【チャット・age厳禁】デス種失敗の理由 Part257

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161 ◆hO5UpTpm0s :2007/02/22(木) 23:09:41 ID:???
 旗艦パウエルの治療室では、密室状態となった部屋に隔離された新型に乗るパイロット、オルガ、クロト、シャニ
の3人が苦悶の表情に顔を歪めながら、いつ果てるとも知れない苦痛に耐えていた。

「役立たずどもが、そろいも揃って逃げ帰ってくるとは、何たる醜態・・・・・・。」
アズラエルは幼少からの躾けのせいで、特に他人から辱めを受けることを最も嫌っていた。それも、自らが高らかに
連合軍に押し込んだ、自慢のMSとパイロットたちが満足な戦果を挙げることなく、帰艦したとあっては怒りの矛先
をどこに向けるべきか、アズラエルにしてみれば躊躇する必要はなかった。
「まあいい・・・・・・お仕置きは、コノぐらいで十分だろう・・・・・・・・・・・・それにこれ以上やると、それこそ役立たずの
 廃棄物になっては元も子もない。」
アズラエルは口の端を微妙に歪め、医師に適切に処置を施すように指示する。

 オルガ、クロト、シャニの3人は度重なる投薬や、戦闘の模擬訓練を通して記憶を操作され、もはや戦うためだけ
に許された存在になっていた。
 何度も見せ付けられる戦闘の映像、模擬訓練で流される血の匂いに慣らされ、どんな効き目か判然としなくとも繰
り返される幾種類もの投薬で、幼少のころの楽しかった家族の記憶を失い、副作用や禁断症状、模擬戦闘で作り出さ
れる極限状態が、わずかに残った感覚まで容赦なく奪い、今は命じられる標的を破壊することのみが、生きている充
実と満足を満たし、明日を生きる保証を約束するものになっていた。
 
 しかし、ときおり満足する実験結果が得られないときは、いつ終わるとも知れない禁断症状のまま放置され、この
まま処分という名の死を待つだけの時間を、悶え苦しみながら過ごさせる事が間々あった。
 今までは処置が施され再び実験が続けられたが、あいつらなら・・・・・・無慈悲な、得体の知れないあいつらなら突然
自分たちを、そこら辺のゴミ同然に平然と処分してもおかしくない、こんな実験こそ滑稽に違いはないのだから・・・。
 隔離された部屋にプラスチックタイルを踏む低音のサンダルの音が聞こえ、白い靴底が見えた瞬間3人は苦痛の終
わりと戦いの始まりを感じて安堵のため息を漏らし、安心感からか痙攣する筋肉の動きが幾分和らいだ。
「・・・・・・少しだけ、生き延びたようだ。」
聞こえない微かな声を誰となく漏らした。
162 ◆hO5UpTpm0s :2007/02/22(木) 23:10:43 ID:???
「第2ラウンド開始といきましょうか。」
相変わらず、旗艦パウエルのブリッジで鷹揚に振舞うアズラエルは、隣のサザーランド大佐に作戦開始を強いる。
「全軍作戦を再開する、攻撃開始。」
「今度は上手く行って下さいね。そろそろ船の上での食事にも飽きましたし・・・。」
特別に用意された食事、士官用の食堂で給仕付きで取っているアズラエルが食事の不満を漏らすと、まわりの下士
官たちの失笑を誘ったが、本人は気づかない様子で続ける。
「ザフトもなかなか、やるもんですね・・・・・・もっと簡単に墜ちると思っていましたが。」
「情報によるとザフト軍の指揮官は、あのクルーゼです。簡単には墜ちんでしょう。」
「そう思ってあの新型3機を、わざわざ持ってきたんですがね。」



 新たに生まれ変わったように、オルガ、クロト、シャニの3人は最前線で暴れていた。増量され投与された薬のせ
いもあったが、それだけではなかった。今の3人には戦いの高揚感だけが生きている証であるかのように、先程の出
撃とは比べ物にならないほどの奮闘振りだった。
「ヒャハァハァ・・・・・・・・・。」
「フッ・・・・・・どいつもウゼェ・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」


 後方で見守っていたクルーゼは、再びあの3機を目視で確認すると苦しげな表情を浮かべ、自らMSを操り前線に
赴く。
「負傷兵と輸送部隊の撤退が完了するまで、あと2時間は持たせる必要がある。」

今度はイザーク、ディアッカを後方に残して単身攻撃を仕掛ける。ゲイツのビームがクロトの操るレイダーを的確に
捉えるが、ありえない反応速度で回避され逆にレイダーの、短射程プラズマ砲”アフラマズダ”2連装52mm超高初
速防盾砲が火を噴きゲイツを襲う。
「早い・・・・・・さっきとは桁外れの反応だ。・・・・・・やはりコイツらは。」
対ビームシールドでやり過ごしたクルーゼは、お返しとばかりにEEQ7Rビームロケットアンカー”エクステンシ
ョナル・アレスター”を射出しビーム砲をお見舞いする。
しかし、ダメージは与えたものの新型の堅牢なボディーには致命傷とはならずに、直ぐに破砕球”ミョルニル”を投
擲し反撃してくる。


「こいつはオレがやる・・・・・・撃滅!!。」
先の戦闘よりも増量された薬の効き目と、負けた屈辱と戦場の高揚が渾然一体となりクロトは絶好調だった。いや絶
好調すぎて周りが見えなくなり、クルーゼのゲイツと争う間に、何機かのストライクダガーがミョルニルの巻き添え
になっていた。
163 ◆hO5UpTpm0s :2007/02/22(木) 23:12:31 ID:???

 クルーゼがレイダーを抑えていたとはいえ、残りの2機カラミティ、フォビドゥンは抑えきれずにザフト軍の第1
次防衛線を少しずつ突破され状況は苦しくなっていた。
 前線の部隊が後退し、市街地に近い第2次防衛線まで連合軍の攻撃が迫り、支援の後方部隊の撤退が7割方済んだ
のを確認したクルーゼは撤退作戦を最終段階に進める命令を下す。

「そろそろ仕上げにかかるか、グーン隊発進。退路の確保と時間を稼ぐ。存分に連合軍の艦艇を叩け。」

 MSグーンを擁する水上部隊の隊員たちは活躍の機会に恵まれず、いまや遅しと漲る英気だけは隠せずに、海岸線
で隠れながら歯がゆい日を送っていたが。
 クルーゼの指令に、いまや遅しと攻撃命令を待ちかねていたグーン部隊は、沖合いの地球連合軍艦隊に猛然と襲い
掛かった。グーン部隊は、連合軍の艦艇を全滅させるだけの火力は持ち合わせていなかったが、持ち前の水中での機
動力を生かし、連合軍艦隊の横合いから楔のように突然打ち込まれた攻撃による混乱は、指揮命令系統を麻痺させる
には十分だった。



しかし、地球連合軍でも目立つ艦体であるアークエンジェルは事情が違い、地上からのジン、空中のディンに加わり
海中のグーンにも標的にされ集中砲火を浴びていた。
「どうして、アークエンジェルは攻撃が多いんですかね。」
どの方向に舵を切っても振り切れない攻撃にノイマンが思わず口走る。

「アークエンジェルは目立ちますから。」
ラミアスは思わず庇うような答えを言うが
「宇宙艦がコノ作戦に投入されること自体、何らかの作為を感じます。」
ナタルの意見は鋭く核心を突くように、その場を凍らせる。

「いえ・・・・・・深い考えがあってのことだと思いますが・・・・・・。」
凍りついた雰囲気を察して、ナタルはあわてて取り繕う。


「トール、俺の後ろをしっかり付いて来い。」
「はい。」
エール装備のストライクを操る二人、フラガ大尉と初陣のトールは無理をせずに、アークエンジェルの周囲の敵を
二人の絶妙なコンビネーションで、ザフト軍の攻撃から、かろうじてアークエンジェルを守り抜いていた。
「トール。スカイグラスパーよりストライクの方が頑丈だ。もう一度いくぞ・・・・・・今だ!」
「はい。」
フラガのストライクが囮になり空中戦を展開する中、少し離れた後ろからトールが援護射撃を行い、何機目かのデ
ィンを仕留めていたがトールの緊張と疲れは限界に近かった。
164 ◆hO5UpTpm0s :2007/02/22(木) 23:15:12 ID:???
調度その頃、高速で接近する機体を、地球連合軍のAWACS(空中早期警戒機)のレーダーが捉えた。
「フラッシュ(緊急)。ボギィ(所属不明機体)。マストヘッド(低空)。マッハ0.8。東南に向かう。」
MSにしては高速で移動する物体を捉えたレーダー士は、該当する機体情報がない”最新鋭機”であることを告げる
だけであった。

「現れたようだな。・・・・・・全軍進撃開始。後方のストライクダガー部隊を、空挺降下させ一気に拠点を制圧せよ。」
コープマン大佐は、AWACSからの緊急情報を待ちかねたように命令を下し、自らも指揮車両に乗り込んで山道を
猛進して駆け下りていった。

同じく、オーブ軍イージス艦イージスシステムのフェーズドアレイレーダーが高速で接近するMSを捉えた。
「所属不明機が高速で接近中。」

「来たか・・・。」
カガリは座席から立ち上がり、レーダーに映る点を確かめるとトダカ一佐と視線が合い、互いに頷きあう。
「ここからが正念場だ。頼んだぞ。」
「心得ております。お任せアレ。」
トダカ一佐は艦体の陣形を円形に再編し、オーブ軍の虎の子であるMBF−M1 M1アストレイを発進させ、オー
ブ全艦隊に総攻撃の命令を下し。アークエンジェルを包囲攻撃するザフト軍の一角を穿つように猛攻撃を掛け始めた。
165 ◆hO5UpTpm0s :2007/02/22(木) 23:16:01 ID:???

 アークエンジェルに群がるザフト軍は減る気配がなく、手土産代わりに撃沈し戦功を稼ごうとするかのように苛烈
な攻撃を受けていた。
「そろそろエネルギーも限界か、それよりトールは初陣だからそっちの限界も早いか。」

 フラガはトールを気遣うように先にトールを後退させ、自らも補給に一時帰還しようとしたときだった。
 アークエンジェルに群がるザフト軍を嗅ぎつけたのか、オルガのカラミティが、アークエンジェルを包囲するザフ
ト軍に攻撃を掛けるが、見境のないオルガはアークエンジェルにも容赦なくカラミティのシュラークを当てて損傷を
与える。
「あいつら、どういうつもりだ!。」
見境のない攻撃を繰り返すオルガを目の当たりにし、フラガはおもわず血が上りコクピット内で怒りをぶちまける。

「避けない、お前が悪いんだ・・・バーカ。」
「オルガ、後で知らないぞ。」
 シャニのフォビドゥンも加わり、アークエンジェルの一帯はたちまちの内に乱戦状態になる。
 この乱戦の隙を付いて、何機かのディンが砲火をすり抜けアークエンジェルに接近し、艦体目掛けてバラ撒くよう
に攻撃する。艦橋付近に当たった攻撃がブリッジに黒鉛と爆発の衝撃を伝えクルー達は思わず椅子に縋り付く。
「艦の損傷拡大、これ以上は航行に支障が出ます。」

 そのとき、3機のグゥルに載ったジンが、アークエンジェルに接近し艦橋を目指して攻撃を掛ける。フラガがいち
早く気づきストライクのビームライフルが、後ろを行く2機のグゥルに当たり爆発する。
グゥルを失ったジンが方向転換し、ストライクの方に攻撃の矛先を変えて殺到してくる隙に、攻撃をすり抜けた一機
のジンがブリッジ目掛けて76mm重突撃機関銃を構える。
「・・・・・・・・・・・・!!。」
ブリッジクルー達は”もはやこれまでか・・・”と不適に輝くジンのモノアイを睨み付けたり、咄嗟に床に伏せたり行動
は様々だったが、一瞬の閃光とともにジンの機関銃がビームの光によっれ爆発四散し、その衝撃がブリッジ全体を揺
さぶり、あわててビームの方向をジンが振り返った先には一機の不明機がビームライフルを撃ちながら急速に接近し
てきた。

 ありえない急速度で接近した機体は、ブリッジを撃とうとしたジンの重突撃銃をビームライフルで吹き飛ばし、何
事かとあわてて振り返ったジンの頭を、再びビームライフルの閃光が撃ち抜いたと思うと、肉薄して海中めがけてジ
ンの胴体を蹴り飛ばす。

 その機体は、アークエンジェル艦橋に背を向けるように空中で停止すると、背中の翼を広げ胸部のエアインテーク
から排気する。何が起こったのか分からずに見守るブリッジのクルー達には、10枚の翼を広げたその機体はアーク
エンジェルを守るに相応しい天使セラフィムの姿に見えた。
「こちら、・・・・・・キラ・ヤマト。」
「アークエンジェル・・・聞こえますか。・・・・・・・・・ラミアス艦長。」
166 ◆hO5UpTpm0s :2007/02/22(木) 23:19:09 ID:???
ブリッジに忘れもしない、キラ・ヤマトの姿が映し出されると同時にミリアリアが思わず叫ぶ。
「!!・・・・・・キラ。」
「キラくん。生きて・・・・・・無事だったのね。」
ラミアス艦長は、ナタルと視線を交わし頷き会うと素直に無事を喜んだが、逼迫した状況が旧交を懐かしむ暇を与え
ない。
「詳しい説明は後で・・・・・・アークエンジェルを守ります。」
通信モニターに写る、ザフト軍の制服を着込んだキラの姿が複雑な状況を物語る
「こちら、機体コードZGMF−X10Aフリーダム、連合軍の最新識別コードを送信してください。IFFを合
 わせます。」

 フリーダムの中継プログラムを設定し、連合とザフトの識別を合わせたキラはフリーダムをハイマット・高機動空
戦形から、背中のM100”バラエーナ”プラズマ収束ビーム砲と、腰部に収納されたMMI−M15”クスィフィ
アス”レール砲を展開する。合わせてMA−M20”ルプス”ビームライフルが同時に照準を付け、ザフトの機体を
次々とロック・オンし同時に5つのビームがジンやディンを捕らえて一撃で墜していく。
 フリーダムは、アークエンジェルを取り囲むザフトMSを巧みに捉え、次々と撃墜するさまは性能の劣るジンやデ
ィンにはあまりにも一方的過ぎた。


「なんだ、あの機体……ついでに殺っていいのか。」
「変な機体……オレが!。」
オルガとシャニは、識別のハッキリしない機体を見つけたのを、これ幸いと弄ぶように二人がかりで攻撃し始める。

「この機体は…いったい……。」
キラも行きがかり上、ビームライフルで反撃するがフォビドゥンの偏向装甲がビームを反らし、巨大な鎌を振りかざ
すトリッキーな攻撃と、海面をホバー装甲で滑るそうに攻撃するカラミティに挟まれ苦戦を強いられる。
「動きが違う……コーディネイター、ザフト軍でもないようだが……。」
キラは、手当たり次第に攻撃を仕掛けフリーダムに迫る2機に、思わず戸惑いを覚えながら否応なく応戦する。
167 ◆hO5UpTpm0s :2007/02/22(木) 23:22:11 ID:???
「くっ……。」
窮地に追い込まれたキラは、頭の中で何かが弾け覚醒したかのようにフリーダムのスロットルを開きスラースターを
全開にすると、MA−M01”ラケルタ”ビームサーベルを引き抜き連結させ”アンビデクストラス・ハルバード”
ツインランサーの状態にする。
 カラミティーが海面から砂浜をホバー走行で移動しつつ、距離をとりながら絶え間なくシュラークを撃ち続けるが
スラスターを全開にし高速で接近するフリーダムを交わしきれず、接近戦に持ち込まれてしまう。オルガは115mm
2連装衝角砲”ケーファー・ツヴァイ”で牽制しながら距離をとろうとするが、フリーダムの猛追を交わしきれず苦
し紛れに後退しながら放ったトーデスブロックの連射も全て巧みにかわされ、確実にロックオンしたシュラークの2
連射をも、いとも簡単にツインランサーで捌かれると、オルガのカラミティは打つ手を失い、一瞬機体の動きが止ま
りわずかな隙を作った。
 
 フリーダムを操るキラはその隙を逃さず、トーデスブロックをツインランサーで跳ね上げると、返す刀でシュラー
クの砲身を切り裂き、飛ばされたトーデスブロックとシュラークの砲身が残骸となって砂浜に突き刺さる。
 カラミティを無力化したのを見届けたキラは即座に反転し、今度は後ろで砲撃するフォビドゥンに接近していった。

 シャニは偏向シールドの絶対的な安心感からか、大鎌ニーズヘグを振りかざしフリーダムを迎え撃ったが、フリー
ダムはニーズヘグを盾で捌きながら、左腕を回して巻き取るようにフォビドゥンの懐深く入り込み、自慢の偏向シー
ルド”ゲシュマイディッヒ・パンツァー”をツインランサーの連続した突きを見舞い致命傷を与える。
「コイツ……。許さない!」

 機体に損傷を負わせられたシャニは完全に頭に血が上り、ガムシャラに大鎌ニーズヘグを振りかざし突進してくる。
シャニのフォビドゥンの突進するだけの単調な攻撃パターンは、簡単にキラに見透かされフリーダムのハイマットモ
ードから繰り出すフルバースト射撃攻撃の的だった。
 先刻のフリーダムのツインランサーの突き攻撃で損傷し、満足なビームの偏向が出来なくなった”ゲシュマイディ
ッヒ・パンツァー”はもう偏向シールドとしての用を成さず、2度3度と繰り返し続くフリーダムのフルバースト攻
撃の前では、新型機体の堅牢なPS装甲と言えども致命傷を負わされ、シャニのフォビドゥンは海中に没する形で撤
退していった。
168 ◆hO5UpTpm0s :2007/02/22(木) 23:29:14 ID:D5x+B5rQ
地球連合軍・旗艦パウエルでは、グーン隊の痛烈な攻撃の混乱から立ち直り、撤退を始めるザフト軍を追撃する構
えに移っていたが、一人別方向のアークエンジェルに飛来した機体に、異常に興味を引かれた男がいた。
「大佐………あの機体、鹵獲できませんかね。」
「アークエンジェルのですか、アズラエル理事。」
「あの機体、ただの機体じゃないですね。あの2機を手玉に取る動きをするとは……それに。」
サザーランドは、瞳を輝かせて双眼鏡で見つめるアズラエルに頷くと指令を下した。
「艦隊を再編し移動させる。アークエンジェルを半包囲陣形で取り囲む。」



「トダカ一佐、いよいよ連合軍のお出ましだぞ……アークエンジェルと連合軍の間に割り込む。」
「了解です。」
 トダカ一佐は、カガリの命令よろしくオーブ軍イージス艦隊を魚鱗陣形に編成すると、アークエンジェルと地球連
合軍艦隊の間に割り込ませ、包囲陣を形成する地球連合軍艦隊に対してアークエンジェルを中心に円陣形を完成させ
包囲を阻止する構えを取る。
 カガリは、ハルバートンから届けられたファイルをめくり、通信周波数を合わせてコープマン大佐を呼び出す。
「大佐、コープマン大佐……。」
「カガリ、お久しぶりです。こちらの準備は何とか間に合いました。………慌しいですが、ザフトが築いた海岸線の
 陣地とドッグを接収し終えました。予定ポイント・アルファWでお待ちしております。」
「よし、アークエンジェルを誘導する。ラミアス艦長に通信回線を………。」

呼び出されたラミアス艦長が、通信スクリーンに映し出される。
「ラミアス艦長、説明は後だ。指定するポイントにアークエンジェルを降下させてくれ。」
怪訝な顔で見つめるラミアスも見つめ返し
「心配するな、ハルバートン提督からの指示だ。アークエンジェルは四面楚歌じゃない……海上のオーブと地上では
 ハルバートン麾下の連合軍が付いている。」
「そういうことなら、喜んで指示に従います。カガリさん。」
「それと、あの機体………、キラ・ヤマトも一緒にな。」


「クソッ……オーブ軍め、ノコノコ出てきたと思ったらこのザマとは……。」
「してやられましたな、オーブ軍が戦列に加わった真意は・・・・・・、こういうことでしたか。」
前方に展開するオーブ艦隊と、その後方に位置するアークエンジェルが整然と港に入っていくのを睨み付けると、ア
ズラエルが感情を露にするのとは対照的に、サザーランド大佐は冷静に答えを返す。

「大佐、ボクは諦めたわけじゃありませんから。」
 悔しそうにつぶやくアズラエルを一瞬見つめ、前方に視線を戻したサザーランドは、双眼鏡から見える地上部隊の
様子をゆっくりと眺める。コープマン大佐の部隊が投入されたか、わざわざコロラドから呼び戻したとすればハルバ
ートン提督は、初めからそのつもりだったようだ………。
 終わってみればこの作戦、どこまでが役者で、どこまでが脚本なのか、そして誰が主役なのか・・・・・・慎重に進めた
つもりだったが、アズラエル理事が直々に乗り出したとなっては当然の反応だな。
海岸線に展開する地球連合軍の部隊を、感慨深げに眺めていたサザーランドは双眼鏡を覗いたまま、アズラエルに聞
こえるように漏らした。
「………陸での食事は、お預けですな。」
169 ◆hO5UpTpm0s :2007/02/22(木) 23:31:51 ID:???

 攻撃で損傷し速力が出ないアークエンジェルを守るように後ろに逃し、オーブ艦隊はゆっくりと歩調を合わせ後進
をかけながら、地球連合軍との距離を置いて指定ポイントに整然と並んだまま対峙する格好となる。

 入港したアークエンジェルに続き、まとわり付く2機を撃退したフリーダムがアークエンジェルに着艦し、機体か
らウインチを使って、ザフトのパイロットスーツを着込んだキラ・ヤマトが降り立ちヘルメットを脱いだ。
「!…………キラ。」
「キラ。」
「坊主、足付いてんだよな……。」
「キラ、……よく生きて戻って……。」
ブリッジから駆けつけたフレイやサイ、ミリアリア、ストライクのコクピットから、転がるように出てきたトールや
フラガ大尉がキラの基に駆けつけ、交替で抱き合いながら”本物””生きてたんだな”と繰り返し確かめるように言
い合い再開を喜び合った。
170 ◆hO5UpTpm0s :2007/02/22(木) 23:41:33 ID:???
(≧∀≦)もう1話、北米作戦の最終的なエピソードやります。
22話まだ、8割ぐらいなのでがんばります。
171通常の名無しさんの3倍:2007/02/23(金) 21:49:09 ID:???
こちら、フォックス1
貴電受信、了解した。
172 ◆hO5UpTpm0s :2007/02/28(水) 22:59:10 ID:???
│・ω・`)ほしゅ。グーン参上スレを見てから、グーンたん活躍させてしまう
│・ω・`)まさか、宇宙には連れて行かないけどw
173 ◆hO5UpTpm0s :2007/03/04(日) 18:08:49 ID:???
(。≧◇≦)ノほしゅ。さっきの特番けろろ軍曹面白かった。
174 ◆hO5UpTpm0s :2007/03/10(土) 20:58:46 ID:???
(。≧◇≦)ノほしゅ。こんなところで詰まるとは
175通常の名無しさんの3倍:2007/03/11(日) 17:10:12 ID:???
大儀である。だが携帯から長文を書き込むのは大変なので、ただ一言だけ送る。
がんがれ。
176通常の名無しさんの3倍:2007/03/17(土) 13:13:18 ID:???
ほしゅ
177通常の名無しさんの3倍:2007/03/27(火) 15:09:33 ID:???
178 ◆hO5UpTpm0s :2007/04/01(日) 22:39:35 ID:???
(。≧◇≦)ほしゅ
179 ◆hO5UpTpm0s :2007/04/02(月) 01:31:26 ID:Nw/c4p4m
(。≧◇≦)武者修行が効きました。ほぼ書き直してます。
(。≧◇≦)おかげでチョッとは読みやすいかなアイデア重視だったからな
(。≧◇≦)悩みすぎて筆が進まんのはトホホなところ。でも、がんばる
180 ◆hO5UpTpm0s :2007/04/05(木) 22:16:01 ID:???
22、翼は舞い降りたV、キラ・ヤマト

 オーブ軍イージス艦の甲板では、離陸前のヘリの轟音が響きわたっていた。ヘリのローターが起こす風に逆らいな
がら乗り込んだカガリとトダカ一佐が大声で会話を交わす。
「トダカ一佐。”もしも”と言うこともある。キラはコーディネイターだ、変な動きをしたら容赦なく撃て」
「ですが……」

カガリは、銃の弾倉を確かめ遊底をスライドし、手早く初弾の装填をすませると腰のホルダーにしまいこんだ。
「下手に動きを静止できると思うな。躊躇すればこちらに犠牲者が出るだけだ」

 トダカ一佐は、カガリとアークエンジェルとの経緯を知っているのか、少々気遣うような表情を見せるが、カガリ
は構う様子を見せずに、乗り込んだヘリの中で考えをめぐらせる。

 あの、ハルバートン提督が私を指名して加えたのは、単なる新型機体鹵獲を有利に進めるためか………。
しかし、キラ・ヤマトが奇跡的な生還を果たした事と、何らかの係わりが有るのか無いのか、この計画の首謀者は
ハルバートン提督だけなのか、誰もが主役と思っているだけで本当は。

 堂々巡りに至る考えを打ち切り、カガリはヘリからの無線を使い、密かに陸路を南から北米に潜入したキサカを呼
び出す。
「私だ、オーブ在外公館の被害はどうだ、すぐに使えるか。………そうか、よろしくたのむ」

 ヘリが到着した先では、コープマン大佐が直々にカガリら一行を出迎え、一緒に差し回しの車に乗り込むと、今し
がたの戦闘で荒れた、海岸沿いの道路を突き進みアークエンジェルが寄港するドックに向かった。
181 ◆hO5UpTpm0s :2007/04/05(木) 22:17:18 ID:???
 アークエンジェルのMSデッキでは、奇跡的に生還したキラを囲んで喜びの再開が続いていた。
 フレイは艦橋から駆けつけると、キラを囲んだフラガや整備班のコジローたちを押しのけてキラに走りより、離れ
離れになった数ヶ月を埋めるようにキラの胸に頬をうずめる。
「キラ!」

キラとフレイは顔を近づけ言葉を交わす。
「キラ、必ず戻ってくるって信じてた」
「ああ、心配掛けて……ごめん」
短く言葉を交わすと、フレイは鳶色の瞳を潤ませながら、キラの胸に顔を埋め離れるのを嫌がる子供のように、しっ
かりとキラを抱きしめる。

 フレイの手をしっかりと握り締めたキラは、二人の再会に水を差さないように見ていたトールやサイ達に近寄り
声を掛ける。
「トール、ミリアリア……サイ、カズイ」
「よかった、本当に……よかった」
「生きて、戻ってくれて」
口数は少なかったが、ヘリオポリスの学生仲間だけの輪になると、学生生活を満喫していたコロに戻ったように
自然と皆の顔がほころぶ。
182 ◆hO5UpTpm0s :2007/04/05(木) 22:20:20 ID:???
 ラミアス艦長は、キラたちと少し離れ新型機体を見上げていたが、意を決したように顔を引き締めると
キラ達の輪に割って入り質問を発する。
「キラくん。……本当にキラくんなのね」
「はい」
キラは少しぎこちない笑顔を向けて、言葉を続ける。
「ラミアス艦長、間に合って良かったです」

 ラミアスはキラが行方不明になった南海での出来事以来、胸につかえていたものが落ちたように、少し緊張した
面持ちを解き、軽くうなずきながら話す。
「その、パイロットスーツ、ザフト軍のようだけど、色々事情があるようね」
「……長い話になりそうですが、ボクはザフトではありません」
「では、あの機体は」
「あれは、ザフトが開発した新型です。ワケあって奪取計画に参加した人たちから託されました」

 ラミアスは知りえない計画、機体奪取に関わり合っていないことに戸惑いの視線をフラガに投げかける。
「地球連邦軍に引き渡すのが筋だろうな」
 フラガは、ラミアスの視線に答えて正論を口にして助け舟をだす。そこへ、ナタルが先刻の戦闘での疑問を差
し挟んだ。

「しかし、あの戦闘で連合の新型を相手にした以上。連合軍でもどうなることか……成り行きとはいえ」
「でも、誰かさんが上手い具合に、機体を引き取りに現れるんじゃないか?」
フラガがナタルの懸念を軽口で引き取る。
「カガリさん、のオーブ軍……まさかね。ハルバートン提督が付いているとは言っていたけど、提督は宙に……」
ラミアスは、先の戦闘での経緯とカガリらとの通信を思い出して、オーブ軍の名前を口にしたが、まさかオーブ
軍が乗り出してくるとは考えられない。
 それぞれが、やれやれという感じで肩を落とし、少々不安げな眼差しで新型機体を眺めたとき、その誰かさん
が車両を連ねて騒々しく現れた。
183 ◆hO5UpTpm0s :2007/04/05(木) 22:22:45 ID:???
 コープマン大佐を先頭にして、カガリを引き連れた部隊が、アークエンジェルを係留したドックに現れた事で
その場に居合わせた、アークエンジェルの乗組員一同は、納得と驚きの表情を交互に浮かべる。

「皆さん、お揃いで調度よかった。ラミアス艦長よくやってくれた」
「はっ」
コープマンが気さくに声をかけ、ラミアスらと敬礼で挨拶を交わす。
「では、ラミアス艦長、新型機体を引き取らせてもらうとしよう。それとパイロットも……彼はどこかな」
「キラ・ヤマトも……でありますか」
コープマン大佐が見回した視線の先で、キラが思いつめた表情で歩み寄ってくる。

「あれには……あの機体には……」
言葉を詰まらせるキラに変わって、カガリが後を続ける。
「あれには核動力が搭載されている。…………そうなんだろうキラ」

「そうです、あれは核動力が使われています。NJ・キャンセラーを搭載しています」
キラの脳裏に浮かぶ、新型機体フリーダムの起動画面に表示される頭文字。

”Generation Unsubdued Nuclear Drive Asault Module COMPLEX”(核機動強襲仕様)

 キラはニュークリア・ドライブの文字が意味するものを十分感じていた。実際に操縦して今までのストライクを
十二分に上回るパワーと、搭載火器が繰り出す桁違いの破壊力とエネルギーは、否応なしに核の力が持つ脅威を伝
える。
「だから、あれは危険すぎる連合にもザフトにも!」

抑えながらも核を前にして、語尾に怒りが混じるキラに対して、動じる様子も無くカガリが答える。
「だがキラ……君の手にも余る代物だ。そうだろう」
「でも、連合に渡れば再び核兵器が」
「キラ、私を信じてくれ。地球もプラントにも核ミサイルを使わせはしない」

 カガリの鳶色の瞳が、キラを包み込むように見つめる。キラもカガリの誠意を理解したのか頷き返し納得した
ように告げる。
「わかりました」
184 ◆hO5UpTpm0s :2007/04/05(木) 22:25:22 ID:???
 カガリは内心を悟られぬように、ほっとした気持ちで胸をなでおろし、コープマンと顔を見合わせると互いに
頷きあいながら話あった。
「大佐、機体はオーブの技術部に解析させます。それとキラ・ヤマトの身柄はオーブ公館に預かります」
「解析には連合の技術者も加わりますが、依存はありませんね」

カガリはコープマン大佐の目を見つめ頷く。
「問題ない。で……キラのグリーンカードと他、軍籍の手配はいつまでに、隠し通せるのも時間の問題でしょう」
「3日・・・いや2日下さい。書類は完璧に揃えて見せます。付け入る隙は与えません」
「大佐、奴らは意外と早いんじゃないかな。アズラエル氏の面目を潰した禍根は大きい」

「ラミアス艦長、キラ・ヤマト君をお預かりします。本官はこれにて」
コープマン大佐は挨拶を済ませると踵を返してドックを後にし、キラを連れたカガリたちもそれに続いた。




 翌朝、キラを一時的に保護したオーブ在外公館に、大西洋連邦の外務官僚を名乗る人物が訪れた。
 あまりにも早くキラの居所を見つけ出したその裏には、ブルーコスモスの盟主・アズラエル理事が面目を潰さ
れたことに対する、彼の深く傷ついた自尊心の穴埋めを、新型機体とパイロットに求めたからであり。
 また、オーブの在外公館を訪れた人物である。任務を引き受けたサザーランド大佐も、アズラエルが持つ
理事の強権をフルに駆使して、外務官僚の辞令や特権を引き出させた手腕に驚きを隠せなかったが、それだけ彼
のプライドが傷ついたと深く受け止めていた。

 予期していたとは言え、突然の訪問者にカガリとキサカは少し慌てたが、短く手順を確認し応対にでる。
「これは、これは、わざわざのお運び恐縮です」
「初めて、お目にかかります。大西洋連邦外務官サザーランドです。お見知りおきを」
共に型通りの挨拶を済ませると、カガリはソファーを指してサザーランドに勧めつつ、自身も腰を下ろす。
「こちらこそ、ザフトの接収から返還を終えたばかりなので、何のお構いも出来ませんが」

すぐにテーブルにコーヒーが供され、焙煎された香ばしい匂いが部屋に溶け込む。
「サザーランドさん、確か事件に関わった重要な人物の、引き渡し要求で参られたと伺っておりますが」
「いま捜査中の事件に、関わっている疑いが出て参りまして、核を取り扱った重大事件ですので、かかる事態を
 政府も重く受け止め。是非、事件解決に貴国の協力が、速やかに得られることを期待しております」

カガリはサザーランドの口元からテーブルのコーヒーに視線を移すと俯きがちに答える。
「その人物が、事件に関わった証拠は、おありなんでしょうね」
「もちろんです。この写真をご覧下さい」
言うと同時にサザーランドは数枚の写真を取り出しテーブルに広げた。
「この未確認MSとパイロットの少年の行方を追っていたところ、こちらの公館に入る様子が確認されました」
フリーダムの機体が写った写真と、望遠でやや鮮明さに欠けるものの工廠から出る様子を写したキラと確認できる
写真を示しながら説明を続けた。
「この少年は、所属不明のMSに搭乗しており、我が連合軍MS部隊も多数犠牲になりました」
サザーランドは畳み掛けるように続ける。
「このまま放置しておくのは、国内の安全と平和を守る。我が大西洋連邦としても、貴国代表部たる公館を守る
 義務があります。是非引渡しをお願いします」
185 ◆hO5UpTpm0s :2007/04/05(木) 22:26:22 ID:???
カガリは、サザーランドの熱弁を聞き終わると静かに切り返す。
「残念ですが、治外法権です。ご心配はごもっともですし、貴国の安全に対してオーブは協力を惜しみませんが
 残念ながら該当人物はここにはおりません。もし居たとしても敷地内の出来事は、こちらで厳重に警備してお
 りますからご心配には及びません」
当然の反応と気にもしない様子でサザーランドは食い下がる。
「ですが、安全保障は接受国である北大西洋連邦にあります。是非にも引渡しを」
「サザーランドさん、判っております……どこかのテレビドラマのように、わが国の領土だと訴えているわけでは
 ありません。しかし、敷地内はウィーン条約で保障されているように不可侵権の範囲内です」
食い下がるサザーランドに対し、カガリも引き下がらずに返す。
「それに、もしわが国にそのような人物が居たとしても、修正第4条 (フォース・アンドメント、米国の憲法。
 権利条項を規定した修正十か条のうちの第4条。捜査に対する個人の権利を規定している) が担保されない
 ようでは何人たりともオーブの人間を引き渡せません」

条文を盾に食い下がれ、サザーランドは話題を移した。
「いや、そこまでおっしゃるのなら残念です。大西洋連邦ではオーブ出身者の犯罪の多さに苦慮しておりまして」
この物言いに、これまで横で黙って聞いていたキサカが思わず口を挟む。
「サザーランドさん。今のお言葉は、わが国に対する侮辱です」
「これは失礼、言葉が過ぎたようです」
キサカを片手を挙げて制止を促しつつ、カガリが戯れの代償とばかりに返す。
「期待に添えなくて申し訳ありませんが、オーブには窃盗を働くようなものは一人も居りません」
カガリは冷め始めたコーヒーを一口のみ、間を整えると続ける。
「小耳に挟んだ話ですが、オーブのオレンジの種を植えたところ、北米の気候風土が合わないのでしょうか。全て
 枳殻(カラタチ)に育ってしまったそうです。オーブで犯罪を犯さなかった者も、北大西洋連邦に入ると順法精
 神が損なわれるようです」

サザーランドはカガリの言い様に、外交ルートでの引渡しを断念し、非礼を丁重に謝罪すると帰って行った。
186 ◆hO5UpTpm0s :2007/04/05(木) 22:30:49 ID:???

 オーブ本国では、カガリの父であるウズミと叔父のホムラが主になり、NJ・キャンセラーの報告を受けて対応
を巡り検討を重ねていた。特別に編成されたNJ・キャンセラー調査委員会の委員たちの報告を聞きながら、ウズ
ミは報告書を目で追い要点を問いただす。
「NJ・キャンセラーは、オーブの資源外交の切り札となる存在だ、実用までにどれぐらいかかる」
「電力用の軽水炉の運転を目標に、試験段階に入るまで概ね2ヶ月と見ております。実用炉への完全復旧までには
 1年はかかるかと」
「1年か……少しでも短期間で解析と実用化を終えるように励んでくれ、エネルギー問題で死者が増えるのを防が
 ねばならん」
ウズミは担当者を鼓舞するように言うと、調査委員会の解散を促し残ったホムラに向き直り詳細をつめる。
まずホムラが決定した日程を話す。
「大西洋連邦とは概ね話がついている」
 ホムラは、大西洋連合と歩調を合わせて行ってきた外交政策をウズミに説明する。GAT−X105ストライク
を、アクタイオン・インダストリー社を通じノックダウン方式で大西洋連邦管轄の軍に供給。NJ・キャンセラー
相互協定で、合意が形成されていることを日程を交えて説明し、ユーラシア連邦、大洋州連合、アフリカ共同体と
もNJ・キャンセラー技術貸与での政治決着がつきつつあるのを告げた。
 ウズミはホムラの説明を聞き終わると、視線をホムラからはずして天井を見上げながら話す。
「内々で提示されたフリーダムの費用負担ぐらいは相当な対価とするか」


 ひとまず順調な滑り出しに、ウズミ、ホムラともに安堵の表情を浮かべ、互いに深く腰をかけなおす。
ウズミは、NJキャンセラーをもたらしたカガリを思い出し、つい口ずさむ。
「瓜食めば 子ども思ほゆ 栗食めば まして偲はゆ……」
ホムラはウズミの言葉に気付き、後の一説をつなぐ。
「……何処より 来たりしものそ 眼交に もとな懸りて 安眠し寝さぬ。……カガリが心配で安眠できないか」
「昔からお前には隠し事は出来なかったな、カガリにキラ君とのことを話しておくべきだったかなと……考え出
 すと、どうして良いか判らなくて」
「兄さん。二人が出会ってしまった以上。いずれは、話さなければいけないことだ」
ホムラは居住まいをただし、自分の考えを率直に話す。
「今がその時期だろう、カガリなら必ず解ってくれる。兄さんの愛娘だろう」
「簡単に言ってくれるな……だが、ありがとう決心が付いたよ。」
「カガリは、私の姪でもあるからね。大丈夫さ」
187 ◆hO5UpTpm0s :2007/04/05(木) 22:34:44 ID:???
 ウズミは、早朝の6時ごろに目を覚ますと、意を決して電話の受話器をもどかしげに取り、番号をダイヤルする。
オーブは早朝だが、カガリがいる北米は時差で昨日の夜の10時ごろになる。受話器から呼び出し音が鳴り始め
るが、ウズミにはこのときの呼び出し音ほど、緊張を煽るように聞こえたことは無かっただろう。
「はい、カガリです」
「カガリか、今回の働きは見事だった。そちらの仕事が終わり次第、本国に帰ってきてくれ」
「……父上。用件があるのならおっしゃってください。いつもの父上らしくないですよ」
「いや、用件というほどのものではないんだ、時にキラ君は息災かね」
「キラ・ヤマトなら無事に保護しております。もともとオーブ・ヘリオポリスの市民でもありますし、丁重に扱
 ってますよ」
「あ、いや、それなら、いいんだ」
「まさか、私とキラ・ヤマトのことを心配なされているのなら大丈夫です。彼との関係は氷雪の志操ですから」
「そうか、それなら……なんでも……ないんだが。早く帰ってきてくれ。では」
 ウズミは結局、肝心なことを切り出せずに電話を終えてしまい、受話器を置いた手を長らく見つめ頭を抱えた。



 カガリは切れた電話を置きながら、父であるウズミの様子がいつもと違うことを、訝しく思い首をかしげて
つらつらと考える。
 父上らしからぬ電話だったが、キラとの関係を疑ったにしては不自然すぎるけど……まさかね。
 恋愛関係を心配したのではないのなら、生き別れの兄弟姉妹ってことは……ありえないが、別に検査したわけ
でもない。父上の隠し子かなにか……どっちが……もしかして私がか……キラか……ありえないと言い切れない
ところが……ありえない。
 よくよく考えれば。……思い当たる節もある。私には、幼少のころの写真がない……子煩悩でなくても、親な
ら1枚や2枚あってもいいはず……なにより、キラが血族なら長子継承・男子優先を慣わしとしてきたアスハ家
にとっては跡取りとしても問題ない。ひいては私の……いやいやオーブのためにも。
 ここは、ひとつ藪を突いてみるか……その前に証拠が必要だな。
188 ◆hO5UpTpm0s :2007/04/05(木) 22:38:25 ID:???

 それから、2日ほどはカガリとコープマンは共に、キラとフリーダムを地球連合軍に正式編入するべく精力的に
動き、ハルバートン提督の人脈も功を奏し3日を経ずして正式な書類を整い終えた。
 
 カガリは書類をそろえ終えると、オーブのセイフハウスのひとつであるキラの保護先のコテージに向かい。洋装に
設えた年代物のソファーセットにキラと向かい合って座り用件を告げる。
「キラ、正式な地球連合軍。アークエンジェル所属の部隊および階級を証明する書類だ」
テーブルに書類を広げキラの方に提示する。
「アークエンジェルに戻って再び戦うのもよし、書類を破棄して君の好きに戦うのも自由だ。フリーダム置いていっ
 てもらうが」
「カガリ、ボクは間違っているんだろうか」
木蘭色の瞳を真っ直ぐに向け、真摯な表情で問いかけるキラに対し、カガリも真っ直ぐに見つめて返す。

「キラ、君が迷う気持ちもわかる。フリーダムを使いこなしアークエンジェルを守れるのは君しか居ない。君は君の
 出来ることをやればいい」
「ボクは、誰も傷つけることなく終わらせたい」
「本当は戦いをするべき人、ではないのかもしれないなキラ。戦いをするには優しすぎ純粋すぎる」
「それでも、ボクは傷つけたくはない、でも多くの人を守るためになら」
カガリはゆっくりと席を立ち、部屋の大きな窓を開け放った。

「アークエンジェルに戻って君の信じる道を進むといい、君の仲間も離艦せずに帰りを待ってくれている」
部屋の中に外からの風が入り、ゆっくりと繊細なレースのカーテンが持ち上げる。風に誘われるようにキラも窓際
にゆっくりと歩み寄る。

「もしキラが望むなら、オーブにいる両親と暮らせるように図ろう。南海での凡そのことは聞いている。なんなら
 オーブで私の仕事を手伝ってくれ。いやそばにいてくれるだけで……も……」
頬を染めながらカガリがキラの胸元を見つめながら話す。
「いや、カガリ。ボクはアークエンジェルに戻る。この戦いをボクの闘いを終わらせるためにも」
キラは、カガリの鳶色の瞳に溢れる涙を、そっとぬぐうとやさしく抱きしめた。
「ボクの力で、もうこの涙を流すことの無いようにしないとね」
189 ◆hO5UpTpm0s :2007/04/05(木) 22:46:00 ID:???

 プラントでは、新型MS強奪の報告を受けたパトリックが、執務室の机を叩き声を荒げていた。
「新型MSがこうもたやすく持ち出されるとは、警備体制と軍の管理体制を見直すよう即刻手配するように」
 重要機密の漏洩は、かかる事態の深刻さから言えばパトリックの怒りは当然ではあったが、あまりの議長の逆鱗
に触れた軍の担当者は、明らかに顔色を変えたまま執務室を後にした。

ユーリが、怒りの醒めぬ様子で執務室を歩き回るパトリックに話しかける。
「パトリック、逮捕者83名、死傷者21名、こちらの被害は死傷者11名。予想以上の成果じゃないか」
「ああまで易々と機体の奪取を許すと思わなかったが、たかだか1機のMS高くはついたが止む終えまい」
「……シーゲルには気の毒なことをしたな」
「プラントに巣食う、地球連合のエージェントを一網打尽にするためだ」
パトリックは掃き捨てるように言うと、苦悩の表情をにじませ話を続けた。
「シーゲル・クライン。私が唯一プラントの命運を託すに足ると信じる友を逃したのだ、連合に疑いや断る理由の
 無いようにしてな、全てはプラントの運命を紡ぐ種を残すために」

 外の騒ぎに気付いたようにパトリックは窓際に歩み寄り、大通りを整然と行進する、反ブルーコスモスのデモを
見つめつぶやく。
「議会証言が、世論を動かしたと見える」
「今はブルーコスモスだが、反戦デモにいつ何時変わるか分からんぞ」
ユーリの言葉を受けて、パトリックはこともなげに言い放つ。
「それも、また善しとするさ」
パトリックの発言を受けたユーリは、思い出した事柄を告げる。
「ラクス・クラインの処遇はどうする。彼女の歌声が兵の士気を高めているが、反戦に利用され始めている」
パトリックは窓際から離れ、執務を取る椅子に戻り胸の内を晒すように話す。
「いずれにせよ粗末には扱えん、丁重に扱うように厳命してくれ」
「……」
「快く了承してくれたが……、私は友人を一人失った。友の娘は守らねばならん」
パトリックは成り行きとはいえ、袂を分かったシーゲルを思いやっていた。
190 ◆hO5UpTpm0s :2007/04/05(木) 22:55:26 ID:vXQLFlB9
│・ω・`)時間掛けたわりに……、自分的にはいっぱいいっぱいです。
│・ω・`)練りまくり。今回投下分は下書きした2話分が一まとめになりました。
│・ω・`)また、書き貯めに入ります。
191 ◆hO5UpTpm0s :2007/04/14(土) 11:50:13 ID:???
ほしゅ
192通常の名無しさんの3倍:2007/04/24(火) 13:42:13 ID:+gd5wVz7
ほす
193 ◆hO5UpTpm0s :2007/04/29(日) 23:10:45 ID:???
ほしゅ。eonet書込み規制であせった
194通常の名無しさんの3倍:2007/05/10(木) 14:25:12 ID:???
規制解除してくれ><
195通常の名無しさんの3倍:2007/05/12(土) 02:39:46 ID:t1Z5IWyi
196 ◆hO5UpTpm0s :2007/05/14(月) 13:47:10 ID:???
23、崩壊の予兆

 裁判所の階段を、人混みを避けながら急いで駆け下りる少壮の弁護士の姿があった。
 彼は通りに面した車の後部座席に体を押し込み、同じく後部座席に座る先客の執行官に手短
に挨拶を済ませると運転席のレドニル・キサカに車を出すように促す。
 歳若いが精悍な印象を与える弁護士は、後部座席で裁判所からの書類を整理しながら運転す
るレドニル・キサカに語りかける。
「Mr・キサカ、これも片付けて3連勝と行きたいですね」
「……こちらも、そう願っております」

 同じく、後部座先に座る老練な雰囲気を加味す、執行官が釘を刺すように告げる。
「船舶が出向していないことが絶対条件です。お忘れなき用に願いますな」
執行官の言葉を受けてキサカが答える。
「わかっていますよ先生。港湾代理店によると出港準備を始めたらしいんです。ですから、こ
 うして急いでいるんです」
キサカはアクセル踏み込み、目的の貨物船が係留されている埠頭へと車を急がせた。

 キサカたち一行は、今回で3度目となる船舶の差し押さえに向っていた。
 ブルーコスモスの盟主アズラエルを追い詰めるため、彼の企業の積荷を押さえるために、船
積みした貨物船が補給した燃料の代金債権を譲り受け、裁判所から船舶の先取特権の命令を引
き出す手法を駆使していた。
「それにしても先生。船舶の先取特権は思ったより効力がありますね」
猛スピードで走る車を操りながら、キサカは弁護士に話しかける。
「普通は造船所や銀行などに債権や担保権が設定されています……」
弁護士は、これで通算3度目の問いかけだぞとばかりに、視線をキサカに走らせたが得意分野
の解説に幾分滑らかに話し出し先を続けた。
「……しかし、船舶の先取特権は抵当権に優先し……そして、船舶油代金は先取特権を有する
 と定められている」
弁護士は執行官に振り向き、重要な点を告げる。
「船主は傭船に出しただけでも、つまり誰が所有者でも関係ない……と」
197 ◆hO5UpTpm0s :2007/05/14(月) 13:49:20 ID:???
 キサカは、埠頭の隅に出航を待つ、赤茶色の貨物船を見つけると思わず叫ぶ。
「あれだ!!」
15000tクラスの貨物船が岸壁のようにそびえる中、キサカ達は車を飛び降り、港湾の事
務所に駆け込むと、発航の有無を港長に問いただしあわてて車に戻ってくる。
「港長によると、まだ届けは出ていない―― 執行官、発航の条件は」
キサカは執行官に問いかけると、うなずきながら中年の執行官は答える。
「そう、ひとつは積荷の準備が終わっていること……船員が乗船し終えていること……そして
 届けが出ていることですかな」
執行官が条件を列挙し終えると、キサカが念を押すように告げる。
「……間に合ったと云う事ですね先生」
キサカの問いかけに弁護士と執行官は、少し弾んだ様子で頷きあう。

「タラップと言う奴は、――いやなものですな」
キサカの前を行く弁護士は、なれない急角度の階段を上りながら、つい愚痴がでる。
「先生。倒れないで下さいよ」
弁護士を励ましながら、キサカたち3人はタラップを上りきり、船長室を目指してデッキを進
む。
 そして、船長室のドアを恭しく開き、初老の船長が室内にいるのを確認すると、執行官が身
分を示して、やや緊張した声で宣言する。
「本船は差し押さえられました」
 海の男がもつであろう、威厳をそなえた船長が悔しそうに差し出す国籍証書を受け取り。キ
サカは胸のうちで”スマナイ”とつぶやきながら執行手続きを見守る。



 オーブ本国では、カガリのデスクに一通の報告書が届けられていた。
「これが、コテージで集めたキラの毛髪……執務室から失敬した父上の毛髪」
 カガリは、サンプルと報告書を眺めながらページをめくりながら読み進めていく。
「……!! キラと私が兄妹。父上とは血縁関係が認められない」
――なるほど、父上の狼狽振りも説明がつく。

 カガリは、考えをめぐらせながらデスクの椅子に深く架け直すと、ちょうど机上の電話が鳴
り反射的に受話器を素早く取る。
「カガリか、ブルーコスモスの解体を画策しているようだが」
電話の向こうからでも、ウズミの貫禄が伝わってくるような声が受話器から室内に漏れる。
「わかっております。相手は巨大ですから穏便に進めております」
「ムルタ・アズラエルは役に立つ、――この意味がわかるな」
「はい、ご心配なく心得ております」
 カガリは、ウズミからの電話を終えると、少し疲れた表所を浮かべ。
 椅子から立ち上がりつつ、窓から差し込む日差しに眼を細めながら、ため息を一つつくと局
面を詰める決心をつけ、攻め手を再考するように考える。
 父上も、あいかわらず喰えないお人だ。父上の計算ではあの手の人間は御しやすく、組み安
いと見て自分の手駒として使う気でいるようだが……。
「いよいよ将を射るとするか」
 カガリは、決意を固めると渡航する準備を始めた。
198 ◆hO5UpTpm0s :2007/05/14(月) 14:09:13 ID:???
商法842条と849条、知っていても突っ込まないようにww
199 ◆hO5UpTpm0s :2007/05/14(月) 18:26:07 ID:???
24、青い地球の吐息

 ブルーコスモスの盟主であるアズラエルは、カガリと共に大西洋連邦・大統領と三人で昼食
会を催していた。

 いつもとは違う、桜花紅色のシルクのドレスとロングの黒髪のウィッグでドレスアップした
カガリは、その場にいた者からは一層魅力的に映った、ひとりムルタ・アズラエル氏を除いて。

 食前酒の刺激に食欲をかきたてられ、赤のブルゴーニュの気品あふれる芳香が、鼻腔を刺激
し舌を潤しながら、咽から胃になめらかに滑り幸せな至福の酔いを約束するはずであった。
 しかし、アズラエルは昼食会で饗された、極上のシャリアピン・ステーキを睨みつけると、一
週間前に起こった屈辱的な出来事を思い出していた。

――全ての誤算は、この小娘が尋ねて来たときから訪れたのだ。

 いや、プラントがブルーコスモスに対する。ネガティブキャンペーンを行ってからかもしれ
ないが、この娘カガリ・ユラ・アスハが来てからだ。
 そう……この鳶色の燃える様な瞳と金髪の儒子……いや今は黒髪の小娘に。
200 ◆hO5UpTpm0s :2007/05/14(月) 18:27:24 ID:???

 一週間前、アズラエルのロンドンの私邸にカガリが訪れた。
アズラエルは、カガリの訪問に忙しさを忘れるのと反比例するように、先の戦闘でのオーブ艦
隊が取った出来事を思い出し不満をみなぎらせた。
 豪華な応接室で応対したアズラエルに、カガリが平然と近づいてくる。
「アズラエル代表ですね、お噂はかねがね窺っております」
 カガリは、にこやかに微笑み屈託の無い笑顔で握手を交わしただけでなく、抱擁を交わす熱
烈な歓迎振りに、切先を逸らされたアズラエルは少し戸惑った。
「アスハさん、とお呼びして宜しいでしょうかな。今日はどんなご用件で」
「カガリとお呼びください」
 豪奢なソファーに腰を下ろした二人は、運ばれた紅茶に手をつけるまもなく、にこやかに微
笑みながらカガリは一通の書類をテーブルに差し出す。
「アズラエルさん、単刀直入に用件を申し上げますとブルーコスモスを解体してもらいたく参
 りました」
「なっ……なにを」

 アズラエルは、望外の要求に驚いた様子を隠さず、思わず大きな声で答える。
 年端も行かぬ少女に面と向かって、尊大な要求をされるとは思いもしなかったが、気を取り
直しスグに引き取ってもらおうと考えを変える。
「なにを言い出すかと思えばカガリさん、ココをどこだと、いえ私を誰だとお思いですか」
「なに、なんでもありません」
カガリはアズラエルの怒りを素知らぬ様子で話を続ける。
「そろそろ潮時でしょうか、むしろ発展解消させることで事実上の盟主であり続けることも可
 能です。私共も協力を惜しみませんが条件があります。」
「ふんっ、条件とは??」
鼻で笑いつつも、アズラエルはプラントのネガティブキャンペーンで、悪いイメージを持たれ
幾つかのビジネスでのトラブルも目立ち始めたこともあり、何か手を打ちたかったが発展的解
消までは思い浮かばない、せいぜいカンバンを架け替えようかと思っていた矢先であった。
201 ◆hO5UpTpm0s :2007/05/14(月) 18:29:07 ID:???

アズラエルの内心の逡巡にも構わず、カガリは核心を告げる。
「リストにある地球連合軍の将校を、予備役に戻すことを了承していただきたい」
カガリは、テーブルの書類を指し示し続ける。
「了承いただければ、来週マルセイユで大西洋連邦大統領と一緒に会談していただく、それだ
 けで結構です」

――それだけで結構です。だと……

 何年かかって連合軍にコネクションを作り、議会工作のためのロビー活動を行ったと思って
いるのか。
 そんなことをすれば、損失は計り知れないものがある。
 そろそろ、我慢も限界に近いアズラエルの内にこみ上げる憤怒を、カガリは平然と続ける。
「迷っておいでのようですね、当然です」
短く告げた後、カバンから新たな書類を取り出しアズラエルの前にすべらせる。
「ではこうしましょう、このプランを受け入れていただけるなら、貴方の経営している会社の
 悩みは全て取り除かれる」
 
 アズラエルは、カガリの言葉とともに出された書類を取り上げて、食入るように何度も読み
返す。
「ある会社の株を組合が収得しましたが、穏便に株の買い戻しに応じるでしょう」
 悪魔のように囁きかけるカガリを、アズラエルは改めて簡単に追い払えるような相手ではな
いことを強く思う。
「それと、今貴方のプライベート・ジャンボに乗っている貨物については一切知らなかった事
 にしましょう。」
 カガリは微笑みながら一方的に言い終えると、再びカバンから優雅な動きで書類を取り出し
仮譲渡契約書とジャンボ機内を撮影した写真をすべらせる。

 アズラエルは写真を素早く取り上げると、最近の自社を悩ます真の元凶が目の前にいる人物
である事を思い知らされ、ジャンボ、貨物、誰も知るはずのない秘密を知っていることに激し
く動揺した。
202 ◆hO5UpTpm0s :2007/05/14(月) 18:30:43 ID:???

――知るはずが無い、細心の注意を払ってきたのに。

 アズラエルは、平静を装いながら考えをめぐらせるが妙案は浮かばない。
「な・な・なにを言い出すかと思えば……嫌だと言えば」
「それも、貴方の自由ですが、お互い厄介なことになります訴訟は手間がかかりますので」
 少し大袈裟に両手を広げ、膝頭で組み合わせたカガリを見て、ついにアズラエルの苛立ちは
頂点に達する。
「カガリ、私には連邦の外交官としての特権もある。ただの言いがかりなら国際問題になりま
 すよ」
肩を少し弾ませながらアズラエルは言い切った。しかしカガリも表情一つ変えずに言葉を返す。
「ならば、ご自由ですが、外為違反はともかくワシントン条約違反の疑いで、機内を捜索する
 手はずは整っております」
カガリはアズラエルの注意を引くように、携帯電話を取り出し話を続ける。
「私の合図で、いつでも機内を捜索できます。ワシントン条約にはあらゆる外交官特権は通用
 しないことはご存知のはず」
アズラエルに見えるように携帯電話の電話番号を入力しながら続ける。
「大量の現金・金塊は結構ですが、もし妙齢の金髪の女性が出てきたらさぞ、お立場が悪いこ
 とになるでしょうね」
見えるようにカガリが入力した電話番号に、アズラエルは顔色を変えた。
「Mr.アズラエル。狭い部屋での暮らしは大変ですよ」
「な……。なにを……」
アズラエルは、目の前にいる少女が、悪魔のイメージと重なり青ざめたまま押し黙る。
「金髪の趣味は結構ですが、行き過ぎはいけませんよ。……私も金髪だから今度は黒髪で窺う
 としましょう」
 
 顔色を替えたアズラエルを、終始素知らぬ風に一方的に用件を告げた形のカガリは、ソファ
ーから立ち上がり、念を押すように告げる。
「お返事は30分以内でお願いします。では」
カガリは恭しく礼儀を正し建物を後にする。
203 ◆hO5UpTpm0s :2007/05/14(月) 18:31:35 ID:???


 カガリはアズラエルの私邸から、裏口に回されたリムジンに人目を避けるように乗り込む。
後席に座ったキサカが、私邸の様子を傍受しながら見守っていた。
「キサカ、アズラエルが私邸から出るまでに電話が傍受できなければSIS(英国:情報局秘密
 情報部、旧称MI6:軍事情報部第6課)にも連絡してやれ」
「ハッ、SISが乗ってきますかね」
「大丈夫だ、アズラエルはマネーロンダリングにも関与しているし、この間のザフト侵攻でS
 ISはロンドン官邸に結果的にミスリードをした、汚名返上の良い機会になる」




 一週間前の屈辱的な出来事を思い出しながら、アズラエルにとっては長く果てしなく感じら
れた昼食会を終え、元来の育ちの良さから公邸内の庭をカガリをエスコートしながら歩き自虐
気味に話す。
「これで、宜しいんですね」
「ありがとうございます。これで貴方も心置きなくビジネスに専念できますよ」
 アズラエルは、この小娘の鳶色の瞳に見つめられると、アレ以来なぜか苦手意識が先に出て
ペースが乱されるのを痛切に感じながら、カガリをエスコートしていた。
204 ◆hO5UpTpm0s :2007/05/14(月) 18:32:24 ID:VzVrZKZM
 庭の中央に差し掛かったところで、カガリが微笑みながらアズラエルに話しかける。
「アズラエル代表、もう一つお願いがあるのですが……よろしいですか?」
 上目遣いで、ものをねだる様子のカガリをみて、アズラエルは悪魔には敵わないと悟り答え
る。
「なんでもどうぞ、オーブの姫」
「では、お言葉に甘えて、貴方が連合軍で行っている試験MSとパイロットを早急に1個中隊
 が編成できるように増強してください」
 アズラエルは目を見開き、長年の研究の援助が実を結びつつあった試作機と強化パイロット
の研究を奪われるような悪寒に襲われながらも、反論するように告げる。
「早急といっても……簡単には出来ませんよ」
「予算なら大丈夫です。早急に一桁は増やしてください。どんな手を使っても構いません」
 微笑みながら話すカガリを見て、先日経験した悪魔と会話しているようなデジャブに襲われ
る。
 また、この小娘は法外な要求を平然と、先日は複数の組合から自社株を買い叩かれ空売りを
仕掛けられ、最後は足元を見られて法外な値段で契約書にサインさせられた。
 あのときの利益からすれば、予算ぐらいは出るだろう。
 しかし、どんな手といっても、直接手を下すのは私だから無理は言わないでもらいたいもの
だが、MSはともかく強化パイロットは、特にオルガなどあいつ等は、私でさえも見下した態
度で命令など素直に聞きやしないのに……。

 アズラエルは中庭に咲き乱れる花々の美しさと、今自身がおかれている立場に奇妙な感じが
した。
 戦禍の手が伸びているといっても、ここはまだザフト軍の脅威からは程遠い平和と静寂に充
ちている。そして行き届いた熟練の庭師たちの手による美しい庭園には、花々が咲き乱れまさ
しく桃源郷を現出させているといっても間違いではないだろう。
 しかし選りにもよって、美しい花々に勝るとも劣らない。
 聡明で美しい女性をエスコートしているというのに。あにはからず、この美しい花には猛毒
の刺があるとは、なんという悲劇いや喜劇と言わずしてなんというのか。
「連合軍の趨勢は貴方の研究にかかっているのですから」
 カガリは、アズラエルをはにかんだ表情で見つめエスコートされた手を強く握り締める。
 アズラエルはこの時、追い詰められたネズミのように、猫を噛み逆襲することは出来ず、立
ちすくむと直感的にカガリの申し出を受け入れるしかなかった。


 数週間後、連合軍では大幅な配置転換が行われ、多くのブルーコスモス支持者は退役・予備
役に編入一掃された。
 ハルバートンはこの人事において元帥に昇進し統合参謀本部議長を拝命、連合軍指令官を兼
務し位人臣を極めることになる。
205通常の名無しさんの3倍:2007/05/14(月) 20:52:34 ID:???
プラントによるアズラエル銃殺ヘイトマダー?
206 ◆hO5UpTpm0s :2007/05/14(月) 23:42:42 ID:???
変換したイメージとしてはこんな感じなのよね。
特にオープニングの血のバレンタインは、デイアフターの津嘉山氏がいいと思うな

カガリ=進藤尚美 →田中敦子
ナレーション=三石琴乃 →津嘉山正種or小林清。

どんなSSでも森本レオに置き換えれば佳作に思える。
207 ◆hO5UpTpm0s :2007/05/20(日) 18:14:48 ID:???
ちょっと、保守。
208 ◆hO5UpTpm0s :2007/05/29(火) 17:35:09 ID:???
他スレでgjもらって充電完了!!
209通常の名無しさんの3倍:2007/06/07(木) 00:08:11 ID:???
ほしゅ
210通常の名無しさんの3倍
ほしゅ