869 :
第一話:
「もしもし、メイ?あたしよ。悪いけど、今日も遅くなりそうだから、ご飯、一人で食べてくれる?
――――うん、なんかたくさん仕事頼まれちゃってさ。冷凍庫にグラタンあるから。
――――うん、ごめんね。それじゃ」
半分ウソの会話を妹と済ませ、ルナマリア・ホークは携帯電話を切って、ポケットに突っ込んだ。
もう一度、渡された写真を見つめる。
黒い髪と赤い瞳が印象的で、わりと整った顔立ちの少年が写っている。
写真から目を離し、たった今帰宅し、バイクから降りてメットを外した少年の顔を双眼鏡で確認する。
目つきが険しくなっている気がするが、間違いないだろう。
(ようやく見つけた)
約半年間、少なすぎる捜査仲間と共に、足の棒のようにしながら調べて回り、やっと辿り着いた目標。
(シン・アスカ・・・・あたし達が確認する限り、『オノゴロ島事件』の唯一の生存者)
――――オノゴロ島事件
2年前、オノゴロ島で起こった大規模な爆発事故。原子力発電所の爆発が引き金となり、様々な要素が重なって、島全体を巻き込む事故に発展した。生存者は無し。現在でも放射能汚染の危険性から、オノゴロ島は立ち入り禁止・・・・・・・と、公式には発表されている。
(ウソだけどね)
真実が隠蔽されるのは、世の常である。
とりあえず今、この事件の真相はどうでもいいので、思考を切り換える。
重要機密の入ったバッグの持ち手を握り締め、ルナマリアは少年が入っていったアパートの一室に向かった。
870 :
第一話:2006/03/13(月) 03:47:22 ID:???
――――この生活に終わりがあるのだろうか。
狭い部屋の真ん中に寝転がって、シン・アスカは考えた。
家族を失ってから二年。生活費は両親の遺産とアルバイトから捻出している。
あの事件に関する資料は出来る限り集めたが、自分の探している単語は全く見当たらない。
――――『キラ』と『カガリ』――――
人の名前で間違いないだろう。『キラ』が男で『カガリ』が女だ。
はっきりしている記憶はこれだけだ。
はっきりしていない記憶――――それは『キラ』の容姿。
全身に白い鎧を纏っていて、青い翼を広げていた。
(馬鹿げてるよな・・・・)
あり得ない。
どう見たって人間じゃなかった。
おそらく彼らの声を聞いた後に気を失い、妙な夢でもみたのだろう。
どう探したらいいのだろうか?
キラやカガリなんて名前はさほど珍しくもない。
名前をたよりに片っ端から当たっていくにしても、顔もわからないのだ。
2年前の事件を問いただしても、正直に答えるわけがない。
――――終わりが見えてこない。
このまま何もできずに、ただ日常を過ごすのか。
「ごめんくださーい」
不意にドアを叩く音と、女の声が聞こえてきた。
正直言って眠かったので、そのまま無視しようとも思っていた。
だが、次の一言で眠気が吹き飛ばされた。
「シン・アスカくーん?2年前のことで話があるんだけど・・・・」
跳ね起きて、勢いよくドアを開ける。
「きゃっ!」
女の短い悲鳴が聞こえたが、どうでもよかった。
「あ、シン・アスカ君、だよね?」
「ああ、そうだけど」
年齢は自分と同じくらいだろうか。
短く切った赤い髪に青い瞳。結構な美人で赤いスーツを着こなしている。
最も印象的なのは、一部分だけ逆立った前髪だろうか。
「ちょっと話したいことがあるんだけど、いいしら?」
「・・・・入って」
「ありがと」
普通なら、この後は色気のある展開になるのかもしれない。
あるいは詐欺まがいのセールスのような話になりうるのかもしれない。
だが、今回はどちらの展開にもならないこ。
それは間違いないだろう。
871 :
第一話:2006/03/13(月) 03:48:18 ID:???
「あたしはルナマリア・ホーク。よろしくね」
「シン・アスカだ」
小さなテーブルに向かい合い、お互いに自己紹介する。
「さてじゃあ、シン君。早速本題に――――」
ルナマリアが口を開いた瞬間。
甲高いアラーム音が部屋に鳴り響いた。
「な、なんだ?」
驚いて、きょろきょろとあたりを見回すシン。
それには構わず、ルナマリアはポケットから小さな端末を取り出し、目を見開いた。
「『感染体』反応・・・・・すぐ近くだわ!」
「なに?」
「シン君、ついてきて!」
「おい、ちょっと待てよ!」
叫ぶやいなや、部屋を飛び出したルナマリアに続き、毒づきながらシンも駆け出していった。
(あの男ね!)
シンの部屋を出た直後、ルナマリアは目標を発見した。
バイクが1台止まっているだけの駐車場の中央で、男が一人うずくまり、低い呻き声をあげている。
「なんだよ、一体!?」
「見てなさい。あたし達の『敵』が現れるわ」
ルナマリアは、怒鳴るシンを制し、うずくまる男を凝視する。
――――しず・・・か・・・・な・・・この・・・・よ・・・る・・・・
意味のない呻き声が、初めて言葉になった、その直後。
男が獣のように絶叫し、体が激しく光を放った。
「うおっ!?」
突然のことに、思わず叫んで身構えるシン。
やがて光が収まり、その場にあらわれたのは・・・・・灰色の怪人。
全身が灰色の金属に覆われていて、頭頂部にトサカのようなものがついている。
顔にあるのは、爛々と緑に輝く眼が一つだけ。
右手から生えているのは剣だろうか。
左手の先は、マシンガンのような形状をしている。
「ジンタイプね」
「な・・・・・おい・・・・・これ・・・・」
「シン君、あれが敵。個体名は『ジン』よ」
「じ、じん?」
全く状況を理解できないでいるシンをよそに、ルナマリアが一歩前に出る。
右手の拳を握り、上半身を素早くひねりながら叫んだ。
「変身!」
ルナマリアの下腹部が赤く光る。
続いて輝き、全身を赤い装甲で覆っていった
左腕に、半身を隠せそうなほど巨大な盾が形成される。
そして右手には、小型のトマホークが握られていた。
872 :
第一話:2006/03/13(月) 03:49:31 ID:???
「あ、あ、あんたは一体・・・・」
「話はあとよ、じっとしてなさい!」
そう言って、赤い戦士に変身したルナマリアがジンに突進していく。
それに応じて、ジンが左腕をルナマリアに構え、マシンガンのような手先から弾丸を連射した。
左腕を身体の前に出し、弾丸を弾きながらルナマリアはさらに加速する。
ジンに肉迫し、左腕を振り上げ、盾でマシンガンを弾き、銃口を上へ逸らす。
同時に右手のトマホークを振るい、ジンの腹を打つ。
装甲やぶれなかったが、ダメージはあったらしく、ふらつきながら後ずさるジン。
ルナマリアは間髪入れずに間合いを詰めて、翻した刃でもう一撃叩き込む。
さらに、勢いのままに身体を回転させ、ジンの頭部に回し蹴りを浴びせる。
強烈な一撃をくらい、吹っ飛び地面に叩きつけられるジン。
ジンに向き直り、トマホークを逆手に持ち替え、腰だめに構えるルナマリア。
「『オルトロススラッシャー』、スタンバイ!」
叫んだ瞬間、トマホークにエネルギーが集中し、バチバチとはじけるような音を発する。
その間にジンが起き上がり、右手の剣を振り上げて突進してきた。
それにあわせるようにルナマリアも疾走する。
「でりゃぁぁぁーーーっ!!」
ジンの上段からの一撃をすり抜けると同時に、トマホークを一閃。
装甲を切り裂いてジンの腹を薙ぐ。
一瞬の間。
直後にジンの身体が炎に包まれ、爆散した。
構えを解いて、赤い戦士が振り向く。
見つめる先にあるのは、ジンが爆散した跡――――ではなく、呆然としているシン・アスカだった。