
追衝双斬:ツイショゥソウザン 武器依存
地裂鉄槌:チレツテッツイ 地
影殺狂鎗:エイサツキョウソウ 闇
飛礫戈矛撃:ヒレキカボウゲキ 地
ここまでです。
ここから何話かはオリジナル展開になります。
というより、オリジナル展開を入れないと以前に立てたフラグが無効になってしまうからですけどね。
GJ
一つ区切りが終わったって感じだな。
次回も期待してる。
どもー。
現在鋭意創作中。ずっと暖めてたものですから、もしかしたら今日投下できるかも。
でも、無理するつもりはありません。待たせるつもりもありませんが、あせるつもりもありませんので。
焦ってずれを生じさせた妙なものを作るわけにはいきませんしね……。
>>434 その心意気に感動したZE!!
これからも頑張ってくれ!!
最後にGJ!!を贈る。
はーい、急ピッチの作業の末、宣言通り今日二回目の投下をします。
13 孤軍奮戦
シンは外に放り出されていた。冷たい石畳の上に転がっているのを感じる。
「うっ……どうやら転移魔法だったらしいな。にしても……。」
彼は周囲の様子を見ることにした。雪が降り頻る、石造りの町並み。間違いなくハイデルベルグだ。ただし、何とも言えない違和感がある。
通行人の衣服のデザインが少し違う。それに、住民達の様子もおかしい。どこか無気力だ。それなりに背筋を伸ばして歩いているのは聖職者の服を着ている人間ばかりだ。
それに、聖職者の数が多いのも気になる。
「妙だな、ハイデルベルグでは聖職者がわんさかいるってことはなかったはずだぞ。」
宗教というものは心の支えとなるものだ。だが、ハイデルベルグではウッドロウが心の支えだったはずだ。つまり、宗教を必要としない。
「けど、この様子は……。」
何かがおかしい。ふと、城の方角を見てみた。飛行竜の姿はない。ただそれだけなら撤退したと思うだろうが、鐘を吊るす塔の規模が縮小された上に、崩れた部分が修復されている。
鐘もない、どちらかといえば見張り台のような形状になっている。
「どういうことだ……?」
ハイデルベルグ城に近づいてみると、衛兵がアタモニ神団の兵士だ。ファンダリア兵ではない。
「時間が経っている……と考えるべきだろうか。ここまできたら何でもありだろうしな。」
つまり、あの後制圧され、そのまま時間が経過した世界に放り出されたという意味だ。念のため歴史の経過を調べることにしよう。シンはそう思った。
「まずは図書館、だな。」
彼は記憶を辿り、図書館へと足を向けた。最新の歴史の情報を洗いざらい探した。
「神……が降臨したのか。そして、その降臨を手伝ったのがエルレイン……ろくなことになりそうにないな。それに……ウッドロウ王は5年前に亡くなった。10年前の傷が原因……。同時にレンズは全て強奪された……。」
考えられる可能性は一つ。10年後の世界ではないかということだ。レンズを強奪される機会があるとすれば、それは今見たばかりの飛行竜による襲撃だ。さらに、そのときに負傷もしている。
「しかし、これで住民の無気力の理由がわかった。アイグレッテに行けば神が何でもしてくれるし、残った住民も心の支えだった王家が断絶したからなんだな。」
そして、ハイデルベルグはかつてのアタモニ神団、この時代のフォルトゥナ神団の管理下におかれたらしい。全ての希望をフォルトゥナ神団に奪われた、絶望の無気力だったのだ。
「無茶苦茶やってる。ウッドロウ王を殺したも同然の癖に、平気で管理下におくなんて占領もいいところだ。」
時代背景はわかった。戻るあてなどまずないが、とにかくカイルたちと合流しなければいけない。
エルレインによってまとめて時空転移させられたのだから、同じ時代にいるはずだ。ただし、仲間達とタイミングが違ったことを考えると、違う場所にいる可能性が高い。
「とりあえず、情報収集だな。」
道行く人に、「すみません、金髪のハリネズミと、幼い感じでピンク色のワンピースを着た女の子、色黒で銀髪の長身の男、それに骨の仮面を被った人を見かけませんでしたか?」と声をかけ続けた。
大抵は無視されたが、最初から数えて57人目にして、やっと有力な情報に出会えた。
「ハリネズミと女の子なら、ついアイグレッテに行ったときに、チェリクに向かったのを見たよ。随分とテンションの高い男の子だったねえ。」
あの目立ちまくる人間はそういない。カイルとリアラに相違ない。話によれば3人連れだったという。カイルたちを手伝う人間がこの時代にいるのかと思うと嬉しくなったが、まずは合流だ。
「それじゃ、チェリクに行くか……って考えてみたら俺、金ないんだよな。」
ロニとジューダス、それにカイルに分割したのがまずかった。どうせなら全員に均等に分けるべきだったのだ。
だが、後悔したところで無駄だ。後悔先に立たず。金銭を手に入れる方法を考えねばならない。
「参ったなあ……。」
この無気力な街では稼げまい。まずはスノーフリアに向かおう。シンはそう思い、出口へと足を向けた。
そのシンが細い路地に入ったところで、路地の入り口と出口を塞がれた。塞いでいる連中を見た。見たところ聖職者の服を着ているが、人相が悪い。明らかに害意を持っている。
「よお、兄ちゃん。ここは俺らの縄張りでなあ。通行料くれや。」
「お金、持ってないんだ。これから働いて稼ごうと思うんだけど。働き口紹介してくれる?まあ、払う気なんかないけど。」
「てめえ、ふざけんなよ!」
手にした棍棒で殴りかかってきた。そのまま殴られる趣味は持ち合わせていないので、避けて足を引っ掛けてこかした。
「あれ?雪が積もってて滑った?」
「おい、兄ちゃんよ。俺らフォルトゥナさまに仕えてるんだ。俺らに逆らうと碌なことにならないぜ!」
シンの頭に血が上った。神の名を騙り、自分の力以上のことをしようとする連中が大嫌いなのだ。
「ああ、そうだな。あんたたちみたいな下衆が神団に入ってる時点で碌なことがない!」
彼はフォース形態をとった。次々と殴りかかってくるごろつきたちをかわし、サーベルで斬りつけた。
「悪いけど俺は殺さずなんか出来ないからな!」
技を使うまでもない。殺す気はない。技など使えば即死してしまう。軽く袈裟懸けに撫で斬るくらいしかできない。
「ぐえっ!」
「ぐふっ!」
「うわっ!」
手加減と言うものは難しいものだ。モビルスーツなどであれば、まだ頭部を吹き飛ばそうが腕を切り飛ばそうが、胴体さえ残ればパイロットはその瞬間は助かる。
だが、人間相手だと、下手に腕を切り飛ばすのもまずい。人間と言うものは高等生物へと進化を遂げる過程で神経を発達させた。ところが、そのせいでショック死というものが出来てしまった。
ショック死とは、簡単に言えば「驚いて死ぬ」ことだ。過剰な神経からもたらされる情報、またはそれまであった神経の信号の急な途絶により、脳の情報系統が混乱し、本来自律神経でコントロールされている心臓を停止させてしまうのだ。
シンが知る限り、一番したくないショック死は、手術中に屁が溜まった腸に電気メスが刺さることで起きる爆発によるものだ。屁で死ぬというのも情けないものだが、これも神経が発達した生物ゆえの宿命だ。
ともかく、全力は出せない。棍棒を掻い潜りながら切り傷をつけ、無能力化するほかない。だが、そう簡単にはいかない。
ダメージを与えすぎるのを恐れるあまり、軽傷しか与えられていないのだ。
「おい、ノビス!晶術使え!あの野郎を何としても仕留めるんだ!」
ノビスと呼ばれたごろつきの一人が晶術を詠唱し始めた。シンは止めようとしたが、ほかのごろつきたちが立ち塞がってうまくいかない。
「フレイムドライブ!」
3発放たれた火炎弾をシンは避けきった。一歩間違えば殺されていたかもしれない。
「……なら、容赦しない!」
シンは全力で立ち塞がった者の一人を斬り殺した。それがスイッチだったらしい。シンの目付きが変わった。
「はああああああああああああああ!」
さらに襲ってくるごろつきを斬り、背後から来る敵も振り向き様に殺害した。一度殺しだすと止まらない。おそらくは仲間がいれば止めることもできるのだろうが、今シンは一人だ。止めることなどできない。
「火炎斬!」
火を纏った剣が炸裂し、ごろつきの体を切り裂きながら炎上させる。生き物が焦げる嫌な臭いが周囲に漂うが、シンは眉一つ動かさない。
「飛天千裂破!」
一番体格のよいごろつきに向かって奥義を放った。だが、それだけでは済まさなかった。シンの中で何かが弾けた。
「風に舞い散れ!剣時雨……風葬!」
無数の風の剣が放たれ、周囲の取り巻きを纏めて刺殺する。さらに、エックス字に切り裂く風を受け、体格のいいごろつきが、まるで紙人形のように千切れた。
「あ……ああ……。」
倒れ伏したごろつき達の内の一人が生き残っていたらしい。シンは死体となったごろつきたちから金を漁っていた。
「それじゃ、強盗未遂と殺人未遂の示談金を貰っていくよ。俺にはいかなきゃならないところがある……。」
言い分は間違っていないのだが、あまりにも残酷すぎた。制御が効かない。形態解除したというのにまだ戦意が昂揚する感覚がある。
「化け物め……お前に天罰を……。」
シンの神経に触れたらしい。シンはソード形態をとった。
「天罰が下されるべきはお前たちの方だ。お前達のような、威光を利用して暴虐を働く者を飼育しているフォルトゥナ神団にこそ……神罰が下るべきだ!」
最後の叫びと共に振り下ろされたクレイモアがごろつきの体を真っ二つにした。
元々感情が激しく、自分でコントロールしにくい体質だったが、ここまで暴走することはなかった。単なる違和感では済まされない。
「まさか……この力のせいなのか?」
この力が願望を叶える力があることだけはわかっている。それに、この戦意昂揚は形態をとっているときにだけ強く働く。力を使っていないときは全くの無反応だ。
だが、エルレインやリアラのものは性格にまで干渉しなかったはずだ。
「俺自体に……殺人願望……戦闘願望でもあるっていうのか?そんなはずは……。」
悩んだところでチェリクに向かえるわけではない。後味の悪さを押し隠し、彼はスノーフリアに急いだ。
幸い、道中が吹雪いていなかったため、フォース形態による飛行で時間短縮できた。途中でオレンジグミを食べてはいたが。
巡航飛行可能距離が伸びている。シン自体の力の器が広がったのは間違いなさそうだ。成長してはいるのだろう。それでもハイデルベルグからチェリクまで飛ぶ力はないのだが。
だが、素直に喜べない。そのためにごろつきとはいえ、人間を手にかけた。あまり気分のいいものではないのだ。
「合流しよう。この力は仲間のために振るわれるべきものだ。滅多なことで使えない……。」
奪った資金ではノイシュタットまで行くのが精一杯だ。とはいえ、少しでもチェリクに向かって進むしかない。
「船の中で休もう。それから、ノイシュタットで何かして稼がないと。」
シンは殺人の証拠となる血塗れになったコートを始末し、ノイシュタット行きのチケットを買って船に乗り込んだ。
部屋に案内され、シンは腰を落ち着けた。船員がノイシュタットに到着したことを伝えに来た時、彼は自分がベッドに突っ伏していたことに気づいていなかった。知らぬ間に寝ていたらしい。
「もう着いたのか。いつの間に寝ていたんだろう?」
秘奥義を使い、飛び続けていたせいだろう。前ほどではないのはエネルギー供給を行わなかったからだろう。しかし、疲労自体は残っている感じがする。
「仕方ないな。どこかで雇ってもらうか。皿洗いでも何でもいいし。」
シンはノイシュタット港からノイシュタット市街に入った。ここもハイデルベルグと同じで酷いものだ。浮浪者がよく見られる。さらに、一部の小奇麗な格好をした者が歩いていく。
イレーヌが命を賭して格差を消し去ったというのに、再び格差が現れてしまった。理由はおそらく、フォルトゥナ神団の介入のせいだろう。
アイグレッテでは公平な生活を送れるよう、名前をナンバーに変えたり、一定の食料と生活資金の供給、さらに教育まで行っているらしい。徹底管理型の共産主義というわけだ。
しかし、どちらかといえば辺境であるフィッツガルドのノイシュタットまでその影響下に入れることは難しく、今までどおりレンズを納めた者に対して奇跡を与えるという方法のままなのだ。
そして、大抵レンズを保有できるのは金持ちだけであり、再び格差が現れてしまったというわけだ。
シンはその金持ちに雇われて働くしかなさそうなのだ。何とも胃が荒れそうな気分になったが、どうにもならない。
「溜息を思い切り吐きたいところだけど……。まあいいか、吐こう。すっきりするかも知れないし。」
ふう、と一つ溜息を吐いた。少しは気が楽になった気がしたが、おそらく気のせいだろう。
ここ最近感じたことのない心細さが、シンの精神を苛んでいた。シンは早く合流しないとまずいな、と思い始めていた。
そんなシンに声をかける者がいた。
「失礼ですが、旅の武芸者とお見受けします。仕事を頼みたいのですが……。」
彼が振り向くと、商人がいた。かなり高価な衣服を身に付け、さらに口髭を伸ばしている。
「何でしょうか。」
シンはややぼんやりした調子で応える。それにつけ込むかのように、商人は畳み掛けた。
「実は私の土地に賊が住み着いてしまいまして。退治していただきたいのですが。」
資金繰りに困っていたシンだ。一も二もなく承知した。
「詳しい話は私の家で。こちらです。」
商人が案内した家は、10年前の時代にノイシュタットで宝探しを頼まれた家だった。そう言えば、あの商人が10年分年を取っているようにも見える。
何か嫌な予感がしたが、その時はその時だ。違約金をふんだくってやる。シンはそう結論付けた。
「では、ご説明いたします。私の土地と言うのは、ノイシュタットの北西にあります、かつてのオベロン社の廃鉱です。5年ほど前に買い取り、鉱石を採っていたのですが、最近賊が住み着きまして。」
「ほう。」
「それのせいで仕事になりません。しかも、あろうことかノイシュタットの街にやってきては夜中に盗みに入るのです。私は何度か傭兵を送ったのですが……。」
「俺以外に雇われた人間はいるのですか?」
「はい、いますとも。既に向かっております。」
「で、足りないわけですね。」
「はい、少しでも戦力を、と。」
判断力が鈍っている。まず、自分が武器も持っていないのに武芸者であると言われたこと。
ノイシュタットの格差はひどくなっていたが、盗賊被害を受けたという噂を耳にしなかったこと。
さらに傭兵を派遣しても返り討ちに遭うようならば、せめて領主が何らかの対策を打つだろうこと。
これらのことに気づいていない。疲労と資金繰りの悪さ、仲間と離れて一人でいることへの心細さ、自分の能力に対する不安などがシンを押し潰してしまっている。
だから、シンは何の疑問も持たずに廃鉱に向かった。それが商人の張った罠だということに気づかずに。
「この間来たばっかりなんだが……様子が違うな。」
かつての廃鉱は商人が引き取ってからレンズの力を増幅する鉱石の採掘場となっていた。どうやらエルレインの奇跡によって精錬法を見つけ出したらしい。自分がかつて爆破した跡を通ると、激しい憤りに燃えた。
「なっ……これは……!」
イレーヌの思いは無残にも壊されていた。石碑はどこかへ持ち去られ、美しかった花畑は踏みにじられ、岩の切れ目は大きく抉られている。
太陽の光を必要以上に当てるというのは、光を当てないことよりも悪い。
「レンズの歴史」で確認したところ、精錬法は書いていなかったが、あの鉱石は精錬する前に、かつての岩の切れ目ほどの光が当たることで、ほどよく生成すると記されていた。
ところが、これほど光を当てては、しかも雨ざらしでは確実に変質する。鉱石が採れないわけではないが、良質の鉱石が採れなくなるのだ。
あの商人が己の欲のために荒らしたに違いない。
「ふざけた真似を!戻ったらただじゃおかないからな!」
雇われの身であろうが何だろうが、許せないものは許せない。しかし、その前に仕事だ。
賊だ。数はそういない。二十数名というところだろう。
「俺たちの住処にようこそ。金のために捕まってもらうぜ!」
今のところ援軍はない。この状況から考えて、どうやらあの商人の目的は自分らしい。そこまで思考を引き戻すことが出来たが、遅すぎたかも知れない。
「俺は何があっても、どんな手段を使っても、カイルたちに会わなきゃならない!その邪魔をするのなら……消す!」
シンの瞳が真紅に燃えた。ブレスレットが輝き、表面にZGMF−X56S/γの文字が浮かび上がった。しかし、シンはそれを見ようとしない。
両手に柄の長さが1.5mほどの短めの鎗が出現した。ブラスト形態だ。
「……。バーンストライク!」
恐ろしく速い詠唱だ。どうやら、シンはこの形態が如何なるものなのか、そして、この形態で出来ることが何なのか、全て把握しているらしい。
「ファイヤーフライ!」
バーンストライクの本来の追加晶術はヴォルカニックレイだが、この形態での中級晶術の追加晶術は、全てブラストインパルスの兵器に因んだものになる。
シンの肩の辺りから16発の火炎弾が放たれ、賊は慌てて逃げた。
「お、おい怯むな!どうせ晶術だけが取り柄だ、詠唱している間に縛れ!」
賊が喋っている間に詠唱は完了していた。
「エアプレッシャー!デリュージー!」
強烈な重力上昇に伴う気圧の増加、さらに地のエネルギーの塊がまたもシンの肩の辺りから放たれた。重力変化に巻き込まれた賊は押し潰され、放たれたエネルギーが別の賊の胴体を抉る。
それでもなお、賊は短剣を構えて多方向から切りかかる。
「スラストファング!エアランサー!」
渦巻くカマイタチが広範囲に広がった。賊は風によって全身を切り裂かれ、さらに穿風牙に似た風の槍が放たれた。今度は賊の脳天に命中し、頭部が弾け飛んだ。
あまりにも無残な殺し方に怯えた賊たちはこぞって逃げ出す。だが、シンはまた戦意昂揚の作用を受けていた。殺しても殺しても殺したりない。
「はあああああああ!」
シンのブーツの底から火が吹いた。それを推進力にし、追いかける。この形態の特徴としては「やや火属性を強めにし、その他の属性も晶術として利用できる」ということになる。
「やや強めの火属性」を利用した推進システムは、速度こそ出ないが瞬発性に富む。駆け出すのとほとんど同じ加速性だ。賊たちは外に出ることはできたものの、あっという間に回り込まれ、ネガティブゲイトを放たれた。そして、その追加晶術も。
「ケルベロス!」
2つの槍を小脇に抱え、穂先を賊に向けた。闇の奔流が放たれ、賊は首領を残し、生気を失って倒れていく。
たった一人残された賊の首領は、その場にへたり込んでしまった。シンは狂気を秘めた瞳を見せ、言った。
「お前たちの雇い主は誰だ?賊などでっちあげだろう?」
「あ……あんたを雇った商人だ。俺たちは、あの商人があんたがこの10年で全く老けてないのを見て、興味があるから捕まえてくれと言われたんだ。」
「それだけじゃないだろう?」
「た、確かに。10年前は仲間がいたから出来なかったが、今は一人だから捕まえられるだろうって。赤い目なんて珍しいから売り飛ばせばいい金になると……!」
賊、否、商人の傭兵はそれ以上喋ることが出来なくなった。シンの瞳がさらに怒りを増したように見えたからだ。
「古より伝わりし浄化の炎よ……消し飛べ!エンシェントノヴァ!」
上空より放たれた火柱が傭兵目掛けて降って来る。傭兵は慌てて逃げ、致命傷だけは避けた。だが。
「我が呼びかけに応えよ!我が乗機よ!我が前に来たれ!」
シンの背後に現れたのは暗緑色の装甲を持つモビルスーツ、ブラストインパルスだった。緑色に輝くカメラアイが傭兵を睨んでいる。
「我が前の敵を全て打ち砕け!」
シンのその叫びに呼応して、ブラストインパルスがビームライフルを乱射する。それだけでも十分なのに、さらなる指令をシンは出す。
「爆砕せし蛍!地を駆け抜けしノアの洪水!貪り尽くす地獄の番犬!」
ミサイルランチャーのファイヤーフライ、レールガンのデリュージー、高出力ビーム砲のケルベロスが次々と放たれた。
既に死体すら消し飛んでいる。全ての攻撃が終わった後には、クレーターしか残らなかった。
シンは食品店で傭兵から奪った金で食料品を補給してから商人の家に向かった。ノイシュタットに到着したときには、既に日が傾いている。
商人はシンが無事に帰ってきたことに驚き、それを押し隠すように美辞麗句でシンを称えた。
「いやあ、さすがです。あれほどいた賊を討伐なされるとは。」
黙って聞いていたシンは、その商人の態度に対して怒りを爆発させた。
「黙れ!お前が俺にしようとしたことくらい、全て確認済みだ!10年経っても姿が変わらない上に、赤い目が珍しいからと売り飛ばそうとしたんだってな!?」
シンはフォース形態をとった。サーベルを抜き放ち、商人の喉元に切っ先を突きつける。
「ひっ……!い、命だけはおた、お助けを……!」
「二度と俺に手を出すな。あと、示談金を適当に払ってくれればそれでいい。」
商人はびくびくとしながら皮袋をシンに手渡した。彼が中身を改めると、チェリクに向かえるだけの金は十分にあった。
「よし。」
シンが剣を降ろした、その瞬間。商人は手元にある置物をシンに投げ付け、外に向かって走り出した。
「ひいっ、人殺し!殺される!」
「ふざけるな、待て!」
さすがのシンも虚を衝かれ、対応が遅れた。商人はすでに家の外に出ている。これ以上はまずい。
「くっ、鏡影剣!」
この選択が間違いだった。手元が狂い、影ではなく商人自身を貫いた。しかも、当たり所が悪く、即死状態だ。
「あ……。」
大勢の人間の前で殺人を犯してしまった。だが、このままみすみす捕まるわけには行かない。それに、シンは身元不明の人間だ。
一度警察に捕まったら一生拘留されてしまうかもしれない。そもそも人権ですら危ういのだ。拷問や裁判なしの死刑もあり得る。
「くっそおおおおおお!」
シンは商人を殺したことへの非難の視線と罵声から逃げた。空を飛び、悩む。これからどうすればいいのか。カイルたちに会えるのかと。
ノイシュタットを飛び去っていくシンの姿は、普段の彼より小さく見えた。
ここまでです。
いやー、5時間で書けました。とはいえ構想そのものは2ヶ月くらいかけてましたけど。
よくぞ記憶が風化しなかった……。
オリジナル要素はちょっと欝になりますし、無茶が多いですが、もうしばらくの辛抱。次とその次くらいでオリジナルは終わらせる予定です。
あと、
>>435さん、返事できなくてすんません。リロードしてませんでした……。
GJ
具現がインパルスってのは面白かったよ。
次回もよろしく。
どもー。
ブラストインパルス召喚はちょっとはっちゃけ過ぎましたかね。
とりあえずビームライフル、レールガン、ビーム砲の流れでいいか→それだと秘奥義と変わらん→フランブレイブって結構機械に見えるなあ→じゃあ差別化のためにブラストインパルスを召喚しちゃえ
の流れで決定しました。
まあ、ブラスト形態にしても、ただ晶術を使えればいいやから、徹底的に違う形にしてやる、になってから設定に迷いましたからねえ。
結構D2自体が強引な流れだったりするからいいかも、と無理矢理自分を納得させた次第です。
ではでは、投下します。
オリ展開は予定を変更して、今回で終わり。
多分最後の方にまたオリジナル入ると思いますが、まあ、それまでは原作どおりですので。
14 血飛沫の騎士
シンは例の鉱山まで逃げた。さすがにここまで来れば追っ手は来ないだろう。外はもう暗い。彼は買った食糧を食べながら考える。
「まずいな……誤殺とはいえ殺人だし……。大体、俺には人権が認められないんだから、モンスターと同じように狩られる可能性もあるわけで……。」
さらに、情報伝達速度が向上していたとするなら、ハイデルベルグで信者を殺害した犯人が逃亡したことも知られているかもしれない。
目撃者はいないと思うが、路地に入るところを見られたりしていれば、簡単に割り出せてしまう。
最早金銭でどうにかなる問題ではなかった。完全にお尋ね者だ。変装しようにも自分の赤い目は恐ろしく目立つ。顔を隠すと怪しまれる。
その上、フィッツガルド大陸からカルバレイス大陸まで飛行できるほどの力はない。筏に乗って飛翔力を使って推進力にし、疲れたら筏で休むという方法くらいしか思いつかない。
その方法にしてもあまりにリスクが高すぎる。波に流されてしまうだろう。
「とはいえ、今はそれしかないそうだ。まずはリーネに向かおう。」
しかし、今日はもう疲れた。まずは寝なければ、とシンは鉱山の作業員の仮眠室に行き、鍵をかけてベッドに寝転がった。
その頃ノイシュタットでは、フォルトゥナ神団の船が到着していた。レンズの力を使った推進システムを搭載した、高速輸送船だ。
「ハイデルベルグの信者殺害事件の犯人がノイシュタットに逃げ込んだという情報がある。また、こちらに来る途中に入った情報では、その犯人らしき男が商人一人を殺害したそうだな?」
船から降りるなり、神団のノイシュタット支部の人間に問うその人物は、全身を黒い鎧兜で包み込んでいた。背には赤いマントを羽織っている。
しかし、ただ黒い鎧であるだけなら、その支部の人間は恐れの表情を浮かべなかっただろう。だが、籠手とブーツは赤く染め上げられ、その上常に兜を外さないのだ。
彼は神団に所属する騎士であり、誰も本名は知らない。ただ、容赦ない戦いぶりと「殺し続けているがために、そして戦場で死体を踏み締めるが故に、手の周りとブーツが赤いのだ。」という本人の発言から「血飛沫の騎士」と呼ばれている。
別に本当にそうであるわけがなく、単なる塗装か何かなのだろう。ただ、フォルトゥナ神団のトップであるエルレインの意向によって動いており、逆らう者を殺害しているらしい。
「は……その商人は我らにレンズを供給してくれる人物でした。これはフォルトゥナ神団への反逆とみなしてよろしいのでは?」
「そうだな。では、私が直々に始末しよう。」
「では、我々も。」
支部の者に、血飛沫の騎士は少し視線を向けたらしい。視線を向けられた支部の者は、彼の目が見え、心臓が止まるかと思った。目が赤いのだ。充血しているのではない。虹彩が血の色そのものだった。
それは、死の色そのものにすら見える、そんな目だった。
「いや、私だけで行く。被害を出したくはあるまい?ここからすぐで潜伏できそうな場所は……鉱山だな。」
彼は信者の反応が当たり前だと言わんばかりの態度で、悠然と金属が擦れ合う音を立てながら歩いた。
「……シン・アスカ。私はお前を……。」
血飛沫の騎士はシンのことを知っていた。それも、誰よりも。彼のマントがはためき、赤く発光する。次の瞬間、信じられないスピードで加速しながら飛翔していた。そして、彼が向かった先は、シンがいるはずの鉱山だった。
シンは目を覚ました。何か胸騒ぎがする。早く逃亡した方がいいような気がする。
「嫌な予感がする。とてつもなく嫌な予感がする。まずは鉱山から白雲の尾根伝いにリーネに向けて逃亡しよう。」
彼は急いで身支度を整え、鍵を開け、フォース形態をとって飛行する。空を飛んでいけばまず追えないだろう。
ところが、そんな予測を裏切り事態が起きた。背中から赤い光を翼状に放ちながら自分に向かって突撃してくる者がいる。夜間故に目立つ。
「な、何だありゃ!?」
シンは飛行能力を全開にし、北の方角に向かって逃げた。だが、その光の翼を持つ者は自分を追ってくる。
「間違いない!俺を殺す気だ!」
しかも、追跡者の方がスピードがあるらしい。振り返るたびに光の翼が大きくなっているように見える。
「こうなったら破れかぶれだ!」
シンは振り返った。そのままサーベルを抜き放ち、追跡者に向かって斬りかかる。だが、黒い鎧兜と赤い籠手、赤いブーツの追跡者は、どこからともなく片刃の大剣を出現させ、攻撃を受け止めた。
「俺の力に似ている!?」
「似ているに決まっている。」
追跡者、血飛沫の騎士が返事をした。どこかで聞いたような声だ。それも、かなり身近な。
「どういう意味だ!?」
シンは穿風牙を血飛沫の騎士に向かって放った。彼はそれを剣で叩き落す。
「おとなしくしてくれたら落ち着いて話そう。」
「それで捕まえるんだろ?そういうわけには行かないんだよ!」
血飛沫の騎士に向かっていき、火炎斬を放った。だが、血飛沫の騎士はあっさりと受け止めた。
「やれやれ、止むを得ないな。力ずくでおとなしくさせる!」
黒い鎧兜の男は大剣を軽々と振るい、シンに向かって斬りかかる。シンは飛翔能力を使って攻撃をよけたが、このまま飛んでいては消耗する。ソード形態に入れ替えた。
「地上から仕掛けてやる!双炎輪!」
二振りの小太刀を血飛沫の騎士に向かって投げつけた。だが、その行動を読んでいたらしい。
「双地輪!」
同じように上空から二振りの小太刀が飛来し、お互いの小太刀が弾かれた。シンは素早くブラスト形態に入れ替えた。
「くっ、ネガティブゲイト!ケルベロス!」
歪んだ空間と闇の奔流が血飛沫の騎士を襲うが、あっさり回避した。逆に詠唱を始める。
「裁きの時来たれり、還れ、虚無の彼方……エクセキューション!」
闇の上級晶術、エクセキューションだ。シンの足元に魔法陣が出現し、闇の力が魔法陣全体に充満する。シンは体力が奪い去られる感覚を覚えた。
「ぐあああああああああああああああ!」
虚脱感を感じながらも、彼は立ち上がった。何よりも仲間と合流する。それだけが今の彼の心の支えだった。
「……負けられるかあああああ!」
再びフォース形態をとった。一気に接近し、六連衝と三連追衝を繰り出したが、それも受け止められた。
「さすがに、この根性は……。エクセキューションの直撃を受けてすらこれか。」
「当たり前だ、俺にはまだやるべきことがある!」
血飛沫の騎士は少し溜息を吐いたようだった。だが、目にも留まらぬスピードで技を繰り出す。
「……。大爆掌!」
大剣を右肩に担ぎ、赤く光る左手でシンの左肩を掴んだ。次の瞬間に爆発が起こり、左肩が腫れ上がった。
「うっ……!これは炎症か!」
大爆掌は炎による攻撃と同時に、神経刺激によって痛覚を刺激し、水分を集中させ、発熱させる作用を持っている。水分が集中して発熱すれば炎症になるわけだ。
一時的とはいえ、戦闘能力を低下させることができる。別に打撲も内出血も起こさない。攻撃のためというより、弱体化が目的の技なのだ。
「ああ、炎症だ。これでおとなしくしてくれ。」
「まだまだあ!」
痛む左腕をだらりと垂らしつつも、シンは火炎斬を放った。血飛沫の騎士はそれを大剣で受け止め、サーベルを弾き飛ばす。
「閃翔牙!」
血飛沫の騎士は腰の辺りで大剣を構え、飛翔能力に任せて突撃する。シンは何とか紙一重で避け、穿風牙を放った。今度は血飛沫の騎士の背に当たり、姿勢がぐらついた。
「今の技、どこかで見た気がする……。」
大爆掌といい、今の閃翔牙といい、自分で実行した記憶があるような技ばかりだ。否、正確には自分ではなく、自分のモビルスーツであるデスティニーがだ。
「いったい、何なんだ、あんたは!」
「だからおとなしくしてくれれば話す!」
「そんなのが信用できるか!俺があんたを斃して、それから暴いてやる!」
「始末に終えないな。止むを得ん、穿風牙!」
その技はシンがよく使う技そのものだ。驚いて回避し、彼は血飛沫の騎士へと向かっていく。
「俺の技をなぜ使える!」
斬りかかるシンの攻撃を避けた血飛沫の騎士は、諦めた口調で言い放った。
「もういい、半殺しにしないとわからんらしいな。闇縛掌!」
血飛沫の騎士の手から大剣が消えた。さらに、右手に闇が生まれ、その掌をシンの胸に叩き込んだ。
「う、ぐっ……!」
強い衝撃を受けた。それだけではない。身動きが取れない。全くだ。鏡影剣に似た金縛りの作用があるらしいが、今度は口も利けない。ただし、その効果は一瞬だけだが。
「端的に正体をわからせる方法は……これだな。飛天千裂破!」
落下するシンに、飛翔能力を用いて突撃し、いつの間にか手にした二振りのサーベルで12連続の突きを放つ。闇縛掌の呪縛から解き放たれたシンは思わず叫んだ。
「何だと!俺の奥義なのに!」
しかし、驚愕はそれだけではなかった。
「風に舞い散れ!」
その台詞は自分の秘奥義のものだ。シンの目が見開かれる。
「剣時雨……風葬!」
放たれる風の剣も、交差する切り裂く風も、全く同じものだ。シンは草の生い茂る地面に叩きつけられ、仰向けに倒れた。
「俺の奥義、か。確かに今のはお前の奥義だ。秘奥義もそうだな。」
「どういう……意味だ……?」
シンの問いに応えるように、血飛沫の騎士は兜を外した。その隠された顔を見た瞬間、シンは先ほど以上に驚いた。
「それは、俺がお前の未来の存在、十年後のシン・アスカだからだ。」
露わになった顔。黒い硬質の髪の毛、白い肌、そして何よりも珍しい赤い虹彩。顔立ちそのものは精悍さが増していたが、間違いなく自分の顔だ。
「全く、我ながら無茶なやつだ。追いかけてきただけで敵だとみなすとは。まあ、精神的に追い詰められていたのはわかるが。兜を外す余裕もなかったぞ。」
「なっ……俺を殺す気か!秘奥義なんか使って!」
シンは痛む体に鞭打ちながら上体を起こす。血飛沫の騎士はシンの前に座り込み、苦笑しながら言った。
「それだけ元気なら問題なかろう。そもそも、私が本気で殺すつもりなら、あんな威力の低い秘奥義なんか使わなかったよ。フォルネウス相手にも効果薄だったのだからな。」
「それはそうだが……。」
「そもそも、お前はお前が思っている以上に頑丈にできているんだ。エクセキューションの直撃を受けても体力を消耗した程度で済ませるほどだからな。これが常人なら0.1秒も持たんよ。」
血飛沫の騎士、10年後のシンは終始落ち着いている。これが10年の月日か、とシンは思った。
「さてと、おとなしくしてくれたらしいから、話すべきことを話そう。」
シンは目の前にいる男が自分であることに驚いたが、さらに放たれた言葉に驚いた。
「私は今、フォルトゥナ神団で騎士をしている。正確には反逆者を殺す粛清者だがな。血飛沫の騎士などと呼ばれている。」
そんなことは到底信じられない。自分がそんな選択をするはずがないからだ。エルレインのしたことを許せないと思っているのだから。
「なっ……!なんでそんなことを!」
「私もしたくはなかったが……最早手遅れのところまで来てしまったのだ。私が経験したことを話そう。私は10年前、やはりこの場で自分と戦い、そして敗れた。」
10年後のシンの表情は暗い。何か事情があるらしい。
「……。」
「その後だ。私はカイルたちとともに現代に戻り、そして……。」
「そして……?」
10年後のシンの顔に、強烈な痛みと悲しみが走ったようだった。彼はゆっくりと、静かな調子で口を開いた。
「私はエルレインに操られ……カイルたちを殺した。」
シンの顔に稲妻が走ったようだった。絶対に失いたくない、何があっても助けたいカイルを、自らが殺すというのか。
「私はそのショックで心を閉ざしてしまった。どうやらその間にエルレインが私をコントロールして手駒にしたらしい。自我を取り戻したのは最近のことだ。」
「……!あんた、エルレインを斃そうと思わないのか?」
「今の私には無理だ。10年の間にエルレインは大量のレンズの力を得て強くなった。さらに、私に力を与える代わりに、エルレインに対して敵意を向けようとすると力を減殺するようにしたらしい。」
用意のいいことだ。手駒にしたエルレインとしても、シンの存在は利用価値があると同時に危険である。だからこそ、こんな回りくどい事をしたのだ。
「なっ……!」
「その上、過去に戻ってエルレインを消そうにも、私は時空間捕縛魔法までかけられている。つまり、どんな手段を持ってしても時間転移することもできんのだ。今の私は全くの無力なのだよ。」
シンは10年後の自分を見やった。絶望の淵に突き落とされ、どこか虚無に彩られた瞳が湿っている。
「…………どうやってあんたをコントロールしたんだ?その、あんたがカイルたちを殺したときの。」
この会話も巡る時の流れの中で、既に何百回と繰り返されたものなのかも知れない。だが、言うしかなかった。彼には選択肢がなかった。少しでもその運命だけは避けねばならない。
「わからん。記憶が飛んでしまっている。もしかしたらエルレインがその部分の記憶を抜き取ったかも知れん。」
情報が少なすぎる。そして、このまま行けば自分がカイルたちを殺すことになるかも知れない。だが。
「いいさ、俺が未来を変えてやる。俺は自分のくだらない運命くらい、自分の手でぶっ壊してやる。」
シンはそう言い放った。妹のマユに付き合って少女漫画のアニメを見ていたが、そのエンディングテーマの中にこんな台詞があった。「運命なんて弱気が見せる幻」。
それに関しては同意したい。未来は変えられるはずだ。意志さえあれば。シンはそう思った。
「お前ならばそう言うだろうと思っていた。だから、私もお前に望みをかけるつもりで来たのだ。」
「正直、俺は未来を知ってから行動するなんて邪道だと思うけど。だけど、助けてもらったことには感謝する。それに、カイルたちを死なせたくないしな。」
先程までシンから放たれていた強い敵意は影を潜め、放たれる意志は信頼するようなものなった。それを感じ取った10年後のシンは、ふっと微笑んだ。しばらく笑ったことがない者の笑顔だった。
「では、まず私の指示に従ってくれ。お前は気絶した振りをして、ノイシュタットまで私に連行されてもらう。」
「わかった。」
「それから、向こうに着く前におとなしく縛られてくれ。ああ、簡単に解けるようにしておくからな。心配しなくていい。」
「……信用してるぜ。」
「すまんな。あと、悪いが仮死状態にする薬を飲んでもらう。色々と細工をしなきゃならんのでな。」
あれこれ打ち合わせをし、二人はノイシュタットに向かう。その間にシンは10年後のシンから渡された薬を飲み、気絶したところで縄で縛られた。
ただし、ある一箇所を引っ張ると解けるようには細工したらしい。目立たぬよう、シンの手の中にねじ込んだ。
「反逆者を殺すことは成功した。ただ、念のため縛っておくことにした。ノイシュタットとチェリクの途中の海に死体を捨てることにする。」
血飛沫の騎士の姿に戻った彼は、肩にシンを担ぎ、輸送船の貨物室に手荒に放り込んだ。
別に骨が折れるような投げ方にはしなかったので、あとで息を吹き返したときにシンから抗議を受けることはあるまい。
「私が直々に放り込む故、手出し無用。よいな?」
10年後のシンは船員に告げ、貨物室の中に入り、兜を脱いだ。いい加減脱がないと疲れるのだ。
「さて、神経刺激によって薬を排除せねば。……よし。大爆掌!」
シンの顔を掴み、炎症を引き起こす技を叩き込んだ。火属性に対する抵抗が強いので、別にシンの顔は火傷しなかったが、顔が真っ赤に膨れ上がり、その痛みでシンは目を覚ました。
「あああああ、いたたたたたたた!顔が滅茶苦茶腫れてるじゃないか!」
「大きな声を出すな。聞かれるではないか。」
静かな声で諭す10年後のシンも、さすがに顔は半分笑っている。
「昔読んだギャグ漫画にあったぞ、この技。確かその漫画でも顔が腫れあがってなかったか?」
「そんなことはもう忘れた。文句なら、この力を与えた奴に言え。仮死状態を解くためにはこの方法が一番なのでな。」
腫れた顔ではさすがにばれるので、10年後のシンはパナシーアボトルをシンの顔にかけた。黄緑色の液体が染み渡り、シンの顔から腫れが消えた。
「この力……そういえば、誰がこんな力を?それに、何の目的で?」
「この後歴史が変わらなければ、力を与えた本人と対面することになる。私に聞かずに本人に聞いたほうがいいだろう。」
血飛沫の騎士と呼ばれている男は、それ以上喋ろうとしなかった。喋りたくない内容なのかもしれない。
「そろそろだろう。死んだ振りをしていてくれ。」
10年後のシンは兜を被り、シンを肩に担いだ。鎧に覆われた肩に腹を乗せているのだから気持ちいいわけがない。
だが、我慢せざるを得ないだろう。助けてくれるらしいのだから。
「いいか、これから海に放り出す。海面にぶつかったらフォース形態をとってカルバレイス大陸の海岸に向かえ。縄はお前の右手の中にある縄の先端を引けば解けるようになっている。」
「いろいろとありがとう、シン。」
シンは10年後のシンに向かってそう呼んだ。10年後のシンは苦笑し、返事をする。
「私もお前もシンだったな。何とも複雑な限りだ。ずっと血飛沫の騎士だったからな……この10年は。」
自分の名前を呼ばれることすらない、10年後のシン。シンは少し悲しくなった。
同情の気持ちもあるし、下手をすれば自分もああなるかも知れないというのもある。
「変えなきゃ、俺が……。」
10年後のシンはシンを担ぎ、甲板に立った。
「愚かなる者の屍、海に消えよ。」
軽々とシンの体を海に放り投げ、シンが落下した辺りの海面を見た。
「でやああああああああ!」
爆音が轟いた。さらに何の叫び声か、10年後のシンはわからなかったが、何が起きたかはすぐにわかった。シンがフォース形態ではなく、ブラスト形態で海面を滑りながら逃げているのだ。
「ちっ、仕留め切れていなかったのか、不覚!」
10年後のシンは船員達に聞こえるように言い、赤い光を撒き散らしながら逃げていくシンの後を追った。
「この馬鹿者!何故ブラストで逃げた!?その形態は移動時に爆音が放たれるのだぞ!」
10年後のシンが大剣で斬りつける振りをしてシンを怒鳴りつける。だが、鎗で受け止めたシンは言い放つ。
「フォース形態で逃げろって言ったよな?それはあんたが実際にそうしたんだろ?」
「その通りだ。それがどうした?」
「なら、俺は違う方法で逃げる。僅かなずれが何かに作用するかもしれないし。」
「こんなもので変わるか!」
「それが諦め姿勢だって。何でもいいから変えてやるって意志が必要なんだと思う。あんたの無気力さを見てたらそう思えてきたから。」
何度も繰り返されたであろう事象が、ここにきて入れ替わった。もしかしたら、と10年後のシンは思う。このシンなら、と。
「ならば何も言わん。私はお前を無事に逃がすため、エンシェントノヴァを使う。その爆風を使って逃げろ。いいな!?」
「わかった。」
「今度は言うことを聞けよ、絶対に!」
10年後のシンも、最早賭けに出ていた。命を賭して、このシンをカルバレイスまで送り届けなくてはならない。
おそらく、今戻れば反逆者として処刑される。だが、自分は消えても歴史を変えられる「シン」が生き残れば、そのまま彼は生き続けられるだろう。
「もう、私とシンは別人なのだろうな、既に……。」
寂しい気もしたが、血飛沫の騎士は決然とした調子で詠唱する。
「古より伝わりし浄化の炎よ……消し飛べ!エンシェントノヴァ!」
火の上級晶術、エンシェントノヴァがシンの近くに炸裂した。彼は爆風に巻き込まれながら足の裏から火を吹き、一気に逃げ去った。
「これでいい……。」
血飛沫の騎士は自ら死へと向かう。それでいいのだと。自分の生きた意味はあったのだと。
TIPS
双地輪:ソウチリン 地
大爆掌:ダイバクショウ 火
閃翔牙:センショウガ 武器依存
闇縛掌:アンバクショウ 闇
ここまでです。
正直オリキャラ使いたくないんですが、まあ、オリキャラみたいなものか。
グレーラインというかダークグレーというか。
さて、やっとカイルと合流できますが、多分まだシンの鬱は続く……。
ぎゃああああああああああ、修正修正。
>>449 ×「それは、俺がお前の未来の存在、十年後のシン・アスカだからだ。」
○「それは、私がお前の未来の存在、十年後のシン・アスカだからだ。」
はずみで書いてしまった……。同時に喋っても区別がつくようにしたのに……。
orz
GJ
オリジナル展開がどうなるかと思ったが、面白かったよ。
次回もよろしく。
血飛沫の騎士殿がこのあとどうなるかが心配じゃけぇのぉ
GJでござんした、まじシン頑張れ!
>「運命なんて弱気が見せる幻」
ちょwwwwwwウェディングピーチすかwwwwwwwwwwwww
どもー。
>>456 今回自信なかったんですが、2話で人権の話、6話で資金の話をして前振りしてますから、前に書いたときよりはマシになったのではないかと。
あれは……後付にも程がある……。
>>457 タイトルは忘れましたが、多分それでしょう。
話の中で書いた「妹のマユに付き合って少女漫画のアニメを見ていたが」の妹のマユを姉に変えると俺自身の体験談になるわけで。
無理やり見せられてたんですよ、逆らったら殴られるしw
あのフレーズには感銘を受けたので、ちょいと拝借しました。作者から作中人物のシンへ送るエールでもあるんですよ。
まあ、シンとマユは「昔のアニメ女の子用特集、昔の女の子はこんなアニメを見ていた!」とかいう番組を見ていたと解釈しといてくださいwww
459 :
通常の名無しさんの3倍:2007/09/20(木) 22:47:10 ID:ehVmUy9/
今回もGJ!
自分的にはTIPSの称号はあってほしい。
どんな称号がシンに与えられるのか、正直楽しみだ。
>◆dCLBhY7WZQ氏
登録してみました。
確認お願いします。
>236氏
こちらも登録させて頂いて良いでしょうか?
>>460 確認完了しました。
本当にありがとうございます。
>>459 称号ですか。
一応、これまでの話の中で取得したであろう称号を作ってみました。
このセンスを見てから、もう一度判定してください。
称号
3話
鳥人間
フォース形態によって風を読む力が増して飛べるようになった。
翼はなくても空は飛べるのさ。
回避+0.5 SP回復-0.5
モビルスーツパイロット
必要なのは操縦技術だけじゃない。
物理や工学は知ってて当たり前。まさにエリート。
知性+1.0 HP-6.0
4話
「聖女と関わりがあるに違いない!」
エルレインに反応したブレスレット。
彼女とはいったい……?
TP回復+0.5 攻撃-1.5
5話
子泣き少年
ソード形態で戦う間は重量が変化する。妖怪子泣き爺のような少年。
誰かに負ぶってもらうわけではない。
シン「なんだこの称号は!」
防御+2.0 回避-1.5
7話
努力家
環境が変わっても戦い続けたい。負けるわけにはいかない。
もう、大切な人を失いたくないから。
だから、そのために訓練はするさ。
攻撃+0.5 命中+0.5
デュートリオンビーム照射人間
リアラにエネルギーを供給。
でも、疲れたりしない?
シン「疲れるに決まってるだろ!」
TP軽減+0.5 TP回復+0.5
>>459 称号一覧の続きです。
10話
ツッコミ担当
彼は意外と根が真面目。
ふざけているとツッコミを入れたくなる。
でも、ちょっとバイオレンスなんじゃ……。
攻撃+0.5 知性+0.5 SP軽減-2.0
機械使い
異世界の機械もなんのその。
わずかな違いだけで済ませる腕は一級品!
詠唱+1.0 知性+0.5 攻撃-1.5
12話
暴走戦士
自分を制御できないほどの狂気。
仲間にまで攻撃しないのが救いだろうか。
攻撃+2.0 SP軽減-1.5 命中-0.5
13話
放浪者
一人逸れてしまった。
仲間と合流できるのか?
回避+1.5 SP回復-1.0
ロケット人間
足の裏から火を噴いて移動できるブラスト形態。
別に腰からマシンガンを撃てるわけではない。
回避+1.0 命中+0.5
お尋ね者
ついに前科者となってしまった。
「俺は悪くねえ!」と言わないのはさすが。
でも、明らかに向こうの方が悪いような……。
防御+0.5 回避+0.5
14話
運命を背負う者
彼は知ってしまった。
仲間の命は全て自分にかかっている。
その結果は避け得ないのか……。
防御+1.5 攻撃-2.0
463 :
通常の名無しさんの3倍:2007/09/21(金) 15:27:43 ID:Pj/is3I8
GJ!
これからも称号は一緒に出してほしいですね。
おもしろ称号には腹をかかえて笑いました。
>>463 「子泣き少年」と「デュートリオンビーム照射人間」は、思いっきりふざけて書きましたが、残りは結構真面目に書きました。
正直、俺はギャグそのものは好きなんですが、センスも才能もないので、あんまりふざけないことにしています。
ついでに言うなら、戦争時代に突入するまで、ずっとシリアスが続くので(原作だってシリアスですしね)、多分おもしろ称号は書けません。
あと、元ネタのカミングアウトに称号を使おうとも思いましたが、さすがにそれは止めました。
では、書く機会があれば、また称号を書かせてもらいます。
って、ちょっとまてえええええええええ、俺肝心なこと忘れてるじゃないか!
コメント貰ったらお礼は当たり前!
普段は最初に「どもー」と入れてるから油断した……orz
最近始まった授業のせいとはいえ、これではいかん!
>>459さん、
>>463さん、ありがとうございました、お礼が遅れて申し訳ありません。
面白くなるように知識と知恵を絞らせてもらいます。
いやはや、脅威的速度で投下しつつも面白い話だった……。
未来のシンとの会話と運命を変えようとあえてブラストで出るのがよかった……。
次回を楽しみに待っています。
またまたどもー。
面白いと思ってもらえたなら嬉しい限りですよ。
ちょっとした追加要素だけでシンを観察キャラから一気にキーパーソンまで押し上げることが出来たわけですし。
正直自分の思いつきに感謝してます。
では、投下します。
15 ヒートリバー
シンを逃がし、自分が辿るであろう末路を予想しながら輸送船に戻った血飛沫の騎士は、兵士たちに拘束された。
「やつは始末したが。死体は消し飛んだから、証拠はない。それで、一度逃げられた責任を取れということか。」
「はい、エルレイン様に連絡したところ、今すぐ処刑せよ、とのお達しです。どうかお覚悟を。」
「わかっている。それが私の責というものだ。面倒だろう、私が自分で始末する。」
彼はもう覚悟を決めていた。兜を脱ぎ、赤い瞳に驚く兵士たちを退かせると大剣を出現させ、自らの首筋に当てる。
「さらばだ、シン・アスカ。後は……頼む。」
誰にも聞こえぬように呟くと、自らの手で首を刎ねた。血飛沫が上がり、黒い鎧を汚していく。
船の甲板に、何か堅いものが、落ちる音がした。
そんなことがあったとは知らないシンは、ブラスト形態のホバー能力を使い、カルバレイスを目指していた。
高速輸送船と10年後のシンの爆風のおかげで何とか必要航続距離は縮んだものの、気を抜けば魚の餌になることは必至だ。
「うー、なかなか疲れる……。モンスターが出てこなきゃいいんだけどな。今こられたら死ぬ……。」
足の裏から火を噴きながら移動するのは、なかなか大変だ。飛行能力と違い、噴射方向を自分の足で調整しなくてはならない。
間違えると転倒したり、最悪の場合はネズミ花火のように弾け飛ぶ可能性もある。
最初の加速性がよいとはいえ、意外と不便な能力なのだ。ただし、飛行する場合よりは時間換算でこちらの方が持続するのだが。
「ああ、運命を覆すためとはいえ、これは……。」
文句を言っても、このままカイルを殺すという未来は変わらない。何でもいいから未来を変えよう。その言葉を支えにカルバレイスのチェリクを目指す。
夜を徹してブーストを吹かし続け、どうにか陸地にたどり着いた。リーネに寄ったときにコンパスをリリスから貰っておいて助かった。
「に、してもここはどこなんだろう……?」
ふらつく足を叱咤し、辺りを見回した。カルバレイスは話に聞いたとおりの砂漠と火山の大陸だが、今は岩陰に身を置くことができるので暑さは凌げる。
しかし、いつかは日の当たる場所を歩かねばならない。そうなったら暑さで倒れるばかりか、水がないために干乾びるかもしれない。
水の調達が、全てに勝る急務だった。
「……う……暑い……。」
ちょうどいいサイズの岩があった。一休みしようと座ったが、もう足が動かない。疲労が限界まで達していたらしい。
そんなときだ。
「あー、シン!シンじゃないか!」
カイルだった。今からロニとジューダスが留まっているホープタウンに向かうところだったのだ。
「ん、誰だい、シンって。」
聞きなれない声だ。どうやらカイルと一緒にいるという、この時代の人間なのだろう。赤い髪をツインテールにし、左手には弓を持っている。
少々露出の多い服装だが、腰に布を巻きつけているあたり、肌の保護に関してはそれなりにしているらしい。
顔立ちは自信に溢れ、年上の女という印象を振りまいていた。
「あそこに座ってる赤い服の人だよ、ナナリー。俺たちの仲間なんだ。」
「そうなの。行方が全くわからなかったけど、カルバレイスに来てたんだわ。シーン!」
リアラがこちらに向かっている。シンは返事をしようとしたが、極度の疲労と安堵のためか、そのまま何も言えずにその場に倒れてしまった。
カイル、リアラ、ナナリーの三人は、倒れたシンを休ませることにした。
リアラが晶術で出した水を含ませたタオルを彼の頭に乗せ、岩陰に寝かしつけて回復するのを待つ。
「随分とぼろぼろだねえ、シンって子。何があったんだろう?」
「多分、いろいろあったんだよ、いろいろ。だってシンは別れたときにお金持ってなかったし、チェリクじゃシンみたいな人は見かけなかったって言うし。」
「きっと、別の場所に飛ばされたんだわ。私たちやロニ、ジューダスは二人ずつだったからいいけど、シンは……。」
カイルとリアラは暗い顔を見せている。無理もない。シンと出会ってからそれほど時間は経っていないが、信頼に値する人間なのだ。
カイルがお金を掏られたときや、フォルネウス相手に戦ったときに、彼の決断の速さに助けられている。
そのシンが倒れるまでに疲労したのだ。心配もして当然だ。
「そっか……。よし、カイル。シンの上着、貸してくれる?」
シンの赤いザフト軍制服は、切り傷や穴ができていた。ナナリーは針と糸を取り出し、指をせっせと動かして繕っていく。
「ふんふん、いい布地だねえ。それでいて……熱を通さないし、表面は燃えにくい素材みたいだね。いったい、何でできているんだろ?」
合成繊維などこの世界に存在しないので、ナナリーは魔法がかけられた服だと思ったらしい。
ただし、本当に合成繊維かどうかもわからないのだが。何しろ、拳銃を失っていたのだ。転移する都合で別の物質に変わっていてもおかしくない。
「ま、いいさ。シンが起きるまでに直しておくよ。」
ナナリーは慣れた手つきで縫い合わせていく。目の前でほつれや切れ目が消えていく様子を見たカイルが感心する。
「ナナリー、器用なんだなあ。すっげー。」
「あははははは、ホープタウンじゃなんでも自分でしなきゃいけないしね。このくらいできて当然なんだよ。」
「私にも……教えてくれない?」
リアラもナナリーの手つきに感心したらしい。自分もできた方がいいと思ったのだろう。
「んん、オッケー、任せな。まずはシンの服を直してから。ホープタウンに着いたら教えたげる。」
一時間ほどでシンの制服は新品同様になった。どこを繕ったのか、それすらわからない。
「ここまでできるんだ、はあああああ……。」
カイルは改めてナナリーの腕に感心する。ルーティも縫い物はするが、ここまではいかない。
「後はシンが目覚めるのを待つだけね。」
リアラは先程から何度もかけている回復晶術を使い、シンの傷を癒した。
確かにシンは傷ついていた。手加減されていたとはいえ、エクセキューションの直撃と秘奥義の剣時雨風葬を受けている。死んだように見せかけるため、怪我の回復をしていないのだ。
それだけではない。彼はごろつきに絡まれ、自分の能力に恐れ、売り飛ばされそうになり、殺人犯として追われ、挙句にはカイルを殺す事になるかも知れないと言われたのだ。
体以上に心が傷ついている。心自体が起きることを拒否しているらしい。
「うう……カイル……皆……許してくれ……。」
カイルたちにはわからないが、シンは悪夢を見ていた。
エルレインに向かってシンが剣を構えて突撃し、彼女を斬りつけた。そのはずだったのに、いつの間にか斬りつけた対象がカイルに入れ替わっていた。
血を流して倒れたカイルが目の前に転がっている。シンは自分の血塗れの手を見つめた。ふと、上を見ると、そこには自分の体に繋がれた糸をマリオネットを操るようにするエルレインの姿があった。
「お前は自分の運命には逆らえない。そうだ、逆らってはならないのだ。これからお前は私の手駒にならなければならない……。カイルたちを殺さなくてはならない……。」
感情こそこもっているが、どこか無機質で善悪のない、それでいて狂った調子のエルレインの声が脳に響く。エコーがかかり、山彦のように繰り返される。
それがカイルを殺すところから何度もリピート再生される。想像とはいえ、あまりにも生々しい。
「あ……うああああああああああ!」
絶叫しながらシンは弾かれるように起きた。息が上がっている。
「あ、シン!起きた?」
ぼんやりする頭を振り、シンは現実に意識を引き戻した。現在の状況を確認する。カイルとリアラ、それにナナリーと呼ばれた女戦士がいる。
「……カイル……俺はいったい……?」
「君はさっきまで倒れて寝てたんだ。よっぽど疲れてたんだね。」
「あ、ああ……。」
「水、飲むかい?汗かいてるだろ?」
ナナリーがシンに水筒を渡した。シンは受け取ってからあることに気づいた。まだ自己紹介をしていない。
「あ、カイルたちが世話になったみたいですが、ありがとうございます。俺、シン・アスカって言います。」
「ああ、言葉遣いは堅苦しいのは嫌いだから、普通でいいよ。あたしはホープタウンのナナリー。ナナリー・フレッチさ。よろしく。」
ナナリーは快活に笑い、シンもそれにつられて笑顔を見せた。そして、水筒からコップ一杯分の水を注ぎ、一気に飲み干した。
「……ふう。」
ぼんやりしていた意識がはっきりし出した。同時に、神経をぴりぴりさせていたせいで気づかなかった不安がシンを襲いだした。
「運命なんか自分でぶっ壊す」と息巻いたものの、そう簡単に解決できるような問題ではない。今のところ99%くらいはカイルを殺すことになるだろう。
残る1%を掴み取りたいのは当たり前なのだが、向こうの方法がわからない以上、アドリブで解決するしかない。
だが、アドリブだけでは限界がある。シンの持つ力はエルレインやリアラの持つものと違い、かなり限定的な行動しかとれないのだ。
マニュアル戦闘などでは勝てないのだが、今のところはどうするかわからない。ただ、どんな方法でコントロールしてくるのかは複数パターン考えてある。
その対抗策が完成していない。どうするべきか。ずっと悩んでいた。
「……シン?」
考え事をしているのを不審そうに思ったカイルがシンに声をかけた。
「あ、いや、なんでもない。なんでも。お互いの事情はロニとジューダスと合流してからにしよう。でも、どこに行ったんだろう?」
言いたいことが混在して、わけのわからない発言になってしまった。しかし、それでもカイルたちは意図を汲み取ってくれたらしい。
「う、うん。あ、ロニとジューダスはナナリーのすんでるとこで待ってるらしいよ。だから、これからホープタウンに行くんだ。」
「あ、なるほど。それじゃ、行こうか。」
シンは立ち上がった。急に立つことで起きる血圧の低下を感じたが、早く合流したほうがいい。彼はそう思った。
「あの二人に会いたいのかい?」
ナナリーがそう言った。シンは当たり前だと言わんばかりの口調で返す。
「勿論。あの二人ほど頼りになる人間はそういないから。」
ずっと一人で行動してきた。元の世界では仲間に囲まれていても孤独を感じていた。しかし、こちらの世界での仲間はいてくれると嬉しい、いてくれると楽しい。そんな感覚がある。
それが急にいなくなったとき、かつて以上に孤独を感じた。以前の孤独はそれなりに心地よかったが、今度の孤独はひたすらに寂しく、心細い。
しかも、この後にはさらなる孤独を味わうかもしれない。それがシンには恐ろしかった。
「じゃ、行こう。ナナリー、この先の川を渡るんだよね?」
「ああ、ヒートリバーっていうんだ。そこを越えたら、ホープタウンはすぐそこだよ。」
名前と火山の多い土地柄からして、温泉の流れる川なのだろう、とシンは思った。ただの温泉ならいいが、ひどいものになると危険な物質が含まれていることもある。
「気にしても詮無い事か。」
シンは十分に休めた足を動かし始めた。
ヒートリバーに架かる橋の前までやってきた。ところが、その橋が水没している。しかも、異様な暑さだ。
「な、何て暑さだ……。何とか耐えられるけど……。」
シンは右目を瞑り、左手で汗を拭いながら呟いた。どうやら熱源は川らしい。
熱源が川と言うのは問題だ。流れているのは熱水だろう。ということは、水分が蒸発している。湿度が高いのだ。
湿度が高いと汗が乾かず、体の温度はいっこうに下がらない。汗だけかいて、結局体温調節できていないことになる。
普通に火の側に行くより酷い。
「おかしいねえ、普段この川はこんなに水がないんだけど。」
ナナリーはそう言った。つまり、何らかの理由で増水しているのだ。それさえ解決すればいいらしい。勿論、放置という選択もある。
「カイル、今回は俺の飛行能力で川を越えることは出来るぞ。でも、放って置いたら後でこの橋を渡る人が困る。どうする?」
「決まってるじゃん、原因を調べて元通りにする!英雄を目指してる俺には避けられない!」
いつのもカイルだ。シンは微笑み、口を開いた。
「言うと思ったよ。それじゃあ、上流に行こうか。リアラはしんどそうだな?カイルに手を引っ張ってもらったらどうだろう?」
自分の飛行能力を持ってすれば、もっと楽に移動できる。それでもそんなことを言わなかったのは、ちょっとしたお節介だ。
シンに言われて、リアラはびくりとする。カイルに手を引いて貰えたら嬉しい。けれど、という表情だ。
「俺は気にしないからな。さくさく進んで元通りにしないと。」
彼はできるだけ振り返らないようにして早足で上流へと向かい、ナナリーも慌ててシンをガイドする。
取り残された形となった二人は少しだけ顔を赤くしたが、シンの言うとおりにはしなかった。急いでシンとナナリーを追いかける。
「ぐっ!何だここは!?」
少し上流に向かうと、強烈な熱波地帯に突入した。
「この辺りの地熱は強いんだ。時々風が吹いてくるんだけど、その風も焼けるほど熱いから気をつけて。あっちこっちに岩陰があるだろ?あれに隠れながら進むんだよ。」
「地熱か……。」
彼の故郷であるオーブは火山島である。ニュートロンジャマーを撒布されても電力を確保できたのは、地熱発電が主力だったからだ。
地熱の恩恵で育ったシンだが、この熱には参る。
「ふう、あつー……。」
「本当に……。」
カイルとリアラは辛そうだ。シンは耐熱服を着ているようなものだから、ある程度は耐えられる。だが、二人はそうもいかない。
「リアラ、俺の服を貸そうか?耐熱処理されてるはずだし。」
「あ、ありがとう……。」
シンは自分の赤い制服を脱ぎ、リアラに渡した。彼女は躊躇いがちに着込む。少しサイズが大きかったらしい。
「このシャツでどれだけ耐えられるか……まあ、俺はコーディネイターだし大丈夫か。……ん?」
何やらカイルが自分を見ている。少々嫉妬の視線のような感じだ。
「お、おいおい!俺は別にリアラを狙ってなんかいないぞ!」
「でもさー、シンがもしリアラの英雄だったら俺、ショックだからさ……。」
「俺はカイルが英雄になるのを楽しみにしてるんだからな。そんな俺が英雄になることはないさ。」
正直なところ、英雄などという称号ほど自分に似合わないものはない。どうせ呼ばれるなら殺戮者の方だろう。彼はそう思った。
時折襲い来る熱波を避けつつ、カイルはナナリーに話しかける。
「そういえばさ、ナナリー。カイル・デュナミスって英雄の話を聞いたことない?」
シンの胸に強い痛みが走った。
「そうだねえ、聞いたことないねえ。」
「あちゃー、何やってるんだよ、未来の俺!」
カイルが悪いのではない。自分がカイルを殺したからだ。だから、この10年後の世界に存在していないのだ。
普段なら馬鹿な話だと笑い飛ばせるのに、全く意味が違う。おそらく、10年後の自分から話を聞かなければ笑い飛ばしていたことだろう。
だが、今のシンにはできなかった。表情が暗くなり、俯いてしまう。
「いや、英雄になった時点で名前を変えたのかも。スタンジュニア……なんかなー、デュナミス将軍……もう一つだな、デュナミス王とか言って、いまや一国一城の主だったりして!」
「何、このテンション……。」
ナナリーが呆れ果てている。それが自然な反応だ。
「あ、いつものことなの。病気……みたいなものよ、うん……。」
リアラのこの反応も、かなり自然な反応だ。
しかし、シンには呆れることもできなかった。ただ、不安だった。カイルを殺したくない。リアラもロニもジューダスも、そして出会ったばかりのナナリーも。
「……そうなると、いいな……。」
シンはそう言った。ナナリーとリアラがシンの方を向く。カイルも同じ反応だ。
「シン……普段だったら『調子に乗るな!』って頭を叩くところでしょ?」
「そうなるといいなって……シン、何か今日は変だよ?」
「あ……。」
自分の不自然さに気づいた。ツッコミ担当である自分らしくないのだ。
「疲れてるのかな……俺。でも、先に行かないと。無理してでも早く合流しないとな。」
シンは無理やり誤魔化した。自分がカイルたちを殺すかもしれないということなど、口が裂けても言えないのだ。阻止できたら言おう。彼はそう思った。
源流にたどり着いた。溶岩が一部露出し、さらにその近くに湧き水があるために熱水になっているのだろう。
「こんな岩、なかったよ?ははあ、これが本流の方を塞き止めちゃったんだね。んで、直接あの支流のヒートリバーの方に流れ込んだんだね。」
確かに塞いでいるらしい。いちいち持ち上げるのも面倒だ。
「皆、離れてくれないか?俺がやるよ。」
シンはブラスト形態をとり、詠唱を始める。
「古より伝わりし浄化の炎よ……消し飛べ!エンシェントノヴァ!」
火柱が塞いでいた岩に直撃した。それは爆発へと姿を変え、岩を原形すら残さず消し飛ばした。まさしく「消し飛べ!」だ。
「派手だなあ。シン、いつの間に覚えたの?」
「一人でふらついてるときだよ。なんでか使えてたんだ。」
「その晶術、覚えるのに苦労するもんなんだよ。あたしも使おうと思ったら使えるけど、いまはちょっと無理だね。あんた何者なんだい。」
「俺自身もよくわからないんだ。気づいたらこんな力が使えるようになってただけで……。」
それは事実だ。ただ、戦うごとに強くなってはいるし、その経験がブラスト形態を花開かせたのは間違いない。
何も努力せずに得たわけではないのだ。ただし、力の正体はともかく、出自がわからないと言っているのだ。
「あっはっはっはっ……なんだかよくわかんないけど、あんた面白いねえ。うちの子たちにも紹介したいよ。」
別に子持ちと言うわけでもなさそうだから、おそらく近所の子供のことを言っているのだろう。
「近所の子供のことだよな?念のために聞くけど。」
ナナリーは性別など吹き飛ばすように豪快に笑い、応えた。
「当たり前じゃないか。まあ、おしめが取れる前から面倒見てるから、本当の子供とあんまり変わらないけどね。」
「へええ、実は俺もさ、血の繋がってない弟や妹がいっぱいいてさ。」
「カイルは孤児院に暮らしてたの。お母さんが経営者なんだけどね。」
「それでさ、俺は皆と一緒に生活してるんだ。だから、俺はデュナミス孤児院のデュナミスを姓にしてるし……。」
全員が押し黙った。何かの振動を感じたのだ。源流の水溜りの中に何かいる。
「な、なんだ!?」
それはザリガニのような姿をしていた。しかし、大きさは比べ物にならないほどだ。全長5メートルはあるだろうか。ヴェパールだ。
「早いとこ仕留めてホープタウンに行こう。はっ!」
カイルがヴェパールに一気に接近し、斬りかかる。だが、その衝撃と共にヴェパールは泡を吐き出した。
「ぐっ!」
泡が当たり、ダメージを引き起こす。直接殴ると泡を吐き出し、攻撃を阻むらしい。
「カイル、大丈夫か!?」
「何とか!」
こうなったら泡を叩き潰しながら攻撃するより他はない。シンはブラスト形態をとり、カイルに指示を出す。
「いいか、カイル!俺がバーンストライクとその追加晶術で攻撃するから、攻撃している間に突っ込め!そうすれば泡を撃ち落せる!ナナリー!矢で泡を撃ち落してくれ!」
「わかった。」
「りょーかい!」
「それから、リアラ!リアラはカイルの回復をしつつ、一緒に泡を破壊してくれ!リアラはスプラッシュだ。出来るよな?」
「任せて!」
「よし。……バーンストライク!爆砕せよ、ファイヤーフライ!」
上空から降って来る火炎弾を受けてヴェパールが苦しむ。その隙を狙ってカイルが斬りつけた。
その吐き出される泡は誘導特性のあるミサイルを模した晶術、ファイヤーフライで破壊された。さらに、リアラのスプラッシュが反撃を阻み、ヴェパールの動きを鈍らせた。
「今なら……牙連閃!」
ナナリーが素早く矢を連射し、さらなるダメージを与えるが、その度に泡が吐き出される。カイルはその泡に攻撃を阻害された。
「ナナリー!人の話を聞いてるのか!?下手に打撃を与えたらああなるって。頼むから泡だけ迎撃してくれ!」
シンは気が立っているというのもあるが、彼は本来赤服と呼ばれるエースパイロットだ。
アカデミーで指揮の勉強も勿論しているのだから、指示通りに動いてくれないと苛立つのだろう。唯一の軍経験者故に戦術指揮官になってしまっている。
柄でもないが、カイルやロニの行動を見ていると、やるしかないと思ったらしい。
「悪かったよ。今度はちゃん迎撃するからさ。」
「わかってくれてありがとう。それじゃ、今度は上空から仕掛ける。皆はそのまま!」
シンはフォース形態をとり、穿風牙を放った。また泡が吐き出されるが、今度はナナリーが撃ち落した。
「カイル、行け!」
「よし、爆炎剣!燃えろ!」
火炎と共に強烈な斬撃が放たれ、ヴェパールの殻にめり込んだ。同時に泡がカイルに迫るが、そこはシンの穿風牙で撃ち落す。
しかし、ヴェパールはそう甘くない。詠唱時間などほとんどかけずにヴォルカニックレイを放った。カイルの足元から火が噴出し、彼は後方へと吹き飛ばされた。
「うっ!」
「くっ、リアラは回復!ナナリー、迎撃を続けてくれ!」
シンは上空でソード形態に入れ替え、クレイモアをアンビデクストラスフォームにしながら重量を増加させてヴェパールを突き刺した。
重量増加による最大威力を発揮できるだけでなく、泡の反撃を受けにくいのだ。だが、ヴェパールに振り落とされ、口から発射された水で撃たれた。
「しまった……でやああああ!」
素早く起き上がったシンは、アンビデクストラスフォームのままヴェパールに斬りかかる。泡の直撃を受けても構わずに突撃する。
さすがに防御が拡大した形態だけのことはある。
「なめるなああああああああ!」
元の二振りの剣に変え、斬衝刃を放ち、二つの鋏の内、一本を叩き潰した。だが、同時に小型のザリガニの大群が一斉にシンを襲う。
さすがにこれは予想外の攻撃だ。ダメージ自体は少ないが、目を攻撃されては厄介だ。やむなく引き下がる。
「っちい、どうする……。こうなったら徹底的に晶術で潰す!」
ブラスト形態をとり、詠唱を始める。
「ネガティブゲイト!」
歪んだ空間がヴェパールを苦しめる。だが、そのままヴェパールはシンに向かって鋏を振り下ろした。ケルベロスを撃とうと構えていたところだ。全くの無防備である。
ソード形態と違い、ブラスト形態は攻撃力も防御力も少ない。彼はそのまま溶岩が固まった岩場に叩き付けられた。
「ぐあ!」
しかし、シンの口元に笑みが浮かんだ。してやったり、と。
「空破絶風撃!」
シンはあくまでも囮だった。いつものことだ。カイルは素早く突きを放ち、同時に突風で奥へと押しやった。
さらに秘奥義を放つ。
「空を断つ……!くらえ!絶破!滅焼撃!」
強烈な突きとともに、赤く輝くエネルギーでヴェパールを叩きのめす。ついにヴェパールはその動きを止めた。
「さてと、これで橋も渡れるはずだし、もどろっか。」
ナナリーは自分の住処にやっと戻れる、という表情で言った。リアラも同調する。
「そうね、早くロニたちと合流しましょう。」
彼らには勿論会いたい。そして、現代に戻りたい。しかし、これから自分がするかも知れないことを言えるわけがない。
隠すしかない。言えば余計な心配をかける。シンは心掛かりなことを胸の中で増幅させながらそう思った。
TIPS
称号
戦術指揮官
似合いもしないのに何故かやっている。
軍の経験者は自分だけという宿命なのか。
シン「柄じゃない。絶対に柄じゃない」
知性+0.5 クリティカル+1.0 SP軽減-1.5
ここまでです。
脳内でシンの立場に立って、あの馬鹿なチャット見てたんですが、どうしても意味が違って聞こえました。
そのままそれを書いたわけです。今回はその部分だけ少々自信がある、というくらいでしょうか。
次はついに、今まで引っ張ってきたシンの力の正体が明らかになります。
まあ、予想しておられるでしょうけど……。
シン……辛いな。
前のシンは衝撃のままで終わったのだろうか?(運命までいけなかったのかも・・・)
まあ称号でのシンのぼやきが可愛いな。
どもー。
>>477 前のシン、とは「血飛沫の騎士」でしょうか。それとも今主人公として描いている「シン」でしょうか。
申し訳ない、うまく読み取れませんで。
「血飛沫の騎士」なら、14話を見ていただければわかります。彼が使った技を見てみますと、
双地輪→フラッシュエッジ2
大爆掌→パルマ・フィオキーナ左手バージョン
閃翔牙→アスラン刺し
闇縛掌→パルマ・フィオキーナ右手バージョン
実は「血飛沫の騎士」、デスティニー形態なんです。ただし、不完全なので(分身できない他)それについては文中に書きませんでした。
また、「シン」についてはまだまだ先の話です。
GJ
命令無視したナナリーが実際のゲームっぽく感じてよかったよ。
次回も期待してる。
またまたどもー。
実際のゲームではカイルに「撃ち落せない?」と聞かれてナナリーは「できるだけやってみるよ」と言ってた割に、全然泡を撃ち落してくれなかった上に、ほっとくと勝手に攻撃して泡を吐かせるものだから大変でした。
正直、バルバトスやフォルトゥナ以上にヴェパール戦が一番苦労した気がします。泡の対策がさっぱりわかってませんでしたから、特攻してはライフボトルを乱用して……。
最近やっと対策がわかったんで、ナナリーにインブレイスエンドを、リアラにスプラッシュを撃たせ続けてダメージを抑え、ライフボトルを使わずにすみましたが。
そのときのフラストレーションをそのまま文にしたわけです。シンの発言はある意味でプレーヤーの不満ですから。
ゲームの雰囲気を伝えることが出来て、嬉しく思います。
>ナナリーが泡撃ち落さない
ありすぎて困るw
俺は扇氷閃をショトカに入れて使わせまくった
しつこくどもー。
ああ、やはり苦しめられましたか。
あの戦闘ではむしろナナリーは敵だろ、と思ったこともありますし、俺。
では、自分の誕生日に投下。できないと思ってましたが間に合いました。
16 力の源
4人はホープタウンに到着した。ナナリーはロニとジューダスがいるという長屋に残る3人を連れて行った
「ここが皆で住んでるとこさ。親のいない子なんかを引き取って育ててるんだよ。」
「……まるっきり孤児院だな。けど、こんな砂漠地帯によくこんなオアシスがあったね。」
ホープタウンの中央には湧水がある。海岸地帯に近い砂漠によくぞあるものだ、とシンは言う。
「ここは28年前の騒乱のときに外殻が落っこちてさ。地殻変動が起きてオアシスが出来たんだよ。あれのせいで大勢の人間が死んだらしいけど、まあ、一つくらいはいいことがあったってわけだね。」
こんなところにもあの騒乱の「恩恵」がある。10年前のノイシュタットといい、このホープタウンといい、エネルギッシュなところだ。
「これだけ元気があって、『生きる』気持ちがあるなら、確かにアイグレッテに行く必要はないな。」
前述したが、シンはハイデルベルグの図書館で歴史を確認している。だから、アイグレッテでは人々がナンバリングされ、子供が3歳まで親から引き離されて生活していることを知っている。
生存することは出来ようが、このホープタウンを見ているとアイグレッテでの生活は生活というより飼育に近い。生きているだけで、人間らしさが全くない。
それは、実際にアイグレッテの様子を見てきたカイルも同じらしい。
「暑くて不便かもしれないけど、皆生き生きしてるね。」
「生きてる実感があるって感じの顔だ。こういうの、俺は好きだな。」
ただ、リアラは俯いている。何かに迷っているらしい。自分の考えるものと違う現実を見せられたような感じがする。
「リアラ?どうしたんだ?」
「え、ううん、何でもないの。何でも……。」
どうやら彼女もシンと同じように話せない秘密というものがあるらしい。それについて彼女を責める事など、シンはできなかった。
「カイル、カイルじゃねえか!」
シンは顔を上げた。色黒銀髪長身の男、ロニだ。その後ろから仮面を被ったジューダスがやってくる。
「ロニ!」
「無事だったか!」
ロニはそれこそはぐれた我が子を見つけたように喜んでいる。ジューダスはやれやれという表情を見せたが、内心では喜んでいるに違いない。
「ロニ、ジューダス!心配をかけた。何とか全員合流できたらしいな。」
シンは笑顔を見せてそう言う。ジューダスはシンを見遣り、言った。
「お前が戻ってきてくれて少しは助かりそうだ。何しろ、あの馬鹿へのツッコミは僕一人で処理し切れん。」
「あはははははは、さすがにジューダスもツッコミに疲れた?」
「僕は十分に突っ込んだんだからな、後はお前一人で全部やれ。」
シンは苦笑交じりに頷いた。これで少しは愉快な仲間と戯れていられそうだ。
「おお、カイル!俺の可愛いカイルゥゥゥ!」
ロニはカイルに抱きついて、頬擦りしている。愛情表現にしても過剰だとシンは思う。
「うわー、やめろ、くっつくなって、気持ち悪い!」
「何言ってんだ、お前だってこの俺に会いたくて仕方なかったくせにぃぃぃ!」
笑顔のまま、まだ頬擦りを続けている。
「そんなことないよ!」
「なんだよ、冷たいやつだな。ジューダスなんかお前に会いたくて夜な夜な寝言でお前の名前を呼んでたんだぞ!」
「出鱈目を言うな!」
ツッコミを全て押し付けると言ったのに、既にツッコミを入れている。真面目であり、誤解は即座に訂正したい。それがジューダスである。
「ジューダスはツッコミから逃げられないらしいな。」
「う、うるさい!」
本当に、楽しい。一緒にいて飽きないし、頼ることも頼られもする。自分が何かできるというのが嬉しかった。
だが、失うことへの恐れが裏面に存在する。それも、刻一刻と迫っている。今のうちに笑っておこうかとも思ったが、それは殺すことを前提とするのと同じだ。
「負けられないんだよな……絶対に。」
シンは誰にも聞こえないようにそう呟いた。
ふと気づくと、ナナリーの姿が消えていた。どこに行ったのかとシンは周囲を見回す。
「ナナリーなら多分あそこだな。毎度毎度律儀なこった。」
「?」
ロニは黙ってついてくるように言い、ある場所へと向かった。それは、オアシスの畔にある墓地だった。
ナナリーはその墓の一つの前に座っている。彼女はその墓に話しかけている。
「今日はいいことがあったんだ。食料が手に入ったんだよ。ちゃんとルーの分も持ってきたからね。それからね。ほら、前にスケベロニとむっつりジューダスっていただろ?」
もの凄いネーミングだな、とシンは思ったが、それ以上に彼女が話してる相手が一体誰なのかが気になった。
「その二人が探してるっていう3人が見つかったんだよ。カイルとリアラとシン!3人ともいい子ばっかりさ。ルー、あんたが生きてたらカイルくらいの歳なんだね。」
ナナリーは楽しそうに喋っているが、どこか寂しそうだった。
「ロニ、あの墓は?」
カイルがロニに聞いた。ロニは応える。
「ありゃナナリーの弟の墓だそうだ。食べ物が手に入ったときやらいいことがあったりしたら、ああやっていつも報告してる。普段のガサツさが嘘みてえだ。」
シンの胸に、新しい痛みが走った。兄弟姉妹というものは家族の中でも特別だ。親にも友人にも出来ない隠し事を共有したり、好き放題話せたり、時には喧嘩相手にもなる。
それを失ったとき、虚脱感は大きい。特に子供の時期はそうだ。自立できない時期での兄弟姉妹の死はその人間へのダメージが大きくなる。
そう、シン自身もそうだった。両親と同時に妹のマユを失った。年下の兄弟姉妹はさらに痛手だ。ただでさえ自分より長く生きていないのに。そう思ってしまうものである。
「あ、皆そこにいたのかい。ごめんよ、待たせちゃって。」
「弟さんの墓だって聞いたけど……?」
少し遠慮がちにリアラが聞くと、いつもの調子でナナリーは応える。
「ああ、そうだよ。あたしがちっちゃい頃、病気で死んじまってね。」
「治せなかったの?」
カイルがそう言うが、ナナリーは頭を振った。
「普通の方法じゃあね。」
「普通の方法って……普通じゃない方法ってあるの?」
カイルの問いにはリアラが応えた。
「あるわ、フォルトゥナ神団に帰依すれば、奇跡の力で治してもらえるはずよ。」
「でも、あたしもルーもそれは選ばなかった。」
「どうして?フォルトゥナ神の力を使えばどんなことでも……。」
「でも、その代わりに一生をアイグレッテで過ごさなきゃいけない。安全で清潔だけど、生きてるって実感が湧かない場所でね。」
「それは……。」
リアラはそれ以上言えなかった。彼女にはそれが効率的でいい方法だと思っていた。だが、そのあり方の矛盾を衝かれた。
反論できない。
「だから、ルーと一緒にここに来たんだ。死ぬまでの間、短い時間だったけど、あの子はいつも笑顔でいた。村の皆も、本当によくしてくれた。だから、あたしは後悔してないし、この村を誇りに思ってる。」
硬くなりかけた空気を混ぜ返すように、ロニが少し大きめの声で独り言を言う。
「あーあ、何か喉が渇いたぜ。なあ、飯の前に雑貨屋で何か飲んでかないか?結局、お互いの報告もまだ済ませてないんだしよ。」
「なんだ、そうだったのかい。じゃあ、長屋の方に行こうか。」
「ついでに、軽く腹に入れといた方がいいかもな。こいつの出すものが食えたもんじゃなかったら、晩飯食いっぱぐれるわけだし。」
今日はナナリーが夕食をご馳走してくれることになっている。ナナリーの料理を食べるのはロニ達も初めてらしく、少々警戒しているらしい。
「別に構わないよ。あんた抜きでカイルたちと楽しく飯にするからさ。」
二人は言い合いながら長屋へと入っていった。
「もう、ロニったらわがままなんだから。」
「……まったく、わざとらしい。」
ジューダスは首を振り、半ば呆れた調子で言う。
「え?」
「気を遣ったんだろう、リアラとナナリーに。」
ロニはああ見えて空気の読める男だ。自分を馬鹿に仕立てて場の空気を変えることくらいはする。
「あ……。」
「おーい、お前ら!ぼけっとしてると置いてくぞ!」
リアラは何か言おうとしたらしいが、ロニの大声に遮られた。
「あ、待ってよ!」
カイルは長屋へと向かい、ジューダス、シンも続く。リアラはその後ろから目を伏せたままついていった。
長屋は少々手狭な場所だった。あちこちに布が敷かれていたり、生活用品が雑然としている。清潔というものはあまりなさそうだが、代わりに生活臭がはっきりする場所だった。
シンはどちらかといえば清潔な場所に生活していたのだが、こんな生活臭溢れる場所も悪くはない。
「おばちゃーん、お茶ちょうだい、お茶。」
ロニは最早勝手知ったる他人の家、とばかりに長屋の管理をしている女の人からお茶を貰った。
「んじゃ、まずはお互い何をしてたか話すか。どうせ話したいことは山ほどあるだろ。」
「うん、勿論。」
彼らはしばらくの間話を続けた。まず、カイルからはアイグレッテの様子が報告された。
人々が管理されて生活していること。それに関して全く疑問を持っていないこと。そして、彼らの口調や表情にどこか違和感があること。
シンは予め本で確認していたが、カイルの口から聞いたアイグレッテは、どうしても納得できるような状況ではなかった。
次に、シンの報告だ。彼はハイデルベルグやノイシュタットの住人の無気力さ、フォルトゥナ神団の配下の者の素行の悪さ、無にされたイレーヌの思い。
それらを語った。信者殺しや商人殺し、そして自分の未来については伏せておいたが。
シンは言う。全てがフォルトゥナ神団のせいで起きたことではないだろう。だが、フォルトゥナ神団が掲げる「幸福」とやらのために、今まで幸せに生活してきた人間の希望を奪っている。
幸福の均等配分のつもりかも知れないが、わざわざそれなりに生活しているというのに、その幸せを壊すような真似は許せない、これでは「幸福」の押し付けだ、と。
「ひでえな、ハイデルベルグとノイシュタット……。イレーヌさんの思いを壊したあの商人は許せねえ。けど、その引き金引いたのはフォルトゥナの連中だな。」
「うん、俺も許せない。神様って何でもお見通しのはずなのに、子供を親から離して育てたり、ノイシュタットの人を苦しめたり。こんなことするなら、神なんていらないよ!」
普段ふざけているロニとカイルも、この世界の状況には納得がいかないらしい。だが、カイルの最後の言葉にショックを受けたのは、リアラだ。
「神が、いらない……?」
「うん、そんなことされるくらいなら、俺、ナナリーと一緒にホープタウンで生活する方がいいよ。」
シンも同意見だ。だが、それを口にはしなかった。リアラのことが気になったからだ。ここでそれを言えば、彼女が完全に孤立する。
先にフォルトゥナ神団の文句を言いはしたが、「神がいらない」という発言からは明らかに様子が違う。だから、彼は控えることにしたのだ。
しかし、仲間達はリアラの様子に気がつかないのか容赦なくフォルトゥナ批判をし続ける。
「効率で安全な生活……確かに理想的なもののように見える。だが、どこかに違和感があるのも確かだ。」
「自分で生きることを放棄した連中への違和感か……。」
「あたしだって、生きてる実感り湧かないあそこよりはって、ルーをここに連れてきたんだから。あたしも神はいらないと思うけどね。」
話をしているうちに太陽が傾いてきた。西向きの窓が多いこの長屋に、眩しく赤い光が差し込んでくる。
「それじゃ、あたしんちで晩飯にしようか。」
ナナリーの家は少々奥まったところにあり、半分地下にある家だった。暑さを凌ぐために、涼しい地面の下に居住スペースを確保したのだと彼女は言った。
手に入った野菜や肉をワイルドかつ繊細に捌いていく様子は、最早プロフェッショナルだ。
「ナナリー、お前凄かったんだな。」
「なんだよ、ロニ。邪魔するつもりなら向こうで待ってなよ。」
「いや、俺もそれなりに料理には自信があってな、手伝いに来た。」
「……変なものは作らないでおくれよ?」
「俺は一人暮らしの期間が長かったんだっ、飯には自信がある!」
「そりゃあんたはふられマンだしね、一人暮らしも無理ないか。」
「んだとぉ!?……ったく、とりあえずこっちのスープは俺がやるから。残りは任せる。」
「はいよ。」
口論しつつも、シンの目からすればロニとナナリーは仲がいい。ただ、生きていた時代が違うのだから、お互い元の立場に戻ったときはどうするのだろう、とは思う。
「へえ、ロニとナナリーって仲がいいんだね。黙ってればお似合いなのに。」
「喧嘩するほど仲がいい、って言うだろ?あの遣り取りもお互いを信頼してるからじゃないかな。」
リアラは終始俯いたままだ。やはり、何らかの痛手を受けたのだろう。その理由まではわからないが、彼女の表情が痛々しいことくらいはわかる。
夕食が出されてからもこの調子だ。十分においしいご飯だったが、リアラはあまり手をつけなかった。
夜が明けた。ナナリーの家で一行は体を休めた。昨日の夕食の場で、一行はカルビオラの神殿に向かうことになっている。
カルビオラはかつてカルバレイスの首都だったが、外殻の落下によって壊滅し、現在ではフォルトゥナ神団の聖地へと姿を変えている。
リアラが言うには、時間転移をしようとすると、自分一人だけならともかく、これだけの人数を一度に転移させるためには大量のレンズの力が必要らしい。
カルビオラに行けば、信者達が寄進したレンズが山ほどあるので、それを奪って現代に戻ろうというわけだ。窃盗というか何というか、犯罪もいいところだが戻るためだ。どうしようもない。
しかし、問題はそのカルビオラへ向かう手段だ。通常の参拝の道は信者以外は使えない。そこで、トラッシュマウンテンと呼ばれる古代のゴミ捨て場に向かうことになった。そこに抜け道があるらしい。
トラッシュマウンテンはホープタウンの東、山に接するように存在している。
「トラッシュマウンテン……まさにゴミの山だな。……これは飛行竜の残骸だ。それに、故障した機械……適当に修理したら再利用できそうなものが多いな。」
シンは足元に転がったものを拾い上げた。それは何かの製品らしいが、よくわからない。ただ、必要な部品と知識があればすぐに直せそうに見える。
「ここは天地戦争時代のゴミ捨て場さ。天上人たちが使えなくなった物をここに捨ててたんだよ。」
「天上軍、というより天上人たちがいかに豪勢な暮らしをしていたかがよくわかるな。使えなくなったら捨ててしまえばいい。そういう感覚だったんだろう。」
しかも、どうやらきちんとした処理をしていないらしい。あちこちで化学反応を起こし、低濃度の毒ガスが漂っている。すぐに死にはしないが濃いのを吸えば昏倒くらいはするだろう。
「こっちからは枯れ草っぽい臭いがするな。……ってこれはホスゲンか!なんて危ない物質が……。」
「ホスゲン?」
シンが放った言葉に対し、カイルが疑問を投げかける。
「ああ、窒息性の毒ガスさ。結構工業的に有効な物質なんだけど、吸ったりすると肺水腫を引き起こしたり、ひどいと死んでしまう。このくらいなら死にはしないけど。」
ホスゲンの工業的な利用法としては、ポリウレタンの高分子構造を作り上げるときに用いる、反応開始剤があげられる。反応性に富む物質だからこその利用法だ。
これが生体に作用すれば、毒になるのは当たり前だ。反応性が高いということは、同時に生体分子を破壊することを意味するのだから。
だから、ポリウレタンの製造工場では工場の中でホスゲンを作り、それを絶対に敷地から持ち出さず、漏れないように細心の注意を払って使用している。
そんな危険な物質がここの空気には存在しているというわけだ。
「濡れたハンカチで口と鼻を押さえたらいいよ。少しはマシになるはずだ。」
ホスゲンは加水分解によって塩酸が発生する。肺水腫になるのは、肺の中で塩酸が発生し、それが内部を刺激するからである。
そのため、濡れた布で呼吸器を守ろうというわけだ。こんなものでは完全に防げないが、気休めにはなるだろう。
「早いところ抜けるに限るな。」
シンは辺りを見回し、少々高いところにある山肌にあいた穴を見つけると、飛翔能力を使って全員を引っ張り上げた。
一行は穴を抜け、カルビオラに到着した。砂漠の真ん中に存在する割には、この建物には砂塵が積もっていない。それに、空気も妙に澄んでいる。
6人は毒ガスの影響で朦朧としていたが、ロニとリアラのヒールで解毒し、どうにか立ち直った。
この世界の回復晶術は、解毒や麻痺の解除などの効果がある。戦闘中に急いで使う場合も、意識して使えばコンディションの改善は行えるらしい。
「俺がプレイしてたゲームじゃ別々だったんだけどなあ。」
とはシンの言である。まあ、一応剣と魔法の世界ではあるが、ゲームではないのでこれが普通なのかもしれないが。
「それにしても、随分と現実感のない場所だな。」
「塵一つない。ここだけ外の世界と切り離されてるみてえだ。」
ジューダスとロニが口々に言った。確かに、この異様な感触は普通ではない。結界のようなものが存在するのだろうか、とシンは思った。
礼拝が終わり、神殿から出て行く聖職者達をやり過ごし、彼らは神殿の奥へと足を向けた。道中、誰にも見つかることはなかったので、あっという間にレンズ保管庫までたどり着けた。
そのレンズ保管庫に、「それ」は存在していた。
美しい、そして現実離れした顔立ち。背中から翼が生えた姿をした、それこそ人が神と評するような姿。フォルトゥナだった。
確証などなかったが、シンにはこの存在こそがフォルトゥナだろうと思った。
「よく来ましたね、我が聖女よ。そして、私が異世界より呼び出した者よ。」
シンの瞳が見開かれた。この10年後の世界に実在すると言われる神、フォルトゥナの手によってシンは呼び出されたのだ。
「な、なんだ、こいつ……。」
カイルがそう漏らすのも無理はない。本物の神を目にするのは彼も同じなのだから。その存在の不自然さ、そして放たれるプレッシャーを感じているのだろう。
「フォルトゥナ。この世界に存在する、本物の、神よ。」
リアラはそう言った。シンはやはり、と思う。
「リアラ、ここに来た理由はわかっています。私の力であなたの願いを叶えましょう。ですが、一つ聞いておかなければなりません。」
フォルトゥナはリアラを慈しむように言葉を投げかける。
「はい。」
「エルレインは既に己がすべき事を見定めています。そして、そのために動き、多くの人々の信頼を得ています。」
「それは、そうかも知れません。でも……。」
「わかっています、あなたがエルレインとは異なる道を歩いているということは。二人の聖女、二つの道。それはあなたとエルレインに私が与えた運命です。そして、シン・アスカ。あなたにも。」
急に自分の名前が出された。シンは驚き、フォルトゥナを問い質す。
「どういう意味だ?俺はただの異世界の住人のはずだぞ?」
「お前は忘れてしまっているだけです。私がお前を呼び出したのは、お前が元の世界で持った無念さを生かし、この世界を幸福へと導いてほしいからなのです。」
「なんだと!?」
「お前は多くの大切なものを戦場で失った。その度に力を求めた。だから、私はあなたをここに呼び出して力を与えたのです。」
フォルトゥナはそこまで言い、さらに衝撃的な言葉を続けた。
「半分の戦う者の思念ともう半分の幸福を望む者の思いを集め、作り上げたそのブレスレットとして。そして、戦う者としての観点から人々を幸せにしてほしいのです。」
「戦う者の観点からだと……!?」
彼は気づいた。あの狂気の正体だ。戦う者の思念といえば聞こえはいいが、その内の3分の2くらいは「殺人願望」「戦闘願望」、もっと端的に言えば「破壊願望」で占められている。
どうやら、それがブレスレットを通してシンに伝わっているらしい。ろくでもない力だが、死にたくない、そしてカイルたちを死なせたくないのだから、使うほかなさそうだ。
「そう。人々は戦う者を賞賛し、己の幸福として受け取ることもあります。その内の何が最も効果的な方法なのか。お前にはそれを探ってもらいたいのです。そして、必要になったら私があなたを手助けしましょう。」
シンは思う。このフォルトゥナはおそらく、人間の「幸せになりたい」という思いの集合体なのだろう、と。
神と言うものは、大抵は人間の想像力が作り上げるものである。それが集団単位になるとお互いのイメージが重なり合って、性質や容姿を作り上げていく。
何のことはない、合同で作り上げられた小説の登場人物のようなものなのだ。現実に現れる神もそれは変わるまい。期待やイメージ、思念が集まって構成されるという意味では。
ならば、と彼は問う。
「あんたは俺に力を与えたって言ったよな。それは俺が持ってる戦う力なのか?」
「その通りです。」
「何故、俺のかつての乗機をモデルにしているんだ?そんなことをする必要はなかったはずだ。この世界の形式に当てはめたってよかったはずだ。」
「シン・アスカ。お前がイメージしやすい力はお前のかつての乗機。イメージしやすければ扱いも容易い。実際、お前は何の戸惑いもなく使いこなせているでしょう?」
確かにその通りだ。最初にフォース形態をとったとき、自由自在に飛行できた。ブラスト形態のときなど、完全に自分の能力を把握できていた。
イメージが力になる。それがシンの持つ力らしい。
「……ならば聞く。俺がもし、あんたの目的を達成したとき、俺は元の世界に帰れるのか?」
「それはできません。」
「……なんでだ!?俺は元の世界に戻って、しなくてはならないことがあるんだ!世界を好き勝手に弄くる連中を排除しなきゃいけないんだ!」
「……いずれわかります。」
これ以上、何を言っても無駄らしい。シンはやむなく引き下がる。フォルトゥナはリアラに語りかける。
「リアラ、あなたとエルレインの道は違えど思いは同じのはず……。リアラ、私達の目的、ゆめゆめ忘れぬように。」
「はい……。」
「ま、待ってよリアラ!」
全く話についていけないカイルはリアラに問う。
「二人の聖女だの人々を導けだの……いったい、何のこと?」
「それは……。」
リアラは答えられない。フォルトゥナが代わりに答える。
「二人の聖女は私の代理者。人々を救いへと導く存在です。」
「神の……代理!?」
カイルの声からは信じられない、という思いが滲み出ている。
「人々の救いを求める思いが、私を、そして、二人の聖女を生み出したのです。一人はエルレイン、そしてもう一人はそこにいる、リアラ。二人は違う道を歩み、それぞれ人々の救いの姿を捜し求める旅に出たのです。」
「じゃ、じゃあよ、エルレインがやろうとしていることは、人々を救おうってことなのか!?」
納得できない。そう言いたげなロニの言葉が保管庫の中に響く。
「そんな、嘘だ!だってあいつは、ウッドロウさんをバルバトスに襲わせたり、レンズを奪ったりしてたじゃないか!」
「エルレインは、結果としてそれが人々の救いに繋がると思ったのでしょう。」
カイルは、狂っている、と思った。
「そんなの、間違ってる!現にウッドロウさんは傷ついてるじゃないか!」
「間違っている?何故、そう思うのですか?アイグレッテを見たのでしょう?人々は安全で快適な街の中で幸福に暮らしています。」
フォルトゥナは首を傾げたようだった。エルレインのしていることには不満がないのだ。
「確かに、なんにも知らなければあれでも幸福かもしれないね。けどさ、親から子を奪うのが幸福だってのかい!?生きてるって実感をなくしちまってるのに、本当に幸福なのかい!?」
ナナリーに同調し、カイルは再び声を張り上げた。
「そうだ、やっぱり間違ってる。エルレインも、フォルトゥナも、おかしいよ!」
「俺も同意見だね。俺に与えられた力が何のためかは別にして、エルレインのしてることは『大儀のために小さな犠牲は仕方ない』でしかない。そういうのは気に食わないな!」
シンの言葉に、カイルはさらに自信を持ったらしい。
「リアラも言ってやれよ、あんなのは全然幸せじゃないって!」
リアラは何も言えない。自分の力と使命、そして、カイルたちの言葉。それらに行き場を失い、悩んでいる。
「……私だって……。」
「えっ……?」
「私だってエルレインは間違っているって思うわ!みんなの話を聞いていればそう思うもの。でもエルレインには力がある!あの人のお陰で幸せだって感じてる人たちもいる!けど、私には何の力もない、英雄だっていない……。」
リアラの大きな瞳から涙が零れた。自分の無力さに嘆く心はシンにも伝わってくる。かつての自分がそうだったから。
「誰一人幸せにしていないしどうやれば幸せに出来るのかも……わからないもの。」
「そんな、そんなことない!だってリアラはすごい力を!」
「やめて!何もわからないくせに無責任な事言わないでよ!」
「わからないって……俺は!」
「あなたには何もわからないわ!使命を負うことの重さも、本当の力がどんなものかも!」
「そんなことない!」
「わからないわ!」
永遠に続くかと思われた言い合いは、次の彼女の言葉で断ち切られた。
「だってカイルは聖女でも……英雄でもないじゃない!」
英雄を目指すカイルにとって、これは一番大きく響く、そして一番衝撃を与える言葉だった。英雄ではない。全てを否定されるも同然の言葉だった。
「……!」
カイルが押し黙った。リアラは涙を振り払いながらフォルトゥナに言う。
「フォルトゥナ!私達を10年前の時代に送って。」
「いいでしょう、お行きなさい、私の聖女よ。あなたに幸運があらんことを。全てが終わった後、また会いましょう、リアラ。そして、シン・アスカ。」
フォルトゥナが周囲のレンズの力を解放し、光球を作り出す。その中に6人は飲み込まれ、この時代から姿を消した。
ここまでです。
トラッシュマウンテンの毒ガスがホスゲンというのは俺の想像です。
ロニの「ああ、いい匂いだなあ」の発言、意識が云々、工業用の冷却機器に使われていたフロンから発生しやすいこと、それに他の毒ガスと比較しての毒性などから勝手に決めました。
まあ、実際には違うかもしれませんが勘弁してください。
人の生活って面じゃエルレインは最大多数の最大幸福を実行しようとしてはいるんだけどな…
レンズってモノに頼ってしまうせいかどうしても格差の拡大を防ぐ事が出来ない上に恐ろしく統一化されているために「生かされている」って面が強く出すぎてる
まあ本人も悩んだ?(?は描写がないから…)結果永遠の夢で幸せにするっていう行動に出たんだよな…
フォルトナはフォルトナで願望の鏡である以上どうしても過激になってしまうんだよなぁ
シンが帰れない理由ってやっぱり凸に…
GJ
続きが気になってきた。次回もよろしく頼む。
誕生日おめでとう。
シンはやはり……力の源はやはりそうだったのか……と。
まあ毒は何か明言されてなかったけど、説得力はあるので問題ないかと(科学の世界からの住人から見た視点っていうのも新鮮だし)
シンはどのような答えを出し、自分の運命を変えていくか楽しみです。
どもー。
まずはありがとうございます。(読んでくれたこと、誕生日を祝ってくれたこと総合して)
フォルトゥナとエルレインについてですが、彼女たちは「楽して幸せになりたい」という思いから生まれていますから、苦痛さえなければなんでもいいわけです。
エルレインはフォルトゥナのそんな行動原理をベースに動いていますからね。ああなるわけです。
また、シンの持つ力についてですが、正体は明らかにしました。ですが、これが全てではありません。また、戻れない理由も今後説明します。
彼の力はリアラ、エルレインのペンダントに似たデザイン、願望を叶える力など、各所にヒントを配置していましたから、すぐにわかったかと思います。
ホスゲンはですね、コテトリスレを見ていただければわかりますが、俺、化学の勉強してるんですよ。ですから、自分の勉強した内容を生かしたい、という願望が出てしまいまして。
しかも、柳田理科雄氏の本の影響まで受けたらしく、つい書いてしまいました。後悔は……少ししてます。でも反省はしませんw
さて、少々時間がかかりましたが書きあがりました。
投下いたします。
17 イクシフォスラー
シンたちは10年前のハイデルベルグにもどってきた。城を見ると飛行竜はいなくなっていたが、別に修復された後はなく、崩れたままだ。
彼は元の時代に戻ってきた、という実感を持つことが出来て、何だか嬉しかった。
シンはここで気づいた。ナナリーも一緒に来てしまっているのだ。
「ナナリー、何でここにいるんだ!?」
「あたしも時間転移に巻き込まれちまったんだよ。」
リアラは慌ててペンダントの力を解放しようとする。一人だけならレンズなしでも何とかなる。
「ごめん、今からあなただけ元の時代に……。」
「ストップ。あたしもついてくよ。あんなこと聞かされてそのまま戻れやしないよ。あたしも手伝う。いいだろ?」
というわけで、ナナリーも仲間に加わり、一緒にハイデルベルグ城へと入っていった。
どうやら戻ってきた時間軸は、自分たちがエルレインによって飛ばされてから1時間も経っていないのではないかと思われた。あちこちに負傷した兵士が治療を受けているからだ。
「とりあえず、ウッドロウさんのところに行こう。」
カイルはそう言い、6人は連れ立って玉座の間へと足を踏み入れた。
「ウッドロウさん、大丈夫ですか?」
ウッドロウは医師の手当てを受け、どうにか玉座に座ることだけはできたらしい。ただ、傷が痛むのか顔を顰めている。
「カイルさん、それにみなさん、ご無事でしたか。」
兵士の一人がカイルに話しかけてくる。やはりエルレインに転移させられたのを見たのだろう。そして、きっと心配していたのだ。
「何とか。それで、ウッドロウさんは!?」
「見ての通りです。ですが、やつらは陛下の命も奪わず、何もせずに帰っていきました。」
「何もせずに……?ウッドロウ陛下、レンズ保管庫がこの城にあるのでしたね?そこの確認はなさいましたか?」
シンは何か引っかかっていた。何もせずにというわけがない。それに、エルレインの力や未来の歴史書を見る限りは、レンズは持ち去られている可能性が高いのだ。
「いや……だが、確認してもらえないだろうか。あれを奪われることだけは……!」
6人は玉座の後ろにある隠し通路を通り、保管庫へと足を向けた。
この保管庫はファンダリア中から集められたレンズが保管されている。18年前の騒乱以降、レンズの使用を控える機運が高まったため、レンズの処理に困った人々がウッドロウ王に預けていたのだ。
だが、彼もそのレンズを廃棄することも使用することも、ましてや破壊することもできないため───大量のエネルギーが放たれるためだ───仕方なく保管庫に保存しておいた。
レンズというものは恐ろしくエネルギー密度の高い物質だ。そして、ファンダリア中から集められたとなれば相当な数になるはずである。それを奪われたとすれば一大事だ。
そして、シンの予感は的中してしまった。カイルたちが謁見したときに見せてもらったときには大量に存在したレンズが、跡形もなく、それこそ一つ残らず持ち去られていたのだ。
「やはり……エルレインはレンズを集めている。自分の力と……そしてフォルトゥナに与えるエネルギーとして……。」
「大変だ!早くウッドロウさんに知らせないと!」
カイルは急いで玉座の間へと戻った。そして、レンズがなくなっていることをウッドロウに告げる。
「やはり……すまん、カイル君。一日だけ考えさせてくれ。明日の朝にまた話したい……。」
彼は王としての苦境に立たされている。最悪の場合、アタモニ神団を相手取って戦争になるかも知れないのだ。
だが、平和を好む、かつての騒乱で平和を望んだ自分を知るウッドロウにはそこまでしようという気にはならなかった。
とはいえ、非は向こうにある。飛行竜で乗り付けて、レンズを強奪したのだから。採るべき道を考えねばならない。それも、できるだけ平和的に、早急にだ。
「カイル君たちはこの城に泊まっていってほしい。必ず明日には答えを出す。」
ウッドロウはそう言った。こちらのハイデルベルグではまだ13時を過ぎたくらいだが、6人はホープタウンを朝に出発してカルビオラに到着したのは夕方という、こちらとは違う時間帯で行動している。
時差ボケを直すという意味でも、今から寝た方がよさそうだ。
ロニは少々疲れた様子で自分の肩を揉み、伸びをしながら言った。
「さてと、寝るか……。リアラとナナリーは一緒にあっちな。」
「……夜這いかけたら関節外すからね。」
ナナリーは指をぽきりと鳴らした、彼女は対ロニ用の技として関節技を備えている。モンスターや敵対人物には使わない。あくまでも対象はロニのみだ。
大抵はロニの女癖の悪さに対するお仕置きに使われる。そうでない場合はロニへの八つ当たりや、恥ずかしさを紛らわすというのが主なパターンだ。
「だーれがお前みたいな凶暴女に夜這いなんかかけるか。相手くらい選ぶって……あぎゃああああああああああああああ!」
ロニが最後まで言わないうちに、ナナリーのコブラツイストがロニに炸裂した。あれで結構仲がいい、と思うのだが。
この態度では夜這いをかけてほしいと言っているようなものだ。
「いやああああああああああ、俺の関節はそっちには曲がりません、やめてくださいナナリーさん!」
カイルは眠そうにロニを見遣り、ベッドに寝転がった。
「ロニ、うるさいよ……ふあーあ、俺もうくたくた……おやすみ……。」
ジューダスも騒音などまるで聞こえないように、ベッドに横たわった。
「僕も休ませてもらおうか。明日からはまた忙しい。」
シンはシンで慢性的に精神疲労がかさんでいる。周囲の音など全く聞こえていなかった。
「やっと安心して寝られる……疲れた……。」
3人の男たちはロニそっちのけで、口々に言いながら眠りに就いた。
「あ、この薄情者!お前ら人間の情ってもんが……あああああああ!夜這いもしてないのに関節を外そうとするな、このオトコオンナ!」
「誰がオトコオンナだ、このドスケベがああっ!」
さらに力をこめる。関節こそ外れなかったが、激痛が彼を襲う。
「あっ、あっ、あああああああっ…………!」
この後、ロニは結局ナナリーの関節技のために気絶し、白目を剥いて男たちに宛がわれた部屋のソファに沈んだものだ。
その様子を確認したナナリーもリアラを連れて女部屋へ引き上げ、疲れと時間合わせのために眠りに就いた。
15時。リアラはハイデルベルグ記念公園にいた。カイルのこと、そしてエルレインのことが頭の中を駆け巡り、考えが全くまとまらない。
彼女はカイルをひどく傷つけたと思っている。いくら使命と仲間の意志との板ばさみに耐えかねたとはいえ、特別な感情を持っている相手を傷つけたことは後悔している。
カイルに顔を合わせるのさえ辛かった。もう、これでカイルとの関係も終わってしまったのだろう。そう思うと寂しかった。
「こんなとこにいたんだ、ちょっと起きたらいなくなってたからびっくりしちまったよ。」
ナナリーだった。いなくなったリアラが心配で探しに来たのだった。
「ナナリー。」
「今何考えてるか当ててあげよっか?カイルのこととエルレインのこと、同時に考えてるからどっちも整頓が着かないんだろ。」
「……うん。」
「まあ、エルレインの方は止めなきゃいけないのはわかりきってるわけだからおいといて、問題はカイルの方だね。どう?後悔してる?」
「後悔してる……と思う。これで終わりだって思ったら……。」
「どうして終わりなんだい?あのさ、あんたたち、結構仲良さそうだったし。後悔しない方がおかしいよ。あたしだってルーと喧嘩してたしね。」
「……仲良かったのに?」
「仲がいいからだよ。喧嘩するときは大抵自分のことをわかってほしいってときなんだよ。そして、向こうもこっちも本気だし。そうしたら喧嘩になるってわけ。」
リアラは考える。確かに、あの時は自分のことをわかってほしかった。けれど、と思うが、ナナリーは続けた。
「喧嘩になったら怒鳴りあって、時には手だって出て、それから傷ついて。でも、そうやってはじめてお互い分かり合えるんだ。どうでもいいやつと喧嘩しないだろ?だから、終わりじゃない。今あんたたちは始まったんだ。これからなんだよ。」
理解し合いたいときに意見が食い違うことも、勿論存在する。全く同じ考えを持つ人間など存在しない。ぶつかり合いこそが相互理解に繋がるというものだ。
リアラはどこか寂しそうに漏らした。
「これからなんて、あるのかな……?」
「当たり前じゃないか。さあ、また寝よう。明日からはまたしっかり動くんだから。」
ナナリーは欠伸混じりにそう言うとハイデルベルグ城へと戻っていった。だが、リアラはまた寂しく呟く。
「これからなんて、あるわけ、ない……。」
彼女は、もうカイルたちに迷惑はかけられない、自分一人で何とかする。そう決意していた。
朝になった。シンはジューダスに頼み込んで剣の訓練をつけてもらった。かなり上達したが、まだまだ甘いとジューダスに言われた。
上達したと言われるだけマシだ、とシンは思う。前進しないわけにはいかないのだ。
まだカイルは寝ている。女部屋の方でもそろそろリアラとナナリーが起きるだろう。シンはそう思い、リアラたちが寝ているはずの部屋の扉をノックした。
「おーい、起きてるー?」
すぐに扉は開いた。ナナリーがあわてた様子で顔を出した。
「シン、リアラ知らない?」
「いや、俺は知らないけど。何かあった?」
「いなくなっちまったんだ。さっき起きたらいなくて……謁見の間に先回りしているとは思えないし……。」
「わかった、俺が探してみる。城の人にも聞き込みしてくるから。とりあえずカイルたちと合流して、俺が探しに行ったことを伝えておいてほしい。」
「ん、そうする。ありがと、シン。」
リアラがいない。いやな予感がする。カイルとの遣り取りやこちらの時代に戻ってきた後のリアラの様子を考えると、かなり思いつめているようだった。
「リアラ……どこに行ったんだ!?」
城の人間に聞き込みをしているうちに、有力な証言が手に入った。
「リアラらしき少女が『いかなきゃ』と呟きながら光に包まれて姿を消した。」
つまり、単身エルレインを止めに行ったということだろう。自らの転移能力を使って。
「なんという無茶なことを。とにかく、カイルたちのところに行こう。」
シンは急いでカイルたちのいる寝室へと向かった。全員が起きていた。どうやら寝ぼすけのカイルもリアラが姿を消したことに驚いているらしい。
「兵士の証言があった。彼女は光に包まれてどこかへ転移したらしい。時間移動する必要はないわけだから、おそらく、ストレイライズ大神殿にいるエルレインのところに向かったんだろう。」
「そして、単身でエルレインを止めるつもり、というわけか。」
ジューダスはあくまでも冷静だが、新たに発生した問題を深刻に受け止めている。全員が押し黙ったが、あえてロニが口を開く。
「リアラのことは心配だが、どっちにしろストレイライズ大神殿に殴りこむんだ。まずはウッドロウさんのところへ行こうぜ。」
レンズを強奪された以上、取り返さなくてはならない。そして、リアラも。そのためにはウッドロウの力を借りる必要もある。一同は謁見の間へと足を向けた。
ウッドロウはやつれてはいたが、眼光は王らしさを取り戻していた。さすがにファンダリアの国王だけのことはある。
「……ふむ、リアラ君が。それは困ったことになったな。」
「俺たち、助けに行きます。大切な仲間なんです。」
カイルは決然と言う。ウッドロウのところに向かう前は悩んでいた。また会うことがあったとして、リアラに傷つけられるのではないか、そしてリアラを傷つけることになるのではないかと。
だが、カイルは決めたのだ。何があっても、どんな障害があってもリアラを助ける。それが彼の結論だった。
「ここで君たちが行動を起こせば、間違いなく我が国とアタモニ神団間で戦争になる。戦乱を引き起こすこと、それは英雄スタンの望むことなのだろうか?」
「ウッドロウさん、俺、それは違うと思います。仲間一人も助けられなくて、英雄になんてなれやしないです。俺は、行きます。」
ウッドロウは微かに笑みを浮かべたようだ。彼は懐から書状を取り出した。
「試すような真似をしてすまなかった。今の君にならこれを渡せる。勅命状だ。」
カイルがそれを受け取り、シンはそれの内容を目で追った。
内容はこうだ。
この書状を持つ者はレンズ奪回の任務に当たるものである。ファンダリア国王ウッドロウ・ケルヴィンの名において、この任務の障害となるものを排除する権利を与える。
どうやら、ウッドロウも本気らしい。レンズの集中は混沌を招く。アタモニ神団とエルレインの暴走を止めねばならない。彼なりの決意だった。
「行き給え、カイル君。ほかの誰でもない、リアラ君の英雄となるために。」
「ありがとうございます、ウッドロウさん。俺、行ってきます!」
5人はウッドロウの前から退出し、方策を考える。まず、ジューダスが状況確認をする。
「リアラを救出するためには迅速にストレイライズ大神殿に向かわなくてはならない。だが、船では数日かかる。その間にエルレインはレンズをすべて使い、力を得てしまうだろう。そうなったらどうすることもできない。」
「だとしたら、どうする?」
「シンはレンズに関する書物は読んだな?この近くの地上軍拠点跡地に飛行艇がある。それを使うぞ。」
シンは記憶をたどり、読んだ内容を思い返してみる。
「ああ、あったあった。イクシフォスラーだったな。最高速度は第一宇宙速度を誇る超高速航空機だ。開発者はハロルド・ベルセリオス……ソーディアンの開発者だ。それがこの近くにあるのか。」
この時代から1000年前、この世界は天上と地上にわかれて戦争を行った。その時に開発されたのがソーディアンと呼ばれるレンズ技術を結集して作り上げられた、6つの剣である。
人格投影されたそれは、使い手と同じ人格を剣に持つことで自分の「分身」を手にできた。故に、強大な戦闘能力、そして今の時代よりもはるかに強力な晶術を使えた。
イクシフォスラーはそれを開発した人物が、天地戦争終結後に完成させた航空機だ。超高性能を備えていて当然なのかもしれない。しかし、このスピードは明らかにオーバースペックだ。
第一宇宙速度とは音速に直すとマッハ23.2で、地球の丸みに沿って飛ぶだけで遠心力で浮いていられる速度である。宇宙空間にある静止衛星はこのスピードで飛んでいる。
この世界の技術レベルから考えても、常識的に考えてそんなことができるとは思えないのが当たり前だ。天才たるハロルドが作ったからこそ納得できるというものだ。
「そうだ。ここから南東に進めば見えてくるはずだ。」
彼らは自然に駆け足になっていた。なんとしても助けなくてはならないのだ。雪も降っていなかった。天候は味方してくれたらしい。
ハイデルベルグを出てから1時間30分後、崖の下にそれらしきものが見えた。だが、ここから直接行ける道はなく、回り道のようだ。時間をかけていられない。
「面倒だ。俺が一人ずつ崖の下に降ろすよ。」
こういうとき、シンの持つ飛翔能力は便利だ。あっという間にショートカットできた。
「お前がいてくれて面倒が省けた。」
「どうも。さあ、行こうか。」
シンにとっては、リアラのことも心配だが、それ以上に気がかりなのは自分に運命付けられた未来だ。
おそらく、このまま向かえばエルレインと戦うことになる。そして、エルレインと戦って負ければ、待っているのは10年後の自分から告げられた結末だ。
変えなければいけない。だが、準備する期間はまったくなかった。もう、その場で対応するしかないのだ。
泣き言は言っていられない。カイルたちを死なせたくないならやるしかない。そして、リアラも助け出さねばならない。
シンに背負わされたものはあまりにも重かった。しかも、誰かに変わってもらえはしない。
「やるしか、ない……!」
彼は地上軍拠点跡地を管理する兵士に勅命状を見せ、イクシフォスラーの格納庫へと向かった。
「これがイクシフォスラーか……。」
赤い扁平な凧型のボディ、そして滑らかな表面。後部にはレンズのエネルギーを用いた推進システムが搭載されている。
見たところ音速を超えたときに発生する衝撃波を無力化する方策は採られているように見えないが、何らかのシステムで障壁を作っているとも考えられる。
「誰が操縦するんだ?」
ロニの問いは尤もなものだ。機械をまともに扱える人間はそういない。
「僕はこの手のマシンには経験がある。」
だが、ジューダスをさえぎったのはシンだった。
「俺はこの手の機械で戦争やってたし、一応エースパイロットだった。俺が操縦しよう。」
「わかった、頼む。」
5人はイクシフォスラーに乗り込み、シンを除いて乗員席に座った。シンだけは操縦席に座り、シートベルトを締め、コックピット周辺の機械を操作する。
「……これはこのシステムで……それから……元の世界の機械と操縦方法はそんなに変わらないな。よし!」
イクシフォスラーは高速機動を志して設計されている。武装らしいものは存在しないが、強襲上陸攻撃用のアンカーが備えられている。これを打突武器として使用することくらいはできそうだ。
彼はコンピュータを操作し、必要な情報をコンソールを叩いてモニターに映し出す。そして、しっかりと操縦桿を握り締めた。
シンは決意を固めた。そして、それを自らに知らしめるように、かつてモビルスーツで出撃するときにそうしたように叫ぶ。
「シン・アスカ、イクシフォスラー、行きます!」
VTOL機能を起動し、イクシフォスラーを垂直に離陸させた。そして、必要な高度まで上昇させると一気にエンジンを最大加速にし、北東方向に進路をとった。
「ストレイライズ大神殿まではすぐだ!準備はしておいてくれ!」
リアラはかつてカイルたちがバルバトスと戦った、ストレイライズ大神殿の礼拝堂に閉じ込められていた。正確には、その中にあるエルレインが作り出した結界の中にだ。
「……。」
彼女は単身エルレインに挑んだ。背後から攻撃したのだから間違いなく奇襲だったのだが、エルレインはそれを予測していたらしい。そして、圧倒的な力を差を見せ付けられ、こうして幽閉されてしまった。
リアラはカイルに縋りたかった。だが、自分はカイルを傷つけた。
彼女のカイルへの思いは、沈みかけたアルジャーノン号を浮かせたあたりから募り始めていたが、決定的だったのはハイデルベルグでのことだ。
ハイデルベルグ記念公園から、カイルとともにどこまでも広がる雪原を見たとき、彼女は途方もない、そして漠然とした不安を抱いた。先が見えない、どこに行けばいいのかわからないから不安だと。
だが、カイルは違った。どこまでも広がる雪原のその先に何があるかわからない。わからないからこそ、その先に行ってみたい。彼はそう言った。
どこまでも前向きになれるカイルがうらやましく、そして眩しかった。
カイルは「まあ、俺は馬鹿だからそうなっちゃうし、リアラは繊細だから。」と言った。だが、リアラはカイルはそこまで愚かではないと思っている。
どこまでも自分と仲間を信じて突き進める。そんな彼に助けてもらえたらどんなに嬉しいか。
心のどこかで諦めつつも、彼女はカイルのことを想い続けていた。
シンの操縦するイクシフォスラーはストレイライズ大神殿の屋上に着陸した。
「総員、陸戦準備!敵兵が来るぞ!ハッチの開放とともに強襲を開始する!」
5人はばらばらとイクシフォスラーから降り立ち、一番警護が固そうな場所を探した。シンはすぐにフォース形態をとり、一緒になって探す。
「おい、あそこを見ろ!礼拝堂だけやたら兵士がいるぞ!」
ロニの言葉は正しい。おそらくはそこにリアラとエルレインがいるはずだ。そこに護衛兵が駆けつける。
「侵入者め!ここから生きて帰れると……!」
最後まで言えなかった。鋭く輝くサーベルで首筋を掻き切られたのだ。
「だったら、お前から死ね!」
シンだった。既に狂気に取り憑かれていた。血飛沫を浴びたその表情は鬼気迫るものがある。目がつりあがり、赤い瞳は殺意に染まり、口元から憎悪そのものが漏れ出している。
4人の仲間が表情を引きつらせたのにも気づいていない。さらに迎撃にきた兵士たちに向かって突撃していく。
リアラとレンズを巡るストレイライズ大神殿の戦いは、まだ幕を開けたばかりだった。
そしてこの日、歴史は姿を変える。他ならぬシンと、そしてエルレインの手によって。
TIPS
称号
エースパイロット
かつて戦場で幾多の敵機を撃ち落した。
今も戦場に身を置く彼は、呪われているのか。
命中+1.5 SP回復+0.5
ここまでです。
この話を書くに当たり、一番書きたかったシーンがありまして。それがイクシフォスラーの発進シーンです。このシーン書けて俺は満足です……。
イクシフォスラーの速度はやりすぎた気もしますが、このイクシフォスラー、ありえないスピードで世界を一周できますからね。
この速度でも、本物の地球なら一周するのに1時間20分くらいはかかる速度ですけどね。
次はついにシンの命運をかけた一戦。手は抜けません。頑張ります。
GJ
次回も期待している。
505 :
通常の名無しさんの3倍:2007/09/27(木) 14:46:11 ID:SMvu+TUy
おお!シンがイクシフォスラーを!!
ジューダスの称号がシンに持っていかれましたな!
これからも頑張れ!
どもー。
シンはモビルスーツパイロットですし、コアスプレンダーも操縦していましたから、このシーンは最初にイメージできたんです。
ジューダスは……シンが疲労していたりして操縦できないときのコ・パイロットになりそうですね。
もしくは管制やレーダーの操作に回るかもしれません。
ところで容量がもう470KBになっていますが、大丈夫でしょうか?
申し訳ない、次スレ立てようとしたんですが、ホスト規制に引っかかってしまいました。
今回書いた分はちょっと量が多いので次のスレに投下しようと思ったんですが。
俺以外の人が書いた分も保管庫に持って行ってもらわないといけませんし、とりあえずどなたか立ててもらえないでしょうか。
本当に申し訳ないです。
俺も立てられんかった。誰か頼む
510 :
509:2007/09/28(金) 22:39:03 ID:???
とりあえずテンプレとかなかったんで適当に作ったんだけど、
あれでよかったんかな?
乙
ダブったほうは気にしないで
確認してから立てればよかったorz
>>509 ありがとうございます。
このスレはどうしましょうか。埋めてしまうと保管庫に持っていけなくなってしまいますし。
一応猶予時間はありますが。
とりあえず、次のスレに投下しますね。
性能
Fortune × Destinyにおけるシンの能力は自体は、総じて高めに設定されている。
特に、SP回復、SP軽減、命中は他の前衛3人よりも高い。命中はかなり優遇されており、多少低下する称号をつけたままでも、レベル100前後には限界値である300に到達する。
攻撃力はカイルとジューダスの中間程度、防御も同程度である。TP回復とTP軽減は多少低めに設定されており、技の乱用は禁物。また、回避はカイルと同程度となる。HPもカイルと同じくらいである。
知性はジューダスと同格くらい。詠唱速度に関してはカイルとジューダスの中間くらいに設定されている。遅くもなければ速くもない。
しかし、これは基本性能である。戦闘時はSPを消費して(約50前後)形態変化をしながら戦うことになるため、その度にステータスは変化する。
また、例外はあるが秘奥義(具現結晶)は一形態に1つのみ。それに連係する奥義や上級晶術も1つしか覚えられない。
そのため、シンは全体で見れば大量の技を使えるが、形態一つ一つだけで見ると、かなり技(特に奥義)のバリエーションが少なくなる。
また、戦闘性能を左右する武器を一切装備できない(ただし、物語の後半になると例外が存在する)ため、フォース形態では「サーベル」、ソード形態では「クレイモア」、ブラスト形態では「トライデント」をそれぞれ装備した状態で扱う。
武器自体はそれぞれの形態を使える段階を考えるとかなり優遇されているように見えるが、実際は物語が進むにつれて攻撃力が伸び悩む。
その上、リファインなどによってスロットをつけることもできないため(カレージャス系スロットがつけられており、レベルに応じてパラメータは向上するが)、装備面ではかなり苦戦することになる。
一応防具は兜、鎧、篭手と一通り装備できる。しかし、物語後半ではストーリーの進行上、篭手の装備ができなくなる。(固定装備がセットされるため)
それをカバーする意味でもパラメータ自体は高いが、デスティニー形態を使えるようになるまでは、並みのプレーヤーが手を出せるような領域ではないということも付け加えておく。
属性攻撃に対する耐性は非常に偏りが大きい。特に水と光に対しては極端に弱くなっており、防具のスロットやマントは率先して耐性を強化するものを用意したい。
<属性耐性>
闇:35%
火:25%
地:10%
風:5%
水:−10%
光:−25%
形態別のパラメータ設定は以下の通りである。
フォース形態の場合、回避と命中、TP回復が向上する。ただし、防御が低下し、SP回復、SP軽減も実数値の半分程度の値になる。さらに、飛行時は移動速度はかなり向上するが、反面SP回復、SP軽減の値がさらに低下する。
飛行時は与えられるダメージも4分の3に低下してしまう。この飛行判定のため、秘奥義の剣時雨風葬の攻撃値が低下し、秘奥義のランキングで見れば全キャラクター中最低威力となってしまう。
しかし、着地してじっとしていればSPは回復しやすくなる。また、フォース形態には対空技がない。これは飛行能力が備わっているため。飛んだ状態で技を繰り出せば対空技を必要としないからである。
ちなみに飛行状態にするためには□+↑の入力が必要。晶術に関しては下級晶術しか使えないので破壊力はあまり頼れない。また、SP関連の値が低下しているため、詠唱キャンセルはそれほど使えないだろう。
<技>
鏡影剣:キョウエイケン 闇
火炎斬:カエンザン 火
地竜閃:チリュウセン 地
穿風牙:センプウガ 風
六連衝:リクレンショウ 武器依存
<追加特技>
鏡影閃翔:キョウエイセンショウ 闇
炎衝対閃:エンショウツイセン 火
地竜乱斬:チリュウランザン 地
終局穿風:シュウキョクセンプウ 風
三連追衝:サンレンツイショウ 武器依存
<奥義>
飛天千裂破:ヒテンセンレツハ 武器依存
<秘奥義>
剣時雨風葬:ツルギシグレカザホムリ 風
<下級晶術>
シャドウエッジ
フレイムドライブ
ストーンザッパー
ウィンドスラッシュ
ソード形態の場合は、攻撃、防御が極端に向上する代わり、命中と回避、移動速度が激減する。ロニに近い性能を持つようになるが、ロニほど癖のある技はない。
さらに、ロニは長柄武器のため命中判定が厳しいが、シンの場合は大剣のため、命中判定はかなり甘め。ただし、技の出が遅いものもあるため、過信できない。
また、この形態では晶術は一切使えないので、詠唱キャンセルはまず使えない。形態変更を使えばできなくもないが、その度にSPを大量に消費するため、あまり実用的なコンボにはならない。
<技>
影殺撃:エイサツゲキ 闇
双炎輪:ソウエンリン 火
地裂斬:チレツザン 地
穿風牙:センプウガ 風
斬衝刃:ザンショウジン 武器依存
<追加特技>
影殺狂鎗:エイサツキョウソウ 闇
双輪還元:ソウリンカンゲン 火
地裂鉄槌:チレツテッツイ 地
終局穿風:シュウキョクセンプウ 風
追衝双斬:ツイショウソウザン 武器依存
<奥義>
飛礫戈矛撃:ヒレキカボウゲキ 地
<秘奥義>
鋼断劈地撃:コウダンヘキチゲキ 地
ブラスト形態は基本的に晶術がダメージ源となる形態である。そのため、技が存在せず、攻撃手段は通常攻撃か晶術に限られる。
攻撃、防御、命中、回避が低下するため、前衛で戦うのはほぼ不可能。ただし、TP回復、TP軽減、知性、詠唱速度が向上する。
特に詠唱速度はかなり高めになるため、コマンド入力を焦らずに押していけばかなり早く詠唱は終わる。
とはいえ、油断は禁物。防御力の低さはジューダスよりも下回るものとなるため、場合によっては一撃で撃破されることもありうる。
また、□+↑を入力するとホバー状態にすることができる。この状態では移動速度が向上する。ただし、この状態で攻撃を受けると仰け反り時間が増え、ダウン耐性が低下する。
<下級晶術→下級昇華晶術>
シャドウエッジ →ブラッディクロス 闇
フレイムドライブ →フォトンブレイズ 火
ストーンザッパー →スティングレイブ 地
ウィンドスラッシュ →クロスブレイド 風
<中級晶術→中級昇華晶術>
ネガティブゲイト →ケルベロス 闇
バーンストライク →ファイヤーフライ 火
エアプレッシャー →デリュージー 地
スラストファング →エアランサー 風
<上級晶術>
エンシェントノヴァ 火
<具現結晶>
ブラストインパルス 風→火→地→闇
デスティニー形態に関するデータは現在存在しないので、今回は書くことはできない。
設定地獄を押し込んでも全然埋まりませんね。
結構書いたと思うんですが。計算が全然合わないのは何故だろう……。