シンは仮面ライダーになるべきだ 2回目

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仮面ライダーSIN 第一話「誕生」

C.E.70――外宇宙から来たと思われる生命体の襲撃に対応するため、人類はパワードスー
ツの発展系のMA(Masked Armor system)を開発。次第にパワーアップする未確認生命体
に対してMAはより強力な兵器を搭載するために巨大化・肥大化の一途をたどっていった。

だが、サイズが変わらずに強化していく未確認生命体に対して、鈍重なMAでは対応しきれ
なくなっていた。また、MAはその運用形態から非人型であることが多く、増加する戦死者
に対して装着者の育成が追いつかないという問題があった。

そこで、これまでの戦闘経験から体にフィットし、より直感的な操作が可能なMS(Masked
Armor system)を開発。だが、MSは発熱量・装着時の体への負荷など通常の人間に耐え
られるものではなかった。本来は廃棄される予定だったが、軍上層部の意向によりMSを装
着可能なコーディネイター(調停者・適合者)と呼ばれる改造人間を生み出すことになっ
た。

MSを装着したコーディネイターの成果はめざましく、未確認生命体を撃破・拿捕すること
に成功するまでになった。拿捕した未確認生命体を元に軍部は未確認生命体の解析を進め
た。その解析結果によって生まれたのが瞬時装着システムを備えたMR(Masked Rider
System)だった。MRにはその象徴としてブレードアンテナとデュアルアイを備えた独特
のマスクを付けられている。また、呼称は未確認生命体が用いていたシステムの名称をと
って「ガンダム」またはその頭文字をとって「G」と呼ばれることになった。

軍部は兵士の更なる能力強化を図るため、コーディネイターに未確認生命体から抽出され
たEVIDENCE-01因子を埋め込むことになった。しかし、拒絶反応が激しく、生きながらえ
ることができたのはキラ=ヤマトとアスラン=ザラの二人だけだった。未確認生命体との
戦闘が終結に向かうにつれ、コーディネイターの脅威を感じ始めた軍上層部はコーディネ
イターの処分を始める。それに軍に反発したコーディネイターや、軍の独走を良く思わな
い公安部はZ.A.F.Tという秘密組織を作り、密かに抵抗活動を始めた。この内紛によって
未確認生命体による被害は増大していた。

そんな中、キラは人間のために、アスランは改造の人間のために戦い、お互いのMSを大破
させるに至った。その後、キラはMRフリーダムをアスランはMRジャスティスを装着し、未
確認生命体の母体である羽クジラを撃破。キラとアスランはこの戦闘で行方不明になる。

地球に平和がおとずれ、軍諜報部は平和になって不要の存在となったコーディネイターを
殲滅する方針を継続した。コーディネイターは特殊な検査を行わない限り、ナチュラルと
見分けがつかないため既に社会の中に溶け込んでいた。そのため、いつその危険性が発露
するか分からないとの判断からである。しかし、これは軍上層部と公安部の対立が遠因と
なっており、少なからぬ批判の声が上がっていた。

そして終戦から2年後のC.E.73。悲劇は再び繰り返されることになる。
10531:2006/05/04(木) 23:54:30 ID:???
「起きろ」

少年が目を覚ましたのは純白の部屋だった。まぶたを閉じていても額に強い光を感じる。
薄目を開いてみたが照り返しが激しく、とても目を開けていられない。額に手をかざして
ゆっくりと立ち上がった。天井からじりじりと照りつけ、照明が部屋を白で塗りつぶして
いる。そこに影の姿は無く、部屋の広さもよく分からない。四方八方から反射された光は
少年の姿を消すほどだった。

「これから戦闘訓練を始める」

機械越しの濁った声はどこからとも無く聞こえてきた。少年は辺りを見回したが人影は無
い。だが、確かに何かがいた。音がするのだ。風を切る音が耳に届いた頃には少年は地面
に倒されていた。

「うっ」

少年は唸った。だが、次の瞬間に風の音が聞こえたときには姿勢を立て直していた。少年
はもう一度横目で周囲を見渡すが人の気配は感じられない。部屋の真っ白な壁と照明のせ
いで距離感も感覚もずいぶん鈍っている。再び音がしたときには全身に衝撃が走っていた。
構えているぶん、倒されはしないものの、こんなものを何発も食らっていたら今日の命も
危ない。少年の頭に「訓練」から帰ってこなかった妹、マユの顔が頭に浮かんだ。

――そうだ。こんなところでやられている場合じゃない。

少年は深呼吸をした。

「やあぁっ!!」

空を切ることを承知で少年は拳を前に出した。大降りにならないよう、できるだけ広範囲
をカバーできるように、今までの「訓練」で身につけた型を繰り返した。かすりでもすれ
ば後は姿が見えずとも一発は叩き込める。その刹那、拳の先に硬く、冷たい塊が触れた。
つかさず少年は回し蹴りを繰り出した。すねにズシリとした感覚がのしかかってくる。そ
の先にふっとモノアイが浮かび上がった。

――MSかっ!?

少年がそう思った刹那、モノアイは消えていた。相手がMSだと分かり、少年の顔には絶望
が見え隠れしていた。聞きかじった知識だがMSは前の戦争に投入された一種の軍事用パ
ワードスーツで、このスーツのおかげで人間は未確認生命体と戦うことが出来るようにな
った、少なくともそう聞かされていたからだ。
10631:2006/05/04(木) 23:56:21 ID:???
型を続けるうちに少年は肩で息をしていた。ハンドガン76発分の衝撃に耐えられる装甲を
持ったMSに生身で戦うことが無理なことなのだ。加えて、この状況で音だけを頼りに戦い
続けるには無理がある。少年は真紅の瞳をゆっくりと閉じた。荒くなった息を沈め、心臓
の音をゆっくりと聞いていた。シュッと右から風を切る音がした。

次の瞬間、うめき声とともに地面に崩れ落ちる鈍い音がした。少年のカウンターが決まっ
ていたのだ。音のした場所からMSを装着した人間が姿を現した。少年の姿は先ほどとは別
のものに変化していた。人間ではない、異形の者がそこには立っていた。デュアルアイに
V字アンテナブレード、前の未確認生命体との戦争で成果を挙げたMRのそれと酷似してい
た。少年がじっと目を凝らしてみると、部屋のところどころが蜃気楼のように揺らいでい
た。輪郭が定まらないものの、それは人の姿をしていた。

少年の姿に驚いたのか複数の人型が一斉に襲い掛かってきた。少年はそのうちの一体の顔
面を打ち抜き、他の者の攻撃はそのまま受けた。だが、体に先ほどのような痛みは無い。
MSはもはや敵ではなくなっていた。

3分と経たない間に8人のMS装着者は少年に倒されていた。

「見事だ」

また機械の声がした。

「装着を解除して指示に従いなさい」

少年はその声を聞かずに壁を殴りつけた。

「無駄だ、この部屋は君の力では壊れないようになっている」

少年はそれでも壁を殴り続ける。

――MSに勝てるこの力なら、ここから出れる。俺はここから出てマユを!そしてアイツ
に!
   
壁を殴る拳が次第に熱をもってきた。拳から腕へ、腕から胸へ、そして胸から全身へ。少
年のスーツは少年の瞳と同じ紅蓮の炎の色に変わっていた。手足が炎に包まれているよう
に熱くなっている。一撃一撃の威力が強まり、壁にわずかな亀裂が入った。少年は腰を落
として左足を後ろに引き、渾身の力を蹴りにこめる。そして亀裂へと放った。壁の亀裂は
音を立てて網の目のように広がり、そして壁は瓦礫になって崩れ落ちた。

「緊急警報発令!緊急警報発令!」

警報音が鳴り始めた。崩れた壁の先には無数のケーブルが縦に走っており、隙間からは他
の部屋が見えた。隣の部屋には既にMSが配置されており、警報がけたたましく鳴り響いて
いた。だが、それが今の少年にとってどれだけの意味があるのだろうか。少年はただ外へ
と向かうだけだった。
10731:2006/05/04(木) 23:57:48 ID:???
「爆発!?」

同時刻、少年のいる施設から約2キロ離れたハイウェイのそばにビデオジャーナリスト、
ミリアリア=ハウの姿があった。今夜この場所で事件が起こるという匿名のタレコミを
聞いて現場に待機していたのだ。タレコミの声が安っぽいボイスチェンジャーで変換
されていたのでさほど期待をしていなかったのだが、タレコミ通り、それはミリアリアの
目の前で起こっていた。

驚きながらも反射的にカメラを向けていた。ジャーナリストの習性というやつだ。炎上し
た現場を最大望遠で写したファインダーを覗き込む。遠距離のせいか暗視フィルターを通
しているものの色が識別できないし、像もぼやけている。特に出火場所の周辺は白飛びを
起こしていてよく分からない。だが注視していると何かが動いているのが分かる。望遠レ
ンズの周囲に付けられたフィルターを切り替えると次第に動いている像がはっきりとして
きた。

「うそでしょ!?」

ミリアリアは思わず声を上げた。ファインダーの中には前の大戦に投入された
MRが映っていた。しかも、4体だ。

「口では禁止とか規制とか言っておいてさ」

ミリアリアはそう言ってシャッターを切り続けた。写し続けていると、どうも様子がおか
しいことに気付いた。1体が他の3体に集中して攻撃を受けている。戦闘訓練にしても爆発
を起こしているのにまるでそれを無視するように戦っていた。ミリアリアはただその様子
をカメラに収め続けていた。

カメラがカシッ、カシッと音を立てた。興奮しすぎたせいかいつもより早くフィルムを消
費していたのだ。ミリアリアはあわてて胸ポケットからフィルムを取り出し、カメラのフ
ィルムを入れ替えた。量子通信が一般的になっているとはいえ、個人ジャーナリストが高
級な機材をそろえることはできない。単なるデジタルカメラでは写っているものの信頼性
に欠けるため、結局アナログなカメラを使わざるを得ないのだ。フィルムを入れ替えてミ
リアリアが現場に再びカメラを向けたときには3体のMRがその場に倒れていた。1人で戦っ
ていたMRはいなくなっていた。

「いない?」

ミリアリアはとっさにカメラを肩にかけて追いかけようとしたが思い直した。MRの足に追
いつけるはずがないことがよく分かっていたからだ。

「うっ……」

ミリアリアは異臭に手を口に当てた。有毒ガスだ。爆発の現場から風に乗ってこちらま
で流れてきている。煙が立ち込めているのに周囲に対する避難警報も発令されていない。
軍のジープが次々に施設に乗り付けてくる。なにかあったのだ。そしてあの施設には何か
あるのだ。ミリアリアはそう確信して現場を去った。
10831:2006/05/04(木) 23:58:43 ID:???
「ん?何だ?」

その影をジープに乗った金髪の仮面の男が感じていた。黒い軍服をまとい、彼の乗ってい
るジープに先導車がいることから身分は高いらしい。爆発の消化班の他にMRの回収班が一
帯の調査に当たっているようだ。

「おい。そこの!」

仮面の男が周辺の警戒に当たっていた部下に声をかけた。

「ロアノーク大佐、なんでありますか」
「向こうに動くものがいたと感じるのだが」
「ハイウェイの方ですか。あちらなら車でしょう。この時間ならさしずめトラックの運転
手が用でも足していたのでは?それにしてもよく分かりますね」
「運転手、か。そうかもしれないな。だが一応調べておけ。私はこれから例の3体の回収
に回る」
「はっ!了解しました!」

部下が仮面の男、ネオ=ロアノークに敬礼してハイウェイの方に向かった。ネオは運転手
に合図をしてジープを施設の方に向かわせた。


翌日、軍広報部による記者会見が開かれた。記者会見場にはミリアリアの姿もあった。軍
の広報部からの説明はこうだ。

「昨日の施設の出火は配線のショートによるもので事件性は皆無である。また、被害状況
は軽微であり、周囲への影響も無いが、念のためしばらくは軍が駐屯し、現場周囲2キロ
以内への立ち入りを禁止する」

質疑応答の時間も取らずに軍広報部の担当者は記者会見場を後にした。

「ちょっと!」
「きちんと説明してくださいよ!」

などといった声が相次ぎ、会見場は騒然とした。しかし、それに対する回答は一切得られ
ず、よく分からないままに記者たちは追い出されてしまった。ミリアリアは何か裏がある
という確信を更に深めた。現政権は先の大戦で拡張しすぎた軍備を縮小する路線を掲げて
いる。新たなMRが開発されていたとしても政府の決定ではなく、軍部の独断だろう。今、
新たなMRの存在が白日の下に晒されれば色々と不都合なのは目に見えている。
10931:2006/05/05(金) 00:00:21 ID:???
記者会見場から写真の現像のためにアパートに帰るとドアの前に金髪で長身で褐色の男が
立っていた。ミリアリアは不機嫌そうに男に声をかけた。

「何の用?私忙しいんだけど」
「おいおい、1ヶ月ぶりだってのにそれはないぜ」

褐色の男はわざとらしく肩をすくめてみせた。この褐色の男はディアッカ=エルスマン。
ミリアリアとは前の大戦で知り合った。ミリアリアにはその気はあまりないのだがディア
ッカは事あるごとにミリアリアの尻を追いかけまわしている。

「そこ、どいてよ」
「部屋に入れてくれるってんならどいてもいいけどな」

ミリアリアは頭を抱えた。「ダメ」と言えば居座り続けることは目に見えている。子供っ
ぽい、と呆れながらため息をついて言った。

「分かったわ。でも写真の現像しないといけないからジャマしないでよ」
「オーケー。飯まだだろ?チャーハン作りながら待ってるぜ」
「えー、またチャーハンなの?」

ミリアリアが鍵を開けながらぼやいた。

「俺のチャーハンはうまいだろ?」

そう言うディアッカの顔は得意げだ。

「そうね」

ミリアリアは苦笑いを浮かべた。彼のレパートリーはチャーハンしかないのだ。ジャケッ
トを椅子にかけて鼻歌を歌いながらキッチンに向かうディアッカを尻目にミリアリアはた
め息をつくしかなかった。
11031:2006/05/05(金) 00:01:20 ID:???
ミリアリアのアパートに程近い路地裏に施設から脱走した少年がうずくまっていた。気が
付けば元の姿に戻っており、施設の服のままで街中をうろつくわけにもいかなかったのだ。
素足では昼のアスファルトの上を歩けるわけもなく、日影にじっとうずくまっていた。今
頃になって全身が痛みだし、動く気もしなかった。

腹が減っていた。換気扇を通じてアパートの台所のにおいが辺りに漂っている。チャーハ
ンのにおいだ。腹が鳴って唾液が沸いてくるが食べるものはないし、金もない。とりあえ
ずどこかに移動してどうにかするしかない。立ち上がって表通りをこっそり覗く。通りに
出れば素足で施設の服を着ている自分は明らかに目立つ。それを確認して再び路地に隠れ
た。

――無理か、クソっ!

少年は右手で壁を殴りつけた。スーツをまとっていたときとは違って拳が痛んだ。

「イテっ」

少年は左手で右手をなでた。施設を脱走するときは無我夢中で何がどうしたのかを覚えて
いない。あのときはMSを装着していたわけでもないのにそれらしいものをまとっていた。
今の様子ではMSらしい装甲は必要に応じて出てくるというわけでもなさそうだ。がっかり
と肩を落として少年は壁にもたれかかった。

そのときだった。

「キャーッ!!」

表通りから悲鳴が聞こえた。赤信号の横断歩道に飛び出した女の子に向かってトラックが
突っ込んできていたのだ。それを見た瞬間、少年は路地から飛び出していた。キーッっと
いう甲高いブレーキ音が響く。トラックの運転手も子供に気付いてブレーキをかけたよう
だが遅すぎる。このままでは減速しながら女の子をはねてしまうだろう。少年は女の子を
助けようと必死に手を伸ばした。

ドンッ

鈍く、低い音がした。


第一話 おわり