【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】

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1通常の名無しさんの3倍
好きな内容でネタ・SSを書いて下さいよ。
投下された物につまらんとか言うな!アドバイスしてやれ!
2通常の名無しさんの3倍:2006/12/20(水) 03:58:52 ID:???
^^
3通常の名無しさんの3倍:2006/12/20(水) 04:13:04 ID:???
よくわからんが
習作SSを添削してもらうスレってことか?
4通常の名無しさんの3倍:2006/12/20(水) 04:26:36 ID:???
職人デビュースレ?
5通常の名無しさんの3倍:2006/12/20(水) 04:45:05 ID:4SsgUvJz
>>3-4
うん。
面白ければ連載可。
6通常の名無しさんの3倍:2006/12/20(水) 04:47:11 ID:???
^^
7通常の名無しさんの3倍:2006/12/20(水) 05:29:50 ID:???
とりあえずsageも知らん時点で1は氏ね
8通常の名無しさんの3倍:2006/12/20(水) 05:31:33 ID:???
sage進行でGO!
9通常の名無しさんの3倍:2006/12/20(水) 06:18:26 ID:???
まあ頑張れよ。
まずは>>1が何か投下してみてくれ。
10通常の名無しさんの3倍:2006/12/20(水) 13:14:25 ID:???
こんなスレに書きたがる新人職人なんていないだろ…
糞スレだとかそういうの抜きにして
11通常の名無しさんの3倍:2006/12/20(水) 13:24:01 ID:???
新人職人だけじゃなく「SS書きたいけど投下できるスレがない」人もおkにすれば?
12通常の名無しさんの3倍:2006/12/20(水) 13:26:08 ID:???
過疎スレに投下してなんの反応もないよりは、批判される方が幾分かマシってところか
つまんないとか好き嫌いなどの主観を排して的確なアドバイスを心掛ければ良スレに化けるかも
13通常の名無しさんの3倍:2006/12/20(水) 14:06:22 ID:???
四コマがいい
14通常の名無しさんの3倍:2006/12/20(水) 14:33:50 ID:???
書きたい人が好きな内容で短編・長編問わず書けば良いと思う。
人気が出れば新スレで継続。
15通常の名無しさんの3倍:2006/12/20(水) 15:42:39 ID:???
では、中々適当なスレが無いので落とさせていただきます。
プロローグだけでも。

==================================
destinyから10年後の世界。

10年前に勃発したプラント(デュランダル)対オーブ連合首長国との戦争は熾烈を極めたが、
それが収拾した後は、とりあえず平和な時代が続いていた。

しかし、プラント(ラクス)が地球侵攻作戦を開始したことによって、
地球圏は再び動乱の時代を迎えようとしていた。

強大な直衛軍を率い、オーブに来寇するラクシズ軍総司令官キラ・ヤマト。

それに立ち向かうは、オーブ軍司令サイ・アーガイル。
豊饒なる才能は、ラクシズの野望を撃ち砕けるのか……?

==================================
主な登場人物

サイ・アーガイ(ナチュラル)
短期間だが、元オーブ連合首長国・代表府首席補佐官 兼 軍総司令をも兼任した異端の人。
ある事件で失脚し、政界を引退して民間事業に着手していたが、再び訪れた動乱の時代に否応なく表舞台に戻される。

カガリ・ユラ・アスハ(ナチュラル)
現オーブ連合首長国・代表首長を務める才媛。
昔と違い、多くのスタッフから多様な意見を出させ、その中から最も良い意見を取捨選択できる柔軟な思考を持つに至る。
再び訪れた動乱の時代に対してサイを呼び戻す。

ロンド・ミナ・サハク(コーディネイタ―)
現オーブ連合首長国・代表府首席補佐官 兼 総合作戦本部長。
アスハ代表の補佐をしている。オーブの実質の要。『鋼のミナ様』とも呼ばれてる。

ラクス・クライン(コーディネイタ―???)
女帝。ラクシズ総帥。天空の覇者。圧倒的で不可思議なカリスマを誇る。

キラ・ヤマト(スーパーコーディネイタ―?)
白服。ラクシズの攻撃軍総司令官。アスハ代表の実弟であり、ラクスの愛人でもある。
16通常の名無しさんの3倍:2006/12/20(水) 16:10:28 ID:???
>>15
これだけではなんとも言えないが
とりあえず「ラクシズ」って単語は使わない方がいいかも…造語だし
17通常の名無しさんの3倍:2006/12/20(水) 21:28:50 ID:???
プロローグだけ?
18通常の名無しさんの3倍:2006/12/20(水) 21:30:31 ID:???
プロローグだけ?
19通常の名無しさんの3倍:2006/12/20(水) 21:46:30 ID:???
>>17-18
ばか?
20通常の名無しさんの3倍:2006/12/20(水) 23:08:01 ID:???
んー。 元…っていいたくないけど(汗)、元職人から言わせてもらえば。

プロローグでなくて。ほとんどプロットだよね、これ。

背景等の説明を省く手法としては有りとは思うけど、この時点の情報だけで話の好き嫌いがはっきりしやすくなるので、読み手を引き込む語り口に工夫がいるかなぁ。
と、自分が書くならどうするかと思いました。
21通常の名無しさんの3倍:2006/12/21(木) 03:02:48 ID:???
>>15
お前さん、ヘイトスレに来ただろう
22通常の名無しさんの3倍:2006/12/21(木) 03:16:18 ID:???
あ、あれか。
23通常の名無しさんの3倍:2006/12/21(木) 03:45:40 ID:???
>>15
ある程度書いてるのなら読んでみたい
24通常の名無しさんの3倍:2006/12/21(木) 07:51:33 ID:???
>>21-23
いえす!あいあむ!!
ヘイトスレはキラさまの雰囲気を壊したくなかったので退場しました。

ある程度、散文的に書き溜めてるので以前ヘイトで投下したのを多少変更ししつつのでよろしければ
少しずつ落としていきたのですがよろしいでしょうか?


25通常の名無しさんの3倍:2006/12/21(木) 12:15:44 ID:???
>>24
どうやら新人ベテラン関係なく好きな内容でSSを投下するスレになった様なので、投下
先の無い職人さんも大歓迎って事で投下お願いします。7氏ね。人気が出るといいね!
26通常の名無しさんの3倍:2006/12/21(木) 19:53:21 ID:???
保守代わりに、連ザユーザーにしか意味が解らないので他では書けなかったバカ話w


 シン・アスカは憤っていた。
 何にかといえば、自分が相対しているMS――フリーダムのイカレた挙動にだ。
 緑ロック距離から撃ってきたバラエーナがキモい曲がり方で当たってくるし、
ミネルバの艦砲、インパルス、ザク×2、セイバーで集中攻撃を仕掛けても涼しい顔で
連続S字ステップ。お前に硬直という言葉はないのか。
 無傷だったセイバーがスピ覚格闘ラッシュ1セットで落ちたのには流石のアスランも
ビビった。300補正の代わりに嫁補正かかってません?
 味方のザク二機はBR一発でそれぞれ撃沈。なんて野郎だ。
 ――だが、コイツには負けたくない。
 今日の俺の装備はBI。あの野郎はスピ覚しっ放しだからケルベロスは封印安定だろう。
しかしミサイルも普通に撃って当たるわけがない。とすれば、不本意ながら奴の格闘を誘う。
それも隙が大きい奴だ。特格が一番カウンターで当てやすい。BD格を狙ってくるようなら
ミサイルで牽制しながらステキャンを繰り返して振り向きBRを防ぐ。
 幸いにも本日のブーストゲージは無限。指が疲れるまでステキャンやり放題だぜ。
 さあ来い! ジャベリンでケツの穴を増やしてやる!

 ちょwwww速度差でガン逃げ+GHバラエーナwwwwwwww
              <了>
27通常の名無しさんの3倍:2006/12/21(木) 23:09:46 ID:???
シンwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


連ザの自由鬼だよ自由
281/2:2006/12/22(金) 00:16:27 ID:???

プロローグT

C・E83 6月3日 ――ヘリオポリスU近辺及び再開発宙域地区――

ディアッカ・エルスマンの部隊を先鋒としたザフト遠征軍による猛攻が続いていた。 
オーブ宇宙軍第2機動艦隊は既に総兵力の3割を切っており、ほぼ壊滅状態にあった。

――オーブ宇宙軍第2機動艦隊旗艦”クサナギU”艦橋――

「守備艦隊は、ほぼ壊滅か……」

ソガ中将は呟く。

不可侵条約失効と同時に電撃的な侵攻作戦――
ザフト遠征軍先鋒部隊を指揮するのはかつて共に戦ったディアッカ・エルスマンだという。

「不可侵条約失効直後とはいえ、完全に裏ををかかれるとは……な」

オペレーターの声が響く。

「ソガ司令!完全に包囲されています!!」

「MS部隊も壊滅状態です!」

入る情報は全て最悪の状況ばかりだ。防御体制のシステムの隙間を完全に衝かれ、
艦隊がヘリオポリスUを離れた隙にすかさず揚陸部隊が侵攻した。

この宙域にある防御の要とも言うべき、ヘリオポリスU大混乱のうちに制圧されつつある。

こちらの機動艦隊もディアッカの卓越した指揮により、ほぼ一撃で急所を衝かれ壊滅状態にされた。
かつての味方とはいえ恐るべき男だ。
292/2:2006/12/22(金) 00:17:17 ID:???

そこに全チャネル周波に女性の声が流れる。

その演説はプラントの女帝ラクス・クラインの声である。
表情豊かな美声がNJCにより電波の波に乗り、この宙域全てに木霊する。

『わたくしはラクス・クライン。オーブ人民並びにわたくし達の『地球浄化計画』の為の地球侵攻拠点としてオーブに属するこの宙域の租借を願います。
 ――アスハ代表はこの要請に速やかに応じてください。これ以上無益な戦闘を……』

ラクス・クラインの声明文を聞きながらソガは、

「もはや、是非もなし……これより、残存全艦撤退の準備に入る。包囲網の一角を崩すぞ!」

「ですが……」

完全な包囲網の陣形を整えた敵軍はこちらの4倍の兵力である。敵中突破は正直難しい。
一角を崩しながら、敵中突破試みようとする艦が次々と火に包まれる。

2隻、3隻とかろうじて突破するが次の瞬間に火達磨になる。
何とか包囲網から脱出しようとするが上手くいかない。

そこに、力強い男の声が全周波に乗って流れる。

『私はザフト先鋒隊指揮官のディアッカ・エルスマンである。降伏せよ。貴軍は既に戦闘継続能力を保持しておらず。
 貴軍に名誉ある降伏を望むものなり。これはラクス・クラインの名に於いて私が保証する……繰り返す……』

「ディアッカ・エルスマンか……降伏は容易い。だが……」

かつての上司であったトダガ名誉司令の最後が胸中に浮かぶ。

「ラクス・クラインに膝を屈するわけにはいかんのだ!!」

クサナギUは反転しつつローエングリーンU型は斉射する。味方艦を1隻でも多く逃がす為に。
30通常の名無しさんの3倍:2006/12/22(金) 05:41:15 ID:???
改行を多用すれば読みやすくなるというのは、この板の
新人職人が陥りやすい罠だな。貴公は「段落」というものを
知っているか?
31通常の名無しさんの3倍:2006/12/22(金) 06:49:56 ID:???
>>28
始まったようだね
題名くらいつけた方がいいんじゃない?
ともかく頑張れよ
32通常の名無しさんの3倍:2006/12/22(金) 20:47:24 ID:???
トダガって誰。ラクスは侵攻って言葉を使わないような気がする。
自分達が正しいって言うよりは貴方達は間違っていますってスタンスな
気がするんだが、……これは主観だな。
あとNJCって広域NJ解除できたっけ?
33機動戦史ガンダムSEED 1話 1/5:2006/12/22(金) 22:54:55 ID:???

C・E83 6月14日 オーブ近辺の諸島の島のある島の一つ。

――アーガイル開発事業所――

 古びたプレハブ三階建ての3階事務所の一番奥の部屋には、
『所長室』と小さな手書きの札が下がっている。

 その部屋は乱雑としており、本棚には膨大な資料や書類の束、
本は、薄っぺらな三文文庫小説から分厚い高度な学芸書まで幅広く雑多に並んでいる。
床の周りには資料が山積みとなり床の埃をも隠していた。

 その中央の乱雑としてデスクに一人の男が、ノートパソコンを広げながら格闘している。
画面には開発事業資料や土地売買、海底通路の開発、地熱発電の更なる新型の効率法など、
専門分野の人間が目を通さないとわからないものばかりである。

 男は作業に一段落が着いたのか、大きく伸びをした。そしてデスクに飾ってある3つのスタンドを眺めた。
 
 一つは中央に赤い髪の少女とその隣に立つまだ少年の頃の自分の写真。
もう、一枚はへリオポリス・カレッジの友人達との集合写真。
そして最後の一枚は自分が、かつて活躍した代表首長府のスタッフの集合写真。
 
 最後の写真の日付けは5年前のものとなっていた。
自分を挟んで中央には金髪のまだ少女の面影を残した女性と、
反対側の女性の隣を、背の高い黒髪で長髪の偉丈夫が立っている。

 男は最初の一枚目の写真が飾ってあったスタンドを手に取る。
自分がまだ何者であるかを知らなかった時代――その自分の隣にいた少女は、今はもういない。
34機動戦史ガンダムSEED 1話 2/5:2006/12/22(金) 22:57:38 ID:???

 男はかけている眼鏡を手弄り、元の位置を直すと、
目を細めながらその写真を眺めていた。

 もう、思い出になってしまった少女。
昔は苦い思い出だったが、今はもうセピア色の思い出と化してしまった。

 もう、一枚の10数年前の集合写真の撮影場所であるヘリオポリスは、
かつてL3に存在したオーブの資源衛星(コロニー)で、自分達が通った工業カレッジがあった場所だ。

 あの頃は自分達には無限の未来があると信じていた。
 
 その写真に写っている人物の幾人かはあの戦いで鬼籍に入り、
自分は何の因果か生き残りオーブで生きる事となった。
もう何人かは遥か宇宙のプラントで栄華を謳歌している事だろう。

 そして最後の一枚の写真。

 オーブ連合首長国代表首長府の主力スタッフの集合写真。
何の因果か、自分が代表首長府の首席補佐官として代表首長を補佐していたのだ。
重要な政策、軍務、全てをこなしていたとはまるで夢のようだ。

 男は10年前の軌跡に思いを馳せていた。
35機動戦史ガンダムSEED 1話 3/5:2006/12/22(金) 22:58:34 ID:???

 10年前――オーブ連合首長国オロファト――

 「私の元から皆、離れてゆく……」

 金髪の女性はそう呟きながら、代表首長府の裏庭の大きな一本杉のの寄りかかったまま、夕日を眺めていた。
メサイア戦役と呼ばれる戦いから半年。
オーブは戦後の軋轢を残しながらゆっくりと復興へと向かってつつあった。
 
 その間、多くの政務をこなしながら、女性は自分はわき目も振らずに働いていたと思う。

 その間にも地球圏の情勢も大きく変わり、自分の弟とその恋人はプラントへと向かい、その後の連絡は今日までない。
もしかして、一生を共にしてくれるかもしれないと思った男も、新しい恋人と共にプラントへと帰還した。
自分とオーブとどちらを選ぶのか?と聞かれれば『オーブ』と答えるしかないのだ。

 自分にはオーブを捨てる事はできない。

 仕方がない事なのだ。これが私の選んだ道なのだ、と女性は納得しているが、
自分が急速に孤独になったと気が付いたのは今日のことだ。
 
 共に戦った仲間達は皆、自分の側から離れていった。
もしかしたら、自分だけが彼らを仲間と思っていただけなのかもしれない。

 去っていく者を敢えて追わなかった。
女性艦長も恋人と共に去り、砂漠の虎と謳われた男も、歌姫のいるプラントへと去った。

 孤独になった自分だけが、オーブに残ったのだ。

36機動戦史ガンダムSEED 1話 4/5:2006/12/22(金) 22:59:26 ID:???

 溜息を吐いていると前方から誰かが近づいて来た。
またあの口うるさい乳母だろうか?

 「何の用?」

 「おっと!ご挨拶ですな」

 それは自分が想像していた乳母の声でなく男の声だった。

 「あいも変わらずご機嫌斜めですな。少しは息抜きしてはどうです?仕事のしすぎですよ」

 「……息抜きしてる。そうは見えないか?」

 「全然」

 「フフッ……はっきりいってくれるわね」

 「お、女言葉になりましたな。やっと年齢相応の女性らしい話し方をマスターしましたか?」

 「私は女――」

 「そいつは、なにより」

 女性は、ふと気が付いたように独り言を呟いた。

 「――そうね。まだ貴方がいたのよね」

 誰もが自分の元を去ったけど。

 「ん?」

 男の方は気が付かない振りをした。男も女性が何を考えていたか十分に承知しているのだ。

37機動戦史ガンダムSEED 1話 5/5:2006/12/22(金) 23:01:56 ID:???

 「……そういえば貴方とも妙な縁で私に付き合う事になったわね。あの頃からの付き合いになるのかしら……?」

 「代表は私の事などこれっぽっちの目に入ってなかったでしょうに――」

 「あの頃はね……強烈なのが多くいたし、それに私の目も節穴だったわ――」

 男との会話は女性にとって大きな息抜きとなった。

 激務をこなせたのは、自分一人の仕業ではなく目の前の優秀なスタッフのお陰だと気が付いたのも最近だ。
男は大きく背伸びをすると女性に向かって、

 「休憩はそろそろ終わりです。さて、いきましょうか代表閣下?」

 「ええ。首席補佐官殿」

 女性が先頭に立ち、一歩下がった位置から男は付いて来る。
これが代表首長府の日常の光景になりつつあった。


続く
38通常の名無しさんの3倍:2006/12/23(土) 20:50:25 ID:???
面白そうなんで続きに期待!
39通常の名無しさんの3倍:2006/12/23(土) 22:30:11 ID:???
コメデイとかも読みたい^^
40通常の名無しさんの3倍:2006/12/23(土) 23:22:46 ID:???
投下待ち
41通常の名無しさんの3倍:2006/12/24(日) 00:46:13 ID:???
( ^ω^)どうやらクリスマスらしいお
( ^ω^)・・・関係ないお
( ^ω^)毎年の事だお

( ;ω;)笑えるSS頼むお
42通常の名無しさんの3倍:2006/12/24(日) 01:09:42 ID:???
このスレはリクエストもいいの?
43通常の名無しさんの3倍:2006/12/25(月) 07:36:56 ID:???
>42
まぁ書いてくれる職人さんが居ればいいけど…
44通常の名無しさんの3倍:2006/12/26(火) 05:49:49 ID:???
保守
45通常の名無しさんの3倍:2006/12/27(水) 00:53:36 ID:???
とりあえず書いてみた 1/2

 オーブ上空を高速で飛行するムラサメのコックピットで、キラはプレッシャースーツのつなぎ目に
手をやり、何とか緊張を解こうとした。高高度飛行迎撃試験の最中である。普通地上の戦闘では
到達しないような高度にあがろうとしているのは、宇宙から大気圏を突入して侵攻しようとする
敵機を想定しているからだ。

 元から広いとはいえないコックピットの中には、観測のための機器が更に増設され、
分厚い宇宙用のパイロットスーツともあいまって、息苦しさを感じる。目の前には、
CGで補正され大まかに抽象化された前面ディスプレイと航行に必要な数値を示す
計器の数々が見えるだけだ。

 中々変化しないディスプレイと、数値の変化が激しすぎるメーターに嫌気が差して、キラは手元の
コンソールを操作し、計器を殆ど隅に追いやってしまうとディスプレイの補正を切った。
抽象化されていた情報が切り替わり、ディスプレイの解像度が上がったように外の視界がクリアに、
暗黒の宇宙と、丸みを帯びた地球が天地に広がっていた。

『落ち着かないのかい、坊主。段々ボタンをいじくるのが増えてきているぜ』

 ヘルメットの中に響いた音声に、キラははっとしてディスプレイを見た。端っこに寄せたいくつかの
ウィンドウのひとつに、黒地の背景で『SOUND ONLY』の文字が躍っている。観測機からの通信。
前面ディスプレイを注視する、丸まった海にへばりついた染みのように、支援の役目を帯びた
観測機がキラの機体より低空を飛行しているのが見えた。

「……こちら二鷹、現在フェイズ2が終了、異常なし。……落ち着いてますから、
坊主はやめてくださいよ、中尉」
『こちら三茄子、りょーかい。今度こそ"楽園"まで飲みについてきたら卒業させてやるよ、"坊主"』

 ノイズの向こうでキラをからかうことをやめようとしないのは、上官のミゾグチ大尉だった。
彼の元に配属されて以来、事ある事にキラを坊主呼ばわりし、要不要を問わず様々な知識を教え込もうと
積極的である。ちなみにえらく縁起のよいコードをキラの機体と支援機につけたのも冗談と軽口を
こよなく愛するミゾグチ大尉であった。

 キラから見ることはできないが、支援機の操縦席で通信機を操作する大尉の顔は、悪戯をたくらむ
子供のように満面の笑みを浮かべているに違いない。公私の区別がついている大人なので、仕事中に
軽口以外を仕掛けてくることはないが、油断しているとひどい目に合わされそうになることが多々あった。

 

46通常の名無しさんの3倍:2006/12/27(水) 00:56:37 ID:???
改行が多いって言われたんで、2/3

 小さなアラーム音とともに、外の光景を写すディスプレイにデジタル表示の時計が割り込み、
フェイズ3へ移行する時間が近いことをわざわざ知らせた。予定空域に予定通りに到達。キラは
コンソールを操作し、画面に再び補正を掛けた。失われるクリアな視界と、押し付けられる
大量の情報。急激にリアリティを失ったその画面に、キラは嫌悪感を覚えた。ゲーム画面のように
単純化された景色、パイロットシートに固定された体が感じるムラサメの振動だけが、キラに
そこが人殺しのための機械の胎内であると認識させた。

 切り替える直前のディスプレイに、漆黒の宇宙を写す画面の中、きらきらと星のような輝きを見た。
砂時計のような形をした人工の大地、プラント。キラにとっては同朋の故郷ともいえる場所。

「二鷹より三茄子へ、予定空域に到達しました。これよりフェイズ3に移行します。
カウントはそちらでお願いします、大尉」
『三茄子より二鷹へ、緊急事態だ。オーブの監視衛星が、衛星軌道上から大気圏へ突入しようとする、
所属不明の機影を捉えた。数は3だ。こいつはえらい事態だなあ、坊主」

 軽い口調で、ミゾグチ大尉が今回の試験で想定された状況を説明する。

『作戦本部より指令、二鷹は直ちにこいつを迎撃せよとの事だ。大役だなあ、なんなら今から
代わろうかい? 坊主』
「二鷹より三茄子へ、了解。…………ムラサメのコックピットは居心地がいいので、大尉には
席を譲りたくないですね。……加速を開始します」
 
 キラは、たまには言い返してやろうという気持ちになった。通信機の向こうのミゾグチ大尉は、
キラの軽口の中身より、むしろ言い返したという事実のほうに感銘を受けたようだ。

47通常の名無しさんの3倍:2006/12/27(水) 00:59:01 ID:???
こんなので良ければ 3/3

 連邦のM1相手に戦闘機で渡り合ったオーブ空軍のベテランパイロットは、ナチュラルの身でありながら
空戦におけるその技量はキラを凌ぎ、シミュレーターの中で幾度となくキラを棺桶へと送り込んだ。
自分の些か特殊な出自など、豊かな経験に裏打ちされた実力には意味が無いということを
実感させてくれたのだ。

(――知れば誰もが望むだろう!! ――君のようになりたいと、君のようでありたいと!!!)

 幻聴

 かつて殺した男の声を振りほどき、キラはやや意識的に力を込めて、コックピットの
コントロールスティックを握った。通信機の向こうで、ミゾグチ大尉がカウントを取る音が聞こえる。
ディスプレイ上のデジタルカウントがゼロを示すと同時に、キラはコックピット内に増設された、
本来ムラサメにはついていないスティックを押し込んだ。

 加速感。モビルスーツには到達不可能な超高高度まで機体を持ち上げるべく、外付けされた
航行ユニットが希薄な大気を吸い込み、速度を増し始めた。観測機とのデータリンクが繋がり、
ディスプレイの端に向こう側から見た機体の様子が映し出される。合金で構成され耐熱塗料を
分厚く塗りこまれた、巨大な鋼の鷹。それが後方に炎の尾を曳きながら加速していくさまを、


 モビルアーマー形態のムラサメに、より効率的な空力特性と推進力を与える装甲を追加し、宇宙から
降りてくる敵をその無防備な大気圏突入中に迎撃することを可能にした機体――局地迎撃戦用モビルスーツ、
ムラサメ改タカガリユニットは、オーブ本土に侵攻しようとする仮想敵を屠るべく、重力の鎖を
振りほどきはるか高みへと上昇を開始した。

(――他者より強く! ――他者より先へ! ――他者より上へ!)

 因果に縛られた男の幻聴は、重力に搦め取られて対流圏に置き去りにされた。
48通常の名無しさんの3倍:2006/12/28(木) 00:07:52 ID:???
>>47
自衛隊のDVD解説書か何かで、F-4のベテランパイロットがF-15に模擬空戦で勝ったてのを思い出した。
この先の展開がどうなるか分からないけど、ぜひ続きを読みたい。
4945:2006/12/28(木) 00:08:48 ID:???
人はあんまり居ないんだろうか。続き投下

 ムラサメ改は、水平方向に稼いだ速度=運動エネルギーを、垂直方向の
高度=重力ポテンシャルへと変換する――ズーム上昇。高度を十分に
得ると、希薄な大気に停止寸前の外装エンジンを増槽ごと排除した。排除
した部分は、ここまでのデータと共に太平洋上に落下し、オーブ艦に回収
されることになる。

 キラは、計器の示す高度と速度の情報が想定の範囲内に収まっていることを
確認すると、手元のコンソールを介して最終加速用のエンジンに火を入れた。
わずかな逡巡の後、電磁的作用によって生成されたイオンが加速グリッドを
叩くかすかな振動と共に、キラの体がパイロットシートに押し付けられる。

 そのころ、簡単な図形の並ぶディスプレイに赤い三角のマークで目標の
情報が新たに更新された。ムラサメ改のセンサーと支援機からのデータリンクが、
劣悪な状況下で互いに調整し合い、相応の精度で以って三個の目標に座標と
速度六つの数字を付け加えた。

 サブモニターの中で、三個の目標に名前がつけられた。三つ、ほぼ一直線に
並んだ各目標は、先頭からアルファ、ブラボー、チャーリーと呼ばれることに
なる。情報が更新され、目標及びムラサメ改の予想される軌道が表示された。

「二鷹より三茄子へ……目標、確認。これよりフェイズ4――最終接近段階に
入ります。データリンクは未だ健在。……未だそちらの情報が頼りですね」
『おお、先刻からうんともすんともしゃべらないから、暇で眠っちまったかと
おもったよ。ま、あと少しだけアドバイスしてやるから、どうやって声をかける
かは、坊主が自分で考えるんだな。三茄子より二鷹へ、大事なのは距離感だぜ』
5045:2006/12/28(木) 00:32:51 ID:???
>>48 短編なんで、この先の展開とかはあんまり考えていないです。どこぞのスレで、
「キラがムラサメに乗っていたら」というネタが在ったんで、書いてみたんです。続き

 現時点では、加速中であるムラサメ改の観測よりも、データリンクを介して
与えられる支援機側からの情報がより精度に優れ、信頼性があった。しかし
これからムラサメ改は更に高度を上げ、電離層を抜けた高度で目標を迎撃
しなければならない。その高度では、ミゾグチ大尉のエスコートはなく、
キラは自前でどの目標に接近し、攻撃を行うかを判断しなければならない。

 高度を下げつつある三個の目標を、下から追いかけるような形でムラサメ
は高度を上げ接近していった。十分に接近し、かつ攻撃を行えるよう姿勢を
安定させていられるのは、刹那に近い時間でしかない。いかなるパイロットの
腕を以ってしても、一度の接近で攻撃可能な目標は二体まで、と想定された。

「……こちら二鷹。エンジンは順調ですけれど、そろそろデータリンクに
限界が来ました。まもなく通信が途絶します」
『おう、坊主の声にも残念なことにノイズが走ってきたぜ、』

 段々と観測機側の精度がノイズ交じりとなって下がり、代わりにムラサメ改
側、自前のセンサーがより正確な測定を行えるようになってきた。

『坊主、最後に何か欲しいアドバイスはあるかい? 今ならどんな子でも口説ける
必殺の文句を教えてやるぞ』

 キラにはミゾグチ大尉が本気で女性を口説いている像は思い浮かばなかったが、
どんなときでも余裕の態度を崩さないその雰囲気に、かつて世話になり――世話に
なりっ放しのまま宇宙に散ってしまった上官の事を思い出した。
51通常の名無しさんの3倍:2006/12/28(木) 00:45:26 ID:???
>>49
住人が何人いるかは知らんが>>48の他に俺も読みたい…
とりあえず二人w
5245:2006/12/28(木) 01:02:54 ID:???
続きを投下 

『SOUND ONLY』を示すウィンドウに向かって、何か言い返してやる気になった。

「口説くほうは大尉に任せるとして、僕はそろそろオトシに行きます。電離層の
下で待っていて下さい、ご老体」
『――お!! 坊z――――』

 何か言おうとしたミゾグチ大尉の声は、砂嵐の向こうに紛れて消えた。代わりに
かろうじて残っていたデータリンクが、1キロバイトのテキストデータを送って
よこした。曰く――

『後は自分の目だけを信じるんだな、キラ=ヤマト"少尉"』

 肝心なところで一歩先を行かれた――データリンクは途絶えた。キラは電子の
孤独の中で、今も動くレコーダーに向かって報告する。

「……こちら二鷹、データリンク途絶。機体に異常なし。フェイズ4に移行」

 試験前のブリーフィングにおいて、キラは目標の中に核武装したモビルスーツ、
若しくはそれを突入させるコンテナが含まれているとの説明を受けた。それに
ついては確実に落とせというわけだ。この試験は、ムラサメ改にカタログどうりの
局地迎撃能力があるかどうかと共に、それを操るキラ自身にも十分にムラサメの
ポテンシャルを発揮できるかを試していた。壮年を迎えた作戦指揮官の口調に、
若輩のモビルスーツパイロットである自分を値踏みする響きを感じた。無理も無い。

「観測機器、外部展開完了。安定装置の稼働を開始……目標、射程範囲まであと
35から40秒。エンジン良好」

 ディスプレイの中で、三個の赤い三角が段々と接近してきているのがわかった。
機体の随所に取り付けられた各種のセンサーが、ミリセカンド刻みで情報を更新し、
キラが自分で入念に調整したプログラムが、各目標の軌道を計算し、ムラサメ改の
挙動に微小な調整を加えさせた。

 キラは前面ディスプレイの表示を次々に切り替えながら、三個の目標の挙動に
全力で注視した。目標の側からもキラ=ムラサメ改の事が見えていて当然であれば、
当たりと外れとでわずかな動きの違いが出てくると考えてよかった。

 実際に大気圏に突入しようとしているのは、勿論本物ではなく、オーブの衛星
から放出された無人の小型探査機で、キラが打ち落とさなければ極早い段階で消滅する
代物であったが、いくつかの電子装置とプログラムを経由して、モビルスーツ用の
投下ポッドに見えていた。趣味の悪いことに、一直線に並んだポッドのうち、両端の
二つ――アルファとチャーリーはザフトのもので、真ん中の一つ――ブラボーが連邦
のそれであった。キラは試験を考えた人間の悪戯心を感じた、現在世界をほぼ二分する
勢力を、まとめて仮想敵に持ってくる。
5345:2006/12/28(木) 01:17:17 ID:???
>>51 勇気が出た。続き投下。

 三つ並んだポッドの全てを攻撃することはできない、すべてを攻撃範囲に置くように
ムラサメ改の軌道を調整することは不可能だった。ムラサメ改に搭載されたコンピュータ
が軌道の選択=どの目標を攻撃するかの判断を求めると、キラは迷わず真ん中のブラボー
を選んだ。加速とベクトルの調整を繰り返しながら、接近。

「……おかしい、どのポッドにも、殺気を感じない。シミュレーションだから? いや、
動きに必死さが無い」

 キラは、ふと湧き上がった疑問を口にする。ここまで手の込んだ試験をする割には、
ポッドの動きに変化が無い。小型の探査機といえども、最後に推進剤を噴かして
悪あがきを演出するぐらいはできるはずなのだ。手元の解析では明らかに真ん中の
ポッドが中に重量物=モビルスーツをつんでいるという結果が出ている。

「……正直にこれを落として終わりなのか? わざわざここまでさせて? センサーの
故障は……ない。前後の二つ、動きに違いが無い――フェイク? でも――センサーは
――――そうか!!」

 キラはある結論に達すると、ムラサメ改を急減速させた。必死でくみ上げた姿勢制御用
のプログラムは、パイロットの無理な要求にも応えてベクトルを変える。これで接近可能
な目標は一つに減ってしまったが、今必要なのは近づくことではなかった。

「!!制御システムをセミオートにチェンジ!! ――各部光学カメラ展開!! 
クロスサーチ!!」

『後は自分の目だけを――――』

 音声認識に指示を出しながら、両手両足で全く別々にコンソールを操作し、ペダルを
小刻みに踏みかえるという難事業――歌いながら左手で将棋を指し右手で日記を書き両足
でタップダンスを舞う事に匹敵する――をこなしながら、キラは体勢を安定させ、空間の
一点を光学カメラで重点的に走査した。

5445:2006/12/28(木) 01:22:55 ID:???
「――――在った!!」

 ムラサメ改の機体数箇所に取り付けられたカメラが、真空に近い領域における矛盾
のような物を見つけ出した。レーダーも無効化するある粒子が超高高度の大気に
あぶられて、本来ありえるはずの無い揺らぎを生み出していた。一個のカメラとセンサー
でざっと走査しただけでは看破しようの無い隠蔽システム。

 ミラージュコロイドによって全てのセンサーから消えていた無人機が、いまははっきりと
四つ目の目標――デルタとしてディスプレイに記された。アルファからチャーリーまで、
三つのうちどれかを追っていれば、絶対に交差できない軌道に、だ。

 キラは再び操作系統をムラサメ改のOSに返すと、四つめの目標に向かって接近する
挙動をとらせた。同時にフェイズ5への移行を宣言する。

 加速、接近。地上のスケールでは地平線の遥か彼方、宇宙の尺度では目と鼻の
さきという、攻撃の射程距離までムラサメ改の機体を近寄らせると、安定装置を
全開で起動させた。機体各所の姿勢制御装置が機体に安定をもたらし、"僅か"数キロ
先の目標を狙撃することを、可能とする。パイロットシートのキラは、装置の起動と
共に全身を包んでいた振動が取り払われたのを感じ、満足感を覚えた。ムラサメ改
――連日連夜オーブの技術仕官と顔を突き合わせて調整した機体のポテンシャルは
予想以上の物がある。

 超高高度で、地に足を着けたように安定を得たムラサメ改が、飛行ユニットに格納
されていた長距離狙撃砲を取り出し、両手で保持する。高速で巡航しながら、薄い大気の
抵抗をまるで無きが物のごとく、長大な槍にも例えられそうなレーザー砲を構えた。

 キラはスティックを硬く握り締め、狙撃の最終調整に入る。安定装置で殺しきれない
微妙な振動を、殆ど勘で補佐しながら、相対距離が尤も近づく瞬間、発射までの
カウントを取った。

「発射まで後3秒!!
――――――2!!
――――――1!!」

 前面ディスプレイの中央、ロックオンを示す四角の中心に、いましもミラージュコロイド
の隠れ蓑を脱ぎ捨てつつあるポッド=無人機を捕らえたまま、キラは理想的なタイミングで
スティックのボタンを押し込んだ。
5545:2006/12/28(木) 01:31:14 ID:???
ラスト、投下

 前面ディスプレイの中央、ロックオンを示す四角の中心に、いましもミラージュコロイド
の隠れ蓑を脱ぎ捨てつつあるポッド=無人機を捕らえたまま、キラは理想的なタイミングで
スティックのボタンを押し込んだ。

 長距離砲に格納された共振器(キャビティ)の中でポンピングを受けて励起されていた
反転分布媒質が、電気的刺激を受けて一揃い、単一波長の電磁波を極短時間の間に放出する。モードロックによって非常に短く、強い振幅を得たパルスレーザーは光速の牙で以って
ポッドの装甲版を食い破り、内部に搭載されていた構造体をミリセコンドのうちに蹂躙した。

 機体の状態を表すモニターの中で、凡そ30メガワット時に届く電力が、一瞬のうちに
消費されたことを示す。実際にムラサメ改が放ったレーザーは実験用の極微弱なもので
在ったが、撃破判定を受けた無人機はシミュレーターの中で爆散した。

 シミュレーターが、撃破したポッドの中からNJCと放射性物質の反応を検出した、
と報告する。当たり、というわけだ。息を止めてその表示を確認したキラは、大きく
呼気を吐き出すと殆ど身動きが取れない操縦席の中で軽く首をほぐした。狙撃モードを
解除したムラサメ改が、自動で狙撃砲を格納し、巡航形態に復帰するに任せる。後は
キラが例え眠っていても、ムラサメ改はオーブ本土、オノロゴの基地に帰還する筈だ。
実際のところ、キラでなければならない部分は、試験が始まる前に終わっているのだった。

 そして、自分の試験は終わった。四体の目標のうち3体は取り逃がしたが、最も危険な
一体=核武装/核駆動のモビルスーツは撃墜した。

 もう一度、大きく深呼吸を重ねながら、キラはコックピットのスティックを握る。最後の
フェイズ、高真空からの帰還、再突入の段階が残っている。

 ふと思い立って、自動操縦のムラサメ改の胎内で、前面ディスプレイの表示を切り替えた。
電離層を脱ける直前に見た景色と比べて、天は黒の深みを、地は丸みをましている。

 ――帰還する

 その言葉には、未だ違和感が拭えずに残る。自分の故郷は高真空の宇宙に浮かんでいる。

 "少尉"と呼ばれたからには、基地に帰ったら即、飲みに連れて行かれるのだろうな。
悪戯小僧のような笑顔でキラを待ち構えるミゾグチ大尉を脳裏にありありと想像しながら、
キラはディスプレイの表示を変えた。
56通常の名無しさんの3倍:2006/12/28(木) 07:31:04 ID:???
お見事でした、正直新人さんとは思えない。
それっぽい薀蓄を入れることが出来るのは、豊富な知識がある証拠だし。
実際のオーブもこれぐらいの訓練をやってれば、あんな無様な本編には……
あとキラがベテランナチュラルパイロットに劣るって言うのは、投下する
スレによっては叩かれるかもね。
連邦ってM1使ってたっけ? ストライクダガーの方がリアリティあるかも。
57通常の名無しさんの3倍:2006/12/28(木) 14:11:35 ID:???
俺も新人とは思えん。
て言うか俺が巡回してる大多数のSSスレの平均水準を大きく脱してる。
何者?
58通常の名無しさんの3倍:2006/12/28(木) 16:00:17 ID:???
>>57
新人職人さん歓迎で投下先の無い職人さんも書いていいらしいよ

>>45
GJ!!
続きの構想とか考えてないのかな? 久しぶりに次を読みたくなるSSに出会いました
5945:2006/12/28(木) 16:28:12 ID:???
>>56 >>57 感想、どうもありがとうございます。投下するスレに関しては、
気をつけることにします。それからM1じゃなくて確かにダガーでした。完全な
凡ミスです。ご指摘に感謝します。こちらはついでに書いた、別世界verです。

超高高度迎撃試験

「キラ君、緊急事態よ!! オーブの監視衛星が、大気圏に突入しようとする
国籍不明の構造体を捕らえたわ!! すぐに迎撃して!!」
「わかりました、マリューさん!!」

 キラは直属の上司とファーストネームで会話すると、マードックが待機状態に
しているフリーダムガンダムに、悠々と乗り込んだ。

「キラ=ヤマト、フリーダム――行きます!!」

 キラの全身を、打撃のようなGが包んだ。アークエンジェルを発進したフリーダム
ガンダムは、その有り余る推力を以って、数十トンの機体を軽やかに超高高度へと運んだ。

 フリーダムのモニターに、三個の目標が写る。センサーは、そのうちの一個に
NJCの反応を検知していた。――核武装の証。

「核を地球で使おうなんて――!! 戦争は――!! どうしてこんなことを――!!」

 フリーダムガンダムは、ハイマット形態で姿勢を安定させると、その全武装を
一斉に放った。モニターの中で、三個の目標が爆散する。帰還しようとしたフリーダム
の上空で、ミラージュコロイドを解いた四個目の目標が姿を表す。

「やめてよね――」

 フリーダムはくるりと振り向くと、手にしたビームライフルを放った。青い光が
電離層を貫き、最後の標的も爆散させる。

「――どうして、こんなところまで来てしまったのだろう」

 静かなフリーダムのコックピットで、キラは一人、呟いた。
60通常の名無しさんの3倍:2006/12/28(木) 18:57:15 ID:???
台詞使いが種死キラっぽくてグッド、そしてそのせいでムカつく、って個人的な意見だから気にせずに。
ハイマット形態で安定するというコトはプラモデルにあった初期案を忠実に再現してるのかな、見事。
核兵器を地球上で運用してるオーブ、それでいいのか? と突っ込みたくなる。
UCのミノフスキー技術を使った核融合炉じゃないんだから、壊れたら空飛ぶ汚染兵器なんだが。
……核分裂を使った炉は高レベル放射性廃棄物がダダ漏れになるで良かったよね……
6145:2006/12/28(木) 20:18:41 ID:???
>>60 感想どうもありがとうございます。自分でも書いていて少し嫌でした。
テーマは「キラ二人目 in自由 補正付き」です。プラモの事は、初めて
知りました。 それでは続き投下。

 日付が変わろうかという深夜、オーブ空軍基地内のバーから、数人のパイロット
が出てきた。アルコールが入って赤くなった顔に、それぞれ満足げな表情を
浮かべ、つい先ほどまでバーで催されていた見物について語り合っている。

 事の発端はこうだった、翌日が非番の彼らがバーでリラックスしている
ところに、一カ月がかりの試験を終えた二人のパイロットが入ってきたのだ。
正確には、基地の名物パイロットである"またやってきた"ミゾグチ大尉が、
ムラサメ改に乗っていた"若造"キラ=ヤマト少尉を引っ張ってきた。

 普段から済ました態度を崩さない、美形の新人が酔っ払うところを是非見て
みたい彼らに軽くウィンクを飛ばしながら、ミゾグチはキラを端っこの席に
座らせると猛然と飲ませ始めた。「未成年ですから、お酒は――」と難色を示す
キラを「コーディネーターは15で成人扱いだって話だぜ」と端の席に座らた。

 先ずは試験の成功を祝って、と二人でビールを飲み干し、続いてロックを飲んだ
ことがないなんてパイロットとしてやっていけねえよ、とだましてウィスキーを
オーダーした。チェイサーをあおるキラに、これは基地のしきたりだ、飲むまで
試験は終わらねえんだとブランデーを注ぐ。顔色がどんどん赤くなり、反比例して
ろれつが怪しくなるキラに、互いのルーツに乾杯しようぜと言って焼酎を頼んだ。

 キラの顔色が赤に青に変転して言葉がおかしくなり、ふらふらしながら親友や
恋人の名前を絶叫し続けるにつれてバーの中のテンションは上昇を続け、ミゾグチ
とキラが飲み比べをはじめるにいたって最高潮に達した。口が軽くなったキラ自身の
手によって幼年期から今に至るまでの恥ずかしい秘密が暴露され、歓声が上がる
たび、乗りに乗ったキラが自分でグラスをあおった。 
6245:2006/12/28(木) 20:22:02 ID:???
 人の去ったバーの中には、机に突っ伏して頭から湯気を上げるキラと、最初
から最後まで飲み続け、なお涼しい顔をしているミゾグチ大尉、そしてグラス
を磨く店員の姿があった。

「いやあ、面白かったね。久しぶりに面白い坊主が入ってきたと思ったら、てんで
飲みに付きあわないんで、おじさんはらはらしちまったよ」
「大尉、飲ませすぎですよ」
「飲みすぎだとは言わないのかい?」
「誰も彼もが皆、大尉みたいなザルじゃないということです。ですがまあこれで、
彼もここになじむことができるでしょう。もう失う物はないですから」
「ああ、おれは坊主と楽しく飲もうとつれてきただけだぜ。でもまあ、このまま
ここに置いとくと、いろいろな物まで失ってしまいそうだから、そろそろ連れて
帰る事にするか」
「はい、大尉」

 顔なじみの店員は、心得たとばかりに、バケツ一坏の水をカウンターの上に置いた。
丁寧な事に氷が張ってある。ミゾグチはバケツを手に取ると、カウンターに
突っ伏したまま寝息を上げるキラの襟を少し開き、バケツの中身をキラの服の中に
流し込んだ。――一瞬の沈黙

「うわあああーーーーーー!!!!!!!」

 言葉にならない悲鳴をあげながら、キラがカウンター席から文字通り飛び上がった。
のどの奧から絶叫を迸らせつつ、背中に入った氷の塊を出そうとする。

「おお!! キラ少尉、目は覚めたか? 飲み足りないかもしれんが、ここはもう
店じまいだそうだ。部屋に帰るぞ」
「わああーーー!! 冷たい!! 寒いーー!!!!」
「冷めてはいるが、覚めちゃあいないなキラ少尉。――ほれ」

 ミゾグチ大尉はあくまで冷静に、バケツに残った氷水を今度はキラに頭から被せた、
再びキラの絶叫が響き、止む。

「何をするんですか!! ミゾグチ大尉!!」
「おお、正気に戻ったかい少尉。もう誰もいなくなっちまったからな、そろそろ撤退の
時期だ。いそがねえと、怖いお化けに悪戯されちまうぞ」
「それにしたって、水をかけることはないでしょう!! 心臓が止まるかと思いましたよ」
「何を言うんだ、少尉。パイロットたるもの、いつ環境の変化に曝される事になるか、
わかったもんじゃないからな。操縦席に穴が開いたときのために、こういった訓練は
大事だぞ、キラ少尉」

 バーを出ながら、ミゾグチは真面目くさった口調で説明した。しかしその顔は満面に
笑みを浮かべてこう言っている――まだまだだな、坊主。
6345:2006/12/28(木) 21:20:26 ID:???
続きというか、これを通してキラの回りの状況や、本編でどの辺の時期にあたるか
がわかってもらえると嬉しいです。 投下

 ミゾグチ大尉と別れ、キラは一人で基地内の自室へと歩いた。基地内を吹き抜ける
夜風が体を撫でるたび、背骨の奧から振るえが走って酔いが醒めていった。もやが
かかったような頭で、バーの中での自分の言動を思い直す。あやふやな記憶の中で、
すさまじい内容のジョークを絶叫していた気がする。

 濡れて冷え切った髪を撫でながら、キラは基地の空を見上げた。地熱と太陽光発電で
国内の一次エネルギーの殆どをまかなっているオーブでは、排気ガスが少なく夜間の
照明が節約されるため、晴天の頭上は満天の星に彩られていた。キラの視力は、夜空に
煌く光芒の中に幾つもの人工衛星と、それより遥かに巨大で遠くにあるコロニーを
見つけることができた。ぼうっとする頭で、現在の日時と向いている方角を思い出し、
そのコロニーがプラントであることに気づいた。

――プラント。コーディネーター達が住まう人工のふるさと、人の手による大地

 迎撃試験の一週間前、キラの親友と姉が交渉のために宇宙に上がったことを、キラは
思い出した。間が良いのか悪いのか、キラは試験を成功させてしまった。ザフトが開発
したという新型機の性能がいかなる物であろうとも、それらが地上に降り立つ前に迎撃
する能力がオーブにあると、証明してしまったのだ。情報はすでにある程度公開され、
ザフト、連合とも知ることとなっているはずだ。国家代表の任に就く姉は、それを交渉
材料として用いることができるはずだった。

「――――使わないんだろうな」

 独言の主語はキラの姉だった。キラは彼女――カガリ=ユラ=アスハが、根本的な
所で国家代表として適正がないと感じていた。直情的で、曲がったことの嫌いな彼女の
性格は、国家の代表としてオーブ国民の利益を追求するべきその役職に向いていない。

 そこのところの弱点――政治家としては致命的――を、少なくとも自分たち姉弟よりは
政治慣れしているはずの親友がサポートしてくれることを期待しながら、キラは自室の
ドアをくぐった。
6445:2006/12/28(木) 21:30:16 ID:???
一人で連投して大丈夫だろうか? 続き投下

 自室でシャワーを浴び、乾燥した私服に着替えると、書類の散乱する部屋の
椅子に腰掛け、酔い覚ましのミネラルウォーターを飲みながら、机に置かれた
PCの電源をいれた。一日の最後にメールチェックを行う、習慣的動作。

 いくつかの些細な用事と、明日の予定が送られてきていた。メールを用途別
にそれぞれのフォルダに仕舞いこむと、キラは今日の日付の最後に、『T.M』の
名前を見つけた。メールを開くと、「from Tomoe=Marguerite」の一文と共に、
一通のビデオメールが添付されていた。

 プログラムを呼び出し、再生させる。青い空と、緑の深い農園を背景に、髪を
短く切りそろえた少女がカメラ=キラに向かって話しかけた。

『お久しぶりですわ――キラ。お元気ですか? こちらの天気は御覧の通り、
こんなによく晴れてますけれども、そちらには良い日差しがあるかしら?』

 画面の向こうからキラに向かって話しかける少女は、手に持った篭の中身
――まだ土が付いたままの野菜を、カメラのほうに掲げて見せた。

『今日は、育てていた野菜の収穫をしましたの。私、食べ物が土から育てられる
事は知っておりましたけれども、実際に取るのは初めてで、土の中からほら、
人参が出てくるのを見て、びっくりしてしまいましたのよ。――子供たちには
沢山笑われましたわ』

 すると画面の横から、幼い男の子が顔を出し、トモエねえちゃん5回もこけたん
だぜ、と付け加えた。少女が顔を赤くしながら、キラに向かった。

『もう!! ――私、人参を抜く時に、土に埋まっていた物ですから力を入れ過ぎ
ましたの。こんなことでは、私まだまだ知らないことばかりですわ』
『キラにーちゃん、次はいつ来るの? 早くこないと人参もジャガイモも全部
食べちゃって、キラにーちゃんにはピーマンしか残らないよ』
6545:2006/12/28(木) 21:37:07 ID:???
後編の最後を投下します。キラとラクスの性格が変わりすぎでしょうか。

 さっきの男の子が、再び画面に顔を出しながら話しかけた。キラは休日の度に、
彼らに会うためにある島へ赴き、毎回十人以上の子供たちに取り囲まれ、
もみくちゃにされた。この子は特に仲が良い内の一人だった。画面の中で少女は
自分の手をカメラに近づけて見せた。指と爪の間にまで土が入り込んだ、土まみれの
手が、キラの部屋のディスプレイに映し出される。

『私の手、こんなに汚れてしまいました。プラントに居た頃は、絶対にこんなことは
ありませんでしたわ。――でもね、キラ……わたくし、こんな事がとても嬉しくて
ならないんですの』

 泥沼の戦争が多大な犠牲の後に、ようやく停戦合意を得た後、少女は背中まで
あった髪を切り、名前を変えた。今は信頼の置ける人物のもとで、隠遁生活を
送っている。

『キラ、今頃はどこかの空に居るんでしょうか? ここで飛行機を見つけるたびに、
皆がキラの事を思い出していますわ。カガリさんとアスランは、もうプラントに
着いたかしら? 私はここから微力ながら、マルキオさんと一緒に、皆の無事を
祈っていますわ――――』

 モニターから聞こえてくる、遠くの島の風の音に身を包まれながら、キラは椅子に
もたれて眠りに落ちていった。
66通常の名無しさんの3倍:2006/12/29(金) 00:32:22 ID:???
レベル高いなあ、ホントに新人?
多分何処かのスレに投下すればもっとレス付くと思うよ、ただ種自体
に特殊なファンが多いし、粘着されたり、神扱いされたり、叩かれたり、
スルーされたり色々する。習作ならここでまったりするのもいいかもね。
あと感想は、……これは種死を見た後だと反発したくなる。
種の途中からだと思うと良いと思う。
電波じゃないラクスはラクス足りえるのかというか、これはあの初期の
天然ラクスの延長だと言うべきか、なんとも言い難い。
とりあえずここのキラは、サイと友人のままで居られる人間だと感じた。
67通常の名無しさんの3倍:2006/12/29(金) 01:42:25 ID:???
とりあえず二人以外に人が増えてよかったw
新人じゃなくてもレベルは高いと思う。このままこのスレで連載してほしい。
ミゾグチ大尉がすごくいい!ファンになりそうだ俺w
68通常の名無しさんの3倍:2006/12/29(金) 03:43:49 ID:???
>>37の続きも読みたいのだが…
6945:2006/12/29(金) 07:51:03 ID:???
 >>66 >>67 感想、どうもありがとうございます。キラもラクスも種死っっぽくないのは、
二人とも種の延長で描写しているからです。習作ですので、批判は大歓迎です。が、よければ
このままこのスレでまったりしていければと思っております。
 ミゾグチ大尉は、平井絵つながりで某作品より。続きが書けるならば、立ててしまった
フラグを鼻歌交じりにへし折ってくれる、そんな素敵なおっさんで居て欲しいと思います。

 >>68 連投が多くて、外の職人の方が続けにくいようでしたら、色々考えます。

それでは、今度はシンの側です。時間軸的にはまだ本編一話にも言ってませんが、
それゆえに本編とも余り、矛盾していない事だろうと思います。
7045:2006/12/29(金) 07:54:39 ID:???
 ――シンは闇の中、夢想する。

 コズミックイラ 71年

 戦争の音が遠いオーブに暮らすアスカ家の面々にとって、一月一日
に母親が作ってみせる『おせち料理』とやらは恐怖の的であった。少なくとも、
遠く離れた場所で行われている連合とザフトとの戦争よりは、余程間近に迫った
問題だった。大晦日の深夜から、普段は洋食ばかりを作っている母親は、ここぞと
ばかり滅多に手にしないような食材を取り寄せ、レシピを片手に奮戦し、そして
毎年のように敗北していた。

 負けたのを認めたくない母が、これが伝統の味よ、と言って元旦早朝の食卓に
それを並べるのでアスカ家の全員が止むなく食べることになる。本物を食べた
ことの無いシンと父親にとってすれば、『本物はわからないけれど間違っている
ことは分かる』料理を食わされるのは、新年早々に課せられる試練のようなもので
在った。

 近年は大きくなった妹のマユが作業に加わり、ある程度の改善が見られたものの、
年明けからよくわけの分からない、数々の伝統料理とやらを食わされるのは、ある
意味アスカ家の伝統行事と化していた。何故母がここまでこだわるのか、シンが
父親にみると、彼はほとんどあきらめつくした顔でこういったものだ。

「オーブに渡った日系移民も、三代過ぎればルーツが恋しくなるんだろうね」

 新年の太陽が地平線の向こうから昇り終えたぐらいの時間。母親が原色のきつい
重箱"風"容器に、妙な香りのするおせち"風"料理を盛り付けて持ってくるのを、
父子は顔を引きつらせながら見守った。

 今年もひどいようなら、マユが食べなくてもいいように、父とシンとで食べ
尽くそう。そう確認した決意が、段々としぼんでくるのを感じていた。
7145:2006/12/29(金) 08:01:13 ID:???
 ――シンは夢想する

春の湖畔

 週末のキャンプに一家でやって来たシンは、桟橋で父と並んで釣り糸を
滴らしていた。遠くのキャンプ場では、母と妹のマユが、バーベキューの
準備を整えている。

 シンは、所属する陸上部で、テトラスロン――長距離四種種目の大会に、
ミドルスクールの代表として選ばれたことを報告した。まだマユにも言って
いない事だ、家族の中で一番応援してくれた父に、先ずは一番に知らせるべき
だと思ったのだ。

「すごいじゃないか、努力が報われたな。……三年間練習し続けた甲斐が
あったものだ。後で母さんにも教えてあげるんだぞ……マユには?」
「うん、まだ教えてないよ。ひょっとしたらどっかで聞いてるかもしれない
けど、俺の口から言うのは、先ず父さんからにしようって思って、さ」

 水泳、自転車、持久走、山地踏破の四つの種目を一日でこなす。オーブで
開かれる陸上大会のうち、最も厳しいとされる競技をわざわざ選び、代表に
選抜されたシン。ずっと応援し続けた父親は、"努力"と"練習"の二つの単語
を、意識的に強調した。

「おまえなら、練習さえしっかりすれば勝てるだろう。道具は――新しい
バイクを買ったりしなくて良いのか?」
「いや、今の奴が使い慣れてるから、自転車も靴も、今使ってるので行こう
と思ってる。部門がCだから、油断はできないけど、優勝を狙うよ」
「そうだな、目標は高く持つに越したことは無い。でも、無理はするんじゃ
ないぞ、怪我をしたら意味がないからな」

 成長期のシンは、季節が変わるたびに靴やバイクを買い換える必要があった。
そんな息子を父は本当に楽しそうに応援してくれていた。シンは知らないこと
だったが、父親はシンの使っていた古い道具を殆ど、倉庫の中に大切に仕舞って
いた。
7245:2006/12/29(金) 08:09:23 ID:???
 コーディネイターとナチュラルが共に住まうオーブでは、運動分野における
ほぼ全ての公式大会で、出自によって部門を別に設定していた。シンが口に
した部門Cとは当然、コーディネーターが出場可能の意味である。

「大会は、見に来てくれるかな? マユのほうは、学校のイベントなんかで
応援に来るらしいんだけど」
「どんなに忙しくたって、必ず行くさ……楽しみに待っている。母さんと一緒
に、一番いい席で応援するよ。――スケジュールを合わせないとな、いったい
いつに大会があるんだい?」


「――――うん、今年の夏。――八月の初めにあるんだ」


7345:2006/12/29(金) 08:11:17 ID:???
 ――シンは夢想する

 冬のオーブ

 島国には珍しい、記録的な大雪になったせいで、陸上部の練習が早めに
切り上げられたシンは、日が昇っているうちに家に帰ることができた。
平日にはここのところ、滅多にないことだった。

 日中も振り続けたおかげで道路に、道路にも厚く雪が積もっているのを
踏みしめつつ、家に帰る道の途中で、シンは後方から駆け寄ってくる気配
を感じた。足音を消しているつもりなのだろうが、積もった雪が踏まれて
圧される音がはっきり聞こえた。正体が分かっているので脅かしてくる
のを待ち、精一杯驚いた振りをしてやろうと心で構えていると、小柄な影
が、シンの背中に全速力でぶち当たり、シンはバランスを取る暇もなく
顔面から雪に突っ込んだ。

 シンを転倒させた影――小柄な少女もまた、勢い余ってシンの横に
転げる。

「やっほーー、おにいちゃん!! 油断してたでしょー」
「マユ!!」

 シンは、妹に手加減という言葉の意味を教えてやる必要性を、ひしひし
と感じた。

 再び粉雪の舞い始めた家路を、兄妹二人で歩く。妹はこれでもかと言う位
にしゃべった。今日学校で起こったこと、話した事、考えたこと。どうせ家
に帰ったら、同じことを両親も揃う食卓で話すのだろうが、おかげでシンは
家に帰り着く前に、マユの今日一日を殆ど把握した。今日マユの学校は
大雪で沢山の生徒が休んで、授業が殆ど中止になり、合同で体育――全校生徒
入り乱れての雪合戦になったこと、最初から最後まで雪を丸めて
投げっぱなしで、へろへろになるまで遊んだこと。次から次へと、マユの
友達の名前が出てくるので、シンは妹の人間関係に大分詳しくなったが、
一日に起こった出来事の前後関係を掴むことは殆どできなかった。
7445:2006/12/29(金) 08:20:45 ID:???
 道の端っこに作られた雪だるまを蹴飛ばしたり、踏み固められて凍った所に足を
取られ、シンに支えられたりしながら、マユは学校で返却されたテスト用紙を見せ付けた。
殆どが満点で、「良くできました」や、「congratulation!!」の文字が躍っている。

「すごいでしょー、マユがクラスで一番だったんだよ、期末試験。二番目は
ね、ショウコちゃんだったの」
「――マユ、お前そのテスト、皆に自慢したりしたのか? 俺や父さん母さん
意外に見せびらかしたりしなかったか?」
「ううん、してないよ……………………私がコーディネーターだから?」
「――!!」

 妹の頭の回転に、シンは一瞬言葉が詰まった。

「お兄ちゃんは、私がテストでいい点取ったり、足が速かったりしたら――――――嫌?」
「そんなことはないよ、勿論嬉しいさ」
「――じゃあ、私がそれを自慢してたり、したら――私を嫌いになる?」
「俺がマユを嫌いになるわけ、ないだろ。たださ、あんまり自分ができるって事を
見せびらかすと、周りの人がよく思わないことが……多いんだ」

 シンは、「コーディネーターだから」という論法で能力を隠せだなどと言わないように
気をつけながら、妹を諭した。だが実際のところ、コーディネーターとナチュラルとの
間には能力に統計的な差があるのだ。コーディネーターがナチュラルの間で暮らすならば、
コーディネーターとして平均的であることは、かえって過ごし難くなる要素だと、シンは
考えていた。一般のコーディネーターが、順調に平均的に成長すると、ナチュラルの尺度
ではその成長過程の殆どにおいて、全ての面で"A"かそれに近い評価を得てしまうのだ。
――特別な努力を必要とすることもなく。
7545:2006/12/29(金) 08:24:59 ID:???
「だからさ、マユがいろんなことが出来るっていう事よりも、マユがいろんなことを
頑張ってる事の方が、マユの周りの皆は――俺や父さんたちじゃなくてクラスの友達なんか
は、誉めてくれたり、認めてくれたりして、嫌に思われることが少ないんだ」
「……努力するところを、人に見せるっていうこと?」
「――うん、そうだよ」
「……どうやって……どんな風に見せるの?」
「例えばさ、人が面倒くさいなって思うような勉強とか、きついなって思うような事なんか
を、そこからやっていくんだ。ちゃんと努力してるし、練習してるから出来るんだっていう
ところを、周りの人に見て貰うんだよ」

 オーブで暮らすコーディネーターはむしろ、偏った適性を持っていたほうが都合がいいと、
シンは思っていた。何事もそつなくこなしてしまうと周囲の反感を買う。それよりは、
大方の分野ではせいぜい平均のあたりの成績をとっておき、自分の得意な分野に全力を
集中し、そこでだけ多大な成果を挙げる。このほうが、周囲からは専門家として扱いやすい。
それがどれだけ困難な事で、生まれ持った資質に左右されるのかを、専門性と必要な労力
を隠れ蓑にして、まわりからわからなくしてしまうのだ。

「それって、お兄ちゃんが陸上部で毎日練習してるみたいに、頑張るっていう事なの?」
「ん? ああ、そう。例えばそんな感じ――かな」
「お兄ちゃん、そのためにテトラスロンなんか始めたの?」
「――いや、全然違うよ。俺は、走ったり泳いだりが好きだったから。学年があがると、
冬でも温水プールで泳げるんだぜ、水泳部と一緒に」

 シンは、このとき少しだけ嘘をついた。妹には「コーディネーターだから」という理由で
いろいろな事に制限をかけて欲しくなかった。ほんの少しだけ、プラント、という言葉が
頭をよぎる。家が、兄妹の家が近づいてきた。

「分かった!! それじゃあ私、学年が上がってクラブに入れるようになったら、
お兄ちゃんと同じ陸上部に入る!!」
「おいおい、こんなとこで決めちまっていいのかよ。厳しいんだぞ、練習」
「いいのいいの!! だって、お兄ちゃんと一緒に練習できるんでしょ?きっと大丈夫だよ」
「いいけど、もし本当に入部したら、一番厳しく練習させるからな、本当に、覚悟しとけよ」
「えへへ、センパイ、お手柔らかにお願いします!!」

 マユは自宅の門を一足先に抜けると、妹はシンに向き直り、大仰な動作でシンに頭を下げた。
お下げ髪が背中から、垂れる。自宅の庭では、こちらもまた早めに帰宅した父が、一抱え
もある雪玉を転がしていた。家の中からは、母親の作るシチューの香ばしい香りが漂ってくる。

 ほほに触れる雪にも、何処かしら暖かさを感じる。冬の日の事だった。

7645:2006/12/29(金) 08:31:33 ID:???
 ――シンは思い出す。
 母は、もうあの個性的な伝統料理を作ることはない。
 父が、大会で走る自分の姿を見ることは、とうとうなかった。
 妹が、自分と一緒に走る日は、来なかった。
 マユの学年があがる事はもうない。
 マユが大きくなる事はもうない。
 続くと思っていた家族の日常は、戦火の中に焼き尽くされた。
 シンの手の中に残った『家族』は、思い出と、妹の携帯電話の中だけにある。
 マユの携帯電話、自分が持ってきてしまったじゃないか、あんなに大切に
していたのに。あれから何度マユの番号に掛けても、電話に妹が出る事は
――――――なかった。オノロゴ島の森の中に落としてしまってから、
まだ見つけていないのだろう。困って泣いていないだろうか。

 ――シンは思い出す。 
 砕けた大地、砕けた父、砕けた母、砕けた妹

 ――シンは思い出す。
 焼ける大地、焼ける父、焼ける母、焼ける妹

 ――シンは思い出す。
 震える天空、しゃべらない父、黙ってしまった母

 ――シンは思い出す。
 全身を吹き払う熱風。握っても握っても冷たくなってゆく妹の手。

 ――シンは思い出す。
 上空で、戦い続ける、数体の影。家族が死んでしまったのに、戦いを
やめない影、モビルスーツ――――――仇。

 ――シンは思い出す。

 ――シンは、忘れない。  
7745:2006/12/29(金) 08:42:48 ID:???
 シンは闇の中で、かつての記憶に思いをはせながら、目の前にある暗黒と
自分の呼吸にのみ、集中していた。時計を見ることすら許されない暗闇の
中で、宇宙用パイロットスーツが呼吸のために空気を循環させる音だけが、
シンの存在する証であった。

 どれくらい時間が経った頃だろうか、シンは突如として、視界にまぶしさを感じた。
暗闇に慣れた目に、『open a hatch』の表示が突き刺さる。シンは手探りでコンソール
を手元に引き寄せると、手袋越しに操作して、ハッチを開放させた。真空の宇宙に
浮いている練習用機体のハッチがかすかな振動と共に開き、操縦席内に残留していた
僅かな空気がハッチと機体の隙間から漏れて、コックピットの内部が真空にさらされた。

 開放されたハッチの外で、緑の宇宙服を来た教官が、シンに向かって
マニューバーユニットを手渡しながら、言った。

「おめでとう、シン=アスカ。――明日から君は赤服だ」


 二週間かけた、ザフトレッド選抜試験の最後を飾るのは、練習用の機体に乗っての
高難度機動試験――ではなく、その直後に説明もなくいきなり放り込まれる
閉鎖環境試験だった。試験空域から帰る途中で前触れもなく機体の全動力が停止し、
「ハッチを開放せずに外部の救助を待て」の指示がきっかり120秒間だけ前面
ディスプレイに表示された後、消滅。候補生は完全な暗闇の中で救助を待つ、という
状況に取り残される。パイロットスーツが空気を循環させ続けられる時間は、
予備も含めて凡そ20時間。

 急激な事態の変化にパニックへと陥る者、情報が不足している事への不安に
耐え切れなくなった者から、指示を待たずにハッチを開放し、「機外の致死的な
放射線に被爆」して死亡という判定を受けた。

 シンはシャワーを浴びてくると、試験の合格者が集まる部屋へと通された。
先に待っていたのは男女が各一人ずつ。シンの同期の候補生であるレイ=ザ=バレルと、
ルナマリア=ホークであった。椅子にもたれて疲労困憊という様子を隠そうともしない
ルナマリアと、涼しい顔をして姿勢を崩さないレイが対照的で在ったが、シンはレイの
端正な顔にも、目の下に薄く隈が出来ているのを見逃さなかった。

7845:2006/12/29(金) 08:44:01 ID:???
「レイ、それにルナ、と。オレを入れて三人……残ったのはこれだけなのか?」
「今回の試験、合格者は最終試験まで残った十名のうちの三名だけだった、
俺はそう聞いている。お前が合格したのなら、そうなのだろうな」
「まったく、あんな試験だって聞いてなかったわよ。高難度機動試験だけだったら自信が
あったのに、暗いやら息苦しいやら……臭いやら。わたし、合格者の中に一人、最初から
最後まで一言もしゃべらないで、呼吸も心拍も殆ど変わらなかった人が居るって教官に
聞いたんだけれど、それってレイなの?」
「……いや、俺は待っている間中、詩を暗誦したり、鼻歌で気を紛らわせていた。
……正直に言うと暗い所は苦手でな。それはシンの事なのだろう」

 ルナマリアがシンのほうに向かった。

「すごいじゃない、あんな急な試験で冷静さを保つなんて」
「――ああ、いや、オレは機動試験で目茶苦茶疲れてたし、すぐにああ、これは
試験なんだなって分かったからさ、後は殆ど寝てたんだよ」
「意識を失った事が分かった者は、すぐに救出された筈だ――不合格者として、な。
成る程、シンは深い瞑想状態で体力の温存を測ったと、そう判断されたのだろう」
「はは、そんなもんじゃないって、レイ。オレ、寝相のよさには自信があるんだ」

 シンは、本当のところを軽くぼかした。死んだ家族の事を思い出していたら、いつの間にか
二十時間経っていた。――――言えるか。恐らく即座にPTSDと判断され、自分は
訓練所からセラピストのもとに逆戻りだ。

 シンは、それぞれが与えられた情報に違いがある事に気づいた。シンは教官から、不合格者
のうち三人は、初めの十分間のうちにハッチを空けて飛び出した、と聞いただけだ。
軍隊という組織は、同じ立場に居る兵士には同じ情報を共有することを求める筈だから、
この違いはつまり、合格者たちで話の種にしろということなのだろうな。シンはそう判断した。

「――その、よろしく」
「――?」
「どうしたのシン? いきなりじゃない」
「ああ、いや。ルナもレイも折角同期で一緒に残ったんだから、と思ってさ」
「――そっか、今更水くさいって感じもするけど、確かにこれからわたし達、赤服を
着るんだしね。……でも、三人が同じ場所に配属されるとは限らないわよ、最悪、
全然ばらばら、地球とプラントと月に飛ばされるかも知れないじゃない」

 ルナが、人手不足のザフトでは最もな予想をすると、横からレイが情報をもたらした。
7945:2006/12/29(金) 09:08:25 ID:???
「それについてだが、俺たちはこれからアーモリー・ワンで開発中の、新型
モビルスーツのテストパイロットをやるらしい……三人一緒にだ」
「え!! それって、噂のセカンドシリーズの事かよ!! 本当にオレ達みたいな新人が?」

 シンの疑問に肯定したレイは、ルナマリアに情報の出所を聞かれ――わたしはそんなこと、
全然聞いてないわよ、何処から聞いたの? 白状なさい!――風の噂だ、忘れてくれ、
と付け加えた。

「へえ、それじゃあレイの話が本当だとして、もう暫くは三人で顔を合わせる事になる
わけね、訓練所からこっち、長い付き合いになりそうだわ」
「――ほう、それは俺やシンの顔をもう見飽きた、ということか?」
「そんなわけないでしょうが、レイ。毎回思っていたんだけれど、赤服を着たら、まじめな
顔で冗談言うの、やめなさいね。本気かどうか区別が全然付かないんだから」

 了解した、とレイは両手を挙げた。実際のところ、シンにも時折、この冷静な
候補生が本気なのか冗談を言っているのか測りかねるところがあった。

「それにマラソンでは未だにシンに勝てないし、レイだって格闘訓練の借りは
忘れたわけじゃないでしょう? 配属が変わったって、服が赤くなったって、
まだまだ付き合ってもらうわよ」
「これでも元、テトラスロンの代表だぜ? そう簡単に風除けにはさせないよ」
「短距離ではわたしが完璧にぶっちぎってやったじゃない。わからないわよ」
「――射撃の分野で勝とうとは思わないのか? ルナマリア」
「人間、向き不向きっていうものがあるのよね。これで、砲戦用のモビルスーツ
を割り当てられたらと思うと、ぞっとするわ」

 そんな感じで、ルナマリアは一人で同期を打倒する目標に、決意を固めていた。
明日は今日の続きであると、信じて疑わない、強い意識を感じた。シンは、自分も
それを、かなりはっきりと望んでいるのを感じ、それについて少しだけ驚いた。

 シンにとっては今日は昨日の続きではない。この三人そろっている光景が、何時

までも見られるとは思っていなかった、日常とは重ねられた一日一日の蓄積であって、
また来る明日の約束ではないのだ。シンが、レイが、ルナマリアが、いつの日か
変わってしまって、日常が只の思い出に変わってしまうことがあるかもしれない。

 部屋のドアがモーターの駆動する音と共に開き、教官が部屋に入ってきた。
候補生三人は、姿勢を正し、敬礼で以って教官を迎える。

 新しいキャリア、新人のザフトレッドの誕生を宣言する教官の声を聞きながら、
シンはそれでも、この日常を戦火の中に焼かれはしまいと、一人決意を固めた。

 もしそれをなそうとする者があるならば、今度は自分が、そいつをなぎ払ってやる。
80通常の名無しさんの3倍:2006/12/29(金) 09:26:24 ID:???
文章力は十分、文句つける奴いないレベルだと思うよ
試しにどっかのスレに投下してみたらどうかい?
どこにでも投下していいというワケじゃないだろうけど・・・

ただここらでSS連載するなら留意しとくべきだと思う

・脳内設定やアニメへの意見を語らない(ウザがられる)
・住人のレスには一々反応しない(↑に繋がってしまう)
・投下ペースを考える
(最初のうちだけハイペースで投下し、あっという間に
 ネタが尽きて更新が途絶えるパターンは結構多い)

こんな所か
8145:2006/12/29(金) 09:53:18 ID:???
 はい、というわけで、シン側の試験風景でした。といっても、凡そ半分が夢の中です。
本編ではシンがマユと追いかけっこしている場面ぐらいしか描写されていなかったので、
一家全員に出演してもらいました、なのにお母さんだけしゃべっていない。料理を作る
人としてしか思い出に残していないシンが、少しひどい。

 私が新人なのかどうか、を気にする方もおられるようですが……新人です。というか、
>>45が、私の人生における、2ちゃんねるへの初書き込みです。『書き込む』ボタンに
カーソル合わせるときは、手が震えました。ちゃんと「sage」になっていてほっと安心
したものです。若輩ですが、受け入れてもらえれば幸いです。

 続きは未だ構想も何も固まっていませんが、オーブに保管されている筈の自由を、
どうやって早い段階でぶち壊すのかは考えています。その後はムラサメカスタム、
俗称キラサメでセカンドシリーズを向こうに回す事になるキラ。時間軸的にはまだ
本編が始まってすらいない――というか、キラ編からシン編で過去に戻った――という
状況ですが、本来書き始めた動機『キラがムラサメに乗っていれば種死は……』を、
ほんの欠片でも描写できればと、考えています。冬休みが終わる前に出来るかな?

 出来るだけ短編を書いていく気持ちで行こうと思っております。



 マユ編書いていて、「妹は良い」という真理をつくづく再確認させられました。
82通常の名無しさんの3倍:2006/12/29(金) 11:51:29 ID:???
三人ともテスパイとはコートニーやリーカさんの出番はないのかとか、
アビスはやっぱりマーレなのかとか、いろいろ期待してしまう。

GJですよ。いい意味で新人離れしてる。2ch外で書きなれてると見た。
83通常の名無しさんの3倍:2006/12/29(金) 12:04:09 ID:???
うおっ!ちょっと来ない間にすげー人が来たぁぁぁぁ!!
勢いだけで書く自分の誤字脱字の稚拙なSSを投下する勇気がねーー
84通常の名無しさんの3倍:2006/12/29(金) 12:39:57 ID:???
ストフリを与えられたキラが、僕はもうフリーダムには乗らない、君の与えてくれる剣は要らない。
僕はムラサメで戦うよ。などと言う妄想が何故か浮かんでしまった。
85通常の名無しさんの3倍:2006/12/29(金) 13:09:34 ID:???
>>45
俺も続きがすぐ読めるのは嬉しいけどハイペースなのが心配。
無理せず配分を考えてまったり投下してもらいたいです。楽しみに待ってます。

>>83
このスレなら大丈夫!
いろんなSSが読みたいです!
86機動戦史ガンダムSEED 02話 1/7:2006/12/29(金) 17:09:54 ID:???

 ――10年前の回想は終わり、男は写真のスタンドを元の位置に戻した。
 
 デスク前には民間に於ける最大規模の情報収集がなされていた。
 オーブ−プラント開戦初期情報・外交戦略・生産比較・互いの戦力規模など。
 そのシュミレーションの結果を判断し自分ごときが動かなくても大丈夫だという結論に達したのだ。今の『オーブ』は。

 「――もはや、俺などが顔を出す隙間も無い程、鉄壁の布陣で固めた政府だ。
  今さら『ラクス』ごときの侵攻などではビクともせんよ」

 と男は独白する。

 「まぁ……それに何かあっても『アレ』がいれば、あのお嬢さんも何とでもなるでしょう」

 男は自分がその『お嬢さん』と一緒に写っている写真のスタンドを指で弾きながら、結論を締めくくろうとした、が

 『……その、何ともならない時代が、今まさに来ようとしているのだぞ――』

 そして、低く落ち着いた『女性』の声が室内に響き渡る。
ギィと音を立てながら、立て付けの悪い部屋の扉が開いた。
夕陽を背に長大な影が部屋を覆い尽くす。

 「なっ?!」

 男は思わず、間抜けな声を出した。
目の前に、噂の例の『アレ』とやらの人物が立っていたのだ。

 その声は、無論聞き覚えがある。あるどころではない。
数年前には、毎日のようにお互いを怒鳴りあい、冷笑し、熱く議論した。

 夕陽によって、部屋の中を黒い影で覆い隠した人物が、再び口を開く。

 「――久しぶりだな。貴公が代表首長府から去ってもう、5年になるのか?」
87機動戦史ガンダムSEED 02話 2/7:2006/12/29(金) 17:16:12 ID:???

 今日は、厄日だなと男は思った。
今、脳裏に浮かんでいた人物が自分の目の前に現れたのだ。

 「……面会謝絶の札が飾ってなかったかな?」

 久しぶりの再会の第一声はつれない。

 そこに事務所に勤める事務員の男が、恐る恐る、招かれさる来訪者の後ろから顔を出し、
申し訳なさげに謝る。

 「あの所長……申し訳ありません……このお方が所長にどうしても会わせろと強引に……」

 男は苦りきった顔で、事務員に言い訳を何もかも諦めたかのように応対する。
                                                               
 「……いいさ。しょうがない。――コーヒーを一杯頼むわ。
  ああ、言っておくが『こいつ』には必要ない。直ぐに『お帰り』になられるからな」

 『お帰り』のところのアクセントを特に強くした。
相手まるで何も聞いてはいないかような無表情だ。

 「はぁ……その、わかりました。ただ今、用意します」

 事務員が立ち去るのを目で確認すると男は乱暴に、

 「茶は俺の分だけだ。あんたの分はないぞ……で?」

 「――要件をわかっていよう?」
88機動戦史ガンダムSEED 02話 3/7:2006/12/29(金) 17:20:46 ID:???
 
 その声は低いがどう聞いても女性ものなのだが、その口から出る男言葉であり鋼のような響きがある。
側に近寄ればわかるのだが男と比較しても、その背丈は男以上であった。

 「……ラブコールのお断りのお返事は、代表府にダイレクトメールで送っておいたんだがね?」

 その鋼のような声に、意も介さずに男は話を軽い口調で話を流す。

 「貴公を措いてこの任に堪えうる人材はいない――」

 男のその態度を、来訪者の方も意に介さずに自分の用件を男に要求し続ける。

 「ちっ!何言ってやがる!寝言はベットでどうぞ!」

 「……いつまで、はぐらかすつもりなのだ?」

 男は相手の埒が明かないと見えたのか、男は頭を激しく掻くと、

 「――頭を冷やすか」

 礼儀正しく二人分のコーヒーを運んできた事務員に礼を言うと、
男は部屋の窓を大きく開けて風を入れる。
 
 事務所の外は夕陽に赤く染まりながら、一面に自然豊かな島の大地が広がっていた。

 窓から外を見ると、事務所からかなり離れた広場のような場所に、
その風景にはそぐわない軍事用輸送ヘリが降り立っていた。
 
 夕陽が室内の二つの人影を照らす、来訪した客は身長は恐らくは軽く190cmは越えているであろう。

 暫し沈黙の時間が訪れる。
 
 男は背の高い人影に向かって口を開いた。

 「で……?」

 「再び問おう。何故、代表の召還に応じぬのだ?」
89機動戦史ガンダムSEED 02話 4/7:2006/12/29(金) 17:25:19 ID:???

 来訪した偉丈夫は再度同じ問いかけを男に繰り返す。
結局は同じ事の繰り返しだ。その決まりきった返答に対して男は心からウンザリしながら、

 「……送った返事にも書いてあっただろう?
  てめーの尻はテメーで拭えよ。俺のとこにドンケツを持ち込むな」

 「――代表は貴公を求めているのだぞ?」

 オーブ連合首長国・代表首長府首席補佐官兼総合作戦本部長である『ロンド・ミナ・サハク』は、
些かも激さずに、その男に対して冷徹に答えを返す。互いに友好とは程遠い会話である。

 夕陽が傾き、茜色の輝きが男から影を取り払う。
男の端正な顔立ちと飄々として風貌が、しかめっ面となり、この南国には似合わない、
やや濃い眼鏡(グラス)はその中で眠る、鋭く鋭利な眼差しを隠していた。

 「あの『お嬢さん』が何の寝言を言ったかは知らないが……もう帰ってくれよ」

 「……わがオーブがプラントの『ラクス・クライン』から宣戦布告を受けた事は、貴公も既に承知していよう?」

 男のデスクの周りに民間で集められる限りのオーブVSプラントの開戦情報が散乱していたのを、
ロンド・ミナは先刻の様子から承知していた。
 
 男は苛立ちながらも、それを否定する。

 「……関係ないね。俺はもう大地に包まれて生きるんだよ!」

 男のそのワザとらしい態度にロンド・ミナはフッと冷笑し、

 「生粋のオーブの人間がか?民間に下ってからのその手腕と業績は聞いている。
  今更,開拓した新規事業を捨て去るのが惜しいのか?」

 そうではあるまい?とミナは雄弁に目で語った。
貴公は骨の髄までオーブの『戦い人』であろう?と。

 それを指摘されるのは忌々しい事だ。
まったく!昔の自分を今の自分が見たら、若気の至りと言う事で穴が有ったら入って一生涯篭っていることだろう。

 それに、この女の尻馬に乗って、ホイホイとついてゆく事は、
捻くれ者の自分にとって楽しいことではなかった。
 まったく嫌味の一つでも言いたくなる。
90機動戦史ガンダムSEED 02話 5/7:2006/12/29(金) 17:27:35 ID:???
                    
 「ハン!なら、あんたが行ったらどうだい?『総合作戦本部長』どのォ!」

 これまた、この程度の皮肉には表情を微動だしない。
逆に男に皮肉を問い返す。

 「――私が今、本営から離れられない事は承知していよう?」

 この程度の事に頭が回らないほど錆付いてはいまい?と
それを聞き、眼鏡の奥の男の眼差しが一瞬で鋭くなり、目の色に深みが増す。

 「……地球連合強国の牽制と外交調整か……」

 オーブ本国の要である主力部隊はそちらの牽制に回っているので動けない。

 「――相変わらず、察しが早くて助かる」

 男の一瞬の状況判断と明哲で冷徹な理論にミナは満足そうに頷く。
だが、男はまたもや酔狂な態度を取る。

 「今更、ドロップアウトした俺などを担ぎ上げたところでどうしようもあるまいよ?」

 「言った筈だ……この任に堪えうる人材は貴公の他に……いないと」

 繰り返しミナは続ける。

 「そういう問題でじゃぁないんだ。俺はもう過去の人間なんだぞ?」
 
 「……」

 それに対してミナは何も答えない。

 ――人の悪意の噂を矢に例えると、この男の全身には無数の矢が突き刺さっている。
オーブ国内では信じられないほど、この男の評判は悪いのだ。
91機動戦史ガンダムSEED 02話 6/7:2006/12/29(金) 17:31:31 ID:???

 男はその言葉に特に感銘を受けず、相変わらずロンド・ミナに対する冷淡な態度を崩さなかった。
もう一度、大きく鼻を鳴らすと――

 「ふん……!帰れ!」

 男は、ロンド・ミナに対してこれで話す事は終りだとばかりにうしろを向き、
大きく手を振った。もう、お前と話す事は何も無いとの意思の表れだった。

 「――貴公が私の言葉だけで動くはずが無い事は、先刻から承知している。
  フッ、――ここに来たのは私だけと思っているのか……?」

 ロンド・ミナは男の冷淡な態度に特に異を唱えるでまでもなく、一瞬、鼻で笑うとその後を淡々と規定の台詞を述べるのが如く話を続けた。
男は、ミナの会話の最後の言葉に何かを察したかのように振り返り、無言でミナを睨みつけた。
 
 「――貴公を説得する為の最良の材料を用意した」

 男はその言葉に一瞬、硬直する。

 「おい?まさか……」

 男の喉から、掠れた声が漏れる。

 『あらあら。長いこと、現場から離れてドライになったの?』

 明るい女性の声が部屋の扉の奥から聞こえた。
それは、まるで悪戯が見つかった少女のような口調だ。

 「……えぇ?!」

 男は驚愕の声を上げる。
そして、微笑を含んだ明朗な女性の声が室内に響き渡った。

92機動戦史ガンダムSEED 02話 7/7:2006/12/29(金) 17:33:25 ID:???

 「え?まさか……だ……代表ぉぉぉ?」

 『――ええ。そのまさかよ』

 男がその声に振り向くと部屋の扉が開いて、
黒いバイザーをかけた妙齢の女性が両脇の護衛二人と共に入って来た。
 
 彼女は掛けていたバイザーを外し、その素顔を男に晒す。

 「本物……?ご冗談を……」

 「いいえ。正真正銘、『オーブ連合首長国』代表首長カガリ・ユラ・アスハよ。
  お久しぶりね――サイ」

 彼女は男にウインクする。

 男――『サイ・アーガイル』はその事実に驚愕し、自分でも訳のわからない言葉を呟いている。
5年の間に役者としては彼女、カガリの方がサイより遥かに上になったようだ。

 「その、ご立派になられて……」

 男はやっと、その一言を吐くのが精一杯だった。

===================================

 そう呟きながら俺は、『サイ・アーガイル』は、彼女の真摯な瞳から目を逸らす事ができなかった。
――彼女の目の輝きは、別れたあの頃からまるで変わっていないのだから。
 
 そして懐かしい聞き慣れた彼女の声は、自分の耳と脳裏に響き渡った。

 「――この『国』が――『オーブ』が貴方を再び必要としているの」





>>続く
9345:2006/12/29(金) 17:42:01 ID:???
 それでは、ややペースを落として、書き上げた所から投下して行く事に
いたします。続き投下。


 人工の大地――プラント。月と地球と太陽と、三個の惑星が持つそれぞれの重力が
平衡する稀有な特異点――ラグランジュ・ポイントの一つに、それらは浮かんでいる。
コーディネーターの手によって数十基が建造された、宙に浮かぶ巨大な砂時計の
ようなプラントは一つ一つがそれぞれ専門的な役割を受け持っており、その中の一つ、
アーモリー・ワンと呼ばれるプラントは、その利用可能な面責の半分以上を兵器廠と
する軍用プラントである。

 全て人工物であり、過酷な真空中に浮かぶ脆弱な構造体でしかないあらゆるコロニー
は、基本的にあらゆる場所において監視が行われている。人間一人一人をコロニー中の
ゲートで監視するのは当然のこと、コロニー内部に存在する物は、グラム単位で管理
されており、極論すれば、道路脇の石ころを拾って家にもって帰るにも正当な李理由を
必要とした。一般の居住用コロニーでは、過度のストレスを与えて居住性を損ねる
事のないように、買い物の中身がIDで管理されている程度であるが、軍用プラント
であるアーモリー・ワンでは、数十メートルごとに全身をスキャンされ、行動を逐一
記録されるようなセクションさえある。

 招かれざる客は、そんなセクションに入る事の出来るはずもなかった。

 故にいま、機動兵器の実機戦闘試験室という、アーモリー・ワンで最重要の区画、
その物資搬入口に立つ三人は、内通者――プラントにとっての裏切り者によって、そこ
に居る事を許されていた。

「だからって、ここまで簡単に来れちまっていいのかね。コーディネーター様は、
余っ程身内を信用してるんだな」

 物資搬入口の直近くで、ゲートの操作盤に端末を接続している作業員に、緑に染めた
髪を短く切り詰めた若者が話しかけた。右手に持った軍用ライフルと、左手に嵌めた
機械的な手袋を調整している。そのどちらも、プラント内に持ち込む事すら許されない
筈の代物だった。作業員――脅迫と懐柔によって最重要区画への手引きをさせられた
コーディネーターは、死神に話しかけられたかのごとく、その言葉を無視し、作業に
集中した。

「だってさ、ここに来るまでにセンサーが効かない様にしてくれてたのは分かる
けどさ、それにしたってすれ違った人達も、一回もボク達を注意しなかったじゃん?
ラボだったら絶対、廃棄処分ものだよねえ」
「…………」
94通常の名無しさんの3倍:2006/12/29(金) 18:11:52 ID:???
GJ!お疲れ様でした。文章も読みやすいし、クオリティも高くて良いと思います。
私見を述べさせて貰えば、鳥をつけた方が良いのと、コメントはSSとは別に書いた方が良いと思います。
それではこれからも頑張って下さい。
95通常の名無しさんの3倍:2006/12/29(金) 18:20:40 ID:???
トリはあれだ、他のスレに書き込むときに初めてつければいいんじゃない。
嵐の中に漕ぎ出すときに、決意と共につければ良いのではないかと。
それまでは別に名無しさんが適当ではないかなあと思う。
自治厨っぽいか……
9645:2006/12/29(金) 18:42:03 ID:???
 短機関銃を両手に抱えた銀髪の少年が、傍らの少女に話しかけた。鮮やかの金髪の
少女は何も応えず、いまだあどけない顔立ちが手にしたナイフに写るのを眺めている。
どちらも、先の若者よりも更に若い。むしろ幼いと言った方が正確であった。

「――でさ、スティング、陣形はどうすんの? って言っても、適当にやったって
どうにでもなっちゃいそうだけどさあ」
「いつも通り、Aのマイナーで行く。ステラが右、アウルが左で、掩護が俺だ。
……殿もな。無理はするな、だが安心して突っ込め。何があっても、俺が必ず援護する」

 スティングと呼ばれた青年は、ステラと呼ばれた少女、アウルと呼ばれた少年に
向き合った。そしてコーディネーターの内通者が作業を終える。非正規な手段でロックを
解除されたゲートが、操作盤に「open?」の表示のみを残して静止している。

「出来た――――開くぞ」
「ご苦労さん、だ。ここでお別れだな」
「頼む――妻と娘は本当に無事なんだろうか? どうか教えてくれ」
「……今から四十時間後に、月のアルテミス公園で開放されると聞いている。ばれない
うちに、とっとと行ってやんな。報酬も彼女らが渡されるそうだ」
「そうか……よかった」

 男の顔に安心と満足と――諦めの表情が浮かんだ。アウルが黙って右手の短機関銃を
内通者に向ける。引き金をためらいもなく引こうとするのを、スティングが静かに
制止した。アウルが目を見開いて、スティングに話しかける。
97通常の名無しさんの3倍:2006/12/29(金) 21:12:48 ID:Yl91g4xu
9845:2006/12/29(金) 21:31:43 ID:???
「スティング! ――――ネオは、こいつを撃っとけっていったんだぜ?」
「ああ、確かに聞いたぜ……だが、鉛玉を叩き込めとは言ってない。だったら、細かい
所は自分たちで判断するんだって、習ったろ?」

 そう言うとスティングは、懐から小さな拳銃のような物を取り出した。麻酔薬を中に
満たした、無針注射器。内通者が驚きの表情を浮かべる。

「あ…………有り難う!! 有り難う……有り難う――」
「――感謝するのはまだ早いぜ、今からここは戦場になる。下手すりゃあ、どこかに穴が
開くかも知れない。二時間は寝っぱなしになる筈だから、もしもの刻は運が悪かったと
思って諦めてくれ」

 それでも、男は感謝の言葉を繰り返した。正直に言って生きて変えることのできる
可能性が有るとは思っていなかったのだ。スティングは丁寧な手付きで男の首筋に
注射器を押し付けると、引き金を軽く引いた。即効性の睡眠薬が血管に流れ込み、
男のまぶたが落ちてくる。朦朧とした男に、スティングは話しかけた。

「俺はスティング=オークレー、こっちの銀髪はアウル=ニーダで金髪の子がステラ=
ルーシェだ。…………忘れときな」

 眠りに落ちた男を壁際に引きずり、スティングは操作盤のスイッチに触れた。搬入口の
扉が、微かなモーター音と共に開き始める。薄暗い搬入口に試験室側の明かりが差し込むと
スティングは扉の左右に待機した二人に、作戦の開始を告げた。

「――――――さて、それじゃあ一人だけ見逃したところで………………沢山殺すか」
9945:2006/12/30(土) 00:39:52 ID:???
 物資搬入口の扉が開くと、中でモビルスーツの整備を行っていた作業員は
武器を手にして侵入してきた少年達を見て、ぽかんと口を開けた。今日この
時間に受領するべき物があったかどうか、思考していたのだろう。反応が
遅い。スティングはその作業員がもう考え事をしなくてもいい様にしてやろう、
と思った。手にしたライフルの銃床を頬に床尾を右肩に一瞬で定着させ、
そのまま教科書の手本に出来そうな立ち撃ちの姿勢で引き金を引いた。反動
を肩に感じる。先端に取り付けた消音機越しに、気の抜けるような銃声が
聞こえた。

 作業員――搬入される資材を管理する役に当たっていた彼は、警報ベルの
スイッチを入れる暇もなく、眉間から体内に入り込んだライフル弾に脳を
破壊され、瞬きする間に思考を停止した。力を失って倒れる彼の横を、金と
銀の小柄な影が駆け抜けた。アウルは滑るように、ステラは野生の鹿が跳ねる
が如く。二十メートルの距離を2,5秒で走り去る彼らの死角をサポート
するべく、スティングは彼ら二人の後を追った。

 奇襲は認識されてからの十秒が最も大事だと、スティングはどこかで
習ったことを思い出した、もしかしたら五秒かもしれないし、一分かも
しれない。とにかく、奇襲を受けて自失の状態から敵が回復するまで、
その混乱した時間に、どれだけの事が出来るのかが、奇襲作戦の成否を
分けると。

「それにしても、本当に停戦中の国なのかね。まだ反撃の一発も届いちゃ
いない。アフリカの方がまだ手ごたえがあったぞ」

 スティング達『ファントムペイン』は、その"性能"を試すために、幾つか
の戦場で実践に投入されていた。モビルスーツ戦も生身での戦闘も経験する
事になったが、何処の戦場に行っても、敵は『気配』のような物を感じて
自分たちに反応していたような気がする。

 戦闘中は口数が少なくなる。スティングは戦闘の空気に高揚する意識が、
様々な方角に分割されるのを感じた。昆虫の複眼を手に入れたかのように、
スティングは近くと遠く、右と左を同時に認識し、観測することが出来た。
もしスティングが三対の腕を持っていたならば、彼は鼻歌交じりで三つの
標的を狙撃してのけただろう。その複眼的意識によって二人の仲間と複数の
敵を同時に識別し確認し、効率的に援護する事が可能であるからこそ、彼は
『ファントムペイン』のリーダーとして二人の背中を任せられているのだ。
10045:2006/12/30(土) 05:19:11 ID:???
 スティング達三人は、通った道のりに血の跡を残しながら、実機の機動試験を行う
広大なスペースを縦断した。手を挙げて三人を制止しようとする者も機材の陰に
隠れたものも、皆平等に血祭りにあげながら、三つの影が駆け抜ける。

 モビルスーツ格納庫に至るドアの手前で、ステラとアウルが中の様子を伺って
いるところに、スティングはやっと追いついた。アウルは短機関銃の弾倉を一丁
ずつ交換し、ステラは荒れた息を整えながら手にしたナイフの血を拭っていた。
硝煙と血の臭いが、今頃感じられてきた。

 そのとき、アウルの首筋とステラの胸元にぽつっと、光点が点った、気付いた
のはスティングのみ。――視覚分割、認識。壁の天井近くに設置された監視
カメラが、二人を見ている――否、二人の方を向いている――否、二人を
狙っている。

「跳ねろ!!」

 スティングが叫ぶと同時に、ステラの体が凄まじい反応で以って跳躍する、
その直前まで華奢な肢体のあった位置を微かに赤く光る直線が走った。監視カメラに
内蔵されていたレーザーに、床が焼き焦がされて、嫌な臭いの煙がたつ。その間に、
スティングはアウルを狙っていた一台に狙いを定めて、ライフル弾を撃ち込んでいた。

「ひゃあ、あっぶねーのな。お肌に穴が開くところだったぜ。大敵だよな、油断と
夜更かしはさ」
「気をつけろよ、どうやら警報も鳴らさずに俺たちを仕留める気らしい。動きを
止めたが最後、ここからはレーザーがずっと狙っていると思え」

 寸前まで狙いを定めていた死の危険を、軽く茶化してみせるアウルだったが、
冷や汗をかいたスティングに警告を受けた。ほっとする間も無く、敵襲を察知した
内部の人間の手で、格納庫への入り口となるシャッターが塞がれた。
10145:2006/12/30(土) 05:23:13 ID:???
「アウル、ステラ、どいていろ……俺が開けるから、隙間が出来たらさっさと
飛び込め。動きを止めるなよ」
「りょーかい……ちゃんと援護してくれよ、あの玩具みたいなカメラだけ壊して
くれればいいからさ」
「……スティングが後ろにいるから、怖いのはどこかにやってくれる。…………
ステラたちは安心して飛び込む…………でしょ?」
「――そうだ、やるぞ」

 スティングは言うと、機械的なグローブを嵌めた左手でこぶしを作り、操作盤に
全力で叩き込んだ。グローブの放電機構が大量の電圧を回路に流し込み、シャッター
に誤動作を引き起こす。開いた場所からレーザーが2,3条飛び込んでくる。射線を
読んで影から一瞬だけ身を乗り出し、一呼吸の間にこちらを向く全てのカメラを破壊
すると、スティングは二人に向かって合図した。金と銀の影が、残像を引くような
スピードで途切れた銃撃の間を駆ける。

 完全に自分の掩護をあてにした動きで突入する二人への攻撃を期待通りに阻止する
銃撃を行いながら、スティングは純粋に戦闘による物とはまた違った高揚感を
覚えていた。最初自分たちは完全に個人の技量だけで戦果を上げるべく訓練されて
いたはずが、いつの間にやらずい分互いに頼りあうようになってしまった。本来は
期待されなかっただろう関係だが、悪い気分はしない。

 俺を含めたこの三人、表の世界からはとうの昔に消え去った存在だが、それでも
俺たちを狙う奴には皆、幻肢痛を思い出させてやる。
10245:2006/12/30(土) 05:38:59 ID:???
 そんなわけで、ようやく本編一話の時点までやってくる事が出来ました。まだ
途中で、ここからアウル主観→ステラ主観→セカンドシリーズ起動と進んで参ります。
今書いています。

 書いていて思いましたが、赤服三人組といい、強化人間三人組といい、二人組よりも
三人そろった方が書きやすかったと感じました。かえってキラとミゾグチ大尉の会話の
方が難しくて、ラクスとキラを会話させるのを諦めた結果、ビデオメールという代物に
登場願いました。本編、特に種死のような会話を創作するのは、私の技量では全く、
手に負えません。

 強化人間三人組編が終わったあたりで、小休止に代えて、全然別の時間軸にある
短編を入れようかとも考えております。もしよければ、リクエストに応えようか、
と考える次第です。

 それではまた後ほど。
103通常の名無しさんの3倍:2006/12/30(土) 09:57:25 ID:???
GJ!お疲れ様でした。文章も内容もかなり高いクオリティだと思います。
あえて指摘すると2点。

・引きをもう少し次回を期待させる様にすると期待感が高まり良い
・ある程度書き溜めてから投下した方が良い
二点目は執筆ペースと投下スタイル、環境等の問題になりますが、是非ご一考の程を。
では、これからも頑張って下さい。
10445:2006/12/30(土) 16:23:05 ID:???
 スティングが開放したシャッターから体を飛び出させると、アウルはステラと
軌跡を交差させて銃撃をかわし、格納庫内に飛び込んだ。二人を狙った銃弾
は虚しく空を裂き、床に弾痕をうがつ。

「いっっっく!! ぞおーーーーー!!」

 絶叫。脳の中で数種類の伝達物質が異常分泌され、アウルは頭の中に束縛
されていた自意識が肉体全体を取り囲み、それどころか肉体の縛りをすり抜けて
いくのを感じた。自分の肉体を外から観察できるような――解放感。


 気持ち――――良い!!


 アウルは血管の中を流れて行く熱い血潮の一滴ずつを知覚しながら、全身の
筋肉を躍動させた。小柄ながらも鍛えられた肉体が、格納庫に据えられた機材の
影と射撃の死角とを縫うように、滑るように、一秒たりとも止まることなく疾走し、
ついに銃を構えた警備員たちの間に自分の体を飛び込ませた。ぴたっと、静止する。

――ボクに見られた不運を呪え、間合いに入れた迂闊を恥じろ――お前たちの天国で。

 その一瞬の停止の内に、警備員たち全ての位置関係を把握したアウルは、彼らの
死角から死角へ体を回転させつつ滑り込ませ、至近の距離から銃撃を放った。
警備員たちは恐怖する、手を伸ばせば捕まえられそうな距離にいる少年が、まるで
実体を持たないかのように視界から消える、捕捉できない。同士打ちを恐れて
発砲に躊躇する彼らを、ありえない角度から銃弾が襲った。

 撃つ、撃つ、撃つ。ことアウル=ニーダにとってだけは、射撃に構え等必要なく、
戦闘に型など要らなかった。両手の短機関銃は独自に目を持ったかのごとく狙いを
つけて、人体の急所めがけて正確に弾丸を吐き出した。弾切れをわが身の事の
ように知覚すると、呼吸するのと同じ自然さで弾倉を交換した。その間実に1秒
未満、息をするのに時間をかける生き物などいない。殆ど途切れることなく射撃を
続け、最後の弾倉が空になる頃、ようやく抵抗する気配が止んだ。

 戦闘の動きをしながら目標に近づき続けたアウルが、一番乗りだったようだ。
アウルは目の前に鎮座する目標、鋼鉄製の巨人――モビルスーツを見上げた。人間
で言えば肩に当たる部分に、十数メートルの巨体全体を覆えるぐらいのアーマーが
装備された独特なフォルムの機体だ。未だ一般にその存在すら公開されていないが、
関係者の間ではセカンドシリーズと呼ばれている最新鋭の機体の一つだった。
10545:2006/12/30(土) 16:30:16 ID:???
 長々と続いた、だが実際には十分にも満たなかったであろう戦闘状況の連続は、
アウルを疲弊させるどころか精神を絶好の状態にまで押し上げていた。灰色の装甲
を露にする鉄の巨人に近づく。

――――――ボクの物にしてやる。

 アウルはモビルスーツが好きだった。あの狭い操縦席に座り機体のエンジンに火を
いれると、自意識はちっぽけな自分の体から解放されて、巨大で力強いモビルスーツ
と一体化するのを感覚できた。想像する。この機体はどれくらいボクを解き放って
くれるのだろうか、どこまでボクと一つになってくれるのだろうか。

「さーて、それでは一つ、貰って行っちゃおうかなあ。セカンドシリーズ」
「――――俺の"アビス"をどうするつもりだ!!」
「………………いやあ、ここまで苦労して"殺って"来たご褒美に、一機や二機位は
貰って帰ろうかなあって」

 アウルは背後から拳銃を突きつけてきた男に、やや興ざめして返事を返した。
なんだこの男、怯えて機材の影で隠れているのかと思っていたら、気配を絶って奇襲
するつもりだったのか、それにしてもバレバレだった。近づいてくる男が拳銃を
持っているのも気が付いていたが放っておいた。今の最高潮に達した精神と絶好の
体調ならば、例え男が引き金を引いたとしても、撃鉄が雷管を叩くまでに身を躱せる
という絶対の自信が有ったのだ。

「ふざけやがって……よくも、俺の部下を……こんなに沢山殺してくれやがったな」
「へへっ――ごめんねえ」

 アウルは男がパイロットスーツを着ている事に、背中を向けたまま気が付いた。
ということは、この男がこのモビルスーツ――"アビス"と言っていたか――の本来の
パイロットという事なのだろう。馬鹿な事をしたものだ、素直にパイロットらしく
モビルスーツに乗っていれば、ボク達を踏み潰そうとするぐらいは出来たかも
知れないのに。
10645:2006/12/30(土) 16:35:43 ID:???
「両手の銃を置きやがれ、上まで引きずって行ってぶち殺してやる。一秒でも
長生きがしたけりゃあ、せいぜい尋問には素直に応える事だな!! 俺は決して、
甘くはねえぞ!!」
「――はいはい」

 いいや、甘いよあんた。アウルはその言葉を飲み込んだ。男の失敗は二つある。
一つは先ほどまでの戦闘を少しだけでも見ていながら、アウルの接近戦能力を
見誤った事、二つ目は銃を向けながら引き金を引かなかったことだ。

――僕に近づく無謀を呪え、銃で話した無策を恥じろ――お前だけの天国で。

 アウルは、両手に持った短機関銃を放す、どうせ弾切れの銃だった。床に向かって
落ちて行く短機関銃を目で追った男の視界から――アウルが消えた。

 解放感――疾走、背筋の奧からゾクゾクと湧き上がる意識をゆだねながら、
アウルの肉体はこの日最速の動作で迫った。錯綜した感覚が、体の奧から吹き出る
凄まじい快感として知覚される。

「――な!!」

 音が四つ連続する。銃声、打撃音、落下音、そして人間が倒れ伏す音。銃声は
たったの一つ。男が発砲するよりも、手放した銃が床に落ちるよりもなお早く、
アウルは男の死角に回転しながら滑り込み懐から取り出した拳銃で腹部に一発、
もう一回転して握りの部分を男の首筋に叩き込んだのだ。

 正に電光石火のスピード。短機関銃が床に落ちる音を聞く前に、男の意識は
刈り取られていた。うつ伏せに倒れて男をつま先で軽く小突くと、モビルスーツの
操縦席へ巨体をよじ登りながら、アウルは恍惚とした表情で、気絶した男に言った。




「ごめんねえ――――――疾くってさあ」 



10745:2006/12/30(土) 17:19:19 ID:???
 強化人間三人組、アウル=ニーダ編をお送りしました。ガン=カタのところは
書いていて中々面白かったです。強化人間という響きが良いです。次はステラ編、
強化人間ネタをおかずに、ごはんをあと2,3杯はいけるかな、と思っています。
それにしても時間軸が進まない。十レス近く使っておおよそ十分ぐらいしか劇中の
時間が経ってません。

 スティングは性格の方が少し変わってしまった感じですが、アウルは性癖が危険
なことになってしまいました。何をどう間違ったのか、人間に鉛玉を撃ち込んで
絶頂を感じるエロイ子に……もしかしたら私のほうに隠れた性癖があるのかも
知れません。どうせやるならステラの方を(以下は検閲されました)

 引きのところがやや歯切れの悪いのは、こちらの推敲不足だろうと思います。
試しにスティング編のラスト、文面を以下のように変えてみました。どうでしょうか。

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 俺を含めたこの三人、表の世界からはとうの昔に消え去った存在だがそれでも、
その喪失ゆえに痛みを感じさせる事もある。失われた手足が、その虚無ゆえに幻の
痛みを覚えさせるように――それは彼らを括る名前だった――昏い殺意が脳を冷やす。



――――我等が忌み名は『ファントムペイン』

――――俺たちに仇なす者達に、全て等しく幻肢痛を思い出させてやる。


108通常の名無しさんの3倍:2006/12/30(土) 17:53:57 ID:???
なんか違和感の正体が解った。強化人間に学がありそうなSSが珍しくて違和感あったんだ。
こいつら訓練と薬漬けでまともな教育受けてるのか、と考えもするが能無しが特殊部隊として
やっていける訳も無いので、これはこれでいいのか。
109通常の名無しさんの3倍:2006/12/30(土) 21:13:56 ID:???
なんて言えば良いのか……。改行がおかしくて読み難い。
句読点の使い方も考えた方が良い。

なにはともあれGJ
110通常の名無しさんの3倍:2006/12/30(土) 21:55:20 ID:???
でもステラはうぇーいの方が萌える。足りない子じゃなくて不思議路線で行くか?

マーレGJ!名前も出ないままやられたけど、いつかまたヘタレっぷりを披露してくれるにちがいない。

>>109
改行おかしいか?一行40文字で整形してるだけだろ?
改行多いがおかしな形にはなってないぞ。

オレも整形用の改行はないほうが好みだが、携帯厨が一行が長いといって噛みついたり、
ブラウザによっては折り返しが効かなくて横スクロールが出るので
(専ブラはAAのために大抵この仕様)
自分でも絶対おかしいだろこれと思う所に無理やり改行入れてる。
111通常の名無しさんの3倍:2006/12/30(土) 22:19:31 ID:???
GJ!お疲れ様でした。
私見を述べさせて頂きますと、と、内容はアウルっぽさとスピード感があって非常に良いと思います。
文章としては、仕様なのかもしれませんが無駄な改行とスペースを多用しすぎな感じがしました。ちょっと間伸びをしてしまったような印象を感じました。

それではこれからも頑張って下さい。
11245:2006/12/31(日) 00:22:32 ID:???
 みなさんご感想とご指摘、どうもありがとうございます。
改行に関しては、読んでおられる方の環境が同じではありませんので、
途中で改行を入れて一行の長さを揃える事を重視しておりました。
句読点の使い方については一部が仕様で、大半が推敲不足です。
書いた後貼り付ける前に調整する作業をもっと力を入れて、
誤字脱字と共に減らしていこうと思っています。

 マーレ氏のことですが、実はアストレイを読んでおりませんので、
描写の基準はウィキペディアのキャラクター紹介です。
故に名無しの一般パイロットとしてご登場願いました、一応死んでおりません。
シン=アスカ編を書いた後に初めて、公式でセカンドシリーズのテストパイロットが
存在する事を知ったのでどうしようかと思いました。

 次はステラ=ルーシェ編ですが、試みとして改行の基準をやや変えてみました。
どちらの方が読み易いかは、書き手の私には深く判断が付きませんので、
指摘や批判を頂ければ嬉しい限りです。
11345:2006/12/31(日) 00:38:51 ID:???
 脇を逸れて背後の床に喰らいついた銃撃の激しさを肌に感じながら、
ステラはジグザグに走り銃撃手の照準を躱し続けた。
左右に跳ねるように床を蹴るたびに、意識が加速して行く感覚を覚え、
それに反比例して周囲の動きが段々と緩慢な物になってゆくように感じる。
一歩進んで体に加速度を与えるたびに、意識が次々と大きな歯車に連結され
感覚だけが時間の向こう側へと投げ出されるような、凶暴な加速感が体を貫いた。

「ハアァァーーーーーーッ!!!」

 10メートルの距離を五歩で詰め、先ずは最初の一人――銃を手にした警備員の
わき腹に、握ったナイフの切っ先を滑り込ませた刻、ステラは既に赤い世界に居た。
手首を捻って傷口から空気を腹腔の中に送り込み、確実を期した必殺の刃を抜き取る。
刃は鮮血に赤く染まっていた、ステラの視界の中でゆっくりと驚愕の表情を弛緩させる
警備員の顔も赤く染まっていた、力を失って倒れるその体も赤く染まっていた、
――床も赤く染まっていた
――壁も赤く染まっていた
――天井も赤く染まっていた。

 赤い世界――加速する感覚の中で、ステラは逆に自分の体がひどくゆっくりとしか
動かず、思うようにならないのがとても嫌だった。
肉体の反応をはるかに凌駕して意識だけが加速してしまうが故に、
自分自身さえ透明な泥の中で動いているように感じてしまうのだ。
周りの銃を構えている人間など、殆ど止まって見える。

 間延びした銃声が聞こえ、ステラの足元で銃弾が跳ねた。
ステラは射撃のやって来た方向を見据える。
二人目――機材の影から小銃弾を連射する警備員が居た。
赤い世界の中でステラは比喩ではなく、音速を超えて飛来する弾丸を視認できた。
ステラの世界の中で最も早く動く事の出来るそれを生身で躱すことは出来ない、早すぎる。
だが、セミオートで連発されているその一発一発の間隔はひどくあいていて、
ステラは2発目と3発目の間――常人ならば瞬きをする間に過ぎてしまうだろう時間――
に銃口の向く直線を通り抜けた。

 警備員の驚愕は永遠に晴らされることは無くなった。
射線に捕らえたと思った少女は警備員に無傷で迫り、その血に染まった刃で喉元を裂く。
頚動脈を切り裂かれた警備員はステラの赤い視界の中でなお深く紅に染まる血潮を盛大に
吹き上げながら、数秒のうちにショック死を遂げた。
11445:2006/12/31(日) 02:12:31 ID:???
 ステラは銃が嫌いだった。黒光りする銃身の先から弾丸が迸り、自分を怖い目にあわせる。
怖いのは嫌だ。
ステラの世界でとてつもなくゆっくり動く人間が、
とてつもなく早く動く弾丸を銃から放ってくるので、
ステラは動きを完全に止めてしまうことにした。
三人目の肋骨の隙間からナイフを心臓まで届くほど潜り込ませ、即死させる。
一歩たりとも止まることなく四人目に迫り、殆ど同様に停止させた。
既に死体と化した男から抜き取ったナイフには血潮がべったりと付着していたが、
刀身には刃こぼれ一つ無かった。

 ――――ステラは、「骨をちゃんと避けるんですよ」という"先生"の言いつけを
ちゃんと守る事が出来ている自分に、ほっと一安心した。

 少女の形をした死の具現が、警備員たちの集団に向かって駆ける。
鮮血を床に撒き散らしながら死の舞踏を舞う踊り子に、複数の銃口が向けられた。
ステラは気づく、このままでは後四歩ステップを踏んだ後に自分は回避不可能な銃撃に曝される。
だから、あと三歩のうちに防御しよう、と思った。

 一歩、ステラがナイフを一閃すると同時に握りのスイッチを入れる。
内部の機構が作動し、グリップ側に内蔵されていたバネが刀身を飛ばした。
刀身が宙を走り、一人の警備員の首に巻きつく。刃と握りは細いワイヤーによって繋がっていた。

 二歩、ステラは射線を回避しながら、別のスイッチを押す。
グリップ内のモーターが全霊を挙げて回転し、ステラの細腕が警備員の決して小さくはない
体躯をひきずり寄せた。

 三歩、抵抗する暇も無く警備員がステラの下まで引き寄せられる。
ステラが手にしたナイフの柄を振ると、警備員の体がくるっと一回転してステラと銃撃者
との間に割り込まされた。
ナイフの刀身が再びあるべき場所に還ったとき、警備員の血と指が空中を飛んだ。
首に食い込んだワイヤーを解こうとしていた指が、鋭い刀身によって頚動脈共々切断されていた。

 そして四歩目、引き金にかけた指を止められなかった警備員達のもとから幾条もの火線が迸り、
盾にされた警備員の体に命中してゆく。

 斬撃と銃撃に挟まれて死の痙攣を始めた体躯の襟を掴み、ステラは半死体を持ち上げて走った。
苛烈な訓練と過酷な投薬の末に備わった強靭な膂力が、それに条件付けを加えることによって
自己破壊を防ぐための制限をあっさりと突破し、ステラは肩と肘の強度限界ぎりぎりの負荷を
宙に浮かしたまま疾走した。

 たった今自分達が射殺してしまった同僚の肉体が宙に浮き、背中を向けたまま迫ってくる。
そんな怪奇的な光景に顔を引きつらせた一人の喉元を、ステラの刃が切り裂く。
それとほぼ同時に残りの警備員をスティングの狙撃が沈黙させた。
11545:2006/12/31(日) 02:17:25 ID:???
 ステラが盾にしていた男の襟首を放し、完全な死体と化した男がどさりと音を立てて
床に落ちたのが、格納庫における生身の戦闘が終結した合図であった。
殆ど無音と化した格納庫において、五体満足で立っているのはステラとスティング、そして
アウルの三人だけである。 

「いつも通り大分汚れちまったな、ステラ。
早くモビルスーツに乗れよ、直に次の奴等が来るぜ、もっと強力な装備を持ってな。
もう全員モビルスーツに乗らないと、戦え無い」
「…………うん」

 スティングの声にステラは赤い世界から帰還した。
突入前は青かった衣装が今や、誰の返り血かも区別がつかないほどに染め上げられていた。
まただ――戦いの時の赤い世界から帰ってきても、必ず自分だけは常に赤いままだった。

「返り血は気にするな。
汚れちまったのは気になるだろうが、船に帰ればきちんと洗って……違うか、
船に帰りさえすれば別の服が貰えるし、ネオがきっと別の服もプレゼントしてくれるさ」
「ネオが……それほんと?」

 宇宙戦艦の中でどうやって女物の服を調達するのか。
実はスティングは彼の上官がステラへの"ご褒美"用に何着もの衣服をわざわざ持ち込んでいる
ということを知っていたが、あえて口にはしなかった。
あの変態仮面が何を考えているのか分からないが、ステラが喜ぶ顔をする事に関して、
スティングに文句はない。

「ああ、本当だ。おれやアウルも、ネオに向かって一緒に報告してやる。
ステラはずっと一番前の、一番危ない所で、一番頑張って戦っていたとな。
だから先にこのモビルスーツに乗っちまえ、アウルはもう乗った、さっきも言ったが俺が殿だ」
「わかった…………そうする」

 操縦席のある位置までモビルスーツ――作戦前に確認した資料では"ガイア"といったか――
の装甲を飛び跳ねて登るステラを下から見上げながら、スティングは思った。
自分たちはエクステンデットと呼ばれる強化人間だ。基本的に命令に逆らう事は出来ない。
だがそれでも、自分たちの仕事を認めて報酬を与えられれば、精神的に安定するのは
間違いがないことなのだ。
だからネオがステラの働きを認めて、せいぜいかわいい服をプレゼントしてくれるよう、
信じてもいない神に祈ってみた。

 ――――ついでに、一瞬だけ見えたが今日も白だった。
11645:2006/12/31(日) 02:20:05 ID:???
 慣れないモビルスーツの、ステラには大きすぎるシートに腰を降ろしながらも、ステラは
不安な気持ちを隠せなかった。
モビルスーツは例え頑丈な装甲に身を護られていたとしても嫌いだった。
只でさえ戦闘のときに身を置く赤い世界では自分の体すら満足に動いてくれないのに、
モビルスーツはそれに輪をかけて思い通りにならない。
こんな不自由な物にどうして皆乗りたがるのだろうと、ステラはいつも疑問に思った。

 疑問といえば、戦闘の後にいつも不思議で思えてならない事が一つある。
ステラは今日の戦闘でも、殆ど相手に痛みを感じさせる事は無かった。
"先生"の言いつけどうり、ちゃんと近いところから急所を狙ったからだ。
でも、アウルやスティングが殺していた敵の中には、運悪く急所を外れて中々死ねなかった
者達がいて、誰も彼もとても苦しそうだった。
銃で撃たれて死ぬのはきっと、結構苦しいことなのだろう。
ステラには敵に対する恨みや憎しみは無い、それはきっと二人も同じことだろう。
恨んでもいないし憎んでもいない。
只殺さなければ殺される、自分が死ぬのが嫌だから殺しているだけだ。
殺さなければいけないだけの相手をわざわざ苦しませる事が、理解不能だった。
だから今日も戦闘が一旦終わった今、こうして疑問に想う。


――――どうして自分の周りはどいつもこいつもみんな、銃をつかいたがるのだろう?


――――ナイフの方が優しいのに。

11745:2006/12/31(日) 02:49:21 ID:???
 はい、そんなわけでステラ編をお送りしました。
血を求めて、ナイフで喉元を切り裂く戦闘狂にしようかどうか迷いましたが、
ただ反射的に防衛のため切り殺すというように書いてみました。如何でしょうか。

 強化人間主観の、生身での戦闘シーンはこれで一通り書き終えましたが、
構想では後一回ぐらいガン=カタの出番を作りたいと考えています。
本編ではせいぜい二分位しか描かれなかったところを、ずい分と引っ張ってしまいました。

 ステラ主観の筈でしたが、一箇所だけスティング視点に切り替わってしまっている
ところがあります。構成能力が不足しているゆえです。ご了承ください。
このほかにも、紛らわしいと思われるところがございましたら、御指摘ください。

 スティングがなんだか優しい奴になってしまいました。
ステラもアウルも、手のかかる妹弟ぐらいにしか感じていないかもしれません。
むっつりすけべのくせに。

 それではここら辺で。ご感想、御指摘を賜る事が出来れば幸いであります。
118通常の名無しさんの3倍:2006/12/31(日) 14:22:05 ID:???
俺の脳みその八割の部分はあんたのSSを手放しでマンセーしたがっているが
賛辞だけで二千文字を超えそうだからその旨のみで。

俺も他の板で書くときは基本四十文字で揃えてたクチだけど
よっぽど構図的におかしい時以外は四十文字改行でいいんじゃないかな。
縦書きの小説を基準にすれば、だけど。
119通常の名無しさんの3倍:2006/12/31(日) 17:44:17 ID:???
GJ!お疲れ様でした。
私見を述べさせて頂きますと、ステラの善悪の判らない子供の様な思考と行動のアンバランスさが出ていてとても良いと思います。
 少しステラのキャラが変わっている様に感じましたが、筆者の解釈として考えると、新たなるステラ像が出ていて良いと思えます。
しいて問題点を上げると、問題の無いレベルではありますが、時勢の不一致が目に付きました。
 それではこれからも頑張って下さい。

それでは職人様方、スレの住人の方々、良いお年を。
12045:2007/01/01(月) 01:52:30 ID:???
 スレの住人及びSS職人の皆様、明けましておめでとうございます。
昨年はご感想、ご指摘どうもありがとうございました。今年も宜しくお願いいたします。

 それでは只今、セカンドシリーズ起動編及び首脳会談編を鋭意製作しておりますが、
今回は年賀状に代えてこんなSSを送ろうかと思います。どうぞ。
12145:2007/01/01(月) 02:05:24 ID:???
 オーブ首長国連邦に住むアスカ家の面々は、普段笑顔で囲んでいる食卓において
まるで葬儀中のような沈鬱とした表情を浮かべていた。
テーブルに向かっているのは三人、覚悟を決めた父親が世界の終わりを迎えたような
息子と娘に向かって語りかける。
「もうすぐここも戦場になる。シン、マユ、お前たちだけでも逃げなさい」
 決死の表情を浮かべた父親が、子供たちだけでも逃がそうとする。
「そんな!! 父さんだけを置いて、逃げるわけにはいかないよ」
「うん!! 今年は私だって戦えるから、だからせめて一緒に居ようよ!!」
 子供たちの覚悟に、思わず涙腺が緩む。
だが親として目前に迫った悲劇から、彼らを護る責任が男には有った。
「お前たちの気持ちはとても嬉しい。だがこれは起こるとわかっている事を止められない、
大人の責任なんだよ。"アレ"を止める事のできない私の……これは義務なんだ。
だから、お前たちだけでも逃げろ」
「く!! ――――――父さん、お元気で」「お父さん、がんばってね」
 そしてついに、悲劇をもたらす戦端が開かれる。

「さあ!! お父さん、シン、マユ、今年のおせちが出来たわよ!!」
12245:2007/01/01(月) 02:06:42 ID:???
 彼は長年この戦場に立ち続けたベテラン中のベテラン、最古参の兵士だった。
しかし近年はとうとう気持ちに体がついて行かなくなり、それに反比例するように
敵の物量は年々増大を続けていた。
 父親はまず、敵兵力の最も手薄そうな所を狙うことにした。
一番まともな形をしている『出し巻き卵』を一つ選び、箸に掴んで口に運ぶ。
がん!! と彼の味覚を強烈な一撃が揺らした。甘味苦味塩味酸味、味覚のあらゆる部分が
最悪の配分で刺激された。
「父さん!! 水だ、これを飲んで!!」
「いや、必要ない。母さんは年々腕を上げているなあ。今年は最初の一口で気絶しなかったよ」
「まあ、おとうさんたら。嬉しい事を言ってくれるわね」
 息子が差し出したコップを跳ね除けて彼は前線を突破し始めた。息子の顔に尊敬の念が見える。
彼は一家の大黒柱として家族を護り、また威厳を保たなければならなかった。
 一口一口、シンとマユに手を出させる暇もなく、父は重箱の隅をつついて全てを口に入れて行った。
 放り込まれたものを吐き出そうとする胃袋を気力だけで押さえつけ、新たな爆弾を放り込む。
 そしてこの日最大の衝撃が、彼を襲った。甘いと思って口にした黒豆に、塩味を感じたのだ。
彼は妻が何時の間にか自分に多額の保険金をかけては居ないか、本気で心配になった。
 彼は時々意識を根こそぎ持っていかれそうになりながら箸を進めた。
立ち止まるわけには行かない、自分を信じて食卓に留まる息子たちを護るためにも!!
そして彼はついに成し遂げた。最後の昆布巻きを箸に掴むと、口腔に入れ咀嚼する。
限界をとうに超えた胃袋が必死で拒絶しようとするのを残った精神力全てで以って押さえつけ、
嚥下する。
「父さん!!」「お父さん!!」
 遠く天国へ旅立ちかけた意識を誇れる息子と最愛の娘の声が引き止めた。
感謝のまなざしを向ける目の端には涙を浮かべている。
まだだ、男は長年連れ添った愛する妻のためにも、後一言を吐き出さなければならなかった。
「――――母さん――美味しかったよ」
 美しい家族の光景。
元旦の日差しがアスカ家の窓から差し込み、父親として夫として食卓で試練を突破した
男を一枚の絵画の如く照らし出した。

 しかし

「まあ、お父さん、美味しかったのは分かるけど、そんなに急いで食べて貰わなくったって
――――まだまだ沢山あるのよ?」
「母さん!! あんたって人はーーーー!!」

 ここからが地獄だ。
123通常の名無しさんの3倍:2007/01/01(月) 23:55:19 ID:???
まあ、そのなんだ。職人はあんまりでしゃばらん方が良いと思うぞ。某スレはそれで悲惨な事になってたしな。
此処は住人が好意的だから良いが外に出たらあんまりでしゃばらん方が良いぞ。
とりあえず2chで連載する気なら、文章力よりもスルー能力を身に付けた方が良い。
124通常の名無しさんの3倍:2007/01/02(火) 00:30:09 ID:???
まぁここは新人用のスレと言う事で、そういう意識を身につける場
として活用してもいいんじゃないかね

基本的にどこのスレの住人も、職人の作品に興味はあっても
ウラ話や個人的意見には興味を示さないヤツが多い。
「次はこんな風にしようと思います」、「このキャラについてはこうしたかったんです」
と職人が拳握って力説しても、「言いたいことは作品で語れや」
と思うのが大半

腰を低くしてあれこれ説くのが必ずしも好印象を与えるとは限らんって事だ
外部の一般サイトなら問題ないんだけどな
125通常の名無しさんの3倍:2007/01/02(火) 07:09:49 ID:???
まあ、新人さんだから色々とでしゃばりたい年頃なのさ。だからでしゃばっても仕方がないと思いねえ。
でしゃばったらどうなるか、いつかその身に刻むだろうからな。それも職人の通る道だ。
12645:2007/01/02(火) 10:27:54 ID:???
 それでは、続きを投下します。
12745:2007/01/02(火) 10:29:33 ID:???
 ステラがガイアのコックピットに潜り込むのを見届けてから、スティングは    
漸くライフルを捨てて格納庫に残された最後のモビルスーツ"カオス"に乗り込んだ。
自分達が入ってきた入り口とは別のゲートから完全武装の戦闘員達が入ってくるのを
眺めつつ、ハッチを閉ざす。
本当にのんきな物だ、全ての段階で彼らの対応が後手に回ってくれたおかげで、
自分たちは全くの無傷でモビルスーツまでたどり着く事が出来てしまった。

「アウルの言った通り、これがラボの訓練だったら全員廃棄処分だな。
本当に、鈍間とは仕事をしたく無いもんだ」

 現在のところ例え装甲がフェイズシフトを展開していないとしても、
モビルスーツを完全に撃破出来る個人用火気は存在しない。
三人がいまだ生身であれば十分に勝算があったであろう戦闘員たちは、
立ち上がりつつある鋼鉄の巨体を為す術も無く只見守るしかなかった。

「さてと、後はこいつらを持って帰るだけなんだが。
まさか正面玄関から帰らせてくれはしないだろうよ」

 スティングは自分の機体を起動させ状態を確認しながら、同時にガイアとアビスの
状態をもデータリンクを通してチェックしていた。
パイロット訓練所の教官がもし見ていたら、諸手を挙げて降参するであろう程に
滑らかな動作で起動準備を進め、一番最後に機体に乗り込んでいながら全ての作業を
終了したのが一番早かったというのは、リーダーの面目躍如といったところである。

 スティングは機体の各種状態をチェックし終えて、思わず舌打ちの音を漏らした。
まさか完全武装状態で格納庫に待機させてあると思うほど阿呆ではなかったが、
カオスもガイアも武装はテスト用で攻撃力は皆無に近く、宇宙用のマニューバー試験も
しばらくないのか推進剤は一吹かしすれば空になり、バッテリーはといえば、
長持ちして再充電が簡単な民間製のテスト用だった、代わりに容量が小さいのだ。
特にアビスの状態が悪い。
12845:2007/01/02(火) 10:33:59 ID:???
「おい、スティング!! この機体推進剤が殆ど入ってねーし、バッテリーの
残量も空っぽ寸前だ!! あの野郎直前ぎりぎりまで動かしてやがったんだな。
とにかくこれじゃあ戦闘は無理だぜ、装甲張って走っただけで息があがっちまう」
「ああ、こっちでも確認してる。とにかくフェイズシフトは張るな。
バッテリーを補給する事が出来ないようなら、そのまま下に行って外に出ろ。
撹乱は俺とステラでこなす。
とにかく外に出ておいて、タイミングを合わせてプラントから離れるんだ。
方向さえあっていれば、ネオが回収してくれる、とにかく戦闘するな。
聞いてるな、ステラ!! アウルが駄目だ。二人でかき回す!!」
「うん、わかった。アウル気をつけてね」

 スティングは武装が整っていない状況は覚悟していたが、アビスのバッテリー
の問題はそれ以上に行動を制限した。

「ちっ!! 上にプラントの議長かどこかの国のお姫様でもいれば、人質にとって
悠々外に出られるってのによ。期待するだけ無駄だが」
「へへっ!! あんたが無い物ねだりだなんて珍しいよな、スティング」
「うるせえ、元々足りない物だらけだから、何か一つ欲しがる度に無い物ねだりになるんだよ。
普段はアウルみたいに欲しがらないだけだ。
軽口叩いてないで聞け、お前の状況が一番やばいんだよ。敵に会えばすぐにアウトだ。
とにかくお前は早めにずらかれ。推進剤もない潜水機がここにいたって無駄だ」
「オッケイ、今回は楽をさせてもらうよ、それじゃあな」

 そう言うとアウルを乗せたアビスは下――地の底の宇宙へ繋がる方向へと細心の注意を
払いながら歩いていった。
スティングが操縦するカオスとステラが駆るガイアは全く逆の方向、即ち人工の大地の
地表へと、こちらはやや余裕のある足取りで進んで行った。
12945:2007/01/02(火) 10:39:15 ID:???
 外を目指して地下へ進むという地球上では絶対に出来ない経験をしながらも、
アウルは鼻歌を歌うぐらい余裕だった。
可能な限りに無駄の無くバッテリーを温存できる動き方をさせるなど、
アウルにとっては朝飯前の事だった。
アビスの足の裏を通して床のワックスの掛かり具合が分かるほどだ。
そしてアビスを歩かせながらアウルは手元のコンソールを操作して、
アビスの固定装備を次々と排除し始めた。

「ええっと先ずは肩の中に復列ビーム砲、どうせ撃つ事なんて出来ないから要らないや。
次にCIWSの機銃弾これも要らない、敵に会ったらアウトだっての。
それから装甲、一発だって防げやしないからこれも手のところ以外、外しちまおう。
なんだかとってもすっきりした気分だな、ラボのモビルスーツでこんな事やったら、
即行で廃棄処分確定!! ホルマリン漬け決定!! だもんな」

 軽い口調で様々な装備を切り捨てながら、機体の爆発ボルトを作動させて武器も装甲も
排除してしまう。
もしアビスを追う者がいたならば、その逃走経路に点々と残された装備をたどる事で
簡単に付いて行く事が出来たであろう。

 だが、あれ程気をつけなければならなかった外敵は、アビスの前方からやって来た。
丸い頭部と肩、光るモノアイを持つその巨人は、ザフトの新型量産機であるザクである。
一つ目の巨人、正確にはそのパイロットであるコーディネーターはそれを目にした瞬間、
自分の目を疑い次の瞬間それが錯覚ではないと分かると唖然とした。
侵入者に奪われた最新鋭のモビルスーツを奪還するべく、外壁部の待機位置から
急に呼び出された彼が目にしたものは、外部装甲を殆ど取り外して歩く巨人の姿だったからだ。
それを見た人が思い浮かぶであろうイメージは即ち、モビルスーツのミイラ。
手にしたビームライフルを向ける事も警告を発する事も忘れてしまった一瞬が過ぎる。
そしてアウルにとってはその一瞬で十分だった、
勝負を分けるのは何時も、機体の認識に手間取る程度の僅かな時間でしかない。

「こんにちは、おじゃましてるよーー」

 ザクのパイロットが手にしたビームライフルを構えさせる暇も無く、
アウルは皮の無いアビスを歩み寄らせると、右腕を少し上げさせ、ここだけは残しておいた
手先の部分の装甲にエネルギーを供給しフェイズシフトを発動、同時に間接をロックする。
実にたったこれだけの動作で、アビスは全重量を込めた突きをザクのコックピット部分に
叩き込んでいた。パイロットは痛みを感じるまもなく死亡した事だろう。
動力が停止したザクがビームライフルを手放し、それをアビスが受け取る。

「ごめんねー、無駄が無くってさ。とりあえずバッテリーの心配は要らなくなった。
ありがとーさん!!」

 型番の新しいモビルスーツはほぼ例外なく手にした武器と本体の間で電力をやり取りできる。
そして新しいタイプの武器は間違いなく武器本体にも電力が蓄えられている。
奪い取ったビームライフルからアビスのバッテリーに電力を供給させたアウルは、
宇宙の側へ繋がる気密ハッチの内側へと、アビスを滑り込ませた。
130通常の名無しさんの3倍:2007/01/02(火) 22:04:20 ID:???
>>45まあ、なんだ。段落って知ってるかい?
131通常の名無しさんの3倍:2007/01/02(火) 22:54:33 ID:???
まあまあ、ここは住人がそういう部分をやさしく指摘して
新人職人が次のステップに進む為の練習スレなんだし優しくいこうぜ。
13245:2007/01/03(水) 02:07:40 ID:???
 それでは、続きを投下します。
13345:2007/01/03(水) 02:11:18 ID:???
 モビルスーツを格納した倉庫が三人の侵入者によって鮮血の色に染め上げられていた頃、
そこから遠くはない工廠の倉庫群では、プラントとオーブの首脳が会談を行っていた。

「しかし姫、先の戦争では御自身でモビルスーツを駆り実戦に参加されたあなたが、
『オーブの獅子』と敬われた偉大な指導者、ウズミ閣下の後継者でもあらせられる
あなたが、一体何を恐れておられるのです?」

 黒い長髪を風になびかせながら、長身痩躯のプラント議長ギルバート=デュランダルが
目の前の少女に向かい、その出身と経歴とを一息でまとめて見せる。

「大西洋連邦の圧力ですか?
『オーブがプラントに、条約違反の軍事供与を行っている』と?」

 倉庫の立ち並ぶ殺伐とした風景の中でも彫像の如く映える男だ。
金色の髪を肩にかからない程度に整えた小柄な体躯のオーブ代表カガリ=ユラ=アスハは、
忸怩たる思いである一言を飲み込み、白い手袋に包まれた自らの手を握りこんだ。

 私を姫と呼ぶな。

「そんな事はありません、議長。只オーブには先の戦争で発生した沢山の難民を
帰還させる責任があり、権利があると言っているのです」

 国家を代表する立場にある二人は新型戦艦『ミネルバ』の進水式会場へ向かいつつ、
プラントに暮らす元オーブ戦災難民の帰還問題について話し合っていた。

「またそして帰還を実現させるだけの手段が用意されていると彼らに伝え、
それをプラントの側にも理解して欲しいというだけなのです」

デュランダルの後ろには十名以上の側近が付き従っているのに対して、
オーブを代表するカガリの後を付いてくるのは護衛官が一人と女性補佐官が一人。
いくら非公式な話し合いの場だとしても、首脳会談に付いてくる人数としては一桁足りない。

 プラント側だけではなくオーブ側にとってもカガリの扱いが軽いという事が、
会談を続ける二人の姿を見るだけでも分かってしまう。
13445:2007/01/03(水) 02:12:53 ID:???
「なのに貴国は、わが国の提出した帰還プログラムに協力しないだけではなく、
次官級の会談にすら応じず、プラントの中でプログラムの存在を公表すらしない」

 カガリが指摘した事実の白々しさは本人が重々承知していた。
帰還プログラムはプラントと連合との間に停戦が成立した直後から始められていたが、
事業の対象は『地球上に残留したオーブ国籍を持つ者』に限られた。
プラントまで上がった小数の難民がその恩恵に預かることはなかったのだ。

「オーブには難民を迎える準備があると、プラントに留まるオーブ国籍を持つ者の殆どが
いまだ知らずに居る現状は、プラントの側にその責任があると思うのですが?」

 そんな責任はほとんど無い、オーブ難民に対するプラントの扱いは、
どんなに悪意の目を持って見たとしても文句のつけようが無かった。

 さらにオーブ側が新たな帰還プログラムをプラントに向けて打診したのはつい先日の話である。
今だ事務レベルで調整を受けるべき議案だから、いきなり話し合えというのも無理な話なのだ。

「私がこのプラントまでやってきて、議長とこうして話し合っているのは、
新型戦艦の性能について興味があるからでは当然なく、貴国に誠意ある態度での応対を求める為だ」

 政治の世界では何事も『他人の所為』にして相手側から譲歩を引き出さなければならない。

「今一度申し上げよう。
わがオーブ首長国連合は貴国プラントに対し、難民帰還プログラムへの全面的な協力を
求めるものである」

 そう言い終わったカガリをデュランダルはじっくりと見遣った。
次の言葉を黙考する表情では無い、カガリを値踏みするような目線がゆっくりと走った。

「……ですが姫よ、先の大戦の折大西洋連邦の侵攻をうけて発生した多くの難民、
国を焼かれた多くの同胞を脱出させ、プラントに暖かく迎え入れ、生活の基盤を持たない
者達に住む場所と職を与えたのは、他ならぬ我々なのです」
13545:2007/01/03(水) 02:13:42 ID:???
 完全な事実だ。オーブの難民を受け入れる余裕のある国は当時存在していたが、
話がコーディネーターとなると話は別だった。

「姫にとっては確認するまでも無いことでしょうが、当時は我々にとっても厳しい時代で、
プラントにとってもオーブ国民を只迎え入れ、養うという事は不可能だったのです」

 デュランダルはオーブ国民をプラントにおいて軍事産業に従事させた事をあくまで正当化した、
国家の代表、国民の利益を追求する立場としてもこんな事で負い目を感じる必要などない。

「それを我々が不足していた軍事技術者を取り込み強制的に働かせたように語り、
だから今軍において働いている者達に仕事を止めろと言う権利は、
姫の居られるオーブにも無いと私は申しあげているのです」

 だから、私を姫と呼ぶな。

 私はアイドルではないし姫ではない、だが認めるしかない実態というものがある。
自分はオーブ国民にとっては戦場に自ら身を置いたということだけが売りの偶像に過ぎない。
祖国の五大氏族にとっては、民衆に人気があるだけの傀儡に過ぎない。
プラントにおいては、碌な政治力も繋がりも権威も無い只の小娘に過ぎない。

 だがカガリはそこに甘んじるわけには行かなかった。

「議長、その姫というのは止めて貰いたい」

偶像である事に、傀儡である事に、小娘である事に慣れてしまえば、向上心を磨耗させてしまえば、
ある意味ではそれが最も楽な生き方であるのは確かなのだ。

 だが外の誰でもなく、カガリ自身が無力な立場にに立ち尽くしたままで居る事は出来なかった。
故にカガリは一言言わねばならず、そして彼に対してもある一言を言わせなければならなかった。

「私は理念に殉じ国を焼いた前代表ウズミ=ナラ=アスハの娘としてではなく、
今を国で生きようとするオーブ国民の代表、カガリ=ユラ=アスハとしてここに来ている」
13645:2007/01/03(水) 02:15:06 ID:???
 カガリの一言に、デュランダルは軽く目を見開いた。芝居がかった動作で謝罪する。

「これはこれは、失礼いたしました、アスハ代表閣下。
……ですが閣下、今の言葉が示すところは、前代表が身を以って示された理念を、
閣下が引き継がれる事は無いという意味ですかな?」

 政治上の役者としての技量はデュランダルの方に一日の長があり、明らかに一枚上手である。
しかしその程度の会話はいくらカガリであろうとも事前に予習さえしておけば、
一度纏った理論武装を再現する事は流石に出来た。

「我等オーブの掲げる理念『他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない』
それは一片たりとも揺らぐ事は無い、だがそれは我々氏族のお題目ではなく、
わが国の国民が自ら体得するべき『宿題』のようなものだと、私は考えている」

 かつてそれはオーブのものではなくウズミのものであった。
オーブ国民がその理念を是としたのは、ウズミの卓越した指導力が不介入を貫くオーブを
経済的に発展させ続けてきたからだ。そしてその発展は、他国で起こる戦争に支えられていた。

 国民の多くはそれの意味する所も知らず、血塗れの土台の上にある平和を享受していた。
オーブは発展のうちに不干渉のうちに、他国で起こる多くの不平等と非道を見過ごし、
その結果自国の国土を焦土と変えた。

「国が国民のものであるならば、国が掲げる理念もまた国民のものであるべきだ、と。
閣下は既に立派な指導者であらせられますな」

 デュランダルの大げさな言動の間に、本心の響きがかすかに混じってきたのを、
カガリは感じた気がした。
ようやく青臭い小娘から一介の話し相手に昇格か、だが誉め殺しで終わらせてなるものか。

「私は知って貰いたいのだ、われらの理念こそが真の意味での発展と平和と安定をもたらすと。
今オーブに住まうものにも、かつてオーブ国民で有ったものにも、そしてナチュラルにも
コーディネーターにもだ」

 言外に『技術者として役に立つから連れ戻すのではない』というニュアンスをにじませた。
13745:2007/01/03(水) 02:17:01 ID:???
「ですが閣下、彼らの中には既に我等プラントにとってなくてはならないという立場にある
人材も数多く居ます」

 デュランダルはふと立ち止まり、一つの倉庫の中を指し示して見せる。
中のデスクで設計図を広げて会合していた技官たちが立ち上がり、敬礼の姿勢を取る。
そのうちの幾人かが、カガリの姿を確認して思わず驚きの表情を声を漏らした。
元オーブ国民が、いまやモビルスーツの設計にまで関わっているということだ。

「無論、われらが無理矢理働かせたわけでは有りませんが、相当の人数がプラントの軍事機密に
関わる部門で研究者として働いており、貴国に返還せよと言われたところで、
はいそうですかと帰還させるわけにも行かないのです」

 敬礼に笑顔を返すとデュランダルは再び歩き始めた。

「それこそ大西洋連邦から今度は我々が、貴国に対して軍事技術とそれに関わる技術者を
供与したと疑われて、批判を受けてしまいます」

 連邦側の批判の矛先をこちらに向ける気か、という牽制だった。
つまり政治上の手管を使うほどには、カガリを会談の相手として認めたことになる。

「ああ、その辺りの事情はこちらも把握しているつもりだ。
我々としても、貴国に批判の目を向けさせる為に交渉している訳ではない」

 ただ、自分たちに向いた批判の原因を排除しに来ただけだ。

「しかしだからこそ、今貴国の軍事的に重要な分野で働く者達をより民間に近い
開かれた分野で扱って欲しいと言っているのだ」

 流石にプラント側の『軍人』をオーブにまで引っ張ってくる事が出来ると思うほどカガリは
愚かではなかったし、難民に職を与えてくれたプラントには感謝さえしていた。
ただ、難民の中にはオーブの巨大な軍事企業の技術者がかなり居たという事が問題なのだ。

「これは彼らが、プラントに留まるかオーブの帰還プログラムに応じるかをその自由意思で
選択する事が出来るようになるための措置だ」
13845:2007/01/03(水) 02:20:18 ID:???
 ようやくの事で、議論が核心に迫ってきた。カガリとしてはここでプラント側から最低限の
譲歩を得られなければ、本土に帰った後でゆっくり真綿で首を絞められるように無能をなじられ、
議会における発言力をすり減らす事になる。

 デュランダルが、今ははっきりとカガリの目を見据えている。

「閣下、先ほども言いましたが、彼らは既に我等プラントにとっても得がたい存在と
なっているのですよ」

 先ほどまでの大げさな動作を止め、デュランダルはカガリと並んで歩きながら
深くよく通る声で語りかけるように話し合う。

「先の大戦で実戦を経験され、また大西洋連邦が侵攻してくる現場に居合わせたあなたならば
……いやあなたの方がよくお分かりでしょう、いかなる理念もそれを貫き通すには、
相応の力が必要なのです」

 カガリは国土を焼く炎の中に消えた父を思う。己が信ずる理念に殉じた『オーブの獅子』は、
指導者として父親として、これ以上は望みようの無い人物だった。

 しかし今、彼女はこうして政治家としての戦場に立つことで、父親のその最後のあり方だけは
はっきりと拒絶する事ができた。

 父上、やはり生きることの方が戦いです。

「あなた方オーブがその理念を守る為に軍備を固めておられるように、我々にも守るべき
理念と国民があり、そのために力が必要なのです」

 このような時、父であればどう行動しただろう。相手にも自分と同じように立場があり、
それを理解しながらも自分は自国の国民の利益を最優先しなければならない。

「そして力とは、常に強大化する必要は無くとも常に効果的であることが求められるのです。
そしてそのためにも彼ら技術者はわれらがプラントに欠かせない存在だ」

 だから、彼らを手放す気は無い。

「オーブでもそれが分かっているからこそ、大気圏内で迎撃を行うような新型機を
開発したのではないのですかな?」
13945:2007/01/03(水) 02:22:52 ID:???
 ついにその話題に触れられた。カガリはムラサメ改が実用実験に成功した事は知っていた。
しかし交渉の話題にすることは避けたかった、なんといっても機体の操縦者が自分の弟なのだ。

 考える時間が欲しい、そう思ったカガリは背後に控える護衛官を呼びつけこう命じた。

「それに関しては、多分に技術的な問題になるので私には答えかねる部分が多い、
よってこのアレックスに説明してもらおうと思う」

 護衛官は名指しを受けて一瞬躊躇いを見せたが、カガリの強い目線を受けて議長に近づいた。

「は、それでは機密に触れない範囲内ではございますが、僭越ながら説明させていただきます」

 護衛官を目にしたデュランダルはどこか思うところがあるのか、深い色のサングラスを掛けた
年若い護衛官を見つめたが、直に表情を軟化させると握手を求めた。

「アレックス君といったかね、私は門外漢だからどうかお手柔らかに頼むよ」
「は、気をつけます」

 護衛官アレックス=ディノは緊張した面持ちで握手に応じた。

 硬い口調で説明を開始したアレックスから離れて、カガリは一人で考えを固め始めた。
いくつもの情報が頭を巡っては纏まらないままに霧散する。

 その時女性補佐官がカガリの前に回りこみ、飲み物の入ったパックを手渡してきた。
今回の会談に際してオーブからプラントまで遥々付いて来たカガリ専属の補佐官は、
藤色の衣装に長髪が映える絶世の美女で、名をシズル=ヴィオーラというナチュラルだ。

「お疲れやす、代表。中々堂に入った話し合いでしたなあ」

 シズルはやや特殊な訛りの混じる声で代表を労った。
一旦休憩を入れるタイミングとしては適切だったようだ。カガリだけではなく議長の方も、
側近に手渡されたパックから水分を摂りつつアレックスの話を聞いている。

「ああ、それ程疲れたわけではない……まだまだいけるさ。
ただ喉は大分渇いていたな、プラントは湿度が低いのか。有り難う、シズルさん」
14045:2007/01/03(水) 02:23:39 ID:???
 シズルは恐らくオーブ国民で唯一カガリが『さん』付けする相手だった。
知識が豊富で頭の回転も速いという才色を兼ね備えた聡明な美女で、
カガリが彼女に質問を放って有用な答えが返ってこなかった試しが無い。

 体術の心得もあるらしく護衛官も兼任しているため、女性という事もあり一緒に行動する時間は
アレックスよりも長く、公私に渡って何かとストレスの多いカガリの相談に乗っている。

 名実共にカガリの右腕であるが、その底知れない能力は役者の違いを感じさせ、
カガリは自分の部下でありながら一度も呼び捨てにした事が無い。

 カガリはシズルにこれからの会談について相談したかったが、せいぜい小声で
そういったやり取りを交わすに留めた。

 一国の首長ともあろうものが、自分の専門分野であることにまで部下と相談しなければならない
というところが人前に晒されれば、カガリの権威に関わるのだ。

「頑張りおし、代表閣下。
うちらが閣下をサポートしますさかい、代表は自信を以って話し合いに集中しておくれやす」

 不思議な響きのする訛りでそう囁かれると心が落ち着く、カガリはパックの清涼飲料を一口
飲むと、それがオーブ国産のお茶であることに気が付いた。
シズルの慎ましやかな気遣いを感じて頭の回転が早まったのか、考えが纏まって行く。

 少し離れたところでは、アレックス=ディノが相変わらず冷静な口調で議長に向かい、
つい先日オーブ国内で成功した超高高度迎撃試験について主観を交えず説明していた。

 曰く、試験に用いられた機体は新型機体ではなく、量産期を利用した只のカスタム機に過ぎない。
 曰く、改造に必要とした資源は物理的にも人的にも新型機を作る場合の十分の一以下だ。
 曰く、運用には高度な支援と大量の掩護を必要とし、個人の独断で迎撃が行われたり
オーブの軍本部に秘密で高高度迎撃を行う事は不可能である。

「ふむ、つまり可能な限り小さい出力の兵器を高高度で運用できるようにして、
射程の短い武器でも迎撃が可能な距離まで近づくことに目的を置いたと」
「はい、簡単に言えばそういうことになります」
14145:2007/01/03(水) 02:25:10 ID:???
 かなり技術的に専門性の高い話題にも、デュランダルは難なく付いていった。

「では例えば、突入しようとする機体に敵と味方が混じっているような場合、突入する
味方に危険は無いのかね? つまり、本来危険ではない構造体を攻撃してしまう可能性は?」
「はい、議長。それを防ぐために機体には高性能な観測機器が増設されております」

 オーブの行った実験に不備探すべくデュランダルは質問を連ねる。

「先日行われた訓練においては考えられる限り最大限の偽装を施しながら、
それを見分けて必要な標的のみを攻撃する事が可能だったという情報が入っております」

 アレックスもまた、あら探しに警戒して支障の無い様に言葉を選んだ。

「攻撃が許される状況において、誤射が起きる可能性は限りなくゼロ近いと言えます」

 自分が把握する情報はここまでです、と告げてアレックスは説明を終えた。
デュランダルがカガリに向き合い、無言で話し合いの再開を告げる。

「成る程興味深い話だった。アレックス君どうもありがとう。
――――閣下、貴国は技術というものに関して、そのあるべき姿をよくご存知だ」
「ええ議長。我が国は軍事力なるものを破壊力を指すものだとは考えておりませんから」

 カガリはかつての大戦で使用されたような、大量破壊兵器を暗に批判している。
核ミサイル、サイクロプスそして特にジェネシス、あれを壊すのには本当に苦労した。
危うく自分は核爆発に巻き込まれるところだった程だったが、そんな事は議長に関係ない。

「ですが、より大きな力を持ちたいと思った事は無いのですかな?
敵が攻めて来る事を諦めるほどの、強大な力があれば、と考えた事は?」
14245:2007/01/03(水) 02:26:09 ID:???
 カガリは思う。

 もっと強力な武力をオーブが行使できれば、国土を焼かれるような無様は無かった。
しかしあの武力侵攻があったからこそ、カガリは言い返す。

「いいえ、議長。私は、強すぎる力が争いを呼んだと考えているのです」

 そんなカガリを、デュランダルはなぜか羨むような目で見つめた。
或いはオーブの国力の小ささを得がたいものと考えているのかもしれない、
大きくなりすぎたプラントは、守るにも巨大な武力が必要なのだと。

 そしてデュランダルは言葉を返した。

「いいえ、姫。争いがあるからこそ、力が必要なのですよ」

 その直後、ガラス張りの天を震わすような音が響いた。
異常を察した側近たちの動きがあわただしくなり、幾人かが無線機で情報を得ようとするが
連絡は必要が無かった、その場の全員がそれを自分自身で目にすることが出来たからだ。

 ハンガーの一つを閉ざす巨大な扉が内側からの衝撃によって拉げ、巨大な手指が覗く。
閉ざされたシャッターを無理矢理開いたその巨人が、ハンガーの内部から身を乗り出した。

 ガイア、そしてカオス。侵入者によって奪われた新型機が始めての実戦を経験するため、
本来の友軍に向けて牙を向ける姿がそこにあった。


 その姿を見たある二人――アレックスとカガリは、現れたモビルスーツの頭部に
良く見知った意匠を発見し、異口同音に呟いた。

『あれは……ガンダム』
143通常の名無しさんの3倍:2007/01/03(水) 04:01:42 ID:???
職人、そして住人の方々、明けましておめでとうございます。
GJ!お疲れ様でした。
政治家として一枚殻の剥けたカガリとデュランダルの会談が良く書けていたと思います。しいて言えば、カガリの変節の理由が少し弱い様に思えました。カガリの心理描写の中でもっと説得力のある理由付けを欲しい所です。
もう一点、余計な事なのかもしれませんが、投下の区切りが必要だと思います。始めはしているのですが、終了が無いのでちょっと分かりにくいです。

それではこれからも頑張って下さい。
144 ◆hO5UpTpm0s :2007/01/04(木) 22:29:24 ID:???
GJ!おつかれ
カガリが相談することは別段恥ずかしがることではないような気がする

解っていても時間稼ぎやクロスチェックのために、わざわざ通訳何人も
同行するし、会議の席で大統領が当時の補佐官ダレスやキッシンジャー
に相談する場面もある。

後藤田正晴の”情と理”の中には、占領軍と英語がわかっていても米担当
と通訳交えながらワザと考える時間を作るために交渉して、最後の所だけ
自ら英語で詰め寄るエピソードもあるからテクニックの一つだと思う。

デスティニーは難しいけどガンバレo(≧ω≦)o〃
145通常の名無しさんの3倍:2007/01/05(金) 17:16:55 ID:???
舞乙HIMEか……
まあオーブから来たのがカガリとアレックスだけなのは本編でもおかしいとは、
感じていたが、そのクロスキャラは、まずくないかい。種キャラ霞むぞ。
146通常の名無しさんの3倍:2007/01/05(金) 17:27:06 ID:???
オリキャラの方がまだ安全と言う事も有り得る
結構メジャーな作品だし、そういうトコ妙に厳しいからな
新シャアは

次回いきなりローブ装着したシズルがカオスら3機と
戦い始めたら神認定されるかも知れんが
14745  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/05(金) 17:57:46 ID:???
1/10

「あれは……ガンダム」

 呆然と呟いたカガリの視線の向こうで、その巨大な影はゆっくりと姿を現しつつあった。
人間のサイズの十倍もある機械の手が、鋼鉄製のゲートを捻じ曲げながら開けてゆく。

 背後に巨大なポッド状の機動兵装を背負った人型兵器は、背後に狼狗を模した
モビルアーマーを従えて現れた。頭部のレーダー群を動かして周囲の敵機を走査する。
全身灰色の装甲に一点、マニュピレイターに装備された盾のみにヴァリアブルフェイズシフト
を起動させた、不意の攻撃に備えるようにコックピットを盾で覆う。

「アスハ代表!! 議長もこちらへ!!」

 自らの職務を最初に思い出したのはシズル=ヴィオーラであった。
カガリの肩を抱くようにハンガーへ走りながら、明瞭な声を響かせてデュランダル側の側近を促す。
自失の状態から回復した側近たちもより安全な位置を求めて、デュランダルを避難させる。
使命を全うした事が、側近たち自身の命を救った。

「あれはカオスとガイアではないか!! 何故こんなところに出ている、誰が乗っているのだ。
アビスはどうした!!」

 そう叫ぶ議長をよそに、ゲート際に立っていたガイアは議長たちにの方へ迫りつつ
棒状の物体を投擲した。赤く光る軌跡を残してビームサーベルが飛び、解放されていた
ハンガーのゲートから出てきつつあった爆装状態のジンに突き刺さる。

『危ない!!』

 複数の護衛官がそう叫び、盾となって爆風と飛散したジンの破片から彼らの代表を守った。

「有り難う、アレックス、シズルさん。議長!! あの機体は一体なんだ!!」
「今情報を集めています!! ええい、私は大丈夫だ。代表をシャッターまで案内しろ!!
ミネルバにも応援を頼め、下手をすればあの機体に我々が全滅させられるぞ」

 爆音を浴びて鼓膜の奧に疼痛を感じながら、カガリとデュランダルは言葉を交わした。
側近の一人がオーブの三人を先導して非常用シャッターまでの道を案内する。
148通常の名無しさんの3倍:2007/01/05(金) 18:49:17 ID:???
なんかトラブった?
通し番号書かれてるってことはこの後も続くんだよね?
14945  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/05(金) 19:06:42 ID:???
2/10

 工作のためにアーモリー・ワンに潜伏していたスティング達は、思うように情報を得られる
状態になかったために、国家の要人が自分たちのすぐ近くに居る事など知りもしなかった。

「ステラ、このまま"向こう側"まで突っ切りながら、ハンガーを潰して行く。
外壁を突き破らないといけないから、どこかで爆発物かビームライフルを奪い取れ!!」

 カオスの操縦席に収まるスティングは二本目のサーベルを投げさせつつそう叫んだ。
テスト用の低出力サーベルはジンが構える機銃の弾倉に上手く命中し、誘爆を起こす。

「モビルスーツを狙うんじゃない、ハンガーを崩せ、動かせなくすれば良いんだ」
「うん、私は右側をやる」

 ステラはガイアにモビルアーマー形態を取らせたまま、突撃した。
ガイアは四本の足で以って最大の機動力を発揮し、跳躍、ハンガーの屋根に飛び乗った。
高い視点から周囲を索敵、今しもハンガーから出てきつつあったゲイツを発見、再度跳躍。

「遅いのに、出てくるな!!」

 ガイアの重量を受けて崩壊するハンガーを後ろに、ライフルを構えたゲイツに踊りかかる。

 数十トンの機体を跳躍させる脚部関節の出力はねじ伏せたゲイツの手足を軽々と踏み潰す、
ステラは無力化したゲイツのパイロットは無視して次の標的に向かって加速する。

 警報が工廠中に鳴り響くまでの僅かな間に火薬庫を含む数棟のハンガーが崩落し、
十機以上のモビルスーツがパイロットを乗せないまま瓦礫の下敷きになった。
15045  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/05(金) 19:10:56 ID:???
3/10

 撃墜より無力化を試みたが、それでも機体に潜り込むことに成功したパイロットが次々と
起動に成功し、より破壊に手間取る事になった。

「くそ、ライフルが欲しいぜ」

 何か欲しいときにはいつも無いものねだりだ。スティングはつい先刻アウルと交わした
会話を思い出した。

「走馬灯にはまだ早いっての!!」

 スティングはカオスが背負う巨大な機動兵装ポッドになけなしの電力を分けると、
両方とも前方に向かって放出した。複眼的思考。カオス本体はジンから奪った突撃機銃を
構えて疾走。

「迷った奴から、落ちて行くんだよ!!」

 ハンガーの影からビームライフルを斉射するゲイツに向かって機銃で牽制を加えつつ、
更に敵側の背後からポッドに射撃を加えさせる。照準は腕と頭。機銃の弾幕に動きを
止められていたゲイツは反応も出来ずに喰らい、メインカメラを焼かれた。

「貰った!! 使わせてもらうぜ」

 推進力をほぼ使い果たしたポッドを背面のハードポイントに回収して、ジンの重突撃機銃を
全開で射撃しつつ接近する。コックピットに当たったかは定かではない、挌坐したゲイツから
ビームライフルをもぎ取りバッテリーを補給する。

「結構使ってやがる。――撃たせずに取るしかないか」

 そう独白するとライフルに一発分だけの電力を残し、次のゲイツに向き合った。再び
機銃による牽制から今度は強引に接近する。ビームライフルを放つゲイツ。

「無駄遣いするんじゃねえ、それは俺の非常食だ!! ――保ってくれよ!!」

 集中、思考分割。右腕の機銃を手放すと同時に盾で着弾地点を防御しつつ、左手に構えた
ビームライフルを一撃した。高速の荷電粒子を受けた巡航機動防盾がビームコーティングと
VPSの性能を発揮し、自身をを犠牲にしてカオス本体の損傷を防いだ。

 賭けに成功したスティングがほくそ笑みながら、撃破したゲイツのライフルを拾う。
VPSで消費した分よりかなり多目の電力を補給できた。此の分なら十分逃げ切れる。

「お前たちは俺の餌だ……幾らでも来い!!」

 自分自身を叱咤するために、スティングは普段叩かない大口でアウルの分も見得を切った。
15145  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/05(金) 19:17:34 ID:???
4/10

 シェルターまでの道のりを走りながら、アレックスは暴走するモビルスーツの動きを
観察していた。轟音が響き粉塵が舞い上がると、ハンガーの屋根の上に時折獣の如き
シルエットが見える。

「こちらに……近づいているのか?」

 心なしか崩落音が近づいてきた様に感じる。モビルスーツがプラントの大地を蹴る
振動と共に、重突撃機銃弾と高熱の荷電粒子ビームが空を裂く音が聞こえてくる。

 かつての戦場で親しんだその大音響に、アレックスは精神の深い部分が刺激されるのを
感じた。意識の奥底で沸騰しそうになる物を堪える。

「アスハ代表、早くこちらへ!!」

 案内役の制服組が走りながらカガリを先導した。アレックスとシズルがその左右を固めて
不測の事態に備えつつ駆ける。

「一体あのモビルスーツはなんなのだ? 地球連合の攻撃か?」
「自分には分かりません、アスハ代表はとにかくシェルターへ避難して下さい」

 砂時計型をのプラントは、両端にある大地の中央へ行くほど地盤が厚く丈夫に出来ている。
通常は大地の真ん中――上下大地を繋ぐシャフトの有る辺り、住宅地の近くに緊急用の
シェルターが備えられている。

「シェルターの規格は如何なんだ。あのモビルスーツの攻撃で崩壊しないんだろうな」
「AJ規格ですから、考えられる限りで安全です」

 シェルターの強度を問うアレックスの声に、切羽詰った印象の返答があった。

 AJ規格――After Junius規格。中に入れば核の直撃で無い限り耐えられるということだ。
15245  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/05(金) 19:48:45 ID:???
5/10

 カガリ達四人はプラントの中央を目指し、彼らは知らない事だが二体のモビルスーツは
そこを突破して反対側へ行こうとしている。人間は全力で走りモビルスーツは戦闘を行いながら
の移動であるとはいえ、コンパスの違いから追いつかれるのは必然の結果であった。

 間近でモビルスーツ同士の戦闘音が響き、振動がカガリ達の体を揺らした。
案内役はカガリ達を手で制止し、建物の影から様子を伺う。アレックスもそれに倣った。

「まずいな……ここを迂回するルートは無いのか?」
「相当大回りになりますが、地下を回り込むルートがあります」

 広いスペースで、戦闘を行うカオス、ガイアと複数のゲイツの姿があった。距離は直線にして
約150メートル。モビルスーツ戦闘の尺度で行けば眼と鼻の先である。

 そしてアレックスたちの前には、モビルスーツトレーラーが離合できるだけの幅が有る道路が
横たわっていて遮蔽物になりそうな物は殆ど無く、脆弱な人体をモビルスーツに晒す事になる。

「地下で崩落に巻き込まれては危険すぎる。ここを突破するしかないか」

 だが、どうやって? 道路の幅は約50メートル。戦闘によって足場が悪くなっている事を
鑑みても走破に7、8秒は見なくてはならない。長いと考えるか短いと考えるか。

「いざとなれば俺が囮になる。君はアスハ代表とシズルさんを避難させる事を優先させてくれ」

 一人がわざと目立つような行動を取り、反対側を走らせれば十分な時間だとアレックスは
考えた。

「は、しかし……見てください!! 味方の応援です!!」

 高度な連係をとるカオスとガイアにゲイツの部隊が押され気味だったところに、二体の
ザクが参戦した。白と赤の機体がいまだにフェイズシフトを張らない二機に接近戦を挑む。

 カオスがビームライフルを斉射、白いザクは見た目にそぐわない軽快な動作で射線を回避。
シールドの内部からビームの刃を持つ斧を取り出し、カオスと打ち合った。
15345  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/05(金) 19:50:42 ID:???
6/10

「よし、あの二体が引き付けられている内に道を渡るぞ。代表!! シズルさん!!」
「分かった」
「承知しましたわ。三つ数えていきましょ」

 カオスとガイアの両機がザクのコンビに向かい合った瞬間を狙って四人は走り始めた。
ここまでの人生で最も集中して走る短距離走だ。

 映画やアニメであれば最後尾の誰かが転んで助け起こされるシーンでは有るが、
立ち止まった途端にCIWSで薙ぎ払われるかも知れないこの状況では、
そんな"お約束"に殉じる覚悟の有るものは居なかった。

 案内役の男を戦闘に、シズルとカガリが並走しアレックスが最後に続く。
集中を乱さないために、余計な口を叩く物は居なかった。

 しかしここで一つだけ彼らの誤算があった。彼らに背を向けるカオスとガイアは確かに
攻撃しては来ない、だがその二機を狙うザクが攻撃を行う事は責められないだろう。

 白いザクが間合いを取るために戦斧を投げつける。ガイアは狼狗の形を取ったまま
四肢で跳ねて回避する。

「まずい!!」

 標的を逸れた巨大な戦斧は緩やかな弧を描いてハンガー――今しも四人がその影に
駆け込もうとしていた――の外壁を突き破った。

 火の入っているビームアックスは数千度から一万度を越すプラズマを斥力、引力場で
ビームとして固定し、刃としている。大質量の戦斧はハンガーの中に飛び込み、
内部の構造体を破壊し、熔解させ、沸騰させた。

 爆発。
15445  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/05(金) 19:58:22 ID:???
7/10

「カガリ!!」

 アレックスは全身のバネを活かして地を蹴りつけると、カガリとシズルの二人に
覆いかぶさる形で地面に押し倒した。地に伏せた三人の頭上を爆風と飛散物が
通過する。

 アレックスは、背中に灼熱を感じた。

「アス……アレックス!! 背中が!!」
「俺は良い、かすり傷だ。それより早くシェルターに……」

 何かの部品が高速で飛来し、アレックスの背中の肉を削っていた。心臓が一つ脈を打つ
毎に血液が流れ出し――動脈が傷付いている――ズボンまでをも赤く濡らした。

 被害を受けたのはアレックスだけではなかった。爆風をまともに受けた案内役の男は、
制服を朱に染めて倒れている。シズルが近寄って脈を確認した。まだ息が有る。

「アレックスはんはウチに任しとき、代表は早う建物の影へ!!」

 アレックスを支えようとするカガリからけが人を奪い取るように受け取ると、
シズルはカガリに向かって叫んだ。普段ははんなりとした雰囲気の声が、今は
強い口調でカガリに届き彼女の守るべき代表を走らせた。

 右肩にアレックス、左に意識を失った男を抱え、意外な膂力で確りとした足取りを
保ったままカガリの待つ路地へと入った。

「ああ、アレックス!! 大丈夫か?」

 そんなに切羽詰った表情をされちゃあ、苦しいなんて言えなくなるだろ、そう思いながら
アレックスは「大丈夫だ、心配するな」と答えた。額には脂汗が浮いている。

15545  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/05(金) 20:16:37 ID:???
8/10

 シズルはアレックスを放って置いて案内役の男の側にひざを付いた。介抱するためではなく、
シェルターまでの道を聞く為である。

「この……通りを、ま……直ぐです……右側に――」

 男は人生の最後にその職責を全うした。気管に入る血泡を吐き出す異様な音を交えて
たったそれだけを口にすると、大きく息を吐いて息絶える。

 シズルは男の手を胸の上で重ねると、血まみれの顔に手を遣りまぶたを閉ざした。
ふと、男の胸――名札に視線を送る。

「キール=マクグリーンはんか……一生覚えときますさかい」

 キール青年の遺体を少しでも安全だと思われるところに動かすと、シズルの整った鼻梁を
刺激臭が突いた。シズルが眉をひそめる。

「代表、ガスが発生しましたさかい、早よ逃げんと危険どす」

 シズルはアレックスの手を握るカガリに避難を促した。

 通常コロニーの中で使用される材料は非常時にも人体の害が無い様に選ばれているが、
軍用の物は実用上の問題からそうも言っていられない事が有る。特にモビルスーツに使われる
推進剤の中には、不完全燃焼を起こすと危険な種類もあった。

「だが……アレックスが」

 カガリは青い顔をして震えるアレックスの手を離せないでいた。

「カガリ、良いんだ。おれはこの怪我で走れない。シズルさんと一緒に行け」
「馬鹿!! お前を置いて――――!!」
15645  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/05(金) 20:24:04 ID:???
9/10

 カガリの戯言を乾いた破裂音が中断した。平手打ちを終えた姿勢のアレックスが
頬を叩かれたカガリを睨み、怒鳴りつける。

「ふざけるな!! 俺やシズルさんがここまで付いて来た理由を何だと思っている!!
俺は君を心中させる為に此処に居るんじゃあ……無い」

 カガリを打ち付ける事にすら難儀するアレックスの言葉を、唖然として聴いた。

「……シズル……」

 カガリが縋る様な目線をシズルに向けて息を呑む。見た事もないような冷徹な表情の
シズルが、カガリに強い視線を返した。

「せやな……この場になると、ウチらの命よりも代表の命の方が、何倍も重要どす」

 シズルは聞く者全ての心が凍りつくような声音で、比べる事の出来ない物を比べた。
その声が、視線が、言葉が、カガリの心を射抜く。

 アレックスはいざとなれば、シズルがカガリを気絶させてでもシェルターに避難
させる事を考えていた。そしてシズルはそれが出来る女だという事も知っていた。

15745  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/05(金) 20:29:33 ID:???
10/10

「ウチらの事に拘って、代表にこんなところで死んで貰うわけには、いかへんのどす」
「シズル!!」

 身を貫く恐怖にカガリの全身が震えた。心身に襲い来るであろう衝撃に身を構える。
たとえ当身を食らおうが梃子でも動かないつもりであった。

 ふと、シズルの気配が柔らかくなった。アレックスに移した視線はより悲壮な覚悟に
満ちていた。

「せやから、アレックスはんには死んでも動いてもらわなあきまへん」

 そして視線をアレックスから更に動かした。

「あと少しだけは死んでも働いて、ウチらのシェルターを動かしてもらわな、あきまへんな」
「……え?」

 シズルの視線をカガリとアレックスは追った。瓦礫、人が何とか通れるかといういうスペース。

 その向こうに、ハンガーの残骸に埋もれて挌坐したモビルスーツ"ザク"の姿があった。

 コックピットハッチが、誰かを待ち望むように開いている。

「モビルスーツの操縦、出来ましたやろ? アレックスはん」
158通常の名無しさんの3倍:2007/01/05(金) 20:47:09 ID:???
なんだろ、レイ・ブラッドベリの小説読んでるときみたいな気分になるな。
文体とかは全然違うんだけども。

とりあえず「!」は二つ以上つけないのが宜しいかと。
スレによるけどね。
159通常の名無しさんの3倍:2007/01/05(金) 20:55:05 ID:???
投下分書き終えてから投下した方がいいよ
投下中と投下後しばらくは他の職人が投下したくても出来ないし
普通のレスをしたい住人も待ってなきゃいけないし
160通常の名無しさんの3倍:2007/01/05(金) 20:57:07 ID:???
>>158
ブラッドベリというと、

「男の子はなぜ窓を大きく開けたがるの?」
「血が熱いからさ」

のアレ?
161通常の名無しさんの3倍:2007/01/06(土) 02:00:42 ID:???
ここって、他のスレに投下しようと思って書いてるけど、まだまだ全然未完成で、それでも試しに冒頭だけでも・・・ってSSでも投下してOKなのかな?
ほんの少しだけ、プロローグを投下して、駄目なところとかを聞きたいと思うんだけど
まぁ、完成はまだ数ヶ月後になるだろうけどさ(´・ω・`)
162通常の名無しさんの3倍:2007/01/06(土) 02:04:42 ID:???
いや、このスレはどんなものでも投下はOKだろ。住人も好意的に批評しているし。
163テスト  ◆R8CEI1Se6U :2007/01/06(土) 02:33:48 ID:???
おお、ありがたい
練習として活用させてもらうのはちと申し訳なくてありがたいが、投下させてもらうよ
投下しようと思ってるSSのプロローグの、初期段階って感じだ
164PHASE-00 コスモス・カラー ◆R8CEI1Se6U :2007/01/06(土) 02:38:02 ID:???


 「―――ッ!? そういう事を言うからぁーッ!」
 少女の叫びと共に、放たれた銃弾がモビルスーツへと吸い込まれていく……。やがてそのモビルスーツは力尽きたように四散し、太陽の方角へと、漂っていった。
 少女の名は、クェス・パラヤ―――地球連邦軍参謀次官の娘で、天真爛漫で感受性が強く、我侭な、それでいて、どこにでもいるような少女だった。
 父と母が不仲で、それを何とかするために、明るく振舞うような幼い日々もあった。しかし両親は別れた。
 なぜ人はわかりあうことができないのだろう。なぜ人は、理解しあうことができないのだろう……。
 彼女はそれが嫌で、家出をした。全てを知ることのできる、お互いを理解しあうことのできる存在―――『ニュータイプ』になることを夢見て……。
 そして、彼女はある人物に興味を持った。過去の大戦で生き抜いた伝説の英雄、アムロ・レイ―――人々からニュータイプと言われ、あるいは恐れられてきたエースパイロット。
 だが、その男のかたわらには女がいた。―――ベルトーチカ・イルマ、その存在がクェスには鬱陶しく見え、彼女はまた家出をした―――そう、ネオ・ジオンに……。
 「―――あんなこと言うから……」
 少女は震える体を無理やり抑えようとする。だが震えは止まらない。友達を、殺してしまったという思いが彼女の心を支配する。どうしてこんなことになってしまったのだろう。自分はただ、素直にありたかっただけなのに……。どこで道を踏み外してしまったのだろう。
後悔の念が彼女を支配する。
 「あたしが悪いんじゃない……」
 ―――ハサウェイ・ノア。出会ったばかりの少年。それでも、自分と共にいてくれた優しい少年。彼の咄嗟の言葉で―――自分を抑えきれずに……。
 クェスを救うべくモビルスーツジェガン≠駆り、やってきた彼を、アルパ・アジール≠フ頭部バルカンが、撃ち抜いてしまったのだ。
 それはまるで、自分を檻の中に閉じ込めるかのように巨大で冷たいクリーム色のマシン。
 少女は唇を噛み締めながら、弱々しくつぶやいた。
 「……みんな……嫌いだ……」
 悲しみと絶望がクェスの心を支配する。少女の前に広がる冷たい漆黒の宇宙は、まるで自分の死を招くかのように広がっている。彼女の頼れるものなど、何も無かった。


 「―――これは!?」
 そこから少しばかり離れた戦場で、男が少年の危機を感知した。どうやって感知したのかなどわからない。ただ、知る事ができたのだ。白いパイロットスーツに身を包んだ青年の名は、アムロ・レイ。
 彼は震えるように拳を硬く握りしめ、悔しそうに視線をそらす。
 「馬鹿なことを!」
 サイコ・フレームに包まれたコックピット内のアムロの思念が形となり、νガンダム≠ェ反応する。
 そして彼は泣きそうになる少女の意識を辿り、その場所を目指した。
165PHASE-00 コスモス・カラー ◆R8CEI1Se6U :2007/01/06(土) 02:39:32 ID:???
 六枚の細長い板状の物体―――放熱板とも、見方によればマントとも取れるそれを背に装着した白いモビルスーツが、宇宙にぽつりと浮かぶ巨大な物体を捉えた。
 アムロは一瞬、激昂した。 
 「クェス! 一体何をしたんだ!」
 言ってから、彼はふと、少女と出会った時のことを思い出す。―――そう、彼女は優しい子だったはずだ。では、何故……? その問いに、彼は答えることができた。
 彼女は……幼いのだ。 
 アムロは強く目を瞑り、目の前にいる少女に優しく声をかけた。
 「友達だったんだろう……?」
 目の前に浮かぶアルパ・アジール≠フ身体がびくりと震えた。
 「友達なんかじゃない!」
 通信機など介していない。クェスの心が言葉となって、アムロの心に響いてくるのだ。
 「彼の気持ちを思ったことがあるのか!」
 これが、アムロには許せない。ハサウェイはクェスに惚れていたのだろう、愛していたのだろう。それを知っているアムロだからこそ、許せなかった。


 「あたしの邪魔ばっかりして!」
 そして、それはクェスにとっても同じことだった。導いてくれると思ったのに、憧れていたのに、どうして自分を見てくれなかったのか……。何故、今になってここに現れて……。
 叱るような声が、宇宙を飛んで聞こえてくる。
 「なぜ理解しようとしない……。なぜ素直になれないんだ!」
 彼の言葉に、クェスはカッと目を見開く。
 ―――理解しようとしない……? あたしは知ろうとしたのに! 気持ちも伝えようとしたのに……いきなりあんな事を言うから……! やるつもりなんかなかった!
 「あなたに何がわかるって言うの!?」
 そうだ、アムロは何もわかってくれていない。自分の気持ちも、こんなことになってしまった理由も―――。いつもいつも、上からものを見て、自分の気持ちなんてわかってくれない……!
 「そんな、いつも偉そうな事ばっかりー!」
 激昂したクェスの叫びに呼応するかのように、アルパ・アジール≠フ口にあたる部分からメガ粒子砲が火を噴いた。 彼女の思念に操られ、太い光が尾を引いてνガンダム≠襲う。
 「クェス、よさないか!」
 だが、νガンダム≠ヘそれを易々とかわし、背中のマントを翻す―――否、その物体は六つに割れ、コの字のように折れ曲がってアルパ・アジール≠ノ迫る。
 フィン・ファンネル=\――νガンダム≠ノ搭載された、無線誘導型の小型レーザ砲。 それらが一斉にクリーム色の巨大なモビルアーマーに襲い掛かってきた。
 クェスはすぐさま反応して、アルパ・アジール≠ノ搭載された、だ円状のファンネル≠宇宙に放つ。
 「落ちろ……落ちろぉー!」
 クェスの心からダイレクトにイメージを受信し、ファンネル≠ェ凄まじい速さで漆黒の宇宙を舞う。そして、ビームが放たれた。
 しかし、νガンダム≠ヘ碌な回避運動も取らずに、慣性移動に身を任せるようにして、ゆらりと漂いながらビームの雨の隙間を縫うように回避してしまう。
 そのままゆったりと漂いながら、一つずつ、宇宙を舞うファンネル≠撃ち落していく。
 その様子にクェスは唇を噛み締めた。こんな戦い方をしてみせるアムロが許せないのだ。こんなに強いのに、自分を見てくれないことが……。
 そして、νガンダム≠ゥら放たれたフィン・ファンネル≠ノも、攻撃の意思が無いように見えるのも、許せない。
 やがて、アムロの意識が、νガンダム≠フコックピット内に組み込まれたサイコ・フレームを介しフィン・ファンネル≠ノ伝達され、凄まじい速さでアルパ・アジール≠包囲する。
 ―――やられてしまう……!
 クェスは唇を噛み締めた。だが、アルパ・アジール≠包囲したフィン・ファンネル≠ヘ攻撃をすることなく、瞬間、動きを止めた。
 一瞬のち、一斉に淡い色をしたビームの膜が張られ、アルパ・アジール≠四方から包み込むように、ピラミッド状のバリアーを作り上げてしまう。
 アルパ・アジール≠ェ必死にピラミッドの檻の中で抵抗をする。 そしてファンネル≠ェ、それにビームを放ち、あるものは体当たりを仕掛けるが、膜に弾かれて身動きが取れない。
 そんなアムロの行為は、クェスにとって傲慢なものに感じられた。 子ども扱いされている……! と。
 「……こんなの、嫌いだー!」
 正面の膜を睨みつけ、クェスは指の部分にあたるメガ粒子砲を放つ。だが、それは光の膜に遮られ目の前で四散し、激しい光を放つ。その衝撃と光に、少女は悲鳴を上げた。
166PHASE-00 コスモス・カラー ◆R8CEI1Se6U :2007/01/06(土) 02:40:25 ID:???
 無様にも、自分でした行為でダメージを負ったアルパ・アジール≠フ姿は、アムロには悲しくてたまらなかった。
 「そんな攻撃では!―――そんな道具の使い方では、間違って人を殺すのも当たり前だ!」
 そう、かつて自分がそうだったように。―――あの時、あの瞬間。出会えた少女を殺してしまった時のように……。
 「それでは……家族だって殺してしまう!」
 「あたしはそんな馬鹿じゃない!」
 少女の怒りが、伝わってきた。それは悲しい叫びであった。クェスは知らないのだろう……、自分が既に、父を殺してしまっている事を―――。
 「こんなものぉ!」
 クェスの体から力が溢れ、それがアルパ・アジール≠介し、波動となって宇宙を駆ける。その押しつぶされるような圧迫感に、アムロは歯を食いしばった。
 「―――クッ……何と力のある娘だ!?」
 それは力強くも、若すぎた力だった。だからこそ、少女は少年の気持ちを受け入れられずに―――。そのとき、ふいに言葉が走った。
 ―――ああ、クェス。 怒るんじゃないよ―――
 アムロははっと顔をあげ、周囲を見回した。
 「―――ハサウェイ!?」
 死んだと思っていた少年のイメージがアムロの脳裏に飛び込み、それを形作る。少年は、瀕死のように見えた。
 「クェス、感じないのか。 ハサウェイは死んでいない!」
 「ウソばっかりっ!」
 クェスから聞こえてくる声は、涙声のように聞こえた。アムロは一度目をつむってから、優しく接するように努める。
 「そういうクェスだから、ますます苦しい思いをする……。 クェスに助けを求めているのがわからないのか!」


 宇宙を走ってきたアムロの言葉に、クェスは一瞬はっとする。―――ハサウェイが……あたしに助けを求めている? そう思った瞬間であった。
 ―――怒っちゃいけないよ、クェス。 それじゃあ可愛い顔が台無しだよ―――
 一瞬にして、傷ついたハサウェイのイメージがクェスの脳裏に響き渡る。そして少し引いた位置に、傷つき力を失ったジェガン≠ェ、ゆっくりと太陽に流れていくイメージが見えた。
 「……ハサウェイ?」
 そう言った彼女の声は、期待と嬉しさと、不安に満ちたものだった。彼女を諭すように、アムロが続ける。
 「そうだ。太陽の方向だ」
 太陽―――。じっと目を凝らして見つめるが、彼を見つけることができない……。―――遠い。クェスはそう感じた。それでも、彼女はどこか期待を込めた声でアムロに尋ねる。
 「間に合うかな?」
 「アルパ・アジール≠フパワーを使えば、助ける事もできる」
 アルパ・アジール=\――それは自分を包み込む巨大な檻。だが、先ほどまでは戦場の狂気と化していたモビルアーマーが、今では頼もしく、優しい巨人のように感じることができた。
 「―――あとは、クェスがそれをどう使うかだよ」
 尚も優しい言葉に、クェスはνガンダム≠見やる。その姿は、まるで、「帰っておいで」、と家出した娘を優しく迎える父のようであった。
 彼女は顔を上げ、太陽を見つめる。
 「待ってて、今行くから!」
 アルパ・アジール≠操るクェスの意識が宇宙を駆けた。その淡い光は素晴らしく美しい。
 ―――どこにいるの、ハサウェイ……!
 少女から発せられた美しい光が無数の粒となり、太陽に向かって伸びていく。その向こうで、光るものがある。
 「―――見つけた!」
 クェスはぱっと表情を明るくし、子供のように喜んだ。少女に寄り添うように漂うνガンダム≠ヘどこまでも優しい。
 「そうだよクェス。 後は君の気持ちを繋げばいいんだ」
 いつのまにか、少女を支配していた暗い感情は消えうせていた。少しばかりの照れを隠すように、クェスは言った。
「後ろから撃つなら撃ってもいいよアムロ」
 そしてクェスは、アルパ・アジール≠フ武装を着脱させ、すっと前を見据える。
 目の前に広がる宇宙は、どこまでも蒼く、優しく、命の光を称えてくれているかのように感じられた。
167PHASE-00 コスモス・カラー ◆R8CEI1Se6U :2007/01/06(土) 02:41:09 ID:???


 敵を撃ち滅ぼすために搭載された様々な武器が、鎧が、一斉に分離する。そしてアルパ・アジール≠ヘ頭部のみを残した姿となった。呪縛から解き放たれた瞬間である。
 頭部のみとなったその姿は頼りなさよりも、少女を祝福してくれるかのような優しい力を、強く発しているように見えた。
 ロケットブースターを吹かせ、太陽へと向かうクェスの声が、聞こえてきる。
「―――信じてみる」
 彼女は確かにそう言った。アムロはもう一度深く目を瞑り、息をつく。そのままの優しい瞳で、彼は太陽を見つめる。
 既にアルパ・アジール≠フ姿は見えなくなるほど遠くに行っていた。
 「ハサウェイ、ちゃんと迎えてやるんだぞ」
 この言葉は、もう届いていないだろう。それでも、アムロは優しく言った。
 そのままシートに深く座りなおし、宙を仰ぎ見る。
 ―――愛しているという心は……愛しているという心は……。
 アムロは……寂しいのだ。
 だが、すぐに彼はキッと地球を見据えた。そう、まだ戦いは終わっていない。大人として子を導く優しい時間は過ぎ去り、戦士として決着をつける瞬間が迫っているのだ。
 もうνガンダム≠ヘ振り向くことなく、地球に迫ろうとする巨大な隕石―――アクシズ≠目指す。 その奥に、暗い闇に取り付かれ、血の様に赤い翼を羽ばたかせる、鳥の姿をしたモビルスーツの存在を感じる。
 ―――その血塗られた獣の喉が、低く唸った気がした。
168PHASE-00 コスモス・カラー ◆R8CEI1Se6U :2007/01/06(土) 02:42:20 ID:???


PHASE-00 コスモス・カラー

169PHASE-00 コスモス・カラー ◆R8CEI1Se6U :2007/01/06(土) 02:44:18 ID:???


 ラー・カイラム≠フ戦闘ブリッジでは、クルーは、なす術もなくその輝くアクシズの前進を見つめていた。と、その時―――。
 「……ウッ……!」という嘔吐のような声が、艦橋内に響いた。 艦長のブライト・ノアが驚いてそちらを見やる。
 「ベルトーチカ……!?」
 ベルトーチカと呼ばれた金髪の女性が、ノーマルスーツの中の金髪を揺らしながらたどたどしい足取りでアクシズ≠フ映るモニターに近づいてくる。
 「アムロは……?」
 そうつぶやいた瞬間、彼女の体から蒼いオーロラのような光が溢れ出る。ブライトたちが驚愕して身を引いたが、ベルトーチカはそれに気づいた様子も見せずに、必死にモニターを食い入るように見つめている。
 やがてベルトーチカは、目を見張った。地球とアクシズ≠フ間に伸びた蒼い光の帯にそって、アクシズ≠フ巨大な破片が、ゆったりと滑っていくのを目にしたからだろう。
 しかも、後方の岩の先端からは―――νガンダム≠フ、アムロのいるところだ―――そこから発せられる力強い光が宇宙に舞うように広がっている。
 「アムロォ……!」
 突然の援軍、突然発した謎の光に唖然としていたブライトは、ベルトーチカの涙の入り混じった声にはっとして戦友のことを思い出し、キャプテンシートを勢い良く立ち上がりながら怒鳴り声をあげた。
 「ガンダム≠ノ、アムロに伝えろっ! 離脱しろとっ!」
 「無理です! オーバーロード・ウェーブで、無線はブラックアウトしていますっ!」
 誰もが、目の前で起こっている事態を把握できていないのだ。モビルスーツが正体不明の光を発っしているなど、どうして知ることができようか? ブライトは古くからの友の死を悟り、呆然と立ち尽くした。


 「ア、アクシズが、進路を変えました!」
 艦橋内に、喚声が響く。それとほぼ同時だった。ベルトーチカの手に握られたサイコ・フレームが、目も眩むほどの光を発したのは。
 「……命があるからこそ、光が発する……」
 彼女が涙に濡れた顔でつぶやいた。蒼く美しい光の粒が、津波のようになってベルトーチカの握るサイコ・フレームから溢れ、それがアクシズ≠ノ向かって伸びる。ベルトーチカは、その光のひとつひとつが生命なのではないかと思いついていた。
 そして光の中、彼女はお腹の子が、泣いているように感じていた。パパを助けて、と泣き叫んでいる。だが、それは適わぬことなのだろう。人間にそこまでの力は―――。
 そう思った矢先である。サイコ・フレームが更に震動を強め、ラー・カイラム≠フ艦橋からすり抜けるようにして宇宙に飛び出していったのは……。このような現象がどうやって起こったのかなど、わかるものはいない。
 その金属片は、アクシズ≠ヨ繋がれた淡い光のレールを滑るように、引き寄せられていった。


 「……クェス?」
 ハサウェイは、傷ついた体を起こし、隣で呆然と座り込んでいるクェスに声をかけた。だが彼女は答えない。やがて、彼女は震える声でつぶやいた。
 「アムロが……消えちゃうよ! アムロがぁ……っ!」
 クェスの言っている意味がわからず、ハサウェイは彼女を優しく抱きしめながら聞いた。
 「アムロさんが……消えるって……?」
 「アムロはあたしのお父さんになってくれるかもしれなかったのにぃっ!」
 泣きじゃくりながら叫ぶクェスの言葉に、ハサウェイは顔をあげた。ひょっとして、この子は父親を欲しがっていたのだろうか?
 いや、なにも父親でなくても良いのだ。それが安心を与えてくれる人物ならば―――彼女は誰でも良かったのかもしれない。寂しい子なのだろう。
 彼は拳を握りしめてから、一度だけキッとアクシズ≠睨みつけてけ、やがて優しく少女を抱き寄せた。
 「僕、頑張るからさ……」
 泣いたままの表情で、クェスは「え?」と顔をあげる。 彼はクェスをそのまま抱き寄せ、こつんとパイロットスーツのヘルメットを押し付けるようにして、優しく語りかけた。
 「アムロさんに負けないように……頑張るから……。だから―――」
 地球を包み込むように広がるオーロラをバックにして、子供の二人が力強く抱き合っている。
 救助はいつ来てくれるのかわからない。だが、それでもハサウェイは、この寒い宇宙でぽつりと浮かんでいるこの状況を、寂しいものだとは思わなかった。
 ―――強くなろう。そう心に決めた瞬間であった。
170PHASE-00 コスモス・カラー ◆R8CEI1Se6U :2007/01/06(土) 02:46:03 ID:???


 νガンダム≠中心にした蒼い光に、地球から発した光が、吸い込まれていく。
 その数は、知れない。地球の各地から発した光が、線から帯、帯から膜になり、時に低く、時には高く地球を取り巻くようにして、νガンダム≠ノ集中するように見えた。
 それは、あたかもアクシズ≠フ巨大な岩に、行くべき道を示すようであった。
 「ああ……な、なんだっ!? ぼくは、世界を見ているのか……!?」
 コックピットの激震にもまれながら、灼熱のコックピットで、アムロは、ボロボロと涙を流しながら、うめいた。ふと、シャアが低い声を荒げた。
 <―――そうか。しかしこの暖かさを持った人間が地球さえ破壊するんだ! それをわかるんだよアムロ!>
 「わかってるよ! だから、世界に人の心の光を見せなけりゃならないんだろう!?」
 アムロはまだ、信じているのだ。地球連邦≠ナ改革が起きる事を。そして、世界が変わることを―――信じているのだ。
 しばらくの沈黙ののち、深い息をつくような音がしてから、シャアが低い声でうめく。
 <……クェスは、どうした?>
 「帰ってきたさ! あんな純粋な娘を、貴様はマシーンのように扱って!」
 カッとアムロが激昂した。彼にとって、あのような敏感な少女に人殺しをさせることは、許しがたい行為なのだから。
 <ハッハッハッハッ! そうか、ではあの時の二の舞にはならなかったというわけだな!? ええッ!?>
 通信越しから、嘲るような笑い声が聞こえてきた。
 「あの時って―――!」
 あの時―――そう、十四年前……全てが狂いだしたあの瞬間。アムロは言葉につまり、唇を噛み締める。 
 「だ、だが……! あれは俺にとっても―――」
 <ああそうだろうな、あれはお互い様だろう! だがな、それでも……わたしにとっては、あれが全てだったのだ……ッ!>
 シャアの悲痛な叫びに、彼は全身を震わせた。この男は、それほどにあの少女―――ララァ・スンのことを……。アムロの脳裏に、あの時のことが蘇えってくる……。
 その悲しみに追い討ちをかけるようにシャアが続けた。
 <お前は何時だってそうだ! 全てを知った風な口で語り、常にわたしの先を行く!>
 「何を言っている!?」
 アムロには、シャアが泣いているように感じられた。
171PHASE-00 コスモス・カラー ◆R8CEI1Se6U :2007/01/06(土) 02:47:16 ID:???
 <―――そうか。クェスは私に父親を求めていたのか……! だから私はそれを迷惑に感じて、彼女を戦闘マシーンに仕立てたんだな! ―――だが、貴様はそれをやって見せたっ。聞こえるかアムロ!>
 アムロは彼の怒りを交えたような声に、必死に耳を傾けていた。通信から聞こえてくる言葉の一つ一つが胸に突き刺さるようだ。
 <……わたしは、お前と互角に戦いたかっただけだ。そのために、わたしの開発したサイコ・フレームの技術を提供した……!>
 「貴様が!? 馬鹿にしてっ! そうやって貴様は永遠に他人を見下すことしかしないんだ!」
 激震するコックピットの中は、既に真っ赤だった。
 <ララァ・スンは私の母になってくれるかもしれなかった女性だ!>
 彼の悲痛な叫びに、アムロは身を引かせる。呆然とし、彼はつぶやいた。
 「お母さん……? ララァが……」
 シャアのコックピット内は、自分のそれよりも更に辛い状況だろう。だが、彼の怒りに満ちたような叫びが途絶える事は無かった。
 <ザビ家への復讐を捨てて、戦いも、憎しみも、何もかも忘れて! 地球のどこかで二人だけの生活を営もうかと考えたこともあった!>
 アムロの目に、また涙が溢れてきた。過去の大戦―――一年戦争℃梠繧ゥらの宿敵であるあの男が、こうまで考えている事を、この直前まで彼は知ることができなかったのだ。
 <―――そのララァを殺したお前に……言えた事か!>
 それが、聞こえてきた最後の言葉だった。
 シャアの乗っていたコックピットは炎に包まれ、彼の燃えゆく身体がサイコ・フレームを介してアムロの脳裏にイメージとなってはっきりと浮かび上がる。
 「―――シャアッ!」
 言葉は、返ってこなかった。
 アムロはシートに深く座り込み、もう一度―――あの時のように涙をこぼした。
 「俺は本当に―――本当に取り返しのつかない事をしてしまった……」
 溢れ出る涙が彼の頬を伝う。やがて、燃え行くνガンダム≠フ手元に見える赤いコックピットに―――シャアが、つい先ほどまでそこにいたコックピットに、周囲の景色には似つかない、白く美しい白鳥がそっと近いていく。
 やがてそのイメージは女性の姿へと変わり、爆炎をあげるコックピットを優しく抱きしめた。
 「ラ……ラァ……?」
 あの時自分が殺してしまった少女が。ララァがシャアを迎えに来たのだ。アムロにはそれがとても悲し存在に見えてしまう。
「待ってくれララァ! 俺は……。 ―――シャア! 俺たちはまだ何もしちゃいないんだぞ! それを、こんなところで……!」
 震える声で叫んだが、その声は届かない。淡い光の中のララァは、悲しそうに、それでいて愛おしそうに、光に包まれたシャアのイメージを優しく抱きしめる。ふとララァがこちらを見て微笑んだ。彼女は優しい笑みを浮かべたまま、アムロに手を伸ばす。と、その時―――。
 『―――小石=c…は』
 『駄目だよ、パパぁ!』
 同時に二つの声が聞こえてきた。低く唸るような、人とは思えない何者かの声と、先ほど聞こえた我が子の声だった。
 ふと、モニターの中に、ちらりと動く影が見えた。それは、再び起動を始め、今まさに羽ばたかんとするナイチンゲール≠セった。赤く力強い飛翔をせんとするモビルスーツのモノアイが、アムロじっと見つめている。
 ―――いったい、何が起こっている……。 俺は……。
 そこから先は、言葉にも、思考にもならなかった。
 目の前のララァが、驚いた表情で何かを叫んでいる。だが、聞こえない。そこに、先ほどいたシャアの魂は見えなかった。
 アムロは力の限りを尽くして叫ぼうとする。だが、喋れない……。
 ついに、νガンダム≠フコックピット内にも炎が走った。それに呼応するかの用に、ナイチンゲール≠ェ力強く羽ばたき、宇宙を舞う。
 アムロは薄れゆく意識の中、必死に手を伸ばすララァの姿を捉えながら、彼もまた、手を伸ばそうとした。だが、届かない。
 νガンダム≠ヘ眩い閃光に包まれ、コックピットもその光に包まれる。そしてその光にナイチンゲール≠ェνガンダム≠フ後を追うように、飛び込んだ。
 アムロに確認できたのは、そこまでだった。彼は最後の直前に、妻と子に思いを馳せる。死に行くように目を閉じていく彼の口元は、確かに「……ベル……トーチカ」と言ったように見えた。
 もう……ナイチンゲール≠フさえずりは、聞こえなかった。


つづく
172 ◆R8CEI1Se6U :2007/01/06(土) 02:49:07 ID:???
行が長すぎますって言われたのが正直残念でしたの
とりあえず・・・種出てませんね
ほ、ほら、プロローグだし・・・プロ・・・プ・・・・アッー!

勝手な解釈しまくりだけど、許しておくれ
(´・ω・`)ノシ
173 ◆R8CEI1Se6U :2007/01/06(土) 02:57:36 ID:???
一応私の書こうとしてるSS全体のテーマ曲として
ttp://vegetated.o0o0.jp/pochi/src/nana26784.zip.html
パス:アムロ
を使用してます
これ聞きながら書いてる感じです、大体は

それでは、今度こそおやすみなさい
174 ◆R8CEI1Se6U :2007/01/06(土) 02:58:53 ID:???
うおお、赤ちゃんに怒られた
ここの
ttp://kasamatusan.sakura.ne.jp/
7MBの
nana26784.zip
です
今度こそ、今度こそおやすみなさい
175通常の名無しさんの3倍:2007/01/06(土) 03:09:26 ID:???
イボルブとベルチルの融合ですね?とりあえずGJ!読み応えありました。
CEに来るのはやっぱアムロ?続き期待してます。
176通常の名無しさんの3倍:2007/01/06(土) 03:34:50 ID:???
GJ!お疲れ様でした。
私見を述べさせて貰いますと、文章のレベルは高いと思うのですが、無駄なスペースの多用が目につきました。
 それと、句読点の使い方が良くも悪くも非常に富野的な感じを受けました。あくまでこれは個人の嗜好も関わってくる問題でもありますので、自分のスタイルを構築して下さい。
これからも頑張って下さい。
177通常の名無しさんの3倍:2007/01/06(土) 15:12:45 ID:???
最適な改行位置を見つけたら俺はあんたのファンになるぜ
178通常の名無しさんの3倍:2007/01/06(土) 15:42:56 ID:???
ああ、改行にさえ気を使ってくれたらバッチリなかんじ
文の富野っぽさは俺的には好きな所だ
179機動戦史ガンダムSEED 03話 1/6:2007/01/06(土) 18:41:24 ID:???

 俺は、懐かしい彼女の言葉に耳を疑った。
自分が代表府を去って5年、その間に実戦からも遠退いているのだ。
 
 とにかく何か彼女と話さなければならない。だが気の利いた言葉の一つも思いつかずに、

 「……お久しぶりですな……代表」

 と、無難な言葉しか出なかったのだ。
俺は自分の文才の無さに呆れてしまった。

 「何年ぶりなるのかしら?」
 
 そんな俺の心情を知ってか知らずか、彼女は、明るく朗らかな口調で答えた。
別れたあの時のままであった。何一つ変わりはしない。

 「5年ですよ……私が代表府を去ってから」

 去った年月を噛み締めながら俺は答える。
 
 あれから5年の歳月が流れ、オーブは安定した政権と共に、
順調な発展と国際社会の中で着々と地位を築きつつあった。
 
 俺などがいなくても、何とかなるのはこの五年の発展を見ている限り間違いは無い。
正直、草葉の陰で祈ってるのが、俺に残された人生の最後の瞬間までの義務だと考えていた。

 だが…… 
180機動戦史ガンダムSEED 03話 2/6:2007/01/06(土) 18:42:20 ID:???

 「――話は聞いての通りよサイ。状況はシビアなの」

 「……でしょうな」

 俺は頷く。前回の大きな戦いから丸10年。
その間に俺を含めて、実戦経験が豊富な指揮官の殆どは戦死か退役をしている。
だが、『鋼のミナ様』を始め、まだそれなりの人材は揃っている筈なのだが。

 「――今、『オーブ軍』は貴方を必要としている」
 
 「ロートルですよ俺は……大体、迎撃の軍の指揮ならば俺以外にも適任者はいるでしょう?」

 アスハ代表はロンド・ミナをチラリと一瞥すると、 

 「――確かに、今の『オーブ』にも貴方以上の実戦指揮官はいるけれど……それ以上のモノを求められる人材がどれ程いるのか……」

 俺は器用に眉を顰める。
――実戦現場指揮の判断と共に政治的駆け引きができる人材が必要。

 彼女は俺にそれを求めているというのか?
 俺は大きく溜息を吐いた。

 ――こういう時に、俺は自分が人より多くのモノを見えすぎることがときたま疎ましくなる。
……見え過ぎるてのは、幸福な人生を送る上では不必要なのものになるのだろうな。

 「貴方に――『ラクス軍』迎撃の最高司令官として赴任して欲しいの」

 代表の真剣実の帯びた言葉が俺の耳を貫く。
俺を『ラクシズ』――失礼、『ラクス軍』迎撃部隊の最高指揮官にすると?

 ――ご冗談でしょう?
181機動戦史ガンダムSEED 03話 3/6:2007/01/06(土) 18:44:27 ID:???

 因みに『ラクシズ』とは、世間一般に対して口にする『プラント軍』の蔑称であり、
完全に『ラクス・クライン』の私兵集団となった『ザフト軍』のことである。
 
 今、世間での『プラント』は『ラクス教』とも言うべき『ラクス・クライン』を教祖とする
新興宗教によって支配されている国家だと認識されているのだ。

 誰もが、『ラクス』の言葉をまともに疑う事も無く、命令通りに動くロボットや奴隷のような市民で構成された『宇宙都市国家』。
――それが今の『プラント』だ。

 そう、だが10数年前のオーブにも『中立理想』という痴人の妄想とでも言うべき『ウズミ教』がオーブ全体を蔓延しており、
馬鹿馬鹿しい雰囲気に包まれていたのだが……現在は一掃されている。
 
 だが、その弊害を無くす為に大きな犠牲も出たし、その為に俺はオーブ政府から叩き出されたとも言っておく。
あまり大きな声ではいえない事だ。

――過去は過去、未来は未来。

 今の『オーブ』がそのような過去の『妄想』とも言うべき弊害に囚われる必要はあるまいよ。

 俺はともかくとして、アスハ代表は『希望』という名の道をオーブの国民に常に未来を指し示して進んで欲しいのだ。

 ――ともかく、俺は『ラクス軍』侵攻とも言うべきこの件に関しては、
ノータッチでいたいというのが本音なのだ。
何とか回避しようと試みるつもり……だが、無駄ぽいな。
 
 代表に本気でちと悪いと思うのだがね。

 「――俺をからかう冗談としては、大層大掛かりな仕掛けですよ……代表」

 遂、愚痴に近い言葉が漏れてしまう。
俺もヤキが回ったかな?だが、代表も俺の真意を理解して頂けるはずだ。
 
 今の俺はもう過去の人間。
今更、ドロップアウトした人間を政府や軍の重職に付けるのは筋違いであり、更なる悪しき前例を残す事になりかねない。

 アスハ代表の最大の汚点として残る『身内優先人事』という過去のように。
 
182機動戦史ガンダムSEED 03話 4/6:2007/01/06(土) 18:50:09 ID:???

 そして、汚点は権力を握った時点でもみ消す事が可能である。全ての責任を他に押し付け永久に消し去る。
上に立つ人間は常にクリーンでなければならない。
 
 世間の非難を一身に浴びるのはその側近の役目となる。
自分の生命、名誉、財産、全てを失い、世間からの怨嗟に塗れ、罵倒されても遂行し、やらねばならない事があるのだ。

 現在、その『身内優先人事』の弊害の全ての責任は彼女の『実弟』が勝手にやった事として処理されている。
無論、アスハ代表は何も知らないうちにだ。

――全ての処理は、俺がやったのだ。汚いだろう?

 だが、泥を被るのはそういうものだ。地位というのはそれに伴う責任が付いて回る。
『奴』は、その事にまるで気が付かずに権利ばかりを主張したのだから俺としては当然の結果だと思う。

 ――泥を被るのは俺達のような人間だけでいい。代表は表の王道を歩けばいい。

 脳裏に浮かぶ様々な事柄を考えていると、
そこにアスハ代表の辛辣な言葉が俺を襲う。

 「――冗談ではないわ。現実の状況はもっとシビアよ」

 代表は真剣な眼差しで俺に訴える。
 ――そりゃそうだろう。妄想の中で蠢く痴人の信者の群れが自国を突然攻めてきたのだから。

 正直、俺だってあんな阿呆連中と真剣に向き合いたくない。
あんな気が狂ったような昔、西暦で流行った『十字軍』のような連中とはな。

 しかし、話が進むにつれ段々と抜き差しなら無い事態が展開しているのが明るみになってきた。 
この事態をに対応できるのは俺だけだと思いそうになる。 
 
 いやいや!待てサイ・アーガイルよ!代表の口車に乗るなよ!!貧乏くじを引く事になるぞ!!

 だから、最後の悪あがきをしておこう。と半分諦めに似た気持ちを持ちながらそう思う。
183機動戦史ガンダムSEED 03話 5/6:2007/01/06(土) 18:55:29 ID:???

 「たぁく!駄目ですよ!……こっちとら、もう5年近く実戦から遠退いている……実戦の勘を取り戻せない」

 俺は少し演技が入った大げさな身震いでそれを示そうとする。
だが、彼女はニッコリと微笑むと、俺の心境を知ってか知らずか、確実に退路を断ってゆく。
 
 「それは皆が同じこと。ここ5年、誰もが大きな実戦から遠退いているわ」

 それに対して俺は頭を掻きながら、必死になって考えるが、出てきた言葉は……
見事に、自分から袋小路に入ってしまったのだ。

 「――ここは空気が美味い……」

 「話を逸らそうとしても無駄よ。いい加減に観念なさいな、『サイ・アーガイル』」

 代表は更に笑顔で俺に圧力を掛けて来た……
もう……駄目かもしれん。
 
「っ!……こんな時の為に軍事防衛拠点である宇宙要塞『ヘリオポリスU』があるでしょうが?」

 俺やロンド・ミナ達を含めた代表府のスタッフ達は、『メサイア戦没』の後で宇宙に於けるオーブの軍備拡計画の重要プロジェクトの一環として
開発建造された民間軍事両方を運営できる新造のコロニー型宇宙要塞『ヘリオポリスU』の開発に着手した。
 
 軍事拠点と民間事業コロニーを兼ねた鉄壁の防御システムを持ち、
護衛艦隊をも駐留が可能である港中ドックを搭載した大規模な宇宙要塞だ。

 「ええ……そうね」

 珍しく、代表は何か歯切りが悪かった。

 「所属している『第二機動艦隊』は?それで『ラクス軍』に対応するればいいでしょう?」
184機動戦史ガンダムSEED 03話 6/6:2007/01/06(土) 18:56:24 ID:???

 第二艦隊は若手の多い今のオーブでは、珍しく軍では古株でもある百戦練磨のソガが率いる機動艦隊だ。
もちろん、『旧ウズミ派』であるソガの奴と俺とは最悪に仲は悪かった。
……が、それなりに互いの実力は認め合った仲でもあったのだ。
 
 戦巧者のあいつならば『ラクス軍』の侵攻にも一応は対応できよう。
だが、代表の次の一声でその楽観論は吹き飛んでしまう。

 「……『ヘリオポリスU』は……陥落(おち)たわ」

 「――なにぃ!?」

 俺は自分の驚愕の声と共に否応無しに実戦に復帰する事になる。



>>続く

185通常の名無しさんの3倍:2007/01/07(日) 20:54:22 ID:???
こりゃヘイトスレに向いた話だな
186通常の名無しさんの3倍:2007/01/07(日) 21:10:54 ID:???
>45氏
種キャラが霞む霞む
こういうオリキャラはもうあめたほうがよくね
設定重すぎ目立ちすぎ活躍しすぎまるで主役
187通常の名無しさんの3倍:2007/01/07(日) 21:17:34 ID:???
>>185
実際キラ様に遠慮しただかでこっちに来てるみたいだし。
188通常の名無しさんの3倍:2007/01/08(月) 07:52:39 ID:???
ここはギャグやネタの投下はあり?
189seed:2007/01/08(月) 08:28:11 ID:???
「俺たちは一体何をしているんだ・・・」
オーブの国防本部その一室で青い髪の青年アスラン・ザラは1人考え続けていた
かつてジャスティスに乗り前大戦を終結させた彼は今はオーブ代表カガリ・ユラ・アスハの護衛「アレックス・ディノ」として毎日を送っていた
今までの彼はカガリを守ることが自分が世界のために出来る事だと思っていた、だがやはり世界の各所では戦争の爪痕は消えず人々を苦しめていた
カガリの付き添いとして各国を訪れた時そういう現状を見た彼は自分の無力さを悔やみもした
そのことをキラに相談しても
「悲しいけど仕方がないよ・・・僕らはやれるだけのことはやったんだから」
そう言った彼の無責任さに無性に腹が立ったりもしたが
「俺もキラと一緒か、戦争を終わらせてあとは地球・プラント間に任せるだなんて責任逃れもいいところだ」
と自問自答の日々が続いていた
しかしある日彼はカガリの護衛として、プラントに向かうこととなった。ここでの出来事がこの先の彼の人生を大きく変え、また「アスラン・ザラ」という人間が再び戦いの中に身を投じるきっかけになることを彼はまだ知らなかった・・・・・
190通常の名無しさんの3倍:2007/01/08(月) 12:25:21 ID:???
>>188
新人、投下先の無い職人が「好きな内容」でSS・ネタを投下するスレです。
191通常の名無しさんの3倍:2007/01/09(火) 05:58:18 ID:???
保守
192通常の名無しさんの3倍:2007/01/09(火) 08:54:24 ID:???
機動戦史ガンダムSEEDは敵役がラクスという設定なのでこれはこれでいいかも
しれないんだが、サイとカガリの口調に激しい違和感を感じた。
193通常の名無しさんの3倍:2007/01/09(火) 14:07:46 ID:???
スレタイに新人と書いてあるのに、殆どの職人が新人に見えない件について。
本当にみんな新人なのか!?
194通常の名無しさんの3倍:2007/01/09(火) 14:14:35 ID:???
ここ(この板)で書くのは、っていう場合もあるんじゃねえの?
195通常の名無しさんの3倍:2007/01/09(火) 16:18:17 ID:???
投下先のないベテラン職人もいる
19645  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/09(火) 21:12:31 ID:???
それでは、続きを投下します。
19745  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/09(火) 21:13:21 ID:???
1/12

 ミネルバのメインオペレイター席に腰を下ろし、メイリン=ホークは新品の感触を
存分に味わった。何と言っても新型艦だ、過剰といえるほどに生活環境が充実している。
 メイリンは鼻歌なんぞを口ずさみながら、艦橋で微調整をこなしつつ将来設計に
思いをはせた。順風満帆と言うにふさわしい、見事な船出を飾ろうとしている。
 姉を追って訓練施設に入りザフトレッドを目指したが体力が足りずに落第。意気消沈
していたところにオペレーターとしての適正を見出され、猛勉強の末見事にミネルバの
メインオペレーターの座を手にした。

「戦争なんて起きないわよね、あんな大きな戦いがあったばっかなんだし」

 艦長のタリア=グラディスは朝から難しい顔をして嫌な予感がすると連発しているが、
大きなイベントの前には誰だって不安を感じるものだ。本人曰く「戦気を感じる」
らしいが、珍しく神経質になっている上司に返って親近感を覚えたぐらいだ。

「メイリン、異常は無い?」

 だから、朝からブリッジクルーを殆ど艦橋に缶詰にしてクロスチェックを徹底させる
艦長が、十五回目の質問をしてきても比較的鷹揚な気分で答えを返すことが出来た。

「はい艦長、艦内は機関部から通信網に至るまでオールグリーン、異常なしです。
第二艦橋にも連絡をとって二重に検査しましたが、不調なセンサーもありません」

 赤毛のツインテールを振って向き直りながら報告する声には、ひょっとしたら少し
険が篭っていたかもしれない。

「そう、艦内の異常ではないのかしら」
「そんなに気になる物なんですか? 艦長」

 メイリンの質問に、タリアは目頭を押さえながら答えた。

「気のせいかも知れないけれど、首の後ろに刺すような嫌な感じがあるの。
前の戦争の時にもこんな感触があったわ」
「へえ、それって何時の事です?」
「……アラスカよ」
19845  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/09(火) 21:14:22 ID:???
2/12

 それきりタリアは艦長席に腰を落ち着けたまま自分の考えに没頭し始めた。
艦橋にはいちいち動き回りながら各員のディスプレイを覗き込む副長の足音だけが
聞こえてくる。
 タリアの顔に苦い表情を読み取ったメイリンは自分の無思慮を恥じて、再び
艦全体のコンディションチェックに回った。ディスプレイの中では目で追えないほどの
情報が流れ、時折それを停止させては一段深いレベルでの走査を行った。

 まさか……ね

 メイリン自身は前回の大戦には参戦していないが、その激しさだけは連日伝えられた
ニュースだけでも十分にうかがい知ることが出来た。
 何時も何時も有利な戦況だけを伝える国営放送に、マスメディアの欺瞞を知っていた
メイリンもザフトの勝利を疑わなかった。そしてアラスカ。大戦が終わったときには
戦争に参加した者の内五人に一人がプラントに帰ってこなかった。
 そんなのは御免だ。自分はこのミネルバでキャリアを積んだ後は、首都のアプリリウスで
後方の仕事に付くのだ。軍での経験を生かした仕事に就き、素敵な人と恋愛をして家庭を持ち
そして――――

 モニターに警告色のマークが灯った。

「メイリン、コンディションイエロウ発令。シンをパイロットルームに、
ルナマリアとレイも呼び戻して」

 タリアが即座に立ち上がって有無を言わせない口調で命令を下した。メイリンは
信じてもいない神に向かって悪態をついた。呪われようと知った事か。
19945  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/09(火) 21:15:34 ID:???
3/12

 コンディションイエロウの発令から凡そ十分、ミネルバ艦橋はアーモリー・ワン側の
軍部と慌しく情報を交わしていた。必然的にメイリンの仕事は増えることになるが、
メイリンを辟易させたのは扱う情報の量ではなく、その出鱈目さだった。

『数十名の侵入者と格納庫で戦闘している、増援が向かった』

 という報告があったかと思うと、三十秒後には

『数名の賊がモビルスーツを奪い破壊活動を行っている』

 となっていた。数十名の賊は何処に言ったのか、と問えば

『わからない、格納庫近くに居た警備員の死体しか見当たらない』

 と返ってきた。とにかく報告の八割は『確認中』、残りの二割は『不明』であった。
 メイリンはタリアに取り次ぎながら、モビルスーツの操縦席にすし詰めにされた
テロリストを想像した。人死にがあったのに失礼ではあるが、格納庫に横たわる
死屍累累を思い描くのに抵抗があったためである。
 艦長はといえば、直通回線で『偉い人』との話中だった、頻りにコンディションを
イエロウからレッドへと移行させるようにと薦めていたが、権限と縄張りの壁に
阻まれていた。

「ですから、こちらからモビルスーツを派遣して少しでも安全な方策を練ることが――」
『グラディス艦長、何度も申し上げたとおりこちらの戦力で十分に対応可能だ。
先制攻撃を受けて混乱していたがすでに指揮系統は機能している』

 貴艦は非常事態に備えて待機せよ、とだけ言い残して通信は途絶えた。険しい顔の
タリアが通信機の端末を力任せに叩きつけ、どこかのパーツが割れる音が響く。

「テストステータスの機体一つ無力化できないで! 完全に非常事態じゃない!」

 階級を持たないとはいえザフトは厳然たる軍隊組織であり、いかなる戦力も命令が
無くては整備さえしてはいけない。

「縄張り争いで逐次投入の愚を――!」

 通信相手を呪い殺すような声でタリアは断じた、奴は無能だ。
20045  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/09(火) 21:16:45 ID:???
4/12

 ザフトの構成員は役職に応じて細かく定められた私的権限と公的権限を持ち、
これが実質的な階級として上意下達の向きを決めている。タリアの持つ艦長としての
権限ではミネルバを準戦闘状態に移行させることは出来ても、勝手に戦闘させることは
出来ない。特にコロニー=プラントの中では。

「メイリン、シンを機体に搭乗、待機させて頂戴」
「出撃ですか? 命令は――」

 命令違反を気にするアーサー副長の声に落ち着きを取り戻した声で答える。

「じきに向こうから頭を下げてくるわ。極少人数で新型を三体も持ち去った腕、
下手をすると本艦にも伸びてくる」

 アーサーが普段から決して良いとは言えない顔色を更に青くして声を上げた。

「ええっ! それは本艦が出港する可能性もあるということですか!」
「そうよ、奪うつもりなら必ず外に母艦が待機している筈。戦闘用の武装はしていない
けれど、あの三機のポテンシャルであれば逃げ切れても不思議じゃないわ」

 いっそ中破したザクでも転がり込んでくれればね、とタリアは嘆じた。戦闘で損傷した
味方が艦体に接近すればミネルバは自動的に戦闘状態に移行し、モビルスーツを
発進させる権限を得る。

「出来るだけの備えはさせて貰いましょう。メイリン、艦内のチェックを、最悪本艦は
緊急シークエンスで発進するわ」
「モビルスーツ――インパルスの発進は如何いたしますか? 艦長」

 ミネルバ最大の特徴、セカンドシリーズの隠し玉であるインパルスの発進には
効率的だか何か知らないが特殊な手順を要する。メイリンとしては緊急シークエンスは
避けたかった、事故を起こせば簡単にパイロットが死ぬような発進方法なのだ。

「そうね、確かにインパルスの発進は他に余り例を見ないやり方だわ、危険も多い」

 だが『やる気』になったタリアはメイリンに更なる圧力をかけてきた。

「だからこの際、発進の最短記録を出しておきなさい。目標は60秒よ」
20145  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/09(火) 21:17:48 ID:???
5/12

 ミスで友人が死ぬという重圧をかけられた後で、メイリンを呼び出す信号があった。
ミネルバの責任者であるタリアではなく、オペレイターに過ぎないメイリンを直接。
しかも呼び出し人は――姉。猛烈に嫌な予感がした。
 震える指で操作盤に触れる、色と髪型の違う自分が映っていた。まさかね、と
自分の危機感をメイリンは必死で否定しようとした。姉も自分も今は軍人なのだ、
よもやプライベートのような無茶はいわないだろう、と。

『メイリン! 良かった、繋がった』

 だがそんな予想は姉の前では役に立たないと知らされる。

『お願い、ソードシルエットを、貸して』

 姉は「服貸して」と同じ容易さでそんな無理を言った。

「そんな! 無理に決まってるじゃない、おねえ――ルナマリア=ホーク!」
『だって、これガナーなのよ。エクスカリバーが欲しいの、ミネルバから射出して』

 ああ、おねえちゃん、メイリンは心の中で大げさなため息をついた。
 そんな「ズボンは暑いからスカートがいいわ」みたいな口調で無理を言わないで、
一遍――――不幸になれ。

『あ、今一瞬私の事呪ったでしょう、首筋がぞくっとしたわよ!』
「そんなのお姉ちゃんに分かる訳無いじゃない」
『分かるわよ、私があんただったらここで呪うもの』

 てめえ、メイリンかろうじてその言葉を飲み込んだ。

「大体お姉ちゃんに、フライヤーを飛ばさせる権利なんて無いじゃない」
『あら、当然あるわよ、私今戦闘中だもの』

 ルナマリアはあっさりと指摘した。余裕綽々の表情で講釈を垂れてみせる。

『インパルスが来てないならミネルバは未だイエロウでしょ? 私は今戦闘の真っ最中
だからレッドで然も赤服よ、だから私にはミネルバに対して、モビルスーツは駄目でも
装備を提供してもらう権限があるの』

 テキストまで指定して『復習しなさい』とさえ言われた。
20245  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/09(火) 21:18:52 ID:???
6/12

『もういいわ、艦長に代わって頂戴』

 最初にそう言え、という雑言は漏れなかったか気にしつつ通信回線を繋いだ。
メイリンの職務と権限は、艦長に伝達する情報に優先順位をつけられる事だ。
戦闘中のパイロットからの連絡を、タリアは今最も欲している筈であった。

「ルナマリア、現在の場所と状況は? 敵は何なの?」
『は、艦長。現在の位置はブロックNのハンガー街道であります、細かい位置は
移動中ですから申し上げられません』

 妹に対するものとは打って変わって毅然とした態度と表情で質問に答えた。
元々の容姿が良い為に、真面目そうな顔をすれば幾らでも真剣に見えるのだ。
ルナマリアは矢継ぎ早に繰り出される質問にてきぱきと回答し、貴重な情報をもたらした。

「それで、あなたは何故、ソードシルエットを要求しているの?」
『は、それにつきましては現地で確保した"ザク"が……ガナーでしたので』

 その瞬間ブリッジ全員を包んだ奇妙な空気を、もし音声化すればこうなる。
 あちゃーーー。

『スラッシュの方に乗っておりましたら、とうの昔に無力化出来ましたが』
『自分も、味方に後ろから撃破されるのは、不本意であります』

 ルナマリア機とのデータリンクを介してレイが通信を送ってくる。その映像に
時折ノイズが走るのは、機体のアンテナ近くに電波を乱すような存在があるからだ。
それはたとえば高速の荷電粒子――ビーム。

「レイ、味方はどれくらい残っているの?」

 艦長の質問。

『たった今ゲイツの部隊が全滅しました、敵はエース級ですね』
『艦長、私とレイで抑えるためにも、ソードを射出して下さい』

 タリアは束の間の逡巡を見せたが、直に決断するとメイリンに向かって
ソードシルエットの射出を命じた。拙速は巧遅に勝る。
20345  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/09(火) 21:20:10 ID:???
7/12

「アビーさん、緊急シークエンス! フライヤー射出です、武装はソード」
『ええっ! インパルスは無しで?』

 第二艦橋で航法管制を請け負うアビー=ウィンザーに連絡を取る。

「前線のルナマリア機がエクスカリバーを欲しがって居ます――本当は
あんまりお姉ちゃんに刃物を持たせたくないんだけど」

 通信に一瞬の間が空いた、アビーはきっと天を仰いでいるのだろう。

『まさかフライヤーシステムの実戦初使用が宅急便代わりとは、ね』

 緊急シークエンスが開始された。数々の確認過程を殆ど飛ばし、速さだけを
追求した手順で最短時間での射出を目指す。無駄口を叩いているように聞こえる
二人であったが、その視線は致命的な障害を探すべくモニター上を動き回り、
その手は目視が困難なほどの速さでコンソールを操作していた。

「緊急速度でフライヤーをデッキに移動」
『進路良し、カタパルト問題なし』
「フライヤーの定着と同時にゲート開放」
『了解、定着まで3、2、1、ゲート開放開始しました』

 阿吽の呼吸をで発進準備を整えていく。メイリンは艦長席のに向かって
確認の視線を送った、白服のタリアが毅然としてうなずく。

「シルエットフライヤー、発進どうぞ!」

 緊急シークエンス開始からわずか三十秒、シルエットフライヤーがその身に
長大な二本の銘刀"エクスカリバー"を抱えて、女神の腕の中から飛び立った。
 ミネルバの初実戦、それは前線の士官へと装備を届けること。ひょっとしたら
これからこき使われるかもしれないという碌でもない予感を感じながらも、
メイリンは高揚を隠せなかった。
 そして緊急コール、先程は余裕の表情でタリアを突っぱねていた『偉い人』が
苦虫を噛み潰したような表情で画面に映し出されていた。
 ――遅かったわね、この穀潰し。
 メイリンの目には応対するタリアがそんな笑みを浮かべているように見えた。
20445  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/09(火) 21:22:51 ID:???
8/12

 ミネルバからフライヤーが射出されたことを確認したルナマリアは、ハンガーの影から
ザクの体を半分だけ出すと"オルトロス"高エネルギー長射程ビーム砲を発射した、
最低出力で連射効率を上昇させ至近弾を狙う。
 かすった――白いザクファントムに。

『ルナマリア、撃つな! 大人しくソードの到着を待て!』

 僚機――ザクファントムのレイから慌てて通信が入る。平謝りしながら、ルナマリアは
思い切ってガナーウィザードを排除した。役に立たない重りを背負っていても意味が無い。
 大出力のビーム砲と其処にエネルギーを供給していたバッテリーがまとめて排除され、
ルナマリア機は73トンの身軽な素体のみとなって走った。

「てえぇぇーーーーい!」

 左肩から伸びるアームが支える盾から戦斧を取り出してビームの刃を発生させ、
巨大な狼――ガイアに向かって振り下ろす、今しがたレイ機が投擲した戦斧を
弾いたばかりであったガイアはバランスを崩し、回避もままならない筈であった。

「――ッ! 躱すですって!?」

 猫科の猛獣のごとき異常な反応、胴体に打ち込まれる筈であったトマホークは
身を捻って曲芸的な着地を遂げたガイアに躱されていた。
 本気で打ち込みを行ったザクがたたらを踏みかける、OSが補正できない崩れに
凡百のパイロットであれば慌てて体勢を立て直そうとしただろう。
 ――ルナマリアは平凡なパイロットではなかった。むしろそのままザクを
倒れこませるようにスピンさせると、自分に向かって迫っているはずのガイアに
向かって再び戦斧の一撃を放つ。
 激突、ルナマリア会心の一撃はザクを噛み殺そうとしていた狼の牙――頭部の
ビームサーベルとぶつかり合い、その片方をへし折った。
 ガイアは弾き飛ばされ、ザクは地面に転がる。
20545  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/09(火) 21:24:01 ID:???
9/12

「――よしッ!」
『ルナマリア、右だ!』

 心中でガッツポーズをとるルナマリアの耳に、レイからの警告が届く。
まずい、カオスが構えたビームライフルの銃口がルナマリア機のコックピットを
狙っていた。
 ルナマリアはザクを立ち上がらせる愚を犯すことなく、地上を二転三転させて
ビームの火線を外して行った。
 流石に人間が転がるようには行かない、ごつごつした武装が地面に引っかかりながら
回るので、ルナマリアはミキサーの中に放り込まれたように激しいGに襲われた。
 レイの掩護によってカオスからの射撃が途切れた間に機体を立ち上がらせると、
覆いかぶさってくるように突進してきたガイアを闘牛士宜しく躱す。

 ルナマリアは敵機のパイロットに強力な重圧を感じていた。如何にセカンドシリーズ
とはいっても、自分とレイの乗るザク二機を相手に、テストステータスのままで
十全に張り合っている。VPSさえ展開させずに戦闘を続ける敵に、ルナマリアは
痛く矜持を傷つけられていた。

「ザフトレッドが舐められたまま、逃がすわけにはいかないわよ」

 灰色の獣が左右に飛び跳ねながら接近してきた。トマホークは先程転がった際に
盾諸共外れて仕舞っている。ルナマリアは軽くバックステップを踏ませて間合いを
取ると、腰にマウントされていた手榴弾を放った。

 成人男性ぐらいの重量がある手榴弾は、地面に着くか否かというタイミングで信管を
作動させた。内部の炸薬によってかなりの範囲に破片と爆風を撒き散らす。

「――! あの異常な反応、一体何者?」

 ルナマリアは相手パイロットに対する疑いをいっそう強くする。絶妙なタイミングで
投擲した手榴弾はOSの緊急回避も間に合わないぐらい炸裂までの時間を短くしていた
にも関わらず、ガイアは機敏な動きで攻撃範囲から退いて見せたのだ。
 エース級パイロットのように先読みの結果回避できたという動きではなかった、
嘘臭いまでの反応速度。ルナマリアの脳裏にエクステンデッドという単語が浮かぶ。

「ま、今考えても仕方のないことよね」
『ルナマリア、ソードが届くぞ。早めに受け取れ』

 カオスと対峙しつつモニターを見る余裕の或るレイが、ルナマリアに告げる。
ルナマリアはレイに掩護を頼みつつ、シルエットフライヤーとの交差地点を模索した。
 飛行する無人機など眼前の二機にとっては的も同然だろう。
20645  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/09(火) 23:04:42 ID:???
10/12

「とは言ったものの、簡単には受け取らせてはくれないわよね」

 画面に映るガイアからの殺気をひしひしと感じつつ、ソードを受け取る瞬間を探る。
エクスカリバーをザクの手に握れば、地母神の名を冠したこのMSに対して優位に立てる。
しかし不用意に無人機と接触すれば、一瞬の内にガイアの顎は喉笛を噛み千切るであろう。
 操縦席のモニターに、フライヤーとのデータリンクが繋がれた事を示すマークが灯った。
これで無人機を或る程度は操作しつつ、格納した装備を投下させる事が出来る。
 ルナマリアは、自機を危険にさらす事も止むを得ない、そう判断した。

「レイ! カオスの方を――」
『任せろ!!』

 以心伝心――訓練所以来の付き合いは伊達ではない、レイ機は猛然とビームライフルを
連射してカオスの動きを封じ込めた。遮蔽物の多い場所でプラント内部であるため出力は
最低に抑えねばならないが、その分連射性を高めた射撃は損害に繋がらないまでもカオスの
機動を完璧に封じ込めた。ルナマリアにとっては貴重な時間が出来る。

「いくわよ、間に合って――頂戴!」

 ルナマリアは手榴弾で一瞬だけガイアとの間合いを離すと、手元に操作盤を引き寄せて
フライヤーに指示を送った。わずか4秒足らずの早業。MSキャリアーが行き来できる
大道路沿いにフライヤーを呼び出し、道路沿いに超低空で飛行させた。
 タイミングが勝負だ。もはやモニターで無人機の細かい位置まで確認する余裕が無い。
ルナマリアは殆ど勘で、武器を受け取りに道路へと飛び出すタイミングを計らなければ
ならなかった。
 半秒早ければ無防備な内に獣に食い殺され、逆に半秒遅ければフライヤーはは飛び去り
矢張り自分は死ぬ。

「――――今よ!」

 そしてルナマリアは飛び出した。フライヤーは――遠い。後を追って灰色の狼が路地から
飛び出す。遮蔽物は無く、武装は尽きた。ガイアが頭部のビームサーベルに火を入れる。

 ――四分の一秒、遅い!!

 ルナマリアの背骨を氷の如き悪寒が駆け巡った。このままでは武器を手にする直前、
ガイアの牙がコックピットを貫く。
20745  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/09(火) 23:12:47 ID:???
11/12

「――――ッ!」

 ルナマリアが大きなダメージ――或いは死を覚悟した瞬間、緑の影が横合いから
ガイアに向かってぶつかった。ザクウォーリアの突撃。半秒の一秒の余裕が生まれる。

「誰だか知らないけど、助かったわ!」 

 赤いザクは無人機ら放出された二本の鋼剣"エクスカリバー"レーザー対艦刀を受け取る。

「だから――後は任せなさい!」

 マニューバをフルマニュアルに切り替え二振りの長剣を連結、頭上で過剰に回転させて
"決め"のポーズを取らせる。本来これを振ることは無い筈のザクには入力されていない筈の
モーションであったが、かなりの重量を持つ対大型構造物用ソードをいとも軽々と振るう。
ルナマリアの技量のたまものである。

「さあ、幾らでも来なさい。三枚におろしてあげるわ!」

 エクスカリバーを両手に構えたザクに、ガイアは迂闊に突進する様な事は無かった。
割り込んでくれた緑のザクはガイアに片腕を吹き飛ばされ、ハンガーに埋もれていた。
パイロットの生死は不明、コックピットに直撃弾は無いから、後で会うことがあれば
お礼を言っておこう。
 そっちからやってこないならこっちから。ルナマリアの駆る赤い巨人が、伝承に謳われた
武器を手に地母神に迫る。
20845  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/09(火) 23:22:08 ID:???
12/12

「受け渡しはちゃんと出来た様だな、ルナマリア」

 スラッシュウィザードを背負った白いザクファントム、そのコックピットで
金髪の青年は母艦に向かって帰還するシルエットフライヤーの姿を確認した。

「これでガイアとは五分以上……ならば」

 レイは射撃のモードを掩護から撃破を目的としたものに切り替える。これによって
発射されるビームは太く破壊力のあるものとなり、変わりに貫通力を失って周囲への
被害を少なく出来る。

「俺がカオスに負ける要素は――無い!」

 そしてカオスのコックピットへと向けて、直撃を狙った射撃を開始した。
その時カオスは密かに背面のポッドを切り離し、レイ機の背後から白い機体を狙っていた。
レイはそれに気付いたが、全く慌てる事無く牽制を続ける。なぜなら――

「任せたぞ、シン――」
『――――応!』

 ――なぜならレイの僚機、戦闘機コアスプレンダーが機首の機銃でポッドを掃射し、
照準を散らすと分かっていたからだ。
 ビームは逸れてハンガーの残骸を一つ、直撃した。ポッドがカオスに回収される。
 ――ようやく真打登場か。
 レイはザクとカオスの上を通り過ぎる四つの影を見送った。それらは戦闘を続ける
モビルスーツの頭上で機動を交わし、合体。一機のモビルスーツとして
カオスとガイアを見下ろした。

 フォースインパルスガンダム――ザフトセカンドシリーズの隠し玉。
 それに乗るパイロット、シン=アスカはビームライフルをカオスに向けながら、
戦場となったハンガーブロックの惨状を目の当たりにした。
 怒りに燃える瞳の真紅が、一層その深みを増す。

「こんな――こんな事を!」

 フラッシュバック――焼ける大地、砕ける人間、冷えてゆく腕、残されたもの。
 シンは思い出す、シンは忘れない、シンは許さない。家族を奪うものを。

 怒りが、喉を突き破って吼えた。

「また戦争がしたいって言うのかよ! あんたたちはーー!」
209通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 02:15:42 ID:???
GJ!
ルナがソード取っちゃうと、やっぱブラストのが活躍することになるのかな?
210通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 03:56:04 ID:???
グッジョブ!
戦闘の描写が丁寧でイイ!、頭の中で綺麗に再生出来たしスピード感も良かった。
メイリンとタリアの感情と行動の描写が入って、物語に奥行きが出たと思う。
211 ◆R8CEI1Se6U :2007/01/10(水) 11:47:13 ID:???
規制で書き込めなかった(´・ω・`)
ご意見ありがとうございます
改行を初め、まだまだ甘い箇所があるようです
SSを書く以外にも、SSを投下する技術も足らないようで……
実は丸々ワンシーン投下し忘れてたりってミスがあったので、そっちも気をつけないと(ノ∀`)

それでは、またそのうちお会いしましょう(´・ω・`)ノシ
現在十四話が書き終わった段階ですので、まだまだ先は長い……
212通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 12:03:35 ID:???
ところでここは種死のキラやラクス達を主人公にしたSSって投下できる?
テーマがテーマなだけに投下先に苦慮してるんだが・・・・
213通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 12:22:21 ID:???
>>211
今回もGJでした!続き楽しみにまってます!

>>212
投下先のない職人さんも好きな内容でry
214通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 12:50:45 ID:???
なんかコスモスカラー見ててアムロのνガンダムがサイコフレームと融合してHi-νガンダムに進化するのを想像してしまった。
首吊ってくる。
215通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 14:38:06 ID:???
アムロはνガンダムにサイコフレームをつかった!

おや? νガンダムの様子が……

 ピコピコン♪ デッデ デッデ デッデ デッデー♪ デッデ デッデ デッデ デッデー♪


首吊って来る
216通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 21:42:13 ID:PwfiFRm1
誰かかまってええええ
217通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 21:44:15 ID:???
真・ラクシズ戦記       第1話 「僕達はいきなり追い詰められた」


今日もオーブは平和だな。でも・・・・これからはどうなるんだろう?


僕は地元の大学からの帰り道、自転車を走らせながらぼんやりそう思う。
遂この間、ユニウスセブンがテロリストの手によって地球に落ちた。
世界中で甚大な被害が出ているらしい・・・幸いオーブ本土は津波程度ですんだらしいけど
その事件が原因で、再び連合とプラントの間に戦争が起こった。

カガリも今そのことで苦慮しているらしい。連合との同盟を締結するか・・・それとも理念を盾に中立を堅守するか。
僕にもなにか手伝えることがあればいいけど・・・・・・・やっぱ無理かな?一介の大学生の身分じゃあ、ねえ・・・

普通どおりならば。その日も平穏に終わるはずだった。帰宅して、ラクスやマリュ―さんや子供達と夕食をとって。
みんなでTVゲームをした後、大学の課題をやってお風呂入って・・・・・後は寝て終わる「はず」だった。


僕達はこのあと一生、この日を苦い思いで思い返すはめになる。
なぜなら僕達の平穏な日々はこの日をもって終わりを告げ・・・・
そして僕達全員、世界を敵にまわして戦う犯罪者への道を突き進む羽目になったのだから・・・・・
218通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 21:45:14 ID:???

ハロ  「ザンネン!ザンネン!アカンデェ―――!」
ラクス 「ッ!」
虎   「むう?!」
キラ  「ふあ〜・・・な、なんなのさ?このやかましいの・・・・」

どうも侵入者が現れたみたいだ。うーん完璧なセコムが施してあるこの孤児院に侵入するなんて、どんな間抜けな物盗りなんだろ?
・・・でも事態は思ったより深刻なようだ。マリュ―さん達の顔つきがいつもと違う。

虎   「早く服を着ろ、嫌なお客さんだぞ。ラミアス艦長と共にラクス達を。」
キラ  「え、え?」

バルドフェルドさんの指示で僕はラクスに子供達と合流、地下のシェルターに移動することになった。
はっきり言って訳が分からない!侵入してきたのは軍隊のようだけど・・・なんでいきなり軍隊が襲ってくるんだ?!

キラ  「な、なんなんですかあれ!」
マリュ―「・・・コーディネイターだわ。たぶん。」
虎   「ああ。それも素人じゃない、ちゃんと戦闘訓練を受けてる連中だ」
キラ  「ザ、ザフト軍ってことですか?な、なんでやねん!なんでそんなんが突然襲撃してくんねんのや!
     訳分からんでほんま!」

僕は錯乱して何故か言葉使いがエセ関西弁になってしまった。

ラクス 「キラ、バルトフェルド隊長、マリューさん。狙われたのはわたくし、なのですか?」
虎   「さあな?そうと断定するのは早計だと思うが・・・・・・うわ?!」

その時、シェルター全体が大きく揺れた。この振動の仕方は・・・覚えがある!これはMSの攻撃によるものだ!

虎   「狙われたというか、狙われてるなまだ!くっそー。」
キラ  「MS、ですか?これ」
虎   「おそらくな。何が何機いるか分からないが、火力のありったけで狙われたら此処も長くは保たないぞ。」
ラクス 「・・・・せめて子供達だけでも助けてあげたいのですが・・・」
マリュ―「無理、じゃない?どうも彼ら私達全員皆殺しにするつもりよ。」
219通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 21:46:17 ID:???

虎   「くッ!ラクス・・・・カギを持っているな?」
ラクス 「ッ!」
虎   「ここにはプラントに返還交渉中のアレがある。扉を開けて・・・そいつを使う。みんなが生き残るためには
     それも仕方なかろう。」
ラクス 「い、いやです!も、もう私は2年前のような事はたくさんなんです!」
マリュ―「しかし・・・・」

キラ  「ラクス。」
ラクス 「キラ・・・・」
キラ  「他に方法がないんならしょうがないよ。僕もラクスもみんな、ここで死にたくなんてないでしょ。ね?」
ラクス 「そ、それはそうですが・・・・でもカギがあっても扉を開ける方法が・・・・・・・ちょっと・・・・・」

マリュ―「あー・・・そういえばそうだったわね。セキュリティを万全にするために、
     特殊な方法でしか開けられないようにしたんだっけ?」
虎   「キラ。錠前は?」
キラ  「そりゃもちろん持っていますよ。」
虎   「じゃあ2人にお願いするとしようか。はい、さんはい!」

キラ  「ラクス、がんばって!」
ラクス 「う、うう〜〜〜お、おどろき!」
キラ  「桃の木、さんしょの木!」
ラクス 「ブ、ブリキにタヌキに!」
キラ  「洗濯機!やってこいこい・・・」

2人  「フリーダムッ!(ガチャ!)」


ゴゴゴゴ・・・・・・!

合言葉とともにラクスの錠前に僕がカギを差し込む。これで錠前から特殊な電波が発信され、格納庫の扉が開くって寸法さ。
僕のアイデアによるこの巧妙すぎるロックの解除方法は、まさにお釈迦様でも気付くめえ。

そして・・・封印された扉が今開く。扉の奥の格納庫には大巨じ、もといかつての僕の愛機フリーダムの姿が。
220通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 21:47:18 ID:???

キラ  「じゃあちょっと行ってきます。」
マリュ―「お願いね。がんばって・・・キラ君!」
子供達 「お兄ちゃんふぁいと〜〜〜!」
ラクス 「ブランクがあるんですから無理しないでくださいね?キラ・・・・」
虎   「ついでに土産を頼む。生八橋が食いたい。」

みんなの激励(約1名除く)を背に僕は出撃した。
そして外に出てみると・・・いるわいるわMSが沢山。見た事もないタイプばかりだけど、ともあれ1機ずつ撃墜することにした。


ヨップ 「あれは・・・くう!動かされたか!出来れば無傷で手に入れたかったが・・・やむをえん!」

キラ  「答えろ!お前達の目的はなんだ!何故僕たちを狙った?!」
ヨップ 「・・・・」
キラ  「そりゃー僕達は色々な人達から恨まれてるけどさ!時に品物もらうだけもらって新聞の契約を断ったときは
     家に火を付けられそうになったけど!だからって軍隊雇って仕返しすることないじゃないか!」
ヨップ 「・・・」
キラ  「そんなに新聞とってもらえなかったことが悔しいの?でもしょうがないじゃないか!だってうちは東西新聞一筋・・・」

ヨップ 「え、ええい!俺は新聞の勧誘屋じゃないわ!」
キラ  「ち、違う?じゃあラクスのとこに来たエステサロンの勧誘?それとも新手の新興宗教」
ヨップ 「全部違う!いいか!俺たちはパトリック・ザラの意思を継ぐ者・・・・・あッ」
キラ  「パトリック・・・ザラ?き、君たちは一体!」

ヨップ 「ぐっ・・・こいつの口車に乗せられた。仕方がない!聞いてしまッた以上は死んでもらう―――!」
キラ  「じ、自分から言ったクセに〜〜〜〜!」


僕は出来れば相手を殺したくなかった。捕らえて襲撃の詳細を聞き出す必要があったから・・・
でも相手は勝てないと見ると壮絶に自爆した。こりゃまいったなあ〜

・・・とまあ、そんなこんなでなんとか襲撃してきた人達を僕は撃退した。ブランクがあっても案外なんとかなるもんだ。
221通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 21:48:21 ID:???

そして翌日―――――

虎   「・・・・」
マリュ―「・・・・」
ラクス 「・・・・」
キラ  (い、息苦しい・・・・呼ばれてきてみたけど、なんでこんなに空気が重いんだ?)

虎   「まず、昨夜の襲撃犯についてだが。機体を調べてみたところ、こいつがプラントで最近ロールアウトしたばかりの
     新型である事が判明した。」
マリュ―「アッシュ・・・それがラクスさんを?」
虎   「それがどーにもよくわからんのだ。キラが聞いた『パトリック・ザラの意志を継ぐ』と言った特殊部隊、
     正規軍にしか配備されていないはずの新型、そして・・・・・これだ。」

そう言うとタイガーマスクは、ぺら紙一枚を僕達の前に差し出した。

キラ  「なんです?これ」
虎   「あの連中は身元が割れるようなモノを所持していなかった。まあ特殊部隊なんだから当たり前だろうが・・・・
     その中で唯一僕が発見できた、手がかりになりそうなものがそれだ。ま、読んでみ。」
キラ  「どれどれ・・・?え〜我らは2つの班に分かれて各々任務を遂行する。
     A班はサトーの指揮でユニウスセブンを・・・・・てっ!こ、これはまさか?!」
虎   「そのまさか、のようだ。どうやら彼らはブレイク・ザ・ワールドの実行犯と同じ穴のムジナだったみたいだな。」

キラ  「そ、そして地球に潜伏中のB班はオーブの某所に保管されているプラント製の
     Nジャマ―キャンセラー搭載MSの奪取と、出来ればついでにラクス・クラインを始末する。」
ラクス 「つ、ついで・・・・わたくしはついで、ですか・・・・」


キラ  「そして最後の任務は・・・・よ、要人の暗殺である。あ、暗殺すべきターゲットとは・・・・・
     オーブ連合首長国代表カ、カ、カ・・・・・カガリ・ユラ・アスハァァァ?!」
222通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 21:49:21 ID:???

マリュ―「カガリさんを暗殺?!そ、それは・・・」

虎   「暗殺の詳細もそこに記してある。近く行われるセイランとの結婚式を狙って襲う気だ。
     たぶんその時がもっとも警備が手薄だから、だろう。」
ラクス 「どれも容易ならざる犯行ばかりですけど・・・彼らは最終的になにがしたいのでしょう?
     この3つの『点』を『線』で繋げると、どんな『面』が浮かび上がるのかしら?」

しばらく。僕達は沈黙しつつ、頭をフル回転させて考えた。
そして10分くらいたってから、ようやくマリュ―さんが口を開く。

マリュ―「ユニウスが地球に落ちて・・・世界中、もっと言えば地球連合全体が大きな傷を負ったわ。
     その上でカガリさんが暗殺されたとしたら。国家元首を殺されたオーブも大ダメージを追うことになるでしょう。
     さらに犯行声明でオーブが条約違反のフリーダムを隠匿していた、と暴露されたら・・・・・?」
虎   「致命的だな。オーブの国際的信用は一気に失遂するだろう。」

マリュ―「連合、オーブともに深手を負う中・・・無傷ですんだのはプラントだけになるわ。
     そして犯人がコーディネイターとくれば。これはすべてギルバート・デュランダル議長が仕組んだ陰謀?
     再びコーディネイター、ナチュラル間に争いを起し、今度こそプラントが勝者となるための?!」
虎   「それしか考えられんと思うがね。やれやれ・・・あの男も分別のあるような顔をして、
     よくもまあこんな底意地の悪い陰謀を考えついたもんだ・・・・・・・ん?どうしたキラ、ラクス?」


・・・・僕とラクスはさらに考え続けた。
なにかが引っかかるんだ。本当にテロリストの目的はそんな事なんだろうか?この一見、無謀な計画にはもっとこう・・・
恐ろしい目的が隠されているように思えてならないんだ。
僕は思考を巡らせた。歩きながら、逆立ちしながら、鉄棒にぶら下がりながら・・・・
こんな僕達は、はたから見たら気が触れたようにしか見えないんだろうな。バルドフェルドさん達、なんか怯えているし。

うーんうーん・・・・・ひ、閃いたあ――――ッ!

キラ  「・・・!」
ラクス 「・・・!」

僕とラクスは「答え」に辿り着いた。そう、確信した。
な、なんて恐ろしい計画なんだ・・・・!こんな、悪魔にしか考えられないような事を平気で実行に移すなんてどうかしてる!
ラクスの顔を見るとおもいっきり青ざめてた。たぶん僕の顔もそうなのかもしれない。
223通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 21:50:23 ID:???

マリュ―「どうしたの?2人とも顔色悪いわ・・・」
キラ  「マ、マリュ―さん。たぶんテロリスト達の目的はほぼ、あなたの推察とおりだと思います。ただ・・・」
虎   「ただ?」
ラクス 「テロリスト達の究極の目的がもし。自分達の犯行の目的を世界中の人々に『そう思わせること』だとしたらどうですか?」
マリュ―「そう・・・思わせる?」


キラ  「ユニウスセブンを落として地球に大打撃を与えたのも、オーブの代表を暗殺したのも、
     すべて議長の指示によるもの・・・・テロリストがそう犯行声明を出したら地球の人々はプラントに、
     いやコーディネイター全体に凄い憎しみを抱きませんか?」

ラクス 「ブレイク・ザ・ワールドで大勢の人々がお亡くなりになりました。そこにカガリさんを殺された
     オーブ国民の悲しみが加われば、プラントに対する敵意は2年前以上のものになると思われます。」

キラ  「既に戦端がひらかれたザフト・大西洋連合との戦争に同盟を締結したオーブが加わり
     血みどろの戦いが展開されるでしょう。連合とオーブ軍の士気は非常に高く、
     一進一退の戦いが続くと思います・・・・そしていずれ膠着状態になり、互いに疲弊していくだけになっていく。」

虎   「・・・・・」
マリュ―「・・・・・」

キラ  「そして・・・・その状況に業を煮やした両陣営のトップが最後に考えることといったら。」
虎   「ッ!ジェネシスのような大量破壊兵器による一発逆転かッ!」
マリュ―「つ、つまりテロリスト達の真の目的は、破滅的な世界規模の大戦をまた引き起こすことなの?!そ、そんな・・・」
ラクス 「あくまでただの推察です!ま、まさかとは思いますけど・・・・・でももし、この推察が的を得ていたとしたら。」
キラ  「これが人類を破滅に追いやる最終戦争、ハルマゲドンとなるかもしれない・・・!」


・・・・再び沈黙が訪れた。
このとんでもない非常事態をどう対処するべきか、みんなそのことを必死になって考えていたんだ。そして・・・・
224通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 21:51:23 ID:???

虎   「・・・・だが幸いなことにフリーダムの奪取は阻止できた。奴等はまだ諦めていないだろうが、
     これでお姫様の暗殺さえ防げば奴等の目的の半分は潰したことになる!」
マリュ―「じゃあさっそくカガリさんに連絡を取りましょう!狙われているから気をつけてって・・・」


マーサ 「まあまあ!この有り様はどういう・・・?」
キラ  「あれ?マーサさんじゃないですか・・・あ!ちょうど良かった実は」
マーサ 「キラ様!これを。カガリお嬢様からキラ様にと。」
キラ  「・・・・・はい?」

マーサさんは僕に手紙を渡した。これって・・・ラブレター・・・・なわきゃないよね?冗談だよね?

マーサ 「お嬢様はもう御自分でこちらにお出掛けになることすらかなわなくなりましたので。
     マーナがこっそりと預かって参りました。」
マリュ―「な、なに?カガリさんがどうかしたの!?」
ラクス 「ま、まさかもう・・・すでに・・・」
マーサ 「いえ、お元気ではいらっしゃいますよ?ただもう結婚式のためにセイラン家にお入りになられまして・・・」


4人  「ゲェ―――――――――ッ?!!」


僕達は・・・いきなりカガリとの連絡を断たれてしまった。
これで僕達にはもうカガリの暗殺をまともな方法で阻止することも、危険を知らせる事もできなくなってしまった・・・・・
一市民にすぎない僕達の話なんてオーブの行政府がまともに相手するわけないし。
別の方法を考える時間すらない。数日後の結婚式にテロリスト達は万全の準備をして確実にカガリの命を奪いにくる。


僕達はいきなり追い詰められた。
225通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 22:26:35 ID:???
とりあえず受信した電波を文章にしてみた。
続きはある程度まで構想があるけど、量が多くて書くのがしんどいから次が相当遅くなると思う。
226通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 22:54:40 ID:???
お疲れ。ちょっとキツい事言わせて貰う。だから先に謝っておく、ごめんね。不快に感じたらあぼんしてくれ。
まず名前を「」の前に名前をつけるのは辞めた方がいい。君の文章のレベルを下げる事になる。
お前はいちいち名前を表示しないと状況を伝える事も出来ないのか、と言われかねないよ。

方向性がまだわからないので内容については何ともいえないけど、
笑わせるなら小手先の表現に頼るのではなく笑わせる展開を考える事に力を注ぐ。
真面目に話を作るなら中途半端な笑いは入れないほうがいいと思った。
227通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 23:01:49 ID:???
悪い意味じゃなく、ヘイトスレに投稿してみたらどうだろうか
この手の作品は結構、受け入れてもらえると思う
228通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 23:02:59 ID:???
とゆーかこれってオイラの目から見るとまだプロットの段階に見えるんだよね。
各登場人物の様子やら表情やらの描写なんかを間に挟めば、
台詞の前に名前なんか入れなくても誰が話しているのか判るというか、
それが判るように文章を捻るのが、小説というかSSを書く醍醐味の一つちゅ〜か。

とにかく何を言いたいかと言えば。
『台本形式はカンベンな』
229通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 23:20:30 ID:???
あ、あの……ご主人様、その手に持ってるものは一体……。
「へへへ、新しいの買って来たんだ。早速君の中に入れてあげようと思ってさ」
あのぅ……ご、ご主人様?わたしの中、もうパンパンで苦しいくらいなんですけど……?
「大丈夫だって。今さら一本や二本増えたって壊れたりしないだろ?」
そ、そんなご無体な……ひあっ!?わたしの大事なとこ広げちゃらめぇ!
「何言ってんのさ?君のここはぱっくりと開いて、コレが欲しいって言ってるよ?」
ダ、ダメ……鉛筆なんか入れちゃダメです……あっ、ひうっ!
く……ぁっ……く、苦しい、もう、許してください……
「まだまだ、こんなもんじゃないぞ」
あっ、か……はっ……もうダメ……わたし、壊れちゃう……壊れちゃいますぅ……
「ふぅ、さすがにこれ以上はムリかな。しょうがない。こんなところで壊れられたら困るから、
 何本か抜いてやるとするか。君にはもっと働いてもらわないと困るからね」
はぁっ……はぁっ……あ、ありがとうございます……
「それじゃあ、スペースが空いたところでコイツを行ってみようか」
い、いや……もう許して……そんな、4色ボールペンなんて太すぎて……あっ、あっ……
ダメぇ!壊れちゃうぅぅぅぅぅぅぅぅ!!





「おい田中ぁ、お前、そんなにパンパンにして、一体筆箱に何本入れてんだ?」
230通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 23:36:24 ID:???
不覚にもワロタ
231通常の名無しさんの3倍:2007/01/11(木) 00:39:00 ID:???
>>229
エロパロ板からの誤爆か?
確か有ったぞそんなスレ。
232通常の名無しさんの3倍:2007/01/11(木) 06:21:54 ID:???
 暗闇の宇宙。その中で花が散るような光の輝きと、揺さぶるような衝撃が響き渡る。それも一つや二つではなく、絶えまなく続いていた。本来なら静かな宇宙も、その輝きだけが満たしている。
 その光景の中で聞こえる筈のない音がする。爆発の輝きに劣らぬそれは、ただ激しく、終わりない二つのぶつかり合いだった。

「シン───ッ!!」

 片方が激しい動きと共に叫ぶ。振り上げたビームサーベルを敵対する一つへと肉薄する。

「裏切り者が───ッ!!」

 対するもう片方はそれに呼応する様に叫び、片腕を上げて光の粒子を帯た盾で食い止める。二つは争い続く宇宙の中でも、特に激しさを巻き散らしていた。
 片方が下がれば追い、片方が追えば下がる。しかし、どちらも決定打はなく膠着状態となっている。だからこそなのか、両者は己の叫びを武器として互いを追い詰める。

「止めろ、シン!こんな事をしても何もならない!!」
「うるさい!そうやって高い所から見下ろして!」
「お前も分かっている筈だ!議長の言う世界は───ぐうっ!?」

 片方が動く。運命の名を司る機体は、正義を名に持つ機体を力押しとも言える行動で押していく。だが、それだけで終わらずに、空いた腕を己の剣に手を掛ける。

「クッ……!」

 このままでは危ないのを悟ったのか、レバーを操作して脚を振り上げ、隙が出来た腹部に蹴りを見舞う。
 アロンダイトを抜こうとした瞬間にそれを受けたデスティニーは、堪らず身をくねらせて動きが止まる。それをインフィニットジャスティスは見逃さず、態勢を立て直す為に距離を取る。

「クソッ、このよくも……!」

 同じくデスティニーも態勢を立て直したが、蹴りが入った衝撃はコクピットにも伝わったのか目を回す。シンは横に頭を振り、眼前の敵を睨む。

「もう止めろ!同じ事をお前は繰り返すつもりか!?オーブを撃ってそれで世界が守れるのか!!」

 アスランはデスティニーを見据えたまま叫ぶ。その後ろではザフト、オーブのMSが潰し合い、壊し、爆発する。

「こんな事がお前の望んだ事か!?」

 アスランは叫ぶ。違う筈だと。

「それで本当に守れると思っているのか!?」

 アスランは叫ぶ。意味はないと。

「その後に築かれた世界が正しいのか!?」

 アスランは叫ぶ。間違っていると。

「どうなんだ!?シン!!」

 アスランは叫ぶ。答えはなんだと。アスランはただそれだけ声にする。だ
233通常の名無しさんの3倍:2007/01/11(木) 06:24:33 ID:???
「───黙れ!!」

「───ッ!?」

 シンは心の底から叫ぶ。憎悪すら生温い怒りのままに。アスランはその重く響く声に思わず声を詰まらせる。

「アンタに…アンタに何が分かるんだ!!裏切ったアンタが!!」
「違う!!俺は───」
「うるさい!アンタはいつだってそうだ!そうやって俺に問い続けて、自分の答えは誤魔化して!!」

 そう、いつだってアスランはシンに問い続けた。守りたいものはなんなのかと、道を間違えるなと聞かせた。だが、それは違う。所詮それは己の歩んだ道をシンに重ねた感傷だ。

「俺だって悩んださ!!間違ってるかもしれないって、正しい事なのかって!!そうやって俺に問い続けたのはアンタだろ!?」
「───」
「だから答えを出したんだ!!間違っていても守りたいものがあるから!もう失いたくないから!
 それが、それがアンタは間違ってるって言うのかよ!?」

 デスティニーはアロンダイトを引き抜き、両手に握り締めて構える。背後には光の粒子を巻き散らした紅き翼が広がり、ジャスティスへと迫る。
 しかし、アスランはその光景をモニター越しに見ながらも、シンの言葉が心の中で反響する。

(俺は間違っていたのか?シンに問う事で解った気になっていたのか?……いや、シンに問う事で答えを探していたのか?)

 自分の心に問うが答えは返って来ない。キラと共に居て得た答えにも疑念を覚える。それは本当に俺が出した答えなのか、と。

「うおおおおぉぉぉぉっ!!」
「俺は……グッ!?」

 アスランの迷った心は動きを鈍くした。見切れた筈の動きは避けきれずにジャスティスの左腕が、アロンダイトによって切断される。
 デスティニーはそのまま下から振り被り、ジャスティスを断ち切ろうとする。だが、アスランもすぐに気を持ち直し、スロットルを全開にして下がって距離を取る。

「クッ、このままでは……」

 状況が悪いと判断する。メサイヤやレクイエムもそうだが、自分の心が不安定だと感じている。アスランはジャスティスをデスティニーに後ろを向けて逃げるように離れる。それをシンが逃す筈もなく、ジャスティスを追い掛ける。

「逃げるな!!」

 今のシンの言葉は、アスランにとっては痛い。答えを出す事が出来ずに逃げる。そして何より、

(俺は…お前を追い詰めていたのか、シン)

 混迷に走る宇宙。一つの戦いは終わりが見えぬままに争いあう。
234通常の名無しさんの3倍:2007/01/11(木) 06:26:52 ID:???
ちょっと妄想したので投下しました。まあ、ちょっとしたワンシーンって事で
235機動戦史ガンダムSEED 04話 1/8 :2007/01/11(木) 21:11:17 ID:???
 
「……『ヘリオポリスU』は……陥落(おち)たわ」

 「――なにぃ!?」

 アスハ代表の口から漏れた言葉は俺にとって青天の霹靂であった。 
あの軍事防衛拠点である宇宙要塞『ヘリオポリスU』が早々に陥落した?

 俺は『ヘリオポリスU』の詳細な情報を脳裏に浮かび上がらせる。 

 確かに軍事的ハードウェアに絶対的なものなど存在しないが、代表府の総力をかけて俺達が手塩にかけて建造したものだ。
開戦序盤で、早々に陥落など先ずは有り得ないのはずなのだが……

 『ヘリオポリスU』はありふれたコロニー型の密閉タイプのものだが、
その内実は最新鋭の防御システムで固め、港宙デッキ完備であり駐留艦隊も常備できる。

そして、まだ実際に搭載はされていないのだが、核パルス・エンジンが搭載可能であり、
移動タイプの機動要塞の役割をも果たせるのだ。

 いくらとんでもない連中集まりである『ラクス軍』と云えども、短期間でこいつを制圧など考えられない。
堅牢な要塞ほど内部からの攻撃には脆いというのは戦術の常識であり、俺達もそれを踏まえた上で建設に踏み切ったのだ。

 イカレタ集団である『ラクシズ』の連中に出し抜かれるほどのヘマはしない自信もある。
アスハ代表は、俺にカマを掛ける為にわざと陥落したと言っているのだろうか?
一応、用心の為に俺はわざと演技を交えて疑問を述べてみる。
 
 「……ハハハッ?ご冗談でしょう?開戦の初っ端で……?」

 俺は首を竦めながら思わず言葉にする。さすがにそいつはないだろう?と
アスハ代表はどのような反応を示すのだろうか?
236機動戦史ガンダムSEED 04話 2/8:2007/01/11(木) 21:13:48 ID:???

 俺のカマ掛けに対して、アスハ代表は沈痛な面持ちで答える。

 「――いいえ。先程も言ったけれども、『ヘリオポリスU』は陥落。ラクス軍に制圧されたわ」

 ……どうやら真実のようだ。あの要塞の陥落はオーブにとって痛恨の極みであろう。

 『ヘリオポリスU』が建設されたあの辺り一帯の宙域は、10数年前のメサイア戦没の際に、未開発宙域としてオーブ領となった。
誰もがあの宙域で何も無い筈だと断言していたのだが、あの宙域を得る前段階で俺達代表府のスタッフ達は緻密な作業の元に、
未発見の希少鉱物資源や大規模なエネルギー資源の供給源として開発に成功した。

 そして、僅か10数年で『オーブ』を大国への脱皮へと導いたのだ。

 オーブが宇宙要塞の建設や世界有数規模の機動戦力の常時設置などを可能にしたのは、全てこの辺りから賄われたものなのだ。

 戦後、『ラクシズ』との泥沼の抗争によって出遅れた大西洋連邦やユーラシア各諸国の地球連合強国も
涎を垂れ流しながらこの宝の宝庫を欲していたのだが、
俺達が築き上げた軍備拡張計画によって世界有数の現有戦力を保持したオーブはその圧力を撥ね退けていたのだ……
 
 ……一気に奪回せねばなるまい。今はまだ地球連合強国や他の諸国、諸勢力が静観している内に。

 俺達は、『ヘリオポリスU』の陥落によってラクス軍に対して宇宙での我が軍の優位性は一気に無くなったという訳だ。 
事態は最悪の方向に向かって走っているらしい。 俺は苦虫の入った顔で続きを促した。

 「……第2艦隊は?」

 ……緒戦で敗れたとはいえ、それは拠点の制圧のみ。周辺宙域の制圧にはまだ、時間が掛かろう。
艦隊戦に持ち込めばまだ巻き返す機会が必ずあるはず。
駐留艦隊である第2艦隊の残存兵力はこの際、最大のポイントになるはずである。

 ソガも百戦錬磨の将のはずだ。撤退戦も率なくこなしている事だろう。ある程度の被害仕方が無い事だ。
防衛ラインを形成して、早急に戦線を構築し直ないと。
237機動戦史ガンダムSEED 04話 3/8:2007/01/11(木) 21:16:43 ID:???

 指揮官として俺以外の別の誰かが前線へ派遣されるにしても、手持ちの戦力が無ければ何ともならないだろう。
今のオーブの財政や軍事力では素早く派遣できる増援がそれ程望めない以上、敗残兵力とは貴重なものである。
第2艦隊の残存兵力を正確に把握しておかないと。
 
 と俺が多少の希望的観測を交えながら戦略上の上奏を唱えようとした矢先に、最悪の結論が俺を待ち受けていたのだ。
現実はやはりシビアで甘くない。悲しい事だが、これが戦争なのだ。絶望が常に友だ。

 「……第2艦隊は、ほぼ壊滅したそうよ……」 

 なに!全滅だと!?

 「……!それでは、ソガは……?」

 「ええ――『ヘリオポリスU』防衛司令官兼第2艦隊司令長官のソガ中将は戦死したわ……」

 とアスハ代表は目を閉じ、悲哀が篭った口調で事実を話してくれた。
俺は一瞬目を閉じた。そうか……

 「逝ったのか……ソガ……」

 と一言だけ口にした。
 
 『旧ウズミ派』の派閥に属していた奴と俺は当然仲が悪く、何度も衝突を繰り返した仲だ。
だが奴は、結局はアスハ代表の為に旧ウズミ派から脱閥してこちら側の人間になった。

 当初はソガも俺同様にオーブ社会では裏切り者と罵られていたのだが、奴はその屈辱に耐え抜き、
旧ウズミ派でありながらも新オーブ建設の為に働き功績を残してくれた。
そして、5年前に起きたオーブの内乱とも言うべき『統一戦没』にもカガリ派として参加し、俺達と共に『旧ウズミ派』の反乱軍と戦い抜いたのだ。

 ――その点で奴と俺は同志だったのだ。

 「――俺みたいな捻くれた悪人は健在で――馬鹿正直な奴ばっかが先に死ぬな……」

 ”そう、全くだよな”

俺の心の中の悪魔も同意してくれた。
238機動戦史ガンダムSEED 04話 4/8:2007/01/11(木) 21:17:59 ID:???

 「――ミナ。サイに現在の戦況を説明してあげて」

 だが、その間にアスハ代表は背後に控えていたロンド・ミナに俺に戦況の説明をさせようとしていた。
 
 既にアスハ代表は、過ぎた事は過ぎた事と認識して、その過ちを教訓とする事ができるような年齢となっている。
起こってしまった過去の失態よりも、これから起きるであろう未来の事象に対して適切な行為を取る方が望ましいのだ。
 
 「――了解した」 

 ロンド・ミナは、俺のそんな様子を見ても眉一つ動かさずに
戦況報告を、簡単にまとめた書類を俺に渡しながら説明を始める。
 
 アスハ代表の淡々とした自然体やロンド・ミナの泰然自若とした態度。
……俺もいつまでも奴の死や多くの同志達の死に動揺してはいられないだろう。

 俺は一旦は、散っていったソガや多くの同志の喪に服すと、すぐさま、現実へ戻る事となった。
昔から変わらない俺のやり方だ。こうやって俺は多くの逝く人々を見送ってきたのだ。
いずれに俺も同じ『地獄』へ逝くと。それまで待っていろ。

 「――『ヘリオポリスU』は陥落。『第2艦隊』は開戦直後の『ラクス軍』の猛攻で壊滅した」
  
 ロンド・ミナは先ずは結果論を述べた。
俺は真剣な目で食い入るように書類に並んだ情報を読み取り続ける。

 大まかな概要は次の通りだ。

 第2艦隊が他の資源衛星の定期巡回寄航中に、『ラクス軍』は制圧戦がメインである精鋭の特殊部隊を『ヘリオポリスU』へ送ったらしい。
 
 らしい……という不完全な報告を見ると完全に不意打ちだったのだろう。
不可侵条約の失効間際に艦隊を予め配置していたのがミソだろう。
さもあらん。かつて地球各国や辺境地帯周辺を嵐のように荒らしまくった筋金入りのテロ連中だ。
239機動戦史ガンダムSEED 04話 5/8:2007/01/11(木) 21:20:37 ID:???

 敵艦隊はミラージュコロイドを形勢して艦隊そのものを隠密行動としている。戦術としては上手い手だ。
敵が予め流した――要塞の制圧の急報と同時に第2艦隊は慌てて帰還しようとする。

 そして、その背後を隠れた敵艦隊は慌て秩序と余裕を失った第2艦隊を急襲する。単純だが隙を突いた完璧な攻撃だ。
逆に単純だからこそ、戦巧者のソガが簡単に引っ掛かったのだろう。
 
 敵の艦隊指揮官は相当な奴だな。ラクシズの連中にこれほどの戦いの駆け引きを心得た練達者がいただろうか?
俺は一人だけ思い浮かべるが……あの狡猾な男ならば……
 
 何にせよ情報が少なすぎる上に、この混乱だ。
情報の信頼性は極端に低い。改めて情報収集の為に現場で直接に情報を集めなければならないだろう。

 『彼を知り己を知れば百戦危うからず。彼を知らずして己を知れば一勝一敗。
  彼を知らず己を知らざれば戦うごとに必ず危うし』

 俺の座右の銘だ。そしてもう一つ。

 『謀(はかりごと)多ければ勝ち。謀(はかりごと)少なければ負ける』

 勝利する為にはあらゆる手を打ち、労力を決して惜しまない。
あらゆる謀略や調略を駆使して戦場外での状況を整え、戦いは戦場に到達する前に決する。
普通に考えれば何とない常識であり、定番でもある。
 
 だが、これが分からない輩が世間には数多い。
それで俺のような存在が必要とされ、出し抜かれる事となるのだ。

 ――頑強な要塞ほど内部に入られれば脆いもの。戦術の定石だ。
 だが、おかしいぞ?何故これほどあっさりと要塞内の侵入を許したのだ?
240機動戦史ガンダムSEED 04話 6/8:2007/01/11(木) 21:23:35 ID:???

 近代歴史上の過去に『ターミナル』と呼ばれるテログループや『クライン派』と呼ばれる『ラクス教』の前身に当たる組織が、
オーブは無論のこと地球連合各国やプラントで内部手引きをするという恐るべきテロ行為の例があった事によって、
地球連合及び我がオーブなど各国では要塞など重要な軍事拠点及び政府施設は
全てが全自動のパスワード及び遺伝子レベルの照合などでセキュリティが大幅にガードされる事となったのだ。
 
 『ラクシズ』の手によって国家間の軍事的ソフトウェアに於ける、人間の相互信頼というものが全く意味のないものにされてしまったのだ。

 何時、誰がどうのような状況で裏切るかがわからなくなった。その事は軍事機密などの戦略上での重要項目が人を介しては全くの信用を得る事ができなくなり、
冷徹な判断が出来る機械による厳重な管理体制へと移行される事となった。

 そして、防御システム全般が声紋チェック等など、あらゆるチェック項目は人間を介さない全く融通の利かないメカによる管理システムとなってしまった。

 ハッカーによる対策セキュリティーも現在では比較にならないほど高くなり、『スーパー・コーディネイタ―』という
いかがわしい連中の能力もこのような『ITセキュリティー技術』の未曾有の発達の前に敗れ去った。

 これから幾らでも発展するメカニズム社会の前には、人間が遺伝子を弄るくらいではもう対処不能に成りつつあるのだ。

 ――これは『ラクス・クライン』がもたらした人類最大の汚点の一つだろう。 

 これが現在の時代の流れだ。従って、内部手引きによってあっさりと要塞内に侵入される理由が見つからない。

 それともう一つ、駐留艦隊の定期巡回のコースを敵が何故、どのようにして知ったかだ?
これらは毎回コースのパターンを変えてるはずなんだが……?
 
 俺がこの疑問に対して首を傾げていると……ロンド・ミナの報告は現在の戦況状況に移っていた。

 流石と言えば流石だが、『ヘリオポリスU』が攻撃を受けた報告が入るや否や、
アスハ代表や総合作戦本部長を兼ねる首席補佐官殿は第3機動艦隊をすかさず戦線へ投入したそうだ。

だが、『鋼のミナ様』も緒戦でヘリオポリスUと第2艦隊が壊滅するとは予測が付かずに戦線へそのまま導入したらしい。

 そして結果として……
241機動戦史ガンダムSEED 04話 7/8:2007/01/11(木) 21:24:22 ID:???

「――現在、『第3艦隊』が防衛ラインを展開している。
 だが序盤の大敗が尾を引いてほぼ半数が壊滅……現在、防戦一方だ」

――やはり、戦いを制すのは兵の士気がモノをいう。

到着と同時に最前線となった宙域で、第3艦隊は敵に制圧された『ヘリオポリスU』と
敵機動艦隊の挟み撃ちを同時に受け緒戦で痛撃のダメージを艦隊に与えられたと言うのだ。

 敵側に取って理想の挟撃体制に物の見事に嵌ったわけだ。
ここで第3艦隊が壊滅し、宙域を抜かれてしまえば、もうお仕舞いだ。 

 ……アスハ代表は淡々と語る。
 
 ここでオーブの宙域を完全に制圧されれば、地球本土までほぼ一直線の航路でラクス軍は到達するであろう。
ここから地球連合と協定した宙域を荒らされれば、オーブ本国に席を置く連合強国を含めた各国の首脳部直属の補佐官や外交官も黙ってはいまい。
一気に全面戦争に突入し、世界規模の大大戦が再び勃発する事となろう。
 
 今は、まだオーブVSプラントという対立の枠で収まっているのだ。これ以上戦火を広げる事は望ましくない。
何としても、ラクス軍に対して絶対防衛ラインを形成し、そこから一歩たりとも地球本土直通の宙域を抜かさせる訳にはいかないのだ。

 「――はっきり言って国家存亡の危機ね」

 と強い口調でキッパリと断言する。そこには微塵も不安や躊躇いなど存在しない。 
全然、絶望してないところが流石というか……このお嬢さんは。
その点、俺はこのお嬢さんを頼もしく思う。よくここまで成長してくれたと。

 そして、彼女は説明はもう終わりとばかりに、

「さぁ、時間が無いわ。今から貴方には『ラクス軍』迎撃の総司令官として出てもらうわよ――代表府に連絡を!」

 と言い放ち、ロンド・ミナや後ろの黒服連中にも指示をてきぱきと与える。
その光景を眩しいそうに見ながら俺は、……む?そう言えば……?
何か重要な事を俺は忘れてはいないだろうか?と思った。
242機動戦史ガンダムSEED 04話 8/8:2007/01/11(木) 21:25:16 ID:???

 そうだ。俺は一番の懸案を代表に聞いていなかった事を思い出した。
慌てて俺はその重要な疑問点を代表に問い質す。

 「ちょっーと待った!!戦力は?」

 そう、俺が預かるべき手持ちの現有戦力が存在しないのだ。

 「――今ある本国の主力部隊は、地球連合強国の抑えの為に動かせないでしょうが?」

 戦力がゼロでは、いくら天才の俺でも『ラクス軍』と戦うのは無理なのだ。
徒手空拳で頭のイカレタ連中と戦うほど俺は無謀ではないのだから。
現有戦力第2艦隊は壊滅。第3艦隊もほぼ半数がやられている。手持ちの戦力はゼロ……いや、待てよ。
確かに、一応の戦力はオーブにはまだ存在する。それは本国駐留の『第1機動艦隊』だ

 本国にある第1艦隊はオーブの要というべき存在である。
この主力戦力は代表府直属でありロンド・ミナの直接指揮の元にあるのだ。

 こいつを動かしたら一大事だ。本国が空っぽになるのは言うまでも無く、
虎視眈々とオーブを狙う外来勢力が付け入る隙に成りかねない。

 「その点は問題ないわ」

 俺の絶望的な問いに対して、アスハ代表は明るく答えた。

 「え……?」

俺のその疑問符に対してアスハ代表は、

 「――新型のKS型機動戦闘艦の4番艦である通称『クサナギW』――
   これを旗艦とした艦隊とMS部隊のフルセットを付けて『第4機動艦隊』を貴方に進呈するから」

 と彼女はあっさりと俺の懸念と疑問に答えてくれました。

「――『クサナギW』?どこからそんなものを……?」

 代表はその問いには答えず、俺が怯む位に澄み切った瞳を向けて、

「――現在のオーブが持ち得る最強の機動戦力――これを貴方に託すわ」

と、そう力強い声で話を締め括った。


>>続く
243通常の名無しさんの3倍:2007/01/11(木) 21:50:32 ID:???
代表言葉が板についたカガリはともかく、あのサイボイスを脳内再生しても
ちょーっと待ったはサイのキャラと合わないと思うんだがな、感性の違いか。
正直オリキャラものとして読んでる。話としては面白いと思う。
244通常の名無しさんの3倍:2007/01/12(金) 02:16:11 ID:???
10年後くらいの物語だから、まぁ10年もたてばこんな感じになんのかな?と思て読んでるよw
245通常の名無しさんの3倍:2007/01/12(金) 17:10:50 ID:???
十年前の自分を想像してみようか。

…。

泣けるほど中二病だな……。
246通常の名無しさんの3倍:2007/01/12(金) 20:43:42 ID:???
>>245それは俺も同じだブラザー、仕方ない事なんだよ…ノシ。
中二病は若気の至りなんだ、多分…。
247機動戦史ガンダムSEED 05話 1/6:2007/01/13(土) 18:15:34 ID:???

  「――『クサナギW』?どこからそんなものを……?」

 代表はその問いには答えず、俺が怯む位に澄み切った瞳を向けて、

「――現在のオーブが持ち得る最強の機動戦力――これを貴方に託すわ」

 と、そう力強い声で話を締め括った。

 俺が呆気に取られていると、アスハ代表はどこぞの大学の女学生のように、 

 「フフッ……貴方でも、そんな風に驚くのね?」

 と俺に微笑みながら話しかける。俺から一本取った事を喜んでいるようだ。

 「いやはや……どこからそんな金を捻出したんですか?」

 俺は半分おどけながら、に内心では驚愕していた。
現在のオーブに新たな機動艦隊を創設できる財力が存在していた事を。

 俺も関わった第二次軍備拡張計画によると新型であるKS型機動戦闘艦を中心とした、
常備軍としての機動艦隊の配備は第1から〜第3までの合計3個艦隊で構成される事となっていた。

――第1艦隊は本国の要として。
――第2艦隊はヘリオポリス2の防衛及び駐屯艦隊。
――第3艦隊は遊軍として地球衛星軌道上及び周辺Lポイント宙域の巡回。
248機動戦史ガンダムSEED 05話 2/6:2007/01/13(土) 18:17:10 ID:???

 そして、将来はKS型戦闘母艦を中心とした10個艦隊を創設し、
地球連合強国との戦力均衡のバランスを取りつつ、
太陽系圏内に於けるオーブの国際社会の地位向上と秩序を保つ上で軍備計画の一環でもあった。

 だが、少なくともそれは最低でも、後30年は先になる話だと俺は見ていた。

 現状の3個艦隊があれば少なくとも、此処10年以上の間は、
近代国際社会の紛争による激動の波を被らずに、オーブに平穏無事をもたらすはずであったのだ。

 『メサイア戦没』に続き地球圏の平和を唱え、無駄に首を突っ込みながら混乱に介入していった通称『ラクス・クラインの争乱』は、
地球連合に加盟する強国や周辺小国にかなりの甚大な被害を与えていた。

 そして、泥沼の果ての外乱の末に双方が戦闘の継続が不能になる程の被害をもたらしたのだ。

 その間に、俺達は着々と力を蓄え、
内政を整え政治体制を代表首長府のに置ける中央集権体勢に移行させつつ、軍事改革にも着手した。

 そしてついでに俺はオーブに古くから根付く旧体制派の様々な階層の人々から多くの恨みを買う事となる。
――それ自体に俺は後悔も躊躇いもない。
誰かがやらねば成らなかったことだったし、それがたまたま俺だったというだけの事なのだ。

 この抗争によって連合強国もラクスの傀儡となったプラントも国力が極端に減少し、自然に休戦と言う形に持ち越される事となった。
ラクス軍の生き残りは辛うじてプラントへ戻り、一部は厚かましくもオーブに戻ろうとする連中もいた。

 そうのような輩はご丁寧に退場を願ったが、アスハ代表の血縁と言う事を武器に居座る馬鹿もいる。
そいつ等は俺が叩き出しておいたのだが。思いっきり奴等から恨みを買う事となった。

 
249機動戦史ガンダムSEED 05話 3/6:2007/01/13(土) 18:20:27 ID:???

 どちらにしろオーブとプラント間の交流は5年前のオーブで発生した内乱である、
『統一戦没』によって完全に途切れてしまった。

 これはアスハ代表の側にいる俺達を『奸臣』扱いにし、排除する為に行われた馬鹿馬鹿しい戦いでもあった。

 政府軍と反乱軍とに分かれて戦ったこの内乱は、プラントのラクス側から反乱軍の支援もあり、短期間だが熾烈を極めた。

―― だが、杜撰な連中という事である。そう都合の良いように戦えるはずがないのだ。
この時期には奴らの『邪神の加護』も尽きていたのだろう。

 俺達は戦闘の合間の間隙を付きながら政治工作や補給路線を衝いたり、
プラント側も一部こちらの政府軍側に付く勢力もあり、その結果、驚くほど短い期間で反乱軍の撃滅に成功した。
 
 反乱軍を撃滅させ、反乱に関わった大方の首謀者氏族の連中や関連者、
軍人等の財産没収や追放劇、禁固刑など大幅な粛清を成功した。

 これによってオーブは近代化の道を進む事となる。災い転じて福とした訳だ。

 ラクス関連者はオーブからプラントへの国外逃亡を果たし、アスハ代表も敢えて追求はしなかった。
この点は俺は甘いと思うが、まぁ、それが代表の意向ならこちらは従うまでである。

 奴等がどのような策謀を企てようとも叩き潰す自信が当時の俺にはあったのだ。
 ……若いと言うのは恐ろしい。正直赤面の至りだ。
まぁ、今の俺なら、奴等程度ならば幾らかの策を施して、奴等が事を起こそうとする前に叩き潰すだろう。

――閑話休題であった。
250機動戦史ガンダムSEED 04話 4/6:2007/01/13(土) 18:22:36 ID:???

 俺が一番の疑問に思っている新艦隊創設資金の出所については、ロンド・ミナが答えてくれた。
 
 「――『クサナギW』の建設と『第4機動艦隊』の設立資金はアスハ家とサハク家、共通の秘密基金である『特別運用資産』と
  国庫の別枠である『代表府の機密予算』から密かに捻出された……国内穏健派を抑え、説得してる間に国が滅びては仕方があるまい?」

と、とんでもない事をサラリと言ってくれる。
俺は少し頭にきた。アスハ血縁のお偉方や金のある氏族連中から、
幾らでも毟り取るのは別に構わない。

 奴らはその為に生かされているのだからな。だが、国民を騙すのどうなのだろう?
俺は皮肉の一つも言いたくもなる。

 「……おい。『民主主義』て言葉を知っているかい?」

 ロンド・ミナに深刻な皮肉をぶつける。
だが、奴は眉毛一本も微動せずして、

 「――自らを『護る術』を持たずして何の為の主義主張なのだ?」

 と俺に切り替えしてきた。
俺達が無言で睨みあっていると、アスハ代表が仲裁に入ってくる。

 「――サイ、ミナ。二人とも。時間が無いのはわかっているのでしょう?」

 と柔らかく仲裁に入ってくれた。
5年前の代表府ではいつもの風景である。
251機動戦史ガンダムSEED 05話 5/6:2007/01/13(土) 18:23:51 ID:???
 
 俺とロンド・ミナが激しく遣り合い、それをアスハ代表が上手く仲裁に入る。
俺達は幾つもの懸案に対して対策方針をそれぞれ提案し、それをアスハ代表は取捨選択し、決断する。
このような風景が代表府では当たり前の光景であったのだ……

 「ミナもそうだけど、サイ、貴方もよ。もう結論はとっくに出ているのでしょう?」

 とアスハ代表は俺に念を押してくる。
相変わらずガッチリとこちらの弱みを突いて来る。
俺はその態度に好感を持ちながら、

 「――やる気満々で」

 彼女に一言、物を申した。
アスハ代表はそれに受け答えながら、

 「ええ。勿論――私は私の『義務』を果たすわ。そして貴方も『義務』を果たさなければならないでしょう?」

 笑顔でお答えになる。

 「……何の義務ですか?」

 俺が咄嗟に呟くと、今度は彼女は幾分真剣みの篭った言葉で、

 「今のオーブを創り上げた責任と義務。そして、その為に……私達が捨石とした人々の為に」

 と思いっきり意味深な一言を切り返してきた。
そうだな。俺は安穏とした暮らしが許されないのだった。

……どうしてその事を忘れていたのだろうか?
252機動戦史ガンダムSEED 05話 6/6:2007/01/13(土) 18:25:31 ID:???

 「……柄じゃないんですけどね?」

 と俺は心底の感想を呟いて、今日までの退屈だが、安穏の生活を捨てる事を理解しなくてはならなかった。
アスハ代表は俺に完全に決別させるために、わざわざ退路を塞いでくれたのだ。

 「――さぁ、サイ・アーガイル!覚悟を決め貴方の責務を果たしなさいな。もう逃げ道はないのだから」

 俺を再び戦場へと誘う彼女の言葉は、いっそ爽快な気分にさせてくれた。

 「――わかりました!……わぁかりましたよ!!ですがそれは貴女の為ではない!」

 俺は一応の、格好を付ける為にバレバレ態度でありながら言葉を続ける。

 「――私が戦うのは 私がこの国の為に犠牲してきた人々の為ですっ!
  さぁ――果たしましょうか。義務とやらを……!」

 そして、俺は自分のプレハブの事務所を後にして、アスハ代表達とヘリに乗り込んだ。
再び戦場へと戻る為に……


>>続く

253通常の名無しさんの3倍:2007/01/13(土) 19:15:04 ID:???
生者のためでなく、死者のために戦う…。
建設的ではないが、俺は好きなタイプだ。
254通常の名無しさんの3倍:2007/01/13(土) 22:11:54 ID:???
GJ!お疲れ様でした。
サイの口調に微妙な変化がある様に見受けられますが、成長による変化として受けとる事の出来る描写があれば説得力を持たせられたと思います。
気になった点はそれのみ、かなり高いレベルではないのでしょうか。
255通常の名無しさんの3倍:2007/01/15(月) 00:07:10 ID:???
保守
256通常の名無しさんの3倍:2007/01/16(火) 06:08:35 ID:???
保守
25745  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/16(火) 22:05:43 ID:???
 それでは、続きを投下します。
25845  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/16(火) 22:08:31 ID:???
1/

「こっちの情報に無い――新型だと!?」

 カオスを駆るスティングは、数的優位だけではなく質的にも状況が変わってきたことを
確信した。白いザクの動きも中々だが、両手に馬鹿でかい対艦刀を装備したザクも、
空中からこちらを睥睨するようにビームライフルを構える新型も、並々ならぬ気配を
漂わせている。

『スティング、こいつらどうする?』

 不安げな声でステラが通信を送ってきた。スティングは黙考する。

「藪を突つけばなんとやら、だが」

 敵の数も操縦者の腕も、最早武器を奪いながらどうこう出来ると言うレベルではない。
撤退を考えるべきであった。

「蛇どころか竜が出てきやがった。ステラ、戦闘ステータスで起動しろ」
『……うん』

 まさかバッテリーが足りないと言う冗談は無いよな。思わずデータリンクを介して
カオスとガイア両機の状態を確認する。ステラはちゃんと言いつけを守ったようだ。
奪った武器からの電力供給によって、短時間であれば戦闘ステータスでの稼働が
可能であった。

「フェイズシフトオン、全兵装を戦闘出力へ――後600メートル、保てよ」

 二機のモビルスーツが戦闘ステータスに移行した。カオスは背面のポッドと共に
全身に深緑の装甲を鎧い、ガイアは漆黒の毛皮を纏う狼狗となった。

「ネオの野郎、いい加減な情報を寄越しやがって」

 狭いコックピットの中で毒づく。其処までがスティングに許された最大の反抗であった。
長年の間に課され続けた条件付けは、戦闘を前にして他に意識を分散させることを許さない。
 スティングはスティックを押し込んだ。ディスプレイの中で戦場の景色が移ろいで行く。
 カオスとガイアは、プラントの大地を揺るがしながら突撃した。
25945  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/16(火) 22:10:58 ID:???
2/

『来るぞ、シン、ルナマリア』

 VPS装甲を展開して戦闘ステータスへの移行を遂げたカオス、そしてガイアの二機を見て、
レイが僚機の二人に向かってそう告げた。

「オウケイ、あたしとシンで前に出るわ。背中を任せたわよ、レイ」

 応えるルナマリアは負ける気がしなかった。生活態度や素行に少し問題はあったものの、
訓練所時代にモビルスーツ模擬戦では無敵を誇った三人の連携だ。装備も整った。
射撃が絶望的に苦手なルナマリア機の手には今二振りの太刀が握られている。
 そして更に――

『ルナ、ガイアを抑えろ! レイ、始めにカオスを攻撃する!』

 ハンガーの上空で奪われた二機を同時に視界に収めながら、インパルスのシンが叫んだ。
コロニーの擬似重力下で自在に飛翔できるフォースシルエットの機動性、地面と空から
攻撃の多角性を得た三機は、柔軟な連携が可能になる。
 漆黒の狼――VPSを展開したガイアが赤いザクに向かって突撃してきた。射撃武器を持って居ない
と判断したのか真っ直ぐ、最速の動きで迫る。ルナマリア機と接近してさえいればインパルスが
味方機を巻き込むことを恐れて援護射撃をしてこないと思ったのだろう。

「考えが甘いわね! ――其処ォ!」

 エクスカリバーの間合いに入る直前にルナマリアはスティックを操作し、右腕の対艦刀を
横薙ぎに振らせた。まさに獣の反射速度でガイアが跳躍し長大な太刀の一閃を躱す。高エネルギー砲並みの
重量を空振りした結果ザクの巨体が大きく振られた。

「甘いって言ってんのよ――!」

 ルナマリアは全く慌てることなく、反動を利用して左腕の刃を縦に振るった。
ガイアを動かす者の反応は人知を超越した速度を誇っているが、速いという事が分かっているのなら、
ルナマリアが動きを先読みして二撃目を当てるのはそう難しい事ではない。
 獣の体を人の技が捉えた。宙で身をよじってビーム部分の直撃は躱したが、エクスカリバーの先端が
ガイアの胴体をえぐった。衝撃で黒い装甲が剥がれ落ち、本来の灰色を取り戻して地に落ちる。

「降伏する? ――って、そんなわけないわよね」
26045  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/16(火) 22:13:20 ID:???
3/

 手負いの獣には気をつけろ、コロニーには犬より大きな動物は居ないからルナマリアは獣という
物を見たことが無かったが、そんなありふれた文句を思い出した。
 低く身を構えたガイアが、関節のモーターを全力稼働させて突進してくる。

「装甲の分軽くなったって言うつもり? 舐めるんじゃないわよ!」

 斬撃の間合いに立ち入ったガイアを両断すべくザクが再び双剣を振るう。一撃目が回避されることも、
攻撃の間を狙って接近を図って来ることも、ルナマリアの予測どおりだった、しかし――

「――! 何ですって!?」

 ガイアは右前脚を犠牲にして対艦刀の一撃を逸らすと、ザクの目の前で跳躍。必殺の一撃を躱され
平衡を崩したザクの肩口を蹴って再び跳び上がった。

「――あたしを、踏み台にした!?」

 ルナマリアの驚愕は、自分ひとりが出し抜かれたと言うだけの物ではなかった。崩された鉄壁の
陣形、ガイアが跳躍して向かった先に居るのは――
 倒れそうになるザクをフルマニュアルで支えながらルナマリアは叫ぶ。

「レイ! ガイアに抜かれたわ! 気をつけて!」

 ルナマリアの心臓が凍った。不味い、カオスを追い詰めるべく掩護射撃を繰り返している白いザクは、
このままではほんの一瞬ガイアへの対応が遅れてダメージを受ける。
 自分のミスが仲間を致命的な危機に晒す、そんなルナマリアの危惧を再び救ったのは横合いから
投擲された戦斧だった。モニターの端に片腕の機体が投げつけた姿勢のまま映っている。
先ほどルナマリアを助けてくれた緑のザクだった。レイのザクがガイアに向き直る。

「――有り難う! お礼どころかキスだってしてあげるわ!」

 聞こえているか分からないが、ルナマリアは本気で感謝しつつザクを突撃させた。
26145  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/16(火) 22:15:23 ID:???
4/6

 外部からは気付かれないはずのプラントの鳴動を、虚空の闇から観察する者達が居た。
薄暗く照明の落とされた艦橋で小さく点っていたカウントダウンがゼロを示した。

「もう始まっている……かな」
『帰って来ますかな? 彼らは』

 条約無視のミラージュコロイドによってプラント全ての目をごまかしている戦艦、
その艦橋で銀色の仮面をかぶった男が呟き、艦長席に腰を降ろす男が返事した。

「よーし、盛大にお迎えしてあげようか。艦長、面舵三十、機関最大。
ミラージュコロイド解除と同時に前方のナスカ級を落とすぞ」

 これから女を口説きに向かうような落ち着いた口調で仮面の男が命令を発すると、
艦長イアン=リーは断固たる口調でネオに告げた。

「ロアノーク大佐、貴方はファントムペインの隊長ではありますが、この艦の艦長は
私であります。艦の行動にまで口を出されては、指揮系統が混乱いたしますな」

 歴戦の宇宙軍人として毅然とした態度で上官に向かって諫言すると、仮面の大佐
ネオ=ロアノークは苦笑して謝罪した。

「いや、これは失礼した。つい彼らに向かってのつもりでね」
「……ご理解いただければ結構です」

 理解しなければ真空の宇宙に裸で放り出すといった迫力であった。ネオは俄然この
艦長を信用する気になる。笑みを収め、硬い軍人の口調で再度命令を下した。

「了解しました。――機関最大、取り舵二十。主砲照準、左舷下方のナスカ級に
合わせろ、ミサイルを前方の艦に発射すると同時にミラージュコロイド解除」

 自分の提案した動きを完全に変更して二隻を同時に相手取ろうとするイアンを見て、
ネオは仮面から除く唇を笑みの形にゆがめた。必要と有らば上官にも向かって諌め、
その意見を跳ね除けるならばより一層の戦果を挙げてみせる。
26245  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/16(火) 22:17:00 ID:???
5/6

「プロだね、なんとも頼もしいことだ」
「――は、それが仕事ですので。主砲は思い切り目立つように撃てよ! 先発した
モビルスーツ隊の仕事がやり易いようにな!」

 イアンが完全に艦橋を掌握している事を感じ、自分の仕事が此処には無い事を悟った。

「それじゃあ、俺は出ようか。艦長、後は任せたよ」
「――ロアノーク大佐、一体どちらへ?」

 緩やかに方向を転換しつつある船体の艦橋で、イアン艦長が振り返って聞いた。

「なに、艦長の仕事が船の舵取りなら、大佐の仕事が子守りだって事さ。
メビウスで向こうを掻き回して来るから、発進のタイミングを取ってくれ」
「了解しました……御武運を」

 イアンはモビルアーマーに乗って出陣しようという上官を揺るぎ無く見送った。
ネオは主砲発射を告げるイアンの声を聞きながら、艦橋を後にする。

 戦艦ガーディ=ルーが、ミラージュコロイドの衣を脱ぎ捨てると同時に船尾から
噴煙を曳く対艦ミサイルを発射しつつ、主砲を最大出力で放った。
 一隻のナスカ級戦艦がCIWSの弾幕を形成しながらもミサイルの群れに全身を
噛み砕かれ、もう一隻は反応する間も無く主機関を高速の荷電粒子に貫かれる。
共に爆散には至らないまでも、戦闘力を完全に奪われてデブリの予備軍に成り果てた。
 艦橋の人員が歓声を挙げる暇も無く、イアンの命令が飛んだ。
26345  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/16(火) 22:23:44 ID:???
6/6

 パイロットスーツに着替え、自分の機体に乗り込んで発進の機会を待とうと
したところで、手元にあった端末に第二艦橋のオペレイターが映った。

「ロアノーク大佐、艦長は『いつでもどうぞ』との事です」

 スーツのジッパーを三重に閉めながら、思わず笑みが隠せない。

「了解した、艦長には大人のお守りもご苦労だ、と言っておいてくれ」

 自分で前線に出ようなどと言う上官が居ては気苦労も絶えないだろうに、
無理や無茶を仕事の一言で済ましてこなす男に、見えないだろうが敬礼を送った。

「さーて、それじゃあ早めに行かないと艦長の気が散るだろうからね」

 カタパルトデッキに入り、用意された自分の機体"メビウス"の操縦席に収まる。
進路はすでにオールグリーンのマークが灯っていた。早く子守りを終わらせないとな。
 首筋に何か違和感を感じて、ネオはパイロットスーツ越しに後頭部を撫でる。

「――? 風邪かな――?」

 直に首を振って余計な考えを振りほどくと、通信回線越しにデッキに向かって呼びかけた。

「ネオ=ロアノーク、"エグザス"――出る!」

 爆発的なGがネオの体をシートに押し付けた。
 カタパルト――電磁力の弓が戦闘機を加速させ、真空の闇へと放り出す。
 一瞬の浮遊感を感じると直にスラスターを全開にし、ネオは戦場の宇宙へと
エグザスの機体を飛翔させた。

「待っていろよ! ファントムペインの諸君!」

 機体を加速させるGを全身に心地よく感じながら、ネオは爆煙とビームが嵐の如く荒れ狂う
宇宙へとエグザスを突入させた。
264通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 11:42:51 ID:???
GJ!!!
265通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 18:17:47 ID:???
メビウスなのかエグザスなのか
多分後者なんだろうけど
266通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 18:48:37 ID:???
1.記憶が混乱している。
2.彼にとってメビウスはMAの総称である。
3.作者の間違い
4.メビウスなんだけど、OS起動時に頭文字がエグザスと表示される。
267通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 21:54:52 ID:rTGP+oBx
おおっ!
26845  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/18(木) 08:14:58 ID:???
3に一票
269通常の名無しさんの3倍:2007/01/18(木) 12:47:48 ID:???
鼻水噴き出た
270通常の名無しさんの3倍:2007/01/18(木) 16:23:00 ID:???
45氏GJ!!www
271通常の名無しさんの3倍:2007/01/19(金) 00:36:22 ID:???
ほす
27245  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/19(金) 17:55:22 ID:???
1/3

 戦艦ガーディ=ルーが姿を現すと同時に、砂時計の底から砂粒が一つ真空の闇に零れ落ちた。
それはプラントの大きさからすれば酷くちっぽけな存在だったが、近づいてよく見れば、
人の十倍も大きさの在る一体のモビルスーツだった――殆ど骨だけの。

 アビス――深淵の名を冠するその機体は、ビームとミサイルの乱舞する宇宙を目立たないように、
ひたすらデブリの振りをしながら母艦を目指して漂っていた。時々直撃しそうになる流れ弾を、
身じろぎ程度に動くことで回避、舞い落ちる木の葉のような動きを繰り返しながら進む。

 その狭いコックピットでアウルは鼻歌を歌いながらスティックを操作する。目当ての戦艦を
アビスのモニターに発見すると――

「――おりゃ!」

 と一声気合を入れてスラスターをふかし進行方向を変えた。画面の中で宇宙船艦の艦影が徐々に
大きくなったかと思うと、最後の推進剤をスラスターに叩き込んで最大加速、自身の体をシートに
押し付けるGを感じながら、母艦に通信を送った。

「こちらアウル=ニーダ! 右カタパルトのシャッターを開けてくれ!」

 返事も聞かずにベクトルを整えると母艦のレイダー範囲内に滑り込み、アビスを確認して
口を開け始めたガーディ=ルーのカタパルトデッキに無理矢理着艦してしまった。
半開きのシャッターにアビスの巨体を掠らせる事もなく潜り込みネットに引っかかる――減速。

「アウル=ニーダただ今帰還しました! ――どうだったよ?」
『――……ナイスランディング』

 コックピットハッチに向かって漂ってきた整備員と装甲越しにそんな会話を交わす。

「おおっと! ハッチは開かないでくれよな、急いで来たもんでスーツまで着てないんだ。
それから――」

 アウルは一旦そこで言葉を切って、気密バルーンを持って飛んでくるメカニックに注意を促した。
戦艦の機動によって内部にGが発生して壁に激突しそうになるのを教えてやる。慌てて壁に吸着して
怪我を回避したクルーが、MSのハッチに空気を洩らさない巨大な風船を貼り付ける。

「――ダガーが一機、余ってるよな?」

 バルーンに潜り込みながらそう聞いた。
27345  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/19(金) 17:58:00 ID:???
2/3

 コロニーの外壁というものは分厚い場所は非常に堅牢だが、プラント周縁部の外壁は処により
厚さが精々数センチ程度まで薄くなり、かつ脆くなる。
 理由は三つ。分厚い外壁を砂時計の両端に貼ると遠心力が巨大になりシャフト強度と重量の増加が
いたちごっこを始める事が一つ。
 あまり外壁を分厚くすると穴が開いたときの修繕が困難に業るということが一つ。
 そして三つ目は、どうせ大質量の物体が高速で激突すれば貫通されるのだから、余り強固な構造に
するとかえって穴が広がる事。つまりは宇宙と言う環境の潜在的な攻撃力に屈した形である。

 だから、数十トンもあるMS――カオスとガイアが外壁に激突したときも、厚さ二十五センチの
強化繊維集合材で出来た壁はさしたる抵抗もせずに崩壊した。そればかりか自律的にセル同士の
連結強度を一瞬のうちに変化させ、MSより少しだけ大き目の穴を開けることで壁面の破壊が
それ以上の範囲に進むことを防いだ。

「畜生! 悠々出て行く積もりが、叩き出されちまうとはな!」
『――あの赤い奴、私を撃ちはしなかった……母艦は何処に居るの? 推進剤が足りない!』
「一番激しく戦闘している所だ! ビームの明かりを目指して一吹かししろ、近くに寄ったら
必ずネオがステラを助けてくれる」

 スティングのカオスは白いザクと見覚えの無い新型の連携によって追い詰められた。ステラのガイアが
二刀流のザクに弾き飛ばされ外壁を突き破ると同時に、推進剤を吹かして離脱していた。

「戦闘の事は忘れろ、ぶっつけにしては随分戦った方だ。ネオも褒めてくれるさ、ちゃんと機体ごと帰ればな」
『そうじゃない、そうじゃないの……』

 何か戦況とは別の事を気にしている風のステラを横目に、スティングは自分たちがあけた大穴を
凝視していた。――後少しだけ追ってくることを躊躇しろ、そうすれば穴は勝手に塞がって
遠回りをしなければ追えなくなる、そして自分たちはゆっくり母艦に帰られる。

「深追いは危険だぜ? 出てこないでくれよ? 宇宙戦が出来るほどには推進剤もが足りてねえんだ」

 スティングの台詞は希望的観測を口に為ただけのものだった。そしてそういった願望は、往々にして
破られるものだ。自動修復機能が働く直前の破壊痕から二機のMSが飛び出してくる。白いザクと
トリコロールの新型機――カオスが追われた形だ。穴から漏れ出す空気の圧力に押された体勢を整える

「――ちっ……しつこいんだよ! ――ステラ! ガーディ=ルーの座標は分かるな?
すぐに加速しろ。地上用のガイアじゃあ的になるだけだ!」
『此処に残る積もりなら、私だけ行きたくはない! ネオのところに帰るなら、スティングも一緒に行こう?』
27445  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/19(金) 18:00:49 ID:???
3/3

 ――そんな場合じゃねえんだ。言葉を吐く時間がおしくてカオスにビームライフルを構えさせる。
ザクと新型は穴の近くで二機の様子を伺っているようだった。スティングには考えていることが分かる。
カオスに戦闘を続ける能力があるかを測り、伏兵の存在に気をつけているのだ。
 どちらも存在しないと気付かれればスティングもステラも終わる。

「確認しただろうが、しんがりは俺だ! それに逃げるんじゃない、助けを呼んで来いと言っているんだ!」
『――イヤ! スティングが死んじゃう! 逃げるのも、戦うのも一緒が良い!』

 そのどちらでもカオスにとって宇宙でのガイアは足手纏いにしかならない、そう言っているのを
ステラは理解はしても納得しようとしなかった。――仕方ない。"禁じ手"を使う覚悟を決めた。
後でアウルに恨まれるかもしれないが、こんなところで二人とも死ぬわけにはいかない。

「聞け、ステラ――」

 敵機が二人を屠る――或いは捕獲する――ために加速する。スティングは本当の意味で"言葉の暴力"を
振るうべく、僚機に向かって叫んだ。

「お前は『死者の行進を――」
『おおっとスティング、それは必要が無いな――』

 言葉、そして火線――連続に五本。カオスと目近に迫った新型との間をビームの熱線が走り抜け、
次の瞬間に凄まじい速度でマゼンタのMAが駆け抜ける。一発が新型の脚に掠り、間合いを開かせた。

「――ネオ!」
『駄目じゃないかスティング、そんな簡単に"ブロックフレーズ"を使おうとしちゃあ。
ステラからの信頼が少ない証拠だぞ? 上の人間の言うことを聞いて欲しいんだったら――』

 そして反転、周囲に散らばしたポッドと共に再射撃、ガイアに迫っていたザクがシールドで受ける。

『――先ずは、自分の上官を信用しないと、な?』

 部下に薫陶を与えながらも繰り出される、練りこまれ磨き上げられた一撃離脱戦術。
 ネオ=ロアノークはまるで散歩ついでのように、ステラとスティングを助けに現れた。
275通常の名無しさんの3倍:2007/01/19(金) 18:56:01 ID:???
GJ!
ブロックフレーズいいよね。でもディオキアとロドニアの話はどうするんだろう?
ネオ、いい上司っぷりが好印象。このままで行ってほしいな。
276通常の名無しさんの3倍:2007/01/19(金) 20:23:03 ID:???
アウル、格好いいっすね。
277 ◆XGuB22wfJM :2007/01/19(金) 23:01:42 ID:???
「すまないなシン、残業代はこれ以上出せないのに」
深夜だというのに明かりの消えない倉庫に、二十台後半とおぼしきツナギを着た女性の声
が響いた。

「気にしなくて良いですよ、コーディネイター雇ってくれるとこあんまりないですから」
仰向けに寝そべった、巨大なヒト型の膝あたりから声が返ってくる。

「馬鹿を言うな、元ザフトのトップエースならジャンク屋の本部にだって、新しいコロ
ニー建設だって従事できる。君のような人材がこんな僻地で」
「ナタルさん、その話もう二十回超えてますって。
俺、ここの土地で働きたくているんですから」
「はあ、その返答も二十回を超えているな、愛社精神はありがたいのだがな」

ここはベルリン、何でも屋ドミニオンの倉庫だ。
シンはストライクダガーの整備を深夜まで続けていた。ジャンク屋に毛の生えた程度の零
細企業では、腕の良い整備工など雇うのは難しく、整備マニュアル片手に素人がやる他な
い。伊達に赤福ではなかったと持ち前の頭脳と若さを示し、シンは整備の真似事もこなし
ていた。

「やれやれ、モビルスーツというものは大きすぎる。3分の1くらいなら丁度良い重機に
なるんだがな」
彼女はナタル・バジルール、この何でも屋ドミニオンの経理担当兼常務だ。過去は堅物の
軍人だったそうだが、どういう訳かCE76年現在、怪しげな会社に勤めている。
なお今でも十分堅物である。

シンと呼ばれた若者は開きっぱなしのコクピットに乗り込み、機器を動かし始める。
「その内ミドルモビルスーツとか、プチモビルスーツとか出来ますって……OS起動……
機体診断……、良し。
ナタルさん下がってください、直接動かして最終チェックかけますから」

ナタルが安全圏まで退避したのを確認すると、ゆっくりとストライクダガーは起き上がり、
基本的な行動で機体の状態を確認する。シンの生まれ故郷では朝のラジオ体操と呼ばれ、
半ば強制的に参加させられていた体操を行った。無論モビルスーツの出来る範囲でだ。
278 ◆XGuB22wfJM :2007/01/19(金) 23:03:03 ID:???
「全パラメータオールグリーン、だけどオーバーホールが必要な時期ですね。
音とか、乗り心地が悪くなってます」
『十分だ、もとより5年前の戦時急造品だからな、まともに動くだけありがたい。
今日は電源落として早く上がれ、若い頃の無茶は後で響くぞ』
拡声器を片手に忠告するナタル。無茶が響く年頃になってしまったらしい。

「了解です、そろそろ入れ替わりの機体入らないんですかね?」
機体を再び寝かせ全活動を終了、バッテリーを充電状態にしてロックする。
モビルスーツの強奪事件は黎明期から枚挙にいとまがなく、資産管理は厳重に行っていた。
コクピットから這い出たシンは、仰向けの機体から身軽に飛び降り、ナタルのところまで
歩いてきた。

「社長がアクタイオン社が試作した工業用七つ道具パックに、何処で使用されたか分から
ない、黒い105ダガーをセットで手に入れられそうだと息巻いていたぞ」
「あの社長苦手なんですよ。コーディネイター嫌いだって言う割には、地球を愛するコー
ディネイターは認めるとか言ってるし、時々目が血走ってるし」
「プラント人が果てしなく嫌いで、核兵器を打ち込むべきだと日夜叫んでいる方だからな。
元々は軍事関連では名の知れた人物だったんだ」
「……ああそれって、もしかして」
「ああ多分元ロゴスだ。
……確かに彼らがユニウスセブンの攻撃を核攻撃にした可能性はあるが、確証は無い。
戦争を煽った可能性もあるが、世界に秩序をもたらしていた部分も大きいんだ。
彼らがいなくなったから今でも世界中、いや地球中の混乱は収まらないんだ」
暗にプラントを除外するナタル。

現在プラントではラクス・クラインが最高議長となって治めている。
CE73年の騒乱を傍から見ていた地球人などは、戦後復興も終わらぬままに始まった騒
動を厄介事として見ていた。
空からコーディネイター至上主義のテロリストが隕石を降らしたと思えば、犯人の検証を
行う間もなく、連合からの急ぎすぎる宣戦布告。

連合が不可解な無差別攻撃をしたと思えば、地球の歴史は死の商人が操っていたとする陰
謀説が旧プラント議長によって発表された。
真偽を確かめる間もなく、一部の暴徒が彼らを襲撃、その後ヘブンズベースの大規模な戦
闘で戦争に終わりが見えた。

直後にプラントからデスティニープランが提唱されたが、詳細を発表する前にプラントが
コーディネイターを首魁とするテロリストと、テロ支援国家、連合軍の残党に占領された。
最高議長は軍人ではないので、戦死扱いではなく、殺害されたことになる。
はっきり言って世論なぞ何処吹く風で戦争が始まり、なにやら分からぬ内に宇宙の果てで
終戦協定が結ばれた。まったくもって訳が分からない。
279 ◆XGuB22wfJM :2007/01/19(金) 23:03:48 ID:???

とりあえず生き残っている地球人は、CE70年以前の生活を取り戻そうと、度重なった
大戦の傷跡を癒そうと、必死で生きていた。

シンはメサイア攻防戦の後にザフトを除隊。このベルリンで就職した。
地球でコーディネイターがまともに働ける場所は極めて少ないが、デストロイと戦ったザ
フトの姿が住民の感情を和らげていた。そしてこのドミニオンは脛に傷持つ人間が集まっ
ている会社でもあった。

「お疲れ様でした、ナタルさん」
「君もな、シン。
もう雪が降り始めているから、明日……ではないか、今日の明朝は雪がどっさりだ。
町の排雪作業を手伝った後に、何時ものように瓦礫の撤去を行う。
今日の地区は不発弾が多そうだぞ」
「うへえ、気をつけます。またミイラが出なければいいんですけどね。
おやすみなさい」
「うむ、体に気をつけてな、暖かくして寝るんだぞ」

シンとナタルは今日の業務を終了し、誰もいない住処へ帰宅していった。



単発ネタでした。ついおかしな妄想がムラムラと
お目汚しすんません
280通常の名無しさんの3倍:2007/01/20(土) 00:49:02 ID:???
GJ!
281通常の名無しさんの3倍:2007/01/20(土) 01:42:41 ID:???
何かすっかり憑き物が落ちてるシンワロスw
まああんな戦いの後じゃ何もかも馬鹿馬鹿しくなっても仕方ないよな
それにしてもナタルさんは、やっぱり良い女だよね
282通常の名無しさんの3倍:2007/01/20(土) 14:43:50 ID:???
GJ!
大丈夫だ、奴らは訳の分からんうちに暗殺されるだろうからw
28345  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/20(土) 17:07:44 ID:???
1/4

『てええぇーーーい――!』

 ルナマリアの気合と共にザクが大太刀を振るった。脚部を狙って繰り出した斬撃はガイアの
反応によって狙いを外されて先端が胴体に直撃――いや、ガイアはむしろ積極的に後方に飛び退り
対艦刀が当たった衝撃を借りてプラントの外壁をぶち破った。PSダウンを起こして灰色の毛並みに
戻った狼が、真空の夜闇に吸い込まれる。

『――しまった!』

 追い詰める積もりが外に出してしまう。直後にカオスもまた機体の肩から突撃して宇宙に飛び出す。
機体が飛び出した穴へビームライフルを二発撃ちこんだザクの操縦席で、レイはシンの声を聞いた。

『待ちやがれ! ――プラントの中を目茶苦茶にして、壁に穴まで開けて、逃がすと思ってんのかよ。
レイ、ルナ、追うぞ!』
「待てシン、ルナマリアのソードで宇宙戦は危険だ。深追いは止せ」

 血気に逸るシンを説得しようとしたとき、ザクの脚部がプラント全体を震わす震動を検知した。

『――レイ! この震動は何なの――?』
「外部からの攻撃だ、恐らく港が襲撃されている――外に母艦が居るということだ。
シン! こいつらを追っている場合じゃない、ミネルバの護衛に戻るぞ」
『何言ってるんだよ、外にも敵が居るって事だろ! 合流されたら逃げられる。
ここまでされて、黙って見てられるかよ!』

 それだけ言うとシンはインパルスを加速させて、漏れ出る空気と一緒に宇宙へ飛び出してしまった。
レイが一瞬、シンに優越する公的権限に任せて制止しようとした隙の事だ。

「――仕方ない、俺はシンを追う。ルナマリアはミネルバの直衛に当たってくれ」

 了解の通信を返す赤いザクを後に、レイのスラッシュザクファントムは穴を潜って真空へと飛び出した。

「――! 何だ? この感覚は?」

 首筋に寒気のような違和感を覚えた、心がざわつく。激しく脈動する心臓を深呼吸でなだめ、
レイはインパルスに通信を繋いだ。ザクの背後でコロニーの外壁が自動修復され、穴が閉ざされる。
28445  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/20(土) 17:09:47 ID:???
2/4

「シン、一体単機でどうする積もりだ? カオスが戦闘力を失っていなかったら、敵が伏兵を
用意していたら、お前は死ぬんだぞ!」
『それを確かめるためにも、追いかけなくちゃあいけない、そうだろレイ?
それに――レイが来てくれたじゃないか』

 そうじゃない、より危険を回避する選択肢を取れと言っているんだ――という言葉を飲み込む。
首筋に指すような感覚――モニターを見る、違和感、さまざまな可能性が脳裏をよぎる。
 動かない敵機――インパルスが接近してもビームライフルを放とうとしない、余力が無いのか
余裕があるのか? レイの理性が伏兵の存在を――いや違う、この危機感は理屈ではない。
もっと深く本能的な部分から――意識する間も無く叫んでいた。

「シン! 下だ!」

 それはぎりぎりの反応だった、身じろぎしたインパルスを掠る五本のビーム、そして目視困難な速度で
インパルスとカオスとの間を通り抜ける赤紫の――

「モビルアーマーだと――?」

 流線型のフォルムを持つそのMAは即座に反転、レイの意識を再び刺す様な危機感が包んだ。
虚空から自分の機体に向かって殺気の線が伸びている、五つの筋が感覚に捉えられて射線が無意識のうちに
予測される。MAの凶悪な加速力――迫る攻撃。

「――何だこれは! ――クッ!」

 自分に向かって伸びてくる殺意が分かったからと言って、その全てが回避できるわけではない。
MAは巧妙で辛辣だった。本体と四つの機動兵装バレルから迸る五つのビームを時間差を掛けて斉射し、
多角攻撃に翻弄されるレイの回避行動を追い込んで行く。
 そして遂にレイは感覚した、コックピットを狙う必殺の一撃。スラスターによる機動ではもはや
回避が出来ない、ザクに手足を大きく振らせて向きを変え、肩のアーマーにビームを直撃させる。

『――レイ! 大丈夫か!?』
「構うな! これが伏兵だが――何かおかしい」

 シンと共にビームライフルを放つが、MAは軽やかな機動で射線を回避していく。そしてビームの火線が
途切れた瞬間に再び反転、バレルを本体の周囲に散らす。

「――来るぞ! 注意しろ!」
28545  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/20(土) 17:11:49 ID:???
3/4

 レイの感覚に再び捉えられる直線的な殺意の流れ、MAは今度は五条のビームをインパルスとザクの
二機に分散させて連続で斉射する。ザクに3、インパルスに2。
 レイは舌を巻いた。まるで完全なチームワークを持つ五機のMAを同時に相手取っている様に感じる程、
赤紫のMAが放つ攻撃には隙が無い。そしてザフトレッド二人がたった一機のMAに手間取っている隙に、
カオスとガイアは遠ざかっていく。それをモニターの端に捕らえたシンが叫ぶ。

『あいつら――! レイ! カオスとガイアが逃げる!』
「追うな、シン! 隙を見せれば俺たちがこのMAに食われる! それよりも敵のエネルギーを測れ、
これだけ撃ち続けてバッテリーが保つ筈が無い、直にこの敵も下がり始める!」

 母艦の方へ退避して行く二機を追う余裕は無かった。MAの攻撃方法は加速力を利用した一撃離脱と
決して奇抜なものでは無かったが、その射撃能力と何より手数が違った。一度の接近で五つの砲門から
二連三連と、嵐の如きビームを放ってくる。

「ポッドからの射撃で必死になるな、一撃でこちらを落とせるほどには威力は高くない。それよりも
本体のビーム砲に気をつけろ、それ以外は牽制に過ぎない!」
『分かった――!』

 反転、再接近してくるMAを見据える。そして周囲にばらける機動兵装バレル。
 レイはあることを確かめる気で居た、先程から明らかに自分はポッドから放出される殺気のようなものを
感じ取り、操縦席のアラートよりもその感覚を信用して回避している。
 もし本当に自分が機械の銃口から出てくる人の殺意や敵意といった物を感じているのなら――

「――やってみるさ、幻覚だったとしても、な」

 脳裏に走る危機感をレイは全面的に信用する気になった、その瞬間から自分の理性の分野にまで感覚は
侵入して、それまで危機感として感じていたあいまいな殺意が、可視化寸前の感覚として"観えた"。
 宙を走り回る五条の直線一本一本を感じる、いまだ宇宙スケールの遠距離にいるMAとそのポッドは
カメラのズームでも捕らえきれないが、レイはその敵意の先に一体のポッドを知覚した。

「――其処だ――!」

 迸る敵意の源へ、幻視の直線を遡るようにビームライフルを放つ、直後に虚空の先で爆煙の花が咲いた。
ポッドに直撃したビームが内部のバッテリーを貫き、爆裂させたのだ。

『すげえ――!』
28645  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/20(土) 17:15:02 ID:???
4/4

 インパルスのシンから感嘆の声を聞き、そこではじめてレイは端正なかんばせに笑みを浮かべた。
五本が四本に減った火線だが、敵にも遥か遠距離から小さなポッドを狙撃されたと言う驚きがあるのか、
射撃の精度が下がっている、レイもシンもある程度の余裕を以って躱すことが出来た。

「もう一度出来るかはわからんぞ――」

 空になったビームライフルのエネルギーカートリッジを交換しつつ、レイはシンに答えた。
無いものねだりではあるが、もしレイ機のウィザードが使い慣れたブレイズであったならば、
搭載されたミサイルで弾幕を形成してあのMAが相手であっても十分に制圧することが出来ただろう。
慌ててスラッシュに乗り込んだ愚を恥じる、危うくルナ機に撃たれるところでもあったのだ。

『レイ、どうやってポッドの動きを見切ったんだ? 俺にも出来るか?』
「自分でも分からん、なんとなく射線が見えるとしか言いようが無いから、先刻のはまぐれだと思ってくれ。
シン、俺の合図でザクと反対方向に避けろ、挟み撃ちにしよう」

 ポッドを一基失ったとしても、MAは直に反転して射撃を行ってきた。まだカオスとガイアが十分離れて
いないということが、その動きからレイにも察せられる。
 レイの感覚に、ザクとインパルスを狙う殺意が伸びているのが捉えられた。タイミングを取り、叫ぶ。

「――今だ!」

 回避行動を取るインパルスとザク、その間を四条のビームが薙いだ。虚空に吸い込まれてゆく荷電粒子に
続いてマゼンタのMAが駆ける。二機による十字砲火、インパルスのビームライフルとプラント内では
使いどころの無かったザクの肩部バルカン砲が火を吹き、数発がMAの機体に掠る。ポッドがもう一基
ビームライフルの直撃を受け爆散した。
 MAは今度は反転せずに身を翻して撤退した。機動性はともかく加速力でMAに追随できるMAは無い。

『追うぞ! レイ!』
「――だからシン! 深追いは危険だと言っただろう、伏兵や敵の増援に気をつけていなければ――」
『気をつけて追いかければいいんだろう、とにかく逃がすかよ!』
「待てと言って――……ええい!」

 反省はしても反映しない、突撃するシンに毒づきつつもレイは僚機を追いかけて行った。 
287通常の名無しさんの3倍:2007/01/20(土) 17:32:08 ID:???
これはすごい
288通常の名無しさんの3倍:2007/01/20(土) 17:42:44 ID:???
まだ1、2話だというのに密度がすごい。
このペースで最終話までこぎつけたら凄い分量になるな。
289通常の名無しさんの3倍:2007/01/20(土) 18:53:50 ID:???
新人スレとは思えん出来だな。
290通常の名無しさんの3倍:2007/01/20(土) 19:25:46 ID:???
そしてホントの新人にとっては敷居が高くなって複雑と言う罠w
29145  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/21(日) 18:07:08 ID:???
1/

 敵と仲間が吸い込まれていった大穴が塞がるのを見届けて、ルナマリア=ホークはようやく緊張を解いた。
ザクがエクスカリバーをそっと下ろし、全身のモーターから冷却材が噴き出す。
 ルナはモニターで周囲を確認し、辺りに広がる建築物の残骸を見渡した。三分の一はザクが踏み潰し、
三分の一はガイアが蹴り飛ばし、三分の一はエクスカリバーが切り落としていた。

「――まあ、たいした被害じゃなくて良かったわ」
『一度眼科に行きなさい! 殆ど壊滅状態じゃない!』

 ひとりごちたルナマリアに、メイリンからの通信が返答した。

「――……戦争なんて、破壊しか生み出さない、虚しいものよね」
『冗談言ってないで早く帰還して下さい、ルナマリア=ホーク! シンとレイはどうしたんですか!?』

インパルスとザク、およびカオスとガイアの反応をオペレイターは追跡している。

「そんなの決まってるじゃない、敵を追ったシンを追ってレイが出てって私は居残り、よ。
ミネルバの護衛に戻るわけだけど――そっちは大丈夫でしょうね?」

 ルナマリアが無事でも、外からの攻撃でミネルバがダメージを受けていればわざわざここで
戦闘を続けた意味が無くなる。

『そう! それだけれど、議長がミネルバに乗り込んでこられたの。ミネルバに赤服が一人も
居ないっていうのは問題だから、お姉ちゃんは早く帰って来て!』
「――ハア? 何で議長が戦艦なんかに乗り込んでくるのよ?」

 ルナマリアの常識では、政治家と言うのは戦闘が起きたら直に安全な場所に避難しなければ
いけないものの筈だ。それは好みの問題ではなく人の上に立つ者の義務だ。

『知らないわよ、偉い人の事なんて。まさか艦長に会いに来た訳じゃないでしょう……し……
失礼しました! とにかくルナマリア=ホークは迅速にミネルバまで帰還して下さい!』

 通信の向こうが一瞬がやがやと騒がしくなったかと思うと、メイリンは通信を切ってしまった。
何が起こったのかはわからないが、ルナマリアはとにかくミネルバへ帰還しなければならない。
無茶な機動に悲鳴を挙げる関節モーターをなだめすかし、労わりつつザクの方向を変えた。
29245  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/21(日) 18:09:41 ID:???
2/

 がくん、とザクがバランスを崩した。戦闘疲労によって関節が消耗し、歩行が困難になっている。

「ま、仕方ないわよね、大立ち回りだったし――」

 ルナマリアは"整備員殺し"という自分の二つ名を思い出した。戦闘そのものでは殆ど被弾しないが、
機体を限界ぎりぎりで酷使するため、動かすたびに分解整備が必要になり整備員たちを缶詰にする。
 ルナマリアは大人しくザクの推進器を吹かして宙に飛んだ。地球上での連続した飛行は無理だが、
プラントの擬似重力下では端から端まで跳躍することが出来る。

「――大分やられたわね、たった二機でたいしたものだわ」

 広くなった視界でプラントの地上を見下ろし、ルナマリアは被害の凄まじさを目の当たりにした。
ハンガー街のある場所から殆ど直線状に外壁まで、戦闘の行われた場所が壊滅し煙を上げている。
 ふと視線が探し物を求めてモニターの中をさまよった。ザクのモノアイが同調して頭を巡らせる。

「――――居ない、か。何処かに回収されたのかしら?」

 自分の危機を救い、自分のミスから来た仲間の危機を救ってくれた、通りすがりのザクを探した。
ウィザードも付けずにセカンドシリーズとエース級パイロットの動きを妨害してくれた機体は、
何処を探しても居なかった。落胆の気持ちが心中に膨らむ。

「あーあ、お礼の一言ぐらい、言わせて貰いたかったのにな」

 残念に思いながらもザクには安定した機動を取らせてミネルバの鎮座するドックまで帰還した。
無垢の装甲を晒す母艦を見て一安心する。

「こちら、ルナマリア=ホーク。着艦するわよ、ザクの入る隙間は空いてる?」
『お帰りなさい、ルナマリア=ホーク。空いている所なら何処でもどうぞ』

 第二艦橋のアビー=ウィンザーがザクの航法システムに着艦のための軌道を送ってくれた。
ルナマリアは普段使っている右カタパルトではなく、左舷ブロックへと誘導されている事に気付く。

「――あら、右舷には誰か帰って来ているの?」
『それが、損傷したザクが一機無理矢理入ってきたの。こちらで制止する暇が無かったのよ。
出来れば赤服に見て貰いたいから直に来て欲しかったのだけれど』

 損傷したザク、侵入者の破壊工作、不吉な単語がルナマリアの脳裏に浮かんだ。
29345  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/21(日) 18:13:53 ID:???
3/

「急いで着艦するわ、そういうことは早めに言って!」

 もしザクが簡単な爆装でもしていたら、自爆によってミネルバは就航前にスクラップと化してしまう。
そうでなくとも、たとえば整備員を殺害されれば損害は計り知れない。
 着艦、カタパルトのフックがザクの全身を捕らえて減速させた。機体をハンガーに架ける時間すらが
惜しく、ルナマリアはザクを"土下座"させると真下を向いたコックピットから飛び出した。
擬似重力から解放される肉体を空中で一回転させて着地体勢を取り、体全体で衝撃を分散させつつ
床に着地する。試験でやれば即座に落第が決まるような方法である。

「――大丈夫よ! 先に着艦したザクは何処に居るの?」

 慌てて駆け寄ってくる整備員たちを制し、案内させる。いざとなればこの場に居る人員に指示を
下さねばならない。整備員のヨウランが指し示した方向には――

「――あら」

 ――探していたザクが立ち尽くしていた。 

「中々出てこないんだよ、さっきから呼びかけてるのにさ」
「――とにかく、私が近づいてみるわ。……大丈夫だとは思うけれど、其処のあなた銃を貸して」

 短機関銃を持ち出してきた警備要員から得物をひったくると、皆が遠巻きに眺めているザクへと
近寄る。ハッチは中の人間の意志か故障の結果か、固く閉ざされているままだ。

「其処のザク! 早く降りてきなさい! 手荒なことはしないと約束するわ」

 銃口を操縦席から逸らして呼びかけた、軍人としての使命と恩人への礼節を籠めての事だ。

「降り方が分からないわけは無いでしょうけれど、ハッチの解放スイッチはシートの右よ!
ジンやゲイツとは逆になってるわ。どうしても出ることが出来ないと言うのなら、私が外から
強制開放コードで開けます!」

 しばしの沈黙、まさか中でパイロットは意識を失っているのか? 全員がそう思い始めたとき、
ザクのハッチがゆっくりと開き始めた。数十の視線が操縦席に集中する。
29445  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/21(日) 18:18:52 ID:???
4/4

 中から先ず最初に出てきたのは妙齢の凄まじい美人だった、どうやら若い男を背負っている。
 「――負けた――」と誰かが間抜けな感想を洩らした。誰の声だ? ――自分の声だと気が付いて、
ルナマリアは周りに聞かれなかったかどうか気になった。
 続いて出てきたのは、ルナマリアとほぼ同年代の少女だった。頭を打ったのか額に手をやり、
美女に支えられてハッチの外に出てくる。
 ――これには勝った。そんな声は心の中にとどめておいた。そして――

「――! ――けが人が居る! 衛生兵、担架を早く!」

 女性が纏っている藤色の衣装が背負った男から流れる血で赤く染まっている事に気付いた。
銃を預けてザクに走り寄りながら、藤色の女性に向かって叫ぶ。

「私が一緒に下ろします! 先にそちらの女の子を降ろしてください!」

 意識の無い人間をワイヤーで降ろすことは非常に危険である。ルナマリアは軽業の如くザクの装甲を
登るとあっという間にコックピットハッチまでたどり着いた。MSパイロット必須の技能である。

「直に担架が来ます、そっちの子はこのワイヤーで降ろしましょう」

 二人で重傷を負った男を抱えるようにして――もしかしたら『両手に花』と呼ばれる状況かも
知れないが男は意識が無い――ワイヤーにつかまり、先に降りた少女の後を追って床に降り立つ。

「所属と姓名、そしてどなたがこの"ザク"を操縦していたのか答えて貰います」

 ワイヤーに掴まったまま、規則だと前置きしてルナマリアは目の前の女性に質問を重ねた。
藤色の女性は一瞬困ったような顔をして黙っていたが、ワイヤーが伸び切る前に口を開いた。

「……ウチはオーブ代表府所属のシズル=ヴィオーラ。――さっき降りたんは、ウチらの代表の
カガリ=ユラ=アスハ――」

 うそでしょ、という表情を取るルナマリアの手を借りて、運ばれてきた担架に背負った男を
横たえながらシズルは続けた。

「――そしてザクを動かしとったんは……このアレックス=ディノはんや」

 男の前髪が分かれて血の気を失った顔があらわになった。
295通常の名無しさんの3倍:2007/01/21(日) 20:22:16 ID:???
今回はインターミッションでしたか、乙です。
シズルはん久々で忘れてました。コクピットから出てきて誰だ? とか思った
ミネルバってわざわざ貴重な赤服が警護しなくてもステラ返還時の保安部員
とかいるんじゃないのかな、職務怠慢じゃないのとかおもったけど、本編でも
ルナマリアが監視してたような雰囲気だったからアリですね。
296通常の名無しさんの3倍:2007/01/22(月) 05:07:25 ID:???
あれ?シズルさんがいる!?
まさかナツキもいるんじゃ……
29745  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/22(月) 17:25:28 ID:???
1/

 ミネルバ艦橋で"恐縮"の二文字を顔全体に貼り付けたメイリン=ホークは、艦長と自国の議長との
会話をそれでも逐一記録せねばならなかった。記録デバイスが動作を示す電子音を立てている。

「――と言うわけで議長、私は本艦によってなんとしてでも奪われた機体を奪還、若しくは
完全に破壊するべきだと考えています」
「無論だとも、グラディス艦長。みすみすアレを取り逃がしては、この後どれほどの脅威になるか。
私も十分に把握している積もりだ」

 背後で交わされる艦と国家のトップ同士の会話を厳重に保存しながら、メイリンはミネルバの
発進シークエンスを再び確認していた。

「国家の安全を司る立場としても、ミネルバには即座に外の母艦を追跡してもらいたい」
「……もう議長にこの艦を降りていただく時間がありませんが――」
「無論、それも覚悟しての事だよ、グラディス艦長。私は君と――話す為だけに来たのではないからね」

 言葉を切った一瞬、デュランダルはメイリンの方へと向き直り、意味深げな視線を送った。
メイリンが体を硬くして赤面する。

「これだけの事をやってのける部隊だ。奪われたセカンドシリーズが逆に我等の脅威となることは
想像に難くない、直にアレを追うべきという意見に、私も賛成だよ」
「――有り難うございます、議長」

 速断即決、聞き耳を立てるメイリンへタリアの檄が飛んだ。

「メイリン! 艦全体にコンディションレッド発令! 緊急シークエンスで本艦は発進します」
「りょ、了解! 緊急伝達、全艦にコンディションレッド発令、これは演習では在りません!」

 艦の全体で赤いアラートが響いた。MSデッキとブリッジののクルー以外は依然として準戦闘状態の
イエロウであったが、メインオペレイターであるメイリンの呼びかけによって全乗組員が戦闘状態の
待機位置へと動いて行く。
 メイリンは第二艦橋のアビーと共に、発進シークエンスを開始した。
29845  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/22(月) 17:27:30 ID:???
2/

「環境システムの自立を開始します――」
『確認しました、人員の移動は99%終了――』
「機関正常、出力を戦闘出力へ移行――」
『順調です、外部固定アームの脱落を確認しました。余剰出力はラミネート排熱システムから放出』
「装甲の予備運転を開始します、続いて武装の最終チェック――」
『チェック完了! 朝からの点検が活きたわね』
「全くです。――艦長! 全システムオールグリーン! いつでも全開でいけます!」

 着々と発進準備を整えつつあるミネルバが、数層に分かれたプラントの大地深くへと移動を始め、
遂に外に繋がる気密ブロックへと到着した。ミネルバの頭上で分厚いシャッターが閉鎖される。

「港の戦艦は出口で敵MSの攻撃を受けて損害を出したそうよ、外に出た瞬間に撃って来るかも知れない。
アーサー! 何をしてるの? 席について」
「――は、はい!」

 気密ブロックが減圧を開始したが、タリアは艦の気密が確保されていることを確認すると、
減圧シークエンスの終了を待たずにゲートを開放することを指示する。

「ブリッジ遮蔽、発進すると同時に船体を反転させてプラントに船底を向けます。アーサーは
アンチビーム爆雷と砲撃のタイミングを取って。――インパルスとザクの状態は?」

 船体の内側へ納められつつあるブリッジで、タリアは搭載機の行方を聞いた。

「――もうすぐ危険域に入ります。インパルスのPSダウンまであと300」
「発進と同時に帰還の信号弾を放って、通信での伝達も忘れずにね――総員対ショック!」

 タリアはそこで一拍置く。船出即初実戦――ブリッジクルーの緊張が最高潮に達した。

「ミネルバ、発進します!」

 ゲートが開放される。真空に吸い込まれる空気と共にミネルバは漆黒の宇宙へと飛び出して行った。
ローマ神話に謳われた知恵と工芸を司る女神は、C.E.に生きるコーディネイターたちの英知と技術の
結晶となって、虚空の中にその翼を広げる。
29945  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/22(月) 17:29:43 ID:???
3/

 宇宙に飛び立ったミネルバであったが、悠々と飛行を楽しんでいる訳にも行かなかった。艦橋から
すぐさま戦闘行動を促す指令が飛ぶ。

「マリク、撚り(より)舵一坏! センサーと砲塔をプラントに向けるような失礼がないようにね!」

 操艦担当のマリクが舵を取り、進行方向に向かって時計の針と同じ方向にミネルバの艦体が回転する。
飛行姿勢を安定させる暇も無くセンサーが識別コードを持たない艦影を捉え、メイリンが座標を伝える。

「アンチビーム爆雷放て! AMM発射! CIWS起動、敵は直にミサイルを放ってくるぞ!」

 CIC担当のアーサーが、艦影から放たれた十基以上のミサイルに対しての対応を指示する。
事前の命令に従って搭載機へ帰還を命令する信号弾が発射された。

「マリク、上げ舵20! プラントに流れ弾を当てるわけにはいかないわ。
これよりアンノウンをボギーワンとする。熱紋その他の諸元をライブラリーに登録して!」
「インパルスとザク、敵――これは、MAと交戦中の模様です!」

 AMMとCIWSで形成した弾幕によってボギーワンの放ったミサイルは全て撃墜されたが、
真空、無重量の宇宙空間においては破片は減速することなく艦体に衝突した。ミネルバの艦体を覆う
複層装甲は秒速数キロという破片の運動エネルギーを分散――熱エネルギーに変換し伝導、放熱する。

「攻撃目標――前方のボギーワン! アーサー、任せるわ、エンジンを狙って」
「ハッ! ――トリスタン、イゾルデ起動! 照準、ボギーワン」

 艦首にある"イゾルデ"三連装砲がせりあがり初弾が装填された。続いて艦尾両舷の"トリスタン"二連装
エネルギー砲に火が入れられ、計七つの砲口が得物を求めてボギーワンの姿を捉える。

「ランチャーワンからフォーにナイトハルト装填! ボギーワンの回避行動を算出しろ、トリスタンと
イゾルデで挟み込むように公算射撃!」

 お互いが点にしか見えないほど遠距離に居るため、発射から時間差のある攻撃は単発では躱される。
火力を時間的に集中させて敵艦の対応能力を飽和させる必要があった。

「インパルスとザクは、未だ帰ってこないの!?」

 戦艦の攻撃は必ず切れ目が生じる、MSと連携して攻撃を続け対応の余裕を奪いたかった。
30045  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/22(月) 17:32:17 ID:???
4/

「敵に増援がありました。MSが母艦から1、プラント側から2、MAと併せて4です!
張り付かれていて身動きが取れないようです」
「当てに出来ん! ランチャーワンからフォー撃て!」

 十六基の"ナイトハルト"宇宙用ミサイルが続け様に発射され、ボギーワンのCIWSによって撃墜、
宇宙に爆煙の花が咲いた。

「続いてトリスタン、イゾルデ撃て! 外したら砲手全員カタパルト掃除だぞ!」

 間髪入れずにアーサーが叫び、トリスタンとイゾルデが実体とエネルギーの弾を吐き出した。
三連装の実体弾と二連四門のエネルギー砲が一撃ごとに照準を微調整しながら火を噴くが、
ボギーワンはそれぞれの一発目を回避することなく加速し、二発目の前にアンチビーム爆雷を発射、
閃光の向こうに隠れた。照準用のカメラが艦影をロストし残る艦砲が全て外される。

「彼ら――MSのパイロットを助けなくてもよいのかね?」
「そのために母艦を撃つんです。この場合敵機を引き剥がす方が確実ですから。
しかしボギーワンの方もMAのパイロットも中々肝が据わっています。こちらの攻撃に動じませんね」

 続く攻撃を指示しようとしたブリッジが、放たれた対艦ミサイルを確認する。

「面舵20、振り切られちゃ駄目よ!」
「ランチャーシックスからエイト、ディスパール撃て! 左舷のCIWS全開――照準がずれている!
調整が甘いぞ何をやっている! 艦が動きながらでも死角を作るな!」 

 加速しながら可能な限り遠距離でミサイルを迎撃しようとAMMを放つが、打ち洩らしたものは
ミネルバ本体のCIWSとラミネート装甲で受けねばならない。

「取り舵15、上げ舵20で最大加速! アーサー、タイミングを合わせてイゾルデを斉射三連!」
「ええ! それではインパルスとザクが射線に入ってしまいますが――」
「当然当てちゃ駄目よ。――戦闘中の敵機に母艦が狙われていることを教えてやりなさい!」

 射線の上に味方を置いたまま敵を狙う――かなり危険な攻撃であるがそれだけに敵艦からは察知し難い。
発射を命ずるアーサーの声が響いた、収束されたエネルギービームが宇宙の闇を縫って奔る。
30145  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/22(月) 17:34:38 ID:???
5/

『それにしても粘るな! 君たちは!』
「ネオ、こいつらに何時までも構ってていいのかよ? バス行っちゃうぜ?」

 ポッドを回収しながら離脱を図るエグザスをアウルのダガーLが援護する。エグザスを狙っていた
トリコロールの新型がビームカービンを喰らい、シールドが左マニュピレイターから脱落した。

「――頑っっ丈だよなあ! それって根性の積もり!?」

 中々落ちない新型に向かって全周波数で近距離通信を送ってやる。返事は帰ってこないが、挑発は
届いているはずだ。新型の影から白いザクが飛び出し、ダガーLに向かってビームライフルを放つ。

「――仲間を馬鹿にされて怒ったって言うの? 御免ねザクの人――――次は右脚を狙う!」

 そういいながらダガーLはザクの左腕を狙って連射した――ザクは冷静に回避、新型のパイロットと
違ってアウルの言葉に惑わされない、無線を切っている訳でもないだろうが。

「ネオ! やっぱりザクはあんたが相手してくれよ、どうも相性が悪いからさ」
『それは良いんだが――アウル、お前立体攻撃なんて何処で覚えた?』
「プラントのゲーセン! 対人は無敵だったぜ! "PP"って名前ででランキングに載ったよ」
『お前たち、潜伏中にそんなところで遊んでいたのか!』

 ザクに突撃するMAを攻撃されないように、新型へ向かってカービンと頭部の"トーデスシュレッケン"
を連射する。たかだか12.5mmの近接防御火器にはMSの装甲を貫く威力は期待できないが、相手がPS
装甲となれば話が変わってくるのだ。電力の消費を嫌って余計な回避行動を取った新型をダガーLの
ビームカービンが捉え、脚部の装甲が熱に炙られる。

「フェイズシフトは威力の小さい攻撃でも、電力を食うもんな! ――ってネオ!」
『――おっと! 悪いアウル、そろそろずらかるぞ! ダークダガーの皆は先に行け!』

 アウルが新型を追い詰めている間に、ネオのエグザスはポッドを全て撃ち落とされていた。
慌てたネオが指示を出し、高速戦闘に取り残されていた先発のダークダガー隊が帰還を始める。 

「折角星一つ――って思ったのに、かっこ悪いじゃねえかよ、こんな中途半端」
『――はっはっは! まあよく頑張ってくれたから、後で特別にご褒美をあげよう!』

 「そんなのはステラにあげろよ」。冷たい口調で通信を送り、トリコロールの機体に向き直った。
30245  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/22(月) 17:37:14 ID:???
6/

『――はい、次は右の方だぜ……よく躱すよなあ! さっすがコーディネイター!』
「――くそっ! お前は一体何なんだよ!」

 シンは通信機の向こうから聞こえてくる変調した声に深刻なレベルで翻弄されていた。
眼前のダガーLは射撃を行う前にいちいち予告してくるのだが、それが当たったり外れたりする。

『シン! 惑わされるな、敵の動きにだけ集中すれば良い!』
「そんなこと、分かってるけどさ! でも物凄くむかつくんだよ!」

 右と言われて右に撃たれれば動きを予測されているような気分に陥り、上といわれて下を攻撃されれば
だまされた感触だけが残る。シンは典型的なダブルバインドに搦め取られていた。

『仲間も大体撤退しちゃったし、俺もそろそろ逃げようかなーー?』

 さっさと行けよこの野郎! シンは怒りに任せてビームライフルを放つ。しかしシンは忘れていた、
自分の機体インパルスには"エネルギー切れ"という問題が常に付き纏うという事を。
 コントロールスティックのトリガーを引く、銃口から放たれるビームの幻影を確かにシンは見たが、
高速で射出されるはずの荷電粒子は無く、ライフルは只沈黙するのみだ。

「――! ――しまっ――」
『――シン!』『――貰った!』

 PS装甲を持つ機体の弱点の一つ、表面塗装を行っていないインパルスは今灰色の装甲を晒して
エネルギー切れをダガーLのパイロットに伝えていた。ビームカービンがインパルスのコックピットに
向けられる。閃光。非常電力をスラスターに流し込んで緊急回避機動を取ったが、右脚が直撃を受ける。

『――させるか!』

 第二撃を操縦席に叩き込もうとしたダガーLと、動きが取れないインパルスとの間にザクが割り込み
機体のシールドでビームを受け止めながらビームライフルで牽制する。

『はは! やっぱりすげえよアンタ、でも此処で止めを刺させて貰うよ』
30345  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/22(月) 17:39:56 ID:???
7/

 ダガーLのビームカービンが一撃でMSを撃破出来るほどには出力が高くなかったことは幸いだったが、
推進剤を吹かすための電力が尽きたインパルスを守りきる能力が最早ザクには無い。
 ダガーの銃口が再びインパルスを狙う。

「――くそ!」
『じゃあねー……って、ええっ!』

 ダガーLのパイロットが別れの挨拶を終えようとしたとき、戦闘を続けていたモビルスーツ達の至近を
大口径のエネルギービームが薙ぎ払った。ダガーLは慌てて回避し、レイのザクは動けないインパルスを
蹴り飛ばす。寸前まで機体のあった位置を、戦艦すら沈められる熱線が通り過ぎた。

『何だよこれ!? コーディネイターも無茶苦茶じゃん!』
『――動きを止めた……其処ォ!』

 レイのスラッシュザクファントムが、片腕でビームライフルを構え一撃を放った。回避の遅れた
ダガーLの右マニュピレイターと其処に握られていたビームカービンをまとめて蒸発させる。

『――ちぇっ! 結局横槍は入るし、今日の俺全然良い所が無かったよ』

 通り過ぎたビームは、レイとシン諸ともにダガーLとボギーワンを狙ったミネルバのイゾルデであった。
結局ボギーワンにも回避されたが、シン達に張り付いていたMS部隊を引き剥がす役目は果たしたようだ、
双方の母艦から帰還を命じる信号弾が打ち上げられ、ダガーLは最後までパイロットの愚痴をシンの
耳に残しながら引き返して行く。

「――待ちやがれ!」

 シンが電力の切れたインパルスの中で叫ぶ、レイのザクが推力を持たない機体に近寄り――

『――いい加減にしろ――!』

 ――蹴り飛ばした、ただしミネルバの方に向けて。フェイズシフトダウンを起こしたインパルスは
碌に姿勢制御も出来ずにモーメントを与えられ、くるくると回転しながら母艦の方へ流れて行く。
30445  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/22(月) 17:42:28 ID:???
8/

「――ちょっ! レイ! 何をするん――」
『帰還命令に従っただけだ。命令を聞いていないのと、命令に従うことが状況的に出来ないのと、
命令に従わないのとは全く違う! 頭に血が昇ったか? それとも引いているか? 
落ち着いたなら修復不可能な部位を排除しろ、軽くなったらミネルバまで抱えて行ってやる』
「……………………」

 シンは回転するコックピットの中で、画面に映るレイの顔を見ていた。額の何処かが怪我を為ているのか、
端正な顔だちの端を血に染めている。無重量空間で重力下よりも頭部に血が上がってくるためにかなり
出血している。

 ――さっき、インパルスを庇ってくれた時の怪我か。

 意識の表面を焦がしていた怒りと焦りが失せ、急に頭が冷えてきた。同時に機体の状況が手に取るように
把握できるようになる。方向とタイミングを合わせて僅かに関節を動かし、インパルスの右脚を排除すると
反動によって蹴られた際のモーメントが中和され、レイのザクと向かい合う形になる。

「……ごめん」
『……落ち着いたようだな。そのAMBACは見事だ、俺には真似が出来ん』

 この時点で気にするなとは言わないでいてくれる僚機の心遣いが有り難かった。
 ザクがインパルスの胴体を掴み、スラスターを吹かしてゆっくりとミネルバの方へと流れて行く。
 
『――この距離では最早母艦をこの宙域で捉えることは出来ないだろうが、早目に帰還するに
越したことは無い、少し扱いが乱暴になるが我慢しろ』
「ああ、大丈夫だよ、レイ」

 『そうか』。レイの低い声が聞こえたかと思うと、インパルスを抱えたザクは急激に背後のスラスターを
全力で作動させ最大加速を開始した。

「――え? ええっ!?」

 訳の分からないシンの見つめるモニターの画面でプラントの映る画像がかなりの速さで流れるが、
別ウィンドウに映るレイの済ました顔はまるで静止画像の如く微動だにしない。
 殆ど二機分の重量を抱えてなお感じられる激しいGに、シンの体中で血液が移動をはじめた。

「ちょっと……待てよ、なあ! レイ!」
30545  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/22(月) 17:45:08 ID:???
9/9

 慌てて通信を送るシンの耳に、不吉な通信が聞こえてきた。

『ミネルバ! こちらレイ=ザ=バレル、インパルスに搭乗しているシン=アスカが意識を喪失している!
急を要する可能性があるため、緊急着艦を試みる!』

 ――え? シンの背中が総毛だった。凄まじく嫌な予感がする。ミネルバがぽっかりと開けたハッチが、
まるで自分を飲み込もうとしている怪物の口に見えた。

『右カタパルトに"放り込む"! ネットを張ってくれ!』
「起きてるって! 待てってば、レイ――!」

 レイ=ザ=バレルは待たなかった。インパルスの巨体を構えると、母艦のカタパルトブロック、
その入り口へと向かって、投擲。

「っ! おい――――!」

 カタパルトの入り口が近づく、近づいて入り口にぶち当たりそうになってぎりぎりで――掠り、
片足を失った灰色のインパルスが着艦用のネットに人間で言う臀部から搦め取られる。
 減速――つまりシンの全身に下向きのGがかかり脳から血流が奪われてゆく、演習や耐G試験で
受けたのと同等の加速度が急に体を襲った。

「――レ……イ……」

 ――前言撤回、こいつまだ気にしていやがった。モニターに済ました顔を捉える視界が、
段々と暗くなってゆく。その脳裏にレイの声が届いた。

『流石だシン、ナイスランディング。矢張り俺には真似が出来そうも無い――』

 ――レイ、何時だったかルナに言われたろ……真面目な顔で冗談を言うなって。
そんなことを考えながら、シンは静かに気絶した。
306通常の名無しさんの3倍:2007/01/22(月) 19:36:17 ID:???
怒ってる……レイ、怒ってるよ……

冷静なまま怒る奴って半端じゃなく怖いな。
GJですた!
307通常の名無しさんの3倍:2007/01/22(月) 20:33:16 ID:???
>>45
『すげえ――!』
これはオフィシャルの小説か?
ぜひ続きもお願いします。

「かんばせ」何て言う言葉を今まで知らなくて辞書を引いてみた。
あと、今一度誤字などの見直しをお願いします。
最後の「加速力でMAに追随できるMAは無い。」には
せっかく盛り上がった気分が少しばかり冷めてしまった。
30845  ◆WZm3jzCkZQ :2007/01/22(月) 23:04:32 ID:???
 感想、指摘、有り難うございます。
以後はチェック回数を一回増やして、誤植を減らしていきます。
309通常の名無しさんの3倍:2007/01/23(火) 23:13:59 ID:???
俺は文章を打ちながらチェックしてるな
リアルタイムでチェックすると誤字が極端に減るから、書き終えた後のチェックが楽になる
問題は、時間がかかりすぎて“降りてきた”時の執筆に支障が出かねないことか
あと、どうしても勢いで書けなくなってしまうこと

誤字のチェックは、「調べる」よりは「読んでみる」ほうが誤字を見つけやすいと思うよ
主観だけどね
310機動戦史ガンダムSEED 06話 1/9:2007/01/24(水) 23:27:43 ID:???

 ――カグヤ島・マスドライバー発射施設――
 ――第4機動艦隊旗艦『クサナギW』艦橋――

 『クサナギW』は、オーブが世界に誇る国営企業『モルゲンレーテ社』が、
総力を掛けて開発した新造の総合型宇宙戦戦闘艦である。
 
 最初から機動艦隊の旗艦として開発され、その戦闘能力は国際社会で流通されている通常の宇宙艦と大きく違い、
極限まで旗艦としての通信機能や艦隊間のコミュニケーション能力が追求されている。

 私も設計の段階で開発に関わり、実際の建設、施行までの間の1年間の間に寝食を忘れて頑張ったものです。
お蔭で髪バサバサになったり、お肌が荒れたりして大変だったし。

 『クサナギW』の開発が終了して、私の仕事もお仕舞いだと思いましたが、
1週間前に軍から社へ開発スタッフの同乗を求められ、そして、私が選ばれた訳です。
 
 実家の両親や友達にも自慢たらたらです。
 だって、あの『アーガイル司令』の副官に抜擢されたのですから。

 私は両親がナチュラルとコーディネイタ―なので言わば、『ハーフ』ということになる。
生粋のオーブ生まれなので差別を感じた事はない。

 かつてのオーブも前時代では、ナチュラルが幅を利かせていたと言うから驚きですね。
今でも、地球連合強国やプラントでは、ナチュラルとコーディネイタ―との間に垣根があるというから正直世の中て嫌なものです。

 両親も親戚の叔父や叔母も私の世代とは、違う価値観を持っていて、ハーフは忌み嫌われたと言いますけど。
 
 今時、オーブの公の場所でそんな事を口にしたら、精神疾患として,精神病錬に送られます。
直ぐに、村八分にされて孤立させられますのにね。
311機動戦史ガンダムSEED 06話 2/9:2007/01/24(水) 23:31:41 ID:???

 そして、その前時代の改革者が、カガリ・ユラ・アスハ代表と言うわけです。

 昔からオーブの国民なら皆が憧れる若き指導者!お姫様!!
女性でありながら世界の中のオーブを確固たる地位に導いた名君!
オーブの女子ならば、みんなアスハ代表のような素敵な女性になりたいと切望したものです。
 
 そして、その側近のロンド・ミナ・サハク様。
代表首長府、通称『ホワイト・ヒル』の首席補佐官兼総合作戦本部長を務めています。
 この人もアスハ代表と並んでオーブの英雄として称えられています。
 
 元々、アマノミハシラと呼ばれる半独立国家コロニーの主権者だったが、アスハ代表の召還に応じ、
オーブ政権の中枢を担うようになったのです。
 辣腕家であり、敵に対して容赦せず、味方に対しても冷徹非情の名宰相として誉れ高く、
その生活スタイルも洗練潔白の身であり、叩いても埃一つ出ないそうです。

 このように今のオーブは女性代表を冠として掲げている事で、
他国から、この国プラント同様には女が支配し、幅を利かせているという陰口も叩かれているらしいけど。
全然、その内容は違うと思います。

 そして、今回、赴任する予定の第4機動艦隊の総司令官を務めるサイ・アーガイル司令。
私にとってアスハ代表と同様に、この人も伝説上の人物だ。
 
 かつて、代表府首席補佐官兼オーブ軍総司令官を兼ねて
皮肉か愛称なのか『異端の才人』とも呼ばれていたそうです。

 数々の伝説を創り上げた人物としては、制服組の間では『オーブ社会の裏切り者』として、この人の評判はとてつもなく悪く、
私も悪い噂しか聞いた事が無いのです。
 
 恩知らず!奸臣!裏切り者!などありったけの悪口を周りから聞くだけで、
実際に会ってからしか評価をする事はできないだろう――と私は思います。

 噂のアーガイル司令はどんな人なのでしょうね?
312機動戦史ガンダムSEED 06話 3/9:2007/01/24(水) 23:34:00 ID:???

 「――こら、何ぼんやりしてるの」

 「シモンズ主任!」

 私がその様に物思いに耽っていると、
かつて直接の上司であったエリカ・シモンズ技術参謀主任に注意されてしまった。

 ――エリカ・シモンズ。

 少し前まで、モルゲンレーテの総裁を務めていたほどの才媛であり、
3隻同盟のあの『ラクシズ』にも関わりがあったという。剛の人だ。

 現在では職を辞し、予備役の方に回っていたけど今回、アーガイル司令が復帰する事に伴い、
志願して、第4艦隊の技術主任参謀へと赴任したそうだ。
 
 この人もアーガイル司令と共に戦った豪傑だ。
……やっぱり、ラクス・クラインの下で戦場を荒らし、暴れまわっていたのだろう。

 「――今、おかしな事考えてなかった?」

 「いいえ何も」

 「そう?ならいいけど」

 ――危ない。危ない。大戦を生き抜いた英雄の勘はあなどれないわ。
私みたいなか弱い女の子がいるべき場所じゃないかも。
と思っていると、

 「緊張してるの?」

 とシモンズ主任が私に話し掛けてきた。
どうやら先程の話題を意図的に流そうとしているらしい。

「ええ!そりゃもう!」

 私は、それに合わせる。でもアーガイル司令の事は確かに気になるのだ。
313機動戦史ガンダムSEED 06話 4/9:2007/01/24(水) 23:39:33 ID:???

 「アーガイル司令のことね?」

 私の思考を読取るかのようにシモンズ主任は先取りを掛けてくる。
超能力者か?この人?仕方が無く私は、それに応じて、

 「その……シモンズ主任はアーガイル司令の事を良くご存知なんですよね?」

 と敢えて話題を振る事にした。

 「ええ。よく知ってるわ……彼がいなければ今の『オーブ』は存在していなかったのだから……」

 と遠い目をする主任。人に歴史在りと言うけど。

 「でも……制服組の間からはすんごい評判が悪いですよね?何でですか?」

 私もここまで司令が身内かっら嫌われる理由は知らない。
 
 「……ええ。機会があったら話してあげるわね」

 主任は言葉を濁した。
――シモンズ主任。アーガイル司令。

 既に歴史上の偉人列伝に載っても決しておかしくない人達。
そんな人たちと自分が、一緒に居る事が凄く不思議なのだ。

 気を取り直して私は、シモンズ主任に対して、

 「……ぺーぺーの私には、アーガイル司令は『統一戦没』の英雄としか知らない雲の上の人ですから!」
  
 ――オーブ首長国連合が誇る若き『天才用兵家』。
 ――嘗ての代表首長府のトップ。
 これだけでも、結婚願望の女性を釘付けにするだろう。
 それに……

 「――それに……写真でも見たんですけど……司令、ハンサムですよね?」

 アイドルのおっ駆け根性の丸出しで私は付け加えた。
無論、シモンズ主任は私の反応に呆れている。

314機動戦史ガンダムSEED 06話 5/9:2007/01/24(水) 23:42:14 ID:???
 
 「……飄々とした風貌にだまされないようにね?――彼はあれで恐ろしいほどのリアリストでドライな人よ……」

 「……やっぱ怖い人なんですか?」
  
 「そうよ。油断してたら、一瞬で食べられちゃうんだから?」

 と笑いを含んだ答えが返って来た。
……?冗談なのかな?よくわからない。
 
 それとも……?

 「え?――もしかして……節操なしなんですか?司令」

 「まさか!……あれほど貞操概念が固い男も珍しいわ。でも……あれほどの男……
  その気になれば、選り取り見取りでなのにね……」

 「……へ?」

 私は間抜けな返答をしてしまった。

丁度そこで、背後で艦橋入り口のドアの開閉音が響き渡る。
艦隊総司令部であるこの艦橋には、限られた人物しかその入り口を、通過する事はできない。

 「――やれやれ、わざわざ艦を降ろすかね?」

 物憂げな声が私の耳に入る。
ややハスキーで良く通る声だ。
その声は、若さとそして、その逆に人生の年暦を感じさせるような、渋さをも何所と含んでいる。

 艦橋に入ってきたその人物は、濃いブラウンの色のやや長めの髪をオールバックにして後に流し、
その顔には、やや薄めのグラス型のバイザーが掛けている。

 鋭さと深い色の眼差しが、ハッキリとこちらから、視認できるレベルの濃さのバイザーだ。
315機動戦史ガンダムSEED 06話 6/9:2007/01/24(水) 23:43:30 ID:???

 オーブ宇宙軍の正式な制服を着用し、その上に肩からサーコートかマントのようなコートを羽織り、
将校が纏うようなマントの代わりとして着用している。

 背は結構高くて、恐らくは180cmやや越える程度はあるのではと思われる。
その人物は、私達の方に湯ゆっくりした歩調で近づいてくるのだ。
 
 私はその人物の前に一歩踏み出すと、
  
 「あっ、あの……はじめまして、アーガイル総司令……ですよね]

 うわっ!やっぱハンサム!と思う。
司令は、ナチュラルだというけど。顔造型はいい!
 
 端正な顔立ちに鋭い眼差し、口元は引き締まり、風格が溢れている。
伊達に、全軍の総司令長官を務めたのではないのだろう。

 コーディネイトで創られた顔ではないのので不自然さが無い。
私のモロ好みだ。顔は……
 
 しどろもどろと私は自分の名前を言い終え、モルゲンレーテから出向の身であること。
そして、自分の出身地に学歴、好みまで一気に語ってしまった……

 「……これから副官を務めますのでよろしくお願い致します!」

 最初は、私のまくしたつ弁舌に唖然とした司令は、その都度、頷き、
そして、私が自分の名前を言うと一瞬、奇妙な表情をした。 
驚くような、懐かしがるような感じだ。

 全て吐露し、まくしたて終ると……アーガイル司令は私を暫く凝視する。
316機動戦史ガンダムSEED 06話 7/9:2007/01/24(水) 23:46:46 ID:???

 「あの……?何か?」

 心配になってきてしまった。まずかったかな?
ちょっと馴れ馴れしかったかもしれない。

 シモンズ主任はアーガイル司令は怖い人と聞いたのだけど……
でも私は優しいそうな人に思えるけど。
だが、その期待も一瞬で崩れる。彼の口元が酷く歪む。

――笑われた

 「ブッ!……ああ、いや、こちらこそよろしく頼むよ……お嬢さん」

 私はムッとする。表面上には出さないように成功はするが、 
どうやら司令に呆れられてしまった……だけのようだ。
その側から、

 「――お久しぶりねサイ」

 とシモンズ主任が司令に自然に挨拶をしてくる。

 「おひさしぶりですな――シモンズ主任。まだ現役の軍人でしたか?」

 と笑いを含んで司令の声がする。

 お子さんも大きくなったんでしょう?と話を続ける。
旦那さんがよく復帰を許しましたね?とも
モルゲンレーテの総裁をした人が艦隊参謀ですか?と

 シモンズ主任と司令は仲良しのようだ。

 「――そう、エリカ・シモンズ技術主任参謀としてね。
  貴方が復帰すると聞いたから、予備役からの召集に応じたのよ」
 
 「そいつはお気の毒に――」

 と司令はおもしろがっている。

 もう、別の意味での二人の世界を創っている。
流石、歴戦の勇士。
317機動戦史ガンダムSEED 06話 8/9:2007/01/24(水) 23:49:43 ID:???

 いつまでも、無視されるのも癪だったので。
そこでコホン!と私は咳払いして二人の注目を集める事に成功した。
そして、

 「ええと――司令には現在の戦況解説の為の圧縮学習を……受けて……」

 と私が言おうとすると、司令はそれを遮ぎって、

 「――大丈夫。記憶力は小学生の高学年並にあるよ」

 「……ええと。それでは?」

 「ああ。ざっとレクチャーしてくれるだけでいい……えーと、お嬢さん?」

 と、のたまってくれた。
 私はその司令の態度に一部にピキン!と来る。

 「――では最初に私の名前を覚えてください。司令!!」

 と強調し、無理やりでも覚えさせようと自分の名前を強く司令に語る。

 「……オーケー。君とは上手くやっていけそうだよ」

 と私を幼子のように揶揄しながら宥める。この点が大人との差なのだろうか?
私は、些か気分を害しながらも、忠実に副官の任務に果たそうとする。

 「……では、発射カウントダウンに入りますので、司令。号令を」

 「よし。全艦発進……!」

 『――了解。全艦発進。これより本艦は打ち上げシークエンスに入ります。総員……』
318機動戦史ガンダムSEED 06話 9/9:2007/01/24(水) 23:51:20 ID:???

===============================

 ――C・E83年……『メサイア戦没』から始まった大西洋連邦やユーラシア諸国。

 更には『ラクス・クライン』に対する抵抗勢力との泥沼の消耗戦によって
壊滅したはずのプラントの『ラクス軍』機動部隊は再び活動を開始した。

 一時期、エターナルも撃沈され、ストライクフリーダムや∞ジャスティスなどの
スーパーMS達も活躍も空しく、『ラクシズ』の機動部隊は、活動不能となる程のダメージを受けた。
盲目の忠誠を示す『ラクシズ』の兵士達と言えども、もはやこれ以上の地球各地の紛争に首を突っ込む余裕を失っていた。

 そう、ニュートロン・ジャマー・キャンセラーの更なる発達はMSを時代の寵児から叩き落し、只の艦船の艦載兵装へと立場を転落させていたのだ。

――ここ10年でMSが戦争の中心となった花形の時代は終わりを告げた。

 もはや、1機や2機のMSが戦局を左右する時代は『夢』となり、過ぎ去った過去となったのだ――

 機動戦力の壊滅により『ラクシズ』は宇宙に撤退。
プラントへと逃げ帰り再び沈黙をする事となった。

 そして時は流れ……『ラクシズ』は大規模な機動部隊を編成、再び地球圏に舞い戻ってきたのだ。
『地球浄化計画』という突拍子の無い痴人の妄想を掲げながら。

 そして『ヘリオポリスU』の陥落は、『地球浄化計画』に於ける『ラクシズ』の地球侵攻への第一歩であろう。
先手を取られたこちら側としては、それを迎え撃ち、『ラクシズ』を叩き潰す。

 ――そう、それが俺に与えられた今の仕事……義務と言う訳なのだ。



>>続く


319通常の名無しさんの3倍:2007/01/25(木) 00:04:28 ID:???
ローラー戦艦でも使うのか?
320通常の名無しさんの3倍:2007/01/25(木) 00:22:18 ID:???
 GJ! とても読みやすくて良いです。
 MSの時代が終わっていると言う設定は中々面白いものだと思います。
『お嬢さん』の性格がよいです、サイに言われるほどに幼く見えるのでしょうか。
サイが何やら懐かしんでいましたが、お嬢さんの名前が気になって続きが読みたくなります。
 次辺りで戦闘シーンが来ますかね? 楽しみに待っています。
321通常の名無しさんの3倍:2007/01/25(木) 07:20:51 ID:???
NJCの発達で現代戦闘に近づいたっってのは面白い設定だと思う。
……それならミサイルより早く動けるようなモビルアーマーの方が役に立つのか?
どこぞの外部SSではないが、Nジャマーなしならいい的だしねMS。
ただ種世界的(負債的)ならNJCキャンセラーみたいなばかげたものが、
でそうな気もする。
322通常の名無しさんの3倍:2007/01/25(木) 07:59:27 ID:???
NJCJとか?
323通常の名無しさんの3倍:2007/01/25(木) 08:02:30 ID:???
まあリアルでもECCM(エレクトロニック・カウンター・カウンター・メジャー)なんて物があるし。
324通常の名無しさんの3倍:2007/01/25(木) 09:33:14 ID:???
ニュートロンジャマーなんて妨害電波出す機械の代わりに使えるぐらいに無意味な電波を発信する機械だしね。
NJの電波をたどってミサイルぶち込めばOK。

敵が多数有ると上手くフィルタリングとかしないと
発信源と強度を重ね合わせた重心の場所に飛んでいくだろうけどな。
325通常の名無しさんの3倍:2007/01/27(土) 02:51:16 ID:???
保守
326通常の名無しさんの3倍:2007/01/27(土) 07:37:53 ID:???
シズルさん、良い男スレの阿部さんみたいなことやるのかな?
327通常の名無しさんの3倍:2007/01/27(土) 20:36:26 ID:???
ホーク姉妹ヤバス
328通常の名無しさんの3倍:2007/01/27(土) 20:40:23 ID:???
ナツキ一筋にきまってる
329機動戦史ガンダムSEED 07話 1/11:2007/01/27(土) 23:55:03 ID:???

 ―第4機動艦隊旗艦『クサナギW』艦橋――

 ――艦隊は、高速航行から通常航行へと切り替わり、艦内の明かりが元に戻りました。 
私も訓練やら何やらは経験はしていますが、実際の航宙艦の系内の高速移動は、初めてです。
 
 ――宇宙へ人類が進出したから数十年余り。核パルスエンジンの開発や改良、新規技術の導入により
太陽系の人類の活動はより活発に発展していった。
 
 『ブースター・ドライブ』の誕生により人類は、太陽系内を自由に闊歩できる箱庭として範囲にする事が可能となったのだ。
まだまだ、外宇宙への発展は望めないが、人類は確実に進歩しているのです。

無事に目標宙域のポイントに全艦隊の到着を確認した私は、右隣の一段高い位置に設置されている
『艦隊司令』のポジションである、指揮官シートへと顔を向け、

 「――司令。目標ポイントの座標を確認しました。『クサナギW』の空間固定に掛かります!
   メイン・ドライブを通常運転へと切り替えますから……!」

 と明るく報告をする。
だが……私は、そこで指揮シートのデスクの前でうつ伏せとなっていた司令の姿を目撃する。

 「あのぅ……司令?目標ポイントへ到着しましたけど……」

 その声に答えるように、カエルのようにうつ伏せとなっていた司令は、

 「……?そうか……」

 ノロノロと顔と上半身を起こす。なんと!私が見ると、その顔は青白くなっていたのだ……

 「――大丈夫ですか?」

 と一応、心配そうな声を出して気を使う私。もう、副官の鏡だ。
330機動戦史ガンダムSEED 07話 2/11:2007/01/27(土) 23:58:58 ID:???
 
 その私の声を、聞いたのか聞かなかったのか?わかりませんが、
司令は相変わらず、よく通る痺れる様なハスキー声で

 「いや……それにしても『ブースター・ドライブ』起動後のアレ、凄い揺れだったな。
   ただのお飾りなのかね?『重力制御装置』てのは?」

 「そりゃもう!」

 私は明るく断言し、太鼓判を押す。

 「『ブースター・ドライブ』の際には、艦内メイン動力炉のエネルギーの殆どが、
   『メイン・ドライブ』のシステムの方に回されますから!装置の効果は――」

 と専門的な説明をするに連れて私の言葉は徐々に萎んでゆく……司令の目が怖い。
更に、司令は的確に突っ込んでくるし…… 

 「ほぅ……で?」

 司令に突っ込まれた私は語尾を濁しながら……
 
 「――それなりに……です」

 そして、司令が座る指揮シートを挟んで、反対側からシモンズ主任が大人の貫禄と色気と余裕を持ちながら、
 
 「――大丈夫なのサイ?それとお止しなさいな大人気ない――貴女もね?」

 と私を嗜め、司令を気遣う様子に、完全な敗北感を私にもたらしたのだった……
 そこで、私は気を取り直すと、

 「それに――太陽系内移動用の『ブースター・ドライブ』は、まだまだ、開発の余地がある技術なんですよ。
   司令もこれ位は、耐えて頂かないと……」
331機動戦史ガンダムSEED 07話 3/11:2007/01/28(日) 00:02:39 ID:???

 と技術面の未発達な部分と近年の航宙艦の乗組員の常識を可愛い私は、
ニコリ!と微笑みながら、司令に説いてやったのだった。
 
 ……しかし、それに対しての司令のリアクションは最悪だった。
 
 「――オェぇえ……俺は、乗り物には、強い方だったと思ったんだけどな……」

 と、どんな女の子も幻滅するような最悪の姿を見せてくれた。
ハンサムな反面、こんなところはどうしようもないようだ。
これでは彼女がいないのは当たり前だろう。

 まぁ、そこは、置いておくとして、私は好奇心がてらに、ちょっと司令に聞いてみることにした。

「――でも、初期大戦の頃に司令が、アスハ代表と一緒に乗り込んでいた『アーク・エンジェル』よりは、
  ウ〜ンとマイルドな乗り心地だったのではありませんか?」

 と私も技術的にも実際、知りたかった事を質問する事にした。
こう見えても最先端テクノロジーのエンジニアですから。

 「……君とは違って、もう、順応性が高い10代の頃とは違う」

 と、私の好奇心を満たすのには、どうでもいいような答えが帰ってきたのだ。

 「はぁ……」

 ……やっぱ、世代の違いかしら?
私が聞きたかったのはそう言う事じゃなかったんですけど――
 だが、司令は私の心中を知ってか知らずか、

 「――それにしても、地上暮らしが長かったから、軍用航宙艦に乗る為の再訓練もろくにしちゃいねぇしな……」

 ――オェェと、また再び口を抑えながら変なゼスチャーをし始める。
332機動戦史ガンダムSEED 07話 4/11:2007/01/28(日) 00:06:41 ID:???

 ぎゃー!もう!!本当に!!
顔やスタイルは、良いのにもろオジさんだわ、この人。
 
 私はもう容赦なく
 
 「もう!汚いですよ!司令!それに時機に慣れます。大丈夫!大丈夫!」

 と私は容赦なく司令を扱き下ろし、楽観論を述べる。
私のその優しい気遣いに対して司令は、冷たい声で……

 「……君のその無責任ぽい根拠の理由は、何だい?」

 と、私の態度に白い目を向けて来るのだった。

 「そりゃもう!――何といっても司令は『伝説の男』じゃないですか!!」

 と、いつも通り私は明るく言う。

 「……おい!目の前で吐いちゃうぞ!!」

 がおぉ!と司令は私に襲い掛かるような真似をする!

 「ヒュェッ……!ご、ごめんなさい!!」

 と私は謝るのだった。

 地球を出発してからの間、このようなやり取りを繰り返し、
すっかり、私は司令とのコミュニケーションに慣れてしまっていた。

 最初は怖い人だと思ったけど、気遣いも細かく、冗談や笑う事が好きな人で
しかも、当たり前だが、リーダーとしての才覚もあって、周りの気配りを大切にする人だったのだ。
333機動戦史ガンダムSEED 07話 5/11:2007/01/28(日) 00:09:54 ID:???

 お陰で、司令とは勤務時間外のプライベートの時には、私は怖い上司としてではなく、
半ば友人のような関係となっていた。

ピピッ! ん?――私がいる副官シートののコントロールパネルが点滅する。
暗号特殊コードが入って来ている。それに気が付いた私は、

 「……あら?」

と思わず声をあげてしまった。私の上げた声は司令も耳にしたようだ。

 「どうした?」

 と聞いて来たのだ。
私は、得意の閃光のようなキーボードテクニックでコントロールパネルを操作し、
暗号通信機能を切り替える。そして軍コードうを確認し、高速通信機能に切り替え、
内容を確認して一つ頷くと、

「――司令!『ホワイト・ヒル』総司令部のアスハ代表から、超高速レーザー通信でコールが入っています!」

 とハキハキと答え、副官の本領を発揮するのだった。
副官としての義務を果たす私に対して、司令は何と……
 
 「……頼む、後にしてくれ……わたしゃ、現在……」

 ……その醜態を晒すところを余すことなく私に見せつける。
それを見て私はニンマリとする。そして、息も絶えだえの司令の懇願を、

 「――駄目です。では繋ぎますね?」

 と完全に無視して、にこやかにアスハ代表からの通信を、
司令の指揮デスクへと繋げてあげた。

 「……」

 そして、司令は恨めしそうな顔で私を見るのだった。
ムフフフッ、何か良い気分。
334機動戦史ガンダムSEED 07話 6/9:2007/01/28(日) 00:14:44 ID:???

==============================

 指揮シートにもたれ掛かれながら俺は、指揮デスクに設置されているメインモニターの前にシート深く座り込む。
可愛い副官が俺の懇願を無視して、直ぐに通信を繋げてくれたお陰である。

 『――無事に防衛ラインが形成できたようね。あら、どうしたの?顔色が悪いわね……?』

 そして、メインモニターにアスハ代表の上半身姿が映り、第一声がそれだった。
俺を気遣ってくれるのはありがたいのだが……醜態を見せちまったな。

 「フゥ〜、いやぁ、やはり久しぶりの戦場ですから――」

 と無難に答えることにする。宇宙酔いです、と答えられるか馬鹿野郎。
心の中で可愛い副官の小娘を罵る。

 『プレッシャー?貴方にもそういうところがあるの?』

 そう答えると、アスハ代表は心の底から不思議そうに尋ねてくる。
今まで俺は、プレッシャーなど代表の前で欠片も見せた事が無いのに。

だが、この点が純真無垢なのは相変わらずである。

 「何しろ背負わされているのが、ズンと重たいですからね」

 その答えに彼女は心から納得してくれた。
彼女は「お姫さま」だから、これらの言い訳で直ぐに納得してくれる。
政治関係や外交関係等の他の事なら、一発で見抜く洞察力もこの手の嘘にはコロリと騙される。

 ――ありがたいことだ。

 彼女が心から俺達を信頼している証でもあるのだから。
335機動戦史ガンダムSEED 07話 7/11:2007/01/28(日) 00:16:19 ID:???

 『で?戦況は、どうなの?』

 と、現場第一主義の発言をしてくる。
彼女は遠く離れた作戦司令室の参謀の意見よりも、
現場主義者であり、現地にいるスタッフの意見を重要視するのである。

 俺もその点では。彼女の意見態度に賛同する。

 「――最悪のスタートですよ」

 ついでに気分も。余計な事だが――

 『まぁ……そうでしょうね』

 と彼女は意気消沈する。
やはり、代表は戦況の悪化に心を痛めていたようだ。

『――見ての通り、『ラクス軍』は、オーブ領であるL4Pポイント宙域外縁部を占領して
 着々とこの辺り一帯の基地化を進めているわ――』

 そして、俺が送った戦況データに目を通しながら、簡単な結論を繰り出した。
その彼女の様子を見ながら、――俺は痛烈な諌言をしなければならない。
何気なく世間話のように、予め用意していた言葉を口に出してゆく。

 「――回廊宙域を突破して、地球進行ルート中枢域までを侵入されなかったのが、不思議なくらいですな」

 『……ええ。その点はソガ中将のお陰ね……』

 と彼女は溜息を吐きつつ、俺の話に合わせようとする。ソガの功績を称えたいのだろう。
だが、死んだ者の功績を今、称えてどうするよ『お姫さま』?
336機動戦史ガンダムSEED 07話 8/11:2007/01/28(日) 00:17:49 ID:???

 「――それにしても、緒戦から随分と景気よく負けてやったものだ……」

 『……サイ』

 と些か、嫌味な口調で切り出す。代表は目を大きく見開いた。

 「――騙まし討ちも同然。――不可侵条約失効と同時の侵攻だったとはいえ、
   相手は、地球圏や辺境宙域を荒らしまくった叩き上げの軍団だ」
 
 『ラクシズ』のやり方には腹が立つが、それはこちら側の理屈であり、
戦術の常識では、これは全く卑怯のやり方でも何でもない。

 「――しかも、お行儀の良いルールなど、端っから通用しない連中です。
   そんな事は、昔から貴女達もご承知の上でしょうに……」
 
 と俺は言葉を続けながら、嘗ては自分もその中の一員だった事を思い出す。
無論、代表だってご承知の通り、奴等とつるんでいたのだしな。
お互い、あいつ等の汚いやり口など、端っから承知していたはずなのだ。 

 「……油断ですな。取り返しのつかない油断と思われます」

 『……』

 青ざめながらも、代表は黙って俺の諌言に耳を傾けている。
俺がいた時の代表府ならば、このような醜態を晒したりしなかったはずだ。
どんな組織も平穏な時を経れば、緩むものだ。

 「――その為に<ヘリオポリスU>は陥落(お)とされ、第2艦隊は壊滅。<クサナギU>は沈んだ――」

 『――ええ……返す言葉も無いわ……』
337機動戦史ガンダムSEED 07話 9/11:2007/01/28(日) 00:21:31 ID:???
 
 俺が話を締め括ると、代表は改めて自分の失策を俺に対して、正直に認めた。
だが、代表は俺の強い皮肉を含んだ諌言を受け止めながらも、
気を取り直したかのように話を続けた。

 『……でもね、「よくこの程度で踏み止まった」と私は思っているのよ――』
 
 と強く言葉を発した。相変わらずプラス思考で、切り替えも早いのも彼女の良いトコだろう。
そして、これは俺にも関わりのある事なのだが、

 『――貴方が、代表首長府を去る直前に断行してくれた軍人事の大刷新……』

 「……」

 これに関しては、俺は遂に口篭り、黙ってしまう。
そして、熱心にな口調で、

 『それと貴方が企画した、第二次軍備拡張計画推進案……これらがなければ、
  ラクス達に地球進行ルートの中枢部まで侵攻されていたかもしれないわ……』

 と彼女は、俺の過去の業績とやらを称えてくれたのだ。
だが、俺は、

 「――いやはや、代表。今、その話をすることは、止めておきませんか……?
   ――今、思い出すには……何と言いましょうか……痛すぎる昔話ですよ」

 と婉曲にこの手の話題を避けようとした。
代表は、俺のそれを敏感に察して、

 『……そうね。老人のように、揺り椅子に持たれ掛けて、過去を振り返っている贅沢なんて、
  まだ許されないわね。お互い、今と未来だけを見つめていかないと……』
338機動戦史ガンダムSEED 07話 10/11:2007/01/28(日) 00:23:35 ID:???

 と痛い話の話題を早々に切り上げてくれたのだった。
そして、彼女は自分の本来姿である代表の顔へと戻る。
 
 『さて……そして今は、何と言っても緒戦の大敗北を挽回するのが第一よ。
   貴方が何の為に復帰したか、くれぐれもそれを忘れないでね、サイ――』

 と真剣実を帯びた口調と視線で俺を凝視してくる。
俺は迎撃軍の司令官として、その期待に応えねばならない。

 「――では先ずは、総司令部の作戦方針から、お聞かせ願いましょうか?」

 と作戦の基本骨幹を指示してもらわねばならない。そうしないと軍の方針が定まらないからだ。
軍が文民統制の管轄から離れる事は国の死線に関わる。
 俺も復帰したばかりなので、スタンドプレイはなるべく避けたいのだ。

 『……オーブ領内宙域から『ラクス軍』の勢力を一掃するのは勿論の事だけど――』

 と代表は首をやや傾げながら、相変わらず、可愛らしい仕草でシビアな事を言うのだ。

 『――当面の目標は、敵前衛部隊の排除ね』

 と代表は当面の作戦指針の結論を明快に断言し、俺に指示する。

 「フム。――つまり、三拠点を占拠する敵勢力の撃滅ですな?』

 と俺は彼女の考えに理解を示す。
現在、『ラクシズ』の先鋒たる前衛部隊は宙域の最外延部に位置する、補給路や外部基地の三箇所を抑えている。

 これを奪還し、敵勢力の壊滅が俺の最初の仕事となるのだろう。
339機動戦史ガンダムSEED 07話 11/11:2007/01/28(日) 00:24:33 ID:???

 代表は俺の確認に頷くと、

 『――ええ。それと現在、敵との攻撃により壊滅寸前の第3艦隊の救出。――この二点よ――』

 もう一つ、重要なファクターである、第3機動艦隊の援護と救出も命じてきた。

 「――了解。ではやりましょう。その為の『クサナギW』と第4機動艦隊です」

 俺は彼女の作戦方針を納得し、了承の返事をする。

 「掛け値なしのオーブ……いや地球圏でも屈指の機動艦隊です。やって見せましょう」

 「ええ――期待しているわよ……サイ」

とアスハ代表は会釈し、俺に向かって軽く頭を下げると、通信を切った。
 今まで、代表が映っていたメインモニターから目を離すと、艦橋の正面のメインスクリーンに映る広大な星の世界に目をやった。

 「――星の世界へ……か」

 ――長い間、地上暮らしで疎遠になっていた場所だ。
そして、俺は、再び戻ってきた仕事場のフィールドを言葉にして、噛み締めるのだった。



続く
340通常の名無しさんの3倍:2007/01/28(日) 00:32:37 ID:???
 GJ! いよいよ艦隊戦ですか、盛り上がってきましたね。
サイと"お嬢さん"の掛け合いが良い感じです。名前が気になります。
ちゃんと上官に諌言できる人材は得がたいものだと思います。
341通常の名無しさんの3倍:2007/01/28(日) 05:13:13 ID:???
お嬢さんの名前はフレイじゃないかと思っている俺ガイル
342通常の名無しさんの3倍:2007/01/28(日) 07:30:52 ID:???
>>341名前はそれかもな。キャラならマユ・アスカあたりか?気になるな…
343通常の名無しさんの3倍:2007/01/29(月) 10:06:02 ID:???
・・・アオイ・ホウセンとか・・・当然cvは桑島で・・・
344通常の名無しさんの3倍:2007/01/30(火) 10:42:47 ID:???
保守
345通常の名無しさんの3倍:2007/01/31(水) 19:51:41 ID:R6AkN1Vg
346機動戦史ガンダムSEED 08話 1/11:2007/02/01(木) 23:31:50 ID:???

 ――同時刻。

 ――ザフト遠征軍 ディアッカ・エルスマン部隊臨時軍事基地・ミカサ衛星基地――

 先の戦いで占拠した拠点ベースの一画で『遠征軍』の先鋒隊指揮官を任された俺は、
臨時作戦司令室で数名のスタッフと共に、占領した宙域内の調査と、その宙域の鎮撫部隊の振り分けを整えている最中だった。
部隊はそれぞれの拠点、三箇所に割り振っており、それらのどのように動かすかの段階に入っていた。

 そこへ、俺の代わりに防衛指揮を委ねていた副官の『バート・ハイム』から緊急の連絡が入ってきた。

 「どうした?」

 俺が通信システムに手を伸ばして、応答しかけると、

 『――ハッ!エルスマン隊長!宙域ポイント23,44,26にて、正体不明の空間歪曲波を感知しました!』

 「……なんだと?」

 緊迫したバートの声と共に、通信モニタ―にデータが表記された。
俺がデータを一瞥し、確認を終えると同時に、

 『――恐らくは、敵機動艦隊によるものと思われます!』

 バートが先に自分の推論を俺に述べて来る。
そして、データの照合を合わせ見て、俺も奴の判断に同意する事となる。

 「むッ……わかった直ぐにそちらに向かう!」

 『ハッ!』

 モニターからバートの姿が消える。どうやら、ここからが本番となるらしい。
347機動戦史ガンダムSEED 08話 2/11:2007/02/01(木) 23:33:19 ID:???

 そして俺は腕を組み、顎に手を当てながら一瞬、黙考をすると、

 「やはり……出てきたか」

 と胸中の呟きを声に出していた。俺のその声にスタッフが反応する。

 「――エルスマン隊長。ここは我々に任せて、直ぐに司令室へ」

 「わかった。本件は取り合えず、ここで留めてお置く。お前達も直ぐに部署に戻れ」

 「ハッ!」

 俺は室内のスタッフに、占領企画を一時中断の指示を出すと、室内を後にする。

 ――ミカサ衛星基地・司令室――

 俺が司令室に入ると、緊急警報が司令室全体に、響き渡り各隊員が忙しなく動き回っていた。
突如、出現した敵艦隊の襲来に浮き足立っているのだ。

 「皆、おちつけ!!」

 俺は室内に響き渡る一喝をすると、隊員達は慌てて俺に向かって敬礼を取り始めた。
その場で慌てふためいていた連中は、俺が司令室に来た事を知り、
少しずつ落ち着きを取り戻し始める。

 俺はその場で、敢えて毅然とした姿勢を崩さなかった。
指揮官の動揺は、全軍の瓦解に繋がりかねないことを痛いほど熟知しているのだ。

 索敵オペレーターからの伝達を副官であり、元ミネルバクルーである『バート・ハイム』が緊急報告を俺に向って通達する。

 「隊長――先程の空間歪曲波は、やはり敵機動艦隊よるものと判明致しました!」

 「うむ。そうか……」

 此処までは想定の範囲内であろう。先の戦いは、
相手の寝込みを襲って一撃を与えただけなのだからな。
348機動戦史ガンダムSEED 08話 3/11:2007/02/01(木) 23:35:45 ID:???

 司令官である俺が現れた事により、場が引き締まってくる。
バートの報告の後に索敵オペレーターが続けて、俺に報告を向ける。

 「――敵旗艦を確認!この機動戦艦は当方のデータにはありません。敵の新型と思われます!」

 何?オーブには、主力が三個艦隊しか常備されていなかったはずだが。
驚愕するが、次の瞬間に苦笑いが出る。こちらに情報収集など高が知れたものだ。と
敵方の方がやはり一枚も二枚も上手か。

――背中を心地よい戦慄が駆け抜ける。

「……いやはや……なんと、まぁ――まだ新たな機動艦隊をオン・ステージできるだけの
 国力を備えていたのだな――オーブは……」
 
 と俺は感歎の溜息を吐いた。
太陽系外縁部から無尽蔵の資源を供給できる『プラント』と言えども、
常備戦力の五個艦隊が、やっとの国力だと言うのにな。

ましてや、ちっぽけな島国の小国であるオーブにここまでの力があるとは……な。

「……やはり、この国が備えている潜在能力には、計り知れないものがあるな……厄介だよ。
  ――おい、向こうの指揮官は誰だか分かるのか?」

 俺は、敵側の国力と戦力常備の底力に対し畏敬の念を抱き、警戒感を抱くいた。
そして、バートに対して一番気になる、もう一つの疑念を問いてみる。

 今回は、誰が指揮官なのだ?大方の予想で決まっているだろうが。
恐らくは、ロンド・ミナ・サハク辺りであろう。あの女傑と戦うのは骨が折れそうだがな。

 だが、俺の脳裏の予想に反してとんでもない人物の名前をが出てきたのだ。
349機動戦史ガンダムSEED 08話 4/11:2007/02/01(木) 23:39:17 ID:???

 「少々お待ちください……」

 バートは手前のコンソールを操作しながら、索敵オペレーターと共に、
派遣している索敵部隊との連絡を取っている。

 ニュートロンジャマーキャンセラーの発達は、レーダー妨害や通信機能妨害を大幅に軽減させたが、
一部では距離が開いている索敵には索敵用の部隊を利用しつつ、中継をしなければ連絡が
ここまで辿り着かないのだ。

 「……なんだと?そうか、わかった」
 
 バートは、コンソールから手を離すとコンソール専用イヤーフォンを外した。

 「――隊長、たった今、判明致しました。オーブ側の総司令官は、サイ・アーガイル将軍だそうです!!」

 「何?――サイ・アーガイルだと……?」

 副官であるバートの指揮のもとで情報が整理され、情報収集の結果、意外な人物の名が挙がったのだ。
俺自身も、かなり久しぶりに聞く名前でもある。

 「確か――あの男は、五年程前の政治闘争に敗れて、在野へと下ったという噂だぞ?
   おい!情報は確かなのだな……?」

 俺は、かつて『前大戦』や『統一戦没』で共に闘ったその人物の名を聞き、いつもとは違い信頼する副官でもあるバートに対して、
二度も同じ事を繰り返す、愚を犯してしまった。

 だがバートは、俺のその戸惑ったような態度とは逆に、自信に満ちた態度で、

 「はい、向こうのノン・スクランブル通信を傍受した情報です。間違いはありません」

 と答えた。そして、暫く俺は口を利くことができなかったのだ。
350機動戦史ガンダムSEED 08話 5/11:2007/02/01(木) 23:41:42 ID:???

 暫く黙っていた俺は、意外な展開の為に、少々皮肉が篭った発言をする事となった。

 「――おいおい、まさか五年近くも、民間に引っ込んでいた人物を引っ張りだして、
  総司令官に据えてくるとはね……」
 
 「――ええ」

 流石のバートも首を傾げている。

 「――きっとカガリ……アスハ代表の独断に違いないな。あいつは……まったく。
  現在の……オーブ軍司令部の混乱ぶりが目に浮かぶようだ……」

 と俺は口に出してみたが、だが実際オーブ軍首脳部はカガリの元で一致団結している事だろう。
今回のサイ・アーガイルの迎撃軍司令官への招聘も、彼女に対する深い信頼が無ければ成り立たないであろうし。

 「――それは、我が軍の『総司令部』も同じ事です」

 バートもその点には困惑しているようだ。

 「最初から、敵防衛軍の総司令官には代表府首席補佐官兼、総合作戦本部長『ロンド・ミナ・サハク』が
  出てくると完全に決め付けてましたから……健康問題等のアクシデントでもあったのでしょうか?」

 俺は大きく溜息を吐きながら、副官の疑問に答えようとする。
自分自身が無論納得していない事は承知の上でだ。

 「――わからんな……ただ一つ、はっきりしていることは、あのカガリ・ユラ・アスハが、
  予想されて然るべき周囲の混乱を無視してまでも総司令官に据えるほどの人物だということだよ」
 
 そこで俺は一息を着くと、

 「――彼女は、まるで運命を味方につけたような神業的な人事配置の妙と
   人使いのテクニックで、人種多様なオーブをこれまで統べて来た人物だからな……」

351機動戦史ガンダムSEED 08話 6/11:2007/02/01(木) 23:46:19 ID:???
 
俺が、そう結論を締めくくり、さてどうしようか思案に入ろうとした矢先に、 
オペレーターから『総司令部』から上級指揮官クラスの機密通信が入ったとの連絡が来る。

 バートがその通信内容を確認すると、俺に改めてに報告して来た。
かなり、憂鬱そうな表情と声で、

 「……隊長、本営のジュール作戦司令から通信が入ったそうです」

 「……イザークがか……?わかった、通信を繋げ」

 「ハッ……」

 一瞬、躊躇したが、俺は観念して通信へ出ることとなった。

 そして、正面のスクリーンに派手な軍服に、肩にマントを纏った銀髪の物憂げな青年が映る。
その姿は、もはや遥か昔に過去の存在となったバロック調の古代王侯貴族のような姿である。

―― 『ラクス・クライン』はプラントの『議長』の座に力を以って簒奪した。

――あたかも周囲が、自然に彼女のを担ぎ上げたように見せかけて。

 『あの女』がプラントの政局の『中心』となってからおかしな風潮がはやり始めたのだ。
彼女のスタイルを追従するかの如く、取り巻き連中が『真似』をし始めた。
俺は、その事を苦々しく思いながらも、嘗ての『友』をまだ見捨てる事ができないでいる自分に自嘲する。

 『ディアッカ、オーブ側の主力部隊が現れたか……』

 「……ああ。序盤の勝利は、相手の寝込みを襲ったようなものだからな。
  敵味方双方、真の戦いはこれからになるだろう」
352機動戦史ガンダムSEED 08話 7/11:2007/02/01(木) 23:51:10 ID:???

 銀髪の彼はマントを靡かせながら、物憂げに呟く。

 『――ウム……とはいえ、『ラクス様』の下で、幾多の戦いを勝ち抜いてきた我らが軍団の前には、
   何ほどのモノでもあるまい……すみやかに排除せよ――』

 「……」

 俺は、黙っている。沈黙が俺の返答だ。
そう簡単に行くのなら、何の苦労もしないのだろうよ。
幾多の屍を積み上げた後に勝利して何になるのだ?

 前方には有能な敵に、後方には無能な味方というか足を引っ張る連中が多いのは、もはや常識だろう。
彼等は、『ラクス』の名前で何もかもが、思う通りになると、まだ幻想を抱いているのだろうか?

 『……どうしたのだ?ディアッカ』

 「……敵主力の指揮官はサイ・アーガイルだ」

 一拍の間隔の後に、

 『……誰だ、それは?』

 とイザークは、どうでも良いような物憂げな態度で問い返して来た。
俺はもう怒る気にもならなくなってきた。怒るだけ労力の無駄だろう。

 「……今、そちらに詳しいデータを転送する。見てくれ」

 俺は、内心の疲れと呆れを抑えながらも、
バートに向かって、本営へデータの転送するように命じる。

 暫くしてから、イザークは俺が送ったデータに目を通しつつ、

 『……ふむ……これか。『――10年前の争乱においてアスハ代表を補佐……』』  
353機動戦史ガンダムSEED 08話 8/11:2007/02/01(木) 23:54:53 ID:???

 眉を神経質にやや斜めに上げながら、イザークは資料を読み続けている。

 『――ほほぅ?ほんの一時期ではあるが『あの女』に代わって、
  実質的にオーブの施政を裏から支配してきた時期があるのか?フッ、ユニークな経歴だな」

 「我々が、一時的に共闘していたあの時期、俺は、サイ・アーガイルと共に戦った――」

 イザークは、その俺の発言を完全に無視していた。
『敵将』のことを詳しく知っているは俺なのだが……そんな資料を一瞥しただけで奴が解るものか。

 『往年の影の権勢家――帰ってきた『英雄』というやつなのか。優秀な男なのか?』

 だが、イザークを見るとその様子では『敵指揮官』の情報を、俺から得ようとは、これっぽっちも考えていないのだろう。
勝手な推論と自分自身の妄想に浸るのは勝手だが、現場にそれを押し付けないでくれ。

 「……ああ。面白い男だ」

 俺も嫌味を含んだ声で、投げやりにそう応えた。
……その嫌味も通じずにイザークは興味なさそうに、俺から送られた資料を斜め読みで終了すると、
勝手な希望観測を交えた結論を俺に押し付けて来るのだった。

 『しかし……だ。この資料を見る限りにおいて、はどちらかといえば、
   その資質は『軍人』というより『政治家』のそれだな……』

 「……」

 『――かつての名を馳せた『英雄』なら、軍内に少々の影響力はあるのだろう。
   だが、一度権力の座から堕ちた人間……実際は何の力もあるまい?』

 「だが、イザーク。俺の経験において影響力は力であるかと」
354機動戦史ガンダムSEED 08話 9/11:2007/02/01(木) 23:58:42 ID:???

 馬鹿馬鹿しいが、流石の俺もこのイザークの杜撰な発言に対して、何も言わない訳にはいかなかったのだ。
そして、不毛にもイザークの発言に対して真っ向から歯向かう事となったのだ。
――まるで異次元の人間と会話している気分にさせられる。

 『どうしたと言うのだ――ディアッカ?このサイ・アーガイルという男は、
  オーブが敗色ムードを払拭するために担ぎ出した、民衆受けする客寄せの見世物に過ぎんのだろうが?』

 「……その認識はどうだろうか?彼は、アスハ代表から全幅の信頼を得ている数少ない人間の一人だ」

 『――『あの女』は、優秀な側近に政務を任せきりの『お飾り」だという噂ではないのか?』

 「――優秀な側近を抜擢し、それに一切合財すべてを預けてしまえる度量というのも、
   ある意味、恐るべき才能であろう?」

 『……何が言いたいのだディアッカ?もしや、優勢な敵主力部隊を前にして、
  恐れをなしたのではあるまいな?」

 「……我が隊は、全軍の布陣から見ても、敵領土の中へ突出しすぎの観がある。
   此処は一度、部隊を後方へ下げ、態勢を立て直すことを提案したいのだが……」

 『――越権行為だぞ!ディアッカッ!!『予備編成軍』の指揮官の分際で、
   『ラクス様』の――総司令部の作戦に異議を唱えるつもりか貴様は?!』
 
 既にイザークは額に青筋を浮かべ、青白い炎をバックに強権を発動してきた。
作戦司令と平の隊長では階級に差が有り過ぎる。

 それに俺の失脚は部下達の『強制労働宙域』への更迭にも繋がる。 
……仕方が無い。ここはこちらから、折れて頭を下げるしかないか……

 「は……申し訳ありません」
355機動戦史ガンダムSEED 08話 10/11:2007/02/02(金) 00:03:23 ID:???

 現在、俺の率いる前衛部隊は『予備編成軍』と呼称されている。

 その正体は『ラクス』によって選抜された自称『エリート』部隊ではなく、その実態は『旧ザラ』派の残党や
『元デュランダル』派から無理矢理に徴集された『混合部隊』であった。

 ――それを俺が指揮し、序盤のオーブ軍を撃ち破った実働部隊が俺の部隊の実態でもあるのだ。

 そう、『ラクス』の忠誠を誓った事を証明する為に、最前線で戦わされるのだ。
彼らの権利と人権や家族を何とか護る為にも、俺は様々な方策を練らねばならなかった。

 ――そう、『本営』の命令を逆らう事はできない。

 イザークは高飛車に俺に命じる。その姿は不器用だったが、友情を大切にし、
友を気遣う面影を欠片も残していないのだ。

 『お前は、前線部隊を率いて、前面のオーブ軍撃破を考えていればいい!
   直ちに進撃を開始せよ!よいなっ!!」

 「……はっ……了解致しました」

 怒りで青ざめたイザークの表情を最後に通信が切れる。
理不尽な命令と共に。

 「……通信切れました」

 「むぅ……」

 ――俺は腹の底から唸り声を上げる。
356機動戦史ガンダムSEED 08話 11/11:2007/02/02(金) 00:04:28 ID:???

 ……サイ・アーガイルの事は置いておくとしても、オーブ軍は、序盤線の大負けを取り戻す為に、
有りっ丈の戦力を俺の部隊にぶつけて来るに違いない。

 ――それは先ず間違いはないだろう……

 だが、キラやイザークを含めた上層部の連中は、カガリの力量を舐めまくってるようだし。

 ……ならば、どうするべきか?

 まずい風向きになって来たな……前衛部隊である俺の部隊の崩壊は、
全軍の崩壊に繋がりかねない。

 「ふむ……」

 思考が凝縮しある方向に向かって急速に集中する。

 ――そうだな……此処は下手な色気は出さず、大負けをしない事に気を使うべきかも知れん。
多少、株を落とす事になっても『逃げ支度』だけは、しっかりしておくか――





>>続く

357通常の名無しさんの3倍:2007/02/02(金) 00:06:28 ID:???
遺作と痔の関係はラインハルトとキルヒアイスだと思うのは読みが浅いですか?w
358通常の名無しさんの3倍:2007/02/02(金) 04:44:38 ID:???
おお、遂に一番最初のこのシーンが…!
359とんでもSEEDな詰め合わせ:2007/02/03(土) 11:13:40 ID:???
SS初投稿です。
ちょっと変わった感じにしてみました、学園ギャグ中心(オンリー?)です。
お楽しみ頂ければ幸いです。

登場人物紹介

吉良    …… 自称正義の味方、今日も得意の話術と暴力で暴力の無益さを説く

自由っ子 …… 危険な物は即マルチロックオン、自分が危険だとかは考えない

正義っ子 …… 遠近戦闘を自在に使い分ける、なにごとも努力と根性で何とかなると思っている

神意っ子 …… 苦流是先生の秘蔵っ子

明日蘭  …… 未登場、噂ではすでにハゲがうわなにするやめqあwせdrftgyふじこlp
360とんでもSEEDな詰め合わせ 1/3:2007/02/03(土) 11:14:46 ID:???

校長「ああ!校門前に他校の不良が!」

自由っ子「マルチロックオンシステム起動、武器使用自由、ロック開始…」

ピピピピピピ

自由っ子「ロック完了、ターゲット数12、全砲門開放、エネルギーチャージ」

キュイィーン、ピッ

自由っ子「エネルギーチャージコンプリート、砲撃開始します」

自由っ子「ハイマットフルバー…」
吉良「待てぇーーーーー!!!」

ポチッ

ブシュァーーーーー

自由っ子「緊急停止、緊急停止、システムダウン、」

自由っ子「エラーチェック開始…完了、システム再起動します」
361とんでもSEEDな詰め合わせ 1/3:2007/02/03(土) 11:16:17 ID:???

自由っ子「吉良、対象の殲滅許可を」

べチン

自由っ子「痛い」

吉良「なにが殲滅か…どうして思考がそう武力行使に結びつくんだ…」

自由っ子「ですがこうなったら最早殲滅しか」

べチン

自由っ子「痛い」

吉良「あのなぁ、それは犯罪なの犯罪。SATUGAI、解るか?」

自由っ子「…?」

吉良「いや、解ろうよ」

吉良「大体なぁ、なんでもかんでも圧倒的な火力で捻じ伏せるのは良くない事なんだよ」

自由っ子「……(じ〜)」

吉良「なんだよ、その目は。俺はそんな事しないぞ」

自由っ子「……」

吉良「不服そうだな」

自由っ子「……いえ」
362とんでもSEEDな詰め合わせ 2/3:2007/02/03(土) 11:17:32 ID:???

???「ターゲットマルチロック…完了。フォルティスビーム砲発射準備…」

吉良「正義馬鹿!お前も何をしてるか!」

べチン

正義っ子「あう!?!?」

吉良「はぁ、どいつもこいつも…」

正義っ子「い、いきなり何をする…!」

吉良「いきなりっていうのは正しくその通りだなこのやろう」

正義っ子「わ、私はあの悪漢どもを更正…(べチン)…んぎゃ!」

吉良「あのね、人間はビーム食らったら更正どころか死ぬんだよ」

正義っ子「それは根性が無いから(べチン)…んぎゅ!」

吉良「正義とか根性でどうにか出来るほど現実は甘くないって事をそのトサカに刻み込め!」

ベチンベチン!

正義っ子「あう!あう!…自由!見てないで…あひゃ!た、助け…」

自由っ子「…南無」
363とんでもSEEDな詰め合わせ 3/3:2007/02/03(土) 11:18:58 ID:???

???「あーはっはっはっは!」

吉良「ちっ!この耳障りな笑い声は…」

神意っ子「今日も無様に己の運命に振り回されているようねっ!吉良」

べチン

神意っ子「うきゃ!?」

吉良「誰が無様だ。それに朝っぱらから大声出すな」

神意っ子「な、なによ!それがあなたの宿命なのよっ!」

吉良「言ってろ」

神意っ子「あ…ご、ごめんなさい」

吉良「いや、折れんの早すぎだろ」

神意っ子「ち、違うわよ!別にあんたに謝った訳じゃないわ!」

吉良「あっそう。どうでもいいが、学校では仮面くらい外せよ」

神意っ子「そ、それは…」

吉良「なに?聞こえないぞ」
364とんでもSEEDな詰め合わせ 3/3:2007/02/03(土) 11:19:45 ID:???


自由っ子「神意は恥ずかしがり屋なのです」

吉良「ほほう」

神意っ子「恥ずかしくないもん!」

吉良「(なんかキャラ違ぇ)じゃあ取れよ」

神意っ子「う…」

ニヤリ

吉良「ほら、早く」

神意っ子「…うぅ(ジワ)」

吉良「……へ!?」

神意っ子「う…ヒック…恥ずかしく…う…ないもん」

吉良「お、おい」

自由っ子「な〜かした〜な〜かした〜(棒読み)」

正義っ子「苦流是先生に言ってやろ〜♪(ノリノリ)」
365とんでもSEEDな詰め合わせ:2007/02/03(土) 11:28:39 ID:???
すいません、ミスで1/3と3/3が二個出来てしまいましたorz
設定も固まってない一発ネタみたいなものです。
そんなもん投稿すんじゃねぇ!とか思った人、スマンかった。
こういうの見た事無いなと思ったので自分で書いた次第、一人でも楽しんでもらえたのなら幸いです。
366通常の名無しさんの3倍:2007/02/03(土) 15:15:01 ID:???
改行ウザくて読みづらい
367通常の名無しさんの3倍:2007/02/04(日) 09:09:50 ID:???
だがこのスレ的にはあるべき姿のSSだろ?
正直今まで見たいなクオリティの高さが尋常でないSSばっかだと、とてもじゃないが投下できるもんじゃないw
368通常の名無しさんの3倍:2007/02/04(日) 09:14:36 ID:???
確かにな、行き場所のないSS投下所としては正しかったし、良いと思うが、
レベル高すぎたぜ、新人さんいらっさいがこのスレだった筈だ。
369通常の名無しさんの3倍:2007/02/04(日) 15:33:08 ID:???
苦言を呈すると、これはSSではないと思う。ただのシナリオモドキじゃないかな?
初SSだから仕方ないのかもしれないけど、ある程度の文章力を身に付けないと。
370通常の名無しさんの3倍:2007/02/05(月) 01:34:23 ID:???
初めてSSを投下しようと考えているのですが、
何か気を付ける事はありますか?
371通常の名無しさんの3倍:2007/02/05(月) 03:59:18 ID:???
他人が読む文章であるということを忘れないでくれ
372通常の名無しさんの3倍:2007/02/05(月) 16:09:02 ID:???
その他人は、お前さんの頭の中で組まれたストーリーを一切知らないということも忘れないでくれ
373通常の名無しさんの3倍:2007/02/05(月) 21:39:53 ID:???
>>365つうかな、ヘイトスレの腐女子ネタの方が面白い。お前さんのは正直ツマンネ。
374 ◆XGuB22wfJM :2007/02/05(月) 22:37:46 ID:???
何でも屋ドミニオンに勤めるシン・アスカは、元プラント軍のエリートであるザフトレッ
ドだった。彼はCE73年の動乱を最前線で戦い抜き、そして敗れた。

敗戦後はデュランダル派の筆頭として断罪される処を、ラクス・クラインの温情によって
無罪となったのだ。なにやら偉そうなことを言って周りの人間を感動させていたようだが、
シンはさっぱり覚えていない。

今思うと、総てが夢のようだ。あの豊かで満ち足りすぎていたオーブ時代も、吹き飛んだ
両親も、妹の腕も、我武者羅に修練を積み重ねた訓練生時代も、インパルスのパイロット
になった喜びも、何もかもが泥酔した折に見る夢のようだった。
今のシンには何も無い。約束された将来も、両親の遺産も、故郷も、親友も、儚くて淡い
恋心も、何もかもなくなってしまった。

シン・アスカは荒廃したベルリンに生きる、一介の元兵士でしかなかった。

だが、シンはこれでいいのではないかとも思う。元より一介の技術者の息子が、家族を焼
き殺された行き場の無い難民が、地球で妬まれ、蔑まれるコーディネイターが栄光を掴め
そうになったこと自体が奇跡だったのではないかと。
シンは現状に満足していた。世界の有り様は気に入らないが、そのために今一度天下国家
を相手取るようなことはすまい。もうシン・アスカの戦争は終わったのだから。
後は平凡で平穏な生活に埋没しよう。天涯孤独の青年にしては恵まれているほうだ。

ぼんやりと考え事をしているとアパートまで着いてしまったらしい。
錆び付いた鍵を開け、誰も居ない、冬の寒い部屋へ帰るシン。
電気ストーブの温度を高くして、パソコンをつけた、毎日の日課だ。

今年の冬も寒い。隕石が落下してきたのだから当然だ。後数十年は影響が消え去ることは
ないだろう。しかもNJの影響は未だ残り続けている。有線ネットワークこそ全世界規模
で構築されたものの、昔のような自由な電波通信の時代が帰ってくることはあるまい。

マユ・アスカはあの日まで、再び電波通信が使えるようになると信じ続け、携帯電話を手
放そうとはしなかったけれど……。
375 ◆XGuB22wfJM :2007/02/05(月) 22:38:37 ID:???
パソコンから、これまた日課となった世界中のニュースサイトを巡る。ベルリンだけのニ
ュースでは世界の有り様を理解するのは難しい。様々な国のローカルなニュースや新聞の
情報をかき集め、検証することによって、多少なりとも世界の行く末を予想することがで
きる。

シンはいつものようにオーブのネットワークを閲覧した。
オーブ固有の言語も読めるシンは、オーブ在住の市民と変わらぬ情報を得ることができる。
いつもの様にカガリ・ユラ・アスハを褒め称える記事が多い。支持率は各局で90%オー
バー。当然と言えば当然だ。カガリ・ユラ・アスハは動乱を強大な武力をもって駆け巡り、
地球に確固たる地位を築いた。地球連合と言う大きな枠組みの中でさえオーブは突出して
いる。その今を築いたカガリは時の人であり、英雄だ。神話にだってなるかもしれない。

シンは思う。自分も家族を殺されなければ、今でもオーブに住んでいて、アスハを支持す
る人間の一人だったのだろうと。そうであればどれほど幸せであっただろうと。
無意味な過程だ、もしもは歴史にないのだ。自分が殺した人間も、死んでいった仲間たち
も、守りたかった少女も、総てが手遅れなのだから。

ブックマークにしているサイトを巡っても、特に目を引く記事は無く、今日の情報収集は
早めに切り上げた。
シャワーを浴び、買い置きしてあった保存食で晩飯を済ませると、シンは旧世紀の歴史書
をいつものように読もうとして、時間を思い出した。
今日の早朝から行われる排雪作業に寝坊するわけにはいかない。
時間を惜しみながらも、仕方無しにシンは床についた。

体は疲れきっていたらしく、幸いにも夢は視なかった。



ああ、つい妄想が
376通常の名無しさんの3倍:2007/02/06(火) 00:32:48 ID:???
>>374
文体もこなれていて良い、ただ小説と違ってルビが触れないので
意図的に漢字表記を減らした方が、掲示板には向いていると思う。

でも漢字も含めて文章自体は作家の個性だから、そういう意味では
高いレベルでよく出来ている。
GJ続きがあるなら頑張れ。
377通常の名無しさんの3倍:2007/02/06(火) 02:59:50 ID:???
>>373
>>1

>>374
どんな物語になるのか気になる。続きあるなら読みたいです
378機動戦史ガンダムSEED 09 話 1/7:2007/02/06(火) 21:41:29 ID:???

 ――第4機動艦隊旗艦『クサナギW』艦橋――

  「――ムゥゥン!と。しかし、結構まだ揺れるよなぁ?」
 
 指揮官シートにもたれ掛りながら、猫のように背伸びをして、
私に向って手を振りつつ、艦橋の司令部では、今日も司令は愚痴を溢していましたとさ……という日常が続く。

 第4艦隊はまだ、戦闘前の静けさを保っているのです。

 メイン・ドライブを通常運転へと切り替え、通常航行へ移行した第4艦隊は、
第二級臨戦体勢を取りながら、順調に通常戦航を続けています。

 この時代、艦や艦隊の運用の殆どが発達した、ハードの関係で全自動に近くなっています。
そう、細かい運用や面倒な計算式などは全てメカがやってくれる為に、ナチュラル、コーディネイタ―を問わずに
運用方法の差別化が、ほぼ皆無となっているのです。

 私が物心がつく頃には、時代はもうこのような状態へと移行していたので、自分が半分コーディといえども、
何ら有利性が働いていなかったのです。

――精々、2階の自分の部屋に重い荷物を人の手を借りずに運べる事等、多少の腕力があったとか。
――タイピングが多少、早かったとか。
――暗算が15桁できるとかは、ナチュラルより多少はマシ程度の差でしかなかったのです。

 前時代のナチュラルとコーディネイタ―との差は激しかったと聞きましたが、
今の常識ではとても考えられない事ですよね?

 同様に、旧世紀の世界情勢では、肌の色による差別があって、
アフリカ系やアジア系の人達への差別があったといいますけど。

 そんな大昔の価値観を持ち出されても、私達の世代は困りますよ。
379機動戦史ガンダムSEED 09話 2/7:2007/02/06(火) 21:46:30 ID:???

 そして、アーガイル司令は、その激動の時代を駆け抜けた訳なんですが……
何かフレキシブルな人だな〜、と。……また、指揮シートで大あくびしてるよ……
でもこういう、トコを見ると……

 ――もっと豪胆で何か『英雄』!!と言うイメージを持っていたので何となく、ちよっとガックしきますね?

 さて、と。司令がまだ宇宙酔いの後遺症がありそうなので、
私は、多少の冗談を混ぜながら応対してあげましょう。優しいですから。

 「――大丈夫ですか司令?酔い止めをお持ちしましょうか……?」

 と心配そうな声を出してみせる。

 「お……優しいね」

 司令は嬉しそうに、私に対して猫なで声で応えてくる。
だが、次の私の一言で司令の表情が変わった。
 
 「……それに、よければ、また洗面器をお待ちしますけど?」

 ちょっと余計だったかな。ボケを入れておいたけど……

 「……結局それかい!」

 と司令は突っ込みを入れ返してくれる……
ノリは良いんだけどな……

 「――まぁいい。もう大丈夫だ。……良い感じでこ慣れてきたね」

 「ええ。まぁ」

 と受け答える私。
 
 「さてと、……そろそろかな」
 
 そうして、司令は威を正す。どうやら休憩時間は終了したようだ。
この点は、私も場の空気が読めるようになってきたのだ。えへん!
380機動戦史ガンダムSEED 09話 3/7:2007/02/06(火) 21:48:38 ID:???

 「で……敵さんの様子はどうだ?」

 司令はズバリと、本題へと入って来た。
専用コンソールで高速のタイピングをしながら、私は現在の戦況をリアルタイムで集めている。 
 
 敵部隊補足の為に偵察部隊を複数派遣して、部隊毎の報告の長所をまとめるのが、
今の私の仕事でもあるのです。情報を整理しますと、

 「――どうやら敵はこちらの艦隊を補足した模様ですね。
  占拠された拠点基地『ヘーリオス』に配備された、敵前衛部隊の一部に動きが見られます――」
 
 重要拠点でもある拠点基地『ヘーリオス』は、ある意味で最重要拠点の一つでもあります。
この拠点基地は、三拠点がある宙域基地の中でも、宙域入り口の付近設置されている小惑星を改造した前衛補給基地なのです。
ここを攻略する事が、反攻作戦の第一歩となるのです。

 「――さて、こちらはどう動くのかしら?」
 
 落ち着いた大人の女性の声が、私の後ろから聞こえてきた。
私の直属の元上司だったエリカ・シモンズ主任だ。
 
 現在、シモンズ主任は、オブサーバーとして<クサナギW>に乗り込んでいる。
国営企業であるモルゲンレーテ社の前総裁でもあるのだ。
そして、その権限は未だに強力で、政府内の発言権も高いのです。
 
 現在、シモンズ主任がアーガイル司令を全面的に支持している事が、
司令の政治的基盤の強化にも繋がっているのだといいます。

 「――軍事的素人の私が言うのも何だけど……」

 とシモンズ主任は前置きをする。素人と言っても、
私から見ればシモンズ主任も百戦錬磨の女傑だけど。
381機動戦史ガンダムSEED 09話 4/7:2007/02/06(火) 21:50:44 ID:???

 「……今、私達が率いている艦隊戦力なら、時間をかけて慎重に進撃すれば、
   先ず、負けることはないと思わないかしら……?」
 
 私もその述懐にフン、フンと頷く。
これだけの大戦力なら、ちょっとやそっとでは負けないんじゃない?と思えるからです。
 
 ゆっくりと慎重にやれば、絶対的に勝つことができるのだろうし。
ですが、司令の考えは、ちょっと違っていたようです。

 「いやいや……」

 そうゆっくりと話しながら、司令は私達のいる方へ座ったまま、
指揮シートをこちらへと回して向けると、膝に肘を付けて軽く顎を載せた。
そして、

 「――少々無理を押してでも、ここぁ、なるべく華やかに勝たなきゃならない展開でございますな」

 と、欠伸をしながら、やや軽い口調でシモンズ主任の疑問に受け応えてくれた。
その返事に私は、思わず、

 「……へ?どういうことですか司令??」

 そう、私は声に出してしまったでした。おバカです……
でも、普通にやれば勝てるのでは?と疑問を持つのはおかしいのでしょうか?
確かに私は素人ですけど。
そうしたら、司令は私の方に顔を向けて、
 
 「――こちらとしては、ここいらで緒戦の大負けを精算して、帳消しにせねにゃならんのでね……」

 と口元に笑みを浮かべながら司令は、私の疑問にそう答える。
382機動戦史ガンダムSEED 09話 5/7:2007/02/06(火) 21:52:54 ID:???

 ???――余計混乱してきた。
為らば尚更、絶対に負けないように慎重にいかないといけないんじゃ?

 「……じゃないですか?」

 と私は自分のその思いついた考えを、司令に即座に話してみた。
司令は苦笑しながら、半ば素人の私にも分かるように、噛んで含むような説明を続けてくれた。

 「――確かにな。現在の保有戦力ならば、慎重に事を進めれば負ける要素は極めて少ない。
  が、それは、あくまで戦術面の話で、だ――」

 通常戦力が、敵側3倍の時点で戦術の常識として勝利が得られると言う。
その条件を整える事には既に成功しているのです。

 「……だがな、それでは、緒戦の大敗北へのオーブ国内の動揺が……特に『連合総議会』への収拾がつかないんだよ。
   先ずは、こっちの最優先として、飛び散る前に、国内で燻っている火種の始末をせにゃならないんだ……」

 そう話しながら、司令の眼差しは瞬時に鋭くなる。私は息を呑む。
バイザーの奥で輝く、目の色が深くなったように思えたのだ。

 「……ごくっ」

 その司令の迫力に私は思わず、唾を呑み込む。

 『オーブ首長国連合』の『連合総議会』とは、諮問機関として開かれていて、
そして、国民投票の選挙で選出された『下院議員』で形成されている議会の事である。

 無論、政治的な立場は代表府に劣るが、国営企業とは別に民間の経済的な面でオーブを支えてる面が有り、
無視できない重要な勢力でもあるのです。
383機動戦史ガンダムSEED 09話 6/7:2007/02/06(火) 21:54:55 ID:???

 さり気なく、シモンズ主任が私と司令との会話に割り込んでくる。

 「……今までの、私の経験からいえば、『戦略戦術』を建てる思案に、
  政治関係が入り込むというは、不吉だと思うんだけど?」

 素人の勘で悪いんだけど、とシモンズ主任が聞いてきた。
それに対して司令は、私が気味が悪くなるくらいの淡々とした口調で、

 「ええ。シモンズ主任……ですが、どうも、逆に私の勘では今回の戦いで、そちら関係の方面を無視して動くと、
   思わぬ大怪我や大火傷を負うような気がするんですよ――」

 と司令は、シモンズ主任に語り掛けると言うよりも、
敢えて自分の考えをまとめるかのように、淡々と話しを続けてゆく。
そして、

 「……最近の『連合総議会』は、代表府に権力が集中しすぎている事に批判的だ――」

 と低く呟くように凄みの口調で言葉を紡でいった。
――うぉ!司令、怖っ……一瞬、目が光ったわ。

 「――これ以上の失点が重なれば、奴らは『カガリ・ユラ・アスハ』の政権に対する弾劾へと動き出すかもしれない……
  そうなって来たら、少々、拙い事態に陥るでしょうな……」

 と鋭い眼光を光らせながら、語る司令は怖い。 
そして……何となく、もにゅもにゃした気分になってくる。
司令がアスハ代表の側近中の側近と言う事はわかるんだけど……
 
 それ聞いたシモンズ主任は微笑しながら、

 「――最初から貴方に全てが託された戦争よ。私は貴方の考えに全面的に支持するわ」

 シモンズ主任が太鼓判を押す。
この人の背景には、モルゲンレーテがあるから心強いだろうな。
384機動戦史ガンダムSEED 09話 7/7:2007/02/06(火) 21:55:49 ID:???

「――貴女にそう言ってもらえるだけで、グッと気が楽になりますよ。
 私ゃ意外と、世間の目を気にする性質なんでね」

あっはははは、と大口を開いて笑い出す男。こいつ……少し前のシリアスさはどうした?

「もともと、私も技術者だし、政治政略の思案は不得手なのよ――」

シモンズ主任も一緒に笑い出している。先程まで司令と一緒に政治的な話をしてたのは誰?

 ――そうして、私は、一人蚊帳の外に取り残されるでした。
何なんでしょうね……?




>>続く



385通常の名無しさんの3倍:2007/02/06(火) 22:45:08 ID:???
 大きな力に押し潰された。
 家族も故郷も平凡だが平和だった日常も、全て。
 戦争という名の凶暴な獣に食い荒らされ、成す術は無かった。
 だから彼はどんな力にも負けない力を求めた。そうすれば、もう押し潰される事は無い
と信じたから。もう二度と無力な自分を呪いたくないと誓ったから。
 運命に導かれるように、彼はプラント軍事アカデミーの門をくぐっていった。

 CE72年冬。プラント軍事アカデミーの適性試験は大詰めを迎えていた。卒業後編入
されるザフトでの配属決定に大きな影響がある為、候補生の緊張感も並大抵ではない。
「シン、次の演習、私と組むのよ」
 そんな中、モビルスーツ演習場に向かうシン・アスカは少女の声に呼び止められた。慌
ただしい足音を耳に振り向くと、小走りに駆け寄る赤髪の少女が短いスカートをはためか
せ駆けて来る。一年年長の同期の少女、ルナマリア・ホークだ。
「そうなのか? ルナ」
 次は実機訓練の中でも高度な技術を要求される実戦演習の予定だ。失敗は許されない適
性試験はの中でも特に難関と目される試験の一つだ。実戦演習の結果が良好であれば即配
備されるとも言われ、皆それなりの緊張感をもって臨んでいた。
「いよいよ実戦訓練なんだから、張り切って行きましょうね!」
「ああ」
 そう言いガッツポーズをするルナマリアを見ていると張り詰めた緊張感が幾分和む。
「そうだな。頑張ろう」
 じゃあよろしく、と言い置いてロッカールームへ走り去るルナマリアの後ろ姿を見送る
と、口元に薄く浮かんだ笑みを引き締め、シンはロッカールームへと踵を返した。
386通常の名無しさんの3倍:2007/02/06(火) 22:46:47 ID:???
 シンがパイロットスーツに身を包みプロトジンのコックピットに収まる頃には、モビル
スーツ・ハンガーには大分野次馬達が集まってきた。モビルスーツの模擬戦はアカデミー
でも最も盛り上がるイベントの一つだ。
『演習用プロトジン、発進よし!』
 アナウンスに従いハンガーからプロトジンの黄緑色の機体が離れる。同時に野次馬のざ
わめきも一際大きくなった。すぐ隣ではもう一機、ルナマリアのプロトジンもやや遅れて
動き出す。
『演習は実戦を想定してアーモリー・ワンの格納庫エリアで行います。各機発進。戦場ま
での機体運用も重要だという事も忘れずに』
 スピーカーから流れる声には聞き覚えがある。確か極秘で建造中の新造艦、ミネルバの
艦長に内定しというタリア・グラディスの筈だ。アカデミーで優秀なパイロットはすぐに
実戦配備されるともっぱらの噂だったが、どうやらこれは本当のようだ。
「シン、聞いた? 今の声……」
 気付いたルナマリアから小声で通信が入る。モニターの端に映し出されるルナマリアの
表情も上気しているように見える。しかしそれだけ期待をかけられているのならば尚のこ
と、気を散らさずに目の前の事を確実にこなすのが先決だ。だからシンは、
「了解しました。シン・アスカ、プロトジン、行きます!」
 ルナマリアの声を振り切るように青白い光を残してプロトジンを発進させた。
「ちょっと、シン! っと。ルナマリア・ホーク、プロトジン、出ます!」
 遅れて発進するルナマリアの声を頭の隅で捉えながら、シンは格納庫エリア目指して
低空で飛行した。
387通常の名無しさんの3倍:2007/02/06(火) 22:48:27 ID:???
 旧型の演習機とは言え、市街上空を通過すれば滑るように街並が流れて行く。今はシー
トに押し付けられるようなGも快く感じる。
「演習とは言っても、実弾を使った実戦に近い訓練よ。油断すると、怪我するわよ」
 追い付いてきたルナマリア機を確認しつつ、演習場に指定された格納庫エリアへと進入。
エリア中央の広い通路へと着地した。ここならどこに敵が現れても即座に視認出来る。す
ぐ左脇にルナマリア機が着地するのを脇目に見る。作戦開始を示すタイマーがスクリーン
の端でカウントを開始した。
 ピピ……!
 センサーが敵機を捕捉、オートでロックオン。スクリーンに映る機影を追いつつ、プロ
トジンのブーストを吹かし敵機の着地ポイントへと移動する。相手は水陸両用のジンオー
カーが一機だけ。
「見つけた!」
 思わず叫んで一気にブーストを跳ね上げる。ジンオーカーが着地し態勢を整える前に建
ち並ぶ倉庫の一つに身を隠し、出方を伺う。倉庫の上に着地したジンオーカーは慣れてい
ないのか、こちらを確認しているのか、少しの間棒立ちになる。
「貰った!」
 ブーストを吹かして倉庫の脇から飛び上がろうと考えた瞬間、一直線に飛んできたルナ
マリア機のマシンガンが火を噴きジンオーカーを直撃。たちまち黒煙に包まれ疑似爆発を
起こして、ジンオーカーが画面上のロックオンから消えた。
388通常の名無しさんの3倍:2007/02/06(火) 22:49:45 ID:???
「やったぁ!」
 一機目を取られてしまった。歓喜するルナマリアの声に僅かに嫉妬する。その間に二機
目の敵機がエリアの反対側の倉庫の間に降下。今度も敵は一機のようで、ティスプレイに
は偵察ジンと索敵結果が表示された。
「あいつッ!」
 パラ、パラとマシンガンを細かく撃ちながら上昇。迂闊にも倉庫の脇から身を出した偵
察ジンが見る間に被弾していく。牽制のつもりで撃った為初弾を外してしまったが、残り
の弾は全弾命中し偵察ジンはあと一発で撃墜出来る程損壊して大きくよろめいた。
「こいつっ!」
 シンはステップで機体を寄せながら様子を見るが、偵察ジンは背中を見せてブースト全
開で後退していく。小分けにした牽制のマシンガンをブーストダッシュで大回りに避ける
姿に、相手の技量を垣間見た。回避の技量違いは如何にも明らかだ。
 プロトジンをじわりと接近させ一発ずつマシンガンをバラ撒き間合いを詰める。姿勢制
御にブーストの余裕など残していなかった偵察ジンは易々と着地に隙を晒し、忽ち黒煙を
上げ疑似爆発を起こす。
「これで本当に実戦訓練なのかよ?」
 あまりの未熟さにシンは思わず呟く。相手も同じようにプラントの候補生のはずだった。
こうも容易く撃墜出来ては歯応えがまるで無い。
「行っけーっ!」
 思案する間にも次の標的のジンオーカーは、ルナマリア機のマシンガンをまともに食ら
って機影を拡大する間も無く撃破されていた。
389通常の名無しさんの3倍:2007/02/06(火) 22:50:58 ID:???
(この程度なら、俺は!)
 敵戦力ゲージを見ると残りは約四分の一。このペースで行けばこれが最後の筈だ。
 映し出された機体は再び偵察ジンだった。幸いにもやや離れていたルナマリア機から遠
いシン機の背後に着地する。
「これでっ!」
 回避は無い。
 その心の油断がシンにプロトジンの重斬刀を引き抜かせた。真っ直ぐブーストを吹かせ
接近し格闘を狙う。格闘を決めたらマシンガンを撃ち、隙を消しながら上昇するのが理想
的だろう。等と、既にシンの頭の中では勝負が付いていた。ミネルバ艦長のタリアが見て
いるのだという高揚感も勿、論あったろう。
 だから、機体を襲った衝撃が何なのか、気付くまで一瞬の遅れがあった。激しくコンソ
ールディスプレイに体を叩き付けられて初めて、自機がダメージを受けていると自覚する。
モニターには重斬刀で斬り付けた筈の偵察ジンの紫の機体が視界を覆う程に広がっている。
「……こっ!」
 重力が上下に傾く。
 いや、傾いているのは自分だ。吹き飛ばされてモニター前面の映像が急速に紫から透け
るような青空へと切り替わっていく。視界の端で倉庫の上を一気に駆け寄るプロトジンの
黄緑の姿が見え、シンの名を呼ぶ少女の声を聞いた気がした。
「こんな事で、俺はーーっ!」
 シンの中で何かが弾けた。
 吹き飛ぶ機体を強制的に立て直すと視界の中央に偵察ジンの紫の機体が戻る。突然の復
帰に驚いたのか、偵察ジンはただ呆然とこちらを見ているかのように、やけにゆっくりし
た時の流れを感じる。
「うおおぉぉぉぉっ!」
 重斬刀を構え直し鋭角的に切り込む。砲身の長いスナイパーライフルが向き直るのを見
ながら、ステップを織り交ぜ弾頭をかわす。立て続けに撃ち出される弾頭を全てかわして
懐に飛び込み、紫の装甲目掛けて重斬刀を振り下ろした。
 ガキン!
 大質量を持った金属同士がぶつかり合う重い感触がシートにまで伝わる。シンは構わず
ブーストを吹かし、吹き飛ぶ偵察ジンに更に一太刀を見舞う。大きく崩れる偵察ジンに最
後の一撃を加えるとモニターの前面が黒煙で覆われた。
「作戦成功よ。帰投して頂戴」
 シンが大きく息を吐き出すだけの間があって、スピーカーからタリアの声が伝える。は
っと我に返ると倒れ込んだ偵察ジンから訓練用のスーツを着用したパイロットが這い出し
てきたところだ。その姿を一瞥し、シンはゆっくりとプロトジンを上昇させ、アカデミー
へ向け引き返す。後方のルナマリアから通信が入ったが、全く耳に入らなかった。
390 ◆XGuB22wfJM :2007/02/06(火) 22:51:53 ID:???
モビルスーツは汎用機械だ。手足と指が付いていて、どんな悪路も楽々踏破できる。
大きすぎるのが玉にキズだが、この新しい重機は様々な場面で活躍を見せていた。

未だ民間用にモビルスーツは造られてはいないが、大量の戦時急造品や、非常に短いサイ
クルで入れ替わりがあった軍事用の払い下げ、そして火事場泥棒のジャンク屋連合から購
入したモビルスーツが民間で使われている。

この雪の降るベルリンにおいてもMSは有効な重機として運用されている。
MSサイズのチリトリやスノーブラシ等で、屋根の雪下ろしや街の除雪、排雪作業を行っ
たり、MS数機で巨大なテントを作成したり、瓦礫の撤去などをもっぱらとしていた。

「積・雪!」「排・雪!」「融・雪!」
「雪、うざぁい」
「糞が、なんでこう毎日降るんだよ!」
今日も騒がしい先輩達。
名前はそれぞれクロト、シャニ、オルガという。
シンと同様に、何でも屋ドミニオンに勤める、MS操縦を得意とする従業員だ。
なお危険物や重機の扱い、銃器の扱いもお手の物だ。生身で会うと精神病患者に見える連
中だが、馬鹿はモビルスーツを動かせない、コズミックイラの兵器はそんな生易しいもの
ではないのだ。
彼らはジンですら手足のように扱う。すなわちコーディネイター用のOSでも、何の問題
もなく機体を操ってしまうのだ。コーディネイターに匹敵する類まれな才能か、厳しい修
練がなくてはジンを操ることはできない。

ドミニオンの午前の仕事は、排雪と融雪作業だ。
道の端に寄せられた雪を、トラック等に積み込み排雪、然るべき雪捨て場で融雪を行う。
MSでは長時間運用の場合バッテリーがもたない為こともあるため、必要に応じて他の重
機や車両も活用する。今回はトラックの運ちゃんになったオルガとシン。ショベルを操る
クロトとシャニ。現場整理等を他の従業員が行う。

担当区域の排雪を行った後は融雪だ。
昔はそれなりの面積を必要とした雪捨て場だが、現在はモビルスーツのビームサーベルで
溶解させることで、近場の小さい面積に雪を運ぶだけで済むようになった。

凄まじい勢いで、蒸気が冬の大気に立ち昇る。クロト、シャニ、オルガ、シンがそれぞれ
乗り込むダガータイプのビームサーベルが、雪を片っ端から溶かして水に変えているのだ。
毎度、近所の子供が見学に来ているのが微笑ましい。

「オラァー蒸・発!」
クロト先輩、別に叫んでも雪の減る速度は変わりません。

「やっぱりよ、ライフル使ったほうがはえぇよ」
前にもそう言ってオルガ先輩がぶち込んだビームは、下水道まで直通の穴を作りました。
大赤字で、こっぴどくナタルさんに説教されました。

「…………」
音楽聴きながらダガーに乗るのはやめてくださいシャニさん。一月前にぼんやり操縦で俺
のストライクダガーの頭を切り飛ばしたのはトラウマです。
391通常の名無しさんの3倍:2007/02/06(火) 22:52:06 ID:???
「貴方達の実力、よく分かりました。すぐにでも実戦を経験して欲しいくらいです。ただ、
戦場とは一瞬の判断が命取りになる事もあります。その辺り、良く覚えておいて下さい」
 タリアの訓辞は功を焦って斬り込んだシンには耳に痛い。だが隣のルナマリアは引き締
まった表情で教官達を見詰め「はい、ありがとうございます」と威勢良い敬礼する。シン
も勢いだけは良い敬礼で最後を締めた。
「凄かった! あんな戦い方……びっくりしちゃったわよ」
 ロッカールームに戻るやルナマリアは開口一番満面の笑みでシンに振り返った。
「えっ?」
「あんな立て直し、怒濤の攻め、敵弾を回避しながらの接近。どれを取っても、今の私に
は真似出来そうにないもの。ちょっと悔しいけど、今日の所は完敗ね」
 舌をぺろっと出して微笑む彼女は眩しく見えたが、それだけに直前の判断ミスが暗く心
にのし掛かった。
 その後、夕闇の迫るロッカールームでシンが一人ロッカーに拳を打ち付けていた事を知
る者はいない。
392 ◆XGuB22wfJM :2007/02/06(火) 22:54:57 ID:???
午後の作業はいつものように、3年前に壊された建物の除去だ。
ザフト製モビルスーツの残骸や、倒壊した家屋等をここ数年、精力的に掃除することで、
再開発のめども立ってきた。
稀に瓦礫の中にはバクゥに積まれていたミサイルや、ディンの銃などが暴発寸前で見つか
ったりすることもある。モビルスーツはそういった危険な撤去作業においては無類の適応
を示すのだ。

「あと2ヶ月もすりゃ、ゴミもなくなるな。
3年もかけさせやがって、めんどくさかったぜ」」
「はああああ、撤・去!」
「ねえ、また死体出てきたんだけど」
シャニが2週間ぶりに遺体を見つけてしまった。
現在の所、彼が最も多くの遺体を見つけている。その発掘率、実にシン達の四倍だ。

『またか! いつもどおり周囲を丁寧に捜索、他の遺体を捜索しろ!
遺品を壊さないようにしろ、ある程度瓦礫を除いたら、人力で遺品を発掘する。
シャニはこっちまで遺体を持って来い、照合する』
ナタルの指示がいつも通りに冴え渡る。

危険物と共に見つかる中には人の遺体も多い。3年も経っているため白骨化しているのが
常だが、モビルスーツの量子コンピュータにあらかじめ設定しておけば、人間以上の精度
で瓦礫から発見してくれることもある。

シンは遺体を発見するたびに、彼女を思い出す。
彼女が壊した町並み、彼女が殺めた人達、自分が生かした彼女。
別に彼女がやらなくても、あのデストロイを動かす人材はいた。だから彼女がこの街を破
壊したからといって、自分が責任を感じる必要はない。
だが、それは逃げであり、誤魔化しだ。
紛れもなくあの光景を、現在の廃墟を作り出したのは彼女であり、自分だ。
そして彼女に地獄を創らせた責任の一端も、また自分にある。

シンはせめてもの罪滅ぼしと、彼女を忘れないために、この街で生きている。
なにより此処なら、彼女が眠る地へ行くのも近い。

そういえばもうすぐ彼女の命日だ。
シンは供える花を考えながら、遺体の捜索に没頭した。



今日の妄想でした。
機動戦史、ナチュラルとコーディの格差が埋まるの速っ!
それと、そろそろ主役視点のオリキャラ女の子の名前を知りたくなったなあ。
あとGJ!
>>385さん、ごめん、マジごめん。リロードし忘れた。本当にごめんなさい。
393385:2007/02/06(火) 22:55:43 ID:???
家庭用 連合vsZ.A.F.T UのP.U.L.S.モードをモチーフにしてみました。
394385:2007/02/06(火) 22:58:46 ID:???
いえ、宣言しないで勝手に投下始めたので、気にしないで下さい。
395通常の名無しさんの3倍:2007/02/07(水) 03:48:50 ID:???
三職人氏GJ

サイの渋味がいい
オーブ軍は議会対策の為に頑張らないといけないのか。

連ザ風味のSSは某スレでネタになっていたやつ?
これの続きが気になる
ミネルバ配属直前の情景がいい


ベルリンで呉越同舟のドミニオンクルーとシンの絡みがいい

シンもいいんだが常夏の騒々しさにワロタ
396 ◆XGuB22wfJM :2007/02/07(水) 23:51:01 ID:???
何でも屋ドミニオンに勤めるシン・アスカは、今でもモビルスーツに乗り続けている。
ザフトで培った技術なら他の職種もあるのだろうが、結局他の道は選ばなかった。
とどのつまり好きなのだろう、この鋼の巨人が。

いつものように瓦礫の撤去を行い、日が暮れようとした時、何でも屋ドミニオン従業員
の耳に、間抜けな音が聞こえてきた。

第一種戦闘配備の音だ。

『会社から通達だ、ここから西のポツダムで大規模な盗賊が現れ、略奪を働き、北に向か
ったそうだ。全員現在の作業を撤収、遠征装備で配置につけ! 敵の詳細は移動中に説明
する』
「了解!」とシン。
「あぁん」とシャニ。
「けっ」とオルガ。
「撲・滅!」とクロト。
腐っても元軍人。速やかに撤収作業に入り、20分で会社の倉庫まで全員戻ってきた。

CE76年現在、地球中の治安が乱れている。
ロゴス解体による兵器の捨て売り、ジャンク屋の捌いた元スクラップ等が個人の兵器取得
を容易にしてしまった。
世界的な軍縮傾向により、行き場のなくなった軍人などが夜盗に落ちぶれることが多々あ
った。彼らはモビルスーツや艦船を保有して悪行を働いた。

旧世紀では個人が戦車や戦闘機を保有することはありえなかった。
テロリスト、レジスタンスなどと呼ばれる者たちでも重火器が精々であって、国家の後ろ
盾なくして戦車など持ち出しようがなかった。
しかし、CEにおいては一人の人間が、半径数キロを焼け野原にできる軍事力を持ちえる
ことができるのだ。

こういう時こそ連合の出番となるのだが、度重なった動乱で連合の権威は地に落ち、地球
の国々はバラバラとなっていた。
元連合軍人だというだけで、謂われない差別を受けるような国もある。

それもこれも失態続きだったせいなのだが、狂っていたのは一部の上層部や、強硬派ブ
ルーコスモスだったのに、真面目に軍人してた人間までもが責任を負う結果となった。
しかも『強すぎる力はまた争いを生む』との思想で、リストラされていく軍人が続出した。
行き場のなくなった者が、軍の情報を持ったまま野に下り暴走を招いた。

現在オーブとプラントだけが我が世の春を謳歌している。
他の国々は独立運動や、戦乱の傷跡を癒すのに精一杯なのだ。

欧州にもそういった風潮は蔓延しており、モビルスーツを使った盗賊が現れるようになっ
た。元軍人や仕事のなくなった傭兵が主な内訳だ。
397 ◆XGuB22wfJM :2007/02/07(水) 23:52:29 ID:???
数人の犯罪者グループを仕留めるのに、警察規模ではなく軍を派遣しなければならない現
状には、何処の行政府も頭を痛めている。
そんな中、行政が信頼できる傭兵に依頼して近隣の治安維持を委託しているケースがある
何でも屋ドミニオンもそういった専属契約を受けている傭兵部隊の一つだ。
毒をもって毒を制す。傭兵を以って元軍人や傭兵を制するという訳だ。
風の噂ではサーペントテール、傭兵部隊X等も同じことをしているらしい。

シン達は倉庫までの移動中に、今回の敵機の情報を得ていた。
ザウートやガズウートに、バクゥまでも確認された。しかも陸上戦艦を持っているらしく、
まだ未確認機が増える可能性もある。
手に入りやすいダガータイプを使用していないことから、コーディネイターを中心とする
部隊と推測される。

従業員が戻った倉庫内は慌ただしくなり、次々に戦闘準備が整えられていく。
ドミニオンの遠征とは、シン達四人の乗るダガータイプに、ありったけの予備バッテリー
を積んだグゥル四機を揃え、連絡のあった夜盗に強襲をかけることだ。

街用の作業用ダガータイプは、シンや他の従業員が修理するが、戦闘用ダガータイプや、
武装は専門のMS修理工に委託して整備している。
シン達は素早く己のダガーに乗り込むと、MSのパラメータをチェック、グゥルにバッテ
リーを装着し、武装を選択する。

今回の武装は敵に合わせ、シンはランチャーストライカーパックのダガーL。シャニは
ソードストライカーパックのダガーL。クロトはエールストライカーパックのダガーL。
オルガはバスターダガーという編成になっている。

ドミニオンのグゥルは指揮車代わりに運用するため、通信機能を大幅にカスタマイズされ
た代物だ。それらにナタル、フレイ、カズイが乗り込む。
ナタルがシャニ、フレイがオルガ、カズイがクロト、シンの乗るグゥルは無人だ。

久しぶりの戦闘だが、全員気負いはない、みな慣れたものだ。
それよりも機体が壊れることの方が心配である、一機でも中破すれば赤字だ。
ナタルの説教とフレイのヒステリックな声を思い出すと、男共も気合が入るというものだ。

『敵MSは落としても構わんが、余裕があれば投降させるか、コクピットだけを貫け。
売り捌くか予備パーツに回す。
戦艦は略奪した荷物を積んでいる可能性が高い。包囲して全乗組員を確保する、以上だ。
全機、出発するぞ!』

夜盗の移動経路を予想したナタルが、先頭を切って大空に飛び立ち、他の機体もそれに続
いた。
不届きな夜盗どもに天誅を食らわせるべく、何でも屋ドミニオンは今日もゆく。



……グゥルがなぁ、そんなに航続距離を伸ばすことなんぞ、できるわきゃねえだろーとい
う突っ込みはなしで。……なにぶん勢いだけなんで。
398通常の名無しさんの3倍:2007/02/08(木) 12:17:10 ID:???
いいですよ〜、続き楽しみです
何でも屋ドミニオンにカズィがいるのがちょっと意外〜
399通常の名無しさんの3倍:2007/02/08(木) 12:55:10 ID:???
職人氏GJ
カガリは連合の治安維持に責任を果たさない癖に
軍縮だけはやらせるのかw

なんでも屋ドミニオンはマジで大変棚。
シンも常夏も無事に任務達成できるよう超ガンガレ。
ナタルさんが頭抱えないで済むようにね
400 ◆XGuB22wfJM :2007/02/08(木) 20:28:34 ID:???
シンの就職した会社は現在、ポツダムに現れた野盗討伐の仕事を受けている。
何でも屋ドミニオンは三年間の地道な活動の成果か、ベルリン近辺ではもっとも信頼が置
けると評判である。
ドミニオン一行は黄昏の空を、獲物を求め飛び続ける。

『雪上にスケイルモーターの跡が見受けられる。予想通りの進路だ。大きさからいって、
十中八九レセップス級だ。全員レセップスの武装と射程距離は頭に入れてあるな』
『勿論です』とシン。
『あれだろ、砂漠の茶色い奴』とオルガ。
『名前なんて覚えてねーよ』とクロト
『ん、多分』とシャニ。
『バスターダガーの射程なら安全圏でしょ』とフレイ。
『だ、大丈夫です』とカズイ。

『このまま後を追えば、後方から強襲できる。
出撃直後のモビルスーツを狙い撃ちしろ、オルガ、シン頼むぞ!』
『了解』
『あぁ』

ほどなく標的であるレセップスを捉えた、迷彩として白く塗装してあるらしい。
『この距離からでも落とせるぜ』
『モビルスーツだけだと言っただろう!』

いつも通りぼけたオルガとナタルの会話でリラックスする一同。
豆粒だった艦影がみるみる大きくなっていく。ようやくレーダーで気づいたのか、射程外
にも関わらず敵艦は砲撃をかけてくる。どうやら練度はさほど高くないようだ。

シャニの機体はソードストライカーのため敵に近づく必要がある。よってナタルの乗るグ
ゥルは高度をとって敵艦に接近し、他のグゥルはレセップスの射程外から包囲するように
飛ばす。
するとレセップス級からバクゥが出撃し───、
瞬間、シンとオルガの狙い澄まされた一撃を受けて爆発する。
401 ◆XGuB22wfJM :2007/02/08(木) 20:31:11 ID:???
並みのパイロットならこの距離では当てることなど不可能だが、ドミニオン従業員は並に
は程遠い。
続けて三機のバクゥが飛び出したが、通信も用いず瞬時にシンは左、オルガは右に狙いを
定め銃爪を引き絞る。シンの放ったアグニは左の敵の前足を焼き、オルガの連結ライフル
は右のバクゥの頭を吹き飛ばす。

『おぉらぁー必・殺!』
クロトがグゥルのスピードを乗せたままエールダガーLで高速滑空し、真ん中のバクゥを
蹴り飛ばす。転がった敵に問答無用でビームサーベルを振り下ろし、コクピットを串刺し
にする。

のこのこと出撃してきた2機のザウートとガズウートだったが、10秒とかからず四機の
バクゥを無力化されたのを見て、一瞬躊躇する。
そこにシャニが射角に入らないようにグゥルから飛び降り、ガズウートの頭を踏み潰して
着地する。狙いを付けられる前に手近なザウートにマイダスメッサーを投げつけ、片方の
ザウートにバルカンを発射。二機のザウートは高速後退で躱わしたものの体勢が崩れる。

『おらぁ!』
そこへ、あろう事かバスターの名を関するダガーがとび蹴りをかまし、倒れた相手のコク
ピットを零距離ビーム砲でぶち抜く。
『じゃあな』
もう一機もクロトがビームライフルで始末した。

頭を踏み潰されたガズウートに、シャニはソードを大上段に構えて振り下ろし───
『壊すな、馬鹿者!』
『…………ウザ』
ナタルの制止を受け、寸止めでソードは止まっていた。
既に敵のパイロットは戦意を喪失していた。

バスターダガーが敵のブリッジに砲を向け、シャニがガズウートに注意を払い、シンが艦
から飛び出してくる新手に備え、クロトは前足をもぎられたバクゥの頭にビームサーベル
をじりじりと押し付け威嚇する。
グゥルは万が一の伏兵を考え、高度をとりつつ周囲を警戒する。

30秒とかからず、7機のモビルスーツを無力化されたレセップス級の艦長は観念し、降
伏信号を挙げた。



ドミニオン従業員強すぎたかな。本編見る限り三馬鹿めちゃくちゃ強かったし、シンはウ
ィンダム30機を返り討ちにしたし、これぐらいはいいかな。
まあフリーダムならフルバースト二回の10秒で片付く相手だったということで。
402通常の名無しさんの3倍:2007/02/08(木) 21:18:37 ID:???
GJ

精鋭揃いだなw

なんでも屋ドミニオンでも苦戦するような強敵が現れないだろうか?
403通常の名無しさんの3倍:2007/02/09(金) 03:41:57 ID:???
GJ!
オルガとかは自由種割れキラと普通にタメをはれるパイロットですのでOKなんじゃないですかね。
……もしかして、オルガが種割れしたらCE最強?
404通常の名無しさんの3倍:2007/02/09(金) 10:04:58 ID:???

前回からひっそりとカズィが居る。

陸上戦艦を持つ野党もとい夜盗……それなんてバルチャー?
ついでに撃墜機も売りさばくつもり満々のセリフ有りbyナタルさんだし。


宇宙の化け物の戯れ言ごときで連合が崩壊した脆い世界じゃあってもおかしくない未来だよね……
となると、ドミニオンも遠い将来『強すぎる力はまた争いを生む』という狂った思想の嵐に巻き込まれるのだろうかな。
アスランやキラは随分先としても、正体を隠したつもり(バレバレ)のザフトの威力偵察部隊(ルナマリア込み)とか
405 ◆XGuB22wfJM :2007/02/10(土) 02:18:08 ID:???
何でも屋ドミニオンは街の除雪から悪党の排除まで、幅広く活動する零細企業だ。
影のある人材が多いが実に有能な社員が揃っている。
現在ドミニオンは街を収奪した野盗を強襲し、モビルスーツ部隊を秒殺したところであっ
た。

『全ての乗員の武装を解除させ、格納庫へ集結させろ!
抵抗しない限り身の安全は保障する』
ナタルの指示に敵艦長は素直に従い、部下達に武装解除と格納庫への集結を命じた。
『クロト、シャニ、敵モビルスーツパイロットは確保したな』
やる気の無い返事がいつもどおりに返ってくる、ふざけてはいるが彼らの仕事に抜かりは
ない。そうそうにパイロットを摘み出し、格納庫に放り込んでいた。

『カズイ、ベルリンとは連絡がついたか?』
『はい、レセップス級は市が回収するそうです。
よって捕虜輸送用の航空機と、戦艦移動のための傭兵を派遣するとのことです』
『わかった、後は捕虜を武装解除させ、迎えが来るまで待つだけだな。
クロト、モビルスーツのまま格納庫に入って威嚇しろ。オルガは引き続きブリッジを潰せ
る体勢を維持。他の者は機体を降り、対人兵装でレセップスの格納庫まで集合しろ』

格納庫に入ったクロトのダガーLが睥睨すると、不満と恐怖を浮かべつつも、盗賊たちが
集合してきた。中には瞳がぎらつき、一泡吹かせようといわんばかりの顔も見受けられた。
『なぁんかさ、やる気まんまんみたいだぜ、こいつら』
『……威嚇射撃を許す、やれ』

ヴォォォォォォォォォォォォォォォォ

格納庫にバルカンの爆音が響き渡り、跳弾を恐れた生身の人間達は身を竦ませた。
念のためにダガーLの指に仕込んである、スタングレネードの用意も忘れない。

と、───出撃しなかったらしいモビルスーツがクロトの目に入った。
『ジンが一機残ってるぜ』
『迂闊に触るな、トラップでも仕掛けら』
『はあぁぁぁ投・擲!』
話を聞き終えもせず、危険な兵器を格納庫から排除すべきだとクロトは判断し、ジンをと
っ掴むと、ホップステップスイング! 
格納庫からぶん投げられたジンオーカーは、雪上に音高く崩れ落ちた。
機体から降りていたナタル達は、小型の竜巻のような猛吹雪に見舞われた。
ジンに一番近いところにいたナタルは、暴風でごろごろと転がった。
『減俸だ!』怒るナタル。
『あぁぁぁあぁあぁあぁ』叫ぶクロト。

ようやく吹雪から体勢を立て直したシン達は、対人用の武装を整えナタルの前に整列した。
「よし、突入する。抜き打ちで撃ってくる者や、物陰からの奇襲に気をつけろ」
ナタルから順に、シャニ、シン、カズイ、フレイが続く。

406 ◆XGuB22wfJM :2007/02/10(土) 02:19:08 ID:???
一隻の戦艦を拿捕するのに余りに少ない手勢ではあるが、人手不足なのだから仕方ない。
「全員一箇所に固まれ! 一人一人身体検査を行う。
抵抗しても構わんが、ミンチですめばマシな方だぞ」
ナタルが意味深な視線をフレイに向ける。フレイは訳が分からないという面持ちだ。

今日の連中は、随分と品のある連中だな──
シンは久しぶりの戦艦拿捕にそう思う。

賊と一口いっても様々だ。行き場のなくなった軍人、傭兵、混乱の時代を拓こうとするテ
ロリストもといレジスタンス。子供が無理やり戦わされている場合もあれば、たまたま拾
ったMSで王様気取りの餓鬼までいる。

シンが遭遇した賊で一番怒ったのは、攫った少女達を監禁し、輪姦していた屑共だった。
種の割れたシンが手を下す前に……いや思い出すのはやめよう。怖い。

コーディネイターが賊で、ナチュラルを襲う場合、容赦の無い無残な事件が非常に多い。
言うまでも無く、差別意識が働き人を人と思わなくなるためだ。オーブ生まれのシンから
してみると脳みそ腐ってると思うが、一般的なコーディネイターで、ナチュラルに対する
優越意識を持たない人間は極少ない。余程の善人であっても、環境のもたらした習性を完
全に拭い去るには、よっぽどの体験が必要だろう。
逆にナチュラルがコーディネイターを襲う場合は、余り無い。
コーディネイターは金持ちの子孫が多く。法的にも権力的にも抵抗が難しい連中が多い。
しかも肉体的にも先天的に優れるものが多く、成人男性を相手にコーディネイターの少女
がこてんぱんにKOした例もある。
なにより、地球におけるコーディネイター個体数が少なすぎた。

今日の賊の印象は、規律の取れた軍隊上がりだと感じた。
艦長の武装解除命令に粛々と従う様は、昔の自分に見習わせたいくらいだ。
しかもコーディネイターの集団が、大抵ナチュラルが駆っているダガーに負けても、自分
を抑えているのは本当に珍しい。
多分、珍しいくらいに実直な軍人であり続けて、いつの間にかザラ派やデュランダル派に
挙げられていた類だろう。つまるところ組織を裏切れず、組織に裏切られる性質の軍人だ。
全て推測の域を出ないが、シンは自身の仮説に確信を持った。

クロトが格納庫全体を威嚇し、ナタルとフレイが暴徒に備えサブマシンガンを構える。
カズイが元工学カレッジの技術を生かし、X線、サーモグラフィー、金属探知機を兼ねた
センサーで一人一人武装のチェックを行う。直接体を触って武器を没収するのはシンとシ
ャニの役目だ。

十人ほどがチェックを受け、場の緊張感が緩和し始めたとき、整備員らしい格好をした賊
が反撃の銃口を向けた。



続く。
407通常の名無しさんの3倍:2007/02/10(土) 16:13:22 ID:???
職人氏GJ
みんな仕事頑張ってんな
408機動戦史ガンダムSEED 10話 1/7:2007/02/11(日) 01:12:27 ID:???
 
 司令とシモンズ主任は、ひとしきり馬鹿笑いをし終えると、
今度はその矛先を私に向けてきました。正直言うと、かなりの迷惑なんですが。

 「……さてと?お嬢さん、君はこの話題については、どんな意見を持っているのかな?」

 と、これは、いきなり、私としては何とも答え様のない話題です……
ちょっと前まで学生で、その後にすぐに、モルゲンレーテの航宙船開発部へと回された私なのですよ?
 
 生まれてから十数年、政治関係なんて欠片も関わってきませんでしたのに。
そんな事を、私に質問してどうするんだろう?しかも突然、そんな事を聞かれた為に、

 「い?……えと――その私……ですか?あのぉー……政治なんて考えてもみませんでした……」

 と、無難な答えしか返せませんでした……

 それに対して、司令は大袈裟な動作で溜息を吐いて……何か、哀れみがコモッタ視線を返してきます。
 ついでにシモンズ主任も。 
 ……それ、すんげぇー、ムカツクんですけど。

 「……考えてみるべきだね。君の日々のお肌の新陳代謝と同じくらい、大切なことなんだぞ?」

 その余計な一言に、ムッとする。
余計なお世話ですよ!お肌の手入れなんて気にしていません!
 そうして、私は、

 「――そっちの方も全く考えてもみません!わっ・か・いです、から!」

 と特に、シモンズ主任、そしてついでに司令に向って胸を張る私。
途端に二人から殺気を感じる。特にシモンズ主任から。
もうお肌の曲がり角を過ぎた更年期ですもんね?

 ――ミシッ!とシモンズ主任の額に青筋が浮かびます。
409機動戦史ガンダムSEED 10話 2/7:2007/02/11(日) 01:14:24 ID:???

 「フフッ、可愛い事言ってくれるわね。この幼児体型がっ!」

 ――ぶちり!と何かが私の中で切れます。
そして、シモンズ主任と私は、猫とネズミのように互いを睨み合います……ちゅー!

 ――司令はその様子に呆れながらも、

 「……やれやれ、君の生きる資格が問われる問題なんだけどね――ほれっ!止めい!」

 歯をむき出し今にも取っ組み合いにをしようとしている私と、シモンズ主任の間に入ってきました。

 「――たく……で、お嬢さん。現在、本宙域で戦闘中の第3艦隊との連絡はどうしたんだい?」

 うっ、と詰まります。
 
 実は先程から、この宙域で包囲網が敷かれ、攻撃を受けている『第3機動艦隊』との連絡を取ろうと、
頑張っていたのですが……通信妨害が激しく、特定の位置が掴めない状態が続いていたのでした。

 「……」

 もう一度、司令は念を押してきます。

 「……お嬢さん?」

 ……仕方が無く、私は司令にありのままの報告をするしかありませんでした……
これは、副官の任務としては痛い失態でしょうね……

 「はっ……はい!それが……『ニュートロンジャマー』を初めとする、空間通信撹乱物質が多数散布されているらしくて……
  その、未だに第3艦隊と通信が取れません――」

 と報告しました……のです、はい。
 
410機動戦史ガンダムSEED 10話 3/7:2007/02/11(日) 01:16:49 ID:???

 そんで、やっぱこういう時は、司令から『何やってんの!!』とか『左舷、弾幕薄いよ!』とかの
罵詈雑言が、自分に飛び交う事を覚悟していましたのです……

 「――わかった。ならば、君は第3艦隊の<クサナギV>との通信回復に全力をあげてくれないか?
  こいつの目処がつかなければ、救出だろうと、援護攻撃だろうと何ともできないからな――」

 『あーゆーオーケー?』と逆に私を叱らずに、結構、物腰が柔らかくノリノリで指示してくれました。
そこで、私も乗らずに真面目に返さなければならないんですが、遂、司令のノリに負けてしまい、

 「はい!おーけー……失礼しましたぁ!!」

 と言ってしまう、失態を犯してしまいましたぁ〜〜
顔を真っ赤に、しながら何とか言い繕いましたが……

 どうやら、それで私の内心を気が付かれてしまったみたいなのです〜。
何故なら、司令は私のその様子を見ながら不思議そうにして、

 「ん?なんだ緊張しているのか?」

 と聞いてきたのですから。

 「はぁ、その……私、実は、実戦が初めてなのです……」

 と白状する事となりました。別に隠す事でもないのですが……やっぱり……ね。
それに私は生まれてから、戦闘なんて野蛮な事を経験した事も無い、生粋の箱入り娘のお嬢様なのですから。

 「……君はそういう面に関しては、性根のふてぶてしいタイプに見えたんだがね。
  だがやはり、初めての実戦なのだし……怖いのかね?」

 「――ハッキリと言えば……何だか急に……ごめんなさい」

 と素直に頭を下げます。
411機動戦史ガンダムSEED 10話 4/7:2007/02/11(日) 01:20:02 ID:???

「……やれやれ……君みたいなのが、艦隊司令の副官に送り込まれて来るようでは、
 『オーブ軍』の下級士官の人材の質も、よっぽど払底しているようだな」

 と酷い事を言うよこの人……
だって、私は元々、<クサナギW>開発陣のエンジニアなんですけどね!
……この艦を良く知る人材として、私に白羽の矢が立てられただけなのです。

 でも、断る事もできたのに志願したのは、『英雄』と謳われた『アーガイル司令』の副官という地位に目が眩んだからなど、
という理由なんて、今では、死んでも言いたくないかも……

 聞くのと実際に見るのでは、やっぱ大分違うと云う事が身に沁みて分ったし……

 「……すみません。もう、大丈夫です」

 と、やっぱり、愁傷に素直に頭を下げて謝る事にします。
もうすぐ、戦闘に突入するのに泣き言など言ってられませんもんね。
 
 そうしたら、司令は、何を考えたのかいきなり、ポンと握った右手を開いた左の手の平で叩いて、

 「――そうには、見えんがね……よし!新人教育を兼ねて、
  君よりも、『ほんの少し』ばかり長く生きている人生の先輩からアドバイスだ!」

 と、明るく私に向かって言い放ちやがります。

 ……『ほんの少し』?私達、十ン歳位は離れてますよ?
『ジェネレーション・ギャップ』の差は、成層圏から地上くらいの途轍もない距離があると思いますけど……
 
 そう、私はお茶目に思っていましたら、突然、私の耳にシリアスでカッコいい声が響きます。

 「……『恐怖』を恥じるな」

と……一瞬、脳みそが蕩けそうになりまし……た。
412機動戦史ガンダムSEED 10話 5/7:2007/02/11(日) 01:21:09 ID:???

――え、え?

 「は、はいぃ?!」

 思わず、声が裏返ってしまいました……
ですが、それには構わずに司令は、

 「――実戦を二、三も回繰り返せば、人間、こんなモンは怖くも何ともなくなるんだ――」

 「……え?」

 「――ミサイルの爆発する閃光や、戦艦の装甲板を掠めるビームだって、もう日常の風景として――慣れちまう。
  ……いや、感覚が麻痺してしまうんだな、これが」

 と、司令の言った意味を自分なりに解釈しますと……

 「え……と、その、つまり……慣れろ、と?言うことですか?」

 そうして、私がそう答えると、司令は顔を顰めながら、いきなり大声で、

 「馬鹿!そうなったらおしまいなんだ!!」

 「――ひゅぇッ!」

 と、私は怒鳴られてしまいました。ついでに奇声も上げました。
更に司令は続けて、

 「……実戦ではな、『恐怖』に麻痺した奴から先に死ぬ。怖いと思うんなら、これだけは死んでも忘れない事だ。
  ――これから始まる恐怖を、しっかりと頭ん中に叩き込むんだ――」

 「……ゴクっ」

 と言われ、唾を飲み込む私。
413機動戦史ガンダムSEED 10話 6/7:2007/02/11(日) 01:22:18 ID:???

 その後、司令はやや口調を和らげながら、

 「――死にたくなければ『恐怖』を麻痺させるんじゃない。自分でしっかりとコントロールしろ。
  ……『恐怖』と冷静に向かい合って、自分で飼い慣らすしかないんだ」

 「……私にも『それ』ができるのでしょうか?……いざ実戦を前にして、
  泣き言なんか漏らしている自分が、なんだか、みっとも無くて……」

 と私は遂、愚痴を言います。

 「私……いや、俺に言わせりゃな、最初の戦闘を前にして、
   泣き言の一つも言わないような、可愛げの無い奴とは一緒に仕事は、したかぁないね――」

 司令は、ニッと私に向かってそう笑いかけてきた。
 そして、

 「それが正常なんだよ……」

 と優しい声で言ってくれた。

 「……はい」

 私も素直に返事をする。

 「実戦が恐ろしいのは、皆が同じ事……ですよね?シモンズ主任」

 「――ええ、その通りよ」

 「……ありがとう……ございました司令。その、少し、気が楽になりました……」

 とシモンズ主任も太鼓判を出してくれました。
414機動戦史ガンダムSEED 10話 7/7:2007/02/11(日) 01:23:28 ID:???
 
 司令は、私のその様子に満足したかのように、
また、一言を付け加えてくれました。

 「それでも、どーしても我慢できなければ、ほら!この逞しい胸へと飛び込んでくるといい!
   ――ガバッとな?」

 「――あははっ!……そうですね!その時は、遠慮なくそうさせていただきます!はい!」

 「よぉぉしっ!、結構!!」

そして、気持ちを切り替えさせてくれたのです。その時、何故か、いつの間にか恐怖が和らぎました。
 私は――やっぱ、この人は凄い人なんだな……と密かに感心していると、

 ――ピッーピーッと警告音が響き渡ります!
私の席のコンソールが点滅し、偵察部隊のからの報告が帰ったのです!!
すぐさま、偵察部隊から送られてきた暗号電文を解析すると、私は司令の方に振り返りながら、
 
 「――司令!偵察部隊から報告です!拠点衛星基地『へーリオス』から敵部隊が発進!
  こちらの進撃ルートであるポイント、19,22,12の位置へと進軍を開始し始めたということです!」

 「――推定接触時刻は?」

 「およそ、15分!」

 「よぉっしゃぁ!!全艦に通達!第一級戦闘態勢に移行!!それと『ホワイト・ヒル』総司令部へ連絡!
  『我、敵と接触せり!これより戦闘に突入する!』とな!」

 「了解!!全艦!第一級戦闘態勢に移行!繰り返す……」

 ――今度は、震えは、武者震いでしょうか?
 今まさに、私の初陣が始まったのです。


>>続く
415通常の名無しさんの3倍:2007/02/11(日) 02:23:00 ID:???
 >>なんでも屋ドミニオン
 本当に雪下ろしから山賊退治までこなしているドミニオン、強化人間三人組が濃すぎて
シンのキャラクターが霞んでますね。面白いですけれど。
できれば(作者様が構想していれば)どうやってナタル他数名が生き残ったのか
読みたいところでもあります。 

 >>戦史
 ノリノリのオーブ陣と、不協和音をかもし出すプラント側のギャップが中々楽しいです。
 "お嬢さん"の名前が出てくるのは、初陣を経験してそこで恐怖と向き合いながらも
仕事をして見せて、サイに一人前として認められたときに初めて呼んでもらえて時、と
勝手に想像しております。大分焦らされたのでage
416通常の名無しさんの3倍:2007/02/11(日) 06:00:05 ID:???
クロス物だけど、該当スレがないから投下します。
オリキャラ?とかバンバン出てくる予定だけど大丈夫かな。
417cross GR:2007/02/11(日) 06:02:31 ID:???


 ある日のヘリオポリス。まだ街は平和であり、人々は人生を謳歌していた。
 しかし、彼等は知らない。ヘリオポリスが陰謀に巻き込まれて行く事を──。

 ヘリオポリスの工廠において巨大兵器MSが建造されていた。連合とオーブによる共同開発によるものである。
それを虎視眈々と狙う者があれば、その手伝いをする者もある。
 狙う者の名は『ラウ・ル・クルーゼ』!
ザフトの白服が一人にしてエースパイロット。彼の歩んだ後に残される物は無しとうたわれた男である。

 それに助力する者とは!

「いやぁ、君達は運が良い。この私の手にかかるのであればあの世で自慢できることは間違いない……まっぷたつだぞう?」
 一人の派手な格好をした男が豪雨が如きに降り注ぐ銃弾の中を指を鳴らしながら情熱的に歩いている。
 珠の様に飛び散る汗、指パッチンの乾いた音。そして幸運な兵士が両断されて倒れる音。

 そう。B・F団の十傑衆が一人、素晴らしきヒッツカラルドである!

 彼は策士・孔明の密命を受け、単身ヘリオポリスに潜入し工廠に襲いかかったのである。
 いかな連合とオーブの精鋭と言えども、十傑衆の歩みを止めることは不可能。勇猛果敢に抵抗をしても屍山血河を作るのみ!
「ふむ。この程度で良いだろう。ザフトに義理だてすることもない。では諸君、さらばだ!」
 ヒッツカラルドは後ろを振り向き優雅な足取りで去っていく。鬼神が如きな彼の活躍を目の辺りした兵士達は動けずにいた。「艦長をはじめ、主だった士官はみな戦死されました。──よってラミアス大尉がその任にあると思いますが」
「──え?」
 ナタル・バジルールが重い口調で告げると、マリュー・ラミアスが戸惑いを隠す事なく声をあげる。
 空気が凍りつき、誰もが無言になる。
「俺が……」
 ムウ・ラ・フラガが嫌な空気を払拭しようとした時、大喝が響く。
「待てぃ!貴殿は連合に人無しとお思いか?」

 マリュー、ムウ、ナタルは声の主に振り返れば、浪人風のいでたちの、隻眼の精悍な顔付きの男がある種の威圧感を放ちながら立っている。その人物とは!?

疾風怒濤の次回を待て!


418通常の名無しさんの3倍:2007/02/11(日) 07:08:51 ID:???
ジャイアントロボktkr
キャラ濃すぎてワロタwwww

まぁ確かにクロススレ立てると何やかや言われる風潮が高まってるから
こっちでやるのが無難かもな。ガンガレ
419通常の名無しさんの3倍:2007/02/11(日) 07:26:38 ID:???
>>417
オリキャラっつーか横山キャラ今川風味か。隻眼って事はアイツなんだな?
420通常の名無しさんの3倍:2007/02/11(日) 08:18:30 ID:???
まあ、なんだ。オリキャラでも酔拳の朱豹とか、よし子ちゃんとかなら許す。……オリキャラなのか?
421通常の名無しさんの3倍:2007/02/11(日) 10:59:24 ID:???
>>417-418
ネタ元が分からないからつまらないよ。
こっちでやらないでくれ。
422通常の名無しさんの3倍:2007/02/11(日) 11:10:18 ID:???
つまるつまらないじゃあるまい。第一どこにも行き場所がなくて
ここにたどり着いたんだ、別にここに投下するのは正しいと思う
んだがね。
機動戦史ようやく戦闘か、どんな戦闘描写をするか楽しみ。
crossGRは……まださわりなんでなんともいえん。
核分裂で動く兵器のパワーを考えると、あれ結構マッチしてんのか?
423cross GR:2007/02/11(日) 11:31:12 ID:???


 その場にいたものどもが現れいでたるその人物を見るや否や、溢れる固唾を飲み干しつつ口を開く。
「貴方は……」
「請われて名乗るもおこがましいが、名乗りをあげれば東アジアが日本の生まれ!隻眼の竜と呼ばれし山本勘助なり!」
 そう!彼はエンデュミオンの戦にて片目を失いつつ八面六臂の働きをみせ、ムウと並び称された山本勘助大佐その人である!
「何故……貴方が?」
 ナタルが訝しげに口を開く。
 それもその筈、東アジアはMS開発には携わっていないはずなのだ。
「なに。国際警察機構の以来により十傑衆を追っていたら、居合わせたので乗り込んだまでよ」
 勘助はナタルを一瞥し、大音響で呼ばわる。
「さあさ、ものども、戦の支度だ!敵はクルーゼ!武功をあげい!」
「しかし、人員が……」
 マリューは悲鳴をあげる。
 それもその筈、敵は多勢で味方は無勢、迎え撃つ相手は猛将クルーゼである。マリューで無くても悲鳴をあげずにいられない。
「不勢ならばそれなりの戦い方があるというもの。俺が指揮を取れば問題有るまい」
 山本勘助は不敵に高笑い。
 東アジアにおいて六文銭の真田幸村、竜行剣の文竜と並び称された手腕が発揮されるのか?
「しかしパイロットが……」
 ナタルは口ごもる。パイロットは若輩の民間人、キラ・ヤマトであればそれも致し方なき事。
「ええい!出陣前に士気をくじくとは不届きな奴め!」
 勘助は刀を抜き放ちナタルの眼前に突きつける。
「パイロットとやらを此処に呼び出せ!俺が自ら話をしよう」

 暫くするとキラ・ヤマトが縄でくくられ引き立てられて現れる。
「一体何をするんですか!」
 キラは不服を詰め合わせて叫ぶ。
「ええい!丁重に扱わんか!」
 勘助は刀を抜き言い放つとキラを戒めている縄のみを白刃煌めかせて叩き斬る。
「お前がパイロットだな?ならば武功を立てて世に名を轟かすがお主の使命……わかるな?」
「でも、友達は僕の友達……アスラン・ザラなんです……」
「ザラだと?パトリック・ザラの縁者か!捕えれば褒美は思いのままぞ?」
「友達とは戦いたくありません」

 噛み合わない会話が続く事暫し。激昂した勘助がキラに切りかかり士官三人がなだめたりなどしているうちにスクランブルがかかる。
 クルーゼが攻めてきたのである!
 備えもなきまま攻められ絶体絶命のアークエンジェル!

疾風怒濤の次回を待て!
424通常の名無しさんの3倍:2007/02/11(日) 11:43:34 ID:???
>>423
なんかダメダメやん勘助www
425通常の名無しさんの3倍:2007/02/11(日) 11:50:27 ID:???
いや、勘助ならキツツキ戦法で活躍をしてくれるさ!死亡フラグかも知れんがwww
426通常の名無しさんの3倍:2007/02/11(日) 12:08:31 ID:???
さぁ早くアルベルトでジンを潰すんだ
427通常の名無しさんの3倍:2007/02/11(日) 14:33:39 ID:???
GR見てない人をまるで置いてきぼりなのはいただけない
知らなくてもそれなりに楽しめる程度の文の量は欲しい
428通常の名無しさんの3倍:2007/02/11(日) 15:34:36 ID:???
>>427
心配するな、勘助はGRには出てない。
横山先生の戦国武将物を読んでないGRファンも全速全開ぶっちぎりで置いてきぼりだ。


だが それがいい
429通常の名無しさんの3倍:2007/02/11(日) 16:20:54 ID:???
>>427
元ネタ全く知らんけどノリが面白いと思った俺が来ましたよ
430通常の名無しさんの3倍:2007/02/11(日) 16:31:38 ID:???
静止する日か燃え尽きる日か?
431通常の名無しさんの3倍:2007/02/11(日) 17:11:02 ID:???
些細な事にこだわっちゃいかん!ノリを楽しめば良いんだ!
432通常の名無しさんの3倍:2007/02/11(日) 17:48:20 ID:???
元ネタ知らなくてもキャラが濃いから「何か変な人が追加投入された」ぐらいのノリで読めるw
433cross GR:2007/02/11(日) 19:43:37 ID:???


「ええい!ザフトの雑兵ばらめが!ちょこざいな奴らめ!」
 勘助は歯噛みをしながら周囲に怒鳴り散らす。その怒りは鬼気迫り、努髪は天をうがたんばかりに立ち上がる。
 「……大佐……貴方の手腕を発揮して貰えれば嬉しいのですが……?」
 ナタルは遠慮がちに勘助に問掛ける。勘助の指示を仰がんとせんという考えの事である。
 そう!それは山本勘助という歴戦の武将の戦を間近で見るという事であり、経験の薄い三士官にとっては有益な事である。
 それを見たムウとマリューは胸の中で拍手を送る。
「ふむ……よし、一旦退くぞ!」
 勘助は轟く声にて指示を出す。三士官以外のクルーは勘助の命を受ければ速やかに動き始める。
 何故ならば、勘助程の武人と共に戦えるは武門の誉れであり、末代までの自慢の語り草となるからである!
「退ぞいてどうするのです!」
 ナタルは勘助に非難の声をあげる。
見事なりナタル・バシルール!若輩ながらも勘助の向こうを張るその豪胆さは正に一身是れ胆なり!
「フフフ……戦と言うものは数ではのうて此処でやるものよ!俺に秘策がある……」
 勘助は顎に手を当て不敵に微笑む。その時──!
「あいや待たれい!わしらもおるぞ!」

 大喝と共にブリッジに姿を現したるは二人の老人。鎧兜で身を包んだ姿は毅然としている。
「戦で挙げた首級は星の数!」
「戦に生きるは我等が誇り!」
「若輩では叶わぬ我等が境地!」
「白髪首はそうは落とさず!」
「落とすは敵の首級のみ!」
「老将!『黄忠』!『厳顔』此処にあり!」 なんと!現れた老人は天下に音の聞こえた老将・黄忠と厳顔の二人である!
 名乗りを挙げた二人は長槍を枯れ枝が如きに振り回し、弓をへし折り己が力を誇示して見せる!
「お主の狙いは以逸待労……じゃな?」
「相手の鋭い士気を避わし……お次は掎角かキツツキか?」
 二老将の言葉に勘助は息の飲む!

次回!クルーゼ率いる精鋭達がアークエンジェルに牙を向く!勘助の秘策、二老将の言葉の真意はいかに!
疾風怒濤の次回を待て!
434機動戦史ガンダムSEED 11話 1/7:2007/02/11(日) 23:05:50 ID:???

 オーブ連合首長国<ホワイト・ヒル>代表首長府兼総司令部――代表府執務室――

 オーブ軍首脳部による対『ラクス軍』迎撃作戦の会議が検討されていた。
出席者は、自分を含めて僅か3人である。

 ――ロンド・ミナ・サハク総合作戦本部長。
 
 彼女は、オーブ連合首長国の政治部門首長補佐官兼、軍総合作戦本部最高指揮官である。
更に現在のところ、首都防衛最高責任者の任をも兼ねている。
現在のところ、サイを抜かして自分が最も重きを置いている部下であり、大切な友人でもある。

 ――レドニル・キサカ参謀本部長。
 
 まだ、自分が未熟な時代に父が付けたお目付け役でもあり、護衛でもあった。
現在は、軍総合作戦部の参謀本部長を務めている。重要な自分の側近でもある。

 私は、大きく溜息を吐くと、自分のデスク前方にある大型モニターに目をやる。
そこには、現在のオーブ軍の被害とこれまでの『ラクス軍』の侵攻ルートが表記されている。
いつまでも、溜息をついていても仕方が無い……議題を進めなければならない。
凶報は何時でも憂鬱な気分と友であるのだから。

 「……キサカ参謀本部長。現在の作戦状況の説明を……」

 レドニル・キサカはその浅黒く逞しい風貌で、恭しく私に一礼すると、正面モニターの操作をする。
 
「――はっ。先ずは、現在の戦況を説明しますと、『ディアッカ・エルスマン』の部隊を先鋒とした『ラクス』遠征軍は、
  再開発宙域の拠点衛星基地三箇所を占領後、その占領下の基地周囲一帯の掌握を、ほぼ完了したものと思われます」

 ここで彼は、一旦、言葉を切り、私とミナの反応を確認する。
私は大きく頷き、先を勧めるように指示する。

 「――これに対して、アーガイル司令率いる新型機動戦艦<クサナギW>を旗艦とした我が軍の『第4機動艦隊』は、
   防衛ラインを形成に成功……敵先遣隊と現在交戦中であります」
435機動戦史ガンダムSEED 11話 2/7:2007/02/11(日) 23:07:27 ID:???

 「……これまでの被害は――?」

 私は、改めて参謀本部長に問いかけた。
……分っている事だが、改めて彼の口から精確な情報を聞いておきたいのだ。

 「――開戦当初に失われた<ヘリオポリスU>及び駐留艦隊である『第2機動艦隊』。その搭載航宙戦力が完全撃破され、
  総司令官であるソガ中将以下、乗員兵力9500は損失及び、行方不明扱いとなります」

 ――ズキリと胸が痛む。
……サイの言う通りだ・・・…自分の判断の甘さが、多くの死を招いたのだ。

 ……それと、宇宙では行方不明者は戦死扱いとなる。だが実際にまだ生きて、救援を待っている人々がいるかもしれない。
しかし、今の自分達には、行方不明者を捜索するだけの余力もない。

 「それと……占領された各拠点に備蓄されていた燃料、各種整備を多数鹵獲されましたが、
  その他の戦力、人員等は、後方に即時に撤退させた為に実質的な被害はありません……」

 ――それだけが、唯一の救いなのかもしれない。
各拠点の即座の放棄はキサカの判断によるものだ。
そして、今までのキサカの報告を黙って聞いていたミナが発言してきた。

 「……各拠点に置いていた分散していた戦力を即座に、後方に下がらせた件、これについての文句は無い――
  各自がバラバラに反撃しても、『ディアッカ・エルスマン』の部隊に各個撃破されただけであろうからな……」

 「――その通りだ。作戦本部長」

 「――だが、まんまと敵方に物資の現地補給を許した件――これは拙かったぞ?」

 「……」
436機動戦史ガンダムSEED 11話 3/7:2007/02/11(日) 23:10:41 ID:???

 私が、黙っている為にキサカが代わって受け答えてくれた。

 「――敵は、これ以上にないというタイミングをもって、こちらの『防御システム』の体勢の隙間を突いたのだ。
  ……そう……ゾッとする程の完璧な奇襲だ……」

 ここでキサカは大きく息をつく。
そして、ミナと私の方を向いて大袈裟な動作で、 

 「――あれだけの膨大な物資を後方に引き揚げる時間も輸送力も我が軍には無かったのだ」
 
 とミナの疑念に答える事となった。。
そうすると、更にミナは質問を続けて来た。彼女も自分と同じように、自身が納得できない事はトコトン追及するタイプなのだ。

 「――焦土戦術はどうしたのだ?どうせなら、敵の手に渡る位ならば、
   いっその事、焼き尽くしてしまえば良かったのではないのか?」

 「無論、検討したさ――」

 キサカは、その質問を予期してたかのように答える。

 「――だが、あそこは辺境宙域の再開発区域として『大洋州連合』との協力の元、
  此処10年余りの間に、莫大な資金と技術支援を投下していたのだ……」

 その返答にミナの目が、鋭い眼光を放つ。

 「……『大洋州連合』の大使どもと、『連合総議会』か……!」

 ミナは、俗物め!と忌々しげに言い放つ。
キサカも頷きながら、

 「そう……彼らの意向を無視し、そして、我々の一存だけで此処を破棄し破壊したとなれば、
  『オーブ』と『大洋州連合』との関係に無視できない問題を生じかねない、と――そう結論に達したのだ」

 とミナの意見に同意する。
437機動戦史ガンダムSEED 11話 4/7:2007/02/11(日) 23:12:36 ID:???

 「……ふむ。やはり、いずれ折をみて、各国大使館の内政干渉と『連合総議会』の権限を縮小する手を打たねばならぬな。
  ……これは、我々の弱点でもある……」

 ミナは、そう結論を出してくる。
代表府を預かる首席補佐官として見逃す事ができない重要な懸案だろう。
だが、彼女の早急な判断に対して、キサカは、

 「――しかし、それを実現するには、政治的根回しだけで、後、5年はかかるだろう。
   『連合総議会議長』や他の国内不穏『氏族』連中も黙っておるまいよ……」

 と、急激な国内改革は大きな反発を招く為に、政治的な根回しを優先させたいのだろう。
 
 「ちっ――『カトウ議長』か……たしかに厄介だな。あの男と議員連中と俗物の『氏族』連中がいなければ、
  とうの昔に、代表府を中心とした『中央集権体制』が『オーブ』に実現していただろうに――」

 ミナも自分の判断が早急である事を認め、キサカの判断を尊重する事を明確にした。
私は、彼等の意見を咀嚼し、吟味しながらも、

 「……今のオーブは決して一枚岩ではないわ。仮に、そこまで計算して『ラクス』達が軍を動かしているならば、
   向こうは、こちらの泣き所を知り尽くしてるに違いないわね――」

 と、意見を纏めてみたのだ。
キサカは、フッと口元を緩めながらも、
 
 「…・・・これを指揮した『ザフト軍』の作戦参謀や軍司令官は優秀です。今から弟子入りをしたいくらいですな?」

と、冗談を言う。
そして、私は半ば、本気で、

 「――私も同感よ」

 遂、愚痴とも賞賛ともつかない言葉を口に出す。
だが、恐らくは、自嘲の類いだろう。
438機動戦史ガンダムSEED 11話 5/7:2007/02/11(日) 23:14:34 ID:???

 「……」

 その『コント』に呆れたかのように絶句していたミナは、慌てて発言をしてきた。

 「――だが、たとえ中央から遠く離れた再開発宙域とはいえ、
  このまま領内を占領され続ければ結局のところ、『オーブ』は崩壊するぞ……よいのか、カガリよ?」
  
 「まさか――」

 私は否定する。ラクスの軍門降るつもりは毛頭ない。 
 
 「――キサカよ、弟子入りどころか、このまま『ラクス』の『奴隷』としてこき使われる事となるのだぞ?」

 「フッ、そうだな」

 キサカもミナの意見に同意する。

 「――『ラクス軍』は占領地の人員を自軍配下の部隊の軍勢に加えてるものね。
  ――冗談じゃなくてそうなるわよ――」
 
 と私も真剣な口調で同意する。
同時にキサカが、

 「……代表、占領拠点は、速やかにに奪還せねばなりません。
  なるべくなら、『インフラ』を傷つけずに――」

 キサカも冗談を抜いた発言をする。確かに取り戻すにしても、施設が破壊されて、
使い物に為らなくなったら本末転倒である。再建するにしても、莫大な資金と時間と人員を投入し直さねばならないのだから。

――私は頭を抑え、溜息を吐きながら、

 「……頭が痛い事ばかりだわね」
 
 「――カガリ。頭痛薬を用意しようか?」

 「冗談よ……ミナ」

 ミナの親切に冗談で答える気力も無くなりつつあった。

439機動戦史ガンダムSEED 11話 6/7:2007/02/11(日) 23:16:43 ID:???

 何を思ったかキサカは、頭を抱えている私に向かって、

 「代表……戦争は一連の戦闘に勝利したからといって、最終的な『勝利』に結びつく物ではありません」

 と、いきなり戦略の講座を始めた。
その時、私は、まだサイが代表府に居た頃に、彼から休憩の合間に習った『戦略論』を思い出していた。

 『いいですか代表?そもそも戦争とは……』 

――そうね。

 「――戦争とは……『軍事的な勝利』、『経済的圧迫』、『兵站の確保』、『敵情勢を利用』、『政治的状況の洞察』など幾十の……
  そう、文字通りの幾十もの要素によって勝つものよね――!」

 私は彼の言葉をなぞる様に、力強く受け答えた。
それを聞いて、ミナは満足そうに、
 
 「うむ――その通りだ。戦いはまだ始まったばかりだぞ」

 私はミナに対して頷き、改めて、キサカに向かって、
 
 「……で?……奪還作戦の方は?」

 「はっ、では――前述の理由から『核弾道弾』等を使用した無差別攻撃は、論外です」

 「ええ……」

 ――宙域の衛星基地全てを破壊するなど、頭のおかしな連中以外は、考えつかないであろう。
嘗ての『ブルーコスモス』、そして、今はその『ラクス軍』がその方法を使う可能性があるかもしれないが…・・・

 「――となれば艦隊同士の対決しか作戦は、ありませんな――これは『ラクス軍』との緒戦の戦いに
  大敗北を喫した、我が軍のマイナスポイントを一気にプラスに転じつつ、更には……」

と、また一旦、言葉を切ると、

 「――今後の『オーブ』と同盟各国の協調を強固にするために必要不可欠であり、
  新設した『第4機動艦隊』の初戦を飾るのに、ふさわしい作戦です」
440機動戦史ガンダムSEED 11話 7/7:2007/02/11(日) 23:18:07 ID:???

 私は、そうしたキサカの話した作戦内容を頭で整理しつつ、 

 「――勝てるの?」

 と質問する。キサカは何の憂いもなしに。

 「――それだけの戦力は投入しました」

 と答えてくれた。通常戦力の倍近い戦力をかき集めたのだ。

 「その後は……?」

 と私は聞くが、
 
 「――現在、参謀本部の総力をあげて作戦を計画中です……」

 と答えてきた。それはそうだろう。
その先は、まずはサイが『ラクス軍』の先遣隊を撃ち破ってからの話になるであろうから。
私はそれに納得すると、
 
 「……わかりました。『地球連合強国』支配下の宙域方面のことも気になることだし、よろしく頼むわね?」

 「はっ!」

 と、『ラクス軍』迎撃作戦の会議が検討をひとまず、終了する事とする。
――通常業務が滞っている為に、直ぐに溜まっている政務の始末をやらねばならないのだから。




>>続く
441k.w ◆Mc.k.w/a1A :2007/02/11(日) 23:21:32 ID:???
俺の名はアスラン・ザラ。ザフトの先の議長パトリック・ザラを父に持つ容姿端麗成績優秀、さらにMSを操る技術にかけては右に出るもの無しのザフトの元赤服である。
元と言ったのは、俺が軍務に飽き始めていた頃、幼なじみの友人に誘われザフトを抜け、ラクス一派の駒として戦うことを選んだからだ。
なぜ俺がザフトを抜け親父を裏切るような真似をしたのか、話すと長くなるがそれは決して世界の平和をうれいたり、ラクス達の考えに共感したからなどと言うことではなかった。
単純に話すと俺は死に急いでいたのだ。無論ザフトにいても無事に済む保障はない。だが議長の息子という事もあり危険な任務からははずされ、危険な状況に陥っても味方が俺を捨て身で守ってしまう。
死に急ぐ理由など特に無いように思われるかもしれないが、俺は人の醜い面を嫌というほど見、この手で人の命をうばうことに疲れたのだ。
ラクス一派に入る前、ある任務で死闘の末全身打撲に複雑骨折になり入院したが、あの時死んでいればどれだけ楽だったかと、自分が生きているとわかったときは境遇を恨んだものだ
そんな元赤服の俺だが、今またザフト行きの便に乗り軍に戻る手筈になっている。と言ってもラクス達のスパイとしてだが。先刻恋人のカガリに別れを告げたばかりだ。
前の婚約者のラクスと違い美しいわけではないが、やつとは違いバカがつくほど真っすぐな性格が妙に心地いい。俺はラクスのバカの振りをして影で画策する狡猾さがどうも気に入らなかった。所詮外面だけの女だ。中身は腐っていやがる
ラクスと共にいるのは正義のためでもなんでもない。ザフトにいるよりもずっと戦闘の頻度が多いだろうことを考えての事だ。
ラクスは自分は正しいと思っているのか、あちこちの戦場で戦闘をやめるよう呼び掛け、当然のごとく聞き入れられず圧倒的な武力で両軍を消し飛ばしてゆく。
取り巻きの烏合の衆のような連中もそれにつき従っている。
いつしか戦死への期待よりも戦に生き残ったときに感じる生への喜びを確かめるために戦場にでるようになっていった。―つづく
[某邦画の影響でなんか書きたくなって書きました。戦闘描写を書きたいのでつづくかも知れないです]
442k.w ◆Mc.k.w/a1A :2007/02/12(月) 00:12:52 ID:???
ザフトの本部では議長からの迎えが来ていた。その中にはどこか見慣れたはずの女の姿があった。長いピンクの髪、大きな瞳、女神を思わせる衣裳…人体とは思えぬ程に存在を主張している胸以外は彼女の姿と酷似していた。
一瞬驚いたがラクス・クラインではないとすぐわかった。よく見ると胸以外のすべての部分もそれぞれが不協和音を放っているかのように違和感を醸し出している
それは俺のこれまでの様々な経験や死線を彷徨う中で生まれた勘や観察眼により感じられたことだろう。そこらの烏合の衆のコーディネイター共に見破れることではない。
なんらかの方法で―恐らく今のプラントでできないことなど何もないのだ。この娘もデュランダルの道具として生み出されたのだろう。先の大戦の連合の「G」のパイロット達のように。
哀れなものだ。クルーゼもヤマトも誰かの都合で生み出されたのだ。ジョージ・グレンを始めとするコーディネイター全てもそうだ。
くだらないことを考えているとラクスの偽物が話し掛けてきた。まずは自然に話さなければなるまい。デュランダルとプラントのトップ以外はこのラクスが偽物だと思いもしないだろうからな
ここで本物のラクスのことを匂わせれば後々やっかいになる
443 ◆XGuB22wfJM :2007/02/12(月) 11:12:00 ID:???
何でも屋ドミニオンは公共事業からモビルスーツ戦闘まで、土木関係なら割と幅広く事業
を展開している零細企業である。
現在ドミニオンは盗賊二勝利し、敵艦の武装解除を行っている最中だった。

身体検査を受ける前のグループの中から、静かに右手に拳銃を握るツナギを着た若い賊。
糞真面目な同僚にも気づかれぬよう、一切の音をたてずに傭兵のリーダー格の女に狙いを
定め───
片目を隠した男の投げたスローイングナイフに右肩を貫かれた。

「ぐっ」
なおも怯むことなく引き金を引こうとするが、今度はナイフではなく、赤毛の女から送り
込まれた5.7mm弾が右腕をずたずたに引き裂いた。
声もなく銃を取り落とし、若い賊は崩れ落ちる寸前だ。
そこに駄目押しの銃撃が右腕をさらに貫き、二の腕から吹き飛ばす。
「ぎゃああああぁ」
絶叫を上げるツナギの賊。

フレイが両手に所持しているのはP90と呼ばれるサブマシンガンだ。前世紀の骨董品だ
が、コズミックイラにおいてはあまり個人火器の進歩が進んでいないため、これでも十分
現役の代物である。
毎分900発、一秒あたり5発の弾丸を吐き出すソレを二丁拳銃で扱い、相手の四肢を蜂
の巣にしていく。
右腕を吹き飛ばした次は左足だ。ものの数秒で彼の左足は太ももから血液を失わせる器官
に成り下がった。次に右足に狙いを絞りフルオート射撃を再度行う、脚部を挽肉に変えた。
両手のP90が弾を吐かなくなる。弾切れだ、計100発を撃ち尽くしてしまったらしい。

芋虫のように地べたに倒れ付す彼の元へ、つかつかと彼を赤毛の女は近づいた。
「駄目よ、負けたんだから、ちゃんと大人しくしないと、負けたんだから。ねえ?
痛そうね、凄く痛そうね? ごめんなさい、許してください、ナチュラルの綺麗なお姉様
って言ったら止血してあげるわよ」

フレイに撃たれた男は憤怒の表情で睨み返す。どうやら屈する気などさらさらない強情な
瞳をしている。
シンにはフレイが愉しそうな顔をしているのが背中越しでも分かる。
怖い、洒落にならない。殺る気だ、絶対殺すぞ彼女。

「どうする? どうするのコーディネイター? このままじゃ失血死よ。
今なら治療して、義足をつけて元の生活だって送れるかもしれないわよ、
謝るの? それとも死ぬの?」
444 ◆XGuB22wfJM :2007/02/12(月) 11:12:20 ID:???

返答は銃口。
残る左手で取り落とした拳銃を掴み、弾切れの彼女を殺そうとして───
タンという音と共に彼の額に小さな風穴が開いた。

弾切れの彼女が放った銃弾、ソレは彼女の袖口からせり出してきたデリンジャーによるも
のだった。最初から彼女は、敵がそうする事を予測して左手を残しておいたのだ。

余りにも凄惨な現場に、格納庫には沈黙が訪れる。
「 私がこの世でただ一つ我慢できないのは……約束を守らないコーディネイターよ!」

なお彼女は反抗し、銃を向けた捕虜に対して、デモンストレーションのように殺すことが
ままあったが、全て演技である……らしい。
ナタル曰く、大陸で一人を惨たらしく殺して百人を戒めるという意味の古いことわざがあ
るそうだ。それをすることによって結果的に死傷者を少なくさせる効果がある。
そのために銃を向けてきた最初の一人は、フレイが血祭りに上げているとのこと。

「そうですよね、彼女は射殺を愉しむような人じゃありませんよね?」
「もちろんだとも」
と言う会話がナタルとシンでなされたものだ。その直後カズイが
「本当にそうなのかな?」
とボソッと呟やき、シンを涙ぐませたことも付記しておく。

蜂の巣にされた敵兵を見ながら、ガタガタとシンは震えだした。
(俺、いつかフレイさんに撃たれるんじゃないかな?)
その様子に気づいたフレイさん。
「どうしたのシン、何かあった?
それともシンも約束を破るコーディネイターなの?」
「違います! 違います!守ります、守りました!ザフトも最後まで裏切りませんでした
し、残業時間も誤魔化してません!!」
命乞いをするように必死で答弁するシン、本当に命がけだ。

「そう、良かった。シンは良いコーディネイターだものね」
にっこりと微笑むフレイ・アルスター。頬に血糊がついてます。
嗚呼、最初に会った時の印象を返して欲しい。零れるような笑顔と、懐かしさを感じる美
声に、ちょっぴり心を奪われかけた男のサガを返して欲しい。
「本当に彼女、良いコーディネイターがいるって考えてるのかな……」
(カズイさん、お願いだから俺にだけ聞こえるように呟くのやめて)
445 ◆XGuB22wfJM :2007/02/12(月) 11:13:15 ID:???

「シン? 赤い瞳の……デュランダル派のエースだった」
ざわめきが捕虜たちから起こった。
「なんでコーディネイターを捕まえるんだよ」
そう呟いた阿呆に、シンは足下へ威嚇の掃射をくれてやった。
「俺はザフトで、プラントを守る軍人だった。命令があったから戦ったし、命令があった
から連合と一緒にロゴスを討った。最後の敵だったテロリスト───いや革命軍の首領は
コーディネイターだった。俺は別に人種になんか拘ってない。
今の俺は傭兵で、ただ盗賊を征伐しに来ただけだ」
今度こそ、盗賊たちは沈黙した。

もう反抗する輩がいなくなったため、身体検査は順調に推移し終了した。
「妙だな、艦長らしい人物がいない」
シンが疑問を口にする。
「うむ、どうやら艦内に潜んでいる連中がまだいそうだ。
艦内の掃除に移る、ついでに彼らが奪った金品のチェックも行う。
フレイ、シャニは引き続き捕虜の監視、カズイとシンは私について来い。
ブリッジを制圧した後、他の部屋を監視カメラで確認する」
「了解」

ブリッジまで警戒しながら進んだが、特に飛び出してくる者はおらず、拍子抜けしながら
レセップス級のブリッジまで辿り着いた。

そこには艦長席に座る人間が一人、
「この船の艦長ですね?」
「君がこの艦を制圧しに来た傭兵か、驚いたな君のような美女だとは」
「むっ」
ちょっと照れるナタル、三十路前後になっても、男からの褒め言葉には弱いらしい。
「貴方達の敗北です。投降して下さい」
銃を向けられながらも、泰然と敵艦長は瞑目し、
「敗者の辱めを受けるくらいなら、いっそ討ってくれんか、せめてこの椅子で死にたい」
「敗者には敗者の責務があります、その責務から逃げるべきではないと私は考えます」
「責務か。我々の、今のザフトになる前の軍人の罪とは、負けたことなのだろうか?
我々は忠実に戦った。敗北を喫したとしても悪ではなかった筈だ、冷遇されるのは仕方な
いことだというのか、謂われ無き差別を受け入れるのが責務なのか?」
「敗者の正義が明かされるのは、いつも後世です。
そして今の貴方達は無辜の民を襲った盗賊に過ぎません。ベルリンの行政機関ならばザフ
トにも温情がある、正当な裁きが下されるでしょう。
軍人の誇りが残っているのならば、胸を張って捕虜になるのが軍人らしさではないでしょ
うか?」
「君達は、元軍人かね?」
「元連合軍少佐、アークエンジェル級2番艦、艦長ナタル・バジルール」
「元ザフト、フェイス。デスティニーパイロット、シン・アスカ」
「えっと、元連合軍二等兵、アークエンジェル通信士、カズイ・バスカークです」
446 ◆XGuB22wfJM :2007/02/12(月) 11:14:40 ID:???

「ははは、成る程な、これでは敗れるのも仕方なし……か。
あの世に良い土産ができた。君達と戦えた事を誇りに思うよ」
艦長は憑き物がとれたような、さっぱりした微笑をナタル達に向けた。
「敗北を受け入れよう。さあ連行してくれ」
威風堂々。その言葉が足りぬほど格好良く、艦長は格納庫まで歩いていった。
銃は必要なかった。

ブリッジから各部屋を調べ、ナタルは全ての家捜しを終わらせた。
奪われた盗品も全て発見し、ドミニオンは完全に任務を果たし終えた。

丁度そこへ、ベルリンから派遣された部隊が到着し、捕虜とレセップス級を回収して行く。
「ナタルさん、あの盗賊たち、どうなりますかね?」
「さてな、罪状次第では執行猶予が付く可能性もある。ただ首領である艦長となると…」
その先は語られることは無かった。

何でも屋ドミニオンは、丸半日かけてベルリンと現場をグゥルで往復し、全てのモビル
スーツや残骸を回収した。
ジンオーカー以外の機体を売却予定に回し、予備の作業モビルスーツを一機獲得すること
になった。ベルリンから感謝状もおりた、盗賊の死者は計5名。こちらの被害はゼロ。
まさに大戦果、ミッションコンプリートと呼ぶ他ない。

全ての作業が終わり、明け方近くなった事務所でナタルは終礼を行った。
「今日は良くやってくれた。バクゥは捨て値になるだろうが、十分君たちに臨時ボーナス
を出せる対価になる、次の給料日を楽しみにしていろ。
今日の出勤は午後からとする。撤去作業は昨日ほったらかしたノルマ分も上乗せだ、良く
体を休めておけ、以上解散!」
臨時ボーナス喜びと明日の作業を思い、悲喜入り混じった歓声が従業員達から漏れた。

そんなこんなで、何でも屋ドミニオンの一日は今日も過ぎてゆくのであった。

シンは今の職場が気に入っていた。
社会情勢によってはすぐに消えてしまう会社かもしれない。けれどここは暖かい。
世の中酷い事ばかりじゃない、望むなら、笑えるようになった自分を両親やマユに見ても
らいたかった。この会社を彼女に見せてあげたかった。

感傷に浸りながら、今日もシンは誰も居ない部屋に帰宅するのだった。



一応、何でも屋ドミニオン、終了です。
447通常の名無しさんの3倍:2007/02/12(月) 16:07:34 ID:???
 作者殿GJ、短編で完結された割には良い具合に個性が出ていて良かったと思います。
 特にフレイが良い。こういう女性と何時撃たれたり刺されたりするかどきどきしながら
交際したいもんですね。
448通常の名無しさんの3倍:2007/02/12(月) 16:30:22 ID:???
職人諸兄GJ!
cross GRは何も顧みない作風にワラタ。全てを全開ブッチギリに置いていくその作風を貫いて欲しい。新たな道になるかも知れん
戦史は丁寧なストーリーテリングが良い。
ドミニオンは短編なのに読みごたえがあって完成度はかなり高いと思う。
449通常の名無しさんの3倍:2007/02/12(月) 16:44:17 ID:???
職人諸氏GJ

なんでも屋のフレイはスリリングな女だな
450通常の名無しさんの3倍:2007/02/12(月) 17:42:51 ID:???
職人氏GJ!
良い話だ。つか、続編を希望したい位です。
種運命改変スレとか三馬鹿生存スレ、シンフレスレ、フレイ生存スレ辺りでも
十分にやっていけると思う。つか、此処らへんのスレは職人や作品の投下が少ないから是非頼みたい次第だ。
451通常の名無しさんの3倍:2007/02/12(月) 17:52:16 ID:???
シンってステラとの約束守れなかったよな?
452通常の名無しさんの3倍:2007/02/12(月) 22:39:10 ID:???
何でも屋終了かぁ。惜しいな。かなり好きだったんだが。シンはやはり洗脳されていないのに限る。
アウトサイダーの方が似合う男だぜ。

ところで戦史の方じゃ、シン出てこないのかな。敗者のほうだから、ディアッカの部隊で前線送りという
可能性が一番高いと思うんだが。
453通常の名無しさんの3倍:2007/02/12(月) 23:07:51 ID:???
>>452
出来ればとっとと辞めて傭兵にでもなっていてもらいたいもんだ
454k.w ◆Mc.k.w/a1A :2007/02/12(月) 23:56:36 ID:???
流れ割るようで悪いのですが続けさせていただきますです

 プラントに入る前知ったのだが、ユニウスセブンの件で連合はプラントに無茶な要求をしたらしい。それを呑まないとわかると連合は一気にプラント本土にピースメーカー隊を送り込んだ
 だが驚くことに、ザフトの新兵器によって囮の軍隊、ピースメーカー隊と核はまとめて塵と化したのだ。カガリの言ったことを思い出す。なぜザフトはあのようなものを開発している?あのようなものは必要ないはずだ。
 まるで核攻撃を想定していたかのような完璧な対処。デュランダル、何を企んでいるのか…まさかユニウスセブン落下もこの男が仕組んだことではないのか…?
 大方ラクスもこの辺を不審に思ったのだろう。だがそのおかげで俺はまたこうして軍務に付ける。アーモリーワンでの奇襲やユニウスセブンの破砕作業中の戦闘でどれだけ心が踊ったか
 混沌の時代の訪れだ…平和な世界など反吐が出る。この世は糞袋どもが互いを憎んで殺しあう、それが昔からの習いなのだ
455k.w ◆Mc.k.w/a1A :2007/02/13(火) 00:28:31 ID:???
「やぁアスラン君。よく来てくれたね」
 デュランダルは快く迎えてくれた。やつは駒としての俺に相当期待しているらしい。
 それも当然だろう。パトリックの息子である俺は元エリート部隊に在籍しヤキンドゥーエの戦いを生き残った精鋭なのだからな
 やつは力に飢えている。いくらいい兵器を造っても扱うものがいなければ只のガラクタだ。高い金かけて開発した機体を預けるには俺ほどの適任者はいまい。
 事実、やつはジャスティスに勝とも劣らない高性能モビルスーツを俺に託してくれた。そればかりか面倒な手続きのすべてを済ましてくれていた。俺はかなり信用されているらしい。
 油断は大敵なので俺もデュランダルに耳障りの良いことを語り、他意の無いことを装った。俺がラクス派の一員として戦っていたことはすでに誰もが知っているだろうからな
 プラントではラクスの活躍は誰もが知っている。それ故プラントにはラクス信者が多い。だから議長はラクスの偽物を使って世論を味方に付けているのだ。
 俺はこの機体セイバーに乗って地球に降下しオーブに停船中の戦艦ミネルヴァと合流し、議長の指示を待つことになっている。
 この機体はやはりザクとは違う。武装も機動力も満足だ。戦闘が待ち遠しいものだ…
456k.w ◆Mc.k.w/a1A :2007/02/13(火) 01:12:31 ID:???
 一方その頃、アスランが配属される予定の戦艦ミネルヴァはオーブを離れる事を急いだ。それを促したのは砂漠の虎からの伝言という奇妙な一方的な通信だった。
 内容は、オーブは連合と同盟を結んだため、長居すると連合に待ち伏せされる、早く逃げろという旨のことだった。
 ミネルヴァ艦長タリア・グラディスは早急に決断した。通信をすべて信用するわけにもいかないが、オーブが連合の圧力に屈することは十分に予測できた。
 オーブの獅子ウズミが健在ならまだしも、あのような小娘に国をまとめ大国と渡り合うことなどできはしないだろう。
 だが、連合の動きは早く、出航してまもなく前方には十数隻ものザフトの艦が姿を現した。とてもではないが勝ち目のある数ではない。だが後ろではオーブの艦隊が道を塞いでいる。
 進路をオーブ側に向けるとオーブ艦隊は艦砲を撃ちかけてきた。否が応にも連合艦隊を凪ぎ払い道を作るしかあるまい
 タリアはミネルヴァのエースパイロットのシン、ルナマリア、レイを発進させ、艦砲の照準を敵艦隊にあわせ、ミサイル、CIUSの準備を万全にする。
「ったく、オーブも手の平返したようにひどいもんだな」
「ケッ、余裕があればオーブの船を落としてやりたいもんだぜ」
「無駄口をたたいてる暇はないぞルナマリア。敵の数を見てみろ」
 レイの目線には数多のウィンダムが連合艦隊から放射状にこちらに飛んできてるのが見える
「上等だ!こんな戦闘めったにないぜ。あたいは今から糞ナチュラル共の共同墓地を作りに行く。シンも来な!」
「オーブに二度も裏切られることになるとは、俺も久々に本気でムカついてるぜ」
ルナマリアのザクを追い掛けるようにシンのフォースインパルスが凄まじいスピードでウィンダムの中に消えていった。
「海に落ちるなよルナマリア!落ちても拾ってはやれんぞ!」
「抜かせ!おまえは盾構えてミサイル落としてりゃいいんだよ!」
 レイはルナマリアのザクにビームライフルを打ち込んだ。遠距離からの射撃が動くザクに当たるはずもなく、近くのウィンダムを撃墜した。
 ルナマリアとシンは敵の中心で次々とウィンダムの数を減らしている。連合兵の混乱が見て取れる。数の有利で油断していたら頭数がどんどん減っていき、味方の誤射も相まってウィンダムの数は三割弱がその数を奪われた。
 実戦経験に乏しい連合兵が数ばかりいてもザフト赤服の死線をかけた猛攻にはなすすべが無かったようだ。
 それを見てウィンダム隊の後方の戦艦からは巨大な機体…亀の甲羅のような装甲に蟹のような鋏を持ったモビルアーマーが姿を現した。
457通常の名無しさんの3倍:2007/02/13(火) 11:42:27 ID:???
ルナマリアがマッシヴになってないか?
458通常の名無しさんの3倍:2007/02/13(火) 13:48:27 ID:???
ちょwwwこのルナは斬新すぐるwwwwwww
459通常の名無しさんの3倍:2007/02/13(火) 15:45:24 ID:???
投下乙です
 ちょ、なんか、ルナマリアがシンとツートップですかw
 あまりに男前すぎて惚れそうデス

 ちと無粋な突っ込みですが、アスランが何故こんなに準備よく対核装備を作ったのか疑問に思ってのに違和感が、
本土を1回焼かれて、1回滅ぼされかけて、1回戦線基地を壊滅させられたら対核装備作っても不自然ではないカト
460k.w ◆Mc.k.w/a1A :2007/02/13(火) 15:46:56 ID:???
ブララグ路線で^^;


「なんなんだあの機体は」
「案ずるなアーサー、あのようなデカ物の機動力は相場が決まっている。タンホイザー起動せよ!目標!敵巨大モビルアーマー!」
 先程のタリアの艦内への激励によって、味方の士気は相当上がっている。油断した敵を混乱させればわずかに勝機も見えてくるだろう
 だが腐っても正規軍だ。混乱も長くは続くまい。ほんの数分の間で勝負を決めなければならない。
 「タンホイザー発射!ザフトの力を見せ付けてやれ!」
 轟音と共に激しい光を放ち、極太の光線が巨大MAへと照射された。
 だが、次の瞬間目に入ったのは「アルテミスの傘」を彷彿とさせる光のシールドに守られ何事もなかったかのように存在している巨大な化け物の姿だった。
 これには皆驚きを隠せなかった。なにを隠そうタリアも数秒意識が飛んでいたくらいだ。ここで士気を落とせば死は免れない。タリアの中で何かが覚醒した
「シン!蝿共はこちらがおびき寄せる!お前はその化け物をなんとかしろ!ルナマリアは戦艦を落とせ!」
「了解した」
「つってもよ、こいつらに取りつかれたらいくらミネルヴァでも『蜜蜂に覆われたスズメバチ』だぜ?」
「心配ない、レイが守ってくれる。お前も気を付けろ、ウィンダムが斬り込んでくるぞ。接近戦に備えろ」
 ルナマリアは口をひんまげて笑みを浮かべると、言った。
「望むところだぜ。ヒートホークでコックピットを裂いてやる。」
 サーベルを抜き切り掛かってくるウィンダムをケルベロスで貫ぬくとルナマリアは艦隊に向かった。
 シンもすれ違いざまにウィンダムを斬るとアンノウンモビルアーマーにビームを撃った。

 ミネルヴァには正面艦隊からの大量のミサイルと両側面からは数十機のウィンダムが耐えず飛びかっている。
CIUSや対空ミサイルでも一向にウィンダムの数は減らず苦戦が続き、さらに落とし損じたミサイルの被弾が徐々に船体ダメージの限界に近づいていた。
 レイが必死にウィンダムを狙うが、自分が落とされないだけで精一杯だ。勝負は艦隊をどれだけ早く落とせるかにかかっていた。
 タリアは遠くの戦艦が一つ煙を上げて爆沈しているのを見た。ルナマリアはよくやってくれたようだ。あちらを飛んでいるウィンダムの数ももはや数機だ。
 このままうまくやってくれれば本艦を攻めているウィンダムもあちらの援護に回らざるを得ないだろう。
 シンは一刻も早くミネルヴァの援護に向かいたいのだが、例のモビルアーマーがそうはさせてくれず、機体のバッテリーを浪費するだけしかできなかった
 ビームは弾かれ、バルカンも大したダメージにはならず、ならば機動力を生かしてサーベルを突き立てるしかないのだが、弱点もわからず、その見た目の割に素早い動きに取りつくことを許されない
 その上数多の砲に狙われ、正面からは巨大なクローが待ち構えている。
 ギャンブルになるが、シンはサーベルを抜き横から突進した。何もしなければどの道ミネルバは落ちる。
 だが巨大MAは恐るべき速度で正面を向きクローでインパルスを掴んだ。クローは熱を帯びているらしく、ヴァリアブルフェイズシフト(VPS)装甲の電力消費に負荷をかけ、ついにフェイドシフトダウンを招きインパルスの足部分を粉砕した。
もしコックピットやメインスラスターをやられていたら一溜まりもなかっただろう。
「メイリン、デュートリオンビームとレッグフレイヤーを!」
 デュートリオンビームにより電力が回復しVPS装甲が元に戻った。絶好の機会を逃した巨大MAは背を向け棒立ちになっているインパルスに全ての砲を放つ。
 インパルスは背中を盾で守りレッグフレイヤーを切り離し上昇、巨大MAのメインカメラはこじんまりと爆散した煙の中から腰から上だけで突進してくるインパルスの姿を写した。
 ここでの混乱とインパルスの特性を知り得なかったことがモビルアーマー側の敗因であろう。クローで掴むにも掴みやすい足部分は既になく、胴体を掴みに行くとクローは空を切った。
 パイロットは豆鉄砲を食らった鳩のようであっただろう。なにせ胴とビームサーベルを構えた上半身が自ずから別れ、そのまま慣性の法則に従い正面を貫いたのだからな
 巨大MAはフォースシルエットごと海上で爆煙を上げ、これがミネルヴァの反撃の狼煙となった。
461k.w ◆Mc.k.w/a1A :2007/02/13(火) 15:55:35 ID:???
ミネルヴァを囲んでいたウィンダムはとうとう艦隊の援護に向かった。シンはソードシルエットも射出してもらい換装し、向かってくるウィンダムを二機切り落とした。
 換装を援護したのはレイとミネルヴァだった。援護しおわると戦艦をに集中放火を浴びせた。
 艦隊ではすでに初期の七割にその数を減らしていた。
「よう今日のMVP。退屈してたぜ」
 ソードインパルスに乗って艦上に表れたシンにルナマリアが言った。
「なら朗報だ、あれを見ろ。」
「五十機近くいたウィンダムの最後の十数機か。退屈凌ぎにはちょうどいい!まとめてかかってやるぜ!」
 疲れているのかいい間違いをしているが気にせずにシンは対艦刀を構えた。シンとルナマリアを中心に十数機のウィンダムが周りを囲む。
 集中放火を受ければ一溜まりもないが、敵は味方や艦に当たるのを恐れて慎重にしか飛び道具を撃てないのだ。だがこちらは関係なく撃ち放題だ。
 向こうは飛び道具を封じるためビームサーベルを抜きシールドを構え突撃してきた。だが盾をも切り裂く対艦刀と大出力ビーム相手に艦上での白兵戦では勝負は見えている。
 シンは切り掛かってくるウィンダムを両手に持った剣を乱暴に振り回し一網打尽にした。リーチの差と機動力の差だ。もちろんパイロット差が一番大きい。
 ルナマリアはケルベロスを斬られたのは想定外だったようだが、ヒートホークを縦横無尽に振り回し周りの敵を切り刻み、逃げ出した敵に投げ付けコックピットに直撃させた。
「おいシン、片方よこせ!いくらあたいでも丸腰じゃやられる」
 背中合わせになるとルナマリアのザクはエクスカリバーを握り正眼に構えた。 敵はあと四機。ルナマリア側に二機、シン側に二機だ。両者の動きが止まり静寂が訪れる。
 シン側の一機が後ろを向き飛んだ。それを腰に付けたビームライフルで打ち落とすと残りの三機も一斉に動きだす。
 シンとルナマリアはそれぞれのコックピットを的確にビーム刄で払い爆発を見届けるとようやく一呼吸置いた。
 静寂を乱したのは艦の機銃だった。不快な音を立てながらこちらに撃ちかける機銃にシンとルナマリアは虚ろな目を向けるとビーム刄を同時にブリッジに振り落とした。
 崩れ落ちるブリッジから見えた鉄屑以外の何かを見て、シンは家族の最後をフラッシュバックした。
 自分は今、あの時の悲しみを他の沢山の人間に味あわせているのではないのかと罪悪感を感じたが、シンは破壊衝動を押さえることはできなかった。
 最初は人を殺すことを躊躇していたが、戦闘になると家族を失ったことの堪え難い苦痛と怒りが今でも込み上げ、容赦なく敵を殺してしまうのだ。
 だが俺は軍人でモビルスーツのパイロットで、何も問題はないはずだ。そう、何も問題はないはずなのだ。
462k.w ◆Mc.k.w/a1A :2007/02/13(火) 16:05:51 ID:???
>>459
感想どもです
そうですね、たしかにザフトは核で痛い思いをしているので対策の研究はしているのは自然ですね^^;
アスランのまぬけさというか深読みのしすぎですね
僕がまぬけなのは僕なんだけどね^^;
かなり破綻シナリオで文章もひどいですが、がんばって徐々にうまくなりたいです
463通常の名無しさんの3倍:2007/02/13(火) 16:11:17 ID:???
ブララグ路線……タリアがフライフェイスになるのか?w
464通常の名無しさんの3倍:2007/02/13(火) 18:15:55 ID:???
職人さん乙。
あと CIWS な。 Close In Weapon System
46545  ◆WZm3jzCkZQ :2007/02/13(火) 18:38:28 ID:???
1/

「――アーサー、もういいわ。コンディションイエロウに移行」
 ボギーワンの去った宙域、戦闘後のブリッジで艦長であるタリアは静かに戦闘の終決を告げた。

「バート、トレイスは出来ている? ボギーワンとの距離は?」
「距離は約4000、離れつつありますが、まだ追えます」
 この宙域での捕捉は不可能――索敵手であるバートの返答にタリアが吐いた小さなため息は、
静寂を取り戻した橋の電子音に混じってクルーの心情すべてを代弁した。
 沈思黙考――すぐに決断を下したタリアは背後のデュランダルに振り返る。

「――議長、私はこのままボギーワンを追撃するべきだと考えています」
 自国の首長を戦艦に乗せたまま戦闘状態を継続しても良い物か、言葉と視線とで訊いた。
試すようなタリアの視線を穏やかに受け止めると、デュランダルは笑みを浮かべながら返す。
「勿論私も賛成だとも、グラディス艦長。セカンドシリーズと言う火種、放置すればどれ程の大火となって
プラントを焼くことになるか、それを考えるのが怖い……」
 自分の事は気にするなと言うデュランダルに、タリアはザフト式の敬礼を送り敬意を表する。

「……ところで、ブリッジは元に戻さないのかね?」
 照明が落とされたままの艦橋を見渡して、デュランダルは聞いた。
「ええ、議長。敵が何をこの宙域に何を残しているか分かったものではありませんから、
遮蔽したままにしておきます。出入りは多少不自由になりますが――」
 宇宙空間で点にしか見えない敵艦を窓から目視出来ても仕方がないし、僅か数百グラムの物体でも
秒速数キロで艦橋に侵入すれば内部を修復不可能なまでに破壊しつくすことが出来る。
 
『全艦に通達、本艦はこれより更なるボギーワンの追撃に入る――』

 ミネルバ全体に、アーサーの通達が響いた。ミネルバが巡航加速を始めたGがクルー全員に伝わる。 

「以降は何かあるまでイエロウを維持します。MSの整備を急がせて、クルーは交代で休憩をとって。
――議長もしばらく艦長室でお休みください、直に追いつけるというわけではないでしょうから」
 タリアは非常用の出口を指し示した。アーサーが先導してデュランダルを案内する。
艦橋から生活エリアへと続く通路は直通のエレベーターが正副予備の三つあるが、
今は一つ――デュランダルが入ってきたものがシャッターによって塞がれている。
46645  ◆WZm3jzCkZQ :2007/02/13(火) 18:40:05 ID:???
2/2

「このミネルバの足を以てしても追いつけないと言うのかね?」
「敵もかなりの高速艦だというのが一つですが、それよりもMSカタパルトの構造が問題ですね、
かなり早目にボギーワンは加速をはじめていましたから――」
 抵抗の無い宇宙空間では加速力と加速を継続した時間の掛け算で速度が決定される。
加速力では新型艦のミネルバに軍配が上がるが、ボギーワンは後部に着艦用のゲートを持っていた。
「つまりボギーワンは加速しながら、本艦は減速しながら搭載機を回収したというわけです。
同じだけ加速してもこの差が効いていますから、接触は数時間後となります」
 メイリンとアーサーが気を利かせてデータをディスプレイに表示した。
 ディスプレイの中に針金状のボギーワンと付近の宙域図、互いの艦の簡単な性能諸元が
映し出される。航法コンピューターが割り出した接触までの時間が下部に表示されており、
残り一万秒程度のデジタル表示が目まぐるしく動きつつ、刻一刻とゼロに近づいている。

「敵はこういった作戦を進めるための特殊な艦だった、ということか。……ミネルバにはそういった
後部カタパルトデッキを取り付けることはできなかったのかね?」
「後方にスラスターを集中して機動力を高めたことと、インパルスの発進システムが予想より
スペースを取ったためにオミットされました」
 ミネルバの中核ともいえる発進システムおよびセカンドシリーズへの送電システムであるが、
詩作艦としての意味合いが強いために艦の性能を犠牲にしている部分が少なからず存在する。

「いや、参考になったよグラディス艦長。君はいい教師になることが出来るだろうね」
 複雑な表情でタリアが何かを返そうとしたとき、艦橋のモニターが点った。ランプは赤服以上の
士官が緊急の連絡を求めていることを示している。メイリンに向かってタリアが肯き、ディスプレイに
ルナマリア=ホークの顔が映し出される。
467cross GR:2007/02/13(火) 22:48:51 ID:???


「いや、此処は黄忠殿を見習いて驕兵の策を採ろうと思いまする」
 勘助はパッと平伏し、二将軍に告げる。それに倣い三士官も平伏する。キラも恐る恐る平伏し様子を伺う。
「ほう……驕兵の策か!ザフトの木端共は自信過剰故に、簡単にかかるであろうな!」

 驕兵の策!それはわざと負け続ける事に寄り敵の侮りを作り、敵が油断した所わ破竹の勢いで攻めたてる黄忠がお家芸の驚異の戦法!
「それだけでは足りんぞ!手薄な敵艦を狙いて打撃を与える!これぞ我等が戦なり!」
 厳顔は髭を扱きながら大喝する。
「おお!流石は断頭将軍と言われた厳顔殿!勘助は未熟であり申した!」
「然らば、ゆるゆると退きつつ敵を引き付けるぞ!フラガよ!お主はメビウスにて戦場を迂回し敵艦を討てい!不可能を可能とするお主の妙技、特と天下に示せ!」
 黄忠はムウに指示を出す。
「ハッ!委細承知!任せて貰いましょう!……やべぇ、ノリが移っちまったか?」
 ぼやきつつムウは出陣の支度をすべくブリッジを後にする。
「ストライクはどうするんですか?」
 マリューは疑問を投げつける。パイロットは一応キラ・ヤマトであるが、兵法を知らぬ彼に任せるのは少しばかり荷が重いと思ったからだ。
「若いものに任せるならば、この黄忠が自ら乗り込むわい!」
「いや、ここは俺が乗り込みまする!ザフトには隻眼の借りが有りますゆえ、是非に!」
「待たれい!この厳顔がザフト連中に連合には忠義の者がおると教えてやりましょうぞ!」
 三人が火花を散らさんばかりの視殺戦を繰り広げる!すると──!
「僕が乗ります!僕がパイロットです!」
 キラが声高らかに名乗りを挙げる!
「だまらっしゃい!」
「若輩者はすっこんでおれ!」
「戦は小僧の遊びでは無いわ!」
 三人は各々にキラを睨み大喝する。しかし!
「僕で無ければストライクを動かせません!僕がやります!」
 キラは毅然と言い放ち、三人の視線を跳ね返す!
「良くぞ言うたキラ・ヤマト!見事なり!」
「若輩ながらも意気や良し!」
「お主のその姿……若かりし頃のわしらを思い出すわい!」
「「「さあ行けい!雛鳥が羽ばたき鳳凰になる姿、しかと見せて貰おうぞ!」」」
 三人はキラを口々に称える。
 キラはその豹変振りに戸惑いながらもブリッジを後にする。


468cross GR:2007/02/13(火) 22:52:03 ID:???


「ものども、急がずにゆるゆると退くぞ!焦りは禁物ぞ!」
「急げは敵は乗じてくるぞ!」
「余裕を持って退くんじゃ!」
 勘・黄・厳の三人の声がブリッジに響く。「後方より接近する熱源4!MSです」
 オペレーターが慌ただしく敵の襲来を知らせる。
「いや、更に前方より熱源1!……MSじゃない?巨大兵器です!」
 新たなる敵の襲来にブリッジは混乱し始める。
「巨大兵器だと?……B・F団か!?」
 勘助は焦りの混じった声を挙げる。
「ウェーハハハ!この南蛮王・孟獲が孔明様に賜りし巨大兵器モクギュウで宇宙の塵にしてくれるわ!」
 野蛮な高笑いが宇宙に響く。そう!あれは孔明が発明せしモクギュウ!
 矢玉や刀を通さず水に強いTK(トウコウ)装甲に身を包み、超兵器レンドを装備したB・F団の秘密兵器!
 更にパイロットは素手で猛獣を引き裂く剛の者、南蛮王・孟獲!
 前に孟獲、後ろにザフトが誇る猛将クルーゼが率いる精鋭部隊赤備え!
 絶体絶命の危機に陥ったAA、どうなってしまうのか?

疾風怒涛の次回を待て!
469機動戦史ガンダムSEED 12話 1/9:2007/02/14(水) 00:14:37 ID:???

 ――第4機動艦隊旗艦『クサナギW』艦橋――

 艦橋は、敵戦力を捕捉した為に慌しくなっていますが、
唯一、司令の周りだけが不気味な静けさが漂っています……

 その司令の方はと言うと、敵を捕捉すると逆に落ち着いて、
私とはしゃいでいたノリが一切無くなっていました……

 我が第4機動艦隊は、その戦力差を生かしながら、凹陣に陣形を取り、
拠点衛星基地『ヘーリオス』から出撃した敵先遣隊を囲むような体勢で、第一級戦速で進軍を続けます。

 「――敵軍、有効射程範囲内まで後、30秒!!」

 先程、司令に気分をほぐして頂きましたが、やっぱ緊張します……
ううっ……段々と近づいてきますぅー。

 「――当たり前だろうが。遠ざかってどうするよ?」

 と司令は薄笑いしながら、私の突込みを見事にいなしてくれますわ。
……もっと優しい言葉をかけてくれてもいいんじゃないの?

 「いいから――モニターから目を離すな」

 ――はいです。
そう言いながらも私は、着実に副官の任を果たしているのでした。
 
 「――射程、イエローゾーンに入りました!」
470機動戦史ガンダムSEED 12話 2/9:2007/02/14(水) 00:19:25 ID:???
 
 敵部隊が有効射程範囲内に入り、私は司令に注意を促します……でも

 「……」

 無言だよ!おい!

 「司令……!」

と、もう一度叫ぼうとしたその時、司令の眼光が、一瞬鋭くなりました!
すして戦況判断用シュミレーション・モニターから目を離さずに、凝視しながら、

 「――まだ撃つな……各分艦隊指揮官には、
   俺の合図と共に主砲一斉発射をするように厳命しろ」

 と、とんでもない事を仰りやがります!

 「ええっ!だってもう射程範囲内ですよ!」

 「いいから」

 「う……りょ、了解!」

 司令のあまりの迫力に何も言えずに私は、そのまま指示通りに、
各艦隊指揮官に三重のプロテクトを掛けた、暗号電文を送ります。
 
 暗号が各分艦隊旗艦に伝達された事を確認し、司令に報告しようとした矢先に――

 青い閃光が<クサナギW>を包みます!バリヤーシステムが発動したのでした……
敵側が砲撃を仕掛けてきたのです!みぎゃー!

 そして、更に敵側のビームが通過し、艦橋内が一瞬、明るくなる!

――ひょえぇぇ!!私は指揮コンソールの側で片膝を付いている、司令の横顔を見ます。
その光景にも、ビクともしない司令の様子に安堵の息が漏れました……
471機動戦史ガンダムSEED 12話 3/9:2007/02/14(水) 00:22:48 ID:???

 喉がカラカラに渇きますが、安堵の息が出た事とによって、私にも何とか周りを見る余裕が生まれてきました、
ビームの閃光が、バリヤーに触れて、艦橋の外で点滅しますがなけなしの勇気を振り絞ります!!はい!

 そして、私は、自分の席のコンソールを叩き、戦況判断をしようとし、
戦況判断用イメージ・シュミレーション・システムへのデータリンクへと切り替えます。
 
 これは、対艦隊用の戦況を簡易化の表示にすることが出来、全体の戦況の推移が分かると言う
システムの一つです。ハードウェアの進化の賜物ですね……

 見ると、戦況判断用シュミレーション・モニター表示には単純にCG化された敵部隊の無秩序な塊と、
凹の艦列に整然と並んだこちらの艦隊の様子がわかります……一方的に向うが撃って来ますが……

 むむむッ……!どうやら、敵側は、統制が取れた行動ではありませんね……?
と、いっぱしの艦隊指揮官みたいな感想をします……
 
 どうやら、最初の敵側の一撃を防御に徹した為に、私達の艦隊には然程の被害が出てないみたいですが……

 私は、防御力の高いバリヤー・システムを積んだ戦闘艦艇を前方に配備し、被害を少なくし、
その隙間から、長距離砲装備の巡洋艦を並べて一斉射撃をする事で出鼻を挫くと、そう思っていたのですが……

 ……ですが、そんなもん、無視してガンガンと攻め進んでますよ!この人は……

 そうこう言っている内に、敵の一部の戦力が突出し始めました……
司令は、そのタイミングを見計らったかのように、

 「よし――全艦撃て!!」

 「――了解!主砲斉射ぁぁ!!」
472機動戦史ガンダムSEED 12話 4/9:2007/02/14(水) 00:25:20 ID:???

 と司令の声と同時に、私のやけっぱちの声が艦橋に響きます!

 司令の攻撃指揮が艦隊全体へと響き渡った次の瞬間に、艦橋メインモニターにコンピューターのCG表示された、
凹型の艦隊並列から一斉に攻撃が、開始されます……

 ついでに言うと、『クサナギW』の船体前部の艦橋に装備されている大型ビーム砲が唸り声を上げています!連続照射10秒!
そして、周りの艦船からも、一斉にビームの砲撃が飛び交っていきます!うわっ、すげっ!

 司令が指示したピンポイントを狙った正確な一斉砲撃は、
敵先頭の集団を一気に崩し削り取って、崩壊させてしまいましたです。はい。

――すっごぉぉー!

 シモンズ主任もその様子を見ながら……

 「――お見事……!」

 と賞賛します……後で聞いたところによると、絶妙なタイミングとポイントを狙った砲撃だったそうです。
司令はその状況を見ながら、敵の先頭集団に穴が空いたことを確認すると、

 「よし――第3分艦隊を四時方向に向けろ!それと、第2分艦隊は『モビルアーマー』戦隊を発進準備を――
  制空権の確保をしなければな――」

 司令は、刻一刻と変わる戦況の状況を読みつつ、指揮シートに片膝を付いて指揮を取っています。

 「――こちらは、敵の三倍の兵力差がある――有効に使わんとな……」

 モニターから目を離さずに、こちらに向って司令をそう言います……
473機動戦史ガンダムSEED 12話 5/9:2007/02/14(水) 00:28:28 ID:???

==========================

 ――戦闘開始、同時刻。

 ――ザフト遠征軍 ディアッカ・エルスマン部隊臨時軍事基地・『ミカサ』衛星基地――

 「――なんだとっ!本当かそれは!?」

 基地司令室にいる俺の副官のバートが、困惑した顔で俺に報告する。
激怒している今の俺には、そこまで頭が回らないのだ。

 『――はっ!残念ながら本当の事です。たった今、拠点衛星基地『へーリオス』から
   緊急通信が入りました!オーブ軍と激烈な戦闘に突入したとの事。至急、来援を請う!と……』
 
 「……馬鹿な!!」

 『――いかがいたしましょうか?』

 「――クッ!混成部隊がここに至って仇となったか……」

 俺は大きく卓を叩く。オーブ側の新戦力に対して、こちらがどう動くか検討中の会議に入っていたときの事だ。
そこへ、副官のバートからの緊急事態が起きたと連絡が入ったのだ。

 拠点衛星基地『へーリオス』に配備していた俺の部隊戦力の一部が激発して、
オーブ軍との苛烈な戦闘への戦端を開いたというのだ。クソっ!

 恐らくは、『クライン派』に取り入りたい旧ザラ一派ないし、旧デュランダル派閥に属していた将兵が、
前回の大勝に味を占めて、ここで更にそれなりの武勲を手土産に『ラクス側』へと転向しておきたかったのであろう。 

 だが、俺としては無謀としか言いようが無い。確かに前回は大勝したが、それはあくまで敵の寝入った隙を突いた奇襲に過ぎないのだ。
しかも、前回は、相手に睡眠薬を飲ませた上に両手両足を縛ったままで、金属バットで殴りかかったようなものなのだった。
今回も上手くいくなど、痴人の妄想に過ぎん……!!
474機動戦史ガンダムSEED 12話 6/9:2007/02/14(水) 00:31:27 ID:???
 
 各拠点に散った戦力を即時、後退させて緊急に再集結させようとした矢先の事である。
俺の怒りと失望は当然のことであろう。統一性を欠けた、予備戦力である混成部隊の欠点が露出したようだ。
――それとも、サイ・アーガイルが誘ったのだろうか?

 「……喰えん男だからな――」

 苦々しく呟く。どちらにしても、今から救援に向かうにしろ、絶対数の兵力が足りない……
敵はこちらの3倍以上の総兵力を此処へとぶつけようとしているのだ……

 ……やはり前述通りに逃げ支度をしっかりしつつ、拠点『へーリオス』配備の兵力を即時撤退させるしかないか……

 「――勝ってはいけない勝負に勝ったようなものだな……」

 何の事はない。そういう事だ……

========================

 ―第4機動艦隊旗艦『クサナギW』艦橋――

 敵先遣隊の一部に楔を打ち込んだ私達は、そのまま一気に追撃に出ようとしましたが、
敵戦力は即座に後退を始め、そのまま拠点衛星基地『ヘリオース』に戻ると思いきや、
一気に転進し、鮮やかな撤退をしてしまいました。

 追撃をするようにと、他の分艦隊指揮官が要請しますが、司令は先に拠点の奪還を命じました。
そして、司令の指揮の下で揚陸部隊が『へーリオス』へと派遣したのでした。
 
 今、私のコンソールにその揚陸部隊の通信が入りました。

 「司令!揚陸部隊より連絡です!拠点衛星基地『へーリオス』の奪回に成功したの事です!」

 「よし。順調、順調――」

 司令は鷹揚に私の報告に頷いてくる。
475機動戦史ガンダムSEED 12話 7/9:2007/02/14(水) 00:34:28 ID:???
 
 ここで私は、司令に聞いてみることにしました。

 「さっすが、司令!!……でも何故、敵はここの拠点を直ぐに放棄したんでしょうか……?」

 と、かなりの太鼓持ちになりながらも、質問をしてみましたのです。はい。

 司令は、と言うと、やや憂鬱そうな態度ですが、私にきちんと説明をしてくれました。

 「――うん。一つ目は先ず、こちらが敵戦力を凌駕する戦力を集め進軍したことだな。
  ――戦略レベルで先ず第一の勝因を整えた事にある。用兵上の基本戦略である相手より多数の兵数で戦う事。これを我々はクリアしていた」

 ――ふむふむ。
これで、敵側の心理圧迫を見事に成し遂げた、と。

 「――次に、敵に退路を絶たれるという恐れを与えた事だ――。私が、予め足の速い高速艦艇で構成した第10分艦隊の兵力を、
   戦闘前に敵拠点だった『へーリオス』の後背へと回したことは、知っているだろう?」

 「――はい」

 「これによって、敵は退路を絶たれる前にと、即座に撤退を開始し始めたのさ……それと」

 「それと?」

 「……奴さん恐らく、俺の鋭鋒をかわす為に、予め拠点放棄と撤退命令が出していたんだろうな。
  ――肝心の指揮官のエルスマンは、『ミカサ』衛星基地を本拠地にしていた筈だ。
  今回の戦闘に顔を出していないしな。あいつが直接現場に居たら、もう少しやっかいな事になっていたかもしれん」

 「ほぅー」

 「感心するほどのものでもないさ……それにな、」

 と司令は言葉をここで区切ると、

476機動戦史ガンダムSEED 12話 8/9:2007/02/14(水) 00:36:22 ID:???
 
 「私よりも――本国が、地球連合強国の支配宙域対応への防衛に、航宙戦力の大半を割かれている中で、
  これだけの戦力を集めてみた、代表府のスタッフ達の力量の方を褒めるんだね……」

 と、それは今回の戦闘と直接関係の無いことなのでは?と私が思う事を述べてくれやがりました。

 「?――それは、どういうことでしょうか?」

 「――私は、まだロンド・ミナ達が都合した神輿に乗っているだけさ。今のところはね……」

 「――今のところは?」

 ???良く分りませんが、司令は不可思議な事を私におっしゃりますです。はい。
更に突っ込むと。

 「――状況は、常に移ろい易いものなんだよ……」

 「よく意味がわかりませんけど……」

 「――君は若いからな……」

 と、苦笑されました。何です?それは?私が子供と司令は言いたいのでしょうか?
そこで、私のコンソールにレーザー通信が入ったと報告が来ます。

 「――あ!司令!『へーリオス』を奪回した事によって、第3機動艦隊旗艦『クサナギV』との通信が回復したようです」

 「おっ!ようやく繋がったのか?」

 「はい!」

 
477機動戦史ガンダムSEED 12話 9/9:2007/02/14(水) 00:37:16 ID:???
 
 こいつは朗報だと言う事で、司令は明るい声で応じてくれました。第3艦隊が健在だと言う事が確認できたのです。
シモンズ主任も、第3艦隊との通信が回復した事でやや、安堵していました。

 「――余程、手酷くやられたらしいわね。確か第3艦隊の司令はソキウスだったと思うんだけど……」

 私は、シモンズ主任の感想を背後で聞きつつ、コンソールを弄りながら、通信プロテクトを解除してゆきます。
よし!と

 「司令――通信が繋がります!」

 「よし、こちらに回せ――」

 「はい、了解しました!」



>>続く


478k.w ◆Mc.k.w/a1A :2007/02/14(水) 01:50:42 ID:???
 多少トラブルもあったが俺はミネルヴァと合流しタリア艦長と先のことについて話し合った。
 クルーや他のパイロットとはアーモリーワンの件から知り合っていたのですぐに馴染むことができた。だがオーブに恨みがあるというシン・アスカとうまくやっていくのは難しいだろう。
 それから何日かするとミネルヴァは再び連合の攻撃を受けた。敵の中にはアーモリーワンで奪取されたカオスとアビスも含まれていた。
 こちらには数隻ザフト艦がいるがどの程度当てになるやら。
 カオスとアビスにさえ注意していれば負けることはないだろう。本気をだせば俺一人でもあの二機は落とせるのだが、まずは連合、ザフト両陣営の機体のデータと戦闘のデータを取らなければならない
 もちろんカオスとアビスの分もだ。だから俺は様々な攻撃を織り交ぜ倒さない程度に立ち回りながら映像を収集していた。
 ぱっと見確認したところ全体的に、量産機もそうでない機体も武装やエンジン出力の規模が向上している。
 先の大戦で苦戦したレイダー、フォビドゥン、カラミティクラスのものはザラであるし、初期GATシリーズ並みのものが量産機でも当たり前になっている。
 ジンやダガー相手にはフリーダムは圧倒的に立ち回れていたが、今回はそういうわけにも行かないだろう。また、ビームを跳ね返す装備を連合が開発したという話も聞いた。
 こちらも分析のしがいがあるというものだ。
479通常の名無しさんの3倍:2007/02/14(水) 18:32:32 ID:???
>>468
展開が読めねーーーwww
480ウンメイノカケラ scene-1  ◆YqJJJk6AAw :2007/02/14(水) 22:57:50 ID:???


 遠い幼い日の思い出。

 昔、私がまだあどけない少女だった頃、戦争が起きた。
 TVは海の向こう、宇宙の彼方での戦争の被害を生々しく伝えていた。
 人はこんなにも残酷になれるのか、と幼心に漠然とした恐怖を感じたが、兄が「守ってくれる」と言ってくれたので、脅える事は無かった。
 ある日、TVが私の住んでいる街が戦場になるらしいと言う緊急放送を流した。
 今考えると、それは余りにも遅く、腹立だしい事であるが、当時の私は学校が休みになる事を無邪気に喜んでいた。
 簡単に手荷物をまとめ、大切な携帯電話を持ち、家族と避難を始めたが、時既に遅く、街は戦場に化していた。
 遠くで聞こえる爆音、閃光。そして余波による衝撃。
 走り、逃げる。幼い私はどうしても遅く、皆の足手まといになる。しかし、兄は私の事を気遣って、私の手を引いてくれた。
 そして、ふとした弾みで私は携帯電話を崖したに落としてしまい、私は愚かにも立ち止まりむずがってしまった。
 それを見かねた兄が携帯電話を取りに行ってくれた。
 ──そして、間近での閃光、爆音。私の運命を砕く一撃。
 私は激しい衝撃で吹き飛ばされ、意識を手放してしまった。
 気付いて空を見上げると、空は眼が痛くなる程青く、綺麗な色をしたロボットが鮮やかな軌跡を描いていた。
 視線を下に移すと、真っ赤な業火が燃えたぎり、その中には無惨な姿になった父と母がいた。
 嫌な音、嫌な臭い、嫌な風景。
 でも何故か悲しく無かった。多分、運命と同じく心を砕かれてしまったからだろう。
 私は逃げもせず、恐れもせず、悲しみもせずに、ただひたすらに青すぎる空を見上げていた。
 ──砕かれた運命の欠片を拾い集めることもせずに。


──to be continued──
481 ◆YqJJJk6AAw :2007/02/14(水) 23:01:44 ID:???
昔某スレで投下してそのままの作品を再構成して投下。短編になると思う。
482通常の名無しさんの3倍:2007/02/15(木) 11:16:34 ID:???
マユスレか?
だったらマユスレに投下してくれよ・・・あっち過疎ってんだからさぁ
483通常の名無しさんの3倍:2007/02/15(木) 12:23:43 ID:???
>>481
投下してたのはマユスレじゃないんだが。
移動してみるわ。誘導サンクス
484通常の名無しさんの3倍:2007/02/15(木) 15:42:20 ID:???
タイトルからするとエス種っぽいな
485通常の名無しさんの3倍:2007/02/15(木) 21:27:32 ID:???
どう見てもエス種だな。少年がマユでマユから見た戦争と時代が語られる訳か。

つーか兄さん芸風広いよ。

>>482
兄さん追い出すなよ……。
486通常の名無しさんの3倍:2007/02/15(木) 23:03:35 ID:???
お三方GJ!
487通常の名無しさんの3倍:2007/02/15(木) 23:18:26 ID:???
>>482
お前は何をわがまま言ってるんだ?決めるのは作者さんだろ。
ここはガンガン書いてもらうためのスレなんだし。
488通常の名無しさんの3倍:2007/02/15(木) 23:41:38 ID:???
>>282
心機一転して一から頑張ろうとしてる職人さんの出鼻をくじくな。

職人方GJ!新人スレにはもったいない!
489通常の名無しさんの3倍:2007/02/15(木) 23:54:38 ID:???
同感。適切なスレを紹介するのは正しいけれど、ここで投下したい
職人をたたき出すのはちょっとまずかろう。
戦史は本編において泥舟だった艦船が主役なんだなあ、冷静に考
えればフリーダムのロックオンシステムとか戦艦に搭載するほうが
現実的だよなあ、砲門多いし、搭載コンピュータの規模は大きいし。
crossGRは……お、俺には凄まじすぎてついていけん。だがノリはGJ!
k.wはミネルバ三人組がヒルダ達を連想してしまった。
そして45氏、薀蓄が冴え渡ってうらやましい。知識があると作品に
そえる良いスパイスになると思うので、今ぐらいの混ぜ方で丁度良く
感じます。レイが次に怒るのはいつだろうと楽しみにしてる。
490通常の名無しさんの3倍:2007/02/16(金) 00:48:11 ID:???
なんか最近「言い方」ってものをまるで考えないレスが多くなってきたように思う…
491通常の名無しさんの3倍:2007/02/16(金) 01:03:33 ID:???
理想郷とかからの流入だろうね……。

>>480
……頑張って、としか言えない。
492通常の名無しさんの3倍:2007/02/16(金) 01:15:30 ID:???
球場に吹き荒れる風は、何を運び去っていくのか?
仲間との友情、愛、それは青春。
少年、少女は白球にどのような想いを懸けるのか?
地球とプラントとの平和の象徴として、「野球」の試合が開かれることに。
じゃじゃんと登場!「SEEDのA」 次週より連載開始。
493通常の名無しさんの3倍:2007/02/16(金) 01:18:51 ID:???
>>491
それは違うと思うぞ。cross GRと同じ職人だし。
494SEEDのA:2007/02/16(金) 01:40:45 ID:???
 第一話「議長の宣言」

 C.E.73。
 プラントと連合の戦いが激化する中、プラント最高評議会ギルバート・デュランダルは一つの宣言を世界に発信した。
 果て無き憎しみの連鎖に終止符を打つその計画に、全世界(あのロゴスですら)賛同を示した。
「これにより争いが止まることを切に願います」
「これは……マリューさん、カガリをオーブへ」
「デュランダル、何を考えているかは知らないが、いいだろう。乗ってやろうじゃないか。奴らを呼び戻せ」
「父さん、これはチャンスだよ。これでカガリにいいところを見せれば、ふふふ」
「シン、野球は得意か?」
「ああ、任せろよ!」
 それぞれの思惑を胸に秘め、ここオーブに両陣営の猛者が集う。
495通常の名無しさんの3倍:2007/02/16(金) 02:15:50 ID:???
>>493
すまん、>>491の上の文は>>490へのレスだった。
496機動戦史ガンダムSEED 13話 1/7 :2007/02/16(金) 18:41:53 ID:???

 ――第4機動艦隊旗艦『クサナギW』艦橋――

 私は、高出力レーザー通信のリンクを確認すると、
司令が立っている指揮シート前の正面メインモニターへと、回しました。
 
 ついでに、言うと副官の特権で私のコンソールモニターからもモニターリンクができるんですね。
そうこうしている内に、モニターの正面には、司令官軍服をまとった司令と年が同じ位の男の人が映りました.
 
 モニターに映ったのは、顔が整った、細身でやや灰掛かった髪の色をした方です。
ちょっと無個性ですが、中々のハンサムな方ですね――
 
 確か、第3艦隊の司令官であるソキウス司令は、サハク首席補佐官の直属の部下だったと記憶していますが……
それと、アーガイル司令とも親しかったと噂は聞いていました。

 画面に映ったソキウス司令は、惚れ惚れするような丁寧な敬礼をしながら、

 『――こちら第3機動艦隊旗艦<クサナギV>です――貴艦隊の援軍を心より感謝致します……』

 そう言いいます。
肝心の司令の方はといえば、親しげな様子でモニター画面に向って、

 「――遅くなってすまんな、『ミスタ・ソキウス』――」

 と、ソキウス司令とは、逆にフランクな態度で臨んでますね……
もうちょっと威厳を出した方が良いのでは……?と私は思います。
497機動戦史ガンダムSEED 13話 2/7 :2007/02/16(金) 18:44:19 ID:???

 『……?』

 ほらっ!画面向うのソキウス司令も戸惑っていますよ!もう!

 「久しぶりだな」

 そんな、私のヤキモキした気分を無視するかのように、司令は不躾に言葉を続けます。
ソキウス司令の方は、その無個性なハンサム顔に驚きの表情を浮かべ、
 
 『おお―――サイ・アーガイル?』

 と改めて、確認するかのように司令の名をフルネームで仰りますです、はい。

 「――ああ、貴公程の男がここまで追い込まれたところを見れば、
   やはり、開戦序盤の『ラクス軍』の侵攻はよっぽど厳しかったらしいな?」

 と、司令は労いの言葉をかけますが、ソキウス司令と言うと怖いほど真面目?な顔で、
別の事を仰るから怖い。 

 『――ようやく重い腰をあげたのですか、貴方は?』

 と、そして、いきなり司令を詰り出しましたよ、この人。
そして、司令の方はと言うとその愚痴には、全く意を介さずに場違いの世間話のように、

 「――人間てぇのは、昔のしがらみて奴から、なかなか逃れられないみたいだな。
   まったく、一度でも宮仕えに足を突っ込んだ、我が身の迂闊さと不幸を呪うばかりだよ……」

 と、何か、詰りには愚痴で返すかのように、
親しげにソキウス司令に受け答えてますね――この人も。 
498機動戦史ガンダムSEED 13話 3/7 :2007/02/16(金) 18:46:24 ID:???

 それを聞いていたソキウス司令の方はと言うと……、

 『―――不幸?』

 ソキウス司令は秀麗な顔に驚きの表情を浮かべながら、大袈裟に肩をすくめました。
そして、

 『――何を仰っているんですか?――貴方は5年前に、私達『アマノミハシラ』の人間に、
  『オーブ』の全てを無理に、押し付けて野へと下って行ったのですよ――?』

 と、等々と司令に文句を言い始めました。

 『……お陰で私やロンド様を始めとした『アマノミハシラ組』の連中は、えらい苦労をさせられましたよ――
   こちらの方が、逆に貴方を恨みたいくらいなんですから……』

 と、溜まっていた鬱憤を晴らすかのように、澄ました顔でソキウス司令の愚痴が続きます……
この人もこう言う人だったんですね……流石、司令の友人……

 「むむ……」
 
 『――やっと、そのツケが今になって貴方に回ってきたんです――』
 
 さしもの司令も、ソキウス司令の猛攻にタジタジのようですね。
言いたい事を言って、鬱憤が晴れたのか、ソキウス司令はやや言葉を和らげて、
499機動戦史ガンダムSEED 13話 4/7 :2007/02/16(金) 18:47:54 ID:???

 さしもの司令も、ソキウス司令の猛攻にタジタジのようですね。
言いたい事を言って鬱憤が晴れたのか、ソキウス司令はやや表情を和らげて、
 
 『それに――貴方が戻ってこなければ、『クサナギU』と共に散ったソガ司令や
   第2艦隊の多くの同志達も浮かばれない……そうでしょう、サイ・アーガイル――? 』

 「……再会そうそう、お説教かい?……耳が痛いね」
 
 『まだ、言い足らないくらいですよ』

 ソキウス司令の愚痴に、司令も苦笑しながらも、そう受け答えました。
そして、司令は、

 「……参ったね。ところで、そちらの具合は?」

 と肝心な事を聞いてきます。第3艦隊の無事は確認できましたが、情勢がまだ不明なのです。
ソキウス司令はそれを聞かれると、真面目な態度の戻り、

 『――最悪です。およそ、4割の戦闘艦艇が撃破され、残りの艦艇も戦闘可能艦隻が約5割、
   残り1割は、戦闘不能の上にろくに艦隊編成も満足に出来ない状態です――』
   
 「……そちらの、見通しは?」
500機動戦史ガンダムSEED 13話 5/7 :2007/02/16(金) 18:48:52 ID:???

 『――現在の戦況では、攻勢に出られずに、密集隊形による防御戦闘がやっとの事ですので、
  このままの戦闘推移が、続けば遠からずこちらは壊滅するでしょう――』

 それを聞いて司令の目が険しくなる、やはり思っていた以上に戦況が悪化していたのです。
ソキウス司令の方の話を聞いて、私も焦ってきます……

 ここでこちらが、『へーリオス』の奪還い手間取っていたら、第3艦隊はどうなっていたのか……
私は、改めて、司令の横顔を見つめます。その司令は、恐ろしいくらい淡々とした口調で、

 「――こちらが奪還した『へーリオス』に続いて、拠点衛星基地『ポラリス』を奪回すれば、
   敵の第3艦隊への攻撃も止むだろう。――それまでなんとか」

 と振り絞るような声で、ソキウス司令に懇願しました…… 
ソキウス司令の方も、その司令の心情を理解したのか、
 
 『――わかりました。何とか持ちこたえて見せましょう。では――』

 と、冷静に仰ると、丁寧にこちらへと一礼して通信を切りました―― 
何だかんだ言ってもソキウス司令はアーガイル司令を信頼しているんですね……ちょっと感動。
501機動戦史ガンダムSEED 13話 6/7 :2007/02/16(金) 18:50:17 ID:???
 
 そして、私の方はといえば、

 「通信切れました――司令?」

 と、いかが致しましょうか?と司令の指示を仰ぎます。

 「――よし、ここには最低の守備要員を残して、全艦隊を、拠点衛星基地『ポラリス』へと向けて進撃するぞ――」

 司令は、即時決断しました。
私もそれには、全面的に賛成です!
 
 「了解!全艦に通達します!」

 「ここは、時間との勝負になる。速攻でゆく」

 「はい、司令!!」

 私は、守備人員の選抜と、全艦に出撃体制を整えるように通達しました。

===============================
502機動戦史ガンダムSEED 13話 7/7 :2007/02/16(金) 18:51:49 ID:???

 ”こうして、サイ・アーガイルに率いられた『オーブ軍』は、
見違えるような見事な戦いを見せつけ、連敗を重ねていた頃の無様さは無くなっていったのだった……”

 ”そして、緒戦の大敗北をはね返し、敵を圧倒するかのように勢いに乗った『オーブ軍』は、
『ラクス軍』に占領されていた、拠点衛星基地『へーリオス』の奪還に成功し、
これによって『ヘリオポリスU』の失陥以来、沈滞していた『オーブ軍』の士気は一気に高まったのだ……”

 ”だが、その勝利の立役者でもある『第4機動艦隊』総司令サイ・アーガイルは冷静だったという”

 ”その理由として、これは現段階であくまで自分はお飾りに過ぎず、
当時、総合作戦本部長であった『ロンド・ミナ・サハク』等、代表府スタッフ達が十分に整えた戦力の運用を持ってすれば、
勝利して当然だったと彼自身が考えていたからであろう――”

 ”何より、この段階では『サイ・アーガイルが指揮する限り負けない』、
という信念を部下に植え付けることが最も重要な事であったからである。

 ”――いずれにしても、この戦いが『ラクス軍』の一方的な優勢から『オーブ軍』が、
巻き返しを図るきっかけとなってゆくのであった”


 『C・E80年代』戦史評論より



>>続く


503通常の名無しさんの3倍:2007/02/16(金) 19:48:07 ID:???
GJ!
いよいよサイの晴れ舞台が始まったな。
ただ『アマノミハシラ』じゃなくて『アメノミハシラ』ですよ。
504通常の名無しさんの3倍:2007/02/16(金) 22:12:56 ID:???
相変わらず良いと思います。
ただ、これはおいらがちょっと引っかかっただけで、
他の方々は気にしない部分だとは思うのですが、
前回のサイの戦闘指揮中の格好が某魔術師の異名
を持つ提督を思い出させる感じなのは狙いなのかな〜?と
505通常の名無しさんの3倍:2007/02/17(土) 04:08:24 ID:???
まとめサイト勝手に作ってるけどいい?
携帯用だけど…。
506 ◆cKGyg13DyQ :2007/02/17(土) 06:32:51 ID:???
こちらでははじめまして。
08小隊スレで投下していた者です。
機動戦士ガンダムSEED ラスト・リゾートinC.E.(以下LRCE)
今から投下します。
507LRCE ◆cKGyg13DyQ :2007/02/17(土) 06:38:54 ID:???
プロローグ(1/4)「邂逅」
 意識が途切れる前。認識できていたことは、そう多くない。
 傍らに居る彼女の温かみ。
 アプサラスIIIに決定的な損傷を与えたこと。
 最後に強い衝撃を受けて彼女の上に覆い被さり……シロー・アマダの意識は途絶えた。

「ああもう、どうしてこうなるんだよ!」
 この日ユウナ・ロマ・セイランが公道を外れ、山中をドライブしていたのは全くの偶然
だった。車内には彼一人だけ。気ままな旅といえば聞こえはいいが、些か寂しくもある。
 留学先の大学は夏期休暇中で、早々に課題を済ませた彼には特にやることも無い。本当なら
友人たちと同様に帰郷すればよかったのだが、世界の情勢がそれを許さなかった。ユニウス7
への核攻撃、エイプリルフール・クライシス、世界樹戦役……ザフトと連合の全面戦争は
あらゆる地域に飛び火しており、このためつい先日にユウナは留学先から出ないよう父の
ウナトに厳命されていた。夏期休暇になれば暖かいオーブに帰れるしカガリにも会える、と
楽しみにしていたユウナにとっては不満だったが身の安全には代えられない。
 どうせなら国許では出来ないことをしよう。
 そう考えての一人旅としゃれ込んだのだが三日目にしてさすがに飽きが来ていた。元々
賑やかしの性分があるユウナだ、いかにスカンジナビア王国の自然が観光資源の一つである
ほど豊かとはいえ限界がある。
 とにかく誰かと喋りたい。
 その一心で町への近道を探したところナビゲータがあるルートを示した。それは山間部を
抜けて小さな町へ行くルートで、細い道の連続になるがほんの二時間ほどでたどり着けると
あり、渡りに船、とばかりにユウナは広い道を外れて脇道へ入ったのだった。
 結果を言えばこれが大失敗で、ナビのデータが古かったのかもう三時間以上も山中を彷徨っていた。
 熱くなった頭を冷やすために道端に車を止めて外に出る。
 整備された道があるということは、ここがどこかに通じているという事でもあるがこの
数時間、まったく他の車に行き会わない事実がユウナの不安を増大させていた。これで行き
止まりとかだったら笑い話にもならない。
 それでもボンネットに腰掛けスカンジナビアの短い夏の空気を胸一杯に吸い込むと、気分も
落ち着いてくる。特に意味もなく周りを眺めつつひとりごちた。
「とにかくあと一時間走ってみて――?」
 ユウナが言葉を切ったのは人の声がしたのもあるが奇妙なものが視界の隅に映ったからだ。
木々の向こう。
 カーキ色の何かは大きな人型に見え、ユウナは茫然と呟くほかなかった。
「まさかあれは……モビルスーツ?」
508LRCE ◆cKGyg13DyQ
(2/4)
「ジンじゃない、ザフトの新型か?」
 ふらふらと何かに魅入られたように近付くユウナ。
 遠目には人の姿に見えたそのMSは、近付くにつれて大きく損壊している事が分かった。
 左腕は無く足もひしゃげてまともに歩けるようには到底見えない。
 何より、胸部装甲が無くコクピットがむき出しになっている。
 声はそのコクピットから聞こえてくるのだった。
 無意識にユウナは上着の隠しをまさぐった。手応えはない。
 そこでやっと銃は車のサイドボードに放り込んだままなことを思い出す。
 護身用に、と持ち歩いている小口径の拳銃だったが今から車に取りに戻るのは怖かった。
背中を見せれば、パイロットに見つかって撃たれるのではないか
 ――そんな妄想が頭をもたげたからだ。
「……女?」
 進むことも下がることもできずに立ち尽くしてしまったユウナの耳に聞こえたのは、必死に
誰かの名前を呼ぶ美しい女性の声だった。
 その声に込められた切実な色に誘われ、ユウナは恐る恐るコクピットに近付いていった。

 コクピットにはユウナより少々年上の男女が居り、女の方はアイナ・サハリンと名乗った。
男はシロー・アマダというらしい。
 アイナは目の覚めるような美人だが、男が目覚めないのだとユウナに訴える様子が明らかに
恋人のそれであったので早々に興味が無くなった。
 それでも、ユウナも男である。
 美人のお願いに応えるのに吝かではないが、この場合状況が特殊すぎた。
 MSといえばザフト。ザフトといえばコーディネイターであり、プラントだ。
 普通に考えればこの二人はコーディネイターのはずである。しかしユウナはプラントと
スカンジナビアが交戦状態に入ったなどとは聞いた事がなかった。
 留学中とはいえセイラン家はオーブの有力家系のひとつ、嫡子のユウナにもコネや人脈の
一つや二つはあり、また情報収集を怠ったつもりはない。
 無論極秘だったり電撃作戦だったりという可能性もあるが、いまスカンジナビアを攻めて
プラントに何か利があるとは思えなかった。
 ひょっとしたら自分を引っ掛ける罠なのかも。その可能性を一瞬考えてすぐにまさか、と
否定する。
 今日この場に自分が居るのは単なる偶然にすぎない。
 もし詐欺だとしたらあまりにも不確実すぎる。まだテレビのバラエティだと言われた方が
納得できる。
 しかし故郷のオーブでよくある悪趣味なバラエティのように看板を持ったタレントが彼の
前に現れたりする気配は一向に無い。
 それに加えて、目の前のMSは充分以上に現実の戦場の匂いがした。
 ……無論彼自身は戦場に出たことなどないから単なる勘でしかないのだが。
(ま、いいか。もしペテン師か何かならそうと分かった後で放り出せばいいだろ)
 何よりその方がはるかに面白そうだし。
 そう楽観的に考えてユウナは休暇中ずっとオフにしておくつもりだった携帯電話の電源を
入れた。