624 :
通常の名無しさんの3倍:
激突!!二人のライダー(前編)
ドスッ…。
ゆっくりと崩れ落ちたジンの体が、うっすらと床に振り積もっていた埃を舞い上げた。
彼の体から、目で見ることは出来ないが命の鼓動がひっそりと零れ落ちていく。
…やがて、その体からは生のぬくもりが完全に消失した。
ところで、こうやって敗れるものがいるのならば反対に、勝者が存在する事は必然である。
「………ハァ。」
小さく吐息を漏らす勝者の体から淡い…蛍のような光がいくつも昇っては、やがて宙へと吸い込まれる様に掻き消えていた。
全身を覆っていた光が徐々に霧散しゆくなか、その下から物憂げに俯く少年の姿が露わになっていく。
やがて全ての光が消え失せると、そこには戦いを終え変身を解除したシンの姿があった。
しかし、彼の顔に浮かんでいる表情は勝利したにも関わらず、浮かないものだった。
正確に言うのならば、これは自分の行動が自らの思惑通りに行かぬ焦りである。
…先の埠頭での1件後、シンは捕まえた組織の研究者と思しき男に尋問を試みた。
その途中、男が奥歯に仕込んでいた毒薬で自殺したこともあり必要とする組織の情報は結局、聞き出せずじまいだったが、
彼らがそう遠くない内に何らかの一大作戦を展開する可能性を知った。
こうしてザフトのアジトに乗り込んでいるのも、その計画の詳細を知らんが為である。
・・・アイツを追わなきゃいけないのに…こんなところで俺はモタモタしてる、糞っ!!
ザフトの計画を未然に防ぐため、ここにいる筈のシンではあったが、
彼の心中で重きを占めていたのは先日、遭遇した謎のライダー…フリーダムの事だった。
フリーダムは憎んでも憎み足りない父の母の、そしてマユの敵である。
そういった存在が今も、どこかでのうのうと生きているかと思うと…。
シンは自らの頭をかきむしりたい、強い衝動に駆られそうになるのだった。
「おーい、やっぱ駄目だわ。ここも既に引払っちまったあとらしい。」
と、今にも思いつめそうなシンの耳へ、今やすっかり聞き慣れたディアッカの声が飛び込んできた。
彼の手には、数枚の何らかの書類と思しき紙の束があったが、それは何故かプラプラと左右に揺らされている。
そうしたぞんざいな扱いをされている以上、記された情報はたいしたものではないのだろう。
それを裏付けるかの様に、彼はせっかく手にした戦利品を埃だらけの床にポイと何のs惜しげもなく投げ捨て、こう続けた。
「しっかし、また派手に暴れたもんだな…おかげで邪魔が入らずに済んだぜ。」
そう事も無げに言ってのけた彼の口元がヒュウと口笛を吹く。
見れば、シンの周囲に倒れ伏したジンは先ほどの一体だけではなかった。
ざっと数えて、二十ほどの骸が物言わず倒れているその光景は背筋をゾッとさせるには充分過ぎる。
「これで三箇所目だぜ?…こいつは一杯食わされたんじゃないの?」
そんなディアッカの最もな一言にも、シンは返事を返すどころか、おもむろに踵を返すと出口に向かって歩を進めはじめようとしていた。
「おいおい、待てよ!!」
「うっさいな…。」
慌てて追い縋ろうとするディアッカの声にシンは振り返り、初めて彼の目を見据え口を開いた。
「そんなに面倒なんだったらね、別に協力してもらわなくても結構ですよ…。
別にこっちは頼んでそうしてもらってるワケじゃないんですしね!!じゃぁ…。」
シンは苛立ちをぶつけるかの様にそう吐き捨てると、今度は一度も振り返る事なく
その場から立ち去っていった…。
「これほどの戦闘員を駆り出させておきながら、裏切り者ひとり始末できんとは何事か!!」
だだっ広いホールに、パトリックのややヒステリックな怒声が響き渡る。
そんな彼の怒りを前にしても、パトリック以外三人の幹部の顔色が変わる事はなかった。
現在、彼らザフトの最高幹部の面々は、様々な手段を講じても一向に抹殺する事の出来ない、
仮面ライダーインパルスについての対策会議の真っ最中だった。
そんな険悪な雰囲気をよそに彼らが座する円状のテーブル中央の立体スクリーンは、
今や何の価値もなくなった基地を背に、颯爽とシルエットランダーを駆るシンの姿を映し出していた。
つまり、ディアッカのこの一連の流れが罠だという推測は的を得ていたものだったのだ。
しかし…たとえそうであったとしても、ライダー抹殺という本来の目的を果たせなければ
それは戦力をいたずらに浪費しているだけでしかない。
…劣兵であるジンはその消費した数を組織の優れた人物のクローンで一気にまかなう事も可能ではあったが、
ジン10体をクローン生成するというコストは怪人一体ぶんに相当するせいか、そうおいそれとは行う事もできない。
…だからといって、複数の怪人による襲撃は前回失敗に終わっている。
それが分かっているが故に今は、ジンによる時間稼ぎを行っているというのが実情であった。
「議長のお怒りは最もです、たださえXデーが近い…今はジンの一兵も惜しい…。」
前線の人間らしい言葉を小さく呟くバルドフェルドをよそに、何かを思いついたのかクルーゼがその口を開く。
「毒には毒を以って制すのが賢明でしょうな…あのもう一体の裏切り者、
フリーダムにインパルスを片付けて貰ってはどうですかね?」
突然飛び出したその突拍子もない思いつきに、その場にいたクルーゼ以外の幹部は己が耳を疑った。
仮面ライダーフリーダム…インパルスと並び、組織に仇成す邪魔者の一人である。
インパルスが確実にザフトを敵とみなして戦いを挑んでくるのに対し、その行動原理は一貫性のない不透明なものだった。
そのフリーダムにインパルスを始末させるのだというクルーゼの提案はどう考えても現実性のない机上の空論でしかない・・。
また、よしんばインパルスと戦うのだとしてもヤツがその場に現れる必然性はない。
そう思うパトリックが、何を馬鹿な事を…と口を開こうとした瞬間だった。
「餌ならありますよ…こちらからもライダーの存在を持ち出してやればいいのです。」
「…どう言う事だ、続けてみろ。」
クルーゼの思わせぶりな口調に、興味を惹かれたらしいパトリックは言葉少なにその先を促す。
それを受け、これは生き残っていた部下からの報告ですがね…と、前置きしながらクルーゼは語り始めた。
「どうやら、フリーダムの目的は我々に残された唯一のライダー…ジャスティスとの接触にある様です。
それを利用し、フリーダムをインパルスが向かうであろう残りの二箇所のうちどちらかへ誘き寄せ、両者を対峙させる。
フリーダムが奴を仕留めるならそれでよし、その逆ならば我々のライダーに力を振るって貰えば良いだけの事ですよ。」
ゆっくりと、しかしそれでいて他者の予断を許さぬ口調で自らの意見を言い終えると、
クルーゼはその仮面に手をあて他の幹部からの反応を窺うのだった。
これ以外の案はおそらくどれもコストがかかり過ぎるうえに確実性を欠く、この案が通らないはずもないだろう。
故にパトリックは重々しい表情をつくりながらも、作戦の実行を承認せざるを得まい。
それを考えると…クルーゼは自らの思惑がまた一歩、前進した事を実感し、
表情を映さぬ仮面の下でニヤリと不気味な笑みを浮かべるのだった。
「俺はねぇマスター、シンって奴がわからないぜ…まったく非グゥレェイトの一言につきるぜ。」
そう愚痴をこぼしているディアッカの頬は、何故かハムスターの様に膨らんでいる。
そうやって彼がモリモリと旨そうに自分の料理を頬張っている姿に、
ギルはカレー炒飯をメニューへくわえる事を真剣に考えるのだった。
シンに置いてきぼりを食った哀れな彼の向かった先は、何と喫茶店赤い彗星だった。
本来ならば、イザークにシンの動向を調査する事を依頼されている以上、
こうしてディアッカが彼の元から離れているのは、プロ失格の烙印を押されても仕方のない事と言えた。
敢えて無理に彼の後ろにくっついて、稚拙な嫌味に耐えるよりは埠頭での共闘のあと、
一度訪れたここに居座っていれば、あの小生意気なガキが来るのは明白。
ストレスを無理に貯めるのは三流のやる事だぜ、俺ってグゥレェイトォ!!などと都合よく結論づけると
ディアッカはこうして、ギルバート相手に愚痴をこぼしているのだった。
「まったく、どうしたらあんな性格になれるんだか…あいつの親の顔を見てみたいぜ。」
ディアッカは米粒を零しながらそう毒づく…憂さを晴らしたいならアルコールでも頼めばいいだろうに、
彼が今口にしているのはわざわざ特別に作らせたカレー炒飯だった。
一応、勤務中にあたる時間である以上酒は口にしないという考えなのか。
…ヘンなところだけ生真面目な男である。
「シンもあれで色々と苦労しているんだよ、口の悪さは少し大目に見てやってくれないかね?」
ギルは諭す様にそう言うと、二杯目を綺麗に平らげた彼の前に食後のコーヒーを差し出した。
ボーン、ボーン、ボーン、ボーン…。
コーヒーのふくよかな深い香りを楽しむディアッカの耳に、壁にくくり付けられたからくり時計が時報を告げる。
「もう10時…か、あの野郎遅いな。」
二人が別れてから既に4、5時間は経過している。そろそろ顔をみせてもよさそうな頃合いだ。
呑気にコーヒーをすするディアッカとは対照的に、ギルバートはその繊細な眉を曇らせた…と、
ブロロロ…ドッドッドッドッ…。
不意に店の外から、バイクの排気音が轟くのが聞こえた。
すぐさま、ギルが店の外へ出ていくのを横目で見送りながら、ディアッカはシンが来たら
どんな態度を採るべきかとぼんやりと考えていた、しかし…。
「ディアッカ君!!ちょっと来てくれ、早く!!」
突然、ギルバートの切羽詰った声が鼓膜に叩き付けられた、慌ててドアを蹴破り戸外へ飛び出す。
…そこにはマスターに抱きかかえられ、苦痛に呻き声をあげるシンの姿があった。
つづく