パナマのマスドライバーが破壊されたと言う知らせは、あたしたちオーブ国民を震撼させた。連合は、オーブに
更に協力を求めてくるだろう。連合への加入も促されているかもしれない。連合には、もう、オーブのマスドラ
イバーを使うかビクトリアを奪還、あるいは苦労して新たなマスドライバーを作るしか道は無いのだ。国民は不
安に思っている。アークエンジェルの乗員はもちろんだ。
氏族長会議も紛糾しているみたいだ。あたしたちは、意見を求められるかもしれないと言うことで、隣の部屋に
詰めている。
扉の向こうから、会議の様子が洩れ聞こえてくる。
「……これ以上、オーブ国民に不安を強いるのは常識にも外れるのではないか。オーブ国民は不安に耐えかねて
いるのだ」
「『他国に侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入せず』これは我国の理念だ。それを理解しようと
しない事なかれ主義者に迎合する必要はない。そもそも犠牲なくして大事業が達成された例があるか!」
「その犠牲が大きすぎるのではないか、と国民は気づき始めたのだ、ウズミ」
「どれほど犠牲が大きくとも、たとえオーブ国民が死に絶えたとしても、守るべき理念がある!」
「そ、それは政治家の論理ではない!」
「我々には崇高な理念があるのだ。オーブ国民のみの利益にこだわって、その大義を忘れはてるのが、はたして
大道を歩む態度と言えるのか!」
──ウズミ・ナラ・アスハは40代後半の、堂々たる髭を持つ男性で、その声には魅力的な響きがあった。
それだけに、あたしが感じた危険は一段と大きかった。
彼こそ、安っぽい英雄願望に足首をつかまれているのではないか――
中立厳守は、一時的に戦争にまきこまれずにすむことはできても、それによって人々を、少なくとも連合国民の
過半数を納得させる事は出来ないだろう。
納得できないということ。まさしく、それが問題なのだ。
仮に中立を厳守し、オーブが連合に対して助力をしなくなった時、何がオーブに残されるのか。
連合との関係がゼロに戻るだけ?表面的にはまさしくそうだが、その底流には憎悪と怨恨が残る。
それは火山脈のように、岩盤の圧力で呻吟しながら、ほどからず爆発して、地上を溶岩で焼き尽くすだろう。
岩盤の圧力が大きいほど、噴火の惨禍もまた大きいはずである。
そのような結果を生じてはならず、そのためには中立厳守の見直しを進めなくてはならない。
あたしの考えは強硬に過ぎるのだろうか。
そうかもしれない。 だが、ウズミ流の甘さを受容しようとは、あたしは思わなかった。
「もう我慢ならん!」
カガリが、扉を開け放ち、会議室へ入って行った。
「お父様!それは間違っている!」