シンは仮面ライダーになるべきだ 2回目

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348仮面ライダーSEED

「しかし君の生徒シンだったか?・・・なかなかやるね。おかげで僕は実験体を取り逃がしてしまったよ。」
賞賛半分、恨み事半分の言葉を発したバルドフェルドはカチャリと手にしたカップをテーブルに置いた。
辛辣な言葉とは裏腹にその口元はなぜか、楽しげに綻んでいる。
その態度はどう見ても、自分と向かい合って座る青年をからかっている様にしか見えない。
「申し訳ありません・・・。」
一方、青年ーーー、仮面ライダージャスティスことアスランはバルドフェルドの言葉を額面通りに受け取ったのか、
生真面目に頭を下げ、申し訳なさそうな声で謝罪の意を示した。
「く・・・ハッハッハ!!いやさっきのは冗談だ。顔をあげてくれアスラン。」
「・・・はぁ。」
あまりにも素直過ぎる自分の反応に、バルドフェルドがつい堪えきれず吹き出したとは彼には思いつけない。
アスランは狐につままれた様なキョトンとした表情のまま、視線を目の前の男に向け直す。
「まぁ・・・指示は先ほど言った通り、逃走した実験体の捕獲。ならびに障害となる存在の排除さ。
ライダーが出張ってるとはいえ、わざわざ君にやって貰う程の事でもないとは思うんだがねぇ。」
「いえ、任務は任務です。お任せ下さい。」
ここは秘密結社ザフト内部にあるバルドフェルドの執務室。
仮面ライダーインパルスとバルドフェルドが対峙して、既に三時間もの時間が経過していた。
そこで再び組織のライダーであるアスランに出動の要請が下ったのである。
349仮面ライダーSEED:2006/06/30(金) 00:51:44 ID:???

「いい返事だ、結構結構・・・そうだ今回は助っ人を用意してある。ダコスタ君・・・通してくれ。」
バルドフェルドはアスランの言葉を受け、ドアの向こうで控えていた副官へ案内に入って来るよう声をかけた。
・・・ガチャリ、という扉が開く音とともにバルドフェルドの副官ダコスタともう一人神経質そうな面持ちをした青年が入室してきた。
「アスラン・ザラだ・・・よろしく頼む。」
「マーレです、お噂はかねがね・・・ジャスティスの力を見る事が出来るとは幸いです。」
向き合い、にこやかな表情で短い挨拶を交わす二人の背にバルドフェルドが軽口を飛ばした。
「紹介しようアスラン、今回君に同行するマーレ・ストロードだ・・・逃走した実験体のゲイツの完成型の能力を有している。
彼はインパルスにかなりお熱でねぇ・・・まぁ足手まといにはならんだろうから、うまく使ってやってくれ。」
!?
その瞬間、マーレの表情がギリッと悔しげに歪むのをアスランは目にした。
「隊長、お言葉ですが・・・あのベルトは本来ならば彼が装着する予定だったものですよ?」
「ん・・・そういやそうだったか?」
漫才じみた会話を取り交わすダコスタ、バルドフェルドの二人をよそに
マーレは近くのアスランにだけ聞こえる様な声量で、彼を小馬鹿にするように小さく呟いた。
「アスランさん・・・アンタは何もしてくれなくて構いませんよ、アイツは・・・インパルスはオレの獲物ですから。」
「・・・!? 君は一体、何をーーー、」
「話は済んだようだな・・・ではアスラン、マーレ。直ちに急行してくれ。」
「ハッ、了解です!!」
・・・マーレ・ストロード、妙な男だ。
マーレの急激な変化にアスランは疑問を口にしようとしたが、バルドフェルドの指示に阻まれその心境を知る事は適わなかった。
350仮面ライダーSEED:2006/06/30(金) 00:53:00 ID:???

ドォン・・・とどこかで鳴り渡った砲火の音が鼓膜を小さく震わせる。
その物騒な音は遙か彼方、蜃気楼に揺らめく砂丘の向こうから聞こえてきた。
サァァァ・・・。
緩やかな丘の斜面を吹き抜けた風が砂粒を巻き上げ、青空に薄い黄金色のヴェールを織り成す。
ドォォン・・・。
束の間、僅かな耳鳴りと供に訪れた静寂を今一度、鳴り響いた砲火が打ち破る。
それに続く様に、今度はバラバラという間の抜けた銃声が空へ駆け抜けていった。
そう・・・ここは戦場。
僅かに揺らめく命の炎が一瞬で眩しく燃え上がり、次の瞬間には儚くきえている・・・そんな場所だった。

遙か向こうに砂丘を睨む一角に物々しい兵士の一団が待機していた。
多少の差こそあれ、緊張の色をその表情に浮かべている彼らの中で・・・我関せずといった具合にリラックスした様子の男がいた。
周りの仲間達が戦場特有のストレスに苛立つなか、彼一人だけはそんなものと無縁であるかの様に見えた。

『緑成す岸部ーーー、美しい夜明けをーーー♪』
彼はーーー、砂埃に塗れた水色の髪の合間に覗くヘッドフォンから漏れ聞こえる伸びやかな女生の歌声に目を閉じ、耳を澄まし続けている。
その表情は場に似合わず、穏やかそのものと言えた。
351仮面ライダーSEED:2006/06/30(金) 00:53:55 ID:???

「どうだい、調子は?」
耳に流れ込むメロディに合わせ、指で小気味よいリズムをとる青年に声をかけてきた男がいた。
肩に構えた無骨なライフルと対照的なその顔立ちは美しく整っていて、見る者に優男な雰囲気を与える。
「・・・イライジャか、何だ?」
イライジャと言うらしい男は返事を返す事なく、小さく微笑むと
コーヒーが注がれたマグカップを取り出し、気さくに勧めてきた。
青年は湯気をあげるカップの内側に一瞬、目を走らせると手を伸ばし、中の液体をズズ・・・と啜る。
「この間の事をまだ気にしてるなら・・・もう忘れた方がいいって。
それよりも今は次の戦いに集中するべきだ。」
イライジャはさして美味くもなさそうにコーヒーを飲む青年に励ましの言葉をかけた。
しかし、考え事をしていた彼の耳には届いてはいない。
彼の心中をよぎる出来事・・・それは彼ら傭兵部隊のキャンプで起こった、ある事件の事だった。
卑劣にも子供を使ったテロ攻撃が発生・・・青年はその時、胸に爆弾を抱いた子供が自分の目の前で
木っ端微塵になるのを目撃していた。
それ以来・・・彼は戦うという行為、戦争というものに嫌悪感を抱いていた。
『イライジャ、俺はもう疲れてしまったよ・・・。』
青年はーーー、いや紅い戦闘服に身を包んだ名高き傭兵、グゥド・ヴェイアは目の前の戦友に、このあと自分が戦場を離れようと考えている事を
どう切り出すべきか、しきりに考えているのだった・・・。
352仮面ライダーSEED:2006/06/30(金) 00:59:09 ID:???

「ハァハァ・・・うぐ、すまないイライーーー、」
ガァァーッ、ガタンゴトン・・・ガタンゴトン!!
悪夢にうなされているのか、苦しそうに喘ぐヴェイアは誰かの名を弱々しく呟く。
その声はしかし、途中で高架上を走る列車の音に阻まれ、最後まで聞き取る事が出来なかった。
「アンタもあいつらに傷つけられた一人か・・・似たモン同士かもな、俺ら。」
薄汚れた柱に身を預け、浅い眠りについているヴェイアを横目にシンはポツリと呟いた。
シンはついて来ようとする金髪の少女をどうにか捲きながら、ふらつくヴェイアに肩を貸しここまで逃げ延びてきたのである。
今はようやく一息つこうと腰を下ろし、体を休めている最中であった。
「・・・マユ。」
ヴェイアに背を向けたシンは手にした桜色の携帯を開くと、死んでしまった筈の妹の名を小さく口にする。
古びた携帯の待ち受け画面に映っているのは・・・彼の最愛の妹、マユの在りし日の姿だった。
彼女は常に変わる事なく愛くるしい満面の笑みを浮かべ、こちらを見つめている。
「マユ、俺みたいな奴がいたよ・・・どう思う?」
その絶対に変わる事ない表情はシンにとって安らぎであり・・・また悲しみと怒りの根元であった。
「家族・・・か?」
不意に聞こえてきた声にシンはビクリと身を震わせた。
反射的に背後を振り返る・・・。
気恥ずかしさと緊張に強ばる視線の先では目を覚まし、脂汗に塗れた顔のヴェイアが自分に視線を送ってきていた。
「アンタ、盗み聞きは良くないぜ。起きたんならちゃんと知らせろよ!!」
「起きた瞬間に君が呟いているのが耳に入ったものだから・・・すまなかった。」
「・・・うぐ。」
逆ギレ気味の自分の言葉をあっさり流され、シンは唸るしかなかった。
353仮面ライダーSEED:2006/06/30(金) 01:01:00 ID:???
ちぇっ、何かいけ好かないヤツ・・・ザフトに追われてなかったら助けないんだけどなぁ。
「ところで・・・頼みがあるんだ、えぇと・・・すまない。君の名前を聞かせてくれないか?」
「え、あぁ・・・シンだよ。俺はシン・アスカ。
で、頼みって?言っとくけど・・・金ならないかんね。」
自身の秘密を知られ、ヘソを曲げてしまったシンに何事かを頼み込もうとしていた。
その思い詰めた様な瞳は、彼の気持ちがいかに真剣か物語っいる。
「シン・・・君も見た通り、私はザフトの改造人間だ。
数年前、瀕死の重傷にあった私を彼らは回収。そして・・・この身に改造手術を施したのだ。」
他人事ではない彼の過去にシンは苦悶の表情を浮かべ、無言を貫く事でその先を促してやった。
「戦闘状態に陥ると、私は・・・自分で自分を抑える事が出来なくなる。
目の前の存在、全てを破壊し尽くす殺戮機械になってしまうのだ。
・・・このままではいつの日か罪なき人をこの手で殺めてしまうかもしれない。」
確かにありゃあ、正気な様子だとはとても思えないよなぁ・・・。
シンの脳裏に先ほどの光景が蘇るーーー、あの野獣の様な動きはたった今、語られた告白の内容に相違なかった。
ヴェイアはそんなシンの様子を肯定と受け取ったのか・・・意を決し衝撃的な要求を口にする。
「だからシンーーー、いや仮面ライダーインパルス。
頼む、君の手で私を葬ってくれ・・・。」


354仮面ライダーSEED:2006/06/30(金) 01:03:11 ID:???

「ここが・・・アイツの住んでいる場所か。」
シンが身を寄せる喫茶店、赤い彗星を目の当たりにしアスランがポツリと呟く。
『私は準備がありますもので少し遅れます・・・先に向かっていて貰えませんか?場所はーーー、』
マーレ曰く、シンと脱走した実験体はここに隠れ潜んでいるらしかった。
彼が来る前に…アイツを説き伏せれられればいいんだが。
アスランは有り得ない希望を一瞬、心に浮かべると店の手前に乗ってきたファトゥムを停め、
店内に入ろうとドアノブに手を伸ばそうとした・・・と、
ガチャッ!!
「あ、いらっしゃーい。」
アスランが店に入ろうとした瞬間、中からエプロン姿の少女が現れた。
ゴミを出そうと両手にパンパンに中身のつまったビニール袋がさげられている。
艶やかな赤毛をツインテールに結わえた彼女はアスランを席に案内すると、カウンターの奥にいる人物に声をかけた。
「おねーちゃーん、お客さんだよ!!」
「もうメイリンったら。そんな声出さないでよ、恥ずかしいじゃない。」
返ってきた声は活発そうな、これも少女の声だった。
やがてドタバタした足音とともにその人物が姿を現す。
「ごめんなさい、今マスター出かけちゃってて簡単なものし・・・あーっ!?」

「君は・・・確かルナマーーー、」
「やだァ、あたしの名前覚えててくれたんですねぇー。」
そこにはこの間、シンとの戦いのあとに公園で出会った少女、ルナマリアがいた。
両者は思いがけない出会いに軽い挨拶を交わす。
ジーッ。
?・・・俺の顔に何かついてるのか?
妙に長い間のなか、注文をとるでもなく、彼女はまじまじとアスランの顔を見つめていた。
その熱い眼差しにつられ、彼の頬が自然と赤くなっていく。
「え、何ナニ?お姉ちゃんこの人と知り合いなの?」
「ふふん、まーねー。」
不意にメイリンと呼ばれた少女が見つめ合う両者に割って入った。
アスランは目の前でやかましく騒ぐ赤毛の姉妹にややげんなりしつつも、ここへ来た用向きを口にする。
「えぇと・・・すまない君たち、シンはいないか?」
「えっ、シンですか?店に戻る途中で別れたっきりですけど・・・?」
頬を膨らましながら、じゃれつく妹をいなしがらルナマリアが彼の疑問に答えてくれた。
・・・どういう事だ?
ここにいる筈のシンが・・・何故かいない。
この不自然な状況にアスランはジワジワとした嫌なモノを感じていた。