シンは仮面ライダーになるべきだ

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309仮面ライダーSEED

シンとクルーゼをはじめとしたザフトの一団は互いに黙したまま、睨み合いを続けている。
流石…幹部だな、全然隙がないぜ。
そうやって百もの視線を我が身に受けながらも、シンが見据えるのは自分と言う簡単に下す事もいかない強敵を前にしながら、不気味に微笑み続ける仮面の男ただ一人であった。
そのクルーゼはと言えば、今はしきりに口元を弄びながら構えもとらずに突っ立っている。
それはどう見ても隙だらけな所作ではあるが、その仮面の奥から沸き上がる得体の知れぬプレッシャーがシンに攻撃を躊躇わせるのだった。
くっ…何を恐れる!!シンっ!!幹部とは言え、所詮は人っ!!倒せない筈はないっ!!
「ぅおぉぉぉっっ!!」
シンは喉元までせり上がった恐怖を無理矢理押し殺すと、雄叫びをあげながらクルーゼ目掛け飛びかかる…狙うは蹴り。
例え致命傷にはならずとも、決める事が出来れば戦いの流れを自分が掴む事が出来る!!
その思いと供に踏みしめた大地を蹴る、重力から解放された体が勢い良く宙を飛び、みるみるうちに相手との距離が狭まっていく!!
…だが、信じられない事にシンがこうして加撃のタイミングを計っているこの瞬間にも、クルーゼは部下に護衛をさせるでもなく、攻撃に備え構えを取りもしない。
相変わらず、突っ立ったままなのだった。
っ!!…なめるなぁぁぁっ!!
声に出すことない怒号をあげるとシンは蹴りを繰り出す、変身していないとはいえライダーが放つ必殺の蹴り…当たれば、当然骨の一本や二本をへし折るだろう。
ブンッッ!!
放たれた蹴りが、風を切り裂く音をたてクルーゼに襲いかかる…!!
310仮面ライダーSEED:2005/10/27(木) 05:06:18 ID:???

食い込んだ爪先から強烈な破壊力が伝わり、クルーゼは力無く地に倒れ伏す…かに思われた。
「な…っ!?」
だが、その一撃はヒットする事なく、何とたった二本の指で抑えられていた。クルーゼ自身は先程同様に余裕の笑みを浮かべてさえいる。
くっ…勝負を焦りすぎたか。
このまま組み合っては不利だという事を察し、シンは後方へと飛び退いた…その彼にまるで出来の悪い生徒へ忠告を告げる教師の様に、クルーゼが語りかける。
「フフ…流石、ライダー…いい蹴りだね、だが私には通用しないな…。」
そこで一旦、言葉を切るとクルーゼは背後に控える戦闘員の群を振り返り、その先を喋りだした。
「…まずは準備運動といこうか?彼らを相手にして、まだ立っていられたのなら…その時は私、自らお相手しよう。」
その言葉を合図に五十人程の戦闘員達の姿が次々に不気味な変貌を遂げていく…数秒ののち、そこにはザフトの劣兵ジンの軍団が獲物を前に居並ぶ姿があった。
「…かかれ。」
ゾッとする様な冷たい声でクルーゼが告げる、その号令を合図に異形の兵士がまずは5人程シン目掛け、跳びかかった。
「くっ…!!」
シンはそう低く呻くと、彼らを迎え撃つ為に構えをとった。
そこへ肉迫したジンが大上段に構えた剣を袈裟斬りに振り下ろす!!
ブンッッ!!
腕から伸びた剣が空を切る音が空しく響く。
シンはその一撃を上体を逸らして回避するとたたらを踏み、迂闊にも明後日の方を向いたままのジンの背中に容赦なく蹴りを放った…その体が壁にぶち当たり、やがて動かなくる。
その間にも左右からジンの斬撃が襲いかかる、シンはそれをしゃがみ込んだ姿勢から両者の足を払い、倒れ込んだ処へ思いっきり体重を乗せた踏みつけ、肘打ちを加え仕留めてみせた。
スガガガガガッ!!
しゃがみ込み、動きが止まったその隙に銃弾の雨を援護に三度、ジンが切りかかってきた。
「ちぃっ!!」
生身の状態で銃撃を喰らえば、いかに仮面ライダーといえどひとたまりもない。シンは向かってきたジンの腕を掴み、その背を盾に使う。
銃撃が一旦止んだのを見計らい、その方行へ用済みになった体を投げ飛ばした。
311仮面ライダーSEED:2005/10/27(木) 05:23:08 ID:???

再び、辺りが静寂に包まれる…シンはその機を逃さずに、驚異的な跳躍力で工場の二階へ飛び上がると身につけた学生服に手をかけ、その前を乱暴に開いた。
その勢いで、付けられたボタンが勢い良く弾け跳んでいく。
「はぁぁぁぁぁっっ…。」
シンは両手を頭上で交差させると、その身に秘められた力を解放させる様に深く息を吐いた…いつの間にか、先程乱暴に開かれた学生服の隙間から不可思議なベルトが覗いている。
「インパルス、変…身ッッ!!」
シンはかけ声と共に組んでいた手の一本を引き抜くと、腰の辺りで拳を握った。
それに続いて残った片手が外側に開き、変わったポーズをとる。
その瞳に静かな闘志が燃え上がっていく…と、
ヴ、ヴヴヴ…ツッ!!
その瞬間、ベルトが低い唸りをあげた、そしてその中心に穿たれた風車が力強く回り出す。
それと連動する様にシンの体が淡い光に包まれていく…。
「とぅぉーっ!!」
雄叫びをあげながら、二階から飛び降りたシンを包むその光の中で何かの形が形成されていく…そして彼を中心に太陽を思わせる爆光が巻き起こった!!
スタッ…。
光が止み、床へ降り立ったその姿は…そう、
「さぁ来いっ、ザフトめ…覚悟しろっ!!」
深紅のマフラーをたなびかせ、燃える碧の瞳に敵を映した正義の使者…仮面ライダーインパルスの姿がそこにあった。
312仮面ライダーSEED:2005/10/27(木) 06:40:44 ID:???

「でやぁぁぁっっ!!」
ズガァァン!!
インパルスが放ったミドルキックがジンの防御を交い潜り、鳩尾に見事炸裂する。
だがその体が高々と宙に舞い上がるのを待たず、次の攻撃が背後から襲いかかった。
「せいっ!!」
ライダーは同時に襲いかかってきた内、一人を易々と裏拳で撃退しながら残った片手に意識を集中させた…すると、そこに鋭い刃を思わせる光が生まれる。
「フォールディングレザークロー!!」
生み出した刃を残るもう一人に向かって抜く手も見せずに突き出す…!!
ライダーが繰り出したその一撃は体に触れるか触れないかの距離であったにも関わらず、ジンの装甲に亀裂が生じた。
ブシュゥゥゥッッ!!
数秒遅れて、体から紫色の血煙が凄い勢いでほとばしる。それが出尽くすと絶命したと思われるジンはその場にゆっくり崩れ落ちた…。
しかしそんな光景を見ても臆すことのないジンの群は、ライダーを中心にしてグルリと囲んだ包囲網をまた狭めていく。
「フム、なかなかやる様だな…そろそろか…。」
その事態を少し離れた場所で見守っていたクルーゼがポツリと呟いた。
ズゴゴゴゴ…。
その言葉に呼応するかの様に床の下を何かが移動する音が辺りに響き出す、そして丁度ライダーの足下辺りまで進むとその音は不意にピタリと止んだ。
313仮面ライダーSEED:2005/10/27(木) 08:05:21 ID:???

っ!!…何だ!?
足下から迫り来る目に見えない脅威に全身が粟立つ。
それが間違いではなかった事はすぐさま証明された、刻一刻と眼下の床にヒビが入り、凄まじい振動がその場にいる者に襲いかかる。
また、室内の至る所で物が倒壊する音がこだましていく、それはやがて現れる存在に畏れを為すかの様であった。
…新手…か!?
ライダーがそう思い立った瞬間だった。亀裂の走った床が割れ、その破片が深い闇に吸い込まれていく…床にポッカリと穿たれたその闇の中で蠢く気配を察し、ライダーは宙に跳ぶ。
ドヒュン!!
と、宙に身を翻したライダーに追いすがるように地面から一つの大きな陰が飛び出した。
鈍重そうな巨体に窓から差し込んだ夕日が当たる…そのずんぐりとした体格はまるで土竜を思わせる愛嬌のある物だった。
「つっ…落ちろっ!!」
突如、出現した新手の怪人へライダーが空中から跳び蹴りを浴びせる。
ドガスッ!!
その一撃は怪人の喉元を捉えた容赦ないものだった、しかし見事炸裂した筈の蹴りに怪人はよろめきもしない…そればかりか自らの体を蹴り抜いたライダーの脚をその太い腕でガッシリと捕まえると力任せにぶん投げたのだ!!
ドガシャァァァッ!!
「ぐぅ…っ。」
地面に激突する前に辛うじて受け身をとる事に成功したものの、低い呻き声が口から漏れ出てしまう。
もうもうと埃をあげる中、それでも立ち上がろうとするライダーにクルーゼが冷ややかな言葉を浴びた。
「フフ、どうかね?モールグーンの力は…生半可な攻撃ではこの装甲を抜く事なぞ不可能だよ…大人しく降参した方が楽に死ねると思うんだがね…。」
クルーゼの言葉に嘘はないのだろう、その証拠に先程蹴られた部分にはかすり傷一つついていない…。
314仮面ライダーSEED:2005/10/27(木) 08:53:22 ID:???

確かに…このままじゃあ駄目だな、このままじゃ…な。
そう心の中で一人ごちるインパルスの目に何故か強い光が灯り出す…。
ドスドスドスッ…!!
そこへとどめを刺すべくグーンが体当たりを仕掛けてきた。怪人がその巨体で一歩を踏みしめる度に地面が大きく揺れる、これをマトモに喰らってしまえば、相当深刻なダメージを受けるに違いない…。
「…ギリギリまで引き付けて…今だっ!!」
そう言うや、インパルスは眼前にまで迫ったグーンの目の前で跳躍し、その巨体を何と踏み台にすると更に飛び上がった!!
インパルスが降り立ったその先へ、頭を蹴られ怒った様にずかずかと歩み寄るグーン。そして相変わらず無表情なジンの生き残りがゾロゾロと集まり出す…。
「確かに…お前の装甲に並の攻撃じゃ通用しないだろうさ…だけど、これならどうかな?」
ライダーインパルスはそう挑む様に呟くと目の前で両腕を十字に組んだ…その双腕の陰で碧の瞳がギラリと輝く…そして、
「…フォームチェンジ、ソードシルエット!!」
その叫びが体の奥底からまばゆい深紅の輝きを呼んだ!!
一瞬、周囲を窓の外から差し込む夕日よりも赤い光が染め上げる…その輝きが収まるとそこには先程とは異なる新たな姿、炎を思わせるボディーに巨大な二振りの刀を携えたインパルス…いや、ソードインパルスが立っていた。
315通常の名無しさんの3倍:2005/10/27(木) 09:45:24 ID:???
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!
316仮面ライダーSEED:2005/10/27(木) 09:53:50 ID:???

更なる変身を遂げたインパルスに脅威を感じたのかジンは近付いてこようとはしない、その代わりに苛烈な銃撃のシャワーの洗礼がライダーを襲う。
対するインパルスはこの攻撃に対し、無難に回避を採り逃げ回るかと思われた…。
ブン…ブンブンッ…!!
しかし…彼がとった行動は手にした双剣を数度振り払っただけで、そこに留まり続けたのである。
当然、無数の銃弾がその身に風穴を明けて然るべきだった…だが、
カラン、カラカラカラカラカラ…。
何かが床に落ちるその場にそぐわない妙に涼やかな音が続けざまに鳴り渡る…それはインパルスが薙払い、切り落とした銃弾の残骸が落ちる音だった。
つまり、先程たった数度に見えた斬撃が、実際はその数十倍の回数が超人的な速さで繰り出され、しかも恐ろしく正確な物だったことを如実に物語っている。
それを目にしたジンの群れに初めて焦りの色が浮かぶ。だが流石、ザフトが誇る戦闘員。
まだ戦意を喪失したわけではない様だ…次の攻撃を加えようと手にした銃を各員が構え始める。
「…させるかっ!!」
そう叫ぶインパルスの手にはいつの間にか剣ではなく、ブーメランのような武器が握られている。
ヒュンッッ!!
インパルスの手を離れたブーメラン、フラッシュエッジが風を切り裂く鋭い音をあげながら、次々にジンが手にした銃を叩き落としていく!!
317仮面ライダーSEED:2005/10/27(木) 10:45:05 ID:???

「いくぜ!!…エクスカリバーぁぁっ…。」
戻ってきたブーメランを腰に戻しライダーはその手に再び双剣、エクスカリバーを携えジンの群れ、そしてモールグーン目掛け、とき放たれた一本の矢の様に突っ込んだ!!
ズバァァァァッッ!!
まず手始めに立ち塞がるジンを抜き胴で切り払うと、その勢いを殺すことなく目の前のジンへもう一つの刃を突き立てる。
と、そこへモールグーンとジンが突っ込んで来る…ここでライダーはジンの体から2つの刃を引き抜くと再び華麗な跳躍を見せた。
残された全員の視線は自然と宙を仰ぐ…ある一点でジャンプのピークを迎え、次第に落下し往くライダーの手の中で2つの刃の杖と杖が合わさった。
インパルスは次に半身をひねり回転をくわえだす…はじめはゆっくりだったそれが次第に落下のスピードを乗せる事で全てを巻き込み、吹き飛ばす竜巻の様なものへと変わっていく…!!
「受けろ、サイクロン…スラァァッシュっっ!!」
地上に降り立ったインパルスは両手で構えたその剣を使い、次々にジンとぶつかりながらその体を切り刻んでいく…当然、モールグーンもその被害を避ける事など出来はしない。
台風の目となったインパルスがジンを全て斬り刻んだ時にはその体に無数の刀痕が刻まれていた。
「…トドメっっ!!」
必殺の一撃を加えるべく、ライダーが弾け跳んだ独楽の様に宙を飛ぶ…その回転をグーンの頭上でピタリと止めると、そのまま体重を込めた渾身の一撃を打ち下ろす!!
グシャアァァァッッ!!
真一文字に振り下ろされた一撃がその体を貫いた…しかし驚いた事にグーンはまだ動くそぶりを見せる、それに対してインパルスは手の中で刃を返すと正真正銘、トドメの一撃になる横の一閃を薙払った…。
ズル、ズルル…ドガァァァァァァンッッ!!
胴を鋭い一撃が通り抜け、やがてゆっくりとその体が真っ二つになっていく…そしてその体から沸き上がった鈍い閃光と耳をつんざく爆音が周囲を圧倒した。
「俺の勝ちだ…。」
318仮面ライダーSEED:2005/10/27(木) 11:15:33 ID:???

爆発を背にしながら、ようやくシンは一人残ったクルーゼと相対した。
さっきは油断しちまった…けど、今度はそうはいかないぜ!!
先程の屈辱が脳裏をよぎる…それを悟られないように身構えた時だった。
パチ、パチパチ…。
不意に聞こえてきたその音が拍手だと、シンが気付くのに若干の時間を要してしまった。
「っ!!…ふざけるなよ…アンタは、アンタは一体何のつもりだっ!!」
そのあまりに場違いな行動に苛立ちを抑える事が出来ない、シンは自らの怒りを口元をニヤリと歪めながら白々しい拍手を続けるクルーゼにぶつけた。
「フフ…お見事だよ、流石はSEEDを持つものといった処…かな?」
そんなシンを意に介すことなく、クルーゼは意味深な事を口にしながら、愉快そうに言葉を繋ぐ。
「ただ、やはり私と闘うにはまだまだ…と言わざるを得ないな。
それまでせいぜい、その内に眠るSEEDの力を高めておく事だね…では、また会える事を期待しているよ…。」
そう言い残すとクルーゼはフッとその場からかき消える様に消えた。
「ラウ・ル・クルーゼ…!!」

あとに残されたシンはようやく変身を解除すると、窓の外を睨みつけた…空にはいつの間にか天高く三日月が昇っている。
今のシンにはその冴え冴えと光る月の形が、死神の振るう鎌に見えてしまうのだった…。







第二話




      了



つづく