ディアッカ・エルスマンについて語るPart113

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345通常の名無しさんの3倍
ぱちり、と目を開く。
柔らかなルームランプの明かりに包まれた部屋の全ての音を確認する。
空調のモーター音。
窓の外のクラクション。
遠くに響く、街の喧騒。
あとは隣で眠っている女の寝息のみ、だ。
暫し身動きせず様子を伺うが、女の眠りは深く、起きる様子も無い。
ゆっくりと身体中に力を込め、女の頭の下になっていた左腕の手を動かす。
ぐーぱーと何度か握り返すが、女は意識を取り戻すコトは無かったので、右手を差し込み、そっと痺れが少し残る左腕を引き抜いた。
女が眠ったままなのを確認すると、そのままベッドから降りる。
よっこらせ、と軽く伸びをしてからしゃがみこみ、脱ぎ散らかしたままの服を集めた。
途中、女の下着を発見する。
細かで精巧な華やかな花に似たレースのソレ。
コレを見て、脱がしたくてたまんなくならずに済む野郎はいねえよなー、と推察し、実際脱がすときは最高に興奮すんだよなーと納得する。
軽く歯で咥えながら、そのまま自分の服を着込む。
さて、と机に放置したままだったカードキーを手にし、部屋を去る前に眠りこけてる女の顔を覗く。
朝一で恐らく癇癪混じりの抗議の連絡が入るだろうけど、次回の予定を立ててさえすれば機嫌は容易に直るに違いない。
ふと悪戯心を起こし、女の寝顔に顔を近づけ、咥えたままの下着を女の顔の真横に落とす。
起きたらどんな反応するのかな、と思うと、面白そうでそのまま朝まで居ようかとも思ったが、時計を覗くと既に日付が変わって数時間は経っていて。
やっぱり眠りたいよな、とそのまま部屋を後にした。


予想通り、歩いて20分程で到着した部屋の窓は真っ暗で。
ドアを捻ったが、当たり前だが鍵がしっかり掛かっていた。
だから『いつもどおり』勝手にハッキングで暗証番号を解除し、部屋へお邪魔する。
勝手知ったる部屋なので、明かりを付ける必要は無い。
ワンルームの部屋だが、ベッドには奥まった場所に小さな仕切りがある先で、ひょい、と覗くとカーテンの隙間から漏れる月明かりで青く染まった世界の中、ミリアリアの寝顔が見えた。
いつもどおり、熟睡してる癖で小さく丸まっているらしく、小さな塊のソレ。
そのままその場で全部の服を脱ぎ、コートだけ仕切りの上に放り投げる。
変なトコで真面目なミリアリアは皺になる置き方をすると説教するのだ ───自分のコートで無いのに、だ。
バスルームに移動すると、軽くシャワーを浴び、今まで一緒に居た女の匂いを取る。
怒られるにしても怒られる要素は少しでも減らしておこう、と思う自分の殊勝な心がけはミリアリアには通じてないんだよな、と嘯き、掛かったままのバスタオルで水気を取る。
柔らかな肌触りのソレはオレが上げた───というか、買って返せと迫られて買ってあげたブツではあるが、また買い直せと怒られるんだろうか、とふと思った。
暫しタオルを片手に考えるが、まあもぉ拭いちゃったし〜と腰に巻き、ミリアリアの眠るベッドに近付く。
ミリアリアは眠っている。
薄闇の中、丸くなって、くぅくぅと寝息を立てて眠っている。
平穏な眠り。
安心しきった寝顔だった。
ぼんやりと見てると、眠気が襲ってくる。
ベッドに上がり、毛布を捲ると、ミリアリアの横に滑り込む。
ミリアリアは安眠を邪魔されたとばかりに少し身動ぎをしたが、その動きを利用して、ミリアリアを抱き込む形にする。
ミリアリアは抵抗するコト無く、小さく「うー」と呻いたが、そのままくぅくぅと眠っていて。
オレはふわあ、と欠伸をして目を閉じた。
脚を動かすと、ミリアリアの脚が絡まってきた。
あ、こいつってばまた靴下履いて寝てやんの。
冷え性だからって色気が無ぇなぁ…。
そんなコトを思いながら、オレは眠りに落ちた。
深い眠りを得る為に。
346通常の名無しさんの3倍:2006/05/21(日) 23:34:07 ID:???
朝。
予想通り、ミリアリアの怒声で目が覚めた。
「何でまた勝手にヒトんちに上がりこんでるのよぉ!!」
ぎゃんぎゃんと喚く声が寝惚呆けた脳内に響くなぁと思いながら、欠伸をしつつ
「だって眠たかったんだもん」
と返事をしたら
「眠たかったら自分ちのマンションで寝なさいよ!」
と頬を思いっきり抓られた。
「らってほれんひほおいひ、ひりはりあろほはりろほーがよくれれるひ」
(だってオレんち遠いし、ミリアリアの隣のほうが良く寝れるし)
抓られながらの返事に、ミリアリアは厭そうに顔を歪めて、手を離した。
「昨夜は誰と一緒だったの?」
「秘書課のコ───あー…容赦無いよ?ミリアリア」
「ケイト?」
「───だったかな?金髪の方。イテテ」
「そっちはスージー!アンタねぇ、エッチした相手のコの名前位覚えておきなさいよ!!」
「エッチしてるトキは覚えてるからいいじゃんかよー。ねぇ、腫れてねぇ?」
「そーゆー問題じゃないし、腫れるのは自業自得!!」
ばすん、と枕を投げつけられた。
勿論余裕で避けられたが、甘んじて受けておく。
「───はぁ、アンタと同レベルで考えちゃイケナイのよね…」
ミリアリアはがっくりしながら言うと、そのまま立ち上がり、寝起きで爆発した髪を恥ずかしそうに押さえながらバスルームに向かった。
脚にはゆるゆるの靴下を履いていて、やっぱ色気がねぇなぁと思いながら身体を起こす。
「宿賃代わりに朝食を作りましょうか?」
「フレンチトースト。ロイヤルミルクティー付き」
「へぇへぇ」
腰にタオルを巻いた状態で立ち上がると、ミリアリアは「───そのタオル、お気に入りだったのに」と小さく呟いていたが、無視しておいた。



「イイカゲン、ウチに来るの止めない?」
ミリアリアは粉砂糖まみれのフレンチトーストを口に運びながら言った。
「イイカゲンもなにも、ソッチも諦めたら?」
オレはロイヤルミルクティーを口に運びながら返事する。
オレはコーヒー派なんだけど、ミリアリアが紅茶派だ。
だが、自宅でロイヤルミルクティーは滅多に飲まないらしい。
ミリアリア曰く「入れる手順が面倒」らしい。そのせいか、こーやってオレが朝食を作るトキはロイヤルミルクティーを指定される。
精神的苦痛の代償だ、と以前冷たく言われたが、回を重ねる事にオレの入れ方がプロ並になってきたのが、ムカツクらしいが、美味しそうに飲んでいる。
「まずカノジョの隣で眠れる様になりなさいよ」
「出来るようになりたいねぇ」
オレの答えに、ミリアリアははあ、と大きな溜息を付いた。
オレは女が切れたコトの無いタイプだけど、実はその数え切れないカノジョ達と朝まで一緒に居たコトがない。
子どもの頃からのクセで、隣に誰かが寝ていると寝れないタイプらしい。
勿論、同衾でなければ寝れるのだが、エッチした後に隣のベッドに行けと言う程、オレもいい面の皮はしてなくて。
大抵は途中で帰るか、寝れずにまんじりと起き続けて寝不足になるかのどちらかだった。
347通常の名無しさんの3倍:2006/05/21(日) 23:34:32 ID:???
唯一の例外を除けば、だが。

ちらり、と唯一の例外であるミリアリアの顔を見ると、キレイに食べ終えてご満悦の表情を浮かべていてて、オレはなんともなしに嬉しいキモチになる。
ある日、カノジョのモトを去って自宅に戻ろうとしたトキだった。
途中にミリアリアの家があるなぁ、と気付き、コーヒーの一杯でも貰おうかと軽いキモチで上がり込んだ。
ミリアリアは勿論「こんな時間に非常識な!」と盛大に怒ってくれたが、人のいいミリアリアらしくコーヒーを入れてくれて。
あー美味いなぁ、落ち着くなぁ…なんて感想を持ちながら、ミリアリアのベッドに冗談半分に寝転がって───。
朝、気付いたら。
ミリアリアを腕に抱え込んで爆睡していたのだった。
ミリアリアの怒りながらの話では、どんだけ怒鳴っても暴れてもオレは起きず、それどころかしっかり抱え込まれて抜け出すことも出来ずにいたとのコトで。
オレは今まで誰かを抱き込んで眠ったコトなんか出来なかった筈なのに、と驚きながらも、これで長年の面倒から抜け出せると喜んでいたのに、だ。
予想に反してその夜もカノジョの隣で眠るコトは出来ず。

抱え込んで眠れるのはミリアリア限定、と確定するのに、そう時間は掛からなかった。



「アンタ、今日の予定は?」
「いつもどおり仕事だよ。8時チョイ前には出る」
「私もその時間に出るからちょうどイイわね」
会話は同棲してる男女のソレだが、空気はまったくもって甘くない。
「今度こそ鍵を変えてやる」
「おー。がんばれー」
気配を感じ、蹴ってくる足を避ける。ミリアリアは空を切ったのが悔しかったらしいが、再びじろりと睨んでソレでオシマイにしてて。
「あ、そうだ」
オレは思いついたコトを口にした。
「寝るとき、靴下履いてんなっての。色気無さ過ぎ」
今度は蹴るだけでなく手にしたフォークも投げてきたので、オレは少し本気になって逃げた。



「ディアッカ、この本はなんだ?」
上司のイザークが怪訝そうな表情で机の上の本を指差した。
「『足の裏マッサージ入門』マッサージオイル付き」
「───そして今貴様が読んでいるのはなんだ?」
「『初めてサンのペディキュア』」
「───!!」
手にした書類を握り潰しながら震え出すイザークを無視して、オレはブーツをぽい、と脱ぐ。
下っ端の兵士に買いに行かせたソレは結構わかりやすい入門書だったので、今度ヤツに奢ってやらなきゃだな、うん。
「お…い…!」
「えーとなになに?『最初に脚の裏のツボを刺激し、リラックスさせます。』とな?なぁ、イザークぅ。土踏まずの部分を刺激し、脚の裏の血流を良くするとマニキュアのノリがいい、ってホントかなぁ…って、オイ、どーした?」
「きききききさ…まぁ!」
「あ、ちょっと待て。通信機がなってる。はい、ジュール隊長室…って、ケイトじゃん。ん?今夜?いいよー。いつもの店でどぉ?───え?スージーがどおかした?んー、詳しい話はそのトキでいい?今ちょっと呼ばれてるー。
そそ、うん、じゃあアトでね〜。って、どーした?イザーク」

「貴様あああああああ!」

その日、ある隊長室で局地的ハリケーンが起きたが、内々で処理されたらしい。
348通常の名無しさんの3倍:2006/05/21(日) 23:34:43 ID:???
いつもどおり、勝手にお邪魔した部屋はしんとしていて。
いつもどおり、薄闇の中、ミリアリアは熟睡していた。

平穏な眠り。
安心しきった寝顔。

やっぱりミリアリアを見てると眠くなるなぁ、と思いながら、オレは手にした荷物をベッドの下に広げて、ミリアリアの布団を捲った。
こそこそと作業をしながら、朝が楽しみだ、と思った。



朝。
いつもどおり、ミリアリアの怒声で目が覚めて。
いつもどおり、ひとしきり怒られた。
「あ、昨日はキチンと名前を覚えてきてるよ。ケイトのほう」
「───自慢にならないわよ!!」
ばすん、と投げつけられた枕を顔で受け止め、バスルームに向かうミリアリアの後姿を目で追う。

数分後に聞こえるであろうミリアリアの
「このペディキュアはナニよー!」
という絶叫を楽しみにしながら。