それは、どこともしれぬ薄暗い空間。
闇の中、鈍く光りをあげる計器類がその場所が室内である事を物語っている。
「………。」
中央には象牙で作られた円卓が置かれてあり、そこには数人の人間が無言で座し、何かを待っていた。
プシュー…。
と、どこからともなくドアが開く音が響いてきた。
円卓の彼らはその方向へ首を巡らす。
「待たせたな…それでは、第17次定例幹部会議を始めるとしよう。」
現れたのは軍服を身に纏った見るからに一徹そうな壮年の男性だった。
彼の姿を見届けるや、その場に示し合わせた全員が席を立ち、敬礼をする。
男はそれを手で制すると、円卓の上座へ腰を落ち着けた。
「では…まずはこれを御覧下さい。」
参加者の一人、薄い水色のスーツを着込んだ酷薄そうな男が手元のパネルを操作する…すると円卓中央の得体の知れないホログラフ投光機から光が立ち上る。やがてそれは一人の人物の像を結んだ。
映像の中で彼は迫り来るジンを次々に蹴散らしていく…そう、その人物とはかく言う仮面ライダーインパルスその人だった。
そして、ここにいる彼らこそ…シンが命を懸け戦う組織、秘密結社ザフトの最高幹部達なのである…。
>>162 上層部キタナ!!
なんか本格的になってきた
「ほぅ…彼が例の…。」
興味深げに映像を眺めていた幹部の一人が口を開いた、ラウ・ル・クルーゼ…仮面を付けたその素顔を知るものは誰一人いない、得体の知れない不気味な男である。
「えぇ、プロジェクトの3番目にあたる実験体だったのですが…まんまと逃走されてしまいましてね、現在は我々の障害となってしまっています。」
そうクルーゼに対して答えたのはムルタ・アズラエル。
他の幹部が全員軍服を着用している中、彼だけがスーツを着込んでいる。
当然、場違いな感がしてもおかしくない筈なのだが不思議と違和感はない、これも幹部の貫禄というものなのだろうか。
「やはり、あのプロジェクトは中止すべきだったな…だから僕は反対したんだ。」
と、横槍を入れてきた人物がいた。
彼はアンドリュー・バルドフェルド…ザフトが誇る名将であり、またなかなかの策士でもある。
彼は卓上に置かれたカップを手にし、口に運ぶと中のコーヒーをクイッと飲み干してから言葉を繋ぎ始めた。
「そもそも…これ以上の戦力の増強は必要ないと僕は思いますがね、現段階でも十二分に各国への侵攻は可能かと。
それに関して、ザラ議長はどの様にお考えですかな?」
「…確かに、問題はなかろう。」
バルドフェルドの問いに対し、議長と呼ばれた男…パトリック・ザラが口を開いた。
「しかし、現在開発中のシステムが完成してはいない以上、作戦はあくまでも隠密行動を優先すべきだ…違うかね?」
「議長は何事も盤石を配したいとお考えなのだよ…判るだろう?バルドフェルド君。」
二人のやりとりにクルーゼが割って入った…そんな彼の言葉をバルドフェルドは鼻で笑うように受け流す。二人の仲はそんなにいい関係と言えるものではないらしい…一方、アズラエルはといえばニヤニヤとして、この事態を楽しんでいるかのように見える。
そんな場を締めるかのようにパトリックは軽く咳払いをすると重々しく、これからの指針を語り出した。
「我らの行動方針は先に述べた通り…隠密を以て旨とすべし…しかし、」
彼はそこで一旦、口を閉ざすと目の前のホログラフを睨んだ。インパルスがジンを易々と撃破する光景が映し出されている、それを見て彼は力強く二の句を繋ぎ始めた。
「我らの障害となるものは排除せねばなるまい…失敗作となったインパルスは消すべきだ。」
その言葉に三人の幹部は一様にニヤリと微笑みながら、頷いた。
それを確認すると、パトリックは立ち上がり片手をあげた、残りの三人もそれに続く。
「我らが偉大なる総帥の意志が導くままに…。」
「コーディネーターの真なる自由の為に!!」
「組織に刃向かう仮面ライダーインパルスを抹殺せよ!!」
その場にいた全員の唱和した不気味な誓いが、だだっ広い空間にワンワンと響き渡いていく。
と…壁にはめ込まれたザフトのレリーフが一瞬、その光景を見て嘲笑うかのように鋭く光った…のは気のせいだろうか?