メイリン 『こちらブリッジ。全乗組員へ緊急連絡。ザフト諜報部及び監視衛星からの情報により、L2プラント・レウォンティンへ進路を取る未確認艦艇の
存在が確認されました。艦砲射撃も視認されていることから、対策委員会はこれを危険度Aと認定。本艦は直ちにレウォンティンへの進路を取ります」
ルナマリア 「L2といえば、月の裏側よね」
ヴィーノ 「ああ。レウォンティンは確か一基だけでそこに浮かんでる、外宇宙の観測なんかが主な役目のプラントだ」
ハイネ 「やれやれ、本日2度目の出撃は、随分遠いところまで出向かにゃならんようだな。ただでさえ引っ張りだこなんだ、出かけてる間に他の事件
でも起きなきゃいいがな」
メイリン 『レウォンティンへの到着は90分後を想定します。パイロット各員はブリーフィングルームへ集合して下さい』
ルナマリア 「……あの子も、随分オペレーターが板についてきたものね。そこは姉としてちょっと頼もしいけど。シン、レイ、お呼びがかかったわよ」
シン 「ああ、聞こえてたよ。すぐ行く……」
ルナマリア 「それで、あんた達の勝敗はどうだったの?」
レイ 「お前と同じ、今回は俺の辛勝だ。もっとも、次にやる時にどうなるかは分からんがな……」
〜 1時間後、ラグランジュ2領域付近、ミネルバ艦橋 〜
メイリン 「目標、捕捉しました。視認可能、モニターに出します!」
グラディス 「思ったより早く追いついたわね。これならレウォンティンに流れ着く前に仕留められるかしらね」
アーサー 「こちらの三度の警告に対しても応答は無し……この辺は珍しくもありませんね。しかし、見れば見るほど似ていますね。……忘れがたい
あの艦に」
グラディス 「そうね。船型といい、艤装といい、これは同型艦と考えていいでしょうね。同じ組織の物なのか、あるいはどこかの工廠が造船したものが
テロリストに渡っているのか。どちらにしても、時々混じってくる個人や小規模グループのテロリストではなさそうだわ」
アーサー 「しかし艦長、あれが仮に我々が交戦したあの時の艦と同一の由来を持つのならば、これはまたとない好機ではないでしょうか」
グラディス 「……議長から改めて連絡のあった例の話ね。囮にした艦を沈めることで完全なスケープゴートを作り上げ、追撃の手を振り切ったもう一隻の
船、か。コクピットを開けてもことごとくがもぬけの殻だったダガータイプ、女と見られる炭化した1人分の死体だけが浮いていたブリッジ、殆どが自動化
されていたらしい艦のシステム……そして消えた3機のGタイプ。全ての謎を紐解く糸口が、あの艦を戦うことであるいは見つかるかもしれないわ」
アーサー 「拿捕できれば、それが理想的ですが……迂闊に近づいてまた自爆でもされたら、洒落になりませんね」
グラディス 「そうね。そしてそれを言うなら、あの艦がずっと私達の前に姿を晒したままなのも少し気になるわ」
アーサー 「……ミラージュコロイドで姿を消せるはずだと?」
グラディス 「まったく同じ性能を持つのならば、ね。姿を消せない理由があるのか、元々備わっていないのか、できるのに敢えてしないのか。更には、
地球圏の外を見る天文台としての役割しかないはずのレウォンティンに、一体何をしに行くのか……あれもまた、分からないことだらけの艦ね」
アーサー 「確かに。その点、今朝のユニウスエイトへのテロは見事なほど分かり易いものでしたね。虫酸は走りますが」
グラディス 「何にせよ、私達には結局のところ、戦うことで水際で被害を食い止めることしかできないわ。調査は後で軍外の専門家を呼ぶとして、今は
あれを仕留めるわよ。いつも通り、迅速にね。メイリン、敵艦の動向に注意を払って。艦載機を出してくる可能性が高いわ。アビー、モビルスーツ隊発進
スタンバイ」
メイリン 「了解!」
アビー 「了解です!」
STAGE4 分かれた枝葉の先で
【ステージ:宇宙空間、プラント・レウォンティン近宙域】
【自機:フォースインパルス】
【自軍:グフ・イグナイテッド(ハイネ)・ブレイズザクファントム(レイ)・ガナーザクウォーリア(ルナマリア)】
【敵機:戦艦エルズリー】
【勝利条件:敵機の全滅】
【敗北条件:自機の撃破】
(ミッション開始)
アビー 「全システムオンライン。進路クリア。インパルス、発進どうぞ!」
シン 「了解。シン・アスカ、フォースインパルス。行きます!」
(ミネルバのカタパルトから射出されたインパルスが、敵艦を視認し速度を上げる。続いて射出されたハイネ達の機体がそれに追従するが、速度差から
追いつくことができない)
ハイネ 「シン、速度を落とすんだ。あの敵艦は何があるか分からんから、今回は先行するなとブリーフィングで言っただろう!」
シン 「! す、すみません……」
(我に返ったように速度を落とすインパルス。ようやく追いついた3機とインパルスでフォーメーションを組み、敵艦に徐々に接近していく)
レイ 「シン、また冷静さを欠いているぞ。訓練ではそれでも良いが、実戦で集中の方向を間違えれば死ぬことになる。いくらGタイプに乗っていてもな」
シン 「……分かっている……分かってるさ」
レイ 「大方、ブリーフィングで、他のクルーに先んじて俺達に伝えられたあの情報が気になっているのだろう。奪われた3機は艦の自爆に巻き込まれた
のではなく、今もどこかに潜んでいる可能性が高い、と」
シン 「……」
シン (俺は、あの時あんまり驚かなかった……実際戦ったから分かる、あんな奴らがあのまま終わるはずがないって、どこかで思ってたんだ)
シン (でも、考えないようにしてたんだ。あの事件はあれで終わって、ショーンさんも……デイルさんも、死んじまって……俺はアーモリーワンをあんなに
したテロリスト全部を憎んで、この怒りを奴らにぶつけてきた。俺自身への怒りもぶつけながら、この一ヶ月、俺は戦ってきた……)
シン (……なのに、俺はほっとしたんだ。ステラが生きてるかもしれないって知らされた瞬間、俺はほっとした……)
シン (あんな、ほんの僅かな時間話しただけで、その本性はアーモリーショックなんて名前をつけられたあの事件を引き起こした、凶悪なテロリスト……
そんな女が生きてることに、なんで俺は安心なんかしたんだ……!)
ハイネ 「二人とも、お喋りはそこまでだ。そろそろ何か起こる距離だぜ、臨戦態勢を崩すなよ」
シン 「……りょ、了解です!」
ルナマリア 「ボヤボヤしてんじゃないってことよ。ヘマしたらあんたのインパルス、あたしが手ぇ出しちゃうからね」
メイリン 「モビルスーツ隊各機へ! 敵艦の前部カタパルトハッチが開放された模様、艦載機が出てきます! 各砲塔も、動き出しました!」
ハイネ 「そら、おいでなすったぜ!」
メイリン 「お姉ちゃん、頑張って」
ルナマリア 「OK、任せなさい!」
(敵増援:ダークダガー×10)
レイ 「データベースと照合……どうやらアーモリーショックで遭遇したダガータイプと同一機種のようだな。艦の形も同じなら、艦載機も同じというわけか」
シン 「……」
ルナマリア 「シン、レイ、あんたらあいつらと戦ったことあるのよね。弱点とかないの?」
レイ 「総合性能で見ればザクよりも明らかに劣る。それが弱点だ。油断せずに戦闘を運べば力で押し切れる。ただし、あくまで油断しなければだ」
シン 「……」
ルナマリア 「ふん、そんなの基本中の基本じゃない。シン、あんたもいい加減シャンとしてよ! 言ってみれば、デイルさんとショーンさんの弔い合戦でしょ、
これ!」
シン 「!」
レイ 「なるほど……そうとも言えなくもないな」
ハイネ 「さて、何機出てくるか分からんから部隊を展開される前に切り崩すぞ。ダガータイプだけじゃなく、敵艦からの艦砲射撃にも注意を払え。シンは
高機動戦で攪乱しつつ各個撃破。ルナマリアはカタパルトから出て来た奴から打ち落とせ。俺は艦尾側から接近戦を仕掛ける。レイは戦況を見て俺達を
援護しろ。各機、攻撃開始!」
ルナマリア 「了解です!」
レイ 「了解、上方に回り込みます」
シン 「了解、行きます……!」
(敵3機撃破)
ルナマリア 「よし、狙いは完璧よ。あたし、格闘以外もいけるじゃない!」
ハイネ 「調子に乗って俺達に誤射してくれるなよ、ルナマリア。シミュレーションじゃ何度か当たってるんだからな」
ルナマリア 「えっ!?」
(敵6機撃破)
ハイネ 「こいつら、何だ、この手応えは。……まさか艦長が言っていた、無人機なのか?」
レイ 「その可能性は高いでしょう。今コクピットをこじ開けて確かめるわけにもいきませんが」
ハイネ 「……何が起こるか分からん戦場に対応できる制御ソフトを開発した奴がいるのか? それとも遠隔操縦か? どっちにしろ、嫌な気配がするぜ」
(敵9機撃破)
シン 「落ちろっ! 落ちろっ! 落ちろっ!」
レイ 「機体性能だけでなく、手応えまで全く同じか。やはり工夫が見られんな。……まさか、このまま終わりではないだろうな」
(敵全滅)
シン 「これで、ラストだ!」
ハイネ 「さあ、後は戦艦だな」
グラディス 「各機、敵艦の動向に注意しつつ距離を保って砲撃せよ」
ハイネ 「ルナマリア、エネルギーは残ってるな」
ルナマリア 「はい、ばっちりです!」
ハイネ 「よし、最大出力でお見舞いしてやれ」
ルナマリア 「了解!」
シン 「……今度は、何も起きない……起きずに済むのか? 本当に……」
レイ 「……」
ルナマリア 「いっけー!」
(ガナーザクウォーリアの放った砲撃が、艦をかすめる。敵艦が、いつの間にか高速のバレルロールで回避運動を行っていた)
ルナマリア 「……は、外した? 嘘!?」
ハイネ 「何だ、今の旋回は! あの大きさの戦艦にできる機動じゃないぞ!」
レイ 「……こちらへ向かってきます。跳ね飛ばすつもりのようですね」
ハイネ 「くっ、みんな避けろ! あの速度、かすっただけで吹き飛ばされるぞ!」
ルナマリア 「わっ、わああっ!」
シン 「あ……」
(ハイネ達が四方に散る中、シンだけが硬直しその場から動けない。こちらへ向かってくる戦艦の艦橋の奥には、前回と同様にただ一人の人影
だけがある。その人影は艦長席に座っており、体格的には若い男のようだったが、シンの耳には女の声が幻聴となって聞こえる)
女 (お前達は無力だ。現に、これだけ戦ってお前達が得られたものは何だ? 何か取り戻せたか?)
シン 「くっ……こんな時に! マユ、俺は……」
女 (お前達では、何も守れないし、何も変えられはしないよ)
シン 「うう……!」
(近づいてくる艦橋の奥で、そこにいる青年は感情のない目でインパルスを見つめている。その姿に気圧されたシンは、ライフルの銃爪を引く。だが……)
(……放たれたビームは、流れるように楯となった半壊したダークダガーの胴体に吸い込まれて威力を失った。胸に大穴の開いたダガーはそのまま敵艦の艦体に
ぶつかり、粉々に砕け散った)
シン 「……また……」
ハイネ 「ええい、シン!」
(その場に硬直したままのインパルスの腕に、長く伸びたグフのスレイヤーウィップが絡みつき、艦の進路上から辛うじて引っ張り上げた)
シン 「……隊長……」
ハイネ 「……シン、お前はすぐに帰投しろ。何があったのかは知らんが、今のお前は本調子じゃない。後は俺達だけでやる。急げ!」
シン 「……」
(茫然自失とするインパルスをその場に置き去りにして、グフが通り抜けていった敵艦をザクファントムとザクウォーリアと共に追う)
ルナマリア 「隊長、シンは!」
ハイネ 「よく分からんが、戦意を無くしている。今は放っておけ! それよりこの艦は、ミネルバへ特攻をかけるつもりなのか!?」
レイ 「その可能性も考えましたが……どうやら、違うようですね。進路が逸れます」
(それまで進み続けていたレウォンティンの方角からミネルバの方向へと転進した敵艦は、再び方向を変えて今度は真横へと向かい始めていた)
ハイネ 「……分からん。あの艦の狙いは一体何だ? どこへ向かっている?」
レイ (逃走……いや、違うな。もしや、何かを探しているのか? この辺りにある、何かを)
ルナマリア 「……ね、ねぇ、隊長……なんか、なんか変じゃないですか? あの艦……見えにくくなってませんか?」
ハイネ 「何? ま、まさか……」
レイ 「……そのようですね」
(艦の巨大な姿が、宇宙空間の闇に次第に溶け込んでいく。そしてそれはすぐに、レーダーからも反応を消した)
ハイネ 「ミラージュコロイド……。そこにいるはずだというのに、まるで見えなくなった。レーダーからも……。噂には聞いていたが、まさかこれほどとはな……」
ルナマリア 「まるで、お化けみたい……」
グラディス 「……とうとう使ってきたわね」
アーサー 「やはり、大したものですね。前回使用した手段で行きますか? 艦長」
グラディス 「いいえ、あれは隠れた相手の現在位置がある程度特定できていなければ有効とは言えないわ。それに、磁場を乱して味方にも影響が出るから、
あくまで最後の手段よ。ここは先日装備されたばかりの、あれを使いましょう」
アーサー 「了解しました。メイリン、ミラージュコロイド・デテクター起動!」
メイリン 「了解です!」
グラディス 「特殊粒子によって視界からもレーダーからも姿を消すミラージュコロイド。その粒子自体を探知するレーダーもまた、非公式ながら戦時中に開発に
成功していた。これがもしも公になっていたなら、彼らもおいそれと姿を消そうなんて考えはしなかったでしょう。本当に、技術というのはイタチごっこね」
メイリン 「反応ありました。探知図をレーダーに重ねます!」
アーサー 「もう逃げ隠れしても無駄ということですね。多少一方的すぎる気もしますが、あれと同型の艦には返しても返しきれない借りがあります……!」
グラディス 「その通りよ。有線誘導式対艦ミサイル、ガウェイン用意。着弾座標を入力。主砲トリスタン、副砲イゾルデ、同じく焦点座標を入力! 一斉発射!」
(ミネルバが視覚においては全く何も無い空間に対して放った一斉砲撃が目標の座標に届いた瞬間、そこに戦艦が炙り出され、爆発の中に黒いシルエットを
浮き彫りにした)
メイリン 「全砲門、全弾、命中を確認! 敵艦の損傷状態を推定します!」
アーサー 「調べるまでもなく、あれはもう長くは保たないでしょうね。直撃です」
グラディス 「入るべき手が決まったならば、勝負とはそんなものよ。降伏勧告を行いましょう」
メイリン 「了解です。……え? これは……?」
アーサー 「どうした、メイリン。勧告以前に敵艦のダメージが深刻すぎるか?」
メイリン 「……いえ。デテクターを含む各レーダーシステムで走査した所……敵艦もまた、先ほどまで使用していたようなんです。ミラージュコロイド・デテクターを」
アーサー 「……何?」
グラディス 「彼らもまた、デテクターを保有していたというの? いえ、それはまだ分かるわ。でも、何のために使用していたの? 彼らは、ザフトがミラージュコロイド
を使えないことを知らなかったとでもいうの?」
アーサー 「デテクターで、奴らもまた、何かを探していたんでしょうか? ミラージュコロイドで隠れていた、何かを。例えば、味方の艦……」
グラディス 「メイリン、デテクターを最大範囲で展開。この周囲に、何かが存在していないか、探してみて」
メイリン 「了解……、……!? か、艦長、これは!!」
グラディス 「……? 何ですって……」
アーサー 「ば……馬鹿な、こんなことが!?」
ルナマリア 「敵艦、あんなところにいたんですね。でも、一斉砲撃で一撃……」
ハイネ 「ミネルバが居場所を見破ったんだろう。デテクターといったか? あのレーダーが無ければ、逃げられていたかもな」
レイ 「ふむ……」
シン 「……隊長、すみませんでした」
ルナマリア 「シン! あんた、大丈夫なの? 戦意喪失とかハイネ隊長が言ってたけど……やっぱりシミュレーターとかで無茶しすぎてたんじゃないの?」
シン 「……そうかもしれない。ごめん、迷惑かけた」
ハイネ 「帰投しろと言ったはずだがな。戦場で動けなくなるのは、自分だけでなく仲間も危険に晒すことになる。よく覚えておけ、そして気をしっかり持て。いいな、シン」
シン 「……はい」
ルナマリア 「ま、なんにしても、この件はこれで解決で、あたし達の仕事も終わりよね。遠くまで出張ってきた割には、早く片づいて良かったわ。みんな無事だったし」
レイ 「そうだな」
シン 「……ああ」
メイリン 「……モビルスーツ隊各機へ。敵艦の沈黙を確認、速やかに帰投してください。……各機、速やかに帰投して下さい」
ルナマリア 「?」
ハイネ 「よし、みんな、帰投するぞ。……ルナマリア、どうした?」
ルナマリア 「いえ、なんでも。……メイリン、何かあったのかしら? 久しぶりに、すごく動揺してるみたいだけど……」
〜 宇宙戦艦、艦内個室 〜
ステラ 「……ネオから聞いてきたわ。ついさっき、アルフレッドが死んだって」
スティング 「そうか」
ステラ 「……それだけ? 他には、何もないの? スティング」
スティング 「なら、あいつは例の物は見つけてから死んだのか?」
ステラ 「……見つけたそうよ。ミラージュコロイド・デテクターで、位置を割り出して、それが届いたって……」
スティング 「じゃあ役目を果たして死んだんだな。結構なことじゃないか」
ステラ 「……」
スティング 「うん? 不満そうだなステラ。お前、あいつとそんなに仲良かったか?」
ステラ 「違う……そういうことじゃないの。アンネが死んだときも、そうだった。あの二人は、スティングと同じ系列で育った。スティングの友達じゃなかったの?」
スティング 「ああ、つるんでたってことか? 一緒に行動していれば、何かと都合が良かったからな。大事な空間認識能力のトレーニングにも丁度よかった。ま、
いなくなったんなら今後は多少訓練が面倒にはなるがな」
ステラ 「……その時は、ネオにでも相手をしてもらえばいいって、そう言う?」
スティング 「そいつは名案だな。賢いじゃないか、ステラ」
ステラ 「……どうして? どうしてなの?」
スティング 「ああ?」
ステラ 「どうかしている……みんな、どうかしている。……なんで、みんなそれに気がつかないの?」
スティング 「……ステラ。お前……」
ステラ 「……」
スティング 「前々から、様子がおかしいとは思ってたんだ。そう、アーモリーワンの件からだな……何かあったな、お前」
ステラ 「……」
スティング 「いいか、ステラ。こいつだけは言っておく。俺達は兵士だ。任務を果たさなければ意味はない。そして任務さえ果たせば、後は生死は問われない。
使い捨ての道具なんだ。俺も、お前もな」
ステラ 「……違う」
スティング 「違わない。与えられる任務をこなし続けて、しくじれば死ぬ。用がなくなれば死ぬ。ただ、この艦にいてネオやリー艦長の下にいれば、少なくとも死ぬまで
の間は人間扱いしてもらえる。それは錆びた格納庫の片隅で寝るより、雑草や蛇を食いながら銃を撃つより大分マシだ。それで充分だ。ただそれだけのことなんだよ」
ステラ 「……」
スティング 「……来い、ステラ。少し多めに沈静剤でも打てば、動揺も収まるだろう」
ステラ 「嫌……」
スティング 「来るんだよ。これで次の戦闘に支障でもきたせば、次に処分を受けるのはお前かもしれないんだぞ。死ぬまで人間扱いされて生きたけりゃ、役に立たない
ってとこだけは見せるな。いつも言ってるだろうがよ……!」
ステラ 「……」
ステラ (……私、やっぱりこのまま生きなきゃいけないみたい……つらいよ、でも、まだ死にたくない……あなたなら、終わらせてくれる? 怖くしないで、私を終わらせて
くれる? ねぇ、シン……)
〜 プラント・レウォンティン近宙域、ミネルバ艦橋 〜
メイリン 「モビルスーツ隊、全機収容しました……」
アビー 「パイロットへは、ハンガー固定後ブリーフィングルームへ集合するよう指示を送りました……」
グラディス 「ご苦労様。……さて、これをどう捉えるべきかしらね」
アーサー 「にわかには信じられません。まさか、あの艦はこれを探していたのでしょうか? ……これを探すために、ここまで……」
グラディス 「何にしても、帰ったら議長にお目通り願うほかはなさそうね。議長がこのことを知っていても、あるいは知らなくても……こんなものが、ここに隠されて
いた事実は、由々しきことだわ。その目的が何であるにせよ、ただごとではない……」
アーサー 「……見てはならないものを見てしまったことに、なりはしないでしょうか」
グラディス 「さあ、どうかしらね……」
(艦橋のレーダーには、ミラージュコロイド・デテクターから割り出された粒子の散布濃度を元に、そこに存在する見えざる何かの姿が描き出されている)
(鉢植えから引き抜かれた樹。進化の系統樹のような、芸術性のある形状を持つその物体の高さは10キロ以上。根を包み込む天秤の皿のような土は、直径にして
8キロを超えている)
(それは、コーディネーターの住むプラントコロニーの成れの果て。そのような惨状に成り果てるほどの攻撃に晒された唯一のプラント)
(血のヴァレンタインと呼ばれる核攻撃に晒され、そして分断された、ユニウスセブンの大地の片割れだった)
to Next Stage.
>>660 >>676 両氏ともGJ!!
>>660 ここで共闘がくるとは!
燃えました!!
>>676 かなり独自の路線でwktk
アスラン復帰フラグがさっぱり無い、
ということはセイバーは別の誰かに?
未だに執筆途中なんですが、考えてる話の流れがRE.DESTINY氏とそっくりすぎるんですよね…
自分の遅筆さと脳内整理力のなさに呆然としてますが、これって別にいいんでしょうかね?
ここが某七厨板筆頭なら「キニシナイ!!」というところだが。
ここはリア房リア厨多くて荒れる原因になるかも知らんね。
ただのスレ進行を「荒れてる」って職人叩きに繋げる馬鹿もいるし。
某所の氏のようにそれでも投下強行できる根性があれば良いが、
無ければやめておいたほうが良いかも。
どれぐらいそっくりなのかワカラン、ということもありますが、
個人的には「それでも投下していいんだぜ」と言いたい。
そもそも荒れるほどこのスレに住人がいるとは(ry
>>679 お前が言ってる某氏に何人か心当たりがあるぜw
というかこのスレほんと人いねえな
意外と書き直すうちに別物と化したので投下してみます。
「さて、ここからどうあの新型艦を撃退するか、という所だが…」
時は少し前、G3機強奪テロリストの旗艦『ガーティ・ルー』でネオが艦長であるイアンに言った。
「さすがに探知はされないにしても速さでは勝てんか。そろそろ潮時だな」
「このままデブリに入るのですか?」
イアンの確認ともとれる問いにネオは頷いた。
「そうだ。ある種の賭けではあるが、な。部下には苦労させるよ。アウルとステラはぼやいてたがな」
「あの2機はもともと宇宙用じゃありませんしね」
「ま、いつでも大丈夫なようにとは言ってあるんだがな」
まるで自分の子供をあやすような言い方である。
「わかりました。進路、デブリへ」
そうしてイアンの指示のもと、ガーティ・ルーはデブリ帯へと入っていった。
「何をやってるんですか?」
シンがフォースインパルスのコクピットでアレックスに通信を入れた。事前にもう一度フォースで出撃することになっていたので分離をせずに着艦したのだ。
「この機体のOSにちょっと手を加えているんだ。自分なりの癖に合わせるようにな」
アレックスはゲイツRのコクピットを弄りながら答えた。
「出撃、間に合わないんじゃないですか?」
「多分な」
「多分って…」
半ば呆れたような声でシンが答えた。
「まさか出撃(で)れるとは思ってなかったからな」
「……やっぱり、変な人だ」
「なんか言ったか?」
「い、いえ」
ぼそっと言ったつもりの言葉に反応されシンは少し吃驚した。
『戦闘宙域に入ります!パイロットは出撃シークエンスに従ってください!』
そうこうするうちにメイリンの放送が鳴り響いた。
「……先に行きますよ?」
「ああ、もうすぐ終わる。気をつけてな」
「……(本当、変な人だな)」
「ほらシン、行くわよ!」
「あ、ああ、わかった。シン・アスカ、フォースインパルス、行きます!」
ルナマリアの声で気を取り戻し、シンは発進した。
「自ら進んでデブリに入るってのも、変な話よね…何企んでるのかしらね?」
ルナマリアは訝しげに2人に通信を入れた。
「ただ逃げるよりは選択肢を出せるから、だろうな」
「選択肢?」
レイの答えにシンが問い返す。
「ああ。障害物によって逃げる方向も幅を出せるし、場合によっては奇襲もあり得る。もっとも、相当腕に自信がなければ枷になるばかりだろうがな」
「つまり、只者じゃないってことね、敵さんは」
「そういうことだ」
ミネルバからある程度距離が開いたところでシン達はデブリ帯を捉えてきた。陣形としてはシンのフォースが前に出て、レイとルナマリアはそのやや後方に位置し、ちょうど三角形のような形で進んでいる。
「あれは…ダガーか!」
「あの3機はいないわね」
「戦艦はまだデブリの中のようだが…ああも入口を固められては突破は難しそうだな」
「だけどあのままじゃ逃げられるぞ、どうする?」
「ミネルバはデブリの出口と思われる方向に進むようだ。悪いが俺はミネルバと共に『ポギーワン』を追う、そっちは頼む」
ポギーワンとはザフトがガーティ・ルーを便宜上名づけたものである。
「分かったよ、レイ」
そしてミネルバ側も取る動きが決まり、そこで戦闘は始まった。
シンが挨拶代わりとばかりにビームを撃つと、黒いダガー2機はそれをかわしてライフルを撃ち込んでくる。
「クラッカー…はまずいわよね、もう!」
ルナマリアも折角のオルトロスを肩に戻し、ビームライフルを撃ち込む。
デブリの中で榴弾など撃ち込もうものなら飛び火した破片で自分達も危機に陥るし、長距離砲を構えている余裕などないからである。
「ルナ、お互い離れないようにしよう!こいつら、上手い!」
シンが舌打ちしながら必死にビームを避けていく。バーニアの噴出方向を読んでいるのか、初弾をかわした方角から二発目が飛んでくるのだ。
「この条件なら量産機でも十分…ってわけか」
「悔しいけど、これが熟練ってやつなのかしらね…」
「感心してる場合じゃないな。足を止めるなよ、ルナ!」
「そっちこそ!」
お互いに喝を入れなおすも、デブリの中での膠着はしばらく止むことはなかった。
他方で、レイがミネルバへと戻る前に異変は起きた。
「!……この感じ…来ます!」
即座に通信のスイッチを入れ、タリアへと繋いで言った。
「レーダーにはまだ反応は有りません…っ!?」
メイリンの報告の直後、MAが凄まじい速度で迫ってきた。先日のガンバレル装備だ。
「やはり先ほどのは陽動か!くっ!」
急いで戦艦に追いすがろうにも、そのわずか1,2分がレイには非常にもどかしく感じられた。
「ここまで上手くいくとは思わなかったが、戦果は欲張らずにな!」
「わかってます!」
ネオは後ろに来るスティングに言ったのだった。
「さらに反応1!カオスです!」
「迎撃急いで!ナイトハルト、CIWS用意!」
「了解!てーっ!」
アーサーの声と共に弾幕が張られるも、致命傷を与えた様子はない。
ミサイルをシールドで受け止めながらカオスはポッドを展開させた。
「アウルやステラの分まで暴れさせてもらうぜ!」
ポッドから放たれたミサイルがミネルバへと向かう。ガトリングにより迎撃されるも、想定内とばかりにカオスは縦横無尽に動き回った。
「やはりビーム兵装ではいまいち効果が薄いか…と、ようやくご到着か」
レーダーに白いザクの映像を捉え、薄い笑いを浮かべるネオ。
「スティング、私はあの白坊主を抑える。手早く済ませろよ」
「OK!そりゃあっ!」
そう言ってネオはミネルバの後部へと走らせた。
ポッドを早くも使いこなしてきているスティングは、ポッドを上手く死角へと滑らせつつミサイルを放っていき、遂に撃ちもらされた数発が命中した。ミネルバ内を衝撃が襲う。
「推進部に被弾!航行速度が85%ほどに低下します!」
「どうやら敵さんの狙いはそこだけにあるみたいね。足だけを止めようとしてるわけ」
「感心してる場合じゃないですよ?」
「わかってるわよ」
タリアとアーサーのそんなやり取りの中、格納庫から通信が入った。アレックスだ。
「ハッチを開けてください、出ます!」
「え!?ですが今は敵MSに…」
「大方相手の狙いは手薄な底部から推進部を狙ってるって所でしょう、今なら出れます」
メイリンの問いにすぐさま答える。メイリンは驚いた。
「早くしないと気付かれます」
「わかったわ、ハッチ解放」
タリアの指示の元、手早く発進準備が整えられる。
「了解。アレックス、出ます!」
発進するゲイツR。その突然の出現にスティングとネオは驚いた。
「なんだこいつ、この状況で発進なんてくそ度胸!」
ポッドを一つ戻して増援に向けるが、容易く回避される。交わし様にビームを2連射され、逆に驚いた。
「こいつ、量産機の癖に動きが鋭い――只者じゃねえな」
チッと舌打ちをするスティングを尻目に、アレックスはレイの方へと援護に向かった。
「カオスを放置して2対1を作りに来るとは!」
並大抵の度胸ではない。できるか、馬鹿か?恐らく前者だろう。
これはまずいとばかりにレイのザクから大幅に距離を取り、カオスの方へと戻る。
「大丈夫か?」
「なんとか。しかし、俺はあのMAとは何か因縁があるようで」
「?……それは、」
「どうかしました?」
「いや、何でもない。シン達が気がかりだ、早く撃退するぞ」
(まさかな…)
かつての心当たりを頭の隅に思い出しながらも、それを脇に置いてアレックスは戦闘へと考えを戻した。
シンとルナマリアの戦闘も少しずつではあるが進展を見せていた。
二人にも伏兵の報告は入っていたのだが、戻ろうにもダガー達が目を光らせているのだ。
加えて敵の適度な距離調節によって未だデブリの領域から抜け出せずにいた。
「やるしか、ないのか!」
シンは同時にそれがどれだけ困難なことかも分かっていたが、必死に考えを巡らせていた。
(相手はガチンコで戦ったら向こうのが上だ…なら、虚を突ければ…!?)
そこに至って、シンに一つ策が浮かんだ。
「ルナ、俺が2機を引き付ける、オルトロスを構えろ!」
「なんですって?そんなことが…」
そこでシンは策を言った。
「無茶するわね…!でも一理あるわね、わかったわ」
そこでルナマリアは距離を少し離した。すると、シンのインパルスのビームサーベルが突然消え、機体の色が黒くくすんでいった。
「これは、フェイズシフトダウンか!丁度いい、こいつを先に仕留めるぞ!」
「ああ!」
ダークダガーのパイロットがシンに狙いを絞っていく。あのGは新兵のようだとアウルが言っていたし、バーニアの出力も落ちているように見える。
盾をコクピットの前に構えるだけで精一杯の様子だ。と、そこへ一人がビームサーベルを抜き放ち、下から迫った。
「悪いけど、これで一丁上がりだ!」
インパルスはそれをシールドで受け止める。男はニヤリと笑った。通常のビームサーベルといえど数秒に渡ってABCシールドに接触し続ければ切断できるからだ。
それがぬか喜びだと分かったときにはもう既に遅かった。
「何!?ぐあああ!!」
いつの間にか出現したビームサーベルにダガーの脇腹は抉られていた。瞬時にインパルスは真上に飛び去り、その体は色を戻していた。そして爆発するダガー。
「デコイだったのかっ……!?」
矢継ぎ早の変化に一瞬だが足を止めてしまったのが仇となった。正面に迫ってくる高出力ビーム砲に対応する暇もなく、盾ごともう一機のダガーも蒸発することとなった。
「はあ、はあ……」
安堵するシン。その顔には汗が無数に浮かんでいた。
「まったく無茶するわね。敵が真っ直ぐ止めを差しに来たからいいものの」
それは敵がシンを新兵だと侮ったことが要因となったのだが、二人はそれを知らなかったので結局未熟な策だったと言わざるを得なかった。
「わかってるよ、もう次は使えないだろうさ。ミネルバの援護を急ごう」
「そうね」
ルナマリアもそれ以上その場で追求するようなこともせず、二人は大急ぎで宙域を離脱した。
「なに!?彼等が!」
イアンからの報告にネオは驚きを隠せなかった。二人はネオも一目置く熟練であったのだ。
『はい。彼らの死は悼むべきことですが……どうも面白いことが起こったようです』
「なんだって?」
『はい。実は――』
その報告はにわかに信じられるものではなかったが、事実ならばとネオは眉をしかめた。
「そうか。ならば向こうもこんな小競り合いをしている場合ではないだろう。直ちに撤退しよう」
『それがよろしいかと』
「よし。撤退するぞスティング」
「わかったよ!」
スティングは目の前の只者ではない量産機に恨み言を吐きながら、変形して撤退した。
「ふう、なんとかなったようだな」
「……」(やはり、訊いてみる必要がありそうだな)
レイは心中でアレックスの技量に舌を巻きながら、疑心を募らせた。
その頃、ミネルバのブリッジもタリアが「ジュール隊」から受けた報告に騒然としていた。
「……ユニウスセブンが動いている……これは、テロリストどころの騒ぎじゃないわね……」
タリアは深く唇を噛み、カガリは怒りに体を震わせていた。しかし、デュランダルはかすかに顔をしかめているようではあったが、どこか淡々としているのだった。
以上です。凸がなんか迂闊で残念みたいになってますが気にしないで下さい。
今回は、あまり原作と変わらない感じですかね?
ルナの射撃が信用出来るっていいですなw
なんかアスランが(´∀`)化しそうな予感w
続きを投下します。
>>689 今更言うのもなんですけど、
ある程度、展開が同じでも構いませんよ。
インパルスとガイアが未だ帰還していないが破砕作業を優先し、ミネルバとガーティ・ルーはそれぞれ主砲でユニウスセブンの残骸を破壊していく。
言うまでもなく、大気圏内の高熱化で主砲を撃てば熱によって主砲がオーバーヒートし、使用不能になるのだが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
母艦に帰還できないでいるシンとステラは自分の機体の姿勢を整え、シールドを構えて大気圏を突破しようと試みる。
すぐ隣ではユニウスセブンの残骸の破片が飛び交っており、普通に大気圏に突入するよりも無事に突破できる可能性が大幅に低くなっている。
とにかく無事に大気圏を突破できる事を祈るしかない。
ユニウスセブンが地球に落下するであろう事実に地球に住む全ての人々が恐怖と絶望に襲われた事だろう。
避難シェルターの中で状況をラジオで確認する孤児院の子供たちや大人たち。
安全な場所を探す家族連れ。
死ぬなら自分の家で死にたいと嘆く老人。
だが、あとで知らされる奇跡ともいえる結果に胸を撫で下ろす者たちがいるだろう。
奇跡ともいえる結果に歓喜する者たちもいるだろう。
そう、奇跡ともいえる結果に胸を撫で下ろし、歓喜する者達がいるだろう……
破砕作業を終えて大気圏を突破したミネルバとガーティ・ルーはそれぞれインパルスとガイアを探し始める。
インパルスとガイアを探し始めて二十分が経った頃になんとか大気圏を突破したインパルスとガイアを見つける。
『大丈夫…?』
「ああ、なんとか」
ステラに声を掛けられたシンはそう答えてミネルバを見つけて帰還、ステラもガーティ・ルーに帰還し、それぞれインパルスとガイアを収容したミネルバとガーティ・ルーは最大戦速で別々の方向にその場を離脱していく。
ミネルバの格納庫では帰還したシンを仲間が迎える。
「大丈夫か、シン」
そう言ったのはヨウラン。
「ああ、それよりユニウスセブンはどうなった!?」
「そう焦るな。被害状況はそのうちわかるだろう」
慌てるシンをレイが落ち着かせる。
後にブレイク・ザ・ワールドと呼ばれるこの大事件が滅びと革新の為の序曲となる。
そして、現時点でそれを知る者は……
それから四十分程経ち、首都プラント…アプリリウスでは、ある部屋でデュランダルと長いピンク色の髪をした女性がチェスをしている。
「ユニウスセブンが地球へ…、どうなるんですかね。被害は」
吞気に言いながら、女性は盤上のポーンを動かす。
「さあね、完全に破砕されて地球のどこにも被害がないのが一番なのだが…」
そう言いつつデュランダルも盤上のビショップを動かす。
それから、数手で勝負がつく。
結果はデュランダルの負け。
「やれやれ、私は弱いな」
勝負の結果にデュランダルは軽く頭を抱かえて苦笑する。
無理もないデュランダルはピンク色の髪の女性にチェスで一度も勝ったことがない。
「そんな事ないですよ」
デュランダルが弱いわけではない、女性が強すぎるのだ。
女性はチェスの配置を最初の配置に戻す。
デュランダルは席から立ち上がりガラス越しに外の風景を見ながら一人、妙な笑みを浮かべて呟く。
「これからだよ。本当に大変なのは…」
しばらく風景を見たあと、デュランダルは席に座ってピンク色の髪をした女性と再びチェスを始める。
ミネルバはとりあえず、カガリ達をオーブに送り届けることを決め、海面を移動してオーブへ向かう。
その間、ブリッジではユニウスセブンの残骸による被害状況を知る為、適当にチャンネルを拾ってテレビを見ていた。最もテレビには未だ何の番組も情報も流れていないのだが。
「それにしても綺麗ですね、海」
「そうね。どうやら、ここには残骸が落下しなかったようね」
ブリッジから見える綺麗に透きとおった海を見てタリアとアーサーはそんな会話を交わす。
その時、テレビに緊急のニュースが流れる。
それはミネルバだけでなく、世界中の人々が待っていた地球に向けて落下していたユニウスセブンに関するニュース。
「地球へ向けて移動していたユニウスセブンでしたが、地球軍とザフト軍の活躍でほぼ完全に破砕されました。……被害は世界各地に広がりましたがいずれも小規模で大した被害はないそうです」
その知らせを聞いてミネルバを含め、地球にいる者たちの皆が胸を撫で下ろした。
歓喜した者もいる。
「もう一時はどうなるかと思いましたよ!」
アーサーは大きな声を上げて喜ぶ。
「地球は救われたんだな」
カガリも安穏を言う。
だが、カガリとその隣に戻っていたアスランは嫌な予感が拭えないでいた。
根拠はない。だが、確かに嫌な予感がするのだ…。
ユニウスセブンがほぼ完全に破砕され、地球が救われたニュースはシン達にも伝わっていた。
「あん時、無茶してよかったな」
ヨウランはシンを称賛する。
「あ、ああ」
シンは少し不思議な気分でそれを受ける。
あの時、無茶してでも破砕作業を続けて良かった。
シンは胸を撫で下ろす。
その際、自分と一緒に破砕作業を限界ギリギリまで続けた金髪の少女ステラ・ルーシェの事を思い出す。
アーモリーワンで出会った時やユニウスセブンで自分と通信で話した時の印象は少しボケたところがあるがおとなしく、ふわふわとした性格で戦いとは殆ど無縁な感じの女の子。
だが、MSの操縦技能は自分より圧倒的に上。
彼女は一体どんな経緯でMSのパイロットになったのだろう…
そんな事を考えているシンにルナマリアがある事を尋ねる。
「それにしてもどんな奴らだったのかしら、ユニウスセブンを地球に落下させようとした連中。最後まで破砕作業してたんでしょう、何かわかった?」
訊かれたシンは、
「ああ。ユニウスセブンを地球に落下させよとしたのは旧ザラ派の人達でナチュラルを恨んでやったらしい…とりあえず、あとで艦長に報告しようと思っている」
ルナマリアは「ふーん」と言ったきり、その事について何も言わなくなった。
「何はともあれ、今は破砕作業を完遂して地球を救えた事を喜ぼう」
レイがユニウスセブンの件の結果等について、そう締めくくる。
ミネルバと別れ、移動するガーティ・ルーではアリーシアとネオがステラ達の調整に立ち会っていた。
そんな中、白衣を着た男がネオに尋ねる。
「ステラにあるこれら、どうしましょうか?」
ステラの記憶が写し出されている画面に映っているのは、ユニウスセブンでインパルスに乗るシンと通信で会話して共に破砕作業を続けている光景やユニウスセブンを落下させようとしたテロリストの心からの叫び、シンと共に大気圏を突破してそのあとの通信での会話。
「こんな物を残せる訳がないだろう。消せ」
アリーシアと共にそれを覗いたネオは迷わずにステラの記憶からそれらを消すよう指示する。
が意外な人物がそれを制する。
「それくらい、残して置いてあげたら」
アリーシアだ。
「何言っているんですか、こんなのは戦いの邪魔になるだけでしょう…」
ネオはアリーシアの視線に押され、黙り込む。
ネオとしては意外だと思った。
自分たちの中で最もステラ達を人間などとは思っていなさそうな彼女がステラをかばうような行動を取るとは。
そんなことを思いながら、ネオは調整室を出ていく。
それを見送ったアリーシアはゆりかごと呼ばれる調整ベッドで眠っているステラ達三人に哀れみの視線を送る。
「やはり、変わらないのね…」
アリーシアはそう呟いて一人、調整室を出ていく。
ミネルバの艦内を適当に散歩していたアスランは偶然、射撃練習をしているシン達を見つける。
射撃練習か、懐かしいな。
確か、射撃の成績はテストの日に風邪で欠席してしまって、二位になったんだっけか。
今となってはいい思い出だ。
アスランはそんなことを思いながら、シン達の射撃練習を見物することにした。
「あーもう、何で当たらないのよ」
いまいち的を撃ち抜けずに苛ついているのはルナマリア。
そんなルナマリアとは対照的にレイは的を確実に撃ち抜いていく。
「ねえ、次からはお姉ちゃんがブレイズでレイがガナーでいってみたら?」
メイリンは的を撃ちながらそう提案する。
「確かにルナより俺の方が射撃が得意である以上、試してみる価値はあるかもしれない」
レイは的を撃ちながらメイリンの提案に賛同する。
そんな中、ルナマリアが自分たちの射撃練習を見物しているアスランに気づく。
「一緒にやります?」
「いや、俺は…」
ルナマリアに誘われたアスランはただ見物したいだけなので遠慮する。
「MSパイロットとしての腕は確かなのに射撃は下手なんですか?」
ルナマリアに挑発されたアスランは仕方なく射撃練習に参加することにした。
アスランは次から次へと出現する的を寸分の狂いもなく正確に撃ち抜いていく。
結果、得点は満点。
「凄い、本当に何者なんですか!?あなたは!?」
「俺はアレックス・ディノ。大戦が終って、ボディーガードに転職する前まではオーブ軍にいた」
ルナマリアの質問にそう答えてその場をあとにしようとする。
「それ程の力がありながら、あの時オーブを守れなかったんですか?」
そう訊いてきたのはシン。
その声に憤りが籠っているのはアスランにもわかった。
「ああ、情けないことにな。今でも情けないと思っている」
そう答えてアスランはその場をあとにする。
本当に情けないと思っている。
オーブの件だけじゃない。
第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦ではジェネシスを破壊するという形でしか暴走する父を止められなかった。
数えたら、他にもまだ数多くある。
…本当に自分は何をしているのだろう…?
そんな疑問がアスランの頭の中を巡回する。
アリーシアは一人、ガーティ・ルー内で与えられた士官室に戻り、パソコンの電源を付けて回線をつなげる。
とある広い地下シェルターでそこにあるモニター群からは様々な映像が流れている。
その部屋の主を含め、回線を繋いだ人物達はある人物が出席するのを待っていた。
彼らの殆どが軍需産業に携わる世界有数の重工業会社の経営者あるいは世界的に有名な財政界の超大物などで占められている。
ある人物が出席した。
「遅いぞ!ミカイール!」
怒鳴り声を上げたのは部屋とアリーシアの主にしてムルタ・アズラエルに代わるコーディネイター排斥組織ブルーコスモスの新盟主ロード・ジブリール。
『そう怒鳴るなジブリール。彼女とて、遅刻したくてしたわけではあるまい』
モニターに映っている人物の一人がジブリールをなだめる。
『まさしく、奇跡。地球へ落下するユニウスセブンがほぼ完全に破砕され、世界各地に被害は広まったものの全て小規模で済んだ。一体なぜだね?』
『ユニウスセブンがほぼ完全に破砕されて地球が救われたのは、とある健気で若いザフト兵が自身の命を犠牲にしてでも地球を救おうと奮戦したおかげです』
モニターの人物の一人の問いに対してアリーシアは笑みを浮かべながら答える。
「では、その若いザフト兵には礼を言わなければならんかもな」
ジブリールは自分達にとって不都合なことであるにも関わらず、何故か愉快そうに言って語り出す。
「それにしてもこの度の事は正直申し上げて私も大変ショックを受けましてね。ユニウスセブンが!そんなまさか!?一体なぜ…!?まず思ったのはそんな事ばかりでした」
『前置きはいい。ジブリール』
ジブリール対してモニターの人物の一人が面倒臭そうに言う。
「いいえ。ここが肝心なのです。私がさっき言ったことはユニウスセブンが破砕された知らせを受けるまでは世界中の誰もがそう思った事でしょう。ならば我々はそれに答えを与えてやらねば…。既に答えを持っているのだろう?ミカイール」
『はい、これがその答えです』
アリーシアはいくつかのデータを転送する。
ジブリールを含め、その会議に参加している者達の元へ、カオス、ガイア、アビスのデータとザフト製MSがユニウスセブンを落下させている光景が写しだされた複数の画像が転送される。
『これはッ!』
『なるほど、そういうことか』
『面白い事になってきた』
それらを見たアリーシアを除く会議の参加者達はそれぞれの反応を示す。
データを見る限り、前大戦が終結してなおもザフトが地球圏内での活動を前提した新型MSを開発している事実。
そして、ザフト製MSがユニウスセブンを落下させたという事実。
これらを知ればユニウスセブン落下はナチュラル撲滅を企むプラントの仕業だと地球にいる皆がそう思うことだろう。
『一時はどうなる事かと思ったが、これなら安心して奴らに投資した巨額の富を取り戻す為の戦争を起こせそうだわい』
『だが、勝てるだろうか?開戦すればユニウス条約が事実上消滅するだろうから第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦のような泥沼になる可能性がないとは言い切れん』
『それなら心配はない。プラントがジェネシスのような物が作っておったとしても、その対抗策は考えてある』
『では決まりじゃな』
彼らのトップ3である長老連が話し合った末、結論を告げる。
『よかろう。依存はない。ジブリール、詳細な具体案は君に任せよう』
「ありがとうございます」
こうして、彼ら地球人類を牛耳るロゴスは戦争を起こす事を決めた。
その後、会議は解散となり、ロゴスのメンバーは次々と回線を切る。
そして、ロゴスの支配下にあるブルーコスモスの盟主ジブリールと幹部のアリーシアの二人だけが残った。
『これから忙しくなりますね』
アリーシアは嬉しそうに言う。
「随分と嬉しそうだな」
『ええ、私はコーディネイター撲滅を待ち望みながらここまで這い上がってきたのです。そして、ようやくそれができるチャンスを得たのですから嬉しくない訳がないでしょう』
そう、彼女アリーシア・ミカイールは自力で一構成員から幹部の地位にまで上り詰めている。
その経緯は並大抵のものではないだろう。
「それはそうと、デュランダルは既にユニウスセブンによる被害の復旧支援を始めている。変だと思わないかね」
『対応が早すぎますね。まるでこうなる事をあらかじめ予測していたかのように…』
ザフトが前大戦が終結してなおも地球圏内での活動を前提した新型MSを開発していた事やユニウスセブンの件やその後に関して迅速すぎるプラントの対応。
これらの事から、やはりプラントがよからぬ事を企んでいるという結論に二人は達する。
「まあ、奴らが本当は何を考えているかはどうでもいい事だ。我々はどうやって奴らを打ち負かせばよいかを考えればいい。そう、青き正常なる世界の為に」
本格的に運命の歯車が回り始める。
設定の補足。
アスランについて、
アレックスという人物の正体をアスランと知っているのは、
あの時、ブリッジにいたクルーだけです。
ロゴスについて
はい、原作より凄い事にしちゃったかもしれません。(汗
長老連と呼ばれる3人を頂点とし、その下に12名(既に死亡しているムルタ・アズラエルを除く)のメンバーで構成されています。10人で地球連合等を牛耳るなんて少し無理があると思いましたので。
ちなみにジブリールのbヘ12です。
アリーシアはロゴスメンバーとの交流はありますがロゴスのメンバーではなく、あくまでブルーコスモスの幹部です。
699 :
シンルート:2007/09/24(月) 23:55:15 ID:???
(こちらも続きを)
〜 同時刻、共同墓地 〜
サトー 「お前達取り巻きには用は無い。退けば見逃してもやるが?」
SP1 「ふざけるな。貴様ら、ここがどこで、このお方がどなたか、知った上での狼藉か!」
サトー 「知らいでか。その意味は、この私の方が重々理解しているとも。いや……お前達がまるで真実に気付いていないだけだとも言えるな」
SP2 「何を訳の分からんことを……。ともかく、貴様らは逮捕する。たかだか数人で我々専任警護官が護衛する要人に仕掛けるとは、無謀だったな!」
サトー 「無謀か……。考えが変わった。有能なようなら、いずれ訪れる正しき変革の暁に同志として迎えようとも思ったが、揃いも揃って状況も見定められん
莫迦ばかりのようだ」
SP1 「何?」
サトー 「世間はテロリスト共との戦いにあれだけ躍起になっているというのに、未だぬるま湯から出られずにいるお前達のような錆びた兵士など、我らには
必要ない。今後の世界の、どこにもな」
SP3 「お、おい見ろ! 天蓋の上に!」
SP1 「モ、モビルスーツだと!? 馬鹿な、一体いつの間に! 警備の機体は何をしていた!」
SP2 「侵入を許したというのか……セカンドステージのザクタイプが3機もいたんだぞ!」
サトー 「これだから腑抜けているというのだ……。あのような配置ではせいぜい、及び腰の素人どもに睨みを利かせるのが関の山よ。いかに一機が強力で
あろうと、断じて進む覚悟のある者を止められる道理もない」
SP3 「や、奴は……まさか、天蓋を落とすつもりか!?」
SP2 「いかん、早く彼女を通路へ逃がせ! このままでは逆に奴らに捕まるぞ!」
サトー 「聞いていなかったのか? お前達など必要ないと言っただろう」
(サトーの抜いた銃が、SPの一人に撃ち込まれる)
SP2 「うぐわぁっ!」
SP3 「お、おのれ! ここは我々の命に替えても通さんぞ!」
サトー 「その意気や良し。しかしお前達は残らず駆除すると決めたのだ。望み通りせめて使命に忠実にあり、散るが良い」
SP1 「お逃げ下さい、ラクス様!」
(天蓋の上からモビルスーツが突き入れてきた銃剣装備の機関銃が、SP達の体を粉微塵に吹き飛ばす)
ラクス 「あっ……あぁぁぁっ!!」
(金切り声を上げながら、少女が背後の通路へと逃げていく)
サトー 「ふん。始終付き添った護衛が肉塊に変わる様を見せつけられれば、無理もないか。やはり小娘よ」
部下 『いかが致しますか?』
サトー 「手筈通りだ。お前は外側からあの娘を追え。この墓地の天蓋はプラントと同じ構造だ、ぼやぼやしていると銃ごと充填剤に固められるぞ」
部下 『了解』
サトー 「さて、まずここまでは予定通りか。……来るならばあまり待たせるな、戦女神よ。復讐の神の憎悪と策謀は既に根を張り巡らせているぞ」
〜 現時刻、月軌道上・ミネルバ艦橋 〜
グラディス 「……ラクス・クラインがテロリストの人質に?」
デュランダル 『そうだ。定例の血のヴァレンタイン事件の犠牲者の墓参に訪れていたところを、待ち伏せていた犯人に狙われたのだ。30分程前の事になる』
グラディス 「それでは、場所はユニウスセブンですか」
デュランダル 『うむ。君達もよく知っている、あのモニュメント・ユニウスだ』
アーサー 「……」
デュランダル 『犯人側の要求は血のヴァレンタイン犠牲者に対する地球各国の正式な謝罪、またプラントへのテロに対する地球各国側の取り締まりの強化だ。
犯行声明はラクス・クラインの身柄が拘束された直後に、モニュメント・ユニウスの通信設備を用いて為されている。犯人側の正確な人数や装備は未だ不明だが、
警備のザクファントム1機とザクウォーリア2機は既に撃破され、ユニウスの施設は現在大部分が彼らに掌握されていると見て良い』
グラディス 「ヤキン・ドゥーエ戦役終結の立役者にして、今なおプラントの国民的アイドルとして慕われる平和の歌姫ラクス・クライン……少なくとも知名度と人気に
おいては、最高評議会議員の方々以上のVIPですわね。市民へ与える衝撃もさぞかし大きいことでしょう」
デュランダル 『その通りだな。いずれ彼女がテロの標的にされる危険性は充分考えられた。だからこそ、身辺の警備も徹底させていたはずなのだがね……』
グラディス 「起きてしまった事は仕方がありませんわ。議長直々のご連絡をいただいたということは、すぐにでもこちらの戦力が必要なのでしょう。幸い、先の
戦闘における本艦の消耗は微々たるものです。再出撃をご命令いただければ、この場からすぐにでも駆けつけられますが」
デュランダル 『では、直ちに急行してくれたまえ。現在、ジュール隊が評議会とのホットラインを繋ぎ犯人側との交渉を行っているが、これはあくまで時間稼ぎの
為のものだ。目標はラクス女史の速やかな救出、然る後のテロリストの制圧にある。ジュール隊と協力し、事に当たってくれたまえ』
グラディス 「了解しました。ミネルバ隊、直ちにモニュメント・ユニウスへ急行します」
デュランダル 『健闘を祈るよ。では、後ほど』
アビー 「通信、終了しました」
アーサー 「……さて、艦長。議長はどうやら、ご存知だったようですね。天体観測プラントのそばにあれが浮かんでいることも、そして我々がそれを見つけたことも」
グラディス 「そうね。あの口ぶり……後ほどというのは、後できちんと説明してくださるということかしら。ならば楽しみだわ。ともあれ、今は隠された謎のユニウス
よりも、私達のよく知っている目に見えるユニウスから片付けなくてはね。次から次へ、息つく暇もなくてクルー各員には申し訳ないけれど。ミネルバは針路修正、
モニュメント・ユニウスへ」
アーサー 「了解。針路、モニュメント・ユニウス」
メイリン 「でも……未だに信じられません。あれは本当にユニウスセブンだったんでしょうか? モニュメント・ユニウスから折れて分離したもう一方の大地は、今は
もう地球圏から漂い出て、どこにあるか分からなくなってるって……」
アーサー 「さあ、どうなんだろう。ただ言えるのは、僕達がミラージュコロイド・デテクターを通して見たあれは、モニュメント・ユニウスにそっくりだったということだ。
千切れて枝葉のように開いたメインシャフト、外壁の欠片がまとわりついた外枠、色んなものが融けて潰れて、ぼろぼろに朽ち果てた大地。あんな有様にされた
プラントがもう一基あったのだとしたら、それはそれで看過できないことだが」
グラディス 「奇しくも、と言って良いのかしらね。これからこの目で直に本物を見る事になるのだから、それからたっぷり見比べてみればいいことよ。アビー、回線
検索。ジュール隊母艦ボルテールと連絡を取りなさい。テロリストの傍受能力がどれほどのものか分からないから、とりあえず暗号化は三重に。被害や状況推移
の詳細、ラクス女史以外の生存者の有無と居場所、破壊されたザクの損傷の仕方や現在確認しうる敵戦力、とにかく少しでも多くの情報が欲しいわ」
アビー 「了解です。……ラクス・クラインさん、ご無事でいらっしゃれば良いのですけど」
メイリン 「モニュメント・ユニウスへのお墓参りで、テロに……。思い出した、確かヤキン・ドゥーエ戦役の時にも、慰霊団としてあそこに行こうとして、連合軍の艦
に捕まったことがあるんだよね、ラクスさん……」
アーサー 「縁深き事とも言えるし、残酷なようだが当然の結果とも言えるな。目立つ人間が目立つ場所へ赴く、これはそれだけで自ら狙われる可能性を上げると
いうことだ。かといって、ユニウスへの墓参は延期こそできても、しないというわけにはいかない。テロの頻度が上がってきてはいるといってもね」
グラディス 「一方、地球各国からの墓参は、そういう危険を鑑みて今年は来なかったから、尚更ね。せめて彼女はプラントの総意を代表して追悼に行かなければ
ならない。……なるほど、テロの犯人の要求にある地球各国の正式な謝罪とはこのことね。墓参りに来ないなら謝罪の意を改めて明確にしろ、と」
アーサー 「やっていることの割に倫理に訴える要求ですね。しかし、プラントのVIPを人質にとって地球各国への要求とは、少しちぐはぐな気もしますが。現在でこそ
友好関係を結んでいる国が多いとはいっても、お前達のかつての敵国の姫君の身柄が惜しければ要求を呑め、だなんて。国同士の絆でも試すつもりなんでしょうか」
グラディス 「……おためごかしのような気がするわね。この二つの要求を出した犯人は、他に何か狙いでもあるのではないかしら。ただ、間違いなさそうなことは
今の時点でも一つ分かっている。そこから犯人像はある程度推察できそうね」
アーサー 「それは何です?」
グラディス 「この件の犯人は、事件が発生するまで諜報部にも気取られなかったほどの手際から言って、何らかの後ろ盾やこの手の作戦の経験を持っている。
しかし、今朝方のミサイル騒ぎのような、プラントやコーディネーター自体への明確な敵対意志は見せていない。よって、例の組織でもないと思われる」
メイリン 「では……アーモリーショックの犯人や、先ほどのデテクターを使った艦と同じ組織の?」
グラディス 「それもおそらく違うでしょうね。ミラージュコロイドで姿を消し、無人のモビルスーツを手駒として使い、自爆させる前提で戦艦を一隻使い潰し、しかも
後には、おいそれと証拠は残さない……そういう連中の仲間なら、今このタイミングで顔も身元もすぐに割れる危険のある、有名人を人質にした犯行声明つきの
立てこもり事件なんて起こさないのではないかしら」
メイリン 「あ……」
グラディス 「これはあくまで今の時点での私の憶測に過ぎないけれど、ね。犯人はあるいは、血のヴァレンタインで近しい人間を失った、ザフトの関係者ではない
かしら」
アーサー 「それは……! い、いやしかし、今の段階ではまだ論理が飛躍しすぎではないでしょうか?」
グラディス 「そうね。だから、情報が届いたら作戦の立案も兼ねて改めて推理してみましょう。少なくとも、アーモリーショックやそっくりさんの艦よりは余程足取り
を辿りやすいわ。アビー、ボルテールからの返信は?」
アビー 「来ました! こちらと同じく三重式の暗号通信です。情報、モニターに展開します!」
〜 ミネルバ・シミュレータールーム 〜
ハイネ 「用意はいいか、シン。俺はグフ・イグナイテッド、お前はフォースインパルス。シルエットはやりにくいのなら自由に換装して構わん。時間が惜しい、すぐに
かかって来い」
シン 「は、はい。隊長」
ルナマリア 「……珍しいわよね。隊長からシンをシミュレーターに誘うなんて。いつもなら逆じゃない?」
レイ 「そうだな。だが、今回は隊長の意図が理解できる。帰投してから、俺もシンの様子をしばらく観察していたからな」
ルナマリア 「どういうこと? 確かに戦闘の間はちょっと様子がおかしかったみたいだけど」
レイ 「今もだ。そして、それが問題だ。一過性のものならば良いが、長く続くようならば、これは少しまずいことになるな」
ルナマリア 「……シンが、一体どうしたっていうのよ。分かり易く教えてよ」
レイ 「見ていれば分かる」
(ほどなくシンの乗ったシミュレーターが激しく揺れ、撃墜されたことを示す赤いアラートが点滅した)
ハイネ 「シン、どうした。遠慮はいらんぞ。次、来い」
シン 「は、はい!」
ルナマリア 「……今のは結構頑張ってたんじゃない?あの隊長の喉笛に噛み付こうとしてた」
レイ 「確かに、善戦していたようではあった。行動だけはな」
ルナマリア 「?」
レイ 「よく見ていろ。隊長はどうやら、早々に習性を把握したようだ」
ルナマリア 「習性って……あれ? ねぇこれ、さっきと同じ試合運びじゃない? ……もしかして隊長が、狙ってやってるの?」
レイ 「そうだろうな。互いの武装の間合い、機動力、突進力、それに癖……全て計算尽くで戦略を組み立てている。そして……」
シン 「くっ……!」
(再び、シンのシミュレーターが撃墜を訴えて激しく揺れる)
ルナマリア 「あれ……シン、何やってんのかしら。ハイネ隊長の直撃が入る前に、なんかちょっと腰が引けてたみたいよ」
レイ 「そうだな。まさに、そういうことだ」
シン 「くそっ!」
ハイネ 「次だ。来い」
シン 「はい……!」
(更に再戦を挑むシンだが、やはり手玉に取られて撃墜される)
ルナマリア 「もう、何やってんのよ、シン。まるっきり同じパターンでやられてるじゃない。まるでフィルムを巻き戻して見てるみたいだわ」
レイ 「シンはそれに気付いていない。気付いていたとしても、おそらく他の動き方が分からなくなっているのだろう。今の奴には、ただ目の前の敵を正面から倒し
に行く、そんな融通に乏しい行動しか取れていない。それだけならばまだ良いが……」
(更に、シミュレーターが激しく揺れる)
シン 「うぅっ……」
ルナマリア 「……また止まった。一体どうしたってのよ、シン……」
レイ 「今の奴では、俺やお前の相手にもならんな。病院にいるリロイを呼び出して戦わせたところで、シンは勝てはしないだろう」
ルナマリア 「わけわかんないわよ、スランプにしたっておかしいわよこれ。何が原因であんなになっちゃったわけ?」
ハイネ 「シン、次だ」
シン 「は、はい……」
ルナマリア 「見てらんないわ……」
レイ (……所詮はナチュラルだった、とは言わん。戦闘前のシミュレーションでは、がむしゃらなりに操縦技術は活きていた。ここで行き止まりに入ったのは、
技術ではなく……)
(そしてまた、シンのシミュレーターが揺れて、静まった)
ハイネ 「シン、構えろ」
シン 「……もう、勘弁して下さい……」
ハイネ 「そうか。わかった」
シン 「くっ……!」
レイ (……心が折れたか)
ルナマリア 「隊長……シンは」
ハイネ 「見ていたんなら、見ての通りってことだ。手遅れになる前に確かめておいて良かったということにしておくか。今のシンは腑抜けだ。不用意に出撃させれば
落とされる」
ルナマリア 「でも、分かりませんよ。なんでまた急に……。確かにさっきはいまいちだったけど、今朝はしっかり戦ってたそうじゃないですか」
ハイネ 「向こう見ずに突っ込んで相手をねじ伏せるだけなら、なんとかなってる。シンは突き詰めれば、そういう戦い方をしてたのさ。だが、それが通用しない敵
と出会った時、あるいは負けると思った時、お前はすくんじまうようになった。……そういうことだと思うが、違うか? シン」
シン 「……」
ハイネ 「お前のその戦い方自体は、その向いてる方向は俺も前々から知ってたつもりだ。お前達の隊長としてな。だが、その土壇場の弱腰は一体いつからだ?
さっきの戦いで、急に臆病風に吹かれたのか? それとも、もっと前からか?」
シン 「……俺は……」
メイリン 『こちらブリッジ。全乗組員へ連絡。本艦はおよそ20分後に、ナスカ級ボルテールと合流。モニュメント・ユニウスにおいて発生した籠城事件の解決の為、
ジュール隊と共同作戦を展開します。各員は速やかに配置についてください。パイロットは直ちにブリーフィングルームへ集合してください』
ルナマリア 「シンがこんな時でも、事件はお構いなしに起こるのよね。……ま、あのジュール隊と一緒なら、なんとかなるとは思うけど」
ハイネ 「行くぞみんな。シン、お前もだ。だが作戦内容によっては、お前を外すよう俺は艦長に進言する。いいな」
シン 「……はい」
レイ 「シン、少し話がある」
シン 「……なんだ?」
レイ 「今のお前の不調を、俺なりに整理した。聞け」
シン 「不調? ……見てただろ。俺の実力は、あんなものなんだ。ハイネ隊長にまるで歯が立たなかった。あんなんじゃ、テロリストにだって……!」
レイ 「テロリスト達に勝つということが、いや、戦いに勝つということがどういうことなのか、お前は少し見失っている」
シン 「……え?」
レイ 「本来はハイネ隊長の役割なのだろうが、彼はアーモリーショックでの戦闘を俺達と共に経ていない。だから俺が代わりにお前に諭す。お前は、ショーンさん
とデイルさんの死の意味が分かっているか? あの二人は、テロリストに負けたと思うか?」
シン 「……!」
レイ 「あれから一ヶ月、お前は随分苛立ちながら戦ってきたようだな。その怒りはテロリストに対するものと、そしておそらく……自分をかばって死んだデイルさん
へのやりきれない思いから成るものではないか? それを全て、相対するテロリストに向けようとした。つまりお前は、憤りで戦ってきた……違うか?」
シン 「……ああ。その通りだよ……。デイルさんは、俺のせいで死んだ。俺がもっとうまくやってれば、デイルさんだけじゃない、死ななくて済んだ人達だって、絶対
いるはずなんだ。アーモリーワンの基地でも。だから俺は、もっとうまくやり続けなきゃいけない。これ以上あんな奴らに好き勝手にさせるわけにはいかない。俺は
もう絶対に負けられないんだよ!」
レイ 「……なければいけない、させるわけにはいかない、するわけにはいかない、か。それだ、シン」
シン 「何?」
レイ 「被害を完全に防ぐ手段などないんだ。俺達が手の届く所にいる敵をことごとく撃滅したとしても、敵は手の届かない場所にも、目の届かない場所にもいて、
奴らの理屈で行動を起こす。それは俺達にはどうしようもないことだ。つまりその時点で、俺達は奴らの好き勝手を許している」
シン 「……」
レイ 「そして、お前は先刻の戦闘で、あの敵艦の突進から逃げることができなかった。凍り付いたように動けなかった。そう俺には見えた。……アーモリーショック
でデイルさんがお前の身代わりになった時の状況と、よく似ていたな」
シン 「ぐっ……」
レイ 「負けられないはずが、好き勝手にさせられないはずが、あの時お前は怯え、心の中で奴らに負けを認めたのではないか? だから、お前は今、ハイネ隊長と
何度戦っても、負けると思った時に萎縮して身動きが取れなかった。違うか?」
シン 「……」
レイ 「俺は本来、精神論を語るのはあまり好きではない。だが、まだ隊長や俺には及ばないとはいえ、お前の実力の伸びは認めていた。だから個人的には惜しい
と思っている。とりあえず、嘔吐感に耐えられないのなら体を軽くしてから来い。その程度の時間の余裕はあるはずだ」
シン 「……」
レイ 「それと、もう一つ言っておこう」
シン 「……なんだ……」
レイ 「勇気という言葉は、お前に似合うのではないかと思っていたよ。俺は」
〜 モニュメント・ユニウス宙域付近、ミネルバ・ブリーフィングルーム 〜
イザーク 『ジュール隊隊長のイザーク・ジュールだ。宜しく頼むぞ』
ハイネ 「ミネルバモビルスーツ隊隊長、ハイネ・ヴェステンフルスです。宜しくお願いします」
グラディス 「顔合わせも終わったところで、改めて状況の説明を行います。イザーク隊長、お願いしますわ」
イザーク 『はい。諸君も聞いての通り、およそ一時間前に眼下に見えるモニュメント・ユニウスが、正確には管理施設を中心とした再構築エリアが、何者かに侵入
を受け、占拠された。墓参に訪れていたラクス・クラインは、それとほぼ同じ時点で、ドーム状の天蓋のある共同墓地にて襲撃を受けたと思われる。ラクス・クライン
付きの専任警護官は全員が消息を絶ち、彼女の携帯している発信器は、この地点から信号を送っている』
ハイネ 「大地の縁……ほとんど崖際ですね。非常用のルートの先にあるシェルターの一つですか」
イザーク 『そうだ。このシェルターは一度機能すれば外部から生命維持系に干渉されることのない独立した構造を持ち、モビルスーツの流れ弾程度なら一撃二撃
では破壊されない程度の強度も備えている。犯人側の声明とシェルター内の監視カメラの映像によれば、ラクス・クラインはここに一人きりで逃げ込んだことになる』
ルナマリア 「じゃあ、消息を絶った専任警護官の人達は……」
イザーク 『犯人側から明確な言及はないが、発信器は携帯している者の生命反応を感知して作動する。おそらくは、全員が既に死亡していると見るべきだろう』
シン 「……」
イザーク 『なお、人質となったラクス・クラインもまた、当然生命の危険に晒されている。シェルターの付近には、犯人側が襲撃時に投入してきたモビルスーツが
一機、現在も留まっている。機種はジン・ハイマニューバ、携帯火器は銃剣装備のマシンガンだ。犯人側との交渉には、ボルテールからの通信で俺の部下である
シホ・ハーネンフースが当たっているが、これが決裂し銃爪が引かれたならば、ラクス・クラインの元へ弾丸が届くまで10秒とかかるまい』
レイ 「彼女はプラントにとって大きな存在感を持つ人物です。それを躊躇無く殺害するというのならば、それがブラフである可能性は?」
イザーク 『否定はできんな。しかし、保証もできん。何より、彼女の安全を無視しててでも犯人の捕縛を優先した、そのようなザフトを民衆は認めはすまい。さりとて
犯人側の要求を素直に呑むという選択肢も評議会の本意ではないそうだ』
グラディス (……そうでしょうね。彼らがかつての仇敵に頭を下げてもらうために自ら頭を下げるとは思えない。仮にデュランダル議長がそうしようとしたとして、全力
で止めるでしょうね)
イザーク 『……よって、交渉により時間を稼ぎ、その間にラクス・クラインをシェルターより救出するのが本作戦の骨子となる。確認されている敵の戦力と配置だが、
これは全て黒塗りのジン・ハイマニューバで統一されている。まず先のシェルター付近のマシンガン装備の一機。そして占拠した管理施設の直衛用と思われる一機。
こちらは、背部スラスターを中心に大型化が為されている。更に、我がボルテールの前を塞ぐ形で都市跡の上に11機が布陣を組んでいる。なお、この計13機は、
全て対モビルスーツ用の実体刀を所持している』
アーサー (ザフトのファーストステージ・モビルスーツ群で最多の生産数を記録したジン、しかし貴重な上位カスタムタイプであるハイマニューバタイプが13機とは、
確かに尋常じゃない。しかも……)
イザーク 『また、パイロットの力量だが、警備に当たっていたザクファントム1機とザクウォーリア2機は、先の銃剣のハイマニューバ1機によって突破され、その直後
に現れた3機によって個別に撃破されている。いずれも接近戦で、それも接触から30秒以内にな』
ルナマリア 「30秒……ですか。ジンで、ザクを……」
イザーク 『性能差は、ザクタイプを擁しているお前達も熟知しているだろう。ハイマニューバが高機動化されたタイプとはいえ、総合性能ではジンよりもザクの方が
遙かに上だ。にも関わらず、実質的には一対一で全機が撃墜されたのは、奇襲であった為もあるだろうが、奴らが並のパイロットではない証明とも言える。その後に
現れた残りの機体についても、同様に油断は禁物だ』
ハイネ 「実質、向こうにもザクが13機いると考えた方が良さそうだな。連携で一斉に来られたら、ミネルバでも沈むかもしれん」
イザーク 『だが、いずれこいつらは俺達の手で片付けねばならん。作戦に当たっては、ミネルバとボルテール両艦のモビルスーツ隊を2隊に編成する。まず第1隊は、
ラクス・クラインの身柄の保護を目的とする突入隊だ。これはシェルターの見張りの銃剣に気付かれることなく接近し、これを速やかに撃破。敵側の応援が駆けつける
前にラクス・クラインを救出、離脱する。そして第2隊は、第1隊の離脱に合わせて総攻撃を仕掛け、連携によってハイマニューバを各個撃破、殲滅する』
ルナマリア 「ちょ……ちょっと待ってください。 その第1隊って、一体誰がやるんですか? 崖っぷちのシェルターに、見張りを倒せるような機体で気付かれずに近づく
なんて、どうやって……ミラージュコロイドでもあれば話は別ですけど」
イザーク 『ミラージュコロイドなどなくても、接近は可能な環境だ。あのシェルター周りに、見張りが一機しかいないのには理由がある。戦力を割り振るまでもなく、
敵が、即ち我々が迂闊に接近できない場所であるからだ。それは見晴らしの利く位置だというばかりではない。周辺に岩塊や氷片、更には構造物の残骸といった、
モニュメント・ユニウスからこぼれた大量のデブリがそのまま密集して浮いているためだ』
ルナマリア 「は、はい。モビルスーツの大きさじゃ、どんなに注意して飛んでも必ずぶつかるし、でも楽に身を隠せるような大きさのデブリも少ない。それにあんまり
もたもたしていても、熱源を探知されたらすぐばれる……これじゃ、近づく方法が」
イザーク 『何を言っている? それらの条件を全てクリアできる機体がミネルバ隊にはあるのだろう。熱源も質量も大きさも分割して網をくぐれる強力な機体がな』
シン 「!」
ルナマリア 「イ、インパルス……そっか、確かに……!」
レイ 「なるほどな、いつもとはまるで違った意味で、インパルスがこの作戦の全ての鍵というわけか」
ハイネ 「……」
〜 モニュメント・ユニウス宙域付近、ミネルバ・モビルスーツデッキ 〜
ハイネ 「作戦の内容は、各自頭に入っているな。第1隊は、こちらからはインパルスを出す。ユニウスに辿り着き、銃剣のハイマニューバと接触した時点で、ボル
テールからも長距離狙撃による援護が入る。第1隊に加わらなかった者は、第2隊に合流して作戦第2段階の掃討戦に出撃する。なお、パイロットの選出は出撃
の段階で俺に一任されている」
ルナマリア 「……」
ハイネ 「インパルスはレッグフライヤーの腰部ハードポイントに、救出後の為の小型救命ポッドを取り付けてある。各パーツとコアスプレンダーは分離状態で射出し、
稼動状態を極力抑えたままデブリの中を移動させ、シェルターの下方から接近。合体し銃剣のハイマニューバを撃破する。インパルスで出撃するパイロットだが……
これは本来のパイロットは言うまでもなくシンだが、お前達も知っての通り、今の状態を考えると戦闘に耐えられるとはとても思えん。しかもジンでザクを倒すような
あの連中が相手ではな」
シン 「……」
ヴィーノ 「……じゃ、じゃあ、どうするんですか? シンには今回、休ませますか? ですよね、こいつ最近ちょっと頑張りすぎだったし、調子が悪いなら無理して……」
ハイネ 「そうだな、少し楽をさせてやろうと思う。ヴィーノ、インパルスには専用OSの他に、サブシステムとして通常のOSも組み込んであったな?」
シン 「!」
ヴィーノ 「はい、一応。あくまでサブなんで、本来の性能の70%がいいとこだと思いますけど……それでも、ザクと互角までは行けるはずですよ」
ハイネ 「それで充分だ。さてみんな、聞いてくれ。俺に妙案がある」
支援
>>698 GJです
今回は大きな動きはなさそうですな。
結局ステラの記憶消去されたのかな?
デュランダルよりチェスが強いミーア(?)……
ミーアラスボスフラグ?www
>>708 こちらもGJです
いいチームメイトに囲まれてよかったねぇ、シン
本編でもこういう話が見たかったなぁ……
続きを投下します。
ミネルバは大平洋を移動して遂にオーブ領オノゴロ島に辿り着き、入港する。
「アスハの姫も面倒なもので帰ってきてくれたものだ…」
ミネルバをガラス越しに見てため息をついているのは、オーブ連合首長国現代表ウナト・エマ・セイラン。
セイラン家は元々大西洋連邦寄りで前大戦時にオーブが占領されるまでは国民からは目も当てられなかったのだが、前大戦時にオーブが地球軍に占領された影響で国民は保守的になり、アスハとは反対の思想を持つ彼らの当主であるウナトがオーブの代表として選ばれた。
「だが、冷たくあしらうわけにはいかんか…。仮にもこちらの要人を送り届けてくれた訳だしな」
ウナトは一人呟いて自らミネルバのほうへ向かう。
ミネルバから降りたカガリ、アスラン、タリア、アーサーの四人をウナトら官僚達が出迎える。
「オーブ連合首長国代表ウナト・エマ・セイラン。我が国の首長の一人を送り届けてくれて感謝する」
「ミネルバ艦長タリア・グラティスです」
「副長のアーサー・トラインです」
三人はそれぞれ機械的に自己紹介等を済ませる。
「もし、今すぐにでも修理がしたければモルゲンレーテのドッグを1つ貸すのでそこで行って欲しい」
「わかりました」
本来ならばすぐにでもカーペンタリア基地に移動し、きちんとした修理と補給を行わなければならないが、ボギーワンとの戦闘やユニウスセブンの件でミネルバの船体はあまりにも損傷が激しい為、とりあえず補給と船体修理をオーブで行うことにした。
「それとカガリ、早速だが行政府に」
「わかりました」
カガリはウナト達と共に行政府へ向かい、アスランは報告書を作成する為にその場をあとにし、タリア達もミネルバをドッグへ移動させる為に艦内に戻る。
シン、ルナマリア、レイ、メイリンの四人はミネルバのでそれらの光景を見ていた。
「いいのかな?この国に泊まって」
「いいんだろ、オーブなんてろくでもない国だけど」
「あんた、それが聞こえていたらどうすんの?」
「なんだっていいだろ」
シンはそう言って一足先に艦内へ戻る。
「はぁ、本当に子供なんだから」
軽くため息をついたルナマリアは艦をモルゲンレーテのドッグに移動させるという放送を聞き、レイやメイリンと共に艦内に戻る。
「大西洋連邦と同盟条約を締結!?」
オーブ行政府で、もたらされた知らせに驚いているのはカガリ。
「話によれば、小規模ながらも世界各地でもたらされたユニウスセブンの被害や行動を開始した旧ザラ派のテロリスト達に世界各国が連携を取って迅速に対処しようというものだ。そして…」
ウナトはいくつかの画像を提示する。
無論、その画像は地球圏内での活動を前提に作られたザフトの新型MSカオス、ガイア、アビスのデータとザフト製MSがユニウスセブンを落下させている光景。
カガリはこれらを見てボギーワンがブルーコスモスの特殊部隊だったと確信する。
「ユニウスセブンを落下させた元凶であるプラントに一致団結して対抗しようとも言っている」
「大西洋連邦が音頭を取ろうとしているだけなのでは?」
カガリは咄嗟に疑問を言うが、
「これらは民衆に知れ渡っています。ユニウスセブンの件だけならまだしも、自衛の域を超えたMSを開発していたとなれば、プラントが地球侵略を企んでいると民衆が信じ込むのも無理はありません。我らも地球にいる以上、痛みを分かち合うべきは同じ地球にいる者達です」
官僚の一人が大西洋連邦との同盟を締結するべきと自分の意見を言う。
「一応、水に流しているとはいえ、一度我らが国を焼いた者達と同盟を結ぶのですか!」
カガリは反論する。
「一応とはいえ、水に流れているのだ!それにさっき言った通り、世界中の大衆はプラントが地球侵略を目論んでいると思っている!我らが孤立しない為にも、それと戦おうと言っている大西洋連邦と同盟を結ぶのは極自然な流れだ!」
カガリと先ほど自分の意見を述べた官僚は激しい口論になる。
ウナトが仲裁に入り双方を落ち着かせる。
結局、意見は纏まらずに今回の閣議は閉会となった。
ミネルバをモルゲンレーテ社のドックでモルゲンレーテの整備員と共に修理を行っている光景を見ながら、アーサーは色々と心配していた。
「あの、艦長…」
「何?」
他国で修理するとなると下手をすれば軍事機密どころではなくなります。と言いたいのだが、彼の場合は相手が自分より立場が上の人間ともなると自分の意見があっても、それを言えなくなる。
今回も例外ではない。
「言いたい事は大体わかるけど、そんなに不満ならば上層部に報告する?」
「いいえ、そんな!」
タリアに思っていたことを指摘され、アーサーは思わず声を上げて後退りする。
カガリから上陸許可が出ており、戦時下でもないのでルナマリア、メイリン、ヨウランなどの若いクルー達は歓楽街へと繰り出す。
そんな中、シンとレイは自室にいた。
自室のベッドで悶々としているシンにレイが声を掛ける。
「上陸したかったんじゃないのか?出たろ、上陸許可」
そう言ってレイは部屋を出ていく。
レイが自室を出て行ったあともしばらくベッドの上で悶々としていたがシンはとりあえず、始まりの場所へ行ってみることにした。
報告書を提出したアスランは特にする事がないので愛車でドライブしていた。
その途中で散歩する二人の知り合いを見つけ、車を止めてクラクションで呼びかける。
そんなアスランに気づき、呼びかけに答えたのは彼の親友キラ・ヤマト。
彼はかつてGAT−X105ストライクを駆って幾多の戦果を上げ、親友であるアスランとの死闘の末、撃墜されるも奇跡的に生存したあと、ラクス・クラインの思想に共感し、三隻同盟の元でラクスから託されたZGMF-X10Aフリーダムを持って戦争終結の為に奮戦した。
最も彼自身はアスランのように英雄として知られている訳ではない。
そして、彼の隣にいるピンク色の髪をした女性が元プラント最高評議会議長シーゲル・クラインの娘にして三隻同盟の長を務めたラクス・クライン。
キラとラクスはアスランに車で家まで送り届けてもらうことにした。
「やはり、ユニウスセブンの落下はあたかもザフトの仕業だと大西洋連邦から地球全体に伝えられているんだな?」
「うん…。ザフトのMSがユニウスセブンを落下させている光景が写されている画像とザフトの新型MSのデータを証拠としてそう言ってる…」
ユニウスセブンの件に関するアスランの問いにキラは暗い表情で答える。
「私達は台風の目の中にいただけなのですね…。てっきり、止んだとばかり思っていましたが…」
ラクスも暗欝になる。
自分たちが戦争を終結させたのは無意味だったのか?ただの先延ばしだったのではないか?
そんな疑問が頭から離れない。
「本当に何をしているんだろうな…俺たちは…」
アスランはそう呟く。
ファーストコーディネイターであるジョージ・グレンによって、人為的な遺伝子操作技術や鯨石がもたらされた時は皆がこんな事になるとは夢にも思わなかっただろう。自分たちには輝かしい未来があると思ったことだろう。
だが、今の世界はナチュラルとコーディネイターに大きく別れて争い、一度は止まったかに見えたが再び争おうとしている。
どうしてこんなことになってしまったのだろう…。
目的地に到着し、キラとラクスを降ろして今自分が帰るべき所へ車を走らせる。
その途中である事を思いつき、それを忘れる前に車を運転しながらカガリに携帯電話で電話を掛ける。
今日この時間なら、会議等は終わっている筈だ。
「カガリか、俺だ」
『なんだ?わざわざ、電話を掛けるなんてお前らしくもない』
電話をかけてきたアスランに対してカガリはいつもの調子で答える。
「カガリ、俺をプラントへ行かせてくれないか?」
『どうして、また?』
電話越しにいるカガリの態度が真剣なものになる。
「アーモリーワンやユニウスセブンの件を見て思ったんだ。デュランダル議長に限って前のような泥沼に突っ込む事はしないと思うが、何かしら動かなければ手遅れになる気がするんだ」
真剣に言うアスランのそれを聞いてカガリは、
『わかった。プラント行きのシャトルは私が手配しよう。…アスラン…』
「?」
『ちゃんと帰ってこいよ』
「わかっている」
そう答えてアスランは電話を切る。
二人は知らない。
もう既に手遅れである事に。
ラクスの言った通り、人は台風の目の中にいただけに過ぎないという事に。
そして…
オーブについて
1話で説明された通り、カガリが代表ではないので、代表はウナトです。
ユウナは排除しました。ヨウランとヴィーノのどちらかと同じく居るだけ無駄なのと例の花嫁強奪事件を防ぐためです。
717 :
通常の名無しさんの3倍:2007/09/29(土) 14:43:18 ID:7/MSfOVk
シンが主役・・・
北斗の拳か?
>>716乙です。
ユウナはカットですか……
「国はあなたの(ry」は好きなセリフだったんですがね。
しかし、拉致事件が無しとなると、結構展開変わってきそうでwktk
週末から読み始め、ようやく追いつきました。
Re.Dさん、シンルートさんGJです。
>>716 キラ登場。大筋原作にそった展開ですが、シンとどう絡むのか期待です
投下待ってます!