シンは仮面ライダーになるべきだ 3回目

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1通常の名無しさんの3倍
様々な組織と戦う、孤高のヒーロー、シン・アスカ!
頑張れ、僕らの仮面ライダー!


前スレ:シンは仮面ライダーになるべきだ 2回目
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1144247532/

まとめサイト:31氏
http://www15.atwiki.jp/sinatmaskedrider/
2通常の名無しさんの3倍:2006/07/29(土) 14:00:34 ID:???
>>1
3通常の名無しさんの3倍:2006/07/29(土) 14:03:31 ID:???
まさか3スレ目まで行くとはな!
4通常の名無しさんの3倍:2006/07/29(土) 15:29:19 ID:???
乙ッ!
5ヴァイオレット ◆BNvrzUJgxo :2006/07/29(土) 16:02:47 ID:???
新スレおめでとう、と言っておこう
6通常の名無しさんの3倍:2006/07/30(日) 02:34:44 ID:QJTMzpGU
良スレ
7通常の名無しさんの3倍:2006/07/30(日) 02:35:47 ID:6u+l9CJ/
保守
8通常の名無しさんの3倍:2006/07/30(日) 19:20:06 ID:???
ほしゅ
9通常の名無しさんの3倍:2006/07/31(月) 00:49:50 ID:???
即死回避は何レスまで?
10通常の名無しさんの3倍:2006/07/31(月) 00:58:56 ID:c958BZ3N
捕手
11通常の名無しさんの3倍:2006/07/31(月) 01:31:35 ID:???
ならば保守
121/16:2006/07/31(月) 02:02:10 ID:???
仮面ライダー衝撃(インパルス)

第六話


「なあ、もう諦めたら?」
本日三回目。またも女性に袖にされたヨウランに、ヴィーノは呆れ顔で言った。
今日はバイトがなく、予定も何もなかった。夜更かしをしたヴィーノは今日は昼過ぎまで寝ていようと思ったのだが、突然訪ねてきたヨウランにたたき起こされた。
そしてヴィーノはこの辺で一番大きな駅にまで引っ張り出され、ヨウランのナンパに付き合わされる羽目になった。
今日は土曜日であり、大学以外の学校も既に春休みに入っているので、まだ午前中にもかかわらず、駅前は人で満ち溢れている。
寝不足のヴィーノは人の多さに嫌気がさしていた。それでヨウランに諦めるように促しているのだが、こういうことに限ってヨウランは不屈の精神力を発揮していた。

「あの時はうまくいったんだぜ。きっとまたうまくいくって」
もう二週間は経っただろうか。遊園地で別行動をとったときに、ヨウランとヴィーノの二人は、ちょうど二人連れの女の子をナンパすることに、奇跡的に成功した。
ただそのすぐ後に遊園地が緊急閉鎖されてしまったおかげで、番号の交換をする間もなく別れてしまったが。
「遊園地のときのこと?お前ってああいうのが好みだっけ?」
長い付き合いだ。女の好みくらい知っているが、あのときの相手はヨウランのタイプではなかったはずだ。
「あのなあ、世の中には男と女しかいないんだぜ。それを好みだ歳だって、そんなつまらないことで狭めるなんてもったいないじゃん」
どう応えていいのか分からなかったヴィーノは、適当に生返事し、何気なく駅の方を見た。
ちょうど長距離列車が来たらしく、たくさんの荷物を持った人々が大勢降りてくる。


その中の一人の少女が人の波から弾き出され、押されるようにして壁にもたれかかった。
その小さな体に不釣合いな、大きなボストンバッグを肩にかけている。
少女はひとしきり周りを見て、あまりの人の多さに疲れたかのようにうなだれた。
そして少女は祈るように、消え入りそうな小さな声で呟いた。
「お兄ちゃん……」

132/16:2006/07/31(月) 02:06:24 ID:???

これほど人が多くては、さすがのヨウランも声をかけるどころではない。二人は道路わきで人の流れを見ていた。
少し人の流れが途切れたころ、ヴィーノは駅の壁に寄りかかっている少女の存在に気がついた。
「ん、あの子」
「どうした?可愛い子でも見つけたか?」
「……まあね。ほら」
ヴィーノは、壁際の少女を指差した。
きれいな長い髪、まだまだ幼くあどけない表情、やや寂しげな色をたたえたすみれ色の瞳。
可愛らしい少女が、そこにいた。
「おっ、可愛いじゃん。けどお前、ロリコンか?」
その少女は、せいぜい中学生、下手をすれば小学生だろう。もうすぐ大学生になるヴィーノから見れば、そういわれるのも仕方ない。
「そんなんじゃないよぉ。あの子、親も一緒じゃないみたいだし、少し気になっただけだって」

「そうかね。ま、人の好みに口出すつもりはないけどな。俺はやっぱ大人の……」
ヨウランの眼はあらぬ方向へと泳いでいた。ヴィーノが声をかけても無反応だ。
「お〜い、どうした?」
ヨウランの視線は、目の前を通り過ぎた紺色のスーツの女性に釘付けになった。
おしとやかな印象ながら、ダークブラウンの長い髪をなびかせて歩む姿は凛として決まっている。
見事にヨウラン好みの大人の女性だ。
ヨウランはヴィーノを押しのけて女性に近寄り、声をかけた。
「お姉さん、そこでお茶でも一緒にいかがです?」
ややきざな言い方だが、場慣れしているのかそれなりに決まっている。だが、女性はすげなく断った。
「悪いけど、これから仕事なの」
そして女性はヨウランのことなど完全に無視して歩いていった。

ヴィーノはヨウランの肩に手を置いて言った。
「あはは、残念だった……」
「いや、あんな美人を見れたんだ。今日はついてるぜ!」
気合十分、ヨウランは喜び勇んで再び人ごみに突入していった。
落ち込んでいるかと思いきや、ヨウランはむしろ喜んでいた。無論振られたのはショックに違いないはずだが、慣れているのだろう。活き活きとしている。
ヴィーノは感心するやら呆れるやらで、一気に萎えた。もう付き合う必要もないだろう。


143/16:2006/07/31(月) 02:08:56 ID:???

ヴィーノはせっかく駅前にまで来たんだから電気街にでも寄って行こうと思ったが、
さっきの少女がまだ壁際にいるのが少し気になり、思い切って声をかけた。
「ねえ、君。どうしたの」
その少女はヴィーノが声をかけると、びくっと体を震わせた。すみれ色の瞳が、怯えているかのようにヴィーノの顔を見上げている。
少女の余りの怯え方に驚いたが、ヴィーノはその驚きを顔に出さないようにして務めて優しく言った。
「ちょ、ちょっと、そんなに怖がらなくても。俺、別に怪しいもんじゃないよ。君、一人みたいだけどどうしたの?
お父さんとかは?一緒じゃないの?」
すると少女は、顔をうつむけた。
「……いません。お父さんも、お母さんも」
「ご、ごめん!俺、知らなくて……」
その少女は首をかすかに横に振った。気にしていないという意思表示だろう。
話題が途切れる。少女はもともと無口なのか、それとも人見知りが激しいのか、自分からは口を開かない。

「じゃあ、ここには何しに来たの?」
少女は少しの間沈黙していたが、か細い声で言った。
「……マユ、じゃなくて、わたし、お兄ちゃんに会いにきたんです」
「お兄ちゃん?迎えに来てくれるの?」
「ううん。お兄ちゃんには教えてない」
「え、なんで?」
すると、少女は今にも泣き出しそうな顔になった。
「四年くらい……会ってないの。電話しても……出てくれないし。……もしかして、お兄ちゃんに……」
ここまで言って、少女は目に涙を溜めた。泣き出すのをこらえるのが精一杯で、後の言葉は声にはならない。
「嫌われ……たの……かも……ううっ、ひっく」
完全に泣き出してしまった。

154/16:2006/07/31(月) 02:12:23 ID:???

ここまで来たのはいいが、いざ会うのが怖くなり、ずっとここで迷っていたらしい。
それは分かったが、今のヴィーノにとってはそれどころではなかった。
女の子が目の前で泣く。そんな状況の初めてなヴィーノは戸惑い、慌てた。
こんな人ごみの中だ。周りの視線が痛い。何とか少女を泣き止ませようとヴィーノは考えを巡らせた。
「そうだ、お兄さんの住んでいるところは知ってるの?」
少女は黙ってうなずいた。ヴィーノはそれを見もしないで、続けて言った。
「なら、俺も一緒にそこまで行ってあげるよ!そこで会うかどうか考えよ!ね!?」
少女は泣き止み、ゆっくりとヴィーノの顔を見上げた。
そう言われて一瞬喜んだように見えたが、少女は慌てて首を振った。
「そ、そんな。いいんです!そんな迷惑……」
「迷惑なんかじゃないよ。俺も一緒に行ってあげる。だから、もう泣き止んでよ。ねえ!?」
ここでもう一度泣かれては元も子もない。ヴィーノは必死に少女を説得した。
少女が一度断ったのも、ただの遠慮と意地だ。この一押しで、少女はヴィーノの言葉に従った。
「わかりました……、ありがとうございます。ええと……」
二人ともまだ名前を言っていなかった。ただ、少女の名前は分かる。普段の一人称は自分の名前なのか、先程少女は自分のことを名前で表していた。その名前は……。
「あ、俺ヴィーノね。ヴィーノ・デュプレ。マユちゃん、でいい?」
少女、マユは少し笑顔になってうなずいた。


レイの家。そのテーブルには空の皿が並んでいた。
「ごちそうさま」
「悪いな。わざわざ朝食を作ってもらって」
すると、エプロン姿のメイリンが台所から顔を出した。そのエプロンはメイリンがわざわざ自宅から持参してきたものだ。ピンク色で、可愛い刺繍がしてある。
「お礼なんていいよ〜。いつもお世話になってるもん」
今日シンは寝坊し、朝食を作る暇が無かった。
それで、たまたま朝早くに来たメイリンが代わりに朝食をつくってくれた。
シンプル極まりないシンの料理とは違い、メイリンの料理は手が込んでいて、朝食は大分遅くなってしまった。
おかげでいつもと違うものを食べれたのだから、二人とも文句を言うことなどなかったが。

165/16:2006/07/31(月) 02:15:07 ID:???

台所から来たメイリンは、空の皿を集めた。
「後片付けくらいは俺がやるよ」
「いいからいいから。今日は私に任せて。シンもたまにはゆっくりしてよ」
「いや、でも……」
「せっかくメイリンがそう言ってくれているんだ。たまには休め」
「まあ、レイまでそう言うんなら……」
シンは結局居間でニュースを見ていたが、なぜかいまいち落ち着かなかった。

メイリンが片づけを終えた後、三人はいつものように居間でダラダラとしていた。
ふと、シンが今気付いたというように口を開く。
「そういや、ルナ最近見ないな」
「最近といってもここ二、三日だろう。だが、確かにうちに来てないな。何か知っているか?」
気に入っているのか、エプロンのままでテレビを見たメイリンはすぐに言った。
「うん、それがね。お姉ちゃん、最近ずっと図書館にこもってるのよ」
「図書館!?ルナが!」
あまりに似合わない組み合わせに、シンは思わず大声を出した。
「シン、いくらなんでも失礼だ。ルナマリアだって勉強することぐらいあるだろう」
さりげなくレイもなかなか酷いことを言っている。だが本人はここにはいないし、妹のメイリンも全く気にしていない。
「ううん、勉強じゃないみたい。何か調べてるみたいなんだけど、聞いても何も教えてくれないのよ。
その前はなんか上の空みたいな感じだったし。最近、お姉ちゃんが分からなくて」
メイリンはそう言ってため息をついた。

久しぶりに出勤したイザークは、ディアッカと共にアデスに呼ばれていた。
その額には包帯が巻かれている。イザークはこの間の戦闘で重症を負って以来、ずっと入院していた。
まだ治療は終わっていないにもかかわらず、未確認のMSが現れたとの報告を聞いたイザークはいても立ってもいられなくなり、医師の反対を押し切り強引に退院したのだ。

二人は警備部長室の扉を開けた。
「イザーク・ジュール、入ります!」
ディアッカもそれに続く。アデスはにこりともせずに、二人に入るように促した。
「さて、今日二人を呼んだのは他でもない。ZAFT再編のことだ」
「と、言いますと?」
「先日、志願者たちの訓練期間が終了し、ZAFTの新たな隊員を選出した。入りたまえ」
176/16:2006/07/31(月) 02:16:31 ID:???
アデスが声をかけ、奥の方から一人の女性が姿を現した。
紺色のスーツを着た女性だ。ダークブラウンの髪をたなびかせ、イザークたちの前で生真面目に敬礼をした。
「シホ・ハーネンフースです。お久しぶりです、ジュール先輩。いえ、隊長になられたのですね」
イザークたちは、意外な人物の登場に戸惑った。
「ハーネンフース!?」
「おいおい、ZAFTの新メンバーってまさか……」
「はい、本日付でZAFTに配属されました。以後、よろしくお願いします」

シホ・ハーネンフースは、隊員が減少したかつてのZAFTにも補充隊員として配属された。優秀な隊員だったが、ある事件で負傷。
療養中にMS事件は沈静化し、ZAFTは規模が縮小、彼女はそのまま別の部署に回されてしまい、それ以来イザークたちは彼女の消息を知らないままだった。
しかし、ZAFT新隊員募集に彼女が志願していたとはイザークも思わなかった。
驚いたままの二人に、アデスは言った。
「以前、彼女は解析班に所属していた。ZAFTではアナライザーとして活躍してもらう予定だ。
さらに、新装備も配備される。指揮系統も一新された。後に正式な辞令が出されるが、今日付けでZAFTは再編される」

三人はそのまま警備部長室を出た。
「ZAFT再編かよ。いまいちピンとこねえな」
「そんなことはどうでもいい。だが、新隊員というのはお前一人なのか?」
「はい。カリキュラムを完璧にこなせた者が他にいなかったので」
「再編って言っても結局一人増えただけかよ。頼りねえな」
軽率なディアッカの言葉に、シホは眼を吊り上げた。
「あなたはZAFT再編がどれほどのものかご存じないようですね。
私以外の訓練生はそのまま機動隊に配備、有事の際はZAFTの指揮下に入ります。戦力的には問題ありません。
それに警察は奴らが姿を消してからの四年、ずっとMSの解析を行ってきました。その成果を活かした新装備も配備されています。
得体の知れない怪物など、もう頼る必要ありません」
「怪物って、MRのことかよ!」
ディアッカが声を荒げる。以前も今回も、MRに助けられたことは一度や二度ではない。
187/16:2006/07/31(月) 02:19:25 ID:???
だが、シホ負けずに言い返した。彼女は、MSに対して強い憎しみを抱いている。
それは、MRに対しても同様だった。四年経った今でもそれは変わらないらしい。
「ええ。民間人を守るのは、私たち警察です」
「だけどよ!あいつらは……」
「ディアッカ、黙っていろ!ハーネンフース!貴様ももう少し口を慎め!」
イザークに言われ、シホは押し黙った。居心地の悪い沈黙を抱えたまま、三人は新設されたMS対策班室へと向かった。


シンの携帯電話が振動する。着信だ。
メイリンが借りてきた映画に見入っているレイとメイリンの邪魔にならないように、シンはこっそりと部屋を出た。
誰からの着信からかも見ないで、シンは通話ボタンを押す。
「もしもし」
『シン君……』
壮年の男性の声が聞こえる。紛れもなくそれは、シンの恩人のものだった。
「トダカさん!?どうかしたんですか?」
今までトダカの方から連絡していたことはなかった。それが突然連絡してきたのだ。何かあると思うのは、当然のことだ。
『ああ、マユちゃんはいるか?』
「マユ?マユがいるわけ……マユに何かあったんですか!?」
言いづらいのかトダカは沈黙した。少し待ってから、シンはより強く催促した。
「トダカさん!」
『すまない。マユちゃんがそちらに行ったようなのだ』
「え……?どういうことですか!?」
『今朝、テーブルの上に朝食と一緒に書置きがあった。「お兄ちゃんに会いに行く」、そう書かれていた』
「そんな、何でいきなり!?」
前にもマユがシンに会いに来ようとしたことはあった。シンがこちらに引っ越した直後のことだ。
その時にはトダカが説得することで事なきを得たのだが。
それ以来マユはそんな無茶をすることもなく、寂しそうにしながらも大人しくしていた。
それで、油断をしていたというのもあったらしい。
『これは内緒にして欲しいと言われていたのだが、マユちゃんがいないのなら仕方ない。
実は、マユちゃんは君の学校を受験していた』
「俺の学校って、そんな!」
シンの通うアカデミーには、中等部もある。けっしてありえないわけではないが、シンは自分の耳を疑った。
しかし、トダカが言っている以上、それは紛れもない事実に違いない。
198/16:2006/07/31(月) 02:21:23 ID:???
「何で教えてくれなかったんですか!?そんな大事なこと!」
『君が知っていたら、反対しただろう?』
「当たり前ですよ!どうしてマユがこっちに来るんですか!何でそんなこと許したんですか!
それより俺はまだマユと会うわけには……」
俺と会ったら、マユにまた怖い思いをさせてしまうだろう。もう二度と、マユにあんな思いはさせたくない。
シンはそう思い、一人暮らしをする決意を固めた。それなのに、こちらにマユが来ては何の意味もない。

『それくらい、マユちゃんも分かっているよ。だが、それでも会いたがっているんだ。アカデミーを受けると言い出したのも
もちろんあの子だ。
そこまで強く決心しているのに、私が止めるわけにはいかないよ』
「でも、マユはまだ!」
『おそらく、あの子は君が思っているよりはるかに成長しているよ』
「だけど!」
『あの子はもう大丈夫だよ。ひょっとして、君自身が怖いんじゃないのか?』
「そんな、そんなことは……」

シンの声が徐々に小さくなっていく。指摘されるまで考えたことはなかったが、その指摘も正しいものだった。
もちろん、マユのために会わない、という気持ちに偽りはない。だが、それ以上にもう一度マユに拒絶されたら。
そんな恐怖がシンの心に強く根付いていた。
『本当にマユちゃんのためを思うのなら、今何をすべきか分からない君じゃないだろう?』
問いかけるようなトダカの言葉。シンが答えに詰まっているうちに、電話が切られた。
相手のいない携帯電話を手にしたまま、シンは立ち尽くした。
「俺は、どうすれば……」

シンは携帯電話を操作した。妹の声の、留守録メッセージが流れる。
『はい!マユで〜す!でもごめんなさい。今マユはお話できません。後で連絡しますので……』

「レイ、ごめん!俺、ちょっと出かけてくる!」
部屋にいるレイに向かって怒鳴るように言い、返事も聞かずに飛び出した。
バイクにまたがり、ヘルメットをかぶる。
マユ、俺はまだお前と会う決心はつかない。けど、俺はお前に悲しい思いはさせたくない。
そのために、どうすればいいのか分からないけど……俺は!
シンはアクセルをふかし、バイクをスタートさせた。

209/16:2006/07/31(月) 02:23:13 ID:???

「マユちゃんってオーブから来たの?」
「はい。とてもいいところなんですよ」
ヴィーノとマユは会話しながら歩いた。
本当なら電車を使った方が早いのだが、マユが歩きの方がいいと言ったのでヴィーノもそれに付き合って歩いている。
おそらく、兄と会うのを少しでも遠まわしにしたいのだろう。
それでも一時間としないうちに着く。

「偶然だね。俺の友達にもオーブから来た奴がいるよ。高校から入ってきたんだけどさ」
「マユ……わたしのお兄ちゃんもその頃に引っ越したんです。今年、大学一年になるはずなんですけど」
「へえ、偶然。俺の友達もだよ。案外、そいつが君のお兄ちゃんだったりして」
「あはは、まさかそんな」
マユが笑い、ヴィーノも笑った。

はじめはあまり口を開かなかったマユも、打ち解けたのか今は自分から話しかけてくれるようになった。
「でも、本当にごめんなさい。マ……わたしのわがままでこんなに回り道までさせちゃって」
「気にしないでよ。今日は暇すぎて困ってるくらいだったし」
「でも、何でこんなに親切にしてくれるんですか?」
ヴィーノは少し考えた後、こう答えた。
「何ていうのか、その……放っておけなかった?」
「え?」
「いやその、それだけだよ」
単に、マユが困っていたのを見て、気になって声をかけただけだ。後は成り行き上、
放っておくわけにもいかず、付き合っている。
少々年下すぎるとはいえ、可愛い女の子と一緒に歩くのが嫌な男などいるはずが無い。
ちょうど今日は暇だった。ヴィーノは、とことんまで付き合うつもりだった。

「あ、あれなんですか?」
マユが指差したのは、白い大きな建物だ。
「中央図書館だよ。この辺じゃ、一番大きいんじゃないかな」
ヴィーノの説明に、マユは感心したようにうなずいた。

2110/16:2006/07/31(月) 02:26:09 ID:???

中央図書館の規模は、アカデミーの図書館に匹敵する。
無論、学術書などはアカデミーの方が充実しているが、それ以外の分野においては中央図書館のほうに軍配が上がることも多い。
そのためアカデミーの学生でも、わざわざ中央図書館まで調べものに来る者が多い。

「ううん、やっぱり載ってないわね」
赤毛のショートカットをした少女は、新聞紙の山を目の前にしてうなだれた。
「あれだけの事件が載っていないなんて」

各社新聞紙の日付は、ある特定の日に集中している。
すなわち、みんなで遊園地に行き、MSに襲われ、ルナマリアが灰色の仮面ライダーに助けられた日以後、三日以内だ。
あの事件でショックを受けたルナマリアは、その衝撃の抜けてきた最近になってから、やっとMSのことを調べ始めた。
とにかく、何かが起こっているのに何もわからない、というのがルナマリアには我慢がならない。
ならば、と思って調べ始め、ここ2,3日は図書館にこもっていたのだが、ほとんど資料がない。特に、最近のとなると全くだ。
あの遊園地のときなどは、他にも多くの人がMSを目撃したはずだが、どの新聞にも載っていなかった。せいぜい、事件欄の片隅に
『遊具に故障。怪我人はいないが遊園地、緊急閉鎖』と書かれているだけだ。
だが、無いものねだりをしていても仕方ない。
ルナマリアは何とか見つけ出した資料を手に、貸出手続しに行った。

「ハア。今度は、ネットででも調べてみるしかないわね。あれ?」
独り言を呟きながら外に出たルナマリアは、見知った人物の姿を見かけた。
「あれ?ヴィーノじゃない?ヴィーノ!」
重い資料を片手にルナマリアは手を振った。ルナマリアに気付いたヴィーノは、なぜか慌てているようだった。
いぶかしんでいるうちに、ルナマリアはヴィーノの隣にいる少女に気付いた。つい、ルナマリアはからかうような口調で言ってしまった。
2211/16:2006/07/31(月) 02:29:29 ID:???
「あれ、ヴィーノ。随分可愛い子連れてるわね。彼女?」
ヴィーノは慌てて否定し、少女はヴィーノの陰に隠れた。
「そ、そんなんじゃないよ。さっき知り合ったばっかだし、ただ成り行き上一緒にいるだけで……」
「ふうん。で、何ていうの?この子」
「ああ、マユちゃんっていうんだ。お兄ちゃんを探しているんだって」
「へえ、お兄ちゃんね。私、ルナマリアっていうの。よろしくね、マユちゃん」
ルナマリアは腰をかがめ、視点を合わせてマユに声をかけるが、マユはヴィーノの陰に隠れたまま、口を開かない。ただ、
そのきれいな瞳でルナマリアを見つめているだけだ。
「ちょっとぉ、せっかく話しかけてるんだから少しくらい……」
その態度に少しイラついた口調で言うが、ヴィーノが慌ててルナマリアを引っ張った。
マユに聞こえないように、ヴィーノはルナマリアに話しかける。
「ルナ、ちょっと待ってよ!」
「何よ、ヴィーノ。私はこの子と話してるのよ」
「いや、マユちゃんちょっと怖がってるみたいだから、勘弁してやってくれよ」
「怖がってるって何よ!人をお化けか何かみたいに」
「あの子、一人でここまで来てさ。心細いんだよ。だから……」
ヴィーノの言葉を聞いたルナマリアは、あらためてマユを見た。
よく見れば、今にも泣き出しそうな顔をしている。ヴィーノがすぐに駆け寄り、マユに何かを話しかけている。
内容は聞こえないが、泣かないように言っているのは間違いない。

何よ。これじゃ、私が悪者みたいじゃない。
少し罪悪感を感じたルナマリアは無理矢理に笑顔をつくり、手を振って別れを告げた。
「え、えと。じゃあねヴィーノ、マユちゃんも」
ヴィーノは手を振り返したが、マユは軽く会釈しただけだった。
やや気まずいものを残したまま二人と別れたルナマリアは、マユの態度に釈然としないものを感じながらも、
何かが頭の片隅に引っかかっていた。
ヴィーノったらよくあんなに愛想の無い子と一緒にいられるわね。それにしても……
マユって名前、どこかで聞いたような気がするんだけど。

2312/16:2006/07/31(月) 02:33:29 ID:???

人、車でにぎわう駅前に、一台のバイクがたどり着いた。
ヘルメットの奥で、シンは声に出さずに叫んだ。
「マユ、どこにいるんだ!」

オーブからここまで来るには、おそらくこの駅を通るはずだ。
ひょっとしたら、まだこの辺にいるかもしれない。シンはバイクにまたがったまま、マユの姿を探した。いや、探そうとした。
春休みで土曜日なせいか、人や車が多すぎる。とてもじゃないがこの中でたった一人の女の子を探すなど、無理な相談だ。
それでもシンは、路上にバイクを置いてその辺を探し回った。

一通り駅の周囲を歩き回ったが、シンは結局マユの姿を見つけることはできなかった。
もう、ここにはいないのか。
シンはバイクを置いてあるところまで戻り、バイクに腰を下ろしながら考えた。
マユだったらどうするのか。どこへ行くのか。
マユが探しているのは、おそらく俺だ。そうすると、まず俺の家か。
だが、今の家の住所はまだトダカにも教えていない。別に他意はなく、ただ言う機会がなかっただけだが、それでも知らないことに変わりはない。
ならば、今の家に来ることはありえない。
だとすれば……前の家か!
以前に追い出されたあの家。あそこならトダカも知っているのだから、マユも知っている可能性は高い。
シンはバイクにまたがり、ヘルメットをかぶった。バイクをスタートさせようとして、ふとその動きが止まった。
シンの顔が、苦渋の色に染まる。

くそっ!なんでこんなときに!
腹部がうずく。例の奇妙な気配が、シンにMSの存在を伝える。
奴らを放っておいたら、大変なことになる。けど、マユを放っておくわけには……。
シンは一瞬悩んだが、すぐに結論をだした。
アクセルをふかし、気配の指し示す先へと全速力でバイクを向かわせた。
ヘルメットの奥で、シンは静かに、ここにいない妹へと謝った。
ごめん、マユ。でも、あいつらを放っておくわけにはいかないんだ。
これ以上、俺たちみたいな思いは、誰にもさせたくないんだ!

2413/16:2006/07/31(月) 02:36:12 ID:???

『司令部より緊急通信です』
MS対策班室で、新たな机の整理をしていたZAFTの面々は気を引き締めて次に流れるであろう通信を待った。
ZAFTへの緊急通信といえば、それは一つしか考えられない。
『一般市民からの通報です。謎の生物が市民を襲っている模様。MSだと思われます。
至急、ポイント……まで向かってください』
その放送を聞き終えるかどうか、といううちにイザークは部屋を飛び出していた。
ディアッカも慌ててそれに続き、最後にシホが部屋を出て行った。


司令部は、ZAFT新設後初の事件に浮き足立っていた。
司令官タリア・グラディスはともかく、新生ZAFTに実戦経験者はほとんどいない。
「追加報告入りました!MSは複数いる模様!画像来ました!」
「よし、映せ!」
オペレーターのアビー・ウインザーから新たな報告が入った。ややもたつきながらも、前面モニターに映像が映し出される。
「あれは!?」
「あれは……ダガータイプ?……いえ、以前に確認されたコードネーム、ダークダガーLに酷似しています!」
タリアの疑問に、慌ただしく情報データベースを検索した副官、アーサー・トラインが答えた。
「以降、このMSをダガーLと呼称します。アーサー、ZAFTは!?」
「既に出動しました!」
「目標は複数!機動隊の出動も要請しなさい!」
「えええっ!」
「急いで!彼らだけでは荷が重いわ!」
「は、はいいっ!」

タリアの指示に従い、アーサーが上層部へと問い合わせる。そしてアビーは、ZAFTからの問い合わせに必死に答える。
手際は悪いが、それでも司令部としてはそれなりの働きをしている。
タリアは次々と指示を下しつつ、前面のモニターに目を走らせた。
そこには、住人の避難状況をはじめとしたさまざまな情報が映し出されている。

2514/16:2006/07/31(月) 02:38:28 ID:???

新たに配備された装備、ボディアーマーとヘルメットを身につけた三人は、一台のパトカーで現場へと急いだ。
車内では、ディアッカはハンドルを握り、助手席のイザークは司令部へと新たな情報を問いただし、
後部座席のシホが手元の端末でそれを照合している。
「複数!?具体的な数は分からんのか!?」
「ダガーL、以前隊長たちが交戦したものと配色が異なるようですが、能力は未知数です」
そして、シホの端末の情報は司令部にもリンクしている。
これが、新たなZAFTの指令方式だった。

『今、新たな情報が入りました。謎の生物が出現、MSと交戦を開始した模様!
目撃証言からインパルスと思われます!』
「何!?」


現場では、すでにその場に急行していた警官が拳銃でMSに応戦している。
しかし、拳銃程度では傷一つ付けられない。抵抗むなしく、警官達はダガーLに次々に倒されていった。
だが、警官の必死の避難誘導のおかげでこの付近に一般市民はいない。
倒れている警官も多いが、彼らは立派に職務を果たしたといえるだろう。

避難誘導から戻ったこの警官は、既に同僚の半数が倒されているのを目の当たりにした。
彼は、それでもMSに立ち向かった。
「こ、このぉっ!」
警官は目の前に迫ったダガーLへと拳銃を放つが、全てが強固な体表に弾かれ、全く効果がない。
ダガーLは腕を振り上げる。
彼は死を覚悟し、目を瞑った。だが、いつまでたってもその瞬間は訪れない。
恐る恐る目を開けた彼の前にいたのは、ダガーLではなかった。
白と青で塗り分けられた見慣れないバイク、それにまたがるのは、青い色の戦士。
警察内部でも極秘扱いとなっているため、その名を知るものは少ないが、その姿は紛れもなくインパルスのものだった。

シンは警官が無事かどうかを確認すること間もなく、目の前のダガーLと戦闘に入った。
こいつら、随分と数が多い!
ざっと見回した限り、五体はいる。
シンはバイクを駆使し、ダガーLたちを翻弄した。

2615/16:2006/07/31(月) 02:44:18 ID:???

「ええと、ここ?」
住所の書かれたメモと、目の前の子汚い小さなアパートとを見比べて、ヴィーノがマユに確認した。マユもメモを見て、
コクリとうなずく。
「はい。ヴィーノさん、どうもありがとうございました」
丁寧にマユが頭を下げる。その態度に、むしろヴィーノのほうが恐縮した。
「そ、そこまでしなくても……。俺は勝手についてきただけだし」
「そんな。ヴィーノさんがいたからここまで来れたんです。それに、おかげで決心が付きました」
マユの顔は、先ほどまでのおどおどした様子とはまるで別人のようになっていた。固い決意に満ちている。
それでもヴィーノは心配して付いていこうとしたが、マユはそれを断った。
「私、一人でお兄ちゃんに会います。これ以上ヴィーノさんに頼るわけにはいきません」
マユは一人でアパートに入っていった。もう帰ってもよさそうだったが、やはり気になるので、
ヴィーノは近くの公園で待つことにした。


「ハアァ!」
これで、三体目!
目の前のダガーLをインパルスの右拳が貫いた。ダガーLは爆発、四散。
インパルスは次の相手へと向き直る。
まだ敵は多い。
どうやら他の場所にいた奴らも集まってきたらしい。既に三体ものMSを屠ったにもかかわらず、まだ七体は残っている。
くそぉ、こんなところで時間を食ってる場合じゃないってのに!
近くにいたダガーLへと接近し、インパルスは連続して拳を叩き込んだ。
「うおおっ!」
ひるんだダガーLの腹部へと、インパルスは続いて強烈なキックを喰らわせた。ダガーLはたまらず吹き飛ばされ、爆散する。

インパルスの戦い方に恐れをなしたのか、ダガーLはインパルスの周りから一歩退いた。
いや、ダガーLの向こうから、何か巨大な影がゆっくりと近寄ってくる。その大きさは、ゆうにインパルスの三倍はあるだろう。
ダガーLが退いたのも、奴の道をあけるために違いない。
「あ、あいつは……!?」
緑色の体表、巨大な爪、四本の足。その異様な姿は、MSではありえない。
そう、それはMSではなかった。
巨大MA、ザムザザー。
その巨体に圧倒されるように、インパルスはわずかに後ろに下がった。

2716/16:2006/07/31(月) 02:46:49 ID:???

やたらと物が積み上げられた狭い廊下を、マユはおっかなびっくり進んだ。
管理人室で、兄のいる部屋を聞くためだ。

「キャアッ!」
突然横の扉が開き、マユに当たった。体格のいい大学生くらいの男は、マユを一瞥し、珍しそうな顔をした。
「ん、何でこんな子供がいるんだ?」
「あ……あの、その、マユ……お兄ちゃんに会いに……」
その青年は背が高いので、小柄なマユは見上げるかたちとなった。その青年はわざわざ腰をかがめて、
マユと視線を合わせてくれた。
「へ〜、お兄ちゃんね。けど、今はおばちゃんいないぜ」
「……そうですか」
管理人室の方を指差して、青年は言った。マユはそれを聞いて顔を俯けてしまう。
「せっかく、決心してきたのに……」
「ここに住んでる奴なら全員俺が知ってるよ。君のお兄さんの名前は?」
「あ、あの……シン・アスカといいます」
「シン・アスカ……」
青年はその名前を聞いてしばらく考えていたが、やがて思い出したのか口を開いた。
その言葉は、マユの予想だにしていないものだった。

「ああ、シンのことか。前はほら、その部屋に住んでたけど、出て行ったぜ」
その言葉を理解するのに、少し時間がかかった。
「出て……行った……?」
「ああ。もう二週間くらい前にな」
「じゃあ、もうここにはいないんですか?」
「そういうわけだ」
ここまで来たのは、何の意味も無かった……?
体中から力が抜けていく。立っているだけでも辛い。
それでも、一縷の望みをかけてマユは目の前の青年に聞いた。
「あの!どこに引っ越したか分かります!?」
「おばちゃんなら知ってるかもしれねえけどよ。俺は知らねえんだ。わりいな」
手がかりは、完全に途切れてしまった。
マユは、目の前が真っ暗になったように感じた。
……お兄ちゃん。


28衝撃(ry/16:2006/07/31(月) 02:51:18 ID:???
以上で第六話終了です。
新スレが立って本当によかった。

>>1乙です
29通常の名無しさんの3倍:2006/07/31(月) 03:04:08 ID:???
大作乙!
ヴィーノヨウランシホトダカマユといったキャラが出てくるのは嬉しいです
兄弟再会も間近ですかね、シンのマユを危険な目にあわせたくないという思いが
どう影響してくるのか楽しみです
ザムザザー登場で苦戦は間違いなし
助っ人は登場しますかね
ついでにメイリンに萌えた
30通常の名無しさんの3倍:2006/07/31(月) 13:30:42 ID:pw9bYSGk
GJ
31通常の名無しさんの3倍:2006/07/31(月) 20:57:50 ID:???
GJ!!!
ザムザザーまででてきたか。

MAにも略称あるんですよね。
32通常の名無しさんの3倍:2006/08/01(火) 21:52:26 ID:???
保守
33通常の名無しさんの3倍:2006/08/01(火) 22:30:50 ID:???
小泉首相「人生いろいろ。脳糞古川もいろいろ。」

イチロー「ボクが現状に満足せず、努力するのは脳糞古川さんの影響から。」

大沢親分「喝だなこりゃぁ!!! これほどの選手を選ばねぇ脳糞古川協会に喝だ!」

中田英寿「大袋だけじゃなく、小さい袋にも脳糞古川を入れるべき」

三沢光晴「脳糞古川だけはガチ」

ミルコ「私のハイキックをもってしても、脳糞古川にはフェイントでかわされてしまうだろう。」

佐藤藍子「ジュニアの時代からずっと脳糞古川の大ファンでした」

波田陽区「脳糞古川は斬りようがない」

細木数子「アンタたちさぁ、どうすれば地獄行かずに済むか教えたげる。 脳糞古川を信じなさい。」

あびる優「脳糞古川のスケート靴や衣装を盗もうとしたけど、罪悪感があってやめた。」

尾崎豊「脳糞古川が担任だったら、窓ガラスを割ったりバイクを盗んだり、絶対しないよ。」

板垣退助「板垣死すとも、脳糞古川は死せず。」

ジャイアン「俺のものは脳糞古川のもの、お前のものも脳糞古川のもの。」

綾波レイ「わたしが死んでも、脳糞古川がいるもの。」

クワトロ・バジーナ「脳糞古川は脳糞古川だ。それ以上でもそれ以下でもない」

アムロ・レイ「脳糞古川は伊達じゃない!!」

ベジータ「がんばれ脳糞古川。お前がNO.1だ」

岡田武史「外れるのは愛知のキチガイ、脳糞古川!」
34通常の名無しさんの3倍:2006/08/02(水) 19:30:44 ID:???
hoshu
35通常の名無しさんの3倍:2006/08/03(木) 23:11:37 ID:???
保守
361/16:2006/08/03(木) 23:30:03 ID:???
仮面ライダー衝撃(インパルス)

第七話


Monster Armament、通称MA。
MSよりも早くに出現した生物の総称だ。
その直後により強力な怪物、MSが出現したことであまり注目されてはいないが、MSと同様に人間を襲う。
外見はMSのように人間型をしてはおらず、多種多様な姿、大きさをしている。
MSというコードネームも、もともとはMAとの比較、差別化のために名付けられたものだ。

巨大な爪が振り下ろされる。
何とかかわせたが、その爪はアスファルトを突き破って地面にめり込み、道路の破片が撒き散らされる。
シンは道路に突き刺さった爪を見て息を呑んだ。
こんな威力の攻撃を喰らったら、まず無事ではすまない。

だけど!
幸い、敵の動きはかなり鈍い。爪の攻撃をかわしながら接近するのはそんなに難しくはなかった。
薙ぎ払われた巨大な爪を跳び越え、それを踏み台にしてシンはザムザザーへと跳躍した。
そのまま、ザムザザーの眉間の辺りに正拳を喰らわせた。
しかし、それは硬い体表に撥ね返された。ザムザザーの体表には、傷一つついていない。
「そんな!」
インパルスは自分の拳とザムザザーとを見比べ、もう一度拳を喰らわせる。
やはり効果はない。
むしろ、自分の拳の方がダメージを受けている。
心なしか、ザムザザーがせせら笑っているように見えた。

ザムザザーはわずかに後退してから、一気に突進した。
インパルスは後ろへ跳んで、ダメージを減らすが、この質量差は埋められない。
強烈な突進でそのまま撥ね飛ばされてしまった。
「うわああぁぁっ!」
さらにザムザザーは爪を振り下ろし、インパルスを突き刺そうとする。
372/16:2006/08/03(木) 23:32:37 ID:???
横に転がってかわすものの、破片がインパルスに当たる。
ザムザザーは前進し、もう片方の爪を振りかぶった。そこへ銃撃があり、ザムザザーの動きが一瞬止まる。
「なんなんだ!?」
シンはその隙に腕の力を使って立ち上がり、銃撃の来た方を見た。

MAの威容に、ZAFTの隊員は息を呑んだ。
「あれは!?」
「データにありません!未確認のMS、いえ、MAです!」
イザークの問いかけにシホが答える。運転席に座っていたディアッカはやや遅れて車を降りた。
三人とも新型の対MS用特殊弾を装填したイーゲルシュテルンを携えている。
この新型の弾丸は本来試作品が少数用意されただけのものを、従来の弾丸では新種のMSに全く歯が立たなかった以前の戦闘を踏まえて、イザークが強引に徴収したものだ。
もともと新型銃での使用を前提としたものであったが、専用の銃が間に合わなかったため、イーゲルシュテルンに強引にあわせている。
そのため、何らかの不都合があるかもしれないが、仕方がない。
「おいおい、マジかよ!?」

『機動隊の到着までもう少しかかります。攻撃は後回しにして、今は生存者の救出を優先してください』
ヘルメットに内蔵された通信機から、オペレーター、アビーの声が流れる。
「……くっ、了解!これより生存者の救出に向かう」
確かに今の戦力でまともにやりあっても勝ち目はない。
イザークは不本意ながらも、命令に従いその場を離れた。

ザムザザーが出現してすぐに、ダガーLはちりぢりに散った。ZAFTも生存者救出のためにここを離れている。
この場にいるのはインパルスとザムザザーだけだった。
シンは巨大な爪をかわしつつ、機会を狙っていた。
ザムザザーの爪は、威力こそすさまじいが大振りなため隙が大きく、またザムザザー自体の動きも鈍い。
しかし、ザムザザーの体表はMSとは比較にならないほど堅牢で強靭だ。これを貫くには……。
ザムザザーがその右腕を大きく振りかぶり、そして振り下ろした。
とてつもない破壊力を秘めた一撃が、インパルスに襲い掛かる。

383/16:2006/08/03(木) 23:38:23 ID:???
シンはその攻撃を、思い切り後方に跳んでかわした。
アスファルトの破片を撒き散らしつつ、地面に巨大な爪がめり込む。
今だ!
ザムザザーが爪を引き抜いているその隙に、ベルトの力を右足に集中させた。
シンは右足を引き、腰を落とす。
鈍い動きでザムザザーがやっと爪を引き抜く。と、同時に、シンは跳躍した。
強大なエネルギーをほとばしらせ、シンは右足からザムザザーに突っ込んでいく。

それと同時に、ザムザザーの甲羅が変化、インパルスに正対するように展開された。
「うおおおぉぉっ!」
フォースキックが直撃する寸前、展開された甲羅からエネルギーの壁が発生した。
膨大なエネルギーとエネルギーとがぶつかり合い、衝撃波が周囲一帯を吹き飛ばす。

「なっ!?」
エネルギーの壁に阻まれ、フォースキックはザムザザーの甲羅に届かない。
「くっ、このおぉっ!」
シンは右足にさらなるエネルギーを流し込む。
エネルギーの壁の中にわずかにインパルスの右足がめり込む。

「何だ!今のは!?」
今の激突音を聞きつけ、機動隊が到着したことで生存者の救出を切り上げたイザークたちが戻ってきた。
「あれは……!?」
「凄い……」
壮絶な力比べを目の当たりにした三人は、言葉を失った。

ザムザザーが全身を震わせた。力の均衡が破れる。
「うわああぁぁぁっ!」
エネルギーの斥力にインパルスは吹き飛ばされた。
ザムザザーはわずかに動きを止めていたが、すぐに動き出し、インパルスを捕らえた。
エネルギーの壁とせめぎあっていた影響だろうか。右足が麻痺していて、素早い動きができずに反応が遅れた。
感覚の麻痺したはずの右足に、痛みが走る。
ザムザザーの爪は、インパルスの右足をしっかりと鋏みつけていた。

394/16:2006/08/03(木) 23:41:01 ID:???

「あ、マユちゃん。どうだっ……」
アパートから出てきたマユを出迎えたヴィーノは、マユの表情に愕然とした。
顔をうつむけ、今にも泣き出しそうだ。
「マ、マユちゃん?」
「……ヴィ……ヴィーノさん?う、うえええん!」
ヴィーノの姿を見たマユは、こらえきれなくなったのかついに泣き出してしまった。


足を掴まれ、振り回されるインパルスの身体が青から灰色となる。
右足の痛みはさらにひどくなった。
クローに鋏まれた右足から鈍い音がして、激しい痛みが全身を貫く。
シンの絶叫が、辺りにこだました。
それに反応したかのように、乗り手のいないままマシンスプレンダーが動き出す。
走り出したマシンスプレンダーは無人のままハンドルを切り、ザムザザーの腕に体当たりを仕掛けた。

その衝撃で鋏む力が緩む。その一瞬にインパルスは残された左足でクローに蹴りを入れた。
反動で、右足がクローから引き抜かれ、インパルスは解放される。
だが、それだけだ。インパルスは右足を引きずっており、もはや戦う力は残されていない。
インパルスはマシンスプレンダーにしがみつくようにしてまたがった。
薙ぎ払われたザムザザーのクローをかわしつつ、なんとかインパルスはその場から逃げ出した。


機動隊とともに、ZAFTはダガーLの集団と本格的な戦闘に入っていた。
機動隊はジェラルミンの盾の後から激しい銃撃を加えていたが、一体のダガーLがそこに突っ込んできたことですぐに混戦となってしまった。
混戦となるとうかつな銃撃はできない。
機動隊は特殊警棒を抜き放ち応戦するが、格闘戦でMSに敵うはずがない。数に勝るはずの機動隊は、すぐに劣勢に追い込まれた。

405/16:2006/08/03(木) 23:44:45 ID:???
「チィッ!」
戦闘しつつもその様子を見ていたイザークは舌打ちした。
目の前のダガーLへイーゲルシュテルンを押し付け、引き金を引く。
連射に押され、ダガーLは吹き飛ばされた。
新型弾丸の威力だ。これなら、新種のMSに対しても十分通用するだろう。
「ディアッカ、ハーネンフース!」
イザークの号令で、そのダガーLへと三つの銃口から放たれた新型弾丸が次々と吸い込まれる。
残弾が見る見るうちにゼロに近づく。
たっぷりと新型弾丸の嵐を浴びて、ついにダガーLは動きを止め、爆散した。

「よし!」
「グレイト!やったぜ!」
だが、まだ六体残っている。
イザークは別の個体へと銃口を向け、引き金を引いた。
だが、弾丸は放たれなかった。残弾はまだ残っているはずだ。

「何だと!?」
イザークは何度も引き金を引いたが、やはり弾丸は出てこない。
予期せぬ事態にイザークが戸惑っているうちに、狙いをつけていたダガーLが逆にイアークへと襲い掛かってきた。

「ジュール隊長!」
シホがイーゲルシュテルンを連射し、その個体を退ける。
「ご無事ですね!一体何があったんですか!?」
「イーゲルシュテルンが使えん!どういうことだ!」
イザークはシホに言うのと同時に、通信機で司令部にも問い合わせた。
「そんな……私のも!?」
「くそッ、俺のもだ!」
シホとイザークが口々に言う。弾丸の出ない銃など、ただの鉄屑に等しい。

イザークの通信機、いや、機動隊も含めた全員に通信が入った。
『総員、撤退してください!』
唯一まともにMSと戦えていたZAFTが戦闘能力を失った以上、このまま戦闘を続けていても無駄に犠牲が増えるだけだ。

「くそっ、仕方ない!そいつをよこせ!」
イザークは機動隊から銃を借り、応戦しつつ後へさがった。殿を務めるつもりなのだ。
イザークの意図を察したディアッカとシホも、同じように銃を借りてMSに応戦した。

416/16:2006/08/03(木) 23:48:49 ID:???

後退したZAFTの面々は、司令部まで通された。
司令部に入るが早いか、イザークは凄い剣幕でタリアに噛み付いた。
「なぜ急に銃が使えなくなったんですか!?」
ディアッカとシホが後から押さえるものの、二人の眼はイザークと同じ事を問いかけている。
それも当然だ。命を預けている銃が突然使用不能に陥ってしまうなど、あってはならない。
「もちろんモルゲンレーテ社に問い合わせてみたわ。これがその回答よ」
「ええ、あの弾丸は本来イーゲルシュテルン用ではありませんでした。それを無理に使用したことで銃に予期せぬ負荷がかかり、一時的に使用不能になったものと思われます」
タリアに代わって、レポートを片手に持ったアーサーが説明した。
「それで、改善策はあるのですか!?」
「ちょ、ちょっと待ってください!ええ、無理な連射を避け、加熱を抑えれば……」

「戦闘中に気をつけろってぇ?他に方法はないのかよ?」
「ええと、この問題は根本的な構造に根ざしているものであり、イーゲルシュテルンを使う限り避けられないと……。本社ではこの新型弾丸に対応した銃を試作……」
黙ってアーサーからの報告を聞いていたイザークの拳が震えている。

「ふざけるな!今、必要だというのが分かっているのか!」
ついに我慢の限界を超えたらしい。すさまじい剣幕で、アーサーの襟首を締め上げた。
踏み潰された蛙のような声で、アーサーが呻く。
ディアッカたちは何とかイザークを羽交い絞めにし、アーサーから引き離す。
「落ち着けイザーク!」
「隊長!副官は関係ないでしょう!」
大きく息を吐き、やっと冷静になったらしいイザークはアーサーを解放した。

「まあ、お前が怒るのも分かるけどよ。こんな欠陥品使わされるんじゃな」
ディアッカは自分の愛銃を憎々しげに見つめた。かつては頼りになったこの銃も、今となっては頼りない。
「しかし、これは必要なものです。もちろん、新型を待っている暇などありませんが」
「その通りよ。我々は今の装備でダガーLとザムザザーを殲滅しなければならないわ」
「ザムザザー?」
「あの巨大MAのコードネームよ。つい先ほど、上層部の会議で決まったわ」
シホの疑問に、タリアが答えた。
「では、これよりザムザザー及びダガーLの殲滅作戦会議を始めます」
タリアの指示によるアーサーの操作で、前面モニターに映像が映し出される。

427/16:2006/08/03(木) 23:52:06 ID:???

何とか近くの公園までたどり着いたインパルスの変身はすでに解け、シンの姿に戻ってしまっていた。
シンはバイクから倒れるように降りた。右足を引きずるようにして、水飲み場までたどりつく。
そこでシンは顔中に水を浴びるように、水を飲み続けた。
疲れきった身体に、水分が行き渡る。
水を出しっぱなしにしたまま、シンはベンチまでたどたどしく歩いて行く。
そのまま倒れるようにしてそこに横たわった。
右足の痛みが酷いが、疲労はそれをはるかに上回っている。
シンはすぐに深い眠りへと落ちていった。


「そう、お兄さんが」
「はい……ひっく。引っ越しちゃってて……ひっく、今どこにいるのか……」
泣きじゃくっていたマユがやっと落ち着きを取り戻し、ヴィーノに事情を話した。
「連絡先とかは分からないの?」
「電話番号……教えてくれなかったし……。住所だって……勝手に調べて……ひぐっ」
要するに分からないのか。
どうすればいいのか、ヴィーノは黙っている。
「でも……ひっく、……きっとこれも当然の報いなんです」
マユが突然ポツリと呟いた。涙もやっと止まってきたようだ。
「マユ……お兄ちゃんのこと、ひどく傷つけたんです……それでお兄ちゃんいなくなっちゃって……。
だから……お兄ちゃん。きっと……マユと会いたくないに……決まってます。でも……」
マユは泣き顔のまま、一人で自分の事を話していた。
ヴィーノは何も言えず、マユの独白を聞き続けた。

438/16:2006/08/03(木) 23:55:31 ID:???
「色々と、ありがとうございました」
マユは頭を下げて言った。目に残る涙の跡が痛ましい。
「ごめん。結局お兄さんに会えなかったね」
「いえ、そんなことありません。ヴィーノさんのおかげで、ここまで来れたんです。
本当に、本当にお世話になりました」
マユはまたも深く頭を下げる。ここまでされると、結局兄に会わせることが出来なかった分、ヴィーノのほうが申し訳なくなってきた。
「俺なんて何もしてないよ。ところで……マユちゃんはこれからどうするの?」
「はい。今日はどこかに泊まって明日、オーブに帰ります。もう、こっちには来ないと思いますけど……ヴィーノさんのことは忘れません」
「え?確かこっちの中学に通うんじゃ……」
「はい、合格はしましたけど……。でも、それも結局お兄ちゃんに会うための口実みたいなものだし……」
「なら、今日はまだ時間はあるよね」
せめて、少しだけでもいい思い出を残してもらいたい。ヴィーノはそう思った。
「はい?」
ヴィーノの言葉に、マユは目を丸くした。
「あのさ、もう少し付き合ってくれない?」


大型のモニターに、巨大MAの三面図が映し出され、アーサーによる説明が流れる。
「このザムザザーは動きは鈍いがパワーと装甲はMSと比較にならない。
さらに、甲羅には強力なエネルギーの壁、リフレクターが装備されている。このリフレクターを現在のZAFTには打ち破る方法はない。
しかし、リフレクターの展開前なら何とか勝ち目はある。今回の作戦では、それを主眼とした戦略を展開する」
ここから、タリアが口を挟んだ。
「ザムザザーの殲滅には、この超高圧狙撃ライフルと、この対MS用筋弛緩弾の使用を許可するわ」
アーサーが説明を続ける。
「まず、ザムザザーをこのポイントに追い込み、奴の注意をひきつけ、ザムザザーの後方、この部分に筋肉弛緩弾を撃ちこんでもらう。奴が動きを止めてから、機動隊が高濃度ガス弾で仕留める。
高濃度ガス弾は以前MAの殲滅に使用されたものの成分を濃縮したものだ。効果は十分に見込めるだろう。
ZAFTには、狙撃とザムザザーに対しての囮をしてもらいたい」
その役目は、順当なものだ。狙撃も囮も、MSに対しての経験が豊富なZAFTのメンバーにしか出来ないことであろう。
それにしても、超高圧狙撃ライフルといい、高濃度特殊ガス弾といい、強力な武器、いや、もはや兵器とさえ呼べるような代物だ。そんなものまで使わざるほどを得ないほど強力な相手。そんな相手と戦わねばならない。
新人だらけの新たなZAFTの初陣には、荷が重過ぎる。

449/16:2006/08/03(木) 23:59:52 ID:???
ZAFTの隊員には、優秀な者だけが選抜されている。さらに、個々人が何かに秀でていた。
イザークは近接、白兵戦。シホは解析班に在籍していた経験から、分析を得意としている。そしてディアッカは狙撃の名手だ。
「狙撃手は貴様に任せるぞ」
「任せろって。それよりお前らの方こそ大丈夫なのかよ。新型弾丸が使えねえだろ?」
「ならば、従来のもので戦うだけです」
シホがこともなげに言う。しかし、今日初めて新しいタイプのMSと戦ったシホは、新たなMSの脅威を分かっていない。

ダークダガーLには、従来の弾丸はほとんど効果が無かった。そうでなければ、イザークがあそこまで負傷することはなく、だからこそ新型弾丸を無理やり徴収したのだ。それはかなりの効果を示したが、欠陥品だった。
おそらく、ダガーLもダークダガーLと同様、従来の弾丸は効果が薄いだろう。
新型弾丸なしで、戦えるのか?
イザークたちの背筋を冷たいものが走る。


シンはふと目を覚ました。
「み……水……」
喉が酷い渇きを訴えている。
シンは水飲み場へと全力で駆け込んだ。
またも顔中に浴びるようにして、水を喉に流し込む。体内に水が行き渡り、喉が潤う。
ようやく満足したシンは水を止め、顔を上げる。
そしてようやく気付いた。
自分が、しっかりと両足で大地を踏みしめ、立っている事を。
一旦ベンチに座り、右足に触れてみる。
なんともない。
さっきは何もしていなくても激しい痛みがしていた。折れてこそいなかったものの、骨に異常があったのは確実だろう。
にもかかわらず、今はなんの痛みも、違和感さえも感じない。

これで、また戦える。しかし、シンはそれを素直に喜べなかった。
公園の中央にある時計を見る。ここに辿り着いた時にはみる余裕はなかったが、まだ二時間と経ってはいないだろう。
そんな短時間の間に、こんな重傷が完治している。ありえない。
変身して以来、シンはこの身体が変わっている事を実感してはいたが、それをこれほど強く感じたのは初めてだ。
このまま、人間でなくなる?
シンはその想像を慌てて打ち消し、考えないようにした。

4510/16:2006/08/04(金) 00:03:41 ID:???
そうだ!あいつは!?
全く気配を感じない。
今までの経験からして、シンが気配を感じるときはMSが人を襲ったり、戦ったりと何らかの条件下に限られているようだ。そういったものが何もないときは、MSの存在を感じられない。
まあ、動いていないんなら今は大丈夫か……。
何より気配が感じられない以上シンも動きようがない。
そうだ。今のうちに……。
シンは愛車のもとへと向かっていった。
もう一度戦う前に、やっておきたいことがあった。

ヴィーノはアパートの近くのゲームセンターに来ていた。もちろん、マユも一緒だ。
今まで女の子と縁のない生活を送っていたため、どんなところに連れていけばいいのか分からなかったので、とりあえず近くにあったゲームセンターに入ってみた。
マユはこういうところに来たことがないらしく、始めは戸惑っていたが、今は楽しんでくれている。少しは、気晴らしになっているらしい。
さっきからマユはUFOキャッチャーに熱中している。目の前でヴィーノが簡単にぬいぐるみを取ったのに触発されたようだ。しかし、今までにやったことがないのかものすごく下手だ。見るに見かねてヴィーノはマユに声をかけた。
「俺が取ろうか?」
「私がやります!」
即答する。かなりむきになっている。
結局やることもないので、何気なく外を見たヴィーノは、知り合いの姿を見つけた。
「マユちゃん、俺、ちょっと出てくるね」
「はい!」
クレーンの動きを凝視したまま、マユは答えた。

「お〜い!」
バイクを押していたシンに、後から声をかける。声をかけられた友人は、迷惑そうな顔をしながらも振り返った。
「なんだ。ヴィーノかよ」
「なんだとは何だよ。せっかく声をかけたってのに」
「はいはい。で、ヴィーノはこんなところで何してんだ?」
すると、ヴィーノはやや自慢げな顔をした。
「へへん。俺、今デート中なんだよ」
「あ、そう」
シンは気のない返事で答えた。先ほどから何か落ち着かない様子だ。
「あ、ウソだと思ってんだろ。本当だよ。ほら、あの子」
ヴィーノはゲームセンターのガラス越しに、UFOキャッチャーに熱中している少女を指し示した。
「あの子……!」
シンはその少女を見て、顔色を変えた。

4611/16:2006/08/04(金) 00:06:18 ID:???
「どうだ。すごい可愛い子だろう?」
ヴィーノは、その反応をただ驚いただけだと解釈し、自慢するように言った。

「取れた!」
マユは取り出し口に落ちたぬいぐるみを喜んで手に取った。
「あれ?」
ヴィーノに見せようと店内を見回すが、見当たらない。
どこかいくって言ってたけど、どこに行ったんだろ?
そして、店の外、ガラスの向こうに誰かと話しているヴィーノを見つけた。
ヴィーノの話している相手の姿、顔を見て、マユは思わず手に持ったぬいぐるみを取り落とした。

あまりにも意外なヴィーノのデート相手に驚き呆然としていたシンはガラス越しに、マユの顔色が変化するのを見た。
シンに気付いたのだ。そのマユの姿を見たシンは顔色を豹変させ、慌ててバイクにまたがった。
「お、おいシン!」
シンは何も言わず、ヴィーノの制止の声も聞かず、バイクをスタートさせる。
最後にシンはかすかに、ヘルメット越しに少女の必死の叫びを聞いた。
「お兄ちゃんっ!!」


マユの声は聞こえていた。マユが追いかけてきていただろうことも分かっていた。
それでも、シンは止まらなかった。いや、止まれなかった。
実際にマユを見たら、その場から立ち去らずにいられなかった。

やっぱり、トダカさんの言うとおりだったんだ。
やっと、分かったよ。
俺は、マユに会うのが怖かった。だから、ずっと逃げてたんだ。
あそこで逃げ出したら、マユが傷つくの分かっていたのに。それでも……。
……!まさか、これって!?

バイクで走っている最中、シンはMSの気配を感じた。
その方向にバイクを向ける。そして、シンの腰にベルトが現れる。

結局俺は、お前を傷つけてばかりだった。
お前を悲しませたくないと思ってたけど、一番お前を悲しませてたのは俺だったんだな。
ずっと、悲しくて、寂しい思いばっかで、辛かったんだろうな。
本当にごめん。
マユ、戻ったら俺は、今度こそ逃げずにお前に会うよ。
そして、もう二度と辛い思いはさせない。

4712/16:2006/08/04(金) 00:09:47 ID:???
シンは決意を込めて叫んだ。
「変身!」
シンの身体が、戦うための姿へと変化していく。

白バイに誘導され、作戦ポイントにザムザザーがその巨体を現す。
それに続いてダガーLも数体出現し、機動隊に襲いかかって来る。
シホは、イーゲルシュテルンを一番近くにいたダガーLに放った。
だが、直撃をものともせずにダガーLは迫ってきた。
そんな!?本当に通用しないなんて!
ここに来てシホは、やっとイザークたちの言っていた事を理解した。
こんなのが相手では、得体の知れない欠陥品だろうとなんだろうと使わざるを得ない。
だが、もう遅い。
シホは従来型の弾丸しか持ってきていないのだ。
「くぅっ!」
目の前に迫るダガーL。シホは無駄と分かりつつも、至近距離でイーゲルシュテルンを連射する。少しはひるんだようだが、効果は薄い。
ダガーLは構わずに前進してきて、シホを殴りつけようとした。
だが、そのダガーLは、突然の横からの衝撃に吹き飛ばされた。
イザークがイーゲルシュテルンを構えている。攻撃しようとバランスを崩したところを銃撃することで、より高い効果を与えたようだ。

「ジュール隊長!」
「これを使え!」
イザークは左腰に下げたイーゲルシュテルンを取り上げ、シホに投げてよこした。
シホはそれを受け取り、タイミングを合わせてダガーLへと銃撃を集中させる。
ただでさえバランスを崩していたダガーLは、その集中砲火に耐え切れずに絶命、爆散した。

とりあえずの危機が去った後、シホはイザークに頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。最近のMSが……」
「そんなことはどうでもいい!来るぞ!」
今の戦闘でイザークたちを強敵と認めたのか、複数のダガーLが寄ってきた。ザムザザーまでも、こちらに狙いを定めているようで、ゆっくりといた動きで近づいてくる。
普通に考えれば戦慄すべき状況だが、これで囮の役割が果たせた。イザークたちにとっては望むところだ。
「ハーネンフース!こちらへ注意をひきつけるぞ!無駄弾を撃つなよ!」
新型弾丸を使うには、無駄弾を使わないように気をつけて撃つしかない。
作戦開始までの空き時間、ディアッカからイーゲルシュテルンを借りて調べたイザークが達した結論は、結局それだった。
「はい!」
イザークの言葉にシホが力強く答える。ディアッカの位置に注意を払いつつ、ザムザザーをはじめとするMSの大群へと攻撃を始めた。

4813/16:2006/08/04(金) 00:13:32 ID:???

「ディアッカ!今だ!」
イザークの言葉と共に銃声が鳴り響き、ザムザザーの巨体が震える。直撃だ。
しかし、ザムザザーの動きは止まらなかった。
むしろ、興奮しているのか動きが荒々しくなっている。
「馬鹿な!」
機動隊は特殊ガス弾を放つが、想定したほどの効果は出ていない。
依然としてザムザザーは脅威を振りまいていた。

突然ザムザザーが動きを止め、甲羅を前方に展開した。
その一瞬後に、激しい衝撃音が辺りを包む。イザークたちはとっさの判断で伏せて衝撃波をしのいだ。
ザムザザーのリフレクターと、何か膨大なエネルギーがぶつかり合った証拠だ。
イザークはエネルギーの放たれたであろう方向に伏せながら目を向けた。
バイクに乗ったインパルスが、銃のようなものを構えていた。

くそぉっ!これもダメか!
シンはバイクに乗ったまま緑のインパルスとなり、ケルベロスを撃った。
しかし、これも防がれてしまった。
肝心のケルベロスが通用しない以上、緑のまま接近しても意味はない。
インパルスは青へと変化し、バイクに乗ったままザムザザーへと突進した。

シンを乗せたまま、マシンスプレンダーがザムザザーへと突撃する。
ザムザザーは迫るバイクを巨大な爪で薙ぎ払う。マシンスプレンダーは横倒しにされるが、インパルスの姿はそこにはない。
既にバイクの上から跳躍していたインパルスは、爪を跳び越え、ベルトの力を込めた拳をザムザザーの甲羅へと振り下ろす。

右の拳が甲羅にめり込む。だが、それだけだ。
ザムザザーはそのままの体勢でリフレクターを展開した。強力なエネルギーの斥力に、インパルスは弾き飛ばされる。

リフレクターの斥力を全身に浴びたおかげで、シンは体中がバラバラになりそうな痛みを感じていた。そのせいか、全身が麻痺したように動かない。
爪が振り下ろされるのが分かっていても、全く避けることができない。
インパルスはそのままザムザザーのクローに捕らえられてしまった。
クローの合わせ目に何とか両腕をねじ込むが、インパルスの力ではこじ開けることができない。
逆に強い力で爪が閉じられようとする。

4914/16:2006/08/04(金) 00:17:33 ID:???
だが……、遠くから銃声が鳴り響いた。と、同時にザムザザーが一瞬硬直、ザムザザーの力が弱まる。
『グゥレイト!』
イザークの通信機にディアッカの歓声が流れた。

これが、脱出できる唯一のチャンスだ。シンは両腕に懇親の力を込めた。
「うおああぁぁっ!!」
絶叫と共に、インパルスの身体が赤に変化する。
シンの体中に力が溢れる。クローを勢いよく押し広げて脱出、解放されたインパルスはそのまま地面へと着地した。

これだけじゃない!まだ、何かがある!
以前緑色になったときと同じように、インパルスは確信を持って右腕を腰の前にかざした。
ベルトから強い光が溢れ、今のシンにふさわしい武器を与える。
長大な両刃の長刀、エクスカリバー。
シンはそれを両手に持って、分離させた。
二本の剣として、シンはそれを両手に構える。

強力な筋肉弛緩弾を二発も受けたことで、さすがに効果が現れているようだ。振り回される爪にも迫力がない。
シンは両方の剣をその爪に振り下ろす。爪は轟音をたてて地面に叩きつけられた。
その隙にシンは巨体の懐に飛び込み、剣を付き刺そうとした。ここならば、リフレクターも爪も届かない。
しかし、突き刺すよりも一瞬速くザムザザーが猛然と突進して来た。シンは両手の剣を使って防御し、衝撃を和らげる。
それでもインパルスは吹き飛ばされ、ザムザザーとの間に距離が開く。

距離の開いたところで、インパルスは両手の剣を再び一つに合わせた。
両手に構えたエクスカリバーにベルトの力を集中させる。
インパルスの身体を伝わり、強大な力がエクスカリバーに流れ込むのを感じた。

5015/16:2006/08/04(金) 00:21:01 ID:???
またも薙ぎ払われる爪を、エクスカリバーで受け止める。一瞬の膠着の後、インパルスは力任せに押し返し、続いてザムザザーの顔面へと蹴りを入れた。
ザムザザーはわずかに怯み、シンはその反動で後方へと跳んだ。
間合いを取ったシンは、そのまま跳躍、ザムザザーへとエクスカリバーを振り下ろした。

リフレクターを発生させる前にエクスカリバーはザムザザーの背中へと直撃、強固な甲羅を切り裂いていく。
ザムザザーはそれでも、リフレクターを展開しようとした。
「うおおおおぉぉぉぉっ!!」
だが、それが展開されるよりも早く、強大なエネルギーを受けたエクスカリバーはそのままザムザザーの身体を両断していく。
地面にエクスカリバーが突き刺さる。シンはそれを引き抜き、ザムザザーを蹴り飛ばして、反動でその場から離れた。
インパルスの背後で、ザムザザーが切り口から炎を噴き出し、やがて大爆発を起こした。
炎の照り返しを受けて、赤いインパルスがより赤く染まる。その姿はまるで、返り血を浴びているようだった。


「そうなんだ。シンが……」
ベンチに座ったヴィーノは、マユに温かい缶のココアを差し出した。マユはうつむいたままそれを受け取り、かすかに首を縦に振った。
シンがバイクで走り去ったとき、マユは走ってそれを追いかけようとした。しかし、足がもつれて転んでしまった。その間に、シンの姿は完全に見えなくなっていた。
目の前でシンに去られたのが、よほどショックだったらしい。それからマユはずっと口を開いていない。
ヴィーノは困り果てていた。どうすればいいのか、全く分からない。
こうしている間に、日は暮れて辺りは暗くなっていた。

懐で、何かが振動した。携帯電話だ。
ヴィーノは一旦ベンチを離れて通話ボタンを押し、電話を耳に押し当てる。話している内容は、マユには聞き取れなかった。
電話をしまったヴィーノは戻ってきたが、彼は顔の前で手を合わせながら申し訳なさそうに言った。
「ごめん、マユちゃん。ちょっと……」
そのままベンチを離れていく。それでもマユは顔をかすかに傾けるだけの反応しかしなかった。

ヴィーノもいなくなった。マユは、ヴィーノに愛想をつかされたのだろうと思った。それも当然だろうし、もはや、何もかもがどうでもよかった。
兄に拒絶された。それだけで、世界の全てが暗転したように感じられた。
それで、マユは気付いた。
今の自分が、かつての兄と同じ状況だということに。
そして、こんな思いを兄にさせたのは自分だ、という紛れもない事実に。
それまでにも分かっていたことだったが、いざ実際に自分がなったマユは絶望感に押しつぶされそうになった。
これも、当然の報い……なんだよね。ごめんなさい、お兄ちゃん。

5116/16:2006/08/04(金) 00:24:23 ID:???
絶望に打ちひしがれ、うなだれていたマユは目の前に立った人影にも気付かなかった。
「マユ」
思いやりに溢れた、優しい声が名前を呼んでいる。
忘れるはずもない。この声は……。
夢じゃないかと思いつつ、マユはゆっくりと顔を上げる。
黒い髪、赤い瞳。見間違えるはずがない。マユがずっと会いたいと切望していた兄、シン・アスカの姿がそこにあった。

夢?幻?ううん、何でもいい!お兄ちゃんがここにいる、それだけでいい!
マユは、シンへと飛びついた。
「お兄ちゃん!」
確かな、四年ぶりに感じる温もりが、マユを受け止めた。それは、夢でも幻でもない。

シンの胸の中に飛び込んできたマユは、泣きじゃくりながらひたすら謝り続けている。
服を涙でべとべとにしながらも、マユはしがみついたまま離れない。
驚くほど素直に、シンはこの状況を受け入れていた。やはり、シン自身もマユと会いたかったのだと実感する。
そしてシンは、この妹の姿を見て、自分の心配が杞憂だったと感じた。

四年ぶりに会った妹は、見違えるほどに成長している。
それでも、マユはマユのままで、大事な妹だ。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
謝り続けているマユの姿が、シンにはとても痛ましく感じられた。
「俺の方こそ、マユに辛い思いをさせてばっかで、ごめん……」
シンの言葉に、マユは顔を上げる。涙を溜めたままの眼が、シンの顔を見上げる。
そしてマユは激しく頭を横に振って、シンの言葉を必死で否定した。
「違うの!お兄ちゃんは悪くない!マユが!マユが!」
マユの小さな手は、シンの服を掴んだまま離さない。マユは、シンと離れたくない一心でずっと謝り続けていた。
その気持ちが、シンには痛いほどよく分かる。シンも、同じ気持ちだったからだ。

シンはマユの背中に手を回し、力強く抱きしめた。
「もういい!もういいんだ!」
突然のことに驚き、マユは言葉を失い、呆然とした。
「もう二度と、辛い思いはさせない!マユは俺が守る!必ず守ってみせるから!
だからもう、泣くな!」
決して大きな声ではないが、力強く決意を込めてシンは言った。
シンの言葉でマユは憑き物が落ちたように落ち着き、身体から力を抜いた。
そのまま穏やかな表情で、マユはシンの胸に顔を埋めた。
52衝撃(ry/16:2006/08/04(金) 00:32:38 ID:???
以上、第六話終了です
なんか今回はいつもにも増して長くなってしまいました。
レス数を強引に合わせているので気付きにくいかもしれませんがw
53通常の名無しさんの3倍:2006/08/04(金) 07:40:30 ID:???
GJ!ザムザザーとの二度の戦い、マユとの再会と書いたら長くなるわ
すごい面白かった!
エクスカリバーは燃える
54通常の名無しさんの3倍:2006/08/04(金) 08:51:05 ID:???
アスカ兄妹に死亡フラグが…
55通常の名無しさんの3倍:2006/08/04(金) 11:08:00 ID:???
ザムザザーの強さに感動した
あと作者さん、クウガ好きみたいだな
色の変わり方の描写もそうだが、シンだけでなくイザーク達のような常人の部隊が一致団結して強敵と戦う様とか
56通常の名無しさんの3倍:2006/08/04(金) 22:37:05 ID:???
GOD JOB!!としかいいようがないですね!エクスカリバー燃え、再会は不覚にも涙腺が弛んだ…
続編を期待しています。
57通常の名無しさんの3倍:2006/08/06(日) 02:07:04 ID:???
保守
5831 ◆MRSinWBV9. :2006/08/06(日) 16:17:28 ID:???
>衝撃作者氏

GJです
ザムザザー戦とマユの話の並列しての進行(無論それぞれの中も)いいですねー

読ませてもらった後に自分のを読み返したら自分のしょぼさが……('A`)
現在書き直し中です。スイマセン。


スペシャルエディションIIを見てモチベーションは上がってるのでできるだけ
早めにアップできるように頑張ります。
59通常の名無しさんの3倍:2006/08/06(日) 18:39:28 ID:???
wktk
60通常の名無しさんの3倍:2006/08/08(火) 05:41:03 ID:???
保守
61通常の名無しさんの3倍:2006/08/10(木) 11:09:31 ID:???
保守
62通常の名無しさんの3倍:2006/08/11(金) 12:08:41 ID:???
保守のカービィ
631/16:2006/08/11(金) 14:25:42 ID:???
仮面ライダー衝撃(インパルス)

第八話


ザムザザーの爆発で、視界が利かなくなる。
その間にインパルスは姿を消し、残りのダガーLも行方が分からなくなった。
激しく息をついたイザークをはじめとして、この作戦に参加した者全員に、アビーからの通信が入る。
「これで本作戦を終了します。各員は速やかに帰還、報告をお願いします」

「何とか、倒せたわね」
ダガーLの大半に逃げられたとはいえ、再編されたZAFTでの初の実戦でザムザザーのような大物を撃破したのは、大金星といって差し支えない。
だが、喜びに沸くことはなく、ただ倦怠感と疲労感だけが漂っていた。
「倒せたのは間違いなくインパルスの力ですね!」
「そうね。……残念なことだけど」
アーサーの軽口にも、タリアは応じた。
事実だったからだ。
素直に勝利を喜べなかったのは、初めての実戦で疲労していたこと以上に、自分達だけの力で得た勝利、ではなかったからだ。
警察とてMSが現れなくなってからの四年間を無為に過ごしてきたわけではない。規模が縮小されたとはいえ研究を続け、その脅威に対する備えを整えてきた。特殊ガス弾など、その最たるものだ。
しかし、それが通用しなかった。これではいくら勝利を得たとはいえ、喜べるはずなどない。
「MSに対する戦略を考え直す必要があるわ。まずは、新型弾丸の問題だけど」
新たなMSは、予想以上に強化されている。従来のままのやり方では、対抗できない。
せめて新型弾丸が存分に使えれば、ダガーLを逃がすことはなかったかもしれない。それを思うと、悔しさがこみ上げてくる。もちろん、実際に戦ったイザークたちの悔しさはそれ以上だろうが。
「それなら、何とかなりそうです。先ほどモルゲンレーテ社から連絡がありまして、急遽完成させた新型銃の試作品をこちらに搬送してくれるそうです」
心待ちにしていたはずのアーサーからの報告に、タリアは逆に眉をひそめた。
「随分と、早いわね」
この報告を素直に喜べない。一日と経たずに試作品が完成するとは、不自然にも程がある。
「どうやら既にパーツだけは出来ていて、一丁だけ何とか組み上げたんだそうです。とりあえずそれで判断してくれ、ということなのでしょうか」
「それでは、私達が実験台みたいなものね。まあ、いいわ。まずは、分析を急がせて」
「はい」
アーサーは解析班へと通信をつなぐ。そして、解析班からの要望に対して、タリアへと指示を仰いだ。
「司令、シホ・ハーネンフースも解析に参加したがっているようですが……」
「許可するわ。けど、戦闘直後なのだから無理はしないように言っておいて」

642/16:2006/08/11(金) 14:28:12 ID:???

ルナマリアは久しぶりにレイの家に来ていた。昨日図書館で借りてきた本をはじめとした多くの資料を入れたバッグを肩にかけている。
普通に本を読むくらい自分の家ですればいいようなものだが、昨夜、メイリンと話していたらなんとなくこの家に来たくなったのだ。それに、シンやレイの話も聞いてみたい。
シンもレイも、アーモリーワンでMSや仮面ライダーを見たはずだ。そのことであらためて話をしたことはなかったが、ひょっとして、ルナマリアが知らないことを実は知っているかもしれない。
そんな事を考えながら、ルナマリアはインターホンを押した。すぐに、ばたばたとした足音が聞こえてくる。
「は〜い、今開けますね」
鍵が回ると同時に聞こえてきたその声は、シンでもレイでもない。明らかに、女の子の声だ。ルナマリアはメイリンと顔を見合わせた。
ドアが開く。そこから顔を出したのは、中学生くらいの可愛らしい少女だ。
メイリンは見たことがなかったが、ルナマリアは面識があった。
「ルナマリアさんですよね。昨日は失礼しました」
別に驚いた風もないマユは、ルナマリアにペコリ、といった感じで頭を下げた。
それとは対照的にルナマリアは、狼狽しつつも何とか口を開いた。
「ええと、マユちゃん、だったっけ?」
確かにヴィーノと一緒にいた少女に間違いはないのだが、昨日とは随分感じが違う。
「はい!」
マユは快活に答えた。やはりヴィーノの背に隠れていたときとは、まるで別人としか思えない。
二人のやり取りを見ていたメイリンは、ルナマリアに聞いた。
「お姉ちゃん、知り合い?」
「うん、昨日ちょっとね。ところでマユちゃん。何でこの家にいるの?」
「それは……」
「マユ、誰だった?」
ちょうどそこに、シンが姿を現した。マユが振り返り、心底嬉しそうな声で言った。
「お兄ちゃん!」
マユの言葉に、ルナマリアとメイリンは驚きのあまり、言葉を失った。

653/16:2006/08/11(金) 14:29:47 ID:???
「へえぇ、マユちゃんがシンの妹、ねえ」
「妹……いたんだ」
「シンったら自分のことぜんぜん話さなかったものね」
座り心地のいいソファーに座った二人は、いまだに信じられない意外な事実について会話していた。
シンとマユは二人仲良く朝食をつくっているらしく、台所にいる。
「レイは知ってたの?」
メイリンの質問に対し、レイは首を横に振って答えた。
「いや、俺も昨日初めて聞いた」
昨晩、この家にシンがいきなりマユを連れてきて、レイに紹介した。レイもはじめは意外そうな顔をしていたが、すぐに「そうか」とだけ言ってマユを歓迎した。
その話を聞いたルナマリアたちは、やはり信じられないというような表情をした。
「普通、もう少し驚きそうなものだけど」
「レイったら全然動じてないよね」
二人がまるで図ったかのようにタイミングよく話す。
性格がいくら違っていても、やはり姉妹、ということか。
「そんなことはない。十分に驚いている」
レイは苦笑しながら言った。

「長旅で疲れてるだろ、マユ。向こうでレイたちと休んでろよ」
シンはさっきからそう言っているのだが、マユは笑顔で応えた。
「ううん、全然疲れてないよ。それよりマユ、前より料理、上手になったんだ。お兄ちゃんにも食べてもらいたいの」
その言葉の通り、マユはシンと喋りながら料理をしているにもかかわらず、その手際には全く危なげがない。かなりの腕前だ。
「だからお兄ちゃんこそ、向こうでレイさん達とゆっくりしてて。ね?」

マユのつくった朝食は、オーブの料理だった。シンは久しぶりに口にするものだったが、ルナマリアたちははじめて食べるものだった。
見慣れない食べ物にはじめのうちこそ戸惑っていたが……、
「何これ!おいしい!」
「お姉ちゃん、それ私の!取らないでよ!」
「何よ!ダイエットしてたんじゃないの!?」
「朝ごはん抜くのは体に悪いもん!」
騒がしい二人とは対照的に、シンとレイは口を開く時間も惜しいとでもいうように無言で箸を動かし続けていた。
四人のあまりの食欲に、マユのほうが少し引いていた。
「あ、あのお代わりまだありますから」
すると、四人は一斉に茶碗を差し出した。

664/16:2006/08/11(金) 14:31:19 ID:???
気付くと、たくさん用意してあったはずの朝食はきれいになくなっていた。
「あ〜、美味しかった」
「ごちそうさま〜」
「お口にあって、マユも嬉しいです」
マユは笑顔で言った。
「それにしても、マユちゃんのお兄さんがシン……ねえ」
「何が言いたいんだよ」
シンが不機嫌そうな表情でルナマリアに言った。途端にルナマリアはからかうような表情になった。
「とっても可愛いし、礼儀正しいし、料理上手だし。あのシンの妹だなんて思えないわよ」
「あのって何だよ!あのって!」
「マユちゃん、どうせなら私の妹にならない?」
「お姉ちゃん、私は……?」
「あ、あの……その……」
「ルナ、何あほなこと言ってんだよ!マユが困ってるだろうが!」
「シン、落ち着け。冗談に決まっているだろう」
「アハハ、レイの言うとおりよ。気にしないで」
ルナマリアは笑いながら言ったが、他の誰も笑ってくれずに場が白けてしまう。メイリンがポツリと呟いた。
「お姉ちゃん……、笑えないよ」
姉の眼には、少し残念そうな色が漂っているように見えた。
半分本気だったんじゃ……。そう考えると、本当に笑えない。

気まずくなったルナマリアは、話題を変えようとマユに話しかけた。
「……そうだ!マユちゃんはこれからもこの家に住むの?」
「……はい!ご迷惑じゃなければ……、いいですか?」
遠慮がちにマユが言った。こんなところもシンの妹とは思えない。
「レイ、どうなの?」
この家はギルバード名義、実質的にはレイの家だ。シンやルナマリアの家ではない。
シンもルナマリアもメイリンも、もちろんマユも期待を込めた視線をレイに注いでいる。レイはそれを受け流すように微笑んでから言った。
「ああ、もちろんだ。せっかく兄弟に会えたのを、引き離すわけにはいかないだろう」
マユの顔が見る見るうちに明るくなる。
「よかったわね!マユちゃん!」
「はい!ありがとうございます、レイさん!ルナマリアさんも」
「レイ!ありがとう!」
全員に言われ、顔を背けた。その様子は、少し照れくさがっているように見えた。

675/16:2006/08/11(金) 14:34:25 ID:???
「そうだ!今日はマユちゃんの買い物に行かない?」
「マユの、買い物……ですか?」
「そうそう、これからここで暮らすんだから。何かと物入りでしょ?今日はみんなで買い物に付き合ってあげるわよ」
「いや、いいよ。そのうち俺が連れて行くから」
ルナマリアの申し出だが、シンは断ろうとした。マユのためとはいえ、他のみんなまでつき合わせるのは、と思って遠慮したのだ。
しかし、それは見事にルナマリアに却下された。
「何言ってんのよ。シンにデリケートな女の子の買い物が出来るわけないじゃない。せっかくみんないるんだから。さ、メイリン。一旦帰るわよ」
「え、もう行くの?」
「当たり前よ。シンたちも、準備しといて」
そう言い残し、ルナマリアはメイリンを引っ張って出て行った。


「さあさあ、まずはブティックよ。せっかく新しい学校に行くんだから、新しい服を買わなきゃね」
傍から見ても分かるほどルナマリアは張り切っている。
「ルナマリア、分かっているな?これはマユちゃんのための買い物だぞ」
「うっ、分かってるわよ」
レイが釘をさす。ルナマリアは先手を打たれた、というように言葉に詰まった。
「それならいいが」
荷物持ちがいるのをいいことに、自分の分まで大量に買い込むかと思ったからな。
その言葉をレイは、あえて言わずに飲み込んでおいた。
「きれいなお店ですね」
「最近開いたばっかのブティックなんだって。開店セールですごく安いみたいだよ」
「そうなんですか。だから、あんなに並んでるんですね」
「うん。私達も並ぼ」
マユとメイリンは、目当てのブティックを目の前にしてはしゃいでいた。
レイ相手では形成の悪いルナマリアは、あわててその会話に追従していった。
「そうよね、急がないと!レイとシンはその辺で待ってて!」

686/16:2006/08/11(金) 14:40:23 ID:???
「マユちゃん、これなんてどう?」
ルナマリアが手に持った赤のスーツをマユに見せた。
「可愛いです。でも、マユよりルナマリアさんに似合いそうですよね、それ」
「え、そう?それじゃあ、ちょっと試着してみるね」
マユの言葉にルナマリアはわざとらしく言い、自分に合うサイズのそのスーツを持って試着室へと飛び込んだ。
明らかに確信犯だろう。分かり易すぎる姉の行動に呆れつつも、メイリンはまじめにマユに似合いそうな服を探していた。
「そうそうマユちゃん、エプロンもいるよね。これはどう?」
メイリンは幾つものエプロンをマユに見せた。どれも、メイリンが選び抜いたものだ。
「あ〜、どれも可愛いから迷っちゃいます」
「やっぱり、エプロンは必要だよね。これ、私がもってるのの色違いなんだよ」
「メイリンさんとお揃いなんですか?それじゃあ、これにします」
マユはクリーム色のエプロンを手に取った。メイリンは弾んだ声で言った。
「それでいいの?お姉ちゃんもそれの赤いの持ってるよ。全然使ってくれないけど……。でも、そしたらみんなお揃いだね」
「それ、すごく嬉しいです。ところで、一つ聞いていいですか?」
「なに?」
「あの……」
「どう、似合う?」
マユが聞きかけたところで、試着室のカーテンが開いた。赤いスーツを着たルナマリアが、ポーズを取っている。
「はい!すごくきれいです」
「そう?それなら買おっかな。入学式前に、新しいのほしかったんだ」
「入学式って……お姉ちゃんじゃなくて私のなのに……」
メイリンがマユに聞こうとしていたことは、結局そのままうやむやになってしまった。

たくさんの紙袋を抱えたルナマリアたちが店から出て来る。シンたちはどこにいるのか、姿が見えない。
「いっぱい買えてよかったわね」
「はい!素敵な服たくさん選んでくれてありがとうございます」
「でも、これ……お姉ちゃんの服の方が多くない?」
気のせいよ、とでも言うようにルナマリアは手を横に振った。
そこでメイリンが思い出したようにマユに言った。
「そうだ、マユちゃん。さっき私に何か聞きかけてたけど何?」
「あ、そうだ。すっかり忘れてました。あの……」
マユは少し言いづらそうに、メイリンとルナマリアの顔を見比べた。
二人は、マユが言い出すのを待っている。
「こういうこと聞くのは失礼かもしれないですけど……、お兄ちゃんって恋人いるんですか?」
唐突な質問に、二人は目を丸くした。
「え?何でそれ私に聞こうとしてたの?」
「あの……ルナマリアさん、お兄ちゃんと楽しそうに話してましたし。もしかして……と思ったんです」
確かにルナマリアが恋人だとしたら、その質問は失礼に当たる。だから、気を使ってメイリンに聞こうとしたのだ。マユの気遣いを、ルナマリアは微笑ましく思った。
「ああ、そういうこと。大丈夫よ。私たちは、遊び仲間っていうか何ていうか、ただの友達だから。だから安心して、ね?」
「あ、安心ってなんですか!?」
「ほらほら、顔が赤くなってるわよ」
「え!?」
697/16:2006/08/11(金) 14:45:21 ID:???
慌ててマユが頬を押さえる。ルナマリアは、面白がってさらにマユをからかった。
だが、マユも負けずに一矢を報いた。
「でも、少し残念です」
「え、何が?」
「ルナマリアさんみたいな人がお兄ちゃんの恋人だったら、よかったなあって」
「ええ!?」
今度はルナマリアが顔を赤くし、うろたえた。

「よっと、こんなものかな」
ルナマリアが、大きな紙袋を下ろす。五人の目の前には、大量の紙袋が置かれていた。
「うん。服とか靴とか、必要なのは大体揃ったと思うよ」
「だけど、こんなアクセサリーとか化粧品まで必要なのか?」
「マユちゃんだって立派な女の子だよ!必要に決まってるじゃない!」
珍しく声を荒げたメイリンの勢いに押され、シンは口を滑らせた事を後悔した。
「う、その……ごめん」
「それより、これからどうする?」
見かねたレイが、いつものように助け舟を出した。シンは心の中でレイに感謝する。
ルナマリアは一番の年長者らしく、その場を取り仕切るように言った。
「ううん、どこかで遊びたいけど、こんな大荷物を持ってたらどこにも寄れないわよね。一旦帰る?」
「そうだな。このままここでこうしていても仕方ない」
「この荷物を持って帰るのか……」
大量の紙袋を前にして、シンは思わず呟いた。しかも、これを持つのは男で、居候で、マユの兄、シンに決まっている。
「そりゃそうよ。か弱い女の子に持たせるつもりなの?」
「……分かったよ」
シンが、紙袋に手をかけようとする。だが、レイがそれを押しとどめた。
「レイ?」
「この荷物は俺達が持って帰る。シンはマユちゃんにこの辺を案内してやれ」
「へ?」
シンが間抜けな声を出す。
「え、本当……いえ、いいです!」
「遠慮することはない。せっかくの機会だ。シンにこの辺を案内してもらえ」
「いいのか?なら……」
「本当に、ありがとうございます!」
マユは、レイに頭を下げた。
「気にするな。俺は気にしてない」
「ねえ、レイ。この荷物はどうするの?」
「俺たちで持ち帰るに決まっているだろう」
「ええ!この大荷物を!?」
「……お姉ちゃんの荷物も多いよね」
「やっぱ、俺が持とうか?」
「いや、いい。お前が案内するのもマユちゃんのためだ。荷物の方は俺達に任せろ」
「マユちゃんのため、か。そうね。マユちゃん、しっかりシンに甘えるのよ」
「歓迎のご馳走用意して待ってるからね」
三人は荷物を抱えて、よろめきながら歩いていった。

708/16:2006/08/11(金) 14:47:16 ID:???

「本当に、いいのかなあ」
「まあ、ああ言ってくれてることだし」
見送りながら、二人は呟いた。「ちょっとレイ、もう少し持ってよ」とか「お姉ちゃん、自分のばかり買い過ぎるからだよ」とかいう愚痴が聞こえた。
そのやり取りに、二人は顔を見合わせて笑った。

「そうだ、マユ。これ返すよ」
シンはマユに、可愛らしいピンク色の携帯電話を手渡した。渡されたマユは、少し戸惑った。
「これ……」
「これのおかげで、俺は一人じゃなかったよ。マユ、ありがとう」
「でも、お兄ちゃん、携帯電話なかったら不便じゃないの?」
「俺は新しいのでも買うよ。」
「でも……」
「じゃあ、これをマユに返して、俺は新しい携帯電話をマユに選んでもらう。これならいいだろ?」
マユは少し考えて、笑顔で言った。
「うん!」


はじめは遠慮していたが、次第にはしゃぎ始めたマユに付き合い、歩き回って疲れたシンは、公園のベンチにもたれかかっていた。ちょうど昨日マユを迎えに行った公園だ。
懐には、マユに選んでもらった新しい携帯電話がしまいこまれている。ワインレッドで、マユの携帯電話と似た機種だ。
今マユは、近くのクレープ屋まで行っている。昨日、ヴィーノに教えてもらったそうだ。
昨日は気付かなかったが、公園のそこここに春の息吹を見つけられた。開花し始めている木のつぼみ、緑に色づき始めた芝生。
こうものどかでゆったりとした時間をすごしていると、まるであの出来事が夢のように思えてくる。
まぶたを閉じれば嫌でも甦ってくる、あの悪夢のような出来事が。

719/16:2006/08/11(金) 14:51:10 ID:???

まさに、地獄だった。
静かで自然に溢れていた森は燃え、多くの建物が炎に包まれている。
オノゴロ島、すなわちオーブへと人外の化物、MSが集団で襲撃したのだ。
目的こそ分からないが、その標的がオーブの誇る一大企業、モルゲンレーテであることは疑う余地がないほどにMSはまっすぐ本社ビルへと向かっていた。
そのわずか前に襲撃を察知したオーブ行政府により避難勧告も出され、一部に応戦した者たちもいたが、多くの人々が犠牲となった。

シンの家族は、避難勧告が出されたときにはちょうど社の研究室に揃っていた。シンは両親が共にモルゲンレーテ社の研究者であり、今日は歴史的な実験があるというので、シンとマユも両親に連れられて研究室まで来た。
そして、いざ実験が始まろうというときに、避難勧告が出された。
他の研究員たちはすぐに逃げ出したが、シンの両親はなかなか逃げ出さなかった。
研究データをまとめるのに時間がかかったのだ。

シンたちの家族は、裏口から外に出た。
モルゲンレーテ社の裏は森になっており、夏には昆虫採集の子供達が大勢訪れる。シンも何度かマユと一緒に遊びに来たことのある、馴染み深い場所だった。
そこを、家族で今まで一度も見たことのない怪物から必死に走って逃げている。シンにとって、全く現実感のない出来事だった。

「もう少しだ!」
「マユ、がんばってぇ!」
両親に声をかけられ、それに応えようとして、マユが転んだ。鞄から、携帯電話がこぼれ落ちる。
「マユ!」
シンは携帯電話を拾いながらいち早くマユの元に駆け寄り、助け起こそうとした。両親も立ち止まり、子供たちに駆け寄ろうとする。

突然、そこにMSが墜落してきた。
二人は、自分達の両親が押しつぶされるところを、確かに目撃した。
さらにそのMSに向かって四条の光が降り注ぐ。

7210/16:2006/08/11(金) 14:52:08 ID:???
それらの光に貫かれたMSは、シン達の両親を巻き込み、粉々に吹き飛んだ。
「う……あああぁぁぁっ!」
「きゃああぁぁっ!」
その声はシンたちのものだったのか、両親の最後の叫びだったのかは今となっては分からない。シンはその爆発に背を向け、抱きしめるようにしてマユをかばった。
シンの背中に、鈍い痛みが走る。弾みで仰け反り、天を仰いだ。
一瞬シンの瞳に、青い翼を持った白い影が映った。それは、シンたちのほうを確かに向いている。
あいつが……父さんたちを……

「マユ……大丈夫か?」
マユの耳元に、シンが囁くように言った。自分でも、よくこんな冷静でいられたと思う。きっとマユが、何が何でも守らなければならない妹がいたからだ。だから、かえって落ち着いていられたのだろう。
だが、マユはそうはいかなかった。目を大きく見開いたまま、呆然としている。
心、ここにあらずといった感じだ。
「マユ!」
もう一度呼びかけた。マユの全身がびくっと震える。
「しっかりしろ!マユ!」
「……お兄ちゃん。……お父さん、お母さんは……?」
商店の会っていない、ぼんやりとした目で、マユが問う。シンは目をそむけるだけで、答えを口に出せない。
催促するように、マユが服を引っ張る。小さなその手は、震えを隠せずにいた。
マユ自身、その答えは分かっているのだ。それでも、理解できていない、いや、理解する事を拒んでいる。まるで、そうすればこの悪夢から覚めるとでもいうように。
だが、これは悪夢でもなんでもない。信じたくはないが、確かに現実だ。
「とにかく……、急いでここから逃げるぞ」
「ねえ……、お兄ちゃん?」
「いいから!……来い!」
シンは無理矢理マユの手を引き、立たせようとする。なぜか、手に力が入らなかった。
そのせいで、マユに余計辛い思いをさせてしまった。
「いやっ!」
マユはシンの手を振り解き、シンの後ろ、かつて両親のいたところまで走った。
そして、すぐに立ち止まった。
「イ……、イヤアアァァァァァッ!!!」
「見るな!マユ!」
シンは急いでマユの眼を塞ごうとするが、もはや手遅れだ。シンと同様、マユの眼にも、変わり果てた父親と母親の姿が、焼き付けられてしまった。
マユは恐慌状態となって、その場にしゃがみこんでしまっている。シンは必死に、マユを落ち着かせようとした。
「マユ!ここから離れないと!立つんだ!」
「いや!」
マユは、地面に根が生えたようにここから動かない。
一瞬、目の前が真っ暗になる。背中の痛みが徐々に激しくなり、意識が奪われそうになる。
シンは首を振って、意識を保った。

7311/16:2006/08/11(金) 14:52:57 ID:???
そしてシンは、自分達の周りに何かがいることに気付いた。
金属的で硬質な皮膚。TVで見たものと同じ、不気味な、恐ろしい姿。
それが何体も集まり、シンたちを、取り囲んでいる。
「マユ!」
とにかくシンは、ここから離れようとマユを無理矢理に抱え上げた。
「お兄ちゃん、離してよ!マユ、ずっとここにいる!」
「ダメだ!」
マユは手足を動かして激しく抵抗したが、シンは構わずに走り出そうとした。しかし、できなかった。

体中から力が抜け、そのままシンは、前のめりに倒れてしまった。右手には、まだマユの携帯電話が握られたままだった。
シンが抱きかかえていたマユは、放り出される形となってしまい、悲鳴を上げた。
痛みをこらえつつ顔を上げたマユは、シンの姿を見て呆然となった。
「そ……そんな……、お兄ちゃん……?」
うつぶせに倒れたシンは、背中から大量の血を流している。そこには致命傷としか思えないようなものが穿たれていた。
その向こう側には、片手を血でぬらしたMSが立っている。だが、マユの目にはそんなものは映らない。
マユは、必死でシンの身体を揺さぶった。シンは、それでも動かない。
「お兄ちゃん!起きてよ、お兄ちゃん!」
顔中を涙でべとべとにしながら、マユはそれでも叫び続けた。すぐ近くに、迫っている影にも気付かずに。

マユの声が聞こえる。でも、まるで自分の身体が他人のもののように感じられる。
何かが……、なくなっていく。
体中を揺さぶられているのに、何もできない。

「キャアアァッ!」
マユの絹を裂くような悲鳴が聞こえた。
うっすらと開いた目で、頭から血を流して倒れているマユの姿がかすかに見えた。
マユは、目を閉じたまま全く動かない。
その周りに、金属的な皮膚のおぞましい怪物、MSが集まっている。

7412/16:2006/08/11(金) 14:54:49 ID:???
マユ!!
マユを助けたい。今すぐにでも飛び出して、助けに行きたい。
だが、身体がまったく動かない。逆に、全ての力が抜けていく。
何も、できない。

自分が守らなければならない、たった一人の妹が、目の前で蹂躙されようとしている。
やめろぉっ!
叫んでも、声にならない。代わりに血が吐き出される。口の中で、鉄の味がした。
遂に、マユの身体に、怪物の手がかかった。マユの小さな身体が、わずかに地面から浮き上がる。
マユ!マユッ!マユゥゥッ!

シンが絶望を抱いた次の瞬間、マユの周りの怪物たちが、突如乱入した何かに次々と撥ね飛ばされた。マユはすぐに怪物の手から解放され、地面に投げ出された。
怪物たちは、自分達の邪魔をした者に即座に襲い掛かった。白いサイドカーにまたがった青年は、臆することなく怪物たちをあしらう。
怪物たちと大立ち周りを演じていた彼は一瞬、シンのほうを見た。緑色の理知的な瞳が印象的だった。
そして怪物の方に向き直った彼は、すぐさま右手を奇妙な形に構え、気合を込めた叫びを上げた。
「変身!」
青年の身体が、シンの目の前で変化していく。
亀の甲羅のような巨大な何かを背負った、赤い色の戦士。眼は、変身前と同じく緑色。額の辺りに二本の角が生えている。
彼は目の前の怪物に、回し蹴りを放った。
その一撃でMSは吹き飛ばされ、爆発する。
まだまだMSの数は多い。だが、戦士の姿はそんなものまるで関係ないかのような、底知れぬ強さを感じさせた。

赤い戦士の姿に目を奪われていたシンだが、すぐに思考はマユのもとへと向かう。
マユは、シンのすぐ近くに横たわっていた。
シンは残る力を振り絞り、マユに左手を伸ばそうとするが、届かない。
あと、5センチもないだろう。だが、その距離は縮まらない。
もう少し、もう少しで……!
シンの腕が、ぱたりと地面に落ちる。もう、何の力も入らない。
不意に、シンの意識が、完全に途切れた。

7513/16:2006/08/11(金) 14:57:14 ID:???

次に気がついたとき、シンは白いベッドに横たわっていた。
マユは、どこにいるんだ……?
自分が生きていることよりも何よりも、シンが真っ先に考えたことはそれだった。
長いこと寝ていたのか、体が思うように動かない。何とか首だけを動かしてこの部屋を見回すが、マユはおろか誰もいない。
ただ、シンが最後まで握り締めていたマユの携帯電話だけが、白いテーブルの上に載せられていた。
「……マユ……」

この後、医師と女性の看護士に伴われ、二人の刑事がこの部屋に入って来た。
若い方の刑事がメモを取り、いかにもベテラン、という風情の壮年の刑事が、シンと話した。
そのトダカという刑事の話によると、シンはあれから二週間ほど眠り続けていたらしい。
ほぼ即死に近い怪我だったが、初期治療が良かったのか奇跡的に助かった。誰に助けてもらったのかも聞いたが、それは分からないらしい。
また、医師の話によれば、生きていたことだけでも奇跡的なもので、完全に回復するのは困難だという。仮に治るとしても、長期間のリハビリを余儀なくされるそうだ。
だが、そんなことにはシンは興味はなかった。シンが知りたいことはただ一つ……
「マユは、マユはどうなったんですか……」
その話題になると、トダカも医師も口を濁した。ここに入院しているのは確からしいが。

誰かがこの病室に入ってくるたび、シンはマユの事を聞き続けた。
シンが多少回復し、車椅子に乗れる程度になった頃、遂にシンはマユと会うことが出来た。
トダカに車椅子を押してもらい、マユ・アスカという表札の下げられた病室のドアを開ける。
そこに、マユは横たえられていた。
頭に包帯こそ巻かれていたものの、そのマユはシンよりもはるかに健康そうに見えた。
しかし、ここに搬送されて以来、マユは一度も目覚めていないらしい。
頭に受けた怪我のせいだと思われるが、何か精神的なものも影響しているらしく、詳しい原因は結局不明だそうだ。
これまでシンにこの事を教えなかったのは、シンの容態が安定するまでショックを与えたくなかったかららしい。

7614/16:2006/08/11(金) 15:02:13 ID:???
それ以来シンは、リハビリとマユの見舞いが日課となった。シンは見舞いをするときはいつも、携帯電話を握り締めながらマユに話しかけた。
両親が死んで、天涯孤独となったシンに、トダカは何くれとなく世話を焼いてくれた。
リハビリも手伝ってくれ、マユの病室へと車椅子を押してくれたりもした。外の世界のことを知るため、新聞も持ってきてくれた。
いつの間にやら、MS騒ぎは終局を迎え、紙面を飾ることはなくなっていた。

必死のリハビリは、医師を驚かせるほどの短期間のうちに終了した。
シンの身体は以前と同じように回復した。いや、運動に限っていえば、身体の扱い方をあらためて覚えた分、以前以上の能力にさえなったところもある。
医師は奇跡だともてはやしたが、シンにとってはそれさえもどうでもよかった。
シンの望みはただ一つ、マユと再び笑いあう。
ただそれだけを拠所として、辛いリハビリも乗り越えることが出来た。

シンは退院した後、トダカの家に転がり込んだ。
トダカが、「身寄りがないならうちに来るといい」と言ってくれたのだ。
以前の家は、あの襲撃の時に既に失われている。
あの襲撃で、たくさんの孤児が出来てしまい、彼らの多くは孤児院へと入った。トダカはそちらの選択肢も用意してくれたが、シンはトダカの家を選んだ。
何より、今のシンにとって信じられる大人はトダカだけだった。

庭でリハビリを兼ねたトレーニングを済ませたシンが息を弾ませながら屋内に戻ると、いつも冷静なトダカが珍しく興奮した様子でシンに言った。
「マユちゃんが、目覚めたそうだ!」

トダカは仕事が忙しくて抜けられないので、シンが一人で病院まで行った。
そして、いつもの白い病室に入る。
そこでは、多くの医師や看護士達が慌ただしく動いていた。そして、その中心にいるのは、
「マユ!」
間違いなく、マユが上半身を起こして、看護士の話を聞いている。シンはマユに呼びかけ、駆け寄った。マユはなぜか、シンの呼びかけに一瞬顔をこわばらせた。
だが、マユの目覚めた喜びだけで頭がいっぱいのシンはそれに気がつかない。
そのままマユに歩み寄り、ずっとシンが持っていたマユの携帯電話を差し出した。マユを見舞っていたときも、これを握り締めながらマユに話しかけ続けた。
言いたいことが多すぎて、思いつかない。今まで考えていた再開の台詞も、完全に吹き飛んでいる。だが、それでもよかった。マユが目の前にいる、また、マユと笑いあうことが出来る、ただ、それだけでシンは、今までの苦しみが全て報われるような気がした。
だが、シンの腕は、携帯電話ごと、マユに振り払われた。
「――――ッ!!」
マユがなんと叫んだのか、このときは分からなかった。後になって思い返したときに、その理由と共に、やっと分かったが。
マユの容態が急変し、医師、看護士が慌ただしく駆け回る。
シンは何もできずに、いつもの女性看護士に病室の外へと追い出された。

7715/16:2006/08/11(金) 15:07:25 ID:???
病室の外で、シンはあまりのショックに呆然としていた。
そこへ、既に顔なじみとなった医師が来て、マユの容態が落ち着いたことを言い、マユがああなってしまった理由を説明した。
マユは、あの悪夢、オノゴロ島事件の記憶を完全に失っていた。
しかし、シンが目の前で死んだと言う記憶だけは強烈に残っていた。それなのに、シンが生きていた。そのショックで記憶が一時的に甦り、マユはあの恐怖を追体験することなり、パニックに陥ったのだという。

つまり、二度とマユに会うことはできない。会うわけにはいかない。
シンはそう悟り、決心した。これもきっと、大切なものを守ることの出来なかった罰なのだろう。
マユの幸せを守るために、マユの近くから去る事を。

「本当に行くのか?」
フェリーの港のロビーで、トダカがシンに問いかける。
忙しいだろうに、わざわざシンのために時間を割いてくれたのだ。それだけ、シンを大切に思ってくれている。そう思うとシンは嬉しくなり、同時に頼もしく思った。
この人なら、マユをきっと守ってくれる。俺には、もう、守れないけど……。
「はい。俺が近くにいたら、マユは……」
「見送りに来る前に、マユちゃんに会ってきた。泣きながら、君に会いたがっていたよ」
それは知っている。あの後、看護士がシンにこっそり教えてくれた。
「でも、俺は会えないんです。いくら大丈夫だといっても、万が一……」
あの時は大丈夫だったが、もう一回ああなったら、今度こそ完全に記憶を取り戻してしまうかもしれない。あの、悪夢のような記憶を。
そんな事をさせるわけにはいかない。マユに、あんな辛い思いは二度とさせられない。だから、マユには両親は交通事故で死んだ、ということにしている。
「マユには、あんな重荷を背負わせたくない。だから俺は、マユに会いません。せめて、マユがもう少し大人になるまでは」
「わかった」
トダカは鷹揚に頷いた。シンの決意の固さを分かってくれたようだ。そしてトダカは懐に手を入れ、何かを取り出した。
「これは、マユちゃんからだ」
トダカの大きな手に乗っていたのは、マユがとても大事にしていた携帯電話だった。カメラ付きで、家族の思い出がたくさん入っている。家がなくなってしまった今となっては、唯一家族を思い出させてくれるものだ。
マユに返そうとしたとき、シンの腕と一緒に……振り払われたもの。
「いえ、これはマユの大事なものです。俺が持っていくわけには……」
「だからこそ、君に持っていてほしいのだろう」
間髪いれずに、トダカが言った。
これをシンが持っていれば、マユのことは忘れない。忘れられたくないから、持っていてほしい。そう、言いたかったのかもしれない。
シンはおずおずと、震える手で携帯電話を受け取った。実際以上の、重みが感じられた。
「トダカさん……、マユのこと……頼み……」
最後の方は言葉にならなかった。
トダカは黙って頷き、シンの背中を押した。

7816/16:2006/08/11(金) 15:09:34 ID:???

「うわあ!」
首筋に何か冷たい感触を感じ、シンは我に返った。
マユが昔のままのいたずらっぽい笑顔で缶ジュースをシンの首筋に押し当てていた。
左手に缶ジュース、右手にクレープをそれぞれ二個ずつ、器用に持っている。
「うふふ」
「こら、マユ!」
マユを捕まえようと手を伸ばす。マユはそれを軽くかわして、シンに右手に持ったものを差し出した。
「はい、お兄ちゃん」
クレープが目の前に突きつけられる。シンはこれで、口をふさがれた。
いつの間にか新しいかわし方を身につけていたようだ。

ベンチに並んで座り、マユの買って来たクレープを食べた。
「どう、おいしい?」
マユが、少し不安そうな表情で聞いてくる。シンはわざと難しい表情を浮かべた。マユの顔が、さらに不安そうになる。一拍置いてから、シンは意地悪く言った。
「うまいよ」
するとマユは頬を膨らませ、シンの胸を叩いた。
「もう、ひどい!」
シンはおどけて逃げるように、ベンチを立った。
「さっきの仕返しだよ!」
「お兄ちゃん!」
マユも立ち上がり、シンを追いかける。
たとえようもない、幸せな時間。
一度は失われた大切なもの。それが、ついに戻って来た。

その二人、いや、シンの様子を物陰から見張っている者がいた。
ピンク色の一つ目を光らせ、機をうかがっている。

シンを追いかけていたマユが転ぶ。
「アハハ、何やってんだよ」
言いながらシンはマユに手を差し出した。マユは、少し不機嫌そうになりながらもシンの手を取り、立ち上がった。

そうだ。俺は今度こそマユを、守れなかった全てを守る。
この手で。
もう俺は、無力じゃない。
79衝撃(ry/16:2006/08/11(金) 15:18:15 ID:???
以上、第八話終了です

毎回レスの数々、ありがとうございます
やっぱりレスがつくと励みになります
それにしてもやっぱり分かるんですね。クウガ厨って
まあ、クウガ以降の平成シリーズ全般好きですけど
80通常の名無しさんの3倍:2006/08/11(金) 20:54:26 ID:???
またまた大作乙!
クウガ好きなのは自分もわかったよw
81通常の名無しさんの3倍:2006/08/11(金) 23:08:25 ID:???
毎度乙!
今後の展開が楽しみです。
82通常の名無しさんの3倍:2006/08/12(土) 00:57:34 ID:???
トダカかっこよすぎて涙出てきた
83通常の名無しさんの3倍:2006/08/12(土) 06:56:51 ID:???
GJ、赤い戦士カッコェェ-!
青い翼とも戦闘フラグが立ったようでwktkが止まらん
84通常の名無しさんの3倍:2006/08/12(土) 12:46:02 ID:???
赤い戦士、蒼い翼、トダカ…いやいや巧くまとまっていてそれでいてしつこくない…
見事!次も楽しみに待ってます。なるべく早く書いていただけるとすごく嬉しいですw
85通常の名無しさんの3倍:2006/08/13(日) 14:24:07 ID:???
>>84
早くとか言うな、ヴぉけ
86通常の名無しさんの3倍:2006/08/15(火) 23:54:46 ID:???
保守
87通常の名無しさんの3倍:2006/08/18(金) 00:33:10 ID:???
ほっしゅっしゅー
88通常の名無しさんの3倍:2006/08/20(日) 14:11:26 ID:???
仮面ライダー兜
89通常の名無しさんの3倍:2006/08/21(月) 01:28:49 ID:N0wtCq7j
キャストオフ
90通常の名無しさんの3倍:2006/08/21(月) 01:40:40 ID:???
さげておく。
91通常の名無しさんの3倍:2006/08/22(火) 20:34:47 ID:???
保守
92通常の名無しさんの3倍:2006/08/22(火) 20:51:41 ID:???
ズバット参上
93通常の名無しさんの3倍:2006/08/24(木) 09:32:16 ID:???
続き待ち
94通常の名無しさんの3倍:2006/08/25(金) 17:59:45 ID:???
保守
95通常の名無しさんの3倍:2006/08/27(日) 01:45:15 ID:???
保守
96通常の名無しさんの3倍:2006/08/28(月) 00:23:10 ID:PWPWii8R
保守
97通常の名無しさんの3倍:2006/08/29(火) 21:02:51 ID:???
>>96
IDがWii
98通常の名無しさんの3倍:2006/08/31(木) 10:46:36 ID:???
ライスピの結城とアンリはできてるよね保守
9931 ◆MRSinWBV9. :2006/09/02(土) 16:31:16 ID:???
|ω・`)

|・ω・`)ノシ

ご無沙汰してます。デスマーチがようやく落ち着いてきました。
今日久々の休みでついさっきまで寝てました。

続きは……スイマセン。もう少し待ってください。
代わりと言ってはなんですが、仮面ライダー衝撃の6〜8話を
Wikiにアップしておきました。

|彡サッ
100通常の名無しさんの3倍:2006/09/02(土) 17:18:57 ID:???
>>99
気にしない、気にしない。
31氏はしっかり自分の生活を優先してくれよ
この機会にまた一話目から読み返しておくからさ。
101通常の名無しさんの3倍:2006/09/04(月) 11:27:35 ID:???
ゆっくり読めるのいいよ
あまり新シャアこれない自分にはあってる
102通常の名無しさんの3倍:2006/09/07(木) 17:19:46 ID:???
保守
103通常の名無しさんの3倍:2006/09/09(土) 10:32:56 ID:???
わたし、待〜つわ
いつまでも待〜つわ

保守!
104通常の名無しさんの3倍:2006/09/10(日) 00:07:14 ID:???
なんとなくだが、キラやアスランの掛け声は昭和ライダー風に
「変、身っ!!」
だけど、シンは平成ライダー風に
「変身っ!!」
と書き分けるとカッコイイかな、と思いマスタ。勝手な意見でスマソ。
105通常の名無しさんの3倍:2006/09/10(日) 23:49:52 ID:cgCEN++k
保守
106通常の名無しさんの3倍:2006/09/12(火) 11:11:10 ID:???
ほしゅ
107通常の名無しさんの3倍:2006/09/13(水) 17:57:51 ID:???
職人さん忙しいんかな
108通常の名無しさんの3倍:2006/09/13(水) 21:52:52 ID:???
スレ読まずにカキコ
悪の秘密結社と言えば、誘拐・監禁

ルナマリア磔刑ハァハァ
109通常の名無しさんの3倍:2006/09/14(木) 00:32:47 ID:???
悪の秘密結社は幼稚園バスをジャックするもんだ。
110通常の名無しさんの3倍:2006/09/15(金) 00:43:21 ID:???
脳内でインパルスと仇の白いヤツとの決戦の事を考えてたんだけど、
原作(種死)みたくインパルス胴体真っ二つは流石に無理だろうからw、腕一本差し出して覚悟の違いで勝利みたいな感じを
想像して一人盛り上がってた俺ガイル。
でもラスボスだとするとダグバ戦みたいな感じの方がしっくり来るのかな?

まぁ、ともかくチラシの裏でスマソ。
11131 ◆MRSinWBV9. :2006/09/15(金) 22:41:41 ID:oqlR7jH+
スイマセン。相変わらずデスマ進行中でして……
今のを書く前にいくつか没にした案があるので一つ投下してみます。
話のネタにでもなれば幸いです。

○背景

C.E.70――蒸発事件が相次いでいた。共通点は鏡か水辺にいたということだけ。
警察がその正体を見抜けないでいるときに犯人の姿を見た者がいた。彼らは鏡の
中に自分の飼っているMAと契約し、MRとなった。

当初は現実世界に干渉するMAを殲滅するために協力していたMRたちだが
プロヴィデンスを名乗るMRの介入で状況は大きく様変わりする。彼はライダーバトルを
一方的に主張し、勝利者の願いは何でも聞き入れられると主張する。

同時期にMRになった刑務所からの脱獄囚であるカラミティー、レイダー、
フォビドゥンはそれを信じて一般人を巻き込みながら他のライダーとの戦闘を始める。
多くのライダーはその戦闘に破れ、最終的にプロヴィデンス、フリーダム、
ジャスティスの3体が生き残った。

プロヴィデンスにフレイ=アルスターを殺された怒りからフリーダムは
プロヴィデンスを倒し、フレイを生き返らせるためにジャスティスと戦う。
ジャスティスはフリーダムとの戦いを望まず、相打ちとなり勝者が出ないまま
ライダーバトルは終了した。

そして3年後のC.E.73――シン=アスカの妹マユ=アスカがアドベント能力に
目覚めたことから再び悲劇が始まろうとしていた。マユの睡眠中の潜在意識が
ミラーワールドから龍を呼び出し殺人を繰り返していた。殺されたのが凶悪犯ばかり
とはいえ、警察もそれを見逃すわけにはいかずMSを投入してその捜索にあたった。

ある日、マユは龍が自分のMAであることに気付き、龍が犯してきた罪に対する
罪悪感が日に日に募っていく。龍はそれに気付き、マユを襲う。シンはマユの
変化に気付き、ミラーモンスターについて調べているうちに黒髪の長髪で
長身の男から空白のカードデッキを受け取る。

その日の夜、マユの部屋から悲鳴が聞こえシンはカードデッキを持ってマユの部屋に
走り、龍と対峙する。シンはコンタクト(契約)とシール(封印)の2枚のカードを
使って自分がMRになる代償として龍の封印に成功する。

龍と契約してからシンはミラーワールドと現実世界の干渉音を聞き取ることが
できるようになっていた。初めはそれが何か気が付かずに病気かと思っていたのだが
ふと、ビルの窓に目をやるとそこではMR同士の戦いが繰り広げられていた……。
11231 ◆MRSinWBV9. :2006/09/15(金) 22:45:15 ID:???
出先でsage書き込むの忘れてました……orz
続きです。見て分かるとおりまんま『龍騎』の設定ですが(´・ω・`)

・ミラーワールド(仮称:マインドワールド?)

人の心が作り出すもう一つの世界。鏡面や水面が入り口となり、基本的には現実世界と
左右対称の世界。そこに住んでいるのはMAと呼ばれる動物。普通の人間はその存在に
気が付くこともできないが、潜在能力の高い人間はその存在を知覚できる。MAは
そのような人間をミラーワールドに引き込んで魂だけの存在に変え、それを糧としている。

仮面ライダー(MR)になった人間はミラーワールドで短期間ながら粒子化を防ぐことができる。
彼らはミラーワールドの中で暴走するMAやMRと戦うことになる。なお、最強クラスのMAと
契約している者の一部にはミラーワールド自体を変容させる補正能力を持っている者もいる。

また、ライダーバトルの主な会場でもある。

・ライダーバトル

正体不明の仮面ライダーによって主催されているバトル。すべてのライダーを倒した
勝利者は願いを一つかなえることができる。

ただし、前回は最後に生き残ったキラとアスランが相打ちで勝利者が出なかったため
例外的に最後まで生き残ったキラとアスランが生存している。
11331 ◆MRSinWBV9. :2006/09/15(金) 22:46:54 ID:???
・MA(Mirror Amimal)

すべての人が心の中に飼っている自分を投影した動物。ミラーワールドの中で具現化する。
最強クラスのものは現実世界へも短時間は干渉可能。自分のMAだからと言って本人に
従順というわけではなく、自らのMAに殺されてしまうこともある。

MAと本人は一蓮托生の関係にあり、MAが死ねば本人が死に、本人が死ねばMAも消滅する。

・MS(Mirror Soldier)

MAによる被害が相次いだため、MRを参考に作り出された人工MS。ミラーワールドの粒子化を
防ぐことができるが、その期間はMRよりも短い。MAと契約していないためアドベント能力は
総じて低い。

・MR(Mirror Rider→Masked Rider)

強力なMA(少なくとも現実世界に干渉できるレベル)と契約した人間の呼称。当初は
ミラーワールドで戦闘している姿を鏡越しに現実世界から目撃され、ミラーライダーと
呼ばれていたが、後のライダーバトル以降、現実世界にもその姿を現すようになったため
仮面ライダーと呼ばれるようになった。アドベント能力が高く、最強クラスのMRと
契約しているものも多い。

・アドベント

自分のイメージを具現化して「出現」させる能力。仮面ライダーへの変身もこの能力の応用。
よほど熟練のもので限り、イメージするための媒介が必要であり、変身ベルトやカードセット、
武器などがその役割を果たしている。

ほとんどの場合心象世界であるミラーワールドの中でしか使えないが、変身などの
限定的な能力は現実世界でも可能である。
11431 ◆MRSinWBV9. :2006/09/15(金) 23:04:06 ID:???
○登場人物

・シン=アスカ(インパルス→デスティニー)

妹のMAであるルビー色の瞳の龍と契約した少年。妹のマユは潜在的に高度な
アドベント能力を持っており、MAに常に狙われているため自らが戦うことを決めた。
自分が戦わないとMAが他のMRに倒されてマユが死んでしまうためにライダーバトルに
参加、戦闘にはあまり積極的ではない。そのため、ライダーバトルを止める方法を
模索し、前回のライダーバトルの生き残りであるアスランと出会う。

ライダーバトルの半ばでフリーダムが戦闘を挑んできて、トドメを指される寸前に
マユの意志で龍がシンをかばって消滅。現実世界に戻ったシンはマユが死んでいる
ことに絶望し、ミラーワールドに潜むシンの影に支配される。その際に自らの
MAが開放され、MR デスティニーに変身するようになる。

後にアスランの手助けもあって影から開放され、正体不明のMR、デスティニー、
ナイトジャスティス、デルタフリーダムがライダーバトルで生き残る。
そして最終決戦の後に一人生き残ったデスティニーの前には、シンにカードデッキを
渡したデュランダルの姿があった。

・アスラン=ザラ(ナイトジャスティス)

前回のライダーバトルの生き残りの一人。通常ライダーバトルは一人の勝利者以外
生き残れないシステムだが、最後に生き残ったキラと相打ちになり、生き残ることに
なった。ライダーバトル終了から今まで(3年間)の記憶を失っている。

ライダーバトルで多くのものを失ってトラウマになっているせいか現在変身できない
状態にある。契約MAはコウモリ。MAの能力は相変わらず強大で、戦おうとしない
アスランを襲撃することも。対人格闘のプロで生身でも武器無しのMRには引けを
取らないほど。シンと知り合い、シンに自分の身を守らせるために格闘技を教える。

決意を決めてからはナイトジャスティス(サヴァイブモード)に変身し、圧倒的な
格闘力を誇る。その実力は手負いでデルタフリーダムを撃破するほど。

・キラ=ヤマト(フリーダム→デルタフリーダム)

前回のライダーバトルの生き残りの一人。アスラン同様ライダーバトル終了から
今まで(3年間)の記憶を失っている。正体不明のMRにフレイ・アルスターを
殺されたことから、彼女を復活させるために今回のライダーバトルに参加している。

極端に口数が少なく、話しかけられても答えようとしない。奇襲や射撃戦を
得意とし、一撃で確実にしとめる手法を好む。契約MAはワシ。

前回のカードデッキを保持しているため、戦闘開始すぐにサヴァイブモードである
デルタフリーダムに変身し、フリーダムの形態でいることは少ない。
11531 ◆MRSinWBV9. :2006/09/15(金) 23:14:38 ID:???
今回のライダーバトルの参加者はシン、シン(影)、アスラン、キラ
ステラ、アウル、スティング、レイ、カガリ、ルナマリア、ハイネ
ネオ。

マユとラクスは潜在的に強力なアドベント能力を持っていて
ミラーワールドにMAを解さずに干渉できる(現実世界とのゲートを
強制的に開くなど)

デュランダルは『龍騎』における神崎兄のポジション。つまり黒幕。
実はライダーバトルはデスティニープランの一環であり、正体不明の
MRの人間体(クルーゼやレイなど)は自分がクローニングに携わった
もので、強き種が次世代を告ぐべきであるという思想の元で
戦わせている。そのため、正体不明のMRは初めからサヴァイヴ体であり、
最後に生き残ったライダーに倒される運命にある。
11631 ◆MRSinWBV9. :2006/09/15(金) 23:32:11 ID:???
と、まあ、こんな感じです。
途中で没にしたので固まってない部分が多いですが……。
117通常の名無しさんの3倍:2006/09/15(金) 23:36:51 ID:???
>>116
「憶えてしまうんですよ・・・♪」
な人の役で盟主王が出ると、鏡の中から言われた気がした。
118通常の名無しさんの3倍:2006/09/15(金) 23:47:08 ID:???
・・・なるほど、シンと黒シンがいるのは龍騎とリュウガからか・・・
11931 ◆MRSinWBV9. :2006/09/16(土) 00:09:14 ID:???
>>117
それはいいですね。
脳内設定だとアズラエル財団がMSを作ったことになっているので
盟主王は『カブト』の三島と加賀美パパを足したようなポジションを
想定してました。

>>118
一部『HERO SAGA』辺りの設定も混ぜてますが、基本龍騎と龍牙です。
情の面がシン、理の面が黒シンで二つが融合して完全体になると
いうあちこちで聞く感じです。
120通常の名無しさんの3倍:2006/09/16(土) 00:43:41 ID:???
投下乙。

龍騎ネタは俺もちょっと考えたことがあるなあ。
神崎とシンのシスコン同士をなんとか絡められないかな、とか。
121通常の名無しさんの3倍:2006/09/16(土) 00:58:49 ID:???
シスコンと言えば、俺はシンは加賀美タイプだと思ってたが、天道でも行けるんじゃないかと最近思えてきた
「俺はマユを助けるために7年間準備してきたんだ!」
1221/16:2006/09/16(土) 22:55:10 ID:YcN+o/n1
仮面ライダー衝撃(インパルス)

第九話


「泥棒!」
駅前に、女性の叫び声が響きわたった。
声の主はまだ若い、二十代くらいの女性だ。
見ると、バイクに乗った少年が、馬鹿にするようにハンドバッグを掲げていた。
少年はそのままバイクで走り去ろうとしたが、横から何者かに飛び掛られ、バイクごと転倒。そのままバイクから投げ出された。
「くそっ、なんだよ!」
毒づいた少年の目の前で、飛び掛った何者かがバイクを踏みつけて仁王立ちしていた。
太陽を背にしていたため、金色の髪が輝いて見えた。

中性的な顔立ちで、意志の強そうな目をした女性だった。その瞳はまっすぐに少年を見下ろし、睨みつけている。
凛とした、力強い声で、彼女は少年を怒鳴りつけた。
「それを返せ!」

少年はバイクを捨てて、踵を返して逃げ出した。片手にハンドバッグを提げたままだ。
「待てぇっ!」
金髪の女性は叫ぶが早いか、逃げた少年達を追いかけた。
追いかけっこが始まるが、もともと身体を鍛えるなんてことなどしていなかった少年はすぐに息が上がりペースが落ちる。
逆に女性の方は全くペースが落ちることなく、簡単に追いつく。
へたり込んだ少年に歩み寄る。女性は息も切らすこともなく、少年に詰め寄った。
「もう逃げられないぞ」

「こ、この!」
少年が殴りかかるが、息が上がっているせいか全く勢いがない。
女性はそれを軽くかわし、足をかける。いつの間にか周りに出来ていた人だかりから、歓声が上がった。
一方、少年は無様に背中から倒れた。周りからくすくすと忍び笑いがもれる。

1232/16:2006/09/16(土) 22:56:04 ID:???
それを聞いた少年は激昂し、折りたたみ式のナイフを取り出した。
「なめんじゃねえ!!」
叫びながら少年はナイフを腰だめに構え、突進してくる。
彼女はそれをかわそうと後ろへ下がる。だが、足元に段差があり、彼女はそれに引っかかり、足を踏み外した。
そのまま彼女は尻餅をついてしまう。少年は哄笑し、彼女の目の前に立ちふさがった。
「はははっ!馬鹿にしやがるからだ!」
そこへ、ナイフが振り下ろされた。彼女自身ではなく、周りの人だかりの中から叫び声が響いた。

周りの群集のギャラリーの中で、何人の人間が見ることができたのだろう。
少年自身も何が起こったのかは分からなかったに違いない。
ナイフが女性に突き刺さろうとしたとき、突如としてどこからともなくジェラルミン製の銀色のケースが少年めがけて飛んできた。
ジェラルミンケースは女性の顔を掠め、少年の顔面に直撃する。
鈍い音がして、少年はナイフを取り落とし、そのまま昏倒した。

ナイフが地面に落ち、かちゃりと音がした。
群集が気付いたときには、既に少年は仰向けに倒れ、気を失っていた。
少年の頭の方に、銀色のケースが転がっている。
それを見た女性は後ろを振り返り、嬉しそうに叫んだ。
「アス……アレックス!」
アレックスと呼ばれた藍色の髪の青年が彼女に駆け寄る。
顔の半分がサングラスに覆われているが、それでもはっきりと分かるほど不機嫌そうに彼女を怒鳴りつけた。
「カガリ!何をしているんだ!」
「いや……、これは……」
口ごもるカガリの目の前で、アレックスと呼ばれた青年は気絶した少年からバッグを取り上げた。
そしてそれを、群集の中にいた持ち主の女性に渡す。
「どうぞ」
「あ……ありがとうございます」
あっけに取られた女性は、そう返すのが精一杯だった。

1243/16:2006/09/16(土) 22:56:53 ID:???
そのままアレックスは銀色のケースを拾い、カガリの元に戻っていった。
そして小声で彼女に呟く。
「さ、行くぞ」
「え?」
「あまり目立つわけにはいかない。分かっているだろ?」
「ああ。すまない」
二人は警備員や警察が来る前に、小走りに群集をかき分けてその場を離れた。


「ああ、重かった〜」
紙袋を下ろして開口一番、ルナマリアがぼやいた。
「いくらなんでも、多すぎるんじゃないのか?」
「今考えると……そうかも」
レイとメイリンも、荷物を下ろしながら呟いた。
三人が今日買ったものを下ろす。それだけで、居間の一部が埋まった。
大抵の家具はすでにこの家にあるにもかかわらず、この量だ。
女の子一人の支度にしては、いくらなんでも多すぎるだろう。
この家だから何とか入ったものの、これが普通の学生が住むようなところ、例えば、以前シンがすんでいたアパートだったらまず入りきらなかったことだろう。
「買い物してるときはまだ足りないかもって思ったんだけどね」
「安かったから、つい」
ルナマリアもメイリンも、さすがに反省したように言った。
この中には二人の買い物も多数含まれている。
ルナマリアの持っていた服の多くは自分のものであったし、化粧品に至ってはメイリンのものばかりだ。
レイが呆れてため息をつくのも当然だ。
ただの自意識過剰かもしれないが、やや非難がましい眼を向けられているような気さえする。
メイリンはそれをごまかすように手を叩いた。
「そうだ!マユちゃんの歓迎のご馳走つくらないと」
「そうよね、メイリン!私も手伝うわよ」
ルナマリアは慌てて台所に向かったメイリンに付いていく。
レイは仕方ない、とでも言うように肩をすくめ、同じく台所へ入っていった。

1254/16:2006/09/16(土) 22:58:57 ID:???
「ねえ、何かないの?」
冷蔵庫の中をのぞいたメイリンがレイに聞く。
「あまりないな。マユちゃんがうまく残り物を使ったようだ」
「そっか。それなら途中で買ってくればよかった」
「あの大荷物を持ちながらか?」
レイは苦笑しながらメイリンに言った。
「あっ、そうよね。それじゃあ、何が残ってるんだろ」
メイリンははっとしたように口を開き、あらためて冷蔵庫の中を物色する。
たいしたものは、つくれそうになかった。

「お姉ちゃん、はいこれ」
「これを買って来いって?」
メイリンがお買い物メモを手渡す。かなりの量がありそうだ。
「うん。でも余計な買い物はしないでよ?」
「分かってるわよ、子供じゃないんだから。じゃ、行ってきま〜す」
ルナマリアは手をひらひらさせながら、台所を出ていった。

玄関を出たルナマリアは、まず駐車場に向かった。
普通の乗用車がゆうに二台は停められる大きさだ。しかし、今はここにはバイクが二台だけしかない。
シンのバイクと、ルナマリアの赤いロードバイクだ。そこそこ広い駐車場であるにもかかわらず、二台は互いにすぐそばに駐車してあった。
仲良く語らってように見えて、ルナマリアはなんとなくおかしくなった。

ルナマリアはこの家に住んでいるわけではないが、バイクだけはこの家に置いていた。
以前はルナマリアたちの寮の駐輪場に置いていたのだが、何しろお嬢様の多い寮だ。
駐輪場に停めてあるのも瀟洒な自転車ばかり。その中にこの赤くて大きなロードバイクが置いてあると、まるで蝶の群れにカブトムシが紛れ込んでいるかのような、いっそすがすがしいまでのすさまじい違和感を醸し出していた。
もちろん寮母もそんなことが面白いわけはなく、ルナマリアはよく嫌味を言われていた。どうもあの寮母とルナマリアは相性が悪いらしい。これも寮に居たくない理由の一つだ。
しかし、文句を言われたからといってこのバイクを手放すはずもない。
大体この寮では、ルナマリアは少し浮いた存在だった。メイリンはともかく、ルナマリアはどうしてもお嬢様ばかりのこの寮には順応できないのだ。
駐輪場の中で浮いていたバイクと同様に。
それが、レイの家の駐車場ではシンのバイクと仲良くなじんでいるように見える。
まるで、自分の居場所を見つけたみたいだった。

1265/16:2006/09/16(土) 23:01:17 ID:???

「ねえ、レイ。どうせならヴィーノたちも呼ばない?」
ふと思いついたようにメイリンが言った。レイは少し考えるようにうつむくが、答えなど考えるまでもない。
「俺は構わない」
マユちゃんがこっちに来たとき、ヴィーノには随分世話になっていたと聞いている。ヨウランとはほとんど面識はないはずだが、これを機会に知り合うのもいい。歓迎会とはそういうものだ。
まあ、メイリンがそういう提案をしたのはおそらくただ単純に、人数が多い方が楽しいということであろうが、反対する理由などない。
ヨウランとヴィーノなら、パーティーを大いに盛り上げてくれることだろう。
「うん。じゃ、呼んでくるね」
メイリンはそう言って携帯電話を取り出し、電話をかけた。
「もしもし、ヴィーノ?あのね、シンの妹にマユちゃんって可愛い女の子がいるんだけど。え?知ってるの?
それでね、今度からこっちで暮らすことになって、歓迎パーティーをするんだけど。絶対行く?
じゃあ、ヨウランも誘って。そうだよ、人数多い方が楽しいし。うん。そうそう、それでね……」
そのままメイリンとヴィーノは雑談を始めた。結構楽しそうに話している。この調子だと、随分な長電話になりそうだ。電話中のメイリンを放っておいてレイが軽く片づけをしていると、インターホンが鳴った。
メイリンは電話に夢中なので、レイが玄関に向かった。

「はい」
レイがドアを開ける。その向こう、玄関先に立っていたのは二人の男女だった。
藍色の髪でサングラスをかけた青年と、金色の髪の中性的な顔立ちをした女性の二人組。
女性が前に出ようとしたが、サングラスの青年はそれを手で制して前に立った。女性は不満そうにしていたが、青年は構わずにレイに言った。
「突然の来訪を許してほしい。俺の名はアレックス・ディノ。モルゲンレーテの社員だ」
「モルゲンレーテ?オーブの方ですか?」
「ああ」
そこで、業を煮やしたのか後ろに下がっていた女性が口を挟んだ。苛立っているような感じの口調だ。
「ここはギルバート・デュランダル教授の家なんだろう?教授はいるのか?」
「カガリ!」
1276/16:2006/09/16(土) 23:06:28 ID:???
アレックスがたしなめるように女性を叱り、女性は少し反省したように顔をうつむけた。
どうやらカガリという女性はかなり直情的な性格のようだ。見たところ、アレックスという青年が抑え役に回っているらしい。
マユが来てからはそうでもないが、シンもかなり感情的になりやすい性格だ。すぐに突っかかり、しょっちゅう誰かとぶつかってばかりだった。そんなときはいつもレイやルナマリアで何とかフォローしていた。
そのときの苦労を思い出し、レイは心の中でアレックスという青年に同情しつつ正直に答えた。
「申し訳ありません。ギルバートは今海外で」
「そうか。あの人には是非聞きたいことがあったのだが……」
アレックスが残念そうに呟いた。どうしてもデュランダルと話がしたかったらしい。
レイもさすがにデュランダルの研究の詳しい内容までは知らない。しかし、ここから遠く離れた海の向こう、オーブから足を運んでくるほどだ。よほど重要なことなのだろう。
「立ち話もなんですし、お入りください」
とにかく、わざわざデュランダルを訪ねてきた客人をそのまま追い返すわけにはいかない。レイはアレックスたちを家へと招きいれた。

「そうか。デュランダル教授と連絡は」
「ええ。こちらからは連絡が取れないんです。今は一体どこにいるのか……」
レイはため息をつく。デュランダルは海外を飛び回っており、向こうから連絡してこない限り、本当に連絡のとりようがない。
話が途切れ、沈黙が支配する。なんとなく空気が重くなった。
ちょっとした物音に、三人ともが振り返った。
居間の戸が開いた音だった。いきなり三人に振り返られ、メイリンは驚いたように目を見開いた。
手に持ったお盆の上に、コップが三つ載せられている。
「あ、あの……、紅茶入れてきました」
メイリンは三人の前に紅茶の入った高級そうなカップを置いた。
真っ先にアレックスは目の前のカップを手に取り、口元に運んだ。すばらしい芳香が、アレックスの鼻腔をくすぐった。
「ありがとう。いい香りだ」
アレックスはメイリンに笑いかけた。サングラスに隠されているとはいえ、ハンサムな男性に微笑みかけられたメイリンは思わず顔を赤くした。
レイも黙ってカップを口に運んだ。葉がいいのもあるが、メイリンの淹れ方もいいのだろう。なかなかの香りだ。

1287/16:2006/09/16(土) 23:10:58 ID:???
そろそろ帰るというので、レイは玄関までアレックスたちを見送りに来た。メイリンもレイに付いて来ている。
「では、次に連絡があったらお伝えします」
「ありがとう。では、頼みます」
アレックスが頭を下げる。結局話し合ったのはレイとアレックスだけで、カガリが口を出すことはなかった。
というより、余計な事を言わないよう、アレックスが喋らせなかったのだ。

次にアレックスはメイリンのほうを向いた。紅茶を持ってきた後にまた話を続けたが、メイリンには下がってもらった。この二人がまともに話すのは、これが初めてだろう。
「君も、美味しい紅茶をありがとう」
「い、いえ。大したことも出来なくて」
「いや、十分だよ。本当に美味しかった。ありがとう」
そう言ってアレックスはまた笑いかける。メイリンは嬉しそうな顔をした。
「では、失礼します。教授によろしくお伝えください」
「ええ。代表もお気をつけて」
「ああ。……!?」
言ってからカガリは、はっとしたように口を押さえた。カガリの反応を見たレイは満足そうに口元を歪めた。
「やはり、気付いていたのか」
アレックスは別に動揺した風もなく言った。分かっていたのだろう。
「はい。そちらも隠すつもりはなかったようですが」
本気で隠すつもりなら、名前を言うわけがない。ただ、ひけらかすとまるで権力で押さえつけているような気がして言いたくなかっただけなのだろう。
ほとんど話すことはなかったが、そういうまっすぐな性格はよく伝わってきた。
「ああ。だが、これはあくまで私的な訪問だ。このことまでは」
「ええ。デュランダルには言いませんよ」
「感謝する」
それだけ言って、アレックスはドアを開けた。
カガリを促し、最後にもう一度だけ頭を下げ、アレックスは出て行った。最後にドアの閉じる音がして、それを合図にしたようにレイは居間の方へときびすを返した。
それについてきたメイリンが、レイに聞く。
「ねえ、一体何の話なの?」
会話の意味が分からない。先ほども何のことかさっぱり分からなかった。
「さっきの話か?」
「うん。代表って……、え!?」
メイリンはそこまで言ってやっと気付いたようだった。

オーブでの代表就任式の様子は「若すぎる女性の代表」という見出しで、当時はワイドショー等で大きく取りざたされていた。その様子を思い出したのだろう。
「ああ。あの人は……」
カガリ・ユラ・アスハ。オノゴロ島事件で死亡したウズミ前代表の娘であり、現オーブの代表だ。
今回のはお忍びの訪問、といったところだろうとレイは解釈した。

1298/16:2006/09/16(土) 23:12:46 ID:???

「そんなにいいところなの?」
「はい。昔はしょっちゅう家族で海水浴に行ってました。海もきれいで、すごく楽しかったです」
「いいわね。オーブかあ、一度遊びにいってみたいわ」
「はい!是非来てください」
心底羨ましそうなルナマリアの言葉に、マユは声を上げて笑った。
そんな二人の後ろから、やや恨めしげな声がかかる。
「お〜い。ちょっと待てよ」
振り向いた二人の視線の先には、両手に買い物袋を下げたシン・アスカの姿があった。
「二人とも少しくらい持ってくれたっていいだろ。重いんだよ」
「持ってるじゃない。ほら」
ルナマリアがフライドチキンの紙箱を見せつける。いかにも軽そうな、小さなものだ。
実際、ルナマリアが持っているのは後から買い足したもので、大した量はない。大部分はシンの下げた買い物袋の中に入っている。
「いや、そんな小さいのじゃなくてさ」
「お兄ちゃん、女の子に頼るなんて情けないよ」
「そうよ、シン。私なんかあの大荷物を家まで担いでいったのよ。それくらい持ってよ」
息のあった波状攻撃に、何も言えなくなってしまう。
シンは諦念を込めた大きなため息をついた。気付くと、二人からやや距離が開いてしまう。シンは追いつこうと急いで、弾みで誰かの肩にぶつかってしまった。
「あ、すみません」
「いえ」
藍色の髪をした、サングラスをかけた青年だった。その隣には、金髪の、おそらく女性であろう連れがいる。
シンはその二人を別段気にかけることもなく、ルナマリアたちを追いかけていった。

アレックスは立ち止まり、つい今しがた肩のぶつかった少年の方を振り返った。
二人の少女に追いつき、何かを言っているようだ。
あいつ……?
別に理由はないが、彼のことがなんとなく気にかかり、目を離すことが出来なかった。
「どうした、アスラン?」
隣にいたカガリが声をかけてきた。それほど、おかしな様子だったのかと自分で気になってしまう。
「いや……、別に」
そうは言いつつも、アレックスはあの少年、シンの様子をもう一度見た。
女の子が、彼の腕にしがみつく。それを引き離しながらも、彼の方も満更ではなさそうだ。そして赤い髪の女性は笑いながらそれを見ている。
三人とも、実に楽しそうにしていた。

1309/16:2006/09/16(土) 23:15:06 ID:???

「ヴィーノたちも来んの?」
「うん。絶対来るって」
「そっか。来るんだ」
シンの声は心なしか弾んでいる。マユと会えたのも、ヴィーノのおかげだ。それなのにちゃんとしたお礼もしていなかった。ここでしっかりとあらためてお礼をしておきたいのだ。
そして、その気持ちはマユも同じだった。
台所から、メイリンと問答しているマユの声が聞こえてくる。どっちが料理をつくるかでもめているようだ。マユのつくりたい!という声がここまで聞こえる。
そのやり取りを聞いていたシンの顔が思わず緩む。
だが、その一瞬後、彼の顔はまるで別人のように厳しく引き締まった。
「シン、どうかした?」
ルナマリアの声も、耳には届かない。シンはすぐさま部屋を飛び出した。
「ちょっと、シンったら!」
ルナマリアもシンを追いかけようと駆け出すが、後ろから肩を掴まれ、止められた。
「レイ?」
「行かせてやれ」
「は?何でよ?」
レイの含みありげな態度に、ルナマリアは声を荒げた。
「ひょっとして、何か知ってるんでしょう!?何か言いなさいよ!」
レイは黙って首を振る。そうこうしているうちに、駐車場の方から、シンのものであろうバイクの走り去っていく音が轟いた。
もはや、追いつけるわけがない。

「アスラン?」
二人きりのときだと、ついかつての名前で呼んでしまう。
突然歩を止めたアレックスへ、カガリがいぶかしげに声をかけた。だが、肝心のアレックスにはそれを聞いている余裕すらない。その顔がみるみるうちに蒼白になり、表情がこわばっていく。
アレックスはカガリの手を引き、走り出す。あまりに突然の行動に、カガリは驚き、動揺した。
「こっちだ!」
「な、何を!?」

13110/16:2006/09/16(土) 23:17:31 ID:???
「くぅっ!」
アレックスはカガリの身体を突き飛ばし、自分もその反動で倒れるように地面に伏せる。
一瞬前まで二人のいた空間を、破壊的な力を秘めた強靭な腕が横切った。
MS、ダガーLの右腕だ。
アレックスが察知したのは、これだった。
ダガーLはそのままカガリに襲い掛かろうと彼女に歩み寄っていく。
アレックスは彼女を救おうと横から体当たりを仕掛けた。ダガーLは吹き飛ばされ、その隙にアレックスはカガリを助け起こした。
「あ、ああ……」
アレックスに身体を支えられながらも、カガリは息を呑むしかなかった。
「何で、何でこんな!」
かつてオーブはMSの襲撃により焼かれ、多くの犠牲者が生まれた。彼女の父親、ウズミ・ナラ・アスハも、そのときに死んでしまった。
その後、彼女はアスランを初めとする多くの仲間とともに、悲劇を終わらせるために戦った。
その末にMSは滅び、平穏が訪れた、はずだった。

だが、MSは甦った。
あの戦いは無駄だったのか。そう思うと彼女はいてもたってもいられなくなり、木坂をはじめとする側近に全てを任せ、自ら飛び出した。
全てを自分の眼で確認するために。
デュランダル教授の家へ立ち寄ったのもそのためだ。
その結果、彼女はMSの復活を確認することとなった。ほかならぬ、自らの眼で。

「ここだ!」
ショックのあまり立ちすくんでいた彼女を、アレックスが現実へと引き戻した。
近くの建物へと、アレックスは彼女を押し込む。そして襲い掛かるダガーLをジェラルミンケースで殴りつけた。
ダガーLのひるんだ隙に、アレックスはそのケースへキーを差し込んだ。電子ロックが解除され、黒光りする銃身が眼前にその姿を現す。
「お前……」
「こんなところで、君を死なせるわけにいくか!」
自動小銃CIWS(シウス)、MS用新型弾丸、それ専用に設計されたモルゲンレーテ社製の新型銃で、これはその試作品だ。
本来ならZAFTに納入される予定だったものだが、強引に徴収したのだ。
MSが出現しているということは、調べるまでもなく知っている。ついこの間、独自に調査し、その時点でMS、そして三人目と遭遇していたからだ。
もはやアレックスにかつての力はない。カガリを護衛するためには、必要な力としてシウスを用意した。それが功を奏した形となった。

13211/16:2006/09/16(土) 23:21:10 ID:???
アレックスはシウスを手に取り、一瞬だけ感慨深げにそれを眺めた。
「また、戦うことになるのか」
だが、そんな感傷に浸っている余裕はない。ダガーLはすぐそばまで突進してきた。
立ち上がったアレックスはかがみこむ。そのまま突っ込んできたダガーLを、背負うように巧みに投げ飛ばす。
さらに既に用済みとなったジェラルミンのケースを足で跳ね上げ、ダガーLの頭部へと叩きつける。
ダガーLは視界を奪われ、一瞬動きが止まる。
その隙にアレックスはダガーLの腹部へ向け、シウスをフルオートで連射した。
新型弾丸が次々に吸い込まれていき、ダガーLの動きが止まる。
もとより護身用に持ってきただけなので、弾数は少ない。すぐに残弾カウンターがゼロを示した。と、同時にダガーLは完全に活動を停止し、仰向けに倒れ、爆散した。

「やったのか?」
カガリが建物から出てくる。アレックスは彼女を安心させようと振り向き、微笑もうとした。
だがその矢先、彼女の体が吹き飛ばされた。カガリはそのまま倒れこんでしまう。
「カガリ!」
アレックスは彼女の元に駆け寄りながら弾倉を交換、新たに現れた影へとシウスを連射し、牽制する。

もう一体いたのか!?
カガリは打ち所が悪かったのか、額から血を流し、倒れたまま動かない。だが、今はそれ以上彼女を気にかけている余裕はなかった。
もはや、今交換した分しか弾倉は残っていない。
シウスは取り回しを重視した分、イーゲルシュテルンに比べて小型化することに成功した。しかし、そのおかげで装弾数は少なくなってしまっている。
下手に撃っては、すぐに弾切れを起こす代物だった。
残弾を気にかけつつも、その場に踏みとどまって応戦するアレックスはさらに驚愕すべきものを目撃してしまった。
銃撃を受けるダガーLとは別方向から一体、さらに……。
「三体……だと?」
それらに取り囲まれ、さらに残弾も残り少ない。アレックスの背筋を、何か冷たいものが走る。
絶望的な気分で、カガリを背にしたまま、彼は銃口をダガーLたちへと向けた。

13312/16:2006/09/16(土) 23:22:37 ID:???
シウスを駆使し、何とかダガーL三体の猛攻をしのいでいたアレックスだったが、既に残弾は一斉射分程度しか残っていない。
単発で使えば少しはもつだろうが、そんなものではMSに通用するはずもない。
倒れたままのカガリを見捨てて逃げるなど、論外だ。
ダガーL三体は遠巻きに二人を取り囲んでいた。先ほどからのアレックスの奮闘のおかげだろう。だが、用心しているだけだ。すぐに飛び掛ってくるに違いない。
その上、アレックスは他の気配も感じていた。巧みに隠れているが、歴戦の戦いで鋭敏になった感覚はそれすらも察知する。
だが、この場では不安を助長するものでしかない。
それでも、何とかカガリだけでも逃がすことが出来ないかと、アレックスが模索していたそのときだった。
バイクの爆音がこの場に轟いたのは。

「だああぁぁっ!」
目の前のダガーLたちが、次々に撥ね飛ばされる。
撥ねたのは、見慣れない白と青のバイクだった。またがっているのは、四本角で赤い眼の灰色の身体、今までに確認されたものとは随分異なるが、間違いない。その姿はMRのものだった。
アレックスはこのMRにも見覚えがあった。かつて、アーモリーワンで新型のMSについて調査中、当の新型MSに襲われたときに助けられたのだ。
「確か……インパルスと言ったな」
灰色のインパルスはアレックスの方を一瞥することもなく、ダガーLの方へと向き直った。

インパルスはバイクにまたがったまま青へと変化、すぐ目の前のダガーLへと正拳突きを叩き込んだ。顔面を割られたダガーLは仰向けに倒れ、すぐさま爆散した。
残された二体のダガーLは、バイクで翻弄される。数の差などものともしない、機動力を活かした攻撃だった。
ダガーLの苦し紛れに突き出した拳はバイクの上を素通りし、空を切った。
驚いて上を向いたダガーLの視界に飛び込んできたのは、インパルスの拳だった。

既にバイクから跳躍していたインパルスは、降下しながらも拳を振るった。ダガーLはアスファルトを撒き散らしながら、地面に突き刺さった。頭部を地面に埋めたまま、ダガーLは爆散する。
残された一体はやけになったようにインパルスのもとへと突進した。
インパルスはそれに向かって跳躍、ベルトのエネルギーを込めた跳び蹴りをへと放った。
13413/16:2006/09/16(土) 23:26:27 ID:???
ダガーLはそのまま爆散、インパルスはそれを見届けると、ゆっくりとバイクのもとへと歩いていった。これでMSは倒せたはずだった。
「待て、まだMSがいる。油断するな!」
自分にはそんなものは感じられない。だが、確信に満ちた声は信じさせるのに十分な説得力を持っていた。
だが、何故普通の人間にそんなことが分かるのか。
「あなたは、一体?」
シンが疑問を口にしたそのときだった。

膨大なエネルギーが、インパルスのもとへと降り注ぐ。
それを避けようと跳躍するが、かわしきれずに右肩をエネルギーの波動がかすめた。
「うわああぁぁっ!」
その威力に驚愕しながらも、エネルギーの来た方向へと顔を向ける。

緑色のMSが、長大な砲身のようなものを構えていた。右肩には禍々しいスパイクを生やし、左肩には盾のようなものがある。
ジンやゲイツと同じようなピンク色に輝く一つ目。だが、その姿は今までに確認されたどのMSとも異なっていた。

謎の緑色のMS、ザクは長大な砲身、オルトロスを投げ捨て、インパルスのもとへと跳躍してきた。空中で左肩から斧を抜きざま、インパルスへと振り下ろす。
シンは地面を蹴り、後方へと跳躍して斬撃をかわす。
眼前の空間を薙ぎ、斧がアスファルトを撒き散らしながら地面にめり込む。地面にうがたれた傷跡から、その破壊的な力がうかがい知れる。

一気に斧を引き抜き、切り上げる。
身体をそらしてかわすのが精一杯の、勢いのある攻撃だった。ザクはそのまま斧を振り回し、猛攻を仕掛けてくる。
動きといい、パワーといい、今までに戦ったMS、ゲイツやダガーLなどとは比べ物にならない相手だった。

振り下ろされた大振りの一撃をかろうじてかわしたシンはザクの腹部へとキックを叩き込んだ。さすがのザクもその一撃で怯む。
その隙にシンは後方へ跳躍、フォースキックの体勢にはいった。ベルトの力が、右足へと流れ込む。
13514/16:2006/09/16(土) 23:28:20 ID:???
だが、それよりも早くザクが手に持った斧を投げつけてきた。いきなりの奇策にシンは反応しきれない。斧は左肩を大きく傷つけた。しかもインパルスはバランスを崩してしまう。
そこへ、ザクが右肩のスパイクを大きく掲げて突進してきた。とっさに両腕を上げて防御するが防ぎきることができるはずもなく、シンはそのまま後方へと吹き飛ばされ、背中から地面に叩きつけられた。

な、何て威力だよ!
シンは何とか立ち上がるが、両腕がしびれたまま動かない。あんなものをまともに受けたら、それこそ一巻の終わりだろう。
ダメージの大きさを見て取ったザクは、インパルスへと右肩を向け、走り出した。
再度放たれたショルダータックルは、まっすぐにインパルスめがけて突き進んでくる。

これほど強烈な突進では、下手にかわしては逆にダメージを受けてしまう。だが、この腕でどこまで防御しきれるか。
それでもシンは麻痺したままの腕を胸の前へもってきた。
だが、シンの思いもかけないことが起こった。
銃声が鳴り響き、ザクがバランスを崩した。膝が笑い、足がもつれる。
理由は分からないが、千載一遇のチャンスだった。
「うおおおぉぉぉぉっ!」
シンはその隙を逃さず跳躍、とっさにフォースキックを放った。
それに対して、ザクは強引に身体をひねるようにして左肩を向けた。

「やったか!?」
アレックスは硝煙の立ち昇るシウスを構えたまま叫んだ。
ザクの突進の瞬間、アレックスは残弾全てをザクの膝へと叩き込んだ。
高速で動くMSの足へと銃弾を打ち込むなど、神業にも等しい賭けだったが、アレックスはその賭けに勝った。右膝の裏に直撃した一発の弾丸でザクはバランスを崩してしまい、インパルスの反撃を受けたのだった。

インパルスの右足は、ザクの突き出した左肩の盾をもぎ取るように破壊するが、ザクを倒すまでには至らなかった。
やはりとっさのことで狙いが甘かったのだろう。それにザクの反応も早かった。
だが、さすがのザクもこれ以上戦う力はないようだった。
ザクはインパルス、そしてアレックスに背を向け、ほうほうの体で逃げ出した。

13615/16:2006/09/16(土) 23:30:32 ID:???
シンはザクを追いかけようとバイクのもとへと向かうが、制止の声をかけられた。
「君にももう戦う力は残っていないだろう。深追いしない方がいい」
「あんたはいったい、何なんだ?」
シンは立ち止まり、疑問を投げかけた。
MSとああも戦え、あまつさえMSの気配を自分以上に感じることが出来る。
だが、彼はその質問に答えることなくシンに言った。
「それより、変身を解いたらどうだ?もうこの付近にMSはいないぞ」
「は、はい」
言われるがまま、インパルスはシンの姿へと戻った。同時に、マシンスプレンダーもシンの愛車のバイクへと戻る。
なぜ、彼のいうことに素直に従ったのかシンには分からなかった。ただ、彼のいうことが正しいと無意識のうちに感じていた。
「それが、君の本当の姿か」
「あなたは……?」
「俺は、アレックス・ディノだ」
「シン・アスカです」
「そうか。シン、手伝ってくれないか?怪我人がいるんだ」
そう言ってアレックスは気絶しているカガリのもとへと駆け寄った。カガリは額からひどく出血している。
シンはその顔をよく見ることもないまま、アレックスに提案した。カガリの正体など、気付いてもいない。
「家が近くにあります。救急車を呼ぶより、多分そのほうが早い」
「すまない」

シンはカガリを背負い、そのままバイクにまたがった。
「あなたは、どうするんですか?」
「そんなことはどうでもいい。急いでくれ!」
「わ、分かりました!」
アレックスの気迫に押されたシンは、慌ててバイクを走らせた。


テーブルの上には豪華な料理が並んでいる。外で買った出来合いのものが大半だが、メイリンやマユが作ったものも少しある。
パーティーの用意は万全、あとはここにいない一人を待つだけだった。
「シン、来ないね」
メイリンがぼそっと呟く。ヴィーノやヨウランも来たにも拘らず、いきなり飛び出したシンがいない。今日はほかならぬシンの妹、マユの歓迎会だ。何故そんなときにいなくなるのか。
13716/16:2006/09/16(土) 23:42:09 ID:???
「いっそシン抜きで始めちまうか?」
「ダメです!お兄ちゃんはすぐに帰ってきます!」
ヨウランの軽口に、涙声でマユが声を荒げた。マユがこんなにも感情をあらわにするのは初めてで、この場にいる誰もが気圧されてしまった。
「いや……その、ごめん」
場を、居心地の悪い沈黙が支配する。
その空気にそろそろ耐え切れなくなってきたころ、玄関の方で物音がした。
「お兄ちゃん!?」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
真っ先にマユが玄関へと駆け出す。それにすぐ気付いたルナマリアとレイも後に続く。
ヨウランたちも席を立ったものの、なんとなく出遅れた感じがして、玄関へ駆けだすことは出来なかった。
マユの確信に満ちた声は、今のがシンだと疑ってもいないようだ。

「た、ただいま」
確かにシンはそこにいた。だが、一人ではなかった。シンは背中に誰かを背負っている。金髪の、どうやら女性なようだ。
「その人、誰?」
「怪我人だ!」
その一言に、場が騒然となる。冷静なレイがてきぱきと指示を下した。
「シン、とにかくその人を下ろせ!ルナマリアは救急箱を持ってきてくれ!」
「分かった!」
「悪い、レイ。下ろすの手伝ってくれ!」
ルナマリアが奥の方へと走っていく。手が痺れていたシンはレイの手を借り、ゆっくりと背中の女性を下ろした。玄関マットの上に、負担をかけないようにゆっくりと頭を置かせる。
その女性の顔を見たレイは、驚いたように目を見開いた。
「この人は!?」
「レイ、知ってるのか?」
シンの質問にはレイではなく、マユが答えた。オーブについ最近まで住んでいたマユは、彼女の顔をよく知っていた。
「何言ってるの、お兄ちゃん。この人、アスハ代表じゃないの!」
「ア、アスハ!アスハだと!?」
驚いたシンはレイのほうを見た。レイは黙って首を縦に振る。間違いないようだ。
アスハ……。アスハだと!?
シンの瞳には、暗い激情が宿っていた。


かつての惨劇によって多くの命が失われ、今は何もない人工島、ユニウスセブン。
そのすぐ近くに設けられた粗末な小屋、観測所。今日も何の変哲もない、退屈な監視任務の繰り返し、となるはずであった。
「え、そんなはずないだろう!?」
「いや、何度も確認した」
そう言ってキーボードを操作する。ディスプレイへと情報を呼び出し、同僚へと見せた。
「見てくれ、こっちが2日前のだ。今も少しずつだが、間違いなく動いているはずだ」
「そんな馬鹿な!ユニウスセブンが……」!
138通常の名無しさんの3倍:2006/09/16(土) 23:43:39 ID:???
乙。
139衝撃(ry/16:2006/09/16(土) 23:47:50 ID:???
お久しぶりです。
いろいろあってPCが使えなくてしまい、全然書けませんでした。
遅れてすみません。
しかも書き込むのがものすごい久しぶりだったものだからうっかりageてしまいました。
ホント、申し訳ありません。
次回こそは、もう少し早く投下したいと思います。
140通常の名無しさんの3倍:2006/09/17(日) 00:05:47 ID:???
乙!
次回も期待して待ってるよ
141通常の名無しさんの3倍:2006/09/17(日) 00:39:07 ID:???
ほんとおもろい!
カガリとシンどうなるんだろw
14231 ◆MRSinWBV9. :2006/09/17(日) 01:27:44 ID:???
今さっき帰宅です。世間では三連休らしいですね('A`)

>>衝撃作者氏
GJです
話数も分量も追い抜かれてしまいました。頑張らねば(;・ω・)
143通常の名無しさんの3倍:2006/09/17(日) 03:58:57 ID:???
>>142
待ってるぞ
144通常の名無しさんの3倍:2006/09/18(月) 14:47:58 ID:???
昨日の矢車さん見てるとこんなフレーズが頭に浮かんだ…orz

「もう…デスティニーも主人公もないんだよ…どうせ俺なんか…」
「…今…誰か俺を笑ったか?」
「凸…俺と一緒に…地獄に落ちよう…」
「ぁぁぁ…キラぁぁぁァァ…お前は良いよなァァ…どうせ俺なんか…」
145通常の名無しさんの3倍:2006/09/21(木) 06:54:38 ID:???
保守
146通常の名無しさんの3倍:2006/09/22(金) 16:23:44 ID:???
ここのSSって、原作のライダーが出てきたりする話でもいいのかな
147通常の名無しさんの3倍:2006/09/22(金) 17:24:07 ID:???
自分は出来れば種世界の住人に限定するべきな気がするが・・・
他の方はいかが?
148通常の名無しさんの3倍:2006/09/22(金) 18:41:30 ID:???
自分も種だけに収めるのがいいかと。
といいつつ自分で話書こうとしてるんだけど設定やらなにやら制約がありなかなか文章進まない。
難しいね。
149通常の名無しさんの3倍:2006/09/24(日) 00:20:52 ID:???
自分はどっちでもいいかな
いろんなの読んでみたいし
150通常の名無しさんの3倍:2006/09/24(日) 14:01:48 ID:???
村枝版の滝和也がキラと戦ったら、それはそれで燃え展開だがw
151通常の名無しさんの3倍:2006/09/25(月) 01:25:59 ID:???
                                      ィ
                                  //
                                 / ./
                               , イ  /
          /\                    イ     ./
       /|  \     _ ___ -‐─ ' ´       /
        | |    >、 ィ ´   ヽヽ              /
        | l      > 、   レ!─ 、       / /
        | ∨        >'´::.::. :   ヽ    / /
        |  V        /::.::.::.::.::.: :   }   /._ /
        |  /V      {::.::.::.::.::.::.::. : .ノ|  O/ ヽ
        | /  ∨      ヽ __ , ィ´,ノ /./ ::.l
        | |   ヽ          | 「 ̄ ./ .l : ::.| もうデスティニーもインパルスもないんだよ
       |.|    \  _ ===‐┘、 ./ ./{ :.::./
.         l.|__ -‐  ̄ .// ヽ \/ヽ  `' 、//ヽノ
.        |/ ── 、//、  ヘ /、 ヽ_ 7./
      .__└ ´ ̄ ̄.ヽ/ \  V  ヽ_ /_//
ヽ、__/_ ` '  、   ヽ、  ヽ、    ∠//
  `ヽ、   ィ= 、_` 、  ` 、 `' 、._/ //
  ィ ─ヽ´ヽヽ ̄/  ̄`' 、  `/ ̄ .ヽ//
/     |   \/、        ` ' 、   `
  ィ===l    \ ヽ        `ヽ
152通常の名無しさんの3倍:2006/09/25(月) 10:54:39 ID:???
>151
それ・・・独立した別スレあるから・・・
153通常の名無しさんの3倍:2006/09/25(月) 20:37:05 ID:???
         ヽ_i
         ./´〉 `λ
        /T´ (幸ノ
     'νへウ´`(,,゚Д゚) <天界に幸多からんことを
       //`(/ ニ/)
        /人ミ_ブ
       ´  し`J
154通常の名無しさんの3倍:2006/09/27(水) 12:40:51 ID:???
今週の週刊マガジン、『仮面ライダーを作った男たち』っていうのがあった。
ライスピの彼が描いてるのは、反則だ…泣けた。
155通常の名無しさんの3倍:2006/09/28(木) 14:30:30 ID:???
風のように現れて

嵐のように戦って

朝日と共に帰ってくる
156通常の名無しさんの3倍:2006/09/28(木) 21:21:13 ID:???
久々にRX見てたら書きたくなった

しかし、見てたライダーはRXだけで、あの展開にしようとするとシンより無印キラが適役になってしまう矛盾……
157通常の名無しさんの3倍:2006/09/28(木) 22:01:59 ID:???
>>156
RX=キラスレってあったような・・・落ちたかな
そこに投下したら住人喜びそうかも
158通常の名無しさんの3倍:2006/09/28(木) 22:09:14 ID:???
159156:2006/09/29(金) 14:53:26 ID:???
ありがとうございます

許可とれたら設定投下だけします
160通常の名無しさんの3倍:2006/09/29(金) 22:03:34 ID:???
いえいえ
またRXスレも見に行くな
161通常の名無しさんの3倍:2006/09/29(金) 22:12:52 ID:???
見に行ったら少し殺伐としてましたね…
こっちに投下してくれても自分はいいんだが
でもスレタイからするとスレ違いだしね
俺だけでは判断しにくいっす…
悪いけど向こうで少し粘ってくだされ、投下待ってる
162通常の名無しさんの3倍:2006/09/30(土) 01:25:03 ID:???
1スレ目でもシンが主役じゃない話が投下されたし、
スレ違い、というほどではないと思う。

そういやここ、もうすぐ一周年じゃない?
163通常の名無しさんの3倍:2006/09/30(土) 02:34:09 ID:???
ならRXスレに投下できなさそうならこっちでおkってことでいいかな
折角ネタ考えて貰ったんだし読んでみたいしね

ここも一周年なのか・・・早いなぁ
164通常の名無しさんの3倍:2006/09/30(土) 07:05:11 ID:???
っていうかRXってアンチスレだろあそこ
今のところ流れ遅いから、こっちでも全然構わんと思う
まだスレを分けるような段階じゃないw
165156:2006/10/01(日) 02:02:13 ID:???
ご迷惑かけました

一応、設定だけ投下します

【仮面ライダー撃(ストライク)】
突如現れた謎の軍団、ZAFTに対抗するためにモルゲンレーテ社が作り上げた白の戦士。
戦況に応じて形態を変えられる。

【キラ・ヤマト】
オーブの学生。研修でモルゲンレーテにやってきたところ、MSの襲撃を受けて瀕死の重傷を負う。
モルゲンレーテの手で仮面ライダー撃として一命を取り留めるが、本人は争いを好まない。

【MS】
Monster Seedの略称。
ZAFTの主戦力であり、その戦闘力は常人を優に超える。

【MA】
MonsterArmの略称。
ZAFTに対抗するために作られたパワードスーツであり、その制作技術は仮面ライダー誕生の元となった。

【救世種】
真の力を手にいれれば、宇宙全てを手に入れられると言われる者たちの総称。
SEED適格者と呼ばれることも。
166通常の名無しさんの3倍:2006/10/01(日) 04:57:47 ID:???
すまんな
安置スレだと思っていなかった…
スレタイみて職人さんの設定とあってるなって思って誘導しちまったよ
俺RX見てないもんであのスレもちゃんと見てなくてw

設定細かくていいと思う
楽しみにしてるぞ
167通常の名無しさんの3倍:2006/10/03(火) 14:29:26 ID:???
今、まとめサイト見てきたんだけど・・・ほとんど更新止まってて寂しい
16831@携帯:2006/10/03(火) 16:29:28 ID:???
お久しぶりです(´・ω・`)
10月頭の3連休越えれば上半期終わりの作業が片付きますので
第2土日辺りには投下できたらいいなと思ってます。
半期の終わりの事務作業ってなんで年々肥大化するんでしょうね。

>>167
すいません。ほとんど更新してなくて……('A`)
169167:2006/10/04(水) 10:57:08 ID:???
>31氏
こちらこそ、催促して申し訳ありません。
更新も投下もWktkして待ってます。

・・・・・・・ガノタ仮面氏方はどうされているのでしょう?
170通常の名無しさんの3倍  :2006/10/06(金) 00:40:59 ID:???
保守
171通常の名無しさんの3倍:2006/10/08(日) 09:10:15 ID:???
あげ
172通常の名無しさんの3倍:2006/10/08(日) 18:36:27 ID:???
仮面ライダーシンって歴代のライダーの中ではかなり異色だな。
アマゾンや響鬼とは違った意味で
173通常の名無しさんの3倍:2006/10/08(日) 21:23:55 ID:???
変身シーンの途中で目が赤くなって禿になるからな
むしろ凸の方が似合うかも
174通常の名無しさんの3倍:2006/10/11(水) 14:11:06 ID:???
ライダー保守
175通常の名無しさんの3倍:2006/10/15(日) 14:19:02 ID:???
保守
176通常の名無しさんの3倍:2006/10/16(月) 18:10:22 ID:???
保守
177通常の名無しさんの3倍:2006/10/16(月) 20:47:36 ID:???
ちょっと無印ライダーのあらすじっぽく

仮面ライダー、シン・アスカは改造人間である。
彼を改造したラクシズは、世界征服をたくらむ軍事組織である。
仮面ライダーは人間の自由のために、ラクシズと戦うのだ!

こんなんでスマソ
178通常の名無しさんの3倍:2006/10/18(水) 11:04:29 ID:???
ほしゅ
179仮面ライダー撃プロローグ:2006/10/19(木) 13:16:36 ID:???
 声が聞こえる。
「イージスの少年までさらわれただと!なんで奴らがこの計画を知っている!」
「バジルールさん!今はそれよりも!」
 女性二人のあげた大声を耳にし、キラはうるさいと声をあげた。
 いや、あげたつもりだった。
「ラミアス主任。失礼ですが、これはゆゆしき事態なのです。ただでさえZAFTの怪人……MSに対抗手段がないというのに」
 キラの声が聞こえていないのか、二人の口論は続く。
 もう、勝手にしてくれ。
 キラはそう思いながら、眠りについていった。深い、深い眠りだった。

続く
180通常の名無しさんの3倍:2006/10/19(木) 22:23:03 ID:???
新作乙!
他の職人さんのも待ってます!
181通常の名無しさんの3倍:2006/10/20(金) 09:01:19 ID:???
保守
182通常の名無しさんの3倍:2006/10/20(金) 12:22:28 ID:???
下がり杉
183通常の名無しさんの3倍:2006/10/20(金) 19:20:55 ID:???
父よ、母よ、妹よ〜
184通常の名無しさんの3倍:2006/10/20(金) 22:20:27 ID:???
シンにはライダーマンがいなかったからいけなかったんだな
185通常の名無しさんの3倍:2006/10/23(月) 11:07:57 ID:???
保守
186通常の名無しさんの3倍:2006/10/25(水) 14:57:36 ID:???
ほしゅ
187保守がわりにどぞ:2006/10/27(金) 23:11:50 ID:???
悪の秘密結社【ブルーコスモス】に潜入捜査中の特殊諜報員ルナマリア=ホークは逆に敵の罠にかかり囚われの身になっていた!!!
ルナ「くっ…離しなさいよ!!」
怪人ジブリール「キョッキョッキョ、そうはいかないぞルナマリア!秘密のアジトを知られたからには生きては帰さん。
助けを呼んでも無駄だぞ?誰も廃工場で我々がいるとは思うまい!キョッキョッキョッ!」
ルナ(…っ!誰か気づいて…シン…っ!!)

ルナマリアのスカートの裾にジブリールの魔の手が忍び寄るまさにその時!!
ガッシャャャャーーーーーーーン…
古びた窓ガラスが盛大に割れ同時に青いバイクが工場に飛び込んでくる。怪人ジブリールは事態が飲み込めず
ルナマリアはバイクの人物をみて顔を輝かせた。
シン「また…また世界を混乱させたいのかよっあんた達は!!!」
シンの怒りが工場内に響きわたり叫びに呼応するよう掌程の大きさの青い戦闘機が割れた窓からシンに向かって飛んでくる。
シンは慣れた様子でそれをキャッチし一瞥した後、ベルトのバックルにスライドさせはめ込んだ。
シン「変身ッッッ!!!!!」
瞬く間に青いシルエットの異形の戦士が現れた。その名は仮面ライダーインパルス。
188187:2006/10/27(金) 23:15:35 ID:???
スレ汚し&携帯からで読みづらくてごめんなさい。あとジブリールを変に書いてしまってファンの方すみません。
職人さん方、気長に待ちますので暇な時に続きを書き込んでいただけたら嬉しいです。体を壊さないでくださいね。
189通常の名無しさんの3倍:2006/10/28(土) 13:01:38 ID:???
スピード感あってよかった!GJ
190通常の名無しさんの3倍:2006/10/28(土) 23:49:30 ID:???
こんな面白いスレがあったんですね。
自分も書いてみました。長い上にプロローグだけですが。
よければ見てやって下さい。
191通常の名無しさんの3倍:2006/10/28(土) 23:51:52 ID:???
夜の静寂を爆音が引き裂き、炎は暗闇を走る四人の人影を照らし出す…。
路地裏を走りながら父が後ろからついてくる二人の子供に声をかける。
「大丈夫か!シン、マユ!」
シンと呼ばれた少年は妹のマユの手を引きながら息を切らし答える。
「うんっ!なんとかっ大丈夫っ!」
とは言うものの、その顔からはかなりの疲労が見て取れた。マユの方は顔面蒼白状態だ。
それを察した父は後ろを警戒した後、足を止めた。先ほどまでの爆発や悲鳴からは大分遠ざかったのか、今は側溝を流れる下水の音だけが静かに聞こえてくる。
「父さん、あれはなんだったの?」
少し落ち着いた為あの惨劇を思い出したのか、マユの手を握ったままのシンの体は小刻みに震えていた。

―――おそらくこの事件は普段仕事ばかりで忙しい父さんが家族サービスだって、大学の同窓会に母さんや僕らを誘ったことから始まったんだ。
同窓会のあるホテルに部屋を取り、前の日から遊園地や観光に出かけたのは本当に楽しかったし、マユも嬉しそうだった。
しかし今日の夜はなにかがおかしかった気がする。
同窓会で僕とマユは父さんの知り合いに紹介された。かなり照れ臭かったけど、そのときも父さんはどこかそわそわしていたのを覚えている。
立食パーティーで出たディナーも素晴らしく美味しかったが、母さんは全く手をつけていなかった。
そして同窓会も終わりを迎える頃あれは来たんだ。
192通常の名無しさんの3倍:2006/10/28(土) 23:53:11 ID:???
突然ふらりと入ってきた不審な男が皆の目の前で怪物に変身したんだ!
肩や腕は鎧と呼ぶには近代的で科学的なな装甲に覆われていた。隠れていない部分から覗く肌は灰色でゴツゴツと節くれだってとても人間のものとは思えない。頂上に飾りの付いたメットの中で赤い一つ目がギョロギョロと動く。
怪人は両手にマシンガンと分厚い剣を持ち、手当たり次第に人々を惨殺していった。
ドォォン、ザシュウッ!
爆発音と肉を切り裂く音さえ悲鳴にかき消されるのを尻目に、父さんと母さんは素早く僕とマユの手を引いて会場を脱出したんだ―――

あのときの会場での様子からもしや父はあの怪物を知っているのではないか?
このことを予測していたのではないか?
そんな疑問が生まれ、シンは思わず父に詰め寄っていた。
「わからん。この国、『オーブ』は治安もいいし、そうそうテロが起こるとも思えんが…。」
父はそう答えた。その眼がシンを見ていないことにシンは気づかなかったが…。
193通常の名無しさんの3倍:2006/10/28(土) 23:54:11 ID:???
やはり自分の気にしすぎだったのか、そんなシンの安堵もつかの間、後ろからガシャッガシャッと鎧の歩くような音が聞こえてくる。まだ遠く、こちらに気づいている様子も感じない。
「もう追いついたか。急げ、逃げよう。」
父が顔を歪め、マユの手を引いた瞬間、マユの手から携帯がこぼれ側溝へと転がってゆく。幸い水には落ちていない。
「ああっ!マユの携帯!」
「携帯なんていいから早く!」
携帯を取りに行こうとするマユを母が制する。
「だめぇ!絶対だめ!」
それでもごねるマユにシンは側溝へと降り
「僕が取ってきてやるよ、マユ。」

――マユはいつもあの携帯を手放そうとしない。手放したのは昨日くらいかな。
父さんが調子の悪いマユの携帯を昨日から来ていた同期の人に直してもらってた。確かコンピューターの仕事の人だって言ってたっけ―――

携帯を拾い上がろうとしたそのとき、シンの目の前で光が弾けた!
それが爆発だと気づいたときには既にシンの身体は大きく飛ばされ、壁に強く頭をぶつけていた。
数秒前まで父や母のいた場所は炎に包まれ、その中におぼろげに姿が浮かぶ。
会場を襲った怪人にわずかだが似ている。胸や手は白や青の装甲が、それ以外の部分は白のライダースーツの様なもので覆われている。眼は金色に輝き、頭には角があった。
そして何よりシンの眼に焼きついたのは、背中に広がった蒼い翼だった…。
シンは薄れゆく意識の中で思った。
――あれが、あいつがみんなを、マユを殺したのか?――
答える者のない疑問と共にシンの意識は闇に溶け、その手にはマユの携帯だけが握られていた……
194190:2006/10/28(土) 23:58:42 ID:???
以上でプロローグです。長くてすいません。ちょっと変な区切りになってしまいましたが…。
よければまた続きも書いてみたいと思います。
195通常の名無しさんの3倍:2006/10/30(月) 18:52:34 ID:???
プロローグなんで特に内容については無し。
ただちょっと見づらい気がした。続きに期待。
あとage。
196通常の名無しさんの3倍:2006/10/31(火) 01:27:04 ID:???
GJ!これからの展開に今からwktkしてます
197通常の名無しさんの3倍:2006/10/31(火) 01:39:51 ID:???
マユとかがシンが送られてきたよりもワンピ世界で二十年くらい過去に送られてきていて
26才くらいのマユがでてきたら最高(*´Д`)
198通常の名無しさんの3倍:2006/10/31(火) 02:04:20 ID:???
         ,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
         (.___,,,... -ァァフ|   あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
          |i i|    }! }} //|
         |l、{   j} /,,ィ//|    『お!俺の一番好きなライダー真のスレあるじゃんと
        i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ     思ったらガンダムのシンだった』
        |リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |
       /´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人      な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
     /'   ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ     おれも何をされたのかわからなかった…
    ,゙  / )ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉
     |/_/  ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ     頭がどうにかなりそうだった…
    // 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
   /'´r ー---ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐  \    催眠術だとか超スピードだとか
   / //   广¨´  /'   /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ   そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
  ノ ' /  ノ:::::`ー-、___/::::://       ヽ  }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::...       イ     もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
199通常の名無しさんの3倍:2006/10/31(火) 09:54:59 ID:???
>>197
スレ違い君、元のスレへお帰り
200通常の名無しさんの3倍:2006/11/02(木) 09:27:14 ID:???
200GET 保守
201通常の名無しさんの3倍:2006/11/05(日) 08:31:15 ID:???
保守
202190:2006/11/05(日) 12:33:18 ID:???
190です。ちょっと過疎気味ですけど、新しく書いてみたので投下してみたいと思います。
やっぱり長めですが、読んでいただければ幸いです。
タイトルはオーソドックスに「仮面ライダー・デスティニー」で。
203仮面ライダー・デスティニー 一話:2006/11/05(日) 12:34:34 ID:???
両親と妹が無残に殺された日から約二年の時が流れた…。
シン・アスカも以前より顔も身体も大人びてきた。
父母の死後、身寄りのないシンは1人で生きることを余儀なくされたが、幸い父の蓄えがが豊富にあったため、バイトをしながらではあるが今まで通り学校にも通えている。
毎日学校の後シンはバイトに向かい、夜遅くまで精力的に働く。
事件直後に比べると格段に明るくなったが、それでも迎える者のいないマンションに帰り、家族の生活の匂いを感じるたびに涙がこぼれた。

――あの後、朝になって俺は気を失って発見された。現場は既に片付けられ、警察の話によると父さんと母さんらしき焼死体とマユの右腕だけが残っていたらしい。
マユは爆発の中心にいたようで、右腕以外はほぼ完全に肉片になったみたいだ。それほどの爆発とは思えなかったのだが…。自分が無事だったのが不思議だった。
それからのことはよく覚えていない。確か父さんの友人達が葬儀などの世話を焼いてくれた気がする。気づけば全てが終わっていた。
あの夜のことは今でも俺の目に焼きついている。あの蒼い翼の怪人も、最後のマユの顔も――

独りになった部屋でシンは唯一残った遺品、マユの携帯のスイッチを入れる。
「はい、マユでーす…」
留守番電話の明るい声が聞こえてくる。もう二度と聴くことのできない声が寂しさを募らせるとわかっていても、今のシンはそれにすがらずにはいられなかった…。

204仮面ライダー・デスティニー 一話:2006/11/05(日) 12:37:08 ID:???
休みの日でもシンは働く。だがその日はバイト先の都合で、いつもより少し早く仕事が終わってしまった。
特にすることもないので帰ってみると、父の部屋から物音がする。もしかすると空き巣かもしれない、そう思いシンは父の部屋を覗いてみた。そこには……
何もなかった。窓の鍵が閉まっていなかったが、きっと自分が片付けたときに忘れていたのだろう。何故なら窓の外はベランダどころか、上から下まで足場になりそうなものは何もないのだから。
部屋の中も異常はなく、片付けた時のままだった。机の引き出しが少し開いていたが。
シンが気になって引き出しを開けてみると、そこには一冊の日記が置かれていた。
日記には日々の仕事のことや家族のことが書かれている。それからは父の家族に対する愛情の深さがにじみ出ていた。
日記の最後の日付、それは同窓会のあるオーブに向かう前日の日記だった…。
『いよいよ同窓会の日が近づいてきた。久しぶりに旧友と楽しく酒を飲みたいものだが、そうもいかない。彼からアレを受け取らなければ。
もしも私に何かあっても、その時アレを持っているのはマユだ。もしくはシンかもしれない。子供たちを危険に巻き込むことになるだろうが、アレを悪用されることだけは避けなければ!
すまない…シン、マユ…。』
日記の最後は自分たちへの謝罪で締められていた。
――やっぱり父さんは何か隠していた。
おそらくこの日記も、読まれることを警戒して詳しくは書かれていないのだろうけど…俺たちに危機を伝えるためのものか?でもこれじゃあ俺たちが狙われるじゃないか!
でも、家族想いの父さんが俺たちを巻き込んでまで守ろうとしたものって何だ?マユが持ってるものに秘密が…?――
シンはマユの携帯電話を握り締めた……。

205仮面ライダー・デスティニー 一話:2006/11/05(日) 12:38:18 ID:???
シンはいつものようにバイトに行った後、夜の家路を急ぐ。
あれから一日中携帯をいじってみたが、異常は見当たらなかった。携帯でないとしたらあの時マユと共に粉々になったのではないか?
そんなことを考えているといつのまにかマンションの前に着いていた。マンションの前には怪しげな男がフラフラしている。
係わらないようマンションに入ろうとすると、後ろから殺気を感じ身をかわす。振り向いてみるとさっきの男が拳を振り上げていた。突然なことにとっさにシンはマンションに逃げ込む。
階段を駆け上がり、部屋に飛び込み鍵を掛ける。勢いよく鳴る心臓をしばらく押さえ、ようやく息が落ち着いてきたシンは警察に通報しようと電話に向かう。
するとさっきまでもたれていた玄関のドアに線が走り弾け飛び、煙の中から怪人が現れた!

胸部にはコバルトブルーの装甲、脚部、腕部以外は肌がむき出しになっている。しかし、その肌も人の倍以上の太さで岩のようだ。
頭部は胸部装甲と同じ色のメットで頬まで覆われ、表情を読み取ることはできない。
シンは恐怖から逃れようと叫びながら一番近い父の部屋に逃げ込み、ありったけの物でバリケードを造った。
あの強力なビームサーベルのようなものの前では一分ともたないだろう。どこか逃げ場はないか窓に駆け寄るが、外には足場もなく、シンはこの部屋に逃げ込んだことを激しく後悔した。

その時ポケットのマユの携帯がメールの着信を知らせた。電話会社との契約は解約され電話もメールも来るはずがないのに。
メールの内容は

『ZGMF-X56Sのコードを入力しろ!   From. ZAFT』

同時に携帯の画面が特殊なものに変化、画面には RIDER  IMPLUSE と表示されている。
シンは藁にすがる思いで震えながらコードを打ち込んでいく。
その間にもドアは音を立ててきしむ、サーベルを使わないのはシンをなぶっているのか。
コードを入力しEnterで送信すると画面に

『CORESPLENDOR G0』

の文字が表示された。次の瞬間ドアがバリケードごと崩れ、飛んだバリケードの破片がシンをかすめ窓ガラスを割る。
怪人はゆっくり歩きながらシンを窓際まで追い詰めていく。震えつつ後ずさりするシンは窓にひっかかり、割れたガラスで身体を傷つけながら外に投げ出された。
206仮面ライダー・デスティニー 一話:2006/11/05(日) 12:39:22 ID:???
落ちた、そう思ったが背中に硬い金属の感触を感じた。地面にしては早く、痛みもない。シンは反射的にその何かを掴んだ。
恐る恐る目を開けるとそれは鮮やかな青のボディの戦闘機だった。全長はシンの背丈より少し高い程度か。
それはシンを乗せたまま滑空し、少し離れた裏の公園へと降りる。深夜なので人気はまったく感じない。
逃げ切れたのかと思いきや、奴の足音が聞こえてきた。おそらく窓から飛び降りて追ってきたのだろう。どうやって逃げるかを考えていると、戦闘機は怪人に向き直り機銃を連射した!
激しい火花が散り、怪人はたまらず仰け反る。しかしシンの期待を裏切るように怪人は少しずつ、だが確実にこちらに向かってくる。
このままでは押し切られてしまう、その時再びメールが届いた。

『機体背部のZAFTのエンブレムに携帯をかざせ!   From.ZAFT』

シンに選択肢はなかった。何が起こるかも知らずシンは指示に従う。
次の瞬間、まばゆい光と共に戦闘機がバラバラになった!あまりの光に目を開けていられない。
シンが気づいた時、目の前に戦闘機はなく、自分の手にはグローブのようなものがはめられていた。
胸には戦闘機のものと思われる青と赤の装甲が、肩にも同じ色の肩当がついている。顔は見ることができないが、感触から大体はわかった。
――これは、この姿は…似ている!色や形が少し違うが…あの蒼い翼の怪人とほとんど同じじゃないか!一体なんなんだ、これは…!――

シンの戸惑いをよそに、回復した怪人が襲い掛かってくる!
シンはとっさに身をかわす。そしてかわしざま怪人に拳を叩き込んだ。シンはただ避けただけだったが、身体が数倍のスピードで動き、打ち込む隙ができたと思ったら自然と身体が動いていた。
怪人は派手に吹っ飛び、胸の装甲には大きなへこみができている。
――これならいける!!――そう思ったシンは追撃のため駆け出す。
怪人はビームサーベルを鋭く突き出し、シンはそれを右手でさばく。刃の部分を弾いているのにほとんど痛みは感じない。
「たあぁぁぁぁ!!」
懐に潜り込み、更に連撃を打ち込む。各部にヒビが入り、かなりのダメージがわかった。とどめに装甲のない腹部に全力で蹴りを入れた。
確かな手ごたえを感じ、怪人は激しく悶絶する。しかし、怪人はしばらく苦しんだ後、何事もなかったかのように立ち上がった。ただこれまでと違うのは、脚の装甲が黒く発光していたことだ。
そして光に包まれた後そこにいたのは、怪人と同じくらいの大きさの蜘蛛だった…。その上に怪人の上半身が付いている。

207仮面ライダー・デスティニー 一話:2006/11/05(日) 12:40:50 ID:???
「なんなんだ!こいつはっ!!」
思わずシンはそう叫んでいた。怪人は答えるはずもなく、両手に持ったライフルから緑色のビームを乱射する。
数発は地面に当たり芝を燃やし、一発はシンに当たり火花を散らす。
「ぐあっ!」
痛みはそれ程でもないが、熱と衝撃でうずくまる。
第二射のビームをかろうじて転がってかわしたシンは怪人に向かい跳躍し懐に潜り込む。
「はあっ!てやああっ!!」
乱撃を加えるが、堅い装甲に弾かれるばかりで手ごたえがない。そして巨体に吹っ飛ばされビームの追撃を受けた。
「うわあああっ!!くそっ!攻撃力はそれほどでもないみたいだが、堅すぎて拳じゃダメージを与えられない!何か…何か武器はないのか…」
シンは全身を探って腰にナイフがあることに気づく。二本のナイフを取り逆手に構える。
ビームをステップでかいくぐり、再度懐に潜り込む。一本は肩に、もう一本は腹部に食い込んだ。手ごたえは感じたが、効いてるようには見えない。シンは様子を見るため距離を取る。
「くっ!まだ足りないのか!」
どうやら力が足りず、充分に刺さっていないようだ。しかし、怪人は刺さったナイフを抜こうとしない。痛みを感じてないから、それともシンを侮っているのか…。
「ナイフを抜こうとしない!?それなら…!」
シンはわざと正面からビームを誘う。これまでの闘いからライフルの連射はできないと踏んで一発をギリギリでかわす。全力で走り、二射目と同時に大きく跳躍した!
「でりゃあああああ!!!」
空中で一回転し、胸に刺さったナイフに狙い右足を大きく突き出す。シンのキックはナイフを怪人の中心まで押し込んだ!
怪人はわずかにうめき声をあげた後、爆散した。
シンは一気に疲れが出たのか、その場に倒れこみ大きく息を吐いて呟いた。
「何なんだよ…あれは…」

人生には波があると言う。シンにとって二年前が大きな波だとするなら、まさに今が二度目だった。
あの後ボロボロになった部屋のことや、公園の火事のことで警察や大家にかなり問い詰められた。結局シンは何も言えなかった。信じてもらえるはずもなかったからだ。
ドアや壁の穴など、滅茶苦茶になった部屋の弁償代で父の蓄えは全て吹っ飛び、マンションも追い出されてしまう。
もうじき卒業だったので、泣きついてなんとかそれまでは待ってもらえたのだ。
だが、このままここにいてはまた襲われるかもしれない、そう思ったシンは卒業と同時に家を整理し、あてのない旅に出た。
手にわずかな荷物や家族の品をいくつか、そして謎の多いマユの携帯電話だけが握って……。
208190:2006/11/05(日) 12:45:28 ID:???
以上です。長くてすみません…。
モチーフがあったほうが書きやすいので、あるライダーにかなり影響を受けてますw
わかりにくいと思いますが、敵は全部機械だとライダーっぽくなく、全身生物だとガンダムっぽくないので
怪人が強化装甲をつけたようなもの、と思っていただければ…。
209通常の名無しさんの3倍:2006/11/05(日) 17:53:34 ID:???
新作乙。
影響受けたのは555かな?携帯で変身、同窓会襲撃etc…
他の職人さんのも期待。
210通常の名無しさんの3倍:2006/11/08(水) 10:23:02 ID:???
新シリーズ来たね〜。乙

他の方々の復活も待たれますな
2111/16:2006/11/08(水) 22:43:53 ID:???
仮面ライダー衝撃(インパルス)

第十話


ユニウスセブン。ユニウス市の沖合いを埋め立てて作られた人工島で、数々の実験、研究が行われる場として、名をはせていた。
しかし、今は何の研究も行われてはいないばかりか、人の住めない土地となっていて、生きている者は存在しない。それでも、この土地の名を知らぬ者はいない。
血のバレンタインの悲劇の舞台として。
MA、MSが頻繁に出現するようになる半年ほど前のこと、突然の地殻変動がこの人工島を襲った。
あまりに不自然で、突然の大地の咆哮。その暴力的な力の前に、人間はあまりに無力だった。行方不明者多数、生存者は確認されていない。
もちろん、すぐに数多くの救助隊が組織されユニウスセブンへと派遣されたが、その全てが消息を絶った。当時は原因不明だったが、すぐに解明されることとなる。
MSの出現、そして襲撃。
はじめうち、MSがユニウスセブン付近で確認されたことから、突然の地殻変動にも救助隊の行方不明にも関わっていると推測されているが、詳細は判明していない。
度重なる調査隊の派遣にもかかわらず、生存者の発見はおろか救助隊自体の消息不明が続いた上、MSの大群と警察隊の衝突という大事件があり、ユニウスセブンへの調査は完全に打ち切られてしまったためだ。
それ以来、ユニウスセブン周辺は完全に封鎖され、いくつかの観測所での監視がなされるだけの土地となり、MSが姿を消した後も、調査が再開されることはなかった。
だから、監視任務も何でもない、ただの退屈なだけの仕事のはずだった。

観測対象であるユニウスセブンの異変。二人の観測員がそれを報告、さらに詳しく情報を集めているときのことだった。
彼らの観測所へと黒い影が歩み寄っていく。
その直後、観測所に惨劇の嵐が吹き荒れた。

2122/16:2006/11/08(水) 22:45:54 ID:???

「結構血が出てますけど、ちょっと額を切っただけですから大したことはないですよ」
手当てを済ませ、包帯を巻き終えたメイリンがカガリに言った。
「色々迷惑をかけたみたいだな。本当にすまないと思う」
「いえ。代表こそ大したお怪我がなくて何よりです」
謝辞を述べるカガリに対し、レイは笑顔で応えた。いささか胡散臭い作り笑いではあったが。
なぜか突然機嫌の悪くなったシンがアレックスを連れ帰ってきた直後辺りにカガリも目を覚ました。
玄関で治療するわけにもいかないので、空いている一室を使い、メイリンがカガリの治療を行なった。今この部屋にはカガリとメイリンのほか、レイとアレックスが居る。
カガリの頭には白い包帯が巻かれているが、幸いその他に怪我はないようだ。次にメイリンはアレックスの方を向いた。
「今度はアレックスさんの番ですよ」
「いや、俺はいい」
「遠慮しないで。早くここに座ってください」
目の前の椅子を勧めるが、アレックスはそれを頑ななほどに拒んだ。
多少の傷はあるが、既にそれらはほぼ回復している。今も、常人ではありえないような速さで治癒していることだろう。そんなものを、見られたくはなかった。
「それより、大した手並みだな。とても素人とは思えない」
「え?」
「君の手当てのことだよ。随分、手馴れているな」
いきなり褒められ、メイリンは困惑しつつも嬉しそうだった。
「その、昔からこういうことはよくやっていて……」
これなら、うまくごまかしきれそうだ。アレックスは誰にも分からないよう、小さな安堵のため息をついた。

その部屋から壁一枚を隔てた廊下では、ルナマリアたちが揃って噂をしていた。
話の種はもちろん、オーブのアスハ代表のことだ。みんな好き勝手な事を言い合っている。ただ、シンだけはこの場に居なかったが。
ヨウランとヴィーノにいたっては、ドアや壁に必死に耳を密着させて中の様子を探ろうとしていた。
「やっぱり、何も聞こえないよ」
「防音が随分しっかりしてんな」
「盗み聞きなんてするなってことかぁ?」
聞き耳を立てながら喋りあう二人を、ルナマリアが一喝した。
「ヨウラン、ヴィーノ。静かにしなさいよ!レイに聞かれたらどうするの」
「あの……ルナマリアさんの声が一番大きいです」
「マユちゃん、口は災いの元って言葉知ってる?」
ルナマリアが含みのありそうな恐ろしげな笑顔でマユを見つめた。その迫力にマユは思わず謝ってしまった。
「は、はい! ごめんなさい」
「分かればいいのよ。分かれば」
2133/16:2006/11/08(水) 22:48:00 ID:???
突然、ヨウランたちがドアから離れた。ドアがかすかに開き、その隙間から顔を覗かせたレイが四人にささやくように言った。
「もうすぐ代表達が出てくる。お前達は先に部屋に行っていてくれ」
盗み聞きをしていたことはレイには百も承知のことだったようだ。形のいい眉がひそめられ、それが彼の不機嫌さをあらわしている
こうやって前もって教えてくれたのも、ルナマリアたちのためというより、代表達の前で余計な恥を書きたくないためだろう。
「あ、そう? じゃ、後でね」
ルナマリアたちは蜘蛛の子を散らすように、その場から駆け出した。レイは呆れ顔で彼らを見送り、音を立てないようにゆっくりと戸を閉めた。

多少大きいとはいえ、ここも所詮はただの家だ。すぐに、シンが一人で待っている居間に辿り着く。ドアを開けて入って来たルナマリアたちを、頬杖をついたシンが不機嫌そうに、馬鹿にするような目つきで睨みつけてきた。
「盗み聞きはどうした?」
言葉にも明らかな棘がある。ルナマリアたちだけならともかく、マユがいるのにこのような口ぶりをするのは明らかにおかしい。シンの逆鱗に触れないように、ルナマリアは務めて明るく答えた。
「別にどうもしないわよ。アスハ代表、治療終わったって」
シンは何も反応しなかった。無関心を装っているのか本当に関心が無いのか、どうにも判断がつかない。

席に座ったルナマリアは、そんなシンを無視して隣の席のマユと話し始めた。
マユのほうも、カガリには興味があった。自分の生まれ故郷の偉い人がここに居るのだ。むしろ、気にならないという方がおかしいだろう。
ルナマリアはさっきから全く口を開かないシンが気になり、あえて話題を振った。
「ねえ、アスハ代表のこと、シンはどう思う?」
「そんなこと、知ったことかよ!」
怒鳴りつけられたルナマリアは怯み、当のシンも、ばつが悪そうに口をつぐむ。ちょうどその間に居たマユまでも怯えて縮こまった。非常に重苦しい空気がこの場を支配した。
この空気は、レイたちがこの部屋に入ってくるまで続いた。

戸が開き、レイとメイリンが部屋に入ってくる。重苦しい空気を吹き飛ばそうと、ルナマリアが無理に明るく聞いた。
「あ、レイ。終わったの?」
「ああ。代表達の怪我は大したことはない」
「それは何より。ならさっさと帰ってもらえば?」
「シン!何言ってるのよ!」
失礼極まりない事をのたまったシンを、ルナマリアがたしなめる。レイは何も言わなかったが、非難の目つきでシンを睨みつけた。
「今日はもう遅い。彼らにもご馳走したいのだが、いいか?」
その直後、レイがドアの外のカガリたちを部屋に入れた。誰も不満は言わなかった。
パーティーだというので料理は多めに買っておいたうえ、ヨウランとヴィーノがピザやフライドチキンを手土産にしてきたので、むしろ食べきれないくらいのご馳走がテーブルの上に並んでいる。
それに、オーブの代表といえば、かつてはワイドショーのトップを独占したほどの時の人だ。興味があるのは当然だろう。
特に、つい最近までオーブに居たマユは好奇心に目を輝かせる。シンはさらに不機嫌そうな目つきになったが、隣の席のマユを横目に見て、結局何も言わなかった。

2144/16:2006/11/08(水) 22:49:17 ID:???
「お前が、助けてくれたらしいな。」
パーティーが始まってすぐに、カガリはシンの方に近寄り、声をかけた。
シンに助けられた事をアレックスに聞いたのだ。一応礼を言おうとしたのだが、普段の調子でつい偉そうな口ぶりとなってしまった。
それがさらに、ただでさえイラついていたシンの神経を逆なでした。
「おかげで……」
「おかげで、何です? 礼でもしようってんですか?」
突っかかるような口調でシンは言った。アスハに対する反発が、さらに言葉をつむがせる。
「それならいりませんよ! アスハから礼を言われる筋合いなんかありませんからね!」
「なっ!?」
シンの意外な言葉に詰まる。そしてカガリは憤り、シンに掴みかかろうとしたが、アレックスに腕を掴まれた。
「カガリ!」
「す、すまない」
カガリは振り上げた腕を下ろし、謝った。いくら無礼な事を言われたとはいえ、命の恩人に手を上げるわけにはいかない。もっとも、昔はそれをやってしまったこともあったが、昔と今では立場が違う。そんな好き勝手できる立場ではないのだ。
シンはカガリの謝罪を一瞥だけして、それを無視した。今度は行動にこそ移さなかったものの、カガリが気分を害したことは明白だった。

最悪のスタートではあったものの、パーティールナマリアたちが頑張って盛り上げたおかげでそれなりに楽しめる雰囲気にはなった。ただ、シンに対してはまるで腫れ物を扱うかのように、誰も声をかけない。
はじめのうちはシンに気を使ってそばに居たマユも次第に離れていった。今はカガリと話している。
シンはやはり面白くなさそうな顔をしていたが、マユを拘束するわけにもいかない。二人の会話に聞き耳を立てたまま、ただ黙々と料理を口の中に放り込んだ。
味など、まったく分からなかった。
「そうなんですか。ウズミ様の後を継いで」
「ああ。私など、まだまだお父様の足元にも及ばない」
お父様、という単語を聞き、マユの表情が曇る。だがカガリは気付かずに話を続け、シンの神経を逆撫でした。

2155/16:2006/11/08(水) 22:50:54 ID:???
テーブルに激しく拳が叩きつけられる。食器が踊り、大きな不協和音を奏でる。驚いたマユの視線の先では、シンが肩を震わせていた。
激しい怒りをこらえつつ、シンは息も荒く、怒鳴った。
「マユ、もうそんな奴と話すな!」 
「……え?」
「そんな奴と話すなって言ってるんだ!」
一瞬で場が凍りつく。状況が理解できていなかったマユが、やや間抜けな声を出した。
「え……あの……」
「何だと!」
「シン、いい加減にしろ」
「あー、そうでしたね。この人、エライんでしたね」
「おまえっ!」
レイの言葉にも、シンはいかにも白々しい口調で答えた。恩人だと思って黙っていたカガリも遂に我慢の限界を超え、前に出ようとするが、アレックスに押しとどめられる。
「落ち着け、カガリ! それに君も、いい加減にしてもらおうか」
カガリに変わってアレックスが、冷静な中にも苛立ちを込めた声でシンに言った。
「さっきからの君の態度は何だ? 代表を馬鹿にするようなことはしないでもらいたい。もし、くだらない理由でこれ以上代表を侮辱するというのなら、たとえ命の恩人でもただではおかないぞ」
アレックスの「くだらない」という単語に、シンは逆上した。頭がかっと熱くなり、アスハに対する恨み、怒り、憤りをぶつけたくなった。
だが、涙眼でおろおろしているマユの姿を視界に捉え、我に帰った。
マユには、両親は事故死した、と言うことにしてある。本当の事を話すわけにはいかない。
シンは感情を押し殺すようにして、声を絞り出した。
「……別に。ただ、アスハのキレイごとがなんとなく気に食わないだけだ」
そのシンの言葉に、アレックスでもカガリでもなく、マユが声を荒げた。
「何それ! そんなつまらないことでアスハ代表に突っかかったの!? 最低!」
パーティーの空気が、完膚なきまでにぶち壊しになっている。マユはそれをも責めていた。涙眼のまま激情を吐き出すマユの姿は痛々しい。
その姿を見たルナマリアたちもシンをどこか冷めた、白けた目で見つめた。
そんな視線に耐えられなくなったシンは無言で部屋を出て行った。

「あ、あの……、ごめんなさい!」 
シンの姿が消え、少し落ち着いたマユは、シンを追って部屋を出て行こうとしたが、一旦振り返ってカガリたちに謝った。
「ホントごめんなさい! マユたち、お父さんもお母さんもずっと昔に事故で死んじゃって……。アスハ代表がお父さんのことを言ったのが気に入らなかったと思うんです。多分、それで……」

2166/16:2006/11/08(水) 22:52:52 ID:???

シンは部屋に入り、電灯もつけずにベッドに倒れこんだ。
少し冷静になった頭で、先ほどの事を思い出す。
本当にバカな事をした。
今になってみれば、そう思える。だが、頭に血の上っていたさっきは、そんな事を考える余裕も無いままに、かっと熱くなってしまった。
許せなかったのだ。アスハが、自慢げに父親の事を口にするのが。

四年前のあの時、ウズミ・ナラ・アスハによるオーブの中立政策の弊害で各地の救助隊は連携が取れず、避難民の救助が遅れた。
もしあの時もっと早くに助けが来ていれば、父親も母親も死なずにすんだ。マユも苦しまずにすんだはずだ。俺だって……。
たとえウズミの中立政策がなかったとしても、シンの家族が助かっていたとは限らない。だが、シンはそう思い込み、オーブ、そしてアスハを憎悪した。
そのとき、薄壁一枚隔てた先、廊下の方から小さな足音が聞こえ、シンの思考は中断された。その気配は、部屋の前で停止した。
「ん?」

「お兄ちゃん、いる?」
シンの部屋の前まで来たマユは、ドアをノックして声をかけた。返事はない。しかし、他の場所にいるとも思えない。マユはそのままドア、正確には戸一枚隔てた先にいるはずの兄へと向かって話しかけた。
「アスハ代表だって悪気があってあんなこと言ったわけがないよ? マユたちに親がいないなんて知らないんだもん。それに、アスハ代表だってお父さんが死んじゃってるんだよ。それなのにあんな言い方……」

上半身を起こして、ベッドに腰掛けたシンはマユの言葉を黙って聞いていた。
マユの言うとおり、確かにカガリ・ユラ・アスハの父親、ウズミ・ナラ・アスハはオノゴロ島事件の時になくなっている。オーブと運命を共にしたのだ。しかし、同情する気にもなれない。
ウズミは死を賭して信念を貫いた代表として英雄扱いもされている。だが、シンにとっては国民に犠牲を強い、国を滅ぼしたただの無能な理想主義者だ。
それは父親だけでなく、娘も同じだ。理想だけで現実を全く見ようともしない。少なくとも、シンにはそのようにしか見えない。
自分たちから両親と幸せを奪ったアスハが、自慢げに自分の父親の事を語り、無神経にもマユの心の傷を押し広げた。
それがシンには許せず、あんな行動に出た。馬鹿な事をしたとは思っているが、かと言って自分のした事を否定するつもりもない。だが、マユたちにはそれが分からない。
「ね、お兄ちゃん。アスハ代表に謝ろ?」
シンは黙ったまま、何も答えない。しばらく待っていたマユだったが、その無言から拒絶の意を汲んでとったマユは、激昂した。
「もう知らない! お兄ちゃんなんてだいっキライ!」
けたたましい足音が、シンの部屋から離れていく。
マユにだけは分かって欲しかったが、説明するわけにもいかない。だが、だからといって、こっちから謝るなどもってのほかだ。その結果がこれだ。自分が我慢しきれなかったのが悪いとは言え、やはり、辛い。
「くそっ!」
シンは苛立ちを押さえきれず、壁に拳を叩きつけた。

2177/16:2006/11/08(水) 22:55:24 ID:???
「申し訳ありません。まさかあいつがあんな事を言い出すとは……」
「いや……そんなに気にしないでくれ」
玄関でレイがカガリたちに頭を下げた。あんな騒ぎが起こった以上、この家にはいられないと出て行く二人の見送りだ。それには、シンを除いた全員が来ている。さすがに玄関先は混雑で飽和状態だった。
こういったゴタゴタにもカガリは慣れているのか、やんわりとレイの謝罪を受け止める。どちらにしろ、今日は予約しておいたホテルに泊まる予定だった。デュランダルがいない以上、ここに長居する必要もない。
「それより、本当に世話になった。感謝している。あと、デュランダル教授には……」
「はい、ギルバートから連絡がありましたら、代表のことも伝えておきますので」
「感謝する」
そこでカガリはマユのほうに向き直った。今にも泣き出しそうな顔をしている、この少女に。
「お前も、気にしなくていいんだぞ」
「でも、ごめんなさい。お兄ちゃんも、本当はとっても優しいんです。お父さん達が仕事でいないときもずっと一緒にいてくれて……ずっとマユのこと守ってくれて……」
「マユの大事な人だもんな。分かってる」
そう言ってカガリはマユの頭を優しく撫でた。カガリの優しさが身にしみたマユは目に涙をあふれさせ、何とか一言だけ口に出すことができた。
「あ、ありがとうございます……」
レイの呼んだタクシーにカガリが乗り込む。タラップに足をかけたアレックスは、視線を感じて振り向いた。
憎悪の込められた赤い瞳が、ガラス越しに向けられている。
「どうした?」
「……いや、なんでもない」
カガリは気付いていない。あえて言う必要もないだろう。
アレックスはその視線をまっすぐに受け止め、タクシーの後部座席へと入った。無視するのは簡単だったが、それはしなかった。なぜか、避けてはいけないような気がした。

2188/16:2006/11/08(水) 22:57:11 ID:???

何台ものパトカーが集まり、多くの警官が粗末な小屋、ユニウスセブン観測所を取り囲んでいる。
その場へ、一台のパトカーがサイレンを鳴らしながら到着した。ドアが開き、中から二人の青年と一人の女性が出てくる。
「まさかこんなところまで来るとはな」
「仕方ないですね。MSが現れたそうですから」
「確かってワケじゃねえだろ?」
「疑いがあるのなら、調査するべきです。少なくとも、二人の犠牲者がでていることは確かなのですから」
「へいへい。マジメなことで」
「警察官、ひいてはZAFTの一員として当然のことです」
近くで見張りをしていた警官がイザーク、ディアッカ、シホの三人へと敬礼し、彼らへと声をかけた。
「ご苦労様です」
「現場は?」
「こちらです」
そのまま案内役の警官は、彼らZAFTの面々を事件現場へと連れて行った。

MS関連の事件は広域指定されており、その専任捜査本部といえるZAFTは区域を越えて捜査を行うことが許されている。
イザークたちがここまで呼ばれたのも、この殺人事件がMS絡みの可能性がある、という話だからだ。
「何だ、あれは?」
「随分、具合が悪そうだな」
現場である観測所に向かう途中、道路わきに何人もの警官がかがんでいるのを見かけたイザークが、案内役の警官に訊いた。
すると、警官は血の気の引いた顔で、口ごもりながらも答えた。
「現場はかなり酷いことになっているそうなので……覚悟しておいてください」
観測所のドアを開けると、酷い血の匂いがイザークたちの鼻についた。

「だ、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。これくらい……うっ」
真っ青になって口を押さえているイザークをシホが気遣う。だが、彼女にしても負けず劣らず顔は青ざめ、肩は震えている。
「職業柄むごい死体は結構見てきたけど……、ありゃひでえよ。当分肉は食えねえな」
ディアッカは冗談めかして言うが、乾いた笑いさえも出てこない。
それほどまでに、惨い現場だった。通報を聞いて真っ先に駆けつけた警官はドアを開けた瞬間に卒倒したと言う話だが、それも仕方ない。
狭い室内は血の匂いで充満し、天井にまで血しぶきが飛んでいる。肝心の死体だが、情けない話だが、ほとんど直視できなかった。
「後で詳しい報告書をまとめておきますので、読んでおいてください」
ベテランと思しきこの鑑識は、顔色一つ変えずに言った。心なしか、馬鹿にされているような気分だ。
「ああ」
鑑識という仕事はまともな神経では務まらない。そう思いながら、イザークは生返事で応えた。

2199/16:2006/11/08(水) 22:59:26 ID:???

今朝の朝食は、非常に重苦しいものだった。
結局、シンは降りてこなかった。今日も、朝から姿を見ていない。マユもずっとふさぎこんだままだ。
そんなマユに料理をさせるわけにもいかず、食パンが並ぶだけの食卓は非常にわびしいものだった。
今朝はメイリンは食べに来なかった。シンも降りてこないままなので、三人だけの朝食だ。
「な、何か……きまずい?」
ルナマリアは場を和まそうとしてわざと間の抜けた事を言ったが、口を開いた事を後悔した。恐ろしく空気が重い。おかげで食も進まない。
「……ごちそうさまでした」
マユがゆっくりと席を立った。食器の上のパンは、全く手を付けられていないままだ。
「ごちそうさまって、全然食べてないじゃないの」
「食欲……ないんです。失礼します」
心配したルナマリアが声をかけるが、マユはお辞儀をして、そのまま部屋を出て行った。
マユの後姿を見送ったルナマリアは、声を潜めてレイに言った。
「大丈夫かな、マユちゃん。シン呼んでこようか」
「こじれるだけだ、やめておけ」
「でも……」
「大丈夫だろう。お前達と同じだ」
「私たち?」
言われて、ルナマリアは思い当たる。メイリンとの事だ。どんなけんかをしても、すぐに仲直りできる。少しくらい仲違いをしても、そう簡単に絆は断ち切れるものではない。シンたちも同様だと言いたいのだろう。
「そっか。けど、時間がかかるかも」
「それでも、仲直りできるはずだ」
レイの言葉をかみしめながらも、ルナマリアは思う。いつも一緒に居た自分たちとは違い、シンたちはずっと離れ離れだったのだ。きっと、その手助けくらいは必要だと。

22010/16:2006/11/08(水) 23:00:24 ID:???
ルナマリアはドアの前で一度深呼吸をして、息を整えた。緊張をほぐした彼女は意を決し、ドアを叩く。
「誰ですか?」
すぐに返事が来る。かわいらしい女の子の声、マユのものだ。
「私よ、私。ちょっといい?」
しばらくしてから、ドアが開く。泣いていたのか少し目が赤い。
「……はい?」
「今、時間ある?」
「別に、用事はないですけど。何ですか?」
怪訝そうな表情で、ルナマリアを見上げる。
「それなら、デートでもしよっか?」
「ごめんなさい。今、そんな気分じゃないです」
マユはそう言ってドアを閉じようとするが、ルナマリアはそれをさせなかった。
「ダ〜メ。何としても来てもらうわよ」
部屋に閉じこもったままでは、ストレスが溜まるだけでろくなことにならない。無理にでも外に引っ張り出し、少しでも発散させるべきだ。
そんなルナマリアの考えが伝わったわけでもないが、マユはため息をついて言った。
「……分かりました。どこにでも連れて行ってください」
「ん、ちょっと待って。せっかくのデートなんだし、待ち合わせしましょ」
「はい?」
「そうねぇ。一時間後に駅前に集合、って事でいい?」
「……行けばいいんですね、行けば」
マユはため息をつき、呆れ顔でルナマリアの言うことに従った。

ルナマリアはドアの前で一度深呼吸をして、息を整えた。緊張をほぐした彼女は意を決し、ドアを叩く。
「誰だ?」
すぐに返事が来る。いかにも不機嫌そうな声、シンのものだ。
「朝ごはんには来なかったけど、起きてたのね。ちょっと開けてくれる?」
しばらくしてから、ドアが開く。赤い瞳が、不機嫌そうにルナマリアを睨みつける。その眼光の鋭さにわずかにひるみながらも、ルナマリアは務めて軽い調子でシンに言った。
「今、時間ある?」
「別に、用事はないけど。何か用?」
「それなら、ちょっと買い物に付き合ってくれない?」
「やめとく。荷物もちでもやらせるつもりだろ?」
「何よ。どうせ暇なんでしょう?付き合ってよ」
「いやだ」
「来てってば!」
こうなると、初期の目的を忘れて意地になる。無理にでも引っ張り出そうと、ルナマリアはシンの腕を掴んだ。だが、それはすぐに振りほどかれた。
「イヤだって言ってるだろ!何でそうむきになるんだよ!」
「そ、それは……」
言われてルナマリアは口ごもった。ここで真意を話してしまっては、元も子もない。
「とにかく、俺は行かないからな!」
シンは叩きつけるように、ドアを閉めた。
当ての外れたルナマリアは、閉じたドアを睨みつけて臍をかんだ。
せっかく、仲直りさせようと思ったのに。

22111/16:2006/11/08(水) 23:01:59 ID:???
ルナマリアを叩き出してから、シンはまたも後悔した。ルナマリアはきっと、自分に気を遣ってくれたに違いない。それをああも邪険にしてしまい、さぞ気を悪くしてしまったことだろう。
しばらく悩んでからシンは、彼女に謝ろうと思い立った。ルナマリアがいるであろう、
居間へと向かう。
だが、そこにいたのはレイだけだった。椅子に座って、何か読んでいるようだ。シンは気まずさを感じつつも、彼の背中へと声をかける。
「……ルナは?」
「出かけた」
それだけで、レイは何も言わなかった。昨日の一幕のことで何か言われるに違いないと身構えていたシンは拍子抜けし、思わずその背中を凝視した。
「なんだ?」
「い……いや、別に」
その視線を感じ取ったレイが、背を向けたまま声をかける。シンはうろたえて口を濁した。
「昨日のことなら気にするな。俺は気にしない」
無造作に言われたその言葉に、シンは虚を突かれて呆然となる。
「お前には俺よりも謝るべき相手がいるだろう」
淡白な口調ながらも、心配してくれていることが分かる。レイの気遣いに、思わずシンの顔が緩んだ。

意地になってルナマリアの誘いを断ったとはいえ、シンには別段用事はなかった。手持ち無沙汰になったシンは作業着に着替え、バイクの整備をした。最近、やけに調子が悪いのだ。理由は大体想像がつくが。
だが、マユやルナマリアとのこともあってなかなか集中できなかった。全くはかどらず、時間だけが過ぎていく。シンはイラつき、汚れるのもかまわずに、乱暴に頭をかきむしった。
22212/16:2006/11/08(水) 23:03:29 ID:???
ふとその時、シンは後ろから唐突に声をかけられた。
「レイは、いるかな」
驚いたシンが振り向いた先にいたのは背の高い、長い黒髪の男だった。三十歳くらいだろうか。気品を感じさせる優雅な物腰が印象的だった。知性をたたえた切れ長の目が、シンをまっすぐに見据えている。
機嫌の悪かったシンだが、何とかそのイラつきを押さえて質問に答えた。散々世話になっているレイに迷惑をかけるわけにはいかない。
「はい。いますよ」
「ありがとう。君は、レイの友人かな?」
「誰なんですか?あなた」
男の質問に答えないまま、シンは疑問を口にした。この様子からすると、レイとかなり親しそうだ。
シンの不躾とも言える疑問に対し、男は気を悪くした様子も見せずに、柔和な表情をたたえたままに、あらためて口を開いた。
「これは失礼した。まだ、名前を言ってなかったね。私は……」
「ギル!」
突然に男の話を遮った声。嬉しさが満ち溢れているこの声を聞いたシンは、自分の耳を疑った。
「元気そうだね、レイ。久しぶりに会えて、私も嬉しいよ」
暖かな声で、男が言う。とたんにレイは、友人の誰にも見せたことのないほど、頬を紅潮させている。
日ごろ見たことのない友人の姿に面食らっていたシンだが、まるで親子のようなこの二人の姿に、やっと男の正体に思い当たった。
よくレイが話していた、そんな時にはいつも落ち着いていてクールな彼が嬉しそうな顔になっていた、アカデミーの教授で彼の保護者。ギルバート・デュランダルだ。

レイがデュランダルと共に家に入って行った後も、シンはバイクの整備を続けていた。だが、気がかりを残したままで、丁寧に整備できるはずもない。ほとんど何も出来ないまま、シンは作業を中断して家に戻った。
油まみれの作業服から普段着に着替えたシンは、あらためてデュランダルに挨拶しようと居間へと入った。
ほかならぬレイの保護者だ。ちゃんと挨拶しておかなければならない。そう考えていたが、そこにいた顔ぶれを見て、シンの態度は一転した。
「何で、あんたらがいるんだよ!」
22313/16:2006/11/08(水) 23:04:20 ID:???
居間にいたのはレイとデュランダルだけではなかった。カガリ・ユラ・アスハとアレックス・ディノの二人を加えた計四人が、いつも食事に使っているテーブルを挟んで、何かを話し合っていた。
「口を慎め。彼らはギルが呼んだお客様だ」
レイがたしなめる、と言うよりも咎めるような強い口調で言った。シンは押し黙り、居間を出て行こうとしたが、デュランダルに引き止められた。
「ああ、待ってくれ。君にも、ここにいてもらいたい」
「教授!この話は!」
「レイの話によれば、彼にも目撃経験があります。その意見も、是非聞いておきたいのですよ、姫」
カガリが怒鳴るように言うが、デュランダルは意に介さなかった。丁寧な口調だったが、有無を言わさない口調だ。それに、見事な正論。カガリは反論できなかったが、せめてもの抵抗として、ぶっきらぼうな口調で言い返す。
「その、姫というのはやめていただけないか?」
デュランダルは少し驚いたように目を見開き、笑いをかみ締めるような表情で頭を下げた。
「これは失礼しました。アスハ代表」
政治家のはずのカガリが完全にやり込められている。憤然とした表情で睨みつけるが、当の相手は穏やかな笑みをたたえた表情を崩さない。カガリは引き下がるしかなく、デュランダルは立ったままのシンに席に座るように促した。
入れ替わるように、レイが部屋の外へと出て行く。彼の場合は、別に用事があるようだ。
レイの後姿を見送り、勧められて席に着いた直後、デュランダルはシンに向かって話しかけてきた。
「まず聞きたいのだが、君は、MSについてどう思うかね」
「MSについて……ですか?」
質問の意図が測りきれずに、シンは聞き返す。
「ああ。レイにも聞いていたが、君は何度も接触しているそうだね。簡単なものでいい。印象を聞かせてくれないか?」
そんなこと、考えたことがなかった。
「……ただの怪物……としか」
「そうか。やはり、そうだろうね」
デュランダルは嘆息するように言った。何かまずい事を言ったか、とシンはデュランダルの顔色を窺う。
「あ、あの?」
「いや、すまない。別に、君の答えが不満なわけじゃないんだ。ただ、彼らの目的が分からないものかと思っていたのだが、やはりそううまくはいかないようだ」
自嘲するようなデュランダルの言葉を、シンが問いかける。
「目的、ですか?」
「ああ。知っての通り、MSの事を、我々はほとんど知らない。何故人を襲うのか、それだけでも分かれば、被害を大幅に減らせるだろう」
そんな考え方などした事がなかった。この人は、俺なんか思いもよらないような大きな考え方をしている。
シンは尊敬のまなざしで、デュランダルを見上げた。

22414/16:2006/11/08(水) 23:05:57 ID:???
「何だって!?」
部屋へと再び戻ってきたレイの携えてきた報せに、カガリはしばし絶句した。彼女だけではない。アレックスの顔色も蒼白になっている。
「ユニウスセブンが、動いている!?」
「はい。このままいけば、最悪……完全に沈みます」
「ユニウスセブンが……」
デュランダルが両手を組み、深刻な表情で何かを思案して板が、やがて口を開いた。
「ひょっとしたら、MSが現れ始めたことと何か関連があるのかもしれません」
「教授!?それはどういう……?」
カガリの言葉に、デュランダルはよどみのない口調で答えた。顔色こそ青ざめていたものの、声色からは動揺を感じさせない。
「代表も知っての通り、MSは血のバレンタインの後、ユニウスセブンの付近で目撃され始めました。そこが、異常を起こしているのです。MSの仕業か、自然現象かは分かりませんが、おそらく、何らかの因果関係があるでしょう」
「……ユニウスセブンはあいつらの巣、なんですか?」
「それは不明だが、可能性はありえる。何でそんな事を聞くんだ?」
「いえ……、別に」
シンはごまかすように言った。デュランダルはそれ以上追求せずに、カガリたちのほうへと向き直った。
「……フム、そうか。そこで代表、今度の件についてですが……」
「……少し、外の空気を吸ってきます」
デュランダルが再び、カガリに話しかけ始める。シンは目立たないように静かに告げて、部屋を出て行った
ガラス越しに、シンがバイクにまたがるのを見たアレックスは、小さく口の中で呟いた。
「……あいつ、まさか」
アレックスの疑念を証明するかのように、窓の外からバイクの爆音が響いた。

22515/16:2006/11/08(水) 23:08:01 ID:???

「あれだ!」
青いインパルスへと姿を変え、一直線にバイクを走らせたシンは、遂に目標をその視界に捉えた。
ユニウス市の郊外、全てのMS事件の始まりとなった地、ユニウスセブン。
オーブの奴らの手なんか借りない。俺が、奴らを叩き潰す!この手で、すべてを終わらせてやる!
シンはさらにアクセルを踏み込み、マシンスプレンダーを加速させる。が、すぐさまバイクを横倒しにするようにして急激な方向転換をかけた。
一瞬前までインパルスのいた空間を、エネルギーの波動が通過、空気のイオン化する、焦げ臭い匂いがシンの鼻をついた。
シンはエネルギーの放たれた方向を睨みつけた。緑色のMS、ザクが長大なエネルギー砲、オルトロスを構えた姿が目に入る。そのザクの左肩の盾はなく、代わりに醜くえぐれた傷跡が刻まれている。間違いなく、先日シンが戦った相手だ。
「あいつ、なんでこんなところに!」
その呟きに答えるように、再度オルトロスがインパルスへと襲い掛かる。シンはバイクを急発進させるエネルギーの奔流がインパルスの右肩をかすめる。
直撃でないにもかかわらず、青い肩を黒く焦がすほどの膨大な熱量にシンは呻き声をあげた。
「ぐぅっ!」
肉を焼かれる苦痛に耐えながらも、シンはバランスを崩さない。もしバイクから手を離したら、それこそオルトロスの餌食になってしまう。
そんなシンの苦痛にもかまわず、エネルギーの波動が続けて襲い掛かる。シンはそれから逃れるため、巧みにバイクを操った。しかも、あまりに近くては余波で焼かれてしまう。
大きく距離をあけながらかわしているおかげでダメージこそないが、近づくこともできない。時間をかければ、さらに多くの敵が現れるかもしれない。
シンは意を決し、マシンスプレンダーをザク、いやユニウスセブンへと向けた。全速力で、まっすぐに突っ込ませる。

ザクが、照準をインパルスの胸部へと定める。あんな無謀な突撃では、完全にかわすことなどできるわけがない。
距離を詰め、最大出力でオルトロスが放たれる。膨大なエネルギーの奔流が、インパルスへと襲い掛かる。
「今だ!」
シンはマシンスプレンダーの車上で跳躍、エネルギーの奔流の上へと踊り出ながら緑へと変化する。左腕にはケルベロスを携えていた。
少し遅れてザクがインパルスの動きに気付き、銃口を向けるがもう遅い。最大出力で放ったせいで、充填に時間がかかる。
その間,既にケルベロスにはエネルギーが流れ込んでいる。跳躍の最高点でシンは引き金を引いた。
「いけぇっ!」
銃口から膨大なエネルギーの波動が解き放たれ、ザクを貫いた。盾を失っているために受け止めることもできない。シンが身をかがめて衝撃を和らげ着地する、と同時に、胸部を撃ち抜かれたザクは爆散、インパルスの緑色のボディをオレンジ色に染め上げた。
22616/16:2006/11/08(水) 23:09:42 ID:???
「やったあ!」
シンは快哉をあげるが、歓喜の声はすぐに引っ込められる。まだ炎の立ち昇る道路の向こう側に、何体もの黒い影を見つけたからだ。
シンは影の一つへと向けるが、引き金を引くことはできなかった。左腕に巨大な両刃の剣、重斬刀が振り下ろされ、ケルベロスが叩き落される。
「なんだ!?」
いつの間にやら、インパルスの左側に黒い影が忍び寄っていた。
「貴様ごときに、邪魔はさせん!」
左側の黒い影、顔に傷のあるジンハイマニューバ2型が言い放ち、強烈な斬撃を浴びせる。
両腕を掲げて防ごうとするものの、気迫のこもった一撃は防御をこじ開け、シンへとダメージを与えていく。
さらに、複数のジンHM2が現れ、シンを取り囲む。そのうちの三体が、シンへと飛び掛り、彼の自由を奪った。


薄暗い部屋に、光が差し込む。部屋のなかにいた専任スタッフたちは一斉に開いたドアの方を向き、慣れない目を細めながらも敬礼する。
顔の上半分を無機質な黒いマスクで覆った男、ネオはそれらを無視しつつもスタッフの一人に尋ねた。
「どうだ、様子は?」
「調整は完了しています」
「使えるのか?」
「日常生活においては何の問題もありません。ただ、戦闘で使えるかどうかは……まだ何ともいえませんね」
「実戦か……。それなら、一つ面白い話があるぜ」
そう言って、ネオは一つのファイルをコンソールの上に投げ出した。
『ユニウスセブン突入作戦』
スタッフは興味深げにタイトルのついたファイルの中身を覗き込む。ネオはそれを横目に見ながら、コンソールごしに部屋の奥へと顔を向けた。
そこには円形のベッドが三つ並んでおり、ベッドを覆うガラスカバーの下にはベッドの数と同じ人数の少年達、スティング、ステラ、アウルが思い思いの格好で横たわっている。
その寝顔はまるで何の悩みも心配もないような、あどけないものだった。
227衝撃(ry/16:2006/11/08(水) 23:17:13 ID:???
とてつもなくお久しぶりです。すさまじく長い間を空けてしまい、申し訳ありません。
どういうわけか、文章が全然かけなくなってしまっていて……。
そんなわけで、お見苦しいところもあるかもしれません。重ね重ね申し訳ない。

190さん、長いなんて気にすること無いと思います。それを言ったらこっちなんてw
とにかく、一緒にがんばっていきましょう
228190:2006/11/09(木) 23:24:38 ID:???
ありがとうございます。気合の入った長編乙です。
最近過疎ってるこのスレも、もっと盛り上がるといいんですけど。
ということで新作も来てるのでage。
229通常の名無しさんの3倍:2006/11/10(金) 08:42:44 ID:???
GJ!!
カガリやら議長やらでシンの毎回変わる反応にワロタw
230通常の名無しさんの3倍:2006/11/10(金) 10:31:21 ID:???
キター!!GJ!!
231通常の名無しさんの3倍:2006/11/14(火) 10:55:12 ID:???
ほしゅ
232通常の名無しさんの3倍:2006/11/17(金) 08:17:00 ID:???
保守
233通常の名無しさんの3倍:2006/11/19(日) 19:14:38 ID:???
まとめサイトが見れなくなってた……。
何があったんだ、31氏……。
234通常の名無しさんの3倍:2006/11/20(月) 10:38:23 ID:???
>>233
普通に読めたぞ?

カブトが終わるまでこのスレ残ってたら俺も書こうかな
235233:2006/11/20(月) 12:25:51 ID:???
すまん、後で確認したらちゃんと読めた。

このスレは普通に残っていると思うぞ。
いつまでも保守し続けるからなw
236通常の名無しさんの3倍:2006/11/23(木) 20:46:09 ID:???
シン「変身!!」


あぁめに打たれ〜風になぁがされ〜(BGM ONE WORLD)

ブラック、仮面ライダーストライクノワール

ブルー、仮面ライダーブルデュエル

グリーン、仮面ライダーウ゛ェルデバスター

三体のライダーが出現!!

そして、地球に代2のユニウスセブンが接近!!

地球を守るため、愛する人を守るため、男たちは立ち上がる!


劇場版仮面ライダーインパルス GOD SPEED LOVE







勢いでやってしまった、仮面ライダー衝撃の作者さんごめんなさい
237通常の名無しさんの3倍:2006/11/26(日) 10:24:20 ID:???
ほしゅ
238通常の名無しさんの3倍:2006/11/29(水) 00:20:58 ID:???
くそう、保守しかできない自分が悔しい
2391/16:2006/11/29(水) 23:08:52 ID:???
仮面ライダー衝撃(インパルス)

第十一話


三体のジンHM2に覆いつくされ、身動きが取れない。
シンは赤いインパルスへとその姿を変え、反撃に移った。
赤いインパルスは他の姿に比べ、大幅に筋力が発達している。シンは力任せに周りのジンHM2型を引き剥がし、強引に自分の間合いをつくった。
「うおおぉぉっ!」
インパルスの拳、肘が、次々に突き刺さり、吹き飛ばす。
密着状態で避けることのできなかった三体のジンは地面に転がる。いくら戦い方がうまく、動きが俊敏でも所詮はジン、最近のMSに比べれば脆弱だ。
シンはベルトの前に右腕をかざし、エクスカリバーをその手に掴み、構える。残りのジンHM2はインパルスから距離をとり、身構えた。

サトーをはじめとするジンHM2たちは、巧みな連携でシンを翻弄していった。
殴り倒したジンHM2たちは動きが鈍く、簡単に倒すことが出来たが他はそうはいかなかった。攻撃が全く当たらず、シンは焦燥を深めていく。
「だあぁっ!」
分離させたエクスカリバーの片方が振り下ろされる。大地を砕く、気合を込めた一撃。
しかし、それを完全に見切っていたサトーは右へ流れるように回避、別のジンHM2がシンの背中へと重斬刀を叩きつける。
その衝撃で身を屈めたインパルスへと、サトーが強烈な蹴りをいれる。その威力に、シンはエクスカリバーを取り落とし、二歩、三歩とあとずさった。
度重なる疲労とダメージが限界に達し、シンは遂に片膝を着いてしまう。
サトーは、右側に構えた重斬刀に力を込める。エネルギーが刀身流れ込み、蓄積される。
「ぬおおおぉぉぉっ!」
助走をつけ、勢いを増した重斬刀が逆袈裟に切り上げられ、シンを襲う。蓄積されたエネルギーが解放、爆発し、シンの身体を吹き飛ばす。
「うわああ!」
ゴム鞠のように宙に舞を舞ったインパルスは、放物線を描いて背中から地面に叩きつけられた。

身体中がバラバラになるような衝撃と苦痛に、一瞬意識がとぶ。
それでもシンは片手を付いて、上体を何とか起き上がらせる。手を見ると、灰色になっていた。身体が重い。
複数のジンが武器を構え、未だ立ち上がれないシンへと迫り来る。何とかしようとするものの、身体が思うように動かない。
目の前のジンHM2が重斬刀を振りかぶったそのとき、両者の間に何かが割り込みジンを撥ね飛ばした。
すぐさま体勢を立て直したジンの一つ目に映ったのは、赤いロードバイクだった。フルフェイスのヘルメットに顔を隠され、誰が乗っているのかは分からない。
2402/16:2006/11/29(水) 23:09:46 ID:???
わずかに怯んだものの、複数のジンHM2は突然の乱入者へ襲い掛かろうとする。乱入者はすぐに訪れるであろう瞬間へと備え、身構える。
だが、それは起こる事は無かった。MSたちは後ろから衝撃を受け、まとめて弾き飛ばされる。シンのバイク、マシンスプレンダーが無人のままに動き、MSたちを撥ね飛ばしたのだ。
乱入者はヘルメットの上からでも分かるほどに驚いたようだが、すぐに気を取り直し、シンの方を向いて怒鳴った。
「シン、今のうちだ。逃げるぞ!」
「な、何であんたが!?」
その声は間違いなくアスハ代表の随員、アレックス・ディノのものだ。
オーブの偽善者なんかが、なんで自分を助けに来る? シンがそう思うのと同時に、アレックス、いや、オーブに対しての憎悪が頭をもたげ、まともな判断力を奪う。
「そんなことはどうでもいい! 動けるか!?」
「誰が、逃げ出すもんか!」
「状況を考えろ! 今のままのお前に何ができる!」
アレックスに叱責され、臍を咬む。彼の言っていることは一分の隙も無い正論だ。だが、オーブの人間の言う事を聞くのが我慢ならず、反発心からシンは最悪の選択をしてしまった。
「……ふざけるな! 俺はまだ、戦える!」
シンは苦痛を強引に押さえ込んで立ち上がり、ジンHM2たちの中心にいるサトーへ無謀な突進をかけた。
「うおおぉぉぉぉっ!」
「バカ、やめろ!」
「……馬鹿め」
奇しくも両者はシンの行動を同じ言葉で表す。

シンの突進は足元がおぼつかない。迎え撃つサトーは、インパルスの動きを見極め、重斬刀を薙ぎ払った。
避けられるはずもないその一撃は、インパルスの胸部を直撃する。
「シン!」
「ぐああぁぁぁっ!」
真一文字の強烈な打撃を受けたインパルスは吹き飛ばされ、変身も解除、シンはそのまま地面に叩きつけられる。
サトーは満足げに自分の愛刀を眺め、そして地面に横たわるシンの姿を見下ろした。一歩前に出て、重斬刀を獲物の頭上へと突き出す。

胸部を押さえてのたうちまわるシンは苦しげな呻き声をあげるばかりで、それも目に入らない。
もはや一刻の猶予も無い。アレックスは腰のベルトに挟んだ銃を取り出す。シウスではなく、大口径の単発銃だ。
その中に装填された特殊プラスチック弾はデュランダルに借りた試作品、一発限りだ。必殺のタイミングを見計らい、そして放つ。
「ぬぅっ!?」
それはあやまたずサトーの背中に直撃した。特殊プラスチック弾の成分が体内で暴れだし、
一時的に動きを止める。MSに対してそれなりの効果を出した特殊ガス弾の成分を
濃縮したのがこの特殊プラスチック弾だ。実戦での使用はしたことはなく、疑わしいものだったが効果は上々のようだ。
それを見極める間もなく、アレックスはバイクを急発進させ、シンのもとへと走らせる。加速させながらシンの腕を掴み、片腕で強引に引き上げる。
さらに急加速。
バイクはもうもうと土煙を上げ、その場から消え去った。

2413/16:2006/11/29(水) 23:10:47 ID:???
やっと動けるようになったサトーは去っていくアレックスたちの後姿を睨みつけた。何体もの同志がそれを追っていくが、サトーはそれを制した。
追えないことはなかったが、多数のナチュラルがユニウスセブンに迫っている今、ここを離れるわけにもいかない。第一……、
「あんなヒヨッコども、気にするまでも無いわ」
やや、負け惜しみに聞こえるかもしれない。サトーはそう思いつつも口に出し、アレックスたちの去った方向から背を向けた。

廃墟のようになった建物が目に入る。アレックスはそこへバイクごと飛び込み、急停車させた。その影から、MSの様子を伺う。
どうやら、ユニウスセブンのほうへ後退していくようだ。ヘルメットを脱ぎ、ホッと息をつく。
こんな無茶をして、イザーク辺りにでもばれたら怒鳴られるな。ふと、そう思いつき、苦笑する。あいつらは元気だろうか。
懐かしさがこみ上げてくる。かつての同僚で、仲間だったあの二人。イザークとディアッカ。あの二人の消息は、知らない。向こうも、自分が今何をしているかは知らないはずだ。
今頃、何をしているんだろうか。ZAFTはまだ残っているらしいから、また戦っているのかもしれない。あの二人のことだから大丈夫だと思うが。
顔が緩んでいた事を自覚し、アレックスは表情を厳しくした。今は物思いにふけっている場合ではない。
バイクの背に強引に乗せたシンを乱暴に降ろす。ほとんど意識の無いシンは、落下するように地面に落ち、それで目が覚めたようだ。
「ツゥっ!」
「目が覚めたか」
務めて冷淡な顔をして言った。シンには言いたいことが山ほどある。シンは、アレックスの顔を見て困惑の表情を浮かべた。
「あ、あんた……何で」
「さっさと帰るぞ。動けるか?」
「何で、ここに来たんだ?」
シンはアレックスの方を見ず、挑戦的な口調で言った。こんな状況でも、突っかかってくるのに苛立ち、わざとぶっきらぼうに返す。
「理由なんかない」
シンは無言のままだ。シンの事を無視してヘルメットをかぶる。バイクにまたがり、エンジンをスタート、アクセルをふかしながらアレックスは振り返り、シンに言った。
「君がどうなろうと俺は知らないが、残されたものの事を考えるんだな。妹さんが悲しむぞ」
バイクが走り出していく。土煙を眺めているうち、シンの中に苛立ちと悔しさがつのってきた。
くそっ、オーブの奴なんかに助けられるなんて! 何も分かっていない口先だけの、あんな奴らに!
俺達の、マユの、いったい何が分かるっていうんだ!
シンは拳を固め、絶叫しながら地面を何度も叩きつけた。

2424/16:2006/11/29(水) 23:11:47 ID:???

辺りはもう暗くなっている。アレックスはバイクを停め、キーを抜いた。最後に傷が無いかどうかを確認する。かなりの無茶をしたと思ったが、幸い無傷のようだ。
「ただいま戻りました」
居間ではない別の一室に入り頭を下げる。防音設備の整った、会議用の部屋だ。優雅にソファにもたれたデュランダルが柔らかな笑みを浮かべ、アレックスを歓迎する。
「無事に戻ってきてくれて何よりだ。怪我は無いかな?」
「はい。お借りしたおかげです。彼女はどこですか? 礼をしたいのですが」
アレックスのいう彼女とは、ルナマリアのことだ。シンが飛び出した直後、レイに番号を教えてもらい、バイクを貸してもらうよう頼んだ。ルナマリアも始めは渋っていたものの、
カガリのお墨付きをもらうことで了承してもらった。今の時間ならもう帰っているだろう。あらためて礼をしておかねば。
「ルナマリアならメイリンたちと一緒に台所にいます。張り切って夕食をつくっていますよ。今日はこちらで召し上がってください。……ギルも」
クールな口調でレイが言う。ルナマリアたち三人にはデュランダルの歓迎ということでご馳走をつくってもらい、最後にデュランダルの方に意味ありげな目配せをした。
「もちろんだ、レイ。姫も、それでかまいませんか?」
「え、その……」
「ありがとうございます。迷惑でなければ、ご一緒させていただきます」
突然話を振られてどぎまぎするカガリに代わり、アレックスが如才なく答えた。随員のほうがこうも落ち着いていては、政治家として立場が無い。
その後の世間話も、主にアレックスがデュランダルと話しており、カガリはほとんど蚊帳の外、といった感じだった。言葉の端々に、相手の腹を探ろうと言う意図が見え隠れしている。
腹芸といった類のものは政治家に必須の技能だが、カガリは生来のまっすぐな気性から未だに慣れない。そんな自分を省みて、彼女はたまに情けない思いにとらわれる。
そんな思いを少しでも払拭しようと、話が一段落したと思われたところで彼女はアレックスに向き直った。
「ところで……どうだったんだ?」
神妙な面持ちでカガリが聞く。アレックスが飛び出した後にも何も教えてもらえなかったのだろう。どうもデュランダルはカガリの事をやや軽視しているように思える。その事をいぶかしく思いながらも、アレックスは自分が見たものを正直に話した。
「ユニウスセブンは、多数のMSに守られています。警察も捜査していたようですが、突入まではできないようでした。私も接近するのが精一杯で……。あれを突破するのは、……正直困難でしょう」

2435/16:2006/11/29(水) 23:13:56 ID:???
「やはり、そうか。予想はしていたが」
アレックスから現状を聞いても、やや辛そうに顔をしかめるだけで、デュランダルの決意は変わらないようだ。カガリは遂に、溜まっていた苛立ちと共に疑問をぶつけた。
「しかし……、何故そこまでしてユニウスセブンに突入しなければならない!? そんな必要がどこにあるというんだ!?」
確かに、一つの人工島が海に沈むというのは大事だ。しかし、多大な犠牲を払うかもしれない突入作戦を実行しなければならない、というのは何かが違う。
「必要、という問題ではないのです。既に警察の上層部は決定を下していて、もはや止めようが無いのですよ」
そう言って、デュランダルは辛そうに顔をしかめた。彼の方も、突入作戦自体は本意ではないのだろう。
居心地の悪い沈黙がこの部屋を支配する。それを破るかのように、入口から一つの言葉が投げかけられた。
「決定、突入? 何の話です?」
「シン?」
「……大丈夫なのか」
レイとアレックスが気遣うように声をかけるが、あろうことかシンはアレックスを睨みつけ、何も言わずに席に座った。
シンの無礼にため息をつきながらも、デュランダルは彼に説明するため、また、もう一度状況を整理するために、あらためて説明をした。

「シン、君が飛び出した直後のことだ。私に、警察から連絡があった。詳しいことは後に説明するとの事だが、警察はユニウスセブンへの突入作戦を決定、私にそのための助言をして欲しいそうだ」
「ユニウスセブンへの突入!? 何でそんなこと!」
話の途中だというのに、シンは思わず口を挟む。つい先ほど、そこで痛い目を見たばかりだ。わざわざ何故そんな事をするのか、理解できない。
そんなシンに対してデュランダルはなお淡々とした語り口で、説明を続ける。
「我々は、MSのことを何も知らない。だからだよ」
「え?」
「前にも行ったとおり、ユニウスセブンにはMSに関して何かが隠されていると思われる。それを見つけるために、突入作戦は許可されたそうだ。
もしサンプルを一つでも捕らえることができれば、状況は大きく変わるだろう」
「でも、何でユニウスセブンに今、何ですか?」
ユニウスセブンに突入するのなら、今までにいくらでもタイミングはあったはずだ。沈没寸前という危険な機会を狙う必要など、無いように思える。
「沈没する直前なら、そこにいるMSも大部分は脱出しているだろう、という予想からだ。現に、付近での目撃情報が最近急増している。以前から突入作戦自体は計画されていたが、なかなか実行される機会がなくてね。
それに、現時点で判明しているMSのアジト、といえるようなところはそこしかない。この機会を逃してしまうと、我々はこの戦いを終わらせる機会を永久に失ってしまうかもしれない。それが、警察が突入作戦を決定した理由だろう」
デュランダルの説明が終わる。全くの正論だ。
それでもカガリは、必死に反論する。たとえ正論でも、命を失っていい理由とはならないはずだ。
「し、しかし……だからといって警官の命を犠牲にするような事……」
「ええ。ですから、あなた達の力を借りたいのです」
「……え?」
「オーブのモルゲンレーテは先の戦いでMSに対抗する技術の数々を手に入れているでしょう? あなた方の協力があれば、突入作戦はより安全になるのですが」
「そ、それは……」
デュランダルの言っていることは事実だ。ストライクをはじめとする対MS装備の数々を保有するモルゲンレーテの協力があれば、犠牲を減らすことはできるだろう。
だが、それはオーブの理念に反することでもあった。ウズミが死を賭してまで守り通した、中立の理念。緊急事態とはいえ、オーブが積極的に他国に干渉することなど、あってはならない。
しかし、このまま放っておくこともできない。
「オーブの理念は私も存じております。ですが……」
カガリの葛藤を見透かしたかのように、デュランダルが言う。それでも、カガリは躊躇したまま何も言えない。

2446/16:2006/11/29(水) 23:14:56 ID:???
「先生、そんなこと言ってもムダですよ。アスハが理念を曲げてまで協力してくれるわけないじゃないですか」
「なっ!?」
軽蔑したようなシンの言葉だが、カガリは言い返すことができない。実際にその二つを秤にかけていたのだ。何を言おうと、その事実に変わりは無い。
そんなカガリに対し、激昂したシンはさらに追い討ちをかける。
「やっぱり、そうなんだな! 誰が死のうと馬鹿げた理想さえ守れりゃそれでいいだな、あんたたちは!」
「そ、そんなことは……」
否定しようとするカガリの声も途中でかき消えてしまう。そんなカガリを庇おうと、アレックスが前に出、敵意さえ感じられる目を向け、シンの胸倉を掴んだ。
「そこまでにしてもらおうか」
アレックスには何度も助けられた。目の当たりにした彼の実力に無意識のうちに敬意を抱いていたシンだったが、アレックスはやはりオーブの味方だった。それがこの行動ではっきりとする。
勝手に抱いていた理想像を裏切られたという思いが、シンの中の憤りを助長する。
そんなシンの内心などお構いなしに、アレックスは続けた。
「これ以上くだらない理由で代表に突っかかるというのなら、俺が相手だ」
「くだらない……?」
シンの頭がかっと熱くなる。アレックスの手を引き剥がし、低く抑えた、しかし不穏な調子の漂う問いをぶつける。
「あれが本心だとでも思ってたのか……? あんたら……、父さん達の事を聞いたか?」
「あ……ああ、マユちゃんから。確か、事故で亡くなったとか」
突然の質問の意図を掴めず、戸惑いながらもカガリは答える。だが、次の瞬間、シンは爆発した。
「事故じゃない!」
そして続ける。マユの手前言えなかった事を。そして、今まで誰にも言うことのなく封印していた事を全て、目の前のたった一人、全ての責任を負うべき人物にぶつける。
「父さん達、いやそれだけじゃない。俺も、マユもみんな、お前らアスハに殺されたんだ!」
その言葉に、この部屋の誰もが凍りつく。もはや、自分にも止めることはできない。全ての怒りを叩きつけるまで、終わらない。
「オーブを信じて、あんたたちの理想とかってのを信じて、そして最後の最後に、オノゴロで殺された。……俺達だって一度死んだんだ」
馬鹿げた理想をかかげて悲劇を繰り返そうとしている。そんなアスハを、絶対に許さない。
「だから俺はあんたたちを信じない! オーブも、あんたたちの言うきれいごとも信じない! 
オーブの正義を貫くって、その言葉で誰が死ぬことになるのか、ちゃんと考えたのかよ!」
シンの憎悪に震える独白に、カガリは顔色を失ってあとずさる。その身体を抱きとめるアレックスの顔にも、ありありと動揺が見てとれる。
「マユは覚えてないけど……、俺は忘れない。あんたらのした事を、俺は絶対に忘れない!」
最後にシンは吐き捨て、何も言えず立ちすくんでいるカガリの脇を通り抜け、部屋を出て行く。わざと肩でカガリを突き飛ばし、荒っぽい足取りで。

2457/16:2006/11/29(水) 23:16:41 ID:???
「あれ、シン? 帰ってたの?」
マユと一緒に夕食ができたとデュランダルを呼びに来たルナマリアは、かつてないほど不機嫌そうなシンと遭遇した。
シンの姿を見た瞬間、気まずいのかマユはルナマリアの陰に隠れた。
「お……お兄ちゃん」
ルナマリアの陰から、マユが声をかける。勇気を振り絞って、仲直りするつもりだった。
だが、シンは立ち止まることなくその場を後にする。無視しているというより、全く気付いていないといった様子だ。
さっていくシンの後姿を見ながら落ち込んでいるマユに、ルナマリアは励ますように気楽に言った。
「大丈夫よ。チャンスはいくらでもあるんだから」
「……はい」
マユは力なく首をかすかに動かした。
「全く、シンも仕方ないわよね。いつまでも子供みたいに」
ぶつくさ文句を言いながら、ルナマリアはドアをノックした。

ドアを開け、ルナマリアとマユは声をそろえて言った。可愛らしく聞こえるよう、台所で練習したものだ。
「「夕飯、できましたよ〜」」
「ああ、ありがとう」
鷹揚に答えたのはデュランダルだけだ。柔和な笑みを浮かべて、二人に返す。
レイはいつも通りのポーカーフェイスだったが、付き合いの長いルナマリアには分かる、微妙な違和感があった。何か、動揺しているのだろうか。
「レイ、何かあったの?」
「……いや、何でもない」
「そう? ならいいけど。冷めちゃうからすぐに来てよ」
「ああ」
それだけ言ってレイは席を立つ。こちらは、それだけでよかった。

問題は、カガリのほうだった。アレックスこそ既に落ち着きを取り戻していたが、カガリは心ここにあらず、といった様子で、眼の焦点が合っていない。
「あの、どうしたんですか?」
マユが心底心配そうにカガリの顔を覗き込む。

目の前に、マユの顔が現れる。カガリの脳裏に先ほどのシンの言葉が甦る。
死んだ……?
この子が、父や自分たちのせいで?
まだ幼く、あどけない少女。愛らしい、すみれ色のきれいな瞳が、不安げに見上げている。
この子は、本当に自分を心配してくれている。父親を、母親を、幸せを奪ったと糾弾されたこの自分を。
「あ……ああ……!」
突きつけられた事実のあまりの重さに押しつぶされそうになる。マユの顔を直視することができない。頭を抱えるようにして、かがみこむ。

2468/16:2006/11/29(水) 23:19:29 ID:???
「カガリ!」
肩を掴まれ、揺さぶられる。それは彼女を現実に引き戻す、力強さを持っていた。
「ア、アスラン……」
とっさに、アレックスの昔の名前を呼んでしまう。茫然自失となっている彼女はそのことに気付いていない。アレックスはもちろん気付いていたが、わざわざ注意するようなこともせずにもう一度彼女の名を叫んだ。
「しっかりしろ、カガリ!」

「どうやら、私達は外に出ていたほうが良さそうだね」
デュランダルは、カガリとアレックスだけを残して部屋を出て行くように促した。
「で、でも……」
マユは躊躇し、何度もカガリの方を見るが、デュランダルはマユの肩に手を置き、優しく諭した。
「ここは、二人だけにしておいてあげよう。私達がいてもどうにもならない」
「……はい」
「これでかまわないかね?」
「あ、ありがとうございます」
アレックスは頭を下げる。最後にデュランダルは彼の方を一瞥し、わずかに眉をあげて先ほど聞き逃さなかった名前を口の中で呟いた。
「……アスラン」

「カガリ」
後ろ手にドアを閉め、カガリのほうに歩み寄る。カガリはわずかに目をやったが、すぐに視線を落とす。アレックスは彼女の前にかがみこみ、優しく声をかけた。
「分かっていたはずだろう? これが、現実だって」
それは分かっていた。いや、分かっていたつもりだった。
しかし、あれが初めてだった。糾弾されたことも、幸せを奪ってしまった相手を見るのも。
結局自分は何一つ分かっていなかったのだ。
少女に申し訳ない。少年に返す言葉も無い。父や、死んでいった者たちに情けなくて顔向けできない。
「……うぅ、うああぁぁぁぁぁっ!!」
自己嫌悪や、さまざまな感情がぶつかり合い、感情が爆発する。カガリはアレックスの胸にすがり、火のついたように泣き出した。
アレックスは彼女を受け止め、ただ優しく抱きしめた。

2479/16:2006/11/29(水) 23:21:08 ID:???
泣き疲れ、子供のように眠ってしまったカガリの髪をそっと撫でる。
アレックスは彼女を起こさないように気を遣って静かに立ち上がり、部屋を出た。
「君は……」
部屋のすぐ前に、まだ幼い愛らしい少女、マユが立っていた。ずっとアレックスの事を待っていたのだろう。彼の姿を認めると、かすかに前に出てきた。
何か用でもあるのだろうか。アレックスはマユが口を開くのを待っていたが、少女は視線を下に落としたまま、一言も口を開かない。こちらに、何か言いたいことがあるようだが、踏ん切りがつかないと行った感じだ。
「何か?」
さすがに痺れを切らしたアレックスが少女をせかすが、自然、言葉がきつくなる。カガリをああも追い詰めてしまったのは、この子の兄の言葉だ。この娘に当たるの筋違いだと分かってはいるが、苛立ちをぶつけてしまう形になってしまった。
マユはさらに縮こまる。それでも何とか、言葉を紡ぐ。
「あ、あの……」
ここから先の言葉が上手く聞き取れなかった。アレックスはもう一度聞き返した。
「すまないが、聞こえなかった。もう一度言ってもらえるか」
「だ、大丈夫……でしたか?」
先ほどよりは大きな声だが、聞き取れたのはたったそれだけだ。カガリのことを聞いているのだろうか。
そう察したアレックスは当たり障りの無い返事を返した。
「ん? ああ」
「あの、もしかして……お兄ちゃんが何か言ったせいで……。お兄ちゃんが悪いんですか!?」
今度は聞き返す必要など無い、吹っ切れたような大きな声だ。その言葉に、アレックスは意表を突かれる。この子は、本当にカガリの事を心配してくれている。
こんな娘に、余計な負担をかけさせるわけにはいかない。それに、彼の言ったことも決して間違ってはいない。
「いや、そういうわけじゃないんだ」
「それじゃあ、まさかマユの……!?」
そう言って顔を伏せる。今にも泣き出しそうになっているだろう事はすぐに分かった。
「それも違う。君は、そんなこと心配しなくてもいいんだ」
「でも……」
「ちょっと疲れが溜まってただけだよ。すぐに良くなる」
アレックスはかがんでマユの頭を撫でた。
これで納得できるわけがない。













もう一度聞き返そうとするが、アレックスは手を離し、すぐに目の前から立ち去ってしまった。
追いかけるタイミングを失したマユは、所在無げにその場に立ち尽くした。

24810/16:2006/11/29(水) 23:23:16 ID:???
玄関の方から、デュランダルとレイという少年の声が聞こえてきた。
どこかへ行くのだろうか? アレックスは疑問に思い、玄関へと向かう。
「残念です。もう少しゆっくりしていられるかと思ったのですが」
「私もだ。だが、今は非常時だ、仕方ない」
「はい」
あの冷静な少年が、いかにも名残惜しげにデュランダルと会話している。そのことに驚きながらも、こちら気付いたらしく手をあげたデュランダルにアレックスは会釈した。
「おや、アレックス君。姫は大丈夫かね」
「はい、おかげさまで。……出かけられるのですか?」
「警察に呼び出されてね。ユニウスセブンに関して詳しい話が聞きたいそうだ」
「突入のため、ですか」
「うむ、突入の流れはもはや止めることはできない。ならばプランを完璧なものに近づけ、犠牲者を少しでも減らすしかないだろう。
私自身、FAXでのやり取りには歯がゆいものを感じていたのでね」
「そうですか」

「君は、どうするつもりかな。アスラン?」
「え?」
突然話を振られて、アレックスは動揺する。そんなアレックスにかまわず、いや、動揺しているからこそだろう。デュランダルは話を続けた。
「今のままの警察では、作戦の成功は難しいだろう。MSとまともに戦えるものなど、そうはいないからね。もし、心強い協力者がいれば……」
アレックスは目を伏せ、力ない言葉でデュランダルの言を絶った。今の彼に言えるのは、この程度のことだけだ。
「俺は……、オーブのアレックス・ディノです」
「そうか。いや、すまない。人違いだったようだ。今の話は忘れてくれ」
彼は冗談だとでも言うように軽く微笑む。だが、その眼は決して笑っていない、真剣なものだった。

あの人は、自分を試そうとしている。いや、挑発しているのかもしれない。アレックスにはそう感じられた。
あのときの言葉は間違いなく、自分に作戦の参加を促していたものだ。それも、アレックス・ディノにではない。
アスラン・ザラ。
今は捨て去ったはずの、自分の名前だ。それを分かっていて、作戦に参加しろと言う。
もちろん強制されてはいない。
このまま、何も知らない振りをしてオーブへ戻ったところで、彼は何も言わないだろう。
だが、知ってしまった。このままでは、犠牲が出るのは確実だ。
ひょっとしたらかつての仲間がそれで命を散らすかもしれない。それを分かっていて、何もしないことなど、できるだろうか。
「だけど、今の俺に何ができる?」
いくら経験があるとはいえ、所詮は一人の人間。以前とは違い、できることなどたかが知れている。
「今の、俺に……」
それでも、できることはあるだろう。

24911/16:2006/11/29(水) 23:24:23 ID:???

シンは、いつものようにドアを開け、居間に入った。レイは黙って新聞紙を読んでいる。レイの態度は、全く以て変わらない。いつもどおりだ。昨日の一幕で、さすがに何か言われるだろうと思っていたシンは安堵のため息をついた。
「ん?」
少し余裕の出てきたシンは部屋の中を見てかすかに首をかしげた。何か、違う。
それを察したレイが新聞紙から目を離さないまま、独り言のように呟いた。
「アスハ代表達ならオーブへ帰った」
「は?」
一瞬その言葉が信じられなかった。アスハがあのまま引き下がるとは、到底思えなかったからだ。
新聞紙から目を離し、テーブルの上に置かれた封筒を手にとったレイはそれをシンに見せた。その裏にはアレックスの署名がなされている。
「書置きがあった。夜中に出て行ったらしい」
シンは封筒の中身、キレイな字で書かれた書置きを読む。それには『世話になった、感謝している』との主旨のことが書かれ、MSやユニウスセブンなどには一切触れられていなかった。
「ふん、やっぱり自分が一番大事なのかよ」
シンは軽蔑するように言うが、その心のうちは失望と悔しさが入り混じる、複雑なものとなっていた。


政府関係者だろうか。出迎えらしき一団の目の前へ、一台のリムジンが停車する。
アレックスがリムジンのドアを開け、暗い表情のままのカガリが地面に足をつける。
深夜に出発したおかげで、オーブに到着したのは早朝だ。疲労のあまりリムジンの中で転寝していたカガリには朝日が眩く、思わず目を細める。
たかが二日離れていただけの故郷が、何故か随分と遠く感じられる。
見方が、変わったせいだろう。
シンという少年に叩きつけられた言葉が耳から離れない。同時に、自分を慕ってくれたマユという少女の無垢な笑顔が目に焼きつき、カガリの胸を締め付ける。
そんな心情を察することもなく、一人の青年が彼女の姿を認め、小走りに駆け寄った。
「カガリ!」
「ユウナ?」
カガリは青年の姿を認め、驚いたように足を止めた。
「聞いたよ、大変だったんだね! 君はいつも! 本当にもう、よく無事で……心配したよ!」
「あ、いや、すまなかった!」
勢い込んでまくし立てる青年へ、カガリは戸惑いつつも謝った。
「ユウナ、そこまでにしておきなさい。代表が困っておるぞ」
「ウナト・エマ」
オレンジ色の眼鏡をした恰幅のいい中年が、息子をたしなめるように前に出た。カガリに顔を向けられたウナトは他の政府関係者達とともに揃って礼をとった。
「お帰りなさいませ、代表。ようやく無事なお姿を拝見することができ、安堵いたしました」
「突然不在にしてすまなかった。留守の間の采配、ありがたく思う。何か、変わったことはなかったか?」
「大したことはございません。ご帰還そうそう申し訳ありませんが、報告しなければならないこともございますので、ひとまずは行政府の方へ」
「ああ、分かっている」
促されるまま、歩き出す。それに従おうとしたアレックスの前に、割り込むようにユウナが入り、微笑んで言った。
「君も本当にご苦労だったね。よくカガリを守ってくれた」
「……いえ」
カガリについていくタイミングを完全に失った。カガリにはウナト他政府関係者たちが従っている。ここに残されているのはアレックスの他にユウナと護衛が数人だけだ。

25012/16:2006/11/29(水) 23:25:15 ID:???
護衛もいるとはいえ、二人だけで取り残されてアレックスは気まずく思う。
宰相として若すぎるカガリの補佐する立場にあるウナト・ロマ・セイラン。その息子、ユウナ・ロマ・セイランは現在のモルゲンレーテ社の若社長である。
カガリの随員として行動していても、書類上はモルゲンレーテ社の社員という立場のアレックスにとって、上司にあたる。若年ながら、青年実業家としての評価は高い。
事実、四年前のオノゴロ島事件でほぼ壊滅したモルゲンレーテ社をここまで立て直した手腕は相当なものだ。
だが、アレックスはどうもこの若社長が苦手だった。波長が合わないらしい。向こうもそう思っているらしく、ときたま嫌みを言われることがある。
今度もカガリがいなくなったのを幸いとばかりに、アレックスを軽い調子で非難する。
「さて、君には後で報告書とレポート、始末書を書いてもらうよ。君がシウスを持ち出したおかげで、ZAFTから吊るし上げを喰っちゃってね。
交換条件を持ちかけて何とか許してもらったよ」
いかにも大変だった、というように肩をすくめる。冗談めかした口調だが、本当に苦労したのだろう。アレックスはただ謝るしかなかった。
「申し訳ありません」
「まあ、いいんだけどね。貴重なデータも手に入ったし、MSの存在も確認できた。カガリも無事だったことだし」
これは本心からのものだろう。真っ正直なカガリと違って本音を探るのが難しい相手だが、声音の中に、確かな安堵の響きがあった。
アレックスは深呼吸をしてから、ユウナに話を切り出す。それは、彼が出した、一つの答えだ。
「折り入って頼みがあります。三日ほど、お暇をいただけますか?」
「暇? 休暇のことかい? それならわざわざ僕に言わなくてもいいんじゃないかな」
軽薄そうな口調だが、油断はできない。相手はやり手の青年実業家なのだ。
「いえ、それだけでなく……」


「長いこと留守にしてすまなかったね」
家に戻ってきたデュランダルが、気さくに言った。一人玄関の外まで出迎えにきたレイが、嬉しさを隠して尋ねる。
「いえ、そんなことはありません。もう、用事の方はいいのですか?」
「ああ。もう、私が手を出す余地は無いよ」
「では、これからは一緒にいられるのですか?」
レイの期待するような声。すると、デュランダルはすまなそうな表情をして言った。
「それが、明日からは研究で大学にこもることになってね。今夜くらいしか居られそうにない」
「……そうですか」
「その代わりといっては何だが、今夜はここに泊まらせてもらいたい。構わないかな」
「は、はい。もちろんです」
途端に弾んだ声になる。デュランダルは苦笑しながら、レイの肩に手を置いた。

25113/16:2006/11/29(水) 23:26:45 ID:???

「どうぞ、お茶です」
メイリンがデュランダルの目の前のテーブルにカップを置く。デュランダルはいつもどおりの柔和な笑顔で、それを手に取った。
「ありがとう。メイリン君、だったね。どこまで話したかな?」
「ええと、確かEVIDENS01が発掘されたあたりです」
「そうだったね。信じられないかもしれないが君たちが生まれるよりもさらに前、ジョージ・グレンの海底探査によって……」
デュランダルは資料の写真を指差しながら、着席したメイリンを含む四人の前で講義を再開する。
誰もが噂だけは聞いているが、実際のところはほとんど知られていないEVIDENS01についての講義。
これはレイが言い出したことだった。シン以外の四人が居間に集まって身じろぎもせずに彼の話を聞いている。
彼の講義はマユにも分かりやすく、またレイにも退屈させないような面白いものだった。
大学の授業の多くを昼寝の時間と勘違いしているようなルナマリアでさえも、一言一句聞き逃さないよう、真剣に聞き入っている。
「今までに知られているどんな生物とも違う、我々の常識を超えた化石。天才、ジョージ・グレンはそれをEVIDENS01と名づけた。君たちには羽鯨、と言った方がいいかな?
発掘されたそれはアカデミー、君たちも通っている大学の研究室に移送されたが、何一つ、年代すらも分からなかった。
5年ほど前だったかな。ユニウスセブンにあるアカデミーの研究室に預けられたのだが、知ってのとおり血のバレンタインが起こってね。その直前に見たのが、最後だったよ」
そこでデュランダルは先ほどメイリンの淹れた紅茶を飲む。少し冷めていたが、まだ充分に美味しい。休憩だというように、一呼吸おく。
ルナマリアとメイリンが揃って深呼吸をする。多少身体が硬くなっていた。伸びをして身体をほぐす。
「こんなに面白いのに、シンったら」
ルナマリアがぼやく。シンはレイに誘われたときに、面倒くさいといって拒否したのだ。
「ルナマリア」
「あ。ごめんね、マユちゃん」
レイが咎めるような口調になる。ルナマリアははっと気付いたように口に手を当て、マユに謝る。マユはあれからずっとシンと仲直りしないままで、口さえも利いていなかった。
「いいんです。お兄ちゃんが分からず屋なだけなんですから」
非難するような言い方だが、表情はどこか寂しげだ。長いこと離れ離れだったせいで、上手く仲直りのきっかけがつかめず、もどかしいのだろう。
ルナマリアがそんなマユを気遣おうと声をかけようとしたとき、メイリンが服を引っ張った。
「ねえ、お姉ちゃん、時間……」
「え、何よ。時間? ……やばっ!」
メイリンに指摘され、時計を見たルナマリアは素っ頓狂な声を出す。それを聞きつけたデュランダルが、二人に聞いた。
「どうかしたのかな?」
25214/16:2006/11/29(水) 23:28:10 ID:???
「あ、先生。それが、もう門限で……帰らなくちゃならないんです」
「そうか。しかし、もう暗くなってしまっているね。泊まっていったらどうかな?」
「それは嬉しいんですけど、うちの寮、門限が厳しいんです」
メイリンの指摘にデュランダルは少し黙考していたが、すぐに提案する。
「それなら、私のほうから連絡しよう。君たちとレイさえよければ、泊まっていくといい。どうかな?」
「俺は構いませんよ」
レイが即答する。デュランダルはどうかな、とでも言う風にメイリンたち二人の方を見た。
ルナマリアとメイリンは顔を見合わせた。いくら厳しいとはいえ学校の教授、それも社会的な信用も高いデュランダルの口添えがあれば大丈夫だろう。
外泊なんて滅多にできないのだ。こんな機会を逃すわけがない。
ルナマリアは笑顔を浮かべ、デュランダルにお辞儀をした。
「それじゃあ、お願いします!」
「お、お姉ちゃん。少しは遠慮しようよ」
「別にいいでしょ。せっかくの気遣いを無視する方が失礼よ」
「うぅ、それはそうかもしれないけど」
ルナマリアに言いくるめられ、結局は従う。二人のやり取りを見ながら、デュランダルは笑いをこらえながらも言った。
「そう気にしないでくれたまえ。君たちにはいつもレイがお世話になっているからね」
「い、いえ、そんなことは無いです。どっちかっていうと私達の方が……」
メイリンがデュランダルと話している間に、それまでのやり取りを聞いていたマユが嬉しそうに手を合わせた。
「それじゃあ、ルナマリアさんやメイリンさんと今夜は一緒にいられるんですね!」
「そうね! じゃあ、今日はずっと夜更かししてようか?」
「お姉ちゃん、マユちゃんにそんな悪い癖付けちゃダメだよ!」
ルナマリアもはしゃぐ。メイリンもまじえて一緒にたわいも無い事をわいわいおしゃべりする。そんな時、マユの頭にある一つの考えが浮かんだ。
「そうだ!」
「どうしたの?」
メイリンの声も聞かず、すぐさまマユは居間を飛び出す。取り残されたルナマリアたちは唖然として、開きっぱなしのドアを見つめた。

マユが何より欲しがっていたのは、きっかけだった。シンと仲直りをするために、話を切り出すきっかけ。ルナマリアたちがこの家に泊まる、というのはまさに絶好の機会だった。
「お兄ちゃん、今日ルナマリアさん達が泊まるんだよ!」
マユは勢い込んでシンの部屋のドアを開け、中に飛び込み大声で言う。しかし、何の反応も無い。
「あれ、お兄ちゃん……?」
部屋の中には誰もいない。ベッドの上にも、机の前にも。

25315/16:2006/11/29(水) 23:28:56 ID:???
そろそろ、出る時間だ。
ヘルメットをかぶり、バイクにまたがる。
既にデュランダルに突入作戦の詳細は聞いている。今から出れば、丁度間に合うはずだ。
シンはそっと、家のほうを見た。なぜか、自分の部屋の電気が点いていた。ガラス越しに、小さな影が見える。
「マユ?」
俺を探してる?
結局、マユと仲直りできなかった。またマユに嫌な思いをさせてしまったことが、心に重くのしかかる。
そこでシンははじめてハンドルを握る手が震えていることに気付いた。ユニウスセブンでこっぴどくやられた。その恐怖を身体が覚えているのだ。
「ええいっ!」
恐怖と未練を振り払おうと、シンはバイクを強引に急発進させた。

バイクの爆音がかすかに響く。
それに気付き、部屋の外を見る。今にもバイクが走り出そうとしていた。マユは大急ぎで玄関に行き、もどかしげに靴を履いて、駐車場に出て行った。
しかし、そこにはもう、シンはいなかった。そこにあったのはルナマリアの赤いロードバイクだけ。シンもバイクも、どこにもない。
焦ったマユは道路に飛び出し、勢いよく左右を見回す。しかし、もはやシンのバイクは影も形も見えなかった。


ユニウスセブンを前にして、機動隊が整列する。
突入作戦のためにここへと呼び出された、精鋭中の精鋭。全員、ジェラルミンの盾にボディアーマー、ヘルメットにイーゲルシュテルンと重装備だ。
もちろん、イザークたちZAFTの隊員もこの場に整列している。しかし、彼らの装備は機動隊員とやや異なっている。
スーツの上からボディアーマーとヘルメットというのは変わらないが、機動性を重視して盾は持たず、手に構える銃は、イーゲルシュテルンではない。
急遽組み上げたシウスの納入、これがユウナの言っていた交換条件だった。しかし、まだZAFTの隊員三人分しかない。
それゆえ、突入後は彼らが攻撃の要となるであろう。
作戦はすぐに始まる。前衛の機動隊員たちが一列に並び、ガス銃を構える。MS用の特殊ガス弾が装填された、鎮圧用のガス銃だ。
『構え!』
通信機からタリアの声で号令が出される。ZAFTの司令官である彼女が、この作戦全体の指揮を担当している。
一斉に銃が下ろされ、突入口へと向けられた。

25416/16:2006/11/29(水) 23:31:23 ID:???

黒い海、激しく揺れる大型のモーターボートがユニウスセブンへと横付けにされる。碇が下ろされ、安定したところで何人かの人影が船上に現れた。
「さあて、行こうか。慎ましくな」
黒い無機質な仮面から、飄々とした声が流れる。ややぼんやりとした印象の金髪の少女が、哀しそうな色をたたえた瞳を彼に向けた。
「ネオは……、行かないの?」
「すまないな、ステラ。今回は三人で行ってきてくれ」
「……でも」
「しょうがねえじゃん。わがまま言うなよ」
アウルが冷たく言い放ち、ステラはしょげ返る。その先にいたスティングが、二人に向かって大声で怒鳴った。
「もたもたしてんじゃないよ。置いてくぞ」
「あ……、待って」
スティングに促され、ステラは慌てて二人を追いかける。その様子は、普通の少年少女となんら変わらない。
三人はまるでアスレチックでもするような軽い足取りでモーターボートから横付けされた岩礁に飛び移った。その身のこなしに、危なげな雰囲気は全く無い。
彼らはそのまま先へと急ぐ。最後尾のステラは何度も振り返ったが、その姿はすぐに夜闇に消えて見えなくなった。ネオは姿が見えなくなるまで、彼らを見送り、呟いた。
「さて、どこまでやれるかな」


駐車場に戻ったマユは、ルナマリアの赤いバイクに背を預けてへたり込んだ。
最後の希望を込めて、携帯電話をかける。シンから受け取った、家族の唯一の思い出の品だ。
長い呼び出し音の後、遂に繋がる。マユは気色ばんで呼びかけた。しかし……、
「お、お兄ちゃん!」
『お掛けになった電話は現在電波の届かないところにあるか……』
無機質な機械の声を、最後まで聞くことはなかった。小さな手が力なく地面に投げ出され、何よりも大事な携帯電話が、地面に落ちる。
それを拾うこともせず、マユは膝を抱えてすすり泣いた。

「お兄ちゃん……どこ……?」
こんなに寂しい思いをしたのは、久しぶりだった。
たとえ口を利かなくても、傍らにはいつもシンがいた。だが、今はいない。
もう、会えないかもしれない。なぜかそんな気がする。また、一人になってしまいそうな不安が胸いっぱいに広がる。
たまらなく、怖い。
「……お兄ちゃん」
また、会いたい。もう一度会って、今度こそ仲直りしたい。
早く帰ってきて、お兄ちゃん。
255衝撃(ry/16:2006/11/29(水) 23:36:54 ID:???
お久しぶりです。
いきなりですが、>>247 の不自然な空白は単なるミスです。気にしないで下さい。
何であんなんなったんだろう?

>>236 お気にせずw
256通常の名無しさんの3倍:2006/11/29(水) 23:49:29 ID:???
投下乙

シンの甲斐性無男め……
257通常の名無しさんの3倍:2006/11/30(木) 11:05:41 ID:???


”家族が死んだ”だけじゃなく”自分と妹も一度死んだ”ってのは
言う方も言われる方も結構キツイな・・・
258通常の名無しさんの3倍:2006/12/02(土) 19:29:08 ID:???
GJ乙!
シン…はやくマユと仲直りしなよ。見てて辛い…
259通常の名無しさんの3倍:2006/12/05(火) 11:12:31 ID:???
保守
260通常の名無しさんの3倍:2006/12/10(日) 20:17:37 ID:???
age
261通常の名無しさんの3倍:2006/12/10(日) 20:19:31 ID:SLkukiUz
マユ〜
262通常の名無しさんの3倍:2006/12/13(水) 20:25:21 ID:???
保守
263通常の名無しさんの3倍:2006/12/17(日) 03:33:37 ID:???
wktk
26431 ◆MRSinWBV9. :2006/12/19(火) 02:14:43 ID:???
ごぶさたしてます(´・ω・)

現在年末進行でえらいことになってるんですが、書けてる分だけとりあえず投下します。
残りは年内にアップできればいいかなと思ってるんですが、三が日もちょっと怪しいので
無理かもしれませんが……。


Wikiをちょこちょこ修正していたら他のまとめサイトからのリファラが増えてきてたので
紹介してみます。

ガンダムSEED DESTINY小説まとめHPリンク集 - ガンダムクロスオーバーSS倉庫 - livedoor Wiki(ウィキ)
http://wiki.livedoor.jp/arte5/d/FrontPage

ざっと見てもリンクが無かったので、編集されたんですかね。
26531:2006/12/19(火) 02:15:33 ID:???
仮面ライダーSIN 第11話

「ダメだ」

ディアッカのMS使用許可の申し出をイザークが断った。

「MSが関与している物的証拠がないかぎり公安のMSを動かすわけにはいかん」
「オマエだってユニウスセブンの時は確証無しに動かしたろ」

ディアッカは食い下がった。ミリアリアがさらわれたのだ。「はいそうですか」で引きさ
がれるわけもない。イザークは食事台に積み上げられた書類をあさっていた。

「上から処分の通達がきたぞ」

書類の山から紙を一枚ディアッカに押し付けるように渡した。書類にはMSの不正使用を理
由として1ヶ月の自宅待機処分を言い渡す旨が書かれていた。この期間中は公安職員とし
ての調査権限の全てが剥奪される。つまり、MSを使えないどころか捜査権もなくなってし
まうということだ。

「くそっ!」

ディアッカが地団駄を踏んだ。キラの話を聞く限りミリアリアを誘拐した集団の背後には
それなりの権力者がいる。執事姿をした老紳士に迎えに来させるというのも随分古風な趣
味だ。今時分そんな道楽ができる人間など限られている。彼らに対処するためには調査権
とMSは不可欠だ。その両方が欠けた今の状態では何もすることができない。

「ところで、MSを何に使うつもりだったんだ?」
「ジャーナリストの誘拐事件があってな。誘拐犯がMSを使ってるんだよ」
「ふむ」

イザークが腕を組んで一度唸った。イザークはジャーナリストが嫌いだった。勝手に人の
仕事場に土足で上がりこんで現場をかき回すだけかき回して帰っていく。自分が常に正し
いと思っていて取材にしてもハナから人のことを疑ってかかってくる。酷いときには悪意
のある質問でこちらを怒らせ、そのことだけを報じることでさえある。ジャーナリストの
多くが主義者寄りの思想を持ったナチュラルばかりだということも公安が協力を渋る一因
となっていた。

ディアッカもそれは重々分かっているはずだ。主義者なら放っておいても警察か身内が助
けに行こうとする。それが率先してジャーナリストの誘拐事件に参加しようと言う。イ
ザークは引っかかりを感じていた。
26631 ◆MRSinWBV9. :2006/12/19(火) 02:16:25 ID:???
「もしやとは思うが……誘拐されたジャーナリストというのは貴様の女のことか?」
「い、いや……」
「そうなんだな」

カエルをにらむ蛇のようなイザークの眼光がディアッカに突き刺さった。この眼でにらま
れると大抵の容疑者は自白してしまう。それはディアッカも例外ではない。ディアッカは
頭に手をやりながら開き直ったように言う。

「ああ、そうだよ。だけどアイツだってれっきとしたジャーナリストだし民間人だぜ」
「そうだとしたら私情が絡むような捜査は避けるのが原則だ」

イザークは腕組みをして渋い顔をしている。

「そりゃ、そうだけどな……」

イザークの言葉にディアッカはそうつぶやくしかなかった。


病院のロビーでキラとシンはディアッカの帰りを待っていた。キラはインパルスのデー
ターを嬉々として解析している。シンはじっとPDAの画面を見てニヤついているキラに声
をかける気が起きなかった。暇をもてあましてテレビを眺めるが、老人たちがチャンネル
権を握っていて暇つぶしにはならない。置いてある本も週刊誌か新聞、絵本でシンが読み
たいようなものはなかった。

ふと時計に目をやると夕飯の時間を過ぎていた。ウェイター姿のまま飛び出したので携帯
電話もなければ小銭の持ち合わせもない。店にまだしばらく帰るのが遅れそうだと伝える
ことができない。

(アレックスが留守の時でよかった)

小言を言うアレックスの様子が目に見えてシンは苦笑いを浮かべた。シンは隣に座ってい
るキラを横目で見た。お金を借りようかと思っているのだが、カフェの会計はミリアリア
が出していた。もしかしたらお金を持っていないかもしれない。

「あのー」
「ん?何?」

キラはPDAから視線を外さずに答えた。
26731 ◆MRSinWBV9. :2006/12/19(火) 02:17:14 ID:???
「電話かけたいんですけどお金持ってなくて……小銭か携帯電話貸してもらえません
か?」
「ゴメン。両方持ってない」
「じゃ、カードでもいいんですけど」
「カード?確かどこかに入れてたような……」

キラはPDAから片手を離して胸ポケットから順に探していった。ズボンのポケットに手を
入れて黒いカードを取り出す。指先でカードの凹凸の部分をなぞって確認した後、手首の
スナップでカードを回転させてシンに投げ渡した。

「それでよければ貸してあげるよ」
「あ、ありがとうございます」

渡されたカードは黒一色で「Kira Yamato」という名前以外は何も書かれていない。裏面
を見てみるとICチップのようなものが埋め込まれている。

「これクレジットカードじゃないんですか」
「そうだよ」

キラは相変らずシンの方を向こうとしない。シンはため息をついた。

「カードお返しします」
「使わないの?」
「事情を言ってお金貸してもらいます」
「そうなんだ」

そう言ってシンは立ちあがる。

「何なんだよあの人は……」

キラに目をやったままシンは公衆電話のある受付に歩き出してすぐに人とぶつかった。

「おいおい、前くらい見て歩いてくれよ」
「すいません」

見上げると顔に横一文字の傷のある金髪の男が目に入った。ステラと一緒にスーパーに買
い物に来ていた男だ。男はシンの顔を見てニッと笑った。

「坊主、どうしたんだ?こんなところで」
「人と待ち合わせしてるんですよ。えーと」
「ネオだ」

やれやれという顔をして男が助け舟を出した。
26831 ◆MRSinWBV9. :2006/12/19(火) 02:18:06 ID:???
「ネオさんこそ何してるんですか」
「前に会ったときに見舞いに行くって言ったろ。実は今もう一人入院しててな。今日は見
舞いに来たんだ」
「ステラですか」

引きつったシンの口元からその言葉が飛び出した。ステラなら川に落ちた調子で道路に躍
り出て車にはねられたということもありえない話ではない。シンの直視から視線をそらし
てネオは頭をかく。

「いや、ステラは家で留守番だ」
「そう、ですか」

シンの顔の緊張が緩んだ。

「おーい、シン」

イザークの病室から戻ってきたディアッカがシンに声をかけた。ネオはディアッカを横目
で見てすぐに

「待ってるやつがいるみたいだな。じゃあな、坊主」
「あ、ステラは……」

そう言い残して足早にその場を後にした。

「……公安の奴だな。あの坊主、コーディネイターってだけじゃなくて公安とも関係して
るのか。こいつは厄介なことになってきたな」

ネオはそう呟きながら職員用のエレベータに乗り込んだ。

「何ですか?あなたは?」

先に乗り込んでいた看護婦が怪訝そうな顔をする。ネオは何も言わずに地下4階のボタン
を押す。それを見た看護婦の顔が引きつった。

「し、失礼しました」
「いーんだよ、別に」

ネオが笑って見せるが、看護婦は逆に萎縮して俯いてしまった。ネオは「はぁ」とため息
を一つついて頭をかきむしる。エレベーターが動き始めるが何を話すでもなく気まずい空
気が流れていた。チラチラと看護婦の方に目をやるが、看護婦はかたくなにネオの方を見
まいとしていた。地下2階の物販搬入口に付くと看護婦は会釈をして逃げるようにエレ
ベーターから出て行った。
26931 ◆MRSinWBV9. :2006/12/19(火) 02:18:57 ID:???
「まあ、無理も無いか」

去っていく看護婦の背中を見てネオはそう呟くしかなかった。ネオはエレベーターの閉じ
るボタンを押した。再びエレベーターは動き出し、地下4階へついた。エレベーターの扉
の隙間からモニタの光が差し込んでくる。複数台のモニタの奥には「ゆりかご」と呼ばれ
る調整機が鎮座していた。中心に円筒状のコンピューターがあり、人が眠るためのカプセ
ルがその周囲を取り囲んでいる。

「状況はどうだ?」
「被験体1201も2791も身体的なダメージは回復しています。現在は「ゆりかご」で精神の
最適化を行っています」

「ゆりかご」を映したモニタにはアウルとスティングが映し出されている。その隣にはオ
シログラフと脳波らしきものがモニタリングされている。

「投薬は?」
「1201の方は骨に異常があったのでStage2の薬物を投与しました」
「んで、戦闘に復帰するにはどのくらいかかる?」
「後1日見ていただければ充分かと」
「そいつはすごいねぇ。やっぱりアイツらも普通の人間じゃないんだよな」

ネオがモニタごしにアウルとスティングを見た。アウルは猫のように体を縮めて寝ており、
スティングは大の字に寝ている。劇薬を投与したにもかかわらず副作用に苦しんでいる様
子も無く、穏やかに寝息を立てていた。

「大佐」
「ん?なんだ?」

白衣の男がモニタから目を向けたままネオに声をかけた。

「こんなものを作って、コーディネイターと何が違うって言うんでしょうね」
「仕方ないだろ?こうでもしないと俺たちにはMRは装着できないんだし。上の方は今でも
コーディネイターの狩り出しをやりたいと思ってる連中なんだ」
「だからって、いずれ発狂すると分かっていて子供たちに薬を投与し続けるのは」
「だが、投薬しなければすぐに衰弱して死ぬ。それなら俺はアイツらが一日でも長く生き
れる方を選びたい」
「そう、ですね……」

医師は自分に言い聞かせるように呟いた。優秀な臨床前薬の被献体を手に入れたという医
師としての研究心を前に一人の人間としての心がいいわけをさせているのだ。「俺は悪く
ないんだ」と。その愚痴くらい聞き流してやろう、ネオはそう思ってそれ以上は何も言わ
なかった。
27031 ◆MRSinWBV9. :2006/12/19(火) 02:19:50 ID:???
シンが明かりの落ちたカフェ「赤い彗星」に戻ると電話が鳴っていた。

「誰かいないの!?」

シンが叫ぶが反応はない。勝手口に靴を脱ぎ捨てて階段の下までドタバタと足音を立てな
がら急いだ。階段を見上げても電機が付いている様子もない。声をかけてみたが返事はな
かった。既に10回はコール音が鳴っている。シンはあきらめて受話器を取った。

「はい」
『もしもし。そちらにアレックス=ディノはいるか?』

女の声だ。声の大きさと乱暴な物言いにシンは受話器を耳から離した。

「どなたですか?」
『いるかと聞いてるんだ!私は!』

受話器を離して普通の音量だ。何をそんなに怒っているのだろうか。アレックスのことだ
から何か逆恨みでもされてストーカーがいても不思議ではなさそうだ、シンはそう思って
いた。色々世話を焼いてもそれを当然のように思ってるし、優柔不断のくせに自分がいや
なものははっきり断る――生真面目と言えばそれまでだろうが、いつか女で身を滅ぼすタ
イプだと周りは言っていた。

「電話口とはいえそちらが先に名乗るのが礼儀ってもんでしょ」
『私の名は……ヒビキ。アレックスの……友人だ』

会話の合間合間の歯切れが悪い。どうにも怪しい。早く切り上げて電話を切った方がいい、
シンはそう思った。

「で、何の用ですか?」

今までより少し強い口調で答えた。何にしてもこちらが下手にでてはまずい。

『いや、少し聞きたいことがあったんだが……呼んでくれないか?』
「今出かけてていませんよ」
『そうか。どこに行ってるんだ?』
「知りませんよ、そんなの。あの人プラっと出て行っていつの間にか帰ってくるんですか
ら」
『連絡先は分からないのか?』

居場所に加えて連絡先まで聞いてきた。これはもう詐欺ではないにせよあまりかかわらな
い方がよさそうだ。
27131 ◆MRSinWBV9. :2006/12/19(火) 02:21:07 ID:???
「友達なら連絡先くらい知ってるでしょ」
『それはそうなんだが……つながらなくてな』
「もう一度携帯にかけたらどうですか。とにかくこっちも連絡付きませんから」

シンはそう言って電話を切った。すぐにまたかかってきたので受話器を上げた。

『おい!お前!まだ話が終わってないのに勝手に切るな!』

同じ女の声だった。受話器を置いて電話がかかって、この攻防を数度繰り返した後、シン
は考えるのをやめて電話線を抜いた。夜もふけていて明日は学校だというのにこんな電話
に付き合ってはいられない。シンは自分の部屋に上がってそのままベッドに倒れこんだ。

助けられなかった。動かなければならないときにMRが止まり、女の人が連れ去られていく
様子を固まってただ見ているだけしかなかった。こぶしを握って開いてみる。手のひらに
爪で押しつぶされた痛みを感じた。今は自由に体が動く。

(なぜあの時動かなかった)

その声がシンに重くのしかかった。トラックに引かれそうになった子どもも、ユニウスセ
ブンに集結したジンも、校内に侵入してきた青いMRもすべて蹴散らしてきた。自分はそれ
だけの力を得たはずだった。昔の何もできなかった自分ではないはずだ。

まぶたを閉じると先の大戦の風景がよみがえってきた。砲撃で地形が変わったスリバチ状
の山。吹き飛ばされた両親の体。積み重なった岩の隙間から伸びたマユの手。港は我先に
と逃げ出そうとする人々が押しつぶし合い、人であふれかえった船は他人を海に突き落と
していた。自分とマユを助けずに通り過ぎていった白いMR。その後、主義者に捕らえられ
て研究所で訓練と実験の日々を過ごすことになった。

強くなりたかったし、そのための努力もしてきた。それでも勝てない相手がいる。その事
実が何より堪えた。

(まだ力が要るんだ。まだ……)

シンはベッドから飛び起きて研究所で受けていたトレーニングを始めた。暗闇での空間把
握に始まり、筋力トレーニング。近頃なまっていた自分の身体感覚を取り戻すためにシン
は暗闇に拳を振りぬき続けた。
27231 ◆MRSinWBV9. :2006/12/19(火) 02:21:56 ID:???
その頃、予定からずいぶん遅くなってアレックスは帰路についていた。深夜の快速電車で
二席占領して窓側の席にプラント土産を置いていた。デュランダルとレイにはいつもの饅
頭、イザークとディアッカにはマイウス名物のケーキ。シンには散々迷った結果ジャケッ
トを買うことにした。街より一足先に木枯らしが吹いているプラントでは冬物が安く売っ
ていたからだ。これから寒くなると答えるだろうし、自分のジャケットをまた汚されるの
も困る。

車内は車掌の改札もなく乗客もまばらで発車後は安心して一眠りできそうだ。戦闘後の興
奮と後悔もすっかり冷めて、アレックスの意識は少しづつ日常に戻りつつあった。

「御曹司」

バイザーの端にサトーの姿が映りこんできた。

「サトーか」

再びアレックスの体が張った。ユニウスセブンの――亡き父の亡霊だ。ならば今一度接触
してくるのは何が目的なのか。サトーはアレックスの後ろの席に位置どっており、MSを装
着すれば椅子ごとアレックスの体を貫くこともできる。アレックスは背中に銃口を突きつ
けられた気分のままサトーの出方を伺うことにした。

「閣下もいくら激務のときでもレノア様の墓前にだけは欠かさず参られていました」
「父が?」
「御曹司はどう思われているか分かりませんが、閣下はレノア様を大変愛しておられまし
た」
「母がユニウスセブンで死んだ反動が反ナチュラル運動だと?」
「その通りです」
「その尖兵だったお前がなぜ再び俺の前に現れたんだ?ラクス・クラインだって襲われた
ばかりだというのに」

アレックスは先の大戦でナチュラル、コーディネイターのどちらの陣営にも属さず、戦後
プラントの主流派となったクライン派に参加していた。そこで戦いの元凶となった宇宙ク
ジラの撃破に尽力していた。

「あれは私を追っていたのですよ。血のバレンタインの記憶を隠蔽したい主義者たちの思
惑もあったのでしょう」

さも偶然のように語っているが、ラクスがいると知って追っ手に殺させようとしたのだろ
う。パトリックの下では隠密部隊を率いていた男だ。それくらいはやりかねない。話しぶ
りからするとそれを阻止したのがアレックスだということは分かっていないようだ。
27331 ◆MRSinWBV9. :2006/12/19(火) 02:22:46 ID:???
「それを知っているならなおのことだ。俺はクライン派と呼ばれていた人間だ。今更反ナ
チュラル運動に組する気は無いぞ」
「私が御曹司にお味方するのは閣下のご遺言があるからです。閣下は生前『私の死後は我
が子のために尽力するように』とおっしゃっていました」
「父上がそんなことを……」

初耳だった。パトリックの死に目に会ったとはいえ、既に話ができる状態ではなかった。
幼少期にはキラの家に預けられ、それからは幼年学校、士官学校と寄宿舎住まいが続き、
アスランはパトリックとろくに会話をしていなかった。もしかしたらパトリックに逆らう
ことを決めた日が一番長い会話だったのかもしれない。

「御曹司こそが閣下の成し遂げなかったコーディネイターが平和に暮らせる国を作る、い
や、作らなければなりません。私はそのためにこうして生き恥を晒しているのです」

サトーの声に力が入る。戦後もコーディネイターに対する態度は緩和していない。差別は
依然として残っている。主義者による突発的なテロは後を絶たないし、多くの場合居住区
も学校も会社も別々のままだ。少数派であるコーディネイターは安心して暮らしていると
は言いがたい。

アレックスもその状況は認識していた。だが、同時にこうも思っていた。

(父のように争いを起こしたところで鎮圧されるのは目に見えている。仮に主義者と戦う
にしてもめったなことで勝てる物量ではない。今の自分は変身することですら危うい身だ。
ただ、「前の指導者の息子」というだけの人間にどれだけのことができるのか。お飾りな
らラクスで充分だろう)

アレックスはサトーに思いのたけをぶつけてみることにした。

「だが、そうは言っても世事はカナーバが取り仕切っている。それに戦後ザラ派は追放か
処罰の対象になっている。父の名前を御旗にして人が集まる状況でもないだろう」
「ザラ派は戦後に追放されましたが、一人だけ追放されていない男がいます」
「ギルバート、か」

シン――インパルスを平和公園にけしかけたのもあの男だ。どういう意図でシンを向かわ
せたか、アレックスは考えあぐねていた。あの男は戦後の軍事法廷でも弁護に立って若年
兵を戦地へ向かわせる行為に苦言を呈したはずだが。
27431 ◆MRSinWBV9. :2006/12/19(火) 02:24:03 ID:???
「聞き込みに回ったところ、なんでもあいつはEVIDENCE-01因子を持った奴を手に入れた
とか」
(シンもEVIDENCE-01を持っているのか)

アレックスは胸が締め付けられる思いがした。S.E.E.D.――これを得た代償はそう安くは
無い。全力で力を出すたびに自分が未確認生命体と同じ、戦争を玩具にする存在に近づい
ていくのである。ひとたび開放されればその力は人類のそれを超越する。夜半でも昼間と
同じように周囲を見れる目。周囲の動きが直感的に感じ取れる皮膚感覚。限界まで高まる
反応速度。どれも戦いにしか必要ないものだ。

「奴が事を起こそうとしていることには間違いありません。我々もそれにのるべきです」
「いや、デュランダルは信用ならない。あの男に全面的に付くのは危険だ」
「御曹司!」

アレックスはその声をさえぎるように話を続ける。まだサトーが本心からアレックスに味
方するとも限らない。

「だが、クライン派と共に歩む気は無い。彼らは平和を取り戻したかもしれないが、それ
を持続させるだけの能力は無い。矢面に立つことを恐れてかラクス・クラインも進んで隠
遁している節がある」
「ならばいかようになさるおつもりで?」
「その辺りはユウキやフレッドに探らせている」
「二人とも生きているのですか」
「ああ、追放されるところが上から恩赦が降りてきて今ではアカデミーの教師をやってい
る」
「でしたら話は早い。ユウキにこの手紙を渡していただきたい」

イスの隙間から茶封筒がスッと差し出された。

「これは?」
「私も追われる身です。今後の身の振りようや連絡の手段について書いてあります」

サトーが席を立った。

「行くのか?」
「駅間は車内から逃げられませんからね」

サトーは足音を立てずに去っていく。窓から車外に出たことを確認してアレックスは
ため息を一つついて緊張を解いた。
27531 ◆MRSinWBV9. :2006/12/19(火) 02:25:23 ID:???
(少なくとも敵では無さそうだな)

それがアレックスの正直な感想だった。だが、まだサトーの考えていることが分からない
以上、そう安心したものでもない。仮に味方だとしても大っぴらに活動してもらうわけに
はいかない状態だ。主義者と戦おうというときに他の勢力まで相手にはできない。どちら
にせよあまり現実的な話ではないのだが。

切りっぱなしの携帯の電源を入れてメールチェックをするとセンターにたまっていたメー
ルがどんどんカウントアップしていく。受信する気にもならなかったので受信を中断して
メールセンターで件数を確認すると電源を切っていた時間で平均すると15分に一通は着て
いたことになる。

(一体誰だ?)

メールの表示を件名から送信者に切り替えると、そのほとんどがカガリからのメールだっ
た。アレックスの中でまたか、という気持ちと何があったのかという気持ちが混ざった。
連絡を取るべきかどうか迷ったが、電車の発車を待ってデッキで電話をかけることにした。

コール音が数回鳴った後にガチャっと音が鳴った。

「おまえ!おまえ!」

アレックスは思わず電話を耳から離した。

「どうしたカガリ。聞こえてるからもっと小さい声で話してくれ」
「どうして電話に出ないんだ。下宿先にも電話したんだぞ」
「向こうにもかけたのか」

デュランダルが出ればまずいことになるし、レイが出れば即刻電話線を抜かれているだろ
う。シンが出たとすれば短気同士怒鳴りっぱなしだろう。

「そうだ。なんだあの電話の取り次ぎ方は。あれでも接客業か!」

この怒りようからすると電話に出たのはシンだろう。カガリの態度からして仕方ないとは
いえ、ずいぶん怒っているのが目に浮かんできて頭が痛くなってきた。

「俺から言っておく。それより用件はなんだ?」
「それが、キラがいなくなって、ずいぶん探したんだがいないんだ。そっちに行ってない
かと思ってな。ラクスの方は襲撃事件があったしないだろうと思って」
「丁度その場にいた」
「大丈夫だったのか!?」
「ちょっとした衝突はあったが、問題はない」
「いや、お前の腕なら問題ないとは思うが、その……」
「そっちの方も大丈夫だ。色々あってな」

アレックスはそう言って右腕に付けられた腕輪を見た。効果のほどはいかがわしいが、と
りあえずはジャスティスにならずに済んだ。
27631 ◆MRSinWBV9. :2006/12/19(火) 02:32:04 ID:???
「色々って何だ色々って」
「とりあえずはうまくいってるから心配しなくていい。また会ったときにでも話すよ」
「ちょっとお前最近冷たくないか?」

アレックスのあしらう様な話し方にカガリがムッとして言った。

「厄介なのを抱え込んでて忙しいんだよ」
「たまには連絡入れろよな。それくらいの暇はあるだろ?」
「心がけるよ。じゃあな」
「……ああ」

アレックスは電話を切った。キラが来ているとしたらシンとぶつかるのは目に見えている。
長い付き合いの自分でさえ、そのわけの分からなさにときどき怒鳴るほどだ。同じ学校に
通っていた頃もやらなくていいのに自分から難しい課題に挑戦して、最終的には面倒を見
ていたのだ。思い出すだけでもげんなりしてきた。

下宿に帰って一休みというわけにはいかなそうだ。サトーの手紙をユウキに届けなければ
ならないし、ラクス誘拐未遂の経緯をイザークに伝えておいた方が良いだろう。できれば
シンとキラが衝突しないように根回しもしなければならないし、デュランダルの真意を探
る必要もあるだろう。

(やれやれ、どうしたもんなんだろうな)

そう思いながらアレックスはデッキから席に戻った。
27731 ◆MRSinWBV9. :2006/12/19(火) 02:41:17 ID:???
11話前半でした。

トリップ一回付け忘れてますが気にしないでください。
それではまた|・ω・`)ノシ
278通常の名無しさんの3倍:2006/12/19(火) 10:14:40 ID:???
お久しぶりですーGJ!

キラ・・・オタっぷり発揮でシンが引いてる引いてる、しかも色々ずれまくってる      
カガリ・・・人の事言えない・・・
凸に対しての周りの「いつか女で身を滅ぼすタイプ」と言う意見に笑った
279通常の名無しさんの3倍:2006/12/22(金) 20:11:50 ID:???
ほしゅ
2801/16 ◆orYN7qK/0E :2006/12/24(日) 00:33:00 ID:???
仮面ライダー衝撃(インパルス)

第十二話


「どういうことだ?」
周囲を警戒しつつ、イザークが呟く。
鎮圧用のガス銃を放ち、ユニウスセブンに突入してからだいぶ経つが、一向にMSと遭遇しない。現在地を確認すると、中心部近くだ。
ユニウスセブンは4、50分程度で一周できるような小さな島だ。ここまでMSはおろか、その痕跡さえ見つけられないのは異常としか言いようがない。
「もう全部逃げちまったんじゃねえのか?」
「いえ、それはないと思います。少なくとも、インパルスと交戦した個体群はあれ以降目撃されていません。まだユニウスセブンに潜伏しているものと思われます」
「そうは言うけどよ。実際に見つからないんじゃ……」
ディアッカが反論しようとしたところで、司令部から通信が入る。それも、緊急通信だ。
ただ事ではない。三人がそう感じたのと同時に、オペレーターのアビーが切羽詰った声で告げた。
『大変です! C班、E班が襲撃を受けました! 付近の部隊は大至急救援をお願いします!』
突入部隊は六班に班分けされており、イザークたちは便宜上A班と呼称されている。
遊撃班としての役割も持つA班だけはZAFTの精鋭による機動性を重視したこともあっての少数三人編成だが、
B班以降の機動隊員の班は、十人ほどで構成されている。質の差を数で補おうというのだ。それでも、戦闘経験の無さは如何ともし難く、どこまで戦えるかは疑問が残る。
「おいっ!」
「ああ、急ぐぞ!」
ここでいう襲撃とは、MSのものに違いない。
ディアッカの呼びかけに応じて、三人はより近いE班の救援に向かう事を決めた。
E班も十人ほどの人数がいるが、戦闘経験はない。もっとも、戦闘経験のある者などそうはいないが。
どんなMSに襲われたかは不明だが、急いで救援に向かわなければ危険かもしれない。そう思って走り出す三人だったが、いきなりイザークが足を止めた。
「イザーク!?」
「どうしたんですか、隊長!?」
二人とも足を止め、イザークの視線の先を目で追う。そこには、三体ものMS、ジンHM2が待ち構えていた。そのうちの一体は、顔に大きな傷が刻まれている。
再び緊急通信が入るが、三人とも聞いてはいなかった。
『B班、D班、F班も襲撃を受けました! ジュール隊長の方はどうですか! 隊長!?』
ジンHM2たちが、一斉にイザークたちへと飛び掛る。三人はシウスを構え、迎え撃つ。
「撃てぇっ!」
シウスが火を噴く。月光に照らされた重斬刀が鈍色の輝きを放った。

2812/16 ◆orYN7qK/0E :2006/12/24(日) 00:35:52 ID:???

緑色のMS、カオスが右足を振り上げ、ジンHM2へと振り下ろす。足の部分が鉤爪のように変化し、厚い胸部装甲を薄紙のように引き裂いた。
さらに、食い込ませた右足を基点として左足を持ち上げ、頭部へ叩きつける。
頭部をも叩き潰されたジンHM2は絶命、爆散する。脚部を元に戻したカオスはそのまま着地した。
その瞬間を好機と見たか、一体のジンHM2が重斬刀を振りかぶり跳躍する。しかし、それを見てもカオスは動じることもなく、ただ一言だけ叫んだ。
「ステラ!」
「うええい!」
背後から叫び声が聞こえた時にはもう遅い。
黒い四足獣のようなMS、ガイアが飛び込み、翼状の刃で背中から切りつける。ジンHM2は胴体から両断され、時間差で爆発した。

二体のジンHM2は水色のMS――アビスを取り囲み、左右から同時に重斬刀を振り下ろした。避けようの無いタイミングだったが
アビスは両肩の甲羅のような装甲を展開、二つの斬撃を軽がると受け止めた。
さらに両肩を勢いよく広げ、吹き飛ばす。アビスは右側のジンHM2へと槍を突き出し、腹部を打ち貫く。ピンク色の一つ目から、完全に光が消えた。
仲間の仇とばかりに最後に残されたジンHM2が背後から襲い掛かるが、それはかなわなかった。猛禽類のような姿となったカオスに逆に襲われ、
鋭い爪に捕らえられる。掴まれた装甲が悲鳴を上げ、ついには握りつぶされてしまった。
さらにカオスはジンHM2を掴んだまま空中へと舞い上がり、地面へと急降下。既にボロボロのジンHM2を解放した。
頭部から地面に叩きつけられたジンは一瞬大きく痙攣、微動だにしなくなる。眼から光が消え、火柱を上げる。
もはや、この場に立っているのはカオス、ガイア、アビスの三体だけだ。ジンHM2は全て爆散、機動隊員たちも既にジンHM2の襲撃で全滅していた。

「ヒュー、やるねえ」
モニターを確認していたネオは、感心するように言った。オペレーターをしている研究員も、やや誇るように答える。
「ええ。戦闘によるストレスも想定の範囲内です」
「これなら、充分に使えるんじゃないか?」
「それは、戻ってみなければ何ともいえませんが……。何だ、これは!」
落ち着いた声が一変、素っ頓狂なものになる。ネオは怪訝そうな声色で尋ねた。
「どうした?」
「そ、それが……」
震える指で、画面を指し示す。モニターには地面に倒れ伏すガイア――ステラと、見慣れない青いMSが映し出されている。
「ほぉ、これは……」
スティングたちと初めて遭遇した時に戦闘していた相手、インパルスだ。

突如として姿を現した青いインパルスは走り込み、絶叫を放ちつつガイアの頭部へ拳をめり込ませた。
そのまま拳を振りぬく。不意打ちを喰らったガイアはそのまま何メートルも殴り飛ばされる。
倒れたガイアのもとへ、二人が駆け寄る。立ち上がったガイア――ステラは憎悪に燃える瞳でインパルスを睨みつけ、突進する。
「お前、お前―!」
「あいつ、よくも」
「今日こそ消えな!」
一拍遅れて、カオスとアビスも襲い掛かってくる。シンは拳を構えて跳躍し、踊りかかった。

2823/16 ◆orYN7qK/0E :2006/12/24(日) 00:37:02 ID:???
こいつら、前より強くなってる!?
戦いながら、シンは痛感した。自分自身、前よりも強くなっているという自負はあったがこの三体も同様に強くなっている。しかも、連携もさらに巧みになっていた。
カオスが飛行形態で急降下、インパルスを引き裂こうと、鉤爪を煌かせる。避けたところへ、ガイアが翼のような刃を広げて突っ込んでくる。
それを何とか受け止めたものの、シンはおおいにバランスを崩した。
「もらったぁ!」
「しまった!」
その隙を逃さず、アビスが槍をかざして迫り来る。もはや、避けようの無い至近距離だ。
そこへ銃声が鳴り響き、わずかにアビスがバランスを崩す。何とか体勢を立て直したシンはアビスへ蹴りを見舞い、跳躍して間合いを取った。
今のは!?
警察の人か誰かだろうとは思いながら、銃声のした方へと顔を向けた。

「あんた?」
シウスを構えていたのは予想外の、しかし、ある意味で期待していた通りの人物だった。
ヘルメットをかぶり、ボディアーマーを身につけているせいで人相が分かりにくいが間違いない。先日オーブに逃げ帰ったはずの、アレックス・ディノだ。
「邪魔だぁっ!」
叫びながらガイアがアレックスへと襲い掛かる。同時に、カオスが人型となってシンへと蹴りかかる
お互いにMSの攻撃をかわした二人は、背中合わせとなって敵と向かい合った。
「何で来たんですか、あなたは!」
やはりこの人は期待通りの人間だった。胸に暖かいものがこみ上げてくるのを自覚しながらも、それを認めまいとわざと怒鳴るような言い方をする。
「君こそ、何で来た!」
アレックスも負けじと怒鳴り返した。こちらも、ある種の期待と予想をしながらの叫びだ。
インパルスの肩越しにカオスへと銃撃を見舞い、アレックスの背中へと飛び掛ったガイアには跳躍したインパルスの蹴りが入った。
着地し、ガイアへと拳を見舞いながらシンが答える。
「誰かが死ぬのを、黙ってみているなんて出来ませんよ!」
薙ぎ払われる強靭な腕を前転でかわし、左手をついて起き上がりつつ緑色のボディへと連射しながら、アレックスも叫ぶ。
「俺も同じだ!」
「え!?」
「俺だって、守りたいものは……!」
アレックスの言葉は、激しい大地の鳴動によって中断された。世界が終わるかと思われるような、すさまじい震動。
一瞬時間切れかと疑ったが、ユニウスセブンが沈没するにはまだ早い。その前兆の、異常現象だろう。
地面に次々と裂け目が入り、陥没し、せりあがっていく。立っていることさえできないような、激しい揺れだ。
地面に片手を着いて身体を支え、それでも銃を構えるアレックスだったがガイアたちの姿を完全に見失った。
顔を動かして目標を捜すが、手が、足さえもが支えを失う。ついに地面が割れてしまったのだ。建物が崩れ、瓦礫が、何もかもが裂け目に落ちていく。
シンを、アレックスをも巻き込んで。

2834/16 ◆orYN7qK/0E :2006/12/24(日) 00:38:36 ID:???

「マユちゃん! こんなところで何してるの!?」
突然飛び出して姿の見えなくなったマユを捜していたルナマリアは屋外まで出てついに少女を見つけた。
赤いバイクにもたれかかりながら、声を殺してすすり泣いている。
ルナマリアの声にやっと顔を上げたマユは、涙で目を晴らした瞳を向けた。赤くなった目が夜闇の中でも分かる。痛々しさに、胸が締め付けられるような思いがした。
「ルナマリア……さん?」
「突然飛び出したと思ったら。どうしたのよ、一体?」
マユの前にかがみこんで、優しくその体を抱きとめる。
冷たい。全身が小刻みに震えていて、唇も青ざめている。こんなになるまで、ずっとここにいたなんて。
ルナマリアは自分が羽織っていたカーデガンをマユに着せ、優しく叱りつけた。
「もう、こんなに冷え切っちゃって、風邪ひくわよ。何やってるのよ」
マユはルナマリアの叱責にびくっと身体を震わせ、目に涙をあふれさせる。いきなり胸にしがみつかれ、ルナマリアは困惑した。
「え、ちょっと……」
「お兄ちゃんが、お兄ちゃんがっ!」
彼女の言葉にもかまわず、マユはひたすら泣きじゃくった。
はじめは戸惑っていたルナマリアも、優しく背中に手を伸ばし、マユの体を抱きとめた。
小さく華奢な肩は震え、冷たかった。


「うぅ……」
目の覚めたシンは、ぼんやりとした意識をはっきりさせようと頭を振った。
「そうだ、あの人は?」
すぐに気になって、辺りを見回す。
真っ暗で、何も見えない。
懸命に目を凝らす。地面には瓦礫ばかりが転がっていて、人の気配がまったくない。
まさか……。
かすかな不安が胸をよぎるが、暗闇の向こうから声がかけられ、打ち消される。
「気がついたか?」
その声を聞いて安堵した自分に気付き、勝手に腹を立てる。同時にかすかな明かりが灯り、目を細めた。たいした明かりではなかったが、暗闇に慣れ始めた目には少し刺激があった。
ライターの小さな炎に照らされた端正な顔は、紛れも無いアレックスのものだ。どうやら、先に目覚めていてこの辺を回っていたようだ。
「探してみたが、直接上へ登るのは無理なようだ。何とか、上へつながる道を探すしかないようだ」
頭上を見上げ、アレックスが言う。釣られてシンも店を見上げた。暗くて分かりづらいが、小さな裂け目からかすかな星明りが見える。どうやら、あそこから落ちてしまったらしい。
かなりの高さがある。手をかけられそうなところも無い。これでは、登るのは到底無理だろう。
それは理解したものの、アレックスの言う事をそのまま認めるのが癇に障ったシンは、反対方向に向かおうとした。だがアレックスに肩を掴まれ、止められる。
「ついて来い。多分、出口はこっちだ」
そのまま自信ありげな足取りで暗闇の中へと向かう。
いくら腹が立とうとも、何とかしてここから出なければ、海の藻屑となってしまう。
そうなったら、マユにも、レイにも、ルナマリアにも、誰にも二度と会えなくなる。それだけは嫌だ。
シンは悔しさをこらえつつ、アレックスの後を追いかけた。その先に何があるか、そんな事を考えることもなく。

2845/16 ◆orYN7qK/0E :2006/12/24(日) 00:40:16 ID:???

先ほどからずっとモニターに向かいっぱなしのオペレーターへと、ネオはおもむろに尋ねた。彼は黙って首を振る。
それを見てネオは少し考えるかのように口元に手を当て、やや困惑したようにため息をついた。この作戦においてネオに付けられた副官、イアン・リーがあっさりと問いかける。
「失敗ですかね」
新たな兵器の実戦テストのことだ。
もともと、彼はあの新兵器――スティングたちが嫌いだった。兵器というのは確実性、安定性が第一に要求される。不確実な兵器など、いくら利用価値が高くてもあてにする気にはなれない。
「長引けば、こちらも保ちませんよ」
続けて上官に注意を喚起する。この海域に長くとどまることは望ましくない。見つかりにくいところに停泊しているとはいえMSが襲撃してこないとは限らない上、
ユニウスセブンが沈没すればそれに巻き込まれる可能性が高いからだ。
「分かってるよ。だが、失敗するような連中なら俺だって最初からやらせはせんしな」
スティングたちの発見以降、ずっと彼らの調整に付き合っていたネオは、彼らの能力に対しては信頼感を覚えていた。少し考えたあと席を立つ。
視線で問いかけるリーに答えながら、彼は格納庫の方へと向かった。
「見つかったら連絡してくれ。場合によっては俺が連れ戻す」
「はっ」
リーはそれについて意見することもなく、手元のインターフォンを取って伝えた。
「格納庫、今から隊長がそちらへ向かう。用意しておけ」
『用意ってまさか……。ダメですよ! あれはまだ……』
研究員の文句をそこまで聞いてインターフォンのスイッチを切った。
細かい交渉の方は向こうのほうで勝手にやってくれるだろう。いくら副官とはいえ、そこまでの面倒は見切れない。
第一、使う機会が無い可能性だってある。指揮官が戦場に出るなど、感心できないことだ。本当ならそれが一番楽でいいのだが、まず無理だろう。
何も映らないモニターを眺めながら、リーは静かにそう考えた。


「ねえ、マユちゃんは?」
「疲れていたようだ。よく寝ている」
居間に入って来たレイに、メイリンが不安げな声をかけた。
淡白なレイの言葉に満足できず、いてもたってもいられなくなり席を立とうとするが、肩を抑えられ止められた。
「どうするつもりだ?」
「私もマユちゃんのところに行く!」
感情的なメイリンの言葉に、レイは首を横に振った。
「今はルナマリアが見ている。二人だけにしておいたほうがいい」
「でも……」
なおも食い下がろうとしたメイリンに、長くはないが説得力のある言葉を投げかける。
「彼女に任せておけば大丈夫だ。もう少し信用してやれ」
「う……うん」
淡々とした口調ながら、その声に込められた確かな重みにメイリンは口をつぐんだ。
2856/16 ◆orYN7qK/0E :2006/12/24(日) 00:42:50 ID:???
マユはうなされ、布団をはだけてしまう。
ルナマリアはマユを起こさないように気を遣って、乱れた布団を直した。
泣き疲れて眠ってしまったマユの寝顔をまじまじと見る。さっきぬぐったはずの眼の辺りに、また涙が溜まっていた。額には脂汗も浮いている。
よっぽど、悪い夢を見てるのかしら。
ふっと息をついて、ハンカチを取り出しそっと涙をぬぐう。
「……お兄ちゃん、どこ?」
突然言葉が発せられ、ルナマリアはぎょっとして顔を見つめなおした。マユはさっきと変わらず、目を瞑ったままだ。寝言らしい。
ルナマリアは頭を撫でながら、マユの手を握る。まだ冷たいままの手を、優しく、温かく。
少し経ってマユは安心したような、あどけない表情になり、安らかな寝息を立て始めた。
ルナマリアはふっと息をつく。安心すると、ここにいない彼女の兄に対しての怒りがこみあげてきた。
大事な妹を放っぽり出して何をやっているのだろう。彼が帰ってこない限り、この子の涙が晴れることはきっとない。
「シン……、さっさと帰ってきなさいよ」
マユちゃんには、あんたが必要なのよ。


「これは……」
三十分ほど歩いただろうか。時計が壊れ、アレックスの無線も通じないせいで時間が分からない。
出口を探してさまよっていた二人は立ち止まる。その物体が持つ存在感に引き込まれてしまったのだ。
目の前に広がる巨大な物体の異様に、息を呑む。
全体の形状は鯨のようだが、明らかに地球上のどの生物とも異なる別種の生物。胴体の部分から羽根のような骨格が生えているが、空を飛べるとは限らない。
誰もが一度は聞いたことのある、謎に満ちた生物の化石、EVIDENCE01。
そのオリジナルが、目の前に確かに存在していた。
「これが……EVIDENCE01」
アレックスは感慨深げにEVIDENCE01に手を伸ばした。まるで、夢や幻でないかを確かめるように、ゆっくりと。
化石に手を触れた瞬間、まるで電流が走ったような感覚がアレックスの全身を貫いた。
「ぐぅっ!」
アレックスは慌てて手を引っ込めるが、全身の細胞がざわめくような不思議な感覚は消えるどころか増すばかりだ。
身体中がうずき、総毛だつ。奇妙な感覚の嵐に耐え切れなくなり、頭を押さえて片膝を着く。
アレックスは一瞬、見知らぬ少女の姿をまぶたの向こうに捉えた。

きめ細やかな白い肌。繊細な面差し。曇り一つない澄み切った瞳に、柔らかな長いピンク色の髪の毛をした、可憐な少女。
少女は微笑みながら、アレックスのもとへ手を伸ばそうとしている。
誰だ、君は?
問いかけ、その手を取ろうとした矢先にアレックスの意識は急速に現実へと引き戻された。

「アレックス、アレックスさん!」
異常に気付いたシンが呼びかけ、身体を揺さぶる。すぐにアレックスは
「シン、なんだ?」
「いや、突然倒れたものだから。どうかしたんですか?」
「……なんでもない。すぐにここから離れるぞ!」
アレックスはシンを叱責し、急いでこの場を立ち去ろうとする。
ここに長くいるのは危険だ。理屈でなく、そう思えた。
シンを先に追い出した後、アレックスは振り返ってもう一度EVIDENCE01を見た。
それは変わらず、不気味な存在感を醸し出していた。

2867/16 ◆orYN7qK/0E :2006/12/24(日) 00:44:42 ID:???
「……んっ……」
吐息が漏れ、目を覚ました。マユは寝ぼけ眼で辺りを見回し、ルナマリアを見て一瞬きょとんとした表情になった。
「あ、あれ……なんでここに?」
言って、今どうなっているのかを鈍ったままの頭で考える。
ええと、いつの間に寝てたんだろ。ここはマユの部屋で、目の前にいるのはルナマリアさん? 何で、さっきまでマユは……あっ!
一気に頭が覚醒した。さっきまでの行動を思い出し、恥ずかしさに顔を紅潮させる。慌てたマユはルナマリアに向けて何度も頭を下げた。
「あ、あの、ごめんなさい! ごめんなさい!」
その様子に、ルナマリアは吹き出した。マユは頭を上げ、不満げに口を尖らせる。
「何で笑うんですか。謝ってるのに」
「あ、ごめんね。ついつい……。ところで、さっきはどうしたの?」
途端にマユは沈んだ表情になる。ずっと黙ったまま、何も話さない。
ルナマリアはせかすようなこともせず、静かに待った。やがて、ポツリポツリといった風に少しずつ話し始めた。
「あの、突然お兄ちゃんがいなくなっちゃったんです。何も言わなくて。それで、もう会えないと思っ……うえええぇぇぇんっ!」
耐え切れなくなったのか、眼に涙を溜める。そして、ルナマリアの胸にしがみつき、再び泣き出す。
ルナマリアは再びマユを優しく抱きとめた。温かく柔らかいその身体には、やはりシンが必要なのだ。

それから、どれだけの時間が経っただろう。目を赤く腫らしたマユが顔を上げる。
「あ……あの、ありがとうございました。ルナ……お姉ちゃん」
最後に呟くように追加された呼び名に、ルナマリアは驚きわずかに顔を歪めた。
「ごめんなさい! 勝手に変なこと言っちゃって!」
気を悪くしたのかと思ったマユはまたも謝る。ルナマリアはマユの頭をくしゃくしゃと撫で、明るく言った。
「いいのいいの。もっと呼んで!」
変な要求に怪訝な表情をしながらも、ルナマリアの言うとおりにする。
「え? あの……ルナお姉ちゃん?」
ルナマリアは喜びに顔を歪める。マユは少し引き、ベッドの上であとずさった。


何とか道を見つけ、地上に出た時には、もう残り一時間を切っていた。時間内に脱出できなければ、二人とも海の藻屑と消えてしまうだろう。
幸い、走れば三十分ほどで着くはずだ。
アレックスはヘルメットに内蔵された通信機を操作し、警察無線にあわせた。警察での作戦時間ももはや限界だ。彼らはもう脱出しているだろうか。
『ジュール隊長、早く脱出してください!』
『いや、まだ襲われている部隊がある!』
『今から向かったところで間に合いませんよ! それに、隊長たちも戦闘続行は困難です!』
『生存者がいるというのに、それを見捨てていけというのか!』
知り合い、イザークと女性の言い争う声が飛び込んできて、アレックスは驚く。
まだ、ZAFTにいたのか。それに、全然変わらないな。
そう思ったアレックスは、無線の周波数を合わせ、通信に割り込んだ。
「生存者の救助には俺が行く。イザークたちは脱出しろ」

『えっ? 誰なんですか、あなたは!?』
オペレーターのアビーが問いかけるが、その何者かは答えない。
だが、イザークには分かった。信じられないが、あの声をたった四年で忘れるはずがない。無論、聞き間違えるはずも無い。
『アスラン!?』
彼と全く同じ驚きを込めてディアッカがその名を口にし、ほぼ同時にイザーク自身も反応していた。
「貴様っ……こんなところで何をやっている!?」
『そんなことはどうでもいい。今はこちらに任せて脱出を急げ!』
『あ、ああ』
2878/16 ◆orYN7qK/0E :2006/12/24(日) 00:45:56 ID:???
「分かっている! 俺に命令するな!」
以前と同じ冷静な声で促された。ディアッカはわれに返って答え、イザークはむっとして怒鳴り返す。
先の戦闘でかなり消耗している。MSも何とか二体は倒せたのだが、リーダー格の傷のある個体を倒すことはできなかった。そればかりか、シホが利き腕を負傷させられてしまった。
今は応急手当で肩を釣って保たせてはいるが、早くちゃんとした手当てを受けなければならない。
残念ながら、今は奴の言うとおりにするのが最善だ。悔しさを感じつつも、認めざるを得ない。
『相変わらずだな、イザーク』
「貴様もだ!」
苦笑まじりの声が通信回線を伝わってくる。イザークは怒鳴り返し、ディアッカはやれやれ、といった風に肩をすくめた。
『そんな、ジュール隊長! 一体何者なんですか!?』
アビーが三人のやり取りに困惑し、問いかける。それを無視し、通信回線を切ったイザークは向き直り、撤退を告げた。
すると、シホがあからさまに非難がましい視線を向けてくるのに気付いた。負傷しているにもかかわらず、その眼光は衰えることがない。
「ジュール隊長、あんな得体の知れない者に任せるおつもりですか?」
彼女はこの仕事に強い誇りを持っている。見知らぬ相手に任せるのが嫌なのだろう。
それに、シホはもともと彼が行方不明になった後に来た補充要員だ。知らないのも仕方ないが、説明している時間も無い。
「奴なら大丈夫だ。このまま下がるぞ」
本人を目の前にしたら決して言わないであろう事を口にし、有無を言わさずここから後退する。ディアッカもシホに軽くウインクして、イザークに続く。
シホはまだ納得していなかったが、渋々といった感じで傷を押さえながら彼らに従った。

「よし。シン、お前は帰れ」
アレックスはどこか晴れ晴れとした表情でシンに向き直った。それとは対照的に、シンは渋い顔になる。
「は?」
「帰れといったんだ。君はここまででいい」
「何言ってるんですか! 俺一人で尻尾を巻いて逃げるなんて出来ませんよ!」
「だが、これは俺が勝手に引き受けたことだ。君まで巻き込むわけにはいかない」
「ここまで来て、帰れるわけ無いでしょう!?」
シンは、他人の事ばかりを気にかけるような言い方に、腹を立て、怒鳴った。全く戻るつもりのないシンの態度にアレックスは諦めざるを得ず、一言だけ言った。
「……分かったよ。だが、俺の指示には従ってもらうぞ」
シンがまともに言う事を聞いてくれるとは到底思えないが。

「ちぃっ、あいつら!」
警官達と交戦しているのは、例の三体だった。地面が崩れた時にいち早く脱出していたらしい。激しい銃撃を避けつつ、接近して襲い掛かろうとしている。
シンの頭にカッと血が上る。だが、落ち着いた声がそれをいさめた。
「目的は戦闘じゃないぞ」
「分かってますよ! けど、あいつらをやらなきゃどうしようもないでしょう!?」
言ってもムダだ。やはり、こうなるのか。
アレックスは嘆息し、それ以上言葉を費やさずにまっすぐ警官達の方へ向かった。
シンの意思に呼応し、ベルトが出現する。駆け出しながら、シンは声を限りにして叫んだ。
「変身!」
灰色のインパルス、そして青へとめまぐるしく変えながら、シンはガイアたちのもとへと突っ込んでいった。

「ロアノーク隊長、信号を捕らえました。今からデータを転送します」
リーから通信が入る。システムを装着し、いつでも出れる状態にしておいたネオは待ってましたとばかりに副官に告げ、モニターに向かっていた研究員に促す。
専門の研究員は渋い顔でOSを立ち上げる。システム全体に電力が行き渡り、途端に重かった身体が軽くなった。
自らを格納庫入口辺りまで持っていく。ネオは副官へ向けて言い放った。
「よし。ネオ・ロアノーク、ストライク出るぞ!」
モーターボートの倉庫に偽装された格納庫が開く。そこから一つの影が現れ、夜闇の中へと消えていった。
2889/16 ◆orYN7qK/0E :2006/12/24(日) 00:49:08 ID:???
ガイアたち三体をシンが引き付けているうちに、アレックスが生き残りの警官のもとへと向かう。
「戦える者は、負傷者を守れ! 急いでこの場から撤退するぞ!」
力のこもったアレックスの声に、警官達は戸惑いながらも従っていく。見たところ、幸い重傷者はいないらしい。同僚に肩を借りているものこそいたが、全員自分の足で立っている。
アレックスは安堵しつつも、再度檄を飛ばした。こういうときは、命令口調のほうが効果的だ。
「急げ! もう余り時間は無い!」
 
この場での目的は、あくまで時間稼ぎだ。シンはひたすら三体の攻撃を捌くことだけに集中する。アレックスは警官達を守りながらも、危険な時には的確な援護射撃でインパルスをサポートする。
なんだかんだ言っても、アレックスは素晴らしい腕をもっている。認めたくないが、安心して背中を預けられる相手だ。
おかげで、背中を気にすることなく前方の敵だけを相手にすることが出来た。

「そらあっ!」
スティングが叫び、先陣を切ってインパルスへと飛び掛った。その後にアビスとガイアも続く。必殺のフォーメーションだ。
だがインパルスは赤い姿となって連続攻撃をしのいだ。カオスの突撃を受け止め、アビスへとぶつける。斬撃をエクスカリバーで受け止め、ガイアとそのまま激しい接近戦を始める。
カオスも人型となってすぐさまガイアの加勢に向かった。
やや遅れて起き上がったアビスには、避難を終わらせて戦闘に参加したアレックスがつく。
自発的に残った警官数人とともに一斉射撃を加えるが、両肩のシールドにシンたちのほうから徐々に引き離していく。
ターンして攻撃してきた飛行形態のカオスへとエクスカリバーの一本を投げつける。同時に、残りの一本で叩き伏せたガイアを踏みつけてシンも跳躍した。
爪で投げつけられたエクスカリバーを叩き落すが、その隙にインパルスの手に持ったもう一本のエクスカリバーを叩きつけられ、地面に墜落する。
カオスを救おうと四足獣形態で飛び込んできたガイアにはカウンターキックを加えた。ガイアは避けきれずに、壁へと叩きつけられる。

やれる! これでとどめだ!
シンはガイアを見据え、二本の剣を合わせた。合体状態のエクスカリバーに、ベルトのエネルギーを流れ込ませる。
だが、そこに予期せぬ方向からの銃撃がシンを襲う。とっさに顔を庇い、ダメージこそなかったもののガイアは立ち上がっており、攻撃のタイミングを失ってしまった。
シンは銃弾の放たれた方へと視線をめぐらした。あの重たい銃撃は人間のものでも、MSのものでもありえない。
四本の角を持った影が、悠然と銃を構えていた。

28910/16 ◆orYN7qK/0E :2006/12/24(日) 00:54:34 ID:???
四本の角、黄色い目のシャープなシルエットは、インパルスにも通ずるものがある。だが、装甲はメタリックな金属製で見るからに人工の物だ。
明らかにMRではない。それに、MSでもない。かつてモルゲンレーテによって開発された対MS用強化外骨格戦闘システム、ストライク。その同型種だ。
これはネオ専用として赤紫色にカラーリングされていて、背中に四つの奇妙な筒状の物体を背負っている。
『アウル、スティング、ステラ! もう時間だ。さっさと帰るぞ!』
「ネオ!」
赤紫のストライクから、スピーカーを通した、ややくぐもった感じの男の声が発せられる。
機械的な音声にもかかわらず、飄々としていてやけに人間臭さを感じさせる喋り方だ。
その声を聞いた途端、ガイアが瓦礫を押しのけ、嬉しそうにストライクのもとへと駆け寄った。
カオスもストライクの近くへ人型となって着地し、やや遅れてアビスも来た。早々に不満そうな声をあげる。
「何で!? もう終わりィ!?」
『このままここにいれば、俺達も巻き込まれるぞ』
「僕は平気だけど?」
『こっちが保たないんだ。分かってくれ』
「わあったよ。ったく、うすのろ!」
『言うなよ。充分楽しんだろ? スティング、二人を連れて先に戻れ』
「けっ、分かったよ」
ネオは何とか納得させ、三人を先に返した。そして、今の会話に毒気を抜かれて唖然としていたインパルスに向き直る。
『さて、というわけだ。俺達は先に帰らせてもらうよ』
わざと、まるでゲームか何かのような軽い言い方で告げた。その一言で、シンの中の何かが切れた。
「……ふざけるなぁっ!」
激昂し、長刀状の剣を片手に跳躍する。怒りに我を忘れた、隙だらけの動きだった。

ネオは身を屈め、ストライクの仮面に隠された口元を満足げに歪める。面白いように引っかかってくれた。完全に射程距離内だ。
インパルスがエクスカリバーを振り下ろそうとした次の瞬間、ストライクの背中から筒状の特殊兵装、ガンバレルが射出され、四方に飛散した。
シンは慌ててそのうちの一つを切り払うが、その隙に他の三つがシンの周囲を飛び回り、ワイヤーを巻きつける。
「なっ!?」
さらにストライクはガンバレルの基部である背中のパーツを切り離した。ガンバレルは基部、ガンバレルパックと超鋼ワイヤーでつながっている。
ガンバレルパックが切り離されたところで勢いは止まらず、シンの周囲を飛び回り続ける。
そのままガンバレルは基部もろともワイヤーを幾重にも巻きつけ、インパルスを完全に拘束した。

29011/16 ◆orYN7qK/0E :2006/12/24(日) 01:00:24 ID:???
「随分とやるようだが、せっかちだな」
ネオは身動きできなくなったインパルスを嘲笑するように言い、見下ろした。ゆっくりと手に持った大型の銃を持ち上げ、ガンバレルを狙い撃った。
それは装填された弾丸、推進剤に引火、大地を揺るがす大爆発を起こした。
激しい炎と立ち昇る煙は、インパルスを完全に覆いつくす。
「またいつの日か、出会える事を期待しているよ、間抜けな坊主君」
爆風をものともせずにネオは余裕をもって吐き捨て、悠然と歩いていった。

ネオが立ち去ったすぐ後、入れ替わるようにアレックスがこの場へ駆けつけた。
爆発音を聞きつけ、震動に気付いたアレックスは警官達を先に逃がし、様子を見に来たのだ。
爆発の中心と思われる場所は円形に地面がえぐれ、爆発の凄まじさを物語っている。シンの姿は、どこにもない。
「どこだ、シン!」
アレックスはシンの名を叫びながら、一抹の不安に襲われる。
かなりの規模の爆発だった。まさか……。
嫌な予想が頭をよぎる。その時、かすかに物音が聞こえた。
「シン!」
爆発の影響で崩れた壁、瓦礫の山の中に力なく投げ出された手を見て、アレックスは声を荒げた。

命に別状こそ無いようだが、連戦による疲労の蓄積とダメージでシンの身体は既に限界だ。
意識を失ったままのシンを肩で抱えつつ、アレックスは出口を目指す。残り時間はあとわずかだが、ギリギリ間に合うだろう。
本土とユニウスセブンをつなぐ連絡道路、その入口が見えたところで足を速める。
あと少し。安堵しかけた、そのときだった。
「危ない!」
突如として目を覚ましたシンが、アレックスを突き飛ばす。その一瞬後に、アレックスのいた空間を鈍色の閃光が通過した。
コンクリートの破片を撒き散らし、地面に重斬刀が突き刺さる。
激しく息をつきながら、重斬刀の持ち主を見上げる。顔に傷のあるジンHM2、サトーだ。
「貴様らは、貴様らだけは逃がしはせん!」
ピンク色の一つ目は怒りに染まり、全身からは殺意をみなぎらせている。

多くの仲間を失った。おそらく、生き残りは自分だけだろう。
もはや、生き長らえるつもりは毛頭無い。せめて、一人でも多く道連れにするだけだ。
重斬刀を構え、アレックスへと振り下ろす。だが、いきなり軌道が逸れ、彼の髪の一部を凪いだだけで終わった。

シンが体当たりを仕掛けた結果だった。おかげでアレックスは助かったが、代わりにシンが強靭な腕に振り払われ、地面に投げ出される。
既にほとんど力尽きているシンは、受身も取れぬままに叩きつけられ、短くうめいた。
「やめろシン! こいつは俺に任せてお前は逃げろ!」
先ほども言った言葉だったが、状況が違う。それでも、シンは従うことなく、さっきと同じように言い返した。
「どうしてまたそんな事を言うんですか、あなたは!」
サトーを銃撃し、注意をひきつける。丸腰のシンよりも厄介だと認めたらしく、こちらへと飛び込み、重斬刀をたたきつけた。
地面がえぐれ、アスファルトの破片が辺りに飛び散る。
左のほうへ転がってそれを避けたアレックスが、起き上がり怒鳴りつける。
「君がいなくなったら、妹さんはどうなる! 友達はどうなる! 残される者の事を考えたことはあるのか!」
その言葉はそっくりそのまま自分に返ってくることに、アレックスは気付いていない。だが、紛れもなく偽りのない、本心からの言葉だ。
29112/16 ◆orYN7qK/0E :2006/12/24(日) 01:02:20 ID:???
「分かってますよ、そんなこと!」
自分自身が、誰よりも。
誰にも、あんな思いをさせてたまるものか。たとえ、どんな奴にだって。
「なら……!」
「だから、必ず帰ってみせます!」
アレックスも、誰も犠牲にすることなく。

決意を込めて右手を前に掲げる。
シンの強い意思に応えるように、腹部にベルトが現れる。
「変身!」
ベルトが輝き、シンの身体を戦うための姿、インパルスへと変えていく。
その姿は灰色のまま変わらなかった。既に、限界なのだろう。だが、それでもシンの闘志は全く失われない。

ジンHM2が重斬刀を両手に持って振り回す。一見乱雑にも見えるが、剣の重さを把握した上で速さと威力を両立させた鋭い攻撃だ。
鈍色の閃光が幾度も煌めき、インパルスを切り裂こうと襲い来る。斬撃の嵐に、シンは反撃の糸口すらつかめない。
アレックスの銃撃でさえ、効果的な打撃を与えられないでいた。重要な機関は刀で完全に防がれ、腕や足に何とか当てたところで所詮はかすり傷、
怯むことすらなかった。サトーはインパルスとアレックスを常に視界に捉えている。どんな攻撃も、初期挙動の時点で既に察知されてしまっているのだ。
これでは、どれだけ攻撃しても勝ち目は無い。
「だぁっ!」
この状況を打開しようと苦し紛れに拳を繰り出すが、サトーは右手で拳を受け止め、左手でシンを縊り上げる。
アレックスは左側に回りこみ、引き金を引いた。左腕が塞がっている今なら、通じるかもしれないし、シンの援護にもなる。
だが、アレックスの行動を見たサトーはシンを蹴飛ばし、眼にも止まらぬ速さで抜刀した重斬刀で銃弾を防ぐ。
すぐさま起き上がったシンは回し蹴りを放つが、サトーは蹴りで相殺、いや、シンの方が吹き飛ばされアレックスのもとへと転がった。
サトーの技量は完全に二人を凌駕していた。今のシンでは、力で押し切ることもできはしない。
ユニウスセブンの沈没が始まった。大地の揺れは激しさを増し、建物は崩壊、道路の液状化すら始まっている。もう、時間も無い。
サトーは崩壊する大地を仰ぎ見る。ここも、これで見納めだ。
「我らの怨念、思い知るがよい!」
叫び、右腕の重斬刀に力を込める。エネルギーが流れ込まれた刀を構え、シンたちにとどめを刺そうと駆け出した。

29213/16 ◆orYN7qK/0E :2006/12/24(日) 01:07:56 ID:???
最後の攻撃が来る。そう悟ったシンはベルトの力を右足に流し込み、アレックスを背にして駆け出した。あれは、一人では立ち向かえない。
間合いに入る直前で前に倒れこむように飛び込み、サトーの視界からインパルスの姿が消える。インパルスの影から、シウスを構えたアレックスが姿を現わす。
躊躇することなくアレックスは銃爪を引く。フルオートで放たれた弾丸が、サトーの胸部に幾つもの穴を穿いた。

「な、なんだと!?」
「うおおおおぉぉぉぉっ!」
さらに、シンは前転状態から両腕の力を使って跳躍、右足からサトーへと突っ込んだ。
右足がサトーにめり込み、吹き飛ばす。ガードレールを突き破るが、それでも勢いは止まらない。
さらに、左足でジンHM2を海へ蹴り飛ばし着地する。
「ぬ、ぬぅおおおぉぉっ!」
断末魔の叫びを残し、サトーはそのまま海面へと吸い込まれていった。
インパルスの背後で、巨大な水柱が上がった。

「ハア、ハア、ハア……」
シンは激しく息をついている。さすがに、もう体力の限界のようだ。
アレックスは歩み寄り、彼に声をかけた。
「やったな、シン」
声をかけられたシンは、黙ったままかすかに首を縦に動かす。
わだかまりが完全に消えたわけではないが、共に死線を乗り越えたことで彼に対する信頼感というものが、わずかに芽生えかけていた。

大地の揺れはさらに激しくなっていく。彼らのいる道路も、崩壊を始めていた。
「アスラン!」
崩壊の轟音に紛れ、自分を呼ぶ声が聞こえる。アレックスは振り向くまでもなく声の主が分かる。
「イザーク!? それにディアッカも」
危険に構わず、懐かしい顔ぶれが迎えに来る。こんな中、自分を迎えに来てくれたことに胸が熱くなる。
だが、彼らと合流してはシンの正体もばれてしまう。
アレックスはシンの方へ視線を向ける。アレックスの考えを察したかのようにシンは頷く。
「それじゃ」
それだけ告げ、灰色のインパルスは道路から身を投げた。やや遅れて、イザークたちが辿り着く。
「アスラン、今のは!?」
興奮した様子で問いかける。彼らの疑問に、アレックスは微笑んで、やや自慢げに答えた。
「俺の、仲間だ」

29314/16 ◆orYN7qK/0E :2006/12/24(日) 01:09:57 ID:???

ミゲル・アイマン、ラスティ・マッケンジー。広々とした墓地に佇み、三人は墓石に花をささげた。かつての戦いで犠牲になった仲間達が、この場所に眠っている。
あの後、アレックスたっての希望でここへ来た。オーブに行ってからの四年間ずっと、墓参りも何もしていなかった。
「そうか、お前……」
「ああ。ずっとオーブにいた」
「何で連絡しなかった!」
イザークが今にも掴みかからんばかりの語気で言う。実際に掴みかかってこないのは、さすがに場をわきまえているからであろう。
「俺は、とっくに死んだようなものだったからな」
「だけど、俺達にくらい連絡してくれてもよかったんじゃないか? 心配してたぜ」
「誰が心配などするか!」
本当に、変わらないな。
二人のやり取りを見ながら、アレックスは笑いがこみあげてくるのを感じたが、墓前ということもあってあわてて口を引き結んだ。
先ほどまではそんな余裕もなかったが、ようやく再会の感慨が沸いてきた。

「で、貴様は何しにきたんだ?」
そんなアレックスの感傷を吹き飛ばすかのように、不意に声をかけられる。
不機嫌そうな、イザークの声だ。苛立ちの籠った口調で、さらに続けた。
「何をやっているんだ? こんなところで!」
助けに来たものの、自分の存在を隠そうとしていた中途半端な立場の今のアレックスにとって、イザークの声は糾弾のようにさえ感じられる。
「これからは、これからはどうするつもりなんだ。貴様は、どうする?」
本当は、黙って帰るつもりだった。だが、現実に彼らと会ってしまった以上、このまま黙って帰るわけにもいかない。
しかし、何をするべきなのだろう。何をすればいいのだろう。
「……まだ、分からない」
「戻って来い、アスラン!」
投げつけられた声に、アレックスは眼の覚めるような思いで彼を見やる。イザークは怒ったような顔つきのまま、しかし真摯な視線を向けてくる。
「事情はいろいろあるだろうが、俺が何とかしてやる。だから、もう一度ZAFTにもどって来い、お前は」
「イザーク……。いや、しかし」
イザークの言いたいことは分かる。
だが、アレックスの目の前にカガリの顔がちらつく。と同時にシンの叫びも思い出される。
あいつも、戦っていた。俺は……どうする?
葛藤するアレックスを後押しするかのように、イザークは彼を睨みすえ、言葉を継いだ。
「お前も、何かをしろ! それほどの力、ただ無駄にする気か?」
まっすぐなまなざしと真摯な言葉は、アレックスの心を大きく動かした。

29415/16 ◆orYN7qK/0E :2006/12/24(日) 01:13:57 ID:???

ルナマリアは寂しがっているマユと手をつなぎながら、一緒のベッドで眠った。マユが安らかな寝息をたてるのを確認した後、彼女自身も目を閉じた。
誰かと一緒のベッドで寝るなど、メイリンがまだ小さかった時以来だ。子猫を抱くような温かい心地よさを感じ、彼女自身もぐっすりと眠ることができた。

ふと目覚めた時には、隣にマユはいなかった。強く握られていた手が、寂しげに布団に沈み込んでいる。
時計を見たところ、随分と早く起きてしまったらしいことが分かった。目が冴えてしまって二度寝をする気にもなれない。
肌寒さを感じつつ、ルナマリアは居間へと向かう。ここにきてはじめて、着替えないままに寝てしまったことに気付いた。
「……おはよう」
重いまぶたをこすりつつ、居間の戸を開ける。元気な挨拶が、耳を打った。
「あ、ルナお姉ちゃん。おはようございます」
まるで何事もなかったかのように、普通に振舞う。昨日のあの剣幕が嘘のようだ。
「レイさんと先生は大学で何か用事があるって言ってました。今日はずっと大学に籠るそうですよ」
あまりにいつも通り、いや、お姉ちゃんと呼んでくれるくらい懐いているが。彼女の態度にルナマリアは驚き、思わず尋ねた。
「ちょっと待っててくださいね。すぐにご飯つくりますから」
「ええと、マユちゃん?」
「はい、何ですか?」
「大丈夫なの?」
訊いてから、ルナマリアは少し後悔した。こんな事、わざわざ訊く必要なかったのに。
「はい! 目いっぱい泣いたら何だかすっきりしちゃいました」
見るからに無理のある笑顔で言う。それでも、泣いたままよりはよほどいい。ルナマリアは何とか微笑んでその場を誤魔化した。
「おはよう……。あれ、お姉ちゃん、今日は早いね」
見慣れないパジャマに身を包んだメイリンが居間へと入る。借りたようだが、マユとは明らかにサイズの違う女物のパジャマが
何故この家にあったのかは理解に苦しむ。
ルナマリアが返事するより先に、マユがメイリンへと声をかけた。
「あ、メイリンお姉ちゃん。おはようございます!」
マユの元気な声に面食らっていたメイリンだったが、少したってから頬を押さえて顔を赤らめた。
「え……、お姉ちゃん? 私が?」
ルナマリアはメイリンの隣に行って、頭を軽く小突く。
「こらこら、何喜んでんのよ」
「え〜。だってぇ、お姉ちゃんなんて呼ばれたの初めてだったんだもん」
頭を押さえたメイリンが口を尖らせる。その仕草がおかしくて、ルナマリアは思わず吹き出した。

29516/16 ◆orYN7qK/0E :2006/12/24(日) 01:26:38 ID:???
「シン、帰って来ないね」
マユが台所で朝食後の洗い物をしているのを横目に、メイリンが声を潜めて言う。
「マユちゃんがこんなに心配してるって言うのに」
気丈に振舞ってはいるが、無理をしているのは火を見るより明らかだ。
さっきから落ち着かずに飛び回っているのは、わざと忙しくして余計な事を考えないようにしている節さえある。
「まあ、そのうち帰ってくるわよ。シンの帰るところは、ここなんだから」
ルナマリアが確信したように言う。
それと時を同じくして、台所でけたたましく音がした。食器が割れていないか思わず心配になった。
振り向いた二人の目の前で台所を飛び出してきたマユが、呆気にとられるような凄まじい勢いでエプロンを脱ぎ捨て、居間を出て行く。

シンは扉の前まで来て、立ち止まる。ドアノブに手をかけながらも、回すことができない。
どんな顔をして入ればいいんだ。どうやって、マユと顔を合せればいいんだ。
髪をかきむしって葛藤するが、いつまでもこうしているわけにもいかない。シンは意を決し、やけくそ気味に扉を開く。
瞬間、シンのもとへ何かが飛び込んできた。勢いで後ろに倒れかけるが、何とか踏みとどまる。
胸の辺りに柔らかい温もりを感じる。
愛しい妹が自分の胸に顔を埋めながら呼びかけてくる。その声で、それまでのシンの杞憂は一気に吹き飛ばされた。
「お兄ちゃん!」
296衝撃(ry/16 ◆orYN7qK/0E :2006/12/24(日) 01:34:45 ID:???
鳥付けてみました。
今日はいつもに輪をかけて長くなってしまい……ort

31さんお久しぶりです。
お帰りなさい。
297通常の名無しさんの3倍:2006/12/24(日) 18:51:17 ID:???
キタァァァァァァァ!!!GJ!!!

やっぱ面白いわ
298通常の名無しさんの3倍:2006/12/24(日) 22:22:00 ID:???
おおっ!まだまだ職人さんが生きてたか!
これからじっくり読ませてもらうよ!
299通常の名無しさんの3倍:2006/12/27(水) 13:56:30 ID:???
ぃよっし!!アスカ兄妹の仲直りフラグ立った!
300通常の名無しさんの3倍:2006/12/27(水) 23:36:03 ID:???
シン…マユ…よかった〜!本当に良かった〜(超豪級うれし泣き)!!
301通常の名無しさんの3倍:2006/12/29(金) 15:24:30 ID:???
下がり杉
302仮面ライダー・デスティニー 第2話:2006/12/31(日) 20:02:41 ID:???
2006年おそらく最後に滑り込みセーフですね。
かなり久々ですが、二話を書きました。第一話まではノリだけで書いてたので…。
長いですが、お願いします。
303仮面ライダー・デスティニー 第2話:2006/12/31(日) 20:03:59 ID:???
『アーモリー・ワン』。ここに一人の青年が流れてきた。名はシン・アスカ。家族を殺され一人で生きてきた。
ある日彼は謎の怪人に襲われ、それから逃れるため放浪しているのだ。
「ふうっ、この街は人が多いな…。」
シンは一人呟いた。いろいろな街を旅してきたが、この街は特に人が多かった。ビルも多く、かなり繁栄していると言える。
ふと見上げると『PLANT』と書かれているビルが目に入る。
おそらくこの街で一番高いビルだろう。これまでの街でも何度か見かけたことがあったが、変わった名前だとしか思わなかった。
しばらくビルを見上げた後「さて、今日の寝床を探さなきゃな…。」
もう季節は夏に近い。野宿できないこともない、そんなことを思いつつシンは街の中心部に向かった。
夜になるといろんなことを考えさせられる。それはどこに行こうと変わらない。
公園に張ったテントの中でシンはこれまでのことを思い出していた。
―俺がマユの携帯で変身し怪人を撃破してから一年、あれからあちこち旅をしてきた。
その間襲われることはなかったが、常に誰かに監視されているような感じがした。
もしかしたらあの同窓会以降常に見張られていたのかもしれない…。
304仮面ライダー・デスティニー 第2話:2006/12/31(日) 20:05:53 ID:???
仕掛けてくる気配はなく、いつも遠巻きに監視しているようだが、油断はできない。俺はこの一年ろくに気を抜くことも出来なかった。
育った街を逃げ出しても、結局何も変わらなかった…。俺はこれから何処で何をすればいいんだ…。―
シンの憂鬱そうな顔を焚き火の炎か照らし出す。
「ちょっと!何やってるの!」
焚き火の向こうから声が聞こえた。女の声だ。シンは素早く身構え、手近な石を握った。
炎に照らされ、徐々に姿を現したのは若い女だった。ジーンズにパーカー、帽子には『PLANT』の刺繍がある。
まるでジョギング中のような格好だ。
「公園で焚き火にキャンプなんて何考えてんの!?禁止なことくらい常識でしょ!」
言われなくともそんなことはシンだってわかっている。シンが黙って様子をうかがっていると女は更に勢い付いてきた。
「あなた、この街の人間じゃないわね。今この街に浮浪者の類いはいないはず。」
シンはいい加減面倒になった。
「アンタ誰?警官には見えないけど?」
お説教の腰を折られた女は少しむっとして口を尖らせた。
「警官じゃないけど似たようなものよ。自警団ってとこ。この『アーモリーワン』では『PLANT』が強い影響力を持ってる。
あなたも見たでしょ、大きなビル。」
シンは昼間見た高層ビルを思い出した。
「で?その会社がなんで自警団なんて作ってる訳?」
シンが尋ねた。当然の疑問だろう。そんなことは警察がすることだ。
「あなた、私と大体同じくらいよね?だったらこの国が3年前に戦争したことくらい知ってるでしょ?」
そのことならシンも知っている。相手は覚えていないが、かなり激しい戦争だったらしい。
「それで戦後、国の治安はもうめちゃくちゃ。
そこでPLANTは自警団を組織して暴動を治めたり、失業者の支援なんかも積極的に行ってる。
それでPLANTは今じゃ世界有数の大企業って訳。警備会社も持ってるの。」
聴いてもないことまで長々と聴かされたシンは退屈そうに
「よくわかったよ。じゃ。」
と女を追い払う手振りをする。
305仮面ライダー・デスティニー 第2話:2006/12/31(日) 20:06:50 ID:???
女は「そうはいかないわよ。つまり私はそういった立場上あなたを見逃せないの。」
声は極めて穏やかだがこめかみには僅かに青筋が浮かんでいるようにも見える。
「とはいえあなたはこの街の人間じゃないし、明らかにお金も持ってなさそうだし、まだ子供だしね。
今晩は大目に見て、私が面倒見るわ。しばらくいるなら明日の朝一で役所にいきましょう。」
それを聞いてシンはギョッとした。明らかに不自然だからだ。公園で野宿している人間を子供だからといって自分の家に引っ張り込むなど。
何より、その女はどう見ても自分と殆んど歳の差ない。
シンはそう言って反抗した。
「嫌なら別にいいのよ。但し焚き火で火照った体と頭は警察で冷やしてもらうことになるけど。」
こう言われてはシンも黙ってしまった。
街に来て早々に警察に捕まるのは避けたい。そう思ったシンは仕方なくその提案を飲むことにした。
「わかったよ。行けばいいんだろ、行けば。」
彼女は表情を少し崩して息をつき、被っていた帽子を取る。首を軽く振ると明るい赤紫の髪が揺れた。
歳はやはり17、8といったところか。やや短めの髪が活発そうな印象を与える。なかなかの美人だが今のシンがそんなことを思うはずもなかった。
「自己紹介がまだだったわね。私はルナリマリア・ホーク、ルナでいいわ。あなたは?」
「シン・アスカ。」
それだけ答えるとシンは黙ってしまった。
ルナマリアはシンの態度にまたも僅かに口を尖らせたが、すぐに溜め息をついた。
「まあいいわ。私の家に案内するから、付いてきて。」 
それからルナマリア宅に着くまでの間、シンは終始無言だった…。
「着いたわよ。」
シンの先導をするルナマリアが足を止めたのはごく普通の一軒家だった。
「ただいまー。」
ルナマリアは家の扉を開いて中に入る。
「おかえりー、お姉ちゃん……え?」
玄関から近い部屋から出てきたのはルナマリアと同じ年頃の少女だった。
お姉ちゃんと言う口振りから察するに、おそらくは妹だろう。ルナマリアよりもやや幼い顔立ちで、髪の色もルナマリアより濃く、鮮やかな赤だ。
「だ、誰?その人。」
少女が恐る恐るルナマリアに尋ねた。
「彼はシン・アスカ。取り敢えず一晩家に泊めることになったからよろしくね。」次にシンに向き直り
「紹介するわね。私の妹のメイリン・ホーク。」
「どうも。」
シンは一言だけ挨拶し、また黙ってしまった。
「あ、はい。」
メイリンはペコリとお辞儀で返す。ぶっきらぼうなシンをかなり警戒しているようだ。
306仮面ライダー・デスティニー 第2話:2006/12/31(日) 20:08:13 ID:???
メイリンはルナマリアの手を引いて、今自分が出てきた部屋に入って行く。
「ちょっとメイ、一体何?」
「お姉ちゃん、あれ誰なの?」
メイリンは声を落としてルナマリアを問い詰める。
「ああ、彼は今日この街に来たみたい。公園でキャンプしてたのを注意して拾ってきたの。」
「拾ってきたって、じゃあ全然知らない人じゃない!!」
しれっと答えた姉にメイリンは思わず大声を出してしまう。
「大丈夫よ。いざとなれば多分あたしの方が強いし。」
姉の根拠も無い言葉にメイリンは溜め息を抑えられなかった。
姉はいつもそうだ。自分の前では年上振ろうとしたり、何でも勝手に決めてしまう。それで迷惑するのはいつも自分なのだ。

メイリンが部屋を出て玄関に戻って来た。メイリンはシンの前に立ちおずおずと口を開く。
「シンさん…」
「シン、でいいわよメイ。」
「シンでいい」と言いかけたところでルナマリアの横槍が入る。
「もう!お姉ちゃん!!」
「ごめんごめん。」
メイリンに叱られ、ルナマリアは奥に引っ込んでいった。
メイリンは深呼吸し仕切り直す。
「それでシンさん、家に泊まるのはいいですけど、父の部屋を貸しますから他の部屋には入らないで下さい。
それから深夜にはむやみに部屋を出ないで下さい。それから…」
メイリンの注意事項は延々続き、ルナマリアはただ苦笑いを浮かべシンを気の毒そうに見つめていた…。
食事の後、シンは部屋に通された。周りを見渡すと、よく片付けられた勉強机があり、数冊の本が立てられている。
すぐ近くの本棚に並べられている本は、法律などの難しい本ばかりで、いかにも書斎といった感じの部屋だ。
しかし、あまりに片付き過ぎている。生活の匂いが全く感じられないのだ。
棚の本を調べてみる。棚自体は綺麗なのに、本は長く抜かれていないようだ。
似ている、そうシンは思った。シンの目の前で消えてしまった両親と妹…。シンも彼らの部屋をまめに掃除し、生活の証を保存していた。
認めたくなかったのか、それともせめて部屋だけでも残しておきたかったのか、それはシンにもわからない。
だが、そうせずにはいられなかった…。同じような印象をこの部屋から受ける。彼女達の父も今はもう存在しないのだろうか…?
307仮面ライダー・デスティニー 第2話:2006/12/31(日) 20:09:43 ID:???
シン・アスカが街を訪れて最初の朝、彼は目を覚ましてすぐに身支度を整える。
未だ陽は昇りきっておらず、多くの人々が眠りに就いている頃だろう。おそらくはあの姉妹も。
シンは彼女らが目覚める前にこの家を去ろうと考えていた…。
僅か一晩、奇妙なお節介から世話になったが、居心地は悪くなかった。いや、むしろ良かった。
誰かと食卓を囲んだのも家族を亡くしてからは初めてだった。
二人とも根が純粋なのか、最初は警戒していたメイリンも最後には少し打ち解けて、気づけば自分も色々なことを話していた。
あの日のことは曖昧だったが…。
しかし、自分は何者かに常に監視されているのだ。何かあった時に巻き込むことになるかもしれない。
そしてもう一つはどうしても彼女らに対しての疑いが晴れないことだ。それが自分自身の心の弱さだとわかってはいる…。
しかし、長い放浪の年月は彼に孤独への耐性を身に付けさせると同時に、他者に心を許すことへの恐怖も植え付けていた…。
シンは彼女らに礼の手紙を残して家を出る。家を出た頃にようやく街を光が照らし始めていた…。

308仮面ライダー・デスティニー 第2話:2006/12/31(日) 20:11:01 ID:???
その少し前、太陽がまだ昇り始めてもいない頃…
薄暗い廊下を駆け抜ける影が三つ……三人は全員まだ十代半ば過ぎといったところだろうか。しかし、顔つきは子供のそれではなかった。
「アウル!ステラ!目標はこの先だ、一気に突破する!」
アウルと呼ばれた水色の髪の少年が軽いノリで答える。
「わーかってるよ。スティングはいちいちうるさいよなぁ。」
ステラと呼ばれた少女は顔も向けずに一言「了…解」とだけ答える。
スティングと呼ばれた緑髪の青年はチームの連携の悪さに頭を痛めた。
どれくらい走っただろうか。廊下を走り、階段を駆け上がるスティング達は廊下の先に人影を見つける。
服装からして警備員の様だが、スティング達を発見したその男は即座に左手の腕時計らしきものに何かコードを打ち込み出した!
鈍色の光とともに肩、胸、脚、頭が装甲に覆われ、メットの中心には丸い一つ目が浮かんだ。
露出した肌は灰に近い色でとても人の物とは思えない…。
しかし、スティングはそれを見て口の端を僅かに歪ませた。あれは『ジン』と呼ばれた旧型のスーツだ。
コーディネーターの持つ変身能力を引き出し、強化する。警備員ごときには旧型しか扱えないのだろう。
三人は足を止めることなく、各々の武器を取り出した。スティングは二丁の拳銃、アウルはサブマシンガン、ステラはナイフを取り出す。
ジンが背中に装備している重斬刀を構えようと手を伸ばそうとした時、既にスティング達は目の前に接近していた!
まずスティングが両手足を撃ち抜き、バランスを崩したところをすかさずステラが下からメットの中を抉る!
鮮血を撒き散らし倒れたが、驚いたことにまだ手足を動かし起き上がろうとしている。
アウルはとどめに頭部のカメラ、一つ目に銃口を突き付け、引き金を引いた。
ドドドド!!と轟音が十数秒続き、ジンは幾度かの痙攣の後動かなくなった…。
そして残ったのは手、足、頭を撃ち抜かれ、喉を掻き切られた警備員の無惨な死体のみだった。
死亡と同時に変身は解除され、今は何の変てつもない中年が転がっている…。スティング達は目もくれず再び走り出した。
「やっぱネオの言った通りなかなか使える武器だな、こいつ。」
そう言ってアウルが手に持ったサブマシンガンを振った。
今回渡された銃とナイフは特殊な金属で造られている。
普通の銃弾なら装甲どころかコーディネーターの身体に傷一つ付けられないが、これなら旧型の装甲くらいは貫ける。
「油断するなよ、アウル。俺達が楽に侵入出来たのは変身してないからだ。
だが、さっきの銃声で『ザク』タイプが駆けつけてくる。大急ぎで新型のスーツを奪取するぞ!」
そうスティングが釘を刺した。この三人組が辛うじて纏まっているのは彼の努力の賜物だろう。
「わーかってるって。連中も劣ってる俺らが変身もせずに潜り込んでくるとは思ってなかっただろうし。
変身しなかったからセキュリティが誤魔化せたんだろ?」
「そういうことだ、急ぐぞ!」
三人は更に奥へと進んで行く…その先にある力を求めて…。

309仮面ライダー・デスティニー 第2話:2006/12/31(日) 20:13:10 ID:???
陽は昇り、そして落ち始める…。その頃ルナマリア・ホークは途方に暮れていた…。
目が覚めた時、既にシン・アスカは書き置きを残して家を出ていた。
ルナマリアは街中を探し回ったが、彼を見つけることは出来なかった。
彼はもう街を出てしまったのだろうか…。町外れの港まで来ても彼の情報は得られなかった。
何故自分はここまで彼にこだわるのだろうか?自分でもはっきりわからない…。
ただ、彼も自分と同じく両親を亡くしている。自分にはメイリンがいるが、彼は妹まで亡くしているのだ。
その寂しげな顔を見て放って置けなかったのかもしれない…。
彼¨も¨家族を亡くし命を狙われた。
ルナマリアには彼は自分を写す鏡に思えたのだが、彼にはそうは思えなかったのだろう…。それが残念だった。

ルナマリアは疲れ果てベンチに座り込んだ。
周りには人はいない。ただ波の音と、地下水路から水が流れる音だけが聞こえてくる。
ここから少し下がった場所に街中に張り巡らされている地下水路の」出口がある。そこから水が海に流れ込んでいるのだ。
その音に耳を澄ましていたルナマリアはふと地下水路をザブザブと進む音を聞き取った。
気になって覗くと、そこから出て来たのは二人の少年と1人の少女だった。
それだけなら不審に思うだけだっただろうが、三人のアクセサリーを見てルナマリアの顔色が変わる。
視線の先は金髪の少女が付けている狼のブレスレット、青髪の少年のシャチのペンダント、緑髪の少年のフクロウの懐中時計だ。
それを見た瞬間、彼女は懐から銃を抜き彼等の前に躍り出ていた。
「あんた達!両手を挙げて、そこに止まりなさい!」
完全にルナマリアに不意を突かれた三人は舌打ちをして身構えた。しかしルナマリアの威嚇射撃に足を止め、ゆっくりと両手を挙げ出す…。
ルナマリアはゆっくりとした両手の動きに気を取られ、リーダーらしき少年の脚が跳ね上がるのに気付かなかった。
水の直撃を受けて視界が塞がれる。
熟練の兵士なら予測できた攻撃だが、人を狙うのも初めてな彼女では無理もないことだった。
先頭の緑髪の少年が懐中時計に手を当て、一言呟く。
「変身…」
310仮面ライダー・デスティニー 第2話:2006/12/31(日) 20:13:57 ID:???
彼女の視界が回復した時、目の前に立っていたのは少年ではなくライダーだった…。
「なるほど、これが『カオス』か…」
『カオス』と呼ばれたそれは緑を基調とした装甲とボディースーツを身に纏い、背中の翼は狭い水路を窮屈そうに広がっている。
その翼はルナマリアには自分の逃げ道を塞ぐ絶望の翼にも見えた…。
「ここは俺だけでいい。新型の性能をテスト軽くしてみる。」
カオスは後ろの二人にそう言い、二人は無言で頷く。
銃では何の抵抗にもならない、そう思ったルナマリアは銃を捨て腕時計を構えた。
しかし、コードを打ち込もむ前に左手は捻りあげられ、ルナマリアは苦悶の悲鳴を挙げる。
「ぐぁぁぁぁ!」
「テストの相手は欲しいが、変身された上に増援まで呼ばれちゃ面倒だからな。」
ルナマリアは新型の性能に驚愕した。距離は十分に取っていたのに、コードを入力する間もなく腕を取られたのだ。
「スピードはこんなもんか。次は…っと!!」
カオスは掴んだ腕を振りルナマリアを壁に叩きつけた。
「くぅ!!」
なんとか受け身は取れたものの、ルナマリアの手からはカオスによって腕時計が外されていた。
「これはもういらねぇよな。」
そうカオスは笑い、今の彼女にとって命綱に等しいそれは砕かれてしまった…。
「凄ぇぜ、これは!この力、あいつのいいようには使わせねぇ!」
カオスは玩具を得た子供の様にルナマリアを振り回す。ルナマリアは少しでも受け身を取ることしか出来なかった…。
力に酔った子供は蝶を弄び、羽根が千切られようとした瞬間、夕陽が水路を貫いた。
「やめろ!!」
顔は腫れ、涙ではっきりとは見えないが夕陽を背負った彼は間違いなくシン・アスカだった。
既にコード入力を終えたのか、支援メカである戦闘機『コアスプレンダー』を従えている。
「シ…ン…?」
「ルナ、すぐに助ける!じっとしてろ!もう絶対に殺させはしない!!」
彼はコアスプレンダーの中心の窪み、ちょうど携帯が収まるにスペースがある。
彼はそこに携帯を叩きつけて吼えた。
「変身!!」
311仮面ライダー・デスティニー 第2話:2006/12/31(日) 20:14:51 ID:???
それは偶然だった。街を出るべきか迷ったシンは街の出口になる港まで来ていた。
人と深く関わることを恐れ逃げ出すのか、それとも彼女らに世話になり内と外への疑心暗鬼に身を磨り減らすのか…。
答えは出ず、迷っていた時に微かだが銃声を聞いた。周囲に人の気配は無い。続けて聞こえた水音でそこが海に流れ込む水路だと特定する。
「こんな場所に水路があったのか……あっ!!」
覗き込んだシンは思わず声をあげてしまいそうになった。
そこにはシンが昔に見た悪夢があった…。怪人はルナマリアの手足を振り回しては壁に叩きつけている。
シンの脳裏に同窓会の夜、一年前のあの日の記憶がフラッシュバックする。
恐怖心から一瞬逃げ出したくなる。しかし、自分が逃げれば彼女は確実に死ぬだろう。
たとえ一夜でも彼女は自分に安らぎを与えてくれた。家族の姿を思い出させてくれた。
―死なせる訳にはいかない!
シンは携帯を開きコードを入力する。そして震える脚を踏み出した。

シンが変身したライダー、インパルスは前回と違い、朱に近いカラーリングになっている。
そしてコアスプレンダーに内蔵してあったのか、二本の大型のビームソード、エクスカリバーを連結したものを装備している。
接近戦に特化した形態だ。これ等の知識は変身した際にライダーの武器や形態について調べることができた。
インパルスはエクスカリバーを構え、カオスと対峙した。
インパルスに対しカオスは素手のままだ。この狭い水路の中では火器は使えないだろう。
接近戦用の武器が無いのか、それとも敢えて使わないのかはわからないが…。
312仮面ライダー・デスティニー 第2話:2006/12/31(日) 20:15:47 ID:???
「ハァァァ!」
先に仕掛けたのはインパルスからだった。それに対しカオスはビームに触れないよう実剣部分をさばいていく。
端から見ればインパルスが押している様に見えるが、実際は未だカオスは無傷のま攻撃をさばいている。
シンは戦技と経験の面で大きく劣る上に、その攻撃は怒りに任せた単調なものだった。
「くそぉぉぉ!何なんだ、お前は!!何でルナを!」
「理由なんてねぇよ!ただそこにいたから遊んでただけだ!」
カオスはシンの怒りを煽り、インパルスの攻撃は更に単調になる。
「何だとぉぉぉぉ!!」
力任せの一閃を難なくかわし、カオスはインパルスを壁に叩きつけた。それと同時にエクスカリバーがインパルスの右肩に突き刺さる。
「うわぁぁぁあああああ!!!」
痛みにインパルスは悲鳴をあげ悶絶した。インパルスの右肩からは血が流れている。
「くそっ!!早く引き抜かないと…!!」
インパルスは左手で右肩に刺さったエクスカリバーを引き抜こうとするが、上手くいかない。
肩の傷に水が流れ込んでくる。スーツのせいで気が付かなかったが、この水路は壁の排水口から大量の水がここを通り海に流れている。
そのためビームの出力が弱まり抜き難くなっているのだった。
「もう終わりかよ。まあいい、ちょうど迎えの時間だ。ケリをつけさせてもらうぜ!」
カオスはそう言って右腕を構えた。胸の中心、装甲の下から緑の光が右腕に向かって走る。
とどめに強力な一撃をインパルスの頭部に加えようとしているのは明らかだった。
必死に身体を動かすが、抜ける様子は無い。
カオスの右手に光が集まり、そして拳が放たれた。
―――俺はこんな所で死にたくない!まだルナを助けていない!守ると約束したんだ!―――

313仮面ライダー・デスティニー 第2話:2006/12/31(日) 20:17:02 ID:???
インパルスの両眼が一瞬光輝き、シンの中で種が弾けるイメージが生まれた。

エクスカリバーの連結を解き、左逆手で振りぬく。
カオスはそれに気づき、拳の軌道を変える。その拳はインパルスの右肩の僅かに上の壁を砕いた。
コンクリートが飛び散り、水が溢れ出す。そして僅か一瞬カオスの動きが止まる。
インパルスは全力で壁を蹴り、前に倒れこむ勢いで右手のエクスカリバーを振りぬいた。
その剣は風を切りながら、拳を突き出したカオスの右腕を根元から切り落とした。
「ぎゃぁぁあああああ!!!!」
切り口からは鮮血が噴出し、カオスは地面を転げまわった。切断された腕は少年のものに戻っている。
なんとか命は拾ったが、まだ二人残っている。おそらくこの二人も同様の能力を持っているのだろう。
満身創痍の身体で勝てるかは怪しかったが、他に選択肢は無い。静観していた二人を振り返ったその時、轟音とともに鮮光が目の前を覆った。
「なっ!?スタングレネード!?」
いち早く正体に気づいたのはルナマリアだった。
光の中を獣の様なものが出口へと走り抜けて行く。
ようやく視覚と聴覚が戻ってきた時、既にそこには二人の姿は無く、カオスも消えていた。
海の方に振り向くと、右腕の無い緑の髪の少年(おそらくカオスだろう)、金髪の少女が"何か"の上に乗り沖へと猛スピードで進んでいた。
少女の憎悪の視線が遠くからでもはっきりとわかる。
あれが二人の力なのだろうか?シンは自らも含めライダーの力に驚き、恐怖せずにいられなかった…。

314仮面ライダー・デスティニー 第2話:2006/12/31(日) 20:17:55 ID:???
シンは変身を解き、ルナマリアを助け起こす。
「大丈夫か?ルナ。」
かなり酷くやられたていたが、致命傷は無い。打撲、骨折などが主だろう。
「うん、なんとか歩けると思う。それよりシン、あなたの方こそ大丈夫なの?」
「ああ、肩の傷なら出血は止まった。」
ライダースーツのおかげだろうか。傷をある程度自動で塞いでくれるようだ。
「ルナ…。ごめん、勝手に出て行って。俺は…多分信じるのが怖かったんだ。自分も、他人も。」
「なら、どうして助けてくれたの?あの力、あなたも昔見たんでしょう?あなたがただの臆病者なら逃げていたはずよ。」
「それは…ルナを死なせたくなかったんだ。たった一晩だけど俺を家族扱いしてくれたから…。ただ、それだけだよ。」
「なら…それがあなたの真実じゃない?少なくともあなたは私を信じてくれて、私を信じた自分を信じることができたんだから…。」
そう言ってルナマリアは穏やかに微笑み、シンもつられて笑っていた…。
「シン…あなたはこれから何処に行きたいの?」
シンの心はほとんど決まっていた。そして彼は少し笑って答えた。
「そうだな……。まあ、とりあえずは病院かな…」
彼はこの日から『逃亡者』ではなくなった。しかし、かれが真に『戦士』となるのはまだ先のことだった………
315通常の名無しさんの3倍:2006/12/31(日) 20:23:19 ID:???
以上で第二話です。年内中になんとか仕上げようと思ったので、後半駆け足かもしれませんが。
PLANTが略称なのはこの話では忘れてくださいw企業にしたのは、SB社を意識したのもありますが
あまり国同士でライダーってのがイメージできなかったので…。
視点がコロコロ変わってますのでご注意を。見づらいですが読んでいただければ幸いです。
皆さん良いお年を。
316通常の名無しさんの3倍:2006/12/31(日) 22:46:08 ID:???
おお、2話目キタコレ!
年越す前に良いものを拝めた、GJ!
317通常の名無しさんの3倍:2007/01/02(火) 01:38:14 ID:???
あけおめ。
新作乙。異種族?の会社に潜入する人間、下水道を逃走とか
劇場版555のオマージュかな?
318通常の名無しさんの3倍:2007/01/05(金) 18:53:06 ID:???
保守。
職人さんの投下が来るまで保守するだけじゃ寂しいから
何か話さないか?
最近見出したからそう思うのかもしれんが、
これじゃ職人のモチベーションも下がりそう。
319通常の名無しさんの3倍:2007/01/06(土) 02:09:26 ID:???
実はラクスがショッカー幹部
320通常の名無しさんの3倍:2007/01/07(日) 19:38:20 ID:???
まあ原作のキャラ関係を参考にすると、ラクスやキラは敵になることが多いよね。
原作の展開を参考にする話もあるし、オリジナルのもあるのは面白い。
321通常の名無しさんの3倍:2007/01/07(日) 21:08:59 ID:???
キラは平成ライダー定番の敵キャラな性格してっからな
ダグバ、東條、北崎・・・
322通常の名無しさんの3倍:2007/01/07(日) 22:51:27 ID:???
このスレってシン主役前提なの?
違っていたらキラ主役の話が読みたい。ダブトみたいに本物は種キラ、種死キラは偽みたいな風にしてほしい
323通常の名無しさんの3倍:2007/01/07(日) 23:25:24 ID:???
スレタイ嫁
324通常の名無しさんの3倍:2007/01/08(月) 00:47:13 ID:???
>>322
実際は、種キャラで仮面ライダー作ろうって趣旨のスレだから、全然OKだと思うよ
ただこのスレ過疎ってるから、新職人の降臨を待つより、自分で描いた方が早いかもなー
325通常の名無しさんの3倍:2007/01/08(月) 03:23:06 ID:???
>>324
d。でも自分では書く自信がない。

キラ主役だとラクスとかはライダーシステムを与えつつ黒幕だった、みたいなのは面白いんじゃないかな。フレイとかはヒロインで
326通常の名無しさんの3倍:2007/01/08(月) 08:50:37 ID:???
キラ主人公でラクスが黒幕ってのはちょっと面白そうだな。読んでみたい。
文は書いてる内に上達してくるよ、多分。
327通常の名無しさんの3倍:2007/01/08(月) 12:30:58 ID:???
SSまで踏み込む勇気はまだないけど、設定とかは考えてある。カブトをもとに考えてみたんだけど

1年前からジンやゲイツといった怪人達が、地球侵略を目的に人間を襲うようになった。彼らは総称でZ.A.F.T.と呼ばれた
ムルタ・アズラエルは反Z.A.F.T.組織ブルーコスモスを立ち上げる。しかし、怪人達の迎撃を口実に事実上の国の支配者になっている。(映画版カブトのゼクトみたいな感じ)
それに対し、ウズミ・ナラ・アスハは真の自由のために゙オーブ゙という組織を立ち上げる。これはブルーコスモスとZ.A.F.T.両方から狙われることになる。
オーブは世界に誇るクライン財閥の援助によって成り立ち、対Z.A.F.T.の兵器も令嬢ラクス・クラインが提供している。
Z.A.F.T.のデータを参考にして、対Z.A.F.T.マスクドライダーシステムの開発にオーブが成功した。
マスクドライダーシステムは普段はベルトのバックルに粒子化して入っているが、解放と同時に変身者に装着される。

どうかな?自信ないけど……人物設定はのちほど
328通常の名無しさんの3倍:2007/01/08(月) 12:56:24 ID:???
設定はみだりやたらに公表する物ではない!!!!!!!!

鎖で雁字搦めにすると、死にやすくなるぞ?自分の作った設定で
劇中で小出しに設定を匂わせろ、そのほうがオメガ面白いから、

どうしても設定を見直して欲しいのであれば自分のリア友達とか
何かおかしい所は無いかある程度書き出して見ろ
まあ設定なんて80%あれば良いんだけどな、残り20%は残す自由度が無いとホント 死 ね る か ら w
329通常の名無しさんの3倍:2007/01/08(月) 13:40:58 ID:???
わかった。気を付けるよ…………

もし書けるならいつになるかわからないけど書きたいと思う
330通常の名無しさんの3倍:2007/01/08(月) 14:43:00 ID:???
1970年代のライダーっぽいのも見たい

とかいってみる
331通常の名無しさんの3倍:2007/01/08(月) 15:33:50 ID:???
それはガノタ仮面さんだったなあ
もう来なくなって久しいけど
332通常の名無しさんの3倍:2007/01/08(月) 16:55:01 ID:???
俺も書いてるけど、一番苦労するのがライダーのデザイン。
これが脳内でうまくイメージできないから作中で説明に困ってしまう。
333通常の名無しさんの3倍:2007/01/08(月) 17:17:06 ID:???
今度の電王は、555よりメカっぽくて四角ばったデザインだから、参考になるな
334通常の名無しさんの3倍:2007/01/08(月) 19:53:21 ID:???
技とかってカブトみたいに「ライダー〜」でいいんでしょうか?
そうなると複数ライダーキックになる奴も出るんですけど
335通常の名無しさんの3倍:2007/01/08(月) 20:53:32 ID:???
種のキャラを使ってればいいぐらいで
他は特に制約は無いと思う。
まとめサイトの他の小説を読んでみればいいんじゃない?
336通常の名無しさんの3倍:2007/01/08(月) 21:49:50 ID:???
555のクリムゾン・スマッシュ、剣のライトニング・ソニックみたいに、技名だけだと内容が判然としない技もあることだし、「ライダー〜」にこだわる必要はないな
337通常の名無しさんの3倍:2007/01/09(火) 00:56:13 ID:???
インパルスキック、フォールディングレイザークロー、インパルスハンマー、
ヴァジュラウイング、インパルス雷光落とし、フラッシュエッジブーメラン、
サイクロンスラッシュ、ブラストエンド、百花繚乱の突き(仮面ライダーSEED)
メテオインパルス、コメットスティンガー(仮面ライダー運命)
バルマフィオキーナ、インパルスブレイク(仮面ライダーSEED DESTINY)
フォースキック(仮面ライダー衝撃)

見落としもあるかもしれないけど、
とりあえず今まで出てきたインパルスの必殺技をまとめてみた。
338通常の名無しさんの3倍:2007/01/09(火) 01:13:00 ID:???
キラ主役の話なんですが、「仮面ライダーSEED」で大丈夫ですかね?
339通常の名無しさんの3倍:2007/01/09(火) 01:43:07 ID:???
ガノタ仮面さんのSSが「仮面ライダーSEED」
来なくなって随分経つけど、全く同じ名前ってのはまずいと思う。
34031@携帯:2007/01/09(火) 02:47:29 ID:???
ホストがアクセス規制中でしばらく書きこめません(´・ω・)

>>332
自分がSS書くために描いた下手な絵をwikiに晒してみました。
当時はSIC調のライダーを想像してたのでまんまライダーですが。
もう少しガンダムの意匠入れて書き直してみたいですね。

ニスレ目にピクトに絵をあげてくれた方がおられたのですが
間違って消しちゃったみたいでwikiにあげられないんですよね……。


>>338
wiki側からすると名前が重複した場合、ページが作れないので
どこか変えていただけるとありがたいのですが……。
341通常の名無しさんの3倍:2007/01/09(火) 07:57:25 ID:???
登校前にカキコ

わかったっす。仮面ライダーKIRAなら大丈夫?
342通常の名無しさんの3倍:2007/01/09(火) 10:22:42 ID:???
仮面ライダーKIRAで君が良いのなら
343仮面ライダーKIRA:2007/01/09(火) 17:47:27 ID:???
初投下。出来とかわからないけど。

C.E.56、2月14日。世間はいわゆるバレンタイン・デー。恋人達は甘い時間を過ごしていたという。そう、あんな事件が起こるまでは………
「何だ?」
そう発したのは一人ではない。その街………ユニウスシティはそれから約1分後に崩壊した。生存者より死亡者を探す方が遥かに簡単と思える惨劇だった。

落下した隕石は大気圏で7つに分かれたという事からユニウスセブンと呼ばれ、事件は「血のバレンタイン」と呼ばれた。そして数年の月日が流れた………


PHASE-01 砕かれた平和

ある平穏な街の朝。子供達はランドセルを背負い、走りながら学校へ向かっている。大人達は朝から忙しそうにせっせと電車に乗る。

ピピピピ、ピピピピ

「う……〜ん……」
少年は手を伸ばした。朝の目覚めはちときつい。その半開きの眼を時計に向けた。時間は7時53分。
「………!!?。ぅあああぁぁ!!」
少年は飛び起きた。そしてジャージを脱いで服を着た。そして階段を跳んで降りる。
「母さん、なんで起こしてくれなかったのさ?」
「起こしたわよ〜?ほら、すぐ食べなさい。お父さんはすぐ食べおわったわよ?」
「わかったよ!!……いただきます」
物凄い速さで味噌汁、ご飯、目玉焼き、そしてヨーグルトを食べ尽くした。そして鞄を持って家を出た。
「行ってきます!!」
走りだす。高校生の通学においてつらいのは通学手段に間に合わないのは命取りになるからだ。バスに間に合うか………。
「ぬぅおおお〜!!」

プシュー

「ふぅ………間に合った………」
久々に遅刻の危機を迎えたが何とか回避できた。まあ、運動能力賞を持ってるので大丈夫だったのだろうと納得させる。
344仮面ライダーKIRA:2007/01/09(火) 17:48:39 ID:???
「クスッ」
笑われた。誰にだろうか。おばさん?女子高生?。少年は後部座席に視線を向けた。
「こんなに遅いなんてあなたにしては珍しいね」
「フレイ………アルスター……?」
紅い髪が特徴的なフレイと呼んだ少女。そしてキラと呼ばれた少年は驚いた表情を見せた。
「珍しく……って……なんで僕を?」
「え?。いつもバス一緒になるじゃない?」
話すのは初めてなのに親しみのように話し掛けてくれている。そうか、いつも………
「私、フレイ・アルスターっていうの。よろしくね♪」
「え?いや………あ、僕はキラ・ヤマトです」
「そんなに固くならないでよ」
その後、キラとフレイは学校前のバス停まで話を楽しんでいた。降りたらフレイは友達に駆け寄っていってしまったが、嫌な話を聴いた。
「そういえばさ………あんたラブレターを貰ったんだって?サイ・アーガイル君に………」
遠くとはいえ聴いてしまった。ラブレター?
「サイが………?」
そう、キラは学校のアイドルであるフレイに片思いをしている。そしてサイは自分の友達だからさらに困った。


教室に入るとキラは早速友達に絡まれた。
「よう、キラ。おいおい良かったな〜。愛しのフレイちゃんと登校できてよ〜」
「な………トール……。僕は別に……」
「照れるな照れるな♪」
見られていたのか。わかりやすい性格のキラは赤面を隠しきれない。
「全く……嬉しいならそう言えばいいだろ?」
「アスラン………だから僕は……」
アスラン・ザラ。彼はキラと小学生の頃からの親友で、最も信頼できる人間だ。そして、ホームルームを始めるために担任のマリュー・ラミアスが入ってきた。
345仮面ライダーKIRA:2007/01/09(火) 17:49:48 ID:???
「はぁ〜い、みんな席に着いて…………はい、今日はみなさんに新しいクラスメイトを紹介したいと思います」
ガヤガヤとなる教室に、女の子が入ってきた。
「カガリ・ユラ・アスハさんです。みんな仲良くしてあげてね」
アスハの名前が出たら驚いてしまった。アスハと言えばこの街、ヘリオポリスの市長であり、名の通った財産家だからである。
「よろしく………」
元気なさそうに答える彼女だったが、クラスのみんなは暖かく迎え、たった一日で馴れた。


昼休み、カガリには女友達や逆玉狙いの男子が集まっていた。
「はぁ………カガリちゃん、ツンツンしてるとこが可愛いなぁ………」
トールはカガリを見つめながらそう吐いた。
「バカね………」
ミリアリアはトールにそう言って教室を出た。その瞬間、学校中の警報機が鳴った。火事だろうか?でも煙は見当たらない。
「何?」
ミリアリアは急いでトールに駆け寄った。そうすると、副担任のナタル・バジルールが教室に入ってきた。
「これから落ち着いて体育館に非難するんだ!!」
言われた通り順番に並んで体育館に向かった。キラがふとカガリを見ると、ナタルとアスランに目が合った瞬間に頷いたように見えた。
(何なんだ?)


体育館に向かう途中、キラが眼を向けるとカガリがいなかった。やはり何かある。そうキラは思い、列から離れて、走っているカガリを追い掛けた。
「あれ?キラ、どこ行くんだよ?」


カガリの足、それを追い掛けるキラの足はヘリオポリス街中に向けられていた。
346仮面ライダーKIRA:2007/01/09(火) 17:50:56 ID:???
ズガガガ、と音が響いた。人々は逃げ惑い、悲鳴を上げている。
「あいつら………こんなところまで………」
服の中から何かを取り出し、腰に近付けた。そうすると、ベルトのようなものが出て腰に巻き付いた。
「何をするんだ?………うわぁっ!!」
爆発が起きたと思ったら、カガリの前には一つ目の、人間ではない異形の化け物がいた。
「え?」
爛れたような緑の皮膚、機銃や剣のような武器。特徴的な一つ目。カガリは全く恐れを感じさせずに立っている感じだった。
「やはりジンか………許さないぞ、ZAFTめ………」
彼女は何を言っているんだろうか。ZAFTとは……?
「………変身!!」
カガリの右手が先程巻かれたベルトに触れられた。しかし、稲妻が奔り、カガリは弾かれてしまった。
「ああァァ!!くそ………だめだったか………」
ジンと呼ばれた怪人は機銃をカガリに向けた。咄嗟にキラは足を踏み出し、カガリを押した。
「うわ…………何だ?お前………確かクラスに………」
「ねえ、何なの?あいつ………」
「お前は知らなくてもいい事だ………もう一度………」
カガリが手に持ってるものを腰に回そうとした。が、それをキラは横から取り、自分の腰に回した。
「お前………バカ!!それはお前が使えるような………」
「君が使えなかっただろ!?」
カガリはその気迫で黙ってしまった。
「許せないじゃないか………こんな街を壊して、人を傷つけるなんて……」
347仮面ライダーKIRA:2007/01/09(火) 17:52:11 ID:???
キラがそう言うと、カガリは口を開いた。
「バックルを腰に回すんだ」
「え?」
「早くしろ!!」
言ってる間にジンの機銃はこちらを向いている。同時にキラの腰のバックルからベルトが出て巻き付いた。
「バックルの右側を叩くんだ!!」
機銃から銃弾が放たれた。キラの右手がバックルに触れたら、突如光りだした。
「うわぁぁ!!………ん?」
カガリの目の前にいたのはキラであってキラではなかった。赤く丸い眼、青いボディ、赤と白の流動線が美しいフォルムを見いだしている。
「仮面ライダー…………ストライク………」


つづく
348通常の名無しさんの3倍:2007/01/09(火) 18:17:15 ID:???
kimo
349通常の名無しさんの3倍:2007/01/09(火) 18:35:43 ID:???
GJ!続きに期待。
ここ数日スレが少し活気付いてきてるな。
350通常の名無しさんの3倍:2007/01/09(火) 23:13:53 ID:???
仮面ライダーKIRA、文才ないけど頑張ってみるよ

キラやアスランとかは高2、フレイも同い年ということでお願いします。
一週間更新は出来ないと思うけど、マターリ続けたい
351332:2007/01/10(水) 00:23:33 ID:???
>>340
ありがとうございます。参考にさせてもらいます。
作風によって想像するライダーの姿も違うからなかなか難しいな。
種ライダーの場合は生物的なのは珍しいけど。
>>350
新シリーズ乙。自分も一ヶ月くらい空くこともあるし、じっくりやればいいよ。
352通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 18:14:02 ID:???
元のMSのデザインまんまでイメージすると、ライダーというよりメタルヒーローになってしまうからな
もっとも最近のライダーのデザインは、メタルヒーローのそれとあまり差異がなくなってきてる気もするが
353通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 22:12:16 ID:???
KIRAでジンの説明に「爛れた皮膚」とか入れたけど、ワームみたいなもんだと思って

カブトや剣の設定が元ネタだけど、石を投げないで………
354通常の名無しさんの3倍:2007/01/10(水) 23:41:42 ID:???
凸のライダーキックでなくてジャスティスキックでやられたシン君にライダーである資格があ(ry
(`・ω・´)
355通常の名無しさんの3倍:2007/01/11(木) 07:35:27 ID:???
最近のライダーは最強技がキックじゃなくて剣だから無問題
356通常の名無しさんの3倍:2007/01/11(木) 19:12:59 ID:???
エクスカリバーとかアロンダイトとかむしろ資格あるよな
357通常の名無しさんの3倍:2007/01/11(木) 23:59:57 ID:???
パルマフィオキーナとかすごくそれっぽい。
必殺技って感じがする。
358通常の名無しさんの3倍:2007/01/12(金) 00:27:47 ID:???
そいやパルマってどういう意味なんだっけ
359通常の名無しさんの3倍:2007/01/12(金) 00:47:23 ID:???
掌だったような………。パルマフィオキーナで掌の槍だったかな?
360通常の名無しさんの3倍:2007/01/12(金) 18:23:29 ID:???
このスレで実際のライダーでいう映画シナリオ考えてる人いる?
361通常の名無しさんの3倍:2007/01/12(金) 23:49:13 ID:???
映画じゃないけど、まだ始まって間もないのに続編なら考えてるw
ところで映画って本編のIFである場合が多いの?
俺は劇場版はまだ響鬼と555しか見てないんだけど。
362通常の名無しさんの3倍:2007/01/13(土) 00:24:20 ID:???
>>361
アギト:つながってないとも言えないはず、時系列がちょっと微妙だった気がするけど。
龍騎:タイムベントが起こしたタイムパラドックスによるパラレルかも。
剣:全アンデット封印から4年後が舞台なので、パラレルワールド。
カブト:ハイパークロックアップが起こしたタイムパラドックスによるパラレルかも。

だったはず。アギトは見たのがだいぶ前なんで記憶があいまいだけど。
363短編ネタ:2007/01/13(土) 11:41:17 ID:???
それは容易く砕け散った。
今のシンにとって最後の希望――ハイパーデュートリオンクリスタル。
緑の結晶が砕け散り、粉々になる光景を呆然と見つめていた彼に不快な高笑いが投げかけられる。
「はっははは……フハハハハハ!インパルス、貴様の運命を奪ってやったぞ!」
見上げた視線の先にいるのは五体の黒い巨人を従える男、ロード・ジブリール。
ロゴスのトップであり、世界を混乱に陥れ、多くの命を奪い、そして彼が守ると誓った少女を戦いへと駆り立てた男。
その男を見た瞬間、シンの折れかけた心に再び力が宿る。
――アンタは…アンタだけは、絶対に許せない!
ふらつく足に喝を入れ、懸命に立ち上がる。
傍から見ればその様は無様以外の何者でもない。
装甲のあちこちにはヒビが入り左腕は血まみれ、ヘルメットは半ば砕けてシンの生身の顔が露出している。
インパルスの統合武装ユニットであるシルエットチェイサーは、先の攻撃から主であるシンを庇って大破、機能を停止
していた。
対する敵は己の体躯の3倍以上はある巨人――デストロイが五体。
一体でもその力は強大で、もはや強化装甲の意味を成していないインパルスでは勝ち目の無い相手だ。

『絶望的』その言葉が今のシンにはぴったりの言葉だろう。

だが、それでも彼の目は死んでいなかった。
紅い瞳を燃え上がらせ、彼は眼前のデストロイとジブリールを睨みすえる。
許せなかった、多くの命を奪うジブリールが。
許せなかった、彼女の…強化されたステラの最後の姿と同じ存在であるデストロイが。
許せなかった、ステラを救えなかった自分自身が。
――だから俺は何も出来ずに倒れるわけにはいかない!
己の感情を吐き出すかのようにシンは叫んだ。
「たとえ刺し違えても、俺はアンタを倒す!!」
そんな彼をジブリールは嘲る。
「馬鹿め、その姿でどうするというのだ?
 最後の希望を託したハイパーデュートリオンクリスタルを砕かれた貴様に何が出来る!!
 貴様の運命はここで尽きるのだ、インパルス!」


「いや…その男はすでに運命を掴んでいる」

364短編ネタ:2007/01/13(土) 11:44:01 ID:???
その場に第三者の声が響いた。
声が発せられた先にいたのは金髪の少年。
「レイ!?」
「シン、これを使え……!」
レイが投げよこした物、それは緑色に輝く結晶。
「これは…レジェンドのクリスタル!?」
驚くシンにレイは告げる。
「お前にならできる…。俺に……お前が創り出す"運命"を見せてくれ!」
その顔は友の顔。自分を期待し、微塵も疑わずに信頼してくれている戦友の顔だった。
「愚かな、本来の持ち主ではない者がクリスタルを使いこなせるはずがなかろう!」
ジブリールが嗤う。
だが、シンは迷わなかった。
友が期待してくれている、友が信じてくれている。
迷う必要などどこにもない!
「変身!!」
ベルトのコアスプレンダーにクリスタルを装着する。
『realize』
短い電子ボイスが発せられた瞬間、シンの体は光に包まれる。
シンは獣のように吼えた。


その場の空間が光に包まれる中、レイは微笑む。
「そうだ…それでいい。お前は、お前の信じる道を行け…シン!」
そう言って、壁に寄りかかりながらくずおれた。
彼の体はすでにボロボロだった。
もとより歪んだ体、無理をして今まで戦ってきた、そして先の戦いにより致命傷も受けている。
もう長くない。だからこそ、自分の想いを戦友に託したかった。
始めは決して友好的とは言えなかった。
衝突も絶えなかった。
だが、それによってお互いを曝け出し、信頼できる間柄になれた。
未来の無い自分が、彼になら未来を託せると思えるようになった。
「ラウ……、今でも貴方の気持ちはわかる。けれど、俺はアイツに出会ってしまった。
 未来を、世界を信じられるようになった。だから後悔はしていません……」
虚空を見つめ、かつて慕っていた男に向かって呟くと、レイはそっと目を閉じる。
その顔は安らぎに満ちていた。
365短編ネタ:2007/01/13(土) 11:46:29 ID:???
「うぅおおおおおおおおおおおおおおおぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
シンの絶叫。
全身を引き裂くような痛み。内側から爆発しそうなエネルギーの奔流。
レイ専用に調整されたクリスタルは、本来の所有者でないシンを拒絶する。
だが、諦めるわけにはいかない。諦めてたまるか!
クリスタルの拒絶など知ったことではない、逆にねじ伏せてやる!
『c、cccc、chch、chcchacha、chan……』
その思いを胸に、シンは叫ぶ。
「俺に力を寄越せぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
瞬間、光が弾けた。
「ば、馬鹿な…!!」
ジブリールが驚愕の声をあげる。
光の中心点、そこには真紅の翼、やや暗みがかったトリコロールの装甲、どこか道化か血涙を思わせる顔をしたライダーがいた。
電子ボイスが静かに響く。
『change DESTINY!』
「ロード・ジブリール、俺はアンタを倒す!シン・アスカ、デスティニー行きます!!」
光り輝く翼をはためかせ、運命の名を冠するライダーが飛翔する!





以上、駄文終了。(既出ネタじゃないよね?)
なんだか突然電波を受信しちゃったよ。
元ネタはカブトのハイパーフォーム初変身、あの場面で「未来」を「運命」に置き換えたらカッコよくね?
みたいな感じで書いてみました。ほとんど共通点がなくなりましたが……。
ってかハイパーデュートリオンクリスタルって何だよ…、なんで緑色なんだよ…。
いや、しかしSS書く人はやっぱり凄いですね。あんな長文俺には無理です……orz。
366通常の名無しさんの3倍:2007/01/13(土) 11:53:30 ID:???
GJ!GJ!
カブトのあの場面、すげえ好きだ
ガタック爆死とか叩かれてた所もあるけど、あの一連のシーンは何度も見返してしまうぐらいカッコいい
俺もあの場面で、ハイパーカブトをデスティニーに変えて脳内妄想したよ、モロ光の翼出してるところとか
最後のキックの時の電子音は、「マキシマム・デュートリオン・パワー」みたいな感じで
367通常の名無しさんの3倍:2007/01/13(土) 20:20:40 ID:???
GJ!
最初のシーンでダチャーナサンを思い出したのは内緒だ。
デストロイ五体で響鬼を思い出したのも内緒だ。
ベルトがエラー起こすとこでファイズを思い出したのは(ry
368通常の名無しさんの3倍:2007/01/13(土) 22:48:33 ID:???
GJ!変身機構一つとっても色々工夫できるんだなあ、と思った。
369通常の名無しさんの3倍:2007/01/14(日) 13:35:33 ID:???
なんか次は『レイは仮面ライダーになるべきだ』になりそうな気がした

言っとくが俺は最初からクライマックスだぜ!
時刻(とき)を超えて、俺参上!
370通常の名無しさんの3倍:2007/01/14(日) 14:16:53 ID:???
モモタロス(声:関俊彦) ttp://www.81produce.co.jp/man/sekitosihiko.html
   ノ    ./:::ヽ、               l   
   r''"´    〈::::::::::`丶、__,,,.. -ォ   、   \   
   l    /´ヾl「 ̄ ̄`Τ´   ,'    \   ヽ   
  ノ    ノ::.r'7^゙、     l:   ,'\ l:....:. ヽ:.....:./   
. /    ゙y´ :{  ヽ    /ヽ   ...}イ |:::::λ:l::::::j   
. 〈       {l N-‐''゙   〈  〉    ヽl::::/リノ::: (   
  ヽ!:     リ、|  ,.-‐-、. `Y:| ィ'" ̄ヽリノ /:::::::: i   
   |l:    / ヽ_イ......._ノ   |:l ヾー┬''゙  /:::::::::: |   
   |l   ∧  ``T´     |!   _,」   〈:::::::::::: ',  時を超えて、オレ参上!   
.   }!.   { l',     ゙r──‐┬'"´ レ''"`7!::::: :: ヽ いっとくが俺は、最初からクライマックスだぜ!!!    
  ノ::.  l ドf ̄`ヽl ,_,. ===-、,   。 ,'::|!::    \   
 (:.:::::}    ト-゙、    {l::r'"`:i:'"`lリ  ゚ ノ::::'、:      ',   ttp://youtube.com/watch?v=7tAhtz2O_Vo 
.  ヽ::l:    !:::::::ヽ    ヾ、__,〃   ,イ:::::::::\   ト、i   
 /:::|:: | l:::::::r=辷_、  `二二´  /_」`!::::::::〈`   | リ   
./::::::::|:: |{ |::::::::ト----:\    ,ィ'゙二..イ::::::::::::ヽ   ,'   
.{_|:::::::l:::. ヾ`ー':::l:.:.:.:.:.:.:.:.:.、`''''''''i゙| 「:/| :.:.!:::::::::::::_ノ /  
3711/16 ◆orYN7qK/0E :2007/01/15(月) 01:24:17 ID:???
仮面ライダー衝撃(インパルス)

第十三話


長かった夜が明けた。日の光が、新たな惨劇の痕を照らし出す。
強大な力に耐え切れずに捻じ曲がった鉄筋が砂浜に突き刺さり、さまざまな瓦礫が転がり、重なり合い、不可思議な幾何学模様を構成する。
ユニウス沖の海岸は沈没時の高波にさらわれ、大きく様変わりしていた。夏休み、観光客でにぎわっていた時の面影は、もはやない。
不気味な存在感を放っていた人工島、ユニウスセブンも存在しない。何事も無かったかのように静かに揺れる海面、そこが、かつての惨劇の舞台だ。
ユニウスセブンの沈没、後に『ブレイク・ザ・ワールド』と呼ばれることとなる出来事の翌朝、ここら一帯の海岸を完全に封鎖した上で本庁とユニウス署による合同捜査が開始された。
それから、既にかなりの時間が経っている。はじめのうちこそ事態の大きさに圧倒された警官達も、次第に緊張感が薄れ、そこかしこで立ち話をしたり携帯電話をいじったりと好き勝手を始めている。
何しろ、一向にめぼしい成果は上がっていないのだ。見つかるものといったらガラクタばかり。これでは、だれるのも無理はないというものだろう。
そんな中、それでもマジメに、愚直に捜索をしていた一人の警官があるものに気付いた。

もとは、おそらくユニウスセブンの大地を構成していただろう、鉄筋の突き出た巨大な瓦礫が目に入る。だが、彼が注目したのはそんなものではなかった。
力なく地面に投げ出された白い手。この辺りは先ほどから何度も調べていたが全く気付かなかった。
慌てた彼はそこへ駆け寄る。
「大丈夫か!」
瓦礫の影に、十代後半くらいの、一人の少女が横たわっていた。少女はうつ伏せに倒れ、顔を半分砂浜に埋もれさせている。
白い顔は土気色に染まり、ピンク色の長い髪は砂と海水でひどく汚れている。
無駄だろうと思いつつも彼女を抱き起こす。身体中冷え切ってはいたが、かすかに胸が上下している。
「……生きてる?」
「う……ぅぅ」
思わず漏れた呟きに応えるかのように、少女が小さく呻いた。警官は通信機を取り出し、上司へと連絡した。

3722/16 ◆orYN7qK/0E :2007/01/15(月) 01:25:37 ID:???

オーブで迎える朝が、随分久しぶりに思える。実際は、たった一晩空けただけのはずなのに。だが、たったそれだけの間に随分といろいろなことがあった。
昨日イザークたちと別れたアレックスは、誰にも会うことなくすぐさまオーブに帰った。シンのことはもちろん気になるし、デュランダルに事の次第も聞いておきたかった。
しかし、休暇がギリギリだった上、フェリーの時間が迫っていた。それを逃したら確実に間に合わなくなってしまう。フェリーの中からレイたちの家に連絡したところ、無事の確認は出来たが。
帰還した彼をモルゲンレーテで待っていたのは、未処理の報告書の山だった。遠まわしな悪意さえ感じるほどの、とんでもない量だ。
これくらい、キラならすぐに終わらせるんだろうが。
現実逃避気味に親友の事を思い出して苦笑するが、これをやるのは自分だ。
必死でモニターに向かい、キーボードを叩き続ける。かろうじて終わらせた時には既に朝日が昇っていた。
一仕事終えたと思うと緊張が解け、どっと疲れが出てくるが申請した休暇は昨日まで。のんきに休んでいる暇などない。今日からはまた通常業務が待っている。
だが、このままでは仕事にならない。そう思ったアレックスは眠気覚ましに社内の喫茶室で熱く濃いコーヒーをすすっていた。
ここが二十四時間営業で助かった。そう思いながらホッと一息ついていると、不意に後ろから声をかけられた。
「前、座るぞ」
この怒っているようなぶっきらぼうな声は、間違いなくカガリのものだ。そういえば、オーブに戻ってから一度も会いに行ってなかった。業を煮やして、自分から会いに来たようだ。
手にはたっぷりと食べ物の載ったトレイを持っており、返事も聞かず、アレックスの目の前の席に陣取る。
席に着いたカガリはあらためてアレックスの顔を見た。よほど、疲れて見えたのだろう。途端に心配そうな顔になる。
「大丈夫か、アスラン?」
「ああ、大丈夫だ」
そう言って微笑み返すが、ひどく引きつった微笑となる。アレックス自身が気付いていないほど、彼は疲弊していたのだ。
それも、無理のないことだ。何しろ、昨日死闘を繰り広げてからずっと、まとまった休息は取っていない。せいぜい、帰りのフェリーの中で軽く仮眠をとっただけ。
いかに彼でも、これでは疲れないほうがどうかしている。

いくらなんでもアレックスが無理をしているらしいことは分かったが、それでも少し安堵したカガリはさっそく目の前の食べ物に集中した。
ここ、モルゲンレーテの喫茶室は、軽食のメニューも充実している。味もなかなかだ。何より、ドネルケバブがおいてあるのが素晴らしい。チリソース、というのもよく分かっている。
彼女は満足気に香ばしいにおいを放つ肉料理にかぶりついた。やはり、旨い。あっという間に一つ平らげ、二つ目に取り掛かる。トレイにはまだ他にも特大ホットドッグまでのっている。
「朝からよくこんなに食えるな。少し、食べすぎなんじゃないか?」
アレックスから呆れ気味の忠告を受けるが、全く応えていない。少し気を悪くしたように、口を尖らせて反論する。
「余計なお世話だ。お前の方こそそんなんで足りるのか?」
アレックスの目の前にはコーヒーカップが一つ置かれているだけだ。
朝食は一日の活力、身体の資本と考えている彼女にとっては、むしろその方が信じられない。
睨みつけ、あらためてアレックスの疲れきった表情を見たカガリは元気になってもらおうと、発破をかけた。
「よし、何ならこれをやる。食え」
彼の前に、大皿にのった特大のホットドッグを置く。

3733/16 ◆orYN7qK/0E :2007/01/15(月) 01:27:43 ID:???
「……いや、いい。それは君が食べてくれ」
胃もたれを起こしそうなほどの、香ばしいにおいが鼻をつく。見ているだけで胸焼けを起こしそうになったアレックスは、カガリの前にそれを押し戻した。
「遠慮をするな。奢りだぞ」
ホットドッグが帰ってくる。徹夜明けには、もう少し胃に優しいものを食べたい。
再度ホットドッグを返しながら、言う。
「疲れていて、食欲がないんだ」
「何でだ? 疲れているんならたくさん食べて力をつけるのが一番だろう」
心底不思議そうな表情で言うカガリに対し、アレックスは目眩を覚えた。
間違いなくカガリは風邪でも何でも食べて治そうとするタイプなのだろう。……そもそも彼女が風邪をひくところなど想像できないが。

ホットドッグが二人の間をさまよい、やっとカガリの前で落ち着いたころ、二人のテーブルに声がかけられた。
「やあ、カガリ。こんなところに何の用だい?」
「……ユウナこそ。社長ともあろう者がこんな所までわざわざ何しに来たんだ?」
笑いかけてきたユウナに対し、カガリはすげなく応える。彼は気を悪くした様子もなく、手に持ったコーヒーカップを誇るように掲げる。
彼ご自慢、外国製の最高級品だが、あいにくカガリもアレックスもその価値は分からなかった。
「いや、僕はコーヒーを飲みに来ただけだよ。愛用のサイフォンが壊れちゃってね」
そう言って、カップに口をつけて顔をしかめる。飲んではいないようだが、香りだけで判断してしまったようだ。
「う〜ん、いまいちかな」
やっぱりサイフォンで淹れたのしか口に合わない。うそぶきながら、カガリの隣へと歩み寄る。
「カガリ〜、よくそんなものが食べられるね」
「余計なお世話だ」
奇しくもアレックスと同じ事を言われたカガリはさらにむくれ、ホットドッグにかぶりつく。ユウナは呆れたように肩をすくめ、アレックスの方へと目を向けた。
「ところで、もう仕事は終わったのかい?」
「はい。つい先ほど」
「ふ〜ん、それならもう増やしてもよかったかな?」
残念そうな顔をみせ、冗談とも本気ともつかないような言葉を吐く。
「まあ、いいや。ご苦労さん。疲れているようだし、今日は午後からでいいよ」
「……はい? いや、しかし」
「部署には僕の方から言っておくよ。それじゃ、僕はこれで」
言うだけいって、ユウナは出口の方へと歩いて言った。すれ違う社員から挨拶されるたびに、如才なく応答する彼の後姿を見て、カガリはポツリと呟いた。
「何しにきたんだ……、あいつ」
「……さあ」
力なく答える。ひょっとして、自慢に来ただけだろうか。
何にしろ、少しでも余裕ができたのは助かる。仮眠くらいなら出来そうだ。仕事と引継ぎは、しっかりと済ませておきたい。後に迷惑をかけないためにも。
アレックスは懐にしまった封筒に、服の上から手を置いた。

3744/16 ◆orYN7qK/0E :2007/01/15(月) 01:28:47 ID:???
「けど、驚いたぞ。いきなりこんなものだけ置いて出て行ったんだからな」
カガリは手紙を取り出し、見せ付けるようにテーブルに置く。先日アレックスが残して言った書置きだ。
「すまなかったな、勝手に」
「いや、そんなことはいいんだ。お前の腕は知ってるし……、そのことについては心配していなかった」
「そのこと?」
他に、何か心配されるようなことがあっただろうか。不思議に思い、問い返す。
「……お前が、もう帰ってこないんじゃないかと思ってな」
「えっ? あ、その……すまない」
意外な答えにアレックスは動揺して視線を逸らし、口ごもりながらも謝った。
そんな彼をまっすぐに見つめて、カガリが尋ねる。
「もう、戦わなくていいんだろ?」
その言葉に、アレックスは無言のままだ。イザークの言葉が、シンの叫びが思い起こされる。

肯定の言葉をきたしていたカガリは返事がないのを不審に思い、彼の名を呼ぶ。
「アスラン?」
だが、その声も彼には届かない。何かを黙考している様子のアレックスをおもんばかって、カガリはそれ以上声をかけることなく、黙って待った。

やがて、アレックスはゆっくりと口を開いた。それは、カガリにとって思いもかけないような内容だった。
「俺は、もう一度アプリリウスに行く」
唐突な言葉に、カガリは目を丸くした。
カガリの表情に申し訳なさを感じつつも、アレックスは静かな、確かな決意を込めて告げた。
「俺一人、こんなところでのうのうとしているわけにはいかない」
「アスラン……けど、お前はもう……」
カガリはそこで言葉を切るが、言わんとしていることは分かっている。確かに、もう変身することは出来ないし、ZAFTはおろか警官ですらない。
戦うべき義務も理由も、何もないのだ。
「ああ。だけど、今でも戦っている奴がいるんだ」
イザークたちや、シンのように。ある意味では、デュランダル教授も戦いに身を置いているといえるだろう。
「俺が、いや、俺にも何かできることが、手伝えることがあるのかもしれない」
思いつめた表情で言うアレックスに、カガリは喉元まで出ていた反論の言葉を飲み込む。
「だいたい、関係ないといってそのまま放っておいて……もしそれで大勢の人が苦しむようなことになったら、今までしていたことが全て無駄になってしまう!」
意識しないままに激しい口調となってしまうが、それも仕方のないことかもしれない。
あの時墓参りに行って、あらためて思った。何もしないまま、誰かが死んでいく。あんなことは……
「あんなことは……、もう繰り返してはならないんだ」

3755/16 ◆orYN7qK/0E :2007/01/15(月) 01:30:14 ID:???

『いただきます』
食卓に座った四人は、マユが席に座るのを待って声を揃えて言った。
今朝も五人での朝食だ。マユが食事を作るようになってからは、ほぼ毎日ルナマリアたちは朝食を食べにきている。
シンはたまにぶつくさ文句を言ったりするが、食事は大勢で食べる方がいい。いつも一人で食事をしていたシンもそれは認めているし、別に本気で言ったわけではない。
それにマユも料理をつくるのが楽しくて仕方ないらしく、また料理の腕も上がってきている。おかげでルナマリアたちがさらに出入りするようになり、より食事の時間が美味しく、楽しくなっていく。
この騒がしくも楽しい食卓が、既に日常となっていた。

いち早く朝食を食べ終えたメイリンが、テレビを点ける。そろそろ芸能ニュースの始まる時間であり、メイリンはいつも欠かさずに見ていた。
『……ユニウスセブンについては警察は発言を控えており……』
テレビの画面で、お馴染みのアナウンサーが海――前方に見える展望台からしてユニウスの辺りらしい――の映像をバックに原稿を読み上げる。
「あれ? 何、このニュース」
朝食を食べ終わり、一息ついたルナマリアはテレビ画面を見て呟く。昨日も同じようなニュースを見たような気がしたのだが、思い出せない。
「お姉ちゃん、何言ってるの。ユニウスセブンが沈没したって昨日からニュースでガンガン言ってるのに あと、ご飯粒ついてるよ」
「え、そう?」
叱るような、呆れるような口調でメイリンが言い、口元を指摘する。ルナマリアは素早くご飯粒を口の中に放り込み、そっぽを向いてとぼけた。

じゃれあう二人をよそに、シンはテレビ画面に釘付けとなっていた。
やっと、報道されるのか。
あれから、既に一週間は経っている。それまでずっと情報操作でもされていたのか、ユニウスセブンと言う単語さえ聞くことはなかったが、どこかの新聞がすっぱ抜いたのが原因らしい。昨晩から急に取りざたされ始めた。
警察は無視を続けていたが、こんな大事、隠し続けられるわけがない。レイが今読んでいる今日の新聞でも一面トップだ。もちろん、MS関連の話など一切出てこない。すぐに、公式発表があることだろう。
それにしても……。
あの時以来、一度もMSが姿を現していないのか、穏やかな日々が続いている。気配すら感じることがない。おかげで、始まったばかりの大学の授業にも心置きなく出席できるし、みんなとバカもできる。
あれで、終わったのか?
ついそう思ってしまうが、それがありえないことはシン自身が誰よりよく知っている。少なくとも、あの時戦った三体は逃げ仰せ、シンを手玉に取った赤紫の奴もいる。
普通のMSとはかなり違うようだが、敵であることはまず間違いない。苦汁をなめさせられた、苦い記憶が甦る。
あいつら、今度こそけりをつけてやる。
シンは拳をつくって掌に叩き合わせた。小気味いい音が、居間に響く。

3766/16 ◆orYN7qK/0E :2007/01/15(月) 01:33:21 ID:???
「シン、どうかしたの?」
「あ……いや、何でもないよ」
女の勘という奴だろうか。怪訝そうな顔をしたメイリンが、シンの顔を覗き込むようにして言った。シンは慌てて手を振って否定するが、メイリンは全く納得していない。
「そう? 何か怖い顔してたよ」
突っ込まれて口ごもるが、メイリンはいきなり黄色い叫び声を上げてテレビの前へ猛ダッシュした。画面はいつの間にか芸能ニュースに切り替わっており、
オレンジ色の髪をした青年がマイクに向かって熱唱している映像が映し出されていた。
「きゃ〜、格好いい!」
テレビを独占したメイリンは正座し、はしゃいでいる。つい最近売り出したばかりの、メイリン一押しの新人だそうだ。
呆れながらもシンは安堵のため息をついた。これなら、間違いなく忘れてくれるだろう。
こういうときにうるさいルナマリアは、マユと何かを一生懸命に話し合っており、こちらのことなど気にも留めない。
どうも、今日の予定を話しているらしい。今日は土曜日で、休日だ。どこかに遊びにでも行くのだろうか。
マユはあの時以来、ルナマリアの事を『ルナお姉ちゃん』と呼んで慕っている。ルナマリアもそれを喜んで受け入れ、ことあるごとにマユを連れてどこかに出かけている。
それに、メイリンやレイたち、他のみんなとも仲良くなってきており、新しい生活にも馴染んできているようだ。
それが嬉しくないわけがない。けど……
シンはどことなく寂しげな表情で、二人を見つめた。

「今日は休みだし、少し遠出しようか?」
「はい! マユ、バイクに乗るの初めてで、楽しみです!」
本当に待ち遠しそうな様子で、マユが言う。その言葉に気をよくしたルナマリアは顔をほころばせる。
「う〜ん、どこがいいかな」
悩むルナマリアはふとレイの読んでいる新聞の紙面に目を止めた。
そういえば、あの辺も観光地だったわね。オーブは島国だし、海のこと嬉しそうに話してたし。
海が好きなのだろうか。
今日は土曜日だし、遠出するのもいいかも。
「それじゃあ、海でも見に行こうか」
それを聞いたマユはぱっと顔を輝かせる。
「え、いいんですか!?」
やはり、マユはすごく乗り気になっている。マユの反応を見ていたルナマリアもまた、嬉しそうに頷いた。

3777/16 ◆orYN7qK/0E :2007/01/15(月) 01:35:16 ID:???
そこへ、やや冷たげな声が投げかけられる。
「海って、ひょっとしてユニウスに行くのか?」
二人の会話を聞いていた、というより聞こえてしまったシンは、眉をひそめてルナマリアに聞く。
「そうだけど、なに?」
ここから日帰りで行けて、しかもきれいな海といったらユニウスの海だ。夏になると、全国から観光客が集まるほど有名なところだ。
まだ寒いこの時期でも、サーファーが練習していたりする。
きれいな海をみせたいと思うのは当然だろう。
だが、ルナマリアの返事を聞いたシンはしかめてしまい、ルナマリアを怒鳴りつけた。
「ユニウスセブンにだけは、あの近くだけは絶対行くなよ!」
「……なんで?」
ルナマリアが確実に温度を下げた目でシンを見やる。ルナマリアだけでなく、マユまでもシンを冷ややかな目で見つめた。
口ごもるシンに対し、ルナマリアはさらに追い討ちをかける。
「まさか、理由もなくダメだ何て言わないわよね?」

MSのことなんて、言えるわけないだろ!
シンは心の中で叫ぶが、うまく言葉に繋がらない。
「いやさ、危ないだろ?」
「どこが? もうとっくに沈んでるのよ。それに、本当に危なかったら解放してないわよ」
ニュースでは、解禁されたユニウスセブン沖の海岸に集まる野次馬達を映し出していた。確かにルナマリアの言うとおり、危険はないのかもしれない。
だが、MSはいつ現れるか分からないのだ。そんなところに、マユを行かせるわけにはいかない。
しかし、うまく説得出来るだけの言葉が浮かび上がってこない。仕方なくシンは再度、怒鳴りつけるようにして念を押した。
「と、とにかく……絶対行くなよ! 絶対だからな!」
「別に、行きたくもないわよ。けど、説明くらい……」
口を尖らせたルナマリアの言葉を聞くよりも速く、シンは部屋を出て行った。

「なんなのよ、もう」
開きっぱなしのドアを睨みつけ、ルナマリアはぼやく。それで初めて、今にも泣きそうな顔をしているマユに気付く。慌ててルナマリアはマユを慰めようとする。
「あ、ごめん。マユちゃんが悪いわけじゃないんだから……ね?」
「……でも、お兄ちゃん……」
「気にしないの。シンがああなのは前からなんだから」
「……はい」
返事をして、ドアを見つめる。その眼差しは、やはり寂しさをたたえていた。

3788/16 ◆orYN7qK/0E :2007/01/15(月) 01:39:36 ID:???
「本当にいいの?」
バイクの後ろに座り込んだマユに対し、ルナマリアが聞く。ケンカの原因のところに行くというのはどうにも気が進まない。にもかかわらず、
その問いにマユは頷き、あろうことか提案までした。
「はい。そうだ、いっそユニウスセブンの方まで行っちゃいましょうよ」
「え、いいの? シン、さんざん反対してたけど」
「いいんです。お兄ちゃんの言うことなんて気にしないで下さい」
頑として言い放つ。完全に意固地になっているようだ。やはり兄妹だ。こういうところはよく似ている。
こうなったらてこでも動かないだろう。仕方ない。
経験から、そう判断したルナマリアは嘆息し、タンデム用の白いヘルメットを取り出した。いつもはメイリンが使っている奴だ。
マユはそれを受け取って頭にかぶり、ベルトを締める。
「これ、ぶかぶかです」
ひさしの部分をつまみあげながら言う。まあ、メイリンでも少しゆるいくらいのサイズなのだ。仕方ないと言えば仕方ない。
その仕草に苦笑し、ルナマリアはヘルメットの上からマユの頭をポンと叩いた。
「ま、仕方ないわね。今は我慢して」
「わひゃ!?」
突然目の前が真っ暗になってしまい、驚いたマユは素っ頓狂な悲鳴を上げた。
いきなりで驚いたマユが手を離し、ヘルメットが落ちる。しかも、前の方に偏った落ち方をしてしまったおかげで、マユの顔は完全にヘルメットに埋もれてしまったのだ。
その様子を見ていたルナマリアは耐え切れなくなり、つい噴き出してしまう。
「う〜、何で笑うんですかぁ。ひどいです」
ヘルメットを持ち上げ、上目遣いでルナマリアを睨みつけてくる。しかし、どうにも迫力がなく、逆に愛らしく見えてしまい、またも噴き出してしまった。
「も〜、そんなに何度も笑わないでください」
「ごめんごめん。さ、行きましょうか」
「はわ!?」
ルナマリアは謝りながら、もう一度マユの頭をぽんぽん叩いてバイクに跨る。またヘルメットが落ちたマユは、再度悲鳴を上げた。

「どう、マユちゃん。二人乗りの感想は?」
信号で止まった機械に後ろを向き、ルナマリアが尋ねる。
マユがバイクに乗ったことがない、と言うのを考えて安全運転を心がけたつもりだったが、大丈夫だろうか。乗り慣れていない者にとっては、たとえ法定速度であってもかなりの負担となる。
マユはしかめっ面で、無言のままだ。さっきのあれで怒っているせいもあるだろうが、顔が変にこわばっている。風圧か何かで筋肉が硬直しているのだろう。
やはり辛いのだろうが、どうしようもない。
「あと、もうちょっとだから、もう少し頑張って」
憮然とした表情で無言のままだが、首をかすかに縦に振るのが見える。ルナマリアは満足気な笑みを浮かべて、前方に向き直った。

3799/16 ◆orYN7qK/0E :2007/01/15(月) 01:43:14 ID:???

アレックスは長期休暇扱いで、再度オーブを出た。
実際は退職願を出したのだが、ユウナの提案で長期休暇願に差し替えられた。それだけでなく仕事の引継ぎや、こちらへ来るための交通機関の手配等、雑多な手続の多くを向こうでお膳立てしてくれた。
出て行くのがそんなに嬉しいか。カガリと共に見送りに来た、ユウナの言葉を思い出す。
「何の心配も要らないよ。いやいや、頑張ってきてくれたまえ」
勝ち誇ったような、にやけた表情。邪魔者がいなくなってせいせいしているというのを隠そうともしない。
その隣にいるカガリは、申し訳なさそうな表情をこちらへと向けてくれるが、何も言えなかった。まあ、聞くべきことは既に聞いていたが。

今、アレックスはアカデミーの一室にいた。既に昨日、デュランダル教授との面会を求めていたのだが、結局会えず終いで今日もう一度訪れた次第だ。
彼も相当に多忙なようだが、昨日来ていたという事実が伝わっていたんだろう。今日はさほど待たされることもなく、彼と会うことが出来た。
部屋に入って来たデュランダルは開口一番、気さくな笑顔で謝罪した。
「やあ、アレックス君。いや、昨日はだいぶ待たせてしまったようで、申し訳ない」
「……いえ、こちらこそお忙しい中、お時間を割いていただき……」
「いや、いいんだよ。私も君とじっくり話をしてみたかったからね。ところで、今日はどうしたのかな? 君はあのあとオーブへ戻ったと聞いていたが……。
そうそう、ユニウスセブンにも行ったそうだね。その話も、いくつか聞かせてもらえるかな」
「はい」
もちろん、そのつもりだ。自分自身、あの後どうなったかを聞いておきたい。

アレックスの話は、カオスたち三体との戦闘のところまで進んだ。
「ユニウスセブンにいたMSはほとんどがジンの亜種でしたが、あの三体は明らかに系統の異なるものでした」
三体のMSの話にいたく興味を惹かれたらしい。デュランダルはしばし黙考し、デスクから何枚かの写真を取り出した。
「その三体というのは、もしかしてこれのことかな?」
おそらく、監視カメラの映像をプリントアウトしたものだろう。きわめて画質の悪い数枚の写真が目の前に差し出された。アレックスはそれらを手に取り、凝視する。
特徴的な角、MRにも通ずるシルエット。見間違えるはずがない。あの三体だ。アレックスは確信をもって答える。
「はい。間違いありません」
「ふむ。それらは順に、カオス、ガイア、アビスというコードネームが与えられているそうだ。以前はアーモリーワンで目撃されたそうだが。そうか、こちらにも現れたのか」
「何故、そんな事を?」
MSに関してのことは警察内部でも一部の人間にしか知らされていない、極秘事項のはずだ。いくら専門家とはいえ、一介の民間人がこれだけの情報を保持しているなど、考えられないことだ。
しかしデュランダルは彼の問いには答えず、あいまいに微笑んだ。

38010/16 ◆orYN7qK/0E :2007/01/15(月) 01:46:01 ID:???
「そんなものまで現れたにもかかわらず、被害は最小限か。彼らが助かったのは、君のおかげだな。ありがとう。私からも礼を言わせてもらいたい」
「あ……いえ、その……私だけの力ではありません」
「しかし、君がいてくれたおかげで助かった命があるのは事実だ。イザークからもそう聞いているよ」
「イザークが!?」
意外な人物の名前が出て、アレックスは戸惑う。そんなアレックスの反応を楽しむように、デュランダルは続ける。
「うむ。君がZAFTに戻るのに手を貸してやって欲しいとも頼まれているが……君はどうするつもりなのかな?」
イザークは既に行動を起こしていた。それも、自分が帰ってくると信じて疑わない。彼の信頼が、胸を熱くさせる。
これで、決意は固まった。
「私にも出来ることがあるのなら、それを為すべきだと思っています」
「そう言ってくれて嬉しいよ。しかし……」
意外にも、デュランダルはあまり乗り気では無いようだった。疑わしげな表情を向けるアレックスをよそにどこかへ電話をかけ、突然にドアへと向かう。
「いっしょに来てくれるかね? 君に、見せたいものがあるんだ」

通された倉庫の中心、一台のバイクがライトを浴びて佇んでいる。
直線的なラインで構成された、地味な鉄灰色をした大型のロードバイクだ。見事なつくりだが、見た目だけでは分からない、底知れないパワーを感じさせるマシンだ。
「これは……!?」
「ライドセイバー。警察から提供された試作機を元に改良されたものだ。これを、君に託したい……と言ったら君はどうするかね」
「……どういう、ことですか?」
ZAFTに戻ることに難色を示しながらも、このバイクを託すと言う。デュランダルの行動は、とても一貫性があるようには思えなかった。
「言葉どおりの意味だよ。何しろ、これは変身能力を持つ者の専用車として開発されたものだからね」
「しかし、今の私は……」
変身能力は既に失っている。こんなものを託されたところで、宝の持ち腐れだ。
だが、その言葉を聞いてもデュランダルは柔らかな微笑を崩さずに言った。
「私も、君と同じだよ」
「え?」
「私も、この状況を何とかしたいと思っている。しかし、私には君のように戦うことは出来ない。だから、せめて思いを同じくする者には共に立ってもらいたいのだ。そのためにも……」
そこで、デュランダルの携帯電話が震動する。彼は話を中断し、「失礼」と言って電話に出た。いくつか話をした後、携帯電話を再び懐にしまう。
「すまない。人と会う約束があったのを忘れていた。残念だが……」
これで話は終わり、と言うことだろう。いかにも残念そうに告げる。
「……そうですか」
アレックスとしても残念だった。一体デュランダルは何を言いかけたのか、それだけでも気にかかる。そこへ、ふと思いついたかのようにデュランダルが口を開いた。
「そうだ。君も一緒に来ないか? 是非、彼女には君も会ってもらいたい」
「彼女?」
その言葉にアレックスはなぜか引っかかるものを覚えるが、もちろんついて行くつもりだった。
何しろ、デュランダルがそこまで言う相手なのだ。アレックスとしても興味がある。

38111/16 ◆orYN7qK/0E :2007/01/15(月) 01:48:07 ID:???

かつて、人工島を臨んでいた展望台はいまや大変なこととなっていた。人、人、人の大洪水。この時期にしては、異常なほどの混み方だ。
ユニウスセブン沈没の報を受け、それを一目見ようと野次馬たちが集まっているのだ。
駐車場も満車寸前だった。ぎりぎりで滑り込めはしたものの、余りの人の多さに辟易する。また、ルナマリアにはもう一つ、厄介ごとがあった。
「マユちゃん、いつまでも怒ってないでいいかげん機嫌直してよ」
「怒ってなんかいません!」
声を荒げて否定する。ヘルメットが大きいのをからかってからずっとこの調子だ。
やっぱり、怒ってるじゃない。このままだと、後味悪いし、どうしようか。
悩んでいたルナマリアは、甘い香りや香ばしいにおいに気付いた。観光地で、しかも休日なだけあって、移動販売車や屋台などがひしめいている。
ルナマリアはマユに向け、猫なで声をつくって言う。
「そうだ、何か食べたいのとかある? ルナお姉さんが何でも好きなのおごっちゃうわよ」
マユも甘いものが大好きだ。そのうち、そのうち、メイリンと三人で食べ歩きをしようとも約束している。この言葉を、マユが無視できるはずはなかった。
視線を逸らしたマユは無言のままだったが、予想通り、身体がビクッと反応する。手ごたえありと見たルナマリアは、さらに続ける。
「おいしそうなクレープが売ってる。あれは、ソフトクリームかな。ホント、おいしそうね〜」
うずうずと震えている。駄目押しに、わざとらしい口調で言った。
「あ、屋台が動いた。いいのかな〜。このままだとなくなっちゃうな〜」
ルナマリアはいきなり腕を掴まれた。マユが手を握り、つくったような笑顔を向けてくる。
「ルナお姉ちゃん、早く行こ!」
変わり身のはやさに苦笑しながら、ルナマリアはマユに引っ張られていった。

38212/16 ◆orYN7qK/0E :2007/01/15(月) 01:53:20 ID:???

人の余りの多さに疲れたように、壁に寄りかかる。赤い瞳の少年は展望台を見上げ、ぼそっと呟いた。
「別に、何もないのかな」
ルナマリアと話しているうち、シンはあらためてユニウスセブンのことが気になってしまった。
しかし、何もおかしな様子はない。
「取り越し苦労だったかな」
口に出してみるが、自分がそれを一番信じられなかった。あれだけのことがあったのだ。何か起こっていてもおかしくはない。いや、むしろ何も起こっていないことの方がおかしい。
そう思ってここまでバイクを走らせたのだが、何もなかった。
そう、不自然なほどに何も。それが、逆に気にかかる。
もう少し調べてみよう。取り越し苦労ならそれでもいい。シンがそう思った、その時だった。
腹のベルトが何かを訴えかけてくる、実に一週間ぶりの不快な感覚。
あいつら、やっぱり!
ここからすぐ近くだ。人ごみを掻き分け、シンは気配の指し示す先へと向かった。

立ち入り禁止を示す、黄色いテープをかいくぐる。
波が荒く、足場の非常に悪い岩礁地帯。ユニウスセブン沈没前からずっと立ち入り禁止だったのは、まず間違いないほどの危険な場所だ。
そんな所を、シンはためらいもなく進んでいく。不安定な足場にもかかわらず、彼の足取りは全く危なげない。
もともと運動は苦手ではなかったが、変身できるようになって以来、身体能力がさらに向上していた。しかも、最近はリハビリの時と同じメニューでトレーニングも始めている。
そんな彼にとってはこの程度、何の障害にもならなかった。
軽々と、目の前の岩を跳び越える。着地したところで、シンの右足が何かに当たった。
それは、ひっくり返ったクーラーボックスだった。その先で何匹かの魚が元気に跳ねている様子を見ると、余り時間は経っていないらしい。さらに先には、釣り道具が散乱している。
どうやら、立ち入り禁止区域であるのを無視してここで釣りをしていたらしい。確かに、立ち入り禁止のここなら魚もたくさん釣れるだろう。だが、肝心の釣り人の姿がどこにもない。
シンは再び気配を感じ、振り返った。そして、ある一点を睨みつける。ずんぐりとした丸いシルエットの、まるで蛙を連想させるような姿をした緑色のMS、アッシュが爪を鳴らしていた。
その足元には、生気のない人間の手が力なく投げ出されていた。まるで、助けを求めるように投げだされたその手を見て、シンは頭がカアッと熱くなるのを感じた。

飛び掛ってくる巨体をかわし、背中に蹴りを入れる。アッシュはつんのめるが、ダメージなど全く与えられていない。もとよりシンもそんなものははじめから期待していない。
少しでも、隙がつくれれば充分だ。
シンは闘志を込めて右手を前に掲げた。腹部に、赤い光を放つベルトが現れる。
「変身!」
叫びと共にシンの身体は灰色のインパルスへと変わり、すぐさま赤へと変化させる。
シンは右手にエクスカリバーを構えて跳躍、落下の勢いをも加算して振り下ろす。しかし、アッシュは頭上で両腕の爪を交差させた。
38313/16 ◆orYN7qK/0E :2007/01/15(月) 01:57:47 ID:???
左腕に刃が食い込むが、そこまでだ。引くも押すも出来ない。
動きが止まった隙に、アッシュはその巨体を利用して体当たりを仕掛けてくる。突進をまともに受けたシンはたまらずにエクスカリバーを取り落とした上、吹き飛ばされてしまった。
倒れたシンを貫こうと、アッシュは爪を突き立ててくる。シンは横に転がるように避け、左手を着いて立ち上がった。
丸腰では、どうしようもない。起き上がったシンは首を巡らせ、エクスカリバーを探す。
すぐに見つかった。アッシュのすぐ後ろだ。
シンは構えを取りながら、徐々に間合いを詰める。
エクスカリバーがない以上、どうしても決め手に欠ける。なんとしてでも、取り返さなければならない。
シンが動きを止めた瞬間、アッシュが接近し、爪を煌めかせた。鋭利な爪が二度、三度とシンへ襲い掛かる。
腕の部分を受け止め、腹部へ拳を叩き込む。だが、大した効果はない。逆に、もう片方の爪が懐にいるシンの肩を切り裂いた。
だが、シンはそれにも構わずアッシュの脇を前転、エクスカリバーをへと手を伸ばした。
そこへ、アッシュが両腕を振り下ろす。二対の爪が、シンに背中から襲い掛かった。

激しい金属音。振り返ったシンはエクスカリバーを分離させ、二本の剣で爪を二つとも受け止めたのだ。しかし、力はともかく体勢での分が悪すぎる。
押され気味のインパルスは前蹴りをアッシュのボディへと叩き込んで後方へ跳躍、強引に距離をとった。
着地し、再びエクスカリバーを合体させ、ベルトの力を流し込む。右腕を通して、刃にエネルギーが充ちていく。
アッシュが雄叫びを上げつつ突進してくる。インパルスを貫こうと、両腕の爪を突き出すが、この足場の悪さでは、突進力を活かせない。
エクスカリバーが横なぎに一閃させられ、爪ごと両腕を切り飛ばす。
「うおおおぉぉぉっ!」
さらに、縦一文字に振り下ろす。強大なエネルギーを受けた刃がアッシュの頭頂を切り裂き、前方へ抜ける。
シンが背を向けるのと同時に、アッシュは爆発、炎に包まれた。

これで、倒せた。シンが思ったその時だった。
またも、不快な感覚が全身を突き抜ける。腹部のベルトがMSの存在を告げたのだ。
「くそっ、まだいるのかよ!」
シンは毒づいて駆け出す。その先に待ち受けるものを、知ることなく。

38414/16 ◆orYN7qK/0E :2007/01/15(月) 02:00:24 ID:???

結局ルナマリアはクレープを奢ることになった。甘い匂いが漂い、マユはにんまりとした笑顔を浮かべる。
まず、一口。甘味を噛み締めるようにゆっくりと口に含んだマユは、今度は幸せそうな笑顔になった。なんとなく、見ているこっちまで嬉しくなってくる。
「あの、ルナお姉ちゃんも食べます?」
口元にクレープを差し出しながら、マユが言った。ずっとマユの顔を見ていたのが、物欲しそうに思われたのだろうか。
「い、いいわよ。それはマユちゃんが食べて」
「そうですか。遠慮してません?」」
ルナマリアは慌てて手を振って否定するが、マユは疑うようにわざわざ念を押してくる。そんなに意地汚く見られたのだろうか。
軽く落ち込みながらも、苦笑いを浮かべたルナマリアは取り繕うように言った。
「遠慮なんかしてないって。私のことは気にしないで。それにしても……」
辺りを見回す。クレープをくわえたまま、マユが不思議そうな顔で見つめてくるのに気付き、言葉を続ける。
「それにしても、何もないわね」
マユは同意するように頷いた。喋らなかったのは、口がクレープでふさがれていたからだ。

本当に、見事なまでに何もない。はじめのうちこそ以前の写真と見比べて面白がっていたが、それもすぐに飽きてしまった。そもそも、こういうものは一度見ればそれで充分なのだ。
ずっと変わり映えのしない景色を見ていても、仕方ない。
「もう、帰ろうか?」
クレープを平らげ、満足そうな表情を浮かべるマユに訊く。マユは答えようとして、口を開きかけたが、それはすぐに閉じられた。
「それじゃあ……!?」
マユの顔が硬直する。何があったのか、急にそわそわし始める。
「ん? どうかした?」
「いえ……、何でも」
自分自身、何が何だか分からない様子で首を傾げる。
その時だった。海のほうがにわかに騒がしくなったのは。

海面に、不自然な波紋が刻まれる。海を眺めていたうちの一人が、それを指差した。
他の人々も釣られて身を乗り出し、転落防止フェンスが歪む。
人々が注目する中、波紋の中心にピンク色の輝きが生まれた。
次の瞬間、そこから緑色の巨体が飛び出し、眼下の岩礁へと降り立った。
「か、怪物!?」
見物客の一人が叫ぶ。緑色の巨体、アッシュはその声を聞きつけたかのように、一つ目を上へ向けた。
岩場から人々がいる展望台のふもとまで、大した高さはない。アッシュは鋭い爪をコンクリートで固められた壁面に突き立てた。そして、さらに上にもう一本の爪を突き刺す。
「の、登ってくる!? 殺されるぞ、逃げろぉっ!」
誰が言ったのか、恐怖に彩られた叫びでパニックが起こった。野次馬が、当事者となってしまったのだ。人々はわれ先にここから逃げ出そうと、誰もが必死の形相で駆け出した。
母親とはぐれた子供の泣き声、悲鳴、怒号、罵声が飛び交う。アッシュが辿り着く前から既に、地獄絵図のような光景が広がっていた。

38515/16 ◆orYN7qK/0E :2007/01/15(月) 02:04:18 ID:???
そんな中でも、ルナマリアは比較的冷静だった。幸か不幸か、MSと遭遇するのはこれで三度目だ。もちろん驚いてはいるのだが、パニックも起こさずに落ち着いて行動できる。
海沿いから離れていたおかげで、人の流れにも巻き込まれずにすんだ。
とにかく、逃げなくては。マユの手を引き、ここから離れようとする。しかし、マユは地面に根が生えたようにその場から動かなかった。
「マユちゃん!?」
振り返って、マユの様子を見る。
瞳は大きく見開かれ、唇は真っ青になり、がくがくと震えている。自分の両肩を抱くようにして、地面にしゃがみこみ、怯えきった様子で縮こまっていた。

程度の差こそあれ、あんな怪物は誰だって怖いに決まっている。しかし、マユの怖がりようは尋常じゃなかった。
ルナマリアはマユの肩を掴み、揺さぶりながら呼びかける。
「マユちゃん、どうしたの! マユちゃん!?」
返事はない。
そうこうしているうちに、海のほうから異音が轟いた。壁を登りきったアッシュが、地面に降り立ったのだ。
一つ目は展望台の周りを見回し、ルナマリアたちのところで固定された。近くに、いたせいだろう。
そのまま、緑色の巨体がゆっくりと迫り来る。
さすがのルナマリアも顔面蒼白となった。マユの腕を掴み、強引に立たせようとする。
「逃げるわよ、マユちゃん!」
だが、いくら必死に呼びかけても、腕を引っ張っても、マユはビクとも動かなかった。

既に、MSは目前に迫っている。今さら逃げようと、もはや間に合わないだろう。、
せめてマユだけでも守ろうと、ルナマリアは屈み込んでマユを抱きしめた。アッシュに背を向ける格好だ。
誰か!
ルナマリアはきゅっと目を瞑り、一際強くマユを抱きしめた。

「だあっ!」
激しい気合、重い衝撃音が響き渡る。
生きている。痛みも何もない。恐る恐る、ルナマリアは目を開いて振り返った。
MSから二人を守ろうと立ちはだかる、青い背中が彼女の瞳に映った。
それが、こちらを振り向く。刹那、赤い瞳が二人を見つめた。

シンは一瞬振り返って、二人の無事を確認する。
ルナマリアが庇っていたおかげでマユの様子は分からないが、少なくともルナマリアに怪我はないようだ。これなら、マユも無事だろう。
心の中でホッと息をつき、シンはルナマリアにそっと感謝した。
ルナ、マユを守ってくれてありがとう。今度は、俺が二人を守る!
決意も新たに、シンはアッシュへと突撃する。

振り回される爪をかいくぐり、拳を繰り出す。だが、厚い装甲に阻まれ、効果は薄い。
緑色の巨体が、インパルスへと突っ込んでくる。青い身体はその跳躍力、瞬発力で横に跳んでかわす。着地すると同時に強く地面を蹴ったインパルスは、アッシュの頭部へとび蹴りを喰らわせた。
しかし、それでも大したダメージは与えられていない。地に手を着き、着地した直後のインパルスへ爪を振り下ろす。鋭い爪はコンクリートを抉り取るが、インパルスにはかすりもしなかった。

38616/16 ◆orYN7qK/0E :2007/01/15(月) 02:07:41 ID:???
「あ、ああ……」
小さく、慟哭の声が漏れる。インパルスとアッシュの戦いに目を奪われていたルナマリアは、その声にはっとする。
「マユちゃん、気がついたの!?」
問いかけるが、マユの目にはルナマリアは映っていない。唇をわなわなと振るわせ、瞳は恐怖で埋め尽くされていた。

頭の中に、失われた記憶が鮮明な映像となって甦る。
青い翼が、光を放つ。
怪物に押しつぶされ、四条の光に貫かれた両親。
大量の血を流し、倒れる兄。
迫り来る、怪物たち。
それらの恐怖が形となって、奔流のように頭の中に流れ込んできた。
「イヤ……、イヤアアァァァァァァッ!!!」
喉を引き裂くような絶叫が響き渡る。

突然聞こえてきた叫びに動揺し、振り上げた拳が止まった。
その隙にアッシュが反撃してくる。鋭い爪が、強靭な腕が次々とインパルスの身体をさいなんでいく。
だが、シンの頭の中からは、MSの存在など既に消え去っていた。これだけの攻撃も、蚊の羽音のようにわずらわしいだけのものだった。
マユが大変なことになっている。こんな時に……。
「じゃまだぁっ!」
左の爪をかわしながら跳躍し、膝蹴りを叩き込む。アッシュが怯んだ瞬間、右、左と連続して拳を振るう。
突然の反撃に戸惑うアッシュは苦し紛れの一撃を振り下ろす。だが、シンはそれを受け流して懐にもぐりこみ、さらに連続して拳を叩き込んだ。
続けざまの衝撃にアッシュがあとずさったところへ、とどめのストレートキックをめり込ませた。緑色の巨体は後方へ吹き飛ばされ、倒れ込む。

倒れたアッシュになど目もくれず、シンは愛しき妹のもとへと駆け寄ろうとした。右手を伸ばし、差し伸べようとする。
だがその手は拒絶された。思いもかけない言葉が叩きつけられる。

「イヤッ、来ないで! 殺さないでぇっ!」
怯えと恐怖で染まった瞳が、シンへと向けられる。

あまりのことに、シンは頭が真っ白になった。
マユは、何を言ってるんだ?
右手を所在無げに上げたまま、一歩一歩、たどたどしい足取りであとずさっていく。

それを見て、マユはさらに怯えてしまう。半狂乱になり、髪を振り乱してじたばたと暴れ出す。
「助けて、お父さん! お母さん! お兄ちゃん!!」
声を振り絞って叫んだのを最後に、マユの意識は、暗い闇の中へと沈み込んでいった。
387衝撃(ry/16 ◆orYN7qK/0E :2007/01/15(月) 02:13:39 ID:???
どうも、お久しぶりです。
しばらく見ない間にスレが活気付いてて嬉しい限りです。

>>360
考えてます、思いっきり……。
>>236を見てたらつい……。
いつになるか分かりませんが、できたら投下したいと思っています。
388仮面ライダーKIRA:2007/01/15(月) 02:53:36 ID:???
PHASE-02 その名はライダー

崩された街の平穏。人々は傷つき、中には倒れたまま動かない人もいる。そんな中異形の存在が2つあった。
「キシュゥゥ………」
明らかに人とは違う一つ目の怪物と人だったものが別のものに変わった謎の存在。
「これは……どういう事なんだ!?」
キラは突如このような姿に変わっていて驚く。いったい………そうだ、ベルトを付けて、光に包まれて……仮面ライダーストライクになった。
「何やってるんだ!?早くあいつと戦え!!」
「え!?え?」
確かに奴を倒すためにバックルを手にしたんだが、後先考えなかったのでどうしたらいいかわからない。
「キシュゥゥ!!」
ジンは機銃を向けた。射線上にはカガリがいる。ストライクはカガリの前に立ち、撃たれた銃弾をその身に受けた。
「うわぁぁ!!………あれ?」
痛くない。まるで装甲が弾いたように痛みは感じない。
「これは……よし!!」
ストライクはジンに向かって走っていく。撃ってくるが心配はない。上手く避け、拳を一撃お見舞いする。
「ジヤァァ〜」
「ぅおおおぉぉ!!」
がむしゃらに殴り、また蹴っていった。ジンはよろける度にストライクの蹴りで飛ばされた。
「グゥ………シュウ……」
ジンは機銃を捨て、腰にある剣を取った。キラはそれに驚いて一歩よろめいた。その隙に間を詰められ、剣撃を浴びた。
「あ………うわァァ!!」
あまりダメージはないがやられすぎてもよくない。
「武器は………」
脳内に伝わってくるストライクの構造。腰にあるナイフ、アーマーシュナイダーを確認した。ストライクは手に取り、構えを取った。
「お前……こんな所で………やめろッォーー!!」
右ので一突き。左ので一突き。ジンがよろけたら両手のアーマーシュナイダーを胸に向けて刺した。
「ギシュ……ジヤァァーー!!」
ジンは爆発し、火柱が昇る。カガリはその火の中に立っていたストライクに見とれていた。
389仮面ライダーKIRA:2007/01/15(月) 02:54:46 ID:???
「えと………大丈夫?」
戦いを終えたキラはカガリを起こそうと近づいていった。が、そこへ赤い装甲をしたものが入り込んできた。
「!?!。何だ……?」
「…………」
赤いものはいやおうなしに腕にある剣でストライクを斬っていった。
「どわぁ!!何をするんだ!?」
「カガリに手を出させるわけにはいかない………」
「!?。その声………」
良く聴く声だ。しかも毎日。その間に赤いものはストライクとは色違いのバックルに手を向けた。そしてバックルを開いて番号を撃ちこんだ。

゙X-303・ライダースラッシュ゙

「ライダースラッシュ!!」
彼の両腕にほとばしるエネルギーを感知したキラはアーマーシュナイダーをさっと構えた。相手は跳んでストライクに斬りかかった。
「はあぁぁぁーー!!」
刄が迫る。キラ自身受けきれないことを悟っていた。
「バカ!!そいつはキラ・ヤマトだ!!」
「!??」
それを聴いて動揺したおかげで深く斬られなかった。しかし衝撃は重く、キラの意識は飛んでしまった。


「………ここは……」
眼が開く。つまりは生きてる。どうやら白い部屋なので病院か医務室っぽい。
「誰もいないのか?」
キラはベッドから降り、その部屋を出て歩き回った。だが、途中で会う人は一定の制服を着ていた。
「ここは病院じゃない……」
390仮面ライダーKIRA:2007/01/15(月) 02:56:25 ID:???
暫らくして何やら近未来的な扉を見つけた。キラが扉に近づくと開き、その全貌を見せ付けた。
「これは……」
中は広く、ある人はパソコンを打ち、ある人はメモを取っていたりした。
「あら?もう起きたの?」
振り向くと見知ってる顔があった。そう、ほぼ毎日顔を合わせる。
「マリュー先生……どうして?」
さっきから会う人が着ていた服を着用し、中央の椅子に座っていた。
「驚くのも不思議じゃないわ………ライダーになって、目覚めたら急に先生達がこんなとこにいるんだからね」
「先生達?マリュー先生だけじゃ……」
見渡すと体育のムウ先生、副担で数学のナタル先生、日本史のバルトフェルド先生。しかも生徒までいるように思えた。
「あれはアサギ、ジュリ、マユラ………トールにミリアリア??」
「あ、キラ………おう……」
「どういう事なんだ!?説明してよ!?」
そう言うと入り口から入ってきたのはなんとカガリとアスランだった。
「アスラン!?………と………」
「カガリだ!!」
怒り口調で言うカガリ。対しアスランは暗い顔だった。
「キラ……すまなかった……」
「やっぱり君だったんだね……」
さっきの赤い装甲をしたもの正体。それは親友のアスラン・ザラ。驚愕よりもショックのほいが大きい。
「あれは………カガリを襲ってると見えて……すまない。だが、お前が仮面ライダーになったとはな」
「仮面……ライダー?」
391仮面ライダーKIRA:2007/01/15(月) 02:57:26 ID:???
そんな特撮のヒーローみたいな名前………でも実際に自分はなった。否定はできない。
「正式名称はマスクドライダーシステム・モデルGATだ」
バルトフェルドがバックルを2つ持って近づいてきた。その内一つはトリコロールカラーのバックル、もう一つは赤い色をしたバックルだった。
「さっきキラが変身したのはストライク、俺はこっちのイージスだ」
「ストライク……イージス……」
「ライダーシステムは対ZAFTのために作られたシステムだ」
「ZAFT?さっきの、怪物の事ですか?」
バルトフェルドはコクリと頷くと話を始めた。
「今から16年前の2月14日………知ってのとおり、゙血のバレンタイン゙のあった日だ。
あれの原因となったユニウスセブンには宇宙生命体が潜んでいたんだ。」
「それが……ZAFT……」
「ああ。奴らはずっと活動をしていなかった。だが1年前から急に再開したんだ」
意外と活動していたのは少なかったとは。だがキラが驚くのは違う場所だった。
「奴らは人間を襲っている。それは殺すだけではなく、捕食もするからという事がわかっている」
「捕食!?」
喰う?人間を?。バルトフェルドは話を続けた。
「そして上級の奴は人間に擬態し、人間として住み着く者もいる。現在は見分ける手はわかっていない」
もしかしたら自分の近くにいる人でさえZAFTかもしれない。そう考えると悲しくなってきた。
「でも……僕は一緒に戦えません……。あの時はただ……カガリを守りたいだけで、それに一生懸命だったんで……」
これまた意外な答えが返ってきた。協力してくれるとばかり思っていたが、上手くはいかない。
392仮面ライダーKIRA:2007/01/15(月) 02:58:38 ID:???
ピーピー

「ラミアス指揮官、ZAFTの反応をヘリオポリス住宅地でキャッチ。ライブラリー照合、ジンです。数は4」
「わかったわ。全員配置に着いて。アスラン君は迎撃に向かって!!」
「わかりました」
アスランはイージスバックルを手に取り、向かっていった。
「………あの住宅地は……」
そう、確か、確かフレイの家の近くだ。キラはストライクバックルを手にして走ろうとしたが、バルトフェルドに呼び止められた。
「どこへ行く?」
「どこって………あそこには友達が……」
「友達が助かれば他の人は死んでもいいのか?」
核心を突かれた。そう思ってるわけではないが、言い返せない。
「いいか?一人助けるという事は他人をみんな助けるという事だ。覚悟を決めろ、キラ」
「僕は………」


「きゃああぁぁ!!」 「うわあぁぁ!!」
悲鳴が住宅街に響く。逃げ惑う人々の中に、人間とは容姿が違う存在が3体。2つはジンだが、もう1つは少し違っていた。
「お前達は左へ行け」
ギィィ、と鳴きながら言われた通りジンは2体ともそいつから離れていった。やがて人間の容姿へと姿を変え、ビルの上に跳んだ。
「ヘリオポリスか………さあ、いい゙餌゙がいるかな?」
その者は仮面を付けていて、人間のままでも異彩を放っていた。


銃弾が交差する。ゴーグルが特徴の゙ダガー式゙ヘルメットやマシンガンをはめて戦う人間と強靱な生命力を持ってしてその銃弾を抜けて走っていくジン。
「シャアァァ!!」
「た、助け……ギャア!!」
ジンのマシンガンには防弾チョッキはほぼ無力で、次々と兵士達は倒れていった。
「チィ……」
その兵士の中にはムウの姿があった。彼は小部隊の隊長に任されている。
「こうなりゃ………変身!!」
腕にはめていたブレスレッドを捻るとムウの体にライダーに比べるとやや貧相だが装甲が着いた。
「うりゃぁぁ!!」
393仮面ライダーKIRA:2007/01/15(月) 03:08:33 ID:???
右手と左手は完全に回転式バルカン砲となっていた。その銃弾はジンの体を貫いていく。
「ぎしゃあ……ギィィ……」
「よし、とどめだ。ん?」
何か感じる。が、突如背部を斬りつけられた。振り向くと先程の別の容姿の怪物だった。
「シグー?………いや、ラウ・ル・クルーゼか?」
「よくわかったな。お前が私を感じるように、私もお前を感じるよ……不幸な宿縁だな」
「くそ……」
もろにくらい、動けない。
「メビウスタイプのアーマーでもこれはきつかろう?すぐ楽になる……」
剣を上に向けてクルーゼは少し笑っていた。そこに少女の悲鳴が入った。
「ん?おやおや……」
「何?あの……化け物………
ガタガタと震える足。そう、彼女はフレイだ。逃げる途中に道を逸れたらここに出てしまった。
「フレイ………逃げ……」
教え子であるフレイを目の前で失うわけにはいかない。だが声は出ない。
「美味そうな娘じゃないか?なあ、ムウ……」
凄いスピードでフレイに近づき、首を掴んだ。
「あぅ………く、苦し……」
そしてシグーの口が開かれ、フレイの顔に近づいていった。………がクルーゼの体は跳ねとばされた。
「ぐ………誰だ?」
「フレイ………」
ゴホッと咳をしてるが、フレイはなんとか生きていた。
「キラ……君?」
「もう大丈夫だよ………」
キラは立ち上がりバックルを腰に巻いた。
「僕は……多くの人を守るなんてできないかもしれない。でも、目の前で傷つく人を………助けられる命を失わせたくない!!変身!!」
394仮面ライダーKIRA:2007/01/15(月) 03:09:41 ID:???
キラの体にトリコロールカラーの装甲が張られていく。その間にアーマーシュナイダーを取り出してクルーゼに向かっていった。
「ぅおおおぉぉ!!」
剣と剣がぶつかった。取り回しが効く分威力は小さいがストライクの刄やシグーを捕らえていた。
「ぐ………ええい!!」
一歩下がり、マシンガンを撃ちつける。さすがにジンよりも強力だが対して効いてはいない。
「これほどの防御力……ライダーか……」
クルーゼは距離を置くと、左手にあるバルカンとマシンガンを同時に一点に向けて撃った。案の定ストライクでも集中的な攻撃に耐えられず、飛ばされてしまう。
「ぐ………何か……」
脳内に伝わってくる情報。その中にあったフォームチェンジに眼を引かれた。
(エール、ランチャー、ソード………よし、エールに!!)
バックルにあるボタンを押すと、

゙チェンジ エール゙

の発生音と共にストライクの背部にブースターのようなものバックパックができた。右にあるミスティックサーベルを引き抜き、シグーを斬っていく。
「何?さっきより動きが……」
エールになると微量なブースター使用によって基本動作を失わずに素早く動けるようだ。サーベルで斬り飛ばすと、バックルの番号を押していった。

゙X105 ライダーキッグ

「はぁぁぁ………りゃああァァ!!」
飛び上がり、ブースターを最大限まで出力を高めて突っ込んでいった。クルーゼは偶然近くにきたジンを盾にした。
だがライダーキックはジンを爆発四散させても衝撃だけはシグーに伝えた。
「ぐおおぉぉ……これほどまでの威力とは……」
爆煙の中、消えたクルーゼ。覚悟を決めたストライクの視線はどこか遠い空を見つめてる気がした。
395通常の名無しさんの3倍:2007/01/15(月) 03:48:30 ID:???
>>394
乙!
396通常の名無しさんの3倍:2007/01/15(月) 19:56:05 ID:???
衝撃氏キター!
アスカ兄妹に再び試練…か。
記憶を取り戻してしまった(様子の)マユ。再びマユに拒絶されたシン。
背後のアッシュはまだ爆散してない様だし…。
どあ〜、続き気になる〜。
397顔のない男 ◆eu6hMsrO3Q :2007/01/15(月) 22:52:03 ID:???
衝撃氏、GJ乙です!
し…シンとマユが…どうかこの兄妹が、幸せになれますように…(瀧涙)。

KIRA氏、乙です!
文章はまだまだ荒削りだけど、勢いがあるのがよいですね。まずは自分の好きな本を読みながら、
自分ならこの文章をどう書くか?と考えながら読むなどして、研究してみるのも上達の一つの手段ですよ。
頑張れ!
398通常の名無しさんの3倍:2007/01/16(火) 19:57:50 ID:???
なかなか慣れないですね……ZAFTがワーム+ミラーモンスターみたいな説明がしてありますがその通りです
ミスティックサーベルは発光無しリボルケインを想像してほしいです

衝撃氏は映画ルートは本編途中にいれるんですか?パラレルとかだとネタバレとか平成ライダーはあるので
399通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 18:22:39 ID:???
超萌える…名スレだなここは
400通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 19:49:47 ID:Z6GcBVFP
遅くなりましたが、衝撃氏、KIRA氏ともGJです。
二作がこんなに短い期間で読めるのは嬉しい。
401通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 21:26:15 ID:???
ここのSS読んだ後、連ザをプレイするとキック系の技をやると「ライダーキック!」と叫んでしまうw
402仮面ライダー・デスティニー 第3話:2007/01/19(金) 18:28:08 ID:???
お久しぶりです。相変わらず遅筆ですが、やっと第三話です。
今回はシンではなくもう一人の主人公のお話。
オリジナルキャラが出てきますが、このスレではオリジナルキャラは
OKなんでしょうか?メインにはなりませんが。
試験的にサブタイトルをつけてみました。
403魔窟の光:2007/01/19(金) 18:29:13 ID:???
薄暗いラボの廊下を数人の男達が急ぎ足で歩いている。
科学者らしき白衣達の中で一際目立つのは、顔の上半分をマスクで覆った金髪の男だろう。
彼の名はネオ・ロアノーク。このラボの責任者であり『ファントムペイン』の指揮官である。
「彼らの様子は?」
ネオが科学者の一人に尋ねる。
「はい。ステラとアウルは待機、スティングは医務室に運ばせました。」
その答えを聞いてネオは溜め息をつく。
「まったく…。新型の奪取に成功したのはいいが、帰りにやり合って腕を切られるとは、間抜けなことだな…。」
特殊部隊『ファントムペイン』のスティング・オークレー、アウル・ニーダ、ステラ・ルーシェの三名には、
PLANT社に潜入して新型のRS(ライダースーツ)を奪取する任務を与えた。
奪取は成功し、彼等はカオス・アビス・ガイアの力を手に入れた。
しかし、逃走時に地下水路にて銃を持った女に遭遇。これを排除しようとしたが、現れた朱いライダーと戦闘になり右腕を切断された。
以上がアウルとステラの証言をまとめた報告書の概要だ。
書類を隣を歩く研究員に返し、ネオはわずかにうめき声をあげた。
「むむっ……。」
聞かれたのか前にいた研究員がこちらを振り向く。
「いや、なんでもない。私は一度部屋に戻る。彼らの様子は後で見に行こう。」
ネオは不機嫌さを隠すように咳払いをし、部屋に向かった。

404魔窟の光:2007/01/19(金) 18:30:09 ID:???
部屋に入り、鍵をかける。そして椅子に腰掛けるなりネオは机を叩いた。
その口元はきつく噛み締められている。
―――スティングの腕を切ったライダー、おそらく『シン・アスカ』だろう…。
一年前に我々とは別のチームが彼を襲撃している。目的は『インパルス』のチップが組み込まれた携帯の奪取だ。
だが作戦は失敗、のみならず彼をインパルスの力に目覚めさせてしまった。強化のしすぎで頭の弱ったお粗末な兵を使うからだ。―――
身の危険を感じた彼は姿を消した。幸いすぐに居場所はつかむことができたのだが、こちらの諜報員はあと一歩で何者かに消されてしまう。
相手側はこちらよりもはるかに暗殺術に長けていた。連中はわざと彼の近くにその変死体を転がし、そして彼はまた行方をくらます。
そんなイタチごっこを繰り返し、彼は徐々にプラントの勢力圏へ近づいてしまった。
プラントが裏で糸を引いているのは明らかだろう。だが、ネオには腑に落ちない点があった。
―――何故プラントはインパルスを回収せず、手間をかけてまでシン・アスカを泳がせているのか?
何故シン・アスカをアーモリー・ワンまで誘導しているのか…。―――
結局いくら考えても答えは出なかった。いずれにせよシン・アスカはプラントに付いたのだろう。
最初は戦力的に劣っていた我々も新型を手に入れ、これで互角になった。それでよしとするしかない…。
そう思うことにしたネオは一服し、部屋を後にした。
405魔窟の光:2007/01/19(金) 18:31:04 ID:???
次にネオが訪れたのはスティング・オークレーの眠る医務室だった。場所が場所な為、医務室も広く充実している。
通常の医務室の隣、ICUにスティングの姿はあった。
薬品の匂いが漂う中を歩いていく。近くまで来るとかれはこちらに気づいて顔を向けた。
「調子はどうだ?」
彼の頭上にはあれこれ機械があり、それらがなにやら数字を示している。これだけでも彼が重態であることがわかる。
「見りゃわかんだろ…。」
呼吸器越しにくぐもった声が聞こえる。
「なかなか元気そうだな。」
皮肉たっぷりに返されたスティングは軽く舌打ちをした。
「何しに来たんだ?」
「もちろん見舞いさ、果物も持ってきてやったぞ。」
スティングは鼻で笑った。どうやら冗談と思われたようだ。
「もう一つはお前が戦ったライダーのことだ。実際に戦ったお前の口から聞いておきたくてな…。」
「どうもこうも…あいつらの報告通りだろうよ。」
「それでもお前から聞いておきたいんでな…。」
そしてスティングは少しづつ話し始めた。視線はネオを見ておらず、真っ白い天井を見据えている。
戦闘の経過は報告書通りだった。やはり相手は戦い慣れていないとスティングは感じたそうだ。
しかし追い詰めたと思い、とどめを刺す瞬間敵の目が一瞬輝き、それまでとは段違いの速さで動いたらしい。
「SEEDか…。」
406魔窟の光:2007/01/19(金) 18:31:55 ID:???
ネオは思わず口に出していた。スティングには聞こえていなかったようだ。聞かれたとしても、何のことかはわかるまい。
話を聞いて疑惑はほぼ確信に変わった。素人同然の彼が、油断していたとはいえスティングの腕を切り落とすことができた理由が。
「俺の腕はどうなった?」
「ステラもアウルもお前を連れて逃げるのに精一杯だったらしくてな。拾う余裕はなかったそうだ。
まあ拾ったにしても船の中じゃ接合はできなかっただろうがな。」
スティングに聞かれたネオは正直に答えた。
「そうか…。」
彼はそれだけ答える。その声には諦めも悲しみも感じられず、ただ淡々と、何の感情も込められていない。
しばらくの沈黙の後、ネオがスティングに問いかけた。
「どうだ、スティング。もう一度戦れば勝てるか?」
答えは返ってこない。しかし天井を見上げる彼の眼は怒りと憎悪に満ちていた。右腕を無くした重傷を負っても燃える瞳が答えになっている。
「奴は必ず俺が殺す……!だが……」
ここで初めて彼はこちらを向いた。変わらず眼は怒りに燃えている。
「それには腕がいる…!生身の腕と同じくらい動く腕が…!」
その言葉を聞いてネオは口許を歪めた。この状況でも復讐に燃える彼が頼もしく嬉しかった。
「腕はやる。とびきり精巧なやつをな!」

407魔窟の光:2007/01/19(金) 18:32:42 ID:???
研究所とはいえ休憩所くらいはある。いくつかの自販機とイスとテーブルが置かれ、一服するにはちょうど良い。
休憩所に訪れたネオは自販機の前にアウル・ニーダを見つける。ほぼ同時に彼もこちらに気づいたようだ。
「アウル、検査は受けたのか?新型に変身したんだ、身体に異常がないか検査を受けてこい。」
アウルは露骨に嫌そうな顔をしている。検査が面倒なのだろう。
「あ、後で受けるよ。そんなことよりさ、ヒマなら俺の訓練に付き合ってよ。」
「ステラに付き合ってもらえばいいだろう。」
「付き合うと思う?今頃あいつと外で遊んでんじゃないの。」
なるほど。彼の言うようにステラは自主的な訓練はしようとしない。他に新型の慣らしに付き合えるのは自分くらいしかいないだろう。
「いいだろう。ただし、終わったら検査に行けよ。」
「そうこなくっちゃ!」
そう言ってアウルは飛び跳ねる勢いで訓練場に向かった…。

白い壁で四方を囲まれた殺風景な室内訓練場、そこでネオとアウルは向かい合って立つ。
訓練内容に合わせていくつか訓練場はあるが、今回は簡単な戦闘訓練ということで普通の訓練場を選択した。
上後方の部屋からはデータを取るためか、数人の科学者が見物している。
ネオは頭の仮面に、アウルは首のイルカのペンダントに手を当て、同時に唱えた。
「「変身…!!」」
408魔窟の光:2007/01/19(金) 18:33:35 ID:???
それぞれが手を当てた部分から光が広がり、1,2秒で変身が完了した。
アウル、いやアビスの姿は異様なものとしか言いようがなかった。膝にはプロテクターが付き、胸部の装甲は中央に赤い穴が開いている以外は特に目立った所はない。全体に海を連想させる深い青色で構成されている。
そして最も目に付くのは両肩の巨大なシールドだ。水色で流線型のそれは横や上から見ればアビスがすっぽりと覆われて見える。
対するネオのスーツはウィンダム。装甲は膝と脚、胸と肩のみにとどめられ、アビスに比べるとかなりスッキリとしたシルエットだ。装甲部分は黒、スーツは赤紫とかなり目立つ。
「いいか、アウル、これは慣らしの訓練だ。武器の使用は無し、いいな!」
「わかったよ!それじゃあ……いくぜぇぇぇ!!」
答えると同時にアビスはウィンダムへと駆け出す。勢いに任せて放った右ストレートをウィンダムは的確にさばく。
パンチの応酬をしつつ、ネオはアウルに問いかけた。
「どうだっ、アウル!新型の調子はっ!」
「悪くないよっ!ただ重くてっ上手くっ動かないっ!」
肩のシールドには武器も内臓されているようだ。その分地上では動きが制限される。
何度かぶつかった後、アビスが肩のシールド内から槍を取り出した。柄の短い状態で格納されていたのだ。柄を伸ばしビームを出したアビスは頭上でビームランスを回転させた。
「どういうつもりだ、アウルッ!武装の使用は禁止だと言っただろう!」
「いーじゃんこの際。武器のチェックもしようぜっ!」
何かおかしい、ネオはそう感じた。性格的に幼さは残るものの、これまで命令無視をすることなど無かった。しかし現実に彼はランスを振り上げ向かってく
仕方なくビームサーベルを抜き応戦する。サーベルとランスがぶつかり、激しく火花を散らした。
一撃目は受け止めることができたが、流石に分が悪い。二撃、三撃と受け止める度に出力は弱まり、後ずさる。
409魔窟の光:2007/01/19(金) 18:34:30 ID:???
いちかばちか、ランスを受け止めると同時にアビスの腹を蹴り距離を離す。
「やめろ!!これは命令だ!」
息を整え、再び説得をする。しかし…。
「すげえよ、これ!でもこれだけじゃなくって…こっちも試してみないとねぇ!!」
もはやこちらの声は届いていない。理由はわからないが、アウルが暴走しているのは確かだ。
アビスは肩のシールドを開く。シールドの内側にはビームの発射口があり、今それはウィンダムに向けて牙を剥こうとしていた。
ウィンダムはヘルメットの横のボタンを何度か操作し、背中のバックパックからジェットストライカーが展開される。
アビスがビームを発射するのとウィンダムが上昇して退避するのは同時だった。六つの緑の光が床と壁を破壊する。ビームコーティング処理がされているとはいえ、多少の損傷は避けられない。
「ハハハハハ!!」
アビスは笑いながらあちこちにビームを撒き散らす。
―――何とかして止めなくては!しかし殺すわけにはいかない。アウルもそうだが、アビスは欠かせない手駒だ。殺さずに……動きを止める!―――
今のアビスは感情のままに破壊をしているだけで、狙いも適当なものだった。ウィンダムは天井ギリギリの位置からアビスに向かい突進する。
こちらに気づいたアビスは胸部の穴からビームを発射する。辛うじてそれをかわすウィンダム、勢いは止めない。逸れたビームが天井に穴を開ける。
しかし、アビスはビームランスを右に振りかぶりウィンダムを迎え撃とうしていた。
アビスはウィンダムの突進に合わせてビームランスを薙ぎ払う。瞬間ウィンダムは左手にサーベルを持ち替え斬撃を受け止める。それでも勢いは止まらずウィンダムとアビスは激しくぶつかった。
「うわああああああ!!」
「ぐうっ!」
両者が床に転がり、数秒の後に起き上がったのはウィンダムだった。アビスは意識を失ったのか変身が解除された。
接触の瞬間、アビスは喉にウィンダムの肘鉄を受けていたのだ。
「担架急げ!!すぐに検査だ、念のため拘束して行え!アビスの解析、戦闘のデータも合わせて私の部屋に持ってこい!!」
ネオは手早く研究員達に指示を与えていく。
―――今の戦闘…アウルに何が起きたんだ…?この新型…やはりまだわからないことが多すぎる……。―――

410魔窟の光:2007/01/19(金) 18:36:02 ID:???
数時間後…ネオは今度こそ一服するために休憩所を訪れた。コーヒーを買い、イスに深々と腰掛ける。
「お疲れ様です、大佐。」
白衣を着た研究員が声をかけてきた。先程の戦闘を見ていた研究員の一人だ。
「君は確か……」
「タケダと言います、大佐殿。」
タケダと名乗ったその男はネオの向かいのイスに腰掛けた。中肉中背、歳は27、8くらいか。特に特徴もない普通の男だ。
「データは見せてもらった…。」
先に口を開いたのはネオだった。
「はい。報告書にも書いたようにあれは素晴らしい、いや凄まじいものです。ライダースーツの出力が精神状態に多少左右されるのは大佐もご存知ですよね?」
「ああ。」
「あれはその振り幅が大きいと考えて頂ければ良いかと。精神が昂れば昂るほど融合係数は上昇します。
ただ…不馴れな者、しかも精神が未熟な者が着用すれば感情が暴走するようなことも起こりえるということです。」
「まったく…厄介な兵器だな…。」
「はい。しかし少しづつ慣らし、感情をコントロールさせていけばナチュラルでも扱えます。」
ネオは溜め息を吐いた。これからのことを考えると少々気が重い。
「感情の暴走か…。これで納得がいった…。」
あの時のアウルは戦闘の快感に酔い、破壊衝動に囚われていた…。
「アウルは戦闘を楽しみ、破壊を楽しむ傾向があるからな…。」
タケダは感心したようにうなずく。
「なるほど…感情の暴走ですね…。」
「ステラは『死』を極端に恐れる。言葉を聴いただけでも錯乱するほどだ…。」
「では精神的に問題ないのはスティングだけ…ということでしょうか…。」
ネオは脚を組み替え…わずかに言い淀んだ…。
「ああ…そういうことになるな…。」
しかし…この時点ではまだスティングの闇に気づいているのはネオだけだった…。

411魔窟の光:2007/01/19(金) 18:36:59 ID:???
アウルは戦闘と破壊に酔い、ステラは死を極端に恐れる…。スティングは比較的冷静で頭の回転も速い。
だが、アウルは力を振るう場所を与えてやればコントロールできるし、ステラは自分には忠実だ。
しかしスティングは違う。おそらく奴は駒で終わる気はない。油断すればいつか喉笛に喰らいつく危険な存在だ。今は危惧でしかないが、ネオは彼の野望の光を見逃していなかった…。

「スティングの腕は現在調整中です。体力が戻ればすぐにでも…。」
ネオはタケダの声で我に返った。しかしそれでもスティングは有能であり、あの危うさがネオには必要不可欠だった。
「そうだな…早いとこ回復してもらわないとな…。」
「あの三人組は特別ですからね。データだけ見ればあの三人に勝るのは大佐と…過去に唯一ここの脱走に成功した被検体NO.9113のみ、ですね。」
NO9113……過去にどこかで聞いたことがある…。しかしいくら考えても思い出せない…。

イスの背もたれに頬杖をつき、ふと外に目をやるとステラがいた。無機質的な研究所だが、ちょうど休憩所の外は木が茂り花が咲いている。そこはステラのお気に入りの場所だった。
そのすぐ傍に子供の姿があった。その子はネオと同じように顔の上半分を隠し、右腕が無い。顔立ちからは12歳くらいに見える。
この研究所は身寄りの無い子供を集め、兵士や実験体にしている。このご時勢、行方不明者は吐いて捨てるほどいる。そして中には四肢が欠けている者もおり、彼らは義手、義足等の実験に使われるのだ。
「あ、あれはステラと…NO.8173…。被検体の子供らはステラを怖がることが多いですが、あの二人はずいぶんと仲が良いですね。」
タケダも二人に気づいたようだ。ネオと同じように外を見ていた。
「しかしあまり仲良すぎるのも良くないのではないですか?」
ネオは二人から目を逸らさずに答える。
「いいさ…あの子は切り札になり得る存在だからな……。」
柔らかな光が降り注ぐ中、二人は何も知らず微笑んでいた………。
412仮面ライダー・デスティニー 第3話:2007/01/19(金) 18:42:17 ID:???
以上で第三話です。
お遊び的な簡単なものですが、一応NOにも意味があったりします。
他の職人さん方、劇場版のストーリーも考えてるんですね。
それを見て自分も少し考えたりしてます。いつか書きたいですね。
413通常の名無しさんの3倍:2007/01/19(金) 23:00:42 ID:???
GJです!
融合係数とかブレイドの設定ですねぇ。
いいと思います。
414通常の名無しさんの3倍:2007/01/21(日) 20:07:31 ID:???
乙です。そしてカブト完結記念あげ

カブトが最終回になったね。個人的には戦闘○、日常△、ED×。やっぱり天道のアレは普通すぎな気が
415通常の名無しさんの3倍:2007/01/22(月) 01:36:39 ID:???
>>412
新作乙。ナンバーは五十音かな?多分。

カブトはまとめに入るのが遅かったのと、説明不足が気になったな。
ともあれ、自分は好きな作品。
カブト完結&電王効果で職人、住人が増えるのを祈って+新作age。
416通常の名無しさんの3倍:2007/01/22(月) 11:10:45 ID:???
電王のナレでレイの中の人の熱血系台詞を久しぶりに聞いた

ところで、電王の主人公は近年まれに見る不幸体質な主人公だそうですが・・・
417通常の名無しさんの3倍:2007/01/22(月) 12:13:59 ID:???
仮面ライダーラッキーマン
418通常の名無しさんの3倍:2007/01/22(月) 12:19:34 ID:???
思ったんだが、仮面ライダーデスティニー読んで、モチーフは555だよなぁ、じゃあ、インパルスは555でセイバーは913、フリーダムはプロトタイプでデルタだよな、デルタの性格悪化はフリーダムに通じるものが無いか?、うんそれだけ
419通常の名無しさんの3倍:2007/01/22(月) 23:18:05 ID:mudDzHc0
仮面ライダー・デスティニーがどう進むのかはわからんが、
原作だとキラが悟ったような性格になったのはフリーダムgetからだから
共通点と言えなくもない?
420通常の名無しさんの3倍:2007/01/22(月) 23:28:36 ID:???
キラはとことん悪役風に描くと、ダグバや東條、北崎といった連中
それなりに悩みもする等身大のキャラとして描くと、木場に近いかな
421通常の名無しさんの3倍:2007/01/23(火) 15:03:25 ID:???
しかしSEEDキャラは仮面ライダーになったりワンピースやエヴァ世界にいったり
閉じ込められたりいろいろ大変だなw
422通常の名無しさんの3倍:2007/01/23(火) 15:09:28 ID:???
原作はゴミだが、二次創作で使う分には面白い素材だからな
423通常の名無しさんの3倍:2007/01/23(火) 18:43:48 ID:???
今、KIRAの3話製作中何だけどカップリングとかみんな気にしませんか?1話からキラフレを匂わせる内容にしてるんだけど
424通常の名無しさんの3倍:2007/01/23(火) 19:41:51 ID:???
僕自身は、婚約者略奪とか理不尽なことがなく、自然に流れるなら良いです。
425通常の名無しさんの3倍:2007/01/23(火) 21:48:08 ID:???
好みとしてはヒロインは絞った方がいいですが、どちらにせよ描写するならしっかりやってほしいです。
原作はキラもシンもその辺何か半端なイメージでしたから。
僕の場合は当初からルナをヒロインと意識して書いてます。


426通常の名無しさんの3倍:2007/01/24(水) 00:25:32 ID:???
今更知ったんだが、運命と和田にもヴォワチュール・リュミエールが搭載されてたんだな
これライダー風にアレンジすると、さながらアクセルモードか、ハイパークロックアップ?
427通常の名無しさんの3倍:2007/01/24(水) 13:24:50 ID:b3mAH5KU

――「シン」とは主役…つまり仮面ライダーのことである


                  「仮面ライダーを作った男たち」より抜粋
428殺して下さい ◆UkrVh9uDk6 :2007/01/24(水) 13:26:47 ID:???
429殺して下さい ◆UkrVh9uDk6 :2007/01/24(水) 13:27:56 ID:???
430殺して下さい ◆UkrVh9uDk6 :2007/01/24(水) 13:28:42 ID:???
431殺して下さい ◆UkrVh9uDk6 :2007/01/24(水) 13:29:35 ID:???
432殺して下さい ◆UkrVh9uDk6 :2007/01/24(水) 13:30:26 ID:???
433殺して下さい ◆UkrVh9uDk6 :2007/01/24(水) 13:31:14 ID:???
434殺して下さい ◆UkrVh9uDk6 :2007/01/24(水) 13:32:01 ID:???
435殺して下さい ◆UkrVh9uDk6 :2007/01/24(水) 13:32:50 ID:???
436殺して下さい ◆UkrVh9uDk6 :2007/01/24(水) 13:56:17 ID:???
437通常の名無しさんの3倍:2007/01/24(水) 17:28:41 ID:???
俺も読んだけど、その発想は無かったなw
ある意味このスレにぴったり。
438通常の名無しさんの3倍:2007/01/24(水) 21:02:50 ID:???
>>427
あまりにもこのスレにマッチしすぎてワロタw
まさに名言www
439通常の名無しさんの3倍:2007/01/25(木) 23:45:27 ID:???
「機動戦士ガンダムを作った男たち」とか……ちょっとだめだな。
440通常の名無しさんの3倍:2007/01/27(土) 23:51:09 ID:???
明日はいよいよ電王。小説のネタになりそうなものだといいな。
441通常の名無しさんの3倍:2007/01/28(日) 08:33:36 ID:???
レイ・・・仮面ライダーになっちまった
442通常の名無しさんの3倍:2007/01/28(日) 08:42:21 ID:???
寧ろクルーゼじゃね?wwww
443通常の名無しさんの3倍:2007/01/28(日) 08:45:46 ID:???
仮面レイダー クルーゼ
444通常の名無しさんの3倍:2007/01/28(日) 08:47:27 ID:???
剣型ドラグーン が出てきたんだぜ。流石、クルーゼ!
445通常の名無しさんの3倍:2007/01/28(日) 09:03:39 ID:???
/    ゙y´ :{  ヽ    /ヽ   ...}イ |:::::λ:l::::::j
. 〈       {l N-‐''゙   〈  〉    ヽl::::/リノ::: (
  ヽ!:     リ、|  ,.-‐-、. `Y:| ィ'" ̄ヽリノ /:::::::: i
   |l:    / ヽ_イ......._ノ   |:l ヾー┬''゙  /:::::::::: |
   |l   ∧  ``T´     |!   _,」   〈:::::::::::: ',  俺は最初からクライマックスだぜ!!
.   }!.   { l',     ゙r──‐┬'"´ レ''"`7!::::: :: ヽ
  ノ::.  l ドf ̄`ヽl ,_,. ===-、,   。 ,'::|!::    \
 (:.:::::}    ト-゙、    {l::r'"`:i:'"`lリ  ゚ ノ::::'、:      ',
.  ヽ::l:    !:::::::ヽ    ヾ、__,〃   ,イ:::::::::\   ト、i
 /:::|:: | l:::::::r=辷_、  `二二´  /_」`!::::::::〈`   | リ


元々仮面付けてるジャンwwwww
446通常の名無しさんの3倍:2007/01/28(日) 12:30:32 ID:???
こりゃクルーゼ主人公の作品が出てくることに期待しちまうね!
447通常の名無しさんの3倍:2007/01/29(月) 11:37:44 ID:???
仮面ライダーシンとクルーゼが急遽合流!
ダブルライダーの正義の怒りが!悪のラクシズ帝国に炸裂する!
トーキョードームシティー♪
448通常の名無しさんの3倍:2007/01/31(水) 11:26:23 ID:???
俺の必殺技
449通常の名無しさんの3倍:2007/01/31(水) 15:08:21 ID:???
いっておくが、俺は最初からクライマックスだぜぇ!!
450通常の名無しさんの3倍:2007/01/31(水) 17:25:08 ID:???
改造人間レイ・ザ・バレルは仮面を被ると仮面ライダークルーゼとなり、悪と戦うのだ!
彼の敵はキラヤマト率いるラクシズ。
仲間のシンとともに今日も勇敢に立ち向かう!

451通常の名無しさんの3倍:2007/01/31(水) 18:32:50 ID:???
シンは滝和也ポジションでも行けるな
あ、ライスピの方ね
452通常の名無しさんの3倍:2007/01/31(水) 19:50:01 ID:???
ライスピに置き換えだったら、村雨じゃね?
453通常の名無しさんの3倍:2007/01/31(水) 23:38:20 ID:???
本郷は…キラ?
454通常の名無しさんの3倍:2007/01/31(水) 23:48:46 ID:???
>>452
あーいや、レイが主人公で、シンが相棒役だったらってことね
滝はライスピだとかなり美化されてるけど、TV版だと実はがんがんじいと大差ないから
455通常の名無しさんの3倍:2007/02/04(日) 08:30:08 ID:???
電王age
456通常の名無しさんの3倍:2007/02/04(日) 15:16:43 ID:???
電王見損ねちゃった……
457通常の名無しさんの3倍:2007/02/04(日) 19:57:15 ID:???
電王はデザインとか乗り物とか抵抗あったけど、中身は結構面白いね。
458通常の名無しさんの3倍:2007/02/04(日) 20:00:23 ID:???
イージャンイージャンスゲージャンヽ(´∀`)ノ
459通常の名無しさんの3倍:2007/02/05(月) 17:45:21 ID:???
電王は従来のライダーと違ってなんか軽めだ。
新感覚ではあるけど戦隊ものとの差別化が出来なくなるんじゃ・・・

ま、声がクルーゼなだけでここにはぴったりのネタかもしれない。
460通常の名無しさんの3倍:2007/02/06(火) 20:35:20 ID:???
あの脚本家だからな……
いつまで軽いのでいくか…
461仮面ライダーKIRA:2007/02/07(水) 15:11:09 ID:???
PHASE-03 完璧なる殺人鬼


服を着替えていた。うむ、中々似合うんじゃないだろうか?。キラは鏡の前でポーズを決めながら見ていた。恥ずかしくなり、トイレに入ってみる。
どうしたことか小便が出ない。くそ、緊張してるのか?そうなのか?。そんなノリを自分で思いながら、キラは扉を潜った。
「――ようこそ……オーブ・ヘリオポリス配属部隊、アークエンジェルへ」
マリューや他のメンバーが拍手して迎い入れてくれた。ああ、入学式みたいじゃん、とキラは内心思った。
「似合ってるわよ?よろしくね、キラ君」
「はい。よろしくお願いします」
堅苦しい挨拶をしたあとはトールやアサギ達にどやされてばかりになってしまった。
「おいよ〜〜……変身するなんて羨ましすぎるだろう?」
「キラ君ってば私達よりも早く変身しちゃうなんて……」
聞くところによるどアークエンジェル ゙にいるトール達が候補生だったらしい。ライダーシステムは個々のベルトに意志があり、適合者を選ぶという。
「仕方がないだろ?ベルトが合っちゃったんだから」
カガリが付けても変身は出来なかったので少なくとも現時点では自分だけなのだろう、とキラは思った。
「各バックルにば適合者゙がいるんだ。だから、基本的にストライクバックルはキラにしか変身は出来ない」
アスランが優しい声で教えてくれた。彼は残り2つのバックルを見せた。
「まだこの2つは見つかってないんだが、俺と同時期に゙デュエルバックル゙の適合者が見つかってる」
つまりはキラよりも先輩ライダーがいるというわけか。正体を聞くと、後のお楽しみだとはぐらかされてしまった。
462仮面ライダーKIRA:2007/02/07(水) 15:12:09 ID:???
キラはZAFTについての説明を改めて聞いてみた。そして、その内容はどれも衝撃的であった。
「つまり、ZAFTは自分達の星が異常気象により滅んだために地球へ来た……と?」
「まあ、そうなるな。現時点では……」
バルトフェルドはPCのボタンを幾つか押す。すると、地図が立体画面に映し出された。
「ある場所から半径25Km以内が活動範囲だ。あんまし、広くないがな」
ならばあまり心配しなくても良さそうだ……と、キラは思った。だが、その思考ばある場所゙が中心にある事がわかると揺らぎ始めた。
「バルトフェルド先生……この場所……」

そこは悲劇の墓標、24万人の市民が犠牲になった地―――ユニウスセブン。

「そう、ユニウスセブンを中心にだ。これはきっと意味がある…。」
「調査とかは出来ないんですか?」
「しているさ……だが、今のところ何もわからん。なぜ16年も活動しなかったか、なぜ今になって動いたのか、なぜユニウスセブンを中心とするのかもな」
2人が話していると、カガリがコーヒーを持って間に介入してきた。
「何にせよ、ZAFTは敵だ。倒さなくちゃいけない」
何だか怒り、いや、ツンツンしていた。粗い手つきでカップを置くと、そのままドアへと消えた。
「カガリ……なんで怒ってるんですか?」
「……青春なのさ」
自分が原因だとはさほど思ってないキラを見て、女難の相をバルトフェルドは見いだした。
463仮面ライダーKIRA:2007/02/07(水) 15:13:10 ID:???
何にも無かったかのように普段どおりの生活を続ける市民。もちろん、フレイもその中の一人なわけだ。スーパーに行って買い物をしていた。
(……あれはキラ・ヤマト君だったわ……)


爆煙が治まると変身をフレイの目の前で解いた。驚きを隠せない。手が震えだしている。声も上手く出せない。
キラもフレイもお互いに何を言っていいかわからない。こんな経験は普通あるわけじゃないから、どうしたらいいか教えちゃくれない。
だが、まずはその静寂を破らなくてはいけなかった。キラはフレイを起こすと、口を開いた。
「怪我、ない?」
「あ……うん、ありがとう……」
少し気まずそうながらもキラの顔は優しかった。バスで見る朝の顔。それと一緒だった。


(あの後、何もキラ君は言わなかったけど……)
今度会ったらちゃんと聞いてみようと心に決め、フレイはレジに並んだ。


ヘリオポリスの中心にある市役所。そこの市長室で今会議が終えたばかりだった。市長であり、カガリの父でもあるウズミ・ナラ・アスハが頭を抱えていた。
「……ついにこの街まで来たとはな」
ヘリオポリスは規模が大きい方だが、ユニウスセブンからは距離があるほうだ。そこへZAFTがやってきたのはかなり頭を抱える問題だ。
(まあ、そのためのオーブなのだが)
それよりも問題なのは現在の日本を裏から操作している政府容認対ZAFT組織゙ブルーコスモズからの技術提供を求められている。
正直、状況は悪い。ヘリオポリスは海底火山からの熱を制御して効率的にエネルギーを取り出す技術を開発した事から国の方針には従わない特権を持っているが圧力はある。
464仮面ライダーKIRA:2007/02/07(水) 15:14:24 ID:???
ブルーコスモスからの要請は国からの要請に等しい。事実、ブルーコスモスはヘリオポリス付近の市内では戦果を挙げている。
「ウズミ様」
さて、どうしたものか?。ライダーシステムの情報はなるべく与えたくはない。だが、ブルーコスモスは街を一つ潰すくらい簡単にしそうだ。
「あの……ウズミ様?」
「!?。あ、ああ……」
気付かなかった。集中しすぎたか?。やれやれ、またカガリに言われるな。そう思うと顔から疲れを感じさせないように調節し、秘書の話を聞いた。
「ライダーシステム・ストライクの所持者は再び少年の手に……」
「そうか……」
また子供。出来れば巻き込みたくはないのだが……。
「その少年はキラ・ヤマトと言います。現在は……」
「すまん、ちょっと見せてくれ!!」
秘書の持つ電子ノートに貼られた一枚の写真。ウズミは暫らく黙ってしまったが、窓を開けて空を見た。陽が差し込んできて明るい。
「これも運命なのだろうか??」


キラはアスランに案内されてアークエンジェル内にある倉庫に連れていかれた。入ってみると、オーブ兵が使っていた弾薬や防護服が幾つも並び、その奥には幾つかのバイクらしきものが並んでいる。
「これはライドグラスパー。ライダー専用にしてあって、高速戦闘には持って来いだ。これがお前が乗るストライクモデルだ」
ストライクと同じくトリコロールカラー仕様となっている。また、形状は他のバイクとは一線を変えてある。
丸みを持ちながらもシャープに仕上がったフロントと、やや細目の車体が格好良さを引き立てている。
「へぇ〜〜、こりゃ凄いや……」

――ん?

何か大事な事が抜けている。そうだよな、゙仮面ライダー゙というくらいだ。バイクに乗るのは不思議じゃない。
「あのさアスラン、僕は免許ないんだけど……」
465仮面ライダーKIRA:2007/02/07(水) 15:15:37 ID:???
キラの通学は決まってバスか自転車だ。バイクどころか原付ですら乗った事はない。そこにいきなり乗れと言われて、
「はい!!」
、と出来るわけがない。そこへナタルが入ってきた。
「心配するなヤマト。私が一日で乗れるように訓練してやる」

――はい?。今、何と??

容赦なしに腕で掴まれ、連れていかれた。アスランは潤んだ眼でキラに敬礼した。
(ああ……。アスランもこうやってシゴかれたんだな)
学校では数学を教え、規律を重んじていて厳しく、無愛想かつ美人のナタルは、生徒達の間の通称で゙鉄の女゙と呼ばれている。
それがここで実感させ……いや、出来るとは……。トールなんかは笑って受けれそうだけど、キラは不安でいっぱいだった。そして案の定、キラは疲弊した顔でアークエンジェルを後にしたのが確認されてる。


次の日、週明けの学校の午前を寝て過ごしたキラは午後に備えて……寝ていた。
「おい……キラが眠るなんてないのに……」
「そんなキツイのか?ナタル先生……」
オノゴロ高校の一部の教師と生徒はオーブに所属している。とはいえ、彼らは家族や友人には黙っている。変に混乱を招いても仕方がないからだ。
キラの苦しみをわかってやれるのも、アスランやトールくらいしかいないのだ。学校ではマリューやバルトフェルドも助けちゃくれない。
「スクールでは〜誰でも〜一人一人きり〜。僕〜の願〜いも〜、僕〜の悲しみも〜。だ〜れ〜もわかって〜くれ〜な〜い……」
既に意味不明な歌を口ずさみ、キラの精神はずたボロだった。しかし、昼飯を調達するためにいざ購買へ向かった。
466仮面ライダーKIRA:2007/02/07(水) 15:17:00 ID:???
キラが購買に着くと、食券争いはピーク状態だった。荒波に飲まれてキラは……
「敗けてたまるかーーー!!」


終わった。今日の午後のエネルギーはゼロなんだ。食券はないし、パンも売り切れ。昨日の疲れは取れてないし、授業を乗り切れるか心配だ。
「仕方がない……我慢して……」
「あ、キラ君……」
この声の主は……フレイ。そう、この荒んだ心を癒してくれるのは彼女の声だ。
「どうしたの?」
「昼ご飯……買い損ねたんだ……」
フレイ自身は先日の事件の事を聞きたかったが、あまりにもやつれた顔のキラを見て可哀想に思えて、その気は失せた。
「よかったら私のお弁当少し食べる?」

――何だって!?

「いいの!?」
コクリとフレイは首を縦に振った。ああ……この荒んだ心を癒してくれるのは君だけだ。そう、キラは心の中で泣いた。
「フレイ……」
キラが感動している時、後ろには眼鏡をかけた少年が現われていた。その人物は初めてフレイと話した時にラブレターを既に渡していたというサイだった。
「サイ!?」
しかし、サイはキラを無視するかのようにフレイに話し掛けた。
「フレイ、俺からの返事……」
そういえばラブレターの返事はしてなかったのか……。

――は??目の前でOKされたら……

キラの精神は絶望的だった。

――屋上にいって、自殺……したくねぇぇぇ!!

自分のキャラをすっかり忘れて内心のキラはフレイの返事に耳をすます。
「ここじゃ……放課後に話すわ」
フレイはそう言うと自分の教室のほうへ去っていってしまった。弁当の事など忘れているだろう。愛情も味も感じることはなかった。
「サイィィィ!!何で……」
歪んだ顔をしていた。サイはキラを見ることすらせずに歩って行ってしまった。
467仮面ライダーKIRA:2007/02/07(水) 15:18:17 ID:???
放課後、フレイは学校から少し離れた公園にいた。幼稚園や小学校くらいの子供達がブランコや砂場で遊んでいる。
友達とかに見られるわけにはいかないし、自分の気持ちはきちんと伝えなくてはいけない。
「フレイ……よく来てくれたね……」
サイが歩いてくる。フレイは自分の前に立つなり、いきなり頭を下げた。
「ごめんなさい。気持ちは嬉しいけど、私は……」
「……ぷ、ぷひゃひゃひゃ!!」
突然狂ったようにサイは高らかに笑いだした。フレイを含めて公園にいる人間全てが視線を一点に集中させた。
「あ〜あ、俺の負けか……」
どういう事だかわからない。振られたからといってサイはこんな風になる人間ではないはず……
「わあぁぁぁーーー!!」
「!?」
遊んでいた子供達だろうか?悲鳴があがった。子供達の後ろには先日フレイが見た怪物、ジンが立っていた。
「君達、私の後ろにきなさい!!早く!!」
子供達を集め、自分の後ろに隠す。自分もだが震えが止まらない。
(あれがキラ君が戦っていたZAFT……だったかな?)「あんた、サイじゃない……誰なの??」
サイは再び高笑いを始めた。ジンは迫ってきていて、3体はいる。
「ひひひ……質問に答えなくちゃな〜……サイは死んだよ。お前にラブレターを送った後にな。」
「!!?」
死んだ?だって目の前に……
「俺達ZAFTは人間に擬態が出来るんだ。当然、容姿だけだがな……でも基になった人間を喰えば記憶や思考も受け継ぐんだよ」
固まってしまった。人の成りをしているが、中身は周りにいるジンと同じで怪物。そう思うと、ますます絶望感を感じてしまう。
「かかか……この前、賭けをしてな……。もし告って成功したら俺がお前を喰う。失敗したら丁度右にいる奴らに喰わせるとな」
468仮面ライダーKIRA:2007/02/07(水) 15:19:30 ID:???
「勝手に私の命を扱わないでくれる?」
せめて子供達は助けてあげたい。でもジンは銃を手にしているようだし、下手に動けば殺されてしまう。
「ひひひ……だが、美味そうなのが15人……。お前を喰えないのは残念だが、そのガキらでも……」

キキイィィィ……ブウゥゥゥン!!

「!??」
ジン2体が音と共に体が舞った。フレイ達を囲むように、守るようにバイクが2台止まっていた。
「……キラ君、アスラン君……」
ヘルメットを取り、キラはサイと対峙した。ジンを従えて見えるので、このサイはZAFTだとわかった。
「アスラン……フレイと子供達をお願い」
「……ああ」
アスランはイージスバックルを取り付け、左腕が胸を越すように折り曲げて叫んだ。
「変身!!」
手でバックルの中心部を叩いくと、装甲を着けるためのアーマーフィールドがアスランの体を包む。しかしそれは一瞬。瞬く間に赤い装甲を纏った。
腰にあるビームライフルを取り出し、ジンのマシンガンに向けて撃ちつけた。全て撃ち落とすと、腰にライフルを戻して格闘戦に持ち込んだ。
「早くその子達を連れて逃げろ!!」
言われた通りフレイは子供達を誘導して公園の外に出た。それを確認すると両腕からサーベルを出してジン達を斬りつける。
「お前らを野放しにするわけにはいかないんだ!!」

キラはサイを殴り付けた。家族や友達を残して死んだ事に、姿を利用されてる事に殴らずにはいられなかった。
「サイ……友達として君を楽にしてあげるよ」
左腕をピンと胸の前で右斜め上に伸ばし、腰のストライクバックルを叩く。そしてキラはアーマーフィールドを通過して装甲を着けた……とたんにもう一度殴った。
ぐにゃりと曲がった首。それを元に戻し、眼鏡を落として踏み付けた。
469仮面ライダーKIRA:2007/02/07(水) 15:20:39 ID:???
「へへ……簡単には死なせないぜ」
サイの体は剥がれ落ち、代わりにジンともシグーとも変わった姿が現われた。
「こいつを見るのは初めてか?俺はジンハイマニューバっつってな……上位種なんだよ!!」
剣を取り出してストライクに斬りかかる。さっと避けると、ストライクはバックルのボタンを押した。

゙CHANGE ALE゙

瞬時にフォームチェンジを完了して、背中からサーベルを抜き取り、ジンハイマニューバとの鍔迫り合いに持ち込んだ。
「絶対に許さない!!」
膝蹴りで体を浮かせ、サーベルで斬っていく。負けじとマシンガンを至近距離でストライクの体に撃ちこんだ。
さすがにダイヤモンドの16倍の硬度をライダーの装甲、゙フェイズシフト装甲゙でもダメージを軽減しきれない。
「お前、フレイに惚れてるだろ?だったらサイなんて人間どうだっていいんじゃないのか?」
「黙れ!!いくら人の思考はコピーできてもお前らに、人間の心が理解できるはずはない!!」
キラはもう一度フォームチェンジをした。こいつは許せない。そんな感情がキラを支配した。

゙CHANGE LUNCHER゙

背部にあった装備は消え失せ、代わりに右肩にはバルカンが付いたパーツ、左腰には大型の砲、゙アグニ゙がついていた。

アスランはライドグラクパーから゙スキュラ゙というパーツを取り出し、腕を差し込んでジン達に向けた。

゙X303 ライダーキャノン゙

「終わりだ!!」
鉤状の中央にプラズマ粒子が集まっていき、赤い閃光が放たれた。一列になっていたジン達は爆煙へと姿を変えた。


゙X105 ライダーキャノン゙

アグニにもスキュラ同様プラズマ粒子が集約していく。その威力を推してか、サイの姿になって弁解を始めた。
「待て、俺を撃てば二度とサイには逢えないぞ?」
「見かけだけの奴に言われたくない……向こうでサイに謝れ!!」
引き金が引かれ、赤い閃光がジンハイマニューバを撃ちぬいた。戻ってきたフレイは泣き崩れるキラにそっと駆け寄って、後ろから腕を伸ばして、一緒に泣いた。

〜to be continue〜
470通常の名無しさんの3倍:2007/02/07(水) 15:24:36 ID:???
あ……メル欄間違えてたorz
PHASE-03は終わりっす。キラやフレイが俺キャラになってるけど許して。
471通常の名無しさんの3倍:2007/02/07(水) 17:10:24 ID:???
シンのスレなのに何でキラなんだ?
472通常の名無しさんの3倍:2007/02/07(水) 20:33:18 ID:???
新作乙。キラも最初はこんな少年だったんだろうなあ、と思った。
これからどう進むのか期待。

>>471
始まった頃に誰も文句言ってないし、いいんじゃない?
多いに越したことはない。
473通常の名無しさんの3倍:2007/02/07(水) 22:10:48 ID:???
ようするにシン主役のライダーで、主役乗っ取りをしなきゃ問題無いって事だ。
他にもステラ主役のライダーもあったし、
種類が豊富の方がいいじゃないかと。
474通常の名無しさんの3倍:2007/02/07(水) 22:44:01 ID:???
キラ厨空気嫁
475通常の名無しさんの3倍:2007/02/08(木) 09:38:22 ID:???
>>472
俺は実は始まった時言おうと思った・・・
でもそのときは荒れる原因になりそうだから止めた
ついでに、始まる前に断りが入ったことがあって
そのときは「NG」って意見が大半だったが、少数だが「OK」の意見もあったんだよ確か
476472:2007/02/08(木) 20:53:17 ID:???
>>475
始まった時というのは、初代スレが始まった時ですか?もしそうなら見てないですが。
このスレだとキラ主役なのが>>156氏の仮面ライダー撃がプロローグのみ。
おそらく>>322が「KIRA」の作者氏。この時は賛成も反対も少なめですね。
というか最近は人自体が少な(ry
477通常の名無しさんの3倍:2007/02/08(木) 22:52:30 ID:???
もういいじゃん
478通常の名無しさんの3倍:2007/02/08(木) 23:16:07 ID:???
ごめん。別に追求したり、拘ったりしてるわけじゃなかったんだ。もう言わない。
初代スレや前スレ見たいんだけど、にくちゃんねるで見れなくなったから残念だ。
47931:2007/02/09(金) 00:42:35 ID:???
お久しぶりです。
トリップ付いてないのはトリップメモした紙が現在行方不明だからです……(´・ω・`)

今の時間にならないと(これでも早いけど)仕事から帰れないので一向に
進展してないんですがWiki管理人としてお知らせです。

にくちゃんねるで過去ログが見れないらしいので過去ログをWikiのトップページに
DAT2HTMLでHTMLファイルに変換してアップしておきました。
トップページの一番下に「添付ファイル」という項目があって、そこに
sin_at_masked_rider01.htmlとsin_at_masked_rider01.htmlの2ファイルが
ありますので、見たい方はダウンロードしてください。

専用ブラウザで見てる方はdatの方がいいでしょうから
1128512631.dat(1スレ目)と1144247532.dat(2スレ目)も
同じ場所にアップしておきました。

見れないなど問題ありましたらスレに書き込んでください。
480475:2007/02/09(金) 01:32:34 ID:???
>>476
始まった時ってのはキラ書きさんが来た時
481通常の名無しさんの3倍:2007/02/09(金) 07:44:29 ID:???
>>479
GJ!ありがとうございます。お仕事お疲れ様です。
>>480
そうでしたか、失礼しました。
482通常の名無しさんの3倍:2007/02/10(土) 12:39:27 ID:???
俺はスレタイぐらい読んで欲しいな
483通常の名無しさんの3倍:2007/02/10(土) 21:32:07 ID:???
そのあたりは始まるときに言われてるしいいんじゃない?
急にこんな流れになってるけど、要はキラ主役の話はスレ違いだから
他でやれと言いたいのか?
484通常の名無しさんの3倍:2007/02/11(日) 00:05:42 ID:???
キラライダースレ立てたら重複扱いされてここに誘導されるに決まってるじゃないか。
頭が固いなぁ。禿げるよ?
485通常の名無しさんの3倍:2007/02/11(日) 00:39:44 ID:???
普通に種キャラで仮面ライダーやるスレでいいじゃないか
ただでさえ過疎なのに更に住人減らすような事言ってどうするよ
486通常の名無しさんの3倍:2007/02/11(日) 08:23:25 ID:???
うん別にここでいいよな
いっぱい読めて楽しいし
電王見よっと
487通常の名無しさんの3倍:2007/02/11(日) 08:57:29 ID:???
ちょwwwww関俊彦自重しろwwwww

行き成りタイーホ未遂かよwwwww
488通常の名無しさんの3倍:2007/02/11(日) 11:54:21 ID:???
KIRA書いてる者だけど、僕の作品が混乱を招いて申し訳ないです。

一応種・種死キャラは作中に出すつもりなんだけど、キャラ作りは皆さん「種のキャラまんま」か「仮面ライダー的種キャラ」のどっちです?
489通常の名無しさんの3倍:2007/02/11(日) 16:51:46 ID:???
仮面ライダー的種キャラ、というのがよくわかりませんが、僕の場合は
スティングをシンのライバルにしたりはしてますね。わからない部分は勝手に作ってますけど
基本は原作のイメージに沿ってます。
完全な性格の変更とかでなければ好きに作ればいいんじゃないでしょうか。
490通常の名無しさんの3倍:2007/02/12(月) 23:11:11 ID:???
保守上げ

>>489
すいません、変な言い方でしたね。「仮面ライダー仕様の性格の種キャラ」です。
例えばキラに剣崎みたいな部分足したり、とか
491タイトル決まってません:2007/02/13(火) 21:30:15 ID:???
空から聞こえる大きな爆発音のせいで耳がよく聞こえなくなった。あんな大きな音を聞いたのはあの時が初めてだった。
木や草の焼ける匂い、油や動物の焼ける匂い、あんな鼻の曲がるような匂いをかいだのはあの時が初めてだった。
火傷しそうなほど熱い熱風が頬に当る、目が開けられないくらい熱い空気に触れたのはあの時が初めてだった。
転がる人、人、人。視界に入る限りの死体。地獄ってこんな風なのかな?って感じ。こんな光景を見たのはあの時初めてだった。
大きな音、すべてが燃えるような匂い、灼熱の空気、上下左右が滅茶苦茶になった。すさまじい衝撃が全身を襲った。
本当に痛いって言うのは痛いって感じる前に気を失うんだな、あんな痛い思いをしたのはあの時が初めてだった。

C.E.71俺達家族が住んでたオーブは戦争に巻き込まれた。当時地球連合軍とプラントが戦争をしていてその戦火がオーブ本国に
飛んできたって訳。けど実際はあんまり実感がわかなくて家族四人で家にいる時テレビで避難勧告が出されたときもどこか遠くの事を
言っているように思えて。それでも一応避難はしておくかっていうか仕方なくって感じで荷物をまとめて家を出た。
港まで避難すれば大丈夫って父さんが言ってた。普段は車で行くんだけどその時ばかりはみんな我先に、といった具合で道路も大渋滞。
裏の山道を歩いて抜けた方が速そうだった。そういった訳で俺達は山道を進んで港を目指した。時折銃声や爆発音が聞こえたりした。
そのとき初めて『戦争』って言うものを肌に感じたんだ。そしたら急におっかなくなって・・・心なしか進むペースも上がっていった。
頂上まで来て後はふもとまで降りれば港まではもう少しってところで一先ず休憩をした。無理なペースで山道を登ったんだし無理もなかった。
その時だった。それまでは爆発音も聞こえていたけどあくまで遠くから聞こえるような、そう、花火大会のような音だった。その音が急に近づいた。
直後に激しい熱風が吹きつけた。流れ弾か何かが飛んできたんだろう。怖かった。こんなにも『死』を身近に感じたことなんてなかったし・・・
俺達はがむしゃらに走った。転びそうになるくらい、必死で走った。へとへとになってもう動けなくなるくらい、それでも必死に走った。爆発音は
鳴り止まなかった。それでも自分の心臓の音はしっかり聞こえた。心臓が喉のとこにまで来てるんじゃないかってくらい響いてた。
だんだん港が見えてきた。あと少しで避難できる、ちょうどその時妹のマユが小さい崖の下に携帯を落としてしまった。マユは拾いに行こうとしたけど母さんが引き止めた。
それは当然の事で、携帯なんか捨ててすぐに避難するところなんだけどマユはその携帯を命のように大事にしていた。マユが誕生日に買って貰ったもので
いつも肌身離さず持ち歩いてた。俺はとっさに崖の下へと飛んで携帯を拾った。携帯は意外にも壊れてないようだった。マユに手を振って合図を送った直後
その後ろにジュースの缶みたいなものが飛んでくるのが見えた。それはどちらかの軍ののミサイルで、その姿を見た瞬間視界が真っ赤に染まって俺は意識を失ったんだ。


492タイトル決まってません:2007/02/13(火) 21:31:27 ID:???
次に目を開くと一転、視界に白い風景が見えた。体が動かない、頭もがんがんする。聞こえるのは定期的に鳴るドラマ化なんかで聞いたことのある電子音。
何とか頭だけは動くみたいだ。左右に首を振ってみると机の上にピンク色の携帯と見たことのない銀色の帯が置いてあった。真っ白の部屋の中でその二つがやけに
浮いて見えた。そんなことを考えているとドアの開く音がして一人の男が部屋に入ってきた。
「シン=アスカ君だね?気分はどうだ?どこか痛い所はあるかい?」
ぼんやりとした頭のせいで言葉が耳には入っているが頭には入っていない状態だった。そんなことを知ってかしらずか男は話を続けた。
「私はトダカ、オーブの軍人だ。君は森の中で倒れているのを発見されてこの病院に運び込まれたんだ。」
だんだん意識がはっきりしてきた。トダカの言葉を頭の中で反芻させシンはようやく自分が爆撃に巻き込まれたことを理解できた。
「あの・・・俺・・・倒れてたって、爆撃・・・」
意識を失う瞬間の光景がフラッシュバックする。と同時にひとつの疑問が脳裏に浮かんできた。
「あの・・・父と母は?それに、マユは?妹は?どこの病院にいるんですか?」
「・・・・・・・」
トダカは答えない。いや、その悲痛な沈黙がすぺてを物語っていた。それでもシンは問い続けた、蚊の鳴くような搾り出した声で。
「父さんと・・・母さんは・・・?マユは・・・」
「・・・残念だが・・・」
「嘘だっ!!!!嘘ですよね?だってあんなに元気だったんですよ?今度の週末にみんなで出かけようって、みんなで買い物しようって・・・
ねぇ・・・冗談ですよね?はは・・・まったくおどろかせようたってそうはいかないですよ?ねぇ・・・嘘ですよね・・・?」
最後の方はほとんど哀願だった。涙声で、余りに弱弱しい声だった。
「・・・君は家族とは違う場所にいたらしいね・・・低い場所にいたおかげで助かったんだよ・・・」
マユの携帯電話に目をやる・・・これをとりにいったから、自分は助かった?これからも生きていける?この世界で。
戦いの終わらぬ世界で。父や母がいない世界で。妹が、マユがいない世界で?
そんなことを考えてシンは得体の知れない、底なし沼にひきづられる様な恐怖に襲われた。
「うぁわわぁぁぁぁぁっぁぁーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」

彼の物語はここから始まる、シン=アスカの、仮面ライダーとしての物語が幕を開ける。
493タイトル決まってません:2007/02/13(火) 21:35:21 ID:???
連投すみません。以前ちょっとした(本当にちょっとした)短編を書かせてもらった者です。
保守代わりにまた小ネタや短編を書こうとしたんですが気づいたら長編書いてまして。
他の職人さん達の繋ぎ程度には!と考え書いているんでよろしくお願いします。では失礼しました。
494通常の名無しさんの3倍:2007/02/13(火) 23:17:49 ID:???
最初はシンの回想で始まるのか。なかなか面白そうだ自分のペースで頑張ってくれ
495通常の名無しさんの3倍:2007/02/14(水) 19:25:53 ID:???
新作乙!続きに期待。
496通常の名無しさんの3倍:2007/02/16(金) 06:20:38 ID:???
種死本編と最初はそった感じなのかな
どうやって仮面ライダーになるのか楽しみだ

関王レイがはっちゃけてておもろいなw歌までw
497通常の名無しさんの3倍:2007/02/16(金) 06:54:36 ID:???
今気がついたけど、種の音楽の人って
クウガやアギトの音楽担当の人だったんだね
498通常の名無しさんの3倍:2007/02/16(金) 11:24:33 ID:m316yqMZ
499通常の名無しさんの3倍:2007/02/16(金) 12:12:30 ID:ORpPt/jp
タイトルは『神・仮面ライダー Destiny運命』
主人公神飛鳥は2年前に家族をブルーモッコスに殺され、復讐のために仮面ライダー1号(透)、2号(数井)により改造手術を施してもらい自身も仮面ライダーになることを誓うのだった
500通常の名無しさんの3倍:2007/02/16(金) 14:37:02 ID:???
相手が邪神様じゃ勝ち目ねーな
501通常の名無しさんの3倍:2007/02/17(土) 11:17:42 ID:???
>2号(数井)

苗字?
502通常の名無しさんの3倍:2007/02/17(土) 13:00:31 ID:???
一威(カズイ)ってのは?
503通常の名無しさんの3倍:2007/02/17(土) 13:00:43 ID:???
流れ読まずにイラスト投下
↓仮面ライダーインパルス
http://d.pic.to/ae62r

汚くてスマソ
504通常の名無しさんの3倍:2007/02/17(土) 13:39:00 ID:???
うまい!スッキリしてて好きだな
505通常の名無しさんの3倍:2007/02/17(土) 13:39:28 ID:???
>>497
響鬼や電王もね
506491-492の続き:2007/02/17(土) 15:38:37 ID:???
心地よい風、温かい日差し、木々がざわめく音。こういうところで寝っ転がるとぜったい眠くなっちゃうんだよな。)
そんなことを考えながらうとうとしていると急に乾いたものが顔にかかった。シンは驚き払いのける、たくさんの落ち葉が回りに散らばっている。
目の前にはニヤニヤと一人の少女が自分を見ながら微笑んでいる。妹のマユだ。つまり妹のいたずら目寝を覚まさせられたわけだ。
「こらっ!マユ!」
「へへ〜ん♪ピクニックに来てるのにごろごろ昼寝してるほうがいけないんだよ〜」
そう言ってマユ走って逃げていった。
「この、待てマユ!」
彼も彼女を追いかけ走り出す。口では怒っていながら表情は笑っている。
「毎日遅くまでゲームしてるオタクさんには捕まえられませんよー」
「言ったな、このっ!」
そんな感じで兄妹ではしゃぎあっている時間、シンはこんな時間が何よりも好きで幸せを感じていた。
そんな幸せもすぐに消えて無くなってしまう。急に足元が崩れだしシン真っ逆さまに落ちていく。
「いてて・・・ったくどうなってんだよ」
落ちた衝撃でぶつけた頭をさすりながら見上げると父と母、そして妹のマユが自分より高い場所の崖から見下ろしていた。
「みんな」
声をかけようとした瞬間、黒い影が自分の家族に忍び寄る。そして手に持った拳銃で家族を一人一人撃ち抜いていく。
血飛沫がシンの顔にかかる。顔についた血を手で拭いその手を見つめる。赤い、引き込まれそうになるくらい赤い。
気がつくと目の前に黒い影が立っていた。その影はニヤッと笑みを浮かべシンに向かって囁きかける。
「お前は生かしてやるよ、誰もいないこの暗い世界で、たった一人で生き続けろ。」
「な、なんなんだあんたは!!」
「ふふふ・・・一人だけおめおめと生き延びて何がしたい?自分で死ぬ勇気もないくせに、何かを変える力もないくせに」
「黙れよ!なんなんだよ・・・なんだってんだよぉ!!!」
「また新しい大切なものを見つけるのもいいだろう。そしたらまた一つずつ壊してやるよ・・・こんな風にね」
影は消えて目の前に三人が立っていた。いつの間にか影は三人の後ろに移動していて再び拳銃で頭を撃ち抜いていく。
「やめろ・・・やめてくれ・・・やめろぉぉぉーーー!!!!!!!」
507491-492の続き:2007/02/17(土) 15:40:26 ID:???
「やめろぉぉぉーーー!!!!!!!」
気がつくとみんなの視線が自分に注目していた。全員目が点になっている。教壇の上に立っているオレンジ色の髪の若い男の
教師が呆れ顔でこちらを見ている。
「何だシン。そんなに俺の授業がつまらないか?叫びたくなるほど止めてほしいのか?」
ーーーしまった・・・今は授業中だった。教室全部の視線の的になりながらシンはしどろもどろになりながら答えた。
「あの、すいません。寝ぼけてました。」
教師はため息をつきながらやれやれといったように両手を広げた。
「まったく、居眠りもいいけどな。黙って寝とけよ?五月蝿くされたらいくら俺でも見逃すわけにはいかないからな。
それとヨダレもふいとけ、そんなんじゃ彼女ができてもみっともなくて振られちまうぜ?」
そう言うと教室からドッと笑いが溢れてきた。シンは顔を赤くして縮こまっている。
ここはプラント本国にある「ミネルバ学園」男女比半々の高等学校である。どこにでもあるいたって普通の学校だ。
家族を亡くしたシンはその後トダカの進めによりプラントへと入国した。その後戦災孤児としての手続きもトダカにしてもらい
こうして学校に通っている。初めの内は家族を失ったショックで自分の殻に塞ぎこみ周りと打ち解けようとしなかったが
時間が経つにつれ完全にとまではいかないが徐々によくなっていき、学校にも馴染める様になった。それもみんな
周りの仲間のおかげだ。シンは口には出して言わないがそんな彼らや面倒を見てくれたトダカに感謝の気持ちを抱いている。
「さて、どこまでやったんだっけ?そうだ!血のバレンタインからだな。・・・」
教師はそのまま授業を再開するが、六限終業のチャイムが鳴り号令係が号令を掛け教師は退室していく。と同時に各々が部活の準備や
帰りの支度をしている。その中でシンは席に座ったまましばらく考え込んでいた。
(あれから二年か・・・)
508491-492の続き:2007/02/17(土) 15:46:03 ID:???
よく夢を見るようになった。目の前で家族が殺される夢だ。あの影は一体何なんだろう。いくら考えても答えは出ない。
最初の頃は見るたびに思い出し嫌な気持ちになったものだが今では慣れてきた。今では悲しみより怒りの感情のほうが強い。
戦争に全てを奪われた。残ったものといえばマユの携帯と銀色のベルトだけだ。爆発に巻き込まれたときに残っていたものである。他の荷物は爆発に
巻き込まれ無くなってしまった。シンはそんなベルトを見たこともなかったが家族の所有物である事に変わりはなかったので
携帯と同様形見として常に身に着けるようにしている。シンの怒りは様々なところに向けられる。戦争に対して、民間人を巻き込んだものに対して、
戦場にさせ国民を裏切ったオーブに対して。そんな事を考え体が真っ赤な熱い感情に満たされているところで頬に
冷たい感覚が襲った。びっくりし横を向くとそこには缶コーヒーが頬に押し付けられていた。さらに缶を押し付けていた人物は
赤い短髪の瞳の大きな少女、腰に手を当てて呆れ顔でこちらを見ている。同じクラスのルナマリア=ホークだ。
「ちょっとシン、まだ寝足りないっていうの?あんな寝言を大声で・・・恥かしいったらありゃしない。これでも飲んで目を覚ましなさい」
そういって買ってきたばかりのコーヒーをシンに手渡した。
「うるさいなぁ、こっちは寝不足なんだよ。でもまぁサンキュ」
一応お礼を言ってシンはプルタブを開けコーヒーを一口飲んだ。ちょうど喉が渇いてたところでとても美味しかった。
シンがコーヒーを飲んだのを確認してルナマリアは右手の手のひらを上に向けてシンに差し出した。
「はい飲んだね?150えんになりま〜す」
「は?だってお前が飲めっていったんだろ!?」
「誰も奢りなんて言ってないけど〜?は・や・くっ〜」
ルナマリアが催促してくる。こうなるとルナは強い。シンは交通事故にでもあったような感覚に陥り代金を払うべくポケットの中を探った。
が、でてきたのは200円でありちょっと多い。お釣りはあるのかと聞こうとした矢先、ルナに200円を奪われた。電光石火の早業だった。
「ふふっ、毎度あり♪」
「な!150円って・・・それにこのコーヒー120円だろ!?」
シンの正当な抗議もルナマリアは聞いてはいない。話題を変えるようにしてルナマリアが切り出した。

509491-492の続き:2007/02/17(土) 15:48:12 ID:???
「ねぇ今日街に遊びに行かない?メイリンやヨウランもヴィーノも行くんだ。ねっ行きましょうよ!」
メイリンとはルナマリアの双子の妹で同じクラスだ。姉妹でとても仲がよくいつも二人でいる。しかし性格は正反対で勝気で行動派の姉に比べ
メイリンは大人しくて天然。変なマニアがつきそうな雰囲気を醸し出している。(現にファンクラブが存在する、まぁルナマリアにも存在するのだが)
ヨウランとヴィーノはシンの悪友であり、よき理解者である。一緒にエッチな本を買いに行ったり更衣室を覗いた事もある。
ヨウランは浅黒い肌でナンパに命を掛けている。高校在学中全ての女のアドレスを聞くと意気込んでいるが達成まではまだまだ時間がかかりそうである。
ヴィーノは赤いメッシュが入った少年。身長は低めであるが機械いじりが得意。最近メイリンのことが気になってるみたいだ。
「そうだなぁ・・・そういえばレイは?」
楽しそうだ、と思いつつもいつものメンバーに一人足りない、シンは不思議に思いつつ聞いてみた。
「ああ、レイね。誘ったんだけどなんか家の事情でこれないみたい。残念ね〜」
レイに家の事情などあったのか。というかレイの家庭事情はまったくといっていいほど知らない。もともと無口な奴だし誰も聞こうとはしない。
それでも仲良くしてるのはある事がきっかけになったからである。ここぞと言う時に一番頼りになる、レイはそんな人物だった。
「そっか・・・てかごめん。俺バイクの修理に行かなきゃならないんだ。その後でもいい?」
「あら本当、オッケー!でもバイク見つからないようにしなさいよ?」
「わかってるよ、じゃあまた後でな」
このミネルバ学園ではバイクは校則違反であり発見された場合は三日間の停学と二週間担任教師と楽しい交換日記をする事になる。
そう言ってシンは教室から出て行った。
「さて、じゃあ私達も行きますか。」
かくして四人は先に街に向かう事になった。行く先で今までにない恐ろしい体験をする事はまだ誰も知らない。
そしてシンも、この日を境に自分の運命が大きく動いていく事を、今はまだ気付いていなかった。
510491-492の続き:2007/02/17(土) 15:50:02 ID:???
街に繰り出してはしゃぐ四人。放課後の寄り道とは休日に遊ぶよりも何故か楽しいものでその日も例外ではなかった。
「お姉ちゃん!見て見てあのクレープ!美味しそうじゃない?」
円らな瞳をキラキラ輝かせながらメイリンが言った。対照的にルナマリアは呆れ気味に
「あんたまだ食べるの!?さっきたこ焼き食べたばっかじゃない・・・太るわよ?」
「うっ・・・・!」
特に最後の一言がメイリンのハートにグサリと来た。確かに最近体重計に乗るのが怖い。それに比べ姉は・・・まじまじとルナマリアを眺める。
形のいい大きすぎないバスト、しっかり括れたウエスト、引き締まった小ぶりのヒップ。すらっとした脚。毎日一緒の家で生活していて
そんなものを見せ付けられれば、乙女心に不平等を感じる。なぜ神様は姉と同じプロポーションにしてくれなかったのか・・・と。
そう思いつつ姉に恨めしげな視線を送るメイリンであった。だが一般的に見ればメイリンも十分細い体型に入っている。ルナマリアが異常なのである。
「まったくいつまでも子供なんだから・・・これで彼氏とかできればいくらかは変わるんでしょうけど。」
そういいながらルナマリアは赤いメッシュの少年、ヴィーノに横目をやる。それに気付いたヴィーノは飲んでいたオレンジジュースを噴出す。
「ゲホッ!な、なんだよ?」
『べつにぃ〜〜??』
ルナマリアと浅黒い肌の少年、ヨウランは同時に言った。ヨウランはヴィーノ首に手を回し意地の悪い笑みでささやくように言った。
「このチャンスをものにしろよ!今日はヴィーノ君メイリンGET大作戦なんだからな?しかも姉公認ときたもんだ」
「そうそう、あんたが頑張って少しは私の肩の荷を減らしてよ。頼りにしてるわよぉ〜?」
と意地の悪い笑みを浮かべてルナマリアが続いた。そんな事も知らずに当のメイリンは遠くでアイスクリームを食べるか食べまいか云々と唸っている。
友の声援を受けてヴィーノ少年はメイリンの元に向かった。緊張で手と足が同時に出ている。その上進むペースが遅い。それを見守るルナマリアとヨウラン。
どこにでもある風景。のんびりとした時間が過ぎていった。しかしそんな幸せも一瞬にして崩れるものである。メイリンはふと近くのビルの屋上に目をやった。
すぐ近くのビルの屋上に人影が見えた。人間にしてはシルエットが歪であり手が長すぎる。それに服を着ていない。
その奇妙な【モノ】は屋上からルナマリアたちがいる通りへと飛び立った。手には鋭い爪、甲羅のような真っ黒な肌。肉食獣のような鋭い眼に牙。
その【モノ】は紛れもなく、怪物と呼ばれる範疇の生物だった。

511491-492の続き:2007/02/17(土) 15:52:01 ID:???
怪物はまず近くにあったクレープ屋の屋台を左手で振り払い破壊した。紙くずを引き裂くように、いとも簡単に破壊した。そして店を破壊されて
呆然と立ち尽くす店主の頭を掴み、あっけなく握り潰した。糸の切れた人形のようにだらしなく弛緩した元人間は無造作に通りに捨てられる。
その間約三秒。その惨劇の後、遅れて悲鳴が聞こえてきた。ルナマリアとヨウラン、ヴィーノはその様子をポカンとした様子で見つめていた。
ホラー映画の撮影かな?と思うほどはじめてみる人の死はあっけなかった。殺された店員の頭だった部分は潰れたトマトみたいになっていた。
気がつくと三人とも悲鳴を上げていた。しかし自分達の悲鳴は三人の耳には届かなかった。自らの悲鳴さえも周りの悲鳴でかき消されていた。
三人はがむしゃらに走った。息が切れても走るのをやめられない。後ろを振り向いて怪物が来てない確認したい、けれど怖くて振り向けない。
そんなジレンマを抱えながらも三人は走り、逃げ続けた。
その頃シンはバイクの修理を終えて店から出るところだった。待ち合わせしようとルナマリアに電話を掛けたが一向に繋がらない。
仕方がない、とりあえず街に行ってみてそれからまた連絡を取ろう、と考えバイクを発進させようとした時他の客とバイクショップの店員の
会話が耳に入った。
「今街に変な化け物が出てきたらしいんだってさ!パトカーがバンバン走ってるし本当なんだねぇ」
「そいつは大変だなぁ、こりゃこっちも大丈夫かねぇ」
(怪物?なんだそれ・・・ルナ達は無事なのか?)
嫌な予感がして、シンは街へと向かって走り出した。その時携帯にメールが入っていたがシンは気付いていなかった。
ルナマリア達三人は街のはずれに避難していた。すでに街は封鎖され警察に包囲されていた。他にも非難してきた人々が不安そうに警察を見つめていた。
「そうだ!メイリンは?」
ルナマリアがハッとした。辺りを見回したが妹の姿は見当たらない。混乱して頭が回らないながらもルナは考えた。
(もしかしてメイリンは逃げ遅れた?十分にありえる。あの子なら気を失ってもおかしくない。助けに行かないと!)
そう考えるやいなや、ルナは街のほうに向かって走り出した。ヨウラン達や警官の制止を振り切って。たった一人の妹を守るべく一人で死地へと飛び込んでいった。
512491-492の続き:2007/02/17(土) 15:53:30 ID:???
ルナマリアは怪物と遭遇した場所まで来ていた。人の気配はない。辺りの建物もめちゃくちゃになっている。それに、むせる様な血の匂い。所々に怪物にやられていった人々が
倒れていた。素人でももう事切れている事がわかる。凄まじい出血、おそらくあの鋭い爪にやられたんだろう。中には体が部分部分欠けている者いる。
ルナマリアは恐怖で泣きそうになるのを堪え、メイリンを探した。メイリンだって今きっと怖い思いをしてるに違いない、自分が守らなきゃという思いが
彼女を突き動かしていた。あたりを注意深くうろつきながら妹を探す。怪物に見つかる可能性もあるので大声は出せない。
ガタンーーーーーーー
アイスクリームの店の中から何か物音が聞こえた。ルナマリアの心拍数が一気に高まる。怖くて足が進まない。今すぐその場にへたり込んでしまいたかったが
意を決して店のドアを勢いよく開け中の様子を伺うとテーブルを盾にして半泣きにながらこちらの様子を伺っている少女の姿が。メイリンだった。
「メイリンっ!!」
「おねぇちゃんっ!!」
メイリンはルナマリアにしがみついてワンワンと泣いた。やはり怖かったんだろう。痛いくらいルナマリアを抱いて離さなかった。それはルナマリアも
同じであり、ルナマリアも泣いていた。可愛い妹の無事を確認できると一気に緊張が緩んだ。しばらくして落ち着いた後
「とにかくここは危険だから脱出しましょう、建物の間を縫って進めば怪物にも見つからないわ。」
ルナマリアの提案により多少遠回りでも裏路地を使った方が見つからないだろう、との事で慎重に辺りを確認してから二人で街から出る事にした。
しかし入り組んだ道はその他障害物も多くなかなか進めなかったがその代わり怪物にも出くわさなかった。いくつか大きな通りにでなくてはいけなかったが
慎重に渡り難を逃れた。
「ここを渡れば大丈夫よ、みんなや警察がいる避難所まで行ける。あと少しだから頑張って」
「うん!ここを渡ったら家に帰れるんだよね・・・私頑張るよ!」
互いに頷き合いせーので走り出す。距離にして約50メートル程か、残り10メートルというところで何か細長いものが二人の地面に投げつけられた。
急に飛来してきたものに驚き立ち止まってみてみると、それは人の腕だった。切断面がこちらに向いている。皮肉にも指先が出口を示すように案内している
ようでもあった。ぎこちない様子で横を見ると黒い悪魔がこちらに向かってゆっくりと歩いていた。
513491-492の続き:2007/02/17(土) 15:56:09 ID:???
「ここまで来たのに・・・」
ルナマリアは思わず口にした言葉がこれである。最後の最後でどん底に叩き落される、そうなると人間はどうなるか。気持ちが折れるのだ。
超緊張状態にあり二人の体力は既に空であり気力だけで動いていたと言っても過言ではない。メイリンはぺたんと座り込んでただ怪物を眺めている。
円らな瞳にもう輝きはなかった。ルナマリアも座り込んでしまい、死を覚悟した、この場合死を受け入れたのだ。涙は出ない。
死ぬ前ってこんなに穏やかなんだ、とルナマリアは思った。もっと泣き叫びながら殺されるんだと考えたが実際頭の中は結構冷静だった。
怪物が目の前に近づいてくる。具現化した【死の象徴】である怪物。その容貌はどことなく邪悪な笑みを浮かべる悪魔のようにも見える。
二人はもはや何も考えてはいなかった。ただすぐ目の前に来ている死を受け入れるのみ。逃げ惑う事に疲れていた。逃げても無駄、
救いはないんだ。と悟ったのだ。怪物が鋭い爪を空高くに振りかぶり振り下ろそうとした瞬間、ホーク姉妹の頭上を飛び越え巨大な物体が
怪物にぶつかった。さすがに怪物の衝撃に耐えられなかったのか見えないゴムに引っ張られたように後ろへ吹き飛んだ。二人はその光景をぼんやりと見つめていた。
ぶつかったものはバイクでありそれに乗っていたのはクラスメートであるシン=アスカだった。着地に失敗したのかシンはバイクもろとも派手に転んでいる。
「ルナ!メイリン!無事か!?」
なんとか起き上がり二人に駆け寄る。二人には聞こえていないようだ、目の前にあんな非常識な存在がいるのだ、無理もない。シンはそう思った。
そうこうしているうちに視界の端で怪物が立ち上がったのが見えた。ゆっくりしている暇はないようだ。
「二人とも逃げるぞ!!!立て!早くしろ!!!」
そういいながらシンはルナの頬を軽く叩く。ようやく気が戻ったのかルナはメイリンを連れて頼りない足取りで出口へとよろよろと歩いていった。
二人が逃げたのを確認して、シンは改めてこの状況を認識した。
(最悪の状況だな・・・)
目の前には得体の知れない化け物。かたやこちらは普通の高校生。どうあがいても勝ち目はない。絶望という状況を辞書に載せるならこういう事だろうな
とシンは頭の片隅で考えていた。その時後ろから声が聞こえた。警官隊の声だ。
「少年!!ふせろーーーー!!」
シンは言われるままに地面に伏せた、何人かの警官が上官の合図で怪物に拳銃を発砲している。断続的に響く発砲音、怪物は煙に包まれた。


514491-492の続き:2007/02/17(土) 16:00:01 ID:???

鼓膜を直接刺激するような銃声も鳴り止んだ。全弾打ち尽くしたんだろう、煙が晴れてくる。怪物はそのままの姿で直立していた。
効いていない。警官隊も明らかに動揺している。これだけなのか?と言わんばかりに怪物は警官隊の目の前に飛び立ち怯え逃げ出そうとする警官隊を
一人残らず殺した。絶対的に埋まらない力の差、生き物としてのスペックが違う。
(逃げるしかない・・・。逃げられるのか?)
戦って倒す事など不可能だ。急いで倒れたバイクを起こし逃げ出そうとするが怪物はそれを見逃さない。すぐさまシンに近寄り無造作に手を
横殴りにしてシンをバイクごと吹っ飛ばした。そのままブティックの中に突っ込み、その衝撃でショーケースのガラスがめちゃくちゃに割れた。
視界が赤く染まった。自分の血なのか瞼がやられたのかはわからない。何とか立ち上がるも激痛でよろめく。肋骨の2,3本は折れている。
修理したばかりのバイクも不自然に火花を散らしている。もう修理しても前のように走る事はできないだろう。
店の中に怪物が入ってくる。ゆっくりと勝ち誇るかのように近づいてくる。怪物は一定の間合いを保ち左手の爪でシンを襲う。がシンは身を捩り間一髪これをかわすが、
受身を取り損なう。一瞬息ができなくなるほど胸が詰まった。よろよろと立ち上がり逃げようとしたが怪物はこれを見逃さず振り向きざまに
右手の爪を振り下ろした。振り下ろす軌道上にあるシャンデリアが根元から崩れ、それごとシンに向かって襲い掛かる。直撃こそしなかったものの
余波は凄まじく、今度は店の外に向かって吹っ飛ばされた。その際頭を強く打ち頭部からの出血があったが、シンはそれに気付く余裕がなかった。
もはや、体の部位で健康な部分がない、というところまで来ている。歩く事もままならない。
「がっ・・・!ぁぁ・・・」
シンが痛みに苦しんでいると目の前に自分の携帯が落ちていた。メール受信のランプがついている。こんな状況でも人間は無意識に
してしまう行動がある、思わずシンはいつもの様にメールをチェックした。そこには差出人不明のメールが届いていた。怪訝に思いながらメールを開けると
奇妙な文章が書かれていた。いつもなら迷惑メールは処分してしまうのだがこのメールはそれとも違う様子だった。
題名:緊急連絡
やぁ、シン=アスカ君。細かい挨拶は抜きにしよう。君がこのメールを読んでいるという事は君の身に危険が迫っているという事だ。
このメールはその状況を打破するためのメールなんだ。このメールは冗談ではないという事を頭に入れて欲しい。
やるべき事は一つ、君の持っているこの携帯を君の身に着けている銀色のベルトにかざすんだ。何を言っているのかわからないと思うが
君が困った時はこの通りにして欲しい。そうすればどんな事でもきっと乗り越えられるはずだ。
P.S. 運命は自分の手で掴むものだ
515491-492の続き:2007/02/17(土) 16:03:08 ID:???
そこにはそう書かれていた。誰の悪戯だ?そう思ったもののどうやらこのメールの差出人は自分がこんな状況にあるという事を
知っているらしい。適当な悪戯ではないようだ。それでも信じる事はできないが最後の文が気にかかった。
『運命は自分の手で掴むものだ』
今まで自分は翻弄されっぱなしだった。家族を失った事、住む場所を失った事。それが自分の運命ならどんなに悲惨な事か。
実際そう思っていた。この先生きていたって家族は生き返らない、新しい友達もまた失ってしまうかもしれないという恐怖。
そして今目の前にいる怪物、こいつはなんだ?こいつまでも俺に何かしようとしている。そう考えると怒りがこみ上げてくる。
まだ死ねないーーー自分をこんなにまで陥れた元凶に、自分を脅かすものに一発食らわせるまでは死ねない。そのためなら
どんな事だってしてやる。必ず生き延びてやる。そんな強い衝動がシンを突き動かした。
シンの目に迷いはなかった。たとえメールが悪戯でも構わない。何か起こるとも思っていない。ただこれは儀式なのだ。
生まれ変わるための儀式。生きてる様で死んでる自分から抜け出すための。悲鳴を上げる体を何とか起こし立ち上がる。
制服を振り払い銀のベルト露出させる。
ベルトはバックル部分が黒の板に覆われているシンプルなベルトである。そうこうしている内に怪物が建物から出てきた。
あまり時間もない。シンは携帯を右手に持って顔の高さにまで持ち上げた。横目でピンク色の携帯を眺める。
マユが残した携帯、家族が残したベルト。残ったものはこの二つ。偶然ではすまない何かがあるのだろう。
怪物を真っ直ぐ見据えてゆっくりと携帯をベルトのバックル部分にかざした。
ーーーー認識完了 コンディションレッドへ チェンジ インパルスーーーー
するとベルトから聞きなれない音声が聞こえた。その直後シンの体はベルト中央から放射状に光に包まれた。その眩さで怪物は
眼を庇い視線をシンからそらした。閃光がおさまった時にはシンの姿は異様な姿に変わっていた。
中世の鎧の様なプロテクターに身を包み、さらにはベルトの形も大きく変わっていた。
黒い板状だったバックル部が白い電子機器の認識端子のようなものに変化していて、なおかつその横には
縦に赤、青、緑の順のボタンが並んでいる。頭部には全部分を覆うような兜。昆虫を思わせる大きな複眼に
アルファベットのV字型のアンテナが額に取り付けられている。
その日から、少年シン=アスカは仮面ライダーインパルスとして生まれ変わった。
516491-492の続き:2007/02/17(土) 16:08:46 ID:???
前のとあわせてようやく第一話終了です。遅くなって申し訳ありません。
変身シーンについてなんですが最初はカブト風にいこうと思ったのですが
うまくまとめる事ができず電王風にしてしまいました・・・ベルトが喋るのはその名残です
妹の形見の携帯で変身とはロリコンチックではありますが今のところ王道ヒーローにしようと画策しているので
生暖かく見てやってください。

>>503
素晴らしくカッコいいですね!僕のイメージしてた仮面ライダーインパルスと
ぴったり一致します。絵が書けて羨ましい。
517通常の名無しさんの3倍:2007/02/17(土) 18:35:03 ID:???
GJです
シンが俺は最初から徹底的にクライマックスだぜって言い出しそうだ
メールに導かれて変身って流れが武装錬金を思い出した
518通常の名無しさんの3倍:2007/02/17(土) 18:42:56 ID:???
GJ!
ミネルバ学園とかの設定にワラタ

携帯で変身だったら、やっぱりファイズだなあ
519通常の名無しさんの3倍:2007/02/18(日) 00:44:17 ID:???
GJ!熱くていいなあ、燃える。
仮面ライダー・デスティニーもマユの携帯で変身だし
555と繋げて誰もが考えることかもしれんね。
520通常の名無しさんの3倍:2007/02/18(日) 02:39:14 ID:???
なんかもうここまでくると種キャラじゃなくて
マジモンの仮面ライダー作品のキャラに思えてくる
いい意味で
設定もうまいし、すごいや
521仮面ライダーD+:2007/02/18(日) 18:46:41 ID:???
ようやくタイトル決めました。ではどうぞ。

第二話  嫌いな自分

強烈な閃光と共に現れたのは黒と灰色のスーツと甲冑に身を包んだ人物だった。
シンはまじまじと変化した己の体を眺めている。信じられなかった。確かに高度な技術は身の回りにごまんとあるがこのように
一瞬のうちに全身を変えてしまうような話など聞いたことがない。自分に起きている現実と自分の中の常識が大喧嘩している。
内部スピーカーから音声が聞こえる。
『起動完了。初期立ち上げのガイダンスを行います。このスーツはZGMF-X56S インパルス 対危険生物迎撃用スーツです』
(対危険・・・ってことはあの化け物と戦えるって事か?)
こちらを警戒しているのだろうか、怪物は先程の様に不用意に近づいては来ない。あれだけ主張していた怪我も何故か痛みが引いている。
「よし、やってやる!いくぞ化け物!!」
シンは怪物に向かって一直線に向かっていった。虚を突かれた怪物は反応が遅れシンの右ストレートがちょうど心臓部分にぶち当たった。
少し効いた様だが二三歩後退り体勢を立て直した。シンはそのわずかな隙を見逃さなかった。続けざまに左のフック、右中段蹴りを力一杯叩き込んだ。
しかし怪物はびくともしない。直立不動でシンを見下ろしている。連続攻撃の隙間を縫うように、お返しと言わんばかりの怪物の鋭い爪のフルスイングが
シンを襲う。紙一重でそれをかわす。しかし爪が胸の装甲に掠った様で火花が散った。バック転で怪物との距離をとる。
「攻撃が通用しないなんて・・・どうすりゃいいんだよ?!」
負けはしないが、勝てもしない。こうなったら消耗戦だ。それでは分が悪すぎる、次第にシンの心は焦っていった。
するとまたしても内部スピーカーからの音声が聞こえた。こんなとき耳元で!苛立ちによりシンはスピーカーに当たるようになっていた。
『インストール完了。フォースシルエットが使用できます。戦闘行動を行う場合はベルトの青いボタンを押してください。』
「フォース?つまりこれ戦闘用じゃないって事か?・・・ってか早く言えよ!!!」
言われるがままにシンはベルトのボタンを探す。縦に並んだ赤、青、緑の三つのボタン。真ん中のボタンを押した。
ーーーーチェンジ  フォースシルエットーーーー
ベルトからの機械的な音声と共に灰色だった装甲部分が鮮やかに色付いていく。全体的に白と青を基調にしたカラーリング。額のV字アンテナは黄色だ。
ZGMF-X56S/αフォースインパルス。別名:蒼い閃光の誕生であった。
522仮面ライダーD+:2007/02/18(日) 18:48:25 ID:???
シンは二度目の変化に特別驚きはしなかった。目の前の怪物、自分自身の変化で驚くことすらも疲れたのだろう。
怪物は空高くジャンプしシンの背後に降り立った。振り向きざまにまるで居合い抜きのように腕を一閃させた。シンはしゃがんで難なくかわす。
外したその勢いで逆腕で地面を抉りながらの突き上げ攻撃、シンはこれも易々とかわす。一息おいてからの怪物の連続攻撃、突き、薙ぎ払い、振り下ろし
その全ての攻撃をシンはしっかりと見切ってかわす。もはやシンに触ることさえ困難であった。
(怪物の動きが鈍くなった?さっきほどのスピードは感じない・・・よし、これなら!!)
怪物の鋭い矢のような突きをギリギリでかわしシンは怪物の懐に飛び込む。左のパンチが肝臓あたりにめり込む。怪物の動きが鈍くなった。
(今度こそ効いてる!さっきとパワーが桁違いだな・・・。)
実際パワーは上がっているが本当に上がったのはそれではない。フォースの一番の武器はその【スピード】である。
体を動かす運動性能、拳を振るう速度、蹴りの鋭さ、それら全ての能力が怪物を遥かに凌駕している。怪物の動きが鈍くなったのではなく
シンのスピードが尋常ではないものになっていた。一般人であればただ青い残像が見えているだけにしか見えない速さだ。
シンの攻撃のリズムも上がっていく。ワンツーのコンビネーションブロー、続けて後ろ回し蹴り、追い討ちをかける飛び膝蹴りが
容赦なく怪物に襲い掛かる。あんなに硬く苦戦していた甲羅のような肌も今ではボロボロに割れている。
怪物の足取りももうおぼつかない、今にも倒れそうになっている。止めを刺すべくシンは地面を蹴り一気に間合いを詰めた。
それを見るや否や怪物は腰だめに構えシンを迎撃するように右手を力一杯振り回した。そこにある空気を削り取るような一撃。
だがそこにシンの姿はなかった。辺りを見回してもどこにも気配がない。と、同時に怪物の左上半身に凄まじい衝撃が走る。
目の前には青い戦士の姿。シンはあの一撃を上空にジャンプする事でかわしさらにはその落下エネルギーを使い怪物に渾身のエルボースラッシュを
お見舞いした。流石の怪物もこれには耐えられず二三歩後退り盛大に爆散した。その赤橙の炎はインパルスの装甲を赤く染め上げている。
直後にシンの変身もとかれた。先程感じたように体の痛みも出血も引いている。あのスーツのおかげなんだろうか?
バタバタと遠くから足音が聞こえる。この爆発音を聞いて再び警官が突入してきたんだろう。この状況をうまく説明できる自信も無く、
またただ単にめんどくさかったのでシンはその場を後にした。
523仮面ライダーD+:2007/02/18(日) 18:50:17 ID:???
シンはくたくたになりながらも自宅のアパートに戻ってきた。あれだけ盛大に破壊されたと思われたバイクも不思議とまだ動くようだった。
(今日は不思議な事だらけだな・・・まるで奇跡のバーゲンセールだ。)
今日一日であんなに信じられない体験をしたシンにとって、バイクが一台直っていた位ではもうさほど驚かなくなっていた。
色々知りたいことは山程あった。ルナマリアたちは無事なのか、あの怪物は一体なんだったのか、そして・・・シンはベルトと携帯に目をやる。
ただの形見の品だったのに何でこんな事ができるようになったのか。誰もそれを教えてくれないし調べる術も無い。
ベットの上で寝転がりながらそんなことを考えているとシンは眠りに落ちていった。
翌朝、シンは普段通り学校へ行った。教師に見つからないよう学校から少し離れた空き地にバイクを停めそこから歩いて学校まで行く。
教室の扉を開けると赤い髪の毛の女の子が二人こちらに振り向いた。
『シンッ!!』
シンに気づくとルナマリア、メイリンの二人がこちらに近づいてきた。どうやらあれからうまく避難できたらしい。二人と昨日はあんな目にあったのに特に変わった様子が無い。
「ちょっとシン!大丈夫だったの?あれからどうやってあの怪物から逃げたの?」
髪の短い方のルナマリアがずぃっと顔を近づけて質問してきた。まさか不思議な光に包まれてその力で怪物を退治しました。
何て言っても信じてもらえるはずも無い。当然自分がそんな事言われても信じるわけないし本人の頭を心配してしまう。
「ああ、あの後すぐに警官隊が駆けつけてくれてさ。そのドサクサでうまく逃げ切れたんだよ。」
シンはとっさに嘘をついた。警官隊が助けに来てくれたことは嘘ではないしまた逃げ切ったことも嘘ではないからだ。(ただしこの場合警官から、だが)
「そうなんだ・・・あの、シン。本当、その・・・ありがとう」
髪の毛を二つに縛ったツインテールの少女、メイリンが控えめにシンにお礼を言った。どこと無く気まずそうだが。
「それよりあんな派手なバイクスタント決めておいて怪我は大丈夫なの?まったく無茶するんだから・・・」
今度はルナマリアが質問してきた。口うるさく言いながらやはり助けてもらった恩があるのだろう。姉御肌のルナマリアらしい心配の仕方だった。
「ご心配なく。幸い掠り傷さ。」
その瞬間後ろから首に腕を回される感覚、こんな事するのあいつしかいない。
524仮面ライダーD+:2007/02/18(日) 18:51:07 ID:???
よぉ〜白馬の王子様♪かっこよかったらしいじゃんか〜」
軽い口調で話しかけてくる。浅黒い肌の自称ナンパ師、ヨウランだ。その横には赤いメッシュのヴィーノの姿もある。二人も無事に避難できたようだ。
「よっシン。体の具合はよさそうだけどバイクの方は大丈夫なのか?今度様子見てやるよ、メイリンを助けてくれたお礼代わりだ。」
ヴィーノもいつもの調子でシンに話しかけてきた。機械いじりが得意なヴィーノはバイクも守備範囲内でシンはよくヴィーノにバイクの調子を見てもらってる。
昨日修理に行ったのはヴィーノが専門の道具が無いと修理できないという事で行ったのであり普段はまずヴィーノに修理を頼んでいる。
「サンキュ♪でも今のとこは大丈夫だけど、暇があったら頼むよ。」
そんな他愛も無い会話、やはり自分の日常はこっちなんだ。とシンは強く思った。昨日あんな事があっただけにこの時間はとても貴重に感じられた。
そんなこと思っていると一人気に入らないのかルナマリアが目を三角にして怒っていた。
「ちょっとヴィーノ!聞き捨てならないわねぇ、メイリンを助けたお礼って私は?数にも入れられてないじゃない!」
ヴィーノに詰め寄る。しまったという表情で周りに助けを求めている。やれやれといった感じでシンが言った。
「まぁ落ち着けってルナ。ルナはほら!死んでも死なない様な子だからだよ。」
火に油を注ぐ。シンとしては褒めたつもりだったのだがそれはルナの心には響かなかった。逆鱗に触れる言葉、ここからルナマリアの説教タイムが始まった。
一度始まったらしばらく止まらない。みんな思わず正座してしまっている。それほどルナマリアの説教は恐ろしい。いつもならレイが中間に
入って止めてくれるのだが今日はまだ来ていない。いつも同じ時間に来るレイだからそろそろ来てもいいころなのだが。
ルナマリアが政治家の税金の無駄遣いについて説教しているとルナマリアの携帯が鳴った。しぶしぶ説教を中断して携帯を見る。
「レイ、今日は休むって。」
『ええぇ!!』
皆異口同音に驚きの言葉を述べた。あのレイが・・・レイが学校を休むなんてことは今までに無かったので何かあったのかな?と思ってしまう。
そんな事をしてるうちに担任教師が入ってきて朝のホームルームが始まった。こうしてシン達はルナマリアの長く脱線しがちな説教から開放されたのである。


525仮面ライダーD+:2007/02/18(日) 18:52:05 ID:???
レイが学校を休んだこと以外は取り立てて代わったことも無かった。強いて言えば昨日の事件の影響で今日の部活は全面禁止。全校生徒即座に下校しろとの事。
六限の授業も終わり皆帰宅の準備を始める。シン達も昨日あんな目に遭ったので寄り道をしようとは思わない。シンが下駄箱で靴を履き替えている時
携帯が一通のメールを受信した。そこには
題名:君の知りたい事を教えよう
やぁシン。昨日はうまく切り抜けられたみたいだね。今日四時にポイントX−103まで来てくれ。
君に教えなくてはいけないことがある。では待っているよ。
あの時の人物だ。シンにメールを送り不思議な力へと導いた者。どうやら姿を隠すつもりは無いらしい。
シンは急いでバイクに向かい、指定のポイントへと向かった。罠かもしれない、だがそうなったらまたあの力を使えばいい。あまり気は進まないが
それに・・・知りたいことが多すぎた。何故こんな力が使えるようになったのか、メールの人物の正体は、目的は?
バイクを走らせながらずっと考えていた。行けば何かがわかるかもしれない、そう信じてシンは更にバイクを加速させた。
四時十分前、シンはポイントX−103に到着していた。そこにあるのはとても大きな古い洋館。壁にツタが茂っていて不気味な演出を施している。
(気味の悪い髭の生やした執事でも出てきそうだな)
そんなくだらない事を考えていると突然鉄格子のような門が開き始めた。どうやら入れということらしい。そこから館の玄関までは30メートルほどあり
庭には意外にも綺麗な池、立派な錦鯉が悠々と泳いでいる。しっかりと切りそろえられた植木、今は咲いていないが桜の木も植えてある。
玄関までたどり着く。扉には獅子の彫刻が彫ってあり、家に上がる前に食べられてしまいそうなほどリアルに作られていた。
そんな事をしていると扉が開いた。中から何が飛び出てくるかわからない。シンは体を半身にずらし警戒した。わずかに開いた扉の隙間から何かが
飛び出してきた。速い。認識した瞬間、その何かはシン目掛けて飛び掛っていた。勢いで後ろに倒れるシン。顔に感じる生暖かく柔らかい感触。
犬だ。かなりの大型犬である。はふはふしながら尻尾を振っている。シンの顔をベロベロと舐め回している。そんな事をしている間に扉から背の高い人物が出てきた。
「こらこら、やめなさい。ララァ。その人は私の大事な客人だよ。」
そういうと犬はシンから離れその人物の足元で行儀良くお座りの姿勢をとった。ララァと呼ばれる犬の頭を優しく撫でた。
「すまなかったねシン=アスカ君。はじめまして、私はデュランダル、ギルバート=デュランダルだ。知ってのとおりメールの送り主だ。」
男はそう言ってシンを中に入るよう促した。
526仮面ライダーD+:2007/02/18(日) 18:53:00 ID:???
館の中は思ったよりも綺麗だった。それよりも由緒正しい雰囲気に満ちていてシンを圧倒した。ドラマの舞台になりそうなホール、値段がつけられないような
シャンデリア、今にも動き出しそうな騎士の彫刻。むしろ博物館といったほうがしっくりくるかもしれない。
そんな事を考えながらデュランダルの後ろを歩いていると客室に通された。そこには既にお茶が用意してあり見たことの無いようなカラフルな
クッキーやチョコレートが豪勢においてあった。デュランダルに促されるままにソファに腰掛けるシン。埋まりそうになる位ふかふかだ。
デュランダルはシンの正面に座り一口紅茶を飲んでから話を切り出した。
「さて、もう一度自己紹介をしておこう。私はギルバート=デュランダル。プラント中心部の国立大学で教授をやっている。専攻は遺伝子学だよ。」
世間に疎いシンでもその名は聞いた事がある。遺伝子学の第一人者であり、よくテレビにも出演したりしている。著作も有名でベストセラーになったりした。
長い黒髪、鋭い目つき、だがそれは攻撃的ではなく、どこか誇り高き鷹のようなイメージを与える。立ち振る舞いも気品にあふれていて
教授というよりどこかの国の王様のようなイメージをシンは抱いた。現にこの家の一部分なんじゃないかってくらい彼はオーラを放っていた。
シンははっきり言って面を食らっていた。まさかこんな感じで招待するとは、もっとこう、殺伐とした雰囲気だと思っていたのだがこうも高貴な
感じだと非常にやりづらい。それを見透かされたのかデュランダルは
「ははは、そう硬くならないでいいよ。楽にしてくれたまえ。それともあれかい?私の事を警戒しているのかね?」
いきなり核心を突いてきた。シンは意を決してデュランダルに質問をした。
「あの・・・あの力は一体何なんですか?それにあの怪物は・・・何故あなたがそんな事を知っているのですか?」
「ふむ・・・それを説明する約束だったからね。では本題に入ろうか。」
そう前置きをしてデュランダルは話を始めた。
「まずはあの怪物。あれはMonster Slaveと呼ばれるものだ。通称MS。基本的知能は低く言語を操ることはできない。その代わりに
高い身体能力、五感を有する。能力は各個体によってバラつきがある。目的は破壊活動、建物や重要資材を破壊したり、人の命をも奪う。」
「MS・・・。なぜそんな怪物が生まれてきたんですか?突然変異とか?」
シンがそう聞くとデュランダルは目を瞑り深く息を吐いてから重々しく呟いた。
「あれを作ったのは・・・私達人なのだよ。」
527仮面ライダーD+:2007/02/18(日) 18:53:54 ID:???
デュランダルはそのまま話を続ける。
「ある時、生命の中に発見されていなかった新種の遺伝子を発見してね。その研究を進めていた。それはうまく使えば人類にとって
大きな利益となるものだった。それを利用したものがコーディネイターだ。それにより人類は類を見ない、目覚しい進歩を遂げるはずだった。」
「だった・・・?」
「ある一人の科学者がその遺伝子を悪用してね・・・。結局その計画は凍結される事になった。コーディネイターを作る技術だけは
今も受け継がれているが。コーディネイターを作るのは人工的に遺伝子を並び替え望むような結果を得る事は知っているね?
しかしそのある科学者は遺伝子をとんでもない形に作り変えたんだ。それによって生まれたのがMSという訳だ・・・。」
本当はもっと難しい話だったが専門用語を使って説明せずにわかりやすい言葉でシンに説明した。
「なるほど・・・その科学者のせいでそんな怪物が世に出てきたって訳だ。しかしどんな目的でそんな事をしたんですか?」
「それは・・・私にもわからない。ただ、そんなモノ共を放って置く訳にはいかない。しかしMSの力は凶悪すぎる。既存の兵器では太刀打ちできない。
そこで利用したのが軍事に使われていた強化スーツを改良したもの。それが君の持っているそのベルトの力だ。」
「これが・・・?」
「そうだ。それは私の知人が開発したものでね。それを君の父上がある経緯を通じて持っていたと言う訳だ。そのベルトはMasked Rider計画の雛形だ。
通称は仮面ライダーと呼ばれているものでね。MSはそのMRで無いと倒すことができないんだ。それにその力は誰にでも扱えるものではないんだ。
今MSに対抗できるのは君しかいないんだ。」
「ちょっと待ってください!いきなりそんな事言われてもわかりませんよ!MSとかMRだとか・・・」
戸惑うシンにデュランダルは言葉を続ける。
「MSを生み出した科学者もそれ実用化するまでに多くの時間をかけざるを得なかったらしい。現にMSが出没するようになったのはごく最近だ。」
「それなら・・・その人を警察に突き出すなりなんなりしてMSって奴を作らせなきゃいいじゃないですか。」
「それがそうもいかなくてね・・・その人物の行方が掴めないのだよ。わかるのは唯一つ、MSを操っているのは組織ぐるみで行っている。
そしてその組織の名前は、ファントムペイン。」
528仮面ライダーD+:2007/02/18(日) 18:55:30 ID:???
「あるはずの無い痛み・・・。」
シンはそう呟いた。ここまで話を聞いていたが、ハッキリ言って信じられない。MS?対抗?開発?ベルト?MR?ファントムペイン?
しかし現実に見てしまっている。この世のものとは思えない恐ろしい怪物、それを倒してしまった未知なる力。どちらかが夢でどちらかが現実なのか?
違う、どちらもれっきとした現実なのだ。
「いきなりこんなことを言われて信じられないのは無理も無い。この事実を知っているのは世界でもごく一部の人間だからね。」
さらっととんでもない事を言ってのける。しかしデュランダルはもっととんでもない事を言い出した。
「無理を承知でお願いしたい。シン君、これからMSと戦ってはくれないだろうか?」
「えっ!!?」
いきなりの戦闘依頼である。冗談ではないみたいだ。デュランダルの目は真剣そのものだ。
「君のような若者を戦わせるのはつらい・・・。だが他にできる者がいないんだ。やってくれないだろうか?」
このような威厳にあふれた人物がたかが高校生である自分にお願いしている。きっとプライドをかなぐり捨ててまでやっているのだろう。
デュランダルの本気の気持ちというものがシンにひしひしと伝わってきた。しかしシンの口から出た言葉は意外な一言だった。
「俺、やりません。」
デュランダルは予想していたのだろうかそう落ち込まずシンの言葉を聞いていた。シンは続けて
「いきなりそんなこと言われて、勝手に人を巻き込んで・・・なんなんだよ、あんた達は!またあんな化け物と戦うなんて二度とごめんだ!」
徐々に熱を帯びた調子になった。積もり積もったストレスをデュランダルにぶつけてしまった。
しまった・・・言った直後に彼は猛烈な自己嫌悪に陥った。そんなシンの言葉に気を悪くするでもなくデュランダルは言った。
「それは本当にすまないと思っている。全てこちらの勝手な言い分だ。君には何の責任も義務も無いのだから。本当にすまなかった・・・。」
そう言ってデュランダルは頭を下げた。そんな事をされてシンはどうしていいかわからなくなった。
「頭を上げてください。・・・俺、もう帰ります。」
そう言って扉に手をかける。その背後からデュランダルが声をかける。それでもシンは振り向かない。
そのままデュランダルは続けた。
529仮面ライダーD+:2007/02/18(日) 18:56:21 ID:???
「MSも正しく使えばコーディネイターのように素晴らしいものになる。だから全ての力は正しく使わなくてはならない。
君の力はみんなが必要とするものなんだ。決して平坦な道ではないかもしれないが、それは君にしかできない事なんだ。
その力で多くの人々を救えるという事は知っておいて欲しい。勝手なことを言ってすまなかった。」
シンは背を向けたままだったがデュランダルはもう一度シンに向かって頭を下げた。シンは何も言わずに黙って部屋から出て行った。
デュランダル一人が部屋に残された。ぼふっとソファに座り
「・・・私は。これで正しいんだろうか・・・なぁ・・・アスカ」
誰もいない部屋で自嘲気味に独りごちた。
部屋を出て、玄関まで歩いていく。玄関にはララァが座っていた。シンの姿を見るなりララァは尻尾を振りながらシンの足元をぐるぐる
駆け回っている。シンはそんなララァの頭を優しく撫でてやり、玄関から出て行った。
バイクにまたがりシンは行くあても無く走り回った。心が落ち着かない。先程のデュランダルの言葉が頭から離れなかった。
ーーーーー力は正しく使わなくてはならないーーーーー
頭の中で何度もリフレインする。
(そんなことない!俺には関係ないんだ!!)
頭を振ってもう考えないようシンはさらにアクセルを吹かした。まるで館から逃げ出すかのように。
気が付くとシンは郊外にある遊園地の前まで来ていた。だいぶ前にヨウランたちと一緒にナンパに行った場所だ。
その時はヨウラン一人が張り切ってシンとヴィーノはベンチに座っていろんな女の子に声をかけてはことごとく断られるヨウランを
ただ眺めていた。気が付くとシンは遊園地の中に入っていた。何をするわけでもなくただ賑やかな場所にいれば
こんな気分も晴れるかな、とそんな事を考えながらシンはベンチに座り行き交う人々を眺めていた。
やはり先程のデュランダルのことを考えてしまう。
(俺にしか・・・できないか・・・)

530仮面ライダーD+:2007/02/18(日) 18:57:21 ID:???
思わず断ってしまった。本音を言えばあんなに必要とされるのは正直悪い気はしなかった。
デュランダルも悪人には見えなかったし、何にせよ一人の大人として扱ってくれるのは素直に嬉しかった。
しかしMSと戦うとなると話は別だ。もちろん恐怖もある。だが一番の理由は自信が無かった。戦って皆を守ることができるのか?
大事な家族をも守れなかった。自分は惨めでちっぽけだ。昨日だって後ちょっと運が悪かったらルナ達も守れなかっただろう。
そんな事を考える・・・この二年間でシンはすっかりマイナス思考になった。大切なものを全て無くす・・・
またそんな事があったら今度こそ耐えられない。シンはそう思っていた。
(やっぱり・・・デュランダルさんにベルトを預けに行こう。)
そんな決意が固まっていた。実際メールが来た時もチャンスを見計らいベルトを返そうという気持ちもあった。
しかしあんな事があってはタイミングも失いそのまま帰ってしまった。しかしもうあそこには行きづらい・・・
そんな葛藤を何度か繰り広げているうちに辺りの風景が夕日に染まっていた。
そろそろ帰ろうか、とシンが思っているころ大きな爆発音が聞こえ、振動で大気が揺れた。すぐそこのメリーゴーラウンドから火柱が上がっている。
楽しそうにしていた人々が蜘蛛の巣をつついたように逃げ惑う。その中心部には灰色の体、手には斧のような物が握られている。頭部には一つ目の異形の生物が立っていた。
間違いない、先程デュランダルから説明を受けたばかりのMonster Slaveだった。
「マジかよ・・・ついてなさすぎだろ・・・・!」
最近の自分の運の悪さに悪態をつきながらシンはとりあえず人の流れに沿って逃げ出した。もはや彼に戦う意識は存在しなかった。
走り出した瞬間、小さな女の子の泣き声が聞こえる。人の波に押され膝をすりむいて泣いて座り込んでいる。
少女の近くには徐々にMSが近づいてきている。するとそこにその子の兄らしき小学生くらいの少年が彼女に駆け寄ってきた。
二人とも背後の怪物には気づいていない。兄が少女の体を起こし逃げ出そうとする時、MSは既に彼らの目の前まで来ていた。
彼らは何をするまでもなくただ立ち尽くしている。恐らくこの状況が飲み込めないだろう。
MSが斧を振り上げ兄妹もろとも、と襲い掛かる瞬間。二人の体は宙に浮きそのまま横の植木に突っ込んだ。
531仮面ライダーD+:2007/02/18(日) 18:58:33 ID:???
ガキンッッ
MSの斧がコンクリートの地面を叩いた。間一髪、幼い子供達はシンの手により、間の手から逃れる事ができた。
「危なかった・・・」
心臓がバクバクいっている。危ない、と思って気が付いたら彼らを助けていた。無意識の内の行動であった。
「逃げるぞっ!」
MSはゆっくりと近づいてきた。シンは二人を立ち上がらせてを引いて急いで走り出した。
しばらく走ったのだろう、子供達の体力も限界だったので公衆トイレの陰に隠れ少し休憩をした。
シンは肩で息をしながら辺りを見回し警戒している。そんなシンに少年が話しかける。
「お兄ちゃん・・・助けてくれてありがとう」
「えっ・・・あぁ。」
素直にお礼を言われて照れてしまった。紛らわすために今度はシンが少年に尋ねる。
「それより、二人は兄妹なのか?お父さんとお母さんは?」
「うん。・・・皆で来てたけど途中ではぐれちゃって・・・」
「そうか・・・心配するなよ。お兄ちゃんが必ずお父さんとお母さんに会わせてやるから。」
「本当に?」
少女の方がそれに答える。
「ああ!任せときな!!」
「ありがとう大きなお兄ちゃん。マユミお兄ちゃんの事大好き!」
「マユミ、僕の事も忘れるなよ。マユミは僕が絶対守ってやるんだから!」
マユ、ミ。今は亡き自分の妹に似た名前の少女、それにその子の兄。シンにとってその兄妹は他人に思えなかった。
532仮面ライダーD+:2007/02/18(日) 18:59:34 ID:???
ーーーーー僕が絶対守るーーーーー
純粋に羨ましかった。そんな事を言える、その心が。自分にはそんなものはない。
そんな少年の台詞がほんの少しシンの心のどこかを温かくした。しかしすぐにその気持ちも吹き飛んでいく。
MSがこちらに向かってやってきた。徐々に近づいてきている。幸いまだ気づいてはいないが三人で同時に逃げ出せば
確実に見つかる。それに二人とも体力の限界が近い。二人を抱えて走るのも無理そうだった。
(くそっ・・・どうすりゃいい・・・?)
シンの緊張が二人にも伝わったのか険しい表情でこちらを見ている。マユミは兄の腕にしっかりと捕まり後ろに隠れ
兄も必死で妹を守ろうとしている。その光景を見てシンに一つの決意が芽生えた。
「二人とも、俺が合図をしたら全力で逃げ出すんだ。あの怪物はお兄ちゃんがなんとかするから。」
二人の肩を掴んで二人の眼を見る。二人とも不安そうだ。
「大丈夫!お兄ちゃんこう見えても強いんだから!!だから、二人で逃げるんだ。いいな?」
シンの気持ちが通じたのか二人は頷いた。シンも力強く頷き返した。シンが立ち上がりMSの方へ向かう瞬間。少年が尋ねた。
「お兄ちゃん、名前、なんていうの?」
シンは振り返り、優しく微笑んで言った。
「シン。シンって言うんだ。」
その言葉に妹が反応した。にっこり笑って
「お兄ちゃんと大きいお兄ちゃん、名前がそっくりだねっ」
「本当だ。シン兄ちゃん、僕はシンジって名前なんだ。」
思わぬ偶然にシンは思わず笑ってしまった。シンジとマユミ。まさかここにも自分達がいたなんて。
子供達は笑っているシンを不思議そうに見ていたが次第に二人もつられて笑った。
「シンジ、マユミの事お前が守るんだぞ。よし・・・行け!!」
533仮面ライダーD+:2007/02/18(日) 19:01:12 ID:???
その言葉で二人は出口の方向へ走り出して行った。遠くまで逃げたことを確認してシンはMSの前に立った。その距離約30メートル。
「さて、と。おい化け物。お前らは一体何がしたいんだ?」
シンが尋ねてもMSは答えない。MSに言語を操るほどの高度な知能は無い。それを知ってて尋ねたのだ。
さっきまで自信が無かった。皆を守れるかどうか。それに対する恐怖があった。しかしそれより恐れている物があった。
自分が傷つく事だ。大切な物を失い傷つく、シンは過敏に反応していた。それは無意識のうちに他人との接触を避けることに繋がっていた。
他人と関わらなければ失っても自分は傷つかない。一種の自己防衛だった。だが今は違う。大切な仲間がいる。それを無くすのは何もよりも耐え難い事だった。
それに気づきシンは同時にこの二年間の怒りの原因にも気づいた。それは戦争でも、オーブ本国でもない。自分自身だ。
何もできない弱い自分。家族を守れなかった弱い自分。力も無い弱い自分。変わる事を恐れる弱い自分。全てはそれに対する怒りだった。
確かにそれは今も変わってない。大嫌いな、弱い自分のままだ。守りたい、けど怖い。変わりたくない、けどあの兄妹を見て自分の惨めさに気づいた。
自分の事しか考えていなかった。それに比べてあのシンジって少年は自分より数段立派に見えた。
力があるのに何もしない自分と、力は無いけど妹を守るという決意がある少年。同じ男でもとてつもない差だ。
ハッキリ言うとまだ自分の事が大嫌いだ。けど・・・何もしない自分はもっと大嫌いだ。
人類全部を救う事なんて自分にはできない。そんなもんできる人間なんて人間じゃない。だったら自分にできる事は何か?
シンは自分自身に問いかけてみる。答えは決まっていた。
「俺が今できる事は・・・お前を倒す事だ。それが、皆を守る事になるなら・・・!」
シンは携帯を取り出す。だらしなく出した制服のシャツを後ろに振り払い、銀色のベルトが出てくる。
シンは眼を瞑ったまま考えた。ルナ、メイリン、レイ、ヴィーノ、ヨウラン、そして・・・シンジとマユミ。守らなきゃいけないものはたくさんあった。
ゆっくりと眼を開ける。目の前には異形の怪物がこちらに近づいている。大切な物を脅かすもの、倒さなきゃいけないもの。
決意はできた。あとはもう、実行に移すだけだ。
「変身っ!」
携帯をベルトのバックルにかざし、青いボタンを押す。瞬く間にシンは眩い光に包まれて青き戦士へと変わっていた。
534仮面ライダーD+:2007/02/18(日) 19:02:56 ID:???
以上第二話終了です。戦闘シーンまで書きたいのですがなかなかキリがいいところで
終わってくれません。かなりベタな展開になってしまいましたどうか見逃してください。
535通常の名無しさんの3倍:2007/02/18(日) 20:20:58 ID:???
GJ!熱い引きだ。
536通常の名無しさんの3倍:2007/02/18(日) 22:16:37 ID:???
GJ!ララァワロタ
537通常の名無しさんの3倍:2007/02/19(月) 01:27:30 ID:???
タイトルカッコヨス!!ララァワロタw
レイ謎だな…シンは王道ヒーローキャラで気持ちよく読んでいけそうだ

ヴィーノの活躍に期待!メイリンの前でいいとこ見せる感じのをw
538:2007/02/19(月) 04:19:01 ID:???
539通常の名無しさんの3倍:2007/02/19(月) 04:30:34 ID:???
流れ断ち切ってスマソ
種、種死ごちゃ混ぜでSS書こうと思うんだけどシン主役じゃなくてもいいんでしょうか?ちなみにキャラの立ち位置は
キラ=天道
凸=加賀美
シン=剣崎
レイ=始
みたいな感じにしようかと…SS書くの初めてだから職人の皆様に比べて誤字脱字てんこ盛りの駄作になるだろうとオモ
540通常の名無しさんの3倍:2007/02/19(月) 10:30:12 ID:???
いいかい?
そういう場合は「こういうのを書きたい」とだけ書きなさい。

初心者だの誤字脱字が酷くなるかもだの書くと「カエレ(・∀・)」ってレスりたくなるから。
541通常の名無しさんの3倍:2007/02/19(月) 14:08:03 ID:???
誰か過去ログ持ってない?
自分にくちゃん閉鎖前に保存するの忘れちゃって、今見れんのよ
542通常の名無しさんの3倍:2007/02/19(月) 14:50:22 ID:u9IizGPh
>>539
本気で書く気ならいいんじゃない。
>>541
>>479でwikiにアップしてくれてるよ。
543541:2007/02/19(月) 14:57:55 ID:???
うをっ、ホントだスマソ・・・
544通常の名無しさんの3倍:2007/02/19(月) 15:23:55 ID:???
ガタック「嫁補正を使え!キラ!それでも俺は負けない!」
545通常の名無しさんの3倍:2007/02/19(月) 19:11:06 ID:???
>>539
当てはめる役柄がそれだと、凸だけ最強フォームがないな
まあそれもある意味奴らしいがw
546仮面ライダーD+:2007/02/19(月) 22:22:16 ID:???
この話でとりあえず一区切りつきます。

第三話  気持ちの強さ

黒のボディスーツを下地に堅い装甲で体の部分部分を覆った姿。特に頭部のプロテクターには特徴的なV字型のアンテナに
昆虫を思わせる複眼。色は偶然にもシンと同じである、炎を思わせるような真紅。日の沈みかけた夕方時に異形の怪物、MSは
シンの前に再び現れた。ゆっくりとシンとの距離を縮める灰色のMS。10メートルというところまで近づいたところでMSは一気に間合いを詰めた。
それと同時に手に持った斧を横一閃、シン目掛けて襲い掛かる。しかし凶器はシンがいた空間を削っただけであった。
間合いを詰めた分だけ後ろに飛んだシンは、空振りした隙を見逃さず、MSに飛び込んだ。
右のパンチがMSの顔面を捉える。多少よろめきはするもののそれに構わず斧を両袈裟に振り回した。シンは難なく攻撃を見切り合間を縫って
ハイキックをお見舞いする。あまりの衝撃にMSは横なりに吹っ飛びアトラクションのコーヒーカップに突っ込んでいった。
MSがうなり声のようなものを上げながら破壊されたコーヒーカップの破片をどかしながら立ち上がった。
「へぇ、お前らにも痛みってものがあるのか。」
MSがこの台詞を聞いた瞬間には目の前にシンの姿があった。フォースの特性の超スピードを生かし一気に距離を縮めていた。
それと同時に落雷のような手刀がMSを襲う。斧を持っていた右手が地面に落ちている。数秒遅れて切断面から緑色の液体が止め処なく溢れ出た。
曲りなりにもMSも生命体の一つである。こいつは危険だ、と判断し本能で青い戦士から距離をとろうと後ろに大きく下がる。一気に15メートルほど飛んだ。
着地と同時に腹部に衝撃が走る。遠ざかったはずなのにすでに後ろを取られている。ライダーのスピードはMSのそれとは比べ物にならなかった。
さすがのMSも確実に急所をついた連続攻撃に思わず膝を突き土下座するように体を折った。その視界には自分をここまで追い詰めた青い戦士の脚が見える。
シンはその体勢のMSの首を思いっ切り蹴飛ばした。まるでサッカーのフリーキックのようなフォームで。
灰色の怪物はそのまま後方へ飛んでいく。美しい放物線を描き着地、それと同時に盛大な音を立てて爆散した。
戦場となった遊園地ではちょうど今の時間帯美しい夕日が拝めることで有名であり、デートスポットにもなっている。皮肉にも怪物の放った爆炎は
夕日の色とよく似ていた。シンの二度目の戦いはあまりにも圧倒的であった。
(何だ…昨日より、体が軽く感じたのは気のせいか…?)
決意を固めたとはいえまだこの力はわからない事だらけであった。このままデュランダルのとこへ行き説明をしてもらおうと考えていた矢先
同じタイプのMSがシンの目の前に現れた。それも一体ではない。確認できるだけで五体はいた。
547仮面ライダーD+
なにっ!五体も!?」
一箇所に固まっていたMSが一斉に散開し、シンを中心として五方向に分かれた。みな、訓練でもしたかのようにじりじりと同時に間合いを詰めてくる。
いくらスーツの性能が圧倒的とはいえ多数を相手にするのは分が悪い。集団を一人で相手をするというのはよほど特殊な訓練をつんでいない限り
ほぼ不可能に等しい。ましてや戦闘に関しては素人のシンが五体全員倒すのは無理な注文である。
「くそっ…どうする!?けど、やるしかないんだっ!!!」
覚悟を決め目の前にいたMSに飛び掛るシン、圧倒的なスピードで詰め寄り丁度顎辺りに飛び膝蹴りが決まる。しかし決定打ではなかったのか多少よろめいただけだった。
シンは効いていない事を悟るとMSの肩に脚をかけて蹴飛ばし、その反動を利用してMSから距離をとった。空中で二三回転して着地するやいなや背中に鈍い衝撃が走る。
MSの斧でのきつい一撃。たまらず前方へと転がるシン。追い討ちをかけるようにたくさんの斧がシンに降り注ぐ。まるで斧のスコールだ。
集団の有利な点はここにある。相手が体勢を立て直す前に攻撃をしかけ相手のペースにさせない。いくら強い相手でも自分の力が出せなければ
戦いに勝つことはできない。この五体のMSは図らずともこの利を最大限活用していた。
何とか立ち上がったシンだが決定打となる攻撃が与えられない。どれも背後や死角からの攻撃を気にして攻撃も疎かになってしまうのだった。
(まずい…このままじゃいずれこっちが疲れてジリ貧だ…何か手を打たないと…!)
何か有効な手はないか、シンは嵐のような猛攻を耐えながら頭をフル回転させた。しかしちっとも浮かばない。テレビの様に上手くはいかないようだった。
次第に攻撃もさばき切れなくなってくる。徐々に相手の攻撃が当たる様になってきた。斧が装甲をかする度、火花が散る。
(一体ずつなら楽勝なのに!)
それでも彼は諦めなかった。必死に考えた。決して学校の成績も優秀とは言えない彼だが誰にも負けない個性があった。それは集中力である。
MSには話が及ばないが人間であるシンにとっては大事な事である。人間である以上【感情】というものは必ず付きまとう。
それは常に戦いの中に存在し、感情は戦いを大きく左右する。焦り、油断、快楽等、意外かもしれないがこれをコントロールする事は
次元が高くなるにつれて重要になってくる。特に命を掛けるような場合は顕著であるが、それは至難の業だ。しかし、それらを排除する術も存在する。
それは集中することだ。相手を倒す、という事に集中する。真に集中すればそこに自分の感情が入り込む余地はなく、自分の能力を十分に引き出しす事が可能になり
どんなことも冷静に対処することができる。ビジネスなどにも通用する概念である。口で言うのは簡単だが真の意味でこれを使いこなせる者はそういないだろう。