ある日、ムルタのおっさんがいつものようにやってきた。
「キミ達、旅行に行きたくはないですか?」
旅行?何処へだよ
「アメリカですよア・メ・リ・カ。ちょうど仕事でラスベガスへ行く予定が出来ましてね。
一緒に連れていってあげようかと思いましてね」
「アメリカだとぉ!?」
「ベガ・ス!」
「カジノ〜」
ラスベガスか・・うん、たまには息抜きもいいだろう。よし、行くか。
「自伝が何冊も出せる・・」
「ゲームが何本も買える・・」
「白夜が何枚も買える〜・・」
なに考えてんだお前ら。
「ニコル君もついて来るそうですよ。なんでも、一度カジノを体験してみたかった、ということで・・」
ふーん、ニコルもくるのか。
そして、出発当日。
お前ら、パスポートは持ったか?
「うん。見る〜?」
シャニのを見ると、そこには明らかに「人殺しをやってます」と言わんばかりに目つきが悪い
シャニの写真が写っていた。
お前、もう少しマシな写真はなかったのか?
「キミ達、何をしてるんですか、行きますよ。こっちです」
え、?でも、搭乗口はこっちのはず・・
「何を言ってるんですか。この僕が普通の飛行会社なんて使うわけ無いでしょう。
専用機ですよ専用機」
専用機?んなもんがあんのか。偉いご身分だな。
「さあさあこっちです。付いてきて下さい」
おっさんの言う通りに後を付いて行くと・・なっ、あそこにあるのは、エアバスA−380!?
「そうです、あれこそヨーロッパが誇るエアバス社の最新鋭旅客機、A−380です!」
おお、あの3階建てで、1階部分にはバーもあるという・・
「さ、搭乗ですよ」
言われるままに飛行機内部に進入する。
ひ、広い・・
「あと5分で離陸ですよ。早く席についてください」
そう言われてやけに広いシートに座る。
待つこと5分。飛行機が動き出した。
「うおおおお、動いてるぞ」
「緊・張!」
「すご〜い」
そして、滑走路に着くと、エンジンを全開にし、勢い良く滑走を始めた。
「うおおぉぉぉおぉおぉぉぉおお」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛〜」
「かかかかかかかかかかかかかかかか・・ぐむっ!」
クロト、舌噛んだだろ。
そんな俺達を乗せ、飛行機は飛んでいった。
シートベルトランプが消灯したので、クロトの所へ行ってみた。
クロト、大丈夫か?
クロトは口を押さえ、涙と鼻水を流しながら苦しんでいる。
「へ、へひふぅ・・へひふいっ!」
どうやら、「激・痛、激・涙!」と言いたいらしい。
まあ丁度良い。そのまま黙っとけ。
オルガのほうを見ると・・読書をしている。
シャニは・・アイマスクをして、白夜のCD。
ニコルは・・楽譜に作曲中。
・・これじゃ家にいるのと変わらないな。
「・・キミ達、それじゃいつもと一緒じゃないですか。
もっとこう、景色を楽しむとか、そういうことはできないんですか?」
おっさんがこっちにきた。
「だってよぉ、ずーっと同じ景色だぜ?40秒で飽きたよ、俺は」
「ふっ、情緒がないですねぇ・・流れ行く雲・・それをボーッと見ているだけでも相当の価値が・・う、うわっ・・ぐんむっ!」
へぎいっ!
突如として飛行機はエアポケットに突入。無重力状態となった機内で立っていた俺とおっさんは
天井に頭をしたたかに打ち付けたのだった。
薄れ行く意識の中、俺の視界に入ったもの、それは
大笑いする4人の姿だった。
「ブヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!バカでぇ〜!」
「ヘヒハヘハハハハハハハ!はふひょうっ!(爆笑!)」
「ハヒャヒャヒャヒャヒャヒャ〜」
「プッ・・クスクスクス・・」
氏ねばいい。
それから数時間が過ぎ、飛行機はラスベガスに到着。
「さて、と、降りますよ。その後入国審査です。」
飛行機のタラップから降りてみると、大勢の人影が・・ん、あそこにいるのは・・
ア、アーノルド・シュワルツェネッガー!?
「オーウMr.ムルター!▼↑●△⌒∬≦≒ΓΙΝΟΗ♂⇒♀!!」
「オー、アルツー!◎△◎−=>≧÷÷≡≦≪ψΔρο!!」
な、なんだか英語で会話してるぞ。
「ハッハッハッ、紹介しましょう、友人のアルツです」
ゆ、友人って、あんたシュワちゃんと友達なのかよ!?
「友人もなにも、『マブダチ』ってやつですよ。
前回の州知事選挙では票の取りまとめのお手伝いをしたこともありますしねぇ。
今日はわさわざカリフォルニア州からネヴァダ州へ来てくれたんですよ」
「おひょ〜」
「すっげ〜」
「きれ〜い」
シャニ、それは違うだろ。
「さて、アルツとは会談の予定がありますので、キミ達は先にホテルに行っていてください。
タクシーは手配してあります」
そういうとシュワちゃんと談笑しながら去っていくおっさん。
・・それはそうと、その「アルツ」って呼び方は止めといたほうが良いと思うぞ。
ほどなくして入国審査が終わり、タクシーに乗ってホテルに着いた俺達。
さて、これからどうする?
「決まってんだろ!カジ・ノ!」
「一攫千金〜」
お前らそればっかりだな。
まあいいや。さっそくカジノへいくとしよう。
カジノへ着くと、丁度開店時間だった。俺達はさっそくスロットマシーンへと向かう。
よし、俺はここの台で・・
・・うおっ、よし・・・・ああ、駄目か・・もう一回・・・・・・くそっ・・
俺が台と格闘していると、後ろからニコルの声がした。
「あのう・・不思議なことが・・」
え?なんだよ、俺は今忙し・・な、なんだよ、そのコインの山はぁ!?
「それが、端から端、全部の台にコインを入れて順番にボタン押していったら、
全部の台で大当たりが出たんです」
・・・・・・。
何も考えないでおこう。
その後、俺は小当たりと外れを繰り返しながら、0.2割ぐらいの勝ちを維持していた。
・・そういえば、4人が見当たらないな。
探しに行くか。
三人を探していた俺は、100ドルコインのスロットに人だかりが出来ているのに気づいた。
まさかと思い、群集を掻き分け、中心部に入っていくと・・
「ダハハハハ!また当たりだぁ!」
オルガ!?どうしたん・・んなっ・・
オルガの足元には、山のように積み上げられたコインがあった。
「いや、これ結構簡単だよなぁ?3回に1回の確率で大当たりが来やがるぜ!」
なっ・・オ、オルガ、これ、全部でいくらだ?
「さあな。35000ドルからは数えてねぇよ」
35000ドルっていったら・・・よ、420万円!?
「向こうのシャニとニコルも凄いみたいだぜ」
なに?そういえば、あっちにも群集が・・
見ると、シャニとニコルが異様な笑みを浮かべながらブラック・ジャックに興じている。
「へへへ、また俺の勝ちぃ〜」
「はい、僕の勝ちですね」
「HAHAHA、オー・マイ・ガァ・・」
すでに店員は泣きそうな顔になっている。
オルガと同じく、こちらも凄いコインの山だ。
「あっちのクロトのほうも行ってみたら〜」
そう言われ、ルーレット会場のほうへと足を進めてみると・・
案の定、人だかりが出来ている。
あ、ソーリー・・あ、すいません、ちょっと通してください・・よいしょ・・
ク、クロト、お前はどうだ?
「最・高!一・億・ドル勝った!」
い、いちおくどるうぅぅ!?
クロトの周りに積み上げられるコインの山、山、山。
ク、クロト、もうそのへんにして換金したら・・
「なに言ってんだよ!これからが本・番!
お姉さん!次、黒の12に全・部!」
ちょ、ちょっと待てええぇぇぇぇ!
「なんだよ、うるさいなぁ。だってこれ当たったら、一億ドルの35倍だから35億ドルだぜ?」
無謀だ!無謀すぎる!止めろ!さっさと換金を・・
俺が言い終わらないうちに回り始めるルーレット。
ぐわあああ、何やってんだよっ、こいつはあぁぁぁ!!
群集も、固唾を飲んでルーレットを見守る。
そして・・
カチャッ・・コロコロコロ・・カツン
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!黒の12キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
「いやったあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
どこかで聞いたような叫び声を上げるクロト。
マジかよ、おい・・
群集は大騒ぎ。知らない白人のおっさんが、まるで自分のことのように俺に抱きついてくる。
なっ、ちょっ・・おっさん止めろよ・・なっ、キスをするなあぁぁ!!舌を入れようとするなああぁ!!
「よおぉし!次、赤の7に全・部!」
そんなクロトの声を聞きながら、俺はもみくちゃにされていった。
数時間後
お・・三人揃ったか。・・どうだった?
「俺は32万ドル勝ったぜ」
・・32万ドルっていったら・・3840億円・・
「ぼ、僕は、40万ドル勝ちました」
・・4800億円・・
「俺は47万ドル〜」
・・もう計算すんのも面倒になってきたな。
「俺は!2758兆5473億5351万5625ドル!」
・・・・・・(゚Д゚)ハァ?
「凄いだろ!1ドルから35倍大当たりを10回繰り返したんだぜ!」
・・一体どういう確率だよ・・・・・・
「さて、そろそろホテルに帰ろうぜ。その前に換金しないとな」
そう言って、換金所に向かう4人。
「オーノー!ノー!ノー!ユーアークレイジー!!」
「はぁ!?だからぁ!換金してくれってんだよ!わかんねぇのか!」
「往生際わる〜い」
「あ、あの・・早く換金を・・」
「早・く!換・金!」
「ノー!ノー!プリーズ・ウェイト!!」
「ノーしか言えねぇのかてめぇは!」
結局、カジノ側が金を分割して支払う、ということで落ち着いた。
・・一体何年かかるのだろう。
結局俺達は(まあ俺達といってもほとんどあの4人だが)連日勝ち続け、
えーっと、総額は・・
億・・兆・・京・・・・・・あれ、京の次の単位って・・あ、そうだ、がい・・じょ・・じょう・・
・・数え切れん・・・・・・
どうすんだこの金・・
「買・収!」
はあ?何を。
「マイ〇ロ・ソフト!」
はぁ!?
「10京円もあれば十・分!」
十分って・・
「それと〜NTTと〜郵政公社と〜道路公団と〜JRと〜」
お前らは日本を乗っ取る気か。
「そうだ!いっそのこと国も買っちまおうぜ!カリフォルニア州とかさぁ!」
「いいねえそれ!名・案!」
「北方領土と〜樺太と〜シベリアと〜イラクと〜」
何がしたいんだお前らは。
「そうだ!ガザ地区のパレスチナ人を買収地に移民させれば・・」
「いいねぇ!一・気に解・決!」
解決ってなぁ・・
「新幹線をユーラシア大陸中に走らせたら素敵だろうな・・」
ほとんど妄想の域だな・・
その後、4人はシ〇ィ・グループ、ゼネ〇ルエレクトリック、マ〇クロソフト、ト〇タ、ダ〇ムラークライスラーなど、
世界の主要企業の大半を買収。
「うおお!まだこんなに金が残ってる!」
次に東京都、アメリカのカリフォルニア州、テキサス州、アイダホ州、モンタナ州、ハワイ、アラスカ、グアム、ロシアの北方領土、樺太、シベリア、
イスラム諸国、アフリカ諸国、ブラジル、朝鮮半島、インドシナ半島、オーストラリア、カナダ、イギリス、フランス、
ドイツ、スペイン、イタリア、中国を買収っていい加減にしろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!
その後もその財力で次々と企業・国を買収。世界の大半が4人の手の内に入り、
世界政府「大和連合皇国」を樹立。
4人は首相として天皇陛下の元、稲作を世界に広め、世界の温暖化を食い止め、パレスチナその他もろもろの紛争を解決。
世界がようやく平和に・・
「ちくしょおおおぉぉぉぉーーーーーーーーーー!!!!憤・怒!!!」
な、なんだ、どうした?
「敗・北!」
な、なにに?
「首相・選挙!」
え・・っていうことは、お前達・・権力全部失ったの!?
「無・残・・」
あ、新しい首相は?
「・・・・・・ムルタのおっさん」
なにいっ!?
「多数派工作で負けちまった・・」
そ、そんな・・か、金は?
「1億円しか残ってない〜」
なにいぃ!?
「ハッハッハッハッハッ、そういうことですよキミィ」
お、おっさん、どういうことだ!
「僕の前を走ろうなんて、100年早いんですよ。
あ、そうそう。キミ達が買収した企業も、全て僕のものですから」
そんな・・
「ふふふ、ま、残り金全て払ってくれれば、特別にあきる野市ぐらいはくれてやってあげてもいいですけどねぇ。
さ、これからは僕の政治手腕に注目してもらいましょうか、ハッハッハッハッハッ・・・・・・」
どうすんだよ・・
「俺達の世界が・・」
「消・沈・・」
「うざ〜い・・」
こうして、俺達は世界の覇者から一転、ただの小金持ちになってしまったのであった・・
居間のテレビには、演説をするおっさんの姿がただただ映されていた。
「ですからっ!我々地球人はっ!連帯のもとっ!世界の恒久的な平和を・・」
いや、それだけなんだけどさ。