218 :
31:
仮面ライダーSIN 第5話
「赤いMRも見つかってないってのに今度は爆発事件、か」
車の中でディアッカはひとり呟いた。辺りはパトカーの赤ランプとサーチライトの光で昼
間のように明るくなっていた。周囲はパトカーで埋め尽くされ、「KEEP OUT」と書かれた
黄色と黒の縞のテープで囲まれている。車の外では先ほどから現場の調査権を巡って警察
とイザークが口論を続けている。呼吸をするたびに白い吐息がライトの光に映し出されて
いた。空に向けられたライトもはっきりと軌跡を残している。霧が出てきたようだ。
「冷えてきたな」
ディアッカはカーエアコンの設定温度を上げた。車の鉄板が底冷えして車内の温度を下げ
ていた。窓の外を見ると現場からあふれたライトがイザークの横顔を映していた。眉間に
しわをよせ、身振り手振り、体を大きく動かしている。いつものようにうまくいっていな
いのだろう。ディアッカはハンドルから手を離し、シートを後ろに倒してもたれた。ズボ
ンの右ポケットから携帯電話を取り出して画面を見ないままリダイアルで電話をかけた
トゥルルルル、トゥルルルル
コール音は鳴るものの、電話に出る気配が無い。
「やっぱ出ないよな……」
コンコンと助手席のドアを叩く音がした。
――ずいぶん早くあきらめたもんだな
ディアッカは寝そべったままアームレストにあるボタンで助手席のドアのロックを外した。
そっとドアが開き、そっと閉じた。あれだけ興奮していれば車体が揺れるくらいの勢いで
ドアを閉めるかと思っていた。イザークにしては珍しい。意外に思いながらも悪い気はし
ない。電話を切り、シートを起こしながら言った。
「どうだった?」
声をかけた相手はイザークではなくミリアリアだった。ダッシュボードと助手席の間に体
をかがめて身を隠し、そっとフロントガラスから現場の様子をカメラで覗いている。
219 :
31:2006/05/29(月) 23:47:54 ID:???
「お、おまえ!」
「しーっ!」
ディアッカは車の周囲を見回してからひそひそ声でミリアリアに話しかける。
「何してるんだよ?会見場あるだろ?」
「毎回煙に巻かれて終わりの記者会見が何の意味があるのよ。プレスパスだって持ってる
のよ。取材する権利があるわ」
「だからって、公安の車に乗り込むのは明らかな越権行為じゃないのか?」
ディアッカはカーステレオの部分にある無線のスイッチを切った。警察の無線がノイズ交
じりではあるが入ってきていたからだ。
「交換条件くらいは用意してるわ。私、赤の騎士(ナイト)に会ったの」
「アイツにか!」
「赤の騎士」は赤いMRを装着するアスランのコードネームだ。あの日事故現場の人ごみに
いたのはやはりアスランだったのだ。先の大戦で彼が装着していたジャスティスに比べれ
ば随分と濃い赤だが、赤いMRが彼だとすればつじつまが合う。それを聞いたディアッカは
助手席に身を乗り出していた。
「バカ!私がいるのがばれるでしょ」
ミリアリアが語調を強めながらも抑えた声で言う。そう言いながらもミリアリアはファイ
ンダーから目を離そうとしなかった。じっとファインダーの中を覗きながらこの場の空気
を切り取ろうとしている。
「例の赤いMRはアイツなのか?」
「そこまでは確かめてないわ。聞いたら逃げられそうだったし。それに聞いたって答えな
いわよ。私たちが知ってるアイツだったらね」
「……かもしれないな」
「あー、ここからでもダメか」
ミリアリアがカメラから望遠レンズを外し、バッグに片付けた。そしてフロントとサイド
ウィンドウからこちらを見ている人間がいないことを確認する。
「じゃ、私はこれで」
そう言うとミリアリアはそっとドアを開けて隙間から滑りぬけるように外に出る。
「おい、待てよ」
「何よ」
「オマエさあ、ヤバいことに首突っ込みすぎじゃないのか?」
「アンタたちと違って給料もらってるわけじゃないの。多少の無茶はしなきゃ食べていけ
ないもの」
「なあ……」
220 :
31:2006/05/29(月) 23:49:03 ID:???
ディアッカが神妙な面持ちをする。話を切り出そうとしたのをミリアリアが妨げた。
「ストップ!そこまで。それ以上先を言ったら引っ越して着信拒否するわよ」
「おいおい、そりゃないだろ」
「まだ私、自分で何かしたわけじゃないもの」
ミリアリアはそう言って走り去った。ディアッカが苦笑いを浮かべて空いたままのドアを
閉じた。
「またやっちまったな」
そう呟いてシートに身を預けた。感傷に浸る間もなく車体が大きく揺れた。
「クソっ!石頭どもめ!」
イザークの怒鳴り声が車内に響く。物に八つ当たりしなくなっただけ進歩したと言うべき
だろうか。
「ダメだったのか」
「何が我々にお任せくださいだ!貴様らが何もしないから事態が悪化するんだろうが!!」
「そうカッカすんなって。ほら、これでも飲んで落ち着け」
ディアッカは後部座席に置いておいた缶ジュースをイザークに渡した。
「まったく……」
イザークがブツブツ言いながら缶を開けようとした手を止めた。
「ん?」
「どうした?」
「香料の匂いがする。どうしてだ?まさか貴様……」
イザークがものすごい形相でディアッカをにらみつけた。殊こういう事となるとイザーク
の追求は厳しい。
「オマエが何を想像したかは知らないけど、ミリイの奴が来てたんだよ」
「公私混同は止めろとあれほど言ってるだろうが!」
「ちょっと、落ち着けって。何も世間話をしてたって訳じゃないんだぜ」
「なら、いちゃついてたとでも言うのか!?」
221 :
31:2006/05/29(月) 23:50:04 ID:???
ミリアリアがコーディネイターでないこともあってイザークは元々二人の仲をよく思って
いなかった。差別をしているつもりはないのだが、うまくいかなかった話は山のように聞
いているし、相手にも危害が及びかねない。
「最後まで聞けよ。アスランがこの街に帰ってきてるんだ」
「何!奴がいるのか!どこにだ!?」
好敵手アスランが帰ってきていると知ってイザークのテンションは更に上がっていった。
いつの間にかディアッカの胸ぐらをつかんでいる。
「落ち着けって。そこまでは分からないってさ」
「……車を出せ」
イザークは胸ぐらから手を離してシートベルトを締めた。ディアッカも服をなおしながら
ハンドルを握ってエンジンをかけた。
「帰るのか?」
「ああ」
イザークが無線のスイッチを入れてレシーバを手に取った。
「こちら102号車。ハーネンフース、いるか?」
『はい、隊長。なんでしょうか』
「MSトレーラーを1台用意してくれ。使用するMSは3機。オペレーターはオマエ1人でい
い」
『3機、ですか?』
「ああ。俺が帰るまでにオレのサインだけで済むように手続きをしておいてくれ」
『分かりました』
通信を終わらせた。
――後は奴が気付くかどうかだ。
イザークは無線のチャンネルを切り替えていく。検問にかかっているような暇はない。警
察は明日の14日にこだわっているようだが、事は今夜中に起こる。イザークにはそんな予
感がしていた。
222 :
31:2006/05/29(月) 23:51:03 ID:???
学校の体育館でシンが眠れない夜を過ごしていた。あの後、詳細が報道されないまま避難
警報要請が出て学校に連れてこられていた。場所が変わって寝付けないのもあるのかもし
れないが、爆発事件が自分を探している者の仕業だとしたら、そう思うと気が気ではない。
そういった恐怖がシンの気を張らせていた。
緊張でのどが渇いてきたので下の階の自動販売機へ行くことにした。周りの人間を起こさ
ないように忍び足で通路を抜けていく。階段までついて一息つくと下の階からなにやら声
がする。アレックスの声だ。ボソボソとした声ではっきりと聞き取れないが階段下の公衆
電話でどこかと話をしているようだ。
――今出るのはまずいな
アレックスのことだ。ここで出て行ったら小言を言うだろう。面倒なので終わるまで階段
の上で待つことにした。
アレックスは夕方にミリアリアから受け取った名刺の連絡先に電話をかけていた。電話を
かけると電話の代行デスクらしき場所に繋がった。
「ジャーナリストのミリアリア=ハウにつないでくれ」
『お名前は?』
「赤の騎士が連絡をしてきたと伝えてくれ。分かるはずだ」
『少々お待ちください』
保留音がしてほどなく、回線が切り替わる音がした。
『もしもし?連絡が来ると思ってた。市内の事故のことでしょ?』
「君に聞こうなんて随分と虫のいい話だとは思ってる……だが、オレは事実を知りたいん
だ」
『いいわよ。どうせ警察の公式見解じゃないから上に言っても通らないネタだったし。ジ
ャーナリストとしてじゃなくてじゃなくて私個人として教えてあげる』
「すまない……」
『目撃証言によれば市内を暴れまわってるのはトサカの付いた黒いモノアイのMS。先の大
戦で公安が使っていたジンにそっくりだったらしいわ』
「ジンが出てるのか!?」
黒いジンは故・パトリック=ザラの親衛隊が装着していたMSである。アレックスが声を荒
げた。その声は階段の上にいたシンにも伝わった。
223 :
31:2006/05/29(月) 23:51:50 ID:???
――ジンが出てる?
シンはしゃがみこんでできるだけアスランの声を聞き取ろうとした。アスランの様子は電
話ごしにミリアリアにも伝わっていた。
『落ち着いて。まだ誰がMSを使っているのかは分かってないわ』
「だが……」
『ディアッカとイザークを現場で見たから、少なくとも公安は知らないってことだろうけ
どね』
「ありがとう。それだけ聞けば十分だ」
そう言ってアレックスは電話を切った。シンには結局市内にMSが出没したこととアレック
スが動揺していることくらいしか分からなかった。電話が終わってからすぐにアレックス
はバイクでどこかへ出かけていった。
「アレックスが出かけたようだね」
シンはビクッと身を震わせた。振り向くとデュランダルが立っていた。電話に気を取られ
ていたとはいえまるで気配を感じなかった。シンは戦慄した。そうは思いたくないがデュ
ランダルが自分を狙っていたとしたらと思うと生きた心地がしない。デュランダルはこわ
ばったシンの顔をじっと見ながら言った。
「君はどうしたいんだい?」
「オレは……」
シンは目を逸らさないことだけに必死で、すぐにその問いに答えることは出来なかった。
街は夜霧に包まれていた。バイクのライトも霧によってその軌跡を映し出すだけでさほど
役に立ってはいない。アレックスはバイクを走らせながらあることを考えていた。ミリア
リアの言うように黒いジンが現れたとしたら行き先は一つ、ユニウスセブン平和公園だ。
バイクを止めるとライトがアレックスに向けてライトが照らされた。
「待っていたぞ。貴様ならここに来ると思っていた」
イザークが仁王立ちしている。後ろからディアッカがこっそり手で「よっ」と合図をする。
二人の後ろには公安部の大型トレーラーが控えていた。サイズからしてMSとサポートシス
テムを搭載したものだろう。
224 :
31:2006/05/29(月) 23:52:38 ID:???
「トレーラーに乗れ」
「えっ?」
アレックスは驚きの声を上げた。イザークが呆れた様子で言い放つ。
「貴様、まさか生身のままやる気だったと言うんじゃないだろうな」
「そのつもりだった。万が一のときは……」
アレックスは手を握り締めた。
「おいおい、よしてくれよ。その万が一にまきこまれるオレたちの身にもなってくれ」
「オレはかまわんぞ。決着をつけてやる」
ディアッカが首をもたげてため息をついた。この二人は昔からそうだ。アカデミーでの成
績、チェス、ミッション、そのすべてで対決し、どちらが勝とうが負けようが周りに八つ
当たりする。それでいて当人同士は分かり合っている面があるだけになお始末が悪い。デ
ィアッカも相当酷い目に遭い続けてきた。
トレーラーに乗り込むと奥にMSのオペレート用の装置があり、側面のハンガーにモノアイ
の緑色のMSが3機吊り下げられていた。装置の前にはシホが座っている。
「どうだ!?状況は?」
「もう少しで起動準備が整います」
「と、いうことだ。おい、お前ら!出撃だ」
「へいへい。ほら、オマエのだ」
ディアッカがMSの下に着るパイロットスーツをアレックスに渡した。
「隊長。後ろのバイザーは何ですか?」
シホが言う。アレックスは薄暗いコンテナの中でも濃い色のバイザーを外そうとしない。
顔の動きを見ている限り視覚矯正ディバイスというわけではなさそうだ。以前に軍の特殊
部隊が似たようなバイザーをかけていたことがシホの不信感を煽った。
「旧友だ。オレの権限でMSを装着させて参加させる」
「そんな!民間人にMSを装着させるなんて始末書じゃ済まないかもしれませんよ」
「事態を悪化させればその引責で処罰を受けることになる。ならば被害を最小限にとどめ
る方を選ぶのが公僕たる我々の務めだろうが!貴様らもさっさと支度をしろ」
「言われなくてももう始めてるって」
225 :
31:2006/05/29(月) 23:53:28 ID:???
ディアッカとアレックスはパイロットスーツを既に着用していた。アレックスはヒジやヒ
ザ、指を曲げてスーツを着たときの感覚を確かめていた。先の大戦の中盤からMSを着用し
ていないアレックスにとって久しぶりの感触だった。
「ずいぶん念入りだな」
その様子を見たディアッカが声をかける。
「ああ、久しぶりだからな」
「足手まといにはなるなよ」
イザークの言い草にディアッカは頭を抱えた。このままでは自分も道連れにされかねない。
とにかく何か話題を変えることにした。
「に、しても分からないな。なんでここを狙う奴らがあんな街のはずれを爆破したん
だ?」
「それは俺にも分からん。ここなら式典に参加するVIPを狙うため、というのは分からん
でもないが……」
「その程度の確証でよくMSを出させたな。空振りしたらまた面倒だぜ」
「奴らは必ず来るさ。黒いジン……奴らはパトリック=ザラの亡霊だ。理由はどうあれ亡
霊はモニュメントに引き寄せられる」
アレックスが呟いた。コーディネイター至上主義を掲げる超保守派の残党は未だ各地に点
在している。彼らが故・パトリック=ザラの主張を元にコーディネイター主体の国家を作
り上げようとする動きは未だ根強い。大戦から2年、コーディネイターであることを隠し
て生活することに次第に無理がきはじめていたのかもしれない。
「準備が出来ました」
シホがそう言うとハンガーに吊るされているMSが部位ごとに分割されて着用者が入り込む
ように開く。まずがディアッカが装着を始める。
「OK、いいぜ」
シホは後ろを向いてディアッカの状態を自身の目でも確認をしてからMSのロック操作を始
めた。モニターに表示されたディアッカの体格に合わせてパーツの位置を調節し、足から
順にロックしていく。そして最後に動力パイプが前面にむき出しになっているモノアイの
フェイスマスクが装着された。
「ディアッカ機、システム機動」
シホの声と同時にモノアイが点灯する。
226 :
31:2006/05/29(月) 23:54:58 ID:???
「続いて……。バイザーの人。お名前は?」
「アレックス=ディノだ。アレックスでいい」
「では、アレックス機、装着スタンバイ。装着を開始します」
アレックスの体にMSが装着されていく。フェイスマスクが装着され、視界が真っ暗になっ
たが、すぐにモニタに映像が映し出された。最後にイザークの装着が行われた。イザーク
のフェイスマスクにはトサカ状のアンテナブレードが付けられている。古くはNジャマー
影響下での通信機能の弱かったジンが通信機能の拡張のためにトサカを付けたのが始まり
だが、通信装置の改良が進んだ現在ではアンテナブレードは隊長機を示すもので、機能的
な役割は失われていた。
MSを装着した3人にシホから通信が入る。
『いいですか。そのMS――ZAMF-X1000は作業モードでは数時間、戦闘モードではで1時間
強しかバッテリーが持ちません。各種リミッターの解除はバッテリー残量が急激に減るの
で緊急時以外は使用しないでください。パージ用の電源は残しておいてください』
「もし、パージ用の電源まで使い切ったとしたら?」
アレックスが尋ねた。
『セカンドシリーズのMSは以前のものに比べて自力での可動域を広めに取っていますがそ
れでも歩行で限界です。切れる前に帰還してください』
「補給は?」
『1回分のみです』
「それだけあれば充分だ。行くぞ」
トラックのコンテナが開くと一層冷え込んだ外気が霧を濃くしていた。2年前の2月14日も
霧の濃い日だった。そして、この霧が敵の侵入を許したのだった。
平和公園の記念碑の前に数人のモノアイの光と人影が映し出されていた。
「人数が足りないようだな」
リーダー格の男、サトーが声をかけた。
227 :
31:2006/05/29(月) 23:56:15 ID:???
「途中、ヨップたちが軍のMRに発見されて自爆して果てたようです」
「そうか……だが、無駄ではないぞ。ヨップたちが警察や軍の目をそちらに向けさせたお
かげで、こちらが手薄になっていた。礼を言う」
そう言うとサトーは残りのメンバーの方を向いて声をかける。
「平和と言い換えられた支配を今日、この場で打ち砕くときがきた。腐敗した政治家ども
を道連れに我々はコーディネイターにとっての平和の意義を問いただす!!我々は礎になる
のだ!!」
サトーの言葉に黒いジンたちから歓声が上がった。
「能書きはそれまでだ。待ちくたびれたぞ」
イザークの声がそれに水を差す。イザーク、ディアッカ、アレックスのモノアイが灯り、
黒いジンたちにその存在を知らせる。イザークたちにはジンの姿が映り、ジンの装着者た
ちからはZAMF-X1000、公安の新たな主力MS――ザクが映っていた。
「平和に飼いならされた公安の狗か!貴様も改造人間(コーディネイター)なら分かるだ
ろう!パトリック=ザラが取った道こそが我々にとって唯一の手段だったことが!」
「黙れ!貴様らのしていることは単なるテロ活動にしか過ぎん!恐怖の代償との取引など
許されてなるか!」
一触即発、双方共に戦闘態勢に入ろうとしたそのときだった。
「動くなっ!」
サトーが叫んだ。
「ここに来る前に市内の避難場所数箇所に仕掛けてきた。起爆装置のレバーを引けば避難
所ごと木っ端微塵だ」
「貴様っ!!卑怯だぞ!!」
「我々のように少数で事を成すにはこれしか方法が無いのだ。それが我々コーディネイ
ターにとっての正義を果たすなら、そのための誹りは受けよう!!」
『……何が正義だ』
MSの通信に何者かが割り込んできた。
「誰だ!」
辺りを見回しても濃霧のせいでその姿を捉えることはできない。
『誰かに犠牲を強いることが……それが正義だって言うのか!アンタは!!』
228 :
31:2006/05/29(月) 23:57:08 ID:???
刹那、全員のモニタに一筋の青い閃光が走った。光が地面に接触して衝撃波が走る。風が
辺りを包んでいた霧をなぎ払い、ビルの窓ガラスを振動で吹き飛ばした。その場にいたMS
は衝撃に耐えることがやっとで、その姿を正視することはできなかった。
「あの子を行かせたですって!?」
夜更けの理事長室にタリアの声が響いた。デュランダルに話があると持ちかけられて部屋
に入れてみればこの有様だ。タリアは頭が痛くなってきた。
「ああ。彼がそう望んだ。私はそれを手助けしただけだ」
「あの子は軍にも狙われてるんですよ!あなたも分かってるでしょう!」
「分かっているさ。だが……」
デュランダルは一旦間を置いた。タリアが続けざまに聞く。
「どうだとおっしゃるんですか」
「あの子を見ていると何故かそうする気にはならなかった。あのMRの開発名を思い出した
よ。彼はそういう運命を背負った者なのかもしれない」
デュランダルは立ち上がって窓からシンが向かった平和広場の方向を眺めた。
衝撃波が収まって辺りから霧が戻り始めたとき、ようやくその姿を見ることができた。起
爆装置は砕け散り、左足に電撃をまとった青いMRの姿があった。仁王立ちしていたサトー
がMRに向かって叫んだ。
「なかなかやるな。貴様、名を名乗れ!」
「衝撃、インパルス」
第五話 おわり