レイの傍に駆け寄ろうと、シンが足を一歩踏み出しただけで、兵士達は一斉にトリガーに指をかけた。
別に撃たれても構わなかった。だが、そんな事になれば、レイが思い悩む事が分かりきっていたので、
シンは歩みを止め、叫ぶように自分の想いを口にする。
「ダメだ、レイ。俺はこんな事何でもない。だから、レイは本当の事を言ってくれ。
自分はやっていないと。これはでっち上げなんだって、な、レイー」
振り返り、自分に顔を見せたレイの顔が余りに綺麗で、シンは心が潰れそうになってしまった。
初めて出逢った時から、何度となく見たことのある、決意の籠もった表情。
きっとレイは、この不甲斐無い自分を助ける為に、その身を犠牲にしてしまう…
誰か、レイを助けてくれ。この俺に力を貸してくれと、シンは心から願い瞼を閉じた。
その時、朝方聞いたギルバートの声が脳裏を過ぎる。
―レイの事は頼んだよ―と。
そうだ、誰かではなく、俺がレイを助けなければ…
シンが再び瞼を開けた時、部屋にあるもう一つのドアが僅かに開き、そこから一人の人物が顔を覗かせた。
顔ははっきりとは見えなかったが、光を受け美しく輝く金の長髪を見た瞬間、シンは走り出していた。
撃たれるかもしれない。レイが苦しむ。とは思ったが、この期を逃がす事は絶対に出来ない。
その人物を逃がしては、レイの無実を証明する事が、永遠に出来なくなってしまうからだ。
「止まれ、止まらないと撃つぞ」
それでも止まらないシンに、兵士達は引き金にかけて指に力を籠める。
「やめろ、撃つな、撃つんじゃない!」
そう叫びながら兵士達の前に立ち塞がったのは、アスランだった。
「なぜ、邪魔をする」
「いいから、俺の命令を聞け」
そんなやり取りを背中で聞きながら、シンはその場から逃げ出した者の後を必死に追った。
部屋から暫らくその者を追い、近づいた所で、手を懸命に伸ばし、背中を捕まえる。
そして逃げられないように、力一杯に押さえつけ、何とか捕まえる事が出来たのだった。
「逃げるなよ。あんたには聞きたい事があるんだ」
「お、俺は…命令されたんだ。あ、あんたも、ザフトの人間だったら、あのお方に逆らうなよ」
「逆らうな?何バカなこと言ってんだよ、あんたは。今から皆の前で、誰に何を言われたのか証言しろ」
シンの鋭い目で睨まれ、男は恐怖で身を震わせた。
脅える男を見ながら、シンは、コイツがレイがあの事件の犯人ではないという確固たる証拠になる事を願った。
そして、その男を引きずる様にして、先程までいた部屋に戻っていった。
シンに突き飛ばされるように部屋に姿を現した者を見て、一同は己の目を疑った。
なぜなら、一部の者にしか身に纏う事が許されていない赤服を着て、金の髪を長く伸ばしていたからだ。
背格好もほぼレイと同じ位で、意図的に姿を同じくしたと思えるほどに、2人の姿は似ていた。
「なぁアスラン、あんたが見た後ろ姿は、コイツじゃなかったか?」
シンはそう言うと、その者を反転させて、その後姿を皆に見せつける。
アスラン、いやザフトにいるものならば、その者の後ろ姿を見れば、皆レイだと思うだろう。
その証拠に、皆は言葉を失い、ただ静かにアスランの言葉を待つしか出来なくなっていた。
「そ、それは…分からない。俺は金の髪を伸ばした赤服は、レイしかいないと思っていたからな」
「だったら、アスランの証言は曖昧ってことだな?」
「そうなるだろうな」
ーやった―アスランの証言がないものとされ、シンは一筋の光を見た気がした。
だが、その希望を打ち砕かんと、ラクスが言葉を挟む。
「これは違います。わたくしは見ました、レイさんが銃を向け、お庇いくださった方を撃たれたのを。
それに、もしこの方があの日、レイさんの振りをされていたのなら、わざわざこの場に来られますか?
何処かに、お隠れになられているのではありませんか?」
「ラクス様。どういう意味でしょうか?」
固唾を呑んで見守っていた議員が、この場に漂う暗雲を払おうと、ラクスにそう問うた。
それを待っていたかのように、ラクスは口元に笑みを湛え、その答えを口にする。
「偶然にしては、御都合が良すぎませんか?この方は、シンさん達がご用意されたと、考えられませんか?」
「そんな事、する訳ないだろう。コイツに誰に頼まれたのかを聞けば、話は済むだろう」
「そのような事をする必要はありません。この方に、わたくしに頼まれたと言って欲しいと、
お頼みになっておられる事位、お察しできますわ」
「あんたって人は!どこまで卑怯なんだ!」
何を言っても、上手く返してしまうラクスに、シンは怒りのままに飛び掛ろうとした。
「止めろ、シン。手を出してはいけない」
だが、自分の行動を察したかのようなレイの言葉に、シンは動きを止めて、レイの顔を見る。
「何でだよレイ。この男が誰の頼みで、レイの振りをしたかなんて、レイだって分かってるんだろう」
「ああ、だがクライン議長に手を出しては、いけない。彼女は、今プラントの議長なのだからな」
冷静な声でシンを戒めると、レイは震え続けている男に視線を移す。
「貴方も大変だな。シンに頼まれたといえば、罪に問われる。だが、本当の依頼主の名を告げても、
その者の力により、この世から消されるかも知れないのだからな」
「そ、そんなのは嫌だ。俺は、頼まれただけなんだ。本当だ…ラ、ラクス様、お話が違います。
レイの振りをして、兵を一人殺せば、議員の席を下さると、仰って下さってではありませんか?
だから俺は…今日も、もう一度レイの振りをして、もう一人殺せと…頼みます、俺を助けて下さい」
男にとって、シンに捕まったのは予想外の出来事だった。おまけに、ラクスにまで見捨てられ、
冷静な判断を失い、思いのままを口にしてしまっていたのだ。
「何を仰るのです。わたくしが、そんな事をお頼みする筈がありません。嘘を仰るのはお止めください」
「ラ、ラクス様。そんな、酷い…俺は、議員になりたいんだ。頼みます、ラクス様」
必死にラクスの身体にしがみ付こうとする男を、アスランはそっと制した。
「もういい。止めろ。お前の言いたい事は良く分かった」
「アスラン。どういう意味ですか?貴方まで、わたくしを疑うのですか?」
先程も、聞きたい事がある、と言われ、今度はこの言葉だ。
ラクスは、最も信頼していたアスランに疑惑の目を向けられ、珍しく声を荒げた。
「ラクス。俺も君を信じたい。だが、この男の言葉といい、さっきの、そのレイの性別のことといい、
君が何かを、俺に隠しているのは明らかだ」
「レイさんの性別の事?あれは申し上げたとおり、デュランダルさんの遺品の中に…」
「デュランダル議長の執務室、及び自宅から、資料を持ち帰ったのは俺だ。
当たり前だが、その全部に目を通した。だが、レイの性別、いやレイに関しての事など、一切なかったぞ」
「それは、アスランが見落としていただけですわ。わたくしは見たのですから…」
「ラクスもう止めろ。今の君は、みなの求めている、ラクス・クラインの姿ではない」
ラクスとシン、どちらが本当の事を言っているのかを決めかねていた者達は、その言葉により一つの答えを出す。
そして、今までシンとレイに向けていた冷たい視線を、今度はラクスに投げつける。
「わたくしが、そのお方に頼みました。ですが、いったい何がいけないのです?
レイさんは、デュランダルさんの精神を受け継いでいる方です。その様な方がザフトにいれば、
何時か、この平和な世界を脅かす存在になるのは、分かりきっているではありませんか…
それにキラは…キラは、レイさんの存在に脅えています…ですから、わたくしは…」
自分に否は全くないと言わんばかりのその言葉は、皆の知りえるラクスの言葉とは到底思えないものだった。
ラクスを崇め、仰望の的としていた者達は、この事に対して、深い憤りを覚えずにはいられなかった。
そしてその想いを、一人が口にすれば、瞬く間にそれは皆に伝染していった。
「わたくしは、何も悪くはありません。今までも、皆さんはわたくしの考えに、ご賛同下さったではありませんか」
今まで通り皆は自分の意見に頷いてくれる筈と、ラクスは安易に思った。
だが、その場にいた者は誰一人口を開く事はなかった。そんな中、レイだけが静かに言葉を返す。
「何も悪くない?私の存在を疎うというだけで、一人の命を奪った事が、悪くないと?」
「貴方さえいなければ、わたくしとキラは、心穏やかに暮らせるのです…心穏やかに…」
「ならば、私に罪をきせようなどとせず、私を殺せばよかっただろう?なぜ人を巻き込む?」
「その方が、貴方は苦しまれるでしょう。それだけですわ。それに、貴方の偽者を創り上げたのも、
わたくしが、デュランダルさんにされた事を思えば、たいしたことではありません。
ミーアさん、彼女を見た時、わたくしがどの様な想いをしたのか、お分かりになりませんか?」
「もし、貴方が表舞台から姿を消さず、ミーアの様にプラントの民の心を癒してさえいれば、
デュランダル議長が、貴方の変わりを仕立てる必要などなかったのだとは思わないのか?」
「あの時は、キラが、キラは傷ついていましたわ。わたくしは、キラの傍にいたいと願っただけですわ」
ラクスは今まで、誰にもその考え、人生を否定された事はなかった。ラウを除いては…
だから分からないのだ。やっていい事と悪い事が。己の行動全てが善と思い、悪とは決して思わない。
その考えが、今回の騒動を生んだ。そう、ラクスはこの計画を、悪意を一つも持たず、考えたのだ。
自分の考えが如何なる物でも、決して否定される事はないのだと、心から思っていたのだった。
「ラクス、もう何も言うな。これ以上、皆に絶望を与えないでくれ。君は、清い存在でなければならない。
君の歌に心惹かれ、言葉に希望を感じる。そんな存在でなければ、皆は君に着いて行かなくなるんだぞ」
「アスラン?」
未だアスランの言葉の意味さえ理解していないラクスは、不思議そうな顔でアスランを見詰めた。
そんなラクスの肩をポンと叩くと、アスランは深い溜め息を吐く。
本当は何処かで感じていたのかもしれない。ラクスの無垢な悪意を…
だが、それを見てみぬ振りをしていたのは自分だ。今回の事は自分にも否があるのだと、思えてならない。
「レイは無実だ…あらぬ嫌疑をかけて、本当に済まなかった…」
アスランが頭を下げるのを見て、レイの身体を持っていた者が、その手を離す。
それを見たシンは、すぐさまレイの傍に駆け寄り、その手の拘束を解く。
そして、安堵の表情で、優しくレイを抱きしめた。心から良かったと想って…
「良かったな、レイ。疑惑が晴れて…」
「ああ、シンのお蔭だ…」
アスランは暫し2人の様子を見守り、シンがレイの身体をその手から放すのを確認すると、レイに問いかける
「レイ。ラクスの事は俺に任せてくれないか…議長の職にあるとはいえ、罪は罪だ…」
「分かった、だが、この件の詳細を発表する事だけはしないで欲しい」
「なぜだ?ラクスはお前に、こんな酷い事をしたんだ。事の経緯を、発表しなければならないだろう?」
「アスランも先程言っていただろう。クライン議長の言葉に皆が希望を感じていると。
せっかく、あの戦争の混乱から、立ち直ってきているんだ。新たな不安を、皆に与える必要は無い。
議長の職から退き、歌姫として生きればいい。政治には向かなかったと言えば、皆納得するだろう」
「本当にそれでいいのか、お前は?」
「ああ、皆がラクス・クラインという光を必要としているのなら、偽りであったとしても、
その光は綺麗なのだと、信じさせてあげることが、今は一番良いのだと、私は想う」
「ありがとう、レイ」
「後は任せていいか?私はこの場にいない方が良いだろう」
「そうだな。本当に済まなかった。レイ、そしてシンも…」
「俺は別に…レイの疑惑が晴れたから、もういいよ。アスランのせいじゃないし。
それに、俺の事庇ってくれただろう。あれ、結構嬉しかった」
「いや、俺は別に何もしていない…」
「レイ、色々あって疲れてると思うから、俺たちもう行くな」
「ああ、引き止めて悪かった」
「レイ行こうか?」
「ああ、そうだな」
シンはレイの手を握り、ドアに向かって歩き出した。その手の暖かさを感じ、傍に居られる喜びを感じた。
そして、この場から少しでも早くレイを連れ出したいと想った。
光の当たる場所に行った方が、本当にもう追われる事はないのだと、レイが感じられると想ったからだった。
そして建物を出て、二人はあても無く歩いた。ただ手を繋ぎ、道を歩いているだけで、シンは心が高鳴った。
だが、そんな喜びと共に、レイの身を危険に晒してしまった事に対して、罪悪感が溢れ出す。
「ごめんなレイ」
「なぜ詫びる?私は、シンに感謝しているというのに」
「でも俺、レイに護るとか偉そうな事言ったのに、結局一人じゃ何も出来なかった…」
「そんな事はない。もしもシンがいなければ、私は…きっと諦めていただろう。
もう良いのだと、これは、ギルを撃ってしまった、私の罪なのだからと…」
「レイ?」
「だが、シンは言ってくれただろう。ギルが、私に生きて欲しいと願っていたと…
その言葉を聞いて、初めて、メサイアでギルが私の事を許してくれた事を、思い出せた…
ギルは確かに言って下さった。生きろ。と。その言葉を私は、ギルを撃ってしまったショックで忘れていた。
その言葉を思い出せたからこそ、私は生きようと想った。
それに、私が自由の身となったのは、シンのお蔭だ。あの部屋の出来事を、私は一生忘れない。本当に嬉しかった」
「そう言ってもらえると、ほんと、嬉しい。お、俺に出来る事なら、これからも何でも言ってくれよ」
「だが、これ以上シンに迷惑かける訳には…」
愛しているから、どんな事でもしたいのだと、シンは思わず言ってしまいそうになった。
だが、あんな事があった直後に、そんな想いを伝えても、迷惑がられるだけだと、シンは言葉を飲み込む。
しかし、願ってしまうのだ。この想いが何時の日か、レイに伝われば良いのにと…
「迷惑だとか言うな。何回も言わせるなよ」
「そ、そうか…ならば…」
「な、何?」
「お腹が空いた…一緒に御飯を食べてくれないか?」
「そんなことで良いのか?」
「シンと、一緒に食べると、とても美味しく感じる…」
「俺も、レイと食べると、何でもスンゲー美味い」
大好きなレイと一緒にいられるだけで、嬉しかった。だから、シンにとってレイとの食事は格別だった。
レイもそうであれば良いのにと想いはしたが、レイは自分をただの仲間だとしか思っていない筈だと、シンは想った。
「で、何が食べたい?」
「メロンパン」
「レイって昔からメロンパン好きだったよな?何で?レイってメロンパンより、クロワッサンって感じなのに?」
「ギルが…好きだったんだ。メロンパン。何時も一緒に食べていて、それで好きになった」
そんな会話をしているうちに、一軒のパン屋を見つけ、レイはメロンパンを、シンはサンドイッチを買った。
そして、レイはメロンパンを手にすると、その半分をシンに差し出す。
「何だよレイ。腹減ってんだろう。全部食べろよ」
「いや、その…シンに半分食べてもらいたいんだ」
「なんで?」
「シンは…私にとって、仲間だけじゃなく、とても、特別な人だから…迷惑か?」
「そんな訳無いだろう。俺、レイにずっと伝えたいことがあったんだ…俺、レイの事好きだ。心から愛してる」
自分の想いが、レイにちゃんと伝えられた事を、シンは心から嬉しいと想ったのだった。
―終わり―
GJ!レイかわいいよレイ
メロンパンって声は釘宮か?
ラクス悪党というより心病んでるよなぁ。
保守上げ。
遅くなったけど、完結乙です。
そして保守。
保守
ホッシュホッシゅ
保守
hosyu
保守
デュランダル議長の誕生日らしいので、ついでに俺も祝っとく
ほしゅ
忙しい中少しずつ読むから落ちんなよー!
保守
オレ、この仕事が終わったらレイと入籍するんだ
保守
保守
保守
779 :
通常の名無しさんの3倍:2006/12/14(木) 01:45:03 ID:xXUNga5H
久しぶりにこのスレを覘いた。
…まさか、ここまで続くとは…。
暇なんで、いつかは短い小説を投稿予定。
がんば。
wktkして待ってるお
保守
138 名前:通常の名無しさんの3倍[sage] 投稿日:2006/12/23(土) 20:08:32 ID:???
l|! 〃"´ ⌒ヽ
i ノ 八川 l
i| .| リ`Д´ノJ
人_! ヽ
/ | | ) )|
/ | | | 女体化してイカせるしかないじゃないか!
( (ヾ .| 〈 从(`')) 〉
/⌒ヽ ヽ \\〉,,,ゝ‐ _‐<(
/⌒ ̄ ̄__ノ_____ノ,,,,,,,)
(__ノ ̄ ̄
パンパン… ドピュピュ…
保守
保守
age
あけおめ
ことよろ
もうすぐスペエディ
保守
ほ
しゅ
保守
保守
シンレイモエス(*´∀`)
連ザUのキラキラレイが女にしかみえない
あの信頼度最高にしたときのレイだよな?
多分ここの住人はみんな同意してくれるな
つか、女だしw
レイと組んでキラをタコ殴りしまくりですよw
その後に褒めてくれるんだよなぁ…(*´д`*)
ほしゆ
シンレイ保守
800保守
801保守
あえて言おう、カソであると!!!
ネタはあるが時間がない
保守あげ
保守
レーイ