ディアッカ・エルスマンについて語るPart113

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405通常の名無しさんの3倍
■ 安定剤

「ミリアリア。あとどれくらい?」
すれ違い様に腕を掴むディアッカに、彼女はあからさまに困ったような表情を顔に浮かべた。
「……あと二十分くらいかな」
ミリアリアは手に雑多な書類を抱えていた。
恐らくラミアス艦長にでも頼まれて、書類運びでもしているのだろう。
「じゃあ、それ運んだら休憩?」
手に抱えている書類に視線を当てながら重ねて訊ねる彼に、ミリアリアは曖昧な態度で返事した。
「多分ね……」
その返事で満足したのか。ディアッカは書類からミリアリアに視線を戻すと、片眉を上げながら意味ありげに笑った。
「待ってる」
ディアッカはそれだけを口にすると、あとは何事もなかったかのように歩き出した。
もうミリアリアを振り返りもしない。恐らく断られるとは微塵も想っていないのだ。
彼女は彼の背を見つめたまま、小さな溜息を零した。
「……まったく。勝手なんだから……」
けれど、彼女もまた断る気はまったくなかった。




ミリアリアがディアッカの部屋を訪れたのは、廊下ですれ違ってから三十分後のことだ。
彼女の気配を察してか、ディアッカは彼女が来訪のコールを鳴らす前にドアロックを解いた。
「遅い……」
拗ねたような口調と菫色の瞳が彼女の来訪を心から待ちかねていたことを物語っている。
僅かながら文句を呟くディアッカを見返したミリアリアは、少しばかり呆れたような仕草で肩を竦めた。
「そんなこと言われたって仕事だったんだもの、仕方ないでしょ。私、真っ直ぐここに来たのよ」
ディアッカは口を尖らせながらも、きっちりドアロックをかけ直してからミリアリアに向き直った。
「……わかってる」
そう呟いた彼は、それを証明するべく来訪者の身体を優しく抱き寄せる。
「少し汗の匂いがする……」
彼女の細い首筋に顔を寄せて耳許で甘く囁いた。
「急いで来たんだ?」
揶揄するような彼の美声は、ミリアリアの過敏な神経を焦らすように擽る。息を吹きかけられてる所為もあるが、鼓膜を震わせる彼の声は彼女の心までも痺れさせていた。
「だって……」
今度は彼女が拗ねたように答を返す。
「ディアッカの休憩時間、あと1時間もないでしょ……?」
何処か恥じらう素振りで確認してくるミリアリアに、彼は微笑いかけた。
「ん。そう……あと五十分だけ……」
そのまま傍にあった彼女の耳朶に、ディアッカは舌を這わせる。
「そうだ。こんなことを喋ってる場合じゃないな」
そう囁いた彼は、ミリアリアの華奢な身体を両腕で抱き締め、詰めていた息を吐き出すミリアリアの唇に軽く口付けた。
「ディアッカ……」
腕の中に大人しく収まり、躊躇うことなく口付けを受けるミリアリアは、恋人の名前を呟く。
その声に誘われたディアッカは少し嬉しげに頬を緩めて、彼女の細い顎に指をかけた。
名前を呼び合うのももどかしく、彼は薄く開かれた唇を優しく塞ぐ。
軽く何度か重ね合わせた二人は、傍にあったベッドに縺れ合うように倒れ込んだ。