1 :
通常の名無しさんの3倍:
まあ、マユを主人公にすると―― (パート1 710より)
1.子供だけど赤服。努力と才能と、周りのサポートで頑張る努力型の主人公という前作との差別化。
2.1.と付随して周りのキャラが主人公を面倒見ているので戦艦内の人間関係の描写が濃密になる。
3.種持ちとはいえ、決して天才ではないので時には失敗する。その挫折を乗り越えるクライシスと成長ドラマが主軸になる。
4.才能はあるとはいえ、子供。故に戦争というものを多角的に見えない。戦争の現実を直視することにより、視聴者にも問い掛けることができる。
5.戦争で家族を失った遺族側の視点で前作への問題提起。それにより改めて遺伝子操作やそれに伴う差別問題を浮き彫りにできる。
6.5.に並んで国家と国民の有り方、理想と現実。そして、享受できる平穏と犠牲となる存在、為政者の義務、前線で戦う兵士の悲哀などを生々しく描写できる。
7.死んだと思っていた兄との対面、思想の違いによる対立を生む戦争の悲劇。そして、マユという妹から一人の人間としての成長を描ける。
――こんな感じで激動の時代に巻き込まれた一人の人間とそれを取り巻く環境の変動を主軸にしたドラマが描けて面白いんだよね。
シンよりさらに人間的に未熟な分、周りの人間の意見を聞く――色々な視点・意見を知る――ことにより、
現実はそう単純なものではないってことが演出できるわけで。
PP書いてる者です。27話後半投下します。即死回避即死回避……と。
4 :
1/28:2006/07/05(水) 22:50:42 ID:???
空母の甲板を舞台に切り結ぶ、白と黒に彩られた2機の機械人形。
その光景は、タケミカヅチから離れたところに滞空するムラサメ隊からも確認される。
そのムラサメ隊の中で、一機だけカラーリングの異なるムラサメがいた。
白のボディに黒の胸部、背部と脚部を赤で彩られているのが、通常のムラサメ。
しかし、ただ一機だけ、背部と脚部を青で彩られているムラサメがあった。
純粋なブルーというよりは、空の色に近い青。
一見して、通常のパイロットが乗る機体ではないことが伺える。
その機体を駆るエースパイロット、キラ・ヤマトは舌打ちしていた。
「……決闘!? ユウナさんは、何を考えているんだ!?」
前線の兵士に、タケミカヅチのブリッジで行なわれた、細かなやり取りまでは伝わっていない。
上官の馬場一尉同様に、キラもその真意を測りかねたが、それでも命令に従う他なく……
何も出来ない自分に歯噛みしながら、黒いストライクの――ゲンの戦いを見守るほかなかった。
そんなキラのムラサメに……ゆっくりと近づこうとする、紅のMSがあった。
キラもそのMSの動きを察する。識別コード、ザフト軍。
何を考えているのか、ミネルバのMSが一機、キラの元にやってこようとしている。
当然、その動きはキラだけでなく、他のムラサメ隊の者からも察知される。
隊を纏める馬場は、紅のMSをロックオンした上で、警告を発する。
「止まれ! 互いに、今は停戦状態の筈だ!」
『待ってください! 今は、戦うつもりはないッ! 自分は、オーブに住んでいた者です!』
「何ぃ?」
紅のMS――セイバーを駆るのは、ザフトレッド、アスラン・ザラ。
彼は、セイバーの両手を上げ……万歳をする格好で、盾とライフルを上にしていた。
敵意はない事の、意思表示である。その様子に、馬場もロックオンを外し、委細を問う。
「投降するつもり……か? ザフトの?」
『いいえ、そのつもりはありません。ただ……どうしても、確かめたいことがあるのです』
「確かめたいこと? 何だ?」
『あの、ブルーのムラサメ……あのMSに乗るパイロットと、話をさせて下さい!』
要領を得ない回答に、馬場は考えあぐねた。ただ、紅のMSに敵意がないことは分かり……
戸惑いながらも、彼はアスランの頼みを黙認することになる。
5 :
2/28:2006/07/05(水) 22:52:36 ID:???
ハイネ隊から一人離れ、ムラサメ隊の元へと向かうアスラン。
その光景もまた、容易に同僚からは視認される。ショーンとゲイルは、声を荒げる。
「アスラン!? おい! どこ行くつもりだ!?」
「隊長、アスランが……敵陣に!!」
部下の騒ぐ声に、ハイネは漸くその事態に気づいた。彼は、言われるまで気づかなかった。
眼下で展開される、インパルスとストライクの鍔迫り合いに、目を奪われていたからだ。
ハッとして、ハイネはグフのモノアイを、セイバーに合わせる。
赤い機体は、ブルーのムラサメに、少しずつ近づいていく。
「アイツ、投降するつもりか!?」
「隊長、どうします!?」
突然の事態に戸惑うハイネ。だが、彼は冷静だった。
投降するにしてはセイバーの挙動は不自然。武器は今だ持ったままだからだ。
何をしようというのかは、分からなかった。ただ、投降するつもりでないことは察する。
「……放っておけ。アスランには、アスランの考えがあるのだろう」
「「隊長!?」」
古参の部下二人の抗弁も虚しく、上官は新参の部下の勝手を赦した。ただし……
デュランダルから密命を受けていたハイネは、セイバーの通信帯域に、周波数を合わせる。
彼の脳裏を過ぎるのは、最高評議会議長の言葉――
『アスラン・ザラが、再び不穏な動きを見せた場合、始末は君に任せる』
万が一の事態に備え、ハイネはアスランの声を拾おうとする。
まさか、高々2年を過ごした土地に哀愁を覚え、離反するなどとは思えない。
だが……二年前の裏切りの前科は、今だ消えたわけではない。
部下を疑いたくはなかった。
それでも、常に最悪の事態を想定するのが、上級兵である自分の務め。
やがて、ハイネはアスランの声を拾う。
セイバーの通信周波数を、ようやく見つけることができたのだ。
部下は叫んでいる。悲痛な声で。短く、何度も何度も。
最初こそ、訝しがるハイネだが……やがて、部下が、誰かの名を呼んでいることに気がついた。
6 :
3/28:2006/07/05(水) 22:53:41 ID:???
セイバーのコクピットの中、アスランは叫び続けていた。
「キラ! そのムラサメに乗っているのは、キラなのか!? 応えてくれ!!」
ミネルバとタケミカヅチから放たれていたジャマーは、今は弱まっている。
とはいえ、明瞭な会話が常に出来るわけではない。ノイズ交じりの通信。
それでも、アスランは必死に呼びかけ続けた。
「オーブの、ブルーのムラサメ! お前の色は、あの機体……フリーダムに似ている!
ひょっとすると、キラ……お前が、そのムラサメに乗っているのか!?」
アスランの声は、段々と悲痛なものへと変わる。
それが聴こえたわけではあるまいが、今度は……当の青いムラサメが、セイバーに近づく。
狭まる距離。ジャマーの効能は、最早意味を成さない。漸くにして、通信は繋がった。
「キラ! お前は、キラ・ヤマトなのか!?」
『……! あ、アスラン!? アスラン・ザラなのッ!?』
耳に届いたのは、懐かしい声。幼年学校時代からの旧友の声。
2年前、互いの祖国を、仲間を護るため刃を交えながら、最後は共に戦った二人。
ライバルにして戦友。奇妙な縁の両エースは、邂逅のときを迎える――
「どうして……どうして、お前がオーブ軍にいるんだ!?」
『……君こそ、どうしてザフトなんかにいるのッ!?』
信じられなかった。信じたくなかった。
二度と刃を交えることはあるまい――そう思っていた二人が、再びであったのは戦場。
再会の喜びと、再び戦場で出会ってしまったことに覚える絶望。
相反する二つの感情に苛まれながら、アスランは応える。
「俺の祖国は、プラントだからだ!
ユニウスセブンの落下事件、あの事件を引き越したのは、ただのテロリストだ!
なのに……地球連合は、言いがかりに近い形でプラントに宣戦を布告した!
四面楚歌のプラントはどうなる!? 俺が、俺が護るしかないじゃないかッ!!」
普段の理性的なアスランではなく……ただ、感情の奔流に身を任せ、叫ぶ青年がいた。
7 :
4/28:2006/07/05(水) 22:54:42 ID:???
アスランの想い。それは直情的であり、些か論理的ではないものの……
付き合いの長いキラには、アスランの想いは十二分に理解できた。
キラ自身、この事態を想定していなかったわけではない。
カガリの使者としてプラントに渡り、そのまま行方不明となったアレックス・ディノ。
偽名を見破られ、殺されてしまったのではと危惧していたキラだが……
ユウナは、アスランがザフトに戻ったに違いあるまいと指摘する。
生きていた旧友。そのことは嬉しかった。だが、ザフトのアスランは、敵に他ならない。
ムラサメのコクピット。キラは震える声で、アスランを罵る。
「そんな……! 他に、他に方法はなかったの!?」
『あるわけがないだろう!
開戦前、地球連合がプラントに突きつけた条件は、プラントの再植民地化だ!
そんな条件、デュランダル議長がいくら和平を望んでいても、飲めるはずがないッ!』
「……!」
『何故先の大戦は起きた!?
独立を望んだプラントに、連合が核を撃った! それが全ての元凶じゃないか!!
そのために、父も二コルも、ミゲルもラスティも……皆散っていった!
漸くにして掴んだ独立、俺たちの国……! それを、捨てられるものかッ!!』
「でも、カガリはまだ講和への道を……!!」
『それでも……そうしている間にも、仲間が……祖国の人間が戦争で死んでいく!
あのインパルスに乗っている少女のような、歳若い者でさえ!』
アスランの想いは、プラントに住む者達の想いそのもの。
だが、オーブ出身のキラにとっては……その想いの全ては、到底理解し得なかった。
アスランの言いたいことは分かる。だが、戦争で傷つくのは国民。
国のあるべき姿のために、大勢の国民が犠牲になる。
人の死を嫌い、戦場で相手の命さえ慮るキラには、やはり納得がいかない。
そんな彼に、今度はアスランが問う。
『お前こそ、何故戦場に出てきた!?』
「……何故? それは……!」
キラは一瞬応えに詰まる。経緯は、話せば長くなる。
しかし、ハッキリと応えられることが一つだけあった。ラクス暗殺未遂事件――
アッシュ6機による、ザフト軍と思われる部隊の急襲で、平穏な日々は終わる。
ラクスはブルーコスモス盟主に攫われ、キラは戦場に戻れと命令されたのだ。
8 :
5/28:2006/07/05(水) 22:55:51 ID:???
逡巡するキラに、アスランは詰問する。
『応えろ、キラ! カガリのためか? 姉さんのために、戦場に出てきたのか?』
「……違う」
『なら、どうして!? ラクスを……彼女を置いてまで、戦場に赴いた理由はなんだッ!?』
「それは……」
躊躇うキラ。話せば、アスランは何というだろうか?
プラントのために、祖国のために戦場に戻った友。彼は、自分の言うことを信じるだろうか?
迷いながらも、キラは言葉を紡ぐ。
「ラクスは……ザフトの特殊部隊に、襲われた。殺されかけたんだ」
『……! 馬鹿な!? ラクスは……!? 生きているのか!?』
「無事……らしい。助けてくれたのは、連合軍。ブルーコスモスの盟主の部下だ。
彼は、ラクスを連れ去り……僕に戦場に戻れと言った。だから、ボクはここにいる」
『……攫われただと!? お前は何をやっていたんだ!!』
罵るアスラン。だが、彼は内心動揺していた。
ラクスがザフトの暗殺部隊に襲撃される――俄かには、信じがたい話ではあった。
が、キラが自分を欺く理由もまたない。第一、キラが戦場に戻る理由が思い当たらない。
プラントで、ラクス襲撃の指示を出したのは、誰か――?
その疑問が頭に浮かぶや、ある人物の顔が脳裏を過ぎる。ギルバート・デュランダル。
ミーア・キャンベルを擁し、ラクスの身代わりを務めさせようとしているのは、彼だ。
あるいは、最高評議会議長自身が、命令を下したのか――?
いや、そんな筈はない。自分を赦してくれたデュランダルが、ラクスを殺すなどとは……
様々な思いが去来し、アスランの心を揺さぶる。
そして、動揺を打ち消すかのように、キラに向かって叫ぶ。
『俺から奪った女だろう!! どうして、お前は……彼女を護れなかったんだ!!』
「……すまない」
『すまない……じゃないだろう! もういい! キラ……お前は、即刻オーブに帰るんだ!
ラクスの件については、俺が調べる! お前は、戦っちゃいけない!』
「でも、それじゃあ、ラクスは!? ラクスはどうなるの!?」
動揺は消えず。アスランは荒唐無稽なことをキラに言ってしまう。
ラクスを助けるためにこそ、キラは戦場に戻ったのだ。キラがオーブに戻れる道理はない。
9 :
6/28:2006/07/05(水) 22:56:57 ID:???
オーブとの戦いも、キラとの戦いも避けたいアスラン。
しかし、現実は、彼の想いとは裏腹に……不可避の対決を、二人に迫った。
再び、キラの声が、アスランのコクピットに木霊する。
『君は……この戦いで、オーブの人を殺すの?』
「……! お、オーブは連合に参加した! 今は、プラントの敵だ!」
『だから、殺すの?』
「……プラントの現状を知ってしまったら、戦うしかないじゃないか!!」
アスランの選んだ道は、旧友の想いとは真逆。
戦場に出ながら、敵の命を奪わないキラ。躊躇いながらも、相手を殺す覚悟で戦うアスラン。
二人の間には、埋めがたい溝が出来ていた。それは、誰のせいでもなく、戦争が生んだ溝。
アスランの決意は揺るがない。キラはそのことを悟り、操縦桿を握りなおす。ギュッと、強く。
そして、決意を秘め――キラは叫ぶ。
「君に……そんなことはさせない!」
『……どうするつもりだ、キラッ!?』
「君を……止めるッ!」
ムラサメのツインアイが光る。それは、キラの想いを現していた。
アスランに、同胞を殺させはしない……そう思いながら、キラはアスランを止める決意をする。
オーブは、キラの故郷。祖国の人間を、旧友に殺して欲しくはない。
そもそも、先の大戦では、オーブを護るために二人で戦ったのだ。
セイバーのコクピット。キラの言葉に、アスランは瞠目していた。
キラを殺すつもりなど、彼には毛頭なかった。
出来れば、今すぐ戦場を離れて欲しいくらいだった。しかし、現実はそれを赦さない。
敵前逃亡は、軍隊では銃殺刑に相当する。旧友を、そんな目には合わせたくない。
最早、二人には、戦う以外の選択肢がなかった。戦うしかない。それでも……
「キラ、俺は……俺はッ!!」
――本当は、誰とも戦いたくない! 誰も殺したくないんだ!
そう叫びたいのを、必死に堪え……アスランは乱暴に操縦桿を殴りつける。
二人の青年の苦悩を他所に、戦場は動かず。タケミカヅチの上で戦う、二機のMSを除いて。
10 :
7/28:2006/07/05(水) 22:57:55 ID:???
タケミカヅチの甲板の上。
どれほど刃を交えただろうか。二機のMSの均衡は破れない。
マユは冷静に相手の動きを見極め、ゲンの斬撃を受けていた。そして、時折反撃もしたが……
それもまた、ゲンの駆るストライクにより妨げられる。
大剣の持つ質量ゆえ、斬撃のタイミングは読まれ易い。慣れてしまえば、更に。
決め手を欠いたまま、大剣を構える者同士の戦いは、こう着状態へ――
ストライクMk-Uのコクピット。ゲンは、些か苛立っていた。
それは、時間。切り結んでいる間に、既に2分以上経過していた。残りは半分ほどの時間。
「チッ……! よくもまあ、粘るモンだ!」
ゲンはこの戦いを楽観視していた。敵は少女。まだ経験も浅い幼兵に過ぎない。
動揺させ、普通に斬撃を見舞い……そのまま叩き切るつもりでいた。
が、予想に反し、マユの抵抗は頑強。
インパルスの性能もまた、ストライクMk-Uと同程度。性能差は皆無に等しかった。
「このままじゃ、埒が明かないッ!」
三度、ゲンはストライクをバックステップさせる。後退し、距離を数歩分離す。
当初の考え、戦術ではインパルスを倒しきれない。ならば、戦法を変えるまで。
相手の受けられ得ぬ攻撃ならば、敵を貫ける筈。それが、ゲンが次に考えた戦術だった。
「仕掛けさせてもらうぜ、白いMSよ……!」
再度距離を取る黒いストライク。その姿は、マユの目にも映る。
「また、距離を取ったの……?」
呟く少女。彼女は、これまで敵と切り結べたことで、若干の自信も芽生えていた。
怯えず、勇気を持って戦えば、やれる――
レイの助言は、マユを一時の恐慌状態から救っていた。
とはいえ、敵の動きは解せない。
敵の後退は、些か過度。大剣の有効射程内を、遥かに離れていたのだ。
しかし、次の瞬間……マユは、黒いストライクの姿に驚愕する。
敵の剣を構える姿、その挙動の変化に。
11 :
8/28:2006/07/05(水) 22:59:15 ID:???
黒いストライクは、剣を構えなおした。上段でも、下段でもない構えに。
敢えて言えば、中段であろうか。しかし、その構え方は異様だ。
グランドスラムの剣先をインパルスに向け、かつ刀身は水平。
ストライク自身は、体を斜に構え、左足を前に。
右手に大剣の柄を握り、左手を刀身に沿える。
異様な剣の構え方。しかし、その構えを、マユは知っていた。
幼いころ、彼女はその構えを見たことがあったから。家族に剣道をやっている者がいたのだ。
剣道を習っていた彼は、負けず嫌いで、頑張り屋。地区大会で優勝することもあった。
必死に練習し、オノゴロでは負けないくらい勝ちまくった。
そんな彼は、普通に剣を握っても強いのに、ある時から妙な構えに凝り出す。
顧問の先生に止められながらも、より実戦的で格好が良いと言う理由で。
その者の名は、シン・アスカ。死んだ筈のマユの兄。
生前の彼はその構えを、誇らしげに妹に語っていた。構えの名は――
「あれは……! 平突きの構え……!?」
驚愕し、マユは叫ぶ。兄がやっていた剣の構えだ。心に沸き起こるのは、懐かしい思い出。
だが、それは同時に恐怖感をも醸し出す。生前の兄は語っていた。
突きは斬撃と異なり、受け止めるのは困難を極める。
せいぜい、軌道を予測し、払うくらいが精一杯。
つまり平突きの構えは、向けられる相手にとって……これ以上ないほど厄介な構えだと。
「ガード……できないッ!」
先ほどまで、マユの体に刻み込まれた敵の斬撃のタイミング、間合いは……
この構えを相手が取ったことにより、どちらも無に帰した。
マユには、未見の敵の攻撃を、即座に交わせる自信などない。
そして、少女の動揺を、見透かしたように……また、あの男の声が聞こえる。
『平突きの構えを知っているとはな。まぁいい……いくぜ?』
「……クッ!」
マユは、内心憤る。敵は、同じだった。声も、やることも、兄そのもの。
これは、何かの悪夢ではないのか? そう錯覚してしまいそうなほどに。
マユは己の心情を吐き出し、この状況を罵りたい気分で一杯だった。
12 :
9/28:2006/07/05(水) 23:00:24 ID:???
黒いストライクは、剣をインパルスに向けたまま……若干、重心を低くする。
これから相手を貫くために。自重そのものを、大剣の刃先――先端部に、全てを乗せるべく。
機械人形の膝が曲がり、脚部に"溜め"を作る。そして……
機体の背部、エールストライカーの火が点る。出力を最大に上げるために。
「……いいぜぇ、来いよ!」
ゲンは呼びかける。マユにではなく、自機に向かって。
これから放つ一撃は、Mk-Uの、グランドスラムの……ゲン自身の全てを賭した一撃。
ストライクMk-Uのエールストライカー。その出力が最大に高まる刻を、ただ待つ。
やがて……その刻が、来た――!
「来たッ! いけええええッ!!」
エールのエネルギーゲインが最大に高まった時、ゲンは吼えた。
同時に、Mk-Uは動く。引き絞られた矢が、弓から放たれるように――!!
マユは、とっさにバックステップを踏む。突きに限らず、剣は相手との間合いが全て。
最大効果域での一撃を受けない限り、致命傷は避けられる――
これも、兄が生前得意げに話していたことなのだが。だが……
「……ッ!」
『――反応が遅いぜッ!!』
だが、マユにはエールの最大出力までは計算に入れていなかった。ゲンの声は、それを指摘する。
予想外の速度、想定外の剣の伸びに、マユの後退はその意味を軽減された。
次の瞬間、グランドスラムの突き――その衝撃が、インパルスを襲う。
直後、マユは悲鳴をあげた。
「……ああッ!!」
ザックリと切り裂かれたインパルスの右肩口。
グランドスラムをエクスカリバーで払うことさえ、ままならなかった。
完全に交わしきることなど、事実上不可能――
辛うじて、インパルスの右腕は動いた。肩の装甲を裂かれたのみ。手も健在だ。しかし……
戦局は、マユにとって最悪の方向へと、動き出していた。そして、それは具現化される。
13 :
10/28:2006/07/05(水) 23:01:16 ID:???
平突きを放ったストライク。だが、ゲンはそのままでは終わらない。
右手に持ったグランドスラムの柄を引き、自分のところへ戻しつつ……
残った左手で、エールストライクの背後に備え付けられた、新たな剣を引き抜く。
マユは、その動作を見咎め、叫ぶ。
「ビーム……サーベルッ!!」
『こいつは、試合じゃないぜ? 殺し合いだッ!』
ゲンの叫び声と共に、サーベルの斬撃が放たれる。
とっさに、マユはエクスカリバーを手元に引き寄せる。
エクスカリバーの刃、レーザー対艦刀の部分で、それを受けた。
次の瞬間、飛び散るのはビーム同士の膨大な干渉波。
『大した反応速度だな!』
「……そっちが、そのつもりなら!!」
――試合ではない、殺し合いだ。相手の一言で、マユは我に返る。
剣だけに頼る必要はないのだ。それを解した少女。
彼女の操作に従い、インパルスの頭部バルカン砲、20mmCIWSが火を噴く。
が、ゲンの駆るストライクもまた、VPS装甲。直撃でも、射抜くことは出来ない。
またストライクは、弾丸そのものを、水平にしたグランドスラムで受け流しながす。
ラミネートで覆われた刀身部分は、容易にインパルスのCIWSの衝撃を受け流した。
そして、またもゲンは距離を取る。再び、甲板の中央部で、両者は対峙した。
一進一退の攻防。
間近でそれを見守るタケミカヅチのブリッジでは、誰も声を発しようとしない。
目の前で繰り広げられるのは、模擬戦ではない実戦。だが……
誰も、このようなMSの戦いなど、見たこともなかった。
「す、すげぇ……!」
ようやく、アマギが呆然と呟いた。その思いは、誰もが抱いたところ。
そんな彼に、ユウナは指示を出す。
彼もまた、目の前の戦闘に眼を奪われていた。しかし、指揮官としての職責は別。
「……移動用の脱出ヘリを出せ。従軍記者を含めた民間人を、今のうちに逃がすんだ」
14 :
11/28:2006/07/05(水) 23:02:40 ID:???
ユウナとしては、このような激戦にするつもりはなかった。
作戦通り事を運び、タケミカヅチには傷一つつけず、戦いを終えたかった。
多分に、希望的観測も多分に含まれていたが……
軍人ではない彼に、そのような願望を捨て去ることは、中々に難しかった。
自分の申し出で始まった決闘。この行く先は、誰も予想し得ない。
この結果が、有利にも不利にも働く可能性も、否定できなかった。
だから、彼は民間人を逃がすことにした。最寄の、クレタ基地へ。
予てから、民間人はヘリの側で待機させられていた。
ユウナの指示が伝わるや、兵士の指示に従い彼らはヘリに移動させられる。
その中には、ミリアリア・ハウも含まれていた。
間もなく飛び立つヘリ。眼下に広がるのは、タケミカヅチの甲板。2機のMSの姿。
「……写真! カメラカメラ!!」
ミリアリアは、眼下の戦いを飛び立ったヘリで視認する。
そして、すぐさまカメラを取り出し……光景を、カメラに収め出す。
制止する兵の声も聞かず、ただ只管にシャッターを切る。
彼女は、戦争の全てを記録しておきたかったのだ。ジャーナリストとして。
15 :
11/28:2006/07/05(水) 23:03:34 ID:???
そんなカメラマンの目の前で、再び戦端は開かれていた。
インパルスは、エクスカリバーの形を変える。
アンビデクストラスフォームと呼ばれる、連結されたソードを、二つに割る。
ハルバート状の武装を解き、二刀流へ――
「……殺す、殺すって……そんなに殺し合いがしたいの?」
『ああ、お前を殺せば、仲間は皆救われる』
「そう……なんだ。……不愉快なのよ。あなたの声が、似ているから」
『……似ている? 誰に?』
マユの声から焦燥が消え、動揺も消える。代わりに、冷淡な声でゲンに問う。
徐々に……マユの操縦桿を握る手が強まり、やがて……
静かだが激しい怒りと共に、マユ・アスカは己の中に眠る力を呼び起こす――!
「今から、その人の所へ連れて行ってあげるから……伝えて頂戴。
大好きなお兄ちゃん、貴方の妹は――立派な人殺しになりました――って!!」
16 :
12/28:2006/07/05(水) 23:04:30 ID:???
先手を取ったのはインパルス。
機体の出力を高めたマユは、一気に黒いストライクに迫る。
ただし、先ほどまでとは違う。両手にそれぞれ持つのは、二つのに分かれた剣。
それは、長剣ほどの長さしかなかった。
「……いくわ」
『チッ……!!』
常に先手を取ってきたゲン。彼は、敵の動きに意表を突かれた。
慌ててグランドスラムを構え、防御体制を取る。攻撃を受け止めるべく。
そして、インパルスの放つ。最初の一撃――右手に持つ剣の斬撃は受け止めた。だが……
インパルスは次の一撃、左手に持ったエクスカリバーの片割れをゲンに放つ。
それも、受け止めた……つもりだった。
正面にグランドスラムを構え、ガードに徹するストライクには、可能な筈だった。しかし……
インパルスの一撃は正面でなく、ストライクの背後を狙っていた。
ゲンは相手の攻撃に、狼狽し叫ぶ。
「な、なにっ!?」
『……反応が、遅いわ』
マユの狙い。それは、エールストライカー。
正面のディフェンスの堅いストライクに、わざわざ正面から切りかかりはしない。
代わりに、サイドステップを踏みながら……瞬時に、ストライクの側面に飛び出す。
左サイドから、エクスカリバーの片刃の一撃が放たれた――
エールが切り裂かれるや、誘爆を恐れたゲンは、即座にストライカーパックを切り離す。
タケミカヅチの甲板に落ちるや、爆発するエール。それを見ながら、ゲンは舌打ちする。
「チイッ!!」
『これで、貴方はもう平突きも出来ない。逃げることも出来ない』
「……誰が、逃げるかよッ!!」
『なら、死になさいッ!』
二つに分かれたエクスカリバー。グランドスラムと比べ、それらはとても振り回しやすい。
マユの戦術は、それを生かしたもの。
もっとも、ゲンはそれ以上の何かを、目の前の少女から感じていた。
先ほどまでは様子が違う。人が変わったかのような攻撃に、ゲンは戸惑いを隠せないでいた。
17 :
13/28:2006/07/05(水) 23:05:28 ID:???
マユは、動揺するゲンを尻目に、更なる攻勢に出る。
グランドスラムより軽くなった二刀のエクスカリバー。その特性を、最大限に発揮しながら。
両刀の攻撃。それは、相変わらず長剣の、グランドスラムしか持たないゲンを追い詰める。
一撃、また一撃。連続で放たれる両の剣は、粗雑に振り回しているようにも見える。
だが、振り方は兎も角、それらはレーザー刃の一撃。
直撃されれば、VPSのストライクでも切り裂かれてしまう。
「く、クソッ! こいつ……こいつはッ!」
罵りながら、ゲンは間合いを取ろうとする。平突きの間合いを。
エールを失ったとしても、平突きさえできれば、この劣勢を跳ね除けられる。
そう思い、後退しようとするが……
インパルスは、ストライクのバックステップにあわせ、距離を詰めてくる。
そして、また斬撃を放つ。その手際の良さに、ゲンは己の間合いを取れずにいた。
『平突きは、もう出来ない。させないって、言った筈よ』
無造作に距離を詰め、次々とエクスカリバーを振り回すマユ。
冷淡に、かつ冷酷に……ゲンに事実を伝える。
彼女は、常に自分の間合いに居た。グランドスラムより短い、二刀のエクスカリバーの間合いに。
自分の間合いを取れなければ、如何なる達人といえども、反撃に転じるのは難しい。
「お前は……一体、何なんだ!?」
ゲンは苦し紛れに叫ぶ。今この時も、敵の斬撃をグランドスラムで受けながら。
彼は、この言葉を、以前にも目の前の少女に言ったことがあった。
それは、インド洋での戦い。
後退する連合軍を、この少女は一人で追い詰め、ゲンを殺そうとした。
このダーダネルスの戦いの緒戦で、怯えていた少女ではない。
目の前の少女は、先ほどの彼女ではない。相手を殺す――それだけを考えているかのように。
「これが、お前の本気ってことか!?」
ゲンの問いに、マユは応えない。応えはしないが、彼女自身は、常に本気で戦っていたのだ。
しかし、今の彼女は少し違った。人が変わったかのように、無表情に相手を追い詰める。
斬撃を振り回し……そして、遂にはストライクを、甲板の先端付近にまで追いやっていた。
18 :
14/28:2006/07/05(水) 23:06:33 ID:???
『後が……ないわね』
嘲笑するでもなく、ただ少女は事実のみを告げた。
今だ打開策も見当たらず、インパルス野攻撃を必死で受けるのみ。
グランドスラムは健在でも、ゲンの精神は磨り減っていた。
恐怖――人の抱く、最も根源的な感情の一つ。
目の前の少女、彼女の強さはゲンの想像をはるかに超えていた。
侮っていた。最初のうちは。だが、今は違う。
必死の防戦。最早、ゲンに余裕など何一つなかった。
『バイバイ……兄に似た声の人』
マユからの、死の宣告はなされた。
一瞬の後、ゲンの目の前に何かが飛び込んでくる。剣、エクスカリバーだ。
だが、それはインパルスの手に収まっていない。
マユは、インパルスの右手に持つエクスカリバーの片方を、投げつけたのだ。
予想外の攻撃に、ゲンは言葉を失う。
「……なッ!? なにを!?」
相手の意図など分かる筈もない。ただ、反射的にゲンは動いた。
グランドスラムで投げつけられたそれを払うべく。そして、払った。しかし、次の瞬間――!
『漸く、隙が出来たわね』
「……ッ!?」
ゲンの堅い防御を崩すため、少女は武器を投げつけたのだ。質量のある武器を。
それを防ぐために、ゲンは反射的に払いのける。その瞬間、僅かに出来た、防御の隙――
払ったグランドスラムを引き戻すストライクの手。それを、インパルスの右手が遮り……
左手に持っていた、残るエクスカリバー。マユはそれを、ストライクに振り下ろす。
『サヨナラ』
インパルスの一撃は、遂にストライクを捉えた。
黒き討伐者は、袈裟懸けに切り裂かれる――!
19 :
15/28:2006/07/05(水) 23:08:17 ID:???
衝撃が、ストライクのコクピットを襲う――!
コクピットだけではない。機体全体に衝撃は伝わり、切り裂かれた部分はスパークしている。
コクピット付近も切り裂かれ、内部は小爆発も起こる。
その衝撃に、黒いパイロットスーツの少年も巻き込まれた。パイロットの生死は――!?
「……死んだの?」
マユは、感慨もなしに呟く。
彼女の言葉を肯定するかのように、ゆっくりとストライクは傾く。そして……
ストライクは、仰向けに倒れた。グランドスラムを持ったまま、甲板の先端に。
ズンッ――という鈍い音が、周囲に響き渡る。
天を仰ぐ黒き機体。しかし、すぐにその色は解ける。
漆黒から、ダークグレーに。フェイズシフトが解けたのだ。
「お兄ちゃんに、よろしくね」
最後にマユは声を掛ける。たった今死んだ、兄に似た声の男に。
間もなく、決闘開始から五分が過ぎようとしていた。
J・Pジョーンズの艦橋、ネオ・ロアノークは叫び続ける。
「ゲン! おい、ゲン! 生きているなら返事をしろ!!」
生体反応は、不明。切られた衝撃で、ストライクの電気系統にトラブルが発生したのか。
ストライクとの音信は、途絶えた状態となっていた。
滞空するカオス、ガイア、海中に息を潜めるアビス。パイロット達も叫ぶ。
「ゲン! 生きているのかよ! おい!?」
「嘘……? ゲン? 嘘でしょ? 返事をして……! お願いッ!」
「おい、ゲンはどうなったんだよ! 反応がないぜ!?
スティング、ステラ、どうなったの!? ネオ、海上の様子、教えてくれよ!!」
悲痛な仲間達の声。だが、それらは最早ゲンの耳には届いていない。
20 :
16/28:2006/07/05(水) 23:09:41 ID:???
仰向けに倒れたストライク、そのコクピットの中……
内部は、インパルスに切られた衝撃でスパークし、煙が立ち込めていた。
だが、火の手は上がっていない。黒いパイロットスーツ、ゲンの姿もある。
が、人影は、ピクリとも動かない。生きているのか、死んでいるのか。
ただ、間違いなく意識はここにはなかった。
ゲン・アクサニスの意識――それは、彼方にあった。
それは、おぼろげな光景。ハッキリとしない映像。古い時代のモノクロ映画のような情景。
目の前にいるのは、白衣の男。彼は何事か喋っている。
なにを喋っているのだろう。分からない。ただ、自分に声を掛けているのは確かなようだ。
口調は、穏やかだが……男は、笑っているようには見えない。
次第に、声が聞こえてくる。冷淡な、男の声。
『君は……ぬ……う』
分からない。もう一度言ってくれと、せがんでみるか。頼みを聞いてくれたのだろうか。
やれやれと、呆れながら男は話す。
『君は、死ぬだろう』
穏やかではない話だ。一体何事だろう。大体、何故俺が死ななきゃならない?
『ここはブルーコスモスの施設だ。
ナチュラルを拾ってくるつもりが、うっかりコーディネーターを拾ってきてしまった。
上は、君を殺せといっている。君には、早晩死が待っているだろう』
俺は……俺は、まだ死にたくはない。やらなきゃならないことがあるんだ。
『だが、死の運命、それを変えることが出来るとしたら、君はどうする?
君が人としての命を捨て、完全な兵器になれば……あるいは変えられるかもしれない』
いいぜ。生きられるのなら、手段は問わない。
俺は生きる。死の運命だって、乗り越えてやるよ。だから――!
そこで、意識は一度途切れた。
21 :
17/28:2006/07/05(水) 23:11:12 ID:???
また別の光景が、目の前に拡がる。
今度は、別の男がいる。妙な衣装に身を包んだ、神経質そうな男だ。
『新しいソキウスというのは、君かね?』
多分そうだろう。でなきゃ、俺はここにない。
『では、いくつか質問をしよう。君は、ただそれに応えてくれればいい』
改まって、何を言うかと思えば。でも、雑談のつもりじゃないらしい。
口調こそ軽いが……こいつの目は、笑ってないからな。
『君は……ザフトの軍人、及びコーディネーターを殺せるかね?』
ザフト? プラントの軍隊のことか。
ああ、殺せる。どうせ、顔も見た事のない連中だ。情をかけるいわれはないしな。
『君は……命令があれば、故郷の人間を、オーブの人を殺せるかね?』
故郷? 俺の故郷は、オーブなのか? ま、どうでもいい。
……殺すよ。どうせ、あの家には恨みがあるしな。
あれ……あの家って、何だっけ? よく覚えてないな。
『君は……命令があれば、友人でも殺せるかね?』
嫌な質問だ。だが、否定すれば命はないんだろう?
いいさ、生きるためだ。何だって、やってやるよ。
『では、最後の質問だ。君は――』
22 :
18/28:2006/07/05(水) 23:12:39 ID:???
今度は何だろう? 目の前に、二人の男がいる。
さっきの変な衣装のヤツと、白衣の男……最初のヤツだ。
何だろう。俺は……手に何かを持っている。
――銃!?
何で俺は、こんなものを……!!
変な衣装のヤツ、お前がこれを渡したのか?
『君は命令なら友の命を絶てるといったな。
察するに君達二人は友人だろう。ならば……その男を殺してみろ!』
この、白衣の男を殺せって?
冗談じゃない! 何でコイツを殺さなきゃならないんだ!?
『私は欲しい……誰よりも強く!誰よりも残酷で!
そして……誰よりも私に忠実な人間がっ!』
こいつ、狂ってやがる。眼からして、イカれてる。何を考えているんだ。
……おい、白衣の男。オッサン! 何で笑顔なんだよ!
アンタ、殺されようとしているんだぞ!?
『ここに来る前に、言った筈だ。全ての命令に"Yes"と応えろと』
嫌だ! アンタは、俺の命を救ってくれたじゃないか!
そして……俺を強くしてくれた! 何でアンタを殺さなきゃならない!?
『命令に背いたらだ。禁じられたコーディネーターの強化を、私はやっていた』
だからって、嫌だ! アンタは何も思っちゃいないかもしれない。
けれど、俺はアンタの事を……その、――
『愛憎の中で、君は強くなった。最後に必要なのは、生を渇望することだ。
君は運命をねじ伏せるのだろう? 会いに行くべき人が、いるのだろう?』
いやだ! 俺は……撃ちたくない! アンタを、撃ちたくないんだ!!
23 :
19/28:2006/07/05(水) 23:14:09 ID:???
煙が出ている。俺の手に握った、銃から上がっている。
硝煙だ……。俺は、オッサンを殺した。白衣のオッサンを。
『……見事だ。これで、君は私と"契約"を交わすことが出来る』
殺しちまった……大事な人を。なのに、コイツは……!
変な衣装の男、お前……それでも、人間かよ!?
『怖い顔をするな。君は、その男を殺し、堕ちたのだよ。
君は、最早人ではない。私に魂を売り渡した、罪深き者さ』
……そうか。俺も……殺したんだ。
友を。俺を助けてくれた人を。自分が生きるためだけに。
『そのとおり。さあ、君に新しい名を与えよう。受け取ってくれたまえ』
名前? いいさ、何だって受け入れてやるよ。
たった今、外道に堕ちた人間さ。堕ちるところまで、堕ちてやるだけだ。
『君の名は……"Genocider Enemy of Natural" !
ナチュラルの敵を、滅ぼす者だ! 共に奏でよう! 死の旋律を! レクイエムを!!』
……そうだ、俺は生きる。生き抜いてやる!
会いにいかなきゃならないんだ。例えその場所が、世界の果てでも!
ゆっくりと、意識は覚醒する。
ゲン・アクサニスは生きていた。そして、目覚めた。運命をねじ伏せるために――!
再び訪れた死を、彼は受け入れなかった。
手を動かし、体を動かす。痛むが……動く。致命傷は、なさそうだ。
そして、慣れ親しんだ愛機、ストライクMk-Uの操縦桿を握り締める。
電気系統の一部が壊されたのか、モニターには非常灯が点っている。
だが、動く。フェイズシフトは復活しないが……機体は動く。動かせる。
ゲンは声をあげ、振り絞るように叫ぶ。それは、彼の復活の証――!!
「まだ……俺は、死ねない。死ぬわけには……いかないッ!!」
24 :
20/28:2006/07/05(水) 23:14:57 ID:???
ストライクが、動き出す。灰色のまま、ゆっくりと。
マユ・アスカもまた、その動きを捉える。
ダークグレーのストライクは、グランドスラムを支えにして、漸く体を起こす。
「まだ、やるの?」
『ああ、俺は生きなきゃならない。全てを投げ打ってでも!』
「……何故?」
『分からない。でも、会いに行かなきゃならない人がいる。その人に、会うためだ』
「……無理よ。貴方はもう、死ぬんだから」
『どうかな?』
マユの声に応える間、ゲンは機体の状況を確認していた。
インパルスのエクスカリバーに、ストライクのボディは、切り裂かれはした。
だが、操縦系統は、幸いにして無事。それは、一重にVPSの恩恵。
フェイズシフトとは、ビームやレーザーに対しても、耐性はある。
高出力のものであれば、無残に貫かれ、切り裂かれもしようが……
インパルスは緒戦からの戦いで、バッテリーを消耗していた。
故に、レーザー対艦刀の刃先が弱まっていたことも手伝い……致命傷とはならなかった。
フェイズシフトは破られても、ストライクはまだ生きていた。
ゲンはそのことを確かめ、再度攻撃の態勢を作る。
「……いくぜ!」
ストライクは再度突貫する。今度は、平突きの構えではない。
死にたがりだ――マユは、心の中で呟く。
フェイズシフトもない機体で向かってくるなど、自殺行為に他ならない。
マユは冷酷に、CIWSの照準を向ける。放たれる頭部バルカン砲――
だが、それはストライクを貫けない。マユは目の前の事態に瞠目し、叫ぶ。
「……剣を、盾代わりに使うというの!?」
自らの機体を護るかのように、ストライクはグランドスラムの刀身を構えていた。
刃先ではない。側面、平たい刀身そのもの。ラミネート装甲のそれは、CIWSの弾丸を弾く。
それでも、剣を逸れた弾丸の幾つかは、ストライクを捉える。
が、全てを弾けないまでも……コクピット付近に垂直に構えた大剣は、致命傷を赦さない。
そして、マユの元に――インパルスの元に、ストライクは迫る――!!
25 :
21/28:2006/07/05(水) 23:16:07 ID:???
マユは臨戦態勢を取る。
敵が剣を構え直し、切り掛かってくるその時――
彼女もまた、左手のエクスカリバーを先んじて振り払うつもりでいた。
しかし――ストライクは、一行に減速することも、剣を構え直すこともしない。
ただ盾代わりのグランドスラムごと、インパルスに突っ込んでくる。
マユは、相手の意図が分からず、声を荒げる。
「……どういうつもり!?」
『こういうつもりさ!!』
ゲンの声が響く。勢いのついたストライクは、そのままインパルスに体当たりを敢行する――!
エクスカリバーの間合いを潰し……そして、次の瞬間、グランドスラムから手を離した。
「……!? 何を!?」
『グランドスラム以外にも、まだ武器はあるッ!!』
新たにストライクが握ったもの、それは……クナイ状の武器、アーマーシュナイダー!
その小刀は、高周波振動ブレードを使用した対モビルスーツ白兵戦用アサルトナイフ。
ゲンは、先ほどのマユの戦いぶりから、ヒントを得えていた。
それは、戦闘における間合い――近づけば近づくほど、得物は短いほうが有利なのだ。
アーマーシュナイダーを、左右それぞれの手に握り締め、ストライクは振り被る。
『VPS装甲相手でも、やりようはあるッ!』
「……!?」
高周波振動ブレードは、VPSの機体に致命傷を負わせることは出来ない。
だが、傷を負わせることは出来る。例えば……例えば、装甲の薄い間接部。
ゲンはアーマーシュナイダーの標的を、インパルスの上腕と前腕を繋ぐ間接部に決めていた。
そして、次の瞬間――クナイを、打ち下ろす!
閃光と共に、VPSと激しくぶつかり合うアーマーシュナイダー。
左手に握られたストライクのナイフは、インパルスの右腕の機能を奪い去った――!
「……くっ! こんなことで!」
使えなくなった右腕。その機能が停止したことをマユは悟る。が、負けるわけにはいかない。
幸い、左腕は狙いをそれた。まだ左腕は使える――すぐさま、少女は反撃を試みる。
26 :
22/28:2006/07/05(水) 23:16:56 ID:???
ソードインパルスにも、まだ武器は残されていた。
フラッシュエッジビームブーメラン。
インパルスは、左手に持ったままのエクスカリバーを棄て、背後のそれを取り出す。
本来はブーメランとして使うものだが、近接戦闘では小刀代わりにもなる。
マユは、迷わずそれを振る。無防備に構えていたストライクの右腕に向かって――!
インパルスのフラッシュエッジ。その一撃は、ストライクの右腕を断つ――!
閃光と共に爆発が起こる。ストライクは、右腕の前腕部をざっくりと切り裂かれた。
それでも、ゲンは次の動作に入る。
最終的に、勝てばよいのだ。どの道、満身創痍。損傷を気にする必要もないのだから。
ストライクとインパルス。期せずして、互いに残されたのは左腕のみ。
ゲンは自らを鼓舞するように叫ぶ。
「まだだ! まだ終われないッ!」
「……貴方達には、負けないッ! 私の……新しい家族を、奪った人たちには!」
マユも、ほぼ同時に叫んだ。その言葉に、一瞬ゲンは戸惑う。
「……奪っただと! 誰を!?」
「ユーリ・アマルフィ! 私の……父親よッ!!」
問われたマユは、反射的に答えた。
マユの想い。全てを失った自分の、家族になろうとしてくれたユーリ。
しかし、彼はアーモリーワンで命を落とした。ファントムペインの襲撃で。
何よりも、ユーリを殺したのは、他ならぬゲン。事実を知り、彼は再び叫ぶ。
「人を殺すためにMSを作る男を、殺しただけだ!」
「……!? 何を言っているの!?」
「殺したのは、俺だよ! 暗殺したのさ! あの男は、最後には懺悔づいていたがな!」
「……貴方が! 貴方が殺したのね!?」
「そうだ! まさか、あの男の娘だったとはな! 仲良く、あの世に送ってやるよ!」
「……赦さない! 貴方だけは、絶対に赦さないッ!!」
死闘の果て――激情に駆られた二人。共に余裕などありはしない。
ゲンは己の行為を悔いもせず、少女を罵る。少女も負けずに、殺意を垣間見せる。
憎しみは憎しみを呼び、二人の戦いは終幕へと向かう――!
27 :
23/28:2006/07/05(水) 23:20:02 ID:???
インパルスはフラッシュエッジを、ストライクはアーマーシュナイダーを。
互いに短い得物を持ち……相手を殺す機会をうかがう。
先に動いたのは、ダークグレー機体。ストライクだ。
「取って置きの、CIWSだ! 喰らいやがれッ!!」
頭部75mm対空自動バルカン砲塔システム、イーゲルシュテルン。
インパルスのCIWSと同じ機能を持つ、バルカン砲。
この期に及んで、ゲンはこの武器を使っていなかった。
ストライクは最後の最後で、使わずに取っておいた兵器を使う――!
炸裂音が木霊する。幾重もの弾丸が、霰のようにインパルスを襲った。
だが、インパルスの装甲はVPS。有効な攻撃とはなりえない……筈だった。
しかし、緒戦から補給無しに戦っていたインパルス。
マユの機体にも、限界は刻一刻と迫っていた。
コクピットに響くアラート。バッテリー残量が、底をつきつつあることを、警報は知らせていた。
「……バッテリーが!」
悲鳴に近い叫びを、マユは上げる。撃たれる衝撃にコクピットは激震に襲われる。
それでも、少女は意識を保ち、モニターを見ていた。
とっさに、インパルスは地に伏せる。屈伸運動を取り、屈み込み直撃を避けようとしたのだ。
必死の防御――だが、その瞬間をストライクは狙っていた。
その隙に、甲板に横たわっていた大剣、グランドスラムを握りなおす。
そして、握ったまま、構えなすことさえせず……
ストライクはインパルスに体当たりを敢行する――!!
「これで、終わりだッ!! 白いのッ!」
叫ぶゲン。
ストライクの突貫に、インパルスは背面から仰向けに倒された。
形勢逆転――今、ストライクはグランドスラムを大上段に構え、インパルスを見下ろす。
インパルスのCIWSはとうに尽きていた。そして……フェイズシフトも解ける。
最早、戦闘能力は皆無といえた。
力尽きたインパルスの中、マユは一人想う。
自分は、負けたのだ。このまま死ぬのか――兄や父母、ユーリの元へ行くのか。
パイロットスーツを緩め、ヘルメットを取り……
マユは目を閉じ、最後の刻を待った。
28 :
24/28:2006/07/05(水) 23:20:57 ID:???
しかし、その時――コクピットに声が木霊する。
『マユ! コアスプレンダーはまだ生きているでしょう! 離脱なさい!』
タリア・グラディスの声。まだ、逃げる術は残っている。上官は、その事実を告げた。
ハッと我に返るマユ。まだ、生きることは出来る。死にたくはない。
瞬時に、マユはチェストとレッグを切り離す。ギクシャクとした音が、タケミカヅチに木霊した。
同時に、ミネルバは攻勢に転じる。予てからの命令どおり……タリアは、アーサーに指示を出す。
「トリスタン、イゾルデ! てエッ!!」
一事停戦は破られた。副長のアーサーが引き金を絞る。照準はタケミカヅチへ――!
だが、それも寸でのところで妨げられる。海中から踊り出た、一機のMSの手によって――!!
『ジャスト、5分だ! アウル、ミネルバを潰せッ!!』
「へっ! ゲンのやつ、心配かけさせやがって! こいつを沈めて……お終いだッ!!」
海中で息を潜めていたアビス。ブルーのガンダムが海面から飛び出し、ミネルバを撃つ。
腹部のバラエーナ、背面のカリドゥス、両肩シールドの3連装ビーム砲。
ありったけの火力を、ミネルバの船首部に食らわせる。
しかし、光りの束は放たれた――!
「面舵ッ! 回避いッ!!」
ミネルバの行動を察し、トダカの指示で回避行動に移ったタケミカヅチ。
……紙一重のところで、ミネルバの一撃は逸れた。アビスに撃たれ、衝撃で照準が狂ったのだ。
一方、敵の攻撃で、なお激震に見舞われるミネルバ。
タリアは、この時――先ほど見たユウナの笑顔を、唾棄したい気持ちで一杯だった。
「セイランっ! やってくれるわね!! メイリン! 友軍の支援は!?」
「は、はいっ! ……き、来ましたッ! 南方距離2万!!」
「数は?」
「航空支援部隊です! ディンと、バビ……あわせて、20余り!!」
メイリンの声は弾んでいる。タリアも、ようやく安堵を覚えた。それもそのはず。
ようやく、スエズ方面軍からの支援部隊が来るのだ。彼らは、戦場まで後わずか――
29 :
25/28:2006/07/05(水) 23:21:50 ID:???
タケミカヅチの艦橋からも、敵の増援部隊は補足された。
部下の報告に、ユウナは眉をひそめる。
「……増援がこんなに早く来るとはね。
ザフトは地中海南部を、ほぼ手中に収めたのかな?」
「どうにも、そのようで」
ユウナの言葉に、トダカが応じる。
あまりの手際の良さ。スエズ方面軍は、大規模に展開を始めたようだ。
J・Pジョーンズ、タケミカヅチの連合軍の任務は、ミネルバを沈めること。
20余りの邪魔が入っては、味方にも相応の犠牲を覚悟せねばならない。
ユウナは、ネオ・ロアノークに通信を繋ぐ。
「大佐、状況はお分かりで?」
『どうにも、やっかいなことになりそうですな』
「お陰さまで、タケミカヅチの損傷は軽微です。ありがとうございます」
『友軍を、見捨てるわけには行きませんからな。で、これからどうなさる?』
ユウナは、改めて決闘を静観したネオに礼を述べる。
タケミカヅチを見捨てるつもりなら、ネオたちはミネルバへの攻撃を強行できた。
しかし、彼らはそれをしなかった。これ以降、ネオたちは信頼に足る友軍となり得る。
ユウナはそんな確信を抱いていた。
だが、これからどうするか。これは別問題だ。
犠牲を覚悟で戦うのか。それとも一度軍を引くのか……ユウナは即断する。
「この状況は、想定外だ。作戦を強行することには、抵抗を覚えます」
『……分かった。引こう』
ミネルバに20余りの増援が来ることで、数の上での利は皆無に等しかった。
この上、優秀なコーディネーターのパイロットを多数相手にして、勝てる保障もない。
そもそも、ミネルバ以前に、スエズ方面軍の展開の速さは、予想外であったのだ。
事態は、自らに不利に働いている。悟った二人の指揮官は、すぐさま後退信号を打ち出す。
ネオはJ・Pジョーンズに、ユウナはタケミカヅチに、互いに後退命令を下した。
それを見た友軍は、次々に後退を始める。
ムラサメも、ウィンダムも、カオスもガイアも……海中のアビスも退いていく。
30 :
26/28:2006/07/05(水) 23:22:49 ID:???
時を同じくして、ミネルバからも後退信号が放たれた。
追撃の必要はない。追撃すれば、増援部隊にも甚大な被害が出るかもしれないからだ。
これ以上の戦闘を避けようとする、タリアの英断だった。退いていくハイネ隊。
だが、タケミカヅチの甲板の上、コアスプレンダーは……マユはまだ敵の只中。
ギクシャクしたアクションの後、コアスプレンダーは動き出す。
しかし――眼前には、あの機体。ストライクの姿が。大剣を構え、マユを狙う――!
「逃がしは、しないっ!!」
ゲンは剣を振り下ろす標的を、今まさに飛びたたんとするコアスプレンダーに絞る。
重火器の照準と同様、ターゲッティングはなされる。
戦闘機、コアスプレンダーのコクピットに、ゲンは的を絞る。
そして、剣を振り下ろそうと操縦桿を倒そうとするが――!
「……! お前はッ!?」
ゲンは、マユの姿を見た。
拡大された映像に映し出されるのは、彼女の顔。
コアスプレンダーの操縦席で、怯えたような目でストライクを見上げる少女。
先ほどまでの、圧倒的な戦闘力を持った少女ではない。緒戦の、まだ歳若い幼兵だ。
なにより、ゲンにはその少女に……見覚えがあった。
あれはいつのことだろう。そうだ、アレは――
「お前は、暗礁空域の戦いで――!?」
開戦以前、ハイネと戦い引き分けた一戦。
その戦いの最中、ゲンの脳裏を過ぎった少女に、目の前の敵は酷似していた。
余りに意外なめぐり合わせに、ゲンはグランドスラムを振り下ろす機会を逸する。
それが、少女にとっては僥倖となる。敵の目の前を飛び立つコアスプレンダー。
それを呆然と見送りながら、ゲンはただ叫ぶほかなかった。
「……俺は、お前を知っている!? お前は……お前は一体ッ!?」
剣を振り下ろせば命を断てるのに、ゲンはマユにトドメをさせない。
そして、逃げる少女が乗る機体――コアスプレンダーは、一路ミネルバへと逃げ帰っていった。
31 :
27/28:2006/07/05(水) 23:23:48 ID:???
後退信号を見、ミネルバに下がるアスラン。
だが、彼は今だ必死に呼びかけていた。友に、嘗ての戦友に。
「キラ……キラッ!!」
声はもう届かない。それでも、彼は叫び続けた。
……だが、声は届いていたのだ。別の人物、ハイネ・ヴェステンフルスに。
アスランとキラのやり取りを、彼は一部始終聞き届けていた。
「アスラン……! 俺は……俺は、お前を!」
グフのコクピット。アスランに声が聞こえぬ状態で、ハイネは叫ぶ。
裏切りの兆候があれば、殺さねばならない。それは、プラントの最高権力者から与えられた密命。
己に課せられた使命を呪いながら、ハイネもまたグフを後退させる。
そんな彼の唯一の救いは、死地から戻った幼き部下。
「マユ! 大丈夫か!?」
『……は、はい』
「怪我は? どこか、痛めていないか!?」
『インパルスが……ぼろぼろに』
愛機のパーツの大部分を失ったことを詫びる。
が、ハイネは叱るどころか、消沈した部下を陽気な声で笑い飛ばす。
「ばっか野郎! 生きていれば、次がある! お前が生きていれば、それでいい!」
『……生き残って、良かったんでしょうか?』
「……なにぃ?」
『私は、今日……ストライクのパイロットを、本気で殺そうとした。
マルキオ孤児院で、あの女の人に言われたとおりだ。
もう……もう、私は、憎しみの連鎖の中に、取り込まれているのかもしれません』
今にも泣き出しそうな顔で、マユは呟いた。何かを失ったかのような、失望した少女の声。
ハイネはマユの心情を測りかね、また掛ける言葉が見つからなかったこともあり……
ただ、コアスプレンダーを護るかのように、愛機を寄せただけ。
幸いなことに、ハイネ隊に人的損失はなかった。しかし……
アスランとマユ。二人に対する苦悩は、戦闘終了後もなお、ハイネを苛んだ。
32 :
28/28:2006/07/05(水) 23:25:23 ID:???
ぼろぼろになったのは、インパルスだけではない。
ストライクMk-U。左手のグランドスラムを地に置き、彼の機体は膝を着いた。
全てを出し切り、インパルスに勝利はした。
だが、ミネルバを沈められず。戦果と誇れるものでは、到底なかった。
クレタ基地へと退くタケミカヅチ。その甲板に、キラのムラサメが降り立つ。
『ゲン! 大丈夫!?』
「……き、キラか?」
『良かった。無事だったんだね』
「あ、ああ……」
Mk-Uのコクピットは、辛うじて開いた。そこから降りてきたゲン。
彼は、拡声器を使うムラサメの声に反応した。パイロットスーツ越しの通信だ。
キラは、アスランの声を聞きながらも、ストライクとインパルスの戦いに目を奪われていた。
互いに一進一退、最終的には満身創痍。勝敗とともに、ずっとゲンの安否も気になっていた。
が、相手の声と姿に一応の安堵を覚える。キラはゲンの無事を確認するや、また飛び立った。
半壊し、戦力外のストライクは兎も角、ムラサメは今だ敵への警戒を解けなかったのだ。
すぐに上昇し、敵の追撃を警戒するキラ。彼を見上げながら……ゲンは、呟く。
「キラ……思い出したんだ。俺が戦う理由を。
友を、殺してまで手に入れた命。それが、俺なんだ。
でも、肝心なところが、思い出せない。俺は……俺は一体、誰なんだ?」
彼は、虚ろな目で上空を見上げる。空を舞うのは数多のムラサメ。
ゲンの問いに応える者はいない。タケミカヅチは、ジャマーを再び発していた。
パイロットスーツの通信機では、到底ジャマーに割って入ることは出来ない。
応える者もないのに、ゲンはなお呟き続ける。
「そして、あの白い機体……
インパルスのパイロット。あの少女を……俺は、知っている。知っているんだ」
束の間の勝利の余韻に浸ることもなく、ゲンの心を虚脱感が占めた。
取戻した記憶の一部は、一度は消された過去。それは、堕ちた日の己の姿――
突然すまんが
〃´ ̄ヽ
l 从ノハ )
ノ_ノ ゚ ヮ゚)ハ
⊂ )_!^=)つ
く/_|_||ゝ
(_/じ
第2期EDのマリュー風のマユを作ってみたが・・・。
誰かゲンのもお願いします
牙突ktkrwww
PPねお「なあ、俺が当人であるかどうかは別として、
そろそろ突っ込んでくれないかねえ・・・、きら・やまとくん・・・。」
だが断る
とりあえずPPお疲れ。スレ立てられなくて申し訳ない。
ものすごくGJなんだが、ただ1点気になることが。
ゲンが「妹」を聞いてないか?
pp戦記、リアルタイムで読ませて頂きましたえー。ジブリール卿の「男という生き物は、剣というモノに憧れを抱きます。少年の頃から、ね (以下略」って台詞に何故か納得。盟主様は男のロマンをわかっていらっしゃる。
ドリルストライカーがクルー!?
PP氏GJ!
42 :
前スレ494:2006/07/06(木) 00:35:32 ID:???
前スレ494です。感想ありがとうございます。
作ってる途中もゲンがどう見ても劇ナデアキトです、本当に(ry
それはともかかく、CE世界の義手は見た目は普通の手っぽいのでそのままにしておきました。
また性懲りもなく何か作って投下した時は宜しくお願いします。
>>PP戦記作者様
GJ!!そして即死回避乙です。
グランドスラムもマユもカッコよすぎですよ。
ちゃんと商人やってるジブリが新鮮なのは原作のせいでしょうかw
牙突で良かったw
「猫科の肉食獣が爪を立てるがごとき異様な掴み」とかやり始めたらどうしようかと
星流れ
ビームサーベル同士でも太刀をぶつけ合わないのがSEED流
ビームは干渉し合わずにすり抜けるという理由による
誤字報告
>腹部のバラエーナ、背面のカリドゥス
逆です
>インパルスの頭部バルカン砲
胸部です
そしてGJ。
47 :
479:2006/07/06(木) 12:06:33 ID:???
I and I and Iを書いてる479です
今回はIIIではなくIIIを書いている合間に気晴らしでちょくちょく書いていたものを投下してみようと思います
IIIのストーリーとは全く関係なく、続き物で、その上この先続くかどうなるかもわからないのですが…
暇潰し程度に読んでくださったら幸いです
機動戦士ガンダムSEED MAYUNESS
−1st Episode− 邂逅と遭遇
「避難経路が封鎖!?」
「あなた!」
ある家族が、オーブという島国にいた。
「パパぁ…」
「大丈夫だ、マユ」
「父さん、こっちは!?」
フードを被った少年が林を指差す。
父親らしき男は、母親らしき女と目を合わせ、互いに頷く。
「こっちなら避難船も近いか…」
「マユ、走るけど…大丈夫?」
母親は、少女に声をかけた。
「う、うん…」
不安げに、少女は母親の手を握る。
家族は、林の中に入っていった。
「…こちら林道入口、アスカ一家の誘導を完了した」
もう何分走ったのだろうか。
コーディネイターといっても、息は荒くなる。
付近では爆発が続いていた。
「父さん!」
「あなた…」
「目標は軍の施設だろう。大丈夫だ、シン」
一度止まった足は、また走り出す。
「母さん!」
「マユ!頑張って!!」父親が、後ろにいる母親を気遣った。
母親は、手を引く少女を心配した。
「あぁー!マユの携帯!」
段差に躓いて少女のポーチから、ピンクの携帯電話が落ちる。
携帯電話は坂の斜面を転がっていった。
「そんなのいいから!!」
「いや!あの中にはぁ!」
母親の手を振り払って、少女は斜面を駆け降りる。
それを追う少年。
少女が携帯電話を手にした、その時だった。
「良かったぁ」
「マユ!!」
「え…きゃああああ!?」
体が宙を舞い、吹き飛ばされる。
何が起こったのだろう。
「う…うぅ…」
左手で、携帯電話を握り締めていた。
右手は感覚がなく、右腕のつけ根がとても熱い。
体は身動きが取れなかった。
自分の体の上に、誰かが覆い被さっていることに気付く。
「…お…にい…ちゃん…」
自分を覆うこの重い体の主が兄だとわかるのに、そう時間はかからなかった。
その兄はもう、息をしていないことも。
「アスカ一家を確認しました!」
「ターゲット二名は回収不可能だな、こりゃ酷い…」
「爆心地にいたんだ、仕方ないだろう」
誰かの声が聞こえる。
「じゃあ、残ってるのは、こっちの二人だけですね」
「バスカークはマユ・アスカを。俺達はシン・アスカを運ぶ」
「わかりました」
手早く話を済ませる。
運ぶ…?
少女は疑問に思った。
助けではないと、直感する。
少女はゆっくりと、顔だけを動かし、声の主達を見た。
その中の一人と、視線が合う。
「…!!」
「どうした?」
「あ、その…」
「おい!オーブの軍人だ!」
「チィ!仕方ない、シン・アスカだけ運ぶ。バスカーク、そこの腕だけでも持っていけ!」
「は、はい!」
体の上にいた兄が誰かもわからぬ者達に運ばれていく。
視線が合った少年は、自分の腕を持って、こちらを窺いながら走っていった。
それとは別の方向から、また誰かがやってくる。
「息は、しているな」
「ぁ…」
「大丈夫だ、避難船に医療設備がある」
オーブの軍服を着た男が、優しく声をかけてきた。
そんな声に安堵してか、少女…マユ・アスカは、ゆっくりと意識を失わせる。
コズミックイラ73年……
プラント軍事工廠・アーモリーワン。
ザフト新造艦、ミネルバの進宙式を控えたこの日。
「レーイー、ミネルバまで行くんだけど、運転してくれなーい?」
ぴょんと撥ねた赤い髪を揺らして、ミネルバのパイロットの一人…
ルナマリア・ホークは道路の向こうの金髪の少年に呼びかける。
呼びかけられた少年…レイ・ザ・バレルも、ミネルバのパイロットの一人だ。
そのレイは、軽く頷き、ルナマリアの元へ駆け寄る。
「ごめんねー。ほんとはヴィーノと行く予定だったんだけど」
「どうかしたのか?」
「マユ・アスカ、例の医療班の子と一緒。ヨウランもね」
車に乗り込みながら二人の会話は続く。
「整備中に怪我して、ちょっと手当てしてもらったからってもうベッタリ」
「そうか」
「でね、そのマユって子、メイリンより年下なのよ」
ルナマリアの一方的な会話をよそに、レイは車を発進させる。
「あぁそうだ。レイ、ごめんね。議長と会いたかったでしょ?」
「気にしなくていい。俺は気にしていない」
「そう、ならいいけど。それでヴィーノったら……」
基地の外の繁華街。
鏡のように光を反射させるショウウィンドウが並ぶ歩道を、三人の少年少女が歩いていた。
「えっと、買い物はこれで終わり?」
「そうだよ」
「それにしてもスゲー数だな」
「医療班、整備班、あとパイロットだっけ?」
「ブリッジのみんなもだよ」
その中に、マユはいた。
メモを片手に、二人の少年を脇に置いて、楽しげにマユは話している。
紙袋を抱えている二人は、ヴィーノ・デュプレとヨウラン・ケント。
「マユも持つよ?」
「いーのいーの。俺達で持てるから」
「視界思い切り遮られてるけどな…」
気楽にそう言うヴィーノ。
冷静に突っ込みを入れるヨウラン。
そんな二人に笑いかけるマユ。
そんな三人の横を、自分達と同じくらいの年齢の少年少女が横切った。
「えっ…?」
「どうかした、マユ?」
「うぅん、あはは…なんでもなーい」
「変なヤツだなぁ。ほら、さっさとミネルバに戻ろうぜ」
何か軽い頭痛のような、異変を感じた。
それが何かはわからない。
擦れ違った少年少女達にだろうか。
しかし、今までにこんなことなかった。
それに少年少女達に何か感じたといっても、両側の紙袋が視界を塞ぎろくに顔も見れてもいない。
マユは首を傾げるも、両隣にいる二人に心配かけまいと、笑っていた。
「え…?」
「メイ、どうかしたなか?」
「なんでもないわ、ニンス」
「それならいい。おい、ステラはどうした?」
「あっちでクルクル回ってるぜ〜」
「馬鹿やってんだろ、馬鹿を」
マユ達と擦れ違った、五人の少年少女達。
どこか普通の少年少女とは、釀す雰囲気が違う。
「ステラー、早く来ないとニンスに怒られるぜー」
「うんっ、わかった!」
「別に怒りはしないが」
「あら?時間にルーズなのは嫌いじゃない」
「ネオと同じで、ステラには甘いんだろ」
「妬くなよスティング。俺はお前達を全員、大事に思ってるぜ」
スティングと呼ばれた少年の頭をぽんぽんと撫でるように叩いて、ニンスという少年は言った。
フンッと不貞腐れて、スティングは先を歩く。
そんなスティングを見て、くすりと笑うメイというこの中では一番年下に見える少女。
アウル、ステラと呼ばれていた二人は、仲良く話を続けている。
だが、そんな楽しげな空気の中に、危険な匂いが漂っていた。
ミネルバへと到着したマユ達は、買い物で済ませた品々を割り当てた部署に届けると、格納庫にやってくる。
「今あるのはインパルスと、セイバーだけ?」
「そうだけど、マユってモビルスーツに興味があるの?」
「そうじゃないけど、これからお世話になるモビルスーツだから」
ヴィーノに訊かれ、マユは笑って返す。
「お世話になるのは」
「セカンドステージシリーズだけじゃないですけどね」
マユ達の話を聞いていたのか、誰かが割って入ってきた。
ショーン・ハマダ。
ゲイル・ブライアン。
ミネルバのパイロットである。
「あれ、二人も自由時間だろ?」
「馬ー鹿。レイとルナが出てんだ、俺等は待機」
「それよりルナマリアさんが怒ってましたよ、ヴィーノと行く予定だったんでしょう?」
「ゲッ…忘れてた」
顔を青褪めて、ヴィーノは後の仕置を想像していた。
ヨウランは哀れむように、ヴィーノの肩を叩く。
「んじゃ、俺等はブリッジに行ってくるわ」
「それでは、失礼します」
スタスタと歩いていくショーンと、頭を下げるとショーンを追うゲイル。
二人を横目で見送ったヨウランは、未だ肩を落とすヴィーノの背中をバシッと叩いた。
「さ、買い物も終わったし、整備整備」
「そうだな、うん…」
「じゃあ、私も戻らなきゃ」
格納庫までついてきてしまったが、ミネルバでのマユの配属先は医務室などが主。
まだ自由時間は残っていたが、ヨウランとヴィーノにあわせて、自分も戻ることにした。
「そうか。じゃあまた、休憩時間があった時にでも会おうな」
「うん、そうするね」
二人に笑いかけると、マユは通路に向けて歩きだす。
進宙式が終われば、月軌道へとミネルバは向かう。
その間に、何度も二人には会えるだろう。
マユは制服のポケットから、携帯電話を取り出した。
待ち受け画像は、自分と、そして兄が映っている。
「お兄ちゃん、マユね、楽しいよ。お兄ちゃんみたいな友達が、たくさんいるから……」
携帯電話の画面に映るシンに笑って、マユは携帯電話を閉じた。
扉が開くと、擦れ違い様に誰かが肩をかすめる。
「…えっ?」
マユは思わず振り返った。
懐かしい感じがする。
だが、振り返っても、格納庫のドアは閉まっており、誰も見ることはできない。
「そんなはず、ないか」
溜息混じりに笑って、また歩きだす。
しかし、マユが足を進めた直後、格納庫から銃声が響いた。
「ふう。ザフトの軍服は着慣れないな」
緑色の軍服の襟首を緩めると、サングラスをかけた少年…ニンスはコックピットの中で軽く息を吐く。
「あら、エリートの赤じゃないから?」
すると通信が入り、少女…メイの声が響く。
「冗談は好きじゃない」
「相変わらずね」
話しながらも、少年は機体のOSを起動させた。
スピーカーの向こう側からもスイッチをいじくる音がした。
メイも同じく機体に搭乗しており、起動を完了させたのだろう。
「オールウェポンズフリー。アウル達もできたかしら?」
「下手はしないさ。戦闘ステータスで起動、メイ…行くぞ」
「はーい」
ニンスの静かな声に、メイは軽く返した。
「ブリッジ、聞こえるか。ハッチを開けろ、でないと吹き飛ばすぞ」
「こっちの誘導もお願いね」
突然の通信に、ブリッジは騒然となる。
いや、原因はそれだけではない。
艦の外、つまり基地内にある残りのセカンドステージシリーズまで、奪取されたとの連絡が入っていたからである。
「わかったわ……」
ミネルバ艦長…タリア・グラディスは、重い口をゆっくりと開いてそう答えた。
「か、艦長!?」
側で副長…アーサー・トラインが声を上げる。
タリアはそれを、艦まで失わせたいのかといったような瞳で、きつく睨みつけた。
ニンスの乗るセイバー、メイの乗るコアスプレンダーに、オペレーターの
メイリン・ホークの戸惑いが入り混じったアナウンスが流れる。
セイバーが発進すると、続けてコアスプレンダーが発進した。
コアスプレンダーは、後に続くように発進したチェストフライヤーとレッグフライヤー合体し、インパルスとなる。
装備は、ブラストシルエット。
「素敵。これで、ここを火の海に包めるのね」
「冗談は好きじゃないと言った。離脱が優先だ」
「ふふ、わかってるわ。アウル達も無事に残りのコに乗れたみたい。よくできました」
威圧に近いニンスの発言にも動じず、メイは含み笑いと共に呟く。
インパルス、セイバー。
そしてカオス、ガイア、アビス。
最新鋭機は全機、強奪された。
「…なにこれ…」
マユの第一声は、その一言だった。
銃声を聞き付けて格納庫に戻ると、そこは血の海と化していた。
「いやぁ…嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌…」
力無く膝をつき、目の前の光景に絶望する。
同時に蘇る記憶。
鮮明に、はっきりと、血の臭いも肉が燃える臭いも全て。
「おい…」
「嫌…嫌…嫌…」
「おい!」
「え?」
顔を上げると、そこにはショーンとゲイルの姿があった。
心配そうな表情を浮かべて、マユを見ている。
「ショーンさん、ゲイルさん…」
「どうしたんだ?お前は無事なのか?」
「格納庫から銃声がして、それで……」
呼吸が荒れていた。
思い出してしまった記憶を抑え込んで、ゆっくりと自分を落ち着かせる。
「この状況を見れば、気分が悪くなるのも無理はないでしょう」
「俺達は追撃に行く。ここで殺られた奴等の代償、払わせねぇと」
ゲイルがマユを気遣ってそう言うと、ショーンと顔を見合わせた。
その顔は、互いに怒りに満ちている。
「あの!」
二人を見てマユが声を上げた。
「マユも連れていって!連れていって…ください」
必死な形相で、頼るような視線を向けて、マユは訴える。
マユの顔を見て、ショーンとゲイルはまた、互いに顔を見合わせた。
生存した整備士達が焦りながらも、ミネルバに残る二機の搭載機の発進準備を進める。
「ショーン機ザクファントム、ブレイズウィザードを装備して発進してください!」
格納庫内に響くメイリンのアナウンス。
その声は、微かに震えていた。
「続いてゲイル機ザクウォーリア、ガナーウィザードを装備して発進してください!」
ザクファントムはカタパルトデッキに降り立つ。
「艦長、構わないんですか?二機とも砲戦仕様で」
「えぇ、許可します。基地や市街地に被害は与えたくないけど、仕方のないことだわ」
「最悪、撃墜も許可すると?」
「……そういうことよ」
ショーンとのやりとりに、タリアは焦燥して答えた。
新型機を全機、奪われたことの怒りや屈辱。
そして、これ以上の事態悪化を防ぎたいという緊張。
タリアの言葉から、ショーンはそれを感じ取る。
「ショーン・ハマダ、ザクファントム…行くぜッ!」
ショーンは声を張り上げて、ザクファントムを発進させた。
続けて、ザクウォーリアがカタパルトデッキに降りる。
「マユちゃん、本当にいいんですか…?」
ゲイルは弱々しく声を出す。
コックピットシートの脇に、マユの姿があった。
「あんなこと言ってごめんなさい。でも何か、マユも行かなくちゃならない気がして…」
何故、自分があのようなことを口走ったのか、今でもマユはわからないでいる。
だが体は、強くマユを動かしていた。
「じゃあ行くけど、モニターに映るからあまり動かないで下さいね」
「りょうかい」
「でも揺れるからしっかり掴まっていた方がいいかな?」
「え?」
「ん〜…まぁいいか。ゲイル・ブライアン、ザクウォーリア発進します!」
「えぇぇぇぇ!?」
勝手に納得して、ゲイルは勝手にザクウォーリアを発進させる。
マユはどうしていいのかもわからずに、コックピットで声を響かせるだけだった。
5機の新型モビルスーツ。そしてそれを追うザフトモビルスーツ。
だが、新型機の圧倒的な力に、ザフト側は押されていた。
「奪われたザフトのモビルスーツに攻撃されるなんて皮肉よね」
「無駄口を叩いてる暇はない、ルナマリア」
「ちょっとは話相手になってよね…もう」
ミネルバを出て自由行動をとっていたルナマリアとレイも、この強奪事件に巻き込まれる。
そして基地内に配備されていたザクを駆り、二人は奪われたモビルスーツを追った。
「追い付いたわ!あいつらぁ!!」
「他はほとんどやられたか…ルナマリア、油断するなよ」
「わかってる、あたしは赤なのよ!」
「ふっ…それは俺も同じだ」
カオス、ガイア、アビスを捉え、ルナマリアのザクウォーリアが前進する。
ビームトマホークを取り出すと、ガイアに向けてそれを放った。
「何ッ!?」
ガイアを奪ったステラが、ビームトマホークの接近に反応して声を上げる。
モビルアーマー形態に変形させて飛び上がり、迫るビームトマホークをぎりぎりで躱した。
だが、弧を描き再びそれは襲いくる。
「くっ!」
モビルスーツ形態に戻ると、即座にビームサーベルを抜き、ガイアはビームトマホークを叩き落とした。
「あいつ…殺す!」
「おいステラ!あんま熱くなるな!」
「メイが待ってるからね、僕は置いてっちゃうよ〜?」
激昂するステラ、それをなだめるスティング、そして我関せずのアウル。
ガイアはその場に立ち止まり、ビームサーベルを構えたままザクウォーリアに向かって突進していった。
「うぇぇぇいッ!!」
「向かってくるなら、こっちのもんよ!」
振り下ろされるビームサーベルを寸前で避け、ザクウォーリアはそのままガイアにタックルをぶつけた。
「くぅぅぅぅ!」
「貰ったぁ!」
吹き飛ばされ地面を転がるガイアに、とどめを刺そうとザクウォーリアは接近する。
「ルナマリア!」
「!?」
通信から聞こえたレイの声と同時、上空から光が走った。
その光の正体であるビームはザクウォーリアの右腕部に命中する。
「きゃあッ!」
腕が爆発し、その衝撃にルナマリアは声を上げた。
「ビーム!?上空から!?まさか!!」
モニターが空を映す。
そこには、1機のモビルアーマーが風を切って飛んでいた。
ニンスの奪ったセイバーである。
「ステラ、おうちに帰らないとネオが心配するぞ」
「ニンス!うんっ、ステラ帰る!」
頭に血を昇らせていたステラだったが、ニンスの声を聞くなり表情を一変させた。
旋回するセイバーに、ガイアはまるで飼い犬のようについていく。
「ルナマリア!平気か?」
「これじゃ追うのは無理ね…それに、セイバーまで…」
「あぁ。恐らく、インパルスもやられている」
ザクウォーリアの損傷を受け、カオスとアビスの追撃をやめたザクファントムが舞い戻った。
レイもこの戦力差に、これ以上の追撃は無理と判断する。
奪取した新型を取り逃し、2機はその場に立ち尽くしていた。
ガイアを置いて先を進むカオスとアビス。
「ニンスの奴、またステラに…!!」
「なに?妬いてんの?」
「うるせえ!」
ニンスがステラを気遣うことに憤るスティング。
「あの人は遅れるのが嫌いなだけ」
カオスとアビスのコックピットにメイの声が響いた。
「メイ!」
「ここまでは、良くできました。帰ったら揺り篭の中で膝枕してあげる」
「本当!?」
「ほんと。で〜も…まだよ。こっちも追われてるの」
優しくメイがそう言うと、インパルスはカオスとアビスの元へ降り立つ。
振り返れば、メイの言う通り2機のザクが追って来ていた。
「あれを落とせばいいわけ?」
「アウル、それはいいの。ここを出るのが最優先」
くすりと、メイの口許が笑う。
「それに…戻ればニンスにも会えるわよ?スティング?」
「……フンッ」
3機はバラバラに散ると、カオスが兵装ポッドを射出した。
インパルスとアビスは、移動しながらビームを内壁に飛ばしていく。
「奴等、脱出を!?」
インパルスとガイアの行動に、ショーンは驚きの声を上げた。
「ゲイル、そっちはお客乗せてんだ!わかってんな!?」
「ショーンじゃあるまいし、そんな無茶しませんよ!」
「何をー!?」
兵装ポッドから発射されるビームに翻弄されながらも、2機のザクは前へと進む。
「たくさんの人が死んでる…」
そんな中、マユがぽつりと呟いた。
「また戦争が…戦争が起きてる」
破壊された街の景色は、マユの中で一つの疑問を浮かばせる。
「また戦争がしたいの?あなた達は?」
「なに…?人の、声?」
誰かの声が聞こえたのを、メイは聞き逃しはしなかった。
その声は少女の声で、自分に似ていて、不快になる。
「どうかした?メーイー?」
「へ…?な、なんでもないから、心配しないで」
アウルの呼びかけに我に返ると、メイはケルベロスを発射した。
「耳障りな声…!!」
ビームに怒りを上乗せしたかのように、その一撃で内壁を破壊することに成功する。
「ニンス、出口は作ったわ。スティングが待ちきれないから早く帰りましょ」
「了解だ」
メイが通信を終えると、インパルスとアビスはアーモリーワンを脱出した。
そして追い付いたセイバーとガイアも、残ったカオスと合流する。
「すまない、スティング」
「別に。ステラ、今度は言うこと聞けよ」
「うん、ごめんね」
カオスが兵装ポッドを回収し、3機も破壊して出来た空洞から脱出を果たした。
「くそっ!」
「深追いは禁物です、ショーン。それに、ミネルバから…」
「帰投命令だろ!?わかってらぁ!」
不満が残る終わり方に、思わず叫ぶショーン。
ゲイルも、余り良い気分とは言えなかった。
マユはただ、じっとしている。
じっとしていながらも、心臓はドクドクと鳴って、ずっとマユの中で響いていた。
続
半オリジナルキャラクター紹介
ショーン・ハマダ
ミネルバモビルスーツパイロット。
ザフトレッドであり、ルナマリアと同い年。
熱血で直情的な性格。
搭乗機はザクファントム。
本編では名前だけの登場。「星屑の戦場」で戦死している。
ゲイル・ブライアン
ミネルバモビルスーツパイロット。
年齢は、ショーン、ルナマリアの一つ下。
敬語を使い、やんわりとした性格。
ザフトレッドで、搭乗機はザクウォーリア。
本編では名前だけの登場。ショーン同様、「星屑の戦場」で戦死している。
ニンス・ロアノーク Nins
ファントムペインに所属するモビルスーツパイロット。階級は大尉。
ネオの片腕的存在で、ネオが出撃しない時などはモビルスーツ隊の指揮を行う。
冷静な性格で冗談は嫌いだが、ネオとメイの二重攻撃(両者のジャンルが違う冗談)に飽きれ果てている。
エクステンデットの担当はスティング。
ストレートの長髪で色は黒。サングラスをしているのが特徴。
服の下は火傷の痕だらけらしい。
メイ・ロアノーク May
ファントムペインに所属するモビルスーツパイロット。階級は中尉。
容姿からすると10歳前後なのだが、そのモビルスーツの操縦技術は凄まじい。
エクステンデットの担当はアウル。
ニンスに寄り添うように一緒にいることが多い。
妙に落ち着いていて、少女らしからぬ口調で話す。
茶髪のショートヘアで、前髪に目元が隠れている。
右肩に大きな傷があるらしい。
66 :
あとがき:2006/07/06(木) 12:51:41 ID:???
マユVSマユという構図はないなぁと思って書いてみました(まだ戦ってはいないですが)
IIIのマユ(ヴィア)が礼儀正しい子なので、明るく元気なマユを書きたくなった、というのも原因の一つ
千切れた腕とか、結構使えそうなものはあるわけで
ただ単なるクローンだと説明がつかないので壮大なフィクションで上塗りするつもりです
ニンスは、PP戦記様などのゲン、舞踏様のケイなどと一緒という感じ
偽名というか新たな名というか…
セイバーがミネルバにあるのは数合わせなので、特に意味はありません
マユの現在の腕の状況
アーモリーワンにいるはずのデュランダル、アスラン、カガリ
ヨウサンとヴィーノは死んだ?
などの謎は次回は持ち越し
いつになるかはわかりませんが
479氏乙!
マユネス面白かったですよ。
IIIの続きも期待してます!
>>PP作者氏
グランドスラムへの皆の突っ込み
キラ専用ムラサメ
恐怖を打ち破る勇気
牙突
「ビーム」「サーベル」
アンタは一体(ry
これで終わりね(ry
ジャスト1p(ry
ああもうどこに突っ込んでいいかわからないwwwww
とりあえず、シンのこだわり大剣に設定がついたのはGJ。
とうとうプロローグもつながった兄妹初対決、お腹一杯堪能しました。
>>34 テラカッコヨス
69 :
↑:2006/07/06(木) 16:32:58 ID:???
避難所の感想スレに行けや
避難所にそういったスレがあるのにそっちにレスできない
これ釣り?
見てて凄い腹が立つ
別に避難所の感想スレはローカルルール化されてるわけでもないし
>>68だって投下されて2日も3日も経った話にレスしたわけでもない
腹たてるってことは作者さん?
>>69 ならもっと面白く書いてよ
描写も淡白だしIIIの方がずっとクオリティ高い
隻腕みたいに後発でも面白ければレスはつくからさ
71 :
↑:2006/07/06(木) 18:50:27 ID:???
スルー推奨。
↑携帯か?
そういや隻腕は何処行ったんだ
絶筆?
>>69 避難所感想スレを引用するのか?
ならPP作者氏投下後一日も置かないで投下する方にも問題はあるだろう
それと釣りと思うならひっかかるな
雰囲気悪くしてるのはむしろお前さんだ
>>73 この間荒れたときで嫌気さしちゃったのかもね
仕事で忙しいだけだと祈りたいが
この大破はパワーアップフラグだな。
479氏GJです!
暇つぶしなんてとんでもない、マユ二人の構図は新鮮でもの凄い楽しめましたよ!!
無理にとは言いませんが余裕が出来たらまたマユネスの続きも見てみたいです。
IIIも期待してます!
>>74 更に悪くしてるのはお前だがな
職人の投下する日を縛る権利がお前にはあるのかい?
何のためのまとめサイト?何のための避難所?
もう一度よく考えたらどうだ?
ヒント:避難所
PP氏GJ!楽しませていただきました!
やっぱり大剣同士とゆうのはビームの撃ち合いとはまた違う緊張感があっていいですね。容易に脳内で再生できましたよw
議長の真意に気付いたアスランがどうでるかが気になるところ。続きwktkしてます!
それにしてもPPマユの種割れはこえー…
479氏乙です!IIIとはまた違う雰囲気が面白かったです!マユとメイがなんか乙乙チックな感じ…2人が邂逅したらどうなるんだろう?そして小悪党カズィにワロタww
80 :
通常の名無しさんの3倍:2006/07/07(金) 00:09:28 ID:LaxXVJ0k
作品感想か被った時の感想・雑談スレ
1 名前:名無しさん 投稿日: 2006/05/22(月) 23:15:15
作品の投下が重なった時などに使いましょう。
作品の投下後(特に直後)に、別の作品の話をするのは
料理を作ってくれた人の前で、別の人が作った料理の話をするのと一緒です。
存在自体知らない人が多すぎるんじゃよーー
単発設定小話 「キラ」スタンドアローン編D
〜海面すれすれでフリーダムを牽制しているレイ〜
キラ「っく、このMS・・・上手い・・・。ぎりぎりで全部かわしている」
レイ「っくっく、そんなものか・・・キラ・ヤマト。そんなものでラウ・ル・クルーゼを倒したというかっ!!」
〜フリーダムにビームサーベルを構えさせるザクファントム〜
キラ「こっちが押されている?っぐ・・・はぁっはぁっ。君は・・・ラウ・ル・クルーゼなのか!?」
レイ「ふん。あなたのようになりたいと!あなたのようで在りたいと!それを、誰が望む?何が望む??望まぬさ!・・・誰もっ!何もっ!」
キラ「き、君は・・・・・・」
レイ「それがあなたの望みなのでしょう?自分の存在すらよくわかっていないお子様がっ!人の夢!人の望み!人の業!だと!?」
キラ「っく、この感覚・・・・・・押しつぶされそうな圧迫感はっ!!」
レイ「自分を認めることができないというなら、二度と表に出てこなければあよかったのですよっ!」
〜フリーダムとザクファントムが切り結んでいる間にソードシルエットのインパルスがフリーダム目掛け猛進してくる〜
マユ「レイー!!」
レイ「・・・<キュピーン>・・・これであなたも終わりですよっ!マユっ!!」
〜フリーダムを後ろに仰け反らせその場を離脱するザクファントム〜
キラ「!?インパルスっ!」
レイ「ハァッー!!」
〜ウィザードに残っている全弾をフリーダムに向け撃ち放つレイ〜
マユ「こっ・れっ・でっ!終わりよー!!」
〜ザクファントムの放った弾は水しぶきを立ち上げフリーダムの視界を遮る〜
キラ「!ミサイルはこのために!?」
マユ「死ねぇぇっーー!」
〜エクスカリバーをフリーダムのコックピットにまっすぐ向け猛進し、水しぶきを突っ切るインパルス〜
キラ「!」
〜インパルスのエクスカリバーがフリーダムのコックピットを貫く〜
キラ「っぐはぁっっ!!」
マユ「よぉぉしぃっ!」
〜コックピット内でガッツポーズを決めるマユ。水しぶきの中からはインパルスの姿だけが現れた〜
〜放心するアークエンジェルクルー〜
ミリアリア「っえ!?・・・そんな・・・・・・」
ノイマン「・・・・・・まさか」
チャンドラ「うそぉ・・・・・・」
マリュー「・・・・・・キラ・・・くん・・・・・・」
カガリ「っっぅ〜・・・キラァァっー!!」
〜ブリッジのメインモニターに通信が入る〜
ムウ「おいっ!!なにやってんだ!!船が止まってんぞ!!死ぬ気かっ!」
〜ムウの一喝で我にかえるアークエンジェルクルー〜
マリュー「っええ、潜水モードに移行。このまま離脱しますっ!」
カガリ「くっそ!!アマギぃ!ルージュは!?」
アマギ「はっ!いつでも出れます!」
カガリ「よし!艦長、キラを助けに言ってくる!」
マリュー「・・・止めませんよ。彼を必ず助けてきてください」
カガリ「お安い御用だ!」
〜潜行に入る直前にアークエンジェルから発進するストライクルージュ〜
完 ・・・次回「アスラン」スタンドアローン編Eへ続く
82 :
9:2006/07/07(金) 01:59:36 ID:???
Scars of...を書いてい『た』者です。
皆様に御満足頂けるクオリティを提供する自信が無くなったので、
まとめサイトに載せて頂いていたSSの削除を切に求めます。
>>9氏
諸事情によりSS書きが続きを書けなくなるのはよくあること。
あまり気になさらずに。
今まで投稿頂いた分も結構好きなので、消すことはないんじゃないかな。
まあ一晩落ち着いて考えてください
朝になって気が変わらなかったら仕方ありませんが
そして、また書きたくなったらいつでも戻ってきてください
84 :
9:2006/07/07(金) 10:38:41 ID:???
朝になりまして、ちょっとまた考えました。
やはり無理です。
そして未完成品が何時までも存在し続ける事は(喩え私の目に入り続けていなくとも)
耐え難いことです。どうか、どうか削除を願います。著作権に関しましては放棄
しておりますので、これは『お願い』です。『恥』を晒せと言われれば、従うほか
ありませんが。
では。
>>84 おもしれーのにな。別に世辞でもなんでもないが文章も巧みなほうだと思うが・・・
まあこればっかりは本人の主観だからしゃーないけど。
楽しませてくれてthx
また、気が向いたら戻ってきてくれ
俺が全部保存してるから、もし戻って来る気になったら
テキスト圧縮してうpしますよ。
でも、とりあえずは、楽しいSSをありがとう。
87 :
通常の名無しさんの3倍:2006/07/07(金) 18:49:57 ID:3KVnyk8A
>>84 続き楽しみにしてました…非常に残念ですけど、お疲れ様です。
さらりと読みやすい構成に、場面がありありと想像出来る魅力的な文章が大好きでした。
特に連合三人組の潜入場面が良かったです。 みんなキャラが活きている感じでしたし…
もし、いつかまた気が向いて再開しようと思われた時は、ここに戻ってきてください。 きっと喜んで迎えてくれる人が沢山いるはずです。
隻腕まだー?
池沼で自分に注目を集めたいだけのリアルに友達がいても本気に相手もされていないどうしようも粘着です
スルーしましょう
>>70 隻腕マンセーウザス
479氏に謝罪しなよ
投下されると荒れるわ信者はウザイわどーしよーもねーな
こうやって落としにくい空気を作ってるやつは
どの描写に切れてアンチになったんだろうとちょっと気になるw
↑いちいち釣られる信者はなんとかならんのか。
PP戦記も自分のサイト作るって言うし
隻腕もここに落とすより自分のサイト作ったらどうだろか
できればここで続き読みたいけど
そもそも板の民度が低すぎるのが原因。ただそれだけ。
いい加減学習するべきだ。
>>PP戦記も自分のサイト作るって言うし
初耳ところで、ソースは?
>>96 板の民度が低いというのなら、外部移転しかないとオモ
いい加減学習すべきといわれても学習能力のない椰子の集まりだからそんなの無理なわけだし
PP戦記のサイト設立は知らんが新シャア的にはリヴァとか実例があるわけだし
>>98 ここはリバとはまったく違うわけだが。
あと議論なら避難所行きましょうよ。
そこ!
避難所池発言キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!
それも一部の住人が決めたこと
とか言われたらそれまでだよね
もう夏か…
このスレは前からずっとこうだよ
その度に夏だ冬だ言ってる奴がいるデジャブ
「一部の住人が決めたこと」と否定してる奴は
当然、改めて避難所でこの件について議論する際には参加するんだよな?
そもそも参加もせずに決まった後、「俺は認めてない、無効だ」なんて言われても困るので。
ちょっと投下がないとこれだ。おまいらちっと大人になれんのか?
今ちょっと書いてやるからそこで待ってろ
「このスレ、一体何人の人が書いているのかしらね?」
マユはそう囁いた。
「前にもそんな疑問をもった人がいたよね、たしか」
「そうだったかしらね」マユは、小首をかしげながらうなづいた。真剣な時の彼女の癖だ。
「でもね、そんな疑問をもったところで、一体なんになるって言うんだい?」 「なんにって…」
キラは、バドワイザーの残りを飲み干し、言った。
「一億二千万人いようが、たった四人だろうが、あるいは、一人でも…なにも違いなんてないのさ、何人いようが、名無しは名無しなんだ、ここでは…もちろん、僕も君もね」
少女は黙ったまま、キラを見つめた。
バドワイザーの缶を再び持ち上げようとして、キラはそれが空であるのに改めて気づいた。とても奇妙な軽さだ。この軽さは、何かに似ている。キラはそう確信したけれど、いったいそれが何に似ているのか、見当もつかなかった。
「名無しは名無しなのね」マユはやっと口を開いた。
「そういうことだね。…ビールをもう一杯のむかい?」
「ええ、いただくわ」
キラは冷蔵庫の中からとびきりよく冷えた缶ビール二つとりだし、クラッカーをつまみながら、二人でまた飲み始めた。
テレビのブラウン管には、最高評議会議長が兵士に小さなメダルを首にかけている映像が流れていた。たとえば、あの小さなメダルを最強の剣に引き替えるまでには、えらく骨が折れるだろうな、とキラは考えた。そしてそれは間違いなく「どうでもいいこと」なのだった。
パチン…OFF。
すいませんもうやりません
作品を褒める→信者だ!うぜー!
作品を批判する→アンチだ!うぜー!
荒らしが湧く→過剰反応
つまり、全てにおいて過剰反応しすぎなんだよ、このスレは。
よく言えば寛大さ、ひねた言い方をすると無関心ってのを大事にした方が良い。
お気に入りの作品が批判されようと、嫌いな作品が熱心に賛美されようと、
自分の意見にケチつけられようと、阿呆な荒らしが湧こうと、
「あっそう。それがどうした?お前の話なんか聞いてねえよ」ってスタンスで居るべき。
適当な殺伐さも必要ですね。
>>108 ログを読んだ上の発言ではなさそうだ
儲アンチだけの問題ではナス
まあこの話は終わりにしようや
新シャア板ならこのぐらい日常茶飯事だし
単発設定小話 「アスラン」スタンドアローン編E
〜ミネルバ〜
タリア「逃げられたか。アーサー、状況報告」
アーサー「味方MS大破3、中破6。負傷者14。死亡0・・・です」
タリア「あっちはMS1機大破・・・か。結局しとめられなかったわね」
メイリン「艦長、アスランさんがっ!」
タリア「アスラン・・・?」
〜モニターにアスランの映像が映る〜
アスラン「艦長。グーンをお借りしますよ。・・・すぐ戻ります」
タリア「馬鹿なことおっしゃい!そんな勝手が許されるとでも!」
アスラン「フリーダムを回収してきます。あのMSはもともとザフトのもの。それとあのMSはあの程度では大破しませんよ」
タリア「そんなことをっ!いまやる必要はないでしょうが!」
アスラン「・・・私はフェイスです!」
タリア「なっ・・・・・・」
〜モニターからアスランの映像が消えた〜
メイリン「艦長・・・・・・」
タリア「あのぉガキっ!・・・・・・メイリン・・・アスランを行かせてあげなさい」
メイリン「はい・・・・・・グーン、発進どうぞ」
〜ミネルバからグーンが射出される〜
〜海中へ潜水していくグーン〜
アスラン「キラ・・・・・・。あれだな・・・・・・」
〜海底に沈んでゆくフリーダムを発見し、取り付くグーン〜
アスラン「おいっ!キラ、生きていいるのか!」
キラ「・・・・・・っぐ・・・うぅぅ〜・・・」
アスラン「はぁ、生きていたか・・・。離脱機構が生きていればいいがな・・・海の中じゃコックピットを開けるわけにはいかない」
キラ「っは・・・・・・もび・・・るすー・・・つ?だれ・・・?」
〜フリーダムのコックピット回りをいじるグーン〜
アスラン「ここをっ・・・よし外れた。・・・・・・ん?・・・あれはルージュ!・・・カガリのやつ。自分の立場をわかってるのか?」
〜フリーダムからはずされたコックピットを抱えるグーンにストライクルージュが近づく〜
カガリ「!?あれは敵の水中用MSか!ええいっ!離れろー!!」
〜グーンに急速に近づくルージュだが、水中用MSグーンの機動力にかなうわけもなく背後に回られてしまう〜
アスラン「カガリ、やめろ!俺だ、アスラン・ザラだ!」
カガリ「えっ!・・・おまえ・・・アスランなのか?」
〜お肌の接触回線で会話するアスランとカガリ〜
アスラン「なんでお前がこんな危険を冒す!お前にもしものことがあったらどうするんだ!」
カガリ「私は・・・私はキラが心配で来ただけだ!いつまでも戻ってこないお前には関係ないだろっ!?」
アスラン「!!・・・カガリ・・・」
カガリ「キラは?キラは無事なのか?」
アスラン「ん、ああ。この中だよ。死んではいなようだが、怪我しているかもな・・・アークエンジェルにつれてかえって看病してくれ」
カガリ「ああ・・・って、お前は戻ってこないのか?」
アスラン「俺には・・・まだ見えていないんだ。・・・・・・連合の次はオーブだぞ。絶対に死ぬんじゃないぞ
〜キラが入っているコックピットをルージュに渡し、フリーダム本体を抱えて場を離れるグーン〜
カガリ「アスラン・・・・・・」
完 ・・・・・・「カガリ」スタンドアローン編Fへ続く
あれ、単発小話だとカガリってどういう経緯でAAと一緒にいるんだっけ?
まあ、それはそうとザフトによって自由回収されたってのは何気にポイントだな
凸がちゃんとフェイスの権限を有効活用してて、言い訳にもそれなりに筋が通ってるのが良い
今から投票を行います。
みんなで協力しあって以下の分を全スレに貼り付けてきてくれ
〜以下〜
新シャア板のローカルルール投票を行います。
・公示期間は今日から2006年6月30日迄
・投票期間は2006年7月1日0:00から2006年7月16日24:00までとします。
・投票の公正さを保つためメール欄は省略してIDを表示してください。
(1ID=1票とします。)
投票の過半数が得られた場合ローカルルールの変更を管理者に申請します。
投票しない場合は棄権したということとみなさせていただきますので投票忘れのないようご注意願います。
投票、問い合わせは以下のスレにお願いします。
【問い合わせ先】
自治っ子23 保守してください (リンク先は順次更新されますがご了承願います。)
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1151860294/ 自治っ子代表
ローカルルール案
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放置できないあなたも荒らし。相手にせず削除ガイドラインをよく読んで削除依頼板へ
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>>112 アニメと一緒。フリーダムがカガリをさらってAAにいった。
描写はしてないけどマユとメイリンの会話でそういう話をしてたぞ。
単発設定小話 「カガリ」スタンドアローン編F
〜アークエンジェルに帰艦したルージュ〜
カガリ「早く!キラを医療室へ!」
〜フリーダムのコックピットだった物体からキラを引きづりだすコジローたち〜
コジロー「ぼうずっ!大丈夫か!おいっはやくストレッチャーもって来い!出血はみあたらねぇな。ただ打ち身がひどそうだ」
キラ「ぅ・・・うぅ・・・・・・!コ、コジローさん・・・」
コジロー「おお、ぼうず。もうちょっと我慢してろよ。いま医療室に運んでやっからな」
〜ストレッチャーに乗せられ運ばれてゆくキラ。で、医療室〜
ムウ「むう・・・ひでぇあざだな・・・・・・。俺にできることはあるか?」
マリュー「気持ちだけ受け取っておくわ。リハビリの方は順調ですか?」
ムウ「ああ、おれのデータを残しておいてくれてるとは思ってなかったよ。こいつは役にたつ」
マリュー「そう、よかった・・・・・・」
〜見詰め合うマリューとムウ〜
ミリアリア「・・・あのぅ〜、愛の語らいのところ申し訳ないんですが・・・キラの怪我が・・・」
マリュー「はっ!ご、ごめんなさい!キラくん、身体の状態はどう!?
キラ「ぅぅ・・・い、痛い・・・・・・」
ミリアリア「ん〜・・・打ち身だけですね。外傷なし、内出血なし。念のため後でメディカルスキャンしておきましょう」
マリュー「そうね。おまかせするわ、ミリアリアさん。・・・・・・だいぶ看護婦役が似合ってきたわね!」
ミリアリア「・・・あんたが不器用すぎんだよ(ぼそ)」
マリュー「・・・なにか?」
ミリアリア「いいえぇ〜」
カガリ「おいっ!キラの具合はっ!」
マリュー「カガリさん、ご苦労様。大丈夫そうよ。・・・よく助けてきてくれたわね」
カガリ「ん、ああ。無事なのか?・・・ったく、いつもいつも姉を心配させるやつだな!」
ミリアリア「・・・どっちがだよ(ぼそっ)」
カガリ「ん・・・なんかいったか?ミリアリア?」
ミリアリア「いいえぇ〜・・・(こいつら地獄耳ね)」
カガリ「ま、無事でなによりだ。ところで艦長、二人だけで話がある」
マリュー「私と・・・ですか?」
カガリ「ああ、私の部屋へきてくれ」
〜一方的に話を進め、医療室から出て行くカガリ。で、カガリ自室〜
カガリ「・・・・・・アスランと接触した」
マリュー「アスランくんと!?どこで?」
カガリ「フリーダムを回収しようとしててな、キラを助け出してくれていたよ・・・」
マリュー「キラくんを?でも、どうして一緒に戻ってこなかったの?」
カガリ「あいつは・・・まだ見えていない、といった。・・・なにを言っているのか私にはさっぱりわからん」
マリュー「・・・見えていない・・・ですか・・・・・・」
カガリ「なぁ艦長?アスランは、あいつは何でいまだにここに戻ってこない?見えていないってなんなんだ!?」
マリュー「彼は・・・自分の居場所がまだわからないのでしょうね・・・。もともとザフトだし、プラントが嫌いでこちら側についたわけでもないしね」
カガリ「・・・アスランは・・・戻ってくると思うか?」
マリュー「戻ってきてくれないと・・・困りますね。・・・・・・でも、その後はどうかしらね。・・・カガリさん」
〜カガリにちゃんと向きなおすマリュー〜
マリュー「カガリさん。あなたもオーブの代表であるのならば、そろそろ戦いの後を考えていてくださいね・・・・・・」
完 ・・・・・・「マユ」スタンドアローン編Gへ続く
投票所落ちた?
ミリィ黒すぎwwwwwwwww
単発設定小話 番外編「走馬灯」
■ハイネ・ヴェスティンフルス
〜海面で爆散直前のグフ〜
ハイネ「・・・俺が、やられたっていうのか?あの灰色のやつ・・・は、マユのアニキだ、な?・・・なんで兄妹が互いに
銃を突きつけなければならない?・・・俺は、俺達はそんな馬鹿馬鹿しいことを無くすために・・・・・・なあ?」
(アーサー「ハイネ、僕はパイロットにはなれないよ。・・・・・・僕は・・・自分の手が血に染まるのが怖い」)
(ハイネ「そうか・・・。じゃあ、何になるんだ!?」)
(アーサー「戦略仕官になろうと思う。これならより多くの人を救えると思うから・・・」)
(サラ「・・・戦争嫌いなのに、戦争屋になるのね。・・・ふふ、ちゃんと現実を受け止めるところはさすがね」)
(ハイネ「サラはどうすんだ?」)
(サラ「私はあなたと一緒・・・だけどね、すぐに陰に入るわ」)
(ハイネ「俺が陽でサラが陰。そしてアーサーは万色になる。それぞれ別の場所で、同じ想いを・・・」)
(サラ「誰かが先に死んでも恨みっこなしよ?・・・想いは生き残っている人が継いで行くのよ」)
ハイネ「・・・はは・・・・・・わりぃな、二人とも。俺が一番最初だと思っちゃいたけどな。マユを、頼んだぜ・・・・・・」
〜海面で黄昏色のMSが爆発した〜
■トダカ一尉
〜一人タケミカヅチに残ったトダカ〜
トダカ「他国を侵略しない 他国に侵略されない 他国の争いに介入しない・・・か。だからオーブは中立国として
存在し得た。だから君のご家族もオーブに移り住んできたのだろう。・・・しかしオーブは侵略された。
そして他国の争いに介入した。君には何も言い訳できないな。でも、私はオーブの理念は間違っていないと
思うんだ。一見すればしごく閉塞的な印象をうけるが、そうじゃないんだ。そんなことは平和であるためには
当たり前のことであって特別なことじゃない。・・・・・・が、今のところ絵に描いたもちになってるがな・・・・・・」
〜タケミカヅチに迫ってくるインパルスを見つめるトダカ〜
■ステラ・ルーシェ
〜シンの腕に抱かれぐったりしているステラ〜
ステラ「・・・なにも・・・見えない・・・・・・。なんで?・・・わたし、もっともっと・・・シンを見ていたい。ねぇ、なんで?
・・・あ、見えた。でも、すごく遠いところに・・・いる。ねぇ、その腕を・・・伸ばしてよ。そのあったかい手で
私の腕をつかんで・・・ねぇ?・・・なんで?・・・離れていくの?私・・・私・・・シン。明日ね・・・明日は、私の
・・・ねぇシン?・・・聞いて・・・いるの?聞こえて・・・・・・?」
〜ステラの意識は白濁の海に溶け込んでいった〜
完 ・・・以上番外編でした。次回は引き続きスタンドアローン編をお送りする予定です。
120 :
479:2006/07/10(月) 21:53:56 ID:???
どうも、先日は何やらお騒がせして申し訳ありません
今回はI and I and Iですのでご安心ください
いつかはこうなるって、わかっていた。
それを望んだのもワタシで、それを拒んだのもワタシ。
ワタシはワタシでありたい。
いつかは、ワタシでなくなってしまうと思うから。
だから今だけはって、それまではって、そう願う。
でも結果は、願いを叶えてはくれなくて。
ワタシも、自分のそんな願いから背を向けるしかなかった。
〜I and I and I〜 第十七話「あなたの妹じゃいられない」
久しぶりにマユの携帯電話にメールが到着した。
メールアドレスは、一件しかメモリーには登録していない。
足長お兄さんだ。
『件名/久しぶりだね
本文/もうメールが届く場所に帰ってきているのかな?
今度は僕が遠くへ行くことになってしまったよ。
といっても、ちゃんとメールはできるんだけどね。
答えを出すことはできたのかな?
君の行きたい道を選べばいいと、僕は思う。
君の味方の足長お兄さんより』
短い文章の中に、篭っている優しさ。
どんな気持ちで相手がこの文章を打ったのかはわからない。
だが、今のマユにとっては、その言葉が決意に足る原動力になる。
「ありがとう、足長お兄さん」
何が正しいのか、未だその答えは出てはいない。
それとも答えは、もう出ているのであろうか。
「ミネルバを降りる?」
気持ちが変わってしまわぬ前に、マユはアスランにその思いを告げた。
「これ以上ここにいてもシンさんやみんなにに迷惑をかけるだけだと思うし」
「迷惑ということはないと思うが…」
「でも、また戦闘なんてことになったら、大変でしょう?」
「その戦闘のことなんだけどな…」
両目をきょろきょろと泳がせて、言い辛そうにアスランは口を動かしている。
息をゆっくりと飲み込んだ後、アスランはやっとのことで口を開いた。
「……オーブが本格的に連合の傘下に入った」
「え…?」
「すぐにでも戦うことになる」
「そんな…ウソ……」
地球連合と同盟を結んだということのは、そういうことなのである。
「君が降りたいというなら引き留めはしない。だが…保護してくれるところがな」
プラントに行かせるといっても、今ミネルバは地球にいる。
シャトルの手配や諸々はFAITHであっても、要請するそれだけで時間と手間がかかってしまう。
基地に残すのも、アスランの中ではあまり納得のいく選択ではなかった。
「あいつ等がいれば、な」
失踪したカガリ。そして恐らく、カガリを保護しているであろうアークエンジェル。
不沈艦とまでいわれたアークエンジェルなら、マユを帰しても安心なのだが。
「アスランさん?」
「あ、あぁ…そのことは、もう少し待ってくれ。ミネルバももう出港する…連合と、オーブと戦うためにな」
慎重な行動を取りたいアスランの考えを優先して、了解したマユは頷いた。
しかし、アスランの待ち望むアークエンジェルの一行とは、すぐにでも遭うことになるのである。
戦場になる黒海並びマルマラ海に向けて、ミネルバは進んでいた。
緊迫する艦内。
マユも自室で、状況が悪化しないことを祈っていた。
そんな部屋に訪れる客人が一人。
「ハイネ・ヴェステンフルスだけど、マユちゃんはいるかな?」
「え…あ、はい!います!」
戦闘が開始される前になんの用なのか。
不思議に思いつつも、マユはハイネを部屋に通す。
「いなくなる前に、少し話をしておこうと思ってね」
「ワタシが艦を降りたいって話、アスランさんから聞かれたんですか?」
「いーや。いなくなるのは俺…というのは、元の世界のことか」
「?」
「ごめんごめん。なんとなくかなぁ。君、そんな顔してたから」
瓢々として話すハイネに、マユはよく理解できずに首を傾げる。
そんなマユをよそに、ハイネは話を続けた。
「君は艦を降りる。そして、また様々に事象に出会す」
「なんだが…わかってるような言い方ですね」
「わかるよ」
きっぱりとハイネは答える。
その言葉、その眼差しは、全てを見通しているようにマユには思えた。
「俺と君は似ている。ただその力の使い方が違うだけでね」
「力…?」
「じゃあもう行くとするかな。ミネルバじゃあ初陣なんでね、敗けるわけにはいかないのさ」
理解できずにいるマユを無視して、ハイネはさっさと部屋を出ていってしまう。
一人残されたマユは、ぽつんとハイネの言葉の意味を考えていた。
ただ、彼の言った通りになるのだろうと、その時マユは漠然とそう思った。
ミネルバはダーダネルス海峡に進入すると同時に、戦闘態勢を敷いた。
両軍のモビルスーツが、各機出撃していく。
敵は連合、そしてオーブ軍。
シンもアスランも、オーブと関係の深い二人の内心は、不安と焦りに満ちている。
何か起こらないはずもない。
そんな嫌な予感が、マユの脳裏を横切った。
「空から何かが来る…!!」
マユが声にならない声を上げたのと同時、ミネルバが激しい揺れに襲われる。
それはミネルバがタンホイザーを発射する直前、何者かが艦首砲を撃ち抜いたからだった。
そのせいで艦首を含め、その付近で爆発を巻き起こす。
艦は傾き、被害は甚大。
着水する衝撃でまた艦は揺れ、事態がより深刻であることを悟る。
慌てふためく艦内で、マユはモニターのあるブリーフィングルームに向かった。
「私は、オーブ連合首長国代表!カガリ・ユラ・アスハ!」
「え…カガリさん…?」
モニターに映し出されるストライクルージュ、フリーダム、アークエンジェル。
そしてストライクルージュから寄越された通信が、ミネルバに流れた。
カガリが誘拐されたという話は、マユも耳にしている。
アスランの言った「あいつ等」という言葉が、ここで繋がった気がした。
「ワタシもあの艦へ?」
うっすらとした、だが明確にも近い予感。
そんな予感を感じた直後、オーブ軍の艦が攻撃を開始する。
放たれる無数のミサイル。
だが、そのミサイルはフリーダムによってアークエンジェルやストライクルージュに届くことはなかった。
ミネルバや連合、オーブにとっては予期せぬ介入者だっただろう。
しかしそんな介入者を呑気に見ている暇もない。
ミネルバは残りのザク2機と、そしてハイネの駆るグフイグナイテッドを、
連合は連合で、カオス、アビス、ガイアを発進させた。
激化する戦況。
それに感応するように、マユの心も人の死に圧迫されていく。
戦いを止めたいと思う者…
戦わなくてはならない者…
カガリとオーブ軍の擦れ違う気持ち。
どちらともに、足りないものがあるのか。
「シン・アスカ、お前は沿岸にいるガイアを頼む!」
「え?あ、はい!」
発進して間もなく、ハイネはシンにそう命令を送る。
そして、M1アストレイやムラサメを次々と薙ぎ払いながら、フリーダムに向かっていった。
「死なない方法…というか、死ななかった方法を選べば死にはしないからな」
ぽつりと呟き、ビームソードを構える。
「墜ちないその理由、見せてみろ!フリーダム!」
「新型!?しかも、カスタム機?」
ビームソードの斬撃を躱しながら、キラが呟く。
「敵パイロットの命を奪わずして敵機を墜とし、そして自機も攻撃を寄せ付けない」
「なんなんですか!あなたは!」
「その感じる力、最初から持ってたわけじゃないだろ!?」
「!!」
通信ではない会話だった。
別の何かが働いている。
「少なくとも、俺を含め4人は力を持つ者がいることを感じれるはずだ」
「あなたは、何を!?」
「その無敵ともとれる力、単なる操縦技術だけではあるまい!?」
ビームソードをしまい、グフイグナイテッドはスレイヤーウィップを取り出した。
そのスレイヤーウィップを、フリーダムに向けて放つ。
「最大出力だ、受け取れェ!!」
フリーダムの腕部に絡み付くスレイヤーウィップが、電撃を迸らせた。
「ぐっ!ああああ!!」
叫び上げ、だがキラは、絡み付くスレイヤーウィップを切り落とす。
ハイネはうねる電撃の中に、あるものを見た。
「守護者……そういうことか」
確信したように、言葉が漏れる。
そして、一気にフリーダムの元から離脱する。
「これ以上の戦闘の続行は、あの子の体力も気力ももたないぞ」
ハイネの頭に、マユの顔が浮かんだ。
デュランダルから聞かされたマユの存在。
そして、自分がミネルバに着任する前の経緯。
「望まぬ戦いに命をかけてそれで死んでさ…その念が、彼女を押し潰すんだよ」
説明するようなハイネの言い方だが、その言葉は的中する。
オーブ軍パイロット達の後悔の念をダイレイクトに受け、マユはあの時と同じように倒れてしまっていた。
マユが目を覚ますと、そこにはアスランの顔があった。
「アスランさん…」
「やはり、倒れたな」
「何日、眠ってました?」
「丸一日かな、あの戦闘から」
「そうですか」
身を起こし、ベッドから降りる。
軍医が気遣うが軽く断り、マユはアスランを見て口を開いた。
「シンさんは?」
「今、別の任務の説明を受けているところだ。あいつも、心配してたよ……」
そう言うと、アスランは目を泳がせる。
前の時のように、また言い辛そうにしていた。
「まだ何か?」
「……君を降ろすことができる。今すぐにでも」
急いでるように見える。
恐らく突発的に可能となったのだろう。
もしマユがまだ眠っていたとしても、そのまま連れていったのかもしれない。
「目が覚めたそのすぐ後にこんなことを言ってすまない」
「いえ、ワタシは平気です」
驚きもしなかった。
戸惑いの感情もなかった。
ハイネの言葉が色濃く記憶に残っていたせいだろう。
「夕刻に会う約束をしてある」
「わかりました。あの、その前に…」
「ん?なんだ、言ってくれ」
「シンさんに、お別れの挨拶をさせてください」
綺麗に髪を整えて、可愛い色のゴムで髪を結んで、ディオキアで買った新しい服を来て……
彼の前では、別人でいたかった。
他人で良かった。
そうならばきっと、恋だって自由にできる。
「ごめんなさい、急で」
呼び出したシンに、そう告げる。
「何がだよ?」
「ワタシ……ミネルバを降ります」
不思議そうに聞き返してきたシンの顔が、マユの言葉を聞くなり一気に硬直した。
驚きに満ち、もう一度なんと言ったのか確かめようとしているのか、口をパクパクと動かしている。
「ずっと前から思っていたんです。ここはワタシのいる場所じゃないって」
「な、なんでだよ!?」
「だって……ワタシは、ワタシはヴィアだからっ!」
迫るシンから顔を背けて、マユは声を振り絞ってそう答えた。
「マユの方がいい、早く記憶よ戻れって、そう思っても…そんなの簡単にできないし…」
それが正しいと思い込もうとした。
だが、それはできなかった。
「それとは逆に、どんどん気持ちが膨れ上がって……」
「マユ…」
「ワタシはヴィアです!」
思わず声が大きくなる。
そんな自分にマユ自身も驚きながら、それでもシンに伝えたい思いは収まらなかった。
「記憶が戻るそれまでは、マユじゃなくてヴィアでいさせてください!」
そして、最後の言葉を…
「ワタシは、あなたが好きです」
目線を合わせ、マユは精一杯自分を落ち着かせて、最後の言葉をシンに告げた。
「さよならっ!」
これ以上、この場にいるのがいたたまらなくなって、マユは逃げるように走り出す。
振り返らない。振り返りたくない。
マユの瞳は、濡れていた。
続
131 :
479:2006/07/10(月) 22:14:00 ID:???
これにてプラント・ミネルバ編は終了です
次回からはアークエンジェル・ファクトリー編をお送りします
リアルタイム乙。
ヴィア切ないよヴィア(つД`)
このスレだとシンの危険なフラグの立てっぷりが素敵だよママン
479氏リアルタイム乙!
ハイネの言動から察するに、どうやらニュータイプ能力ってだけじゃない…?相変わらず先が読めん
479氏乙!!
思ったより接触が早かったからどうだろう、と思っていたけどやっぱり離れるのねこの二人(つД`)
そして気になるハイネの言動。 なんか特殊能力あるみたいだし…長生きしそうでしなさそうだなぁ
先の読めない展開、これからも面白くなっていきそうな予感がします。 GJっした!!
>第十五話「夢見る少女じゃいられない」
>第十六話「恋する乙女じゃいられない」
>第十七話「あなたの妹じゃいられない」
サブタイがいられないで続いてバロスw
うわ、何か深いな。479氏乙。
守護者というのはまず間違いなく想いで守ってる人か。
力を持つ者4人というのは一体どういうことだろう。
キラを除くと直接ピキーンがくるのはレイ、あとハイネとマユ。これで3人。あと1人は・・・?
そして何よりハイネに何が見えているのかがすさまじく気になる。
「死なない」でなく「死ななかった」というのは・・・まさかとは思いますが。
次はAA側ですか。続きを楽しみにしています。
キラで守護……守護してるんじゃなくてフレイに守護されてる
被守護者だったりしてな
確実にそうだろ
サイの時にフレイはいなかったんだし
キラが守護者、じゃなくてキラの中に守護者を見たわけだから守られてるほうだな
はてさて、このままアニメ通り進んでKUWASHIMA能力者同士の戦いとなるのか、それとも・・・
単発設定小話 「マユ」スタンドアローン編Gミツとクローバー
〜ミネルバに帰還したインパルスとザク〜
ヨウラン「おぉしっ。英雄様が帰ったきたぜ!」
ヴィーノ「マユ!レイ!早く降りてこいよ!」
マユ「今、下りまーす!」
〜MSから下りるマユとレイ。
マユ「レイ!・・・あなたのおかげよっ!」
レイ「お前が強いんだ。俺は、少し手を貸しただけだ」
マユ「ふふ・・・ありがと」
〜レイに微笑みかけるマユ。マユの笑顔に少しするレイ〜
レイ「さ、先にいってるぞ。艦長に報告もしないといけないしな・・・」
〜さっそうと歩きだすレイ。背中に笑いかけるマユ、を横から抱きつくヨウラン〜
ヨウラン「マユーっ!!」
マユ「!!キャッー!!」
ルナマリア「なっにやってんのよー!こんのエロガキが!!」
〜ヨウランの頭に容赦ないげん骨が飛ぶ〜
ヨウラン「痛って〜!!殴ることないだろっルナ!」
ルナマリア「ったく、油断も隙もあったもんじゃないわね!・・・マユ、大丈夫!?」
マユ「う、うん。ありがと、ルナ姉ちゃん・・・・・・」
ルナマリア「もう。ほら、いくわよマユ。疲れたでしょ?」
マユ「はーい。ふふ、じゃあ後でね。ヨウラン兄ちゃん、ヴィーノ兄ちゃん」
ヴィーノ「おう。お疲れ様」
ヨウラン「つっつっ・・・ああ、後でな・・・痛ぅ〜」
〜頭をさすりながらマユの見送るヨウラン〜
〜廊下をルナマリアと並んで歩くマユ〜
ルナマリア「・・・・・・やっと・・・仇をとったわね」
マユ「・・・・・・うん・・・」
〜ルナマリアの胸に顔を埋めるマユ〜
マユ「ルナ姉ちゃん!・・・私・・・私・・・・・・」
ルナマリア「怖かったわね。もう、もう泣いていいのよ・・・あなたのそばにいてあげるから・・・」
マユ「うっうっ・・・ひっくひっく・・・・・・。やっとやっと仇を討てたのに・・・なんで・・・なんで気持ちが晴れないの?」
ルナマリア「・・・・・・なんでかな?・・・でも、あなたのしたことは間違ってない。間違ってないから・・・ね?」
マユ「うううっ・・・」
〜ルナマリアの胸で泣き続けるマユ〜
ルナマリア「今は・・・頭を空っぽにして泣こ?」
マユ「ルナ・・・姉ちゃん・・・うっうっう・・・・・・」
〜その頃、フリーダムを回収したアスランが戻ってきた〜
アスラン「ふぅ・・・。マユとレイはもう戻ってきているのか・・・・・・」
ヨウラン「おお・・・本当に回収してきちゃったよ・・・これがフリーダム・・・・・・」
ヴィーノ「壊れかけてても、圧倒的な迫力だな・・・」
アスラン「コックピットはないけどな」
〜フリーダムに感嘆しているヨウランとヴィーノに返答するアスラン〜
ヴィーノ「ええ!じゃ・・・敵さん脱出したってことですか!?」
アスラン「どうかな?太刀筋を見た限りじゃ助かった見込みは少ないと思うけどな・・・」
〜嘘をつくアスラン〜
完 ・・・・・・次回「レイ」スタンドアローン編Hへ続く。
そろそろ夏の大きなお休みに入ります。
皆さんどうかお気をつけて。
もう絵板の方に何かわいてるね
>>143 わざわざ挑発するような事書くのはやめれ。
呼び込みたいのか?
>>142 このアスラン、なかなか図太いなw
しれっと嘘ついてるが、タリアあたりにはバレバレのような気もする
出撃前にも「あの餓鬼!」とかキレてたしw
いつもの過疎保守
なんだかんだいって無事マユデスメンバーはプラントに付いた。
ちなみにイライジャは勝負には勝ったが手紙だけでも書くように要求された。
『これくらいは聞いてくれるわよね?』
そういってにっこり笑ったグレイシアは目が笑っていなかった。
その笑みの迫力に勝てなかったイライジャは涙目でこくこくと頷いていた。
「こわかったなぁ・・。」
おもわずマユはそれを思い出して戦慄する。
ファントムペイン一行とアスランはマユとレイの家、つまり議長の家に止めてもらう事になった。
ルナマリアも何か事情があるらしくミーアの家に泊まる事になったらしい。
そして、マユとレイの家。つまり議長の家、そこの玄関に一行はいた。
「ここは・・・・・・・。」
きょろきょろと昔良く見た風景を眺めるアスラン。
『そ、元クライン邸を改装してるんだ。』
アスランの言葉を読んでシンハロが説明する。
「海も見えるんだよ。」
「うみー!!」
マユの言葉にステラが喜ぶ。
「えーっと、鍵鍵・・・・・・。」
豪邸にそぐわない普通なセリフを言いながら鞄から鍵をだして扉を開ける。
がちゃり。
「やぁ、おかえり。」
迎える赤い彗星ボイス。
その瞬間マユのとび蹴りがその声の持ち主にと命中する。
そしてレイがどこからか取り出した金属バットでホームラン。
ふわり、と空中にういて、べしょっ、っと落ちるシャアボイスことギルバート・デュランダル。
「ギル!!仕事はどうしたんですか!!」
「ギルパパ!!何やってんの!!」
言葉より先に手を出した子供達に議長はなみだ目で拗ねたように言う。
「だって・・・、久々にプラントに帰ってきたんだから家族水入らずで・・・・・。」
「スティング達も一緒ですけど、ギル。」
「嘘?!」
後ろのステラ達を発見してギルバートはしょぼくれる。
『もしもし、サラさんですか?議長を発見したんで回収に・・・・・。』
「シンハロォっ!!」
携帯で連絡するシンハロに飛びつくデュランダル。
「頼む!!今日くらいいいだろう?!欲しいものなんでも買ってあげるから!!」
『大丈夫です、議長。俺欲しい物は自力で手に入れる男ですから。』
「たーのーむー!!私だって休暇が欲しいんだよー!!」
ダダコネをするデュランダル議長。写真をとってネットに流したら間違いなくコラ扱いだろう。
マユは目をそらすファントムペイン一行とプラントの未来を嘆くアスランを見た。
すると何処からともなくブロロロロロッとエンジン音が響いてきた。
「・・・・ギルパパ、サラさん来たよ。」
マユのセリフに向こうを見るとごっついバイクが轟音と共にやってくる。
それは見事にマユ達の前で止まった。
乗っているは緑のスーツを着こなした女性。ヘルメットを取ると知的な顔が現われる。
「議長!!こんな所まできてたんですか!早く戻ってください!!」
「サラ・・・!嫌だ!!私は今日は休むんだ!!」
「レイ君、いつものお願い。」
「はい。」
そうサラが言うとレイがガゴンッと金属バットをデュランダルの頭に振り下ろす。
吹き飛ばすのではなく振り下ろす。そのままパタリと倒れるプラント評議会議長。
「まったく・・・、いっつもこの調子でよくあんな風に演説できるわね・・・・。」
そうぼやきながらテキパキと気絶しているデュランダルにヘルメットをかぶせ、そのまま動かないように
しっかりバイクと自分に固定する。
「それでは、レイ君、マユちゃん、それに皆さん、ご迷惑をおかけしました。」
そう爽やかに笑ってからヘルメットを被り、轟音とともに彼女は去っていった。
「・・・・なんだ、あれ。」
「日常精神年齢十歳のプラント評議会議長とそのお守り役兼秘書のサラさんだ。」
ネオの質問にレイが淡々と答える。
「父上・・・、母上・・・、プラントはどうなってしまうのでしょう・・・・・っ!」
「ア・・・、アスラン!!心配することないって!議長は普段あんな分きっと政治では大丈夫だよ!
オーブのアスハだってあんな感じなんだろう?!」
シンが必死に泣き崩れるアスランを慰める。ステラも慰めているつもりなのかキャンディーを差し出している。
「と・・、とにかく久しぶりの我が家!!たっだいまーー!!」
マユは気を取り直し、大きな声で扉をくぐった。
ほのぼのさん乙!
ギルパパ…久しぶりの生身の登場なのにやっぱり殴られてるww
単発設定小話 「レイ」スタンドアローン編H
〜ミネルバ艦長室〜
タリア「・・・で、フリーダムは回収できたのね」
アスラン「ええ。まぁ、コックピットはありませんが・・・」
タリア「これで満足できたのね?」
アスラン「・・・おっしゃっている意味がわかりかねます」
タリア「では言い直しましょう。・・・あなたのご友人を助けられてさぞかしご満足なことでしょうね!」
〜「ダンッ!!」と机にこぶしを叩きつけアスランを睨むタリア〜
アスラン「・・・セイバーを失った私に今できたのは、フリーダムを回収することだけです。私は、フェイスとして自分にできる限りの最善のことをしただけです」
タリア「あくまであなたが回収するときにはすでにコックピットがなかったと言い切るつもりね?」
アスラン「事実のままに・・・」
タリア「・・・・・・」
〜アスランを睨み続けるタリア〜
タリア「わかったわ。あなたの報告書は私を通さなくていい。直接議会に提出なさい。私は私で報告書を提出します。議会・・・いえ、議長に判断を仰いでもらいましょう」
アスラン「・・・わかりました」
〜アスランから目をそらすタリア〜
タリア「・・・フリーダムを、あなたはどうするつもりなの?」
アスラン「フリーダムに残っているキラ・ヤマトの戦闘データは役に立つでしょうから、開発部隊に回すのがいいでしょう」
タリア「機体そのものは?」
アスラン「最強のMSといっても設計はすでに古いですからね。機体本体を使う意味はありません。ただエンジンは使えますよ」
タリア「・・・条約違反よ?」
アスラン「戦争をするのに武装制限のルールは無意味ですよ。人としてモラルは持っているべきでしょうがね」
タリア「・・・ずいぶんとすさんだことを言う。お父上の遺志でも継ぐつもりかしら?」
アスラン「はは・・・まさか。そこへは行きませんし・・・もう誰にも行かせませんよ」
〜握りこぶしを振るわせるアスラン〜
アスラン「・・・フリーダムのエンジンは、デュランダル議長にお渡しします。どんなかたちであれ上手く使ってくれますよ」
タリア「ねぇアスラン。あなたいつまでここにいるつもりなの?」
アスラン「議長に会うまでは・・・ここにいます」
タリア「そう・・・。じゃそれまでここにいなさい。・・・ご苦労様、さがっていいわよ」
アスラン「はっ。失礼します」
〜敬礼し退出するアスラン〜
アスラン「・・・・・・!」
〜廊下の壁に背を預け、レイが立っている〜
レイ「・・・アスラン、あなたは自分を・・・期待されている役割をちゃんと理解されているのですか?」
アスラン「お前に言われるわけもなく。俺はフェイスの活動をしただけだよ」
レイ「あの男のしてきたことを、あなたは否定し続けてきたはずですよ」
アスラン「ああ。今もそれは変わってない」
レイ「本当に?」
アスラン「当たり前だ。無用な混乱を起こしている傍迷惑な連中だよ」
レイ「・・・私とマユの邪魔はしないでくださいよ」
アスラン「・・・・・・レイ。死んだ人間を目標にしていては上にはいけないぞ」
レイ「っつ!・・・私の目標はデュランダル議長以外にはいない!!」
〜アスランの言葉でレイは声を荒げた〜
完 ・・・・・・次回「ジブリール」スタンドアローン編Iへ続く。
ほのぼのレイが一番生き生きしているのって、議長をどついてる時じゃないか?
>>151 いやあ・・・。こういっちゃ何だが、久々に面白い。
ハイネ隊が出ない方が、ほのぼのは面白いと思うよ、マジで。
>>153 このアスラン、終いにはアクシズ落としまで行きかねない勢いだな
一ヶ月以上のブランクがございましたが、ようやっと書けました! 投下開始します!
帰国して間もなく開かれた閣議の後、
溜まっていた執務に忙殺される中、僅かにとった休息の時間。
ベッドに潜り込み、まどろみの中に沈んだ彼女は、夢の中にまで現実世界の問題を抱え込んできていた。
――私は、どうすればいい?
――本当に、この道であっているのか?
――この選択で、私は国を、国民を守ることが出来るのか?
――この道は……遺志に反しているのではないか?
ぐるぐる、ぐるぐると。 走馬灯のように巡る疑問。ためらい。そして失敗に対する恐れ。
追い立て、追い詰めるように代わる代わる突きつけられる、悪い未来の予測映像を前に
彼女は固く眼を閉じ、両手で耳を塞いでそれらに背を向け、離れようと走り始めた。
まるで、迫り来る魔物の影法師たちから逃げる、臆病な幼子のように。
見ず、聞かず、何も言わず。 ただ荒い息を吐き、滝のような汗を流しながら走り続けた彼女。
何もない、暗闇ばかりが支配する果てない道を当てなく逃げ続けたが
いつしかそこは、見知った廊下へと変化していく。
生まれた時からずっと彼女が暮らしてきた場所。アスハの邸宅のものへと。
それに気付いた彼女は、確かな逃げ場所を求め、そこへと向かう。
物心付いた時からずっと守ってくれた、広く優しく、力強い背中を探して。
目指す扉に辿り着いた彼女は焦りでもたつく手でドアノブを捻り、まろぶように室内へと飛び込む。
そこは、屋敷の主の書斎。 大好きなあの人がよくいた場所。
はあはあと弾む息をそのままに、部屋の真ん中に立ち尽くす彼女の視線の先。
室内を見回すまでもなく、彼女の求めていた人物はその真正面に佇んでいた。
壁の半分以上を占める大きな窓の前に置かれたデスクの椅子につき、こちらに背を向けたまま何かを手にしている人物。
臙脂色のガウンを羽織る、長く伸ばされた濃灰の髪が特徴的な中年男性。
自分の入室に気付かないのか、気付いていてもそ知らぬふりなのかこちらを向かない彼へと、彼女は呼びかけた。
――オトウサマ。
ヒュウヒュウと荒息混じりの掠れ声は、彼に届くかどうかも分からないほど小さな音量で。
先ほど感じた恐怖から目の縁に涙溜め込む娘は、振り向かない人影へと再び呼びかけた。
――お父様、助けてください。 私はどうすればいいんですか。教えてください。
今度は幾分大きな声で、はっきりと紡がれたそれは助けを求めすがる言葉。
幼い頃から、自分の投げかけた疑問に答え、あるいは一緒に考えてくれた優しい父へと彼女は教えを乞うた。
きっと、彼なら明確な答えを持っているはずだ。 深く悩める心に、光明を示してくれるはずだ。
期待を抱きながら、彼女はもう一度呼びかけた。
振り向いてほしいと願いながら。優しい言葉をかけてほしいと願いながら。
……しかし、男は一瞥たりともしなかった。
身動きしていないわけではない。 ずっと手にした何かを弄り回し、時折光に翳す仕草もしている。
彼の手の中にあったのは、一筋の光。 三日月のように薄く、曲線描く金属だった。
あれは確か、彼がとりわけ大切にしていた『カタナ』という骨董品だったろうか……。
娘は悲しくなった。 助けを求めているのに、父親はずっと自分の宝物に夢中なように見えたから。
こちらを向いてくれるだけでいい。 ただこちらに気付いて、微笑んでくれるだけでいいのに。
的確な答えなど、もはやいらないとさえ思っていた。
共感でも否定でもいい、ただのひとつでいいから言の葉が欲しかった。
――お父様っ!!
堪え切れなくなった涙の粒を頬に伝わせながら、彼女は叫んだ。
温もりを求めて泣き喚く赤子のような、幼い迷い子が親を探し求めて泣きじゃくるような声で。
心細そうに両手を胸元で固く握り締めながら、詰め寄るように身体を前のめりにしながら彼女は父を呼んだ。
娘の声の反響も消え、再び静寂の空気が満ち始めるほどの時間が過ぎて。
とめどなく流れる涙を、形良い顎の先から絨毯へと落し続ける娘の目の前で
男は初めて椅子を動かし、彼女の方へと振り向いた。
口元のほとんどを覆う髭。 意思強そうな印象与える太い眉の下に宿る、獅子の威厳満ちる眼差し。
記憶と違わない、懐かしい姿を留める父の姿に、娘はいつしか強張る身を解き、ぼうと彼を見つめる。
椅子から立ち上がり、ゆっくりとした歩調で娘の方へと近づいていく男。
言葉を失くし、その代わりにほろほろと泣き続ける彼女の瞳を二、三歩離れた場所から見つめながら
男は手に提げていた一振りの日本刀をゆるりと持ち上げ、眼前で横に構える。
それは振りかざしたわけではなく、示して見せるかのように。 あるいは差し出しているようにも見えたかもしれない。
眩い輝きを切っ先に宿す刃を前に、娘は驚きに目を丸めたまま動けずにいた。 その意図が理解出来なくて。
彼女は理解出来ないままながらもおそるおそる手を持ち上げた。
目の前にある刀へ向けて、そっと、差し伸ばす。
――だが、その手が届く手前で、突然周囲に変化が起きた。
バタンと背後で扉が開く音が鳴り響くと同時に、猛烈な勢いで部屋の空気が外へと吸い出されていく。
空気だけじゃない。 書斎の壁が、内装がはらはらと剥がれ落ち、散っていく。
まるで世界全てが書割だったかのように。
娘も例外ではなく、引きずり込むように伸ばされる透明な触手に抗いながらも、その身はずるずると後ずさっていく。
ただ、男だけはまるで彫像のように微動だにせず、無言で立ち続ける。
自分の子どもへと静かな視線を向けながら。
そんな彼へと、風をかき分けるようにもがきながら、娘は手を伸ばす。
お父様、お父様と悲鳴混じりに叫びながら。
気付けは、世界は先ほどまでさ迷っていた底深い暗闇へとその姿を変えている。
蘇ってきた恐怖心に顔を蒼ざめさせながら、それでも娘は必死に抗う。 少しでも、父親の元へ近づこうと。
その時、彼は囁いた。 溺れる者のように不様にもがく少女の耳元へ、低くはっきりとした声で。
その言葉に気を取られ、思わず身体に力を篭めるのをやめた瞬間。
彼女は見えざる手に持ち上げられて宙に舞い、暗闇の奥へと引きずりこまれた。
「―――――お父様ッッ!!!」
自らの叫び声で目を覚ましたカガリは、夜具を跳ね除けながら上半身を起こす。
はあはあと弾む息。 皮膚に不快感を与える大量の汗。 そして震えの止まらぬ身体。
夢とうつつの判断が付かないまま、しばしその体勢で呆然としていた彼女だったが
先ほど出会った父親……彼は既に故人で、二度と会えるはずのない人間だという現実を思い出し、深くうな垂れた。
顔を覆い隠した両手の指の隙間から、微かな嗚咽と雫を零しながら。
あの夢は、己の迷いから生まれた願望が創り上げた映像だったのだろう。
夢の中で父親に叫んだ内容……それは閣議が終わってからずっと頭の中にあった、疑問だったから。
カガリは知りたかった。 二年前にマスドライバー『カグヤ』と共に散った父親の思いを。
もしも今もまだ指導者の立場にいるとしたら、どのような道を選んだのだろうかと。
大西洋連邦と共にプラントを討つのか、中立国同士で手を取り合うのか
――あるいは、前と同じように世界の情勢から眼をそらし、自国だけそ知らぬ顔で争いへの干渉を頑なに拒むのか。
答える者のいない一人きりの寝室で、そんな思いをぐるぐると巡らせていたカガリだったが
不意に頭に閃いた、一つの考えに眼を見開き、顔を上げた。
二度と対話をすることの叶わない、故人の考えを直接知ることは不可能だが
彼の身近にいた人々なら、その一欠片でも知っているのではないだろうかと思う。
……昔の自分は、父親の選んだ道に対して頑なに反論するばかりで、彼の考えに耳を傾けようとしてなかった。
ただ必死に動き回って彼の企みを調べたり、彼に言い返せるほどの答えを探そうと悩むばかりで。
……自分のことばかり考えていて、父親の考えを理解しようとすることがなかった。
しかし、彼と親しかった人ならば、きっと彼の言葉に耳を傾けてるはずだ。
もしかすると、カガリの全く知らなかった内容もあるかもしれない。
その考えに至った彼女は、明日は早々に執務を終えることにして、それから『彼』を訪ねようと思った。
恐らく、誰よりも父親のことを知っているであろう男に、今自分が抱えている疑問を話そうと。
「あーあ。 せっかく地球に来たってのに、上陸許可が下りないんじゃねぇ」
淹れてきた紙コップ入りのコーヒーを手にしながら、大仰な溜息とともにソファーに座ったルナマリアがぼやく。
その隣にいたメイリンは、姉の言葉に対してそうだねと相槌を打つ。
オーブの軍港に停泊中のミネルバ内にあるレクルーム。そこには数名の若いザフト兵たちがたむろしていた。
ルナマリアのように、ルーム内に設置されたカップベンダーの飲み物を飲んでいる者や、本を読んでいる者。
皆一様に、暇そうな様子でそこにたむろっていた。 くつろいでいるというよりは、所在なさげに。
現在、港に停泊し船体の修理を行っているミネルバでは、整備兵や一部のクルーを除いて休息令が敷かれていた。
しかし、肝心の上陸許可が降りていないため、ここに集う少年少女らは特にすることもなく、暇をもてあましていた。
ジュースのコップを手にして長椅子に座るマユもまた、退屈そうな表情で壁に掛けられたプロジェクターへと視線を向けている。
艦の外壁に設置されたカメラから送信される、外部の風景へと。
「…外、出れないの残念だね。 せっかく故郷に来たのに」
「うん。そうだね」
ぼうとしてたところに、隣に座るアゼルから声をかけられ、少し間を置きながらも言葉を返す。
しかし、彼女の本心は複雑だった。 オーブは自分の中では、捨てた故郷だったのだから。
かつて世話になった恩人、トダカの家を訪ねたいという思いはあったのだが
自分の想い出の中にある大切な場所…生まれ育った家や、家族で遊びに行った公園を目にすることを恐れていた。
――きっとそこは、覚えている姿のままで残っていないから。
変貌した想い出の場所を見てしまったら、泣いてしまうかもしれない。
美しい映像を保ち続けてきた想い出が、色あせて消え去ってしまうかもしれない。
…もちろん、自分の記憶の中にある場所がどうなったのか、知りたいという気持ちも少しはあったのだが。
マユは恐れていた。
胸に抱き続けてきた過去が、宝物のように大事に仕舞っていたモノが壊れてしまうのではないかと。
うかない表情でうつむき黙り込む少女を前に、少年は何か言葉をかけるべきかと思い悩んでいたその時。
パシュンと音立て開閉した自動扉から、一人の男が室内を窺うように顔を出した。
「おや、皆ここに集まっていたのか。 ちょっと失礼するよー」
黒い軍服纏う男、副長のアーサー・トラインはのんびりとした口調で挨拶をしつつ、部屋に入ってきた。
片手に、陶器製のティーセット一式と四角い金色の缶を乗せたトレイを手にしながら。
「副長珍しいですね。今日はこっちで休憩ですか?」
職場を共にするメイリンからかけられた言葉に、アーサーはへらりと崩れた笑みを浮かべながら手を振る。
「ああいや、違うんだ。 部屋でお茶を飲もうと思って、お湯をもらいに厨房に行ったんだけどねぇ。
今、丁度昼食の準備中で慌しそうだったから、こっちの給湯器からもらおうかなと」
「ディスペンサーにもありますよ? 紅茶でしたら」
「濃縮シロップはどうも苦手でねぇ。 茶葉から淹れる方が、私は好きなんだ」
自販機を指差すルナマリアに対し、首を振りながら彼はやんわりと答え、自販機のそばに設置されている給湯器へと向かう。
「あの、副長。 上陸許可はまだ下りないんでしょうか?」
アゼルの質問に、アーサーは紅茶の缶の蓋に手をかけたまま振り向いた。
「それかぁ……ちょっとまだ分からないんだ。 状況が状況だから」
「何かあったんですか?」
渋い表情を見せる男に対して問いを重ねると、彼は参ったかのように首の裏へ手をやりながら語り始めた。
「――うそっ! この国プラントの敵になるんですか?!」
「いやいやそう決まったわけじゃない。 ただ、そうなる可能性も否定できないってだけであって…」
早合点して叫んだルナマリアの驚きの言葉を、アーサーは慌てて訂正する。
「オーブはかつて、中立の立場をあくまで崩さなかったことから大西洋連邦に攻め入られ、占領下に置かれたことがある。
その過去を考えれば、大西洋連邦が音頭を取って立ち上げた世界安全保障条約機構に、
加わろうという意見が上がることもありえる、ってレベルの話さ」
少女の勢いに押され、気弱そうに眉を下げながらボソボソ声で副長が語る内容。
レクルームに集う者たちは、緊張の面持ちでそれに耳を傾けている。
アーサーが入ってくるまで、周りの話題にも気を留めず読書に耽っていたレイも顔を上げ、彼に注目していた。
「その、世界安全……なんとかっていう集まりが、プラントに戦争をしかけてくるってのは本当なんですか?」
「うーん…恐らくそうだろうなぁ。 中心となっているのが、前大戦で敵対した大西洋連邦だから。
現在判明している、条約に賛同の意を表明した国家の大半が、セレネ移民船団襲撃事件で犠牲者を出した国なんだ。
そして、かの事件は事故に見せかけた、プラントによる大規模テロだというような報道が、地球のメディア中で報じられている…
この状況が続くようだったら、遅かれ早かれ争いが起きる…かもしれない」
「そんな! 僕たち、頑張って戦ったのにっ……」
悔しさに顔を歪めながら、呻くように叫んだアゼル。 彼の声を耳にしながら、マユは俯いていた。
自分たちは精一杯頑張ったはずだった。
ミネルバのみんなだけじゃない。ジュール隊や、事件後の現場で救助活動を行った他の部隊も。
生命の危機に晒される移民たちを少しでも救いたい、そんな思いで誰もがあそこで戦っていただろうに。
――なのに、地球はプラントを疑い、非難の声を浴びせかけ、戦争を仕掛けようとしている。
その現実を知らされ、マユは愕然とした思いと共に悔しさを覚えていた。
自分たちのやってきたことは、一体なんだったというのだろう。
あの戦闘の中で、移民船を守るため、暴走機体を止めるために命を賭し、犠牲となったザフト兵たちの意味は…!
自分たちの努力を全くの無と見るどころか、
戦争すら起こしかねない様子すら見せる地球側の姿勢に、マユは理不尽さを覚えていた。
そして、かつての祖国が大西洋連邦の陣営に加わる可能性もあるということを知ったことで、
少女の胸中に、怒りとも憎しみともつかない激情が生まれつつあった。
「皆の気持ちも分かるが……あの事件を引き起こしたのはザフトの兵器だというのは確かなことだ。
あれが移民船を攻撃している映像を見た人間が、真っ先にザフトの関与性を疑うのはしょうがないことさ」
茶葉を匙で測り入れたポットに湯を注ぎながら、そう呟いたアーサーの声には、悲しみの色が混じっていた。
クルーたちの不満をなだめようとしている彼もまた、現実に対して不条理さを感じているのだろう。
…その言葉に対して、何かを言おうとする者はいなかった。
しょげたように俯く者、憤慨したようにふくれっ面を見せる者、さほど変化のない表情のままアーサーを見つめている者。
彼らの顔を見渡したアーサーは、困り顔でうーんと小さく唸った。
「――まあ、さっきはああ言ったけど、今すぐオーブが敵に回る可能性は低いと思う。
アスハ代表はミネルバから、事の一部始終をご覧になっていたわけだし。
その上で、他国の軍に所属する私たちに対して、これだけ厚い対応をして下さったんだ。 なんとかなるさ。
上陸許可もそのうち下りるだろう。 大丈夫だよ、マユ君」
「えっ…?」
突然名前を呼ばれ、顔を上げたマユ。 男は彼女へと、安心させようと思ってか穏やかな笑顔を向けていた。
「久しぶりの故郷なんだろう? 上陸許可が下りたらすぐ伝えるから、存分に見て回ってくるといい。
地球に降りるなんて、滅多にない機会なんだから楽しまないとね」
少女の複雑な心境を知らないアーサーはそう言い残すと、湯気と芳香の立つティーポットを携え、レクルームを出ていった。
そして、部屋に残された少年少女たち。
ホーク姉妹は身を乗り出して顔を見合わし、今後どうなるのだろうかと小声で囁き交わしている。
アゼルは落ち込んだように俯いているし、レイはしばらくしてから本を片付け、部屋を出て行く。
その中でマユは、多くの感情が行き交い混線する心を抱えたまま、ぎゅうと固く胸元を握り締めていた。
一日の執務を終え、行政府を出たカガリはその足でとある人物の邸宅へと向かう。
広い造りの公用車の中にいる人間は、運転手一人と彼女だけだ。
本来なら、護衛のアスランが同行するのだが、先にアスハの屋敷に帰らせたのだ。
ついて来なくていい、と言われた瞬間の彼はひどく困惑した様子で、
何か言いたげな顔をしていたのが気になったが、今の自分の姿を彼に見せたくはなかったので、連れてこなかった。
なにせ、これから自分は盛大に弱音を吐きにいくようなものなのだから。
車を走らせること三十分ほどで、彼女は目的の場所に到着した。
本島の中心部に近い、政府高官が多く住まいを構える閑静な住宅街に存在する邸宅。
屋敷の玄関に車を寄せて降り立ったカガリは、出迎えに出て来ていた老執事に案内され、中へと通される。
近辺に存在する建物の中でも、大きい部類に入る屋敷の中を、奥へ奥へと進んでいき……
辿り着いた、両開きの扉をノックしながら執事が中へと言葉をかける。旦那様、カガリお嬢様がいらっしゃいました、と。
入ってくれ、という男の声が返ってきたのを確認した執事の手によって開かれる扉。
娘は扉をくぐり、部屋に入ると部屋の住人へと恭しく頭を下げた。
「お久しぶりです、叔父様」
「ああ、久しぶりだなカガリ。 可愛い姪が会いに来てくれて嬉しいよ」
部屋の奥、窓際に置かれたベッドの上で、上半身だけを起こしてこちらを見る男は機嫌良さそうに笑う。
あまり健康的には見えない、頬こけた細身の中年男性。
――彼の名はホムラ。 かつて、兄であるウズミの後を継ぎ、オーブ代表を務めたことのある男だった。
「お加減の方はどうですか?」
「今日は体調のいい方だ。 医者からも、少しずつ快方に向かっていると聞いている」
「そうですか、それを聞いて安心しました。 ……すみません、ろくに見舞いにも伺えずに」
「いや、気に病むことはない。 お前も執務で多忙な毎日だろうからな。
……今回も、随分大変な目にあったと伝え聞いている」
ベッドサイドに置かれた椅子に座るカガリの話しかけに、ホムラは穏やかな表情を浮かべながら答える。
しかし、窓から注がれる陽光の下でも芳しくない顔色のせいか、具合悪そうに見える叔父のことを、娘は案じていた。
彼、ホムラが病床に伏すようになってからもう1年以上経つだろうか。
ヘリオポリス襲撃事件の責任をとって退任した兄に代わり、オーブ連合首長国代表として立った彼は
マスドライバー『カグヤ』と共に散ったウズミら五大首長の穴埋めをすべく、一所懸命に行政を支えてきた。
オーブ解放戦後の混迷した状況を改善しようと奔走し、保護という名の占領を行う大西洋連邦との折衝を繰り返す。
…そんな彼が、休む暇もない日々の中、身体疲労と心労から倒れたのはユニウス条約会議が行われる直前だった。
病床に伏したホムラに代わり、前代表の娘であるカガリが急遽オーブ代表として会議に赴き、条約に調印したのだが
過酷な毎日を送り続けてきたホムラの身体は病魔に蝕まれ、公務を行えるような体調ではなかった。
これを機にホムラは、正式にオーブ連合首長国代表の座をカガリに譲り渡し、自らは政治界を退いた。
そして今は、自宅で静かに療養する日々を送っている。
「叔父様、今日お訪ねしたのは……実は相談したいことがあって…」
「相談とな? …ふむ、話してみなさい。私が答えられることならば何でも答えよう」
改まった表情で話を切り出す彼女へと、ホムラは快く頷き、話すように促した。
煌々と輝く天日の真下。 鮮やかな青色を見せる空と海。
思わず駆け出したくなるような、真白の砂浜が弓なりの道のように続く果てには、波打ち寄せる岩場が見える。
能天気なまでに平和なその風景の中に、彼女と彼はいた。
それぞれの愛機、インパルスと白いザクファントムに乗って。
大きく距離をとって、睨み合うように対峙する二体の巨像は、不似合いな周囲の風景も相成って非現実的だった。
――実際それは、現実世界での出来事ではなかった。
ファンと鳴り響いた、始まりを告げる電子音と共に、先手必勝とばかりに疾走するインパルス。
赤を基調としたカラーリングの機体は、二本に分離させた大剣を両手に握り締めながら、ザクへと駆け寄る。
極小の粒からなる真白の浜砂が、一歩踏み込むごとに土煙よろしく盛大に舞い上がる。
対して、ザクファントムは戦闘開始から左肩のシールドを前面に押し出す体勢のまま、武器を取る様子がなかったが
距離を半分近く詰められたタイミングで、腰部にマウントされた円筒状の物体に手をかける。
相手が手にした物体、ハンドグレネードの存在にすぐさま気付いたインパルスだったが、
速度を緩めることなく、更にザクとの距離を縮めていく。
相手が使用しようとしている武器は手榴弾。
ならば攻撃を仕掛けてくる際に、投擲という省略不可能な過程があることは必然。
その動きを見せてからでも回避行動は可能だという予測と、絶対に当たらないという自信を根拠に、相手へ向けて突撃する。
ザクが動く。 予測通り、投手のように右腕を大きく振り上げて。
相手の挙動の兆しを捉えたインパルスは即座に身を捻り、着地地点を大きく左側へと変更し、進行方向を変えた。
ザクの手を離れ、放物線を描いて落下していく榴弾の落下予測ポイントから軌道を逸らしながら、なおもひた走る。
これだけ距離を置けば、爆発したとしても戦闘続行に支障をきたすほどの損傷は受けないだろう。
相手の第一撃を回避できたと判断したインパルスは、至近に迫りつつあった白いザクへと向けて獲物を振りかざし…
――刹那、視界が白濁した。
「ちょ、これっ……違う、スモーク!?」
砂混じりの白煙によって完全に支配されたメインモニターを前に、マユは驚愕の声を上げていた。
ザクの装備するハンドグレネードは、炸裂弾以外にも多種のバリエーションが存在している。
その事実を今になって思い出した少女は、思い込みで動いてしまった判断の迂闊さに対して、悔しがる。
スモークグレネードによる白煙は相当濃く、サブを含めた全てのカメラはまともに機能を果たしていない。
慌ててレーダー画面に視線を移すものも、こちらもノイズに揺れる不鮮明な光点と、エラーメッセージが点灯している。
……このアクシデントが、巻き上げられた大量の砂塵によって引き起こされたものだということに、彼女はまだ気付いていない。
焦りの呻きを漏らしていたマユの耳に、ごうと空気の焼け焦げる音が伝わる。
ブースターだ。 気付いた彼女は視点を上へと向ける。
その目に、バックジャンプの要領で奥の岩瀬の方へと飛ぶザクの姿が映る。
「っ…このぉっ!!」
逃げるような素振りを見せるザクを、激昂の叫び上げながら追いかける。
相手と同様に跳躍して追おうかとも考えたが
『ソード』のブースターで届くかどうか、心もとない距離まで逃げられたことに気付き、少女は歯噛みしながらそれを諦める。
あとは――多少海に入ってでも、岩瀬へと接近するぐらいしか手立てがない!
即座に判断したマユは、砂浜から進路を変え、海へと踏み入っていった。
『――マユ。 水泳の経験はあるか?』
不意にコックピット内に飛び込んできた、男の声。 それは対戦相手であるザクからの。
「島国育ちなんだから当然でしょ! それがどうかしたの?!」
冷凍庫に入れられた鉄塊のように涼やかな、硬質さを漂わせる声に相反して
苛立っているらしきマユの返答は烈火の如く、怒りを隠そうともしないものだった。
『そうか…なら分かるだろう。 水中から飛び上がることが、どれだけ困難なことか』
マユが彼の言葉にハッとした、その時。
ザクが構えるビーム突撃銃の銃口に、閃光が輝く瞬間を目にすることとなる。
「うーっ、やられたぁ…」
ガクリと力なくうな垂れながら、戦闘続行不可能のメッセージを表示するモニターの前で、マユは呻く。
…ロックオンに気付いた彼女は、すぐさまその場を離れるべくバックジャンプを試みたのだが
ザクを追うことに集中するあまり、機体の腰部を超えるほど海に浸かっていることに気付かなかったのだ。
結果、海面から飛び上がるに十分な推力を得ることが出来ず、ビームの直撃を喰らう結果となってしまった。
負けた、という憂鬱な思いと共に、彼女の胸中で何故、という言葉が浮かぶ。
それは敗因に対してではなく、シミュレート訓練をしている理由についてだ。
…副長との会話からしばらく経った後のこと。
レクルームをあとにし、自室でぼーっとしていたマユの元に突然、レイが訪れる。
曰く、暇ならばシミュレートに付き合ってくれ、と。
その時の彼女には、特に断る理由も見当たらなかったので、その申し出を受けたのだが…。
「――ねえ、レイ兄ちゃん。なんでいきなり訓練しようなんて思ったの?
それも、いつも使ってるシミュレーターじゃないし…」
マユは胸中の疑問をザクファントムのパイロット、レイへと投げかける。
今は休息中で、訓練規定をこなす義務もなければ、対戦相手が必要というわけでもない。 一人でも出来ることだ。
そして、他にもパイロットはいるというのにわざわざ自室を訪れてまで、自分を誘い出した理由も分からない。
更に言えば――今自分たちが使用しているシミュレーターは、普段使わないような特殊なものだった。
それは、自然現象を限りなく現実に近い形に再現された、地上戦闘用のシミュレーター。
プラントで生まれ育ったため、地球の環境を一切体感したことない若い世代の兵士たち向けに開発されたものだ。
前大戦中、慣れない環境での戦闘に苦しむ新兵は相当多かったらしい。 士官学校でそう教わったな、とマユは思い出す。
先ほど戦闘中、砂塵によってレーダーに不具合が出たのも、海中での身動きが困難だったのも
プログラムで再現された、現実の戦闘で起こりうるアクシデントだった。
『非番とはいえ、パイロットは日頃から自己鍛錬をするべきだ。 ましてや、先行きの見えない情勢だからな。
地上戦闘用のシミュレーターを用いたのは、万が一の可能性を考えてのことだ。
いつ宇宙に戻れるのか――いや、もしかするとミネルバが、地上での作戦行動に組み込まれることもありえるからな』
……淡々と無感情に、つらつらと滑らかに並べ立てられるレイの語りは、まるで説教でもされているような錯覚がする。
そう思いつつ、マユはしかめ面のまま彼の言葉に適当な相槌を入れていた。
『…まあ、これらはどれも後付けの理由にしか過ぎないがな。
本当の目的はマユ、お前と話がしたかったからだ』
え、と思わず素っ頓狂な声を上げたマユ。 自分に何の用があるのだろうか、まるで心当たりがなかったから。
困惑を覚えながら問おうとするも、それより先にレイが口を開く。
『最近、随分と情緒不安定になってるようだが、何かあったのか?』
「べ、別に何もないよ」
『そんなはずはない。 先ほどの戦闘を見ていれば分かる。
激情に駆られるままに突撃し、闇雲に武器を振り回していただけだ、あれでは。
…お前は、思考の柔軟さと状況判断能力を買われて、インパルスのパイロットに推されたのだろう?』
やっぱり説教になった。 彼の言葉に押される形で黙り込みながら、マユはしゅんとうなだれる。
……しかし、レイの言うことはもっともだった。
さっきの戦闘を振り返ってみれば、自分でも穴に隠れたくなるぐらい恥ずかしい、不様な内容だったから。
そも、最初の判断からして間違っていたのだ。
幾つもの地形が組み合わさった複雑な、ましてや海の存在するフィールドなら
近接戦重視の『ソード』より、汎用性が高く飛行可能な『フォース』を選択した方が、状況に柔軟に対応出来たはずだ。
普段ならこんな判断ミスはしないはずだ、と。 今になって悔しさがこみ上げてくる。
…戦闘中にレイへと向けたそれと違い、自身の愚かさを呪う感情を抱きながら、マユはきゅうと唇を噛み締めていた。
「ごめん、あたし……なんか自分でもよく分からなくなってる。
なんであんな…イライラしてたんだろう」
『別に謝るような事じゃない。シミュレート訓練中のミスに過ぎないからな。
これが実戦だったら支障をきたしただろうが、幸いお前は誰にも迷惑をかけていない』
「うん…」
『しかし、自分のメンタル管理については十分留意しておくことだ。 いいな?』
「……はい」
射撃訓練と寸分変わらぬ技量で、的確に問題を穿つレイの言葉。
それを聞きながらマユは、更に落ち込んだ気分でがっくりと肩を落とし、俯いていた。
『――どうしたマユ。 気分でも優れないか』
「いや、そういうのじゃなくって…自分の駄目さ加減に嫌気が差してきたというか……」
力ない返事を後に黙り込んでしまったからか、問いかけてきたレイ。
暗く小さなぼそぼそ声で紡がれるマユの言葉に、しばし沈黙していたが
『…………すまない、どうも俺のコミュニケーション能力では、ルナマリアたちのように上手くいかないようだ』
「へ??」
唐突に放たれた言葉に、マユは驚いた様子で顔を上げて、モニターに映し出される会話相手の顔を見る。
いつも人形のように、感情を表に出さない彼の顔、その眉根に微かな皺が刻まれていた。
怒っているようにも困っているようにも見える、マユはそんな彼の顔をぽかんとしたまま眺める。
『皆、気にしていた。 ここの所、お前の様子がおかしいことを。
理由を聞こうともしていたようだが、あまり話したくないようだったから、躊躇していたと話していた』
「あ……」
『オーブに来たことが関係しているのではないか、と考えているようだったがな。
しかし、お前は過去に関する話題を振ると落ち込むことが多いから、余計に聞き辛かったとのことだった』
彼の語る内容に、マユは呆然としていた。
――レイは自分のことを案じていたのだ。 彼だけでなく、この場にいない友達らも。
胸中に渦巻く不安に振り回されるばかりだったマユは、そんな彼らの思いに今初めて、気付く。
嬉しいような、くすぐったいような感情がぬくもりを伴い、少女の胸に満ちていった。
『俺も無理に聞くようなことはしない。
しかし、精神面に重大な問題が生じ、なおかつ語ることに支障がない場合は相談相手になろう。
俺に話しにくければ、同性のルナマリアたちでもいいだろう。 コミュニケーション能力も申し分ないからな。
自分のメンタルケアのためだ。 誰に依頼しようが、さして問題ない。
他人に迷惑をかけてしまうと考えて、萎縮しないように』
必要以上に堅い言い回しのそれは――つまり、自分たちを頼れ、と言わんとしているもので。
難しそうに眉目をしかめながら、不器用に伝えてくるレイの姿が可笑しくて、マユは思わず吹き出してしまった。
画面の向こうの彼はといえば、何故彼女が笑ったのかが全く理解出来ないらしく、不思議そうに目を瞬かせていた。
そんなレイへと、めいっぱいの笑顔を向けながらマユは言う。
「ありがとう、レイ兄ちゃん」
ただ一言に万感を、心の中を暖かく満たしてくれた喜びと感謝を詰め込んで。
『元気になったのなら、それでいい』
笑顔を見せるマユの姿に安心したからか、レイはそう言いながら表情を和らげる。
緩むように和らげられた眉目と、極僅かに下弦の弧を描いた口元。 それは彼なりの笑顔だった。
――いつの間にか、室内に差し込む光は随分と傾いていた。
叔父の横たわるベッドに掛けられた真っ白いリネンが、橙の色彩を帯び始めているのを見て、
カガリは初めて、自分が一時間以上話し続けていたことに気付いた。
「すみません、叔父様。 安静にして頂かなければいけないのに、長々と話してしまって…」
「そんなに心配するなカガリ。 今日は調子が良い方だと言っただろう」
「しかし……それでも、少しでも休んで頂いて、早く元気になって頂かなければならないのに…」
「気にすることはない。 こんなのは放っておけばそのうち治るからな。
それよりも私にとっては、後継者のお前と話をすることの方が遥かに重要さ」
病魔に蝕まれながらもなお、その瞳に知性の輝きを失うことないカガリの叔父、ホムラはそう言った。
病床の上で弱々しい笑顔を見せる彼を前に、カガリは更に恐縮する。
…口ではそう言っているが、話を聞いてもらっただけだとしてもこの長時間だ。
顔色も一層悪くなっているように見える。 恐らく、相当体力を消耗しているのだろう。
彼女は後悔すら覚えていた。 己の迷いを解消するためだけに、療養中の叔父に無理をさせたことに。
膝の上に揃えて置いた手でスラックスの布地をぎゅうと握り締め、俯くカガリ。
苦悩する姪子の姿を見ながら、ホムラは溜息のように微かな苦笑を漏らし、そっと言葉をかける。
「――お前の迷いはもっともなことだ。
武装中立の政策はオーブ誕生の時から続くもの…そして、我らアスハ家が掲げた理念だからな。
お前も兄上から伝え聞いているだろう。 オーブの辿ってきた混迷の歴史、その中でアスハ家が導き出した答えを」
「はい、『再構築戦争』の頃の話は教わっています。
民族や宗教の違いから生じた軋轢、地球環境の悪化や地中資源の枯渇による世界規模の大恐慌…
これらの問題から始まった戦争だと教えられています」
「その通りだ。
そしてその名が示すように、敗者は強者に取り込まれ…
かつて200あまり存在した国家は統廃合され、結果として11の国家として再編されることになる」
ホムラの問いを受けて、思考するように僅かな間瞳を伏せた少女は、脳内で短く纏めた内容を口にする。
おおむね的確に簡略化されたそれを聞き、男は満足げに頷きながら言葉を続ける。
「その戦いで、我が国は領土から遠く離れた異国の地で、多国間同士の戦争に介入した。
遥か昔から友好関係にあった東アジアの島国、ジャパンのな」
彼が口にしたのは――ニッポンとも呼ばれる国家の名称。
前世紀の一時期、オーブの原型となる島々、ソロモン諸島を統治し、
時代遅れだった島に、病院、道路といったインフラを整備、島民に対し教育の場を設けるなど、善良な治政を敷いていた。
後にその主従関係は崩れることになるが、それからも島には彼の国がもたらした文化や
島民の彼の国に対する親愛とも尊敬とも呼べる感情は消えることなく、友好関係は永らく続くこととなる。
その影響は暦の変わった今でも根強く残っていて、公用語や国民の名前、血筋といった形で受け継がれていた。
「彼の国は隣接する二つの強大な国家…今で言うユーラシア連邦と東アジア共和国に攻め入られていた。
国力、戦力ともにその差は明白。 戦況はまたたく間に、悪い方向へと傾いていった。
そんな友好国が未曾有の危機に、我が国は支援のために派兵したのだ。
しかしそれも甲斐なく……結果はお前も知るところだろう」
「はい……ジャパンは全面降伏し、北側をユーラシア連邦に、以南全てを東アジア共和国に併合されました」
「そして、朋友を救えなかった我々は多くの戦力を費やした上に、多大な賠償金を両国へと支払わなければならなかった。
国土を焼くような事態にこそ至らなかったが、オーブは深刻な被害を被った。
これが、国民の間に反戦の意識を広めるきっかけとなった、最初の出来事だな」
ゆったりとしたテンポで語り続けていたホムラは、そこで一旦言葉を区切ると
寝具の掛けられた膝の上で両手を組み、瞑目した。 思い巡らすように、あるいは黙祷するように。
「戦乱の中にあっても、領地を侵害されることなく独立を貫けた我が国であったが、
彼の戦争に参戦したことで、払わされたツケは大きすぎた。 それこそ、国家の基板を揺るがすほどな。
海軍の戦力は四割方失われ、国庫の蓄えの多くは賠償金として持っていかれた。
全く、ことごとく散々な結果だ。 友を救うことは叶わず、そのうえ窮地の極限に追いやられたのだからな」
ホムラが語ったように、再構築戦争直後のオーブは未曾有の危機に陥っていた。
諸島で構成される国土、その防衛の要である海軍の損失は真っ先に解決しなければならない問題だったが
ユーラシア連邦と東アジア共和国に対して賠償金を支払ったために、それもままならないほど悪化した経済状況。
その上降りかかってきたのは、再構築戦争勃発に至る要因の一つだった、エネルギー問題。
小さな島々で構成される国家であるオーブは、石油や天然ガスといった地中資源の産出が乏しかった。
電力供給については、他国からエネルギー資源を購入して発電していたのだが
地中資源の枯渇が進み、価格高騰していくエネルギー資源。 それに比例して悪化していく発電コスト。
国庫の状況から、ライフラインの維持すらあと何年続けられるだろうかと危ぶまれるほどだった。
しかし、その暗澹とした状況のオーブに、一筋の光明が差し込む。
以前から研究が続けられていた発電方法――火山島の多い地形特性を活かした地熱発電。
その研究から、以来よりも格段に効率良いエネルギー生産を実現させた、画期的な発電システムが誕生した。
自然現象を利用した、低コストで安定したエネルギー源を確保したことにより
現在、国の主産業となっている重工業及び宇宙産業の大発展が決定付けられたとも言われている。
窮地に追い込まれたオーブの復活劇。 その発端となった出来事と共に、一つの氏族が頭角を現し始める。
――その一族こそが、彼らアスハ首長家だった。
「我が一族は、早い段階から地熱発電の必要性に気付き、研究プロジェクトを推進してきた。
遠かれ近かれ、世界中の地中資源が枯渇する時は必ず来る。
それまでに、資源に頼らないエネルギー生産方法を開発する必要がある、としてな。
――私財をつぎ込んでまで推し進めたプロジェクトは、ギリギリのタイミングながらも国家を救った。
それが、五大氏族の末席だったアスハを頂点へと押し上げた…いわば栄光の始まりだ」
前世紀の頃、アスハ家は五大氏族に列されながらも、その存在は今に比べると地味なものだった。
軍事を取り仕切るロンド家ほどの華々しさもなく、政治の一端を担うだけの…首長の中でも下位に属する氏族だった。
しかし、パトロンになり積極的に推進してきた地熱発電システムの完成を機に、アスハ家の名声は一気に高まる。
戦争の痛手で傾きつつあった国家を立て直した英雄と、国民から広く讃えられる立場になる。
「その後、国民投票による国家代表選出選挙においてアスハ家は多数の支持を受け、オーブ代表の座に着いた。
今まで一度も、代表に選ばれることのなかった氏族にも関わらずな。つまりはそれだけ大きな快挙だったというわけだ。
そうして、新しきオーブ代表になったアスハの家長――お前から見れば曽祖父にあたるな。
彼は国民に対して、先の戦争で受けた被害の愚かしさを訴え、新たなオーブの歩み方を提案した」
「他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない…中立国家宣言ですね」
「その通り。 爺様は他国同士の争いに加わった戦争を目の当たりにして、その無謀さと無益さを痛感した。
友好国の危機を捨て置けないからといって、勝算ゼロに等しい不利な争いに首を突っ込むなんて、愚かしいとな。
爺様の訴えかけに、世論のほとんどが賛同を示した。
…国民も疲れていたのだよ。無駄な争いに振り回され、自分たち自身の生活の安全をおびやかされる事に。
爺様の行った宣言は多くの国民によって支持され、アスハの名声は鉄板のものとなった。
そして、アスハの栄光の象徴とも呼べる思想……中立政策を継いでいくのが、アスハの家長の責務となったのだ」
長く語り続けたホムラはふ、と小さく息を付き、話を区切った。
話し続けて疲れたのだろうか。 痩せた肩を落し、俯きながら。
…二人きりの部屋に、沈黙の気配が澱のように降り落ち、満たしていく。
「それはつまり……私のやっていることは、アスハとして相応しくない、ということですか」
己の膝ごと握りつぶさんばかりに衣服を強く掴みながら、カガリは呻いた。
腹の底から搾り出したような、低く掠れた声で。
小麦色の肌に青筋が浮き出るほど、力篭められた拳の上に、はたりはたりと水滴が零れ落つ。
落胆したように、絶望したように背中を丸め、肩を落とし。 娘は涙ながらに呻いた。
「……そうだ、と言えばすんなり取り下げるような決意なのか?
なら、さっさと諦めて、全てセイランの言うとおりにすればいい」
「――っ!!?」
静かな、だが厳しさを孕んだ叔父の声に、冷水を浴びせかけられたかのように驚き顔上げるカガリ。
しかし、彼の顔はその言葉と裏腹に、楽しそうな微笑を浮かべていた。
「ほら、分かっただろう。 お前の本当の心が。
宰相に咎められようが、家訓に背こうが、真剣に考え抜いた末に導き出した道なら、捨てられんはずさ。
第一、この程度のしがらみで撤回しようと考えるぐらいの決意では、誰も付き従って来んぞ?」
「お、叔父様っ……」
「たかが一つの氏族の思想が、何だっていうんだ。
お前はアスハの家長である以上に、大勢の国民と母国の命運を背負う、国家代表だろう?」
瞳濡らす娘へと笑いかけながら、彼は言う。 今までと一転して、くだけた口調で。
「…確かに、自分の国の平和を守るだけなら、我関せずの姿勢を貫くなり、強者に尻尾を振っておけばいいだろうさ。
しかし、世界情勢を無視し続けることは無意味だってことは、二年前に答えが出てるし
国土を滅茶苦茶にしてくれた大西洋連邦の言いなりになって、他国との戦いにかり出されるのも癪に障る。
お前の考えた案がリスクを伴うのは確かだが、そんなことはどの案でも一緒だ。
絶対に安全が保証された選択肢なんて都合の良いもの、ありえるはずがないからな」
「…私もそう思います。
条約に加盟したことで、大西洋連邦らを敵に回すことはなくなるでしょうが、
そのために、連邦にかり出された我らの軍は戦場を渡り歩かねばならないでしょう。
例え不利な戦局の場所に派遣されても、連邦の命令無しには撤退することも叶わず、駒として良いように扱われ…」
「分かってるじゃないか。 確かにありうることだな。
自分の指示で動かせるのをいいことに、脅威となりかねない国の軍をこき使い、疲弊させることなんてな。
今回の騒動が治まるまでは良くても、コトが済めばこちらに矛先が向けられる…
とことん疑ってしまえば、そんな最悪の予想すら思い浮かぶ。 それだけ、大西洋連邦は狡猾な輩なんだ。
同じ危険性を孕む――それなら国家の誇りを失わない方を選ぶというのも、悪くない選択だと思うぞ」
不敵な調子で語りながら、彼は血色の悪い唇を釣り上げてニヤリと笑み作った。
「――同じ志を共にする国家と手を携えあい、新たな勢力を創る。 潔い道じゃあないか」
ふふ、と気分良さそうな笑い声を立てながら、ホムラはベッドボードに背を預ける。
「おそらく…いやきっと、お前の考えを支持する首長はいるはずだ。
だから、少しでも味方を増やすつもりで、一人一人を説得しに回ってこい。
お前が不安や迷いをさらけ出すようなことをしなければ、今より多くの人間が賛同してくれるはずだ。
しかし、決して一人よがりにならないように。 周囲の人間に眼差しを向け、耳を傾け、気を配れ。
例え不安を覚えたとしても、周囲に伝えないように…己の決定にしっかりと覚悟を持って、挑むんだ」
「はい、叔父様。 ご忠告、しかと胸に刻みます」
「悪いが、今の私に出来るのはこんなアドバイスぐらいだ。
出来ることなら隣に付いてやって、もっとたくさんの事を教え込みたいのだが…これだけ話しただけで、もうクタクタだ」
「いえ、十分すぎるほど教えて頂きました。 本当に、ありがとうございました。
…けれど、私はバカな人間なので、またすぐに行き詰まって、教えを乞いに来るでしょう。
だから叔父様、早く御身体の調子が良くなるよう、どうかご自愛して下さい。 頼りない姪子のためだと思って」
明るさと活気を取り戻した声でそう言いながら、カガリは微笑んだ。
たった今、窓から差し込む斜陽の色と良く似た橙色の瞳はまだ潤んでいるものも、固い意志の光が戻りつつある。
丸めていた背中もしゃんと伸ばし、真っ直ぐこちらへと向き合ってくる姪の姿。
ホムラはそんな彼女を、眩しいものでも見るかのように細めた目で見つめていた。
「ああ、ゆっくり養生しておくよ。 …さあカガリ、もう行きなさい。
時間には限りが有る。 次の会議までに、一人でも多くの首長を説き伏せなければならんだろう?」
「はい、行ってきます! それでは叔父様、ごきげんよう」
男に促され、席を立ったカガリは彼へと向かい、深く敬礼する。
しばらく、頭を下げ続けた後。 顔を上げ、踵を返えせば、彼女はもう振り返ることなく。
颯爽とした足取りで扉の方へと向かい、ホムラの寝室を退出していった。
パタン、と扉が閉まる音を聞き届けて。 部屋に一人きり残された男は、力の抜けた身体をベッドの中に沈めた。
頬のこけた顔に、疲労を色濃く見せながらも彼は笑っていた。 弱々しくとも、満足げな表情で。
「血の繋がりが無いというのに、どうしてあなたたちはこうもソックリなんだろうなあ。
――でも、あの子なら大丈夫だ。 あなたの願いを、あなたが出来なかった事をきっとやり遂げるさ……なあ、兄上」
……時同じくして斜陽の頃。 オーブ本島、ヤラファスにある国際空港に、一機のチャーター機が降り立つ。
渡されたタラップから姿を現したのは、ブラックスーツにサングラス姿の、まだ若い青年。
まるで個性を押し隠すように黒を纏う彼は、後ろに数人の男を従えて、タラップを降りていく。
飛行機から降り立った彼らへと、建物から空港職員たちが駆け寄ってきて、入国手続きを始める。
しかし、その内容は簡易的なもので、差し出されたパスポートにさっと目を通しただけで終わる。
手荷物の検査すらなく、入国許可をもらった彼らは空港のロビー方面へと歩みを進めていく。
「――ねえ、まだこの格好してなきゃダメなんだ?」
男たちに周りを固められて歩く、スーツ姿の青年はネクタイを緩めながら、言う。
「出来れば、もう少しご辛抱下さい。閣下」
「趣味じゃないんだよね、スーツとか」
あくまで促す程度に、控えめに願う男の言葉に首を振りながら、
青年は整髪料で後ろへ流されていた前髪をかき回し、本来あるべき場所へと戻す。
「仕方ありません、状況が状況ですから…。 これが一番安全かつ、行動を制限される可能性が低いのです」
「…確かにそうだろうけどさ」
やんわりと諭され、一応納得したように呟いているが青年は変装を解く手を止めようとしない。
大ぶりのサングラスを外せば、その下から現れる涼しげな印象を見せる紫の眼差し。
流石に服を脱ぐまでには至らなかったが、早々に変装を解いていく勝手気ままな青年。
そんな彼を横目に見ながら、小さく溜息をついた男は、苦悩の種である自分の上司へと声をかける。
「閣下、先ほど入りました報告ですが…昨日、オノゴロの軍港にザフト軍籍の艦艇が一隻、入港したと」
「この情勢下で? もしかしたら世界中から非難されるかもしれないというのに、随分と情の厚いことだ」
「ところが…彼の艦にはオーブ代表が乗艦していて、そのため停泊許可が下りた模様です。
先の、セレネ移民船団襲撃事件に置いて武装集団の討伐作戦に参加し、そのまま地球に降下してきたとの事でしたが…」
「――その船、ミネルバって名前だよね?」
ひたり。 突然歩みを止めた青年が口にした名称に、左様ですと男は頷く。
ああ、と青年は肩を下げ、大げさに落胆の溜息を一つつく。
「もっと大勢、部下を連れて来れば良かったなあ。 これじゃあ満足に遊べもしないよ」
まるで子どもか動物と戯れることを楽しみにしてたかのように、軽々しく言った青年。
周囲に控える人々は言葉を失い、彼へと驚愕や疑念の入り混じる眼差しを向けていた。
オーブ編、色々と考え込んでいたら一ヶ月以上経ってしまいました舞踏の人です(´Д`;)ヾ
ここの話は書きたい内容が多いので、原作よりも冗長なものになってしまいそうです…
戦闘もまだ後だし、これじゃガンダムらしくなくなる! と急遽入れましたシミュレーター訓練。
これについちゃ少々やりすぎかしらん…とも思いましたが
無印種で、初めて地上戦をした時のイザークたちの狼狽振りを思い出し、こんなのもアリかなと書いてみました。
アーサーについては、名前からしてイギリス系に違いないと確信し、紅茶の人にしました。
原作よりはちょっとボケが強くなってるかも。そして部下や年下に対してもオドオドしてますw
更に今回初登場しましたホムラ叔父様。
種運命時代にどうなってたのか、一言も書かれてなかったので病に倒れたということにしました。
更に口調や性格とかも、既存の情報量が少なかったので捏造しました(ぉ
オーブの歴史云々については、非常に悩みましたがこのようにしました。
日本を絡ませたりするのはちょっと危険かな…とも思いましたがあえて地雷原に足を踏み入れて。
ちなみに、オーブはソロモン諸島らしいので、関係の始まりについてはパラオの話を参考にしました。
非常にデリケートな問題なので、資料とにらみ合いながら、おそるおそる書いてました…。
その反動か、最後のシーンは気楽に書けて楽しかったですw
次回も、戦闘のない話になる予定ですがご容赦を…。 乱文失礼いたしました。
>>舞踏の人
凄い、の一言。まさかオーブの日本風文化にまで辻褄を合わせるとは。感服しました。
キャラ描写が事細かで、話に引きずりこまれる感じです。
後、とにかくアーサーが良い人そうで素敵だ!アーサーの今後に期待。
>>181様
感想ありがとうございます^^ 舞踏の人です。
オーブの文化の由来については、おおよそ公式設定通りだったりします。
Wikipediaにも記載された内容で、公式サイトのDESTINY−I.Qに掲載されていた裏話を参照にしております。
こちらのオリジナル部分については、中立国家となるに至る経緯あたりでしょうか。
…考えてみれば、オーブが中立を訴えるシーンは多くあれど、その思想の根源みたいなものについては全く触れられてないんですよね…。
彼の国を深く語るにおいて、絶対必要な内容だろうと思い、オリジナルででっち上げてみましたw
感想、とても励みになりました。 頑張って続きを書きます!
>>文化の由来
知らなかった奴がもう一匹
「えっとー、ここが私の部屋でー・・こっちがレイ兄ちゃんの部屋。
で、あとはギルパパ関係で客室が二つしかないんだよね。」
「「「「なんだそれ!!」」」」
マユの雑な説明に突込みが入る。
「だって三人だけだよ?!めったにお客も泊まりに来ないし
メイドさん達も時々掃除とかに来るだけで後はほとんど自分達でやってるんだよ?!」
「メイドの必要ねぇじゃねぇか!!業者に掃除は頼めよ!!」
「スティング!!ギルの趣味だからしょうがないんだ!!」
「じゃあ残りの部屋はどうなってるの・・・・?」
つっこみの合間をぬってステラが質問をしてくる。
「えー・・、まずこの部屋が・・・・・。」
マユが手ごろな扉を開ける。
「ギルパパの書斎。」
なかなかシックな作りの書斎がでてくる。
「ちなみにあさるとギルが忘れてるへそくりとか出てくるぞ。」
レイが補足して一同は書斎を出る、そして、向かいの部屋。
『ここはあんまり開けたくないんだよなぁ・・・。』
シンハロが扉を開ける。
>>182 まあ事実はどうかというと、オーブの中立思想はウズミがポッと言い出しただけの極めて底の浅いものだったりする
扉の裏側や壁、天井、床全てに大量のお札やら護符やら西洋東洋問わずの魔よけの紋様。
そして怪しげなトーテムポールやらアクセサリーやら古めかしい本や巻物やら何処かの部族の仮面やら。
禍々しい紋様のナイフ、ひのきの棒、青い瓶に入った清涼飲料、内面に謎の文字の刻まれた指輪、
赤、白、黒、青の宝石のついた四つのタリスマン、ゴルフボールのような銀水晶、薔薇の紋様の入った鞄。
五芒星の模様を刻んだ灰白色の石、蓋の開いた金属製の箱に入れられている不ぞろいな多面体の宝石など。
アキラが見たら目を輝かせそうな怪しい物体の数々。
「ギルの趣味なんだ・・・・、怪しいいわくつきの物体を集めるのが・・・。」
『某覇道の魔道研究所みたいだよなぁ・・・。この調子だと対邪神用の人類の最終兵器のMSがここの地下で製造されててもおかしくないよ・・・。』
その場にいた全員はおぞましい光景に身を震わせる。
不気味だ。あまりに不気味な物が多すぎる。
「ほら、早く出よ。昔メイドさんが一人この中に閉じ込められた時さぁ・・・・。」
「あぁ、大変だったな。」
マユとレイ不穏な会話をしながら一行を部屋の外に出す。
そして、しっかり施錠。
「おい、あとこんな部屋がいくつある?」
アウルがシンハロに聞く。
『えー、あと15はこの類で・・、地下にもっと酷いのが四つ。マシなのが三つ。』
「・・・・・・よく生活できるな・・・・。」
夜一人じゃトイレにいけない、とアウルは思う。
「たいしたこと無いよ、時々呻き声とかするだけだし。」
「するのか?!」
アスランの脳内のクライン邸での優しい思い出が一気に崩れていく。
「まぁそう言うことだから上官であるネオとアスランに客室に泊まってもらい、
ステラはマユの部屋。残りは俺の部屋だ、以上!!」
「「「「どう言うことでそうなるんだよ!!」」」」
ファントムペイン男子が突っ込む。
「仕方ないだろう、布団はちゃんと用意するし
俺の部屋は広くすぎて困るくらいだから問題ないぞ庶民ども。」
「うわぁ、すっげぇ嫌味ったらしい口調。」
「そもそも俺とアウルは一般的な部屋の広さが
よくわからないからその嫌味はあんまり意味無いぞ。」
ふふん、と鼻をならすレイにやはり突込みが入る。
『じゃあ一旦荷物を置いたら居間に集合しよう、今後の予定もあるし。
アスランとネオのおっさんは俺が部屋に案内するから。』
シンハロの言葉と共に一行は解散した。
188 :
憑いてる人:2006/07/16(日) 23:44:33 ID:???
時間と書く気が少し戻ったので、ちょこっと復帰(自分から離脱宣言してたくせに、ごめんなさい)。
もう約三ヶ月ぶりになるので、七話までの概要から。
先の大戦中プラントに移住、ミーア(ラクス)の付き人のお仕事をしていたマユは、アーモリーワンでの騒ぎに巻き込まれ、
ミーア、インパルス(ミーアのコンサート用MS)とともにミネルバへ。
インパルスでユニウスセブン破砕のお手伝いをするものの、戦闘に巻き込まれ、その間にミーアは他の艦に避難、
ぎりぎり艦内に戻れたマユとともに、ミネルバは地球へと降下……するも、地球からのミサイル(ユニウスセブン破砕用)に撃たれて被害を受ける。
格納庫の口が開き、三機のMSが開いた滑り込んでくる。
どの機体も損傷が目立ち、中でも緑と白二機のザクは塗装が三割ほどが剥がれている。
ジン部隊との交戦もさることながら、その後の降下時に発生した大気との摩擦による熱が機体への大きな負担となっていた。
あと少しでも帰艦が遅れていたならば、機体は分解を始めていただろう。
倒れこむようにして、二機のザクは収納される。
それに続いた最後の一機、見慣れぬ機体、インパルスは、『ように』ではなく本当に倒れこんだ。
その身を床に叩きつけ、機体整備用の機材の幾つかをスクラップに変えつつも、インパルスは動きを停止する。
待機していたヨウランたちが慌てて機体に駆け寄って、繋留器具でその場に固定する。
開放された胸のハッチは格納庫の床に遮られ、僅かに開いたその隙間からマユは外へと這い出した。
「レイ! マユちゃん! 」
機体から降りた三人にパイロット、彼等の無事を確認して、先に戻っていたルナマリアが言う。
ヘルメットをつけたままのレイが、それを大声で遮った。
「来るぞ、つかまれ!」
インパルスが倒れこんだときの何十倍もの振動が、ミネルバの艦体を揺るがせた。
「被害確認!」
艦長席に体を押さえつけ、振動を乗り切ったタリアが命じる。
「は、はい! 損傷箇所、報告急げ!」
そう言った副長、アーサーのほうは、揺れでいすから投げ出され、ブリッジの床に尻餅をついていた。
三半規管が異常を探知する。浮かしかけた腰を抑え、無意識にいすの手すりを掴む。床の傾きが大きくなっているのだ。
「艦体後部にミサイル一発被弾! 機関損傷、推力30パーセントにまで低下しました!」
メイリンの悲鳴のような報告。それが事実であることを証明するがごとく、艦の傾きはますます大きくなる。
「艦の高度は?」
「対流圏に入ります」
「降下シークエンス、フェイズ4を飛ばして5に移行。艦のバランスを保て!」
「現在、高度15000」
「補助翼展開まだか」
「フェイズ5移行、大気圏航行用の補助翼展開、開始します!」
「推力さらに低下中、エンジン持ちません!」
「あと三分でいい、持たせろ!」
報告を受け、矢継ぎ早に指示を飛ばす。その間も、ミネルバは落下を続けている。
「艦傾斜回復、現在高度8000……5000……」
「機関最大、補助翼展開急げ、総員、対ショック体勢!」
各員が手近な物に掴まり、推進器が核融合で生み出されたエネルギーを懸命に吐き出す。
地表近くの密度の濃い大気を補助翼が捉まえて浮力に変換し、落下速度を低下させる。
それでも、自重が五万トンを超えるミネルバが重力に打ち勝つには足りなかった。
艦の高度がゼロを切る。途端に、それまでをはるかに上回る規模の振動がミネルバを襲う。
今度のそれに比べれば、今までの揺れなど前座にも及ばない。
海へと突っ込んだミネルバは、内にためた浮力で直ちに浮き上がる。そのまま海面上に飛び上がり、再び落下。
何度か繰り返されたその動きが収まるまで、艦の内部はミキサーにでも掛けられたかのような混乱に襲われていた。
ようやく艦が水面上に落ち着いたときには、そのブリッジも脱水を終えた洗濯機の中よろしくもみくちゃにされていた。
前部オペレーター席にいたメイリンは後部艦長座席脇に、艦長席にいたタリアも中央のモニター前に飛ばされている。
ブリッジからの出入り口で、副長のアーサーがうめいた。
「みんな……生きてる?」
タリアの声に、各々がうめくように応える。メイリンが、オペレーター席に這うようにして戻った。
「現在位置……ええと、南半球の赤道近く、オーストラリア大陸の東です。
あ、通信、入りました。発信源は艦艇、国籍は……オーブ?」
歌姫の付き人
第八話 オーブの休日
宇宙が人類の同属同士の闘争の舞台に加わったばかりだった一時期、宇宙戦闘用の艦艇は潜水艦に喩えられていたことがある。
両者とも、その外部を深海と真空空間という人間が生存できない環境に囲まれているためだ。
僅かな損傷が即座に致命傷になり、おまけに脱出しようがないので沈んだ艦の生存者がほぼ皆無である点でも二つはよく似ていた。
もっともこれは、もう半世紀近くも昔の話である。核レーザー融合炉の実用化によるキャパシティーの増大、複合装甲の積極的な採用、
宇宙空間での長時間生命維持を可能とする救命ランチの搭載により、今では宇宙艦艇も大洋上を航行する通常の艦艇と同程度まで
沈みにくい、そして沈んだとしても助かりやすい代物へと変わっている。
だが、地球連合が極秘裏に開発した宇宙戦艦、ガーティー・ルーには、旧世代の宇宙艦艇とは別の意味で、潜水艦と大きな類似点を
持っていた。すなわちユニウス条約を無視して搭載されたミラージュコロイド散布装置、それを起動させることで得られる隠密性である。
装置を起動させつつ、ガーティー・ルーは航行する。その前方には、ジャンク屋のマークを付けたオンボロ船。
彼等からは、こちらの姿は全く見えていないはずだ。
追尾を続けるガーティー・ルー、その艦橋の入り口が開き、仮面を付けた部隊指揮官、ネオ・ノア・ロークがはいってくる。
彼はやや重たい足取りで指揮官席へと歩みを進め、そこにどっかりと腰を下ろした。
オペレーターの何人かが、同情と忍び笑いを交えた視線を彼に送る。彼等は知っている、ネオが今まで格納庫に拘束されていたことを。
ユニウスをめぐる戦闘でまたガンバレルを損失したことについて、彼が整備班からこっぴどく叱られていたことを。
この後彼は、『バレルブレーカー』というなんともありがたくないあだ名を頂戴することになる。
「大丈夫ですか」
「……状況は?」
からかうようなリーの声を無視して、ネオは言う。
「ご覧の通り、追尾中であります。相手は民間船と見られる中古船。
ユニウスでジン部隊を回収しておりましたので、今回の事件に何らかのかかわりがあることは間違いありませんな。
これ見よがしにジャンク屋マークを付けておりますが、本当にジャンク屋に所属しているのか、はたまたマークだけをどこからか
奪ってきたのかは不明です。」
「気付かれる心配は?」
「ありません。あの船がザフトの軍事コロニーより優秀な警戒機器を積んでいれば別ですが」
「よし。現在針路から予想できるあの船の目的地は?」
「このまま行くと、廃棄コロニー群のそばを通過します。書類上は無人となっとりますが、実際はいろんな連中が住み着いております」
「厄介なところだな……まあユニウスを地球に落としたような連中だ、厄介でないはずもないか」
ネオが面倒くさそうに溜息をつく。
「だからといって、手を引く積もりはないのでしょう?」
「当たり前だ。せっかく掴んだ手がかりだ、あいつらがどういう組織なのかしっかり掴んでやろう」
「鬼が出るか蛇が出るか、なんとも楽しみでありますなあ」
リーがニヤリと笑う。ネオも不敵に頷いた。
「そうそう、ユニウス上での戦闘経過に関しては、僭越ながら追尾に入る前にジブリール様への送信を済ませておきました」
「お、すまんな」
「ですがこうなると、地球への報告は当分できなくなりますな」
「確かにこんなところで通信を開こうものなら、即座に向こうに気付かれちまうからな……だがまあ、仕方ないか」
ほんの一瞬の瞑目の後、ネオは言った。
「何しろ戦闘の途中で被弾して、自力航行が不可能になっちまったんだからな」
「はあ?」
リーが、戦艦の艦長としてはまったくふさわしくない声で聞き返した。
「だから、ユニウス落下を防ごうとした戦闘中に機関に被弾、
その修理が済むまでは動けないから、ミラージュコロイドを展開して隠れてる
――っていうのが、今の俺たちが置かれている状況だろ?」
ネオがとぼける。
「……ああなるほど、そうでしたな。いや、ついボーっとして忘れていました」
リーは、すぐに彼の意図を読み取った。
「記録上は、そういうことにするというわけですな」
「そういうこと。記録上はガーティー・ルーは未だ地球軌道上に留まっている。
ユニウスを落とした連中を回収しに来た船なんて見つけちゃいないし、ましてやそれを追跡したりもしていない」
「了解いたしました、大佐」
リーは頷くと、乗組員たちのほうを向いて立ち上がる。艦橋内をゆっくりと見回して、言う。
「全員聞いたな!」
彼等の視線が自分に集まるのを待って、続ける。
「これより本艦は、任務外の行動に入る。
これは軍規に照らし合わせれば明らかな命令違反であり、ことが公になれば処罰は免れ得ない。
よって、異議のあるものは今のうちに申し出ろ。咎めはしない。それ相応の待遇は保障する」
それだけ言うと言葉を切り、皆の反応を待つ。
何人か顔を見合わせているものはいるものの、明確に反発するものはいなかった。
「ありがとう、諸君。それでは本艦は改めて、ネオ・ノア・ローク大佐の指揮下にはいる。
これ以降の行動については、艦を降りた後は皆の胸の中だけに潜めておいてもらいたい。大佐、お言葉を」
促されて、ネオも立ち上がる。ぽりぽりと仮面を掻いて、少し考えてから言った。
「あー、まあなんだ、その、これからもよろしく頼む」
ネオの言った、なんともとぼけたその言葉。それは彼の率いる第八十一戦略機動群の、事実上の独立宣言だった。
彼の行動が、その意味が、公になるにはまだ少し時の流れが必要である。
だが今、種はまかれた。賽は振られた。ルビゴン川はもう越えた。彼の言葉を聞いた者達全員は決意した、
ロード・ジブリールの下ではなく、ネオ・ノア・ローク大佐の下で戦うことを。
――などと大見得を切ったあとで大変申し訳ないが、一つだけ訂正を入れさせてもらう。
決意したのは、言葉を聞いた全員ではなかった。
ただ一人、聞いていたのに決意していない、それどころかよく意味さえも理解していないものがいた。
調整が他の二人よりも早く済み、艦内を散歩していた生態CPU。
彼女の耳にもネオの言葉は入っていたが、それがどういうことなのかはまったく分かっていなかった。
それでも、何か大切なことが艦橋で起こっているらしいことだけは、なんとなくだが感じられた。
首をかしげて、考える。自分ひとりじゃ分かりそうにない。でもどうしよう? ネオはなんだか忙しそうだ。
「そうだ!」
いい考えを思いついて、顔を上げる。軽い足取りで艦橋から、もといた調整室へと戻る。
「スティングに聞いてみよ」
彼の調整ももうすぐ終わるはずだ。自分ひとりでは分からないことでも、彼ならきっと教えてくれる。
調整室に向かうステラ・ルーシュは、いつの間にかスキップを始めていた。
ガーティー・ルー内部で発生したその出来事は、小さいながらも後々のことを考えると決して無視できないものだった。
もっともそれは現時点では、どこにでもある些細なことに過ぎないようにも思われた。
ユニウスセブンをめぐる戦闘が終了し、今、宇宙空間はつかの間ながらも小康状態を取り戻した。
たとえそれが、嵐の前の静けさに過ぎなかったにしても。
宇宙の騒ぎは収まったが、それで人類が平和を取り戻したわけではなかった。
むしろ世界は更なる混沌の渦へと巻き込まれ、内に秘めていた問題を再び外へ吐き出そうとしていた。
細かく砕かれ落とされた、ユニウスセブンの無数の破片。
その大半は大気圏突入時の摩擦によって燃え尽きたものの、幾つかは存在を保ったままで地表へと到達し、そこに災厄をもたらした。
米国大陸に落下した破片は着弾点から半径五kmを灰燼に変え、そこに存在していた自然物、人工物全てを破壊した。
大西洋上に落ちた破片は、有史以来最大規模の津波を引き起こし、アフリカ、欧州、アメリカそれぞれで沿岸部の地形を変更させた。
他にも世界各地で被害は発生し、混乱、喧騒が引き起こされた。
それは、幸運にも直接的な被害からほとんど免れえたオーブ首長国連邦といえども例外ではなかった。
全ての破片が落下を終えた段階で、それにより生じるであろう被害の第一集計が、オーブ国防本部に詰めていた
ユウナ・ロマ・セイランのもとへと寄せられる。それに目を通したユウナは、オーブ本国の防衛態勢をレベルDから
レベルCへとひきあげさせた。規定に従って、休暇中だった軍人たちに職場への復帰を命じる連絡がまわされる。
配備されているMSの四分の一が、緊急発進可能態勢へと移行する。その手続きが滞りなく進んでいくのを確認してから、
ユウナは第四艦隊の出港命令を下した。
同盟派の影響力が強い軍の中で、本国派が手綱をしっかりと握っている第四艦隊はユウナにとっては虎の子の戦力である。
主力の重巡六隻は、第一から第三艦隊には及ばないものの、それなりの戦力、および抑止力を持っている。
「俺も出るか?」
後ろに控えていた黒髪の青年が、ユウナに話しかける。
「うーん……いや、ゲンはいいや」
ユウナは、少し考えてから彼の提案を退けた。
「ブラックフレームの最終調整、まだ終わってないんだろ? それに今回のところは、単なる牽制で収めるつもりだし」
「そうか。分かった」
ユウナの言葉に、ゲンと呼ばれた青年はあっさりと引き下がる。
その落ち着いた声は顔に掛けられたバイザーとあいまって、彼に驚くほど大人びた雰囲気を与えている。
だがよく見ればこの青年、顔立ちは驚くほど幼い。青年というより、むしろ少年といった呼称のほうが似合うほどに。
「さてと、次は在外資産の被害状況? あーあ、こりゃあ税金投入して救済処置取らないとだめかなあ……ん、なに」
報告書とのにらめっこを再開したユウナに、新たな情報がもたらされる。
それにさっと目を通したユウナの顔が、まるで恋する乙女の目をしたロンド・ミナ・サハクでも見たかのような驚愕の表情に包まれる。
「宇宙から降りてきたザフトの宇宙戦艦、しかもカガリを乗せている!? ええと……あ、いや、ちょっと待って……」
深呼吸を、一回、二回。何とか気分を落ち着かせ、その情報の意味を理解する。
「うん、分かった。第四艦隊の任務を変更、早急にその船に合流して、うちの港まで護衛してあげて。くれぐれも失礼の内容にね」
指示を下し、軽く頷いてからもう一度唖然として呟く。
「それにしてもあの人は……一体何をどうすればそうなるのさ?」
優秀な国防本部付きのスタッフも、その問いに答えることは不可能だった。
代わりに彼等はユウナの命令を正確に伝達し、命令を伝えられた第四艦隊はそれを忠実に実行した。
「右舷前方よりオーブ艦隊、接近してきます」
小一時間もたたないうちに、第四艦隊はミネルバのレーダー監視区域に入る。
そのままさらに接近し、ミネルバと同航になるように変針する。
その頃には、艦隊を構成する大小十隻強の艦型が、ミネルバからも確認できるようになっていた。
「艦隊の巡洋艦、主砲塔旋回!」
メイリンの報告で、気が抜けていたブリッジに一気に緊張が走る。
「そんな馬鹿な!」
艦長席後ろについていたカガリの引き攣るような叫び声は、重巡の主砲発射音にかき消された。
重巡が発射した250mm砲は、ミネルバにたどり着くことなく空中で爆発する。
他の五隻が発射した砲弾も、続けて放たれたミサイルも、全弾がそれに続いた。
「落ち着きなさい、礼砲よ」
タリアが、浮かしかけた腰を艦長席に納めなおして言った。
事実オーブ艦隊が放ったものに、実弾は一発たりとも含まれていない。全てが空砲、あるいは演習弾。
それをあえて放ってみせることで砲塔内に何も装填されていないことを証明する、軍艦における古くからの礼式である。
「こちらもトリスタンとミサイルで答礼を」
「は!」
直ちにミネルバからも、上空に向けてビーム砲とミサイルが放たれる。
「それにしても、いきなり撃たれると驚きますな」
「そんなこと言ってると、オーブの方々に笑われるわよ」
冷や汗をかくアーサーをタリアがたしなめる。
その奥で、先ほど誰よりも慌てて取り乱したオーブの国家代表が、自らの顔を真っ赤に染めた。
「オーブ軍巡洋艦より信号。先導ス、我ニ続ケ。曳航ノ必要アリヤ」
「オーブ艦に返信。微速ナレド自力航行可能ニシテ曳航ノ要ナシ、サレド貴艦ノ心遣イニ感謝ス」
艦の間で信号が交わされ、ミネルバはオーブに向け航行を開始する。帽子を取り外して息を吐き、タリアが周りを見回して言う。
「コンディション、グリーンに下げて。予想外のことが起きすぎちゃったけど、ともかくこれでユニウスセブンの破砕作業は終了するわ。
みんなごくろうさま。オーブまではしばらくかかるから、航行要員以外は楽にしてちょうだい」
オーブの第四艦隊はミネルバを取り囲み、自国の空母を護衛するように見事な輪形陣をつくっていた。
ミネルバがオーブへと艦首を向けたちょうどその頃、世界各地の豪邸をつなぐ情報ネットワークの中で、一つの結論が下されようとしていた。
「しかし、よくこの程度の被害ですみましたなあ」
「いやいや、この程度というにはあまりにも大きすぎる」
「左様。表面上の被害だけならばともかくとして、これでどれほどの難民が生じたかと思うと……」
「厄介なのは難民問題だけではありませんぞい。北米農業地域への被害は穀物価格の高騰を招きかねんし、
他の産業でも未来予測がさっぱり立てられのうなっとる。おかげで債券市場では、今回の件を受けてどこも最安値を更新中ですわい」
情報ネットにつないでいるものたちが、適当な相手とモニターを通して雑談を交わしている。
そんな中、新たなモニターが点灯し、そこに映し出されたブルーノ・アズラエルが口を開く。
「よいかな、諸君」
それを合図にぴたりと雑談が止んで、みなの視線が正面に(つまりは、各々の屋敷のモニター脇に備え付けられているカメラのほうに)集まる。
アズラエルは満足げに笑みを浮かべると、続けた。
「事前に送り届けておいた資料のほうには目を通していただけましたかな」
モニターを通した沈黙が、諾の意を伝える。
「そちらのほうにも書いておいたが、儂としては今回の機を利用してテュケープランの実行を考えておる。
とはいえ実行に移すともなれば、このロゴスを構成する諸君の協力も不可欠だ。そこで今日、皆の意見を聞きたいと思ってのう」
再び、沈黙。互いを牽制しあうように、モニター越しの視線が行き交う。
が、それも一瞬のこと。
「よろしいのでは、ないですか?」
最初の一人が賛同すると、後のものも皆それに追随した。
「そうですな、私としても、異存はございません」
「テュケープラン……プラント相手の総力戦でしたか。
なるほど確かに、がたがたになった国内をまとめるには、外に敵があったほうが手っ取り早い」
「まあ私のような工場経営者といたしましては、軍需を増大させる提案に反対する理由などありませんからなあ」
「同意いたしましょう。ですがやるからには、前回のようなことになるのはごめんですぞ」
「確かに。いや、ご子息のことを悪く言うつもりはないが、確実に勝ててこその総力戦ですからなあ」
「いやあ、お恥ずかしい」
話の流れが『やるかやらないか』から『どうやるか』に移り変わったのを見て取って、アズラエルは再び口を開く。
「前の戦争ではうちの馬鹿が見苦しいところをお見せしてしまって……」
「何をおっしゃられます、アズラエル様。ムルタ殿は立派に戦われた」
「そう。全ての原因はあのジェネシスなどという物騒なものを持ち出したコーディネーターども、それにあの訳の分からぬ三隻の……」
「そういってもらえると嬉しいが……やはり前回のことがあるからのう。今回は儂は一歩引こうと思っておる。
幸いにも、計画実行に関しては立案者であるロード・ジブリール君が自分に任せてくれといってくれたのでな」
その言葉に、モニターに映された顔たちがざわめく。中でも半分ほどのものは、明らかに不満そうな顔。
長い歴史を誇るロゴスにあってはジブリール財団は新興もいいところ。新参者に厳しいのは、どこの世界も同じである。
「そこでだ、ジブリール君には剣の握り手の権限を付与したいと思っておるのだが」
「剣の握り手というと……たしか戦争関連全般についての統制役でしたな」
「通称、戦争計画主任ですか。まあ、よろしいのでは?」
「ありがとうございます」
モニターが移り変わって、そこに大きく表示されたジブリールが、初めて声を上げた。
「だがジブリール君、主任就任となったからにはそれなりの具体的なプランは見せてもらえるんだろうねえ」
「はい、一週間以内に詳細をお見せいたします。とりあえず今日のところはこちらをご覧ください。
私の部下が撮ってきた映像ですが、今日中にも全世界に公表する予定です」
再び画面が移り変わり、映し出されたのは宇宙空間。
「こんなものが何に……ほう!」
そこを地球へと進むユニウスセブン、そのコロニーの残骸には、据え付けられた推進器とジンの姿がはっきりと映し出されている。
つい先ほど、第八十一独立機動群より送られてきたものである。
「なるほど、これは決定的だ」
「人的関与はほぼ確実視されていたが、こうもはっきりとした形で示されると、やはり違いますなあ」
「しかもありゃあ、ザフト製のMSだわい」
映像を目にした者たちが、おもいおもいの感想を漏らす。
それを聞いたジブリールは、モニター前から席を外すとテーブルにおいてあったワイングラスに口をつける。
映像の中でメテオブレーカーを破壊するジン、その脇に映っているアズラエルのモニターを睨みつけ、彼は楽しげに呟いた。
「まったく、食えない爺さんだ。私が成功すればよし、失敗すればそれもまたよし、
その時は私をいけにえにして自分の地盤を固めようというわけですか。
まあですが、今しばらくはあちらの思惑に乗ってやるのもいいでしょう……今しばらくは、ね」
オーブへと向かうミネルバでは、警戒態勢が通常に戻され、手すきの各員には艦内での自由行動が許されていた。
パイロットスーツからいつもの赤服に着替えたレイとルナマリアも、職務から解放されて休憩室の住人となっている。
入り口のドアが不意に開き、ソファーで本に向かっていたルナマリアが顔を上げた。
「あら、マユちゃん」
開いたドアの後ろに立っていた人物に、ルナマリアは驚いたような声を上げる。
「どうしたの、その服」
「へへ、艦長さんに貸してもらっちゃった」
そう言ったマユが着ているのは、ザフト軍用の緑服である。
「どう、似合うかな?」
「ええ……けど、どうしてまた軍服なんか」
「だって、他に着るものないんだもん。さっきまで着てたのは、今洗濯してもらってるの」
長い単独航海を想定しているため大抵のことは艦内での自己完結が可能な軍艦にも、さすがに子供用普段着までは置いていない。
アーモリーワンの混乱の中、身一つ(プラス、ミーアとインパルス)で乗艦したマユに用意できる替えの服といったら、
予備の軍服くらいしかないわけであった。
「だいぶ、大きいな」
横から、レイが口を挟む。
「うー、どうせ私は小さいですよ!」
マユが頬を膨らませ、上げた右腕に視線を向ける。
Sサイズだというのに、服の襞は手を隠してさらに折れ曲がるほど余っている。
「オーブに着いたら新しい服買ってもらうからいいもん! 艦長さんも経費で落とすって言ってくれたし」
「そういえば、マユはオーブ出身だったな」
「うん!」
「そうなんだ。じゃあ、アスランさんと一緒に来た代表の女の人のことも知ってるの?」
「女の人って、あのカガリさんのこと?」
ルナマリアの問いに、マユは少し考えてから答える。
「私がいたときは父親のウズミって人が代表だったからよく知らないけど……
女なのに行動的で、すっごい腕白って噂は聞いたことがあるよ」
「悪かったな、腕白で」
「え……わっ!」
振り向いたマユの後ろには、僅かに顔をしかめたカガリがアスラン、タリアとともに立っていた。
「あ、そのー……ごめんなさい!」
「べつにいい。間違ってはいないしな。だが、ならどうして今はプラントにいるんだ?」
何気なく発したカガリの疑問、それは今回プラントからのオーブ人帰還のためアーモリーワンを訪れた彼女にしてみれば、
どうしても聞いておきたかったこと。だがマユの口から出てきた返答は、予想以上に重いものだった。
「どうしてって言われても……他に行くところなんてなかったから。私の家族はみんなオノゴロの戦闘で死んじゃって、
オーブに戻ってもどうする当てもなかったんです」
「それは……」
「あ、でもべつにそれだけじゃないんですよ。戦争が終わって帰れるようになったときにはこっちで友達もできてたし
仕事も見付かってたしで、帰れない状態になってたんです」
目を伏せるカガリに、マユは慌てて付け加える。それを聞いたカガリは、何故かさらに複雑そうな顔を見せた。
「だから今回行くとなると、二年ぶりか。カガリさん、やっぱりオーブ、だいぶ変わりました?」
湿っぽいのは嫌いである。マユはカガリの沈んだ調子には気付かなかった振りをして、努めて明るい調子で言う。
「あ、ああ。もう復興作業も大半が完了したし、色々と新しくなっているぞ」
「へー、どんなになってるんだろ? 楽しみ!」
「艦の修理でしばらくオーブに停泊させてもらう予定になってるから、見て回る予定は十分あるわよ」
カガリの横で聞いていたタリアが、会話に参加する。
「そうだ、上陸許可も出すから、ルナマリアとレイもお邪魔でなければご一緒させてもらったら? 外国の土地を見て回るのも、なかなかいい経験になるわよ」
「え、いいんですか!」
「マユさんさえよければ」
「うん、案内してあげる」
マユが、ルナマリアに頷く。その傍らで、レイがタリアに小声で聞いた。
「ですが艦長、緊急時に備えてパイロットは一人は艦に残しておいたほうがいいのでは」
「心配しすぎよ。そうたびたびアーモリーワンみたいなことがあったらたまらないわ。あそこにはオーブ軍だっているんだし
……それに機体は全部、分解整備中。パイロットだけいても、当分は動かせないって報告があったから」
タリアの言葉に、レイは顔をしかめる。機体を酷使したことは自覚していたが、そこまでひどくなっていたとは思っていなかった。
一方マユはソファーに腰を下ろし、向かいのルナマリアが読んでいた本を覗き込む。
「それ、何読んでるんですか?」
「あ、これ? アーモリーワンで買ったんだけど……マユちゃんにはあんまり面白くないと思うわよ」
「えー、そんなこと――ありますね」
本の題名を見たマユは、即座に読むのを諦めた。ルナマリアの読んでいたそれは、ハルバートン著、『機動戦論』。
知将として名高い彼が低軌道会戦で戦死する直前に纏めたその著書は、MS、MAの登場により変化した現在の戦場について
学ぶための教典として一部軍事関係者の間ではかなりの注目を集めている……のだが、さすがにマユには守備範囲外だったようだ。
「ルナマリアさんには面白いんですか」
「うーん、面白いっていうよりも勉強になる、かな。私もザフトで赤服着てるんだから、それに恥ずかしくないように
しっかり精進しなきゃいけないし、それに将来は指揮を取る立場にまで上がるつもりだしね」
「へー、そうなんだ。赤服って結構すごいんですね」
「そりゃあアカデミーのトップ10だもん。もちろんそれだけで全部が決まるってわけじゃないけど、なったからにはそれなりの
期待はされるし自分としてもそれに答えたくなるじゃない。でもMSのパイロットなんて肉体的に三十、四十になっても続けられる
もんじゃないんだから、軍人をずっと続けるつもりなら将来に備えてこういうことも勉強しておかないと……
ね、レイだってそう思うでしょ」
「……ああ。多分、できたらそうなんだろうな」
同意を求められたレイは、複雑そうな顔をしてあいまいに頷いた。
その態度にちょっと首をかしげたルナマリアだが、すぐに矛先をマユへと変える。
「じゃあさ、マユちゃんの将来の夢とかってあるの?」
「え、うーん、とりあえず当分はラクスの付き人続けるだろうから……目指せ、トリリオン(1,000,000,000枚)ヒット、かなあ。
そのあともKDプロダクションに勤め続けるんだろうから、自分で見つけた新人をマネージャーとして一人前に鍛え上げてやる、とか?」
「いやに現実的な夢だな」
カガリが、ぼそりと呟く。
「えー、じゃあそういうカガリさんはどうなんですか? 将来の夢とかなりたいものとか」
「いや、なりたいものも何も……私はもうオーブの国家代表なんだが……」
「……あ、忘れてた」
ポン、と手を叩いて言ったマユに、ルナマリアとタリアが思わず噴出す。
レイも僅かに頬を緩め、どこか浮かない顔をしていたアスランも微かな笑みを浮かべた。
その中で、ただ一人険しい顔を続けるカガリ。彼女が発しようとした言葉を、ミネルバの艦内放送が遮った。
『艦橋より総員に伝達、本艦はこれよりオーブ、オノゴロ島に寄港します。
到着時間は1400、今から三十分後の予定。警備班は接舷準備を開始してください』
メイリンのその放送を聴いて、マユが部屋の窓から外を覗く。
周りを囲むオーブ艦の向こうに、オノゴロ島の港の姿が覗いていた。
寄港後、カガリは代表としての仕事があるということでアスランを伴って艦を後にした。タリアはオーブの技術士官と艦の修理方針に
ついて話し合い、修理完了予定を一週間後に設定した。マユはミネルバ内で、ルナマリアたちと明日のオーブ見学について話し合った。
見学に同行することになったのは、パイロットのレイとルナマリア、その妹で管制官のメイリンに整備兵のヨウラン、ヴィーノだった。
彼等は歳相応に騒がしく(約一名、例外あり)どこに行くかを検討し、その後早々に床に就いた。他の部署も皆、それに倣う。予定を
無視しての出港とそれに続くいきなりの激務で彼等は皆疲れていたし、昼夜を問わない(もっとも、宇宙には始めからそんなものは
ないが)勤務体制で狂いっぱなしだった体内時計を早急に現地時間にセットしなおす必要もあった。
ミネルバ艦内が沈黙に包まれている頃、しかしオーブ行政府はまだ眠ってはいなかった。
ほとんどの部屋に明かりが灯され、ユニウスセブン落下による諸々の影響の分析、統計が行われている。
その廊下を、カガリは早足で奥へと進む。書類を抱えた役人が、彼女に驚いて道を譲った。
「ユウナ! どういうことだ!?」
目指していた部屋の扉を空け、開口一番に叫ぶ。その様相は、あたかも敵陣に単身で乗り込んだ兵士のよう。
実際今の彼女の立場は、それと似たようなものなのだが。
「やあカガリ、おかえり」
部屋で、書類に向かっていたユウナが顔を上げる。
「ゴメンね、出迎えにいけなくって。僕も色々と忙しくってさ」
「そんなことを聞いているんじゃあない!」
「え、じゃあ……もしかして君のルージュ勝手にデータ取りに使ったのばれちゃった?」
「ストライクルージュをデータ取りに……最近軍工廠で姿を見かけると思ったら、お前そんなことやってたのか、って、違う!」
ユウナの後ろ、バイザーをかけた青年は、言い争う(というより、カガリが一方的に突っかかっているだけだが)二人を興味なさげに
眺めている。やっと追いついたアスランが、開けっ放しになっていた扉から、部屋の中に入ってきた。
「第三艦隊の件だ。何故あれを、外洋展開させる必要がある? 今第一にやらなければいけないのは、被災地への救援、救助だろう」
「ああ、そのこと。ところがそれが、そうも言ってられなくなってきててね」
ようやくカガリの問いを理解したユウナは、部屋に置いてあったテレビをつける。
「これは!」
「ありゃ、間違えた」
映し出された映像を見て、二人は対照的な声を上げた。映っているのは、落下途中のユニウスの映像。そこに取り付けられた推進器と、
それを守るジンの姿。ジブリールが、情報ネット上で流していたものだ。次に画像が移り変わると、ユニウスの落下で引き起こされた
世界各地の惨状とともに、今回の事件についてプラントを非難する趣旨のアナウンサーによる解説が流される。続いては、各国での
プラント非難のインタビューやデモ。絶句するカガリ、苦い顔で見つめるアスラン、画面に目も向けず相変わらずの無表情な青年。
ユウナはリモコンをいじくって、テレビのチャンネルを切り替える。
「これは今日の夕方から流れている放送、見ての通り世界各地で反プラントの声が上がっている。
まああんなものが落ちてきたところでこんな映像が流されれば、無理もないだろうけどね。
でもそれよりも、僕らにとって重要なのはこっちのほうだ」
切り替えられた画像、そこに映されているのは先ほど同様のデモ行進。
だが、唯一つ違うのは、隊列を組んだ人々が放つ非難の対象。
そこで槍玉に挙げられているのはプラントではなくてオーブだった。
「なんだ、これは!」
「隣国、オーストラリアの映像だよ」
「何故こんなことが?」
「いや、まあ、実は僕の責任みたいなところもあるんだけどね」
デフォルメされたオーブ国家代表の似顔絵が破られ焼かれるのを見ながら、ユウナは苦笑いを浮かべた。
「そうだ、先に謝っておこう。ゴメンね、カガリ。君の乗っているプラントの艦にミサイル撃ち込んじゃって」
「え……あ、ああ。驚いたが、あれはユニウスセブンの破片を狙ったんだろう?」
「うん。でも一緒に落ちてくるミネルバとかいう艦にも間違って当たっちゃった」
「あの状況ならそれは仕方ないだろう、不可抗力だ」
「ありがとう、そう言ってくれると嬉しいよ。
ついでにもう一つの不可抗力についても、向こうがそう言って許してくれると嬉しかったんだけどね」
そう言ったユウナは、再び画面を操作する。オーブ周辺の地図が表示され、そこの上空に当たる位置を二つの黒点が移動し始めた。
「それでこれが、そのミサイルを発射したときの状況。
黒点がミネルバとユニウスの破片……この時点だと二つは判別できてなかったからね。
それでこの白点が、オーブから撃ったミサイルだ」
現れた白点は、黒点と重なって消える。黒点の一つは移動速度を緩め、もう一つは落下軌道をオーブ近海から右にずらす。
「この、右にずれたほうが破片。そして軌道がずれた結果落ちたのが――」
カガリの見つめるその先で、右にずれた黒点は、地図上のオーストラリア大陸と重なって消る。
「よりにもよって、なんていうところに……」
カガリが呻いた。
「なるほど、分かった。それでこの件に関してのオーストラリア政府の反応は?」
「表向きは、今回の件に関する謝罪と責任者の引き渡し、ならびに発生した被害についての全額賠償、
オーブ西方領海問題における領海権および海底資源採掘権の全面委譲ってとこかな」
「相変わらずだな」
「うん。ついでに向こうの軍にも動きが見られたから、即応できる艦隊で牽制させた。第三艦隊を動かした件、納得してもらえたかな?」
「ああ。だがこれは、大変なことになるぞ」
頭を抱えたカガリに、ユウナが深く頷いた。
オーブとオーストラリアの仲は、現在きわめて悪い。それは、通勤中に電車の中で週刊誌のつり革広告さえ眺めていれば、誰にでも
分かる事実である。もっとも、この二国の仲は始めからそう険悪だったわけではない。仲がこじれたきっかけは、前回の戦争の後半期
における立場の違いにある。つまり、結果的にはともに連合と対立しながら早々に降伏したオーブ、最後まで抗戦し続けたオーストラ
リアの違いだ。特に広大な国土の中に敵を引き込む戦法をとったオーストラリア本土では、文字通り国民を総動員しての徹底抗戦が行
われ、その戦火は終戦後もしばらくは収まることがなかった。現在の人口が戦前の三分の一に達していないという事実からも、その凄
まじさが窺える。そうして戦争で深い傷を負ったオーストラリアの国民感情は、戦後比較的浅い傷で戦争を乗り切ったオーブに対して
牙をむいた。実際、先に降伏し連合に下っていたオーブはエアーズロック降下作戦においてはきわめて有能な後方基地としての役割を
果たしていたわけであるから、それはまったくの逆恨みとも言い切れない。
一方のオーブも、連合軍の上陸を簡単に許してしまったという戦訓から、国防方針を洋上での迎撃重視に変更、それに伴ってあいまい
なまま放置してあった西方領海の領有権をオーストリアに対し明確に主張することになっっていた。さらに戦中における水中MSの発
達によって初めて採掘可能となった深海資源の問題がそこの絡み、両国の間には修復不可能な溝が生じていた。
ここで、さらに話を複雑にしているのが、オーストラリアに存在するカーペンタリア基地の存在だ。ここに駐留するザフト軍は、
オーストラリアのオーブに対する無言の圧力となっている。オーブとてプラントと友好的な関係を保ってはいるが、貴重な地上勢力圏
を維持したいプラントにとって基地の土地を提供しているオーストラリアとの関係のほうが重要なのは明らかだ。その関係を維持する
ため、プラントがどこまでオーストラリアに譲歩するかは分からない。オーブ国防省は最悪の事態――連合とプラントが再び戦争に
突入した場合における、ザフト軍と協力したオーストラリア主導によるオーブ侵攻――を想定して、基本的な防衛体制を整備している。
その象徴ともいえるのが、二番艦が就役間近のタケミカズチ級巨大航空母艦の存在である。
もちろんそのような事態を未然に防ぐべく、外交面での努力も行われている。一個艦隊を用いて行われたミネルバに対する盛大な
出迎えも、その一端である(外交努力がオーストラリアではなくその後ろのプラントに対して行われているという点がこの問題の
深刻さをあらわしているといえよう)。
「そこでだ、一つ提案があるんだけど、いいかな」
ユウナが、微笑みながら言う。
「なんだ?」
カガリは眉をひそめて応じた。
「いやー、ユニウス落下でこれから色々と大変なことになりそうじゃない? 大西洋連邦のほうでもきな臭い動きあるみたいだし。
だから今、国内が本国派と同盟派に割れてるのって、色々まずいと思うんだよね」
実際、二派の対立は国政を取るにあたっても深刻な問題を引き起こしている。
それを思い出し、アスランは苦々しい顔を見せた。
「それはそうだが……だからといって簡単に纏め上げられるものでもないだろう。できたらとっくにやっている」
「うん。でも一つ、いい方法思いついちゃったんだ」
「なんだ、それは?」
「えっとね……結婚しない?」
そのユウナの発言に、部屋にいるほかの三人の反応が始めて一致した。すなわち、目をまん丸に見開いて絶句した。
「色々考えたんだけど、それが国をまとめる一番手っ取り早い方法なんだよね。あ、もちろん愛人の一人や二人は自由にもっていいよ」
そう言って、ユウナはアスランにウインクしてみせたが……相手に聞こえているかどうかは判別できなかった。
そんなこんなで夜も明けて、翌日のオーブ市街地である。
商店区画の中央を貫く大通りには、ものめずらしそうにあたりを見回しつつ進む六人組の姿があった。
上陸許可をもらい、買い物に出たマユたちである。
レイはいつもと変わらぬ様子。
だが続くルナマリアとヨウランはなぜかげっそりした様子で、ヴィーダとメイリンはそれとは逆に元気一杯である。
その違いを作っているのは、彼等に囲まれて盛大に愚痴を吐いているマユであった。
「だからさあ、私としては思うわけよ。あんたは一般人じゃあないんだから、もう少しそのことを自覚しろって!
なのにラクスってばいくら言っても!」
ヨウランとルナマリアが、仲良くハアと溜息をついた。
この状況のきっかけは、ヨウランの発した何気ない一言だった。
「マユちゃんって、ラクス様の付き人やってるんだって。普段のラクス様ってどんな感じなの?」
別に、秘密の恋人の存在を聞き出したかったわけではない。
ただ普通なら絶対に知りえない有名人の普段の顔がどんなものなのか、聞いてみたかっただけだった。
一般人が知りえないラクス・クラインの素顔を知ることで、ほんの僅かな優越感に浸り、
それにより普段の生活にほんの僅かでも張りが出ればそれで彼は満足だった。
が、マユの口から出てきた言葉は、彼の想像のはるか斜め上をいっていた。
「ほんと、朝は起きないし練習はすぐサボろうとするし部屋はすぐ散らかすしにんじんとピーマンとしいたけは残すし……」
彼女が漏らしたのはラクスに対する盛大な文句、しかもどれも母親が自身の子について言うようなものばかり。
どうやら、なんか溜まっていたものがヨウランの言葉をきっかけに爆発してしまったらしい。
そりゃあまあ、仕方ないのかもしれないけど、そういう文句もあって当然なのかもしれないけど、
それでもやはり、マスメディアによって作り出された偶像の真実の姿(?)がぼろぼろと現れてくるのは、
見ててあまり楽しいものじゃない……いや、まあ、メイリンとヴィーダはなぜかすっごい楽しそうなんだけど。
「こないだのアーモリーワンでだって、不用意に帽子取ったせいでファンの人に追いかけられて、すっごい大変だったんだから!」
「……へえ、そうなんだ」
「あっ、あった。ここのお店は入ろう。そうだ、今の話他の人には秘密にしといてね」
そういうと、マユは店の中に入っていく。ヴィーダ・ヨウラン・メイリンも、それに続く。
「なんだかなー。ラクス様がそんなだらしない人だったなんて、驚いたわ」
「そうなのか?」
溜息をついたルナマリアに、レイが不思議そうに聞いた。
「そうじゃない。だってあのラクス様なのよ」
「なんだお前まで、馬鹿馬鹿しい」
少々興奮気味のルナマリアとは対照的に、レイの口調は平静そのもの。
「おそらく皆、そうしてイメージを気にする。お前のように。
だが何故かな。何故人はそれを気にする。歌手は清純で、普通の人間とは違うと思うからか」
「え?」
「俺はそれはどうでもいい。ラクス・クラインは歌が上手い、俺はそれでいい」
そういうと、レイも店の中に入っていく。
「……レイって、芸能とか興味なさそうだからなあ」
彼の反応に、ルナマリアはある意味ものすごく納得してあとを追った。
マユ・アスカは戦災孤児である。オーブ戦後プラントに移住したのはいいものの、そこに頼ることの出来る親戚なども
一人として存在してはいなかった。ミーアと出会ったことにより寂しさを紛らわすことは出来たものの、そのことでも
経済的側面での問題は、全く解決していなかった。結果強いられた窮乏生活、その経験は彼女に対し重大な影響を与えていた
……いろんな意味で。
「あ、これも買っちゃおう!」
ポイ、と、何のためらいもなく、また一つカゴに服が放られる。
いったい何着目になるのだろう? 店に入ってまだ十五分も立っていないのに、マユのカゴの中では服が山をなしていた。
トレーナー、スカート、ズボン、ワンピース、いくら女の子が買い物好きとはいえ、一度の買い物で買う量の限界を、それは優に超えている。
一枚一枚を見る限りでは、どれもどちらかというと地味目、おとなし目で決して高価ではないのだが、
枚数が枚数なだけにこれでは勘定もちょっとした額になるだろう。
「えっと、後は普段着をもう三枚くらい……」
「ちょっとマユちゃん、まだ買うの!」
さらに別の売り場に移動しようとするマユをルナマリアは慌てて止めた。
「うん、だってタダだし」
「え?」
「艦長さん、経費で落とすから遠慮するなって言ってくれたし
……今たくさん買っとけばこの先一年くらいは洋服代ゼロに抑えられるもん」
マユ・アスカの座右の銘、その一。おごられる場合は遠慮はするな!
議長に拾われるまでの間の貧乏生活で、彼女が学んだ生きるための知恵である。
「でも、そんなにたくさん買っちゃって、払うお金あるの?」
「うん、副長さんにカード貸してもらっちゃったから」
「へー」
結構いいとこあるんだ、と、アーサーを見直しかけたルナマリアは、
「あ、でもその後『領収書は絶対に切るんだぞ』って、しつこくしつこく言われたけど」
すぐにその思いを取り消した。
「そうだ、ルナマリアさんたちも何か買います?」
「あ、私この手提げ鞄ほしーい」
横から口を挟んだメイリン、手には流行りもののバッグが握られている。
「ちょっとメイリン、無駄遣いは止めなさいよね」
「えー、でもー……」
バック片手に渋面をつくるメイリン。が、ルナマリアも譲る様子は見せない。
「あんたはすぐに無駄遣いするんだから!」
「無駄じゃないもん! それにお姉ちゃんだってアーモリーワンでは高そうな本買ってたじゃない。
あの後お金足りなくなって妹に昼飯たかろうとしてたのはいったい誰よ」
「そ、それは……」
そんなことがあったのか、と、驚き顔のヨウラン、ヴィーダ。横では、レイが黙ったまま頷いている。
「あ、あの本は面白いからいいのよ!」
「じゃあこのバッグは可愛いからいいのよ!」
顔を赤くして言うルナマリアに、メイリンが応じる。
どう見ても、優勢なのはメイリンのほう。姉の面目丸つぶれである。
「お、おい」
「まあまあ」
にらみ合った二人に、ヴィーダとヨウランが割ってはいる。そこに、
「あ、大丈夫ですよ」
すっと伸ばしたマユの手が、メイリンの持っていた流行物のポーチバックを掴む。
ポーチバックは、新たに選んだ白いTシャツと共にカゴの中に入れられた。
「一緒に買っちゃえば問題ありません!」
「ダメよ、そんなの」
慌てて止めようとするルナマリアに、マユはにっこり笑って言う。
「領収書も一緒に切っちゃうから平気です……払うのはザフトですから」
「あ、なるほど」
マユ・アスカの座右の銘、その二。領収書は魔法の紙、一緒に切れば恐くない。
人生、綺麗事だけじゃ生きていけないのである。
「みんなも買うものあったら入れちゃってください、どうせ支払いはザフト持ちです」
「あ、じゃあ俺も!」
「こないだシャツをMS整備用の油で汚しちゃって、新しいのほしかったんだよね」
マユの言葉にあっさり甘え、ヨウランとヴィードも自分のほしいものをカゴに入れる。
「え、でもいいの?」
「気にするな、俺は気にしない」
「ちょっと、レイまで……まあ、みんながそうするんだったら私も……」
「とか言って、自分が一番高いもの選んでるんじゃない」
「ほ、ほしかったのよ、このバック!」
ちなみにレイが選んだのは0G空間でも使える特製万年筆、ルナマリアはツャネルのポーチ。
「それはそうとルナ、それ偽者だぞ」
「偽者?」
「ああ、有名ブランドのまがい物だ」
「いいのよ、私はこれが気に入ったんだし」
「あ、お会計お願いしまーす」
「はい、ありがとうございます」
「支払いはカードで、あと領収書を」
「はい。品目名と御宛名のほうはいかがなさいますか?」
「お品代で、名前のほうは……ザフト宇宙軍宇宙戦艦LHM−BB01ミネルバでお願いします」
「……え?」
会計係の店員が目をまん丸と見開いたのも、まあ無理ならぬことといえよう。
――ミネル……バ?
マユのその声を聞いて、店内に買い物に来ていた一人の女性が首をかしげた。
――そういえばあいつ、新型戦艦が地球に降りてったって昨日メールで言ってたっけ。
女性はそんなことを思い出して、深くは考えないままにその店を出た。
彼女の名はミリアリア・ハウ。先の大戦ではアークエンジェルに乗艦し、オペレーターを勤めていた人物だ。
現在の彼女は駆け出しのジャーナリスト、
今日この店を訪れた目的は、ユニウスセブン落下の被害取材に出かけるにあたり必要な生活必需品を取り揃えること。
ジャーナリストになってから体験する、大きな事件……いや、ジャーナリスト云々に関係なく、出来れば二度と体験したくない
あまりにも悲惨すぎる事件。その存在に気を取られ、今の彼女はジャーナリストにとって必要不可欠な資質、ネタを嗅ぎ付ける嗅覚を、
一時的とはいえ失っていた。もし彼女がマユたちの会話にもっと聞き耳を立てていたら、そしてマユの横に立つ金髪男が何物なのか
気付くことが出来ていたら、翌日の朝刊にはきっとこんな見出しが躍っていたことだろう。
『プラント最高評議会議長の息子、ザフトの資金を私物購入に流用!
昨日、オーブの〇〇商店でギルバート・デュランダル議長の義理の息子、レイ・ザ・バレルさんが
新鋭戦艦に割り振られた接待用予算を流用し、高級万年筆を購入していた事実が判明した。このこと
に関連し、評議会はデュランダル議長に事実認識の有無を確認するとともに氏の道義的責任を追及し……』
不幸(あるいは幸運)にも、ミリアリアはそのまま店から立ち去って、真実は闇の中にうずもれ消えた。
ミリアリア・ハウは目の前にあった大スクープを物にすることが出来ず、ギルバート・デュランダルは
自身の政治生命にとってもしかしたら最大だったかもしれない危機を知らぬ間に乗り越えることが出来た。
もしこのとき、ミリアリアが気付いてそれを記事にしていたならば、その後の歴史はいったいどのような展開を見せていたのだろうか?
それは、非常に興味深い『if』である。が、今それについて問うことは、何の意味も持つことはない。
『if』はあくまで『if』でしかない。歴史に『……たら、――れば』は厳禁である。
そんなありもしない仮定の話を面白おかしく語ることは、どこぞの与太な物書きにでも任せて、
我々は真実の歴史に――買い物を終えたマユたちがオーブ観光に繰り出そうとミリアリアとは別の方向に歩き出した歴史に
――目を向けていこうではないか。
真実――嘘偽りの無い本当のこと。しかし歴史における真実とは、必ずしも明らかにされるとは限らない。
実際に起こったことでありながら、もろもろの都合で公開されず、闇へと葬られるものも数知れない。
そんな真実がまた一つ、今宇宙では作り出されようとしていた。
「死角はコロニーの中心軸の延長線、そこからはずれなければ大丈夫だ」
ネオが、目の前の三体の鉄塊に言う。鉄の塊がかすかに動き、外に設置されたスピーカーからノイズ交じりの声が響く。
『心配すんなって、うまくやってくるからさ。ま、ネオはそこでのんびり見ててよ』
「ああ、期待しているぞ」
ネオは三体を――三着の試作装甲機動宇宙服を着込んだスティング、アウル、ステラを見渡して、改めて頷いた。
今の戦艦ガルディー・ルーは、ミラージュコロイド散布状態で停止中。
前方には、追尾していたジャンク屋船が入港している廃棄コロニー。
建造途中で打ち捨てられ、先の大戦でのメンデル同様今は陰謀の温床となっている場所だ。
「連中のユニウス落とし関与に関するの証拠を手に入れたい。
MSでぶっ壊すわけにもいかないから、潜入して可能ならやつらを排除しろ。
ただし、絶対に無理はするな。人数が多すぎると思ったら速やかに退け」
『大丈夫だよ』
『わかった、任せて』
格納庫から、アウル、ステラが外に出る。あたりには小デブリが舞っている。
MSならともかく、人間レベルの大きさなら探知される心配は無い。
『なあ、ネオ』
「なんだ?」
『いや、今はいい。この仕事終わったらちょっと話あるんだけど、いいか?』
「ああ、かまわんぞ」
最後に残ったスティングはゆっくり頷くと、自身も宇宙へと飛び出した。
黒く暗いその宇宙で、廃棄され放置されたコロニーは、今の時代から取り残されたように、唯一つ、浮かんでいた。
以上です。
オーストラリアに関する設定は全て適当です。まあ、なんとなくT島問題などを無意識下で参考にしたかもしれませんが。
ユウナの護衛役の少年、初台詞。彼が何故ここにいるかは、まあそのうち(書けますように)。
ついでに、ミリアリアも登場。彼女がもしあれを記事にしていたら、デュランダルは戦争どころじゃなくなっていたでしょう……
ちょっとギャグに走りすぎたかと、反省しています。
ではまた、いつになるかは分かりませんが、次回。
付き人さん復活おめ、GJ!
ところどころにやりとさせていただきました。
ユウナのところにいるゲンとブラックフレームとやらにwktk
付き人さんお帰りなさい!! そして新作乙です!!
相変わらず活き活きと立ち回る登場人物たち、いいですねぇ。
オーブに関しても原作に無い危機状態に陥るとは…これからどうなるかが読めない。
情緒もロマンも欠片ほどもないユウナの告白に笑ったwww
あと、これは個人的に思ったのですが…16の説明文が非常に密集していて読みづらかったです。
5、6行以内で内容を区切って、一行空白を入れると読みやすいと思います。
続き楽しみにしてます! 乙っした!!
何だろう…ここの職人さん達ってほんとにキャラの調理が上手だなぁ…。
ユウナなんか特にそれが出てると思う。
本編しか見てなかったら嫌われる要素しかないようなキャラなのに
ここ見てるとそんなの普通に忘れてしまいそうだ…。
ほのぼのさんGJ
アホな話ばっかだけど自分は読むたび和んで大好きです。
曰くつきの物体ばかりの部屋に昔閉じ込められたメイドさん…冥土って変換出来そうだw
付き人さん、乙&お帰りなさいませ。
オーブに関する展開が他の作品とはまた違った斬新な切り口で新しいですね。
>付き人氏
お帰りなさい!
ここのマユは一点の曇りもない(かに見える)明るさと図太さが魅力。
引きずられてちょっと砕けた感じのレイがかわいい
>そんなありもしない仮定の話を面白おかしく語ることは、どこぞの与太な物書きにでも任せて
ちょwwwww
>>215 「国は貴女の玩具ではない」発言とか、国の一大事に自ら前線に出たり、
ロゴス打倒演説を非現実的と鼻で笑える人物なんだよ>ユウナ
ラクスと議長とジブリール以外でプレイヤーになれる可能性があったのは彼。
シンもキラもアスランも結局戦う以外に能がないからな
218 :
通常の:2006/07/17(月) 17:56:11 ID:???
ここの職人さんたちの書くジブリはいいキャラしてるの多いよな
本編もこれだけやってくれればってよく思う
男のロマン語るPP版ジブリとぬこを取られてケイに嫉妬している舞踏版にワラタ
単発設定小話 「ジブリール」スタンドアローン編I
〜ヘブンズベースへ降り立つジブリール〜
ジブリール「相変わらず寒いところだな・・・」
BC構成員A「ジブリール卿、ご無事で!」
ジブリール「ああ、長老の方々は?」
BC構成員「・・・すでに何人の方々は・・・・・・」
ジブリール「そうか。まぁ仕方あるまい。セイランは?」
BC構成員「オーブ内でごたごたしているようですが・・・。一応通信できます」
ジブリール「私の部屋へつないでおいてくれ・・・」
BC構成員「了解いたしました」
〜建物の中へ入ってゆくジブリール〜
ジブリール「まったく。デュランダル議長もがんばってくれる。しかし・・・ネオにはもうちょっと活躍してほしかったものだな。」
〜自室前には秘書の女性が立っている〜
BC秘書官「ジブリール卿。オーブのセイラン殿がお待ちです」
ジブリール「ご苦労。・・・っと君、すまんがな・・・」
BC秘書官「なんでございましょう、ジブリール卿?」
ジブリール「私の飼い猫が飛行機に残っているはずだ・・・こんなこというのは忍びないのだがね」
BC秘書官「はぁ・・・?」
ジブリール「しばらく君に預けてもいいかな?おとなしい子だからね、迷惑をかけることはないと思うんだが」
BC秘書官「・・・・・・わかりました。喜んでお引き受けいたしますわ」
ジブリール「ありがとう」
〜部屋の中心においてある椅子に腰をおろし、セイランを呼び出すジブリール〜
ジブリール「ふぅ・・・さてと・・・。モニター、セイランを画面に」
ウナト「ジブリール卿。お久しぶりですな」
ジブリール「ああ、セイラン殿。オーブ内もいろいろと忙しいそうだな・・・」
ウナト「ご心配おかけいたします。しかし、ご安心を。オーブの実験はまだ私どもが握っておりますのでね」
ジブリール「ふふん。頼もしいことだな・・・。そうそう君たちにとっていいニュースか悪いニュースかわからんが伝えておこう」
ウナト「ニュース・・・ですか?」
ジブリール「君のとこの姫君が乗船しているアークエンジェルのことだよ」
ウナト「アークエンジェルですと!?・・・あの船が・・・どうかしたのですか?」
〜ウナトは目を見開きジブリールの映ったモニターを凝視する〜
ジブリール「ベルリンで我々の進行を邪魔してくれたあとにザフト軍と戦闘したようだ」
ウナト「それで、今は?」
ジブリール「まぁあせりなさいますな。姫君とアークエンジェルそのものはなんとか無事のようだよ。ただ・・・」
ウナト「ただ・・・?」
ジブリール「あの悪夢のMS、フリーダムはザフトのMSに敗北したらしい。大型のビームサーベルでコックピットを一突きだったらしい」
ウナト「そうですか。まぁ生き残ってるならしかたありませんな。・・・我々も全力で排除させていただきましょう」
ジブリール「はっはっは。怖いことを言うね?君の国の代表首長だろうに」
ウナト「何ヶ月も消息不明な首長など、だれがその座に居座ることを認めますか?・・・とっくに彼女の居場所はこの国にはありません」
ジブリール「それが君たちの結論ならそれでいいだろう。・・・さてと、オーブにはまだ宇宙へいけるシャトルは残っているのかな?」
ウナト「・・・まぁオーブは島国ですから。緊急用に多数の島にシャトルは用意しておりますが・・・」
ジブリール「・・・それは結構。おそらく宇宙へ上がるのにそれを借りることになるだろう。・・・そのときは是非お願いするよ」
ウナト「っは。セイラン家の名誉をおかけして、宇宙に送ってさしあげます」
ジブリール「よし。では、オーブのごたごたを早いうちに押さえ込んでおくように」
〜ジブリールはウナトが映っていた画面を消した〜
完 ・・・・・・次回「オーブ」スタンドアローン編Jへ続く。
>>212 まあなんつうか・・・。経費で落とすのは勤め人の特権だよなww
しかしまあレイまでw
GJ!!
221 :
479:2006/07/18(火) 20:32:51 ID:???
I and I and I投下します
ワタシは、艦を降りた。
この決断が正しかったのか、間違ってたのか、そんなのわからないけど。
でも、もう後戻りはできない気がする。
前に進むしかない。
後ろを向いたら、きっと戻ってしまうと思うから。
自分の想いを守るためには、もう進むしかない。
〜I and I and I〜 第十八話「その手で」
ホテルでしばしの休息を済ませると、アスランとマユを乗せたセイバーは目的地へと飛ぶ。
真っ直ぐとモニターを見つめ操縦するアスラン。
その脇でマユは、静かに目的地に到着するのを待った。
長く時間はかからず、セイバーは目的地に辿り着く。
セイバーが降り立ち、アスランはマユを抱えコックピットを出た。
ザフトのモビルスーツで現れたことへの動揺が、キラ達に広がる。
再会できた安心。そして、今はザフトであるアスランへの疑念。
だが、キラ達のアスランへの疑いと同じように、アスランもキラ達に対して疑いにも似た思いを感じていた。
先の戦闘でフリーダムが現れたこと。
そのせいで、戦場は混乱した。
納得できないで唸るアスランだが、そんなアスランにカガリも納得できない。
「あそこで君が出て、オーブが素直に撤退するとでも思ったか!」
「うっ…だが私は!!」
「君のするべきだったことは、オーブを同盟になんか参加させないことだ!」
「それは…。私もそうしたかった。だが、それでまた連合に目をつけられ、国を焼かれたら!」
互いに気持ちがぶつかる。
しなければならないことを、できずにいる。
その葛藤が、互いの感情を昂ぶらせていた。
「それは、カガリのせいなのかもしれない」
そんな二人の言い合いに、静かにキラが割って入る。
「でも君が、今はまたザフトだというなら、これからどうするの?僕達を探してたのは何故?」
「もうあんなこと、やめさせたかったからだ。俺も、ミネルバのみんなも!」
「本当にそうかな?ザフトもプラントも本当にそう思ってるの?あのデュランダル議長って人も…」
キラの刺すような視線が、アスランを捉えた。
アスランの言うこと、それすらも信じられぬほど、疑う心が深い。
「なっ…お前だって議長のしていることは見てるだろ!?言葉だって聞いたろ!」
「じゃあ、あのラクス・クラインは何?」
「あ、あれは…」
「そして何で本物のラクスはコーディネイターに殺されそうになるの?」
「えっ!?」
キラの告白に、アスランは思わず声を上げた。
マユも驚きを隠せないでいる。
「オーブで、僕等はコーディネーターの特殊部隊とモビルスーツに襲撃された」
しかし、キラが嘘を言うはずもなく、その眼差しは実に真剣だった。
「狙いはラクスだったんだ。だから、またフリーダムに僕は乗った」
「そんな……」
「彼女もみんなも、もう誰も…誰一人も、死なせたくなかったから」
また刺すような視線が、アスランに向く。
「それがはっきりしない内は、僕はデュランダル議長が信じられない。プラントも信じられない」
「プラントにだって色々な人間がいる!ユニウス7を落とそうとした犯人達のように!」
キラに嘘がないということはキラを見れば一目瞭然だったが、アスランにも譲れないことがあった。
「その襲撃のことだって、議長のご存じのない極一部の人間が勝手にやったことかもしれないじゃないか!」
デュランダルを信じたい。
デュランダルを指示をしたわけではないと、アスランはそう考える。
「そんなことくらい、わからないお前じゃないだろ!」
頭に血が昇り、思わず叫んでしまった。
「と、ともかく、その件は俺も艦に戻ったら調べてみるから。だからお前達は、ヴィアを連れてオーブへ戻れ」
そんな自分を落ち着かせながら、アスランはマユをキラ達に託す。
「オーブを戦わせたくないと言うんなら、まず条約からなんとかしろ。戦場に出てからじゃ遅いんだ!」
「じゃあお前は戻らないのか!?アークエンジェルにも、オーブにも!」
マユを寄越してそう言うアスランに、またカガリが声を上げた。
「…オーブが、今まで通りの国であってくれさえすれば、行く道は同じはずだ」
オーブがそうならば、きっと今の理想であるザフトやプラントと同じ道に行ける。
だが、アスランの言葉に返答するように、キラは口を開いた。
「なら君はこれからもザフトで、またずっと連合と戦っていくっていうの?」
「……終わるまでは、仕方がない」
「じゃあオーブが出てきたら、またこの間みたいにオーブとも戦うっていうの?」
「…俺だって討ちたくはない。だが、あれじゃあ戦うしかないじゃないか!」
何度も問いかけてくるキラに、アスランはまた声を荒げた。
わかっているなら、こうも聞き返してくるはずがない。
それはわかろうとはしていないということだろう。
「連合が何をしているかお前達だって知ってるだろ!?それはやめさせなくちゃならないんだ!」
アスランが叫んだ。
「だから条約を早く何とかして、オーブを下がらせろと言っている!」
「それもわかってはいるけど、それでも僕達は、オーブを討たせたくないんだ」
押し問答になることはわかっている。
しかし、キラも譲ろうとはしない。
「本当はオーブだけじゃない。戦って討たれて失ったものは…もう二度と戻らないから」
「自分だけ、自分だけわかったような綺麗事を言うな!!お前の手だって既に何人もの命を奪ってるんだぞ!!」
「…うん。知ってる」
知っているからこそ、言わなくてはならない。
「だからもう、ほんとに嫌なんだ、こんなことは」
「キラ…」
「討ちたくない、討たせないで」
アスランを見て、キラははっきりとそう言う。
「ならば尚のことだ。あんなことはもうやめてオーブへ戻れ。いいな」
キラの言葉を何度も頭の中で繰り返した。
それでもアスランは、キラ達にやめるよう、その言葉だけを返す。
「…理解できても、納得できないこともある」
アスランはそう呟いて、キラ達に背を向けた。
「待ってください、アスランさん!」
「ヴィア…」
「アスランさんの気持ちは?」
セイバーに向かうアスランを止め、マユはそう投げかける。
「議長さんの言葉とか関係無い、アスランさんはどう思ってるんですか!?アスランさん自身の気持ちは!?」
「…俺の気持ちは、ザフトで戦いを終わらせたい。それだけだ」
そう言うと、アスランはセイバーに乗り込み、この場を後にした。
残されたマユ達は後味の悪い気持ちになりつつも、それぞれの再会を喜ぶ。
「久しぶりね、ヴィア」
「ミリアリアさんも元気そうで良かった」
「実はね、サイ達から連絡を受けてて、ヴィアがミネルバにいることは知ってたの」
ガルナハンでサイ達とは再会できた。
その後、ミリアリアにそういう知らせがいっても不思議ではない。
「あぁもう!今すぐここで抱き締めて頭撫で回したいけど…あたしはまだ取材の残りがあるのよね」
マユを見て両手をわなわな動かしながら、ミリアリアは苦笑する。
「というわけで、それが終わったら合流するわ。キラ、カガリ、この子をお願いね!」
「うん、わかった」
「任せろっ!」
キラとカガリの表情を見て、最後にミリアリアは頷いた。
そして、マユの頭を優しく撫でると、ミリアリアもこの場から立ち去る。
マユ達も、キラの操縦するフリーダムに乗って、アークエンジェルに向かった。
海中に潜伏するアークエンジェル。
そんなアークエンジェルにやってきたマユ。
フリーダムから降りると、そこはミネルバと余り変わらない格納庫だった。
格納庫から出て、カガリはブリッジに、キラはマユを連れて居住区へと足を運ぶ。
「じゃあマユちゃんは、この部屋で休んでいて」
「でもこの部屋、一人部屋じゃないですよね。誰も使ってないみたいだけど、私だけで使っちゃっていいんですか?」
「アークエンジェルに今いる搭乗員、たいぶ少ないから」
苦笑してキラは言った。
キラの中での、マユのイメージがだいぶ変わりつつある。
マルキオハウスで一緒に暮らしている頃は、滅多に話すこともなかった。
マユも、キラも、お互いに心を閉ざしている節があった。
マユはカズイ達と世界を巡ってたいぶ明るくなったが、キラはあまり変わったとはいえない。
「あ」
「ん?どうかしたの?」
「香水の良い香りがする」
物思いに耽っていたキラだったが、マユの声に我に返る。
マユは小さな鼻を動かしながら、部屋に漂う香りを堪能していた。
「まだ残っているものんだね」
「え?」
「うぅん、なんでもない。じゃあ僕はブリッジに行くから」
笑っているが、キラの顔は悲しげで、思わずマユは心配になる。
だが、キラは行ってしまい、引き止めるに引き止められなく、マユは仕方なくベッドの一つに横たわった。
「なんだか、疲れちゃったなぁ…」
シンへの告白の疲れが、一気に出たのだろうか。
瞼がゆっくりと閉じられ、マユは夢の世界へと誘われていく。
ゆっくりとマユの瞼が開かれた。
何時間眠っていたのか。
時計を確認する気力もない。
体を起こし、眠気眼の瞳を擦って、マユはベッドから降りる。
「寝ちゃったんだ…」
何をするでもなく、マユは通路に向けて歩きだした。
何故か、ドアは開いたまま。
そんな時、通路を誰かが横切った。
ピンクの服とスカートを着た少女の、赤い髪がなびく。
「だれ…?」
通路に出ると、その少女の姿はなかった。
寝惚けていたのかと、またマユは目を擦る。
だがその時、今度はマユの後ろから足音が聞こえた。
振り返ると、先程の少女が連合のピンクの制服を着て、通路の角へ入っていくのが見えた。
マユはその少女を追いかける。
角を曲がると、少女の服装は連合の制服からザフトの緑の制服に変わり、更に先を歩いていた。
「待って!」
マユが声を上げる。
すると少女は振り返り、そして微笑むと、また別の分岐へと消えていく。
走り、遂に分岐に辿り着いた。
「ヴィアちゃん…?」
「あれ?キラさん?」
やっと追い付いた。そう思った瞬間、マユの目の前に飛び込んできたのは、キラだった。
「女の人、来ませんでした?」
「うぅん、ずっとここにいたけど、誰も来てないよ」
キラが嘘をつくとは思えない。
首を傾げるマユだったが、一つあることを思い出す。
バナディーヤ、ガルナハン、宇宙、ブラント。
生きてない人がいることを、マユは思い出していた。
「やっぱり、なんでもありません」
「そう?」
マユが笑って誤魔化すと、キラは視線を窓の外に映る海中に移す。
「ごめんね、ヴィアちゃんがミネルバにいるなんて思わなかったから」
「え?」
「もしかしたら、巻き添えにしてたかもしれないから」
窓の外の景色を見ながら、キラは言う。
マユも窓へと、顔を向けた。
「ミネルバも酷く壊れていたし、爆発で死んだ人達が運ばれていくのを見ました」
タンホイザーが撃たれ、その爆発で、何人もの死傷者を出した。
艦の揺れが凄まじかったことは、マユも知っている。
「あの時、ミネルバの艦首砲が撃たれてたら、オーブの艦隊は確実に沈んでいた」
オーブを守りたい。
その強い思いは、マユにもわかる。
「アスランが言ったことは正しいんだと思う。でも僕は、神様じゃないから、全ての人を救えはしない」
前大戦のフリーダムの逸話は、マユも聞いたことがある。
戦争を終結まで導いたヒーローのような存在。
だがその存在が、ヒーローでも神でもなく、ごく普通の人間だということもマユはわかっている。
「僕は守りたかった、オーブを」
「ミネルバの人達を見捨てても…?」
「…うん。僕にはそれしかできない。あの時、艦首砲を撃たないで止める方法が思いつかなった」
コックピットに当てず、機体を爆発させず、敵機を撃墜できたとしても、
それで何もかもできる人間というわけではない。
キラの言葉は、それを表していた。
「なんだが、歯痒いですね」
「もう、泣かないって決めたたから。悲しい思いはしたくないし、誰にもそんな思いさせたくない」
静かにそう言うキラだが、握られた拳は震えている。
「守れなかったから、今度こそはってそう思っても、結局僕はたくさんの人を傷付けてる…」
言葉の節々に滲み出る悔しさ。
その悔しさを、マユも感じていた。
「前にアスランも言ってたんだ、まだわからないって。僕もそうだ…まだわからない」
「ワタシも」
「え…?」
マユの肯定の言葉に、思わずキラはマユを見る。
「ワタシもわからないです。どうすればいいのかも、どうしたらいいのかも」
シンに告白し、ミネルバを降りた。
その決断が果たして正しかったのか間違ってたのか。どうすればよかったのか。
迷った末の決断で、今でも、マユは迷っている。
「でもそれは、答えを探せるってことじゃないですか」
だが、悔いはない。
「わからないまま迷って、それで動いて周りに迷惑をかけて…それがいけないことだっていうこともわかる」
キラ達の取った行動と、自分のした行動が重なる。
そして去り際に見たアスランの表情や、今のオーブ、連合に打ち勝った後のガルナハンなど、様々に重なるイメージ。
「でもそれは、たぶん今この世界を生きてる全ての人に言えることで…たぶんみんな、まだわからないままなんです」
わからないまま、生きている人々。
何が正しいのか、何が間違っているのか、その明確な答えなどありはしない。
「だから探さなきゃ。探して、自分自身が正しいと思う答えを見付けなきゃ」
「見付かるといいね」
力強く言ったマユにキラも笑ってそう返した。
だが、マユは首を振る。
「違います。見付かればいい、じゃない。見付けるんです、自分達のその手で」
本当は、マユ自身は答えを出していたのかもしれない。
ただ、その想いが強過ぎて、出した答えも埋もれてしまっていた。
気持ちの浮き沈みが激しくて、迷っているのだと勘違いしていたのではないだろうか。
「見付けた答えが間違っていたとしても、それに気付いて、直していけばいいんです」
本当は出ていた答えを、マユは口にする。
また迷い苦しむ時、マユはこの答えを見付けられるのだろうか。
だが、今のマユの力強い言葉はマユ自身はおろか、キラにも何か力のようなものを与えていた。
「それじゃ、ワタシは部屋に戻ります」
そう言うと、マユは走って行ってしまった。
「キラ」
「ラクス…ずっといたの?」
「すみません。声が聞こえましたもので…」
盗み聞きしていたことを素直に謝り、ラクスはキラの隣へゆっくりと立つ。
「答えは自分自身の手で見付ける。それが間違っていたとしても、それに気付いて、直していけばいい」
「うん」
「わたくしも自分自身で答えを見付けに行きますわ…プラントに行って参ります」
「え?そんな!危険だよ!」
心配するキラに、ラクスは優しく微笑んで、大丈夫だと顔で言って見せた。
「行くべき時なのです。行かせてくださいな、ヴィアさんも共に」
そして、更に驚くべき発言に、キラは目を丸くする。
だが、当の本人の強い眼差しを見れば、キラがラクスを止める理由もなくなってしまった。
「ヴィアちゃんがいいなら、僕は構わないけど」
「わたくし…ヴィアさんと一緒なら、答えをこの手で見付けられそうな気がするのです」
「僕も…なんだがそんな気がする」
アークエンジェルにやってきた一人の少女。
それはどこにでもいるようなごく普通の少女で、そして誰かの心を動かしてしまうような不思議な少女だった。
続
V氏乙ー
新たな局面なんですかね?
『なんか色々と要りそうだから買い物行ってくるー。』
そんなことを言って男性陣が出かけていった。
屋敷にのこされたのはステラとマユの二人。
「んふっふっふっふっふ・・・・・・。」
マユは怪しく笑う。
「マユ・・・どうしたの・・・?」
ステラが心配そうに話しかけるとマユはバッとそちらの方を向く。
「ステラ!!聞いて私の大作戦を!!」
マユはそう言ってステラに話をする。
作戦名はこうだった。
『なんか最近どーも皆に女の子扱いされてないから晩御飯の一つでもつくって鼻を明かしてやろーぜ大作戦。』
わーっと盛り上がるステラとマユ。
「よしそれじゃあ近所のスーパーに買出しに行こう!!チャリで!!」
「マユ!!ステラ自転車乗れない!!」
結局二人は仲良く徒歩でスーパーに向かった。
「何つくろっか?」
「カレー・・・・。この間・・・・テレビでやってたの・・・・。ルーから・・手作り・・・・。」
「いいね!!」
そう言って二人はぽいぽいと食材をつめこむ。
「チーズカレー美味しいよね。」
「林檎も入れると美味しいの・・。」
「ゆで卵も欲しいなぁ・・・・。」
「福神漬け・・・真っ赤じゃないやつ・・・・。」
そしてスパイスのコーナーまでやってくる。
「・・・・ステラ、テレビでは何入れてた?」
「黒いのと赤いのと黄色いのとカレー粉。」
色だけをばーっと言うステラ。
二人を包む沈黙。
「てきとーで大丈夫だよね?」
「カレー粉・・いっぱい入れれば・・・・カレー・・・・。」
大いにアバウトな意見でスパイスを選び、二人はさらに食材を買おうとカートを押すのであった。
「何借りるんだ?」
『ローゼンメイデ○全部借りるわ。あと○殻機動隊も。』
ここはレンタルビデオ屋。せっかく休みだから一気に色々見ようと男性陣はここにいた。
「スティング、そんな恋愛モノばっかり借りてどうするんだ?俺は見たくないぞ。」
「・・・・・見ないとメイリンと話が合わない・・・・。」
明らかに女性が好む恋愛映画を借りようとするスティング。レイははぁ、と呆れる。
向こうで篭に溢れそうなほどアニメDVDを借りているシンハロもシンハロだが。
「・・・おい、これなんてアニメだ?」
『ん?あぁ、苺ましま○か?』
シンもだめだ。
ふとネオの姿が見えないことに気づく。
「アウル、おっさんはどこだ?」
レイが聞くとアウルが指差したのは暖簾で入り口が区切られた一画。
「--------------まったく、仕方が無いな。」
「そーだなー。ネオはホントしょうがないよなー。」
「ちょっと待て。」
さも当然かのように暖簾をくぐろうとする二人を止めるスティング。
「何だ。文句あるのか、こちとら成人だぞスティング。」
「でも16だろ。16だろお前。こらアウル、レイに気を取られている隙に入ろうとするな。」
そう言って二人を止めるスティング。しかしレイとアウルは諦めない。
「なんだよ彼女持ちだからって勝ったつもりかよ!!俺達にも夢くらい見させろよ!!」
「そうだそうだ!!つーかとっとと進展しろよ、こないだメイリンに聞いたらまだ腕組むのが限界とか言ってたぞ。」
ネオのおっさんが暖簾をくぐって出てくる。
「ううううううううううるさいっ!!お前らには関係ないだろ!!」
「なんだよ顔真っ赤にしながらネオのエロ本捨てた癖に!!」
「きしょいな。女の子が純情なのはかわいいが男が純情すぎるのはきしょいぞ。」
すでにシンハロとゲンは大量にアニメやらCDやらの入った篭をレジに持っていって精算している。
「そういやレイってどんなのが好きなんだよ?」
「俺は人妻とかその辺だな。アウルは?」
ネオのおっさんも男性店員のレジで精算をしている。
「女子校生とか好きなんだけどさ・・・、おばさんばっかで嫌になるよねー。」
「お前らーー!!」
いい年した男子三人がどったんばったんと暴れる。おかーさーんあれなにー、こら見ちゃいけませんとか確実に言われている。
そんな三人から目を背けてとっとと目当てのモノを借りたネオ、シン、シンハロは他人のふりをしてその場から去った。
一応つっこんでおくと、プラントでは15で成人なんだが・・・。
でもほんと、どうなってんだろうな、こういう年齢制限はあの世界。
プラント:15歳で成人←ニコルのように戦っても違和感なし?
連合:ナタル「あれくらいの歳で戦場に〜」←キラたちの年齢で戦場に出るのはイレギュラー?
プラントは最初から年少(成人扱いだが)でも戦わせていて、
連合は大人だけでは数が足りなくなってきたってことか?
III氏&ほのぼの氏乙!
最近は続々と新作が投下されてていい感じですな
479氏乙でした!
避難所のレスも拝見しましたが、そう考えるど妙に納得してしまいますね。
そんなものが微塵もなかったのが負債の種なんだが・・・w
愚痴については一読者はなんとも言えませんが次回も楽しみにしています!
念のため一日一レス保守
まあ980レスいってないから二日くらいは大丈夫なんだろうけど
「保守」と書いても、つまんないからなんかネタふりできれば良いんだけど。
「よーし!!じゃー作るぞー!!」
「おー!」
ステラとマユは声を上げる。
マユは赤のエプロン、ステラは水色のエプロンをそれぞれ着けている。
「マユ・・・お野菜はどうするの・・・?」
「んーと、たまねぎはあめたまって言って飴色になるまで炒めると美味しいんだよ。」
「じゃあ・・、たまねぎ・・・・切るの・・。」
そう言ってステラはたまねぎを切り始める。
もちろん水泳用ゴーグルを装備して。
その隣でマユはにんじんを切っている。
そして切り終わった。少し大きさがばらばらなたまねぎとごろんごろんとした大きさがものすごくばらばらなにんじん。
「・・・・・・・、気にしない!!ステラ!!炒めよう!!」
そう言ってマユはサラダ油をフライパンにひいてからたまねぎを入れる。
「・・・・火、どれくらいだろう。」
「時間ないから・・・・・強火で・・・・いいと思うの・・・・。」
そう言ってごーっと中華よろしくの強火でたまねぎを炒め始めるマユ。
ついでに人参も一緒に炒める。
・・・・・表面が焦げ付いてきた。
どんどんどんどん黒くなっていく。
「こんくらいでいいかなー。」
なにかプスプスいっている。
「次・・・・ルー・・・作りたい・・・・。」
順序とかそう言うのは考えずとりあえず本能おもむくままに二人はルーを作り始める。
「えーっと・・、小麦粉と・・あと適当に買ってきたスパイスと・・・・。」
「・・・・・ココアの粉は・・・?」
「いいね、それ。あと・・・・粉末中華スープのもとがあるからいれよっか・・・それと・・・・。」
少女達は自分の勘を信じきって調合を始める、しかし、戦場は勘だけでは生き残れないのである。料理も叱り。
このあと待っている結果を、彼女達は想像もしなかった。
「ただいまー・・って何だ?!この匂いは?!」
レイが思わず鼻をつまむ。
周りもシンハロ以外全員鼻をつまむ。
「何なんだよ・・この匂い!!」
『うーん、さすがに気体検知器の昨日は俺についてないからなぁ・・・・どこから匂ってくるかは空調システムから推測できるけど・・・。』
「役に他立たないロボットだな!!とっとと案内しろよ!!マユとステラが危ないじゃないか!!」
『んだとぉ?!その義足義手のパワーをフル活用できてない間抜けサイボーグに言われたくないね!!』
ダブルシンの喧嘩の声を聞きつつ一同を進んでいく。
そしてたどり着いたのはキッチン。
「ステラ!!」
『マユ!!』
二人が入るとそこには倒れているステラとマユがいた。
そして周りの状況が全てを物語っていた。
転がるたまねぎ、にんじん、じゃがいも、なまにく。
テーブルの上に広がる古今東西のスパイスやらお酒やら調味料やら。
そして異臭を放つ鍋。
「「「「「『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」」」」」』
男性陣はそれぞれ黙って仕事を始めた。
シンハロは臭覚センサーをオフにして鍋に近づき蓋をする。
とりあえず匂いがもれないようにガムテープでぐるぐる巻きにする。
そのまま海側の庭までいき海に全力で投げ捨てる。
お魚さんたちごめんなさい。でもプラントに環境問題もへったくれもないし、餌だと思って食べてください、そうシンハロは心の中で呟いた。
レイとシンとアウルは三人で協力してステラとマユを居間まで運ぶ。
気絶している二人をソファに横たえる。
アスランは大急ぎで消臭剤やスプレーを台所に設置する。
そしてネオとスティングがマユ達が使った器具の後片付けをする。
数時間後・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「はっ!」
「うぇい・・?」
マユはばっと、ステラはんーっと気がつく。
「おー、気がついたかお前ら。」
見ると別のソファでネオが新聞を読んでいた。
「・・・カレー作って・・・・煮込んでたら・・・きがとおく・・・。」
ステラが頭を抱えながら思い出そうとする。
「思い出さないで、ステラ。」
シンがステラの肩をぽん、と叩く。
「マユ、それよりシンハロがお前の見たがってたアニメを借りてきてくれたぞ。」
そう言ってレイは赤いゴスロリドレスを着た少女のパッケージのDVDを渡す。
「あ、トロイメント。」
マユはそれを受け取り呟く。
「見るか?」
アスランがそう言うと返事を待たずにDVDを再生しようとマユの手からDVDを奪う。
マユとステラはまだ覚醒しきらない頭でアニメを見始める。
すると、台所の方向から良いにおいが漂ってきた。
「おーい、ちょっと人手が足りないからアウル、ゲン、手伝え。」
エプロンをしたスティングが扉を開けてひょこっと現われる。
「えぇ〜?」
「何で俺達なんだよ・・。」
「文句いうな、俺達はレイに止めてもらってるんだし、アスランとネオは上官なんだ。ほら、いまシンハロが一人でやってるんだから早くしろ。」
ぶーぶー文句をいいながらもキッチンへ向かう二人。
「ステラ・・・・。」
マユはアニメを見ながらステラに話しかける。
「何・・・・・?」
「何か・・・・果てしない敗北感を感じない・・・・・?」
ステラは、静かにゆっくりとうなずいた。
ちなみに、その日の晩御飯のカレーはとても美味しかった。
248 :
ほのぼのマユデス。:2006/07/21(金) 00:06:13 ID:PJ/86223
sage忘れました・・・すいませんozt
((_
〃´ `ヽ
i .( (( ))ノ
ノ リ ´_ゝ`ノ
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_
\/___/
シンハロのつもりです・・・。
>>250 ちょっと修正。
((_
〃´ `ヽ
i .( (( ))ノ
ノ リ ´_ゝ`ノ
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_
\/___/
単発設定小話 「オーブ」スタンドアローン編J
〜オーブ本島〜
オーブの偉い人A「ウナト殿はどうした?」
オーブの偉い人B「もうじき到着されるようですよ」
オーブの偉い人C「まったく・・・ウナト殿も大変なことに巻き込まれましたなぁ。ふ・・はっはっはっは!」
オーブの偉い人D「まぁまぁ、そう意地の悪いことをいってやるな。明日は我が身ですぞ?ふっふっふ」
オーブの偉い人E「いやいや、余裕がありますなぁ」
側近A「皆様方、ウナト様がご到着いたしました」
〜部屋の扉が開かれウナト・エマ・セイランが入室する〜
ウナト「いや、お待たせしました」
オーブの偉い人C「なにをおっしゃいますか。・・・今日の主賓ではありませんか」
ウナト「っく・・・・・・いやいや、大事な時期ですからな。欠席するわけにはいかないでしょう?」
オーブの偉い人E「まぁ・・・約二人ほどこの場にいなければならない方がいらっしゃいませんがなぁ・・・っくっく」
オーブの偉い人A「ふん、サハク家の嬢ちゃんはアメノミハシラからは動けんよ」
オーブの偉い人D「あと一人はアスハ代表は行方不明・・・でしたかな?ウナト殿?」
ウナト「そ、そうですな。それは間違いないでしょう」
オーブの偉い人B「嘘をいってはいけませんな。ウナト殿。ご子息殿がなにやら吹いてまわっているらしいですが?」
ウナト「っは。不出来な息子でね。皆さんには迷惑をおかけします」
オーブの偉い人A「なんでも一緒に居たらしいじゃないか。あの難民集団とっ!」
ウナト「・・・そうなのですか?」
オーブの偉い人C「プライドだけは高いご子息のこと、タケミカヅチを失ったことも大方錯綜した情報を認められなかったのではないですかな?」
オーブの偉い人D「そうそう、タケミカヅチ・・・あの船を失ったことはわが海軍力の低下は免れませんぞ?どう責任を取るつもりなのかね?」
ウナト「そ、それは・・・・・・」
オーブの偉い人E「連合なんぞと安易に組むからそういことになるのですぞ?トダカ一佐でしたか、ご子息を逃すために人柱に立ったらしいですな?」
オーブの偉い人A「そう!トダカだ!あいつはこんなことで死んでよい人材ではなかったのに!」
オーブの偉い人C「生き残った連中も、アークエンジェルと合流したそうですな!」
ウナト「!・・・そんな情報なぞ・・・・・・」
オーブの偉い人D「なんだね?我々がそこまで情報を掴んでいないとでも思っていたのかね?」
〜ウナトを非難する意見が散々浴びせられる〜
女の声「氏族の方々!もういいではありませんか!?」
〜壁面モニターから女の声が突然割って入る〜
オーブの偉い人B「!・・・ロンド・ミナ・サハク・・・か!?」
ミナ「遅れてしまい申し訳ない。皆様方。先ほどから聴いていたのですが、若輩者の私には中々割り込みづらくてね」
オーブの偉い人A「っくっくっく。ミナ嬢ちゃんも人が悪い。立ち聞きはあまり行儀よくありませんぞ」
ミナ「すいませんね。アスハ代表よりも育ちが悪いものでね。ご容赦願いたい。・・・っと、今日の主題は今までのことの反省会ではなくて、
これからのことを話し合うのではなかったのでありませんか?」
オーブの偉い人B「・・・うむ、そうだったな」
オーブの偉い人D「ウナト殿の責任云々は別で話し合いの場を設けましょう」
〜ミナの一声でようやく今後のことを話し合う気になった「オーブの偉い人」達だった〜
完 ・・・・・・次回、「デュランダル」スタンドアローン編Kへ続く。
隻腕マダー?
しつこいからもう来ないってさ
マユ種まだですか・・・?
6/4に来たじゃん
現在の連載陣は全員一緒に外部サイトに移ったから、もうここには来ないってさ。
「アキラお兄ちゃん、死してなお苦しませる魔術って知ってる?」
『マユー!!マーレに何する気だーー?!』
ものすごい形相でアキラに質問するマユをシンハロが止める。
「え・・、じゃあゾンビにする?相手の魂も死体も奴隷にできるよ?死体はくさらないし。
それに永遠の苦しみつき。あとは・・・イタカあたりでも召喚して世界一周してもらう?終点はヒマラヤのてっぺん。
そうそう魂を瓶に閉じ込める術もあるし・・恥かかせたいなら対象の体をのっとる術とかもあるよ?」
「お前も教えるな!!」
なにやら様々な知識を教えようとしたアキラにハイネが怒る。
「それにしても・・・まぁ皆ネタに走ったわねぇ・・・。」
グレイシアが結果を見ながら呟く。
「マーレなんかはほぼネタで書いてるよな・・・。某エヴァの人気投票か?」
レイがぽつりと呟く。
「ステラにんきだよー!」
ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶステラ。
「よかったなぁ、ステラ。」
ステラの頭をなでるスティング。
「アキラ・・・・なにお前一人で三票も入ってんだ・・・・・?」
「ひぃぃっ?!」
ジョーがうりうりと首を絞める。
「・・・・・・・・・。」
ゼロまで全身を布でしばりじわりじわりと締め付けてくる。
「違うって!!二票だけだって?!」
「どう言う意味?」
アキラの言葉にカルマが首にナイフを突きつけながら聞く。
「だっておれらメインキャラの項目の一票は作者の妹が
『おい、項目何もないじゃん、しゃーねーなー。』
って思って作ったのだからカウントしないんだよ。」
「「「「「「「「え?」」」」」」」」」
まだ投票数が1、でなおかつ初期からあったメンバーが硬直する。
(゚д゚ )(゚д゚ )(゚д゚ )(゚д゚ )(゚д゚ )(゚д゚ )(゚д゚ )(゚д゚ )
( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )
そのまま、石になり、風化してさらさらと流れる。
「うわ!!だれか金の針もってこい!!」
「かけた部分はポリパテで修復するか?!」
『あぁ・・!ハイネの前髪が!!これじゃただの西川だ!!』
「ねおー!!すてぃんぐー!!」
【はい、というわけでMSの実況でさぁ。お、あっしも票が入ってますらぁ。】
【うむ、私も票が入って喜ばしい限りだ。】
うんうん、と二人して頷くフォースとブラス・・・・疾風。
【意外だな・・、ガイアがディスティニーより上か。】
【わう♪】
ガイアの頭をなでるカオスに皮肉るアビス。
【僕も票が入りました・・・!あっ・・、ありがとうございます!!僕みたいな目立たない明らかZガンダ○パクリじゃねーか
みたいなMSに票をいれてくださって!!】
【・・・・そこまで謙遜しなくても・・・・。】
セイバーの嬉しいのか自虐的なのかよく解からない言葉には流石のアビスもどうしようもない。
【ふむ、そうか。あれだけ興奮しておいて我が妹に票をいれぬか・・・・。コロス。】
【兄上!?早まらないでください!!】
一瞬あきらかにキャラの違ったレジェンドをディスティニーが止める。
【・・・・・ふむ、余としたことが興奮してしまったようだ。そうだな、殺すより脅迫して票を入れさせたほうが良いな。】
レジェンドの言葉にディスティニーが激昂する。
【ちっとも良く有りませぬ!!だいたい妾、もとい我らMSは主に仕えるもの!人気などに惑わされては・・・!!】
【ふーん?そのわりには嬉しそうだけど?あ・ん・た。】
指を振りながらストライクMkUがディスティニーに言う。
【なっ・・なななななな!!けっしてそのようなことははははは!?】
ディスティニーの反応にMkUは意地悪く笑う。
【照れるなって・・、まぁ可愛いからいいけどさ。ともかく入れてくれた奴がいるんだから礼くらいは言えよ?】
【わ・・・っ!!解かっておる!!え・・・あ・・票をいれてくださった見ず知らずの御仁、感謝いたします。】
【かった苦しいなぁ・・、『入れてくれてありがとうございます、ご主人様♪』くらい言えよ。】
【言えるかーーーー!!】
だが、ディスティニー達がわいわいやっている向こうでは一つの影が・・・・。
【なんで?三つ子なのに俺だけ票が入らないの?】
体育ずわりで隅っこにうずくまるフォースインパルス。
それをなぐさめようと始めからハイネ隊MS一行が励ます。
【元気だすのだ!男がないたらだめなのだ!!】
手品で目の前に花をだすカルーア(カルマザク)、反応なし。
【・・・・戦闘中のコクピットの中の映像いる?】
ぼそりと、耳元で囁くイデン(ミーアザク)、あ・・・・ちょっと反応した。
【しょうがないなぁ・・・・・、僕オトコノコはあんまり好きじゃないんだけどなぁ・・・?】
【やめろーー!!精神的BL?!】
急に耳元に囁いてきたグラッド・アイ(グレイシアザク)、大いに反応する。
【おいおい、やめろよ。落ち込んでるんだろ?いらない子っていわれて。】
【そこまでいわれてねぇよ!!】
はっはっはっはと笑うアルディラ(アキラザク)にフォースが突っ込む。
【と、いうわけでぇ♪俺達が人気上昇のためのアイテムを用意したぜ♪】
そうイグナ(ハイネグフ)にいわれて首をかしげるフォース。
そして向こうからジャバウォック(ジョーザク)が運んできたのは・・・・・・。
魔女っ子衣装、MSで言う所のマジカルインパルス使用レッグ&チェスト。
すぐさま逃げ出すフォース、だが瞬発力なら上であるキティ(キースザク)が立ちふさがる。
一瞬ひるんだ隙にズーム(ゼロザク)が布でぐるぐる巻きにする。
【え・・嫌だ?!なんでなんでそれなの?!せめて・・・・こう・・もっと・・ぎゃー!!脱がせるなーー!!
イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァ・・・・ ・・・・ ・・ ・ ・ ・ 】
マユごめん!!
マーレ様に最初に票入れたの俺なんだ!!!
sage
考え付いたネタがあるんですが、新作を投稿するって雰囲気じゃ無さそうですか?
いえいえそんなことはありませんよ
ただ時期がなんで、そこは覚悟しておいたほうがいいと思います
PPまだー?
職人さんだって忙しいんだ
人気投票マユに投票して隻腕に燃えたって書いたの誰だよ…
ほのぼの版マユへの投票だろうが…
カワイソス(´・ω・`)
単発設定小話 「デュランダル」スタンドアローン編K
〜ジブラルタルに降り立つデュランダル〜
議長「さて、このへんでうるさいのをたたいておきたいのだがね・・・・・・」
ザフト兵「デュランダル議長、こっちのハンガーにX42SとX666Sを移しておきました」
議長「うむ。ミネルバのマユ・アスカとアスラン・ザラ、レイ・ザ・バレルを読んでおいてくれたまえ」
ザフト兵「っは」
〜MSがおかれているハンガーに一人残る議長〜
議長「SEEDの覚醒とエモショーナルシステムの融合が上手く働けばいいのだがね・・・・・・」
〜ハンガーにマユとアスランがやってくる〜
議長「やぁ、アスランにマユ・アスカ君。元気そうで何よりだよ。・・・ん、レイはどうした?」
アスラン「ごぶさたしてます。レイ・ザ・バレルは遅れてやって来るそうです」
議長「そうか。・・・ん。ああ、そんなに改まらなくてもいいさ。なにしろ君達は英雄だからね」
マユ「これまでやってこれたのはミネルバのみんなのおかげです!私一人の功績ではありません」
議長「ふふ、それが君の強さか。いやはや、君には驚かせられるばかりだよ。」
マユ「議長・・・」
アスラン「議長、すいません。せっかくいただいたセイバーを・・・」
議長「ああ、いや仕方ないさ。相手がフリーダムでは瞬発力ではあちらが上だしね。しかし君はそのフリーダムをザフトに取り返してくれた。あの機体は是非とも役立たせてもらうよ」
アスラン「すいません」
議長「・・・すぐに謝るのはよくないな、アスラン。この戦争も幕はもうすぐ降ろされるだろう。君達にも、あと少しがんばってもらわなければならない」
マユ「それはもちろんです。そのために戦ってきたのですから・・・」
議長「そう、我々コーディネイターは戦う為に存在しているわけではないからね。・・・そこでだ」
ハンガー照明オン
マユ「・・・っ新型のMS?」
アスラン「これはっ!?」
議長「君達にこの新型MSを託したい。赤い翼を持つデスティニーとドラグーンを装備したレジェンドだ。これで一刻もはやく戦いを終わらせて欲しいのだよ。そして・・・」
マユ「デスティニー?」
議長「そして、君達がこれからの未来・・・運命を切り開くんだ。その為のMSだよ。デスティニーはマユ・アスカ君へ、そしてレジェンドはアスランに・・・」
アスラン「私に・・・この機体をですか?」
マユ「これを私に・・・?」
議長「・・・そう、君達だからこのMSを託したいんだ。」
マユ「あ、ありがとうございます!マユ・アスカ確かに新型MSデスティニーを拝領致しました!」
アスラン「ドラグーン?・・・しかしデュートリオンでもエネルギー供給が間に合わないでしょう?」
議長「さすが、アスランだ。そこまでちゃんとわかっているね。・・・確かにインパルスなどのセカンドシリーズの技術をもってしても供給率は足りない」
マユ「ドラグーンってそんなに消費が激しいんですか?」
議長「うん。各端末への供給と量子通信がすごい電力消費が多いんだ。・・・こんな細かい話はつまらんかな?」
マユ「あ、いえ。そんなこと・・・ぜんぜん・・・・・・」
〜首を横にふるマユ〜
議長「答えを言うと、この2機にはハイブリッドを導入していてね。それのおかげでエネルギー問題は解決されているのさ」
アスラン「ハイブリッドですって!?それは・・・核エンジンを積んでいるっていうんですか?」
議長「それは二次的に使用するだけだよ・・・」
アスラン「それでも・・・それは条約に違反しているでしょう!?」
議長「・・・核を始めに使ったのは連合だよ。前回も今回も。ベルリンでの巨大なMSには各エンジンが搭載されていたようだよ。爆発しなかったのは幸いだったね」
アスラン「議長・・・・・・」
完 ・・・次回「フェイス」スタンドアローン編Lへ続く。(この辺は以前投下しましたが、ストーリーが当初考えていたものから変わってきたため焼き直しでお送りいたします)
単発さん投下おつかれです。
なにやらレイの動向が気になる文章ですね
次回も期待しております
そして、こんな時間に見つけた俺寝不足ケテーイ
単発設定小話 「フェイス」スタンドアローン編L
〜引き続きハンガーにいるデュランダルとアスランとマユ〜
議長「さて、MSの話はこのあたりにしとおこう。後は君たちがこいつに命を吹き込んでくれ」
マユ「はっ!」
議長「うん、いい返事だね。・・・さて、おい持ってきてくれ」
〜ハンガーの置くから小箱を手にしたミーアが現れる〜
アスラン「・・・ミー・・・・・・ラ、ラクス!」
マユ「?・・・・・・ラクス様」
ミーア「ご無沙汰して下りますわね、アスラン?」
アスラン「なぜ・・・ここに居る?」
議長「ラクス嬢には私がお願いしてジブラルタルへ来ていただいたんだよ。正念場だから兵の士気を少しでも上げておかないとね」
ミーア「・・・そういうことですわ」
議長「さて、アスランとラクス嬢には立会人になってもろうか」
アスラン「・・・・・・立会人?」
〜マユの方へ向きなおし、ミーアが手にしている小箱の蓋をあけるデュランダル〜
議長「マユ・アスカ、君をフェイスに任命する。・・・受け取ってもらえるかな?」
マユ「・・・・・・わ、私がフェイス・・・ですか?」
議長「そうだ。君がフェイスだ」
ミーア「おめでとうございますわ。マユさん」
アスラン「・・・・・・」
マユ「・・・・・・私・・・これを受け取る資格なんて、ありません」
議長「ふむ・・・理由を教えてくれるかね?」
マユ「私・・・私は戦争に私情を持ち込んでしまっています。プラントのことを私情より優先して考えられるか・・・自信がありません」
アスラン「マユ・・・・・」
議長「戦争は、自分の意思にかかわらず関わった人間全てに傷を残す。そして、その傷を癒すことは容易ではない」
ミーア「・・・・・・マユさん。戦争に自分の傷を持ち込ませずにすむ人などおりませんわ」
議長「君の傷がどんなことかは知っているつもりだ。そしてそれが癒えることはプラントにとっても不安を取り除くことにもなるんじゃないかな」
マユ「デュランダル議長・・・」
議長「だから、そのままの君にこのバッジを受け取って欲しいんだ。君は自分の心を自覚しているし、はっきりと見えているだろう?」
アスラン「自分の・・・心・・・・・・か」
〜アスランに一瞬視線を移すデュランダル〜
議長「君は君が成せることをすればいい。・・・・・・受け取ってくれるね?」
マユ「・・・・・・はい。・・・私、フェイスになります」
ミーア「・・・では、バッジをつけさせていただきますわね」
〜マユの胸にフェイスのバッジをつけるミーア〜
マユ「・・・(ミーア姉ちゃん)」
議長「よしこれで落着と。君たちはグラディス艦長によろしく伝えておいてくれないか?私はどうもミネルバにいっている時間がなさそうなのでね」
マユ「了解いたしました」
〜デュランダルに敬礼するマユとアスラン〜
議長「ラクス嬢も来てくれ。明日からの予定を打ち合わせねばならんからね」
ミーア「はい。・・・それではマユさん、・・・アスラン。・・・ごきげんよう」
アスラン「ああ、ラクスもな・・・」
〜アスランの返事ににっこりと微笑み返すミーア〜
完 ・・・・・・次回「ミーア」スタンドアローン編Mへ続く。
>>273 単発様乙!
本編でシンが勲章もらった時と比べると、マユの方がちゃんと自分の意思を示していて、カッコイイと思った
フォースが急に順位が上昇してるw
まじだwwwwフォースwwww
下手したらマユがアスランにまで捉えられそうなほのぼの人気投票
さしもの腹黒マユも1位がステラなら呪ったり出来んであろう
278 :
264:2006/07/25(火) 18:04:50 ID:???
(覚悟、完了)
「うっは……グチャグチャだ」
「あんまり見るな。今日の晩飯、ビーフシチューだぜ?」
「キツいね」
あちこちから黒煙が上がり、焼けた木々が転がるオノゴロ島山中。
白いコートを羽織った2人の男が、何かを探し求めるように歩き回っていた。
1人はセンサーのような物を持ち、もう1人は医療用のバックパックを背負っている。
2人とも肩からサブマシンガンを提げてはいるが、引き金に指を当てる必要は無さそうだった。
爆撃で出来た大穴の中を覗き込んでいた1人が、表情をゆがめて顔を背ける。
「損傷の少ないコーディネイターの体組織と、出来れば生きてるサンプルか。どう思うよ?」
「後者はボーナスが出るんだっけ? 望み薄だが…」
「そうじゃなくてさ、ブルーコスモス的にアリなのかなって」
「『次期盟主』のリクエストだからな。絶滅戦争よりも金儲けに興味をお持ちらしいぜ」
「平和主義者か。良い上司だ」
「相対的にな。……と! 生存者がいる! 炭酸ガスと微弱な体温を検知!」
「コーディか?」
「解らん、ナチュラルなら殺す必要があるが……そこの瓦礫だ。探すぞ」
ブザー音を鳴らすセンサーを切って、2人は傍の瓦礫に歩み寄る。1人のブーツに、柔らかい
物体が当たった。
「右腕……女の子かな。組織を採取しろ。掃除は俺がやる」
「ああ」
1人が医療用バックパックから試薬を取り出す中、もう1人が瓦礫を取り除く。やがて、
右腕の無い少女の身体が現れた。薄い膜が張っているような虚ろな瞳を男に向ける。
「状態が良い! どうだ、コーディだろ!?」
「まあ待て。あと少しだ」
「……、い」
「ん?今喋ったな。何か、言ったか?」
カサついた唇が何かを言いかける。男が聞き返そうとした時、もう1人の声が上がった。
「ビンゴ! こいつ、コーディネイターだぞ!」
「よし、ヘリを呼べ! ……腕はどうなる?」
「……め、なさ……」
「応急処置で何とかなる。ヘリの設備なら、ロドニアのラボまで保つさ」
「そうか! ボーナス頂きだな!」
「ああ、今日はたっぷり飲もう」
男達の声と、近づいてくるヘリのローター音が、少女の掠れ声を掻き消していく。
「ごめん……なさい……」
――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
279 :
264:2006/07/25(火) 18:07:26 ID:???
――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
PHASE01:マリア
「あー! マユの携帯!」
転がっていく、ピンク色の携帯端末。買ってもらったばかりのお気に入りで、友達の写真も
沢山入っていた。大切な物だった。
「そんなの良いから!」
そう、命に比べればどうでも良い。けれどもあの時、叫んでしまったのだ。
「いやっ!」
その声を聞いて、兄が携帯の方へと走っていく。悪い事をしたという気は起きなかった。
だって、携帯は何をするにも大切だったのだから。
そして、閃光、爆発。右腕の激痛と共に小さい身体が宙を舞って、地面に叩きつけられた。
瓦礫が降り注ぎ、身動きが取れなくなる。
「あぁっ!! お兄ちゃん! パパ、ママぁ!!」
叫ぶ。否、叫んだつもりだったが、聞こえない。爆音で耳をやられたのだ。
そして、瓦礫の隙間から見てしまった。
半分になった、母親の身体。何かがべっとりとついた父親の服。兄の姿だけは見えなかったが、
どうなったかくらい、その時の自分にだって想像がつく。
自分の所為だ。
自分さえわがままを言わなければ、あの場から、少しでも離れていれば。
家族は誰も死ななかった。港の船に避難できた。携帯だって買い直して、
友達にアドレスを聞き直せば済んだ話なのだ。
「ごめん、なさい……」
その凄惨な光景を見たくないと、目を閉じようとしても、顔を動かそうとしても叶わなかった。
まるで、見ろ、と誰かに押さえつけ、目を開かされているかのように。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめん、なさ……い……」
右腕の傷からとめど無く流れる血が、ようやく彼女の視覚を奪ってくれた。
次に目を覚ましたのは、全てが真っ白な、病室のような場所だった。白衣を着た女性が、
状況を簡単に説明してくれた。
君は辛うじて命を救われ、腕も取り戻した。しかし自由はない。この研究施設で、君は
人間としての権利を奪われ、生きた兵器として造り変えられていく事になる。
実際、今ひとつ理解できなかった。
ただ解ったのは、死ねなかったという事と、死ぬより辛い目に遭うという事だけだった。
280 :
264:2006/07/25(火) 18:13:24 ID:???
――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
そしてそれは、思考の冷え切ったマユにとって、至極当然の成り行きだった。
自分の下らないわがままの所為で、家族は皆死んだのだ。ただ死んで楽になってしまっては
釣り合いが取れない。
ならば。
この世界に在る全ての苦しみを、痛みを、哀しみを吸って生きよう。
兵器になれと言われれば兵器になり、人を殺せと言われれば殺そう。憎まれよう、恨まれよう。
あらん限りの苦痛を背負い、汚らしくもがき続けよう。何時の日か、避け得ない運命が訪れるまで。
説明を終えた女性研究員に対し、マユは頷いた。
こうして、少女マユ=アスカは殺された。他ならぬ、彼女自身の手によって。
「どうかね、あのサンプルは」
紫のルージュを薄く引いた男が、長い廊下を歩きつつ傍らの研究員に問い掛ける。
「良好です。アズラエル理事が亡くなられた後は尚の事。設備もより使いやすくなり…」
「それは良かった。報告によれば、何度か危険な状態に陥ったそうだが」
「ええ。ナチュラルならば4、5回は死んでいるでしょう。コーディネイターの頑健さは
素晴らしい。いや、コーディネイターだからというだけでは説明がつかない程です。彼女は」
そして2人は、1人の女性が納められたカプセルの前に立つ。溶液で満たされた内部で、
胸の前で指を組み、眠り続ける彼女。
「驚いたな……別人のようだ」
「強化手術の副作用です。まず、最低限の戦闘が行えるように成長を速めました。
その上、額と首筋に制御チップを埋め込み、合成レトロウイルスによる後天的な…」
「先進かつ違法な全ての医療技術を彼女で試したわけか。まあ、指示したのは私だが」
「彼女自身の希望でもあります。どんな実験にも使ってくれ、と」
そして、彼女は全てを乗り越えた。異常成長による全身の圧迫感と激痛にも、制御チップ
の最適化時に起こる昏睡状態にも、ウイルス感染における免疫低下にも。
全てを終えて最終段階に入った時、そこにマユの面影はなかった。
170半ばの長身白皙。銀に近いライトグレーの、腰の下まで伸びた髪。アスリートのような
無駄のないしなやかな体躯。
そして、
「サンプルM、覚醒します」
オペレーターの声と共に、晴れ渡った空を思わせる双眸が見開かれた。
281 :
264:2006/07/25(火) 18:21:12 ID:???
――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
艶やかな銀髪が揺れ、裸体を覆い隠す。強化ガラスの壁面に、ほっそりとした手を突く。
虚ろな瞳に、オペレーターと2人の男が映し出された。
「いかがですか? ジブリール卿」
「……いや、いかがと言われてもね。彼女、特に問題は起こさなかったか?」
顎に手をやったジブリールの問いに、研究員はしばし逡巡した。
「眠っているサンプルへの暴行を企てた3人の職員を殺害した以外、何も」
「……拘束具を着けていなかったと?」
「いえ、ベッドに固定してありました。設定限界を超える力が加わったのです」
淡々と報告した後、どこか抑えきれぬ口調で研究員は一言付け足した。
「素手で引き千切られた人体を、私は初めて見ました」
「ふふっ。無礼は許さんというわけだな」
「はい。ジブリール卿の御希望通り、服従因子も植え付けておりませんので」
「うん。そこは妥協できなかったんだよ」
そう言った後、ジブリールは再びカプセルを見遣った。
「彼女、何時まであの中で調整を受けているのだ?」
「今日で最後です。本来は一週間前に期間を終えていたのですが、用心を重ねました。
白兵訓練、MS操縦訓練などは問題なく進んでおりますので、ご心配なく」
「素晴らしい。では私は仕事に戻る。これでも多忙だからね」
そう言って踵を返そうとするジブリールを、研究員が呼び止めた。
「お待ちを。サンプルのコードネームですが……」
「ん? まあ、流石にマユ=アスカと名乗らせる訳にはいかんな」
「ええ。ジブリール卿に決めて頂こうかと」
「……なぜかね? 私が口出しする領域ではあるまい?」
「貴方のリクエストを全面的に盛り込んだ個体です。是非」
研究員に重ねて言われ、ジブリールはしばし腕を組む。たっぷり30秒経った後に、
1つの名前を告げた。
「『マリア』は、どうか? イニシャルも同じMだしね」
「マリア……ですか?」
「旧世界の宗教書に登場する、救世主を出産した聖母の名だ」
ありふれた名前に今ひとつピンと来ない研究員に、ジブリールは笑いかける。
「男と交わる事無く子を身ごもり、天使ガブリエルに受胎を告知される……まあ、気に
入らなければ変えてくれて良い」
「あ、いえいえ是非! マリア、ですか。では早速!」
ジブリールが去った後、研究員が手元のコンソールキーを叩く。
蒼穹の瞳は閉ざされ、聖母の名を冠された兵器は束の間の眠りに落ちた。
282 :
264:2006/07/25(火) 18:28:01 ID:???
というわけで投下させて頂きました。囂々たるお叱りの声が今から聞こえてきそうです。
医療技術の設定ですが、CEに存在する諸々の科学技術を見まして、これくらいあるだろう
という推測の元、書きました。
髪の色瞳の色、更に言えばプロポーションまで変わってしまっているので、「マユじゃない!」
にも程がありますが、平に御容赦願うしかありません。
特に問題が無ければ続けさせて頂きたいのですが、駄目だろうなあw
俺はある程度文章の腕をお持ちなら誰にでも書き込む権利があると思う。
(素人は書くな、と言うんじゃないがどうしても熟練者と比べられて苦しいだろうし)
改行も見やすいし、殆どの職人さんが回避し得ない冒頭のマンネリ携帯落としシーンからして
視点をずらす事で見事に既視感を減殺してる。
続けていいと思う、というのがいち名無し個人の感想。
まあこれは嘗て誰よりもブッ飛んだ設定のマユ種を考えてた俺だから
作り手のほうには甘くなっているのかも知れんがw
>>264 続ける続けないは俺らが決めることじゃない。
継続的にレスがつく=住人が氏のマユに感情移入するまでは
書いててくじけそうになるし、人気が出たら出たで
批判レスも比例して増えるのはご存じの通り。
何を言いたいかというと、書くのが苦しくなるまでは頑張って欲しいなと。
面倒な設定は回収も大変だけど、物語の可能性に期待。
>>264様
これはまたダークマユ路線に走りそうな内容ですね。
どんな風に話が進行するのか想像もつかないので、期待大です! がんばってください!
今度の新作のジブリールもいい味出しそうな気がするよ
単発設定小話 「ミーア」スタンドアローン編M
〜デュランダルの部屋にて〜
議長「ふむ。では明日はこのスケジュールでいくとしようか」
側近「は。承知いたしました」よ
議長「みんな、ご苦労様」
〜誰かが扉を叩き、側近が扉を開ける〜
側近「どうした?」
レイ「レイ・ザ・バレル、出頭いたしました」
議長「やぁ、レイ。今会議が終わったところだよ。タイミングがいいね」
レイ「は、入ってもよろしいでしょうか?」
議長「もちろんだよ。さぁ、はいったはいった」
レイ「失礼します」
議長「ああ、じゃぁみんなまた明日」
側近「は、失礼いたします」
ミーア「・・・失礼いたします」
〜レイはすれ違いざまにミーアに耳打ちする〜
ミーア「レイさん、ご機嫌よう」
レイ「・・・さすが、自称ラクス・クラインだな。かなり本物にそっくりになってきたじゃないか」
ミーア「!!・・・っつ・・・・・・」
レイ「自分の役目を忘れるなよ?」
ミーア「・・・・・・わかってる」
〜ミーアは扉を閉め、退出してゆく〜
議長「レイ・・・無事でなによりだよ」
レイ「ギル・・・・・・」
〜デュランダルに抱きつくレイ〜
〜廊下を一人歩くミーア〜
ミーア「あのオカマ野郎め・・・・・・私の役目、忘れるわけないじゃない!私が・・・私がラクス・クラインなのよ!・・・あ!」
〜正面からアスランが歩いてくる〜
アスラン「ミーア!・・・・・・お前、まだそんなことをしているのか?」
ミーア「なぁに?またお説教?やめてよね・・・今は私が本物のラクス・クラインなのよ」
アスラン「はぁ・・・そうか」
ミーア「そうそう、それよりもアスラン!ダメじゃないの!・・・っとここじゃ目立つはね。アスランの部屋に行きましょう」
アスラン「ミーア・・・・・・」
〜アスランが与えられた部屋に行くアスランとミーア〜
ミーア「アスラン!ダメよ、議長の前であんな態度しては!」
アスラン「・・・・・・ミーア、お前もわかっているんだろう?議長の提言を・・・デスティニープランだって?」
ミーア「そうよ。デスティニープラン・・・いいじゃない!議長は世の中をもっともっと良くするために、世界中のみんなが不自由なく
暮らせる世界を作るために素敵なことを成し遂げようとしているのよ?」
アスラン「素敵なことだって!?」
ミーア「そうよ、素敵なことよ!・・・・・・でも・・・アスランは議長のやり方に疑問をもっている・・・」
アスラン「議長の提言は・・・自分を自分でなくさせてしまうということに気がつかないのか?お前は!」
ミーア「違うわよ!・・・私がアスランに伝えたいのはそういうことじゃない!・・・・・・議長の恐ろしさを何もわかってないのよ!」
〜ミーアの興奮した声に驚くアスラン〜
・・・・・・「ミーアU」スタンドアローン編Nへ続いてしまうんだな。
>>単発設定小話作者様
ミーアからレイに対してインパルスな発言がw
煽り合いの関係のレイミアってなかなか良いものですね
>>264様
マユの幼女卒業にその手があったか!
誰か銀髪(グレー)のnot幼女マユのイラスト化希望♪
289 :
264:2006/07/26(水) 18:41:12 ID:???
数々の暖かいレス有難うございます。
もうしばらく続けてみますので、どうぞよろしくお願いします。
>>264氏GJでしたよ。
どこが良いとかを言葉で表現するのがど下手なんでただGJと言っておきます。
ところでなあ…おまいら…
ほのぼのキャラ人気投票でマユの順位がどんどん落下していってるんだがやりすぎだぞww
シンちゃんにまで抜かれる可能性が出てきたじゃないかwwww
ユニバース!!
292 :
通常の名無しさんの3倍:2006/07/27(木) 01:25:06 ID:FUKn1nbI
アンリ・マユ
インドの神様だっけ
でもアンリ・マンユだよ
拝火教の邪神様だな
つか、その頃の大陸の言葉だから日本語じゃちゃんと発音できないし正確に文字にもできん
FFだとアンラ・マンユ
Fateだとアンリ・マユ(この世全ての悪)
メガテンだとアーリマン
もしかして魔界村に出てきたのと同じ奴?
レッドアーリマーのことなら多分違うよ
>>297 そこから魔界村に飛ぶお前のセンスに脱帽した
なんて話している間に
すっかりシンがマユを抜いてしまったわけですが
・・・この結果を受けて、マユがどうするかすごい楽しみだ
ジャンプキャラランキングの法則だな
主人公は高確率で一位にはなれない
303 :
264:2006/07/27(木) 18:01:13 ID:???
今から投下します
304 :
264:2006/07/27(木) 18:04:29 ID:???
――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
PHASE02:ファントムペイン
地球連合軍第71駐屯地。そのハンガーに、若い3人の男女が集められていた。
彼らの目の前にはダークグレーと朱色で塗り分けられた仮面を身に着けた士官制服の
男が立っており、手には『第81独立機動群ご一行様』と書かれた小さな旗を持っている。
「はい静かに! これがお前らの乗る機体だ! どうだ、格好良いだろう?」
「えええぇ! オレ達の乗る機体ってこれ!? 超、量産機カラーじゃんか!」
真っ先に反論の声を上げたのは、水色の髪の少年。露骨に口を尖らせる。
「Xナンバーズのアッパーバージョンって聞いてたが、そのまんまだな……」
次に薄緑の短髪を持った青年が、何処か疲れを感じさせる口調で続ける。仮面の男の背後には、
ネイビーブルーとホワイトでカラーリングされた4機のMSがベッドに固定されていた。
「OK説明しよう! GATシリーズ最新型、その名もコードXX(ダブルエックス)!
右からブリッツMkU、バスターMkU、イージスMkU、デュエルMkUで…」
「名前までそのまんまかよ……」
「大体これの元ネタって、ザフトに盗まれた挙句、ストライク単機に振り回された尻馬だろ!」
「黙れアウル! そしてそれを言うなら当て馬だっ!」
ズレた仮面を直しつつ男が叫ぶ。
「それにスティング、これはそのまんまじゃない。見た目こそXナンバーにクリソツだが、
各性能はザフトの新型『ザクウォーリア』に匹敵する! いや、TP装甲と耐電磁処理の併用
によって、耐久力はザクを上回る!」
「それは確かに凄いかもしれないけどさ。なんでまたブイアンテナにツインアイの頭なんだ?」
腕組みしながらスティングが発した問いに、仮面の男がしばし沈黙する。
「…………ほ、ほら、ストライクが文字通り顔を売ってくれたし、えっと」
「開発連中が思ってるより目立つんだ、この頭! 的になれとでも!?」
「良いじゃん、目立って何が悪いのさ」
「悪いよ! お前……」
仲間割れを始めたスティングとアウルを見ていた金髪の少女が、声を上げた。
「ネオは……?」
「あん?」
「ネオはどれに乗るの?」
「ほんとネオ好きだな、ステラってさ! もう結婚しちゃえよ!」
横から入ったアウルの茶々はさておいて、仮面の男、ネオはあっさり答えた。
「ああ、俺の機体は無い。俺はあくまでお前らの主任だからな」
305 :
264:2006/07/27(木) 18:06:14 ID:???
――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
「そうだ。今の内に機体割り当てを言っとこう。
スティングがイージスMkU、アウルはバスターMkU、ステラはブリッツMkUだ」
「デュエルは? 俺達の『4人目』は確か事故ったって聞いたけど?」
「デュエルMkUのパイロットは、もうすぐ来る。新人だから、余り苛めんように」
「マリアはどうだ?」
「整髪を済ませて、格納庫へ向かっています。……大丈夫でしょうか?」
長い通路を歩く、男物の制服を着た『マリア』。腰の下まであった銀髪は、背中の半ば
でバッサリと無くなっていた。
「良いじゃないか。イレギュラー同士を引き合わせるというのは、興味深い」
「チーフ。念の為、マリアの制御チップをテストしておいた方が……」
「ん? 君は知らなかったか」
恐る恐る進言する研究員の言葉に、先日ジブリールと言葉を交わした男は笑みを浮かべた。
「あのチップはあくまでマリアを補助する機能しかついておらん。彼女の行動を束縛する
能力は無い。感情を抑制し続けるのが関の山だ。ああ、発信機でもあるが」
「な、チーフ!? しかし貴方は会議の席で……」
「ああ、嘘だ。なに、心配しなくて良い。ジブリール卿の指示なのだから」
マリアを見つめるその男は、何処か熱に浮かされているようでもあった。
「ジブリール卿によれば、これで完璧なのだそうだ。今の私も同意見だよ…」
「『最適化』できないのですよ、あの個体は!! 何という事を……」
悲鳴に近い声で抗議する研究員に対し、男は低く笑うばかりだった。
格納庫のドアがスライドし、女性が入ってくる。最初に彼女を見たステラは、
怯えた目をしてスティングの背中に隠れた。アウルが一歩後ずさる。
スティングは辛うじて踏みとどまったが、音を立てて唾を飲み込んだ。
落ち着き払ったネオの声が耳に障る。
「彼女が、デュエルMkUのパイロットだ。おカタいのが玉に瑕だな」
「初めまして。この度ファントムペインに補充要員として配属されました。
マリアと、お呼び下さい」
抑揚の乏しい声で告げた後、マリアは踵を合わせる。軍靴の音が響き、指先を伸ばして
敬礼した。
306 :
264:2006/07/27(木) 18:08:03 ID:???
――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
視線をネオに向けるスティング。仮面越しとはいえ、何食わぬ様子の彼を見れば、
再びマリアを見つめる。
こいつは、違う。同じ調整された兵器としての感覚が、本能が警告を発しているようだった。
自分達エクステンデッドは、比較的初期の段階で薬物と最適化、そして教育によって、
兵器として不要な面を削り取られ、丁寧に均される。流石に実験体同士殺し合うなどという
時代錯誤な通過儀礼は無かったが、それでも完成した時、彼はある種の均質化を遂げていた。
こいつは、違う。感情が抜け落ちたような表情を見せてはいるが、解る。
心の一番暗い所が、未だに死んでない。
美しく塗り込められた真っ白な壁の向こう側で、傷だらけになり、壁を引っかいて
血だらけになった爪を尚振りかざし、叫び声を上げる『何か』が見え隠れするようなイメージ。
「スティング……」
制服の袖を握り締めたステラが、震える声で囁いた。
「怖い……」
その時、マリアが一歩踏み出した。澄み切った蒼い瞳の中に、スティングが映り込む。
スティングの胸元につけたネームプレートを一瞥し、白い手を差し出した。
「よろしくお願いします、スティング=オークレー様」
不意にそれまで感じていた違和感が消え、冷や汗がじっとりと滲んでくる。
だがスティングには解っていた。彼女がそれを『仕舞いこんだ』だけだ、と。
「……よろしく。って、様ぁ?」
硬い調子が一気に砕ける。
「階級の無い方に対しては様をつけるよう、規則で定められています」
「す、スティング! そんなのあった?」
「あ、ああ。俺達の軍規に、そんなのがあったような無かったような……」
「来年度の改訂で消える項だけどな。余りに形骸化したもんで」
横から口を挟んだネオが、わざとらしく咳払いした。
「という事で、4人チームで動いて貰う。ついでに早速初任務だ」
「はぁ!?」
驚愕するスティングには構わず、ネオは言葉を続けた。
「小隊長はスティング。30分後に基地の滑走路前に集合する事。私物は最低限で頼むぞ」
そのまま、さっさと行ってしまうとするネオの背中を見送った後、スティングは鳩尾の辺りを
押さえつつ呻いた。
「胃壁は強化されねぇんだな、エクステンデッドって……」
307 :
264:2006/07/27(木) 18:11:11 ID:???
――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
夜。ブリュッセル郊外に建つ邸宅の書斎に明かりが灯っていた。
「ああ、そう。それは結構……」
受話器を手に上機嫌のジブリール。テレビの音を下げつつ2、3度頷く。
「現場指揮は君に一任するよ、ネオ。彼らをどう使うも君次第だ」
その後、二言三言のやりとりがあった後、ジブリールは受話器を置く。テレビの音を戻した時、
丁度速報が入った。
『たった今入った情報によりますと、プラントの軍事都市『アーモリーワン』にて大規模な
破壊活動が行われた模様です。詳しく状況は未だ不明のままですが、ザフトの新兵器が……』
「おやおや、物騒な事だな。2年前を思い出させる……」
穏やかな笑みを浮かべたジブリールは、紅茶のカップに口をつける。
雲の切れ目から覗いた月から、淡い輝きが降り注いでいた。
ファントムペインら4人とMSを乗せて基地から飛び立った大型輸送機は、充分な高度を
確保した後に姿勢を安定させた。
「……あのさ、それって本当にジブりんの命令なの?」
「そうだ。てかジブりんって誰だよ。あの妖怪ムラサキクチビルに『りん♪』とか付けんな」
作戦を説明し終えたネオは、口をへの字に曲げてアウルに言った。
「いやー、解るけどさー。でもなんか……」
「気にすんな、アウル。昨日の友は今日の敵だ。大人の事情ってヤツさ」
「うん……別に、それは良いんだけど」
むすっと押し黙ったアウルが、機内のブリーフィングルームを出て行くマリアを睨む。
「……オレ、マリアの事信用してるわけじゃないからね、スティング」
「ステラも。なんか……冷たくて、怖い」
ステラも少なからず同意している。そしてそれはスティングも同じだった。
「あのな。俺だって、怖いし……ちょっと信用出来ない所もあるんだ」
しかし、何時までも敬遠しているわけにはいかない。彼は隊長なのだから。
意を決し、席を立ってマリアを追った。
「お、アタックか? 青年」
「コミュニケーションだよ、エロオヤジ」
「オヤジじゃない!!」
言い捨て、ドアを閉めたスティングは腹に力を込める。通路を歩くマリアに声をかけた。
「マリア、着くまで1時間ある。ちょっと話さないか?」
回答はすぐに返って来た。
「はい、わかりました」
「そ、そうか。邪魔したな……あ?」
拍子抜けしたスティングが顔を上げる。マリアの瞳の中に、口をぽかんと開けた
間抜けな自分がいた。
308 :
264:2006/07/27(木) 18:16:17 ID:???
投下終了しました。早速歴史を曲げてしまいました。モビルスーツを強奪するきちんとした
理由が考えつかなかったので……。
次回、戦闘になります。頑張っていきたいと思います。
>>264 ここまで引っ掻き回されるファントムペインってのも新鮮だw
オリジナルMSについては、厨的戦力じゃなくてなおかつ設定がしっかり作れていたらいいんじゃないのかな?
それにしても……なんだかマリアがKOS-MOSに見えてしまう。髪と目の色といい名前といい…
果たしてこれからどんな会話をするのかが気になるところ。 乙でした!
そして、最終的に邪神モッコスに
そりゃキラも勝てんぞ
264氏GJ!全然関係ないけど、マリアって身長170くらいなんだよね。
女性だとけっこう大きい方だなー。
313 :
264:2006/07/27(木) 23:15:50 ID:???
読んで頂き有難うございます。
オリジナルMS、4機も出してしまいました。性能はザク並で、装甲だけが
ザク以上。全機ガンダム頭というのが基本ですが、読んで下さる皆さんの為に、
先に機体設定を書いてしまった方が良いのでしょうか?
そしてKOS−MOS。ググりました。髪と目の色は違う気がしますが……
雰囲気は同じですね。そして一回こういう元ネタを見てしまうと、どうも其方に
引きずられる悪い癖があり……。
平に、御容赦下さいorz
マリアは相当、しっかりした体格ですね。MSの操縦とかその他の戦闘に困らない程度
ですけれども。女性的な柔らかい感触とは違いまして、硬い筋肉質な触り心地です。
では、まだストーリーの骨組みも決まっていませんが、今後ともよろしくお願いします。
>>313 がんばれ。期待しております。
個人的には機体設定とかの類は、本文中から読み取れるもので十分だと思うんで、
そう改めて細かく解説する必要はないと思うのだけれど。
でも知りたい人はやっぱりいるだろうから、そういう人たちのために
できれば避難所の方にまとめて投下してもらえると…。
この時期、些細なことで荒れることがありますので。
偉そうで申し訳ないのですが。
種のキャラの身長ってどのぐらいだっけ?
シンはマリアより背が高いのかな
シンは168 ルナは164だったかな
wikipediaに身長が書いてあるよ
単発設定小話 「ミーアU」スタンドアローン編N
〜デュランダル自室〜
議長「どうかな、彼は?」
レイ「アスランは恩を仇で返そうとしてる。・・・これを聴いていただければわかるかと思います」
〜小型の音声プレイヤーを机の上に置き、再生させるレイ〜
(「おいっ!キラ、生きていいるのか!」 )
(「はぁ、生きていたか・・・。離脱機構が生きていればいいがな・・・海の中じゃコックピットを開けるわけにはいかない」 )
(「カガリ、やめろ!俺だ、アスラン・ザラだ!」 )
議長「・・・これは・・・なるほど。うーん、彼はいろいろ考えすぎるのだよ。もっと一つのことに集中できればいいのだが」
〜プレイヤーを止め、腕組みをするデュランダル〜
議長「しかし・・・これでは私もどうしようもない。・・・・・・レイ、頼めるかな?」
レイ「はっ!」
〜部屋から退出するレイ〜
〜アスランの部屋〜
アスラン「ミーア・・・・・・」
ミーア「私が言いたいのは、アスランが議長を疑っているように、議長もアスランを疑っているのよ!」
アスラン「疑う?」
ミーア「詳しくは私も知らないけど。でも議長がアスランを見るときの冷酷な瞳・・・」
アスラン「ミーア・・・なにを言ってる?」
ミーア「あの冷酷な瞳で・・・私も見られてことがあるからわかるのよ!ねぇ!とにかく議長に従順な態度を見せなきゃ!!・・・!?」
〜扉を叩く音が聞こえる〜
ザフト兵「アスラン殿!入ってもよろしいか!」
アスラン「!!・・・ミーア・・・・・・お前・・・・・・・」
ミーア「ち、違う、私じゃない!私は・・・アスランをかばいたくて!」
ザフト兵「おい!一気に行くぞ!」
〜扉を破る兵士たち。と同時に窓を蹴破るアスラン〜
ザフト兵「アスラン・ザラ!!・・・外か!?」
〜窓から身体を乗り出すザフト兵〜
ザフト兵「くそっ!暗くて見えん!おい警報を鳴らせ!!」
〜部屋から足早に出て行くザフト兵〜
ミーア「・・・・・・だから・・・だからいったのに・・・・・・」
〜よろめきながら部屋をでるミーア〜
〜壁伝いに逃走するアスラン。明かりについている一室に窓から忍び込む〜
アスラン「っち!どうする・・・どこから出ればいい?・・・・・・」
〜窓の外をみつつ思案するアスラン。その背後から声をかけられる〜
女の声「ア・・・スランさん?」
アスラン「!!・・・メイリン!・・・ここは君の部屋だったか。悪いな、ちょっとの間居させてくれ」
メイリン「・・・!この警報・・・アスランさんなのね?」
アスラン「ああ。君に迷惑をかけるつもりはない。すぐに出て行くさ」
ザフト兵「すいませーん。扉を開けてもらえませんか?」
メイリン「!・・・アスランさん。部屋のすみでじっとしていてもらえますか?」
アスラン「メイリン!?」
〜下着姿になりシャワーで髪をぬらすメイリン〜
完 ・・・・・・次回「デスティニープラン」スタンドアローン編 終章
原作では、ここしか種死を見ていないw
前回で凸やるなー、と思ったのに結果的にアヌメよりさらに間抜けになってしまったw
ここから汚名返上できるか、それとも挽回の方か
320 :
264:2006/07/29(土) 09:59:22 ID:???
シンの身長をチェックしていなかったのは致命的でしたね。まさか兄より
大きな妹を作ってしまうとは。
そしてメカ設定ですが、どなたからか希望があれば、その避難所の方に載せさせて
頂ければと思います。そう大した物でも無いので。
では、続き投下します。ファントムペイン、初陣です。
321 :
264:2006/07/29(土) 10:01:28 ID:???
――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
PHASE03:変わる世界
「どういったお話ですか? 小隊長」
「スティング、で良い。他の奴も、アウル、ステラ、って呼んでやってくれ」
「……解りました」
機内の休憩室でマリアと向かい合ったスティングは、彼女の返答を聞いて肩の力を抜いた。
「悪いね。こういうタイプの交流に慣れてない事は解るんだが、あの2人は難しいんだよ」
「というと?」
「ワケありでさ。避けられてる雰囲気ってか、よそよそしい態度が苦手なんだ。だからネオも、
軍人さんと思えないような軽い感じで話してるだろ?」
「ワケあり、ですか」
「ああ。アウルの場合、あいつの保護者がラボの研究員らしくてさ、自分の成績が悪いと、
その人の立場が悪くなるんだって、ミスをやらかすと何時も言ってる。
ステラは……あんまり良い家族に恵まれなかったらしくて、ラボに売られてきたんだ。
それでラボに入っても、最初の内は戦い方が覚えられなくって。何度も逃げ出した。
その度に捕まって、何度も何度も最適化されて……最後には、ああなった」
マリアから僅かに視線を反らし、スティングは所々言い淀みつつ続ける。
「スティングは、どうしてエクステンデッドに?」
「俺? 俺はあの2人に比べりゃ気楽さ。物心ついた時から孤児で、三食風呂付きのラボが
人集めしてたから自分で行ってやった。そのお陰で、今も快適その物だ」
自分の事を軽く笑い飛ばすスティングを、マリアはただ黙って見つめた。
しばし、沈黙が訪れる。所在無げに薄緑の髪へ手をやるスティング。
「あー……のさ、マリアは何で? もし良ければ教えてくれないか?」
「私は……」
初めて、マリアの表情が揺らいだ。眉根を寄せ、唇をほんの少し歪める。
「いや、言いたくなきゃ……」
「苦痛を、欲して」
「へ?」
意味が解らず、聞き返したスティング。マリアの瞳は、何処か遠くを見ているようだった。
「大切な人達を殺してしまった私の罪が、私自身の苦痛で軽くなるかもしれない……軽くなって
欲しい。そういう自己満足の為に、私は今、更に人を殺そうとしています」
「…………」
マリアの澱み無い言葉に、スティングはしばし返す言葉を失った。ややあって、天井を
仰ぎ見る。
「そっか……」
何とはなしに、2人の視線が窓に向けられる。曇った夜空は何も映そうとしない。
「そっちも、ワケありか……」
322 :
264:2006/07/29(土) 10:03:14 ID:???
――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
大型輸送機から4機のMSが放出され、スラスターを断続的に点火させつつ地面に降り立つ。
鬱蒼とした森の外れで、8つのアイセンサーが赤い輝きを放った。
『作戦内容を確認する』
スティングの幾分硬い声が、各機のモニターに表示される。
『目標は此処から10キロ先にあるブルーコスモスの基地だ。テロリストのアジトだが、
実際はケチな連合軍の前線基地よりも重装備。金掛かってるぞ』
『ね、オレ達も一応ブルーコスモスだよね? ジブりんの私物だし』
『まー諸般の情勢云々ってやつだろ。別にそれは問題じゃない。問題は…』
スティングが一度言葉を切る。渋面が浮かんでいた。
『どう見ても、各スペックが設定の半分も出てない、って事だ。メカニックが調整間違えたか?』
『いいえ、整備に問題はありません』
マリアが割り込む。
『どうやらエネルギー消費と全体のキャパシティが適合していないようです。概算の結果、
出力100%で稼動させた場合、私のデュエルMkUでも4分で停止します』
『……欠陥品?』
ステラの言葉に、スティングが胃の辺りを押さえた。
『……各自、最初期のジンに乗ってると思え。データベースに載ってるアレな』
各機のモニターに、スティングのイージスMkUが拾ってきた地形データが表示される。
GAT−Xのイージスとの大きな相違点は大口径ビーム砲の排除と、通信、電子戦能力の
大幅強化だ。大隊同士のターミナルとしても機能し、まさに隊長機に相応しいMSである。
『基地は高台に設置されてる。 周囲を囲む4基のビーム砲とミサイル砲台で防御を固めつつ、
MS用の格納庫は地下に埋まってる』
『歩兵隊は?』
マリアが質問した。
『幸運にも、配備されてないそうだ……ネオの話じゃな』
スティングが自嘲気味に笑う。
『さ、そろそろ行こうか。ECMを展開する。アウルとマリアは、効力圏内から機体を離れ
させないようにしろ。ステラは別ルート。ブリッツのステルス機能は解るな?』
『了解』
『了ー解』
『うん……』
『テキスト通りに先手を取って、テキスト通りに終わらせる。……出発』
直立していた4機が中腰になる。脚部の着地音を抑えつつ、森へ分け入っていった。
323 :
264:2006/07/29(土) 10:07:15 ID:???
――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
ブルーコスモス基地。アズラエルが盟主だった頃、資金を湯水のように投入され、半ば要塞化
されたそのアジトの監視塔に、2人の深夜番が立っていた。
「レーダー、どうだ? 何か映ってるか?」
「いや? 何も。大体、襲撃なんか無いだろ。連合軍のエリアの縁にあるんだから」
「ああ、連合軍は黙認。俺達は何時でも好きに襲えて、やばくなったら此処に戻る。これまでも
そうだったよなぁ。最近、ちょっとばかしやり難いが……」
「そ。青き清浄なる世界の為にって言っときゃ何でもアリ。好きにブッ壊して、殺して、
好きなだけ眠れる。ブルーコスモス様様、宇宙の化物にも感謝しなきゃな」
タバコの煙を窓に吹きつけた男が、荒んだ笑みを浮かべる。
思想集団ブルーコスモスの根腐れは、以前から指摘されていた事だった。ストイックに
コーディネイターの問題性を説き、彼らとの真の共存を模索していた者は、金に乱れる『同志』
に絶望し、去り、残るは暴力的な盟主に上辺だけ従うゴロツキの集まり。そんな彼らに
求める限りの武器、資源を渡せばどうなるか。想像は容易についていた。
最大の問題点は、アズラエルがそれらを認識しつつ、コーディネイターへの憎悪ゆえに彼らの
『浄化』を行わなかった事にある。衝動のままにコーディネイターを迫害する彼らを放置し、
野放しにしたのだ。そして彼は死に、ジブリールが新盟主の座に着いた。
「今度の盟主とも上手くやってけそうだ。明日、MSを4機届けに来るらしいぜ。
パイロット付きでな。……っと、もう今日かぁ」
ブランド物の腕時計の文字盤を覗きこんで、もう1人の男がしゃっくりする。
監視任務に付く前、ボトルを1つ空けてきたのだ。
「じゃ、また派手にやらかせそうか?」
「ああ。派手にな。久しぶりに殺せそうだ。ははははっ!!」
『派手に行こうぜ! アウル!』
『おっけー!』
窪地に身を潜めていたバスターMkUが身体を起こし、背部のマウントホルダーから
125mmキャノンと高収束火線ランチャーを取り外した。ランチャーの後部にキャノンを
接続する。
接続部分で点灯するインジケーターが赤から緑に変わり、長距離実弾砲と化した大筒を横抱きに
構え、両脚で踏ん張って腰を深く落とした。砲撃姿勢である。
『行っけぇ!!』
ツインアイとカバーに保護された頭部メインセンサーの輝きが強まり、特殊冷却装置が作動。
砲身が真っ白な霧に覆われた。
324 :
264:2006/07/29(土) 10:11:10 ID:???
――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
咆哮と共に、125mm徹甲弾が撃ち出された。開発母体である350mmガンランチャーの弾に比べれば、確かに
小口径。だが、小さいだけでは無かった。
1秒に約2発ペース。電磁レールで加速された対装甲弾頭が緩い弾道を描いて基地を襲った。
最初の5連射で監視塔が土台から爆砕し、ビーム砲台の1つをひしゃげさせる。
何発もの砲弾が火花を散らして外壁に食らいつき、亀裂を生じさせた。
鬱蒼と茂る森の中で断続的に輝くマズルフラッシュがバスターMkUの横顔を照らし出し、衝撃波が
木々をしならせ、へし折り、柔らかな地面を抉る。
『砲撃止め!! 撃ってくる! マリア、準備は!?』
『問題ありません』
スティングから通信が入るや否や、アウルは機体に膝を突かせる。回頭した砲台から速射ビームが
火の雨となってバスターMkUの潜む窪地の周辺に降り注いだ。積もった泥が蒸発し、跳ね、
ネイビーブルーの装甲を汚す。
『急げ! 照明弾の前に…!!』
『攻撃します』
基地を挟み、バスターMkUの対角線上に潜んでいたデュエルMkUが立ち上がる。大型バッテリーが
搭載されたビームアサルトライフルを右腕に構え、左腕のシールドを前に突き出して
スラスターを全開させた。青白い噴射炎が木の葉を燃え上がらせ、夜風を焦がす。
そして機体が駆け出した瞬間、基地から照明弾が上がった。太陽のような輝きが周囲を
照らすと同時、バスターMkUの横で森に伏せていたイージスMkUが高エネルギーライフルを構える。
狙うはアウルの砲撃によって見当をつけ、更に照明弾によって場所がはっきりした、4基の内
2基のビーム砲台。銃身が上下に割れ、その中間に光が集まる。真紅の閃光が矢となって疾り、
砲台の根元を破壊した。
同時に両開きの扉があく。地下からせり上がってくるダガーLの姿が垣間見えた。
背負った無反動砲が黒光りを放つ。
『MSが出てくるぞ、ステラ、前へ!』
『うん……!』
それとほぼ同タイミングで、突撃したデュエルMkUがビーム砲台に対し斜め前方にダッシュ。
緑のビームを盾に掠めさせ、ミサイルの爆発に足元を掬われかけながらライフルを2連射。そして
残った2基のビーム砲台が炎を上げて用を為さなくなるのを確認した後、大ジャンプ。照明弾の
輝きが消えぬ内に、デュエルMkUが空を舞う。逆光の中、赤いツインアイが光の筋を引いた。
325 :
264:2006/07/29(土) 10:14:29 ID:???
――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
発進したダガーLが、残存するミサイル砲台が、良い的となったデュエルMkUへ狙いを
つけてくる。その殺意を嗅ぎ取ったかのように、マリアは蒼穹色の瞳を見開いた。アラートが
鳴り響き、白煙を上げてミサイルが迫り来る中でビームライフルを連射。計4基のミサイル砲台が
次々と瓦解するのを見届けてから、ライフルに取り付けられたグレネードを
射出。再び開いたエレベーターの内部に飛び込み、上がってきていた2機目のダガーLごと
昇降プレートを強制停止させた。
「……!」
だが多弾頭ミサイルを受け止めた盾が砕け散り、機体が煽られる。そしてバランスが崩れた所に
無反動砲が放たれた。
操縦桿を捻って空中でかわそうとするが、低出力でそんな曲芸は出来ない。
咄嗟に両腕で
コクピットを庇いつつ、頭部イーゲルシュテルンで弾幕を張った。
まず1発目。機銃が当たったか、腕の直前で爆発。更に機体がよろける。
そして2発目。右脚部に直撃。TP装甲が作動したが、装甲がめくれ、機体が独楽の
ように回転した。そのまま、低地を流れていた河川の川底に落下する。
「か、は……っ」
スラスター噴射をするも殆ど落下速度を緩められず、激突。衝撃がコクピットを走りぬけ、
マリアは意識を飛ばした。
「っあああぁ! 畜生! 畜生ッ!!」
ダガーLのコクピットの内部で、男は半狂乱に陥っていた。
最初の先制攻撃から僅か1分が経過しただけで、周りは火の海だった。瞬く間に防御システム
が壊滅させられ、仲間が大勢死んだ。地下に納めたMSはエレベーター自体を破壊された。
当然補助通路はあるが、無駄だろうと男は悟っていた。逃げられない、と。そう思えた。
「クソ、クソッ……!! 腐れコーディめ!」
炎の中でビームライフルを乱射する。泥酔し、胡乱な瞳は何も映さない。
「俺から仕事と女を奪っただけじゃ足りないのかよ!」
恐怖と酒が、判断力を完全に殺していた。炎に潜む機体が、ダガーLの背後に立つ。
「どうして俺がこんな目に遭わなきゃならない! どうして……」
刹那。接近警報と共に光剣がダガーLの胸元を貫く。赤いツインアイが、直ぐ後ろで
瞬いていた。
326 :
264:2006/07/29(土) 10:22:46 ID:???
――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
ユニウス条約によって、ミラージュコロイドの使用が禁じられた事を受けた連合軍の開発局は
急遽代替案を探さねばならなくなった。
そこで目をつけたのが、ストライクルージュに見られた、電圧変化によるPS装甲の変色
である。ブリッツMkUの特殊TP装甲は、他の3機と比べて耐久力に劣る上に消費電力は
他より多い。しかし、機体のカメラが撮り込んだ周囲の映像に対応させ、各部を変色させる、
カメレオン迷彩の機能を持っているのだ。
無論レーダーECM、ジャマーなどの従来のステルス装置は搭載済み。兵装が心許ないのは
相変わらずだが、ビームサーベルが届く距離まで近づければ問題はない。
そう、今のステラのように。
背後からコクピットを一突きされたダガーLは爆発しなかった。焼けた傷口から過熱したオイルを
血のように滴らせ、地面に落ちて発火する。脚部の力が抜けて機体が沈み、
ハッチが内側から弾けた。跪くようにしてパイロット諸共、機能を停止させる。
ブリッツMkUの赤とオレンジの装甲が変色し、元のネイビーブルーに戻っていった。
『スティング……終わったよ。でも、マリアが……』
「……アウル。もう目立った障害はない。前進して撃ちまくれ」
『おっけー。マリア大丈夫かな?』
「あいつの事は良いっ!!」
『おお、怖』
若干冷静さを欠いたスティングの声に耳を塞ぐジェスチャーをした後、アウルはバスターMkUを
起こし、砲の連結を解いた。続いて両肩、両脚のロケットポッドを開放する。
そしてスティングの言葉通り、撃ちまくった。照明弾が光を失った空の下、ビーム、実弾砲、
ロケット弾が無抵抗な施設に着弾し、次々に撃ち砕いていく。それを見るスティングが
歯を食い縛った。
「くそ……! 応答しろよ、マリア……!!」
『はい』
「うわっ!?」
スピーカーに飛び込んできた無感動な女の声に、シートから尻を浮かすスティング。
「ぶ、無事か?」
『数十秒か数分、気絶していたようです。申し訳ありません』
「いや……現状を知らせてくれ」
『現在、当該基地の指揮官らしき人物を追跡しています。単身で脱出した模様です』
「解った。こっちを終えたら直ぐに合流する」
『感謝します』
「気をつけろ」
通信を切ったスティングは、頭部、胸部に合計4門搭載されたイーゲルシュテルンを
対歩兵モードに切り替え、基地へと向かっていった。
327 :
264:2006/07/29(土) 10:24:53 ID:???
――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
こんな事が、あるはずがない。何かの間違いだ。
燃え盛る基地の地下道を通ってただ1人逃げ出した、連合の正規軍人。つい数時間前まで、
『ブルーコスモスに選ばれた者』として幅を利かせていた彼は、口の中でうわ言のように
そう繰り返していた。
こんな事があるはずがない。ブルーコスモスは不滅だ。地球連合の後ろ盾があるのだから。
その思考を、1発の銃声と太腿に走った焼け付く痛みが寸断する。
「ぐあっ!?」
たまらず、転倒する。太ってきつくなった制服に、泥水が滲み込んで汚れた。
「止まって下さい」
涼やかな女性の声が彼を追う。ハンドガンの銃口から硝煙を上らせ、確実に距離を詰めて来る。
雲は何時の間にか切れ、月光が風に波打つ銀髪を照らし出した。底光りする蒼の瞳は、
男へと向けられている。
「止まって下さい。頭部を狙えません」
即死させるから動くなと言った目の前の女からは、実際殆ど逃げられなかった。
「な、何故こんな事をする! 貴様たちは何者だ!?」
「私は第81独立機動群のMSパイロットです。手続き上、地球連合軍に属しています」
「ファントムペイン…! な、ならばジブリール卿の私設部隊ではないか! どうして……!?」
「はい。ジブリール卿の指示によって、私達は現在、作戦を遂行しています」
マリアのその言葉を、男はせせら笑う。この女は何も解っていない、と。
「馬鹿な、あの方は最大限の援助を約束して下さった。青き、清浄なる世界の為に……力を…」
脚からの出血が体力を奪っていく。視界の中心に映った銃口がぼやける。
「ジブリール卿は……確かに……約束して、下さったのだ……」
暗い森に、2発目の銃声が響き渡った。
「…そうだ。任務完了した。早く回収に来てくれ。それからデュエルが…」
不機嫌全開で通信を終えたスティングが、3人の方を振り返る。
「ネオが来るってさ。20分くらいで」
「あ、そう。にしても、今回は楽だったなー。MS1機しか出なかったし」
「油断しきってたからな。相手が」
アウルに頷いた後、燃え続ける基地跡へと歩いていった。
炎の中に転がる人影が幾つも見える。舞い上がる火の粉が空に散って、煤は月の光を遮る程。
「俺達が、やったんだ。これを……」
拳を握り締めて空を仰ぐスティングを、マリアがじっと見つめていた。
328 :
264:2006/07/29(土) 10:32:12 ID:???
PHASE3終了です。ブリッツMkUのTP装甲迷彩は、ちょっと苦しいかな
と自分でも思いましたが、他にアイデアが無く……。
次回から序盤の山場が始まる予定です。そろそろ空が落ちてきます。
今後とも、よろしくお願いします。
>>328 装甲を微細なマトリクスで形成し、各ピクセルごと適切な電圧を印加すれば
擬似カメレオン装甲ができる。視野角によって映る物を変えるのはムリなので
さすがに真っ昼間では「ちょっと見づらい」以上の効果は望めないだろう。
デスサイズみたいにレーダー吸収する特殊な素材を併用すれば
夜間や宇宙戦では騙せるかも…って、もう使ってるね。
一点我が儘を言わせてもらえれば、既に平均的なラノベに負けないほど
書けているのですが、あともう少し日本語表現の幅を使って頂ければと。
自分の書いた文に酔っぱらう位の奴をキボンヌ。
しかし面白かった。GJ
>>264氏GJです。
頭部を狙えないから止まってくれと言い放つマリアが冷酷で素敵だ。
文章とかは自分としては充分に上手いと思うから文句ないんですが
タイトルに何分の何ってつけたらもっと良いかと思います。
ほのぼのさんや単発屋さんと違って1回の量がある程度ありますし。
終わったのかと勘違いして読者が流れをぶった切ってしまうのを防ぐ意味でも。
後は『――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷―― 』
このタイトルは1レス目だけか名前欄に使ったら良いのではないかと。
30レスくらいの大容量になってしまった時なんかはこのタイトルを削った
空白で1レス減らすことも出来そうですし…。
色々言ってますけどこれからも激しく期待してます。
長文スマソ、そしてお疲れ様でした。
単発設定小話 「デスティニープラン」スタンドアローン編 終章
〜なんだかんだでザフト兵を追っ払ったメイリン〜
アスラン「メイリン・・・なぜ俺を助けた?」
メイリン「・・・・・・アスランさん、ザフトに居場所がもうないのでしょう?・・・私・・・私、ここにはもういたくない」
〜二人の間に沈黙が流れる〜
アスラン「メイリン・・・・・・一緒に、来るか?」
メイリン「!・・・はいっ!」
〜すったもんだでレイと銃撃戦をするアスランたち〜
レイ「アスラン・ザラ!!貴様はまだ裏切るのか!」
アスラン「・・・レイか・・・・・・。メイリン、あのMSの足元まで一息で走り抜けれろ」
メイリン「・・・はい!」
〜勢いよく走り出すメイリン〜
レイ「その女が人質ってわけですか!?」
アスラン「そんなのじゃない!・・・お前は、議長の提唱していることがどんな結果を招くかわからないのか!」
〜メイリンに続き走り抜けるアスラン〜
〜結局マユとレイに終われて逃げるアスランたち〜
アスラン「っちぃ。マユ!やめろ!」
レイ「マユ!いまのアスランにはなにをいっても無駄だ。油断してるとお前がやられるぞ!」
アスラン「く、レジェンド?レイか!?」
マユ「アスラン!なんで・・・ちゃんと説明すれば議長だって!」
アスラン「マユ!議長にそんな上っ面の言葉が効くわけないだいろう!お前だってわかっているはずだ!議長のしようとしていることが!!」
レイ「フン、戯言を言う。じゃあ、あなたは、あなたは何を示してくれるのですか!? ただ嫌だとしか言わないじゃないですか!」
アスラン「レイっ!!」
レイ「そんなもの、わがまましか言えない子供でしかありませんよ!」
〜ぼこぼこにされつつあるグフ〜
アスラン「・・・くそ、グフがもたない?メイリン!お前だけでも脱出するんだ。もうグフがもたん!」
メイリン「アスラン・・・いや、いやよ。もうあそこには戻りたくない!」
マユ「!?メイリン姉ちゃんもグフに乗っているの!?」
メイリン「もう、ほっといてよ・・・・。あんたたちなんていなくなっちゃえばいいのよー!」
アスラン「・・・・・・そこっ!」
マユ「!?直撃?・・・・・・スラスターが、効かない?お、落ちるっ!?」
レイ「マユ!だから油断するなと!・・・・・・アスラン!」
アスラン「グフもここまでか・・・ええい、あとはどうにでも・・・」
レイ「アスラン!!あなたが助けた友人のかわりに海の底に沈んでいないさい!!」
〜レジェンドのビームで大破し海に沈むグフ。着水するデスティニー、デスティニーを救出するレジェンド〜
マユ「・・・レイ・・・・・・デスティニープランって・・・必要なのよ・・・ね?」
レイ「・・・・・・もちろんだ。少なくとも、今はな」
〜デスティニーを引き上げ、基地にもどるレイ達〜
〜遠巻きに戦いを見ていた一団〜
キサカ「間に合ってくれよ・・・。サイ!サルベージの準備は!?」
サイ「ちょっトノムラさん!そっちじゃないって!」
トノムラ「いや、サイこそその結び方ちがってるぜ!」
「スタンドアローン編」完
このスレで、多分初?の凸ラン脱走。
これで、最終回マユがボコられておしまいか・・・。
ラクス達の勝利の未来が見られるんですね。
333 :
86:2006/07/30(日) 00:14:15 ID:???
覚えていますか、みなさん。
マユトレイです……ここのところ忙しく、ここまで投下が遅れました。
ともかく、投下いきます。
334 :
1/9:2006/07/30(日) 00:15:10 ID:???
オーブは、私の故郷だ。たとえもう家族がいなくても。
できれば、またあそこに戻って、のんびり海を眺めたり紅葉を見たりしたい。
でも、闇に生きる自分にはその自由はない。
SEED DESTINY ASTRAY M 第五話 「自由」
ドレッドノートに敗北してから半月後。
私のガンダムは改修を施され、私もきっちり怪我が治っていた。もっとも、今度からは
生体CPUがガンダムに乗るらしい。元々私があれに乗ったのはその生体CPUが調子を
崩したから、要するに代役であった以上当然の結果。ちょっと名残惜しいが、仕方ない。
今回私が来たのはとある山地だ。なんでもガルナハンに住んでいるゲリラに武器を売る
らしい。どうやらユーラシアを混乱させるマティスの策略はまだまだ続いているみたいだ。
森の中、トレーラーを走らせながら待ち合わせのポイントへ向かう。
木がまったく生い茂っていない山の麓の、今走っている森がちょっと切れる空き地。
そこで案内役は待っている。マティスの情報によると連合が目を付け出しているらしいし、
さっさと終わらせるべきだろう。スピードを上げて数分後、待ち合わせ場所が見えた。
そこにいたのは……
「……子供?」
待ち合わせ場所にいたのは、茶髪のポーニテールを持つ女の子だった。見る限り、私と
大して年齢は変わらなさそうだ。もっとも、相手も同じ感想を持ったらしいけど。
そう判断した理由は簡単だ。トレーラーから降りた私に、彼女はこう言ったから。
「……子供?」
いきなりの反応。相手には悪いとは思いつつ、私はくすりと笑っていた。当然、相手は
咎めてくる。
「お前、なんで笑ってるんだよ!」
「うん、ちょっとね……」
なにも、リアクションまで同じじゃなくていいんじゃない?
この言葉は、心の中にしまっておいた。きっと相手は怒るだろう。今のちょっとだけの
やり取りでも、相手がストレートに感情表現をするタイプだというのは十分に分かった。
もし私と同じ年齢だとすれば、若気の至りとか何とかと言えるのかもしれないけれど。
――若気の至り、か。
「なんだよ? ボーッとして?」
「ああ、なんでもないよ」
頭の中の考えを振り払い、普通の表情で会話する。彼女には関係ないことだ。
「とりあえず、道案内よろしくね。えっと……」
「コニールだ。コニール・アルメタ」
「そう。私はマユ・アスカ。マユでいいよ」
相変わらずどこかつっけんどんな彼女の態度を気にせずに、私は言った。
335 :
2/9:2006/07/30(日) 00:16:13 ID:???
コニールの案内に従いながら、山道を走らせる。
運んでいる品物の関係で、トレーラーは相当大型な物を使っている。それに連合に目を
付けられていることもあり、自然と走る道は地元の人間しか知らない狭い道に限定される。
おかげで操縦しにくいことこの上無い。
……もっとも、それを分かるからコニールもこんな事を聞いたんだろう。
「お前、ずいぶんスイスイ運転してるな。
しょっちゅう通ってる私だってこうはできないぞ?」
「うん、私は二年前から色々やってるからね。モビルスーツの操縦ももう慣れっこだし」
「……私も二年間色々とやってたけど、モビルスーツの操縦なんてできないぞ」
そういうコニールの顔はムッとしたものになっている。……なるほど、そういうことか。
「同じぐらいの歳で、同じ性別の子がこうも上手いと気に障る?」
「べ、別にそういうことじゃない!」
さらりと言ってのけた私の言葉を、コニールは大声で否定した。ミエミエだ。ま、子供
らしくていいことなんだろう。……私と違って。
ためらいながらも、コニールは続けた。
「あのさ……お前、二年間何やってたんだ?」
「? なんでそんなこと聞くの?」
「それを参考にすれば、少しはお前みたいになれるかな、って思って……」
多少恥ずかしそうにそっぽを向いているが、コニールの声は真剣なものだ。
気になって、少しだけ聞いてみた。
「なんで、私みたいになりたいわけ?」
「街を守りたいんだ」
街を守りたい、か。
事前に調べた情報だと、ガルナハンは確か陸路の中では比較的重要なルートであり、
連合がたびたび制圧しようと軍事行動を行っていた、という話だった。
もっともあくまで「比較的」である以上、ゲリラの抵抗を完全に潰してまで得る必要が
あるものではないのだが。逆に言えば、ゲリラとしてはある程度の抵抗をして他のルート
を連合に選ばせることが必要になる。街を守るために。
「もう、ただ何もせずに見ているだけなのは嫌なんだよ、私は」
そうコニールは続ける。
相手は正規軍だ。被害が出るのは当たり前のことだろう。誰かが死んだり、街が荒らされたりして、守りたいと思って立ち上がる。よくある話だ。
――私だって、オーブをそうしたいと思った事はあった。
ここまで来てやっと、私は答えた。
「私のやってた事は普通じゃない。多分、真似は無理だと思うけど」
「なんだよそれ、自慢か? 私だってかなり頑張って訓練とかやってたんだ。
どんな事やってたんだよ、お前」
336 :
3/9:2006/07/30(日) 00:17:07 ID:???
「そうね……
目が覚めたら誘拐されてて、監禁されて兵器として訓練されたってぐらいかな」
さらりと言った私の言葉に、コニールは絶句している。当たり前の反応だろう。それを
無視して続けた。
「そういうわけだから、私みたいになろうと思わない方がいいよ」
そうして。ずいぶん私はつまらない事を言ったな、と思った。まあ理由は簡単だろう。
同じ子供だから。そして彼女は私の持っている物を欲しがっていて……私は彼女の持って
いる物を持っていない。それは……
「おい、あれ……なんだ?」
「え?」
コニールの言葉に、とっさに現実に意識を戻して前を見る。
そこにいたのは……
「まずいっ!」
「う、うわっ!」
とっさにハンドルを切った。コニールが悲鳴を上げたが、そんなことに構っている暇は
無い。その証拠に、脇に砲弾が着弾する。
そこにいたのは、リニアガン・タンク。文字通りリニアガンを装備している戦車。急に
ハンドルを切ったトレーラーは道を外れ、斜面と言うには角度が付きすぎている坂を滑っていく。
「おい、こっちは道じゃ……!」
「言われなくても分かってる!」
ブレーキとハンドルを駆使して、なんとかトレーラーを安定させる。横転でもしたら、
確実に大怪我間違いなしだ。必死の操縦のおかげで、トレーラーは無事坂を下りきった。
「ふう……ったく、なんで戦車があんなとこに!」
「どうやらバレてたみたいだね。わざわざ戦車を持ち出す辺り、大掛かりね」
もっともモビルスーツがある今戦車の必要性なんてないから、モビルスーツをケチった
結果戦車を持ち出すことになったのかもしれないけど。
とりあえず今はそんなことより打開策だ。いくらなんでも来ている戦車が一つだけ、と
いうのはないだろう。ガルナハンへの輸送を妨害する以上、ルートを封鎖する必要がある。
そして、まさか封鎖を一台だけで行うはずはない。どうする?
考え込む私に、コニールが案を出した。
「積荷を使えばいいんじゃないか? 操縦できるだろ」
「できるけど……一度降ろしたらトレーラーに積みなおすのは難しいでしょ。
連合は空も監視してるだろうから、そのまま街まで飛んでいく訳にもいかないし……」
「大丈夫。考えがある」
337 :
4/9:2006/07/30(日) 00:17:54 ID:???
積荷のコックピットの中で、OSを起動する。トレーラーの荷台にかけてあった覆いは
既に外されているから、積荷のグレーのボディ――制式スカイグラスパーの姿はむき出し
だ。わざわざ大きなトレーラーを運転していたのは、これを輸送するためだった。
とはいえ、仮にも商品を使っていいのかという気もするし、さっき言ったように色々と
輸送の点で問題があるのだけど。
「ま、コニールを信じるしかないか」
少なくとも、トレーラーや生身で戦車と戦うのは無理だ。バズーカやパンツァー・ファ
ーストでもあれば別になるかもしれないけど。一度見られた以上、うまくやり過ごすのも
難しい。こんな山道なら尚更だ。
トレーラーからスカイグラスパーを下ろして、離陸。レーダーを確認する。リニアガン・
タンクが二台。まあ、ゲリラの輸送を断つには妥当な戦力かもしれない。
「私には、三倍は必要だけどね」
呟いて、機体をさっき撃ってきた一台へ向ける。リニアガン・タンクはザウートよりも
機動性があるけど、比較対象がザウートじゃ大したことはない。こちらに砲を向ける前に
ビームカノンを撃ち込んで撃破。
相手は道を封鎖するため、ある程度密着させていたのが仇となった。撃破され爆発した
一台の煙や熱が、もう一台の視界を遮っている。その隙を突いて、撃破。あっけない。
「……もっとも、大変なのはここからか」
こんな戦闘をすれば、連合が気付くに決まってる。下手をすると、新型ストライカー・
ジェットストライカー付きのダガーLさえ増援に来かねない。コニールはそこまで考えて
提案したのか……そうじゃないと困る。
ともかく彼女の考えを聞くため、スカイグラスパーを一旦着陸させることに決めた。
338 :
5/9:2006/07/30(日) 00:18:44 ID:???
コニールの考えは単純明快だった。戦闘機ぐらいなら通れる、地元の人間しか知らない
坑道があるから、スカイグラスパーでそこを通って街まで行こうというもの。元々、トレ
ーラーはスカイグラスパーのおまけとして売る予定の物で、私は民間の便で帰還する予定
だったからここに捨てていくことは私には問題は無い。ゲリラにはあるかもしれないけど。
幸いスカイグラスパー以外の品を入れているコンテナはストライカーパックと同じプラ
グが取り付けられており、スカイグラスパーに取り付けられる(案外マティスはここまで
見越していたのかもしれない)。その点でも不都合は無い。
ただ、二人でスカイグラスパーに乗るとなると問題がある。ただでさえこういった物に
搭乗した事が無いコニールがノーマルスーツもベルトも無しで乗るのは危険だ。その事を
彼女に言うと、返ってきたのはムッとした表情と言葉だった。
「……お前は乗ったけど平気そうじゃないか」
「慣れてるから」
コニールはその答えに不満そうだったけど、とりあえず私の説明――無闇に動かない、
ベルトを全力で掴んでいる、口を開かない、吐き気がしたら我慢しない(窒息する危険が
ある)、など――を大人しく聞いていた。もっとも彼女の性格上、吐きそうになっても絶対
我慢しそうな気もする。
一通りの説明とコンテナの取り付けを終わらせ、スカイグラスパーに二人で乗り込む。
離陸する前に、あらかじめその坑道の入り口をデータ上でマーキングして貰った。多分、
離陸した後は一々ルートを指示する余裕はコニールには無いと思ったからだ。理由は簡単。
連合の増援が来る前にここから離脱するため、とばすから。
コニールには悪いがいつもの速さで離陸、飛行する。できるだけ負担が掛からない様に
はするが、それも速さを殺さない程度でだ。ちらりと横を見ると、彼女の額には多少汗が
浮かんでいた。それでも表情には出していないだけ、彼女は頑張っている方だろう。
そのまま飛ぶこと、数十分。バッテリーや推進剤を半分ほど消費した所で、レーダーに
二つ反応が現れた。
「おい、あれ……」
「分かってる。あんまり喋ると気分悪くなるよ」
コニールの声を脇で止めた。いたのはよりによってジェットストライカー装備のダガー
L二機。しかも偶然か知っているのか、坑道のある場所の前にいる。少し迷って、決めた。
「いい、コニール。とりあえず一気に突っ込んで急襲して、駄目だったらうまくあの坑道
から引き離すっていう作戦を取るけど……今まで以上にきつくなるから、私の言った事
をちゃんと守ること」
コニールは無言で頷いた。さっき喋って多少気分が悪くなってるんだろう。……多分、
もっと気分が悪くなると思うけど。
スカイグラスパーを一気に加速させ、ダガーLへ突っ込ませる。推進剤には目的地まで
の距離を考えれば多少余裕があるけど、それでもあまり手間取ってしまえば推進剤が足り
なくなる可能性もある。それを防ぐためにも、短期決戦で決まるのが一番いい。
ダガーLがジェットストライカーの空対空ミサイルを撃ってくるが、それを回避しつつ
接近。ビームカノンやミサイルを発射すると同時に急転換、離脱する。要するに、私は
一撃離脱戦法を取ったのだ。もっともこれはパイロットに負担がかかるし、ベルトさえ
締めてない(締められない)コニールは頭を打ちかねないけど……モビルスーツに
戦闘機が勝つにはこれぐらいしかない。
339 :
6/9:2006/07/30(日) 00:19:33 ID:???
しかし、ダガーLは二機ともあっさりと回避し反撃してくる。その動きは、エールストラ
イカー装備機体のように滑空なんてレベルじゃない。思わず舌打ちしていた。予想以上に
ジェットストライカーは優秀らしい。
ともかく、今度は相手を引きつける為にその場から離れていく。ダガーLが何の躊躇い
も見せずに追ってくるところを見ると、坑道の存在には気付いていないようだ。もっとも、
上手くおびき出してもあのストライカーの性能じゃ振り払うのに手間がかかりそうだ。
「……コニール、しっかり掴まってて」
「?」
あらかじめ警告を出して、そのまま高度を少し上げつつ飛行する。射撃に影響するほど
ではないため、相手は高度を上げる気配はない。だが、こっちがダガーLの斜め上に位置
しているのは確か。だから……
「う、うわっ!」
「……っつ!」
急停止&急上昇すれば――相手は勝手に下を通り抜けていく!もちろん、その際にGは
かなりかかる。コニールが床に転んだけど、計器類にぶつかったりもしてないし、受身も
何とか取れてる。それで十分だ。後は反転して坑道へ潜り込むだけ。
だけど……予想外なことに、ダガーLは下を通り抜けるどころか、急停止していた。
「読まれてた……それとも性能差!?」
こちらを追って急上昇してしてくるのは時間の問題だ。かといって反転なんてのは更に
無理だ。相手に何の策も無く突っ込んでいくのは、ただのバカでしかない。つまり、また
今までと同じ方向へ飛ぶしかない。
――どうする?
ダガーLが止まれたのが機体性能にせよ操縦者の技術にせよ、厄介な事に変わりは無い。
時間を掛ければ推進剤の余裕も無くなっていまう、だけどこいつらをすぐに振り払う手段
なんて思いつかない……!
思わず焦りが顔に浮かぶ。そんな時だった。
「おい、マユ!」
突然コニールが声を上げた。ただ、唇でも切ったらしく血が滲んでいる。
「ちょっと、口閉じてって……」
「……そんな場合じゃないんだろ。あそこ、入れ」
そういってコニールが指差したのは、私達が目指している坑道とは違う坑道。とはいえ
結構大きな坑道で、ダガーLも入れない訳じゃなさそうだけど……
そんな疑問に答えるかのように、コニールは多少辛そうな顔になりつつも続けた。
「あの中は入り組んでて迷路みたいになってるから、連合にはあそこから入ってどこから
出るか分からない。だから、入ったら途中で坑道を崩して、追えない様にすればいい」
340 :
7/9:2006/07/30(日) 00:20:53 ID:???
「こっちも崩した坑道に巻き込まれる可能性があるよ」
思わずちょっと軽口を叩いたが、コニールが反論しようとするのを見て慌てて続けた。
「口を開かないで、そろそろ辛いでしょ。分かってるよ、上手くやってみせる」
言って、スカイグラスパーを坑道へ潜り込ませる。かなり暗いが、飛べない訳でも無い。
ダガーLは一瞬躊躇したのか、二機ともいったん止まってから坑道内へ入ってきた。
「コニール、どの辺で崩せばいいか分かる?」
返ってきたのは頷き。つまり、肯定だ。
「分かった。指示頼むよ」
言って操縦に集中する。さすがにこっちも余裕は無い。洞窟の崩落を恐れたかダガーL
は攻撃を控えてはいるものの、トーデスシュレッケン(イーゲルシュテルンの後継火器)
だけは撃ってきている。この火器の口径は12.5mm、洞窟の崩落が起こる可能性も低い代わり
スカイグラスパーでも当たり所が悪くない限り少しは耐えられる。だけど、さすがに貰い
続ければ危険だ。できるだけ避けるしかない。
狭い坑道の中で、持っている技能全てを使って弾を避ける。とはいっても、こんな狭い
坑道で避け続けるのはいい加減限界がある。数発を貰った底部に警告が出て、思わず私は
声を出していた。
「コニール、まだ!?」
「もう少し……」
その瞬間ダガーLが、とどめと言わんばかりにトーデスシュレッケンを連射してきた。
思わず歯をかみ締めて――一気に地面スレスレへ降下する。トーデスシュレッケンは上を
通り過ぎていき、同時に視界にいくつもの坑道が集中している広場が現れた。
「広場の前に入る崩せ! ルートは左にある坑道だ!」
「うんっ!」
素早く全火器を開放する。全てが坑道の天井に当たると同時に、岩に亀裂が入った。
天井が崩れ、大量の岩が落ちてきたのは私達のスカイグラスパーが通り過ぎたすぐ後。
通路は完全には塞がっていないが、モビルスーツが通る余裕なんて無い。
思わずコニールも私も、ため息を吐いていた。
341 :
8/9:2006/07/30(日) 00:21:39 ID:???
その後、私達は迷路のような坑道を出て、街のすぐ側へ繋がっている坑道へ入った。
今までの事が嘘のように何事もなくあっさりとガルナハンへ到着、これで任務完了だ。
「よくあそこまで暗記してたよね、コニール。相当調べてたんだ」
街へ着いて、引渡しも終わって。帰りの便を待っている間、私は言った。
「馬鹿にするなよ。言ったろ? 色々やってたってさ」
言葉の内容とは裏腹に、コニールの顔は嬉しそうだ。口はともかく、本当に顔は素直。
そうしてしばらく後、コニールはぽつりと言った。
「なあ、いつかまた来てくれるか?」
「え?」
「お前、本当に上手いってことがよく分かったからな。
できれば、色々と教えてほしいんだけど……やっぱ報酬無しの依頼は駄目かな?」
そう言うコニールの顔は、本当に期待している顔だ。多分、私を認めていて……もしか
すると、友情も持ってるかもしれない。それは嬉しいことだ。だけど。
「別に、報酬なしでも私は構わないよ?」
「本当か!? じゃあ……」
「でも……ごめん。私には……どんな依頼を受けるか決める権利は無いんだ」
そう。今の私は、マティスの権力の中で生きているにすぎない。
そこから抜け出そうとすれば……マティスはあらゆる手段を使って私を消そうとする。
「なぁ、私にはお前の立場が良く分からないけどさ。お前を誘拐したところから脱走とか
できないか?」
どうやら、彼女は私がまだ兵器として育てたところに使われていると思っているらしい。
……まあ、変わらないけど。
「逃げるのはできるよ。暮らすことも、できないことはない。
……でもさ、追手が私を殺そうとすれば、自然に巻き込まれる人が出ちゃうでしょ?」
これが、私がオーブで暮らせない最大の理由。
私は故郷を嫌ってはいない。アスハは嫌いだけど、それでもオーブは好きだ。「サーカス」
での生活は、精神的にも私の成長を強制し、落ち着いて広く物事を見られるようにした。
だから、そういった事はちゃんと分けて考えられる。そして、他の事も分かる。私はもう真っ当な生き方はできないという事が。いるだけで、周りに迷惑をかけてしまうのだから。
「だから、ここに来ることもできないんだ。私は、コニールを巻き込みたくないからね。
……私みたいになろうと思わない方がいいよっていうのはこういうことだよ。
あなたは少なくとも、自分の思うとおりに、自由に力を使うことができる。
私にはそれさえ、自由さえない……」
フリーダム
……おまけに、家族の仇の名前が「自由」なんだから、世の中はよくできている。
342 :
9/9:2006/07/30(日) 00:22:38 ID:???
そうして、ここまで来てこんな事を話している自分が嫌になった。こんな暗い話をして
……コニールに暗い表情をさせて、何になるんだろう。
だから、無理やり明るい顔をして、冗談めかしてこういった。
「いい、コニール。
これから色んな戦いに巻き込まれるかもしれない。大切な何かを失うかもしれない。
けど、自分の思ったとおり、自由に力を振るって。後悔しないように、ね。
約束だよ?」
「あ、ああ……」
対するコニールの顔は、どんな顔をすればいいか分からないといいたげなものだった。
……それはそうだろうな。私だって、分からない。このあとどう続ければいいか。
幸いなことに帰りの便が到着したという話が入り、私達はどう続けるべきか答えを得た。
「さようなら」と。
343 :
86:2006/07/30(日) 00:24:28 ID:???
投下終了。
……スターゲイザーでリニアガン・タンク活躍したばっかなのにやられ役に使うのはやっぱあれですね。
ダガーLが妙に強いのはスカイグラスパーじゃこんなものだろ、という感じで。
投下乙です。
からりとクールなマユは、俺の中で家なき子2の安達祐実のイメージ。歳も近いし。
変な芸人に引っかかって孕むENDだけは勘弁(ねーよ
>>単発屋さん
えーと、何でメイリンがマユ達に敵意むき出しなんですか?
過去に描写ありましたっけ?
>>345さま
スタンドアローン編終章の後半はだ〜いぶ前に投下したものを焼きなおししたものです。
当時は時系列関係なく落としてたんで「メイリンが一緒に逃げる理由はこんなでいいか」という軽い気持ちでした。
時は流れ、いつの間にやらその場面まで行ったところで「ヤベ!メイリンの描写ほとんどしてねぇや!?」と
気づいたもののときすでに遅し。の状態でした。
ただ、メイリンの性格付けを「現代っ子」「エアヘッド」として、なんとな〜く描写し、ルナマリアとマユの反応も
「頭の悪い奴」「気の軽い奴」にに対する態度でなんとな〜く描写したつもりです。
・・・そうですね。「song'sU」でその部分には触れましょう。
アニメのストーリーを追いかけながら書いていて思ったんですけどね、
メイリンを本編に絡ませるのって難しいなぁと。平凡な人間ほど描写が難しいです。
結局行き着いたのが姉とマユの影に入れてようやく輝きだすだろうという結論でした。
347 :
264:2006/07/30(日) 09:37:58 ID:???
レス有難うございます。
>>329さん
真昼間で遮蔽物もない所であれば、ちょっと見づらい程度というのは当然ですね。
ステルス機能も合間って狙いはつけにくいでしょうが……
日本語表現の幅についてですが、悩んではいるけれども前進せずというのが現状です。
他から良い所を取り入れてくるという芸当が出来ない性分なもので。
まあ、地道に頑張ります。痛い所突かれてちょっと凹みました(笑)
>>330さん
ああそれは、仰るとおりですね。じゃあ最初の1レスにメインタイトル入れて、
次レスからは(1/7)とか(2-4)みたいな感じで、何番目なのか解るようにします。
メイリン・ホーク
思っていた以上には、使い道が無いキャラなのね。
オペレーターAなんだね。
>>347 インプット(読書)の量と幅、アウトプット(書く)の経験が全てなので
なかなか一朝一夕にはいかないです。気長にいきましょう。
続きwktkして待ってます
>>348 快活で男勝りでスタイル良くて何でもできる姉に守られたことで
コンプレックスを育みつつ、自分に何がやれるのかを模索する妹。
王道をやってくれれば自分としては満足です
ホーク姉妹とシン、アスランのそれぞれの境遇や立場、人間関係を考えたら、
いくらでも使い勝手のあるキャラだと思うんだけどね。本当なら……
これ以上は原作叩きになるから止める。
マユスレでマユがザフトに居るお話の場合は、メイリンのマユに対するお姉ちゃん描写があったら良いなとちょっと期待してしまう
単発メイリンは、マユやルナに内心でコンプレックスを抱いていたのが遂に爆発して暴挙にって感じなのかね
>>332 マユがやられそうになったところで、記憶を取り戻した兄貴がやってきて裏切り者をボコボコにしてくれる事を期待しよう
単発設定小話 「サルベージ」
〜グフのサルベージを行うキサカたち〜
キサカ「・・・・・・比較的底の浅いところでよかったな」
サイ「そうですね。・・・はい、オーライオーライ。トノムラさーん、こっちにロープ回して!」
トノムラ「よしっ。あがったぞ!」
〜水面に浮上したグフのコックピットに張り付くキサカ〜
キサカ「マニュアル開錠口はと・・・よしここか。おい!無事か!?」
トノムラ「うわっ!あんた・・・誰?」
〜コックピットの中で小さく震えているメイリン〜
メイリン「うううっ・・・うぐっ・・・・・・」
キサカ「大丈夫か?」
メイリン「わ、わたしは・・・大丈夫です。・・・・・・アスランさんが・・・・・・」
アスラン「う・・・・かはっ・・・・・・っぐっぐうううう」
トノムラ「おいおい、メットもかぶらずに乗ってたのかよ!?」
キサカ「出血がひどいな。・・・トノムラ、そっちを抱えてくれ。あまり揺らすなよ」
トノムラ「了解。サイ!同乗してた女の子そっちに移すから手を引いてやってくれ」
〜クルーザー甲板で待機するサイに手を伸ばすメイリン〜
サイ「はい!・・・さ、手をだして。そこすべるから気をつけてね」
メイリン「はぃ。・・・ぁりがとぅ・・・・・・」
キサカ「サイ!次、アスランいくぞ!トノムラ、合わせろよ。いち、にのさんっ!」
トノムラ「よっと!」
サイ「はいっ!・・・・・・わっすごい怪我だ」
キサカ「サイ!すぐに応急手当を!」
〜船内へ救急箱を取りに戻るサイ〜
アスラン「うううううぅぅぅぅ・・・・・こ、ここは?・・・・・・」
キサカ「喋らない方がいい。敵じゃない。目を閉じていろ」
アスラン「・・・っぐ」
サイ「キサカさん!もってきました!」
トノムラ「これは・・・あまりよくないですよね?」
キサカ「そうだな・・・急いでアークエンジェルと合流した方がよさそうだな」
メイリン「アークエンジェル・・・・・・あなた方は・・・・・・オーブの方ですか?」
サイ「そうだよ。・・・ちょっとわけありで連合の制服着ているけどね。間違いなくオーブの人間さ」
メイリン「・・・・・・私・・・捕虜になるのですか?」
サイ「事情は聞かれると思うけど・・・どうかな?捕虜になんてしないと思うよ」
メイリン「・・・そうですか・・・アスランさんの様子は?」
〜ほっとした表情のメイリン〜
キサカ「よくはない。・・・でも死なせはしない」
トノムラ「そういうことだね。お嬢ちゃんは心配しないでいいよ。すぐにもっと設備の整ったところへ行くからね」
サイ「!・・・キサカさん!脈が弱くなってます!」
キサカ「とりあえず船内へ移すぞ。トノムラ!アークエンジェルへ暗号通信でエマージェンシーだ!」
トノムラ「オーケイ!」
〜船内へ奪取するトノムラ〜
サイ「さ、君も船内へ!ここに居ては身体が冷えるよ」
メイリン「は・・・い。・・・アスランさんのそばに居ても・・・いいですか?」
サイ「・・・ああ。もちろんだよ」
完
マユスレ的に昨夜のスペシャルエディションはどうだった?
ミリアリアが最初からAAに乗ってたりガルナハン全カットでコニールの存在を消されハイネが少しでも
長く生き延びるのかと思えばそうでもなく、どうしようもないいつも通りの種だった気がする
職人さんがコニールやハイネを上手く扱ってくれているせいなんだろうな
>ガルナハン全カットでコニールの存在を消され
……マジで?
>>357 アスランのナレで「こんなことがありました」程度の回想
コニールは出てきたかもわからん
>>357 ガルナハンというか牛歩並みではあっても少しずつ
構築されていきつつあったシンとアスランの信頼関係も
なかったことに
マーレ様、アスラン、シンの三人が被害者か、人気投票・・・
フォースインパルスも何かされる可能性がありそうだなww
マーレ様と兄者はともかく、アスランはどんな扱いを受けるのか。
普段から悲惨なだけに全く想像がつかない。
保守
364 :
憑いてる人:2006/08/02(水) 02:38:01 ID:???
歌姫の付き人を書いているものです。
ほのぼののハイネ隊の面々、および隻腕の少女のエクステンデント’sの設定をお借りいたしたいのですが、
両作者様、許可をいただけないでしょうか(エクスのほうは、まだ少し先の話ですが)。
ほのぼのさーん付き人さんに返事してあげてー。
……隻腕さんは返事は難しいだろう……。
単発設定小話 「姉妹」
〜メイリンがアスランに人質としてさらわれたことになってるジブラルタル〜
ルナ「・・・・・・そんな・・・なんで、なんでメイリンがアスランと一緒に・・・・・・」
〜ミネルバのブリッジで茫然自失なルナマリア〜
アーサー「ルナマリア・・・・・・まだ死んだと決まったわけじゃないし・・・・・・」
ルナ「当たり前でしょ!!勝手に妹を殺さないでください!!」
アーサー「あ・・・ごめん」
ルナ「・・・部屋に戻ってます」
〜ブリッジを退出し、自室に戻るルナマリア。部屋の扉が叩かれる〜
マユ「・・・ルナ姉ちゃん!入るわよ?」
ルナ「マユ・・・開いているわよ」
マユ「ルナ姉ちゃん?・・・・・・」
〜ひっそりと薄暗い部屋に静かに足を滑らし入室するマユ〜
マユ「ルナ姉ちゃん・・・大丈夫なの?」
ルナ「ええ。大丈夫。・・・マユは心配しなくてもいいわよ」
マユ「・・・・・・ごめん・・・・・・」
ルナ「・・・なんでマユが謝るのよ」
マユ「で、でも・・・私、メイリン姉ちゃんがアスランと一緒にいるのを知っちゃったもの。うっ・・・わたし、わたし知ってて・・・・・・撃っちゃったもん・・・うっうっ」
〜瞳に涙をったぷり浮かべるマユ〜
ルナ「マユ・・・もう。泣いたら駄目じゃない。あなたは自分のすべきことをしただけ。・・・なにも、なにも自分を責める必要はないのよ」
マユ「ふぇ〜ん・・・うっうっ・・・ぐぅ・・・ルナ姉ちゃん」
〜マユの頭をやさしく抱くルナマリア〜
ルナ「あなたは何も悪くない。だから、ね?・・・涙をふいて。・・・私を励ましに来てくれたんでしょう」
マユ「・・・なんで?なんで私を責めないの?私、メイリン姉ちゃんに銃を向けたのよ?攻撃したのよ?沈めちゃったのよ!・・・ねぇ、なんで?なんで私に怒らないの!?」
ルナ「・・・どうしてかな?・・・わたしはマユには怒りとか、恨みとかそういったネガティブな感情は浮かばないわ」
マユ「でも」
ルナ「マユはマユのすべきことをしただけ。アスランみたいに許されることをしたわけじゃない。・・・・・・メイリンみたいに・・・・・・」
〜マユをぎゅっと抱きしめたまま、言葉につまるルナマリア〜
マユ「ルナ姉ちゃん?・・・メイリン姉ちゃんが・・・どうしたの?」
ルナ「メイリンは・・・たぶん自分でアスランについていったのよ。ここから・・・逃げたくて」
マユ「自分からって・・・そんな・・・なんで?なんで自分から?・・・逃げたくてって?」
ルナ「あの子・・・口には出さなかったけど・・・悩んでいたのよ。ここが自分の居る場所なのかって?・・・」
マユ「メイリン姉ちゃんが・・・でも、そんなうふうには・・・」
ルナ「今思えばだけどね。そんな気がするのよ」
マユ「・・・・・・」
ルナ「・・・理由はわからないけれど、メイリンを悩ませたのはたぶん私の責任。メイリンの変化に気づかなかったのも私の責任。そして、それを救えなかったのも私の責任」
マユ「ルナ姉ちゃんが全部背負い込まなくても!」
〜首を横に振るルナマリア〜
ルナ「だからマユは何も悪くない。・・・アスランは憎いけれど、私は・・・メイリンの姉である自分の不甲斐なさに腹が立つのよ」
〜再びマユをやさしくぎゅっと抱きしめなおすルナマリア〜
完
「ゆうしょー!!ゆうしょー!!」
ぴょんぴょん跳ねるステラ。
商品は某ネズミーリゾート宿泊ペア券だ。
そして通夜のような鎮痛な面持ちの三人、シン、マーレ、アスラン。
「・・・・どうしよう・・・。」
「夜逃げするか・・・・・・?」
「でもデスティニーで追いかけてくるぞ。最新鋭MSで追いかけてくるぞ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーその頃のマユ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
動かない。まったく動かない。静止状態。
『ま・・・マユ?』
するとマユがぽつりと呟いた。
「シンハロ、デスティニーの名前を今すぐデモンベ・・・・・・・。」
『駄目だって!!第一名前変えたって流石にレムリ○・インパクトは無理だって!!』
「・・・・シャイニング・トラペゾ・・・・・・・・。」
『アウトサイダーその他の恐怖?!』
二人が漫才をしてる後ろではその他の人が騒いでいる。
「勝った!!ハイネに勝った!!」
アキラがものすごい勢いで喜んでいる。
「何そんなに喜んでんのよ?」
ルナマリアの言葉にアキラは顔を輝かせながら言う。
「だってもしもハイネが俺よりしただったら夏コミの売り子してくれてなおかつ
1000アースダラーくれるって賭けてたんだ!あ、おれこれからデモベ小説の新刊読むから邪魔すんなよ、あとで貸すから。」
・・・・・・沈黙するルナマリア。
ハイネ、自信があったのね。アキラに逆転する自信が多いにあったのね。
向こうであさっての方向を眺めるハイネからルナマリアは目をそらした。
「お前らは同列か・・・・・。」
レイとアウルにネオが言う。
「でも俺の方が勝ちだぞ、おっさん。」
「どう意味だ?つーかおっさんじゃない?!」
レイの言葉に突っ込むネオ。
「アウルはほとんど同情票だ。『出番の無い青い子』って薔薇乙○原作か?」
「同情票いうなーーーーー!!」
ぎゃおーすとアウルが暴れ始めた。
その向こうでは反対にほのぼのとした空間になっていた。
「よかったわねぇ、二人とも同列で。」
「あーうらやましーなー。私も彼氏ほしいー!!」
「いやぁ・・・・。」
「投票してくれた人のおかげで・・・。」
なんかグレイシアとミーアがスティングとメイリン祝ってる。
だがそのお隣ではとんでもない暗黒空間が流れている。
「一人だけ・・・・・一人だけ最下位・・・・西海・・・・再開・・・・・・最下位・・・・・土門以下・・・・・。」
「だっ・・、大丈夫だよ!俺の一票は同でも良いような票だったじゃん!!」
「気にするなよ!!ほら!結構たかいウィスキーかっぱらってきたから!!それともラムにするか?!」
泣き崩れるキースをカルマとジョーが慰める。
実はこの辺でキースとカルマは個人イベントが入る予定だった。残念。
そして、片隅のコンセント近くではゼロが一心不乱にノートパソコンを叩いている。
たぶん、彼と付き合いの長いものでしかわからないだろうが彼はものすごく喜んでいる。
前回の結果から一気に躍進。やった。やった。やった。いやったぁぁぁぁぁぁぁ。(心の声)
今彼はメールでその思いを伝えている。誰に?決まっている。連絡できる限りの全ソキウスに。
彼の癖である。何かしら大きい出来事があるとそれを壮大な字数で周りに伝えたがるのだ。
ウェンディ嬢曰く、『イレブン、セブン、兄さんのあれはどうしようもありません・・。』
後日ちょっと迷惑だったのでその旨を相談した二人のソキウスは物凄くシリアスな表情でそう『姉』に告げられた。
テン氏曰く『・・・・・ボクも苦情を言おうとしたよ。マザーからも文句言われたし。でもね、メールの話を切り出すと表情
が違うんだよ。もうキラキラと輝いて尻尾振って読んだ?読んだ?読んだの?って!!
言えない!!言えるわけない!!一度見てみるといいよ。何あの顔?キャラマジで違うし?つーか誰?みたいな。』
いつものおちゃらけた口調もなく真剣に語るテン氏。
流石に二人もそういわれるとどうしようもないのかしぶしぶコンビニコンビは帰ったと言う。
【・・・・・・線香の準備しないといけねぇなぁ、こりゃ。】
【フォース、切腹するなら私が介錯してやる。】
【しねーよ!!そんなわくわくした目で見んなソード!!】
いんぱるす三人組が格納庫の隅でギャーギャー騒いでいる。
【嫌だよー!!俺まだ壊れたくないよー!ジェネCEではブラストとソードばっかり贔屓されて俺一度も使われてないよー!】
【まぁ騒ぐなよ。どうせ俺たちゃいつか旧型になるんだからな?】
【お前にいわれたかないわぁぁぁぁ!!マーク!!しかも微妙に外部票もらってますよ?アンリってだれ?!】
【お前とこのおじょーさんの名前くっつければわかると思うぞ。】
二人が騒いでいると二人の間に一閃のビームが走る。
【ふむ、ストライクMkU、少々悪戯がすぎたようだな・・・・・。】
【ワオ、レジェンドってば自分は女関係複雑なく・せ・に。】
指を振りながらレジェンドの怒りを笑い飛ばすMkU
【死にたいのか?】
【いんや、まだからかい奴いっぱいいるし。】
レジェンドの表情が険しくなっていくが相変わらずMkUはにやにやと笑っている。
【ならば冥府へと送ってやろう!!】
そう言ってレジェンドが一斉にドラグーンを放つ。
MkUは流石にやばいと思ったのか、すたこらさっさと逃げ出す。
【兄上やめてください!こんなところでドラグーンを使うなんて・・・・!!】
それをデスティニーが追いかける。三人はぐるぐると犬と鼠と猫のように追いかけあう。
【ガイア・・・くぅん・・・・・・下がった・・・・・・・・・・・・。】
しっぽも耳もたれ下げてしょぼくれるガイア。
【泣き止めよ・・、ほら。皆でゲームしよう、な?】
【・・・・・・・・・・。】
カオスがガイアを慰める。今回ばかりはアビスも黙って頭をなでている。
【すみません、このハンバーガーはなんですかアキラザクさん。】
【アルディラだ。とにかくセイバー。食え。】
【いや、いくら擬人化だからってハンバーガーはまずいでしょ・・・。】
【いいから食べるんだ、セイバー。】
【え。いや。人の話聞いてる?ねぇ?】
向こうではアルディラとセイバーがひたすら押し問答を繰り広げている。
この後整備にきたアスランがコクピット一杯のハンバーガーを見て恐怖したのは言うまでも無い
ステラの下、マユ以上だった人の優勝商品はインスマウス四日間の旅。
たぶんフォースは全身ドリルガンダムに。
インスマウスがわからない子はぐぐってみよう。ほのぼのです。
人気投票。愛憎うずまく結果となりました。
だれだアンリとかレムリア・インパクトとか黒セイバーとか書いた奴。
今、幸せかい・・・?
さて、プラント休暇編まだまだ続きます。果たしてどうなることやら。
それでは。
追伸
付き人さんへ。
どうぞお使いください。扱いがいろいろと難しい奴らですが・・・。
ゼロwwwww
暗黒女帝に負けたのまだ気にしてたんだなお前wwwwwwww
372 :
通常の名無しさんの3倍:2006/08/02(水) 23:41:04 ID:TzLPvlzI
すみません3つとも書いたの我です。
すごい満足ですよwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
〉インスマウス四日間の旅
旅の間中、常にSUN値チェックか…土産に【深き者】持ってくんなよw
↑SAN値だった…orzハズカチー
隻腕作者さんの、近況が気になる方は
>>1にある避難所にどうぞ。
なおこの件は、避難所で。
引退じゃなかったのか
ただの休載だろ
ハ○ターハ○ターみたいなものか
380 :
264:2006/08/04(金) 22:21:50 ID:???
――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
PHASE4:序曲
只今から投下します
381 :
1/9:2006/08/04(金) 22:23:41 ID:???
大型輸送機内にある医務室のベッドに、男が1人寝かされている。全身に夥しい古傷が刻まれ、
傍らには仮面が置かれていた。
「では、今度も対症療法で良いのだな? ロアノーク大佐」
「お願いしますよ、センセ」
40半ばの女医に笑みを向け、ネオは身体を起こした。病人服を脱ぎ、士官服に着替えて行く。
「しかし、これほど重度の放射線症は見た事がない。考えられるとすれば陽電子兵器だが……」
「ああ、まあ、色々無茶やった時期もあったんですかねぇ……」
適当に言葉を濁しつつ、制服に袖を通して仮面を被るネオ。
「適当なところで任務に区切りをつけたまえ。君には3年程の療養が必要だ」
「えー、可愛いコばっかの病院なら行っても良いけどな」
「でなくば、死ぬ。もって1年」
ふざけるネオに対し、女医は静かに宣告した。ネオの口元からも、笑みが消える。
しばらくした後、飄々とした調子で言葉が紡がれた。
「俺はさあ、センセ……子供に、戦争させてんだよね」
「だから死んで楽になりたいとでも言うのか? それは逃避であり、あの子達への侮辱だ」
ぴしゃりと言い放つも、女医にネオを縛る権限はない。電子カルテに入力し、ラップトップを
乱暴に閉じた。
「……ジブリール卿に、連絡入れてきます。中間報告中間報告って煩いんでね、あの方」
「そうか。お大事に、大佐」
背を向けたままの女医に、ネオは口の中で何か呟く。そして医務室を後にした。
『やあネオ。作戦は成功したらしいじゃないか。クズ共は役に立ったかね?』
私室の通信モニターに映ったジブリールは、何時も通り上機嫌だった。
「ええ。ウチの悪ガキも、ジン並にまで性能を落としたXXを上手く使いこなしてました」
『よろしい。実戦訓練としては成功だったようだな。マリアはどうだ?』
「被弾して機体は小破しましたが、本人に影響ありませんよ」
『なるほど……ところで、君らを基地へと帰投させるわけにはいかんのだよ』
「はあ、というと?」
『厄介事が迫っているのだ。手を打たんと、その、困る。……通信、大丈夫かね?』
眉間に皺を寄せ、視線を横へやるジブリール。一つ頷くネオ。
「秘匿回線です。今、確認しました」
『ユニウスセブンがな、地球へと向かっている。約10時間後、大気圏に突入するだろう』
ジブリールはそう言って、愉快気に笑った。
382 :
2/9:2006/08/04(金) 22:25:50 ID:???
「何で、また? あれは100年単位の安定軌道に乗ってたでしょ」
『私にも解らん。ただ、動いている。この瞬間も。君らファントムペインにはもうひと働き
して貰うぞ。ビクトリア宇宙港へ向かえ。エクステンデッドの状態は問題ないだろう?』
その問いに、ネオの唇が引き結ばれた。
「……ええ。初任務を終えた割にピンピンしてますよ」
『よろしい。…もしユニウスがまともに地球へ落ちた場合、二次、三次災害まで考慮に入れると、
少なく見積もっても地球人口の45%が死滅する。流石にそれはまずい』
「商売相手がいなくなる、と?」
ネオの問い掛けに、ジブリールは口の端を持ち上げた。
『他に何があるのかね? 人が死んで儲かる時代は終わったのだ。ビジネスモデルを変えねば
ならん。さて、切るぞ。分刻みの商談が待っているからな』
そして画面は暗転。毎度の如く、ジブリールは勝手に繋いできて勝手に切り上げてしまう。
暗くなったモニターを見て、ネオも席を立った。
「たく……何時もながら逞しいことで……」
「なースティング。元気だせって」
「……」
ラウンジのテーブルに伏しているスティングの肩をアウルが叩く。
「そりゃさ……後半の指示はグダグダだったけど、よくやれたよ」
「……」
「スティング……」
アウルの反対側に座ったステラが、スティングの左腕を抱いた。テーブルには戦闘記録
を納めたメモリスティックとディスプレイ、そしてボイスレコーダーが置かれていた。
「……照明弾のタイミングを間違え、MSが出た時に指示を間違え、挙句の果てに
補充要員のマリアにあんなスタンドプレーでフォローされたんだぞ、俺……」
「大した問題ではありません、スティング」
スティングの向かいに座っていたマリアが口を挟む。
「ミスは何処にでもあります。それをリカバーするのが問題かと」
「ファントムペインにミスは許されない! ……許されないんだ。うっ……」
「すてぃんぐー……」
「あーあーダメだこりゃ」
自分自身の言葉に落ち込んで再び突っ伏すスティングに匙を投げたか、アウルが席を立った。
丁度その時、ネオが入ってくる。
「さーダラダラは終わりだお前ら! 次の任……ど、どうしたスティング」
「気にしないでネオ。それより何の任務? また皆殺し? 面倒臭いんだよねーあれ。森に
入ってった奴ら見つけるのに2時間以上かかったし」
「いや、今回は……」
腰に手を当て顔を上げたネオが、しばし言葉を探す。そして手を打つ。
「世界平和に関する任務だ」
人差し指を立て、笑顔と共に告げた。
383 :
3/9:2006/08/04(金) 22:28:33 ID:???
オーブの昼は暑い。赤道に程近いこの群島は陽光が直下に照りつけ、陽炎を浮かび上がらせる。
民間用の港湾区画で、子供の面影を残した青年が汗だくになりつつ、レバーを引いて
ロボットアームを操作する。
不調の続くクーラーに見切りを付け、窓を開け放っているがそれでも暑い。
だが吹き込む熱風は、少なくとも締め切った機内より心地良かった。
『もう上がれぇ!ヤマト!』
「いえ、これだけ……やっておきます」
スピーカーから飛び出たがなり声に苦笑しつつ、キラ=ヤマトは停泊した輸送船からコンテナを
運び上げた。港の搬入口を往復する無人車の荷台に降ろし、それが走り出すのを確認してから
動力スイッチを切った。額の汗を拭い、ぬるま湯になったスポーツドリンクを喉に流し込む。
「……ふう」
ヘルメットを脱いで髪をかき上げ、キラは操作室のドアを開けた
「真面目だねえ、お前は。時間外手当、出ないんだぜ?」
「けど明日の分までちょっとやっておくのは、良い事じゃないですか」
濡れタオルで煤と油に汚れた顔を拭いた後、キラは笑顔を浮かべた。
「折角貰った仕事だし、ちゃんとしたいんです」
「家電の修理までタダでやってんだっけ? そんな余裕無いだろうに」
「大した事じゃないです。工業カレッジ出た人なら、誰にでも出来ますって」
食堂の隅で仕事仲間と話すキラ。そこへ、エプロンを着て三角巾をかぶった少女がトレイを
抱えてやってきた。布からはみ出した桃色の髪が冷房の風に揺れる。
「A定食、お持ちしましたわ。……あいえ、お待たせ、いたしました」
言葉遣いを直しつつ、彼女はトレイをテーブルに置いた。キラを見て表情を綻ばせる。
「今日もお疲れ様、キラ。わたくしもあと少しで終わりますから」
「うん、店出た所で待ってるよ……ラクス」
それだけ聞くと、ラクスはいそいそと厨房へ戻っていた。
「ラクス=クライン……元、ザフトの歌姫かぁ」
「あー段々腹立ってきたわ、キラに」
「どうやってゲットしたんだこの……」
「そんな。ゲットって……」
先程と打って変わって白けた3人を両手で押し留めつつ、キラは寂しそうに笑う。
「ラクスは……僕を哀れんでくれてるだけですよ。僕には、彼女を……」
「うるせえ勝ち組が! 下手糞な慰めは止めろ!」
「顔が綺麗だからって図に乗るなよ!?」
「え、えぇっ!?」
言い募る仕事仲間達にキラは戸惑い、少しだけ笑った。
384 :
4/9:2006/08/04(金) 22:29:49 ID:???
ヤキン・ドゥーエの戦いを終結させた『英雄達』は、その殆どが今後一切の軍務に関与しない
という誓約書にサインした後に、様々な取引を経て条件付で釈放されていた。
運輸会社に就職したマリューとそのクルーは、旧型船を乗り回してせわしなく世界を
駆け回っている。バルトフェルドはマリューのツテを頼って貿易商を営み、赤字と黒字の狭間を
彷徨う毎日。
アークエンジェル、バスター、デュエルは連合に、フリーダムとエターナルはプラントに
それぞれ返却された。
ラクス=クラインは政治的配慮によって罪を不問とされたが、彼女はこれを不服とし、
『正規の作戦以外で戦艦を運用し、最新MSを奪取しプラントとザフトに被害を与えた
自分の行いは許されない』
と主張した後に自身の処刑を切望。新議長ギルバート=デュランダルは苦慮を強いられたが、
世論の影響などを理由に挙げてラクスを説得。結果的に、全ての特権を返上してオーブに
移住という形に落ち着いた。そして同じくオーブに移住したキラと再会する事になる。
カガリ=ユラ=アスハ代表は非公式ながらキラ達を歓待し、しかるべき職業を斡旋する
事を約束したが、2人はこれを固辞。結局キラは港湾労働者、ラクスは飲食店従業員
の職を得て、アパートの一室で共同生活を送っていた。
「……今日は、荒れるな」
晴れ渡っていた午前中とは打って変わって土砂降りとなった午後。湿気に顔を顰め、キラは
傍らのラクスを見遣った。
バス停に並んで座る2人のほかに、待っている客はいない。
「解りますの? キラ」
「うん。港で働いてるとね。空模様で予想できてくる」
「凄い。お洗濯の時に助かりますわ」
淡く微笑む。何気なく口元に当てた指先は洗い物でカサついていた。それを見たキラが、
僅かに声を落とす。
「ごめん……僕が、もうちょっと稼げれば良いんだけど」
「良いのです。本来、わたくしは生きている事すら許されない存在……」
「それは、僕だって」
「その上、わたくしは逃げ出したのです。逃げた者に、豊かな暮らしを手に入れられるはずも
ありません。勿論、アスランと逢う資格も」
言葉に反して、ラクスの表情は明るい。
「良いのです。綺麗なお洋服も、大きなお家も。わたくしは……罪人です。
これ以上、何を望めましょうか……」
まるでそうする事が義務のように、ラクスは優しげに微笑んだ。
385 :
5/9:2006/08/04(金) 22:33:20 ID:???
「それは、僕だって同じだ」
キラが目を伏せる。かぶりを振るラクス。
「あなたは違います。世界を救った。アスランと共にジェネシスを止めた…」
「違う。僕は誰も救えなかった。誰も幸せにしていない。皆を傷つけて、不幸にして、
掻き回しただけだ。何も出来なかった……力なら、持て余すほどあったのに」
曇天の空を仰ぐ。何処か虚ろな瞳で、透明な天板に跳ねる水滴を眺める。
「平和を願って、戦争を止める為に戦って何が悪い。あの頃の僕はそう思って、正しいと
信じ込んでフリーダムに乗った。そして……大勢を、殺した」
コクピットを狙わない事と、パイロットを死なせない事とは全く違う。推進機関を破壊され、
高空から叩き落されたパイロットの末路など解りきっている。戦場の只中で戦闘能力を奪われた
MSが敵方にどうされるか、宇宙空間で四肢を破壊され、方向転換さえ出来ない機体が
どうなるか。
知っていた。だが、やったのだ。
「死なせたくなかったんじゃない。直接、手を下したくなかっただけだ…!」
「キラ、わたくし達は生きています」
空を睨み、歯を食い縛るキラに寄り添って、ラクスが呟いた。
「生かされたからには、前を向かねばなりません。犠牲となった方の為にも」
「解るけど……ラクスの言う事は解るけど!」
搾り出すような声が耳に滲みる。勿論、ラクスにも解っていた。これは、おためごかしだ。
その時、キラのポケットから耳障りな呼び出し音が上がる。目元を擦って乱暴に携帯を取り、
コールボタンを押し込む。
「はい…キラ=ヤマトです」
『ヤマト、お前MS操縦できたよな! フライトユニット付の!』
職場の上司からだった。威勢の良い声に携帯を耳元から離すキラ。その表情に陰が落ちる。
蒼の翼で宙を舞う鉄の巨人。それはかつての甲冑。そして消えぬ罪の跡。
「は、い……一応は」
『悪いが6番ドックに行ってくれ! セイランの若旦那が人集めてんだ!』
「でも、僕は……」
『1人でもスタッフが欲しいらしい! 頼んだぞ!』
「え、あっ」
通話が切れる。
「やっぱり……僕は……」
込み上がる胸騒ぎを抑えきれず、キラは携帯を握り締めていた。
「……キラ」
ラクスの声が、雨音に掻き消えていった。
386 :
6/9:2006/08/04(金) 22:34:45 ID:???
ザフト新造艦ミネルバ。元々アーモリーワンを襲撃し、最新鋭MS3機を奪った『ボギーワン』
追跡の任に就き地球方面へと向かっていたが、ユニウスセブンの異変を受け、
急遽進路を変更
……とはならなかった。
「ボギーワンの反応が消えたのも、ユニウスの辺りだったわね? アーサー」
「間違いありません。……推進剤を無駄遣いしなくて済みましたね、艦長」
「不謹慎よ。大勢の人命が懸かっているのだから」
「あっ、し、失礼」
ミネルバ艦長タリア=グラディスは副長を嗜め、改めて3D全天マップを見据えた。
ユニウスセブンの速度、軌道共に、地球へ向かっている事を示しており、大気圏突入まで既に
10時間を切っている。
「メテオブレイカーと、B4弾頭の準備は大丈夫なのかしら?」
「先行しているローラシア級、ナスカ級にそれぞれ搭載されています。」
「そう……」
奥歯に物が挟まったような表情のまま、タリアは制帽を深く被り直す。
気に入らなかった。今回の、何もかも。アーモリーワンから出航してからずっと、不快だ。
セカンドシリーズが奪われた際の状況からして不可解なものだった。まず、格納庫内部の
オートガンなど攻撃的な防衛装備は予め全て無力化され、職員はほぼ全員ろくな抵抗も出来ず
に殺害された。訓練を受けた警備兵もだ。
更に奪われたMSを捕える為に編成された防衛隊が絶妙のタイミングで奇襲を受けた。
そう、まるで、防衛隊が何処からどれだけ来るか知っていたかのように。
そして先程まで、機動力に優れるミネルバのみがボギーワンを追跡していた。奪われなかった
4機目の新型、インパルスを乗せて。
「そうしてユニウスに進路を取った途端、この騒ぎ……気に入らないわ」
「はっ?」
相変わらず何処か抜けたような表情でこっちを覗いてくるアーサーに、タリアは溜息をついた。
「良いのよ、アーサー。それより、議長とアスハ代表に伝えて頂戴。本艦は間も無く戦闘配置に
つくので、ご用意したお部屋から出ないように、と」
「あ、はい」
「アスハ代表に、失礼のないようにね」
「わ、解ってますよお、そんなの!」
小走りにブリッジを出て行くアーサーの背中を見送ったタリアは、再びメインスクリーンへと
視線を向ける。
「争いを望むのは、ナチュラル側ばかりじゃない……そういう、事ね」
387 :
7/9:2006/08/04(金) 22:37:36 ID:???
「失敗したら地球滅亡、かあ。でも、不可抗力だよねぇ?」
ミネルバのラウンジ。各クルーが集まる中、整備士の1人が発した何気ない言葉に、
『赤服』を着たルナマリアが口を尖らせる。横では、プラチナブロンドの長髪を空調で揺らす
レイと、黒髪に真紅の瞳を持ったシン=アスカがユニウスのデータを確認していた。
「あのね、不可抗力じゃ済まないって。プラント寄りの国家だってあるんだから、地球には」
「そりゃそうだけどさ。……なんとなーく、落ちた方がサッパリしそうなんだよね。俺達
プラントにとっちゃ、案外楽になって良いんじゃないの?」
「まず間違いなく、楽にはならないだろうな」
それに答えたのは、まだ幼さの抜けない女性の声だった。先程までリラックスしていた整備兵
のヨウランが、慌てて振り返って姿勢を正す。
黄金色の髪に、琥珀の双眸を持つカガリ=ユラ=アスハ。オーブの新代表として
この度プラントを非公式に訪れたところ、アーモリーワンの襲撃事件に巻き込まれ、
そのまま済し崩し的に乗艦している状態である。横で色の濃いバイザーを目深に被る
男はそのボディガード、アレックス=ディノだ。
「あ、あああ代表! その、ヨウランは軽い冗談で……」
「だろうな。冗談でなくては困る」
「はは、は……」
薄っすらと笑うカガリに違和感を隠せないザフトの面々。事前の情報では、
正義感で何処までも突っ走る、よく言えば熱い女性、悪く言えば暑苦しい女性と知らされていた
からだ。実際に会った彼女からは、そんな様子は一切伝わってこない。
「地球にはオーブもある。ザフトの諸君には頑張って貰わねばならない……」
「御心配なく、代表」
棘を含んだ冷たい声。全員の視線がシンへと吸い寄せられる。それに気圧される事無く、シンは
平然と言葉を続けた。
「ミネルバは精鋭が揃っています。ミスは起こしません。……貴女とは、違う」
「シン!」
ルナマリアに制止されるも、シンの視線は変わらない。そんな彼を見ていたカガリは、
ゆっくりと口を開く。
「君は……オーブの、出身者か」
「ええ。……俺はシン=アスカ。家族をアンタたちアスハに殺された、いまどき珍しくもない
戦災孤児ですよ」
「……代表、下がって下さい」
「いや、構わない」
2人の間に入ってこようとするアレックスを押し留め、カガリは一歩進み出た。
紅と金が交錯する。
388 :
8/9:2006/08/04(金) 22:39:05 ID:???
「そうか。それは済まなかったな、シン=アスカ。私も父を失った」
「一緒にしないでくださいよ、代表……そっちは好きで死んだんでしょ。あなたの父は閣僚を
道連れにして、元ゲリラのあなた自身は宇宙へ逃げた!!」
犬歯を剥き出して、シンが吼える。その言葉と眼光を正面から受けるカガリ。
「挙句、よくも……オーブの事を言えますね。御自分の指示で国民が死ぬのは構わなくて、
上から落ちてきた物に潰されるのはお嫌ですか! それがオーブの理念!?」
「シン、そこまでだ」
更なる憎悪を吐き出そうとしたシンの滾りに、レイの言葉が冷水を浴びせた。
顔を上げ、我に返ったようにしばし呆然となったシンが、カガリに対し一歩下がる。
その瞳には、変わらぬ敵意を燃やして。
「それ以上は……お前の値打ちを下げるだけだぞ、シン。」
「あああぁ、アスハ代表!! 此処にいらしたんですかぁ!」
凍りつきかけた場の雰囲気を、アーサーの能天気な声が吹き飛ばした。
「間も無く戦闘配置につきますので、どうぞ此方へ! トイレもシャワーもありますから!」
アーサーによって案内されるカガリ。アレックスがその後に続く。その後ろ姿を、シンが
睨み付けた。
「アンタに言われなくたって……やり遂げてみせる!」
「カガリ……あまり、気にするな。家族を失えば大抵ああなる……」
部屋に通されたカガリは、同じく入ってきたアレックスの言葉に口元を笑ませた。
「気にするなと言われても、それは無理だな。私への言葉、何一つ偽りは無かった」
「カガリ……」
アレックスがバイザーを取る。かぶりを振った。
「あれは、お前だけの所為じゃない」
「いいや、今となっては全て私の所為だ。私は代表なのだからな。全ての責は私にある。
それに私は……指揮を取っていた者の1人だ」
至って冷静な口調でカガリは続ける。小窓から見える星の海を見遣った。
「私は……『中立』という概念について、とんでもない思い違いをしていたのだ。
だから、さっきのシンを含め、大勢を犠牲にしてしまった」
「思い違い……?」
アレックスの不思議そうな声に、カガリは一つ頷いた。
「私は、中立はオーブの理念だと思っていた。だが違う。中立とは……」
アレックスに振り返り、表情を見せないまま言葉を紡ぐ。
「力であり、父ウズミ以前から築き上げられて来た『地位』だったのだ……」
389 :
9/9:2006/08/04(金) 22:41:06 ID:???
「カガリ……」
「あの時に認識すべきだった。オーブのような小国が、何故中立を保ち続けていられたのか、
何故『平和の国』でモビルスーツが開発されていたのか、気付くべきだった」
堰を切ったように、これまでの全てを振り払うようにカガリは言い募る。
項垂れ、どこかにすがるように、その両手が伸ばされる。しかしアレックスの肩に触れる寸前で、
固く握り締められた。
「父が、その地位を守る為にあらゆる手を使ってきた事を、私は認めるべきだった。
理念という砂糖菓子を口にするまでに、一体どれだけの時間と!血が!費やされたのか!」
「…………」
「私がもし真っ当に為政者としての道を歩んでいれば、恐らく終生奇麗事で済ませられたろう。
だがもう遅い。私は時間を浪費した。私の物でない血を流した。最早、退路はない」
カガリがゆっくりと顔を上げる。口元に浮かんだ笑みに、アレックスは悲しげな表情を見せた。
犬歯を覗かせ、琥珀色の瞳に陰を落としたカガリは、肉食獣にも似た雰囲気を纏っていた。
「アスラン……いいや、アレックス。私は、あらゆる手を使うぞ」
「レイ、ルナ……さっきは、悪かった。それに助かった……有難う、レイ」
「気にするな」
「気にしなさいよ! まったくねえ……あわや国際問題よ? もう……」
ミネルバのハンガーに、赤いパイロットスーツを着込んだ3人が入ってくる。
「いや、本当に……どうかしてた。赤服らしくない取り乱しぶりだった」
気まずそうにこめかみの辺りを掻くシン。
「辛い別れを経験すれば、当然だ。アスハ代表も、その辺りは理解していたようだな」
「は? アイツが?」
「だから、無神経な言葉と態度でお前に接した。お前が、思う存分罵る事が出来るように」
レイの淡々とした口調に、シンの口元が不満げに歪んだ。
「……ふーん? そう、か?」
「細部の判断はお前に任せる。それより、早く準備してくれ」
「ああ…! じゃあ、先に行ってる!」
コアスプレンダーへと走っていくシンを見て、レイも白く塗装されたザクへ
向かう。
「でも、初めて聞いたな。シンの……昔の事」
「自分の不幸話を喧伝して歩くような奴じゃないからな、シンは。それに……」
「それに?」
わざわざ足を止めて、顔を覗きこんでくるルナマリアに少々面食らいつつ、
レイは続ける。
「まだ、俺達を信頼しているわけじゃないんだろう」
「えー!何それ!」
「ともかく、ルナマリアも急げ」
キャットウォークを通ってザクのコクピットに滑り込んだレイは、独りごちる。
「嫌な……感じだ。何事も無ければ、良いが……」
390 :
264:2006/08/04(金) 22:44:08 ID:???
投下終わりました。形式等等、変えてみましたがどうでしょう。
個人的にキラ、ラクス、カガリはとても好きなキャラなので、ついつい枠を
割いてしまいました。
では、今後ともよろしくお願い致します。
きれいなラクシズキター!!
戦後のキラとラクスの生活がいい感じだな。
孤児院で手伝いしながらのほほんと暮らしているよりは、生々しくて人間らしいと思った。
しかもあっちじゃキラまともに働いてなさそうだったしな…w
なんかラクシズがそれぞれに葛藤やら何やら持ってて、
本編のような傍若無人さ、身勝手さが薄れてていいですね。
特にカガリがなんか気に入りました。
GJ。
本編でもこういう人間くさい場面や為政者としての覚悟のようなものを描いてほしかったです。
とりあえずGJ
突っかかりスレ住人としては、シンとカガリの口調はあまり変えて欲しくないかも。(台詞自体は良かった)
世界を上から見ることしかしないと、絶望してテロに走るしかないんだよな。
綺麗なラクシズと言われようと、平凡な小市民として生きるキララクが(・∀・)イイ!!
とにかくGJ!
カガリが銀英伝に出てきそうな政治家になってる…w
単発設定小話 「FLAG」
〜いろいろあって連合をコテンパンにしたザフト軍〜
ルナ「ふぅ。マユ、お疲れ!」
マユ「ルナ姉ちゃんもね。・・・インパルスの調子どう?」
ルナ「あのMS・・・すごいわね。ザクとはぜんぜん違うわ。あんなのをマユはずーっと操っていたのね」
マユ「私だっていっぱいいっぱいだったよ」
ルナ「あら、そうなの?」
マユ「だってインパルスって小回りが効きすぎてつい動きがトリッキーになっちゃのよ」
ルナ「そう、でもそれでも自分の思い通りに操ってるんでしょう・・・ふふっ・・・さっすがフェイスね」
〜マユに背中から抱きつくルナマリア〜
マユ「ちょっ・・・ルナ姉ちゃん・・・きっつい。のどが・・・・・・うげぇ」
ルナ「ごめん。・・・でも、もうちょっとこのままでいさせて」
〜マユの首筋に顔を埋めるルナマリア
マユ「・・・ルナ姉ちゃん」
〜アークエンジェル、医療室〜
カガリ「キサカっ!アスランはっ?大丈夫なのか!?」
キサカ「落ち着け、カガリ。落ち着け、命に別状はない。意識を失っているだけだ」
カガリ「そ、そうか・・・・・・。で、この娘は?」
トノムラ「ん〜アスランがつれてきちゃったみたいだよ」
サイ「オーブへの亡命者ってところかな」
カガリ「・・・ふ〜ん。名前を教えてくれるか?」
〜アスランが寝ているベッド側の椅子に座っているメイリンに話かける〜
メイリン「メイリン・ホークです。・・・ミネルバで通信仕官をしてました」
カガリ「ミネルバだって!?・・・・・・どうして、どうして脱走なんてしたんだ!?」
〜メイリンに畳み掛けるように問いかけるカガリ〜
キラ「カガリ!・・・この子だってまだ状況を把握しきれていないんだから、もうちょっと落ちついてからにしようよ」
サイ「そうだな。キラの言うとおり、代表のあせる気持ちはわかるけど、もう少し時間をかけないと」
カガリ「ああ、そうか。・・・・・・そうだな。とにかくアスランが無事でよかった。続きはアスランの意識が戻ってからにしよう」
キラ「わかった。しばらくは僕が残っているよ」
カガリ「うん。でもキラ。お前だって負傷者なんだからな。けが人の自覚ってもんをもっと持て」
キラ「うん、そうだね」
〜キラに微笑みかけられながら医療室を出るカガリ〜
キサカ「キラ・・・お前は大丈夫なのか?お前だってフリーダムごと沈められたのだろう?」
キラ「うん・・・でも、コックピットは無事だったし。それにアスランが助けてくれたみたいだから・・・」
キサカ「そうだったな。・・・じゃあお前に親友の世話をまかせてもいいか?俺たちもアークエンジェルについたばかりだからな」
キラ「ええ、わかりました」
サイ「キラ、これアスランの着替えな。頼んだぞ」
キラ「サイ・・・・・・僕は・・・」
サイ「キラ・・・俺だって馬鹿じゃないんだ。今は前に進むことを考えようぜ」
キラ「・・・・・・ごめん」
サイ「はは、謝ってどうすんだよ?・・・かわらないな、謝り癖は」
キラ「え、そうかな?」
サイ「そうだよ」
〜医療室から出て行くキサカ、サイとその他一人〜
完 ・・・・・・次回「天空のキラ編」
398 :
264:2006/08/05(土) 23:58:29 ID:???
レス有難うございます。キラ、ラクスですが、本編のような場所で不自由無く
暮らすというのは、ちょっと彼らのファンとして納得できなかったので、
ああしました。
カガリとシンの口調についてですが、これは御意見多々ある事と思います。
まずカガリですが、一応国家の代表という事と、償いようの無い過ちを何とか
リカバーしようという憂鬱によって非常に調子が硬く、皮肉ぽく、自虐的です。
アスランに対しても調子が変わらないのは、彼を精神的な拠り所として犠牲に
すまい、としているからです。
『アスラン……いいや、アレックス』の辺りなんかは、結構グラついてますけど。
次にシンですが、彼はザフトの赤服であり、極力感情を揺るがせないよう
普段から務めています。元々『敵』への憎悪と喪失の恐怖からザフトに入隊したので
精神面は非常に不安定であり、そういう自分を恥じてもいます。
まあ、カガリを前にして見事に暴発しましたね(笑)。完璧な兵士であろうとする
理性と、原動力である怒りと憎しみがせめぎあって、歪な二面性が生まれています。
本来ならばこういう事は作中で表現すべきなのですが、未熟ゆえに伝わらなかった
ようです。申し訳ありません。一応、書いておかないとシン、カガリファンの方々が
嫌な思いをするのではという事で、注釈を入れさせて頂きました。
様々な考察が未だに固まりきっておらず、まだ設定ラフの段階です。これから
少しずつ洗練していければ良いなと思っています。
単発設定小話 「ラクスちゃん、ピ〜ンチ!」天空のキラ(爆笑)編@
〜<ビーッ!ビーッ!>エターナル船内に警報が響く〜
バルトフェルド「ダコスタァ!!報告!」
ダコスタ「はいっ!!エターナル、敵艦隊に捕獲されています!!奴らどうやってここにいることを!?」
バルトフェルド「逃げれるかっ!?」
ダコスタ「ダミープラネット剥離させます!緊急離脱します!!・・・各員、手近なものに摑まってろ!」
〜エターナルを覆っていた小惑星が剥がされてゆく〜
バルトフェルド「敵の方が速いか・・・ヒルダ達はでれるか?」
ダコスタ「ドムトルーパー行けます」
バルトフェルド「よし、俺もガイアででる!ラクス、エターナルを任せる」
ラクス「はい。承ります」
バルトフェルド「アークエンジェルへエマージェンシーコールしとけよ!・・・ダコスタ、ラクスをサポートしろ!」
ダコスタ「はいっ!」
ラクス「頼みますわよ。ダコスタさん」
ダコスタ「え・・・はいっ!全力でラクス様をサポートいたします!」
〜にっこり笑いかけたラクスに顔を真っ赤にするダコスタ〜
バルトフェルド「じゃあまかせたぞ!」
〜ブリッジを後にするバルトフェルド〜
〜エターナルからのエマージェンシーを受けたアークエンジェル〜
キラ「エターナルが!?・・・マリューさん!」
マリュー「そうね・・・こちらは修理に時間がかかるし・・・」
キラ「ブースター使わせてください!一気に宇宙まで上がります」
マリュー「キラくん!?あなたMSないじゃないの」
キラ「大丈夫ですよ!じゃ、行ってきます!」
〜アークエンジェルのブリッジから駆けてでてゆくキラ〜
マリュー「・・・はっ、まさか。あの子ルージュを?」
〜デッキに到着するキラ〜
キラ「マードックさん!ルージュとブースターの設定を!」
マードック「ぼうず!ルージュはぼうずの設定でいいんだな!?」
キラ「はいっ!お願いします。カガリ!」
〜あわててデッキにでてくるカガリ〜
カガリ「キラ!お前!?」
キラ「カガリ、ルージュ貸して!」
カガリ「っておい!私のMSがなくっちゃうだろ!?」
キラ「・・・ああ、大丈夫!君のためのMSがちゃんと用意してあるから!じゃ、借りるからね!」
〜ルージュのコックピットにすばやく乗り移り、設定を変更しだすキラ〜
カガリ「・・・代わり?ってなんだ?」
マードック「嬢ちゃん邪魔だって!どいたどいた!」
カガリ「え、ああすまん」
マードック「ぼうず!ブースターの用意できたぞ!セットは自分でやってくれ!」
キラ「ありがとうございます!・・・システムオールグリーン、デフォルト設定完了。・・・ストライク、キラ・ヤマト行きます!」
マードック「うっしゃぁぁ、全員離れろ!」
〜あわただしく宇宙へ発進したルージュを載せたブースター〜
完 ・・・・・・「黒っぽい三連星」天空のキラ(苦笑)編へ続く
>>398 んー。
一人称小説ならともかく、せっかくの三人称小説なんだからその辺、地の文で書いてもいいと思うよ。
その辺が文字媒体の「小説」の強みなんだから。そうやってあとで注釈入れるより、地の文で書いた方が絶対にいいと思います。
鉛色の南極の空に薄絹のような光が踊っている。
幻想的な薄暗がりの底に溜まった澱のような建物が氷の大地にへばりついている。
実際に地上に見えているのはごく一部に過ぎない。大半の施設は氷の奥深くに
潜り込んで身を潜めている。
それは悪魔の棲家だった。ブルーコスモス直属の実験施設『バプテスマ(洗礼)』。
その名は司るプロジェクトから採られたものだ。地下の施設には年端もいかない
コーディネーターの少年少女たちが幽閉されている。
本来ならば存在を許されない子どもたちにブルーコスモスの教義による洗礼を施し
「青き清浄なる世界」のための刃となす。彼らの大半は先の大戦でのオーブ占領の際に拉致されてきた。
言語を絶する洗礼を受けコンクリートの壁の中で戦争が来るのを待っている。一度機会が来れば彼らは
「元同胞」である「呪われた」コーディたちを滅ぼすためにすぐにでも出撃するだろう。
そしてマユ・アスカもまたその中にいた。
空爆に巻き込まれオーブの都市郊外に半死半生で倒れていたところを「保護」されたのだ。
もしもあのまま死んでしまえたならきっとその方が幸せだったに違いない。
今、彼女は金属の義手を残った腕と組み合わせて暗い空間に祈りをささげている。
「コーディネーターが皆死にますように。青き清浄なる世界のために…」
虚ろな瞳のマユには記憶さえも定かではなかった。二年間の歳月で人から兵器に生まれ変わった。
過去も未来も失くした少女は檻の中で自分が戦場に送られる日を待っている。
彼女はまだ、自分の運命を知らない。
>>398 ちょうどジ・エッジを読んだ後だったので、本編のやや幼い二人が
脳内にとどまってた。再解釈の途中でつっこんですまない
>>400 胴衣
>>401 マユ in ファントムペインは264氏が始めるまでありそうでなかった設定。
マユ種死もだんだんバリエーションが増えて喜ばしい限り。
本文も期待してますよ
404 :
264:2006/08/06(日) 09:24:03 ID:???
元々、説明は出来る限り省いて進めるつもりでしたので(そうでないと
小説の体を為さないので)見苦しい注釈を入れる事になりました。
今後は、こういう事がないようにやっていきたいと思っています。
と、まあ、こういう能書きはさておいて続きを書かねば。
ちょっと質問なのですが、ユニウスセブンが落下した時、地球連合の
部隊が全く落下阻止に寄与していなかった記憶があります。
何か、向かえない理由でもありましたっけ。まさか衛星軌道上を全く
哨戒していない、という事は無いでしょうし。
>>403 ボクは264氏じゃないッスよ(笑)。ルナ主人公の前スレで暴れた者です
ひょっとして264氏の作品ですでにあった設定だったとか
まあ邪魔にならない範囲でボチボチやってみます
>>404 確かにその辺違和感ありますなー。
つーてもネオジオンのコロニー落しをまったくスルーしたZZの連邦軍という駄目駄目連中もいるし……
フィフスルナ落しだって対応したのはロンドベルだけ……
特に明確な理由は本編では描いてはいないね
このスレ限定。
ファントムペインの面々と破砕作業した作品は有り。
>>404 1. 間に合うほど近くに部隊が展開してなかった(しかし派遣を検討した形跡ゼロ)
2. コーディへの憎悪を煽るため、わざと放置した(PPが映像送るまで犯人に心当たりなし)
3. 脚本の都合。馴れ合ったらそこで種死終了ですよ
>>405 餓狼伝説改変ネタの人?wktk
>>409 404だけど画廊伝説改変ネタとは? 前にあったネタ?
↑ 404だけど→405だけど でした
405(401)だが連レススマソ。さっきチェックしてみたんだが
264氏が既に書いてくれてるネタみたいなんで別のネタでも考えます
期待してます
単発設定小話 「黒っぽい三連星」天空のキラ(苦笑)編A
〜あわただしいエターナル〜
ヒルダ「なんだいなんだい!?騒がしいねぇ!」
マーズ「敵襲だってよ。ドムのセットアップ終わってんだろうな!」
ヒルダ「はんっ!そんなの、終わってるわけないだろ!あたしがシステム系苦手だってしてんだろ!?」
ヘルベルト「ったく、感じなところでお気楽なんだからな。うちの大将は」
マーズ「あ〜・・・ヘルベルト!先にいって虎の将軍様をサポートしろ!」
ヘルベルト「了解!じゃ、ヒルダお先にな!」
〜ヒルダたちを追い抜き廊下を駆けてゆくヘルベルト〜
マーズ「ヒルダのドムのセットアップは俺がやっていいんだな!?」
ヒルダ「あんたの設定はあたしと同じだからね。問題ないよっ!」
マーズ「はいよ」
ヒルダ「そうそう、聞いたかい?マーズ」
マーズ「なにをだよ?」
ヒルダ「キラ・ヤマトが地球から上がってくるってさ」
マーズ「いいタイミングじゃないか。ちょうどアレもできあがったとこだしな。でもよぉ・・・」
ヒルダ「なんだい?」
マーズ「あいつ宇宙って先の戦争以来だろ?宇宙での戦い大丈夫だろうな?」
ヒルダ「スーパーコーディネイターだよ?そんなの大丈夫に決まってるだろ!」
マーズ「はいはい、またスーパーコーディネイター万歳様々かよ」
ヒルダ「うるさいねぇ!?あたしゃコーディネイターの革新ってやつを信じてるんだよっ!」
マーズ「ヒルダ・・・お前議長側に居た方がよくないか?」
ヒルダ「なにいってんだか!?誰があんな優男に誰が着いていくかよ。しかもあの考え・・・反吐がでるっていうんだよ!」
マーズ「まぁ、そうだな。デスティニープランってのは抵抗を感じるが・・・っと、出来上がり!」
ヒルダ「遅いよ、マーズ!」
マーズ「はぁ!?お前がシステムセッティングサボったから余計な時間くったんだろうが!?」
ヒルダ「まぁまぁ。いいじゃないの。ほら、いくよ、マーズ!」
マーズ「へいへい・・・」
〜互いのドムトルーパーのコックピットに乗り込むマーズとヒルダ〜
〜先に船外へ出たバルトフェルドとヘルベルト〜
バルトフェルド「あ〜駄目だなこりゃ。逃げ切れんは・・・」
ヘルベルト「将軍!敵さんがぞろぞろとでてきたぜ!」
バルトフェルド「ヒルダたちはどうした?ヘルベルト」
ヘルベルト「すまねぇ将軍。ヒルダがシステムセットアップさぼっててよ」
バルトフェルド「三つ子の魂百までってやつか?ったく、昔から変わってないな!」
ヘルベルト「へへ、でもよ腕はヒルダもマーズも俺も将軍に引けをとらないところまできたぜ!」
バルトフェルド「ほ〜う、頼もしいこといってくれるじゃないか!じゃ、二人がくるまで時間を稼ぐぞ!」
ヘルベルト「了解!」
〜高速でエターナルへ向かってくるザフトのMS部隊に立ち向かうバルトフェルドとヘルベルト〜
〜大気圏を振り切りつつあるルージュ〜
キラ「もう少し、ラクス・・・無事でいてよ」
〜エターナル ブリッジ〜
ラクス「・・・・・・!キラ・・・・・・」
完 ・・・・・・次回「2分で25機」天空のキラ(嘲笑)編
真っ暗な宇宙空間に漂うデブリの海。それは海の墓場サルガッソに似て死の気配に満ち満ちている。
光学迷彩を施されたブルーコスモスの所有する宇宙艦が身を潜めている。
しかしそれは臆病さためではない。かえって獲物を待つ猛獣の如き静寂を纏って伏す戦艦ヘルメス。
彼らが狙うのはこの宙域を通過して地球に降下する予定になっているザフト艦だ。
だがそれは正規の軍事行動ではない。ブルーコスモス首脳の独善的ともいえる判断である。
あのユニウスセブンの落下事件から二週間。目に見えない場所で既に戦争は始まっていた。
「たとえ援助物資を積んでいるにせよザフトをこれ以上地球に入れるわけにはいかない」
という理由で目標を拿捕することが今回の出撃の目的である。
既に数機のMSがデブリ帯の空間に展開している。その大半は連合製のダガーだった。
しかしその中に一機、違和感のある機体が混じっている。
その外観はアストレイに似ていた。しかしそのカラーリングは黒と赤ではなく黒と緑に
彩どられていた。装備もまた異なっておりビームキャノンを小脇に抱えている。
それは正確にはビームキャノンと実弾のショットガンを組み合わせたものである。
そして両足の脛部分の外側には切り離し可能な大型ミサイルポット。
さらに胸部、人間で言えば肋骨の下の部分にはガトリングが内蔵されている。
それは頭部バルカンの替わりでもあった。赤と緑のオッドアイな瞳を輝かせる頭部
には狙撃用の装置があるためにバルカンを積む余裕は無い。
腰には接近戦用のヒートマシェト(山刀、厚みの短剣)があった。それが接近戦用の
武器の全てである。基本的には距離をとって後方から射撃する機体だからだ。
M2T・バスターアストレイ。オーブ軍の新型量産機のテスト(T)タイプである。
もっともナチュラルには使用困難ということで大量生産はされず、
主力の座はムラサメに奪われたわけだったが。
オーブ・連合間での密約を証するために今回の作戦への参加を強要されたパイロットは
年端もいかないコーディネータの少女だった。
マユ・アスカ十五歳。二年前の大戦で連合によるオーブ占領時に戦渦に巻き込まれて両親は死亡。
そのときの怪我が元で植物状態になった弟は今もオーブの病院で眠り続けている。
その治療費の問題がマユがオーブ軍に入った理由(正式には契約のテストパイロット)だった。
本当は多くのコーディネータ市民のようにザフトに逃げる手もあったのかもしれない。
しかし大規模な生命維持装置ごと弟を移送するのは極めて困難だった。
下手をすれば途中で死なせかねないしましてや現在の状況下では端的に不可能事でさえある。
だから彼女はオーブ上層部との取引に応じた。自分が戦う代償として弟の命を保障する、と。
両親を殺した連合のために働くことは反吐が出るほどに屈辱的だったがそれでも弟の命には
替えられない。家族のために他人を殺すことがエゴであると自覚してもいる。
だがそれでも、自分の手を汚してでも譲れないものがあった。
あと一時間もしないうちにこのデブリで戦闘が開始される。
マユにはもう一つの懸念があった。ザフトに所属している異母兄・シンのことだ。
シンはマユの父親がプラントにいたころの恋人との間に作った子である。
仕事で地球にやってきた父はナチュラルの母と出会い、電撃結婚したという
(それだからマユと弟は性格にはハーフコーディネータということになる)。
シンはそのことで父を憎んでいた。生まれて間もなく母と共に捨てられたのだから当然だろう。
だから兄妹なのに昔はほとんど合ったことがなかった。少なくとも両親がいる間は。
幼いころ一度だけ会ったときにはとても怖い顔をしていてマユは泣いてしまったのを覚えている。
シンの母親もまた二年前の大戦で亡くなりそれでザフトに入ったのだと電話で言っていた。
しかしシンはこの二年間、家族を亡くしたマユに以前とはうって変わって優しくしてくれた。
軍務のせいで直接に顔を見せる機会はまずないにせよ、毎月少ないながら仕送りまでしてくれた。
兄が誕生日に送ってくれたオルゴールのペンダントはいつも持ち歩いている。
そして顔も見たことがない異母弟に大きな恐竜の人形を贈ってくれた。それは病室に置いてある。
一度だけ、地球に来てくれたことがある。あのときの兄はとても優しい目をしていた。
マユの頭を撫でて「大丈夫か?」と覗き込む瞳は慈愛にさえ満ちていたと思う。
だから、言えなかった。弟が植物状態であること。シンの仕送りだけではお金が足りないこと。
それを稼ぐためにオーブ軍で働いていること。
マユはナテュラルとのハーフであるとはいえ能力では決して並みのコーディに劣らない。
その気になれば勉強の傍らにそれなりのお金は稼ぐことが出来た。少なくとも生活費程度は。
それに自立心の盛んな思春期の少女としてはそのことに微かな誇りさえ感じていたのである。
「弟は?」と訊ねる兄にマユは「弟は臨海学校に行っている」と言ってなんとか誤魔化した。
シンは単純にその言葉を信じたようだった。マユは連れて行ってもらった遊園地では
なんとかはしゃいで見せた。
けれども別れ際に泣いてしまったのを覚えている。兄と別れることが無性に心細かったのが
自分でも意外だった。シンはそれを両親がいない寂しさのせいだとうけとったのかもしれない。
「プラントに行って三人で暮らさないか」というシンにマユは目を伏せて
「弟が小学校を卒業したら」とだけ答えた。
実際、それも悪くないと彼女は後で思ったりしたものだ。そしてかつて他人同然だった兄のこと
をいつの間にか愛するようにさえなっていることに気がついた。
だからザフトとの戦闘を前に恐れた。手違いで兄を殺してしまうことを。
でも、望みはある。シンは「新型に乗ることになった」と電話で言っていた。
それ以上のことは教えてくれなかったがそれだけで十分だ。新型を狙うのを避ければよいだけ。
彼女は何とかそう信じ込もうとする。
しかし無意識的な不安は誤魔化しようがない。断続的に冷や水を浴びせかけられるような
感覚が彼女を襲う。マユの肌はパイロットスーツの中で冷や汗に塗れていた。
コックピットの中は暗く、モニターには真っ暗な宇宙と墓場のようなデブリ。
閉塞感に窒息しそうになる。マユは自分の膝が微かに震えているのを認めざるを得なかった。
401(405)です。またネタが被ってないかちょっと不安(笑)
個人的にはヘビーアームズ大好き人間です
なんとなくM1の頭にHアームズの躯をくっつけた感じのMSを想像。
年端もいかない少女との組み合わせはミスマッチで良い。
どんな戦い方をするんだろうか
さすがにネタはかぶってないと思うwww
シンとは異母兄妹、さらにマユの下にももうひとり弟と、今までになかったパターンですね。
『妹』としてだけでなく、『姉』としてのマユも見られそうで期待してます。
ただ、ちょっと投下形式について一言。
1レスごとに30分近く空いてるのは、書きながら投下してるから?
できればメモ帳とかにあらかじめ書いておいて、コピペで一気に貼ってほしい。
それと、
>>330氏が
>>264氏にアドバイスしたように、何分の何ってつけてくれるとより良いかと。
レスごとの間が長く空いてる上に、いつ終わるかがわからないとなると、
読者が終わったと勘違いして、流れを切ってしまうようなレスが間に入りかねないので。
>>420 こちら401、了解ッス。0話後半は少々お待ちくださいです。
余裕を見まして週末を中心にまとまった分づつ投下させてもらいます。
ちなみに1話か2話でファントムペインの少女とコンビを組ませて
マユとその少女の二人が一章の中心になりそうです。
「ねぇどっか行こうよー。」
ハァッ!!
「えー?あちぃしメンドクサイ。」
PKふらーっしゅ!!
「うぇーい・・・・ステラは・・お外で遊びたい。」
ぷーぷりーん♪
「そうだな・・・・あー髪切るかな・・・・。それこそ坊主にするか。」
うわぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・キラーン。
「「「それは嫌だ。」」」
「レイ兄ちゃん、それ全国のレイ・ザ・バレルファンに喧嘩売ってるよ。あっ!」
うぉぉぉぉぉぉ・・・・・・・・ドガッ!!
「油断してるからだぜ!!おりゃっ!PKファイ・・・・。」
はぁっ!!
「どっちにやっている!!」
「お前ら働けーーーー!!夏休みの中学生どもがーー!!」
テレビの前でゲームをしていた四人はスティングに起こられる。
「マユとステラは朝ごはんの片付け!レイとアウルは洗濯物!!俺はシンハロと出かけてくる!!」
「ネオはー?」
「ネオはお仕事です!!」
「スティング、お母さん口調だぞ。」
「いいからとっととやれやぁぁぁぁ!!」
有無を言わさず仕事を命じられととぼとぼと四人は仕事に向かう。
あまりにスピードが遅いのでスティングにどせいさ○ぬいぐるみを投げつけられた。
『スティングー。準備できたよー?』
「あぁ、今行く。」
散らかった部屋をスティングは歩いていく。
バット、ハリセン、かめの甲羅などが散らばっている。
「またせたな。」
『いや、別に。』
そう言ってシンハロとスティングは玄関へ向かう。
そこで、廊下でスティングが呟いた。
「・・・・・・近々処分しないとリアルで大乱闘でスマッシュするつもりだな。あいつら。」
『うん、俺もそう思う。』
「と、いうわけでどうにかなりませんか?デュランダルさん。」
『議長、保護者なんだからどうにかしてくださいよ。』
「なんでよりによってサラからようやく逃げ出した時に来るのかい?君たちは。」
ここはとあるオープンカフェ。なにやら葉っぱやら泥やらの付いた議長とスティングとシンハロは対談していた。
『奢るから我慢してくださいよ。何食べます。』
「ランチのBセット。あとここの名物の巨大チョコレートパフェも。」
シンハロの言葉に即答して答えた議長をスティングは白い目で見る。
(うわぁ、何いい年してチョコレートパフェって。何?こんなのがいまや世界の頂点に立つ人で良いの?
いや、落ち着け俺。きっとあんなのだから頂点に立てたんだ。うん。そうだな・・・・・)
『スティングー?何頼む?俺水しか飲めないからスティングが決めたら注文するよ?』
「あ・・、あぁ。アイスコーヒーでいい。」
シンハロが注文してる間にスティングは議長に話をする。
「どうにかしてくださいよあいつ等。ステラとアウルは叱ればどうにかなるけどマユとレイがいるとつられて毎日家でゲーム三昧ですよ・・・・。」
「いや、私に言われても。」
「親だろうがぁぁ!!」
『スティング、落ち着け!!』
はぁはぁと息を切らすスティングをシンハロがなだめる。
「ふむ、だったら確か・・・・・・。」
そういうとデュランダルはポケットから一枚のチラシを取り出した。
「オーブからの移民者を支援する企画でね、とある商店街で日本風・・もといオーブ風の祭りをやるんだ。
それに便乗して各地のデパートで着物のフェアなどをやっててね?どうだい?」
そう言って議長がそのチラシをスティングに渡す。
そこには英語と日本語で文字が書かれている。
『他の皆誘っても楽しそうだなー・・、スティングもメイリンの浴衣姿みたいだろ。』
シンハロの言葉にスティングの顔がすこし赤くなる。
浴衣というものは確か前『夏』という話題になったときアキラがさらっと絵に描いて説明してくれた。
普通の着物とは違いサマードレスのようなものだとアキラは説明してくれた。
アキラは丁寧にもマジックのようなペンで色塗りまでしてくれた。
華やかな模様の浴衣の絵で二つ結びの少女はどことなくメイリンに似ていた。
きっとかわいい。いや絶対かわいい。むしろかわいくなかったら世界が間違っている。
「むぐむぐ・・・・これで・・・んぐ。用件は済んだかい?」
いつのまにか来たらしいランチを食べながらデュランダルは聞いてきた。
「はいっ!!ありがとうございま・・・・・。」
スティングの明るい声を掻き消すように突然轟音が轟いてきた。
それは通行人を引きかねない勢いで進んでくる一台のごっついバイク。
「んぐっ!!」
それをみた議長がランチのパスタを喉に詰まらせる。
「ちょっ・・・!!水・・!!」
スティングが慌てて水を飲ませようとするがバイクに乗った美女・・・・・サラは議長の首根っこ捕まえてバイクに乗せる。
『サラさん!!議長はいま喉に・・・・。』
「大丈夫、コーディネイターは喉に物が詰まったくらいでは死にません。」
「うわぁ、俺こんな残虐かつ堂々とした差別始めてみた。」
そして慣れた手つきで真っ青な議長を固定するサラ。
そしてシュタッっと手をあげ、ご迷惑をおかけしました、と言って彼女は議長を乗せて去っていった。
ギルが…ギルがお馬鹿さん以外の何者でもないww
ってかリアルで大乱闘吹いたwww
レイが本当に人生を楽しんでるなぁwwww
そのしわ寄せが全部スティングに行ってるけどwwwwww
どせいさんうp
PP描いている者です。28話目投下します。
428 :
1/38:2006/08/08(火) 23:11:27 ID:???
地球連合の中核を担う国、大西洋連邦の首都ワシントン――
最高行政府の白い建物の一室で、この国の最高責任者は声を荒げていた。
「一体、これはどういうことだ!?」
大西洋連邦大統領ジョセフ・コープランド。
列席するこの国の閣僚・幕僚達の前で、彼は憤りを隠せないでいた。
彼の手元にあるのは、複数の雑誌。コープランドは、そのうちの一冊――『CEタイム』誌を手に取る。
そして、居並ぶ閣僚・幕僚たちにそれを見せつけながら、もう一度叫んだ。
「ストライクMk-Uは軍事機密だったはずだ! それが、何故こうもデカデカと写っているんだ!?」
タイム誌の表紙を飾るのは、黒いMSと白いMS。前者はストライクMk-U、後者はインパルスだ。
先日、ダーダネルス海峡で行なわれた一戦。その模様を写した写真がタイム誌の表紙となっていた。
タイム誌だけではない。『News Week』や『New &world report』等等……
あらゆる雑誌の表紙を、大剣を手に切り結び合う2機のMSが飾っていた。
また、ブラウン管を通してもその光景は伝えられていた。CNN,ABC,BBCエトセトラ……
あらゆるメディアが、連日この写真から戦況を読もうとしていたのだ。
しかし、このような事情はこの国の最高責任者にとっては、あまり好ましい事態とは言えなかった。
「先日来ずっと、この写真についての問い合わせが殺到している!
軍事機密だった筈の"ストライク"の名前まで洩れ、各部署は対応にてんてこ舞だ!!
おまけに……この戦いのタイトルは何だ!? ふざけているのか!!」
コープランドが手に取ったタイム誌の表紙を、皆に見せる。
そこには切り結ぶ2機のMSと共に、大きな見出しでこうあった。
『OPERATION DAYBREAK at Dardanelles!!』――ダーダネルスの暁作戦。
作戦の指揮を執ったのはオーブのユウナ・ロマ・セイラン中将、彼の指揮の元に作戦は展開。
千日手となった戦況を打開すべく、彼はザフト軍艦ミネルバに決闘を申し入れ云々……
まるで非現実的だが、それでも何処か男心を擽る作戦が行なわれたことを、記事は紹介していた。
最も、結局は確たる戦果を挙げられず、秘密のMS――ストライクMk-Uの存在まで明るみともなる。
大西洋連邦政府としては、あまり面白くない事態になっており……コープランドは苛立っていたのだ。
バンッ――!!
雑誌が机に叩きつけられる。苛立ちのはけ口を失った大統領が、乱暴に雑誌を投げ捨てたのだ。
429 :
2/38:2006/08/08(火) 23:12:15 ID:???
ホワイトハウスにおける会議は、開幕からコープランドの憤りが炸裂していた。
彼だけではない。居並ぶ誰もが一様に苦々しい顔をしている。彼らも内心大統領と同じ思いだった。
コープランドは大きなため息を一つつき、冷静さを取り戻そうと努めていた。
そんな彼に、ある男が話しかける。
「仕方ありますまい。ストライクMk-Uを預かるのはあの部隊……
第81独立機動群、通称ファントムペイン。ロゴスがスポンサーとなって作った特殊部隊では」
「……ヒル国防長官」
コープランドは、諫めに罹った人物の名を呼ぶ。ヒル国防長官――
豊かだがほぼ真っ白な髪は老齢であることを伺わせるが、眼鏡から覘く双眸は鋭さを帯びている。
大西洋連邦政府における国防政策を担当し、大西洋連邦軍を統括するのが彼であった。
国防長官は陸・海・空からなる地上軍と、月や地球軌道に拠点を置く宇宙軍を統括する。
200万人を優に越える大西洋連邦軍は、世界最大規模。
それを指揮する彼こそが、地球連合軍の中心人物と言っても過言ではなかった。
また、本来文民統制が原則であるはずの国防長官の役職だが……
先の大戦で多くの兵士を失った大西洋連邦は、戦場を知る人物を特例として重用していた。
文民による戦局の読み違えが、多くの人員を損失した要因であると判断したが故の起用。
コープランドの組閣時に入閣したヒルは、元軍人。先の大戦では連合軍参謀総長の役職にあった。
コープランド政権の実力者でもある彼の諫言は続く。
「先の大戦での人的損失は大きかったが、同時に経済的損失が大きい。
ニュートロン・ジャマーの影響で、様々な産業が停滞していたのです。そして1年に及ぶ戦争。
ロゴスからの資金供出がなければ、軍の再建の目処すら立たなかった。違いますかな?」
「それは、そのとおりだが……」
「交換条件として新設を求められたファントムペインですが、戦果は挙がっています。
今回、ストライクが露見したのは面白くありませんが、功績と併せて考えれば相殺されましょう」
「だが……!」
収まりかかった憤りは、再燃し……先ほどよりも強い口調で、コープランドは反論する。
「ストライクMk-Uのパイロットを見ろ! 彼の経歴には何とある!?
……彼だけではない。ファントムペインのパイロットは、皆薬物によって強化された若者たちだ!!」
コープランドは手元の資料から、ゲン・アクサニスの軍歴を取り出し皆に見せる。
閣僚・幕僚たちに配られた資料には、ファントムペインのパイロット達の"裏"の経歴が記されていた。
430 :
3/38:2006/08/08(火) 23:13:11 ID:???
ゲン・アクサニス、アウル・ニーダ、スティング・オークレー、ステラ・ルーシェ。
4人は、表向きは、士官学校を卒業したばかりのMSパイロット。だが、"裏"の経歴は……
全員"献体"志願者としてエクステンデッドになることを希望、能力開発のための施術を受けたとある。
即ち、強化人間――コーディネーターと渡り合うために、己の体を作り変えた者達。
「そんな若者を利用して、戦場に送り出すのがロゴスだ!」
コープランドは、一層声を荒げる。そう、彼は認めたことなどなかった。
それどころか、これらの事実を知ったのもつい最近。
ロゴスと軍が結託して行なったのが、ブーステッドマン計画であり、エクステンデッド計画。
ブーステッドマンが実践投入されたのは、コープランドの就任以前であった。
戦後処理に忙殺された彼の元には、つい最近になって過去の報告がなされただけ。
おまけに、最近の研究――エクステンデッドに関しては、ダーダネルスの戦い後に報告を受けた。
つまり、報告として彼の元に上がって来るのはいつも最後……
「私は、エクステンデッドの実験・実用化など、認めた覚えはない!!」
強い口調のコープランドの弁。反ロゴスすら匂わせる言動に、閣僚・幕僚は眉をひそめる。
強化人間プロジェクトに関係していた幕僚達は元より、閣僚も個々で癒着のある者が多いのだ。
政治献金面では華僑系の財閥の支援を受け、比較的ロゴスと繋がりが薄かったコープランドは例外。
早い話が、皆ロゴスの味方なのだ。特に元軍属で、国防長官にあるこの男などは……
「大統領、お気持ちは分かりますが……それは、見当違いなお話です」
コープランドの大声に、些かも怯むことなくヒルは抗弁する。
「大統領、貴方が就任式で聖書に手を置き、憲法に唱えられた宣誓文を読み上げた瞬間から……
貴方は、これまで我が国で大統領を務めた方々が行った施策の責任も、受け継がれるのです。
前大統領は、ブーステッドマンの存在もご存知でしたし、認可もされておりました。
貴方の元に知らされるのが遅かっただけで、手続き上の問題は何もない。そうでしょう?」
日ごろから、ロゴスと距離を置こうとするコープランドを揶揄するかのように、ヒルは言った。
コープランドにとっては大統領就任当時、疲弊した大西洋連邦の再建が急務であった。
そのために派閥の枠にとらわれず、有力者を起用した結果……急速に疲弊した国力は取戻せた。
が、一方でロゴスの力の介入は残されたまま。コープランドは内心臍を噛んでいた。
何より、ロゴスと繋がりのあるヒルを国防長官に任命したのは、コープランド自身なのだから。
431 :
4/38:2006/08/08(火) 23:14:05 ID:???
「大統領、何よりも戦争を早期に終結させることが肝要です」
一転、諭すようにヒルはコープランドに語り掛ける。
老人であるヒルに比べれば、40そこそこのコープランドはまだ若造。
内心面白くはないが、コープランドは諫言を聞くほかなかった。
「エクステンデッドの力の有用性は、今回の作戦で示された筈だ。
一対一ではナチュラルはコーディネーターに遠く及ばない……これが前大戦で証明されたこと。
しかし、彼らはそれを覆している。ナチュラルでも、同等の力を身につけられれば、戦えるのです」
話題は、ストライクMk-Uとインパルスの戦いに戻る。
インパルスを退けたストライクの戦いぶりは記事になっており、そのとおり報道されもした。
結果……これは喜ばしいことか否かは不明だが、一気に軍の士気は高揚したと報告されている。
また、報道の翌日から、志願兵を募る軍の部署には若者が殺到したとも。
先の大戦時、キラの駆ったストライクとアークエンジェルの猛勇は、噂として連合を駆け巡っていた。
この時も、噂の段階ではあったものの、軍の士気は高揚したという。
超人的なコーディネーターと対等に戦う事が出来る――それは、ナチュラルの兵士の理想でもある。
この点で、ダーダネルスの戦いが報道されたことは、都合良くもあったのだ。
「……だが、戦争の早期終結には、交渉ごとも不可欠だ。デュランダルは何といっている?」
「依然、こちらの提示した条件は飲めないといっております。
それどころか、ユーラシア連邦での戦闘は徐々に拡大傾向にあります。これでは……」
コープランドは、改めて補佐官に現状を問うた。
オーブやスカンディナヴィア王国、汎ムスリム会議らに仲介役を頼み、和平への道筋を模索はした。
だが、連合が提示した政権とザフトの解体という二つの条件を、デュランダルが飲むはずもなく……
逆に、ユーラシア戦線が拡大傾向にあるとのことで、交渉は完全に暗礁に乗り上げていた。
それ見たことかと、ヒルは更に諫言する。
「大統領、デュランダルは……やる気です。ここは更なる強攻策で――」
「――プラントに核でも打ち込むか? だが、そうなればロゴスが困るだろう?
なにせあの砂時計、出資した彼らにとっては打出の小槌。彼らとしても、失うわけにはいくまいよ」
コープランドは、皮肉には皮肉で返す。暗に早期決着の最終手段を仄めかすヒルに、手厳しく応える。
穏健派のコープランドと主戦派のヒル。政権の中核にいるものの、この点大きく意見を異にしていた。
これまでの因縁と相まって、会議の最中静かに火花を散らす二人――
432 :
5/38:2006/08/08(火) 23:14:57 ID:???
会議終了後、コープランドは私室のソファーに持たれこむ。
会議そのものよりも、主戦派のヒルらの突き上げに、あの後も苦慮していたのだ。
強攻策に出ようとする主戦派は、最早核の使用も辞さずという構え。
それを押さえるコープランドには、並々ならぬ苦労があった。
「……とはいえ、アレに国防長官を頼んだのは私か。自業自得とは、よく言ったものだ」
自嘲気味に、コープランドは笑う。先の大戦で疲弊したのは軍も同じ。
再編には、なによりも現場をよく知る実力者の力が不可欠だった。
故に、シビリアンコントロールの常道を曲げてまで、ヒルを役職に就けたのだが……
プラントを含めた地球圏統一構想を公約に掲げるコープランドと、ブルーコスモスを支持するヒル。
大西洋連邦のために働くという志は同じでも、方針が決定的に異なる両者であった。
疲れ気味のコープランドに、補佐官がおずおずと問う。
「だ、大統領……」
「ん? 何だ?」
「その……オーブのカガリ代表より、また連絡が……」
「今度は何といってきた?」
「予てよりお願いしていた、プラントに要求している和平条件の緩和を。いつもの催促です」
何度目であろうか。オーブの若き代表、カガリ・ユラ・アスハは和平を望み、影に日向に動いていた。
プラントにも方々から働きかけ、同時に大西洋連邦にも働きかけ……
流石に頭の下がる思いのコープランドだが、この時ばかりは舌打ちしていた。
「人の気も知らずよく言う。そうだな……カガリ代表にお伝えしてくれ」
「はっ」
「……私に言うより、ヒルを説得しろと」
「………」
補佐官は沈黙する。先ほどのやり取りは耳に入っていた彼。
だが、大統領の言いたいことは分かるものの、流石にそれを実行など出来る筈もない。
困り顔で見つめる部下に、コープランドは苦笑いして前言を撤回する。
「こういうのを、他所の国じゃアメリカン・ジョークと言うらしいが……私がやってみても、詰まらんな」
和平を望みながら、現実は戦わざるを得ない。そんなジレンマがコープランドを苛んでいた。
433 :
6/38:2006/08/08(火) 23:16:47 ID:???
定例の閣僚・幕僚会議の主な議題は、ダーダネルスの戦いで露見したストライクMk-Uの事後処理。
結局、部隊を設けたのがロゴスということもあり、お咎めなし。
軍上層部を通じて、注意のみを為す決定が下された。
特殊部隊の作戦につき、詳細は非公表。そのまま、マスコミにもそう応える方針を採った。
結論は出たものの、ロゴスの政治・軍事への介入を嫌うコープランドに対し……
ヒル国防長官らロゴスと繋がりの深い者達の軋轢が、徐々に露になっていたが。
「若造が……この国の闇を、まだ知らぬとみえる」
国防総省――5角形の建物の中で、ヒルは先ほどの会合を振り返って言った。
この建物こそが、大西洋連邦の実質的な作戦本部。会議室と思しき部屋には、複数の男達が。
彼と共に列席するのは、大西洋連邦の幕僚たち。先ほどコープランドの前にいた者もいる。
彼らはヒル同様、一様にコープランドの施策を詰っていた。
「大体、交渉ごとなど手ぬるい。コーディネーターの本性は、ユニウスセブンの一件で明らかだ」
「所詮はナチュラルと、我々を侮っているのですよ。あの人間もどき達は」
「元帥、ここはいっそ独自に動きませんか? 核さえ使えれば、宇宙の化け物どもは……」
元帥――居並ぶ幕僚のうちの一人が、ヒルをそう呼んだ。
途端に、かつての階級で呼ばれた老人に叱責を受ける。
「私は、最早軍人ではない。言葉は選べよ」
「……! も、申し訳ありません!」
「私も、国防長官の名で呼ばれるのにはまだ慣れんが」
ここで行なわれているのは、実質的な幕僚会議。
コープランドの思惑とは別に、軍として如何にプラントに対抗するかを論じているのだ。
全員更なる強攻策を胸に秘め、それを実行したいと願ってはいるが……
コープランドの言ったとおり、プラントを再び植民地化しようとする者も、ロゴスには多い。
軍の後押ししてくれる者は、多くはいないのだ。苦虫を噛み潰したかのように、ヒルはその状況を嘆く。
「核の使用には大統領の許可がいる。ブルーコスモスの後押しがあれば首を縦に振るだろうが。
そのブルーコスモスも、ブルーノ・アズラエルなどは核による攻撃に理解を示しているが……
新しく盟主となった若造、ロード・ジブリールは中々首を縦に振らん。何を画策しているやら――」
何故か核の行使を押しとどめるジブリール。やがて、その不満は思わぬ方向へと向かう。
434 :
7/38:2006/08/08(火) 23:17:39 ID:???
「いっそ、首を挿げ替えるか?」
唐突に、ヒルは言った。全員、何事かと一斉に彼のほうを見る。首の挿げ替え――
意外な言葉に、誰もが耳を疑う。列席する幕僚の一人が、ようやく疑問を口にする。震える声で……
「こっ、国防長官! ま、まさか、貴方は……大統領を!?」
「ん? コープランドを、私がどうにかしようと? ハハハッ! 悪い冗談だな!」
ヒルは笑い飛ばす。首の挿げ替え――その対象を、皆は大統領のことだと思い込んでいたのだ。
幕僚達の考えをすぐにヒルは悟り、それが杞憂であることを告げる。
「オズワルドを、そう何回も使うわけにはいくまいよ。
手ぬるいことは手ぬるいが、疲弊した我が国を立て直したコープランドの手腕は買っている」
幕僚達は、その言葉に胸を撫で下ろす。
首の挿げ替えの対象が、大統領であるとするならば……並々ならぬ事態となるからだ。
ヒルがコープランドへの批判を口にした後、挿げ替えの言葉を使ったが故の混乱だが。
本来ヒルの意図する首の挿げ替えの対象は、別の人物であった。
「私が言っているのは、ロード・ジブリールのことだ。
コープランドが強気なのも、核を使わせまいとするのも、ジブリールがいてこそ。
ブルーコスモスの盟主にして、ロゴスの首領格。いわば、大統領の後ろ盾は彼だ。
大統領の背を押すのがジブリールではなく、ブルーノ・アズラエルであれば……と思っただけだ」
口元に笑みこそ見えるものの、ヒルの目は笑っていない。
どのような手を使うのかは知らないが、軍はしては強攻策を阻むジブリールを疎ましく思っていた。
「ところで、ひとつ気になることがあるのだが……」
……と、唐突に老人は話題を変える。先程コープランドから手渡された資料を取り出し、皆に見せる。
資料の中の、一枚の軍歴書。それは、黒髪の少年兵のモノであった。
「この男……ゲン・アクサニスとは、何者だ?」
ゲンの写真入の軍歴書を、幕僚達は回し読む。
全員がそれを見終わった後、改めてヒルは皆に問うた。
435 :
8/38:2006/08/08(火) 23:18:30 ID:???
「私は先の大戦時から強化人間の計画に参加しているが、この男を見たのは今日が初めてだ。
"表"の記録ではカリフォルニアベース出身。そして"裏"の記録には……何も書かれていない。
こいつは……ゲン・アクサニスとは何者だ? 誰か、知っている者はおらんか?」
国防長官は、幕僚達に問う。ゲン・アクサニス――
先の大戦から強化人間計画に参加し、ブーステッドマンの誕生に一役買ったヒル。
エクステンデッドの計画にも参加していたが、ゲンという少年を見たのは、今日が初めてだった。
「ケネス准将、君も強化人間計画に参加していたろう? この男は誰だ?」
「はぁ……自分も、今日初めて見ました。ですが、私の管轄のオークランド研究所出身ではありません」
「そうか。ではオーガスタの研究所かね? オルソン大佐、君はオーガスタ研究所担当だったな?」
「私も、初めて見る顔です。他の研究所、ユーラシアやアフリカの研究所ではありませんか?」
改めて、ヒルはゲンの軍歴をマジマジと見つめ、訝しがる。
強化人間研究所は、その特性上秘密裏に全てが運営されるため、数も少ない。
大西洋連邦では北米のオークランドとオーガスタ、軍関連の研究施設内の2箇所しか存在ない。
残ったのは、ユーラシア連邦のロドニア研究所とアフリカのキリマンジャロ研究所。
あるいはそれら二つの研究所に問い合わせれば分かるのかもしれないが……
アウルやスティング、ステラは何れも北米の研究所出身で、"裏"の記録にもそう記載されていた。
しかし、ゲンだけは、2年前に献体に志願したことが書かれているのみ。
何処の研究所で強化されたのかさえ、判然としていなかった。
「……妙だな。本当に、誰も知らんのか?」
再度、ヒル国防長官は幕僚達を問うが、誰も首を横に振るばかり。
"裏"の記録はきちんと存在しているのに、ゲンだけはそれがない。
そればかりか、研究に携わった軍の上層部の誰もが、顔を見たことがないと言う。
ただゲンの空白の経歴だけが、事態の不自然さを物語っていた。
「これは私の勘だが……何かあるな。経歴が書かれていないということは、理由があるのだろう。
どういう理由で経歴に空白を作ったのかは分からんが……気に入らん。気に入らんよ、これは」
嗅覚鋭い国防長官は、ゲンに隠された過去があることを推察する。
それが何なのかは、このとき居並ぶ幕僚たちには誰もわからなかったが……
この日の閣僚会議が切欠で、ゲン・アクサニスの詳細についてヒルは再調査を始める事となる。
やがて、それはゲンの運命を大きく左右することに――
436 :
9/38:2006/08/08(火) 23:19:26 ID:???
地中海に位置する地球連合軍クレタ基地――
既に、ダーダネルスの戦いから3日が経過していた。
大西洋連邦軍第81独立機動群所属J・Pジョーンズとオーブ軍タケミカヅチと護衛艦4隻。
これらの艦隊は、作戦終了後すぐにクレタに寄港。そのまま、今日まで過ごしてきた。
空母J・PジョーンズのMS格納庫。
その中央部に、仰向けに寝かされた格好で、ダークグレーのMSが横たえてある。
フェイズシフトの点いていない、本来は漆黒の筈のMS――ストライクMk-Uだ。
インパルスとの戦いで大きく破壊されたストライクを、整備兵総出で修理を行なっていたが……
戦いが終わってから3日目を迎えた今日になっても、いまだストライクは修理中。
エクスカリバーで切り裂かれた胸部は装甲を外され、むき出しの部分も所々ある。
修理を受けているストライク。それを、格納庫の上部デッキから見下ろす男が二人――
一人はこの部隊の指揮官、ネオ・ロアノーク大佐。隣にいるのは、整備班長と思しき中年。
機体整備のデータログを手に取る中年男は、しきりにネオに説明している。
「このとおり、昼夜兼行で修理していますが……完全修復にはまだ時間がかかります」
「何処の具合が悪いんだ? 主な損傷箇所は?」
「胸部の装甲は、ほとんど張替えなけりゃなりません。
大剣を持って切り合いをやった影響も出ています。各部アクチュエーターに損傷が多数。
損傷箇所は……言うなれば、体中ってところですかね。オーバーホールが必要なくらいだ」
「完全修復に、あと何日掛かる?」
「他のMSには目立った損傷もないので、整備班総出でやっていますが……あと3日は掛かります」
ネオは整備班長の言葉に舌打ちする。
インパルスとストライクMk-Uの戦い。それは近年のMS戦とはかけ離れた代物だった。
ビームやミサイルといった飛び道具ではなく、近接武器の大剣でのみ戦う決闘――
途中バルカン砲の差し合いで中座はあったものの、終始ぶつかり合った両者。
通常戦闘なら、負傷した箇所のパーツ交換で済むことが多いが……
エクスカリバーの数トンに及ぼうという衝撃を受けたストライクMk-Uは、全身損壊状態。
次から次へと損傷箇所が見つかる始末で、修理は順調とは言えず。ネオはため息をつくばかり。
「なぁ……これ、保証書効くのか?」
「効く訳ないでしょう。家電じゃないんですから」
ネオの軽口から出る冗談にも切れはなく……あっさり整備班長に受け流されてしまった。
437 :
10/38:2006/08/08(火) 23:20:16 ID:???
軍用MSなのだから、保証書など効くはずもない。
とはいえ、受け持つのは軍ではなく、創設者であるロゴス。つまり、ロード・ジブリールだ。
どれほどの損傷を被ろうと、彼の資金力はロゴス内でも有数のもの。
何せ、世界の金融界を牛耳っているのだ。非公式の資産も、山とあるに違いない。
早い話、ジブリールに払わせれば済む話なのだ。問題は金銭ではない。
「問題は時間だ。ミネルバは地中海南方、スエズ近郊にあるザフト軍基地に寄港したらしい。
奴らが暫く動かないでくれれば良いが……動き出したら、こっちも動かなけりゃならない」
目下ネオたちの任務は、ミネルバの撃沈。
そのために、追撃戦を繰り広げているのだ。ダーダネルスではストライクが勝利を収めたものの……
ミネルバには損傷を与えるに止まる。敵の増援が現れたこともあり、結局のところ取り逃がす羽目に。
指揮官としては、直ぐにでも追撃体制を整えておきたかった。
「班長、申し訳ないが……あと一日でやってくれ」
「連日の徹夜で、整備班のクルーも作業能率が落ちています。プラス半日頂けませんか?」
ネオの命令にも、物理的に不可能と整備班長は抗弁する。
無理なものは無理。はっきり言わねば、後々の作戦に支障が出る。
安受けあいして、いざ実戦となった折……出撃できませんでしたでは、話にならないからだ。
整備班の人員とて限られているのだ。班長は最大限の労力で、可能な時間を提示した。
機密性の高い部隊ゆえ、修理に他所の手を借りることも出来ない。ネオは已む無く折れる。
「……分かった。それで頼む」
「ハッ! それまでには、万全を期します」
「それと、もう一つ頼みがある」
ネオは整備班長の耳元に、囁くように指示した。あからさまに、秘密を伝えたいことが見て取れる。
「Mk-UのOS、後で俺の所に持ってきてくれ」
「……OSですか? しかし……何のために?」
「詮索屋は嫌われるぞ? 言われたとおりにしてくれりゃいい。あと、OSをコイツに書き換えてくれ」
班長の質問を遮り、ネオは指示を出す。更に、一枚のディスクを彼に手渡す。
だが、そのOSを見た瞬間……整備班長の両目は驚愕に見開かれる。
表面に描かれた文字はZodiac Alliance of Freedom Treaty――紛れもなくザフト製OSであった。
438 :
11/38:2006/08/08(火) 23:21:12 ID:???
ネオはその後、脚を医務室に向けた。
ストライク同様、その操縦者も半ば修理中。入院中の部下への見舞いが目的であった。
ゲン・アクサニスが治療を受けているのは、普通の病室ではなくエクステンデッド用の処置部屋。
関係者以外立ち入り禁止の区画に置かれたそれは、薄暗い研究棟のような風情の一角にある。
「よう! 元気にしているか?」
上官は、部下を景気よく見舞う。部屋に入るや、開口一番挨拶をするが……
いつも付けているバイザーのない少年兵の瞳は、ジッとネオを見返すだけであった。
「ん? ひょっとして、具合悪いのか?」
「……別に」
ただ短く、ゲンは応えた。ぶっきら棒に――
ゲンは大事をとって、3日の間にCT検査やら、色々体の状態を検査されていたのだが……
流石に3日もクスリ臭い処置部屋に叩き込まれて、臍を曲げているのか。機嫌が非常に悪い。
ネオは、部下の状態を確かめるべく、研究員に耳打ちする。
「やっぱり、3日間缶詰で機嫌悪いのか?」
「初日からずっとこうですよ。いつもなら、雑談などしたりもするのですが……」
困惑して、エクステンデッドの研究員はネオを見返す。
彼らには因果を含めてあり、ゲンがコーディネーターでソキウスであることは伝わっている。
故に顔見知りであり、彼らとも時には状態管理以外の話もするのがゲンであったのだが……
どうやら、機嫌が悪いのは他に理由があるらしい。
研究員は、目配せして手元のモニターを指差す。そこにはゲンの状態が記されてあった。
――健康面は問題なし。但し強度の精神的ストレスを受けている模様。戦闘の影響か。
手短にではあるが、ゲンの状態を端的に示す言葉が並べられていた。
「ま、あれだけの戦闘をやれば、無理もないか……」
呟くように、ネオは部下の心情を察する。
命のやり取りをしたのだ。ナーバスになるのも、無理からぬことであろう――
数々の検査を受けたこともそれを手伝ったのか。ネオはそう思い、部下の労をねぎらう。
「ゲン、入院は今日で終わりだ。退院していいぞ。外の空気を、吸って来いよ」
439 :
12/38:2006/08/08(火) 23:22:02 ID:???
しかし、ネオのその言葉にもゲンは無反応。
ただネオを一瞥した後、正面の部屋の壁を見入っている。
――こりゃ重症だな。ネオはそう思い、次の一手を考える。
MS戦で手傷を負ったことが、癪に障っているのだろう。ゲンの心情を慮り、上官は声を掛ける。
「どうした? あの白いMSとやり合って、ダメージ受けたのがそんなに腹立たしいのか?
ついさっき、ストライクMk-UのOS、ナチュラル用からコーディネーター用に替えておいたぞ。
これでもう遅れを取る事もないだろう。次の戦いも、期待しているぞ!」
ストライクMk-UのOSは、キラがモルゲンレーテ社員だった頃に作り上げたもの。
ナチュラルのパイロットがMSを円滑に操縦するため、学習型のOSをキラは組み上げた。
最も、高性能のOSの動きを完全に引き出せるパイロットがおらず、絵に書いた餅であった。
しかし、それこそがキラの狙い。オーブの積極的な戦争参加をさせまいとする、苦肉の策だった。
が、発注もとのユウナからジブリールの手に渡り……ゲンが駆るストライクMk-Uの基本OSとなる。
ゲンが操作するうち、彼の操縦で引き出された様々な動作は、OS本来の持つ能力を引き出していた。
やがては連合軍の標準OSとなり、ナチュラルの兵士たちがMSを操縦する苦労を軽減するだろう。
つまり、本来戦うためのOSではなく、試供品をゲンは使わされていたのだ。
先ほど、ネオはザフト製OSをストライクMk-Uに組み込むよう指示を出した。
これにより、コンマ数秒ではあろうが、ストライクの動作スピードは上がる。
ほんの僅かな差だが、戦闘に置いてはコンマ数秒の動作スピードが勝敗に繋がる。
つまりは、ずっと足枷を付けられた状態でゲンとストライクMk-Uは戦っていたのだ。
OSを書き換えたことで、コーディネーターであるゲンの能力を、今度こそ最大限に発揮させよう。
ネオはそう思い、ゲンにそれを知らせ励ましてやったのだが……無感動にゲンは返す。
「……もっと早くにやっておいて欲しかったですね」
――難物だ。これでは、機嫌を直してくれないらしい。ネオは困りながら答えを探した。
一度J・Pジョーンズがオーブに立ち寄った際、最初の戦闘データはユウナに手渡された。
ゲンが深夜にセイラン邸に忍び込んだのがそれである。
この時のデータは、ユニウスセブンの破砕作業のときまで。
それからインド洋、カシミール、ガルナハン、ノフチー共和国、そしてダーダネルス。
最早十分すぎるほど実戦を経験し、おそらくは今度こそ最大限の性能を発揮するOSに仕上がった筈。
データの蓄積こそが命のOSなだけに、ネオもタイミングを伺い続けてきたのだ。
「……そりゃ、悪かったと思っているよ。でも、これも仕事だ。悪く思わないでくれ」
440 :
13/38:2006/08/08(火) 23:22:58 ID:???
ネオの謝罪にも、ゲンは言葉を返さない。
――本格的に拗ねているなぁ……どうしたもんかねぇ。
仲間と話しでもすれば気も和らぐだろうか。ネオは、気晴らしに仲間と外出させようかと考えるが……
そう思った直後、部屋にコールが入る。電子音が鳴り響き、艦橋からの連絡が入った。
『大佐、ご連絡したいことが』
「ん? 艦長か。どうした? 何があった?」
『その……オーブのユウナ将軍の代理として、アクサニス中尉の見舞いに来た者がおりまして』
「誰ちゃん? ひょっとして、偉いさんか?」
『はぁ、将校ではあるのですが……』
歯切れ悪そうに、艦長はネオの顔色を伺う。言い出しにくそうにしているが……
遂に艦長は、答えを明かす。
『オーブのキラ・ヤマト三尉が、バスケットにフルーツを盛ってお見舞いに……』
「……! そっちが来たか。やれやれ、今から退院するところだっていうのに」
タイミングの悪い見舞い客は、キラその人。
今退院許可が下りたばかりのゲンに、見舞いに来たというのだからネオは頭をかくしかない。
「待たせてもアレだ。ここにお連れしろ」
『し、しかし! その部屋は……!』
「幸いここにいるのはゲンだけ。機密の資料も、今から片付けさせるよ」
ネオはそういうと、部屋に居る研究員に目配せする。
――キラの目に付くところに、書類やデータを置くな。モニターの電源もカットしておけ。
そういうサインを出すや、すぐさま研究員は仕事に掛かる。
対してゲンは……無表情。知人が見舞いに来るというのに、嬉しそうな顔もしない。
仕方無しに、ネオは追加のサービスをする。
「ステラたちにも外出許可を出してやる。皆で、外で遊んで来いよ」
「……ああ」
結局、ニコリともせず呟いただけのゲン。
やれやれと頭をかくネオは、そそくさと部屋を後にする。そして――
もう一人の見舞い、キラがこの部屋にやってくる。
441 :
14/38:2006/08/08(火) 23:23:50 ID:???
数分後、キラはゲンの元を訪れた。
J・Pジョーンズの艦中央部に位置する、エクステンデッド処置室。
そこに至るまでの間、不自然なほど照明の落とされている廊下と……
廊下に面した各部屋の扉に記された『関係者以外立ち入り禁止』の文字に、違和感を覚えながら。
しかし、当のゲンのいる部屋に脚を踏み入れたとき――更なる驚愕がキラを襲った。
「――!? ゲン!?」
キラはベッドに横たわる人物の名を呼ぶ。酷く上擦った声で。
キラが見たゲンの姿。それは、見慣れぬ者にとっては衝撃的な光景であった。
――ゲンの四肢が、ないのである。両手、両脚、その全てが。
左腕が義手なのは知っていた。そこに機銃があることも。
だが……四肢全てを失っていようとは、キラは夢にも思わなかった。
「ま、まさか……! この間の戦闘で!?」
「ンな訳ないだろう。元からだよ、元から」
キラの推察が誤りであることを、平然とゲンは告げる。
インパルスとの戦いで四肢を失ったのではないかとキラは誤解したのだ。
その事に一応キラは胸を撫で下ろすものの……それでも、四肢を失った少年への憐憫の情か。
直視することさえ出来ず、視線は足元を彷徨うばかり。
そうこうするうち、先のエクステンデッドの研究員がゲンの元へやってきた。
――失われた四肢の代替物を抱えながら。
「中尉。一つ注意することが。勝手に左腕の設定を弄らないで下さい。
バイザーの射撃制御ソフトに影響が出ていましたよ。最悪、機能不全を起こす可能性も……」
「……分かったよ。気をつける」
「では、神経を繋ぎます。痛みますが、我慢してください」
ゲンが頷くや、研究員は右腕を取り付ける。一見それは、本物と見紛うばかりの精巧な義手。
続いて左腕、右脚、左脚と……次々と新たな四肢がゲンと同化していく。
その度に、黒髪の少年の短い呻き声が部屋に響く。
まるで――
自分の知らない世界に足を踏み入れ戸惑う子供のように……
その光景を、キラはただ傍観しているだけだった。
442 :
15/38:2006/08/08(火) 23:24:43 ID:???
傍観しているだけのキラを尻目に、ゲンと研究員のやり取りは続いていた。
「外部の皮膚と神経系は、中尉のDNAから抽出した細胞で作っています」
「再生細胞だっけ? クローンっていうのは、違法じゃなかったか?」
「医療機関での義手の作成などの再生医学には、公的に認められていますよ。違和感は?」
「……あるね。3日前まで使っていたのとは、微妙に感覚が違う」
困った顔で、ゲンは研究員に問う。問答の間にも、手や足をしきりに動かし調子を確かめていた。
屈伸運動で調子を確かめるが、違和感のあることを率直に告げる。
その言葉に――研究員は若干の笑みを浮かべて応える。
「再生細胞は、所詮作り物です。最初のうちは、違和感はあります。ですが――」
「――使い込めば俺のオリジナルになる……か」
「はい」
戦争が生み出すのは、その多くが負の遺産だ。
しかし、一方で兵器の開発・改良とは異なる領域で、技術革新が図られるケースもあった。
それが顕著なのは、義肢装具の領域。先の大戦で、軍に属し戦いに赴いた者は勿論……
また、ザフト軍の侵攻とそれに反抗する地球連合の戦闘に巻き込まれた民間人は数知れず。
四肢を失った者は、戦死した者の数と比例して多くいた。
彼らの失った体を取戻すべく――地球連合政府もプラント政府も、クローン技術の一部を認め……
義手や義足に対し、再生細胞を使用することを許可していた。
とはいえ、ゲンの装着する義肢装置は正真正銘最新鋭の技術で作られたモノ。
一般に流通するモノとは、金額の桁が違った。それこそ、MS数機分の値段もするのだが……
ロゴスにしてブルーコスモスの盟主、ロード・ジブリールの計らいで、ゲンは容易にそれを得ていた。
かくして、健常者と何も変わる事のない――いや、それ以上の能力すら持つ義肢はゲンの手に。
左手の機銃を開閉し、調子を確かめ終わるや……ゲンは漸くにしてキラに向き直る。
「気味、悪かったか?」
「い、いや……」
「まぁ、こういう体なんだ。初めてで、驚いただろうけど」
相変わらず呆然としたキラは、手に持ったフルーツ入りのバスケットを渡すことも忘れ……
四肢のなかったゲンが、あっという間にいつもの状態に戻ったことに、目を瞬かせていた。
443 :
16/38:2006/08/08(火) 23:25:33 ID:???
ゲンは再び支度に取り掛かる。
下着姿だった彼は、インナースーツを纏い、ズボンを履き、軍服に着替え……
最後に、常日頃から着用しているバイザーをつける段になって、動きを止める。
「キラ、デスクにあるコンタクトを取ってくれ」
「コ、コンタクト?」
頼まれたキラは、周囲を見渡す。すると……
程近いデスクの上に、溶液に浸かったコンタクトレンズを見つけた。
キラはそれを、容器ごとゲンの手元に渡してやる。
「視力も……悪いの?」
「違うよ。これはカラーコンタクト。
俺の眼を見てくれ。普通のヤツとは少し違うことに、気がつかないか?」
言われてキラはマジマジとゲンの瞳を見つめる。
そういえば、素顔のゲンを見るのはこれが初めてのこと。黒髪に細面。ルックスは悪くない。
目付きは鋭く、少し険があるようにも感じられるが、ルックスの良さと相まって左程目立たない。
むしろ、その鋭さが精悍さを漂わせているようにも感じられた。
特に、印象的なのは瞳の色。印象的な光りを放つそれは、黒ではなく紅――
「――あっ!!」
「そういうこと。俺はコーディネーターだって、話しただろう? 生まれついてのご面相ってやつさ」
ゲンの瞳の色は紅。真っ赤に燃え上がるようなそれは、明らかにナチュラルでないことを示していた。
地球連合加盟国には、少数だがコーディネーターも存在する。
ブルーコスモスが隆盛を誇る大西洋連邦、ユーラシア連邦、東アジア共和国ではごく少数だが……
それでも、技術系の分野においてナチュラルと比して優秀かつタフなコーディネーターは重宝された。
ナチュラルで出来る仕事はナチュラルにやらせるのが原則だが……
高度な先進技術が要求される分野、MS製造系の開発部門などでは、彼らの活躍があった。
とはいえ、それはあまり知られる事のない事実。
一度周囲にコーディネーターであると分かれば、テロの標的にされる可能性も出てくる。
隠れるように、ナチュラルを装いながら生きる――それが連合内で生きるコーディネーターの定め。
ゲンがバイザーの下にカラーコンタクトを着けるのは、御洒落ではなくそういった背景事情故。
やがて、黒髪の少年はコンタクトとバイザーを付け――いつものゲン・アクサニスに戻った。
444 :
17/38:2006/08/08(火) 23:26:21 ID:???
地中海に浮かぶクレタ島――ギリシャの島々は、どれも地中海性気候に包まれている。
冬に一定量の降雨がある他は、概ね温暖な天候に恵まれる。それが地中海性気候だ。
そのため、リゾート地としても人気があり、また観光はギリシャの基幹産業でもあるのだが……
温暖な気候は、ここクレタ基地においても例外ではない。
兵士といえども、準待機中であればノンビリとした空気に浸ることができる。
戦闘機やMSの演習音が喧しいのは玉に瑕だが……
ゲンとキラはJ・Pジョーンズを出て、本当にある基地に移動した。
ネオの手回しによって同じく外出許可を得た、アウル、スティング、ステラと共に。
そして、タケミカヅチからもう一人……記者のミリアリア・ハウもやってきた。
開口一番、ミリアリアは雑誌の束をゲンたちに渡す。それはコープランドが激昂したあの雑誌類……
表紙を飾るのは、勿論ゲンの愛機ストライクMk-U。
「どう? よく撮れているでしょう?」
「――! すっげー! これって……全部世界の主要紙じゃん!!」
「新米のペーペーにしては、上手く撮れているでしょ?」
「そりゃもう。にしても、よく軍から文句が来なかったな。許可は下りたんですか?」
「オーブ軍からはすぐ降りたわ。あとはAPに送って……世界に配信されたの」
「……ミリアリア、大手柄……」
「ありがとう、ステラ」
アウルたちの感想に一気に応えた後、ミリアリアは一息ついてゲンの方に向き直る。
そして、少し申し訳なさそうに話し始めた。
「貴方の写真、撮らせてもらったわ。必死に戦っていた貴方には、不愉快かもしれないけど……」
詫びの言葉を交えて、ゲンの顔を見つめる。
彼女もかつては戦場にいたのだ。アークエンジェルのクルーとして、幾度となく死線を越え――
「戦争がどういうものなのか、どうしても伝えたかったの。世界の人に。
貴方の戦っている写真を世界中にばら撒いておいて、何を今更って思うかもしれないけど――」
「――別にいいさ、謝らなくても。俺は気にしていないよ」
ゲンは、あっさりとミリアリアの謝罪を遮る。問題があればジブリール辺りからの圧力があったはず。
それがないということは、ジブリールはこの写真がばら撒かれても不都合はないということ。
主がそう言うのであれば、僕として異論を挟む余地はない。それが彼の考えだった。
445 :
18/38:2006/08/08(火) 23:27:13 ID:???
時刻はすでに夕刻――
6人は場所を変えた。選んだのは食事も出来る軍の施設。要するに、酒場なわけだが……
長方形のテーブルに、3人ずつ向かい合って座り、少し早めの夕食が始まった。
キラの持ってきた見舞いのフルーツ類をデザートに、6人は料理に舌鼓をうつ。
食べながらも、ミリアリアの話は続いていた。
写真を撮ったときのこと、新米記者と馬鹿にされていた彼女が、一躍有名人になったこと等等。
アウルやスティング、ステラはそれを拝聴し、質問などして大いに盛り上がっていた。
そんな中、端っこにゲンと向かい合って座っているキラだけが浮かない顔。
なにやら、料理にも口をつけず、俯いたまま。そういえば、先ほどからずっとこうだったか。
他の4人が盛り上がっているのと対照的なまでのキラ。ゲンは彼に問う。
「食べないのか? 料理が冷めるぞ?」
「……うん」
「そんなに、さっきの俺の姿がショックだったのか?」
「いや……ビックリはしたけれど。他に、問題を抱えていて……」
もどかしそうに話すキラ。そんな彼に、ゲンは自らの顎をクイッと上げ、「話してみろ」と促す。
キラのこんな顔を見るのは、初めてではなかった。
ゲンがノフチーでイワン・ザンボワーズを殺したときも、キラはこんな顔をしていた。
どうやら、また嫌なことでもあったのだろう。辛そうなキラに、ゲンは理由を問いただす。
他の四人は、まだミリアリアの英雄譚で盛り上がっている。逡巡の後、彼は重い口を開け語り始めた。
「幼馴染が、ザフトにいたんだ。あの日、戦場で彼と出会った」
「――! あの戦場に、いたのか? あのダーダネルスの戦いで?」
「うん。戦争が始まって、彼は故郷のプラントに……ザフトに戻ったんだ」
「そいつの名前は?」
「……アスラン。アスラン・ザラ」
「――!!」
思わず、ゲンは椅子から腰を浮かせそうになる。アスラン・ザラ――
その名はゲンもよく知る名前だった。元特務隊フェイス所属、ネビュラ勲章受賞。何より……
「ファースト・ストライクを倒したヤツか! あの男が、この近くにいる……」
新たなる強敵の出現――それは、ゲンの血を沸き立たせる。
446 :
19/38:2006/08/08(火) 23:28:05 ID:???
だが、ゲンとは対照的にキラは俯き、絶望にも似た表情を見せる。
キラにとって、アスランは月の幼年学校時代からの旧友。
先の大戦でもキラはストライクに、アスランはイージスを駆り、戦った過去がある。
その後、アスランとは共闘し、戦争を終結に導きはしたが……再び出会ったとき、彼は敵陣営にいた。
絶望の理由は、即ちそれであった。しかし、ゲンにとってはそのような事情は瑣末なこと。
「アスランとは、戦いたくないのか?」
「……当たり前じゃないか」
「そうか。でも、安心しろ。問題はないぜ?」
「……え?」
何かの解決策があるのだろうか。ゲンは安請け合いする。
だが、次の瞬間、彼の口から出た答えはキラを激昂させる。
「――俺がアスランを仕留めれば、済むだけの話だ。問題なんて、ないだろう?」
「……! そんな!!」
最悪の解決方法を提示する目の前の男に、キラは腰を浮かせる。
そんな解決方法を、キラが飲めるはずもない。
「そんなことは……! 彼とは、友達なんだ!!」
「だから何だっていうんだ?」
「だから? 戦えるわけ、ないじゃないか!」
「そいつは、何をしに戦場に出てきたんだ? 戦うためだろう? 放っておいていいのか?」
「……え?」
他の四人も、語気を荒げるキラに気づく。
事態の異様さを悟った彼らは、彼らの話を止め、何事かと二人に視線を向ける。
その視線を知ってか知らずか、ゲンは続ける。
「俺の知る限り、お前の友人はザフトでも有数のパイロットだ。もし俺が戦わなきゃ……
オーブのお前の同僚たちはどうなる? ムラサメ隊やアストレイ隊のパイロット達は?」
「………」
「お前は兎も角、他の連中じゃ相手にならない。早晩、そのお友達が殺してしまうぜ?」
――現実。再び合間見えれば、間違いなく実現するであろう現実を、ゲンは残酷にも告げた。
447 :
20/38:2006/08/08(火) 23:28:58 ID:???
しかし、キラはそんな現実を受け入れる筈もなく……
「させない! そんなことは、絶対にさせない!」
「……なら、お前が戦うんだな。俺と彼が戦えば、どちらかは確実に倒れる。でも……」
強い口調でキラは否定する。そんなことはさせませいと。
だが、ゲンはそれが果たして可能なのか、疑義を挟む。
「いつものようにお前が手加減して、勝てる相手とは思えないがな?」
「……!」
アスラン・ザラ。かつてキラを破った唯一の男が、彼なのだ。
ストライクに乗っていた時代のキラは、敵の命を慮れず、本気で彼を殺そうと戦った。だが……
それでもアスランを倒せず、逆にイージスの自爆攻撃の前に、瀕死の傷を負わされた。
あれから二年。力量差が逆転しておらず、アスランに手心を加える気がなければ、キラは恐らく――
「自信がなきゃ、俺がやるけど」
「だ、ダメだッ! 君が戦ったら――!」
間違いなく、殺し合いになる。そうなれば、アスランかゲンのどちらかが、命を落すのだ。
キラとしては、そんな結末は何としても回避したい思いであった。
ならば、キラが戦うしかない。アスランを殺さぬように。
だが、果たしてそれが出来るのか。出来たとしても、その後はどうするのか――
相手を殺すことを拒み続けるキラ。そんなキラを見かねたのか、ゲンはある行動に出る。
「なぁ、いい加減に覚悟を決めたらどうだ?
いつまで手加減を続ける気だ? その手加減で、この戦争の何が変わるって言うんだ?」
「……! ボクは……!」
「手に余る強敵と出会ったとき、少しでも躊躇いがあれば……お前が倒される。違うか?」
軍人である以上、いつまでも選択を拒み続けることが出来るとも思えない。
ゲンの言葉は正論であり、かつそれはキラも重々分かっていることであった。
「ちょうどいい機会だ。こいつを、受け取れよ」
そんなキラに、ゲンは――黒い塊のようなものを、投げて遣したのだった。
448 :
21/38:2006/08/08(火) 23:29:48 ID:???
黒い塊の正体。それは、ゲンのフルオートマの拳銃。
キラはとっさにそれを手で受け取るが……意外なまでの重さに、思わずそれを落としそうになる。
「……! こんなの、要らないよ!」
「余りお前の覚悟が決まらないので、そいつをくれてやったが……まだ覚悟が決まらないみたいだな」
何を思ったのか、ゲンはキラに渡した銃に手を伸ばし……
強引にキラの手をとり、彼に銃を握らせる。そして、己の顔に銃口を向けさせたのだった。
拳銃の持つ鉄の重み。そして、何よりもそれが人の命を奪う道具であるという重み。
それらが、キラの手にずしりと感じられる。
「……! 何を!?」
「選ばせてやろうと思ってね」
「!? 何で君に銃口を向けなきゃ――」
「――選べよ。俺の命か……それとも、アスラン・ザラの命か」
「――!?」
何を言っているのか――ゲンは、意外な選択を迫った。
キラはその真意を測りかね、バイザーの向こうにあるであろう赤い眼に向けて問う。
「お前はアスランの前に出ても、そんな感じだろう。結局、何も出来やしない。
どうせ俺がアスランと戦うことになる。そうなれば、どちらかが倒れる。選んだらどうだ?」
「――!?」
「アスランの命が大事なら、俺を撃てばいいさ。俺の首を土産に、ザフトに寝返るか?」
「――!! そんなこと、出来るわけないだろう!?」
「そうか。ならお前がアスランを撃て。いいな?」
「……! 嫌だ!!」
「……ったく、まだ分からないのか?」
今度は――ゲンは、銃の安全装置を外し……
いつでも銃弾を放てるようにした上で、再度キラを詰問する。
「お前が迷う分だけ、俺の命が危うくなる。お前がアスランを倒すのを躊躇えば……
それは、俺に対して銃口を向けているのと同じさ。さぁ、選べよ。俺か、アスラン・ザラか」
選べる筈もない問いを、ゲンはキラに問い続ける。それは、キラにとっては苦悩の時――
449 :
22/38:2006/08/08(火) 23:30:53 ID:???
苦悩する余り、銃を握り締めたままのキラ――ゲンは、やれやれと助け舟を出す。
とはいえ、それはキラにとっては助け舟などではなく、責苦に近いものであったが。
「俺はこの仕事に就くとき……ある人を殺した」
「……!?」
「俺の命を救ってくれた人さ。どうやって助けてくれたかは、覚えちゃいないが。
あるとき、俺は命令されてその人を殺した」
「殺した!? 何で!?」
「理由なんて知らない。その人が何をしでかしたのかさえ、俺は覚えちゃいない。
ただ、命令されたから殺しただけさ。それが俺の過去だ。断片的に戻った、記憶の欠片さ」
安全装置を外した銃。キラの持つそれに、ゲンはゆっくりと手を掛ける。そして……
拳銃の引き金に、キラの人差し指を通した。半ば、無理やりにではあるが。
「軍人である以上、命令は絶対だ。特に俺たちみたいなのは。
お前は俺とは立場が違うが、ブルーコスモス辺りにとっては同じさ。
だから、タケミカヅチも戦場に出てきた。連合に叛意がなく、恭順の道をとることの裏返しに」
「……!」
「嫌だろうが何だろうが、何れ選ばなきゃならない。"敵"とされた者を、殺すか否かを。
例えそれが友であろうと。お前が人を殺す気になってみろ? あっという間に片が付く。
手加減してもザフトのパイロットを倒せるのがお前だ。持っている力は、多分俺より上さ。
本来の力を発揮すれば、あっという間に戦争は終わるかもしれないぜ?
その切欠になるのなら、この引き金を引くのも……悪くないと思うが」
キラは顔をゆがめる。自分の中に眠る力――
それは、恐らくゲン以上、あるいはアスランを優に越えるかもしれない。だが……
「人を、人を殺すなんて、ボクには出来ない!」
「そんなことを、この先の状況が赦すと思うのか?」
「それでも……それでも出来ないよ!」
「どうせお前も……昔はザフトの連中を散々殺したんだろう? 今更――」
その言葉を遮るように、何かがゲンの顔面に向けて放たれた。鈍く響く音――
銃弾が放たれたのではない。もっと直接的かつ短絡的な、怒りを示す手法。
動きがあったのはキラの銃を持っていた右手ではなく、空の左手。
だが、いまそれは堅く握り締められていた。放たれたのは、左拳。
450 :
23/38:2006/08/08(火) 23:31:44 ID:???
「……ったく、急に殴るなよ。」
ゲンは、キラの左ストレートを顔面に受けたのだ。
幸いスゥイング気味のパンチであったため、狙いは鼻を逸れ、頬を叩いたのみ。
それでも、少しゲンの口元から血が滲みはじめていた。
「……ご、ごめん。君が……その、嫌なこと言うから、つい――」
「いいパンチだ。その息だよ。やれば出来るじゃないか?」
憤るどころか、ゲンは嬉しそうに言う。まるで、キラの行為を褒めるかのように。
ゲンは、キラの左手をゆっくりと握りしめる。
「この手だ、俺を殴ったのは。今怒りに任せて俺を殴った要領で、戦場に出ればいい」
「――! まだ……!」
「幾らでも言うさ。お前がその気になれば、戦局はあっという間に俺たちに有利になる。
味方は、だれも無駄な血を流さないで済む。それが最良の解決方法さ。違うか?」
厳然たる事実だけを、ゲンは淡々と告げた。
キラが本気になれば、ザフトなどものの数ではないかもしれない。
本能的に、直感的にゲンはそれを察していた。だから、くどいまでにキラを炊き付けているのだ。
しかし、それは寧ろ逆効果。キラは、憤りも冷め……再び塞ぎこんでしまった。
「やれやれ……折角のオーブのエースも、この様じゃなぁ……」
あきれ返ったように、ゲンは呟く。そして、何を思ったのか――
酒場の店員を呼びとめ、あれこれ注文を始めた。追加の注文であろうか。
そして、先程から固唾を呑んで見守っていた仲間たちは、諍いがひと段落付いたことに安堵を覚える。
ミリアリアは心配そうにキラを見、ファントムペインのパイロットたちはゲンを睨みつける。
「今のは、ゲンが悪いぜ。キラを苛めているように見えたけど」
「俺も同感だ。先輩に対する敬意ってモンが、まるで感じられなかった」
「ゲン……悪い子」
アウル、スティング、ステラは状況を察し、真に的確な批難をゲンに浴びせた。
流石の彼も、反省したわけではないだろうが……やれやれと頭をかきながら、3人に軽く頭を下げた。
451 :
24/38:2006/08/08(火) 23:32:31 ID:???
やがて、ゲンの注文したモノがテーブルに並べられる。
それは、食物ではなく飲み物。ドリンクではなく、アルコール。
中にたっぷりアルコールの詰まった数本の酒瓶と、それを飲むための器が人数分用意された。
「ここクレタ島特産の酒『ラキ』だ。キラ、お詫びに好きなだけ飲んでくれていいぞ」
口元に笑みを浮かべながら、ゲンはキラに贈り物を届けた。
反省をしているのでも、詫びているのでもない。それは直ぐに明らかとなる。
「ボ、ボクは……お酒は――」
「――飲まない? いや、飲めません……だろ?」
「……知っているのなら――」
「あーあ、ラクス・クラインも可哀相に……」
何故突然ラクスの話が出てくるのか――?
不思議に思うキラを尻目に、ゲンは……小馬鹿にしたように、キラに駄目だしする。
「喧嘩は良くないから、飲み比べで勝負しようって言うのに……この様か」
「……え?」
「勝負だよ、勝負。こんな勝負も受けられないような玉無しに見初められるとは、ラクスも可哀相に」
「……!」
「ま、盟主の所にいるラクスも、これを知ったら他の男に浮気しちゃうかも――」
ガタンッ――!
ゲンの言葉を遮るように、勢い良くキラは立ち上がった。そして――
意を決したように、ラキを並々と注ぎ……一気に煽った!
「ちょっと、キラ! そんなに一気に飲み干したら……! 大体、これ蒸留酒よ!?」
「ミリィ、黙ってて。ボクは大丈夫だから」
「へっ……! そう来なくちゃ!」
諫めるミリアリアにも耳を貸さず、キラはゲンの申し出た勝負を受けることとなる。
バイザー越しにニヤニヤしながら見ているゲン、呆れたように見つめるファントムペインの仲間たち。
かくして、二人の喧嘩は第二ラウンドへ――
452 :
25/38:2006/08/08(火) 23:33:19 ID:???
飲み続けること、30分余り……決着は、間もなく着こうとしていた。
表情一つ変えずに飲み続けるゲンと、グラグラと揺れ動きながら、必死に飲み続けるキラ。
二人の飲み比べが始まったのを聞きつけたのか、周囲には人垣も出来ていた。
どれもここクレタ基地を拠点に戦う連合兵たち。彼らも、戦場に出れば荒れ狂う猛者たち。
彼らにとっては、人の喧嘩ほど、見ていて退屈しのぎになるものはなかった。
「キラ……大丈夫か? そろそろ――」
「――言うな! 降伏は……しないッ!!」
「ホント……戦場でも、その調子で頼むぜ」
気が利いているのかいないのか、店員は続けざまに杯を運んでくる。
すでに杯は10を越え、20を越え……いよいよ勝負は佳境に入ろうとしていた。
かく言うゲンも、口元から笑みは消えている。彼にとっても、キツイ勝負なのだろう。
バイザーと彼自身のポーカーフェイスで、苦境は表情には出さないが。
そんな勝負を冷めた眼で見ている仲間たち。
「なぁ……この勝負、いつ終わるんだ?」
「知るか。多分、どっちかが潰れるまでだよ」
「なぁ……ゲンって、お酒強いっけ?」
「知るかよ。大方、こっそり飲んでいるクチだろ」
アウルとスティング。二人は料理を既に平らげ、後は帰るばかりであったが……
勝負が終わらないので脚止めを食っていた。ミリアリアとステラも、詰まらなそうに勝負を見ている。
「男って、馬鹿よね。こんなので勝負するなんて」
「馬鹿……?」
「飲み比べなんて、今日日いい大人でもしないわ。
ステラも、男を選ぶときには注意するのよ? 酒に溺れる馬鹿とは、絶対付き合っちゃ駄目」
「うん……分かった」
録に酒を飲んだ経験のない二人の戦いは、果たしてどうなるのか――
飲み比べは、いよいよ終盤戦に入ろうかというとき……突如として、異変が起きた。
――咽び泣く声が聞こえる。最初は偲ぶような声で、だが……越えは徐々に大きくなり――
誰もが、その声の主に眼を向ける。
彼らの眼に飛び込んできたのは、茶色の髪の青年がテーブルに突っ伏し泣く姿。
453 :
26/38:2006/08/08(火) 23:34:12 ID:???
「うっ……うっ……」
泣き出したのは、他ならぬキラ。嗚咽をかみ殺すかのように、彼は泣いていた。
やりすぎたか――ゲンはとっさにそう思い、詫びようとする。
「なぁ、キラ。悪かった。俺が悪かったから、もうやめ――」
「――うるさい!」
「……はぃ?」
「大体、君がラクスを攫わなければ、こんなことにはならなかったんだ!!」
ゲンはキラの姿に瞠目する。
そこには普段の穏やかな目つきのキラではなく、厳しい目線をゲンにぶつける彼がいた。
「ボクが苦しんでいるのも、元をただせば全部君のせいじゃないか!」
「……そりゃ、まぁ――」
「――アスランと君のどちらかを選べ!? 君にそんなことを言う権利があるのか!?」
「……ないです、多分」
「なら、もう言わないでくれ!! 分かった!?」
「……はい」
素面のときの彼ではなく、ある意味本音をさらけ出したキラが、そこにいた。
完全に迫力負け。あまりの変わりようと、その迫力に押され、ゲンはただ返事をするのみ。
キラの主張を飲み込んだわけではないが、とりあえず肯定しておかないと後が怖い。
なにせ、本音を吐露し始めたキラの手元には、まだゲンの渡した銃があったのだ。
――ヤバイ。この状況、ヤバ過ぎる。ヤケクソで銃撃たれたら、洒落にならん。
ゲンはこの時、キラに銃を渡したことを死ぬほど悔やんでいた。
仲間も不安げに様子を見ている。
「あれ、何? キラ、どうしちゃったの?」
「先輩の――スイッチが入ってしまった。泣き上戸に、怒り上戸。最悪だ」
「私、しーらないっと」
「ステラも……知らないっと」
不穏な方向へと向かう二人の戦いは、やがて決着へと向かう。
454 :
27/38:2006/08/08(火) 23:35:03 ID:???
怒りかけたキラを、ゲンは飲みながら宥め始めた。
「キラ、俺が言うのもなんだがな、俺はお前のことを買ってるんだぜ?」
「……かぁう? なにを?」
「お前は強い。強いよ、ホント。本気出されたら、俺も負けるかもしれない」
「……やめてよね、当たり前じゃないか」
「………」
素なのか酔った勢いなのか、キラの頭の回転は、いつものそれではなくなっていた。
「ボクはねぇ……好きで戦っているわけじゃないんだ! 分かっているの!?」
「……はい」
「君たちに引っ張り出されたんだよ? 自覚しているの?」
「でもなぁ……本当にお前は強いんだぜ? 俺達が放っておいても、ザフトが放っておかないって」
「……好きでこんな風に生まれたわけじゃないよ」
この一瞬――キラの目は、酔ってはいなかった。顔は赤いが、真顔に限りなく近い表情。
それは、苦悩に苛まれる日々を過ごした、かつての連合のエースの姿。
「戦うことが"出来た"だけなんだ。
あの日……ヘリオポリスにザフトが攻めてきたあの日までは、ボクは普通の学生だった。
戦争に巻き込まれて、それから死ぬような思いで戦い続けて……それから」
ストライクを親友のアスランに落とされ、一度は死んだ身。
ラクスに救われ、再び戦場に戻った。戦いを止めさせるために。だが、戦争は止まず――
「好きで生まれたわけじゃない……好きで、こんな体に生まれたわけじゃない!
戦いたくなんてなかった。でも、生きるために、相手の命を奪うしかなかったんだ!
出来れば、ナチュラルで生まれたかった。差別なんて、されたくなかった!!でも、ボクは――」
涙を浮かべ、キラは心情を吐露する。
最後に彼の口から出た言葉は、好青年の仮面を被ったキラではない、本心からのキラ・ヤマトの言葉。
「ボクは、最低なほどに、最高に生み出された……そんなコーディネーターなんだよ」
それは絶えず彼を苛み続けた、過去の出生の秘密。
455 :
28/38:2006/08/08(火) 23:36:00 ID:???
だが、その秘密も事情を知らないものに通じるわけがない。
キラのことをコーディネーターと知らない者にとっては、特に。
「おい! 貴様……コーディネーターなのか!?」
まだ20代そこそこといった若い兵士が、キラに食って掛かる。
彼はユーラシア連邦の連合兵。今正に、ザフトに故郷を侵略されている者だ。
彼らにとっては、コーディネーターは敵に他ならない。
「おい! スティング、やばい! やばいよ!」
「……ああ、最悪だな。バレちまった」
アウルとスティングは、事態を察し動き出す。
スティングは、若い士官にとりなす様に話しかける。
「この人はオーブの軍人だ。遠い異国から、わざわざ増援に駆けつけてくれた――」
「うるさいッ! コーディネーターがいるから、ユニウスが落とされた! 祖国が戦場になった!」
見れば、若い兵士だけではない。周囲を取り巻いていた連合の兵たちが、皆厳しい視線を送っていた。
そんな周囲の様子を、知ってか知らずか……キラはいつの間にか突っ伏し、寝息を立て始めている。
「暢気に、寝てるんじゃねえ! この人間もどきが!」
若い兵士は、側にあった酒をキラにかけ始めた。スティングが止める間もなく。そして……
それでもキラが起きない事に腹を立て、兵士がキラの首根っこを掴み上げようとしたそのとき――!
ゴツッ――!
鈍い音が辺りに響きわたる。スティングは目を疑った。
若い兵士が、昏倒しようとしているのだ。辺りに散らばるガラス片と共に、彼はゆっくりと地に落ちた。
「人間もどきで……悪かったな?」
酒瓶を、中身ごと若い兵士にたたきつけたのは、他ならぬゲン。
その事実を裏付けるかのように、あたりを蒸留酒の特有のにおいが包み込む。
彼の行為が呼び水となり――他の兵士が一斉に拳を振り上げる。そして――乱闘が始まった。
456 :
29/38:2006/08/08(火) 23:36:48 ID:???
怒号、怒声、飛び交う食器、散乱する食物――
文字通り、酒場は場外乱闘の現場と化した。
スティングは最初、止めるつもりでゲンと兵士たちの間に入った。
だが、後続でキラに手を上げるものがあった。寝ているキラに蹴りを見舞う者。
彼はよほどコーディネーターが嫌いであったのだろう。しかし、その行為はスティングを目覚めさせる。
「てめえッ!! 先輩に、何しやがるッ!!」
声と同時に、スティングの右拳が相手の顔面にクリーンヒットする。乱闘要員、一名追加。
ついでに、ゲンはすでに十重二十重に男達に囲まれ、応戦で手一杯。
スティングはキラを護りつつ、乱闘を始めてしまった。残された男――アウルは状況に戸惑うばかり。
「おい! スティング、止めろよ!!」
「うるせえッ! 先輩がやられて、黙ってみていられるか!?」
「ああ……もう、誰か止めてくれよ!!」
アウルは一人悲痛な声を上げるが、誰も止めようとはしない。
こうなったら、後の祭り。暴れるだけ暴れる他、兵士たちが静まることはない。
あるいは、一つだけ争いを止める方法はあった。アウルはとっさにそれを思いつく。
「ミリアリア! ステラ! 誰か、偉い人連れてきて!!」
「え? 偉い人って、誰よ?」
「オーブの人で、いるでしょ! キラが、袋叩きにされてもいいのかよ!?」
「……よくない、絶対! 分かった! 誰か連れてくる!!」
「ホラ、ステラも! ネオでいいからさ!」
「うん。知ってる人で、偉い人……ネオしか……いない」
「だから、早くつれてきてよ!!」
アウルの催促に、二人の少女は動き出す。争いを止める為に。
ただ、この時も乱闘は展開されていた。そして、それはアウルをも巻き込んだ。
「おい! お前もコーディネーター野郎の仲間か!?」
「だったら……どうするの、さっ!?」
アウルは肩を掴まれ、振り向き様――
最後の一言と同時に、どこかの兵士の股間を思い切り蹴り上げた。乱闘要員、追加二人目。
457 :
30/38:2006/08/08(火) 23:37:37 ID:???
上級将校に急を告げようとする女性二人――軍人のステラの脚は、ミリアリアより数段早かった。
駆け抜けるようにして、彼女はJ・Pジョーンズへと舞い戻り、ネオに注進した。
「ネオ、増援要請!」
『……? 何言ってるんだ?』
艦内通信で呼び出され、ネオは驚いて問い返した。少なくとも戦闘など起こってはいない。
だが、酒場では起こっていたのだ。部下3人が、大勢の連合兵と喧嘩に明け暮れて……
『酒場で乱闘だとぉ!? なんでそれを早く言わないんだ!?』
「ゲン達……3人しかない。負けそう……」
『勝ち負けなんて、どうでもいいだろうが!?』
返答も適当。慌ててネオは艦橋を飛び出し、ステラと共に酒場に向かった。
エクステンデッドもソキウスも軍事機密。目立つような行動は極力控えねばならないのに。
これまでは、こんなことは一度もなかった。隊長格のゲンに、そう指示していたからだが……
「羽目を外しすぎだ! あの馬鹿野郎どもは!!」
怒りを隠そうともせず、ネオは酒場に駆けつけた。
――まだ乱闘は続いていた。体格の小さいアウルは延びている。スティングもボコボコ。
ゲンは、酒瓶で相手を殴りつけたのが拙かったのか、数人に袋叩きにされていた。
それでもまだ抵抗は止めず、時折カウンターを見せもしていたが……
その光景に呆れたネオは、ため息を一つつく。そして、ホルスターから拳銃を抜き取り、天に向けた。
――パアンッ!!
鳴り響く銃声に、店内は静まり返る。ネオが争いを止めるべく、空砲を放ったのだ。
そして、乱闘は治まった。大佐の階級と、銃の発射によって。ネオは叫ぶ。
「戦時で気が昂ぶっているのは分かるが、今は準待機命令中だ! 慎みたまえ!!」
争いの仲裁ではなく、命令でその場を解散させる。
後日、店主からネオに、乱闘の損害賠償のための請求書が来ることになるのだが……
兎も角、この場は収まった。既に寝入り、背中を蹴られ踏まれたキラは、床に突っ伏している。
キラを背中に負ぶったネオ。彼とボロボロの少年兵3人は、こうして岐路に着いた。
458 :
31/38:2006/08/08(火) 23:38:30 ID:???
キラを背負うネオ、アウルに肩を貸すスティング。ステラにハンカチを渡され、口から滴る血を拭うゲン。
コーディネーターであるキラを庇っただけなのだが、連合兵の多くはそれが面白くなかったのだろう。
次から次へと敵は増え、最終的に20人以上を相手にしなければならなくなった3人は、事実上完敗。
文字通り袋叩きに合った3人。しかし、外出許可は与えても、喧嘩を赦した覚えはない。
ネオは、キラを背に負いながら、J・Pジョーンズまでの道すがら説教を始めていた。
「……ったく、この馬鹿どもは! 喧嘩の原因は道すがらステラから聞いたが……
問題はそれ以前だ! 酒の飲み比べだと? 若いヤツが、そんな勝負するモンじゃない。
大体、今ザフトが攻めてきたらどうするつもりだったんだ? おい、ゲン! 聞いてるのか?」
「すぐにキラが潰れると思ったんだよ。予想外に粘るから……」
「ここも前線基地なんだ! 戦地にいるのに、酒なんぞもっての他だろうが!!」
ネオの小言は続く。もっとも、如何に前線の兵士とはいえ、度を越さない酒ならば赦されるのだが。
スティングも、抗弁する気もなくただ聞きいている。ただ、アウルは恨めしげな声を上げているが。
「痛てぇよ……何で俺まで巻き込まれるんだよ? スティングが、止めてくれれば――」
「――真っ先に先輩がやられそうになったんだ。黙って見ていられるかよ」
ネオは二人のやり取りに、背負っていた青年の顔を見る。
幸い、ファントムペインの3人とは異なり、彼の顔には怪我らしい怪我はない。
背は蹴られたり踏まれたりもしただろうが……
「まったく、オーブのエース殿も困ったモンだ。真面目な好青年かと思っていたのに。
おい、こら! 寝てないで何とか言ったらどうだ? キラ・ヤマト君……」
「……う?」
酔いが完全に回っているのか、キラは小さく呻いただけ。
ただ、朦朧とした意識の中――彼の耳に聞き覚えのある声が飛び込んできて、一瞬だけ我に返る。
「貴方は……ムゥ……さん?」
「はぁ? 俺はネオ! ネオ・ロアノークだよ」
「……? 嘘……ムゥさん、でしょ? 貴方の声は、フラガ少佐……ですよ」
「勝手に降格してくれるなよ!? 俺は大佐! ネオ・ロアノーク大佐!! もういい! 寝ていろ!」
「……ふぁい」
指示通り再び寝入るキラ。運命の悪戯か――二人の再会は、有耶無耶のうちに終わってしまった。
459 :
32/38:2006/08/08(火) 23:39:21 ID:???
ネオたちは、J・Pジョーンズに帰る前、近くに寄港していたタケミカヅチにキラを運ぶ。
折りよくミリアリアから乱闘騒ぎを聞き、艦の外に出ようとしていたアマギ。ネオは彼にキラを引き渡す。
「……御出迎えご苦労ですな、アマギ一尉。」
「ロアノーク大佐!? も、申し訳ない!」
「原因はうちの連中にあるようです。説教はしっかりしておきますが……」
「二度と、このような不始末が起きぬよう、善処します!」
自軍の兵士が酔いつぶれて、乱闘に巻き込まれて……アマギとしても、非常に罰が悪かった。
彼は平謝りに謝りながら、キラを運ぶ。遠くで不安げに見守るのは、ミリアリア。
幸いにして、ネオの"声"は彼女の元へは届かず――
「さあ! 馬鹿野郎ども、こっちも帰るぞ!」
ネオは3人の馬鹿な少年兵たちに、再び厳しい眼を向ける。
この後直ぐに、ファントムペインのパイロットたちはJ・Pジョーンズに戻った。
ステラはそのまま部屋に戻され、男3人は怪我の治療のため処置室へ。
呆れる研究員たちに傷の手当てをしてもらった後、スティングとアウルも自室に戻された。
ただ一人――ゲンを除いて。
司令艦室――即ち、ネオの部屋に、ゲンは呼び出された。
氷嚢で殴られた箇所を冷やしながら、上官の説教が始まった。
ただし、今度は説教というよりも、尋問に近かったが。
「暴れるだけ暴れて……イライラは収まったのか?」
「……? イライラ?」
「ずっと、苛立っていただろう? 俺が見舞いに行ったときからさ」
「………」
「ステラから聞いたが、ずいぶんキラを苛めていたそうじゃないか?
彼を相手に、八つ当たりもしたんだろう? それで……気分は晴れたのか?」
ゲンは、確かにキラを苛めていた。銃を持たせ、引き金を引け――
普通の軍隊であれば、明らかに常軌を逸した行為に他ならなかった。
ファントムペインにとっては、あまり異常な行為とも言えなかったが。
ネオの指摘に、ゲンはバイザーを取り……ゆっくりと重い口を開き始める。
460 :
33/38:2006/08/08(火) 23:40:08 ID:???
「気分が晴れることなんて、ないさ」
ゲンは悪びれず応えた。彼の心にずっと引っかかっていたもの。それは過去の記憶――
「かつての同胞が、あんまりウジウジしているから、気合を入れようと思っただけさ」
「……かつての同胞? 誰のことだ?」
「キラだよ。俺の故郷は、オーブなんだろう?」
「――!?」
ネオは司令室の椅子を、飛び上がらんばかりに立ち上がった。
仮面がなければ、彼の素顔は己が思いを雄弁に物語っていただろう。ネオは、それほど驚愕していた。
――消された筈の記憶が、戻っているのか!?
そう問いたいのを必死に堪え、努めて冷静になろうとする。
――いや、オーブに昔の知り合いでもいたのかもしれない。あるいは、ほかの誰かか? 例えば――
「……誰から、その話を聞いたんだ? エクステンデッドの研究員からか?」
「誰に聞いたわけでもない。思い出したのさ。あの、インパルスとの戦いのときに」
マユ・アスカの駆るインパルス、そのエクスカリバーの斬撃に切り裂かれたとき――
走馬灯のように、過去の記憶は戻ってきた。断片的な記憶の欠片だけだが。
「俺がソキウスになるときの話さ。誰かを殺した。その人の名も、思い出せないが……
そして、盟主に問われたのさ。故郷の人間を……オーブの人間を殺せるか、ってな」
「………」
「俺は自分の命可愛さに、友をと呼べる人を撃った。その記憶だ」
「そう……か」
「俺は自分が誰なのか分からない。それが苛立つんだ。それと、もう一つ――」
蘇る記憶。努めて冷静に振舞うネオは、内心焦っていた。
ジブリールはシン・アスカの忠誠を疑い、記憶に蓋をした。そして、ゲン・アクサニスが生まれた。
つまり記憶が戻るということは、即ち謀反の虞が生まれるということに他ならない。
――ゲンの記憶を、再び消さなければならない。
予め命じられていたことでもあり、今後の作戦を円滑に進める上で不安要素は取り除かねばならない。
ネオはそう考えながら、ゲンの言葉を待った。
そして、ゲンはもう一つの苛立ちの理由を明かす。
461 :
34/38:2006/08/08(火) 23:40:57 ID:???
「ユーリ・アマルフィを覚えているか? アーモリー・ワンで俺が暗殺した科学者だ。
あいつの娘が……あの白いMS――インパルスのパイロットをやっている」
「――!? 確かなのか!?」
「そう、自分で言っていたのさ。そして、俺は――」
一瞬、言い澱むゲン。話すか話すまいか、ここ数日迷い続けていたこと。
ただ、今話さねば、この不快感はこの先もずっと消えそうになかった。
自分が何者であるか――断片的に戻った記憶は、ゲンにとっては心のしこりとなっていたのだ。
暫くの間を置いた後、改めてゲンは語り出す。
「以前、俺は……あの娘と会ったことがある」
「……アマルフィの娘なら、アーモリー・ワンで会ったんだろう。
大方潜入のときに見ていた顔を覚えていて――」
「――違うッ!」
上官の声を遮るようにして、ゲンは叫んだ。叫ぶ理由などない。だが、彼は叫んだ。
断片的に戻った記憶の中、不思議と最も印象に残っていたのが、あの少女の顔だから。
「敵の顔を、見たんだ。あいつがコア・ブロックシステムで切離した戦闘機で、脱出するとき。
あの娘の顔は、暗礁空域で緋色のMSにやられかけたとき、閃光のように過ぎった。
彼女の顔は、俺の脳裏に焼きついて離れない……可笑しいだろ? 何でこんなことがあるんだ?」
そう。仮にゲンがオーブ出身ならば、プラントに住む娘の顔を覚えている理由がない。
それが何よりも不快であった。オーブ出身というだけなら、特に問題はなかった。
隣に停泊するタケミカヅチの者達へ、若干の親近感が沸くのみ。
それはキラに対しても言えたし、ミリアリアに対しても言えた。
だからこそ、キラには彼なりの諫言を述べ、ミリアリアの写真についても許容する度量を与えていた。
しかし、あの少女の面影――そのデジャヴに掻き乱されたゲンの心が、激しく揺れ動いていた。
「……ネオ、教えてくれ。俺は……一体、何処の誰なんだ?」
「それは――」
言えない。ネオには、言えるはずがなかった。シン・アスカという、嘗ての名と経歴を。
知れば、この少年は手元から離れていくかもしれない。
それに、ジブリールがそのようなことを赦す筈もなかった。
応えに詰まるネオ。だが、次のゲンの言葉は――ネオを更に瞠目させた。
462 :
35/38:2006/08/08(火) 23:41:56 ID:???
「なぁ、俺がオーブにいたとき、何があったんだ?
そうだ……! 俺にもブロック・ワードがあるんだろう?
心理的トラウマを利用するってヤツ……それと何か、関係があるじゃないのか?」
「――!?」
――仮面を付けていて、本当に良かった。
ネオは、心の中で心底そう思っていた。ゲンの勘の良さに、仮面の下では……
恐らくは、驚愕に眼を見開いているに違いなかった。感覚として、はっきりと自覚できる程に。
「教えてくれ、ネオ! ブロック・ワードでもいい! それで、何か……分かる気がするんだ!」
「………」
――言えば、お前が苦しむんだぞ? 全く……何も知らないで。
そこまで考えて、ネオは思いなおした。知らないからこそ、不快なのだ。
自分が何者であるかを、自分の過去に何があったのかを。気にするなという方が無理だ。
ネオは思う。記憶が戻っているということは、確かなようだ。それを気に病んでいるのも。
至急手を打たねばならない。記憶の抹消、ないし書き換え。
コーディネーターであり、ソキウスであるゲンには特別の処方が必要だ。ラボでなければ為し得まい。
「ブロック・ワードを教えるなんて、出来るわけがないだろう。
お前の過去の経歴を知らせるかどうかは、上に測る必要がある。そう、ジブリール卿に……」
「そう……かよ」
測るのは、是非ではない。報告した上で、記憶の抹消を乞うのだ。
迷いのある状態で、ゲンを戦場に送り出すのは得策ではない。
誰よりも強く、誰よりも残酷で、そして誰よりも忠実であれ――
それらが、ジブリールがゲンに対して求めること。
ネオの言葉を予想していなかったわけではないだろうが、ゲンの声は明らかに失望していた。
「今日はもういいだろう。部屋に戻って休め」
「………」
無言で佇むゲン。まだ何かあるのだろうか。それとも、まさか――
一瞬、ネオは謀反の虞を抱く。
そして、ゲンの挙動――銃に手を伸ばすか否かを見極めようとする。
もう一つの備え、ゲンのブロック・ワードを脳裏で反芻しながら。
463 :
36/38:2006/08/08(火) 23:42:45 ID:???
しかし、次の瞬間それは杞憂であると悟る。
銃を構えるどころか、ゲンの脚はフラフラと辺りを彷徨い、さながら千鳥足……すぐに、ネオは感づく。
――そういえば、こいつはさっきまで酒場で大量の酒をあおって……
最低の、そして最悪の事態がネオの脳裏を過ぎる。
目の前の少年は、青白い顔面。俯き加減で、部屋の外へ出ようとしている。
元来、酒を飲んだ経験がそうあるとは思えない。
アルコールに耐性のない体で、大量の酒――それも蒸留酒を呷ったとすれば……
――そうだ、間違いない。ゲンは、アレをやらかそうとしているのだ。
思考が纏まると同時に、ネオは叫んだ。
「やめろォ!!! ここは俺の部屋だぞ! 反吐をぶちまけるなぁあああ!!!!」
「限、界……わる……ぃ……ぉぇっ」
息も絶え絶えのゲンは、謝罪の言葉を述べた後……短く呻いた。
数分後、部屋にはネオが一人残っていた。
部屋の床に散乱しているのは、形容しがたい異臭を放つ液体……固形物も混じっているか。
部隊の指令官の部屋に反吐を撒き散らす兵など、連合広しといえどもいる筈がない。
いや、いてはならないのだが。そして、その第一号となったのは、先ほどまで部屋にいた少年兵。
それをせっせと掃除する男が一人。この部隊の指揮官にして、仮面を付けた異形の男。
「あの……糞馬鹿ッ! 馬鹿間抜けッ!!」
ネオは、反吐をぶちまけた部下を呪いながら、必死の雑巾掛け。ご丁寧にバケツも用意してある。
張本人は、部屋に返した。どうやら、キラとの勝負も、ずっとやせ我慢していた様子だ。
ゲンも、あまり酒に強くはないらしい。
「危うく、怒りに任せてブロック・ワードを言っちまうところだった!! クソッ!!」
言いかけて、自分がやっていることを冷静に振り返る。少年少女の記憶を操作し、戦場に送り出す。
彼らに文句を言える筋合いの者ではないのだ。ネオはそこのことを振り返り、怒りを納める。
そして、ゲン・アクサニス――かつてシン・アスカと呼ばれた少年の禁句を呟く。
「お前さんがこれを知ったら、どんな顔をするかねぇ。多分、さっきの嘔吐以上に苦しむだろうが。
ゲン、お前のブロック・ワードは……『マユ・アスカ』、お前の……実の妹の名だよ」
464 :
37/38:2006/08/08(火) 23:43:34 ID:???
ザフト軍所属ミネルバMSデッキ。時刻は深夜――
スエズ方面軍の基地に寄港したミネルバは、連合軍と戦った傷を癒すのに日々を費やしていた。
幸い、MSの損傷はバビ2機のみ。奇麗に切られていた両腕と武装は、すぐに修復された。
メインの補修は艦本体と、主砲タンホイザー。そのため、今MSデッキに人影はない。
いや……一人だけいた。
深夜にも関わらず、軍服を身に纏った青年が一人。赤い衣に身を包んだ彼は、辺りを見渡している。
彼は、先ほど上官から突然の呼び出しを受けたのだ。深夜にも関わらず、至急来いと。
それも、ミーティングルームでもなければ、上官の私室でもない。
不思議に思いながらも、青年は呼び出された場所に来て、相手の姿を探した。
細面で色白の青年は、キョロキョロと周囲を見渡す。
「ハイネ隊長……こんな夜中に、一体何を?」
彼――アスラン・ザラは上司の姿を見つけようと、薄暗いMSデッキを見渡す。
グフ、ザク、バビ――そして、彼自身の愛機セイバー。巨大なMSの脚元を、彼は歩く。
ちょうど、緋色のグフの前に来たとき――得意な髪型の上司らしき人影を、確認する事が出来た。
「隊長……ですか?」
「遅かったな? 来ないかと思ったぞ」
節電のため、明かりの大半が落とされているMSデッキ。
その中で、上司の金髪の髪は、調度良い目印となっていた。しかし、上司の雰囲気がいつもと違う。
普段は陽気なハイネ・ヴェステンフルスは、どういうわけか声のトーンが低い。夜だからであろうか。
その事に引っかかりを覚えながら、アスランは応える。彼は普段どおりの、真面目な応対。
「呼び出された以上、必ず来ます」
「……仕事熱心だな」
「で、何でしょうか?」
「……ああ、二つ三つ聞いておきたいことがあるんだ」
――聞いておきたいこと? 何だ?
アスランは疑問に思う。確かに、バビの補修やら、基地司令への挨拶やらで忙しく働いていた。
しかし、昼間は何度か会ったし、聞いておきたいことがあればその時に聞けた筈だ。
ならば、急を要する事態でもあったのだろうか。曰く形容しがたい疑問が、アスランを襲う。
465 :
38/38:2006/08/08(火) 23:44:32 ID:???
「一つ目の質問だ。お前、ダーダネルスでオーブのヤツと話していたな? アレは何だ?」
「――!!」
ストレートな質問に、アスランは驚きを隠せない。とはいえ、一応は覚悟していた。
ダーダネルスの戦いで、途中オーブ軍のパイロット、キラ・ヤマトと接触を持ったことを。
明らかに常軌を逸した行為であり、見咎められるのは必定。
予てから尋問を受けることは覚悟していた。だが、尋問ではなく個人的に問われるとは……
戸惑いながらも、アスランは応える。
「……自分の、昔の知り合いが……いました。あの、マーズとヘルベルトを倒したパイロットです」
「そうか。じゃ、二つ目の質問だ。そいつは……キラ・ヤマト。フリーダムのパイロットだった男だな?」
「――!?」
キラの名、そしてフリーダムの名が同時に出てきたことで、アスランの思考は飛んだ。
――何故、知っている!? よりによって、キラ……そして、フリーダムのことまで!?
ハイネの言葉に対する疑問は、アスランの思考を完全に停止させた。
「知っているさ。フリーダムのパイロット、キラ・ヤマト。そして彼は、ストライクのパイロットでもあった。
一度は刃を交えながら、その後軍を抜けたお前は……最後は彼と共に戦った。
あの第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦を。俺の言った話、何か間違っているか?」
「……! 隊長、それは!!」
「情報部が調べたことだが……間違いないな?」
情報部が調べた――つまり、アスランやキラのことは、全て知られていたのだ。
おそらく、あのダーダネルスの戦いでも、ハイネはセイバーから通信で声を拾っていたに違いない。
「間違い……ありません。でも……でも、俺は! あの時、アイツを説得しようと――!!」
「――弁明はいい。アスラン・ザラ、最高評議会議長ギルバート・デュランダルからの勅命だ」
徐に……ハイネはアスランに手をかざした。彼の手に握られているのは、黒い塊。
キラとは異なり、生粋の軍人であるアスランには、その正体は直ぐに分かった。
そして、次にハイネが何をしようとしているのかも。やがて、それは上官の次の言葉で証明される。
銃口をアスランに向け、引き金に手を掛けた上官は告げた。これから行なわれることを――
「アスラン・ザラ、お前を……我がハイネ隊の……
いや、ミネルバの、ザフトの最大脅威として――排除する。悪く思うな……」
ハイネの右手に握られた拳銃は、ミネルバのMSデッキの証明に鈍く照らされ……
その照準は――銃口の先の青年、彼の眉間のあたりを、正確に捉えていた。
PP書いてる者です。あとがきのようなものを少々。
前回投下から1ヶ月経ってしまいました。夏本番ですね〜
暑いです。忙しいです。とりあえず色々頑張ってます。SSの方もなんとか……
補足とか。
ヒル国防長官は勿論オリキャラ。名前つきです。多分大西洋連邦には存在する役職……の筈。
彼の台詞の中で、ある人名を出しました。PP戦記では『あの説』を採用します。
ロゴスが出てくる以上、これはやらねばならない。それが製作サイドの意図……と思っております故。
あとは飲酒年齢。ヨーロッパでは16歳以上は飲める国もあります。よって合法です(ぉぃ
『ラキ』は実在するらしいです。飲んだことはありませんが。一度は行きたいクレタ島。
ブロック・ワードは初期設定から変更しました。考えてくれた方、申し訳ありません。赦して。
いつになるかわかりませんが、また次回お会いしましょう。
季節がら、体調など崩されませんよう……
うひょー!飲み比べをする二人がGJ!
ど、どこかで聞いたような地名が沢山・・・
GJです!
でも、キラに銃を握らせるゲンの台詞が
トライガンマキシマムのウルフウッドみたい
書き込みをリアルタイムで読ませていただきました。
泥酔して本音を語るキラの姿が、泥臭くてよかったです。
ゲンは記憶が相当蘇ってきてるようですが、このままでは済まないでしょうね。
これだけ一度に大量に書き込むとなると、執筆さぞ大変でしょうね。
猛暑も終わった、秋口のころにでも続きが読めることを祈ってます。
> 「お前は強い。強いよ、ホント。本気出されたら、俺も負けるかもしれない」
> 「……やめてよね、当たり前じゃないか」
> 「………」
ちょwwwwwwwww何かキラに黒いの降臨してるwwwwwwwwwwww
MS戦闘ないのにおもろいw
戦艦ヘルメスの窓さえない薄闇の一室の中で月の様な光を放つ物体。
まるで棺のようなベッドの中に「彼女」は眠っていた。ケース内部の微かな彩光が
ガラスの蓋いに反射して油膜のような虹色の紋様を描き出している。
マユは片手をその厚みのあるガラスに掌を当てて眠る少女を凝視する。少女はまるで
死んでいるかのように安らかに眠っていた。しかしその薄絹のようなネグリジュの下で
その胸が微かに上下に起伏しているのが見て取れる。
マユの脳裏を白雪姫の御伽噺に出てきた一節がよぎった。それほどまでに安らかな
寝顔。薄暗い急造の処置室で、幾本ものチューブが繋がった宝石箱のようなケースの
中に彼女は眠っている。
「この子が…」
マユは閉ざした口の中で呟いた。この子があの、禍々しいMSのパイロット。
さながら廃墟に潜む悪魔のように宇宙の暗闇に無数の命を引き裂いた子。
顔を近づけて覗き込む。眠る少女のむき出しの手足は細く、まるで透き通るかの
ように白かった。そしてその華奢な肩に淡い金色の髪がかかっている。
マユと比べてもけっして丈夫そうには見えない。そしてその顔立ちは人形のように
整って優美でさえある。同じ女のマユから見ても溜息が出そうになるほどだった。
ファントムペイン。政治結社ブルーコスモス直属の私兵団が造ったエクステンデッド。
マユが抱いていたイメージとはずいぶんと違っている。彼女は小難しい面持ちで
ガラスから顔を離した。しかしその目線の先は相変わらずその寝顔に注がれている。
「アスカ少尉」
隣に立っていた白衣の管理官が口を開いた。部屋には三人しかいない。
「まだ目が覚めるまでに半時間ほどかかるから」
三十代後半と見える管理官が煙草を取り出して告げた。水パイプを加える姿が妙に
サマになっている。そのエナメルのような赤い髪がさらりと揺れた。
「その時でいいわよ」
管理官リョウコ・ユーリは鉄製の椅子に腰掛けて紺のタイトスカートから伸びた足を
組み合わせたままにそう言った。
その表情は冷ややかで人を寄せ付けない科学者然としたオーラを纏っている。
マユは眠る少女と管理官の顔を視線で二往復ほどする。
マユはやや躊躇った後、頷いた。たしかにずっとこうして見ているわけにも
いかないからだ。
「わかりました。目を覚ましたら呼んで頂けませんか…挨拶くらいはちゃんと
したいですから」
リョウコはにこりともせずに目を伏せたまま「分かったわ」とだけ答える。
そのときマユはおや、と思った。
一瞬、ガラスケースの少女とリョウコが重なって見えたからだ。
二人とも整いすぎた顔が魅力的ながらもどこか近寄りがたい印象を与えているように
感じられる。あるいは表情の無さが影響しているのかもしれなかった。
そしてマユはそんなことを頭に巡らせつつ、お辞儀をして部屋を出る。
***
一人部屋の自室で宙に浮いたまままどろむ。疲労? 指摘するまでもなくそうに
違いない。初陣、デブリ帯でのザフト艦奇襲作戦は予想を超える激戦になった。
ほんの二時間ほど前のことだ。
マユは自分の手を光にかざしてみる。今日、この日にこの手が人を殺めたのだ。
そして目を閉じた瞼の裏の闇にも戦火が浮かび上がってくる。
彼女は刹那、鼻の奥に血の臭いを嗅いだ気がした。
「ぅ」
急に気分が悪くなる。
マユは自分の口元を押さえて歯を噛み締める。その白い眉間には微かな皺さえも
が出来ていた。頭の中を映像の断片が駆け巡る。まるでフラッシュバックのように。
だから彼女の奥歯はぎりと音を立てる。片手は無意識に自分の栗色の髪を
握り締めていた。
そのとき耳に蘇ってくる歌声。戦闘の終わりに聞いた歌は妖精の音色のように
美しかった。表面的な耳障りの良さという意味ではなくてその底に籠められた激しさ
のようなものが戦慄と奇妙な陶酔を呼び起こす。
…あれは人間のものではなかったようにさえ感じられる。
でもあの歌は突然の金切り声と共に打ち切りになった。マユは息が詰まったような
音と苦しそうな喘ぎ、そして呟きが無線から聞こえてきたことを思い出していた。
話は小一時間前にさかのぼる。
マユのB(バスター)アストレイはデブリの影に身を隠し、ザフト艦の到着を待っていた。
手元には予備のミサイルポット(脚部用)が二つ。彼女の役目は先制攻撃と援護射撃である。
つまりミサイルを全段撃ち込んだら前列から一端後退する手はずになっている。
真っ暗に近いコックピットの中でマユは円形のレーダーを凝視していた。
そのとき何か大きな熱源が青いレーダーの円に入ってくる。思わず手に力が篭る。
マユは顔を上げ、モニターの画像を拡大した。それはザフトの戦艦に違いなかった。
「きた」
ヘルメットの中でそう呟いた。
バスターアストレイは何かの残骸から顔を覗かせる。
彼女はビームキャノンの照準を合わせながら脚部ミサイルの軌跡を空いた片手で
キーボードに入力した。デブリの薄いコースを選び、隙間を縫うように六つのルート。
これだけ分散すれば一グループくらいは気づかれずに直撃するかもしれなかった。
ごくり、と喉を鳴らす。そして発射スイッチに指を乗せ、深呼吸した。
(本当に、いいの?)
マユは自問自答する。自分がやろうとしていることが正しいとは思えない。
しかし他に道はない。だが不可抗力とはいえ簡単に割り切れる話でもない。
そのときだった。ザフト艦からMSが飛び立ったのは。
「気づかれた!?」
その数は十数機。偵察というには余りに多すぎる。ひょっとすると全ての機体を
出してきたのかもしれない。
「くッ!」
マユはとっさにボタンを押していた。脚部のポットから滑り出した幾筋ものミサイルが
ザフト艦をめがけて六つの弧を描いて飛んでいく。
彼女はすばやく左右の足からポットを切り離し、予備のポットを装着した。
そしてデブリの影から躍り出る。
それに気がついたザフト機の何体かが迫ってくる。ジンの改良型が三機。
かなりの速度でライフルを撃ちながら突っ込んでくる。
マユは被弾する恐怖を打ち消すように叫んだ。
「当たらない! 私には絶対当たらない!」
マユはブースターを小刻みに噴かして自機の位置を上下左右にずらしながら狙い撃ちにする。
胸部ガトリングで時おり細かい弾幕を張りながら。意外と俊敏な動きだった。
一機は肩口に被弾して動かなくなる。
だがもう二機は遠慮会釈無しに距離を詰めてくるのだ。それなりの手垂れのようである。
マユは舌を引きつらせ、喉を絞った。
「ぅあァアあああぁああァ!」
もう乱射、だった。ジンに行く筋ものレーザー、無数の弾丸が雨のように降りかかる。
多分ジン二機の撃った数の三倍以上の火力を浴びせかけただろう。
片方はガトリングの餌食になってボロ雑巾のように消し飛んだ。もう片方は左肩から
先をレーザーに吹き飛ばされて大破した。
マユの機体は量産機の試作型とはいえ、雛形となるべく造られたオリジナルである。
その性能、特に火力は前大戦のGシリーズと比べても遜色はない。
「はァ、はぁッ、はァ…」
マユは肩で息をしている。しかし休んでいる暇は無かった。
ジンの一群が別ルートから後方の母艦ヘルメスに向かって進んでいく。
マユはその進路を考えに入れてミサイルのルートを入力する。その細い指は信じられない
速さでコードを刻んだ。そしてすぐに左足のミサイルが発射される。
それは三方向から目標を襲うようにインプットされ、忠実に軌跡を描いた。
マユはさらにビームキャノンを撃とうとしたが、止めた。さっきのミサイルで
混乱したジンの群れに味方の改良型ダガー数機が襲い掛かり混戦になっている。
下手に撃てば誤射の危険が大だった。
そうこうするうち、再びマユの目の前に迫ってくる新手のジン四機。
マユは残っていた最後のミサイルポットを切り離す。そしてジンに向かって放り
投げながら一目散に逃げ出した。
Bアストレイはムラサメほどの機動力がない反面、武装を扱う必要上パワーはある。
投げられたミサイルポットはかなりの速度で飛んでいった。
追ってきたジンの群れとミサイルポットの距離が詰まる。
そのとき彼女は突然振り返り、撃った。ガトリングで打ち抜かれたミサイルポット
が爆発し、四機のジンのうち三機までがその巻き添えになった。
だが片足を失くしたジン一機が追いすがってくる。爆煙に紛れて迫ってきたらしい。
もう幾ばくの距離もなく、ほんの少し先でサーベルに手をかけている。
「ぅ…アァ!」
マユは悲鳴とも気合ともつかない声を上げ、ビームキャノンを向ける。
しかしマユはキャノンのレーザーを撃とうとせず、側面のスイッチを切り替えた。
彼女は歯を噛み締めて引き金を引く。実際に火を噴いたのはショットガンだ。
拡散する弾丸が空間を削る音が聞こえそうだった。片足のジンは上半身を吹き飛ば
されて下半身だけが残された。
ヘルメットの中の額は汗ばみ、首筋は濡れている。
「下がらなくちゃ」
ミサイルを撃ちつくした今、最前列にいる意味はない。新しいポットを取りに行く
必要がある。中距離用のガトリングやショットガンはまだ半分以上残っているから
母艦ヘルメスまでの護身用には十分だろう。
Bアストレイは身を翻す。
しかしマユはレーダーを見てゾッとした。
「この数…」
敵機の数が尋常でない。ずいぶんと倒したはずなのにまだ二十機近く残っている。
ひょっとすると情報自体がガセで罠にかけられたのはこちらなのかもしれなかった。
救援物資を積んでいるはずのザフト艦にはおびただしい数のMSが積み込まれていた
のである。
テレビで見たデュランダル議長の顔が頭をよぎる。穏やかそうな紳士で好青年と
言ってもよいほどだとあのときは感じたけれども。
今、マユはデュランダルの狡猾で油断のならない側面を見た気がした。
そのとき頭上からビームが降り注ぐ。
上を向くと「新型」が迫ってきている。ザク・ウォーリア、資料で見たことはある。
「新型に乗ることになった」という異母兄の言葉が脳裏をよぎり、一瞬、応射を躊躇
してしまう。しかしシンの電話での話ではまだ公開されていないものと聞いていた。
一瞬の気の迷いが命を危険に晒す。
ザクの速度はジンの比ではなく、もうすぐそこにまで迫ってきていた。
「ぁ!」
投げつけられたヒートホークがBアストレイの胸をかすめる。とっさに避けなければ
直撃していたかもしれなかった。
慌ててガトリングの引き金を引こうとする。だがそのとき、目の前を灰色の影が
よぎったのだった。ザクは真っ二つになり、Bアストレイの目の前で大破した。
爆発で飛び散った破片が自分の機体に当たっているのが分かる。
《何してるの!?》
それはどこか快いソプラノ。通信の第一声がそれだった。
マユは瞬きして現れた僚機を見た。灰色の華奢な機体にはビームサーベルに近い
長さのビームクロウが装備されている。二枚の翼のような大型のバックパックを
マユに向けたまま通信は続く。
《ひょっとして弾切れなの?》
マユは「彼女」のその二言目の言葉で我に返った。
「大丈夫…でもミサイルをとりに行きたいの」
マユがそう答えると灰色の機体はBアストレイの手をとってヘルメスに向けて
飛び始めた。かなりの速度で。
その機体もまたガンダムタイプのようだった。あとで聞いた話では「ランスイル」
という長い爪を持った吸血鬼に由来する名前がついているらしかった。
そしてそれがあのファントムペインの少女、ソフィアの機体だった。
ランスイルはマユのBアストレイをヘルメスの近くに引っ張っていくと手を離し、
凄まじい速度で戦闘に帰っていった。さながら魂を狩りに行く悪魔のように。
翼をはためかせて闇に舞いながら両手の長い爪で敵機を切り裂いている。
どうやら接近戦用の機体のようだった。
マユは比較的手近にいたジンの方を向けてビームキャノンを全弾打ち込んでから
ヘルメスの艦内に駆け込んだ。
数分後には新しいミサイルポットを装備して再び出撃した。
戦闘中、ソフィアと何度か通信したけれども必要なことだけである。会話を交わす
余裕はなかった。
今、疲れ果てた二人の少女はヘルメス艦内に眠りをむさぼっている。
ume
, -─-r'´ ̄`ヽ''− 、
/⌒l ノ| ,ヽ- 、`ヽ
j ヽ>-─‐- _f`!/ Y⌒ヽ::\
く/:::::::::::::::::::::::::::::``<ノ / }::::::: ヽ
/:: :: :: :::::::::::::::::::::::::::::::::::`< 〈::::::::. :.'、
/:: : :: :::::::::!:l:i:i、:::. :: :.. . . . \):::::::. :',
/:::: .: : ::: /ハ:l'、';,ヾヽ;、:ヽ、::::...::. . ::::.::..:: :::l , -― 、
l;イ:::.:: .:: l::{-、!!ヾ;ヽ `メ、゙ヽヽ、:::::ヽ::::::::::;:', r'" Y´ /`ヽー 、
ll l:::::::::::.:. ハi___`l、 ヽ \ r〒うトミ、:::l:::::::::ト:ヽ 〈,..ィ ⌒ヽf-―v___ノ Y´`ヽ
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