シンは仮面ライダーになるべきだ

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403仮面ライダーSEED

カラカラカラ・・・。
通りを風が音もなく吹き抜ける。
その風に煽られ、道路沿いに投げ捨てられていた空き缶が力なく揺れた。
ここは都市臨海部に属する次期開発予定地。
ほんの数年ののちには大企業の倉庫や、研究所が立ち並ぶであろう事は予想出来る一帯ではあったが、
現在は特にこれと言った建物もなく、更地や廃工場が目立つ人気のない場所でしかない。
と、そんな人気のない場所へ向かってくる車が一台。
黒塗りのボディーにスモークが施された窓…どう考えても内部の人間達が真っ当な堅気の人間でない事を無言で語っている。
こんな場所をひた走る理由はこの車内の人間達が人目に付きたくないという事なのか。
ドゥルルル…ッ。
その不審な車が向かおうとする先から、一台のバイクがやって来る轟音がこだまする…そして、その排気音が不意に激しいものからエンジンを暖めているかの様なものへと変わった。
見れば、一台のバイクが車道の中央線の上でその腹を見せながら、横に停められているではないか。
ドッドッドッ…。
いまだ唸りを挙げるバイクにまたがりながら、それにまたがった男…シンはかぶったヘルメットの奥で瞳をキュッと細め、前方からこちらへやって来る車を睨んだ。
そんな風に通路を妨げられてしまっては車を停めるしかないだろう。
キイィッ!!
けたたましい音をたてながら、シンの目の前で停車した。
やがて助手席側の窓が下りると、中からサングラスをかけた男の顔がぬぅっと覗く。
404仮面ライダーSEED:2005/11/17(木) 05:56:52 ID:???
「…何してんだお前、死にたいのか!?
こっちは急いでんだよっ!!早くどけ!!」
至極、当然な怒りを表すかの様なクラクションが、空高く鳴り渡る。
・・・しかし、抗議をうけた筈のシンは蛙の面に小便といった具合にその抗議を軽く無視すると、はぐらかすかの様にポツリとある疑問を口にした。
「そんな事より・・・アンタ達どこから来たんだい?」
「・・・。」
突然、投げかけられた奇妙な質問にサングラスの男は返事を返さなかった。
「…答えたくないか、なら…当ててやろう。
…警察署、しかも署を爆破してきた帰り道なんじゃないか?
・・・そうだろ?ザフトの戦闘員の諸君。」
ブゥン!!
図星を突かれたのか、運転手はシンが最後を言い終わらないうちに、いきなり車を発車させた。
「チッ!!」
シンは慌ててハンドルを切り、突っ込んできた車体をギリギリでかわす。
見れば、逃げる様に車がみるみるうちに遠ざかって往く。
糞っ、茶化し過ぎたか…まぁいい、すぐに追い付いて泥を吐かせてやる!!
解放されたバイクのエンジンが少しでも追い付こうと唸りを挙げる・・・しかしその差はなかなか埋まりそうにない。
405仮面ライダーSEED:2005/11/17(木) 06:01:52 ID:???
だが…シンは少しも慌てる事なく、両方のハンドルの根本に在ったスイッチを同時に押した。
シュィィィン…ッ!!
突然、シンと彼を乗せたバイクが真っ赤な光に包まれる。
…やがて光が放つその粒子は、バイクが切り裂く風に運ばれる様にフワッと消え失せてしまった。
するとどうだろう、今のいままで何の変哲もないバイクだったそれが見た事もない不可思議な姿に変わっているではないか。
流線型の真っ赤なボディーに突き出した大きなマフラー・・・その姿は仮面ライダーインパルスが駆るバイク、シルエットランダーへと変わっていた。
よくよく見れば、それにまたがるシンの姿もライダーへと変わっている。
ブゥオォォォンッ!!
今までにない猛烈な唸りを挙げ、シルエットランダーが加速する。
少なくとも並みのバイクが出せるスピードではない…その証拠に逃げ去る車との距離は刻一刻と縮まっていた。
「っ!!何だ!?」
もうすぐで追い付けると思える距離にまで近付いた時だった。
…運転中にも関わらず何故か、車の後部座席のドアが開く。
そして3つの影が車内から飛び出し…やがて車道と激しいキスを交わすと背後に消え去っていった。
妙な違和感が一瞬、胸をよぎる…だが、躊躇している暇はない、ライダーは更にスピードを上げようとハンドルを回そうとした…と、
ダッダッダッ…。
エンジンが唸りを挙げる音に混じって、背後から妙な音が聞こえてくる。
それは…そう、まるでジャングルを駆ける四足獣の足音を思わせる…。
その音がすぐ側に感じられた瞬間、ライダーは嫌な予感を覚えシルエットランダーの車体を横に走らせた。
406仮面ライダーSEED:2005/11/17(木) 06:06:18 ID:???
その刹那、背後から追いかけて来ていた黒い影が向かい風をその身に受けながら、先程までライダーがいた場所へ突っ込んでいた。
ガシィ!!
追跡者はコンクリートを飛ばしながらアスファルトに食い込んだ爪を引き抜くと、襲撃前と同様に走り去るバイクを追い、再び猛然と走り出す。
「グルァァァッ!!」
やはりというか、何と言うか…その姿は粉う事なき四足獣のそれを彷彿させるものだった。
「バクゥかっ!?面倒だな、それも3匹も…。」
バクゥ…ザフトが造り出した数々の改造人間の中でも特異な存在の一つである。
他の改造人間が人の形態をやや保ったままなのに対し、これは完璧に四足獣の姿をしていた。
その性格は姿同様、肉食獣の様に俊敏かつ凶暴そのものである。
先程、飛び出して来た影は3つ…恐らくその全てがバクゥに違いない。
迂闊に相手をしていては車を見失ってしまう…ライダーはバクゥを無視するとアクセルを最大にして追跡を再開する。
「ガァァァッ!!」
そうはさせじと、3体のバクゥがコンビネーションを交えながら、シルエットランダー目掛けて苛烈な攻撃を加え続ける、それをギリギリの処でかわしていくライダー。
チッ…これじゃあっ!!
そんな焦りが生まれた時だった。
ズガァン!!
高らかに一発の銃声が辺りにこだまする、どうやら何者かが放った銃弾がバクゥの一体に命中したらしい。
だが致命傷には至らなかった様だ、一瞬だけ苦しげな叫びを挙げると何の問題もなかった様に再度、追撃を開始してきた。
407仮面ライダーSEED:2005/11/17(木) 06:15:24 ID:???
一体…誰なんだ?
そんな疑問を差し挟む余地を与えまいと、3体のバクゥの攻撃が熾烈さを増していく。
ズガン、ズガン、ズガァン!!
その危機を助けようとしてか、謎の銃撃が再びバクゥを襲った。
その隙にシルエットランダーは疾風の如く走り去る…やがて車の後ろ姿を目視出来る距離にまで接近する事に成功した。
あと少し…あと少しだ!!
今ではトランクのヘコミ具合が分かるくらいだ…恐らく、中には署を爆破する為に積み込んでいた爆薬の残りが積まれているに違いない。
ふと、妙な疑問に気が付いた…車の表面がへこんだり、出っ張っている場合、その凹凸は光を反射するものだ。
だが…眼前の車にはそれが見受けられない。
…何らかの物体が影になっていなければそうはならない筈なのだ。
慌てて、頭上を見上げる…そこには鳥さながらに肩から羽の様なモノを生やし、宙を滑空している存在…これもまたザフトの造り出した改造人間、ディンの姿があった。
そのディンが、こちら目掛けてその手にした銃を容赦なくぶっ放す!!
ガガガガッ!!
間断なく放たれる火戦が処構わず突き刺さっていく…その狙いが少しづつ、正確になってきている様な気がしてならない。
ダッダッダッ…。
気付けば、バクゥの一団もダメージから回復したのか背後まで迫ってきている…今やライダーは挟み撃ちされてしまっている状態に陥っていた。
このままじゃ、ヤラレるのは目に見えてる…か。
…謎の助っ人をアテには出来ないしな、仕方ない!!
そう覚悟を決め、追跡を断念するとライダーは何故かハンドルを手放し、宙へ跳んだ…主から解放されたシルエットランダーがすぐさまその動きを止め、その場に停車する。
「フォームチェンジ、フォースシルエット!!」
そう叫んだライダーの体から、紺碧の空を思わせる蒼い輝きが生まれる!!
408仮面ライダーSEED:2005/11/17(木) 06:50:44 ID:???
その輝きが収まらぬうちに、ディンとバクゥ等が天と地から見事な連携を見せ、一斉にライダー目掛け襲いかかる!!…だが。
「…?」
勝利の美酒に酔いしれるかと思われた改造人間達は何故か、腑に落ちない様子で憮然としてしまっていた。
それもその筈、ライダーの姿は忽然とその場から消え失せていたのだから。
「どうした…俺はここだっ!!」
どこからか高らかな声が響き渡る…見ればライダーが道路沿いの建物の上に立っているではないか。
しかし彼が今、立つ場所は襲撃をかけられた場所から少し離れた建物の屋根の上である…一瞬のうちに一体どうやって?
「このスピード…付いて来れるか!?」
そう吠えるとインパルスは再び宙へ舞った。
そのジャンプは先程までとは比べものにならないくらいに高い。
それを迎え撃とうとディンも宙を飛ぶ。
一撃必殺を狙い、今度は脚部から小型のミサイルを放つ。
…しかし、その場所には既にライダーの姿はない。
「うぉぉ…たぁりゃあっ!!」
ディンの体を不意に激しい衝撃が襲う、見ればライダーの手刀がその背中に決まっていた。
堪えきれずに、ゆらりとディンの体が宙によろめく。
一方、ライダーはバクゥ等に背を向け、大地に降り立っていた…その背中にある変化が生じていた。
肩の辺りからは、まるでジェット機の様な翼。
また、ふくらはぎからはダクトのようなノゾルが伸びている。
…これは仮面ライダーインパルスの戦闘フォームの一つ、フォースインパルスである。
ソードインパルスの様な驚異的な白兵戦能力の付加はないものの、この二カ所の変化により空中戦において圧倒的な機動力が与えられるのだ。
409仮面ライダーSEED:2005/11/17(木) 07:23:45 ID:???
そして、それは空だけの話ではない…。
「キシャアァァッ!!」
おぞましい雄叫びをあげ、バクゥの群れが迂闊にも背中を見せ続けたままのライダーの背に一斉に飛びかかる。
そんな攻撃を前にしても依然、ライダーは背を向けたままだった…と、そのふくらはぎのノズルから勢い良く熱風が吹き出す。
ゴォォォッ!!
バーニアの反動を受け、ライダーの体はあっと言う間に彼らを見下ろす程の空中へと舞い戻った。
「行くぞ…ヴァジュラウィング!!」
地面の上で右往左往するバクゥの群れ目掛けて、隼を思わせる速度でライダーは真っ逆様に急降下していく。
その翼が先程より鋭く伸びていた。
ライダーが地上すれすれに滑空しながらも、バクゥ達の間を縫うようにすれ違う瞬間…何条かの刃を連想させる閃光が走った。
そしてそのまま、再びバクゥに背を向けたまま大地に足を止め、静止する。
ズル…ズルズル。
二度目の攻撃が始まるかと思われた瞬間、背後のバクゥ達が一斉にその場に崩れ落ちた。
見れば、その体に鋭利な刃物によって刻まれた様な傷跡があった…やがて次々と跡を追うように爆散していく…。
その爆光を受け、フォースインパルスの背でバクゥの体液にまみれた翼がギラリと輝いた。
410仮面ライダーSEED:2005/11/17(木) 07:55:33 ID:???
しかし、まだ安心する事は出来ない…未だディンは健在である。
それを裏付けるかの様に小型ミサイル、マシンガンの雨が激しく降り注いだ。
「こんのぉ…!!」
小さく呻くとライダーは三度、降り注ぐ火戦の中、宙へ飛び上がる。
しかし攻撃をかわしつつ、上昇を図ろうとしている為か思うように接近出来ないでいる。
一方、ディンもライダーが近付いてくる事に恐怖を感じているのか攻撃の手を休めようとしない。
…このとき、ディンのアタマに冷静な判断、即ち撤退の一文字があれば彼は生き延びられたかもしれない。
無論、生き延びた先に人としての喜びなぞありはしないが…。
しかし、仮にも仲間であるバクゥの群れを瞬時に全滅させられてしまい、今や彼の思考は恐怖と怒りの飽和状態にあった。
だから…自分の武器が弾切れを起こしている事に気付いた時点で、かつて人であったディンという改造人間の運命は決まっていた。
いつの間にか、ライダーがディンの背後に廻りその脚を抱え込んでいる。
「あばよ…楽にさしてやるぜ。」
そう呟くとライダーは手にしたディンの脚を上にあげ、プロレスで言うところのパイルドライバーの姿勢をとる。
そして自らの体に捻りを加えると、グルグルと円を描く様に地面目掛けて、急激に落下していく…!!
「インパルス雷光落とし!!」
大地に激突する瞬間、二人の体が別れた。
ディンの体が落下の勢いそのままにアスファルトへ物凄い勢いで叩き着けられて動かなくなる。
やがて大きな火柱が挙がった…。
それを見詰めるライダーの表情は爆発にたなびくマフラーに邪魔され、伺い知ることは出来ない…。
411仮面ライダーSEED:2005/11/17(木) 08:16:08 ID:???
ようやく、シンがその場から立ち去ろうとした時だった。
ブロロロ…。
何者かの駆るバイクが近付く音が聞こえてきた。
ザフトにせよ、一般人にせよ…こんな現場を目撃されるのはあまり得策とは思えない。
シンは慌てて、バイクに飛び乗った。
キュィッッ!!
しかし気付くのが少々、遅かった様だ。
すぐ背後でブレーキを踏む音が鳴るのが聞こえた。
シンは仕方なく、後ろを振り返る…そこには、こんな異様な事態にも関わらず飄々とした男が立っていた。
「何だ…アンタは?」
ふいにそんな言葉が口をつく…男はそりゃあコッチの台詞だぜ、と言いたげに片眉をあげてみせた。
「ご挨拶だなぁ…さっきはコレが助かっただろう?
もう少しお手柔らかに願いたいね。」
そう言いながら、男は身に付けたモスグリーンのジャケットから拳銃を二丁取り出して見せた。
つまり…先程バクゥへ浴びせられた銃撃はこの男のものという事だ。
しかし…何故?
自然と不信感が顔に現れていたらしい、男は苦笑して拳銃をしまうと代わりに一枚の名刺を取り出した。
「自己紹介がまだだったな…俺はディアッカ・エルスマン、しがない探偵さ。
ヨロシクぅっ、仮面のヒーロー…シン・アスカ君?」




         つづく