+++酔+++
--------------------------------------------------------------------------------
変わった夜着を貰った、とディアッカが持って帰ってきたのがそもそもの発端だ。
だから断じて私のせいじゃない、とミリアリアは思った。
酔っ払ったのも、脱がしやすい前あわせな服なのも、全部ディアッカのせいなのだ。
桃色に染まった爪が、つとディアッカの頬を引っかく。よほど深く眠り込んでいるのか、ディアッカは目を覚まさない。
ミリアリアはそれが面白いのか、ぺたぺたとディアッカの顔や身体を触り始めた。
普段の彼女なら絶対にやらない事だ。
ディアッカという男の危険性を、彼女は誰より身に染みて理解しているのだから。
しかし今のミリアリアは『普通の状態』ではなかった。
とろんとゆるんだ瞳から、相当酔っているのが分かる。
普段着慣れない浴衣はどんどん形くずれを起こし、胸元もかなりはだけて、すでにかなり緩んだ帯だけでもっているような状態だ。
自分がどれだけ危険な格好をしているのか、ミリアリアの酔った頭は全く理解していなかった。
「ディアッカ、起きないの? 起きないなら脱がすよ?」
ディアッカの顔を両手で挟んで覗き込む……しかし、反応はない。
にんまりと笑みを浮かべたミリアリアは、まず肩から脱がしにかかった。
浴衣なのだから帯をほどけばあっさり終わるのだが、彼女は明らかに楽しんで脱がそうとしていた。
両肩の袖が落ちると、ディアッカの肩から胸があらわになる。
うすく筋肉の張った胸板は彼女の目から見ても十分に観賞に値する。
酔っ払い特有のくずれた笑顔を浮かべてディアッカの身体に触れていたミリアリアは、ふと違和感を感じた。
今、ミリアリアはディアッカの両足の上に乗っかっている。
その背中に、熱を感じるのはどういうわけだろう?
そっと視線を右に走らせると、ディアッカの左手がミリアリアの腰を抱いていた。
それからゆっくりと正面にあるはずの寝顔に目を向ける。
……ミリアリアの酔いは、一気に醒めた。
不思議な光を宿す紫の瞳がミリアリアを見つめていた。
ディアッカは目の前で硬直しているミリアリアを上から下までじっくり眺める。
そして自分の格好を確認して、ミリアリアの瞳を真正面から見つめた。
「あのえっとこれはそのほんの冗談で」
困った笑顔で慌てて取り繕うミリアリア。顔色は完全に青ざめている。
「……ミリィは冗談で人の服を脱がすわけ?」
「ええと、その」
ディアッカの膝に座った体勢では全く説得力はない。
ディアッカは問答無用でミリアリアを抱き寄せた。
驚いて抵抗するミリアリアを押さえ込み、耳元で囁く。
「その姿で、俺に我慢しろって?」
その声が、笑いを含んでいたように聞こえたのは……多分、気のせいではない。
ディアッカの手がミリアリアの浴衣の袷(あわせ)にかかった。
駄目、というミリアリアの呟きを聞こえないふりをする。
ちょうどディアッカと同じように両肩の袖が落ちて、ミリアリアの白い上半身が現れた。
ディアッカはそのなめらかな肌にそっと触れ、やわらかな身体をぎゅうっと抱きしめる。