夥しい熱量に感極まって、ミリアリアも身体を硬直させる。
ディアッカに絡みついた瞬間、二人の下肢はさらにしとどに濡れていた。
緊張を解いたミリアリアの腕がふっと緩むのを感じて、ディアッカは彼女の背中に腕を回して優しく抱き留める。そのまま寝かせるようにベッドに横たわらせた。
「ミリアリア……」
快感に満たされた身体を持て余し、少しばかり意識を朦朧としている彼女の名前を呟きながら優しいキスを唇に落とす。そのキスを何度か受け止めている内に正気に戻ったミリアリアは、大きな息を零しながら怒りをちらつかせた。
「……仕事中だって言ったのに……」
頬を膨らませて可愛い文句を呟くミリアリアに、ディアッカは頬を緩める。
「だから直ぐ終わらせてあげたじゃん?」
「何処がよぉ……」
「えー。服、全部脱がせてないし」
言いながら、ディアッカは何処か楽しげな様子でミリアリアの身体を舐め回すように見つめる。
それが一点に彼の視線が止まると、その視線を追ったミリアリアもまたその一点を凝視する羽目に陥った。
二人はまだ繋がっている。その場所は濡れたままで、ひどく淫らな光景として二人の目を射ていた。
「ち、ちょっと、そんなトコ見ないでよ〜っ!」
「見るなって言われても、まだ繋がってるし……」
ニヤニヤと笑うディアッカに、ミリアリアは顔を真っ赤に染めて抗議する。
「抜いてっ!」
「えー。勿体ない……」
「勿体なくないわよっ!もう満足したでしょっ!離れてっ!」
「満足なんてしてないよ。もっと抱きた……」
その先は乾いた音に遮られた。
「ミリィ……。一日に二度も殴るなよ……」
ぶたれて紅くなった頬をさすりながら、ディアッカが情けない表情を顔に浮かべる。
「あんたが分からず屋だからじゃない。自業自得よっ!」
怒りを隠すこともせず、ミリアリアは手厳しい態度で臨む。
「だから早くっ。私の上から退いてよっ!」
「退きたいなら、自分で動けばいいじゃん?」
「……え?わ、私が?」
ディアッカの言葉に、意外にもミリアリアは顔面を強張らせた。
その表情に弱点を見出したディアッカは再び余裕を取り戻す。
「だからさ。自分で俺を抜けばいいでしょ?俺、邪魔しないよ?」
にっこりと微笑いながら、さぁどうぞと言わんばかりな態度に出たディアッカに、ミリアリアは暫く絶句していたが、やがて小さな声が彼女の喉の奥から洩れた。
「ディアッカのバカぁ……」
ポロリ。
ポロリ。
ポロポロリ。
それを見た瞬間に、今度はディアッカの顔が激しく強張る。
「わっ!わーーーっ!泣くなよ、ミリィ!こんなことくらいでっ!」
「泣くわよぉ。バカぁ。ディアッカの意地悪ぅ。ディアッカの変態ぃぃぃ」
「変態は違うだろ、変態はっ!」
焦って抗議してみるが、ミリアリアの涙は止まらない。
「……っひく、もー、あんたなんて、キライよぉ……イジワルばっかりするん…だも…」
「あーもーっ。わかった!もう意地悪しないから、泣くなって!」
ミリアリアの涙にあっさりと白旗を掲げたディアッカは、身体を起こして直ぐ様元の形に戻っていた楔を引き抜いた。抜かれる瞬間の感触に一瞬身を竦めたミリアリアだったが、涙はまだ零れ落ちている。
「ほら。離れたんだから、もう泣くなよ。なぁ、ミリィ。謝るからさぁ……」
ディアッカは困り果てた様子でミリアリアの頬に手を添えると、昂ぶった感情を宥めようと触れるだけのキスを繰り返した。
キスを受けながら、ミリアリアは小さな声で毒づく。
「ディアッカのバカ」
「うん」
「ディアッカの意地悪」
「うん」
「ディアッカの変態」
「だから、それは違うって」
微笑いながらディアッカは、文句ばかりを吐き出す可愛い唇を柔らかく塞いだ。
「ん……」
ミリアリアは抵抗もせずに甘い吐息を隙間から零す。
「ん、……ふっ……ん……」
舌を絡めながらも情欲を決して煽らない穏やかな口付けを強かに重ねられて、ゆっくりとミリアリアは落ち着きを取り戻した。
ディアッカが頃合いを見計らって唇を解放すると、彼女は拗ねた瞳で彼のスミレ色の瞳を見つめていた。
「私、もう仕事に戻るからね」
「わかってるって」
「手伝ってくれるのよね?」
「あ……やっぱり覚えてた?」
悪戯っぽく微笑うディアッカの鼻先を指で軽く弾くと、ミリアリアはベッドから起きあがった。
「絶対扱き使ってやるんだからっ」
ぶつぶつと文句を呟きながら服を身につけていくミリアリアに、ディアッカは楽しげに肩を竦める。
「それはそれは……覚悟しておきましょうか」
そう言う彼を振り向いて、ミリアリアはビシッと人差し指で彼を指差した。
「ディアッカ。絶対逃がさないからねっ!」
堂々と言い放つミリアリアに、ディアッカは一瞬目を丸くする。
そして、そのまま破顔した。
『逃がさない』
その言葉は勿論仕事のことを指していたが、彼女に惚れ込んでいるディアッカにはひどく甘い宣言に聞こえた。
「了解」
彼は嬉しげに応える。
「ずっと捕まえてて良いよ、ミリィ」
あまりにも嬉しそうに応えるディアッカに、今度はミリアリアの方が困惑する。
(な、何で、こんなに悦ぶのよ〜っ!?)
率先して身支度を整えているディアッカを見つめながら、また余計な言葉を口にしてしまったのだろうかとミリアリアは焦る。
けれど、好きな女と一緒にいられる幸せを噛み締めている男は、冷や汗を流す彼女の様子にまったく気づきもしなかった。