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仮面ライダーSEED DESTINY
第1話「仮面ライダー」中編
「……なに?あれ?」
ぼんやりと空を見上げていたルナマリアは呟く。
「どうした?」
とっくに、笑いの発作の収まったレイがいつも通りの無表情で尋ねる。
「空に、なにかいる」
見上げると確かに、幾つか点のような物が見える。
そして、それは少しづつ大きくなってくる。
「……人?なんかのアトラクションかな?」
不審げなルナマリアの声を聞きながら、レイは目を凝らす。
――……まさか。
ダンッ!
突然、レイは立ち上がった。
「!?なっ、なに?どうしたの!?」
「……奴らだ」
慌てるルナマリアにレイは静かに、しかし緊張を孕んだ声で応える。
「奴らって?……まさか!?」
「そうだ、未確認生命体だ」
ピー、ピー、ピー。
病院を出て、駐車場に停めておいた、大型の青いバイクに跨ろうとした時、通信機の呼び出し音が鳴り響いた。
「はい、こちら、シン・アスカ」
素早く通信機のスイッチをONにして少年は応える。
『シン君?良かった、繋がって』
安堵の溜め息と共に若い女性の声が流れる。
『アビーさん?どうしたんです、なにかあったんですか?』
シンは尋ねる。
1日とはいえ、正式な休暇の途中で呼び出しを受けるとは尋常ではない。
『ちょっと待ってね、隊長に代わるわ……』
『……シン、聞こえる?』
オペレーターのアビー・ウィンザーと代わって、落ち着いた女性の声が流れる。
「はい、聞こえています。それより隊長、なにがあったんです?」
タリアに尋ねながら、シンの心がざわめく。
――まさか?……いや、しかし……でも。
悪い予感、いやそれは確信に近い。
『シン、コンディションレッド発令よ』
「……コンディション、レッド……」
『奴らが、未確認生命体が出現したわ』
140 :
73:2006/05/11(木) 17:25:07 ID:???
――奴らが……。
ギリッ。
知らず知らず、拳を握り締め、奥歯を噛み締めていた。
湧き上がる感情。それは……。
「……シン、シン?聞いてる?」
「……聞いてますよ。どこです?」
意外にも平静な声が出せたことに、シンは自身、軽い驚きを感じた。
『……D-1地区の遊園地内よ。レイとルナマリアは既に現場にいるわ。……と、いうより、彼らの所に奴らが出現したんだけど……』
――そういえば、ルナが遊園地に行くとか、言ってたな。
シンは思い出す。
『レイたちは武装していないわ。すぐ、現場に向かってちょうだい』
「了解!」
応えて、シンはバイクに跨り、イグニションをONにする。
ブルンッ!
エンジンは一発で起き、重々しい音を出す。
『……シン』
タリアの声に躊躇いが含まれる。
「なんですか、隊長?」
不審を感じながらもシンはアクセルを開き、クラッチを繋げる。
ヴォンッ!!
爆音を上げ、大型のバイクが、放たれた青い矢のように、発進する。
『あなた、喜んでる?』
「?」
『私を含め、多くの者が、奴らの再出現を疑問視していたわ。でも、あなただけは、それを信じていた……』
「……」
『そして、奴らは現れた。その予想が的中して、今、あなたは、嬉しい?』
切りつける風の中、シンは微かに唇の端を釣り上げた。
「嬉しい?そうですね、確かに喜ぶべきかも知れない。……でも」
更にアクセルを開き、バイクを加速させる。
心の中で渦巻く感情。
それは、喜びなのだろうか?
――違う。これは、喜びなんかじゃない!!
「オレが感じてるのは、奴らに対する、怒りだけです!!」
叫ぶその瞳は、燃え盛る炎のようだった。
遊園地は歓声から一転、阿鼻叫喚に包まれていた。
空から舞い降りた、複数のそれに、最初人々は訳が分からず、呆然となった。
そして、誰かが叫んぶ。
「未確認生命体だ!逃げろ!」
その叫びはゆっくりと人々の中に浸透し、戸惑いはやがて恐怖に変わる。
「に、逃げろー!」「きゃー!」「うわー!」
そして、その叫びに呼応するように、それも動き始める。
一見人間のように見えるそれは、白いぶよぶよした皮膚に覆われ、節くれだった手足の先には鋭い爪を備えている。
頭には2対の赤い複眼のような物を持ち、口は左右に裂ける牙のようだった。
その姿は、正に怪人と言うべきだろう。
怪人たちは堰を切ったように人々を襲い始める。
141 :
73:2006/05/11(木) 17:27:03 ID:???
「ギャー!!」
一人の男性が怪人に襲われる。
鋭い爪に肩を裂かれ、倒れ込む。
「う、うわぁ、く、来るなぁっ!!」
必死に逃げようとする男に、怪人はゆっくりと近づいて行く。
「ハァーッ!!」
突然、声と共に、怪人の足が払われ、怪人が転倒する。
「逃げて!」
ルナマリアは、倒れた怪人を見据えながら、叫ぶ。
「き、君は?」
「いいから、早く!」
そうしている間にも怪人は立ち上がろうとしていた。
「わ、わかった。……すまない」
男はなんとか立ち上がり、逃げ始める。
ガァァァ!
立ち上がった怪人が怒りの叫びを上げ、ルナマリアに襲い掛かる。
「ハァッ!!」
その鋭い爪をかわして、ルナマリアは怪人の胸部に肘を叩きつける。
たまらず、怪人が数歩後ずさる。
その機にルナマリアも距離を取り、怪人に背を向ける。
どうやら、怪人は完全にルナマリアに目標を定めたらしく、彼女を追い始める。
「……さあ、付いてらっしゃい」
言いながら彼女は先ほどのレイとの会話を思い出す。
――どうやら、群れで行動するタイプのようだな。
――どうしょう、レイ?
――残念ながら、今の俺達では奴らを倒すことは出来ない。
――じゃあ、ミネルバに?
――それでは、被害が広がってしまう。
――じゃあ、どうするのよ!?
――俺達が囮になる。
――囮?
――そうだ。奴らは自らに攻撃を加えてくる者を優先して襲う習性がある。
――あっ。
――2人で、奴らに攻撃を加えて奴らをおびき寄せる。敵は20体程だ。出来るな?
――任せて。
――おびき寄せる場所は中央の広場だ。
――了解。
駆け出しながら、ルナマリアは次の怪人を探す。
瞬間、妹のメイリンのことが頭をよぎる。
――あの子だって、ザフトの一員。それに、ヴィーノとヨウランも一緒だし、きっと大丈夫。
と、2体の怪人に襲われている、カップルが目に入る。
「あたしだって、伊達に赤を着てるわけじゃないんだからー!!」
ルナマリアは叫んで、全力で駆け出した。
142 :
73:2006/05/11(木) 17:30:13 ID:???
――どうやら、上手くいったようだ。
中央の広場に着いたレイは後方を振り返る。
後ろからは十数体の怪人がゾロゾロと彼を追い駆けて来ている。
この怪人たちは力や耐久力はかなりのものだが、動きはそれほど素早くはないようだ。
おかげで、レイは比較的容易に怪人たちをここまで導くことが出来た。
――だが、このままでは……。
冷静に彼は考える。
確かに怪人たちの動きは遅い。だが、こちらには怪人たちを倒す手段がない。
殴ろうが、蹴ろうが、多少痛がりはするものの、怪人たちにダメージを与えることができないのだ。
「レーイ!」
見るとルナマリアが数体の怪人を導きながら、こちらに向かってきていた。
広場のほぼ中央で2人は合流する。
「これで、全部、かな?」
「たぶんな」
お互いに背中を合わせながら会話する。
その間に怪人たちが2人を取り囲む。
「やっぱり、手強い、わね」
荒い息を吐きながら、ルナマリア。
「ああ」
対して、レイのほうはそれほどではない。
「MSを、装着、できれば……」
「あまり、喋るな。呼吸を調えろ。ここからが正念場だ」
じりじりと包囲を狭めてくる怪人たちに目を遣りながら、レイ。
「……そうね。……まったく、情けないわね」
息を整えながら、ルナマリアは自虐的に笑う。
「気にするな、俺は気にしない。……それにどうやら、間に合ったらしい」
「え?」
薄く笑うレイにルナマリアは訝しげな表情を浮かべる。
ヴォン、ヴォォン。
重々しい爆音が響きわたる。
「これって、……スプレンダー?」
次の瞬間、青い旋風が怪人たちの一角を突き破った。
「ルナ、レイ、無事か!?」
旋風は、バイクとそれに跨る少年に姿を変える。
バイクはタイヤを滑らして、レイとルナマリアの前で急停車する。
「シン、遅いわよ!」
「て、大丈夫みたいだな。レイは?」
口を尖らすルナマリアを後目に、シンはレイに尋ねる。
「問題ない」
「そうか」
無表情に応える同僚の声に、シンは軽い安堵の溜め息を吐く。
「後は、オレに任せろ!」
言ってシンは上着を翻す。その腰には奇妙なベルトが巻かれていた。
143 :
73:2006/05/11(木) 17:32:00 ID:???
「キャーッ!!」
突然、悲鳴が上がる。
「くっ、まだ人が残っていたのか!?」
慌てて、周囲を見回す3人。
「!?」
ルナマリアはゆっくりと空に上がって行く赤い風船に気付いた。
「……あそこっ!!」
そこには、小さな男の子を抱えた男女がお互いを庇い合うように、うずくまっている。
その前に1体の怪人が立ち、鋭い爪を振り上げようとしていた。
「!!」
シンの頭の中で忌まわしい記憶がフラッシュバックする。
――逃げろ!!シン!マユ!……グァァーッ!!
――マユ、キャァーッ!!
――お兄ちゃーん!!
瞬間、シンはアクセルを全開にする。
――そんなこと、そんなこと!!
「させるかぁーっ!!」
撃ち出された弾丸のように、発進するバイク。
その距離、僅か数十m。だが、それは絶望的な距離だった。
周囲を囲む怪人たち。親子の眼前に立つ怪人。
どう見ても、間に合わない。
しかし、シンは叫ぶ。
「変身!!」
『チェンジ・インパルス』
無気質な疑似音声と共に、シンはバイクごと、青い光に包まれる。
光はとてつもない速さで加速し、進路上の怪人たちを弾き飛ばす。
「うおぉぉぉっ!!」
ゴガッ!!
鈍い音を立て、光はそのまま、爪を振り下ろそうとしていた怪人にぶち当たる。
ゴアァァァ!!
苦鳴のようなものを上げながら、怪人が吹き飛ぶ。
親子の前で停止した光はゆっくりと薄れ、その姿を現す。
全身を白いピッタリとしたスーツに身を包み、胸と肩は青の、腕、腰、脚は白い装甲のようなものに覆われている。
頭部もヘルメットのようなものに覆われ、額からはVの字型のアンテナが伸び、人のような二つの目を持っている。
その姿はまるで……。
144 :
73:2006/05/11(木) 17:33:17 ID:???
「早く逃げてください!!」
声はシンのままで、それは親子に声を掛ける。
「「ひいぃっ!」」
しかし、両親は悲鳴を上げて後退ろうとする。
彼らには、それも、怪人も変わらず、同じにしか見えないのだろう。
だが、小さな男の子は不思議そうな顔をして、それを見上げる。
そして、その小さなな手に握りしめた人形を掲げる。
「かめん、らいだー?」
「え?」
一瞬、呆気に取られる。
仮面ライダー、それは何十年も前から作られているテレビヒーローの名前だ。
バイクに乗り、仮面と強化スーツに身を包み、悪と闘う、ヒーロー。
シンも小さい時から見ていたのでよく知っている。
男の子の掲げる人形もよく見れば、仮面ライダーだった。
「……」
男の子の目は期待に満ちている。
知らず知らず、彼は頷いていた。
「……そうだ、俺は仮面ライダー、仮面ライダー・インパルス!」
「かめんらいだー、いんぱるす」
ぱっと男の子の顔が輝く。
「……シン!」
ルナマリアとレイが駆け寄ってくる。
「ルナ、レイ、この子たちを頼む」
シン、いや、インパルスはバイクを降り、群がる怪人たちに向き直る。
「がんばれー、かめんらいだー!がんばれー、いんぱるす!」
背後から、男の子の声援が届く。
――そう、マユを目覚めさせ、父さん母さんの仇を討つことが、オレの戦う理由。
すぅっと、腰を落とし、インパルスは戦闘体勢をとる
――でも今は、あの子の笑顔のため戦う!この力で!!
「これ以上、貴様等の好きにはさせない!このオレが、仮面ライダー・インパルスが、貴様等を倒す!!」
叫びと共に、インパルスは怪人たちの群れに飛び込んでいった。
(今度こそ)後編へ続く