ラクスの行動目的の変遷に関する個人的考察
――ラクス悪女説に基づいてSEEDの物語を検証する――
1)序盤〜負傷したキラの確保まで
この時期のラクスは明らかにザフト軍を支持し、戦意高揚のために働いている。
「ユニウスセブンの悲劇」を内外にアピールすることは、すなわちプラントの正義を主張し連合
を非難しているのと同義であろう。決して単純な反戦アピールではありえない。
この序盤の行動と、後の反ザフト的な行動との間に整合性があるとすれば、『シーゲル主導の』と
いう限定条件付きでザフトを支持していたものと思われる。
おそらく、彼女の望みは、シーゲルの下でザフトが連合を撃破し、プラント優位で講和を成立さ
せること。そして、シーゲルが事実上の世界の長となること。
そうすれば、ゆくゆくは『シーゲルの後継者』としてラクスが世界を手にすることになるだろう。
彼女は労せずして覇権を手にすることができるのだ。
(後の行動から考えると、最も有効なタイミングでシーゲルを暗殺するつもりだったのかもしれない)
【だが、シーゲルはプラント評議会議長の座を追われ、後釜にはパトリックがついてしまう。
さらにパトリックは、スピットブレイクの目標をアラスカに変更。短期決着を図ろうとした。
サイクロプスの存在を知らないほぼ全ての人間にとって、この時点では
『パトリックの主導の下での』ザフトの勝利が確実なものに見えていたはずだ】
今日はageるバカが多いな。しかも、ミエミエな釣りばっか。
2)フリーダム奪取
パトリックの手でザフトが勝利してしまうと、自分が覇権を握るチャンスは消滅する。
焦ったラクスはそれでも動こうとしない父に業を煮やし、大きな賭けに出る。
まず、フリーダムを奪取してキラに与え『連合側の戦艦』AAの救援に行かせてしまう。この明白
な利敵行為は、アラスカ攻略を妨害し、パトリックの作戦にケチをつける目的もあるだろう。
(ちなみにNJCの漏洩の危険については、キラが持つ限り大丈夫との確信はあったはずだ。看病を
装ってキラに密着し、彼の価値観を揺さぶる質問を重ねて思想調査と洗脳を進めてきたのだから)
そして、自由奪取という『取り返しのつかない』事実を使ってシーゲルとクライン派を追い込み、
クーデターに踏み切る決断を迫る。最終的には軍事クーデターと市民蜂起を起こし、プラント政権を
無理やり奪うのが狙いである。
(なお、自由奪取の影響を予測し、さらに先の作戦を用意しているのだが、それは次項で後述する)
【しかし、アラスカ攻撃は『内部情報が漏れていたとしか思えぬ状況で』大敗。
『自由を使ってアラスカ攻略戦にケチをつける』どころの騒ぎではなくなってしまった。
しかもパトリックは素早くラクスに罪を被せてしまい、現政権への批判をかわしてしまう。
……この間、クライン派の筆頭たるシーゲルの描写は、不自然なまでに少ない】
3)地下放送
予想以上の劣勢になったラクスは、自由奪取の時点で用意していたシナリオの第二段を発動させる。
まず、地下放送を行い、プラント市民の現政権に対する不信感を煽る。市民を動揺させることだけ
が目的なので、「コーディネーターには未来がない」などというタブーも平気で口にしている。
また、クライン派内部の主導権獲得と市民の支持を得る、一石二鳥の恐るべき陰謀を発動。
まず『公安部員への挑発のために』アスランを誘導。問答無用で公安部員を射殺した上で、シーゲル
には目立つ軍服の護衛をつける。その結果、ラクスの狙い通り、見事にシーゲルは射殺された。
後は『無法な現政権の手で平和主義者の父を殺された悲劇のヒロイン』を演じれば、愚鈍なる一般市民
の同情と支持が獲得できる……はずだった。
もとより数に劣るクライン派が武力で政権を強奪するには、彼らのクーデターに呼応し、一般市民や
一般兵が一緒に蜂起してくれることが必須の条件だったのだ。
【だが、パトリック側の情報操作と軍事面での成功により、市民感情の獲得に失敗してしまう。
まずエザリア・ジュールの「ラクスは騙されている」演説により、市民の多くが『納得』してしまう。
さらに、報道統制によってシーゲルの死は市民に伝わらず、ラクスは『悲劇のヒロイン』に成り損ねる。
おまけにパナマ攻略戦の大成功により、パトリック政権の支持率は急激に回復。
もはや、クーデターに呼応しての市民蜂起など全く期待できない状況になってしまった】
4)エターナルでの都落ち
万策尽き果てたラクス派は、いよいよ追い詰められ、プラントからの『都落ち』を決意する。
この時点ではその後の見通しは何も立っていないのだが、他に逮捕・処刑を逃れる道はない。捕まって
しまえば覇権どころの話ではなくなってしまう。
(この時のラクスの脱出が、本当に追い詰められてのものだったことは、自由が救援にくるまでのエター
ナルの苦戦ぶりに現れている。もしあのプラント脱出劇が綿密な計画に基づくものなら、あれだけ大量の
追手に苦しむことはなかったはずだ。例えば同志を使ってザフト軍の基地に爆発騒ぎを起こすだけでも、
十分に脱出の成功率をあげることができたはずなのだ)
ラクスはクーデター用に軍内部の要所要所に潜伏させていた部下を使い、戦艦エターナルを強奪すると
同時にアスランの身柄を確保。艦ごと撃墜されそうになりながらも、なんとか脱出に成功する。
(アスランを奪取したのは愛情でも志の一致でも何でもなく、後々政治的にも戦力的にも使える、との
打算からだろう。なんと言っても彼はパトリックの息子であり、また赤服のトップエースでもあるのだ)
全く描写はされていないが、エターナルがメンデルに到着するまでの旅の間、ラクスはキラとアスラン
を通してAAとクサナギの情報を聞き出し、次項の作戦を素早く練り上げたものと思われる。そう考えな
ければ、進路の偽装をせずにザフトの追撃を許してしまった理由がなくなるからだ。
(ラクス自身は軍事的に無能だが、虎はザフトでも指折りの智将ということになっている。何の理由もな
いなら、彼が何らかの手を打っていた可能性が高い)
5)メンデルでの戦闘:三隻同盟軍の『結成』ならぬ『捏造』
完全にプラントでの影響力を失ったラクスは、まだ明確なプランを持たぬまま、ひとまず戦力の強化
と政治的カードの収集に努める。つまりそれがAAとクサナギの両艦であり、オーブの後継者・カガリ
であった。
まず、AAとクサナギのクルーの『人の良さ』に付け込み、彼らが好みそうな言葉を並べて『同志』だ
と思い込ませる。そしてわざと尾行させていたザフト艦隊との戦闘に巻き込み、交戦の既成事実を作って
ザフト軍へ投降・協力する余地を奪ってしまう。
さらに、この戦闘の中で、ラクスの発案した作戦に従わせることで、三隻同盟軍の中での主導権を獲得。
それまで2隻の旗頭だったカガリを出し抜き、事実上の同盟軍のリーダーになってしまう。
【しかしどう考えても、この戦闘でNJCを連合に奪われてしまったのは失策である。
おそらく「平和のための鍵」と言われても、元々『平和』などには興味がないため、そんな曖昧なモノ
よりもキラという『戦力』を優先させたかったのだろう。
フレイが三隻同盟軍に入ってしまえば、キラに対する自分の支配力は弱まってしまうからだ。
結局これはラクスの判断ミスだったが、この手の失敗は過去にも散々繰り返している】
>>444 >この時のラクスの脱出が、本当に追い詰められてのものだったことは、自由が救援にくるまでのエター
ナルの苦戦ぶりに現れている。もしあのプラント脱出劇が綿密な計画に基づくものなら、あれだけ大量の
追手に苦しむことはなかったはずだ。
そうだな。
フリーダムが支援に来る可能性なんか奇跡に近いし、もしもそれを計画に入れてるならとんでもない行き当たりばったりな行動だ。
6)最終決戦・戦後を視野に入れて
さて、目的もなく見通しもなく、ひとまず結成した『だけ』の三隻同盟軍に、転機が訪れる。
後々の行動を見るに、彼らは情報収集は続けており、連合の核とプラントのジェネシスの存在は把握し
ていたのだろう(あるいは、直前までジェネシスの存在は知らず、プラント側も核を使うと予想していた
可能性もある)。
ラクスはここに政治的挽回のチャンスを見出す。
どちらが勝利するにせよ、互いに大量破壊兵器を投入したこの決戦で決着はつくだろう。
しかし戦後、沢山『殺しすぎた』あるいは『殺そうとした』事実は、後々糾弾される可能性が高い。
(実際、アズラエルもパトリックも、その方針に反発する味方によって殺されている)
そこで、三隻同盟軍が大量破壊兵器の阻止のために動いておけば、戦後になって好意的な評価を得られる
見込みは十分ある。一気に覇権を握ることは無理だろうが、ある程度の挽回はできるはずだ。
あまり賢明な賭けではないが、都合よくラクスの『表看板』と一致しており、また実際、他に手はない。
何もせずに戦争の終結を待っていたら、彼らに残された未来は『テロリスト』の汚名だけである。
ついでに、彼らが防ごうと努力した『悪』の存在を印象付けるため、核もジェネシスも1回は使っておいて
欲しい。少数勢力の彼らが派手に暴れるために、連合・ザフト両軍とも、ある程度は消耗しておいて欲しい。
かくして、ポアズへの核攻撃とジェネシス2発は、ラクスによって『意図的に』見過ごされた。
(ポアズへの攻撃の際、その情報を得ていながらも、すぐには動き出さない様子がしっかりと描写されている)
7)戦後:真の悪はなお牙を研ぐ
結局、この出たトコ勝負の雑な作戦は、(世界にとって不幸なことに)ラクスにとっては最高に近い結果
が得られた。
最終決戦において、三隻同盟軍はその存在感を遺憾なく発揮。核ミサイルは全て打ち落とし、ジェネシス
も『地球に照準を合わさせてから』破壊に成功した。敵の完全抹殺を掲げた好戦的な両軍の指導者はどちら
も死亡。唯一ラクスを止められる可能性を持っていた人物・クルーゼも、ラクスの一番の切り札・キラの手
で抹殺された。
後日談である「星のはざまで」を見ると、生き残ったラクスたちは特に拘束されてはいないようだ(軟禁
状態の可能性は残っているが)。
つまりラクス派の面々は、その数々の犯罪行為を「大量殺戮を食い止めた」という成果をもって免罪・減罪
されたということなのだろう。『死人に口なし』とばかりに、全ての罪をパトリックやアズラエルに被せて
逃げおおせたものと思われる。
こうして、ラクスたちは犯罪者のレッテルを剥がすことに成功し、政権復帰への足がかりをを得た。
しかし、彼女は未だ望むものを獲得していない。
覇権はまだまだ遥か遠く、マルキオ導師の島だけが彼らの居場所という状況だ。自由奪取の際の賭けに負け、
その時の負債をようやく返したところ、という程度なのだ。
SEED2がどんな物語になるのかは分からないが、ラクスが生きている限り、戦争の火種は消えること
はないだろう。
以上、長文失礼。